オズのボタン=ブライト


 

第一幕その一

                 オズのボタン=ブライト
                第一幕  いつも急に出て来る子
 恵梨香達五人はこの日は自分達の学校にいました、そして五人でこんなことをお話していました。
「またオズの国に行きたいわね」
「うん、そうだね」
 カルロスはナターシャの言葉に頷きました、五人は今は恵梨香のクラスにいてそのうえで楽しくお話しています。
「最近行ってないしね」
「だからね」
「もうそろそろだよね」
「行きたいわね」
 また言ったナターシャでした。
「皆でね」
「じゃあ今日行く?」
 早速と言って来たのはジョージでした。
「皆で」
「そうだね、思い立ったがだからね」
 神宝はジョージのその言葉に同意して頷きました。
「今日の放課後時計台まで言ってね」
「それでいつも通りよね」
 最後に言ったのは恵梨香でした。
「オズの国に行くのね」
「そうね」
 ここまでお話してでした、ナターシャは。
 考えるお顔になってです、皆に言いました。
「今日の放課後行きましょう」
「早速だね、さて今回はね」 
 カルロスはもうオズの国に行った時のことを考えています。
「どんなことになるかな」
「それは言ってみないとね」 
 恵梨香がカルロスのその言葉に答えました。
「わからないわね」
「結局はそうなんだよね」
「ええ、オズの国はいつも何かが起こるけれど」
「どんなことが起こるかは」
「わからないから」
 何時何が起こるかわからない、それもまたオズの国です。
 だからです、恵梨香はこうカルロスに言うのでした。
「そのこともね」
「楽しみにしてだね」
「行きましょう、今日の放課後に」
「それじゃあね」
「オズマ姫お元気かな」
 神宝はこの人の名前を出しました。
「ドロシーさんも」
「元気に決まってるじゃない」
 その神宝にです、ジョージは笑って返しました。
「だってオズの国だから」
「皆何時までも若くて死なない」
「そうした国だからね」
 怪我も病気もすることがないからです。
「大丈夫だよ」
「そうだね」
「けれど問題はね」
「一体誰に会えるか」
「そして何が起こるかだね」
 このことが問題だというのです。
「恵梨香の言う通り楽しみにしていよう」
「そうだね、じゃあ今日の放課後」
「皆で時計台にまで行こう」
 そこにある渦の扉からです、オズの国に入ろうというのです。
 そして実際にでした、放課後にでした。
 五人は皆でその時計台に行ってでした、オズの国に行こうとしました。ですが。
 カルロスはふとです、時計台のすぐ傍の茂みのところにです。
 白い長ズボンと黒い靴を着けた足を見ました、それで。
 首を傾げさせてです、皆にその足を指差して言いました。
「この足ってまさか」
「ボタン=ブライト?」
「ひょっとして」
「ええと、まさかと思うけれど」
「オズの国から来たのかしら」
「ううん、まさかと思うけれど」
 首を傾げさせつつ言うカルロスでした。
「ボタンかな」
「それならね」
 恵梨香もその足を見ています、じっと見たままカルロスに言います。
「声をかけてみましょう」
「それでだね」
「ええ、起きてもらって」 
 そしてというのです。 

 

第一幕その二

「お話を聞きましょう」
「それじゃあね、ねえ」
 恵梨香の提案を聞いてです、カルロスは。 
 すぐにです、足の主に声をかけました。
「起きてくれるかな」
「何?」
 返事がすぐに返ってきました。
「誰か僕を読んだの?」
「この声は」
 すぐにです、神宝はその声で気付きました。
「間違いないね」
「うん、ボタンだね」
 ジョージにもわかりました。
「彼の声だよ」
「そうだよ、僕はね」
 声の主は起き上がってでした、指で目をこすりながら出てきました。白い水兵さんの服を着た男の子が。
 男の子はあらためてです、五人に言いました。
「ボタン=ブライトだよ」
「久しぶりだね」
 カルロスがボタンに応えます。
「元気そうだね、君も」
「あっ、君達だったんだ」
 ボタンは五人を見て頷きました。
「誰かなって思ったけれど」
「僕達これからオズの国にいるけれど」
「あれっ、ここオズの国じゃないの?」
「うん、僕達の世界だよ」
「そうなんだ」
「どうして僕達の世界にいるの?」
 カルロスはボタンにです、あらためて尋ねました。
「僕達これからオズの国に行くつもりだけれど」
「わかんなーーーい」
 これがボタンの返事でした。
「寝ていて起きたらね」
「ここにいたんだ」
「そうなんだ」
「いつもこうなのよね、この子」
 ナターシャは首を傾げさせています、ただお顔はいつもの通りクールなポーカーフェイスのままです。
「寝ていて起きたら」
「思わぬところにいるんだよね」
「毎回ね」
 ジョージと神宝も言います。
「それで今回もだね」
「しかも外の世界に来ているんだ」
「まあかかしさん達も」
 恵梨香は最初にかかしさん達を見たことを思い出しています。
「オズの国に出ていたから」
「扉から出てね」
 カルロスが恵梨香に応えます。
「そうだったね」
「だったらこの子もね」
「寝ているうちになんだ」
「オズの国をね」
「出ていたんだ」
「そうじゃないかしら」
「夢遊病?」 
 ふとです、神宝はこう言いました。
「ボタンは」
「だから寝ていてもだね」
「うん、移動してるのかな」
「そうなのかな」
 ジョージはボタンの言葉に考え込みました、
「確かにあるかな」
「そうじゃないとね」
「いつも寝ている間に移動しているみたいだからね」
「だからね」
「そうかも知れないね」
「そうだよね」
「まあこのことはね」
 ボタンが夢遊病かどうか、カルロスが言うには。 

 

第一幕その三

「ボタン本人もわからないかな」
「うん、僕もね」 
 そのボタンの言葉です。
「いつも気付いたらだよ」
「その場にいるよね」
「そうなんだ」
「だからだね」
「いつもわからからないんだ」
 そうだというのです。
「どうしてその場にいるのか」
「そうだね」
「だから僕がわからないのはね」
 いつも聞かれてそう答えるには理由があったのです。
「そうしたことなんだ」
「寝ているとね」
「その間はね」
 ずっとというのです。
「わからないよ」
「そうなるんだね」
「うん、とにかくね」
「君は、だよね」
「起きている時のことはわかるけれど」
「寝ている間のことはわからないね」
「そういうことだよ」
 こうお話するのでした。
「だから僕はどうして今自分がここにいるのかはね」
「わからないんだね」
「そうなんだ」
「そのことはわかったよ、それじゃあね」
「それじゃあ?」
「君もオズの国にね」
 こうボタンに言うのでした。
「行く?君の場合は戻るになるね」
「そうだね、気付いたらここにいたから」
「一緒に行く?僕達と」
「僕もオズの国好きだよ」
 オズの国に生まれ育っているだけにです、ボタンはオズの国の全てが好きなのです。それこそあらゆるものも場所もです。
「だからね」
「戻るね」
「そうするよ、じゃあ」
「うん、今からね」
「君達と一緒にだね」
「行こう、扉までね」
 オズの国に行くその渦の扉にです。
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆はボタンと一緒にでした、扉のところまで行ってでした。扉をくぐって。
 オズの国に到着しました、ですがその場所は。
 皆がはじめて来た場所でした、砂浜で奇麗なマリンブルーの海が見えます。
 その海を見てです、カルロスは皆に言いました。
「とりあえず端っこみたいだね」
「ええ、オズの国のね」
 ナターシャがカルロスの言葉に応えます。
「そうね」
「オズの大陸の」
「ただ問題は」
「うん、ここが何処がだね」
「何処なのかな」
「赤い草が生えているわ」
 恵梨香はジョージの服と同じ色の草をです、砂浜から離れた場所にある草原に気付きました。そこを指差して皆に言うのでした。
「ということはね」
「ここはカドリングだね」
「そうだね」
 ジョージと神宝も応えます。
「じゃあカドリングの端」
「その海だね」
「ひょっとして」
 ここでこう行ったカルロスでした。
「カドリングの南の海っていうと」
「どうかしたの?」
「リンキティンクさんの国?」
 こう恵梨香に言うのでした。 

 

第一幕その四

「まさか」
「ああ、あの面白い人ね」
「うん、あの人の国かな」
「そういえばリンキティンクさんのお国はね」
「カドリングの国にあるね」
「今はね、だからなのね」
「そう思ったけれどどうかな」
 あらためて言ったカルロスでした。
「ここは」
「あの、ボタン」
 ナターシャは一緒にオズの国に入った彼に尋ねることにしました。
「貴方はわかるかしら・・・・・・あら」
「いないね」
 カルロスはさっきまで自分達と一緒にいた彼がです。
 今はいないことを知ってです、こう言いました。
「また」
「今回も急にいなくなったわね」
「そうだね」
「いつものことだけれど」
 それでもと言うナターシャでした。
「今回もこうだと」
「困るね」
「実際にお話を聞こうと思っていたのに」
 それがというのです。
「いないから」
「困ったことになったね」
「どうしようかしら」
「少なくとも海には出られないから」
 船がないからです、神宝が言うには。
「大陸の内側に行こう」
「そもそも海岸は死の砂漠だから」
 ジョージはその目の前の砂浜の方を見ています、そこがまさになのです。
「行けないしね、だからね」
「うん、内側に行かないとね」
「仕方ないね」
「じゃあ内側に行こう」
「内側に行けば」
 それで、と言うのでした。
「村もあるだろうしね」
「村でお話を聞いて」
「そうしてね」
 ここがオズの国の何処なのかを尋ねることにしました。
 そしてです、五人はです。
 まずは大陸の内側に向かいました、するとです。 
 すぐにです、ボタンがでした。
 皆のところに来てです、こう言ってきました。
「あれっ、皆そこにいたんだ」
「あれっ、いたんだ」
「うん、気付いたらね」
 ボタンは自分に声をかけたカルロスに応えました。
「この草原にいたんだ」
「そうだったんだ」
「そう、それでね」
「僕達がここに来たらだったんだ」
「会ったんだ」
 そうだったというのです。
「何処に行ったのかって思ったよ」
「僕もそう思ったよ」
 カルロスもこうボタンに返しました。
「君が何処に行ったのかってね」
「そうだったんだ」
「心配はしなかったけれど」
 それでもというのです。
「困ったよ」
「困ったの?僕と離れて」
「だってここが何処か聞こうと思ったからね」
「御免ね、別の場所に出て」
「それは君の責任じゃないから謝らなくていいよ」
 それは構わないというのです。 

 

第一幕その五

「別にね、ただね」
「ここが何処かだね」
「わかるかな」
「わかんなーーい」
 これがボタンの返事でした。
「本当に何処なのかな」
「ボタンもわからないんだ」
「そうなんだ」
「それは仕方ないね」
 カルロスはこう言ってです、皆もです。
「ボタンが知らないのなら」
「僕達もね」
「わからないから」
「どうしようもないわね」
「そうだよね、ボタンはオズの国の人だし」
 カルロスは皆にもこのことを言います。
「それでわからないのならね」
「来た記憶はあるよ」
 ボタンはこうは言いました。
「ここにもね」
「カドリングだよね」
 どの国かは尋ねたカルロスでした。
「このことは間違いないよね」
「うん、僕もそのことはわかるよ」
 今度は比較的はっきりと答えたカルロスでした。
「草が赤いからね」
「赤hアカドリングの色だからね」
「そのことは街ないないよ」
「そうだよね」
「けれどね」
 それでもというのです。
「それ以上のことはね」
「わからないんだね」
「海辺ということしかね」
「ううん、何処jなのかな一体」
「だからリンキティンクさんの国じゃないかしら」
 恵梨香がこうカルロスに言いました。
「やっぱり」
「そうかな」
「カドリングの国で海辺だから」
「そうなのかな」
「まずは村を探そう」
 これが神宝の提案でした。
「それからだよ」
「そうだね、村で何処か聞くといいね」
 ジョージは神宝のその提案に頷きました。
「じゃあまずは村を探そう」
「民家でもいいわね」
 ナターシャは二人の言葉を聞いてこう言いました。
「とにかく人に聞きましょう」
「よし、じゃあまずは村なり民家なりを探そう」
 カルロスは皆の意見をまとめて言いました。
「これからね」
「そうだね、それじゃあね」
 ボタンがカルロスのその言葉に頷いてでした。
 そしてです、彼も皆に言います。
「六人で探そう」
「皆はぐれないでいこう」
 カルロスはボタンを見ていました、何しろこの子はしょっちゅうはぐれて何処かに行ってしまう子だからです。
「じゃあ村なり民家を探そう」
「これからね」
 ボタンが応えてでした、そのうえで。
 六人で海辺の辺りを探しました、するとです。
 近くに灯台がありました、そしてその上にです。
 赤いカドリングの服を着たおじさんがいました、カルロスはその人を見付けて皆に言いました。 

 

第一幕その六

「あの人に聞こう」
「そうだね、まずはね」
「あの灯台まで行ってね」
「あの人にここがどの国か聞く」
「それがいいわね」
 ジョージ、神宝、ナターシャ、恵梨香が応えてです。
 そしてです、皆でなのでした。
 灯台に向かいます、そこで。
 ボタンは皆にです、こんなことを言いました。
「灯台は夜に光を出すんだよね」
「ええ、そうよ」
 恵梨香がすぐにです、ボタンに答えました。
「そして船の案内をするの」
「そうだよね」
「灯台は海の道標よ」
「だから必要な場所なんだね」
「そうなの」
「いい場所なんだね、灯台って」
「若し夜に灯台がないと」
 その場合はどうなるかもです、恵梨香はボタンにお話しました。
「船は迷ってしまうの」
「そうしたいい場所なんだね」
「昼は周りが見えるけれどね」
「夜は真っ暗になるからね」
「何処が何処なのかわからなくなるわね」
「見えないとね」
「けれど灯台は光を照らして」
 そうしてというのです。
「そこが何処か船に教えてくれるの」
「そして船は自分達の場所を知ってだね」
「航海出来るのよ」
「だから灯台があるんだね」
「そうなの」
 恵梨香は微笑んでボタンにお話しました。
「だからオズの国にも灯台があるのよ」
「そうなんだね、そういえば」
 今度はジョージが言います。
「僕達オズの国の海には出たことないね」
「海を見たこともだよ」
 神宝はそのジョージにお話します。
「これまでなかったよ」
「そうだね、オズの国の海にはね」
「川や湖は何度も見ても」
「海はなかったね」
「そうだったよ」
「いや、そう考えたら」
「今度のことはね」
 こうしてオズの海を見ていることはというのです。
「はじめてのことだよね」
「そうだよね」
「いや、オズの国の海もね」
「いいものだよね」
「奇麗に青く澄んでいて」
「何時までも見ていたいよね」
「そうね、神戸の海も素敵だけれど」
 ナターシャも微笑んでその海を見ています。
「この海を見ていると飽きないわ」
「ボタンも海は好きかな」
 カルロスは微笑んでボタンに尋ねました。
「水兵さんの服だしね」
「好きだよ、けれどね」
「けれど?」
「確かに僕は水兵さんの服を着ているけれど」
 それでもというのです。
「海に出たことはあまりないんだ」
「そうなんだね」
「オズの国のあちこちを回ってるけれど」
「それでも海は」
「あまりないんだ」
「そうなんだね」
「リンキティンクさんの国にも何度か来たことがあって確かに海に出たこともあるけれど」
 その数自体はあまり多くないというのです。 

 

第一幕その七

「そうなんだよ」
「そうなんだね」
「行くのは川や湖の方が多いかな」
「水兵さんは海だけれどね」
「それでもだよ」
「成程ね」
「あと何かね」
 こうも言ったボタンでした。
「僕この服好きだけれどボームさんに言われたことがあるんだ」
「ボームさんに何て言われたのかな」
「この服は兵隊さんの服だよね」
「水兵さんのね」
「下士官や将校は着ないんだってね」
「あっ、そういえば」
 カルロスも言われて気付きました。
「その服は兵隊さんだけだね」
「着ているのはね」
「その帽子も将校さんは被っていないよ」
「だからあまり偉い人の服じゃないんだって」
「実際にそうみたいだね」
「そうなんだね」
「まあ僕は偉くなるつもりもないし」
 そうした考えはボタンにはありません。
「ずっとこのままだしね」
「オズの国の子供のね」
「だからね」
「水兵の服で充分なんだね」
「僕にはやっぱりこの服だよ」
 にこりと笑ってその水兵さんの服を見て言いました。
「この服が一番だよ」
「似合ってるしね」
「凄く似合ってるよね」
「そのことは誰が見てもだよ」
 ボタン程水兵さんのセーラー服が似合う子はいません、白いすっきりとしたその服が本当によく似合っています。
「似合ってるよ」
「だからね」
「水兵さんのままでだね」
「いいよ」
「じゃあ水兵さん」
 カルロスは笑ってボタンに愛嬌のある声で言いました。
「今から灯台に行こう」
「了解、隊長」
「いやいや、僕は隊長じゃないよ」
 このことはくすりと笑って否定しました。
「カルロスだよ」
「そうなんだ」
「うちのリーダーは別にいないから」
「強いて言うならナターシャ?」
「そうなるかな」
 神宝とジョージはナターシャを見て言いました。
「いつも僕達を引っ張ってくれるから」
「まとめ役みたいな感じでね」
「リーダーは恵梨香じゃないかしら」
 ですがナターシャは恵梨香を見て言います。
「私達のリーダーは」
「私なの?」
「だって皆のお母さんみたいな存在だからな」
「私がお母さんって」
「恵梨香がいると安心出来るから」
 それでというのです。
「私達のお母さんでね」
「リーダーっていうの」
「そうじゃないかしら」
「そうかしら」
 首を傾げさせてです、恵梨香はナターシャのその言葉に応えました。
「私は皆のリーダーなの」
「私達五人のね」
「そうしたことはね」
「あまり、なのね」
「思ったことはないけれど、それもこれまで一度も」
「そうだったの」
「というか誰がリーダーとかは」
 そうした考え自体がというのです。
「ないんじゃないかしら、ただね」
「ただ?」
「その都度引っ張る子は違うわよね」
 その場その状況によってというのです。 

 

第一幕その八

「私達は」
「私がそうなる時があれば」
「ジョージの時もあるし神宝の時もあるし」
 二人も見て言います。
「今はカルロスがそんな感じだね」
「言われてみればそうかな」 
 カルロスは恵梨香に言われて確かにそうではないかと考えました、確かに自分が今は一番あれこれしようと言っているからです。
「今は僕かな」
「そうじゃないかしら」
「僕が思うにジョージが実働部隊で神宝が考えてナターシャがまとめて」
 そしてというのです。
「恵梨香が和ませ役で僕はムードメーカーかな」
「それそれっていうのね」
「そんな感じかな」
 こう恵梨香に言うのでした。
「普段はね、そしてオズの国ではね」
「どうなっているかしら」
「いつもドロシーさん達と一緒に遊んだり冒険していて」
「ドロシーさん達がなのね」
「僕達のリーダーになってるかな」
「そうなるかしら」
「うん、僕はそう思うけれどね」
 こう恵梨香に言うのでした。
「あくまで僕の思うところだけれどね」
「そうなのね」
「それでね」
 さらに言うカルロスでした。
「僕達の間ではリーダーはその都度変わるね」
「その場によって」
「そんな感じかな」
「私達はそれぞれのタイプがあって」
「それに合わせてリーダーが決まってるかな」
「いつも決まってるのじゃないのね」
「僕もナターシャが僕達のリーダーかなって思った時もあるけれど」
 それはといいますと。
「その都度違うからね」
「私別に皆に指図しないわよ」
 ナターシャ本人の言葉です。
「そういうことしないから」
「そうだよね」
「僕は気付いたことを皆に言ってるだけで」
 神宝も言います。
「思ったことの場合もあるけれど」
「僕はまず自分が動けが信条だからね」 
 今度はジョージです。
「身体を動かいてね」
「私は皆に優しくしなさいって」
 最後に言ったのは恵梨香です。
「お祖母ちゃんやお母さんに教えられてるから」
「そうだよね、皆それぞれのタイプがあって」
「リーダーはね」
「いないね、いつも決まってる子は」
 カルロスはまた恵梨香に答えました。
「僕達の間では」
「そうなるわね」
「まあそういうグループだよ、僕達は」
「リーダーは常に変わる」
「強いて言うならドロシーさんかな」
 くすりと笑って言ったカルロスでした。
「僕達のリーダーは」
「あの人なのね」
「一番よく一緒に冒険して」
 それにというのです。 

 

第一幕その九

「いつも的確に僕達を引っ張ってくれるからね」
「確かにね」
「ドロシーさんがいたらね」
「いつも僕達を確かに導いてくれるから」
「凄く頼りになるね」
「だからドロシーさんかな」
 自分達五人のリーダーはというのです。
「そうなるかな」
「ドロシーならね」
 ボタンはドロシーと聞いて言うのでした。
「今も僕達を見ている筈だよ」
「王宮の鏡でだよね」
「オズの国のあらゆるところを見られる鏡でね」
「じゃあ僕達が今オズの国に来たことも」
「知ってると思うよ」
「そうだよね、やっぱり」
「うん、だからドロシーを心配させないようにしよう」
 すぐにこうも言ったボタンでした。
「危ないことをしたりしてね」
「そうだね、そのことはね」
「気をつけないとね」
「その通りだね」
「じゃあね」
「うん、まずは灯台守さんに聞こう」
 灯台にいるそのカドリングの赤い服を着たおじさんです。
「この国がどの国かね」
「カドリングの国なのは間違いないしにしてもね」
「それからだね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆で灯台のすぐ下に来てでした、おじさんに尋ねました。
「すいません」
「少しいいですか?」
「どうしたんだい?」
 おじさんは下から言って来た皆にすぐに応えました。
「そこにいるのはボタンの坊やじゃないか」
「僕のこと知ってるの?」
「御前さんは有名人だからね」
 それで、という返事でした。
「そのセーラー服でわかったよ」
「そうだったんだ」
「それで何の用だい?」
「ここはどの国なの?」
 ボタンはおじさんに自分達が知りたいことを尋ねました。
「カドリングの国なのはわかったけれど」
「リンキティンク王の国だよ」
「やっぱりそうなんだ」
「そうだよ、この国はね」
「そうだったんだね」
「それでわしはこの灯台で守をしているんだ」
 つまち灯台守さんだというのです。
「それがわしの仕事さ」
「そうなんだね」
「とはいってもここにいるだけで」
 その灯台にというのです。
「夜になれば自然と光が点くからな」
「その灯台にいるだけなんだ」
「文字通りの灯台守さ」
 笑ってこうボタンに言うのでした。
「何でもないさ」
「楽なの?」
「楽だね、ここで寝泊りしているだけだから」
「毎日そこで寂しくないの?」
「相方がいてそいつと一日交代なのさ」
「休日はなんだね」
「楽しくしてるさ、それにな」
 さらに言うおじさんでした。
「家が傍にあるからな」
「おじさんのお家がだね」
「そこから毎食女房が弁当を持って来てくれるんだよ」
「そうなんだね」
「それもとびきり美味いのをな」 
 笑って言うおじさんでした。
「だから何も困っていないさ」
「寂しくもないんだね」
「ああ、ここで昼は大好きな海を見て夜は寝る」
 それがというのです。
「わしの仕事だよ、そして朝日を見て朝飯を食って」
「それでだね」
「相棒と交代して家に戻る」
「そうした生活なんだ」
「そうさ、わしのこともわかったかな」
「うん、よくね」
 ボタンはおじさんに笑顔で頷いて答えました。
「それがおじさんのお仕事なんだね」
「このリンキティンク王の国に住みながらな」
「それでおじさん」
 今度はカルロスがおじさんに尋ねました。 

 

第一幕その十

「リンキティンク王ですけれど」
「王様がどうかしたのかい?」
「お元気ですか?」
「元気も元気だよ」
 笑って言うおじさんでした、リンキティンク王のことも。
「元気過ぎてね」
「それで、ですか」
「もう少し静かだったらって思う位だよ」
「そうなんですね」
「あんた達はうちの王様に会ったことはあるかい?」
「いえ、それがなんです」
 カルロスは正直に答えました。
「あの人にお会いしたことはないです」
「そうなんだね」
「ただよく聞いてます」
「うちの王様のオズの国の有名人の一人だからね」
「はい、それでなんです」
「困った位に朗らかでね」
 笑って言うおじさんでした。
「それで騒がしい位に笑ってるよ」
「やっぱりそうなんですね」
「ああ、相変わらずだよ」 
 本当に、という声でした。
「いいのか悪いのかっていうといいけれど」
「騒がしい」
「そうだよ」
「そうですか」
「今この国にいるよ」
「何処にも行かれずにですね」
「ご自身の王宮で今日も笑っておられるさ」
 それがリンキティンク王だというのです。
「じゃあ今から行くかい?」
「そうですね」
 ここで、です。カルロスは。 
 皆に顔を向けてです、そのうえで尋ねました。
「そうする?」
「そうね、やっぱりな」
「あの方のお国だし」
「あの方にお会いして」
「挨拶はしておかないと」
「やっぱりそうだよね」
 カルロスは皆の言葉に頷いてです、そして。
 おじさんに顔を戻してです、こう言いました。
「そうします」
「僕もだよ」
 ボタンもおじさんに答えました。
「そうするよ」
「よし、じゃあ王宮まで行くんだな」
「リンキティンク王が王宮にいるのならね」
「王宮までの場所はわかるかい?」
「わかんなーーい」
「じゃあ地図をやるよ」
 ボタンの問いに笑って返したおじさんでした。
「今からそっちに降りるから待ってくれよ、地図を持って来るな」
「そこを離れてもいいの?」
「灯台の傍にいればいいからな」
 おじさんの灯台守としてのお仕事はというのです。
「だからな」
「いいんだね」
「ああ、じゃあ今から行くな」
「それじゃあね」 
 こうしてです、おじさんはです。
 すぐに皆のとことに来てくれました、その手に地図を持って。
 それはリンキティンク王の国の細かい地図でした、しかもです。
「カドリング全体の地図もですね」
「ついでだからな」
 おじさんはカルロスに笑って応えました。 

 

第一幕その十一

「やるよ」
「すいません」
「いいさ、御前さん達この国に来たのははじめてだろう?」
「はい、ボタン以外は」
「だったらな」
「カドリングの地図もですか」
「そっちもやるよ」 
 こう言ってくれたのでした。
「だから持って行きな」
「すいません、カドリングのことは詳しいつもりですけれど」
「しかしそれは王宮からの道だよな」
「都の」
「それならだよ、ここからカドリングの中に行くのは慣れてないならな」
 それならというのです。
「だからな」
「この地図を持って行ってですか」
「行けばいいさ」
「それじゃあ有り難く」
「ああ、持って行きなよ」
 その地図をというのです。
「そうしなよ」
「わかりました」
 カルロスはおじさんの言葉に笑顔で頷きました、こうしてでした。
 一行は地図を貰ってです、そのうえでまずはリンキティンク王の宮殿を目指すのでした。そして宮殿の方にです。 
 少し歩いていくとでした。皆の前にです。
 赤い木々の林が見えました、その林を見てでした。
 ボタンは五人にです、こう言いました。
「あの林の木はお弁当の木だよ」
「あっ、そうだね」
 その通りだとです、カルロスはボタンに応えました。
「あの木はね」
「もうお昼だしね」
「丁度お腹も空いてるよね」
「うん、それじゃあね」
 カルロスもボタンの言葉に頷いてです。
 皆にお顔を向けてです、こう提案しました。
「じゃあ今から」
「ええ、それじゃああの林まで行って」
「お昼にしましょう」
「それぞれお弁当を手に取って」
「皆で食べよう」
「早く行こう」
 ボタンは陽気に皆に声をかけます。
「そして食べよう」
「うん、今からね」
 カルロスが五人に応えてでした、そのうえで。
 皆はそのお弁当の木の林のところまで行ってでした。それぞれそのお弁当を手に取りました。そのブリキの箱を開けますと。
 パンにです、コールドチキンと。
 それに無花果が付いていてです、葡萄のジュースもあります。
 そのお弁当を見てです、恵梨香はにこりと笑って言いました。
「美味しそうね」
「うん、しかも量も多いしね」
「パンも鶏肉もね」
 ジョージと神宝もその大きなお弁当箱を開けて言います。
「無花果も三個も入っていて」
「全部食べたらお腹一杯だね」
「そうね、それじゃあね」
 ナターシャも微笑んでいます、そのお弁当箱を開けて。
「皆で食べましょう」
「じゃあこれから食べよう」
 勿論ボタンもお弁当箱を開けています。
「お弁当をね」
「いただきますをして」
 恵梨香はそこから言うのでした。
「食べましょう」
「それは忘れたら駄目だよね」
 カルロスも恵梨香に応えます。
「食べる前には」
「食べる前にはいただきますで」
「食べたらね」
「ご馳走様よ」
 この二つは忘れたら駄目だというのです。 

 

第一幕その十二

「絶対にね」
「そうだね、じゃあね」
「まずは」
 実際にでした、皆で。 
 いただきますをしてです、お弁当を食べました。パンもコールドチキンもとても柔らかくてしかも味もとてもよくてです。
 ボタンはにこりとしてです、こんなことを言いました。
「ほっぺたが落ちそうだよ、僕」
「美味しくてだよね」
「うん、そうだよ」
 だからだとです、カルロスに答えるのでした。
「本当に美味しいから」
「確かにそうだね」
 カルロスもボタンの言葉に頷きます。
「このお弁当は美味しいね」
「かなりね」
「いや、パンもいいし」
 それにというのです。
 カルロスはお弁当に付いていたフォークでコールドチキンを取ってお口の中に入れて味わいつつ言ったのでした。
「鶏肉もいいね」
「そうだよね」
「無花果もあるしね」
 デザートのです。
「ジュースもあるから」
「たっぷり楽しめるね」
「いいお昼だよ」
 こう言ったのでした。
「じゃあこれを食べて」
「それからだよね」
「リンキティンク王の宮殿に行こう」
「リンキティンク王はね」
 その人はといいますと。
「僕は会ったことあるけれど」
「いつも笑ってるんだよね」
「悪戯好きでね」
「そうした人とは聞いてるよ」
「困った人って言う人もいるけれど」
 それでもというのです。
「あの人はね」
「明るくてだね」
「面白い人だよ」
「それじゃあね」
「これからあの宮殿に行こう」
「これからね」
 こうしたことをお話しつつです、そうして。
 皆でお弁当を食べてからでした、皆はあらためてリンキティンク王の国に向かいました。今回の冒険がはじまろうとしていました。 

 

第二幕その一

                 第二幕  リンキティンク王の宮殿
 オズマはこの時エメラルドの都の自分の宮殿においてです、オズの国のどんな場所でも自分が見たい場所を見られる鏡のあるお部屋にいました。
 そこでいつも通りオズの国を見回そうとしていましたら。
 ドロシーがです、トトを連れてオズマのところに来て言ってきました。
「オズマ、あの子達が来たらしいわよ」
「あの五人の子達が?」
「ええ、そうみたいよ」
「あら、けれど」
 そうドロシーに言われてです、オズマは。
 少し微妙なお顔になってです、こう言いました。
「王宮には来てないわね」
「今回は別の場所に出て来たみたいよ」
「何処にかしら」
「さっきグリンダから連絡があったけれど」
「グリンダの本に書かれたのね」
「そう、あの子達は今回はリンキティンク王の国に出たらしいわ」
 ドロシーはこうお話しました。
「あの人の国にね」
「あの人のなのね」
「そうなのよ」
「いつもは王宮に出て来るのにね」
「大抵はね」
「渦の扉も少し気まぐれだから」
「あちらの世界からこちらの世界に入る時は時々」
 ドロシーも言います。
「この王宮以外の場所に出て来るわね」
「そうよね」
「それで今回はね」
「リンキティンク王の国ね」
「今からあの人の宮殿に向かうそうよ」
「五人だけで?」
 オズマはドロシーに彼等自身のことも尋ねました。
「リンキティンク王の宮殿に向かっているの?」
「いえ、それがね」
「誰か一緒なのね」
「ボタン=ブライトと一緒みたいよ」
「そういえばあの娘昨日まで王宮にいたけれど」
 オズマはボタンのことにも気付きました。
「今はね」
「ええ、今朝から王宮にいなかったけれど」
「また何時の間にか寝ている間に」
「何処かに移っててね」
「あの子達と一緒になったのね」
「そうみたいね」
「六人ね、けれど」
 オズマはこのことまで確かめてでした、そのうえで。
 腕を組んで考えるお顔になってです、ドロシーに言いました。
「ボタンだけだと」
「頼りないわよね」
「あの子はすぐにわからないだから」
 こう言うからというのです。
「子供だし」
「子供が六人だけだとね」
「幾ら五人がしっかりしていても」
 それでもというのです。
「限度があるわ」
「何かと大変よね」
「だからね」
 それでというのです。
「誰かが行かないとね」
「どういった冒険になるかだけれど」
「ええ、助けてあげないと駄目よ」
「そうね、じゃあ今からリンキティンク王の国にね」
「行ってそこであの子達と合流して」
「助けてあげましょう」
 ドロシーはオズマににこりと笑って言いました。
「そうするべきよね」
「ドロシーの言う通りよ、ではね」
「これから誰かに行ってもらいましょう」
「それじゃあ今回は」
 鏡で、です。オズマはカルロス達の姿を確認しました。確かにボタンと一緒にリンキティンク王の宮殿に向かっています。
 その彼等を見てです、オズマはドロシーににこりと笑って言いました。
「ここは私が行くわ」
「オズマがなの」
「ええ、最近冒険に出ていなかったし」
 それにというのです。 

 

第二幕その二

「リンキティンク王に会っていなかったら」
「訪問の意味も含めてなのね」
「行って来るわ」
「そうするのね」
「これからね」
「わかったわ、じゃあ留守の間はね」
 ドロシーはオズマの言葉を受けてです、この娘もにこりと笑って返しました。
「私がオズマの代わりをしてるわ」
「オズの国の王女としてよね」
「ええ、だからオズマはね」
 冒険に出ている間はというのです。
「冒険に出てね」
「そうさせてもらうわ」
「今は王宮にかかしさんと木樵さんも来ているから」
 ドロシーが頼りにしているこのお二人にです。
「ライオンさんもいるし」
「万全ね」
「ええ、だから留守は任せてね」
「それじゃあね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 今回はオズマが冒険に出ることになりました、そのことを決めてです。
 出発となりましたがその時にです。
 見送りの時にかかしがです、オズマに言いました。
「必要なものは全部持ったけれど」
「テーブル掛けに折り畳み式のテントもね」
「オズマ一人で行くのはね」
「うん、危ないね」
 木樵も言いました。
「それはね」
「だから誰かと一緒に行くべきだよ」
「けれど今はね」
 ライオンは見送りの皆を見回します、今はドロシーと彼等だけです。
「他の皆は魔法使いさんと一緒にムシノスケ教授の王立大学に行ってるかそれぞれ冒険に出ていていてね」
「私はいるけれど」
 ジュリア=ジャムはいますが。
「他の皆はね」
「うん、誰かがオズマと一緒に行くにしてもね」
 かかしがまた言います。
「誰もいないからね」
「どうしたものかな」 
 木樵も腕を組んで考えるお顔になって言います。
「これは」
「さて、どうしたものかな」
「オズマだけで行くのはよくないし」
「かといって誰もいないしね」
「僕じゃ駄目かな」
 王室の歴史編纂を担っているボームさんがここで皆に言ってきました。
「姫と一緒にね」
「ボームさんは歴史書を編纂してもらわないといけないから」
 ドロシーはボームさんに残念そうに言いました。
「だから」
「駄目なんだね」
「ええ、どうしたものかしら」
「私一人じゃやっぱり」
 オズマも考えるお顔になっています。
「問題があるわね」
「ええ、本当に誰かが一緒じゃないとね」
「よくないわね」
「どうしたものかしら」
「王宮には僕達が残らないといけないから」
 かかしは王宮の留守役は残しておかないと、というのです。
「だからね」
「うん、オズマが行くにしてもね」
 木樵も困ったお顔のままです。
「オズマだけだとよくないよ」
「モジャボロさんもチクタクも腹ペコタイガーも」
 それこそ王宮にいつもいるその人達がです。
「いないから」
「王立大学に行って」
「だったら」
 ここで言ったのはジュリアでした。 

 

第二幕その三

「私が行こうかしら」
「貴女がなの」
「ええ、私はいつも姫様と一緒だし」 
 このことはドロシーと一緒です。
「姫様お付きの侍女でもあるから」
「こうした時はっていうのね」
「私が行けばどうかしら」
「そうね」
 少し考えてからでした、ドロシーはジュリアに答えました。
「お願い出来るかしら」
「それじゃあね」
「それと今はトロットとハンク、ベッツイと船長さんもそれぞれ冒険に出ていないけれど」
「それでもよね」
「ジャックのところに遊びに行っている木挽の馬が戻って来るから」
「もうすぐね」
「馬とジュリアと一緒にね」
 このパーティーでというのです。
「行けばいいかしら」
「それじゃあ私と馬がね」
「ええ、オズマのお供をして」
「そうするわね」
「オズマもそれでいいかしら」
 ドロシーはジュリアとお話をしてからでした、そのうえで。 
 オズマにもです、こう尋ねました。
「それでいいかしら」
「ええ、私はね」
 にこりと笑って答えたオズマでした。
「そうさせてもらうわ」
「それじゃあね」
「三人で行くわ」
「もうすぐ馬が帰って来るから」
「馬に乗ってリンキティンク王の宮殿まで行って」
「あの子達を待つわ、それでね」
 ボタン達に会ってからのこともです、オズマは言及しました。
「あの子達と今回はどうするか」
「それもお話するのね」
「この王宮まで来て遊ぶのもいいし」
「他にもよね」
「ええ、冒険もいいから」
「まずはあの子達と会ってからね」
「それから次第だね」
「あれっ、皆集まってどうしたの?」
 さっきまでおトイレに行っていたトトがでした。皆のところに来て尋ねてきました。
「いないから何処に行ったのかって探してたのに」
「あら、トト」
 ドロシーはトトに気付きました。
「貴方さっきまでいたのに」
「それがおトイレに行ってたから」
「ここにいなかったのね」
「そうだよ、そういえばドロシー鏡のお部屋でオズマと冒険のお話してたね」
「さっきはね」
「それでオズマが冒険に出るんだね」
「ジュリア、それに馬と一緒にね」
 この三人でというのです。
「カルロスやボタン達を迎えに行くのよ」
「あの人の宮殿ならね」
 そう聞いてです、トトが言うことはといいますと。
「今ガラスの猫とビリーナもいるよ」
「あっ、そういえばこの前一緒に行ったわね」
「つぎはぎ娘と一緒にね」
「忘れたわ、あの娘達も冒険に出ていてね」
「いないんだよね」
「エリカも一緒だったわね」
 あの猫もです。
「そうだったわね」
「そう、四人はいないよ」 
 つぎはぎ娘達はというのです。 

 

第二幕その四

「今はね」
「そうだったわね」
「そう、だからね」
「あの人の宮殿に行けば」
「あの娘達もいるから」
「カルロス達を迎えられるわね」
「そうなるね」
「ああ、そうなるとね」
 そのお話を聞いてです、かかしはこう言いました。
「あの宮殿は今相当に賑やかだね」
「そうね、あの王様にね」
 ドロシーもかかしに応えます。
「つぎはぎ娘にガラスの猫にビリーナもいるから」
「しかもエリカも賑やかだし」
 この猫も結構喋るのです。
「賑やかよね」
「そうだね」
「その賑やかな場所にだね」
 木樵も言います。
「オズマ達が行くんだね」
「そうなるわね」
 ドロシーも木樵に応えます。
「今回は」
「そうだよね」
「そしてカルロス達もね」
 ライオンが言った言葉です。
「そうなるね」
「そうよね」
「ただ」
 ここでトトは心配になったことがありました、それは何についてかといいますと。
「ボタン=ブライト大丈夫かな」
「また急に何処かに行くか」
「彼はいつもだからね」
「すぐにいなくなるのよね」
 ドロシーものことを知っていて言います。
「あの子って」
「そうだよね」
「いつも急に出て来てね」
「急にいなくなるから」
「相変わらずね」
「だからだよ」
「カルロス達と一緒にいても」
 今はそうであってもというのです。
「いなくなったりすることも」
「普通にあるわよ」
「そうなんだよね」
「そのことは大丈夫かしら」
「そのことはね」
 オズマがドロシー達に言うことはといいますと。
「言ってもね」
「仕方ないっていうのね」
「あの子はそうした子だから」
 いつも急に出て来て急にいなくなる子だからというのです。
「心配しても仕方ないわ」
「そうなるのね」
「だから私はあの子がそうなってもね」
「仕方ないってことで」
「まずはカルロス達を迎えに行くわ」
「そうするのね」
「これからね」
 こう言ってでした、オズマは王宮の正門のところ今皆が集まっているところで。
 馬が戻ってきたのを見てです、彼に事情を話しました。
 するとです、馬はすぐに答えました。
「それじゃあね」
「一緒に来てくれるのね、私達と」
「というかね」
「というか?」
「オズマとジュリアは僕の背中に乗って」 
 そしてというのです。
「すぐにね」
「リンキティンク王の宮殿まで」
「行こう」 
 こう提案するのでした。 

 

第二幕その五

「これからね」
「そうね、貴方の背中に乗れば」
「すぐにだよ」
 それこそというのです。
「行くことが出来るから」
「あっという間にね」
「もう今すぐにだよ」
「あの人の宮殿まで行けるわね」
「それでどうかな」
「わかったわ」
 オズマはにこりと笑って馬に答えました。
「それじゃあね」
「うん、僕の背中に乗って」
 オズマだけでなくジュリアにも言いました。
「そしてすぐに行こう」
「では今から」
「行って来るわ」
 オズマとジュリアはドロシー達に挨拶をしました。
「そしてリンキティンク王の宮殿で」
「カルロス達と会って来るわ」
「ええ、わかったわ」
 ドロシーがにこりと笑って二人に応えました。
「じゃあ皆がいない間はね」
「留守番お願いね」
「そうさせてもらうわ」
 こう和気藹々と挨拶をしてでした。
 オズマはジュリア、そして馬と一緒にです。リンキティンク王の国に向かって出発しました。馬は風の様に速く進んで、でした。
 あっという間にリンキティンク王の宮殿まで着きました。そして宮殿の門番の兵隊さんにオズマが馬から降りて尋ねました。
「リンキティンク王はおられるかしら」
「これはオズマ姫」
 兵隊さんはオズマの突然の訪問に少し驚いて言いました。
「今日は何の御用で」
「ここに私の友達が来る筈だから」
「お迎えに参られたのですか」
「そうなの、それでね」
「我が王にもですね」
「お話しようと思って来たけれど」
「王でしたら」
 兵隊さんはすぐに答えました。
「中にボボ王子とです」
「いるのね」
「今も賑やかに過ごされていますよ」
 兵隊さんはオズマににこりと笑ってお話します。
「つぎはぎ娘さん達と一緒に」
「ガラスの猫、それにエリカとよね」
「そうです、お客様達と一緒に」
 そうしてというのです。
「明るく笑っておられますよ」
「そこはいつも通りね」
「毎日明るく過ごされていますが」
「今日もということね」
「はい、そしてその王様を見てです」
 兵隊さんも明るく言います、見ればとても派手な軍服を見た気さくな感じの人です。
「私達も笑顔になります」
「そういうことなのね」
「では今からですね」
「ええ、リンキティンク王にね」
「それでは」
 こうしてでした、兵隊さんが門を開いてです。
 オズマ達はリンキティンク王の賑やかな宮殿の中に入りました。その宮殿の中に入ってです。
 ジュリアは首を傾げさせてです、こんなことを言いました。
「何かこの宮殿は」
「おもちゃ箱の中だね」
「そんな感じがするわ」
 こう木挽の馬に言いました。 

 

