ヒカリアン・フォーエバー


 

"ウィンドロード"1

 
前書き
まずは彼女の物語から始めよう。 

 
2011年秋。
ミナヨ「私は・・・めちゃくちゃにしたのね。誰かの・・・宝物を・・・。」
テツユキ「ああ・・・そうだよ。ついにやっちまったんだよ。」

私は神田ミナヨ。港区界隈で中華料理屋を経営する父を手伝っている。
私には大勢の友がいる・・・いや、いたというべきか?

その友の半数は人間ではない。
この世界には、宇宙からやって来て、地球人と共に生活する生命体が存在していた。
暗黒面のブラッチャーと、正義の心を持ったヒカリアンたち。
彼らは両方とも電車や気動車、機関車など、鉄道車両を中心とした乗り物をボディとし、90年代中ごろから地球で活動していた。
私と、幼馴染のテツユキくんは、ヒカリアンをサポートする立場となり、彼らと友情を育んだ。
私に恐いものなどなかった。その頃は。

だが、今は・・・自分の人生が終わったような気持ちだった。
その年、23歳になった私は免許を取ったばかりだった。今まで自転車でしていた出前を早速カブに切り替えた初日だった。
同じ原付に乗った若者が挑発してきた。出前はすんだ後であったし、私自身、昔から乗りやすい性格だった。
相手の原付を追い抜いたと思ったその時だった。
目の前にトラックが迫っていた。慌ててよけて、歩道に侵入してしまった。
そして一台の自転車と接触し、ガードレールに激突。ようやく停車した。
自転車の少女は大きな怪我をしなかったが、自転車の前輪周辺が歪んでしまった。
ワガママな私もここまで大きな不始末は初めてだった。その上その自転車が・・・。

テツ「プジョーNS40。1970年代にフランスから日本に輸入されていたミニサイクルだ。
40年も前の、しかもフランス製の自転車。修理するにも部品は手に入りづらい・・・とまあ、それだけならまだましだ。俺みたいな嫌われ者がネットで金を出して部品を買えば済む。だが、あのプジョーは・・・特別な一台なんだ。乗っていた子にとって。」
そうだった。私は自転車に乗っていた少女の顔を思い出していた。
峠アオバ。三鷹並木橋にある「アオバ自転車店」の一人娘。店の名前となっていることから分かるように、父親・工一氏にとって文字通り愛娘なのだ。
事故の後、私は工一氏と会った。顔を見るのが怖かった。辞儀をしてうつむいたまま「私の不始末です」と静かに言うのが精一杯だった。
工一氏は怒る前に言いたいことが多くありそうな顔だったが、一言呟いただけだった。
「軽い気持ちで運転していい乗り物はないと思ったほうがいいですよ。今言いたいのはそれだけです。」
アオバのほうはほとんど口をきかなかった。恨みのこもった目線さえ向けたくないらしい。
ぷいと顔をそむけたまま、帰ってと言っただけだった。
彼らなりに耐えていたのだ。本当なら、もっと怒りをぶつけても仕方がないはずなのだ。なぜなら・・・。
「あのプジョーは、アオバちゃんのご両親の縁を結んだものなんだ。」
テツユキ君の隣でケンタ君が話し始めた。
彼はテツユキくんの後輩だ。4つ年下のはずだ。

ケン「峠輪業っていって、アオバ自転車になる前のお店、そこで売っていた自転車なんだ。そしてその自
転車を選んだのが高校生だったワカバさん・・・アオバちゃんのお母さん。でも病弱でそれまで自転車に乗ったことがなくてね。店を継ぐ前の工一さんが教えていったんだよ。」
私は半ば放心して聞いていた。
あの青い・・・真っ青な空のような色の自転車。小柄でおしゃれで、古くて貴重なだけではない。
一組の愛を実らせた、家族の象徴でもあったのだ。それを壊してしまった・・・。
ケン「直せない事はないけど、それでミナヨ姐ちゃんが許されるかどうかは・・・さて、どうしてくれるの?」
昔は流されやすい性格で、私などに散々振り回されていたケンタ君がどうしてくれる、という言葉を吐いた。
強くなったんだね。それに引き換え、私は落ちるところまで落ちてしまったのだろうか・・・。
テツ「とりあえず、しばらくは自重だな。出前はつばさやドクターが手伝うそうだ。」
ケン「そういうこと。ボクはもう戻らないと。」
二人とも開店前の374庵から去っていった。
テツユキ君はアメリカのヒカリアン組織の局長。ケンタ君はJHR西日本の運転研修センターに通い始め、運転手を目指している。
二人とも近頃は店に来る回数が減っている。そろそろ私に愛想を尽かし始めていたのか・・・。 

 

”ウィンドロード”2

 
前書き
彼女に与えられる人生最大の試練? 

 
「・・・どうでしょう?その人に任せられないでしょうか?」
事故の関係者四人・・・ミナヨの父と峠工一、ワカバ、アオバの一家はその女性の申し出に複雑な思いを抱いた。
「私としては・・・それでミナヨが心改めてくれるのなら、喜んで・・・あ、いや、散々甘やかしてアレになったうえに、人任せにして喜ぶも何も・・・。」
「だけど・・・さすがに過酷な気もします。何せ出発地点が出発地点ですし、精神的に・・・。」
「それに、ミナヨさん一人では危険ですわ・・・。」
口を開かないのはアオバ一人だけ。怒っているわけでも心閉ざしているわけでもない。
本当言うと、もう考えたくないのだ。ミナヨのことは許す前に忘れてしまいたかった。
「この旅はミナヨさんにとって、自分を見つめなおすには不足ないと思うのですが・・・。」
「・・・分かりました。峠さんと相談の末、娘に話してみます。」

ようやく腕から痛みが消え始めた日だった。父から、そして峠一家から与えられた反省のための試練。
それは、あの大震災で死んだ一人の人間の遺骨を自転車で生まれ故郷の石川県金沢まで連れて行くことだった。
以前の私なら、面倒くさい、疲れるといってにべもなく拒否していただろう。
だが、今回は断れない。峠一家の宝物を壊した後ろめたさがある。
これをやり遂げよう。そうでなければ私はいつまでたってもひどい女のままだ・・・。

クロスバイクに遺骨を乗せた旅は、正直気が狂いそうになった。
出発地点は、津波に全てを飲み込まれた後の町。まだ行方不明者も多く、まだ瓦礫と土砂の下には大勢の遺体が埋まっているかもしれないという。公園に展示されていて、津波にぶち壊されたSLまでもが転がっていた。
暗い気持ちで出発となった。
そこらじゅう瓦礫やクルマや船の遺骸だらけの海岸線。鉄道の被害も甚大だったが、列車に乗っていて犠牲になった人はごくわずかであったという。

福島県に入ると、今度は津波だけではない、原発事故の爪痕が待っている。
普通ならなるべく迂回ルートを通るところだ。父や工一氏も原発に近いMS市を避けて迂回するよう薦めていた。
だが、私は敢えてMS市へ進んだ。理由はある。
MS市博物館にあるSL・C50。その機関車は遺骨の主と深いかかわりがあったという。
遺骨の主はターゴと呼ばれていたらしい。お調子者だが、義理に厚く、困っている人と見れば放って置けない質だったらしい。
彼は、公園の片隅で朽ち果てて解体寸前だった機関車を寄付金を募って救おうとした事もあった。それがC50だ。
D51などに比べるとほっそりした印象を受けるC50。今はまた塗装が傷み始めていたが、原型を保っていて、いつでも復活しそうだった。だがこれから先、修復の価値ありと、英断してくれる人間に恵まれるのか・・・。
津波で命を落としたターゴと原発事故で福島と共に行く末の見えないC50。いったい何を思うのか・・・。

福島から先は新潟、富山を通って石川へ向かう。途中、トラブルはいくつもあった。こけたり、パンクしたりは多々あったし、タイヤを付け替えてもらったと思ったら規格があってなかった、なんてこともあった。
リヤカーを引いた怪しげな人物にしつこくかまわれたこともあった。
その一方で明るい出会いもあった。
磐越西線沿いを進み、新津まで来たときだった。なんとSLの列車に出くわしたのだ。
しかも機関車はブラッチャーのひとりだったのだ。
型番は「C57180」。本人は「バンエツ」と名乗っていた。ブラッチャーなのに、JHR東日本の所属だという。
人間に嫌な思いをさせる作戦とかに参加はしないの、と聞くと、
「今の俺は人間のみんなの人気者。そんな悪事に参加するもんか。第一JHRに修理してもらってまた走れるようになったんだぞ。それよりも、新津は鉄道の町。今度はぜひ、俺の牽く客車に乗ってこの町に来てくれよ。」
そう言うとあっという間に煙とゆげ、シュッポシュッポという音を残し、出発して行ってしまった。
いや、去り際にもう一言。
「ブラックエクスプレスの子分のドジラス。あいつはこっそりイベント列車牽いて家計まかなっているって知っていたか!?」
D51のドジラスは私もよく知っていた。番号は・・・そう、確か「498」号だったわね・・・。
 

 

”ウィンドロード”3

富山ではまた違う出会いがあった。地元の地方鉄道の電車たちだ。
最初からここで働いている電車もいたが、大きな私鉄から移った車両もいたのだ。
そのひとりがアルペン氏。初代の西武レッドアローと聞き、私はびっくりした。
何でも、足回りなどはドナーとして今のレッドアローに上げてしまって、自分はJRの特急から部品をもらったそうな。
もうひとり、元京阪特急のサブ氏(形式10030形・・・インフレ数字だ・・・)。
最近、京阪時代の塗装に戻そう、更には京阪から二階建て車までもらおうと考えているようだ。
アルペン「北陸新幹線が延びたら、ぜひまたよってねー越中三郷(地鉄の駅)。」
サブ「大阪でたこ焼き屋やっとるわしの後輩に会う(おう)たら、よろしく言っといてくれや。」
サブ氏の後輩は今の京阪特急。私も会ったことがある。今頃は大阪と京都でたこ焼きチェーンでも展開しているのだろうか。

小矢部市に着いた。広い砺波平野の向こうにある倶利伽羅峠。そこを超えれば、いよいよ石川県だ。
富山から石川側へ抜けるトンネルがあるが、自転車は通れない。回り道をして登っていくしかない。
だが、私は疲れと油断のせいか、峠へ向かう途中、ふらついて溝にはまり、思いっきり転倒。
後ろに縛ってあったターゴの骨壷が落ちそうになり、それをあわてて受け止めた。
骨壷自体は割れなかったが、入れていた箱の角に顔をぶつけ、切ってしまった。
幸い近くの民家に住む親切な人が見つけて手当てしてくださった。
その人に、自転車で倶利伽羅を越えていくことについて話すと、「君だったら全く問題にならないよ。」と言われた。というのも・・・
「実はね、ボクの親戚が金沢に住んでいるんだけど、自転車で倶利伽羅を越えて顔を見せに来たんだ。君のような長距離旅行用のバイクじゃない。ぼろいシティバイクでだぞ。無茶なヤツだよ。最後の一息、がんばってな。」

