吸血鬼になったエミヤ


 

001話 プロローグ

 
前書き
出だしは『剣製の魔法少女戦記』と同じです。 

 
―――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている).
―――Steel is my body(血潮は鉄で), and fire is my blood(心は硝子)
―――I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗).
―――Unaware of loss(ただの一度の敗走もなく)
―――Nor aware of gain(ただの一度の勝利もなし)
―――With stood pain to create weapons(担い手はここに孤り).
―――waiting for one's arrival(剣の丘で鉄を鍛つ)
―――I have no regrets(ならば、わが生涯に).This is the only path(意味は不要ず)
―――My whole life was(この体は) "unlimited blade works(無限の剣で出来ていた)"






あの死が常に隣り合わせだった聖杯戦争が終結した。
突如巻き込まれた聖杯戦争という魔術師七名と《サーヴァント》という最上級の英霊の使い魔七体による聖杯を巡る殺し合い。
月下での剣の騎士『セイバー』との出会い。
義理の姉『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』との悲しい運命と闘争。
憧れた女性『遠坂凛』との共同戦線、そして弟子になったこと。
己の可能性存在『英霊エミヤ』との死闘。そして真に見つけられた本当の道。
第八のサーヴァント『ギルガメッシュ』との戦いの折、義理姉による魔力供給によって発動した俺の本当の魔術【固有結界 無限の剣製】。
黒の聖杯に染まった後輩『間桐桜』と、その姉である遠坂による戦いで桜を助け出すことが出来たこと。
言峰綺礼との聖杯をかけた最後の戦い。
最後にセイバーによる宝具の開放で大聖杯の完全破壊。
これですべて終わったと思った半年後に起きた約束の四日間の奇跡。
それによって受け継がれた本来ありえない者達との平和な生活と、ある一人のすべての呪いを背負わされた男の決意の記憶。


…俺は、いや“私”はそれらすべてを乗り越えてセイバーとの決別の時の約束を実現するために世界に旅立った。
それから八年が経過し、確かに今の私は英霊エミヤと同じくらいの180cm代後半の身長。
そして、投影の酷使の代償として起こったのであろう、脱色した白い髪、肌が浅黒く、瞳が銀色に変色して、黒いボディーアーマーに赤い聖骸布によって編まれた外套を纏っている。
まさにアーチャーそのものの姿になっていた。
夫婦剣の干将・莫耶を主に使うのも嫌になるがまさにアーチャーのそれである。
既に私には封印指定というレッテルがはられ代行者や私を狙う魔術師との戦いで心身、そしてともに魔力も底をつきかけ、そして…






「くっ…ここまでか…」

埋葬機関や魔術協会から差し向けられた追っ手をなんとか倒したがいいがそれもここまで。
自身に解析をかけるまでもなく私の体はほぼ満身創痍…まだ四肢がついている事事態が奇跡のようなもの。
追っ手がこれ以上来ないのを確認後、私は暗い夜空を見上げた。
目に映った月と夜空は爺さんと見た時の光景と重なった。
同時に俺の片腕とも言っていいほどの存在であるセイバーと数年前にホムンクルス体故に短命でこの世の生を終えた姉、そして師匠である遠坂凛、後輩の桜…。
思い出せばきりが無いほどの人物の顔がまるで走馬灯のように記憶を駆け巡る。

「ハハッ…これが走馬灯というものか。しかし案外悪くは無い。セイバー、遠坂、イリヤ…私もアイツと同じ道を辿るかもしれない…。
だけど世界と契約だけは決してしなかった。それだけは褒めてもらえるだろうか?」

誰に問うでもなく独り言のように呟いたその一言。
だがまるで返されるかのように「ええ、そうね。それだけは褒めてあげるわ。衛宮くん」という自身の耳を疑うかのように懐かしい声が聞こえてきた。
とっさに警戒を強める、だがすでにこの体は死に体といっても過言ではない。
ただ声が聞こえた方に顔を向けることしか出来なかった。
だが、それだけで私の中で一気に緊張は解れた。
そこにいたのは最後に会ったときはまだ少女としての幼さが残っていたが、今では見違えるほどに大人の女性として成長した遠坂の姿があった。

「遠、坂…?」
「ええ。久しぶりね、衛宮くん。でもすっかりアーチャーと同じ姿になったわね」
「開口一番で嫌な事を言ってくれるな…。まぁそれはいい。それで遠坂がここにいるということは…」
「ええ。あなたを消しに来たわ」

遠坂は歯に衣も着せずに正直にそう言った。
だがそれは当然のことだと私は諦めて、「そうか」とだけ答えた。
しかし遠坂はなにか不満の表情をして、

「あなたはそれでいいの? 今回の襲撃もあなたのことをよく知っている私だからこそできた事なのよ?」
「なるほど…道理で私の行動が筒抜けだったのか、やっと理解した。だが私は別に恨もうとは思わない。遠坂だって上から命令されてしかたがないという判断だったのだろう?」
「はぁ…やっぱりばれていたか。でも最終的に判断したのは私よ。そこのところ分かっているわね?」
「…ああ。十分承知している。さすが私の師匠だと思うぞ」

そう私が言うと「呆れた…」という声が呟かれた。
そして数秒して遂に遠坂は先ほどまでの優雅な表情から一変して怒気溢れる表情になり同時に私の背中に冷や汗が大量に流れ出した。
血の流出よりそちらの方に意識が傾くとは、やはりトラウマとは凄まじい。そこにはアカイアクマが顕現していた。

「衛宮くん、本当は助けてあげようかと思ったけど…本当に消してあげようかしら?」
「イヤ、ソレダケハオユルシクダサイ…」

体は動かないために心身誠意、心のこもった言葉をカタコトながらも返すと、同時に急に周りの雰囲気が変わったことを察知して再度警戒をするが、遠坂がそれを静止した。
なぜ? という顔をしたがすぐにその意味が分かった。
空間が歪んだかと思うとそこにはいかにも老成した老人がいた。だがその身から溢れる魔力、そして人外の気配。
そう、彼こそ世界に五人しかいないといわれる魔法使いの一人。
『魔導元帥』『カレイドスコープ』『宝石翁』と呼ばれる第二魔法『平行世界の運営』の担い手。
そしてかの死徒二十七祖の一角でもある。『キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ』が立っていた。
そしてその後ろには誰かは分からないが眼鏡をかけた女性がタバコを吸いアタッシュケースを担ぎながら立っていた。
だが今の私には頭で情報が整理する事ができずに、咄嗟に「大師父!?」としか言葉を発する事ができなかった。

「久しぶりだな、衛宮士郎」

しかし大師父は私の驚きも意に介さずマイペースに話しかけてきた。
それに従い私も「は、はい…お久しぶりです」という少しドモリ具合にも返事を返した。

「ふむ、その様子ならまだ死にそうはないようだな。安心したぞ。なにせお前は一時とはいえ遠坂より先に「 」に至ったのだから死なれては困る」

そう、私は聖杯戦争でイリヤと遠坂の手伝いの元に宝石剣ゼルレッチを設計図と記憶を元に頭がかち割れるほどの痛みを感じながらも投影した。
だがそれは再現どころか本物とまったく性能が同じものを作り出してしまい、
あろう事かそれは遠坂には使う事ができず、意思があるのかないのか変わりに私を主と認めてしまい第二魔法を会得してしまい、
条件が揃えば私も使えてしまうものを作り出してしまい混乱の極みといった状況に大師父が「至った者が現れたな」という発言とともに現れた。
そして遠坂に「変わりにこれを使え」と自身の本物を渡すという大盤振る舞いを発揮した。
それからは聖杯戦争終結後に、事後処理を大師父がすべて請け負ってくれて色々と面倒も見てもらった。
なぜここまで自分達に良くしてくれるのかを聞くとおおらかに笑い、
本人曰く、「ワシは気に食わんやつはとことん気に食わんが、気に入ったものには色々としたい」だということ。
それで遠坂から嫉妬を大いに受けたのはもう今では笑い話だが。


閑話休題


「それでお主には悪いと思っておるが“この世界”から消えてもらおうとおもっとる」

やはりか…大師父が現れたからそんなことではないかと思っていたが。
だが、それには問題がある。

「ですが大師父…私の体は見たとおり人としてはもう使い物にはならないだろう。そこはどうするのだ?」
「そこは安心しろ。お主には代わりの体が用意されている」
「新しい、体…?」
「ここからは私の出番だ」

そこで今までずっと沈黙を保っていた女性が口を開いた。

「始めましてだな、錬鉄の魔術使い。私は“蒼崎橙子”。お前と同じ封印指定の人形師だ」
「蒼崎橙子!? それってあの魔法使いの一人である蒼崎青子の姉にあたる!」
「…不本意だがそうだ。さて、あまり時間も無い。早速だがお前にはこの人形に入ってもらう」

そして橙子さんがアタッシュケースから(どうやって入っていたのかはこの際気にしないことにしよう)一体の人形を、人形を…?
私の思考はそこで一時フリーズした。
だって、その人形の外見は…!

「そう…この人形はイリヤスフィールが素体になっているわ」

遠坂が俺の思っていることを口に出してくれたが到底理解できるわけが無い。
素体だと? ではこのイリヤとほぼ同じ外見の人形はイリヤの死体をもとに作られた訳で…!
それに思い至った途端、動かないにしろ私はその場で出せるほどの殺気を放出した。
我慢できるものか! イリヤのおかげで私は世界と契約もせずにやってこれたというのに…これではあまりに!

「士郎、怒りたいのは分かるけどまずはこれを見てくれないかしら?」

遠坂が一枚の手紙を私に渡してきた。
なにが書いてあるのだ!? という怒りをなんとかそれを抑えながらもそれを読んだ。
途端、一気に頭は水を浴びせられたかのように冷めて変わりに涙がこぼれ出した。


『シロウへ
 これを呼んでいるって事はもう私は死んじゃっているのよね?
 だけど悲しまないで。私は今まで人形としか生きる事が出来なかったけどシロウのおかげで人としての生き方も短いけど体験できた。
 シロウには楽しいことをたくさん教えてもらった。愛情もたくさんもらった。いつも守ってもらった。
 …だけどね、きっとシロウもアーチャーと同じような道を行っちゃうと思うの。でも私はそんな事は許さないんだからね?
 だから今度は私がシロウを助けるの。出来損ないの体だけど私が死んじゃった後、リンやトウコには私の体を使ってシロウを助けてあげてって伝えてある。
 きっとシロウはこれを読んだら怒るかもしれないけど、私にはこれくらいしかできないから。
 でも、私はこれでいつもシロウと一緒にいられるから守って上げられる。わがままな願いだと思うけど…私もシロウと一緒にいたい。
 体だけだけど…大事にしてくれたら嬉しいな。でもきっとシロウのことだから無茶はしちゃうと思うの。だから私の体に残っている魔術回路も全部シロウに上げる。
 これなら今以上に戦えるし、人もより多く助けることもできるわ。
 でも、これはシロウのお姉ちゃんからの最後の願い…シロウはもう十分に頑張ったよ。だから今度は自身の幸せも願ってもいいと思うの。
 人助けもいいけど、守ろうと思った人達もちゃんと守ってあげてね。
 …最後になるけど、いつ会えるか分からないけどあの世ってものがあったなら今度はずっと遊んで欲しいな…うう、なんか愚痴っぽくなっちゃったね。
 今度こそ本当に最後、幸せになってねシロウ。お姉ちゃんは天国でシロウのこと、ずっと見守っているから。
                                     親愛なる貴方の姉、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンより』


「くっ…ぐ…!」

俺はもう三人がいるのにも関係なく盛大に涙を流した。
どうしてイリヤの気持ちに気づいてやれなかったのか。いや、気づこうとしなかったのか?
そんな想いが頭の中をリフレインする。まるでイリヤの言葉が全身に行き渡るかのように体が震える。
そこに遠坂が話しかけてきた。

「それが…イリヤスフィールの最後の願いよ。断るならこの場で私が一思いに殺してあげるわ」
「ありがとう遠坂…ああ、その心配は不要だ。私はイリヤの想いを踏みにじりたくない…」
「そう、それじゃ決心したのね」
「ああ、だから橙子さん…お願いします」
「…わかった。じゃしばらく目を瞑っていろ」
「………」

私は無言で頷き目を瞑った。
すると橙子さんは私の胸に手を当てた。そして五感がすべて消え去り、得体のしれない浮遊感を感じて、次にはなにかに押し当てられるかのような感覚が一気に駆け巡った。
しばらくして急に感覚が戻ってきて橙子さんに「目を開けていいぞ」と言われたので開けた瞬間、私の元の体が横たわっているのを見た。
そしてもう自身の体とはさよならなんだと思い、

「今まで、私の無茶に付き合ってくれてありがとう。私もこれから頑張っていくから…」
「それにしても銀色の髪が煌めく緋色に変わるなんてやっぱり属性柄なのかしらね? 反射具合で銀も残っているし…女性の敵だわ」
「目の色はルビー色から琥珀色に変化したようじゃの?」

そうなの? ずいぶんと変わったものだ。

「さて、それでは衛宮。体の調子はどうだ?」
「ちょっと待ってくれないかしら? すぐに調べる…………ん?」
「ちょっと、士郎。体が女性になったからって急に女言葉は変よ?」

遠坂は呆れているが、私は結構動転している。

「い、いやちょっと待って…! え、なんで!? もしかして元の喋りができない!?」
「なかなか面白い現象だの? とりあえず落ち着いて調べてみたらどうじゃ?」
「え、ええ…」

とりあえず、


「――同調開始(トレース・オン)



肉体損傷無し。
肉体年齢9歳。
魔術回路27本正常稼働。強化、投影、問題なく使用可能。
無限の剣製正常封印。
及び別のメイン魔術回路200本、サブ魔術回路左右100本、計400本正常稼働。
アインツベルンの魔術を使用可能。
魔術の使える範囲が大幅に増大。
全て遠き理想郷(アヴァロン)の存在を確認。現在正常に稼動中。
鞘に魔力を流すことにより傷の修復が可能。
副産物として老化遅延の効果が追加。
口調、仕草ともに素体に引かれ気味。元の動作は意識しないと使用は困難。



「んんー? まず肉体年齢が9歳?」
「ああ、それは遠坂の話によるとお前には剣、いや武の才能がないと聞く。だから最高のスペックを活かす為にまだ成長段階がちょうどいい位の歳にした。
それなら今からでもなにか一つは二流ではなく一流になれることができるだろう」

橙子さんが律儀に応えてくれた。
しかし、確かに素晴らしいスペックだな。
まぁ、基本私の戦い方は変わらないと思うが。

「まぁそれはいいんだけど、イリヤって聖杯の部分がなくなっても魔術回路メインとサブで合計400本もあったのね…。
それに私の魔術回路とは別物扱いらしくて投影とは別に、アインツベルンの蓄積してきた魔術が使用可能になったわ。それに今の口調と仕草だけどどうやらイリヤに引かれ気味らしいのよ」
「なるほどね。それじゃもしかして女性としての知識もあるわけなの?」
「ええ、そうみたいね。でもね、そんな問題は別にいいのよ。それよりもなんでアヴァロンが私の体の中にあるの!? セイバーに返したはずでしょ!?」
「ああ、それね。アインツベルンはコーンウォールから発掘したっていうからもしかしたらって思って大師父と一緒に調べたらまた発見したのよ」
「なんでよ…」
「あんたの口癖まで女性になっちゃったわね。なんだかお持ち帰りしたくなってきたわ」

ちょ!? いきなり不穏な発言は控えてくれないかな? 本気で怖気が走った!
大師父と橙子さんも一緒に頷かないでください!

「それより士郎、私達のお膳立てはここまでよ。後はあなたの好きなように生きて。でも自分の幸せもちゃんと見つけるのよ?」
「分かっているわ。イリヤの願いだから努力する」
「ならいいわ。それでは大師父、お願いします」
「うむ。それでは衛宮士郎…いや、もうこの名はお主には相応しくない。よって平行世界でお主が女性として生まれてきた場合につけられた“シホ”という名でこれからを過ごすんじゃ。
それと苗字じゃが今の容姿で日本名だけではさすがにおかしいから、宝石剣も使用できることじゃし特別にシュバインオーグを名乗ることを許そう。
よって、今からお主の名は『シホ・E・シュバインオーグ』じゃ。どうじゃ? なかなかきまっておると思うが…?」
「シホ・E・シュバインオーグ、か…うん、名前が変わるのはしょうがないけど衛宮が名乗れるなら別に構わないわ。ありがとうございます、大師父」
「よい。しかしお主は発表されてこそいないが立派な“六人目”じゃ。じゃからたまには会いに行ってやるから安心せいよ。我が孫よ」
「はい…」
「それとシホ、忘れ物よ」

遠坂はリュックに私が所持していた聖骸布と私専用の宝石剣を入れて手渡してくれた。
中を見ると他にもいくつもの宝石や硬貨が入っていた。お金にはうるさい遠坂が私のために用意してくれたことに大いに感謝して、

「ありがとうリン、大切に使うね」

笑顔でそう言ったらリン、って言い方までイリヤになっちゃた。とにかくリンが真っ赤になっちゃった。

「……………シホ、女性の前でもだけど男性の前ではその笑顔はかなり危険よ。まぁ、今更言っても無理そうだけどね。
それと大師父のように簡単にはいけそうにないけどいつか私も七人目になって会いに行ってあげるからそれまで覚悟していなさい」
「うん、その時までまたね」

満足したのかリンは笑顔になった。
そして最後に橙子さんに振り向き、

「橙子さん、あまり面識はありませんけどここまでしてくれてありがとうございます」
「なに、等価は第二魔法の使用の立会いに、お前の元の体だから気にしないでいい。実に興味深いサンプルだからな。
もともと協会に渡される予定だがその後に宝石翁が手回ししてくれる手はずになっているしな」
「あ、あはは…」

やっぱり橙子さんは生粋の魔術師だけありちゃっかりしているな。
まぁそれだけの対価なら安いものね。
それで話もあらかた終わったらしく、

「ではシホ。別の世界でも頑張るんじゃぞ。お主の幸せを祈っておる」
「またねシホ。行った世界でも元気にやりなさい」
「まぁ無理はほどほどにな…」
「はい!」

それぞれ餞別の言葉をもらい大師父がかざした七色に輝く宝石剣によって私の視界はシャットアウトした。

 
 

 
後書き
まずは、これと2話を同時更新して順次毎日投稿していきます。 

 

002話 吸血鬼となりて

 
前書き
更新します。 

 




…シホが元の世界から飛ばされてから数十年の月日が流れる。

そこは麻帆良学園と呼ばれる学園都市。
季節は十二月の冬、新年間近な肌寒いこの季節のとある深夜の事である。
ある観測者からの報告で麻帆良に所属する魔法に関わる教師陣、協力者…そして学園トップの実力を有する学園を纏める長“近衛近右衛門”学園長。
学生などの魔法生徒などはこれほどの事態に通常の生徒達の警護に回っている為、すべてではないがある場所に集合していた。
ある場所とは学園都市の中心部に聳え立つ世界樹“神木・蟠桃”の近くの広場。

現状報告として、
第一に、正体不明の異常な魔力が発生している。
第二に、場所が“神木・蟠桃”の近くであるという事。
第三に、“神木・蟠桃”の発光現象が起きたと言う事。
これだけの異常な事象が重なれば主要な人物に召集がかかるのは必然事項であった。
全員は広場で発光を続けている魔方陣から何が出てきてもいいように臨戦態勢に入っていた。

「認識阻害の魔法の構築が完了しました。これで一般人は絶対とはいえませんが入ってくることはまずないでしょう」

数名のローブを着た魔法使いがそう言って学園長は「うむ」と頷いた。
その隣で白いスーツ姿の眼鏡をかけた男性がタバコをふかしながら、

「さて、学園長。何が出てくるでしょうかね?」
「ワシにもわからんよ、タカミチ君。なんせこうにも派手な転移魔法を決行してくる輩は今までいなかったからの」

タカミチと呼ばれる男性は吸いきったタバコを携帯灰皿に押し込めてポケットに手を入れる。
この男こそ戦闘力だけならば学園一と評される教師“タカミチ・T・高畑”。
魔法詠唱こそできないがそれでも最強をその手に抱いている強者だ。
だが、そんな彼でも眉間に皺を寄せて、

「オマケに術式が一切不明のオンパレード…世界樹の魔力も使った大胆なものですからもう大鬼神か神竜が出てきても驚きませんよ」
「―――物騒なことを言うな、タカミチ。そんなものが出てくればじじぃとて苦戦は必須だぞ?」

そこに黒いゴシック服を着た金髪の少女が後ろにメイドを後ろに控えて歩み寄ってきた。

「ははは。軽い冗談じゃないか、エヴァ?」
「たちが悪い…。魔力が封印されていなければ私一人で倒せたものを…。ああ、忌々しい…っ!」

こうして気軽に話し合っているがそれでも二人は緊張を解いていない。
このような大規模な移動魔法は出来るものなどこの場にいる学園長ともう一人、今は魔力をとある人物に封じられて全力を出せないが出来るであろう『闇の福音』『不死の魔法使い』と恐れられる吸血鬼“エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル”。
しかしその二人の古今東西の知識を持ってしても未だ紐解くことが出来ないでいる目の前の魔方陣の魔法理論。
ゆえに、全員はこの最強の魔法使いである二人を含めて出現する何者かが出てくるのをただ待つだけの歯がゆい時間が過ぎていく。

そしてその時が訪れた。
魔方陣が最大限に発光し陣の中心に魔力が集束していく。
それによって各々が杖、ナイフ、刀、拳銃など多種多様な武装を構える。
後衛組みもすでに詠唱が終了し自身の最大限の魔法を放つタイミングを伺っている。

その集束した魔力は一度空に浮かび上がり光の球体を作り出してゆっくりと地面に下がってくる。

「人間サイズか…?」
「各々、捕縛魔法を常時放てるように展開!」
「来ます!」

球体は地面に降りたと同時にゆっくりと光の外壁を粒子が散るように剥がれていき少しずつ中身が見えてきた。
そして完全に光が消えてそれは現れた。
だが、おかしい事に上がったのは現れた者の声ではなく関係者の、比較的こういう現場に慣れていない女性関係者数名からの悲鳴だった。
修羅場に慣れているものも戦慄を感じていた。



そこには………15、6歳くらいの朱銀髪の女性が………様々な種類の大きさの剣に、槍に、斧に、鎌に………古今東西のあらゆる武器に………体を串刺しにされて横たわっている姿があった。
眼は薄く開かれているが琥珀色の瞳には光がなく涙の流れた後が複数あり………口からは今もなお血を流しており、体を中心に辺りに血溜まりが広がっていく………。



「こ、これは…っ!?」
「酷い…!」
「送ってきた奴は相当の異常者、ということか…ムカついてきたな!」
「早く、救護班を!!」
「は、はい…!!」

辺りが騒然とする中、一人その女性を見て立ち尽くしている男がいた。
高畑だった。

「む? どうしたかの、タカミチ君!? 君も早く行動をうつさんか!」
「………………」

だが学園長の叱咤の声をしても高畑はいまだその場で固まっている。

「ええい! どうしたタカミチ!?」

エヴァも苛立ちを感じ高畑に吼えた。
そこでやっと高畑は正気に戻ったのか全身をワナワナと震わせて、

「エミヤーーーーーーッッッ!!!」

瞬動を使い高畑はそのエミヤと呼ばれた女性を一瞬で抱きかかえた。
その目からはとめどなく涙が流れていた。
普段の落ち着いた佇まいの高畑がこうまで取り乱す姿を見てその場の…高畑以外の声が、音が掻き消えた。
エヴァですら高畑の行動に目を見開いている。

だがいち早く落ち着きを取り戻した学園長が高畑に話しかけた。

「…のう。タカミチ君。その少女は一体…?」
「学園長なら聞いたことがあるでしょう…。かつて僕達『赤き翼』のメンバーの一人だった女性。
『錬鉄魔法』という未知の魔法を世界でただ一人使えたという、二つ名は『魔弾の射手』『剣製の魔法使い』…」
「ま、まさか大戦中に行方不明になってしまったと聞く…!」
「そうです。“シホ・E・シュバインオーグ”…僕達の最も信頼していた仲間です。それが…どうしてこんなことに…っ!」

高畑が嘆いている中、突如としてシホの体が光りだし、



“―――ご主人様から離れなさい!!”



謎の女性の声とともに高畑は吹き飛ばされた。

「ぐっ…!?」
『高畑先生!!』
「今度は何事だッ!?」

エヴァが叫んでシホの方を見ると、そこには桃色の髪に露出の多い青い着物、極めつけは狐耳に一本の金色の尻尾を生やしている絶世の美女ともいえる人物が呪符を数枚構えながらシホを守護するように全員を見据えていた。

「貴様………何者だ?」
「答える義理はないです! もうこれ以上貴様らなんかにご主人様の体を弄られてたまるものですか!!?」

謎の女性が攻撃態勢に入り一枚の煌びやかな鏡を空中に展開してエヴァに仕掛けようとした、その時だった。

「待つんだ! タマモ君!!」
「ッ!? お、っととと!…ちょっと、そこのおじさん。どこで知ったか知らないですけど、いきなり人の名前を呼び捨てにするなんてマナーがなっていないですよ!?
それに私を真名で呼んでいいのはご主人様だけだーーーっ!!」

タマモと呼ばれた女性は声高らかに叫んだ。
だが高畑はそれにめげずに、

「僕だよ。タカミチだ!」
「えっ!? うっそだぁー! タカミチ君はまだ十歳くらいのかわいい男の子だったじゃないでしょうが…それに比べてあんたはひげ面じゃないですか」
「ぐっ…やっぱり気にしているところをついてくるね。相変わらずの毒舌家だ。だが本当のことだ。
だからエミヤの治療をさせてくれ…僕達は君達の敵じゃない。信じてくれ」
「ん~~~~…? 確かにほんとのようですね? ですが心配後無用! 私の手にかかれば“吸血鬼化”した今のご主人様の治療はお茶の子さいさいですよ♪」


―――呪法・吸精


タマモがそう呪を唱えた瞬間、シホの体内に残留している魔力がタマモに流れていき次々と刺さっている剣達が溶けるように姿を消していく。
武器がすべて消えた次に回復の呪を唱えたらしくシホの傷は見る見る塞がっていった。
それを見て安堵した息が周囲に漏れるが、

「…おい、女狐。先ほど吸血鬼化したといったが…どういうことだ?」

エヴァの発言により周囲にまた緊張が走るが、それで先ほどまで笑みを浮かべていたタマモの表情がくしゃりと歪み泣き顔になる。

「…そのままの意味ですよ。ご主人様は大戦中に誘拐され私ともども無力化された後、吸血鬼化の呪いをかけられ様々な実験材料にされてしまいました。
私はご主人様の心が壊れないように憑依して体内に入り込み、魂と大切な記憶を守る事だけに力を注いだ為、奴らの暴挙を目前にしながらもッ! ご主人様の幾度の普通なら死んでも不思議じゃない苦痛、激痛に耐える喘ぎ声を聞きながらもッ!! 手を出すことが、出来なかった…っ!!!」

タマモはシホを抱きしめながらひたすら涙を流していた。
エヴァはそれを聞きひどくショックを受けた。
もう存在しないものだと思っていた禁忌の呪いを受けたものがまた一人出てしまったことに。
他のものも同じ気持ちで特に高畑は無言で涙を流していた。




◆◇―――――――――◇◆




…それからはもう世界樹の発光もおさまり、夜にいつもの静けさが戻りそれを区切りに警戒態勢は解かれ主要人物以外を残して一時解散となった。
残ったものは学園長、タカミチ、エヴァに従者の絡繰茶々丸…そして事情説明ができるタマモだけ。
夜中とはいえ人目につくのはまずいと判断した一行は一番安全であろう学園長室へと移動した。
肝心のシホは傷が回復しても体に蓄積された疲労が激しく荒い息を繰り返していた。
熱も半端ではなくひとえに吸血鬼という高いポテンシャルの体がなければすぐに死んでいるだろうと、同族のエヴァが判断してすぐに病室に運ばれていった。

「…さて。ではタマモ殿、と呼ばれるのは一連の行動で好まんじゃろうと推測したので今から主の事をなんとお呼びすればいいかの?」
「アヤメ、とでも…玉藻アヤメ。これで通してください」
「あいわかった。ではアヤメ君。一つずつ尋ねるが君とエミヤ君はどうやってこの麻帆良の地まで転移してきたのかの…?」
「…わかりません。私は先ほども言ったように奴らが精神に影響を及ぼす魔法をしてこないように、ずっとご主人様の中で結界を張り続けていたため外の出来事にはあまり詳しくありません」
「そうか…。では誰がここまで転移をさせたのかは謎のままという訳になるの」
「はい…それよりこちらから一つ。今は…何年ですか?」
『は…?』

タマモの質問に全員が首をかしげる。
だがタマモはお構いなしに、

「いえ…なんと言いますか、ずっと穴倉にいたみたいで外の様子が全然分からなかったもので…。たまにご主人様が外に出されても日光克服での過程の実験で出されるくらいのものだったもので…」
「なん、だと…!?」

そこでエヴァが「ダンッ!」と机を思い切り叩く。
その顔には明らかに怒りの表情が浮かぶ。

「吸血気化の呪いだけならまだしもそんな恐ろしい実験までしていたのか、そいつらは!!?」
「…ええ。他にも流水、白木の杭、ニンニク…およそ吸血鬼の弱点というものは実験の過程で無理やり克服させられました…エグッ…」

また涙を流しだすタマモをよそに一同は憤慨していた。

「おのれ…! 我ら誇り高い吸血鬼をそこまで陵辱するとは…ただではすまさんぞ! おい女狐!! そいつらのアジトはどこだ!!?」
「知りませんっ! わたくしだって知っていたら今からでもそいつらを呪い殺しにいっていますよ絶対!!」
「ちっ…!」
「マスター…」

タマモは「私の真の姿が顕現出来れば…」と呟いてエヴァと一緒に怒り心頭であった。
そんな様子に控えている茶々丸はオロオロすることしかできないでいた。
学園長と高畑も口は出さないがその心情は計り知れないものになっていた。

それからしばらくして会話できるくらいにまで落ち着いたタマモは再度何年かを尋ねてきた。
それに高畑は「2002年の十二月だよ」と答えるとタマモは口を両手で押さえて顔を青くし、

「そんな…それじゃご主人様は約20年余りも実験の犠牲に…」

20年…その年数の意味することは…。
それはとても言葉では表現できないほど恐ろしいことだった。
その期間の間…ずっとシホはあらゆる実験台にされていたという事。
とてもではないが通常の人間が出来る行為ではない。

「狂っている…いったいエミヤが、なにをしたっていうんだ? なぜっ…そんな事をされなければいけない!!」

高畑はもう普段の余裕もどこへやら…。
今すぐ飛び出していきたい衝動を抑えてその反動で握った拳の隙間から指が食い込んだのか血が垂れていた。
その時、学園長室に電話がかかってきた。

「なんじゃ? 今は話中だから手短に用件を…」
『大変です! 件の女性が目を覚ましたと同時に暴れまわっています!』
『!?』




◆◇―――――――――◇◆




魔法関連が関わっている病室…そこは今まさに廃墟と化していた。
目を覚ましたシホは暴走したかのように目を血のように赤くして爪を硬質化してあたり一面のものを次々と引き裂いていく。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーっっっ!!!」

絶叫ともとれる雄叫びを上げながら周りに存在するものを手当たり次第に破壊していく。
その様子に治療班達は隅っこで怯えて見ていることしか出来なかった。
暴走したシホはそれを気にも留めずに何度も地面を引き裂いていく。

そこに学園長を始めエヴァ、高畑、タマモが急行してきた。
そして惨状に驚きながらも、

「ご主人様やめてください!! もうここはあいつらのアジトではありません…ッ!!」
「あ゛あ゛あ゛ーーー…ッ! よくも…! よくもぉ…!!」

タマモの必死の声にもシホは正気を失っていて反応していない。
やむを得ずに学園長は封印の魔法を唱えようとしたがそれよりも早く高畑がシホを羽交い絞めにして、

「よすんだ“シホ姉さん”! もうここにはあなたを苦しめるものは誰もいない!!」
「がぁっ!!」

ガブッ!

「ぐっ!?」
「タカミチ君!!」
「タカミチ!!」

シホが腕に噛み付いて高畑は苦悶の表情をしだすが、なんとか平静を保ちながら、

「シホ姉さん…大丈夫だ。もう、大丈夫…あなたはもう自由だ」
「じ、ゆう…? あなた…だれ…?」
「タカミチだ…シホ姉さん…」
「タカ、ミチ…?」

それを聞くと血のように真っ赤だったシホの瞳の色が次第にもとの琥珀色に戻っていく。
正気を取り戻したシホは一気に力が抜けたのか高畑に寄りかかるようにもたれる。

「ご主人様~~~っ!!」
「タマモ…? 無事だったんだね…」
「はいっ!…ぐしっ…えぐえぐっ……それよりタマモは、ご主人様がご無事でなによりですぅ~~~っ!」
「タマモ…ごめんね」
「いえ! とんでもないです! 私はご主人様のサーヴァントなのですから当然のことをしたまでです!」

二人が和気藹々と話している中、

「よかった…シホ姉さん」
「タカミチ…でいいのかな? 最後にあった時と違って年取ったみたいだけど…」
「それはそうさ。姉さんが行方不明になってからかれこれ二十年は経過しているからね」
「二十年、か…思ったより長く幽閉されていたみたいだ…」
「姉さん…あなたは」
「ん。言わなくても分かっているよ。私はもう人間じゃなくて吸血鬼だってことは…」
「そうか…すまない。あの時僕が油断をしていなければ姉さんは…」
「気にしないで。今こうして再会できている。それだけで今は十分だよ」
「………」

微妙に納得していないようだが高畑はそれで頷いた。
それでシホはなんとか立とうとしようとした時だった。

ガタン!

「あれ…?」
「ご主人様!?」
「シホ姉さん!?」

突然その場で足を挫いてしまった。
それをシホは不思議そうにしているが再度立とうとして、

「足に力が入らない…?」
「それはおそらく当分の間幽閉されていたからだろう。吸血鬼とて体を動かさなきゃ人間と同じで衰えるものさ」
「えっと、君は…?」
「エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルだ。名前くらい知っているだろう?」
「あの“闇の福音”の…?」
「その通りだ。同じ吸血鬼…真祖としてよろしく頼むぞ。我が同族」
「う、うん、よろしく。それでこれは治るかな?」
「吸血鬼のスペックを駆使すれば一月もせずに治るだろうよ。だからその間は車椅子でも使っておけ」
「ありがとう」
「いい。同族のよしみだからな。それと私のことはエヴァで構わん」

エヴァはいい笑顔をしながらそう言った。
実際色々と裏では考えているようだが…。

「さて…色々と募る話もあるようじゃが、まずシホ殿とアヤメ殿のこれからについて話し合おうと思うんじゃが、どうじゃろうか?」

学園長がそう言って話を一時締めくくった。


 

 

003話 シホの過去

 
前書き
更新します。 

 


廃部屋と化した病室から新しい病室に移されたシホは学園長に質問を受けていた。

「さて。ではこうして話をするのは始めてじゃと思うがわしがこの麻帆良学園、そして関東魔法協会の長を務めている近衛近右衛門じゃ」
「えっと…シホ・E・シュバインオーグです。
すみません…正気を失っていたとはいえ色々と迷惑をかけてしまい…」
「よい。シホ殿の境遇はアヤメ殿に聞いておるからの」
「そうですか…」

シホは新しい病室に移される間に今までタマモがどこにいたのか尋ねてずっと守ってくれていた事を知り感謝した。
だがタマモは「守れずにごめんなさいです…」と自分を責めて泣いていた。
今は相当力を使い込んだためか魔力節約のために狐の姿になってシホのベッドの上で眠っているところであった。

「して…聞くのも本当は嫌なのじゃが、シホ殿を捕らえていた組織はなにかわかるかの?」
「組織…、あれ…? 確かに覚えていたはず?…ッ!? ぐぅうっ!!?」
『!!?』

突然シホは頭を抱えて苦しみだした。
そしてまた正気が保てなくなったのか、うわごとのように「やめ、ろ…私の……、……■■さんの、体を…」と呟き喘いでいる。
顔には脂汗が大量に浮かび目から涙がとめどなく溢れ出している。

「おい、じじぃ?! まだ瘡蓋にすらなっていない傷口を早々すぐに抉るなッ!!」
「す、すまぬ!」

エヴァはそう言いながらシホを落ち着かせるように背中をさすったりしている。
高畑も手を握ってやって言葉をかけている。
肝心の学園長は直球すぎる質問に後悔していた。

…しばらくしてシホはフラッシュバック後に脳が安全装置をかけたらしく昏睡してしまった。

「この話は駄目だな。すぐに恐怖がよみがえって本人も話せるものではない…」
「早計じゃった…まさかここまで根が深いとは」
「当然だ! 普通なら廃人になってもおかしくないくらいの間、こいつは…!!」

エヴァの口元から「ギリッ!」と歯が軋む音が聞こえる。
どうやら相当腹が煮え繰り返っているようでその目には狂気が浮かぶ。
それでしかたがなく本当に最後の手段を決行することになった。
事前にタマモを起こして相談した際、すごい睨まれたが解決の糸口になるかもしれないと渋々引き下がった。
そう、最後の手段とはシホの記憶を視ることであった。




◆◇―――――――――◇◆




…記憶を見終わった結果、全員は見たことを後悔するはめになった(エヴァとタマモは大体予想していたことだが…)。


―――壮絶…。


この一言に尽きるだろう事をシホはこの二十年の間味わっていた。
赤き翼が表で世界を救った救世主と持て囃されていた間、裏では陰湿すぎる実験が繰り広げられていたのだ。
これでよく気が狂わなかったと褒めてやりたいくらいのものだったとはエヴァの談である。
そして結局記憶を見ても全員黒ずくめの姿をしていた為、正体は分からずじまい。
だが、この麻帆良の地に送られる前の光景で、もうシホの視界がおぼろげだった様でまた誰かは分からなかったが、女性らしき白いフードの人物が叫びを上げながら黒尽くめの集団を一人、また一人とエヴァの知識でも該当がない魔法を駆使して消し炭にしていく様をみてどうやら組織は壊滅したと全員は判断した。
最後に女性が組織を全滅させて、その組織の幹部を殺した際に浴びた血ぬれの手に棒状のような光るなにかをシホにかざして、光が視界を埋め尽くした次の瞬間、視界を映したのは昨夜の麻帆良の空だった。

「「「「………」」」」

病室にいる全員は愕然とした表情で無言。
唯一音を奏でているのはシホの寝息だけ。
その寝息すら今は悲しみの音に聞こえてきてしまうのは錯覚ではないだろう。

「姉、さん…くっ!」
「…もう疑いようがないの。シホ殿を救ってここに送った誰かがいる。じゃがその人物は一緒に現れなかった…」
「なにかしら理由があった、ということか…確かに女狐の言うとおりだったな。記憶内でも精神操作系はどんなにやっても失敗に終わっていたしな」
「えっへん! やつら如きの腕でわたくしを捻じ伏せられると思うのが大きな間違いなのです! 逆にせめてもの抵抗で呪い返ししたから苦しむ姿はいい気味でした♪」
「うむ、よくぞやった。誉めてやるぞ」
「褒め称えなさい~!」
「調子に乗るなよー? メギツネ~!?」

タマモとエヴァがなにやら小コントを始めていたが学園長と高畑は真剣な表情になり、

「さて…これで全員を説き伏せられる材料がそろったの。まぁ他の者もタマモ君の激白で疑いの眼差しは一切向けてなかったようじゃからな」
「そうですね。僕たち『赤き翼』の元メンバーだった事も功を奏しています。もし反論するものがいれば…ふふふ」
「タカミチ君…。いつも以上に燃えとるの? もしかしてシホ殿の事がs…“シュンッ”…ナンデモナイヨ?」

学園長の頬にものすごくキレのいい居合い拳が掠った為、言おうとした言葉をすんでで飲み込んだ。
とにかくそんな不思議なやり取りの中、対照的にシホは未だ眠りの中だった。




◆◇―――――――――◇◆




翌日、もう目覚めてもいいのに未だ目を覚まさないシホをよそに学園長を中心に魔法協会施設の一室で会議が開かれていた。
当然議題はシホ・E・シュバインオーグ及び玉藻アヤメの処遇をどうするか、である。

「さて。皆に集まってもらったのは他でもない。シホ・E・シュバインオーグ殿と玉藻アヤメ殿をこれからどういった立場に置くということじゃが…」
「お待ちください学園長。彼女はまかりなりにも吸血鬼なのですよ? エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルのように力を封印されているわけでもなし…危険ではないですか?」

そこに褐色の男性で眼鏡をかけているガンドルフィーニが会話に割り込んできた。
頭が人一番お堅い人物であり、まだシホ達の麻帆良入りを快く思っていない人物の一人である。
だが間髪いれずに高畑がそこにさらに介入してきた。

「シホね…いえ、エミヤをまだ疑っているのですか、ガンドルフィーニ先生…?
彼女は今でこそ魔法世界でも行方不明または死亡扱いとして処理されていましたが、その実約二十年の間人徳を無視したありとあらゆる行いを一心に受け続けたいわば“被害者”なのですよ?
そんな彼女が危険人物?…ありえませんね。それにエミヤは魔法世界で行方不明になる前まで僕達『赤き翼』のメンバーの一人として活躍し、名誉のため名前は伏せますがとある二名のストッパーも兼ねていた言うなれば欠かせない人物だったんです。
…ここにいる何名かは彼女の武勇伝を知っているはずです。
魔法世界ではなおの事有名ですね…ですからそういった拒絶の意味も兼ねた発言は控えていただけると僕は嬉しいですね」

両肘を机の上に置き両手を組み、目を怪しく光らせてマシンガントークをした高畑の気迫にさすがの一同もおもわず言葉を失う。
今逆らえば痛い目にあうのはあきらかだったからだ。
それで青い顔をしながらガンドルフィーニは「すみません…」といって席についた。
場の雰囲気がある意味重い雰囲気で支配されていたので学園長が引き継ぐように話を続ける。
…そこから記憶を見た結果で話された非情なシホへの行いの数々にその場の全員は息を呑んだ。
女性の関係者である葛葉刀子やシャークティは声を出さないが目じりに涙を溜めるほどだった。

「…以上でシホ殿が受けた扱いは以上じゃ。何か質問はあるかの?」
「はい」
「シスター・シャークティ君か。いいぞい」
「はい。ではミス・エミヤはその数々の実験…「シャークティ君…」……失礼、非情な行いの結果、吸血鬼としてのあらゆる弱点は克服しているのですか…?」
「そうじゃのう…。うむ、確かにその通りじゃ。
日の光、火葬、首の切り落とし、流水または聖水、十字架、銀の銃弾や呪印の施された魔弾、白木の杭、ニンニク…さらには複数の強烈な薬物、その他も含めて二十年で仕立て上げられたそうじゃ。
よって耐性はほぼ完璧といってもよい。復元呪詛もエヴァンジェリンと同等の性能を誇っているようじゃ。
しかし…その過程で何十、何百、何千と殺されては復元呪詛で無理やり生き返させられるといった永遠に等しい苦しみをシホ殿は受けておった。
シホ殿の強靭な、例えるなら鋼のような堅固な意志がなければ今頃は…。
じゃが、最悪の事態だけは防がれた」
「最悪の事態…?」
「精神操作系の魔法の類じゃ。その件に関してはシホ殿の使い魔であるタマモ殿が昨日話したようにシホ殿に憑依して内側から完璧に防いでいたそうじゃ。
でなければ数年もかからずにシホ殿の心は負荷に耐え切れずに砕け散って操り人形と化して、本能のままに動くだけの怪物になっていたことじゃろう…」
『……………』

学園長が出来ればもう二度と口にもしたくない内容を言い切って会議室に沈黙が下りる。
そこに瀬流彦が言葉を発した。

「もう、彼女をもとの人間に戻すことは不可能なのですか…?」

それは偏に願い、願望といったものだろう。
だが学園長は現実を見ろと言わんばかりに、

「…分かりきった質問をするでない、瀬流彦君。更にやるせなくなってくるからの…」
「申し訳、ございません」

瀬流彦は苦虫を噛み潰したような顔で席に腰を降ろした。

「…そして、謎の転移魔法であるが、あれはシホ殿でもタマモ殿でもない第三者の人物の行いじゃった。
記憶を見たがわしとエヴァンジェリンでも理解し得ない魔法理論を使い、シホ殿を捕らえていた組織のメンバーをすべて消し炭にしてしまった。
最後に見た光景は急いでいたのだろう? 組織の返り血も拭わずシホ殿に手をかざして無言で未知の転移魔法を決行したそうじゃ。
そしてシホ殿のあのあらゆる武器の刺さりも解除できずに送り出したのだろうとわし達は判断することにした。
…最後じゃが、もうここまで言えば皆は分かりきっていると思うが、シホ殿及びアヤメ殿はこの麻帆良で保護しようという事で話がまとまった。
それと彼女自身、この話題を出すとすぐにフラッシュバックを起こして苦しみだしてしまうほど今は情緒不安定じゃからあまり触れないようにしてくれるとありがたいことじゃ。
そして、もしまだ組織の生き残りがいたらとすればシホ殿をまた狙ってくるやもしれん。じゃから本国にも話は通さないでおく。これは緘口令じゃ。
して、意見あるものはおるか…?」

学園長の問いに、しかし誰も反論は言わず意見に賛同した。
こうして学園都市はシホ・E・シュバインオーグと玉藻アヤメを保護する事が決定した瞬間だった。


………しかしさらに最後にだが、シホを全面的に保護する人物が同じ吸血鬼の真祖であるエヴァになったという会話でいくらか反論が出たが学園長と高畑に説き伏せられたのは言うまでもない。


 

 

004話 現状把握と学園都市

 
前書き
更新します。 

 


昏睡してから約二日の間、シホは眠りについていた。
病室では魔力が回復したタマモが誠心誠意、真心を込めて看病していた。

「はぁ~…ご主人様の寝顔はとても可愛いのですけど、タマモとしましては早く起きて元気なお姿を見せてもらいたいです…」

憂いの表情をしながらもタマモは濡れたタオルでシホの体を拭いてあげていた。
まだ時期的には冬休み直前な頃合、だがシホの体は高熱に晒されているかのように熱くなっているので拭いてあげていたのだ。
そこに数少ない客人が病室に入ってきた。

「見舞いに来てやったぞー」

タマモが声で振り向くと、そこには茶々丸を後ろにつかせているエヴァがいた。
二人の格好は制服姿なのでおそらく学校の帰りなのだろう。
エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルは本来こういった面倒くさい事はしない性質の人物だが、シホの境遇と己の過去を照らし合わせて深く共感したためこうしてよく病室に見舞いに来てくれている。
この一連の行動に魔法関係者はえらく驚いているとのこと。

「む、まだ目を覚まさんか。もうあれから二日は経つというのにな…」
「そうですね、エヴァンジェリン」

エヴァは手ごろな椅子を取り出してくるとドカッと座りシホの寝顔を凝視していた。
そこにはどこか哀愁が漂っているとタマモは感じた。

「ふぅ…せっかく目覚めたらナギについて色々と聞こうと思っていたのだが、また無駄足だったようだな」
「昔話でしたら私もできますよー? まぁ感覚的に言えばまだついこの間のように感じますが。
そういえば私達がいなくなってからその後、なにがあったんですか…?」
「ん。そうだな…私も当事者ではないから詳しくは知らんからろくに話せないが、端的に言えば『完全なる世界』と名乗る集団はナギ達が打ち倒したらしい。
なお、その戦いによってメンバーの一人であるゼクトが消息を絶ったらしい。
そして他のメンバーで大戦後に数度会ったきりだが、まずジャック・ラカンは恐らくだが魔法世界のどこかにいるだろうが行方は知れず。
アルビレオ・イマも同様行方は不明。
ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグはタカミチがある戦いで死に際を看取ったという。
そして近衛詠春だけは所在がはっきりしており今は関西呪術協会の長となっている」
「…『赤き翼』は事実上の瓦解といったところですか。ところで生意気でいつもご主人様を困らせていた糞ナギはどうなさったんですか? 名前が挙がりませんでしたが…」
「やけに辛辣だな。まぁいいが…あいつは15年前に私をこの麻帆良の地に『登校地獄』とかいうふざけた魔法をかけて封印した後、いつかは解きに来るとか抜かしていたが10年前に行方不明になり公式では死亡扱いとなっている。ほんとうにとことん馬鹿な奴だったよ…」



「―――…そっか。みんなバラバラになっちゃったんだね」



「!」
「ご主人様!?」

シホはエヴァが話した内容を聞いていたらしくその目には涙が浮かんでいた。

「やっと起きたか…あれからいろいろと大変だったんだぞ?」
「ごめん…あれは自分でも御しきれない感情みたいで…」
「そうか。まぁ悪いとは思ったが記憶を見させてもらったからその気持ちは分かる」
「記憶…? どこまで見たの?」
「そうだな。お前が“この世界”に飛ばされてきたところからか?」
「「!!」」

エヴァの発言にタマモ共に驚きの表情を見せる。
だがエヴァは「安心しろ」と付け足して、

「じじぃやタカミチはそこまで深く記憶を見ていないからな。
しかし、どうりで今のお前からは魔力が一切感じられないのか合点が要ったぞ。そもそも魔力を生成する器官がこちらの奴らとはまったくの別物だったのだな」
「ええ、まぁ。…そう、ところでその前の記憶は見られた?」
「いや…この世界に来る前の記憶は一切見られなかった。うまく巧妙にレジストしているわけでもないし単一能力に特化しているお前では無理と判断したからどうやら記憶喪失らしいな」
「うん。私のもとの世界…でいいのかな? 魔術関係の理論やあらゆる知識、使える魔術、体術、戦闘経験とかは大体覚えているんだけど、唯一の過去の記憶の部分だけはぽっかりと抜けているんだ。
たとえば誰と戦ったかは分からないけどその人物の戦闘行動パターンとそれに対する戦闘行動だけは覚えている感じ?
思い出せるとすれば、今の名前と私の姉の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンでこの体は元は姉のものだった。
そして姉の魔術回路も一緒に私の今の体の中に入っているから、戦いに関しては私の魔術回路を使って姉の魔術回路はタマモを維持する様に分けて機能しているの。
それで最初の頃に記憶がなくて路頭に迷っていたところで詠春達に拾われてそのまま『赤き翼』を紹介されたの。
それとタマモとはその道筋の過程である遺物を手に入れて魔術の知識にあった呪文で召喚したの。
その遺物に宿る大量の魔力と私の魔力がセットになってやっとタマモを維持している感じ」
「はいです♪ ご主人様は私をただの使い魔としてではなく良きパートナーとして扱ってくれましたからタマモは一生ついていこうと心に決めたのです!」
「ふむふむ、なるほど…おい、お前のことはなんて呼べばいい?」
「エミヤでもシホでかまいませんよ?」
「ではシホ。一度全開で魔術回路を開いてみてみないか? どれくらいなのか確かめたいものでな。ああ、心配するな。ここは外部とは遮断されているから漏れることはないだろう」
「別に構いませんけど…本当に誰も入ってきませんよね?」
「大丈夫だろう………多分」
「うわー…今あきらかに不安タラタラな言い回しでしたよ~?」

タマモが思わず手でうわぁ…とわざとらしく表現している。
それにエヴァはめざとく反応して無言で神速の拳を繰り出すが、それをタマモはヒョイッと避けて舌を出し笑っている。
茶々丸が「落ち着いてくださいマスター」と宥めなければ今頃はエヴァとタマモのバトルロワイヤルに発展していた事だろう。

とにかく状況が確認したいシホは魔術回路を開くことにした。

同調開始(トレース・オン)。…全回路、開放(サーキット・オープン)…って、わっ!?」
「わぁー…ご主人様すごい総魔力量ですねー。あの仙人頭な学園長の二、三倍もありますね~」
「わ、私の全盛期をはるかに上回っているではないか…」
「そ、そんなに落ち着いていないでさっさと調べて閉じよう!」


肉体年齢――――15、6歳くらい。不老不死で成長が停止しているため以降この姿で完全固定。
身体データ―――身長154cm B82 W56 H81(なぜこんなものまで出てくる…?)
身体機能――――吸血鬼化により過去の例から照らし合わし筋力、耐久、敏捷ともに総合的にほぼ記憶の中の謎の黒い巨人と同等の能力を会得。
視覚、聴覚能力向上。
現在両足は衰えのため当分は歩くまでに時間を有する。
この世で知られる吸血鬼の弱点はほぼ意味を成さない。
解析不明な部分が数箇所あり。
精神状態――――正常。しかし所々に情緒不安定な箇所があり。
        解析不可能な部分が数箇所あり。
魔術回路――――本体魔術回路27本、補助魔術回路400本正常稼動。全回路がより一層強固で頑丈になり魔力量、人間時の約10倍に増大。
投影技能――――正常。武器、防具及び宝具投影可能。宝具の真名開放可能。武具以外の投影も十分可能。
固有結界――――無限の剣製正常封印。
固有宝具――――全て遠き理想郷(アヴァロン)正常稼動。吸血鬼の体と相性がよくうまく連動稼動している。
固有技法――――錬鉄魔法、使用可能。
        


「………と、同調終了(トレース・オフ)。な、なにこの出鱈目なスペック…」
「さすがに驚きだな。なんs「シホ姉さん!! なにがあった!!?」…やかましいぞタカミチッ!!」
「ガポハッ!?」

突如襲来してきた高畑に対してエヴァは見事なソバットを決めていた。
それで思わず高畑は地面に沈んだ。
しばらくして回復した高畑はなにがあったのか問いただしてさっき行った一連の行動を話したら非常に驚かれたのは言うまでもない。
なんせ高畑だけではなくシホがすぐに魔力をストップしたとはいえ学園長ならびにエヴァンジェリンクラス以上の魔力が部屋から漏れたのだからただ事ではない。
気づいたのはちょうどこの施設にいた高畑を含めた全員だったらしい。
そのことを聞いたシホは顔を俯かせながら、

「今度から全開で開くのはよしておこう。いちいち騒がれたら堪らないから…」
「隠遁性もかなりあるからな。そうしておいた方が得策だな」
「はいです」
「ところでタカミチ…今日はどうして来たの? 仕事とか忙しそうだけど…」
「ああ、その事だけどシホ姉さん。学園長の方針で姉さんを学校に通わせようという案が挙がっているんだ」
「…うーん、ようするに監視のため?」
「…まぁ、いい気分じゃないけどそうとも言うけどね。姉さんのことをまだ疑っている過激派が多いからの処置なんだけどね」

高畑の表情はそれで曇ってしまう。
抗議はしたようだが、さすがに野放しにできないと言い含められてしまったのが今でも悔しくて堪らないらしい。

「まぁしょうがないか…吸血鬼の私が無断でいなくなっても騒ぎが起こるだけだろうし」
「封印処置もされていないから尚更だな。まったくこれだから組織の人間というやつは…」

エヴァがぶつぶつ言っている間に高畑が話を続ける。

「編入手続きはもう済ませてあるから来年の三学期から通うことになると思う。
学年は二年で僕のクラス、そしてエヴァや茶々丸君もいるから便りにするといいよ」
「ちょっと待って。そこはもしかしなくても女子学校…?」
「?…そうだけどなにか不都合でもあったかな?」
「いや、別にこれと言ってないけど…女子の学校ってだけで、なぜか罪悪感が沸いてくるんだよね。
私はこの通り女性のはずなのに、こう…どうしてか違和感を覚えるというか。
これも失われた前の世界に関係していることなのかな?」
「どうだろうな…? 案外その失われた記憶の自分は男性だったんじゃないのか?」

エヴァの言葉に、しかしシホは曖昧な表情をして、

「うーん…やっぱり駄目みたい。思い出せないわ。大事な記憶だと思うんだけど…」
「ご主人様、タマモはもとが男性だったとしてもご主人様のことは大好きですよ!」
「ありがとう、タマモ」

タマモがシホの手を握り、シホもそれを握り返す。
そこはかとなく薔薇色な雰囲気が流れ出しそうだがタマモの「キャー! いっちゃいましたー! タマモ、頑張りましたぁーッ!!」と言って雰囲気を瞬時に砕いたおかげで全員ある意味冷静になれた。

「それでだけどアヤメ君はどうする?」
「はえ…? 私ですか?」
「その姿のまま学校に通わせるわけにもいかないからね」
「確かに…。尻尾と耳は隠しようがないからな」

エヴァと高畑がお互いに納得している中、タマモは大声をあげて、

「絶対に嫌です! 片時とはいえご主人様と離れるなんてタマモには耐えられません! 私も同じく中学生として編入します!!」
「しかしだね…」
「ようは見えなければいいんですよね!? ならば、変化!!」

「ボンッ!」という音とともにタマモの体が煙に包まれ晴れた時には耳と尻尾が消えた姿に変化を遂げていた。
たしかにこれなら表面上は人間と同じに見られるだろう。

「魔術師のサーヴァントであるタマモの力あればこれくらい容易いですよ~♪ それにこの姿なら少しは魔力節約にもなりますからお得です」

タマモはそう言って指でVマークを作ってみせた。
高畑は展開についていけず「あ、ああ…わかった」と生返事をして学園長に報告しておく旨を伝えた。

「それじゃ次は学生寮の件だけど、二人は一緒の部屋で構わないね?」
「うん」
「はいです♪」

二人は即答。
これにて話は終わると思ったがそうは問屋が卸さないとばかりに、

「…ところでシホ姉さん。学力の方は大丈夫かい?」
「あ…。そういえば大丈夫かな? 錆付いていないといいけど…」
「ま、どうにかなるだろう。とりあえず茶々丸、何個か問題を出してやれ」
「イエス、マスター。ではエミヤさん、まず数学で方程式からの問題ですが…」

それから数学でいくつか質問する。
次に国語で科目は現代文・古典。
社会で科目では歴史、地理、経済。
理科で科目では物理、化学、生物、地学。
英語の科目では英語はもちろんの事、中国語、ドイツ語、ラテン語、ギリシャ語、はてにはハングル語、魔法世界の言語の読み書きまでできたことに大いに驚かれた。
隣でタマモが「現代の知識は奥深いものですね~」と感心している中、

「…―――最近の情報である経済以外は全問正解です。すごいです、エミヤさん」
「これで体も機能を正常に取り戻せばなんでもありだな。魔法知識も申し分ないからな…フフフッ、これからが楽しみだ」
「姉さん…あなたはそんな知識をどこで?」
「記憶を失う前の私に聞いてよ?」

まさにその通りである。
とにかくそんなやり取りがあり、シホは最後に女子寮の部屋の周りには強力な…それはもう学園長やエヴァクラスの魔力も漏れないような強固な結界を施してくれと頼んだそうな。




◆◇―――――――――◇◆




年越ししてとある休日、と言ってもあと数日したら三学期が始まるということなのでシホはタマモに車椅子で押されながら、茶々丸とともに学園都市を周りどこになにがあるのか紹介されながら機材や服装、食材などを購入していたりしていた。
もちろんお金に関しては事前に学園長が諭吉さんを何十枚も渡してくれたので問題ない。
シホは少し遠慮がちだったがタマモが、

『それじゃ遠慮なくいただいちゃいましょう! 贅沢…これはまさに愛! 特に金目のものは大好きです!』

と、目をランランと輝かせながら語っていた為にシホは頭を少し悩ませ学園長は内心後悔していたりしていたり。
ちなみにまだ寮の手配が出来ていないので今はエヴァのログハウスに住まわせてもらっている。
編入と同時に寮の方に移る目処になっているのだ。
それでエヴァにちょうどいいから必要なものを揃えて来いと言われたのでこうして案内ができる茶々丸とともに周っているわけである。

「正直に言ってすごい、の一言だねー。この学園都市って都市なだけに色々な施設があるから外にでなくても大抵のものは揃いそう」
「そうですねシホ様。これならきっとシホ様に似合う衣装があるでしょう♪ タマモ、がんばります!」
「でしたらまずは婦人服を販売している店舗を回るとしましょうかエミヤさん」
「了解。それじゃタマモお願い」
「あいさー♪」

それで三人は服が売っているエリアに移動を開始した。
ちなみにここに来る前に自身の持ち物が一つもない、もしかしたら敵のアジトに置き去りになっているのでは?と不安に駆られたりしたが、そこはやはりタマモが頼りになってくれた。
タマモがおもむろに一つの袋を取り出すとその中から、

・シホの当時の戦闘衣装や聖骸布の外套『赤原礼装』とそれに順ずる作りの通常時の予備コート数点。
・大事にしている紅いルビーの宝石。
・宝石剣ゼルレッチ。
・対外からの様々な攻撃に対する守りの概念がこもった装備一式。
・調理、裁縫道具一式。
・旅で手に入れたお金や宝石。
・タマモ個人の趣味で収集した品物。
・姉からの手紙。
・かつての仲間との写真

などなど…まるで四次元ポケットのごとく出てくるわ出てくるわ…。
シホは「なに、この袋?」と問いただしたが「秘密です♪」の一言でばっさり流されてタマモの謎が一つ増えた瞬間だった。
それとエヴァがナギの若かりし日の姿を無言で見ていてボーっとしていたのはこの際全員は見なかったことにした。

そしてもう一つ。なぜ今までタマモはシホの事を“ご主人様”と呼んでいたのに“シホ様”に変わっているかというと、これから学生生活が始まるのにそれでは駄目だ。とエヴァに指摘されたから。
それでタマモはしかたがなく名で呼ぶ事にしたが“様”だけはどうしても譲れないという事なので“シホ様”に呼び方が変更された次第。




―――閑話休題




それでしばらくしていくつもタマモによって下着や服装などの着せ替え人形にされた挙句、ほとんど購入してまた謎の袋におさめていると「とても便利です…」と茶々丸に褒められたりもした。

「でも、結構買ったね」
「そーですね。私はもうお腹が色々な意味でいっぱいです♪」
「ですがアヤメさんはともかく、エミヤさんは購入した数は平均では少ないほうです」
「…そうなの? まぁ、あまり気にしないからね昔から」
「駄目です! シホ様は昔から服装に関しては無頓着に過ぎますので休日や外出時などには私がコーディネートさせていただきますから何卒に!」
「えー…」

シホが嫌そうに唸っているがタマモはもう決定事項として譲らない方針であった。
そこに茶々丸が声をかけてきて、

「それでは見回りもして地理はあらかた把握したと思いますし、今夜の食材も購入しましたし家に帰るとしましょうか」
「そうだね」
「はいです」

全員一致で帰ろうとした矢先、後ろから声をかけられる。

「あれ? 茶々丸さんじゃん?」
「朝倉さんですか。こんにちは。それと明けましておめでとうございます」
「あ、これはどうもこんにちは。おめでとさんっす!」

そこには朝倉と呼ばれる少女がカメラやその他機材を持ちながら立っていた。

「珍しいね。いつもはエヴァンジェリンさんも一緒なのに。
それと今日は初見の人物が二名います、っと…知り合いなの?」
「はい、少し数日前からの間柄ですが」

朝倉は茶々丸の言葉を少し聞き流しながら手帳を取り出しシホ達に話しかける。




◆◇―――――――――◇◆




Side シホ・E・シュバインオーグ


「はじめまして! 朝倉和美っていいます! よろしくー!」
「ど、どうも…私はシホ・E・シュバインオーグです。それで後ろの女性が私の友人の…」
「玉藻アヤメっていいます。できればアヤメで呼んでください♪」
「そーですかー。エミヤさんにアヤメさんっと…」

朝倉さんと呼ばれる少女が私とタマモに手帳とどこから出したのかICレコーダーを取り出して色々と取材してくる。
小さい声で茶々丸さんが「彼女は報道部で好奇心も旺盛な人物ですので、あまり念入りに質問される場合は逃げましょう」と言われたのでタマモにもその旨をラインで伝えておく。

「それじゃ、エミヤさんとアヤメさんに質モーンッ! 茶々丸さんと出かけていたみたいだけど、どういった関係? もしかしてここの生徒なの? 見かけない顔だけどひょっとして転校生?」

そこから朝倉さんからまるでとぎれの来ないほどのマシンガントークが続くことになる。
…あー、少しくらくらしてきた。
横を見上げれば少しタマモの目線も鋭くなってきている。
どうやらうんざり気味になってきたのだろう。

「ところで足悪いの? 車椅子を使っているけど。それと“前はどこで何をしていたの”?」
「「「!?」」」

あ、やばい…。
この感覚は、来る…!
思い出したくもない記憶がまるで波のように押し寄せてくる!!
だ、めだ…。

「うぐぅぅ…っ!!」
「え…?」
「シホ様ッ!!」
「エミヤさん!」

条件反射で私は頭を両手で抑えてしまった。
こうでもしないとあまりの激痛に我慢できずにまた気を失っちゃうから。
どうにか意識を手繰り寄せて、

「ご、ごめんなさい。朝倉さん…今日はここまで、に…」
「シ、シホ様! ささ、早く帰りましょう! お体に障りますから!」
「すみません朝倉さん。エミヤさんがこの調子ですので取材は…」
「あー…うん。なんか触れちゃいけないとこに触れちゃったみたいだね。ごめんね…」
「気に、しないで…ッ…それじゃ、またね」
「失礼します」
「のろっ「タマモ!」……失礼します」

私たちはただ呆然と立ち尽くしている朝倉さんを尻目に早々と退散した。
そして帰宅後にエヴァさんには「どうしたッ!?」と騒がれてしまった。
それで思った。
こんな調子でこれから私はやっていけるのか、と…。


 

 

005話 2-Aへの編入

 
前書き
更新します。 

 


三学期が始まる前日に私はタマモを連れて学園長室に赴いていた。
理由はというと多分転校生として様々な質問をされてしまう可能性が大だからだ。

「ふむ…。たしかに大変じゃが、そこまで深刻になることかの?」
「深刻な問題です! シホ様は朝倉という少女に質問されたときに“前はどこでなにをしていたの”っていう質問だけで激しい頭痛に襲われたんですよ!?」
「む…。それは確かに深刻じゃな。しかし明日にはもう編入する予定になっておるし…対策はどうするのかの?」
「それで提案ですが魔法使用の強力な精神安定剤を輸血パックと一緒に支給してほしいんです。関東魔法協会の長の貴方でしたら簡単に入手できると踏んだんですが、どうですか?」

そこで学園長が渋い顔をしながら、

「しかし吸血鬼の強靭な肉体とはいえ魔法使用の薬を服用するのはさすがに害では「…大抵の薬物に関しては免疫や抗体がありますから大丈夫です」…そうであったの」
「…そんな顔をしないでください。私はもう割り切っています。でもこの件で回りに迷惑をかけたくありませんから」
「あいわかった。明日までに手配しておこう。また明日にここに来てくれい」
「わかりました。それじゃ失礼します。いこうかタマモ」
「はいです」




二人が部屋から退出した後、学園長は目元を抑えながら薄らと涙をためて、

「なにが“割り切って”おるじゃ…。激痛を耐える薬を服用するということは未だ過去を克服していない証拠ではないか…。辛いのぅ」

学園長は窓の外の青い空を見て哀愁を漂わせていた。




◆◇―――――――――◇◆




その夜のこと、大浴場では明日から始まる三学期に向けて色々と会話をしていた集団がいた。
だが朝倉和美は浮かない顔をしてあまり会話に入ってこないでいた。
それを不思議に思ったクラスメートは話をふってきた。

「どうしたのですか朝倉さん? 元気がないでしてよ?」
「あ、いいんちょ…。うん、まぁちょっと、ね」
「どうしたのよ朝倉。普段ならなにかしらネタを仕入れているでしょう。それにどこか元気がないようだしなにかあったの?」
「やっぱそう見える? いやー…これは思ったより重症かもね」

クラスの委員長である雪広あやかとその友人(?)の神楽坂明日菜が尋ねるが、なお煮え切らない返事を返した。
それで朝倉は話すかどうか迷ったが、シホ・E・シュバインオーグと玉藻アヤメというおそらく三学期からの新しいクラスメートについて話した。

「えっ! それじゃ明日は歓迎会をしなきゃいけないじゃん!?」
「あわわ…ハルナ、落ち着いて」

一同が騒いでいる中、朝倉が少し声を大きくしてみんなに言った。

「あー…そのことなんだけどね、あんまりここに来る前のことに関してとかの事情は聞かないであげてほしーんだ。私個人としては」
『!!?』

朝倉の発言で一気にざわめきが起こった。
遠慮と言う言葉は無きに等しい麻帆良パパラッチの異名を誇る“あの”朝倉和美がこうした控えめな態度をとること自体まずありえないという感想がほとんどをしめていたからだ。
それで「熱!?」とか「どこかで頭を打った!?」とか結構地味にひどい事を言われているがそれを意に返さず、

「私もねー…つい数日前に学園を茶々丸さんに案内されている二人に直撃取材をしかけたわけねー」

その発言に『やっぱり…』と言われるがとりあえず無視して、

「アヤメって子はエミヤさんの付き人みたいな立場の人だったわけよ。
肝心のエミヤさんが理由はわからないけど足が悪いみたいで車椅子で移動していたし…」
『ほほー!?』
「それでねぇ…いくつか質問した後、前はどこでなにをしていたの?っていう質問をしたらね…」
『したら!?』

全員が騒ぐ中、朝倉は少し言葉を切って、覚悟を決めた顔つきになり、

「…突然、前触れもなく頭を両手で抑えてすごく苦しみだしたんだよ…」
『えっ?』

それで興味津々だった一同は沈黙する。

「その時私はどうしていいか分からず手をこまねいていたんだけど、エミヤさんはとっても苦しそうな顔をしていながらも『気にしないで』って私のことを気遣ってくれたの。
当然その後すぐに三人とは別れたんだけど、別れ際にアヤメさんにまるで親の仇を見るような目で睨まれちゃったんだよねぇ。
だから私、まず原因はまぁ多分質問内容だと思うんだけどちゃんと謝りたいんだよね」
『………』
「だからあまり過去のことに関しては深入りしない方がいいと思う。きっとエミヤさんはここに来る前になにか…そう、なにかとても大きなトラウマになるような事があったんだと、私は思うから。
だからみんなにもそこのところわかってほしいんだ」

朝倉の弱気な、でも殊勝な心がけの姿を見てそれぞれ思想は違えど良いことだと思った。

「すばらしい考えですわ朝倉さん! この雪広あやか、その朝倉さんの立派な心がけにとても感動いたしました。
それでは是非明日はそのシホさんとアヤメさんという我がクラスの新しいお仲間が気持ちよくわたくし達のクラスに溶け込めていけるようにまずは誠心誠意パーティー作りの努力をいたしましょう!」
『サンセーイ!!』

先ほどまでの暗い雰囲気から一転して全員はほぼ賛成の意見をだした。
それに救われたかのように朝倉は心の中で感謝した。




◆◇―――――――――◇◆




そして三学期当日、始業式が終わり生徒が各クラスに入っていく中、控え室では私とタマモは少しばかり緊張していた。
もう精神安定剤の薬は貰っているとはいえやはり集団行動をするのだから油断はできないからだ。
またいつ発作が発生するかわかったものでもなし。

「シホ姉さん、大丈夫かい?」
「う、うん、なんとか…それとタカミチ。これからはエミヤ君かシホ君で頼むね? 私も他の生徒の前では高畑先生で通すから」
「私も同意です」
「うん、わかったよ。シホ君、アヤメ君。それじゃ僕がいいよと言ったら入ってきてくれ」
「うん」

タカミチはそう言ってまだ騒がしいクラスの中に入っていった。
中に入ると一同はすぐに席について静かになった。
どうやら相当タカミチは信頼されている証である。
中からは元気よく「おはようございます」という言葉が聞こえてくる。

それでタマモは少し中を覗いてみると、

(うわー…こうしてみるとやっぱり女子だけですね~)
(ボロは出さないようにね、タマモ。こっちでは魔法がばれたらオコジョだから)
(アバウトですねー。“あっち”では封印指定だからまだマシですけど。って言うか私はもともと仲間なんですけど…)

二、三タマモとライン越しで会話をしていると中からタカミチが「それじゃ入ってきてくれ」という言葉が聞こえてきたので私達は中に入っていった。
だが入った途端目の前に吸盤のついた矢が数本飛んできた。

「なんでよ…?」

思わず呟く。
だけど冷静に対処して迫ってきた矢はすべて一まとめに弾いてその手に収める。
どうやらタマモにも迫っていたようだけど手刀で叩き落している。
だけどまだトラップは続く。
次にはバケツが私の頭上に振ってくるがそれをタマモが危なげなくキャッチしている。
それでもう終わりかと前に進んだのが甘かった。

「わっ!?」
「シホ様!」

地面にワイヤーが仕掛けてあったみたいで車椅子が絡めとられて私はそのまま床に倒れた。
ついで「ガシャンッ」と車椅子の倒れる無機物の音が教室中に響く。

「痛ッー…」
「シホ様大丈夫ですか!?…高畑先生、これは一体なんですか…!?」
「い、いやぁー…すまない、僕の注意ミスだったよ」

私が倒れたのを切欠にタマモはタカミチにドスのきいた声とともに睨みをきかせている。
気づけば教室中の生徒の半数以上が顔を青くしている。
それはそうだ。タマモはかつて絶世の美女とまで謳われた人物なのだから、その顔が怒りに染まれば一気に恐怖を引き起こさせる般若顔になる。
さすがに気まずい空気が流れているなぁ…。これは、さすがにいけないかも。

「タマモ、私は大丈夫だから…高畑先生も、皆さんも気にしないでください」
「ですがぁー…」
「「ごめんなさいっ!!」」
「えっ…」

と、そこにどうやら双子らしい少女たちが涙目で私をすぐに起こしながら謝ってきてくれる。

「ほんのお遊び気分だったんだけど、まさか転倒しちゃうなんて思わなくて…!」
「本当にごめんなさいです!!…足は大丈夫ですか…?」
「うん、大丈夫。ありがとう…それと気にしていないから泣き止んでくれると嬉しいな」

そういってできるだけ笑顔を作りながら二人の頭を撫でて上げる。
タマモが「相変わらずシホ様はお優しいんですから…」と言っているけど私としてはあまり泣き顔というものは見たくないから。
でも、どうしてだろう? 泣き止んだと思ったら今度は二人とも火照ったように顔が赤くなりボーっとして私の顔を凝視している。

「どうしたの…?」
「あ、いや…!?」
「な、なんでもないです!」

二人はそそくさと席に戻っていくとようやく落ち着きを取り戻した一同はホッとしている。
それからしばらくしてタマモの機嫌もやっと治りあらためて自己紹介まで漕ぎ着けた。

「それじゃシホ君、アヤメ君。自己紹介をお願いするよ」
「わかりました。私の名前はシホ・E・シュバインオーグです。よろしくお願いします」
「私は玉藻アヤメです。できれば名前の方でお願いします。これからよろしくお願いしますね」
『よろしくー!』

自己紹介をすると先ほどまでの重い雰囲気もどこへやら、元気に返事を返してくる。これが若さか…。
強化された吸血鬼の耳でよく澄ませて聞いてみるとやはりどこかしこもこの年代特有でもないけど大体が好奇心で飾られている。



―――さっきまであんな事があったから気にならなかったけど、今見ると二人ともすごい可愛いね。
―――うんうん! それに髪の毛も朱と銀が入り混じっていてとても綺麗…桃色も中々捨てがたいよね?
―――あの制服の上に着ている紅いコートもいい具合に決まっているね。



…と私たちの容姿の事やら。
ちなみに私は先の呟きの通り補足すると制服の上に聖骸布のコートを羽織っている。



―――足、大丈夫かなお姉ちゃん?
―――これが終わったら改めて謝ろう、うん!



