暁ラブライブ!アンソロジー【完結】


 

君のことは。 【映日果】

 
前書き
お待たせしました!!企画のスタートです!!トップバッターは『限られた日々の中で~女神と歩んだ1年~』等を執筆している映日果さんです。テーマは『バッドエンド』、残酷な描写が含まれているため、閲覧の際はご注意ください。




別の小説投稿サイトでラブライブなどの小説を書いている映日果です。
某映画とタイトルが似てる?そう思った人はきっと、えっと、きっと……
と、とりあえず本編をどうぞ!
べ、別に思いつかなかったわけじゃないんだからね!
 

 

「今日はお買い物付き合ってくれてありがとね、凛ちゃん」
「凛もかよちんとお買い物するの好きだから気にすることないにゃ」
手にはいくつも紙袋を持った女子高生が二人、わいわい話しながら帰っていた。
この二人はμ'sのメンバーの小泉花陽と星空凛である。
トップアイドルである彼女たちもプライベートでは普通の女子高生。楽しく買い物をしてきた帰り道。
「あれ……?」
ふと凛が足を止めた。
「どうしたの、凜ちゃん?」
「近くで猫ちゃんの声が聞こえた気がする……」
「そう? 私は全然だったけど……」
花陽より凛の方がこういうことに、特に猫の鳴き声にはとても敏感であることを彼女は知っていた。それゆえに
――気のせいじゃない?
そんなことを言うことはできず。
「ちょっと探してみる?」
そう、親友に答えてしまった。
「うん! ありがと、かよちん!」
凛はすぐに駆け出す。当然、元陸上部の彼女のスピードに花陽はついていけないわけで。
「ま、待ってよ、凛ちゃん!」
あっという間に置いて行かれた。





「あれ、かよちん? またおいてきちゃったにゃ……」
またやってしまった、凛はそんな風に一瞬落ち込んだが、すぐに追いつくだろうと楽観してまた猫探しに注意を戻した。
「凛ちゃん、どこに行っちゃったのかな? たぶんこっちに来たと思うんだけど……」
遅れること数分、先ほどまで凛がいたところに花陽がやってくる。
「凛ちゃ~ん! どこぉ?」
花陽が心細そうに声をかけながら探し始める花陽。奇しくもそれは凛が進んだ方向と同じだった。
かくして二人は徐々に距離が縮めていく。
「やめて! なんでねこちゃんをいじめるにゃ!」
ある路地に差し掛かった時、花陽は親友の声を聴き、その路地を覗き込んだ。







「猫ちゃんどこかにゃ~?」
走りながら路地をのぞき込みつつ探していく。
「おっかしいなぁ、こっちじゃなかったのかにゃ?」
スピードを落として早歩きになった凛。
猫の声も聞こえることはなく、とりあえず引き返そうかと考えていたとき
――にぎゃあああ!!
まるで猫の悲鳴のような鳴き声がかなり近くで聞こえた。
はじかれるように走り出した凛。聞こえたであろう路地に急いで向かうとそこにいたのは凛よりもかなり大きい体の男が三人と彼らに囲まれうずくまっている子猫が一匹。
とっさに隠れた凜の足は震えていた。猫は助けたい、だが、自分に何ができるだろうか、もし襲われたら……そう思うと凛は躊躇してしまう。
――にぎゃああ!!!!
鈍い音とともにまた猫の悲鳴のような声が聞こえた。
思わず飛び出した凛。
「やめて! なんでねこちゃんをいじめるにゃ!」
気づけば口に出していた。
「ああ? なんだてめぇ。女が何口出してんだよ!」
「い、いや、り、凛は……」
男たちの威圧に気圧され、凛は少し後ずさる。
「あれ、よく見たらこの子結構かわいいじゃん?」
「あ、俺この子知ってる。μ'sの星空凛じゃなかったっけ?」
「マジで!? なんか話題になってるやつか! なあお嬢ちゃん、いや、凛ちゃんだっけ? ちょぉっと体貸してくれない? そしたら猫も返しちゃうからさぁ」
「い、いや! や、止めてください!」
嫌がる凜の腕を無理やり持ち、上に引き上げる。とっさに反抗した凛の手が不良の一人にぶつかった。
「ほう、いい度胸だな、これはたっぷり体で話をしねえとだめみたいだなぁ……」
「え、いや……! な、なんでそんなことする、にゃぁ!」
青いブレザーを取られ、彼女のブラウスに手が伸びた時
「や、やめてください! り、凛ちゃんに、手、出さないで!」
「かよちん!? 来ちゃダメ! 逃げて!」
こんな状況だが、凛は幼い頃のある記憶が思い出される。
交通博物館で凛が警備員に注意されてた時、花陽が助けてくれた記憶。それを思い出すと不思議と力が湧いてくる気がした。
「にゃあ!!」
凛が不良の手を振り切り、花陽のもとに走る。
「大丈夫だよ、かよちんは凛が守ってあげるから」
「凛ちゃん! 一緒に逃げよ?」
凛は頷き、花陽の手を取り、走り出す。
だが、ここは路地裏。しかも自分たちが知らない道。
そんな中、この場をホームとしている彼らから逃げられるはずはなく。まして、花陽と言う足手まといがいる中ではスピードも出ない。
かくして、彼女たちはあっという間に差を詰められてしまった。
「本当に最高だよ、お前ら。でももう諦めろ……っよ!」
凛のタックルが見事に決まり、一瞬よろける。その隙に二人は抜け出し、また駈け出す。
「……あの女ぁ……絶対許さねえ……!」
おもむろに取り出したのは折りたたみ式の小さなナイフ。それを手の中で開き、刃を出す。
「多少手荒になっても手に入れてやる」



「あれ? 凛ちゃん、花陽ちゃん、そんなに走ってどうしたの?」
走った先に偶然いたのは二人が想いを寄せる春人。
「春くん、ここにいちゃダメ! 早く逃げないと!」
「逃げる? 本当にどうしたの、凛ちゃん。花陽ちゃんも何か言って……」
そこで言葉は切れた。背後に迫ってくる男たちに気がついたから。
「ちょっと痛い目みないとわからないみたいだな」
そう言って、駆け寄ってくる不良の手にはナイフが光る。
不良の狙いは凛ではなく花陽。より近くにいたこともあるが、狙いはもう1つあった。
「かよちん! 逃げて!」
「ぁ、ぁ……」
萎縮してしまった花陽は動くことができない。花陽は覚悟を決め目を瞑る。











だが、いつまで経っても来るべき肉を引き裂かれる感覚は訪れなかった。同時に人が倒れる音が聞こえた。
恐る恐る目を開け、映った光景は











――血だまりの中に沈む春人だった。










「は、はると、くん……?」
花陽は恐々名前を呼ぶ。
「はなよ、ちゃん……だ、大丈夫だった……?」
呼びかけに答えるようにゆっくりと立ち上がる。
腹回りは血にまみれ、流れ出した血で顔も汚れた彼は笑っていた。
「花陽ちゃんたちは……絶対に、守る……」
そう言って、一歩、また一歩と不良たちに近づく春人。
「ば、ばけもの……き、気持ち悪いんだよ……こっちくんな!!」
不良たちは一人、また一人と消えていき春人を刺しと張本人も狂っているような春人の姿についに逃げ出した。
「もう……大丈、夫……だよ……はなよ、ちゃん、りん、ちゃ……」
安心させようといつも通りの笑顔を見せようとした春人が花陽と凛に振り返る。
「ひぅっ!」
「こ、こないで……」
「え……?」
普段のように近づこうとした春人の足が止まる。
「こ、怖い……」
「こわいにゃ……」
あからさまに距離を取る二人。
「な、なん、で……」
守りたかったものに拒絶され、彼は何を最期に思ったのか。それは彼にしかわかりえないが少なくとも失意のどん底にいることは間違いないだろう。
その光景を最期に、彼の時間は止まった。









春人は他の人の通報により病院に運ばれた。
奇跡的に重要臓器、重要血管は避けていて一命はとりとめました。だが、出血量が多すぎた。
――脳死の可能性
医者から言われた診断はこれだった。
脳死、蘇生する可能性がある植物状態とは違い、二度と意識を取り戻すことはない、完全に機械に生かされているだけの状態。
花陽と凛はあの時拒絶した罪悪感からか一度もお見舞いに来ていない。
花陽はご飯がのどを通らなくなり、自室にこもって泣いてばかりいる。
凛は夜走ることがなくなり、あのラーメンの屋台行くこともなくなった。








そして……







――彼女たちは悲しみだけを心に抱え















――春人との記憶をすべて忘れ















――彼の存在自体を忘れ去った 
 

 
後書き
どうでしたでしょうか?
タイトルの意味、少しでも伝わったら嬉しいです。
まさかのトップバッターでしたが、この先の作家さんは皆さん私より面白い小説を書いている方々なので私も楽しみです!
長々と書くのもこれくらいにして、最後に。
私の小説、読みに来てね!(ダイマ) 

 

言の葉 【ひまわりヒナ】

 
前書き
本日は『星空凛と青春を』や『高坂穂乃果は再びスタートする』を執筆しているひまわりヒナさんです。テーマは『バッドエンド』。




初めまして。
別のサイトで活動している、ひまわりヒナというものです。
今回はこのような企画に参加できて、大変嬉しく思います。
普段投稿している作品の書き方は主に3人称なのですが、語りという自分にとっては新しい書き方に挑戦してみました。
独特の雰囲気を出せたと思うので、それを楽しんでいただければ幸いです。 

 




私には2人の幼馴染がいました。

 1人は元気で明るくて優しくて笑顔で、そしていつも私を支えてくれる女の子。
 もう1人は大人しく、でも友達の事となると熱く真剣に向き合ってくれる、そんないつもの見守ってくれる男の子。

 私達は一緒でした。小学校の頃、ある公園で偶然出会ったあの日から、ずっと一緒だったんです。
 小学校6年間、そして中学校3年間。
 お互いの事で知らない事はない、そう言っても過言ではない程の時間を過ごしてきました。それ程に私達は強いつながりを持つことができました。
 そしてその時間と共に私と彼女は同じ思いを積み立てていきました。彼への、強い思いを。

  そんな私達の中で大きな変化が高校生になった時起こったのです。

 この時、私の願いが叶いそして生まれました……






 ––––––言の葉––––––






 中学の頃です。
 私とそして幼馴染の1人である女の子は同じ高校を目指していました。しかしそこは女子高で、どんなに願おうと男の子は入ることができなかったのです。
 でもそれは私達が高校を変えればいい、そうすれば私達はまた一緒だ、そんな事を思っていた時その男の子は言ったんです。

「僕はこの高校を目指したい」

 そのパンフレットに載っていたのは、とても私達2人では届くことのないようなレベルの高校でした。
 今まで一緒だった私達は……いえ、私だけは彼の言葉にすぐに、『うん』『分かった』『頑張って』そのような言葉をかけられませんでした。
 会う事が出来ても、彼と距離がある事実が私に耐えられるか分からなかったのです。
 でも––––

「うん!頑張って!」

 でもすぐに彼女は言えたんです、頑張って、という一言を。

 私はその言葉に続くように、ただ笑顔で頷く事しかできませんでした。


 そしてこの日を境に、私達が高校を分かれるというのは避けられないものになりました。






 高校へ進学すると、交流は今までの事が嘘のように少なくなりました。

「高校、進学できたよ」
「私も!」
「やった、皆合格できたね!」

 そんな合格報告はしましたが、それ以降しばらくの間連絡は一切ありませんでした。
 彼には勉強に集中してもらいたかったので、私達は連絡を抑えるようにと考えていたのです。彼も多くは語ってくれませんでしたが、しばらくの間連絡は取れそうにないと言ったので、高校入学をきっかけに連絡はバッタリ止まりました。
 怖れていたことが現実味を増していきました。だんだん離れているのではないか、そんな気がしていたのは多分、私だけじゃなかったと思います。

 しかしある時、そんな私達の関係を再び引き寄せてくれる出来事が起きたのです。
 その出来事とは私達が 【スクールアイドル】 になること。
 少し暑さを感じるようになってきた、5月の上旬の事でした。

「それ、本当……!?おめでとう、あはは、そっか!本当におめでとう!!」

 私達は彼を驚かせたくて、わざわざ時間を取って集まってもらって、その報告をしました。
 彼はその事をまるで自分の事のように喜んでくれました。
 その理由は、私。アイドルが大好きで、アイドルに憧れているという事を知っていてくれたからだと思います。私はその憧れをずっと2人の側で言ってきていたから……

 報告と同時に、私は嬉しくて涙を流しました。

 アイドルになりたいその夢が叶ったから。

 そして彼を笑顔にすることができたから。

 いつも彼は私達を笑顔にしようとしてくれていました。どんなときもずっと。
 だから今度はこっちの番、こっちが彼を笑顔にさせてあげたい。そんな気持ちが私にはありました。
 ……もしかしたら、彼女も。ううん、彼女ならきっと多分そう。だって彼を好きになったらそう思うはずだから。


 これを機に私達の関係は再スタートしました。
 もちろん、勉強などに関して全く考慮しなかったわけではありませんが、その連絡頻度はほぼ毎日になりました。
 その理由は所属グループμ'sにはもちろんの事ながら男の子はいません。先生方も女性ばかりで、いたとしてもお年寄りの方ばかり。なのでこれから活動して行く上で、若い男の子の意見はとても参考になるものだったので、頻繁に彼の力を借りていたのです。
 ただ1番の理由としては間違いなく、私達と連絡を取りたい、という彼の意思でした。

「2人のステージを僕は見たい、ぜひ協力させてほしいし……その、また前みたいにさ、毎日一緒に色々話したい」

 その一言は私達にとってこの上なく嬉しいものでした。
 そうと言われれば、と、オフの時は必ずと言っていいほど一緒に出かけたり、学校以外の練習の時は一緒に練習に付き合ってもらったり、今日は何かあったかと毎日連絡し合いました。彼の声を聞いていない時間の方が少ないのではないか、と思う程に。
 私達はそれだけ仲が良かったのです、そう、仲が良すぎるぐらいに。

 言葉を変えれば、互いに依存していた、その方が正しいのかもしれません。



 時が進むに連れて、加入当初6人であったμ'sは段々と人数が増え、最終的には9人メンバーのスクールアイドルとして活動して行くことになりました。
 μ'sの活動目的は廃校の阻止。実は私達の学校は少子化や有名校UTXの存在などの影響から廃校の危機に瀕していたのです。
 それを防ぐ手段として学校の知名度を上げる、その為に私達が有名になって盛り上げる。それが目的なのです。

 そしてまず最初に当たった関門は、オープンキャンパスでした。
 学校、そして私達μ'sの魅力を伝えるにはこの上ない機会。ここを逃すわけにはいかなかったのです。
 経験も能力も全てがバラバラな9人、けれどだからこそお互いがお互いに補い合って、高めていくことができる。それに私はそこに彼がいてくれる、それだけで何だか力が出す事が出来ました。もしかしたら他の皆にとっても彼というファンの存在が大きな力になっていたのかもしれません。
 少なくとも彼女は、私と共に過ごしてきた彼女は、私と同じだったはずです。

 勢いに乗っていた私達は時間がない中、なんとか無事にオープンキャンパスを大成功で飾ることが出来ました。

 けれど、その裏で。

「そう言えば、文化祭とか何時なの?そう言えばクラスは?君の活躍もすっごく見たい!」
「ぼ、僕の?あー、止めといて、僕は特に何もしないから」
「えー嘘だー!」 「本当に何もない、それよりそっちの方が重要だろう」

 彼女は何度か問い詰めました。けれど彼は意地でも話さない気なのか、頑なに語ろうとはしませんでした。
 何でだろう?と彼がいなくなった後、私達は話しました。

「きっと恥ずかしいんだよ」
「ふふ、そうだね。クラスは分からないだろうけど、何時やるかは調べれば分かる事だし、サプライズって事でこっそり覗きに行こっか」
「ナイスアイデア!楽しみだね–!」

 今思えばこの時に気づくべきだったんです。
 私達は長年一緒に過ごしてきました。お互いに知らない事はないと言えるぐらいに、長い長い時間を。
 隠し事をする事もほとんどありませんでした。プライベートに過度に干渉する事はお互いに嫌な気持ちになるかもしれないからやめようと、でもそれ以外は全部話せる、そんな関係でいよう。
  そう、約束したんです。約束できたんです、私達は。

 だから気づくべきだったんです。

 彼が隠そうとしているのは、恥ずかしいから、そんな単純な理由じゃないという可能性に。




 オープンキャンパスのライブは見事に成功。
 その成果は廃校の先延ばしと同時に見直しが行われるというもので、全員で喜び合いました。
 もちろんその中には彼の姿もありました。
 彼は私達をとても祝福してくれて、昔から少し涙腺が弱いせいか、涙を流しながら本当に嬉しそうに祝福してくれました。
 私はそんな彼の純粋で、素直なところに再び惹かれていましたが、その気持ちを隠して同じように泣いて笑っていました。

 さらなる強化を目指すべく、私達は合宿を行う事にしました。
 行先は同じ1年生で親友、西木野真姫ちゃんの別荘。お金持ちだとは知っていたけれど、ここまで!?という印象を受けた事を今でも昨日の事のように覚えています。
 この合宿、その目標はもちろんμ'sの強化合宿。その上で1つ、議論が起こりました。
 それは彼を連れて行くかどうか。
 その時私の思考はその事のみで埋め尽くされました。

 一緒に行きたい?、もちろん一緒に行きたい。
 彼といると楽しい?、もちろん楽しい。

 だったら私が主張すべき事は
 ––––彼と一緒に行きたい。


  け れど、けれど?


 少し怖い、何が?
 分からない、いや分かってる。

 昔から怖い、そう昔から怖い。
 誰かに彼が、取られてしまうんじゃないか。
 だから、私は、



 その可能性を少しでも無くしたい。



「一緒にいると楽しいから、連れて行きたい!」「勉強!い、忙しいんじゃ、ないかな」

 彼女と発言が被りました。その発言の内容は全くの逆方向でした。
 彼女は素直な気持ちをそのまま、ただそのまま声に出す事ができていた。

 私は、その気持ちに、嘘をついた。

 同じ方向を向いているはずなのに、私達のとる行動は逆方向を向いているんです。

「……確かに、それもそうだね」
「あ、え、っと、ご、ごめんね。せっかく楽しい気持ちを」
「ううん、悪くないよ!それにちょっと我儘過ぎたっ!」

 私はこの時ある事に気付きつつありました。
 あるビジョンがうすらうすらと見えていたんです。

 そのビジョンはまるでパズル。
 少しずつ私の中で埋められていくパズル。
 そこにあるのは既に出来上がった彼の姿と、まだ埋められていない彼の隣。

 彼の隣にいるのは、いるべきなのは––––誰?




 結局彼は不参加で合宿は終わった。
 もっとも何にも連絡なしにというのは、可哀想なので予め参加する意思があるかどうか連絡をしたところ、用があって来れないという事だったので、少し言い方は悪くなりますが結果として都合が良かったのです。
 兎にも角にも、合宿を終えた私達が次に目指すのは学園祭でした。
 オープンキャンパスとは違うイベント。これもまた知名度を上げるためにはこの上ないチャンス。
 その頃には彼はμ'sにとって欠かせないサポート役として、皆の信頼を得るほどになっていました。
 それもそのはずで、毎日のように郊外での朝練は来てくれるし、歌やダンスの評価を素人とは言え、必死に勉強して気付いた点などを言ってくれたし、時には勉強や愚痴、色々な話にも乗ってくれている。
 間違いなく10人目と言えるような存在。
 私はとても嬉しかったです。

 彼がいつも笑っていてくれるから、
 笑わせてくれるから、
 力になってくれるから、
 いつも側でずっと側で見守ってくれているから。

 私にはそれで十分……なはずなのに、もやもやした気持ちは無くならない。



 その気持ちを静かに抱えながら、私は過ごしていました。
 μ'sの方は好調でした。
 ダンスも歌も完璧、皆の息も合っている。これならいける、これなら問題はない。そう思っていましたが……

 悲劇が起こりました。

「穂乃果!」「穂乃果ちゃん!」

 私達のリーダー、穂乃果ちゃんが。
 ライブを終えたと同時にその場で倒れてしまったのです。海未ちゃんもことりちゃんも皆すぐ様駆け寄りました。
 そのライブ会場にはサポート役として欠かせない存在になってきていた彼の姿もありました。
 しかし穂乃果ちゃんが倒れた時、近くに彼の姿はありませんでした。私は穂乃果ちゃんが保健室へと運ばれるのを見届けた後、すぐに彼の姿はどこだろうと視線を動かしました。

 彼はライブを見ていた時と同じ場所にいました。

 大雨の中、傘から手を離し、びしょびしょになりながらも、ただただその場に立っているだけの彼が。
その姿はまるで魂が抜けたようでした。
 私は心配になってすぐに駆け寄りました。

「だ、大丈夫?」

 私が最初にかけた言葉に彼は反応しませんでした。
 ただただ視線をライブのステージに止めたまま、彼だけ時が止まっていたかのようで、私はどうした良いのか、なんて声をかければ良いのかただただ焦るばかりで、私は彼の側でじっとする事しか出来ませんでした。

「君のせいじゃないよ!!」

 そう言ったのは、少し遅れてやってきた、私と彼の幼馴染。
 その時私は分かったのです、あぁ、彼は責任を感じていたんだ。皆のサポートを一生懸命していたから。
 ……いや、そんな事はなんとなく分かっていたはずなんです、本当に私が分かった事は、彼にかけて上げるべき言葉はなんだったのかという事。

 私はすぐにかけてあげるべき言葉を彼に伝える事が出来ませんでした。

 この時、私の目に映っていたのは雨の中にいる2人の姿だけでした。



 学園祭での悲劇、それが起きてしまった事を重く見た私達はμ'sの活動を停止しました。
 ラブライブのランキングに載っていたμ'sの名は消えました。
 けれど同時に良い事もありました。廃校の阻止に成功したのです。そう、μ'sの目的を達成することができたのです。
 あの出来事でショックを受けていた穂乃果ちゃん、そして彼もその事を本当に喜んでいて、μ'sの活動は停止してしまったけれど、とりあえず前を向いて歩いていけるかもしれない。
 けれど問題がすぐに起こってしまいました。それはことりちゃんの留学の話が出ていたことでした。
 彼女の異変に気付くことができなかった穂乃果ちゃんは一気にやる気を失ってしまい、その事から海未ちゃんとも亀裂が起き、いつも仲良しだった3人はの姿はその時にはありませんでした。

 私はその時3人の事が心配でしたが、同時に彼の事も心配でした。
 というのも、再び今の事態に責任を彼は感じていたからです。
 確かに彼はいつもμ'sの側にいてくれて、ずっと力を貸してくれていて、皆の補佐として存在し続けた彼。それに彼が思いやりのある人物であることを知っている私は、そうなってしまうのも無理はないのかな、と思いながらも、何か引っ掛かりを感じていました。

 そして彼の事の様子を心配した私は幼馴染である彼女と話をしました。
 彼女もやはり心配していました。しかし少し、私とは違いました。

 彼女はふと言ったんです。

「時間、かな」

 私は何のことだか分かりませんでした。
 しかしその言葉のおかげで、何かが分かりそうな、そんな予感がしたのも確かでした。
 そしてその答えを自分で見つけるよりも先に、彼女は言葉にしてくれました。

「一緒にいてくれる時、少し思ってたんだ。自分の時間をちゃんと過ごしてるのかなって」

 その言葉を聞いた時、すぐに言葉が出せませんでした。
 私の頭の中が一気に動き出し、今までの記憶を引っ張り出して、彼との記録を改めて振り返りました。

 練習の記録やサポート、学校以外の活動への参加、ほぼ毎日の電話、勉強の補助。
 彼が私達にもたらしてくれたモノを思い出すと、あることに気づきました。

 あまりにも彼は私達といすぎだと。

 そうか、時間。彼は彼の為の時間をどこで使っているのだろう?学校にいる時以外を除けば、彼はいつも私達と共にいる。じゃあ彼はどのタイミングで自分のことをしているのだろう?
 そして私は、そんな単純なことを何で気付けなかったのだろう?

「大丈夫だよ。彼なら上手く、やってる」

 あれ、私は何でこんな言葉を口にしたのだろう。
 いくらなんだって時間を使いすぎだ、何か裏があるそんな気がする。でも何で、私は話題をそこで終わりにしようとする?何故私は彼女にそんな言葉をかける?

「うーん、そうかなぁ。まぁ考えても今は分かんないや、今日はお休みー」
「う、うん、お休み」

 電話を切って、少し息を吸って、冷静になって考えた時、私は気付きました。
 私は気付けなかった事実を受け止められず、気付けた彼女に少し嫉妬していたんだって。私が先に彼の本当の気持ちに気付いてあげたい、その為にこれ以上彼女を核心部分まで進めたくないという気持ちが僅かにあったんだって。
 私よりも彼女の方が彼の事をよく分かってるんじゃ……そんな不安な気持ちになるのには十分だったのです。




 結局彼の事は分からないまま時間は過ぎ、気が付けば穂乃果ちゃんとことりちゃん、そして海未ちゃんはいつも通り仲良しに戻っていました。再び、μ'sを結成させるそれにまで至る事ができたのです。
 けれど私の中ではそれは完全なものとはなっていませんでした、彼について欠けている部分が多かったからです。
 それでもそんな疑問を残して、時間はどんどん過ぎ去って行きました。
 穂乃果ちゃんが生徒会長になったり、2度目の合宿を行ったり、新しくできた曲ユメノトビラを披露して予選を突破したこと。色々なことが目まぐるしい程起こりました。
 しかし、やはり解けないのです。私の中で、いや2人の中で大きな疑問の1つがずっとずっと、解かれようとしない。大きな疑問の1つがずっとずっと、解かれようとしない。

 いえ、本当は私は……私達は……

 そんな時です、「文化祭に行こう!」と彼女が言い出したのは。
 彼の学校の文化祭は予選が終わった後である事は、学校の名前を知っていたので既に調べてありました。
 前に考えたサプライズ、それを行おうと私たちはしたのです。

 そして等々その日がやってきました。
 その日は雲がかかっていて、降水確率も高くいつ雨が降ってもおかしくない、暗い天気。せっかくの文化祭なのに残念だな、そんな気持ちと同時に何か嫌な予感がしてたまらなかった事を今もよく覚えています。
 しかし私はその予感は何かの勘違いだろう、そう思い、彼女と共に彼の学校へ向かいました。

 名高い有名校であるそこは、設備も充実していて何も情報なしであれば探すのには苦労するだろうと思いましたが、1年生のクラスに行けばいつかは見つかるだろうと思い、文化祭の雰囲気を楽しみながら彼を探していました。
 しかし全部のクラスを回っても彼の姿はどこにもありませんでした。
 では部活?そう考えましたが、彼は部活に入っていないというのを聞いていたので、その選択肢はありませんでした。
 だとしたらあぁ、彼も文化祭を今回っているのか、その考えに至るのは自然でしたが、何かがその私の考えを止めようと必死になっていたのです。

 それは本当に?それは間違いなのでは?