いよいよ倶利伽羅峠を越える。きつくはあったが、今までに比べれば全く楽勝。
それに、ターゴの遺骨と一緒にいることを怖いと感じなくなった。彼と、それに自転車と三身一体になるような気持ちにさえなった・・・。

倶利伽羅を超え、あっという間・・・とまではいかないが、とうとう金沢まで辿り着いてしまった。
言い忘れたけど、目的地は卯辰山近くにあるR願寺というお寺。ターゴの遺骨はそこの墓地に納められるそうだ。
途中、東金沢駅近くにある車両基地のそばを通った。
そこでは、ボンネット特急のヒカリアンの完全引退セレモニーが行われていた。
サンダーバードもいた。確か、ウエストの旧友だ。声をかけようかとも思ったが、今はターゴを送り届けてやることが先決だ。 

 

”ウィンドロード”4

 
前書き
そしてミナヨは・・・ 

 
R願寺で待っていたのは一人の若い女性だった。
チェンと名乗ったが、日本語は日本人と見分けが付かないくらい流暢だった。
香港人で子供時代は日本で生活していたらしい。
ターゴとの関係を聞くとただ一言。「優しいおじさんの一人だった」と。
満身創痍の自転車の様子を見て、こんなことを言っていた。
「よくがんばったね。ミナヨさんと一緒に・・・。」
遺骨を納めた後、チェンは私を金沢駅まで送ってくれた。
自転車はチェンが引き取り、香港の知り合いへ送るらしい。
去り際に一つ軽いやり取りがあった。
チェン「ミナヨさん、エミリー・チュウって聞いたことありません?」
ミナヨ「エミリー・・・誰です?」
チェン「昔の香港映画に良く出ていた人です。わたし、よく似ているって言われていまして・・・そんだけです。」
後で、スマホで検索してみると、確かに似ているような感じはした。
ま、贔屓目に見ればかも知れないけど(誰?私がヤキモチしているだけだろうって言うのは?)

父は特急はくたかで迎えに来てくれた。この北越急行が誇る特急も、北陸新幹線延伸と共に過去のものになる。
遺骨を納めて旅は終わりのはずだが、私はもう少し自転車に乗っていたかった。
そんなワガママをつい漏らすと、父はムッとするかと思いきや、意外な言葉を返した。
「京都なら、いくらでもレンタサイクルをやっているはずだ・・・。」

またも長旅。ただし京都までは、サンダーバードでひとっとび。
自転車で長旅した後の電車の乗り心地がこんなにいいものとは知らなかった。
サンダーバードは特に何も言わなかった。先輩が次々引退して、自分が北陸本線を引っ張っていくことへの不安を抱えていたのだろうか。ただ一言、「ウエストによろしく」と言っただけだった。

そして京都に着いた。小さな旅館で一休みした翌日、レンタルした自転車に乗り、京都の町中を走る。
私はすぐに分かった。
私が母のお腹にいる時分、父と母はこの京都の町に願いを込めたのだ。丈夫な子が生まれますようにと・・・。
ちなみに、それを願った場所自体は、清水寺だったらしい。まずは清水寺へ行き、ご報告と将来の祈願をした。

それから次に向かったのは小さなお寺。
ここは・・・私の母のお墓がある場所だ。
仏前で旅の報告をした。
以前は来るたびに悲しくて悲しくて泣いていたが、今回は泣かなかった。強くなろうと決心したからだろうか・・・。

最後に父が私を連れてきたのは、京都タワーだった。完成が1964年と、意外に古いことにびっくりした。
父はここで母にプロポーズしたんだそうな。
タワー頂上からは京都の町が良く見えた。お寺も塔も町並みもそして・・・鉄道も。
「ほうら、見てみろ。」
父の見ていたコイン式双眼鏡の先には、一編成の新幹線が見えた。300系だった。
その運転席部分・・・バイザーがせり上がるのを見た瞬間、私は叫んでいた。
「のぞみ、私やったよ。自分を変えることができたよ、きっと・・・。」

チェンがいったい何者だったのか、後で父やテツユキ君、峠一家やそれにヒカリアン達に訊いてみたが、誰も手を振って詳しいことを話したがらなかった。
ただ、テツユキ君がバッジのようなものをくれた。チェンが残していったらしい。
何かの植物をあしらった徽章で、真ん中には海に面した町、下の方にはリボンがかけられ、こう記してあった。
「香港~HONG KONG POLICE~警察」と・・・。

その後、アオバのプジョーは、テツユキクンやドクターの大修理によって復活した。私もわずかだが手伝った。
そしてそれから約半年たらず後・・・。 
 

 
後書き
プロローグ終わり。ここから本編(?)です。 

 

”九龍から来た女”1

 
前書き
変な奴が来たもんだ(Byつばさ)
 

 
2012年2月。
成田空港に降り立った一人の女。髪はショートボブ風。顔は・・・とにかく美人。
手っ取り早く言うと、八十年代の香港映画で活躍していた、エミリー・チュウという女優にそっくりだった。
そのエミリー・チュウ似の美人は、でかいバックを担ぎ、これまた大きなキャリングケースをひき、キョロキョロとあたりを見回しながら独り言。
「どっちで行こうかな~。JHR?京成?速いのは・・・。」
流暢な日本語だ。彼女は構内に張られたポスターを見る。
「・・・京成成田スカイアクセス・スカイライナー、日暮里まで36分・・・ね。」
「遅くて悪かったな、JHRの空港特急は。」
エミリー・チュウ・・・いや、女が振り向くと、そこには新幹線型のヒカリアンが二体。
旧塗装の400系新幹線と、白黒カラーに塗られ、パトランプの付いた500系900番台WIN350だ。
「よりによってあんたが来るとは・・・。」
400系が口を開く・・・といっても連結器が出てくるわけではないが、声をだした。
声をかけたのも彼だったようだ。
「こら。我々の仲間になるんだぞ。温かく受け入れてやれ。」
パト新幹線が横ヤリを入れる。
「ライトニング・ツバサアン。400系とでもつばさとでも呼べ。」
「本官はポリスウィン。今日から君の上司となる。」
彼女はふたりを見据え、そっと深呼吸し、きりっとした顔で口を開いた。
「ファ・チェン・ルーン。香港警察鉄胆火車科より、日本ヒカリアン鉄道警察隊に配属となります。
『改めて』、よろしくお願いします!」
またしても流暢な日本語だった。

新型スカイライナー-新AE型は専用高架線上を時速160キロで突っ走り、あっという間に日暮里へ到着。
お出迎えたのは先代のスカイライナー、AE100形のヒカリアンだ。
ライナー「おいら達・・・じゃなかった、私ども京成スカイアクセスをご利用いただきありがとうございました・・・次はJHRの方もなにとぞごひいきに。」
つばさ「ライナー、嫌みはよせっての。」
ライナー「へへへ・・・ヒカリアン・ライナーです。ようこそ。日本へ・・・っと初めてじゃありませんな。」
チェン「ええ。『皆さんと組むのは』初めてですが。私のことはチェンと呼んでくださ・・・アッ!」
日暮里駅のそばを新幹線が通過していく。
チェン「200系ですよ。かわいい・・・。」
つばさ「ったく・・・ケー坊、いい気になってよそ見すんなよ。」
K「はーい(^O^)/」
200系が返事をした。
E3「連結している俺は無視かよ~(´;■;`)」
チェン「あ~いや・・・新幹線はみんなかわいいですよ~!E3系もね~!」
E3「どうしてかっこいいと言ってくれないんだよおおおおおお・・・。」

日暮里から先は山手線だ。現在、JHR基地は秋葉原駅近く、正確には旧万世橋、交通博物館の跡地にある。
そこへ向かう途中、ちょっとトラブルがあった。
電車内で、見るからに不良めいたのが数人、女の子-小学生ぐらい-を取り囲んでいたのだ。
ポリスウィンたちがやめるように警告すると
「電車が偉そうに言うんじゃねえぞ!!」と殴りかかってきた。もちろん直ちに制圧した。
心配したチェンが女の子と向き合う。とたんに双方は
「あ・・・。」
と笑顔になる。
「アオバちゃん?」
「何だチェンか。ヒカリアンのみんなも。」
二人とも知り合いだったのだ。
ヒカリアン達の注意がそっちに逸れた一瞬だった。不良の一人がチェンにとびかかった。右手には銀色の物・・・。
が、次の瞬間、不良は凄まじい悲鳴を上げ、ナイフを右手から落としていた。右腕から出血していた。
チェンの方は手に何か握っていた。ナイフを振り上げた不良の手がそっちから突き刺さっていったのだ。
それは、台形の形をした物体。ヒカリアン達はそれに見覚えがあった。つばさやポリスウィンの頭にもついてる。静電アンテナ。電圧を測るために各種電車の屋根についているものだ。
本物はもっと大きい(ヒカリアン状態は別)から、形だけ真似たものだろう。
チェンが口を開く。
「今度馬鹿な事考えたら、投げつけるわよ。このセイデン手裏剣を。」
 
 

 
後書き
変なのは作者もだろ(By読者の誰か) 

 

”九龍から来た女”2

 
前書き
オリキャラでしゃばり注意 

 
JHR基地。
チェン「ファー・チェン・ルーンです。よろしくお願いします。」
富士見「ようこそ。本部長の富士見だ。流暢な日本語だな。香港人とは思えない。」
チェン「私は12歳まで日本で暮らしていました。その後、広東語を習い、香港で市民権を取得したのです。」
富士見「なるほど・・・しかし大変だな。鉄道の少ない香港の警察から、日本の鉄道警察に来ることになって。」
チェン「私は日本に住んでいるころから電車好きでした。香港に帰ってからも、日本から送られてきた鉄道雑誌を読みあさってました。」
富士見「そこまでして・・・日本の鉄道を好きになってくれて光栄の限りだ。さて、紹介しよう。うちの隊員というか、職員の松田、竹田、梅田だ。」
チェン「よろしくお願いします。」
笛太郎「こちらこそ。しかしどんな人かと思ったら・・・おきれいですねえ・・・。」
トキサダ「もしよければ・・・後で僕とお食事でも・・・。」
アケミ「あの・・・もしもし(#^ω^)ピキピキ」
チェン「ははは・・・これより、打ち合わせに行って参ります!」
ブイーン・・・。
ミナ「出前、お待たせ・・・あ・・・。」
チェンとミナヨの目が合う。
ミナ「あなた・・・チェン?」
チェン「あ・・・ミナヨさん・・・お久しぶりです。」
富士見「そうか、そういえばミナヨちゃんとは浅からぬ縁があったな。」
ミナ「・・・は、はあ・・・。」
富士見「去年の秋、峠アオバちゃんと事故を起こしたミナヨちゃんを反省させようと、東北・北陸の自転車旅を提案したのは彼女だったと・・・。」
ミナ「え!?」

