ソードアート・オンラインーRite and Leftー


 

0話 希望を手に、そして・・・・

 VRMMORPGーーVirtual Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game(バーチャル・リアリティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)

 仮想空間を舞台としたフルダイブ型のMMORPG
 VR技術が現実の物となり最初のゲームソフトとして発売されたのがソードアート・オンライン、略してSAO

 ベータ版から熱狂的な人気を上げ続けているそのソフトは正式サービスの前日には開店前からファンよる列が出来て開店からものの数十分で完売

 彼-夕凪(ゆうなぎ)和軌(かずき)もソフトを買うため部活で疲れた体で財布と予約券を確認して店に向かった

「うわ・・やっぱり凄い列だ」

 和軌の家から近くて予約した店に着くと30人以上は居そうなくらいの列が出来上がっていた
 この列で予約なしでソフトを手に入れるのは一握りしかいないだろう、和軌は改めて予約して良かったと思った

 和軌は最後尾に座り開店までの間の暇つぶしはしっかり準備してきた
 携帯、モバイル充電器、ゲーム雑誌、飲料(お茶とコーヒー)、食料(携帯食とパン)、カイロ、前もって用意していたから大丈夫だ

 まず最初に携帯食を取り出した食べる、部活から帰ってから汗で臭う体をシャーワーで洗い軽くご飯を食べて出たが育ち盛りの和軌が軽くで済むはずがない

 和軌は埼玉県に住む中学二年生だ。顔立ちは髪を伸ばしたら女に間違ってしまうほど幼く本人はその事にコンプレックスを抱いている
 家は広く親は仕事ばかりで帰ってこなくなり、いつも独りぼっちだ、親の仕事は「夕凪コーポレーション」を経営しており父は社長、母は秘書として働いている、
 息子の和軌とは血のつながりが無く病院で一人のところを引き取とられた、和軌のことは気にしているが本人は「形」だけの家族としか思っていない
 部活はバスケット部に所属していて入部した理由は寂しさを紛らわす為
 技術もあり試合にも偶に出るほど、だが和軌はバスケット部に所属はしているが仲間や友達はおらずそのため″居場所″がない
 SAOをやろうとしたのは「この別の世界ならもう一度やり直せる」と思ったからだ

 そんなことを柄にもなく思い返していると人が来て並んだ、見た目は大人しく和軌と同じで女物の服を着せるか髪を伸ばしたら女見間違うほど、身長も同じ位

(なんか、オレとよく似てるな・・)


 和軌が並んでから5時間が経ち時刻は22時を迎えていた、夕ご飯と言うより食事は携帯食の他にパンを来る途中に買ったのでそれで済ませたのだが
 隣の少年がお腹に手を当てていて顔には「お腹減った」とでも言ってそうな感じになっていた、見知らぬ人とはいえ自分だけ食べて満足感に浸っている訳にもいかない

「な・・なぁおまえ何か買っていないのか?」

 声をかけられた少年は振り向いた

「あぁ、学校から帰って直ぐに出たから買っとくの忘れてしまったんだ・・・」

「そうか・・・・食いきれなかったパンがあるんだが、いるか?」

 リュックサックの中から残りのパンの「ビッグあらびきソーセージ」(未開封)を取り出し少年に見せた
 22時になるまで何も言わなかったのはビッグあらびきソーセージは和軌が好きなパンだからであり、好きなパンをあげるのを躊躇ったからだ
 取り出されたパンを見た少年は目を見開いた

「・・・い・・いいのか?」

 少年は遠慮がちに聞いた

「いいよ、残しても勿体ないし」

「そうか、ありがとう」

 お礼を言いパンを受け取った少年は味わうように食べ始めた

「お茶とコーヒーがあるがどっちがいい?」

 和軌はリュックサックから暖かいお茶とコーヒーが入った水筒を取り出した

「・・・・えっとじゃあコーヒーで」

「分かった」

 口に入っていたパンを飲み込みコーヒーと答え、和軌はまだ湯気が立つコーヒー蓋に注いで渡した

「はぁ~あったまる・・ありがとなこんなに色々としてもらって」

「いや、別にいいって。自分だけ食べておいて隣で空腹で死にそうな顔されてたら居心地悪いよ」

「・・あはは・・ホント悪かった、そうだ!名前なんて言うんだ?俺は桐ヶ谷(きりがや)和人(かずと)

