リリカルな正義の味方
始まり
彼らは対峙していた。管理局のエース達が、そろって相手しなくてはならない存在が目の前にいた。その彼はその手に両剣を持ち、一瞬の隙もなくその武器を構えていた。
彼の名前は柊白夜。管理局のエースと呼ばれる彼女たちとともに、数々の事件を解決してきた英雄の一人である。そんな彼らが何故敵対しているのか。それは彼の歩んできた道に原因がある。
彼が力に目覚めたのは小学生のころである。夢の中で出会った謎の存在。自らを神と名乗るそれは、彼に一つの力を与えていった。他の人とは違う『異能』。本来、そのような力を手にすれば、小学生という幼い精神を持つ彼は、見せびらかしたり、自分が強いと思い、強気になったりするものだが、彼は普通の子供とは違っていた。普通ではなく、異常だった。それは、精神的におかしいといったものではなく、目指したもののおかしさだった。彼が小学生のころにやっていたアニメの登場人物にそれを目指したものがいたのだ。そしてその理想を貫き通し、その果てに見たのは地獄だった。しかしそれでも尚、理想を貫き通した彼を尊敬し、彼の目指したものを自らも目指すと決めたのだ。そんなときである。彼がその人物と同じ力を手にしたのは。その力を手にし、彼は修業に励んだ。自らを追い込み、時にはジュエルシードの暴走体と戦い、いずれ仲間と呼べる彼女たちとも戦い、自らを研鑽した。その過程で理解したのは彼女たちとは違い、天性の才能を持たないこと。その結果、彼は努力の末、己だけの戦闘スタイルを確立させた。その戦闘スタイルは彼女たちとも大きくかけ離れており、彼女たちの度肝を抜いた。ただ、その戦闘スタイルのおかげで、彼女たちの中でも最強の位置にいるようになった。
そんな彼は突然姿を消した。突然というより、正確には高町なのはが撃墜された後だ。彼は去っていく前にフェイト・T・ハラオウンに言葉を残している。
「オレは、皆を救う正義の味方になる」
彼はその後、世界という世界を回った。様々な次元世界を回り、様々な人々を見てきた。その途中、彼は管理局の闇を知ることになった。そんな組織にも光と闇があり、その闇の被害者を知った。そして理想のために、管理局と敵対する道を選んだ。当然彼女たちは最初信じられなかった。今まで、自分たちとともに戦ってきた彼が敵になったこと。衝撃的な出来事だっただろう。だが現実は非常だった。JS事件が終わり、平和になったことを喜び、皆が皆、立て直していこうとしていた矢先のことだった。彼が現れたのは。彼は昔と何もかもが変わっていた。黒く艶のあった髪は、色素が抜け落ちたように白くなり、顔にはところどころ褐色になっていたりと、見た目にも変化があった。一体何があったのか、それはわからないが、彼女らは理解した。彼は本気だと。本気で管理局を破壊する気だと。その彼に昔のような優しさは見当たらないと。そうとわかっていながらも、彼女らは必死に呼びかけ続けた。しかし、彼は頑として聞き入れなかった。
そんな彼が、単独で管理局に攻撃を仕掛けてきた。開幕の合図と言わんばかりに空間ごとねじ切らんとする弓矢を放ち、自らの周りに浮かばせた剣を雨のように降らせた。その結果、本部は半壊、戦力はエース達を含めた機動六課のメンバーのみ。ただ勘違いしないでほしいのは彼は一人も殺してはいない。そのため全員が重症を負った状態にあるということだ。そして彼女らは彼のいる場所にたどり着いた。そしてここで冒頭の状況に至る。
「…何をしに来た。」
「君を…白夜君を止めに来たよ」
彼女たち…、特に高町なのはとフェイト・T・ハラオウンは彼を何としてでも止めたい理由があった。
「お前たちは…、何故何度も立ち上がる?何故諦めようとしない。お前たちは知ったはずだ。JS事件で何があった?何も見てこなかったのか!」
「見てきたよ。知ったよ。それでも私たちは管理局なの。管理局は平和を守るためにあるの。だから私たちは平和のために戦うよ」
「オレとお前たちの正義は違う。オレとお前たちでは分かり合えない。」
「きっと分かり合える。だって私たちもあなたも目指しているところは同じだもん。」
「…同じ…だと?知ったような口を…聞くな!!!」
彼は激高し剣を展開する。何本かもわからない程の剣を。
「わからないなら…何度だって話し合えばいい。わかりあえる時まで!!」
彼女は自分の周りに魔力スフィアを何個も形成する。二人の姿はそっくりだ。片方は剣を。片方は魔力を。
「―――工程完了。全投影、待機。停止解凍、全投影連続層写!!!」
「アクセルシューター!!!」
お互いの攻撃がぶつかり合う。剣の群れはシューターを突破しながらも彼女たちを貫かんと突き進む。だがその剣は彼女たちには届かない。これが一対一の勝負であれば、すでに決着はついていただろう。しかし彼女は一人ではなく、仲間とともにいる。彼女に届きうる剣はその仲間たちが破壊することになる。そして当然、剣を撃ち続ける彼に攻撃を仕掛ける者もいる。
「白夜!」
「背後をとっておきながら人の名を呼ぶとは…」
そう。フェイト・T・ハラオウンは既に真・ソニックになっている。速さで彼を圧倒的に勝る彼女はその超スピードをもってして、彼の死角から攻撃をしているが…。そこは彼も気づいていた。背後から迫るその剣を自身の持つ両剣の刃で受け止めていた。彼はその剣を素手で掴み、蹴りを入れる。一度距離をとった彼らは互いに向き合い、言葉をかわす。
「今の白夜を放ってはおけないよ。今の白夜はあの時の私と同じ目をしている」
「…オレはお前とは違う。お前のように絶望してなどいない。」
彼はそういって彼女に斬りかかる。横なぎに一振り、剣を両手で持ち斬り返し、打ち上げ、武器を跳ね飛ばす。
「オレを止めるといっておきながら、その剣に迷いが見られるな。そんな生半可な覚悟ではオレを止めるなど、不可能だ。」
彼は己の剣を直し、新たな一本の武器を出す。赤い、紅い深紅の槍を。
「これは殺し合いだ。その中での迷いは死に直結する。」
彼はともに戦ってきた彼女ですら殺さんとその槍の真名を開放する。
「ーーー刺し穿つ死棘の槍!!!」
そしてそれを彼女に向けて…放たなかった。
彼は槍を構えたまま動課かなかった。その彼の視線は目の前にいる彼女の顔へと向いている。
「ーーー何故、逃げようとしない。これが必殺の槍であることはわかっているはずだ。」
「そう。必殺だからこそ、白夜はそれを私たちには使わないよ。だってそれは私たちを殺すものだから」
そう。彼は管理局と戦うことはあっても、その敵対したものを殺すことはなかった。ただの一人も。どんなものであれ、殺すことはなかった。
「それに、白夜は優しいから。ずっと私たちを護ってくれてたもんね?」
「…何の話だ」
「隠さなくてもいいのに。ね?なのは?」
「そうだね、ヴィヴィオが言ってたしね。『正義の味方っていうお兄ちゃんに護ってもらった』って。」
「……」
「それにあの剣は白夜くんが作ったもんやろ?」
それはヴィヴィオが持っていた剣。刃はついておらず、認識阻害の魔法がかけてあった。彼が渡したものだろうと軽く予想をすることができた。
「…だからなんだ。あんなものは気まぐれに過ぎない。ただ見かけたから助けただけだ。他意はない。」
「じゃあ、あのゆりかごを破壊したのもか?」
「…」
次々に彼女たちは彼に問いかける。ここでゆりかごを破壊したことについてだが、軽く触れておこう。ヴィヴィオを助け出したなのはは脱出した後、クロノの指揮のもとアルカンシェルで破壊する予定だった。だがそれはジェイル・スカリエッティの開発したバリアにより止めることはできなかった。皆があきらめかけた時、それは起きた。遠くに光の柱が上がったのだ。その光の柱はまっすぐにゆりかご目がけて近づいてくる。そしてゆりかごが消滅するとき彼女たちは確かに見た。無限に続く赤色の荒野に墓標のようにそびえたつ剣の群れを。それは彼女たちに一人の人間を想像させた。そのことについて彼女たちはいっているのだ。
