堕ちた政治家
第一章
堕ちた政治家
鱒弐陽市は国立大学の法学部を首席で卒業した、七帝大の一つでありそこを首席で卒業するまでには大変な秀才と評判だった。
それで三回生の頃にだった、法学部の主任教授に直接言われた。
「君は院に残ってもらいたい」
「院にですか」
「君ならこの院で研究を続けてだ」
そしてというのだ。
「学者にもなれる」
「だからですか」
「君には大学院に残ってもらい再び留学もしてもらう」
既にイギリスとフランスに留学している、どちらでも見事な成績を残し神童と言われた評判は伊達ではないと謳われた。
「そのうえでだ」
「院の後で」
「席は一つ用意してある」
既にというのだ。
「頼むぞ」
「わかりました」
鱒弐も頷いてだ、教授の誘いを受けた。彼は大学院に研究員として残った。そこでも見事な論文を書き留学も行い。
修士にもなり院を卒業してからは大学で助手になった、彼を知る者はこのことについてこう言い合ったのだった。
「あいつなら当然だな」
「とにかく抜群に頭がいいからな」
「小学校の時からそうだった」
まさにその時からだったというのだ。
「勉強がやけに出来た」
「成績は常に学年首席、いや」
そのレベルで済まず、というのだ。
「全国模試でも五位に入る位だったからな」
「大学でも首席で」
「とにかく無茶苦茶頭がいい」
「ならあの大学に残るのも当然だ」
教授の方から頼まれてだ。
「あそこはかつて帝大だったがな」
「その帝大の教授になるか」
「あいつだったらなれるぞ」
「ただ法学や政治の知識があるだけじゃない」
それに加えてというのだ。
「語学も堪能だ」
「英語もドイツ語も喋ることが出来る」
「フランス語を覚えてイタリア語とスペイン語もマスターした」
「中国語も出来る」
「他の国の文献も普通に読めるし喋られる」
「あいつは凄い学者になるぞ」
「末は博士か大臣かというが」
その大学を出た者はかつてはよくこう言われていたがだ。
「博士号なんて普通に習得出来るぞ」
「あの大学の教授、果ては総長か」
「まさに学者として頂点に立つな」
「そうなれるな」
「しかしな」
ここでだ、ある者が鱒弐についてこんなことを言った。
「あいつは頭がいいがな」
「ああ、随分苦労したせいか金にはきついな」
「自分の金は使わない」
「とにかく絶対に使おうとしない」
金銭については極めて吝嗇だというのだ。
「大学時代も塾講師で随分収入はあったがな」
「極力自分の金は使わなかった」
「他人の為には金を使わない」
「しかも女癖もだ」
こちらの問題もあるというのだ。
「何かとな」
「ああ、大学に入ってから覚えたみたいだな」
「付き合ってる女がいつも何人もいてな」
「貢がせてもいる」
「旧帝大で抜群の成績だからな」
その立場を知った女が寄って来るのだ、その大学に通っていればどの様な醜男でも女性にもてると言われている大学であるがだ。
第二章
鱒弐はエラが張っていてやや吊り目で出っ歯である、眉は細く髪の毛は今はあるが将来は薄くなりそうな感じだ、そうしたお世辞にも男前と言えない顔であるがだ。
「あいつももてるが」
「女癖は相当悪いぞ」
「金と女だな」
「この問題があるからな」
「どうなるか」
「頭は抜群にいいがな」
しかしというのだ、鱒弐を知る者はこのことが問題だった。
だがだ、鱒弐はその頭脳を使い大学助手としても実績を重ね二十代のうちに博士号を習得してだった。
雑誌でも文章を書きそちらでも評判となりだった。
テレビにも出る様になり知識と頭の回転の速さを活かした論説でお茶の間の人気者となった、それでだった。
一般の知名度も得て収入も鰻登りとなった、准教授にもなり。
「やがてはだ」
「はい、教授ですね」
大学の総長に呼ばれこうした話をした。国立大学の総長室には確かな歴史と権威が色濃く感じられた。
「法学部の」
「そうなってもらうよ」
「わかりました」
「最近君の評判はいい」
「論文だけでなくですね」
「論文にだよ」
それに加えてというのだ。