 考えとしては正しいはずなのに、それを肯定し彼を探しに回ろう、そんな簡単な提案を出せなかったのです。

「……行こう」

 彼女は静かにそう言って私の手を引っ張り、学校から一緒に出ました。
 私はこの時、何故学校から出たのかということではなく、彼女も私と同じ何かの違和感を覚えたのだと考えていました。
 彼女と考えは一緒、しかし行動に移す点だけは違いました。

 私達が向かったのは、彼の家でした。
 しとしとと小さな雨粒が落ちてくる中、傘を閉じて持ちながら、そっとインターホンを鳴らしました。それに対応してくれたのは、彼のお母さんでした。

「今、あの子はこの家には」
「突然すいません、でも知りたくて!彼は、あの高校に……ちゃんと合格できたんですか」

 彼女がした質問は私がしようとしていた質問と全く同じものでした。
 気になってはいたんです。今まで彼がずっと私達からその高校を遠ざけるように、話題を持ち出そうとしなかったこと、『高校に進学した』としか言ってくれなかった事に。
 そしてずっと私達が彼の言葉が聞きたくて、彼と一緒にいたくて、協力という名目で彼に依存していたように。彼が私達に何が理由で私達に依存してしまっていたのか。私達に何を求めようとしていたのか。

 彼なら大丈夫、そんな安心があった私達はその可能性に目を向けようとしていませんでした。
 いや、正確に言えば自分達のことばかりで彼の事を見てあげられなかった。
 機会はいくらでもあった、なのに私達は、私は……!

「あの子、やっぱり言えてなかったのね。別の高校になってしまったってこと」

 予想は合っていた。
 彼が私達に嘘つくことはほとんどない。実際に『高校に進学した』というのは事実。
 けれど目的の高校には、たぶん届くことができなかったのだろうと思います。
 私達にそれを言う事は、できなかった。それは––––

 私がそのことを考えようとした時、彼のお母さんの顔色が変わった事に気がつきました。
 そしてその視線は私達ではなく、私達の後方に位置していました。
 私達はすぐに振り向きました。何が私達の後ろにあるのか、 “誰が” そこにいるのか、それがすぐに分かったから。


「 」


 目が合った瞬間、まるで時間が止まったように私達は動くことができませんでした。
 その一方で次第に強まっていく雨音。
 すぐ帰る予定だったのか、大丈夫だと思ったのでしょう。彼は傘を持っておらず、雨は立ち止まる彼に強く降りかかっていました。
 私の思考はぐちゃぐちゃでした。でも確かに動いていました、必死に。
 なんて?何を?どんな風に? 私はどんな言葉を彼にかけてあげればいい?

 どんな言葉が?

 早く、早く彼に言葉を

 私が先に……!



 先 に?

 私が自分の思考を疑った瞬間でした。

「待って!」

 彼はその場から逃げるように走り出しました。
 突然の彼の行動に戸惑いを隠せなかった私達は素早く行動に移す事はできませんでした。しかし、彼が目の前から消えてしまった、その事実を受け止めた瞬間自然と足は動いていました。

「手分けして探そう!」
「うん!」

 その場から辺りを見ても彼の姿は見えませんでした。なので手分けして探した方が良い、その発想に至り、私達は反対の方向へ走り出しました。

 この瞬間が私にとって重要な分かれ道であったことに気づくことのないまま。


 私は必死に探しました。
 傘をさすことも忘れて、雨の中を走り、彼の名前を呼び続けました。

 会いたい、彼に会って、ちゃんと言葉をかけてあげたい。

 その気持ちの一心で。

 でもその中に小さく、けれど確かにある思いがありました。
『彼女よりも先に』
 という思いが。

 私はそれに薄々気付きながらも目を背け、ただひたすら走りました。



 そして辿り着いたのは、私達が初めて出会った公園でした。
 私が走り出した方向とは真逆の方向に位置するここに、私が何故辿り着いたのか?それは今でも分かりません。
 とにかく走って走って、走り続けて。彼の為にと走った私の足は、自然とここに辿り着いていたのです。

 私は最初に彼の姿を確認しました。
 やっと見つけた、その嬉しさのまま彼の前に出ようとしましたが、その足はすぐに止まりました。
 彼女の姿が見えたからです。
 私は隠れました。何故か隠れたかった、顔を出そうという気になれなかったのです。

「高校の話、聞いたんだな」

「うん、聞いた」
 うん、聞いたよ

「志望校、落ちたんだ。でも何とか受かってた高校があって、本当はそこに通ってる」

「」
 なんで

「笑っちゃうだろ、入りたかった所とはレベルがかなり低い高校にさ。落ちちゃったから、入りましたってさ。入れてくださいってさ」

 なんでそれを私達に––––「悔しかったんだよね」

「必死に勉強したのに、約束もしたのに、それでも合格することができなかった。そんな自分が悔しかったんだよね、すっごく辛かったんだよね、悲しかったんだよね」

 ……分かってる

「ずっと苦しくて、その事実に真正面から受け止めることができなくて、だから誰かに言うことができなくて」

 分かってる、分かっている、私も。だって、だって、私もずっと側に一緒にいて、ずっと見てきて、彼女と同じくらい、彼を知っていて。



「でもどうにかしたくて、それでも1人じゃどうにもできなくて、だからずっと私達と一緒に時間を過ごしてきたんだよね」

 私は彼女と同じで、彼の行動の意味も分かることができた。

「けどどうにかしようとしても、上手くいかなかったんだよね。ずっとずっと抱え込むしかなかったんだよね」

 でも……でも、私は、

「……でもね、もう大丈夫だよ」

 それでも私は、

「もう抱え込まなくていいんだよ」

 そのたった一言を言葉にすることができない。




 私は彼女に嫉妬していた。
 私と同じ分だけ、彼を知っている彼女を。
 だから先に、先にと気持ちは動いていた。彼女に彼を取られてしまうのではないか、そんな恐怖が私の気持ちを動かしていた。
 でも毎回それは叶わなかった。

 私と彼女は似ている。

 私と彼女は薄々気づいていた。彼が私達を必死にサポートしていたのは何かに救いを求めたかったんだってことに。
 私と彼女は彼をよく知っている、知らないところはないと思えるぐらいに。
 私と彼女は彼の気持ちが想像できる、彼の性格を知り、彼の行動をよく見てきたから。
 私と彼女は彼への考え方が似ている、私が見てきた彼は彼女が見てきた彼でもあるから。

 けれど私と彼女は違う。

 私は



––––たった一言を言葉にすることが出来ない。


 過ごしてきた時間は同じ、それは今も変わりません。彼への思いも。
 ずっとずっと一緒、私の人生の中で最高の親友。
 だから私は彼女の事を、恨むようなことはできませんでした。できるはずなかったんです。
 嫉妬は確かにあったんだと思う、彼を取られたくないって、思っていたんだと思う。
 けれどそれ以上に私は、彼女の事も大好きで。離れたくない、離したくない、唯一の存在で。



 大好きで、タカラモノである親友を恨むなんてできるはずがなかったんです。



 だから叶わないんです、彼の隣に私がいる未来は。
 でもだから叶えられるんです、彼の隣に彼女がいる未来は。


 私の複雑で歪んだピースはパズルには当てはまらない。
 でも純粋で、気持ちをそのまま言葉にできる彼女の、綺麗に整ったピースはパズルにぴったり当てはまる。

 この時、私は気付いたんです。




 たった1つの簡単なこと。

––––3人の未来に、私の彼への気持ちは、この恋は必要ないことに。





「ごめん、ごめん!今まで黙ってて!」

 だから私は

「ううん、いいんだよ」

 彼女にそっと包み込むように抱きしめられた彼の元へ近づき、

「2人とも、風邪引いちゃうよ」

 2人を外から包み込むように、笑って、傘を差したんです。

 私はこれでいい。
 私は3人のこの関係が崩れなければいい。
 私に必要なのはこの関係だけ。
 私が彼の隣にいる必要はない。
 私は隣同士座る2人を、静かに外から見守ることができればいい。

 私はそういう存在。それが私の役目でいい。



 私はこの日、ようやく頭の中のパズルを埋めることができました。









「ドレス姿似合ってるよ!凛ちゃん!」
「そ、そうかな」
「そうだよね!そう思うよね!」
「え、あ、うん、すごい可愛い……と僕は思う。うん、似合ってるよ凛」
「て、照れるにゃ、でもありがとう」
「やっぱり私じゃなくて正解だったって凄く思うよ!あ、そうだ、写真撮ってあげるね。ほら、並んで並んで!」
「え、あぁ。って、花陽は写らなくていいのか?」
「いいのいいの!ほら、隣にいって。もう、何、恥ずかしがってるの。今までいっぱい一緒に撮ってきたでしょ」

 私は、

「もっと近づいてー!」

『好き』のたった一言を、

「うん、そこでいいよ、2人とも!」

 言うことができなかった。

「それじゃ、撮るね!」

 でもそれでいいんです。

「はい、チーズ!」

 ––––私の思いを、もう言葉にする必要はないから

 
 

 
後書き
後書き

彼女の思いが伝わらないまま物語が進んでしまう、という後味の悪いバッドエンドを作りました。初めての書き方に挑戦し、独特の雰囲気が出せるように書いたのですが、いかがでしたか?
楽しんでもらう、という言葉はあまり似合わないと思うので、何とも言えない雰囲気を味わってもらえたのなら幸いです。

この度はこのような企画に参加させていただきありがとうございました。
企画2作品目、まだ始まったばかりです。どういった作品が投稿されるのか、私自身とても楽しみです! 

 

そうなんです 【名前はまだ無い♪】

 
前書き
今回は別のサイトで『ア二ライブ!』等を書いている名前はまだ無い♪さんです。テーマは『バッドエンド』。閲覧の際はご注意ください。





どうも初めまして。別サイトで活動中の名前はまだ無い♪と言います。どうぞよろしくお願いします。
さて、今回は以前執筆したものを少し改変してみました。楽しんで頂けたら幸いです。
 

 
ピチョーン、ピチョーン

 そんな水の滴る音で花陽は冷たい床の感触とともに意識が覚醒する。そして辺りを見渡そうとするとジャラリ、と首元から金属音が聞こえた。

「え……これ何?」

 花陽が首に手を置くと、首輪とそこから伸びる一本の鎖があった。その鎖は壁際に立てられている鉄柱と壁の間を通り、さらにその鎖の先を見ると

「り、凛ちゃんが……なんで……」

 花陽が口に手を当て驚いていると、横になってる凛が身動ぎをする。凛の動きに合わせて花陽同様に首に繋がった鎖が金属音を奏でる。

「ぅう……かよちん? ここどこにゃ? それにこれ」
「凛ちゃん、私もさっき目が覚めたばかりで……」

 凛が自身と花陽を繋いでる鎖を見て花陽に聞くも、花陽自身も鎖に繋がられた理由が分からない為、答える事が出来ない。
 その時、反対側の壁の上部に取り付けられていた小型モニターの電源が入った。

『おはよう。ようやく起きたようだね』

 画面に映し出されたのはひょっとこのような仮面を被った人物だった。声もボイスチェンジャーで変えているのか、二人には性別すら分からなかった。

「だ、誰にゃ! 一体なんで凛達にこんな事をするにゃ!」
『それは二人が知らなくて良い事だよ』

 凛が詰め寄るように画面の向こうの仮面に聞く。仮面の人物がその質問には答えず、それより、と凛の隣にいる花陽を見るように首を僅かに動かす。

『そっちの彼女、良いのかい?』
「一体何を言って……かよちん!」

 仮面に言われ凛が後ろを振り向くと、最初にいた場所よりも後ろの場所で花陽は苦しそうに首に手を当てていた。凛は慌てて花陽に駆け寄ると花陽はその場にしゃがみ込み、深呼吸を繰り返す。

『そうそう。二人のポケットにちょっとしたプレゼントを入れておいたから。それとその首輪、ちょっとした仕掛けがあるから頑張ってね』

 仮面がそれだけ言うとプツッと画面が暗くなる。

「ポケットにプレゼント……?」
「それに首輪に仕掛けって……」

 画面が暗くなって少し、二人は仮面の人物の言った言葉を呟くとポケットに手を入れる。そして二人が同時にポケットから手を出すと、その手に握られていたのは一振りのナイフだった。

「凛ちゃん、これって……」
「ナイフ、だよね……」

 二人は出てきたナイフを震える手で見つめる。取り敢えず、とナイフをポケットに仕舞い、二人は首輪の方を見始める。

「ね、ねぇかよちん。どうなってる?」
「えっとね、タイマーが設定されてる。時間は残り100分くらい」
「なんのタイマーかな……?」

 凛も花陽の首輪を見ると同じようにタイマーが設定されていた。それから今度は部屋を見渡す。すると凛が小型モニターの下に設けられている机に目が行く。

「かよちんあそこにあるのって」
「え? もしかして鍵?」
「多分。でも届くかな?」

 凛が見つけた机の上にはポツンと鍵が一つ置かれていた。しかし、机の置かれている場所までは鎖で繋がられている為、二人で行くことは出来ない。

「私がギリギリまで下がるから、凛ちゃん取って来て」
「良いの……?」
「うん。私よりも凛ちゃんの方が運動できるんだもん」

 花陽が頷くと凛も頷き返し、花陽は鉄柱の方へ凛は机の方へそれぞれ歩き出す。そして机まであと少しという所で凛の首輪が後ろに引っ張られる。

「あと……少し……!」

 凛はあと少しで届く机に腕を伸ばすも、僅かに届かない。

「かよちん、もう少し……あとちょっと」

 凛が振り返って花陽に言うも、鉄柱に止められ苦しそうに首を抑えている花陽を見て慌てて駆け寄る。凛が戻ると同時にその場に倒れ咳き込む花陽。

「ごめんねかよちん! 大丈夫!?」
「ゲホッゲホッ……う、うん大丈夫。それより鍵は……?」

 花陽の質問に凛は首を横に振って答える。

「あともうちょっとなんだけど、届かなかったにゃ……」
「そっか……じゃあ動ける範囲で何かないか探そっか」

 花陽の提案で二人は動ける範囲で部屋中を探し回るも、特にこれと言った手掛かりは見つからなかった。

「あ、かよちん。タイマーがもう30分きってるにゃ」
「えぇ!?」

 ふと首輪のタイマーを見ると時間が半分経過していた。その時、再び小型モニターの電源が着く。

『困ってるみたいだね』

 画面に映ったのは先程と同じ仮面の人物だった。凛は仮面をキッと睨み付ける。

「あなた一体誰! どうして凛達にこんな事するの!」
『それはまだ答えるわけにはいかないよ。っとこんな事を話す為に来たんじゃなかった』

 仮面は首を振ると話を続ける。

『二人ともタイマーの意味を分かってないみたいだから教えてあげるよ。その時間が0になると首輪に仕込まれた爆弾が爆発するんだ』
「ば、爆弾!?」

 仮面の言葉に花陽は驚きの声を上げ、凛は首輪に手を当てる。

『解除する方法は二つ。首輪を開錠するか、時間が来て爆発するか。二人の好きな方を選びなよ。もう一つ方法があるけど、それは10分前に教えてあげるね』

 それだけ言うと再び画面が暗くなる。それから二人は首輪に手を当て、目を合わせる。

「ね、ねぇ凛ちゃん。爆弾って本当、かな」
「分からない……けど」
「けど?」
「本当だったら凛達死んじゃう、んだよね」

 首輪のタイマーの表示されている場所を手で押さえる。花陽もそれにつれられ首筋へと手を伸ばす。手にはヒヤリとした鉄の感触。

「これ、どうすれば良いのかな……」
「やっぱり鍵を取るしか……」

 花陽が不安気に凛を見ると、凛は遠くにある机とその上にポツンと置いてある鍵を見る。 花陽も凛につられて鍵を見る。

「でも、さっき届かなかったんだよね……」
「うん……部屋の中にも特に何もなかったし」

 凛は部屋を見回して再度、何か物がないか探す。凛が何かないか目を凝らしていると、突然隣からカチャリと金属音が聞こえる。音の元を見ると、花陽がポケットからナイフを取り出して構えていた。

「かよ……ちん……?」

 凛はナイフを構えた花陽を見て一歩後ずさる。そして自身のポケットに入ってるナイフに手を伸ばす。しかし凛がポケットからナイフを取り出すよりも早く、花陽のナイフが振り下ろされる。
 次の瞬間、花陽が振り下ろしたナイフは、二人を繋いでいる鎖に当たり金属音が部屋に響いた。
 凛が花陽の方を見ると、花陽が振り下ろしたナイフは二人をつないでいる鎖に当たり、止まっていた。

「もしかしたら切れるかもしれないから」
「凛も、凛も手伝うにゃ!」

 そう言うと凛も花陽に倣ってナイフで鎖に切りかかる。
 そして時間が経ち、残り時間が10分となった。その時再び画面が点く。

『爆発まであと10分になったよ。さっき言った通り、首輪を外す三つ目の方法を教えてあげるね。それはどちらかが死ぬ事。どちらかが死ねば、その場でタイマーは止まって首輪は外れる。まぁまた首輪を付けたら動き始めるけどね。そうそう。春人君、だっけ? 君達がそこいいる間、少し酷い目に遭ってもらっるから、彼を助けたかったら少しでも早くそこから脱出する事だね』

 画面が消えてから5分程粘るも、鎖は切れる様子がない。その様子に凛は諦めたように座り込む。

「かよちん、もう無理だよ……」
「無理じゃない。無理じゃないよ。頑張れば出来る!」

 花陽は凛を見ずに一心にナイフで鎖に切りかかりながら、励ます。しかしその手は続いた凛の言葉によって止められた。

「ううん、もう時間がないにゃ。だからさ、凛の最期のお願い聞いてくれる?」

 花陽は凛の言葉に嫌な予感を感じ、顔を上げる。花陽の目に映ったのは寂しそうに笑う凛だった。凛は表情を変えずに、震える手で持つナイフを首筋に当てる。

「凛……ちゃん……?」
「春君と幸せにね。バイバイ、かよちん」

 凛はそう言うと、手に持っていたナイフを地震の首筋に当て、スッと引く。切り口から鮮血が舞う。花陽は服が血で汚れるのも気にせず、徐々に冷たくなっていく凛の身体を抱きしめ、傷口を塞ごうとする。

「凛ちゃん! 凛ちゃん!」

 静かな部屋に花陽の悲痛な叫びが響き渡る。そんな中、カシャンと音とともに花陽の首輪が外れる。首輪のタイマーは残り数秒で止まっていた。それに合わせてモニターが点き、再度仮面の人物が映る。

『そっか凛ちゃんが自殺したんだね」

 今までの機会を通していた声とは違う、花陽のよく知る人物の声がスピーカーからから聞こえてきた。その声に花陽は涙でぬれた目を見開き、ゆっくりとモニターに振り向く。その様はまるで信じられない出来事に遭遇した人のそれだった。

「な……んで……」
『なんで? 何がなんでなのかな?』

 花陽は画面に映る仮面を外した人物に向けて、疑問の言葉を投げかける。花陽の振り向いた先、そこに映っていたのは先程「少し酷い目に遭っている」と言われた春人自身だった。

『あぁなんで僕がここにいるのかって事かな? それは簡単でね。僕が二人をそこに閉じ込めた張本人だからだよ』
「そんな……一体何の為に……」
『何の為? そんなの決まってる。僕は二人が好きだった。けど、二人同時に愛することは出来ない。なら、取れる方法は一つだけだった』
「それがこれなの?」

 花陽は春人から聞かされる事が信じられないのか聞き返すと、春人は黙って頷く。

「でもさっき酷い目に遭ってるって」
『そうだね。幼馴染みが苦しんでるのを見続けるって、僕は酷い目だと思うんだけど?」

 春人の言葉に花陽は信じられないものを見るように目を開く。春人はそんな花陽を無視して、画面の中で両腕を広げると嬉しそうに続ける。

『さぁ花陽ちゃん、おいで』
「……」
『花陽ちゃん……?』

 春人は俯いたまま動かない花陽に首を傾げる。花陽はそんな春人に何も返さず落ちた首輪を拾うと、それを自分の首に持っていく。その行動に春人は不思議なものを見るように花陽を止めようと声をかけるも、花陽はそれに耳を貸さずに首輪をつける。
 カシャン、という音とともに残り数秒のタイマーが動き始める。

「ごめんね凛ちゃん。お願い聞く事出来なかったや」
『花陽ちゃん何してるのかな?』
「春人君。私、今の春人君には着いて行けないや。だから、私はここでお別れだね。さよなら」

 花陽は画面に笑い掛けると首輪からピー、とタイマーの音が鳴り、部屋の中に小さな爆発音が響き、辺りに砂煙が舞う。
 煙が晴れた部屋の中にはバラバラになって原型が分からなくなったモノが部屋中に転がっていた。

『……』

 そんな惨状を見た春人は何も言わずに、ただ静かに画面の電源を消した。 
 

 
後書き
今回の内容は一部グロテスクなシーンがR-18にならない程度に入っています。ご注意下さい。
注意書きが遅いって?気のせいですよ。

さて、もう一度言います。
今回のお話、楽しんで頂けたら幸いです。
これから先の投稿者さん達はきっと、今回とは正反対のほのぼの物を書いてくれると信じてバトンをパスしたいと思います。

それではまたの機会があればお会いしましょう。
 

 

loss of memory~幸せの意味~ 【アラタ1021】

 
前書き
本日は『ラブライブ!~いつでもそばにいる君と~』を執筆しているアラタ1021さんです


どうも皆さん、小説投稿サイトに入り浸っております『アラタ』です笑

色々と語りたい事はありますが長くなるので、後書きを見ていただけると幸いです笑
今回のテーマは『ドッキリ』です!

 

 


とある平日の放課後。
 国立音ノ木坂学院高校にて。

 部室棟の一階に在するアイドル研究部の部室。普段より音ノ木坂学院のスクールアイドルである『μ's』が使用するこの部屋は、着替えや荷物の保管などはもちろんのこと、新曲等を作る際のミーティングルームとしても使用されている。
 九人という大所帯で使用するにはいささか広さの足りない部屋だが、いつも楽しく活動しているのだろう。普段からメンバーの笑い声が絶えないという評判の場所だ。

 だが、今日ばかりはそんな雑然とした雰囲気はどこにも見当たらない。さらにいえば、すぐ隣の部室や教室のそれとは明らかに質の違う虚無感に包み込まれていた。

 時刻は一月十五日。十六時八分。
 メンバーの一人が全員の前で腕組みをし、目視で関係者が全員出揃ったことを確認する。


 遂に、静寂が壊された。


「さあみんな! いよいよ明日からの二日間。花陽に例のドッキリを敢行するわよ!」


 黒字で埋め尽くされそうなほど念入りに文字が書き込まれたホワイトボードの前に立ち、今時にしては珍しい黒髪ツインテールの少女は代表して力強く宣言した。

 矢澤にこ。ここにいる彼女達スクールアイドル部の部長である。
 特徴は先に言った通り、その黒髪と少し華美な色をしたリボンで結ばれたツインテール。他のメンバーには見受けられないピンク色のカーディガンを羽織っており、存在感では他者と一線を画す。
 
 現在この部屋にいる面子は、部長のにこ、そして協力者である春人を含めて全部で九人。
 本来ならばメンバー+春人で合計十人なのだが、あらかじめターゲットに今日の練習は休みだと嘘の情報を伝えているのでひとり少ない形となっている。

 にこの宣言に対する反応は各々違うようで同じだった。
 特に花陽と同じ一年生の真姫と凛は躊躇うような表情を浮かべたものの、何度も話し合いを持ち、作戦を練り直してきたこれまでの経過を思ったのかすぐに平常の顔つきに戻る。
 二年生の穂乃果、ことりはいかにもやる気という表情。海未は一年生に近い反応を浮かべる。
 三年生組はやはり年長だからだろうか、終始落ち着いた面持ちだ。


「一応再度確認をするわ。今回のテーマは皆も知っての通り、いわゆる記憶喪失ドッキリ。花陽以外の全員がこれまでの記憶を忘れて、みんなμ'sや花陽との思い出がリセットされている状態よ。付け加えて凛に関しては、幼い頃の記憶も無いという設定だから注意すること。それと、にこだけは特殊な役柄だから、できる限りいつも通りにしておいてね」

 にこに続き、もう一人の三年生メンバーが立ち上がり説明を行った。
 
 絢瀬絵里。ここ音ノ木坂学院の生徒会長を務める三年生であり、μ'sのダンスリーダでもある。
 ロシア人のクウォーターということもあり、血筋故に髪の毛は金髪、人よりも肌は白い。

 彼女の言葉に対し、室内にいるメンバーは各々首肯で返事をする。どうやら皆しっかりと理解出来ているようだ。


 しかし、尚も不安な色を浮かべながら、おずおずと挙手する者が一人。


「あ、あの、やっぱり花陽ちゃんが可哀想なような‥‥」

 高橋春人。
 彼女達μ'sの協力者であり、今回のドッキリ対象者である小泉花陽の幼馴染みだ。
 ふわりとした黒髪と長身が特徴的な、スクールアイドルの彼女達とつるむには明らかに似つかわしくない男の子。彼は少し前からお手伝い役としてμ'sのサポートをしている。

 もちろんμ'sのグループメンバーとしてステージに立つ訳では無いが、彼もまた、この中に必要とされる大切な面子。

「ここで怖気づいてちゃだめよ! みんなで今日まで何度も話し合ったんだから、絶対うまくいくはず。 っというか、だいたいドッキリをしようって最初に言い出したのあんたでしょう? 」

 春人の意見に対し、にこは食いかかるように真向から否定した。

 そう。実はこのドッキリ企画は彼、こと春人の発案で始まったものなのなである。明後日という日を、花陽にとって最高の一日にしてあげたい。そんな思いで、普段は意見することが苦手な彼が覚悟を決めて出した案なのだ。
 まあ、もともとは花陽にサプライズをするというのが根本の目的だったのが、作戦会議を重ねるうちにドッキリになっていたのは‥‥彼の誤算である。

