車とバイク


 

第一章

               車とバイク
 片山清里愛は八条自動車本社の事業部長の娘である、世界的な自動車企業の部長の娘ということもあり暮らしはいい。
 神戸にある八条自動車をグループ下においている八条グループが経営している八条学園高等部に通い学園内では目立つ存在である。それは彼女が見事な細い髪質の長い金髪を頭の上で狐の尻尾の様なツインテールにしていて楚々とした黒い目と白い肌、小さな紅の唇に一五七センチの背の割には八七センチと豊かな胸を持っているという目立つ容姿であるせいだ。成績は中の上で明るく穏やかでありながら誰とでも仲良くなれる性格でいつも周りには女友達がいる。
 その友人達にだ、清里愛は囲まれて仲良く話していた。
「今度何処行く?」
「何処で遊ぶ?」
 日々楽しい日常を送っていた、しかし。
 清里愛はクラスメイトの中込大地を時折見てだ、友人達に怪訝な顔で言うことがあった。
「中込君の家ってバイク屋さんよね」
「そう、神戸のね」
「八条オートバイの直営店の子よ」
「そこの息子さんでね」
「将来お店継ぐらしいわよ」
 友人達も大地について話す、見れば背は一七〇位で痩せていて少し細目で黒髪をボブにしているあまり目立たない外見の少年だ。ピンクと白の大きめのリボンと緑のブレザーに白ブラウス、青と赤と白のタートンチェックのスカートに白のハイソックスというかなりお洒落に気を使っている清里愛の制服と違ってダークブルーの詰襟という地味な制服姿だ。
 その彼を見つつだ、友人達は清里愛に大地のことを話した。
「結構バイクのこと詳しいらしいわ」
「新型はいつもチェックしているらしいわ」
「もう免許も持ってるらしいし」
「オートバイの歴史も詳しいらしいわよ」
「今修理とかお父さんに教えてもらってるそうよ」
「そうなのね。最近自動車もだけれど」
 ついつい父の仕事先のことを思い出して言った。
「オートバイも売れなくて大変だっていうわね」
「それで自転車も売ってるらしいわよ」
「そっちの修理もしてるそうよ」
「まあ自転車はコンスタントに売れるしね」
「オートバイならってなっても」
「最近自転車の競技も人気があるしね」
「そっちが結構売れてるみたいよ」
「それはいいけれど」
 それでもとだ、清里愛は言うのだった。
「バイク屋さんの息子さんなのね」
「清里愛ちゃんのお父さんの商売敵、じゃないわね」
「また別よね」
「自動車とオートバイじゃね」
「また違うわね」
「特撮でオートバイは人気があるけれど」
 某長寿シリーズの影響でだ、昭和四十年代後半にはじまったこのシリーズで主人公達はほぼ必ずオートバイに乗っている。
「自動車も出てるしね」
「自動車っていっても色々だし」
「バスもトラックもあるしね」
「あと重機もあるし」
「色々よね」
「お兄ちゃんは大学卒業して重機の方にいるから」
 清里愛の兄はそちらに就職しているのだ。
「お姉ちゃんは今年大学生で車の免許持ってるし」
「それで清里愛ちゃんもね」
「何時かは」
「免許を持たないと」
 それこそと言うのだった。
「車は売れなくなったっていうけれど」
「やっぱり必要よね」
「今の日本の生活にも」
「車がないとね」
「それで免許持っていないとね」
「それが現実だから」
 それ故にというのだ。 

 

