魔法少女リリカルなのはSCARLET ~紅い狼の伝説~


 

主人公設定(ネタバレ要素有)

 
前書き
主人公の設定です 

 
紅神 司(こうがみ つかさ)

 年齢20歳(死亡時)→9歳

 好きな物
  アニメ・ゲーム・ドラ焼き

 嫌いなもの
  組織・無謀・自分

 容姿

  アクエリオンEVOLのカグラを小さくした感じ

 性格
  合理的・皮肉屋

 CV.下野紘



 20歳で死亡。あの世とこの世の境界でさまよっているところを神様に助けられ、「リリカルなのは」の世界に転生させられる。
 自分より他人の命を優先していて、自ら危険に飛び込むことが多い。
 過去にあった事件が原因で、自分のことを嫌っている。危険に飛び込むのもその影響。
 
 本人は気づいていないが、多重人格者。しかし、よくある多重人格者とは何かが根本から違うため、正しい意味で多重人格者とは言えない。
 
 アニメや漫画、または実際の戦闘で相手がした動きを即座に記憶、自分の技術として取り込む力を持っている。(転生特典ではなく、元から持っている力)

 転生の際、神様が司の記憶に“フィルター”をかけたため、生前に起きた出来事を一部だが、思い出せずにいる。(何かのきっかけでフィルターは外れることがあるが、その原因は不明)








 ビーストカテゴリーNo.R03「スカーレット・ウルフ」




 紅神司の“ビースト”としての型式番号及び個体名称。個体名称がつくのは「ミラージュ」と呼ばれる上位個体のみである。また、所属するレギオンによって、R・B・Y・W・Gのうち1つが、型式番号の前に表示されるが、これはミラージュの中で選抜された「レギオンマスター」と、その候補にのみ表示される。







 使用デバイス

 「グランドスラム」

  待機状態

   指輪(家庭教師ヒットマンリボーンの獄寺隼人が付けていた嵐のボンゴレリング)


 司が転生前に使用していたH.E.A.R.T.(S)システムの制御装置「ハーツ・ギア」を基にして神様が改造したデバイス(名前は司が命名)。愛称は「グラン」。必要に応じて、「マルチ」「ブレイズ」「バスター」の三形態に変化が可能。



 マルチ・フォーム


 グランの基本形態。形状は西洋の長剣(Fateのエクスカリバーの装飾をなくしたような形)。セットアップ時に形態を指定しなかった場合、自動的にこの形態になる。基本コンセプトは「あらゆる状況下でも万能に対応できる形態」であり、文字通り、オールラウンドで戦える形態であり、特に対人戦においては無類の力を発揮する。


 ブレイズ・フォーム

 形状は一対の日本刀。「集団戦を想定し、マスターのスピードを最大限に活用する形態」であり、連撃を得意とする。


 バスター・フォーム

 形状は片刃の大剣(ガンプラで登場する武器「グランドスラム」のような形)。「自分より大きな相手、または、巨大な無人戦闘兵器との戦闘を想定し、マスターのパワーを後押しする形態」であり、スピードを犠牲にして力で押し通すことを得意とする。





 ヒューマノイド・フォーム


 CV.藤原啓治

 容姿:「とある魔術の禁書目録」より木原数多


 グランが、単独で行動する場合や、司自身が要求した場合に変化する形態。肉体を構成するのはプログラムであり、食事や睡眠をとることで魔力を外から補給することが可能。
 また、この形態での単独戦闘も可能であり、その場合、両手に黒いガントレットを装備して戦う。

 口調は木原数多であるが、中身は司と共に戦ったハーツギアそのものである。司のパートナーで、良き理解者でもあり、司がビーストとしての自分に悩んでいる時には、アドバイスをしたりもする。
 意外と知識は豊富で、難しい理論でもすぐに理解し、わかりやすい言葉にまとめることが得意。
 

 

第1話 大きすぎる器

 
前書き
自分の正体を知らない
それは不幸であると同時に幸せでもある

無論、知らずに生きていけた場合のみの話だが―――― 

 

―???―




 気がつくと辺り一面が白かったのは、きっと雪の中で寝たからですね、はい、おやすみなさい・・・


「ってちょっと待てぇえええええい!」


 ・・・何ですか、人がせっかくいい気持ちで寝ていたというのに。それも雪の中でですよ。子供の頃から夢見ていたもののうちの一つがやっと実現しているんですから邪魔しないでもらえます?


「いやいや、そういうわけにもいかないんじゃが。それに雪の中じゃないからここ!」


 そう言われて自分が寝ていたところを改めて見てみましたが・・・むう、確かに雪ではありませんね。


「どこですか、ここ?」


「ここは境界じゃよ、あの世とこの世の」


 ・・・はい?あの世とこの世の境界?


「じゃあ俺は・・・」


「そうじゃ、死んだんじゃよ紅神司。お主は20年の人生に終止符を打ったんじゃ」


 そうか・・・“やっと”死んだんだな、俺。


「そして、本来なら魂のリセットが行われて生まれ変わるのじゃが・・・」


 爺さん(顔見て気づいた)は俺の顔をじっと見た。


「俺の顔に何か?」


「いや、そうではなくてな、魂のリセットを行いたくても行えない事態が起こったんじゃよ」


 そう言うと爺さんは、懐から透明な瓶を二本取り出した。右手にはよくある小瓶、左手にはその四
倍はありそうな瓶を持って・・・訂正、浮かせている。


「お主ら人間全員の魂の器の内側には、この瓶の中のように、一種類の液体、つまり人格や魂といった情報が備わっている。これは本来、器一つにつき一種類の人格や魂しか宿らんのじゃよ。ほれ、こんなふうに」


 じいさんが右手に持っ・・・浮かせている瓶の中には真紅の液体、それも瓶のふたギリギリのところまで満たされている。これが魂を表しているなら納得だ。


「じゃがな」


そう続けたじいさんは、もう片方の大きな瓶に目を向けた。
中には先程の小瓶と同じくらいの量の黒い液体、だが、瓶が大きすぎるために、瓶の半分より下、体積から考えると四分の一くらいまで注がれている。


「このように魂の器が大きすぎる例があるのじゃよ。そうなると人間一人の魂では、到底器を満たしきれん。そういう者たちは、器に合うように魂を作り替えられて誕生するんじゃ。俗に言う“英霊”は全員、こんな感じの魂なんじゃよ」


「待て、俺は英霊の魂については興味ないんだが」


「いいから話を聞け!・・・そして、お主の魂の器もこのように大きく、考えようによっては英霊に成り得たかもしれなかったのじゃよ」


「成り得た?成れなかったじゃなくて?」


「うむ、お主が持つ魂の器の大きさは、英霊になるには十分だったのじゃが、中に入った魂そのものが小さくてな、使えたはずの力が使えずにそのまま死亡。しかも器に合わない魂は、たとえ死んだとしても、英霊のように“座”に送られるわけでも、リセットされるわけでもなく、そのまま、ここ境界をさまよい続けるというわけじゃ」


「・・・にわかに信じがたいが・・・爺さんが言うなら本当なんだろうな」


「そうじゃ・・・って、今ワシのことを爺さんと呼んだか!?わしゃ神じゃぞ!?」


「んなこと最初からわかってるっつーの。別に爺さんでもいいだろ、呼んで減るわけでもあるまいし」


「まあそうなんじゃが・・・と、話が逸れた」


自分で逸らしたんだろうが。


「お主のような例は初めてでな、たとえ強制的にリセットしたところで、“こちら側”に何が起こるかわからんのじゃ。そういうわけで・・・」


「・・・?」


「お主にはこのまま“転生”してもらう!」


 じいさんは俺を指差してニカっと笑って言った。
 ・・・転生か。


「といってもどの世界に転生するかはワシにもわからん!出来たところで魂の変革、お主らで言う能力の強化程度がやっとじゃ」


「案外出来ること少ないんだな、神様なのに」


「下手に手を出して魂を壊してもシャレにならんからな、まあ元はといえばわしらの方で起こった手違い、お主の望む能力を言ってみるが良い。幸いにも魂の器は大きすぎるのじゃから、たいていの能力は付加できるぞ?」


そうか・・・それならまずは・・・









~能力選定中~








「・・・っし、これくらいかな」


「なんじゃ、つまらんの、この程度しか付け加えんのか。もっと強くしてもいいんじゃぞ?乖離剣の六爪流とかやらんのか?」


「やらねえよ。それやったら世界崩壊とかじゃすまねえって」


俺に英雄王や独眼竜を超えろというのか・・・


「まあ良い、能力付加はいつでもそちらからできるからな、好きな時に付け加えるが良い」


「ああ、そのときは頼らせてもらうよ」


「では、行ってこい、紅神司!」


そう言うと爺さんは俺を見えない“何か”で突き飛ばした。その瞬間俺の意識は途絶え、すぐに目の前が真っ暗になった・・・あ。


 結局魂の器の問題、全然解決してねえじゃん・・・
 どうすんの、これ?