「…あれを壊さなければ、オレにも被害が出ていたからな。ただの自己保身の為だ。」
彼はあくまで自らのための言い張る。彼が正義の味方だと名乗っている以上、そんなことはありえないだろう。そんなものが正義の味方だというのなら、彼は恐らく自分自身を忌み嫌うだろう。それをわかっている彼女たちは何も言わない。ただ微笑を浮かべているだけだ。
「…仮にも攻撃してきている相手に話しかけるとはな。お前たちの愚かさには反吐が出るぞ。」
「それを言うなら、話していて隙だらけの私たちに攻撃しない君もどうなのかな?」
「…む。オレは仮にも正義の味方だ。その正義の味方が不意打ちなどするわけにはいかんだろう」
「あ、今正義の味方って認めた」
「ぐ…。うるさいぞ、テスタロッサ。オレは…」
「わかってるわかってるから」
さっきまで戦闘していたよね君たちと思っているのは他の機動六課のメンバーだ。それもそうだ。さっきまで剣の雨を降らし攻撃してきていた人物と普通に話している。そんな光景を目の当たりにし、戸惑いを感じえない他のメンバー。
しかしその会話も一瞬だけで…彼はもう一度その槍を構えなおす。
「話はここまでだ。管理局はもう崩壊一歩手前まで来ている。あとは最大の障害であるお前たち機動六課を打倒するだけだ。そうすれば…もう」
「…本気なんやな。本気で管理局を…管理局そのものを」
「壊すとも。管理局がある限り、泣く人が、悲しむ人が生まれるというのならオレはなんとしても止めなくてはならない。力なきものが蹂躙される世界などあってはならないんだ。力があるものはなきものを護ってやるべきだ。」
「それは私たちじゃないの?私たちは、護れていないかな?」
「そうだな。護れていないとは言わない。そしてなにもオレは管理局に所属する人すべてが駄目だとはいっていない。管理局という大きなモノがあるからこそ、悪人が増えている。ならば組織を破壊すればそういったものは減っていくだろう。」
「組織から変えようとは思わんの?」
「一度は考えたさ。だがそれではすべての人を助けることができない。だからその道を選ばなかった。お前たちとともに戦う道を選ばなかっただけだ。」
彼は一息つき、槍を彼女たちに向け、その背後にもいる六課のメンバーにも言う。
「貴様たちがそんなことはないと、他にも方法があるというのならーーーーーーーーーー示して見せろ。このオレに。お前たちの意志を。」
「わかったよ。白夜君。私と一騎打ちしよ?今私ができる最大の攻撃と君の本当の意味での最高の一撃で勝負を決めよう。」
「…いいだろう。高町。オレとお前の一騎打ちだ。オレを止めることができたのなら、好きにするがいい。オレが勝てば、望みはただ一つ。」
「わかってる。私は…負けないよ?」
そういって彼女は自身にできる最大の攻撃、スターライトブレイカーを撃つ態勢に入る。
そして彼は目を閉じ、己の中で言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
―――創造の理念を鑑定し、
己の負担など気にしない。たとえこの身が滅ぼうとも、成し遂げなければならないことがある。
―――基本となる骨子を想定し、
敵は自分自身。これに勝てなければ、彼女に勝つなどもっての外。
―――構成された材質を複製し、
もう誰かが泣くのは御免だ。
―――制作に及ぶ技術を模倣し、
だから彼の力の使い方を学んだ。自分だけの使い方も見つけた。
―――成長に至る経験に共感し、
正直、これほどに辛いとは思っていなかった。この理想がここまで辛い道だとは思っていなかった。
―――蓄積された年月を再現し、
だがそれでも、この理想を貫き通すと決めた。
―――あらゆる工程を凌駕し尽くし、
それがどれだけ辛い道であっても、貫き通した男のように。
―――ここに、幻想を結び剣と成す!
だから力を貸してほしい。オレに、貫き続ける、あきらめない力を!!!
彼がその剣を投影するのと同時に彼女も準備を終えた。
二つの強大な力がぶつかり合う。
「行くよ!私の全力全開!!スターライト…」
「…この光は永久に届かぬ王の宝剣…」
お互いが同時に攻撃を発動させる。
「ブレイカー!!!!!!」
「永久に遥か黄金の剣!!!!!」
お互いの光は余波を生み出し、衝突する。お互いの最大の攻撃。完全な状態で放たれるそれはぶつかり合い、世界を光に包む。
―――そしてこの最大の攻撃による勝者は…
2話
彼らの攻撃の光が収まり、その場に立っていたのは満身創痍ではあったが、白夜であった。いや、お互い立ってはいるが、すでにどちらも攻撃などできる状態ではなかった。
「…負けちゃった。やっぱり強いね、白夜くん。」
「いや…、オレの負けだ。撃ち合いは引き分け、体は限界、そちらにはほかに動けるやつが何人もいる。誰が見ても、オレの負けは揺るがない。」
「じゃあ…」
「しかし、あきらめるわけにはいかない。限界とはいえ、この体はまだ動く。手は剣を握れる。足もまだ動かせる。ならば…」
彼は二本の剣を投影する。白と黒の剣を。
「オレはまだあきらめるわけにはいかない!」
彼は魔力も尽きかけているのだろう。形の定まっていないその二本の剣を持つ。かろうじて剣と思える形をしたそれで、彼女たちに向かっていく。振りかぶった干将を受けとめる人がいた。真ソニックフォームになったフェイト・T・ハラオウンである。
「どうしてそんなに…」
「オレには…、オレには意地がある!!なんとしても成し遂げると、あの子達に誓ったんだ!!!!」
そのボロボロの体で、形もなっていない剣でまだ抗い続ける彼の姿はまるで正義の味方そのものだった。そしてその彼の意志と同じだと示すかのように彼の剣もまた、その形もはっきりしていく。そして彼はそのまま、まだ戦えると、その少ない魔力を持って、『強化』する。
「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ
―――心技、泰山ニ至リ
―――心技黄河ヲ渡ル
―――唯名別天ニ納メ
―――両雄、共ニ命ヲ別ツ!!!!」
干将莫邪を強化し、オーバーエッジに変えた彼はその二刀流で、フェイトの二刀流を相手にする。干将を振りぬき、莫邪で防ぎ、回転しつつ、干将で薙ぎ払う。剣技などと呼べるものではない。だがそれでも、意地が彼を動かしていた。だが体がついてこれず、彼に大きな隙ができてしまった。そこを彼女に斬り飛ばされる。
「がぁっ!!!」
その次の瞬間彼が見たのは二刀流を大剣に変えた彼女。瞬間理解する。ここであれを止めなければオレは負けると。彼は空になりつつある魔力を振り絞り、さらに投影を行う。
「―――投影、開始
―――投影、装填
―――全工程投影完了
―――是、射殺す百頭!!!」
それは、彼に迫っていた大剣よりも早く、彼女に当たった。その目に見えない速度の九閃は彼女を吹き飛ばし、自らもボロボロの体を酷使したことにより、倒れこんでしまう。
「グ…ガハッ…オ、オレは…、まだ…」
「くっ…やっぱり強い…。そんなボロボロなのに…」
彼に残された魔力は剣を一本投影できるかどうかの魔力。しかし彼は状況をなんとか整えていた。なのはは永久に遥か黄金の剣により動けず、フェイトは射殺す百頭により動けない。管理局本部は視界に入っている。
「この勝負、オレの負けだが…管理局は破壊させてもらう!!!