 春人は観念するように挙手した手を下げた。

「そ、それはそうですけど‥‥」
「よぉーし! それじゃ明日から作戦開始!!!」

 ある程度締まったところでμ'sのリーダー、高坂穂乃果は片腕を天に突き上げた。同じメンバーとして、花陽にとっておきのサプライズを届けたい。そんな思いで彼女は全員の中心に入り自ら気合入れをする。





 こうして、花陽への『記憶喪失ドッキリ』が幕を開けた。



 


◆◇◆◇


 凛ちゃんがこない。


 時間にして、ドッキリ本番直前会議が行われた翌日の朝。
 花陽を除いたμ'sのメンバー、そして春人が作戦を開始すべくそれぞれ行動をしている頃のこと。

 小泉花陽。こと今回のドッキリ対象者は、幼馴染みと毎朝待ち合わせをしている場所に立ち尽くし戸惑いの表情を浮かべていた。


 なんでだろう? 浮かぶ疑問。


 凛ちゃん。こと花陽の幼馴染みである星空凛は時間にルーズな性格があり、少し遅れることはしばしば、いや昔からよくあることなのだが、親に携帯電話を買ってもらってからは必ず『かよちん先に行ってて!』とか『凛、今日少し遅れるかも!』といった連絡が来るのである。

 だからこそおかしい。花陽は自身の下唇を軽く噛む。
 いつも待ち合わせをしている親友が来ないうえ、さらには連絡一つよこさない。それだけでも彼女の不安を募らせるには十分の要素だった。
 
「どうしよう‥‥」

 不安を紛らわせようとあえて口に出して呟く。変な人に絡まれてたらどうしよう‥‥。もし事故にあったりしてたら‥‥。
 幾度出てくる不安要素。自身の元来である心配性が花陽の思考を乱す。

 彼女はチラリと、春人と凛にもらったお気に入りの腕時計を一瞥した。

 一応まだ時間的に余裕はあるが、それ以上待ってしまうと今度は自分が学校に遅刻してしまう可能性がある。もちろん遅刻はしちゃいけないことだけど、やっぱり連絡が無いのは心配だし‥‥。

 うぅ‥‥凛ちゃんごめんね!
 花陽は自分のスマホのLINEを開き、凛に先に行くことを伝えると、少し足早に歩みを動かした。


 だ、大丈夫‥‥だよね。もしかしたら凛ちゃん、先に学校に着いてるかもしれないし。
 そう、自分に言い聞かせながら。







 花陽はまだ、何も知らない。








※※※

 至極不安な心持ちで学校に到着すると、結局凛は既に席に着いていた。
 彼女はいつものように何人かのクラスメイトとお喋りをしており、その可愛らしい笑顔を周囲に振りまいている。

 なんだぁ、良かった‥‥。
 花陽はそっと自分の胸を撫で下ろした。
 凛から連絡が来てなかったことが本気で心配だったからだ。もしかしたら交通事故にでもあったんじゃないかとか、変な人にからまれてるんじゃないかとか‥‥。

 しかしいつもの光景を見てそんな不安は一気に消失した。きっと凛の笑顔がそこにあったからだろう。杞憂に終わって本当に良かった。心から彼女はそう思う。

「おはよう凛ちゃん。心配したよー。朝連絡来てなかったから事故にでもあったんじゃないかぁって。でも良かった。今度からは早く行く時はちゃんと連絡してね? 私心配性だから‥‥」

 何気なく話かけながら、凛の前に位置している自分の席に腰を下ろす。
 デスクの引っ掛けにカバンをかけ、凛がいる後ろを振り向くと、よくわからなことが起こっていた。


「‥‥‥‥?」


 凛は花陽の方を向いたまま、きょとんと不思議そうに首をかしげている。花陽から見ても羨ましいほどパッチリした綺麗な瞳でこちらを見つめていて、まるで『何のこと?』と言わんばかりの疑問顔。

「凛ちゃん?」
「え、えっと、誰ですか‥‥?」
「へ?」

 凛の放った言葉は、とても衝撃的だった。

 いつもの純粋無垢。凛は全くもって不信感やそれに類する感情を含んでいない表情で花陽に問うた。
 花陽は面食らっているものの、特に疑う様子はない。でも、どこか理解の追いつかない思考。

「‥‥な、なにかの真似?」
「何が‥‥? 別に何の真似もしてないけど‥‥」

 返ってきたのは至極普通の返答
 故に花陽は大きく戸惑う。幼馴染みの表情使いや口調があまりに普段と変わらなすぎて、この説明のつかないおかしな状況をすんなり受け入れてしまいそうになる自分。

 い、いやいやいや! おかしいよぉ!

「凛ちゃん、どうしちゃったの‥‥!?」
「凛は普通だよ。って、‥‥え? なんで凛の名前知ってるの?」
「‥‥‥‥」

 きょとん。再度可愛い顔を傾ける。

 どういうこと?
 どういうこと?
 どういう‥‥こと?

 たくさんのクエスチョンマークが花陽の思考を飛び交った。
 驚かせようとしてるの類なのか、何かの受け売りかなとか、そんないたずらっぽいことすら考えられないのだ。
 だって、凛は花陽に嘘をついたことが一度もないから。

 ーーもしかして、凛ちゃん記憶喪失?
 そんな非現実的な想像さえ浮かんでしまう。恐怖に近く、しかしどこかそれとは違う別種の恐ろしい感覚が花陽を内から包み込む。彼女はそのあまり、もう一人のクラスメイトの席へと駆けよっていった。

「ま、真姫ちゃん! 凛ちゃんがおかしいの! ねえ‥‥ま、真姫ちゃん?」

 西木野真姫。クルリとカールの巻かれた毛先が特徴的な赤髪の美少女。凛や花陽と同じ一年生であり、学年でもトップ成績の座を誇る。
 花陽と凛と一緒にスクールアイドルを始め、それをきっかけに今ではもう親友。彼女はその性格ゆえに友達の少なかった中学時代に比べて、今ではかなり充実した高校生活をおくっているみたいなのだが‥‥。

 崩壊。花陽の中でその印象は音を立てて崩れ落ちた。

 ーー何故か。
 ーー凛と同じ目をしていたから。

「あなた、誰よ」

 端的な言葉のみで告げられる。

 真姫特有の、切れ長な紫色の瞳。
 いつもなら綺麗過ぎて羨ましくなるそれも、一切光を秘めていない。少し釣り上がった目元から伺い知れるのは明らかな他人行儀。いやそもそも初対面のそれ。

 こ、怖い‥‥。

 花陽は軽く足が震えるのを感じた。
 
「私のこと、分から、らないの‥‥?」

 おそるおそる問いかける。花陽の口調は震え、涙を浮かべた。

「し、知ってる分けないでしょう? 今が初めてよ。あなたと話したのは」

 あまり演技派ではないのか、アドリブでやっているために真姫のセリフはところどころたどたどしい。

 しかし冷たく無感情な、まさしく花陽や凛と出会う以前の彼女の口調。
 それだけでも、花陽はまるで心の中に包丁を突きつけられたような感覚だった。

 何か恐ろしい事が起き始めている。  
 花陽はそのような、普通の状況ではまるで想像もつかないほど大きな恐怖と直面を始めた。ーーでも。

 
 




 花陽はまだ、何も知らない。







※※※


 結局花陽は朝以来凛や真姫と一度も口を交わすことなく、ままならない恐怖感に怯えながら放課後を迎えた。

 みんなにこのことを伝えなきゃ。部室へと足を進めながら考える。
 花陽は別に早とちりな性格というわけではない。むしろ高校一年生というまだ幼い枠組みに入る年頃ながら、相手の感情や思考には人並み以上に敏感である。
 だからこそ、普通なら疑ってかかるようなこの事態を、花陽ははったりや冗談事じゃないという確信したのだ。

 もちろん理由もある。それは主に二つ。
  一つは、今朝の凛のこと。
 彼女が連絡をせずに待ち合わせ場所に遅れるなんてことはこれまで一度もなかったし、彼女は元気で少し間抜けなところもある反面、根っこは意外にも真面目。そんな彼女がおふざけで連絡を落とすなんて事はないはず。そのことを幼馴染みゆえに花陽はよく知っている。

 そして二つ目は‥‥二人のあの目。
 花陽はつい数時間前の光景を思い出す。
 同じグループのメンバーとして、同じ教室で学ぶクラスメイトとして。そして何より大切な親友として、花陽と凛と真姫は充実した時間をこれまで紡いできたのだ。しかし、今朝見たあの二人の目色にはそんなものはきれいさっぱり消し去ったかのように、何一つ輝きを纏って無かった。それどころか、花陽のこと覚えてもいなかった始末。

 私、どうしよう‥‥。

 そう考えているうちに、部室棟へと到着する。少し遅くなってしまったが、恐らく二年生あたりが練習着に着替えている頃だろう。
 花陽はどうやって二人のことを切り出すべきか考えながら、廊下を進む速度を落とす。

 徐々に重たい足取りとなりながらも、近づいたのは一階廊下の壁際にある木目状の扉。いつもの見慣れたそれを開く。


 ガチャリ。
 そこには、










 誰もいなかった。











「‥‥え?」

 花陽はあっけに取られて思わず声を上げる。彼女特有のか細く、それでいて甘えて欲しくなるような可愛いらしい声。

 目の前に広がるのは、いつも明々とつけられた照明もパソコンも落とされた暗闇の部屋。休憩やミーティングで幾度も使った、花陽にとってとても大切な場所は明らかに、おかしかった。

 今日‥‥休みだったっけ? 眼前に広がる景色を受け入れられなかったのか、逸脱した感想を浮かべる。

 いやいや、そんなことは無い。
 花陽は自分の思考を断ち切るように否定した。

 以前、穂乃果が学園祭のライブで倒れたあのイレギュラーが起きた時に一度μ'sの練習は激減したけれど、その後春人のおかげで復活してからは、平日と土曜日の午前は必ず行われている。それに、もうすぐラブライブ本戦。そんな時期に、何の予告もなく休暇を作るなんて事はいくらなんでも考えにくいし、もしもそんな予定ができるほどなら予め自分にも連絡されているはず。
 花陽は数秒、目の前の光景に立ち尽くした。

「どういう‥‥こと?」

 黙っているのが怖すぎて、あえてわざわざ口に出してセリフを言ってみる。
 誰も居ない室内。いつもなら皆の笑い声で賑わっているそこに、たった一人自分の声だけが溶け渡った。

 絶対普段の自分なら信じない状況だと思う。でも、朝から明らかに様子がおかしいクラスメイトや、実際に今見たこの光景。
 信じ難いけど、何か大変なことが起きてるのは事実。

 あ、あれれ。
 あれ‥‥? あれ?

 どういうこと。
 どういうこと。

 どういう‥‥こと?

 まともに頭が回らない。朝から凛と真姫の様子もおかしいし、この状況も‥‥。

 ‥‥これ、もしかして夢?
 何一つ予期していなかった緊急事態に、花陽の頭にはそんな想像さえも浮かんだ。

 否。
 こんなに意識がはっきりとしていてそんなことは無いだろう。事実その証拠に、先程から恐怖のあまり握り込んでいた両手には痺れも微量な痛みも走っている。

 じゃあこの状況は‥‥? 同説明するの?
 これはこれで振り出しに戻る形だ。何がどうなっているのか、全くわからない。
 遂に膝が笑い出した。


「う、うぅ、だれか、だれか‥‥ダレカタスケテーー!」


 バタン!
 花陽は自身の中に募った恐怖のあまりに、部室を飛び出し階段を脱兎のように駆け上がった。

 ‥‥怖い。怖すぎるよ!

 凄まじい恐怖心が花陽を包み込む。『廊下は走るな』などと戯言の書かれた掲示板など丸無視して全力で廊下を駆け抜ける。どんな歩幅でどれだけ走ってるかなんてちっとも分からないけど、ひたすら逃げるばかり。
 行く場所は決めていた。

 一歩一歩転ばないように、それでも自然と足の動きは早くなる。
 元より体力がない自分がこんな豪快に階段をダッシュするなんて。普段の練習じゃとても考えられない。火事場の馬鹿力とういのは本当に実在するようだ。

 音ノ木坂学院。B棟四階。
 半ばがむしゃらに走り、行き着いた先。


「絵里ちゃん! 希ちゃん! 大変!」


 そう、花陽が向かったのは生徒会室だ。
 力強く扉を開く。失礼しますの断りは愚か、ノックすらしないで勢いのまま乗り込んだ形だ。
 思わず力のこもった手で思いっきり扉を開けてしまい、ブレーキがきかずこけそうになるがなんとかドアノブを掴むことでバランスを保つ。
 やっと心の通じあった仲間に会える。そう安心していた。


 しかし


 室内に入った瞬間、見慣れた三年生の美人二人、加えて他に生徒会メンバーの視線が一斉ににこちらに向く。拒絶感とでも言うのだろうか、空気は一瞬にしてに凍りついた。
 出ていけと言わんばかりの表情。いや、それ以前に皆一様に驚いた様子かな。

 花陽はいつも一緒に踊り、そしてこれからも一緒に歌い続けるであろう仲間の顔を確認する。

 クールで、皆のあこがれの先輩。絵里ちゃん。
 優しくて、まるでお母さんみたいに暖かい先輩。希ちゃん。
 
 乱れた室内の空気。
 突然の闖入者に、部屋の再奥部に座っていた金髪の美少女はゆっくりと立ち上がる。一歩一歩近づき、花陽の目の前で立ち止まった。
 
「何の要件ですか? 非常識ですよ。会議中にノックもなしに入ってくるなんて」
「エリチ、その子誰‥‥? うちらの名前知ってたみたいやけど」

 







 花陽はまだ、何も知らない。










※※※

 生徒会室を後にして、花陽は学校の図書室の前に訪れていた。

 まさしく途方に暮なんて表現がしっくりくる。トボトボと歩き、なんとなく立ち止まって目の前を見る。

 あれ‥‥、私、なんでこんなところに来たんだろ。
 半ば朦朧とした意識の中、そんな思考が浮かび上がる。多分、とりあえず校舎を巡っているとたどり着いたんだろうな。もちろん、なぜここで立ち止まったのかなんて自分でも分からないけど。
 
 花陽は、疲れと戸惑いのあまり特に何も考えないまま室内に入り、読書用に設けられた席に腰を下ろした。色々なことがおかしすぎるのと、さっきまで階段を駆け上がって疲れた身体は、チェアマットレスの反発を快く受け入れる。

 そのまま一息。乱れた呼気を整えつつ、数回瞬きをして目の前の景色を見る。

「‥‥‥‥」

 無言。

「‥‥‥‥」

 無言。

「‥‥‥‥」

 無言。

 その後は一切、ため息すら出なかった。今日という日に起こったすべてのことに唖然としすぎて、そして考えることの多さに脳内が疲れたと悲鳴をあげる。

 私‥‥これからどうしようかな。
 ここまで来たらもう自分の力ではどうにもならない。それが分かっているからこそ自分自身に問うてみる。
 人の心理というのは、追い込まれれば追い込まれるほど壊れやすくなり、そして折れやすくなるもの。
 実際、今の花陽はそんな心理状況だった。

 一応簡単に、朝から今までに起きたことを軽く整理してみる。
 まず事の発端は、今朝待ち合わせ場所に凛ちゃんが来なかったこと。あの時点では単なる連絡ミスか、純粋に寝坊しているのかななんて思っていた。
 でも、学校に着いてみたらそんな事はなく、凛ちゃんはいつも通りの笑顔で友達とお喋りをしていて‥‥。

 ここからが一番問題。
 彼女の記憶から、私が消え去っていたのだ。
 多分、嘘とか演技とかじゃなく、ホントのホントに。

 昨日までは、いつも通り一緒に学校に来て、学校でお話したり、一緒にご飯を食べたりしたのに。

 今日会ってみたらあんな状態。しかも、それは凛ちゃんだけじゃなくて、真姫ちゃん、希ちゃん、絵里ちゃんも一緒だった。
 なんでμ'sのみんなが一斉にそうなっちゃったかなんて分からない。でも、四人が一斉にそうなるなんてどう考えても‥‥。

 そこまで考えたところで、花陽はあることに気づいた。

 ーー他のみんなは?
 穂乃果ちゃんにことりちゃん、海未ちゃんやにこちゃんは‥‥、一体どうなってるの? 今どこにいるの?
 少なくても部室にはいなかったけど‥‥。






 花陽はまだ、何も知らない。





 

※※※



 カツ、カツ、カツ‥‥。

 冬の夕暮れは寒い。特に朝焼けが見える時間に次いで気温の降下が激しい時間帯。時刻は午後六時を回った頃だ。辺りは既に幾本もの電灯が灯り、暗がりを照らしている。半ば夕暮れというよりは完全に夜だった。

 今朝、凛ちゃんが来なくて一人で歩いた通学路。帰り道でも、響くのは自分の足音だけ。足元の硬いコンクリートに、規則的なローファーの打撃音は溶けていく。その足取りはもちろん重く、いつもよりペースも遅い。

「私‥‥、どうしたらいいんだろう」

 今日何度この思考に至っただろうか。花陽はまたしても同じ疑問を問いかける。もちろん分かるわけなんてない。そもそも、どんなに優秀な人だろうとこんなこと、すぐに答えが出せるわけなどどこにもないだろう。
 
 カツ、カツ、ピタリ。
 花陽はふと歩みを止めた。よく見る風景、自分でも気づかないうちにとある場所まで歩いてきたから。

 そこにあるのは『穂むら』と書かれた見慣れた和菓子屋の看板。曲作りや衣装づくりで何度も立ち寄った先輩の実家であり、そういえば、穂乃果ちゃんにスクールアイドルに誘われたのもここだったっけ。
 私はついつい昔のことを思い出して感慨に耽る。ほっこりと暖かい気持ちになるが、すぐに選択に迫られた。

 うぅ、寄ろうかな。それとも‥‥。
 花陽は店の前に立ち止まったまま迷い、萎縮する。

 大切な先輩たちに会っても、また私のことを覚えていないかもしれない。
 ーー絶望。
 
 もしかしたら、穂乃果ちゃんなら私のこと‥‥。
 ーー希望。


 彼女はしばらく逡巡する。絶望と希望の二択を考えながら。
 結論が出るのは早かった。


 

 ーーガラガラガラ。
 いかにも古く、なんとも形容し難い硬い摩擦音を立てて扉を開く。中から香るのはいかにも和菓子屋って感じの、あんこの甘い香り。それは奥の厨房から風に乗り、僅かに鼻腔をくすぐった。

 それによって一瞬、和らぐ緊張。



「いらっしらいませー!」


 客が入ると鳴るチリリンという鈴のような音に伴って、元気な接客ボイスが店先に届いた。
 自宅につながる奥の廊下から出てきたのは、明るい茶髪をしたとてもかわいい女の子。黄色いリボンで片側だけ髪を結び、割烹着を着ているあたりどこか彼女のお母さんに似た面影がある。
 穂乃果ちゃん‥‥。大好きな、私の先輩。私の高校生活を最高のものにしてくれた恩人。




 彼女はーーー




「あ! その制服もしかして。あなた音ノ木坂の一年生?」




 皆と同じだった。




「あ、えっと‥‥、はい‥‥。そうです」
「へぇー! やっぱり! 実は私、あの学校に二年生なんだ!」
「そ、そうなんですか‥‥あはは」

 いつもと同じ、終始明るい笑顔で振舞ってくれる穂乃果ちゃん。
 彼女だったらもしかして‥‥。そんなことは無かった。

 花陽はなんとか会話の途切れないよう受け答えをし、初対面らしくみえる演技を試みる。うん、一応大丈夫みたい。でもやっぱり、話し方や振る舞い一つとっても、自分の中にあるものを変えるのって中々難しい。さっきからでもそうだ。ついつい穂乃果ちゃんって言ってしまいそうになる。

「それじゃあ穂乃果、また明日」
「またね、穂乃果ちゃん」

 店先で穂乃果と会話をしている花陽の横を、またしても見知った顔が通り過ぎた。
 花陽はすぐに誰か認識する。南ことりと園田海未。穂乃果に誘われてスクールアイドルを始めた、μ'sの一番最初のメンバーであり彼女たちもまた大切な先輩だ。

「あ、うん。バイバイ! ことりちゃん、海未ちゃん!」

 二人は花陽に見向きもしない。つまり、皆と同じ。







 花陽はまだ、何も知らない。







※※※


 その後、花陽は何もせずに店を出るのも不自然だったのでほむまんを家族分だけ買って穂むらを出たのだが、穂乃果と会話をしても結局μ'sのみんながなんでこんなことになってしまったかについては、まったくといっていいほど全然手がかりが掴めなかった。

 もちろん、直接的なことを聞いた訳では無いけど、それとなく会話にヒントがないか注意深く言葉の裏を探ってみたりはしたもののまったく無意味。つい昨日まで仲良くしていた先輩と他人行儀で話すという少し不思議な気分を体験しただけ。

「一応、にこちゃん以外には皆会うことが出来たんだよね‥‥」

 またしても独り言。今日一日でどれだけ増えただろう。帰り道の心細さ故に現れるそれ。別に口に出す必要なんてこれっぽっちもないのに。
 
 でも、これでにこちゃん以外のみんなが同じ状態だってことは分かった。なんであんなことになったかは本当に検討すらつかないけど‥‥。
 多分、この感じだとにこちゃんもきっと同じ状態だと思う。

 私は、どうしたらいいのだろう。
 ーー自問する。

 答えは出ない。私はただ、帰宅路を進む。



◆◇◆◇


「ただいま‥‥」

 決して軽くはない足取りのまま、自宅に到着した私は小声で挨拶をして玄関に上がる。玄関室が吹き抜けになっているせいか、それとも疲れているせいなのか、ローファーの音がひどく耳に響いた。

 リビングに入ると、蛍光灯の淡い光が視覚に刺激を与える。先程まで夜道を歩いていたせいで網膜が拡張していたみたい。目の疲れは顔や精神の疲れに繋がるって聞いたことがある。しばらくは、眼鏡に戻そうかな。

 そんなとりとめのないことを考えていると、食後なのか歯磨きをしながらバラエティ番組に興じるお母さんから声がかかった。

「あら、おかえりなさい花陽。遅かったわね。パパが心配してたよ?」
「う、うん。ごめんなさい」
「今日も練習?」
「え? あ、えっと、‥‥うん、そうだよ」
「あんまり頑張りすぎないようにね」
「‥‥は、はぁい」

 会話が終わる。練習‥‥無かったよ。
 遅くなった言い訳に勢いで嘘をついてしまい少し胸が痛む。
 この胸の痛みは、嘘をついたことに対してじゃなくて‥‥。
 皆で練習をすることはもう無い。その事実に対しての悲しみ。

 リビングをでて、二階へ向かう。お気に入りの自室に入ると私はそのまま、まるでそこに一緒閉じこもるかのように膝から扉の前に座り込んだ。
 否。崩れ落ちた。


「‥‥っ、うぅ」


 溜め込んでいた嗚咽。声にならないそれは一人になってついに漏れ始める。同時に、耐えきれなくなってしまった涙腺が崩壊した。

「うぅ、うあ、うぁ‥‥ん」

 掠れたような鼻声。
 大量の涙がとめどなく零れ出た。

 皆との思い出。楽しかった日々たち。充実した毎日。大好きなメンバー。アイドルへの憧れ。自分自身の成長。周りの変化。心の変化。笑う仲間の姿。合宿で行った親友の別荘。みんなで考えた曲や振り付け。他愛もない会話。皆で見てきた景色。これから見るはずだった景色。

 それらをら思えば思うほど、涙はまるで氷雨のように頬を伝う。それは胸に落ち、手の甲に落ち、そして私の心そのものを濡らした。

「おがしいよぉ! みんな、‥‥みんなおかしいよぉ!」

 家族には聞こえないよう、小声でつぶやくように言葉を発す。私は涙を拭うこともしないまま鼻だけを何度も啜った。

 そう、おかしいのはみんな。
 でも、それに伴い私自身もおかしくなりそうだった。自分がいかにμ'sが好きだったのか、自分にとってμ'sがいかに大きな存在だったのか。自分がどれだけ小さく弱い人間なのか。それを理解すればするほど、精神が崩壊しそうになる。


 μ'sが無くなるくらいなら私‥‥







 私、死んだ方がいいのかな。






 私の精神はかなり危険な状態にあった。今ふと浮かんだ事項にそれを自ら自覚する。本当は死ねる勇気なんてこれっぽっちもないのに、そうやって自分が危機迫っていること自体も快楽になるほどおかしくなってしまったのかな。






 しかし。





『♪♪♪♪♪‥‥』


 軽快な電子音。
 着メロに設定してあったお気に入りのこの曲が、私の中のそんな空気を派手に打ち破る。同時に一気に身体の力は抜け落ち、聴覚だけがサウンドに集中してしまう。ユメノトビラ、皆で作った思い出の曲だ。

 私は恐る恐るスマホを手に取る。
 液晶に表示された文字を見て涙が僅かに乾いた。着信中。応答と拒否のタップゾーンがある以外は特に飾り気のない画面。

 表示されていたのは『にこ先輩』
 まだ出会ったばかりの頃に設定したから、先輩とついた文字。そして、μ'sのなかで唯一今日一度も遭遇することが出来なかった相手。
 力の抜けた指で、応答ボタンをタップする。

「‥‥も、もしもし?」
『もしもし花陽! 大丈夫!?』

 応答した瞬間の急激な大声。耳に響いたそれは。
 ーーいつもの、大好きな先輩のそれだった。

「え? にこちゃん‥‥私のことわかるの?」
『分かるわよ! 花陽こそ、私のことわかるの?』
「う、うん!! わかるよ!」

 急な気持ちの高上がりに、ナチュラルにオーバーリアクションをとる自分。まだ涙が目に浮かんでるのは分かるけど、すごく暖かい安心感が全身を包む。
 よかったよぉ! にこちゃんだけでも無事なら、もしかするとみんなのそれも一時的なものかもしれない!
 