第二幕その六

「どうもね」
「そうだね、確かにね」
「貴方もそう思うわね」
「どうもね」
 馬も同じ意見でした。
「ここはね」
「お掃除はされてるけれど」
「妙に散らかってる感じがして」
 そしてです。
「色々なものがあって」
「それも遊ぶ為のものがね」
「色もカラフルでね」
「本当におもちゃ箱の中みたいだね」
「そうよね」
「リンキティンク王の趣味だね」
 この宮殿の主であるその人のです。
「だからね」
「こうした造りなのね」
「中もね」
「そうなのね」
「いや、本当にね」
 馬はこうも言うのでした。
「僕も何度かこの宮殿に来てるけれど」
「おもちゃ箱の中みたいって」
「いつも思うよ」
「私ははじめてだけれど」
 普段は王宮の中で勤めているからです、ジュリアは冒険に出ることは稀です。王宮のことは誰よりも詳しいですが。
「正直驚いてるわ」
「何度見てもね」
「ここはそうなのね」
「ええ、驚くから」
「そうした場所なのね」
「そうなんだ」
「あの人はね」
 オズマも言います。
「お掃除はしても散らかってる感じが好きだから」
「それでなんですね」
「そう、こうしてね」
「いつも宮殿をこうした感じにしてるんですか」
「そうなの」
 こうお話してでした、そして。
 皆で王様の間に行きます。リンキティンク王の部屋に。
 王様のお部屋なのにです、そこは子供部屋みたいでした。おもちゃがあちこちにあってそして賑やかな音楽が奏でられていて。
 そしてです、小柄で禿げた光る頭の上に金色の王冠を被った王様の服を着た白い口髭の人がつきはぎ娘達と一緒に遊んでいました。
 その人は踊るつぎはぎ娘を見てです、玉座で拍手をして笑っています。
「ホッホッホ、面白い面白い」
「そんなにあたいの踊りがいいのね」
「最高じゃよ」
 こうつぎはぎ娘に言うのでした。
「あんたの踊りは上手でじゃ」
「愉快っていうね」
「愉快、愉快じゃ」
 本当にというのです。
「しかも幾らでも踊れるな」
「あたいは疲れることがないしね」
「寝ることもなくじゃな」
「そうよ、あたしは食べることも寝ることもね」
「一切不要じゃな」
「好きな時に好きなことが出来るのよ」
 決して疲れることがないからというのです。
「今もこれからもね」
「だからじゃな」
「そうよ、どんな踊りでもね」
 それこそというのです。
「好きなだけ踊れるよ」
「そしてわしも楽しませてくれる」
「そういうことよ」
「何か王様を見てるとね」
「そうよね」
 ガラスの猫とエリカはそれぞれ丸いボールを弄っています、触れば触る程動くので二匹は夢中になっています。 

 

第二幕その七

「子供みたいね」
「外見は王様でもね」
「随分と遊び好きで」
「悪戯好きで陽気で」
「本当にね」
「子供みたいな人ね」
「王様は童心の人だからね」
 ここでこう言ったのはです。
 頭にターバンを巻いてペルシャ風の立派な身なりをした端整な青年でした。背は高く王様とは好対照な感じです。
「いつもこうなんだよ」
「そうなのね」
「だから子供みたいなのね」
「その童心があるから」
「それでこうした人なのね」
「そうだよ、そして私もね」 
 この人も言うのでした。
「そうした王様といつも一緒にいてね」
「楽しんでるのね」
「ボボ王子も」
「そうなんだ」
 そのボボ王子も言います。
「今みたいにね」
「確か貴方山羊だった時はね」
 ガラスの猫は王子のかつての姿の時を聞きました。
「王様と言い合ってばかりだったのよね」
「あの時の僕は随分と口が悪かったね」
「だからなのね」
「そう、実際にね」
「言い合ってばかりだったのね」
「何かとね」 
 実際にそうだったというのです。
「そうだったんだ」
「そうなのね」
「うん、けれどね」
「今はよね」
「そう、この通りね」
「王様といつも一緒にいて」
「仲良くしてるよ」 
 王子は王様を暖かい目で見ながらガラスの猫にお話します。
「王様は僕の一番の親友だよ」
「そこまでの間柄ね」
「そうだよ」
「それでだけれど」
 今度はエリカが言ってきました。
「お客様よ」
「あっ、これは」
 王子はお部屋の入り口のところを見てでした、すぐにです。
 王様にです、こう言いました。
「王様、お客人ですよ」
「おっ、これは」
 王様はすぐにでした、オズマ達に気付いてです。
 席から立ち上がってです、まずはつぎはぎ娘に言いました。
「踊りは少し中断じゃ」
「あら、どうしたの?」
「新たなお客人が参られた」
「あら、オズマじゃない」
 踊りをぴたりと止めてでした、つぎはぎ娘はです。
 オズマ達を見てです、こう声をあげました。
「どうしたの、一体」
「ええ、実はね」
 オズマが事情をお話しました。そして。
 お話を聞いてです、つぎはぎ娘は楽しそうに言いました。
「カルロス達がここに来るのね」
「ええ、そうなの」
「ボタンと一緒にね」
「あの娘ちゃんと来られるの?」
 エリカは彼のことを気にかけていました。
「しょっちゅういなくなる子だから」
「ええ、あの子のことはね」
 オズマも心配しているお顔です。 

 

第二幕その八

「私も気になってるわ」
「そうよね」
「けれどカルロス達は絶対に来るから」
「この王宮にね」
「あの子達を迎える用意はしておきましょう」
「そうするのね」
「それでリンキティンク王のところに来たのよ」
「確かあれじゃな」 
 王様はもう玉座から降りてです、そのうえで。
 オズマ達のところに来てです、こう言うのでした。
「その子達はドロシー達と同じ外の世界から来た子達じゃな」
「そうよ、それで時々ね」
「オズの国にも来るのじゃな」
「そうした子達なの」
「そしてその子達をこの宮殿に迎えるのじゃな」
「そうしていいかしら」
「願ってもない話じゃ」
 王様は明るく笑って言いました。
「客人が来れば来る程賑やかになる」
「貴方にとってもいいお話ね」
「そして楽しく飲み食い出来る」
 そちらも楽しめるというのです。
「ではその子達の為にも出迎えの準備もしておこう」
「為にも?」
「オズマ姫達も来られたのじゃ」
 王様はオズマ達もというのです。
「今から歓待させてもらわないとな」
「私達にもなのね」
「さあさあ、早速じゃ」
 王様は両手を叩いて明るく言います。
「ご馳走を食べよう」
「今日は何を召し上がられますか?」
 王子はオズマ達に挨拶をしてから王様に尋ねました。
「それで」
「うむ、ハンバーグにじゃ」
 それにと答えた王様でした。
「ホワイトシチュー、ポテトサラダにじゃ」
「それにパンですね」
「ケーキもジュースもじゃ」
 デザートのことも忘れていません。
「たっぷりと出してじゃ」
「これから皆で食べてですね」
「楽しもうぞ」
「それでは今から」
「うむ、食堂で皆で食べてな」
 そうしてというのです。
「歓待じゃ」
「何か来てすぐにそうしてもらうなんて」
 それこそと言うオズマでした、くすりと笑って。
「悪いわね」
「ほっほっほ、この宮殿でのご法度はじゃ」
 他ならぬ王様が決めたことです、宮殿の主の。
「遠慮はせぬこと」
「だからなのね」
「うむ、姫様達も遠慮はせずにじゃ」
 それにというのです。
「存分に楽しまれよ」
「それじゃあ」
「ご馳走を食べてからな」
 それからのこともお話する王様でした。
「皆で遊ぼうぞ」
「そうしながらっていうのね」
「その子達を待とうぞ」
「それじゃあね」
「この宮殿のハンバーグは最高じゃ」 
「そしてそのハンバーグを食べて」
「遊びも楽しもうぞ」
 こうしたことをお話してでした、皆でです。
 食堂で楽しく食べてでした、それから王様のお部屋に戻って皆で楽しく遊びます。それでつぎはぎ娘はまた踊りはじめました。
 その踊りを見ながらです、馬は王子に言いました。 

 

第二幕その九

「王様と王子はあの子達に会ってないよね」
「うん、まだね」
「そうだよね、じゃあね」
「今回はだね」
「いい機会だよ」
「あの子達に会うね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「楽しみにしていてね」
「そうさせてもらっているよ」
「王様はもうかな」
 馬は王子と一緒に今は玉座から降りてつぎはぎ娘の踊りを観ている王様にも尋ねました。
「楽しみかな」
「うむ、実にな」
 王様は明るくです、馬に尋ねました。
「楽しみで仕方ないぞ」
「そうなんだね」
「そうじゃ、一体どんな子達かな」
「とてもいい子達だよ」
 馬は王様に彼等のことをお話しました。
「だから楽しみにしておいてね」
「そうしておるぞ、それでな」
「それで?」
「このお菓子も食べてもらう」
 見れば王様は今はポップコーンを食べています、食べながらそのうえでつぎはぎ娘の踊りを観ているのです。
「そして賑やかに楽しんでもらうぞ」
「王様が普段そうであるみたいにだね」
「そうじゃ、しかしな」
「しかし?」
「姫様にも言ったがな」
「遠慮は無用だね」
「わしは一切遠慮せぬしじゃ」
 それにというのです。
「遠慮されることもじゃ」
「好きじゃないんだね」
「だからな」
「この宮殿の決まりにしたんだね」
「誰も遠慮してはならん」
 それこそ宮殿の中に入った人はです。
「一切な」
「それで姫様にも言って」
「うむ、遠慮してもらわなかったのじゃ」
「そうなんだね」
「そしてその子達にもな」
「遠慮してもらわないんだね」
「ボタン=ブライトにもな」
 五人と一緒に遊びに来ている彼にもというのです。
「遠慮はしてもらわんぞ」
「遠慮なく屈託なくだね」
「楽しんでもらう、しかしな」
「しかし?」
「このポップコーンは美味いのう」
 お口の中にどんどん入れて味わいながらの言葉です。
「幾らでも食べられるわ」
「シェフが焼いてくれたんですよ」
「おお、そうなのか」
「はい、王様がそう言われると」
 どうかとです、王子が言うには。
「シェフも喜びますよ」
「そして笑顔になるな」
「はい、心から」
「ならよい、落ち込んでるとそれだけで不幸になる」
「しかし笑っていると」
「それだけで幸せになる」
「だからな」
 だからこそというのです。 

 

第二幕その十

「シェフも喜ぶのならな」
「王様もですね」
「さらに嬉しいぞ、美味いものを作ってもらって食って」
「そしてシェフも喜んで」
「いいことばかりじゃ」 
 まさにというのです。
「わしも楽しいぞ」
「ポッピコーンってそんなに美味しいの?」
 エリカはその王様の横で首を傾げさせています。
「見ていたら前足を出したくなるけれど」
「それでもよね」
 ガラスの猫も言います、エリカと一緒にいて。
「特にね」
「美味しいとは思わないわね」
「そもそもあたし何も食べないし」
 ガラスの身体なので一切食べる必要がないのです。
「あんたもね」
「そうしたものは食べてもね」
「お口に合わないのね」
「そうなのよ」
 エリカもというのです。
「だからね」
「美味しいかって思うのね」
「どうもね」
「ただ、それでもよね」
「見ているとね」
 それでというのです。
「触りたくなるわね」
「妙にね」
「小さくて触ったらすぐに動くから」
「自然によね」
「前足が出るわね」
「それはあたしもよ」
 ガラスの猫もというのです。
「ああしたのはね」
「あんたは何も食べなくてもね」
「前足は出るわ」
「猫だからね」
「猫はそうしたものに前足が出るのよ」
 それこそ無意識のうちにです。
「それで触るのよ」
「そうするわね」
「食べることに興味はなくても」
 それでもなのです。
「自然とよ」
「そうよね」
「御前さん達にとってはそうでもじゃ」
 そのポップコーンを食べている王様のお言葉です。
「わしにとっては美味しいのじゃよ」
「王様にとっては」
「そうなのね」
「うむ、だからな」
「そうしてなのね」
「食べてるのね」
「楽しんでな」
 こう言ってさらに食べる王様でした、そして。 
 エリカにです、干した鳥肉を出したのでした。
「御前さんはこっちじゃな」
「あら、有り難う」
「好きなだけ食べるがいい」
「これはいいプレゼントね」
「楽しくなるな」
「だって大好物なのよ」
 それを貰うからというのです。
「嬉しくなることもね」
「当然じゃな」
「ええ、そうよ」
 こう王様に言うのでした。 

 

第二幕その十一

「誰だってそうなるわよ」
「だからじゃ」
「あたしにくれるの」
「好きなだけ食べてじゃ」
 その大好きな干した鳥肉をというのです。
「笑顔になるのじゃ」
「それじゃあね」
「これもですよね」
「遊びじゃ」
 王様は王子にも応えました。
「こうして人の笑顔を見ることもじゃ」
「遊びですね」
「遊んでいて気付いた」
「人の笑顔を見ることも」
「遊びでじゃ」
 そしてというのです。
「その中でも最高のものじゃ」
「そういうことですね」
「では楽しもう」
「はい、今から」
「エリカにも美味しいものを食べてもらってな」
「じゃああたしはね」
 何も食べる必要のないガラスの猫はといいますと。
「どうなるのかしら」
「御前さんにはこれじゃ」
 王様はガラスの猫には丸いボールを出しました。
「これで遊ぶといい」
「あら、これはいいプレゼントね」
「そうじゃな」
「これが一番いいわ」
 ガラスの猫の一番好きなおもちゃです。
「転がして遊べるから」
「ではじゃな」
「ええ、有り難う」
 こう笑顔で応えたガラスの猫でした。
「心遣い感謝するわ」
「ほっほっほ、では遊ぶのじゃ」
「是非ね」
「遠慮は無用じゃ」
「そうさせてもらうわね」
「うむ、遊ぶことはな」
 何と言ってもと言う王様でした。
「人生最大の勉強じゃ」
「遊びは勉強なの」
「何かと楽しめてわかるからのう」
「だから勉強だっていうのね」
「そうじゃ、皆で楽しんでな」
 そしてというのです。
「勉強するのじゃ」
「そういえばこの王様は」
 ガラスの猫は王様の言葉を聞いてです、王様をあらためて見つつ言いました。
「意外と以上に賢者よね」
「意外とか」
「そう、ぱっと見では只の遊び人だけれど」
「それがか」
「そう、色々とわかっているね」
 まさにというのです。
「賢者よ」
「わしのことがわかったか」
「そこでそう言うのがね」
 どうにもと言ったガラスの猫でした。
「幾分マイナスだけれどね」
「しかしじゃな」
「王様は確かに賢者よ」
「それは間違いないのじゃな」
「ええ、そのことは確かよ」
「遊び好きの賢者」
 王子も王様を見つつ言います。
「それもいいかも知れないね」
「そうね、じゃあここで遊びながら」
 ジュリアはその王子に応えます。
「カルロス達を待つのね」
「あの子達の状況はいつも見ているから」
 オズマは手鏡を出してそれでカルロス達の状況を見守っています、王宮にあるあの鏡の小さなものみたいです。
「安心してね」
「何かあれば」
「すぐに私が行くから」
 そうしてカルロス達を助けるというのです。
「大丈夫よ」
「まずは自分達で、ですね」
「ここに来てもらいたいから」
「すぐに来られますしね」
 カルロス達が今いる場所からこの宮殿まで、です。
「ここは、ですね」
「あの子達を待つわ」
「わかりました、それじゃあ」
「あの子達が来るまでね」
「待つんですね」
「そうしましょう」
 こう言ってです、オズマ達はカルロス達を待つことにしました。宮殿の中でリンキティンク王達と一緒に遊びながら。 

 

第三幕その一

                 第三幕  六人の子供達の到着
 カルロス達五人はボタン=ブライトと一緒にリンキティンク王の国に向かっていました。お昼御飯の後すぐに出発してです。
 地図を見ながら宮殿の方に向かいます、その道中で・
 神宝が地図を持ってその地図と回りを見回しつつ皆に言いました。
「この地図わかりやすいから」
「僕達が今何処にいるかもだね」
「うん、わかるしね」
 こうジョージにも応えます。
「宮殿の場所もね」
「ああ、あれだね」 
 そのおもちゃ箱みたいな色々と派手な色で飾られた西洋のお城を指差してでした、ジョージは神宝に言いました。
「あのお城だね」
「うん、そうだよ」
「凄い色の宮殿ね」
 恵梨香はその宮殿を観て少し驚いた声で言いました。
「青に赤に緑に」
「派手ね」
 ナターシャも言います。
「ブロックのお城みたいね」
「そうよね、おもちゃのね」
「そうしたお城ね」
「そうだね、あのお城はね」
 カルロスもそのお城を観つつ言います。
「リンキティンク王のお城だね」
「そうだね、まさにね」
「あの人のお城ってイメージだね」
 神宝とジョージもそのお城を観つつ言うのでした。
「おもちゃのお城みたいで」
「外観もね」
「お城の塔とか壁も」
 カルロスはそうしたものも観て言いました。
「ブロックのおもちゃみたいだよ」
「本当のブロックじゃないにしても」
 それでもと言う恵梨香でした。
「そうした風ね」
「本当にそうだよね」
「間違いないわね」
 ナターシャは断言しました。
「あのお城はリンキティンク王のお城よ」
「そうだね、宮殿だね」
「あの人のね」
「うん、じゃああのお城に向かって」
 そしてとです、カルロスは皆に言いました。
「リンキティンク王にお会いしよう」
「これからね」
「そして王様にお会いして」
「そのうえで」
「これからどうするかよね」
「どうしようかな、これから」
 カルロスはここで腕を組んで考えました。
「宮殿に着いたら」
「その時はね」
「どうしたものかしらね」
「そうだね、いつもは王宮に行くけれど」
 エメラルドの都のです。
「行かないといけないかっていうと」
「特にね」
「そうしたルールはないし」
「今回たまたまリンキティンク王の国に出たけれど」
「都に行くつもりが」
「どうしようかな」
 まだ考えているカルロスでした、皆も一緒です。
「本当に」
「そうね」
 ここで、です。恵梨香が。
 深く考えるお顔になってです、こうカルロスに提案しました。 

 

第三幕その二

「リンキティンク王と一緒に遊ぶ?」
「そうするんだ」
「そうしない?」
「そうだね、王宮に行くかね」
「リンキティンク王と遊ぶか」
「どちらかにしようか」
「そうしたらどうかしら」
 恵梨香はまたカルロスに言いました。
「少し考えたけれどね」
「そうだね、じゃあね」
「何はともあれね」
「あの宮殿に行きましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆はです、宮殿に向かうのですが。ここで急にでした。
 カルロスは皆を見回してです、こう言いました。
「ボタンはちゃんといるね」
「うん、ここにね」
 しっかりと言ったボタンでした。
「ここにいるよ」
「よかったよ」
「僕がいなくなってるって思ったの?」
「ひょっとしてね」
 いつもみたいにです。
「そうじゃないかって思ったから」
「皆を見回したんだ」
「また寝ていてね」
「それはないよ」
 ボタンは落ち着いた声で、でした。カルロスに答えました。
「だってずっと歩いてるから、今は」
「寝ることはないっていうんだね」
「そうだよ」
「そうだね、考えてみればね」
「確かに僕は急にいなくなったりするけれど」
 それでもというのです。
「今はこうしてね」
「僕達と一緒にだね」
「うん、いるよ」
「歩いているんだね」
「そうだよ、安心してね」
「それじゃあね」
「じゃあこれからだよね」
 ボタンもその派手な宮殿を観て言いました。
「あの宮殿に行くんだね」
「今からね」
「それじゃあ行こう」
「これからね」
 こうお話してでした、皆でリンキティンク王の宮殿に向かいます。ですがその宮殿の姿は見えてはいてもです。
 歩いても中々近付くことは出来ません、やがて日は落ちてきてです。 
 カルロスは少し不安になってです、皆に言いました。
「出来ることなら夕方までにね」
「うん、行きたいね」
「そうだよね」 
 神宝とジョージが神宝に応えました。
「暗くなるまでに」
「そうしたいね」
「だからね」
 それで、というのです。
「急ごう」
「このままだと」
 ナターシャも言います。
「夜までに着けるかしら」
「少し不安ね」
 最後に言ったのは恵梨香でした。
「夜までに着けるか」
「暗くなって歩くのはね」
 どうかとです、不安になって言うカルロスでした。
「よくないからね」
「このオズの国でもね」
「それはね」
「子供は夜に歩くものじゃない」
「お父さん達も言ってるし」
「実際にね」
 カルロスは足元を見ました、今は何もなる歩けるその場所を。
「こうした場所も夜だとね」
「見えないからね」
 ボタンがカルロスに言ってきました。 

 

第三幕その三

「危ないんだよね」
「うん、そうなんだよね」
「石があっても」
「お昼なら見えているからね」
 だからというのです。
「避けるかどけることが出来るけれど」
「夜は見えていないから」
「そのせいで医師につまづいたりするよね」
「同じ道でもね」
 それこそとです、カルロスは言いました。
「昼と夜で全然違うんだよね」
「だから夜はだね」
「歩くべきじゃないよ」
 決してというのです。
「だから夕方までにね」
「あの宮殿にだね」
「着く様にしないと」
「幸い皆歩くの速いから」
 恵梨香はこのことから言いました。
「少し速くしたら」
「それでだね」
「着くことが出来るかしら」
「夕方までにね、じゃあ」
 カルロスは恵梨香とのお話を終えてでした。
 そしてです、こう言いました。
「少しだけ急ごう」
「よし、それじゃあ」
「皆で少しだけ急ごうね」
 神宝とジョージの男の子二人が応えてでした、そして。
 そのうえで、です。ボタンもでした。
「僕も急ぐよ」
「じゃあ私もね」
「私もそうするわ」
 ナターシャと恵梨香も言ってでした、六人で。
 足を少し速くしてでした、宮殿に向かいました。宮殿は少しずつです。皆の目には大きく見えてきてでした。
 夕方のすっかりお空が赤くなった時にでした、皆は。
 宮殿は皆の前に来ました、そのうえで。
 カルロスは門の前まで来てです、皆に言いました。
「何とか着くことが出来たね」
「そうだね」
「何とか夜までに着くことが出来たね」
「何とかね」
「到着したわね」
「よかったよ」 
 このことに素直に喜ぶカルロスでした。
「夜までに着くことは出来て」
「それじゃあだね」
「うん、これから門を開けてもらおう」
「坊や達お客さんかい?」
 門の兵隊さんがカルロス達に声をかけてきました。
「王様への」
「実は僕達は」 
 カルロスは兵隊さんに自分達の事情をお話しました、そのうえで兵隊さんにこうも言いました。
「それで王様にもです」
「会いに来たんだね」
「はい、そうです」
「わかったよ、そういえばね」
「そういえば?」
「ここは南門だけれどね」
 宮殿のです。
「北門にもお客さん来ていたそうだね」
「あっ、そうなんですか」
「そうみたいだよ、話を聞いたところ」
「そうですか」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのです。 

 

第三幕その四

「今は宮殿で王様達と遊んでいるそうだよ」
「そうなんですか」
「前からここに来て遊んでいるお客さん達もいるしね」
「今はお客さん多いんですか」
「それで王様も喜んでおられるよ」
 そのリンキティンク王もというのです。
「あの人はお客さんが好きだしね」
「お客さんと遊ぶことがですね」
「好きだからね」
「だから喜んでおられるんですね」
「そうだよ、それで君達も来たら」
 そのカルロス達がというのです。
「余計にね」
「喜んでくれますか」
「絶対にそうだよ、じゃあね」
「はい、中に入れてくれますか?」
「うん、是非ね」
 こうしてでした、兵隊さんは門を開けようとしました。
 お話は前後します、宮殿の中で。
 オズマは手鏡を観てです、ジュリア達ににこりと笑って言いました。
「来たわ、今ね」
「カルロス達がですね」
「ボタンも一緒よ」
 その彼もというのです。
「六人いるわ」
「そうですか、じゃあ皆が来るのを待つんですね」
「そう思ったけれど」
 くすりと笑って言う恵梨香でした。
「ここはね」
「わかりました、あの子達がいる門まで行って」
「あの子達を迎えましょう」
「私達からですね」
「そうしましょう、どうかしら」
「そうですね、私達から顔を出してですね」
「あの子達を少し驚かせてあげましょう」
 これがオズマの提案でした。
「南門まで行って」
「それじゃあ」
「ええ、これからね」
「私達で、ですね」
「それは面白いのう」
 リンキティンク王もお話を聞いて楽しそうに言いました。
「ではわしも行こう」
「王様もなのね」
「いきなりわし等から顔を出してな」
 そしてとです、王様はオズマに楽しく笑って言いました。
「あの子達を驚かせてやろう」
「あら、楽しいこと考えるのね」 
 つぎはぎ娘も乗ります。
「じゃああたしもね」
「私もね」
「あたしも乗るわ」
 エリカもガラスの猫もでした。
「私達から顔を出して」
「あの子達を驚かせてあげましょう」
 こうお話してでした、皆で。
 南門まで行こうとしますが、王子はそこに留まって言いました。
「では僕はここに残ります」
「僕もそうするよ」 
 木挽の馬も言います。
「そうした驚かせることは流儀ではないので」
「ここで皆を待つよ」
「おやおや、こうしたあえてびっくりさせることもな」 
 王様はその王子達に明るく笑って言いました。
「遊びじゃよ」
「そしてびっくりさせてですね」
「そこから一気に皆で遊ぶこともな」
「遊びですか」
「遊びは掴みじゃよ」
 つまり最初からというのです。
「それで上手くいくとな」
「いいというのですね」
「後で波に乗れるからな」
「だから最初からいく」
「そういうことじゃよ」
「驚かせるといってもね」
 オズマが言うにはです。 

 

第三幕その五

「別にびっくり箱を出すだけじゃないかしら」
「いいんですね」
「これ位のサプライズはね」
 何かといいますと。
「王様の言う通り掴みでサプライズよ」
「いい驚かせですね」
「そう思うからね」
 だからこそというのです。
「今から行きたい人だけ行きましょう」
「さて、あの子達がどんな顔をするのか」 
 つぎはぎ娘は今から楽しそうです。
「そのお顔を早く観たいわね」
「それじゃあね」
「今からその顔を観に行くわよ」
 エリカとガラスの猫も応えてでした。有志で門まで行きました。
 そしてカルロス達がです、兵隊さんに門を開いてもらおうとすると。
 門の方から開いてきました、兵隊さんはそれを観て言いました。
「おや、これは」
「中からですね」
「開いたよ」
 こうカルロスにも応えます。
「これは誰か出るのかな」
「そうしたお話聞いてました?」
「いや、全然」
 カルロスにこうも答えます。
「今はじめてだよ」
「これから門が開くことはですか」
「見たよ」
 聞いてもいないというのです。
「本当に」
「じゃあ何でしょうか」
「さて」
 そこにいる皆がこの状況に目を瞬かせていますと。
 開かれた門の向こうからです、声がしてきました。
「待っていたわ」
「待っていたって」
「まさか」
「そう、いらっしゃい」
 オズマが皆の真ん中にいて笑顔で言ってきました。
「貴方達が来ることがわかっていたから」
「ああ、鏡で観て」
「王宮のね」
「それで、ですか」
「前以てこの宮殿に来てね」
「僕達を待っていてくれてたんですか」
「そうだったのよ」
 こうカルロス達にお話するのでした。
「今までね」
「そうでしたか」
「驚いた?」
 つぎはぎ娘は明るく聞いてきました。
「あたし達がいきなり出て来て」
「いや、そう言われると」
「特になのね」
「いきなり顔を出してきたことには驚いたけれど」
 皆もそうです、カルロスだけでなく。
「お話を聞いたらね」
「納得したのね」
「うん、それでね」
「あら、それじゃあね」
 エリカはカルロスの言葉を聞いて言いました。
「掴みは失敗したかしら」
「ふむ、そうかのう」
 リンキティンク王は顎に手を当てて考えるお顔になっています。
「それは残念じゃのう」
「いえ、驚いたことは驚きましたよ」
「はい、僕達皆」
「まさか門が開くなんて思ってませんでしたし」
「オズマ姫がおられるなんて」
「他の皆も」
「僕もだよ」
 最後にボタンが言いました。 

 

第三幕その六

「まさかね」
「ふむ、それならな」
 王様は皆の言葉を聞いて言いました。
「掴みは成功じゃな」
「そうなるのね」
 ガラスの猫が王様に応えました。
「驚いてくれたなら」
「それならな」
「じゃあこのままね」
「一気にいこうぞ」
「あの、何か」
 カルロスはにこにことお話しているオズマや王様達を見てきょとんとしたお顔になって言いました。
「僕達皆さんのペースに入ってません?」
「その通りじゃよ」
 明るく返す王様でした。
「実際に皆をわし等の中に入れてな」
「そして、ですか」
「そのうえでじゃ」
 さらに言う王様でした。
「皆に楽しんでもらいたいのじゃ」
「そうですか」
「遊んでな」
「遊びですね」
「皆で遊んでじゃ」
 そのうえでというのだ。
「楽しもうぞ」
「王様の大好きな遊びで、ですね」
「遊びは本当に最高じゃ」
 こうも言った王様でした。
「ではこれからな」
「はい、宮殿の中で」
「遊ぶとしよう」
 こう言ってでした、そのうえで。
 実際にボタンも入れて六人は宮殿の中に入りました。するとです。
 皆は王様のお部屋に案内されてでした、そこで賑やかに遊びはじめました。その賑やかな遊びの中においてでした。
 カルロスはつぎはぎ娘と一緒に踊りつつです、こうしたことを言いました。
「思ったよりも」
「どうかしたの?」
「いや、簡単にオズマ姫や皆と会えて」
「意外っていうのね」
「そうなんだ、ましてやね」
「こうしてね」
 ジョージも踊っています、他の子達もそうしています。
「皆とすぐに遊べるなんて」
「確かに王様達のペースだけれど」
 神宝も言います。
「今回はすぐこうなってるね」
「エメラルドの都まで行くのかしらって思っていたら」
「それがね」
 ナターシャと恵梨香はオズマ姫と一緒に踊っています。
「リンキティンク王の宮殿でなんて」
「思わなかったわ」
「そうね、けれどね」
 ここでこう皆に言ったオズマでした。
「それもオズの国なのよ」
「何が起こるかわらない」
「何時何かがですね」
「それがオズの国ですよね」
「外の世界以上に」
「偶然はこの世界を支配するとても重要な存在の一つだけれど」
 偶然というこれ以上はないまでに世の中と関わりの深いそれでいて非常に気まぐれな存在のことにも言うのでした。
「オズの国ではね」
「特に、ですね」
「外の世界以上にですね」
「偶然が働く」
「だからです」
「何時何が起こるかわからないんですね」
「そう、オズの国は偶然が特に働く世界なのよ」
 こう五人にお話するのでした。
「もっとも今回は私が鏡を観てね」
「それで、ですね」
「ここまで来てくれて」
「それでそのうえで」
「私達を待ってくれていて」
「一緒に楽しんでくれてるんですね」
「そういうことよ」
 まさにというのです。 

 

第三幕その七

「今回は偶然ではないわね」
「偶然が強い世界でもですね」
 カルロスがそのオズマに応えます。
「今回はまた違いますね」
「魔法の力ね」
「それで僕達のことを知ってくれて」
「ドロシー達に留守を任せて」
 そのうえでというのです。
「私達で来たのよ」
「今回は私も冒険に出たの」
 ジュリアも楽しく踊っています。
「こうしてね」
「ジュリアさんが出られるのは珍しいですね」
 恵梨香は今度はジュリアと一緒に踊っています。
「そういえば」
「ええ、あまり出ないわね」
「いつも王宮におられますから」
 ナターシャはその勤め先から述べます。
「だからですね」
「どうしてもね」
 それこそと言うのです、ジュリア自身も。
「私も冒険に出ないの」
「最近になってからですか」
 神宝はここ最近のジュリアのことから言いました。
「ジュリアさんが時々でも冒険に出られるようになったのは」
「そうね、確かにね」
「それまではずっとですね」
 最後にジョージが言ってきました、賑やかな音楽の中で踊りながら。
「王宮におられたんですね」
「冒険自体にあまり興味もなかったわ」
 それまでのジュリアはというのです。
「けれど姫様のお供に最初に出て」
「それからですね」
「そう、出る用になったの」
 時々でもというのです。
「そうなったのよ」
「そうですよね」
「今もあまり出ないけれど」
 それでもというのです。
「出る様になったのはね」
「確かですね」
「そうよ」
 こうカルロスにもお話します。
「こうしてね」
「そうですか」
「実は姫様も冒険好きだし」
「ええ、オズの国の国家元首だからあまり出られないけれど」
 そのオズマの言葉です。
「好きなことは確かよ」
「だから今回みたいにね」
「時々でも出たりするのよね」
 ガラスの猫とエリカは猫らしく踞て寝ていますがそれでもというのでした。
「ドロシー達に留守番頼んだりして」
「そのうえでね」
「姿が急に消えた時なんかはね」
 木挽の馬はあのウグが悪いことをした時のことを思い出しています。
「大騒ぎだったけれどね」
「ああ、あの時も確か」
 ここでカルロスはお菓子を食べながらリンキティンク王やボボ王子と一緒に楽器を鳴らしているボタンを見ました。
「ボタンがいて」
「そうなの、この子のファインプレーもあってね」
 その消えていたオズマの言葉です。
「私は助かったのよ」
「大変な状況でしたけれど」
「それが助かったのよ」
「そういえばボタンは」
 そのボタンを見たまま言うカルロスでした。
「特に偶然が多い子の様な」
「もう偶然に愛されているわね」
「はい、それで何かすれば」
「必ず偶然が何かをしてくれてね」
 そのうえでというのです。
「それがいい状況になるのよ」
「そうした子ですね」
「そう、だからね」
 それでというのです。 

 

第三幕その八

「この子は凄いのよ」
「偶然に愛されているんですね」
「これ以上はないまでに運もいいしね」
「幸運の塊でもあるんですね」
「オズの国一の幸運児よ」
「そうなんだね」
「わかんなーーい」
 けれどボタンはです、カルロスに聞かれてもこう返します。
「僕そんなに凄いかな」
「常にいいことが起こるからね」
「確かに不幸になったことはないよ」
 ボタン自身も言います。
「そうしたことはね」
「特によね」
「そう、じゃあ運がいいのかな」
「不幸に遭わないだけでもね」
「運がいいんだね」
「そう言ってもいいけれど」
 それ以上になのでした。
「幸運を自分だけじゃなく皆にももたらしてくれるから」
「ボタンは凄い子よ」
 オズマもこう言います。
「オズの国一のラッキーボーイよ」
「ほっほっほ、この子は確かに運がいいぞ」 
 王様も笑って言います。
「トランプもおはじきもサイコロもいつも勝つからのう」
「とにかく運がいいので」
 王子もにこりと笑ってボタンのことをお話します。
「勝負ごとは無敵ですね」
「しかも勝ってもな」
「特に自慢も欲も張らないので」
「そのこともあるのじゃろうな」
「とても無欲な子なので」
「だって僕もう服は着てるし」
 その水兵さんの服です。
「食べるものはオズの国なら何処にでもあるから」
「困ることはない」
「そう言うんだね」
「身体もお池や川で奇麗に出来るから」
 オズの国ではというのです。
「何もいらないよ」
「ふむ、だからじゃな」
「ボタンは無欲なんだね」
「だって欲しいものはいつもあるししたいことも出来るから」
 それで、というので。
「これ以上何かしたいなんて思わないよ」
「無欲さこそ最高の美徳というから」
 カルロスはボタン自身の言葉を聞いてこう言うのでした。
「ボタンは神様に愛されていてね」
「それでなのかな」
「うん、いつも偶然が周りで起こってね」
 そしてというのです。
「幸福に愛されてるんだよ」
「そうだよね」
「そう、それでね」
「それでなのかな」
「君は無欲さ故に運がいいんだよ」
「成程ね」
「オズの国の人は無欲な人が殆どだけれど」
 中にはかつてのノーム王ラゲドーみたいな人もいますが。
「ボタンはその中でも特にだからね」
「欲がないから」
「だからなんだ」
「ううん、だから欲しいものはね」
 それこそというのです。
「あるし、それにね」
「ある以上のものは、だね」
「欲しくないから」
「そこで欲しくないというのならね」
「それが無欲なんだよ」
「ううん、あるものがあればそれ以上何が欲しいの?」
 これがボタンの考えです。 

 

第三幕その九

「世の中には手元であるもので充分なのに」
「そこで満足出来るのがね」
「滅多にいないのよね」
 神宝と恵梨香が言います。
「そうした人って」
「私達の間でも」
「持っていてもそれ以上欲しい」
「それが人間よね」
 ジョージとナターシャも言うのでした。
「欲張りな人ばかりで」
「どうしてもそうした人が多いから」
「オズの国の人は確かに殆どの人が無欲だけれど」
 またこう言ったカルロスでした。
「カルロスは特にだからね」
「無欲なのを自覚していないことこそ」
 王子の言葉です。
「それが最高の無欲だね」
「そういうことになりますね」
「うん、ボタンは凄い子だよ」
 王子はカルロスにこうも言いました。
「オズの国でも一番の無欲だからね」
「偶然と幸運にですね」
「愛されているんだね」
「僕そんなに凄くないよ」 
 またこう言ったボタンでした。
「ただ欲しいものがいつもあるから何も欲しくないだけだから」
「何かお話が平行線だけれどとにかく」
 カルロスはお話をまとめました。
「ボタンが偶然と幸運に愛されていることは確かだね」
「偶然が強いオズの国でもね」
 ここで微笑んで述べたオズマでした、その踊りの中で。
「この子はそうなのね」
「じゃあこの子と一緒にいたら」
「色々と偶然が起きるわよ」
「そうなりますね」
「そう、普通にね」
 それこそというのです。
「これから何が起こるのか」
「楽しみなんですね」
「この王宮で何が起こるのか」
 それこそというのでした。
「待っていましょう」
「遊びながらですね」
「こうしてね」
「ほっほっほ、楽しく遊んでそして飲み食いをしようぞ」
 こう言ってでした、王様は。
 楽器を鳴らす手を少し止めてです、傍にあった鈴を鳴らしました。
 するとです、すぐにお付きの人が来ましてその人に言うのでした。
「お菓子とジュースをじゃ」
「こちらにですね」
「何でもいいからたっぷりと持って来てくれ」
「何でもいいのですね」
「甘くて美味しいものなら大歓迎じゃ」
「それでは」
 こうしてです、そのお付きの人がお菓子の山を運んで来ました。そのお菓子はといいますと。
「あれっ、これって」
「そうよね」
 恵梨香はそのお菓子を見たカルロスに応えました。自分もそのお菓子を見ながら。
「私の国のお菓子ばかりね」
「羊羹にういろうに」
「お饅頭に三色団子」
「もなかもあるし」
「ゼリーもあるわ」
 お茶菓子のその少し固い感じで透明な食べられる生地に包まれたものです。
「全部ね」
「日本のお菓子だね」
「オズの国にも和菓子はあるけれど」
「日本のこうしたお菓子もね」
「あるんだね」
「おお、このお菓子がのう」
 王様もその色々な種類のお菓子を見て言います。 

 

第三幕その十

「またどれも美味いのじゃ」
「王様もですね」
「お好きなんですね」
「うむ、大好きじゃ」
 実際にというのです。
「どのお菓子もな」
「そうですか」
「それじゃあ」
「うむ、皆で食べようぞ」
 その日本の茶菓子達をというのです。
「お茶もあるしのう」
「ジュースじゃなくてですね」
「わかっておるわ」
 そのお付きの人もというのです。
「こうしたお菓子の時はな」
「お茶ですね」
「それも日本のお茶じゃ」
 カルロスにも笑顔で言います。
「何といってもな」
「では、ですね」
「これからじゃ」
 まさにというのでした。
「お茶でお茶菓子をな」
「これからですね」
「食べようぞ」
「それでは」
 こうしてです、皆は踊りを中断してです。そのお菓子を食べました。するとボタンは三色団子を食べて言いました。
「このお菓子凄く美味しいよ」
「そうなんだよね、そのお団子はね」
 カルロスはういろうを食べつつボタンに応えます。
「物凄く美味しいよね」
「かなりね」
「このういろうも美味しいよ」
「今度それ食べていい?」
「好きなの食べていいよ」
 ういろうだけでなくというのです。
「ボタンのね」
「じゃあ次はういろうを食べるね」
「それじゃあね」
「そしてね」
 さらに言うボタンでした。
「お饅頭も食べるし」
「それにだね」
「羊羹とかゼリーも」
「このゼリーはね」
 恵梨香がそのゼリーを食べています。
「普通のゼリーとは違うのよ」
「何かあれだね」
 ボタンはその赤や黄色、緑や紫で弾力のあるとても美味しそうで奇麗なそのゼリー達を見て言うのでした。
「そのゼリーってね」
「どうしたのかしら」
「うん、普通のゼリーで水気があるけれど」
「このゼリーはなくてね」
「何か不思議だね」
「こうしたゼリーもあるの」
 恵梨香はお口の中でゼリーの弾力と甘さを味わいながら言います。
「日本にはね」
「そしてオズの国にも」
「そう、あるから」
 だからというのです。
「これも食べてね」
「わかったよ、それにしてもね」
「どうかしたの?」
「うん、王様のところってお菓子多いよね」
「ほっほっほ、わしが大好きだからのう」
 だからと答えた王様でした。
「それでじゃ」
「こうしてなんだ」
「色々なお菓子があるのじゃ」
「日本のお菓子もあるんだね」
「最初はなかったんじゃがのう」
 それがというのです。 

 

第三幕その十一

「オズの国はアメリカが反映されるからな」
「オズの国にこうしたお菓子が入れば」
「わし等も食べられるのじゃよ」
「そういうことなんだね」
「いや、色々なお菓子を食べられる」
「凄く幸せなことだね」
「実にな」
 王様は羊羹を食べています、栗羊羹です。
「これもまたいい」
「羊羹も美味しそうだね」
「かなり美味いぞ」
 実際にというのです。
「楽しめるぞ」
「じゃあそれもね」
「食べるのじゃな」
「うん、何でも食べられるんだよね」
「お菓子はこんなにあるぞ」
 それこそ山みたいにです、王様はボタンに笑って答えました。
「だからな」
「好きなだけだね」
「好きなものを食べられるぞ」
「最高に幸せだね」
「そこで幸せっていうのがね」
 つぎはぎ娘の言葉です。
「やっぱりいいのよね」
「そうね、私達は食べないけれど」 
 ガラスの猫とつぎはぎ娘、それに木挽の馬はです。けれどなのです。
「見ていてね」
「気持ちがいいから」
「ええ、あたしから見ても」
 それでもとです、エリカも言います。
「美味しく食べて幸せならいいわ」
「見ているだけでもね」
「心の栄養になるのよね」
「そうそう」
 馬はつぎはぎ娘とガラスの猫の言葉に頷きます。
 そうしたお話をしてです、つぎはぎ娘はボタンに聞きました。
「あんたが一番好きなお菓子何?」
「今食べてる中で?」
「そう、何が好きなのかしら」
「わかんなーーい」
「ここでもそう言うのね」
「だって全部美味しいから」
 それでというのです。
「そんなこと聞かれてもね」
「わからないのね」
「ちょっとね」
 実はというのです。
「わからないから」
「そうなの」
「そう、本当にどれも美味しいよ」
 それこそというのです。
「全部ね」
「今食べてるゼリーもなの」
「お団子もお饅頭もね」
「羊羹とかもよね」
「ういろうも美味しいよ」
 本当に全部というのです。
「だからね」
「どれか一つとは言えないのね」
「とてもね」
「そうなの、わかったわ」
 これで納得したつぎはぎ娘でした。
「何もかもが美味しいのね」
「とてもね」
「じゃあ何もかもを食べてね」
 ここにいるお菓子全部をというのです。 

 

第三幕その十二

「最高の気持ちになればいいよ」
「そうだよね」
「あたしはそのボタンも皆も見てね」
「楽しむんだね」
「何も食べなくてもね」
 それでもというのです。
「その食べる皆を見るのも栄養になるのよ」
「そうなんだ」
「そうよ、心のね」
「じゃあつぎはぎ娘さんもガラスの猫も」
「その通りよ」
 ガラスの猫もボタンに答えます。
「食べなくてもね」
「僕達が食べるのを見てだね」
「それが栄養になるのよ」
「見ているだけで」
「食べられる人は食べて笑顔になるでしょ」
「僕もね」
「その笑顔を見て心の栄養にするの」
 そうなるというのです。
「つまり心で食べるのよ」
「そういうことだね」
「それじゃあ」
「どんどん食べるから」
「見させてね」
 食べる時の笑顔をというのです。
「じっくりとね」
「とにかくね」 
 カルロスもゼリーを食べて言うのでした。
「このお菓子美味しいね」
「そうでしょ」
「こんなゼリーもあるんだね」
「スプーンで食べるゼリーとは別にね」
「何か癖になりそうだよ」
「わしは癖になっておるぞ」
 王様は既にというのです。
「ここまで美味いからのう」
「だからですね」
「もなかも饅頭もお団子も羊羹もじゃ」
「そしてういろうも」
「全部じゃ」
「何もかもがお好きですか」
「うむ、その子と一緒じゃよ」
 ボタン=ブライトというのです。
「本当に全部大好きじゃ」
「そうですか」
「ただのう」
 ここで、です。食べながらでした。
 王様は少し残念なお顔になってです、こんなことを言いました。
「食べて寝る前はな」
「歯を磨くことを言われてるんだよ」
 王子がカルロスに言ってきました。
「宮殿の人達にね」
「ああ、やっぱり」
「甘いものをいつもたっぷり食べているからね」
「それで寝る前はですね」
「よく歯を磨く様にってね」
「言われてますか」
「それがのう」 
 このことは少し困った感じで言う王様でした。
「辛いのう」
「いや、寝る前は絶対にですよ」
 カルロスもこのことは言います。
「歯を磨かないと」
「駄目か」
「オズの国では虫歯にはならないですけれど」「
「それでもじゃな」
「歯を磨かないと汚いですから」
 お口の中がです。
「磨かないと駄目ですよ」
「絶対にじゃな」
「お口の匂いも臭くなりますし」
「では今日もじゃな」
「毎日磨かないと」
「わかった、ではな」
 お菓子を食べながらです、そうしてです。
 王様は今日も歯を磨かないといけないと思うのでした、このことは嫌々ですが食べることはそうではありませんでした。 