先ほどの双子の声やら。や、本当に気にしていないからいいのだけど。



―――おいおい!? 二人ともどんなスペックしてんだよ! ウチの馬鹿連中の上位に入るくらいの逸材だぞ!



…一番後ろの眼鏡をかけている子が見た目と違う喋りをしている。猫かぶりだろうか…?
っと、そこまではおおむね表向きは問題なし。



―――むむっ、車椅子を使っているがかなりできるネ?
―――あれが件の吸血鬼の女性か。一応警戒はしておくか。
―――ふっ、…元・あの赤き翼のメンバーか。また一段と面白くなりそうじゃないか。



チャイナ風の子は単純に興味津々と言った感じだけど、一部関係者だろうか? 結構物騒な事を言っている。
褐色の背の高そうな子なんて私の事を知っているみたいで不敵に笑っているし。
そんな事を思って全員を見回してみると………なぜか幽霊の女の子がいるではないか。
タマモも気づいたみたいで二人して目を合わせるとニコリと微笑む。それでなんとなく微笑み返すとすごく喜ばれた。
…タカミチ、君のクラスの生徒達は一部かなり特殊だけどよくまとめられているね?
心の中で賞賛しているとタカミチが席をどうするか施している。
それで真ん中の先ほどの眼鏡の女の子の後ろ…つまり一番後ろに私たち二人の席が決まり、着席してそのままタカミチが三学期初めのホームルームを開始した。




◆◇―――――――――◇◆




ホームルーム終了後、私達は転校生ということもあり次々と質問を受けていた。
だけど、ふと疑問に思う。
みな一様に過去のことを聞いてこないのだ。
それに気づいたのか自称麻帆良パパラッチという先日の少女、朝倉さんが話しかけてきた。
それにともないタマモの視線も少し鋭くなる、が朝倉さんはタマモの反応も考慮にいれていたのだろう。

「エミヤさん、この間はごめんね。ほら私って報道部にも所属しているからよく聞く癖があったんだけど結果的にあんなことになっちゃって…」
「えっと、気にしないで朝倉さん。あれはちょっと、ね…」
「いや、言わなくていいよ。誰でも踏み込んでほしくない所とかはあるからね…だからこの間はごめん!」

先ほどまでの騒がしさが嘘のように教室中が静かになった。
それほど朝倉さんの行動が意外だったのか、はたまた―――…。
でも、その気持ちはとても嬉しいものであって私は口元に笑みを浮かべて、

「いいよ。許してあげる。って言っても最初から怒っていないけどね。でもその気持ちだけでも私にとってはとても嬉しい」
「私はあなたの事を最初は少し身勝手な人物だと思っていました。勝手にズカズカとシホ様の中に入ってこようとしていましたから。あげくシホ様はまた頭痛に苦しみましたから…」
「っ……!」

タマモの容赦ない毒舌が朝倉さんを直撃して少し顔を引きつらせる。
それでタマモを叱ろうとしたけど、

「…ですが、シホ様に対してのそのお気持ちには嘘偽りはないようです。最初の印象は確かに悪かったものです。ですがそれはこれからいくらでも改善していけれるものと思っています。
ですから、シホ様共々あらためてよろしくお願いしますね、朝倉さん」
「あっ…うん!」

それで朝倉さんの表情は嬉しそうに弾けた。
タマモも薄く微笑んでいてもう険悪な雰囲気はなくなった模様だ。
それからというもの朝倉さんが主導としてみんなの質問を一挙に受け取って質問してくる。
その中で料理談義があって四葉五月さんと超鈴音さんと話が弾んで今度一緒に作ろうと話を盛り上げていった。

そんなことがあったりして、三学期初めということですぐに学校は終わり、もう重い荷物などはすでに寮室に運び込まれているので残りの軽い荷物を取りにエヴァの家に向かおうとしたところ、

「あ、シホさんにアヤメさーん!」
「…ん? なに、神楽坂さん?」
「アスナでいいわよ。これから一緒に過ごしていくんだから他人行儀はあまりなしにしてほしいのよ」
「ん。わかったよ、アスナ。それでなにか用があった?」
「うん。ちょっと放課後になんだけどまた一度教室に来てもらって構わないかな?」
「?…いいけど、なにかあるの…?」
「それは来てからのお楽しみよ。それじゃ待っているから」

そういい残しアスナはすごいスピードで道を駆けていった。

「なんだったのでしょうか…?」
「さぁ…? まぁとりあえず最初はエヴァと合流しようか」
「はいです♪」
「(…そういえば、アスナ?…どこかで会った事があるような気が………うーん、気のせいか)」

考え付かなかったので今は保留にしておいた。
それでエヴァと合流して今日はどうだった? と聞かれたので、

「いいクラスではないですか? 差別とかそんなものもないようですし…ただ、なんというか特殊な生徒が多い気がしたんですが…」
「まぁ、あのクラスは半分とは行かないが関係者は多数いるし、魔法には関わっていないがそれに順ずる奴もいる。それに近衛詠春の娘もいることだしな」
「あー…そういえば確かに。近衛木乃香って言ったっけ? かなりの魔力を持っていたけどあの子は魔法に関しては…」
「詠春やじじぃの決め付けで教えてもらっていないらしいな」
「そっか。しかしあの堅物で初心だった詠春が結婚して子供まで産んでいたなんて驚きだね」
「そーですねぇ。一度あったら冷やかしてあげましょうか」
「お前らと一緒にいると昔の奴らの事が多く知れてなかなかに愉快だな。ほら、なにか奴らの恥ずかしい話とか持っていないか?」
「そうだね。最初の頃ラカンは敵だったけど、その時のやりとりがなんとも…食事を台無しにされたのはムカついたけど。
まぁ後はナギとラカンがいつも喧嘩という名の殺し合い(?)をしたり、アルがそれをさらに煽って被害を拡大させ、ガトウや詠春まで巻き込んで一夜にして一大戦争を起こしかけたりして、ゼストは他人の振りをしだしたりしていてねぇ…タカミチも当時はまだ少年だったんで介入できるわけもなし。私は一身に被害を受けるばかりで…フフフッ」
「お、おい…シホ?」
「あんまりにも嫌気というか我慢、鬱憤が溜まっていたんだろうなぁ…私が正気に戻った時には全員が大小程度あれ土下座をしていたのは懐かしくもあり、いい思い出だったよ?」
「あの統率の無さが売りの奴らが、か…? 想像できんな…。特にアルが…。いったいなにをしたんだ…?」
「さぁ…? ただ所々焦げていたり、ラカンに至っては殴打の跡が全身にくっきりと残っていたから“錬鉄魔法”でも使用したんじゃない?
最終的には私とタマモ以外は男だらけだったからマグダラの聖骸布で芋虫にしていたね」
「あのときのシホ様は悪鬼羅刹の化身と化してましたからぁ…もうそりゃ本気出せばあの糞ナギなんてイチコロでしたね♪」
「おいおい…それじゃ今吸血鬼としているお前はどの程度の実力なんだ?」
「さぁ、どうだろう? 足が治ればなんとかなるだろうけど…」
「……わかった。足が完治次第、私の別荘で勘を取り戻す意味も込めて実力を測ってやろう」
「あ、やっぱりエヴァもダイオラマ球を持っているんだ」
「まぁな…。それよりそろそろ着く頃だし話はもうやめてさっさと荷物を運び出すぞ。間違っても人前でタマモの不思議四次元袋はだすなよ?」
「えー、わかりましたぁ~…」

それから急いで荷物をまとめてタマモと茶々丸が大きい荷物を運ぶ感じでそのまままた指定通りに教室に向かったら、

「「「「ようこそエミヤさん!! アヤメさん!!」」」」

と、突然歓迎されて私たちは困惑してしまった。
見れば教室はいつの間にやらパーティー会場へと変貌していて、いつ作ったのか分からない様々な料理がおかれていて、私とタマモは主賓とのことで中心まで連れられてきていた。

「えっと、これは…?」
「ん? これは二人の歓迎会よ。エミヤさん達一回荷物を寮に持っていくつもりだったんでしょ? それでちょうど良かったから急いで準備したのよ」

律儀にアスナが答えてくれる。
それで思わずエヴァに視線を送るが、



―――諦めろ。せいぜい馬鹿騒ぎに付き合ってやるんだな。



切って捨てられた。
しかたなくというのも失礼だけど楽しむことにした。
タマモは早速油揚げの料理はないかと催促している。
そして気づけばタカミチとかも席で苦笑いを浮かべていて、小さい声で、

「どうだい、シホ姉さん。これから色々あるだろうけど楽しめそうだろう?」
「はぁ…確かにそうだね。それじゃ改めてだけど、タカミチもこれからよろしくね」
「うん。僕もまたこうして姉さんと話をできるのが嬉しくてたまらないからね。よろしく」

一同が騒ぐ中、私たちは気づかれないようにこの出会いに乾杯したのだった。


 

 

006話 子供先生の赴任初日

 
前書き
更新します。 

 
私とタマモが麻帆良女子学園中等部2-Aに編入してエヴァのコテージから寮生活に移って数日が経過した。
そんなある日の朝、目覚まし時計が鳴り響き私は少し目を擦りながらも目を覚ます。
ちなみに午前四時。エヴァには早すぎだろ!?…と突っ込まれたが気にしない。
と言っても、やはり体は朝に弱い吸血鬼でありダルさがかなりあり、そしてまだ一月という寒い季節なので布団の中に入っていたい衝動に駆られるが、

「シホ様、朝ですよー? お目覚めください♪」

私の枕元で正座しているタマモのニコニコした表情と陽気な声でようやく脳が覚醒しだす。

「おはようタマモ。うぅー…やっぱり吸血鬼の体って不便ね。人間のときは目を覚ましたらすぐに起きられたのに…」
「いいえ~。私としましては嬉しいです♪ 毎朝シホ様の寝顔が拝見できて、それにまるで新婚のようにお目覚めの言葉をかけることができますからとても最高です♪」
「そ、そう…」

私は向日葵のような笑顔でそう答えるタマモに怒ることもできないでいた。
だってタマモは過去にさんざんな目に合い『良妻になりたい』という願いの元、自分の神格まで落として現界したのだから。
だから私も基本タマモは自由に扱っているし存外に扱ったりもしない。
私のサーヴァントであり立派なパートナーなのだから。



―――閑話休題



「ささ、シホ様。朝の輸血パックですよ」
「ん、ありがと。でもやっぱり慣れないなぁ…美味いけど」
「そこは野菜ジュースとでも思っておけばいいのです」

そう、もうこれはここに来てからの日課となっている。
人の血を直接飲みたくないと出張したら学園長が人口血液による輸血パックを毎月提供してくれることになった。
ここは感謝である。
エヴァは『同族としてはあまりに情けないぞ?』と言っていたけどそこは許してほしい。

そんなこともあり朝の吸血も完了して体力・魔力ともに全快した私は朝ごはんとお弁当の支度をタマモとともに準備する。
ここで小話だがタマモは私に召喚された当時、現代の料理がろくに作れずに四苦八苦していたが、今となってはそこそこうまいものが作れるようになってきている。
もちろん採点は厳しくしていったので今では人様に出しても文句は言われないだろうと褒めたら狂喜乱舞していたのは記憶に残っている。
そしてここで抜いてはいけないのがタマモの使役する四匹の管狐。

「―――呪招・飯綱。出てきなさいな、私の可愛い狐たち♪」

四本の竹筒を取り出して詠唱すると四匹の管狐が筒の中から飛び出してきた。

赤い管狐が(ほむら)
水色の管狐が(みやび)
黄緑色の管狐が(りん)
黄色の管狐が(やいば)

四匹ともタマモと私にとっても忠実な管狐なのである。
能力は多々あるが代表的な能力は、焔は炎、雅は水・氷、琳は風・密度・大気、刃は雷・大地…それぞれに特化した属性を持っている。
風水や陰陽五行説になぞらえているとタマモは言うが、それでは一匹足りないのでは?という疑問にも苦笑して『後一匹作る前に逝ってしまいましたから…』と言ったので当時素直に私は謝った。

とにかく、その四匹が私特製の味噌を美味しく食べている姿を見るととても和む。
それから少ししてすべて平らげた四匹は一度頭をさげて管の中に戻っていった。

食事が終わり、次に始めるのはリハビリである。
寮室には色々リハビリ用の器具を置かしてもらった。
それで数十分の間、身体強化魔術を使い、魔術の特訓の一環として支えをしっかりと持ちながら歩く練習をしている。こういう時には役立つ力である。
その後にタマモにお風呂に入れてもらい一緒に入浴後、制服に着替えて学校に向かう。
これが今の私たちの朝の生活のリズムである。
足が治ればリハビリはなくなり投影武器での特訓に変わるが魔術を使うというところはさして違いはない。
さて、今日も騒がしいクラスに向かうとしますか。




◆◇―――――――――◇◆




教室につくと突然鳴滝姉妹が駆け寄ってきた。
それに少しびっくりするシホだがもう慣れたようで普通に会話を楽しんでいる。
あの初日の一件でシホはすっかり鳴滝姉妹に懐かれてしまってアヤメ共々いい関係を一番築いている中でもある。
シホもタマモもいい妹分として可愛がっていたりする。

「ねぇねぇシホ。足の調子は大丈夫…?」
「シホさん、リハビリははかどっていますか?」
「うん。今のところ順調だよ。心配してくれてありがとね、二人とも」

シホが頭を撫でる。すると、
「えへー…」と史伽。
「えへへ…」と風香。
二人とも本当に嬉しそうに顔を赤くしてはにかむ。

「むっ!? なにやら百合のカヲリがするわ…!」
「なに変な事を口走っているですか、ハルナは…」

そこに早乙女ハルナが敏感に反応してそれに突っ込みを入れる文学少女・綾瀬夕映がいたり、

「ふむ、少しばかり寂しいでござるな…」

同僚を取られたような心境の某甲賀忍者(おそらく中忍)は寂しさを感じて帰ったら双子を弄ってやろうと心の中で計画していたり、

「ふむふむ…鳴滝姉妹はエミヤンに夢中と…」

報道記者・朝倉和美がメモ帳になにやら怪しく記入をしていたり…ちなみにエミヤンというあだ名の発祥は当然この人である。
もう数名がこのあだ名で呼んでいる為、シホはあきらめたとの事。
それで『くぎみー』という変なあだ名をつけられている釘宮円には同情されたりした。



タマモはシホが楽しく過ごせている日常を細い目をして眺めていた。
と、そこに褐色の肌の生徒。龍宮真名が小声で話しかけてきた。

(やぁアヤメ。最近のエミヤの調子はどうだい?)
(あ、真名ですか。はい、最近はやっと支えありでですが歩けるくらいには回復してきました。
やっぱり吸血鬼の治癒力は凄まじいですね。数十年歩かされていなかったのに…寧ろ語るのもおぞましい事をされていたのに、もうそのくらい治ってきているのですから)
(そうか…。しかし末恐ろしいな。魔法世界ではそれこそ“サウザンドマスターのナギ・スプリングフィールド”や“千の刃のジャック・ラカン”とともに有名な“魔弾の射手”“剣製の魔法使い”と称された大物が大戦中に行方不明になったと話では聞いていたが、まさか吸血鬼の実験体に使われていたとは…)
(色々あった、としか今は言えません…。その事を話題に出すとすぐにシホ様はあの時の記憶を鮮明に思い出してしまい苦しんでしまいますから)
(難儀だな…)
(はいです…)

なぜ龍宮真名がこうして過去の話をタマモとしているかというと、実はシホが現れた現場に唯一実力者として呼ばれていたからだ。
だからシホの無残な姿も、タマモの悲痛な告白も当然見聞きしていた。
それで龍宮は編入してから少しして二人に接触した一人である。
実は同じ長距離専用の得物を使うシホの大戦中の話で少なからず龍宮は畏敬の念を抱いている一人なのだった。
弓は銃と違い性能が劣るというのにそれも関係なしに自身の腕と鋭い眼力で超長距離からの正確無比な射手を放つ話はとても有名だ。



―――閑話休題



(なにか力になれる事があったらいってくれ。当然報酬有りだがね)
(はいはい!…まったく、この根っからの守銭奴が!)
(ふっ…褒め言葉として受け取っておこう)

そうして龍宮は席に戻っていった。
タマモももう気持ちを切り替えてシホの元へと向かっていった。



これでシホは素直な者達には懐かれるほどの人気だが影(といっても遠くから見守るという意味で)ではさらに人気に拍車がかかっている。
まず朱銀に輝いている髪はサラサラで乱れがなく、元々の髪質もそうだが毎日タマモが丁寧に洗ってあげている事もあり枝毛の一本もなく女子には羨ましがられている。
それにシホの性格もとても素直・謙虚で自慢話や高飛車な態度も取らなくてあまり表裏もないから気軽に話しかけられる。
さらに車椅子を使っている為か儚いイメージが定着していてとてもクラスの皆に大切にされている。


…―――本人の自覚は皆無だが。


それに頭もいいのでよく勉強の駄目だしや分からない所を丁寧に教えている姿からとても好印象。
なにより普段はぶっきらぼうであまり笑わない方だから一度笑顔を見せればほとんどの者は顔を赤くし積極的な者(主に名をあげると当然タマモを筆頭に朝倉、鳴滝姉妹、早乙女、近衛、運動部四人組、チア部三人組など…)には可愛いと抱き着かれることもしばしば。
嫉妬や僻みを起こすものもいないから(長谷川千雨は嫉妬というよりは、どちらかというとどう上回ろうかと頭を回転させていることくらいか?)かなり友好関係は広がっている。

裏のほうでも、シホの本当の姿を知っている魔法生徒や教師などもつい気を許してしまうほどである。
バックには学園長、タカミチ、そしてエヴァすらも味方についている。
それに赤き翼時代の功績からも怪しいことを企んでいると思うものは少ない。逆に龍宮と同じく畏敬の念を抱いている者すら多いくらいだ。
そしてむしろ件の実験体の事で保護に賛成する方の意見が多くあげられ今現在、過激派はもうほぼいないに等しいくらいである。



………結果、普段の行いの成果もありシホとタマモの学園生活はとても充実している。




◆◇―――――――――◇◆




そんな最中である日の事、シホとタマモの二人は学園長室に呼ばれていた。
中には学園長とタカミチがすでにいた。
そして部屋には人払いの結界が張られていることから重要なことだと二人は踏んだ。

「どうしましたかタヌキな学園長~?」
「コラッ、タマモ。…すみません。それでなにか重要な事件でもありましたか?」
「ほっほっほっ…アヤメ殿は元気でよいのう。主は狐じゃろうに…」
「なにを~?」

そこでもはや恒例となった狸と狐の化かし合いが開始されていることを他所に、シホはタカミチの近くまで車椅子を動かして袖を掴み、

「タカミチ、なにがあったの?」
「ん…そうだね、姉さん。前にナギには息子が一人いるっていう話をしただろう?」
「うん。ネギっていう今年で十歳の男の子でしょ? かなりの天才だって聞く…」
「そうだよ。それで驚かないで聞いてほしいんだけどいいかな…?」
「いいけど…まずは二人を黙らそう」
「それは同意見だね」

化かし合っている二人を力ずくで黙らし話を進める。
そして学園長の一言を聞いて、二人は思わず呆然としてしまった。
それから少しして再起動を果たし、

「…ちょっと、もう一度聞いていい? 誰が、どこで、いったいなにをするって?」
「私も耳はいい方なのですが聞き間違いだったならいいのでしょうが…」

これはもう一途の望みとばかりに二人に問うが返答は同じ、

「そのネギ君がここ麻帆良学園に僕の代わりに君たち2-Aの教師件教育実習生としてやってくるんだよ」

開いた口が塞がらないというのはまさにこの事をいうのだろう。

「それで? それだと私達の監視体制が無くなることになるけどいいの? 過激派が黙っていないと思うんだけど…」
「うん、まぁー、ね…」
「「…?」」

二人が曖昧な表情を浮かべているタカミチ達に首を傾げて怪訝な視線を向ける。
それに気づいたのか高畑は必死に表情を引き締めて、

「最初、過激派代表とも言っていい人物だったガンドルフィーニ先生という人がね…あ、知っているよね?」
「うん。いつも硬い表情をしている人でしょ?」
「そうじゃ。まぁあれは素なのだから勘弁してくれい。
で、そのガンドルフィーニ先生がの、過激派集団をここ最近で完全に鎮圧したという話があったんじゃ」
「はぁ…?」
「ふーん…いい所があるではないですか~?」
「うん。最初はやはり半信半疑だったらしいけど、彼も実はシホ姉さんの話に憧れている一人だったんだよ。それで姉さんの話がされた時にすごいショックを受けていたみたいでね。
とある居酒屋で一緒に飲んだ時に色々あってね」

高畑はそこで遠い目をしていたので内容は聞かないことにしたシホ達だった。

「まぁ、とにかく姉さんの普段の生活からも見て、一概に人外の吸血鬼だからと迫害してはいけないという声があって今ではほぼ沈静化しているのが現状だ。
それに担任から外れるといっても広域指導員という立場もあるから安心していいよ。なにかあればすぐに頼ってくれ」
「わかったわ、タカミチ」
「それで話は戻るが表向き、ネギ君は去年に魔法学校を首席で卒業して修行する名目が『日本で先生をやること』だったんじゃ。
だからここで引き受けることになったわけじゃ。ここなら学園結界もあって安心じゃからな」
「安心………やっぱり裏の事情があるっていうわけね。まぁそりゃ当然といえば当然ね。
そのネギって子はあのナギ…“サウザンドマスター”の息子なんだから。
ナギ自身恨みを買うようなことを結構していたから…それに一度タカミチから聞いた村の災害の話。
…それはナギが原因なのか分からないけど、もしそうだったならナギの英雄という形の負の遺産をそのネギって子は意図せず継承され背負ってしまっている。
狙われる可能性は十分にあるから、ここを彼の守り場と成長するための“揺りかご”として決定したってことでいい?」
「さすが姉さんだ。少しの話でそこまで言い当てるなんて」
「伊達にナギ達とパーティーを組んでいたわけじゃないわ。ね、タマモ?」
「はいです」
「でも…」
「ん?」

そこでシホが難しい顔になり、

「たった数えて十歳の少年にあのバラエティー豊富で濃いメンバーが揃っているクラスをまとめられると思う…?」
『………』

シホの一言によって部屋に沈黙がおりた。
だがすぐに復帰した学園長がのんきな声で『まぁ大丈夫じゃろう』と不安の有り余るコメントをしてため息をついたのは言うまでもない。

「まぁもう決まってしまっている事は仕方がないから諦めるとして私とタマモは有事の際がない限りこちらからは正体を明かさないことにするけどいいかな?」
「うん、それで構わないよ。ネギ君にも修行の一環として全面での助けはあまり好ましくないからね。でも魔法関係じゃないところでは…」
「わかっているわ。彼が迷っている際は相談でも乗ってあげるわよ」
「ありがとう姉さん。今はそれだけで十分だよ」
「あ、それと私が“赤き翼”のメンバーだったって事もそれはかとなく隠しておいてね?
聞かれると色々と、ね…例の発作が常に発症していたらさすがにきついから」
「あいわかった。それではシホ殿、アヤメ殿。ネギ君のサポートは任せたぞい」
「「はい」」




◆◇―――――――――◇◆




そんな話が交わされて数日、クラスではすでに今日その新任教師である先生の話題で盛り上がっていた。
かくいう私は五月さんと超さんとで、もう定番となっている中華まんの試食会を互いにやりあっていた。
タマモも真名と少ない会話をしながら楽しんでいる。
実はこのクラスで一番タマモと真名は仲がいいのではないだろうか?
ま、仲良きことは良きかな、ということで、

「むむっ…エミヤン、また腕を上げたネ。五月や私よりうまいのではないかナ?」
「それはさすがに誇張しすぎだよ、超さん」
「でも腕を上げてきたネ。以前に和洋中で料理勝負をした時に中では勝てたが和と洋では敵わないと悟ったネ」

まぁ和食は記憶を失っていた時からすでに三種の中でなぜか一番作れたし…。
それに長年海外を歩き回って中はともかく洋は味にうるさい奴等がいたので嫌でも成長したものだ。いや、何回ケチをつけられては(特にナギとラカンを)フルボッコにしたことか。

「ねぇシホー! 僕にもちょうだい!」
「はいはい、一個百円ね。史伽にもよかったら渡しておいて」
「うん! それじゃ新任の先生歓迎のトラップ仕掛けてくるからー」
「あまりやり過ぎないようにね」

風香は少し苦笑いをしながら立ち去っていった。
と、そこで後ろから声がかかり、

「おいシホ」
「…ん? なに、エヴァ?」
「今日やってくる新任だが…」
「ナギの息子でしょ? 天才少年って聞くけど性格はどんな子かな?」
「さぁな。ま、ナギ似ではないことは祈りたいことだな」
「確かに…」
「まぁそれはともかくとして足の具合はどうだ? そろそろ車椅子がなくてもいい頃合だと思うが」
「うん。やっぱり結構リハビリが必要そうだけど、二月の終わりから三月の初め頃には復活の目処は立っているよ。
この体じゃなきゃ一生車椅子生活を余儀なくされていたと思うとゾッとするね」
「そうか。では治ったらすぐに別荘で戦いの方のリハビリもするから来ることだ。専用の部屋もすでに手配しているからな」
「ん…ありがとう、エヴァ」
「いい、いい。前にも言ったが同族のよしみだからな。それに時間と歳を取るという概念に縛られない私達は何日でも修行できるからな。
…それに、私個人として世界に名を知らしめたお前の実力も興味はあるしな」
「ハハハ…そんなに期待しないでね」
「むぅ…しかしやはりお前には吸血鬼としての威厳があまりないな。今後プランにそれも追加するか…?」

エヴァはぶつぶつ言いながら「またな」といって席に戻っていく。
でも威厳って言っても、ねぇ…?
そんな考えで席に戻ってくるとタマモも話を終えたようで一緒に席につく。

「シホ様、今日からナギの息子さんが来るそうですが、どう思いますか?」
「不安…その一言で片付くと思うけどね。学校を卒業したとはいってもまだ十歳だし…世間知らずにも程があるでしょうに」
「そうですねー。それでもし性格もナギ似だったらもう最悪ですね」
「エヴァと同じこと言うんだね。ま、確かにそうだけど…」

他には聞こえないように会話をしているとアスナと木乃香がクラスで最後に教室に入ってきた。
なにやらアスナは機嫌がすこぶる悪そうだけどなにかあったのか?
少し目を細めてみれば誰のかわからない魔力の残滓が付着しているようだけど…。

「おはようアスナに木乃香」
「あー…シホ、おはよう」
「シホ、おはようや」
「…どうしたの? なにやら気持ちダウン気味だけど…」
「気にしないで。ちょっと色々あっただけだから。そう、色々とね…」

哀愁が漂った顔をするアスナに苦笑いの木乃香。
そういえば息子さんの迎えには二人が向かうとかタカミチが言っていたけど、さっそくなにかやらかしたのだろうか…?
聞くと新任の子ども教師にいきなり失恋の相が出ていると屈辱的な事を告げられ、あまつさえいきなり謎の現象で服がいきなり吹き飛ばされ下着姿を露出するという惨事に会い、しかもちょうどそこにタカミチがいた為に恥ずかしい姿を見られ、おまけに『まだ住むところが決まっていないだろう』という学園長の采配で当分の間は同室で住ませてやりなさいと…。

『………』

それで私とタマモは沈黙する。

「………それは、なんというか、もう…ドンマイ?」
「うぅ…変な慰めは入らないのよー。もう最悪な事実は取り消せないんだから」

まことに酷い結果がオンパレードだ。
さすがに同情せざるをえない。
これで子供先生に対しての私の前印象は少し下がったのは確かだ。

それからしずな先生とともに子供先生…ネギ・スプリングフィールドは教室に入ってくるのだがさっそく黒板消しトラップに嵌ろうとした中で、

(えぇー…? とっさの事態とはいえ浮かしてしまうのはさすがにまずいでしょうに…)

子供先生もそれにすぐに気づき、わざとらしく頭から黒板消しを受けて咳き込みながらも足を進めるがそこに更なるトラップ。

「へぶっ!? あぼっあああああああああっ…ぎゃふんっ!!」
「うわぁっ…」

頭から水入りバケツ、吸盤使用の矢が数本、最後には盛大に転がり教台にぶつかりやっと停止する。
そこで一度笑いが起こるが、子供とわかるとすぐさま態度を変えてほとんどの者は子供先生に駆け寄っていく。
それを静かに見つめながら、

(シホ様~…本当にあれがナギの息子さんなのでしょうか?)
(現実を見なきゃ駄目よ、タマモ)
(正直言ってダメダメですねー…)
(ま、最初はそんなものでしょう。あ、アスナが掴みかかった)

「あんたさっき黒板消しになんかしなかった!?」

(うわちゃぁー…あの子、そっこうで魔法がばれそうになってますけど…)
(うん…。というかアスナ、目がいいなぁ)

それからというもの、委員長が仲裁に入ったのはいいのだけど、二人の仲の悪さはもう十分知っているので委員長がショタコンだったやらアスナがオヤジ趣味やら二人の個人的言い争いに発展していてもう授業どころではない。
しずな先生が止めなければ授業が終わるまで続いていただろう。
ついでやっと授業かと思いきやアスナによる消しゴム飛ばしによる妨害行為…おそらくまた浮くか弾かれるか、とかそんなことを思っているのだろう?
それでネギ先生に告げ口をしている委員長に消しゴムが当てられまた騒動でてんやわんやのままで授業は終了…。もう呆れてものが言えない。



―――学園長にタカミチ…あなた達の考えはすぐに瓦解しそうですけどいいのかな?



そんなことを考えていると委員長から話しかけられた。

「えっ…歓迎会を開きたいの?」
「ええ。せっかく遠路はるばるウェールズから来てくださったネギ先生を歓迎もしないのではクラスの面子に関わりますわ」
「別にいいけど…どうして私に頼むの?」
「シホさんが一番得意そうという理由では駄目でしょうか? 以前に私の家に来てくださったときも色々と指導してくださいましたしシホさんなら適任かと思いまして。
それに私の会社のグループの医療施設をよく使っているそうで、よく点検もしてくれるそうですし、料理の腕も私の家のシェフ達が逆に教えられていた光景にはびっくりいたしました。
それで指導力も十分あると思うのです」
「えっと…」

委員長の長い喋りが終わり少し考え込む。
実は以前に雪広邸の招待に預かった私達はその大きさに驚かされた。
それで当然歓迎されたのだけどつい…そう、つい解析眼が働いてしまって今は使えなくなったという古道具一式を点検・さらには復活させてしまった事があった。
その中に委員長の大事にしていたものも多数含まれていて大層感謝されたのは記憶に新しい。
他にも超さんや葉加瀬さんの腕には及ばないけど寮では皆の壊れたやら動かなくなってしまった道具とかは私がいつの間にか点検するようになっていたり…。もちろん報酬で食券を受け取っている。
驚いたのは秘密裏に龍宮から銃一式の点検をしてほしいという依頼だった。
それで龍宮曰く、普段なら高額で点検をしてもらっていたからエミヤには感謝していると報酬までもらっているからなんとも。
「どうして私にこれを?」と聞くと、どうやら魔法世界で私が武器防具種類かまわず捌いては点検前より調子が良くなったという噂を耳にしたとのことだ。
それでなぜか私を一番警戒していたらしいというガンドルフィーニ先生にも依頼された時は度肝を抜かされた。



―――閑話休題



「わかったわ、委員長。それで人員に関してなんだけど…」
「もう確保しておりますわ。料理班はシホさんも入れて超さん、古菲さん、五月さんのフルメンバーですわ」
「それは準備のいいことで…。それじゃ飾り付けのメンバーは私が選んでいい?」
「いいですわ。シホさんが選別するのですから不安はありません」
「では…、龍宮! 逃げようとしている春日を確保!」
「わかった」
「げっ!?」
「タマモと楓は鳴滝姉妹を確保!」
「はいです!」
「ニンニン♪」
「「わーッ!? シホ(さん)の意地悪ーッ!」」

即座に逃げようとしていた三名を瞬く間に確保した。普段トラップを仕掛ける手癖からの選別である。
そしてこの私から逃げようと思うのが間違いである。

「後は…そうだね。朝倉、お願いできる?」
「うぇ…わかったよぉ。エミヤンの頼みはあまり断れないからね」
「うん、これでよし。それじゃ委員長、この人員でやるけど構わないかな?」
「構いませんわ。それでは残りは買出しやその他の作業に当たらせます」

笑顔の委員長は颯爽と残りの人員にテキパキと指示を出していた。
委員長だけあってやっぱりカリスマ性あるなぁー…。
まぁとにかく、

「それじゃみんな、お願いね」

笑顔でそう言う。
なぜかタマモに「こういう時はシホ様の笑顔が一番効きますから。あ、別に他意はないですので~♪」という事だけど…。
やっぱりみんな顔が少し赤いなぁ…。
いつもより動きが早いし。


―――…シホは知らない。
普段のキリッとしている表情が、笑顔になるその瞬間をいざ見ようと2-Aに限らず見ようと奮闘している組織という名の集団が存在している事を。
朝倉は赤くなりながらも写真を撮っているところはさすがであるとしかいえない。
この写真が裏購買でかなりの取引をされていることに。
特に買う生徒はミドルネームが『D』とついている人物だったりするが、ここではまったく関係ない話なので割愛する。




◆◇―――――――――◇◆




かくして歓迎会は行われた。
最初のほうで普段大人しく、そして男性恐怖症のはずの宮崎がネギ先生に自ら出て行っている光景には驚いた。…後の委員長の銅像にも驚かされたが。
そしてネギ先生を中心に大賑わいの騒ぎをしている脇で、シホはタカミチと会話をしていた。

「シホ、君、どうだい? 初日のネギ君の一連の行動を見て」
「…そうだね。まぁ初日だからしょうがないといえばしょうがないけど…あの子、本当に“あの”ナギの息子…?」
「ハハハ…手厳しいね。でもまだこれからだから見守ってやってくれないかな?」
「それはもちろん。ところで話は変わるけど、タカ…高畑先生、涙を浮かべているけどどうしたの?」
「うん…久しぶりに姉さんの手料理が食べれたと思うと嬉しくてね」
「そう…」

シホの目には一瞬少年時代のタカミチの姿が映ったそうだ。
そしてまだあの時『赤き翼』のメンバーで大騒ぎをしていた事も思い出してシホも微笑を浮かべていた。

途中、ネギ先生がやってきてなにやら読唇術を数回タカミチにしている光景に不思議に思った。
それで普段自己封印している吸血鬼の耳を起動して澄ませて聞いてみると…なんと、アスナにすでに魔法がばれていることが判明した。
…本当に大丈夫かな?

その後、ネギ先生とアスナのキス?シーン騒ぎが起こったらしいが私たちはタマモとエヴァも加えて話を弾ませていたので関与していないが、こうして子供先生初日の仕事は終わりを告げた。


…そしてシホ達がネギと関わってくるのはまだ当分先のことである。


 
 

 
後書き
玉藻にオリジナルスキルが付いています。



……それと、実はこのSSにはプロトタイプというものがありまして、DEEN版アニメFate(2006年のアニメ)のその後を題材に、士郎と助かったイリヤが成長して、色々あってネギま世界に飛ぶというものもあるんです。
実際、これを書いたのは日付を見たら2008年でしたので、だいぶ私の書いてきたものでも古参に入る部類の物でして、学園祭でネギ達が超の企みで未来に飛ぶところまで描いて、力尽きたみたいで止まっています。


さすがに、これは文章が幼すぎるんで投稿するのは改訂でもしない限りは憚れるんですが、話的にはこちらが進んでいるんですよね。
カップリングは士郎×イリヤ・このか・刹那でした。 

 

007話 大浴場での出来事

 
前書き
更新します。 

 




翌日の朝、私とタマモはいつもどおり四時に起きて日課であるリハビリ運動を行っていると、


―――キャアァァァァァーーーーーっ!!


なにやら心臓が弱い人なら昇天しかねないほどの悲鳴が寮内に鳴り響いた。
…っていうか魔法処理してあるこの部屋にまで聞こえてくるなんてどんだけ…?

「なにかあったのかな…?」
「さぁ…なんでしょうか? 少し見てまいりますね」

タマモが外に出ていき、なにがあったのか聞きに行った。
そうそうないだろうが泥棒とかが侵入しているのではないだろうか? あるいは魔法関係…?
いささか不安に感じているとタマモが呆れた顔をして帰ってきた。
それで内容を聞いてみると、

「もう、聞いてくださいよぉ~。例のちびナギがアスナのベッドに潜り込んでいたとか…。理由は『お姉ちゃんと一緒に寝ていた』とか、どんだけシスコンかっつうの!」

タマモの毒舌は朝から絶好調である。
しかし、そうか。まだ姉離れできない歳で無意識にアスナのベッドに潜り込んで朝の悲鳴に繋がるわけね。お気の毒に…。
でも私たちはすぐにそれは忘れることにしていつも通りの作業に戻るのだった。




◆◇―――――――――◇◆




ネギ先生赴任二日目の英語の授業、事件は起こった。
最初はまじめにページを開いて英文を読んでいるところは先生然としたところだったが英訳のところで何の脈絡もなくアスナが指名されて、そこから頓挫し始めた。
アスナは必死に訳そうと頑張っているが、結局できずにいてネギ先生の悪意なしの一撃『アスナさんは英語が駄目なんですね』が炸裂。
私なら甘んじて我慢できるだろうが…自覚のない口撃はアスナに大ダメージを与え、そこから委員長が繋ぐように他の教科も駄目だという事が露呈されてしまい、思わずアスナはネギ先生に掴みかかったが、ふと先生がクシャミをした途端に突風が巻き起こりアスナの服は盛大に吹き飛ばされた。…なんでさ?

…うん、私だったらアスナの気持ちがわかるかも。
しかし膨大な魔力を有しているとはいえ、ただのクシャミだけで私の魔法の知識に該当するだろう『風花 武装解除』もどきを発動するのは、どうなのだろう?
アスナがあまりに惨めで見ていられない。



今日の授業が終了しエヴァ達と共にリハビリ施設に向かいながら話し合いをしていた。

「ねぇエヴァ。今日の授業でネギ先生が無意識に使ったのって『風花・武装解除』でしょ?」
「まぁ、そうなるだろうな。ナギ譲りの膨大な魔力を有しているとはいえ、それをまったく扱いきれていない。あっちでどんな事を学んできたのか本当に疑問に思うぞ?」
「ま、所詮魔法学校もあのお子チャマ先生には物足りなかったのでしょうね。もっとビシバシとしごいてからこっちに送って来いってものです」
「仕方がありません。魔法学校は最低限のマナーと魔法を教えることしかしませんから。そしてそこから修行して力をつけていくのが基本です。ですがネギ先生には繰り返すようですが物足りない内容だったのでしょう」

茶々丸の意見に全員は私も含めて頷く。

「魔力の暴走かぁ…。それじゃ魔法学校中退のナギは一体どんな事をしたらあんな強くなったのか疑問に思っちゃうかも…」
「奴は膨大な魔力を持っていたのにアンチョコ帳を使っていたからな。シホに会う前まで色々なところで強くなれるような魔道書を読み漁ったんだろう」
「まぁ確かに。私はナギと赤き翼で会う前は青山家で詠春と暮らしていたからなぁ…」
「なに? そうなのか?」
「うん。この世界に来たのが運良く詠春の実家の近くで記憶喪失ということを話すと、一時引き取ってくれたんだ。そこで詠春と一緒に神鳴流もある程度に習ったっけ…」
「むっ…神鳴流も使えるのか?」
「たいていの技、体術、符術、奥義は会得したと思うよ。結局二流止まりだけど」
「投影とその他の魔術にこっちの魔法、様々な武術、剣術、槍術、弓術、吸血鬼の力、いまだ私の理解の及ばない錬鉄魔法という独自の固有技法…そして神鳴流と。
やけに引き出しが多いな。それでよく使いどころが迷わないな?」
「よく言われたけど、結局私はどこまでも二流止まりだったから量は多いほうがいいし、なにより“使えるものはなんでも使え”が私の基本。
だから、どんなものだろうと私にとってはただの手段の一つでしかないから」
「なるほど…。では誇りとかはあまりないというところか?」
「そんな訳じゃないけど、そうでもしないと生き残れないという本能もあったから二流なりにいろいろと手を出していった感じかな」
「シホ様はとっても努力家ですから~♪」

タマモがニコニコ顔でそう言うので恥ずかしさを紛らわすために本題に戻ることにした。

「とにかく。今現在のネギ先生は魔力総量に関しては全盛期のエヴァ並みにはあるけど、それを扱う術がまだなっていないから制御しきれず無意識に暴走して、それがネギ先生の場合クシャミとなって武装解除現象を起こしていると…そういうことでオッケー?」
「その通りだ。だからお前等も気をつけておけ」
「それはお互い様でしょうに…。私に関しては仮の姿が解けてしまう可能性があるからいっそう気をつけなければいけません」
「ですね。アヤメさん」


そんな会話が繰り広げられている中、学園ではまたネギが惚れ薬で一騒動を起こしているが、ここのメンバーにはいたって関係ない話なのであった。




◆◇―――――――――◇◆




…さらに翌日。
タカミチとの立会いでシホは図書室までやってきて、そこの扉のあまりの壊れ具合に頭を悩ませていた。

「どうやったらここまで見事に壊すことができるの…?」
「さぁ…? それで、直りそうかい、姉さん?」
「どうだろう? 螺子もすべてひん曲がっているし螺子穴もボロボロ、蝶番も同じくあまりの破損で完全にお釈迦、扉自体もどうやったらここまでへこませたのか不思議に思うわ。
見た感じ足跡がくっきりと残っているから相当の蹴りを当てたみたいだけど、魔力の残滓は残っていないし純粋な蹴りでこれを吹っ飛ばしたわけで…」
「つまり…?」
「うん。結論から言うと業者さんに頼むしかないわね。私が修繕してもいいなら魔術行使してもいいけど…」
「いや、姉さんの手を煩わせることはしないよ。しかたがない…新田先生には業者に頼んでおくと伝えておくよ」
「お願いね」

私はタカミチと別れるとそのまま教室まで向かっていた。
その道中、アスナがこっそりと図書室の方を見ていたけどなにかあったのかな?

「アスナ、なにをしているの…?」
「あっ、シホ…えっと、高畑先生と何話していたの?」
「ん? 何者かに壊された扉に関してだけど。私が直せるかもと行ってみたけど、調べた結果、螺子や蝶番といった諸々のパーツがすべてお釈迦になっていて扉自体も歪んでいたから私じゃ無理だと判断して業者に頼むしかないって話にまとまったの…って、なんでそんなに暗い顔しているの?」
「な、なんでもないよー? うん…」
「…? そう、ならいいけど…」

シホの背後でアスナは手を合わせて「ごめんなさい!」のポーズを取っていたのにはシホは気づかなかった。




◆◇―――――――――◇◆




数日してやっとネギ先生が授業で落ち着いてやっていける程度になった頃、私とタマモはまたリハビリを続けていた。
それも今日は学生寮にある本格的なリハビリ施設で、だ。
今はリハビリ施設内の長い廊下(50mコース)を壁際にある支えで十週は歩く作業に励んでいる。
一見地味だが足が不自由なものにとってこの行為は結構地味に響いてくる。
吸血鬼の体だというのに関係なく。

「しかし、こうもリハビリが大変なものだとは、思っていなかったわね…っと!」
「頑張ってください、シホ様。今日のノルマ達成まであと二週です!」
「あと、二週…気を引き締めないとね」

と、そこに「ふふ…励んでいるな」という声がかかってきた。
声色からしてエヴァあたりか…?

「エヴァ?…どうしたの、わざわざ学生寮まで来て」
「なに、ちょっと我が家の風呂の調子が悪くてな。現在茶々丸とハカセの二人で急ピッチの作業で直しているところなんだ。だからわざわざこっちまで来てやったというところだ」
「葉加瀬さんに悪くない…?」
「それは大丈夫だ。すぐに終わるといっていたし、それに終わったら入っていっていいとも言ってあるからな」
「ならいいけど…」
「それより今はなにをしているんだ…?」
「今、シホ様はこの上級コースの50mを十週していまして、後二週でノルマをクリアです。このタマモ、シホ様が頑張っているお姿をただただ見届けることしかできず残念無念です~…」

タマモが演技でもしているかのように「およよー…」と項垂れている。
けど『タマモが応援しているから私も頑張れるんだよ?』ということを伝えると「えへへー」と笑みを浮かべて喜んでいるのでよし。

「タマモの三文芝居はこの際放っておくとして…しかし、吸血鬼の体だというのにやけに治りが悪いな。いや、いい方なのか…?」
「聞かないでよ? 体が不自由な吸血鬼にあったことはないんだから」
「うむ、私もだ。そう考えると治りはいい方だと考えてもいいのだな」
「そうだろうね。最近はやっと支え無しで何歩か歩けるようになったから…まったく自転車の練習でも無しに」

そうこう話しているうちにいつの間にか残りノルマを達成していたわけで今日はリハビリ終了となった。
そこにエヴァが「ちょうどいい。お前等も大浴場に入っていったらどうだ? ここからなら近いしな」という提案に、少しとある理由で引いたけど、タマモも楽しそうにしていることだしせっかくだから提案を受けることにした。







大浴場の更衣室に着くとすでに2-Aの半分以上のメンバーが服を脱ぎだしていた。
それでシホもタマモに“ある場所”を隠してもらいながら服を脱いでいった。
シホにとってあまり見られたくない場所があるからだ。

「…ん? どうしたシホ?」
「あ…エヴァ。うん、ちょっと見られたくないところがあってね」
「なにやら背中を隠しているようだが、なにかあるのか?」
「これはたとえエヴァンジェリンでも見せることはできませんよ?」
「なにやら訳ありみたいだな…。わかった。今は見ないでおいてやろう」
「ありがとう…」

エヴァはなにかを察したのかすぐにいつも通りに接してくれたためにシホ達は心遣いに感謝した。
それですぐにシホはタオルを体に巻きタマモに所謂お姫様抱っこをされながら大浴場に入っていった。
そこでなにやら騒動が起こっていることに気づいたシホ達は何事かと尋ねると、綾瀬夕映が答えてくれた。
曰く、胸の大きい人がネギ先生をもらえる=部屋に連れて行けるとのこと。

「なにそれ…」
「まぁ、いつものお祭り騒ぎだと思えばいいです」
「納得したわ」
「それよりシホの裸は始めてみるが…ムムムッ! やはり私よりかなり大きいネ!」
「それに肌もきれいだね。全体的には円と同じくらいかな?」
「ちょ、美砂!?」
「そうだにぇー。これは身体測定が楽しみだね」
「桜子まで…ごめんね、シホさん」
「別にいいけど…」

その後に水着姿のアスナがネギを押し倒したりと突然胸が(シホから見たら水着の部分だが…)膨らんで破裂するなどと騒動があったりしたが、シホとタマモは普通に体を洗っていたのだけれど、

「うがぁーーーーっ!! このネギ坊主!!」
「ごめんなさーーーい!!って、うわ!?」
「わっ!?」
「シホ様!?」

アスナに追いかけられるネギが運悪く石鹸で滑ってシホ達の場所に突っ込んでしまった。
しかもちょうどシホの背中の上に馬乗りの形になってしまいネギは慌てて下りようとしたが、

「え、エミヤさん…こ、これは…!?」
「え…? あっ!?」
『!?』

全員は目撃してしまった。
シホの背中の肩甲骨辺りにある左右二箇所のとても普通の事故、いや大惨事でも中々つかないであろう、そうまるでなにかの機材で何度も背中を抉り削られたような深い、深い傷跡。


―――瞬間、シホの脳裏にまたも嫌な光景が蘇る。
いくつもの削る道具を持ちシホの背中に“あるもの”を埋め込む、或いは移植しようとしている惨状を…!


「あぁあ…っ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い…ッ!!」
「ッ!? いけないです、誰かすぐに私の荷物のところから小瓶の薬を持ってきて! 早く!!」
「は、はいな!!」

体を盛大に震わせ涙を流し体を抱きしめて“痛い”を連呼して苦しむシホの姿を見て、薬を取りに行った和泉亜子以外全員言葉を失った。
ここに編入してきてみんなが気を遣ってか一度も症状が出ていなかったから、朝倉の話を聞いていた一同はまさかここまでのものとは露も知らず呆然と眺めることしかできないでいた。
そして和泉亜子が薬を必死にシホを宥めているタマモに渡すとシホに躊躇なく口移しで薬を飲ませた。
普通なら黄色い声も上がるものだが今ばかりはそんな考えも浮かばない。
全員はシホの深い抉り傷と症状に目を見開いていたから。
しばらくして薬が効いたのかシホはその場で眠りについた…。

「お先に失礼します…お騒がせしてしまってすみませんでした。シホ様の代わりに謝ります」

低い声でタマモはシホの背中を皆に見せないように足早に浴場から出て行った。
当然エヴァもすぐに後を追ったのは言うまでもない。
残された一同はどうしていいか分からず立ち尽くすしかできないでいた。




◆◇―――――――――◇◆




すぐに自分たちの寮室にシホを運んだタマモはシホの着替えとフラッシュバックによる熱の発症を感じ、氷枕やその他の道具を用意していた。
一方エヴァは高畑をすぐに呼びつけて、さらに厄介なことにならないように部屋の前に大きく【面会謝絶】という張り紙を張って他の生徒の入室を禁止した。


高畑がシホ達の部屋の前に来た時にはやはりというか面会謝絶の張り紙で立ち往生しているネギと生徒達がとても心配そうに部屋の扉を眺めていた。
それで高畑は気まずい雰囲気の中、部屋に入ろうとして、

「あ、あの…タカミチ…」
「すまないネギ君。今は話に付き合っていられるときじゃない。後で経過を報告するから今は我慢してくれ。それに君達もシホ君が心配だろうが同じくおとなしく部屋に戻りなさい」
『………はい』

バタンッ、と扉が閉められ全員は名残惜しそうに一人、また一人と少しずつ部屋へと戻っていった。

帰りの道中、ネギはアスナと木乃香に、

「あの、アスナさんにこのかさん。エミヤさんは一体なにがあったんですか…?」
「…シホのこと? わからない。「わからないって…」私達もなにも聞いていないのよ。あんたが来る少し前の三学期初めにシホは転校してきたんだけど、編入前に朝倉が過去のことについて聞いたらさっきほどじゃないけど苦しむ仕草をしたらしいから」
「だからな、ネギ君。シホの事はみんな気を使って今までずっと過去については聞かんようにしとったんよ…」
「だからあんたもシホの事は触れないようにね。特に今日のあの酷い傷跡に関しては絶対…」
「はい…。それと明日必ずエミヤさんには謝っておきます」
「そうしときなさい」
「そやな」



だが次の日には、シホとタマモは二人そろって休んでしまい、エヴァも授業を即効ボイコットして気まずい雰囲気が教室を包んでいたそうだ。
特に同じく背中に傷跡がある和泉亜子は深く共感してしまい、昨夜は自分のことも一緒に思い出して同室の佐々木まき絵に慰められていたらしいとのこと。

だけど午後になってタマモだけ登校してきてようやく容態も安定してきたという報告に一同は胸を撫で下ろした。

「それと、出る前にシホ様から伝言を受けました。
『変なものを見せちゃってごめんなさい。そして不快な思いもさせてごめんなさい。明日にはちゃんと登校するから…だから気にしないでとは言わないけど無理な思いだけはしないでね』
…とのことです。だから皆さんもあまり気負いせずまたいつも通りシホ様に接してくださると私はもちろん嬉しいですしシホ様もきっと喜ばれます」

タマモの言葉が皆にしっかりと通ったのかほとんどの者がシホの安否に安堵し、その心遣いに深く感銘した。
その日の終わりにみんなが総出ではないがシホ達の部屋に訪れた。
特に鳴滝姉妹はシホに泣きついてしまい、和泉亜子には「なにかあったら相談して…」と涙ながらに迫られた。
後から来た居残り授業組みも来て大騒ぎになりネギには深く謝られ、シホはかなり参ってしまったとここに追記する。


 

 

008話 ドッジボール騒動

 
前書き
更新します。 

 


ある日の昼下がり、学園の中庭では明石裕奈、和泉亜子、大河内アキラ、佐々木まき絵の運動部の四人がソフトバレーをしながら遊んでいた。

「ねぇねぇ、ネギ君やシホさん達が来てから少し経ったけど、みんなどう思ってる…?」
「ん…………いいんじゃないかな?」
「そうだね~、ネギ君は教育実習生として頑張ってるしね? それにエミヤンもかなりきついはずなのにリハビリも頑張っているしアヤメさんも、まぁなんというかエミヤンに対して度が過ぎているほど尽くしているけど、あれじゃしかたがないよね…それによく鳴滝姉妹とじゃれているからほのぼのしているし」
「それにシホさんの料理の腕は凄いしウチ料理を学びたいわ」
「あ、たしかにネギ君の歓迎会で出された料理はうまかったもんね。後で聞いた話なんだけどあんなに豪勢だったのに、カロリー計算もしっかりしてあったらしいね。朝倉の撮影したものを見せてもらったけどいまだにどこに手を加えたかわからないしね」
「うそ! あれで!?」
「そうみたい……」
「興味あるね……あ、それより話は戻ってネギ先生は子供やし、うちら来年受験だけど大丈夫かな?」
「そこはほら、ここは大学までエスカレーター式だから大丈夫じゃない?」
「でもやっぱり10歳だし高畑先生とは違って相談しにくいよね」
「逆に相談に乗ってあげちゃおうか?」
「経験豊富なお姉サマとしてー? あ!?」


そこでまき絵は変なほうにボールを飛ばしてしまい、拾いにいったらそこには何名かの制服が違う生徒が立っていた。


「あ、あなたたちは!?」




◆◇―――――――――◇◆




一方、シホは職員室の別室で意外というか魔法の関係者の一人である葛葉刀子となにやらお話をしていた。

「やはり、長殿と同期で、しかもかなりお若くして神鳴流を卒業したという剣士というのはエミヤさん、あなただったのですね…」
「まぁ、はい。結局二流で卒業してすぐに詠春達と魔法世界にいってしまいましたからそんなに神鳴流での戦歴はないですよ? それに魔を退治するのが神鳴流なのに使い手が魔に落ちてしまったからもう堂々と名乗れませんしね」
「なにをいうのです。魔法世界でのあなたの活躍は存分に聞いております。私にとっては長殿の活躍と同時に女性であるエミヤさんの神鳴流を使う活躍話は小さいながらに私の憧れでしたのです。
それに自ら魔に落ちてそうなった訳では…えぐ、ふぐっ…エミヤさん、お労しいです」
「あぁ~…刀子先生泣かないでください。私は気にしていませんから」
「それはありえません! ある言伝から聞きましたが先日の大浴場での事件は耳に入れております。ですから無理せずに苦しかったらすぐにいってください!」
「は、はい…」
「それと足がある程度完治しましたら一度手合いをお願いします。私もまだまだ未熟者ですから…」
「そんなこと…刀子先生のほうが神鳴流としての戦歴は長いのですから私なんか…」
「いえいえ、ですが…」

問答が繰り返されようとしていたとき、隣の職員室からなにやら騒ぎが起きていて、ついでネギが職員室を出て行ったらしく二人はその騒ぎで一度クールダウンした。

「………」
「………」
「とにかくなにやら騒がしくなったのでそろそろ出ますね。次は体育ですし、…見学ですけど。それと相談に乗ってくれてありがとうございます」
「いいえ、いつでも乗ってください。先輩の頼みなら…「先輩は恥ずかしいからよしてね?」…はい。それでは相談の件、長にしかと伝えておきます」
「ありがとうございます」

笑顔を浮かべながらシホは葉加瀬特注、全自動車椅子のレバーを操作し動かして部屋から出て行った。
その際、刀子もシホの笑顔に見惚れたのは言うまでもない。
しばらくして部屋の中から、「あんな素晴らしいお方がどうして…ッ!!」という刀子の泣き嘆き悲しむ言葉が響いていたそうで瀬流彦や伊集院が慌てて慰めに行ったそうな。




教室に到着したシホは先ほどの騒ぎはなんだったのか聞くと、どうやらまた高等部の生徒と場所の取り合いになったというらしい。

「なんとまぁ…大人気ないね」
「そうだよねー!」
「ほんとむかつくよね! 少し歳が上だからっていい気に乗って!」
「「はうっ!?」」

シホとタマモは外見年齢と中身の年齢がかなり違うので耐性がないために胸を一緒に押さえていた。
エヴァはもう年齢とかという概念は一切気にしていないので気にしていないが。
そんな二人の様子に不思議がっていた一同だが屋上にあがった時にそれは違う感情に書き換えられた。
屋上のコートには高等部の制服を着た数名が占拠していたからだ。
…なぜかネギまでいて捕まっている。アスナに指摘されて弱弱しい声を上げているのはもはや定番だろう。

「なにあれ…?」
「さぁ、なんでしょうか…?」
「ああ、二人は知らなかったよね。あいつらが今さっきまで噂していた高等部の連中だよ」
「あー…噂の上から目線の馬鹿な年増女達ですか。噂で聞いていましたが授業妨害まで普通にするなんて度が知れていますね~」
「うわぁ…アヤメさん、相変わらずの毒舌だね」
「ま、あんまり間違っていないのは確かだけど」

アスナたちが前方で言い争っている中、後方で普通に会話をしていたシホ達だがタマモの言葉が聞こえたのか突っかかってきた。

「ちょっと、そこのあなた。目上に対しての態度がなっていないんじゃなくて?」
「でしたらまず貴方達の行動を客観的に見つめなおす必要がありますね? なんですか、授業妨害甚だしい行為。先ほどアスナさんも言っていましたように先輩方の校舎は隣でしょうに…。
…はぁ、授業の場所も間違えるなんてもうボケが始まっているんですか…?」

タマモの煽る発言に高等部の連中は額に青筋を作り、先ほどまで言いくるめられていた2-Aの面々は「いいぞ、もっとやれ」と応援を始めていた。
シホは「いいのかなぁ…」とエヴァに相談していたが関わりたくないらしく「私に振るな」といってそっぽを向けられていた。
だが高等部の連中はタマモの怒る発言№1を言ってしまった。
しかも連動式発火装置つきで。

「でしたらそこの赤髪の子はなんなの? 車椅子なんて使っていて授業出る気ゼロではないですか?」
「………なぜそこでシホ様の事に触れるんでしょうかねぇ…? 年上だからと、いい気に乗って足に障害があるシホ様を侮辱するなどまさに愚の骨頂…いっぺん、死んでみますか?」
『……………』

タマモを筆頭に2-Aの半数以上はまさに「ゴゴゴゴッ!」と効果音が鳴るのではないかというくらいに表情に怒りを浮かべていた。
タマモは怒りを通り越してもはや冷笑を浮かべているから尚の事怖い。
それに高等部の連中は後ずさりながらも反撃を繰り返して、いよいよ喧嘩が勃発するのではないかという空気でネギが必死にみんなを止めて、スポーツで勝負して勝敗を決めることになった。




私はコート脇で見学組みと一緒に見学することになったがタマモは先ほどの怒りがまだ抜けていないのか嬉々としてコートに入っていった。

「ふぅ…でもネギ先生が止めてくれてよかった。あのままじゃタマモ、高確率で呪いでも本気で掛けるかもしれなかったから」
「お前限定であいつは沸点が異常なまでに低いからな。まぁそういう展開になったら私としては面白いが」
「別に面白くないでしょうに…」

そうこう会話をしている間に2-Aの生徒は次々とアウトされていく。
やっぱりあぁも密集していると狙いが着けられやすいし移動の混雑も発生してしまうからなぁ。委員長に伝えておけばよかったな。
これは、ネギ先生はおさらばか?
と、見ていると一人の高等部のリーダーらしき生徒が太陽を背にしてアスナを狙っている。
それにアスナは当然目を塞ぐが、

「タマモがあそこにいるんだから太陽の光如きで防げるわけでもないわね」

案の定、アスナに当たる予定だったボールは軽くタマモにキャッチされた。

「あ、ありがと、アヤメさん」
「いいですよぉ…。それよりここから反撃と致しましょうか」




―――ここで少し昔の話をしよう。
タマモは召喚された当時、体術はキャスターのクラスもあり接近戦は得意ではなかった。
そして英霊は一度死んだらそこで成長は止まってしまいサーヴァントになってももう成長は望めない。
なら、どうしたか?
成長はしないが経験を積めばいい。幸い生前で幸か不幸かどうかは分からないが、かなりの経験を積んでいるし呪術で身体強化も施せば十分やっていける。
そして赤き翼で途中退場したもののシホとともに世界相手に相手をしてきたのだ。
強くならざるを得ないのは必然だった。
それで接近主体のガトウなどに体術を仕込まれたものだ。
最後に現在吸血鬼化して魔力が大幅に水増ししたシホから送られてくる魔力はかなりのものであり、聖杯のバックアップがない以上現界分も消費されるが、それを差し引いて見ても、三騎士には遅れをとるもののライダーやアサシンのクラスには引けを取らない実力をものにしたのだった。


話は戻りボールを受け取ったタマモは身体強化を施しているわけでもないにせよリーダー格をしとめることに成功した。
そこからはもうその場限定でアスナとタマモのタッグを中心にネギも皆を勇気付けて前向きにさせ、全員が反撃を開始し時間は終了し圧倒的な点数で2-Aの勝利となった。
勝利ということでネギ先生が胴上げされている中、ロスタイムとかほざいてボールを当てようとしているリーダーの子にさすがにシホは怒り、

「龍宮、ボール」
「わかった」

即座に龍宮からボールを受け取ったシホは上半身の力だけで吸血鬼の力もこめてボールを放ち、リーダーの子が放ったボールを一緒にふっ飛ばし金網にめり込ませた。

「なっ…!」

唖然としている先輩のところにシホは車椅子を押して向かい、

「先輩方、あなた達は一度言った約束もろくに守れないほど頭は悪くはないでしょ? それでしたらこんな悪あがきで卑怯なことをせずに、素直に負けを認めて引き下がるのが目上の者としての示しではないですか? そうでしょう?」
『は、はひ…』

冷笑と綺麗な笑顔の二重の笑みで高等部の連中は全員青い顔をしてその場から立ち去った。
そこにエヴァが後ろから声をかけてきて、

「ふっ、なかなか威厳が出ていたではないか。それを常時保てればこれからやっていけるだろうよ?」
「ふぅ…そうかな? ま、これでもううるさい事はないでしょうね。こちらとしても静かなほうが落ち着くし」
「まったくだな」

こうして高等部とのドッヂボール騒動はシホの行動にも気づかないで騒いでいるネギ達をシホ達は傍目にしながら幕を下ろしたのであった。


 

 

009話 図書館島…表に出なかった違った光景

 
前書き
更新します。 

 




期末テストが近い今日この頃、ネギ・スプリングフィールドはとある出来事で焦りを感じていた。


…少し時間を遡り、
教室へと向かうその手には『最終課題』と書かれた封筒が握られている。
その中身の内容とは『次の期末試験で、2-Aが最下位脱出できたら正式な先生にしてあげるよん?』といった最後の語尾に、見る人が見たら破り捨ててしまうかもしれないそんな内容が書かれていたが、今のネギにとってそれは些細なことでしかない。
自身の正式な教師としての道が、通じて“立派な魔法使い(マギステル・マギ)”への道がまた近くなることを意味する。
俄然やる気が出るというものだ。

(よーし、がんばるぞー!)