『ほんとによかった! 花陽は無事なのね』 
「私は無事だよ! でも、みんなが‥‥」

 私の言葉に急激に下がる会話のトーン。

『ええ。私の方は最初に希の様子がおかしくて、いつもの冗談かと思ったんだけど‥‥、その後絵里に相談しようとしたら、その絵里もおかしくて、ついでにことりや真姫も。というか、皆同じ状態みたいなの』
「私も、にこちゃん以外には全員会えたの。でも、やっぱり同じ感じで、私のことを覚えてなくて‥‥」

 にこちゃんもどうやら、似たような状態で同じ状況にあるらしい。
 よかったってほど安心はできないけど、私一人だけじゃないって思えるだけでも精神的にかなり重荷が落ちる。

『そう‥‥。わかったわ。とりあえず今日は夜も遅いし、明日の放課後に部室で話しましょう? あそこには皆集まらないみたいだから』
「うん。分かったよにこちゃん」
『はい。じゃあ早く寝なさいよ。辛くても明日は来るんだから』

 ため息の混じった、にこらちゃん特有の大人の口調。声も性格もどちらかといえば子供っぽい方が多いんだけも、こういう時にかっこいいから惚れ惚れしちゃう。にこちゃん、ほんとすごい。こんな状況なのに、私に気遣いができるだけでもすごいよ。

「ふふ。にこちゃん私のお姉ちゃんみたいだね」
『リアルに三人も下の兄弟連れてたらそうなるわよ』
「そうかもね‥‥。それじゃあ、おやすみなさい」
『ええ、おやすみ』





◇◆◇◆


 そしてやってきた翌日の放課後。
 私はクラスで任されてある戸締り係の仕事を終わらせると、すぐに部室へと向かう準備をしていた。

 心は昨日の夜よりはかなり軽くなり、唯一見えた希望に心が揺れる。もちろん凛ちゃんや真姫ちゃんは昨日のままだけど、にこちゃんが同じ境遇にあるというだけでもかなり気の持ち方は楽だ。こんな不謹慎な事言うと、怒られてしまうかもしれないけれど。

 教室をでて、小走りで部室棟の一階へと向かう。一分もかかっていないだろう。通いなれたアイドル研究部の部室に到着した。昨日は誰もいなくて真っ暗だったそこに、今日はにこちゃんが居てくれる。

 
 一度、軽く深呼吸。
 意を決して扉をーー開けた。



「きゃっ!」

 
 パァン! パァン! パァン!
 部屋に入った瞬間。急にいくつもの破裂音が重なって部屋に響いた。



 ーー何が起こったか、分からない。



 予想だにしない事態にびっくして顔を覆うように腕で守っていると、部屋の中からほんのり煙の匂いが鼻をついた。
 匂いは全く濃くはないが、一度は嗅いだことのある匂い。わずかに視界をくぐもらせ、奥の光景を確認することを阻む。

 そして少しづつそれは薄れ‥‥。
 遂にっ!








「せーのっ!」








『ドッキリ! 大成功!!!』


「そしてもう一ついくにゃ!」







『花陽ちゃん(かよちん)!! お誕生日おめでとう!!!!』


 







 この日私は、自分の幸せを知った。




(ウォール企画おまけ
 
 
にこ「てことで今回のドッキリは、花陽ハッピーバースデー! &記憶喪失ドッキリでしたーー!!」

凛「いやぁ、かよちんに真顔で話すのすごい難しかったにゃ!」
真姫「ほんとそれよ! この子泣きそうな顔するんだもの! 正直演技してる間すごく心苦しかったわ」
花陽「ふ、二人とも演技上手すぎだよ‥‥」
絵里「まさか生徒会室を襲撃してくるとは思ってなかったわね」
希「ウチ、エリチが花陽ちゃんに近づいた時はバレちゃうんやないかなって思ってたんよ?」
にこ「何はともあれ結果オーライ! 作戦が作戦通り行ってよかったじゃない」
穂乃果「そうだねっ!」
ことり「はい、花陽ちゃんの分のケーキだよっ」
花陽「あ、ありがとっ」


 花陽がケーキを食べている間。ことりが春人にケーキを切り分けてあげる。そこで海未が春人の方を向いた。


海未「あれ、そういえば春人さんって今回は‥‥」
にこ「あ‥‥! あぁ!!!」
春人「ん? ん?」

にこ「あんた!! 発案者のくせに何もしてないわね!!」
春人「え、え? ちょ、だ、だれかたすけてーー!!」







 
 

 
後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます!

私はこうして企画に参加させてもらうのは二回目なのですが、毎度楽しんでもらわせてます!笑

さらに今回は最初からテーマが選択式で、前書きにある通り私はドッキリを選択したのですが、いやはややっぱり普段から書かないものを書くというのはとても難しいものですね笑 正直なところ結構苦労した部分がいくつもあります。

一応この企画の後は、今のところ他の作家様の企画に参加させてもらう予定というのはございませんが、またどこかでお会いしましたら暇つぶしにでも是非読んであげてください笑
それと、こことは別のサイトになりますが、自分もラブライブの小説を投稿しておりますのでよろしければご覧下さい。
これからも、ラブライブに関わらず書きたいものを色々と書いていこう思っています。応援しろなんておこがましいことは言いません笑 暖かく見守っていただけると幸いです。 

 

米麺戦争〜仁義なき朝食の戦い〜【シベリア香川】

 
前書き
今回は別のサイトで『ラブライブ!~1人の男の歩む道~』等を書いているシベリア香川さんです。



初めまして!別サイトでラ!の二次創作を書いているシベリアと申します!
さて、今回はウォールさんのお誕生日記念で書いたものをみなさんにも読んでいただこうと思います!
ウォールさんのところの主人公の春人くんも使わせていただき書きました!
テーマは『ギャグ』であります!
それでは、どうぞお楽しみください!
 

 
「白米!」
「ラーメン!」
「ちょっと2人とも……」
「春人くんは黙っててください!」
「春くんは黙ってて!」
「………はい……」

今、春人くんは修羅場に遭遇している。

昨日から花陽の家で幼馴染みとお泊まり会をしている。
花陽の家族は旅行に出掛けたらしいが、花陽は学校やアイドル研究部活動があるため参加していない。
そして今は朝ご飯の時間。
花陽と凛が白米にするかラーメンにするか言い合っているのだ。
春人はそれを止めようとしたがはじき返されたのだ。
だから春人はただただ苦笑いして2人を見るだけ。

「朝は白米だよ!白米を食べないと朝は始まらないよ!」
「違うにゃ!ラーメンが一番にゃ!ラーメンを食べて体を温めて気持ちいい朝を迎えるんだにゃ!」
「白米!」
「ラーメン!」
「白米!」
「ラーメン!」
「あはははは……」

かれこれ10分……春人はずっとこの言い合いを聞いていた。

「そうだ!春くんはどう思うの?」
「えっ!?」
「そうだよ!春人くんはどっちがいいとおもうの?」
「えっと……僕は……どっちでも……」
「「どっちか!!」」
「えぇ〜!そんなの決められないよ〜」
「ほら、春くんもラーメンって言ってるにゃ!」
「言ってないんだけど!?」
「ううん、白米って言ったんだよ!」
「それも言ってないよ!?」
「ラーメン!」
「白米!」
「「むむ〜っ……!!」」
花陽と凛は睨み合った。
2人の間には火花がバチバチと散っていた。





「だから2人とも、喧嘩は………」
「喧嘩じゃないにゃ!」
「そうだよ!」
「えっ!?」
「「これは戦争(にゃ)!」」
「あぁ〜………?」
春人は首をかしげた。

「もう!お腹すいたからもう白米にするべきだよ!」
「凛だってお腹すいたにゃ!ラーメンにするにゃ!」
「白米だって!」
「まぁまぁ、2人とも……」
「だからラーメンって言ってるにゃ!!!!」

ドカン!

ビュー……ドゴン!

「は…花陽ちゃん!?」

すると凛は花陽の腹を殴った。
花陽はその衝撃で壁に練り込んだ。
凛の手からはシュ〜と音をたてて煙が出ている。

「ちょっと凛ちゃんやりすぎだって!」

「ふふ……ふふふふふっ……」
「は…花陽……ちゃん……?」
「凛ちゃん……腕を上げたみたいだね……」
「伊達にスクールアイドルはやってないにゃ……これもかよちんのおかげだにゃ……」
「そう……でもね凛ちゃん……」

パキパキ……パキパキ……

すると花陽は腕や体を壁から剥がして床に足をつけた。

「腕を上げたのは凛ちゃんだけじゃないんだよ?」
「っ……」
すると凛はなにかを察したみたいか戦闘の構えにはいった。
「すぅ……」
花陽は息を吸い込んだ。


そして……

シュン……

「早い!?」

ドゴン!

ピュ〜……ドカン!

「凛ちゃん!?」

花陽はものすごく早いスピードで凛を突き上げた。
凛はその衝撃で屋根を突き破って外に飛ばされた。

「花陽ちゃん!それじゃあ凛ちゃんが……!」
「ううん……こんなことで終わる凛ちゃんじゃないよ」
「っ……!?それはどういう……?」
春人は驚いた表情で花陽を見た。

「えへへ……かよちん……さっきのパンチはきいたにゃ……」

「っ……!?凛ちゃん!?」
春人は凛の声がしたので上を見上げた。


すると……


「浮いてる……?」

凛は空に浮いていた。

「やっぱり使えたんだね……舞空術……」
「舞空術!?」
すると花陽の体は浮いていき、天井に開いた穴から外に出た。

「かよちんも使えたんだね……」
「もちろんだよ……私はスクールアイドルで一番強い者を決めるラブライブ!を目指してるんだよ?舞空術ぐらい使えないと」
「ラブライブ!ってそんなんだっけ!?」
「これは面白くなるにゃ……」
「そうだね……」
「ラーメンを朝ごはんに食べるため……凛はかよちんに勝つにゃ!」
「私も、白米を朝ごはんに食べるため……凛ちゃんに勝つよ!」
「行くにゃぁああああああ!!」
凛は拳を構えて花陽に突撃した。
「ふん!」

ドゴン!

花陽はそれをガードした。

「えへへ……これを防ぐなんて……なかなかやるにゃ……」
「この程度なら防げるよ……!」
「にゃにゃ!?」

バコン!

花陽はそのまま凛の腕を持って後ろへ投げた。
そして凛の腹にパンチを食らわせた。
「がはっ……!」
凛はその衝撃で後ろに飛ばされた。
「まだまだ行くよ!」
花陽は飛ばされた凛に向かって飛んだ。
凛はなんとか体勢を立て直して、花陽を迎え撃った。
2つの拳はぶつかりあった。
周辺には衝撃波が伝わった。

ドコバコドコバコドコバコドコバコドコバコドコバコドコバコドコバコ………

2人は拳と脚をものすごいスピードでぶつけあった。

「はぁはぁはぁ……追いついた……!」
春人は走って近くに行って、2人の戦いの様子を見た。

「やぁああああ!」

シュン…

「しまった!」
「にゃあああああああ!」

ドカン!

「がはっ!」
「にゃ!」

ピュ〜ドゴン!

花陽が凛にパンチを食らわそうとすると、凛はしゃがんで花陽の腹を殴って動きを止めて上から両方の拳で花陽を地面に叩きつけた。

「花陽ちゃん!?」
「いてててて……やるね……凛ちゃん……」
「やっぱり一筋縄ではいかないにゃ……」
「ふふっ……行くよ!」

シュン…

ドゴッ!

「にゃはっ…!」
「瞬間移動!?」
花陽は凛の後ろに瞬間移動し、お返しとばかりに凛の背中の上の方を両手を握って殴った。
「まだまだっ…!」

シュン…

ドン!

「かはっ…!」
花陽は凛の落ちて行く先に瞬間移動してもう1発パンチを食らわせた。
「いくよ……『百米拳(ひゃくまいけん)』!たぁあああああああ!!………」
「にゃは…!にゃは…!にゃは…!にゃは…!………」
花陽はそれから必殺技『百米拳』を繰り出した。あ、百米拳は白米と百裂拳をかけていて……
「たぁ!」
「にゃはっ…!」
「あ、凛ちゃん!」
「ふん……」
花陽は百米拳を発動し終えると、凛を放った。

ズザザザザ……

「凛ちゃん、大丈夫!?」
「え、えへへへへ……大丈夫だよ……」
凛は苦しそうに言った。

「もっと……もっと楽しませてよ!」
「は…花陽……ちゃん……?」
「か…かよちん……?」
「それで終わりなのぉ!?まだやれるでしょう?もっと…もっともっともっと楽しもうよ!凛ちゃん!!」

ズゴォォオオオオオオ!

「っ…!?花陽ちゃんから黒いオーラが……!?」
「もっと……もっと!!」

ズゴォォオオオオオオオオ!!

「ま…まさか……白米の想いが暴走してかよちんが……!?」
「そんな!?」
「さぁ……楽しもうよ……凛ちゃん!」
花陽はそう言うと凛と春人に向けて突進してきた。
「っ…かよ……ちん……!」
「ダメだよ凛ちゃん!」
「でも…」
「くっ……うぉおおおおおおお!!」

ドン!

「っ…これは……!?」
「春……くん……?」
「まさか……この力を使うときが来るなんてね……」

花陽のパンチは凛か春人に当たることは無かった。

なぜならその前には……



春人が出したピンク色の"壁"があるからだ。


そしてそれを出した春人の右手の甲には桜の紋様が付いていた。


「これは『サクラ・ウォール』だよ」

「サクラ……ウォール……!?
まさか……春くんって……!?」

「そう……僕は"壁使い(ウォーラー)"なんだ」

壁使いと書いてウォーラーと読むそれは、選ばれたものに与えられた力……大切な人を守る力。
それが使う壁は何種類かあり、その種類ごとに手の甲に紋様が付くのだ。

「春人くん……なんで凛ちゃんの味方をするの?春人くんは白米よりラーメンの方がいいの?」
「てやぁ!」
「くっ……!」
春人はサクラ・ウォールで花陽をはじき返した。
「花陽ちゃんは……」
「春……くん……?」
春人は立ち上がった。




「僕が花陽ちゃんを救ってみせる!」
その春人は「やってやる」という表情だった。

「春人くん……絶対白米の方がいいんだよ……白米が一番なんだよぉ!!」

花陽はそう叫んで突進してきた。

「花陽ちゃん!!」

ドン!

「っ……また……!?」
「『ローズ・ウォール』……てやぁ!」
「くっ……!」
花陽はまたはじき返された。
「まだだぁぁああああああ!!」
そして春人は壁を出したまま突進した。
「うそ……!?くっ……『百米拳』!」
「うぉおおおおおおお!!」
花陽の百米拳と春人のローズ・ウォールが激突した。


そして花陽の百米拳が終わったあと、春人のローズ・ウォールがはじけて花びらが舞った。



「このっ……!」
「花陽ちゃん……!」
「っ……!?」

花陽がその花びらにくらむ中、春人は手を伸ばして花陽を引き寄せて抱きしめた。

「花陽ちゃん……元に戻って……」
「春人……くん………」
「僕は……僕は………!」
「んっ!?」


春人は唇を花陽の唇に合わせた。


周りにはまだ花びらが舞っていた。


「んはぁ……僕は……いつもの花陽ちゃんが好きなんだよ……」
「春人……くん……」

「春くん……そうか……」
凛はそんな2人を見て目を閉じた。

「花陽ちゃんは………どう?」
「私も………私も春人くんのことが好きだよ!」
花陽は笑顔で春人に抱きついた。
「花陽ちゃん……!」
春人も花陽を抱きしめた。


花びらは2人を祝福するように辺りを舞っていた。






「じゃ、私が勝ったから今日の朝ごはんは白米だね!」
「そ…そうだね……あはははは……」
「り…凛のこと忘れないでにゃ……」
「あ、凛ちゃん!大丈夫!?」
春人は凛に近づいた。
「凛ちゃん!ごめんね……」
「ううん、平気だよ?
久しぶりにかよちんと拳を交えて楽しかったにゃ……」
「うん、そうだね!」
「さ、帰ろうよ2人とも!」
「「うん!」」

そして3人は歩き出した。

「にゃ〜!」
「凛ちゃん!?」
「あ、春人くんは私のだよ〜!ふふっ…」
「花陽ちゃん……ははははっ…」
凛は春人に飛びつき、花陽は左腕に自分の腕を絡めて寄り添った。

3人は最高の笑顔を浮かべて戦闘で少し破壊された花陽の家に戻って行った。



その後、"春人"は花陽のお母さんに怒られて壊れた花陽の家を修理したという……


 
 

 
後書き
ありがとうございました!
少しばかり加筆しましたが、いかがだったでしょうか?
ついでに私は白米派です!さて、みなさんは白米かラーメンのどっち派でしょうか?
え、普通そこは白米かパンかじゃないかって?
そこを気にしちゃ〜おしまいですよ。

それでは、私以外の方々はもっと素晴らしい作品だと思いますので企画小説、お楽しみください! 

 

高坂姉妹の休日 【カゲショウ】

 
前書き
本日は『ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~』を執筆しているカゲショウさんです!!



まず最初に企画に参加させていただいた事に感謝を。ありがとうございます。内容は『ギャグ』となっていますが、今回は薄めに新たな姉妹愛という領域を開拓してみました。よろしくお願いします


 

 





「何かでかい事がしたい」

 私の姉、高坂穂乃果は突然そう私に告げた。何の前触れもなく、唐突に。しいて言うなら通ってる大学の友達からもらったギネス記録名鑑を眺めてたぐらい……って、それが原因か。
 大学三年生にもなってまったく精神年齢に進歩がみられない姉に対して私は思わずため息を吐いてしまう。自分を曲げないのはいい事なんだろうけど、年相応の思考回路を放棄した姉に私は冷ややかな視線と現実をくれてやる事にした。

「馬鹿な事言ってないで、目の前の単位の事に集中したら? お姉ちゃん習得単位ギリギリなんでしょ?」
「う、うぐっ!? 何で雪穂がその事を知ってるの……っ!!??」
「隠すつもりがあるならまず机の上に成績表を放置しない事と、ことりさんに泣きつくのをやめた方がいいよ」
「ことりちゃんが裏切ったの!?」
「正確にはお姉ちゃんの単位を心配したことりさんが絵里さんに相談して、それを聞いた亜里沙から話を聞いたんだけどね」

 まぁそうじゃなくても高校時代に一躍有名人になったわけだし、同じキャンパス内にいれば噂だって耳に入ってくるよね。しかも私が妹だからって理由で教授たちも何とかならないかって相談しにくるし……。残念ながら手遅れなんです、教授。
 海未ちゃん以外にも言っちゃダメっていっとけばよかったぁ、と頭を抱えて後の祭りを開催している姉を見て自業自得だよと心で呟く。
 これで多少は唸り声が聞こえるけど、明日提出のレポートに集中できると思ってノートパソコンに向き直る。

「それでも……それでも何か大きな事をやりたいんだよっ!! わーるどわいどだよっ!!」
「諦めないの!? というかどれだけの規模の事をしようとしてるのさ!?」
「世界レベルの事だよ?」
「一介の大学生が出来る範疇を軽く飛び越えてるから、それ……」

 まさか諦めてなかったなんて……。しかも世界レベルのでかい事って…………今時小学生でも大人な思考回路してると思うんだけど。
いつから私の姉の思考レベルは大学生から小学生レベルまで落ち込んでたんだろ? 妹として少しだけ恥ずかしいし、何より何でちょっとレベル高めの大学に入れたのかが姉が入学できてからの疑問なんだけど、誰か分かる人いませんか?

「ともかく、いつ叶うか分からない理想より、今目の前に迫ってる現実を直視してよ」
「取り敢えず手始めに何をするのかを決めないとだね」
「聞いて?」
「……………………ヒッチハイクの旅?」
「それは既に電波な少年たちが決行済みだから。世界はそんなに甘くないから」
「じゃあレンタカーの旅!」
「難易度下がり過ぎじゃない!? 免許とレンタカーショップ行けば誰でもできるから、それ!」

 私の姉は世界をなんだと思っているのだろうか? というか、本気で世界レベルの事=ヒッチハイクの旅だと思っているのなら姉の思い描く世界はどれだけ単純で優しい世界なのだろうか……。
 隣で真剣に考えこみ始める姉を横目でちらりと見て、私は一つ溜息を吐く。
 姉が言うように何か大きなことをしたくなる気持ちは、実は私だって分からないでもない。年が近い人の功績とか何かを成し遂げた人の話をとかを聞くと、自分も何かして大成功したいなと思う時がある。多分、今の姉はその魔法にかかっているだけなんだろうな。

「雪穂―」
「何? お姉ちゃん」
「取り敢えずトランプして遊ぼっ」
「お姉ちゃんは少し言動に一貫性を持ってくれるかなぁ!?」

 意外と魔法が解けるのが早かったようで、特に何も思いつかなかった姉は引き出しからトランプを取り出して手慣れた手つきでトランプの束をきっていく。
 結局お姉ちゃんが思いつく世界レベルの事はヒッチハイクしかなかったようで、私はそれしか思いつかなかった姉の発想力に少しだけど悲しさを感じた。

「二人しかいないからポーカーにしよっか」
「そこは普通スピードとかじゃないの? しかも私やるなんて言ってないし」
「えー。やろーよー」
「明日までのレポートがあるから無理」
「そんなの明日の一限の間にやってしまえばいいんだよ!」
「その一限目の最初に提出だから今やってるの」
「単位一つくらい落としても問題ないんだよ?」
「私はお姉ちゃんの背中を見て育ってるから、ちゃんと学ぶべきことは学んでるからね?」

 むぅと頬を膨らませて拗ねる姉を見てるとどうしても年上だと思いたくなくなるんだけど。お姉ちゃん今何歳? 精神年齢本当に幼すぎじゃない? 成長が見られなくて私少し泣きそうなんだけど。
 お姉ちゃんは暫くぶーぶーと抗議してきたけど、それが私に効かないと分かったからなのか、いつになく真剣な顔でこう言った。

「分かった。なら百歩譲って雪穂はレポートしててもいいよ」
「何でお姉ちゃんが譲歩する側なの!?」
「でもレポートが半分終わった時と、完全に終わった時は私と遊ぶことっ。いいね?」
「びっくりする位訳が分からないんだけど!? というか、そのしょうがないなぁって顔やめてよね!!」

 まるでわがままな子を見る母の様な顔で私を見てるけど、どっちかっていうとその顔で見られるべきなのはお姉ちゃんの方だからね!? 
 そう抗議してみるけど、お姉ちゃんはただその顔で頷くだけで私が譲歩されているという雰囲気を壊させてはくれなかった。
 …………なんだかなぁ、最近のお姉ちゃんはいっつもこんな感じでかまってちゃんなんだけど、なんなの? ことりさんや海未さんと何かあったって訳でもなさそうだし、本当に何なの。

「…………はぁ、しょうがないなぁ」

 私はデータを保存してパソコンの電源を落とす。そしてお姉ちゃんの方を向く。

「少しの間なら遊べるから、何かして遊ぶ?」
「雪穂……」

 お姉ちゃんが驚いて綺麗な目を大きく開いて私を見つめる。
 私が苦笑交じりの微笑みを浮かべると、あのμ’sラストライブの日に見せてくれた太陽の様な満面の笑みを浮かべた。
 昔から私の好きだったお姉ちゃんの全開るい笑顔。そういえば最近この顔を見ることって全然なかったなぁ……。
 今思えば結構大学が忙しいからって、姉ちゃんやお父さんたちと話す機会が少なくなったきがする。そりゃこの顔を見る機会も少なくなってくるよね。

「じゃあ取り敢えずトランプしようよ。ポーカーをやるんだったよね」
 
 お姉ちゃんの手からトランプをとって、ポーカーをするためにトランプを振り分けていく。トランプ自体も久しぶりだから少しだけ紙質が指先に新鮮に感じた。

「ふっふーん! 穂乃果から勝負を仕掛けたんだから負けないもんねー」
「お姉ちゃんは結構大事な所で顔に出やすいから勝つのは私だよ」

せーので配った手札を見る。スペードのエースに二。クローバーの四に八、そしてハートのキングかぁ……予想はしてたけどかなりバラバラだなぁ。
手札を見て暫く考え込む。お姉ちゃんも私と同じように手札が芳しくなかったのか、眉間にしわをよせて小さく唸って考え込んでいる。
という事は二人とも今はハイカード状態で、数字は結構ばらつきがあるからストレートとかの警戒は必要無さそうかな。ならここはちょっと冒険してみて――

「オールトレードっと」

 手札を伏せて全部捨てる。結局は賭け事なしのお遊びだし、冒険して自分の引きの強さを見極めてみようかな。
 山札から新たに引いたカードは全てスペード。だけど結局は四のワンペアが出来上がっただけで後は揃わなかった。
 ま、取り敢えずは一組で来ただけでも良しとしよう。そう思ってお姉ちゃんを見ると、三枚を伏せて捨てて、同じ枚数引き直し眉間に寄せた皺を薄くしてた。という事はお姉ちゃんも何か訳が出来たって事かな? 感覚的に……ツーペアかな? でもワンペアの可能性も捨てきれないし……。

「雪穂、どうする? 勝負する?」
「うーん、そうだなぁ……」

 可能性としては負ける可能性が高いわけで、本来ならおりる一択なんだろうけど……。ま、いっか。

「勝負だよ、お姉ちゃんっ」
「それじゃ、オープン!!」

 お姉ちゃんの掛け声とともに二人とも一斉に自分の手札をひっくり返して開示する。
 そして私は、お姉ちゃんのその手札に頭を数発殴られたような衝撃をうけた。

「お、お姉ちゃんこれって……」
「ふふん、ファイブカードだよっ!!」

 そう言って自慢気にドヤ顔で胸を張るお姉ちゃんの手札は、確かにファイブカードと言えなくもなかった。だって、クイーンが五枚あったのだから。
 そう、何故かクイーンが五枚並んでいた。ファイブカードを直訳すれば何らおかしなことは無いんだけど……。本来のトランプは一セット四種類のマークがあって、それぞれAからKまでの十三枚あって、+ジョーカー二枚の計五十四枚で小売りされている。
 だから、一セットしか使わないポーカーにおいて同じカードが五枚揃う事などあり得ないわけで、つまりこれは――――

「もの凄いバレバレのイカサマじゃん!!」
「あいたっ!!??」

 お姉ちゃんの脳天に手刀を振り下ろす。それを食らった本人は痛そうに頭を押さえながら何でばれたのかという困惑の表情を浮かべてる。私としては寧ろ何でこれでばれないと思ったのか知りたいし、役もろくに覚えていないのに何でポーカー勝負を仕掛けてきたのかが謎で困惑してるんだけど……。

「……お姉ちゃん、私もうレポートに戻っていいかな?」
「今度はイカサマしないから!! ことりちゃんに教えてもらったイカサマはしないから!!」
「それ教えたのことりさんだったの!?」

 あの人は何をうちのお姉ちゃんに吹き込んでるんだろうか……。多分、冗談半分で行ったことをお姉ちゃんが馬鹿正直に信じただけなんだろうけど。この場合イカサマという手段をお姉ちゃんに教えたことりさんに少し怒るべきなのか、それともそんなバレバレの嘘にまんまとひっかっかったお姉ちゃんを嘆けばいいのか……。亜里沙、私はどうすればいいのかな?