 

第四幕その一

                 第四幕  また消えた子
 お菓子を食べて晩御飯も食べてです、オズマは皆に言いました。
「ではお風呂に入ってね」
「はい、そうして身体を奇麗にして」
「あったまってですね」
「今日は寝ましょう」 
 じっくりというのです。
「そうしましょう」
「お風呂も楽しむのじゃ」
 王様もこう言います。
「これも遊びじゃよ」
「入浴を楽しむですね」
「それですよね」
「そうじゃ」
 その通りという返事でした。
「ではな」
「はい、それじゃあ」
「今からですね」
「お風呂に入って」
「そうしてその後は寝て」
「また明日じゃ」
 明日にというのです。
「皆で遊ぶぞ」
「それではな」
 こうしてです、皆でお風呂に入るのでした。この宮殿のお風呂も男女別々になっています。それで、です。
 カルロスはジョージと神宝、それにボタンと一緒に入りました。浴室はとても広い円形の湯舟が中央にあってです。
 お魚の口からお湯が出ています、床はタイルで身体を洗う場所にはそれぞれシャワーと鏡がセットであります。
 その浴室を見てです、カルロスはこう言いました。
「何かお風呂屋さんみたいな」
「うん、そうだよね」
「日本にあるね」 
 ジョージと神宝はカルロスのその指摘に頷きました。
「そうした感じだよね」
「この浴室って」
「ほっほっほ、皆で入る場所じゃからな」
 王様が来てです、皆に笑顔で話してきました。
「だからな」
「それで、なんですか」
「こうした風になっておるのじゃ」
「日本のお風呂屋さんみたいな感じなんですか」
「むしろあれじゃな」
「あれとは」
「大浴場じゃな」
 それになるというのです。
「ここはな」
「そういえばそうですね」
 カルロスも言われて頷きます。
「この浴室は」
「わしは一人で入るよりもな」
「皆で入るのがお好きなんですか」
「そうなのじゃ」
「だからこうした風なんですね」
「わし専用の浴室はないのじゃ」
 この宮殿にはというのです。
「お風呂は皆でじゃ」
「それが王様ですね」
「うむ、ではこれからな」
「皆で、ですね」
「入ろうぞ」
「わかりました」
 カルロス達は王様の言葉に頷いてです、皆ででした。
 まずは身体を洗ってから湯舟に入りました、お湯の中はとても温かくて。
 カルロスはほっとしたお顔になってです、王様に言いました。
「いいお湯ですね」
「あったまるじゃろ」
「はい、凄く」
「身体も温まってな」
「それにですね」
「気持ちもじゃ」
 そちらもというのです。 

 

第四幕その二

「すっきりするのじゃ」
「ここのお風呂も」
「そうじゃ、お風呂もよいのう」 
 遊び好きの王様の言葉です。
「大好きな遊びの一つじゃ」
「お風呂に入ることも遊びですね」
「身体を奇麗にして心もすっきりする」
「そうなる遊びですか」
「そうじゃ」
「遊びは色々ですね」
「その通りじゃ、では遊ぼうぞ」
 こうしてお風呂に入ってです。
「是非な」
「それじゃあ」
「わしは一日二回も三回も入ることがある」
 お風呂に入って遊ぶことをというのです。
「毎日一回は絶対にじゃ」
「王様は本当に遊び好きですね」
「遊ぶことが生きがいでな」
 そしてというのです。
「入浴もじゃ、では今日もな」
「入浴で遊んで」
「心ゆくまで楽しもう」
 こう言ってでした、実際にです。
 王様はカルロス達と一緒に入浴も楽しみました、それはボタンも同じですが。
 ボタンは湯舟の中でうとうととしています、カルロスはその彼に声をかけました。
「寝たら駄目だよ」
「あっ、僕寝てた?」
「寝かけてたよ」
「そうだったんだ」
「お風呂の中って気持ちよくなるからね」
「うん、今は寝るつもりはなかったけれど」
 それでもというのです。
「気持ちよくて」
「それでだね」
「うん、言われるまでね」
「うとうとしてたんだ」
「お風呂の中で寝たら」
「そのまま沈んでね」
 お湯のその中にです。
「お湯を飲んでしまうよ」
「お口やお鼻から」
「そうしたらびっくりしたり下手したら溺れるから」
「よくないんだね」
「そう、だからね」
「お風呂の中ではだね」
「寝ない方がいいんだ」
 こうボタンに言うのでした。
「あまりね」
「それじゃあね」
「そう、今はね」
「起きてだね」
「ベッドの中で寝よう」
「そうするよ」
 ボタンはカルロスの言葉に頷いてでした、今はです。
 ちゃんと起きて身体をじっくりと温めました、そしてです。
 皆じっくりと温まってからお風呂を出ました、お風呂から出た王様はすっきりとした笑顔でお部屋にいた王子に言いました。
「王子もどうじゃ」
「僕は朝に入りましたから」
「だからか」
「はい、ですから夜はいいです」
「王子はいつも朝に入るのう」
「朝にお風呂に入って」
 そしてというのです。
「すっきりさせてです」
「一日をはじめるのじゃな」
「そうすることにしていますから」
 だからというのです。 

 

第四幕その三

「夜はいいです」
「そういうことじゃな」
「あとオズマ姫と女の子達は」
「女の子の入浴は時間がかかるからのう」
 王様はそのこともわかっています。
「だからじゃな」
「まだですね」
「それじゃあね」
 ボタンは王様と王子のお話を聞いて言いました。
「オズマ姫達が戻ったら」
「それでだね」
「お休みの挨拶をしてね」
 そしてというのです。
「今日は寝よう」
「そうだね、じゃあね」
 カルロスはボタンの言葉に頷きました、そしてです。 
 皆でおはじきをしながら遊んでオズマ達を待ちました、すると暫くしてです。 
 奇麗なパジャマを着たオズマ達は戻ってきました、ただ奇麗なパジャマを着ているだけでなく。
 とてもいい香りがします、カルロスはそのいい香りがするオズマ達に言いました。
「ううん、凄くいい香りがするけれど」
「あれ、カルロス達もよ」
「貴方達もよ」
 恵梨香とナターシャがカルロスに答えました。
「石鹸やシャンプーのね」
「いい香りがするわよ」
「あれっ、そうなんだ」
「自分の匂いは自分では気付きにくいのよ」
 こう言ったのはジュリアです、勿論ジュリアもお風呂上がりです。
「だからね」
「それでなんですね」
「カルロス達は自分の香りに気付かないのよ」
「そうなんですね」
「そうよ、私達からすればね」
「僕達からいい香りがして」
「私自身からは感じないわ」
 その香りをというのです。
「そういうものなのよ」
「そうですか、わかりました」
「じゃあ皆お風呂に入ったから」
 オズマが皆に言いました。
「もうね」
「はい、今日はこれで」
「寝ましょう」
「私も寝るわ」
 見ればエリカも奇麗になっています、しかもジュリアにブラッシングまでしてもらって毛並みもいい感じになっています。
「これでね」
「あたし達はここにいるわね」
 お部屋でずっと遊んでいるつぎはぎ娘の言葉です。
「ここでね」
「寝る必要がないから」
「朝まで三人で遊んでいるよ」
 ガラスの猫と木挽の馬も言います。
「そして皆を待つから」
「そうしているよ」
「眠る必要がないのはよいことかのう」
 王様は三人の言葉を聞いて顎に手を当てて言いました。
「やはり」
「寝たら凄く気持ちいいよ」
 ボタンの言葉です。
「あんないいことはないよ」
「ボタンは寝ることが大好きじゃからのう」
「僕の生きがいだよ」
 まさにというのです。 

 

第四幕その四

「寝ることはね」
「だから君はそう言うのじゃな」
「うん、寝ることがね」
 まさにというのです。
「一番好きだよ」
「では君は寝られないとか」
「困るよ」
「寝られる人は寝たらいいのよ」 
 つぎはぎ娘が言ってきました、その布と綿の身体で。
「そして起きている人はね」
「起きてだね」
「楽しめばいいのよ」
「その人それぞれで」
「あたし達は寝ることがないから」
 だからというのです。
「起きて楽しめばいいのよ」
「そういうことなんだね」
「じゃあ皆お休み」
 つぎはぎ娘は皆に手を振って応えました。
「また明日ね」
「うん、じゃあね」
「朝からまた遊ぼう」
 カルロスとボタンが皆を代表して挨拶をしてでした、皆はそれぞれお休みの挨拶をして宮殿の人達が用意してくれたお部屋に入りました。
 王様と王子はそれぞれのお部屋に入ってオズマは用意された専用のお部屋、恵梨香とナターシャはジュリアと一緒でした。エリカもです。
 そしてカルロスと神宝、ジョージもです。
 ボタンと一緒に天幕のベッドがある寝室に案内してもらってです。そこでじっくりと寝ました。
 その朝です、カルロスは朝起きてでした。  
 同じベッドに寝ている皆を見てです、まずは。
 寝ぼけ眼をこすってです、まだ寝ている神宝とジョージに言いました。
「二人共起きて」
「あっ、朝だね」
「朝になったね」
「そして朝になってね」
 そしてというのです。
「ボタンがいないよ」
「えっ、また?」
「あの子またいなくなったんだ」
「あの子寝たらね」
 それでと言うカルロスでした。
「よく何処かに行っちゃうけれど」
「今回もかな」
「そうなのかな」
「何処に行ったのかな」
 首を傾げさせて言うカルロスでした。
「今度は」
「ううん、まずはね」
「起きよう」
 神宝とジョージはカルロスに応えて起き上がってでした。
 そして三人で着替えてです、まずは。
 つぎはぎ娘達がいるお部屋に行ってです、こう言いました。
「ねえ、カルロス見なかった?」
「あれっ、いなくなったの」
「そうなんだ」
 こうガラスの猫に答えます。
「またね」
「本当にまた、よね」
 ガラスの猫もお話を聞いて言いました。
「あの子は」
「寝ているとその間にね」
「何処かに行くのよね」
「どうしてそうなるかはわからないけれど」
「今回もなのね」
「うん、いなくなったから」
「それで私達にもなのね」
 ガラスの猫はさらに言います。
「これからあの子を探すことに」
「助けてくれないかな」
「というかあの子がいなくなったら」 
 それこそと応えたガラスの猫でした。
「どっちにしてもね」
「探さないといけないよね」
「そう、だからね」
「皆もだね」
「一緒に探しましょう」
「じゃあ早速ね」
 つぎはぎ娘も言ってきます。 

 

第四幕その五

「皆で探そう」
「あの子携帯持ってるかな」
 ここでこう言ったのは神宝でした。
「あればね」
「あの子に電話をかければね」 
 ジョージはカルロスのその言葉に頷きます。
「すぐに出るからね」
「何処にいるか確認出来るよ」
「本人にね」
「あっ、残念だけれど」 
 ここで言って来たのは木挽の馬でした。
「あの子は携帯持っていないよ」
「あっ、そうなんだ」
「携帯持っていないんだ」
「そうなんだ」
 こう二人に言うのでした。
「他の皆は持っているけれどね」
「あの子は持っていないんだね」
「携帯電話を」
「スマートフォンも持ってないよ」
 そちらもというのです。
「だから皆いつも彼が何処にいるかわからないし」
「何時会えるのかもだね」
「わからないんだね」
「そうなんだ」
「神出鬼没なのには理由があるんだね」
 カルロスは馬のお話を聞いてこのことを納得しました。
「連絡が取れないから」
「そうだよ」
「その辺りの事情もわかったよ」
「だから探そうと思ったら」
「その足でだね」
「探すしかないんだ」
「この宮殿の何処かにいればいいけれど」 
 また言って来たガラスの猫でした。
「あの子はわからないからね」
「いなくなったらね」
「オズの国の何処かかオズの国の外の世界でも」
「扉のすぐそこにいるね」
「あの子はオズの国の子よ」
 このことは絶対だというのです。
「だからね」
「オズの国にはいる」
「外に出ても」
 オズの国のです。
「絶対に扉の傍で無意識のうちにね」
「その扉に入ってだね」
「今回あんた達がオズの国に来たみたいになるわ」
「だからだね」
「あの子はオズの国にいるわ」
 今現在もというのです。
「間違いなくね」
「そうなんだね」
「けれどね」
 それでもとも言うのでした。
「オズの国の何処かは」
「それはわからないね」
「全くのランダムよ」
 ボタン=ブライトが何処にいるかはです。
「あの子は偶然と幸運に愛されている子でしょ」
「だからだね」
「そこはわからないわよ」
「ううん、じゃあ見付けることも」
「そう、偶然と運よ」
「その二つ次第なんだね」
「宮殿にいたらね」
 幸運にもそうであったらとです、つぎはぎ娘は言いました。
「運がいいってことよ」
「そうなるんだね」
「じゃあ偶然の神様にも幸運の神様にもお祈りして」
 馬が言ってきました。 

 

第四幕その六

「ボタンを探そう」
「そうだね、ただ」
「ただ?」
「またオズマ姫が起きられてないし」
 それにというのです。
「恵梨香達もまだだから」
「ああ、それじゃあね」
「皆が起きてからね」
 その時からというのです。
「探そう」
「そうだね、それがいいね」
 神宝はカルロスのその提案に頷きました。
「僕達だけで探すよりも」
「皆で探した方が見付かりやすいよ」 
 ジョージもカルロスの提案に同意です。
「じゃあ女の子達が起きてから皆で探そう」
「王様達も来てくれたら」
 こう言ったのはガラスの猫です。
「余計にいいわね、けれどね」
「けれど?」
「あの王様はお寝坊さんよ」
 ガラスの猫はカルロスに王様のこのことを言いました。
「だからね」
「中々起きないんだね」
「夜早く寝て朝遅く起きる人なのよ」
「早寝遅起きなんだ」
「寝ることも楽しむ人だから」
 それでというのです。
「もうじっくりと寝てね」
「早寝遅起きなんだね」
「中々起きないわよ」
「何かあの人らしいね」
 お話を聞いて本当にそう思ったカルロスでした、神宝とジョージもです。王様が早寝遅起きな人であると聞いてです。
「それは」
「そうでしょ、そして王子はね」
「早寝早起きなんだね」
「今はお風呂かしら」
「お風呂に入ってなんだ」
「あの人は一日をはじめるから」
「そういえばそんなこと言ってたね」 
 カルロスはガラスの猫の言葉から昨日のやり取りを思い出しました。
「王子は朝にお風呂に入るんだね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「今はそうしてるかも知れないわ」
「そうなんだね」
「貴方達も入ったら?」
「それはボタンを探して朝御飯を食べた後だね」
 その時にというのです。
「見付けられないかも知れないけれど」
「見付けて心配を取り除いた後で楽しく食べて」
 つぎはぎ娘が言います。
「それからね」
「そう思ってるからね、それにこの宮殿は王様の宮殿だから」
「王様の許しを得てなのね」
「それからね」
「お風呂ね」
「やることをやって」
 そしてというのです。
「それからだよ」
「わかったわ、じゃあまずは」
「まずは?」
「そろそろオズマ達が起きてくる時間よ」
「あっ、そうなんだ」
「だからオズマが来たら」
 その時にというのです。
「オズマにもお話してね」
「探すのにだね」
「協力してもらいましょう」
「それとだね」
 今度は神宝が言ってきました。 

 

第四幕その七

「そろそろ恵梨香達も起きてくるから」
「うん、恵梨香達も起きてくる時間だね」
 ジョージも言います。
「そろそろ」
「もうとっくに起きていてね」
 つぎはぎ娘が言うには。
「着替えたり髪の毛を整えているのよ」
「身だしなみをなんだ」
「そう、きちんとしてるの」
「女の子だからね」
「女の子は大変なのよ」
 何かと、というのです。
「朝起きてすぐに皆の前には出られないの」
「男の子より時間がかかるね」
「オズマもよ」
 その彼女もというのです。
「もう起きて今はね」
「身支度を整えてるんだね」
「早起きしたジュリアに手伝ってもらってね」
「ああ、ジュリアさんは凄い早起きだからね」
「メイドさんは早く起きるのもお仕事よ」
 ガラスの猫fが言いました。
「早く起きてお仕事をはじめることもね」
「そしてだね」
「オズマの身支度を手伝ってるのよ」
「そうだね」
「あとエリカは」
 馬は彼女のことをお話します。
「生身の猫だから」
「猫はよく寝るよね」
「あの娘はお寝坊さんだよ」
「王様と一緒で」
「とにかくよく寝るからね」
 本当に猫はよく寝る生きものです、何でも日本語の『猫』という名前は『寝る子』という言葉から来たとさえ言われている位です。
「あの娘は」
「じゃあ何時起きて来るかは」
「わからないよ」
 彼女の場合はというのです。
「だからあの娘と王様はね」
「起きてこないってだね」
「思っていた方がいいかもね」
「そうなんだね」
「まあとにかくオズマ達がこっちに来てからだね」
「ボタンを探すのは」
「それまで待っていよう」
 こうカルロス達に言う馬でした。
「待つのも探すうちだよ」
「すぐに動くんじゃなくて」
「そう、必要な人が待つのもね」
「誰かを探すうちなんだね」
「さっきもお話に出たね」
「あっ、探すには人が多い方がいい」
「そういうことだよ」
 まさにというのです、こうお話してでした。
 カルロス達はまずは女の子達を待ちました、するとすぐにでした。
 オズマとジュリア、それに恵梨香とナターシャが来ました。そして皆で事情をお話するとです。
 恵梨香は特に驚かずにです、こう言いました。
「あの子らしいわね」
「そうね」
 ナターシャも同じでした。
「いつもだから」
「あの子が起きたらいないっていうのは」
「私もひょっとしたら思ってたわ」
「私もよ」
「あの子はそうした子よ」
 オズマはもっとあっさりしています、二人よりも。
「気付いたらいない子よ」
「そうですね、僕達も知ってましたけれど」
「驚いてはいないでしょ」
「またかと思ってます」
 カルロスは正直にです、自分の気持ちを述べました。 

 

第四幕その八

「実際に」
「そうでしょ、だからね」
「探しはしてもですね」
「この宮殿にいなくてもね」
 それでもとも言うオズマでした。
「特に驚くことはないわよ」
「そうですよね」
「まあ見付かればね」
 それで、と言うのでした。
「それに越したことはないわ」
「そうですね、本当に」
「だからね」
「探すにしても見付からなくても」
「オズの国の何処かで元気にいるから」
 それでというのです。
「安心してね」
「わかりました、それじゃあ」
「後は王子が来てくれたら」
「今はお風呂ですね」
「王様は寝てるし」
 このことはと言うのでした。
「エリカも一緒だから」
「王様とですか」
「あの娘は王様のお部屋に行って寝たわ」
「王様は早寝遅起きって聞きましたけれど」
「ええ、そうよ」
 オズマはカルロスにその通りだと答えました。
「よく寝る人よ」
「それじゃあですね」
「あの人とエリカは起きないって思ってね」
「じゃあ王子が来られたら」
「ボタンを皆で探しましょう」
「わかりました」
 カルロスはオズマのその言葉に頷きました、そしてです。
 王子が来るのを待ちました、その王子も来てお話をしてからです。事情を理解した王子も入れて皆で探しはじめたところで。
 お部屋にです、その起きない筈の人達が来ました。
「ほっほっほ、皆揃っておるな」
「よく寝られたかしら」
「あれっ、王様」
「それにエリカも一緒だね」
 カルロスと王子が王様達を見て言います。
「早寝遅起きって聞きましたけれど」
「今日は早起きですね」
「いや、ベッドに入ってすぐな」
「よく寝られたからよ」
 こう答えた王様とエリカでした。
「今日はいつもよりも早く起きられたのじゃ」
「私もね」
「王様いつもベッドに入ってすぐに寝てますよ」
 王様の親友である王子の言葉です。
「けれど今日はですか」
「ううむ、どうも眠りが深くてな」
「それで、ですか」
「目を閉じて開いたらな」
 その時はというのです。
「気持ちよく起きていたのじゃ」
「だからですか」
「今日はいつもより早起きじゃ」
「そうですか」
「それで皆何か騒がしいが」
「はい、実は」
 カルロスが王様に言ってきました。
「ボタンがいなくなりまして」
「いなくなった?」
「はい、一緒の部屋で寝ていましたが」
「ボタンならいるぞ」
「いるんですか」
「そうじゃ」
 その通りという返事でした。
「わし等と一緒におったぞ」
「王様のお部屋で寝ていたのよ」
 エリカも言います。 

 

第四幕その九

「王様のベッドで」
「朝起きたらわしの横におった」
 王様も言います。
「ぐっすりと寝ておるぞ」
「宮殿にいたんですね」
「あの子は寝ている間にじゃ」
「そうなの、時々いなくなるの」
 オズマが王様にその時の事情をお話します。
「オズの国の何処か、外の世界だと扉の傍に」
「うむ、わしもその話は聞いておるが」
「今回もそうだったけれど」
「わしのベッドがじゃな」
「その移った場所だったのね」
「そうじゃな、しかしいるのならな」
 それならと言う王様でした。
「これでよいな」
「はい、本当に」
 王様のお話を聞いてまずはこう言ったカルロスでした。
 ですがそれと共にです、カルロスはやれやれといったお顔になってです。 
 そしてです、こんなことも言いました。
「けれど、本当に何時移って」
「寝ている間にじゃな」
「何処に行くかわからない子ですね」
「それがあの子よ」
 ジュリアもカルロスに言います。
「いつもね」
「偶然にですね」
「そう、何処かに行く子だから」
「本当に偶然に愛されている子なんですね」
「そして幸運にね」
「だからいつも幸せなんですね」
「欲がないからよ」
 カルロスはというのです。
「あの子は偶然に支配されているのよ」
「そうなんですね」
「そう、だからね」
「今回みたいなことは普通ですね」
「あの子の場合はね」
「わかしました、じゃあ」
「今回はこれで終わったわ」
 ボタンを探そうというそのことはというのです。
「もうね」
「ほっほっほ、ではボタンが起きてきたらな」
 陽気に笑ってです、王様は皆に言いました。
「朝御飯にしよう」
「今日の朝御飯も凄いよ」
 王子も皆に言います。
「凄く美味しいよ」
「さて、今日の朝御飯は何かのう」
「オムライスです」
「ほう、オムライスか」
「そしてシチューです」
 この二つだというのです。
「苺もありますよ」
「それはよいのう」
「どれも王様の好物ですね」
「オムライスが特にな」
「それを食べましょう」
「オムライスは最高じゃ」
 王様はオムライスと聞いただけでもう飛び上がりそうです。
「あんな美味しいオムレツ料理はないぞ」
「あれは確か」
 恵梨香が言ってきました。
「元々は日本の洋食でしたね」
「その様じゃな」
「それがアメリカにも入って」
「オズの国でも食べていてな」
「王様の大好物なんですね」
「そうなのじゃよ」
「何か王様がオムライスお好きなのは」
 恵梨香はそう聞いて言うのでした。
「似合ってますね」
「ええ、王様がお好きそうね」
 ナターシャも言います。 

 

第四幕その十

「オムライスは」
「そうしたお料理よね」
「オムライスは不思議な食べものだね」
 王子もそのオムライスについて言います。
「子供が好きそうな食べものだけれど」
「それでもですね」
「オムライスは」
「うん、大人が食べても美味しいよ」
 こう言うのでした。
「とてもね」
「そうなんですよね、オムライスは」
「僕も好きだよ」
 王子もと言うのでした。
「あれはね」
「そうなんですね」
「皆で楽しく食べようね」
「そしてオムライスを食べてからな」
 シチューと苺もです。
「皆で遊ぼうか」
「最初は何をして遊ぶの?」
「そうじゃな、王子の傍にいて思ったが」
 オズマに答えるのでした。
「まずはお風呂か」
「お風呂上がりの香りを感じてなのね」
「わしもお風呂に入りたくなった」
「そこで遊ぶのね」
「お風呂に入ってな」
 まさにそうしてというのです。
「そうしたくなった」
「ではそれぞれね」
「お風呂に入ろうぞ」
 男の子と女の子に別れてというのです。
「楽しくな」
「皆おはよう」 
 ここで、でした。そのボタンがです。
 自分の手で瞼をこすりながらお部屋に入って来てです、こう言ってきました。
「よく寝た?」
「よく寝たけれど」
 カルロスがそのボタンに言います。
「君王様のお部屋にいたんだね」
「うん、気付いたらね」
「どうしてそこにいるかわかる?」
「わかんなーーい」
 いつもの返事でした。
「気付いたらいたんだ」
「やっぱりそうなんだね」
「うん、ただ今は宮殿にいるね」
「そうだね」
「それならよかったよ」
 微笑んで言ったカルロスでした。
「本当にね」
「うん、僕もそう思うよ」
「それじゃあ今から朝御飯を食べましょう」
 ボタンが来たのを見て言ったオズマでした。
「皆揃ったから」
「はい、オムライスをですね」
「そうしましょう」
「さて、食堂に行こうぞ」
 王様も言ってきました。
「今からな」
「はい、わかりました」
 カルロスが応えてでした、そのうえで。
 皆で宮殿の食堂に行ってです、お野菜と鶏肉がたっぷり入ってトマトのシチューにです、デザートの苺と。
 とても大きなオムライスを見てです、笑顔になりました。
「これがじゃ」
「はい、この宮殿のオムライスですね」
「そうですね」
「美味しくてしかも量が多い」
 非常にというのです。 

 

第四幕その十一

「最高のオムライスじゃ」
「これを朝から食べるんですね」
「今から」
「これを食べればお腹一杯じゃ」
 それこそというのです。
「だからな、これからじゃ」
「はい、食べて」
「そしてですね」
「今日も遊ぶんですね」
「そうするんですね」
「そうじゃ、遊ぶにはな」
 まず、というのです。
「食べてからじゃ」
「それじゃあですね」
「今から」
「うむ、いただきますじゃ」
 王様が音頭を取ってです、そしてでした。
 皆でいただきますをしてから食べました、そのオムライスの味は。
「あっ、確かに」
「チキンライスも美味しくて」
「オムレツの生地もよくて」
「これはまた」
「そうであろう、このケチャップもな」 
 オムライスの上にかけているそれもというのです。
「実によくてな」
「いや、いいですね」
「ケチャップも美味しいです」
「それに量も多くて食べがいもあって」
「最高ですね」
「シチューもね」 
 王子はこちらのお話もしました。
「食べるといいよ」
「あっ、こっちも」
「確かに美味しいですね」
「いいトマトですね」
「お野菜もじっくり煮込まれていて」
「鶏肉も味付けよくて柔らかくて」
「かなり美味しいね」
 にこりと笑って言う王子でした。
「こちらも」
「ケチャップもこのシチューもトマトですね」
 カルロスは王子にこのことを聞きました。
「そういえば」
「うん、そうだね」
「このトマトも」
「トマトはいいお野菜だね」
「色々と使えますね」
「こうしてね」
「ケチャップだけでなく」
 そしてです。
「シチューにも」
「他のお料理にも使えてね」
「いいお野菜ですね、本当に」
「カドリングのトマトは特に赤いから」
 それだけにというのです。
「食欲もそそるしね」
「カドリングの赤ですね」
「どうかな、この赤いトマトは」
「赤さが余計に食欲もそそりますし」
 カルロスは笑顔で応えました。
「いいですね」
「ではね」
「はい、オムライスもシチューも楽しんで」
「朝をはじめよう」
「苺もよいぞ」
 王様はデザートのそれも忘れていません。 

 

第四幕その十二

「朝の苺は最高じゃ」
「王様苺もお好きですか」
「好きも好き、大好きじゃ」
 それこそというのです。
「こちらもな」
「何か赤いものが好きみたいな」
「カドリングじゃしな」
「ああ、赤いものの国ですから」
「それもあるじゃろうな」
「そうなんですね」
「まあ他の色も好きじゃがな」
 王様はそうだというのです。
「おもちゃみたいに色々な色があるのが一番いい」
「この宮殿みたいにですね」
「そういうことじゃ、では食べた後は遊びじゃ」
「お風呂にも入って」
「今日も楽しく遊ぶぞ」
「僕も遊ばせてもらうね」
 ボタンもオムライスとシチューを食べつつ言います。
「皆と一緒に」
「いやいや、そこで若し嫌だと言われるとな」
 王様が困った様に言ってきました。
「わしが困る」
「そうなんだ」
「御前さんは遊んでないとどうしておる」
「寝てるよ」
 実にこの子らしい返事です。
「やっぱりね」
「そうじゃな、それで何処か行かないまでもな」
 それでもというのです。
「遊ぶ人は一人でも多い方が楽しい」
「だからなんだ」
「御前さんも参加してくれないとじゃ」
「嫌なんだね、王様は」
「わしは退屈なことと寂しいことがどうして駄目じゃ」
「本当にそうした人なんだよ」
 王子もボタンにお話します。
「だからね」
「僕もだね」
「そう、君も是非ね」
「遊びにだね」
「参加してもらわないと」
「それじゃあ」
「皆で楽しく遊ぼう」
 王子からも誘うのでした。
「いいね」
「それじゃあね」
 ボタンも頷いてでした、そのうえで。
 皆と楽しく遊ぶのでした、皆で遊ぶととても楽しいものでした。 

 

第五幕その一

                 第五幕  ブロックのお城
 この日は王様と皆で楽しく遊んで、です。王様は晩御飯の場で皆にこんなことを言いました。
「明日も遊ぶが」
「何をして遊ぶかよね」
「うむ、そのことじゃが」
 オズマに応えて言うのでした。
「さて、何がよいか」
「そうね、昨日今日と宮殿の中で遊んでるわね」
「だからじゃな」
「明日はお外で遊ばない?」
「それはいいのう」
 王様はオズマの提案を聞いて早速笑顔になりました。
「それではな」
「ええ、皆でね」
「外で遊ぼう」
「お外で遊ぶことも多いわね」
「色々と遊べるのう」
「ピクニックをしてもいいし」
「ピクニックは最高じゃ」
 王様はピクニックも大好きなのです、それでさらに明るい笑顔になりました。
「楽しく歩いてお日様の下でお弁当を食べる」
「いいわね」
「うむ、では明日はピクニックにするか」
「アスレチックに行くのもよくない?」
 つぎはぎ娘の提案です。
「この国の自然公園の」
「あそこでか」
「そう、どうかしら」
「ではじゃ」
 王様はつぎはぎ娘の言葉も聞いて言いました。
「アスレチックでピクニックじゃ」
「二つ楽しむのね」
「一度に楽しめるならそうすればいい」
「その方が楽しいからよね」
「そうじゃ」
 その通りという返事でした。
「それならばな」
「それじゃあ決まりね」
「明日は皆でアスレチックまでピクニックじゃ」
「お弁当持ってね」
 つぎはぎ娘は自分の席でもう跳んだり跳ねたりしそうな感じです。
「あたしは食べないけれどね」
「私は煮干がいいわね」
 エリカはお弁当にそれがいいと言うのでした。
「最近あれに凝ってるのよ」
「あと燻製だね」
 王子が微笑んでそのエリカに言います。
「君が最近好きなのは」
「鶏肉のね」
「そうだよね」
「キャットフードがメインで」
 そしてというのです。
「そういったものもよ」
「最近好きだね」
「そうなのよ」
「あの自然公園ならね」
 ガラスの猫はアスレチックのあるその公園のことを知っています、何しろこの娘もオズの国中を歩いて回っていますので。
「お弁当の木も一杯あるから」
「あそこでそれぞれ好きなお弁当を手に取ればいいわね」
 ジュリアはガラスの猫の言葉を聞いて言いました。
「エリカはエリカで」
「ええ、そうよね」
「それじゃあ皆その足でピクニックに行って」
 さらに言ったジュリアでした。
「そしてそこでアスレチックもしてね」
「お弁当はあそこで取ってね」
「食べればいいわね」
 こうエリカにも言うのでした。
 木挽の馬はその自然公園について言いました。
「今回は急いで行かないね」
「ピクニックは歩いて行ってね」
 王子が馬のその言葉に応えます。
「そしてだよ」
「うん、景色を見たりお喋りを楽しむんだね」
「歩きながらね」
「急いで行くものじゃないね」
「ピクニックはそうしたものだよ」
「だからだね」
「君もね」
 物凄く早く走ることが出来る馬もというのです。
「急ぐ必要はないよ」
「それじゃあね」
「アスレチックかあ」
 そう聞いてです、ジョージは晩御飯の牡蠣フライを食べつつ言うのでした。フライにかけているソースもとても美味しいです。 

 

第五幕その二

「僕あれ大好きなんだよね」
「色々出来るからね」
 神宝もその牡蠣フライを食べつつ言います。
「楽しいんだよね」
「じゃあ明日はズボンを穿いて」
 恵梨香も乗り気になっています。
「行きましょう」
「私もこの服じゃなくてね」
 ナターシャは今も黒のゴスロリです、ですが明日はというのです。
「ズボンで行くわ」
「さて、明日はどんな遊びになるのか」
 カルロスもかなり楽しみにしています。
「そう思うだけでうきうきしてくるよ」
「じゃあ僕もね」
 最後に言ったのはボタンでした。
「明日は皆と一緒にピクニックだね」
「そしてアスレチックだよ」
 カルロスはボタンにも言いました。
「楽しみにしていてね」
「そうするね」
「明日はまず朝御飯を食べてじゃ」
 王様のお言葉です。
「そして皆で出発じゃ」
「持っていくものは何もなしね」
「お弁当はあっちにあるのじゃからな」
 オズマにすぐに応えます。
「だからな」
「何も持って行かないでね」
「軽い出発じゃよ」
 何も背負ったり手に持ったりせずにというのです。
「楽しく歩いて行くぞ」
「それじゃあね」
「さて、ではな」
 さらに言う王様でした。
「明日のことを楽しみにして寝ようぞ」
「王様はいつも明日のことを楽しみにしてるね」
「今日のことを楽しんでじゃな」
「うん、そうだよね」
 ボタンは王様に尋ねるのでした。
「いつもそうだよね」
「うむ、実際にな」
 王様もボタンのその指摘を否定しません。
「わしは一日が終わる時には明日のことを楽しみにしておる」
「今日のことを楽しんでだね」
「そうしておるぞ」
「つまり毎日が楽しいんだね」
「毎日楽しんでおるぞ」
 実際にというのです。
「御前さんが言った通りにな」
「やっぱりそうなんだね」
「こうして楽しい楽しいと思うことがいいんじゃよ」
「それだけでだね」
「本当に楽しくなるからもう」
「そうなんだね」
「それこそ何でもな」
 まさにというのです。
「だからよいのじゃ」
「成程、わかったよ」
 ボタンも頷きます、そしてでした。
 王様はこの日もでした、楽しく思っているのでした。ボタンはその王様についてお風呂の中でカルロス達に言いました。
「王様とは何度もお会いしてるけれどね」
「いつもだね」
「うん、ああしてね」
 実際にというのです。
「楽しく思ってるんだよ」
「それが王様だね」
「楽しく思っていて楽しく過ごしてる」
「そういう人だね」
「楽しくないって思ってる王様はね」
 それこそというのです。 

 

第五幕その三

「まず見たことがないよ」
「王様の冒険も凄かったんだよね」
 神宝は王様がはじめてドロシー達と知り合うことになった海の冒険について言いました。
「海に出て」
「そうだったんだ」
 ボタンもそうだと答えます。
「あの時は凄かったんだよ」
「海の方に悪い人達がいてね」
 ジョージも言います、皆今は同じ湯舟の中にいます。
「その人達から困っている人達を助けていたね」
「あの頃は王子もね」
 カルロスはその時の王子について言いました。
「驢馬だったんだよね」
「凄く口の悪いね」
「そうだったね」
「あの頃の王子と今の王子は違うよ」
 それこそというのです。
「本当にね」
「そうだったね」
「本来のお姿に戻ってね」
「ああした性格になったんだね」
「そうなんだ」
「確かにね、あの時の王子様を見ると」
「どうにもね」
 ジョージと神宝も言います。
「お世辞にも性格がいいとは言えないね」
「あんまりにも口が悪かったし」
「あの頃の王子と今の王子はね」 
 それこそとです、カルロスも言います。
「別人みたいだよ」
「そうだよね」
「僕から見てもね」
「今の王子はとても付き合いやすい人だよ」
 ボタンから見てもです。
「とても優しいし気さくだしね」
「そうだよね」
「けれどその驢馬だった頃の王子とも王様は普通にね」
「お付き合いしていたね」
「王様は凄い人だよ」
「心が広いんだね」
「かなりね」
 王様がどういった方かもお話されるのでした。
「僕もあの人の心の広さにはびっくりしてるよ」
「あまりにも凄いからだね」
「僕なんかよりよっぽど心が広いよ」
「あれっ、けれどボタンも」
 カルロスはこれまでのボタンとのお付き合いから言います。
「怒ったりしないしケチでもないしね」
「心が広いね、確かに」
「ボタンもね」
 ジョージと神宝も言います。
「いつも穏やかな顔でいて」
「誰が何をしても態度変えないからね」
「僕もそう思うよ」
 カルロスは二人の言葉に頷きました。
「ボタンも心が広いよ」
「そうなのかな」
「うん、本当にね」
「僕が心が広くても」
 それでもというのです。
「別にね」
「別に?」
「誰かに迷惑かけてないのよ」
「かけている筈がないよ」
 すぐに答えたカルロスでした。
「ボタンの心が広くてね」
「むしろそんなボタンだからね」
「皆好きなんだよ」
 ジョージと神宝がまた言います。
「そうした性格だから」
「愛嬌もあってね」
「確かに寝ている間に急に何処かに行くけれど」
「それもご愛嬌ってことでね」
「だからボタンも心が広くて」
 それで、と言うカルロスでした。 

 

第五幕その四

「それが誰にも迷惑をかけていないよ」
「ならいいよ、僕も」
「そういうことでね、じゃあ明日はね」
「うん、ピクニックだね」
「それにアスレチックだよ」
 それもあるというのです。
「どっちも楽しみにしてね」
「それでだね」
「明日も楽しもうね」
「それじゃあね」 
 こうしたお話をしてでした、そのうえで。
 カルロス達は四人でお風呂を楽しんで、でした。同じお部屋で寝ました。そして次の日の朝皆で中国風のお粥と八宝菜を食べてでした。
 いざピクニックに出ました、すると。
 不意に王様はです、皆にこんなことを言いました。
「わしの髭がピンとしておる」
「その口髭がなのね」
「うむ、そんな感じじゃ」
 こうオズマにも言います。
「こうした時は何かが起こるぞ」
「そうした時はいつもなのね」
「よい、楽しいことが起こるのじゃ」
「その前兆なのね」
「さて、何が起こるのか」
 王様は本当にうきうきとしている感じです、言葉にも表情にも出ています。
「楽しみじゃな」
「オズの国らしく突然なのね」
「楽しいことが起こるな」
「ボタンもいるしね」
 つぎはぎ娘はボタンを見ています、そのうえでの言葉です。
「それは絶対に何かが起こるね」
「偶然があるからのう」
 王様はつぎはぎ娘の言葉を受けて彼を見ました。
「この子が招き寄せてな」
「そう、それでどんな偶然が待っているか」
「楽しみじゃ」
「どんな偶然だったらいいの?」
 つぎはぎ娘は王様に尋ねました。
「それで」
「いや、偶然はわからぬ」
「わからないの?」
「何が起こるか全くわからぬ」 
 楽しそうに笑ってです、顎に右手を当てて言うのでした。
「それが偶然じゃ」
「だからなのね」
「わからないしわからなくていい」
「そう言うのね」
「そうじゃ、どんな偶然でも受けて立つぞ」
 やっぱり笑って言う王様でした。
「では行こうぞ」
「アスレチックは」
 今度はボタンが言います。
「最初から最後までしたいね」
「それがよね」
「うん、一番いいよね」
 アスレチックはとです、ボタンはガラスの猫に応えて言うのでした。
「やっぱりね」
「ええ、私もするけれどね」
「猫でもだね」
「猫もアスレチックは出来るから」
 だからというのです。
「この身体でね」
「すばしっこくだね」
「そうよ」
「猫なんだね、やっぱり」
「それもとびきりの猫よ」
 とても自慢そうにこう言ったのでした。
「全身がガラスのね」
「自慢の身体だね」
「そうよ、こんな奇麗な猫はいないわよ」
「そうね、私程じゃないけれど」
 そう言うガラスの猫の横にです、エリカが来て言ってきました。 

 

第五幕その五

「あんたは最高の猫よ」
「あら、あんた程度じゃないっていうの」
「ええ、あんたは私の次に最高よ」
「そう言える根拠は何かしら」
「この毛並みよ」 
 全身のその毛を誇らしげに誇示しています、そのうえでの言葉です。
「どうかしら、この毛並み」
「奇麗だっていうのね」
「こんな毛並み他にはないわよ」
「私は毛がないからっていうのね」
「そう、あんたは私の次なのよ」
「言うわね、じゃああんたにはね」
 ガラスの猫も負けじとエリカに言い返します。
「このピンクの脳とハートがあるかしら」
「その二つがっていうのね」
「そうよ、あるのかしら」
「あるわよ、ただ見えないだけよ」
 エリカも言い返します、この娘も。
「けれど最高の脳とハートがあるわよ」
「私のこのピンクのものみたいな」
「ええ、あんたのと同じものがね」
「じゃあ毛並みでっていうのね」
「私の方が最高なのよ」
「あんたの身体は透けて輝かないわよ」
「この毛並みのよさを見て言えるかしら」
 こう言い合う二匹でしたが。
 その二匹にです、ジュリアが言いました。
「二人共どっちが最高とは言えないわよ」
「あら、そうなの」
「どっちともなの」
「どっちも同じ位よ」
 ガラスの猫もエリカもというのです。
「私から見たらね」
「このガラスの身体が最高じゃないの?」
「この見事な毛並みが」
「透けて見える脳とハートが」
「あえて見せない脳とハートが」
「脳ならかかしさんが最高でハートは木樵さんでしょ」 
 それぞれこの二つについてオズの国で勝てる人はいません。かかしはオズの国で一番の知恵者。木樵はオズの国で最も心優しい人だからです。
「そうでしょ」
「まあその二つはね」
「その人達には負けるわ」
「そうでしょ、それにガラスの身体も毛並みもね」 
 ジュリアはそれぞれの自慢のもののお話をしました。
「そのままだと汚れたりするでしょ」
「まあそれはね」
「確かにね」
 二匹もその指摘には頷くしかありませんでした。
「この身体はいつも磨いてもらわないと」
「ブラッシングが必要よ」
「洗ってもらうことも必要よ」
「お風呂は欠かせないわ」
「幾ら奇麗でもね」
 ガラスの身体も毛並みもです。
「手入れしないと奇麗なままでいないでしょ」
「ええ、そうよ」
「どうしてもね」
「磨けば光るってものじゃないし」
 だからというのです。
「それならどっちもね」
「同じ位なのね」
「差がないのね」
「私はそう思うわ」
 二匹の間に優劣はないというのです。
「貴女達の間にはね」
「そうしたものはなの」
「ないのね」
「どっちも同じだけ最高よ」
 そうだというのです。
「それで言い合うのはね」
「ううん、それじゃあ」
「どっちも最高なの」
「そうよ、優劣はないわ」
 それこそというのです。 

 