やる気も十分に教室に入りネギは少し口調を強くして、

「今日のHRは大・勉強会をしたいと思います!」

それから「最下位になると大変なことになるので」と自身の事も内容に隠れ入れながらも「猛勉強していきましょう!」と区切りをつけた。
当然委員長は素晴らしい提案だと拍手をしているのは言うまでもない。

(うーん…これってタカミチが言っていた最終課題に関係してくるのかな?)
(おそらくは…。あのお子チャマの焦りようからして間違いないでしょう)

シホ達は冷静にネギの行動とタカミチの言葉で状況を分析していた。
だがその意気込みはすぐに頓挫することになる。
椎名桜子の発言によって、

「はーい、提案提案!」
「はい! 桜子さん」
「では!! お題は『英単語野球拳』がいーと思いまーーーすっ!!」

ズベッ!とアホらしい提案に思わずシホは机から落ちそうになった。
前の席の長谷川千雨も「ガンッ」と顔を机に叩きつけた。
しかし、それだけで終わらずネギはそれを承諾し一人ぶつぶつと考え出してしまった。
それにごく一部を除いてノリノリであるから尚性質が悪い。
あれよあれよとバカレンジャーが中心に服を脱がされていく様はこの時期にしては能天気過ぎるとしかいえない。

「あ、頭が痛い…」
「あはは…」
「長谷川さん、大丈夫…?」
「今は、話しかけないでください…理性が吹っ飛びそうなので…」
「その気持ちはわかるよ」
「………理解者がいて、よかった」

ほろりと、一筋の光が見えたのは見間違いではないだろう、とシホは思った。
そこに空気を読まず問題を出されるが無難に回答しておいた。
それで二人同時にため息をつく。

「………」
「………」
「気が合いますね」
「まぁ、まだこの空気に慣れていないというのもあるけどね」
「慣れない方が幸せだと思いますよ、きっと…」
「そうだね…」

なにやら少しだけ長谷川千雨の中でシホに対する高感度がアップした瞬間だった。
そしてやっと事態に気づいたネギがとても間抜けな表情をしている。
それを見て、

「ようやく気づいたね」
「そうですね、まったく…」

さらにため息をつかざるを得なかった。
それから流れ解散になりシホ達は帰り道に運動組みグループに呼び止められた。

「おーい、エミヤンにアヤメさーん!」
「ん? 裕奈ですか?  どうしたのですか?」
「それにアキラさんに亜子さんにまき絵さんまで…」
「ぅもうっ、エミヤン。“さん”付けはいいって言ってるじゃん? OK?」
「そうだよ!」

裕奈とまき絵に推されて、シホは「ぜ、善処します…」と答えておいた。

「それでどうしたの?」
「うん、それなんやけど今日ウチ等と勉強会せぇへん…?」
「…迷惑じゃなければ、だけど」
「んー…タマモ、いいかな?」
「シホ様がよろしければ私も大丈夫ですよ♪」
「うん。わかった、それじゃ一緒に勉強しようか」
「ヤタッ! それじゃエミヤン、今日の料理だけど「はいはい、大丈夫。作るから安心して」…やりぃ♪」
「…手伝うよ?」
「ウチも」
「それじゃ私達の部屋に来てやろうか。リハビリも兼ねて部屋は広めのところだから」

全員が承諾したところで一度部屋に戻って今夜は夜更かしも考慮して太りにくい軽食も検討していたりするシホとタマモだった。




◆◇―――――――――◇◆




時間もいい頃になり、シホ達の部屋にまき絵を除いた三名が入ってきた。

「おいーっす、エミヤン!」
「お邪魔するで」
「こんばんは…」
「いらっしゃい。…あれ、まき絵ッ…、はどうしたの? いないようだけど…」
「あ! いま、さん付けをなんとか言わずになったんだね。成長成長♪ それとまき絵だけどなんかどっか行っちゃった」
「どっか行っちゃった、ね…せっかく脳に効くデザートも用意したのにこれはお預けかな」
「そうやね。でも本当にどこにいったんやろな…?」
「鳴滝姉妹に聞いたら楓さんや古菲もどっかいったらしいよ」
「………私は神楽坂さんや近衛さん、それに図書館組の面々がなにやら重い荷物を持って階段を下りていくのを見たよ」
「見事にバカレンジャーが揃いましたねぇ…。これはなにやら怪しい雰囲気かもとタマモは推察します。こう、ビビッと!」
『………』

タマモの発言と不思議なジェスチャーに一同は顔を見合わせ、「まさかね…」といった顔をしていたが、まぁそのうち帰ってくるでしょうと話を打ち切り、勉強会を開始するのだった。
だが結局その晩アスナ達は帰ってこなかった。






―――翌日、


教室に着くとなにやら変な意味のほうで賑やかなのに気づいた。
内容的に、

「何ですって!? 2-Aが最下位脱出しないとネギ先生がクビに~~~!? ど、どーしてそんな大事なこと言わなかったんですの、桜子さん!!」
「あぶぶっ! だって先生に口止めされてたから…ッ!!」

その言い合いにシホとタマモは「やはりか…」と妙に落ち着いた表情をしていた。
これはすでに予想していたからだろう。言い合いには参加はしないように静かに席についた。
みなが一様にその話題を持ち上げて不安そうな顔をしている中、委員長がどうにかして最下位脱出を目指し、普段まじめにテストを受けていないであろう面々を見ながら発破をかけていた。

「問題はアスナさん達五人組(バカレンジャー)ですわね。とりあえずテストに出ていただいて、0点さえ取らなければ…………」

一番の不安要素であるアスナ達五人の事をぶつぶつとつぶやく姿はまさしく不安一色。
委員長もネギに好意(ショタコンという意味で)を抱いているのでシホ達は生暖かい目をして見届けていた。

(しかし、昨日からアスナを始めバカレンジャーに図書館組み、ネギ先生がいまだ教室にやってきていないのはどうしてだろうか?)

そんな事をシホが考えているとなにやら廊下をすごい勢いで走ってくるような音が聞こえて「ガラッ、バァンッ!」といった扉に申し訳ないような効果音とともに早乙女ハルナと宮崎のどかが教室に飛び込んできて、

「みんなー大変だよーー!! ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に…………!!」

その絶望的な知らせに、教室に存在する2-Aの面々のほとんどの思考は統一する。



――――やっぱり、ダメかも……!?



…と。




◆◇―――――――――◇◆




結局、朝のHRはしずな先生がやることになり、尋も…もといお話はその次の自習時間に行われることになった。
それで自習時間、事情を知っているであろう早乙女と宮崎に事情を聞こうとしたが、委員長の目が血走り寸前だったのが怖かったのでなぜか私が相談に乗ることになった。
なぜ私…?…なのかと聞いたら遊びもなくいい加減にも聞かないで真髄に相談に乗ってくれるから、だそうだけど…。

「そんなに私、相談に乗っていたかな?」

そう聞くと、
委員長は「私の大切なものを何度も直してもらいました」。
早乙女や宮崎は「原稿手伝ってくれてるじゃん?」。
まき絵を抜いた運動部の三人組みは「いつも勉強見てくれるから、料理もうまいし。(裕奈いわく、ここが重要)」。
鳴滝姉妹は「いつでもじゃないけどお遊びに付き合ってくれるから」。
那波さんは「保育園で何度か子供の相手の手伝いをしてもらいました」。
釘宮は「美砂や桜子のストッパーを一緒にしてくれるし、…なんか親近感が沸くから」。
超さんや五月さんは「料理の腕試しができて私達の気づかないところも指摘してくれるからいい勉強になるネ」。
…口には出さないが龍宮も「よく銃の点検をしてもらっているからな」と後に聞いた。

エヴァが遠くで「そんなに手を出していたのか?…このお人好しめ」と呟き、タマモが「そこがシホ様のいいところですから♪」と返している。
他にもいくつかあげられて、いい加減恥ずかしくなり、

「わかった! 分かったからもう私をいじめないで…」

大きな声で承諾の返事をする。顔が赤くなっていなければいいが。
…だが時すでに遅し。朝倉が私の恥ずかしがっている写真を何枚も収めていたのは一生の不覚だった。
微妙な敗北感を味わいながらも、気持ちを入れ替えて宮崎達にどうしてこうなったか聞いてみる。

内容的には噂がどこで拗れたのか、“次の期末考査で最下位を取ったクラスは解散される。特に成績の悪い生徒は留年、あるいは小学生へ降格する。”…という普通、というか常識的に考えてもありえない事を彼女等は疑いもなく信じてしまいとても焦りを感じてしまったそうだ。

この時点で私はすでにもう呆れ顔になっているのは許してほしい。
ほかの一同も同じようなものだし。

―――そしてここでバカレンジャーの一人、バカブラックの綾瀬夕映が図書館島に眠る都市伝説を話し出した。
…曰く、読むだけで頭が良くなるという魔法の本があるという。
眉唾物の話だが彼女等にとってはすでに死活問題となっていて、普段なら失笑して流すだろうアスナが乗り気で「行こう! 図書館島へ!!」と目を光らせ何も知らないネギ先生を連れて図書館島の地下に潜っていったという。
そしてついに『本を見つけた!』という報告があった後、なにやら動く石像、ツイスターゲーム、最後に『アスナのおさるー!』という叫び声とともにまるで地面が崩れる音がしてそこで通信は完全に途絶えたという。

「…結論から先に言おうか。意味がわからない」
「だよねー。私達もはっきりいって状況についていけないまま通信が切れたから…」
「でもでも…それで皆さんが行方不明になったのは確かなんですぅ…」

意味不明な単語のオンパレードで教室中の一同は眉間に皺を寄せて唸っている。
その後、よく職員室に赴く私とタマモに白羽の矢が立てられ代表して学園長室に足を運ぶことになった。

…で、着いたはいいがこの狸爺さん。本気で取り組む気があるのか?
意味不明な点は学園長の説明ですべて補完したが、どうにも目の前の仙人を殴りたい衝動が襲う。
それをなんとか耐えて、

「…で、地下に落としてなにを企んでいるんですか…?」
「まぁ想定外じゃったんじゃよ。まさか本の間までたどり着くとは思っていなかったのでのう…」
「だからといって地下に落とすのはどうかと思いますよ! この狸じじぃ!!」
「さらに言わせてもらうと魔法に関する隠匿はまったくなしていないと思うのだけど、どうでしょうか…?」

爪を硬質化させて睨みを効かせると少し険しい表情になり、

「そう怒らんでくれい。当日には間に合わせるように脱出させる算段は出来ておるのでのぅ…」
「そうですか…。まぁそれなら構いませんが非難の対処は手伝いませんからね?」
「自業自得ということです!」
「むぅ…少しはダメ、かの…?」
「「無理です」」

二人で即答してその場は学園長が沈む形でお開きになった。
とにかく2-Aの面々には捜索隊が結成されたので問題ないとだけ報告した。
それで安心したのか一同はすぐにテストへ向けて勉強を開始した。
気持ちの切り替えが早くて助かるね。

だがそれはやや行き過ぎだったと記載する。
本気を出した委員長が土日含めて教室を貸し切り、全員をまさに缶詰状態にして超、葉加瀬、委員長を中心に予想される問題用紙を何十枚も準備して料理もふんだんに盛り込み逃げ場のない監獄を作り上げ猛勉強をする羽目になった。
私とタマモは比較的疲労は少なかったが、ほかの面々は生きる屍と化し、特にエヴァは嫌々やっていてどうやって抜け出すか何度も思考を深めていた。
さらにやっと教室から開放されたと思った途端、プリントが何十枚も出されて根を上げるものが後を絶たなかった。



そして試験当日、やっと遅れてきてだがアスナ達は戻ってきて試験を受けることは出来て、遅れた者の採点を行った学園長がうっかりミスをして2-Aの合計平均値を下げる事態があったがなんとか一位になれて、見事学年最下位から脱出することに成功しネギ先生はここに残れることになった(最終課題に報えたのかは疑問視だが)。
…―――ふとした事だが、今回のテストの一番の貢献者はネギ先生ではなく奮起した委員長ではないか?…という疑問を持ったが、ここは言わぬが華というものである。


 

 

010話 シホ復活、そして師弟関係

 
前書き
更新します。 

 


色々と騒がしかった学期末テストも終わり、終業式の終わりにネギ先生が正式に新学期から2-A改め3-Aの教師として赴任することが決定して、やはりというべきかドンチャン騒ぎが起こった。
生徒たちの様々な発言に頭を悩ませることもあったが、まぁこのクラスのノリは毎度のことか。心の中でそう結論付けてうまく流していたが、耐えられなかったのか長谷川さんが途中でいなくなりネギ先生も後を追っていった。
場所は移り、パーティー会場でなぜかバニーの格好をした長谷川さん?…を見て思考が少し止まるが事態はネギ先生のクシャミにより起こった暴走・武装解除によって服が剥かれたところで復帰する。
クラスの連中に色物扱いされて羞恥の限界だろうところまで行っていたので私は隠すようにして予備のように見せかけて服を投影する。
そしてそれを長谷川さんに渡すとどういうわけか涙を流された。

「エミヤン優しい!」
「さすが事態を収拾するのには慣れているね!」
「ありがとうエミヤ。本当にありがとう…」

みんなから「さすが!」と騒がれ、長谷川さんからは何度もお礼を言われた。
まぁそこまで言われるならした甲斐はあったというものだ。

そしてようやくゆっくりできると思ったがそうは行かず私はその晩もリハビリに専念していた。
そしてとうとう部屋の中だけでだが普通に歩くことができるようになった。
それには今まで一緒にリハビリを手伝ってくれていたタマモも感激の涙を流したほどだ。

「シホ様~~~~、よかったです…。ほんとーによかったですぅ!」
「もう、そんなに泣かないで、タマモ。…それじゃ少ししたらエヴァのところに向かおうか」
「はいです♪」

それでエヴァに電話で報告をすると、

『なに!? ついに足が治ったのか! これはいい。終業式を済ませれば短いが休みだからな、ちょうどいいだろう。ふふふっ…』

気分がいいのかエヴァは準備があるといい早々に電話での通話は終了した。
置いてかれ感がしなくもないがここは気持ちを切り替えて、

「それじゃ少しでかけようか。今はもう夜だから出歩く生徒は少ないだろうし」
「お供します」

そして久しぶりに自分の力で地面を歩く嬉しい思いを噛み締めながらいざ外に出た途端、



―――カコーンッ、カラカラ…



「「あ…」」
『……………』

そこには風呂上りなのか委員長に那波さん、村上さんが桶を落として私の立っている姿に体をワナワナと震わせていた。
やばいっ…と、思ったが最後。委員長と那波さんには盛大に泣き抱きつかれて村上さんが他の部屋に報告をしにいっているではないか!
本格的にやばい。
…もう、諦めるしかないなぁ。いずれは公開する事だし時期が早まったと思えばいい。

「そうですよ、シホ様。前向きが肝心です」
「そうねぇ…」

いまだに二人に抱きつかれて困っている私はタマモの意見に同意した。
そして村上さんが報告を完了したのだろう、ほとんどの2-Aのクラスメート達が寮室から出てきては「足、治ったんだね。よかったぁ…」や「これは宴会だぁ!」と騒ぎを大きくするものも数名。長谷川さんも陰ながらいたのには少し驚いた。
気づけば夜も遅いというのに食堂を解放して小さいパーティーが行われていて、

「みんな、昼間のこともあったのに元気だね…」
「そりゃそうよ。シホの足が治ったのは誰だって嬉しいものだもん」

アスナが話しかけてきて、「そんなものかな?」と適当に返しておく。
ネギ先生もやってきて、

「おめでとうございます、エミヤさん。足、治ってよかったです!」

と、数日前まで最終課題に焦っていた顔など見せず心の底から喜んでいるようだ。

「ありがとうございます。先生も正式に先生になれてよかったですね。遅ればせながらおめでとうございます」
「ありがとうございます!」

笑顔で答えてくれて今更ながらに本当にこの子はマジでナギの息子かと再度疑ってしまった。
そしてすぐにほかの生徒に呼ばれて先生は歩いていってしまった。
かくいう私も主賓ともあって色々呼ばれたが。

「でもこれでようやく多分落ちただろう腕を回復できるね」
「そうですね。少しでも実力を取り戻しましょうね、シホ様」
「ええ」




◆◇―――――――――◇◆




翌日、私はエヴァの家にリハビリも兼ねて車椅子ではなく歩きで向かっている。
道中やっぱり私の朱銀の髪は目立つのか何度もほかのクラスの生徒や先輩、後輩などに「よかった」などと言われてほとほと疲れる羽目になった。

「これならまだ車椅子で向かったほうが平和だったかも」
「ですねぇ…」

とにかく私達はそうこうしながらエヴァ邸に到着した。
そこには仁王立ちして両手を腰に回して立っているエヴァとメイド服の茶々丸さんの二人が立っていた。
気づくと茶々丸の頭の上にチャチャゼロが乗っかっている。

「よくきたな。まずは完治してよかったなと言っておこうか」
「おめでとうございます、エミヤさん」
「ケケケ、楽シメソウダナ」
「おかげさまで。まぁ別荘使えばすぐだっただろうけど自然に見せかけるにはこれしかないからかなり時間かかったけどね」
「いい、いい。もう治ってしまえば後はどうしようとこっちの勝手だからな。さて、長話もなんだからな、行くか」

エヴァに連れられて地下室に着くとそこには一台のボトルシップが部屋の中心に設置されていた。
他にもあるようだけど聞くとまだ起動していなくて準備中だとの事だ。
なんせ長年ほっとかれていたらしく、尚且ついくつもあり中身も広いから掃除が大変で、現在も茶々丸の姉妹達が総出で掃除をしているそうだとか。
それはとにかく私達は一番小さい起動しているボトルの前に近づくと魔方陣が光りだし瞬時に場面が入れ替わった。
そこは別荘としてはかなりのもので常に夏のような天気らしく暖かい。
広間らしき場所に着くとエヴァが声を出して、

「さて、では早速だが開始するか」
「といってもまずは現在どれくらい力があるかだけどね。まずはそれを確かめなくちゃね。
吸血鬼になって体力、耐久力、筋力、持久力、俊敏力、魔力、その他が色々アップしたから調整しないといけないし…」
「そうだな。とりあえずまずは現在の魔力をうまく活用して色々と動き回ってみたらどうだ?」
「確かに…。医務室では一瞬しか発動しなかったから完全に把握できていなかったけど、今の自分にどれだけの力があるかしっかりと計った上で実際に魔力を行使していかなければいけないからそれが手っ取り早いね」

で、まずは魔術回路を把握しておく必要があるのでもう一度魔術回路を私のほうだけ解放する。
するとたちまち魔力が体内からあふれ出して私の周りが振動する。

「………ふむ」

身体強化で何度か全身を動かしてみてわかったことがある。

「やっぱり腕は落ちているわね。…いや、実を言うとまさか逆か?」
「そっちではないか? お前がまだ吸血鬼の体に追いついてきていないといったところだろうよ」
「うーん…やっぱり微調整が必要みたいだね。感覚がずれたままだと後に響くし…それじゃまずはこの体に慣れるよう心がけるかな? ちょっと待ってね」

「…―――同調開始(トレース・オン)

私は目をつぶって己の世界に入り込み過去の自身の戦闘経験を現在の体に上乗せして書き換えていき、バグ…まぁ不備な点をしらみつぶしに消していく。



その光景を見ていたエヴァは声をあげて驚いていた。

「ふむ…あれがシホの使う魔術か。なかなか興味深いな」
「まぁこちらの世界にはない概念ですから。かくいう私にも魔術回路はありますけどね」
「魔術回路か。こちらはそのようなものはなく曖昧だから中々羨ましいかもしれんな」
「チッチッチッ! そこは舐めたら怪我をしますよ、エヴァンジェリン」
「どういうことだ…?」
「魔術師は基礎の基礎、魔術回路の生成からすでに死が付き纏っているんです。一度失敗したら運が悪ければ最悪死で最低でも廃人ですから」
「なんだそれは!?」
「まぁそう思うのは仕方がないですよね。こっちは暴走してもあのお子チャマのように風を起こすとかそんな程度ですから。
ですがこちらはどんなに言葉で飾っても死というものからは逃れられません。
…魔術を行使するという事は常識から離れるという事。だから大抵の魔術師は最初の心構えとして『死ぬ時は死ぬ。殺す時は殺す。』…それを念頭においてまず“死”を容認しなければいけないのです。
だから半端な覚悟で魔術を使おうとすればたちまち破滅の道に堕ちる事になります。
…そうですね。基本知識ですが私達の元の世界には例外がない限り【地水火風空】の五種類…総じて五大元素という属性のいずれかの属性を持ち合わせます」
「持ち合わせる? では全部の属性を持っているものはいないのか?」
「まれに五大元素すべてを備えたもの…“五大元素使い(アベレージ・ワン)”が生まれることはありますが確立は低いでしょう。
魔術は代の積み重ねと魔術刻印という形で、一子相伝ということもあり、より強力に一族に受け継がれていくものですからかなりの代を持ったもの以外かなり確率はない限りは生まれてきません。
よって使える魔術も使える属性に限られます」
「なるほど…。こちらも属性はあるが使えないというわけではないからそちらはかなりシビアだな」
「はいです。あ、話がそれましたね。詳しい知識はまた後ほどで…」
「わかった」
「それで話は戻りますが、もし暴走した時にはその属性に見合った現象が起きて死にいたります」
「たとえば…?」
「もし“火”属性の魔術師の場合だったらよくオカルトで聞く話ですが自然発火現象が妥当ですね。他も見合ったような死に方をすると考えてもらって結構です」
「ふむ…」
「他には“魔眼”使いの場合ですが、酷使し続ければ脳がその酷使した代償の負荷に耐え切れずオーバーヒートして廃人になります。
それとあっちの魔術師は基本魔術の実験が本文で肉体派は少ないのです。それこそほとんど穴倉にこもっているイメージですね。
それでシホ様の失われていない魔術の知識でですが過去に街一つをまるごと一気に無にした奴がいたらしいですね」

それからシホが鍛錬中はタマモが元の世界について色々説明していて大体説明終わるとエヴァは眉間を潜めて、

「ふっ…つまり陰険な連中が裏でわんさかしているわけか。特に魔術協会とかいったか? 特殊性の力を持った珍しい人間は封印指定と称して最悪脳だけにされて研究材料にされる。胸糞悪くなる話だな。
だが、神秘の保存、次の代に研究成果を残すという行動はこちらのぬるま湯に浸かっている連中に比べればまだマシか。
しかし平行世界の根が一つ違うだけでこうまで違うとなかなか興味が尽きないな」
「確かに…。私とシホ様もこちらに来てからというもの“在り方”の違いに大いに悩まされましたから」
「だろうな。そういえばシホの属性はまだ聞いていなかったな。あいつの事だからただの属性というわけではないのだろう?」
「はい。シホ様は五大元素から外れた属性で“剣”というものを持っています」
「ほう、剣か…。五大属性は大体想像つくがそれはどんなものなのだ?」
「はい。私も詳しくはわかりませんが、ご存知のとおりシホ様は剣とそれに近いもの…まぁ大雑把に言いますと武器とカテゴリーされるものを投影できます。
そしてこと武器に関しては解析という魔術で一度解析をしてしまえば例外がない限りはシホ様の“ある場所”に登録されて同じものが何度も投影できます。魔力にもよりますけどね。
逆に、剣から離れるものは存在強度が薄いため投影しても中身がないガラクタと化して壊されればすぐに霧散してしまいます。
そうですね…服とかなら余計魔力を喰いますが複雑ではないので投影しても今のシホ様の実力なら十分維持できますが、たとえば車やその他機材を投影したとします。でも肝心の中身のエンジンがなくてはなんの役にも立ちません」
「なるほど。つまり剣という属性から離れていくものはどんどん魔力消費も多くなるし、中身もなくなっていくというわけか。しかしそれだけでも規格外だな。
それに今はあいつの体の中にはもう一つ、姉の魔術回路もあるのだろう? そちらはお前の存在補助の役割の他に使い魔の作成、治癒魔術、その他の機能が含まれている。
かなり贅沢なものではないか?」
「まぁ、そうですが肝心のシホ様はこちらの魔術回路は多用していません。シホ様曰く、使えるのは嬉しいけどやっぱり難しい、との事で簡単な治癒魔術くらいしか使用しませんから」
「属性ゆえ、か…」
「はいです。でもシホ様はその代わり投影した武器の成長経験と蓄積年月もその体に体現できますからそんじょそこらの奴には負けることはありません」
「その代表例が【宝具】か。憑依経験次第でその担い手にも迫ることができるとはな。さらに“真名開放”によって一時的に宝具の特性を開放できる、か。
例えば“必ず心臓に当たる”とか“傷が治らない”とかか?」
「まぁいい一例ですがそうですね。シホ様は多分ですがそのどちらの宝具も持っていると思います」
「まさに神秘の塊だな、シホは。さらにまだ私には内容を話せないほどの固有技法“錬鉄魔法”や、他にも先ほど言った“ある場所”というものにも興味が引かされる。もちろんお前の英霊としての正体もな。まぁ想像はそう難しくないが…」
「分かっていても他の人には言わないでくださいよ? “赤き翼”のメンバーやエヴァ以外は私はただの使い魔として通しているんですから」
「わかった。興味深い話も聞けたし私の名を誓って話さないでおいてやろう」
「感謝します」

タマモの魔術の説明会が終わりを告げて二人はシホがいた方を見ると、いつの間にかいなくなっていたのでどこにいるのか探そうと見回した瞬間、遥か下のほうから雄叫びのように、

「神鳴流決戦奥義!! 真・雷光剣!!」

刀のように変化の魔術で刀身を伸ばした莫耶(改)を持ってして膨大な雷をまといながら海に巨大なクレーターを作り出しているシホの姿が目に映った。
基本シホは神鳴流を扱う時は普段使う干将・莫耶ではなく利き手の莫耶の方だけさらに改造した改型を使っている。

「あー…そういえば神鳴流も一応卒業はしているんだったな。威力は全盛期の詠春に迫るものがあるな。っていうかここからわざわざ飛び降りたのか!?」
「でもまだ安定していないようですね。ブランク解消と吸血鬼の体に慣れるのが今後のシホ様の必須課題ですね」
「そうだな」

少ししてその強化された足で壁を一蹴りした後、虚空瞬動を繰り返しながらシホは戻ってきたがやはり力加減がまだ難しいらしく、手を何回か捻りながら、

「やっぱりまだまだ研鑽が必要みたいだね、この体。得物も吸血鬼の怪力で軽くなっちゃうから色々と試していかなくちゃいけないし」
「オイ、シホ。俺ト勝負シヨウゼ?」
「いいよ。やっぱり相手がいないとどうにも腕が取り戻せそうにないから」

そう言ってシホはこの空間内なら動けるチャチャゼロとともに剣を打ち合っていた。
その光景を見て二人が思ったことは(本当にブランクがあるのか…?)だったとか。
ちなみに、今まで命令を受けない限り無言でエヴァの後ろで立っていた茶々丸はシホの映像やタマモの魔術の話をしっかりと録画していた。
後にエヴァに見せようと考えているらしいが実に主想いな従者である。




◆◇―――――――――◇◆




シホがリハビリも含めて数日(?)が過ぎたある日の事。
2-A、もといもうすぐ3-Aとなる生徒の一人が剣道場に呼ばれていた。
名を桜咲刹那。竹刀袋に関西呪術協会の長・近衛詠春から譲り受けた刀、『夕凪』を入れて肌身離さず携帯している神鳴流剣士の一人だ。
刹那は今日、先輩である葛葉刀子に呼び出されて向かっていた。

「刀子さんはどうしたのだろうか。急に用件も告げずに私を呼び出すなんて…。それに…」

剣道場の近くまで来たまではいいがなぜか人避けの結界が張られているのに目がつき少し剣呑な表情になる。
こういう時には決まって真剣での打ち合いになるだろう事は過去の経験から予測済みだ。
だが、だからといって引きはしない。これくらいで腰が引けていたら剣士として負けだからだ。
息を一回ついて意を決して中に入り、

「失礼します」
「あら。よく来ましたね、刹那」
「はい、刀子さん。ところでどうしたんですか? 人避けの結界まで張って…」
「そうですね。あなたに今から来る相手との闘いを見てもらいたいのですよ」
「これから…? 誰ですか?」
「私たち神鳴流剣士の先輩にあたるお方よ」
「神鳴流剣士、ですか…? 確か私たち以外にはいないと記憶をしていましたが」
「? あなたはもしかして知らないの? とっても身近に存在しているというのに」

(身近? はて、いただろうか?)

刹那が悩んでいる時に入り口のほうから声が聞こえてきた。
あきらかに女性の声でしかも若い。しかし先輩というからには失礼だが刀子さんより上なのだからかなりのお年のはず。そんな人物がいったい誰なのか…?
自然に刹那はそちらへ振り向くと、そこにはつい最近では見慣れた朱銀髪で、同じクラスで、吸血鬼のシホ・E・シュバインオーグが立っていた。

「あ、桜咲さん」
「エミヤ、さん…どうしてここに…?」

私は思わず夕凪を取り出そうとするが、

「刹那! あなた、先輩に対してその態度はいただけないわよ!」
「へっ…? 先輩? ですが彼女は吸血鬼で…」
「はぁ…やはり知らなかったようですね。エミヤさんは長と同時に神鳴流を卒業し魔法世界へと旅立っていった剣士の一人なのですよ」
「……………え? ええええええーーーっ!!? そうだったのですか!!?」
「あ、はぁ、まぁ…一応詠春と一緒に赤き翼に所属していたけどね」

エミヤさんは「アハハ…」と乾いた笑みを浮かべている。
しかし今、長のことを呼び捨てで“詠春”と呼んでいた事から真実のようだ。
だとすると今まで事情もろくに調べもせずにただただ吸血鬼というだけで警戒していたわけで、目の前のエミヤさんは英雄の一人、長の仲間だったというわけで。
色々混乱する頭で私はいつの間にかエミヤさんに「すみませんでした!」と言って土下座をしていた。

「や。別に気にしていないから頭を上げてくれないかな、桜咲さん」
「いいえ! 私としたことがろくに情報を調べもせず一方的に警戒してしまいとても申し訳ございませんでした!」
「あー、どうしようか刀子さん?」
「刹那の気が済むまでやらせてやればいいのではないでしょうか?」
「でもねぇ…」
「そうですね。刹那、本日は先輩とし合いをするのであなたにそれを見せるために先輩をお呼びしたのですよ」
「そ、そうだったのですか」
「だからあなたはおとなしく見ていなさい」
「はい!」

それで私は正座をしてお二人の試合を見逃さないように集中した。
だけどそこでエミヤさんが話しかけてきた。
な、なにかまた疎そうな事をしてしまったのでしょうか?

「桜咲さん。あなたの持っている刀はもしかして詠春が愛用していた夕凪だったりする?」
「えっ? あ、はい…」

それでおずおずとエミヤさんに刀を渡すと、

「懐かしいなぁ…ずいぶん手入れもされているからきっと大事に使っているんだろうね。さすが詠春が愛用の刀を託すほどだ」
「い、いえ! そんな滅相もないです!」
「かしこまらなくていいよ。詠春は認めていない相手に愛用の刀なんて無駄に渡すわけがないんだから自信を持って」
「そうですよ、刹那。自信を持ちなさい」

お二人にここまで言われて恥ずかしさと嬉しさでなんとか「は、はい…」とだけしか答えられなかった。
それで用は済んだのかエミヤさんは刀子さんに向かい合って、

「それでは刀子さん。まだ病み上がりで腕も二流ですが神鳴流剣士、シホ・E・シュバインオーグ…参らせていただきます」
「こちらもかまいません。尊敬する先輩のご教授を受けられるのですからこれほど嬉しいことはありません。葛葉刀子、行かせていただきます」

刀子さんが一本の野太刀を構えているのに対してエミヤさんは中華刀を引き伸ばしたような黒い刀と水波模様の入った白い中華刀を構えて二人は対峙する。
私が「ごくっ…」と息を呑むほどの静けさの中、二人は真剣な表情で、だがとても穏やかな表情をしていて窓から風に運ばれて入ってきたのかまだまだ未熟な桜の葉が二人の間に落ちた途端、

ギィンッ!

瞬きすら遅すぎると思えるほどのスピードで二人の刀は打ち合っていた。

(早い!? それになんという重さっ!)
「シッ…!」
「!?」

すごい! あの刀子さんを押している。それにただ力押しだけではなく左手の中華刀ですぐさま追撃を叩き込むその素早さ。
本来神鳴流は妖怪退治のためなのでどうしても大太刀のものになりがちだからこういった二刀流での手合いは苦手な部類に入るだろう。
かくいう刀子さんも一度弾いて中華刀の対処に行ったために反撃のタイミングを逃していた。
そしてエミヤさんの動きはまた加速し小回りの聞く体を下に倒して刀子さんの横薙ぎを避けて、代わりに足蹴りをして刀子さんの体勢を崩して刀の峰で腹を突く。
繋げがうまい! 二刀流による連撃での時間差攻撃、それから自身の身長さを生かしての回避、足蹴り、最後に峰で腹を突き相手を怯ます。
…もしあの峰の攻撃が刀のほうだったらと思うとゾッとする。
それに確かに観察しているとエミヤさんの二流という意味がわかる。
エミヤさんにはおそらく剣の才能がないのだ。振るう剣はどれも無骨でこういっては何だが華がない。
だがそれは裏返せばそこまで必死に鍛錬しては実戦で腕を磨いていったのであろう、だから私にはその無骨な剣のあり方はとても綺麗なものだと感じ取れた。
そして数分して刀子さんの剣が弾かれて首筋に中華刀が翳されたところで試合は終了した。
刀子さんもエミヤさんも互いに得物を下げて一礼した。

私は、その高みの戦いに見惚れていていつのまにか正座が崩れていたのに気づき急いで元に戻す。
顔を赤くしながら気づかれていないか確認すると刀子さんがエミヤさんの事を抱きしめていた。



―――は?



私が目を話した間にいったいなにが起こったというのか。
だがそれはすぐに氷解する。
刀子さんは泣いていたのだ。

「すばらしい、手合いでした先輩。こうも一方的に手が出せないなんて、まだまだ私も未熟ですね…。あぁ、どうして先輩がこのような目にあってしまったのか…。
あんな事がなければきっと…そう、きっと立派な神鳴流剣士として今も名を馳せていた事でしょうに…。先輩、お労しいです!」

普段冷静な刀子さんがあぁも感情をあらわにするなんて…。それほど刀子さんにとってエミヤさんは憧れだったのでしょう。
エミヤさんもそんな刀子さんを無言で背中を揺すりながら慰めている。

…少しして刀子さんは涙をぬぐい、

「…恥ずかしいところを見せましたね、刹那」
「い、いえ…そんなことはありません」
「そう…。それとだけど私はたまにしかあなたの相手をできないでいるけど、先輩が暇があったら稽古に付き合ってくれるそうですよ」
「!!」

それは…! なんて嬉しいことでしょうか。

「よかったわね、一緒のクラスですからいつでも相談に乗れるしね」
「あはは…でも私も二十年のブランクがあるからどこまで教えて上げられるかわからないけどね」
「そんなことありません! 長と同等の力を身につけているエミヤさんに師事できるのですから感謝はすれど文句なんていえようがありません!」

ですよね?と刀子さんに目線を向けると快く頷いてくれた。

「うん。それじゃどこまで教えてあげられるか分からないけどこれからよろしくね、桜咲さん」
「刹那でかまいません。これからお願いします師匠」
「し、師匠!? できれば名前で呼んでほしいんだけど…」
「で、ではシホさんでよろしいでしょうか…?」
「うん、それなら大丈夫。それじゃ刀子さんに刹那。これからちょっと用があるからまた今度!」
「はい」

そうしてシホさんは去っていった。
その後、刀子さんに内密にと事前に言われた後、シホさんがどうして吸血鬼になったのかを大まかに説明してもらった時には思わず涙を流してしまった。
あんな明るい顔の裏側ではとても深い傷を抱えているなんて…。
しかもそれを表に出さずに逆にこちらを心配してくれる気遣い。
なんて心優しいお方なんだ。今まで斜めな構えで見ていた自分を殴ってやりたいくらい後悔した。
これから尊敬する一人の先輩として、そしてまだ打ち解けないがいずれお嬢様とも…。


こうしてこの日、シホと刹那の師弟関係が構築されたのであった。
………一方、肝心の子供先生はパートナー騒ぎで騒がしい生徒達に追いかけられる羽目に合っていたがここは割愛する。


 

 

011話 新学期、吸血鬼異変《序》 桜通りの吸血鬼

 
前書き
更新します。 

 



まだ桜が咲き誇る道中でもう夜だというのに一人の少女がなにかから逃げるように走っていた。

「は、はっ……はっ!」

だがそれは無駄なあがきのごとく少女は後ろから迫ってくる黒い何かに見えない力で足を転ばされた。

「きゃあっ!?」

そして少女は地面ではないが一本の桜の木に体を打ち付けてもう立ち上がる気力もなかった。

「出席番号16番、佐々木まき絵……お前の血液をいただく……」

黒い何かから声が聞こえ逃げていた少女、佐々木まき絵は恐怖に怯え、だが黒いなにかはお構いなしにまき絵に迫ってその口から生える牙を背後に回り噛み付いた……。

「あ、いや……イヤーーーーーンッ!!」

噛み付かれて気を失う直前で叫び声をあげた。だが、その叫びを聞くものは誰もいなかった。
噛み付いた何者か以外には……

「もう少しだ……」

黒い何かはそう呟き姿を消した。




◆◇―――――――――◇◆




『3年!』
『A組!!』
『ネギ先生――――ッ!!』

新学期の始まりはクラスの半分以上が騒ぐ形で幕を開けた。
というか新学期早々テンションが高いクラスだなとあきれた表情をする。
なにげにタマモも参加しているので実は馴染んでいるのではないか?

(バカどもが……)
(アホばかりです……)

ああ、前席の綾瀬さんと長谷川さんからも呆れた言葉が聞こえてくるなぁ。
まぁいつものことだし気にしないけど。
ふとネギ先生が少し青い顔をしてある方向を見ている。
つられて私は(タマモも気づいたらしく)一緒に見てみるとそこにはネギ先生をこれでもかという風に凝視しているエヴァの姿があった。
視線に気づいたのかフッと視線を外しているけどなにかあったのかな?

(シホ様、シホ様。エヴァンジェリンはどうしたのでしょうか?)
(うーん…なんだろうね。そういえば最近よく桜通りの吸血鬼の噂を聞くけど、もしかしてエヴァがやっていることかな…?)
(おそらくそうでしょうね。シホ様と違い輸血パックは貰っていないようですし。ま、普段じゃ飲めないからいらないでしょうけど)
(そういえば昨日今日は満月だったわね。私もそれで余計吸血鬼の力を抑えているけどエヴァは満月の日だけ力を取り戻すって聞いたわね)
(封印されているのは大変ですねぇ…)
(違いない)

と、そこにしずな先生が教室に入ってきてネギ先生に身体測定の話をしている。
…なにか嫌な予感がするなぁ。今までの経験上…。
計らずもそれはすぐに起こった。

「あ、そうでした。ここでですか!? わかりました、しずな先生。で、では皆さん身体測定ですので……えと、あのっ、今すぐ服を脱いで準備して下さい!」

シンッ……と教室を一時の静寂が支配する。

(あぁ、やっぱり、ね…)
(あのお子チャマはもっと言葉を選ぶべきですね)

予想通りの展開と行動にまたため息を零す。
そしてそんな面白い事に黙っていないのが2-A、いやもう3-Aクオリティーなわけで、

「「「ネギ先生のエッチーーーーッ!!」」」
「わーーーーん! 間違えました!!」

そうして子供先生は颯爽と教室から退出していった。
ふぅ…本当に落ち着きがないな。
いまだ進歩は見られず、か。
それより今、私とタマモが危惧しているのは身体測定である。
なぜか数名が目を光らせながらこちらを見ている。
極力目に入れないようにして服を脱いでいこうとして―――胸を誰かに鷲づかみにされていた。
声を上げなかったのは褒めて頂きたい。これでも盛大に混乱しているのだから。
…無言ですぐに掴んでいる腕を解いて背後に回り羽交い絞めにする。

「これはなんの真似かな? 明石裕奈さん…」
「い、いやぁ…エミヤンの初身体検査じゃん? それでどんなものかなぁって、ね。だから許して?」
「許さない♪」


ギニャー…


少しお仕置きをした。
内容? 聞かないほうが幸せだろう。

だが、それでも挫けなかったのか、

「どうだったカ? 名誉の戦死を遂げたゆーな陸曹!」
「死んでないよ!? まぁしいていうなら、古菲。あんたは軽く抜いているのは確かだね~」
「な、なんと!?」
「具体的に言うとクギミーといい勝負だったよ。エミヤン意外に着やせするタイプみたいで身長以外はほぼ一緒と見た!」
「クギミー言うなー! って、いうかどうして私のスリーサイズを知っているの!?」

と、わいわいと騒いでいるのでもう放っておく事にした。
ちなみにタマモも餌食になっていたが逆にやり返していたりして楽しんでいたり。本当順応しているなぁ…。

「身体測定だけでここまで疲れるとは思わなかった…」
「同感ですね。エミヤはやっぱり常識人のようで助かります」

気持ちが重なったらしく長谷川さんが同類のような視線をよこしてくれた。
あー、この子なんか将来苦労人の相が出ているかも。

そんな中で外から亜子らしき声が聞こえてきた。
内容的に、

『ネギ先生! 大変やーーー!! まき絵が!!』

と、大声で叫んでくるのでここは女子学校ということもあり羞恥心が薄いのか「ガラッ!」と扉を開けて「何!? まき絵がどうかしたの!?」というみんなの声と「わあ―――――ッ!!?」というネギ先生の叫び声が響いてくる。

「まったくここは騒動が尽きないわね」
「まったくです」

私と長谷川さん、それに普段から落ち着いている面々は特に気にしていないようで身体測定も終わったようでもう制服に手を通している。
ちょうどいいからさっき『桜通りの吸血鬼』の話題が上がっていたのでエヴァに近寄って、

(ねぇエヴァ。例の話だけどやっぱり…)
(ああ。それは私に相違ない。これを聞いてお前はどう出る?)
(別に。私たち吸血鬼にとってそれほど深刻じゃないけど、血はある意味死活問題だから殺さないなら放っておくかな? 昔聞いた噂だけどエヴァは女、子供は殺さないって聞いたし)
(む…。そんなことまで知っているのか?)
(情報は命ですから。それに学園もなぜか黙認しているようだし…。最後に私も輸血パックとは言え血を吸っているわけだしエヴァの事はどうこう言えないよ)
(そうか。まぁ今は理由を聞くな。それと私がいいと言うまで別荘は使用禁止だから覚えておけ)
(了解)




◆◇―――――――――◇◆




その晩、シホはタマモと一緒に見晴らしがよく全体を見回すには絶好の高台の上まで登っていた。

「シホ様~、どうなされたんですか? こんな夜に…」
「ちょっと気になることがあってね。はい、タマモ」

シホは望遠鏡を投影してタマモに渡した。

「? これは…?」
「まぁそれで例の桜通りを見てみて」
「はいです。あ、アスナ達がいますね」
「見えるって事は感度良好ってところね」

二人はしばらく桜通りを見ている(タマモは望遠鏡に対しシホは裸眼でだが…)となにか用事でもあるのか宮崎のどかが一人で桜通りを歩いていることに気づく。
そこに黒衣をまとった謎の人物がのどかに襲い掛かった。

「あ! シホ様、宮崎さんにおそらくですがエヴァンジェリンが襲い掛かったみたいです」
「はぁ…やっぱり。今はちょうど満月の夜…私の吸血鬼の血も騒いでいるからエヴァもって思っていたけど正解みたい」
「そうですか。あ、お子チャマ先生が現れましたね」

そこからはエヴァも触媒を用いて応戦しているが、やはり力が封印されていることもあり防戦に徹している。

「なかなかやりますねー…。エヴァンジェリンに堂々と挑む姿といい少しは見直しましょうかね?」
「そうだね。まさかあそこまで出来るとは正直信じていなかったけど、やっぱり天才の異名は伊達ではないということか」

シホとタマモはのん気に二人の戦いを観察していたが武装解除で屋上に降りた光景を見て、

「そろそろ詰みかな? ネギ先生が…」

シホの言葉通り勝ったと思っているネギの前に突如として伏兵である茶々丸が姿を現した。
ネギも新手と思いすぐに応戦しようとするが呪文詠唱を途中で何度も遮られて打つ手なしの状況。
そしてついにネギは捕らわれてエヴァに血を吸われそうになったその時、

『コラーーーッこの変質者どもーーーっ!! ウチの居候に何すんのよーーーっ!!』

という言葉とともにアスナが現れ、茶々丸ならともかくエヴァを足蹴に吹っ飛ばした。

「「ええっ!?」」

これにはシホ達も驚きを禁じえなかった。
なにせエヴァは常時魔法障壁を展開しているはずなのにそれを無視して蹴り飛ばしたのだから。

「魔法障壁をただの蹴りだけで…普通ありえません」
「そうね。まぁ考察は後にして…」

シホはある準備をし始めた。




◆◇―――――――――◇◆




…時は少し遡る。

アスナは気絶してしまっているのどかを木乃香に任せネギの後を追っている時のことだった。

「まったく…! 一人で事件を解決しようとして、カッコつけてんじゃないわよバカネギ!」

ネギが向かった方向は寮の方角だ。これを辿って行けばネギにたどり着けるだろうと予測したアスナは陸上選手も顔負けの速度を出してすぐに到着した。
そしてどこにいるのか周囲を見回して、ふと明るい満月が眼に入り、次いで寮の屋上に数人の人影が見えた。

「あ! ネギ!」

アスナは視力もいい方なのですぐにネギだと気づき、すぐに階段を上って屋上に出てすぐに屋根の上に到着するとネギがおそらく二人組みの人物に襲われているところを目にして、

「って、倒しに行ったのに逆にピンチになってんじゃない!?」

見れば片方がネギの首筋に歯を立てて血を吸っているではないか。その光景を見て噂の吸血鬼は真実のものだと悟り、そして怒りがこみ上げてきて気づいたときには、

「コラーーーッこの変質者どもーーーっ!! ウチの居候に何すんのよーーーっ!!」

と、エヴァと茶々丸を蹴り飛ばしていた。
それに驚いたのかエヴァは目を見開きアスナを凝視する。
アスナも二人が誰か気づいたのか、

「あんた達、ウチのクラスの……ちょっ、どーゆーことよ!?」
「ぐっ…神楽坂明日菜。貴様、どうやって私の魔法障壁を破った…!?」
「何のことか分からないけど…まさかあんた達が今回の事件の犯人なの!? しかも二人がかりで子供をイジめるような真似して……答えによってはタダじゃ済まないわよ!」

見事な啖呵を二人に浴びせた。
だがエヴァは少し動揺したがすぐに冷静になり、

「ぐっ…よくも私の顔を足蹴にしてくれたな神楽坂明日菜…許さん!」
「えっ…嘘、冗談よね?」

エヴァの手には魔力が集まっていく。
アスナはそれがなにかわからないが、とりあえず嫌な予感だけは拭い切れないでいて顔を青くした。

「マスター、一般人に魔法の行使はどうかと思われますが…」
「うるさい。一発仕返しでもしなければ腹の虫が収まらん!」

茶々丸の言葉にも怒り心頭のエヴァには届かなかったらしく今すぐにでも魔法を放とうとしていた。

「げっ!? ちょっと待って! そんな話聞いていないわよ!?」
「知るか! 飛び込んできた貴様が悪いのだ! くr『ドドドドドッ!』…む!?」
「えっ…? 今度はなに!?」

突如として二人の間になにかが打ち込まれてきた。
よく見ればそれは黒塗りの鉄製の矢で、アスナ達とエヴァ達のちょうど中間の地点に横一列見事に五本打ち込まれていた。

「これは、矢、か…?」
「マスター、狙撃地点が判明。ここから約三キロ離れた高台からだと思われます」
「えっ!? 三キロってそんな遠い場所から…普通ありえないでしょ!? どこの超人殺し屋よ!」

アスナは状況が理解できずハチャメチャな事を言っているがエヴァはそれによって冷静を取り戻し、

「なるほど。文字通り釘、いやこの場合は矢をさされたというわけか。茶々丸、撤退するぞ」
「イエス、マスター」

エヴァは茶々丸の肩に乗ってそのままどこかへと飛び去っていった。

「いったい、なんだったのよ…」

残されたのは呆然としているアスナと泣いてしまっているネギだけ。
当然ネギは恐怖から開放されたのかアスナに泣きついたのは当たり前だったりする。




…一方、高台の上で狙撃をしたシホは一息つくと、

「うん。なんとか暴動は収まったみたいね」
「はいです。エヴァンジェリンもどうやらこちらに向かってきているようですし」

しばらくしてエヴァと茶々丸がシホ達の前に下りてきて、

「感謝するぞ、シホ。もう少しで大事な魔力を失うところだったからな。しかし…さすが『魔弾の射手』という二つ名は伊達ではないな。見事に五本同時に一列に打ち込まれるとは想像もしなかったぞ?」
「感謝いたします、シホさん」
「別にいいよ。それより詳しい話を聞かせてもらっていいかな?」
「む…。そうだな。割り込んでこないという核心があるから話そう」

エヴァは語りだす。
過去、ナギに『登校地獄』という魔法をかけられここ麻帆良に封印されてしまった。
いつか解きに来るといったがその約束は果たされず逝ってしまったという話を聞き愕然とした。
そして馬鹿魔力での封印の為、解けるものも学園長を含めていない。
唯一の鍵はナギの血族であるネギの血を媒体にして無理やり封印を解こうと待っていたこと。
すべてを聞き終え、

「そっか…。故人を中傷するのは心が痛みけど、まったくナギはいい加減な仕事をするわね」
「まったくです。15年間も待たされたエヴァンジェリンの身にもなれというのです!…ここは必殺のき○てきでも…」

なかなかにカオスな話題になってきた。特にタマモが。
シホは顔を少し引き攣らせながらも、

「それより、ねぇエヴァ。少し聞いていい?」
「なんだ?」
「エヴァってずっと魔法障壁展開していたわよね?」
「ああ…。確かにしていた、はずだったのだが、な。どういう訳か神楽坂明日菜はそれを無視して私を蹴り飛ばしてくれた。あれは偶々なのか、それともなにかしら特殊な能力の持ち主なのか…」
「…今思えば学園長の孫の木乃香と同室の時点でおかしいと思うべきだったのかな?」
「そうだな。茶々丸、なにか検索に引っかからないか?」
「いえ、アスナさんのデータにそのようなものは存在しません。もしかしたらデータを書き換えられているのかもしれませんが…」
「そうか…。しかし厄介だな。雑魚とはいえもし坊やのパートナーにでもなられたら厄介だ」


満月の夜、エヴァは後の憂いをどうするか考えていた。
…一方シホは夜空に輝く月を見上げて思わず喉の渇きを潤したいと葛藤していた事は内緒だった。
とにかく、こうして子供先生と吸血鬼との初の邂逅は幕を下ろした。



 

 

012話 新学期、吸血鬼異変《弐》 オコジョ妖精の来日

 
前書き
更新します。 

 



翌日の事。
私はまき絵が普段どおりに教室に来ていることに安堵していた。
どうやらやっぱりこちらの世界は血を吸われても死徒にはならないようで安心したといえば…いいのか悪いのかはこの際どうなのかとして。

「…まき絵、大丈夫?」

アキラがまき絵に対して心配な声をかけながらおでこに手を当てている。
私も言葉をかけたい所だが、真相を知っている身としてはやはり罪悪感が先に沸いてきて結局何も出来ずにいた。
…情けないなぁ。
少し暗い気分になりながら席に座っていると、

「みんな、おはよーーっ!」
「あーーん、ま、まだ心の準備が……」

と、努めて明るく挨拶をしてくるアスナと、もう恐怖が前面に出ていてアスナに担がれているネギ先生が教室に入ってきた。
まぁやはりさすがに堪えたようだ。
意気揚々と吸血鬼退治をしようとして見事なまでに返り討ちに会ってしまったのだから。
今まで“天才少年”と持てはやされてきたが、ここでいきなり大きな壁に当たったのだからしかたがない。

(ふぅ…)

人知れずため息をついていると龍宮とタマモが話しかけてきた。

「どうしたエミヤ。なにか悩み事かい? 憂いの顔をして」
「シホ様は昔から思いつめるとかなり深くのめり込んでしまいますからすぐに発散したほうがいいですよ?」
「そうねぇ…。しいて言うならネギ先生の今後の成長が心配かなぁ、と…。父親がアレなだけに」
「ふむ、確かに…」
「はいです」

三人で盛大に頷いていた。
刹那も近くで聞いていたらしく苦笑いを浮かべていたのは勘違いではないだろう。

そして授業が始まったのはいいのだけれど…。
ネギ先生の私達を見る熱い視線はなんだ? 子供が出せるものとは思えないな。
そしてしばらくしてため息をついている。その繰り返しで一同も不安に思ったのかヒソヒソと会話をしだしている。

「…というか真面目に授業をする気はあるのかな…?」
「なにやら思いつめているところがあるんでしょう…放っておけばその内元に戻ります。うちのクラスは大抵そんな感じですから」

ボソッと私がつぶやくとやはり聞こえていたらしく長谷川さんがそれに答えてくれた。
それで私とタマモも、

「それもそうね…。ここ少しの付き合いだけどそれはよく分かったわ」
「そうですね。あのお子チャマは誰かさんと似てすぐに復活してそうですから」

そんな小さい会話をしているとふとネギ先生が顔を上げて、

「和泉さんはパートナーを選ぶとして10歳の年下の男の子って嫌ですよね―――…?」
「ぶっ!?」

思わず吹いてしまった。
突然なにを言い出しますか、このお子チャマは?
しかもそれが切欠で一同は大騒ぎを始めてストッパーである委員長まで暴走する始末…。
もう授業どころではない、また騒動が起こりそのままチャイムが鳴って授業が終わり、ネギ先生はふらふらとしながら教室を出て行った。

「ちょっとネギ!?」
「ちょっとアスナさん? ネギ先生はいったいどうしたのですか?」
「あ、ちょっとね。なんかパートナーが見つかんなくて困っているみたいよ?」

アスナが追っていったようだけど委員長にどういうことかと尋ねられると、そう答え教室を出て行ってしまった。
それでまた一同は騒ぎ出し『王子の悩みだー』『私がパートナーになる!』などと言った意味不明な話題で持ちきりになってしまう始末。
アスナにはぜひ自身の発言には責任を持ってもらいたいと思った。




◆◇―――――――――◇◆




本日の全授業が終了後、私達は学園長にお呼ばれされていた。
なので委員長主催で行われる『ネギ君を元気づける会』はふけさせてもらった。
なにやら不穏な気配だったのでちょうどいいだろう。

そして学園長室に到着し、一度ノックしてから了解の声が聞こえてきたので中に入った。
そこにはもう見慣れた仙人頭の学園長とタカミチがいた。

「姉さん、終業式以来だね」
「うん。タカミチはあっちでの仕事は終わったの?」
「ああ。それより足が治ってよかったよ。本当に…」
「うん、ありがとうタカミチ…「シホ様!」えっ、な、なに?」

少し嬉しかったところで突然タマモが大声を上げて私の名前を呼ぶので何事かと思った。

「早く話を進めましょう! ね?」
「う、うん…」

なにやら目が据わっていて怖かったから学園長に何の用件か聞くことにした。


……その傍らでタマモがタカミチに小声で、

(タカミチクン? なにナチュラルにシホ様といい雰囲気を作ろうとしているのですか…?)
(えっ…ハハハ、何のことカナ?)
(はぐらかす気ですか。そうですかぁ…。…ここに出したるは若かりし日のタカミチの恥ずかしい事が書かれたものが…)
(!? それは!?)
(これで、どや…?)
(…ッ、スミマセンデシタ!)
(よろしい…)


…なにやら二人は仲がいいのかお互いに笑いあっている。
とにかく私は学園長に何の用かを聞かなければ。

「それで用件というのは…?」
「そうじゃのう…。単刀直入に言うとエヴァのしている事は知っておるかの?」
「ええ。昨日それを目撃しましたから」
「知っているなら話は早いのぅ。それでシホ殿に頼みたい事というのは今回、ネギ君の修行の一環として目を瞑っていてもらえんかの?」
「ああ…、なるほど。そういうことでしたか。はい、別に構いません。エヴァからも事情は聞いていますから」
「そうか、それはよかったぞい。てっきりシホ殿は止めに入ると思ったからのぅ」
「さすがに事情を聞きましたら介入するのもどうかと思いましたので…それに以前、頼られない以上は正体をネギ先生に明かさないといってありますし」
「うむ。シホ殿は物分りがよくて助かる。して、もう一件あるんじゃが…」
「なんですか?」
「話す前に、シホ殿はもう足は大丈夫かの?」
「…? はい、エヴァの別荘でリハビリも兼ねて色々とこの体の付き合いも慣れてきましたので、今すぐ戦闘になったとしても並みの相手なら対処は大丈夫かと」
「シホ様は頑張りましたからねぇ~。何度吸血鬼自慢の怪力で誤って塔を破壊しそうになったかと思うとヒヤヒヤものでした…」
「ほっ! それはまことに安心した。それではもう一つの用件なんじゃがこっちが本題で、近々学園都市で年二回のメンテで、それと同時に都市全体の学園結界も解けてしまうんじゃ」
「はぁ…」
「それでシホ殿にもこれを好機に西の奴らが送り込んでくる刺客を退治する任についてもらいたいんじゃ」
「西のって…」

それって詠春が収めている関西呪術協会のこと?

「まさか詠春が…?」
「いやいや、婿殿は頑張っているんじゃが、いかんせんこちらを快く思っていない輩が多く、よく刺客を送り込んでくるのが今の東と西の現状なんじゃ」
「現状、ね…。解決案はあるんですか?」
「まぁあるにはあるのじゃが今は時期ではない、とだけ言っておこうかの。近いうちにシホ殿にはまた話すとする」
「わかりました」
「それとこれを…」

タカミチが私とタマモに携帯をそれぞれ渡してきた。これは…?
聞くとこれは仕事用で非常時や通信用に重宝してくれとのことだ。

「それとこれは前金じゃ。受け取っておいてくれ」
「お金!?」

机の上に置かれた少し厚い封筒を置かれるとタマモはすぐさま反応して「いただきます♪」と言って素早い手つきで受け取り「チャリーン♪」と言いながらまた謎の四次元袋に収めていた。

「…身内が恥ずかしいところを見せてすみません…」
「いや、もう慣れたからよいがの…。それと今後は以前渡した通帳に振り込まれる形になるから確認しておいてくれい」
「はい」

用件は終了したらしく学園長はくつろぎムードに入りお茶を啜っている。
タマモもいまだにお金に目を光らせていて心ここにあらずと言った感じだ。
それでどうしようかと思っていると、ふとタカミチと目があった瞬間、



―――なにか急に喉の乾きに襲われて意識が朦朧とし始めた。



「ん? どうしたんだい、姉さん? 顔が少し赤いようだけど…」
「うん。なんだかねぇ…少し、喉が渇いてね。ねぇタカミチ…少し頼みがあるんだけどいいかな?」
「………」

…ん? どうしたんだろう。タカミチが足を一歩下げている。
ねぇ、どうしたの、タカミチ?

「姉さん、それはきっと一種の気の迷いだ…。気をしっかりと持ったほうがいいぞ?」
「なに言っているの? 私はいたって正常だよぉ?」



…タカミチはかなり焦っていた。
普段シホはとてもキリッとしていてタカミチにとって憧れの一人であった。
だが今彼女は目をとろんとさせてまるで酔っているかのようで笑みすら浮かべている。

「あちゃぁ~…とうとう来ちゃいましたかぁ」

そこで横からタマモの声が聞こえてきてなにやら呟いている。
タカミチは額に汗を浮かべながらどういうことか訊ねる。

「な、なにが来たのかな。アヤメ君?」
「昨日は綺麗な満月でしたからねぇ…。シホ様もそれに当てられてしまったのでしょう。
普段は吸血衝動を我慢しているからよかったのですけど…や、月の魔力は恐ろしいですね。
きっと気心が知れているタカミチを見て我慢の糸が切れたのかなぁ、と…」
「な、なるほど…」

ダラダラと汗を流しながらそれを聞き流しているとふと一瞬の隙に目の前からシホの姿が消えていた。

「ど、どこに…!?」
「タカミチ君、うしろうしろー」
「ド○フですかっ!?「いただきまぁす」…って、やば………アッーーーッ!!」

…その後、タカミチはシホが満足するまで血を吸われたそうだ。
対して肌が艶々になってやっと正気が戻ったのかシホは何度もタカミチに頭を下げて謝っていた。




◆◇―――――――――◇◆




「はぁ…自己嫌悪だわぁ」
「しっかりしてください、シホ様~」
「でもさぁ、よりによって最初の吸血の対象がタカミチとか…なんか恥ずかしいじゃない。タカミチにも悪いし…」

シホはそれで一層ネガティブ思考に落ちていく。
だがタマモが大声を上げながら「大丈夫ですよー、この世界の吸血鬼の吸血では死徒にはなりませんから安心です♪」といって慰めてくれる。
そういう問題じゃないんだけどねぇ…とシホが呟きながら寮まで戻ってくるとなにやら騒がしい。

「…何事?」
「さぁ…? なんでしょうか」

シホ達はなにやら立ち往生している通路で近くにいた木乃香に何事か話しかけてみると、

「あ、シホにアヤメさんや、どこにいっとんたん?」
「ちょっと野暮用で…ところで何の騒ぎ?」
「あ、そや。なんやネギ君にペットが出来たらしくて今寮長さんに許可を取りに行くところなんよ! ほな、またなー」

木乃香はそう言って管理人室まで向かっていった。
しかし、ペットね。
シホとタマモはなにやら知らない魔力反応を察知し少し背伸びして見てみるとそこには一同に交換で抱かれているオコジョ(?)がいた。

(魔法生物…?)
(どうやらそのようですね。種別としましてはオコジョ妖精かと思われます)

「あ、エミヤさんにアヤメさん。こんばんは」
「はい、ネギ先生。ところでその動物は?」
「あ、はい。今日から飼うことになったオコジョのカモ君です!」
「むー…なんでしょうか? なにやらタバコの臭いがこのオコジョからしますが…」

タマモがそう言うとネギとカモは「ビクッ!」と震えてまるで逃げるように部屋に入っていってしまった。

「? なにか変なこといったかな?」
「あー、シホ達は気にしないでいいわよ?」

アスナの乾いた声にシホは「そう…?」と相槌を打つだけだった。




◆◇―――――――――◇◆




部屋に戻ったネギ達…特にカモは新たな美女の登場に興奮を隠せないでいた。

「兄貴! なんすか、あのお二人は!? とても極上じゃないですか!」
「えっと…カモ君が何をいっているのかわからないけど、朱銀髪の人がシホ・E・シュバインオーグさんだよ」
「それでもう一人がシホの付き人の玉藻アヤメさんよ」
「シュバインオーグ…?」
「どうしたの、カモくん?」

カモは一瞬思案顔になったがなにも思い浮かばなかったのでとりあえず「なんでもねぇっすよ!」とだけ答えておいた。


…まだまだ魔術使いと魔法使いが対峙する日は遠い。


 

 

013話 新学期、吸血鬼異変《参》 中途半端な仮契約

 
前書き
更新します。 

 



今日、私は宮崎さんが図書館島まで二十冊以上の本を返しに行くというのでちょうど暇なこともあり手伝うことにした。
ちなみにタマモはつい最近ちょくちょく鳴滝姉妹と散歩部の活動を楽しんでいるらしい。
いつも私のそばにいるのに今日に限っていないのには理由がある。
私がタマモに「もっとタマモも自由に時間を過ごしたほうがいいよ?」と何度も説き伏せる形で説得した。
それで渋々だが、だが「シホ様の心遣い、タマモ感激です!」といって納得してくれた。
でも妥協点として使い魔の管狐一匹を私につけるという事は引かなかった。

…なので今現在宮崎さんには見えていないが私の肩の上には四匹の内の一匹、風属性の管狐『(りん)』が乗っている。

『母様も心配性ですね…。まぁ気持ちは十分なくらい分かりますが…』
(ごめんね、琳。なにかと私、色々な意味で有名だから…)
『ご心配には及びません。母様と同じくわたくし達の気持ちは同じですから。シホ様はもう二度と敵の脅威に触れさせません』
(ありがと…)

琳は四匹の中では穏やかな性格でよく喧嘩をする焔と刃を宥める役を買っている纏め役である。
ここで紹介しておくと琳は四匹の中で一番上のお姉さんらしい。
次いで次女の雅。三女で双子の焔と刃。
厳密には四匹ともタマモから生み出された式紙で血縁関係はないが生み出した存在がタマモのため母のように接している。
琳はやはりお姉さんなだけあり、とても面倒見がよく穏やかな性格をしている。
雅は属性も『氷』なだけありクールであまり笑わないが褒められると少し顔を赤くするデレ子であり琳についで面倒見はいい。
そして同時期に生み出されたから双子判定のお二人の片方、焔はとても元気で活発な子、対して刃は大人しいが物事は姉達に負けじとしっかり述べるがんばり屋さん。そして二人ともとてもやんちゃな性格をしているので例えるなら鳴滝姉妹のような存在だ。
だから余計タマモは二人を見て焔と刃に重ねて可愛がっている訳で。
以前に一度タマモが部屋にいなかった時に二匹が私に「最近お母さんが構ってくれない…」と私に泣きついてきた時には宥めるのに苦労した。
一番年下な二人で(それでも全員私より数倍以上歳は離れているが…)寂しがり屋でもあったりする。




――閑話休題




「あのー、シホさん。誰と話しているんですかー…?」
「あ、なんでもないわ。宮崎さん」
「のどかでいいですよ?」
「そう? わかったわ、のどか」
「いえ、でもまだ足は本調子ではないのにすみません。手伝ってもらっちゃって…」
「いいよいいよ。いいリハビリと思えば苦じゃないから。でもこんなにあるなら運送できるようにすればいいのにね」

本当に一冊一冊がかなり分厚いので是非ともその制度は取り入れてもらいたいものだ。
今度、学園長に掛け合ってみようかな?

