電光提督ノゾミアン


 

第一話 提督は新幹線


ここは、深海棲艦と戦う艦娘達の基地“鎮守府”。ここに資材を運んで来た貨物列車が止まる駅には一人の駆逐艦娘“電”が新任の提督を待っていた。

「大本営は正面じゃなくてここで待っているようにと言ってましたけど、司令官さんは電車で来るんでしょうか?」

そう電が考えていた時だ。

プァーン!

線路の向こうから警笛の音が聞こえてきた。だが、その音は貨物列車を牽引する機関車のものとは大分異なっていた。
電が警笛の聞こえた方を見ると、近付いて来る列車の姿が見えて来た。

「え!?あれって!?」

その列車の姿を見た電は自分の目を疑った。何故なら、それは少し前に引退したばかりの300系新幹線だったからだ。
そのまま、300系新幹線は貨物駅に入って来る。そして、停車した直後・・・

「ヒカリアンチェンジ!」

掛け声と共に先頭車両の運転席が分離。そこから手足と翼が飛び出し、さらに運転台の窓の下からつぶらな瞳が現れた。

「ライトニングノゾミアン!只今着任!!」

そして、背丈が電の腰くらいまで縮んでから駅のホームへと着地した。そんな彼に電は恐る恐る尋ねる。

「ええと、あなたが新しい司令官なのですか?」

「ああ。私は元ヒカリアンの隊長のライトニングノゾミアンだ。のぞみと呼んでくれ。君は?」

「はい!司令官のお世話をさせていただく秘書艦の暁型駆逐艦四番艦の電なのです!」

「電か。これからよろしく頼む。」

「よろしくなのです。ところで司令官。一つお聞きしたいのですが。」

「何だい?」

「司令官はその、何なのでしょうか?」

「え?もしかして君はヒカリアンを知らないのかい?」

「はい。」

「まあ、電光の方が終わって大分経つから知らない子が居ても仕方ないか。」

そんなメタ発言をしながら、のぞみは顎(?)に手をあてる。

「何の話ですか?」

「いや、こっちの話だ。それより。私たちヒカリアンについて説明しいう。我々はヒカリアン星からやって来たエネルギー生命体が地球の乗り物と融合した存在だ。」

「と言う事は司令官は宇宙人なのですか!?」

「そう言う事になるな。」

「でも、何で宇宙人の司令官が司令官に?」

「実は、今まで私はJHRと言う組織でヒカリアンの隊長をしながら線路の平和を守って来たんだが、少し前に引退してね。その後はのんびり暮らそうと思っていたんだが、ヒカリアンの隊長をしていた経験を買われて提督としてスカウトされたんだ。」

「そうだったのですか。」

「ただ、人を纏めるのには慣れているが、海の上での戦いには慣れてなくてね。一応勉強はしてきたが、サポートはしっかり頼むよ。」

「はい!任せて下さい。なのです!!」




そして、まず最初に電による鎮守府内の案内が行われた。

「ここが司令官の執務室なのです。司令官はここで私たち艦娘の指揮や事務仕事をする事になっています。」

「なるほど。だが、執務用の机が見当たらないのだが・・・」

のぞみの目の前には段ボール箱が置かれているだけだった。
すると、困惑する彼に電が答える。

「机などの家具は司令官の好みの物を経費で買う事になっています。」

「じゃあ、後でカタログを見せてくれるか?」

「はい、もちろんなのです。では、次は工廠の方に行きましょう。」

そして、二人は工廠へと移動する。



「ここが工廠なのです。ここでは資材を使って艦娘の建造や装備の開発を行います。」

「そうやって戦力を増強する訳か・・・ん?」

のぞみが工廠内を見回していると、あちこちで三頭身の小人が歩き回っているのを見つけた。

「電、彼らは?」

「あの子達は艦娘の建造や装備の開発を行ってくれる妖精さんなのです。」

「妖精が建造や開発を?まるでおとぎ話みたいだな。」

のぞみは妖精がご飯をくれた靴屋の為に靴を作るおとぎ話を思い出しながら言った。

「司令官さんが言うのはちょっと可笑しいような気がするのです。」

「それもそうか。」

「とりあえず、一回建造をしてみてはいかがでしょうか?」

「そうだな。で、どうやればいいんだ?」

のぞみが聞くと、電はある装置の前に彼を案内した。

「この装置に燃料、弾薬、鋼材、それとボーキサイトの四つの資材を投入する量を入力すれば建造できます。開発の場合は向こうの装置で同じ操作をすればいいのです。」

「なるほど。とりあえず、初めてだから全部最低の30にするか。」

そして、のぞみが資材投入量を入力して建造ボタンを押すと22:00と言う数値が出て減少していく。

「電、この数値は?」

「建造までかかる時間なのです。これを見れば誰が建造されるのか大体分かるのです。」

「なるほど。で、これなら誰ができるんだい?」

「22分ですから、白露型駆逐艦なのです。」

「分かった。じゃあ、出来上がるまで他の場所の案内を頼む。」

「はい、なのです!」

そして、二人が工廠を出ようとした時だ。
鎮守府内に警報が鳴り響いたのである。

「何だ!敵襲か!?」

「そうみたいなのです!」

「不味いな。建造が終わるのを待っている暇は無いから出撃出来るのは電だけだぞ。」

この緊急時をどう乗り越えるか考えるのぞみ。その時、電がある提案をした。

「それなら、高速建造剤を使えばいいのです!これを使えば艦娘を直ぐに竣工させる事が出来るのです!!」

「分かった!どうすればいい!!」

「さっきの装置に高速建造剤投入用のボタンがあるのです!」

「これか!」

そして・・・

「初春型駆逐艦の次に開発された白露型の一番艦、白露だよ!」

「提督ののぞみだ。」

「へ?あなたが提督?」

「済まないが説明しているヒマは無い。鎮守府近海に深海棲艦が現れた。竣工直後で悪いが、出撃して貰うぞ。」

「竣工後一番で出撃か。もっちろんいいよ!!」

「よし、出撃する!!」




鎮守府から出撃した電と白露は海面をまるでスケートのように滑っていた。

「まさか、司令官もついて来るとは思わなかったのです。」

そう言う電が見上げる先ではのぞみが背中のバーニアを吹かして飛んでいた。

「やはり、私は前線で戦いながら指揮するのが性に合っているのでね。」

「そうなのですか?」

そうやってのぞみと電が話していると・・・

「一番先に敵艦発見!」

白露が敵艦を発見した。

「あれが深海棲艦か・・・」

「駆逐イ級が一隻なのです。」

のぞみと電もまた敵艦の姿を確認する。

「よし、充分近付いたら攻撃開始だ!」

「「了解(なのです)!!」」

そして、双方は互いの射程に入り、砲撃戦を開始する。

「命中させちゃいます!」

「いっけぇーっ!」

砲撃は見事駆逐イ級に命中する。それによりダメージを与える事に成功はしたが、未だ撃沈には至っていない。

「ガアアアアアアア!!!」

すると、今度は駆逐イ級の方から砲撃を行ってきた。

「はに"ゃ〜っ!?」

それは電に命中し、小破程度のダメージを与える。

「電!おのれ、よくもやったな!!」

それを見たのぞみは鍔の部分にライオンの顔の装飾が施された愛用の剣“ライオソード”を取り出す。

「ライオソード!!」

そして、のぞみがライオソードを上に掲げると、鍔の部分がまるで鬣のように展開し、刀身に電撃が纏わされた。

「ライトニング・ライキング!!」

そして、のぞみが技名を叫びながらライオソードを振るうと、電撃がライオンの姿となって駆逐イ級に向かって突撃した。それは見事命中して大爆発を起こす。だが、爆炎が晴れると駆逐イ級はまだ沈んではいなかった。だが、電撃を受けたせいか麻痺して動けない様子である。

「今だ!二人とも!!」

「魚雷装填です!」

そして、電と白露の発射した魚雷により駆逐イ級は撃沈された。





それから暫くの時が経ち・・・

「司令官がこの鎮守府に着任してから、もう大分経ったのです。」

「そうだな。最初は君と白露だけだった艦隊も、あっという間に大所帯になってしまったよ。おかげで、私自ら出撃する事は少なくなって来た。」

「やっぱり、前線に出てる方が性に合っていますか?」

「いや、私もそろそろ年だからな。流石に前線に出るのはキツくなってきたよ。」

「なら、電達は司令官に無理をさせないよう頑張るのです!」

「ああ。期待しているよ。」



続く
 

 

第二話 ボーキのフードウォー

すっかり大所帯となった鎮守府の食堂では大勢の艦娘達が食事を摂っていた。
そして、この鎮守府の提督であるのぞみも艦娘達と交流を深める為に一緒に食事を摂るようにしている。

「赤城、加賀。隣いいか?」

「はい。どうぞ。」

着任したばかりの頃はのぞみの姿に困惑していた一航戦コンビだったが、今ではすっかり慣れている。

「二人とも、本当によく食べるな。」

「そう言う提督もかなり食べる方でしょう。」

のぞみの若干デリカシーの無い発言に加賀がそう返す。

「実は、こう見えて故郷ではフードファイト界の獅子(ライオン)と呼ばれていてな。大食いには自身があるんだ。」

「大食いには・・・」

「自身がある?」

この時、赤城と加賀の瞳に鋭い光が灯った。そして、赤城がのぞみに話を切り出す。

「なら、一度勝負してみますか?」

「勝負って、大食いでか?」

「それ以外に何がありますか?」

聞き返すのぞみに加賀が答えた。

「面白い。受けて立とうじゃないか。」

そして、のぞみと一航戦コンビは火花を散らし始める。だが、それに待ったをかける者たちが居た!