「もう、次やったら本当にやめるからね?」
「えへへ、わかってるよぉ」

 少し叱るように言ってみたけど、私の予想に反して少しだけ嬉しそうな顔をするお姉ちゃんに少しだけ拍子抜けしてしまう。……今のやり取りで嬉しくなるようなところってあった?

「……なんか、今日のお姉ちゃんおかしいよ」

 私がクイーンを一枚抜いて山札に戻したカードをシャッフルして配る時にぽつりと呟いてみる。するとお姉ちゃんは、小首を傾げて頭の上に疑問符を浮かべた。

「そう?」
「うん、なんか、こう、全体的にテンション高めというかノリが奇妙というか……」
「そうかなぁ……?」

 お姉ちゃんは自分に配られた手札を見つつ考え始める。
 そして、手札をトレードするのと同時に、笑いながらこう言った。

「もしそう見えるなら、雪穂と久しぶりに遊べたからかな」

 …………なんじゃそりゃ。妹と遊ぶのなんてそんなに楽しいものでもないだろうに。
 でも、何となく。ほんの少しだけお姉ちゃんと遊んだこの時間は懐かしく感じたのは、本当に久しぶりだからなのかなぁ。

「…………やっぱり今日は特別おかしいね、お姉ちゃん」

 そしてお姉ちゃんの言葉に少しだけ共感してしまった自分も、もしかしたら少しおかしなテンションになってるのかもしれないなぁ。
 特別おかしいって何!? と抗議する姉に、私はいつもおかしいって事と嘆息交じりに手元のスリーカードを見せてお姉ちゃんの追撃をかわした。
 これが絵里さんから教えてもらったイカサマを使ったといつ気付くかわくわくしながら、私たちはお母さんにご飯だと呼ばれるまで遊んでいた。そんな休日の一日。






 
 

 
後書き
読了ありがとうございました。本当は別の話を掲載する予定でしたが、不幸な事故により今回の内容になりました。折り返し地点として一息つけるような作品になったのなら本望です。
今回は関係者各位、特に主催者のウォールさんには多大なご迷惑をおかけしてしまって、本当に申し訳ありませんでした。そして、読んでくださった方、本当にありがとうございます。これからもこの企画は続くので、ぜひ楽しんで明日までお待ちいただければ幸いです。それでは、引き続きお楽しみください。 

 

その微笑みは...... 【雪桜(希う者)】

 
前書き
本日は『裏切りの先に..』を書いている『雪桜(希う者)』さんです!!テーマは『バッドエンド』

 

 




東京。

発展が著しいこの日本の首都では約1400万もの人が暮らしている。
かくいう俺もその中の一人な訳だが、俺は今、音ノ木坂学院という最近共学化された学校に転校してきた2年だ。

親の仕事の関係などもあり、どこの高校に行くかは決めかねていたが親の知り合いの西木野さんに娘さんが入学したところはどうだと薦められ、音ノ木坂に転校してきた。

前の高校は…思い出したくもない……

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引っ越して半年ほどがたったある日

「今日は両親ともいないから適当に何か作るか。とはいえ何にしようか………
真姫、なにかいい意見ない?」

「なんでそこでこっちに話をふってくるのよ。別にあんたの食事なんだからあんたが決めなさいよ。」

「デスヨネー。まあ、めんどくさいしカップラーメンになるかな?」

「はあ、栄養片寄るといいことないわよ。無難に野菜炒めとかにしておきなさい。」

「なんだよ。意見があるなら最初からそれいってくれればいいじゃねえか、まあいいけど。」

真姫の両親から毎日でなくてもいいから週に1度くらい真姫といっしょに帰って来てくれと言われている。

要するに体のいいボディーガードとしたいんだろう。

まあ、こちらに何か用事があるわけでもなく、真姫の家は帰り道の途中なので気にしてないけどな。

っと、もう真姫の家の目の前まできてたな。

「それじゃあ、また明日ね。」

「ああ、またな。」

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真姫と別れて家の冷蔵庫にほとんどものが入っていないことを思い出した。

「あ~、買いに行くのもめんどくさいなあ。
はあ、自転車で行くか。」
とりあえず一番近いスーパー行ってくることにした。



「たまご買って、牛乳買ったから……こんで買うものも買ったはず。っし帰るか。」

いやー卵が安くて助かったわー。
なんて思っていると、

「よう、ひさしぶりだな」

それは転校前の高校の先輩だった。

俺が前にいた高校はいわゆる不良高校だ。
タバコを吸うのは当たり前で吸っていなかったのは自分くらいなものだろう。

地域からは毛嫌いされ、名前を出すだけで関係を切られるような高校だったが、うちの親は相当な放任主義で公立の高校に進むのならどこでもいいというような親で、中学でサボり過ぎたお陰でそこにしか入ることが出来ずやむなく進学したのだ。

それ故に音ノ木坂に転校するにあたって死にも狂いで勉強したものだがそれはまた別の話だ。

「お久しぶりです。どうしたんですか?」

「特になにかあって来た訳じゃねえ。修学旅行で来させられただけだ。修学旅行なんざめんどくせえだけだが、これさえ参加すれば卒業させてくれるらしいからなぁ。
まあ、3日間ここで何してもいいらしいからなぁ、適当に過ごすさ。」

「……そうっすか……、まあ、こっちにくることもそうないでしょうし、楽しんでください。」

まあ、今後関わることもないだろうから差し当りのないことをいっておくことにした。

転校するまでに幾度となく嫌なこともやらされた。これ以上は話したくもない。


「なあ、おめえ、向こうにいたときのことが全て消えると思ってねえだろうな?」

「……なにが言いたいんですか。」

「いや、なんでもねえよ。じゃあな」

「ええ、さようなら。」

漸く解放された。
もう、あんなところになんて戻ってたまるものか。

絶対に……、絶対に!

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あのまますぐに家に帰って寝た。
晩御飯を食べる気にも、風呂にはいる気にもならなかった。

そして翌朝、朝4時に目が覚めてしまった。
思い出したくないことの夢でも見ていたかのように着ていた汗でびっしょりだった。
真姫との約束の時間までにはまだたっぷりと時間がある。

「………少し走ってこよう。それでシャワーだけでも浴びておくか」

走ってもシャワーを浴びてもなにかが体にまとわりつく感覚は消えなかった。

そうこうしているうちにちょうどいい時間になったので家を出た。

さすがに真姫を待たせるわけにはいかない。

そう思い10分前には真姫の家につくように家を出たのに、

「ちょっと、この私を待たせるなんてどういうこと?」

家の前にこいつがいるんだぜ。

なんでこうも早いんだか。
はっ。悩むのが馬鹿馬鹿しく思えてきたよ。

「はいはい、悪うござんしたっと。ほら、さっさと行こうぜ。」

「あ……ちょ、ちょっと待ちなさいよー!」

なんだろう。やっぱり、こいつといると安心できる。

━━━━━━━━━━━

そのまま真姫と音乃木坂まで登校してきた。
いつも通りの1日になるはずだった。

だが、そうはならなかった。

それは教室に入った瞬間目に飛び込んできた。

机が荒らされていたのだ。

よくアニメで見るようないじめられているやつの机のように落書きされたり、ごみ箱のような有り様になっている。

(なんで、俺の机がこうなってんだ?誰がこんなことしやがった!)

声に出しそうになったが寸前でこらえる。
逆にここで声にしたところで逆効果になるであろうことは読める。
それにいろんなところからこちらをチラチラ見ている視線を感じる。

ならばここはなにもなかったように振る舞おう。そして、犯人が痺れを切らしたときにまとめて掃討してやる。

そう決断してから、放課の度にトイレに行くふりをしてわざと俺の持ち物をがら空きにして相手を誘っておいた。
相手も連続でやるのは不味いと思っていたのか次の日は手を出してこなかった。

しかしそのまた翌日、早く目が覚めてしまったためいつもより早く登校してみるとちょうど俺の机をいじっている、女子の数人と俺以外のクラス全員がいた。


怒りも湧いてきた。

だが、それ以上に驚きが上回っていた。


(クラスの大半だと……、おい、冗談だろ。)
そう思っていると、

「この前、喧嘩ばっかで勉強できない不良校のクズと仲良くしゃべってたらしいじゃねえか。しかもここに来るまではお前もその仲間なんだろ?クズが」

なんてことを誰かが言ってきやがった。

瞬間、俺は思いっきりぶちギレた。

あんな奴らと一緒にされることだけは何がなんでも許せなかった。

「訂正しろ。俺をあんなやつと一緒にすんじゃねぇ!」

俺はそいつに殴りかかった。が、周りの奴等が俺を止めると同時に羽交い締めにしてきた。
そこからは先生が来るまでタコ殴りにされた。
顔を狙ったり制服が不自然に汚れているとバレることも知ってるようで学ランを脱がされ、カッターシャツ1枚となったところで腹を殴ってきやがった。

教室に先生が入ってくる直前で、
「先公に喋ってみろ?ここにいるほとんどがもうお前の過去を知ってるんだ、兄妹や近所の人、繋がってるSMSの全てを駆使して拡散することなんて容易いんだぜ?別に喋りたきゃ喋ればいいよ。そのあとは知らんがな。他の奴等も同じだからそこは肝に命じておけよ。」


先手を撃たれた。
この一言だけで俺からは何も出来なくなった。

別に親族に知られようがどうでもいいし、取材やらが来てあの親が恥じをかくようなら喜んで報告してこのクラスごと世間の目に晒してやろうと思う。


でも、真姫にだけは知られたくなかった。

何故かはわからない。でも、それだけは無意識に避けていた。



━━━━━━

それからと言うもの、授業が終わるとすぐに
「ちょっと来いよ」
なんて呼び出され体育館裏まで来たところで蹴られ、殴られ、金をとられた。
体育館裏には震災時用の食糧などが保管されている倉庫くらいしかなく、しかもほとんど点検などされないためこんなときには持ってこいな場所となっている。
制服に殴られたり蹴られた痕が残れば教師も気づくなんて思っていたが、そこも奴らは対策していた。俺に服を脱がさせ、長袖のボロい服を着せた上で殴ってくるのだ。頭と腕、脚は絶対に狙ってこなかった。
それまでに徹底してバレないように対策をした上で俺をいじめていた。
クラスのやつどころか3年生が来ることもあった。
あいつらは人を殴るのが楽しいらしい。
抵抗できないことが心底おもしろいらしい。
クラスのほとんどが同じ事をしてきた。女子の内、6人だけなにもしてこないやつらがいた。だがあいつらも何もしないだけ。助けようとはしない。結局俺は一人なんだ。

━━━━━━━━━━

朝はバレる可能性が高いためか、なにもしてこなくなった。だが、その分午後に待っていることを考えてしまうため、真姫から朝一緒に登校しようと言われたとき。
考えていなくてもいいこのときくらいしか心が休まらなかった。


「最近どうしたのよ?顔色悪いわよ?」
真姫に聞かれた。

でもこれを聞いてくるということはバレてないってことだな。

「別にちょっと寝不足気味なのが祟ってるだけだよ。ゲームやってると気がついたら1時とか余裕で越えてるんだよ。」
嘘だ。

夜はどうしても次の日のことを考えてしまうからとてつもなく早く寝ている。


でもどうしてこんなに胸が痛いのか。
ただ、嘘をついてるだけなのに。


「そう?ならいいんだけど。別にあなたの心配をしてる訳じゃないんですもの。」
「はいはい、わかってるよ。そんなこと。」

なぜかそれ以来、真姫が朝、誘ってくることが多くなり、頻度は低いものの帰りも誘って来るようになったのだが、俺にはその理由を知るよしもなかった。

━━━━━━━━━

1ヶ月が過ぎた。真姫が帰りに誘ってくる日はなにもされることなく帰れるのだが次の日には結局殴られ、蹴られ、傷つけられる。

正直に疲れた。もう死んでしまいたいと思った。

「……そうだよ。別に死んじゃえばなにもされないじゃん。死んじゃえば別にバラされたって俺には関係ないじゃん。
なのに俺が死んでも悲しまない親に、俺が死んだらやってたことがバレて困るやつらがいる!
なんだよ、こんないいこといいことずくしじゃねえか。は……はは……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……はぁ……、
……、それが出来れば今ごろ、こんなことになってないか……、」
何が正しくて、何が悪いのか、何をしていけばいいのかわからないほどになっていた。

そしてその日は、珍しいことに何もしてこなかった。
(今日に限って……何もしてこねえのかよ……、)
真姫との約束もなければ、家に帰ったところでやることもない。
少し出掛けてみることにした。
━━━━━━━━━━━━
適当に歩いて外で夕食を済ませることにし、家に帰らず、そのまま歩きだした。
まるで今この一瞬一瞬を踏みしめるようにして歩いているようだった。

気がつけば秋葉原まで歩いていた。
時刻は6時、丁度人の集まる時間帯にさしかかり、電気街は多くの人で賑わっていた。
(この中にクラスのやつがいたら笑いもんだな。)
なんて思いながら歩く。
だが、すぐに歩くのにも飽きてしまった。
ここまで来て何もせずに帰るのもなんだし、飯だけ食ってどこか適当に行くか。

ひとまずはどこか店を探すことにした。

━━━━━
結局はファストフードで済ませた。今の彼の心においしいなんて感じられるだけの余裕などなかった。感じているのは満腹感だけだった。

結局帰ることもしにくく何となく近くにあった駅に入った。
一応電子マネーを持っていたため改札口は通れた。
階段を昇る。ホームではうるさいくらいにアナウンスと自動音声が鳴り響いている。

(ここで電車が来る瞬間に線路に落ちてしまえば死ねるのかな……、死んだら楽になるのかな)

彼のなかで黒い感情が渦巻く。

死にたい。

悲痛な叫びをあげる彼の心。葛藤する想い。



生き続けて"苦しみ続ける"か
死んで"苦しみから逃げる"か



すでに傷が深く刻み込まれていた彼の精神は後者を選択した。
そんなときアナウンスが入る。電車の接近を知らせるもの。


(これで死ねる。これで誰にも迷惑にならない。)



それでも心は傾ききってはいなかった。どうしても死にたくないと思っていた。頭ではそう考えていても足がうまく動かせなかった。

それでも無理矢理に体を動かす。さっきの電車は行ってしまったが帰宅時間帯だからすぐに来る。

心を決めてホーム端に立った。あとは少し前に倒れるだけで死ねる。

腕を掴まれないよに前に出しておこう。
教科書類がたくさんはいって重いかばんを背負ったまま倒れよう。


再びアナウンスが入る。次の電車が来ることを知らせるものだ。

まだ戻れる。でも今更引き返すことができるほどの勇気はなかった。

静かに目を閉じる。

さあ、倒れこもう。


倒れこむ瞬間、なんだか後ろから押された感じがした。

足が浮く。浮遊感を体に感じる。

ホームに入ってくる電車のミュージックホーンが聞こえる。

これでなにもかも……………………、

━━━━━━━━━━━━━

ここは……、どこだ……
なにもない場所だ。
そうか、死んだのか。
案外あっけないものだな。

あ、真姫!

話したいことが山ほどあるんだよ。
こっちで話そうぜ。

(……)

どうしたんだよ?どうして来ないんだ?

どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんだ?

(………………………)

あ、まって!行かないで。話したいことが、もっと近くにいるだけでもいいんだ!


だから、待ってくれ

真姫、真姫、まき、まき、まき、まk……、

━━━━━━━
ピッ……、ピッ……、ピッ……、
一定のリズムを刻む電子音が聞こえる。

体が動かせない。

そこで、そっと目を開ける。

(知らない天井だ。ここは……、病院か?)

「はっ、先生、先生!患者さんが!」
こんな声が聞こえるあたり、僕は死ねなかったらしい。

━━━━━━━

そこで来たのは真姫の父親だった。
「体は痛むかい?」
「正直なところ、あまり痛くありません。」
「そうか、聞きたいことは山ほどあるんだが、先にこちらの方々に話してもらわないといけない。」

(こちらの方々?)
真姫の父が部屋から出るのと同時に人が入ってきた
「こんにちは、私は刑事の………」
淡々と自己紹介をしていく刑事の……、えっと、名前を聞きそびれた……、まあ、どうでもいいがな。

「………触事故と西木野真姫さんの死亡事故についてお話を伺いたく参りました。」





…………は?真姫が……、死んだ……?






「えっと……もう一回言ってもらっていいですか?ちゃんと聞いてなくて。」

「ええ。ではもう一度言いますね。
今回はあなたの接触事故と西木野真姫さんの死亡事故についてお話を伺いたく参りました。」

聞き間違いであってほしかった。

俺が死なずに、真姫が死んだ?

無関係の、死ぬ必要の無い真姫が死んだ?

思いが頭のなかを駆け巡る。


だが一つだけ腑に落ちない。


俺の自殺と真姫が繋がらない。




「あの、俺には真姫がなんで死んだのかわからないんですが。」

「駅にいた人によれば、倒れそうな君を後ろから押して少しでも奥に倒れるようにしたのではないかと。ただ、その勢いを殺せずそのまま彼女も線路へ落ちてしまったと聞いている。」

……、俺のせいじゃないか。

俺が自殺しようとしたから真姫は電車に轢かれて死んでしまった。

……、すべて、俺のせいじゃないか。

俺が彼女を殺したんじゃないか。

━━━━━━━━

その後は頭が回らなかった。

欠落した感情を求めることもできず、ただただ淡々と受け答えをしていた。

いじめのこと。親のこと。前の学校のこと。

すべて聞かれるがままに答えた。


俺も骨折したところも順調に回復しているようで来週辺りでリハビリを開始するらしい。


コンコン

だれかがドアをノックしたようだ。まあ、俺に見舞いにくるような友人はいないのでどうせ看護師さんがなにかしに来たんだろう。
とりあえず返事だけしとくか
「どうぞ」

「失礼します。」

入ってきたのは看護師さんなどではなかった。
それはクラスで手を出してこなかった女子の3人だった。

「こんにちわ、体は……まだ直ってないみたいだね。あ、知ってると思うけど一応ね。
私は同じクラスの高坂穂乃果。こっちは……」
「園田海未です。」
「南ことりです。体は大丈夫?」

クラスメイトとはいえ名前も覚えていなかったので名乗ってくれて助かった。とはいえ今更何をしに来たというのか
「どうしてここに来たんだ?」

答えにくそうにしている高坂と南をみてか、園田が口を開いた。
「実は、あなたのことがあって警察の人がいらしたのです。それで全員が事情聴取を受けて、あなたに手を出していた人は全員、なんらかの罰に問われました。中には退学処分となった人もいるようです。それから……、」

そうか、もう処分まで決まっていたか。
だが俺にはもう関係ない話だな。聞く必要ない。


だが、そうはならなかった。
「……、っていてそれでいじめが始まって少ししたときに私たちの口から、μ’sのみんなにはこの件を話してしまいました。その件については本当に申し訳ないと思っています。」

μ’sに話した。つまり、真姫はこの事を知っていたわけだ。
ということはあるときから真姫が帰りに誘ってくることが増えたのもそのためかよ。

は、はっははは、はははは……、
隠し通すなんて無理だったのか。

情けねえ。女に守れてるようじゃ意味ないじゃないか。

彼女らが突きつけた事実は俺の心をさらに不安定にさせ、俺の後悔の念は強まるばかりだった。


━━━━━━━━━━

それから月日が流れ、彼は退院を迎えた。

季節は初夏から冬へと移っていた。

彼の住んでいた家にもう彼の両親は住んでいないが、家に帰って来るなという意味も込めてこの家を残していったどこかへ行ったのだろう。

彼の心はあれ以来ほとんど変化していない。

欠落した感情は戻らず、替わりに一つの想いが彼の心に芽生えた。

━━━━━━
都内某所

人で賑わう居酒屋の明かりが届かない、路地裏に、ひっそりと佇む彼。
生ごみの腐敗する臭いが漂うなかで、彼は罪を犯そうとしていたいた。

時刻は午後9時

彼は火を放とうとしていた。

周りに人はいない。ここで火を放てば死人が出ずに罪を受けられると思ったのだ。

すべては真姫への償いと自分を罰するがため。

そっと、生ゴミの山に火を放った。

ごうごうと大きく燃え上がる。

彼は火が周辺へ広がりつつあるを確認してその場を去った。

今の彼は死にたい訳ではなかった。

贖罪するため。彼自信の禊を済ませないうちに彼は死ねなかった。

案の定隣の大通りにも火が回り、被害さえ出始めていた。



━━━━━━━━

家に帰ってきた。あとは国家権力が自分が犯人たる証拠を持ってうちに来るのを待つだけだ。

ふと、あの火はどうなったか気になりテレビをつける。

目に飛び込んできたのは一面火の海と化した東京の映像。
どこの局を見ても同じことを報道している。

瞬間、映像に人が火の中へ飲まれる様子がうつった。

彼は微笑んだ。

「これだけの規模になれば世間が僕を悪と見なしてくれる。
これでいい!これで僕はやっと罪を償える!そうしたらちゃんと真姫に……」





その微笑みは歪んだ想いと共に。






 
 

 
後書き
読了ありがとうございました。
次回もお楽しみに!!! 

 

大切な時間 【名前はまだ無い♪】

 
前書き
今回は二度目の参戦!同じく名前はまだ無い♪さんのお話になります!!テーマは『バッドエンド』。感動作です!





数日振りです。名前はまだ無い♪です。
再び名前はまだ無い♪です。
あ、今回はちゃんとしてますのでブラウザバックしないで下さい。
それではどうぞ


 

 




 とある日の休日。少女は高校の友達二人と遊ぶ為、待ち合わせ場所の駅前で立っていた。

「う〜ん。早く来過ぎちゃったかな?」

 少女は腕時計を見ると改めて辺りを見渡す。そしてふと、自分のことを見てる女性に気付く。
 少女は女性に見られる原因が分からず、自身の格好を見直す。
 青のワンピースに薄黄色のパーカー、白のニーソ。この日は過ごしやすい気温な為、特におかしいことのない服装。顔に何か付いているのかと思い手鏡を取り出し映すも、そこには見慣れた顔が映るだけ。やはりおかしな箇所はない。

「こんにちは」
「こ、こんにちは」

 他に何か原因はないかと考えていると、件の女性に話しかけられる。少し(ども)りながらも挨拶を返す。
 少女の反応に女性は優しい笑みを浮かべると隣に立ち、壁に寄り掛かる。

「あなた、μ'sの小泉花陽さん、だよね」
「は、はい! えと、あの」
「急にゴメンね。私のことはそうね……ハナって呼んで」
「ハナさん、ですか……」

 花陽はハナと名乗る女性に訝しげな視線を送る。その視線に気付いたハナはニッコリ笑うと話を続ける。

「そうそう、私が話しかけたのはね、実は私、あなたのファンなの」
「え、えぇぇええ!」
「そんなに驚く事じゃないよ?あなた達「μ's」ってそうとう有名なんだから。私の友達も言ってたよ?」

 落ち着いた花陽にハナはウィンクをしながら話す。

「あ、あの、ハナさんは一体いつから……?」
「ファンになったか、だよね。私がファンになったのは二本目の配信動画、つまり「これからのSomeday」の時からかな」
「そ、そんなに早くから……ありがとうございます」

 花陽は嬉しさから頭を下げ、お礼を言う。またそれほど初期から応援してくれているファンの人とこうして出会え、話している。その喜びを胸の中で嚙み締める。

「それで偶然見かけたから、花陽ちゃんの友達が来るまでお話しできないかなぁ、って思って、話しかけちゃった。迷惑、だったかな?」
「い、いえいえ! 私も少し早く来過ぎちゃってどうしようって思ってたので」
「そっか。それなら良かった」

 ハナは安心したように息を吐き、笑顔を浮かべる。花陽もそれにつられて笑顔になる。

「そっか。花陽ちゃんはお米が好きなんだ」
「はい! 一日五食全部白米でも構いません!」
「でもそれだけ食べるとお腹周りとか大変なんじゃない?」

 ハナが興奮して話す花陽の顔から視線を少し下げる。視線に気付いた花陽は少し頬を赤くし、お腹を隠す。

「うぅ……あんまり見ないで下さい……」
「あははは、ゴメンね。私も昔気にしてたから」
「ハナさんも、ですか?」

 花陽は笑顔を浮かべながらも謝るハナを見る。
 ハナの優しげな顔。しっかりと首長している女の象徴。平均よりも少し細めに見えるウエスト。上二つとのバランスが取れているヒップ。あまり焼けてない白い肌。そしてあまり肉の付いていない細い四肢。
 とても昔苦労をしたとは思えない体型を前に、花陽はジーッとハナを観察する。

「は、花陽ちゃん? そんなに見られると恥ずかしいよ……」
「こ、ゴメンなさい! その、羨ましかったのでつい……」
「大丈夫。花陽ちゃんも自信持って大丈夫だよ。」
「そ、そうですか?」
「うん。学生の頃は我慢は良くないからね。それにアイドル研究部で踊ったり、階段で走ったりしてるんだから、そうそう太らないよ」

 ハナの言葉に安堵の息を吐く花陽。でも、とハナは話を続ける。

「いくらなんでも五食は食べ過ぎたから控えようね」
「わ、分かってますよ。あれはその、冗談というか、たとえというか」
「ふむ。どれどれ?」

 ハナは、両手を忙しなく動かして否定している花陽のお腹に手を伸ばす。

「ひゃう!」
「おぉ……このくらいなら花陽ちゃんは心配しなくても大丈夫だね。花陽ちゃんは胸があるから体重が重く見えがちだけど、太ってる訳じゃないから安心して良いよ」
「わ、わー! 何言ってるんですか! ハナさん!」

 花陽は慌ててハナの口を塞ごうとするも、逆にハナに抱き締められてしまう。

「やっぱり花陽ちゃんはあったかいね」
「そう、ですか? ……でも、ハナさんも安心する香りです」
「ふふっ。ありがと」

 ハナは笑顔でお礼を言うと、優しく花陽の頭を撫でる。花陽もハナの胸に顔を埋めて気持ち良さそうな表示を浮かべる。
 そしてふと気付いたことがあり、花陽はハナから離れ質問をする。

「あの、さっきなんで私が友達を待ってるって言ったんですか?」

 それはハナが花陽に声を掛けた理由を話している時の事。ハナは確かに「()()()()()()友達が来るまでお話しできないかなぁ、って思って」と言っていた。「私の」ではなく「花陽の」と言ったのだ。それまで花陽は待ち合わせしている事も、相手が友達である事も言っていない。
 それなのになぜハナは友達と待ち合わせをしている事を知っているのか。花陽はそれが気になりハナに問うた。
 一方、問われたハナはクスリと笑うと答える。

「それは簡単だよ。まず両親とのお出掛けじゃないって思った理由は、親となら待ち合わせをする必要がないから。実家に暮らしてるんだし、一緒に家を出れば良いだけだからね」

 ハナは人差し指を立てながら説明する。そして中指を立てて続ける。

「次に一人でのお出掛けじゃないと思ったのは、まぁ簡単だよね。一人だったらここで待つことはしなくていい」

 そして、とハナは薬指を立てる。

「最後に友達とのお出掛け、と判断したのは花陽ちゃんが時々時計や携帯を見ていたから。恋人じゃないと思ったのは、そういった話をあまり耳にしなかったから。こんな感じでいいかな?」
「は、はい! ハナさんって凄いんですね!」

 ウィンクして締めたハナを、花陽は興奮したように見つめる。ハナは笑いながら頭を掻く。

「あははは、そんなに凄くないよ。花陽ちゃんもその内私みたいになれるって」
「なれますか?」
「なれるよ。それじゃあそろそろ時間だから、私はもう行くね」

 ハナの言葉に時計を見ると、確かに二人との待ち合わせ時間になっており、遠くからその二人が近付いて来るのも見えた。

「あ、あの、ハナさんの事を二人に、凛ちゃんと真姫ちゃんに紹介したいんですけど」
「私もね。二人に会いたい気持ちはあるんだけど、さっきも言った通り、時間が来ちゃったから。私行かなきゃ」
「それってどういう……?」
「それじゃあ、花陽ちゃん。今過ごしている時を大切にね。時は有限。それをどう使うかはあなた次第。元気でね」
「あの……!」

 花陽が言葉の意味を問おうとした時、不意に突風が吹き思わず目を閉じてしまう。そして目を開けた時、そこにはハナの姿は無かった。

































 目が覚め、最初に視界に入ったのは既に見慣れた天井だった。

「どうだった?」
「うん、懐かしかったよ。穂乃果ちゃんや絵里ちゃん、にこちゃん達には会えなかったけど、その代わりに私や凛ちゃん、真姫ちゃんと会えたから」

 ハナ……花陽はベッドに横になったまま、横に座っている恋人の青年に答える。

「そっか。それはよかったね」
「うん……でも、君には謝らないと、かな?最期の短い時間を、私の我儘で使っちゃって」
「それは違うよ! 僕こそ、僕の方こそ君に謝らないといけない。君の病気を治せなくて……」

 花陽は俯き、泣いている青年に細く、様々な管が付けられた腕を伸ばし、そっと涙を拭う。

「ううん……その代わり、あなたは私に……最期に最高の思い出をくれた……それだけで充分だよ……ただ、やっぱり、お別れは……寂しいね」

 青年は花陽の手を握る。

「でもね……μ'sの皆もそうだけど、あなたに会えて……私は……幸せだった、よ……」

 花陽はそう言うと、愛し愛された青年に看取られ、眠るように静かに、永い眠りについた。




 
 

 
後書き
まぁ結果論で言えば逝ってるんですけどね……
それでも前回とは違うと声を大にして言いたい。

さて、今回はどうでしたでしょうか。今回も苦手、と言うよりあまり書かない分野なので手探り気味ですが、楽しんで貰えたでしょうか。
細かい設定?
単編にそれを求めてはいけません。

それではまたの機会にとか! 