第五幕その六

「本当にね」
「私のガラスの身体も」
「そして私の毛並みも」
「どっちもなの」
「最高なのね」
「それで言い合いなんて何の意味もないわよ」
 ジュリアは冷静にです、二匹にお話します。そしてでした。
 どちらにもです、あらためて言いました。
「身体を磨くこともブラッシングもしないとどうなるの?」
「ええ、確かに」
「そうなるとね」
「そうでしょ、わかったわね」
「ええ、よくね」
「それならね」
 二匹もです、ジュリアの言葉に納得しました。
 そしてでした、二匹であらためてジュリアに言いました。
「それじゃあね」
「それでわかったわ」
「私もエリカもどっちも」
「最高ってことね」
「そうよ、わかったわね」
「よくね」
「言い合ったのが馬鹿らしくなったわ」
 こう二匹でジュリアに言うのでした、そしてです。
 そのことをお話しつつ一行は自然公園に向かいます、その自然公園はカドリングの赤い木々や草原でとても奇麗です。
 アスレチックもあります、ですが。
 皆はその公園の中にあるものを見てです、まずは目を瞬かせました。
 それで王子がです、それについて王様に言いました。
「これは」
「ブロックじゃな」
「はい、そうですね」
 ブロックのおもちゃです、はめ込んでいって色々なものを作っていく。赤や青、黄色に白に緑と色々な色があります。
「これは」
「そうじゃな、しかしな」
「大きさが違いますね」
「これは両手に持つ位の大きさじゃな」
「普通のブロックは指で摘む位ですが」
「このブロックはな」
「どれもですね」
 王子は実際にそのブロックの大きさを見て言いました。
「普通のブロックの百倍位です」
「大きいのう」
「そのブロックの大きさなので」
「またどうしてこんなものがあるのじゃ」
「あっ、王様」
 ここで自然公園の管理人さんが来ました、中年のカドリングの赤い服を着た人です。
「来られたのですか」
「遊びでな、それでじゃが」
「このブロック達ですね」
「うむ、何じゃこれは」
「はい、実は調達してきまして」
「何処からじゃ?」
「パズルの国からです」
 オズの国、それもカドリングの国の中にある国です。人も何もかもがジグゾーパズルになっている不思議な国です。
「送ってもらいました」
「ああ、あの国からか」
「こうしたブロックもですよね」
「うむ、はっきり言えばな」
「パズルの一種ですから」
「だからあの国でか」
「造っていたもので」
「それをか」
「ここに送ってくれました」
 そうだというのです。
「お願いしましたら」
「そうだったのじゃな」
「先日首相にはお話していましたが」
「それでわしもか」
「お聞きになったのでは」
「そういえばそうだったかのう」
 この辺りはどうも忘れっぽい王様です、時々そうしたことを聞いてもついつい忘れてしまったりしてしまうのです。 

 

第五幕その七

「首相が言っていたか」
「はい、それで」
「ここにあるのじゃな」
「このブロック達も」
「ではこのブロック達をじゃな」
「組み立ててです」
 管理人さんは王様にお話します。
「遊べますが」
「ではこれを築いて何が出来るのじゃ?」
「それは私にもわかりません」
 管理人さんはこのことについてはこう返しました。
「あちらもお話してくれませんでした」
「一切か」
「はい、組み立ててみてのお楽しみとのことです」
「こうしたものはじゃな」
「その時のお楽しみですね」
「そうじゃな、ではこの公園にじゃな」
「遊ぶものが増えました」
 そうなったというのです。
「アスレチック、そして散歩の他に」
「ブロックもじゃな」
「楽しめるようになりました」
「そうか、よく送ってもらってくれた」
 王様はここまで聞いて管理人さんに笑顔で言いました。
「今すぐ褒美をやろうぞ」
「おお、それは何よりです」
「これじゃ、持って行くがいい」
 こう言ってです、王様は。
 服の袖の中に手を入れてです、そこからです。
 とても大きな赤いダイアモンドを出してです、管理人さんにあげました。
 そしてです、こう言ったのでした。
「これをな」
「何と、それがですか」
「そなたへの褒美じゃ」
 にこりと笑って言うのでした。
「取っておくのじゃ」
「何と凄い褒美なのか」
「褒美は弾むものじゃ」
 王様はにこりとしたままです。
「だからな」
「これをですか」
「持って行くのじゃ、いいな」
「わかりました」
 管理人さんは王様からダイアを受け取ってでした、そのうえで。
 その場を下がりました、王様はあらためて皆に言いました。
「それでじゃが」
「うん、このブロックをだね」
 王様にです、ボタンが応えます。
「組み立てるかどうかだね」
「そうして遊ぶかのう」
「アスレチックじゃなくて」
「どっちにするかじゃな」
 アスレチックかブロックの組み立てかです。
「それは」
「ううん、どっちがいいかな」
「こうした時はね」
 オズマが言います。
「コイントスで決めるものね」
「どちらを遊ぶかだね」
「どちらも今すぐに出来るし」
 オズマはボタンにもお話します。
「それに何時でも出来るよ」
「じゃあどっちでもいいだね」
「どっちを先にしないといけないものではないわ」
 オズマはこのことを冷静に見て考えています。
「だからね」
「どっちでもいいんだね」
「そう、ここはね」
「ううん、それじゃあ」
「コイントスで決めたらどうかしら」
 オズマは皆に提案しました。 

 

第五幕その八

「それでどっちかを先にして」
「それでじゃな」
「そう、残った方を後でしましょう」
「どっちも遊ぶのじゃな」
「問題はどちらを先にするかよ」
 またこう言ったオズマでした、王様として。
「問題は」
「よし、ではな」
 王様はオズマの言葉を受けてでした、今度は。
 袖の中からコインを出しました、そうしてオズマに聞きました。
「表がブロックでな」
「裏がアスレチックね」
「それでどうじゃ」
「ええ、いいと思うわ」 
 オズマは微笑んで王様に答えました。
「それでね」
「うむ、ではな」
「これから投げて」
「決めるとしよう」
 王様はコインを上に回転する様に真上に放り投げました、そうして。
 そのコインを左手の甲で受けてでした、それから。
 右手で上から押さえました。そうして出て来たのは。
「表じゃ」
「ブロックね」
「そうなったぞ」
「それじゃあですね」
 カルロスはそのブロック、あちこちに散らばっているそれ等を見ながら王様に応えて言いました。かなりの数のブロックがあちこちに散らばっています。
「今から」
「うむ、皆でな」
「このブロックを組み立てていってですね」
「何が完成するかな」
「楽しむんですね」
「そうじゃ」
 王様もカルロスに答えます。
「それがこれからの遊びじゃ」
「そうですか、それじゃあ」
「皆ではじめるぞ」
「このブロックはね」
 ジョージは傍にあった赤いブロックを持ってみました、それは。
「プラスチックで出来ていて軽いよ」
「大きいけれどね」
 神宝も持ってみました、確かに普通のおもちゃのブロックの百倍位の大きさがありますがそれでもなのです。
「確かに軽いね」
「硬さもプラスチックね」 
 ナターシャは持ったそれをこんこんと手で叩いています。
「重さも」
「これならね」
 五人の中で最後に持ったのは恵梨香です。
「楽に持ち運び出来るわ」
「ええ、あたしにもね」
 つぎはぎ娘は両手に一個ずつ持ってくるくると踊っています。
「気楽に持てるわ」
「これを皆で持って」 
 ジュリアは白いブロックを両手に持って王様に尋ねました。
「今からですね」
「組み立てようぞ」
「僕は背負えばいいね」
 馬はそのブロック、転がっているそれにお顔を近付けています。傍にはガラスの猫とエリカも一緒にいます。
「そうすれば」
「私達が持って」
「そうしてね」
 そのガラスの猫とエリカの言葉です。 

 

第五幕その九

「背中に持って行って」
「運べばいいね」
「皆で遊べそうね」
 オズマも早速一個持っています。
「この遊びは」
「頭使う遊びなんだね」
 ボタンは自分の足元に転がっている青いブロックを見ています。
「これは」
「まさにな」
「そうなんだね」
「色は色々あるのう」
 王様はボタンと共に見つつ言います。
「そういえば」
「うん、赤に青にね」
「白、黄色、緑」
「そして紫だね」
「オズの国の色は全部あってな」
「他の色もだね」
「虹の色は全部ある」
 その七つの色がです。
「そこに白もじゃな」
「そうなってるね」
「ほっほっほ、これはいいのう」
「どうしていいの?」
「色が多いとそれだけ賑やかな感じがするからな」
 だからと言う王様でした。
「だからよいのじゃ」
「そうなんだ」
「カドリングの赤はいい色じゃが」
 お国のその色は第一です、王様も。
 ですがそれでもとです、王様は言うのでした。
「それだけでなくな」
「他の色もあればだね」
「より賑やかになるからのう」
「だからいいんだね」
「うむ」
 その通りという返事でした。
「ではな」
「これからだね」
「一体どんな賑やかなものが出来るのか」
「組み立てていくんだね」
「そうするとしよう」
 コイントスに従ってというのです、そして実際にでした。
 皆でブロックを組み立てていきます、一つ一つです。
 組んでいきます、ですが。
 そのブロックを組み立てていきつつです、ボタンはこんなことを言いました。
「ジグゾーパズルに似てるけれど」
「ブロックはまた違うね」
「うん、パズルはね」
「どれがどれに入るかね」
「決まってるよね」
「厳密にね」
「けれどブロックは」
 その先が出た形のそれはです。
「どんな風にね」
「組み立ててもいいね」
「ある程度以上にね」
「それが楽だね」
 カルロスも笑ってです、ボタンに応えます。
「ブロックは」
「そうだよね」
「それにね」
 さらに言うカルロスでした。
「色がね」
「その組み立て方次第でね」
「変わるんだよね」
「組み立てる都度ね」
「それもいいよね」
「うん、そうだよね」
「こうして今組み立てていって」
 そしてというのです。
「どんな風になるのか」
「楽しみだね」
「そうだよね」
「青いブロックにね」
 神宝は自分の色のブロックに赤いブロックを入れています。
「赤いブロックを入れて」
「その赤いブロックにね」
 ジョージはその赤いブロックに黄色いブロックを入れました。
「カラフルにすればいいね」
「色々な色を組んでいって」
 ナターシャはオレンジのブロックを緑のブロックに入れます。
「素敵な色にしましょう」
「色々な色が組み合わさった」 
 恵梨香は緑のブロックに白のブロックを入れました。
「そうしたものにすればいいわね」
「何が出来るかわからないけれど」
 馬は背中にです、ガラスの猫とエリカにブロックを置いてもらって皆のところに運んでいます。
「カラフルにしようね」
「出来るだけね」
「色々な組み合わせにして」
 そのガラスの猫とエリカの言葉です。 

 

第五幕その十

「どんなものが出来るか」
「楽しみにしながら組み立ててるのね、私達」
「こうしたブロックもあるしね」
 つぎはぎ娘は赤い三角のブロックを持っています。
「これも使うのよね」
「こういうのもあるわ」
 オズマは青い扉のブロックを見付けました。
「さて、何に使うのかしら」
「ううん、何か」
 王子は橋の一部、白いそれを見ています。
「組み立てていけば次第にわかってくるね」
「ほっほっほ、楽しいのう」
 王様はどんどん動いて組み立てつつ笑っています。
「こうして組み立てるだけで」
「王様楽しんでるね」
「この通りな」
 こうボタンにも答えます。
「最高にな」
「そうだよね」
「これもまた遊びじゃ」
「王様のお部屋にブロックあるし」
「それもいつも楽しんでいてな」
「大きなこれもだね」
「こうしてじゃ」
 まさにというのです。
「楽しんでおるぞ」
「そうなんだね」
「頭を使う遊びも好きじゃが」
「これは身体も使ってるね」
「頭と身体両方の体操じゃ」
 そうなっているというのです。
「こんな楽しいことはないわ」
「アスレチックよりも?」
「アスレチックも楽しいがのう」
「こちらもだね」
「楽しいわ」
「そうなんだね」
「どっちも同じだけな」
 こう言ってでした、そうして。
 王様は率先してでした、組み立てていきます。そのうえで。
 ブロックは次第に形になっていきました、門や橋も出来てです。
 塔も出来ました、それは。
「あれっ、何か」
「そうだね、これはね」
「お城だね」
「うん、オズの国のね」
 それになるとです、カルロスはボタンにお話しました。
「欧州の」
「エメラルドの都の王宮?いえ」
 ジュリアはその王宮を見ながら言います。
「違うわね」
「これは西欧のお城ですね」
「外の世界のよね」
「はい、そうです」
「宮殿とは違って」
「ドイツにあるみたいな」
「騎士が住むお城ですね」
 恵梨香も言います。
「どうやら」
「そうなのね」
「はい、日本のお城とはまた違いますね」
「城壁かな、これ」
 四方を囲む形のそれを見て言ったボタンでした。色々な色のブロックで築かれていてとてもカラフルです。
「それじゃあ」
「そうみたいだね」
 カルロスはそのボタンに答えました。 

 

第五幕その十一

「どうやら」
「そうなんだね」
「それでね」 
 さらに言ったカルロスでした。
「この城壁の中にね」
「お城が入るんだね」
「そうなるね」
「ああ、丁度いいわね」
 お城と聞いてです、オズマも言います。
「城壁は出来たけれど」
「お城自体はだね」
「まだだから」
「この城壁の中でね」
「お城を組み立てればいいんだね」
「ある程度組み立てられている部分もあるから」
 ブロック達がです。
「それじゃあね」
「そういったものを城壁の中に持って行って」
「お城を組みましょう」
「今からだね」
「そうしましょう」
「それじゃあ」
 こうしてでした、皆はその城壁の中で、です。
 ブロックをさらに組み立てていきます、するとです。
 徐々にですが形になってきました、その形は。
「お城だよね」
「そうだよ」  
 カルロスはボタンのその問いに答えました。
「これはね」
「王宮じゃなくて」
「お城だよ」
 こう答えるのでした。
「間違いなくね」
「こうしたお城もあるんだ」
「そういえば」
「そういえば?」
「オズの国にこうしたお城ってないね」
「そうなのよ」
 オズマがカルロスに言ってきました。
「実はね」
「守る必要がないからですね」
「そうなの、街を城壁で囲みはするわ」
「それはしますね」
「お洒落でね」
 そうしているというのです。
「しているけれど」
「それでもですよね」
「こうしたお城はないわ」
「そうですよね」
「守ることはないから」
 だからというのです。
「こうしたお城はないの」
「そうなんですね」
「そう、宮殿はあっても」
「こうしたお城はなくて」
「私も宮殿に見えるわ」
 オズマにしてもというのです。
「やっぱりね」
「そうですか」
「新鮮ね」
 こうも言ったオズマでした。
「こうしたお城は」
「そうなんですね」
「オズの国にあるのは宮殿だから」
「お城はといいますと」
「また違うのよ」
「そういうことですね」
「宮殿はお城から生まれているけれど」
 それでもというのです。
「お城じゃないから」
「だから姫様にとってもですね」
「新鮮なの、じゃあ」
「完成させて」
「その姿を見ましょうね」
「それじゃあ」
 皆でお話しながらです、そのうえで。
 頑張ってお城を作っていきます、そして。 
 そのお城が完成してです、皆はそのお城を見て言いました。 

 

第五幕その十二

「何かですね」
「結構早く出来ましたね」
「いや、大きいですね」
「やっぱり」
「うん、本当にね」
 それこそと言ったオズマでした。
「大きいわ、しかもね」
「格好いいですよね」
 カルロスがオズマに言ってきました。
「このお城」
「ええ、格好よくて」
「カラフルで」
「面白いわね」
「大きなおもちゃのお城だね」
 こう言ったのはボタンです。
「本当に」
「ええ、色々なブロックで作られた」
「そうしたお城だね」
「宮殿にしてもね」
 オズマはうっとりとして言うのでした。
「凄くカラフルな宮殿ね」
「そうだよね」
「このお城には住めないけれど」
 それでもと言ったオズマでした。
「こうしたお城もいいわね」
「そうだね」
「見ているだけでいいわ」
「ううん、何かね」
 オズマの言葉を聞きつつです、こんなことを言ったボタンでした。
「またばらばらにして」
「もう一度最初から?」
「うん、作りたくもなったけれど」
「ブロックはそうした遊びじゃな」
 王様もここで言います。
「完成させてな」
「そしてだよね」
「そう、一からな」
「また作るものだね」
「そして完成させてな」
 それからというのです。
「またな」
「ばらばらにしてだね」
「作るのじゃ」
「そうしたことの繰り返しだね」
「それがブロック遊びじゃ」
「それじゃあ」
「またばらばらにするのもな」
 今完成させたお城をというのです。
「よいぞ」
「そういうものなんだね」
「パズルもじゃな」
「ああ、そういえば」
「完成させて飾る人もいればな」
 王様は今度はパズルのお話をしました。
「もう一度ばらばらにして作る人もおるな」
「王様はそっちかな」
「そうすれば何度でも遊べるからな」
 だからというのです。
「わしはそっちじゃ」
「そうなんだね」
「うむ、まあ今はな」
「今は?」
「このままでよいな」
「完成させたままで」
「このままでな」
 これが王様の今の考えでした。
「いいじゃろ、暫くは」
「それじゃあ気が向いたら」
「その時にな」
「またばらばらにするんだね」
「そうすればいい、ではな」
「今はだね」
「さて、今は何時じゃろうか」
 王様はここで時間をチェックしました。
「それで」
「十二時です」 
 カルロスが答えました、自分の時計、オズの国で貰ったそれでチェックしてからそのうえで王様に答えたのです。
「丁度」
「おお、本当に丁度いいな」
「じゃあ今からですね」
「うむ、お昼じゃ」
 お昼御飯にしようというのです。
「皆でな」
「わかりました、じゃあ」
「お弁当の木まで行ってな」 
 そうしてというのです。
「皆で食べようぞ」
「それじゃあ」 
 また応えたボタンでした、そして皆で実際にでした。
 皆でお弁当の木のところまで行ってそのうえでそれぞれが好きなお弁当を手に取って食べるのでした、お城を完成させたうえで。
 

 

第六幕その一

                 第六幕  気付けば中に
 皆はお城を完成させてからです、今度は。
 お弁当を食べます、そのお弁当はといいますと。
 皆それぞれ食べています、そうしてです。
 カルロスは自分のハンバーグとパン、それにフルーツが一杯入っているお弁当を食べながらです。皆に言いました。
「頭と身体を動かした後のお弁当はね」
「うん、本当にね」
「美味しいね」
 ジョージと神宝はカルロスにそれぞれのお弁当を食べながら応えました。ジョージはハンバーガー、神宝は肉饅です。見ればナターシャは黒パンにフルーツ、そして恵梨香はお握りです。
「かなり身体も動かして」
「頭もだったから」
「もう普段のね」
「二倍は美味しいね」
「うん、こうしてね」
 カルロスはパンを食べつつ二人に笑顔で応えました。
「とても美味しいね」
「しかもお外で食べてるし」
 こう言ったのは恵梨香でした。
「余計に美味しいわ」
「そうよね、お外で食べると」
 ナターシャは恵梨香のその言葉に頷きました。
「美味しさが増すのよね」
「不思議な位ね」 
 エリカはキャットフードのお弁当です。
「美味しいわね」
「うん、そういえばエリカもだね」
 カルロスはキャットフードを食べているエリカにも声をかけます。
「楽しんでるね」
「キャットフード美味しいわ」
「皆でも食べてるし」
 オズマはマッシュポテトとステーキサンド、それに苺のお弁当です。
「そのこともあってね」
「美味しくて仕方ないですね」
「食べ過ぎてしまうわ」
 こう言ったのはジュリアです、色々な種類のサンドイッチを食べています。
「それで眠くなるかも」
「眠くなったら」 
 ボタンは幕の内弁当を食べています。
「寝ちゃいそうだよ」
「ほっほっほ、寝ればいい」
 王様は東西のオードブルが一杯入っているお弁当です。
「その時はな」
「けれどですよ」
 王子はソーセージとフライドチキンをパンと一緒に食べています。
「またこの子が何処かに行くと」
「探すことになるのう」
「けれどそれがですね」
「うむ、それもまたよい」 
 探すことがというのです。
「非常にな」
「楽しめるからですね」
「探して楽しめる」 
そのこともというのです。
「非常によい」
「ううん、寝たら」 
 その時はと言ったボタンでした。
「どうなるのかな、僕は」
「わからないからね」
「そうそう、その時はね」
「どうもね」
 ここでこう言ったのはつぎはぎ娘とガラスの猫、それに木挽の馬です。何も食べないけれど皆が見ていて楽しんでいます、今も。
「この子の場合は」
「寝たら何処に行くか」
「そこが不明なんだけれどね」
「しかしそれがよいのじゃ」
 王様はつぎはぎ娘達にもほっほっほと笑って返します。 

 

第六幕その二

「そこで探すのもな」
「王様は何でも楽しまれるんですね」
「遊びとしてな」
「それでなんですね」
「そうなった時も考えておるが」
「楽しみですか」
「そうじゃ、まあこの子が寝なかったならな」 
 その時はといいますと。
「そのままアスレチックじゃ」
「そのことを楽しまれますね」
「そうじゃ、しかしここのお弁当は本当に美味い」
 味も楽しんでいる王様です。
「よいぞよいぞ」
「じゃあお腹一杯食べて」
「アスレチックじゃ」
「お腹食べることはいいことにしても」
 ここで言ったのはジュリアでした。
「問題があるわ」
「満腹になったら眠くなる、ですね」
「それと身体が重くなって」
 こうカルロスに言います。
「その分ね」
「動きが鈍くなりますね」
「そこが問題よ」
「そうですね、確かに」
「だからね」
 それで、というのです。
「食べ過ぎた時はそのことに注意よ」
「わかりました」
「そして運動する前はね」
「アスレチックも運動ですからね」
「準備体操は忘れないことよ」
 このことは特に強く言うジュリアでした。
「身体をほぐして温める」
「このことはですね」
「忘れたら駄目よ」
「ううむ、すぐ遊びたいがのう」
 王様も言います。
「その前にか」
「はい、王様もです」
「準備体操はか」
「忘れないで下さいね」
「さもないとか」
「オズの国では怪我をしないですが」
 それでもというのです。
「充分に動けないので」
「必ずか」
「そうして下さい、こけたりつまずいたりしにくくもなりますし」
 身体がほぐれた分だけです。
「そこは」
「そういえばわしは元々太っておるしな」
「ですから余計にです」
「準備体操をしてか」
「お願いします」
「わかった、ではな」
「僕もなんだね」
 ボタンもジュリアに尋ねます。
「アスレチックの前は」
「そう、皆だから」
「準備体操はだね」
「忘れないでしてね」
「わかったよ」
 今回はこう答えたボタンでした。
「そうするよ」
「それじゃあね」
「僕はのんびりとしたいけれど」
 それでもです、ボタンも。
「こけたりしたくないから」
「そう思うなら余計によ」
「準備体操をだね」
「しっかりとするのよ」
「わかったよ」
 こう答えたボタンでした、そして。 

 

第六幕その三

 皆で食べてからです、少し時間を置いて。
 それからじっくりと準備体操をしました、それからでした。
 皆でアスレチックをします、皆ズボンなので軽やかに動きます。その中で特に速く動く人はといいますと。
 つぎはぎ娘、それにガラスの猫とエリカです。カルロスは彼等の後ろに必死につきながら尋ねたのでした。
「そこまで速く動けるのは」
「そう、綿の身体だからよ」
「猫を甘く見ないことよ」
「そういうことよ」
 こうそれぞれカルロスに答えます。
「綿が入っていて関節もないからね」
「猫はもう何処でも行けるのよ」
「身体も小さいしね」
「そんなのだったらね」
 それこそと言うカルロスでした。
「僕が敵う筈がないよ」
「いやいや、カルロスもよ」 
 ガラスの猫がカルロスに言います。
「かなりじゃない」
「一番を目指してるのに」
「それは無理よ」
「君達がいるからだね」
「走るだけなら馬に負けるけれど」
 木挽の馬にです。
「こうした障害物系ならね」
「猫のものだっていうのね」
「そうよ」
 こうカルロスに言うのでした。
「見た通りね」
「ううん、猫は確かに色々な場所を行けるからね」
「そう、お髭さえあればね」
 エリカは進みながらです、自分のお髭を誇らしげに見せています。
「猫は何処にも行けるのよ」
「お髭でその場所を察知してだね」
「そう、お髭が大丈夫って感じたところはよ」
「何処でも行けるんだったね」
「しかもこの身のこなしよ」
 実に軽やかに進んでいます、エリカもガラスの猫も。
「それこそよ」
「何処にでもだね」
「行けるのよ」
「ううん、つぎはぎ娘と君達には」
 馬は関節が動かずしかも馬の身体なので進むのに苦労しています、何とかジョージや神宝達についてきている感じです。
「僕も負けるよ」
「カルロスは五人の中で一番運動神経いいわよね」 
 つぎはぎ娘が聞いてきました。
「そうよね」
「うん、そうだよ」
「けれどあたしの身体は綿の身体でね」
「関節もないから」
「軽くて柔らかいから」
 これ以上はないまでにです。
「こうしてどんどん進めるのよ」
「そうなんだね」
「しかも疲れないから」
「そのことも大きいね」
「悪いけれど一番は貰うわよ」
「あら、一番は私よ」
「私のものよ」
 ガラスの猫とエリカも言ってきます。
「つぎはぎ娘には負けないわよ」
「このお髭にかけて一番になるわ」
「そうはいかないから」
 こう言ってです、つぎはぎ娘は。
 自分の身体を鞠みたいにです、ぽんぽんと飛ばして。
 そのうえで進んでいきます、すると。
 それを見たガラスの猫もです、全力で駆けはじめました。そのガラスの猫の横にいたエリカもなのでした。 

 

第六幕その四

 全力で進みます、それを見てです。
 カルロスは仰天してです、こう言いました。
「あれだけとんでもない動きや速さだと」
「ちょっと、だよね」
 王子がカルロスの横に来て言ってきました。
「いや、ちょっと以上にだね」
「はい、追いつけないです」
「そうだよね」
「人間の身体では」
「アスレチックは本来人間の身体に合わせて作られてるけれどね」
「彼女達はね」
「身体が違いますから」
 その構造がです。
「僕達よりも動きがよくて」
「それだけにね」
「僕達より速く動けるんですね」
「ああしてね」
「一番目指してたんですけれど」
「一番になるだけが楽しみじゃないよ」
 微笑んで、です。王子はカルロスに言いました。
「それだけじゃね」
「そうですか」
「そう、競技自体をすることをね」
「楽しむこともですか」
「楽しみ方だよ」
「一番になるだけじゃなくて」
「スポーツは勝つだけじゃないね」
 こうも言った王子でした。
「そうだね」
「はい、言われてみれば」
「スポーツマンシップを守って」
 このことは絶対です。
「そしてね」
「そのうえで、ですね」
「怪我をしないようにしてね」
 このことについても言う王子でした。
「身体を動かして進んでいくことを楽しむ」
「それもいいんですね」
「王様がそうなんだ」
 他ならぬリンキティンク王がというのです。
「あの人は一番には興味がなくて」
「楽しむこと自体がですね」
「そう、それ自体がね」
 まさにというのです。
「楽しむ人だから」
「そうしたこともですか」
「楽しみ方だよ」
 まさにというのです。
「本当にね」
「そうなんですね、じゃあ僕も」
「一番を取ることもいいけれど」
 それと共にというのです。
「楽しもうね」
「わかりました」
「そうした風にね」
 こう言ってです、王子自身もです。
 にこにことして進んでいます、一つ一つ進みながら。
 そうしてです、皆ででした。
 アスレチックを楽しみました、一番はといいますと。
「あたしだったわね」
「思いきり跳ねたから」
「どうにもならなかったわ」
 ガラスの猫とエリカが今度は喜びで跳ねているつぎはぎ娘に言います。
「本当にボールみたいに動いて」
「それも自分からね」
「そうして動かれるとよ」
「辛かったわ」
「こうしたことが出来るのがね」
 つぎはぎ娘の言葉です。 

 

第六幕その五

「あたしだからね」
「それでよね」
「出来たのよね」
「やれやれよ」
「本当にね」
「まあ今回はあたしが一番だけれど」
 少し落ち着いてです、つぎはぎ娘は言いました。
「次はわからないわね」
「次にやる遊びの時は」
「その時はなのね」
「だってあたしにも得意じゃないことはあるから」
 だからというのです。
「そうしたものをする時は一番じゃないよ」
「一番になれるものとなれないものがある、じゃな」
 王様はお顔の汗をジュリアに拭いてもらいながら言います。
「そういうことじゃな」
「そうよ、あたしは何でも出来るかっていうと」
「違うのう」
「そんな人いるの?」
 こうも言ったつぎはぎ娘でした。
「そもそも」
「まずいないわね」
 オズマがつぎはぎ娘に答えます。
「それこそね」
「オズマでもよね」
「何でも出来るのは神様よ」
「オズマも神様じゃないから」
「そう、不得意なものはあるわ」 
 オズの国の国家元首でしかも魔法も使えるこの娘でもです。
「色々とね」
「出来ないこともよね」
「あるわよ」
「そういうことよね」
「だからそうしたことはね」
「わかっておくのね」
「得意不得意はあって」
 そしてというのです。
「出来ないこともね」
「あるのね」
「そう、人はね」
「あたしも身体はこうだけれどね」
「人でしょ」
「心が人間だからだよね」
「皆人なのよ」
 綿の身体でもというのです。
「だから得意不得意もなのね」
「あるのよ、だからアスレチックが得意でも苦手でもね」
「それでもなのね」
「いいのよ、けれど一番になったことはね」
 そのこと自体はというのです。
「素直に喜んでいいわ」
「そうしたことを楽しんでもいいのね」
「楽しみ方はそれぞれだから」
「アスレチックをすること自体も一番になることも」
「どうした楽しみ方でもいいのよ」
「そういうことね」
「そう、とにかく皆もう終わったわね」
「わしが最後だったかのう」
 王様はもう汗を拭き終えて満足したお顔になっています。
「そういえば」
「ボタンはどうしました?」
 王子は王様に彼のことを尋ねました。
「王様と一緒でしたか?」
「僕はここだよ」
 ここでボタンの声がしてきました、見ればです。
 王様の横にです、ボタンがしっかりといます。汗はジュリアが手渡したタオルでしっかりと拭いています。 

 

第六幕その六

「最後までやったよ」
「ああ、君もいるんだね」
「そうだよ」
 こう王子にも答えるのでした。
「この通りね」
「それは何よりだよ」 
 王子もボタンに微笑んで言います、そしてでした。
 カルロスは四人にです、こう言いました。
「皆怪我ない?」
「ええ、大丈夫よ」
 まずは恵梨香がカルロスに応えます。
「こけたりしなかったから」
「そう、よかったよ」
「いや、凄くいい運動だったわ」
 ナターシャも自分の黒いタオルで汗をかいています。白いお肌から出ている汗が玉の様になっています。
「午前のお城を組み立てた時と同じだけね」
「満足したよ」
 ジョージは完走してにこにことしています。
「本当にね」
「身体を全部動かしてたから」
 神宝はアスレチックでの運動のことについて言います。
「いい運動になったよ」
「うん、アスレチックっていいよね」
 笑顔で言うカルロスでした。
「身体全体を使って運動出来るから」
「カルロスって本当にスポーツが好きね」
 ジュリアがその彼に尋ねます。
「サッカーもそうだけれど」
「はい、身体を動かすならです」
「何でもなのね」
「好きです」
 ジュリアにもこう答えます。
「実際に」
「そうよね」
「運動をして」
 そしてというのです。
「気分をすっきりさせることがなんです」
「好きで」
「いつもしてます」
「そういえばね」
 ボタンがカルロスに言います。
「五人共それぞれ個性があるよね」
「僕達はだね」
「うん、カルロスがスポーツマンで」
 まずは彼のことを言ってです。
「神宝は知識だね」
「成績は神宝が一番いいんだ」
 学校のとです、カルロスは答えました。
「学年でトップクラスなんだよ」
「ふうん、そうなんだ」
「ちなみに僕が一番悪くて」
 五人の中でとです、ボタンに笑ってです。このこともお話するのでした。
「学園の真ん中位なんだ」
「一番悪くて真ん中?」
「皆成績いいから」
 だからというのです。
「僕が一番悪いんだ」
「そうなんだね」
「カルロスそんなに成績悪くないわよ」
 恵梨香は笑って言う彼に言いました。
「別にね」
「真ん中だから」
「そう、普通位だとね」
「悪くないんだ」
「そう、普通よ」
「だといいけれど」
「それでジョージがバランスいいよね」
 ボタンは彼のことも言いました。
「知識も運動も」
「うん、ジョージはそうだね」
 カルロスはボタンの彼の指摘についてお話しました。 

 

第六幕その七

「どちらもね」
「そうだよね、それでナターシャがまとめ役で」
 五人のです。
「いざって時に皆を引き締めたりね」
「そうそう、ナターシャはね」
「それで恵梨香がお母さんでね、皆をフォローする」
「いざって時は恵梨香ってところはあるね」
 また答えたカルロスでした。
「実際に」
「本当に五人それぞれで」
「個性があるんだね」
「僕が見てもね」
「よく言われるね、そのことは」
「五人共国が違うし」
 オズマは彼等の出身国のことを言いました。
「そこも面白いわね」
「アメリカだけじゃないのよね」
 エリカは自分達の生まれた国を最初に出しました、ドロシーもベッツイもトロットもアメリカから来ているのですから。
「それぞれ国が違って」
「そうなんだ、僕はブラジルで」
「ジョージは私達と同じ国だけれど」
「神宝は中国でね」
「ナターシャはロシアで」
「恵梨香は日本だね」
「そこも面白いし好きな色も違って」
 そこにも個性が出ている五人です。
「それぞれよね」
「個性は大事ね」
 ガラスの猫は自分の身体を普通の猫みたいに舐めています、そうして奇麗にしています。
「ないよりある方がいいわ」
「うん、本当にね」
「ないようであるのが個性っていうね」
 馬はこうも言いました。
「皆それぞれ違うよ」
「とはいってもオズの国だと」
 カルロスはこの国にいる人達のことを言うのでした。
「皆すごい個性的だよね」
「そんなに?」
「うん、かなりね」
 またボタンに応えたカルロスでした。
「個性が強いよ」
「僕もかな」
「うん、とてもね」
「そうかな」
「だって寝ている間に何処に行くかわからないんだよ」 
 そのことがというのです。
「凄く個性的だよ」
「そうなんだね」
「うん、君もね」
「そうなんだ」
「君の個性もね」
 それこそというのです。
「相当だよ」
「そうなんだ」
「うん、僕はそう思うよ」
「何もないって思ってたら」
「あるんだよ」
「さて、汗をかいたからのう」
 ここで、でした。王様が言ってきました。
「何か飲むか」
「ジュースですか?」
「いやいや、もうそろそろ三時じゃな」
 王子に応えて言うのでした。
「だからな」
「三時となりますと」
「おやつじゃ」
 まさにその時間だというのです。
「だからな」
「お茶ですか」
「それかコーヒーじゃ」
「ティータイムですね」
「それを楽しむか」
「それじゃあです」
 ジュリアは王様に応えて言うのでした。
「今からテーブル掛け出しますね」
「あの魔法の道具があるのか」
「私が持ってるの」
 すぐにです、オズマが応えてきました。 

 

第六幕その八

「いつも持って来ているから」
「そうなのか」
「何かあった時に備えてね」
「あれがあれば何でも食べられるからじゃな」
「お外に出る時は持って来ているの」
「そうなのか」
「そう、じゃあ今からテーブル掛けを広げるから」
 そうしてというのです。
「それでね」
「ティーセットを出すのじゃな」
「これからね」
「では早速じゃな」
 王様はオズマの言葉を聞いて笑顔で応えました。
「これから皆で楽しもうぞ」
「コーヒーも紅茶も出して」
 そこは皆がそれぞれ飲みたいものを飲むからです、どちらも出して用意します。
 そしてです、それと一緒にでした。
「ティーセットもね」
「ティーセットは何を出すのかのう」
「そうね、リーフパイにクッキーに」
 まずは二つ出したオズマでした。
「上がクッキーで真ん中がパイでね」
「そして下のお皿には何かのう」
「フルーツね」
 それだというのでした。
「苺にアップル、オレンジにパイナップルね」
「おお、よいのう」
「じゃあ今から出すから」
「ではじゃな」
「皆で楽しみましょう」
「運動をして汗をかいたからな」
「ティータイムよ」
 そちらの時間になりました、そして実際にです。
 オズマはすぐにそのテーブル掛けを出してでした。
 皆で紅茶やコーヒーと一緒に甘いものも楽しみます、見れば女の子達が紅茶で男の子達はコーヒーを飲んでいます。
 その状況を見てです、つぎはぎ娘はこんなことを言いました。
「それぞれ違うね、飲んでるのが」
「ええ、そうね」
 恵梨香はその紅茶を手につぎはぎ娘に応えました。
「私達は紅茶で」
「男の子はコーヒーね、今回は」
「何かそんな気分なんだ」
 そのコーヒーを手にしているジョージの言葉です。
「今は」
「紅茶もいいけれど」
 神宝もカップの中にはコーヒーがあります。
「コーヒーの方が飲みたくて」
「私は紅茶よ」
 ナターシャは実際にその手に紅茶があります。
「それにしたの」
「不思議なこともあるものね」
 つぎはぎ娘は四人の言葉を聞いてあらためて言いました。
「性別で飲むものが完全に別れるなんて」
「そういう時もあるってことだね」
 王子もコーヒーです。
「まあ好きな時にね」
「好きなものを飲むね」
「そうすればいいしね」
「それもそうね、じゃああたしはいつも通りね」
 飲むことも食べることもしないけれど、です。
「見て楽しむね」
「じゃあね」
「皆飲んで食べてね」
 ガラスの猫も馬も言います、こうしてでした。
 皆で三時のティーセットを楽しみました、それが終わってです。 
 王様は皆にです、明るく言いました。
「では宮殿に帰ろうぞ」
「はい、そしてですね」
「宮殿に帰ってな」
「晩御飯を食べてお風呂に入って」
「夜も寝るまで遊ぼうぞ」
 宮殿の中で出来る遊びもというのです。 

 

第六幕その九

「是非な」
「それじゃあ」
 こうお話してでした、皆で出発しようと思っていたら。
 不意にです、カルロスは皆を見回して言いました。
「あっ、また」
「むっ、どうしたのじゃ?」
「ボタンがいないです」
 こう王様に答えるのでした。
「また」
「そういえばそうじゃな」
「ひょっとして食べ終えて」
「運動してティーセットでお腹が膨れてじゃな」
「寝ちゃって、ですね」
「何処かに行ったのじゃな」
「そうなったみたいですね」
 カルロスはやれやれといったお顔になっています。
「コーヒー飲んだ後なのに」
「コーヒーを飲んでも眠くなる時はな」
「なるんですね」
「お茶も同じじゃ」
「だからですか」
「うむ、あの子も寝たのじゃ」
 何をしても眠くなる時は眠くなるというのです。
「そうなったのじゃ」
「今回は何処に行ったのかな」
「さて、それが問題じゃな」
「本当に何処に行くかわからないですから」
「ランダムじゃからな」
「完全に」
「ううんと、私の勘ではね」
 ここで言って来たのはガラスの猫でした。
「猫の勘よ」
「それだと?」
「あの子は今回は近くにいるよ」
「そうなんだ」
「ええ、すぐ傍にね」
「そうね、何かね」
 エリカも言います。
「お髭があの子の感覚を感じ取ってるわ」
「それじゃあ」
 そう聞いてでした、カルロスは。
 自分達がいる自然公園の仲を見回してです、こう言ったのでした。
「ここにいるんだね」
「ええ、間違いなくね」
「私達のすぐ傍にいるわね」
「そのことはいいけれど」
 それでもと言うのでした。
「問題は何処にいるかだね」
「森の中かな」
 王子は森の中を見ています。
「そこかな」
「可能性高いですね」
「うん、森の中で寝ていたら」
「簡単には見えないですね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「あそこにいるのかな」
「じゃあ森の中を探してみます?」
「そうだね、あそこをね」
「それじゃあ」
「他にも色々探すとしよう」
 王様はご自身が言った通りに楽しい感じでいます、ボタンを探すにあたっても。
「この自然公園のあちこちをな」
「それじゃあ」
「うむ、探そうぞ」
 うきうきとしてです、王様はです。 
 自ら率先してボタンを探しにかかります、しかし。 

 

第六幕その十

 ボタンは森の中にはいませんでした、それでオズマも言うのでした。
「森の中にはいなかったわね」
「はい、そうでしたね」
 カルロスは首を少し傾げさせてオズマに応えました。
「残念なことに」
「それじゃあね」
「何処でしょうか」
「大体察しはつくわ」
 オズマは微笑んでカルロスに答えました。
「森にいないならね」
「それは何処ですか?」
「あそこよ」
 こう言って指祭sた場所はです。
 お城でした、午前に皆が作ったブロックのお城です。
「あそこにいるわ」
「ああ、お城ですか」
「そう、あの中にいるわ」
「そういえば」
 言われてです、カルロスも頷きます。
「あの中は」
「そう、城壁に囲まれているし」
 ブロックのそれにです。
「しかもね」
「はい、お城の中も」
「見えないから」
「だからですね」
「森の中にいないのならね」
「あの中ですね」
「そうだと思うわ」
 こう予想を述べるのでした。
「あの子が今いる場所はね」
「それじゃあですね」
「今から行きましょう」
 お城の中にというのです、そしてでした。
 実際にです、皆でその橋を上げてです。門を潜ってまずは城壁とお城の間を探してからです。
 お城の中に入るとです、ボタンが気持ちよさそうに寝ていました。つぎはぎ娘はその彼を見て皆に言いました。
「ぐっすりね」
「うん、寝てるね」
「やっぱり身体動かしてお腹一杯食べたからね」
「眠くなったんだね」
「そうみたいね」
 こうカルロスにも言うのでした。
「それで寝ちゃってなのよ」
「ここに移ってたんだね」
「そういうことよ」
「ほら、近くにいたでしょ」
「実際にね」
 ガラスの猫とエリカも言います。
「猫の勘は当たるのよ」
「お髭は嘘を吐かないわ」
「だからね」
「ちゃんとここにいるのよ」
「うん、勘は凄いね」
 カルロスも腕を組んで考えるお顔で応えます。
「まさかね」
「本当に傍にいたなんて」
「思わなかったっていうのね」
「いや、ある程度は思っていたけれど」
 それでもというのです。
「本当に傍にいたからね」
「人間の勘なんて比べものにならないのよ」
 誇らしげに胸を張ってです、ガラスの猫はカルロスに言うのでした。
「猫の勘はね」
「鋭いんだね」
「その通りよ」
「猫のお髭はね」
 エリカはそのお髭をこれみよがしに見せています。
「レーダーなのよ」
「そこまで凄いんだね」
「そういうことよ」
「そうなんだね、だから」
「わかったのよ」
「そういうことだね、じゃあね」
 カルロスはあらためて言いました。
「ボタンを起こして」
「宮殿まで帰ろうね」
 馬が応えます。 

 

第六幕その十一

「これからね」
「うん、そうしよう」
「さて、ボタンよいか?」
 王様がボタンに声をかけます。
「起きて帰るぞ」
「あれっ、その声は」
「わしじゃよ」
 寝ぼけ眼をこすりつつ起き上がるボタンにまた言いました。
「御前さんはまた寝ておったのじゃ」
「そうだったんだ」
「左様、では帰ろうぞ」
「宮殿までだね」
「そして夜も楽しもうぞ」
「それじゃあね」
「それでだけれど」
 王子がカルロスに尋ねました。
「どうしてここにいたのかは」
「わかんなーーい」
 いつも通りの返事でした。
「皆に起こしてもらったらね」
「それでだね」
「ここにいたんだ」
「そこはいつも通りだね」
「うん、とにかくだよね」
「宮殿に帰ろう」
 王子もこう言うのでした。
「これからね」
「わかったよ、じゃあね」
 こうしてでした、ボタンを見つけた皆はです。宮殿にまで帰ることにしました。そしてです。
 そのうえで、皆は帰る中ででした。
 夕陽を見てです、王様はここでもにこにことして言いました。
「奇麗じゃな」
「この夕陽もですね」
「うむ、実にな」
「王様って夕陽もですか」
「好きじゃ」
 カルロスに笑顔で答えるのでした。
「見るのがな」
「朝やお昼のお日様もですね」
「好きでな」
「それで、ですね」
「夕陽もじゃ」
 今皆で見ているそれもというのです。
「好きなのじゃ、そしてお月様もな」
「お好きですか」
「そうじゃ、太陽は時間によって変わるな」
「はい、場所も」
「それを見ているのも楽しい」
 こう言うのでした。
「お月様は日によって形が変わるが」
「それもですね」
「見ていて楽しいからのう」
「だからそちらもですね」
「好きじゃ」
「王様は月見も好きだからね」
 王子もお話します。
「満月も半月も三日月もね」
「どれもですね」
「そうなんだ」
「そしてこの夕陽も見て」
「この通り楽しんでおる」
 実際にと言う王様でした。 