 苦笑いして答えた少年は何か閃いたみたいに自分の名前を言った

「え?・・あ!・・夕凪和軌」

 いきなりの自己紹介で戸惑った和軌が少しして名前を聞いているんだと理解して自分も名乗った

「夕凪和軌・・なんて呼んだらいいんだ?」

「好きに呼んだらいいよ・・」

 和軌は少しぶっきらぼう答えた

「そうか、なら和軌って呼んでもいいか?俺のことは和人って呼んでくれていい」

「あ・・あぁ分かった、和人」

 それからお互い暇を潰そうと色々話した

 和人は昔祖父に無理矢理剣道をやらされていてやりたくないと言うと酷く怒らた、その代わり妹が頑張るからと和人を庇ったそうだ
 10才の時にちょっとしたことで今の親が本当の親でないことを知ってそれからゲームに逃げるようになったとか

「何でだろうな?話し相手が和軌だと色々話してしまうな・・」

 初対面の和軌にここまで身の内話をするのは確かに変だが、話を聞いていた和軌は不思議と他人事のようには聞こえなかった

「まぁいいんじゃない?あんまり知らない相手だから話しても平気な事だってあるんだし」

「まぁそうなのかもな」

「・・・・・和人はさ・・・愛情って何か知ってる?」

「ぅえ!?・・は?・・・えと・・急になんだ?」

 それからは和軌の家庭事情やバスケの話などした

「あぁ・・えと・・スマン」

「ぷッ!・・何で和人が謝るんだよ?そんな要素あったか?言っとくがどうにもならない事だしもう諦めてるから気にすることは無いんだぞ」

「そうかもしれないけど、なんとなく謝りたい気分だったから」

「プッ!謝りたい気分ってなんだよ?おかしな奴だな」

 和人のおかしな物言いに和軌は思わず笑ったしまった

(そういや笑ったのっていつ以来だろ?長いこと笑っていないのに笑ってしまった)

 和軌は辺りを見回しているとバッグを枕にして寝ている者や携帯ゲーム機で暇つぶしをしている者など様々だ

「ふぁはぁ~~」

「寝たら?今日だって部活で疲れてるんだろ?店が開く前に起こしてやるよ」

 寝ぼけ眼になりながら和軌は聞き返してみた

「・・和人は?」

「俺はコーヒーばっかり飲んでたから目が覚めてて眠れるような状態じゃないよ」

 苦笑いしながら和人は言った

「・・わかった、後で起こしてくれ」

「りょーかい」

 その後すぐに和軌は意識を手放し眠った


(それにしても顔立ちが俺とよく似ているな・・女物の服着せたら女子と間違えそうだな)

 和人は眠った和軌の顔を見ながら和軌と同じ事を思っていた

「ふぁ~・・コーヒーを飲んだのは間違いだったな」

 欠伸した和人は自由に読んでいいとゲーム雑誌を手に取り読み始めた
 雑誌のバックナンバーは先々週までありどれも発売日が近くなったソードアート・オンラインの特集記事が載っていた
 そこには必ずナーヴギア開発者の茅場彰彦(かやば あきひこ)の名前が載っていたり、インタビュー記事もあった
 和人は時間さえあれば何度も読み返したから知っているが暇を潰す為の方法が他に無いため読むことにした

(それにしても何で俺はこいつとこんなに話をしたんだろ?どっかで会ったことあったかな?)