―司のいなくなった???もとい“境界”―

「・・・ふぅ。よし、うまくいったな」


 あやつが転生するのを確認したあと、ワシはようやくため息をつくことができた。まあ、無理もないじゃろう。


「まさか“特異点”がこんな形で見つかるとはな」


 そう、今さっきここにいたあやつこそ、今後あの世界を修正しうる存在。あの大きすぎる魂の器も、あの魂自体も、全てはこれから起こることのために用意されていたのじゃろうな。


「しかしこの短時間で既に人格を二つ共有しているのがわかるとは・・・」


大きすぎる器の中、あやつの魂の色が“黒”という時点で薄々気付いてはいたが・・・まさか多重人格者だったとはな。


 本来魂は全て何かの色に染まっている。純粋な何かの色に。じゃが、本来一種類しか器の中にない魂が、あのように黒、それも、ひどく澱んだ黒に染まることは、魂の中に人格を複数共有している以外に考えられん。


「果たしてこれが吉と出るか凶と出るか・・・」


 もう時間がない。“アレ”の活動を止めるには、この十年で決着をつけなくては・・・そのためにも・・・・あやつに頑張ってもらうしかないか。まあ・・・大丈夫じゃろうな。


「あとは頼んだぞ、紅神司、いや―」



―“抑止の王”ツカサよ―
 
 

 
後書き
感想、アドバイスなどよろしくお願いします。 

 

回想~始まり~

 
前書き
周りと違う
それだけで見えてくるものが変わってくる

そんなの、不公平じゃないか――― 

 
―side???―




 夢を、見ていた



 いつか、誰もが笑って暮らせる世界を作りたい

 みんなが笑顔でいられる世界を作りたい



 そんな世界が作れるって、本気で思っていた











「お前は強くなれ。いつか、俺を追い抜いちまうくらい」


「アンタについていく。その覚悟に惚れたよ。だから・・・・・・あたしに見せてくれ。アンタの・・・・・・■■■の行く末を」













 慕ってくれる友がいた


 いつ壊れてしまうかもわからなかった俺を、いつも支えてくれていた



 














「おまえはいつも無茶してばかりして・・・心配するこっちの身にもなってみろ」


「■■■は一人しかいないんだから、絶ッ対に『俺の代わりはいくらでもいる』なんて思っちゃだめだからね!」
















 隣には家族がいた

 ちょっと怪我したくらいで泣きそうになる姉と、いつも俺を子供扱いする兄




 身寄りのない俺を引き取ってくれて、まるで本当の弟のように育ててくれて


 そんな優しさに、何度も救われたことがあった






























 俺の周りには、いつも誰かがいた

 別に必要もないのに、「俺は一人でいい」って、何度も何度も言ったのに、みんなが俺を向いて言うんだ
































 「おまえは一人じゃない」って









 それがいつだったかは、もう思い出せない




 だけどその時から俺は、こう思うようになっていた



















「みんなの笑顔を守りたい」








 誰もが笑って暮らせる世界をみんなに見せてあげたい、って

























































 でも、現実はそんなに甘くなかった



 みんなが笑顔でいられる世界なんて、存在しなかった








 冷静に考えればそうだ

 俺は化物。人ならざる獣


 周りから恐れられて当然の存在






 そんな俺が・・・・・・・・・化物である俺が、人間のみんなと一緒に笑っていられるはずが・・・・・・・・・ああ、そうか














 俺がみんなの中にいないから、含まれてないから、こんなことになってしまったんだ
 
 勝手に妄想して、俺もみんなの中にいると錯覚して


 それがいけなかったんだな









 みんなはみんな、俺は俺。人間のみんなと化物の俺。


 こんなに違うんだから、同じ幸せを求めるのも間違ってるよな















 なら俺は孤独を望む


 絶望を望む

 破滅を望む

 終焉を望む



 みんなと同じ幸せを望んでも結局手に入らなかったんだ






 だったら、みんなが求めないものを俺が求めよう



 みんなが忌み嫌うものを、俺が好き好もう



 みんなが退けようとするものを、俺が受け入れよう



 みんなが否定するものを・・・・・・■■■■という存在を、俺が肯定しよう







 あの時彼らが見せてくれたあの笑顔も、兄貴や姉貴が俺に言ってくれた言葉も全て忘れて生きていこう



 みんなと過ごした思い出をすべて、すべてなかったことにしてしまおう











 























 それだけが、みんなが笑顔になれる、唯一の方法だから 
 

 
後書き
感想、アドバイスなどよろしくお願いします。 

 

第2話 現状把握

 
前書き
早朝の投稿は・・・・・・きっついなぁ 

 




「っつ!」


 言いようのない感覚とともに俺は目覚めた。






「・・・また・・・あの夢か」


 俺が人間として生きるのをやめた日。化物として生きていくことを決めた日。


 そして、みんなと別れた日。






「・・・もう割り切ったつもりだったんだけどな」


 どうやらあの夢は、俺が記憶をさっぱり忘れでもしない限り、永遠に付きまとうみたいだ。
 全く、どうしようもないな。





そんなことを考えながら、自分が寝ていたところから体を起こし、辺りを見渡した。











「ここは・・・森の中・・・か」


 俺の視界全てに広がるのは、無造作に伸びている木々。
 どうやら、どこかの森の中で目覚めたらしい。













「・・・転生・・・したんだよな」


 神様のじいさんが言ってたことが本当なら、俺は転生し、どこか別の世界に飛ばされた。

 





「・・・・・・・」


 はっきり言って実感がわかない。
 あの時はじいさんの流れに任せて転生を肯定してしまったが、今となっては、転生そのものに疑問を感じている。


 現に、俺には死ぬ前の記憶がしっかりと残って・・・・・・あれ?













「俺、どうやって死んだんだ?」


 思い出せない。いや、自分がついさっき死んだことは覚えているが、そこに至る経緯とかが、全く思い出せない。
 まるでその部分にだけモヤがかかっているかのように。










「なんで・・・・・・・・・・・・・・・」


 何がなんだかわからない。
 いきなり転生したと思ったら、今度は記憶まで失って・・・
























 ・・・考えても無駄だ。

 今考えたって、どうにかなるわけじゃあるまいし、きっとどうにもならない。


 

 思考を中断し、再び自分のいる森を見渡す。


 程なくして、近くに立っている木の下、根元の辺りに何かの袋を見つけた。












「これは・・・俺のカバン?」


 近くまで来て確認したが、これは間違いなく俺が使っていたカバンだ。
 最初はてっきり同じ形をしているだけと思ったが、カバンについた傷を見る限り、俺が使っていたカバンに間違いない。





 俺は早速ふたを開けて中身を確認してみたが・・・持ち物まで全部揃ってやがる。
 転生した時に一緒についてきたっぽい。




「神様も気前がいいというか、なんというか・・・」


 独り言をつぶやきながら中身を全部外に出していく。





 中に入っていたのは、以前から使っていた携帯電話、財布、懐中電灯、MP3プレーヤー、カメラ、水、ナイフ、スタンガン、盗聴器・・・


「・・・・・・」









 後半物騒だったが気にしない。むしろこれがあったから俺のカバンであることに間違いないんだから!



 俺はそうやって自分に言い聞かせて、改めてカバンの中に目を向ける。すると、カバンの中、一番底に入っていた物が目に映った。





「こんなもの、入れた覚えはないけど・・・」


 カバンの中から取り出す。見た目カードのように見えるが・・・







「これは・・・手紙?」


 カードには、「To Tsukasa」と書かれてあり、俺宛の手紙であることはすぐにわかった。
 察するに、あのじいさんが仕込んだな。


 早速中身を開けてみる・・・音声再生型か。
 中からやたらと薄い、スピーカーが出てきたので、早速、スイッチを入れてみた。







『この音声を聞いているということは、どうやら上手く転生できたようじゃの。さて、本来ならこのまますぐに転生ライフをエンジョイしてほしいのじゃが、その前に、いくつか注意点があるので説明しておくぞ』


 注意点?


『まず、問題となっていたお主の魂の器に関してなんじゃが、どうやら器ではなく魂の方に問題があったらしくてな、今こっちで原因を捜索中じゃ。まあその間、お主にはこのままで生活してもらうことになるのじゃが・・・』


 何だ?


『転生にはいくらかルールがあってな。転生する際にもある程度、魂の器を、転生する新しい魂の形に合わせて変化させる必要があるんじゃ。じゃがお主にはそれができなかった。その副作用として“体年齢の逆流”が起こってしまったんじゃ』



「!?」


 手紙は再生の途中だが、俺はすぐに自分の体を確認した。

 特に異常は見当たらないが・・・




「っつ!?」


 と思った矢先、俺の体が光り始めた。
 いや、そんな冷静にしてはいられないんだけど!てゆうか、どうなってんだ、これ!?














「・・・・・・」


 俺は光が収まるのを確認してからゆっくりと目を開けてみた。すると・・・ああ、予想したぞ。もう話の流れ的にこれしかありえないだろう。そう!























「・・・へ?」


 体が縮んでしまっていた!


『まあ、転生してすぐは体に異常はないはずじゃが、そのうち体が小さくなるから気をつけておけよ?』


 ・・・よし、あのじいさんいつか絶対にシメる。




『あと、お主の記憶にある程度“フィルター”をかけさせてもらった。じゃがこっちはそのうち元に戻るじゃろう。まあ、元に戻るまでは我慢してくれ。ちなみに、思い出そうとしても自力では思い出せないからな?』


 ・・・納得。だからどうしても思い出せなかったのか。


『最後に、転生してからのお主のことなんじゃが、世界に影響が出てもいけないから、あらかじめお主は“その世界で生きている”ことにしてある。お主が自分の家を想像すれば、自然と家がどこにあるのかがわかるはずじゃ』





 そう言われて自宅を想像・・・おお、確かに分かる。




『まあ、これぐらいかの。あとのイレギュラーについては、自分で対処してくれ。それじゃ、グッドラック( ´∀`)bグッ!』











『メッセージ終了後、この音声は自動消滅します』


「何っ!?」


 すぐにスピーカーを上に放り投げた!






 ズドォオオオオンと耳をつんざく爆発音・・・って、どう考えてもスピーカー一つに収まり切る量の爆薬じゃねえ!