「いえ、これも図書委員である私の仕事ですから」
「そう…のどかは偉いのね」
「そ、そんな大層な事じゃないですよぉ…」

畏まるあたりのどからしいと思って玄関で靴に履き替えようとしていると、のどかの方から小さい悲鳴があがった。
なんだろうと見てみるとのどかの手には一枚の封筒に入れられた手紙が握られていた。

「それは…?」
「ひやっ!? あ、ああのあのあのあの…ッ!!?」
「…とりあえず落ち着こうか。それでどういった手紙だったの?」
「えっとぉ…」
「ふむ、話せないのね?」
「ごめんなさい…」
「いいよ。それじゃのどかはその相手の場所にいっていいわよ。これは代わりに私が運んでおくから」
「え!? でも、いいんですか!」
「うん。なにやら大事そうな事らしいし行ってきなさい。心配しないで、ちゃんとやっておくから」
「うう…それじゃお願いします!」

のどかは盛大に頭を下げて足早にどこかへ行ってしまった。

(ふぅ…なにやら大事そうだけど特に心配することはないかな)
『ですが彼女は一度襲われたことがあります…。用心に越したことはありませんから母様に報告して刃ちゃんあたりに後を付けさせましょうか?』
(ん。お願いできるかな?)
『かしこまりました』

琳が少し黙り、すると返答があったのか瞬時に目の前に刃が現れた。

『琳姉さんにシホさん、お呼びですか?』
『うん。刃ちゃん、ちょっと宮崎さんという女性の後をつけてもらっていいかしら? 用心に越したことはありませんから』
(なにやら様子がおかしかったの。エヴァの件とは関係なさそうだけど念のためね。お願いできる? 刃)
『お、お任せください! シホさんの頼みならお母さんと同じくなんでも聞きます!』
(うん。いざって時は力を使っても構わないから)
『わかりました!』
(それと、なんでも聞くっていうのは止してね? 変なことを強制したくないから…)
『あ、はい。ごめんなさいです…』
(わかったならいいわ。それじゃお願いね)

刃は頷いてのどかの後を追っていった。

「さて、それじゃ頑張りますか」
『手伝います』

それから私は怪力の能力を駆使して片手に十冊ずつ詰むように抱え、琳が空気中の大気を軽くさせて軽くなった本達を持ち図書館島まで向かっていった。
行く先々で通行人が心配そうに見ていて何名かに手伝おうか?、と尋ねられたがそっちの用事もあるでしょ?とやんわりと断っていってようやく返し終わりまた校舎の方へ戻っていくと、

「あ、あれ? のどか、なんで下駄箱に横になっているの?」
『さ、さぁ…? なんででしょうか?』




◆◇―――――――――◇◆




…少し時を遡り、刃はフヨフヨとのどかの後を着いていっていた。
それで自室に戻るとなぜか私服に着替えて赤い顔をしながら寮の裏側まで出て行った。
刃は顔に?マークを浮かべながらも着いていった。
するとそこに突如としてネギがやってきた。

(あ、あの子供先生…なにようかな? どうやら事情は知らないようですけど…)

ネギは口々に「大丈夫ですか!?」や「不良に襲われていると聞いて!」と焦っている。
対してのどかは顔を真っ赤にさせて、

「わ、私なんかが、その、パートナーでいいんでしょうか?」
「『は…?』」

思わずネギと刃の言葉が重なった。
見ればネギの肩の上には先日ネギのペットになったオコジョがいて、

「カモ君、これは!?」
(すまねぇ兄貴。手っ取り早くパートナー契約を結ぶために一芝居打たせてもらいましたぜ)

ムッ…。と刃は少し怒りゲージが溜まっていく。
それから流れるように魔方陣が発動し二人は意識が朦朧とする中、契約の証であるキスでの契約を結ぼうとした瞬間、

『あのエロオコジョ! 人の恋路を利用するなんて、許せません! 黒焦げになりなさいです!』

――呪相・雷天(ピリピリ程度の威力)

「プギャッ!?」
「えっ!?」

スタンガン程度の雷がカモに直撃し魔方陣はその意味を無くして効果を失う。
駆けつけていたアスナもカモを止めようとした矢先の出来事で動きを止めてしまっていた。
そこにはすでにプスプスと煙をあげて地にひれ伏しているカモの姿があったからだ。

ストッパーのアスナも来てくれた事もあり、刃は魔力を閉じてまた監視だけの作業に没頭するのだった。
そしてネギ達は怪しまれないように制服に着替えさせて(アスナが着替えさせた)下駄箱に戻して夢のようだったかのようにあやふやにすることになった。
そこにシホが戻ってきて先ほどの場面に戻るわけだ。

刃はシホの元に向かい少し会話をした後、

「…とりあえずのどかを寮に運ばなきゃいけないわね。まったく誰がこんなことをしたのか…」

シホは意識をネギ達が隠れているほうに向かせて、一瞬で元に戻りのどかを背中に背負って寮まで歩いていった。




◆◇―――――――――◇◆




「シホ、なんか怒っていたみたいね…」
「はい。シホさん、もしかして僕達の存在に気づいていたのでしょうか?」
「しっかし、あの雷はなんだったんでしょうかね…? 俺っちも全然気がつかなかったっすよ」

奇怪な雷にネギ達はまた新たな敵か? と身構えていたりしていた。




◆◇―――――――――◇◆




あくる朝、エヴァと茶々丸はシホ達とともに登校していた。
しかしシホの機嫌は現在すこぶる悪く、エヴァもそれを察してか話はせず、茶々丸もその方針で通し、タマモはオロオロしているしかできないでいた。
機嫌の悪い理由は言わずもがな魔法とまったく関係ないのどかを了解もとらずに勝手に裏の世界に引き込もうとしたのだからシホとしては許せないと言ったところだ。
そして下駄箱に到着するとそこにはネギ達がいた。
瞬間シホはネギ達、正確に言うとカモに視線を集中させ怒りで乱れる思考をなんとか抑えて、

「エヴァ、私達は先に行っているから…」
「あ、ああ。ではな」

すぐに上履きに履き替えてネギ先生に無言で一礼をしてその場を後にした。
なにやらエヴァがネギと後方で会話しているようだが今は聞く気にはなれなかった。

「シホ様…」
「心配しないでタマモ。私は自分を見失ったりしないから…」
「わかりました…でも、無理はなさらずに」
「ええ。タマモを悲しませたりはしないわ」

タマモの頬に触れてそうシホは呟いた。


…一方でネギ達はカモの口車に乗せられた形になったが、おでこにだがキスをしてアスナと仮契約を交わして一人になった茶々丸を尾行して戦いを挑もうとしていた。
それを監視していた一匹の管狐、焔は瞬時にやばい状況になると判断しシホ達を呼びに行った。

「あんの、馬鹿オコジョが…!」

シホは聞くや否やすぐに行動を起こして茶々丸達のいる場所に向かった。
そこではすでに戦闘が開始されていてアスナが茶々丸に正面から挑んでいる内にネギは魔法を完成させていく。
しかしまだ決心が出来ていないのか、

(兄貴!! 相手はロボだ! 遠慮なんてしないでドパーッと派手な魔法を打ち込んでやりな!)

カモが念話でそうネギに言い、ネギももう従うままに魔法の射手を茶々丸に向けて放ってしまった。

(そんな…! 本当に打つなんて!)

シホはネギの行動に失望の念を抱いてしまった。
そして茶々丸が避けきれないのを悟ったかまるで遺言かのように、

「すいません、マスター……もし私が動かなくなったら代わりにネコ達にエサを……」
「! やっぱり駄目ー!! 戻ってきてーーー!!」

ネギが叫び放った魔法を自分に向けて反転させた。
その魔法がネギに直撃する寸前で、

(やれやれ…やっぱり元凶はあのオコジョね。無理にネギ先生を強制させようとするからこういう事になるのよ)

そう心の中で呟きながらシホは弓と矢を投影して魔法の矢をすべて横合いから打ち抜く。
当然全員は呆気に取られるがいち早く思考を復活させた茶々丸はその場を離脱する。
シホもすぐにその場から撤退して茶々丸のところまでやってきた。

「茶々丸さん。大丈夫だった?」
「はい、シホさん。助かりました」
「そんな…結局は間に合わなかったわけだし。それにしても、まったくネギ先生はあの馬鹿の口車に乗せられちゃうなんて…」
「仕方がありません。ネギ先生はかなり根を詰めていたようですし、さらにそこに誰かが一声かければすぐに傾いてしまうものです」
「まだ子供ゆえ、か…まったく本当に先が思いやられるわ」

シホの発言に茶々丸は無言でネギのいた方を見つめていた。



 

 

014話 新学期、吸血鬼異変《四》 反転し覚醒する人格

 
前書き
更新します。 

 



ネギ達が茶々丸を襲撃した事件から数日が立ち、その間にネギが一度逃げ出したり、立ち直った後はエヴァ邸にいき記憶を見て騒ぎを起こしたりと色々あったが、シホ達は一切関与しなかった。
そして学園結界が一時的に切れる一斉停電の日、

「まだ踏み込みが甘いわよ」
「ッ!」

シホは道場で二刀を持って刹那と稽古をしていた。
その傍らでタマモと刀子、龍宮が見学していた。

「ほら、また大振りになっているわ。もっと体術も取り入れてフェイントも入れていかなきゃ隙を突かれたら一気に形勢は悪化するわよ?」
「は、はい!」

また刹那が瞬動を使い迫ってくるが、シホも刹那の動く瞬間、限定的に自ら自身の隙を晒し刹那の攻撃してくる方向性を絞って莫耶(改)で受け止め干将で斬りかかる。
それが刹那のわき腹に当たる。だが当然刃は潰してあるので怪我をする事はないが痛みだけはじわじわと残り動きが鈍くなる。

「そこまで!」

刀子の声で両方共に剣を下げた。
そして途端刹那は脇を押さえてうずくまる。

「タマモ、お願い」
「わかりました♪」

タマモが治癒の呪を唱えると刹那の脇の痛みは次第に引いていく。
真名はそれにいささか驚いていた。

「すごいな…。刃を潰してあるとはいえ結構の痛みはあっただろうにもう痛みが引いているとは…」
「ああ、それはですね? シホ様は結構生傷を負う機会がありましたから結構重宝していたんですよ。なぜかレベルも上がりましたし。―――それに…」
『それに…?』

少し間を置くタマモに興味を示した三人は言うのを待っている。
シホは苦笑い気味だったが…。

「馬鹿連中…特に糞ナギと肉達磨ラカンが毎回喧嘩という名の死合いをしていましてねぇ…。
辺りに被害が出るので止めさせようとするシホ様にも被害も及ぶことが何度もありまして…」
『………』

とたん、全員からシホは哀れみの視線を浴びることになる。
気まずい表情になるシホ。

「その度にシホ様がO・HA・NA・SHIと言う名の説教をして全員を気絶させた後は私が治癒をしていましたから自然とうまくなっていきましたねぇ」
「タマモ…できればその話は黒歴史としてしまって置いてほしかったわ」
「先輩…苦労したのですね」
「女性はシホさんにアヤメさんだけですからついていくのも苦労したでしょう」
「いや、二人とも。エミヤの実力については触れないのか…?」

龍宮の疑問は当然のように流されていった。
それより、とシホが切り出し、

「今日から夜の警備に加わることになったから一応だけど全員の連絡先を教えておいてくれないかな?」
「わかりました」
「ああ、構わない」
「承知しました。…しかし先輩の力が間近で見られると思うととても眼福です」

刀子が少しうっとりしているのを悪いと思ったシホはすぐに、

「いえ、今夜は大掛かりな停電で結界もすべて消えると聞いたので私は後方から龍宮と一緒に支援します」
「ほう…では今晩は『魔弾の射手』のお手並み拝見というわけだな?」
「うん。今日はそうそう油断できないくらい状況が続くと私は見たので私と龍宮で敵が現れたらすぐ報告するというのはどうだろう?」
「私は構わない。私以上の魔眼の持ち主の提案だ。悪い状況にはならないだろう」
「では私と刹那が前衛ですね」
「では私はお二人の後ろで打ち漏らしを滅します」

タマモがそう言うと私を除いた三名は驚いた顔をしている。
なぜかというと、

「アヤメさん、あなたは接近戦の心得はあったのですか…?」
「ムッカ! 私はこれでもシホ様のサーヴァントですよ!? それに…」

ボンッ!という音とともに狐耳と尻尾を具現化させ瞬時に刹那の背後に回りこんで呪相・炎天の印が刻まれた呪符を首に突きつけていた。
その目は先ほどとは違い鋭くなっていて敵意があるのならすぐさま刹那は炎に焼かれていただろう。
ついでというか残りの二人の周りには琳達四匹が取り囲んでいて威嚇している。

「い、いつの間に…」
「油断大敵ですよ♪」

タマモは妖艶な笑みを浮かべながら刹那の首を一回撫でた後開放した。それで刹那は冷や汗を掻いていた。
シホは疲れた表情で、

「この通り、タマモは優れた呪術師で以前に詠春に聞いた話だけどタマモに勝てる現代の呪術師はそうそういないらしいよ。
それに式使いに加えて自己流の体術も一流にまで昇華したから遅れはとらないわ」
「えへへ~、シホ様に褒められちゃいました♪」
「こうも簡単に後ろを取られるとは…まだまだ修行不足ですね。これからも精進します」

道場で色々と計画を立てて一同は今夜に控えて一度部屋に戻った。




◆◇―――――――――◇◆




…しばし時間が過ぎて学園結界の境界線である森付近でシホ達は再度合流をしていた。
刹那達はもちろんシホも久々に着る『赤原礼装』のフル装備で全員が合流するのを待っていた。
そこでふとシホはそこにまだ見知らない生徒がいる事に気づく。
その生徒はシホの視線に気づいたのか近寄ってきて、

「あなたが噂の“剣製の魔法使い”と謳われるシホ・E・シュバインオーグさんですね?」
「ええ、まぁ。ところであなたは…?」
「ああ、申し送れました。私は高音・D・グッドマン。高等部の二年です。そして…」
「わ、私は、その…中等部の二年の佐倉愛衣といいます。よろしくお願いしましゅっ!?」

愛衣は緊張のあまり舌を噛んでしまっていて高音に落ち着くように背中を揺すられていた。
そんな光景にシホは疑問の表情をしていたが、実は愛衣も赤き翼でのシホの活躍を知っていて隠れファンだったりする。
それで憧れの人物が目の前にいればおのずと結果は見えている。

「す、すみません…!」
「別に構わないよ? 今夜は大仕事になるから緊張はしちゃうもんね」

だが、やはりシホは自分事には鈍いので勘違いしているのはお約束。
和やかに時が過ぎていき二人は吸血鬼という先入観はシホと話をいくらかしていくうちに取り払われていった。
そこに遅れて刀子がやってきてようやく今夜のメンバーの全員が揃った。

前衛の葛葉刀子、桜咲刹那。
中衛の高音・D・グッドマン、佐倉愛衣、玉藻アヤメ。
後衛の龍宮真名、シホ・E・シュバインオーグ。

メンバーとしては豪華なものだろう。
歴戦の経験を持つ刀子が前衛で、中衛に呪術師のタマモ、後衛には魔眼持ちの龍宮に吸血鬼のシホ。
あまり本格的な戦いというものを経験していない刹那、高音、愛衣にとって心強いことこの上ない。

「それじゃ私と龍宮は高台に移動するからなにかあったらすぐに報告するわ。龍宮もそれでいいね?」
「問題ない。この目で『魔弾の射手』の実力が見られるのだから見物料を払いたいところだ」
「そんなに特殊なものじゃないけどなぁ…。まぁいい。それじゃタマモ、しっかりと守りを努めるのよ?」
「わかりましたぁ! タマモ、頑張っちゃいます!」

本来の姿で元気に気合を入れている姿を見て変に気を張るのもどうかと思ったのか全員緊張がほぐれたらしい。
そして時間は過ぎていきそれぞれが持ち場についたのを見計らい、

『―――こちらは放送部です。これより学園内は停電となりますので学園生徒の皆さんは極力外出を控えるようにs……ザザァ……』

…途中で途切れてしまった放送。
それによって学園結界は完全にその機能を一時停止する。
それを知ってか次々と異形の数々が学園を目指して進軍してくる。

「やはり来ましたか。ほかの区域にもわらわらと出現しているようですからなるべく消耗戦は控えて事態に挑むように」
「わかりましたわ」
「は、はい!」
「承知!」
「はーい!」

今回のリーダーである刀子の言葉に全員は返事を返す。若干一名軽いノリだがそれも実力あるものの声なので黙認された。
そして全員が動き出そうとした矢先に、

『こちらシホ・E・シュバインオーグ。まずは前線を切り崩します』
『龍宮だ。エミヤと二人で遊撃するので隙をついて退治してくれ』

二人の言葉と同時にまるで流星のように矢と銃弾が降り注ぎ瞬く間に我先にと進軍してきた魔物達は還されていった。

「す、すごい! 龍宮先輩は銃でスコープも使っていて正確なのはわかりますが、シホさんの放つ矢はそれを凌駕するような圧倒的な精密さです!」
「確かに…。ですが驚いてばかりもいられませんよ、愛衣? すでに刀子先生と刹那さんが突撃していっています。アヤメさんも二人の後ろについていくようにして敵を倒していっています」
「わわっ! 出遅れてしまいましたか」
「そうね。ですがすぐに挽回しましょう!」
「はい、お姉さま!」

そうして二人も後を追って魔法による攻撃を開始した。


◆◇―――――――――◇◆


龍宮はシホの近くでライフルによる狙撃を行っていたが時折目を外してシホの方を見やる。
そこにはまるで精密機械かのように目を鋭くし体勢を一切崩さず無心に矢を撃っては再度その手に瞬時に新しい矢が握られていて数秒もせずに次の射手を放つシホの姿を見て、

(魔弾の射手という二つ名を持っているのだから相当の腕前だと思っていたが…あれは私の想像を遥かに超えている)

まさしく魔弾だ。そう龍宮は目と肌で感じ取った。
もちろん報酬に見合うくらいに撃ち込んでいるだろうが、銃と違い精密さにかける弓矢というハンデを持ってしてもすでに龍宮の三倍の速度で矢は放たれる。
そしてそれは寸分狙い違わず敵の急所に刺さり、いやこの言い方は変だ。急所を穴が開くほどに貫いている。
龍宮はその人外じみた、まさしく神業に本当の意味で実力の差を思い知った。

(なるほど…。確かに魔弾の射手という称号を名乗るに相応しいな。これで剣と魔法の腕も相当あるのだからあまり敵に回したくないな)

打算抜きに正直な気持ちで龍宮はそう思った。
ふと学園内から膨大な魔力反応が溢れてきて何事かと思ったがそこにシホから通信が入り、

『どうやらエヴァが行動を開始したらしい。でも私達は仕事に専念しよう。あっちは勝手に解決するだろうから』
『違いないな』

余裕の発言に龍宮は冷静ながらも静かに心を燃やしてその腕に追いつくことを決心した。
だが、それから少し時間が経ち学園結界の復旧もあと少しだという時間帯に予期せぬ事態が訪れる。
それによって龍宮は己の目を疑う光景を目にすることになる。




◆◇―――――――――◇◆




前線では今まさに激戦が繰り広げられていた。

「はぁっ!」

ズバッ!

刹那は夕凪を縦に振り下ろし妖怪を一体還す。
そこに「刹那、そちらに数体向かいましたよ!」という刀子の声が聞こえてきて、刹那はその敵の懐に飛び込んで、

「神鳴流奥義! 百烈桜華斬!!」

刹那を中心にして円を描くように無数の斬撃が放たれその周辺一帯の敵を一気に切り裂く。
しかし打ち漏らしがいたらしく技後の硬直の刹那に襲いかかろうとしたが、

「そんな隙、いただいちゃいます♪」

―――呪相・炎天。

「■■■―――!?」
「よく燃えますねー」

突如刹那の周りの敵がすべて炎上し灰と化す。
そこにはタマモがお札を数枚構えながら刃と焔の双子に指示を飛ばしている。
刃は体を硬質化させて体に雷を纏いながら高速回転をして敵陣を一直線に切り裂いていく。
焔はその口からいくつも体以上の炎の塊を吐き出し、ときにはブレスとして次々と敵を焼き払っていく。

『『お母さんのために頑張る!』』
「張り切って体力切らさないようにね?」
『『はーい!』』

愛衣達はその光景を見てさすがシホの使い魔達だと感心していた。
だけどそれに負けじと、

「メイプル・ネイプル・アラモード! ものみな焼き尽くす浄化の炎破壊の主にして再生の徴よ我が手に宿りて敵を喰らえ『紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)』!!」
「いきなさい、影達よ!! 『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・氷の20矢(セリエス・グラキアーレス)』!!」

愛衣は紅蓮の塊を手から放ち、高音も影達に命じて一体に一体対応させ自身は無詠唱で氷属性の射手を放ち応戦していく。
そして時間は過ぎていきもうそろそろ時間だという時に“そいつ”は現れた。

「お、お姉さま!」
「愛衣、下がりなさい! 私達では対処は難しい!」
「ここは刀子さんと私にお任せを!」
「いきます!」

そこには一体の悪魔が立っていた。
なぜ今まで魔物や妖怪の類ばかりだったと言うのに急に一体だけ姿を現したのか詮索は抜きにして刹那達二人はかかっていき、高音達二人も他の敵の相手をしながらも援護をしている。
ただ一人を除いて…。

「アヤメさん! 何を呆けているのですか! 早く援護を!」
「あ…あ…ダメです。いけません…気を静めてください…!」

タマモは周囲の声が聞こえていないのか頭を抑えながら必死に誰かに対して説得をしている。
その様子に四人は怪訝な表情をしたがそれはすぐに訪れた。

「「「「!!?」」」」

強力で、しかもとても禍々しい魔力が突如背後から発せられた。
それで四人とも背後を振り向いたが、すでにその魔力は一瞬にしてまたさらに背後から感じまるで地震でも起きたかのような轟音が響く。

「おやめください! シホ様ッ!!」

タマモの悲痛な叫びと共に四人はまた悪魔の方を見てあまりの光景に恐怖を感じた。





………一方、ネギと現在交戦中のエヴァはその魔力を感じ取り、

「なんだ…? なにが起きている?」
「マスター、魔力係数がとてつもないほどに感じ取っています」
「本当に何が起こっている…!?」

エヴァもこうした事態を想定していなかったので焦りを見せるが今はネギ達と勝負を楽しんでいる真最中。
よって他のものが対処するだろうと見送った。
肝心のネギ達は勝負に必死で異常な魔力に気づかなかった。




◆◇―――――――――◇◆




シホは目に映るモノを見て冷静さを無くす。

“悪魔”。

特段珍しくもないがやはり裏世界ではそれは有名な種族だ。
魔法世界では共存しているものさえいるほどだ。

だが今回はシホの目に映ってしまい、そして還す対象であるからして、最後に記憶の奥に閉じ込めておいたある出来事が脳裏を埋め尽くす。
それは…。



―――■■■の■■は■■■■■も■■■な。■■■■に■■■■だ。





「あああああああああーーーーーッ!!!」

シホからまるで苦しむような叫びがあがり、両手の爪はすべて硬質化し、片目は琥珀色からまるで血のように紅く、紅く真っ赤に染まり牙が鋭く尖る。
今のシホの思考回路はある事項を告げる。奴を殺せと!
龍宮はいち早くその凶悪な変化に気づいたが、静止する間もなくシホの姿は転移魔法をしたかのようにその場から掻き消える。
そしてタマモのラインにも耳を貸さず刹那達四人が振り向く瞬間にはすでに通り抜けていてその手を、爪を悪魔の顔面に突き刺しながら地面を陥没させる。

「■■■―――!?!?」

悪魔は声にならない叫びを上げた。シホはそれをまるで人形のように持ち上げて何度もその怪力の拳で高速の連撃を与える。
その度に悪魔は口から赤黒い血を吐き出してシホを化生に染める。

「貴様が、貴様がぁ!」

攻撃を加えながらもシホは叫ぶ。
全員はそれをただ見ていることしか出来ないでいた。
動けない、本能が動いてはいけないと指示を出しているからだ。動いたら次は自分だと言うかのように…。
ゆえに、見ることしか出来ないでいた。タマモを除いて…。

「シホ様! そいつはシホ様の仇ではありません! どうか、どうか気をしっかりお持ちください!」

なんとか近寄ろうとするがあまりの魔力の余波に近寄れないでいた。
その間にもシホは攻撃を加えながら、

「■■も! よ■■何度■■の■を■■■■■■■なぁーーーっ!!!」
『!?!?!?』

シホのかろうじて聞こえたその発言に全員は思わず戦慄した。

「死ねぇーーーーーッ!!!!」

最大級の魔力の籠もった拳を悪魔にぶち込み、そこには胸に大きな穴を開けた悪魔の姿があった。
だがまだ悪魔は生きていた。いや死なせてもらえなかった。体は煙となって消えていっているが逃がさんとばかりにシホは悪魔の首筋に牙を突きつけた。
最後に悪魔は血をすべて吸い尽くされて還る事無くその場で消滅した。

「あ、あは…あはははははははははは!!!」

そして悪魔が消滅したことを確認するとシホは普段の落ち着いた態度は一切も感じられず高々と歓喜の笑みを浮かべて高笑いを発していた。
そこにはシホ・E・シュバインオーグという人物は存在していなかった。
そこに存在しているのは吸血鬼として覚醒した名も無き化け物だった。

一通り笑いつくして吸血鬼は刹那達のほうに振り向く。
その目はまるで捕食者のそれで全員が身構えようとしたその時、

「ガッ!? ぐぐぐ、貴様! まだ意識が残っていたのか!? さっさと我にすべてを明け渡せ!!」

突如として苦しみだす吸血鬼の姿にタマモはまだ希望があると踏み、

「皆さん! アレが苦しんでいるうちに束縛の魔法を!」
「えっ…」
「早く!! シホ様をアレから助け出せるチャンスです!」

全員は一度頷きそれぞれ束縛の術を構築する。
当然吸血鬼は解こうと反抗するが、

「おのれぇ! 我を奥底に封印するつもりか!? があああああッ!!?」

吸血鬼の体から光が溢れてたちまち全身に光が走り、それが止んだと思った途端、体が地面に倒れる。

「シホ様!!」

すぐさまタマモが駆けつけ、遅れて全員が駆け寄る。龍宮も遅れてかけつけてきた。
そしてシホ?は目蓋を開くとその両目は普段の琥珀色に戻っていた。

「……ごめん、ね、タマモ。吸血鬼としての血と、もう一つの人格を抑えることが、出来なかった…ほんとうにごめんね…」

シホは泣いていた。
あまりにもふがいない自身に対して。そして皆に恐怖を与えてしまったことに対して。

「大丈夫です! シホ様は誰も殺していません! だから、だからもう泣かないでください…。シホ様が悲しいと私も、私も悲しいです…!」
「ごめんなさい…」

最後にそういい残しシホはそのまま意識を手放した。
それで今まで黙っていた刀子はタマモに、

「…アヤメさん。先輩は、先輩は本当にさっき言った事を、されていたのですか…?」

刀子はもちろん、その場に居合わせた全員は信じたくなかった。これが夢ならどれだけよかったことか。
だがそれはしっかりとした現実であり悲しい過去でもある。

「………はい」

長い沈黙の末、タマモは肯定の言葉だけを告げた。
途端、刀子は地面にしゃがみ込みシホを抱きしめて無言でタマモとともに泣いた。
他のものもショックのあまり涙を流していた。


…こうして吸血鬼異変はネギとエヴァの戦いは無事に終了したが、シホ達のほうは各々多大に悲しみの影響だけを残して幕を閉じるのであった。


 

 

015話 新学期、吸血鬼異変《終》 落ち込む心

 
前書き
更新します。 

 



停電での大仕事が終わった翌日のこと、その日シホは学校を休み魔法施設の一角にある魔法専門の医療施設で眠っていた。
そのわけは当然昨夜に発現した吸血鬼としてのシホの人格についてだ。
一緒に休んだタマモがガラス越しに見守る中、専門スタッフ総動員でシホのうちに存在する吸血鬼の人格だけを除去、もしくは封印処理をしている真っ最中だ。

「シホ様…」

タマモはただそれを見守ることしか出来ない事に深い悲しみの感情を宿す。
シホの症例はやはりというべきか『解離性同一性障害』…いわゆる多重人格だった。
考えてみれば二十年もの間、様々なことをされてきたにも関わらずなにも障害を残さないと言うのが稀である話で、シホもその例にもれず二つ目の人格が生まれてしまったことになる。
しかもそれは最悪なことにまさに吸血鬼として堂々とした残忍な人格で、もしシホが抗うことなくすべてをその人格に委ねていたら完全に取り込まれ本物の化け物になっていただろう…と診断したスタッフ達は口を揃えてそう言った。
それを聞いたのはまだ昨夜の事でシホが急患として運ばれてきていたので当然刀子、刹那、龍宮、高音、愛衣の全員も着いてきていてその診断結果に愕然としたのは言うまでも無い。

(どうか私からシホ様を奪わないでください…もう、タマモは大切な人を失うのは嫌なのです!)

両手を握り締めてタマモは祈った。




◆◇―――――――――◇◆




ところ変わってまた学園長は魔法先生全員を招集していた。
そうするように相談したものは葛葉刀子その人である。
突然の学園長室訪問に学園長も相当焦ったそうだがこうしてなんとか無事に会議は開かれた。

「皆のもの、また突然招集をかけてすまんの」
「いえ。それで用件と言うのはやはりシホ姉さん、エミヤの事ですか…?」
「その通りじゃ。刀子くんの願いもあり今回集めさせてもらった」

学園長はそう答えて髭をさするが突然刀子が立ち上がり、

「なにをのん気な事を言っているのですか学園長! それに高畑先生も!…なぜ、なぜ黙っていたのですか!?」

剣呑な表情をした刀子の姿に一同は大いに驚いた。
普段の彼女からはとても想像できない剣幕で二人を睨んでいる。
もし敵同士であったのならすぐ様にでも斬りかかるといった雰囲気を醸し出している。
それに神多羅木が「少し落ち着け…」といつも通りの低音で宥めるがその額には一筋の汗が流れていた。

「刀子先生、それはどういった事かな? まだ状況把握もできていない我らにとってはどう対処すればいいか分からないんだけど…」

明石がそう告げると次第に刀子は息を整えていき「…無礼を働いてしまい失礼しました」といって着席した。
だがやはりどうして…?という疑惑の視線は消えたりはしない。
他のもの達もどういう事か説明を、という視線を寄こしている。

「…昨晩の報告は聞いておる。シホ殿が突如一体だけ出現した謎の悪魔に対してあまりにも異常な力で無理やり消滅させたという…まるで暴走したかのように」

学園長が報告書を読み上げると周囲がざわめき立つ。
とくにタカミチは顔を青くしていた。

「まず状況が知りたい。詳しく話してもらえんかの?」
「…はい。昨夜の襲撃の際、全員の意見を照らし合わせて先輩は悪魔が現れたと同時に絶叫を上げて私たちでも目視不可能な速度で悪魔の顔面に爪を突き立て、何度も殴打を繰り返し、最後に拳に盛大に魔力を固めて胸部に穴を開け最後に血を吸い消滅させました。
そしてまるで歓喜したかのように笑い、次は私達の方に向き仕掛けてこようとしました」
「なんだとッ!?」

それにガンドルフィーニは反応を示し即座に学園長に「やはり…!」と話を振ろうとした瞬間、『バンッ!』という卓上を叩く音がして全員はまた静かになった。

「ガンドルフィーニ先生…話は最後まで聞いてくださらないといけませんよ?…でないと思わず協定を無視してあなたに攻撃を仕掛けてしまうかもしれません…」
「…!」

刀子の目を見て全員はそれが本当だろうと確信し黙り込んだ。
そして刀子は静かになったのを見計らいまた会話を再開した。

「ですが突如苦しみだし、そのものは自身のことを『我』と呼称し虚空に向かって誰かと会話をし始めました。
当初は意味不明でしたが発言の中に『まだ意識が残っていたのか!? さっさと我にすべてを明け渡せ!!』なる言葉を発しました。
そして咄嗟のアヤメさんの『アレから助け出せるチャンス』という指示で各々捕縛魔法を仕掛け拘束し、苦しみがピークに達しただろうときに体が発光し晴れた時には先輩は意識を取り戻して、

『吸血鬼としての血と、もう一つの人格を抑えることが、出来なかった…ほんとうにごめんね…』

と、いって最後まで泣きながら謝罪の言葉を繰り返しそのまま気絶しました…。
そして最後にこれが今回確認したいことなのですが…先輩は暴走時にかすれる声ながらもある言葉を発しました」
「その言葉というのは…なんじゃったんじゃ?」

一同は真剣に聞き入りその発言がなんだったのかを刀子に聞く。
だが刀子は突然涙を流しだしてしまい、しゃくりをあげながらも、

「『よくも何度も私の体を食い散らかしてくれたな』…と」
『………!!?』

全員の顔から血の気が引いていく。
それはつまり…人権を無視した行為の最中、その連中は悪魔を使い何度も“食せ”と命じたことになる。
それはなんと恐ろしく、そしておぞましいことか…。

「現在、先輩は魔法医療スタッフ総出で発現してしまったもう一つの人格の封印もしくは除去の執行にあてられています。
それでお話は戻りますが、学園長に高畑先生…どうしてこの事を黙っていたのですか?」
「「………」」

二人は沈黙していたが全員の視線にやっと重い腰をあげたのか、

「儂もタカミチ君も…これだけは話しとうなかった。シホ殿は吸血鬼にした後、馬鹿な魔法使い連中はある一体の上級の悪魔と契約の証としてシホ殿を供物代わりとしおった。
それで協力する代わりに毎日その上級悪魔はシホ殿を何度も、そう何度も貪り食っておった…何度儂やタカミチ、エヴァは吐きそうになったかわからん。あまりの怒りにわが身を忘れそうになったかわからん!
………シホ殿は二十年という月日の約半分以上を『視肉』…―――食べても食べてもなくならないという肉のことじゃが―――…として扱われておった!
そんな…非道な行いを皆の前で平然と話せると思うたか!!?」

学園長は机の上に乗せた両手をブルブルと震わせて必死に我慢している。その細い目からはとめどなく涙を流している。
タカミチももうすでに手で顔を見えないようにして背中を向けている。
あまりの衝撃な事実に話をしだした刀子でさえ呆然と立ち尽くすしか出来ないでいた。
二人は(いや、エヴァとタマモもいれれば四人)は必死にこの事実を隠していたのだ。
それがどれだけ自身に苦痛を与えるかも承知のうえで…。
学園長達の心理をさとり全員は再度シホをしっかりと見守ろうと心に決めた。

そのとき、刀子の携帯が無音の部屋に鳴り響き、一度刀子は部屋を出て行きしばらくして戻ってきて、

「学園長…例の別の人格の件ですが除去は無理だったそうですが代わりに完全に封印はできたそうです…」
「そうか…。それはよかったの」

喜んでいいのかよくないのか分からない報告だが、とりあえず今は喜んでおこうと一同は頷きそれで会議は終わりを告げた。




◆◇―――――――――◇◆




本日の学校が終了し、刹那、龍宮はすぐに医療施設に向かった。
途中でエヴァ達も合流し道中で事の次第を聞き、

「チッ…まさか悪魔が現れるとはな。またシホの傷が開いてしまったではないか。しかも二つ目の人格だと?…ふざけている」
「刀子さんの話ではその人格は完全に封印できたそうです」
「そうか…。くそ、いい話と悪い話は一緒にやってくるものだな」
「マスター…」

ネギにナギは生きているという事を知らされ舞い上がっていたが、これの件で一気に不機嫌になってしまった。
そして四人は施設に到着するとそこにはすでに刀子とタカミチもいてタマモとなにやら会話をしている。
こちらに気づいたのかタマモは元気の無い顔で、

「…シホ様は今眠りについています。ですからあまり声をあげないでくださいね?」

それに一同は無言で頷いた。
そしてガラス越しにシホはベッドに寝かされている光景を見てまた一同は涙腺が緩む。
だがエヴァは違い怒りの感情が先に出て、

「おのれ『蝿』が…! 私の力が戻っていればこの世から完全抹消しているところを…!」
「ハエ、ですか…?」
「そう、ハエだ。七つの大罪といえば見当つくだろう」
「なっ!? では先輩を何度もその…していた悪魔は『暴食』のベルゼブブ!?」
「いや、確かにそうだがそいつはその末裔というらしい。記憶の中で真の名は名乗らなかったからな。
だが力は相当の物なのだったのだろう…それでもそいつはもし姿を現したのなら地獄も生ぬるいと思える程の苦痛を与え最後に魂を消滅させてやる」

エヴァは打算抜きにそう啖呵を切った。
それだけ腹に煮え滾るほどの怒りがあったのだろう、残忍に笑みを刻むエヴァの姿に一同は『闇の福音』の真の姿を見た。




◆◇―――――――――◇◆




しばし時間が経過しシホは目を覚ます。
そして天井を見上げ、

「またこの病室か…。かなり縁があるかも」
「確かにな…」
「あ…エヴァ。それにみんなも…」

シホが目覚めて一同は喜びの表情をするが、シホ自身の表情は優れない。
それは当然だ。自身の内に二つ目の人格…しかも残虐性に満ちている性格の固体が生まれていたのだから。

「…それで、私自身のことはどうなるか決まったの…? やっぱり本国に送る?」

淡々と聞いてくるシホに全員は声を詰まらせた。
シホ自身押さえがつかない、そしていつまた出てくるか分からない裏の人格。…最悪身内を誰かを殺してしまいかねない。それが何も知らない生徒だったらシホは不死殺しの概念の籠もったハルペーで首を切ることだろう。
そこまでシホは分かりきって結論を出し全員にそう尋ねた。
だが、エヴァから「それはない」という言葉が返ってきてシホは思わず困惑した。

「どうして!? もし、もし校内や寮…ううん、それだけじゃない。様々な場所で奴が表に出てきてしまったら最悪みんなを殺してしまうかもしれない。そして今回はどうにか抑えられたけど、次も抑え込める自身は…私には、ない…」
『………』

ギュッと掛けられているフトンを皴が出来るほど握り締めて俯きながらそう感情的に言った。
それを聞いて全員は相当追い込まれているという感じを受け取った。
元が人間だけあり感性はそのままなのにいつ吸血鬼として目覚めて殺戮をしてしまうかシホは怖くてたまらない。
だがそのシホの震える手をタマモは握り締めて、

「大丈夫ですよ、シホ様…。例の人格は表に出てこないように封印処理をされましたからもう脅える事はありません」
「えっ…封印…?」
「はい。ですからシホ様は心配することは無いのです」
「そうですよ、先輩。それに上と掛け合いまして今回の件は一同の胸の中だけに収めておくことでけりをつけさせましたので先輩は追い出されることはありません」
「だ、そうだ。だからせいぜい今後は暴走しないように努力するのだな。私も力になってやるから安心しろ」
「エヴァ…最近丸くなったな」
「うるさいぞ、タカミチ。私は誇り高き吸血鬼の後輩を見捨てるほど腐ってはおらん」
「みんな…」
「ですからシホさん。自分を追い込むのはやめにしましょう。ためになりません。それにいつものシホさんの方が好感を持てますから」
「好感をもてるのは確かだが…刹那、お前は追い込むことに関しては人のことを言えないだろう?」

クックックッ、と龍宮は微笑を浮かべる。
それに刀子やエヴァも同感のようで笑みを浮かべている。

「う、うるさいぞ、龍宮!」

顔を赤くして反論する刹那の姿に一気に部屋は明るくなり重い空気も取り払われていった。
シホもみんなの気配りに感謝してお礼の言葉をいった。それはとてもいい笑顔で。
当然それによって若干数名がトロンとした表情になったのは言うまでも無いことだ。
タカミチは心の中で必死に顔に出ないようにして後にどこかの人気が無いエリアで無意味に居合い拳を放っていたという。




◆◇―――――――――◇◆




一同があらかた解散した中、私はある事が気にかかってエヴァと茶々丸を病室に引き止めていた。

「ところでエヴァ。エヴァがまだここにいるっていう事は、計画は失敗したってこと?」
「うっ…痛いところをついてくるな。まぁ結果はそうなるな。存外あのぼーやは粘ってきてな。時間切れでタイムアップだ。だから今回はドローだといっているのに奴ときたら…」

なにやら苦い思考になっているので触れないようにしておいた。被害を受けるのはごめんだから。
だがエヴァはすぐにいい笑顔になり、

「ところでシホにタマモ。喜べ、いい話をぼーやから聞き出せたぞ」
「なに?」
「なんですか? あのお子チャマ情報ですから少し不安ですけど」
「まぁそういうな。なんとな、あのナギがどこにいるか知らないが生きているそうだ」
「は? え!?」
「マジですか!? あのナギが!」
「やはり驚くよな」
「当然でしょ。死んだと思っていたからね」
「はいです」
「そうか。なんでも六年前にあったきりだとかで事情は聞かなかったがな。ついでに修学旅行は奈良・京都だからナギの別荘のことも教えといた」
「あぁ、そういえばあったね。詠春に無理いって作らせていたっけ。場所は知らないけど」
「そうなのか。まぁいい。それまでにお前も準備はしておくんだな。どうせなにか揉め事に巻き込まれることだし、な」
「もう確定みたいに言わないでよ。なんか先行き不安になってくるじゃない。それに基本はあまり接触しないのが方針ですから」
「そうか。まぁいい知らせを待っているよ」

そういいエヴァは病室を後にした。
しばししてシホ達も着替えをして施設の人に挨拶をして家に帰ることにした。
空を見上げ、

「まだ不安だけど、私はここにいていいんだね…」
「はいです。それに私はどこまでもついていきます」

タマモの言葉でシホも笑顔を見せた。


 

 

016話 修学旅行への準備

 
前書き
更新します。 

 



シホが医療施設に収容されていた当日、ネギは学園長により関東魔法協会と関西呪術協会の友好の証の親書を託されていた。
その帰り道、私服姿のアスナと木乃香の二人と合流して色々と町を散策していたそのとき、一同はシホとタマモと遭遇した。

「あれ、シホさんにアヤメさん。今日はどうしたんですか? 学校に来ていませんでしたけど…」
「あっ、えっと…ちょっとある事情で病院にいっていたんです。本日は休んでしまってすみませんでした」
「私も付き添いでシホ様に着いていきましたのでごめんなさいです」
「そうだったんですか。安心しました」

ネギは安心していた。
シホがまた例の症状を起こして休んでいるのではとネギは不安を募らせていたからだ。
事実、その通りなのだがネギ達はそれを知るすべは持っていないから知らないのも仕方がないことだが。
それでちょうどいいという状況でネギはシホ達を修学旅行に持っていく服などを買うために誘いをした。
それでシホ達も断る理由がないので快く承諾した。

「それじゃいきましょうか」
「はい」
「ところでシホってさ、普段どんな服を着るの? あんまし見たことがないし」
「そこら辺は私にお任せを! シホ様の私服のコーディネートは私がしておりますので」
「ちょ、タマモ!?」
「「「へー…」」」

三人の感心したような発言にシホは言葉を詰まらせた。
それでどう言葉を出そうか考えていたけどアスナが前に来て、

「まぁここに来るまで車椅子生活だったんだからしょうがないよね。それじゃ今日はシホの私服コーディネートでもしましょうか。ついでにネギも含めて」
「了解や。ウチに任せとき!」
「いいですよー。それじゃ張り切っていきましょう!」
「よろしくお願いします」
「お、お手柔らかにお願いします…」

四人の楽しそうな顔を見てシホは逃げ口を失ったのでとぼとぼとついていった。
それから五人+一匹は服の試着などを繰り返していた。
その最中、カモはまだ詳しく知らない二人のことを知りたがっていた。
そこでネギが着替え中にカモが話しかけた。
最初、木乃香との仮契約の話を持ち出されたが最初はアスナだけでいいと言ったが、カモはあきらめずに、

「なぁなぁところで兄貴。やっぱシホって子、見ていてかなりレベルがたけぇよな」
「またその話? レベルって何のこと?」
「決まってんだろ兄貴。仮契約だよ、仮契約。シホ姉さんかもう一人のアヤメっていう姉さん。かなりいい線いってると思うけどな」
「えー…。駄目だよ、カモ君。シホさんの事は知っていると思うけど重い心の病を持っているんだよ」
「むぅ…。しかしなぁ、さっきもいったけどこの先またエヴァンジェリンみたいな奴が現れるかもしれねぇから戦力にしとくにはいいと思うけどな」
「うっ…。でもぉ…」

ネギはそういいながら懐からアスナとの仮契約カードを取り出した。
そこに木乃香が着替えの手伝いといって中に入ってきてちょうどネギの手に握られているカードが木乃香の目に入った。




◆◇―――――――――◇◆




ネギと木乃香が騒いでいる間にアスナがタマモと一緒にシホの服を選んでいた。

「アスナ、何か楽しんでいない…?」
「そんなことないよー? ね、アヤメさん」
「はいです。シホ様は何を着ても似合いますから着せ替え甲斐があるってものです」
「そういうならそんな服を持ってこないで…」

シホの目の先には、アスナは黒、タマモは白と二人ともゴシック服が手に持たれていた。
しかも目が少しハイになっているようで少し涙目になっていたシホ。
結局試着として着替えさせられた。

「似合う!」
「シホ様、とてもお似合いです!」
「………ッ! しゅ、修学旅行には関係ないと思うんだけどなぁ…」

現在、シホはアスナの持っていた黒のゴシック服を着用していた。
それで店内にいる他のお客も見学していて揃って口々に似合うと言っていてシホは赤面しながらもうんざりしていた。
そしてフルフル体を震わせながらシホは吼えた。

「いい加減にしなさい! 今は修学旅行に持っていく服を探しに来たんでしょうが!!」
「「は、はい!」」
「正座しなさい!」

それからシホの説教が始まった。
余談だがゴシック服で説教をしている姿はシュールだったと、たまたま通りかかった某新聞記者はカメラを構えながら思っていた。

そして一通り終わったシホはふと木乃香はどこにいったのかと思い息を整えながら、

「…そういえば木乃香とネギ先生は?」
「あ、そういえばこのかとネギ、二人ともいないわね」
「探しましょうか」

そこでシホとタマモが荷物持ち待機、アスナが探しにいくということになった。
しばらくして顔を赤くしたネギ、なぜか残念そうな木乃香、疲れた表情のアスナがカモをつまみながら戻ってきて二人は不思議そうな顔をしていた。

「(もう、このエロオコジョ。シホ達にばれたらどうするつもりだったのよ)」
「(そこはこのか姉さんみたいにごまかせばオッケイっすよ!)」
「(…あんた、こりていないわね)」

ギリギリと雑巾のようにカモを絞っていて小声が聞こえていたシホは苦笑いを浮かべていた。
…後日、なぜかゴシック服を着たシホの写真が朝倉の手にありシホは何度か交渉したという。




◆◇―――――――――◇◆




後日、シホ達は学園長に呼ばれていた。

「どうしたんですか学園長? やはり修学旅行の話ですか?」
「うむ、察しがよいの。少し話があるがまだ来ていないものがおるので待っててくれるかの」
「わかりました」
「はいです」

シホとタマモがしばらく待っているとドアを叩く音がして学園長がよいぞ、と声をかけると中に刹那が入ってきた。
ある程度予想していた二人はやっぱりといった顔をしていた。

「先日振りです、シホさんにアヤメさん。お体は大丈夫ですか…?」
「ええ。もう平気だよ。それより刹那が来たって事ではじめましょうか」
「そうじゃの。まず話をすることは間近に迫っておる修学旅行の件じゃが…」
「やっぱりそうなのですね! シホ様、予想は当たりましたよ。ドンピシャです!」
「わかったわかった。だから少し黙ってて。それで何か重要なことがあるんですね?」

タマモを黙らせてシホは話を促した。

「うむ。シホ殿なら京都、奈良と聞いてピンと思いつくことはあるかの」
「そりゃありますよ。関西呪術協会しか思いつきません」
「その通りじゃ。もう関東魔法協会と関西呪術協会の仲の悪さを知っているじゃろうが、今回あちらがネギ君の京都入りに難色を示してきての」
「あー、なるほど」
「それで細かい説明は省くが仲直りのためにネギ君を特使として使いに出すことにしたのじゃ」
「それはいいですね。いい加減詠春も下のものをどうにかしないと示しが付きませんから、正式に書状を送ればこれから仲はよくなっていくかもしれないですしね」
「そうじゃ。じゃが話はそう簡単なものではない」
「と、いいますと?」
「大停電の時のことで分かってもらえたと思うが関西の下のものが色々と暴走気味じゃ。今回の旅行で直接手を出してくるかもしれん」
「そしてもしかしたらこのかお嬢様にも手をだしてくるかもしれないのです」

そこで今まで黙って話を聞いていた刹那が口を開いた。
それにシホは思い当たるのか手を顎に当てながら、

「なるほど…親書受け渡しの妨害に加えて、木乃香のあの魔力狙いかもしれない。木乃香が敵の手に堕ちれば人質として活用できて、そしてその魔力を使い強引に何か巨大なものを呼び出すかもしれない…そんなところ?」
「はい。まさに敵にしてみれば一石二鳥、いえ三鳥なことになり兼ねません」
「刹那としては是が非でも守らなければいけない対象というわけね、木乃香は」
「はい…。私はそのために影から見守っているのです」
「じゃからシホ殿にアヤメ殿。今回はもしもの事があったらネギ君達の助けになってもらいたいんじゃ」
「私もシホさん達お二人に助けを乞えるなら心強いです」
「うーん…そっか。私は構わないですよ。タマモもいいよね」
「はい。シホ様がお決めになられたなら反対はしませんから」
「うん、よかった。…でもどうしようか」

そこでシホがなにやら悩みの表情をしだした。
それに学園長と刹那はどうしたのかという表情をする。

「私とタマモ、刹那は三人とも旅行ではそれぞれ木乃香とは別の班に分かれちゃうけどどうしようか」
『あ』

そこで全員があっ、という表情をする。
判別行動のとき他の班員の行動を妨げるわけにもいかないから地味に見えて実はかなりの問題だった。
ネギが木乃香の班に防衛につくかもしれないがいささか不安だ。
四名は話し合った結果、式神を使うことになった。
刹那はまず「オン」と唱えると小人サイズの分身「ちびせつな」を作り出す。
これで刹那は木乃香の警護に当たるという。
次にタマモはなじみになった四匹の管狐を呼び出して、呪文を唱えると四匹のうち琳と雅がシホとタマモに変化した。

「母様、シホ様の姿になりましたが大丈夫でしょうか?」
「母上の姿ですか。この雅、いざという時には頑張らせていただきます」
「いざという時はお願いしますね。特に琳は普段からシホ様の警備も任せているんだからシホ様も守るんですよ」
「お任せください、母様」

そういって二匹はまた狐の姿に戻った。
ところが焔と刃がそこで駄々をこねた。

「ねぇねぇお母さん、私達は?」
「お母さん、ねぇねぇ…」
「あー、はいはい。後で役割を考えてあげるから今はおとなしくしていてねー?」
「「はーい…」」

二匹は落ち込みながらも返事を返すのであった。
少し疲れたがこれでタマモ及びシホの身代わりはできた。
最後にシホはどうするかというと、ここでシホの神鳴流時代の能力が発揮された。
剣でできた鳥形の使い魔を作り出して、そこに人型のお札を貼り仮初めの意識を封入させ実体化させると、ちびせつなと同じような「ちびしほ」が姿を現す。
しかもその気になれば人型サイズまで大きくなって戦うこともできるので実に勝手がいい。
実はナギ達と一緒だったときにこれを重宝していた。

…一通り術を確かめ合い十分に対応できると判断されたのでこれでいこうということになった。
最後にシホはあることを尋ねた。

「そういえば、私のことは外にはどういった風に伝わっているんですか?」
「そのことか。安心しなさい。吸血鬼ということは伝わっていないし、名前や顔写真の方も他人の空似ということで済ませておるからの。関係者にそれを尋ねられた時はヒヤヒヤものじゃったが、年月がかなり経っておるから歳を取らないということがわからない以上、ごまかし様はいくらでも存在するしの」
「はい。それを聞いて安心しました」
「じゃが、もしあの組織の生き残りの人間が現れたらすぐに知らせるんじゃよ?」
「はい。善処します…」

シホは学園長のやさしい声と言葉に感謝した。
それから解散となりその帰り、

「でも刹那って木乃香の昔からの親友なんでしょ? なにか理由があるの?」
「そうです。お友達とは仲良くするべきですよ」
「…いえ、私はお嬢様の幸せを遠くから見守るだけで幸せなのです。ですから…」
「そっか…。でも、いざっていう時に素直になれなかったら色々と後悔することになるから道を履き違えないでね? それで私もこういう事になっちゃったから…」
「助言、感謝します。シホさん」
「それならよし! それじゃ帰ろうか」
「はい」

 

 

017話 修学旅行異変《序》 観光パニック!?

 
前書き
更新します。 

 


修学旅行の当日、3-Aの生徒たちのテンションは上がっていた。
もう電車に乗る前からすでにお祭り気分。
先生のはずのネギでさえ旅行ということで任務を忘れているのではないかというくらいのはしゃぎようである。
そんな最中、タマモはシホと同じ班である和泉亜子にあることを頼んでいた。

「亜子さん、これを。もしものことがあったらお願いします」
「わかった。任しとき」

亜子がタマモから預かったのは例の精神安定剤(シホ用)であった。
その証拠にもらった小瓶の表面にはシホ以外絶対に使用禁止と書かれていた。

「絶対他の皆さんは飲んではいけませんよ? シホ様専用ですから飲んだら毒になりかねません」
「なんやそう聞くと責任重大やな。うん、絶対安全な場所に保管しとく」
「亜子さんだから、頼むのです。よろしくお願いしますよ」

なぜタマモがここまで亜子を信用しているかというと、あの大浴場での発作のとき、すぐに反応して急いで薬を取りに行ってくれたのが主に関係している。
のちに亜子から自分の背中の傷のことを話してもらい、それからよくシホの事を気遣ってくれるようになったのが大きいかもしれない。
そんなわけで同じ班ということもあり亜子に託したわけだ。

ところ変わってメンバーが足りないということで刹那は急遽ネギの計らいによって木乃香達五班の班員に入れてもらって電車が発車して少し経ち、刹那は休憩スペースでシホとともに話をしていた。

「よかったじゃない、刹那。これならすぐに助けに入れるわよ」
「そうですね。ですが…やはりもう癖みたいなものでついそっけない態度を取ってしまいました」
「こればっかりはしかたがない。慣れていけばいいと思うよ。どうせ旅行中は同じ班だから色々と行動は一緒にするだろうし」
「善処します」
「うん。それより…仕掛けてくるかね?」
「ええ、おそらく。少しでもちょっかいは出してくると思われます。シホさんはなにか感じましたか?」
「うーん…なにか空気に違和感はあるかな。タマモに聞いてみればすぐにわかると思うけど…」
「アヤメさんは呪術で争ったらおそらく知っている限りでトップの実力を持っていますからね」
「うん。なんせタマモは、っとと、いけない。思わず言葉でいっちゃうところだった」

シホはそこで口を閉じた。
その行動になにか思ったのか刹那はどうしたのか尋ねると、

「あやうくタマモの真名を言っちゃうところだった。ばれたら色々と対策を取られちゃうからね」
「なるほど。ではアヤメさんはそれほど有名なお方と同じような力を使うのですね」
「う、うん…(その本人といっても信じてもらえるか疑問だけどね)」

タハハ…と乾いた笑みを浮かべていたがそこで一同のいる方からいくつもの悲鳴が聞こえてきた。

「ん!? 悲鳴…もうなにか仕掛けてきたのかな」
「おそらく…」
「ちょっと見てくる。刹那はどうする?」
「ここに残って不振人物がいないか確かめます」
「わかった。それじゃ見てくるね」
「はい」

シホはそう言うと3-Aのいる方へ向かっていった。
そしてそこで目にしたのは…たくさんのカエルの団体にごたごたしている一同の姿だった。
中は大混乱としていてしずな先生及び数名の生徒が気絶。
肝心のネギも状況に流されあたふたしているという感じ。

「ふぅ…なんか疲れるなぁ。(でも、こうも一般の目に触れるような行為をして後のことを考えていないバカなのか?)」

そういいながら自然に席につくと龍宮が話しかけてきて、

「(どうした? 加勢しないのか)」
「(うん。最初は騒ぎをかけつけて見に来てお札を消そうと思ったけど調べて見たところ害意はないものだったから放っておいても大丈夫かな、と思って)」
「(違いない。しかしなにやら一匹の式らしきツバメがネギ先生から封筒らしきものを銜えてどこかにいってしまったが大丈夫なのか)」
「(うん、大丈夫。あの先には刹那がいるから)」
「(なら安心だな)」
「(しかしこれで相手もこれから色々とちょっかい出してくると思うよ? ネギ先生は見た感じちょろいから)」
「(確かに…)」

二人してため息をついていた。
そしてしばらくすると目的地に到着して写真撮影をしてから自由行動になった。




◆◇―――――――――◇◆




Side ネギ・スプリングフィールド


さっき、桜咲さんが親書を取り返してくれたんだけど、ど、どうしよう~……カモ君が「あいつは怪しいぜ!」といって警戒している。
確かに刹那さんの足元にはシキガミっていうものが落ちてたし。
エヴァンジェリンさんに続いて桜咲さんまで敵かもしれないなんて。
と、とりあえず警戒しなくちゃ。
それで京都に着いたはいいんだけど電車から出る前にまた桜咲さんがこちらを見ていた。やっぱり敵なんだろうか……?
でもそれはそれとして京都に着いた。それから清水寺っていうでかい神社に着いて集合写真を撮影して自由行動になったので色々と見学していたけど、

「これが噂の飛び降りる奴!?」
「だれか飛び降りれ!」
「では拙者が……」
「やめなさい!」

楓さんがなぜか本当に飛び込みそうになっていたのでひやひやしました。
ここってそういった話もあるんですね。
それに清水寺って高いから京の都を一望できてすごいです。
お父さんもこの町のどこかに家を持って暮らしていた時期があった…。
この一望を拝めるだけあってお父さんがここに家を持ったのも少しわかる気がします。
僕がそう感動に浸っていたらなにやら皆さんが占い…特に恋占いについて回りたいみたいです。
占いといえばアーニャは占い師としてがんばっているかな。
幼なじみについて考えているとカモ君が話しかけてきた。

「どうしたんでい、兄貴? なにか考え事か」
「え? ううん、ちょっと少し今会えない人のことをいろいろ考えていたところ。それより皆さんに置いていかれないようにいこうか」
「そうっすね」
「―――先生、誰と話しているんですか?」

と、そこへシホさんが話しかけてきた。
危ない。カモ君と話しているところがばれるところだった。

「なんでもないですよ」
「そうですか。まぁ気を付けてくださいよ。この先、色々(・・)と大変でしょうから…怪我はなさらずに」
「は、はい。でもどうして怪我とか…」
「いえ、ただの言葉のあやですよ。だから気にしないでください」

シホさんは笑顔を浮かべると僕から離れていきました。
なぜかシホさんの言葉が僕の中で残ったのを感じた。
エヴァンジェリンさんの時のように不吉な気配とかそんなじゃないし…、うーん。

「あのシホって生徒、やっぱりただものじゃないかもっすね」
「そうかな? 魔力もそんなに感じないし多分普通の生徒だと思うんだけど…」
「そうっすかね~?」



Side Out



シホはネギから離れると一息ついていた。

「ふぅ…これでよし、かな」
「どうされたのですか、シホ様?」
「あ、うん。なんでもないよ、タマモ。ちょっとネギ先生が目的を忘れかけていたから忠告みたいなことをしてみただけ」
「そうでしたか」

タマモに心配かけたみたいだとシホは思ってすぐに理由をいった。
そして、これからネギはどう行動をしていくのかを眺めていた。





◆◇―――――――――◇◆




Side 桜咲刹那


ふぅ、今のところはこれといって妨害工作は見当たりませんね。
とりあえず、今はネギ先生とその周辺を見張っていよう。
シホさんもまだ傍観に徹するということだから頼りはネギ先生だけだ。
しかし、あの先生についている使い魔(?)の視線が気になるな? シホさんの話では頭は回るが同時に空回りが多いと聞くし。不安だ……。
しばらくしていいんちょさん達が恋占いの石の場でチャレンジするみたいだ。
そこでシホさんからの視線が伝わってきて、

『委員長達を止めたほうがいいかな? 途中に落とし穴があるけど……』
『え、本当ですか?』
『ええ。それにまたカエルの符が敷かれているみたい。相当なめられているみたいだね。さて、ネギ先生はどうでるかな……だけど、今はなぜか注意が刹那に向けられているから気づくのはまず無理だと思う』
『はぁ、私ですか?』
『大方あのおこじょがネギ先生にいらん事を吹き込んでいるんじゃないかな? 私はとりあえずタマモと周りを警戒しておくから後は頼むね』
『はい、わかりました』

そこでシホさん同班の佐々木さん達と日常会話をしだしていた。器用ですね…。
だが、やはりシホさんの言ったとおり、

「わっ!?」
「な、なんですの!?」
「キャーーー!! またカエル!?」
「大丈夫ですか! いいちょさんにまき絵さん!?」

妨害工作に引っかかっていて後手に回ってしまっている。本当に大丈夫だろうか?
それからしばらくして音羽の滝についた一行は何名かが真っ先に縁結びの水を飲んでいたが突然次々と酔って倒れていった。
お酒の樽が上に仕掛けられているのは知っていたがそれも気づかないなんて、

「まぁ仕方ないか……色々重なっていて注意が霧散しているだろうから。後でシホさん達と対策を練らないと……」




Side Out




刹那がネギの行動に呆れている最中で、シホはお酒を空の魔法瓶に入れてエヴァにお土産として持ち帰るかなと考えていた。
そしてお酒を入れ終わっていそいそとしまうとちょうどよく、

「シホさん、龍宮さん、私たち以外の三名がこの有様だから運ぶのを手伝ってもらっていい?」

アキラの言葉でシホはまき絵達を運びながら、

「(うーん、どうも調子に乗っているようだね)」
「(予想どおりと言ってもいいんだぞ?)」
「(うん、まぁ…。だから私も身の振り方をどうするか考えてみるよ)」
「(なにかあったらよろしく。条件次第で力になるよ)」
「(うん。その時は無償でオーバーホールか、あるいは龍宮の好きだけどあまり食べる機会がない甘味ものを帰ったら作るよ?)」
「(どちらもいい条件だ。それじゃその時は頼むとしよう)」
「(了解。ま、頼むまでに事が発展しないことを祈るけど)」

それから旅館・嵐山に到着してシホは刹那とともに温泉に向かいながら話をしていた。

「で、どう? ネギ先生は」
「正直言ってしまえばまだまだですね」
「やっぱりそう答えるよね。私もそう感じたから。それにいい感じに勘違いしているからどこかで修正しなきゃ」
「はい」
「ま、今はゆっくりとお風呂に浸かって考えましょう」
「そうですね」

シホ達はお風呂へ入っていった。
そこにネギ達がいるとも知らずに。

「(あ、あれ!? シホさんに刹那さん!? 入り口は男女別だったのにどうして!)」
「(混浴って言うんだよ、兄貴。しかしシホの姉さんははじめて裸は見るが結構いいっすね)」
「(あわわ! どうしよう! あっ…)」

二人?が色々と騒いでいる中で、ネギの目にまたシホの背中の傷が映される。

「(うわ、ひでー傷っすねぇ。…兄貴?)」
「(………………、すぐにでよう、カモ君。いつまでも見ていちゃいけないから)」
「(兄貴…)」

ネギの泣きそうな表情に察したカモは賛成した。
だが、

「魔法先生のネギ先生ならどうにかしてくれると思ったのですが」
「ふふっ、まぁまだこれからよ、刹那」
「「!?」」

シホと刹那の会話にネギは背筋が凍る気分になった。
まさか刹那さんだけじゃなくシホさんまで敵!?
その思いが増してしまい予備で持っていた杖を握り締めてしまった。
それに刹那は即座に反応してかかってくる。

「誰だっ!?」
「あ、刹那待って!」

シホの静止の声も聞こえていないらしく大声を上げて刹那は夕凪を抜こうとする。
そしてネギが隠れていた岩を斬岩剣で見事に叩ききった。
ネギはとっさに武装解除の魔法で刀を弾いたが得物は選ばずの神鳴流である刹那には効かず見事に捕まってしまった。
だがそこで刹那は相手がネギだと分かるがネギは少し男の子の事情で完全におびえてしまっていた。

「あー。もうだから待ってっていったのに…」

そこにはおびえているネギ、あっけに取られているカモ、顔を赤くしている刹那、呆れているシホの四者の顔があった。
カモはすぐに状況から復帰して、

「や、やい桜咲刹那にシホ・E・シュバインオーグ! やっぱりてめぇら関西呪術協会のスパイだったんだな!?」
「ご、誤解だ! 違うんですネギ先生。私達は敵じゃない。出席番号15番桜咲刹那一応先生の味方です」
「そうよ、ネギ先生、それに使い魔のオコジョ君。私たちは先生の味方です。だから落ち着いてください」
『へ?』

まだ分かっていないようでネギはポカンとした表情で二人を見つめる。

「えっと、それはどういった…」
「私はお嬢様の…「ひゃわーーーー!!」…!?」

そこに木乃香らしき人物の悲鳴が聞こえてきた。

「この悲鳴は!?」
「お嬢様!?」
「ッ! いけないわ。先手をとられたか。刹那、先行して!」
「わかりました、シホさん!」
「え? え?」

シホが刹那に指示して状況が流れていく中、ネギもとっさに悲鳴の方へと向かう。
するとそこには数匹のサルがアスナと木乃香の下着を引っ張ったり脱がしたりしている光景が目に入った。

「いやーーーん!」
「ちょ! ネギ、こいつらなんとかしなさいよ!」

その光景にネギはズッとこけるが刹那は見た瞬間、激昂して「斬る!」と言って斬りかかろうとしたがネギに「おサルさんを切っちゃ駄目ですよ!」と止められてしまった。

「ネギ先生、離してください! こいつらは式神で切っても紙に戻るだけですからって、わぁ!」

そのままひっくり返ってネギと揉めている姿がありその合間にも木乃香が攫われようとしていた。

「刹那! なにしているの! もう仕方がない! トレース…」
「お嬢様! 神鳴流奥義! 百烈桜華斬!!」

シホが手を下す前に刹那がものすごい速さで奥義を出し幾重にも及ぶ剣戟ですべてを切り払った。
それにシホは安心しているが、ふと視線を感じ、

「そこ!!」

その場にあった桶を視線の方角へと放り投げた。
だが桶は空を切るだけでその場に転がった。

「ちっ! 逃がしたか!」

手を握り締めてシホは逃がしたことをふがいなく思った。
だがすぐに気持ちを切り替えて一同のほうへ向くが、刹那はとっさの事であったが木乃香を抱きかかえてしまっていてそれに気づいたのか顔を赤くして走り去ってしまった。
当然シホも追いかけようとしたが、

「ね、ねぇシホ…いったい」

アスナの声がかかるが今は刹那を追わなければと思い「今は説明できないから落ち着いたらロビーに集合ね!」とだけいってシホも追ってお風呂から出て行った。
流れるような時間だったために事情を知らないネギ達はポカンとしているだけだった。




◆◇―――――――――◇◆




Side シホ・E・シュバインオーグ


あれからやっと刹那を捕まえることができたけどまだ息が上がっているのか落ち着かせるのに苦労した。
だがこのままではどうしようもないと思ったのでまだ詳しく聞いていなかった刹那と木乃香の関係を聞いてみた。

「…私は昔にお嬢様の屋敷に招いてもらいまして、そこでお嬢様と会ったのです。ずっと剣ばかりだったので初めて友達といえる存在にめぐり合えたとも言いますか…」

それから色々聞いて、強くなるために木乃香と再会したときには影から守っていこうと誓っていたらしくそっけない態度を取り続けていたという。
だが、その一方で木乃香に害を及ぼす輩には成敗をしていたという。
刹那が言うにはお嬢様を守れればそれでいいということらしい。
それで私は徹底しているが心を守っていないな、とつい思ってしまったが今は言わないことにした。

「そんなことがあったんだ…」
「はい」
「そんな事情があるなら私は口出ししないよ。でもいつか誤解は解かなきゃね。きっと嫌われていると思われているよ」
「そう、ですね」

それで一瞬刹那は顔を引きつらせて泣きそうになったがそこは耐えたようだ。
それからもう辛気臭い話はつらいようなのでこれからについて話すことにした。
場所は指定したロビー。
刹那は先に式神返しの結界を張っているので私も見学していることにした。
そういえばタマモも呼ばなきゃとラインで呼びかけておいた。


 

 

018話 修学旅行異変《弐》 西の刺客

 
前書き
更新します。 

 



しばらくしてまずタマモがやってきた。

「シホ様に刹那、もうばれてしまったのですか」
「うん、少し油断していたのかもね」
「すみません」
「いえ、この際知られている事で裏方に徹しれればやりやすいです」

タマモは笑いながらそう答えた。
そして少しするとネギ達がやってきた。

「あ、あの…刹那さんとシホさんにアヤメさんは僕達の敵ではないのですか?」
「はい。こうして話をしている以上信じてもらえると助かります」
「そうですか。よかった…」
「あ…ところで神楽坂さんには話しても大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫です」
「もうすでに巻き込まれているようなものだし気にしていないわ。(……ただ、やっぱりオコジョが喋っても驚かない世界の人なんだなと思って……)」

アスナの呟き声が聞こえたのかシホは苦笑いを浮かべる。
昔は私もそうだったなぁ…と少し哀愁を漂わせていた。

「敵の嫌がらせがかなりエスカレートしてきました。このままではこのかお嬢様にも及びかねません。それなりの対策を講じなくてはいけませんが…」
「?」

刹那はジトッとした目でネギを見やると、

「それにしても、ネギ先生は優秀な魔法使いと期待していたんですが、意外と対応が不甲斐なかったようなので敵も調子に乗ったようです」
「あう……すみません! まだ未熟なもので……」
「じゃやっぱりあんたらは味方って事か?」
「はい。先ほどからシホさん共々そういっているでしょう」
「俺っちも勘違いしていたようで謝るぜ、剣士の姐さんにシホの姉さん方!」
「はい、すみませんでした。僕も協力しますから敵について教えてください」
「とりあえずシホさん達はご存知だとお思いですが一応ネギ先生達には伝えておきましょう。私達の敵は関西呪術協会の一部の勢力で陰陽道の『呪符使い』です」
「その、ジュフツカイ? って一体なんなの?」
「呪符使いとは京都に伝わる日本の魔法『陰陽道』を基本としていて西洋魔法使いと同様、呪文などの詠唱時に隙が出来るのは同じです。ですから魔法使いの従者(ミニステル・マギ)と同じく、こちらには善鬼・護鬼といった強力な式神をガードにつけてその間に詠唱を済ませるものが殆どでしょう」
「タマモと比べるとどうなの?」
「アヤメさんに合わせますと今の時代ではあちらの方が下だと思われます」
「アヤメさんも呪符使いなのですか!?」
「はい。ご安心を。このタマモ、関西呪術協会のものではありませんから。別系統と思われて結構です」
「はぁ…」
「それで続きですが他には私の出である京都神鳴流がバックにつくことがあります」
「それなんですけど、刹那さんはなんなんですか?」
「京都神鳴流とはもともと京都を護り、そして魔を討つために組織された掛け値なしの戦闘集団のことです。きっと護衛についたら厄介な相手になることはあきらかでしょう」
「ええー!? それじゃやっぱり敵って事ですか?」
「はい、ですから彼らにとってみれば私は西を抜けて東についた裏切り者です」
「そういわないの。刹那は木乃香を守りたい一身でこっちについていてくれているんだから誇っていいわ」
「…はい。ありがとうございます、シホさん」
「それってどういうこと?」
「私はお嬢様をお守りする任についています。だからお守りできるだけで満足なんです」

刹那はそう言って笑みを浮かべる。
そしてしばらくしてネギ達は感心したような眼差しを刹那に向けていた。

「よーし、わかったわ! 桜咲さん! さっきのこのかの話を聞いても正直半信半疑だったけどそれを聞いてこのかの事を嫌ってないってわかったから!」
「はい! 誤解も含めて十二分に協力します!」
「神楽坂さん、ネギ先生……」
「それじゃ“3-A防衛隊(ガーディアンエンジェルス)”結成です!」
「えー? なんか恥ずかしいわね」
「そうですか? ところでシホさん」
「なんですか?」
「正体を知ってから気になっていたんですけど、シホさんって魔法使いなんですか…?」
「んー…近からず遠からず、ですね。一応私も刹那と同じく京都神鳴流の資格を持っていますが魔法も使いますしそれに…」
「それに…なんですか?」
「内緒です。まぁタマモと一緒にサポート要員と思ってくださって結構ですよ」

シホは吸血鬼、それに赤き翼のメンバーだったという点を隠してはぐらかした。
まだ早いかな~と思った次第のことで。
それからネギは元気が出たのか見回りをしてくるといって出て行ってしまった。




◆◇―――――――――◇◆




ネギ先生が行ってしまったので私はこれからどうするかと考えていると、

「シホさんはこれからどうしますか?」
「これから? うーん、ちょっと屋根の上でタマモと涼んでくるわ」
「なるほど、屋根の上ですか」
「そ、屋根の上。それじゃよろしくね」
「はい」

後ろでアスナが「なんで屋根の上?」と刹那に問いただしているが気にしないことにした。
ふと私の近くに式の気配がするのでその方を見るとちびせつなが飛んできていた。

「あ、ちびせつなですか」
「はい。本体の変わりに私が通信代わりになります。ちなみに自立稼動ですのでよろしくお願いします」
「わかったわ」
「それじゃシホ様、屋根の上にいきましょうか」
「そうね」

私とタマモ、ちびせつなは屋上に来て警備をしていた。

「でもこの調子じゃ詠春に会いに行くのはまだ先かな?」
「そうですねぇー。まずは警備を徹底して行わないとどうしようもありません」

私とタマモがため息をついているとちびせつなが( )話しかけてきた。

「やはり長と会われるのは楽しみですか?」
「そうね…。うん、楽しみかな。今まで音信不通だったから今はこんなだけど元気なことだけは伝えたいし」
「そうですか」

それからしばらく無言で月を見て涼んでいるときだった。
ちびせつなが突然叫んで、

「シホさん! お嬢様が攫われました!」
「こちらでも確認したわ! タマモ、旅館の警備のほうお願いしていい?」
「わかりました!」
「それじゃいってくるわ」
「はいです!」

そうして私は屋根から地上に向かって飛び降りた。




◆◇―――――――――◇◆




Side ネギ・スプリングフィールド


油断した!? まさかこのかさんがもう奪われていたなんて!
すぐにアスナさんと桜咲さんと合流してへんてこなお猿の格好をした人を追った。

「やはり! 人払いの呪符です! まったく人気が無いのはそのせいでしょう!」
「そ、そうなの?」

とりあえずなんとか猿が逃げ込んで発車しようとしてした電車に乗り込むことは出来たけど、いきなり水が僕達の車両の中を飲み込んで詠唱もうまくできない!
このままじゃ! その時、刹那さんが水の中で剣を振った瞬間、

「あれ~!?」

水がすべて流されて駅に着いた途端、ドアが開きお猿の人も一緒に流されてきたけどすぐに体勢を整えるとまたこのかさんを抱えて走り去っていった。

「見たか! そこのデカザル女。嫌がらせはよしていい加減お嬢様を返せ!」
「なかなかやりますなぁ。しかし誰がおとなしく聞くもんかいな! お嬢様は返しませんえ?」
「待て!」

それからお猿の人を追っている間、なんでこのかさんがお嬢様なのかを聞くと、

「おそらく奴らはこのかお嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうと考えていると思われます!」
「え!?」
「嘘!?」
「私も学園長もシホさん達も甘かったかもしれません。こんな暴挙に出るなんて思ってもいませんでしたから……!」
「そうだ! シホさん達は!?」
「そ、それが連絡したんですが連絡に出てもらえなくて……まさかもうシホさん達のことを嗅ぎつけた連中がいたなんて! きっと今頃は妨害を受けているのでしょう! 今は私達だけで対処するしかありません!」

そして大きい階段の広場に出たらそこにはお猿のきぐるみを脱いで嵐山の従業員の格好をした女の人が立っていた。

「ふふ、よぉここまで追ってきよったな。だけどやっぱりあの女を足止めしといて正解だったようや」
「やはり! しかしどこでシホさん達のことを!?」
「あるツテの情報で知ったんや。しかし今頃その女はやられている頃やろな~?」
「そんな!?」
「大丈夫です、ネギ先生! シホさんはそんな簡単にやられたりしません!」
「それはどうですかなぁ? せやけど、あんさん達だけでもやっかいや。早々に逃げさせてもらうえ!」

するとまたお札を女性の人は出して刹那さんはなにかに感づいたのかすぐに飛び掛ったけどそれは間に合わなくて、

「お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす……喰らいなはれ! 三枚符術京都大文字焼き!」

お札から魔力が溢れて一気にそれは増大して炎で『大』の文字が浮かび上がったが、僕をなめていると怒るよ?