 

あ、それはご家族の方に許可を頂きました by.花陽 【yukky】

 
前書き

本日はyukkyさんです!!


初めまして。
別の投稿サイトにてラブライブの短編を書いているyukkyと申します。
普段は一人称視点が得意なのですが今回は三人称も入れて見ました。
ぜひラブライブのキャラクターたちがどんな動きをしているのか想像をして読んでいただけると嬉しいです。
では、本編をどうぞ!
 

 

 ある一言から始まった。
「朝はやっぱりパンだよ!」

 これに反抗するものが1人…
「いや!ぜーったいに白米です!」
「パン!」
「白米!」
「パン!!」
「白米!!」

 ああ言ったらこういう。2人とも朝は譲れないらしい。
 こうして部室での戦争の"火種"ができてしまったのである。

「は、ハラショー…」
「誰か止めなさいよ!」
「凛はこっちのかよちんも好きだよ!」

 絵里はこの光景に驚いていて呟き始めた。
 にこは止めなさいと言ったが、面白がっていてにこから止めなかった。
 凛は幼馴染が何やらいつもの言葉を言っていた。

「2人とも争っててかわいいな〜。ここをこうしたら2人に合うかな〜?」
「カードによれば…ふむふむ」
「はぁ…どっちでもいいわ」

 ことりは2人の様子を見てて新しい衣装が思いついたのか、手持ちのスケッチブックに描き始めた。
 希はカードでこの後の未来を占っているらしい。
 真姫は部室の椅子に座りながら、自慢の赤髪をクルクルしている。
 この中で動じず、物申す者がいた。

「2人ともやめて下さい!"どちらでも良い"ではないですか!」

 くるっ

 海未が見たものを言葉で表現するとそんな感じだった。

「「"どちらでも良い"…?」」

 2人の形相を見て海未は思わず体を引いてしまった。
 それを見て穂乃果と花陽は海未にゆっくりと近づいていった。

「え、どうしたのですか…?」

 すると2人は口を開き…

「朝は絶対にパンだよ!海未ちゃん!
 いい?パンはね、白米よりも歯ごたえがあって色んな味があるの!
 それに、パンは遅刻しそうな時にくわえながら走れるし…」
「反論させてもらいます!
 白米よりも歯ごたえがある?そこは認めましょう。しかし色んな味があるのは白米でも一緒…いや、それ以上です!
 鮭とか、昆布とか、塩とか、たらことか、卵とか…とにかくレパートリーがいっぱいあるのです!
 あと、遅刻しそうな時にくわえながら走れるところはおにぎりにすれば解決です!しかも、何時でも食べられるのです!
 だから、絶対に朝は白米なのです!」
「いや、パンだって!」
「穂乃果?それ以上言ったらこの私。何をするか分かりませんよ?
 花陽。何時でも食べられるとはどういう事なのでしょうか?だから最近太ったのですか!」
「ひぃっ!」
「へへ〜花陽ちゃんは白米ばかり食べているからだよ」
「花陽は罰として私のが考えたダイエットメニューをやって頂きます。
 あと、穂乃果も連帯責任としてやってもらいます」

 2人は、えーと言って海未に抗議をしたがこうなった海未に勝てる者などいなかった。

「うふふ、海未は相変わらず厳しいようね」
 絵里はそう言いつつ
「はい!みんな、練習に行くわよ?」

 はーい

 色んな感じの返事が"七人"聞こえた。

「………」

 屋上での練習も終わり日も落ちはじめた頃。

「ねぇ、凛ちゃん…」

「かよちんどうしたの?」

 花陽は凛を公園へと呼んでいた。花陽はもじもじとしながら口を開いた。

「あのね…私…

 朝は絶対に白米じゃないと許せない」

 その言い方の物々しさに驚かざるをえない凛。凛から見た花陽はもじもじしていて、軽い悩み事かと思っていた。呼び出された時も"相談があるの"という一言だけであった。公園まで向かうのも無言だった。

「だから私…

 明日、穂乃果ちゃんの家に行こうと思うんだ」

「……え?」

 先ほどまでとの雰囲気とは違く、突拍子な発言が飛び二つの事に驚く凛。
 それとは裏腹に花陽は話を続けていた。

「行って…穂乃果ちゃんの朝を見てきます!」
「そ、そうかにゃ…かよちんなら大丈夫だと思うにゃ!」
「それでね…凛ちゃん…」
「???」
「穂乃果ちゃんの家にどうしたら忍び込めるのかな…?」

 凛は迷っていた。幼なじみのために言うべきか言わないべきか。いや、これは”言うべきこと”なのだろう。

「かよちん…えっとね…」

 ________________________________

 夜が終わり朝がやってきた。
「ふわぁ…朝か…」
 今日は学校のある日なのだが早めに起きた穂乃果。いつもは母親や妹の雪穂に起こしてもらっている…が何か違和感があった。
「ん…?なんだろうこの膨らみ…?」
 その膨らみは穂乃果の寝ていた隣であった。
「そーっと…そーっと…」
 ゆっくりと膨らみに近づいていき布団に手をかけ…。
「でやぁ!!」
 と声を上げながら勢い良く取り払った。
「…え?」
 その時穂乃果が見たのは…
「すぅ…すぅ…」

「花陽ちゃん…?」
 穂乃果は思考を巡らせていた。何故花陽ちゃんがいるのか。そう考えているうちに。
「ふわぁ…よく寝た…」
「お、おはよう…?」
 花陽はあたりを見廻している。
「ぴ、ぴゃあぁぁぁぁ!!!!」
 朝から大声が部屋に鳴り響いた…。

「おはよう!穂乃果ちゃん!」
「なんで普通に挨拶してるんだろう…」
 あの大声から10分ほどがたった。普段この時間は寝ている雪穂は飛び起き私の部屋に駆け込んできた。雪穂は不審者が入ってきたと勘違いしたらしいが事情を説明すると”問題なく”部屋に戻っていった。
 …不審者は一応いるんだけど。
「失敗したなぁ…」

 何やら花陽ちゃんは落ち込んでいる。何で落ち込んでいるか聞いてみようかな…?
「花陽ちゃん、どうして私のベットにいたの?」
 唐突に聞くくのは少しためらったが…ここは聞くしかないよ!うん!
「あっ…えっとね…」
 口ごもる花陽ちゃん。ここはしっかり話してくれるまで待とう。
「あのね、穂乃果ちゃん…昨日のこと、覚えてる?」
 昨日のこと…?もしかして朝ごはんの喧嘩のことかな?
「朝ごはんのこと?でもあの件はもうおわ「終わってないです!」あっ…うん」
「本当は朝の寝起きドッキリをやろうとしたんだけど…」
「ちょっと待って」

 花陽ちゃん寝起きドッキリをやろうと思っていたの!?恐ろしいよ!?私はどうすればいいの…。
「なんとなく状況はわかってきたよ…どうやって家に忍び込んだの?ていうか雪穂は驚いてなかったんだけど!」
「あ、それはご家族の方に許可を頂きました」
「お母さん!何で私に黙ってたの!?」
「それは寝起きドッキリをやりたいと朝ごはんを食べたいと言ったからです!」
「その返答もおかしいんだけど…」
 前者はわかる…ん?でも後者は黙る理由になってないよね?
「さ!朝ごはん食べに行こう!」
「なんで花陽ちゃんが仕切っているんだろう…」
 ああもう!なるようになれー!

 ”いただきまーす!”

「美味しい!」
「うふふ、嬉しいわ。小泉さんのために腕によりをかけて作ったの。いっぱい食べてね!」
「ありがとうございます!」
「むぅ…」
「穂乃果!ちゃんと食べなさい」
「わかってるよ!」
 わかってるんだけど…
「白米美味しい~!」
 …やっぱりパンの方が良いよ。
「穂乃果ちゃん?どうしたの?」
「お姉ちゃん…熱?」
「っ!なんでもないよ!」
 うん…なんでもないよ…。

「穂乃果ちゃん?どうしたの?」
「っれなんでもないよ!」
 なんでもないよと言っているが浮かない顔をしている穂乃果。
「…パンの方がいいの?」
「え?」
「そうだよね…穂乃果ちゃんに朝白米の良さがわかって欲しかったけど…無理矢理はダメだよね…」
「そんなことないよ!」
「…え?」
「そんなことない、白米もパンも美味しいよ…だけど…」
「だけど…?」
「あの歯ごたえがいいの!」
「穂乃果ちゃん…」
花陽はあることを思いついたのか目を大きく見開いた。
「…もう一回それぞれの良さについて語り合わない?」

思いもよらぬ提案に穂乃果は思わず顔をあげた。
「…それぞれの良さ?」
「うん。穂乃果ちゃんはなんでパンが好きなの?」
「なんで好きか…」
穂乃果はもう一度俯き

「私がパンを好きになったのはね…

"この家"のせいなんだよ」

「…」
「笑っちゃうよね?家のせいでパンが好きになるって。本当私でもおかしいなと思うよ。
だけどね…私はどんな理由でもパンを愛し続けるって決めたんだよ!例え白米派の花陽ちゃんと喧嘩しても。私は絶対にパンを手離さない。パンは私の生命なんだよ!」
「…」
「花陽ちゃんは…なんで白米が好きなの?」

「私は…汗水を垂らして頑張った稲を回収し食べた時喜びを知ってるから」
「!!」
「穂乃果ちゃんなら分かるでしょ?自分の作ったお饅頭をお客に食べてもらう。商売として当たり前だけどその初心を忘れちゃいけないと思う…」
穂乃果は再び俯いた。花陽に痛いところをつかれたからではない。自分が生産者としての心を忘れたからだ。
「そっか…そうだよね…」
「うん、だから私は白米が好き!」

「私、頑張って朝に白米を食べるよ」
「穂乃果ちゃん!」
「だけどっ!」
「…?」
「花陽ちゃんも朝にパンを食べてね!」
「…うん!」

こうして朝の戦争はお互いの意見の食い違いで終わったのである。
話し合いは重要やね!

しかし

「穂乃果?和菓子屋の娘があんな事を言わないようにね…?」
「はぁーい、こめんなさーい」
「謝る時はしっかり謝りなさい!小泉さんの前で何を言わせるの!」
「はい…ごめんなさい!」
「二度目はないわよ?」
不敵な笑みを見せお母さんはさっていった。

「花陽ちゃん!この…コシヒカリ?って美味しいの?」
「何を言ってるのですか!コシヒカリはとんでもなく美味しい……」

またアイドル研究部がうるさくなりそうだ。

「ねぇねぇ、希ちゃん」
「ん?なぁに?穂乃果ちゃん」

「希ちゃんは朝ごはんは何を食べてるの?」

「うち?うちはね…

焼肉…かな♪」

「「焼…肉…」」

また戦争がはじまりそうだ。



 
 

 
後書き
いかがでしたか?
朝ごはんって悩みますよね。人それぞれですし。今読んでくださっている方は何を食べるのか…。え?私?私は断然パン派ですよ。朝に白米を食べるのは納豆とか卵かけご飯ぐらいですね。
私なりにはキャラクターの可愛さというか動きは想像させることができたと思っております。

企画主催者であるウォールさんにこの場を借りて深く御礼を申し上げます。
さて、企画もとうとう終盤戦!
私よりもはるかに面白い小説が投稿されますのでぜひ見ていってください! 

 

恐怖の玉避け合戦 【白犬のトト】

 
前書き
本日は『[ラブライブ!]少年と女神達の物語創世記』と書いている白犬のトトさんです。


はじめまして‼
別サイトにて同名で執筆活動しています白犬のトトといいます!
今回は企画に参加させていただきありがとうございました‼

さて、今回はあらかじめテーマが決まっている状態での執筆でしたが・・・僕のジャンルはギャグ!・・・のつもりだったんですがなんか変な方向にww

それでもがんばって書いたのでよろしければどうぞ!
 

 
「ドッジボールをしよう」

前置きもなく唐突に言うのは今や話題のスクールアイドルμ's(ミューズ)のリーダー、高坂穂乃果。
太陽のような微笑みと無意識のうちに皆を引っ張る天賦の才を持ち合わせた少女。
無意識ゆえに不安定だが確かな光をもつ女の子だそんな彼女の言葉だからこそ何気ない一言でもみんなを大きく動かしてしまう。
今回も今回とてそんな一言で大きく動いてしまいそうなそんな予感・・・。

「全く、何を言い出すかと思えば・・・」

「うんうん、いつも通りの穂乃果ちゃんだね︎」

「ことりは甘すぎます︎」

藍色の長髪の子が溜息を吐き、ベージュの特徴的な髪の子が笑う。
こちらの反応もまたいつも通りの反応だ。

「凛もやりたいにゃー︎」

「わ、私はどっちでも・・・」

「はぁ、メンドクサイ」

ネコ語の元気っ娘が乗っかりメガネをかけた子がひっそりと、赤髪の少し気の強そうな子は面倒な感じに続く。

「ドッジボール・・・いいわね︎」

「えりち、興奮しすぎ」

「全く、子供じゃないのよ?」

続けて金髪のモデル体型の子がのり、紫のおさげの子が苦笑いを浮かべツインテールの少女が続く。
いつもと変わらない日常風景。
彼女たち9人にとってのいわゆるいつもの事と呼ばれるもの。だけど今日に限ってはいつもとどこかちがう流れになっていた。

「でもいきなりドッジボールって何かあったのかにゃ?」

「だって今日はもうμ'sの練習ないでしょ?だったらせっかくだしみんなで遊ぼうと思って!ちょうど運動部も休みでグラウンドも空いてるし!」

「せっかくの休日なんだから体を休めなさいよ」

「ええ〜、いいじゃん!」

面倒臭そうにいうにこにムキになって言う穂乃果。
こうなった穂乃果を止めることなんてできないとはわかっていても止めようとするにこ。
にことしてはせっかくの休みはしっかりと体を休めたいみたいだ。だけど全員じゃないとはいえにこ以外のほとんどの人は・・・

「凛もしたいにゃ︎」

「私も、穂乃果ちゃんが言うならしてみたいかな〜」

「私もいいと思うわよ?軽く外で遊ぶというのも一種のリラックス効果があるもの。中には逆に体を動かしたほうが体が休まるっていう人もいるのよ?」

「さすがえりち、博識やね〜。あ、うちも賛成やで!」

「確かに、体を楽しく動かすことも大事かもしれませんね・・・」

「海未もこういってるし、賛成意見も多いみたいね・・・どうするのかしら、部長さん?」

絵里が少し挑発的な目でにこを見る。そんな絵里に続くように賛成派の人物はみんなにこの方へと視線を向ける。
賛成意見を出してない花陽と真姫も反対する気はないのか特に何も言ってこない。
この状況を見てあきらめたのか溜息を吐くにこ。そして・・・

「わかったわよ。やればいいんでしょやれば!!」

「やった!」

にこの了承も得れてガッツポーズをとる穂乃果。

「でもやるのはいいけど人数どうするのよ」

ドッジボールは二つのグループに分かれて行うものである。そのため偶数でないときれいに分けられないのだがμ`sは9人と綺麗に分けることができない。
一人を審判にするというのもいいがそれだと審判が少しかわいそうだ。
あたりまえの疑問だがこれについても穂乃果は元気よく答える。

「大丈夫だよ!!考えがあるんだ!!」

「他にかだれか誘うの?」

「えへへ、それはね~・・・」









          ☆










「・・・で、僕が呼ばれたということですね」

「うん!だからよろしくね!!」

「まあ・・・いいですけど」

人数を偶数に合わせるために呼ばれたのは高橋春人。
花陽と凛の幼馴染で、そんな彼女たちを裏から支えている人の一人である。

これで人数は十人。
偶数になって綺麗にチーム分けを行うことができる。

「よし、これで人数そろったね!!じゃあさっそく組を分けよう!!」

ドンと音を立てながら穂乃果が箱を机の上に置く。
いつの間にか作ったくじ引きみたいだ。

「この中に1と2が書かれた紙が5枚ずつ入っているからみんな1枚ずつ引いてね!」

その言葉に倣ってみんなが1枚ずつ髪を引きチーム分けが終わる。
結果はこうなった。

Aチーム

希、にこ、真姫、海未、ことり

Bチーム

絵里、穂乃果、花陽、凛、春人

「こんな感じだね!!」

「がんばろ!海未ちゃん!!」

「ええ、ことり」

「ふふふ、勝負よ!希」

「まけへんで?」

「凛ちゃん、春人くん、頑張ろ︎」

「にゃ︎」

「うん!」

「チームはこれでいいとしてルールはどうするのかしら?」

「ルールは私がさっき即席で考えたわ」

にこの質問に対して絵里が一枚の紙を机の上に置く。
そこにはルールが箇条書きで書かれていた。



1,相手チームの投げたボールが自分の体にノーバウンドで当たったらアウトとなり、外野に移動する(ただし顔はセーフとする)

2,人に当たったボールを他の人が地面に着く前に捕球した場合はセーフとする(相手チームが捕球してもセーフとする)

3,内野の人数が先に0になったチームの負けとする

4,人に当たったボールがバウンドせずに同じチームの人に当たった場合は2人ともアウトになる

5,自分にボールが当たり、更にそのボールが相手チームの人に当たって地面に落ちた場合は自分は助かり、相手がアウトになる

6,初期人数は内野4人、外野1人とする

7,衣服も体の一部とする

8,外野から内野への移動方法はなし




「こんなところかしら?何か意見があればちょうだい」

みんなが必死にルール用紙を見る中絵里が声を上げる。
若干の沈黙の後みんなが首を縦の振る。
これでルールも完璧だ。

「ねえねえ、これにさ。負けた方が勝った方になにかおごる賭けしない?」

「お、面白そうやん♪」

「穂乃果、賭け事ですか・・・?」

「ジュース一本とかなんだからいいじゃんそれとも海未ちゃん、勝つ自信ないとか?」

「な、そんなことありません。いいでしょう、ここで穂乃果の財布を軽くして見せます」

「だ、大丈夫なのかな?・・・」

「凛も、手持ち少ないよ?」

「は、はは・・・もしあれだったら僕が代わりに出すよ?」

「そ、そこまでしなくても大丈夫だよ?」

「うん!いくらなんでもそれは悪いにゃ・・・それに、勝てばいいんだにゃ!!」

トントン拍子に決まってしまった賭けの話に心配になる花陽と凛。それをそっとなだめる春人。
この光景ももはや見慣れたものとなってしまった。

「よし決定!!じゃあ早速移動しましょうか」

この言葉にみんなでおーと答えてグラウンドへと移動した。





















グラウンドへと移動した10人の戦士はグラウンドに線を引いてそれぞれのチームに分かれて一列に並ぶ。
まるで試合前の挨拶のようだった。

「さて、それじゃあ始めましょうか」

ボールをバウンドさせながらいう絵里。
先ほどじゃんけんを行い、ボールの所有権はBチームが獲得した。
絵里の合図とともに両方お辞儀。本当にスポーツ団体戦みたいだ。

「じゃあ・・・始めましょうか︎」

いつの間にか乗り気になってにこが声を上げるとともにそろぞれポジションについた。
Aチームはことりが、Bチームは穂乃果が外野になっている。

「さあ、行くわよ︎」

緊張の一投目。
絵里が思いっきり振りかぶって投げる。
元々の運動神経がいいからか放たれたボールはかなりの速さを持って飛んでいき、真姫の横ギリギリを通過していく。

「ちょ、ちょっといきなり本気すぎないかしら!?」

「これが勝負、だからだよ!!」

「ちょっ!?」

なんとか躱した真姫だが外野で受け取った穂乃果がそのまま流れるように真姫に向かってボールを投げる。
気を遣ってなげられた若干遅めのボールは真姫の背中に当たる。
しかし・・・

「いきなり間抜けさらしているんじゃないわよ!」

真姫に当たったボールを素早く捕球するにこ。

「う、うるさいわね!これから挽回するわよ!!」

「じゃあしっかり活躍すること・・・ね!」

そのまま前に走ってセンターラインぎりぎりから花陽に向かって投げる。

「危ない!花陽!!」

「きゃあ」

絵里よりは速くないものの、それでもそこそこ速いそれは、しかし春人が手を引っ張ることでなんとかよける。

「大丈夫?」

「う、うん。ありがと」

「にゃ~にこちゃん、よくもかよちんを狙ったにゃ!!」

「ふん、これは勝負なのよ?安心しなさい、花陽を倒したあとにあんたも春人も倒してあげるわ」

「かよちんだけじゃなくて春君まで・・・凛がまもるにゃ!!勝負にゃ!!似非小悪魔」

「誰が似非小悪魔よ!!この毒凛語!!」

「にゃ言ったにゃ!!ネットでしか言われなかったことを言っちゃったにゃ!!」

((ネットでは言われてたんだ・・・))

幼馴染の心の突込みなんかつゆ知らず挑発に乗る凛。しかしこれは相手に隙を見せる行為。

「凛ちゃん、今はこっちを見てね?」

「凛ちゃん︎」

凛の後ろにことりから投げられるボール。
そのまま行けば当たるところ・・・だが

「平気にゃ︎」

半歩横にずれてボールを見ずに躱し、そのボールをなんととらずに回し蹴りを叩き込みボールを加速させる。
本来ならここで凛はアウト。だかここで相手チームに直撃すればセーフになり、相手がアウト。が凛が蹴ったボールはにこのいない方へ・・・

「どこ狙って・・・」

しかしその先には希が。

「な、なんでうちなん」

超豪速球が希の方へ。
希に当たるまでわずか。

(強・・・!速・・・避・・・無理!!じゃあ止・・・否・・・死!!)