「うおおおおっ!?」


 小さくなった体をどうにかして押さえ込む。体重が軽くなったせいで、爆風を浴びただけで体が吹き飛ばされそうになってるんだが・・・
























 爆風が収まって、ようやく顔を上げることができた。・・・うし。


「・・・・・・」



 改めて現状を確認してみよう。


①転生したはいいが、俺の魂の影響で、体が小さくなった。


②俺の記憶には、ある程度のフィルターがかかっている(自力での破壊は不可)。

 
③俺と世界の矛盾をなくすために、俺は最初からこの世界にいたことになっている。


「まあ、こんなところか。」






小さくなった体は、大体10歳くらいまで若返っている。
 今はまだ分からないが、他にどんな影響が出ているかわからない。例えば体力とか、戦闘時の立ち回りとか・・・っておいおい・・・





「なんで戦うときのことを想定してるんだよ。もう戦わないって決めただろうが」







そうだった。俺はもう戦わないと誓ったんだ。
そもそも、転生を受け入れたのは、新しい世界で平和に暮らすためだ。断じて戦うためなんかじゃない。




自分に言い聞かせて、心を落ち着ける・・・よし、もう大丈夫だ。
















 
(ぐぅう~~~~~~~~~~~~~~)







落ち着いたら・・・腹が減った。
そういえば、死ぬ前から今にかけて、ほとんど何も食べてなかったっけ。
そうなるとまずは・・・





「飯にすっかな」


 幸いにも財布の中にはある程度金は入っている。
 これなら2,3日は食事に困らないだろう。




 そう思い、俺は食事をするために、下山し始めた。
















✽―3時間後―



 食事は無事に済んだ。が、まさかマクド○ルドがこの世界にもあったとは・・・







 それに・・・久しぶりに見たぞ、あの赤髪の宣教師・・・




 店に入っていきなり「やぁ♪」で、そのまま「お話しようよ?」って言われたんだぜ?
 もはや恐怖しか感じなかったわ・・・・・・・・・

 まあ、実際何かされたわけじゃなかったけど。






 ま、まあその話は置いといて、だ。


 食事を済ませてから俺が向かったのは、近くの図書館だ。





 あそこならネットも使えるだろうし、ここがどこだかも分かるはずだからな。


 

 調べてみると、ここがどこなのかはすぐにわかった。



 海鳴市。それが俺が今いる場所の名前らしい。
 そしてその名前から、この世界が一体なんなのかも理解できた。





「リリカルなのは・・・だよな」


 そう、あの「魔法少女リリカルなのは」の世界なのだ。
 

 白い悪魔とか死神とかタヌキとか魔法とかが普通にある世界なのだ!
 ・・・どう考えても平和に暮らせる自信がない。







 いや、極力関わらないようにしよう。そうすればきっと大丈夫だ、問題ない。

 



 俺はそう願うしかなかった・・・




















✽―1時間後―





 所変わって自宅前。
 じいさんからもらった記憶を頼りに、自宅まで帰ってきたのはいいけど・・・

 



「・・・・・・」


 本日何度目かわからない絶句。
 いや、今回は仕方ないと思うよ?


 だって、記憶をたどって帰ってきた家が・・・











「衛宮邸・・・だと・・・」


 そう、あの衛宮邸である。

 Fateシリーズを知ってる人なら、あの屋敷を容易に想像できるでしょ?そう、あの衛宮邸が俺の家なのだ。

 おまけに、庭にはあの土蔵も剣道場もあって、再現に抜かりがねぇ!





 
いや、俺も最初は間違いだと思ったぞ?でもな、表札にはちゃんと『紅神』書いてあったんだ。


 そう。この家は、紛れもなく俺の家だった。






「・・・・・・・・・・・・・・・・なんでさ」


そう呟いた俺は悪くないと思う。













家の中に入ってみると、中はまるで誰かがここに住んでいるかのように、きれいに整頓されていた。


まあ、俺が最初から生きていることになってるんだから、ここには納得できた。





次に家の中で探したのは家族の情報だ。
少なくとも俺はこの家に住む人間の家族のはずだから、家族に関する情報が何かあるはずだと予想した。


















欲しかった情報は、すぐに判明した。


俺の両親は半年前に他界。
 死因は運転中に居眠り運転のトラックに衝突されたための事故死。俺は奇跡的に助かったことになっているらしい。




まあそれでも、顔すらわからない親に対する悲しみなんてものはなかった。





そして今は親戚が面倒を見てくれていることになっているらしい。
 俺としては、こちらの方に興味があった。



名前まではわからなかったが、今後もお世話になる人だ。
 親切にしておいて損はないだろう。




また、その親戚というのは、月、水、金と一週間に三回この家に訪れるようだ。
 ちなみに今日は金曜日。図書館で確認したから、間違いない。



 ということは・・・




『ピンポーン』





 チャイムの音。とりあえず返事をしておく。





「はい、紅神ですが・・・・・・・・」





『やあ、司くん。いつも通り、掃除をしに来たよ』





 ビンゴ。どうやら今玄関の前にいるのがその親戚。掃除をしに来たらしい。





 若干疑いもあったが、余り気にすることはないだろう。


 俺は玄関に行き、引き戸を開けてその人の顔を確認した。







 すると・・・









「(なんでさ・・・・・・・・・って、エェっ!?)」



 心の中でこうつぶやくしかなかった。だって・・・









「やあ、司くん、元気にしてたかい?」




 目の前にいるのは2,30代くらいに見える長身の男性。その柔らかな笑顔は、まさしくTHEお父さんとしか、いや、まだお兄さんでも通用する若さだぞ、これは。



 そして、俺はこの人を知っている。
 もちろん、前世ではなく、リリカルなのはの中での話だ。



「ええ、おかげさまで。元気にやってますよ、『士郎さん』。」

 高町士郎。かの魔王の生みの親である。
 つまり・・・






















 俺、いやでも原作に介入しなくちゃいけないらしいです、ハイ。 
 

 
後書き
感想、アドバイスなどよろしくお願いします 

 

第3話 対面~高町一族~

 
前書き
早朝投稿・・・・・・完全に失敗だったorz 

 



「(まさか、よりにもよって高町士郎が親戚だったなんて・・・)」


 迎え入れた高町士郎は、紛れもなく俺の知っているあのリリカルなのはの『高町士郎』さんだ。





「昼食はもう済ませたのかい?」


「あ・・・はい、さっき図書館で調べ物をするついでに」


「調べ物?」





 しまった、転生してここがどこだか調べていたなんて言えないし・・・よし!


「れ、歴史についてちょっと・・・」


「そうか・・・」


 セーフ。どうやらなんとかごまかせたみたいだ。
 まあ小学生が調べ物をするために図書館に行くことなんてよくあるし・・・問題ないはずだ。




「おや?」


 一人で考えていると、遠くから士郎さんの声が聞こえてきた。
 声の方向を察するに、台所に行ったな・・・ん?













 まてよ?台所になにか目立つようなものがあったか?
 ああ、そうだ。確か、帰ってきてすぐにカバンの中を整理するためにナイフやら盗聴器やらを全部外に・・・ってあああああああああああああああ!?


 士郎さんの声の理由がわかった俺は、ダッシュで台所に向かった!
 するとどうだろうか。

 






 台所で俺のナイフと盗聴器、スタンガンを見比べている士郎さんがいるではありませんか~


「(終わった・・・orz)」






 こればかりはどうしようもない。正直に本当のことを・・・いや、まだなんとかなる!
 ここでくじけたらせっかくの平和な人生計画がパーになってしまう!それだけは避けなくては!



「司君、これをどこで?」






















「お、押し入れをあさっていたら出てきました・・・」


 バッキャロォオオオオオオオオオ!んなもんで誤魔化せるかい!
 

「・・・・・・」


 ほら~士郎さんも疑ってるよ。本来ここにあってはならないもの見つけたから眉間にしわ寄せて凝視してるよ~。





「・・・・・・・・・・・・はぁ、全く達也にも困ったものだよ。あれだけ仕事道具は見つかりにくいところにしまっておけと注意しておいたのに」


「!?」




 は?仕事道具?父親の?
 俺の父親、現代版必殺仕事人でもやってたのか?


「あ、あの・・・」


 恐る恐る聞いてみる。
 まさか・・・地雷じゃないよな?



「ん?ああ、そうか。忘れていたよ。君にはまだ言ってなかったね」


 そう言って士郎さんは、今いる台所から和室にある仏壇を見た。



 そこには息子ながら一度も話したこともない両親の写真が二枚。





「君のお父さん『達也』とは古い付き合いでね。私の仕事によく付き合ってくれていたんだ」





 紅神達也、それが俺の父親の名前らしい。






 でも待てよ、父親と士郎さんが古い付き合いで、同じ仕事・・・まさか。


「あの、仕事って一体・・・」



「ん?ああ、要人のボディーガードだよ。達也には・・・その・・・いわゆる情報収集を頼んでいたんだ」








 マジか!?うちの親父結構ブラックな世界の人間だったよ!?
 ここに来て衝撃の事実!





「まあ、思い出せないのも無理はない。達也自身、君の前では仕事のことは話さなかったし、そもそも、君が『記憶喪失』になってからは、私もあまり達也のことは話してなかったしね」


「記憶喪失!?」


 衝撃の新事実その2!ていうか、神様のじいさんはどんだけ俺の転生の違和感を消すためだけに設定作ってんだよ!いくらなんでも頑張りすぎだろ!?


「おや、忘れたのかい?君は半年前の事故で記憶を全て失っているんだよ?」


 衝撃の新事実その3!ってもういいわ!








 
 俺はその場で頭を抱えた。

 いや、もうなんか申し訳ないわ!
 だって、ただ転生しただけなのに俺が『転生者』だってバレないための工作をこんなにしてくれてるんだぜ?


 もうじいさんの方に足向けて寝れんわー


「どうしたんだい?もしかして、また記憶が・・・」



「い、いえ!大丈夫です!もちろん覚えていますとも!」



 オーバーなリアクションをしたせいか、士郎さんが心配してくれた。


 士郎さん、違いますよ!別に記憶喪失じゃありませんよ!
 いや、記憶に“フィルター”かかってるから違うとも言いづらいけど!



「そ、そうか。ならいいんだ」


 俺が無事なのを確認したのか、士郎さんは安心したかのようにため息をついた


 ・・・この世界の俺、どんだけ心配かけさせてるんだ・・・?