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 吹け、一陣の風。『風花・風塵乱舞(フランス・サルタティオ・プルウェレア)』!!」
「な、なんやぁ!?」

女性の人が取り乱しているうちに僕はアスナさんの仮契約カードを出して、

「逃がしませんよ! このかさんは僕の生徒で……大事なお友達です! アスナさん!!」
「ええ!」
「契約執行! 180秒間! ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」

そして一気に刹那さん達と駆け上がっていってふとさっきカモ君に聞いた仮契約カードの機能を思い出したので、アスナさんにそれを発動させて渡したけど、

「って、ちょっと!? なんでハリセンなのよ!!」
「あ、あれ? おかしいなぁ……」
「こりゃハズレかもな……?」

カモ君、今だけは喋らないで。僕、へこんじゃうから。
だけどアスナさんはそれに構わずハリセンを振り下ろしたら、いきなりお猿の人形が動き出して同時に攻撃を仕掛けていた刹那さんの剣も防がれてしまっていた。

「なに、こいつら!?」
「おそらく先ほど話した善鬼に護鬼です!」
「こんな間抜けな奴らが!?」
「外見で判断はしてはいけません! 見掛けに反して強いです!」
「ホホホホ! ウチの猿鬼と熊鬼をなめてかかったらあかんえ? 一生そいつらの相手をしていなはれ!」

そんな! いきなりそんな強い鬼が出てくるなんて……!
だけどアスナさんは我武者羅に振ったハリセンが鬼に直撃すると鬼は霧のように消えてしまった。
カモ君も驚いているけど、アスナさんが有利になったことで刹那さんが詰め寄った。
だけど、まだ伏兵がいたのかいきなり空から人が振ってきて刹那さんと打ち合った。

「まさか神鳴流剣士!?」
「月詠いいます~。先輩、少しお相手付き合ってもらいますね~?」

「兄貴、やべぇ! 剣士の姐さんが防戦一方でアスナの姐さんも捕まっちまってやがる!」
「え!?」
「なんや、以外に弱いんやな? さっきの威勢はどこへやら」

好きに言っていればいい。だけど僕を忘れちゃ駄目ですよ!
すぐさま僕は戒めの風矢を放ち女性を束縛しようとした。けど、このかさんを盾にされてしかたなく矢を逸らした。卑怯です!

「こいつはいいわ。これで攻撃できなくなってしもうたな」
「待て!」
「先輩、ウチを忘れてはいかんえ?」
「くっ! 邪魔をするな月詠!」
「そうはいかんよ~? ウチ、もっと先輩と打ちあいたいんや~」
「くそ! お嬢様!!」
「ほーほほほ! まったくこの娘は役に立ちますなぁ。さぁて、これからどういった事をしてあげようか……?」

くっ! 二人とも手が出せなくてアスナさんは捕まっちゃっている……! 僕も手出しができない!
もう打つ手がないと思ったその時だった。
……僕の隣を寒気がするような赤い何かが通り抜けていった。
その人は間違いなくシホさんだったんだけど、その雰囲気はいつもと完全に違いひどく冷めている。
アスナさんも、刹那さんも、カモ君も、そして敵の二人もそれによって動きを停止させられた。
まるで、そうまるで体が石になったんじゃないかという錯覚すら覚えてしまった。




◆◇―――――――――◇◆




Side 桜咲刹那


「これから、どういったことをするのかしら? この外道が……」

突然後ろからシホさんが助けに来てくれたのだが、そのあまりに濃い殺気に私……いや、その場にいたすべてのものが足を止めた。
いつもの白黒の剣を持ち、私達の横を通り過ぎる。
こんな殺気はあの停電の日以来だ。いや、あの時より格段に下回っているがとんでもない。これほどの緊張感をいまだかつて持ったことはない。
化け物と比べることがおかしな話というほどにシホさんの殺気は尋常ではなかった。

「あ、あわわ……な、なんでや!? しこたまぎょうさん式で足止めをしておいたはずや!」
「ああ、あれね? 笑わせてくれるわ。あんなちんけなもので私を足止めしたつもりでしょうが残念ね」

そういってシホさんはその手にあった式の札を握り締めてばらばらにした。
それによって敵の女も悲鳴をあげる。
あれが殺気を携えたシホさんの、赤き翼のメンバーだった本当の姿。
おそらく私ではまだたどり着けないほどの境地にいるお方。

「さて、木乃香を返させてもらうわよ…」
「ひ、ひぃぃぃぃいっ!?」

シホさんはゆっくりと女に近づいていく。月詠はなんとか動けたようでシホさんの前に立ちはだかったが、刀を上段に構え、

「うるさい…。神鳴流奥義、………雷鳴剣・双刃!」

すごい放電の音とともに時間差で振り下ろされた二刀は月詠を刀ごと遠い空へと打ち上げられそのまま痺れているのか地面に落ちても起き上がってこない。

「あ、ぐっ…」
「月詠はん!? まさかもう一人神鳴流の使い手がおったんか!?」
「黙れ…いいかげんにしないとその首、撥ねるわよ?」
「!!?」

カタカタと震えながら、呪符使いの女は背中が壁であることも忘れて立たぬ足の変わりに腕だけで後ろに下がろうとする。

「ひ…ひ…」

声にならない悲鳴を上げながらも、女はシホさんから視線を外すことはなかった。
恐怖か、または眼で命乞いをしているのか……?
その立場になって見なければわからないだろう。
そしてすさまじい殺気が含まれていた眼光を浴びて敵であった二人は、そのままシホさんの投擲した剣で壁にまるで虫の標本のような格好にさせられて気絶してしまっていた。
するとシホさんも殺気を霧散させてお嬢様を抱きかかえた。その顔はいつもの顔に戻っていていた。

「ま、こんなものでいいかしら」

そこにはさっきの姿はもうないといわんばかりにいつも通りのシホさんの姿があった。
すると背後からドサッという音がするので見てみるとネギ先生たちが片膝をついて震えていた。
それもしかたがない。私ですら背中に大量の汗を出しているのだからこの反応は当然だ。

「すみません、ネギ先生達。二度と悪さをさせないように灸を据えるつもりで殺気を放ったのですが、思った以上に被害を与えてしまいました」
「い、いいってことよ、シホの姉さん。それよりこのか姉さんは大丈夫か?」
「はっ! そうだ、お嬢様は!?」
「平気みたいよ、刹那。はい、預けるわね。私はこいつらを縛らないと……、…ッ!? いけない!」

シホさんはそう言うといきなり走りこんだ。
どうしたのか見ると敵の呪符使いと月詠が地面に転移魔法かなにかによって消えかかっているからだ。
私たちも後を追うがやつらは地面に消えてそのまま気配を消してしまった。

「くっ…私としたことが逃がしたか」
「シホさん、大丈夫です。お嬢様は取り返すことができたのですから今は次のことを考えましょう」

悔しそうな顔をすぐに切り替えると「そうね…」とだけ呟いて立ち上がった。

「でもこれであの二人以外に敵がいることは明らかね」
「はい」
「う、ん……」
「このか!?」

そこでお嬢様が起きたらしく目を開いた。

「ん……あれ? せっちゃん…? ……ウチ…夢見たえ…変なおサルにさらわれて……でも、せっちゃんやネギ君やアスナが助けてくれるんや……」
「よかった……もう大丈夫ですよ、このかお嬢様」
「……よかった―――…せっちゃん、ウチのコト嫌ってる訳やなかったんやなー……」
「えっ…そ、そりゃ私かてこのちゃんと話し……はっ! し、失礼しました! わ、私はこのちゃ……お嬢様をお守りできればそれだけで幸せ……いや、それも影からひっそりとお支えできればそれで……その…あの……御免!!」
「あっ……せっちゃ~ん!?」

私は恥ずかしくなり逃げ出すしかできないでいた。
でも背後からアスナさんが「桜咲さ~ん! 明日の班行動一緒に回ろうね~。約束だよ~!」と言ってくれたので心が幾分軽くなった。




◆◇―――――――――◇◆




Side ???


ふむ、助けたはいいけどあの女、なにものかな?
名前は…誰だったか。

「フェイトはん、助けてもろうてありがとうございますぅ」
「いいよ、月詠さん。でももう一人神鳴流剣士がいたなんて驚きだね。それも情報にある桜咲刹那より腕はおそらく上だね」
「そうですねぇ…。ウチ、おもわず興奮してしまいましたぁ~」
「傷を負っているのに元気だね、君は」
「それはもう。おいしい獲物が増えてくださったんですから嬉しいに決まっておりますやろ」
「そんなものかい? しかし、あの女、どこかで…調べてみる必要がありそうだね」

月詠にフェイトと呼ばれた少年は思案顔になり考え込んでいた。


 

 

019話 修学旅行異変《参》 一時の癒しと魔法バレ

 
前書き
更新します。 

 




―――修学旅行二日目の朝




シホはなにやら妙な気配と重みを感じ目を覚ますと胸の上にはなぜかおこじょが寝ていた。

「……………」

自然と目は一瞬で覚め首筋を掴むと紐を投影して縛り上げる。

「起きなさい。起きなければひき肉にしてエヴァに差し出すわよ? そういえば最近珍味に拘っているとか言っていたわねぇ?」
「はい! 起きます! 起こさせていただきます」
「なにをしている?」
「なにって、そいつはシホ姉さんの胸の温かみを堪能「さて、殺すか」…冗談ッすから指から火を灯さないでください!?」
「で? 今度こそ話さないと本気で実行するわよ?」
「はい…。昨日の件ですが…」
「あぁ…。それね。じゃ行きながら話すとしましょうか。みんなが起きだすし」
「んー…? エミヤン、誰と話しているの?」
「なんでもないわよ裕奈」
「そう…? あ゛ー、それよりなんか少し頭がいたいなぁ…」

裕奈が起きだしてそれを皮切りに他のものも起きだしてくる。
裕奈、亜子、まき絵の三名は二日酔いが残っていると思われたがすぐに復活していたのでこれが若さかとシホは思っていた。
同時に見えないようにカモを逃がしていたりする。
朝の食事所に向かう道中、カモは小声で話しかけてきた。

(なぁなぁシホ姉さん、なんで今まで黙っていやしたんですか?)
(黙っていたって…別に刹那同様に話す機会なかったし色々ごたごたしていたし…)
(そうっすか。過去に関しては聞いちゃいけないんすよね?)
(ええ。頭痛がしちゃうから…)
(そもそもなんでそんな頭痛を?)
(それ以上は聞いちゃいけないわよ? プライベートは話したくないし)
(へい。それにしても昨晩はすごかったすね。俺っちもあんな殺気は初めて感じたっすよ)
(裏の世界で生きていくならあの程度は耐性ないと生きていけないわよ?)
(確かに…それじゃシホ姉さんは結構の腕前で)
(まぁ…そこそこは。あ、ほらネギ先生がいたからもう戻りなさい)
(そうっすね)

カモはネギの元へ戻っていった。
戻る途中、(そういえばエヴァとか言ってたけど知り合いか?)と考えていたらしいが後で聞けばいいかと保留にした。
そして食事時、

『―――それでは麻帆良中の皆さん、――いただきます』 
『いただきまーす』

ネギのマイク放送によるお言葉で食事は開始された。
シホは食事をする傍らでタマモと会話をしていた。

「それでシホ様、今日は離れてしまいますけど琳ちゃんがついていますので安心ですよ」
「心配しすぎよ、タマモ。でもありがとね」
「はい♪」

ほのぼのと会話を楽しんでいる中で周りでは眠ってしまって昨晩を無駄にしてしまった者達の悔しい声。
他に木乃香に言い寄られ逃げる刹那。
それを見てどういった仲かを想像して楽しむ一同。

「こうしていると、平和ねぇ…」
「はい、そうですねシホ様」

こうして恙無く食事の時間は過ぎていった。
そして始まるネギと一緒に回りたい争奪戦。
ネギもこれからどうしたいか考えたいと言うときに始まるのはもうお約束。
それを眺めるシホ達。

「あー、もうやっぱりこうなったわね」
「はい。できればバラバラになるのは避けたいところですが…」
「それじゃ私とタマモはそれぞれの班を護衛しているから」
「お願いします」
「こういう時にサポートできる人は助かるわね」
「では一応ですが全部の班に式を放っておきます。なにかあればすぐにわかりますから」
「タマモも琳以外の他の子達に指示をよろしくね」
「はいです♪」

こうして騒いでいる間にテキパキとこれからについて決まっていった。
その会話の中でアスナはなにを話しているのか分からなかったらしいが、とりあえず良いことなのだと自己完結していた。

「ま、昨日アレだけやっておいたんだから今日はそうそう仕掛けてこないと思うけどなにかあったらよろしくね」
「はい」
「任せて!」

そしてシホ達は班別行動で分かれた。
ちなみにネギ争奪戦はというと、まき絵と委員長が言い合っていたが勇気のこもった宮崎のどかの一言。

「あ…あのネギ先生! よ、よろしければ今日の自由行動…私たちと一緒に回りませんかーーー!?」

それにネギはみんなで守れると言う打算も含めて考えて、

「わ、わかりました宮崎さん! 今日は宮崎さんの5班と回ることにします」

それを了承。
結果、5班行きとなった。




◆◇―――――――――◇◆




私は今裕奈たち4班と一緒になって奈良をぶらりとしている。
これといって重要な用事はないので楽しまなければ損というもので奈良公園の道を歩きながらも私も会話を楽しんでいた。

「でもネギ君誘えなくて残念だったなー」
「うんうん。後もう少しだったんだけどねー」
「…でも、宮崎さんは勇気だしたね」
「そやねぇ」

四人はネギの会話になるとテンションが上がっていった。
特に宮崎さんの勇気にはそうとう驚かされたらしい。私もだが。

「ふふっ…恋をすると誰しも強くなるものさ」
「いうね、龍宮」
「そういうエミヤはそういった話はないのか?」
「生憎となしだね。私はそういうのには疎いらしくて…」
「ほう…」
「何々!? 恋バナ!? 混ぜろー!」
「違う!」

裕奈が目ざとく乗ってきたので即で否定した。
だがノリがいいのかどうなのかはわからないが標的を以前にふられたという亜子に集中しててんやわんやしてしまった。
そのときの恨めしそうな表情は見なかったことにする。

「そ、それより次いこうか!」
「そういえばエミヤンってこういう日本の観光って初めてだよね。そこんところ大丈夫?」
「えっ? う、うん。大丈夫ダヨ」

いまいち自信がないので最後あたり片言で答えてしまった。
瞬間、裕奈の目が光った。

「ひっ!?」
「そっかぁ、それじゃ今日はエミヤンを奈良の観光で引っ張りだこにしよう!」
『おー?』

絶対何名かわかっていない返事だよ!?

「アキラ、お願い」
「わかった。シホさん、ごめんなさい」
「ちょっ、まっ!?」

わーお、びっくり。なぜか片手で私は担がれてしまった。
この細腕のどこにこんな力が!
背後で「南無…」といったジェスチャーを龍宮にされてしまい私はもうあきらめた。
それからは奈良公園を皮切りに東大寺、春日大社、銀閣寺など主要なところを時間の余す限り回らされた。
や、楽しかったからよかったけどもっと自由性にとんだものにしたかった。
そして甘味所で一休みをとっていると、

「いやー、ごめんなさい、シホちゃん。ゆーなについ乗せられちゃった♪」
「別にいいよ? 楽しかったのは本当だし」
「そういってくれると身が休まるよ」
「そうやね」
「こらー。私だけ悪者扱いするなー!」
「ふっ…」

そういって一同は笑みを浮かべる。
それに私も一緒に笑みを浮かべる。そういえばこういった純粋な楽しみはここ最近なかったからとても新鮮だ。
それでとても楽しめたと思う。
そして旅館に帰る道で、

「やっと笑ったね」
「え?」
「だってエミヤンってこういった思い切った行動でもしないと心の底から笑えないかなと思って、ね」
「裕奈…」

え? なに、なんなの? 裕奈って失礼だと思うけどこんなに気を使える子だったんだ。
私は思わず感動してしまい裕奈の肩に顔を預けて、

「…ありがとう…」
「うん♪」

頭を撫でられてなんか子ども扱いされているようだったけど悪い気分ではなかった。




◆◇―――――――――◇◆




帰ってきたネギはぼうっと遠くを眺めて放心していた。
原因はわかっている。
のどかに告白されたからだ。
だが整理がつかず顔を赤くしながらなにか考え事に耽っており時折意味不明な言動や行動をとっていた。
しまいには床をごろごろと転がりだす始末。さすがにその奇怪な行動に生徒達もさすがに心配になったらしく雪広を中心としたグループになにがあったのか聞かれて、

「いや、あの別に何も! 誰も僕に告ッたりなんか…!」

と、見事に自爆をした。
その一言が発端となり騒ぎが生じてネギは意味不明な言葉を並べながらも一緒にいたカモとともにどこかに走り去ってしまった。
そこで影から見守っていたアスナと刹那にシホ達は話を聞いてみた。

「ネギ先生はどうしたの? なにやら思いつめていたようだけど」
「あー…それはね」
「はい。それが宮崎さんにネギ先生は告白をされまして、それで混乱してしまっているようです」
「えっ? 告白!?」
「いいですねぇ、学生の恋。タマモも憧れます」
「いやタマモ、そうじゃなくてね…」

少しずれた会話がされている中でネギはというと、

「ふぅ…」

なにやらため息をつきながら外に出る道を歩いていた。
カモがしっかりするよう言葉を送っているが効果は今ひとつ。
それでどうしたものかというときに道にネコが飛び出し車に轢かれそうになってしまっていた。
ネギは悩んでいた素振りも見せずに飛び出して、

風花風障壁(フランス・バリエース・アエリアーリス)!!」

車を弾き飛ばしてネコを救った。
だがその光景を見ていた人が一人。

(き、来たぞー! 超特大スクープ~~~!!)

目撃した少女。朝倉和美はその光景に目を輝かせていた。
その後、ネギが入浴中に朝倉は源しずなに化けネギに魔法のことについて詰め寄った。
だがすぐに変装はばれてしまい強硬手段にとる。
携帯のボタン一つで世界にネギのことがばれてしまうという事実にネギはついに混乱の境地とも言わんばかりに魔法を暴走させてしまった。




◆◇―――――――――◇◆




ネギ先生がどこにいったのかと考えているとどこからともなく叫び声が聞こえてきた。

「―――うわああぁあぁ~~~~ん! だめです~~~~っ、僕、先生やりたいのにーーーーーーーー!!」

まるで遠雷のように響いてくる泣き声。
なにごとなのかと刹那たちと急いでお風呂の方に走る。
到着してみるとそこには裸のネギ先生となぜか朝倉がいた。

「ネギ君!?」
「朝倉さん!?」
「あっ、いやっ、これはっ!」

他に騒動をかけつけたものたちによって朝倉は成敗されていた。
なにかあったか知らないけどやりすぎはよくないと思うよ。
そして始まるネギ先生になにがあったのかの質問で、

「ええーーーーっ!? ま、魔法がばれた!? しかもあの朝倉にーーー!?」
「は、はい…ぐし…」
「アスナ、声がでかい」
「あ、ごめん。でもさ…」

アスナが必死にどうしてとか問いただしているが回答はあやふやでどうにもできない。
それであきらめムードになりネギ先生は「一緒に弁護してくださいよ!」と必死になっていたが、その時に背後から朝倉の声が聞こえてきた。

「おーい、ネギ先生」
「兄貴、ここにいたか」

なにやら仲良さげに朝倉とカモミールがやってきた。
それにネギはびくつき後ろに下がり気味でアスナも、

「ちょっと朝倉。あんまり子供をいじめるもんじゃないわよ」
「イジメ? ノンノン、まさか。私がそんなことするわけないじゃん」
「そうっすよ。むしろブンヤの姉さんは俺っち達の味方だぜ」
「報道部突撃班、朝倉和美。カモっちの熱意にほだされてネギ君の、いやここにいるメンバーの秘密を守るエージェントとして協力することにしたからよろしくね」

そういって、朝倉はネギ先生に今までのネガや写真を渡している。
それにネギはさらに驚いたが問題が一つ減ったと喜んでいた。

「でも、エミヤン達が関係者だったなんてね」
「ごめんね朝倉。隠すようで悪いと思ったけど…」
「いいよ。エミヤンも事情があったわけだし」
「ありがと」
「ありがとうです」

朝倉はそう言って追求は避けてくれた。
ここで綺麗に終わっていればよかったのだけれど、後の件でこっち入りに関してもっと深く言っておけばよかったと思ったのは私の一生の不覚だが。


 

 

020話 修学旅行異変《四》 ラブラブキッス大作戦

 
前書き
更新します。 

 




それから一同は解散しそれぞれにやることをこなしていた。
だが朝倉とカモだけはある悪巧みを計画していた。
それは昨日騒げなかったことで鬱憤もたまっていた3-Aの生徒たちが騒いで新田先生によって注意されていた後のこと。
まるで見ていましたというタイミングで皆の前に現れてあるゲームの話を持ちかけた。

「…と、いうわけで名づけて『くちびる争奪!!修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦』!!」
「ええ!?」
「ネギ君と!?」

一同が騒ぐ中、ゲームの説明をしていく朝倉。
皆も乗り気で特に委員長はネギの唇という件で「やりましょう。クラス委員長として公認しますわ」と速攻で陥落していた。
「そらども」と朝倉は引きながらも了解し、

「それじゃ各班、十時半までに私に選手二名を報告。十一時からゲーム開始だ!」
『おー!!』

朝倉は皆が騒いでいる中、胸に隠れていたカモと会話をしていた。

「フフフ…ラブラブキッス大作戦とは仮の姿…その実態は『仮契約カード大量ゲット大作戦』だぜ!」
「ほほー、これが豪華商品のカードか。これをたくさん集めればいいんだね」
「おうよ。オリジナルは兄貴が持ってるけどな。こいつは俺の力で作ったパートナー用の複製さ」

朝倉に三枚のカード(アスナの仮契約カード、スカカード、このかのスカカード)を見せる。

「すでにこの旅館の四方には魔法陣が描いてあるべ。これで旅館内で兄貴とチューしたら即パクティオー成立するってことさ。さらにカード一枚につき5万オコジョ$もうかるから…俺ら百万長者だぜ姉さん!」
「ヒューヒュー!」
「できればシホの姉さんともしてぇが今回は見送りだ!」

二人して有頂天のごとく騒いでいてその現場を声だけだが目撃した村上夏美に不思議に思われていたそうな。




◆◇―――――――――◇◆




シホはタマモとアスナ達とは別口で旅館を回っていた。

「それにしても…朝倉さんにばれたのは大丈夫だったのでしょうか」
「さぁ…? でも頼りにできると思うよ。ただあの情熱が変なほうに向かわなければいいことを願うけど」
「もう手遅れじゃないですかね」
「む…それは…、まぁ…」
「それにシホ様。気づきませんか?」
「うん…なんだろうね。この微妙な空気。殺気とも違うし…。まぁ私はアスナ達と合流して相談してみる。タマモはどうする?」
「私は部屋に戻っていますね。班に相談できる真名がいるシホ様と違い、話ができる人がいませんからいないと不審に思われますし」
「わかった。それじゃまた明日ね」
「はいです♪」

タマモは分かれた後、部屋に戻った。
そしてなぜか部屋に置かれているテレビを凝視している。
それに部屋に双子がいない。
不思議に思い聞いてみることにしたタマモ。

「あれー? 風香に史伽はどこにいったのですか? それになにやらテレビを凝視しているようですが…」
「あ、アヤメさん」
「どこいっていたの?」
「どうやら知らないみたいだね…」
「…?」

そこで聞く。
三人の説明によると朝倉が主催で開いた『くちびる争奪!!修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦』。
現在、

一班…鳴滝風香 &鳴滝史伽
二班…長瀬楓  &古菲
三班…雪広あやか&長谷川千雨
四班…明石裕奈 &佐々木まき絵
五班…宮崎のどか&綾瀬夕映

この計十人がネギをめぐって攻防を繰り広げると言う。
若干一名は嫌々参加させられているようだが…。

(また変なことを始めましたねぇ~。シホ様に伝えるかどうか迷います)

だがタマモは面白そうなので見学している方針で円達とモニターを見ていることになった。

ところ変わってネギの寝室ではネギが刹那からもらった『身代わりの紙型』によって生み出した分身に「ここで変わりに寝ていて」という命令を受け指示通りに寝ていたが、書き損じで生まれてしまった「ぬぎ」「みぎ」「ホギ」「やぎ」…計合わせて四体が命令なしに現れてしまい命令を待っていた。




◆◇―――――――――◇◆




…時間は少し経過し、

「二人ともロビーで正座!」
「「びぇーーーん!」」

裕奈と千雨が新田先生に捕まり正座の刑を受けていた。
相方のいいんちょとまき絵が班を合併してネギを追った。
そしてネギの寝室近くで五班の夕映がのどかを先にいかせる為に鳴滝姉妹と攻防を繰り広げてのどかは中に入ることができた。
のどかはネギ(偽)の寝ているところまで行き、

「先生…キス…させてください…」

そう言いつつ近寄ったがそこで命令と認識してしまって現れた偽ネギ軍団の登場にのどかは混乱して気絶。
偽ネギ軍団もそのまま窓から部屋を飛び出して命令を実行しようと出て行ってしまった。
モニター室でカモもその異常に気づいたのか、

「ね、姉さん、朝倉の姉さん…」
「ん? 何よ…?」
「何か…俺っちの目の錯覚かなぁ。ネギの兄貴が五人いるように見えるんだが…」
「な゛…」

そこからはもう大混乱。
それぞれの偽ネギ達が、

「キス…してもいいですか? 夕映さん…」
「えっ…!?」

夕映と…、

「キ、キ、キキキス…ですか? 私と…?」
「はい…」

いいんちょと…、

「チューしてもいいですか?」
「え…♪」

まき絵と…、

「その…お願いがあって…その、キスを…」
「へ?」

古菲と楓と…、

「今から史伽ちゃんの唇をいただきます」
「「な゛っ」」

鳴滝姉妹と…、

それぞれ告白タイムに入ってしまい場は混沌と化してしまっていた。





………その頃、シホ達はというとお風呂に浸かっていた。

「なんか旅館内が騒がしいわね」
「そ、そうですね…」
「これは、なにかやらかしたかな? 変な気が満ちているのよね」
「そうですね。ですが悪意は感じられません」
「ちょっと待って。今タマモと会話してみるから…」

シホは目を閉じてタマモと念話を開始しようとしたが…。

「シホもすごいわね。でも、その、背中の傷、痛くない?」
「え? う、うん大丈夫。でもあまり触れないでね?」
「うん。ごめんね今まで…こんな傷があるっていうのにあまり気遣ってやれなくて」
「はい…」
「気にしないで。私からあまり関わらないようにいったんだからアスナ達は心を痛めないでほしいな」
「うーん。ホント、シホっていい子よねー♪」
「わー! 抱きつかないでー!」

この時には慌てていたのか念話をしようとしたことなどもう忘れていたシホであった。





モニター室ではこの混乱でカモも朝倉もどうしていいか分からず暴れていた。
そして夕映は今現在ライブでピンチに陥っていた。
偽ネギに言い寄られ押し倒されてしまい後少しでキスをしてしまうというところまで迫っていた。

「(のどか…私は…、え?)」

だがそこでテレビのモニター画面に映し出される計四人のネギの姿を確認し、思いっきり引き剥がして、

「だ、誰なのですかアナタは!? な゛…!?」
「どうもネギです」

そこには腕を伸ばした偽ネギ。
そこでちょうどよく起きたのどかに襲い掛かったが見事本で撲殺して偽ネギは紙に戻ってしまった。

「ゆ、ゆえ…どーいうこと?」
「わかりません。ですがこれも朝倉さんの仕掛けかなにかでしょう(しかし…偽のネギ先生とはいえあそこまで迫られてしまうなんて恥ずかしいです)」

それから二人は集合した偽ネギ達を追った。
途中で新田先生も気絶させてしまいもう後戻りもできなくなり次々と後を追うものたち。
だが全部偽者だったので全員爆発した偽ネギのせいで気絶。
そして夕映は本物のネギを外に見つけのどかに行くように指示をした。






Side 綾瀬夕映



私は逸る気持ちでのどかと本物のネギ先生とを合わせることができたので一安心したです。
そして先生の、

「あ、あのと、友達から…お友達から始めませんか?」

と、いう子供らしい回答を聞いてやっぱりまだ10歳だと再確認できたです。まぁ当然といえば当然ですが。
あのように迫ってくるネギ先生はとてもではないですが嫌ですから。
すると話が済んだのか二人して戻ろうとしていたので私はのどかに足掛けをしてネギ先生は抱きかかえようとしたようですが間に合わずうまい具合に口でのキスをしていました。
……よかったですね、のどか。
その後、やはり新田先生に捕まってしまいましたが、これはまぁ別にいいでしょう。



Side Out



正座させられている光景を影で見ていたアスナ達はこの事態に何事もなかったことに安堵していた。…シホを除いて。

「もう何やってんだかね…?」
「この紙型はもしや…」
「……………」

二人はこの騒動に呆れの色を前に出していたがただ一人シホはジッと眺めているだけであった。
その渦中は、

「一般人と仮契約させるなんて…フフフ、あのエロオコジョ…どうやら相当肉詰めにされたいらしいわね」
「し、シホさん…?」
「シホ…なんか怖いわよ?」

タマモに今回の件を聞いた後、シホはずっとこんな調子である。
ラインで繋がっている間、タマモもあまりの恐怖に体を震わせていたらしい。


 

 

021話 修学旅行異変《五》 二箇所の戦闘風景

 
前書き
更新します。 

 



修学旅行三日目、一般人生徒達はのどかが賞品として仮契約カードをもらい皆から羨ましがられている中、休憩所ではアスナの怒声が響いていた。
まぁ、怒りたくもなる。事情を知って入れば即座にでもカモミールに解体ショーを決行しているかもしれないから。

「まったく! ネギ、こんなにカードを作っちゃってどうするつもりなのよ!?」
「えぇー!? やっぱり僕のせいですか!」
「まぁまぁ姐さん」
「そうだよアスナ。儲かったってことでいいじゃん」
「朝倉とエロガモは黙ってなさい!!」
「エロガモ!?」
「確かにね。もし私がこの事態を知っていたらすぐにやめさせていたものを…タマモもどうしてすぐに教えてくれなかったの?」
「すみませんでした~…まさか旅館全体に仮契約の魔方陣がしかれているとは露とも知らず…このタマモ、一生の不覚でした」
「まぁいいとして…カモミール。反省は済んだかしら?」

私は爪を尖らせながらカモミールに詰め寄った。

「は、はいっ! っていうかシホ姉さん、その爪はなんすか!?」
「気にしない。でも一般人を巻き込むのは私は絶対にしたくないからそこのところ徹底してね。朝倉もよ?」
「「はい…」」


(アヤメさん、私もシホさんの意見に同意ですがやはり…)
(そうですね。裏にいたシホ様自身捕まって色々されてしまいましたから余計一般の人たちが魔法に関わるのは避けたいのでしょう)

刹那とタマモがそんな会話をしていた。


しかし懲りていないのかカモミールはアスナに仮契約カードを渡していた。
まぁもうこちら側に近いアスナだから目を瞑るとするけど…。
そこでカモミールの仮契約カードの説明がされていた。
そしてアスナが “来たれ(アデアット)”と唱えると一昨日に現れたハリセンを握っていた。
しかし…、

(うーん…あのハリセン、詳しく解析をかけられない。どうしてだろう?)

少し謎ができたがそこで一時解散となった。
そして私は裕奈達のところに私服に着替えて向かうとどうやら大阪にいくらしい。
やばいな…。あまりに離れすぎているではないか。
さて、どうしよう。

『シホ様、シホ様』
(ん? 琳?)
『はい。今回ですがシホ様に旅行を楽しんでいただきたいのですが、さすがに任務のこともありわたくしがシホ様の代わりを務めさせてもらってよろしいでしょうか?』
(うーん…仕方が、ないか。裕奈達には悪いけど…ちょっと待ってね)

私は少し琳に待ってもらい龍宮を呼んだ。

「どうしたエミヤ?」
「うん。ちょっと相談したいことがあるから外にいこうか」
「わかった。班のみんなには?」
「うん。待ってもらってる」
「ならいいか」

外に移動すると誰も見ていないことを確認して琳を龍宮の前に出現させ、さらに私の姿に化かせた。
それに一瞬龍宮は驚いた顔をしたがすぐに平時に戻った。さすがだ。

「今回ちょっと私、任務で抜けるから琳を代わりに同行させてほしいんだけどサポート頼める?」
「すみません、龍宮さん。全部演じきれるか自身がないのでお願いしてもらっていいでしょうか?」
「わかったよ。でも依頼料ははずんでもらうよ?」
「それじゃまた例のでいい?」

例の、とは銃の点検込みに追加で特性デザート(あんみつスペシャル)をはずむというものである。

「む、いいだろう。エミヤにはいつも助けられているからな」
「ありがと。それじゃお願いね」
「任された。これくらいのお願いなら安い方だからな」

龍宮はそういって笑みを浮かべている。
実際楽しみなのだろうことはすぐにわかる。
その後、私の姿をした琳がみんなと出て行ったのを区切りに私は先に関西呪術協会に行くことにした。
いい加減会いに行かないとという気持ちがあったからだ。
詠春にも心配かけただろうから。




◆◇―――――――――◇◆




私が関西呪術協会に着くとなにやら何人もの和服の人が待ち構えていた。
どうやら私目当てではないようだけどね。

「あら…あなた様はどなたでしょうか?」
「はい。まだ来ていないようですがネギという先生の生徒の“シホ・E・シュバインオーグ”といいます。いきなり来て悪いのですけど長…近衛詠春を出してもらってよろしいでしょうか」
「長を、ですか。しかしシホ・E・シュバインオーグ様…ですか。どこかで聞いたことがあるのですが…」
「確か、長が何度か誇らしげに語っていた人物と同じ名前だったと思いますが…」
「あ! 確か長と一緒に神鳴流を卒業した人物と同じ名前ですわ!」

女官の人たちが色々会話をしていて、中にまだ私の事を知っている人がいたことにびっくりしたけど、そこで一人の女官の人が呼びに言ってくれたのかゆっくりとだが詠春がこちらに歩いてきた。
いや、少し足早だ。

「まさか、シホですか!?」
「や。詠春…少し年取ったようだけど元気そうね」
「やはり…ではお父さんが言っていたことは本当だったのですか」
「どこまで聞いているのか分からないけど、ここじゃあれだから本殿の方までいこうか」
「そうですね。だけど…また会う事ができてうれしいですよシホ」
「こちらこそ…あの時はもう会えないと思っていたからね」
「そうですね。さ、案内したい場所もあるからいこうか」

それから詠春に案内されながら本堂まで案内される間にある部屋に連れてかれた。
そこは…、

「この部屋の中…もしかして私の部屋?」

まだ青山家だったころの私の部屋がそのままここに移されている感じだった。
聞くと詠春はここに移した後、開かずの間にしたという。

「そんなことが…ありがと詠春」
「それほどでもないですよ」

少しそこで思い出に浸ってから本堂に向かい着くとそこで詳しい話がなされた。
まぁおもに今の私の現状だが。

「………そうか。エヴァンジェリンと同じ失われた秘法をかけられ真祖化してしまったのですか」
「…ええ。頭痛がするからあまり語りたくないけど色々された、とだけなら言える」
「あなたが連れ去られたとタカミチ君から聞いた後、見つけ出すことができず、すみませんでした」
「いいわよ…。今はこうして再会できたのだから」
「はい…」

そこで一時会話が途切れたが、

「まぁシホがそこまで言うのでしたらもう何も語りません。それよりナギが生きていたのですか…やはりといいますでしょうか」
「そうね。あいつがそう簡単に死ぬなんて思えないし」
「ふふふ、そうですね」

それから少し雑談をした後、

「そういえば、ネギ先生達は遅いわね」
「そうですね。もしかして妨害にあっているのでしょうか?」
「おそらくね。ネギ先生は旅館を出て少ししたらこっちに来るといっていたから心配になってきたわ。少し見てこようか。本来私はここにいない人物だからいくらでも勝手は聞くしね」
「お願いします。私は長ゆえここから出るのは容易ではありませんから」




◆◇―――――――――◇◆




シホが向かった頃、ネギ達は黒髪の少年と相対していた。
最初はともに現れた大蜘蛛をアスナに還され優勢になったと思われたが、

「女に守ってもらって恥ずかしく思わんか? だから西洋魔術師は嫌いやねん」
「前衛のゴキちゃんやられちゃったからって負け惜しみね!」
「お姉ちゃん勘違いしてへん? 俺は術師とちゃうで」

そこからは少年自身が攻めに入り、アスナのハリセンも所詮剣道も習っていいないこともあり当たらず避けられてしまって抜けられてしまった。
そして何度もネギが傷みつけられてしまい、

「ちょこまかと! いい加減当たれや!」

少年の拳はついにネギの障壁を抜き直接ネギの頬に叩きつけられてしまい、カモとちびせつなは状況不利と悟り煙幕を発生させ一時撤退した。
そして開かれる少年についての話し合いと対策。
それでネギには対策があるという。

「僕…父さんを探すために戦い方を勉強しました。それは探す合間に戦う力が必要になると思ったからです」

ネギは語る。
エヴァンジェリンとの戦いは勝てたのは奇跡のような偶然だったと。
そして自らを未熟といい、だが、強くならなければ父さんを探せないといって、

「だから僕はここであいつに勝たなきゃ!」

ネギは強気の表情でそう言い切った。
だがどうする?というカモの言葉にネギは「勝算がある」と言って少年が来るのを待った。






Side ネギ・スプリングフィールド




よし! 体勢は万全、後は相手が襲いかかってくるのを待つだけだ。瞬間は一度、来た!

「風精召喚!剣を執る戦友!!迎え撃て!!」
「はは! やっと本気か!? だげどな、こんなもん、へでも…ッ!?」
「『魔法の射手・(サギタ・マギカ・)連弾・(セリエス・)雷の17矢(フルグラーリス)』!!」
「うおっ!」

よし、うまく乗せることができた。相手も乗ってくれたようでこれで今一番の魔法を撃てる!

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……闇夜切り裂く一条の光、我が手に宿りて、敵を喰らえ」

―――受けてみて!

「『白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)』!!」
「うがああああぁぁぁあ!!?」

白き雷の直撃を受けた少年はそのまま後ろに吹き飛ばされていった。
でも、それだけでやれるとは正直思っていない!
その証拠に土煙の中からすごいスピードで迫られて鉛を受けたような拳をもらっちゃった! いけない!?
アスナさんとカモくんも黒い狗のような影にとらわれて身動きができないでいる。
それから何度も拳や蹴りを受けてとても痛いけど今はまだ我慢できる範囲だ。
そして少年がとどめの一撃を決めようとした。
ここが、チャンス!

「契約執行0.5秒間、ネギ・スプリングフィールド…!」

即座に少年の拳を受け止め逆に殴り返して空中に上がっているところを下に回り再度詠唱をし、掌を少年の背中に当てて白き雷を放った。
少年は痺れて動けないようで顔だけこちらに向いている。
だから僕は大声で叫んだ。「これが僕の力だ!」と。
そこからすぐに形成を建て直して脱出する算段をしようとしたらまだ動けたようで立ち上がったと思ったら少年の体が変化した!?
カモ君がいうには獣化っていうけど、人間じゃないの!?
でも、今は関係ないので再度自分に契約執行を施し挑もうとしたらそこにのどかさんが現れて次々と少年の攻撃先を読んでくれている。
あのアーティファクトの力なのかな?でもそろそろ僕も魔力が危ない。そこでふいに意識が揺らいでそこをついてか少年が特大の拳をあびせようとしてきた。やられる!?


―――まだまだ甘いですよネギ先生。


その時、ここにはいないはずの人の声が聞こえた。
だから恐る恐る目を開くとその少年の拳は僕の生徒であるシホさんの手によって止められていた。

「シホさん!?」
「シホ、どうして!?」
「私も身代わりを用意してこちらに救援に来たんですよ」
「なんや姉ちゃん? いきなり現れて俺とネギの勝負の邪魔をせんでくれん?」
「まぁそう言わずに…ネギ先生はもう限界に近いから私が代わりに相手になってあげるわ」
「女は引っ込んどき!」
「話を聞きなさいって…」


―――いっているでしょう?


「がっ!?」

シホさんは少年の拳を掴んだまま手に魔力と違う力…これが気なのかな? それを集めて少年を柱まで吹き飛ばした。
すごい! あの細腕のどこにあんな力があるんだろう!
と、そこにカモ君になにか聞いたのか、のどかさんは少年に向かって、

「小太郎くん! ここからでるにはどうしたらいいんですかー?」
「な、なんやて!? アホか姉ちゃん! 俺がそんなこと教えると思うか?」

僕も普通そう思うけどのどかさんはアーティファクトでそれがわかるらしく、すぐにここからの脱出法を言い当ててしまった。
それに小太郎という名前の少年は焦ったのかかかってくるが、

「私に任せてください」

シホさんがいつの間に出したのか手に何本ものナイフを持っていてそれをすべて投擲し、小太郎君の周りに設置し、

「神鳴流…稲交尾籠(いなつるびのかたま)!」
「ぐっ…!!?」

なにかの結界術で閉じ込めてしまった。

「これで当分出てくることはないでしょう。さ、今のうちに脱出しましょう」
「あ、あの…小太郎君、ごめんね」

そして脱出した後、ちびせつなさんが再度結界を張りなおして小太郎君を結界の中に閉じ込めてしまった。
それから近くにあった川で手当てを受けながらどうしてのどかさんがここにいるのかと質問すると、

「そ、それは…ネギ先生とアスナさんがどこかいくのを見てどこいくのかな~と思っちゃって…」
「なるほど。それで鳥居に迷い込んで運良くネギ先生達と合流できたわけね。まぁばれてしまったものはしかたがない。とりあえず一緒に連れて行ったほうが危険が少ないからいいでしょう」
「そうっすね。しかし、のどかの姉ちゃんのアーティファクトも使い方によっては結構使えるぜ! いやー、これはいいパートナーにめぐり合えたもんだな!」
「こら! エロガモ、勝手に話を進めない! それよりシホ。あんたもいつからこっちに来ていたの?」
「んー? 内緒。でもさっき駆けつけた時に来たと思ってもらっていいわ」
「先ほどの捕縛術は見事でした」
「ありがと、刹那。それよりもう少しで関西呪術協会だからネギ先生が回復次第いくとしましょうか」
「そうですね」

でもその後刹那さんがなにかの妨害にあったのか式は機能を停止してしまってどうするかと言う問題になってしまった。




◆◇―――――――――◇◆




刹那は通信ができないほど焦っていて現在このかの手をつなぎながら京都を走っているところだった。

「お嬢様、大丈夫ですか!」
「はぁはぁ…平気やけど…どうしたんせっちゃん?」
「い、いえ少し…(言える訳がない。今現在敵に狙われていることなんて…)」

そして後ろから追ってきている早乙女ハルナと綾瀬夕映がなにかに気づいたのか、

「あれ? ここってシネマ村じゃん。桜咲さんここに来たかったの?」
「えっ…(そうか。よしここなら)すいません! 早乙女さん、綾瀬さん、私このか…さんと二人きりになりたいのでここで別れましょう!」
「え!?」
「お嬢様、失礼!」

刹那はこのかを抱えて跳躍をかましシネマ村へと入っていった。
残された二人は色々と二人の仲はどうなっているのか考えていたり。



…少し場所は離れ、ちびせつなのお札をつかって自身もちびねぎとなってネギ(カモも背中に乗っている)は向かっている途中、

「驚きました。シホさんも式神を使えたんですね」
「だよな」

ネギは同じくちびしほとなったシホに話しかけた。

「ええ。これでも神鳴流を学んだだけありますから。昔は重宝しました」
「昔、ですか?」
「いえ、気にしないでください。それより急ぎましょう」
「はい!」
「おうよ!」

そして二人と一匹がシネマ村に到着するとなにやら三班のいいんちょ達と刹那達は着物やらを着て仮装をし一緒にシネマ村の道を歩いているところだった。

(なにがあった?)

シホはその思いに駆られていた。
とりあえず合流しなければとネギ達と一緒に刹那に近寄った。

(刹那さん、刹那さん!)
(え? あ、ネギ先生! それにカモさんにシホさん! どうやってここに…)
(刹那の気を追ってきたのよ)
(それよりなにがあったんだ姉さん?)
(そ、それが…)

と、そこに「ふふふ」という声とともに月詠があらわれた。

(あいつは確かこの前に倒した奴ね。刹那、私は少し離れた場所で実体化しているから後を頼むわ)
(わかりました)

「ぎょーさん連れてきてくれはっておおきにー、刹那センパイ。でももう一人の方がいないんは寂しいですねー」
「ふん、貴様などシホさんの手を煩わせることもなく倒してやる。そしてこのかお穣様は必ずお守りする!」

高らかに言い切った刹那であったが、周りのいいんちょ達や観衆は感動しているのかどうにも勘違い者が続出している。
そして勘違いはエスカレートしいいんちょ達も戦闘に参加すると言い出した始末で。

「ツクヨミといったか? この人たちは…」
「心得ておりますー。ほかの皆さんには私の可愛いペットがお相手いたしますねぇ~?ひゃっきやこぉー♪」

呪符を撒き散らしたと同時に現れるたくさんのかわいいとも怖いともつかない妖怪の群れ。
それにいいんちょ達は防戦していた。
そしてネギは刹那にニンジャ姿の等身大にしてもらいこのかを連れてお城の方まで逃げていった。
すべてが済み刹那は月詠と殺陣を始めた。



一方シホは少し離れた高台の上に陣取り弓を投影しいざという時に見守っていた。

「今のところ刹那は大丈夫…。でもネギ先生のほうは…「アレ見て! アレ! あそこでも劇が…」あそこ? ッ!? お城の上に追い詰められている!」

シホが見た先ではお城の上でネギとこのかは符術師の女と謎の白髪の少年、それに幻想種の鬼と対峙していた。

「聞ーとるかお嬢様の護衛・桜咲刹那! この鬼の矢が二人をピタリと狙っとるのが見えるやろ! お嬢様の身を案じるなら手は出さんとき!!」
「まずいわね…アイツをどうにかしないと。投影、重装(トレース・フラクタル)―――I am the bone of my sword.(我が骨子  は 捻じれ  狂う)!」

符術師の女が叫び散らしている間にシホは宝具を投影して構える。
だがそこでともにいた白髪の少年がいち早く気づいたのか、

「(気づかれた!? だけど遅い!)偽・螺旋剣(カラド・ボルク)!」

シホの弓から放たれた魔剣は瞬く間に亜音速で空間を貫き幻想種へと向かっていった。
結果はすでにわかっている。
否、防ごうとしてもそれごと見事に粉砕するだろう。
だが、そこでミスが生じた。シホが放つ直前に城の屋上には運悪く突風が吹き荒れネギ達は多少だが動いてしまったのだ。
それで忠実に命令に従っていた幻想種はカラドボルクに貫かれる前に矢を放ってしまっていた。
――シホは残心がまだあったためすぐには動けない。
――ネギは実体でないため魔法すらも使えない。
万事休すかと思われた次の瞬間、

このかの前に、盾となり貫かれた、刹那が、いた。
シホは恐らく刹那の名を叫んだのだろう。刹那はそのまま落下していった。しかもそれを追ってこのかも飛び降りてしまった。
そこでシホは助けられないのか!? と苦虫を噛んだが、このかが刹那を抱きかかえた瞬間すさまじい光が溢れた。
シホは一瞬だが目を瞑ってしまったが、次に目を開けたときには二人は水面の上に浮かび上がっていて刹那の貫かれた傷も塞がっていった。

「あれが木乃香の隠された能力か。とてつもないわね…でも無事でよかったわ。でも…」

先ほど気づかれた事にシホは驚きを隠せないでいた。
距離があったし魔力も直前まで隠していた。だからあの一瞬だけで気づいたわけだ。
只者ではないと思い、そしてどこかであの白髪の少年を見た覚えがあるとも感じながら、ちびねぎと合流し逃げる準備をしている刹那達とともにシホは本体の元へと帰っていった。




◆◇―――――――――◇◆




「くぁー…また逃げられた。コラ、新入り。本当に追わんでええんか?」
「ええ。後でどうにでもできますから(しかし先ほどのすさまじい攻撃はいったいなんだ? 前にも記録でだけどこれを見たことがあるかもしれない。そういえば彼らの中に確か名前は“シホ・E・シュバインオーグ”といった少女がいたね。名前の空似でもなければ…一番の障害になりうるかもしれないね。これは千草さんにはそれとなく話しておくとしよう)」

白髪の少年はそう結論付けて次の思考を開始した。


 

 

022話 修学旅行異変《六》 総本山到着。戦いの始まり

 
前書き
更新します。 

 


本体に帰る途中でシホはネギにあることを話しかけた。

「ネギ先生にカモミール」
「なんですかシホさん?」
「なんでい?」
「先ほど符術師の女と一緒にいた少年ですが、彼を一番に警戒しておいたほうがいいと思います」
「えっ…? どうしてですか?」
「もちろん他の連中も警戒が必要ですが、おそらくあの少年だけは別格…たぶん今のネギ先生ではやられてしまうかもしれません」
「兄貴が!?」
「ど、どうしてそこまでわかるんですか?」
「…先ほど私が放ったものをご存知ですよね? あれはかなり遠くから放ったものなのに放つ瞬間、彼だけこちらに気づいたんです」
「あ、あれをですか!? 僕ですら全然気づかなかったのに…」
「はい。ですから本体に戻ったらすぐに私は一度旅館に戻ってタマモと装備を整えてきます。西の長にも白髪の少年には気をつけろと伝えてください」
「わかりました。僕も用心しておきます」
「よろしくお願いしますね」
「はい!」


そう告げてシホは一度旅館に帰っていった。
といってもまずは怪しまれないように琳と入れ替わりをしないといけないから時間まで隠れていなければいけないが…。
そこはかとなくどうにかなるだろうと探すより待つ選択をシホはとった。



…そして場面はネギ達に戻り、ネギは刹那達(と、ついてきてしまった5班+朝倉)と合流して目的地である関西呪術協会までの道のりを歩いていた。
アスナ達は木乃香達の背後で、

「ちょっと桜咲さん! なんでパル達もついてきてんのよ!?」
「いや、すみません。実はさっき見つかってしまいまして」
「ふっふっふ、甘いよ桜咲さん。GPSを事前に荷物に仕掛けておいたから見つけるのは楽勝だったわ」
「…と、いうわけでして。それよりシホさんは?」

それでネギ達はシホがどこに行ったのかを話すと、

「そうですか。シホさんは一度戻ったのですね」
「はい。少し心細いですが、その間僕たちだけでなんとかやっていきましょう」
「しっかしシホの姉さん、なにやら強力な魔法か?を持ってやしたね」
「はい。とてもびっくりしました。刹那さんと同じで接近タイプだと思っていたのは間違いでしたね」
「一応伝えておきますと、シホさんはどのタイプでも力を発揮できますから心強いですよ」
「「「へー…」」」

刹那の言葉に改めて感心しているネギ達であった。
そして目的地に着いたのか木乃香達は走り出してしまった。

「ちょ、ちょっと桜咲さん! ここは敵の本拠地なのにあんなに無防備に突っ込んで大丈夫なの!?」
「そうですよ。危険です!」
「いえ、その…」

刹那はしどろもどろになっている間に異変はあった。
いきなり「お帰りなさいませ、このかお嬢様!」という台詞とともに和服の女性達がネギ達を迎え入れた。
それに当然目を丸くしているネギ達だったが、

「えーと、つまりその…ここは関西呪術協会の総本山であると同時に、このかお嬢様のご実家でもあるのです」

刹那にそう告げられてえらく驚いていた。
それから色々話をしている間にネギ達は本殿へと通された。
そこで待機していたらしく詠春が現れた。

「お待たせしました。ようこそ明日菜君。それにクラスメイトの皆さん。そして担任のネギ先生」

詠春の登場とともにこのかが飛び出して詠春に抱きついた。

「あ、あの長さんこれを…」

そこにネギ君が立ち上がって詠春に親書の話を持ち出した。

「東の長 麻帆良学園学園長近衛近右衛門から西の長への親書です。お受け取りください」

それを詠春は受け取って中身を見、一瞬顔を顰めた。
どうやら学園長からお叱りの言葉が書いてあったのだろう、苦笑いを浮かべる。
少ししてすべてを読み終わった詠春は「任務ご苦労!」とネギを労い周りも騒ぎ出して宴会が開かれることになった。
その宴会場で、詠春は刹那に話しかけ刹那はすぐに片膝をついていたりした。
そして交わされる刹那の護衛の件での労いの言葉。このかの力の発現について。

「ところでシホは帰ってしまったのですか?」
「あ、はい。少し準備をしてくるとのことです」
「準備、ですか…」

詠春がそうつぶやいている中、ネギが、

「あの…長さんはシホさんと知り合いなんですか?」
「あ、そ、そうだね。うん、ちょっとした知り合いだよ。なぁ刹那君」
「は、はい。同じ神鳴流剣士ですから」

二人でうまく誤魔化しの言葉をいった。まだ知らせることではないとシホにも言われているのでなんとかやり過ごせただろうネギも「そうなんですかー」と言っていた。

「あ、それでシホさんから伝言ですが白髪の少年には気をつけろ、だそうです」
「白髪の少年、ですか」
「はい。なにやらシホさんはその事を話すときだけ目を鋭くしていました」
「そうですか…(シホが警戒するほどの白髪の少年…まさか彼が? いや、しかし彼はナギが…)」

考えていたが埒が明かないので保留となった。ただし警戒は少し強める方針で部下達に伝えた。
そんなこんなで時間は過ぎていき、アスナと刹那は現在二人でお風呂に入っていた。

「ふー…体が休まるわねぇ」
「ゆっくり休ませてくださいね」
「こーいうことならシホも残ればよかったのにね」
「いえ、シホさんにも考えがあるのでしょう…今回の旅行ではかなりの妨害を受けましたからアヤメさんと一緒に敵を倒しに来ると思います」
「えー、でももう危険なんてないんでしょう?」
「そうであればよいのですが…」
「まぁまぁそんなに神経張らないで今はゆっくりしましょう」
「あ、はい」

それから二人はシネマ村の一件や、お互いにネギ、このかとに対する気持ちなど後には喧嘩のように言い争っていたり。
それで一応の落ち着きを見せた後、

「あの…神楽坂さん実は…」
「あ、あのー…何か…明日菜でいいよ」
「あ…そうですね。じゃ私も刹那で…、あの…明日菜さん。いろいろと話したいことがあるので…あとでこのかお嬢様と一緒にこのお風呂場に来ていただきませんか」
「え…? うん、いいけど…」

明日菜がなにやら緊張しながら承諾しているとなにやら外からネギと詠春の声が聞こえてくる。
おそらくお風呂に入りに来たのだろう、アスナと刹那は勢いもあって岩陰に隠れてしまった。
そんなことは露とも知らずネギと詠春は話を盛り上がっている。
湯につかりながら、

「この度はウチのもの達が迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
「い、いえ…」

詠春は今回の襲撃に関してネギに謝罪の言葉を言っていた。
そして明日には救援も来て今回の件も解決するだろう旨を伝えた。
それでネギは喜んでいるが、どうしてこのかは狙われるのか聞いてみると、詠春はこのかの事を“切り札”と比喩した。
このかの血筋には代々から受け継がれる凄まじい呪力…つまり魔力を操る力が眠っていて、その力はサウザンドマスター…つまりナギをも凌ぐ程の力を秘めているという。

「つまり、このかさんも魔法使い?」
「はい、そのとおりです。そしてその力をうまく利用すれば西を乗っ取るどころか東を討つことも容易いと考えたのでしょう。
ですからこのかを守るために安全な麻帆良学園に住まわせ、このか自身にもそれを秘密にして来たのですが…」
「そ…そうだったんですか。あれ、ところでサウザンドマスターのことをご存知なんですか?」

ネギにそう指摘され詠春は笑みを浮かべながら、

「何しろ私はサウザンドマスター(あのバカ)…ナギ・スプリングフィールドとは腐れ縁の友人でしたからね」
「え…」
「そして君の身近にも私と同じ人物がいますよ」
「そ、それって…!」

ネギがそれを聞きたそうにするがそこでタイミング悪くこのか達が入ってきてしまい一騒動があったのはお約束。
だが少ししてアスナと刹那の約束はある襲撃者によって破られることになってしまう。




◆◇―――――――――◇◆




Side シホ・E・シュバインオーグ


私は少し前に琳に念話をしてなんとか合流して入れ替わった。

『では記憶を見せますね』
(できるの?)
『はい、では!』

そして流れてくる今日の楽しかっただろう光景。
その中で琳も楽しそうに笑っている光景を見て、すべてを見終わった後、

(これは、なんか悪いな。本当は琳の記憶でもあるわけだし)
『構いません。私も仮初とはいえ楽しめましたから』
(琳がそういうなら何もいわないけど)
『はい♪』

それで話もつき、琳はいつも通り護衛の任で私の近くについた。
そして龍宮達と合流してさて、後は旅館に到着した道中で、

「どうしたエミヤ。なにか考え事か?」
「ええ、ちょっとね。ネギ先生達は大丈夫かと…」
「大丈夫じゃないか? さきほどの話では今頃協会で楽しんでいるんだろう」
「そうだといいけど…少し私の中で敵の中に知っている顔があった気がするのよ」
「強敵か?」
「おそらく…」

私が龍宮と会話をしているとタマモが前からやってきて、そのまま胸に引き寄せられた。

「シホ様ー。タマモは心配しましたですよ~!」
「うぷ…。ちょ、タマモ…心配しすぎよ。少し一緒にいなかっただけじゃない?」
「それでもです! 今度シホ様を捕らえようとする輩にはとっておきの呪いをぶつけてやるつもりなんですから!」

心配性だなぁ…。まぁそれはしょうがないとして、その時携帯がなった。
相手はネギ先生だった。

「はい。ネギ先生、どうかしましたか?」
『あ、シホさん。よかった。出てくれて!』
「どうしました…? 声からしてかなり焦っているようですが」
『はい! 学園長にも連絡しましたが長が…!』

次の一言に驚かされた。
詠春が石化され木乃香も敵の手に渡ってしまったという。

「…わかりました。準備ができ次第すぐに救援に向かいます」
『お願いします!』

カチッ!