「「「そんなのダメ!!!」」」

この鎮守府の他の艦娘達である。

「え?何で皆止めるんだ?」

「当たり前でしょうが!そんな事をしたら鎮守府の食糧が空っぽになるに決まってるじゃない!!」

理由を聞くのぞみにそう答えたのは朝潮型駆逐艦の霞だ。

「いや、別に鎮守府でフードファイトをやるとは言ってないぞ。」

「へ?」

「定期的にフードファイト大会をやってる店を知ってるから、そこでやろうと考えているんだ。」

のぞみのその言葉を聞いて、艦娘一同は胸を撫で下ろした。その時、赤城が彼に尋ねる。

「それで提督。そこは何のお店なんですか?」

「中華料理屋さ。いや待て、前一同カレー屋から中華料理屋に変わったから、また別の店に変わってる可能性もあるな・・・」

そこで、のぞみはかつて仲間であったヒカリアンの一人に連絡をとる事にした。彼を誘うついでに。




そして、数日後。
のぞみと一航戦コンビそれに青葉と電達第六駆逐隊は中華料理屋“374庵”の前に来ていた。

「ここが今回の会場となる場所ですか?」

「そうだ。って言うか青葉。何でついて来たんだ?」

「もちろん、この世紀の対決を取材する為です!!」

「世紀の対決って、大げさだぞ・・・」

興奮しながらカメラを構える青葉にのぞみは呆れるばかりであった。

「それで、電達が来た理由は?」

「電達は司令官さんの応援なのです!」

そう答える電であったが、その直後、彼女達のお腹がグゥ〜っと鳴った。

「せっかくだからフードファイト抜きで何か食べて行くといい。ここの料理は絶品だからな。もちろん、私がおごるぞ。」

「レディとしては、司令官の好意は無下に出来ないわね。」

「おごりか。いい響きだな。嫌いじゃない。」

「ご馳走になるわ。」

「ありがとう、なのです。」

のぞみの発言に喜ぶ第六駆逐隊。そこへ、一人のヒカリアンが姿を現した。

「のぞみ、久しぶり。」

「ああ。久しぶりだなE4。」

のぞみはそのヒカリアンと互いに言葉を交わす。その様子を見て赤城が尋ねた。

「提督、この方は?」

「ああ。彼はライトニングE4パワー。かつて私の仲間だったヒカリアンだ。」

「なるほど、提督のかつてのお仲間でしたか。」

「司令官さんよりもおっきいのです。」

「そして、フードファイトにおいては私のライバルでもあるな。」

「提督のライバル・・・と言う事はかなりの実力者ですか?」

のぞみの説明を聞いた加賀が目を鋭くしながら聞いた。

「ああ。私がフードファイト界の獅子(ライオン)と呼ばれているのに対し、E4はフードファイト界の猛牛(バッファロー)と呼ばれている。」

「猛牛(バッファロー)、ですか。やはり彼も今回のフードファイトには参加するのですか?」

「もちろんだ。」

「ですが、誰であろうと負けません。一航戦の誇りに賭けて。」




そして、店内に入るとフードファイト参加組はカウンター席に、応援組はテーブル席に座った。

「それでは!フードウォー、スタート!!!」

374庵の看板娘、“神田ミナヨ”がその言葉と共に銅鑼を鳴らすと、参加者は一斉に最初に用意された料理、チャーハン食べ始めた。

「ひゃっ!?」

「これは、凄まじいものがあるな。」

「あんな早食いして司令官、喉つまらせないの?」

「凄い勢いなのです!」

「一航戦コンビに全く引けをとらないとは、司令官もE4さんも中々やりますね。」

テーブル席から観戦している第六駆逐隊と青葉は驚愕していた。そして、何回かお代わりを繰り返した後、あっという間に二品目の料理、ラーメンへと移る。そんな中、のぞみは横目でE4の方を見た。

(流石E4。既に弱点を克服してあるか・・・)

かつて、E4はチャーハンからラーメンに変わった際、箸が使えないと言う理由で敗北していた。

(だが、パワーアップしているのはお前だけでは無い!)

E4の成長を確認しながら、のぞみは勢いを強めた。



(今回はどちらかと言えば加賀さんと真の大食艦の座を賭けた戦いと考えていたのですが・・・)

世間では空母において赤城ばかりが大食いと認識されているが、実は加賀の方が大食いなのだ。

(提督とE4さんも中々やります。どうやら、ライオンとバッファローの二つ名は伊達では無いようですね。)

赤城はのぞみとE4が自分達のペースについて来ている事に驚いていた。

(ならば、慢心を捨てて全力で行かせてもらいます!!)



そんな勝負の様子を374庵の窓の外から眺めている者たちが居た。

「提督ノ言ウ通リ、艦娘ドモト奴ラノ提督ガ居ルナ。」

艦娘が戦う敵、深海棲艦の戦艦ル級と重巡リ級である。

「アレ?ヲ級ノ奴、何処二行ッタ?」

「放ッテオケ、リ級。ドウセ何処カデ買イ食イデモシテイルンダロウ。ソレヨリモ今ガちゃんすダ。連中ハ食事二夢中ナ上、艤装ヲ付ケテイナイ。」

「ソウデスネ。」

「ヨシ、行クゾ!!」

そして、二人は窓を割って店内に侵入した。

「な、何!?」

「し、深海棲艦だ!!」

「大変よ!私たち今艤装を付けて無い!!」

「ピンチなのです!」

突然現れた深海棲艦に混乱する第六駆逐隊。

「サア、覚悟シロ!艦娘ドモ!!」

そして、ル級とリ級は武器を構えたのだが。

「今何か音がしなかったか?」

「さあ?気のせいじゃない?」

フードファイト参加者は完全に彼女らを眼中に入れていなかった。

「オイ!無視スルナ!!」

「ソウダ!状況ガ分カッテイナイノカ!!!」

怒鳴りながら主砲を向けるル級とリ級。しかしその直後・・・

「帰って下さい。」

「ヘ?ゴバア!?」

青葉がリ級の腕を掴んで店の外に投げ飛ばした。

「リ級!貴様、ヨクモ!!」

仲間がやられたのを見て今度は青葉に主砲を向けるル級。だが、なんと青葉は何やら黒いオーラを発していた。

「私はですね、この世紀の対決の記事が書きたいんですよ・・・」

「ナ、何ヲ言ッテイル・・・」

「深海棲艦の襲撃なんて言うありきたりでマンネリ化した記事じゃあないんですよ!!青葉パンチ!!!」

「ゴハア!?」

そして、ル級は青葉のパンチで吹っ飛ばされた。そして、店の外で倒れていたリ級の上に落っこちる。

「ギャフン!?」

「ス、スマン、リ級。」

「さあ、まだやるんですか?」

「グッ・・・ヲ級サエ居レバコンナ事ニハ・・・覚エテロヨ!!!」

そして、深海棲艦達は逃げて行った。

「さあ、早く取材の続き続き♪ 」




あれから暫く時が経ち、フードウォーは料理がデザートの杏仁豆腐となり、終盤に差し掛かっていた。

「「「「「おかわり!!!」」」」」

「はい!これが最後の一杯です!!」

そして、ついに最後の一杯。これを先に食べ終えた者が勝者となる。

(これで最後か。ならば、ラストスパートだ!!!)

のぞみは早速杏仁豆腐を一気にかき込んだ。だが・・・

「グフォオ!?」

勢い良くかき込み過ぎてむせてしまった。その勢いのまま、彼は後ろに倒れてしまう。

「おおっと!のぞみ選手、ここで失格!!」

(最後だと慢心しましたね、提督。)

ミナヨちゃんの実況を聞いた赤城がニヤリと笑う。

(このまま優勝は私がいただきま・・・)

ガリッ

「舌噛んだ〜!?」

「おーっと!ここで赤城選手もダウン!!これで残ったのは5人のうち3人となりました!!果たして、勝つのは誰か!!!」

(貴方こそ慢心したわね、赤城。ってあれ?5人中3人?もう一人参加者が居たのかしら?)