「雑誌の文章も評判で」
「テレビでもですか」
「そう、君は最近テレビにもよく出ているが」
そちらでもというのだ。
「極めて評判がいい」
「実は今日も収録がありまして」
鱒弐は笑ってだ、総長に話した。
「講義の後で車の中で論文を書きながら収録に向かいます」
「ははは、多忙だね」
「楽しい多忙です」
総長に笑ったまま答える。
「収入も増えましたし」
「そうか、それは何よりだ」
「これからもどれにも励んでいきます」
「頑張ってくれ給え、そういえばだ」
ここで教授は話題を変えた、その話題はというと。
「結婚したそうだね」
「はい、先日」
「では身を固めてだね」
「これからも精進していきます」
「いいことだ、ではだ」
「教授もですね」
「目指し給え」
こう彼に言う、そしてだった。
鱒弐は教授にもなった、だが。
その結婚した妻とは離婚したがだ、ここで彼を知る者はまた話をした。
「浮気か」
「どうもあいつがそうしたらしいな」
「女癖の悪い奴だが」
「それが出たな」
「すぐに別の奥さんを見付けるというが」
「大丈夫か」
その女癖がというのだ。
「奥さんとの間に子供がいてな」
「浮気相手との間にもいるらしいな」
「認知して慰謝料も支払うというが」
「その慰謝料も弁護士に言ってケチったらしいな」
「せこいことをするな」
「あれだけテレビに出て本も売れてるのにな」
「別荘も買ったんだろ」
それだけの資産が既にあるのに、というのだ。
「それで慰謝料はケチるか」
「何か小さいな」
「テレビとか本では立派なこと言うがな」
「責任をはっきりだの公私は分けろだの」
「立派なことを強く言うが」
「慰謝料はケチるか」
「金あるんだから払えるだろ」
「それでもか」
多くの者がここで鱒弐にあるものを見た。
第三章
そしてだ、彼等はこうも思ったのだった。
「ちょっと注意してみるか」
「言っていることとやっていることが違うのならな」
「そうした人間は信用出来ないかも知れない」
「金はあるのに慰謝料をケチるのなら」
「ちょっとな」
「注意した方がいいか」
鱒弐を知る者は次第にこう考えだした、だが鱒弐の知名度は上がり続け学者としてのキャリアも重ねていった、そして僅か三十代で教授となった。
教授、それも旧帝大の法学部のだ。その権威も加わってだった。
鱒弐の本は売れ続けテレビへの出演も出演料もさらに上がった、彼はまさに得意の絶頂にあった。そして。
その中でまた離婚もして再々婚もして愛人との間の子供も出来て認知もした。気付けば子供の数は十人近くになっていたが。
「認知していない子供がいる?」
「そうかも知れないな」
「別れた二人の元奥さんと愛人の間に結構子供がいるが」
「養育費もけちってるのか」
「どんどん儲けてるっていうのに」
「それでもか」
「女性問題が気になるな」
こうした声も出ていた。
「どうもな」
「しかも金はとことんケチる」
「あるのにな」
「大学でも人の為に金を使うことはないらしい」
「自分の金は使わない」
「随分吝嗇らしいな」
「人に何かをやることはなくてな」
その吝嗇な面も問題視されていた、それでだった。
次第に彼を知る者は彼の女性関係と金銭面の問題を見だした。だがそれはテレビ等で出ることはなくてだった。
有名になる一方でだ、その知名度を見てだった。
政権与党からだ、彼に声がかかった。
「私が、ですか」
「はい、どうでしょうか」
与党の幹部からだ、彼と直接会いたいと申し出があり料亭で会ってだった。そのうえでその料亭の中で話をしていた。
「選挙に出られてです」
「政治家にですか」
「どうでしょうか」
こう彼に誘いをかけるのだった。
「先生の知名度とこれまでの発言ならです」
「選挙に出てもですね」
「勝てます」
国会議員になれるというのだ。
「政策もありますね」
「勿論です」
鱒弐は与党の幹部に胸を張って答えた。
「それは私の本や発言を御覧になって下さい」
「そうですね、では」
「その申し出お受けします」
鱒弐は幹部に笑みを浮かべて言った。