「タマモ、準備を!」
「はいです!」

そして背後では、

「私達も同行しようか」
「ニンニン♪ バカリーダーから救援の知らせがきたでござる」
「面白そうだからいくアル!」

龍宮に楓に古菲がその場に立っていた。
ふむ、以外に悪くないかも。
でも…

「楓はともかく、古菲は大丈夫なの…?」
「まぁ古も口は固いから大丈夫だろう」
「わかったわ。それじゃいきましょうか」

私達は急いで総本山まで向かっていった。
少し急ぐかもしれないけど。




◆◇―――――――――◇◆




ネギ達は走る。
このかを奪い返すために。

「しかしシホの姉さんの言うとおりだったな! まさか長までやられちまうなんて思わなかったぜ!」
「そうだねカモくん。でも今は早くこのかさんを…! 見えた!」

ネギ達が見た先には符術師・天ヶ崎千草に白髪の少年がこのかを式神に持たせながら立っていた。

「そこまでだ! お嬢様を放せ!!」
「……またアンタらか」
「天ヶ崎千草! 明日にはお前を捕えに応援が来るぞ、諦めて投降するがいい!!」
「ふふん、応援がナンボのもんや。あの場所に行きさえすれば………。まあええ。そんなに痛い目に遭いたい言うんなら、お嬢様の力の一端を見したるわ。本山でガタガタ震えとったら良かったと後悔するで」
「千草さん…。念のため多くお願いするよ。例の彼女が来るかもしれないから」
「了解や。お嬢様、失礼を…」

千草はこのかの口当たりにお札をはり呪を唱えた。
それに呼応しこのかも「ん゛っ……!」と口を鳴らし次には体が発光する。

「お嬢様!!」

刹那が吼えるが呪文は続けられあたり一面を光が埋め尽くす。
そして現れる異形の数々。
鬼から始まり鴉の翼を持つもの、狐の仮面をつけるものなど種類も豊富であたり一面に展開される。
その数は百では収まらず500以上はいるだろう。

「ちょっとちょっと、こんなのアリなのーーーー!?」
「やろー、このか姉さんの魔力で手当たり次第に召喚しやがったな…!!」
「な、何体いるか分からないよ……」
「あんたらはその鬼どもとでも遊んどきや。ガキやし、殺さんよーにだけは言っとくわ。安心しときぃ。ほな」
「まっ、待て!!」

刹那の制止の声も届かず千草達はその場を離れていってしまう。
そしてそれを阻む百鬼をゆうに越す軍勢。

《何や何や、久々にこんな大所帯で喚ばれた思ったら………》
《相手はおぼこい嬢ちゃん坊ちゃんかいな》
《悪いな嬢ちゃん達。「殺すな」言われとるけど、喚ばれたからには手加減でけへんのや》
《恨まんといてな》

「せ、刹那さん…こ、こんなのさすがに私…」

百鬼の軍勢の前にアスナは歯をガチガチと震わせて怯えてしまっている。
それは当然だろう。普通の中学生がこんなものを目にしたら怯えてしまうのは当然だ。
それでアスナを落ち着かせながらカモは、

「兄貴、時間が欲しい。障壁を!!」
「OK! ラス・テル・マ・スキル・マギステル。逆巻け春の嵐。我らに風の加護を。『風花旋風(フランス・パリエース・)風障壁(ウェンティ・ウェルテンティス)』!!」

ネギの呪文によって竜巻が発生し当分の間だが敵の侵入は防ぐことに成功した。

「こ、これって!?」
「風の障壁です。ただし2、3分しか保ちません!!」
「よし、手短に作戦立てようぜ!! どうする、コイツはかなりやばい状況だぜ!?」
「………二手にわかれる、これしかありません。私が鬼を引きつけます。その間にお二人はお嬢様を追ってください」
「ええっ!?」
「そ、そんな刹那さん!!」
「任せてください。ああいう化け物の相手をするのが神鳴流の仕事ですから」

ここは戦い慣れしている刹那を残していくのがベターな作戦だろう。
しかしアスナはそれを容認できなかった。
なら私も残る! と言い出してしまったのだ。

「刹那さんをこんなところで一人で残していけないよっ!」
「でもっ…」
「いや……案外いい手かも知れねぇ! どうやら姐さんのハリセンは叩くだけで召還された化け物を送り返しちまう代物だ! あの鬼たちを相手にするには最適だぜ!?」




―――――ならその案、私達も混ぜてください。




その時、頭上から声が聞こえてきて全員は「ハッ!」として上を向くとすごい勢いで、シホとタマモ…そして詠春が降ってきていた。

「どうやら無事のようね」
「シホさんにアヤメさん!?」
「長も!」
「どうやってこの竜巻の中に!」
「それより長は石化したはずでは!?」
「アヤメさんもなんか尻尾とか耳とか生えてるし!」
「穴から入ってきたのよ」
「穴って…」

アスナは頭上を見た、竜巻は空高く発生していてどれくらいの距離から入ってきたのかも想像できないほどだった。

「私に関してはシホに救われました」
「シホさんは石化を解くすべを持っているんですか!?」
「はい。まぁ企業秘密ですが」
「私はこの姿が本来の姿です♪」
「そ、そうっすか…。しかしこれで希望も見えてきたぜ!」
「なにを話していたのか知らないですけど、ネギ先生達は早く向かってください。ここは私とタマモがなんとかしますから」
「な、なんとかって外にはいっぱい敵がいるんですよ!?」
「知っています。でもあの程度なら私たちだけで十分です。ね、タマモ?」
「はいです」
「でも…」
「忘れないでください。こいつら以外にも月詠といった神鳴流剣士、狗神使いの犬上小太郎、そして白髪の少年…これだけの敵がこの先に待ち構えているんです」
「あ!」
「そのためには人数は多いに越したことはありません。ですから行ってください。道も私が作ります」
「でも、シホとアヤメさんだけじゃ…」
「大丈夫よアスナ。後から援軍も来る予定だから。片付けたら私たちも向かいます。けど白髪の少年にだけは念を押しますが気をつけてくださいね」
「は、はい!」
「白髪の少年に関しては私がどうにかしましょう」
「よ、よし。作戦はこうだ。シホの姉さん達の力を信じる形になっちまうが、鬼どもを引き付けている間に俺達はこのか姉さんの救出に向かい、白髪のガキは長のおっさんに任せて隙を見て奪還する。
月詠と狗っころはこの際どうにかやり過ごすしかないぜ」
「なんとかなるかも…?」
「なんとかするの…そのためにここまで来たんです」
「…よ、よし。ここらで少しでも勝機をあげるためにもアレ、やっとこうぜ! ズバッとブチュッとよ!」
「あ、アレって?」
「キッスだよキス! 仮契約!」
「「「ええっ!?」」」
「手札は多いほうがいいだろうがよ!」
「ふぅ…カモミール、あなたね…。ま、私はパスするわ」
「私もです。というかシホ様には絶対許しません」
「と、なれば後は刹那の姉さんだけってわけか」
「わ、私ですか…」
「急いでくれ。もう障壁が解けるぞ!」
「は、はいっ!」

刹那は一瞬迷ったが状況が状況なのですることに決めたのだった。

「す、すいませんネギ先生…」
「いえ…あの、こちらこそ…」

二人は顔を赤くしながら…周り、アスナは少しドキッとしていて、ほかの面々はほほえましい表情で見ていた。

「い、いきます」
「は、はい」

そして口付けにより契約は交わされた。

「さて…それじゃ今から私が突破口を作りますから…―――I am the bone of my sword(我が骨子  は 捻じれ  狂う)―――…!」

シホは弓に捩れた螺旋剣を番えて構えをする。
それを見てそれがとても強力な力を秘めているのが分かったネギは体を震わせた。

「私が放ったと同時にネギ先生は刹那を、えい…長はアスナを抱えていってください」

全員はそれに頷き風がやむのを待つ。
そして…、

「今です! 偽・螺旋剣(カラド・ボルク)!!」

それと同時にネギは刹那を杖に乗せて、詠春はアスナを抱えて矢の直線状をすごい勢いで突っ切っていった。


 

 

023話 修学旅行異変《七》 激戦

 
前書き
更新します。 

 


時は少し遡り、
シホは詠春の心遣いで作ってもらっていた自室に置いておいたあるものを使い部屋にタマモとともに転移していた。

「ふぅ…成功ね。久しぶりだからうまくいってよかったわ」
「そうですね、シホ様」
「それより詠春を探さなくちゃ…」

少ししてシホ達は石化している詠春を発見する。

「あー…しっかりとやられているわね」
「久しぶりですが老けましたねぇ」
「そういわないの。年月はしょうがないんだから。それより…」

シホは手に歪な短剣を取り出しそのまま詠春に突き刺した。
そして、

パァッ!

閃光とともに詠春の石化は解けた。

「…む。石化が解けたのですか?」
「そうよ詠春」
「シホに…それにキャスターも一緒ですか」
「今は玉藻アヤメと名乗っていますのでアヤメで結構です」
「そうですか」
「それよりこんなところで終わるほど腕は鈍っていないでしょ?」
「ああ。不覚を取りましたがもう負けません」
「それじゃいきましょうか」
「少し待ってください。着替えてきます。この格好では動きにくいので」
「早くね」

そして三人はネギ達の後を追うのだった。




◆◇―――――――――◇◆




そして現在、シホはネギ達を行かせた後、放った剣を爆発させた。
それにより敵陣の被害は甚大。
だが、それでも天ヶ崎千草はシホの存在を見越してその数は見積もっても1000体以上をも召喚していたため、まだ9割は残っているといったところだ。
だが、シホは表情を崩さず、

「さて、それじゃしばしの間相手をさせてもらうわよ幻想種…」
《なんや穣ちゃん。いきなり現れたと思ったら同胞を一瞬のうちに100体以上はふっ飛ばしてくれよって…覚悟はできてんやろな?》
「覚悟、とは…そのようなもの最初から出来ているに決まっているでしょう。このたわけ…! 私は今少々、いやかなり気が立っている!」
「キリキリ殺すぞ!」

冷笑を浮かべてシホは背後にいくつもの武器を浮かび上がらせた。
タマモも数枚の呪符を構える。

「…さぁ、幻想種。幻想殺しの概念は除いてあるわ。だからさっさと故郷へ帰還しなさい!」

そして放たれた剣、剣、剣…それはさながら豪雨のように鬼達へと降り注ぎ次々と殲滅していく。
それは一方的な暴力でもあるが相手もそれを望んで召喚されたのだからお相子である。

「はああああああっ!!」

シホ自身も敵陣にものすごいスピードで切り込み、裂帛とともに双剣から次々と放たれるそのまさに動く高速機械のような正確な剣戟によって鬼達は悉く急所を斬り、突き刺し、そして還される。
鬼達が圧倒されている間にシホは双剣を投擲し、二つの剣はそれぞれ弧を描きながら別の方へと飛んでいき斜線上の敵を一体、二体と容赦なく切り裂いていく。
さらに放った双剣を爆発させ無手になって鬼達はチャンスといきり立ち襲い掛かるが甘い。
シホは吸血鬼の力を発揮し爪を硬質化させ次々と引き裂いていく。

《なんやこの穣ちゃん! 人間やないで!》
「シホ様を侮辱するのはいただけませんねぇ…燃え尽きなさい!」

タマモが背後から手に“呪相・炎天”を展開させ呪いの炎を放つ。

「出番ですよ! 呪招・飯綱!」

呪文とともに現れる四匹の管狐。
琳はカマイタチを発生させ次々と鬼を切り裂き、雅は口から冷気の息吹を吐き出し凍りつけていく。
焔と刃は自身を円状に変化させ高速回転していきながらそれぞれ炎と雷を纏って突っ込んでいく。
タマモも神宝・玉藻鎮石である鏡を空中に浮遊させ、敵の魔力を攻撃するたびに吸収する呪術“呪法・吸精”を常時展開させて切りかかっていく。
一体切り伏せるごとに魔力が回復していくのだからかなり効率のよい術である。
さらに攻撃される時も、敵の攻撃を軽減させ、その分の攻撃に使われた力を魔力に変換する呪術“呪層・黒天洞”も展開しているのでその二つの呪術がセットでタマモの魔力は底知らずの状態である。
さらにそこに畳み掛けるように、

「炎天、氷天、密天、雷天! 四呪相入り乱れ攻撃~! 全員呪殺してさしあげますよ♪」

タマモのまわりは炎が通り、地面が凍っていき、竜巻で敵を巻き込み、雷で黒焦げにしていき…一瞬で二十体以上が還っていった。

「一丁上がりです♪ さー、次行きますよ!」
「張り切っているわね、タマモ。私も負けていられないわ!  投影、開始(トレース・オン)!  投影、装填(トリガー・オフ)……全工程投影完了(セット)――――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)!!」

巨大な斧剣を投影しその細腕に吸血鬼の力を入れて持ち、斧剣に記憶している技を開放し九つの斬撃を放ち、それはたちまち眼前の敵を一網打尽にしていく。
その威力は衰えをしらず一体を貫通して背後にいた敵にも喰らいつく。
人間の時だったなら一発放つだけで筋肉が一時的に麻痺してしまうほどの代物だが吸血鬼となり怪力能力を身に着けたシホにとってそれは意味をなさない。
よって制限はなくなったことになる。

《ぐあっ…強すぎじゃ》
《誰か強いやつはおるかー!?》
《鬼がいるぞー!》
《…お前も鬼だろうに》

いい具合に混乱している鬼達。
シホ達のターンはまだまだ終わらない。




◆◇―――――――――◇◆




湖の上に浮かぶ祭壇。
中心に横たわるこのか。
その中心で天ヶ崎千草が後ろに控えている白髪の少年―――フェイト・アーウェルンクスに語りかけるようにいう。

「あっちに見える大岩にはな、危な過ぎて今や誰も召喚できひんゆー巨躯の大鬼が眠っとる。
18年だか前に封印が解けて大暴れしたらしいんやけど、今の長とサウザンドマスターが封じたんやと。でもそれも……お嬢様の力があれば制御可能や」

愉悦の笑みを浮かべながらこのかに近づき、

「この償還に成功すれば応援部隊もものの数やあらへん」
「んんっ…」
「ご無礼をお許しください、お嬢様。何も危険はないし痛いこともありまへんから…」

逆に気持ちええんちゃうかな?と付けたし、

「…ほな始めますえ」

そして千草は呪文を唱え始めると同時にこのかを中心に光の柱があがる。




◆◇―――――――――◇◆




シホの是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)による轟音がとどろいてくる中、ネギ達は先へと進む。

「さすがシホさん達ですね。ここまで轟音が…」
「ああ。それより兄貴、感じるかこの魔力!! ヤツら何かおっ始める気だぜ!? 急げ!!」
「わかってる、『加速(アクケレレット)』!!」

ネギはさらに加速をして刹那を落とさないように突き進む。
それをアスナをお姫様抱っこをして進む詠春も感じ取り、

「私たちも急ぎましょう」
「は、はい!」

走る勢いを早める。




◆◇―――――――――◇◆




ネギは空からこのか達がいる場所が見えた。
だがその時、刹那が背後を見て気づいた。

「ネギ先生! 避けてください!」
「えっ!? あ、あれは狗神!? くっ! 風盾(デフレクシオ)…!!」

障壁を展開したが間に合わずネギ達は撃ち落されてしまう。

「わああっ!? くっ…杖よ(メア・ウイルガ)風よ(ウエンテ)!」

ネギはなんとか地面に着地した。
見れば刹那も地面に無事着地している。

「刹那さん、大丈夫ですか!?」
「は、はい!」

お互いに無事を確かめるがそこにかけられる第三者の声。

「よおネギ」
「「!?」」
「へへっ、嬉しいぜ。まさか…こんなに早く再戦の機会が巡ってくるたぁな…。ここは通行止めや!! ネギ!!」

そこには犬上小太郎が立って通せんぼしていた。

「こ、コタロー…君!!?」
(こ、こいつはマズイ! 刹那の姉さん、ここは…)
「(はい)ネギ先生、行ってください。彼は私が食い止めておきます!」
「センパ~イ。センパイの相手はウチがしますよー」
「つ、月詠まで!」
(おおい! シホの姉さんの言うとおりになっちまった! こりゃマズイぜ!)

「いくでネギ!」
「さ、やり合いましょうか刹那センパイ♪」




◆◇―――――――――◇◆




ネギたちと平行して進んでいた詠春達はネギ達の異変に足を止めた。

「いけません。ネギ君達を助けにいきませんと!」
「そうですね」

二人はそう意気込み助けに行こうとするがそこに黒い魔方陣が地面に浮かび上がる。

「「!?」」
「フフフ…」

そこからゆっくりと、だが確実になにかが現れる。
数は二つ。その姿はまさに悪魔…そしてもう一方は…、

「えっ…シホ、なの?」
「なぜシホの姿を…」

悪魔の隣には黒い翼を生やして黒髪、黒目だが確かにシホの姿をしたなにかが無言で立っていた。
悪魔は腕を剣に変化させて詠春に切りかかってきた。

「!? させません!」

ガキィン!

「くぅ!?」
「よくぞ防ぎましたね。サムライマスターの名は伊達ではないですね」
「貴様は!?」
「ただのお節介ですよ。ですがどうですかな? 我が愛しの吸血姫を真似て作った人形は?」
「なん、だと!? シホの事を知っているのか!」
「フフッ、知りたければ私を倒すことですね」
「ならば倒させてもらおう!」
「お、長さん!」
「明日菜さんはそのシホの偽者にやられないように注意しながら防戦してください!…どうやらこの悪魔は全力でいかなければ倒すことができないかもしれませんから」
「わ、わかりました。ネギからも魔力の供給をしてもらっていますからなんとか凌いでみます!」
「お願いします! いきます。雷光けーーーんッ!!」
「ぬっ!」
「はぁーーー!!」

すごい轟音とともに詠春は謎の悪魔を吹き飛ばしてそのまま追撃していった。
そして二人だけになりアスナはシホの偽者に向き合い、

「どうしてシホの姿…さらにそんな蝙蝠のような翼を生やしているのか知らないけど…そこをどいて! このかを助けにいかなきゃいけないのよ!」
「………」

シホ(偽)は無言で一本の剣を構えた。

「やっぱりこうなるのね…本物のシホにも敵うか分からないのにこりゃないわよ。でも、友達の姿を真似されて我慢できるほど私はできていないのよ!」

アスナはハリセンを構えてシホ(偽)と対峙した。




◆◇―――――――――◇◆




一方、本物のシホ達はというと、

停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!!」

ドドドドドツ!

《ぐぁあっ!》
《オヤビン、またえらい数が還されてしまいやしたぜ》
《グッフゥ…本当にやりおるな》

鬼達が騒いでいる中、タマモがシホに近寄り、

「シホ様~…いいかげん疲れました。弱いのに数だけはいるので」
「そういわないの。後もう少しだから」

だがそこである光の柱が立ち上がるのを見る。

「なに!?」
《ほっほぉー…こいつは見物やな》

鬼達も戦うのを一時停止してそれを見る。
シホはそれを見て、

「ネギ先生達は失敗したということかな」
「たぶんですが…ですがまだ開放はされていないみたいです」
「そう…詠春もいるのに一体どうなっているのか…私達も向かうわ!」
「それじゃさっさと片付けましょう!」
《おっとぉ! 敵わないとはいえ足止めはさせてもらうぞ、お嬢ちゃん》
「くっ…」

「―――楽しそうなことをしているなエミヤ。混ぜてくれないかい?」
「うひゃー! あのデカイの本物アルか! 強そうアルね!」

ふと、そんな声が聞こえたので見るとそこには銃を構えている龍宮と古菲が立っていた。
それを見て即座にシホは、

「任していい?」
「またいきなりだな」
「ちょっと急ぎができたの」
「状況は理解している」
「じゃ…」
「仕事料は? どれくらいで私を雇う?」
「そこの古菲も入れて食事に招待するけど?」
「結構だ」
「おー? なにか分からないアルけどシホの手料理がご馳走とくればがんばれるアルよ!」
「じゃお願い」
「真名、お願いしますね」
「任された」

まるで普段の会話のようなやり取りでシホとタマモは光の方へと向かい、龍宮と古菲は鬼達へと挑んでいった。




◆◇―――――――――◇◆




そしてネギと刹那は今も戦いを繰り広げていた。
刹那のほうは激しい攻防ゆえに次第にネギから離れてしまいいつの間にかその場にはネギと小太郎、そしてカモだけになっていた。
ネギは先に向かいたいが為に小太郎の攻撃を避けにだけ使っていた。

「どうしたぁ本気で来いやネギ!!」
「ど、どいてよコタロー君! 僕、いま君と戦ってる暇なんてないんだ!!」
「嫌や。つれないこと言うなやネギ」

小太郎は息をつきながらもネギと戦いたいが為に立ちはだかる。

(兄貴、これ以上自分への契約執行を使うんじゃねえ。ただでさえ姐さんへの魔力供給もし続けているんだ。すぐに底をついちまうぜ!
もともと無茶な術式で未完成だから体への負担も大きいんだからよ!!
あの光の柱を見ろ! 儀式は後数分で終わっちまうぜ!? 急がねぇと…)
(わかってるカモ君…)

「コタロー君! 何であのお姉さんの味方をするの!? あの人は僕の友達を攫ってひどいことしようとしてるんだよ!!」
「ふん! 千草の姉ちゃんが何やろうと知らんわ、俺はただイケ好かん西洋魔術師と戦いたくて力を貸しただけや。でも…その甲斐あったわ!!
お前に会えたんやからなネギ!!
嬉しいで!! 同い年で俺と対等に渡り合えたんはお前が初めてや!! さあ、戦おうや!!」
「戦いなんてそんな…意味無いよ!! 試合なら後でいくらでも―――」
「ふざけんな!!」
「!?」
「俺にはわかるで。事が終わったらお前は本気出すようなヤツやない。俺は本気のお前と戦いたいんや!!今、ここで! この状況で!!
ここを通るには俺を倒すしかない。俺は絶対譲らへんで!!」
「ぐっ…」
(挑発に乗るな兄貴!!何とかして出し抜く方法を考えるんだ!!)

カモと小太郎との言葉の中でネギの心は揺れ動く。
そして決定打。

「全力で俺を倒せば間に合うかもしれんで!? 来いやネギ!! 男やろ!!」
「………!」

その一言でネギはカモを肩から下ろす。

「――――――わかった」
「あ、兄貴!?」
「へっ…そうこなくちゃな!」
「うおい兄貴!」
「大丈夫だよカモ君。一分で終わらせる」

カモが必死に呼び止めるがネギは頭に血が上ったかのように戦いを挑もうとする。
(ちょっ……ぐあ…あ、マ、マズイ……兄貴の頑固さと子供っぽさが悪い方向に出ちまった………! ここで戦ったらどう転んでもこのか姉さんは………!!)
「いくぞ!!」
「来い!!」
(賭けは失敗か!? だ、誰か止めてくれーーー!!)


―――熱くなって我を忘れ大局を見誤るとは……精進が足りんでござるよネギ坊主。


だがそこに柳のような涼やかな声が聞こえてくる。
同時に二人の間に巨大な手裏剣が突き刺さる。

「何ッ!?」
(い、今の声―――――!!)

小太郎の前に影がさし底掌が叩き込まれ一本の木まで吹き飛ばされる。

「がっ…残像!? 分身攻撃!? なっ、何者や!?」

そこに夕映を抱えた楓が現れる。
第二の援軍のご到着だった。

「長瀬さん………!! ゆ、夕映さん!? で、でもどうしてなんでここに…」
「私が携帯電話で呼んだです、ネギ先生」

ネギの疑問に抱えられていた夕映が答える。

「ゆ、夕映さん」
「ここは拙者に任せるでござるよ。急いでいるのでござろう?」
「で、でも…」
「詳しい話は後でござる…。拙者のことなら心配いらぬ。今は考えるより行動の時でござるよ。さあ、早く!!」
「―――ッ! す、すいません長瀬さん!!」
「すまねぇ、のっぽの姉ちゃん」

それでネギはかけていく。
だがそれを小太郎は追おうとするがクナイが地面に放たれ邪魔をされてしまう。

「………オイ。そこのデカイ姉ちゃん、邪魔すんなや……俺は女を殴るんは趣味とちゃうんやで………?」

やっと出会えた好敵手に逃げられ、小太郎の眉間には青筋が浮かんでいる。
しかしその程度で楓の余裕は崩れない。

「ふ……コタローと言ったか少年。ネギ坊主を好敵手(ライバル)と認めるとは、なかなかいい目をしているでござる。
…だが今は、主義を捨て本気を出すのを勧めるでござるよ。今はまだ(・・・・)拙者の方が、ネギ坊主よりも強い」
「………」
「甲賀中忍、長瀬楓…参る」

同時に十人以上もの分身が現れる。
それに一瞬呆気にとられる小太郎だが、

「上等!!」

狗神を出現させ楓にかかっていった。




◆◇―――――――――◇◆




そしてまた場所は変わり麻帆良学園。

「何いっ!? やっぱ無理とはなんだジジイ!!」
「うーむ……修学旅行は学業の一環じゃし、呪いの精霊を騙せると思ったんじゃがの…。ナギの奴め、力任せに術をかけよって……。正直、無理かも。てへっ♪」
「おおいっ!! てへじゃない! なんとかしろ! 孫の危機だろうが!!」
「マスター、そんなに必死になって………よほどネギ先生が心配なのですね」
「だ・れ・が、あのガキの心配をしてるって!? それはお前だろうがっ!!」
「あああ…いけません、そんなに巻いては…」

エヴァにネジを回され困っている茶々丸の姿があった。
間に合うのかいささか不安で心配である。


 

 

024話 修学旅行異変《八》 戦いの終わり

 
前書き
更新します。 

 


「やぁあああーーー!!」
「………」

ガキンッ!
ズワンッ!

「わっ! もうまたー!?」

シホの偽者と対峙していたアスナは、一度ハリセンを振るえばそれを一本の剣で受け止められ力任せに弾き返される。
それをもう何度も繰り返し行っていて、でもそこから抜け出す術をアスナは持ち合わせていなかった。
唯一の救いはシホ(偽)ははじき返した後は不気味なことに一回も仕掛けてこないのだ。
よってアスナにとって千日手のようなことになっていた。

「もうっ! どうしろっていうのよ!」

そこに、

「アスナ!」
「えっ!? あ、アヤメさん!」
「どうしたのですか? こんなところで…」

タマモが現れてアスナの背後に立っていた。

「どうしたもこうしたもないわよ! アレ見ればわかるでしょ!」
「アレは…見た目は違いますがシホ様!?」
「そうなのよ…鬼とは違った奴が現れて長さんはそいつを悪魔って言っていたけど、そいつと今もやりあっているらしいのよ。
あいつはそいつと一緒に現れたのよ」
「そうですかぁ…。フフフッ…シホ様の偽者とは生意気なことをしてくれますねぇ」
「と、ところでシホは?」
「シホ様でしたらどうやら刹那の方に向かったみたいです」
「そうなの…それであいつは倒せるかな?」
「お任せを! 悪魔が作り出した程度の人形に負けるわけがありません!」

タマモはお札を取り出して、

「慈悲です。一瞬で燃え尽きなさい! 呪相・炎天!」
「…!」

シホ(偽)はそこで初めて攻勢の構えをして自ら炎に飛び込んでいく。
そして剣を眼前に出してそこから障壁のようなものが展開し炎をすべて防ぎきった。
しかもそれだけで終わらずその炎を剣に吸収して宿らせて炎剣を出現させる。

「ありゃりゃ…吸収されてしまいましたね」
「ありゃって…そんなのん気な!」
「大丈夫です。ならば吸収できないほどのものを叩き込めばいいのですから…奥義を出します。アスナは離れていてください」
「う、うん…」

アスナを後退させたタマモは玉藻鎮石を眼前に構えて、

「“呪層界・怨天祝奉”…高まれ魔力、迸れ炎天…はぁああああ!!」

カッ!

まばゆい光とともにタマモの尻尾に揺らぎが発生し、まるでそう…九本あるような錯覚をアスナは感じていた。
さらにそれ一本ずつに炎が宿り、

「朽ち果てよ! “呪禁相・火輪尾大炎天”!!」

ズワアアアアアッ!

先ほどの炎天とは比べるのがおかしい程の炎が発生してシホ(偽)に襲い掛かる。
再度吸収しようとするが、

「無駄です!」
「ギ…ッ!?」
「燃え尽きなさい!!」
「■■■■■ーーー!!!?」

声にならない悲鳴を上げシホ(偽)は燃え尽きてしまった。

「まったく悪趣味な人形でしたね」
「本当にね…」
「でもあそこまで似ていたシホ様の偽者…敵の悪魔はいったい何者…?」
「なんか…我が愛しの吸血姫とか言っていたけど、どういう意味だろう?」
「!? 本当ですかアスナ!」
「え? う、うん…」

(これは…なんとかしてその悪魔と接触をしなければいけませんね)

タマモが考え込んでいる中、茂みのほうからシホと刹那が現れた。

「あ、刹那さん! 大丈夫だった!?」
「はい、月詠は捕縛術で縛っておきました」
「私の助けはいらなかったみたいよ」
「普段からシホさんとは二刀流の相手をしてもらっていますから冷静に対処すれば簡単でした」


―――その頃、「放置プレーですか~。刹那センパイのいけず♪」と月詠は呟いていた。


と、その時強大な光からなにやら人の形が浮かび上がる。

「な、なんだアレは!?」

刹那の叫びで全員が振り向きそこには鬼神の姿があった。




◆◇―――――――――◇◆




…時は少し遡りネギは祭壇へと突入をかけていた。

「『加速(アクケレレット)』!」
「まさかあのガキが!」
「あなたは儀式を続けて」

フェイトはお札を取り出し昼間にシホに消されたはずの式神――ルビカンテ――を召喚する。
ネギを倒すように指示を出す。
ルビカンテは指示通りネギに突撃を仕掛けるが、

「契約執行1秒間!! ネギ・スプリングフィールド!! 杖よ、最大加速(マークシマ・アクケレラティオー)!!」

水上ギリギリを飛行し水しぶきを上げながらネギはルビカンテを拳一つで貫いた。

(スゲエ! 昼の疲労や姐さんへの契約執行があるのにここにきてこれほどの魔力パンチ。そろそろガタがきてもおかしくねえのに兄貴の魔力は底なしか!?)
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 吹け一陣の風。『風花風塵乱舞(サルタティオ・ブルウェレア)』!!」

水煙を発生させフェイト達の視界を奪う。
だがフェイトはわかっているかのようにネギの進行方向に手を構える。
しかしフェイトに向かってきたのは杖だけ。
本体であるネギは背後に回りこみ、

「わあああああっ!」

フェイトに向かって拳を突きつけた。
だがそれはフェイトの堅固な障壁によって止められてしまう。

「無駄だよ。だから止めたほうがいいと言ったのに…つまらないね。なんで実力差があるのに慣れない接近戦を選択したの? サウザンドマスターの息子でもやはり子供…期待ハズレだよ」
「へへへっ」
「…?」

しかしそこでネギは密かに笑い出した。
なにがおかしいのかフェイトは疑問に思う。

「―――ひっかかったね? 開放(エーミツタム)!『魔法の射手・(サギタ・マギカ・)戒めの風矢(アエール・カプトウーラス)』!!」
「詠唱なしで呪文!? そうか、遅延呪文!」
「へっ…その通りだ! 水煙の中で魔法の射手を咲きに詠唱して溜めておいたんだ! おまけにゼロ距離…これならどんだけ強力でも障壁は効力を最小まで半減できるって寸法よ! どんなもんじゃわりゃあああ!!」
「…成る程。わずかな実戦経験で驚くほどの成長だね。認識を改めるよ、ネギ・スプリングフィールド」

拘束されているフェイトはなおも冷静にネギを評価していた。
しかしそれに耳を貸すほど暇ではない。一刻も早くこのかを救出しなければ…その思いでかけるが…、

「い、いない! どこに!?」

祭壇の中心にはこのかはおらず天ヶ崎千草もいなかった。
しかしすぐに発見することになる。
最悪な事態とともに…!

「ふふふ………一足遅かったようですなぁ。儀式はたった今終わりましたえ」

そこには顔が前と後ろの二つ、腕が四つ、まだ上半身だけだというのにその大きさは二十メートルから三十メートルはあるであろう巨大な姿。

「二面四手の巨躯の大鬼、『リョウメンスクナノカミ』。千六百年前に討ち倒された、飛騨の大鬼神や」

巨大な鬼がネギ達の前に現れてしまった。
天ヶ崎千草はこのかを浮遊させながら自らも浮遊しスクナの肩に飛び移る。
ネギはそのあまりの大きさに絶望に打ちひしがれるがすぐに気持ちを切り替えて、

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!」
「兄貴!?」
「完全にでちゃう前にやっつけるしかないよ! 来たれ雷精、風の精!!」
「うおおいっ! 待てよ兄貴! 確かに今効きそうなのはそれしかないとはいえ兄貴の魔力は限界だ! ぶっ倒れちまうぞ!」
「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!」

カモの叫びは、しかし今のネギには止めるという選択肢はない!

「『雷 の 暴 風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)』!!!」

渦巻く螺旋の雷はスクナに直撃する。しかしそれだけ…スクナは全くの無傷でその身を微動だにしない。

「アハハハハハ!! それが精一杯か!? サウザンドマスターの息子が!! まるで効かへんなぁ!!」
「そ、そん、な…!」
「こいつをこのかお嬢様の力で制御可能な今、もう何も怖いモンはありまへん。明日到着するとか言う応援も蹴ちらしたるわ!!
そしてこの力があればいよいよ東に巣食う西洋魔術師に一泡吹かせてやれますわ!! アハハハハハハハハ!!!」
「く………くそぉっ……………!!」

ネギは魔法の行使のし過ぎで地面に手をついてしまう。
さらに最悪なことに拘束していたフェイトも開放されてしまった。

「善戦だったけれど……残念だったねネギ君…」
(マズイゼ! な、何か打つ手は! そ、そうか! 仮契約カードのまだ使っていない機能を使えば! 兄貴!!)
(わかってる!)

「召喚! ネギの従者、『神楽坂明日菜』『桜咲刹那』!!」

ネギは最後の手としてアスナ達を召喚した。

「す、すみませんアスナさん、刹那さん…僕!」
「分かってるネギ!! って、ぎゃあああ! なによアレ!?」

アスナは目前のスクナに大声をあげる。

「それでどうするの? ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト。小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ」
「これは始動キー!! コイツ西洋魔術師!? マズイ姐さん、奴の詠唱を止め―――」
「駄目です、間に合わない!!」
「時を奪う毒の吐息を。『石の息吹(プノエー・ペトラス)』」

詠唱は執行されてしまい祭壇を白い煙が覆い尽くす。
なんとか逃げることに成功したネギ達だったが、

「ネギ先生! その腕は!?」
「だ、大丈夫です。少し掠っただけですから…」
「―――ッ!」

ネギの腕は少しずつ石化してしまっていた。
このままでは物言わぬ石へと姿を変えてしまう。
もうネギはあまりの消耗具合に戦えないと判断した刹那は、

「……お二人は今すぐここから逃げてください。お嬢様は私が救い出します!!」
『えっ!』
「お嬢様は千草と共にあの巨人の肩の所にいます。私ならあそこまで行けますから。」

もう眼中にないのか天ヶ崎千草はスクナの肩の上で笑みを浮かべているだけだ。

「で、でもあんな高い所までどうやって」
「ネギ先生、明日菜さん…。私…お二人にもお嬢様にも秘密にしていたことがあります…。この姿を見られたら…もうお別れしなくてはなりません」
「え……」
「でも今なら……。あなた達になら………!!」

刹那は力をこめた次の瞬間、

白い羽が舞い散る。
夜だというのに、いや夜だからこそその神秘性はあがっている。
素直に綺麗だと思うだろう。


―――刹那の背中に白い羽が生えていたのだ。


「…これが私の正体……。奴らと同じ…化け物です。でもっ、誤解しないでください、お嬢様を守りたいという気持ちは本物です!! …今まで、秘密にしてきたのは…この醜い姿をお嬢様に知られて嫌われるのが怖かっただけ………!!」

刹那は心の底からそう白状した。

「私………宮崎さんのような勇気も持てない、情けない女ですっ………!!」
「ふぅーん」
「ひゃっ!?」

アスナは突然刹那の羽を何度も触りだし、何を思ったのか背中を思いっきり叩く。
それに呼応して刹那は悲鳴を上げる。

「なーーーに言っているのよ刹那さん。こんな翼が生えてるなんてカッコいいじゃん!」
「え、え…?」
「あんたさぁ…このかの幼馴染でその後二年間も陰からずっと見守ってきたんでしょ? その間あいつの何見てきたのよ? このかがこのくらいで誰かのことを嫌いになったりすると思う? ほんとにもーう…バカなんだから」
「あ、アスナさん…」
「行って刹那さん! 私たちが援護するから! いいわよねネギ!」
「は、はい!」
「ほら早く、刹那さん」
「グッドラック!」

刹那は嬉しかった。
今までこの翼を見たものは気味悪い視線を向けてきた。
差別され禁忌され醜いとまでいわれてきた翼。
だがアスナ達は今までと同じように接してくれる。
それだけで胸が締め付けられる思いにさらされる。
嬉しさを胸に秘めて、

「はい!」

刹那は飛び立つ準備をする。

「…ネギ先生。このちゃんのために頑張ってくれてありがとうございます」

そして飛び立っていった。
そこに煙の中から出てきたフェイトは邪魔しようとするがネギが魔法の射手を放ちさせないようにする。
アスナはそれでネギに心配の言葉をかける。
だが思ったとおりフェイトの対象はネギ達に移行される。

「さて………これからどうしようか? カモ君」
「手は出し尽くした。さあ、どうすっか…何も思いつかねえや………へへっ」

ネギ達はただ笑うだけであったがそこで勝利の女神にも匹敵する声が聞こえてくる。

『ぼーや、聞こえるかぼーや』
「…!」
「この声って!」
「ああ、姐さん!」
『わずかだが貴様達の戦いを見させてもらった。特にぼーや。力尽きるまでとはいわんがまだ限界ではないはずだ。1分半持ち堪えさせろ。そうすれば私がすべてを終わらせてやろう』

この声は間違うことなきエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルの声。

『ぼーや、さっきの作戦はよかったが少し小利口にまとまりすぎだ。今からそれじゃ親父(アイツ)にも追いつけんぞ? たまには後先考えず突っ込め! ガキならガキらしく後のことは大人に任せておけばいいのだ。もう少しでもう一方の援軍も到着するのでな』

そこでエヴァの声は聞こえなくなる。
それでネギは一度息をつき、

「アスナさん…いきます!」
「OK!!」
「来るのかい? …では相手をしよう」
「GO!!」

カモの掛け声で契約執行をするネギ、駆け出すアスナ。
だがフェイトは瞬時に目の前まで移動してアスナを橋に叩き付ける。
そしてネギの背後にも現れアスナの方に吹き飛ばす。
それを何度も続けられまさに防戦一方。
それが何度も続けられると思いきやフェイトは空に上がり、

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト! 小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ。その光、我が手に宿し、災いなる眼差しで射よ」

フェイトの詠唱にアスナは即座にネギをかばった。

「『石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)』!」

魔法は放たれたがそれはアスナの服を石化するだけにとどまった。

「まただ…またかき消された。その力はやはり魔法無効化能力か? まずは君からだ、カグラザカアスナ!」

その力は危険と感じたフェイトはアスナに拳をぶつけようと迫る。
だがそれはネギによってとめられた。

「あ、アスナさん…大丈夫ですか?」
「うんネギ…大丈夫よ。…イタズラの過ぎるガキには…お仕置きよっ!!」

アスナは服が砕けるのをお構いなしにハリセンを構えてフェイトに叩き付ける。
同時にハリセンの効果が発揮しフェイトの障壁が砕かれる。

「なっ!?」
「兄貴、今だ!」
「うおおっ!」

石化している拳に力を込めて障壁が消えているフェイトに向かって魔力パンチを叩き込んだ。




◆◇―――――――――◇◆




そして飛びだった刹那も、

「天ヶ崎千草。お嬢様を返してもらうぞ!!」
「くっ、いつの間に!? 近過ぎてスクナの力が使えん!! 猿鬼!! 熊鬼!!」

スクナの上で悪あがきをするが今の刹那の前には障害にならない。
夕凪を振るい二匹の式神を切り裂きこのかを無事救出した。
このかという魔力の制御機関を失いスクナは小さい雄叫びを上げる。
しかし、今そんなことは関係ない。

「お嬢様! ご無事ですか!」

刹那はこのかの口にはめられていたお札を剥がした。
そして目を覚ますこのか。

「ああ…せっちゃんや。へへ…やっぱりまた助けに来てくれた! あれ? せ、せっちゃんその背中の羽…」
「えっ! あっ、こ、これは!」

うろたえる刹那。だがこのかは笑みを浮かべながら、

「キレーな羽…まるで天使みたいや」
「お、お嬢様…」

刹那は感動した。
アスナの言った事が本当だったことに。
そしてやはり仕えていてよかったと思う刹那だった。




◆◇―――――――――◇◆




「や、やったの?」

ネギの魔力パンチをあびてフェイトは一度動きを停止させていた。しかし、

「…体に直接、拳を入れられたのは初めてだよ。ネギ・スプリングフィールド!」

フェイトはネギに拳を見舞うが、




―――もうさせませんよ?


―――フフフッ!



フェイトの拳は白黒の双剣で受け止められていた。もちろん担い手はシホ。
そしてシホの影から腕が出てきてフェイトの腕をつかむ。

「シホ・E・シュバインオーグ!? それに影を使ったゲート!?」
「ウチのぼーやが世話になったようだな、若造? ふんっ!」

影から放たれた拳がフェイトを殴り飛ばす。
そう、殴り飛ばすだ。ただそれだけ。
しかし侮るなかれ…ただ殴られただけだというのにフェイトは水しぶきを大量に上げながら湖の彼方まで吹き飛んでいった。

「あっ…え…!」
「え、え、エヴァンジェリンさん! それにシホさん!」
「これで借りは無しだぞ。ぼーや!」
「よく頑張りましたね。ネギ先生にアスナ」
「私もいますよー!」
「アヤメさんもいるの!」
「よっしゃ! これでかつるぜ!」

みんなが騒いでいる中、空に茶々丸が浮遊していて、

「マスター結界弾セットアップ」
「やれ」
「了解」

茶々丸が放った結界弾がスクナの巨体を一時的に封じる。
天ヶ崎千草も肩の上で「なああああっっ!!?」と叫んでいる。

「ぼーや達見ておけ! 今から本当の魔法戦というものを見せてやる。シホ、準備はいいな?」
「了解。さっさと片付けようか。タマモ、アスナ達をお願いね!」
「はいです!」
「あ、あの…シホさんは何を?」
「いえ、少し本気をと…まぁゆっくりと見ていてください」
「そうだぞ、ぼーや。いいか? このような大規模な戦いでは魔法使いの役目は究極的にただの砲台と決まっている。つまり火力がすべてだ。
今からシホと二人で火力により圧倒的な勝利を見せてやろう。いいな?」
「は、はい!」

そう言ってエヴァは空に飛び立った。

「シホ、さっさと準備をしろ。押さえておく時間がもったいないからな!」
「わかったわ。全回路(オールサーキット)全て遠き理想郷(アヴァロン)へと接続!」

瞬間にしてシホの体から魔力が溢れ出す。

「なっ!? すごい魔力!」

ネギが驚くのも無理はない。
今シホは吸血鬼になった魔力を半分は開放しているのだ。
それだけ今からすることはただ事ではないということ。

「―――投影開始(トレース・オン)

その魔力が手に淡く収束していく。

「アゾット・メ・ゾット・クーラディス…魔力変換開始(トリガー・オフ)術式固定完了(ロールアウト)術式魔力(バレット)待機(クリア)!」
「ほう…投影品を魔力の塊にしたか。どこかで見た術式だな」
全魔力掌握完了(セット)!!」

魔力の塊となったそれをシホは体にすべて流し込んだ。
それに当然エヴァは驚き、次には笑みを浮かべた。

術式兵装(ファンタズム・コード)…! 是、“風王絢爛”!!」


そして全ての工程が終わりシホの体の周りの魔力がオーラと化して輝きだす。
そしてその謎の力ゆえか空に浮かび上がる。

「さて…それじゃいきましょうかエヴァ…!」
「ふん、なかなか面白いものを見せてくれる。ではやるぞ! まずは奴を完全に外に出す。われらの力があれば結界など不要!」


―――氷神の戦鎚(マレウス・アクイローニス)!!


氷の氷塊をスクナのいる地面…つまり大岩に叩き込む。
それによって岩は破壊されスクナは完全に立ち上がった。
それにネギ達はある意味悲鳴を上げたくなる。
だがそれがどうしたといわんばかりにシホは干将・莫耶を握りその剣先から風のオーラを出現させて、

「ガァァアアアアアッ!?」
「まずは一本!」

なんと立った一振りでスクナの腕一本を切り裂いてしまった。
そこに続けて、

「ふん…ただのでくの坊が! 消えうせろ! 来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹雪け常夜の氷雪…『闇 の 吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』!!」

闇の吹雪が吹き荒れまた一本手が吹き飛ぶ。
だがスクナもただでやられるほどバカではない。
その口からまるで怪獣映画のような光線を放つがシホが前に出て、

風王結界(インヴィシブル・エア)!!」

干将・莫耶を交差させ光線を防ぐ。
エヴァがシホの背中をけり、

「まだ続くぞ! 来れ氷精、爆ぜよ風精! 氷爆(ニゥエス・カースス)!!」

スクナの顔面にそれはぶつかり、あまりの凍結によって顔面は凍り付いてしまう。

風王鉄槌(ストライク・エア)!!」
「エクスキューショナーソード!」

シホとエヴァによる同時攻撃でついに四本の手がすべて落ちる。
それに呼応してスクナは悲鳴をあげる。

「フフッ…協力して戦うのは初めてだ。しかもこれほどの力…シホ・E・シュバインオーグ! ますますお前を気に入ったぞ!」
「それはどうも!」
「なかなかに楽しいがそろそろ決めよう。シホ、前は任せるぞ」
「了解」
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 契約に従い、我に従え、氷の女王。来れ、とこしえのやみ、えいえんのひょうが!!」

エヴァがそこで決めにかかる。
それでやっと声が出せたのか天ヶ崎千草が叫ぶ。

「おわぁっ!? つ、次から次へと何や、何なんや! アンタ等何者や!?」
「くくくく、相手が悪かったなぁ女……。ほぼ絶対零度、150フィート四方の広範囲完全凍結殲滅呪文だ。そのデカブツでも防ぐこと敵わぬぞ?」

エヴァが語ると同時にスクナの巨体は少しずつ凍り付いていく。

「我が名は吸血鬼(ヴァンパイア)、エヴァンジェリン!!『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』!!最強無敵の悪の魔法使いだよ!! そしてもう一人は『魔弾の射手』『剣製の魔法使い』…これだけいえばもうわかるだろう!!」
「の、ノリノリねエヴァちゃん…」
「『魔弾の射手』に『剣製の魔法使い』!? まさか!」
「カモ君、なにか知っているの!?」
「こらー、エヴァンジェリン! シホ様の正体をいうなぁー!」

ネギ達が話し合っている中、エヴァの呪文詠唱は続く。

「全てのものを妙なる氷牢に閉じよ。『こおるせかい(ムンドゥス・グラーンス)』…凍結しろ!」

スクナは完全に凍り付いてしまった。
エヴァはシホに視線を向け、

「シホ、最後は譲ってやる。決めろ!」
「わかったわ! 術式開放…! 投影再固定!」

シホは上空まで上がり手を掲げる。
するとシホを纏っていた魔力すべてが手に集束していく一本の剣を形作る。
その剣の名は、

「『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』!!」

一刀の下に凍りついたスクナを真っ二つに切り裂いた。スクナはそれによって完全に消え去ったのだった。


 

 

025話 修学旅行異変《終》 修学旅行の終わり

 
前書き
更新します。 

 


詠春はスクナが復活したことを知りながらも向かうことができないでいた。
それは…、

「はっ!」
「ふふふ…まだですよ」

悪魔が詠春を逃がす隙を与えてくれなかったのだ。
刀を振るい謎の悪魔に切りかかるが未だにまともに一撃を入れることができない。

(くっ…! まただ! また剣筋を逸らされた!)
「おやおや…必死そうな顔をしていますね」
「うるさいですよ!」

詠春が息を荒げながらまた切りかかろうと構えるが、スクナの叫び声と同時に消失する光景が目に見えた悪魔は、

「お節介はここまでのようですね」
「待ちなさい、逃げる気ですか」
「ふふふ…衰えたとはいえサムライマスターの力はかなりのものでした。ですがもう実力は分かったでしょう。
“あなたではこの私を倒すことはできない”…」
「っ!」
「ふっ…ですが足止めという時間は稼げましたので私は早々に退散するとしましょう。我が愛しの吸血姫にもよろしく言っておいてください」

では。といって悪魔は魔方陣の中に消えていった。
詠春はそれをただ見届けることしかできず歯がゆい気持ちになっていた。




◆◇―――――――――◇◆




Side シホ・E・シュバインオーグ


「アハハハハハハハっ! なにが伝説の鬼神だ! 私たちの前では無力に等しいではないか!」

エヴァは意気揚々と楽しんでいるようだがちょっと待ってほしい。

「ねぇエヴァ。敵に私の正体を打ち明けるのはさすがにやめてほしかったんだけれど」
「もう遅い。いまさら過ぎたことをグタグタ言うな」
「ひどい…」

少し愚痴りながらも私たちは地面に降りていく。
エヴァはネギ先生に語りかける。

「どーだぼーや! 私とシホのこの圧倒的な力、しかと目に焼き付けたか?」
「は、はい。すごかったです!」
「すごいじゃんエヴァちゃんにシホ! 特にエヴァちゃんは最強とか自慢していただけあるわね、見直しちゃったよ!」
「そうかそうか、よしよし!」

エヴァもご満悦のようで笑みを盛大に浮かべている。

「で、でも登校地獄の呪いは…?」
「あ、そーよ。学園の外に出られないんじゃなかったの?」

それは私も気になっていたところだ。

「それですが…強力な呪いの精霊をだまし続けるため今現在複雑高度な儀式魔法の上に学園長自らが5秒に1回『エヴァンジェリン(マスター)の京都行きは学園の一環である』という書類にハンコを絶えず押し続けています」
「今回の放縦として明日私が京都観光を終えるまでじじいにはハンコ地獄を続けてもらう」

エヴァは「こんな機会はもうないからなー」と呟いているので私はふと、

「エヴァ…後でいいこと教えてあげようか?」
「なんだシホ?」

タマモは私が教えようとしている事に気づいたのか、

「よろしいのですかシホ様…?」
「なーに…学園長に相談するから安心しなさい」
「それなら安心ですね」
「なんのことだ」
「それは後のお楽しみで取っておいてね。私を援助してくれるお礼としてエヴァにとってうれしい事教えるから」
「そうか。楽しみにしているぞ」

それからエヴァはネギ先生たちに自分の今の反則状態のことを告げて、「久々に全開でやれて気持ちがよかったぞ、ぼーや」と言っていた。
だがそれからエヴァはこれ以降こういった助けはないだろうと言葉にしていた。
確かに私たちが助けに入るのは反則染みているからな…。しみじみと私もそう思っていた。
それにネギ先生は苦しそうに「は、はい…」とだけ答えていた。
でも石化は進行しているのかやばいな…中途半端な石化じゃルールブレイカーも効果を発揮しないからね。
ルールブレイカーはもう出来上がっている術式を破戒するものだからね。
するとそこでネギ先生が、

「シホさん! 危ない!!」
「えっ…?」
「シホ様後ろに…!」

私が振り向いた先には、白髪の少年がいて、

「…遅いよ。障壁突破(ト・テイコス・デイエルクサストー)。“石の槍(ドリユ・ペトラス)”」

私は突き出した石の槍に貫かれていた。




◆◇―――――――――◇◆




ネギ達はその光景に目を見開いた。
貫かれたシホの口から血が零れだし衣服を血に染める。

「コホッ…!」
「シホさんッ!」
「シホッ!」

ネギとアスナが悲痛な叫びをあげる。
だがエヴァは一瞬驚いていたがすぐに正常に戻りつまらなそうな顔になるが…。
タマモは憤怒に表情を変えていた。
ネギたちに比べてあまり心配などはしていないようだ。

「真祖の吸血鬼であるエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルを狙うより君を倒したほうがよかったと踏ませてもらったよ。シホ・E・シュバインオーグ…」
「…そう。でもね…」

シホはニヤッと笑みを浮かべる。

「…? どうして死なないんだい?」
「どうして? だって、私も…」

バキンッ!

硬質化させた爪で石の槍を切り裂いて思いっきり引き抜き、

「エヴァと同じ真祖の吸血鬼ですから!」

瞬間、振り抜いた腕から魔力が迸りフェイト・アーウェルンクスを一瞬にして上下真っ二つに切り裂いた。
次いでタマモが、

「ひと時でもシホ様に傷をつけた事は許せません! 燃え尽きろ! 呪相・炎天!!」

フェイトはタマモの攻撃に体を燃やしながら、

「なるほど…。シホ・E・シュバインオーグ…やはり君は赤き翼のメンバーの一人だったわけだ。
歳をとっていないのに不思議だと思ったけど、エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルと同じ真祖…分が悪いね。退散させてもらうよ」

そう言ってフェイトは体を水にしてそのまま消えてしまった。

「…幻像か」
「そのようだね、エヴァ」
「今度あったらただではおきません!」
「しかし奴は人形みたいな奴だったな」
「そこら辺は心当たりがあるわ」
「ほう…」

三人が話し合っている中、アスナが青い顔をして、

「シホ…あんた、さっき聞いたけどエヴァちゃんと同じ…」
「ええ。隠していたけど私もある理由でエヴァと同じ真祖の吸血鬼よ」
「マジかよ…シホの姉さんも真祖だったなんて…だから貫かれた腹も瞬時に再生したのか」
「でも…よかった、シホさん…」

ネギは石化での疲労が限界に達したのかその場に倒れてしまった。

「ネギ!?」
「どうしたぼーや!?」
「ネギ先生!?」
「石化、か…」

そこに詠春に木乃香や刹那、楓達がやってきた。
当然ネギの状態に言葉を無くしてしまっている。
茶々丸が言うにはネギの魔法抵抗力が強すぎて石化の進行速度が遅すぎて喉に達してしまえば呼吸が出来ず窒息死をしてしまうというものらしい。
それで一同がどうにかできないか話し合っていると木乃香がおずおずと言葉を上げて、

「あんなアスナ…ウチ、ネギ君にチューしてもええ?」

アスナはこんな時にどうしてというがパクティオーしたらネギは助けられるかもしれないという望みがあるからだと説明される。
パクティオーは対象の潜在能力を開花させるものだというから妥当だろう。

「このか…ネギ君を救ってやりなさい」
「はいな、お父様」

詠春からも言葉をもらい木乃香はネギにキスをした。
瞬間、癒しの光が周辺一体を満たしネギの石化は解除され怪我を負っていた一同の傷も塞いでしまった。
そしてネギが目を覚まし、

「このかさん…? よかった、無事だったんですね」

それを皮切りに一同はネギの生還に大いに喜んだ。
そしてもう夜だというのに宴会が開かれて大いに盛り上がったことを記載する。





◆◇―――――――――◇◆




翌日、シホとタマモ、エヴァと茶々丸で刹那を見送っていた。

「もういくのか? 別れの挨拶くらいしていってもいいんだぞ」
「顔を見れば辛くなりますから、いいんです…」
「掟とか、そんなこと気にすることなんてないのに…」
「そうですよ~。仕えたい人がいるのなら一生懸命尽くし続ければいいのにー」
「シホさん、アヤメさん。ありがとうございます。…でも、すみません」
「そう…」

刹那が去ろうとしたがその時、ネギの寝ている部屋の襖が思いっきり開かれネギが飛び出してきた。

「刹那さんッ! どこへいっちゃうんですか!? このかさんはどうするつもりなんですか!?」
「一族の掟ですから、あの姿を見られたからには仕方がないのです」

刹那はネギにこのかを頼むような発言をしながら走り出してしまっていた。
ネギはそんな刹那に飛びつき必死に説得をしている。

「ダメですよ! 僕だってみんなにばれたらオコジョになってしまうんですから! それにそんなこと言ったらエヴァンジェリンさんにシホさんは吸血鬼だしタマモさんは狐だし茶々丸さんはロボットなんですよー!」

シホ達はそんな光景を見て、

「あらー。あのお子ちゃまはいい感じに刹那を呼び止めていますねー」
「今はネギ先生に任せようかな~」
「茶々丸、お茶をくれないか?」
「わかりましたマスター」

四人が暢気に寛いでいる中、未だに続く説得の途中でアスナと木乃香がネギと刹那に飛び掛っていった。

「大変よ刹那さん!」
「せっちゃんせっちゃん大変や!」

話を聞くに詠春が手配した身代わりの紙型が旅館・嵐山で大暴れをしているらしいとのこと。
それで一同は急遽急いで帰ることになったのだという。
皆が帰り支度をし始めている中、

「刹那さん、僕…黙っていますから」
「……………、…仕方が、ないですね。ありがとうございます、ネギ先生。はい、いきましょうお嬢様!」

こうして刹那は皆の場所に残る選択をしたのだった。




◆◇―――――――――◇◆




Side シホ・E・シュバインオーグ


あれから旅館に戻って龍宮と一緒に班のみんなにいなくなった言い訳をした後、朝風呂に入っていた。
私は琳の記憶でしか体験していないが大阪での話しで盛り上がっている中、一緒に話をしていた。
その時、微妙な視線を感じ一緒にお風呂に入っていた龍宮が銃を取り出そうとしていて、同時に私も黒鍵を投影しようとしていたからまだ昨日の戦闘状態が抜けていないと反省していた。
それはともかく正体は朝倉で私たちの裸の写真を取られてしまっていた。

「コラー、なにやってんのよ朝倉!」
「いやホラ、記念写真…班別の」
「盗撮やん!」
「…これは高値で売れるかも」
「売るなー!」

裕奈達が騒いでいる中、私は龍宮と共に、

「危ない…撃つ所だった」
「私も剣を作って投げるところだった…」
「互いにまだ昨日の状態が続いているな」
「奇遇ね。同じ事を考えていたわよ」

それから私は先に上がらせてもらいエヴァとタマモと合流していた。

「そういえばシホ様、先日詠春とアスナがとある悪魔に会ったそうです」
「悪魔…?」
「はい。なんでもシホ様の偽者の人形を用意してきていたらしく、シホ様自身の事も『我が愛しの吸血姫』と呼んでいたらしいです。忌々しいことに…」
「なっ!?」
「もしかしてそいつはシホを・・・していた悪魔かも知れんな? でなければそんなシホの偽者を用意してくるわけがないからな」
「私はシホ様の偽者とだけ相対しましたが…まったくシホ様に比べたら雑な人形でしたからムカついたので一瞬で燃やし尽くして差し上げましたけど」

それで私はその悪魔について考えているとエヴァが違う話を振ってきた。

「そういえばシホ。話は変わるが昨日言っていた“いい事”とはなんだ?」
「あー、そのことね。いや、今まで黙っていたから話しづらいこともあるんだけど、話は変わって詠春って一緒に戦っていたけど実は石化されていたのよね」
「なに…? そうなのか?」
「エヴァンジェリン、シホ様はどうやって解いたと思います?」
「どうやってだと…? なにか特殊な宝具か? なっ、まさか…!」

するとエヴァは目を見開いて少し気分がハイになってきている。
それで残念がらせるのも嫌だし教えることにした。



―――投影開始(トレース・オン)



私が歪な短剣『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を投影すると今すぐに使わせろと言わんばかりに目を輝かせていた。

「そ、それは一体なんだ?」
「元の世界では初級魔術から魔法まであらゆる魔術効果を打ち消してしまう、最強の対魔術宝具なのよ」
「なんだと!? そんなものまでお前は作り出せるのか!?」
「ええ。私がもちろんその気になれば…ちょっと聞かれるとまずいんで小声で言うけど…学園結界も落とせる、と思うわ」
「な、な、な…ではそれを使えば私の呪いも解けるというわけか?」
「その通り」
「使わせろ」
「今はダメ」
「なぜだ?」
「色々と準備期間も必要でしょ? エヴァが呪いが解けた後も麻帆良にい続けるのかは分からないけど、解けたとばれない様に見せかけないといけないから…。
それになによりナギがいつか解きに来るって言っているんだからそれを信じてあげなきゃ」
「うぐっ…そうだったな。ではそれは今はお預けといったところか?」
「そういう事。ま、私達は互いにもう永遠の時間があるんだから気長に待っていましょう。それにいつでも執行できるんだからエヴァにとってはお徳でしょ?」
「まぁな。ではいざという時には頼むぞ。それにしても…いやー、お前は実にいいな。その気になれば無限に湧き出る宝具の剣軍で魔法使い全員を相手取れるから実に悪に近いチート能力だ」
「お褒めに預かり光栄ね」
「シホ様は優しいお方ですからそんなことはしないですけどね」
「ハッハッハッ! 実に気分がいいぞ。そうだ、ちょうどいいから近衛詠春に会う前にぼーや達を連れまわして京都観光にでも繰り出そうとするか!」

それで途中で宮崎達図書館組と朝倉も行くそうでエヴァは機嫌がいいのでネギ先生達が休んでいる部屋に襲撃をかけた。
そして京都連れ回しの刑とも言わんばかりにネギ先生達を連れまわしたのだった。

「マスター、満足されましたか?」
「うむ、いった」
「やぁ皆さん、休むことは出来ましたか?」

エヴァが観光に満足していると目の前から詠春が歩いてきた。
一同が騒いでいる中、私とタマモ、エヴァ、ネギは後ろを歩きながら、

「スクナの件ですが、再封印は完了しました」
「うむ、ご苦労。近衛詠春。面倒を押しつけて悪いな」
「…あれ? 私は消滅させるつもりで斬ったんだけど仕留め損ねたか…」
「さらっと怖いことを言わないでください、シホ。私達がやっとのことで封印した鬼神なのですよ?」
「それじゃやっぱりゲイボルグとかで心臓を魂ごと破壊したら消滅したかな?」
「どうだろうな…? しかしさらっとでとんでもない宝具の名を上げるなお前は…」
「シホ様、言葉のネジがうっかり緩んでいますよ?」
「おっと、ごめんなさい…」
「まぁいいでしょう」
「シホさんの話も興味がありますが、小太郎君はどうなるんですか…?」
「彼ですか。まぁそれほど重くはならないでしょうがそれなりに処罰があると思います。天ヶ崎千草については…まぁ私達に任せてください」
「できればものすごい呪いをかけてほしー所ですねー。あの眼鏡の高笑いは癇に障りますので~」

タマモが笑顔でそんな事を言っているのでネギ先生が怖がっているではないか。
まぁ、そんな話をしながらも私達はナギの別荘だという場所についた。
そこは三階立ての天文台で草木も生い茂っていて本当に隠れ家と言わんばかりの様子を体現していた。
しかし中は綺麗なもので本がびっしりと棚に敷き詰められていた。
それにネギ先生は感動しているようで夕映やハルカ、のどかなども色々と本棚を漁っていた。
それにいいのか?とエヴァ。
詠春は故人のものなので手荒に扱わないようにと釘をさしていた。

それから家の中を散策しているネギ先生に詠春が声をかけた。

「どうですか、ネギ君」
「はい。調べたいこととかが色々合って…もっと時間があればいいのですけど…」
「ははは…いつでも来て構いませんよ。鍵は預けておきます」
「よかったですねネギ先生」
「はい、シホさん。ところで長さん…それにシホさんにも、父さんの事を聞いてもいいですか?」
「ッ! ネギ先生、私がナギと知り合いだといつ気づいたんですか…?」
「長さんが僕の身近にお父さんと仲間だった人がいると聞いたときにふと思ったんです。後はエヴァンジェリンさんが言った『魔弾の射手』『剣製の魔法使い』という二つ名…カモ君が気づいてくれたんです」
「そうですか。ばれたなら仕方がない…」
「そうですねー、シホ様」
「ですね、シホ」

詠春ももう気兼ねなく私を名前で呼ぶことにしたようだ。
それで詠春はアスナ達を呼んで二枚の写真をネギ先生達に見せる。
そこには赤き翼のメンバーと一緒に映っている私達。
そして、私個人だけの顔写真……。
ナギ……途中でいなくなってしまってごめんね……。
私が感傷に耽っている中で、それにアスナ達は一瞬私とタマモの顔を写真と見比べる。

「え? え? 二十年前の写真なのにシホとアヤメさんが一緒に写っている!?」
「やっぱり…」
「こうしてみるとやっぱシホの姉さんは実力者って事だな」

詠春はそこで静かに語り始める。

「私とシホは神鳴流を学び終えた後、ナギとともに世界に渡り大戦を共に駆け抜けました。
その途中でシホとキャスター…今は玉藻アヤメと名乗っているようですが…の両名は行方不明になってしまったのですが…まぁ、いま会えているのですからいいでしょう。
それでシホとキャスターを欠いた私たちですが、それでも戦い抜けた。…そして20年前に平和が戻った時、彼はすでに数々の活躍から英雄…サウザンドマスターと呼ばれていたのです」
「……………」

ネギ先生は静かにその話を聞いていた。
アスナと木乃香は分かっていないような顔だが…。
そして天ヶ崎千草の両親もその戦で命を落としていると聞いた。

「以来、彼と私は無二の友であったと思います。しかし…彼は10年前に突然姿を消す…彼の最後の足取り、彼がどうなったかを知る者はいません。ただし公式の記録では1993年に死亡と…それ以上の事は私にも…すいませんネギ君」
「い、いえ、そんなありがとうございます」

それからネギ先生は「来た甲斐があった」と言って、それに詠春からとある物を受け取っていた。
と、そこに朝倉が走ってきて記念写真を撮るよと走ってきた。
私とタマモは班は別なので詠春と遠いところに立たせてもらった。
ギリギリ写りこんでいるといった感じだろう。
でも朝倉は惜しいといって二枚目に私たちを入れたのは抜け目のない事実だった。
そして帰りに詠春に呼び止められ、

「…シホ。謎の悪魔には注意してください。あれはおそらく今の私では敵わないものでしょう」
「詠春が…?」
「ええ。何合か打ち合いましたが手応えが曖昧でしたから…」
「わかった。注意しておくわ」
「それだけです。多分今のあなたなら敵うと思いますがね…」
「そうだと祈っているわ。それと私の部屋に“とある転移装置”を施しておいたから暇があったら会いに来るわ」
「わかりました。でしたら来る前には何かアクションを起こしてください。歓迎しますので」
「ええ」

私は笑顔を浮かべながら詠春と分かれるのだった。
そして帰りの電車に乗り私たちの修学旅行は幕を閉じるのであった。


 

 

026話 日常編 強くなるためには?