ミナヨちゃんの実況を聞いた加賀が不思議に思っていた時だった。

コトリ

誰かが空になった器をカウンターに置いた。

「終了!優勝者は・・・空母ヲ級選手です!!!」

「ゴチソウサマ。」

「「「「なにいいいいいいいいいいいいいい!!?」」」」

優勝はなんと、深海棲艦の空母ヲ級だった。

「い、いつの間に参加してたんですか!!!」

「最初カラ居タヨ。」

「最初から!?」

「何で気付かなかったんだ!?」

深海棲艦が居た事に動揺する一同。そんな中、ミナヨちゃんはマイペースに司会を続けた。

「と言う訳で、優勝者のヲ級さんには賞金が贈られます。」

「コレデ色々買ッテ食ベレル。」

「そして敗者の皆さんには、今まで食べた分とヲ級選手が食べた分の代金を支払って貰います。」

「「「「ええええええええ!!?」」」」

「では、またのご利用、お待ちしております。」




翌朝、『提督と一航戦コンビ、深海棲艦にフードファイトで敗北す』と言う記事が青葉タイムスの一面を飾った。

「深海棲艦め・・・次は負けるものか!!」

「一航戦の誇りに賭けて、このリベンジは必ず!!」

「その為にも、毎日特訓を・・・」

『それはダメ!!!』



続く

 
 

 
後書き
作者「あ~、第二話のタイトル思いつかね~。と言う訳で弟よ、アイデアプリーズ!」

弟「ボーキのフードウォーでいいんじゃない?」

作者「いや、一航戦コンビだけじゃなくてのぞみも出るんだしさ・・・」

弟「のぞみ(300系)のボディってアルミ製じゃなかったっけ?」

作者「そう言えばそうだな。じゃあそれでいこう。」
 

 

第三話 デート大作戦

 
前書き
子日だよ!今回は銀魂ネタがあるよ!! 

 

今日、のぞみは久しぶりにかつての仲間であったヒカリアン“スナイパーソニック”と喫茶店で会っていた。

「で、ソニック。相談って何だ。」

「実は、俺は恋をしてしまったんだ。」

「またか・・・」

スナイパーソニック。数多くの恋をし、それと同じ数だけフられてきた男である。

「で、私に相談をして来たと言う事は、今回はうちの艦娘に惚れたのか?」

「ああ、その通りだ。」

「で、誰に惚れたんだ?」

「この娘だ!」

そして、ソニックは一枚の写真を取り出す。そこに写っていたのは・・・重雷装巡洋艦の北上だった。

「北上か・・・」

「北上さんと言うのか?」

「ああ。(しかし、よりによって彼女か・・・)」

常に北上の側に居るある艦娘の事を思い出しながら内心ため息をついた。

「言っておくが、彼女と付き合うのはかなり困難だぞ。」

「分かっている。実際、俺は何度も告白に失敗したからな。」

「何度も?」

「ああ。何故か告白しようとする度に何処からともなく魚雷や砲撃が飛んで来るんだ・・・」

「・・・・・・」

その犯人にのぞみは一人しか心当たりが無かった。

「頼む、のぞみ!フられたのなら諦めがつくが、告白すら出来ないのは耐えられないんだ!頼む、この通りだ!!」

そう言って顔の前で手を合わせながらのぞみに頼むソニック。

「分かった、こっちで何とかしてみよう。」

「本当か!」

「ああ。自信は無いが、任せておいてくれ。」




翌日、のぞみは重雷装巡洋艦大井を執務室に呼び出していた。

「遠征、ですか?」

「ああ。天龍が最近自分を遠征ばかりじゃなくて戦闘にも出せとうるさくてな。代わりに行ってくれるか?」

「構いませんが、この前やっと改二になったばかりの私に何故?」

「い、いや。ただの船だった頃はよく輸送任務をやっていたと聞いていたから適任だと思ってな。」

「・・・まあ、命令なら従いますけど。」

「ああ。一緒に行く駆逐艦達の事は頼むぞ。」

「はい。」

そして、大井が執務室を出た後、のぞみはようやく息をついた。

「ふう・・・後は君しだいだぞ、ソニック。」




大井が遠征に出発して少し経った頃、北上は鎮守府の正面の掃除をしていた。

「これぐらい業者にやらせときゃいいのにさ〜。何で私たちでやらなきゃいけないのかな〜。」

ダルそうに箒で地面を掃く北上。そこへ、ソニックが現れた。

「あの・・・」

「ん?君ってもしかして提督の友達?」

「はい!スナイパーソニックと言います!!」

「で、何の用?提督に用事があるなら呼んでくるけど。」

「いえ、俺が用があるのはあなたにです、北上さん。」

「え、私?」

突然指名され、首を傾げる北上。するとソニックは・・・

「これ、良かったら受け取って下さい!!」

花束と手紙を彼女に差し出した。

「え?もしかしてこれってラブレターって奴?」

「はい!あの、返事は後でもいいので・・・」

「う〜ん・・・どうしようかなあ・・・」

腕を組んで悩む北上。そして・・・

「とりあえず、中身読んでから決めよっかな。」

ソニックからラブレターと花束を受け取った。

「やったー!!!!」

今まで、ラブレターを受け取ってすらもらえた事も無かった事も多かったソニックにとって、これは大きな一歩であった。




その日の夕方、執務室で事務仕事をしているのぞみは・・・

「ソニックの奴、上手くやったか?」

ソニックの事を心配していた。その時、扉をノックする音が響く。

「どうぞ。」

「艦隊が戻ったよ〜。」

のぞみが返事をすると巻雲が執務室内に入って来た。

「巻雲?確か君は大井と一緒に長めの遠征に行かせたハズだが・・・」

「それが、大井さんが嫌な予感がするって言って物凄いスピードで終わらせちゃいました。だからちゃんと報酬もありますよ〜。」

「不味い・・・」



そしてその頃、北上が軽巡寮の自室(大井と相部屋)で居ると・・・

「北上さん!!!」

大井が飛び込んで来た。

「あれ?大井っち、長めの遠征に行ったから今日中には戻って来れないんじゃ無かったっけ?」

「それより北上さん!なにか変な事は無かった!?」

「変な事?う〜ん・・・あっ!そう言えばこんなの貰っちゃったんだ。」

そう言って北上はポケットからある物を取り出す。それは・・・

「じゃじゃ〜ん。ラブレタ〜。」

ソニックから貰ったラブレターだった。それを見た途端、大井の顔から表情が消える。

「北上サン。ソレ、誰カラ貰ッタノ?」

「提督と昔仲間だったソニックってヒトからだよ。いやあ、あたしモテモテだねえ。」

「ソウ・・・」

「読んでみたけど、中々の熱血清純派だったよ。」

「デモ、手紙ダケジャ本当ニソウカ分カラナイジャナイ。」

「確かにそうだね〜。どうしよっかな〜・・・大井っちはどうしたらいいと思う?」

「止メタ方ガイイト思ウワ。」

「そう?って言うか大井っち。さっきから何してんの?深海棲艦のモノマネ?」

「別ニ、何モ無イワ。ソレデ、ドウスルノ?」

「実は、さっき提督に相談したら、相手と自分の相性を確かめる為にお試しデートをしたらどうだって言われたんだよね〜。」

「デート!!?」

「私も艦娘とはいえ女の子だからさ、憧れちゃうんだよねそう言うの。だからさ、とりあえずお試しデートはやってみようかなあって。」

「・・・・・・・」




そして、数日後。とある遊園地にて。

「北上さーん!こっちこっち!!」

「お、早いねソニック。」

二人はデートをする事になった。当然、北上はいつもの制服ではなく私服姿である。

「彼女を待たせない点は合格だね。」

「当然さ。何せ俺は予定の1時間前から待っていたからな。」

「普通そこは全然待って無いって言う所じゃないの?」

「ハッ!しまった!!」

「減点だね、これは。分かってると思うけど、このデートは付き合うかどうか決めるテストだから、気を引き締めなきゃダメだよ〜。」

「そうだった。それはそうと、北上さん。」

「何?」

「私服姿も可愛いよ。」

「ありがと。服を褒めるのは合格だよ。」

「よっしゃー!!!」

「そんじゃ、行こうか。」

「ああ。」

ソニックは手を差し出した。

「女の子のちゃんとエスコートしようとするのも合格点だよ。」

そして、北上はその手を握り返すと、二人で遊園地の中へと入って行った。




そんな様子を後ろの茂みから眺めている者たちが居た。

「あの男・・・北上さんからその汚い手を放しなさいよ!!」

ご存知、大井と彼女の姉妹艦である球磨、多摩、そして木曾である。

「なあ、大井姉。俺たちを連れ出した理由ってまさか、北上姉のデートのデバガメをするためか?」

「デバガメ?違うわ!このデートを妨害するのよ!!!」

木曾の質問に息を荒げながらそう答える大井。

「くだらなねえ。悪いが、そんな事で貴重な休みを無駄にしたくはねえんだ。なあ、球磨姉。」

そんな彼女に呆れた木曾は球磨に同意を求めるが・・・

「球磨じゃないクマ。ベアー13だクマ。」

いつの間にかグラサンとコートを装着し、手にライフルを持っていた。

「何してんだ球磨姉!?」

「球磨はお姉ちゃんとしてあいつが北上に相応しいか見極める義務があるクマ。その為にもあいつに試練を与えるクマ!!!」

「何言ってんだよ・・・多摩姉。あんたはどうすんだ?」

長姉の思わぬ暴走に木曾は次女の多摩の方を向くが・・・

「多摩じゃないニャ。タマ13だニャ。」

彼女も球磨と同じ格好をしていた。

「あんたもか!!!」

「面白そうだから多摩も参加するニャ。」

「はあ、仕方ねえ・・・」

結果、木曾は貴重な休みを使って姉達のストッパー役をやる事になった。




まず、北上とソニックはメリーゴーランドに乗った。当然、大井達もそれを追ってメリーゴーランドに乗った訳だが・・・

「中々距離が縮まないわね。」

「もっとスピードは出ないクマ?」

「上下に揺れて狙いが定まらないニャ。」

メリーゴーランドの馬に乗った状態でライフルを構えていた。

「当たり前だろうが!メリーゴーランドってのはそう言うモンなんだよ!!!」

そんな彼女達に木曾がツッコミを入れる。

「あれ?木曾も結局北上の彼氏に試練を与えに来たクマか?」

「ちげえよ、ただお前らが暴走しないよう見張りに来ただけだ。」

そうこうしているうちにメリーゴーランドは終了。ソニックと北上はジェットコースターの方へ移動する。
その様子を追跡組は柱の影から覗いていた。

「ジェットコースターか。まあ、遊園地に来たら定番だな。」

「また北上さんと手をつないで・・・」

「次はどうするクマ?」

「私にいい考えがあるニャ。」




柱の影から飛び出した多摩はこっそりソニックの後ろにつくと、彼の背中に拳銃を突き付ける。

「動くんじゃ無いニャ。」

そして、北上に聞こえないよう小声で脅す。

「大人しく言うことをk・・・」

ボカッ!!

