アライグマの子供達
第一章
アライグマの子供達
アメリカウィスコンシン州に住んでいるデビット=ワックスとグレイシーの夫婦は子供達も独立し今では我が家で悠々自適の生活を送っている。二人共髪の毛は真っ白になって顔も皺だらけだ。
「もう後は」
「毎日教会に行くだけね」
「それだけだよ、わし等のすることは」
「テレビを観てね」
「他にはだよ」
「何もないわね」
「ジジがいて」
ここで上がダークブラウンと黒の虎模様で下が白の雄猫を見た、見れば結構な高齢であることが伺える。
「一緒に暮らして」
「そうしていってね」
「のんびり過ごせばいいな」
「もうやることはないから」
「やりたいことは全部やった」
「それじゃあね」
「教会とテレビとジジだけだな」
やることはというのだ。
「本当に」
「ジジにご飯あげておトイレやって」
「それで一緒に遊んでな」
「それだけよ」
夫婦でこうした話をしながらのんびりを過ごしていた、もう後はジジと一緒に神に召される日を待てばいいとさ思っていた、しかし。
ある日散歩中に一匹のアライグマの赤子を見付けてだ、夫婦は変わった。
妻はその弱っていた子を見て言った。
「どうしようかしら」
「そうだな、このままだとな」
夫はその子を見て言った。
「母親も近くにいないみたいだし」
「それじゃあね」
「このままだと危ないな」
「そうね、だから」
それでというのだ。
「ここは保護しましょう」
「そうしようか」
「養うお金はあるし」
アライグマをというのだ。
「それに時間もあるから」
「それじゃあか」
「ええ、今からね」
「この子を連れて帰りましょう」
二人でこう話してそのアライグマの赤子を保護した、そうしてすぐにだった。
二人は最近すっかり使っていなかったパソコンやスマートフォンの電源を入れてだった、そのうえでアライグマのことを調べ。
第二章
雄なのでロキと名付けた彼の世話もはじめた、赤子なので何かと手間がかかったが。
「時間があるからな」
「もう幾らでもね」
夫婦ですっかり元気になって今はソファーの上でくつろいでいるロキを見つつ話した。
「だからね」
「世話も出来るな」
「飼い方も勉強して」
「そうしてな」
「ニャア」
ここでだ、ジジがだった。
ロキのところに来るとロキは起き上がり。
「ミュウ」
「ニャア」
一緒に遊びはじめた、夫婦はそんな彼等を見て目を細めさせた。
「ジジも子供が出来たみたいでな」
「いつも一緒にいて面倒を見ているし」
「ロキが来てよかったかもな」
「ええ、家族が増えてね」
「後は静かに暮らすだけだと思っていたら」
それがとだ、夫は笑って話した。
「それがだよ」
「変わったわね」
「これからもロキと一緒にな」
「楽しく暮らしていきましょう」
二人でこう話した、そんな中でだった。
二人の家の近くに住んでいて同じ教会に通っているヘンリー=ウィリアムスがある日二人の家を訪問して言ってきた。
「お二人がロキを飼っているだろ」
「ああ、そうだよ」
「それがどうかしたのかしら」
「実はさっきドライブ中に拾ったんだ」
「ミュ~~」
見ればアライグマの子供だった、黒髪でかなり太った彼はそのアライグマを見せつつ老夫婦に話した。
「この子だけれどな、俺アライグマを飼ったことがなくて」
「どう飼えばいいか」
「私達に聞きたいのね」
「どうすればいいかな、どうにもわからなくて」
首を捻りながら述べた。
「ちょっと教えてくれないか」
「あんた結構以上に忙しいだろ」
夫の方が彼にこう返した。
「家にもあまりいないだろ」
「そのお陰で稼いでいるけれどな」
ヘンリーは笑って応えた。
「女房もさ、子供も今は他の州の学校に行ったしな」
「家に誰もいないことが多いな」
「ああ、そうだよ」
「だったらその子はわし等が飼うよ」
こうヘンリーに申し出た。
「そうさせてもらうよ」
「いいのかい」
「わし等が時間はあるししかもロキがいるからな」
「大体どうすればいいかわかってるわ」
妻の方も言ってきた。
「もうね」
「だからだ」
「私達に飼わせてくれるかしら」
「そうしてくれるかい?じゃあな」
「ああ、今からその子はわし等の家族だ」
「大事に育てていくわ」
「悪いな、俺も見捨てておけないと思ってな」
それでとだ、ウィリアムは二人に話した。
「拾ったが」
「飼うのが無理ならな」
「他の方法を探して考えるべきでしょ」
「そしてわし等がいいと言うんだ」
「ここは任せてね」
「ああ、そうさせてもらうな」
「ミャア」
ここでジジも鳴いた、そして。
そのアライグマのところに来た、夫婦はその彼を見てまた言った。
第三章
「ジジもいいと言っている」
「それじゃあいいでしょ」
「そうだな、じゃあ頼むな」
こうしてだった。
このアライグマも夫婦の家に迎えられた、すると。
夫婦もジジもそのアライグマを育てた、このアライグマは雄でウィンストンと名付けられた。そのウィンストンは。
すくすくと育っていった、そのうえで。
「ニャア」
「ミュウ」
「クウ」
ジジそしてロキといつも一緒にいて仲良くしていた、三匹はまるで実の親子の様に身体を寄せ合っていて。
ご飯を食べる時も寝る時も一緒だった、夫はそんな彼等を見て妻に言った。
「見ているだけでな」
「嬉しくなるわね」
「こちらもな」
笑顔で言うのだった、笑顔なのは妻もだった。
「そうよね」
「ああ、ロキが来てウィンストンが来てな」
「生きるのに張り合いが出て来たわね」
「もうやることはなくてな」
「ジジと一緒に静かに暮らしてね」
「それで終わろうと思っていたが」
「もう少し元気に生きていたいわね」
こう夫に言った。
「今はそう思ってるわね」
「そうだな、静かに生きるのもいいが」
「皆で賑やかに生きるのもね」
「いいな、歳を取っても」
それでもとだ、夫は妻に応えた。
「そうなってもいいんだな」
「そうね、じゃあ三匹がいるうちは」
「賑やかでいこうか」
「そうしましょう、ただアライグマは乱暴って聞いたけれど」
妻はアライグマのこの習性のことも話した。
「爪も牙も鋭くてね」
「そう言うな」
夫も調べてこのことは知っていた。
「本とかでも書いてあるな」
「そうね、けれどね」
「それでもだな」
「赤ちゃんの時からしっかり育てていったら」
「そうなるとも限らないな」
「ジジと同じ位よ」
「元気なことは元気でもな」
それでもというのだ。
「それ位だな」
「ええ、じゃあね」
「これからも二人と三匹で」
「明るく賑やかに生きていましょう」
老夫婦は今はソファーの上でじゃれ合っている三匹を見て話した、猫と二匹のアライグマ達は確かに種族は違った。しかしその姿は紛れもなく親子であった。
アライグマの子供達 完
2021・5・18