 必至に記憶の中から和軌の顔や名前など探ってみたが全く覚えがなかった

(まぁいいか、列に並んでるって事はSAOを買うんだろうし、初心者なら俺が教えてやるか)

 和人は再び雑誌を読み始めた



 時刻は午前5時30分

 何時も部活がある日は朝練の為この時間に起きるのが和軌の習慣になっている

「ふぁあ~・・・」

 起き上がった和軌はまだ眠気が取れないまま盛大に欠伸をした

「おはよう、和軌。よく眠れたか?」

「・・・あぁそうか並んでたんだった、おはよう和人」

 いつもは起きても声をかけてくれる人が居らず隣から声がしたことに若干戸惑いながら何でここにいて隣に人が居るのか考えていたら昨日のことを思い出した

「そうか、って寝ぼけてるのか?」

「いや、いつも一人だから隣に誰かが居るのに少し戸惑ってな・・オレより和人の方が隈がヒドいぞ?」

「え・・やっぱり?」

「うん、少しでも寝たら?この後時間になったらゲームするんだろ?少しでも寝てゲームに備えたら?」

「う~ん、それじゃ頼むよ。なかなか起きないようなら多少の事くらいなら大丈夫だから」

「りょーかい」

 和人は体を横に倒し腕を枕代わりにして目を閉じた、少しして静かな寝息が聞こえ始めた
 一方和軌の方は列から離れるわけにもいかないのでその場で準備運動だけ始めた



 時刻は午前9時30分

 列に並んでいた人ももう直ぐ店が開くから広げていた荷物を片付け始めた

「和人ー起きろー・・・・起きないな・・仕方ない」

 そろそろ起こそうと和人に声をかけるが起きる様子もなく多少の事くらいならと本人も言っていたので
 和軌は右手を鼻に、左手を口に持っていきそれぞれ塞ぐようにした


「・・・・・ブハァ!!・・・はぁはぁ・・・和軌、多少のことならいいと言ったが鼻と口を塞ぐのはどうかと思うぞ!?」

 塞いで直ぐに顔色が悪くなっていき直ぐに起きた和人は少し睨みながら和軌の方を見た

「じゃあ頬にビンタがよかったか?Mか?」

「Mじゃねぇよ!ったく・・?何だこれは?」

「何って朝飯の代わり、要らないなら片付けるけど?」

 和軌は携帯食を和人に差し出したがいらなさそうなので片付けようとしたら

「あっ!・・・いや・・その・・ください」

 朝飯と聞いた和人は慌てて手を差し出しその手に携帯食を置いて次に水筒の蓋にお茶を注いで渡した

「ありがとな色々助けてくれて、お詫びと言ってなんだけどゲーム初めてなら教えようか?」

「初めてならって・・和人ってβ版の?」

「あぁ、そうだ、だから操作も何もかも分かってる」

「そりゃ助かるよ、ハードも一緒に買うから分かんないこととかあるし」

 和軌は操作のとか色々和人から教えてもらう約束をしていたら時間は10時を回り遂に店のドアが開放された
 店の中は一気にソードアートのオンラインを買う客で溢れかえり、それを予測してか入店制限がかかっていて人が歩けるスペースが出来るくらいだ
 和軌は財布から予約したときに貰った紙をレジの人に渡して店の中に消えると少しして商品を持ってやってきた
 和軌が予約したのはもちろんSAOだが少し違いナーヴギアと同梱版を予約したのだ
 ソフトだけと違いナーヴギアをバイクのヘルメット位の大きさがあるからナーヴギアも一緒に買う客は店の中に行き取りに行くようだ

「ふぅ~ここまで人がいると歩きづらいな」

 支払いを済ませた和軌は足早に見ながらを出て溜め息をついた

「おおーい和軌ー」

 最初からナーヴギアを持っていて尚且つβ版のテスターである和人はテスター達だけにしか開けない特設ページを店員に見せて
 タダでソフトを手に入れた為和軌より早く店を出ることが出来たのだ

「待たせたな」

「いやいいさ、俺が早く済んだだけだから」

 和軌の家は途中まで和人と同じでそれまで初期設定や注意しとくことなどを教えてもらっていた
 別れ道に着いてそれぞれの家に帰ろうとしたときに和軌は思い出したように言った