廊下にて
ミナ「ちょっと、どういう事よ。さっきの話って、本当なの?アレを考えたのはあなただって・・・。」
チェン「ええ・・・ミナヨさんには酷だったでしょうが・・・全ては偶然が重なったことでした。
私と旧知のアオバちゃんとミナヨさんの事故、ターゴおじさんの死。それにあなたならやり遂げるという見込み。それらを踏まえてああいう提案をしたのです。お父様と峠一家にね。ごめんなさいね。」
ミナ「何であの時言ってくれなかったの。」
チャン「私みたいなドコの馬骨とも知れない女が、あなたを反省させるためにこういう提案をしました、なんて聞いて、素直に引き受けましたか?」
ミナ「それは・・・。」
チェン「もういいじゃありませんか。あれから、どういった具合ですか?」
ミナ「・・・大きな事故は起こしていないわ。」
PW「ワガママも言わなくなったし。」
つばさ「アオバちゃんのプジョーも一生懸命直すのに参加していたしな。」
ミナ「二人とも黙って・・・。」
チェン「それは良かった。」
PW「うん。じゃ、これから打ち合わせがあるので・・・。」
つばさ「あとお食事な。」
ミナ「ちょっと!」

昼食後。鉄道警察室。
PW「制服と、手帳、手錠・・・無線機、警棒、拳銃は後で装備課からもらってくれ。」
制服は他の日本の警察官と殆ど変わりない。
旭日章に「RP」の文字が入っているのと、「鉄道警察」のワッペンぐらいだ。
チェン「はい。あ、ところで・・・セイデン手裏剣なんですが・・・・。」
PW「何も言わないよ。ただし、他の乗客に当てるような真似はやめてくれよ。」
チェン「はは・・・気をつけます。それはそうと制服についてなんですが・・・実は私、こういうものを・・・。」
チェンがトランクケースを開けて何かを引っ張り出してきた。
まず、黒い防弾チョッキ。背中には「POLICE・警察」と書かれている。他に、カプラー製のヘルメット。
PW「香港警察の装備品か。」
チェン「こっちの犯罪者がどれほど凶悪かはよく分かりませんが、念のため、持ってきたんです。」
つばさ「まあ、備えありゃ憂いなしだな。日本の警察は装備をよくケチるし・・・。」
PW「いいだろう。相手が『人間以外』じゃないと苦労もするだろうし・・・。」
チェン「・・・ブラッチャー、ですか?」
PW「うん。最近、ユーロというのが先方部隊のリーダーになってな。かなり活動が活発化しているよ。」
つばさ「あんたも気をつけなよ。ところで、突然だがあんた・・・新幹線はどれが一番好きなんだ?」
チェン「新幹線?みんな好きですよ。0系と200系は特に。かわいいお鼻が・・・。」
つばさ「・・・100系と300系は?」
チェン「イケメンさんも好きですよ・・・来月から、乗れなくなるんですよね。」
つばさ「ああ・・・その前に、会いに行くか?」 

 

”九龍から来た女"3

車庫
つばさ「おおーい!のぞみ!」
のぞみ「つばさか!」
300系‐ライトニングノゾミアンは、100系新幹線のひかりと共に、来月で引退だ。
今、最後の花を飾ろうとラッピングが施されているところだ。
それを施している青年‐テツユキもチェンに声をかけた。
テツ「あなたも来てくれたのですか。」
チェン「私は仕事です。ここの警察隊に長期研修配属になりまして。」
のぞみ「本当ですか?助かりますよ。あなたの様なしっかり者がいれば、組織もまとまりが良くなりますよ。」
テツ「俺、いっそのこと・・・局長の椅子、チェンさんにあげてしまおうかな。」
チェン「へ?局長って、AHRの?」
テツユキが、アメリカのロードヒカリアン組織の局長ということは、以前聞いていた。
のぞみ「すみません。彼ときたら、今更運転士に戻りたがっているんですよ。」
テツ「そういうわけでして・・・俺今考えると馬鹿なことしちまったもんですよ。日本に残ってのぞみの運転士になればよかったのに、アメリカで勝手に組織作って、ぐずぐずしてる間にのぞみが引退・・・。」
のぞみ「いつまでもグズグズ後悔しない。」
つばさ「そうだぞ。ほら、大事な彼女が。」
チェン「あ。ミナヨさん。」
ミナヨが車庫の入り口に来ていた。出前を終えた後でもう一度来たらしい。
が、チェンを見るとそっぽを向くように自転車にまたがって行ってしまった。
チェン「アイヤ・・・私、邪魔でしたかねえ・・・。」
のぞみ「テツユキ、行ってやれ。」
テツ「あ?でもラッピングが・・・。」
のぞみ「車両のほうは後でいいから。」
テツユキはしぶしぶ車庫内にあった自転車‐広大な車両基地内での移動には割りと便利だったりする‐に乗り、追いかけていった。
チェン「私もちょっと心配・・・。」


テツ「おい待てよミナヨ!」
ミナ「うるさいわね!」
テツユキの自転車がミナヨに追いついた。
テツ「チェンが嫌いなのか、お前は。」
ミナ「あなたみたいにしつこい人はもっと嫌い。」
テツ「お前は・・・待てっつってんだろ!」
オカモチをはずした状態のミナヨの自転車のキャリアをつかんだ。同時にブレーキ。
ミナ「キャアッ。」
ミナヨが自転車ごと倒れそうになる。
ちゃっかり抱き・・・いや、しっかり受け止め支えるテツユキ。
ミナ「・・・今度から、出前にベロタクシー(※1)の改造車使うから、あなたなんてアッカンベロベロ・・・。」
テツ「いっそシクロー(※2)にシロヨー、なんてね。
・・・ミナヨ、自転車の旅させられたのがそんなに嫌か?チェンはな・・・彼女はあれでもお前のことを思って、親父さんや峠さんたちに提案したんだぞ。お前が変わってくれると信じてな。でなきゃ・・・。」
ミナ「あの時のことはもういいの。あの後、チェンは香港に帰っていった。だけど、今回彼女は長いこと日本にいるのよ。それものぞみ達の仲間として・・・。」
テツ「そうなるとお前の立場がなくなるからそれは嫌だっていうのか?またわがままな・・・。」
ミナ「どうせ私は・・・。」
テツ「黙って聞け!いいか、彼女については俺も詳しいことは知らないが、少なくとも出来る人だ。鉄道の知識もそれなりにあるし、真面目で、話も分かる。」
ミナ「私と違って?」
テツ「そういうのは置いておいてだ。一方で、彼女は謙虚なんだ。俺も人伝えに聞いただけだが・・・香港じゃ、チェンは仲間内で妬みを買ったりするのを極度に嫌っていた。自分の手柄を他の奴に譲ったことさえあるらしい。ちなみにそいつは、その後出世したんだと。」
ミナ「・・・それで?彼女は私に敵対意識なんて持っていないから、温かく接しろ。そうすればいい友達にでもなる・・・って言いたいわけ?」
テツ「そうだよ。言っておくが、彼女は単なるきれいごとの信者なんかじゃない。
何せ香港の警察官だ。曲がった道を正すためには荒事も幾度となく経験してきた。
その一方で、弱い人間、まっすぐで純粋な人間、子どもや老人には優しく接しようとする。」
ミナ「私は弱くないし。」
テツ「だが、お前も根は優しい。昔、俺を看病してくれなかったか?のぞみ達がやられそうな時は?
チェンはそういう人間に信頼されたいんだよ。だから・・・・彼女を嫌わないほうがいい。」
ミナ「・・・分かったわよ。」
チェンはレンガの下からそのやり取りを見ていた。二人に見つからないよう、借りた自転車で基地へ戻って行く。午後の昼下がり、万世橋での出来事・・・。

 
 

 
後書き
(※1)電動アシスト自転車の足回りを利用した三輪タクシー
(※2)ベトナムの簡易自転車タクシー 

 

”九龍から来た女”4

 
前書き
以前別名義で投稿したのを少し訂正。 

 
基地に戻ってきた時だった。チェンのスマホが鳴った。
チェン「喂?(もしもし?)」
PW「チェンか?緊急事態だ!」
チェン「何があったのですか?」
PW「車庫内に・・・待てい!!!」
ハッとして見ると、車庫から突然何かの物体が飛び出してきた。
電車でも自転車でもない。オートバイだ。
モトクロスタイプ。丸いライトにほっそりとした白いボディ。タンクには赤と青のライン、「YAMAHA」の文字。サイドカバーには「250」と書かれている。
バイクはチェンの前で停車した。
乗っていたライダーはチェンの方を向くと、指を突き出して「ついて来い」とサイン。そのまま発進・走り去っていった。
「くそったれが!」
つばさとポリスウィン、のぞみが飛び出してきた。
のぞみ「あのTY(※1)、いきなり車庫に突っ込んできたんだ。」
PW「敷地内不法侵入だ。とッ捕まえてやる・・・。」
ふたりが飛んでいく。
つばさ「俺も行く。」
チェン「待って・・・。」
ケータイ「ブーブー・・・。」
?「香港からおいでになった“マダム”(※2)、ですかな?」
老人のように聞こえる男の声。
チェン「ええ・・・あなたは?」
?「たった今お邪魔したものですよ。」
チェン「え?」
つばさ「誰だてめえ!」
?「JHRの一員として、新しくやって来られた“マダム”。そのお手並みを拝見させてもらいたいと思いましてな。今日の午後。都内で花火が上がります。」
チェン「花火ですって!?」
つばさ「爆弾か!?」
?「ほら、突っ立っていないで、お仲間の後に続いてくださいな。そっちにミニ新幹線君がいるでしょう。
ちょうどいい。線路から追跡してみてはいかがでしょう。今回のメインはあなた方ふたりに決定です。」
チェン「ちょっと・・・。」
プッツン・・・プープー・・・。
チェン「つばささん・・・。」
つばさ「おもしれえ・・・チェン、俺の車内でアタフタすんなよ。」

