サウナの後で


 

第一章

                サウナの後で
 大久保養助はスーパー銭湯に来て一緒に来た佐々木誓一郎に言った。
「これからサウナに入ってな」
「思いきり汗かくんだな」
「そうしような、湯舟にも水風呂にも入って」
 その大きな丸い目が目立つ顔で言う、顔は少し面長で丸みがあり耳と口は大きい。髪の毛は丸坊主に近く背は一六五位で痩せている。
「何度も汗かいてすっきりしたいな」
「それで風呂の後はだよな」
 佐々木はその大久保に問うた、佐々木は背は一七四位で四角い眼鏡と大人しそうな目がサラリーマンを思わせる。黒髪はスポーツ刈りで身体は痩せていて色白だ。
「食うんだよな」
「飲んでな」
「大久保ってこうした店行った後絶対に飲むな」
 佐々木は大久保にこのことを言った、スーパー銭湯の下駄箱にはもう二人共靴を入れてカウンターで金も払った。そこでタオルも貰っている。そうして男湯の方に向かいながら話をしている。男湯に向かう途中に多くの客や店員が行き交っていて飲む場所やくつろぐ場所も目に入るが今は風呂場に気が向いていてそちらには向いていない。
「それで今日もか」
「当たり前だろ、飲むよ」
 大久保は佐々木に笑顔で答えた。
「その為にもここに来たんだからな」
「そうだよな」
「風呂に入る前に飲んだら駄目なんだよ」
 酒、それをだ。
「これ死ぬからな」
「ああ、それは俺もしないからな」  
 佐々木もそれはと返す。
「冗談抜きにな」
「死ぬだろ」
「特にサウナでやったらな」
「それはしないからな、けれどだよな」
「入った後はいいんだよ」
 酒を飲んでもとだ、大久保は笑顔で言った。
「だからな」
「サウナで思い切り汗かいてか」
「その後はな」
 まさにというのだ。
「思いきり飲むからな」
「それで今日は何処で飲むんだ?」
 佐々木はその場所のことも尋ねた。
「ここか?」
「いや、ここの近くに八か千かって食べ飲み放題の居酒屋あるからな」
「そこでか」
「飲もうな」
 こう佐々木に言うのだった。
「今日は」
「ああ、あそこか」
 佐々木は店の名前を聞いて頷いた。
「あそこは俺も行ったよ」
「安いし結構美味いしな」
「量も食えるしな」
「だからな」
 それでというのだ。
「あそこに行こうな」
「ああ、じゃあな。しかしな」  
 佐々木は男湯の暖簾、見えてきたそれを見ながらこうも言った。
「今日休みでよかったな」
「仕事がな」
 大久保も言う、二人共今自分達がいる大阪で働いている。今日は久し振りの休みで難波もっと言うと大国町の方にあるスーパー銭湯に行っていた。二人の仕事は日本橋の本屋もっと言えば色々なグッズを売っている店の店員だ。
「久し振りって感じだよな」
「そうだよな、というかな」 
「仕事もないとな」
「冗談抜きで困るからな」
「忙しいだけましだな」
「そうだよな」
 本当にというのだ。 

 

第二章

「それだけな」
「全くだよな」
「じゃあ今からな」
「風呂で疲れ癒すか」
「そうしような」
「それで後で」
 風呂の後でというのだ。
「飲もうな」
「お前そっちがお目当てだろ」
「こっちもだよ」
 風呂もとだ、大久保は佐々木に笑って返した。
「じゃあ思いきり汗かくか」
「サウナと湯舟でか」
「そうしような」
 こうした話をしてだった。
 大久保と佐々木は暖簾を潜ってそうして脱衣場で服を脱いでだった。
 風呂に入った、そして大久保が言った通りにだった。
 サウナで汗をかき水風呂で一旦身体を冷やしてまたサウナに入った、大久保はサウナ室の中で言った。
「これがいいんだよな」
「サウナで思いきり汗かくことがか」
「ああ、最高だよ」 
 隣にいる佐々木に言う、木の部屋の中で。
「汗かいて身体の悪いもの出るだろ」
「身体にいいっていうのは確かだな」
「それで汗かいてな」 
 そしてというのだ。
「その後でな」
「酒飲むんだな」
「これがな」
 本当にというのだ。
「いいんだよ、後が楽しみだよ」
「お前本当にそっちがお目当てだろ」
 佐々木はサウナ室の中でも大久保に言った、二人共今は裸で腰にタオルを巻いただけの開放的な恰好だ。
「やっぱり」
「だから同じ位だよ」
「サウナに入ってか」
「後の酒もな」
 これもというのだ。
「同じ位だよ、勿論お湯にも入ろうな」
「お湯な」
「今日ここのお風呂マンゴー湯だろ」
 大久保はスーパー銭湯の湯舟の話もした。
「普通のお湯のお風呂もあるけれどな」
「ああ、あのお風呂な」
「薬膳系のお風呂はな」
「そっちも入るつもりだな」
「お前も入るだろ」
 大久保は佐々木に顔を向けて問うた。
「マンゴー湯に」
「全部入るに決まってるだろ」
 これが佐々木の返答だった。 