―――投影、開始
―――全行程、破棄
―――虚・千山斬り拓く翠の地平!!!!」
彼が最後に投影した剣が管理局へと向かう。だが…それはビームによって防がれた。彼の虚・千山斬り拓く翠の地平はラグナロクによって粉々に壊されてしまった。やはり彼にも限界が来ていたのか、それを見届けた後、彼はその場に倒れてしまった。
「…さすが、白夜くんやったなぁ。まさか一人で私らの最強魔法を全部使わせるなんてな…。しかもそれを突破するなんて…」
最後においしいところだけを持って行った八神はやてであった。
「なんか今DISられた気が…」
ところ変わって、ここは医務室。先ほどの戦いが終了し、彼女たちとともに彼も運ばれていた。もうすでに彼女たちは目を覚まし、仕事に戻っている。彼女たちが復帰してから三日後、彼は目を覚ました。
「…ここは…」
「目が覚めた?ここは機動六課の医務室よ。」
「…シャマルか。そうか…オレは…」
負けたのか、という言葉が続く。彼は窓から見える海を見ながら、己に諭すようにつぶやいた。
「今、あいつらはどうしてる?」
「彼女たちなら、あなたより早く目が覚めて仕事に戻っているわよ。誰かさんが攻めてきてくれたおかげで怪我人が沢山出たからね。」
シャマルは笑いながら言った。彼は笑い事じゃないだろうにと心の中でつぶやいた。しかしながらそれをしたのが自分なので何も言い返せない。
彼はこれから自分がどうなるか理解している。管理局への襲撃者として、牢獄で過ごすことになるだろう。彼はそう考えていたが、現実はそうではなかった。クロノが手を回してくれたらしく、観察処分という、昔の彼女達と同じ処遇になっていた。それを聞いたのは、彼のお見舞いに彼女達やクロノ、ユーノが一堂に会した時だった。その処遇の決め手には当然、彼女達の擁護も加わっており、彼は許されたようだ。しかし彼は当然反発した。
「そんなもので済むような事じゃない!」
彼は自分がしたことを許してはいけないと語る。何か罰を与えなくてはならないと。しかしそ?な彼にクロノは言った。
「6年間、離れ続けた彼女達の側にいる事が、君に対する罰だ。今後はどこかにいったりせず、ちゃんと彼女達に寂しい思いをさせない事だ」
特に、なのはとフェイトはな。という言葉を隠してだが。
そして彼は怪我を治し、ミッドチルダから離れた場所に店を構える事にした。といっても、カフェのようなもので、定食屋のような店ではないが、夜になればバーにもなる店だ。そして料理が評判を呼び、コーヒーや紅茶も美味しいということで、ミッドでも有名な店になった。
そして今日も彼は『罰』を受けている。彼女達の話を聞いたりするという簡単な罰だが、彼にとっては後ろめたさがある故に、複雑になっているが…今日も彼らは顔をあわせる。
3話
あれから、彼の喫茶店もとい、バーにはよく客が訪れている。なんでもイケメンの店主と、その店主のふるう料理が人気のようだ。彼はもちろんそんなことは知らないが。そんな彼にもこの店で問題はある。どんな店にもあり得る事だが、クレーム客や、いちゃもんをつける客というのはいるもので、彼も例外にもれずいちゃもん客の応対をしていた。
「飲食する店の店員が、そんな髪色していいと思ってんのか!」
もちろん、染めたわけではない。魔術の使用により色素が抜け落ちただけだが、そんなことと知らないそのお客は彼に文句をつけている。
「申し訳ございません。ですが、これにはちゃんとした事情がございまして」
彼は事情を説明する。もちろん、魔術の使用による結果などと言えるわけでもなく、『生まれつき』という事にしている。魔術と言われても、このミッドでは魔法と勘違いされるのが当然の事だ。他人はそんなことにならないのに、何故こいつだけ?と問われるのは明白。とは言ってもその管理局員にすら変わった髪色の奴はいるが…。ここで例を挙げるとすれば、金髪、青髪、ピンクなんてものもいる。そう考えると、白がいてもおかしくはないのだが…。
「そうなのか…。勝手に文句をつけて済まなかった。実は少しムシャクシャしてたんだ」
なんでも彼は、地球の出身らしい。彼の行っていた学校や会社では髪色は暗い色と定められていたらしく、このミッドに来てそれが許されていることに憤りを感じていたとか。
正直…管理外世界の、魔法なんてものが存在しない惑星のルールしか知らないのだから、しょうがない事だとは思うのだが。そのことでオレに当たるのはやめてほしいものだと言うのが彼の正直なところだ。そういえば、と彼は思い返す。中学生の頃、テスタロッサは金髪で通っていたが、特にそんな髪について問題が挙げられたことはなかった。なんなら髪を褒められていたぐらいだ。これが、美少女との差なんだろうか…と彼は思うが、自分も一部白色の髪があったことを思い返し、自分も何も言われてはいなかったと思い出し、ただの環境のせいか。と結論づける。
そんな少しお酒の入った客の話し相手をし、閉店時間も迫ってきた頃、店の扉が開き、1人の女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ。申し訳ございませんが当店は…ってなんだ。お前か」
「なんだって酷いなぁ。ちょっとだけ話がしたかったから来ただけなのに」
「それが一児の母のセリフとは思えないな。子供はどうした。放っておいていいのか?」
「今はフェイトちゃんが見てくれてるよ。ところで白夜くん、話なんだけど…」
「会わんぞ。」
「ヴィヴィオに会って…って早いよ!もう…どうして会ってくれないの?」
「…前にも言ったが、オレが彼女を助けたのは本当の偶然で、自分から助けるつもりなどないし、彼女はオレのことを覚えていないだろう。なのに、高町はオレをなんと説明するつもりだ?」
「そんなの決まってるよ?『正義の味方』のお兄さんだよ。」
「…」
「うそうそ、冗談。でも会ってあげてほしいんだ。」
彼女はまっすぐオレの眼を見て言う。
「…いいだろう。少しだけだ。…で?今になって何故会いに来いと?」
彼がそう言うと彼女は心底嬉しそうな顔をした。
「実はね、今日ヴィヴィオの四年生進級お祝いなんだ。だから…」
「なるほど。理解した。別に行くのは構わんが、本当にすぐ帰るぞ。」
「うん。わかってる。」
彼女は実のところ、彼を帰すつもりなどなかった。彼女の親友フェイトと、あることを彼に言う必要があったからだ。
「店じまいをする。少し待て」
彼はそういって店の戸締りをし、表に待たせている彼女のもとへと向かった。
「すまない、待たせたな。」
「大丈夫だよ。それじゃ行こっか」
彼女の家に向かっている途中、彼女は終始笑顔だったが、彼はそんな彼女を見て、不思議に思っていた。
家の前につき、彼女が玄関をあけると、テスタロッサが出迎える。
「おかえり、なのは…って白夜!?」
「…突然邪魔をする。」
リビングにて彼らは向かい合っている。彼女が話した内容については、彼の予想を裏切ってきた。
「昔のように名前で呼べと?」
「そうだよ。ね?フェイトちゃん」
「うん。また昔みたいに一緒にいたいな…」
彼は一度瞑目し、彼女らに険しい視線を送る。
「オレにその資格はないだろう。お前たちの前から姿を消しお前たちと戦ったオレには…」
彼女たちはそんなことはないと否定する。彼は確かに戦いはしたが本質は変わってはいなかったのだから。
その後も彼女たちはあきらめもせず、彼を説得し続けた結果、彼はついに折れた。
「わかったよ。フェイト、なのは。オレはお前たちの言う通りにしよう。」
彼が諦めとともに口に出したその言葉に彼女たちは喜んだ。やっと念願かなって、彼の説得に成功した。
そして彼は彼女たちの娘であり、自身も助けたヴィヴィオと再会を果たした。そんなヴィヴィオが放った一言が彼自身を追い込むことになるとは…
「もしかして、パパ?」
この一言により彼が返したことはひとつ。
「君のママ二人とは別に恋仲というわけではないし、そこまで深い仲でもないさ」
それを聞いた2人は見合わせ、名案だとでも言うように彼に提案する。
「白夜くん!ヴィヴィオのパパになろう!」
「なにをトチくるったことを言っている。正気で言っているのなら今日は休むことを勧めるぞ」
彼はまったく相手にしなかった。どころか、頭のおかしい人扱いである。これには同情を感じ得ない。
「…パパじゃないの?」
「ヴィヴィオ、すまないがオレは君のパパじゃない。先程も言った通りだ」
「残念…。じゃあママとの関係って?」
不意をつかれた質問に無言になってしまう。事実、彼女達との関係はなんだろうか。仲間…では無いし、友達…は彼女達が嫌だろう。となると…
「学校に通っていた頃の同級生だな。少々特殊な出会いではあったが…」
「同級生…同級生かぁ…」
「友達ですら無いんだね…」
2人がショックを受けている事にも気づかず、ヴィヴィオに続けて話す。
「2人共優しく、強い人だからな。その2人に並び立てるようにはなりたいと思っている」
それを聞いた2人は顔を上げ、彼を見る。彼は2人を見て口元に笑みを浮かべていた。
「白夜…」
「まぁ少々抜けているところもあるがな」
彼の放った一言に2人は「うっ…」と苦い顔をする。