 でもまあ・・・









「(まあ、心配されてるだけ、幸せってことだよな)」




 そんな場違いなことを考えながら、俺は士郎さんと一緒に家の掃除を始めた。























✽―三十分後―


 え?やけに掃除が早くないかって?
 そりゃあそうですとも。さっき初めて帰ってきたばかりなんだから。



 目に見えるゴミはもちろんのこと、部屋の隙間にもチリひとつなかったぜ!


「さて、掃除も済んだことだし・・・司君、行くか?」


「・・・・・・はい?行くってどこに?」


 うん?どこかに行く予定なんてあったか?
 掃除中の会話にも、そんな話題は出てこなかった気がするけど・・・





「翠屋に決まってるだろう。恭也から聞いたぞ。『少しでも記憶を取り戻したいから、暇なときに稽古をつけて下さい』って頼んだそうじゃないか」



「(ハァアアアアアアアアアアアアッ!?)」






 衝撃の・・・ってもういいわ!なんか疲れるわ!
 ていうかここで生きてた俺!一体何てことを頼んでんだ!

 あれか?「なんなんだ、この感覚・・・お前とこうやって戦っていると、俺の中から何かが・・・湧き出てくるような・・・」的なパターンのやつか!?


 九歳にして早くも厨二病患ってんのか!?








「士郎さん、ちなみにその稽古っていつから・・・」


「ん?今日からと聞いているが・・・もしかしてやっぱり記憶が・・・」


「大丈夫です!覚えてますよ!?そういえばそうでしたね!いや~最近色々とありすぎてすっかり忘れてましたよ!そうでしたね!今日からでしたね!」



 もういいよ。あきらめましたよ。どうせ神様には逆らえませんよ・・・・・・





「よし、司君は動きやすい服装に着替えてくるといい。私は玄関で待っているから」



「あ、はい、分かりました」




 そう言われ、俺はすぐにタンスのある和室に向かった。


 え?服?・・・サイズがぴったり、かつ色々なジャンルのがタンスの中にぎっしり詰まってましたが、何か?


 は?最初に着ていた服?・・・体が縮むと同時に服も縮んでいましたが、何か?





















✽―十分後―



「(徒歩1分以下、だとぉおおおおおおおおお!?)」


 士郎さんに連れてかれてやってきた翠屋。
 自宅に帰るときは別の道を通っていたから気がつかなかったが、本当に歩いてすぐのところに建っていらっしゃいましたよ。





「(もう、無理だろ・・・)」


 転生しておいてこんなこと言うのもなんだが、あれだけ裏事情のある家庭(俺のみ)とその親戚(高町一族)がこれだけ親しくやってるんだ。そんな中にいる俺が静かに生きていくことなんてできるわけがないじゃないか!







 まあ、仕方がないか。せめて危険な目に合わないように充分気をつけて生きていこう。
 





 もはや何度目かわからないが、改めて強く生きていく決心を固めた俺は『OPEN』と書かれた看板のついたドアを開け、店の中に入った。





「いらっしゃいま・・・・ってあら、司くんじゃない」


「こ、こんにちは、桃子さん」





 店に入ってすぐに出迎えてくれたのは、士郎さんの奥さんこと『高町桃子』さん。
 士郎さんと一緒にこの翠屋を経営する高町家の母・・・なのだが・・・






「(若い・・・というか、綺麗・・・)」


 士郎さん同様、若々しい。
 とてもじゃないが、三人の子を産んだお母さんには見えないな・・・




「はい、こんにちは。その格好・・・今日はトレーニングでもしてきたの?」


「いえ、というか、むしろ今日からトレーニングを始めるところです」




「・・・・・・・・・ああ、そういえば恭也が司くんの稽古を付けるって言ってたわね。だからそんな格好してたんだ」




 ちなみに今俺が着ているのはよくあるスポーツウェア。というかジャージ。
 中は動きやすい服装ということで、黒のタンクトップ一枚である。





「まぁ、頑張ってね」


 短く簡潔だが、桃子さんからエールをもらった。
 それだけで、なんとなくやる気が出てきた気がした。





 俺はそのまま士郎さんが向かった道場へと足を進めた。





















「このままどんどん強くなって、将来はなのはも守れるくらいにならなくちゃね♪」


 桃子さんが何か言ったようだが・・・上手く聞き取れなかった。まあ、いいか。あまり重要なことでもなさそうだし。














✽―高町家道場―




「来たか、司」


「はい、よろしくお願いします。恭也さん」


 道場の中央、俺を待ち構えるかのように立っていたのは、高町家の長男『高町恭也』。
 高町家一子相伝の剣術、『御神流』の継承者・・・だったか?よくわからん。
 とにかく、そんな人が今、俺の目の前にいる。




「司、いくら達也さんがお前に剣の稽古をつけていたとはいえ、お前はまだ未熟だ。無理をしても、体を痛めるだけだぞ?」


「わかってますよ。まあ、自分なりに練習はしてみてるんですけど・・・」




 そう、練習はしていた。『自分なり』には。


 少なくとも、この世界の俺が父親に習っていたとかいう剣術とは雲泥の差があると自負している。


 だがそんなことよりも重要なのは・・・



「(結局、また戦わないといけないんだよな・・・)」



 転生する前に、というか死ぬ直前に決めていたこと。


 『絶対に戦ったりはしない』という枷を、早速こんな形で破ってしまった。
 




「(まあ、命のやりとりにはならないから、いい・・・かな?)」




 心の中で自分に問いを投げかける。


 今からするのは、俺が今までやってきた『死合』ではなく『試合』。


 命のやりとりはなく、ただ正々堂々と、相手と剣を交えるだけ。






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 俺の手に握られているのは、小太刀サイズの木刀二本。


 同じ獲物を持つ恭也さんも、決して命のやり取りを快感だと思う『狂人』ではない。






「(なら・・・いいのかな?)」



「手加減は・・・?」






















「・・・・・・・・・・・もちろん、なしでっ!」


 俺の返答に、恭也さんは静かに笑って返す。
 大丈夫、この人とならやれる。




















「まあ、そうは言っても手加減はするけどな」


「ええ~~」



 わざとらしくおどけてみせる。


 そんな俺を見ても、恭也さんは顔を歪めることなく、ただ悠然と構えているだけだ。



「それでは・・・始め!」


 士郎さんの開始の合図と共に、俺は姿勢を低くし、恭弥さんの方へ走る。



 そして、挨拶がわりの右手の小太刀による横薙ぎ。




「フッ!」


 カァン!と小気味の良い音が道場に響く。



「!!」




 突然の強襲に驚いたのか、恭也さんは少し目を見開いている。


 当然だろう。今恭也さんが相手にしているのは、恭也さんの知らない『紅神司』。

 この世界の俺がどれくらい動けたかは知らないけど、かじった程度の剣術しかできない人間とは違うんだよ!




「なかなか・・・・・・・・・いい一撃じゃないか!」



「ありがとうございます。でも・・・・・・・・・まだまだぁっ!」





 追撃を仕掛けようとしたが、恭也さんの反撃に阻まれた。

 初撃の勢いが完全に消えた俺に目掛けて縦一閃。




「ッ!!」




 俺はそれを、両手の小太刀をバツの字に重ねることで受け止めた。





















 が。



「うぉっ!?」




 ガンと鈍い音。
 思ったより強い衝撃で、恭弥さんの攻撃を受け切るより先に、俺の体が後ろに押し戻されてしまった。



 バランスを崩したが、なんとか体勢を立て直した。






「おいおい、大丈夫か?」



「な・・・・・・なんとか」




 戦闘中でありながら、恭弥さんに心配されてしまった。




 だけど・・・・・・なぜ?防御の仕方を間違えた?


 いや、違う。この程度の攻撃は死ぬ前に何度も受けてるし、ここまで押されることはないはず。
 だったらこれは・・・





「(体重が・・・・・・・・・・・・軽くなりすぎだ!)」




 それは転生してすぐの俺が気にしていたことだった。


 転生前に比べ、半分以下に落ちた体重。
 それに加えこの低身長で、強い一撃を出せるはずも、今の恭弥さんの一撃を受け切れるはずもなかった。

 さっきの俺の一撃も、せいぜい不意打ちで驚かせた程度なんだろう。










「(落ち着け落ち着け・・・踏ん張れないならどうする・・・・・・・・・?)」





 今までの戦いの中で考え出した戦術を、頭の中で再構築。




 自分より大きな敵の力、その勢いを利用して反撃、自身の攻撃の弱さを補うため、カウンターを狙う。



 リスクが高いが、今の自分にはこれが最も適している。






「それじゃ改めて・・・・・・・・・・・・ハアッ!!」



「グッ!」


「ほらどうした司!足が止まってるぞ!」




 そうと決まれば実践あるのみ。
 だが、あの恭也さんがそう簡単に隙を見せてくれるとは思わない。



 どうする・・・?
 




















 答えは簡単だ、こちらから隙を作ってしまえばいい。


 某錬鉄の英霊が得意とする戦い方。

 あえて自ら隙を作ることで、そこに相手の攻撃を限定するという戦法。
 これを実践してみるか・・・









✽-side恭弥-




「(どういうことだ・・・・・・・・・?)」



 すでに試合を初めて10分。
 今までの司なら、道場の床に倒れ込んでいてもおかしくない運動量だ。


 そうだというのに。



「はぁぁぁっ!」


「っ!」

     ・・・
 またもや司からの一撃。

 右の小太刀の振りあげを、体を仰け反らせることで避ける。

 すると司は、小太刀を振り上げたことで、同じく仰け反った体をさらに反らせて・・・・・・いや。

 反らせると見せかけて、左足を軸にして俺に回し蹴りをかましてきた。



「っ!?」



 突然のことで対応できず、まともに蹴りを受ける。


 右太ももに直撃。そこを中心に痛みが走る。






・・・・
 だが、幸いにもまだ子供の蹴りだ。
 痛みが走った程度で、膝を折るには至らなかった。




 回し蹴りが完全に決まったのを確認した司は、蹴った足をすぐに戻し、バックステップで俺から距離をとる。


 俺もバックステップで、司と距離をとる。









「はぁっ・・・・・・・・・・・はぁっ・・・・・・・・・」


 距離をとったのは、おそらく息を整えるためなのだろう。
 司は、ここからでもよくわかるくらい、肩で息をしていた。



 まあ無理もないか。
 10分間休憩もなしに動き回ったんだ。床に這いつくばってないだけマシか。



「そろそろ、休憩入れるか?」


「まだ・・・・・・・・・・・っ、もう少しだけ・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・はぁ」
 



 強情なところは達也さん譲り、か。

 いや、一度言ったら止まらないのは、なのはと一緒か?