「忘れてた!ワリィ和人、今日部活があって終わるの16時位になりそうなんだ」

「え?・・そうか、なら16時30分位にメールを出すよ」

「分かった、じゃあまたな!」

「ああ」

 手を挙げて和人と別れて家に向かった
 和軌の家は住宅街にあるマンションの7階に部屋を借りて過ごしている

「・・・ただいま」

 無人の家に和軌の声は虚しく響いた
 そのまま上がり急いで学校に行く用意をする、部活が朝からあり本来ならゲームを買うために
 サボるなんて言語道断で顧問や監督からも厳しい説教を受ける
 それを分かっていて部活をサボったのだ

「行ってきます」

 準備を済ませた和軌は急いで家を出て学校に向かった




「ばっかもんが!!ゲームを買うために部活をサボる奴があるか!」

 学校に着き練習している体育館に着くや否や早川監督に呼び出され大きな声で説教を受けている
 他の練習してる奴らは口々に言って先輩達からは憂さ晴らしをしてスッキリしたかのような顔をしていた

「夕凪、今度の試合はお前はスタンドにいろ!そこで自分のバカさを考え直せ!」

「ッ!・・・・はい」

 その後部室でユニホームに着替えて遅れて練習に参加した



 16時10分

 和軌は部活が終わると着替えもせずに学校を飛び出し家に走った
 和人との約束の時間に間に合うか分からず残った体力を振り絞っていた
 すると後ろから足音がして振り向いてみると暗めの茶髪でツンツンと跳ねた髪に和軌と同じ学校の制服
 肩から大きなスポーツバックを身につけている、ソイツは少し和軌を見てそのまま走っていった




「早川監督!はあはあ」

 バスケ部が練習したいる体育館に野球のユニホームを来た野球部の顧問兼監督の人がやってきた

「どうしたんですか?まさか(あゆむ)が何かご迷惑でも?」

「いえ、休憩していたら『お袋が倒れたから帰ります!』って言って急いで学校を出たんですけど」

「あんのガキは・・・大丈夫ですよ先生、妻はいつも元気ですから倒れませんよ(あゆむ)にはこってり絞って反省させますんで」

「そ・・そうですか、分かりました」

 そう言って野球部の先生は出て行った

「帰ったら覚えてろよ渉」

 バスケ部の怖い怖い監督は静かに怒りをあげたいった





 帰宅した和軌は急いでシャワーを浴びた
 和人との約束の時間を15分も過ぎておりこの後レトルトカレーで食事を済ませた後は部屋に飛び込み
 急いで箱を開けて初期設定を済ませた

「リンクスタート!」

 ソフトのソードアート・オンラインを入れて起動コマンドをコールすると視界が自分の部屋から白一色に変わる
 そして五感の接続を示す画面が過ぎアバターの設定画面に移った

「えーっと・・・・・・・これでOK」

 和軌のアバターは現実の姿と酷似しているが選択できる物から選んでいるため『そっくり』ではなく『似ている』なのだ
 何で現実の自分と似せようとしたかは和軌自身の願いみたいなものだからだ


『Welcome To sword artonline』

 システムボイスで新しい世界に歓迎の言葉を聞いた



 目を開くと最初に思ったことは

「本当に新しい世界に来たんだ・・・!」

 感動している暇もなく急いで和人・・・この世界では″キリト″にメッセージを送って
 来たことを伝えようとしたのだが肝心の操作方法が分からない和軌・・・ユウキは戸惑った

「参ったな~どうしよう・・・・」

 そんな時、空から鐘の音が鳴り響いきその後まわりに沢山の蒼白い炎みたいなのが出現して
 その中から人が現れた
 訳が解らず戸惑っていると誰が言ったのか上を見ると赤く点滅している部分があった
 ソレは次第に広がり(天井)全体を覆って紅く染めた
 血のようなドロドロした液体が出てきて空中で一カ所に集まった
 集まった液体は膨らみそして人の形を作った、最終的に顔は見えないが赤いローブを纏った
 魔法使いみたいな格好になり、こう言った

『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ』

 手を広げてプレイヤーたちを歓迎した

(私の世界・・・?)