「是非共」
「それでは」
「はい、それでなのですが」
ここでだ、鱒弐は。
料亭の懐石料理を口にしてだ、こうしたことを言ったのだった。
「このお店のお料理はいいですね」
「はい、いい職人が作っていまして」
「だからですね」
「美味しいですね」
「絶品です」
まさにというのだった。
「これだけ美味しいとは」
「こうした場所でお話することはあまりないですが」
今は、というのだ。
「美味しいですね」
「はい、本当に」
こうしたことを話してだ、鱒弐は料理も楽しんだ。その中で。
与党の幹部は彼の箸使いを見た、そして。
鱒弐と別れた後で党の総裁でもある総理と会って彼のことを話したがここでこうしたことも言ったのだった。
「品性は、です」
「よくないかね」
「はい、箸の濡れ方が相当でした」
「そんなにかね」
「箸使いも相当に悪かったです」
ただ濡れているだけでなく、というのだ。
「あまりいいものではありませんでした」
「そうなのだね」
「しかも食べ終わると支払いの場には顔を出しませんでした」
「無意識のうちに支払いを避けている」
「そうでした、もっとも最初から私が全部支払うつもりでしたが」
それでもというのだ。
「そうした人物かと」
「では声をかけたが」
「当選は間違いないですが」
「重用はしない方がいいか」
「そう思います」
こう首相に提言した。
第四章
「女性問題も気になりますし」
「そういえばあったね」
「はい、二度離婚していてです」
「愛人もいたね」
「認知や慰謝料の話もあります」
「では、だね」
「当選はしますが」
それでもというのだ。
「後々何があるかわかりません」
「では重用はしないで」
「適当に扱うべきです、むしろ」
「我が党に何かあれば」
「出かねません」
幹部はそうも見ていた。
「我が党を見限って」
「そうしかねないからだね」
「彼は信用しないでおきましょう」
「よし、では一議員として」
「扱いましょう」
幹部は選挙前に既に首相に鱒弐について話していた、だが鱒弐はこのやり取りを知らず選挙に出てだった。
見事当選した、学者から政治家への華麗な転身であり早速意気込んでテレビで色々と言った。そうしてだった。
二期三期四期と当選を続けていった、だが。
その間与党は選挙に敗れ野党に転落した、この時にだった。
鱒弐は選挙の直後にだ、テレビでこんなことを言った。
「今回の敗北は与党にあります」
「と、いいますと」
「与党が腐敗していたからです、腐敗した与党ではです」
どうなるかとだ、強い声で言うのだった。
「もうどうしようもありません、だから私は出ます」
「出るといいますと」
「離党してです」
テレビ、公の場で宣言した。
「新党を立ち上げます」
「そうされますか」
「そして改めて国政改革を目指します、国民の皆さんの為に」
こう言って実際に離党して新党を立ち上げた、だが。
鱒弐を議員になる様に言った幹部は当時首相だった今は党の最高顧問にだ、こう言ったのだった。
「予想通りです」
「確かに君の言った通りだね」
「彼はそうした人間でした」
「そうだね」
「はい、ですから」
「これでいいかも知れないね」
「我々は彼に構わずです」
幹部が言うことはというと。
「政権奪還を目指しましょう」
「そうするべきだね」
「今の与党はです」
その彼等についてだ、幹部はこう言った。
「絵空事ばかり言っています」
「それではだね」
「はい、やがて自滅します」
「内政も外交も軍事も言っていることが滅茶苦茶だしね」
「例えますと」
「何になるかな」
「鈴木啓示監督の近鉄バファローズでしょうか」
今の与党はそれだとだ、幹部は顧問に話した。
「それが一番近いでしょうか」
「少しマニアックでないかな」
「そうでしょうか」
「私はわかるがね」
顧問は少し笑って幹部に返した。
「それまでの監督達が築いた近鉄を最下位にさせたね」
「はい、何もかもをぶち壊して」
「それがあの政権だね」
「ですからすぐにでもです」
「彼等が自滅を重ねて」