第二章

「だからね」
「それでよね」
「清里愛ちゃんも将来免許取るし」
「何時かは自動車運転するのね」
「あと就職も」
「まあお父さんやお兄ちゃんの会社に入らせてもらうのは」
 それはとだ、微妙な顔で言う清里愛だった。
「コネに思われるかも知れないし」
「この学校八条グループに就職する人凄いけれど」
「それでもね」
「お父さんの会社に入るのは」
「やっぱりなのね」
「流石にコネって思われるから」
 父が会社の幹部だけにだ。
「あまりね」
「八条自動車に入ること自体は」
「それはなのね」
「あまり、なのね」
「ひいてるのね」
「そう、ちょっとね」
 こう言うのだった。
「けれど八条グループの企業にはね」
「やっぱり入ることになる?」
「それ言うと私達もだけれど」
「そうなる?」
「そうかも。けれど就職先は」
 ここでまた大地を見た清里愛だった。
「まあね」
「まあ?」
「まあっていうと」
「いえ、何でもないわ」
 ここから先は言わない清里愛だった、だが。
 彼女には思うところがあった、そしてその思いは誰にも言えないことに悩んでいた。それで余計に友人達に言うのだった。
 ドイツのベンツのカタログを学校に持ってきて皆に見せながらこう言うのだった。
「日本じゃ最近まで評判悪かったのよね」
「あれよね、ヤクザ屋さんね」
「ヤクザ屋さんが乗ってたからね」
「この神戸ってあそこの本拠地だしね」
「余計によね」
「ええ、ヤクザ屋さん絡みでね」
 実際にと言う清里愛だった。
「どうしてもね」
「日本じゃ最近まで評判よくなかったけれど」
「それでもいい車よね」
「そうよね」
「そうなのよ、スポーツカーだってね」
 カタログのそのコーナーを開いて言った。
「この通りね」
「いいわよね」
「見てもね」
「そうよね」
「ええ、だからね」
 それでというのだ。
「外国の車だから高いけれど」
「いいのね」
「性能自体は」
「しかも頑丈だし」
「そう思うわ。まあやっぱり私としては」
 ここでくすりと笑って言う清里愛だった、その笑顔は実に少女らしい。
「イチ押しはね」
「国産車よね」
「日本の車よね」
「それも何といっても」
「八条自動車よ」
 この企業の車だというのだ。
「本当にね」
「そうよね」
「やっぱり国産車よね」
「徳に八条自動車」
「この企業の車ね」
「ええ、そうよ」
 まさにというのだ、だが。
 ここで大地の声が聞こえた、大地はというと。 

 

第三章

 彼の友人達と共にある話をしていた、その話はというと。
「ハーレーいいよな」
「やっぱりロマンだよな」
「ハーレーって」
 ハーレーと聞いてだ、清里愛は反応した。
「アメリカの」
「あれ、オートバイの話してるわね」
「あっちは」
「ハーレーとかね」
「そんなお話してるわね」 
 清里愛もその言葉に反応した。
「こっちは車であっちはオートバイ」
「何か分かれてるわね」
「というかね」
 ここである女子が言った。
「男子ってオートバイ好きよね」
「車も好きだけれどね」
「それでもね」
「あっちも好きよね」
「どうもね」
「まあね」
 ここで清里愛は言った。
「私はオートバイはね」
「興味ないわよね」
「清里愛ちゃんは車派よね」
「断然そうよね」
「ええ、それはね」
 表面上は笑顔で応える清里愛だった、だが。
 内心は困っていた、それでだった。
 友人達とベンツの話を再開した、しかしその間大地達のハーレーーの話題に耳を向けてもいた。そうしてだった。
 彼等の話題を聞いているとここで変わっていた。
「そういえば中込の家新車入ったよな」
「そのハーレーに負けない位凄いのが」
「八条オートバイのが入ったんだよな」
「凄いのが」
「新車って」
 そう聞いてだ、清里愛は心の中で反応した。
「どんな新車なのかしら」
「一体どんなのだ?」
「どんな新車なんだ?」
「それで」
「うん、一〇〇〇CCでね」 
 それでと言うのだった、大地が。
「物凄く恰好いいデザインなんだ」
「そんなにか」
「じゃあ特撮のバイクみたいなのか」
「そんなのか」
「しかもサイドカーも入ったんだ」
 こちらもとだ、大地は彼の友人達に話した。
「これも凄いから」
「サイドカーか」
「それも入ったんだな」
「サイドカーもいいよな」
「あれも」
「よかったら見に来てね。ただ買うには」 
 そこは笑って言う彼だった。
「物凄く高いからね」
「そんなにか」
「高いのは当然にしても」
「相当に高いんだな」
「物凄くって言うだけに」
「何百万だから」
 大地はその値段をあっさりと言った。
「これハーレーもだけれど」
「何百万か」
「もうそれ趣味だな」
「大人の趣味だよな」
「級力とボーナスコツコツ貯めて買う」
「しかも月賦でな」
「正直車買うよりもね」
 大地はここでは普通の自家用車を念頭に置いて話した。
「高いからね」
「俺達じゃ無理だな」
「五十CCでもどうかっていうのにな」
「それで何百万はないよな」
「本当に大人の趣味だな」
「だから一台売れたら」
 大地は今度は家の商売の話をした。 