『私の名前は茅場晶彦(かやば あきひこ)、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 ローブの人間は自分を″茅場晶彦″と名乗った
 その名前に和軌は聞き覚えがあり暫くして思い出した
 仮想世界にダイブするためのマシン-ナーヴギア作り出し、ソードアート・オンラインの開発ディレクターだ

 何故そんな有名人がこんな事をするのか思っていると茅場はその事も含めてこれからの事、注意するべき事を述べた

 まずログアウトボタンの消えていることはソードアート・オンラインの本来の仕様である事
 外部からのナーヴギアの取り外しが試みられた場合高出力によるマイクロウェーブが脳を焼き死に至ること
 HP(ヒットポイント)が0になるとゲームからも、現実からも永久退場(死亡)となること

「なんだよそれ・・・ここが・・最後の・・・・俺にとっての最後の希望だったのに・・ッ!」

 そして最後に、ゲームから出るためには全100層からなる浮遊城アインクラットのラスボスを倒してゲームクリアとなる

『それでは最後に諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある、確認してくれたまえ』

「プレゼント・・?」

 操作の仕方を知らないユウキは周りがやっているとおり真似をする事にした
 右手を下に振ると丸いアイコンが幾つか出現した、アイテムメニューを押すと一つだけアイテムがあった

「?・・手鏡?」

 ユウキは取り敢えず″手鏡″とかかれたアイテムをタップすると目の前に手鏡が出現した、それは女が化粧をするのに使うような何の装飾もされていない四角い鏡だった
 覗くと自分で設定した″ユウキ″が写っていた、
 すると青白い炎のエフェクトに包まれ数秒後には消えた
 何があったんだ?と思いもう一回鏡を見ると″変化″はあった

「な・・なんで・・・″俺″になっているんだ!?」

 周りを見ると顔は男なのに女の衣装を着ていたりしていた、他にも男女の割合が男の方に偏っていた
 ゲームで女のアバターを選択するのはよくあることでその事はユウキも知っていた

『諸君は今″何故?″と思っているだろう、″何故ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんな事をしたのか?″と、私の目的は達せられている。この世界を作り出し鑑賞するためのみ私はソードアート・オンラインを作った』

(なっ!?・・・人の命を何だと思ってるんだよ!・・)

『そして今全ては達成せしめられた、以上でソードアート・オンラインの正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 そういい終えると茅場晶彦は出現したときとは逆に上の天井へ消えていった

 今日この日、ソードアート・オンラインにログインしたプレイヤーたちの地獄という名の牢獄に閉じこめられたら

(結局俺の人生は一度も報われずに終わるのか・・・ただな茅場晶彦、俺はタダでは死んでやらんぞ!死ぬ最後までその喉元に近づいてやる!) 

 

1話 出会い、仲間、そして強い”意志”

 茅場晶彦によるソードアート・オンラインのチュートリアルが終了して辺りは騒然とした
 現実を受け入れられない者、絶望と恐怖に怯える者、怒りを覚える者様々だ
 ユウキ(和軌)もろくに操作が出来ず知り合いもいるが連絡する方法も知らない、ほぼ孤立状態だった
 そんな時目の前に知り合いが通った

(!和人・・・待てよ!)

 赤い髪の男の腕を引っ張りながらそのままユウキに気付かず走り去っていた
 その後をユウキは追いかけた
 感覚は現実の感覚と変わらずキリト(和人)の後を追っていたのに関わらず少し離れただけで迷ってしまった
 すると建物の横の通りから先程の赤い髪のプレイヤーが現れた

「あ・・あの!さっきまでいたかず・・プレイヤーはどこにいますか?」

「キリトならそこにいると思うぞ」

「ありがとうございます!」

 赤い髪のプレイヤー-クラインからキリトの場所を聞いたユウキは教えてもらった場所に着くとキリトは走っていた
 すぐにユウキも走って追いかけた
 現実でバスケ部に入っていてから体力には自信があった