 

第六幕その十二

「強い日差しもいいがこうした日差しもよいな」
「夕陽を見てると」
 ここで言ったのはボタンです。
「何かね」
「どうかしたのかな」
「うん、優しい気持ちになるね」
 こうカルロスに言うのでした。
「何かね」
「ボタンはそうなんだ」
「そうだけれど」
「どうしてかな、それは」
「わかんなーーい」
「それはお月様wを見てもかしら」
 ここでオズマがカルロスに尋ねました。
「それは」
「うん、そうだよ」
「それならわかったわ」
「どういうことですか?」
 カルロスはすぐにオズマに尋ねました。
「ボタンが夕陽やお月様を見て優しい気持ちになるのは」
「どちらも優しい光だからよ」
「その光を見てですか」
「優しい気持ちになるの」
「だからですか」
「そう、朝日で目覚めてね」
 朝日のこともお話するオズマでした。
「お昼の光で元気になって」
「夕陽で優しい気持ちになって」
「お月様でさらにそうなってね」
 そのうえでというのです。
「そのうえで寝るものなのよ」
「それが人なんですね」
「そうなの、だからボタンもね」
「夕陽で優しい気持ちになるんですね」
「そうだと思うわ」
「そうですか、わかりました」
 カルロスもここまで聞いて頷きました。
「ボタンがそうで」
「私達もそうだと思うわ」
「照らされる光によって違うんですね」
「そうなってくるのよ」
「光ってそうした意味でも大事なんですね」
「そうよね」
「さて、宮殿に帰ったらじゃ」
 また言って来た王様でした。
「皆で美味しいものを食べてお風呂に入ろうぞ」
「それで、ですよね」
「ぐっすり寝て明日また楽しく過ごすのじゃ」
 こう言うのでした、ボタンも王様も夕陽を見ても優しい楽しい気持ちなのでした。 

 

第七幕その一

                 第七幕  不思議な迷路
 自然公園に行った次の日はです、皆は朝起きてまずはお風呂に入ってから食堂で朝御飯を食べました。トーストにハムエッグにフルーツの盛り合わせ、それに牛乳です。
 そのトーストに苺のジャムをたっぷりと付けながらです、王様は皆に言いました。
「今日は迷路に行こう」
「この国には迷路もあるんですか」
「そうじゃ」
 カルロスに笑顔で答えました。
「凄く面白い迷路がな」
「何でもあるんですね」
「遊びは何でもある国じゃ」
「だからなんですね」
「迷路もある」
「それでその迷路で、ですね」
「今日は遊ぼうぞ」
 これが王様の提案でした。
「どうじゃ」
「大丈夫かしら」
 オズマは自分のトーストを食べながら王様に言いました。
「迷路で」
「迷うか、か」
「いえ、迷ってもね」 
 迷路は迷うものです、そこをどう乗り越えるのかが面白いのです。そしてゴールまで行くのが楽しみ方です。
 だからです、オズマはこのことにはこう言うのでした。
「それはいいの」
「最後にゴールまで着けばじゃな」
「いいの、ただね」
「まだあるのか」
「ボタンは大丈夫なの?」
 その彼を見ての言葉でした。
「寝てね」
「うむ、迷路の中でじゃな」
「何処に行ったのかわからなくなると」
 それこそというのだ。
「大変なことになるわよ」
「それはそれで楽しくはないか」
「いや、そうなったら」
 それこそと答えたオズマでした。
「大変よ」
「確かに」
 ジュリアも言います。
「迷路の中でボタンを探すことになったら」
「もうとんでもないことになるわよ」
 つぎはぎ娘は食べなくても食べる皆の笑顔を見て楽しむ為に食堂にいます。
「それこそね」
「しかも迷路にいないかも知れないから」
 木挽の馬もいます。
「ちょっと以上にね」
「これはです」
 王子は王様に直接言いました。
「ボタンについては」
「連れて行かない方がよいか」
「そう思いますが」
「それはよくない」
 王様は一言で言いました。
「皆で行かんとな」
「仲間外れは、ですね」
「わしはそれが一番嫌いじゃ」
 断じてという感じでのお言葉でした。
「それはな」
「皆仲良く、公平かつ平等に」
 オズマはこう言いました。
「オズの国の法律よ」
「そういえば」
 恵梨香も言います。 

 

第七幕その二

「オズの国では仲間外れないですね」
「そうよね」
 ナターシャもそのことについて言うのでした。
「皆仲良くで」
「しかも平等でね」
 ジョージはこのことを指摘しました。
「差別がなくて」
「何でも公平で」
 最後に言ったのは神宝でした。
「分け隔てがなくて」
「そうしたことはよくないことでしょ」
 オズマは子供達にも言いました。
「そうでしょ」
「はい、仲間外れになりますと」
 実際にとです、カルロスはオズマに答えました。
「凄く嫌な気分になりますね」
「誰でもね、だからね」
「オズの国では法律として決められているんですね」
「そうしたらいけないとね」
「そうなんですね」
「そう、けれど」
 またボタンを見て言うオズマでした。
「大丈夫かしら」
「わかんなーーい」
 これがそのボタンの返事でした。
「だって僕何時でも何処でも寝てね」
「そして寝ている間にね」
「うん、何処かに行くから」
 自分でも言うのでした。
「それでね」
「そうよね」
「迷路は好きだけれど」
 それでもというのです。
「何処に行くかわからないよ」
「起きてたらいいんじゃないの?」
 つぎはぎ娘はここでこう提案しました。
「迷路にいる間は」
「そうしたらいいっていうんだね」
「これで万事解決よ」 
 つぎはぎ娘はハムエッグを食べているカルロスに答えました。
「そうでしょ」
「確かに起きていればね」
 カルロスはそのハムエッグを食べつつつぎはぎ娘に答えました。
「ボタンは何処にも行かないね」
「その通りね」
「けれど」
 また言ったオズマでした。
「ボタンはすぐに寝るから」
「歩いていたら寝ないよ、僕も」
「それでも休んだら」 
 即座にというのです。
「すぐに寝るでしょ」
「そう言われると」
 ボタンは嘘を言いません、だからここでもオズマに正直に答えました。
「そうだよ」
「ふむ、困ったのう」
 王様もお話を聞いて言うのでした。
「考えてみればこの子が迷路の中の何処かに移動するとな」
「そうでしょ」
「うむ、厄介じゃな」
「私もボタンも一緒に連れて行きたいわ」
 オズマは本音も言いました。
「それはね、けれどね」
「ボタンが寝るからのう」
「難しいわ、本当にね」
「うむ、どうしたものか」
「それなら」
 ここでジュリアが言ってきました。 

 

第七幕その三

「この子が起きている様にすればいいんですよ」
「と、いうと」
「ボタンにいつもお菓子を食べてもらいましょう」
「お菓子をじゃな」
「はい、ボタンはお菓子が大好きです」
 他の子供達と同じくです、ボタンはお菓子が大好きです。それこそ毎日食べてもそれでも飽きることはない位です。
「お菓子を食べている時は起きてますから」
「うん、その時はね」
 ボタン自身も言います。
「僕は絶対に起きているよ」
「それなら」
 ジュリアはボタンの言葉を聞いてまた言いました。
「ボタンにね」
「迷路にいる間は」
「お菓子をずっと食べていればいいから」
「じゃあ」
「それでどうかしら」
 ジュリアはボタン本人にお顔を向けて尋ねました。
「貴方としても」
「うん、それじゃあね」
 笑顔で応えたボタンでした。
「迷路にはお菓子をたっぷり持って行くよ」
「そしてそれをいつも食べていればね」
「歩きながらね」
「寝ることはないわ」
「そうね」
 オズマもそのお話を聞いて頷きました、そして。
 まずはボタンにです、頭を下げて言いました。
「御免なさい」
「どうして謝るの?」
「貴方だけを差別する様なことを言ったから」
 だからというのです。
「御免なさい」
「いや、僕が寝てね」
 そしてと言うボタンでした。
「何処かに行っちゃうのは確かだから」
「それで、というのね」
「王女様がそう言うのも当然かな」
 こう言うのでした。
「だからいいよ」
「そう言ってくれるのね」
「うん、それじゃあお菓子を一杯持って行くよ」
「色々あるぞ」
 王様はお話が終わったところでボタンに声をかけました、牛乳でトーストを流し込んだ後で。
「チョコレートにクッキー、キャンディにとな」
「ここのお菓子を持って行っていいんだ」
「好きなものを好きなだけな」
 それこそというのです。
「何でもどれだけでも持って行くのじゃ」
「それじゃあそうさせてもらうよ」
「わしは遠慮が嫌いじゃ」
 実際にこの王様はそうです、遠慮は好きではないのです。
「することもされることもな」
「だから」
「そうじゃ、そんなことはせずにな」
「何でもどれだけでも持って行ってもいいんだね」
「そうじゃ」
 まさにと言うのでした。
「ではよいな」
「うん、それじゃあね」
 ボタンは王様の言葉に頷きました、そしてです。
 ボタンは朝御飯の後で王子から貸してもらったリュックにです、色々なお菓子を一杯詰め込みました。そのうえで言うのでした。
「皆の分も入れたよ」
「皆っていうと?」
「一緒に迷路に行く皆の分をだよ」
 聞いてきたつぎはぎ娘への返事です。 

 

第七幕その四

「リュックの中に入れたよ」
「食べられる人の分をなのね」
「そう、その皆の分をね」
「そうしたのね」
「そうなんだ」
 リュックを手に持って背負っての言葉です。
「だから皆も食べてね」
「いや、僕達も持って行くから」
 リュックを貸してくれた王子はそのボタンに微笑んで答えました。「だからね」
「君はそのお菓子を好きなだけ食べればいいよ」
「皆持っていってるんだ」
「そうだよ」
「そうなんだ」
「お昼も持って行ってるしね」
 こちらもというのです。
「オズマ姫のテーブル掛けをね」
「ああ、そういえば」
「それがあるね」
「そうだよね」
「だからね」 
 それでというのです。
「君のお菓子は君がたべるといいよ」
「一杯あるけれど」
「一杯あるなら一杯食べればいいよ」
「そうすればいいんだね」
「そう、わかったね」
「うん、わかったよ」
 いつものわからないではなくです、今のボタンは王子にこう答えました。
「それじゃあね」
「そうするんだよ」
「さて、それで迷路の場所だけれど」
 木挽の馬はこのことをです、王様に尋ねました。今皆で宮殿の門を出たところです。
「一体何処なのかな」
「この宮殿の北西じゃよ」
「そこにあるんだ」
「そうじゃ、巨大なピラミッド型でな」
 王様は迷路の形もお話しました。
「地下から入って何層にもなっている迷路をどんどん登っていくのじゃ」
「それはかなり難しそうですね」 
 迷路の状況を聞いてです、神宝はこう察しました。
「一層じゃないなんて」
「そうだね、一層だけでも大変なのに」
 ジョージは神宝のその言葉に頷きました。
「そうした迷路だとね」
「これは迷ったら大変ね」
 ナターシャもその目を考えさせるものにしています。
「用心が必要ね」
「ここははぐれない様にしないと」 
 恵梨香はこう考えました。
「危ないわね」
「そう、集まって行くべきよ」
 オズマもこう言います。
「一人一人で言ったら迷うわ」
「けれど皆で迷路に行くには」
 カルロスはその場にいる全員を見回して言いました。
「僕達五人に姫様、ジュリアさんにつぎはぎ娘」
「木挽の馬車と僕達に」
 王子がカルロスに応えます。
「ボタンだね」
「十二人ですね」
「確かにあの迷路を通るには多いかな」
 王子は首を傾げさせて言いました。 

 

第七幕その五

「十二人で行くと」
「いや、それでもよいじゃろ」
 王様は王子にすぐに言葉を返しました。
「別にな」
「十二人でもですか」
「うむ、よいじゃろ」
「迷うよりは」
「皆で一度に行く方がよい」
「分かれるとですね」
「はぐれるしテーブル掛けは一つではないか」
 王様はオズマを見つつ王子に言うのでした。
「二つ三つに分かれるとおやつや御飯に困るぞ」
「それぞれお菓子を持って行っていても」
「そうじゃ、腹が減っては迷路は進めぬ」
 王様は言い切りました。
「実際にな」
「それでは」
「わしからの提案じゃ」
 皆に言うのでした。
「十二人でまとまって進もうぞ」
「確かに。言われてみますと」
 カルロスも王様の言葉を聞いて頷きました。
「その方がいいですね」
「別に競争をしている訳でもないじゃろ」
 それぞれのメンバーの間で、です。
「ただ迷路を進むだけじゃからな」
「だからですね」
「ここは一つでまとまってな」
「そのうえで、ですね」
「先に進むべきじゃ」
「それじゃあ」
「皆で一つじゃ」
 王様は明るく言い切りました。
「十二人全員で行くぞ」
「出発だね」
 ボタンは王様のその言葉に応えました。
「これから」
「そうじゃ、楽しい迷路じゃ」
「何か色々あるね」
 出発しました、ボタンは背負っているリュックの紐に手をやりつつ王様に言うのでした。
「王様の国って」
「遊ぶもの、遊ぶ場所がじゃな」
「宮殿も自然公園もそうだしね」
「やはりわしが遊び好きだからな」
「それでなんだね」
「そうじゃ、あらゆる遊びが好きだからな」
 それ故にというのです、
「色々な遊びを用意してあるのじゃよ」
「それでなんだ」
「うむ、迷路もあるのじゃ」
「置いたんだね」
「そうじゃ、しかもああした場所があるとな」 
 笑いながら言う王様でした。
「皆が楽しめるじゃろ」
「王様だけじゃなくて」
「わしだけ楽しんでもじゃ」
 それこそという返事でした。
「何がよい」
「独り占めはよくないんだね」
「そんなことは遠慮と同じだけ嫌いじゃ」
「皆で遊んで皆で楽しむだけ」
「それがよいのじゃよ」
 ボタンに笑って言うのでした、そしてでした。
 皆で迷路のところに来ました、すると。
 迷路の入口のところにです、王国の人達が何人かいました。カルロスはその人達を見て王様に尋ねました。 

 

第七幕その六

「あの人達も」
「そうじゃ、わし等と同じくな」
「迷路を楽しむんですね」
「その為に来ておるのじゃ」
「そうなんですね」
「まずは地下から入りな」
 そしてというのです。
「そこから一階、二階と進んでいく」
「頂上までですね」
「そうなっておる」
「この形ですと」 
 カルロスはそのピラミッドを見つつ思うのでした。
「上に行くにつれ迷路は小さくなっていきますね」
「その通りじゃよ」
「やっぱりそうですね」
「ピラミッドじゃからな」
 まさにというのです。
「そうなるからな」
「それじゃあ」
「今からよいな」
「はい、まずは地下にですね」
「あそこから入るのじゃ」
 見れば入口は下に続く階段になっています、そこに係の人達がいます。
「よいな」
「あそこから地下一階に入って」
「まずは地下一階の迷路を進むのじゃ」
「皆で」
「そうするぞ」
「じゃあ入ろう」
 ボタンはリュックからクッキーを取ってです、そのうえで。
 ぽりぽりと食べています、そうして言うのでした。
「これからね」
「うむ、そうじゃ」
「皆で」
「しっかり食べるのじゃぞ」 
 王様はボタンにこうも言いました。
「よいな」
「わかりました」
「そしてじゃ」
 さらに言う王様でした。
「起きておるとよい」
「起きてそして」
「そうじゃ、進んでいくぞ」
「そうするね」
 こうお話してです、皆で入口のところに来ました。既に国民の人達は迷路の中に入っています。そして皆の順番になったのです。
 王様がです、係の人達に言いました。
「わし等も行くぞ」
「今日はこちらですか」
「そうじゃ」
 係の人達ににこにことしての言葉でした。
「これから頂上を目指すぞ」
「わかりました、楽しまれて下さいね」
「そうしてくる」
「では迷われた時は」
「迷わぬわ」
 係の人の言葉にです、王様は笑って言うのでした。
「わしはな」
「大丈夫ですか?」
「何じゃ、わしが迷うとでもいうのか」
「王様前に来られた時は迷われて」
 そしてというのです。
「最後私達が迎えに行ったじゃないですか」
「頂上の出口のところでな」
「そうなりましたよ」
「あれはわし一人でな」
 そしてというのです。 

 

第七幕その七

「はじめてだったからじゃ」
「迷われたっていうんですか」
「多少な」
「まあ迷われたら」
 その時はとも言う係の人でした。
「私達がいますので」
「安心してよいな」
「はい、是非」
「まあ御主達の世話にはならぬ」 
 そのことは大丈夫だというのです。
「そこで気楽にしておれ」
「では」
「入るぞ」
 王様はにこにことしてです、係の人達に告げてでした。ボタンと一緒に先頭に立って階段を降りました。そしてです。 
 地下に入るとです、そこは床と天井が壁に完全につながっている迷路でした。全て石造りで中はとても明るいです。
 その明るい迷路を見てです、カルロスは首を傾げさせました。
「地下なのに明るいなんて」
「そうした石なんだ」
 王子がカルロスに説明します。
「自分から明かりを出すね」
「そうした石ですか」
「そう、それは弱い光でもね」
「全部その石で造られているから」
「明るいんだ」
 そうなっているというのです。
「この階も他の階もね」
「そういうことなんですね」
「だから明るさは問題ないから」
「安心して行けばいいですね」
「そうだよ、じゃあ行こう」
「わかりました」
 カルロスは王子の言葉に笑顔で頷きました、そして。
 皆で先に進みます、先頭にいるのは王様とボタンで一番後ろにはジュリアが木挽の馬と一緒にいます。そのジュリアにです。
 つぎはぎ娘は軽やかに踊りつつ歩きながら聞きました。
「どうして一番後ろにいるの?」
「ここに私達がいてね」
 そしてと答えたジュリアでした。
「皆がはぐれない様にしているの」
「見張りね」
「そうしたところね」
 実際にという返事でした。
「今の私はね」
「僕もだよ」
 馬もつぎはぎ娘に言います。
「それで一番後ろにいるんだ」
「そうなのね」
「姫様に言われたの」
 他ならぬオズマにというのです。
「私達が一番後ろにいて欲しいってね」
「確かにあたしが一番後ろだとね」
 つぎはぎ娘は今も踊り続けています、その動きは軽やかですが今にも何処かに行ってしまいそうな感じです。
「誰も見ていないとね」
「そのままよね」
「何処かに行ってしまいそうね」
「ジュリアも馬もしっかりしてるからね」
 つぎはぎ娘は言いました。
「一番後ろにいたら安心出来るわね」
「ここで皆を見ているから」
 微笑んで言うジュリアでした。
「安心してね」
「それじゃあね」
「この迷路は」
 王様、そしてボタンの後ろにいるカルロスが言うには。
「モンスターとか出ないですね」
「うむ、そうしたのはおらん」
 全くと答えた王様でした。
「生きものも住みついてはおらん」
「そこがエジプトのピラミッドとは違いますね」
「エジプトって?」
「外の世界にある国でね」
 カルロスはボタンにもお話しました。 

 

第七幕その八

「このピラミッドを最初に造った国だよ」
「そうなんだ」
「王様の墓だったんだ」
「リンキィンクの王様じゃないよね」
「エジプトの王様だよ」
 王様は王様でも、というのです。
「そこは違うよ」
「そうなんだね」
「そう、大昔の王様のお墓がね」
「最初のピラミッドだったんだね」
「大昔のエジプトのね」
「そのピラミッドも迷路だったの?」
「迷路じゃなかったけれど迷路みたいになっていたんだ」
 そのピラミッドの中はというのです。
「そうなっていたんだ」
「そうだったんだ」
「うん、それで王様のお墓があるお部屋があって」
 カルロスはさらにお話します。
「宝物を一杯収めているお部屋もあるんだ」
「そうした場所だったんだ」
「昔のピラミッドはね」
「面白そうな場所だね」
「けれど罠とかも多かったらしいから」
「危なかったんだね」
「そうした場所でもあったんだ」
 このこともです、カルロスはボタンにお話しました。
「だからあまりね」
「行っていい場所じゃないんだ」
「ここは罠はないみたいだけれど」
「ないぞ」
 王様からの返事です。
「そうしたものはな」
「普通の迷路ですね」
「そうじゃ、至って平和なな」
 王様は笑って保証します。
「何階もある迷路じゃ」
「難しくても」
「平和じゃよ」
「それならいいですね」
「ただ、ゴミを捨てたりせぬ様にな」
 そこは注意する王様でした。
「掃除用のロボットも巡っておるが」
「ロボットに迷惑をかけない様に」
「せんといかんからな」
 だからというのです。
「そうしたことはない様にな」
「わかりました」
 カルロスも王様の言葉に頷いてでした、お菓子を食べても袋はちゃんと一緒に持って来ているゴミ袋に入れました。
 ボタンもです、お菓子を食べてはいますが。
 食べた後の袋はちゃんとゴミ袋に入れています、オズマはそのボタンに言いました。
「そうしたらいいのよ」
「食べた後はだね」
「そう、お菓子が入っていた袋とかはね」
「こうしてだね」
「ゴミ袋に入れておくのよ」
「エチケットだね」
「そうよ」
 まさにという返事でした。
「だからね」
「こうしたことはだね」
「ちゃんとしないと駄目よ」
「迷路は奇麗に」
「他の場所もそうでしょ」
「うん」
 ボタンはオズマの言葉に頷きました。
「そのことはね」
「だからね」
 それで、というのです。
「奇麗にね」
「そうだね、じゃあね」
 ボタンも頷いてです、そして。
 ゴミをちゃんと収めるのでした、そうしてでした。
 そうしつつお菓子を食べるのでした、チョコレートもクッキーもビスケットもです。そうしていると全然寝ることがなくて。
 そしてです、こうも言ったのでした。
「何かこうしていると」
「寝ないね」
「うん、それに迷路を進んでいると」
 カルロスに言うのでした。 

 

第七幕その九

「考えるよね」
「どの道に行くのか」
「そうするから」
「ああ、考えるから」
「だからね」 
 それでというのです。
「寝ないよ」
「あれこれ考えていると」
「どうもね」
 実際にというのです、カルロスも。
「寝ることもないね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「考えることはいいことにしても」
 それでもと言うカルロスでした。
「寝ることも大事だよね」
「うん、そうした時は考えない」
「それも大事だね」
「そうだね」
 こうしたことをお話するのでした。
「考える時は考えて」
「考えない時は考えない」
「そうして起きる時は起きて」
「寝る時は寝るだね」
「そして遊ぶ時は遊ぶじゃ」
 王様の言葉です。
「それが大事なのじゃ」
「王様ならではの言葉ですね」
「ほっほっほ、わしは起きている時は遊ぶ主義じゃ」
 カルロスにも笑って言うのでした。
「即ち起きる時は常に遊ぶ」
「王様の場合は」
「それか食べるのじゃよ」
「どっちかなんですね」
「そして寝る時はな」
「寝られるんですね」
「ベッドに入れば一切考えずにじゃ」
 そうしてというのです。
「寝てそして夢を楽しむ」
「そうされるんですね」
「うむ、そうしておる」
「夢もですか」
「昨日の夢もよかった」
 にこにことしてお話する王様でした。
「お菓子を好きなだけ食べて皆と遊んでな」
「楽しまれていたんですか」
「夢の中でな」
「夢の中でも同じことされてたんじゃ」
「ほっほっほ、夢でも楽しかったぞ」
「そういうことですね」
「うむ、本当にいい夢じゃった」
 にこにことして言う王様でした、そして。  
 ボタンもです、こう言うのでした。
「僕は昨日の夢ではずっと寝てたよ」
「夢の中でも?」
「そうだったんだ」
「夢の中でも寝てるなんて」
 それこそと言うカルロスでした。
「ボタンらしいね」
「そうだよね」
「それでその夢もなんだ」
「うん、楽しかったよ」
「そうだったんだね」
「今日もそうした夢を見たいね」
「それじゃあね」
 こうしたことをお話してでした、そのうえで。  
 皆で一緒に行くのでした、迷路の先を。
 そして迷路を進んでいってです、まずは地下一階をクリアーしてでした。一階への階段に足を踏み入れるのでした。 

 

第八幕その一

                 第八幕  迷路を進んでいって
 ボタン達は迷路をさらに進んでいきます、地下一階をクリアーして一階に行くとです。そこも地下一階と同じでした。
 ただ迷路を進んでいってです、オズマは言いました。
「地下一階と違うわね」
「そうですね、迷路の中身が」
 恵梨香も歩いていて気付きました。
「地下一階と違う中身ですね」
「それぞれの階で形が違いますね」
 神宝も歩きながら言います。
「そうした迷路なんですね」
「まあどの階も同じ構造なら」
 それならと言ったジョージでした。
「簡単ですよね」
「迷路は難しいからこそ面白い」
 ナターシャの言葉です。
「悩むだけに」
「だからなのね」
「この迷路はあえて難しい構造になっておってな」
 王様はその迷路のことをお話します。
「地下一階と一階、二階三階でな」
「それぞれですね」
「そう、構造が違っておる」
 こうジュリアにもお話します。
「大きさもな」
「だからこそ難しいんですね」
「地下一階、地上六階じゃ」
「合わせて七階ね」
 つぎはぎ娘も言います。
「階もあるから余計になのね」
「難しいのじゃ」
「成程、そうした場所なんだね」
 木挽の馬も進んでいます、今もジュリアと共に最後尾にいます。
「このピラミッドは」
「これだけ難しいのならな」
 それこそと言う王様でした。
「やりがいがあるじゃろ」
「問題はおトイレだけれど」
 ボタンは王様にこのことを尋ねました。
「どうするの?」
「この中では魔法でな」
「魔法で?」
「おトイレに行きたくなることはないのじゃ」
「そうだったんだ」
「そうじゃ、現に皆そうじゃな」
「言われてみれば」
「そして出入り口のところに大きな、部屋が何十もあるおトイレがあるからな」
「出たらそこでだね」
「トイレが出来る」
「そうなんだね」
「だから安心するのじゃ」
 こうボタンに言うのでした。
「そちらもな」
「うん、安心したよ」
「ここはそうしたところじゃ」
 王様はそのボタンと一緒に先頭を進みつつ言うのでした。
「存分に楽しめるところじゃ」
「それじゃあ」
「お菓子も好きなだけ食べられる」
 このことについても言った王様でした。
「よい場所じゃ」
「やっぱりおトイレってするからね」
「飲んだり食べたりしておるとな」
「その心配がいらないのはいいことだね」
「そしてお昼になれば」
 ここで言ったのは王子でした。
「御飯を食べよう」
「今日のお昼は何を食べようかな」
 そのことを今から楽しみにしているカルロスでした。
「楽しみだね」
「そうね、何を出そうかしら」
 オズマもカルロスの言葉に応えます、食べものを出すテーブル掛けを持っている人として。
「お昼は」
「ハヤシライスとか」
 ふとこのお料理を思いついたカルロスでした。 

 

第八幕その二

「そういうのは」
「ハヤシライスね」
「日本で食べて美味しかったので」
「アメリカにも入っていてね」
「オズの国でも食べられますね」
「けれどあまりね」
 ここで微妙なお顔になったオズマでした。
「食べないわね」
「カレー程は」
「カレーの方がね」
 それこそというのです。
「有名ね」
「そうですね、言われてみれば」
「どういう訳か」
「そうなんですよね」
 恵梨香も言うのでした。
「カレーライスと比べてハヤシライスは」
「あまり食べられないわね」
「人気がないかっていいますと」
「そうでもないわね」
「はい、美味しいですし」
 それで、というのです。
「お肉もマッシュルームも玉葱もありますし」
「幾らでも食べられるわね」
「けれどカレーライスは」
「強いのよね」
「不思議な位強いわね」
「そうですよね」
「だからカレーライスと比べられると」
 どうしてもなのです。
「ハヤシライスはメジャーじゃないですね」
「カレーって凄いよね」
 カルロスは恵梨香にも言いました。
「もうあれだけで一つの世界だよ」
「世界なの?」
「だってカレーだけで漫画とか本にもなるじゃない」
「言われてみれば」
「だからね」
 それで、というのです。
「カレーは凄いよ」
「そうなるのね」
「うん、ただね」
「ハヤシライスもよね」
「あれも美味しいからね」
「日本に来てあの食べ物もよかったよ」
「そうだよね」
 ジョージと神宝も言います。
「カレーライスもよかったけれど」
「ハヤシライスにしてもね」
「食べたら身体も温まるから」
 ナターシャはこのことも頭の中に入れています。
「いいのよね」
「それじゃあ今日はハヤシライスかしら」
 オズマは皆の言葉を聞いてこちらに傾きました。
「それとサラダがいいわね」
「サラダもですね」
「ええ、ポテトサラダかしら」
 オズマが考えているのはこのサラダです。
「それがいいかしら」
「いいですね、ポテトサラダも」
 カルロスも笑顔になります。
「それじゃあ」
「お昼になったらね」
「はい、その時は」
「テーブル掛けを出すから」
「その場で、ですね」
「皆で食べましょう」
「あとお茶の時間にはだよね」
 ボタンは今はビスケットを食べています、そのうえで言うことは。
「お菓子もだね」
「ボタン今お菓子食べてるけれど」
「それはそれでね」
「お茶の時間もなんだ」
「うん、食べるよ」
 そうするというのです。 

 

第八幕その三

「その時もね」
「それだけ食べたら太るよ」
 カルロスはボタンの言葉を聞いて笑って返しました。
「オズの国じゃなかったら」
「僕太ってたの」
「そこまで食べてたらね」
 しかもお菓子をです。
「そうなるよ」
「そうなんだ」
「うん、オズの国では太ることがないけれどね」
 体型はそのまま維持される国だからです。
「そうなるよ」
「僕が太ったらどうなるのかな」
「そのまま丸くなるよ」
「丸くなんだ」
「そして動きにくくなるよ」
「動きにくくなることは嫌だね」
 ボタンにしてもというのでした。
「やっぱりね」
「そうだよね、けれどオズの国だから」
「そんな心配はいらないね」
「うん、安心してね」
「じゃあ十時になったら」
「その時もだね」
「お菓子を食べるよ」
 お茶と一緒にというのです。
「そうするよ」
「うん、まあ太らないならね」
 カルロスも笑って言うのでした。
「いいよ」
「それじゃあね」 
 こうしたお話をしているとすぐにそのお茶の時間になりました、そして。
 皆で一緒にです、お茶を飲んでお菓子を食べてでした。迷路をさらに進んでいきます。一階の後は二階三階と進んで。
 三階でお昼になりました、お昼はハヤシライスにポテトサラダ、デザートはアップルパイとアップルティーです。
 そのお昼を食べながらです、カルロスはこうしたことを言いました。
「上に行くにつれ狭くなってきてるのは」
「ピラミッドだからだよ」
 王子がカルロスに答えます、皆でテーブル掛けを囲んで座って食べています。
「徐々にね」
「上にいくにつれですね」
「狭くなっていくんだ」
「ピラミッドは四角錐だからですね」
「そう、その形だからね」
 その為にというのです。
「徐々に狭くなっていっているんだ」
「上に行くにつれ」
「そうだよ」
「そうなんですね、それで狭い分」
「迷路の難しさも下がってきているね」
「そうですね」
「それがこの迷路の特徴なんだ」
 王子はハヤシライスをスプーンで食べつつカルロスに微笑んでお話します。
「上に進むにつれてね」
「狭くなっていって」
「難易度も下がるんだ」
「じゃあ最初がですか」
「一番難しいんだ」
「そうした造りなんですね」
「何でもそうだね」
 ここでこうも言った王子でした。
「最初が難しいね」
「はい、一番」
「最初は何も知らないしね」
「難しくなりますね」
「このピラミッドもだよ」
「最初が一番難しくて」
「徐々に慣れるせいもあって」
 そのこともあってというのです。 

 

第八幕その四

「簡単になるんだ」
「そういうものですか」
「もう四階、五階って進むと」
「余計にですね」
「簡単になってね」
「六階はですね」
「もうすぐだよ」
 クリアーするにはというのです。
「そうなるよ」
「そうですか」
「そして地下はね」
 地下一階、そこはといいますと。
「最初は何でもね」
「下積みというかね」
 それこそと言ったオズマでした。
「表に出るまでに努力が必要でしょ」
「はい、それまでに」
「だからこのピラミッドもね」
「地下があるんですね」
「そうなの」
「そうだったんですか」
「わしはただ楽しくのう」
 王様はポテトサラダをたっぷりと食べています、サラダにはポテト以外にレーズンや玉葱に胡瓜、ソーセージも入っています。
「そう造ってもらったが」
「何かですね」
「そうした感じになっておるのう」
 こうカルロスにお話するのでした。
「ここは」
「自然と」
「わしが楽しい造りにしてくれと頼んだら」
「人生みたいな」
「そうしたものにな」
 まさにというのです。
「なったわ」
「不思議なことですね、そのことも」
「全くじゃな」
 実際にと言った王様でした。
「このことは」
「本当にそうですね」
「自然とそうなるのかのう」
「自然とですか」
「この世の中のものはな」
 オズの国でもというのです。
「世の中を表すものになる」
「このピラミッドにしても」
「それこそな」
 カルロスに言うのでした。
「色々な形でな」
「そうね、世の中にあるのなら」
 オズマも言います。
「何でもね」
「世の中を表すものになるんですね」
「そのそれぞれをね」
 オズマはお話をしながらハヤシライスを食べています、そしてそのハヤシライスも見てそうして言うのでした。
「このハヤシライスにしても」
「世の中をですね」
「表しているのよ」
「そうなんですね」
「ええ、何かとね」
 こうしたことをお話しつつお昼を食べました。
 そしてお昼を食べ終えてまた歩きはじめます、すると実際に階を進むにつれて狭く簡単になっていって。
 あっという間に六階まで着いて頂上に出ました、みんな無事クリアーしました。 
 そしてお外に出た時にです、ジュリアはピラミッドの頂上からカドリングの赤い奇麗な世界を見回しながら言いました。 

 

第八幕その五

「最初思っていたよりも」
「早く終わったじゃろ」
「夕方近くまでって思っていました」
「大抵の者がそう言うのじゃ」
「そうなんですか」
「もっと時間がかかると思っていたとな」
 実際にというのです。
「言うのじゃ」
「そうなんですね」
「かなり難しいと思ってな」
「確かに地下や一階はかなりでしたね」
「しかしな」
「それでもですか」
「徐々にな」
 上に進むにつれてというのです。
「慣れるし狭くなって簡単になってな」
「こうしてですね」
「思ったよりも早くクリアー出来るのじゃ」
「そういうものですか」
「わしも同じじゃった」
 他ならぬ王様もそうだったというのです。
「これは夕方までに終わらぬとな」
「思っておられたんですね」
「そうじゃった、しかしな」
「こうしてですね」
「思ったより早く終わって」
 そしてというのです。
「こうして頂上でな」
「景色も楽しめたんですね」
「そうじゃ」
 満面の笑みでの言葉でした。
「こうしてな」
「そうですか」
「うむ、ではな」 
 さらに言った王様でした。
「ここから降りようぞ」
「ここにいてね」
 ボタンが言ってきました。
「景色も観たいけれど」
「いや、それには」
 カルロスがボタンに言います。
「ちょっとバランスが悪いよ」
「ここは?」
「うん、ピラミッドの頂上はね」
「狭いから」
「ブロック幾つか分しかないじゃない」
 それだけの広さしかないからというのです。
「しかも風があるし」
「吹き飛ばされたりとか」
「そうしたこともあるから」
「それじゃあだね」
「うん、ここに長くいるのはよくないよ」
「じゃあ降りないと駄目だね」
「それに僕達の他に迷路を進んでいる人もいて」
 このことも言ったカルロスでした。
「後から来るだろうから」
「その人の邪魔にならない様に」
「是非ね」
「もう降りるんだね」
「そうしよう」
「うむ、カルロスの言う通りじゃ」
 王様もカルロスのその言葉に頷きます。
「ここはな」
「すぐにですね」
「降りるべきじゃ」
 まさにというのです。
「そうしようぞ」
「わかったよ」
 ボタンもこう返しました。
「それじゃあね」
「降りてな」
「それからは」
「うむ、トイレをしたい人はトイレをしてな」
 そしてというのです。 

 

第八幕その六

「宮殿に帰るとするか」
「いえ、どうもね」
 ここでこう言ったのはオズマでした。
「降りて少ししたらお茶の時間よ」
「三時か」
「だからお茶を飲みましょう」
 つまり午後のティータイムを楽しもうというのです。
「そうしましょう」
「わかった、それではな」
「ええ、セットも出すわ」
 ティーセットもというのです。
「お茶と一緒にね」
「それも楽しみじゃな」
「そうね、じゃあ降りましょう」
「もうお菓子もね」
 ボタンはクラッカーを食べています、ですが。
「ないしね」
「全部食べたんだ」
「うん」
 カルロスの少し驚いた言葉に穏やかに答えたのでした。
「そうだよ」
「凄いね」
「美味しかったから」
 だからというのです。
「全部食べちゃったよ」
「いや、美味しくてもね」
「全部食べたことは」
「凄いよ」
 そのこと自体がとです、カルロスはボタンに言いました。
「よく食べたね」
「しかも十時もお昼もかなり食べてるから」
 ジュリアも言います。
「相当なものよ」
「どれも美味しかったから」
「それだけ食べたら」
 それこそとも言うジュリアでした。
「眠くなるわよ、後で」
「太らなくても?」
「ええ、そうなるわよ」
「太ると大変だよ」 
 ジョージが言ってきました。
「それだけで動きにくくなるからね」
「食べ過ぎるとね」
 神宝もボタンに言います。
「外の世界じゃ太るんだよね」
「それで身体にも困ったことが起きたりするから」
 恵梨香はこのことを心配しています。
「太り過ぎはよくないのよね」
「寒い時はそれでもいいけれど」
 ナターシャはある程度寛容みたいです、太ることについて。
「あまりだとやっぱりよくないみたいね」
「太ってると寒くないともいうけれど」
 カルロスは少し首を捻ってです、ボタンに言うのでした。そうしたお話をしながらピラミッドの階段を皆で一段ずつ降りています。
「それでも太り過ぎは本当によくないね」
「王様位がいいのかしら」
 つぎはぎ娘は軽やかに歩きつつ王様を見ています。
「太っているにしても」
「わし位か」
「ええ、それ位がね」
「ふむ、わしは確かに太っておるのう」
 自分でも言う王様でした。
「しかしオズの国じゃからこれ以上は太らんしな」
「動きにくい?」
「快適じゃ」 
 王様は木挽の馬にも言いました。
「充分動けておる」
「そうだよね」
「これ以上痩せることもないが」
 しかし、と言うのでした。
「充分じゃ」
「体型がそのままっていいことですよ」
 カルロスはしみじみとした口調で王様にお話しました。 

 

第八幕その七

「太らない、痩せないことは」
「そうなるのじゃな」
「はい、ですからボタンも」
 彼についてもというのです、今はその猜疑のクラッカーを食べています。
「このままならいいですね」
「そうなんだね」
「うん、ただよく食べたね今日は」
「ボタンはよく食べてるね」
 王子が見てもです。
「身体は小さいけれど」
「何か食べられる時はね」
「幾らでもだね」
「僕は食べられるんだ」
「それで今日はだね」
「そんな日なんだ」
 それこそ幾らでもというのです。
「だから三時もね」
「食べられるんだね」
「そうだよ」
「わかったわ、じゃあお菓子もね」
 オズマも微笑んで言うのでした。
「たっぷり食べてね」
「うん、そうするよ」
「さて、 何を出そうかしら」
 具体的にとです、オズマは三時のティータイムに何を出すのか考えはじめました。
「今日の三時は」
「それが一番の問題ですよね」
「そう、何にしようかしら」
 オズマはカルロスにも応えて言います。
「一体ね」
「最近色々なお菓子食べてますね」
「ええ、お茶にしてもね」
「レモンティーだけじゃないですね」
 アメリカでよく飲まれている紅茶です。
「烏龍茶にお抹茶に」
「ロシアンティーもね」
「コーヒーも飲みますし」
「そうなのよね」
「コーヒーですと」
 ふとです、カルロスはこう言ったのでした。
「ウィンナーコーヒーもいいですね」
「ウィンナーコーヒーって何?」
 その名前を聞いてです、ボタンが尋ねました。
「どんなコーヒーなの?」
「コーヒーの上に生クリームが乗っているんだ」
「生クリームなんだ」
「そう、クリープを入れないでね」
 生クリームを乗せているというのです。
「そうしてるんだ」
「それで生クリームがクリープになっているんだ」
「ミルクみたいね」
「そうなんだね」
「これも美味しいよ」
 実際にと答えたカルロスでした。
「普通のコーヒーもいいけれどね」
「確かに美味しそうだね」
 ボタンもお話を聞いてこう思いました。
「飲みたくなったよ」
「それじゃあ今日はウィンナーコーヒーにするわ」
 オズマもお話を聞いて微笑んで決定しました。
「それでお菓子もオーストリアの感じにするわね」
「オーストリアって?」
「お外の世界にある国の一つよ」
 オズマはボタンにこのことから説明しました。
「そのウィンナーコーヒーの国なの」
「そうなんだ」
「ウィンナーっていうのはウィーンのっていう意味で」
 オズマはさらにお話します。 

 

第八幕その八

「ウィーンはオーストリアの首都なのよ」
「ふうん、エメラルドの都みたいなんだねウィーンで」
 ここまで聞いてこう思ったカルロスでした。
「それじゃあ」
「そうね、エメラルドの都がオズの国の首都ね」
「うん」
「それでウィーンはオーストリアの首都だから」
「一緒だよね」
「そうなるわね」
 オズマも頷くことでした。
「確かに」
「エメラルドの都のコーヒーだと」
「緑でしょ」
「うん、コーヒー豆が緑だからね」
 それで緑のコーヒーになるのです、エメラルドの都の色は緑なのでコーヒーも他のものと同じく緑色になっています。
「緑だよね」
「それだとね」
「エメラルドコーヒーかな」
「そうした名前になるかしら」
「それかグリーンコーヒー?」
 こうも言ったボタンでした。
「エメラルドの都のコーヒーは」
「そうなるかしらね」
「あそこのコーヒーも美味しいよね」
「それじゃあ都に帰ったらどう?」 
 オズマは微笑んでカルロスに提案しました。
「都のコーヒーをね」
「うん、オズマがいいっていうのなら」
 ボタンは微笑んでオズマに応えました。
「飲ませてね」
「それじゃあね」
「この国で遊んだ後は」
「都に来るのね」
「そうしていいよね」
「勿論よ」 
 にこりとしてです、応えたオズマでした。
「一緒に帰ってね」
「そしてだね」
「楽しみましょう」 
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆でピラミッドを降りてそうしてからです、皆でウィンナーコーヒーとオーストリアのお菓子を楽しむのでした。そのお菓子は。
 甘いクッキーにフルーツ、それにです。
 黒いとても甘いチョコレートケーキを食べて、ボタンは目を瞬かせて言いました。
「このとても美味しいケーキいいね」
「ザッハトルテっていうのよ」 
 そのボタンにです、オズマがお話します。
「このお菓子はね」
「ザッハトルテっていうんだ」
「そうよ」
「ふうん、これもだよね」
「オーストリアのお菓子でね」
「アメリカでも食べられていて」
「オズの国でもなの」
 アメリカが反映されるお国だからです。
「食べられるのよ」
「じゃあオーストリアの人もアメリカに来ているんだね」
「その通りよ」
 まさにというお返事でした。
「ドイツの人達と同じでね」
「オーストリアの人達もなんだ」
「アメリカに移住してきているの」
「それでザッハトルテもなんだ」
「こうしてね」 
「オズの国でも食べられるんだね」
「そうなのよ」
 オズマはボタンに笑顔でお話するのでした。
「アメリカならではよ」
「色々な国から人が来る国だから」
「色々なものが食べられるのよ」
「そしてそにアメリカがだね」
「オズの国に反映されるのよ」
「アメリカってもう一つのオズの国なの?」
 お話を聞いて思ったボタンでした。 

 