「君の母親は、信頼に値する人物だ。安心していい。彼女達に教わっている限り、君が母親を護れる程度には強くなれるだろうさ」
そういって彼はヴィヴィオの頭をなでる。そしてうなだれている二人のほうを向き、
「じゃ、そろそろ帰るよ。今日はありがとう」
「あ…。うん。またね、白夜!」
「ああ、またな。フェイト、なのは」
彼が帰ったあと、二人は彼について話していた。
「白夜くん…私たちのコトあんなふうに思ってたんだ…」
「まさか…私達の想いに気付いてなかったなんて…」
「「はぁ…」」
これでも過去、彼女たちはさんざん彼にアピールしてきたつもりだった。お互い二人きりで遊んだり、プレゼントをあげたり、バレンタインにはチョコを上げたりetc,etc…
もしかして彼は鈍いのだろうか…。そう思ったことも過去にはあったが、確信した。彼はこと戦闘においては右には出るものがいないほどには強いが、彼は自身のことに関しては必ずと言っていいほど後回しにする。他人のことばかりを優先してしまうのだ。そのため、困っている人がいたら助けてしまうなど、いいところではあるのだが、少しお人よしすぎるのだ。そのため中学時代は大変だった。何せ、彼のその優しさのせいで、勘違いする女子生徒が後を絶たなかった。
ちなみに彼女たち二人はお互いに彼のことが好きだと打ち明けている。どちらが彼と恋仲になっても恨みっこなしだと。だが、彼はそのアピールすらも気づかないので可哀想なのは彼女たちだろう。
「もしかして、正義の味方の時に何かあったのかな…?」
唐突にフェイトが口にした。各世界を回り、人々を助けてきた正義の味方。彼はその時のことを話したがらなかった。
「ゆっくりでいいから、いつか話してほしいね…。そして背負ってるものを私達にも分けてほしいな…。」
「うん…。」
彼女たちは彼のことを想うが、果たして彼は何を想って戦っているのか。それは彼にしかわからない。彼は何のために戦っていたのか。それを知るのは彼だけである。
4話
次の日、彼の店は定休日のため、休みを持て余した彼は公民館に来ていた。ここにはストライクアーツの練習場があり、ストライクアーツを練習する人々であふれかえっていた。
「今日も人が多いな…。」
彼は普段、誰もいない森などで、剣をつかった鍛錬をする。今日ここに来たのは気分的なもので、他人の練習風景を見てみたかったのだ。練習に入る途中、人が集まっている場所がふと視界に入り、気になった彼はそちらを見に行くことにした。
その輪の中心では二人の女性が模擬戦をしていた。片方は金髪の目がオッドアイに子で、もう片方は赤髪の…
「あれは…ジェイル・スカリエッティのところの戦闘機人か?更生したとは聞いていたが…」
彼女たちの模擬戦が終わり、自分の鍛錬に戻ろうとすると、金髪の彼女と目が合った。
「…あ!白夜さん!」
「…君は誰だ?何故オレの名を知っている。初対面のはずだが?」
「あ…そっか。この姿は見せたことなかった。」
彼女は変身魔法でもかけていたのだろうか。自らの姿を元に戻す。
「…驚いた。ヴィヴィオだったのか」
彼にしては珍しく驚愕の表情をあらわにする。
「はい!白夜さんはどうしてここに?」
「いつも訓練していてな。今日はたまたまここに来ていただけだ。」
そういって彼は奥にいるヴィヴィオの友達と思わしき人物を見る。
「君は友達と練習にでも来ているのか?」
「はい!あ、紹介しますね!」
ヴィヴィオはそういって彼を皆が集まっているところに連れていく。
「ヴィヴィオ?その人は?」
最初にこちらを見てきたのは八重歯が鋭い子だ。こちらを見ていぶかしげな顔をしている。
「あ、えっと、ママの知り合いで…」
「柊白夜という。よろしく」
「私はリオ・ウェズリーです!よろしくお願いします!」
そのウェズリーと会話していると、視線を感じたので、そちらをふと振り向く。
「お前は…」
先ほどまでヴィヴィオと模擬戦をしていた子だ。驚いたようにこちらを見ている。
「ノーヴェといったか。こうして会うのは久しぶりだな」
「白夜さん、ノーヴェのこと知ってるの?」
「少しだけな。君たちのように深い関係ではないさ」
そう言って彼女たちは不思議そうに首をひねるが、ノーヴェはこちらから視線を外さない。
「そう警戒するな。今のオレは観察処分の身だ。何かしようにも、する相手もいなければ理由もないとも。」
「わかった。今はお前を信じるよ」
「ところで!白夜さん訓練って言ってましたけど、ストライクアーツやってるんですか!?」
「いや、オレは格闘はできるが、剣がもともとの戦い方なんでな。今日は新しく型を確認しに来ていただけだ。」
「そうなんですか!じゃあ、一緒に訓練しませんか?」
「悪いが遠慮させてもらう。オレは鍛錬するときは一人でと決めていてな。…あぁ、そんな悲しそうな顔をするな。君のママがいる時ならいつでも一緒に訓練してあげよう。」
そして彼はヴィヴィオの頭をなでる。
「ではな。オレはこれから少しだけ弓を引きに行くからな」
そういって振り返り、そのまま後にする。
「弓?ちょっと見に行かない?」
「えーでも…。何か悪いような…」
「いいじゃねーか。あいつが弓ひくとこ見に行こーぜ」
「ノーヴェまで…もう、怒られても知らないからね?」
彼女たちは彼の後を追いかけていった。その先で見たものに言葉を失うことになるとはおもってもいなかったが。
弓道場についた彼女たちはとても静かな道場に疑問を持った。その答えは中に入ることですぐにたどりつく。
彼女たちは彼の弓をひく姿に目を奪われた。彼としてはそんなつもりはなく、戦いの手段としての弓を弾くことしかしなかったが、彼の真似をし、「弓道」としての矢を放つことをしてみたかったのだ。そうして放った矢は寸分違わず的の中心を貫いた。
そうして巻き起こる拍手の中でも、彼は動じることなく弓道場を後にした。彼女たちもまた、その姿に感心していたが、彼が去り、時間が遅くなっていることに気付くと、それぞれが解散とし、帰って行った。
そして、ヴィヴィオは家で二人に今日あったことについて話した。
「今日ね、白夜さんにあったよ!」
その一言は彼女たちにとって、大きな意味を持つ言葉だ。
「練習場に来てたんだけど、そのあとの弓道場でのことがすごかったなぁ」
「いいなぁ。ヴィヴィオ。休日に白夜君に会えるなんて…」
「私も会いたかったなぁ…」
そのころ、彼はというと。
「『正義の味方』柊白夜さんとお見受けします。」
「…まさかその名を知っている奴がいるとはな…。」
「あなたは有名ですよ。噂にまでなるくらいですから。」
「フ、通り魔の噂になっている君がよく言う。」
「否定はしませんよ。」
「それで、その通り魔さんがオレになんのようかな?」
「あなたの知り合いの聖王の複製体について、教えていただきたいのです。」
「オレが教えられることは何もないな。彼女とはそこまで深い関係ではないのでな」
「そうですか。ではもう一つ。あなたの剣と私の拳。果たしてどちらが強いのか。確かめさせていただきたい。」
「…何故?」
「強さを知りたいので。」
彼はなるほど。と瞑目し、片手に剣を投影する。莫邪のみを投影し、構える。
「強さを知りたいと言うのなら、オレと戦うべきではないと思うがな」
その次の瞬間、彼の姿が消える。彼はすでに彼女の背後をとり、莫邪を振っている。当然非殺傷設定である。だが彼女はそれを片手ではじく、さすがに彼も驚きを隠せない。彼女からひとまず距離を取る。
「…君の名前は?」
「カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。覇王を名乗らせていただいています。」
「そうじゃない。君が変身魔法を使っているなんてことはわかっている。その上で聞いているんだ。」
彼女は少し驚いた後、彼を見てはっきりと伝える。
「アインハルト・ストラトスと言います。」
「そのストラトスに聞きたい。君は叶わぬと知ってなお、その願いを貫き続けることをどう思う?」
「え…。それは…」
「フ、少し意地悪な質問だったな。今のキミは、まさしくそうなのだから」
彼女は何も言えない。彼は苦笑いしているだけだ。彼も何か自分と重ねることがあったのだろうか。
「そんな君に、手を抜くのは失礼なことだ。これからは、手加減はなしで行くぞ。」
彼はその手に干将莫邪を持つ。
「準備はいいか。…ならば、行くぞ!!」
彼は横から仕掛ける。干将を振り、莫邪で突き、彼女の拳を弾き、流れるようにその首元を狙って莫邪をふるう。当然、簡単に決めさせてくれるわけもなく、距離をとられてしまう。しかし、高速で移動しその背後をとる。慌てて彼女は振り返り、防御をとるが、その防御すら崩し、斬られる。
(なんて…実力…。こんな人がいるなんて)
「もう限界か?君の実力はその程度なのか?」
「そんなハズないでしょう!!」
彼女は瞬時に距離を詰め、右の突きを放つ。それを最低限の動作でかわし、つづいて左からくる拳に合わせて剣を出す。すると彼女は干将をつかみ、破壊した。それに驚く暇もなく莫邪で彼女を狙う。しかし、そこで体が動かないことに気付く。
(バインドだと!?)
「覇王…断空拳」
彼女は確実に捉えたと思った。しかしそれは、彼との間に突如現れた剣によって覆される。
(剣!?しかし、たかが一本で!)