PW「TYは御茶ノ水から中央本線沿いを立川方面へ向かっている。」
つばさ「こっちは中央本線を走行中。」
のぞみ「了解。定期列車に気をつけろ。」
追跡中のメンバーの内、ポリスウィンとのぞみは上空から、とつばさ(台車を在来線用に変更)は中央線の線路から追跡していた。
チェンはつばさの運転席だ。つばさが驚いたことに、運転士並みにスピード調節が的確だった。
チェン「ヒカリアンを相手にわざわざ鉄道沿いを進むなんて・・・。」
つばさ「よっぽどの自信家、といったところか・・・。」
ふたりは四ツ谷の手前でようやくポリスウィンたちに追いついた。例のオートバイも見えた。
つばさ「状況は?」
PW「鉄道からぴったり離れずに進んでいる。明らかにわざとだ。」
ケータイ「ブーブー・・・。」
チェン「もしもし。」
?「追いついたようですな。では、目的地のヒントを教えましょう。」
PW「ヒント?」
つばさ「爆弾のありかか!?」
?「ヒントは『青から緑、そして青に戻る』、です。おっと。」
ポリスウィンがオートバイを捕まえようととびかかるのが見えた。が、避けられてずっこけてしまった。
PW「後は任せたぞ~(´;ω;`)」

オートバイは線路から大きく離れることなく走る。といっても、のぞみが捕まえようとしてもすぐに避けられてしまう。
そうこうしている間に三鷹、国分寺駅を過ぎ、つばさは青梅線に入った。と同時に、
のぞみ「こちらのぞみ、言いにくい事だが、本部から連絡。ブラックエクスプレス達がパチンコ屋を荒らしているらしい。」
つばさ「は!?パチンコ屋なんてほっとけよ!」
のぞみ「残念だが、ブラッチャー優先だ。それと本部長からの報告だが・・・あのTYに害はないらしい。よって後はお前らふたりだけに任せる。」
のぞみは飛び去っていってしまった。
つばさ「ちっ・・・俺はもう引退しているんだぞ!」
チェン「仕方が・・・あっバイクが。」
ヤマハTYが線路から離れ始めた・・・。
もうすぐ西立川駅だ。
つばさ「・・・チェン、お前、高いところ、平気か?」
チェン「へっちゃれです。香港には高層マンションが多いこと、知らないんですか?」
つばさ「・・・西立川の側線に客車を置いていくぞ。」

つばさはチェンを抱えて飛びながらTYを追跡していた。
昭和記念公園の横を通り過ぎると、住宅街をジグザグに進む。福島町から築地町へ入ったあたりで、また青梅線の横に戻った。青梅線の立体交差を潜り、朝日町に入る。
中上立体南交差点で右折。まっすぐ走って、あさひ町交差点でまた右折。そのまま突っ走っていく。
チェン「いったいどこまで・・・。」
つばさ「どこまで行こうと、俺たちをなめてもらっちゃ困るんだよ!」
つばさが飛行速度を上げていく。
つつじヶ丘公園前に来たときだった。ライダーはTYを公園入り口に来たかと思うと急停車。
つばさもをあわてて止まろうとしたが・・・公園入り口付近の木々の樹冠群に突っ込んで行ってしまった。
つばさ「#$$%##\'%&@@*!????」
チェン「點解撞擊(何で突っ込むんですかあああああああ)!!!!!!???」

 
 

 
後書き
(※1)ヤマハのモトクロスバイク。詳しいことはよく知らない
(※2)マダム=香港警察では「女性警官」を指す敬語。師姐(シジェ)ともいう。男性警官の場合は「サー」。 

 

”九龍から来た女”5

つばさ「うぐげげ・・・っ!!ザマアネエ・・・。」
チェン「あ痛たたたたた・・・。」
二人は尻をさすりながら茂みから出てきた。さっきの公園の入り口から80メートルほど先まで行ってしまったらしい。
その証拠に目の前には・・・。
チェン「あら・・・団子鼻君・・・。」
つばさ「よう、元気か・・・。」
この公園北口では、0系新幹線が図書館として活用されているのだ。
つばさ「いつだって、苦労知らずな呑気面だな0系。」
つばさはぼやきながら再び・・・今度はチェンを置いて、上空へと上がり、南口へ戻って行った。
が、数分後、虚しく戻ってきた。
つばさ「空から探してもオートバイが見えなくなっちまった。消えちまったよ。」
チェン「消えたって・・・トラックか何かにでも・・・。」
ケータイ「ブーブー・・・♪」(新幹線ブギ)
チェン「はい。」
?「マダム、それにミニ新幹線君。大丈夫ですか。0系の場所まで飛んでいったような・・・。」
つばさ「ああ、その通りだお前に振り回されて・・・。」
?「まあまあ・・・おかげでもう一つ、ヒントを教える手間が省けましたよ。何せあなた達の目の前にあるんですから。
では、最後まで頑張ってください。」
つばさ「ざけんじゃね・・・。」
チェン「切れた・・・もう一つのヒントが目の前に・・・まさか。」
チェンとつばさは0系を見上げる。
チェン「あのライダーはここで雲隠れするつもりだったとすると、ここにある何かを見せるためにチェイスを仕掛けた。」
つばさ「それが・・・この0系だってのか?」
つばさは納得できないような顔をしている。
チェン「0系・・・『青から緑、そして青に戻る』・・・0系は青いひかり・・・ハッ。」
つばさ「どうした?」
チェン「・・・東京都内に、0系が展示してある場所、ここの他にもう一か所ありますよね?」
つばさ「あ・・・ああ、青梅鉄道公園か?」
チェン「そこですよ!急ぎましょう!」

つばさとチェンは線路を使わず、上空から青梅へと向かった。
途中、のぞみやポリスウィンたちから連絡が入る。
のぞみ「ブラッチャーは片づけたが、そちらは?」
つばさ「つつじヶ丘でバイクを見失った。それで、何でか知らねえが、チェンが青梅鉄道公園へ行けとか言い出して・・・。」
PW「青梅鉄道公園だと?」
チェン「ライダーは私達をつつじヶ丘公園の0系まで誘導したんです。『青から緑、青に戻る』っていうヒントを残して・・・。」
PW「青から緑・・・。」
テツユキ「0系が緑・・・そうか・・・そういうことですか!?」
チェン「青梅鉄道公園。あそこの0系は一時期、青じゃなくて緑のラインになっていたことがあったんですよ!」
のぞみ「そして今は青に戻されている。青から緑、最後は青に戻った。」
つばさ「その0系があのライダーの狙いか・・・。チェン、しっかりつかまってろ!」
チェン「はい!」

住宅地の上空を抜け、青梅鉄道公園に着いた。
正面入り口を入るとすぐそこにSLが並んでいる。そこを通り過ぎると、下り階段。
目当ての0系はその先に展示してあった。
つばさ「まずは車内を探そう。」
チェン「OK。」
つばさとチェンは0系の車内を探し回った。3+2列席、運転室、ATC装置内、その他もろもろ・・・。
チェン「見つかりません。車内の方が隠しやすいと思うんですか・・・。」
つばさ「となると外か。あのクソライダー、午後だなんて大雑把に言いやがって、正確な時間言っとけっての・・・。」
ふたりは車外に出る。と、
「にゃあ!」
つばさ「ワッ!なんだお前、のらかよ。驚かすんじゃねえよ。」
「にゃーん。」
猫は0系の下に戻っていく・・・。
つばさ「ここに住み着いていたノラなんだが、今じゃ猫駅長だとさ。」
チェン「へえ、かわいい・・・ん?つばささん・・・下回りをちょっと見てください。」
つばさ「ん?」
車体の下をのぞき込む。電子機器が内蔵されていると思われる金属製のボックスが一個だけついていた・・・が、
チェン「おかしいですよ。ここの0系は、車体の下にあった機械は全て外してしまってあるはずです。もしかして・・・。」
チェンはいきなり0系の下に潜り込み、目当てのボックスに手を伸ばす。
ボックスに鍵は付いておらず、やすやすと開いた。その中身は・・・
チェン「これ・・・かも。」
チェンが取り出したのは、お菓子の缶箱だった。
チェン「つばささん・・・。」
つばさ「お、おう・・・。」
ちょうづかいのある缶箱だった。大きさは小さな裁縫セット程度。それをつばさが受け取った。
チェン「これを安全な場所に。」
つばさ「おう・・・。」
その時だった。突然ひとりでに箱がパカッと開いた。そして・・・

バアーーーーーーーーーーーン・・・。 

 

”九龍から来た女”6

 
前書き
のら、もう疲れたよ・・・。 

 
つばさ「・・・クラッ・・・カー?」
チェン「だった・・・みたいですね。」
つばさ「・・・チクショウ、馬鹿にしやがってあのクソライダー!」
仕掛けを缶から引きずり出すと、
つばさ「れ?」
そこにまだ何かが入っていたようだ。つばさがそれを取り出す。
小さなきんちゃく袋。張り紙がしてあった。
つばさ「『マダム・チェンへ』だと。」
チェン「私に?」
チェンがきんちゃく袋を開くと・・・。中身はホルダー付きの何かの鍵と一枚の手紙だった。
チェン「何々・・・『着任初日のご無礼、大変失礼いたしました。あなたなら新たなお仲間方とより良い関係を築いていくことでしょう。どうぞ、粗品であるかもしれませんが、これはお詫びのしるしです。青梅駅の荷物預かり室に置いてあります。
これからのご活躍。期待しております。』・・・。」
つばさ「・・・何だかわかんねえけど、ご褒美がもらえるってことかい。」
ふたりは訝し気に公園を後にした。のらに見送られて。
「にゃーん・・・。」

手紙にある通り、青梅駅まで行ってみると確かにチェン宛に預け物があった。
スポーツバッグ風の袋から取り出してみたそれは・・・。
つばさ「折りたたみ自転車じゃねえか。」
チェン「輪行車だったんだ・・・。」
真っ白なボディには「AOBA・POLICE Model」と・・・。

それから一時間弱して、本部につばさと自転車に乗ったチェンが帰ってきた。
そこにはヒカリアンとその関係者(ミナヨやテツユキとかも含む)が集合していた。
チェン「では、改めまして・・・ファー・チェン・ルーン。チェンと呼んでください。みなさんよろしくお願い致します!」

その様子を遠くから眺めている者が2名。一人は昼間山手線で会ったあのアオバだった。
アオバ「あの分なら大丈夫そうだね、創作爺ちゃん。にしても無茶したもんだね・・・。」
創作「なーに、テストじゃよ、テスト。他の皆さんにも仕掛ければよかったかな・・・ほら、アオバも混ぜてもらえ。」
アオバ「うん!」
ヤマハTYにまたがった峠創作は、団欒に加わろうと駆けていくひ孫を見送った・・・。 

 

引退前日

 
前書き
新聞記事
JHR東海・西日本よりお知らせ。
300系車両の最終走行は、2012年3月16日(金)の臨時「ありがとう300系」のぞみ号。10時47分東京発博多行き。
100系車両の最終走行は同じく臨時「さよなら100系」ひかり号。14時30分岡山発博多行き。
いづれも全車指定席。最終走行にあわせ、東京・岡山両駅にて出発式、並びに博多駅、博多南駅、博多総合車両基地にて引退式を開催。 