「ニ"ャ!?」

が、即座に振り向いたソニックにぶん殴られてしまった。

「スナイパーの後ろに立つとは、いい度胸をしているな。」

「ニ"ャ〜」

強烈な一撃に完全に伸びてしまった多摩。すると、北上が彼女の存在に気付く。

「何してんの?多摩?」

「知り合いかい?」

「うん、私の姉妹艦。一応、姉って事になるね。」

「北上さんのお姉さん?それが何でこんな事を?」

「さあ?とりあえずデートの邪魔されたら嫌だしさ、ロープで縛っとこ。」

「そうだな。」

そして、多摩はロープで縛られ放置された。



「多摩がやられたクマ。」

「くっ・・・流石は鉄道警察隊のエリートと言った所ね。」
※青葉情報

「中々やるじゃねえか、あいつ。で、どうすんだ?」

「とりあえず、多摩を救出するクマ。」

そうやって球磨達が多摩を救出している間、北上とソニックはジェットコースターを楽しんだ。
そして、その次に二人が行ったのは・・・お化け屋敷だった。

「まさかあいつ、暗がりで北上さんに良からぬ事を・・・」

「いや、そりゃねえだろ。」

「でも、お化けに驚いた北上があいつに抱くってシチュエーションはあるかもしれないニャ。」

「北上さんが、あいつに抱きつく・・・そんなのダメ!!!」

「それすらダメなのかよ・・・」

姉の独占欲の強さに呆れる木曾であった。

「私たちもお化け屋敷に入るわよ!!!」

そして、一行もまた北上達を追ってお化け屋敷に入るのであった。




お化け屋敷の中は真っ暗であったが、夜戦をする事もある艦娘達にとって暗がり自体は問題で無かった。だが・・・

「同じ暗闇でも、雰囲気が違うだけでこうも違うんだな・・・」

やはり、雰囲気が若干の恐怖心を与えていた。

「木曾、怖いクマか?」

「別に。」

「怖かったらお姉ちゃんに抱きついてもいいクマ。」

そう、球磨が胸を張って言った時だった。

「うらめしや〜!」

彼女の目の前に紫色の唐傘お化けが出たのは。

「クマアアアァァァ!!!」

それに驚いた球磨は思いっきり木曾に抱きつく。

「ちょっ!球磨姉、驚き過ぎだろ!!」

「びっくりしたクマ。よく見たら深海棲艦と比べたら可愛い見た目してるのに驚いてしまったクマ。雰囲気って凄いクマ。」

「シッ!静かに!!二人が見えて来たわ。」

大井達から数メートル先。そこを北上とソニックは歩いていた。そして、ソニックの目の前にちょうちんお化けが現れる。

「ひゃああああああ!!!」

すると、それに驚いたソニックがなんと北上に抱きついたのだ。

「ねえ、ソニック。これちょっと逆っぽくない?」

「はっ!?」

北上に指摘されたソニックは慌てて彼女から離れた。

「いや〜。今のはかなりの減点だよ。」

「アハハハ。次からは気をつけるよ。」

当然、それを大井が面白く思うハズも無く・・・

「あの男・・・北上さんに抱きついて!!!」

「落ち着け大井姉!その酸素魚雷しまえ!!」

「放しなさい、木曾!!!」

暴走を止めようと腕を掴む木曾を振りほどこうと大井は腕を振り回す。すると、彼女が持っていた酸素魚雷がすっぽ抜け・・・

チュドーン!!

「ぎゃああああああ!!!」

先程球磨を驚かせた唐傘お化けに当たって爆発した。

「「・・・・・・」」

「逃げるクマ。」

「ニャ。」

「ちょっと!置いてかないでよ!!」

「待てって!あれどうすんだ!!!」




大井達が逃げるようにお化け屋敷から出ると、北上達を見失ってしまった。

「何処に行ったの!?」

「なあ、もう帰ろうぜ。」

大井は未だデートを妨害する気でいるが、木曾はもうこの状況にうんざりしていた。その時・・・

「見つけたニャ。」

多摩が二人を発見した。

「本当!何処!?」

「あそこニャ。観覧車に乗ろうとしてるニャ。」

「観覧車!?と言う事は・・・」

「きっとキスする積りクマ。」

「キス!!?」

(今更気付いたけど、ソニックといいあいつといい、口何処についてんだ?)

木曾がふとした疑問を思い浮かべる中、大井は深海棲艦と見間違える程の黒いオーラを発し始める。

「アンナ奴ニ、北上サンノ唇ヲ渡シテナルモノデスカ!!!」

「・・・そろそろ、あの人に知らせた方が良さそうだな。」

そんな彼女を見て、木曾はある人物に連絡をとる事にした。




観覧車に乗った北上はソニックと向き合っていた。

「観覧車と言えば遊園地に来た時に最後に乗る乗り物。と言う訳でここで今日のテストの結果を発表したいと思います。」

ついに始まる結果発表。これで北上と本当に付き合えるかどうかが決まるので、ソニックの胸はドキドキしていた。だが、その直後・・・

バババババババ!!

外から爆音が聞こえてきた。

「な、何だ!?」

二人が音のする方向を見ると、そこには一機の軍用ヘリとそこから身を乗り出す大井、球磨、そして多摩の姿があった。

「そこの電車野郎!北上さんから離れなさい!!!」

「お前が本当に北上を愛してるのなら、これくらいの試練、乗り越えて見せるクマー!!!」

「ニャー!!!」

「あれは北上さんのお姉さん!?それと後は・・・」

「一番上の姉ちゃんの球磨と妹兼親友の大井っちだね。」

「一体何がどうなっているんだ!?」

訳が分からず混乱するソニック。そんな彼に向けて大井が主砲を構える。

「さあ、覚悟しなさい!!!」

その時である!
彼女達のヘリの隣にもう一機ヘリが飛んで来て機体を横付けした。そして、側面の扉が開く。そこから姿を現したのは・・・

「何をしているのかしら、あなた達。」

正規空母の加賀と・・・

「艤装を始めとした備品の無断持ち出しは厳罰ですよ。」

金剛型戦艦四番艦の霧島だった。

「な、何でバレたクマ!?」

鎮守府の中では絶対に怒らせてはいけない二人にバレて球磨は困惑する。すると・・・

「あんたらはやり過ぎたんだよ。」

加賀と霧島の後ろから木曾が姿を現した。

「木曾!裏切ったのかクマ!?」

「酷いニャ!!」

「そうじゃねえ。ただ、お痛の過ぎる姉貴達を妹として止めに来ただけだ。」

抗議をする球磨と多摩にそう答える木曾。

「さあ、覚悟は出来ているかしら?」

そんな中、加賀は睨みを効かせ、霧島はボキボキと指を鳴らしていた。

「に、逃げるクマ!!」

「捕まったら命が無いニャ!!」

「ちょっと!あの電車男はどうするのよ!!」

大井が抗議する中、球磨と多摩はヘリを操ってその場から逃げ出そうとする。

「逃げられると思ってるの?」

「マイクチェックの時間だオラァ!!!」

当然、加賀と霧島のヘリもそれを追うのであった。




「結局、あれは何だったんだ?」

あの後、ソニックと北上の二人は状況が飲み込めずポカンとなってしまい、その間に観覧車は下まで下がってしまった。その後、二人は遊園地の出入り口まで戻って来ていた。

「まあ、細かい事はどうでもいいじゃん。それより、改めて結果発表と行くよ。」

「ああ。」

真剣な表情で結果を待つソニック。そして、北上の口から飛び出したのは・・・

「発表します。結果は・・・・・・・マイナス10ポイントで不合格です。」

「えええええええええええ!?何で!!?」

「いやあ、お化け屋敷で抱きつかれた時さ、汗臭かったんだよねえ。そこのマイナスが大きかったね。」

「そ、そんな・・・」

こうして、ソニックの恋はまたしても終了し。

「バッカヤロ〜!!!」

今日も彼は夕日の沈む海に向かって叫ぶのであった。




それから一週間後。のぞみは再びソニックに喫茶店に呼び出されていた。

「また別の艦娘に惚れたのか?」

「ああ。今度はこの子だ。」

そう言ってソニックが取り出した写真に写っていたのは・・・天龍だった。

「何度も告白しようとしてるんだが、その度に何処からともなく槍が飛んで来て妨害されるんだ。」

「もう勘弁してくれ。」



続く

 