 

第四章

「うちでも大喜びだよ」
「そんなのあっさり買える人店に来ればいいな」
「何百万の新型やサイドカーな」
「そうなれば御前の家も大助かりだな」
「親父さんも大喜びだな」
「実際親父もバイク売りたいんだよね」
 大地は友人達に少し寂しい笑顔になって話した。
「元々バイクのお店だしね」
「それが最近売れなくてか」
「それでか」
「自転車売ってるんだな」
「そっちなんだな」
「僕が生まれるずっと前から自転車も売ってるけれど」
 これがというのだ。
「今じゃバイクは滅多に売れなくて」
「自転車ばかり売れてる」
「そんな状況か」
「今はそうか」
「まあ自転車は相当売れて修理のお話も多いしね」
 それで収入はあるがというのだ。
「バイクが売れないのはね」
「困るか」
「どうにも」
「本当に今バイク売れないんだな」
「五十CCも昔みたいに売れなくなったし」
 こちらもというのだ。
「皆どんどんバイク買って欲しいね」
「昔みたいに」
「そうなって欲しいか」
「自転車だけじゃなくて」
「本当にね」
 こう言ってだ、大地は友人達とさらに話していった。清里愛は彼の話から新型のオートバイやサイドカーに心が動いた。
 自分の友人達と話している時は何でもない顔を装った、心の動きは誤魔化せなかった。それでだった。
 所属しているバレー部の部活の後で同じクラスということで連絡先ということで知っている彼の家即ちオートバイ屋にこっそり向かった。
 大地はこの日店をそろそろ閉めようとしていた、それでガレージを下ろそうと店の入り口に向かおうとしたところでだった。
 ガラスの自動ドア、店の入り口の方から客が入った。その客は。
 サングラスにマスク、そして阪神帽という恰好だった。だがその制服と髪型で誰かわかってだった。彼はその客に尋ねた。
「片山さん?」
「ち、違うわよ」
 清里愛は呼ばれて慌てて否定した、身振りも交えて。
「私は」
「声同じだけれど」
「き、気のせいよ」
 清里愛は両手を自分の身体の前で大きく振って否定した。
「私はただの一見さんよ」
「いや、声とヘアスタイルそのままだから」
 あくまで冷静に返す大地だった。
「制服だって」
「たまたま全部同じなだけよ」
「そんなことないよね」
「だから只の一見さんよ」
「じゃあその一見さんが何しに来たの?」
「新型のオートバイ入荷したのよね」
 清里愛はサングラスとマスクを外さないまま尋ねた。
「そう聞いたけれど」
「ああ、その話ね」
 大地も否定せずに返した。
「聞いてたんだ」
「それでどんなのなの?」
「これだけれど」
 大地は店の中の雛壇のところに置かれているかなり大型の一〇〇〇CCはありそうなオートバイを指し示して清里愛に話した。
「四百万円だよ」
「四百万!?」
 清里愛はその値段に仰天して叫んだ。 