 

第三章

「来たからにはな」
「もう全部入らないとな」
「じっくりとな、ただ合間にな」
「水風呂は欠かせないよな」
「そこで身体を冷やして」
 そしてというのだ。
「それからな」
「また入らないとな」
「このサウナだってな」
「それでこれ以上はない位に汗かいてな」
 大久保は今度は笑って話した。
「それでな」
「酒飲むか」
「そうしような、何飲んで食うか」
「今から楽しみか」
「ああ、風呂と同じ位な」
 こう言ってそうしてだった。
 大久保は佐々木と共にサウナそして普通の湯舟の風呂もマンゴー風呂も合間に水風呂で熱くなり過ぎた身体を冷やしつつ入った。
 そうして身体もしっかりと洗ってだった。
 二人共これ以上はない位にすっきりした顔になった、大久保はその顔で佐々木に言った。
「じゃあこれからな」
「居酒屋か」
「そっち行こうな、ちょっとスーパー銭湯から離れてるけれどな」
 店の場所はそうでもというのだ。
「安くて食べ放題飲み放題で」
「味もいいからか」
「だからな」
 それでというのだ。
「今から行こうな」
「それじゃあな、しかし本当に汗かいたな」
 佐々木は大久保の言葉に頷きながらしみじみとして言った。
「風呂で」
「サウナに入ったしな」
「ああ、湯舟でも相当に汗かいたしな」
「お陰で身体の悪いもの相当出たな」
「シャワーだと汚れ落とすだけだからな」
 身体の表面のというのだ。
「それだけだからな」
「けれどサウナとか湯舟だとな」
「汗も流れてな」
「そこから中の悪いもの出るからな」
 それでというのだ。
「いいんだよ」
「そうだよな」
「だからな」 
 大久保はさらに言った。
「いいんだよ、いい汗かいたな」
「それスポーツの時に言う言葉だろ」
「風呂でもいいだろ」
「そうか?まあこれからか」
「ああ、飲みに行こうな」
 大久保は佐々木にあらためて言った、そうして彼と共に歩いてから千日前の方にある居酒屋、ビルの中にあるその店に入った。 

 

第四章

 その部屋の個室の中に案内されるとだった。
 二人はそれぞれのメニューを注文した、それから乾杯して飲みはじめた。
 大久保はジョッキのビールを何か食べるよりも先にゴクゴクと美味そうに飲みはじめた、ジョッキを一杯一気に空けた。それからこう言った。
「サウナで喉渇いてここまで歩いて」
「汗かいて身体も動かしたからか」
「それでな」
 まさにというのだ。
「無茶苦茶美味いな」
「そうなんだな」
「きんきんに冷えたビールがな」
「そうか、けれどな」
 佐々木もビールをジョッキで飲んでいる、だが彼の勢いは大久保程ではない。それで向かいに座る大久保に言った。
「お前また汗かいてるぞ」
「あっ、そういえば」
 大久保も言われて気付いた。
「そうだな」
「身体まだ熱いからな」
「サウナに入って歩いてな」
「そこに冷たいの一気に飲んだだろ、それもビールな」
「ビール身体冷やすしな」
「だからだよ」
 佐々木はビールを飲みつつ話した。
「お前また汗かいてるんだよ」
「そうなんだな、けれどそう言うお前もな」
 大久保は自分に言う佐々木に返した。
「すこしだけれどな」
「汗かいてるか?」
「額にな、サウナに入って汗かいたのにな」
「また汗かくとかな」
「何かまだかくのかって感じだな」
「そうだよな、サウナで散々汗かいたのにな」
 それでもというのだ。
「またかってなるな」
「ああ、けれどもう汗もかかないだろうし」 
「結構身体も冷えてきたしな」
「じゃあこれからはな」
「飲んで食うのに専念するか」
「肴もたのんでるんだ」
 見れば卓の上には。
 枝豆に冷奴、卵焼き、唐揚げ、刺身の盛り合わせ、焼きそばといったものがあった。二人がそれぞれ注文したものだ。
 それ等を見つつだ、大久保は佐々木に話した。
「食っていこうな」
「飲みながらな」
「じゃあビールも」
「また注文しような」
「そうしような、しかしな」
「しかし?」
「いや、サウナに入って酒飲むとな」
 大久保は痛快という顔で佐々木に話した。
「もうこれ以上幸せはないって思うよな」
「そうだよな、明日からまた仕事だしな」
「今日はしこたま飲んで食ってな」
「また頑張るか」
「そうしような」
 それぞれ汗を拭いてそしてだった。
 共に飲んで食べた、二人はもう汗はかかなかった。だが楽しむことは楽しんだ。これ以上の喜びはないという顔で。そのうえで次の日から仕事に戻ったのだった。


サウナの後で   完


                 2020・5・18