「政権交代となります、我々は現実を見てです」
そのうえでというのだ。
「国民、そして国家の為の政策を考えて公約にしていきましょう」
「地道に」
「それが最もいいので」
政治においてもというのだ。
第五章
「それでやっていきましょう」
「ではね」
「それでいいですね」
「いいと思うよ、ではね」
顧問も言う、そしてだった。
野党になった彼等は鱒弐ではなく政治を見据えて動きを再開した、鱒弐は新党を立ち上げて難を逃れたつもりだったが。
新党を立ち上げて二年半程経った時にふとだ、ネットでこんなことが言われだした。
「あいつ離婚二回もしてるんだな」
「愛人も子供どんどん作ってな」
「それ前から言われてたぞ」
「女癖は悪いぞ」
このことが言われだしたのだ、ネットでも。
「しかもケチらしいぞ」
「ケチってあいつ別荘持ってるぞ」
「本も売れてテレビにもいつも出てるだろ」
「相当な収入あるだろ」
「それで何でケチなんだよ」
「自分の金は出さないらしい」
そうした吝嗇だと説明がきた。
「前の奥さん達や愛人の人達との間の子供の養育費をケチったり奥さん達への慰謝料もな」
「ケチるのか」
「そうなんだな」
「そうらしいぞ、随分値切ったりするらしい」
「おいおい、テレビじゃいつも毅然としたこと言ってるのにか」
「ケチな素振りないのにな」
「実際は違うのか」
そのことが知られてきた、これまではあくまで彼を個人的に知っている面々だけであったがそうなったのだ。
「そんな奴か」
「慰謝料とか養育費出せよ」
「それ位はするものだろ」
「何か嫌な奴だな」
「野党になった途端に逃げたしな」
「おかしな奴か?」
ネット上で疑念が持たれだしていた、それでだ。
鱒弐の素行がチェックされだした、すると。
「議員になってから出張多くないか?」
「ホテルにいつも泊まってるけれどな」
「あそこそんなに高いホテルじゃないぞ」
「それなのに倍以上高く政治資金から出させてるぞ」
「ホテル以外にもな」
その政治資金の使い方が検証されだした。
「天麩羅屋だの車だのな」
「党の公用車で私用に行ってないか?」
「あれこれ出張に行ってな」
「スイートに泊まったりして」
「大名行列みたいな感じだな」
「一介の議員の外国視察でもないぞ」
「こんなの首相でもしないぞ」
それこそというのだ。
「何だこいつの金の使い方」
「政治資金とか国民の税金でここまで使うか」
「しかも政策もな」
「福祉とか言いながら福祉してないぞ」
「外国人学校って何だよ」
「あの国の外国人学校は生徒数不足だぞ」
「それで増やすなんて無駄だろ」
福祉重点の政策は嘘ではないかというのだ。
「公私混同は駄目だって言いながらな」
「思いきり自分の為に税金使ってるぞ」
「こいつどういう奴だよ」
「福祉も嘘だしな」
「とんでもない奴だぞ」
「ああ、こいつは信用出来ないぞ」
ネットで言われだしてだ、それでだった。
第六章
鱒弐についての検証がどんどん進められた、政治資金の使い方の公私混同ぶりも海外視察での贅沢さも政策も問題視されだした。
「とにかく政治資金の使い方が酷い」
「もう滅茶苦茶だぞ」
「旅館で会議したと言ってるけれどな」
「実際は家族旅行みたいだぞ」
「回転寿司屋で会議したから政治資金か?」
「回転寿司屋で会議なんか出来るか」
「書道で中国服買うのか」
その購入にも政治資金を使っていてだった。
「自分のことどれだけ金を使っているんだ」
「しかも自分の金は出さないんだな」
「人におごる時はマクドか」
「しかもクーポン使ってそれでおごるか」
「セコい奴だな」
「品性卑しくないか?」
「ああ、相当にな」
徐々に鱒弐への嫌悪感が湧き起っていた、それでマスコミもネットからの通報があまりにも多く話題に乗せだした。
するとだ、ネットだけでなくテレビでもだった、彼の問題点が指摘されだした。
「これ酷いですね」
「ちょっとないですよね」
「公私混同もいいところですよ」
「というかどれだけ税金使ってるんですか」