 

第四話 疾風の餃子修行

ある日、天龍と龍田それに第六駆逐隊の面々が遠征から帰って来ると・・・

「済まん、島風!」

「元気出して!!」

「まあ、相手が悪かったんだよ。」

提督ののぞみと艦娘達が一斉に島風を慰めていた。

「あの、一体何があったんすか?」

そこで、天龍は手近な所に居た不知火に聞いてみた。

「それがですね・・・」





遡ること半日ほど前、のぞみが鎮守府の廊下を歩いていると・・・

「あなたって遅いのね!」

「駆けっこでも私が一番だよ!!」

島風と白露が駆けっこをしていた。

「こら!廊下を走るな!!」

のぞみが注意するが、二人はそれを無視して走って行った。



その後昼食の時間、のぞみは食堂で空いている席を探しながら愚痴っていた。

「全く、島風には困ったものだ。」

「司令、どうかしたの?」

すると、駆逐艦の陽炎が席に座りながら声を掛けて来た。その隣には姉妹艦の不知火も居る。

「陽炎に不知火か。実は、また島風が廊下で駆けっこをしていてな。今回は白露が相手だったよ。」

「そうなの。あ、隣空いているから座っていいわよ。」

「ああ、そうさせてもらおう。」

陽炎の言葉に甘え、のぞみは彼女の隣の席に腰を降ろした。

「しかし、あの子を見ていると初代E2とE3を思い出すな。」

「E2とE3?」

「司令のお仲間ですか?」

初めて聞く名前に陽炎と不知火は首を傾げる。

「ああ。E2は長野新幹線で、E3は昔秋田新幹線だったんだ。で、この二人はスピード狂な上ライバル同士だったから、いつも仕事中に競争をしては怒られてたんだよ。」

「それは困った方達ですね。」

のぞみの話を聞いて苦笑する不知火。そんな中、陽炎が彼に言った。

「でも、司令も新幹線なんだから、なんだかんだ言ってスピードには自身があるんでしょ?」

「まあな。昔、超古代文明の遺跡の罠のセンサーを掻い潜る為に、時速400km以上を出した事もあったな。」

「時速400km!?」

「最新の新幹線よりも速いじゃない!?」

のぞみの口から出た驚異の速度に不知火と陽炎は驚愕する。

「まあ、私ももうそろそろ年だからまた同じ事をやれと言われても無理だがな。しかし、それでもそんじょそこらの輩には負けたりはしないさ。」

そう自身満々にのぞみが言った時だった。

「なら、私と勝負してみる?」

いつの間にか彼の後ろに島風が立っていた。




そして、昼食後。

「やれやれ、まさかこんな事になるとは・・・」

のぞみは列車形態で海沿いの線路の上に居た。さらに海の上には島風の姿もある。

「お互い、手加減無しの全力勝負だからね!!」

「分かっているよ。」

叫ぶ島風に対してそう返すと、運転台の窓を下にさげる。

「それじゃあ、位置について・・・よーい、ドン!!!」

そして、審判訳の陽炎が主砲で空砲を撃つと二人は一斉にスタートした。最初はゆっくりと動き始めたのだが、徐々にスピードを上げて行く。

「絶対負けないよ!!」

「悪いが、私にも超特急としての矜恃くらいはある。勝たせてもらうぞ!!!」

そうやって互いを挑発しながら、二人の姿はどんどん陽炎から遠ざかって行った。

「やれやれ。それにしても、あんたがこんな勝負をする事を許すなんて、どう言う風の吹きまわしよ。」

二人の姿が見えなくなってから、陽炎は隣で立っていた不知火に尋ねた。

「私も島風の駆けっこ好きには少し手を焼いていたのですよ。今回の勝負は島風にとっていいクスリになるハズです。」

「え?それってどう言う意味?」

「島風の最高速度が40ノットなのに対し、司令の最高速度は時速270km。勝負の差は歴然です。」

そう不知火は自慢げに説明するが、陽炎はよく理解出来なかった。

「ごめん。ノットで言ってくれないとわかんない。」

「仕方ないですね。1ノットは1時間で1海里、つまり1.852kmを進む速度です。なので、司令官の最高速度をノットで換算すれば・・・およそ146ノットと言う事になりますね。」

「・・・・・・へ?」





「と言う訳です。」

「いくらなんでもやり過ぎだろ、そりゃ。」

不知火の説明を聞いて天龍は呆れながら言葉を返した。

「島風ちゃん、大丈夫なのですか!?」

一方、第六駆逐隊の面々は島風を慰めるのに参加し始めた。

「司令官ってさ、凄く速いんだよ・・・あっという間に見えなくなっちゃってさ・・・」

「気にしちゃダメよ島風!あなたは船で提督は夢の超特急なんだから勝てなくても仕方ないわ!!」

「ぎゃふん!!?」

「って、あれ?何で!?」

「暁姉さん。それはフォローじゃなくてトドメだよ。」

「響姉さんの言うとおりよ。」

「はわわ〜!島風ちゃん大丈夫なのですか!?」

が、暁がトドメを刺してしまい、状況はさらにややこしくなってしまう。そんな中、一人の艦娘が名乗り出た。

「ここは私、一航戦赤城にお任せ下さい。」




そして、赤城は島風を無理矢理引きずってある場所に連れて来た。そこは・・・『餃子専門店 山形の翼』と言う店の前だった。

「なあ、赤城。何で餃子屋なんだ?」

心配なのでついて来たのぞみが赤城に聞いた。

「このお店、最近凄い話題なんです。美味しい物を食べればきっと元気が出ますよ。」

「いや、そんな単純な話じゃないだろ。」

赤城の答えに同じくついて来た天龍がツッコミを入れる。だが・・・

「なるほど、それは名案だ。」

「でしょう?」

のぞみはそのアイデアにかなり乗り気だった。

「そういや、提督は赤城さんの同類だったな・・・」

そんな彼に呆れながら、天龍は後に続いて店内に入るのだった。




一行が『餃子専門店 山形の翼』に入るとそれを出迎えたのはカウンターで腕を振るう銀色のボディを持つヒカリアンだった。

「いらっしゃい!」

「つばさ!?つばさじゃないか!!!」

「そう言うお前こそのぞみじゃないか!!」

「提督、お知り合いですか?」

銀色のヒカリアンと知り合いな様子ののぞみに赤城が聞いた。

「ああ。かつて私と共にJHRのメンバーだった元山形新幹線のつばさだ。」

「よろしくな。で、のぞみ。この姉ちゃん達誰だ?」

「ああ、実はな・・・」

のぞみは自分が艦娘を指揮する提督になった事をつばさに説明した。

「なるほどな。確かに、JHRでもひかり隊長の後を継いで立派に隊長やってたから、適材適所って奴だな。」

「そう言って貰えて嬉しいよ。」

「まあ、それより立ち話も何だ。早く席に座ってくれ。」

「では、お言葉に甘えて・・・」

つばさに促され、のぞみ達はカウンター席に腰掛けた。そこで、つばさは島風が落ち込んだ様子である事に気付く。

「ところで、そこのお嬢ちゃんが落ち込んでんのは何でだ?」

「それがな・・・」

のぞみはつばさに事情を説明した。

「なるほどな。懐かしいなあ、俺も昔そんな事があったよ。」

「つばささんもこんな事が?」

つばさの言葉を聞いて赤城が質問をする。

「ああ。俺も昔スピードには自信があったんだが、二代目E2、E3コンビに負けてな。それでちょっと旅に出た訳だ。」

「旅に、か。こいつみたいにウジウジしてるよりはいいな。」

未だに俯いたままの島風を見ながら天龍が言う。

「んで、そこで俺が出会ったのが餃子作りで悟りを開いた男“カボチャマスク”だ。」

「いや、何だその胡散臭い奴は。」

「その人の作る餃子の味に感動した俺は弟子入りをした。」

「おい、聞いてんのか?」

天龍のツッコミを無視しながらつばさは話を続ける。

「餃子作りって言うのは本当に苦難の道だった。師匠に中々認めてもらえなかったし、餃子作りの修行をする自分に疑問を持つ事もあった。」

「いや、そりゃ当然だと思うぞ。」

「けど、俺は諦め無かった。そして、最終試験で見事師匠に認めて貰えて、今じゃ自分の店を持つまでになった訳さ。っと、話してる間に焼きあがったな。」

つばさは焼きあがった餃子を皿に盛り付けてのぞみ達の前に出した。

「はいよ。餃子四人前お待ち!」

「では、いただきますね。」

出て来た餃子を早速食べ始める赤城達。すると・・・

「これは!?パリッと焼き上げられた皮の中に肉汁が閉じ込められ、さらにひき肉と混ぜられたキャベツのみじん切りがしっかりと歯ごたえを出している!!」

「さらに腕を上げたな。流石だな、つばさ。」

「餃子で悟りを開いたなんてバカみたいな話だと思ったが、少なくとも餃子名人ではあるみてえだな、あんたの師匠は。」

「当たり前だろうが。」

皆の好評に自慢げなつばさ。そして、島風もまた・・・

「美味しい・・・」

つばさの餃子に感動していた。

「感動したか、嬢ちゃん。なら、お前も弟子入りしてみるか?」

「え?」

「なあに、昔の俺と同じ悩みを持つ嬢ちゃんを応援したいってだけのちょっとしたおせっかいだ。どうだ?」

「でも・・・」

つばさの問いに島風はのぞみの方を見ながら悩むそぶりを見せる。そんな彼女にのぞみはこう答えた。

「安心しろ。君が餃子作りの修行をしたいと言うのならちゃんと許可を出してあげるさ。」

「司令官・・・分かりました。私、餃子作り始めます!!」

そして、島風の餃子修行が始まった。




餃子の作り方はまず、野菜をみじん切りにし、それをひき肉と混ぜてタネを作る。それを皮でつつんで焼くと言うものだ。
単純な作業なので簡単だと思われるが、単純だからこそ奥深いものがあるのである。ゆえに、一朝一夕でマスターすることは出来ないのだ。