 
前書き
更新します。 

 


シホとアヤメは修学旅行の翌日にエヴァ邸に赴いていた。

「それでシホ。一つ聞きたいのだが…お前のあの錬鉄魔法は何を基本骨子にしたんだ?」
「ラカンに見よう見まねで見せてもらったエヴァの『闇の魔法』を参考にさせてもらったんだけど…」
「やはりか。あんの筋肉ダルマめ…まぁそれはいいだろう。それでどういった内容なのだ?」
「まずは投影するでしょ? でも完全に投影する前の魔力の飽和状態で固定してそれを体に定着させるというもの。元々宝具や武器防具は私の魔力から作り上げているんだから再度体に纏うこともできるだろうと思って即興で開発した固有技法なんだよ」
「ほぅ…宝具を取り込むとは魔法より強力ではないか」
「でも、かなり我流で無茶な術式だからまず私の体の中にあるアヴァロンに全魔術回路を強制接続して耐久性を精一杯まで高めて、さらに本来ならタマモが私の体の中に憑依して暴走しないように何十にも複雑な術式を展開して手綱を握っていないとすぐに暴走してしまうものだったの」
「しかし修学旅行ではタマモは憑依しなかったではないか? しかし、だったものか」
「それはですねー、シホ様の吸血鬼化によって私を取り込むことがないほどに耐久性が上がったことが原因かと…それに人間のときは時間制限があったのに今ではそれも見受けられません。
シホ様は本当にチート化したといっても過言ではありません。だから今私を取り込んで錬鉄魔法を執行すればより正確な操作が可能となるでしょう」
「なるほど…大方お前の錬鉄魔法の仕組みは理解した。…したはいいが、やはり私以上のポテンシャルを発揮するとは吸血鬼になって眠っていた潜在能力が開花したのか?」

それでエヴァは考え込んでしまった。
するとしばらくすると茶々丸がネギとアスナ、カモを連れて家の中に入ってきた。

「ん? 茶々丸、そいつらはなんだ?」
「はい。マスターに用があるといいますのでお連れしました」
「あ、あれ!? シホにアヤメさんもいたの?」
「ええ、ちょっとエヴァと話をしに来ていたのよ」
「昨日ぶりです、二人と一匹とも~」

それでネギは少し考え事をして、

「シホさんにも父さんの事を色々と聞きたいところですが今は…エヴァンジェリンさん。今日はあなたに用があってきました」
「なんだ? 面倒ごとなら勘弁だぞ?」
「はい。相談事ですが僕をエヴァンジェリンさんの弟子にしてもらえないでしょうか…?」
「何? 弟子にだと? アホか貴様。一応貴様と私はまだ敵なんだぞ!? 貴様の父サウザンドマスターには恨みもある…大体私は弟子など取らんし戦い方などタカミチか、ここにいるシホにでも習えばよかろう」
「エヴァ…私は人に物を教えるとかそういう柄じゃないわよ?」
「それは承知で今日は来ました。タカミチは海外に行ったりして学園にいないし…何より京都での戦いをこの目で見て魔法使いの戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいないと!」

その言葉にエヴァは反応を示し、

「ほう…では私の強さに感動したというわけか。なるほどなるほど」

そこからエヴァは悪の顔になり、それなりの代償を払ってもらうぞと言って「まずは足をなめろ。我が僕として永遠の忠誠を誓え話はそれからだ」という悪発言をかました。
しかしそこに迫るのはアスナのハリセン。
エヴァの魔法障壁を軽々とぶち破り吹っ飛ばした。

「早いわねアスナ…」
「はい、早かったですねー」
「貴様、神楽坂明日菜!! 弱まっているとはいえ真祖の魔法障壁をテキトーに無視するんじゃないっ!」
「うるさい! それに何子供にアダルトな事要求してんのよ!? それにエヴァちゃんネギが一生懸命頼んでいるのにちょっとひどいんじゃない!?」
「頭下げたくらいで物事が通るなら世の中苦労せんわ!!」
「そうそう、基本は等価交換が原則だからね」
「等価交換…? なにそれ、シホ?」
「貴様そんなことも知らんのか…?」
「う、うるさいわね!」
「ハン……それより貴様…何でボーヤにそこまで肩入れするんだ? やっぱりホレたのか? 10歳のガキに」
「なっ!?」

それからアスナとエヴァの言い争いに発展してしまった。

「ああああ?」
「ネギ先生、今は見ているほうがいいですよ?」
「見ていて飽きませんねぇ~」
「マスターに物理的なつっこみを入れられるのはアスナさんだけですね」

それからしばらくしてネギが止めに入りようやく喧嘩はなりを収めた。
そしてエヴァは少し考えを変えたらしく、

「分かったよ。今度の日曜日にもう一度ここに来い。弟子に取るかどうかテストしてやる、それでいいだろ?」
「え、あ…! ありがとうございます!」

そしてネギ達は家から出て行った。




◆◇―――――――――◇◆




その晩の夜、ネギはカモ、アスナ、このか、刹那の四名を連れてとある部屋に訪れていた。
その部屋と言うのは…、

「あ、ネギ先生。それにアスナ達もいらっしゃい」
「今ご飯が出来たところですから一緒にどうですか~?」

シホとアヤメの部屋だった。

「シホさん、アヤメさん、こんばんは」
「シホの姉さん、お邪魔するッス」
「シホ、アヤメさん、こんばんは」
「お邪魔するえ」
「シホさん、夜分にすみません」

五人は挨拶をしながらも部屋の中に入ってきた。
シホはなにを話すのかすぐに察したのか、

「あ、ネギ先生。用件と言うのはやっぱりナギの話とかですか?」
「はい…。お父さんの事と…それとシホさんの事を聞きに来ました」
「そうですか…。ちょっと待ってください。タマモ、薬」
「はい、シホ様♪」

シホはタマモから瓶ごと薬を受け取ると十粒くらい取り出して飲もうとする。
だがそこでネギが、

「ちょ、シホさん!? なんですかその薬は!?」
「あぁ、気にしないでください。こういう時が来るだろうと薬のストックはまだたくさんありますから…」
「そういう事ではないんですが…それって魔法薬ですよね? しかもとても強力な…」
「はい。吸血鬼である私専用です。間違ってもネギ先生は飲まないほうがいいですよ? 一瞬で死にますから」

シホの発言に来訪した全員は一体何の薬だ?と戦慄していた。

「えっと…何のために?」
「こうでもしないと昔の話は語れないからです。事情は知っているでしょう?」
「はい。なにか深刻な心の病気を患っているんですよね?」
「ええ。これは私でも御しきれない物でしてなにかに引っかかると前の大浴場のときのような事になりますよ、きっと」
「なんでそんな症状を患ったか聞いてもいいですか…?」
「聞きたいですか…?」

そうシホはネギに問いかけるがその瞳はとても冷え切っていてとてもではないが聞く気は起こらなかったらしい、すぐに首を横に振った。

「…まぁ、ただ言える事は裏の事情関係でトラブルに巻き込まれたからですかね…」
「シホの姉さん…それはやっぱり二十年前のことが切欠っすか?」
「あなたはなにか知っていそうね…?」
「へい。マホネットで調べさせてもらいやしたが公式では【赤き翼所属、シホ・E・シュバインオーグは行方不明及び死亡判定】と記事に書かれていましたから」
「え!? カモ君、それホンマなん!?」
「へい、これを見てください木乃香姉さん」

そう言ってカモは全員にマホネットに載っているシホの映像を写す。
そこにはシホの写真が掲載されていた。

「シホ様も有名な存在になられたものですね~」
「でもなんか嫌な記事だね。別に気にしないけど『英雄になり損ねた女性』って…」
「タカミチを助けるために敵地に潜り込んでいったんですからシホ様は気にする必要はありません」
「ちょっと待った! なんでそこで高畑先生の名前が出てくるのよ!?」
「あれ? 詠春に聞かなかった? 写真には写っていないけどタカミチも私達と同じく赤き翼に所属していたのよ」
「「「へー…」」」
「そ、それじゃやっぱりシホって実年齢は高畑先生より上って事?」
「歳に関してはそうよ。もっとも正確な年齢は分かっていないけど…それに今はこうして吸血鬼化しているから年齢なんてあって無いような物だし」
「二十年前の写真と今は変わりないって事はシホの姉さんは行方不明になった後に…」
「アルベール・カモミール…好奇心は猫を殺すということわざを知っているかしら?」

シホの瞳はより鋭さを増してカモを凝視した。他の皆にはカモがなにかに貫かれる姿でも幻視したのか震えている。

「…へい。すみませんでした。なんか傷口抉っちまいやしたかね?」
「少しね…。その件に関してはあまり触れたくないのよ。すぐに頭痛が起こるし…」
「そ、それじゃ厚かましいと思うんですけど、その前までは語れませんか…?」
「まぁ少しくらいなら…」

それからシホは語りだす。
まず自身は九歳(実年齢は不明)の時に記憶喪失の状態でまだ青山姓であった詠春達に拾われて一緒に住むようになり神鳴流を学ぶようになった。
学問に関しては記憶喪失になる前に学んだのだろう膨大な知識を持っていて大学までいける学力を持っていたので自宅教養で済ませたこと。
丸六年を神鳴流会得につぎ込み、タマモに関してはその六年の間にとある事が切欠で召喚した。
詠春とともに門を卒業した後、世界に出るというので一緒についていき赤き翼に所属してナギに出会ったこと。

「そこでお父さんに出会ったんですか?」
「はい。私の三つくらい下でしたからシホの姉貴とかとよく呼ばれていましたかね…。まぁ色々あって魔法世界に行き、ゼクト、アルビレオ・イマと仲間になった。
そしてその後、いくつか戦争に介入してそこで……、……?」

シホはそこで黙る。
タマモはなにか察したかのように「あー」と相槌を打つ。

「ちょっと話は変わるけどアスナって………、いや、やっぱいいわ。聞かなかったことにしておいて」
「ちょっとシホ? なに? 気になるんだけど…」
「いや、なんでもないわ。《タマモも黙っているように…なにか理由がありそうだから。本人は知らなさそうだし》」
《了解です、シホ様》

シホとタマモは念話で会話をして秘密裏に話は闇に隠された。

「まぁちょっと話は戻るけどジャック・ラカン、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ、タカミチとも仲間になったりして。
それから二分した戦争で味方にはナギは『千の呪文の男』、敵方には『連合の赤毛の悪魔』とか言われていたわ。
かく言う詠春も『サムライマスター』って呼ばれていたのよ」
「そうなんや。お父様も有名人やなー」
「そしてシホ様は『魔弾の射手』『剣製の魔法使い』と言われていましたね」
「それで色々と端折るけど戦争をして行く内に色々と分かってくる物があって、私もとある敵を倒している最中にタカミチが謎の敵に捕まりかけ私とタマモが時間稼ぎとして逃がしその後は…」

そこでシホの言葉は切れる。同時に苦い表情になる。

「捕まってしまったんですか…?」
「ええ。一生の不覚だったわ…」
「でも、タカミチは救えてよかったですよね~」
「まぁ、そうね…。これで私の話はお終いです。端折った部分はまだネギ先生達には話さないほうがいいかなと思った配慮ですのであしからず」

もう話すことは今はないとばかりにシホは手を叩き本日は終了した。




◆◇―――――――――◇◆




翌日の事、シホは授業が終わった後、タマモと共にもうお馴染みとなった学園長室に赴いていた。
その場には学園長だけだったが電話を持ってタカミチも会話に加わっている。

「それで話と言うのはなんじゃね? シホ殿?」
『どうしたんだい、シホ姉さん?』
「率直に聞きます。アスナは本当は誰ですか…?」
「『ッ!?』」

その場に二人の息を呑む音が聞こえた。
それで「やはり…」とシホは呟き、

「話してくれませんか? 誰にも他言するつもりはありませんから」
「じゃがのう…」
『うーん…』
「お二人とも言葉を濁しても無駄ですよ~? こっちには確信に近い情報があるんですから~」
「タマモのいう通り。まず目の色…光彩異色。まぁこれだけなら珍しいとだけ判断できます。
ですが彼女の姿、形…これは過去に私はナギ達と共にまだ幼い姿ながらも見たことがあります。
極めつけは魔法無効化能力…何度もフェイトと名乗る白髪の少年の石化魔法を無効化した力。
これらは私たちの予想が正しければ…」


―――彼女は『黄昏の姫御子』。ウェスペルタティア王国の王女、『アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア』。ではないですか?


シホはそう言い切った。

「『……………』」

二人の返事はない。
唯一判別できる学園長はもうあきらめたような顔をしている。
シホは「無言は肯定と判断しますよ?」と告げた。

『…そうだよ。シホ姉さんの言うとおりアスナ君は『黄昏の姫御子』その人だ』
「いいのかね? タカミチ君?」
『構いません。シホ姉さんには遅かれ早かれ気づかれるだろうと思っていましたから』
「そうか…」
「そうなの、やっぱり…。でも記憶がないと言うことは…?」
『過去の記憶は封印させてもらってあるんだ…。彼女が普通の日常を送っていけるように』
「封印、か…。まぁ納得できないところもあるけどもう過ぎたことは仕方がないか…。
でももうアスナは魔法の世界にまた片足どころかもう半分以上は踏み込んでいますよ?
ネギ先生と関わっていく以上、いずれ彼女は記憶を取り戻す機会が訪れるかもしれない…。
そうした場合、どうするつもりですか?」
「その時は、その時としか受け止めるしかないの…。ネギ君と関わってしまったのもまた運命じゃったと言う事かもしれん」
『はい…』
「そう…それじゃ私はそれでもいつも通りに過ごすわ。真実を知っても関係は変えたくありませんから」
「わかったぞい」
『ありがとうシホ姉さん』
「いえ。では私の話は以上です。教えてくれてありがとうございます」

シホとタマモは挨拶をすると学園長室を出て行った。
学園長室では学園長とタカミチが通話越しで、

「まぁシホ殿とアヤメ殿なら他言はしないじゃろうから大丈夫じゃろう」
『そうですね。はい、僕は姉さんを信じていますから。ではそろそろ僕も仕事がありますので失礼します』
「うむ。忙しいところすまんかったの」




◆◇―――――――――◇◆




Side シホ・E・シュバインオーグ


やっぱり予想は当たっていたわね。
そしてフェイト…おそらく彼はアスナのその魔法無効化能力について勘づいたはずだ。
きっとこれからアスナは狙われるかもしれない。
その時は私も動くときと言うことかな?

「タマモはどう思う?」
「なにがですか…?」
「分かっているでしょ? 真実を知ったからには私達もネギ先生だけでなくアスナもサポートしていく対象に入る」
「ええ、分かっていますよ。でも、今からそんなに根を詰まらせても続きません。ですから適度に見てやればいいと思いますよ?
せっかく今は幸せを掴んでいるんですから奪う真似はしたくありませんし…。
それに不幸の運命を背負っている女というのは私としましては虫唾が走るんですよ。どうせならぱぁーっと思う存分幸せを楽しんでからでも損はありません」
「それってやっぱり経験談…?」
「ふふッ、それはシホ様のご想像にお任せします♪ 少なくとも私は今このときにシホ様に仕えることが出来て幸せを感じていますから♪」
「ありがと…」

タマモはとってもいい笑顔で応えてくれたので私も嬉しくなる。
その時、携帯が鳴りなんだろうと出てみると相手はまき絵だった。
話を聞くところによるとこれから皆でボーリングに行くそうで一緒に行かないかというお誘いだった。
なのでタマモに相談した後、折角なので行くことにした。
そして待ち合わせ場所のボーリング場に着くと皆はもう来ていたようで、

「皆さん、早いですねー」
「そうだねタマモ」
「あれ? シホ達も誘われたの?」
「ええ、アスナ。それじゃ折角だから楽しみましょうか」
「ええ、そうね。そういえばシホもこういった場所に来るのは初めてじゃない?」
「確かに…昔から既に世界を周っていたからね」
「あはは…それじゃシホとアヤメさんも楽しもうよ」
「そうね」

それから一同と一緒にボーリング場に入っていった。
特に目立っていたのが古菲だった。
すでに七連続ストライクを決めていた光景には驚かされた。

「古菲って確かまだ一般人の方だよね?」
「その筈ですが…やはり毎年「ウルティマホラ」という格闘大会に出て優勝しているだけありますかねー」

しかしそれを聞いていたのか古菲は投げ終わった後、話しかけてきて、

「シホ。実はお主とも勝負をしてみたかったアルよ。聞いた話だと相当の実力者であると聞くしネ」
「別に構わないけど? でも私の体術は継ぎはぎだよ? 色々なものを組み合わせたような」
「ほう…たとえばどんなのアルか?」
「中国拳法から始まり、柔術、合気道、空手、プロレス、キックボクシング、ムエタイ…それに神鳴流武術も取り入れているよって…なに、その目は?」
「いやー…シホは多種多様な武術を嗜んでいるアルね。多すぎて驚いたアルよ」
「よく言われるけど、私には才がないから一つを極めるより多くを修める道を選んだが故の武芸百般なのよ」
「なるほどー…理解したアル。それじゃいつしか勝負ネ!」
「ええ」
「まずはボーリングで勝負といこうアルか?」
「そうね」

それから私と古菲は次々とストライクを取っていくと周りから勝負か?という感じに盛り上がっていた。
そこに委員長が突然叫びだした。なんだろうか?
なにやらネギ先生に関係している話だろうがそれならと私は見学に入った。
そして始まる委員長、まき絵、のどか VS 古菲。
委員長は華麗に、まき絵は盛大に、でものどかは見ていて悲惨な具合にボールを投げていく。
古菲も負けていないとばかりに連続でストライクを決めていって、そして…

「勝負はついたはいいけど、これは勝ち目がないわね…」
「そうですね、シホ様」

そこには点数が委員長が269点、まき絵が229点、のどかが17点と表示されていて一番上の古菲はなんと全てストライクを決め300点と言う満点を叩き出していた。

「勝ち~~~~~~♪アル」
「……………(ぷしゅうううう)」
「こんなの勝てるわけないよー」
「あうあう…」

酷いことになっていて特に委員長は口から煙を出していた。

「なんの勝負をしていたんですかねー?」
「さぁ? ただネギ先生絡みなのは絶対だと思うけど」

それからしばらくしてネギ先生が古菲を呼び出して、

「僕に中国拳法を教えてください!」

と、古菲に言っていた。
や、別に構わないけどエヴァに弟子入りするって件はどうするのだろうか?


 

 

027話 日常編 弟子入りテストと覚悟

 
前書き
更新します。 

 



その後、案の定と言うべきか中国拳法の修行現場をエヴァに見つかってしまったらしくエヴァは嫉妬に近い感情を抱いてしまったらしい。

「だから、別に嫉妬ではない…」
「まぁ、そういう事にしておくけど…弟子入りの条件が、ねぇ…」
「何も知らないシホ様を巻き込まないでもらいたいものです」

そう、弟子入りの条件と言うのが、



1、……シホ・E・シュバインオーグとの勝負でカンフーもどきで一撃を喰らわせる。
2、……対決方法はなんでもよし。これは大きく言えば魔法も使ってもよし。
3、……手も足も出ずにくたばればそれまで。そして心と体が屈した時、この話はなかった事にする。



…以上の条件をクリアすれば弟子入りも吝かではない。
らしい。


「エヴァにしてはいい案だと思うけどね…」
「そこら辺は事前に教えておかなかったのは悪かったと思っている。だがもう決定事項だ。手心は加えるなよ?」
「まぁ構わないわ。引き受けてあげる。でも判断基準はどうするの…?」
「お前のほうで構わん。お前に一撃など入れることすら困難なのは一目瞭然なのだからな。せいぜい絞ってやれ」
「了解~。ま、そこそこ頑張って悪者を演じてみるわ。ところで魔法を知らない一般の人は連れてくるなとかは言ってある…?」
「抜かりない。もし連れてきたら、そうだな…この話は無しにするのもいいだろう。なめられては敵わんからな」
「それなら大丈夫ね」
「あのガキんちょをいたぶるチャンスですねー」
「ま、頑張ってみようかな。それとエヴァ、ちょっといいかな?」
「なんだシホ?」
「ちょっと協力してほしいんだけどいいかな?」
「言ってみろ」
「うん…私の失われている記憶のことなんだけど、ね。そろそろいい加減思い出す努力をしてみようと思うのよ」
「失われた記憶か。ようするにこの世界に来る前の記憶の事を指しているんだな?」
「そう。それで今分かっているキーワードは【アインツベルン】【聖杯戦争】【冬木という土地】【エミヤ】【正義の味方】…これくらいかな」
「ふむ…。【聖杯戦争】という単語は知らないが、【アインツベルン】【エミヤ】【冬木】からなにか調べられるかもしれないな。茶々丸、なにか引っかかるか試してみろ」
「イエス、マスター」

それから茶々丸がしばらく検索しているとなにか引っかかったらしい。
つらつらと内容を話し出した。

「まずアインツベルンですが、ドイツ貴族の魔法使いの一族という事で話が通っています。
主に使うのは錬金術を扱うものでして魔法具を生み出す事に関してはかなり有名です。
ですが最近は魔法世界の技術に負けてしまったことがありあまり表立った動きは見せておりません。
ですが千年も続く一族ですので実力は相当のものと伺えます」
「この世界でもやっぱり錬金術が得意と言うことか…姉の魔術回路でも錬金関係も魔術は使えたりできるから」

シホはその手から銀に輝く貴金属製の糸を精製しそれを鳥の形に作り変えた。
それをエヴァは「ほう…」と見つめて、

「もしかしたらお前にも人形使いの才能があるかもしれんな」
「そうかな? 試したことはないけどたぶん私には縁ないものかと思うけど…まぁいいわ。それより茶々丸、続きお願いできる?」
「はい。次にエミヤですが表立った情報はあまりないですが約一名、飛びぬけて危険と評す人物が存在します」
「その人物の名は?」
「『衛宮切嗣』といいます」


ドクッ…


その名を聞いた瞬間、シホの中で何かがざわめいた気がした。
茶々丸はそのシホのかすかな変化に気づかなかったのか続きを進める。

「彼は魔法使いでありながら近代兵器を主に使用し、近代兵器と魔法を組み合わせた呪印の施された弾丸、地雷…その他など多種多様な仕掛けをする人物です。
そして動機は不明ですがそれら兵器を用いてこれまで多くの魔法使いを殺すことからつけられたあだ名は『魔術師殺し』という危険な人物です」
「そう、なの…」

シホの瞳は大いに揺れていた。
なにか…思い出せそうなのに思い出せないと言う苦痛に苛まれているようでタマモは心配そうにシホを見ていた。

「その殺された魔法使いは大部分は悪に身を染めた者ばかりで魔法協会を悩ませていた人物ばかりです。
ですから西洋魔法使いを嫌う関西呪術協会の一部のものからは衛宮切嗣は英雄視されているようだという話です」
「ふん…見方によっては『魔術師殺し』。その反面、英雄視か。ナギとは違ったタイプの人間だな」
「続けます。そして驚くことに最新の情報では衛宮切嗣とアインツベルンが懇意の中になったという事で、アインツベルンの魔法使いである女性と十年前に結婚してどこかに隠居したという話です」
「ほう…シホ、なにやら繋がったようではないか?」
「うん、そうだね…」
「なんだ、元気がないな」
「ちょっと記憶が思い出せそうなんだけどまだのど元につっかかりがあって思い出せないといった感じ」
「そうか。それじゃまぁ次といくか」
「はい。【聖杯戦争】というワードは引っかかりませんでしたが【冬木】という土地は引っかかりました。
その土地は遠坂という魔法使いの一族が管理していまして、他にも間桐という魔法使いの一族が住み着いているそうです」
「遠、坂…? ねぇ茶々丸、そこからシュバインオーグは繋がらない?」
「はい。よく気づきましたね。もう調べ上げています。
遠坂は昔にキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグと名乗る魔法使いに魔法の存在を教えられ師事したとの記録が残されています」
「…宝石剣ゼルレッチ。タマモ、出して」
「は、はいです」

タマモは不思議な四次元袋から宝石剣を取り出した。

「…繋がった。確かに私はキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグという人物と遠坂という人物を知っているような気がする。
そして私は元の世界では魔法使いとして認められた六人目だった、と思う」
「曖昧な言葉だな。気がする・と思う…ではまだ確証がつかめないぞ?」
「そうだね。でもこれがその証明だよ」

シホは宝石剣をさすりながらそう答えた。

「…でも、後一歩足りない。なにか一押しあれば。そうだ…後で学園長に頼んで外出許可を申請してみようかな」
「と、いうとやはり行く場所は冬木か?」
「うん。日帰りになるだろうけど行ってみる価値はあると思う」
「ま、せいぜい頑張ることだな。それより試験の事は頼んだぞ」
「はいはい。わかっているわよ」




◆◇―――――――――◇◆




翌日クラスにシホとタマモがやってくるとアスナはすぐさま飛び掛ってくる勢いでシホに寄りかかってきた。

「ねぇねぇシホ! ネギの弟子入りテストでシホが勝負をするって本当なの!?」
「ええ、そう決まったらしいわね。私は了解したけど」
「あのネギがとっても強いシホに一撃なんて無理あるって!?」
「わからないわよ? 別に一度限りの勝負だけど制限はないから。中国拳法を使ってよし、裏の力も使ってもよし…ようするになんでもありなんだからただの殴り合いよりはネギ先生は勝ち目は上がると思うけどね」
「そうそう! 付け焼刃よりは慣れた戦いもできるんですからお子ちゃまには十分だと思いますよ?」
「それは、そうだけど…」
「それと関係者以外一般人は絶対に連れてこないほうがいいわよ? 使うものは何でもよしという設定にした意味が無くなっちゃうからね」
「うん、伝えておく…でも、シホは本気でやらないよね?」
「もちろん。もし本気でやったら今のネギ先生は…一秒でやれるわね」

一瞬見せた怖い笑みでアスナは恐怖を感じてしまったらしい。体を震わせていた。

「大丈夫。今回はあくまでネギ先生の度胸を試す意味合いもあるから手加減はするわ」
「そう…。うん、シホの言葉を信じるからね」
「お好きにね」


……………

…………

………


夕方には古菲とネギが特訓をしていてシホは暇があったので見に来ていた。

「古菲…ネギ先生の調子はどう?」
「む? シホか。いや、それがこのネギ坊主反則気味に飲み込みがいいアルよ。フツーならサマになるには一ヶ月とかかる技を三時間で覚えるアルから」
「へー…それは羨ましいものね」
「それよりシホ…」
「ん…?」

ブォンッ!
パシッ!
ズダンッ!

「…ッ!?」

古菲はシホが振り向く瞬間の油断している状態で不意打ちの拳を浴びせたが、簡単に受け止められさらに地面にいつの間にか横にされ腕を思いっきり握り締められて腕ひじきを受けていた。

「イタタタタッ!?」
「あ、ごめん。咄嗟だったんでつい…」
「イタタ…いやー、すごいアルな。不意打ちをしたつもりが倍返しされてしまったアルよ」

それを見ていたネギ、アスナ、刹那は、

「今のどう見た? 刹那さん…」
「見事な捌きでした。あそこまでやられてしまうと悔しいを通り越して感服の思いでしょう」
「シホさん…やっぱり強いですね。くー老子の攻撃がまったくきかなかったなんて僕、勝てるんですかね」
「それはネギ先生の気力次第ですよ。条件をよく確認することですね」
「! はい!」
「それじゃ今夜、待っていますから」

シホはそれだけ伝えるとすぐにその場を去っていった。




◆◇―――――――――◇◆




そして深夜0時の時間になりエヴァの家の近くの森で、

「ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました!」

ネギがアスナ、刹那、木乃香、古菲を引き連れてやってきた。
それをエヴァは見て、

「よく来たな、ぼーや。…ふん。一般人は連れてこなかったようだな。もし連れてきていたらこの話は無しにしていたところだぞ?」
「はい、分かっています」
「ならばいい。では早速始めてもらおうか」

エヴァの言葉に無言で佇んでいたシホがネギの正面に無言で立つ。

「シホさん…」
「……………」

ネギの言葉に、しかしシホは無言。ただ始まるのを待っているかのよう。

「ではルール説明だ。事は簡単。シホにお前のカンフーもどきで一撃でも入れられれば合格。その一撃をいれる方法はなんでもよし。ただし手も足も出ずにくたばればそれまでだ」
「…その条件でいいんですね?」

ネギの二ッとした笑みにエヴァはなにかに気づいたがあえて無視を決め込んだ。

「ではシホ。そこそこに相手をしてやれ」
「ええ…アスナ達はエヴァの方に移動しておいたほうがいいわよ。勝負の邪魔になるだけだから」

そこで初めて喋ったシホの言葉に素直に従ってアスナ達は場所を移動した。
移動した先にはタマモ、茶々丸、チャチャゼロの姿が見えた。

「ネギ!」
「兄貴!」
「大丈夫ですアスナさん、カモ君」
「落ち着いていくアルよ」
「はい、くー老師」
「ご武運を」
「がんばりやネギ君」
「ありがとうございます。刹那さん、このかさん」

それぞれから声援を受けながらネギは森の広場に立っているシホの前に立った。

「シホさん、お願いします」
「はい。お相手します、ネギ先生」

臨戦態勢に入ろうとしている二人を見ながらアスナは古菲に、

「ネギは大丈夫だよね…?」
「いや、私が夕方に試したのを見ているアルね? だから分かるネ。正直言って短期決戦のカウンター作戦も…無理ネ」
「そんな…」
「この試合は互いのレベルが違いすぎます。シホさんに一撃など…私ですらいまだ無理なのですから…ですから合格判定は一撃だけではないのかもしれません」

刹那の言葉にこのかは首を傾げて、

「なにか別の合格方法があるってこと? せっちゃん?」
「はい、お嬢様。そもこの短期間で習った中国拳法では付け焼刃にも程がありシホさんレベルの相手では絶対と言えるほどに一撃など無理でしょう。
古、お前はシホさんの嗜んでいる武術はなにか聞いたんだろう?」
「うむ。シホは中国拳法、柔術、合気道、空手、プロレス、キックボクシング、ムエタイ、神鳴流武術…これらを総合で組み合わせて使うといった話を聞いたネ」
「ちょっ…何その数? 出鱈目にもほどがあるでしょ…」
「ただの魔法使いってー訳じゃねぇってことか…」
「確かに…。ですがそれがシホさんの強さを表現しているのです。ですから私も敵わないでしょう…」
「はー…シホってすごいんやね?」
「はい。さらにこれに加え武器も入れますと剣術、槍術、弓術…それに魔法に魔術、吸血鬼の力。
極めつけは京都で見せた『錬鉄魔法』という固有技法…仲間内なら頼もしいですが敵だと思うとゾッとします」
「シホの姉さんはオールラウンダーだな」

カモの言葉に一同は納得するしかないだろう。頷いていた。
そこにエヴァの言葉が響く。

「では始めるがいい!」

その言葉に即座にネギは魔法詠唱を唱えた。

「契約執行90秒間 ネギ・スプリングフィールド!」

ネギは体に魔力供給をしてシホに飛び掛っていった。
ただシホはそれを迎え撃つ形を取っていた。
そしてネギの拳がシホに襲い掛かるがシホはそれらをすべて捌いている。
中国拳法特有の変則的に変わる動きに対してシホは一歩もその場から動かずにネギを受け止めているのだ。

(そんな…これだけやっているのに!)

ネギは焦りを感じ前に出すぎてしまった。
すぐさまシホは足を取りネギを転ばせた。
だがすぐに復帰してその場から離脱をはかるが、しかしシホの追撃の手はない。
ただ不動。
それにネギは怪訝な表情を浮かべているがそこにエヴァから声が響く。

「おいぼーや。やる気があるのか?」
「そんな!? 僕は全力でやっています!」
「そうは見えないな…今宵、何のために一般人を連れてこなかったのか理解できない貴様でもないだろう?」
「それは、魔法も使ってもいいということですか?」
「そう言っているだろう。まったく興ざめだ…この話はなかったことにしても構わんのだろう?ん?」
「エヴァンジェリンも悪ですねー」
「ケケケ」

タマモが笑みを浮かべチャチャゼロもけらけらと笑っている。
その事にやっと気がついたネギは必死の顔で、

「もう一度お願いします!」
「ダメだ。私も中途半端な覚悟でやる弟子などいらんからな。シホ、引き上げだ」
「ちょっとエヴァちゃん!? ネギが必死に頼んでいるでしょ!?」
「何度言っても「エヴァ…」ん? なんだシホ?」
「いいじゃない? 私も魔術を使っていなかったんだからお相子みたいなものよ。もう一度ネギ先生にチャンスを与えてもいいんじゃない?」
「む、まぁお前がそういうなら…」

途端ネギはパッと笑顔を浮かべて「ありがとうございます!」と感謝の言葉をいった。

「それではネギ先生…ここからは本気で来てください。私もそれに付き合います」
「いきます!ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 光の精霊11柱! 集い来たりて敵を射て! 魔法の射手・光の11矢!!」

魔法の射手がシホに向かっていく。
それをシホは干将・莫耶を投影してすべて切り伏せようとするがそれらはすべて手前の地面に着弾をして砂煙を発生させる。

「風精召喚! 剣を執る戦友!! 迎え撃て!!」

風の中位精霊を飛ばしシホに殺到をする。それをシホは黒鍵を数本分投影してすべて投擲し串刺しにする。
だがネギはその中を掻い潜りシホに近距離まで接近し魔力をこめた拳を浴びせる。
しかしそれでもシホは素手で受け止めていた。
だがここでネギは、

「開放!!」

遅延呪文が発動し戒めの風矢がシホの腕を絡み取る。
そこに畳み掛けるように、

「闇夜切り裂く一条の光、我が手に宿りて敵を喰らえ!『白き雷』!!」

白き雷が放たれ粉塵が巻き起こり、そこでとどめとばかりに、

「来れ雷精、風の精!雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!『雷の暴風』!!」

ギャリギャリと地面を抉りながら雷の暴風は粉塵の中に今だいるであろうシホに直撃し粉塵に発火したのか爆発が起こる。

「これでどうだ!?」
「やった!? っていうかネギ! シホを殺す気!?」
「姐さん姐さん、シホの姉さんは不死身っすよ?」
「今のはネギ先生の中で最大の魔法でしょうからこれで決められなければ…」

全員の視線がシホに注目される。
そして煙がはれた先では七つの花弁が咲き誇っていた。

「さすがシホ様です。あの魔法をロー・アイアスの盾を一枚も割らずに防ぎきるなんて」
「ロー・アイアスか。本当になんでも持っているな」

新たに知る宝具の名にエヴァは興味深そうな視線を浴びせている。
だが自身の最大魔法を防がれたネギは片膝をついて「そんな…」と絶望に陥っていた。

「…もう終わりですか?」
「…え?」
「魔力が切れたわけでもない、手足が削がれたわけでもない、まして殺されたわけでもない…五体満足。なのにもう諦めるんですか?」
「で、でも…」
「ネギ先生の覚悟と言うものはそんなものだったんですか?」
「!」
「なら…ネギ先生、いえネギ・スプリングフィールド…あなたは大切な生徒達が危険に晒されてしまった時に敵わないと感じたら逃げ出してしまうのですか?」
「そんなことッ!」

ネギはなんとか答えようとするがシホから薄ら寒いものが発生しだして体を震わせてしまっていた。

「な、なにこれ? 寒い…!?」
「なんやの!?」
「アスナさん、お嬢様! これは殺気です!」
「こんな殺気…初めてアル! 鳥肌がすごいアルよ!」
「シホの姉さん、兄貴を殺す気っすか!?」

アスナ達がシホの放つ威圧感と殺気により震えていた。それは正面から受けていたネギにはたまったものではないだろう。
精錬された研ぎ澄まされた殺気は限りなくネギから勇気と気力を奪っていく。

「少し話をしましょう…ネギ先生、あなたは自身の事をどう思っていますか?」
「どう思っている、ですか…?」

なんとか吐き出すように問いかけるがそれもやっとといった感じである。

「…二十年前の大戦を勝利しサウザンドマスターと呼ばれ、マギステル・マギの資格を持ち、多くの不幸な人達を救ってきた英雄、最強の魔法使い、ナギ・スプリングフィールド…あなたはそんなナギの息子です」
「……………」

ネギはシホがなにを伝えたいのか分からず無言で話を聞いていた。

「ナギ・スプリングフィールドの息子という事実はこれからもあなたにずっと着いて回ってきます。
それはネギ先生を守ると同時に、ネギ先生とその従者達を危険に晒します」
「ど、どうしてですか…? 僕は僕で、お父さんはお父さんです」
「そうかもしれないです。ですが周囲は違います。例えばエヴァはいい例だと思います。
十五年前にナギにこの麻帆良の地に封印され、封印を解こうとしてネギ先生を狙ってきた。そして一般人であるアスナを巻き込んだ。それは何故ですか?」
「そ、それは…」
「そう。あなたがナギの血族だったからです。そしてその過程で魔力を集める為に見えない場所ではたくさんの生徒が血を吸われました」
「…ッ!」

ネギはその真実に顔をサーッと青くする。

「ネギ先生が普通の魔法使いだったなら、エヴァは行動を起こす事もなく被害者も出なかったでしょう…アスナも今も平和な生活を保てていたと思います」
「はっ、つ…!」

ネギはシホの一言一言が何度も胸に突き刺さってきて息をするのもやっとの状態だ。
アスナ達も止めに入ろうとしているがエヴァが前に出て、

「止めてやるな、お前ら。これはぼーやの問題だ」
「でも! これはなんでもさすがに!」
「これはぼーやの覚悟が試されているのだ。こんな機会はまたとない。邪魔立てするというなら私はお前達を止めるぞ?」
「エヴァンジェリンに賛成ですねー。だから大人しく見ていてくださいな♪」

タマモもアスナ達の前に立って呪符を何枚も出して牽制している。

「話は戻ります。英雄というものは褒め称えられるものです。でも、それと同時に敵を多く作る。
私がナギと行動を共にしていた時代にも多くの刺客に狙われたものです。
そしてネギ先生の話では生きているというナギですが、事実はどうあれ公式では行方不明、死亡扱いとなっている。
ナギが今まで残してきたものは…、正確に言えばナギに倒されて生き残った敵やその家族の意思は、その因果は………さて、どこにいくのでしょうね?」
「そ、れは…」

正直に言わないがシホの言葉は「お前に襲い掛かってくる」と言っているのも当然の台詞だった。
ネギはもう反論も出来ずにただじっとシホの棘のある言葉を耐えている。だが限界も近い。
そしてシホはその手に再度干将・莫耶を投影し、殺気の濃度をさらに高める。

「ネギ先生…いつかあなたの前に強大な敵が立ち塞がったとします。それらはなにがなんでも倒さなければいけない相手。
でなければ殺されるのはあなたとその仲間達です。
…聞きます。その時になったとしてあなたは―――…」

シュッ!

離れていた間合いを一瞬でゼロにして白と黒の刃がネギの首に晒される。

「あっけなく死を選びますか? それとも、なにがなんでも生きる事を諦めずに足掻き続けますか?」
「う、あ…ぼ、僕は…僕は!!」
「さぁ、ネギ先生…」

瞬間、ネギの頭にはあの冬の景色が流れ出した。
蹂躙された村、次々と石化された村人、自身を守り石化された老人、足が砕けてしまった姉、最後に何も出来ずに泣いていた自分。
そこでネギの思考は急激に暴走して、気づいたときには、

ズダンッ!

なにかを貫く音が辺りに響いた。
ネギが正気を取り戻した時には、アスナ達が悲鳴を上げていた。
なぜ? 答えは簡単だ。
ネギの拳はシホの胸に深く突き刺さってそこから血が流れ出していたのだから。

「あ、あ…ぼ、僕はなんてことを!?」
「…大丈夫です、ネギ先生…」

ネギの手をシホは優しく握り、そっと胸から離すと胸の傷はたちまちに修復・復元していった。

「私は、不死です。だからこの程度ならすぐに復元します…だから気に病まないでください」
「でも、僕は…」
「魔力の暴走を起こしていたとはいえ、私の数々の言葉にも屈せず最後には自ら自身の道を諦めずに私に一撃を入れたのですよ? その心、覚悟、しかと受け止めさせてもらいました」

気づけば先ほどまでの殺気は消えうせて、変わりに笑みを浮かべてシホはネギの頭を優しく撫でていた。
その姿を見てアスナ達はシホにどこか神聖ななにかを感じ取っていた。

「合格です、ネギ先生。よく心折れずに立ち向かってきましたね。エヴァ、あなたも合格でいいでしょ?」
「ふん…ああ、ぼーやの現在の力量、精神力を見せられ、さらには潜在能力の一部まで引き出されては何も言えん。よって約束どおり稽古をつけてやる。いつでも小屋に来るがいい」
「…あ、ありがとうございます!」

それからはもう大騒ぎだった。
刹那やこのかには感激されて、古菲には何度も勝負を申し込まれ、アスナも「無茶しちゃって…」と言われながらもいい様にされっ放しで、カモとチャチャゼロには感心されて、ネギにはもう終わったというのに感謝と謝罪の言葉を何度もかけられていた。
それとエヴァはネギにカンフーの修行は続けていろと忠告していた。

「ネギ先生…」
「はい、なんでしょうか?」
「先ほどは酷い言い方をしましたが、あれらは全て紛れもない事実です。だからナギの事を追うばかりで足元をすくわれないようにしっかりと現実を見て、そして強くなってください」
「はい! ご忠告、ありがとうございます!」

そしてネギ達は帰っていった。
そして残されたのはシホとエヴァ、そして従者達だけ。
シホは気が抜けたのか胸を押さえて倒れてしまった。

「シホ様!?」
「まったく…真祖だからすぐに回復するとはいえ真っ正直に障壁も張らずにその身だけで受け止めるからそうなるんだ。暴走した魔力ダメージも残っているんだろう?」
「ははは…ごめんね」
「茶々丸、そいつを今日はウチで寝かしておけ」
「はい、マスター」

シホ達もエヴァの家へと本日はお泊りする事になったのだった。


 

 

028話 日常編 父の手掛かりと竜と喧嘩

 
前書き
更新します。 

 



翌朝の事、茶々丸はアスナ達の部屋に向かっていた。
用件はというとネギの事を心配に思った様子見と言うことで、部屋の呼び鈴を鳴らす。
するとすぐにこのかが顔を出して、

「はーい。あれ、茶々丸さんや。どないしたの?」
「いえ、ネギ先生はいますか?」
「いるえ」

すると声が聞こえたのかネギが顔を出してきた。

「茶々丸さん? どうしたんですか?」
「あ、ネギ先生…いえ、あれから少し様子見をという事でまいりました」
「そうだったんですか。はい、大丈夫です。シホさんは本当に手加減してくれて傷もありませんから」
「…心のほうは大丈夫ですか?」
「…はい」
「そうですか。それとこれはシホさんと一緒に作ったものですので折角ですので食べてください」

茶々丸はケーキの箱を取り出してネギに渡した。

「あ、これはどうも。そうだ。シホさんはどうしていますか?」
「はい。シホさんは現在回復していますがやはり胸のダメージが酷いので今は療養しています」
「え!? やっぱりシホって無理していたの!?」

話を一緒に聞いていたアスナが叫んだ。
それも当然だろう。昨日は傷もすぐに塞がり平気な顔をしていたのだから。

「はい。真祖とはいえネギ先生の暴走した手加減無しの一撃を障壁もなしに受けたのですからダメージが残っているそうなのです。
本当なら胸は陥没で重症ものですから、ネギ先生達が帰られた後、倒られました」

淡々と茶々丸はネギ達にその事を伝えたが、ネギとアスナはサーッと顔を青くした。
京都での一件で魔力で強化したアスナのキックだけで岩を破壊した光景を思い出し威力はどんなものか知っているから。

「ううー…やっぱり申し訳ないです。今もこの手に感触が残っていて…あぁ! やっぱりなにかお詫びを考えないと!」
「ネギ先生、シホさんは昨日も申されたそうですが、気にしないでくださいと伝えて、と言われました」
「シホって聖人君子かなんかなの…? いや、これも大人の貫禄!?」

それから茶々丸も部屋の中に入れ皆でお話をしていた。

「昨日の件ですがシホさんはネギ先生の実力と言うより精神力、そして覚悟を試したものだと思います」
「それじゃ一撃を入れるっていうのはオマケみたいなものだったってこと?」
「そうなりますね。結果的には一撃を叩き込んだのですから条件も満たした事になりますから」
「思ったよりネギも傷を負わなかったからね」
「はい。僕はもっとしごかれるのかと思っていましたから」
「ネギ君はあれを物足りないいうのー?」
「そんなことありません! 精神的にはとても痛かったですから」
「ネギって泣きそうになっていたもんね」



ピンポーン!



そこにまた呼び鈴が鳴りアスナが出ると、

「あれ? 夕映ちゃんに本屋ちゃん」
「アスナさん…実はネギ先生に内密の話があるのですが」
「?」
「……………」

茶々丸はその話をじっと聞いていた。




◆◇―――――――――◇◆




翌日の朝の事、シホは全快(別に昨日の午前のうちには痛みも完全に引いていたがタマモが看病するといって譲らなかった)したので朝早くタマモと共に一緒に学園近くを歩いていた。

「んー、一日ぐっすりしていたから休みすぎたかな?」
「そんなことはありませんよー。いつもシホ様は無茶が過ぎるんですから私めが見ていないと」
「ははは…手厳しいわね。…ん?」
「どうしましたかシホ様?」

シホの千里眼があるものを捉えていた。

「ネギ先生にのどかに夕映? それに後をつけているのは茶々丸…?」
「お子ちゃまがどうしましたか?」
「いや、ネギ先生が杖で夕映とのどかを乗せてどこかに飛んでいっているのよ。そして茶々丸がそれを後から追っているの」
「やー、なにかあるんですかね? 付けてみます?」
「そうだね。タマモ、久々に融合しよっか」
「あ! はいです♪」

タマモが嬉しそうに笑うと光の玉へと姿を変えてシホに憑依した。

「今回は空を飛ぶだけだからランクの低い剣でいこうか」
『はいです』
全回路(オールサーキット)全て遠き理想郷(アヴァロン)へと接続」
『接続しちゃいます』
「―――投影開始(トレース・オン)
「アゾット・メ・ゾット・クーラディス…魔力変換開始(トリガー・オフ)術式固定完了(ロールアウト)術式魔力(バレット)待機(クリア)! 全魔力掌握完了(セット)!!」

風の属性の剣の魔力を体に纏って空へと飛翔した。
そして茶々丸のところまで一気に追いついた。

「! シホさんですか? お早うございます」
「ええお早う。それよりどうしたの茶々丸? ネギ先生を追っているようだけど」
「はい。なにやらお父様の手掛かりを見つけたようでその場所へ向かっているようですので心配になりついてきました」
「そう。でも確かのどかはともかく夕映は魔法の存在は知らなかったと思ったけど?」
「ばれたのでしょう」
「そう…(あれほど一般人は巻き込まないように言っておいたのにな…)」

シホが少し残念な気持ちになっていたが気持ちを切り替えてネギ達の後を追った。
そしてたどり着いた場所は、

「図書館島?」
「そうですね」
「あそこのエレベーターから入っていったようね。タマモ、もう飛ぶ必要はないから解除しようか?」
『いーえ、もう少し憑依させてもらいます。いざという時がありますから』
「わかったわ」

そしてシホ達もエレベーターを使い降りていきネギ達の後を追っていくと着いた場所は木々が生い茂っているが巨大な建造物がありそこには大きな扉があった。

「こんな地下にこんな場所があるなんてね」
「驚きです」
『そうですねー』

見るとネギ達は感動しているようで辺りを捜索しているようだ。

「…ん? なにかの気配がするわ。これは…魔法生物の気配?」
『シホ様、あれを!』
「!?」

シホ達が目を向けた先には竜がのどかと夕映の頭に涎をたらしている光景があった。

「茶々丸は二人を救出して! 私は足止めをしておくから!」
「了解しました」

そしてのどかと夕映が潰されそうになる前に茶々丸が救出し、シホは竜を殴り飛ばした。
殴り飛ばされた竜は地面を削りながらもシホに標的を絞った目つきで襲い掛かってきていた。

「シホさんに茶々丸さん!?」
「ネギ先生、私達はここから脱出します。シホさんはその間、足止めをしていくとの事です」
「で、でも…」
「シホさんに問題はありません。さぁ、いきましょう」
「は、はい!」

ネギ達が脱出していった後、シホはその手にグラムを投影して、

「さて…別に倒してしまっても構わないけどなにかを守っているようね?」
「グ、グルァ…!」

竜はグラムの魔力に怖がりたたらを踏んでいて近寄ってこない。




―――あまり門番であるその子を怖がらせないでください。




そこに中性的な男性の声が響いてきた。
その声にシホは聞き覚えがあり試しにという思いで、

「あなたがここにいるなんてね…学園長も知っているんでしょうね? アル」
「ふふふ…お久しぶりですねシホ。それにキャスターも憑依しているようで…」

そこには白いフードをまとった中性的な顔をしている男性、アルビレオ・イマが立っていた。

「ええ、久しぶりねアル」
『久しぶりですねー』
「かれこれ二十年ぶりでしょうか…ナギの息子さんが来たと思いましたら今度はあなた達が来るとは思いませんでした」
「ま、今はネギ先生の生徒兼見守り役をやっているからね」
『はいです』
「そうですか。…吸血鬼になられたと聞きましたが…大丈夫ですか?」
「ええ。もうしょうがない事だしね。それよりナギが残した手掛かりの場所にいたのがあなただったとは…エヴァは知っているの?」
「いえ、学園長と特定の人以外は知りません。私はここで十年前から療養しているのですよ」
「療養、ね…まぁいいわ。それじゃそろそろネギ先生達が心配すると思うからお暇するわ」
『失礼しますねー。あ、アル、後で色々とお話しましょうね♪』
「ええ、キャスター。私は基本ここにいますからまだネギ君やエヴァンジェリンなどにばらさないのでしたら会いに来ても構いません」
「ええ、それじゃまた」

シホはアルに別れの言葉を言ってその場から飛び立っていった。




◆◇―――――――――◇◆




シホがエレベーターから戻ってくるとネギは心配げに近寄ってくる。

「シホさん! 大丈夫でしたか!?」
「はい。傷はありません…そうだ、タマモ、もう解除してもいいでしょ?」
『はいです』

するとシホから光の玉が飛び出しタマモの姿へと形を取った。
当然、まだ人間化していないので狐耳に尻尾も見えているので夕映などが「これがファンタジーの住人ですか…」と呟いていた。

「それより夕映に魔法の事がばれたんですか?」
「は、はいぃ…言い訳もできなくて」

少し泣きが入っているのはしょうがないことだ。
それでシホは一度ため息をつき、

「夕映…」
「な、なんですかシホさん?」
「魔法の世界に関わるなとはいわないわ。でもあなたは魔法の世界がすべて絵本の中のファンタジーのような世界だと思っているのならその勘違いを訂正するべきよ」
「何故ですか? それは、多少は危険なものだと認識していますですが…」
「多少どころではないわ。それにそれをいうなら魔法の事を知ったアスナ、このか、のどか…そして魔法の世界のネギ先生ももっと認識を改める必要があるわ」
「どうしてそこまで私達が魔法に関わるのを禁忌するのですか…?」
「もっと現実を見てほしいのよ。魔法世界にもしっかりとした現実がある。…そうね。一つヒントを教えておくわ。私はもとはただの人間だった。でも今は吸血鬼になってしまっている…それは何故かわかる…?」

ネギとカモはシホの言いたいことが分かったのか顔を青くしている。

「シホさんは、自ら吸血鬼になったのではないのですか…?」
「当たり前よ…さて、ヒントはここまで。後は自分達で考えてみなさい。それよりそろそろ学校の時間も迫っていますからさっさと帰りましょう」

先ほどまでの大人びた態度から、すぐにもとの優しい雰囲気に戻りネギ達は驚いていた。
だがシホのいうとおりだったので帰る事にした一行だった。




◆◇―――――――――◇◆




翌日の夕方、ネギにアスナ、このか、刹那、のどか、夕映、古菲の六名はエヴァの修行場所に着いてきていた。
場所はエヴァの家から近くにあるなにやら遺跡のような場所で小規模ながらも結界が張られておりそこで修行するというものだ。
そこでエヴァがネギに指示を飛ばす。シホとタマモ、茶々丸も後ろで待機していた。

「よし。ではぼーや、始めてみろ」
「はい!契約執行!180秒間!ネギの従者『近衛木乃香』『宮崎のどか』『神楽坂明日菜』『桜咲刹那』!」

ネギの契約執行により四人の体に薄い魔力が纏われた。

「次に対物・魔法障壁(アンチ・マテリアル・シールド)を全方位全力展開!」
「はい!」
「さらに対魔・魔法障壁(アンチ・マジック・シールド)を全力展開後、3分持ち堪えた後に北の空へ魔法の射手199本を放て!」
「はい!! 光の精霊199柱、集い来たりて敵を射て。魔法の射手・光の199矢!!」

それによってネギの手から魔法の射手が放たれ空には光の粒子が結界に当たり飛び散っていた。
だが、ネギは魔力を使いすぎた反動で気絶してしまった。

「ふん、この程度で気絶とは話にならん! いくら奴譲りの魔力があったとしても、使いこなせなければ宝の持ち腐れだ!! 貫く位の気概を見せてみろ!」
「よーよーエヴァンジェリンさんよう。そりゃ言い過ぎだろ。まだ兄貴は十歳だぜ?
今アンタがやらせたコトは修学旅行の戦い以上の魔力消費だぜ。気絶して当然。並みの術者だったらこれで充分―――…」
「黙れ下等生物が。並みの術者程度でこの私が満足できるか。………煮て食うぞ?」

カモの言葉を極度の睨みで黙殺するエヴァ。
カモはブルブルと震えてアスナに飛びついていた。

「こえー…」
「ハイハイ、怖かったわね」

エヴァはその光景を無視し、

「私を師と呼び教えを乞う以上、そんな生半可な修行で済むと思うな。
いいかぼーや。今後私の前ではどんな口応えも泣き言も許さん。少しでも弱音を吐けば貴様の生き血、最後の一滴まで飲み干してやる。心しておけよ?」
「はい! よろしくお願いしますエヴァンジェリンさん!!」
「む……………」

脅しのつもりが威勢のいい返事が返ってきたためエヴァは「わ、私の事は師匠と呼べ…」と小さい声で言っていた。
それがタマモのつぼにはまったのか、

「あー、エヴァンジェリンたら照れていますね?」
「うるさいぞ女狐! 本気で煮て食うぞ!!」
「まぁまぁ二人とも…」

シホが仲裁に入るが、そこでエヴァはニタッと笑みを浮かべた。
なにやらまずい空気を感じ取りシホは逃げようとしたが、

「なぁシホ…。お前は神鳴流剣士であるが魔法も使えたよな?」
「…え、ええ。知識だけなら魔法世界で大体学ばせてもらったわ」
「なら試しにお前も魔法の射手を撃ってみないか? 実力というものをここで見せてみろ」
「えー…そんなに得意なわけではないわよ?」
「いいからやれ。ぼーやにもいいものを見せられるやもしれん」
「僕からもお願いします! ぜひシホさんの魔法の腕を見てみたいです!」

ネギの言葉に一同も視線をシホに向ける。

「ふぅ…わかったわよ。でも期待しないでよ? 本職は魔術師兼神鳴流剣士なんだから。
アゾット・メ・ゾット・クーラディス、光の精霊1001柱、集い来たりて敵を射て。魔法の射手・光の1001矢!!」

魔力に物を言わせてシホは魔法の射手を1001矢を結界に向かって放った。途端、



ガシャーーーーーンッ!!



結界はもろくも決壊した。

「アホかー! 割る事はないだろう!? あれを張るのも時間かかるんだぞ!!?」
「さっきネギ先生に貫いてみせろとか言ったのはどこの誰よ!!?」

おもわずシホとエヴァは言い合いを始めてしまった。
それを見ていた一同は、

「すげー…」
「すごい…」
「今のネギ先生では到底真似出来ない芸当ですね」
「っていうかあれ普通に兵器並みの威力持っているんじゃない?」
「再度、驚かされましたです…」

その後幾分冷静になったエヴァはシホを指差しながら、

「…まぁあいつみたいに魔力の扱いがしっかりしていれば倒れずに済む。だから精進しろ」
「はいマスター! あの、ところでドラゴンを倒せるようになるにはどれくらい修行すればいいですか?」
「何?…もう一回言ってみろ。なんだって?」
「だからドラゴンを…」
「ほうほう、ドラゴンをなぁ………、アホかー!!」
「ぺぷぁ!?」

本日二度目の「アホかー!」を鉄拳制裁込みでネギに叩き込むエヴァの姿がそこにあった。

「ねぇドラゴンって何の話…?」
「それはですね、信じてもらえるか分からないのですが…」
「……………」

アスナが夕映に問いかけている光景をシホは無言で見ていた。
それからは解散となり帰る者もいる中、ネギとアスナは向かい合っていた。

「……………聞いたわよ。私に内緒で昨日図書館島に行ったでしょ」
「えっ!? あっ、いや、えーとそれは………!!」
「…なんで私を連れてかなかったのよ?」
「いえ、それはどんな危険があるかわかんなかったし…」
「それも聞いた! ドラゴンだが知らないけどなんかスゴイのがいたんでしょ?
危ないじゃない!? 何で私に言わなかったのよ、このガキ!」
「―――アスナさんは元々僕達とは関係ないんですからいつまでも迷惑かけちゃいけないってちゃんと考えて僕―――…」
「――――――かっ、関係ないって今更なによその言い方!! ネギ坊主――――!!!」
「わわわアスナさん!? いえ僕は無関係な一般人のアスナさんに危険がないようにって」
「無関係ってこの………!! 私が時間無い中わざわざ刹那さんに剣道習ってるのなんでだと思ってたのよ――――っ!!」
「えええ!? そんなの別に頼んでないです! なに怒ってるんですかアスナさん!?」

そんな二人の様子をエヴァ達は見ながら、

「なんだあれは?」
「ケンカのようで」
「あのお子ちゃま、シホ様のいった事を実践しようとしているのですかねー?」
「あの様子じゃもうどうにでもなれよね、はぁ…」

シホ達はそれで呆れていた。

「何でって………これだからガキは!! あんたが私のことそんな風に思ってたなんて知らなかったわ! ガキ!! チビ!!」
「アスナさんの方こそ大人気ないです!! 怒りんぼ!! おサル!!」

そしてネギはこの後にアスナに言ってはならない事を言ってしまって、

「この…! 来たれ(アデアット)――――」
「はうっ!?『風盾(デフレクシオー)』ッ!」

ネギはなんとか防御魔法を展開しようとしたのだが、

「アホーーーーーッッ!!!!!」
「はうーーーーーっ!!」

ネギは障壁を張ったがハマノツルギの前では紙切れも同然のごとく砕かれ吹き飛ばされてしまった。
アスナは一瞬、表情が「しまった」という風になるが意地になってしまっている為そのまま走り去ってしまった。

「…ったく何バカやってんだ、ガキどもが。まぁいい。ぼーやと近衛木乃香…お前達には話がある。帰りはウチに寄っていけ」




◆◇―――――――――◇◆




エヴァ邸に場所を移してエヴァによる魔法講座が開かれていた。

「ぼーやとこのかの魔力容量は強大だ。これはトレーニングなどで強化しにくい言わば天賦の才、ラッキーだったと思え。
まぁ後天的で言えばシホはそれに該当するな。人間だった頃もそれは高かっただろうがぼーや達には及ばなかった、が真祖になり魔力容量が増大したからな」
「はー…やっぱりな」
「はい、やはりといった感じですね」

聞いていたカモと刹那が答えていた。

「ただしそれだけではただデカイだけの魔力タンクだ。使いこなすためにはそれを扱うための『精神力の強化』あるいは『術の効率化』が必要になってくる。どっちも修行だな」
「シホ様は精神力が人のそれを越えていますから夕方の魔法の射手も平然と打ち出せたのですよね」
「うむ、その通りだ。ちなみに『魔力』を扱うためには精神力を必要とし『気』を扱うのは体力勝負みたいな所があるんだが―――…そろそろ怒ってもいい頃合だよな?」
「エヴァのお好きなようにしたらどう…?」

シホの了承の言葉についにエヴァはきれた。

「ぼーや! 近衛木乃香! 貴様ら人の話を聞かんかーッ!!」

端のほうでアスナを怒らせてしまった事に対していじけているネギとそれを慰めているこのかの姿がそこにあった。

「まったくそんなにうじうじしているといい加減くびるぞ、ガキが!!」
「うう…でもアスナさんが…」
「フン…貴様らの仲違いは私にはいい気味だよ。お前と明日菜のコンビには辛酸を舐めさせられているからな。いいぞ、もっとやれ」
「あうう…」
「まぁ自業自得という事で諦めちゃいなさいな♪」
「コラコラ、タマモ。子供を追い詰めるんじゃないの」

タマモがネギを面白半分にからかいそれをシホが抑えているという光景にもネギは反応が薄かった。シホはこれは重症だと思っていた。
次にエヴァが木乃香に伝言があるという。

「詠春からの伝言だが真実を知った以上魔法について色々教えてやってほしいとのことだ―――確かに京都での操られたとはいえあれだけの妖怪を召喚し、さらにぼーやの石化を癒したお前の力はもし望むなら偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)を目指すことも可能だろう」
「マギ…それってネギ君の目指しとる…?」
「ああ、お前のその力は世のため役に立つかも知れんな。考えておくといい」

エヴァの言葉にこのかは「むむむ…」と唸りを上げていた。

「次はぼーやだ」

エヴァは話を続ける。
これからの修行方針を決めるとの事でまず、



・『魔法使い』
前衛を従者に任せ自らは後方で強力な術を放つ安定したスタイル。

・『魔法剣士(拳士)』
魔力を付与した肉体で自らも前に出て従者と共に戦い“速さ”を重視した術も使う変幻自在のスタイル。



この二つをエヴァはネギに進めた。
ネギは少し考えるように顎に手を添えて「一ついいですか?」とたずねる。

「シホさん達にも尋ねたいんですけどサウザンドマスターのスタイルは?」
「「「魔法剣士だ(ですよ)(ですねー)」」」

エヴァ、シホ、タマモが同時にそう答える。

「私やあの白髪の少年の戦いを見ればわかるように強くなってくればこの分け方はあまり関係なくなってくるな。
貴様、やっぱりといった顔になっているぞ。ま、どうするかはゆっくり考えるがいい」

伝える事は伝えたのかエヴァはこのかに話があるといって下に下りていった。
その間、ネギは中国拳法の修行をしていた。
いくつもの技の練習をしながらも、

「ふぅ…でも拳法じゃドラゴンには敵わないだろうしなー…でもシホさんって素手で殴って吹っ飛ばしていましたよね?」
「ええ。魔法世界ではそれはもう何度も相手をしましたから」
「すごいですねー…。でも『魔法使い』に『魔法剣士』かあ…アスナさんはどっちがいいと思います? あ…」

そこでネギはアスナと喧嘩している事を思い出し「うわーん」と涙目になっていた。

「立ち直りがはえーと思ってたら…」
「忘れていただけみたいですね」
「夢中になりすぎるのも考え物ですねー」
「まぁ長所であり短所でもあるっていったところかしら?」

と、そこに茶々丸がお茶を持っていつの間にかいた葉加瀬と一緒に歩いてきた。ちなみに葉加瀬が協力者だというのはシホは事前に知っていたので驚いていない。
そしてそこから葉加瀬が一緒に喧嘩になった理由を探す手伝いをするということになり茶々丸の録音していた喧嘩の音声をプリントアウトして皆で見る事にした。
ちなみにそれを見ていたのはシホ、タマモ、刹那、茶々丸、チャチャゼロ、葉加瀬でカモはふと(女心とかわかってなさそうな辺りが集まったな)と思っていた。
そして導き出された結論はやはり、

「原因はパイ○ンですね(ですねー)(ダゼ)(かもな)(かもです)(かと思われます)」

と、ある意味ネギは切って捨てられた。
それからとりあえず謝った方がいいという結論になりネギは外に出て行った。
出て行った後、しばらくして、

『いやあああああーーーーーー!!』

アスナの悲鳴が中まで響いてきた。
何事かと外に出てみるとそこには裸のアスナになぜかタカミチがいた。
なんて間の悪い…とシホは思った。
アスナは家の中に猛ダッシュしていき残された男組みは、

「あああ…よけい怒らせちゃった」
「タイミング悪かったかなー僕。すまんネギ君」
「確かにタイミングが悪かったわね、タカミチ」

そこにシホが降りてきて、

「あ、シホ姉さん。いたんだね」
「ええ。でもネギ先生、相手の了解を取らずに勝手に召喚するのは英国紳士としてまずかったと思いますよ?」
「うう…やっぱり。どうしよう…」
「まぁしばらくはほとぼりが冷めるまで待つしかないですね」

シホの言葉にネギは涙目になりながらも承諾するしかなかった。


 

 

029話 日常編 シホとタマモの一日 IN 冬木

 
前書き
更新します。 

 



とある日、まだネギとアスナが喧嘩をしている最中の事、シホは学園長室に赴いていた。

「学園長、ちょっと折り入ってお話があるんですがいいですか?」
「なにかのシホ殿?」
「はい。私とタマモに今度の土日に外出許可を申請してもらいたいんですけど…」
「外出許可かの?」
「はい。私の事は魔法世界に話していないんですよね? だから秘密裏に動いたほうがいいと思いまして」
「うむ、シホ殿を軟禁していた魔法使い達が生き残っていたらもしかしたら情報をリークされるかもしれんからの…しかしどこに何をしに行くのかの?」
「冬木市という場所にいってきます。何をしに行くかというのはしいて言えば失った記憶探しです」
「ほ。記憶探しとな?」
「はい。エヴァと相談したんですけど、詠春達に助けられる前の記憶をいいかげん思い出したいものでして。それで曖昧ながら覚えているキーワードを並べて検証してみた結果、冬木市が当てはまったんです」
「そうか…。では少し待っておくれ、冬木市の魔法使いの一族に連絡を取ってみるからの」
「お願いします」

学園長が電話でしばらく電話をしていると話がついたのか受話器を置き、

「向こうは了解してくれた。ただしシホ殿とアヤメ殿の事はある魔法使いと従者とだけ伝えておいたから安心しておきなさい」
「感謝します」
「それではくれぐれも騒ぎは起こさんようにな。シホ殿が外に出るというのだけで色々と話が持ち上がるからの」
「努力します」
「うむ。では楽しんできなさい。そして記憶が戻るといいの」
「はい」

シホは学園長から書状を書いてもらい出て行った。

(よし、なんとか学園長とは話がついた。これで自由に行動が出来る)

シホは楽しそうにしながら教室に戻るとエヴァとタマモが話しかけてきた。

「どうだったか?」
「どうでしたシホ様?」
「うん、外出許可はもらえたよ。これで今週土日は色々と捜索できるわ。ちょっと麻帆良からだと遠いから金曜日の夜には麻帆良を発とうか」
「はいです♪」
「ではなにかみやげ物を頼むぞ。それともし記憶を思い出したら見させてもらうからな」
「わかった、いいよ」

シホがエヴァ達と色々と話していると英語の授業でネギが教室に入ってくるがアスナと目を合わせた途端、アスナは「ふんっ…」とそっぽを向かれてネギが落ち込むという光景があった。

「…あちらは自然と回復するのを待つしかないわね」
「くっくっく、見ていて楽しいがな」




◆◇―――――――――◇◆




そしてやってきました冬木市。
現在は土曜日の昼前となる。
駅から降りて、

「着きましたねー、シホ様」
「ええ。それじゃまずは遠坂の家に挨拶に行きましょうか。なにかこの町に入った途端、結界に触れたようで多分あっちも気づいたと思うから」
「はいです」

そうして二人は冬木大橋を渡って深山町へと入る。
それから何度か道を聞いては遠坂の家を目指すがいざ着いたとなると、なんというのだろうか。

「…なんていうか、威圧感と拒絶感が漂うお屋敷といった雰囲気ね。坂の上には魔女が住んでいるとかいうのを耳に挟んだけど割りと当たっているかも…」
「そうですね。霊脈もかなり流れている上に家が建てられていますから魔術師が住まうには上等の場所でしょう。あ、でもこの世界では魔術師はシホ様だけでしたね」
「そうね。でもいつまでこうしていてもしょうがないから入らせてもらいますか」

シホが呼び鈴を鳴らすと「はーい」という小さい女の子の声が聞こえてきて扉が開けられる。
そこにはツインテールの黒髪の女の子が出てきた。小学生くらいだろう。
しかしそこで見覚えがあるような気がしてシホは言葉を一時止める。

「? どちら様ですか?」

しかし気づかなかったのか少女は普通に接客をしてくる。シホは一息つきながら、

「えっと、こちらの遠坂時臣氏に用があって来たんだけど今は大丈夫かな?」
「はい。お父様なら今書斎にいますから呼んできますね」

少女は静かに家の中を歩いていき『お父様! お客様ですよ』と声を出して呼んでいた。
しばらくして奥から優雅に手を後ろで組みながら歩いてくる男性。
タマモはそれを見て内心で(私の苦手そうなキャラですね~)とか思っていた。

「ようこそ。近衛近右衛門殿から話は聞いております。私は遠坂時臣。この町をおさめる遠坂家の現当主です」
「ご丁寧にどうも。私はシホ・E・シュバインオーグ。そしてこちらは私の従者の玉藻アヤメです」
「どーも」
「ここではなんでしょう。客間のほうへ移動しましょう。案内します」

二人は案内されていると扉の隙間から先ほどの少女ともう一人、大人しそうな少女がいて目が合った。

「…あ、さっきはありがとね。えっとお名前を聞いてもいいかな?」
「私は遠坂凛です」
「わ、私は妹の遠坂桜です」
「そう、凛ちゃんに桜ちゃんね。いい名前ね」
「「ありがとうございます…」」
「こら、凛に桜。お父さんは今からこの方と大事な話があるから葵の所へいっていなさい」
「「はい、お父様」」

二人は葵という人物…おそらく母親だろう人の場所へと走っていった。

「二人は魔法使いですか…?」
「ええ。今は自宅で学ばせていますが、時期が来ましたら魔法学校へと通わせようと思っています」
「そうですか」
「ちなみに一つお聞きしておきたいのですが、近右衛門殿から詳しくは聞きませんでしたがあなたは二十年前に消えたという旧赤き翼の『剣製の魔法使い』殿ですかな?」
「! やはり気づきましたか」
「あなたのお名前は有名ですからね」
「あまり他言は控えてもらえると嬉しいです…」
「ええ。容姿が変わっていないのですからそれだけで深い事情があると読んでいます。ですからご安心を」
「ありがとうございます」
「えぇ。もしシホ様の事をばらそう物ならきっつーい呪いがあなたを待ち受けていますからねぇ~」
「ははは、怖いですね。受けたくありませんから私の名に誓ってばらさない事を約束しましょう」

普通ならタマモの脅しの笑みで大抵のものは表情を引き攣らせるものだが時臣は笑いながら優雅に受け流していた。
それに対して二人は(できるなー)と思っていた。
時臣も時臣でそんなことをすれば私はどうなることかという計算をして導き出した解答ゆえの受け応えであった。
そして本題と行きましょうと時臣は提案し、

「それで本日はどういった事でこの地に訪れたのですかな?」
「はい。恥ずかしい事なのですが、私は九歳以前の記憶がないのです」
「ほう…記憶喪失、ですか」
「それで色々なキーワードを並べていくうちに冬木市というものが私の頭に引っかかりを覚えまして、もしかしたら思い出すかもしれないという確信にも似た感触で本日は訪れた次第です」
「そうですか。ですが代々魔法使いの者達を管理してきた遠坂の歴史を調べる限り、あなたのような人物の記録はありませんが…」
「はい。それは分かっています。ところで時臣さん。あなたは私の名前で気にかかる点とかはありませんか?」
「それは…ええ、私もそれは気になっていました。シュバイングオーグ…それは私の一族に魔法の存在を教えてくれた大師父の名の一部ですね」
「ええ。そしてその人は “この世界”では確立されていない魔法、『並行世界の運営』を使えたと言われています」
「!!…そ、それは私の一族の悲願の一つです…」
「そうですか。やはり…ではこれを見てどう思いますか?」

シホは腰のホルダーから宝石剣を取り出す。
それを見て時臣は一瞬固まるが、しかしそれでも姿勢を崩さず、

「その宝石に柄がついている不思議な剣は…まさか大師父が使用していたという…」
「…“この世界”でも、所持していましたか」
「“この世界”…!? まさかあなたは!」
「ええ、記憶は定かではありませんがこの世界の人間ではないという事だけは証明できます。さすがに見せる事は出来ませんが…」
「そうですか…。ではあなたも『並行世界の運営』を扱えるのですか?」
「一部ですがね。今はまだこの世界だけの移動だけで、後は準備が整えば並行世界の観測などを行えるくらいですね。まぁもうこの話はここまでにしておきましょう。本題に入りたいので」
「え、ええ…」
「話は元に戻りますが私は並行世界の冬木市に住んでいたかもしれないという訳なんです」
「なるほど…それならば私達が知らないのも頷けます。でしたらあなたの名前の中に“エミヤ”がありますね」
「ええ、ついているわ」
「でしたら…」

時臣はメモを取り出してある住所を書き始めた。
しばらくして書き終わると紙を渡される。

「そこの住所の場所にある武家屋敷を訪ねてみるといいでしょう。君の容姿といいある人物にそっくりですからね」
「は、はぁ…」
「私が提供できる情報はここまでです。お力になれず申し訳ありません」
「いえ、この町を周る許可を頂くだけで十分です。ありがとうございます」