 
某所
?「ふふふ・・・いよいよ決行の日が迫っているぞ。抜かりはないだろうな。」
??「はい、総力を挙げております。絶対に彼らが無事に最後の花道を飾ることはないでしょう。」
?「ふふふ・・・見ていろ。徹底的に叩き潰してみせる。ヒカリアンとしての、そして新幹線としての誇りなど、石ころ同然だと証明してみせよう!」




「永遠の"のぞみ"と"ひかり"」




3月15日の昼前。
秋葉原万世橋にあるJHR基地。そこに来客があった。

ライトニング・ノゾミアン-のぞみはその時、宿直部屋で執務ノートを読んでいた。

のぞみ「・・・明日のスケジュール暗記はもう完璧かな。後はその場の臨機応変・・・。」

セブン「おーい、のぞみ!『西』からひかり隊長たちが来ているぞ。」

のぞみ「分かった!すぐ行くよ。」

彼の体にはラッピングがされてあった。
「SHINKANSEN SERIS300 ありがとうLAST RUN 2012.3.16」と。



ひかり「調子はどうかね。」

のぞみ「ええ、何とか胸を張って最後まで走れそうです。」

ひかり「それはよかった。それにしても、まさか同時引退になるとはなあ。いつまでもおっちょこちょ
いの小童だと思っていたお前と・・・。」

のぞみ「おちょこちょいはないでしょう。おっちょこちょいは。」

ひかり「分かっているよ、昔の話。今は掃除洗濯もちゃんとできるように・・・。」

のぞみ「そのくらいにしてくださいよ。それはそうと、ウエストなんですが・・・。」

ひかり「心配はいらん。あいつはもう子供じゃない。きっとこれから先来るであろう新入り達をまとめられる。」

のぞみ「そうですね、セブンも付いているし・・・ただもう一つ心配があるんですよ。」

ひかり「お前さんの言いたいことはすぐに分かるよ、人間の友達・・・だろ?」





AHRレスキュー「ボス、How long?いつまで落ち込んでいるんです。」

テツユキ「だってよ・・・はあ、日本で運転士になればよかったよ・・・。」

ウエスト「何言っているんだよ。頑張れば電車の運転士にいつでも戻れるって。昔から訓練しているんだから・・・。」

テツ「のぞみの運転席にはもう座れないんだよ・・・局長の椅子、早く誰かにゆずろうゆずろうと思いながら、グズグズしてその挙句・・・アア・・・。」

のぞみ「まだ後悔しているのか・・・。」

テツ「あ、のぞみ。ひかり隊長も。」

のぞみ「いつまでも落ち込んでいてどうするんだ。自分の選んだ仕事を悪い風に考えるなんて。私はこの300系をボディに選んだ以上、この引退も宿命だと思っている。」

テツ「そんな・・・のぞみは引退までに俺に運転席に戻ってきて欲しいって思っていたんじゃないのか」
のぞみ「君のことはもう仕方がないことだ。見送ってくれるだけでも嬉しいよ。
それより、君はまだまだ頑張れるだろう。後輩の運転士を育てたりとか・・・。」

レスキュー「それに関しては、ミーがうちの後継者をfinding、探しています。それが見つかったら、ボスはJHRに戻る。で、捨てた夢を取り戻せばOK。」

7「それに、ケンタも西日本で運転士目指しているんだ。先輩として、運転のイロハを教えてやれよ。」

テツ「ハア・・・みんな楽天的だな・・・。」

W「楽天さ捨てて、悩むばかりの生き方をしていたんじゃ、誰も幸せになれないよ。」

ひかり「ウエストの言うとおりだ。それより、ほら、指定席券だ。」

テツ「・・・ありがとうございます。」

のぞみ「テツユキ君、それじゃあ、後で運転席、座ってみるか?」

テツ「・・・ああ。」



下町中華374庵

ミナヨ「そんなに落ち込んでいたの・・・。」

ひかり「うん。後でサービスしてくれないか。代金は私が払うよ。」

ミナ「・・・でも、テツユキ君、まだ・・・。」

神田父「・・・まだ?まだ仲たがいしたままなのか?この前よく話し合ったんじゃ・・・。」

ミナ「その話とは別よ。前に比べれば、ここで食事したり、出前を取ったりした時は愛想良くなったわ。
でも、私が『どっか行こうか?』って誘ったりすると『他の誰かと行け。』って、途端に態度が冷たくなるの。」

W「さすがのテツユキ君も警戒しているんじゃない?またワガママに振り回されて・・・。」

ミナ「私はもう大人よ。テツユキ君のこと・・・もっと大事に・・・。」

W「どうだか・・・。」

7「ウエスト。ミナヨちゃんをいじめるなよ、ケンタもケンタだが、お前もお前だ。」

神田父「ケンタ君も変わったよな。前は気弱だったのに・・・。」

W「運転士を目指している分、責任感が強いんだよ。いい加減な人間を許せないのさ。」

ミナヨはまたあの一件‐アオバに怪我をさせた事故を思い出した。
あの時、ミナヨは峠一家にとってかけがえのない宝物だったプジョーを大破させてしまった。

ケンタからは
「あの自転車が直ったとしても、ミナヨ姐ちゃんが許されるとは限らない。さて、どうしてくれる?」
という言葉を食らった。

反省のための試練を乗り越えた後も、ケンタとは未だに折り合いが悪い。
彼はJHR西日本の学校に入る前は、アオバと仲が良かったという。

神田父「はあ・・・せっかくカレー屋を復活できそうなのに、昔の常連さんがこれじゃあなあ・・・。」

W「カレー屋って・・・ヒーヒーカレー?」

神田父「ああ、この前東京駅内の・・・ひょんなことから前の店の跡地の権利を再取得したんだよ。
ミナヨが独立したら、またカレー屋を復活させて経営させようかと思ってね。私はこっちで頑張る代わりにね。
それでな・・・実はそろそろかなって思っているんだ。」

W&ひか「何を・・・。」

ミナ「・・・お婿さん。」

W&ひか「!?」

神田父「いや、ちょっと恥ずかしい話なんだが、ミナヨももう年頃だし、跡取りを確保したいなと。
それで候補なんだけど・・・私としてはテツユキ君がベストかな、と思っているんだが・・・。」








テツ「ブヘーックシュッ・・・またミナヨが俺のこと・・・で、のぞみ、どうなんだ?」

のぞみ「何が?」

テツ「とぼけるな。明日、俺だけじゃなくて必ずミナヨも乗るだろう?」

のぞみ「・・・ああ、当たり前だろう。」

テツ「あいつの席の番号は?」

のぞみ「・・・いや、私は聞いていないよ。」

テツ「何を言うんだよ。お前なら、どの席を確保するかぐらい、緑の窓口に指示できるだろう?」

のぞみ「・・・。」

テツ「大体見当はつくよ。車両は博多方面の先頭車、つまりお前自身。席は・・・おそらくミナヨと俺は隣同士。そうなるように席を空けておいた。違うか?」

のぞみ「・・・君、そんなにミナヨちゃんと一緒が嫌か?」

テツ「悪いか?。せっかく自分を取り戻せたと思ったら、今度はあいつのキチママに散々振り回されて・・・だから俺は結局日本を捨てて、アメリカに戻った。今まで帰れなかったのは・・・。」

のぞみ「ミナヨちゃんから逃げていたんだろう?」

テツ「逃げたんじゃない。」

のぞみ「いや、逃げていた。好きだと思い続けていた相手だけじゃない、運転士になる夢からも。」

テツ「く・・・俺は・・・。」

ピピピ・・・。

のぞみ「・・・通信だ。はい?」

?(鈴木勝美)「・・・調子はどうかね、のぞみ・・・。」

のぞみ「あっ!」

テツ「あんた・・・まだ生きていたのか?」

?「ムカッそういうお前さんはテツユキじゃな、あとでちょっと来い。」

テツ「・・・ゴメンナサイ」

?「ほほほ!ジョークじゃよ。ひかりにも連絡しとくわい。司令室に来ておくれ。」

のぞみ「了解・・・話の続きだが・・・。」

テツ「分かっているよ。どうせ俺は・・・。」

のぞみ「ちゃんと聞いてくれ。それでも君は一度は戻ってきてくれた。アオバちゃんとの事故を起こした時・・・。」

テツ「あれはアオバがチェンさんやケンタと知り合いだったから、二人に申し訳ないと・・・。」

のぞみ「それだけか?本当はこの手でミナヨちゃんを改心させたくて帰ったんじゃないのか。」

テツ「・・・。」

のぞみ「まあいい。また後でじっくり話し合おう。」 
 

 
後書き
えーと、2話スタートです。

 

 

会議

 
前書き
ご老体登場。 

 
JHR基地司令室。

例によって呑気な職員たちは休憩でテレビを見ている。松任谷由実の歌が流れていた。

ユーミン「ガラスに浮かんだ町の灯に溶けてついてゆきたい、ため息ついてドアが閉まる、何も云わなくていい、力をください、距離に負けぬよう・・・。」

(『シンデレラエクスプレス』松任谷由実・作詞/作曲・JASRAC(出)許諾040-9122-1号)


富士見「『シンデレラエクスプレス』・・・か。懐かしいな。」

新幹線に乗った恋人を見送る女性の映像が流れている。その新幹線というのはどうやら300系のようだ。

笛太郎「・・・何だかミナヨちゃんとテツユキ局長、それにのぞみに見えてきますね。」

アケミ「え~、のぞみさんはそんな意地悪じゃありませんわ。二人を引き合わせたり、引き離したりなんて・・・。」

トキサダ「それはそれで、面白・・・プププ・・・嫉妬してミナヨちゃんに意地悪するのぞみ・・・。」

笛「あ、トキサダさん、僻みですか?」

トキ「・・・俺、最近もてないんだよな。なんでだろ?(´;ω;`)」

ブイーン・・・。

富士見「おう。のぞみとテツユキ局長か。」

のぞみ「ひかり隊長も後で来るはずです。」

テツ「ちょっと呼び出しを食らって。」

富士見「?私は別に呼び出したりしていないが・・・。」

のぞみ「後で分かりますよ・・・。」




数分後、ひかり隊長やウエスト、セブン他新幹線メンバー、それにミナヨとチェンまでもが集まった。

テツ「・・・ミナヨも呼ばれたのか?」

ミナ「う・・・うん、『あのヒト』が『君も来ておくれ』って。」

ひかり「・・・さて・・・みんなそろいましたよ。」

すると・・・

?「ホホホホホホ・・・!!」

突然司令室中央が光輝き、床が開いた。そこから出てきたのは・・・。

JHR職員とチェン以外「こだ爺!」

トキ「こだ・・・爺?」

富士見「0系新幹線の・・・ヒカリアン?」

チェン「あれは・・・。」

W「僕達の長老様だよ。」

ひげを生やした0系のこだ爺。背中に満開の生け花やら「家内安全」「交通安全」と書かれた立て札。

こだ爺「ホヘーーー!ゴッホン。話は聞いておるぞ、ひかり、のぞみ。おぬしらはもう新幹線としては引退するとな。」

ひかり「はい。しかしブラッチャーとの戦いはまだ続ける予定です。」

テツ「・・・長いこと寝ていたのにどうしてふたりの引退が分かったんだろう?」

こだ「わしはこう見えて超能力の持ち主なんじゃ。近頃どうなっておるかもテレパシーで分かるのじゃよ。
それはそうと・・・明日のラストラン、誰ひとりとして邪魔してこんとは限らんぞ。」