するとその剣が爆発した。
「なっ!そんなことが…」
「驚いているところ悪いが。よそ見は感心できんぞ。」
彼は彼女を手刀で気絶させ、その手で抱きとめる。
「君もまた、難儀な存在だな。…そこで見ているやつさっさと出てこい。」
陰から姿を現したのは先ほどからずっと見ていたノーヴェだ。
「いつから?」
「君がここに来た時からだよ。…この子を頼む。管理局員殿」
彼はそういって彼女をノーヴェに預け、自分はその場を後にする。
「あ、ちょ!おい!」
なにか彼女が止めようとしていたが、彼は無視してその姿を消していった。
5話
高町なのはとフェイト・T・ハラオウンはあることについて相談していた。それは旅行兼オフトレについてである。
「ど、どうする?白夜くん本当に誘うの?」
彼女たちは彼を誘うかどうかで迷っていた。一応ほかの参加者からの許可は得ているものの、肝心の彼を誘う勇気が出なかった。一緒に旅行に行って沢山話したいことがあるし、訓練も一緒にしたい。だけど勇気が出ない。ずっとそんな調子だ。
「なのはママ、フェイトママ、白夜さん誘わないの?一緒に行きたいんでしょ?」
「ヴィヴィオ…。そうだよね!みんなからは許可もらってるし!よし、誘おうフェイトちゃん!」
「ま、待ってなのは。心の準備が…」
ヴィヴィオは心の中でママたち乙女だなぁと思っていた。昔は特に二人で白夜の話ばかりしていたのを覚えている。
そして二人が白夜に連絡すると、風呂に入っていたのか、髪をおろしている彼が…
〈なのはに、フェイトか。どうした?〉
「…………」
二人は顔を赤くして黙り込んでしまう。普段の彼とは違う姿にくぎ付けだ。
〈なのは?フェイト?用がないなら切るぞ?〉
「待ってください白夜さん!」
〈ヴィヴィオ?〉
「ちょっとママたちは…あはは。えっと、ところで白夜さん!この4連休って何か予定ありますか?」
〈いや、これといって予定はないな。それがどうかしたのか?〉
「じゃあ、私達と一緒に旅行に行きませんか?」
〈…旅行?〉
「はい!といっても、オフトレも兼ねてるんですけど…」
〈…〉
「やっぱり、駄目ですか?」
ちらっとママたちを見ると不安そうな顔をしている。
〈いや、別に行くのは構わないんだが…。〉
「だけど?」
〈そこにオレが参加していいのか?〉
「いいよ!むしろどんどん参加してほしいぐらい!」
〈なのは?〉
「そうだよ白夜!一緒に行こうよ!」
〈フェイトまで…〉
「白夜さん。私も白夜さんに来てほしいです。あの時助けてもらったお礼もしたいですし…」
〈…わかった。お言葉に甘えて参加させてもらう。オレはどうすればいい?〉
「じゃあ…」
ヴィヴィオが彼に連絡事項を伝え通話を切ると、ママ二人は年甲斐もなくはしゃいでいた。
「やったよフェイトちゃん!白夜君参加してくれるって!」
「やったね!なのは!白夜が一緒に…」
「「ありがとうヴィヴィオ!」」
彼女たちはとても喜んでいるようだ。恋する女の子はこんなにも騒がしいモノなのかと思わずにはいられないヴィヴィオであった。
そして当日。ヴィヴィオ、コロナ、リオが花丸評価をもらい、出発が決まった日、二人はそわそわしていた。ノーヴェとアインハルトもそろい、あとは彼を待つだけだ。
「どなたか、待っているんですか?」
「アインハルトさん。実はなのはママたちが誘った人を待っていて…」
「ああ、柊白夜さんですか。」
アインハルトは実はこの合宿に彼が参加すると聞いて再選するのをひそかに楽しみにしていた。この前は自らの必殺技すら止められた彼が気になっていた。
「はい…。此処だけの話、ママたち、白夜さんのことが好きみたいで…」
「それで、あんなに…」
「フェ、フェイトちゃん、変じゃないかな?」
「…大丈夫だよなのは!わ、私は?」
「大丈夫、似合ってるよ!」
丁度その時、インターホンがなり、ヴィヴィオが出ると。
「すまない。待たせたか?ヴィヴィオ」
「白夜さん!」
そのヴィヴィオの言葉に二人の体が強張る。
「とりあえずあがってください!」
「ああ。邪魔させてもらう。」
そういって中に入った彼を出迎えたのは、さっきまで慌てふためいていた二人だった。
「い、いらっしゃい。白夜くん。」
「ひ、久しぶり、白夜。」
「久しぶりではないと思うが…。とりあえず邪魔をする。」
「お久しぶりです。柊白夜さん。」
「アインハルト・ストラトス。その後はどうだ?」
「ええ、調子はいいですよ。あなたに負けたあの日から。」
「フ、それはいいことだ。敗北を知るのは悪いことではないぞ?」
「ええ。全くです。ところであなたにまた勝負を申し込みたいのですが。」
「好きにするといい。オレはいつでも受けてたつぞ。」
ヴィヴィオはその二人を羨ましく思った。自分とは違う関係の二人を見て、そのようになりたいと思った。しかしそれよりも後ろのほうでショックを受けているママ二名をみて助け船をだそうとしたらそれより早く彼がこう言った。
「…そういえば、言い忘れていたが、なのは、フェイト」
「…なに?白夜」「…何かな?白夜君」
「二人とも、その服似合っている。昔よりも更に綺麗になった。二人の魅力を充分に引き出せていると思うぞ」
ちなみに彼は苦笑いだ。彼としては彼女たちの変化を感じ取り、必死に考えて絞り出した考えの結果なのだが、彼女たちは彼がそんなこと言ってくれるとは思っていなかったようで、二人とも嬉しそうな顔をしている。そんな二人を見て、彼は安堵の表情を浮かべている。どうも彼はわかっていて言った訳では無さそうだ。彼はもしかして彼女達からの気持ちには気づいていないのかも知れないと思ったヴィヴィオは母達に同情せざるを得なかった。
そして臨港次元船に揺られること4時間。無人世界カルナージに到着した。カルナージに到着し、ルーテシア達に出迎えられている間、彼は周りの自然を見ていた。
(…今まで様々な世界を回ってきたが、こんなに自然のある世界には来たことがなかったな…。それもそうか。俺が回っていたのは戦場ばかりで、観光、ましてや旅行なんて目的では無かったからな…。)
「エリオ、キャロ!」
「2人とも、紹介するね…ってどうしたの?エリオ、キャロ。白夜がどうかした?」
オレはその声で思考の海から現実に引き戻された。
「あなたは…」
「お兄さんは…」
「…あぁ。君たちはオレを知っているのか。それもそうだな。君達もあの時の戦いを見ていたな」
2人は無言でこちらを見ている。警戒しているのだろうか。それも当然のこと。自分たちと敵対し、尚且つ1人で戦うようなやつを警戒するなという方が無理な話。
「今のオレは君達と敵対するつもりは…」
「「あの時の正義の味方!!」
「…え?」
2人から事情を聞くと、オレは過去に2人を救っているらしい。内容を聞くまではわからなかったが、モンディアルは研究所をオレが破壊し、その際オレが連れて行き、生きるために必要なものを施し、去っていったらしい。そしてルシエは森でモンスターに囲まれていた所をオレに助けられたとか。オレの記憶には無いが、2人から礼を言われた。…記憶に無いな…。
ヴィヴィオ達は川で遊び、なのは達はトレーニングをしている頃。彼は1人山奥に行き、その両手に剣を投影して、鍛錬をしていた。その手に持つ剣は干将・莫耶。その2本の剣を使い、敵をイメージして鍛錬している。敵がいると仮定し、自らの心臓を狙って突かれる槍を躱し、その手の剣で斬り伏せる。繰り出される槍を最低限の動きで避け、見切り、カウンターで反撃する。いつも以上に集中していたせいか、かなりの時間が経っていたのだろう。少し休憩しようと、近くの木陰に座る。
「…気持ちのいい風だ…。少しだけ、眠ろう」
所変わってこちらは彼以外のメンバーが集まっている。理由は簡単。お昼ご飯のお時間だからだ。
「あれ?白夜君は?」
「え?見てませんよ?」
「もう…どこに行ったの白夜くん…。皆は先に食べてて。私は白夜くんを探してくるよ」
「なのは。私も…」
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。探して、お昼ご飯だって伝えてくるだけだから」