 だが、これ以上続けさせて体を壊してもいけない。

 しかたない。少し・・・・・・本気を出すか。



「・・・・・・行くぞ」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 本気を出そうとしているのを感じ取ったのか、司の目の色が変わった。
 いや、吹っ切れたというべきか?



「・・・・・・・・・はぁ!」


 だが、関係ない。

 左の小太刀をまっすぐ、司に向けて素早く突き刺す。



 単純だが、それでいて避けづらい一撃。
 司もそれが分かっているから、わざわざ防御に回ろうとはしない。

 俺から見て右側に、滑るようにして避ける。
 が、それがいけなかった。


「!?」


 右に避けたことで、今度は右の小太刀の射程距離に入った。


 これを左に避けるか、その場で避けるかすれば、次の一撃にも対処できたはず。
 まあ、突きをよけられただけ上出来か。



「(悪く思うなよ・・・・・・・・・・・・ッ)」


 突きを避けたことで、司には大きな隙ができた。

 俺は一旦稽古を終わらせるため、というか司の意識を飛ばすために、アイツの首めがけて小太刀を振るい・・・・・・・・・・・

































         ・・・・
 首に当たる直前に止まった。


「なっ!?」


 予想していなかった事態に困惑する。
 確かに今の一撃は決まったはず。ならなぜ・・・・・・・・・


 見間違いかと思い、もう一度振るった小太刀を見てみると・・・・・・・・・・・・



「っつう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっぶな」


 止まっていた。いや、止められていた。

 それなりに力を込めて、少なくとも、さっきまでとは比較にならない強さと速さで出したはずだ。
 そうだというのに、俺が繰り出した一撃は、司の持つ左の小太刀で確かに止められていたのだ。




「・・・・・・・・・・・・・・・」






―side 司―



「(修正、1ヶ月はかかりそうだなぁ・・・・・・・・・・・・)」


 構えを解いて最初に思ったのは、そんなことだった。

わざと隙を作ってカウンターを入れる戦いなら何度もしてきたけど、身長と体重の変化のせいで、上手く立ち回れなかった。
 実際、恭也さんの攻撃を受け止めただけで、カウンターは出来なかったし。


「・・・・・・」



 恭也さんの視線の先に転がっているのは、俺が今さっきまで持っていた小太刀。


 そうだ。恭弥さんの攻撃を、俺は確かに防いだ。

 けど、構えが不完全だったのと、やはり体重が減ったこともあり、受け止めるのではなく、なんとかそらす形で防ぐことができただけだ。

 その証拠に、威力を殺しきれなかったせいで、小太刀も吹き飛ばされたし。


 やはり、戦闘面でのこの変化は大きい。


「あ~~~~~~~~っ、疲れた・・・・・・・・・」


 気を抜いた途端、一気に体が重くなり、思わずその場に仰向けになる。


「司」


 小太刀を見ていたはずの恭也さんが、いつの間にか俺の方に向き直っていた。


「その・・・・・・・・・大丈夫か?手、痛めたんじゃないのか?」


「ん?・・・・・・あ、ああ・・・・・・大丈夫です。多分・・・・・・・・・」


 弾かれた左手をひらひらと振ってみせる。


「ん、そうか。ならいいんだ・・・・・・・・・・・・・・・」


 異常がないのを確認して、恭也さんもホッと胸をなでおろした。



「二人共、少し休憩にしよう。司君も、動きっぱなしで疲れたんじゃないのか?」

「はい・・・・・・もう・・・・ほんとに・・・・・・きっついです」


 冗談ではなく本当に。口を開けて話すのも辛いくらいだ。

 たったこれだけの組手だというのに、もうこれ以上動ける気がしない。




「あれだけ動き回ってたんだから無理もない。むしろ、今までに比べたらかなりの進歩だよ。まさか、恭也相手にここまで粘れるとはね」

「はは・・・・・・・・・」


 士郎さんに褒められはしたけど、転生前の俺からしてみたら、無様もいいところだ。
 まずは、これをどうやって修正するかだよな、ほんとに。




「休憩が終わったら、次は基礎錬だ。今日は初日だし・・・・・・これ以上激しい運動はしないから安心しろ」

「は~い」


 重たい体をどうにかして起こし、道場の隅に移動した。







『はぁ~・・・・・・司、転生前に比べて弱くなったねぇw』


「ほっとけ・・・・・・・・・・・・ん?」


 あれ?俺、今誰かと話してた?






















「・・・・・・・・・・・・・・・空耳か」


 疲れも溜まってるし、空耳が聞こえてもおかしくないか。




 さて、あと3分休憩したら、また稽古を始めるとしますか。






















「あら、お疲れ様。大変だったでしょう?」


「あう~・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 恭也さんとの稽古を終えて喫茶店に戻ってきた俺は、外が見えるカウンター席に座って垂れていた。


「あらあら大丈夫?」


「な、なんとか・・・・・・・・・」


 桃子さんが持ってきたペットボトルを受け取り、蓋を開け、中身を飲む。

 中に入っていたスポーツドリンクは、さっきの稽古で消費した塩分なり電解質なりを多く含んでいて、疲れた体を癒してくれた。





 四分の一程まで飲んで一息。


 桃子さんは、何か面白いものを見ているかのような目で俺を見ていた。


「フフッ、なんだか司君、前より大人っぽくなったわよ」


「お、大人っぽく、ですか・・・・・・?」


 俺が大人っぽい?

 前いたところではガキ扱いばかりされてたけど、大人っぽいっていうのは初めて言われたな。


「ええ。なんとなく、雰囲気が変わった・・・・・・みたいな?」


「はあ・・・(というか、実際別人なんですけどね)」





 そんな他愛ない話をしているうちに、俺はあることに気がついた。


「(そういえば、まだなのはにあってないな)」


 そうなのだ。この物語『魔法少女リリカルなのは』の主人公にして未来の管理局の白い悪魔こと『高町なのは』に、まだ一度もあってないのだ。
ちなみに、長女の高町美由希さんには、翠屋に入った時に確認している。


「(む、時計はもう3時を過ぎてるのか・・・)」


 そういえば、今日は金曜日で、学校はまだ授業があるんだった。

 って、そういえば俺、学校はどうしてるんだろう?
 うかつに桃子さんに聞くわけにもいかないし・・・


「あら、もうそろそろなのはも帰ってくるわね」


「そうなんですか?」


「ええ、多分授業が終わって三十分くらいだから、そろそろ帰ってきてもおかしくないんだけど・・・・・・」


 そう言った桃子さんは、俺の座っている席の隣に座って、俺の顔を見てニコニコしている。


「な、なんですか?」


「いや、ねえ?司君がここにいるのを、なのはが見つけたら、一体どんな顔するのかな~って」


「・・・・・・」


 桃子さん、人を弄ぶ様なことはやめてください・・・






 そんな桃子さんの悪巧みに内心呆れていると・・・


「ただいま~」


 特徴的な田村ゆかりボイス。間違いないな・・・


「ってあれ!?司君!?なんでうちにいるの!?」


「あら、おかえりなのは」


「・・・よう」


 ・・・高町なのはが帰ってきたようだ。
 そして、これが俺となのはの初対面(?)である。


 ・・・特に嬉しくもなんともないんだが・・・


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「え、ええと・・・」


 俺は無言。桃子さんも無言(+笑顔)。なのははオロオロ。


 ・・・何?このカオス・・・
 
 

 
後書き
感想、アドバイスなどよろしくお願いします 

 

第4話 父親がそうなら、母親も・・・ねえ?

 
前書き
PCぶっ壊れました。
ハードディスク取っ替えました。

orz・・・・・・・・・・ 

 

「・・・・・・」


「・・・・・・」


「え、ええと・・・」




 俺は無言。桃子さんも無言(+笑顔)。なのははオロオロ。


・・・何?このカオス・・・




「・・・・・・ああ。おかえり、なのは」


「あ、うん。ただいま・・・ってそうじゃなくて!」



 返事を返したなのはは、俺の方に詰め寄ってきた。って近い近い!



「どうして司君がここにいるの?今日は朝から一日中、病院で検査って聞いたのに・・・」


 納得。なのはは、検査で出かけていたはずの俺がここにいることに疑問を持っているらしい。

 ああ、だから俺が平日なのに学校に行ってないことを、桃子さんたちが疑問に思わないわけか。
 と言っても、実際に検査なんてあるわけがないし・・・ふむ。




「午前中に検査は全部終わったんだよ。それでやることもなくて暇だったから、とりあえず家に帰ったところを士郎さんに拾われて、そのまま翠屋で恭也さんとを稽古をしてたってわけ。OK?」


 必殺、自然な顔で嘘を平然という攻撃!