第八幕その九

「それじゃあ」
「そうね、実際にね」
「そうなるよね」
「ええ、アメリカ人もオズの国のことを知ってくれる様になったわ」
 そうなったのはボームさんをはじめとした王室年代記の記録者の人達のお陰です、オズの国から聞いたことを本として皆に紹介したからです。
「そのことも含めてね」
「アメリカはもう一つのオズの国だね」
「そう言っていいわ」
「確かにそうかも知れないですね」
 ジョージもザッハトルテを食べつつ頷きました、アメリカ人として。
「オズの国のことは最初に伝わる国ですし」
「というかオズの国の本はね」
 ナターシャが言いますに。この娘もザッハトルテを食べています。
「アメリカ人が一番読んでるでしょ」
「僕達全部読んでいないよ」
 神宝はこのことを残念がるのでした、やっぱりザッハトルテを食べながら。
「ボームさんが書いてくれた本以外はね」
「そうなのよね」 
 恵梨香もザッハトルテを食べつつ残念そうにしています。
「私達読めないから」
「アメリカから世界に伝わるから」
 カルロスもザッハトルテの甘さを楽しみながら残念なお顔になっています。
「本当にアメリカはもう一つのオズの国だよね」
「最近はね」
 また言ったオズマでした。
「オズの国への扉が色々な国にもあるけれど」
「日本とかね」
 ボタンも言います。
「あるけれど」
「それでも一番多いのはオズの国で」
「僕も時々行くよ」
 アメリカにというのです。
「というか起きてアメリカに来ているんだ」
「扉の傍にだね」
「前と一緒でね」
 八条学園にいた時と、というのです。
「その時とね」
「そうだよね、ただ」
「ただ?」
「ボタンにしても他の人にしてもオズの国から極端には出ないよね」
「オズの国の外にはだね」
「扉の近くだけでね」
 出ているにしてもです。
「そこからは行かないよね」
「そうだよね」
「それはオズの国の人だからよ」 
 オズマがカルロスに答えました、他の四人の子達にもです。
「オズの国に自然と戻るの」
「そうした風になっているんですね」
「そうよ、オズの国に一時出られても」
「自然と戻る様にですね」
「オズの国に導かれるの」
「それじゃあオズの国に意志があるんですか?」
 カルロスはここでこのことに気付きました。
「それでオズの国の人達を引き寄せるんですか」
「ええ、オズの国にも意志があるの」
「やっぱりそうですか」
「それで皆を引き寄せているのよ」
「そういうことですか」
「ええ、オズの国はね」
「だからボタンも」
「そして皆もね」 
 五人共というのです。
「オズの国に住んでいないけrど」
「オズの国の人になっているんですね、僕達も」
「だからよくこの国に来るの」
「そして遊んでるんですね」
「こうしてね」
「そうですか、わかりました」
 カルロスはしみじみとしたお顔になあってオズマの言葉に応えました、そして他の皆もです。カルロスと同じお顔になって言うのでした。 

 

第八幕その十

「オズの国にも意志があって」
「人間みたいに」
「それで人を引き寄せる」
「私達にしても」
「国に意志があるなんてね」
 カルロスも言うのでした。
「不思議なことだよね」
「本当にね」
「まさに不思議の国ね、オズの国は」
「外に出た人まで引き寄せるなんて」
「そんな意志があるなんて」
「そして力もあるんだね」
 意志だけでなくとです、カルロスはこのことにも気付きました。
「引き寄せるだけの」
「だから僕もいつも戻って来るんだね」 
 ボタンも気付きました。
「寝て起きたらオズの国の外にいても」
「そうみたいだね」
「そしてオズの国に好かれてるのかな」
「オズの国は自分の国の人は皆大好きなのよ」
 オズマはにこりと笑ってカルロスの今の質問にも答えました。
「誰もをね」
「じゃあ僕も」
「ここにいる皆もよ」
 それこそというのです。
「大好きなのよ」
「そして引き寄せてくれるんだね」
「そうしてくれるのよ」
「僕を好いてくれるなんて」
 このこと自体がとても嬉しくてです、こう言ったカルロスでした。
「こんないいことはないよ」
「そう思うわよね、ボタンも」
「誰かに好いてもらうって嬉しいことだよね」
「ええ、そうよね」
「オズの国にそうしてもらえるなんて」
 それもというのです。
「本当に嬉しいよ」
「それじゃあね」
「うん、この国でずっと楽しく遊ぶよ」
「ほっほっほ、では宮殿に帰ったらじゃ」
 王様はボタンの言葉を聞いて笑って言いました。
「晩御飯まで遊ぼうか」
「今度は何をして遊ぶの?」
「おはじきにごむ跳びに何でもあるぞ」
 それこそtごいうのです。
「遊びならな」
「何でもだね」
「あやとりはどうじゃ」
 王様はこの遊びもお話に出しました。
「これは」
「王様あやとりもするんだ」
「これもまた面白くてのう」
「けれどあやとりって女の子の遊びだよね」 
 ボタンは首を傾げさせて王様に尋ね返しました。
「王様女の子の遊びもするの?」
「うむ」
 王様はコーヒーカップを手に胸を張って答えました。
「その通りじゃ」
「女の子の遊びは」
「女の子がするものというのじゃな」
「違うの?」
「わしは違う」 
 こう答えるのでした。
「遊びなら何でも遊ぶ」
「それが王様なんだね」
「左様、どんな遊びでもするのじゃ」
「だからあやとりもなんだ」
「するしのう」 
 さらに言葉を続けます、ボタンに対して。
「他の女の子の遊びもする」
「そして男の子も遊びもだね」
「するぞ」
「どっちもだね」
「楽しければ何でもする」
 それこそともいう返事でした。 

 

第八幕その十一

「そして楽しむのじゃ」
「ううん、本当に何でも」
「そうじゃ、何でもするぞ」
「じゃあ僕もあやとりしていいんだね」
「よいぞ」 
 笑っての返事でした。
「そうしてもな」
「じゃああやとりしてみるね」
「これまでしたことはなかったのか」
「だって女の子がするものと思っていたから」
 あやとりはというのです。
「それでしなかったんだ」
「そうしたことってあるよね」 
 カルロスもコーヒーを飲みながら応えました、生クリームの下にあるコーヒーはクリームに熱が阻まれて熱いままです。それでいてコーヒーの中にクリームが幾分か溶けていてそれで黒からブラウンに色を変えています。
「男の子がするもの、女の子がするもの」
「誰が決めたか知らないけれど」
「そう決まってることあるよね」
「そうだよね」
 ボタンはカルロスにも頷いて応えます。
「あやとりにしてもそうで」
「他にもね」
「あるね」 
 本当にというのです。
「法律で決まっていないのに」
「オズの国でそうした法律はないわ」
 オズマがオズの国の国家元首として答えます。
「男の子でも女の子でもね」
「どうした遊びでもだね」
「していいのよ」 
 ボタンに答えるのでした。
「実際にね」
「誰かの迷惑にならなかったら」
「いいのよ」 
 どんな遊びをしてもいいというのです。
「そうしてね」
「そうなんだね」
「だからね」
「僕があやとりしてもいいんだね」
「王様もね」
 この人もというのです。
「だからボタンがあやとりをしたいのなら」
「していいし」
「他の遊びをしていいわよ」
「じゃあそうするね」
「考えてみたらそうした人いたよ」 
 カルロスはここで思い出した人がいました。
「漫画のキャラクターでね」
「あの漫画ね」
 応えたのは恵梨香でした。
「青いネコ型ロボットの出る」
「うん、その漫画で出てるよね」
「眼鏡をかけた男の子ね」
「あのキャラクターあやとり得意だよね」
「射撃とね」 
 この二つがというのです。
「凄く得意よね」
「男の子だけれどあやとり得意だよね」
「誰にも負けないわよ」
 射撃とこのことについてはというのです。 

 

第八幕その十二

「実際にね」
「だからね」
「あやとりもね」
「していいんだね」
「というか男の子の遊びとか女の子の遊びとか」
「区分をすることも」
「私も好きじゃないわ」
 こうカルロスに言うのでした、そして。
 王様もです、笑って言います。
「しかもわしは大人じゃぞ」
「大人でもですね」
「子供の遊びが大好きじゃ」
「そうですよね」
「うむ、大人でもじゃ」
「子供の遊びを楽しまれてるんですね」
「そうじゃ」
 その通りとです、カルロスに言うのでした。
「ならば男の子も女の子もな」
「大人の王様が遊ばれているから」
「もっと凄いことじゃろ」
「はい、確かに」
「しかしわしは何と言われてもな」
「遊ばれますね」
「それが生きがいじゃからな」 
 オズの国きっての遊び好きな人のお言葉です。
「そうしていくぞ」
「そうなんですね」
「うむ、それではな」
「帰ってからもですね」
「遊ぶとしようぞ」
「そしてお風呂にもね」
 ボタンがお風呂をお話に出しました。
「入るんだね」
「当然じゃ、お風呂で気持ちよくじゃ」
「入って身体も洗って」
「楽しく遊ぶのじゃよ」
「お風呂に入ることも遊びなんだね」
「うむ」
 その通りという返事でした。
「そちらも楽しみじゃ」
「じゃあ僕もね」
 ボタンは王様の言葉に応えて言いました。
「一緒にね」
「楽しむな」
「そうしてもいいよね」
「だからわしは遠慮が嫌いなのじゃ」
「そういうことだね」
「うむ、では楽しく遊ぼうぞ」
「それじゃあ僕も」
 王子も言うのでした。
「明日のお風呂を楽しみにしていよう」
「王子は絶対に朝なんだね」
「うん、朝に入るのがね」
「好きなんだね」
「それが一番気持ちいいからね」
 だからこそというのです。
「いつも朝に入っているんだ、眠気も取れるしね」
「朝だね」
「ボタンもどうかな」
「朝はいつも寝てるから」
 早寝遅起きです、ボタンは。
「だから多分ね」
「僕が入る時間にはいつも寝ているしね」
「御免ね」
「謝る必要はないよ」
 それはと返した王子でした。
「それはそれぞれだから」
「それじゃあ」
「僕は明日の朝のお風呂を楽しみにしておくよ」
「そういうことだね」 
 こうしたことをお話してでした、そのうえで。
 皆で宮殿に帰りました、そしてです。皆で遊んで晩御飯を食べてお風呂に入って寝ました。宮殿での時間もとても楽しかったです。 

 

第九幕その一

                 第九幕  お菓子作り
 王様は朝風呂から出た王子と宮殿の廊下で会ってです、こんなことを尋ねました。
「お風呂はどうじゃった」
「いいお湯でしたよ」
 王子は微笑んで王様に尋ねました。
「いつも通り」
「ふむ、そうか」
「はい、お陰で頭も身体もすっきりしました」
「それはよいのう、その話を聞くと」
 王様はこう言うのでした。
「わしも入りたくなったわ」
「朝風呂にですか」
「うむ、そうしたくなった」
 王子に笑って言うのでした。
「どうもな」
「それではどうぞ」
 王子は王様に微笑んだまま言葉を返しました。
「何時でも入られれるお風呂ですしね」
「そうじゃな、では行って来る」
「はい、ただ」
「ただ、何じゃ?」
「王様今日は早起きですね」
 王子は王様にこうも尋ねました。
「いつもと違って」
「たまたまな」
「早く起きられたんですか」
「そうなのじゃ」
 その通りだというのです。
「本当にたまたまじゃ」
「そういう日もありますね」
「そうじゃ、ではな」
「これからですね」
「入ってな」
「朝御飯ですね」
「そちらも楽しもうぞ」 
 王子に笑って言ってです、そうして。 
 王様はお風呂に向かいました、ですが。
 お風呂場にはです、王様の前にもういました。そのいるのはといいますと。
「君達もおるのか」
「はい、何か目が覚めまして」
「それも三人共です」
「そうなってしまいまして」
 カルロスとジョージ、神宝が王様に応えます。三人共既に服を脱いでいて腰にタオルを巻いているだけの姿ですう。
「朝にお風呂に入ろうって」
「そうお話しまして」
「今からお風呂に入るところです」
「そうか、では一緒に入ろうぞ」
 王様は三人にも笑顔で応えました、そしてでした。
 すぐに服を脱いで一緒にお風呂場に入りました、まずはタオルと石鹸で身体を奇麗に洗ってシャワーで泡を洗い落としてです。
 王様は三人にです、笑ってこう言ったのでした。
「サウナに入るか」
「サウナですか」
「そこに入るんですか」
「うむ、そうするか」
 こう言うのでした。
「今朝のお風呂はな」
「サウナっていいますと」
 カルロスは王様の提案を聞いてこう言いました。
「ナターシャのお国のお風呂ですね」
「あの娘のじゃな」
「あの娘ロシア人で」
「その国ではじゃな」
「お風呂はサウナなんです」
「熱い部屋でたっぷりと汗をかく、じゃな」
「そうしたお風呂です」
 まさにというのです。
「あそこのお風呂は」
「確かロシアは寒かったのう」
「物凄く寒いんですよ」
「これが本当に」
 ジョージと神宝も王様にお話します、そのサウナに向かいながら。 

 

第九幕その二

「息が凍ったりとか」
「睫毛も凍るとか」
「雪もかなり降って」
「オズの国じゃ信じられない位です」
「オズの国にも雪があるがのう」
 それでもというのです。
「息や睫毛が凍ることはないからのう」
「絶対にですよね」
「ない」
 王様はカルロスに断言しました。
「それでサウナであったまるのじゃな」
「そうみたいです、あとお部屋も暖かくて」 
 そしてというのです。
「厚着ですし」
「そういえばあの娘厚着じゃな」
「そうですよね」
「君達よりもずっとな」
「ロシアじゃもっとらしいですよ」
「さらに厚着か」
「はい、あの娘の冬のロシアでの写真観ましたけれど」
 それはどういったものかといいますと。
「厚い生地の帽子で毛皮のコート、底の厚いブーツで」
「かなりじゃな、それは」
「スカートも長くて下にタイツで」
「下もか」
「それで手袋はミトンです」
「完全装備か」
「そうでもないとみたいです」
 ロシアの冬はです。
「無理みたいなんです」
「ううむ、想像も出来ないのう」
「アメリカにも寒い場所ありますけれど」
「中国にも」 
 ジョージと神宝はそれぞれのお国のお話をしました。
「ですがそれでも」
「ロシアは別格です」
「国全体がアラスカみたいなんですよ」
「東北みたいに寒いですから」
「ブラジルは国全体が暑いんです」
 カルロスもお国のことをです、王様にお話します。
「けれどロシアはその逆です」
「国全体が寒いのじゃな」
「そうなんです」
「凄い話じゃのう」
「オズの国ではないですね」
「とてもな」
 そうした国はというのです。
「常春の国だからな」
「そうですね」
「あの娘も凄いところに住んでおるな」
「ロシアは」
「そしてサウナもあるのか」
「暖まる為にも」
「熱い位にじゃな」
 こうお話してでした、そのうえで。
 四人でサウナルームに入りました、ですが。
 そこにもうです、ボタンが四人と同じ腰にタオルを巻いた姿のままでいてです、そのうえで座ったまますやすやと寝ています。
 そのボタンを見てです、カルロスは首を傾げさせて言いました。
「これはね」
「うん、流石にね」
「想像していなかったね」
 ジョージと神宝も言います。
「寝ている間に何処かに行く子だけれど」
「サウナにいるとかね」
「ちょっとね」
「考えていなかったね」
「しかもね」
 カルロスはさら言うのでした。
「裸になっているし」
「このこともね」
「どういうことかわからないね」
「どうしてサウナにいるのか」
「それに裸なのかね」
「それは本人に聞くとよいな」
 王様はいぶかしむ三人にあっさりと返しました。 

 

第九幕その三

「この子自身にな」
「それじゃあ」
「少なくともサウナで寝たままはよくない」
「のぼせますよね」
「お風呂ではな」
 それこそというのです。
「寝るのはよくない」
「気持ちよくても」
「そうじゃ」
 それでというのです。
「ここはな」
「それじゃあ」
「うむ、今から起こそう」
 こう言ってでした、実際にです。王様はボタンのところに来て彼に声をかけました。
「起きるのじゃ」
「その声は王様?」
「そうじゃ」
 ゆっくりと目を開けたボタンに答えました。
「サウナに来たのじゃ」
「あれっ、ここサウナなの?」
 ここで、です。ボタンは。
 起きてです、周りを見回して言いました。
「そういえばそうだね」
「ずっと寝ておったのか」
「ベッドの中でね」
「そうだったのじゃな」
「貸してもらっているお部屋でね」
「それでどうしてなのじゃ」
 王様はボタンにさらに尋ねました。
「君はここにおるのじゃ」
「わかんなーーい」
 王様にいつもの返事で返しました。
「王様に起こしてもらったらね」
「ここにおったのか」
「そうなんだ」
「服は何時脱いだの?」
「わかんなーーい」
 ボタンはカルロスにも同じ返事でした。
「どうしてかな」
「そうなんだね」
「本当に気付いたらね」
「いるんだ」
「そうなんだ」
「まあボタンらしいかな」
 カルロスは全くわからないながらもこう考えることにしました。
「それも」
「そうだね、気付いたらっていうのは」
「それもね」
 ジョージと神宝もこう考えることにしました。
「ボタンらしいね」
「そういうことだね」
「しかも汗もね」
 ボタンの身体を見ますと。
「まだかいていないね」
「つまり入ってすぐじゃな」
 王様も言います。
「そうじゃな」
「そうみたいですね」
「わし等より少しだけ前に来た様じゃあ」
「じゃあ今から」
「一緒に汗をかくか」 
 そのサウナの中で、というのです。
「そうするか」
「それじゃあ」
「うむ、ボタンもサウナに入るか」
 こう提案するのでした。
「そうするか」
「うん、じゃあね」
 それならとです、ボタンも頷いてでした。
 五人でサウナに入りました、そして汗をかいてです。 

 

第九幕その四

 水風呂に入って一旦冷やしてまたサウナに入ってです、ボタンは言うのでした。
「こうして汗をかくと」
「いいね」
「うん、気持ちいいね」
 笑顔での言葉でした。
「湯舟に入っているのと同じだけ」
「そうなんだよね」
 カルロスもボタンに笑顔で応えます。
「この感じがね」
「サウナって気持ちいいね」
「子供はあまり入らない方がいいというが」
 王様が言うにはです。
「君達位ならな」
「もう入ってもいいんですね」
「そうじゃ」
 こう言ったのでした。
「ボタンは微妙かのう」
「あれっ、僕達よりずっと長く生きているんじゃ」
「生きている年月はじゃな」
「そうですよね」
「身体のことじゃ」
「ああ、そういうことですか」
「ボタンの身体は君達よりも幼いな」
「はい、確かに」
 そう言われるとです、カルロスも頷きます。
「それじゃあ」
「君達もボタンには普通に接しておるな」
「そうですね」
「姫様やドロシー王女には敬語であろう」
「そうしていますし」
「ボタンは大体どれ位かな」
「僕達より一つか二つ下?」
 ジョージとカルロスはこうお話しました。
「そうかな」
「それ位だよね」
「まあそれ位じゃな」
 王様も二人の言葉に頷きます。
「大体な」
「そうですよね」
「それ位ですよね」
「それでじゃ」
 また言う王様でした。
「サウナはまだ早いかもとも思うが」
「それでもですか」
「まあいいかなって感じなんですね」
「それで僕達と一緒になんですね」
「まあ過ぎなければよいな」
 サウナに入ることがです。
「子供でもな、そしてわしもな」
「あっ、王様そろそろ汗がね」
 ボタンはお話をする王様のお身体を見て言いました。
「玉みたいになってきてるね」
「そうじゃな」
「ここからだよね」
「うむ、これが滝みたいになればな」  
 その汗がです。
「もう出る」
「そうするんだね」
「また水風呂に入って最後は湯に入ろう」
「最後に身体を洗うの?」
「もう一度か」
「王様よくそうするから」
「それは当然じゃ」
 もう決まっているとです、王様はボタンに明るく笑って答えました。
「最後にも身体を洗うのはな」
「最初も洗うよね」
「あれは汚れをな」
「取る為?」
「身体が汚れたまま湯舟に入ってはならん」 
 そこは強く言うのでした。 

 

第九幕その五

「だから最初に洗う」
「そうしているんだね」
「水風呂も同じじゃ」
「やっぱり皆が入る場所だから」
「まずは身体を奇麗にしてな」
「それから入るんだね」
「そうなのじゃ、そして最後はな」 
 もう一度お身体を洗う理由もです、王様はボタンにお話します。
「汗をかいておるな」
「それでその汗をだね」
「奇麗にしておくのじゃよ」
「その為だね」
「うむ、ではな」
「最後はだね」
「身体を洗うぞ」
 そしてお風呂を出るというのです、そしてです。
 王様は皆と一緒に実際に水風呂に入ってです、それから湯舟で身体を温めなおしてからでした。
 身体を洗って髪の毛も奇麗にしてでした、お風呂から出るともういい時間でした。朝御飯がはじまる時でした。
 ナターシャは幾分か眠そうなお顔で朝御飯のメニューを見て言いました。
「今日も美味しそうね」
「ええ、そうよね」
 恵梨香がナターシャの言葉に頷きます。
「お粥ね」
「中華風のね」
「それとね」
 お粥だけでなく、でした。
「焼豚とザーサイ」
「その二つもね」
「美味しそうね」
「朝のお粥はね」
 それこそと言うのでした。
「最高のご馳走よ」
「ナターシャもそう思うのね」
「ええ」
 微笑んで、です。ナターシャは恵梨香に答えました。
「御飯のお粥もオートミールもね」
「大麦のお粥ね」
「ミルクを入れたね」
 それだというのです。
「そのお粥もね」
「あれも美味しいわね」
「そう、だからね」
「オートミールもいいのね」
「朝に食べると特にね」
 それこそというのです。
「美味しいわね」
「朝にそうしたものは」
 恵梨香も言います。
「別格なのよね」
「だからね」
「今朝もなのね」
「とても嬉しいわ」
「私も朝のお粥は大好きよ」
 オズマも言ってきました。
「お昼や夜もいいけれど」
「朝は、ですね」
「一番ですね」
「その時間によって味が違うわ」
 それこそというのです。
「お料理の中にはそうしたものがあって」
「お粥はですね」
「朝ね」
「朝に一番美味しい」
「そういうものだと思うわ」
 こう恵梨香達にお話するのでした。
「お米のお粥もオートミールもね」
「どちらもですね」
「姫様実際によく朝はお粥でしょ」
 ジュリアも恵梨香達にお話します。
「こうしたお粥やオートミールね」
「はい、確かに」
「言われてみればそうですね」
 恵梨香とナターシャはジュリアの言葉にも頷きました。
「姫様朝はよくお粥ですね」
「お粥を召し上がられていますね」
「それとフレークね」
 オズマはこちらもと言うのでした。 

 

第九幕その六

「最近はあれに牛乳をかけて食べるのも好きよ」
「ですね、確かに」
「姫様フレークもお好きですね」
「何かそうしたのもですよね」
「朝にはいいですね」
「朝は水分も欲しくなるから」
 寝ている間に汗もかくからです、それで水分も欲しくなるのです。
「そのこともあってね」
「起き抜けはどうしても食欲がなくて」
「さらりとしたものを食べたいですし」
「それに加えて水分も欲しくなるから」
「お粥やフレークがいいんですね」
「そうよ、それで朝は食欲がないっていってね」
 ここで注意する様に言ったオズマでした。
「何も食べないのは駄目よ」
「朝食を抜くことは」
「止めた方がいいですね」
「それは駄目よ」
 絶対にという言葉でした。
「朝、いえ三食ともね」
「絶対にですね」
「食べないといけないんですね」
「食事を抜いたら充分に動けないから」
 だからというのです。
「食べないと駄目なのよ」
「朝もそしてお昼と夜も」
「絶対にですね」
「そうしないとね」
「わかりました、それじゃあ」
「今朝も食べます」
 二人はオズマの言葉に笑顔で頷いてお粥を食べるのでした、勿論他の皆も同じです。そしてつぎはぎ娘と木挽の馬はです。
 皆が食べるのを見ています、つぎはぎ娘はそうしつつ自分の隣にいる馬にこんなことを言ったのでした。
「ねえ、今朝もね」
「皆いい顔をしてるね」
「美味しいものを食べる時は」
「うん、皆そうなるね」
「いい顔になってるね」
「そしてその皆の顔を見てね」
「あたし達も笑顔になるね」
 こう馬に言うのでした。
「自然と」
「僕達は何も食べないけれど」
 それでもとです、馬も応えます。
「その笑顔を食べているね」
「心でね」
「それで元気になるんだね」
「そうね、それで今日はどうして遊ぶの?」
「自転車はどうじゃ」
 王様もお粥を食べています、そうしつつつぎはぎ娘に答えました。
「ツーリングじゃ」
「自転車であちこちを回るの」
「この国のな」
「そうするのね」
「そうじゃ、どうじゃ」
 また言った王様でした。
「これは」
「いいわね」
 つぎはぎ娘は王様のその言葉に頷きました。
「それも、ただあたしは自転車には乗れないわよ」
「おや、そうじゃったか」
「かかしさんもよ、だって足がふわふわしてるから」
 生地のお肌と服の下にあるのは綿です、かかしは藁が入っています。
「踏ん張ることが出来ないからね」
「それでか」
「そう、自転車には乗れないわよ」
「ではどうするかじゃな」
「それなら僕の背中に乗ればいいよ」
 ここで馬がつぎはぎ娘に言いました。
「君はね」
「いつも通りなのね」
「そうすればいいよ」
 自転車に乗れないのならというのです。 

 

第九幕その七

「それでいいよね」
「ええ、じゃあね」
 つぎはぎ娘も馬の誘いに乗って応えます。
「宜しくね」
「今日もね」
「自転車はかなりあるから」
 王子が皆にお話します。
「皆乗られるよ」
「一人一台ずつですね」
「あるよ」
 王子はカルロスの質問にも笑顔で答えました。
「だから安心してね」
「はい、わかりました」
「それとね」
「それと?」
「君達の世界の自転車はどんな感じかな」
「どんなって?」
「うん、オズの国の自転車と違うところはあるかな」
 王子はカルロス達に尋ねるのでした。
「果たして」
「ううん、そう言われましても」 
 カルロスは王子に言われてです、難しいお顔になって言うのでした。
「ちょっと」
「観ないとわからないね」
「はい、ここの自転車を」
「それじゃあまずはね」
「どんな自転車かですね」
「観てもらうことからかな」
 こう言うのでした。
「それからだね」
「はい、じゃあまずは」
「自転車を観ようね」
 こうお話してでした、皆は宮殿の自転車置き場のところに行きました。そのうえで並んで置かれている自転車達を観てです。五人は口々に言いました。
「あっ、観たところ」
「そうだね、別にね」
「変わったところないね」
「私達の世界の自転車と同じね」
「変わることはないわ」
 こう言うのでした。
「ブレーキもあるし」
「ライトもちゃんと点いてるよ」
「ペダルやチェーンもしっかりしてるし」
「ハンドルも大丈夫だし」
「速く走れそうね」
「ここの自転車はこけないから」 
 オズマが五人にお話します。
「絶対にね」
「こけないんですか」
「ドロシーに聞いたけれど外の世界の自転車はこけるわね」
「はい、バランスを崩しますと」
「そうよね、けれどね」
「オズの国の自転車はですね」
「こけないの」
 こうお話するのでした。
「だから安心してね」
「その他のことは」
「多分変わらないわ」
 外の世界のそれと、というのです。
「速く走ることも出来るから」
「それじゃあ」
「そう、こけることもないから」
「外の世界の自転車よりずっといいですね」
「そうなるわね」
 こけない分だけです。
「だから楽しんで行きましょう」
「わかりました」
「では皆それぞれじゃ」
 まさにとです、ここで王様が皆に言いました。
「自転車を選んでな」
「そのうえで、ですね」
「出発じゃ」
「わかりました、それじゃあ」
「コースはわしが案内するからな」
「ピラミッドの時と同じですね」
「わしの国じゃ」
 今皆がいるリンキティンク王の国はというのです。 

 

第九幕その八

「だからわしはよく知っておる」
「それで、ですね」
「案内役をさせてもらう」
「じゃあお願いします」
「そういうことでな、ではわしはな」
 王様は傍にあった自転車を手に取りました、そして。
 他の皆もです、これはと思う自転車を取ってでした。
 それぞれ乗りました、そうして出発しました。王様は自分で言った通り先導役を務めて出発しました。ここで、です。 
 恵梨香がです、ふとこうしたことを言うのでした。
「私とナターシャはスカートですね」
「ええ、私とジュリアもね」
 オズマが恵梨香の隣に来て応えました。
「そうね」
「はい、けれど何か」
「運転しやすいっていうのね」
「普通ズボンの方が動きやすいです」
 自転車に乗る時はというのです。
「ですが」
「それでもこの自転車はね」
「普通にです」
 本当にズボンに乗っている時と同じ位にです。
「動けます」
「これもオズの国の自転車なのよ」
「こけることがなくて、ですね」
「どんな服でも軽やかに運転出来るの」
「そうなんですね」
「魔法がかけられているから」
 それで、というのです。
「そうして動けるの」
「あっ、だからですか」
「そうよ」
 オズマはにこりと笑って恵梨香に答えました。
「そうなっているの」
「そういうことですか」
「オズの国は科学と魔法があるわね」
「はい、どちらも」
「科学と魔法を合わせるとね」
「そうした凄い自転車になるんですね」 
 絶対にこけなくてしかもどんな服でも軽やかに運転出来る。
「そうなんですね」
「そうよ、じゃあね」
「はい、今日はこの魔法の自転車に乗って」
「ツーリングを楽しみましょう」
「わかりました」
「いや、今日もね」
 ここで言ったのはカルロスでした、誰よりも楽しそうに自転車に乗ってそのうえで運転しています。青空も周りも観ています。
「いい天気だね」
「そうだよね」
 ボタンも一緒です、それでカルロスに応えるのでした。
「とてもね」
「うん、ボタンもね」
「自転車に乗ってるよ」
「そうだね」
「僕歩くことが多いけれど」
 それでもというのです。
「自転車もいいね」
「そういえばオズの国で自転車は」
「あまりないよね」
「そうだよね」
 カルロスはボタンの言葉に頷いて応えました。
「皆歩く方が多いね」
「ずっとね」
「皆行き来出来る場所で暮らしてるからかな」
「そういえばそうだね」
「うん、お店とかなくてもね」
 オズの国ではです。
「すぐ傍に行くと何でも生えていたり実っていて」
「お弁当とかね」
「洗剤もね」
 そうしたものが全てです、お野菜や果物の様に。 

 

第九幕その九

「あるから」
「ちょっと森とかに行けばあるから」
「沢山の人が畑を耕して森とかに行ってね」
「暮らしてるね」
「そうだね」
「そう、普通にね」
 そうなるからです。
「別にね」
「自転車を使ってまでして遠くに行くこともないよね」
「そうした世界だからかな」
「だからな」
 ここでまた言った王様でした、皆の先頭を進みながら。
「オズの国の自転車は遊びの為じゃ」
「今みたいにですね」
「ツーリングやスポーツに使うものじゃ」
「それで、ですね」
「うむ、日常生活では使わぬ」
「使えてもですね」
「皆そういう目的に使うのじゃ」
 ツーリングやスポーツにというのです。
「そうしてな」
「そうなんですね」
「うむ、その通りじゃ」
「しかし遊ぶ為に使ってもな」
「それでもですね」
「よいじゃろ」
「はい、オズの国の自転車は」
 カルロスは王様のすぐ後ろに来て応えました。
「実際にこけないですしね」
「しかもわしのこの服を着ていてもじゃ」 
 王様が着る立派な服です、厚い生地のマントにゆったりとした服で頭にはいつも被っている王冠もあります。
「それでもな」
「普通に動けていますね」
「この通りな」
「そういうことですね」
「そうじゃ、ではな楽しく行くぞ」
「わかりました」
 カルロスは王様にも応えてす、楽しく進むのでした。そして十時になってティータイムで休憩してまた出発しました。
 道は左右に森がある場所に入りました、その森を観てです。
 カルロスはその赤い葉を観てです、こんなことを言いました。
「紅葉みたいだね」
「紅葉って?」
「外の世界だと葉の色が季節によって変わるんだ」
「あっ、そうなんだ」
「うん、春は緑でね」
 こうボタンにお話します。
「夏はそれが深くなって」
「その緑が」
「秋には赤くなったり黄色くなるんだ」
「ふうん、そうなんだね」
「そうなんだ、特に日本ではね」
「恵梨香のお国だと」
「そうなるんだ」
 まさにというのです。
「季節によって色が変わるんだ」
「不思議だね」
「オズの国ではそういうことはないよね」
「うん、ないよ」
 ボタンはカルロスに答えました。
「そうしたことはね」
「国によって色は違うけれどね」
「うん、季節はいつも一緒だしね」
 まさに常春です、オズの国は。だから冒険の時も実はお外で寝ても別に風邪をひくこともないのです。暖かいので。
「そうしたことはね」
「ないね」
「うん、季節によって葉の色が変わるんだね」
「そうなんだよ」
「面白いね」
 ボタンは目を輝かせて言いました。
「オズの国は国で変わるのにね」
「外の世界だとそうなんだよ」
「成程ね」
「その秋のことを思い出したんだ」
 またこうお話したカルロスでした。 

 

第九幕その十

「ふとね」
「それじゃあオズの国を一周したら」
「一周したら?」
「外の世界の季節を味わえるかな」
「言われてみれば」 
 そう言われてです、実際にでした。
 カルロスは納得してです、こうボタンに返しました。
「そうなるかな」
「うん、季節で葉の色が変わるんだよね」
「そうだよ」
「葉が変わるならね」
「オズの国だとね」
「国から国へ行けばいいんだよ」
 まさにそうすればというのです。
「そうなるね」
「そうだね、緑はエメラルドの都にあるし」
 緑の国です。
「黄色もあるし」
「ウィンキーにね」
「それにね」
 カルロスはさらに言いました。
「他の色もあるし」
「マンチキンとかギリキンとか」
「青とか紫とか」
「あるよね」
「そうだね、あと冬はね」
「その季節は?」
「何もなくなって枯れて」
 そしてというのです。
「雪で白くなるけれど」
「オズの国雪もあるよ」
「そうだよね」
「ほら、山を観て」
 遠くにある山脈をです、ボタンは自転車に乗りながら指差しました。赤い山々の上にはです。
 雪があります、それで白くなっています。
「あの通りね」
「うん、雪があるね」
「白い雪がね」
「あそこに行けば」
「雪があるよ」
 冬のそれがというのです。
「あそこにね」
「そうだね、確かに」
「だからね」
「オズの国にいれば」
「それだけでね」
「季節の全部、いやさらにね」
「観られるよね」
 カルロスに言うのでした。
「そうだね」
「うん、その通りだよ」
「季節があるのはいいけれど」
 ボタンはさらに言いました。
「オズの国だとね」
「最初から全部観られるから」
「僕はそれでいいよ」
「そうだね、僕もね」
「オズの国がいいよね」
「オズの国もいい、かな」
「オズの国も?」
「外の世界もよくてね」
 その季節がです。
「オズの国もね」
「どっちもなんだ」
「うん、いいね」
 こう言うのでした。
「そう思うよ」
「どっちがよりいいかじゃないんだね」
「どっちも同じ位ね」
 いいというのです。
「僕はいいと思うよ」
「成程ね」
「うん、ただね」 
 ここで森を抜けて今度は草原に出ました、そこはカドリングの草原なので奇麗な赤い臭が絨毯みたいに広がっています。 

 

第九幕その十一

「赤い草原はないね」
「ここみたいな」
「うん、草の色は緑だから」
「いつも?」
「冬は枯れるけれど」
 冬以外の他の季節はといいますと。
「それ以外の季節はね」
「緑なんだね」
「そうなんだ」
「エメラルドの都の草原みたいかな」
「ちょっと違う緑なんだ」
「外の世界の草原の緑は」
「うん、緑は緑でも黄緑なんだ」
 そちらの緑だというのです。
「どっちかっていうとね」
「そうなんだね」
「そう、都の緑はエメラルドグリーンだね」
「草原はね」
「そこが違うんだ」
 同じ緑でもというのです。
「またね」
「そういえば緑っていっても」
「色々あるよね」
「うん、赤もね」
「このカドリングは赤の国だけれどね」
「色々な赤色があるよ」
「それで外の世界の草原はなんだ」
 そこはというのです。
「黄緑なんだ」
「そうなんだね」
「うん、エメラルドグリーンじゃなくてね」
「あそこはエメラルドの国だから」
 その都からオズの国を治めるオズマの言うことは。
「草原もエメラルドグリーンなのよ」
「まさにエメラルドの都ですね」
「そうなのよ」
 まさにというのです。
「だからね」
「その色なんですね」
「黄緑もあるけれど」
「草原はその色ですね」
「そうなの」
「わかりました、そのことも」
「オズの国は季節はないけれど」 
 またお話したオズマでした。
「国によって色が違うから」
「オズの国を回れば色々な色が見られる」
「そのことを覚えておいてね」
「わかりました」
 カルロスはオズマの言葉に微笑んで頷きました。
「じゃあすぐに色々な色を見たいなら」
「はい、一度に回ります」
「そうしてね」
「そして今はですね」
「うむ、こうしてじゃ」 
 まあt王様が言ってきました。
「わしの国を回るのじゃ」
「そうさせてもらいます」
「ではな」
「こうしてツーリングも楽しめるなんて」
 それこそとです、カルロスは言うのでした。 

 

第九幕その十二

「オズの国はいいですね」
「だから色々な遊びが出来ることがな」
「オズの国なんですね」
「そういうことじゃ」
「わかりました、それじゃあ」
「明日も遊ぶぞ」
「そうしましょう」
 こうしたことをお話してでした、そのうえで。
 皆でツーリングも楽しむのでした、この日は一日楽しみました。そしてそのツーリングが終わってからでした。
 宮殿に着いてです、王子は王様に笑顔で言いました。
「今日は僕も」
「ほう、この時間にじゃな」
「お風呂に入りたいですね」
「いい汗をかいたからじゃな」
「そうです」
「あれっ、今の二人は」
 ボタンは王子と王様のやり取りを聞いて言いました。
「あまりお話していないのに」
「充分お話せたわね」
「うん、そうだよね」
「どうしてかな」
「それはそれだけお互いに知っているからよ」 
 ジュリアは微笑んでボタンにお話しました。
「だからよ」
「それでなんだね」
「そう、所謂ツーカーの関係よ」
「ツーカーなんだ」
「あまりお話していなくてもね」
「わかるのよ」
 お互いに何を言いたいのかです。
「そうしたものなのよ」
「それだけ二人がなんだね」
「お互いを知っていて仲がいいのよ」
「そういうことなんだね」
「そう、僕と王様の付き合いは長いからね」
 王子も微笑んでボタンにお話します。
「だからね」
「今みたいなやり取りでもだね」
「わかるんだよ」
 そうだというのです。
「僕がロバだった頃からの付き合いだから」
「それじゃあ」
「そう、安心してね」
「わかりました」
 こう言うのでした、そして。
 ボタンは少し考えるお顔になってです、こう言いました。
「僕もそうした人がいたらいいな」
「そう思うならね」
 ジュリアはまたカルロスに言いました。
「より人とお付き合いすることよ」
「誰と?」
「誰でもいいの」
 それこそというのです。
「誰とお話してもいいからね」
「それでいいの?」
「そこからそうした人が生まれるから」
「僕がよく知っている人が」
「そしてボタンをよく知っている人がね」
「お互いになんだね」
「生まれるから」
 だからというのです。
「誰とでもお付き合いしてね」
「わかったよ」
 確かなお顔で頷いたボタンでした、そうしたお話もしたのでした。 

 

第十幕その一

                 第十幕  お菓子の牧場
 この日は皆で宮殿で色々として遊びました、その中で。
 カルロスはボタンにです、微笑んで言いました。
「今回はボタンと一緒にいるけれど」
「それでもだね」
「うん、何度かいなくなってるけれど」
「遠くには行ってないね」
「ボタンは何処に行くかわからないのに」
 それでもというのです。
「今回は違うね」
「そうだよね」
 ボタン自身も言うのでした。
「皆の近くにいるね」
「偶然だけれど」
「偶然が続いているんだね」
「うん、そうなるんだね」
「ボタンは偶然の子よ」
 ここで言ったのはつぎはぎ娘です、今は皆で音楽を聴いています。一曲終わったところでそれでお話をしているのです。
「だからね」
「偶然だね」
「そう、あたし達の傍にいるのよ」
「そういうことなんだね」
「だから明日偶然によ」
「何処かに行くこともだね」
「あるわよ」
 こう笑って言うのでした。
「そういうものよ」
「偶然って続くんだね」
「それもまた偶然なのよ」
 オズマが微笑んでカルロスにこう言ってきました。
「続くのもね」
「そして急に終わることも」
「偶然なのよ」
「偶然はわからないんだね」
「わからないのが偶然よ」
 それこそまた言ったオズマでした。
「誰にもね」
「姫様にもですね」
「そう、わからないものなのよ」
「ううん、難しいですね」
「難しくもないの」
 オズマは微笑んだままカルロスに言いました。
「偶然は何時何があるかわからないものだから」
「わからないことがですね」
「当然なのよ」
「わからなくて当然と思うことですね」
「そういうことよ」
「そういうことですか」
「そう、じゃあいいわね」
「わかりました、じゃあボタンが明日の朝いなくなっても」
 カルロスはボタンを観つつオズマに応えました。
「当然っていうことで」
「そう思っていてね」
「はい」
「まあボタンがいなくなることはね」
 恵梨香が言います。
「いつもだから」
「そう、急にね」
 ジョージは恵梨香のその言葉に頷きました。
「朝起きたらなんてね」
「それでまた偶然僕達の前にいるんだよね」 
 神宝は微笑んでボタンを見ています。
「寝ていて」
「そうした子ということで」
 ナターシャはこう言うのでした。
「いいのね」
「ほっほっほ、ボタンは絶対にオズの国におる」
 王様はこの真実を指摘しました。
「扉の外で寝ていてもすぐに戻って来る」
「だから別にね」
 木挽の馬は王様の言葉に同意でした。 

 

第十幕その二

「悲しんだり驚くこともないんだよ」
「ボタンの家はオズの国全てじゃ」
 こうも言った王様でした。
「この子はお家の何処かにいるのじゃよ」
「じゃあお家の何処かにいつもいる」
 カルロスは王様のお言葉を聞いてこの考えに至りました。
「そういうことですか」
「うむ、寝ている間にお家の何処かに移る」
「そうなっているんですね」
「だからな」
「それで、ですね」
「別に驚くこともなくな」
「慌てることもなく」
 カルロスも言うのでした。
「近くにいればですね」
「それでよくてな」
「遠くにいてもですね」
「また会えるぞ」
「絶対にですね」
「そうじゃ、偶然な」
「その偶然の時を待つ」
 まさにと言ったカルロスでした。
「そういうことですね」
「その通りじゃ、では明日はな」
「明日は?」
「牧場に行くか」
「この国の牧場ですか」
「そうじゃ、そこに行って遊ぼうぞ」
「ううん、牧場といっても」 
 カルロスは王様のお話を聞いて直感的に思いました。
「オズの国ですから」
「ええ、外の世界の牧場とは違うわよ」
 ジュリアがカルロスにお話しました。
「またね」
「やっぱりそうなんですね」
「そう、オズの国の牧場だから」
「外の世界とはまた違う」
「楽しい牧場よ」
「じゃあどんな牧場か楽しみにしています」
「君達もきっと喜んでくれるよ」
 王子はカルロス達に優しく微笑んでお話しました。
「だから今日から楽しみにしておいてね」
「はい、わかりました」
「それじゃあです」
「王子が言われる通りにしています」
「今から楽しみにしています」
「そうしています」
 五人も王子に笑顔で応えます、そして。 
 つぎはぎ娘は新しいレコードをクラシックな蓄音機にセットして針を置きました。そのうえで皆に言うのでした。
「次の曲はじまるわよ」
「わかったよ、じゃあまた聞こうね」
「そうしようね」
「うん、ただレコードなんだね」
「CDじゃないわよ」
「しかも蓄音機なんて」
 本当に昔の蓄音機です、銅製でラッパみたいな拡声器まで付いています。
「古いね」
「わしはこうしたのも好きでな」
「古いものもですか」
「昔から持っておる」
 それこそこの蓄音機が現役だった頃からです。
「そうして聴いておるのじゃ」
「今もですか」
「CDも好きじゃが時としてな」
「レコードと蓄音機でも聴きたくて」
「こうして聴いておる」
「そうなんですね」
「ではよいな」 
 カルロス達にあらためて言うのでした。
「今日はこうしてな」
「レコードで、ですね」
「音楽を聴いていこうぞ」
「わかりました」
「レコードの曲もよいじゃろ」
 また笑って言った王様でした。 