そう言って彼女は空を飛び、上空から彼を探している。
「白夜くん、一体どこに…いた!」
彼女は降り立ってまっすぐ彼のところに行く。
「白夜くん、もうお昼ご飯だよ。皆集まってるから食べに…」
そこで彼女は気付く。彼が木陰で安らかな顔で寝ているのを。その顔に戦っていた時のような辛い表情は無い。気持ちよさそうに寝ている。
「もう、そんなところで寝てたら、風邪ひいちゃうよ?」
そういいつつも彼女は彼の近くに腰を下ろす。チラッと彼を見ると、いつもの様に険しい表情はしていない。彼のこんな顔を見るのは久しぶりだ。彼女はもう少しだけ、と黙って彼の近くに座っていた。
5分後、彼は目を覚ました。
「…寝てしまっていたのか」
「あ、起きた?もう皆お昼ご飯食べちゃってるよ?」
「…なのは?いつからそこに…って聞くまでも無いな。」
「うん。白夜くんもお昼ご飯食べに行こう?」
「…ああ。そうだな」
先に行くね!と言って立つ彼女の後を追いかける様に彼も行く。戻ると皆が集まっており、彼も昼ごはんを食べる。そして食べ終わったあと、彼は自分の食べた分の食器を洗い、また森の方に向かっていった。
森で鍛錬を再開した後、ノーヴェから連絡が入った。なんでも、スターズが訓練をするから見に来いだとか。正直気は乗らなかったが、見に行った。その後、自分の鍛錬に戻ると言って抜け、またイメージした敵と戦っていた。
日が暮れた頃、訓練も終了し、ヴィヴィオとアインハルトも合流し、屋敷へ戻る途中、彼女達はみた。
森の中その手に剣を持ち、おおよそ1人とは思えない動きで訓練している白夜の姿を。
その手には1本の剣。それを薙ぎ、はらい、突きなどの動きを全て使って動くその姿は見るものに感動を与えた。
「アイツ…スゲェな」
「はい…。言葉も出ないです」
「さすが、ママ達を1人で相手できる白夜さんです」
そして彼がその剣を消し、不意に彼女達の方を向いた。まだ息が整っていないにも関わらず、彼は口を開いた。
「なにか用か」
「あ、いえ!これからお風呂に行こうと…白夜さんもどうですか?」
「…オレは後でいい。先に行け」
それだけ言って彼は奥に行ってしまった。彼女達が去っていくのを確認した後、彼は何かを投影する。完全な其れを投影するには「あるもの」が必須なのだが、それを無しで投影するとなると不可がかかる。そのため、今回は失敗した。
「やはり、固有結界が無ければ作れないか…」
彼は不可能を理解し、屋敷へと戻っていった。
明日の試合について、彼女達は話し合っていた。
「1戦目はこのままでいいとして、2戦目だよね…。」
「せっかく白夜がいるんだし、戦っておきたいよね!」
「そうだね…。あ!これはどう?」
「…それいいね!それで行こう!」
彼女達の思惑とは?果たして何を企んでいるのか…
6話
皆が寝静まった頃、彼は1人で空を見上げていた。少しだけ眠れず、外に出ていたのだ。
「…」
「何か、考え事?」
その声を聞き、彼女の方を見る。声をかけてきたのはフェイトだ。一瞬だけそちらを見るが、もう一度空を見上げる。
「…眠れなかっただけだ。」
「もしかして疲れた?」
「疲れていたらもう既に寝ている」
「それもそっか」
彼は隣に来たフェイトにふと目をやると、その綺麗な姿に目を奪われた。月の光にあたって、彼女の金色の髪が輝いて見え、その整った顔立ちはお伽話に出てくる姫のようだ。しばらく見つめていると不意に彼女がこちらを向いた。
「ん?どうかした?」
「…いや。すまない、フェイトに見惚れていた」
彼は素直に答えた。
「ふぇ?見惚れてたって…」
「そのままの意味だ。君が綺麗だから見惚れていただけだ」
彼女は顔を赤くし、俯いてしまった。彼はそんな彼女を見て、こういうところは変わっていないなと感じていた。昔もこうやって何かを褒めた時には赤くなって俯いていたものだ。と。
しばらく2人揃って空を見ていたが、彼女が不意に切りだした。
「ねぇ…白夜。白夜はどうして、管理局と…私達と敵対したの?」
彼女の真剣な目を見た彼は、同じく彼女の目を見つめ返す。
「…オレは様々な世界を見てきた。その世界で出会った人々の中には管理局の実験や悪行から消された人達や、その家族がいた。…中にはオレが出会った時には既に死にかけの人だっていた。」
フェイトは驚き、信じたくないと言った様な顔をしている。
「彼らはそれでも必死に生きていた。自身の存在を否定されようとも、いないものとして扱われようとも、彼らなりに生きていたんだ。」
「生きていた?」
「あぁ。彼らは管理局の闇に消されたよ。ただ生きているだけだった。確かに、それぞれ管理局に恨みはあったが、復讐や公表しようとする人はいなかった。ただの人間として過ごそうとしてる人を殺したんだ」
彼女は驚きを隠せなかった。自分たちが正義の組織だと信じていたモノが、1番大事な人に否定された。
「そんなときだった。オレはある1人の少女に出会った。その子も実験の被害者でな、長くは無かったんだ。オレはその子と仲良くなってな、彼女が入院してからも彼女のところへ通い続けた。そんなある日彼女がオレに言ったんだ。」
ーーーもし、本当の弱い者の味方がいたら、こんな辛い思いしなくて…死なずに済んだのかなぁ…。私も、普通の女の子として生きたかったなぁ…ーーー
「だからオレはその子に約束をした。」
ーーーならば、オレがなろう。全ての人を救える正義の味方に。弱い者を助ける本物の正義の味方になって、戦い続けようーーー
ーーー本当に?約束だよ?困った人や、助けてって言ってる人が居たら、ちゃんと助けてあげるんだよ?ーーー
ーーーああ。約束だーーー
「これが事の始まり。オレが本当の意味で、正義の味方を目指したきっかけだ。」
フェイトは黙って聞いてくれていた。その瞳には動揺が感じられるものの、彼の話をちゃんと聞いていた。
「その後もその子の元に通い続けた。彼女に正義の味方になると誓った手前、まずは彼女を救おうとした。しかし、それは叶わなかった。」
「え…」
「彼女はもともと長く無かったと言ったが、彼女の最期はそうじゃなかったんだ。」
ーーー彼女は殺されたんだーーー
その言葉にフェイトは絶句した。殺された。誰に?さっき白夜は実験者は管理局の闇に消されたと言った。つまり…
「ご想像の通りだ。彼女は研究材料だった。事情を公にされるわけにはいかないから殺された。ただそれだけだ。口封じの為に殺されただけだ。」
ーーーオレの誓いは始まってすぐに終わったんだーーー
白夜はそう言った。全てを救う正義の味方は最初の1人を救えなかった。守れなかったんだ。
「…オレは一体、何がしたくて、何をしたかったんだろうな…」
自嘲した笑みを浮かべる白夜はとても辛そうで。悲しそうで、泣きそうだった。
ーーーその後は知っての通りだ。最初の1人を救えなかったオレはそれでもと、世界中を周りたくさんの人を救ってきたつもりだ。ただそうやって救うたびに罪悪感に押しつぶされた。そして知った。彼女を殺した存在を。管理局の【ファントム】殺し屋集団。オレは其れを消すために管理局の敵になった。ーーー
「これが事の全てだ。そして未だオレは迷いしかない。自分で理解していても結局答えを見つけられずにいる。フ、我ながら情けないな」
白夜はそう言って屋根の上に飛び乗る。
「あぁ、そうそう。先程からずっとこの話を盗み聞きしていた者がいるな。オレは別に構わんが、他の人物の際はもっと気をつけたほうがいいぞ」
彼はそう言って夜の空へ消えていった。消えた彼の後から出てきたのはなのはとヴィヴィオだった。
「なのは…ヴィヴィオ…」
「フェイトちゃん…白夜くんは…」
「…うん。抱えてるモノが、背負ってるモノが大きいね…」
「フェイトママ…」
「大丈夫だよ、ヴィヴィオ。きっと白夜は立ち上がるから。本当の正義の味方として」
彼が抱えてたモノを知った彼女達は彼を想う。彼は自身の罪とし、決めつけ、己を追い込む。その彼が自分と決着をつけることができるのか?