「キリトーー!!」

「!?・・・和軌か!?」

 呼ばれたキリトは足を止め振り返るとユウキの姿を確認した

「はぁ・・はぁ・・やっと会えた」

「ユウキ・・・・ゲームに来てたのか・・・!?いつログインしたんだ?」

「約束した時間から大分遅れた、ログインした後にあのチュートリアルが始まった」

「って言うことはまだゲームの事は何も知らないのか・・取り敢えずここはフィールドで危ないからこの先に村があってそこは《圏内》だから安全だ話はその時にしよう」

「あぁ、わかった」

 村に向かう途中モンスターと出くわしたが操作の仕方を知らないユウキはただキリトの後に付いていくだけで
 モンスターはキリトが全て倒した

 村や町には《アンチクリミナルコード有効圏内》通称《圏内》の中ではダメージを負う攻撃全てが無効になる
 ダメージはないが変わりに衝撃はあり投げられれば地面にぶつかった衝撃を感じる
 《圏内》には他にも「セクハラ」に関係する行為は全てシステムに守られ視界に『黒鉄宮』という名の監獄に送れるメッセージが表示される
「YES」を選択すれば問答無用で送られる。但しセクハラ行為は男女間に適応されるもので同性、つまり男同士、女同士は適応されない



 その日ハプニングはあったものの何とかクエストをキリトの助けもありながらクリアし報酬の剣を手に入れた
 何故かキリトはクエストを受注した家の床に伏せていると設定されている少女に近づき泣いていた

 村の小さな宿に部屋を借りてそれぞれの部屋を借りて寝た
 何となくだが隣の部屋に居るキリト(和人)がまだ泣いているんじゃないかと少し心配になったが今日は一人がいいだろうと思い瞼を閉じた


 翌朝隣の部屋の扉を叩いた
 データで構築されている扉や壁は壊す事は絶対にできない、けど家や宿などの扉を叩くと中に居る人に声が届くようになる
 逆に部屋で何を叫んでも外に聞こえる事はない
 返事をすれば別だけど

「キリトー起きたかー?」

 返事はなく代わりに扉がゆっくりと開いた
 すこしして目をこすりながら眠たそうにドアを開けたキリトが出てきた

「・・・ぉはよう・・」

 宿を出て食事できるところで朝食を摂った、ゲームだというのに味や食感が再現されているのはすごいと思った
 ただキリトが言うにはお風呂だけは違うと言ってきた、違和感があってあまりリラックスできるものではないと言う





 -----あれから一ヶ月


「おーーいそろそろ集合の時間だぞ」

 遠くから叫んで来る槍使いの髪の短い少年--ウィーンは走りながら言ってきた

「ああもうそんな時間か・・ふぁ~・・眠い・・」

「全くだな・・」

 木にもたれながら休憩を取っていた片手直剣使いの少年--ユウキとキリトは立ち上がって仲間のウィーンの方に歩き出した
 あの村から行動を共にする事になった2人は何度目かのクエストで赤い髪の少年―ウィーンに出会い仲間にしてくれと言われそれから連携やスイッチなどして今まで以上にLv上げをしていった

 因みに"スイッチ"とは仲間が攻撃をした後にできる隙を後方で待機していた仲間がフォローに入って攻撃を引き継ぐことだ
 元々キリトとユウキの連携は阿吽の呼吸のようだったが槍を武器とするウィーンの援護で余裕が出来るようになった

 着いた場所は第一層トールバーナ
 今日はデスゲームが始まってから遂にボス攻略作戦の会議が行われる

 デスゲームが始まってから今日までプレイヤーは2000人も死んだ
 だが未だに第一層から誰一人突破出来ていない
 そしてとうとう攻略が始まる


 会議が行われるのは町の中に存在する公園でコロッセオたいに舞台みたいな場所があ一番下で観客席と思われるばしょが段々と上がっている、まるでどこかの「闘技場」のようだと思った