「ダメだダメだ!!!」

島風の作った餃子を食べたつばさが叫ぶ。

「お前の作った物は材料も作り方も餃子とほとんど同じだ。だが、こんなのは餃子じゃない!!」

「じゃあ、どうしろって言うのよ!!」

「そんなのは自分で考えろ!!」

「そんな事、言ってくれなきゃわかんないよ!!!」

そして、島風は店を飛び出してしまった。



店を飛び出した島風は近くの公園のベンチに座っていた。

「そもそも、餃子の修行なんてしているのがおかしいのよ。私は艦娘なんだから、こんな修行より深海棲艦と戦う為の演習をするのに時間を使った方が有意義に決まってるわ。」

「それはどうでしょうか?」

そんな時、彼女の背後から姿を現したのは赤城だった。

「赤城さん!?」

「あなたは本当にこの修行が無意味だと思ってるのですか?」

「当たり前でしょ。」

「なら、その手に握っている物は何?」

「え?」

赤城に指摘され、島風は自分が手に握っている物を見た。

「こ、これは!?」

それは、彼女が無意識に落ちて来た葉っぱを餃子の形にした物だった。

「口ではそう言っても、あたなは本心では餃子を作りたがっている。」

「・・・そうね。」

そして、自分の本心を知った島風はベンチから立ち上がり走って行った。つばさの店に戻る為に。




そして、ついに・・・

「合格だ。お前の作った物は紛れもなく餃子だ。」

「やったー!!!」

島風は師匠であるつばさから認められた。

「じゃあ、早速最終試験をやるぞ。」

「はい、師匠!!!」

そしてその日、山形の翼は島風の最終試験の為に臨時休業となった。

「ルールは簡単だ。制限時間内に俺よりも多くの餃子を作れたら合格だ。」

「はい、師匠!!」

「じゃあ始めるぞ。」

そして、二人が位置につくと島風の相棒である連装砲ちゃんがストップウォッチを構える。

「よーい・・・スタート!!!」

そして、連装砲ちゃんが掛け声と共にストップウォッチのボタンを押すと二人は一斉に餃子を作り始めた。



だが、その様子を覗き見している者たちが居た。

「何デ艦娘ガ餃子ヲ作ッテイルンダ?」

「ソンナ事ハドウデモイイ。」

「美味シソウ・・・」グゥ〜

深海棲艦の重巡リ級に戦艦タ級そして空母ヲ級であった。

「アノ駆逐艦ノ中デハ手強イ部類ニ入ル島風ガホボ丸腰ノ状態デイルンダ。マサニ今ガ倒スちゃんすダロウ。」

「流石ル級サン!」

「アイツヲ倒シタラ餃子ハ食ベテモイイ?」

「モチロンダ。サア、突撃スルゾ!!!」

そして、深海棲艦達は店の窓を割って中に侵入した。

「サア、覚悟シロ!!」

「深海棲艦!?」

「こんな時に!?」

突然の乱入に驚愕する島風とつばさ。だが、その時・・・

「そこまでだ!深海棲艦!!」

なんと、のぞみと艦娘達がその場に駆けつけたのだ。

「提督!みんな!!」

「島風、つばさ!ここは私たちに任せて君たちは続けろ!!!」

「ありがとう!」

「恩に着るぜ!!」

のぞみに言われ、島風とつばさは勝負を再開する。

「地上戦ですか。慣れていませんから苦戦しそうです。」

「だが、それは向こうも同じだ。私がフォローをする。」

「お願いします!!」

「エエイ、艦娘ドモメ!!!」




そして、のぞみ達が深海棲艦の相手をしている間。ついに決着の時が来た。

「終了!これより計測を開始します。」

ストップウォッチを持った連装砲ちゃんがそう言うと、島風とつばさは手を止め、残り二人の連装砲ちゃんが餃子の数を数える。そして・・・

「つばさ師匠、148皿!」

「弟子島風、152皿!」

「よってこの勝負、弟子島風の勝利により試験は合格!!!」

「やったー!!!」

「おめでとう、島風。これでお前は立派な餃子マスターだ。」

喜ぶ島風をつばさがねぎらう。

「ありがとう、師匠!!」

「さて、試験も終わった事だ。俺たちも戦いに参加しようじゃないか。」

つばさはかつて愛用していた武器、ウイングシールドを取り出した。

「お待たせ、司令官。」

「手伝うぜ!」

そして、のぞみの下へ駆け付ける。

「島風!つばさ!」

「今まで戦わなかった分まで戦うよ!やっちゃって、連装砲ちゃん!!」

島風の命令と共に三体の連装砲ちゃんは一斉に砲撃を始める。

「俺は久しぶりなんで、腕がなまってなきゃいいがな。ライトニングウイング!!!」

つばさのウイングシールドの翼を模した装飾が展開すると、周囲に風と共に羽が舞い上がり、それが鳥の形のオーラとなって発射される。

「私も行くぞ!ライトニングライキング!!!」

そして、のぞみのライオソードの鍔が鬣のように展開。刀身に電撃を発生させるとそれをライオンの形のオーラとなって打ち出された。

「オイ待テ!?何デ餃子屋ノオヤジマデソンナ技使ッテンダ!?」

「イヤ、ル級サン。アレドウ見テモアノ提督ノ同類ダロ。」

「マダ餃子食ベレテ無イ!」

深海棲艦の三人がそんな会話をしている間に必殺技は直撃し・・・

チュドーン!!

「オボエテロヨ〜!!!」

「ル級サ〜ン!!」

「ギョ〜ザ〜!!!」

深海棲艦三人組はぶっ飛ばされた。




その後、鎮守府ではのぞみが島風に質問をしていた。

「島風。もう自信はついたか?」

「もっちろん!新しく餃子作りって言う特技が出来たから自信満々だよ!!」

「それは良かった。」

「では早速、その腕を振るっていただけますか?」

のぞみがが安心する中、隣で立っていた赤城はいつも通りの調子であった。

「もちろん。今直ぐ腕を振るってあげるわ。」

そして、数日後・・・

「今日のお昼は餃子です。」

「また?これで三日連続じゃない。」

食堂で昼食を受け取った五十鈴が文句を言った。それに対し、食堂を担当する給糧艦間宮はこう答える。

「仕方ないでしょう。前に島風ちゃんが作り過ぎちゃった分がまだ沢山残っているんだし。」

「なら一航戦コンビとかに処理させればいいじゃない。」

「それが、流石のあの人達も餃子ばかりじゃ流石に飽きてくるって・・・」

「私も今その状況よ。」



続く
 

 

第五話


プァーン!

警笛を鳴らしながら、300系新幹線がトンネルの中から飛び出して来る。その座席に座っているのはのぞみの鎮守府の艦娘達だ。今日、彼女達は休暇を使い、のぞみに乗ってキャンプに行く所なのである。
そして、駆逐艦娘達に人気なのがここ、運転席だ。