「スピリチュアルウォール、にこっち!!」

「・・・へ?」

慌ててにこの腕を引っ張って自分の前へ。
いきなりのことに反応できなかったにこは引っ張られる。そして・・・

「ごふぉ」

とてもアイドルの口から出ていいものではない悲鳴をあげながら顔をのけぞらせるにこ。
希によって移動させられたにこの顔面にきれいに直撃した。

「これがうちの能力、桃色の賢人(ピンキーノンタン)・・・」

「ど、どこの漫画よ・・・」

「あ、にこっち!無事でよかった」

「ぬわぁにがよ!!白々しい!!」

「大丈夫や、顔面はセーフやで?」

「アイドルとしてはアウトよ」

「二人とも話してる暇はないにゃ!!」

顔に当たった反動でボールが凛のもとへ。それを拾い上げすぐさま投げる。
すぐに投げることを意識したためかさっきよりも全然遅いが、話して気の抜けているにこを落とすには十分の威力。
そんな球がニコの方に迫っていくが・・・

「まあまあにこっち。うちを助けてくれてありがとな。次はうちが行くばんや!!」

今度はにこの前に立ってボールを受け止める。

「にゃ!?」

「まあこれくらいは取れるやん?ほな・・・いくで!」

希が思いっきり振りかぶってボールを投げ・・・ようとして動きが止まる。
その動きが理解できずに花陽、春人、凛の動きが止まる。
絵里は嫌な予感を感じて後ろに下がる。
みんなが希に注目している中希は空中に指を向けて・・・

「あ!あそこにUFO!!」

『・・・は?』

「え?どこにゃどこにゃ!?」

みんなが素っ頓狂な言葉を発している中ただ一人、リンだけっ必死に空中を見上げる。そんな凛に・・・

「ほい」

「あ・・・」

4割くらいの力で投げられたボールは凛の背中に直撃しコロコロ転がって希の元へ戻っていく。

「はい、凛ちゃんアウト!」

「にゃ!?」

「凛、さんすがにあれは・・・」

「凛ちゃん、単純すぎ・・・」

「い、言わないでにゃ!!///」

子供だましに引っかかった凛が恥ずかしがりながら外に出ていく。

「さあ、次もまだまだいくで!!」

間髪入れずに今度は花陽に向かってボールをなげる。

「花陽!」

花陽をかばうように前に出る春人。が、その二人をさらに守るように前に絵里が出る。

「エリチカブロック!!」

「・・・きたんやね、えりち」

「私を除いて一人で楽しまないでよね?あなたと戦うためにほのかに穂乃果お願いしてここにいさせてもらってるのだから」

「うちだって最初からえりちと一騎打ちするつもりやで?・・・ほないくで︎」

希が本気でボールを投げる。
凛の全力と比べると少し遅いそれ。絵里の運動神経と動体視力なら余裕で受け止められる・・・はずだった。

「!?」

腕に入った瞬間想像以上の重量感に思わず膝をつきかける。

「相変わらず、力の使い方がうまいわね・・・」

「うちみたいな非力な子でも投げ方次第で重くできるんよ?ちょっと重心を移動したりすれば、ね?」

「それはただ単に希ちゃんたいj「凛ちゃん?・・・後で」ごめんなさいにゃ︎」

「凛に圧力かけるのもいいけど私を忘れないでよ︎」

「おっと︎

光に速さで土下座する凛を差し置いて態勢を立て直した絵里が反撃に出る。
希のそれに比べて重さはないものの明らかに速いボールをなんとか希は避ける。が・・・

「ちょ、ちょっと︎きゃあ︎」

「真姫︎」

後ろに控えていた真姫に直撃しボールが跳ねる。
最初と同じようにフォローするべくにこが走る・・・がギリギリ届かず外野に飛んでいき、そこで待っていた穂乃果が捕球。そのままのにこに向かって投げる。

「バイバイ、にこちゃん︎」

「くっ︎」

あまり力が込められてはなかったがあまりにも近かったためこれも直撃。
海未がフォローするべく移動するけど間に合わずに地面に落ちる。

「すいません、間に合いませんでした・・・」

「いいのよ。あんたたちが残ってくれればね」

「・・・私なにもしてないんだけど」

「UFOに騙されてリタイヤよりマシでしょ?」

「それもそうね」

「り、凛を見るにゃ︎///」

そっと溜息を吐きながら内野から出て行くにこと真姫。

「これで3対2。私たちの方が有利ね」

「そうやね・・・でも、まだまだやで︎それにうちらの決着はまだついとらんよ?」

「そうね、だから・・・決めるわよ︎」

「もちやん︎」

希が思いっきり振りかぶって重い一発を投げる。
対してスピード重視の絵里。
μ'sでもトップクラスに動ける二人のデットヒート。
お互い危なっかしいところはあるけどそれでも決して捕球ミスはしない。が、そんな状況も長くは続かない。
先に限界がきたのは意外にも絵里の方だった。
受け止めるボールが重いせいで思った以上に体力が持っていかれる。だがもちろんそんなことを表情には出さない。
少したたらを踏みそうになったが我慢する絵里。

(このままじゃあ押し負けるわね・・・仕方ないわ)

ボールを持ったまま前に走り線ギリギリに立つ。そして目線は希はではなく海未の方へ。
いきなり視線を向けられた海未は反射的に身構える。
一方の希は自分との戦いをなげられたと思い、無理矢理戦ってもらうために前に出る。が、これこそが絵里の狙いであり・・・

「ごめんなさいね?」

「な」

視線は海未に向けたままボールを希の方に投げる。

(これぞ秘技、ノールック投方チカ!!)

予想だにしないボールの動きをみきることがで来ずに希の足にあたる。

「やった♪希討ち取ったりなんてね」

「あちゃ~、やられてもうた・・・ごめんな~海未ちゃん」

「いえいえ、構いませんよ?・・・お疲れ様です」

「・・・海未ちゃん?」

内野一人になってしまったのにやけに落ち着いている海未に希は若干の疑問を抱きながらも外野へ。

「さあ、後は海未だけね」

「うう、怖かったけど・・・なにもなくてよかった・・・」

「最初は危なかったけどね・・・」

残り一人と言うことになって士気が上がるBチーム。

「さあ、さっさと勝負を決めて・・・」

しかし、あとの言葉が続かなかった。なぜなら・・・

「余韻に浸るのもいいですが、まだ私を忘れていませんよね?」

海未がいつの間にか腕を振り抜いており、同時に絵里の体が横に倒れていった・・・

「絢瀬先輩」

慌ててかけより介抱する。が気を失っているのかぐったりしている。

「大丈夫です、手加減はしてますから・・・」

((手加減ってなにこれドッジボールだよね))

絵里を外野の穂乃果に渡し、内野へと戻っていく。が・・・

(は、春人くん・・・怖い・・・)

(ぼ、僕も・・・)

目の前で異様なオーラを放っている海未。
ここで春人がふと気になって周りを見渡す。

(ボールはどこに?)

軽く見渡したけど見つからない。
どこに投げたのか気になって探すと遠くから声が聞こえる。

「ふえぇぇぇん、海未ちゃん投げすぎだよ~~~」

遠くの方からボールを持て走ってくることり。

(あの一瞬で絵里ちゃんに掠ってそこまでトンジャッタノォ!?)

(っていうか一瞬で飛んで行ったはずなのにそれを取りに行ける南先輩もすごい・・・)

ものすごくやばい雰囲気を放っている海未と地味にすごいことりにおののきながらも二人とも構える。

「花陽、頑張れる?」

「わ、わかんない・・・でも、春人くんが頑張るなら私も頑張る」

「・・・うん!」

花陽をかばうように前に出る春人。

「・・・いいでしょう。まずは春人、あなたから倒します!!」

「ぐっ」

手に汗を握りながら腰を少し落として構え、花陽の手をぎゅっと握る。

「行きます!!」

流れるようにゆっくりと動き、ボールを投げつけてくる。と思いきや斜めに投擲。その先には希。
予想外の行動にワンテンポ遅れてしまう春人。
彼の右側ではすでに投げるモーションに入っている希。
これに反射的に嫌な予感を感じた春人がこれをしゃがんで回避。
よけられたボールは向かい側にいることりが捕球。そこから流れるように真姫、にことボールが回されていく。
流石今までμ`sとして活動してきただけありかなりのコンビネーション。
動きに追いつけてないと判断したにこが春人と花陽の繋がれた手を狙って投げてくる。

(二人同時アウトで負けるのは駄目だ)

(手を離さなきゃやられちゃう)

すぐに判断した二人は手を離し、間を通り抜けて行く。しかしこれこそがにこの狙い。
ボールが飛んだ先には鬼、海未がいた。
捕球した海未はそのまますぐに投げるモーションへ移行。音を置き去る高速のボールが花陽に向けられてなげれられる。
自分に向けられたと気付いた時にはもう遅く、花陽はただただ目を瞑るだけ。だが彼女にボールが当たった衝撃は一切なく・・・
恐る恐る目を開けるとそこには・・・

「・・・かはっ」

「・・・は、春人、くん?」

前に仁王立ちしてボールを受け止めていた。
身を挺して守った春人。が、強すぎる衝撃に耐えられずゆっくりと倒れて・・・

「春人くん︎なんで︎」

※ドッジボールです。

「花陽を・・・あの凶弾から・・・まもり、たかった・・・」

※ドッジボールです。

「な、なんで・・・自分の命より、私を・・・」

※ドッジボー(ry

「花陽なら、勝て、る・・・から・・・」

そのままぐったりとする春人。

「は、春人・・・くん・・・」

返事がな。ただの◯のようだ。

「・・・春人くんの分も、私頑張るから・・・︎」

スクっと立ち上がる花陽。
春人が受けた時、アウトになりながらも相手のコートに行かないようにして守ったボールをそっと拾い、センターラインへ。

(私一人じゃ勝てない・・・だから︎)

「凛ちゃん、穂乃果ちゃん、力を貸して︎」

「もちろんだにゃ︎」

「うん︎頑張るよ︎」

「わたしも・・・忘れないでよね・・・・」

「「「絵里ちゃん︎」」」

ふらふらになりながらも立ち上がる絵里。
かすっただけなのにどんな威力なんだと突っ込んではいけない。

「最上級なのにこのまま寝るわけにはいかないわ・・・さあ、行くわよ花陽︎春人の弔い合戦よ︎」

「うん︎」

頷いて近くの凛に投げる花陽。
そのまま穂乃果、絵里と続けて投げられるが・・・

「確かに早いパスですがまだ目で追えますよ︎」

たまに追いつけてない時があるもののしっかりと追ってくる。
体力にも自信があり、足の動かし方も心得ているため流れるようについてくる。

穂乃果、凛、絵里と言うμ'sでもトップクラスの運動神経を持っている3人だが、もともと避ける方が楽なドッジボールと言う競技と絵里が本気で動けないという理由からなかなか捕まえられない。
さらに花陽たちのミスでたまに出る甘いボールに海未も手を出し始めた。

(このままじゃあいつか取られちゃう・・・)

どこかで何かしらの変化を加えないと動きを読まれてしまう。

(なにか・・・ないかな?)

絵里にボールを出しながら考える花陽。
一方の海未は大分余裕を持っていた。

(これくらいなら自分の思い通りに動けるかもしれないですね)

人数が4人しかいないと言うのもかなり楽なところ。
とんだ方向で誰が次にボールを持つか予想しやすい。
花陽から受け取った凛が海未からみて左に投げる。

(この方向は穂乃果ですね)

ボールを追いかけるより次に受けとる人を予想して目線を動かせば楽に追える。
そう思いボールを見ずに穂乃果を見る。
本来なら正解だが、ここで予想外のことが起きる。

(・・・穂乃果がボールを持ってない)

ボールを投げられた先には穂乃果しかいないはずなのに穂乃果がボールを受け取ってないことに驚きを隠せない。
慌てて視線を絵里に戻すとそこにはもう一人の影が。

「そろそろ、混ぜてくださいよ」

「春人くん」

「春くん」

ダウンしていたはずの春人が戦線復帰をしていた。
どうしてと言う意味を込めて春人を見た花陽と凛に対して、真姫を見る。
その先には頬を少し染めてそっぽを向いてる真姫。彼女が介抱したらしい。

(ありがとう、西木野さん)

心の中でお礼を言って前を向く春人。
海未がついてこれてない間にボールを穂乃果にパスし、続けて凛へ。

(もうちょっとだけどこのままじゃあ駄目にゃ!)

それでも辛うじてついてくる海未を見てなにか工夫しないとダメと判断した凛は穂乃果から来たボールを受け取らず、殴って直接花陽の方へ飛ばそうとする。

それに気づいた海未はすぐに視線を花陽へと向けるがそこにはボールがない。

(そんな確かに凛はボールを右拳の裏で弾いたはず・・・まさか)

慌てて凛の方を見ると凛は腕を振り上げてる状態で止まっていた。

(ボールを弾いた瞬間飛んでいく前に捕球して上に投げたと言うのですか)

すぐに上を見上げるがもうボールは見えない。
後ろにあると判断した海未は慌てて後ろを向くとその先には海未からみて左側に腕を伸ばした春人がいた。

(まずいこの先にいるのは確か絵里)

この状況で投げられたらきついと思いすぐにからだの向きを変える。が・・・

(ボールがない確かに春人の腕はこっちに・・・)

そこで海未は自分がみたのが腕が伸びたところだけだと気付く。

(春人は恐らく私から見て右に投げてから左にてを伸ばしたなら今ボールは・・・)

「行け!!花陽!!」

「行くにゃ!!かよちん!!」

「」

慌てて後ろを振り向く海未。しかしその時にはすでに遅く、自分の膝付近にすでに花陽によって投げられたボールが迫っており・・・















「はぁ~・・・、希の奢りのアイスはおっいしっいな~♪」

「む~、次はうちが勝つからね」

「えへへ~、海未ちゃんありがと♪」

「負けたから仕方なくです。これ食べたらまたダイエットですよ?」

「まあまあ、海未ちゃん落ち着いて・・・花陽ちゃんはどう?」

「お、おいしいです・・・でも、なんか申し訳なくて・・・」

「これくらい別に気にしなくてもいいのよ。ちょっとは凛位大胆になってみたら?」

「にゃ~♪真姫ちゃんの奢りのアイスはおいしいにゃ!!」

「そうよ花陽。今日はあんたがMVPなんだから。春人も、このにこにーからの奢りのなんだからちゃんと味わいなさい」

「は、はい。ありがとうございます」

ドッジボールが終わって帰り道。
約束通りアイスを買って食べながらの帰り道。
各々がお喋りしながら楽しく帰っていた。
今日の思い出を話すもの、お互いをいじるもの、静かに笑いあうもの、それぞれが自由に話していた。
今回の試合のMVPもまたおなじく。

「花陽、お疲れ様」

「あ、うん。お疲れ様、春人くん」

塊の一番後ろを歩く二人はゆっくりと言葉をかわす。

「今日はよく勝てたね」

「うん。これも凛ちゃんや春人くんたちが一緒だったからだよ」

「凛は変なやられ方だったけどね」

「もう、それいったら凛ちゃん怒っちゃうよ?」

「はは、そうだね」

二人の足並みがぴったり揃う。
歩幅は全く違うのにお互いを深く理解しているからできること。
その距離が心地よく、二人とも落ち着いてあるいていく。
そんな時、花陽がポツリと。

「今日は・・・庇ってくれてありがとう」

「?」

「その・・・春人くん、かっこよかったよ?」

「あ、うん・・・あ、ありがと」

頬が仄かに染まる二人。
果たしてこれは夕日のせいか否か。

「あのときの春人くん、これからも守ってくれる?」

『春くん!!かよちん!!早くこっち来るにゃ!!』

「え?」

遠くから聞こえるもう一人の幼馴染みの声。
それなよって花陽の声はかきけされる。

「花陽、今なんて・・・」

「ううん、なんでもないの」

「そっか・・・じゃあいこう」

そういい先に行く春人。

「春人くん!!」

「なに?」




チュッ



「・・・え?」

「さ、早くいこ♪」

呆然とする春人を置いて、天使は微笑みながら先をを歩いていった・・・

 
 

 
後書き
いかがでしたでしょうか?
ギャグとイチャイチャの中間になってしまったww

さて、残り人数も少なくなってきてまいりました。
まだまだ素敵な作品が出てくると思うので後日もお楽しみに‼(ハードルあげ)

という事で次の人にバトンタッチです!! 

 

願いはいつか.... 【ありのままのぎーの】

 
前書き
本日は『ラブライブ!サンシャイン!!〜新たなる9人の女神と少年の物語〜 』と書いているありのままのぎーのさんです。テーマは『HENTAI』です

どうも、別サイトでラッシャイ!の小説を書かせていただいております、ありのままのぎーのです!今回はウォール様の企画に参加させていただきました!

それでは、どうぞ!

 

 




「Hey! 」

スティール音とボールがつかれる音が響く体育館の中、この国では異質な者の声が鳴り響いた。

ここは自由の国、アメリカ。世界有数の経済大国であり、なおかつバスケットボールと呼ばれるスポーツが生まれた。アメリカでバスケに出会ったものはNBAと呼ばれるところでプロとなるべく、自らのバスケを極めていく者もいる。

ここにいる10人の男達は、全員NBAのプロ入りを果たした大学生達である。

10人の男達はプロの練習を終えた後、プロの選手顔負けの紅白戦を行っていた。これが自主錬ときたものだからなおその体力の多さには驚かされた者も少なからずいるはずだろう。

その10人は殆どが白人や黒人といった者達だが、ただ1人だけ、黄色人種の男がいた。

黒髪を短く整えたその男は味方からボールを貰うと、チェンジオブペースだけでマークの敵を抜き去る。続いてヘルプにきた男をターンアラウンドで避けると、フェイダウェイでシュートを放つ。そのボールはリングに擦ることなく綺麗に通り抜けた。

その日本人の少年は、小さくガッツポーズをすると、すぐにディフェンスへと切り替えた。

共にプレイしているアメリカ人大学生達は、この少年の実力を認めていた。高いハンドリング技術にアジリティの高さ、そして全身のバネ、そのすべてが今まで出会ってきた東洋人とはかけ離れた存在であったからである。

だが、そんな少年にも大切にしている少女の存在があったーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「だーーー!!疲れたーーーーー!」

俺は10分2セットの紅白戦が終わった瞬間に大の字になってその場に転がり落ちた。どうやら、チームメイト達も相当しんどかったのか、すぐに俺と同じようにいい意味でバタバタ倒れていった。

なかなか整わない息を無理やり整えると、俺は自分の荷物が入っているエナメルバッグの前チャックを開けて、1枚の写真を取り出した。

そこには俺と、とある少女が手をつないで笑っている写真だった。

ーーー名を、小泉花陽。

幼なじみの控えめな性格の女の子。けれどアイドルに対する愛は物凄く、高校1年からスクールアイドルを始める。元々あまり運動が得意じゃなかったが、自分が楽しめることを見つけ、その活動を楽しんでいた。

そして、そんな彼女が属していた『μ's』と呼ばれる音ノ木坂学院スクールアイドルは伝説と呼ばれるまでに登りつめた。頂点を極めた頂点に君臨する存在となった。

俺も高校時代、影で花陽、そしてもう1人の幼なじみ、星空凛のことを応援していた。

音ノ木坂から時たま待ち合わせして一緒に帰ったりもしていた。ある時はダンスを見せてくれたり、ある時は解散の事で2人して俺に泣きついてきたりと、色々なことがあったものだ。

そして月日が流れ、俺達が高校3年生となった音ノ木坂学院卒業式の日、俺は花陽に告白された。

ただの幼なじみと思っていた少女からの告白。俺ははじめかなりテンパった。だが、凛の説明によると、ずっと昔から俺のことを好きでいてくれていたみたいだったが、恥ずかしさのあまりなかなか自分からその話題を出すことが出来なかったということらしかった。

そこら辺は花陽らしいといえば花陽らしかった。

返事はもちろんOK。と、言いたかったのだけれども、俺にはとある事情を抱えていた。

知ってのとおり、その当時アメリカのとある大学にバスケのスポーツ推薦で入るということが決まっていた。だから花陽と付き合っても、日本から離れてしまうから、花陽に失礼だと思い、断ろうとした。

けれど花陽は、

『ううん。大丈夫。花陽は、君の事ずっと待ってる。必ず帰ってきてくれるって、信じてるからーーー』

と言ってくれたのだ。どこまで優しいんだと思い、その時は自然と花陽を抱きしめてしまったほどだ。

そして、日本を立つ前に凛に俺と花陽のツーショットを撮ってもらい、俺はアメリカに旅立ったーーー

そして、現在に至るというわけである。

今年で花陽と付き合い始めて4年。けれど1度も日本に帰ることが出来ず、挙句の果てにはプロ入りしてしまった。今までずっとメールや電話でしかやり取りができず、本当に申し訳なくなってきていたぐらいである。

そんな時、俺には思いがけない朗報がやってきた。

『ヘイヘイ!またガールフレンドのツーショット写真みてるじゃねぇか!』

と、そんな思考に耽っていると、後ろからチームメイトでいつも仲良くしている男が俺に話しかけに、いや、俺を茶化しにやってきた。

『んだよ、いいじゃねぇか。まずそれを言いたいならお前も彼女作れバーカ』
『グッ…!!』
『ハハハ!返り討ちにあってるじゃねぇかお前!』

俺とその男のやり取りで、周りの男達がゲラゲラと笑い出す。男は顔を真っ赤にして恥をかいていた。俺はそれを見て苦笑する。

(…花陽と会えるのはいいけど、こいつらとはしばらくお別れか…)

そう思うと、少し切なく感じてしまう。

けれど、呼ばれた以上、仕方がない。

俺はケータイに来ていたメールを見つめながらそう思っていた。

ーーー差出人は、『日本バスケットボール協会』。

日本代表選考会に選ばれたのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

長時間ものフライトは、俺の体を疲れさせるには充分だった。だけど、飛行機から降り立った瞬間、その疲れは吹っ飛ぶこととなる。

「っしゃあ〜!帰ってきたぜ!日本ッ!!」

なぜなら、俺の母国、日本へと帰ってきたからだ。

あいつらとの別れはあっさりと済ました。どうやらあいつらもあっさりとしたかったらしく、送別会は20分といったかなり短い時間で終わった。

…けれど、後に送られてきたビデオレターは1時間も尺があり、それぞれが俺を励ます言葉を送ってくれた。あるやつは泣きながら、あるやつは涙をこらえながら、俺のことを応援してくれた。

俺はそれを聞いている時、涙を抑えることができなかった。けれど、それと同時に嬉しかった。あいつらと、出会えてよかった。

また一緒にやろう。そう一言だけ皆に送ったあと、パスポートを見せ、空港のターミナルへと俺は入っていった。

荷物も貰い、人が大勢いる休憩スペースへとやってくる。

ーーーそこに、『彼女』がいた。

黄銅色の髪の毛に、アメジスト色の瞳。昔ショートカットだった髪の毛は少し伸び、セミロング程になっている。服装は薄い水色のワンピースに、緑の上着を羽織っていた。

俺はそんな少女を見てフッと微笑むとその少女のそばへと歩み寄る。

そしてーーー声をかけた。

「ただいま。花陽」

その少女はその声に大袈裟に反応すると、こちらを振り向き、涙目になりながら、

「…おかえりなさいっ!!」

と言って俺に抱きついてきた。

ギュッと、花陽は俺を抱きしめる腕の力を強める。約4年弱、ずっと会わずじまいだったからというのもあるのかもしれない。いずれにせよ、俺も自然と花陽を抱きしめる力が強くなった。

「…ごめんな、待たせちゃったな」
「ううん…大丈夫。帰ってきてくれるだけで、花陽は幸せだから」
「…!花陽…!!」
「キャッ!?もぅ、いきなり強く抱きしめないでよぉ〜」
「あ、わ、悪い…」
「フフ…。今日は機嫌がとてもいいから許してあげます♡」

…とまぁ久しぶりの花陽成分をたっぷりと取り込ませてもらったあと、俺は花陽から離れた。

花陽は少し不服そうな顔をとったが、周りの視線を感じ取ったのか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

ここでは、ゆっくりと花陽と話することができなさそうだ。

というわけで、花陽が下宿しているアパートへとやってきました。

試合は明日。正直なところいうと、時差ボケがやばい。辛すぎる。飛行機で調整しようかなとおもったのですが、全然ダメでした。

もっともっと話したいということを花陽に言ったんだが、『ダメだよ!時差ボケはかなりしんどいから、今日はゆっくり休んで!』と言われ
、半強制で花陽の部屋のベットに寝かされた始末でございます。

まぁ、日本代表が決まれば、かなりの期間日本にいれるだろうし…今日は言うこと聞いて寝るとしますかね。

それに…選ばれた暁には、『あれ』も渡さないといけないしな。

…寝るかぁ。

「んぐ…?」

雀がさえずる声が聞こえる中、俺は目覚めた。

どうやら、朝になったみたいだ。良し、これで日本の時間に体を慣れさせることができた。

目覚めも良かったので、久しぶりに神保町をランニングでもしようかなと思い、目を開ける。

だが、目の前は真っ暗だった。

意識が朦朧としている中、俺は何が起こってるんだと思い、目の前のものをどかそうと、顔に手を持ってきた。

ふよよんっ♪

「…ん?」

ふよんっ♪

「なんだ…?この、柔らかくて、気持ちいい感触のものは…」

残念ながら、俺は朝には滅法弱い。目覚めが良くても、意識が普通に戻るにはタイムラグが生じてしまう。

ーーーだから、それがなんなのか気付くのがかなり遅れてしまった。

ふよんっ♪

「ファァ♡」

「…んん…?」

ふよんっ♪ふよよんっ♪

「あっ…んっ…だ、駄目だよぉ…♡///」

俺はその声を聞いた瞬間、いま自分が触っているものが何であるのかを完璧に理解してしまった。否、理解せざるをえなかった。そして理解してしまったのと同時に顔から血の気が引いていってしまった。

ーーーこれ、花陽の、胸だ。

「は、ははははは花陽!!!?ど、どどどうしてここに!?」

俺は慌ててベットから飛び降り、そう叫ぶが、花陽からの返答はない。

まさか…かんかんに怒っているのか…!?

と、思ったのもつかの間、

「…むぅ…すぅ…」
「…あり?」

どうやら、まだ寝ているみたいであった。という事は、あの言葉は寝言だったということか。なんだ…安心した。じゃなくてだな、どんな夢見てるんだよ花陽のやつ…。

…あ、ここ、花陽の部屋だった。そうか。なら花陽がここで寝るのはなんにもおかしくないな。

「…ったく…朝から嬉しいような…疲れるような…」

俺はハァとため息をつくとその場から離れようとする。

その時、

「ん…行っちゃ…ダメ…嫌だ…行かないで…」

と、後ろで花陽の寝言が聞こえてきた。

振り返ると、花陽はとても苦しそうな顔をして唸っていた。

だから、俺は花陽の頭をなでる。

すると気持ちよさそうな表情をした後、スースーと寝息を再び始めた。

俺はその様子をみて、微笑んでいた。

そして、必ず日本代表に選ばれるよう頑張ってやるという決断を固くすることも出来た。

俺は花陽の額をもう1度なでて、荷物を持って先に出発した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、それは遂に訪れた。

『それでは只今より、代表選考会を始めたいと思います』

そのアナウンスとともに、3つのコートすべての試合が開始される。

バスケットボール日本代表の選考会は至ってシンプル。3つのコートで10分×4本の試合を行い、その中で目立っていた選手15人を選考するといった、もっともオーソドックスでわかりやすい方法だった。

「わぁぁ!もう始まったよかよちん!!」
「り、凛ちゃんが速すぎるんだよぉ〜」

もちろんその選考会は一般の視聴が許されている。だから、私と凛ちゃんは彼を応援するべく、ここへと駆けつけたのだ。

「ち、ちょっと凛!なんで私までこないといけないのよ!」

…凛ちゃんが勝手に真姫ちゃんまで連れてきちゃったせいで遅れたんだけどね。

「まぁまぁ!真姫ちゃんも面識あるんだし、別にいいでしょ?」
「まぁ…べ、別に応援してあげてもいいけど…それに、花陽の彼氏なんでしょ?なら、応援しないとね」
「真姫ちゃん…!」
「なんかツンデレじゃないのが残念だにゃ〜」
「う、うるさいわね!ほら、早く座るわよっ!」

真姫ちゃんの誘導によって、私たちは最前列の席に座った後、彼の姿を探す。

「あ、いた!」

Bコートのビブスを着ているチームに、彼はいた。

彼はボールを貰うとマークであろう人と対峙。そしてお互い睨み合ってそのまま動かなくなった。

ーーー先に動いたのは、彼だった。

ボールを華麗なハンドリングで捌いた後、急にスピードを上げて敵を抜いた。彼の得意な『チェンジオブペース』。それは高校の頃見た時よりも格段にキレが増していた。

「凄いにゃ!前見た時よりも格段にスピードが上がってる!」
「そうだね!凛ちゃん!」
「あら、なかなかやるじゃない」

そのまま中へペネトレイトに成功する。彼はそのままシュートの体勢をとり、後ろへとジャンプする。が、

「行かせねぇよ!」

センターのポジションにいた人が早めのヘルプに入る。身長がでかいのもあってか、あとから飛んだのにも関わらず、完全に彼のシュートを止めれるほどの高さまで飛んでいた。

けど、私にはわかる。彼がだいたいこのシチュエーションになるとやること。それはただひとつだけだった。

(絶対に、彼なら『ダブルクラッチ』をするはず…!)