 

第五章

「軽四何台も買えるじゃない」
「らしい例えだね」
「それも気のせいよ、とにかく無茶苦茶高いわね」
「これでもかなり安くなったそうだよ」
「四百万で」
「ハーレーなんかもっと高いから」
「六百万とか一千万よね」
 清里愛は調べた値段をそのまま言った。
「凄いわね」
「趣味だからね」
「趣味にしても凄いわね」
 清里愛は腕を組んでしみじみとして述べた。
「いや、人間趣味には没頭するけれど」
「車だともっと高いじゃない」
「スポーツカーとかね」
 やはり車に例えて言う清里愛だった。
「フェラーリとか凄いけれどね、私はディーノが好きよ」
「イタリア派なんだ」
「第一は国産よ。八条自動車のエイトシリーズ」
 この企業が誇るスポーツカーのシリーズだ、スーパーカーといっていい。
「お値段も良心的、世界のスポーツカーの覇者よ」
「本当に一見さんに見えないよ」
「気のせいよ、とにかく四百万ね」
 サングラスもマスクもそのままだ。
「いや、オートバイって怖いわね」
「怖いかな」
「ええ、ロマンにはお金が必要なのね」
「スポーツカーと一緒でね」
「サーキットの狼なんかそうだしね」
「古い漫画出すね」
「そうかしら、とにかく新型のオートバイは見させてもらったし」 
 清里愛は腕を組んで大地に言った。
「次はサイドカー見せて」
「それだね」
「どれなの?」
「これだけれど」
 別の雛壇のところに飾られていた、銀色にカラーリングされていてかなり重厚な印象を与えるシルエットだ。
「これは六百万だよ」
「やっぱり高いわね」
「だからこれでも良心的な値段だから」
「性能の割には」
「うん、どっちもお空を飛んだり変形したり自動操縦はないけれど」
 特撮の様にというのだ。
「けれどね」
「かなりの高性能なのね」
「日本はバイクも世界一だからね」
「車だけじゃなくて」
「そう、確かに昔よりずっと売れなくなったけれど」
 大地もこのことは否定しない。
「けれどね」
「それでもなのね」
「うん、高性能で」
 それでというのだ。
「値段もこれでもね」
「良心的なのね」
「そうだよ、それでどうかな」
「どっちもいいわね」 
 清里愛は素直に感想を述べた。
「来店した介があったわ」
「じゃあもうお家に戻るんだね」
「明日も学校だしご飯食べてお風呂入って予習しないといけないし」
 何気に学園生活は真面目な清里愛だったりする。
「今日はこれでね」
「これで僕もお店閉めるから」
「明日学校でね」
「そこでそう言ったら本当に一見さんじゃないよ」
 わかっているが合わせる大地だった。
「それでも言うんだね」
「五月蠅いわね、私は只の一見さんよ」
「閉店間際の時間に来た」
「そう、それでわかったわね」
「学校で何て挨拶すればいいのかな」
「私は一見さんよ」
 あくまで片山清里愛ではないというのだ。 

 