「テレビや本では立派なこと言ってるのに」
「全然違いますよ」
それこそというのだ。
「これは酷いですよ」
「最低ですね」
「何ていうかです」
「人として駄目ですね」
「政治家辞めるべきじゃないですか?」
こうした意見も出ていた、それでだった。
鱒弐を囲んで疑惑の追求がはじまった、だが彼は常にその場限りの釈明というか言い訳を繰り返してだった。
余計に反感を買った、それでネットではだった。
彼の検証が続けられた、その結果。
「外国から金渡ってるみたいだぞ」
「だからあの国の学校建てるって言ってたのか」
「こんなこともやってたのか」
「賄賂とか批判してたのにな」
「何でもかんでもあるな」
「疑惑の山だな」
「というか疑惑しかない奴だぞ」
灰色どころか真っ黒だというのだ、それでだった。
ネットは鱒弐の話題が常にトップになりテレビでも雑誌でも常に第一に扱われていた、この展開にだった。
執拗に議員を辞職しないと言っていたが遂に辞職した、そして何処かに雲隠れしてしまった。その状況を見てだった。
幹部は顧問にだ、党のビルの中で多忙なので買って来たアンパンを昼食にしながらそのうえで彼に言った、
「最悪の結末ですね」
「そうだね」
顧問もアンパンを食べつつ応える、飲みものはパックの牛乳だ。
第七章
「政治家、人間として」
「全くです」
「何ていうかね」
「あそこまで公私混同が酷く」
「国民の税金で贅沢をしてね」
「女性問題もありますし」
「外国からの話もあるしね」
顧問も難しい顔で言う。
「堕ちたものだね」
「そうですね、政治家として」
「人間としてかな」
「政治家として以前に」
「少なくとも自分の言ったことはね」
顧問はテレビのニュースを観ながら幹部に話した。
「その通りにしないとね」
「人は納得しませんね」
「旧帝大を抜群の成績で出て海外留学もして教授になって」
「そして政治家に華麗な転身をしましても」
「それでもね」
「あれではお話になりません、私も見間違えました」
幹部はここで反省もした。
「あの様な人物を議員に擁立すべきではありませんでした」
「君が声をかけたからね」
「料亭の時で思ったのですが」
鱒弐が勘定を払う場に姿を現さなかった時にだ。
「そこで止めておくべきでした」
「それは仕方ない、人も政党も気付くには時間がかかる」
「そういうものだからですか」
「今実際にそうじゃないか」
ニュースの中身が変わった、鱒弐からだ。
今の与党の話になった、スキャンダルに次ぐスキャンダルに失政に次ぐ失政、そしてどんどん出て来る失言だ。
そういったものが報道されているのを見てだ、顧問は幹部に言った。
「国民もわかってきた筈だよ」
「今の与党がどういった存在か」
「こちらも酷いよ」
「無能なだけでなく腐敗しきっていますね」
「はっきり言えばそれぞれ自分のことしか考えていない」
まさにというのだ。
「そうした政党だから」
「自滅しますね」
「近いうちにね、既に総理が二人代わっている」
あまりにも政策も行動も発言も酷いからだ。
「もう次はない、では」
「我々は、ですね」
「現実を見て慎んで政策を出していこう」
「それが一番だから」
アンパンと牛乳を腹の中に入れてだった、そのうえで仕事にかかった。現実を見据えて身を慎んでいこうと思いつつ。
鱒弐は政治生命を完全に絶たれテレビにも出られなくなった。彼は完全に消えて最早あの人は今、という状況になった。党の総裁、そして総理に返り咲いた彼も幹事長に復権した幹部ももう思い出すことはなかった。ただ彼等の仕事をするだけだった。
総理はある国に行く時にだ、幹事長に言った。
「ホテルはいつもの様にね」
「二万数千のですね」
「それでいいよ」
スイートルームではなくというのだ、そこに泊まって仕事をするというのだった。ごく自然に。そして鱒弐を思い出したのは彼が公金横領や収賄が明らかになった時にだった。テレビのニュースを観て捕まったのかと思ってそれで終わりだった。
堕ちた政治家 完
2016・6・25