 適当な場所に座ったキリト・ユウキ・ウィーン

 舞台と思われる中央では髪を青く変更している盾持ちの片手直剣使いの男・ディアベルが会議を始めた、最初にジョークで場の緊張感を解してから次にはディアベルのパーティが第1層迷宮区最上階でボスの部屋を発見したと言った

 その瞬間一気にみんなの顔に緊張感が走った

 ディアベルはリーダーとして優秀なのかこの場にいるプレイヤーを喚起させてボス攻略を目指している
 それに納得した者たちは拍手をした

 攻略に向かうには6人のパーティを組んでくれと言ってきた

「ぅぇっっ!?」

「6人?」

 ベータテスターのキリトなら予測していただろうにまるで初耳だと驚きを露にした
 SAOが初めてでまだすべての知識を知らないウィーンは頭に「?」を浮かべた

「何驚いてるんだよ?別に俺たちでも十分じゃないか?」

「そうだな!俺たちの息はピッタリだ!」

「あ、ああ・・そうだったな・・・ん?」

 慌てるキリトを諭すように言うと落ち着いて安心したと思ったら今度はウィーンの向こう側にローブを目深に被っているプレイヤーがいる

「あの子がどうかしたのか?」

「あのプレイヤーも入れてもいいか?」

「知り合い?」

「いや、そうじゃないけど・・・」

 即席ではあっても数と戦力が増えるなら多いほうがいいとキリトの頼みを承諾し誘うことにした

「1人なら俺たちのパーティに入るか?」

「・・・どうして?」

 キリトの誘いに1テンポ遅れて帰ってきた

「どうしてって・・ボスは強い、1人でいても意味がない、サポートしてくれる仲間がいれば戦力も生存率も上がってくる」

「1人でいても寂しいだけだぜ?」

「まぁ今回だけの暫定的でいいよ」

「・・・・・分かったわ」

 キリトとウィーンとユウキに言われてそのプレイヤーはウィンドウを操作しパーティ参加の申請を承諾した

『Asuna』

 そう表示されたプレイヤー名とHPゲージが左上に追加された

 ある程度パーティを組めたようだと判断したディアベルは会議の続きをしようと切り出した、だけどそんな時異議を唱えるものが現れた
 茶髪でトゲトゲのヘアースタイルの男・キバオウが突然前に出てきた

「ワイはキバオウってもんや。ボスと戦う前に言わせてもらいたいことがある、こん中にこれまで死んでいった2千人に詫びいれなあかん奴が居るはずや!!」

「・・・っ・・」

 キバオウが言おうとしていることはベータテスターは自分たちだけが知っているおいしい経験地稼ぎができる場所、強い武器を手に入れやすいクエスト、隠れクエスト今現在でのレアアイテムなどベータテスターでしか知らない情報の独占が許せないということだ
 それを知らずに死んでいった2千人に謝罪をしろ、キバオウはそういうがそれだけで終わらなかった
 持っているアイテム、コル()、武器などの装備品をすべて差し出せというものだった

 ユウキは隣に座っているキリトを見ると表情が強張っている、それもそのはず、ウィーンとユウキはキリトがベータテスターだということを知っているからだ

 だけど

「なーに緊張してんだよキリト」

「いざとなったら俺とウィーンも名乗るよ、同じパーティなんだ、一蓮托生だろ?」

「っ!・・・・ありがと2人とも」

 2人の言葉を聞いたキリトは表情が軽くなった

「発言良いか?」

 坊主頭で褐色の肌大男・エギルはキバオウの元まで行った

「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり元ベータテスターが面倒見なかったからビギナーが沢山死んだ、その責任とって謝罪・賠償をしろ、ということだな?」

「そ・・そうや」

 エギルの大きさにやや萎縮したキバオウは威勢を保とうと返す、するとエギルは腰から手帳サイズの1冊の本を取り出した。それはガイドブックと呼ばれるもので効力に関する情報が事細かに載っている