第六章

「わかったわね」
「わかったよ、じゃあまたいらして下さい」
「そうさせてもらうわ」
 強引に話をまとめて帰る清里愛だった、そして学校では何気ない風を装うのだがそれでも数日後まただった。
 清里愛は大地の店に来た、今度はホッケーマスクを被って来た。
「チェーンソー出さないでね」
「そんなの出したら捕まるでしょ」
 完全に危険物所持法違反である。
「お父さんに護身用のスタンガン、お母さんに二段式特殊警棒持たせてもらってるけれど」
「警棒で人殴ったら威力高いよ」
「だから変態さんにしか使わないことにしているわ」
 まだ使っていない、実は。
「安心しなさい」
「それはいいことだね」
「そうよ、とにかくね」
「一見さんだね」
「また来たわ」
 一見さんが再来店したというのだ。
「それで今度はハーレーのことを聞きに来たのよ」
「ハーレーの?」
「詳しい本とかない?」
「昔からの車体のカタログがあるよ」
 大地は実際にそのカタログを出して清里愛に差し出した。
「これね」
「よかったら貸して」
「うん、また来店した時に返してね」
「そうさせてもらうわ」
 清里愛も素直に返事をした。
「勉強させてもらってからね」
「それじゃあね、ただね」
「ただ。今度は何よ」
「いや、何となくわかるけれど」
 それでもとだ、大地は清里愛に問うた。
「どうして一見さんなのかな」
「何が言いたいのかよ」
「だから一見さんって言ってるのかな」
 そうして来店して来る理由は何故かというのだ。
「おかしな変装までして」
「車造ってる会社の社員さんの娘さんがオートバイのところに顔出せないでしょ」
 だからだと言う清里愛だった。
「かく言うあんたは車のところに顔出せる?」
「ぼくは平気だよ」
 大地はそうだった。
「お家の仕事だしバイク自体大好きだけれど」
「いいの」
「だってうちに車あるし」
 他ならぬそれがというのだ。
「お父さんとお母さんも乗って仕事してるし」
「だからいいの」
「僕はね」
「そうなの」
「というか一見さんがこだわり過ぎなんじゃないかな」
「だから当然でしょ」
 何とか自分を清里愛ではないとしながら言うのだった。
「車会社だっていうのに」
「じゃあバイク乗ったらいけないの」
「車大好きだし」
 まだ免許は持っていないがだ。
「詳しいしお部屋にはミニカー一杯あるのよ」
「そこまで好きなんだ」
「子供の頃から集めてるね」
 そして大事にしているのだ。
「チョロQだってあるし」
「まだあるんだ」
「あるのよ、とにかくね」
「一見さんは車大好きで」
「周りの娘達もそう思ってくれてるから」
「他のものには浮気しないっていうんだね」
「そうよ、私は車に生きてね」
 そうしてというのだ。 

 

第七章

「車と共に死ぬのよ」
「交通事故じゃないよね」
「車の中で大往生するのよ」
 それが自分の夢だというのだ。
「車で世界一周してからね」
「そこまで思ってるから」
「浮気なんてしたら」 
 オートバイに対してというのだ。
「まずいでしょ」
「そうなるのかな」
「なるのよ、とにかくね」
 オートバイに興味があって店に来てまで見て調べていることはというのだ。
「絶対に認めないから」
「別に悪いことじゃないけれど」
「だからそういう設定なのよ」
 あくまでというのだ、とにかく清里愛はムキになって自分がオートバイにも興味があることはひた隠しにしていた。
 そうして時々下手な変装をしてまでして大地の家に行っていたがある日友人達にこんなことを言われた。
「清里愛ちゃん戦車好き?」
「洗車じゃないわよね」
「自衛隊で使ってる方よ」
 そちらの『せんしゃ』だというのだ。
「装甲車とか自走砲とかね」
「そういうのはね」
 どうにもとだ、清里愛は友達に答えた。
「重機は好きだけれど」
「それでもなの」
「自衛隊の人達は凄いと思うけれど」
 災害救助や国防に貢献してくれているがというのだ。
「兵器とか興味はね」
「ないの」
「ええ、道走れないのよね」
「重過ぎるみたいよ」
 日本の公道を走るにはだ。
「キャタピラでアルファルト壊すみたいだし」
「道壊して走るのもね」
「どうかっていうの」
「ええ、それにね」
 さらに話す清里愛だった。
「私大砲とかミサイル興味ないし」
「だからいいの」
「軍隊とかも進んで見ようと思わないから」
「そうなのね」
「本当にそっちはいいわ」
 普通の車や重機はいいがというのだ、あと極秘でオートバイもだ。
「私はね」
「そういうことね」
「ええ、八条グループは兵器も造ってるけれど」
「結構以上に蔡さん取れないらしいわよ」 
 かなりの予算を技術と設備、人材に常に投資しないといけない分野であるが市場は限られているからだ。
「これがね」
「やっぱりね」
「わかるの」
「だってね、戦車一両十億でしょ」
 その値段は清里愛も聞いている。
「自衛隊のは」
「高いわね」
「それで千両も造らないのよね」
「六百位みたいよ」
「それだけしか造らないと」
 それこそというのだ。
「やっぱりね」
「儲からないっていうのね」
「お父さんが言うには」
 自動車会社の部長である彼の言葉はというと。
「戦車売るよりね」
「自動車売る方がいいの」
「平和だしどんどん売れるしずっと安いから」
「だからなのね」
「戦車より自動車よ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
 清里愛もその通りと思いつつ話す。
「世の中平和が一番で」
「安くてどんどん売れるものなら」
「そっちの方がずっといいじゃない」
 これが清里愛の考えだった。 