「うわ〜、はやーい!」

運転席に座る文月がそこから見える景色に感動する。すると、どこからかのぞみの声が聞こえた。

『気に入ったかい?』

「うん。司令官ありがとう。」

『こちらこそ、楽しんで貰えて良かったよ。』

運転席のモニターに映ったのぞみの目がニコリと笑う。

「文月。そろそろ代わってよ!」

すると、運転席の後ろに並んでいた皐月が文月を急かした。

「え〜。もうちょっといいでしょ〜?」

「そんな事ないよ。もう五分経ったよ。」

「む〜。わかったよ。」

渋々といった感じで文月は運転席から降りて皐月と交代した。

「あれ?」

そこで、彼女は運転室の角でうずくまる島風に気付く。

「どうしたの、島風ちゃん?」

「いやね。さっき、司令官の運転席に座ったんだけどさ、ホント速いな〜って・・・」

「それでまた自分の速さに自信が無くなっちゃったの?」

「グハァ!?」

文月の一言に、島風はまるで殴られたかのように仰け反った。

「もう。島風ちゃんには餃子作りっていう新しい特技があるんだからいいじゃない。」

そんな彼女を文月はそうやって励ますが・・・

「でも、この前“餃子禁止令”だされちゃったんだよ!」

島風は涙目でこう叫ぶだけであった。

「当たり前でしょう。」

そこへ、霞、満潮、曙の三人がやって来た。

「空母の先輩達が食べ切れないくらい作るからよ。」

「もうあんな毎日朝昼晩餃子ばかりの食事はごめんだわ。」

「自業自得ね。」

「そんな事は言わないでよ!今度はちゃんと加減するから!!!」

「どうだか。」

島風は涙目で訴えかけるが、霞達はあまり信用していない様子だ。

『三人とも、そうは言わないでやってくれ。』

そんな島風が可哀想に思えてきたのか、のぞみが口を挟む。が・・・

「司令官は黙って安全運転してなさいよ!」

『やれやれ・・・』

いつも通り、キツイ言葉を返されてしまった。その時・・・

「提督。少しよろしいでしょうか?」

赤城が運転室に入って来た。

『赤城か。どうしたんだ?』

「そろそろお腹が空いて来たのですが、食堂車は何処にあるのでしょうか?」

『そう言えばそろそろお昼の時間だな。だが赤城。残念ながら私に食堂車は連結されていないんだ。』

「食堂車が、無い・・・!?」

この事実は赤城にとってショックであった。

「そんな、この旅の楽しみの一つが・・・」

『だ、だが間宮さんが車内販売をしているから、そこで弁当を買えばいいぞ!』

「本当ですか!では!!」

それを聞いた赤城はあっという間に立ち直り、そのまま運転室を後にした。



一方、車内では間宮さんが車内販売のワゴンを押して練り歩いていた。

「車内販売です。何かいりませんか?」

「ハーイ!アイスを四人分下サーイ!!」

すると、座席を向かい合わせにして座っていた金剛型四姉妹の一番艦金剛が彼女を呼び止めた。

「はい、わかりました。どうぞ。」

間宮さんはワゴンを止めて四人にアイスを渡して行く。すると、三番艦の榛名がある事に気付いた。

「これ、いつも間宮さんが売って
いるアイスとは違いますね。」

「実はそれ、実際に新幹線の車内販売で売られているアイスなんですよ。」

「え!?あのめちゃくちゃ固いって言われているあの!?」

二番艦の比叡がアイスを見ながら驚愕する。

「ええ。提督が昔のコネを使って仕入れてくれたんです。」

「そうだったんですか?榛名、感激です!」

「流石はテートクなのデース!」

早速、金剛がアイスのフタを開けてプラスチックのスプーンを突き刺す。だが・・・

「Oh・・・全く歯が立たないネ・・・」

中身をすくい取る事は出来なかった。そんな彼女に比叡がアドバイスをする。

「お姉様。そのアイスは置いておいて少し融けてから食べるものなんですよ。」

「そうデスか。目の前にあるのに今直ぐ食べれないのはとてもじれったいデース。」

「そこは我慢です。お姉様。」

そんな感じに金剛型四姉妹は騒がしくしている。だが、一人だけずっと静かにしている者が居た。末妹の四番艦霧島である。そんな彼女を心配して榛名が尋ねた。

「霧島、どうかしたの?もしかして、どこか具合でも悪いの?」

「いえ、少し考え事をしていただけです。」

「考え事?」

「はい。提督と一航戦コンビのフードファイトの時といい、少し前の島風の餃子修行の時といい、どうやって深海棲艦は陸に上がって来たのかと言う事です。」

「確かに、それは気になりますね。」

現在、日本の沿岸部は深海棲艦に上陸されないよう、艦娘と通常の艦船により厳重な警備が行われている。ゆえに、深海棲艦が陸に上がる事はほぼ不可能なハズだ。

「ヘーイ、二人とも!今日はバカンスなんだから、そう言う難しい話はノーだからネ!」

そんな中、金剛はいつもの調子だった。だが、そのおかげで二人の表情は和らぐ。

「お姉様の言う通りですね。」

「ええ。いまはこの休暇を楽しみましょう。」




暫くして、のぞみ達は駅に到着。一行はそこでバスに乗り換え、キャンプ場へ向かった。
そして、目的地へ到着すると・・・

「ついたー!!」

「よし、遊ぶぞー!!」

早速、駆逐艦娘達が虫取り編みなどを取り出して遊ぶ準備を始めた。だが、のぞみが彼女達に注意する。

「こら。遊ぶのはまずテントを張ってからだ。」

「え〜。」

「早く遊びた〜い。」

「なら、早くテントを組み立てるんだ。そうすれば、遊べる時間は長くなるぞ。」

そう言ってのぞみは自分からテントを組み立て始める。が・・・

「あれ?おかしいな?」

テントは変な形になるばかりであった。

「提督殿、ここは自分に任せるであります。」

そこで、陸軍から出向して来た艦娘あきつ丸がのぞみを手伝い始めた。

「済まないな、あきつ丸。」

「いえ。提督殿は陸軍出身である自分も誘ってくれたのであまりますから、これくらいは当然であります。」

そう会話しながらも、あきつ丸はテキパキとテントを組み立てて行く。
そんな彼女の様子を見ながら、木曾は同じく陸軍から出向して来た潜水艦娘まるゆに聞いた。

「凄いな、あきつ丸さんは。まるゆはああいうのは出来ないのか?」

「はい。私も出来ますよ。」

「なら、こっちの手伝いを頼むぜ。」

「任せて下さい。」

早速、まるゆはトンカチ片手に手伝いを始めた。

「でも、今日は晴れて本当によかったですね。」

「ああ。昨日は酷い嵐だったから中止にならないか心配だったからな。」




そして、テントの組み立てが終わった後、艦娘達は各々に遊び始めた。川で水遊びをする者。川釣りをする物。キャンプ場に設置されたアスレチックで遊ぶ者。そして、森で虫取りをする者。

「よっしゃー!クワガタゲット!!」

吹雪型駆逐艦の深雪が木にとまっていたクワガタを手づかみで捕まえた。

「磯波〜!虫かごとって!」

「う、うん。でも、あまり近付けないでね。」

深雪に頼まれ、同じく吹雪型駆逐艦の磯波がおっかなびっくりと言った感じで虫かごを持って行く。すると、そんな彼女の様子を見た深雪に悪戯心が芽生えた。

「何、磯波?もしかしてクワガタが怖いの?ほら!!」

そして、近付いて来た磯波の顔の目の前にクワガタを突き出す。

「きゃあっ!?」

すると案の定、磯波は驚いて虫かごを投げ捨てて後ろに下がった。それを見た深雪はさらに面白がって磯波を追いかけまわし始める。

「どうした〜。クワガタがそんなに怖いのか〜。」

「や、やめて〜!」

「こら!やめなさい深雪!!」

それを見た同じく吹雪型駆逐艦で委員長気質の白雪が注意する。その時・・・突然深雪の身体が持ち上がった。

「うわあ!?何!?」

よく見ると、深雪の右足にロープが絡みついており、それにより彼女は逆さ吊りの状態となってしまっていた。

「何これ!?」

「罠、みたいだけど・・・」

突然の事態にその場に居た艦娘達は困惑する。

「大丈夫でござるか!?」

そこへ、どこか忍者っぽい雰囲気の紺色のヒカリアンが姿を現した。

「ええと、あなたは?」

そのヒカリアンに吹雪型駆逐艦のネームシップである吹雪が尋ねた。

「拙者は南海ラピート。この森の奥に屋敷を構える忍者でござる。」

「忍者!?」

「で、その忍者が何の用なのよ。」

吹雪が驚愕する中、吹雪型の中では変わり種に分類される叢雲が聞いた。

「実は、そこのお嬢さんがかかっている罠を仕掛けたのは拙者なのでござる。」

「はあ!?何でそんな事をしてんのよ!!」

「先程言ったでござるが、拙者はこの森の奥に屋敷を構えているから、外敵を防ぐ為に罠を仕掛けてあるのでござる。ただ、この時期になるとキャンプに来る旅行者が誤って罠のある所に入ってしまう危険があるので立ち入り禁止の看板を立ててあるのでござるが、昨日の嵐で吹き飛ばされてしまったのでござる。」

「そう言う事。なら、しょうがないわね。」

ラピートの説明に叢雲は納得したようだった。その時、吹雪の頭にふとした疑問が浮かんだ。

「あれ?ラピートさんは家の周りが罠だらけの状態なのに、外に出かける事はできるんですか?」

「それなら、大丈夫でござる。この森の中にある罠の場所は全て覚えているでござるからな。」

「流石は忍者。全くぬかりは無い。」

「おーい!はやく降ろしてよ!!」

皆がラピートと仲良く話している中、逆さ吊りの状態のままの深雪が叫んだ。そんな彼女に叢雲は・・・

「まあ、よく考えたら深雪にはいいクスリだし、暫くそうしてなさい。」

「そんな〜!!」




その後、吹雪達の入った森の前に折れた立ち入り禁止の看板を見つけた第六駆逐隊がその場に駆け付け、電が宙吊り状態の深雪とぶつかると言うハプニングがあったが、なんとか深雪は救出された。