「う、うん。なんとなくわかったの」


 うそつけ、ほとんどわかってないだろ。


「とにかく、検査自体は直ぐに終わって暇だったから、翠屋にいるんだよ。今日から恭也さんに稽古つけてもらう予定だったし」


「そうだったんだ・・・」



「おや?なのは、帰ってきてたのか」




 そんなやり取りをしているうちに士郎さんと恭也さん登場。



「お兄ちゃん、パパ、ただいまなの!」


「おかえり、なのは」


 笑顔で返す士郎さん。だがそれもつかの間、士郎さんは恭也さんと揃って俺の方に歩み寄ってきた・・・ってああ、さっきの稽古のことか。


「司くん、いきなりで悪いけどいいかな?」


「ええ。何ですか士郎さん?」







「では早速・・・さっきの戦い方だが、司くんはあれをどこで習ったんだい?」




 やっぱりそのことか。
 まああんな戦い方ができる九歳児なんて、世界中どこを探してもそうはいないもんな。

 何のことなのか知らない桃子さんとなのはさんは頭に?マークを浮かべている。


「えっと、パパ?戦い方って?」


「ああ、なのははさっき帰ってきたばかりだったから知らなかったね。いや、さっきの恭也との稽古での司くんの戦い方がね、少しばかり・・・・・・危なっかしいものだったから注意しようと思っていたんだ」


 士郎さんはそう言っているが、本当に知りたいのは、どうして俺が錬鉄の弓兵もどきの戦い方ができたのか、だろう。


「それで司君、結局どうなんだい?」


「ああ、あれですか。別にたいしたことないですよ。マンガのキャラの戦い方を真似てみただけですし」


 うん、俺は間違ったことは言っていないぞ。
確かにあの戦い方はFateをじっくりと見て、俺が練習して完成させたものだし。


「マンガのキャラクター?」


「ええ。バトルが多いアニメとかマンガとか読んで、それの動きを真似てみただけなんです。体捌きとかも、アニメを見ながら練習したりして、それっぽく動いてみただけですよ」


「・・・・・・」


 うん、信憑性ゼロだね!


 ただアニメの真似をしただけで恭也さんとまともに戦えるわけないものね!
 でも本当だよ?これが俺が転生する前から出来た自慢できることの一つだから!




「まあ司君が言うなら、そうなのだろう。いやぁ、見事だったよ。少し見ない間に、よく成長したものだ」



 あら?疑わないの?まあ、それならそれで好都合だけど・・・



「いえいえ、それほどでも」


「しかし、だ」



 俺が謙遜すると、士郎さんは何か納得できない様子で言った。



「あんな無茶をする戦い方は、あまり勧められないな。君はまだ子供なんだから、あんな風にわざと隙を作ったりすれば、それが大怪我にもつながる。体が出来上がるまでは、あんな戦い方は二度としないように。わかったね?」



 やはりさっきの戦い方は見逃せなかったらしい。

 まあ実際、俺もあんな戦い方、滅多にしないんだけどな。



「わかりました。次からは気をつけます」




「ん、ならいいんだ」



 俺の言葉を聞いて、士郎さんはようやく納得したようだ。
 恭也さんも納得したらしく、うんうんと頷いてるけど・・・本当に信用してるの?




「それにしても、あんな無茶をするようになるとは・・・・・・司君も、夕華さんに似てきたのかな?」


「夕華さん・・・・・・」


 そんな名前は聞いたことがないけど・・・いや待てよ、確か、家で俺の親について調べてる時に、そんな名前を見たような・・・あっ!






「夕華さん・・・俺の母親に、ですか?」



「そうそう。司君に似て夕華さんも、仕事場じゃあよく無茶をしていたからなぁ」


 『紅神夕華』、俺の母親で、紅神達也と結婚した、と神様が設定している俺の家族。



 だがあのじいさんのことだ。
 きっと俺の母親も、なにかとんでもない仕事をしていたに違いない!




「あの・・・母さんは、どんな仕事をしてたんですか?」


「いや、夕華さん自身はあまり仕事で動かないんだけどね・・・その・・・」




 うん?動かないんだったら、そんなに隠すようなことじゃないんじゃないのか?




「なんて言ったらいいのかな・・・ええっと・・・夕華さんは、ねえ・・・」




 ・・・・・・なんとなーくだが、ヤバイ事をしてたというのは伝わってきた。



「もしかして・・・人には言えない仕事をしてたんですか?」



「い、いや!そんなことはないんだが・・・・・・う~ん・・・・・・・・・土木関連で働く人たちをまとめる役割をしていた、と言ったら察してくれるかな?」














 ・・・・・・ああ、なるほど、893な人たちのボスですね、わかります。


「大体わかりました・・・もう大丈夫です」


「そ、そうか。それならよかったんだ」



 いや、よくはないですよ?
 一応あなたの目の前にいるの、893な人たちをまとめてたボスの息子ですからね?


 あ、もしかしたら、跡取りとかの問題も、そのままにしてるんじゃ・・・



「マジかぁ・・・」


 さて、今日一日でわかったこと(人間関係編)を、みなさんに分かりやすく説明してみよう。






 其の一、俺は情報屋な父と893な人たちのボスな母の間に生まれた息子である。

 其のニ、俺の両親は半年前に他界、俺自身もそのショックで記憶を失っている『設定』になっている。

 其の三、両親が他界してから、俺の面倒はかの戦闘民族『高町』の皆さんが見てくださっている。
 



 と、まあこんなところだが・・・


「(俺、転生しても平和に暮らせないのかな・・・)」



 士郎さんに会ったあたりから薄々気がついていたけど・・・俺、どんなに頑張ったところで平和に暮らせそうにないです。


 いや、だってそうでしょ?両親と親戚、どっちもブラックな世界の住人で、尚且つそこの娘さんがこれから『魔法』なんてとんでもないものに関わっていくんだよ?
 
 そんな人たちの近くにいる俺に、何も起きないなんていう奇跡、あるわけないよね?







「俺、なんで記憶を失っちゃったんだろうな・・・」


「あははは・・・・・・」



 桃子さんの苦笑いが、今だけはとても重~く感じた。・・・いざって時は、この人たちに頼れば、いいよな?








 最早自分一人でどうにかして生きることを諦めた俺は新たに、周りの人達を頼りながら生きていく決意を固めたのであった。









 それは、転生してわずか六時間後のできごとであったそうな。

























 まあそれから後は、特に変わったこともなかったので、なのはが学校であった出来事を報告し終えたのを確認してから、俺は自宅に帰ることにした。







―自宅にて―






 家に帰ってきた俺は、もう夕方になっていることもあり、すぐに晩飯の準備を始めた。



 意外だと思われるかもしれないが、これでも転生前は自炊をしていたんだ。某正義の味方以上に、料理には自信がある!。




 幸いにも、冷蔵庫にはある程度材料が入っていた。
 これならレシピに困ることなく料理をすることができるだろう。


「(肉じゃがに・・・あとは簡単なサラダかな・・・)」


 本当はもっと凝った料理もできなくはないけど、今日だけでいろいろあって疲れたから、簡単に作れるもので済ませるつもりだ。




 ・・・よし、早速取り掛かるか!













✽―二時間後―



「・・・ごちそうさまでした」


 うむ、我ながらいい出来であった。
 たとえ転生しても、料理の腕は落ちないものなんだな。



『♪~~♪~~』


「うん?」



 料理の後片付けをしていると、机の上に置いた携帯電話から、着信音が聞こえた。



「・・・電話?一体誰から・・・・・・」


 転生してから、俺はまだ誰にも番号を教えてはいない。
 まあ、高町家の皆さんなら番号を知っていてもおかしくないけど・・・・・・・・・非通知設定か・・・・・・


「・・・・・・」


 間違い電話、それくらいしか考えられないが、なんとなく、電話に出ないといけないような気がしたので、通話ボタンを押した。








「・・・・・・もしもし」


『ああ、やっと繋がったか!ワシじゃワシ、お主を転生させた神じゃ!』




 神?んなバカな。


「・・・・・・神様なら、俺の家族構成を余さず言ってみろ」


『半年前に死んだ情報屋な父、893のボスな母、そして現在は高町一家に厄介になっている、で、それがどうかしたのかのう?』


「はい本物ですね、すみませんでした!」


 電話で話しているのに、俺はその場で頭を下げた。

 いや本っ当にすみませんでしたぁ!


『別に頭を下げんでもいいじゃろ、まあ・・・ワシを尊敬するのは感心なことじゃが、そういう誠意はワシの目の前でやってこそ意味をなすものじゃぞ?』


「今すぐお前の目の前に行って俺を転生させたことを後悔させてやろうか、糞ジジイ!」


 今までの発言を全部撤回する!
 コイツに頭なんて下げるべきじゃなかった!


 てか、見てんのか!?見てんのか!?クソッ、どこから見てやがる!


『じょ、冗談じゃよ冗談。お主もいちいち本気にするでない!』


「煽ってんのはそっちだろうが!」


『じゃからそれにお主もいちいち反応するでないと・・・・・・スマン、そんなことを言っとる場合ではなかったわい』



 いきなり調子に乗ったと思ったら、今度は急に冷静になりやがった。


「何だ?悪いけど、俺は転生したこの世界で強く生きていくって決めたんだ。もうこれ以上おr『そう決心したところ悪いのじゃが、お主はこのままでは日常はおろか、まともに生きることすらできんぞ?』・・・何?」



 まともに生きることができないって・・・んな馬鹿な。






「おい、じいさん。どういうことだよ?」


「・・・はぁ~やっと聞く気になったか。いいか?よ~く聞いておくんじゃぞ?」




 そう言ってじいさんは電話越しに一呼吸置いて話し始めた。




「何だよ?勿体ぶらずに早く教えてくれよ」





























『・・・・・・本当ならお主が転生してすぐに伝えておくべきじゃったんじゃがな・・・・・・・・・・・・・・・『ビースト』が、お主の世界に侵入しておる』




 ・・・は?ビースト?なんだそれ・・・・・・って!