 

第八章

「そうでしょ」
「現実はそこね」
「そう、そういう意味でも兵器とかはね」
「興味ないのね」
「自動車や重機の方がいいじゃない」 
 こう言ってだ、清里愛はそちらはいいとした。だがサングラスとマスクを装着して大地の店に行くとだった。
 大地は軍事用オートバイの資料を出して清里愛に笑って言ってきた。
「中々面白いんだよね」
「そうかしら」
「あれっ、軍隊のことは」
「興味ないから」
 大地にはそっけなく返した。
「別にいいわよ」
「そうなんだ」
「そう、だからね」
「この資料はいいんだ」
「読まないわ、出してくれて悪いけれど」
 それでもというのだ。
「いいわ」
「じゃあなおすね」
「ええ、けれどジープはいいわね」
 清里愛はこれはよしとした。
「あれはね」
「軍用車両はいいんだ」
「デザインがいいから」
 だからだというのだ。
「好きなのよ」
「あれも兵器だけれど」
「外でも使えるからいいのよ、私もジープ操縦したいし」
「そこまで好きなんだ」
「ジープはね、まあとにかく兵器とか軍事用とかは置いておいて」
 その話はいいとして、というのだ。
「お父さんもお母さんも別にオートバイ嫌いじゃないみたいなの」
「そうなんだ」
「ええ、この前テレビ白バイ二人で観ていて恰好いいとか言ってたし」
「白バイの格好よさがわかるのはいいね」
「やっぱり車会社のお家でも」
「別にいいと思うよ」
「じゃあ」
「一見さん止める?」
「そうするわ」
 こう言ってだ、清里愛はサングラスとマスクを取った。そうしてそのうえで大地に対して言うのだった。
「とりあえず軍事用はいいから」
「うん、それでだね」
「ドイツのメーカーのこと知りたいけれど」
「その話をだね」
「聞かせてくれるかしら」
「いいよ、じゃあ本も出して説明するね」
「それじゃあね」
 清里愛は笑顔で応えた、そしてだった。
 この日はドイツのオートバイのことを聞いた、そうして閉店時間になると資料を借りた。何時しか清里愛は車の話だけでなくオートバイの話もする様にだった。だが周りもそれでどうかと言わなかった。オートバイも好きなのねと言うだけだった。
 このことからだ、清里愛は言った。
「結局私の杞憂だったね」
「そんなのそれで?じゃない」
「そうね、本当にどうでもいい」
「悪いこともしていないし」
 それでというのだ。
「別にね」
「何でもないお話で」
「そう、片山さんが言う通りね」
「杞憂ね」
「そうだったんだよ」
 大地はやれやれという顔で清里愛に話した、そしてこの日も彼女にオートバイのことを話すのだった。


車とバイク   完


                 2018・11・18