7話
彼は今日の予定を聴き、愕然とした。
「試合…だと?」
そう、彼女達の1戦目の試合の後、なのはが俺のところに来て、皆と試合をしようと言い出した。先程の試合の結果は引き分けと聞いたが、実力者が集まっているこの状況で、メンバーを選出し、1体8だと?一体何を言っているのかわからない。しかもメンバーがなのは、フェイト、ランスター、スバル・ナカジマ、モンディアル、ルシエにアインハルトとヴィヴィオを加えた8名。今のオレには…
当然、フェイトの攻撃を止められはせず、砲撃を防ぐ為に投影した盾は1枚の花弁も残さず打ち砕かれ、挙句の果てにはアインハルトに飛ばされる。
「…貴方を過剰評価していたようです。今の貴方では相手になりません」
その言葉とともにオレの意識はブラックアウトした。
ふと気がつくとオレは白い空間にいた。
「…ここは」
「ここは君の心の中だよ」
その声にオレは振り返った。そこに居たのはあの時死んだはずの彼女だった。
「久しぶりだね。白夜くん」
そう言って笑う彼女は記憶にある彼女のままだった。オレは彼女にかける言葉が見つからなかった。
「…何か言ってほしいな?悲しくなっちゃう」
「…すまない」
「最初に言う言葉がそれ?」
彼女は苦笑してそう言った。でも、君らしいね。と。
彼女は時間が無いから率直に言うね、と前置きしてその言葉を言った。
ーーー君は、私に対して罪悪感を感じてるーーー
「…あぁ。その通りだ。」
ーーー私のお願いを自分の夢として、自分を見失ってしまったーーー
「違う!そんなことはない!」
ーーーその結果、君は自分自身の願いを忘れてしまったのーーー
「オレ自身の…願い…だと?」
「やっぱり気づいてなかったんだね」
彼女は相変わらず苦笑のまま、オレに語りかける。
「君はね、私の願いを自分の夢とした。だけどその夢の途中で、君自身の願いを見つけたんだよ。だけど、その願いを私に対する罪悪感で心の奥底にしまってしまったんだよ」
その言葉にオレは驚いた。オレ自身の願いそんなものがあったのか。と。オレ自身の願いとは一体…
「君は気付いてるよ。ただ隠してしまっただけ。だから、私はそれを出す手伝いをしに来たの。」
手伝い?手伝いなんてすることがあるのか?
「うん。君の心を救わなくちゃいけないんだよ。」
オレの…心。
「…ありがとう」
「なんだ、唐突に。」
「君の心が教えてくれたの。君は私を救えなかったのが1番鍵になってるって。」
「…」
「君は私にその夢を誓ったのに、その最初である私を救えなかったことに、自分に対する怒りと悲しみを感じている。」
「…」
「そしてそれを原動力にして、他の人を助け続けたんだ。」
「そうだな。そう…なのだろうな。」
「でも、でもね?君はね。自分を許してあげて。」
「…それは出来ない。オレはオレを許せない。」
「違うの。君は認めないと思うけど、君は確かに私を救ってくれていたんだよ?」
オレは信じられなかった。そんなことがある筈がないと。
「私は、君に救われていたの。1人で死にそうになってる私に約束してくれた。思い出して?君は、私が死ぬ前の日にこう言ったんだよ?」
『君との約束、必ず守ろう。オレは正義の味方になる。必ず戦争のない世界にしてみせる。だから、その時まで生きろ。今度は平和になった世界で、君と話そう。だから、待っていてくれ。正義の味方が必ず君をーーーにさせてやる』
「これが、オレの願いなのか…?」
「これが君が得た答えなんだよ?君は君自身が見つけた答えを自分で隠してしまったの。」
「そうか…これが…」
「でも、もう大丈夫だよね?だって今の君の顔はすごくスッキリしてるもの」
「あぁ。気づかせてくれてありがとう。俺はもう大丈夫だ。」
「もう…間違えちゃダメだよ?そしてこれからは今の君を想ってくれてる子をちゃんと見てあげるんだよ?」
「フ…お前は俺の親かよ」
「んーん。親友だよ。」
「ありがとう。親友。」
「ん。…じゃあ行ってらっしゃい。君はもう立ち上がれるよ。だから私は君をまた見守っているから。」
ここに来た時と同じように俺の意識はブラックアウトする。だが違うものは確かにあった。俺は答えを知った。さぁ、彼奴らに一泡吹かせに行こう。
8話
私達は彼と模擬戦をした。だけど、今日の彼はどこか戦闘に集中出来ていないというか…はっきり言えば弱かった。最後に戦ったあの時よりも、どこか信念が無いというか…。
8対1とはいえ、あの時の彼なら確実に捌いて見せたはず。だけど、彼はアインハルトちゃんの攻撃で吹き飛ばされ、気を失っている。
そんな彼を介抱しようと、彼に近づこうとした時私達は異変を感じた。世界が塗り替えられていく感覚と言ったら良いのだろうか。何かが起こる予感がした。そしてそれは形となって世界に現れた。
空は青く澄んでいるが、赤い荒野に無数の剣が突き刺さっている。その剣が主が来るのを待っていたかのように呼応しているように思える。その剣が向かっているのは荒野にある丘の上。その丘にいる1人が空を見上げている。
「白夜…?」
「…あぁ。そうだったのか…。オレは…」
彼は此方へ視線を向ける。
「…ありがとう。おかげでオレは漸く、戦う理由を思い出せた。」
「戦う理由?白夜くん、それは…」
「オレだけの理由。オレが世界を旅する過程で得た、誰かから貰った理由じゃなく、オレ自身の理由だ」
「白夜…?」
「フェイト、なのは。オレはな、ずっと正義の味方になりたかった。世界中で報われない人を助けたかった。でもそれはあの子から与えられた理由だった。」
「与えられた…理由?」
「そうだ。だが、アインハルトにやられて思い出したよ。オレは…報われない人を助けたかったんじゃない。報われない人だろうが、悲しむ人だろうがな、オレは皆の笑顔を護りたかっただけなんだよ。」
「笑顔…」
「世界中を旅する過程で見た子供達の笑顔や、大人の心の底からの笑顔。それらを護りたかったんだよ、オレはね。」
「……」
「オレは戦う理由を思い出した。ならばもう一度立ち上がれる。模擬戦とはいえ、お前たちを圧倒できる。さぁ、行くぞ。管理局の英雄共。魔力の貯蔵は充分か。」
皆、世界が変わった事に驚いていた。この中でコレを知っているのは2人だけ。当然、なのはとフェイトである。彼女たちは一度、闇の書事件の時にそれを見ていた。
当時の彼は彼女たち程までは行かなくともそれなりの実力者だった。そんな時だった。闇の書事件の最終決戦時に彼はそれを使った。その剣が突き刺さる世界を以って、闇の書を止めた。
「…これは…一体」
「これはね、彼の心の世界だよ」
「心の世界?」
「白夜は自分の心を世界にする手段を持ってるの。」
「そうだ。これはオレの世界。いや、正確にはオレでは無いが。…『彼』とは少し違うが、同じものを目指した結果だ。さぁ、かかってくるがいい。今こそ、真髄を見せよう。覇王に聖王。エースオブエース、管理局の金色の死神。そして彼女らと同じ意思を持つ者達。」
彼は荒野に刺さる剣を右手を上げて自分の周りに待機させる。
「答えを見つけた今こそ名乗ろう。オレは柊白夜。皆の笑顔を護る『正義の味方』。この剣にかけて…オレの友に誓って、お前達を打ち負かそう。」
オレは、普段から使っている二本、干将莫耶を投影し、強化する。オーバーエッジにしたそれを両手に持ち、単体で彼女らに襲いかかる。
「みんな、来るよ!」
だが当然、今までとは状況が違う。剣を何本も飛ばし、牽制する。しかし彼女達もまた、その剣を破壊し、自分達の攻撃の道を作る。
ところで今の彼の格好はかなり変わっている。聖骸布のような布を射篭手のようにして身に纏い、白い布をマントのようにして、髪を下ろしている。
「なんですか?あの姿…」
「この姿に正確な名前はないが、オレはリミテッド/ゼロオーバーと呼んでいる。これはオレが全力で戦う時の姿だ。」
すると、周りから襲い来る近接戦闘のエキスパート達。前からくる攻撃を干将で、背後の攻撃を莫耶で受け止める。だが、その莫耶をスバルが、干将をエリオが掴んで、俺の動きを封じる。
「今です!フェイトさん!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
「戯け。相手の土俵に上がっている時点で、貴様らに好機など無い!」
3人に襲いかかるのは剣の雨。3人を貫かんと飛んでくる剣を彼らは距離を取ることで回避する。
その瞬間、彼は飛んでくる砲撃魔法に気づいた。
「ストライク・スターズ!」
そして彼は砲撃魔法に包まれた。
「どうですか?なのはさん」
「うーん…当たった感じはあったけど、防がれてると思うよ」