のぞみ「ムッ・・・。」

のぞみたちが顔をしかめた。

のぞみ「・・・ブラッチャーですか?」

こだ「うむ、わしの見たところでは、海の向こうから来た黒い列車が・・・お前さん方二人をいっぺん・・・。」

のぞみ「私達二人を?」

ひかり「狙っていると?」

こだ「・・・グッ」


ガタンッ


笛「あ!」

トキ「・・・まさか。」

アケ「お亡くなりに・・・。」

W「だいじょーぶっ。」

こだ「・・・ZZZZZZZ・・・新幹線がコンテナ列車ひくのだけはごめんじゃ・・・。」

テツ「昔からこのとおりなんですよ。お告げしたと思ったら・・・。」

チェン「・・・。」

つばさ「どうした?」

チェン「え?いや、何でも・・・。」

こだ「ZZZZZZZZZZ・・・・・。」






会議部屋にて
テツ「『海の向こうから来た黒い列車』っつってたけど、そうなると相手は・・・。」

7「ブラッチャールユーロだ。」

チェン「ブラッチャールユーロ?この前言っていた・・・。」

テツ「車体は真っ黒に塗られたイギリスの超特急ユーロスター。
ブラッチャ-の中では男爵の地位にある。」

7「それまで攻撃を仕掛けていたブラックエクスプレスたちとは違い、沈着冷静で抜け目のないヤツだ。」

W「このところ、ブラッチャールドールという人型ロボットを量産して、攻撃を行っているんだよ。」

PW「たちの悪いことに最近は人間側の悪事に手を貸すことも多くてな・・・。」

チェン「人間の悪事にですか!?」

ミナ「地上げ、振り込め詐欺、騒音街宣、なんでもありよ。」

チェン「・・・。」

つばさ「どうした?」

チェン「あ、いや何でも・・・。」

その時、ドアをノックする音が・・・。

富士見「!入れ。」

ケンタ「すみません、遅れてしまって。」

W「ケンタ!!」

富士見「私が呼んだんだ。」

ケン「えっと、みんな会議は・・・あれ、あなたは・・・?」

チェン「あ、私はファー・チェン・ルーン。香港警察から来ました。」

ケン「香港警察・・・あ、そういえば何か聞き覚えが・・・。」

ミナ「私の罰試練を提案した人なんだって。」

ケン「へえ・・・あ、思い出した。確かテツユキ先輩のところに行っていて・・・。」

ミナ「え?」

テツ「・・・そ、そうなんだよ。チェンさんも香港のヒカリアン組織に所属していて、それでAHRへ。」

W「で、特殊部隊式の特訓をしてくれたんだよね。射撃の下手なテツユキ君の・・・。」

テツ「わー!わー!言うな言うな!」

ミナ「・・・ジロリ」

チェン「ギク。」

ケン「あ、ははは・・・会議会議・・・あ、申し遅れました。
僕は聖橋ケンタ。JHR西日本の運転センターで研修を受けています。」

チェン「よろしく・・・。」




数時間後

富士見「それでは、明日の運行計画を発表する。


まず、のぞみは予定通り10:47に東京駅を出発。途中主な駅に停車しながら、13:23新大阪に到着。

7分間の休憩・撮影の後、そのまま山陽区間に入り、14:14に岡山駅でひかり隊長と並ぶ。

その後、ひかり隊長より先に岡山を出発。博多到着は16:06。その後は最終式典の準備に移る。
ひかり隊長はのぞみの出発3分後に岡山を出発。博多到着は17:17。

その後はのぞみと共に最終式典に参加する。」

のぞみ「ほかの面々については、ウエストとセブンは線路上の見回りも兼ねるが、通常運行を優先しろ。」

W「のぞみ、何かあったら駆けつけさせてくれよ。」

7「700系や500系は俺たちだけというわけじゃないし・・・。」

のぞみ「いや、当日はさよなら列車に乗る人だけが新幹線を使うわけじゃない。
仕事で使う人達もいるんだ。いつもどおりそういう人たちにも対応しなければならない。」

ひかり「気持ちは分かる。何か異変を発見したら、すぐに本部に連絡してくれ。
ドクターたちが駆けつける。」

W&7「分かった。」

富士見「特車隊メンバーはトレーラーに乗り、沿線をパトロールする。
つばさは上空からだ。それとチェン。君はのぞみに乗車してくれ。」

チェン「え!?」

のぞみ「車内に不審な者がいないか、見回ってほしいんです。」

チェン「・・・い、いや、でも・・・。」

PW「任務に不服があるのか?」

チェン「・・・いえ。」

ケン「・・・イジメルナヨミナヨネエチャン・・・。」

富士見「ケンタ君。」

ケン「あ、はい!」

富士見「君はひかり隊長の運転席に座ってくれ。」

ケン「え・・・?い、いやあのその・・・僕はまだ、研修生・・・。」

ひかり「これも研修の一環だ。大丈夫、私がフォローする。」

W「・・・隊長に恥かかせるなよ。」

ケン「そっちこそ。お客さんほっぽり出さないでよ。」

富士見「我々は普段通り諸君らを見守る。
のぞみとひかり隊長、今日はゆっくりと休み、明日に備えてください。では、解散。」

テツ「あの、俺は・・・。」

富士見「テツユキ局長は何の心配もなく、ごゆっくり。ミナヨちゃんも。」

ミナ「あ・・・はい・・・ジロ。」

PW「あ・・・そうだ、チェン。」

チェン「は・・・はい!」

PW「今朝、香港から届いたものがあるんだ。装備課に預けてある。行けば分かるよ。」

チェン「そ、それじゃあ私はこれで・・・。」 
 

 
後書き
次・シリアス注意。 

 

けんか

 
前書き
シリアス注意。 

 
会議後の廊下にて

ミナ「テツユキ君、何であの時(1話)言ってくれなかったの?」

テツ「チェンさんと俺の関係まで話したところで、お前はどう解釈する?
どうせまたチェンさんを恋敵か何かとしか解釈しないんだろう?」

ミナ「何よ、それ。私はもうワガママな子供じゃないの!」

テツ「今でも充分ワガママだよ。
あれだけ甘やかされてどうして大人になってもワガママじゃないと・・・。」

ミナ「何ですって!」

テツ「文句あるかこのビ○チ(禁止用語)!」

のぞみ「やめないか!いったいどうしたんだ二人とも。どうして昔のように仲良く話せないんだ?」

テツ「そんなの・・・大人になりゃ人間変わるもんだろ。」

のぞみ「それにしたって、このいさかいはあんまりだ。私はもう運行から引退するんだぞ。

最後の最後で、いがみあう君たちを乗せるぐらいなら、いっそ走らずに解体された方がよっぽどましだ!」

テツ「ああ、そうかい。だったら俺はもう乗らないぜ。」

ミナ「ちょっと!」

テツ「見送るだけなら外からでも充分だ。せいぜい最後まで頑張って走りな。ミナヨ、お前なんか友達以下だ!」

テツユキはさっさと行ってしまった。

ミナ「・・・のぞみ、私、私は・・・。」

のぞみ「ミナヨちゃん、分かっている、君はもう・・・分かっているから・・・。」







その夜、ミナヨは悪夢にうなされた。

彼女は新幹線・・・300系の車内にいた。何故か小学生時代の姿になっていた。
デッキに出る扉からテツユキが顔を出す。やはり子供の顔。だが、運転士の制帽をかぶっていた。
その目は・・・とても子供の目ではない、冷たい目線だった。すぐに扉の向こうに姿を消す。
ミナヨがあわてて追いかけ、扉を開ける。デッキにテツユキの姿はない。また次の客室。ここにもいない。
またデッキ、客室、デッキ、客室、デッキ・・・。何度も繰り返される。
十六両目に来ても、運転席にたどり着けない。疲れ果ててしゃがんでしまうと、後からテツユキの声。

「お前なんか友達以下だ。」

振り向くとテツユキが立っている。きびすを返してまた扉の向こうへ・・・。
ミナヨがまた追いかけて扉を開け・・・その先には何もなかった。後ろの客車が切り離されて行くのが見える。

ミナ「テツユキ君・・・待ってよ!!!!!!」











そこで目が覚める。前身汗まみれの状態で。

ミナ「・・・最後だけは、一緒に乗ろうよ・・・君と・・・。」 
 

 
後書き
何書いているんだが、私。 

 