「あたたた・・・」

「大丈夫なのですか、深雪ちゃん?」

赤く腫れた鼻を抑える深雪を心配して電が言った。もっとも、そう言う彼女も額が赤く腫れているのだが。

「いや、これ自体は大した事無いんだけどさ・・・ぶつかる直前になんか走馬灯的なモノが見えちゃったんだよね・・・」

「大袈裟・・・とは言えないわね。この組み合わせだと。」

深雪の話を聞いた暁が苦笑した。
かつてただの艦だった頃の深雪は訓練中、電に衝突されて沈んでいるのである。

「まあ、それより早くキャンプ場の方に戻りましょう。何せ、今日はバーベキューなんだから。」

「そうだった!」

雷に言われて思い出した艦娘達は急いで走り出した。そんな中、電がラピートに話しかける。

「あの、ラピートさんも一緒にどうですか?」

「いや、拙者はもう昼食の用意は出来ているのでござる。」

「そうですか。じゃあ、今度キャンプに来た時は一緒に食べるのです。」

「うむ。楽しみにしているでござる。」




キャンプ場に戻った艦娘達はグリルの上で焼かれている肉や野菜を見て目を輝かせた。

「もうすぐ焼けますから、順番に取って下さいね。」

「「「はーい!」」」

軽空母の鳳翔が肉をトングでひっくり返しながら言うと、艦娘達は皿を持って一例に並ぶ。

「ちょっと赤城さん!なんで二枚もお皿持ってるんですか!!」

「はにゃっ!?ナスもあるのです・・・」

「好き嫌いはダメよ、電。」

「そう言う暁お姉ちゃんもピーマン残してるのです。」

賑やかにバーベキューを楽しむ艦娘達。だがその時・・・

ゴゴゴゴ!

突如、地響きがキャンプ場を襲った。

「何これ!?」

「地震!?」

「皆!慌てず火もとから離れて地面に伏せるんだ!!」

慌てる艦娘達に指示を出すのぞみ。その直後、地面が盛り上がり巨大な何かが姿を表した。それは先端に二つのドリルを装備した二つの煙突を持つ巨大な蒸気機関車だった。

「あれはスモークジョー!!と言う事はブラッチャーか!?」

「その通り!!!」

のぞみが叫ぶと、スモークジョーの上にブラックエクスプレス、ドジラス、ウッカリーのブラッチャー三人組が姿を現した。

「一体何をしに来た!!」

「なあに。今回は少し俺様達の新しい“お友達”を紹介しようと思ってな。」

「新しいお友達だと?」

そうのぞみが聞き返した時、ブラッチャー三人組の背後から複数の人影が現れた。

「紹介しよう。俺様達の新しいお友達、深海棲艦だ!!!」

それは深海棲艦の戦艦ル級、重巡リ級、空母ヲ級、そして戦艦レ級だった。

「深海棲艦!?」

「おい!レ級までいるぞ!!」

困惑する艦娘達。だが、霧島だけは合点がいったという感じで言った。

「そうですか。最近深海棲艦が陸に現れていたのはその汽車で地下経由で来ていた訳ですね!」

「その通り!さあ、美味しいご飯の後は軽く運動と行こうじゃないの!!」

ブラックエクスプレスがそう言うと、深海棲艦達はスモークジョーから地面に飛び降りた。

「まずいぞ、提督。今日は本当に休みのつもりで来たから艤装を用意してねえ。」

天龍が苦虫を噛み潰したような表情で言った。艤装の無い艦娘の戦闘力は人間とは変わらない。せいぜい自衛用に軍隊格闘術を身につけている程度だ。一方、ヒカリアンののぞみはいつでも自分の武器を出す事が可能であったが、相手は数が多い。まさにピンチであった。
だが、その時である。一つの煙玉が何処からかスモークジョーの上に投げ込まれたのだ。それにより、スモークジョーとその周囲は煙で覆われ、ブラッチャーと深海棲艦は視界を失う。

「皆、こっちでござる!」

すると、のぞみ達の目の前にラピートが姿を現した。

「ラピート!助かった!!」

「しかし、これはあくまで目くらましで時間稼ぎをしているだけでござる。直ぐこちらへ!」

「分かった。皆、行くぞ!!」

のぞみがそう叫ぶと、艦娘達はラピートの後に続いた。そして、その先にあったのは何と、先程駆逐艦達が間違って入った罠だらけの森だった。

「皆!拙者の直ぐ後ろを一例について来るでござる!!そうすれば罠にはかからん!!」

「分かった。皆、いけるな!」

「ああ。それなら単縦陣で慣れているからな。」

のぞみの直ぐ後ろに居る長門が答えた。そして、一行はそのまま森の中へ突っ込んで行った。

「待てー!!!」

そして最後尾が森の中に入った直後、ブラッチャーと深海棲艦達も森の中へ追いかけて来た。

「よくもやってくれたな!」

そして、先頭を走るブラックエクスプレスが自身の武器である暗黒マシンガンを構えた。だがその直後・・・

「のあぁ!!?」

彼の姿はしたの方に消えた。

「親分!?」

「あれ〜?どこ行っちゃったの〜?」

突然消えたブラックエクスプレスを探して辺りを見渡すドジラスとウッカリー。すると・・・

「お〜い!俺様はここだー!!」

下の方から声がした。それを聞いた二人が視線を下に向けると・・・

「た〜すけてくれ〜!!」

ブラックエクスプレスは穴の中に落ちていた。

「あ!親分!!」

「やっと見つけた。」

「いいからさっさと俺様を助けろ!!」

ブラックエクスプレスに怒鳴られ、ドジラスとウッカリーは彼を引っ張り出す。

「ハッ、間抜ケナ奴ダナ。」

それを見たレ級は馬鹿にするように笑ってから足を一歩踏み出した。すると・・・

「ノアッ!?」

ロープが足に絡みつき、逆さ吊りにされてしまった。

「コンナモン!!」

直様、彼女は尻尾についた口でロープを食いちぎる。が、それにより頭から真っ逆さまに落ちてしまった。

「イテテ・・・クソッ、コノ俺ヲコケニシヤガッテ。」

「大丈夫?」

頭を抑えるレ級を心配してヲ級が近付く。すると、彼女の足が何かを踏んだ感覚があった。

「ヲ?」

そしてその直後、彼女の頭上にタライが落下してきたのである。

「ヲ〜ッ・・・」

レ級と同じく頭を抑えるヲ級。よく見ると帽子の方も涙目になっている。

「ギャアアアアア!!!」

さらに、ル級は横から鐘つき棒のように襲って来た丸太に吹っ飛ばされ・・・

「ウワアアアアアア!!!」

リ級は頭上から降って来たクモやムカデといった気持ち悪いムシに襲われた。




一方、のぞみと艦娘達はラピートの屋敷に到着していた。そして、彼らは屋敷内にある倉庫に案内される。

「皆、ここにある武器を使うでござる。」

そこには、刀や手裏剣といった忍者が使う事でお馴染みな武器はもちろん、槍や弓矢などもあった。

「済まない、ラピート。」

「礼には及ばないでござる。」

「じゃあ、使わせてもらうぜ。」

のぞみがラピートに礼を言うと、天龍や龍田、伊勢といった刀や槍を使える艦娘や、弓矢を使うタイプの空母娘が武器を手にとっていった。




「やっと、着いたぞ・・・」

ラピートの屋敷の前に到着したブラッチャーと深海棲艦達は満身創痍であった。

「来たな、ブラッチャー!深海棲艦!!」

そこで、さらに悪い事に彼らを武装した艦娘達が待ち構えていた。

「なにいいいぃぃ!?お前たち、どこでそんな武器を!?」

「ラピートが貸してくれたのさ。」

「これで、形勢逆転ですよ。」

武器を構えてジリジリと近付いて来る艦娘達。それに対しブラッチャー達は・・・

「どうします、親分?」

「決まっている。逃げるんだよぉ!!!」

その場から逃げた。

「オイコラ!待テ!!」

「私達ヲ置イテ行クナ!!」

深海棲艦達もそれに続く。

「逃がすか!ライトニングライキング!!」

「忍者剣、関空斬り!!」

ドッチューン!!

「「お風呂から出たら!」」

「パンツ履けよな〜!!」

「覚エテロヨ〜!!」

「「「レ級様〜!!!」」」

が、のぞみとラピートの必殺技でぶっ飛ばされた。




ブラッチャーと深海棲艦を撃退した一行はラピートに別れを告げた後、のぞみに乗って鎮守府に戻る所であった。

「折角の休暇だったのに、あいつらのせいで台無しデース。」

「お姉様の言うとおりです!」

「提督ともラブラブ出来なかったデース!」

「お姉様!?」

未だに、休暇を邪魔された事に対する怒りが治まらない様子の金剛と比叡。しかし、霧島と榛名は別の事が気にかかっていた。

「しかし、深海棲艦がかつての提督の敵と手を組んでいたとは・・・」

「これは、運命なのかもしれませんね。」

「いえ。上層部が最初からこの事に気付いていて、それで提督をスカウトしたと言う事も考えられます。」

「まさか、それは考え過ぎでは・・・」

「ヘーイ!榛名、霧島!!間宮サンの車内販売が来たネー!今度は行きとは違う味のアイスを頼むデース!!」

「もう・・・」

「金剛お姉様ったら・・・」

車内販売が来た途端、不機嫌な態度を一変させる金剛に二人は呆れるばかりであった。


続く