 

第十幕その三

「こちらの音も」
「はい、もう僕達レコードは持っていませんけれど」
 CDばかりです。
「ですが」
「こちらもよいな」
「そうですね」
「最新の文明もよいがな」
「昔のものもですね」
「よいのじゃよ」
「そうなんですね」
 カルロスも納得しました。
「古いものも」
「ではこの曲も聴こうぞ」
 そのレコードの曲もというのです、その曲はリンキティンク王がいつも歌っているこの国の曲でした。歌っているのは国民の皆さんです。
 その曲を聴いてです、王様は手を叩いて明るく笑って言いました。
「ほっほっほ、愉快愉快」
「いい曲ですね」
「そのいい曲を国民が歌ってくれてな」
 そしてというのです。
「わしにも聴かせてくれる、これは最高じゃ」
「だからですか」
「わしは今とても満足しておる」
「そういうことですね」
「本当に最高じゃ」
 こうカルロスに言うのでした。
「こんないいことはないわ」
「成程、それじゃあ」
「うむ、次の曲も聴こうぞ」
「次の曲もですね」
「この国の曲でじゃ」
 そしてというのです。
「歌っておるのは国民の皆じゃ」
「王様のですね」
「最も大切なな」
「王様もそう思われているんですね」
「国民のことをか」
「オズマ姫と同じで」
「当然じゃ、よい王様は国民を最も大切にしてじゃ」
 そしてというのです。
「国民と友達であるのじゃ」
「そういうものだからですね」
「わしもじゃ、いい王様のつもりじゃからな」
「国民の皆さんを最も大切に思って」
「友達なのじゃ」
「そういうことですね」
「うむ、では次の曲も聴くぞ」
 こう言ってです、王様達は実際にです。
 次の曲も聴くのでした、この日も楽しく過ごした皆でした。次の日に牧場に行くことも楽しみにしながらです。
 そしてその次の日です、皆は牧場に向かいました。ボタンも一緒です。
 その皆が行った牧場はです、何と。
「あれっ、チョコレートにキャンデーに」
「ガムにね」
「キャラメル、アイスクリーム」
「それとクッキー」
「ビスケットもあるわ」
「そう、ここはお菓子の牧場なんだ」
 王子は驚く五人に言いました、見れば柵に囲われている広い牧場の中に銀紙やビニールで包まれたお菓子達がのどかに立っていたり寝ていたりしています。
「そうした牧場なんだ」
「お菓子をですか」
「ここで育ててね」
 そしてというのです。
「食べているんだよ」
「お菓子の牧場ですか」
「お菓子は木に実るだけじゃなくて」
「牧場にもですね」
「いてそしてですか」
「育てられるんですか」
「オズの国ではそうしたことも出来るんだ」
 牧場で育てることもというのです。 

 

第十幕その四

「こうしてね」
「凄いですね」
 カルロスも驚くことでした、このことは。
「こんなこともですね」
「オズの国ではあるんだよ」
「不思議ですね」
「そう、不思議なことがね」
 まさにと言う王子でした。
「起こる国だからね」
「それも普通に」
「外の世界で考えられないことが起こるんだよ」
「そのことは知っていましたけれど」
「驚いたね」
「はい、かなり」
「僕達もいつも驚いているよ」
 そのオズの国の中にいてもというのです。
「僕達から見ても不思議なことばかり起こるからね」
「だからなんですね」
「そう、驚いているよ」
 実際にというのです。
「いつもね、君達と同じだよ」
「そうですか」
「ただ、この牧場のことはもう知っていたから」
「驚かれないんですね」
「そうなんだ」
 そういうことだとです、王子はカルロス達にお話するのでした。
「だからだよ」
「わかりました、そのことも」
「僕もはじめて見たよ」
 ここでボタンも言ってきました。
「この牧場は」
「ボタンもなんだ」
「うん、お菓子の牧場なんてね」
「そうなんだね」
「面白いね」
「ほっほっほ、勿論どれだけでも食べてよいぞ」
 王様は皆にこう言ってきました。
「ここのお菓子達をな」
「そうしていいんですね」
「お菓子は食べる為にあるものじゃ」
 だからというのです。
「それでじゃ」
「僕達もですね」
「食べていいんだね」
「うむ」
 その通りという返事でした。
「思う存分食べるのじゃ、皆でね」
「わかったよ、けれど」
 ボタンは王様のお言葉に静かに頷きました、ですが。
 王様にです、こうも言ったのでした。
「アイスクリームもあるね」
「美味しそうじゃろ」
「うん、どうしてアイスが溶けないの?」
 ボタンがここで気になったのはこのことでした。
「どうしてなの?」
「ふむ、そのことか」
「うん、アイスって暖かい場所だと溶けるのに」
 オズの国は暖かいのに、というのです。
「どうして溶けないの?」
「溶けないアイスなのじゃよ」
「ここにあるアイスは」
「オズの国にはそうしたアイスもあるのじゃ」
「そうだったんだ」
「何しろここは不思議の国じゃ」 
 このことを指摘するのでした。
「だからな」
「そうしたアイスもあって」
「冷たいままで溶けないのじゃ」
「へえ、そうしたアイスなんだね」
「美味いぞ」
 その牧場の上で跳んだり跳ねたりしているアイス達もというのです。よく見ればお口はないのに草を食べています。
「このアイスもな」
「そうなんだね」
「では食うか」
「うん」 
 ボタンは王様の問いに微笑んで答えました。 

 

第十幕その五

「それじゃあね」
「皆で食べようぞ」
「ジュースやコーラもいるから」
 王子は彼等の説明もしました、見れば缶やペットボトルも牧場の中で動いています。
「飲みもののことも安心してね」
「うわ、飲みものもあるなんて」
「余計に凄いですね」
「そうしたものもあるなんて」
「飲みものまでなんて」
「いいですね」
「そう、じゃあね」
 それならとです、王子はまた言ってでした。
 そうしてです、皆でなのでした。そのお菓子やジュースを楽しむのでした。
 どのお菓子もジュースも美味しくて、です。カルロスは笑顔で言いました。
「ここも最高ですね」
「ほっほっほ、わしは嘘を言わんぞ」
「そのことは知っていましたけれど」
「こうした牧場もあるからな」
「だからですね」
「楽しむことじゃ」
 この牧場もと言う王様でした。
「よいな」
「お腹一杯食べてですね」
「うむ」
 その通りという返事でした。
「堪能しようぞ」
「堪能、満足ですね」
「そういう意味じゃ」
「そうですか、じゃあ」
「人が満足するのを見るのは好きじゃ」
 そちらも王様が好きなものです。
「いつもな」
「そして笑顔もですね」
「大好きじゃ」
 こちらはこうでした。
「やはり人は笑顔じゃ」
「じゃあ国民の皆も」
「無理した笑顔はよくないが」
「自然な笑顔はですか」
「とてもよい」
 王様のお言葉は変わりません。
「実にな」
「じゃあ僕達も」
「だから皆も笑顔になるのじゃ」
「わかりました、じゃあ今日も」
「どれも好きなだけ食べようぞ」
 王様がまずにこにことしています。
「お菓子をな」
「見ればどのお菓子も」
 カルロスは牧場のそこのお菓子達を見て言いました。
「アメリカのお菓子ですね」
「うん、そうだね」
 ジョージもそのお菓子を見てです、カルロスの言葉に頷きました。
「包装を見ていると」
「こうしたお菓子は今はどの国にも売ってるけれど」
 神宝は包装の文字を見て応えました。
「書かれてる文字は英語だしね」
「こうしたお店で売っているお菓子はロシアにも今はあるけれど」
 ナターシャが言うことはといいますと。
「オズの国はアメリカが反映されるからなのね」
「それでアメリカのお菓子なのね」
 恵梨香もこう言って頷くのでした。
「そういうことね」
「そうみたいだね、じゃあね」
 カルロスは四人のお友達の言葉を聞いてあらためて言いました。 

 

第十幕その六

「皆でね」
「このお菓子を食べて」
「そうして皆で笑顔になるんだね」
「甘くて美味しいお菓子を」
「たっぷりと食べて」
「そうじゃ、ただ悩むであろう」
 こんなことも言った王様でした。
「最初に何を食べればいいか」
「実際にここに来たらいつも悩むんだよね」
 王子は王様の横で少し笑って言いました。
「どうしても」
「最初に何を食べるべきか」
「考えてしまってね」
 こうカルロスにもお話します。
「どうしてもね」
「そういうことなんですね」
「そう、だから君達も悩むよ」
「確かに、言われてみますと」
 カルロスは王子の言葉にその通りだと頷くのでした。
「最初は何を食べましょう」
「ジュースもね」
 オズマは右手の人差し指を自分の唇に当てて言いました。
「どれも美味しそうね」
「そうですね、ですから余計に」
 ジュリアは困ったお顔になっています。
「悩みますね」
「食べないと悩まないけれどね」
「うん、皆が見て楽しむ方はね」
 つぎはぎ娘と木挽の馬はこうです。
「早く皆の笑顔が見たい」
「それだけだよ」
「何でもいいんじゃない?」
 皆があれこれ考えている時にです、ボタンはといいますと。
 普通に自分の傍を通った苺のキャンデーを取ってです、包装しているビニールをはがしてからその赤が強いピンクのキャンデーをお口の中に入れました。
 そしてです、こう言うのでした。
「目に入ったものをね」
「すぐにだね」
「食べればいいんじゃない?」
 こうカルロス達にも言うのでした。
「こうしてね」
「考えないでなんだ」
「僕考えてないよ、今」
「ただ目にあるものをなんだ」
「うん、キャンデーをお口の中に入れたんだ」
 そのキャンデーを舐めながらの言葉です。
「そうしたし、それに」
「美味しいんだね」
「うん、とてもね」
「そうだね、一杯あるしどれを食べてもいいのなら」 
 カルロスもボタンの言葉を受けて言いました。
 そしてです、傍にあったスーパーで売っている様なケーキを手に取ってです、箱から開けて食べて言うのでした。
「うん、美味しいよ」
「そうじゃ、考えることはないのじゃ」
 王様もここで気付きました。
「そこにあるものを考えずに手に取ってな」
「ボタンみたいにですね」
「すぐに食べればいい」
「どのお菓子も好きなだけ食べていいですから」
「迷うことはない」
 最初に何を食べるかと、です。
「いいと思ったものを食べればいいのじゃ」
「それじゃあ王様も」
「わしはこれじゃ」
 王様は傍にあったアイスクリームを取りました、そしてそれを食べて言うのでした。 

 

第十幕その七

「美味しいぞ」
「そうですね、じゃあ」
「皆傍にあるものを好きに手に取ろうぞ」 
 皆にも笑顔でいいます。
「そして食べようぞ」
「はい、じゃあ」
「私達も」
 皆も頷いてでした、そのうえで。
 牧場のお菓子達をそれぞれが好きなものを好きなだけ食べるのでした。皆そうして心から楽しい笑顔になります。
 そしてその笑顔の中で、です。オズマはこうしたことを言いました。
「今日はずっと食べるから」
「だからですね」
「ティータイムにはお茶もお菓子も出さないわ」
 カルロスに笑顔で答えました。
「お昼もね」
「牧場のお菓子を食べているからですね、皆」
「ええ、それならね」
「出す必要はないですね」
「そうよね、お昼もね」
「僕達皆お菓子を食べるから」
「今日はいいわね」
「お菓子は御飯じゃないけれど」
 それでもと言ったのはボタンでした。
「いいんだね」
「今日はね」
「お菓子を一杯食べるから」
「ボタンはピラミッドの時もそうだったわね」
「あの時はお昼食べたよ」
「けれど今日は食べる量も違うし」
 それにというのです。
「皆がそうだから」
「それじゃあ」
「今日は皆で食べるから」
 そのお菓子をというのです。
「そうしましょう」
「じゃあ僕もだね」
「お菓子をどんどん食べてね」
「うん、そうするよ」
 実際にです、ボタンは今はクッキーを食べています。そのうえでオズマの言葉に対して応えるのでした。そうして。
 お昼になる頃にはです、皆でした。
「いやあ、食べたね」
「ええ、本当にね」
「もうお腹一杯よ」
「色々食べたし」
「満足だよ」
 カルロスに恵梨香達が応えます、とても満足しているお顔で。
「お外の世界だと太るわね」
「間違いなくね」
「それに虫歯にもなって」
「それが怖いところだったね」
「そうだね、けれど今はオズの国だから」
 それでとです、カルロスも笑顔で言うのでした。
「そうした心配もないしね」
「そうじゃ、あと栄養もあるぞ」
 王様は今はオレンジジュースを飲んでいます。
「こうした果物のジュースを飲むとじゃ」
「いいんですね」
「うむ」
 その通りという返事でした。
「ビタミンが一杯あるからのう」
「甘いものだけじゃなく」
「栄養もじゃ」
 それもと言ったのでした。
「あるからのう」
「それじゃあ」
「うむ、ではな」
「ジュースもですね」
「飲むのじゃ」
「あと糖分は実はね」
 ここで言ったのはジュリアでした。 

 

第十幕その八

「御飯やパンと一緒よ」
「えっ、そうなんですか」
「成分が同じなのよ」
「じゃあお菓子と御飯は」
「実は同じなのよ、栄養的には」
「そうだったんですか」
「そうなの」
 こうお話するのでした。
「実はね」
「それは意外ですね」
「そうでしょ、だから御飯やパンだけを食べるとね」
「栄養的にはですか」
「そう、あまりよくないよ」
「じゃあおかずもですか」
「食べないといけないの」 
 御飯やパン以外にもというのです。
「お魚やお肉、お野菜もね」
「バランスよくですね」
「そうよ」
「だからお菓子だけ食べたらよくないんだね」
 ボタンも言います、今はチョコレートを食べています。
「何でも食べないと駄目なんだね」
「そう、ボタンにしてもね」
「そういうことなんだね」
「オズの国では太ることもないし虫歯もないし」
 こうしたこととは無縁でも、というのです。
「やっぱり栄養のバランスがいい方がいいの」
「それはどうしてなの?」
「身体がよく動けるからよ」
「それでなんだ」
「そう、出来るだけね」
「バランスよくだね」
「食べるべきなのよ」 
 ジュリアは苺ジュースを飲んでいます、そうしつつボタンにお話します。
「皆ね」
「わかったよ、それじゃあね」 
 ボタンはジュリアの言葉に頷きました、そして。
 ボタンも苺のジュースを飲みました、そのジュースはです。
「美味しいよ」
「そうよね」
「美味しくバランスよく栄養を摂る」
「それがいいのよ」
「わかったよ、そういえば僕って」
 ここでボタンが気付いたことは。
「最近よくわかってって言ってるね」
「そういえばそうね」
「僕はいつもわかんなーーいなのに」
「わかったって言ってるわね」
「確かにね」
「僕もそうしたことを言うんだね」
 目を瞬かせて言ったボタンでした。
「そうなんだね」
「自分でもそう思っていなかったの?」
「うん」
 その通りという返事でした。
「だって僕何もかもわからないから」
「わからなくてもね」
 オズマが微笑んでボタンに言います。
「わかることは出来るのよ」
「そうなんだ」
「最初は誰もわからないの」
 こうもです、オズマはボタンに言うのでした。
「けれど知ってわかる様になるの」
「僕も?」
「誰でも何でもよ」
 オズマはボタンに答えました。
「そうなっていくの」
「そうだったんだね」
「だからボタンもね」
「わかる様になっているんだね」
「そうなのよ」
「それでわかんなーーいって言っても」
「わかったとも言える様になっているのよ」
 何でもわからないと言っているボタンでもです、それこそ。 

 

第十幕その九

「そうなのよ」
「わかんなーーいばかりじゃないんだね」
「ボタンもね」
「わかったよ、じゃあ僕少しずつでもね」
「今みたいに」
「言える様になるわ」
 こうお話するのでした、そうしたお話もしながらです。
 皆でお菓子もジュースも食べていきます、そうしてお昼休みはです。
 皆ゆっくりと休みます、牧場の中に寝転んで。
 そのうえでお話します、王様は寝転びながら皆に言いました。
「牧場はこうしてな」
「寝転がってですね」
「のんびりするのもいいんですね」
「そうなんですね」
「それも楽しみの一つじゃ」
 飲んで食べるだけでなくというのです。
「お腹一杯食べてな」
「王様の楽しみ方の一つだよ」
 王子も言ってきます。
「ここでこうすることもね」
「気持ちよく寝てな」
 王様はまた皆に言いました。
「そしてじゃ」
「その後で」
「また遊ぶのじゃ」
「ここでは飲んで食べて」
「うむ」
 その通りという返事でした、カルロスのそれは。
「そうしようぞ」
「それなら」
「寝るか」
「はい、今から」
「起きる時が楽しみじゃ」
 王様がまず目を閉じてです、続いて他の皆もです。 
 目を閉じました、そして皆それぞれ一時間半程気持ちよく寝てでした。起きてまずは牧場の中を見回して。
 皆がいることを確かめてです、ボタンが言いました。
「皆いるね」
「君もいるしね」 
 カルロスはにこりと笑って彼に応えました。
「よかったよ」
「今回もね」
「君は移動しなかったね」
「そうだね」
 その通りとです、ボタンも応えます。
「そうなっていたね」
「ううん、本当に偶然はね」
「何時起こるかわからないよね」
「そうなんだよね」
「勿論僕にもだよ」
「これだけはどうしようもないね」
 カルロスはいささかしみじみとした口調になっていました。
「何時何が起こるか」
「偶然の前ではね」
「それをわかることはね」
「無理だよね」
「わかることとわからないことがある」
 こうも言ったカルロスでした。
「そうしたことだね」
「そうだよね」
「うん、本当に偶然だけは」
「オズの国の魔法でもね」
 つぎはぎ娘は寝ていません、起きたままで言っています。
「偶然はどうしようもないね」
「私もグリンダも魔法使いさんも」
 オズマの言葉です。
「偶然についてはね」
「どうしようもないでしょ」
「ええ、何も出来ないわ」
「コントロール出来ないのね」
「何一つとしてね」
 それこそというのです。
「それは無理よ」
「偶然は誰にも支配されないんだね」
 しみじみとした口調で言ったのは馬です。 

 

第十幕その十

「神様でないと」
「そうよ、偶然だけはね」
「神様でもないと」
「どうしようもないわ」
「オズマ姫でもだね」
「そうよ」
 それこそという返事でした。
「オズの国の誰でも偶然はね」
「コントロール出来ないね」
「そうなの、何も出来ないの」
「それで僕のことも」
「ええ、貴方が寝てね」
「何時何処に行くか」
「予測することは出来ないの」
 それがその偶然が為すことだからです。
「オズの国の誰にもね」
「じゃあ若し今夜寝て」
「それで貴方がどうなるのかはね」
「わからないの」
 実際にというのです。
「どうしてもね」
「それがわからないってことだね」
「そうなるわ」
「わからないことがわかったよ」
 オズマの言葉を聞いて頷いたボタンでした。
「今はね」
「それはわかったってことよ」
「わからないことをわかることも」
「わかることなの」
「そうなんだね」
「ええ、じゃあまた食べましょう」
「あれっ、かなり食べたのに」
 オズマの言葉を聞いてです、ボタンはふと気付きました。
「もうお腹空いてきてるよ」
「そういえば僕も」
「何か私も」
「私もどうも」
「僕にしても」
「僕もだね」 
 カルロスに続いてです、恵梨香とナターシャそしてジョージと神宝もでした。皆それぞれ色々なお菓子をお腹一杯食べたのにです。
 もうお腹が空きはじめています、それで言うのでした。
「あれだけ食べたのに」
「それでどうして」
「お腹が空くのかしら」
「幾ら何でもね」
「これはおかしいね」
「それは皆食べながらね」
 ジュリアがいぶかしむ五人に種明かしをします。
「お菓子を追い掛けて牧場の中を動き回っていたわね」
「あっ、そういえば」
「確かにそうですね」
「私達お菓子食べるのに夢中で」
「あちこち動き回ってもいました」
「牧場の中を」
「そう、皆かなり動いていたから」
 そのせいでというのです。
「お腹が空いてるのよ」
「それにここまで歩いてきておるな」
 王様も言います。
「そのこともあるな」
「僕達それなり以上に動いてるんですね」
「うむ、食べても動けばな」
「それで、ですね」
「お腹は減る」
「そういうことなんですね」
「だからわしにしても同じじゃ」
「お腹空いてるんですね」
「結構な」 
 実際にというのです。
「起き抜けじゃが食べたいぞ」
「それなら」
「さて、では食べよう」
 また牧場のお菓子達をというのです。
「午後もな」
「わかりました」
「では午後も迷わずに食べよう」
 王子は微笑んで皆に言いました。 

 

第十幕その十一

「そうしようね」
「ボタンの言う通りにですね」
「そう、一杯あるからね」
 食べるべきお菓子達がです。
「食べようね」
「それじゃあ」
 カルロスも他の子達も頷いてでした、またお菓子を食べはじめました。それは他の皆も同じでなのでした。
 皆午後もお菓子を一杯食べました、そして夕方になって。
 そうしてです、王様が皆に言います。
「では宮殿に帰るか」
「うん、そしてだね」
「お風呂じゃ」
 王様の好きなそこにとです、ボタンに答えます。
「御飯も食べようぞ」
「今度はお菓子だけじゃないね」
「うむ、今夜はな」
 今晩のメニューはといいますと。
「ブラジル料理じゃ」
「僕の国ですね」
「どうもそれが食べたくなってな」
 だからというのです。
「シェフに頼んでおいた」
「では」
「うむ、皆で食べようぞ」
 そのシェフのメニューをというのです。
「ブラジル料理をな」
「わかりました、それじゃあ」
「さて、ブラジル料理といえば」
 目を輝かせて言う王様でした。
「シェラスコじゃがな」
「やっぱりそれが一番有名ですね」
「しかし今回はな」
「シェラスコ以外のメニューをですね」
「用意してくれている筈じゃ」
 シェフの人達がというのです。
「どういったメニューか楽しみにしつつな」
「そのうえで」
「帰ろうぞ」
 宮殿までというのです。
「よいな」
「ずっと王様と一緒に宮殿のお料理を食べてるけれど」
 王子がここで言うことはといいますと。
「一度も美味しくないって思ったことはないよ」
「そうなのよね」
 オズマも王子の言葉に頷きます。
「王様の宮殿もね」
「味付けは甘めにしても」
「甘くないとのう」
 その王様のお言葉です。
「わしは駄目じゃからな」
「子供に近い味覚ですよね、王様は」
「童心があるからじゃ」
 こう王子に返す王様でした。
「わしは甘いものが好きなのじゃ」
「というか王様は」
 カルロスが言うには。
「子供そのものじゃ」
「ほっほっほ、そう言うか」
「怒られました?」
「いやいや、褒め言葉じゃよ」
 お髭を弄りながらです、王様はカルロスに答えました。
「わしにとってはな」
「子供みたいって言われることは」
「言ったな、わしは童心がある」
「はい」
「子供の心のままなのじゃ」
「だからですか」
「そう言われることはな」 
 まさにというのです。
「わしにとっては褒め言葉なのじゃ」
「そうなんですね」
「だからそう言われて嬉しいぞ」
「だといいですが」
「うむ、わしは永遠の子供じゃ」
 そうだというのです。 

 

第十幕その十二

「そして遊びを楽しんでいくのじゃ」
「子供だからですね」
「左様、遊ぶのじゃ」
「何でも遊ぶんですね」
「そうじゃ」
 カルロスに答えるのでした。
「牧場も迷路もアスレチックもな」
「ツーリングもですね」
「公園もじゃ」
「そしておはじきとかトランプもですね」
「何でも楽しむ」
 それこそというのです。
「遊んでな」
「そういうことですね」
「うむ、ではな」
「帰ってもですね」
「遊ぶとしよう」
「何か王様って」
 ボタンが言うには。
「寝る時以外は遊んでないかな」
「ほっほっほ、その通りじゃ」
「寝たら遊べないしね」
「しかし楽しむことは出来る」
 寝ることもというのです。
「それはな」
「そうだね、寝ることって凄く気持ちいいからね」
「だから寝て楽しむのじゃ」
 その寝ることをというのです。
「そうしているのじゃ」
「そうなんだね」
「勿論今夜も楽しむぞ」
 その寝ることをというのです。
「気持ちよくな」
「それじゃあね」
「うむ、楽しもうぞ」
 こうしたことをお話するのでした、そして実際に皆は牧場から宮殿に帰ってまた遊びました、今回カルロス達は遊んでばかりで。
 カルロスはふとです、皆に夕食の時に言いました。
「遊んでばかりだね、今回は」
「うん、確かにね」
「本当にずっとだよね」 
 ジョージと神宝がカルロスに最初に応えます。
「このリンキティンク王の国に来てから」
「僕達遊んでばかりだね」
「灯台にも行ったけれど」
「宮殿に着いてからはね」
 ナターシャと恵梨香も言います。
「私達ずっとね」
「遊んでいるわね」
「オズの国は確かに遊ぶことが多いけれど」
 それでもとも言うカルロスでした。
「今回は特にだね」
「そうだね、何か」
「遊んでばかりだね」
「起きて寝るまで」
「もう遊んでばかりね」
「そうした国だからいいんだよ」
 王子が五人に微笑んでお話しました。
「この国は遊ぶ国だから」
「オズの国の中でもですね」
「特にそうした国だからね」
 それで、というのです。
「いいんだよ」
「そうなんですね」
「だから明日もね」
「はい、遊んでもですね」
「いいんだよ、王様や僕だけでなく国民の皆も遊んでるしね」
「それぞれの遊びをですね」
「しているからね」
 だからと言う王子でした。
「それに王様と僕は国民の皆の遊びを実際にやってみてどんなのがチェックするのがお仕事だからね」
「そうなんですか」
「王様はこれでもお仕事にも真面目なんだよ」
「ほっほっほ、仮にも王様じゃ」
 王様も言います。
「だから働いてもおるぞ」
「そうなんですね」
「そうじゃ、明日も働くぞ」
「遊ぶことが即ちですね」
「わしの仕事で楽しみなのじゃよ」
 こう言って晩御飯も楽しむ王様でした、見ればその食材もです。
「このお料理も全部?」
「うむ、国民が作ったものでな」
「それを食べてだね」
「どれだけ美味しいか確かめておるのじゃ」
 こうボタンにお話します。
「王様であるわしがな」
「そうなんだね」
「うむ、お皿も他の食器もじゃ」
 そうしたものもというのです。
「国民が作ってくれたものでな」
「それもだね」
「使ってな」
「確かめているんだ」
「そうじゃ、よい食器じゃ」
 こう言うのでした、そしてその食器も楽しく使ってお料理を楽しむのでした。 

 

第十一幕 消えたボタンその一

                 第十一幕  消えたボタン
 この日もまずは朝御飯からでした、皆は食べました。
 この日はボルシチと黒パンでした、ロシア料理です。
 そのロシア料理を楽しみつつです、オズマは言いました。
「朝から美味しくて」
「それで、ですね」
「目がすっきりするわ」
「頭もですね」
「そうなるわ」
 こうジュリアにお話するのでした。
「いい感じよ」
「そうですね、朝からボルシチもいいですね」
「ロシア風のビーフシチューもね」
「いいですね」
「それと、です」
 ここでナターシャ、ロシア人であるこの娘が微笑んで言うのでした。
「サラダもですね」
「ええ、このサラダもね」
 オズマはそのサラダも見ています、見ればです。
 そのサラダは濃い感じです、他の国のレタスやトマトであっさりとしたものではありません。かなりのボリュームがあるものです。
 そのサラダを食べながらです、神宝はオズマに言うのでした。
「中国では生野菜は食べなかったんです」
「昔はなのね」
「けれど今は食べていますし僕も好きです」
「サラダはレタスやトマトだけじゃないんですね」
 サラダをよく食べるアメリカ人のジョージが言います。
「こうしたサラダもあるんですね」
「そうみたいね」
 オズマはジョージにも応えるのでした。
「ポテトサラダもあるし」
「あのサラダも美味しいですね」
 恵梨香はそのロシアのサラダを食べつつ言います。
「ボリュームもあって」
「ロシアは寒いからなのね」
 オズマはこう言いました。
「こうした濃い感じになるのね」
「寒いと栄養を摂らないと駄目なんだね」
 ボタンは黒パンを食べながら言います、そのパンに苺のジャムをたっぷりと付けてから美味しく食べています。
「そうなんだね」
「暑いよりもね」
 カルロスがボタンに答えます、ボタンと同じ食べ方で黒パンを食べながら。
「寒いとね」
「栄養が必要なんだね」
「寒さに勝たないといけないからね」
「それでなんだね」
「僕もブラジルにいる時よりも日本にいる時の方がね」 
 それこそというのです。
「脂肪の多いものとか甘いもの食べてるから」
「寒いから?」
「うん、あったまる様なものを食べてるよ」
「そうなんだね」
「実際にね」
 こう言うのです。
「さもないと我慢出来ないから」
「それでなんだ」
「そうなんだ」
「ううん、寒いって大変なんだね」
「ええ、何かとね」
 そのナターシャの言葉です。
「食べないと駄目なのよ」
「ナターシャにしてもなんだね」
 ジョージはナターシャに聞きました。
「食べてるんだね」
「そういえばナターシャって細いけれど」
 神宝も言います。
「結構食べるんだよね」
「私よりも食べてるかしら」
 恵梨香は首を少し傾げさせて言いました。
「どちらかっていうと」
「五人の中で一番食べてるのはカルロスかしらね」 
 つぎはぎ娘は自分の席に座って言うのでした。 

 

第十一幕 消えたボタンその二

「そうかしらね」
「そうかもね、見たところ」 
 木挽の馬はそのつぎはぎ娘の横にいます。
「カルロスが一番食べてるかもね」
「うん、そうだろうね」
 実際にとです、カルロスも答えます。
「僕が五人の中で一番食べてるね」
「それで一番元気だよね」
 ボタンはカルロスに言いました。
「そうだね」
「うん、そうかもね」 
 否定しないで答えたカルロスでした。
「食べてそしてね」
「動いてるんだね」
「確かに今の方がよく食べてるよ」
 ブラジルから日本に来た時の方がというのです。
「けれど動くこともね」
「それもだね」
「しているから」
 それでというのです。
「同じかな」
「食べてだね」
「食べたらね」
「カルロスは動くんだね」
「動かないと気が済まないんだ」
 どうしてもというのです。
「僕はね」
「そこがカルロスらしいね」
「ボタンもそう思うよね」
「実際にね」
「僕もそう思うよ」
 カルロス自身もとです、ボタンに微笑んで答ました。
「そうね」
「よく食べてよく動く」
「それが僕だよ」
「じゃあ今日もだね」
「うん、朝からたっぷり食べてるしね」
「遊んでだね」
「身体を動かすよ」
 まさにです、そうするというのです。 
 そしてです、実際にです。
 この日は外でテニスをしました、王様はスポーツも遊びと考えているからです。
 それでテニスコートでテニスをしてです、ボタンはこんなことを言いました。
「テニスっていいよね」
「凄く楽しいよね」
「うん、汗もかくしね」
 ダブルスで一緒に組んだカルロスに応えます。
「いい遊びだよね」
「だからね」
 それで、とです。カルロスは額の汗をタオルで拭きながらボタンに言うのでした。
「僕テニスも好きなんだ」
「サッカーだけじゃなくて」
「そう、もっと言えば野球もソフトボールも好きで」
 それにというのです。
「バスケやバレーボールもだよ」
「好きなんだね」
「色々なスポーツがね」
「そうなんだね」
「そしてこのテニスもね」
 好きだというのです。
「好きで結構しているんだ」
「そうなんだね」
「そう、じゃあね」
「うん、また僕達の番になったら」
「楽しもうね」
 見ればジョージと神宝、恵梨香とナターシャ、オズマとジュリア、それに王様と王子がそれぞれダブルスを組んでいます。つぎはぎ娘と馬は観ているだけです。コートはとても奇麗でよくお掃除されています。 

 

第十一幕 消えたボタンその三

 そのお掃除についてです、王様は言います。
「お掃除も遊びじゃ」
「お掃除もですか」
「そうじゃ、汚い場所やものを奇麗にするな」
「はい、確かに」
「それは楽しいことじゃからな」
「遊びなんですね」
「そうじゃ」
 まさにというのです。
「だからじゃ」
「王様はそっちもですね」
「遊びじゃ」
「そして楽しむものですね」
「うむ、だからテニスをする前に楽しんだな」
 そのお掃除をです。
「そして後はな」
「テニスの後もですね」
「して楽しむぞ」
「そうされるんですね」
「至るものが遊びじゃ」
 王様独自のお考えです。
「だから楽しむぞ」
「何ていいますか」
 ふとです、こんなことも言ったカルロスでした。王様のそのお話を聞いて。
「王様って何でも遊びですから」
「何でも嫌がらないとじゃな」
「そうですよね」
「ほっほっほ、遊びを嫌がることはないじゃろ」
「はい、遊びですから」
「だからじゃ」 
「お掃除もですね」
 カルロスはまた言いました。
「そうなんですね」
「うむ、それにな」
「しかもですか」
「サインも遊びじゃ」
「書類への」
「どれだけ速く的確に一枚一枚サインをしていってな」
 決裁しないといけないその書類をです。
「終わらせるかな」
「いつも遊んでおられるんですね」
「そうしておるぞ」
「じゃあ会議も」
「ほっほっほ、新しい遊びを考えるな」
「そうしたものですか」
「そうじゃ」
 まさにというのです。
「会議もな」
「遊びを考える話し合いですか」
「大臣達とな」
「そうなんですね」
「また会議がある」
 やっぱり楽しそうに言う王様でした。
「そしてじゃ」
「その会議の中で、ですね」
「新しい遊びを決めるのじゃ」
「そういうことですね」
「そしてじゃ」
「新しい遊びをされるんですね」
「そうしておるのじゃよ」
 王様は飲みものの林檎ジュースを美味しそうに味わいつつお話します。
「いつもな」
「そうなんですね」
「いや、毎日遊んでじゃ」
 そしてというのです。
「楽しいぞ」
「ありとあらゆることを遊びにしていると」
「実によい」
「それだけで楽しくなるんですね」
「そういうことじゃ、しかしこのテニスをしておると」 
 王様が今度言うことはといいますと。 

 

第十一幕 消えたボタンその四

「凄く汗をかくのう」
「はい、そうですよね」
 実際カルロスもかなり汗をかいているので頷くのでした。
「凄い運動ですから」
「全くじゃ」
「そもそも王様は」
「わしが?」
「はい、ジャージを着ておられますけれど」
 見れば皆ジャージです、カルロスは黄色、ジョージは赤、神宝は青、ナターシャは黒、恵梨香はピンクの上下のジャージで。
 オズマは緑、ジュリアはライトグリーンです。そして王子と王様は紅ですが。
 その紅のジャージの生地が皆のより厚くてです、ジョージは言うのです。
「生地が厚いですから」
「だからか」
「はい、その分汗をかきます」
「しかも太っておるからか」
「そのこともありまして」
「わしは皆より汗をかくのじゃな」
「そう思います」
 こう王様にお話するのでした。
「そのせいで」
「それでか」
「はい、ただ汗をかくこともお嫌いじゃないですね」
「遊びは汗をかくものじゃ」
 これが王様の返事でした。
「だからな」
「それでいいんですね」
「その通りじゃ、汗をかくならどんどんかくぞ」
「わかりました、じゃあ次はやりますか?」
「うむ、君とボタンのチームとな」
「王様と王子のチームで」
「一緒にな」 
 こう言ってです、そのうえででした。
 実際に四人でゲームを楽しみました、他の皆もです。
 交互にラケットでボールを打ち合い勝負しました、試合は明るく楽しく爽やかに行われて十時になってです。
 ティータイムとなりました、その時にです。
 オズマは紅茶、ミルクティーを飲みながら皆に言いました。
「皆もテニスが好きで何よりも」
「姫様もですよね」
「テニスお好きですよね」
「そうですよね」
「ええ、スポーツ自体が好きで」
 そしてというのです。
「テニスもね」
「お好きだからですね」
「今日も楽しまれてるんですね」
「そうなんですね」
「そうよ」
 五人に笑顔で返した言葉でした。
「この通りね、都にいる時もよくしているわ」
「ドロシー王女達となのよ」
 ジュリアはティーセットのエクレアを手に取りつつ五人にお話しました。
「私ともね」
「テニスをされてるんですね」
「そうなんですね」
「そうなの、姫様は今日みたいにいつも軽やかに動かれるのよ」
「そういえばオズマってね」
 ボタンはサンドイッチを食べています、サンドイッチの間にはジャムとフルーツが挟まれていてとても甘くなっています。
「左右に凄く速いよね」
「そうでしょ」
「いつもしていてなんだ」
「姫様はテニスがお上手なの」
「そうなんだね」
 ボタンはそう聞いて頷きました。
「いつもしているから」
「そうなの、他のスポーツもお好きでね」
「そしてテニスも」
「そうなの」
「僕はテニスは」 
 ボタン自身はといいますと。 

 

第十一幕 消えたボタンその五

「あまりしないかな」
「いつも何処かにいるからね」
 つぎはぎ娘が言ってきます、観戦役の。
「テニスコートの傍にいることは少ないから」
「そうなんだ、起きたら違う場所にいたりするから」
「テニスをするとなると」
「こうした時だけだよ」 
 皆と一緒になった時のみというのです。
「だからね」
「そういうことね」
「うん、だから僕はテニスは」
「あまりしないのね」
「今日は久し振りにしたかな」
「その割にはいい動きしてたよ」
 ダブルスを組んでいるカルロスの言葉です、カルロスは苺やメロンといったセットの中のフルーツ類を食べています。
「君はね」
「そうかな」
「うん、速くて」
 それにというのです。
「スマッシュも的確だったし」
「だったらいいけれど」
「だからね」
「けれど僕ね」
「テニスの経験はないんだね」
「そうだよ」
 その通りという返事でした。
「あまりね」
「というかボタンってね」
「僕は?」
「うん、運動神経いいよね」
「そうだね」
 王子がカルロスのその指摘に頷きました。
「確かにボタンは運動神経がいいね」
「そうですよね、冒険の時も」
 カルロスはボタンと一緒に冒険した時のこともお話しました。
「幾ら歩いても平気だったから」
「体力もあるね」
「運動得意なんじゃ」
 いつも寝ているイメージはあってもというのです。
「前からそう思っていたふしはあっても」
「僕寝るのが一番好きだよ」
「いや、それでもだよ」
 ボタン本人にも言うのでした。
「君は運動神経あるよ」
「だといいけれど」
「テニスをしても」
 また言ったカルロスでした、このことも。
「よかったし」
「若しカルロスがテニスをいつもしていたら」
 そのテニスが好きなオズマの言葉です。
「私よりずっと上手だと思うわ」
「ボタンの運動神経と体力なら」
 ジュリアも言います。
「男の子ですし」
「私よりもよね」
「お言葉ですが」
「お言葉じゃないわ」
 そこははっきりと返したオズマでした。
「当然のことだから」
「当然ですか」
「誰もが何でも一番になれないでしょ」
「一番を目指してもですね」
「得意不得意があるわね」
「はい、確かに」
「私が何でも一番になれるかは」
 それは、というのです。 

 

第十一幕 消えたボタンその六

「人には出来ないから」
「だから姫様も」
「そう、ボタンが私よりテニスが上手でもね」
 それでもというのです。
「いいのよ」
「そうなのですね」
「ええ、そうよ」
 ジュリアに笑顔で言うのでした、そして。
 オズマは素直にです、こうボタンに言うのでした。
「オズの国で一番のテニスプレイヤーになる気はあるかしら」
「いや、別にね」
「いいのね」
「僕テニスは好きだけれど」
 それでもというのです。
「それ以上に寝ることが好きだから」
「テニスよりもなのね」
「うん、寝ることで一番ならいいわ」
「わかったわ、じゃあその気になったらね」
「その時になんだね」
「目指すといいわ」
 これがオズマの言葉でした。
「テニスはね」
「じゃあそうするね」
「ええ、けれど寝ることが一番好きなら」
「オズの国で寝ることの一番になりたいと思ったら」
「目指すといいうんだね」
「そうよ」
 まさにというのです。
「ボタンがそうしたいならね」
「わかったよ」
 ボタンはオズマの言葉に頷きました、そして。
 そのお話をしてです、王様は紅茶を一口飲んでから皆に言いました。
「ではこれからもな」
「テニスですね」
「テニスを楽しもうっていうんですね」
「そうじゃ、今日はテニスをして遊ぼうぞ」
 こう子供達に答えるのでした。
「是非な」
「いいですね、私いつもゴスロリの服ですけれど」
 ナターシャも紅茶を飲みつつ笑顔で言います。
「ジャージもいいですしね」
「そうよね、ジャージでスポーツするのもね」
 恵梨香も微笑んでナターシャに続きます。
「いいわよね」
「小学校だと体操服だけれど」
 ジョージは自分達が通っている小学校のお話をしました。
「こうしてそれぞれが好きなジャージを着てやるのもいいね」
「ジャージにもそれぞれの好きな色が出てるしね」
 神宝は皆のそれぞれのジャージを見ています。
「そのことも面白いね」
「そうだね、僕は黄色でね」
 カルロスも言います。
「皆はそれぞれの色だね」
「何かね」
 つぎはぎ娘はこんなことを言いました。
「五人共オズの国の何処からか来たみたいよ」
「それぞれの色が?」
「そう、特にあんた達三人はね」
 カルロス達男の子達を見ての言葉です。
「そうよね」
「ウィンキー、カドリング、マンチキンだね」
「そう、三人はね」
 それこそというのです。
「そうよ」
「そうだね」
「女の子達はね」
 ナターシャと恵梨香はといいますと。
「少し違うかしら」
「黒とピンクはね」
 木挽の馬が言うことはといいますと。
「オズの国にはないよね」
「国の色としてはね」
「そうなんだよね」
「ただ、ナターシャは紫で」
 その黒が紫色に近いというのです。 

 

第十一幕 消えたボタンその七

「ギリキンかしら」
「そうなるかな」
「恵梨香は女の子自体ね」
 そうなるというのです、恵梨香は。
「ピンクは女の子の色だから」
「私はそうなのね」
「凄く女の子らしいし」
 外見も性格も行動もというのです。
「五人の中でお姉さんって感じだから」
「それでなのね」
「そう、恵梨香は女の子よ」
 それになるというのです。
「オズの国のね」
「そうなるのね、私は」
「ええ、そしてね」
 さらに言うつぎはぎ娘でした。
「五人でオズの国ね」
「ううん、外の国から来たのにだね」
「あんた達オズの国の市民じゃない」
 つぎはぎ娘はカルロス達にこのこともお話しました。
「そうでしょ」
「うん、姫様に名誉市民にしてもらってるよ」
 最初の冒険の最後に任命してもらったことをです、カルロスはつぎはぎ娘にお話しました。
「だからだね」
「オズの国の市民よ」
「だから僕達五人で」
「オズの国よ、オズマがエメラルドの都でね」
 まさにそのものというのです。
「六人でそうよ」
「皆それぞれオズの国なのよ」
 オズマが微笑んで言ったきました。
「そうなるのよ」
「そうなんですね」
「そう、五人もオズの国でね」
「姫様もそうで」
「他の皆もよ」
 それこそというのです。
「誰もがオズの国なのよ」
「オズの国にいる人は」
「そうなるのよ」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆はさらにテニスを楽しみました、そしてお昼にはです。
 お昼を食べました、今日のお昼はといいますと。
「お寿司なんだね」
「それがいいかしらって思ってね」
 オズマはボタンににこりと笑って答えました。
「それでなの」
「お寿司にしたの」
「日本のお料理だね」
「そうよ」
 その通りとです、オズマはまた答えました。
「お寿司はね」
「何度か食べてるけれど」
 ボタンにしてもです。
「お寿司っていいよね」
「ボタンも好きなのね」
「大好きだよ」
 ボタンはそのお寿司を手に取って食べています、玉子を海苔でジャリに付けているとても美味しそうなお寿司です。
 そのお寿司を食べつつです、ボタンも言うのです。
「何とも言えないよね」
「御飯にお砂糖とお酢で味を付けて」
「そしてだよね」
「上にお刺身とかを乗せてね」
「その組み合わせがいいよね」
「私も好きで」
 オズマは笑顔で食べています、そのお寿司を。
「時々食べてるの」
「テーブル掛けで出して」
「旅行の時はこれで出してね」
 そしてというのです。
「都ではシェフの人達に作ってもらってるの」
「そうして食べているんだね」
「ええ、そうしてね」
「姫様も食べてるんだね」
「お寿司を作ることは難しくても」
 それでもというのです。 