そしてその日が来た・・・。

 
前書き
今日でもう5年目なんですね。早いもので・・・。 

 
3月16日。



基地内ではラストランに向け、朝から車両の最終チェックが行われた。

そして午前10時少し前頃・・・。


のぞみ「・・・そろそろだな。車両に戻って・・・。」

コンコン・・・。

のぞみ「どうぞ。」

テツ「俺だ。」

のぞみ「・・・テツユキ君か。」

テツユキは神妙そうな顔で入ってきた。

テツ「のぞみ・・・昨日はごめん。あんなこと・・・。」

のぞみ「いいや。心にもないことだとすぐに分かったことだ。これっぽっちも気にしちゃいないよ。」

テツ「・・・ウソつけ。」

のぞみ「ああ、ウソだ。君のことを気にかけて、昨日はあやうく寝不足になるところだった。」

テツ「プ」

のぞみ「ハハハハ・・・。」

二人とも軽く笑い転げてしまった。

テツ「真面目になったと思ったらそんな冗談・・・安心したよ。それで・・・。」

再び神妙な顔に戻る。

テツ「俺、のぞみに伝えたいことがあるんだ。ミナヨのことは・・・今日は一緒に乗るよ。」

のぞみ「・・・そうか。分かった。」

のぞみがほっとした顔になった。

のぞみ「テツユキ君、ミナヨちゃんの席は・・・。」

テツ「分かっているよ・・・東京駅で会おうな。」

のぞみ「ああ。」

ミナヨのスマホにメールが入った。テツユキからだった。

「昨日は言い過ぎた。ゴメン。のぞみにも心配かけた。やっぱ一緒に乗ろう。
俺の席番号は1号車1D・・・。」

博多方面の先頭車の一番前、右側から二番目の席だ。300系の座席は左3列、右2列となっている。
ミナヨはしばらく黙って見ていたが、やがて返信を打ち始めた。

「私こそ、今までごめんね。私の席は1号車1E。あなたの隣・・・。」





岡山車両基地

ケン「・・・何だかまだ信じられない。僕、研修生なのに本線上を・・・。」

ひかり「君の技術ならできる。それにもしものときはフォローすると言っているだろう。」

7「テツユキのヤツは小学生の頃から本物の新幹線運転してやがったからな。ケンタもだが。」

ケン「ははは・・・。」

ひかり「ははは・・・それはそうと・・・こだ爺の予言が引っかかる。」

ケン「ユーロの作戦?」

ひかり「『私達ふたりをいっぺんに・・・。』私とのぞみを一度に始末するとなると・・・。」

7「ふたりが並ぶ駅、つまりこの先の岡山駅がターゲットだと・・・?」





博多駅

W「ライトニングウエストより管理司令室へ。今のところ異常なし。
これから折り返して新大阪へ・・・。」

こだ「ほへい。」

W「ワッ、こだ爺!」

こだ「お前さんも頑張っておるようじゃな。わしも今日と言う今日は、寝てばかりおられんわい。」

W「こだ爺・・・俺、正直に言いたいことがあるんだ。」

こだ「ん?」

W「俺、のぞみをすごい恨んだ時期があったんだ。俺がこっち(山陽)だけで働くことになったとき・・・。」

こだ「8両編成に減らして、各駅停車。時速は300キロ出さない・・・かね。」

W「うん。何でって聞いたらさ、『お前は設計が東海道の駅に合わない』とか『ビジネスマンが乗るのに不向き』とか言われて・・・ショックだった。
『お前は邪魔だ』って言われているようなものだった・・・。」

こだ「そうかもしれんの・・・じゃが、それでもお前さんは生き残ってきた。ひかりと共にな。」

W「ああ。こっちに来てからはひかり隊長から指導受けて・・・もう慣れたよ。それに・・・。」

こだ「子供達からは大人気。」

W「そうそう。この前博多でのぞみとばったり会ったらこんなこと言っていたよ。
『東京には500系を見たがる子供がいっぱいいる。私は影薄いのかな・・・。』ってさw。」

こだ「ホホホホホ・・・それでいいんじゃ。や、もう出発の時間じゃぞい。」

W「いけね。また後でね、こだ爺・・・。」




東京某所

女子アナ「今日、新幹線の歴史上に輝くふたりの英雄が線路を去ろうとしています。
新幹線100系電車は昭和60年、0系に代わる二代目のひかり号として誕生し・・・。」


ドジラス「本当に引退しちゃうなんて・・・ボディで言ったらおいら達の方がずっと古いのに・・・。」

ウッカリー「新幹線と機関車を一緒にしてどうするんだよ・・・。」

ブラックエクスプレス(やっと登場)「・・・。」

ウカ「親分、それでどうするんです?ユーロ男爵の作戦。参加しないの?」

ちゃぶ台の上にはこんな手紙が置かれていた。


「ブラックエクスプレス君と子分くんたちへ。
君たちの永遠の敵、のぞみとひかりがまもなく引退する。
多くの人々が集まるこの機会を逃す手はないと私は考えている。
どうだろう。のぞみとひかりに無事な引退をさせないよう、私の作戦に協力してくれないかね?

ユーロより」


ウカ「みんなの思い出乗せたのぞみとひかりを攻撃したら、それはみんな、いやーーーーーーーな思いをするよね。」

ドジ「でも、それでいいのかな・・・?」

ウカ「ドジラスは行かなくていいよ。JHRに頼まれて、こっそりイベント列車ひいてるんだろ?」

ドジ「あ、ばれちゃってた?」

ウカ「バレバレ。」

ブラ「少し黙っていろ。」

ドジ&ウカ「親分・・・。」


女子アナ「あ!今、ホームに入ってきました。300系のぞみ号、最後の勇姿です・・・。」 

 

出発進行

300系が姿を見せたその瞬間、東京駅のホームは怒号とフラッシュの嵐となった。

当の300系・・・のぞみは内心苦笑しながら、静かにホームに止まった。

バイザーを上げてテツユキとミナヨを探したかったが、そんな事をすると騒ぎが一層大きくなるだけなので我慢した。ま、いずれバイザーを上げることになるが・・・。





出発式の終わりごろにバイザーを上げ、目を出した。
予想通りフラッシュの集中攻撃に遭った。

目をパチパチさせながらテツユキとミナヨの姿を探したが、見当たらなかった。
もう乗ってしまったのか。それとも、やっぱり・・・。

ミナ「のぞみ、もしかして私たちを探しているの?」

テツ「もうとっくに乗ってるよ。」

二人の声だ。

ミナ「疑っているなら今、画像送るわね。」

のぞみのカメラアイにスマホから送ったらしい車内の映像が移った。
先頭車内だ。ミナヨとテツユキが顔を出す。

のぞみ「良かった。てっきり・・・。」

テツ「何せ人が多くてさ。ろくに近づけなかった。」

ミナ「のぞみ、昔からいつもただで乗せてくれていたわよね。
今思うと、私もいっぱいワガママ言ってのぞみを困らせて・・・ごめんね。」

テツ「ミナヨらしくないだろ。本当に違う意味で俺が困っちまうよ。」

昨日の言い争いがウソと思えるような光景だった。大丈夫だ。ミナヨちゃんはもう暴走少女じゃない。
テツユキ君も同じだ。昨日のアレは気恥ずかしさか何かが悪い形で出ただけだ。

のぞみ「言えたな。二人とも、今日一日は好きに楽しんでくれよ。」

ミナ「・・・そうね。のぞみって車内が広く作られていることだし、ゆっくりさせてもらうわ。」

テツ「そう。300系の車内は広いから、俺みたいな脚の長いやつだって背も足もグーンと伸ばして・・・。」

ミナ「・・・アレ?いつもズボン買ったとき、裾いっぱい切っていた人誰だったかしら・・・???」

テツ「ギク・・・いや、それはミナヨだろ。」

ミナ「いや私が短くしていたのはスカート・・・って何言わせるのよ#。」

のぞみ「プ・・・クフフヒヒヒハハハ・・・。」

ミナ「ちょっとのぞみ、何笑っているのよ。」

のぞみ「いやいや、そういうホノボノしたやり取り、いかにも君たちらしいなって・・・。」

ミナ「はい?」

テツ「ままま・・・のぞみ、リラックスできたんならよかった。」

のぞみ「ははは・・・そろそろだ。携帯回線をOFFにする。」

テツ「ああ・・・。」

ナ「のぞみ・・・頑張ってね・・・。」







プワアアアアアン・・・。





10時47分、300系「のぞみ」最後の出発だ・・・。 
 

 
後書き
劇中の運行ダイヤ
のぞみ
東京10:47→品川10:54→新横浜11:06→名古屋12:32→京都13:08→新大阪13:30→新神戸13:44
→岡山14:18→広島14:57→小倉15:48→博多16:06

ひかり
岡山14:31→広島15:34→徳山16:15→新山口16:31→小倉16:57→博多17:17 

 

思い出を辿って

 
前書き
少し原作の話に触れます。
オリ設定もあるので注意。 

 
最初の停車駅は品川。次の新横浜を出発してからその先は一気に名古屋まで走っていく。
小田原、熱海を通過すると、待ち構えるのは東海道新幹線で最長を誇る新丹那トンネルだ。

ミナ「ここって・・・。」

テツ「そう。俺とのぞみが出会った場所。俺が大阪のばあちゃんに会いに行った帰りだったんだよ。」

ミナ「そこへブラックエクスプレスたちが襲ってきたわけね。」

テツ「最初見たときは正直びびった。けど・・・あの時からあいつら、結構間抜けだったんだぞw」

ミナ「そうそう。
ひかり隊長をのぞみの車両に衝突させてしまおうと思ったら、ドジラスとウッカリーが
そっちでテツユキ君のおにぎり食べていて、『やばい!まき沿いだ!』」

テツ「『たすけて~オヤビ~ん!』ってドジラスが慌てているのに、ウッカリーはおにぎりムシャムシャ・・・。」

ミナ「キャハハハハハハハハハッハハハハハッハッハハ・・・あ~おかしいの。あ、ちょっと思い出したんだけど、ドジラスって、昔は怒りっぽかったわよね。ウッカリーを怒鳴りつけていたし。覚えている?みんなでお化け屋敷行った時のこと。」

テツ「俺とのぞみ、それにソニックだろ、と何故かウッカリーまで、ついて来て。
で、ドジラスの奴が嫉妬してお化け屋敷の中煙もくもく・・・。」

ミナ「そうそう。そういえば、ソニックはどうしているのかしら。」

テツ「九州で元気にやっているって。今でも彼女募集中だってさ。
ヒカリアンでも人間でもいいからって。

話を戻すけどさ、あの時ミナヨが怖がったのってお化けじゃなかったよな。確かネズミ・・・。」

ミナ「言わないで言わないで・・・。」

テツ「ネズミちゃんチューチューって来てお前キャーキャー・・・。」

ミナ「言わないでってばw」

テツ「で、俺かのぞみに抱きつくかと思って期待したらウッカリーとソニックの邪魔されて・・・覚えて
ろ・・・。」
ミナ「・・・ウランデイタンダ。」





小倉駅

スナイパーソニック「へっきしょい!」

ヤイミー(813系)「どうしました。」

ソニック「何か、妙な悪寒が・・・気のせいだな。さ、もう一度本州側の見回りに行くぞ。」




関西某所

ウカ「ピギッ。」

ブラ「ピギッって何じゃそりゃ。」

ウカ「誰かが・・・僕に殺意を持っているのかも・・・。」

ドジ「気のせいだと思うけど。」






のぞみは新丹那トンネルを抜けると、熱海、新富士を通過。富士川鉄橋を渡る。
テツ「ここも思い出ある場所だよな。」

ミナ「うん。ブラッチャーの三人、私を人質にしてのぞみを鉄橋の上で止めて・・・縛りつけたのよね。」

テツ「あの時はお前のゴリ押し+子分共の恋慕で時間稼ぎして乗り切ったよな。『最後まで残さず食べなさいよ』ってお前がさ・・・。」

ミナ「へへ・・・子供の私、怖いもの知らずでしたから☆あ、富士山がよく見えるわ。ほら。」

テツ「本当だ・・・シルバーエクスプレスが消したはずだけどな。」

ミナ「後でブラック達から聞いた話によると・・・実はあの時、シルバーは富士山を消滅させたんじゃなくて、瞬間ワープでブラッチャール星に持ち帰っていたんですって。」

テツ「そうだったのか・・・何のために?」

ミナ「盆栽代わりにするつもりだったんですって。」

テツ「プハッハハハ・・・お茶目w」

ミナ「ブラッチャーって本当はみんなそうなのかしらね?」

テツ「一応、元をたどれば人間だしなハハハハハハ・・・。」

富士川鉄橋から先は静岡、掛川、浜松、豊橋、三河安城を通過し、名古屋まで一直線だ。
700系等に比べて音がやかましいと言われる300系だが、その間、テツユキとミナヨが気にする様子はなかった。