「このガイドブックあんたも貰っただろ?道具やで無料配布しているからな」

「もろたで、それがなんや!?」

「・・配布していたのは元ベータテスター達だ」

 エギルのこの一言に会議に来ていたプレイヤーたちが驚いてざわめきだした

「ッッ・・・!」

「いいか、情報は誰にでも手に入れられたんだ、なのに沢山のプレイヤーが死んだ。この失敗を踏まえて俺たちはどうボスに挑むべきなのか、それがこの場で論議されると俺は思っていたんだがな」

 エギルが上手いことみんなを納得させてくれたおかげで元ベータテスター達への糾弾はなくなった

「あのエギルってやつに感謝だな」

「・・ああ、そうだな」

 嵐が過ぎたことを確認したディアベルは先ほどのガイドブックの最新版が配布されそれには第1層のボスの情報が載っていた

 ボスの情報は『イルファング・ザ・コボルドロード』とその取り巻きとして『ルイン・コボルド・センチネル』がいる

 ボスの方の武器は斧とバッグラーがありHPゲージがレッドゾーンになると曲刀武器のタルワールに変える、その際に攻撃パターンも変わる、ゲームじゃよくある事だ
 ここまでは事前にキリトに聞いていた通りだ

 ボス攻略に関することはこれで終わった、次にアイテムは(コル)は自動で均等分配、経験値は倒したパーティに、アイテムは手に入れた人のものとなりこれで攻略会議は終了となった

「さーて忙しくなるな」

「ああそうだな・・?」

 キリトが振り向くとアスナは歩き去って行った


 時間が経ってどこで今日の夕ご飯を食べようかと歩き回っていると仲間になったアスナが少し離れた路地でユウキ達がよく食べているパンを食べていた

「結構うまいよな、それ」

「っ!」

「なぁ、俺らも座っていいか?」

 最初にキリトが、その後にウィーンが声を掛けるが顔の位置を戻しただけで何も答えなかった

 それを同意と受け取ったのかキリトは隣に座りその横にユウキ、ウィーンと座った

「本気で美味しいと思ってるの?」

 キリトがパンを食べ始めるとそこでアスナがやっと口を開いた、その質問にもちろんと答える

「この町に来てから1日1回は食べてるよ」

「上手いし安いし!沢山買えるから結構助かっているんだぜ!」

「まぁ毎回同じ味は飽きるからちょっと工夫はするけど」

 キリトが言うようにほぼ毎日食べている、安価で沢山ストックできるから無くなるまでは経験値稼ぎやアイテム集めなどに集中出来る、するとユウキとキリトがアイテムストレージから小さな瓶を取り出す

「そのパンに使ってみろよ」

 ウィーンはユウキだ出したのを共有してパンに塗った、アスナもキリトに促され蓋を叩くと蛍火のような白い光が指先に灯りパンになぞるようにすると黄色い半液体状のようなものが塗られた、これは現実世界でよく見たシュークリームに入っているようなカスタードクリームに似ていた

「うんめぇえ~、やっぱこれ塗ると頑張れるぜ!」

「っ!?」

「だったら明日の攻略戦は張り切って援護してくれよ」

 いきなり後ろで大声がして驚いたアスナは一度振り向いたが自分のパンに視線を戻して齧りついた

(!・・おいしい!)

 さっきまでデータできたパンを美味しいと思うのは紛い物だと思っていたけど、今食べているクリームが乗ったパンはさっきまでの思い込みを吹き飛ばすほどのおいしさがあった

 気付いたときには思わず手に持っていたパンは食べて無くなっていた

「1個前の村で受けられるクエスト「逆襲の牝牛」の報酬、やるならコツを教えるよ?」

「・・美味しいものを食べるために私はこの町に来たわけじゃない」

「じゃあ何で来たんだ?」

 ウィーンはちょっと軽い感じで今のような質問も簡単に聞いてくる

「私が私でいるため」

「・・・!」

 アスナは最初の始まりの街で閉じ篭って腐っていくよりは最後まで自分が自分で在り続けようとこの町に来てボス攻略に挑もうとしている

 それを聞いたユウキは現実に耐えれずゲームに逃げてきた自分は弱いと思ってしまった、アスナは強いやつだと思った