ダブルクラッチ。それは、1度シュートを中断して、別の角度から着地する前にシュートを放つという技。高校時代からの彼の武器だった。

だが、彼はダブルクラッチをせず、他の選手にパスを放つ。

(…?!)

パスを受けた選手はそのままシュートを打つ。綺麗な弧を描いたそのシュートは綺麗にリングを通り抜けていった。

「おお〜!ナイスパスだにゃ!」
「まったくね。ほんと、上手よね彼」

凛ちゃんと真姫ちゃんが横で彼を賞賛している中、私は違和感に襲われていた。

(…どうして、シュートを打たないの…?)

高校時代なら確実に打っていたそのシュート。

けれど、彼は打たずにパスを出した。

(…!?まさか!?)

ここで、私の中に恐ろしい仮説が生まれることとなる。

「…そんな…」
「かよちん?」

隣で凛ちゃんが問いかけてきたのにも、私は反応することが出来なかった。

このままでは、確実に、

落選してしまうーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

…まずい

最後の10分。ビブスボールで試合が始まったが、俺の中で終始焦りの気持ちが駆け巡っていた。

なぜなら、まだ、この試合で俺がシュートを打った本数が3本しかないからだ。

完全に打てるシチュエーションは山ほどあった。にも関わらず、体はパスという選択を選んでしまう。

(ダメだ…!アメリカでの癖が取れきっていない…!)

それは、アメリカでプロチームにいた頃の癖のせいであった。アメリカのレベルであれば、あそこから追いついてくる化け物が山ほどいる。だから俺はシュートに見せかけてパスを出すといったスタイルを用いていた。

だが、日本ではそこまでの化物は存在しない。なのに、体は勝手にパスという選択をしてしまうのだ。

(くそ…!俺がエースにならないといけないのに、このままだと落選しちまう…!)

アメリカのプロチームの選手。それだけでも期待値は相当なもの。日本代表のエースになってもおかしくないぐらいなのに、肝心のアピールが上手くいっていない。

それが、一層俺を慌てさせた。

ガンッ

「…!やばっ!!」

せっかく打てたシュートを、リングに外してしまうといった凡ミスを引き起こす。

ドリブルも単調になり始め、徐々に追いつかれるようになってきた。

「…くっそ!!」

そんな状態が7分続き、残り3分。

もうダメだ…。その思いが俺の中を漂い始める。焦りが諦めとなり、プレーが惰性へと変わってしまう。

その瞬間だったーーー

「諦めちゃ、駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

会場内に響き渡る、1人の少女の声。

花陽だ。声がした方を見ると、涙を流しながら、顔を真っ赤にしながら花陽が立っていた。隣には凛と、西木野さん。

「そうだにゃ!!諦めちゃ駄目にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「凛…」
「あんた、花陽の彼氏なんでしょ!?花陽が勇気出して叫んでるんだからそれに答えないつもりだったら、私が許さないんだからっっっっ!!!!」
「西木野さん…」

その3人はただひたすら、俺が立ち直るよう、激励の声をかけてくれていた。

彼女達は、諦めていない。

未だに、俺が選ばれると、信じてくれている。

それなのに、

俺だけ諦めるのは、筋が通らないよな。

「…ありがとう、凛、西木野さん、花陽…」

おかげで、目が覚めた。

見せてやる。

ここからは、

俺の

「独壇場だッッ!!」

本気を遂に出すことに成功した俺。

結果は、言うまでもない。

見事、起死回生の逆転劇をかまし、日本代表へと選ばれたのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…来てくれたんだな花陽」
「そりゃあ、ね?」

いつも3人で遊んでいた公園の跡地。俺は選考会が終わったあと、花陽をここに呼び出した。

「ごめんな…わざわざここまで来てくれて」
「いいの。君の頼みなら、断れないよ…。…それで、どうしたの?」

相変わらずの花陽の優しさに感謝しつつ、俺は単刀直入に、花陽に俺が思っているすべての思いを打ち明けた。

「花陽。俺、花陽の事大好きだ。本当に、大好きだ。けど、今、こうして付き合っているだけだったら、またいつか離れ離れになってしまうかもしれない。けど、俺は、もう2度と君を手放したくない。だから…」

そう言うと俺はポケットの中から小さい箱を取り出し、それを開けた。

ーーーそこには、ダイアモンドが埋め込まれた、指輪があった。

「俺と、結婚してくれないか。絶対に、君を幸せにしてみせる。約束する。だから、これからずっと、俺のそばで、一緒に生きていこう」

言った。

言うだけの事は言った。

あとは花陽の返事を待つだけだった。

「…どうして、花陽なんかを選んだの…?」

花陽の口から出てきたのは、震えた声で言ったのは、その言葉だった。

俺は、その問に、自信満々に答える。

「花陽がいいんだ。花陽以外、俺は結婚なんて考えられない」
「花陽…どんくさいよ…?」
「構わない」
「花陽…君の夢の足を引っ張っちゃうかもだよ……?」
「そんな事は無い。俺は花陽がいてくれなきゃ、駄目なんだ。隣に花陽がいてくれるだけで、俺は幸せだ」

俺のその言葉を聞いた直後、花陽はボロボロと涙を流し始めた。嗚咽を交えながらも、しっかりと俺の顔を見てくれている。

震えた口が、パクパクと動いている。声にだそうと思っても出せないのだろう。

けど、花陽は頑張って、きちんと言ってくれた。

「花陽もっ…!花陽も…君の事が大好き…!だから、花陽を…一緒に…見たこともない世界に…連れて行って…!!」
「…うん。元より、そのつもりだよ」

俺は花陽の薬指に、指輪をはめる。

花陽は嬉しさのあまり、さらに涙を流し始める。俺はそれをしっかりと抱きしめた。

ーーーそして、月の光によって映し出されたそのシルエットの顔が、重なり合った。

いつまでも、いつまでも…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あれから、何年がたっただろうか。

日本代表の活動を終えた俺は、アメリカへと帰ってき、再び元いたプロチームでレギュラーを勝ち取り、日々バスケットボールに打ち込んでいた。

今までなら、練習を終えると何も考えずに家に帰るだけだった。

けど、今は違う。

「ただいま」
「おかえりなさい!」

今は、愛する妻がいる。花陽がいる。それだけでも、俺の毎日が楽しかった。

そして、帰ってきたあとのキスは忘れない。しっかりとキスを行った後、俺は花陽と一緒に笑いながらリビングへと向かった。

花陽と出会えて、本当に良かった。

これからも、愛する妻として、人生を共にしよう。

『『ずっと…大好きだよ』』













 
 

 
後書き
と、いうわけで、メインヒロインを花陽で書かせていただきました!

おそらく私だけ世界観と時間枠がぶっ飛んでる気がするのですが…まぁ…いいでしょうw

ではでは!賛辞を!

ウォール様

このような企画に参加させていただき、誠にありがとうございます!!花陽メインヒロインなのは、ウォール様なら喜んでくださるかなと思ったからです!気にさわったようなら……第三次戦争だ嘘です土下座しに行きます。これからもよろしくお願いします!

では、また別の機会で!

 

 

愚かな変態野郎の錯覚 【シベリア香川】

 
前書き
 

今回は同じく二度目の参戦!!『シベリア香川』さんです!!



ん、錯覚………?
ということでみなさんどうも!2回目のシベリアで〜す!
いつから俺が1作しか書かないと錯覚していた……ん、錯覚……?
ということでまさか2作目を投稿できるなんてっ!
しかもトリ前とは………ドキドキ……
さて、この2作目は「ギャグ」と「HENTAI」をメインテーマに書きました!
是非お楽しみ下さい!



 

 
「本当にボクが呼ばれちゃっていいの?」
「うん、勉強教えてもらいたいし!」
「大丈夫だよ亜里沙、私が付いてるからこいつの好きなようにはさせないから!」
「あの……ボクってどう見られてるの?」
「いつかやらかすかもしれないからね」

肩を落とすボクであります。
あ、今は同級生の絢瀬亜里沙ちゃんと高坂雪穂ちゃんと一緒に、亜里沙ちゃんの家に向かってるんだ。
何故かって?それはボク達は受験生だからね!
目指すはそう!音ノ木坂学院!
一時は廃校の噂が流れてたけど、μ'sっていうスクールアイドルの活動で存続が決まったんだ!
しかも、その一員に亜里沙ちゃんのお姉さんがいるんだって!すごいよね!

「着いたよ〜、2人とも上がって〜」
「「お邪魔しま〜す」」

わ〜、ここが亜里沙ちゃんの家かぁ〜!

「私の部屋はこっちだよ〜」

亜里沙ちゃんはトコトコと亜里沙ちゃんの部屋に向かっていった。

「ちゃんと見張ってるからね」
「だからそんなことしないって!」

何回言えばわかってくれるんだろう……別にそんなことしないって……

「ほら、2人とも早く早く〜!」
「はいはい、早く行くよ」
「おっけ〜」

ボク達はそうして亜里沙ちゃんの部屋で勉強会を始めたのであった!







「ただいま〜!あら、お客さん?」
「あ、お姉ちゃん帰ってきた!おかえりなさ〜い!」
「えっ……!?」

ボクは亜里沙ちゃんのお姉ちゃんとは初めて会うんだ!
き、緊張するなぁ……だってアイドルなんだよ!そりゃあ……緊張するよ……

ガチャ……

「あら、いらっしゃい。勉強?偉いわね〜」

そう言ってドアを開けて亜里沙ちゃんのお姉ちゃん。

「お邪魔してます」
「雪穂ちゃんいらっしゃい。あら、キミは……?」
「あ……は、初めまして!」

ボクは緊張気味に自己紹介をした。
あ、名前が台詞にないかっていうと、この企画にはオリ主は名前を出しちゃいけないって決まりだから。

「初めまして、亜里沙の姉の絵里です。いつも亜里沙と仲良くしてくれてありがとうね」
「あ、いえいえ!」
「それじゃあお菓子用意してあげるわ。亜里沙手伝って」
「は〜い」

亜里沙ちゃんはお姉さんと一緒にリビングに向かった。


でも………綺麗だったなぁ〜亜里沙ちゃんのお姉さん。
名前は絵里さんだっけ……

「お〜い、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫だよ?」
「ふ〜ん……」

雪穂ちゃんが何故かボクのことをジト目で見てくる……なんで?

「な、なんでそんな目で見てくるの?」
「アンタ、絵里さんを変な目で見てたでしょ?」
「変な目って……別にそういう目では……」
「なら絵里さんを見てどう思った?」
「そりゃあ〜綺麗な人だな〜って……」
「変態」
「なんでっ!?」

なんでそう思っただけて変態って言われなきゃいけないの!?
あの綺麗な目をしていて、スラッとした体形、服の上からでもわかるぐらい大きな胸、スカートからのびる綺麗でスラッとした脚、そしてあの大きなお尻!まさにボン・キュッ・ボン!そう思うだけで何故変態って言われなきゃいけないんだ!

「顔に出てたからね……色々」
「なっ……!?」

ボクは驚いて頬を押さえる。
あの雪穂ちゃんのドヤ顔……うざい……!!

「2人とも〜お菓子とジュースだよ〜!」

おっ、亜里沙ちゃんがお菓子とジュースを持ってきてくれた。早速いただこうかな〜?
おっと尿意が……

「亜里沙ちゃん、トイレ借りていい?」
「うん、出てすぐ右だよ〜」
「は〜い」

えっと……出てすぐ右っと………


「わっ!?」
「あらごめんなさい。びっくりさせちゃったかしら?」

え、絵里さんだ〜………やっぱり綺麗だな〜…………じゃなくてっ!

「いえ、ボクの方こそすみません。ではトイレお借りしま〜す」

ボクは頭を下げてトイレに入った。





し終わってトイレを出ました。

すると絵里さんが向かいの壁に腕を組んでもたれていました。

「少しお話いいかしら?」
「は、はい……」

すると絵里さんはずんずんとボクに向かって歩いてきました。
ズンズンズンズンドコキ〇シ!
あ、ズンズンズンズンドコえりち!

「キミ……亜里沙とはどういう関係なの?」
「どういう関係って……ただの仲のいい友達ですよ」
「本当に……?」
「ほ、本当ですって!」

絵里さんのジト目……いいっ!

「でももし亜里沙に変なことしたら……わかってるわよね?」
「わ、わかってます!」

絵里さんはどこか黒い笑顔で言ってきた。
怖いです……普通に怖いです。
でも絵里さんに怒られるならいいかも……

「ならいいわ。これからも仲良くしてあげてね」
「っ……はい!」

かわいい……絵里さんの笑顔……かわいい〜〜!やばいよ!どれぐらいやばいって………シベリアさんがうるさいぐらいに発狂しちゃうぐらいだよ。
あ、ちなみにうるさいって漢字で五月蝿いって書くんだよ!
え、知ってた………?


………………………………………………



………………………………………………




………………………………………………




「今日はお邪魔しました!」
「えぇ、また来てもいいのよ?」
「はい、是非!」

夕方、ボク達は家に帰りました……まる






〜〜〜〜〜越えられる壁〜〜〜〜〜







「いやぁ〜絵里さん綺麗だったな〜………」

ボクはボクの部屋で幾度となくこんなことを呟いている。

でもボクは考えてしまうんだ………








なぜならボクは男の子だから………










ドン!

「え、絵里さん……!?」

「ねぇ、キミ……本当に亜里沙とはただの友達なの?」

「だからそうですって何回言えばわかるんですかっ!?」

「そう、ならよかったわ……」

「でもなんで壁ドンを………?」

「そんなの決まってるでしょ?」




「キミがかわいいからよ♡」


そうして絵里さんはボクの唇に唇を近づけて………!





あぁ、あとあと………






ドン!


「え、絵里さん……!?」

「キミってよく見ると可愛いわね……亜里沙はもったいないことするわね〜」

「そ、そんなことは………」

「ねぇ……」

クイッ……

そして絵里さんはボクの顎をクイッと上げた……


「亜里沙とはなにもないなら………
私のものにならない?」






ふぁあああああああああ!!
いいねぇ〜!壁ドンからの壁クイ!!



あとこういうのも………




「ん……あれ、寝てた……?」

「起きたかしら?」

「えっ……?」

ボクは目を覚まして声のした方を向く。

その方には絵里さんの顔があった。

そしてボクの頭には柔らかくて気持ちよくてまるで天国にいるような感触がしていた。

「ふふっ、おはよう」

「おはよう、ございます……?」

「キミの寝顔も可愛かったわよ?」

「え〜っと……これは……」

ボクはまだ状況を理解できずにいた。

「戸惑ってる顔も可愛わね。今はね、私がキミを膝枕しているのよ?」

「なっ!?///」

ボクは顔を赤くして起き上がろうとした。

「あっ、ダ〜メっ」

「ちょっ、絵里さん!?」

絵里さんはボクの頭を軽く押して、また膝の上に乗せて頭を撫でてくれた。

ボクは絵里さんの気持ちいいナデナデに落ち着きを覚えて身を任せる………







キタコレッ!
いいぞ〜?絵里さんの膝枕はいいぞ〜!


でも、絵里さんの手料理ってどうなんだろう………





「さ、食べて」

「ありがとうございます!いただきます!」

ボクはそう言って一口料理を食べる。

「どう?お口に合うかしら?」

「はい!とっても美味しいです!」

「ふふっ、よかった」

絵里さんは嬉しそうにボクを眺め、ボクはもぐもぐと料理を食べている。

「あっ、ぽっぺに付いてるわよ?」

「え、本当で……」

ボクは言葉を途中から言うことができなかった。

それは………

絵里さんに唇を奪われたからだ………









エクセレントゥ!!

でもさ、やっぱり絵里さんに勉強を教えてもらいたいよねっ!!
それなら合格間違いなし!!






「そしてこれはこうして………」

「あっ、なるほど!」

「キミ、のみこみ早いわね〜」

「いえ、絵里さんの教え方がいいんですよ」

「ふふっ、ありがとう」

そして絵里さんはボクにさらに近付いてきた。

絵里さんの大きな2つの膨らみがボクの腕にギューッと当たっていた。

「あ、あの〜絵里さん……その〜……当たってるんですが……」

「ん、な〜に〜?意識しちゃう?」

「そ、そりゃあ……」

「ふふっ、嬉しい」

「えっ……?」

そう言った絵里さんはさっきよりももっと強く引っ付いてきて、ボクの耳に口を近づけて………

「それじゃあ………"違うお勉強"………しましょうか」



そしてボクと絵里さんは…………







キタァッ!!

うぉおおおおおおおおおおお!!!


よし、告ろう!



ここまで来たらやるしかない!!







と思ったものの、一歩踏み出せずにいました。
ヘタレでごめんなさい。
チキンでごめんなさい。


そしてついに……合格発表の日!ついにこの話のメインだねっ!
……………えっ、違う?

「あった……」
「私も……」
「同じく……」

「「「やった〜!!!」」」

ボク、亜里沙ちゃん、雪穂ちゃんは自分の番号があるのを見て喜んだ。

あっ、絵里さんだ!

よし、今こそ告白を…………


あれ?



あの男の人………誰だ?

亜里沙ちゃんは『お義兄ちゃん』って言ってる……


「ねぇ、雪穂ちゃん……」
「なに……ってなんで泣いてるの!?」
「え……いや、ちょっと……合格したのが嬉しくてね。それより、あの男の人は?」
「あぁ、絵里さんの"許嫁"だよ」
「へぇ……許嫁……か………」


ボクの雪のように降り積もった恋心は、いとも簡単に溶けていったのでした………


ボクは錯覚してた……そうなんだね……バカだね……


戻りたい………










その後、小学生のときにスカートをめくったことのあるボクを慰めてくれた雪穂ちゃんと付き合うことになりましたとさ。

めでたしめでたし………











本日のハイライト!

「絵里さん好きです、付き合ってください!」
「ごめんなさい」

「ボクは錯覚してたそうなんだねバカだね戻りたい……」
「大丈夫……?まぁ……ドンマイ」
「雪穂ちゃ〜ん!」
「なら私と付き合う?君のこと好きだし」
「いいの!?うん、付き合う!」









『さっかくくろすろーず』

作詞 ボク


 
 

 
後書き
ありがとうございました!
さて、みなさん楽しんでいただけたでしょうか?
あの曲の作詞は実は通称ボクがしていたなんて驚きましたよね!?
私も驚きましたよ!!
今回の話をまとめると………
「絵里を使って色んな妄想をして絵里も自分のことを好きに思ってくれてると錯覚していた可哀想な変態主人公の恋物語」ですかね!

さて、今回はこのような企画に参加させていただいたウォールさんありがとうございます!
いよいよ次回でこの企画もラストですね!
最後までみなさん、楽しんでいって下さいね!

それでは私はこの辺で………サラバダッ! 

 

開放感に負けてしまって 【ナイル川に住むワニ】

 
前書き
アンソロジー最終日!
最後のトリをしてくださるのは初執筆の初参加!『ナイル川に住むワニ』さんです!!テーマは『HENTAI』。閲覧の際はご注意ください。


み、みなさん初めまして。ナイル川に住むワニというものです。今回縁あってウォールさんの企画に参加させていただきました。初めての経験だらけなのにまさかの出番が最終日......あまりハードルを上げられると困るのですが、一生懸命書いたので最後の最後まで楽しんでもらえたらなぁと思います。

ではでは本編を、どうぞ...あ、テーマは『HENTAI』です。 

 





彼は...俗に言う《スケベ》だ。








 見た目はどこにでもいるようなごく普通の男子高校生で、女性も羨む艶光の短い黒髪に、一目見ただけで健康そうに見える日焼けした肌。顔も小顔で髭が生えたりニキビがぽつんぽつんとできてもおかしくないのに一切ある様子は無い...非常に整った顔つきだ。
 右目の下にちょこんとついているホクロが何故か魅惑的に見えることで、多少なりともイケメンという人種に分類される彼はイヤホンでJ-POPを聞きながら分厚い本に目を向けている。


 その本の背表紙には『医学書』と簡潔に記載されていている。
眉目秀麗、頭脳明晰な彼は彼の在籍する高校で名を上げる優秀な学生だ。
 スポーツもジャンルによるが得意な方で特にテニスで右に出るものはいない。
性格も明るめで優しいけど、怒ると暴力ではなく言葉で論破してくる。だから彼を敵に回したくないと常日頃思っている学生も多い様だ。

 基本的にそういった学生の間ではかなりの人気を持っている彼だけど、一つだけ皆が知らない欠点というモノがある。
それがさっき話した《スケベ》だ。





 そのスケベっぷりがどこまでいくかというと、今目の前の女子高生のお尻を厭らしく撫でまわしながら先ほどの『医学書』に集中しているくらいだ。



「ちょ、ちょっと...どこ触ってる...のよっ...あっ♡」

「ん~?」


 彼の餌となっている女の子は西木野真姫という。
燃え盛るような赤髪で、気の強そうなツリ目がとても印象深く相手に植え付ける。
人前では高飛車でつんつんしている女の子だけど、彼....西木野真姫の彼氏のまえでは一匹の発情した雌に成り下がってしまう。
 そんな彼女の発情した姿は当然彼氏にしか見せていない。


「なんで...ふぁっ!こんなところで触る必要が...アンっ♡あるのよ。このスケベ!」

「あまり大きい声で喘ぐと周りの連中に聞かれるぞ。それで発情した汗くっさい男どもに囲まれて乱れまくる、なんて展開も予想してたほうがいい」

「そ、そんなこと!ひうっ♡アンタが止めれば済む話でしょ!」



 と、言われても止めないのが男。付け加えると、より力を入れて激しく艶めかしくごつごつした指を這わせるのが彼だ。
立派で、張りがあって、肥えたお尻は指の形に合わせて姿かたちを変える。



「にしてもお前、随分と感度が良くなったんじゃない?」

「それはぁ♡アンタがこうして...毎日するからでしょ!」

「ふ~ん。俺が悪いのか。やたら電車に乗った途端ケツを押し付けられたような気がするんだが...気のせいか?」

「そ、れは!」



電車に人が多いから!という言葉は彼の指によって遮られた。
 お尻から上半身へ、上半身から顔へ。そして口に指をねじ込んで真姫の口を封じた。
男は無表情で『医学書』に視線を向けたまま。下品な笑みや、羞恥の顔をすることもなくただ、無表情で。

 それが真姫の奥底に眠る欲を掻き立てるものとなる。
じゅぼじゅぼちゅぱちゅぱと自ら彼氏の指を嬉しそうに舐める真姫を、彼女の仲間(μ`s)はかつて見たことがあったどろうか...?いや、無い。



「ぷはっ!はぁ...はぁ...」

「なんだ?もう終わりか?」

「う、うるさいわね」

 蜘蛛の糸のようにキラキラ光るソレは真姫の口から零れた唾液。
ソレが彼の指と繋がっていて、真姫は恍惚な笑みを浮かべる。

「なんだお前。もう出来上がってんじゃねえか」

 初めて彼は『医学書』から視線を外した。
ちょうど其の時、電車が駅で停まる。


『渋谷、渋谷。お降りの際はお荷物のお忘れの無いようご注意ください』

「ほら真姫。着いた。戻って来い」

「......まだ、」

「あん?」



 男が電車から降りても真姫は一向に降りようとはしない。
足元がわずかに震えている。



そろそろ限界か...
と、彼は思った。


「私、もう限界よ」

「ほぉ?それで、俺にどうしろと?」

「だから、ね」



 真姫はよろよろと、おぼつかない足取りで彼の元にすり寄る。
彼女から何かが滴り落ちるのを確認。
 


「ねぇ、このあと...しよ?」

「......とんだ変態だな」

「アンタが、こうして私をこうしたんでしょ?せ、責任はとりなさいよね」

 
 口元から唾液がこぼれていることを認識していない。
ただただ、真姫は彼の瞳をじっと見つめていた。嬉しそうに。やっと彼に構ってもらえると。
 はぁっと溜息を零した男は『医学書』にしおりを挟んで鞄にしまい、代わりに小さな長方形な”何か”を手にしていた。



男は、その小さな”何か”に記載されている”強”というボタンを躊躇うことなく。












...押した。



 
 

 
後書き
⚠︎今回の内容の行為は現実で行うと犯罪になります。絶対に真似をしないでください。する場合は脳内妄想、二次創作、同人誌等に留めておいてください。



以上で私の執筆した物語はおしまいになります。
読んでいただき光栄です。

実は、今回公開したこの物語は修正版になります。初版は描写が少し露骨で、もしかすると運営様に引っかかるかもしれないという主催者ウォールさんの判断のもと、上記のような物語になりました。

この物語は高飛車な真姫が変態でスケベな彼氏といて、徐々に自ら快楽を求めに行く淫乱少女に早変わり、という内容を簡潔に語ってみました。
小説を書くのがはじめてな私としては他の作家様のように長く事ができなかったため、もしかすると不完全燃焼した方もいるかもしれません。
それについては私の力不足なのでかたじけないです。
でも、小説を書くことがこんなにも楽しいことなんだということに気づけて非常に良い経験を得ることができました。
今回私のような新参者をこのような場に参加させていただき、また応援してくださったウォールさんや他の作家様には感謝の気持ちでいっぱいです。

ありがとうございました!またどこかで会いましょう!それでは失礼します。





ということで、本日を持ちまして暁ラブライブ!アンソロジー企画の日程をすべて終了します。参加してくださった方々、読みに来てくださった読者のみなさん、本当にありがとうございました!

次の予定は、来年の3月17日...僕の作家活動二周年の節目としてもしかすると執り行うかもしれません。そのときまで暫しのお休み。
僕の作品、或いは今回参加してくださった作家さんたちの小説を読んで...次の企画まで楽しみに待っていてください。