 

第十一幕 消えたボタンその八

「都のシェフの人は上手に作ってくれて」
「このテーブル掛けもだね」
「美味しいお寿司を出してくれるの」
「ううん、実際に凄くね」
「美味しいわね」
「うん」
 笑顔で答えながらです、ボタンは今度は鮪のお寿司を食べています。
「幾らでも食べられるよ」
「いいことよ、じゃあね」
「実際にだね」
「うん、食べてね」
 そしてというのです。
「お腹一杯になってね」
「そうならせてもらうね」
「お寿司っていう食べものもね」
 カルロスは鮭のお寿司を食べながら言うのでした。
「面白いよね」
「面白いって?」
「御飯と色々なお刺身が食べられてね」
「そうだね、言われてみればね」
「納豆なんかもあるし」
「納豆巻きだね」
「そう、これもね」
 カルロスは実際に今度は納豆巻きを食べています、海苔に巻かれたジャリの上にネタとして納豆があります。
 その納豆を食べてです、こう言ったのでした。
「お寿司になるしね」
「いや、その納豆はのう」
 王様はその納豆を見ながら言うのでした。
「最初驚いたわ」
「そうですよね」
「これが食べるものかとな」 
 そう思ってというのです。
「びっくりしたわ」
「そうそう、糸を引いてるお豆なんて」
「何かと思ったわ」
「僕の国にも色々な食べものありますけれど」
 神宝はお国の中国のことをお話します。
「納豆みたいなのはないですからね」
「匂いが凄いんですよね」
 ジョージは納豆のその匂いをお話します。
「もう食べものと思えない位に」
「噂には聞いていたけれど」
 ナターシャのコメントはといいますと。
「実際にその目で見てやっぱり驚きました」
「けれど美味しいでしょ」 
 恵梨香はそれぞれ納豆について言う皆にこう言いました。
「納豆は」
「食べてみればね」
「実際に」
「そうしてみれば」
「美味しいわ」
 カルロス達四人も肝心のお味についてはこう言います。
「意外とあっさりしていて」
「御飯に合ってて」
「しかも身体にいいし」
「いい食べものよ」
「関西でも昔はあまり食べてなかったけれど」
 恵梨香は神戸で生まれ育っています、神戸も関西なのです。
「実際に美味しいのよ」
「左様、これが食べるとな」
 王様はまた納豆について言いました。
「美味しいのじゃ」
「そうなんですよね」
「御飯にも合うしおうどんにも合う」
「あっ、そうなんですね」
 カルロスは王様の納豆はおうどんにも合うという言葉にお顔を向けました。
「納豆はおうどんにもですか」
「麺に絡めてな」
「そうして食べるとなんですね」
「これもまたいい」
「そうなんですね」
「そうじゃ」
 その通りというのです。 

 

第十一幕 消えたボタンその九

「カルロスも今度食べてみるといい」
「わかりました、今度そうしてみます」
「納豆巻きもよいがな」
「そちらもですね」
「僕も納豆食べられるよ」
 ボタンは今はいくら巻きを食べています、それもまたいいのです。
「そちらもね」
「ボタンもだね」
「そう、好きだよ」
「ボタンって何でも食べられるね」
「うん」
 いくら巻きも食べてです、そして次ははまちのお寿司を食べています。
「胡瓜もね」
「かっぱ巻きだね」
「そっちもね、ただ」
「ただ?」
「何で胡瓜のお寿司をかっぱ巻きっていうの?」
 ボタンが疑問に思ったのはこのことでした。
「どうしてなのかな」
「それはね」
 ジュリアが答えました、ボタンの今の質問に。
「日本に河童っていう妖怪がいるの」
「妖怪なんだ」
「そう、妖怪は西洋で言う妖精ね」
「オズマみたいなんだね」
「そう、オズマも妖精だからね」
 オズの国の光の妖精です、オズマは。
「オズマのお友達になるわね」
「河童も」
「そう、河童は川や湖に住んでるの」
「水の妖怪なんだ」
「そうなの、緑色の身体で」
 それにというのです。
「甲羅を背負っていて頭にお皿があってお口は嘴で指と指の間には水かきがあるの」
「面白い外見だね」
「お相撲が好きで食べものは」
「胡瓜が好きなんだね」
「ええ、そうなのよ」
「胡瓜は河童の好物だから」
 ボタンもわかりました、ここで。
「かっぱ巻きになるんだね」
「そうよ」
「わかったよ」
 ここまで聞いてです、ボタンは微笑んで頷きました。
「そういうことだね」
「そうなのよ」
「成程ね、それで河童はオズの国にいるのかな」
「日本からアメリカに来ている人もいるから」
「河童もなんだ」
「ええ、いるわ」
 このオズの国にもというのです。
「オズの国には世界中から妖怪が集まっているのよ」
「そうなんだね」
「アメリカの妖怪がいて」
 そしてというのです。
「日本の妖怪も中国の妖怪もいるのよ」
「ブラジルやロシアの妖怪もだね」
「勿論よ」
 ジュリアはまた答えました、かずのこ巻きを食べつつ。
「色々な国の妖怪がいるのよ」
「そうした人達にも会いたいね」
「ええ、会えるわよ」
 笑顔で答えたジュリアでした、ここでも。
「オズの国にいればね」
「その時を楽しみにしていいかな」
「勿論よ」
 笑顔で答えたジュリアでした、この時も。
「その時も楽しみにしていてね」
「うん、わかったよ」
 ボタンはジュリアの言葉に頷いてでした、そして。
 河童巻きを食べてから今度はお稲荷を食べて言いました。
「この前狐さんと狸さんと楽しく遊んだけれどね」
「狐だね」
「うん、狸さんもいたよ」
「いいね」
 カルロスは狐や狸と聞いて羨ましそうに言いました。 

 

第十一幕 消えたボタンその十

「どっちもブラジルにはいないんだよね」
「ブラジルにはいないの?」
「狐も狸もね」
「そうなんだ」
「特に狐はね」
 この生きものはというのでした。
「恵梨香達の国には全部いるのにね」
「そうなんだ」
「ブラジルにだけいないんだ」 
 五人のそれぞれの祖国の中で、です。
「そうなんだよね」
「どうしてなの?」
「何か狐はあまり暑い場所にはいないらしくて」
「それでなんだ」
「ブラジルは暑いからね」
 何といってもという口調で、です。カルロスは答えました。
「それでなんだ」
「狐はいないんだ」
「ブラジルにはね」
「恵梨香達の国にはいても」
「そう、皆の国にはいるんだ」
 日本、アメリカ、中国、そしてロシアにはです。
「童話にも出るしね」
「ブラジルの童話では狐出ないんだ」
「動物園にしかいないよ」
 それこそというのです。
「あそこにしかね」
「残念だね」
「ブラジルには色々な生きものがいるけれど」
 それでもというのです。
「狐はいないんだ」
「そうなんだね、わかったよ」
「けれどオズの国には狐が普通にいるんだよね」
「うむ、狐の国もあってのう」
 王様はとろのお寿司を食べています。
「あの国の王様はわしの友達じゃ」
「お二人は仲がよくてね」
 王子は鯖のお寿司を食べつつ言います。
「よく一緒に揚げも食べてるよ」
「あそこの王様は無類の鶏肉好きじゃが」
 狐だからこそ、というのです。
「それ以上に日本から来た揚げに病み付きにになっておるのじゃ」
「これだね」
 ボタンはオズマが美味しそうに食べているお稲荷さんを見つつ王様に応えました、さっきはボタンも食べていました。
「お稲荷さんだね」
「左様、あとはきつねうどんじゃ」
「薄い揚げをおうどんに乗せた」
「あれも大好物なのじゃ」
「とにかく揚げが好きなんだ」
「この世で最高の食べものと言っておる」
 そこまで好きだというのです。
「毎食食べておるぞ」
「本当に病み付きなんだね」
「揚げがあればとさえ言っておるぞ」
「僕も揚げはね」
「好きじゃな」
「けれどそこまではね」
「だから狐じゃからな」
 それ故にというのです。
「そこまで好きなのじゃ」
「狐さんと揚げはなんだ」
「最早切っても切れないものになっている」
「じゃあお寿司も」
「殆ど稲荷寿司じゃ」 
 狐の王様が食べるお寿司はです。
「しかも王様だけでなくな」
「お国の人もだね」
「皆じゃ」
 狐だからというのです。
「いつも食べておるのじゃ」
「成程ね」
「うむ、今度行ってみるか」
「行けたらね」 
 これがボタンの返事でした。
「その時はね」
「そうじゃな、君は何時何処に行くかわからん」
「だからね」
「そうじゃな、ではあの国に行った時にはな」
「うん、揚げをね」
「頂くな」
「そうさせてもらうよ」
 ボタンは王様に微笑んで応えました、そしてです。
 午後もテニスを楽しんで皆でいい汗をかきました、汗をかいた後で。
 皆で宮殿に帰ってです、お風呂で汗を流して着替えて晩御飯も食べました。そのうえで夜は寝たのですが。 

 

第十一幕 消えたボタンその十一

 朝起きるとです、そこで遂にでした。
「あれっ、ボタンは?」
「いないよね」
「そうだね」
 カルロスはジョージと神宝に言われました。
「ひょっとして」
「またいなくなったのかな」
「うん、お部屋にいないからね」
 ボタンのベッドの中にです。
「これはね」
「間違いないね」
「何処かに行ったね」
「あれっ、どうしたの?」
「何かあったのかしら」
 お部屋の外で朝お話をしている三人のところにです、恵梨香とナターシャが来ました。五人共もう着替えています。
「まさかと思うけれど」
「ボタンがいなくなったのかしら」
「そのまさかだよ」
 カルロスが二人に答えます。
「朝起きたらなんだ」
「そうなのね、やっぱりね」
「あの子の常ね」
「そうだね、彼がいなくなることは常だからね」
 カルロスもわかっていて言います。
「もう皆驚いていないね」
「今更って感じだからね」
「彼の場合はね」
 ジョージと神宝も言います。
「それなら」
「もうね」
「それじゃあ探しましょう」
「すぐにそうしましょう」
 恵梨香とナターシャは三人に提案しました。
「すぐにね」
「皆にもお話して」
「よし、それなら」
 カルロスが乗りました、そのうえで。
 五人は他の皆にもお話しました、すると。
 すぐにです、オズマが言います。
「ではまずはね」
「ボタンを探すんですね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「探す前にね」
 くすりと笑ってです、オズマがここで言うことは、
「朝御飯を食べましょう」
「まずは、ですね」
「ええ、一旦宮殿の中を皆で探して」
 そしてというのです。
「それからはね」
「見付かればそれでよしで」
「宮殿にいなかったら」
 その時はというのです。
「朝御飯にしましょう」
「朝御飯を食べてですか」
「皆で捜索に出ましょう」
 宮殿に出て、というのです。
「そうしましょう」
「ほっほっほ、果たして何処にいるのかのう」
 王様はここで笑って言いました。
「見付けるのが楽しみじゃ」
「楽しみですか」
「うむ」
 その通りとです、王様はカルロスに答えました。 

 

第十一幕 消えたボタンその十二

「実にな」
「それじゃあ」
「さて、朝御飯前に宮殿の中を探して」
「宮殿にボタンがいれば一緒に朝御飯を食べて」
「そしてな」
「いなかったらですね」
「出発じゃ、いいな」
「捜索の冒険に」
 カルロスも王様のお言葉を理解して応えます。
「行こうぞ」
「王様そっちの方を楽しみにしていません?」
「うむ、何かとな」
「そうですか」
「うむ、ではな」
「それではですね」
「そうじゃ、探すとしよう」
 こう言って実際にでした、皆で朝御飯前に探しました。しかし宮殿の何処にもいなかったのでそれでなのでした。
 王様は皆にです、笑顔で言いました。
「いなかったな」
「それならなのね」
「そうじゃ、朝御飯を食べてじゃ」
 そしてというのです。
「出発じゃ」
「王様今度は冒険で遊ぶのね」
 つぎはぎ娘は王様の考えを読んで尋ねました。
「そういうことね」
「ほっほっほ、その通りじゃよ」
「成程ね、じゃあ朝御飯を食べて」
「皆出発するぞ」
「何処にいるかわからないんだよね」
 木挽の馬が言います。
「ボタンは」
「それを探すのが面白いではないか」
「いえ、待って下さい」
 ここで王子が王様に言ってきました。
「オズマ姫の魔法かグリンダさんにお聞きすれば」
「それでわかるか」
「グリンダさんは魔法でオズの国のあらゆる場所を知ることが出来ます」
「オズの国のことは何でも書かれる本にじゃな」
「はい、あそこにです」
「よし、ではじゃな」
「まずはグリンダさんのところにですか」
 王子は王様に言いました。
「連絡しますか」
「そうするとするか」
「それがいいですね」
「よし、ではまずはグリンダさんに聞くか」
「そうしましょう」
「話は決まった」 
 これで、というのでした。
「グリンダさんに連絡じゃ」
「それじゃあ」
「うむ、朝御飯の後じゃ」
「ではまずはですね」
 ジュリアも応えます。
「朝御飯を食べるんですね」
「やはり何事も食べてからじゃ」
「それからはじまりますね」
「うむ、そうしようぞ」
 こう言ってでした、そのうえで。
 皆はまずは朝御飯を食べました、今日はお饅頭とお野菜を炒めたものでそれを食べてからなのでした。 

 

第十二幕その一

                第十二幕  行きたい国に行っていて
 王様は朝御飯を食べてからです、皆に言いました。
「では今からな」
「グリンダに聞くのね」
「そうするとしよう」
 こうオズマにも言います。
「これよりな」
「そういえば王様もね」
「そうじゃ、カドリングの主であるグリンダさんとはな」
「お友達ね」
「そうなのじゃよ」 
 オズマがグリンダとそうであるのと同じで、です。
「非常に頼りになるお友達じゃ」
「それならね」
「うむ、連絡をしよう」
 こう言ってでした、王様は。
 その手に携帯電話を出してでした、すぐにグリンダに連絡をしました。
 グリンダが電話に出るとです、まずはお互いに挨拶を交えさせてでした。そのうえで王様からグリンダに聞きました。
「実はボタン=ブライトが今朝までわしの宮殿にいたのじゃが」
「いなくなったのね」
「うむ、そうなのじゃ」
「あの子の常ね」
「全くじゃ、それでな」
「あの子の居場所を確かめて欲しいのね」
「貴女の本には書いてあるじゃろ」
「ええ、オズの国のことなら何でも書かれる本だから」
 魔法の力で自然にです。
「当然あの子のこともね」
「そうじゃな、それならな」
「あの子が今何処にいるのか」
「教えてくれるか」
「わかったわ」
 グリンダは電話の向こうで王様に微笑んで答えました。
「それならね」
「今すぐにじゃな」
「確かめるわ」
「うむ、頼む」
「少し待っていてね」 
 こうしてでした、グリンダは一旦電話から離れてでした。その本をチェックしてそれから電話のところに戻って王様にお話しました。
「あの子は今は狐の国にいるわ」
「あの国にか」
「あの国の木陰でぐっすりと寝ているわよ」
「うむ、わかった」
 ここまで聞いてです、王様は頷きました。
「ではすぐに行こうぞ」
「狐の国までね」
「そうしようぞ」
「それはいいけれど」
 グリンダは意気込む王様に言います。
「貴方の国から狐の国に行くと」
「時間がかかるか」
「ええ、そしてその間にね」
「ボタンが何処に行くかわからんな」
「あの子は何時何処に行くかわからないのよ」
 寝ている間にです。
「だからね」
「そうじゃな、てくてくと歩いて行くとな」
「会えないかも知れないわよ」
「全くじゃ」
 その通りとです、王様も頷きました。
「行ってもう何処かに行ったのでは本末転倒じゃ」
「そうでしょ、だからね」
「狐の国にすぐに行く必要があるな」
「さて、どうしたものか」
「すぐにそちらにドラゴンを送るわ」
「移動用のか」
「そうするわね」
 こう王様に申し出るのでした。
「私の宮殿からね」
「悪いのう」
「いいわ、ボタンを見付ける為なら」
 電話の向こうで微笑んで、です。グリンダは王様に言いました。 

 

第十二幕その二

「ドラゴン位はね、それに今そこにはオズマも五人の子供達もいるでしょ」
「一緒に楽しく遊んでおるぞ」
「王子とつぎはぎ娘、木挽の馬もジュリア=ジャムも」
「皆おるぞ」
「それならね」
 是非にというのでした。
「これ位何でもないわ」
「そしてドラゴンに乗ってか」
「お空を飛んでね」
 そしてというのです。
「狐の国に行くぞ」
「それならね」
 こう言ってでした、そしてです。
 オズマはすぐにリンキティンク王の国にドラゴンを向かわせました、するとです。
 宮殿の前に全身真っ赤なとても大きなドラゴンが来ました、長い首にとても大きな頭に角を持っている四本足のドラゴンです。
 翼も尻尾も大きいです、そのドラゴンを見てでした。
 王様達は宮殿の外に出ました、するとドラゴンから言ってきました。
「お話はグリンダ様から聞いています」
「それではじゃな」
「はい、私の背中に乗って下さい」
 是非にという返事でした。
「是非」
「そしてじゃな」
「はい、狐の国に行きましょう」
「これよりな」
「空を飛んで行きますので」
 その大きな翼を使ってです、ドラゴンの翼はとても大きなものです。
「すぐですよ」
「済まんのう」
「いえいえ、皆さんグリンダ様のお友達です」
 それならというのです。
「これ位何でもありませんよ」
「ではじゃな」
「皆さん私の背中に」
 またこう言ったドラゴンでした。
「すぐに出発しましょう」
「よし、では皆よいな」
 王様はあらためて皆に声をかけました。
「ドラゴンに乗せて行ってもらおうぞ」
「凄いですね」
 カルロスはその巨大なドラゴンを見て驚きの声をあげました、お顔もその声に相応しいものになっています。
「オズの国にはドラゴンもいることは知っていますけれど」
「それでも」
「まさか今回の冒険はドラゴンもなんて」
 ジョージと神宝もカルロスと同じ声とお顔です。
「想像じていなかったので」
「驚いています」
「私もです」
「私もやっぱり」
 ナターシャと恵梨香も男の子三人と同じでした。
「ドラゴンに乗るなんて」
「凄いことになっていますね」
「だからね、オズの国ではね」
 王子が驚く五人に優しい笑顔でお話します。
「凄いことが普通に起こるんだよ」
「そうしたお国だからですか」
「こうしたこともね」
「驚くまでもない」
「そうだよ」
 こうカルロスに応えて五人にお話するのでした。
「だから気にしなくていいよ」
「そうなんですね」
「それではじゃ」 
 王様がまた皆に声をかけます。
「皆乗るぞ」
「宜しくね」
 オズマは微笑んでドラゴンに挨拶をしました。
「狐の国までね」
「はい、お任せ下さい」
「では姫様背中に」
 ジュリアがオズマをドラゴンのそこに案内します。 

 

第十二幕その三

「どうぞ」
「ええ、それじゃあね」
「さて、あたし達もね」
「乗ろうね」
 つぎはぎ娘と木挽の馬が続きます。
「背中から落ちない様にしてね」
「気をつけてね」
「落ちることはないよ」
 ドラゴンが二人に言ってきました。
「僕の背中からはね」
「そうなの?」
「グリンダ様が乗っている人は落ちない様に魔法をかけてくれているからね」
「だからなのね」
「そう、だから安心してね」
 こうつぎはぎ娘にお話するのでした。
「落ちることはないから」
「それじゃあね」
「さあ、皆乗って」
 ドラゴンの方からも促します。
「そしてすぐに行こう」
「よし、それではな」
 王様も応えます、そしてでした。
 皆ドラゴンの背中に乗りました、皆が乗ったところでドラゴンは翼を羽ばたかせてでした。地上からお空に飛び立ちました。
 そしてお空に出るとでした、あっという間に空高く舞い上がってでした。
 風の様に進んでいきます、カルロスはそのドラゴンの背中で言いました。
「うわ、何か」
「あっという間だね」
「そうですね」
 また驚いて王子に応えるのでした。
「これなら」
「グリンダさんのお城から宮殿までもすぐだったね」
「はい、確かに」
「ドラゴンの飛ぶ速さは凄いんだ」
「この速さは」
 それこそと言ったカルロスでした。
「ジェット機みたいですね」
「外の世界の文明だね」
「はい、飛行機です」
「うん、僕はジェット機は見たことがないけれど」
「そんな速さ、いえ」
 カルロスはさらに言いました。
「もっと速いかも知れません」
「ドラゴンはだね」
「オズの国で一番速いですか?」
「そうかも知れないね」
 王子は微笑んでカルロスに答えました。
「ドラゴンはね」
「そうなんですね、実際に」
「さて、それじゃあね」
「狐の国まですぐですね」
「着くよ」
「そして着いたら」
「ボタンに会おうね」
 その彼にというです、そしてでした。
 本当にあっという間にでした、ドラゴンは狐の国の前に着きました。それこそ移動にかかった時間はです。
「二十分もかかってないよ」
「それ位だね」
 最初に降り立ったつぎはぎ娘と馬がお話をします。
「流石ドラゴンね」
「あっという間に移動出来るね」
「そうね、これ位速かったら」
 次に降り立ったオズマも言います。
「まだボタンは寝ているかしら」
「寝られるだけ寝る子ですからね」
 ジュリアはくすりと笑って彼のことをこう言うのでした。 

 

第十二幕その四

「それなら」
「ええ、若しあの子がまだ寝ていたら」
「その時はですね」
「起こしてあげましょう」
「はい、そうしましょう」
 他の皆も降りてです、ドラゴンにここまで運んでくれたお礼を言いました。そして王様はドラゴンに尋ねました。
「では御前さんはグリンダさんのところに帰るのじゃな」
「いえ、ここで待っています」
 ドラゴンは王様にすぐに答えました。
「寝て」
「帰らんのか」
「皆さんはお国に帰られますね」
「うむ、ボタンを迎えたらな」
「遅くとも夕方には」
「そのつもりじゃ」
「それならです」
 ドラゴンは王様に穏やかな声で答えるのでした。
「ここで寝てです」
「待っていてくれるのじゃな」
「行きだけでなく帰りも皆さんをお送りせよとです」
「グリンダさんにも言われておるのか」
「はい、ですから」
「そうか、悪いのう」
「いえいえ、私もこれから気持ちよく寝ますので」
 待っている間はというのです。
「お気になさらずに」
「そう言ってくれるか」
「はい、では」
「うむ、待っていてくれるか」
「寝てそうしています」
 ドラゴンはにこやかに笑ってでした、そのうえで。
 その場で蹲ってとぐろを巻いて眠りに入りました、皆はそのドラゴンに一時の別れの言葉を告げてでした。
 そのうえで狐の国の門まで来ました、とはいっても振り向けばすぐそこが門でした。
 門には軍服を着た狐の門番がいます、王様がその兵隊さんに声をかけました。
「ちょっとお邪魔しに来たが」
「あっ、どうも」
 兵隊さんは王様に敬礼をして応えました。
「今日もこちらの王様と遊びに来られたのですね」
「ほっほっほ、また違う」
「と、いいますと」
「ここにボタン=ブライトが来ておってな」
「ああ、あの子またここに来てるんですね」
「この門を潜ってはおらんな」
「若しこの門に来れば」
 兵隊さんは王様に胸を張って答えました。
「私がいますので」
「すぐにわかるな」
「はい」
 こう王様に答えるのでした。
「左様です」
「では寝ていて」
「中に移動していたのでしょう」
 それで彼が狐の国にいるというのです。
「いつも通り」
「やはりそうじゃな」
「あの子については」
 狐の兵隊さんもです、お国の門をしっかりと守っている。
「少し以上にです」
「どうにもならんな」
「どうしようもありません」
 苦笑いを浮かべてです、王様にお話します。
「私もです」
「そうじゃな、ではな」
「これからですね」
「貴国に入らせてもらってじゃ」
 そのうえでというのです。 

 

第十二幕その五

「あの子を起こしてな」
「そしてですね」
「また遊ぶとしよう」
「そこでそう仰るのがです」
 兵隊さんは王様のお言葉を聞いて笑って言いました。
「王様ですね」
「わしらしいか」
「はい、とても」
「遊びを言うからか」
「ボタンとも我が国の王様ともですね」
「遊ぶぞ」
 こう答えるのでした、王様も。
「そうするぞ」
「それでは」
「中に入れてくれるか」
「はい、皆さんは我が王のお友達です」
 この場にいる全員がです、カルロス達五人も狐の王様とは親交があるので兵隊さんもこう言ったのです。
「それでは」
「ではな」
 王様が応えてでしった、そして。
 皆は一緒にでした、狐の国に入れてもらいました。皆は中に入れてもらうとすぐにでいsた。
 王様にです、こう言われました。
「ではこれよりな」
「はい、ボタンのいるところにですね」
「行こうぞ」 
 こう言うのでした。
「何しろそれが目的で来たのじゃからな」
「はい、それじゃあ」
 カルロスが王様に応えます、そしてです。
 皆でボタンを探すことにしました、ここで探すヒントはといいますと。
「木陰にいるとのことなので」
「うむ、この国の中のな」
 王様はジュリアに応えました。
「木陰ですやすやと寝ておったという」
「それならですね」
「まずは木を探すか」
「そうしますか」
「それではな」
「はい、それなら」
「木を探そうぞ」
「それならです」
 王子が知恵を出しました。
「皆で手分けして国の中を探しましょう」
「一つに集まって探すのではなくじゃな」
「はい、その方が手早く簡単に見付けられます」
「その通りじゃな」
「では」
「皆各自別れてボタンを探そう」
 王様は王子の提案を受けて皆に言いました。
「手分けしてな」
「そうね、それじゃあ一旦お別れしてあの子を探して」
 オズマもにこりとして応えます。
「見付けたら携帯のメールで連絡しましょう」
「いや、こうした時携帯って便利よね」
 つぎはぎ娘も自分の携帯を出します、その服のポケットから自分の布製の魔法の携帯電話を出したのです。
「すぐに連絡出来るから」
「そうだね、じゃああの子を見付けたらね」
 木挽の馬も自分の木製の電話を出しています。
「メールで連絡しよう」
「じゃあ今から別れて」
 カルロスはにこりとして皆に言います。
「ボタンを探そう」
「ではな」
 王様が応えてでした、そのうえで。
 皆は一旦お別れしてです、ボタンを手分けして探しはじました。そしてすぐにでした。  
 オズマが皆を狐の王様の宮殿の裏手の林のところに呼びました、そこに皆が集まりますと。 

 

第十二幕その六

 ボタンは一本の赤い木の下で仰向けになってすやすやと寝ています。ナターシャはそのボタンを見てくすりと笑って言いました。
「気持ち良さそうに寝てるわね」
「そうね」
 恵梨香もそのナターシャを見てにこりとなりました。
「とてもね」
「夜からずっと寝ているみたいね」
「やっぱりそこはボタンだね」
 神宝もボタンを見て優しい笑顔になっています。
「寝ている間に何処かに行っちゃうのは」
「そうだね、そして今回は狐の国に移動していたんだね」
 最後にジョージが言いました。
「この子も気付かない間に」
「うん、けれど見付かったから」
 カルロスはボタンのその偶然のことを今は置いておいて言いました。
「よかったよ」
「うむ、ではな」
 それではとです、王様も応えてでした。
 そのうえで、です、王様はすやすやと寝ているボタンに声をかけました。
「朝じゃぞ」
「あれっ、そうなんだ」
「目を覚ますのじゃ」
「それじゃあ」
 ボタンは王様に応えてでした、そのうえで。
 目を覚ましました、そしてこう言ったのでした。
「今日はよく寝たよ」
「そうだね、それでね」
 今度はカルロスがボタンに声をかけます、微笑んで。
「周りを見てくれるかな」
「わかったよ、それじゃあね」
 ボタンはカルロスに応えて周りを見ました、そしてこう言ったのでした。
「僕また何処かに移動していたんだね」
「うん、そうだよ」
「ここは何処かな」
「狐の国だよ」
「ああ、そうなんだ」
「どうしてここに来ているのかは」
「わかんなーーい」
 ボタンのこうした時のいつも通りの返事でした。
「起こしてもらったらここにいたんだ」
「そうだね」
「うん、けれど皆も一緒なんだ」
「教えてもらったのじゃ」
 王様がボタンにお話します。
「グリンダさんに居場所を調べてもらってな」
「そうだったんだ」
「そしてドラゴンに乗ってここまで来たのじゃ」
「わかったよ」
 どうして皆が自分を迎えに来てくれたことはというのです。
「そのことはね」
「それは何よりじゃ」
「うん、それで狐の国にいるから」
「狐さん達と遊びたいのう」
 王様は自分の望みをここで言いました。
「是非な」
「やっぱり王様はそう言うよね」
「そこはわかるじゃろ」
「うん、王様だからね」
 オズの国でも屈指の遊び好きの人だからです。
「そうだよね」
「ではな」
「これからだね」
「遊ぶとしようぞ」
「それじゃあ狐の王様のところに行くんだね」
「そうじゃ」
 まさにその通りという返事でした。
「今からあの王様のところに行くぞ」
「わかったよ」
 またこう答えたボタンでした、そうしてです。
 皆は狐の王様の宮殿の正門のところに行ってです、そこの門番の兵隊さんにお話をして通してもらいました。
 そのうえで大理石の奇麗な、狐の神様の彫刻や狐さん達が主人公の絵画が飾られている廊下を進んでです。狐の王様の間に来ました。
 するとです、狐の王様は玉座から降りて皆の高さまで来て言いました。 

 

第十二幕その七

「ようこそ、我が国に」
「相変わらず元気そうじゃな」
「ははは、そちらこそ」
 狐の王様は笑ってリンキティンク王に応えました。
「元気そうで何より」
「うむ、それで今日こちらにお邪魔したのは」
「もう門番の兵から聞いておるぞ」
「そうか、では話が早い」
「今日はここで遊ぶのだな」
「貴殿と共にな」
「それでは」
 狐の王様はリンキティンクの王様の提案に微笑んで応えてでした、そのうえで他の皆にも明るい声で応えました。
「では皆さん」
「ええ、これからね」
「共に遊びましょうぞ」
 オズマにも笑顔で応えます。
「楽しく」
「それじゃあ何をして遊ぼうかしら」
「遊びと言っても色々ありますが」
 王様は楽しそうに考えるお顔になっています。
「今日は今我が国で流行っている遊びを」
「その遊びはどんなのですか?」
 ジュリアが狐の王様に尋ねます。
「一体」
「百人一首といって」
「ああ、百人一首ですか」
 恵梨香がそう聞いて言います。
「日本の遊びですね」
「歌を詠みその歌の札を取る」
「それが狐の国では流行っているんですか」
「左様、この遊びでいいか」
「ふむ、面白そうじゃな」
 そう聞いてです、王様が笑顔で言いました。
「ではそれを楽しもうぞ」
「それでは早速」
 狐の王様も応えます、そしてです。
 皆で百人一首をはじめました、ここでカルロスはこんなことを言いました。
「日本での遊びだから」
「恵梨香だよね」
 ボタンがカルロスに応えます、既に和歌が書かれているお札は床の上に置かれていて皆で囲んでいます。
「やっぱり」
「うん、和歌は日本だからね」
「恵梨香が一番強いかな」
「そうだよね」
「あれっ、、けれど恵梨香は」 
 ここで言ったのはつぎはぎ娘です。
「今は詠む役だから」
「あっ、それなら」
「恵梨香はだね」
「参加しないわよ」
 お札を取る立場としてはです。
「そうなってるわよ」
「そうだね、詠むのならね」
 それならとです、カルロスはつぎはぎ娘の言葉に頷きました。
「お札は取れないね」
「そうでしょ」
「それに私はね」
 恵梨香も言ってきます、その彼女も。
「和歌は知らないから」
「あれっ、そうなんだ」
「百人一首もね」
 今まさに楽しもうとしているこの遊びもというのです。
「殆どしたことないから」
「だからなんだ」
「そう、弱いわよ」
 実際にというのです。
「私はね」
「日本人なのになんだ」
「日本人なら誰でも百人一首が得意かというと」
 恵梨香はカルロスにお話します。 

 

第十二幕その八

「そうでもないのよ」
「そうなんだ」
「そうよ、ブラジル人でも誰でもサンバ踊れないでしょ」
「うん、僕ダンスはね」 
 そのサンバにしてもです。
「あまり得意じゃないよ」
「そうでしょ、だからね」
「日本人だからって誰もが百人一首が得意か」
「そういう訳じゃないのよ」
「そうなんだね」
「ええ、私は百人一首では皆と同じよ」
「それじゃあ誰が一番強いかは」
「これからわかることだと思うわ」 
 実際に遊んでみてというのです。
「だからね」
「はじめるんだね」
「そうしましょう、詠むわね」
「それじゃあ」
 カルロスが応えてでした、そのうえで。
 皆で実際に百人一首をはじめました、そうして。
 一通りしてです、勝ったのは。
「私だったね」
「御主強いのう」
 リンキティンク王は一番お札を取れてにこにことしている狐の王様に対して笑って返しました。
「見ていて惚れ惚れしたわい」
「最近毎日しているからね」
「出来るのじゃな」
「最初は私もね」
 それこそというのです。
「全然出来なかったよ」
「そうだったのじゃな」
「それが毎日しているうちに」
「出来る様になった」
「その通りだよ」
「そうか、しかし百人一首はな」
「楽しいね」
 狐の王様のお言葉です。
「優雅で」
「こうした遊びもあるのじゃな」
「そうだよ、さて十時にはお茶を飲んで」
 そしてと言うのでした。
「お昼は」
「揚げだよね」
 ボタンがすぐに狐の王様に尋ねました。
「それを食べるんだよね」
「そう、あれは実に美味しいね」
「元は日本のお料理らしいけれど」
「日本からアメリカに入って」
「オズの国にもだね」
「入ってね」
 そしてというのです。
「我々も食べたけれど」
「そして食べたら」
「あんな美味しいものはないよ」
 狐の王様はこうまで言いました。
「鶏肉よりもいいよ」
「それでじゃな」 
 リンキティンク王もここで言います。
「今では主食に近いな」
「そうなっているね」
「ではじゃな」
「お昼は揚げを食べよう」
「どうした食べ方をするのじゃ?」
「これが色々あってね」
 狐の王様は本当に楽しそうに揚げの食べ方のお話をはじめました。
「焼いてもよし、煮てもよしで」
「稲荷寿司やきつねうどんもじゃな」
「何をしても美味しいんだよ」
「本当に好きなのじゃな」
「そうだよ」
 心からの返事でした。
「我が国では皆好きだよ」
「そしてじゃな」
「お昼は皆で食べよう」
「最早この国の名物じゃな」
「だって皆好きだからね」
 狐さん達がというのです。 

 

第十二幕その九

「そうなっているよ」
「そういうことじゃな」
「狐さんってやっぱり揚げが好きなんだね」
 ボタンも言います。
「そうなんだね」
「その通りだよ」
「狐さんは鶏肉も好きだけれど」
「今では揚げの方がだよ」
「好きなんだね」
「だから皆にもだよ」
 笑顔で言うのでした、ボタンにも。
「揚げを食べて欲しいんだ」
「それじゃあだね」
「お昼はそれを楽しみにして十時は」
「おやつは何なの?」
「羊羹に」
 狐の王様はまずはそれを挙げました。
「お団子にお饅頭だよ」
「和菓子だね」
「和風ティーセットだよ」
「また日本なんだね」
「そう、揚げに凝っているとね」 
 これがというのです。
「日本のお菓子も好きになってね」
「それで今日の十時は」
「和菓子なんだよ」
 羊羹やお団子だというのです。
「お茶も日本のお茶でね」
「この国何か日本好きになってきたわね」 
 オズマも狐の王様の言葉を聞いて少し驚いています。
「前はそうじゃなかったのに」
「だから揚げのお陰で」
 狐の王様はオズの国の国家元首にもお話しました。
「それでなんです」
「さっきボタンに言った通りね」
「そうです、揚げは私達の好みを変えました」
「親日になっているのね」
「少なくとも舌はそうですね」
「そういうことなのね」
「狐さん達は多くの国にいますけれど」
 祖国ブラジルにいないことはです、カルロスは残念に思いながらもお話しました。
「揚げが一番なんですね」
「そう、我々は外の世界ではかなり広い範囲に住んでいるというね」
「実際にそうです」
 その通りという返事でした。
「熱い場所以外にはいますよ」
「そうだね、だから舌もね」
「揚げ以外にもですね」
「楽しめるけれど」
「揚げはですね」
「本当に凄いよ」
 まさにというのです。
「我々に最高に合っているよ」
「そういうことなんですね」
「そう、それじゃあ十時にはおやつが出るけれど」
「その間もお昼も」
「そう、ずっと」
 それこそというのでした。
「百人一首をしようか」
「はい、今日はそれでですね」
「遊ぼうね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆で楽しくおやつも食べながら百人一首を楽しんでです。そしてその後で揚げと鶏肉のお昼御飯が出ました。
 焼いた揚げに煮た揚げ、それにです。
 きつねうどんもあります、オズマはそのきつねうどんを見て微笑みました。
「このおうどんもいいわね」
「きつねうどんもですね」
「ええ、いいわよね」
「そう、最早我々はおうどんといえば」
「きつねうどんになっているのね」
「揚げがなくては」
 おうどんの中にもです。
「もう食べられません」
「そこまで好きなのね」
「だからこそ皆さんにも」
「ええ、じゃあ頂くわね」
「どうぞ、おうどんに揚げを入れると」
 それこそというのです。 

 

第十二幕その十

「こんな美味しいものになるなんて」
「それじゃあね」
「きつねうどんも」
 こうお話してでした、そのうえで。
 きつねうどんも食べました、それからまた百人一首もしました。それは三時のおやつも挟んで夕方もでした。
 楽しみました、そして。
 夕方になるとです、リンキティンク王は皆に言いました。
「ではな」
「今日はだね」
「うむ、これで帰らせてもらいたいが」
「また来てね」
 狐の王様は笑顔でリンキティンク王に応えました。
「そしてまた遊ぼう」
「貴殿もわしの国に来てな」
「一緒にだね」
「遊ぶぞ」
「それでは」
 お互いにこうお話して楽しんで、でした。そして。
 狐の王様は皆をお国の正門まで送りました、それから。
 ドラゴンが寝ているのを見てです、こうしたことも言いました。
「あのドラゴンで来たと」
「その通りじゃ」
「では、だね」
「うむ、あのドラゴンに乗せてもらってな」
「帰るんだね」
「そうさせてもらう」
「わかった、ではな」
 それならと言ってです、そしてでした。
 狐の王様は皆をミクりました、お互いに手を振り合ってそうして仲良くでした。王様達はドラゴンに声をかけました。
「よいか」
「あっ、これからですね」
「うむ、国に帰るが」
「それでは」
「また送ってくれるか」
「勿論ですよ」
 ドラゴンは王様に礼儀正しく応えてでした、そのうえで。
 皆はドラゴンの背中に乗りました、そして最後まで狐の王様と手を振り合って再会を約束するのでした。
 リンキティンク王の国にはすぐに着きました、すると。
 王様はドラゴンから降り立ってです、皆も降り立って。
 飛び立とうとするドラゴンにです、こう言いました。
「それでじゃが」
「はい、私はこれで」
「違う、お礼じゃ」
「いえ、お礼は」
「そういう訳にはいかぬ」
 こうドラゴンに言うのです。
「わしも王様じゃ、礼を忘れてはいかん」
「では」
「何でも好きなものを言ってくれ」
「何でもですか」
「それをやろう」
 送迎をしてくれた褒美というのです。
「御主にな」
「何でもですか」
「うむ、欲しいものを言うのじゃ」
「それでは」
 ここでドラゴンが王様に言ったものはといいますと。
「お菓子を下さい」
「お菓子か」
「はい、王様がいつも食べている」
 それをというのだ。
「お菓子をお願いします」
「それでいいのか」
「いえ、王様はお菓子もお好きですよね」
「好きも好きも大好きじゃ」
「そうですね、王様が召し上がらているのを見ていると」
「そういえばグリンダさんのお城に行った時も食べておるな」
「はい、その時に見まして」
 そしてというのです。 

 

第十二幕その十一

「食べたくなりました」
「それじゃあな」
「王様がお礼と言われるなら」
「それをか」
「はい、それなら」
「わかった、ではな」
 王様はドラゴンの言葉に頷きました、そしてです。
 宮殿から色々な種類のお菓子をこれでもかと出してでした、そのうえで。  
 ドラゴンにプレゼントをしました、ドラゴンはその山の様なお菓子を見てにこりと笑って言いました・
「有り難うございます、では」
「これをじゃな」
「いただきます」
「そしてじゃな」
「はい、グリンダ様のお城に戻ります」
「それではな」
 ドラゴンはそのお菓子を思いきり食べてでした、そのうえで皆とお別れの挨拶をしてからグリンダのお城に飛んで帰りました。
 その後で、でした。王様は皆に言いました。
「ではな」
「宮殿でだね」
「遊ぼうぞ」
 こうボタンにも言うのでした。
「夜もな」
「寝るまでだね」
「そうしようぞ」
「さて、明日は」
 今度はオズマが言います。
「私達そろそろ都に戻らないといけないけれど」
「結構宮殿を空けていますからね」
「そう、だからね」
 それでとです、オズマは王子に答えました。
「もう戻るわ」
「では今日は」
「ええ、今回ここにいる最後の日になるわね」
「明日の朝にですね」
「出発するわ」
 こうお話するのでした、そして。
 オズマはカルロス達にもです、笑顔でお誘いをかけました。
「貴方達もどうかしら」
「この国の次はですね」
「ええ、エメラルドの都で楽しまない?」
「どうしましょうか」
 カルロスが悩んでいるとです、王様が五人に言いました。
「オズの国は色々な場所に行くのがよいぞ」
「そして色々なものを見て楽しむのがいいんですね」
「だからじゃ」
「僕達今度はですか」
「都に行って楽しむのじゃ」
「それじゃあ」
「うむ、行って来るのじゃ」
 これが王様のアドバイスでした。
「是非な」
「それじゃあ」
「ええ、明日の朝都に行きましょう」
「わかりました」
「都までは私が魔法の帚を皆に渡すから」
「あの魔女が使う」
「そう、あの帚を使ってね」
 そしてというのです。
「皆でお空を飛んで帰りましょう」
「僕は走って行くけれどね」
 木挽の馬は帚に跨がることが出来ないからです、四本足なので。 

 

第十二幕その十二

「皆はその上をだね」
「ええ、飛んで行くわ」
「帚に乗る皆を見上げるのもいいね」
 こうオズマに応えるのでした、そして。
 カルロスはボタンにです、彼からお誘いをかけました。
「ボタンも都に来るの?」
「起きたらね」
「そうするんだ」
「うん、寝て起きて都にいたら」
 その時はというのです。
「皆と一緒にね」
「そう、それじゃあね」
「ほっほっほ、ではその時までわし等と一緒に遊ぶのじゃな」
「そうしていい?」
 ボタンは王様にお顔を向けて尋ねました。
「王様と一緒にいて」
「よいぞよいぞ」
 これが王様の返事でした。
「ではその時までな」
「皆で」
「遊ぼうぞ」
 こうお話してです、そのうえで。
 ボタンは皆にです、こう言うのでした。
「若し都で会えたら」
「うん、その時はね」
「一緒に遊ぼうね」
「また皆で」
「そうしましょう」
 ジョージ、神宝、恵梨香、ナターシャが応えます。
 そしてジュリアもです、こうボタンに言います。
「その時はとびきり美味しいパンケーキを焼いてあげるわ」
「楽しみにしてるよ」
「そして一緒に踊ろう」
 つぎはぎ娘もボタンに声をかけます。
「そうしようね」
「うん、それじゃあね」
「そして都でたっぷり遊んで」
 カルロスは四人のお友達に言います。
「また僕達の世界に戻ろうね」
「何時戻ってもいいわよ」
 オズマはそのカルロスに微笑んでお話します。
「オズの国は何時来て何時戻ってもいい国だから」
「はい、それじゃあ」
「満足するまで楽しんでね」
 オズマは微笑みのまま言うのでした、皆はオズの国でこの日も次の日も楽しく過ごすのでした。一緒に。


オズのボタン=ブライト   完


                         2016・3・11