ミナ「名古屋で親戚の結婚式が邪魔されたこともあったわね。
で、私とテツユキ君がブラッチャーをおびき寄せるために・・・。」

テツ「あれ今考えても恥ずかしいよ。のぞみのやつときたら、俺にスーツ着せながらさ、お前に似た可愛い声で、『いつか本当に仲人になってあげるからね☆』とか・・・。」

ミナ「フフ・・・実は作戦の前に、私ものぞみに聞かれたの。
『相手役でかっこいい人探してこようか?』って。でも私はね、『テツユキ君がいい』って言ったの。」

テツ「・・・まあ、あの頃はそうだったろうな。ハハハ・・・。」

ミナ「・・・今も、だったら?」

テツ「・・・は?いや、俺は・・・あ、そうだ。サービスコーナーって今、どうなっているんだっけな?
ちょっと見に行ってみる。じゃあな。」

さっさと席を立って後部車両に行ってしまった。

ミナ「・・・どうして・・・なんでなの?」

ミナヨの目はかすかに潤んでいた・・・。 

 

車内の異常

 
前書き
前回から間隔が空いてしまい、申し訳ありません(泣)
まぁ、読みに来る人殆どいないので同じですけどね。 

 
7号車

テツ「サービスコーナーは・・・もうないんだよな。分かっているよ。はあ・・・何やってるんだ俺は・・・。」

チェン「テツユキさん。」

テツ「あ、チェンさん。どうです。車内は?」

チェンはスーツ姿の私服だった。
ドラマ等では、鉄警隊にも私服の刑事がいて、重大事件を捜査する描かれ方をされるが、実際に私服で活動するのは隊本部直属の「特務係」だけだ。チェンは一応特務係所属だが、制服での巡回にも参加する。
そのチェンは少し緊張したような顔で口を開いた。

チェン「・・・怪しげなのが数人。」

テツ「え?」

チェン「8号車に三人、9号車と10号車に二人ずつ。歩き方やしぐさに違和感がありました。それと・・・実は誤って一人に寄りかかってしまったんですが、肌触りが冷たかった。とても人間とは・・・。」

テツ「・・・ブラッチャールドール?」

チェン「まだ、分からないけど、6号車から先も見に行くところです。後ろの車両は門田さんに任せています。」

門田さくら。チェンと同じく(もちろん日本人だが)鉄道警察官だ。
ポリスウィンの部下ではないが、テツユキたちも数回お目にかかっている。

テツ「じゃあ、俺も一緒に・・・あれ、その銃は・・・?」

スーツの内側に、ヒップホルスターに入った拳銃が見えた。
日本の制服警官が採用しているニューナンブやエアウェイトなどではなかった。

チェン「昨日、香港から送られてきたんです。日本の警察拳銃じゃ、心もとないだろうって。」

テツ「・・・SIG.P250DCcモデル。ホルスターはブラックホークのCQC。変わってませんねえ。」

チェン「ふふ・・・日本の警察がこれを正式採用したと騒がれないかが心配ですけど。」

SIG.P250はドイツで開発された自動拳銃だ。銃本体はいくつかの小さなモジュラーパーツに分かれていて、部品の組み換えが簡単にでき、かつ軽量化に成功している。
DCcモデルはコンパクトながら、9mmパラベラム弾を15発を装填可能。
優れた拳銃である一方、政府機関での採用は何故かごくわずかに留まっている。
その数少ない採用先の一つがチェンの所属していた香港警察だ。主に私服刑事が使用している。

チェン「門田さんたちにも急遽ベレッタやUSPが支給されています。車内で銃撃戦は避けたいですが・・・。」

テツ「用心しましょう。」





1号車

ミナ「どこまで行っていたの。」

テツ「悪い悪い。」
テツユキとチェンが見回った結果、2号車に怪しげな人物がもう3人見つかった。
いずれも人に姿を変えたブラッチャールドールの可能性が高い。
それにしても人に化けた人でないものをよくチェンは見破ったな、とテツユキは不思議に思った。
1号車はテツユキが一人で見て回ることにした。チェンとミナヨを鉢合わせて気まずい思いをさせたくなかった。
幸い、それらしいのは見当たらなかった。最もテツユキの目はチェンより鋭いわけではないが。
とりあえず席に戻ると・・・

ミナ「もしかして・・・チェンさんに会いに行ったの?」

テツ「げ。」

ミナヨの目線が昨日のような「嫉妬」モードになっているのが分かった。

テツ「・・・なあ、ミナヨ、チェンさんとは別に付き合っていたんじゃないんだ。まあ、正直言うと、ちょっとだけ惹かれはしたけど・・・でも俺は彼女にはふさわしくないよ。俺は意地汚い真似するけど、チェンは潔癖。清く正しい道を選ぶオマワリサン。俺には高嶺の花。」

ミナ「じゃあ、私はどうなの?つまり私はチェンと違って清くも正しくもないと・・・?」

テツ「い、いや・・・それよりさ、岡山に着いたら、ひかり隊長と合流・・・。」

ミナ「このごまかし下手が(#^ω^)。どうせ私はアホよ。以前ひかり隊長の代理の座を勝手に奪ったしね。」

テツ「・・・うん(言葉が出ない)。」

ミナ「のぞみ達の指揮もろくにできなかったし、みんながやられ始めたら逃げちゃったしね・・・。」

テツ「・・・。」

ミナ「テツユキ君、私ってやっぱり、嫌な女?ドS?自意識過剰?疫病女神?サン オブ ア ビッ・・・。」

のぞみ「ミナヨちゃん、それぐらいにしろ#」

テツ「のぞみ!回線切ったんじゃ・・・。」

のぞみ「心配だから・・・その、スマホをハッキングした。」

テツ&ミナ「ちょ・・・。」

のぞみ「はあ・・・ミナヨちゃん、君がアオバちゃんと事故を起こした時、なぜテツユキ君がわざわざアメリカから駆けつけたと思っているんだ?」

ミナ「あれは・・・アオバがチェンの友達だったから、テツユキ君が責任を感じて・・・。」

のぞみ「それもあるが、彼女はテツユキ君にこう言って説得したんだ。『このまま・・・。』」

テツ「『このままミナヨをほっておきたかったらそれもかまわない。後悔さえしなければ。』二度と会わない。
それで俺は後悔しないかどうか、考えて悩んで末に・・・決心したんだ。お前ともう一回だけ向き合おうって。」

のぞみ「ついでに言うと、あの反省試練を考えたのはチェンだが、流石に過酷過ぎると見たか、君のお父さんや峠一家に提案する前、テツユキ君に相談していたよ。『ちょっと過酷過ぎやしないか』と。」

テツ「俺はこう答えたよ。『ミナヨなら絶対にやり遂げる。』って・・・。」

ミナ「・・・。」

チェン「あの・・・。」

ミナ「ワッ!チェン、いつの間に!」

チェン「いや・・・ミナヨさんと気まずい事になりたくなかったので、1号車に入るの躊躇していたんですけど・・・幸いこっちに不審人物はいないようですね。」

のぞみ「不審人物?」

テツ「何人かいたんだ。多分、ブラッチャールドールじゃないかと・・・。」

ミナ「え?」

のぞみ「それじゃあ、ユーロの手先・・・。」

チェン「まだ、分かりません。デッキ部分も見回りさせてください。」

のぞみ「分かりました。」



先頭デッキから後方デッキまで一通り見てまわったが、結局1号車に不審人物は見当たらなかった。
確認後、チェンはJHR基地とポリスウィンに連絡を入れた。

チェン「・・・計10人が、ブラッチャールドールの可能性があります。」

PW「分かった名古屋で応援部隊を向かわせる。」




12時30分前。名古屋駅。
停車するのぞみを見ようと詰め掛ける人に混じる鉄警隊員たちがいた。
ドアが開き、何人かの客が降りてくる。
降りる客が降りきってから車内に入ろうとしたその時、二人の女性が顔を出した。チェンと門田さくらだ。

チェン「怪しげな集団は今皆降りてしまいましたよ。」

門田「私、追いかけてきます。」

門田と鉄警隊はホームを後にした。

のぞみ(スマホ回線にて会話)「ブラチャールドールだったとして、単なる見張りだったのか、それとも何かを仕掛け終わったということか・・・?私はこのまま運行を続けられるのか・・・。」

チェン「・・・大丈夫。何があってものぞみさんの仲間たちが助けてくれるはず。弱気にならないで。」
のぞみ「だと、いいですが・・・。」

テツ(同じくスマホ回線にて)「のぞみ、心配なら、連中がいた車両の辺りを探してみるよ。」

ミナ(同じく)「私も。」

のぞみ「ありがとう。」



12時32分。名古屋出発。その後は岐阜羽島、米原を通過し、京都に入る。

テツユキ、ミナヨ、チェンの三人は、車内に不審物がないか捜索していた。

チェン「怪しいとすると、まず考えられるのはゴミ箱。それにトイレですね。」

テツ「ミナヨ、俺が離れている間、1号車(=のぞみ)先頭のデッキに行った奴はいるか?」

ミナ「・・・いえ、いなかったわ。」

テツ「それじゃあ、この後ろのデッキからだ。」

ケータイ「のぞみ♪ひかり♪こだま~♪」

ミナ「・・・チャクメロ変えたら?」

チェン「#・・・はい、チェンです(無視)。あ?ポリさん?」

PW「チェン、まずいぞ!君のにらんだ通り・・・。」

ビビビビ・・・うわああああああ!

チェン「もしもし!?」

PW「やつらはブラッチャールドールだった。職質かけようとしたら攻撃してきた!」

チェン「・・・どうすれば?」

PW「のぞみの車内を徹底的に捜索してくれ!大至急・・・くそ!」

パンパンパンパン!

テツ「・・・やっぱりあいつらのぞみに何かを。」

ミナ「のぞみを止めなきゃ。」

チェン「・・・ラストランを、簡単に止めることってできるんでしょうか?」

テツ&ミナ「・・・。」

チェン「急がないと。」 
 

 
後書き
急いで終わらせよう・・・。