「・・・・・・ッ!!!」


 じいさんの言葉の意味を考えたその瞬間、俺の頭の中に『ナニか』が流れ込んできた。
 いや、俺の頭の中に隠れていた『ナニか』が頭中に一気に溢れ出した。








「これは・・・何だ?・・・俺の・・・・・・・・・」









 頭の中に流れてきたそれは、断片的な、映像だった。

























「離せ・・・・・・・・・■■■を、■■■を離せぇッ!」


「はっ、貴様は何を言っているんだ?裏切り者、そしてその仲間を抹殺するのは当然のこと、だろう?」


「この・・・・・・クソビーストがぁああああああああああああああ!!」


「フン、貴様もその『ビースト』だろうが・・・・・・いや、違うな。貴様はビーストでありながら人間如きのために力を使った『劣悪品』、貴様はビースト以下だよ『スカーレット・ウルフ』」


「う、ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」














「これが『思念具象化システム』。通称『H.E.A.R.T.(S)』システム、俺たち人間が『ビースト』に対抗できる、唯一の力だ」


「こいつが・・・・・・・・・」


「・・・・・・フッ、何だ?まさか、自分と同じ『ビースト』を殺すのに抵抗があるのか?」


「そんな感情はとうの昔に捨てた。もう決めたんだ・・・・・・ビーストは、俺の手で全員ぶっ殺す!」


「・・・いきがるのはいいがな、勝手に死んだりするんじゃねえぞ?お前はもう、俺たちの『仲間』なんだからな」

























「・・・・・・・・・・・・ッはぁ!」


「・・・・・・『フィルター』が少し外れたようじゃの。気分はどうじゃ?『スカーレット・ウルフ』」


「・・・・・・ああ。ったく、胸糞ワリイものを思い出させやがって」





 ・・・・・・思い出した。思い出してしまった。
 俺が転生する前に経験したあの出来事を。



 そして・・・理解してしまった。

 あの忌々しい『ビースト』がこの世界にいれば、どんなことが起きてしまうのか。




 だが、何故なんだ?






「なんで・・・なんでビーストがこの世界にいるんだよ!アイツらは、俺が全員殺したはずだ!」




「確かに、『あの世界に残っていたビースト』は、お主の手によって全滅した。じゃが、お主が全滅させる以前に生きていたビーストの一部は、お主の手の届かぬところへ逃げたんじゃよ。・・・どこだと思う?」


「・・・・・・・・・」





























「この世界、つまり『平行世界』じゃよ」


 
 

 
後書き
お、おわったぁ・・・・・・・・・

修理に出してるPCが帰ってくるまでは、投稿間隔もこれぐらいになりそうですが、ご容赦ください 

 

第5話 使命~今までとこれからと~

 
前書き
かなり期間が空いて申し訳ありません。 

 
「なんで・・・なんでビーストがこの世界にいるんだよ!あいつらは、俺が全員殺したはずだ!」


「確かに、『あの世界に残っていたビースト』は、お主の手によって全滅した。じゃが、お主が全滅させる以前に生きていたビーストの一部は、お主の手の届かぬところへ逃げたんじゃよ。・・・どこだと思う?」


「・・・・・・・・・」


「この世界、つまり『平行世界』じゃよ」


「平行世界・・・」


 平行世界。この世に無数に存在するという、『IF』の一つ一つで分岐する世界。
 確かにそれなら、俺が奴らに直接手を下すことはできない。


「・・・ビーストは、この世界以外にも逃げているのか?」


「いや、逃げてきたのはこの世界だけじゃ。他の世界にまで手を伸ばす余裕はなかったのじゃろう、ビーストは、この世界にしか存在しておらんよ」


「・・・じゃあ移動の手段は!ビーストに、平行世界を移動するような能力はないはずだ!」


「・・・お主もだいたい察しがついておるじゃろう?」


「・・・何?」


「平行世界の移動もとい、その能力の再現・・・・・・お主の周りには、それができる人間が山ほどおったじゃろうに」


「・・・・・・まさか!」


「・・・・・・H.E.A.R.T.(S)システム。これを使ってゼルリッチの宝石剣でも再現したんじゃろう。まあ、これを利用する以外ビーストが平行世界を移動することなどありえんよ」


「ッ!!」


 そうだ。ビーストが世界を移動するとしたら、それしか方法がない。
 あいつらがH.E.A.R.T.(S)システムを使ったなら・・・使ったなら?


「『H.E.A.R.T.(S)システムは、人間にしか使えないはず。なら奴らは一体どうやってそれを使ったのか?』・・・お主の疑問は大体そんなところじゃろう」


「・・・・・・読心術はやめてくれないか?心臓に悪い」


「今の会話からお主が考えることなど、それくらいじゃろうて」


 いや、確かにそうなんだが・・・いざ当たってたなら怖い。


「で、どうしてビーストがH.E.A.R.T.(S)システムを使えたのかなんじゃが・・・どうやら奴ら、お主らの仲間を何人か拉致して一緒に平行世界を飛んだらしいぞ」


「・・・まあ・・・・・・そうだろうな」


 ビーストによるH.E.A.R.T.(S)システムの所有者・・・通称『ライザー』の拉致は、俺が前いた世界では頻繁に起きていたことだ。当時は、俺たちの作戦やアジトの場所を知るためにしていたのかと思っていたが、どうやらこっちのほうが本命だったらしい。


「それと、お主に謝らなければならないことがある」


「?」


「いや、転生前にな。『どこの世界に転生するかわからん』と言ったじゃろう?」


 ああ、たしかそんなこと言ってたな。


「あれ、嘘なんじゃ」


「うん、知ってた」


「うむ、そうか・・・・・・・ってはぁっ!?し、知っとったじゃと!?」


 うるせえよ、電話越しに叫ぶな。


「正確には今さっきの会話でわかった。ビーストが平行世界に逃げたとかいう話のあたりからなんかきな臭いと思ってたんだよ。大方、平行世界に逃げたビーストを討伐するためにたまたま死んでいた俺を転生させたんだろう?」


 でないと、俺がこの世界に転生した理由がわからん。
 いくら転生する世界がランダムといっても、この世界にしか移動していないビーストと同じ世界に転生するなんてふつうはありえないだろうし。それこそ、奇跡に近い確率で。まあ、そもそも転生すること自体ありえないけど。


「う、うむ。そうなんじゃが・・・・・・というかお主、怒っておらんのか?生前お主をさんざん苦しめたビーストがいる世界にお主を転生させたというのに・・・」


「別に。むしろ感謝してるくらいだね」


「なぬ?感謝じゃと?」


「ああ・・・・・・この手で殺しきれなかったビーストを今度こそ殺し尽くせるんだ。これを感謝せずにどうしろと言うんだ?」


「・・・・・・・・・・・・」


電話越しにじいさんが唾を飲み込む音が聞こえた。
・・・・・・それくらいあいつらは許せない相手なんだよ。わかってくれ。


「それに・・・」


「?」


 まあ、もう一つ理由を挙げるとすれば・・・


「もう・・・・・・ビーストのせいで誰かが傷つくのを見たくないんだ」


 どちらかというと、こっちが本心。
 前の世界で、ビーストが人間を殺すとか、襲うとか、そういうのはこれでもかというくらい見てきた。
 その度にみんな傷ついて・・・苦しんで・・・それで最後には・・・


「・・・・・・・・・・・・ッ」


「・・・・・・ツカサ」


「ん?ああ、悪い。何だ?」


「・・・・・・・・・・・・いや、何でもない・・・・・・やはり記憶にフィルターをかけたのは正解じゃったな」


「?」


 じいさんが何か言っているようだが・・・声が小さくてよく聞き取れない。


「・・・おっと、すまんすまん・・・・・・・・・さて、長いあいだ話しすぎたようじゃな。司よ、ここからが本題じゃ」


「本題?」


「うむ。お主の察しているとおり、お主をこの『リリカルなのは』の世界に転生させたのは、この世界に逃げ込んだビーストの討伐のためじゃ。以後、お主にはこの世界で可能な限りビーストを討伐してもらうことになる」


「可能な限り?」


「ビーストがいつごろからこの世界に侵入してきたのかはまだよくわからんのじゃ。それを確認するあいだに、どれだけ数や勢力が増しておるかもわからんし」


「なるほどな」


 数がわからない以上、手当たり次第に狩るしかないということか。


「それと、お主が生前使っていた武装なんじゃが・・・覚えておるか?」


「ああ、さっきフィルターが外れたおかげで思い出したよ」


「ならよい。一応お主が死んだ時にこっちで預かっておる。今からそっちに送るが、問題ないか?」


「ああ、頼む」


「では・・・・・・・・・フン!」


 じいさんの力んだ声が聞こえて数秒後、仏壇のある和室の方から光が漏れ出してきた。
 俺はとりあえずリビングから和室に移動して、その光の目の前に立った。


 光は徐々に小さくなり、やがて完全に消えた。
 そして俺の目の前に現れたのは・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・え?」


 赤い宝石の埋め込まれた、一個の指輪、だった。


「・・・・・・えーっと、じいさん?確か俺の武装は、剣・・・だったはずなんだが?」


 そう。記憶では、そうなっていたはずだ。
ていうかこんな指輪、見たこともないんだが・・・


「いや、お主の世界に『デバイス』があったじゃろ?さすがに剣を持ち歩いて街中を歩くのもどうかと思ってな」


「うんうん」


「こんなふうに、いつでも持って歩けるように指輪の形にしてみたのじゃ!もちろんお主が念じればいつでも武器に変化するぞ?」


「はあ・・・・・・これが?」


 とりあえず目の前にプカプカ浮いている指輪を右人差し指に装着した。


「適当に命令してみろ。別にどんなセリフでも反応するぞ?」


「・・・・・・・・・起動(アウェイクン)」


<Standing By>


 ピピッて音が鳴ったあとになんか声が聞こえてきた。
 てか・・・この声って・・・まさか


「・・・・・・・・・マルチフォーム」


<Complete>


 すると指輪は宝石の部分から発光。一旦俺の指から外れたあと、その光は指輪全体に渡り、指輪の輪郭しか見えなくなった。


<Multi Form>


 輪郭しか見えなくなった指輪は、徐々にその形を変え、5秒もしないうちにひと振りの両手剣に変わった。


「・・・・・・・・・」


 俺はその剣を両手でつかんだ。うん、確かに俺が使っていた剣だ、間違いない。


「どうじゃ?これでもし魔導士と戦うことになっても、怪しまれずに剣を展開できるじゃろう?」


「うん、それはいいんだ。いいんだけど・・・・・・」


 この指輪から聞こえた声・・・・・・・・・


「マー○大喜多・・・・・・だよな」


「ん?なんじゃ?もしかして串○アキラの声の方が良かったか?」


「いや、大丈夫だ・・・これでいい」


 剣を持ったまま項垂れた。・・・・・・いや、マーク大○多って!マーク○喜多って!
 いくらなんでもネタに走りすぎでしょ!