なのはの言葉通り、煙の中から現れたのは7枚の花弁のようなもの。
「なに⁉︎あれ!」
「熾天覆う七つの円環。オレが持つ防御の中でも、2番目に強い護りだ。」
「2番目…?」
彼はその手にもつ干将莫耶を構える。そしてその鋒を彼女達に向ける。その次の瞬間、彼女らのいた場所に剣が突き刺さる。
彼は近くにいたエリオに接近する。干将を上段から振る。それをバックステップでよけるエリオに莫耶を投げつける。
「なっ‼︎武器を投げるなんてっ!」
その武器を間一髪のところでフェイトが叩き折る。
「エリオ、大丈夫⁉︎」
「フェイトさん!前!」
「捉えた!射殺す百頭‼︎」
完全にフェイトを捉えた一撃。なぜ彼がこの攻撃を仕掛けれたのか。それは彼がフェイトを見ていたからである。莫耶を投げつけた所で、フェイトが高速で動くのが視界の端に見えたのだ。その瞬間、彼は空いた手に斧剣を投影したのだ。
そして、射殺す百頭がフェイトを襲うその瞬間、視界の中からフェイトとエリオの姿が消えた。その為、射殺す百頭が空振りに終わる。
「…召喚魔法か。やってくれる。」
彼は続いて、近くに迫ってきていたヴィヴィオとアインハルトに剣を飛ばす。ヴィヴィオは避けているが、なんとアインハルトはその剣を掴み取った。そしてそのままこちらへと投げ返す。しかし彼もその投げ返される剣を相殺する。
「飛来する剣を掴むとは…。とんでもないな。」
「旋衝破の応用です。あなたの場合は魔力では無く実物ですので。」
そのまま2人で挟むように接近し、攻撃を開始する。しかしながら、その拳は届かず、空を切るだけだ。彼は2人から距離を取る為ジャンプで距離を離す。しかし、不意に体が動かなくなった。
「設置型バインドッ‼︎」
その彼をさらに何重ものバインドが重なる。最後に鎖が彼の体に巻きつき、完成する。
「やっと捕まえたよ!白夜くん!」
そう言ってスターライトブレイカーexの発射態勢に入るなのは。
「これはロー・アイアスじゃ防げない!私の…私達の勝ちだよ!」
彼はそのなのはを見て、遂にそれを口にする。
ーーーーI am the born of my sword
「全力全開…スターライトブレイカー‼︎‼︎‼︎」
「…全て遠き理想郷」
彼が投影したそれにより、スターライトブレイカーは防がれた。
9話
スターライトブレイカーを全て遠き理想郷により防いだ彼は、ゆっくりと地上に降り立った。
「アヴァロン?」
「聞いたことない武器だね…」
「でも、あれはなのはさんのスターライトブレイカーを防いだ。それはつまり…」
それだけの力を持つ武装だという事。全員が口には出さなかったが、砲撃魔法を完全に防いだそれに驚愕していた。当然彼の手にはもう無い。そして彼もまた、自身で驚いていた。
「全て遠き理想郷…。今まで完全に投影できたことなど無かったのに…。何か発動の鍵でもあったのか?」
今まで彼が投影した全て遠き理想郷は回復させるか、盾として使うのが精一杯だった。あれほどの強大な力の前では簡単に破壊されて来たのだが、今回彼はその力を完全に発揮させる事に成功した。
「今考えても仕方が無いことだ。まずは…」
そう言って、再度投影した干将莫耶を振り、こちらへと飛んできていた魔力弾を斬る。
「執務官2人をなんとかしなければな。」
未だに戦意が衰えていない2人を見る。フェイトとティアナ。この2人はまだ勝つつもりでいた。
「アイツのアヴァロンは出すのに時間がかかる!アヴァロンを使えない速さでの中距離戦なら!」
「チ…。面倒な。ランスターを先に落とす!」
彼は彼女の動きを先読みし、動くであろう場所に剣を落とす。そうして態勢が崩れると理解した瞬間、その手に持つ干将莫耶を投降する。その剣が弧を描き、彼女を追う。そこにもう一組投影した干将莫耶を投げつけ、更にもう一組投影した干将莫耶で、彼女に接近する。
「鶴翼三連!」
その技が決まる瞬間、横から入ってきた彼女に態勢を崩されることになる。
「何⁉︎」
彼の腹に拳が突き刺さっていた。
「覇王断空拳!」
「がッ‼︎‼︎‼︎」
この一撃が完全に彼に決まった。皆がその一撃を入れたアインハルトを見て驚いたが、突如として倒れた彼女を見て、改めて彼の凄さを知る。彼女の近くに落ちている槍。朱色の槍を見て、飛ばされながらもその槍を投げたのだと理解した。そしてその一撃で彼女を確実に仕留めた。彼は倒れているが、まだ気絶していないのがわかる。何故なら、世界が戻っていないからだ。彼が気絶していれば、世界も戻るだろう。だが、世界は未だ、剣の並ぶ荒野だ。これが、彼が気絶していないことを示している。
と、思っていたのだが、世界は姿を変え、元のように戻った。先程までの場所へと戻っていった。
「世界が…」
「白夜くん?」
彼は倒れたまま動かなかった。しかし、気絶もしていない。すると彼はゆっくりと立ち上がった。
「まさか…魔力切れとはな。やはりオレに魔力は無いようだ。」
彼は両手を上げ、降参の意思を示す。そのまま彼は前に倒れてしまう。しかしその彼の横顔は何かを見つけたようにスッキリしていた。
「ここは…」
オレは先程までいた場所、白い空間にいた。
「どう?答えを知って力を使った感想は?」
「…あぁ。自分で言うのもなんだが、強いと思ったよ。少しだけ…アイツらの強さの理由がわかった気がする。」
なのは、フェイト。お前たちはずっとこうやって戦ってきたんだな。どうりで強いはずだ。何かを成す為の力がこんなにも強いものとは思わなかった。
「ところでお前はどうして此処に居るんだ?さっき別れたはずなんだがな?」
「それはね、答えを見つけた君と話がしたかったの。……もう大丈夫そう?1人でもやっていける?辛くない?辛かったら、しんどかったら言うんだよ?」
「お前はオレの親か。まったく…。確かに、まだオレ自身まだ許せない部分はある。だが…それでも、前に進もうと思うんだ。」
「……」
「そんなに心配そうな顔をするな。オレはきっとまた自己嫌悪に陥るだろうが、必ず立ち上がる。今度こそ理想を違えたりはしないさ。」
「そっか…。じゃあそんな正義の味方にふたつ頼み事があります!」
「頼み事だと?いつも勝手に押し付けていく癖になにを今更…。」
オレはこめかみに指を当て、やれやれという表情をする。
「一つ、最初に謝っておくけど…ごめんね?本当の意味で『私』を解放してほしいの。」
「…?それはどう言う意味…」
「今の『私』は『私』じゃないの。別人なんだ。きっと私は君を襲う。だから君はその私を油断なく、躊躇いなく、『解放』してほしいんだ」
オレは彼女が何を言っているのかわからないという顔をする。当然だ。彼女が言っていることを考えれば、彼女が生きているということに他ならない。だがそれはありえないことだ。何せ、オレは彼女が死んだことを確認した1人なのだから。
「そしてもう一つはね」
そういって彼女はオレの手を握り、オレの目をしっかりと見る。
「ちゃんと幸せになってね?もう私は逝っちゃうけど君が幸せになる事を祈ってる。もし幸せにならなかったらコッチに来た時に罰を与えてやるんだから!」
そう言った彼女の目には涙が浮かんでいた。オレがその涙を拭おうと手をのばした時、彼女はオレに抱きついてきた。
「グスッ…」
オレはそんな彼女を抱きしめた。
「ありがとう、こんなところまで来てくれて。オレを救ってくれて。きっと君が居なければオレは自分を赦せずにいただろうな…」
「そう言ってくれると、きた甲斐があったね…。だけど、そろそろバイバイの時間だね。もう私は逝かなくちゃいけないから…」
「…あぁ。お前の頼み事、承った。きっと、叶えてみせるさ。」
「君のことなのに…きっとなんだね?」
「あぁ。オレに関しては約束は出来んからな。」
「まったく…じゃあ私は逝くよ。あ、最後にわがまま言っていい?」
「なんだ?」
「笑顔を見せてほしいな?君が憧れた正義の味方のように。」
オレはその言葉で驚いてしまったが、彼女に話をしたのはオレだ。ならば、彼のセリフを借りよう。理想や力すらも借りているというのに…
「…大丈夫だよ、シオン。オレもこれから頑張っていくから。だからお前も…ゆっくり眠ってくれ…」
「…うん。安心したよ。じゃあね?白夜。私もどこかで君を見守っているよ」
彼女はそう言って消えていった。それとともにオレの意識も覚醒していく。目を覚ましたオレが最初に見たものは天井だった。オレが感じたのは腕の中に暖かい感触。ゆっくりとそちらに目を向けるとそこにいたのは…
「あ、あの…白夜くん…」
「…なのは…?…すまない、少しだけこうさせてくれ…」
オレは自分の目から出るモノを見せないように腕の中にいるなのはを抱きしめていた…。