「うむ、やはり仮面ライダーはええのう。ワシとしてはアギトやクウガが名作じゃったが、今のウィザードもなかなか興味深い作品じゃ。お主はどう思う?」


「別に何でもいいよ・・・」


 とりあえずあんたがライダー好きなのはよくわかった。


「なんじゃ、つれないのう・・・まあよいわ。それで、最後に『リリカルなのはの原作開始』についてなんじゃが」


「?なんだよ?」


「いやな、イレギュラーを可能な限り抑えるために、お主を転生させた時に年齢を原作に合わせたんじゃ。じゃからもうすぐ最初の事件が起こるはずなんじゃが、何かなかったか?」


「うん?なのはにはもう会ったけど、それらしいことは『・・・助けて!・・・』・・・うん、たった今発生した」


「何?」


 いきなり声が俺の頭の中に聞こえてきた。間違いない、これはあのフェレットの念話だ。


「おいツカサ、一体どうしたのじゃ?」


「今、俺の頭に念話が届いた。『助けて』って。多分、ユーノ・スクライアが発信したんだと思う」


 リリカルなのはの原作開始。最初の「ジュエルシード事件」は、なのはがユーノを助けたあとに、そのユーノからの念話を受け取るところから始まっている。
 今の念話がそうなら、きっと今頃、なのはは家を飛び出して動物病院に向かっているはずだ。


「・・・原作には、介入するべきなのか?」


 だが、その原作に本来俺は関わることはない。もし俺が関わったりしたら、それこそどんな影響が出るか・・・・・・ん?


「・・・ってあれ?なんで俺に念話が聞こえたんだ?」


 俺、リンカーコアは持ってないはずなんだが・・・


「ああ、それなら」


 電話越しに俺のひとりごとを聞いていたじいさんが、なにか思い当たるフシがあるかのように言った。


「お主を転生させる際に、魔導師関連で何かあってはいけないと思ってな。ちょっと魂をいじってリンカーコアを作っておいたのじゃ」


 なるほど。だから念話を聞き取ることができたのか。


「ちなみに、魔力値はそんなに高くないから、あまり無理をするなよ?」


「いや、リンカーコアがあるってわかっただけで十分だ。それに、魔法を知らない以上は、戦闘も今までどおり近接戦が主体になるだろうし」


 あの高町なのはは、事件のあいだに劇的な成長を見せているが、それも生まれ持っての才能と、ユーノの適切な指導があったからこそ出来たもの。
 今の俺にそんなことは期待できない。いつ戦闘が起きるかわからない以上、成長の伸び幅のわからない魔法に手を出す余裕などはないのだ。


「あと、原作介入の件じゃが、お主にはできるだけ、原作のメンバーに接触してもらいたいのじゃ」


「は?なんで?」


 俺が関わればどんなイレギュラーが起こるのかわからないんだぞ?それなのに原作メンバーに接触しろと?


「よいか、この世界にビーストが侵入している以上、既にイレギュラーの起こる確率なんぞ高くなっておる。お主が原作に介入したところでイレギュラーが起こる確率など変わりはせんよ」


「?だったら、なおさら関わる必要はないんじゃ・・・」


「・・・・・・わしの話を聞いておったか?わしは今、『お主が関わらんでも、イレギュラーが原作に起こる可能性がある』と言ったんじゃぞ?この意味がわからんのか?」


「ッ!まさか・・・」


「うむ、奴らもこの世界が『リリカルなのは』の世界であることに気が付いておるはず。魔法なんて規格外な技術は、奴らからしても喉から手が出るほど欲しいはず。そうなると、奴らは・・・」


「高確率で原作に介入してくる・・・!」


「あるいは、既に介入しておるかもしれん。ビーストがかなり前からこの世界に来ていたとしたら、管理局へも、既に手が回っておるかもしれんな」


「マジかよ・・・」


 そうなればなのは達を放っておくわけにも行かない。
 ジュエルシードを集めるために魔法を使い続けていたら、いつかはビーストに感づかれるかもしれない。そうなると奴らと戦うことも考えないと・・・ああ、なるほどね。


「つまり、俺が原作に発生するイレギュラーから、みんなを守れと言いたいんだな?」


「そうじゃ、ビーストに対抗できるのは、今現在お主しかおらん。十年後はどうかわからんが・・・そこまで無事に原作が進行する保証などどこにもない。じゃから、お主が彼女たちをイレギュラーから、ビーストから守るのじゃ」


 ビースト討伐に原作キャラの護衛・・・やることが多そうだな。


「・・・引き受けてくれるか?」


「もちろんだ。喜んで、とは言わないけど、引き受けるよ」


「そうかそうか!・・・・・・・・・ところで、さっきの念話が届いてからもうかなり時間が経っておるが、大丈夫なのか?」


 そういえばそうだ。もう今さっきの念話から十分、とは言わないけど、それでもかなりの時間が経っていた。


「まあ、問題ないよ。というか、今から走って行ってもなのはより先に動物病院にたどり着ける自信はある!」


「そうなのか?」


「ああ」


 最悪、家の屋根を飛んでいけば、動物病院まで一分もかからない。


「といっても、流石にこれ以上は気が引ける。そろそろ向かったほうが良いじゃろう」


「ああ、そうさせてもらうよ」


そうと決まればすぐに動こう。
俺は電話を片手にタンスの引き出しに手をかけて中の服を取り出した。


え?どうしてかって?・・・今着てるのは翠屋でも着てたジャージだから・・・ね?さすがにこのままじゃまずいでしょ?
だからとりあえず服は変えておく。


「ツカサ・・・・・・頼んだぞ」


 着替えをしている途中、じいさんは懇願するように言った。
 あ、そうだ。


「・・・一つ、聞き忘れてたんだけど」


「なんじゃ?」


「じいさんは・・・・・・ビーストを野放しにしていたら起こること・・・わかってるんだよな?」


「・・・・・・・・・・・・うむ」


「・・・・・・・・・そっか」


 ならいいんだ、あとは任せておけ、と、最後に言って、俺は電話を切った。


「・・・・・・・・・・・・」


 切った電話をポケットに入れ、上着を羽織る。
 タンスに入ってた中で、デザインがなんとなくバリアジャケットに近いものを選んで着てみたつもりだ。これなら一目見ただけで俺とはわからない・・・って顔のこと忘れてたわ。


「顔は・・・どうしようか」


 衣装変えても顔がわかればそりゃあ意味ないわな。
 そうなると・・・・・・仕方ないか。
 右手を前にかざし、目を閉じて集中する。


「・・・・・・再現(リプロダクション)開始(スタート)」


 俺がそう呟くと、かざした右手の辺りに力の流れが生まれる。
 H.E.A.R.T.(S)システムの能力の一つ、『再現(Reproduction)』。これによって俺は記憶の中にある一つの小道具を想像することができる。


「・・・・・・・・・黒崎一護、虚化!」


 さらに、求めるものの名を口にし、イメージを形にする!


「・・・・・・・・・ふう」


 かざしていた右手を裏返す。そこには、白い仮面が一枚握られていた。


 俺が再現したのは、アニメ『BLEACH』の主人公、黒崎一護が虚化する際に付けていた仮面だ。
 これなら、パッと見俺は誰だかわからないはずだ。
 すぐさま、その仮面を顔につける。
 なお、俺には霊圧なんてものはないから、付けたところで暴走の心配もない。


「オオ、ヤッパコエモカワルノカ」


 仮面ならなんでも良かったけど、一応『声』で判別されないように、という理由でこの仮面を選んだ。
 予想通り、仮面をつけた俺の声はエコーがかかっていて、誰なのかはわからなくなっている。


「ウシ!ナライクカ!」


 さっき発動したままの俺の愛用の剣片手に俺は意気揚々と・・・出て行くわけにも行かないか。


「デキルカギリカイニュウハシナイ。テヲダスノハ、ビーストガアラワレタトキダケダ」


 確かにビーストに介入されても困るが、わざわざ俺自ら介入する必要もないだろう。
 隠し通せるものは隠す、相手に与えるのは最低限の情報だけ、だ。


 引き戸を開け、外に出る。・・・・・・今夜は満月か。


「・・・・・・ハッ!」


 戸を閉めた俺は、そのまま後ろに『跳んだ』。
 そしてそのままバク宙。自宅の屋根に着地する。


「・・・・・・・・・」


 視線の先にはユーノが保護されているという動物病院。一応地図で確認しておいた。そしてそこにおそらく、既になのはとユーノは接触しているはずだ。
 なら・・・急がないとな。


「フッ!」


 俺はそのまま屋根を跳んだ。もちろん着地先はほかの家の屋根。
 そうやって何度も何度も屋根を経由して動物病院に向かう。


「マッテロヨ、ビースト。コンドコソゼンインブッコロシテヤル!」


 そして、誰も傷つけさせはしない。俺の手で、ビーストからみんなを守る。


 この世界に来て初めて、守るために戦うことを決意した俺は、夜の街を一人駆けていった。
 俺の耳に入るのは、轟々と俺が通った事で吹き荒れる、一陣の風の音だけだった。