それからもう少し話を交わした後、シホ達は出て行こうとしていたが凛に呼び止められた。
それでどうしたのかと思ったが、

「また遊びに来てください。歓迎します」
「ええ、ありがと。凛ちゃん」

シホは笑顔を浮かべて凛の頭を撫でてあげた。

「それじゃまたね」
「遊びに来ますねー」

私とタマモは遠坂邸を今度こそ後にするのだった。

「いかがでしたか? お目当ての一つである遠坂と会った感想は」
「うん。少し見えてきたものがあったわ。時臣さんとはそんなに接点はなさそうだけど、凛ちゃんにはなにか感じるものがあったわ」
「そうですか。思い出せたらいいですね」
「ええ。それじゃその武家屋敷に向かうとしましょうか」
「はいです♪」




◆◇―――――――――◇◆




そしてシホとタマモは武家屋敷の前までやってきた。

「…なんだろう。とても懐かしいというかなんというか…」
「これはもしかしたらシホ様の記憶に関係するお屋敷でしょうか!?」
「わからないわね。とりあえず入ってみましょう」

二人が屋敷の門を潜った瞬間、

「…ッ!」
「シホ様はお下がりください!」

タマモがお札を構えて呪層・黒天洞を展開する。
遅れて衝撃が伝わってきた。
なにかを確認するとそれは銃弾だった。

「…君達はなにものかな? 僕の家に入ってくる気配が二人とも人間じゃない…僕達を狙った刺客かな?」
「何のことか分かりませんけど突然発砲するなんて物騒なお方ですねー! 呪いをかけますよ!?」

タマモが激昂しながらも扉の前にいるぼさぼさの髪で銃を構えた男性を威嚇する。
その男性を見た途端、シホは頭痛に襲われた。

「くっ…!? あなたは誰ですか!?」
「僕かい? 調べてきたわけではないのかい?」
「私達は遠坂時臣さんに行ってみなさいといわれて来ただけです。刺客とかそんなのではないわ!」
「えっ!? 遠坂が僕の家を紹介したのかい!?」

そこで男性は「しまった」といった感じの顔になり、銃をしまうと頭をかきながら、

「すまなかったね。つい僕達を付け狙った刺客かと思ったんでね」
「それでもいきなり発砲はまずいと思いますよ! シホ様に当たったらどうしてくれるつもりだったんですか!?」
「ははは…すまない。ところでシホさんといったかな?」
「はい…そうですが」
「君はもしかしてアインツベルンの者かな?」
「いえ、違いますがなにか…」
「いやねー…」
「切嗣…誰だったの…?」

男性が少し言葉を濁している時に家の中から女性の声が聞こえてきた。
女性は顔を出すとシホを見て「えっ!?」と驚きの声を上げた。

「ウソ…私にそっくり…」
「そうですね」
「シホ様にそっくりですねー」

女性の容姿はシホを朱銀髪から銀色に変えて目の色を琥珀からルビー色に変えて少し髪形を整えればほぼ一緒の姿のような人物だ。

「紹介がまだだったね。僕の名前は衛宮切嗣。そしてこちらの女性が僕の妻の衛宮・アイリスフィールだよ」
「衛宮・アイリスフィールです。親しい人は私の事をアイリと呼びます」
「衛宮切嗣!? 話に聞く『魔術師殺し』の…!」
「ああ…昔はそう呼ばれていたね。それで今もたまに旅先で狙われる事があるからね」
「その家族がこんなところに住んでいたんですか…時臣さんも人が悪いわね…」

今頃、はははと笑っている事だろう、その光景を思い浮かべてタマモはいい笑みを浮かべどんなことをしてやろうといった感じの事を考えている。

「だがアインツベルンの関係者ではないとすると…君はどこのものかな?」
「はい。あなたなら知っていそうですが私の名はシホ・E・シュバインオーグです」
「私は玉藻アヤメです」
「!? あの赤き翼の!」
「はい、その通りです。訳あってあなたの言った通り人間では無くなっていますが…」
「あなたが噂に聞く『剣製の魔法使い』だったんですね。アインツベルンでもあなたの名前は聞いたことがありました」
「それでどういった理由で僕達の家に近づいたのかな?」
「もう切嗣…お客様をこんなところで立たせたままではいけないでしょう? 居間に通しましょう」
「そうだね。わかったよ、アイリ」

そして一同は居間まで移動し、シホは時臣と似たような会話をした。

「…ふむ、記憶探しか」
「難しいわね。記憶を見る魔法でも分からなかったんでしょう?」
「ええ。ですがこの町に来て色々と記憶の手掛かりのようなものが掴めてきています。現に切嗣さん、あなたを見て頭痛に襲われましたから」
「その、並行世界かい? そこでは君と僕は家族のような関係だったかもしれないという事かい?」
「ええ。ところで一つ尋ねますがこの家にはもしかしたらイリヤスフィールというお子さんはいらっしゃいませんか?」
「え、ええ…いますけど。イリヤは今ひとつ年下のもう一人の息子である『士郎』と一緒に公園に遊びにいっているわ」
「衛宮、士郎…?」
「うん。僕達にはイリヤと士郎の二人の子供がいるんだよ」

その時、ちょうどよくドタドタと玄関のほうから足音が聞こえてきた。

「お母様、ただいまー」
「今帰ったよ、父さんに母さん!」
「おっと、噂をすればだ」

二人の子供が居間までやってきて二人の姿を見た途端、シホはまたもや頭痛に襲われた。

「くぅ…!」
「大丈夫、シホさん!?」
「…え、ええ。大丈夫です。それよりもしかして銀髪赤眼の女の子がイリヤちゃんで赤髪赤眼の男の子が士郎君ですか?」
「ええ、そうです」
「お母様にそっくり…」
「ああ、びっくりだ…」
「二人とも。この人達はシホ・E・シュバインオーグさんと玉藻アヤメさんだ」
「あ、私は衛宮イリヤスフィールです」
「俺は弟の衛宮士郎です」
「よろしくね」

二人の頭を撫でながらもシホは笑みを浮かべていたが、

「…シホお姉さん、どうして泣いているの?」
「え…私、泣いている?」
「はい、シホ様。いまお拭きしますね」

タマモがすかさずハンカチでシホの涙を拭う。
それで気恥ずかしくなったシホは強引に手で涙をふき取った。
その光景を切嗣とアイリはなにか感じ取ったのか笑わずに見守っていた。
その後、二人は自分の部屋にいっていなさいと言われて部屋を出て行った。

「恥ずかしいところを見せてすみませんでした…」
「いや、気にしていないからいいよ」
「ええ、だからシホさんもそんなに顔を赤くしないでね」
「はい…それでですが、お二人にはある手紙を見てほしいんです」
「手紙…?」
「この世界では見せるのは極わずかの人だけですので、読んだ後どうして私がこの町を訪ねてきたのか分かると思います」

タマモから手紙を受け取り二人にそれを見せた。
そして読んでいくうちに二人の表情が驚愕に染まっていく。
読み終わるとアイリがわなわなと体を震わせながら、

「そ、それじゃ、あなたはもしかして並行世界のイリヤの体に宿った士郎の姿、ということなの?」
「…そうだと、私は思っています。私の無き記憶の手掛かりの一つがその手紙ですから」
「そうかい…でも正義の味方を目指していたのか」
「はい。おぼろげですがそれを志して世界の戦場を駆け回っていたと思います」
「まるで昔の僕みたいじゃないか…それじゃやっぱり聞くのもあれだけど、十を救うために一を切り捨てる選択をしていたのかい?」
「おそらくですが…でも私は全てを救おうとがむしゃらになっていたんだと思います」
「君の過去になにがあったのかはまだ知る由も無いけど、この道は継がせたくないと思っていたけど並行世界では継いでしまっているんだね…」

切嗣は苦虫を噛み潰したような表情になっていた。
それでシホは申し訳ない気持ちになっていた。

「うん、事情は分かったよ。…それで記憶は思い出せそうかい?」
「いえ、後…後なにか切欠があれば思い出せると思うんですけど…」
「…そうか。そうだ、シホさんにアヤメさん、今晩はウチに泊まっていったらどうかな?」
「いいんですか…?」
「うん。もしかしたら君は僕達の並行世界の子供かもしれないんだろう? だから気にせず泊まっていきなさい」
「私も賛成よ。シホさん、そしてアヤメさん、今日は歓迎するわ」
「ありがとうございます」
「お言葉に甘えさせてもらいますー」

その晩は衛宮家族にシホ、アヤメが加わり料理も一緒に作ったりして楽しんだ。
その間、もっぱら料理を担当している士郎はシホの料理の腕を知り、「師匠と呼んでもいいですか?」と言われ困ったり、イリヤから魔法を見せてとごねられて投影魔術を見せたり、それを見て切嗣が士郎にはそんな能力があるのか…と感心されたり、アイリには士郎程でもないけど料理を教えてと懇願されそうになったりと色々な事があった。
そして翌朝の事、

「それじゃシホさん。何かあったら連絡してくれ。いつでも歓迎するから」
「また一緒に料理を作りましょうね」
「はい。それと…」

シホは宝石剣レプリカ(ミニ)を四人分投影して切嗣に渡した。

「これは…?」
「あなた達になにか危険が迫った時、それに魔力を通して私を呼んでください。それを持っていれば魔法世界でない限りは転移魔術で飛んでいきますので。まだ刺客とかに狙われる事はあるんでしょう?」
「はは…それじゃその時は頼りにさせてもらうよ」
「はい。これでも『剣製の魔法使い』と二つ名で呼ばれていますからきっと頼りになります」
「頼もしいね。うん、その時はきっとね」
「それじゃ…名残惜しいですが…」
「もう大丈夫ですか? シホ様?」
「ええ、タマモ」
「お邪魔しました。またどこかで…そうだ! 麻帆良学園で六月に麻帆良祭がありますのでぜひ見にきてください。私も歓迎します」
「そうですねー。楽しいイベントが目白押しだそうですから是非来てください」
「わかったよ。それじゃその時には案内でも頼もうかな?」
「そうね、切嗣」
「はい。待っています。それじゃ今度こそ失礼します」

シホ達は握手を交わして衛宮邸を後にしたのだった。

「それでシホ様、記憶の手掛かりは掴めましたか?」
「うん、思い出すまでには至らなかったけど、だけど…いい家族に出会えたわ」
「そうですか。それなら私も安心です。でもいつか…ですね」
「そうね、思い出せるといいわね…」

シホはそう思った。
しかし帰りにエヴァへのお土産はどうしようとなって。
それなら「お酒はどうでしょう?」というタマモの提案に「そうね」と相槌を打って『コペンハーゲン』という酒屋で高級そうなワインを一本購入した。
その際にも頭痛が起きたのはまぁ、気のせいだろうとシホは思う事にしたのだった。


 

 

030話 日常編 語られるネギの過去

 
前書き
更新します。 

 


シホ達が冬木の地から帰って来るといつの間にやらネギとアスナは仲直りしていた。
それを聞いてシホはよかったわねと言った。
そして数日が過ぎ、ネギは現在ダイオラマ球のエヴァの別荘で修行していた。
シホとタマモは、エヴァ・茶々丸・チャチャゼロに3対1で修行をつけられている光景を見学していた。

シホの視線の先ではネギがエヴァの拳に吹き飛ばされ、茶々丸とチャチャゼロが追撃をしそれをネギは『風花・風障壁』で防ぐが魔法の効果が切れた後、二人に押さえつけられてそこで対決は終了。
対戦時間は12秒というタイムである。

「まぁまだ近接での修行を始めたばかりだから時間が少ないのはしょうがないけどね…」
「にしては魔法も使っているんですからもう少し伸びないものですかねー」
「ま、これから修行していけば時間も伸びていくでしょう」

そこに『雷の斧』をネギ先生に叩き込んでいるエヴァがシホの目に映った。

(あれを教えているという事はネギ先生はすぐに習得するのだろう。少しでも才能を分けてもらいたいものね…)

「よし! 次は…っと」

エヴァは次に移ろうとしたが立ち眩みを起こしていた。

「ちっ…少しハリキリすぎたようだ。ぼーや、約束どおり今日も授業料を払ってもらうぞ」

そう言いネギに迫るエヴァ。
事情を知らないものが見ればいけない光景に映るだろう。
しかし実際は、

「んー…」
「うう…」

エヴァがネギ先生の血を吸っているという光景だった。
それでシホも血が欲しくなり待機させておいた輸血パックにストローを刺してそれを飲んでいたり。

「うん、うまい…!」
「やっぱりシホさんも吸血鬼なんですよね…今更ですけど」
「普段の行動を見てると忘れちまうよなー」
「まったく未だにそんなものに頼って情けないぞ?」
「シホ様、可愛いです♪」

一部変な事が聞こえたと思ったが無視するシホだった。


場所は変わり学園長室。
そこでは電話越しで学園長が詠春と話をしていた。

『実は問題がありまして。それほど心配はないと思うのですが』
「ふむふむ、何? 脱走じゃと?」

何かが起こりそうな事件が裏で発生していた。




◆◇―――――――――◇◆




その夜、ネギはフラフラになりながらもアスナ達の部屋に帰って来る。

「ただいま~」
「おかえり~ネギ君」
「おふぁえりー」

挨拶の言葉を交わすがアスナはネギがフラフラなことに気づき問い詰めるが、ネギは「大丈夫」とのことだが、途中で力尽き(眠りにつき)このかに寝かされていた。

「怪しいわね。何か隠してないでしょうね」
「何も隠してねぇって」

カモの頬を引っ張りながらもアスナは気にかけるのだった。
翌日、ネギは…疲れを通り越してやつれていた。
それでクラスの生徒達は心配になっていた。
授業が終わり出て行く時も何度もどこかにぶつかったりしていて怪しさ全開である。

「たった2、3時間の練習であんなになっちゃうなんて絶対おかしいわよ。何やってるかつきとめてやる」

真相を知ろうと着けようとするアスナ。
それに便乗してのどか、夕映、古菲、朝倉が着いてきて、途中でこのかと刹那も合流してネギを尾行する。
見ていたら途中でエヴァとシホ、アヤメと合流していた。

「エヴァちゃんはともかくシホ達も?」
「なにがあるんでしょうか?」

とりあえずつけていく一行。
そして着いた場所はエヴァのログハウス。
中で修行?
疑問に感じ一同は中に入っていき地下の道を発見し降りていくとジオラマ球を発見する。
それに近づくと一同はその場から次々と消えていった。

そして最後にアスナが消えて次に目をあけたらそこはなんとジオラマ球の中だった。
中は二つの塔が手すりのない細い橋で繋がれていて、周りを見回せば海が広がり気温は南国のように暖かい。

「な…ど、どどど、どこなのよここーーーーッ!?」

思わずアスナはファンタジー(と読んで非常識)な光景に叫びを上げた。
唯一残っていた夕映によればすでに30分は時間が経っていたという。
そして移動した塔の中ではネギとエヴァのなにやら怪しい会話が聞こえてきて全員顔を赤くする。
たまらずアスナは「子供相手に何やってんのよーーーっ!!」と飛び込んでいくが実際はただエヴァがネギの血を吸っているだけの光景に呆気に取られる。
それからしばらくして、

「―――ここは私が造った『別荘』だ。シホの足が治る少し前にリハビリのために掘り出していたものをそのままぼーやの修行に使っている」
「ここで私も戦闘面でのリハビリをしていたっけ」

エヴァがいうにはここは日本昔話の『浦島太郎』の逆でここで一日過ごしても外では一時間しか経過していない。
これを利用してネギに丸一日たっぷり修行を受けてもらっているというもの。
実はシホの足らない魔法知識もここで全部覚えさせられたという事があったが、まぁ言わない方がいいだろうという事になった。

「……てことはネギ君、1日 先生の仕事した後、もう1日ここで修行してたってコト?」
「教職の合間にちまちま修行しててもラチがあかないからな」
「てコトはネギ坊主、1日が2日アルか!?」
「大変過ぎやーーーーーっ!」
「ネギ、アンタまたそんな無理して…………」
「大丈夫ですよアスナさん。それにまた修学旅行みたいなことがあったら困りますし、強くなるためにこんなことでへこたれてなんていられませんよ!!」
「……………」

ネギの無理はしていない、大丈夫という言葉にアスナは黙るしか出来ないでいた。




◆◇―――――――――◇◆




また場所は変わり同時刻。
那波千鶴と村上夏美は黒い犬を拾って部屋で怪我の手当てをしていたら犬の姿がなく、いつの間にか裸の男の子の姿があって困惑していた。

「あらあら…」
「な、何で男の子が…」
「さっきのワンちゃんがこの子になっちゃたのかしらねぇ?」
「まさかー…でもどうするちづ姉?」
「まって…」

千鶴は男の子の額に触った。

「まあ大変、スゴイ熱よ?」

それでお医者さんに電話する話になり千鶴が電話をかけようとした途端、受話器は男の子が投げたスプーンを投げつけ割り近くにいた夏美を押さえつけて、

「…やめろ、誰にも連絡するんやない」
「あ、あの! あなた誰…? 一体何の…」
「黙れ!」
「うひゃいっ!?」

男の子は夏美の首に爪を突きつけて黙らした。

「そ……そこの姉ちゃん、何か……俺が着るものと食い物を持ってきてくれ」

千鶴は少し黙り込んで口を開いた。

「あなた……名前は? どこから来たの? 教えてくれないかしら? 私達が何か協力できるかもしれないわ」

怯えのない声で千鶴は話しかける。それはいつも保育園で子供と相手をしているが故の一種の慣れなのだろう。

「な、何やて……名前……? 俺の名前? ……あれ、誰やったっけ俺……? 違う。俺、あいつに会わな……」
「『あいつ』って誰かしら?」
「!? ち、近寄るなっ!」

男の子はそのままの勢いで千鶴の肩を切るが、だが千鶴は気にせずその胸に包み込み、

「……ダメよ、そんなに動いては、また倒れてしまうわ。40度近くも熱があるのよあなた」
「え……ぅあ……?」
「ね? 腕の傷の手当てもしなくちゃ」

まるで母親のように男の子を落ち着かせてしまい、男の子は気が抜けたのか気絶してしまった。

「ど、どどどうしたの?」
「大丈夫。また気を失っただけみたいよ」
「うーん…さっすがちず姉! 保母さんを目指してるだけあるね」
「毎日ボランティアで学園の悪ガキを相手にしてますので」
「でも、ホントに何なんだろうねこの子…?」
「ただの家出少年じゃないことは確かね」
「って、きゃあああ~~~!? ちづ姉、血!! 血!!!」
「あら大変ね」

最後まで千鶴はマイペースに事を進めているのだった。




◆◇―――――――――◇◆




しばらく騒いで時間は夕暮れ時、シホと茶々丸が調理した料理を一同が食べている中、夕映がエヴァに、

「私に魔法を教えてくれませんか?」
「何…? 魔法を?」
「はいです」
「めんどくさい。向こうに先生がいるんだからそっちに教えてもらえ」
「そうですか…」
「夕映、魔法と関わるという事の私の出した問題の答えは出たの?」
「答えですか? いえ、まだ出ていませんが…」
「そう。それじゃもう一つヒントよ、魔法世界にも表の世界と同じように現実がある。今回はこれね」
「現実ですか…。ちなみに聞き返しますがシホさんの現実はどうだったのですか?」
「ん。まぁ色々とあったけど…―――半分以上は■■だったわ」
「え…今、なんと…」

夕映は一瞬無表情になってシホが発した言葉をうまく聞き取れなかったが確かに聞こえた。

(地獄だった―――…シホさん。あなたは一体なにを見たというのですか?)

夕映の疑問は尽きなかったが皆がネギに魔法の杖を貸してもらえ自分もやるですといった時にはシホに対する疑問はまた心の底に入っていった。

「くくくっ…現実を知らない小娘には過ぎた助言ではないか?シホ。まだあいつらでは想像もつかないだろう…―――お前が受けてきた屈辱は」

エヴァの言葉に一瞬また頭痛がしたがすぐに薬を取り出して一飲みし自身を落ち着かせるシホ。
それを見てエヴァは内心で(まだ時間が必要か…)と思っていた。



そして夜になり皆が寝静まる頃、ネギはアスナと話をしていた。

「………アスナさん。ちょっとお話いいですか?」
「………何?」
「話しておいた方がいいと思うんです。“パートナー”のアスナさんには」

…そして始まろうとしているネギの過去の話。
それからしばらくしてのどかがお手洗いを探していると、偶然ネギとアスナが意識をシンクロさせる魔法をする光景を目撃してさらに背後にシホとエヴァ達が立ち、

(ふむ、アレは意識シンクロの魔法だな)
(うひゃいぃっ!? エ、エヴァンジェリンひゃんっ!?)
(ケケ)
(お前アレ持ってたろ、『他人の表層意識を探れるアーティファクト』。ちょっと貸せ、ぼーやの心をウォッチする)
(ええ~~~~~!? ダ、ダメですよそんなの………!!)
(どうやらぼーやの昔話のようだぞ、聞きたくないのか? 好きな男の過去を知っておくことは何かと有利だと思うがな)
(はう!? なぜそれをー)
(ぼーやは他のみんなにも話すと言っていた。だから大丈夫だ。師匠の私には聞く権利がある)

ギュピィィンと目を光らせのどかを誘惑させていく。
その光景にシホは(悪だなー)と言い、タマモは(ちょろいですねー)と笑みを浮かべている。

(あのぼーやの姉貴面をした神楽坂明日菜だけに聞かれては(あう、その…)色々と先を越されてしまうかもしれんぞ? いいのか? ん?(色々って…)ホラ? どうする宮崎のどか?)
(その、私ー………ちょ、ちょ……ちょっとだけなら――………)
(よし、いい子だ)
(ガキハ陥トシ易イナ。ケケケ…)




「―――で、両手を合わせておでこをピッタリとくっつけます」
「ちょっと、こんなので本当にあんたの記憶を体験できるの?」
「はい。この方が話すよりも簡単ですから。……どうかしました?」
「べ、別に…」

明日菜は自分の頬が赤くなっているのを感じ、

(って、おでこくらいで何動揺してるのよ私! 最近ちょっとおかしいわね私…)

「いいですか?」
「いいわよ」
「では。ムーサ達の母ムネーモシュネーよ。おのがもとへと我らを誘え」


ネギとアスナは気づかない。いつの間にかのどかの『いどの絵日記』で全員が見ている事を。




◆◇―――――――――◇◆




そして一同は見た。ネギの過去を…



それは純粋な父への憧れ…ピンチになれば助けに来てくれるという子供ながらの小さい願い…。
だが突如として悪魔の軍勢によって小さい村は襲われた。
村が燃え、ほとんどのものが石化されてしまい、それは自分の願いのせいだと後悔に陥るネギ。
そして脅威はネギにも降りかかりその犠牲になりかけた時、颯爽と登場した一人の青年。
青年はネギがいつも持っている杖を持ちながら悪魔の軍勢を次々と強力な魔法で一掃していきすべてを薙ぎ払った。
ネギは青年の手によって救われたが、ネギは一種の恐怖からその場を後にしてしまう。
しかしまだ残っていた悪魔がネギに襲い掛かったが、すんでのところで老魔法使いと義姉の手により命を救われる。
…しかし悪魔の放った光は防ぎきることは出来なったために義姉は足が石化し途中で崩れて割れてしまい、老魔法使いはそれよりひどくほぼ半身が石化していながらもなんとか悪魔とその従者達を小瓶に封印することに成功。
だが代償は自身の石化…最後に「逃げてくれ…」という言葉を残し老魔法使い…いや、スタンは完全に石化した。
脅威は去ったが生き残った自分はともかく姉の石化を解くものは誰もおらず声をかける事しか出来ないネギに、ふと影が差した。
そこには先ほどよりボロボロになりながらも青年が立っていた。
そして燃えていない坂の上まで移動させられたところで、

「すまない…来るのが、遅すぎた…」

と、青年から後悔の念がこもった声が漏れたが、その時のネギは恐怖しか感じなかったため持っていた練習杖をかざして義姉を必死に守ろうとする。
だが、青年はなにかに気づいたのか、「そうか、お前がネギか…」と言う言葉とともにネギの頭を優しく撫でて、

「大きくなったな…」

と、いう言葉でネギ君は呆気にとられたのか無言になり、その間にも青年は話を進めていく。

「…お、そうだ。お前にこの杖をやろう。俺の形見だ…」
「…お、お父さん…?」

そこで真実に至ったのか青年の正体が父であり、サウザンドマスターとも言われた『ナギ・スプリングフィールド』だと気づき頭が真っ白になったのか呆然としている。
そう、ネギの願いは皮肉にも悪魔襲撃という形で叶うことになってしまった。

「もう、時間がない…」
「え…?」
「ネカネは大丈夫だ。あとでゆっくりと直してもらえ…」

ナギ・スプリングフィールドはそれを伝えた後、空へとゆっくりと浮遊しだして、ネギは必死に父の名を呼びながら追いかけていく。
だが、彼はどんどん離れていってしまう。
最後に、

「悪ぃな、お前にはなにもしてやれなくて…こんな事いえた義理じゃねぇが…元気に育て、幸せにな!」

ネギが足を踏み外して転げた後、顔を上げたらすでに彼の姿はなかった。
そして父の名を叫びネギは大泣きした。
それが父との雪の日の最初の出逢いとそして最初の別れであった。




◆◇―――――――――◇◆




「私に、似ている…」

その呟きは小さいながらもシホから発せられた。
それにエヴァとタマモは気づき「記憶を思い出したのか…?」と聞いたがシホは無意識で言っていたらしい。
もう忘れていた。
そしてそれすらにも気づかない一同はネギに寄っていき口々に「探すの手伝う」と言って聞かなかった。
ネギはエヴァに助けを求めるも「まぁ、私も協力してやっても構わん」とグズッと鼻を啜っていた。
そして夜にまた宴会騒ぎになった。

シホはこれを冷めた目で見て「余計魔法に足を突っ込む要素を増やしてしまったわね…」と誰にも聞こえない呟きをしていた。



 
 

 
後書き
この後、30分後に没カットを更新します。 

 

030話 没カット(本編ではありません)

 
前書き
30分遅れて更新。

030話を読み切ってからこちらをお読みください。
暗い過去です。
こんなん本編にしてしまったら色々と普通の中学生たちのメンタルがヤバイ! 

 
「私に、似ている…」

その呟きは小さいながらもシホから発せられた。
それにエヴァとタマモは気づき「記憶を思い出したのか…?」と聞いたがシホは無意識で言っていたらしい。
もう忘れていた。
そしてそれすらにも気づかない一同はネギに寄っていき口々に「探すの手伝う」と言って聞かなかった。
ネギはエヴァに助けを求めるも「まぁ、私も協力してやっても構わん」とグズッと鼻を啜っていた。
そして夜にまた宴会騒ぎになった。

シホはこれを冷めた目で見て「余計魔法に足を突っ込む要素を増やしてしまったわね…」と誰にも聞こえない呟きをしていた。





それから一同がまた一眠りをするかどうかを話していたが突然夕映がシホの前に出て、

「シホさん、お願いがあります」
「ん? なに夕映?」

夕映の皆にも聞こえる声でいった言葉は全員を振り向かせるには十分だった。
それでなになに?と興味を示しだした。

「私に…私にあなたの現実を見せてくださいです。」
「ッ!?」
「シホさんの…現実…」

ネギ、カモ、アスナ、このか、刹那はシホになにがあったのか知っている為に顔を強張らせている。
だがのどかと古菲、朝倉はまだ聞いた事がなかったために純粋に知りたいという欲求が出ていた。
エヴァは「こいつらにはいい薬かもしれんな…」と呟き、タマモは見せる事でシホがどうなるのか予想し心配げに表情を暗くする。

「魔法に関わるという事はもしかしたら後悔をするかもしれないです。
ですがそれでも知りたいという興味は尽きません。それ相応の覚悟も辞さないと思っています。
そして私に何度も魔法に関わるという事はどういうことか?という事を考えさせてくれたシホさんのいう魔法世界の現実…。
ネギ先生の見せてくれた事もそうですがシホさんの事も知らなければ私はいけないと思うです」
「……………、…正直言って私の記憶はまだあなた達が見るには過ぎたものよ。はっきり言って毒物と同意。
現実世界と魔法世界両面から見ても魔法使いの一部に嫌悪感を催すものだわ。それでも見たい…?」
「シホさん…無理してはいけません」

そこで刹那が声をかける。
エヴァ達を除いてシホがされてきた事を言葉だけだが伝えられ知っている刹那はおそらく全部を見終わる前にシホは頭痛を起こしてしまうと思い心配なのだろう。

「せっちゃんはシホがどんなことをされたのか知ってるん?」
「はい。私はある事がきっかけで知りましたが…壮絶の一言です」
「桜咲刹那がいう壮絶という言葉はまだ生ぬるいぞ? どんなに綺麗に着飾っても魔法使いの醜い欲望が見え隠れしてくるからな。
一応言っておくが麻帆良にいる魔法使いどもはシホの記憶の内容を聞いて嫌悪感をあらわにし怒りに身を震わせていたらしいな」
「タカミチも…?」
「ああ、ぼーや。タカミチはシホを犠牲に助かったものだからな。一番後悔している奴といっても過言ではない」
「高畑先生が…」
「それでも貴様らはシホの記憶を見たいか? クソッタレな現実をその目で見たいか?」

エヴァの雰囲気が少しずつ一変していき威圧感が半端ではなく一同は震えていたがそれでも覚悟の目をしていた。

「…いいわ。見せてあげる。でも一応言っておくわ。私の脳への負荷も相当のものだから途中で終わってしまうと思うわ。
でも、それでも嫌なものを見せることになるから見たくなくなったら言ってね?」
『はい』

そしてエヴァが呪文を唱えて全員をシホの記憶の中へと誘う。




◆◇―――――――――◇◆




記憶に潜った一同を最初に迎えたのは予想していたものとは違っていた。
そこではナギを含めて詠春から譲ってもらった写真に写っていた全員が一緒に鍋をつついていた。

『なぁシホの姉貴。そっちの料理を取ってくれ』
『はい、ナギ。他に欲しい奴はいる?』
『じゃ俺にもくれ』
『それでは私にも頂けますか?』
『だから待てラカン。お前は鍋というものをまったく分かっていない』
『また鍋将軍が出たぞ』
『ご主人様ー。お野菜が切れましたよー』
『わかったわタマモ』
『シホ姉さん。ナギさんとラカンさんが暴走しそうです』
『やれやれ…まったく騒がしいな』

そこではシホとタマモが調理などをしていて、若い詠春が鍋について語り始めていて、中性的な男性がにこやかに笑っていて、ラカンと呼ばれる肌黒い大男がナギと一緒に暴れようとしていて、子供っぽい白髪の男の子がシニカルに笑っていて、渋いおじさんがやれやれとかぶりを振っていて、若いタカミチが皆が暴走しようとするのを見て慌てている。

「わぁ、父さんです! 若い!」
「ホンマやー。お父様も若いな」
「これってもしかして高畑先生…!?」
「これが赤き翼のメンバーだったのですか」
「皆強そうアルな。戦いたいアルよ」
「惜しい…! 写真が持ち込めれば…」

皆がそれぞれ言葉を発している中、記憶の中では、

『やるかてめぇ!?』
『おう! こいやナギ!』
『全員料理をすぐに撤収させなさい! バカ二人が暴れだすわよ!』

シホの指示でそれぞれ速やかに自分の分と近くにあった料理を運び出す。
そして始まるナギとラカンの凄まじいバトル。魔法と剣が入り乱れ拳同士が衝撃波を生み出す。
それによって地形がどんどん変わっていき、その勢いは止まらず予備の食材にまで及び、シホがキレる。

『あんた達はー! 被害は自分達だけで抑えなさい! タマモ、行くわよ!!』
『はいです!』

そしてシホにタマモが憑依し錬鉄魔法を発動し、黒いオーラがシホを包み込み争っている二人に殴りかかる。
それによってナギとラカンも「やべぇ…!」と叫ぶがそれすらも遅く殴り飛ばされる。
そんな光景が続いているとそこにシホの声が聞こえてきて、




―――恥ずかしい光景を見せたわね。ちょっと進めるわね?




「…すごい戦いでしたけどそれと普通に争えるシホさんもかなりの実力ですね」
「シホって昔は過激だったんだねー」
「今より若かったんですから当然だと思いますが」
「思っていたより楽しそうなパーティーだったんですねー」
「おい、お前ら。暢気にしていられるのもそろそろ終わりだぞ?」
『え?』

エヴァの言葉に全員が当然のように反応する。

「シホの記憶がこんな生易しいものだと思っていたのか? これからが地獄だぞ」

エヴァの言うとおり記憶は戦いの連続となっていき、シホ達は敵と何度も戦っている光景がまるで映画のように流れていく。
そしてシホの人生の分岐点が訪れる。

『あれ? タカミチはどこにいったの』
『彼でしたら今は単独で偵察に出ていますよ』
『そう…でも「完全なる世界」も敵は減ってきたけどまだ油断は出来ないわ。アル、私はちょっと見てくるわ。嫌な予感がするし』
『でしたら私もついていきます、ご主人様』
『お気をつけてくださいね、シホ、キャスター』

二人はタカミチが偵察に向かったという遺跡近くまで来ていて、

『タカミチはどこまでいったんでしょうね?』
『さぁ…でも帰りが遅い。なにかと遭遇しているかもしれない。まだタカミチ本人は私達に比べると力不足だから早く見つけないと…見つけた!』

見つけた先ではタカミチが息をきらせながらもなにかから逃げている光景が目に映った。

『なんですか、あの黒い影は…?』
『とりあえず倒しましょうか。タマモ、錬鉄魔法を使うよ』
『はい、ですが制限時間を忘れないでください。時間が過ぎたら副作用で動けなくなってしまいますから』
『分かっているわ。いくわよ!』

そしてシホは赤いオーラを纏い炎を体から噴出させタカミチの前に出て、

『タカミチ、早く逃げなさい!』
『シホ姉さん! 助かった!』
『ここは私が食い止めるからタカミチは皆に知らせてきなさい! 謎の敵がいるって…!』
『はい!』

タカミチは皆のいる場所まで戻っていきシホは一人で食い止めようとするが謎の影の群れはシホの周りを何度も地面を削りながら旋廻していく。

『なにをしているの!?』
『ご主人様! こいつらは地面に魔法陣を形成しています! 早く脱出を!』
『ッ!?』

だが遅く築かれた魔法は発動してしまいシホは幾重にも出現した魔法の帯に体を絞めつけられ拘束されていく。

『こんなもの! 引きちぎって…! なに? 体から魔力が抜けていく!?』
『ご主人様! いけません! この魔法陣は魔力吸収と力の封印を兼ね揃えた魔法です! ルールブレイカーで解呪を―――…』

しかしそこでタマモとの念話も途切れてシホは魔力をほぼ吸収されてしまい気を失ってしまった。


……………

…………

………


次に目を覚ましたときには薄暗い部屋だった。
手足は拘束され、魔力がないためにタマモとの念話もままならない。
そこに黒尽くめの集団がシホを取り囲み、

『ようこそ我らが研究の庭へ。剣製の魔法使い…シホ・E・シュバインオーグ』
『お前達は…!?』
『何者か、と聞きたいかね? しかし無駄な事よ。今よりお前は我々魔法使いの研究材料になってもらう』
『研究材料!? いったいなにをするつもり!?』
『おや? お気づきでないか。お前はある昔に存在したという秘術の真似事で吸血鬼になったのだよ』
『…!?』
『いや、いい顔をしている。歪んだ顔はより一層研究心を燻らせる』

その光景を見ていたネギ達は、

ネギは「なんてことを…!?」と叫び、刹那は「外道が…!」古菲は「最低な奴らネ!」と怒り、アスナは「シホ…!」と悔しそうに歯軋りしていて、他の面々はこれから行われようとしている事を想像し顔を青くしていた。
だが記憶の中の光景は止まらない。

『しかし実験は難航を極めてね…。成功者は君が初めてなのだよ。他の実験者は、ほれ見なさい』

指差した方へと顔だけ向けるとそこにはたくさんの死体の山が積まれていた。

『お前ら! この実験の為に何人を犠牲にした!?』
『さて、ね…しかしお前は適合者だが、先ほども言ったように秘術の真似事で不完全すぎて吸血鬼の不死性はあるものの弱点はたくさん持っている』
『なにが、いいたい…?』
『お前を我々の完璧な操り人形にするためには免疫をつけなければいけない。だからこその実験なのだよ。まずはこれだ』

パチッと男が指を鳴らすと突如としてシホの真下の地面が燃え上がった。

『ぐあ、あああーーー!?』
『まずは火葬の免疫をつけようではないか…。順に首の切り落とし、流水、十字架、白木の杭などを試していこうと思うのだが、どうだろう?』

男の声にシホはただ苦しむ声を上げるしかできないでいた。
その時、シホの本当に苦しむ声も聞こえてきた。



―――ぐっ、うぐ、あーーーッ!!



「いかん! シホの頭痛と苦しみがもう限界に達しようとしている! 中止だ!!」

エヴァの言葉により記憶を見る魔法は解除され一同は現実に引き戻される。
引き戻されてネギ達は、最初に見た光景に絶句するしかなかった。
シホは頭を割れんばかりに押さえて地面に震えながら蹲っていたのだ。いつも冷静で信頼のおける姿は今はなく、ありとあらゆる絶望を味わった儚い少女の姿がそこにあった。
それをエヴァとタマモが必死に宥めていて薬を口にいくつも投与する。
しだいにシホは落ち着いてきたがそのまま気絶した。

「…もう分かったと思うがこれが、こいつが麻帆良に来る前までの20年の長い期間受けてきた屈辱の光景だ」
『20年!?』
「お前ら、これ以上見なくてよかったな? 私は最後まで見たがこの魔法使いどもの所在は一切掴めなかった。知ったときには私の全能力を駆使して殺してやるというのに…」

エヴァはそう啖呵を切りながらも歯ぎしりをしていて、一同はそれはもう青い顔をしていたのであった…。


 
 

 
後書き
型月クロス的にはこっちもいいのでしょうけど、私のメンタルが持ちません。 

 

031話 日常編 悪魔襲撃(前編)

 
前書き
更新します。 

 



目を覚ました男の子はなんと正体は京都でネギと敵対した犬上小太郎、だったのだが覚えているのは名前だけで今は千鶴の作った食事をぱくついていた。
その勢いは見ていた夏美が「うひゃー」と呟くほどで食べ盛り真っ最中とはまさにこの事である。

「うむ、うぐ…うまいわこれ!」
「よく食べるねー」
「あらよかった。どんどん食べてね」
「うん! おかわり!」

元気に答える小太郎。
おかわりをもらいすぐにパクつきお礼を言うところは義理堅いのだろう。
もう熱も下がりあとは記憶を思い出すだけなのだが…、

「いや……あかん……。頭に靄がかかったみたくなって…」
「そう…しかたがないわね。…それじゃぁ……お待ちかねのオシリにネギをいってみましょうか」

なぜネギ? という疑問は小太郎が気絶した後、「ネギ…」と呟いていたためである。
このネギが近い未来、彼女に大きく関係してくるものなのだが今はまだ先の話である。
それはともかく千鶴はネギを構えて小太郎に迫ってくる。
冗談だというが目は結構本気だったのは聞かないほうがいいだろうと夏美は思った。
その後、小太郎はお風呂に連れて行かれたりしたが肩の傷に気づき謝ったりしていた。




◆◇―――――――――◇◆




同時刻、アスナ達は雨の降る中、エヴァの家から出ていた。

「おじゃましましたー」
「うひゃースゴイ雨や」
「傘一本しかないですね」
「それだったら…投影開始(トレース・オン)

シホが人数分傘を投影して渡した。

「ありがとシホ」
「なんでも作れるんだなー」
「なんでもというわけではないけどね…」
「それよりエヴァちゃん、テスト勉強の時間足りなくなったらまた「別荘」使わせてよ」
「別に構わんが………女には勧めんぞ? 歳取るからな」
「う゛!! そうか…」
「気にしないアルよ」
「いいじゃない。2、3日くらい歳とっても」
「若いから言える台詞だな、それ」

アスナ達は傘をさしながらエヴァ邸を後にしていった。

「やれやれ…やっとうるさいのが行ったか」
「楽しそうでしたが? マスター」
「でも、今回の事でさらに魔法に足を突っ込む要素が増えてしまったのは確かな事よ」
「そうですねー、もっと現実をみてもらいたいものですが」
「まぁな………ん?」
「………あっ」
「どうかしましたか?」
「シホ様?」
「いや…気のせいか」
「私は嫌な気配がしたけど…なんか身震いがするのよ。本能的に来るものがあるわ…」
「ふむ…では少し調べてみる必要があるな、めんどくさいが…」
「ありがと、エヴァ…」




そして寮まで戻っていったネギ達は解散しようとしていたが、ネギがなにかあったら協力するという話がされていた。
ネギ自身もまだまだ修行を頑張らないといけないという気持ちでまた走り出していった。

「もーあいつまた一人で気負って張り切っちゃって」
「あやーネギ君またフラフラになってまう? ネギ君て少し頑張りすぎる性格やなー」
「マジメすぎんのよ」
「…その性格もネギ先生の過去を聞いた後では納得とゆーカンジですが…」
「うーーーん…まぁホントだったら近所の悪ガキとバカなコトして遊んでるような年頃なのよね…」
「そうですね…しかし先生の周りには年上のお姉さんばかりですし」
「そ言えばネギ君てカモ君以外にはいつも敬語やしねー」
「ま、まぁな」
「んー…同い年の友達でも日本にいればえーのになー」

一同がネギの事を心配している天井の上では悪意あるものが「ククク…」と笑っていた。
そしてネギは途中で委員長と出会い「その服も似合っていますね」と英国紳士として褒めていた。
それで委員長も気を良くしその気分のまま部屋に戻ったが中がなにやら騒がしい事に気づき扉を開けた途端、小太郎が腹に突貫してきて委員長は直撃をくらい倒れてしまった。
その後、復帰した委員長はこの子はなんですの!? と問い詰めたがさらっと千鶴が、

「この子は夏美ちゃんの弟の村上小太郎君ですわ」

それに夏美と小太郎は驚愕の顔を浮かべるが千鶴の怖い笑みに黙らされた。
委員長もそれで納得し一時は落ち着くかと思われたが、小太郎の「このおばさん誰や?」と失礼な発言をしてしまい喧嘩になってしまった。
ネギとの違いに大いに叫ぶ委員長。
その後機嫌を悪くしてしまい自室に入っていってしまった。

「小太郎君おばさんはないと思うよ」
「ま、まぁな。老けてるゆーたらどっちかっつーとこっちのちづる姉ちゃ…「何か言いました?」…いや、なにも!?」

千鶴の威圧の笑みにまたしても黙殺されていた。

しかしまたしてもその天井裏では何者かが密かに会話をしていた。

『どうかね?』
《見つけたゼ。学園の近くで返り討ちにした奴ダ》
《混乱の魔法が効いたのか女といちゃついてるゼ?》
《一時的な記憶喪失デスネ》
『よろしい。ではそちらから片付けよう』
《犬上小太郎は懲罰により特殊能力を封じられてマス》
《気は使えますガ…》
《今なら楽勝ダナ》
『よろしい君達は作戦通り事を運び給え。ハイデイライトウォーカーに気づかれぬように。それとシホ・E・シュバインオーグには相手がいるから出てくるまでほっといていいだろう』
《ラジャ》

声の主の従者達は行動を開始した。
そして声の主は雨の降る中、もう一人の人物と会話をしていた。

「やれやれ…では始めるか」
「フフフ…そうですね、ヘルマン」
「正直に言えば私はあなたが苦手な部類に入るのだがね…しかし今回は協力者ゆえ私が終わるまで手出しはなしで頼むぞ」
「わかっていますよ。私の目的は愛しの吸血姫だけですから」
「…何体人形を用意してきたのかね?」
「さて、私にも把握は出来ていないね…しかしどれだけ数がいようと私の渇きを潤すものではない。やはり…」
「それ以上は聞きたくないね。私はあなたのような特殊な嗜好は持ち合わせていないのだよ」
「つれませんねぇ…まぁいいでしょう」
「…では作戦を開始するとするか」

その言葉どおり、まず標的にされたのは今現在大浴場に入っているのどか、夕映、古菲、朝倉の四名だった。
四人は男の従者である三名の人外に取り込まれて意識をすぐに奪われてしまった。
次の標的は刹那。このかに化けて油断させられ隙をつかれ誘拐されてしまった。
最後にアスナとこのか。二人はネギが部屋から出て行った後、同じ手口で誘拐されてしまった。

そして男は小太郎がいる部屋に委員長を気絶させ入っていった。

「やぁ狼男の少年。元気だったかね?」
「お、お前は!?」

それを切欠に小太郎は吹き飛ばされる。
男は「瓶」を渡せと小太郎に言い迫る。
だがそこで、千鶴が男に部屋に土足で上がるのは紳士失格だという事を冷静に告げていた。

「これは失礼。日本はそうだったね。いや失敬クロゼットは弁償するよ」

そして男は自分から名乗りを上げる。名はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンという伯爵らしい。
それから千鶴と少し会話をした後、また小太郎と戦闘になりあきらかに小太郎が劣勢になるが影分身で意標をつき最後は狗神でケリをつけようとしたが発動しない。
それで手を掴まれ腹に重い拳を入れられ倒れふしている小太郎に向けてヘルマンは口からなにかを出そうとしたが、そこで間髪いれずに千鶴がヘルマンの口を叩いた。

「どんな事情かは知りませんが子供に対してすることではありませんわ」

千鶴は気丈にそう答えるがヘルマンは「気に入った」といい千鶴を気絶させた。
そこにネギが駆けつけてきた。

「やぁ早かったね、ネギ・スプリングフィールド君」
「!? な…那波さん!?」
「て、てめぇは!?」

ネギはヘルマンに抱かれている千鶴を離す様に言ったが、返答は君の仲間と思われる七人はすでに預かっているという。

「学園中央の巨木の下にあるステージで待っている。仲間の身を案じるなら助けを請うのも控えるのが懸命だね…」
「あっ待て…!」

逃げられてネギは悔しそうにしているが事態を確認しようと夏美に話しかけるがなにかはわからないという。
そこでカモがあることに気づく。
気絶している小太郎がいたのだ。
ネギは何度も起こして小太郎が起きたときには一気に記憶を取り戻したのだが、咄嗟に思い出したのはネギとの決闘で「決着つけようや!」と言った。
それにネギは「そんな場合じゃないでしょー!」と言っていた。
それから事情を把握してアスナや刹那が捕まってしまった事に驚く小太郎。
そこで切り札に使えと小太郎からある瓶を渡されるネギ。
小太郎は千鶴達を巻き込んでしまった事を責任感を感じてしまっていて助けたいという気持ちになっていた。
そして共同戦線するネギと小太郎。
ステージへと向かっていった。




◆◇―――――――――◇◆




一方、シホはタマモ、エヴァ、茶々丸、楓と共に世界樹の木の上でステージを見ていた。

「一応言っておくがシホ、今回はぼーやの修行の成果を見るために手は出すなよ?」
「ええ…でも、この嫌な予感は拭いきれない。だからその時が来たら私は飛び出すから」
「いいだろう。おそらくだがお前にとっても今回は試練になるやもしれないからな」
「シホ様、安心してください。私はどこまでもついていきます」
「ありがとう」
「なにやら拙者は置いてけぼりにされているでござるなー」
「安心しろ、長瀬楓。貴様もいずれ分かる」
「そうでござるか。ではそれを待つとするでござる」

そしてステージ場では水牢に閉じ込められているこのか達がスライムの三体に「出して」と言っているが、

《私達特製の水牢からは出られませんよ。私あめ子》
《水中なのに呼吸ができる辺りが特別製………。ぷりん》
《すらむぃ。溶かして喰われないだけありがたいと思いナ。一般人が興味半分で足突っ込むからこーゆーことになるんダゼ》

それで夕映達は顔を俯かせていた。

「…そう。興味本位だけで魔法の世界に足を突っ込むのだけはいけない」
「シホ殿…?」
「楓ももし魔法の世界に介入するなら現実を知ってからのほうがいいわ」
「現実でござるかー」
「うん、現実世界と魔法世界はどちらも変わらないのよ…私はそれを直に味あわされた…」
「そうでござるか…」

二人がそんな会話をしていると遠くからネギ達がやってくるのが見えた。
牽制で『戒めの風矢』を放つがそれはなにかの力によって弾かれた。
シホの千里眼はそれを何かという事を捉えていた。

「やっぱりあのアスナにつけられているペンダントか。もう、だから利用されたら厄介だって言うのに…」
「シホ、お前はなにか知っていそうだな」
「今は内緒よ。口止めもされているし」
「ふむ、まぁいいだろう…いずれ知らされることだろうしな」

そしてステージ場ではネギ・小太郎とスライム達の戦いが始まる。
戦闘が始まりネギは日頃の身体強化の魔法と中国拳法の力も含めて力量が上がっている事がわかる。
ヘルマンに無詠唱で光の射手を打ち、消されるがそれでも回り込み封印の瓶をかかげて魔法を唱えるが、それはアスナの苦しみの声と共にかき消された。
そして今度はヘルマンとの勝負が始まる。
『白き雷』と『犬上流・空牙』を放つがまた掻き消されてしまう。
そして明かされるアスナの力。

「一般人の筈のカグラザカアスナ嬢………彼女が何故か持つ魔法無効化(マジックキャンセル)能力。極めて希少かつ危険な能力だ………。今回は我々が逆用させてもらったがね」

それによって魔法無しで戦うことになってしまい、カモもアスナにつけられているペンダントを取ろうと動くがスライムに捕まってしまい水牢に入れられてしまった。
それでも挑むが強力な攻撃がネギ達を襲う。
そしてヘルマンはいう。

「先ほどの動きは中々良かったが……どうやら私が手を下すほどではなかったようだね………?」
「―――いや違うな。ネギ君思うに君は………本気で戦っていないのではないかね?」

それにネギは反応した。

「な、なにを…? 僕は本気で戦っています!」
「そうかね? やれやれ…サウザンドマスターの息子がなかなか仕えると聞いて楽しみにしていたのだがね。
彼とはまるで正反対、戦いには向かない性格だよ」

カモ達は水牢の中でネギのピンチに慌てている。

「あのおっさん異常に強え!! しかもその上魔法が効かないってんじゃ分が悪すぎる!! このままじゃ…」
「ネギ君やられちゃう!?」
「うーぬ…」
「どどどどうしようー!」
「カモ君、アスナの胸のペンダント取ればええの?」
「あ、ああ…少しは希望が…」

するとこのかは策があるらしく全員を円状に囲み一本の杖を取り出した。
それをシホは見て、

「あ…このか達がなにかを始めそうね?」
「数少ない勝機だな。だがそれがいい」

そしてステージではなにかが始まろうとしている。

「君は何のために戦うのかね?」
「な、何のために…?」
「そうだ。小太郎君を見たまえ、彼は実に楽しそうに戦う。君が戦うのは仲間の為かね?くだらない、実にくだらないぞネギ君。戦う理由は常に自分だけのモノだよ。そうでなくてはいけない」

ヘルマンの独白は続いていく。

「怒り、憎しみ、復讐心などは特にいい。誰もが全霊で戦える。あるいはもう少し健全に『強くなる喜び』でもいい。小太郎君みたいにね。そうでなくては戦いは面白くない」

「ぼ……僕は別に戦う事が面白いなんて………。僕が戦うのは…!」
「一般人の彼女達を巻き込んでしまったという責任感かね? それとも助けなければという義務感? 義務感を糧にしても決して本気になどなれないぞネギ君。………実につまらない」
「そんな…つまらないとか今は―――…」
「いや…それとも、君が戦うのは…」


―――あの雪の夜の記憶から逃げるためかね?


それによってネギの表情が驚きに染められる。
困惑しながらもそれを否定するネギだが、ヘルマンは「では…」と帽子を取った。
するとそこには先ほどまでの人間の顔はなかった…。あったのは―――…。

「……………!!!!!?????」

ネギの顔は色々な感情がない交ぜになって汗を大量に出していた。
他の者達もそのことに気づき注視する。

そこには悪魔がいた。

「そう…君の仇だネギ君」

再び帽子を被ると人間の顔に戻っていたがそれでもネギは恐怖か、それとも………ただ震えている。

「あの日召喚された者達の中でも、極僅かに召喚された爵位級の上級悪魔の1人だよ。
君のおじさんやその仲間を石にして、村を壊滅させたのもこの私だ。あの老魔法使いにはまったくしてやられたがね」
「……………」
「ネ……ネギ…」
「どうかね? 自分のために戦いたくなったのではないかね?」

そこに小太郎が戻ってきてネギに話しかけるがネギは未だ固まっている。
小太郎も痺れを切らして叫ぶが、
一瞬…そう一瞬でネギはヘルマンの所まで移動して拳を突き上げるように叩きつけて空に飛ばし自身も飛びその拳をヘルマンの腹にマシンガンの如く叩きつける。
シホはそれを見て、

「魔力の暴走…私の時の比ではないわね」
「そうだな。またいいものを見れたが、だが外れやすくなっているんじゃないか? あいつは…」

見ている先で尚続くネギの暴走による攻撃。
それをヘルマンは、

「ふははははははは!! いいね! 素晴らしい!! これだよこれを待っていたのだよ!! それでこそサウザンドマスターの息子だ!!!」

小太郎はそれを見て「すげぇ…」と呟いていたが、だが暴走した力では勝つ事はおろか自滅しかねない。
ヘルマンの姿が悪魔の姿になり口から石化の光を放とうとしていた。
だがギリギリでネギに追いつくことが出来た小太郎は地面を削りながらもなんとかネギと共に石化は免れた。
それによって正気に戻ったネギだったが、

「ぼ、僕は…い、今…なにを…?」

ネギはヘルマンの真の姿を見て、それが“仇”だと認識した瞬間、意識を手放し、感情のままに暴走してしまっていたのだ。それが信じられなかった。
だがそんな思いも小太郎の「アホがーーー!!」と殴られた事により霧散する。

「アホ!! いくらパワーがあってもあんな闇雲に突っ込んでったら返り討ち喰らうんは当たり前や!! 確かにお前の底力が凄いのはわかったけどな、今の戦いは最低や!! 周り見えてへんし決め手も入れられへん!! あんな力押し俺でも勝てるわ!! ったく、頭良さそーな顔しとるくせにな! 仇か知らんけどおっさんの挑発に簡単にキレよってからに!! アホ!!」

そう言ってネギの頬を思いっきり伸ばす。
それによって落ち着きを取り戻したネギは小太郎と共にまた構えた。
だがその時、このか達が必死に唱えていた魔法がついに発動して杖から炎があがった。
それによりこのか達は脱出することができて、各自動きを見せる。
このかは刹那が閉じ込められている水牢に杖を掲げる。
夕映とのどかは魔法の瓶を拾った。
古菲は千鶴の方の水牢を拳で割る。
朝倉はアスナのところまで行きペンダントを引き千切った。
そしてスライムどもは夕映とのどかの唱えた詠唱で瓶に封印された。

「今だ!! ネギ君!!」

朝倉の声でネギ達は笑みを浮かべる。

「へへへっ…もういくしかないね!! とっておきのやつがある! 小太郎君、前衛を頼める!?」
「へっ! ナメンなや! お前こそ大丈夫かいな!?」
「大丈夫! いくよ!」

そしてネギ達はヘルマンに挑んでいく。
小太郎がネギの魔法の準備の時間を作るように何度も影分身をしてヘルマンを撹乱する。
だが全部吹き飛ばされてしまった。
そしてヘルマンは口から石化の光線を放とうとするがその前に本体の小太郎が下に回りこんでいて思いっきり殴り飛ばす。
そこにネギがトドメを刺すためにエヴァに教えてもらった方法を挑む。



―――魔法の射手・雷の一矢!! 搉打頂肘!!



それによってヘルマンの体は痺れ、

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!! 来たれ虚空の雷、薙ぎ払え!!ああああああああああああああああっ!!!」
「ぬううっ!!」
「『雷の斧(ディオス・テュコス)』!!」

ついに振り下ろされた魔法はヘルマンに直撃し、戦いは終結した。




◆◇―――――――――◇◆




「…ふん。乗り切ったようだな」
「内心ハラハラ半ばオロオロだったようですが…無事でよかったですねマスター」
「茶々丸、お前な…いいかげんその方向のツッコミはよせ。………まぁぼーやのシホの戦いの時より多大なほどの潜在力を見れたのはよかったよ。ヘルマンとやらには礼を言わねばな。
………さて、シホ。後はお前の仕事だ。倒せよ?」
「わかっているわ…」

眼下ではヘルマンが還ろうとしていた。
消える前にヘルマンはこのかに指をさし、

「コノエコノカ嬢…おそらく極東最強の魔力をもち…修練次第では世界屈指の治癒術師ともなれるだろう。
成長した彼女の力を持ってすればあるいは…今も治癒のあてのないまま静かに眠っている村人達を治す事も可能かも知れぬな」
「…!」
「まぁ何年先になるかはわからんがね。ふふ、礼を言っておこうネギ君。いずれまた成長した君を見る日を楽しみとするとしよう。私を失望させてくれるなよ少年!」
「ヘルマンさん!」
「―――最後だが私の次に来る彼はまだ君には敵わない相手だ。気をつけたまえ…」
「えっ…」

そしてヘルマンはその姿を消した。

「次に来る彼…?」

ネギが困惑していた。




―――ヘルマンは敗れましたか。ようやく私の出番というわけですね。ふふふ…。




『!?』

その時、またしても新たな刺客が現れる。


 

 

032話 日常編 悪魔襲撃(後編)

 
前書き
更新します。 

 



全員はその声に体を硬直させる。
ヘルマンとは違い濃度の高い殺気が辺り一帯を包み込んでいたからだ。
全員が目を向けた先にはまた一人の男が立っていたのだ。

「初めまして、かな? 皆さん…」
「…なにもんや、あんた?」
「おや、ご存知でない…? てっきり我が愛しの吸血姫に聞いていると思ったのですが…」
「そのいい様…もしかしてあんた京都で現れた悪魔!?」

悪魔という単語に一同はまた緊張をする。

「ふふふ…ご安心ください。あなた達などに手を出すつもりはありません…私は、愛しの吸血姫を待っているだけですから」




―――ご指名かしら。名も知らない悪魔。




そこにシホとタマモが空からゆっくりと降りてきた。
その瞳には静かな怒りが滲み出ている。

『シホ(シホさん)!!』

皆がシホの登場に喜びの声を上げるがシホは冷静に言葉を発する。

「小太郎、といったかしら?」
「…なんや、姉ちゃん?」
「那波さんはまだ眠らせておきなさい。今から酷いものを見せるかもしれないから…」
「わ、わかったわ…」

シホの圧倒的存在感の言葉に小太郎はネギに頼んで眠りの魔法をかけた。

「これでいい…」
「おお、おおーーーーー!!」
『!?』

突然の先ほどとは雰囲気が違う男の震えるような叫びに全員が目を向ける。

「おお! 我が愛しの吸血姫! 会いたいでしたよ!! どれほどこの時を待ったことか…!!!」
「…私はお前の事なんて知らないわ。タマモ、いくわよ」
「はいです! 憑依!!」
全回路(オールサーキット)全て遠き理想郷(アヴァロン)へと接続」
『接続しちゃいます』
「―――投影開始(トレース・オン)

シホは一本の捩れた魔剣を投影する。

「アゾット・メ・ゾット・クーラディス…魔力変換開始(トリガー・オフ)術式固定完了(ロールアウト)術式魔力(バレット)待機(クリア)! 全魔力掌握完了(セット)!!」

それを魔力に再び変換し体に取り込む。
それによって全身が白く発光しだし紫電が体を奔る。

術式兵装(ファンタズム・コード)…! 是、“硬い稲妻”!!」

それによってシホの準備は終了した。

「これは…雷の属性を持つ宝具を取り込んだのですか…」
「シホさんからすごい魔力を感じます…!」
「なにもんやあの姉ちゃん…? ただもんやないで!」

全員がその存在感に驚いている中で、

「…悪いけど一瞬で終わらせるわ。学園結界で弱体化している事を後悔しなさい」
「フフフ…お相手をするのは私の人形たちですよ」

すると男の影の中から次々と黒髪黒目のシホの姿をした異形―――デットコピーが次々と出現する。
その数はゆうに数十体。

「あれ…全部シホさんの姿をしているのですか!?」
「なんでエミヤンの姿をしているのさ!?」

そいつらは両手を剣に変化させ一斉にシホに飛びかかってくる。

「舐めているの…?」

シュッ!

一条の光が一瞬で通り過ぎた後にはシホのデットコピー達はすべて爆発した。
そして光が過ぎた先では干将・莫耶を構えたシホが切り払っていて付着した血を振り払っている。

『すごい…!』
「フフフ…さすがですねぇ。私の人形達では相手にならないですか」
「この程度がお前の戦力だというなら正直ガッカリね…お前もすぐに殺してあげるわ」
「まぁまぁお待ちを…少し話をしませんかね? 我が愛しの吸血姫?」
「話…?」
「そう…この二十年に渡る積もるお話を…」
「! 貴様!? この場で話すつもりか!! させないわよ!!」

シホが一瞬で男と肉薄し一気に切り捨てようとした。だが…

ガキッ!

男の肉体はまるで鋼のように硬く、次には体が溶けてシホの体を黒い影が走りガチガチに固めてしまった。そしてまた実体に戻る。

「くっ…!? 軟体か!」
「いいえ、違いますよぉ…私はあなたの“血肉を取り込む”ことによってその体を変質させたのですよぉ…」
「え…? 血肉を取り込む、ですか?」

その疑問の声の主は夕映だった。

「夕映! それにみんなも聞いちゃダメ! お願いだから聞かないで!!」
「話してあげましょうかぁ…?」

男はその体をゆっくりと変化させていき悪魔の体になった。

「ッ!? あああああああああああああああああああーーー!!?」
『シホ様、落ち着いてください!!』

それを、その姿を見た途端、シホは苦しみの叫びを上げた。

「いい叫びを上げますね。思い出しますよ…この二十年の月日を…。最初はあなたが悪い悪い魔法使いの連中に吸血鬼化の実験をすると言って連れて来られた時は冗談を言っているものだと思いましたがね…フフフ、呪いをかけられて本当に吸血鬼化してしまうとは思いもしませんでした。
それからは弱点を無くすと魔法使い達はいい、最初は火葬から始めましたねぇ…体を焼かれながらも復元呪詛で再生を繰り返すあなたの姿はとてもよいものでした」
「ひぃ…!?」

それを語る悪魔の凶悪な笑みにこのかは涙を浮かべて悲鳴を上げる。

「やめ、ろ…語るな! うあああああ!!」

シホは抜け出そうとするが思いの他ガッチリと固められてしまい頭痛の苦しみもあり抜け出せずにいた。
男の語りは続く。

「次は十字架の力でしたね。正直言ってこれは見ていて楽しくありませんでしたね…。なんせ痛みは一瞬だったのですから。
だが白木の杭は大違いでしたね。これは一回一回がとてもそそられるものでした。一回打ち付けるたびに上げる声はとてもよいものでしたよ」
「それ以上喋らないでください!」
「酷い…!」
「あんまりや!」
「よくもエミヤンを!!」
「ネギ! あいつを倒すで!? ムカつく奴や!!!」
「うん!! 許せません!!」

ネギと小太郎が駆けたが、それはシホのデットコピー達によって足止めされてしまう。

「くっ…邪魔や!!」
「どいてください! あの人は止めなければいけないんです!!」

ネギと小太郎に二体ずつが相手をしている。しかし一体一体がヘルマンレベルだ。だから前に進む事が出来ない。
そして尚も男の言葉は続く。

「首の切り落としなどはとてもよかった。吸えないというのに必死に空気を吸おうとする姿は血が沸きあがる思いでした。
さらに人間ならば即死ものの薬物をいくつも飲まされ狂う姿は心が躍りました。
そして…最後に魔法使いは狂っていたのでしょう。私に彼女の血肉を喰えと言い出したのでしたから。
最初は私も遠慮しましたがいざ食すと病みつきになってしまい、結局はこの二十年の半分以上の食事が彼女の血肉でした。
ゆえに今の私の思いは…もう一度愛しの吸血姫の血肉を食したい!!」

悪魔の表情が狂気に染まる。
「化け物アル!」と古菲が叫びを上げる。
「これが魔法世界の一つの現実だなんて…!」と夕映が泣き叫ぶ。
「外道が…!!」と刹那が憎しみの篭った瞳で睨む。
だが同時に「バァンッ!!」と弾ける音がして全員が見ればシホが束縛を引き千切っていた。

「キサマ…ヨクモ私ノ事ヲ色々ト語ッテクレタナ!?」
「おお…やっと抜け出しましたか」

シホが目を赤く染めて怒りを露わにしているというのに悪魔は未だ平静を保っている。その自信はどこから沸いてくるのか?

「そうそう。私の翼は有効活用していますかね?」
「ナンノコトダ!?」
「おや? 忘れてしまったと…。私の翼を移植したのですよ? ならば起こしてあげましょう」

悪魔がパチッと指を鳴らすとシホはあの大浴場の時のように「痛い…!」を連呼しだし、しだいに背中から悪魔の翼が姿を現した。

「コ、レハ…!!?」
「キメラといえばわかるでしょ? 実験内容にキメラ生成の事も含まれていたのですよ」

それで全員の表情が怒りに染まる。
なぜシホがそこまでの仕打ちを受けなければいけないのかという思いで!

「もう、いい…キサマは還すだけじゃ済まさない。この世から抹殺してあげるわ…タマモ、分離を…」
『は、はいです』

タマモがシホから分離を果たす。

「しばらく魔力供給できないほど魔力を消費するからなんとか自身の魔力だけで保っていて」
「…わかりました。シホ様、どうか勝利を…」
「ええ………感謝しなさい悪魔。私が“この世界”に来てから初めて使う秘奥の一を!」
「ほう…楽しみですねぇ」
「その油断、後悔させてあげるわ」


シホは目を閉じて詠唱を開始する。



―――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている).
―――Steel is my body(血潮は鉄で), and fire is my blood(心は硝子)
―――I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)



シホの詠唱が周囲に響くように聞こえている。
だが、悪魔はそれでも余裕の表情であった。これから地獄を見るというのに…。


「シホの姉さんはなにをしようってんだ…?」
「何も起こらないわよ?」
「あいつを倒せるものなら何でもええわ」



―――Unaware of loss(ただの一度の敗走もなく)
―――Nor aware of gain(ただの一度の勝利もなし)



「でも、なんやろ。シホの言葉が心まで響いてくるようや…」
「はい、お嬢様」
「エミヤンの呪文は不思議な響きがあるね」
「世界に浸透する声アルよ」



―――With stood pain to create weapons.(担い手はここに孤り)
―――waiting for one's arrival(剣の丘で鉄を鍛つ)



「シホさんの事を最後まで見届けなければいけません…」
「私も一緒に見届けるよ夕映ー」
「シホさんの魔法詠唱は、どこか悲しい響きがあります。でも、きっと負けません! シホさんは勝ちます!」



―――I have no regrets.(ならば、わが生涯に)This is the only path(意味は不要ず)
―――My whole life was(この体は) "unlimited blade works(無限の剣で出来ていた)"




瞬間、世界は炎によって破壊され、そして再生する。
出現するは黄金の太陽が照らし出す赤い荒野…そして無限に地面に突き刺さっている剣達。

「な、ななななにここ…!?」
「まさか…失われたといわれる『異界創造』の魔法っすか!?」
「武器だらけやー!」
「ど、どれも名剣に違いない作りだ…!」

一同が騒いでいる中、シホの脳裏では様々な変化がおきていた。




―――最初の悲劇であり、衛宮士郎の原初の記憶…体は生き残ったが、名前以外…記憶と心が死んでしまった大火災。
―――衛宮切嗣に引き取られ、魔術というものを知り、必死に教えてもらおうとした事。
―――引き取られてから五年して衛宮切嗣に死に際に託された『正義の味方』という理想。それによって初めてがらんどうだった自身に目指すものが見つかった事。
―――高校生になり、そこで魔術が使える事で巻き込まれた聖杯戦争という七人の魔術師と英霊という最上級の使い魔であるサーヴァント七騎で何でも叶うという聖杯を巡る殺し合い。
―――当然、魔術が使えるからといって聖杯戦争自体知らなかった為、アーチャーとランサーのサーヴァントの戦いを偶然目撃してしまい、ランサーに気づかれて心臓を貫かれ死にかけた事。
―――それをアーチャーのマスターによって助けられた事。
―――再度ランサーに殺されかけた時、突如出現して私を守ってくれた剣の騎士『セイバー』との月下での出会い。
―――バーサーカーのサーヴァントを引き連れた義理の姉『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』との悲しい出会いと闘争。
―――アーチャーのマスター『遠坂凛』との共同戦線、そして弟子になったこと。
―――その後にライダーとの死闘を辛くも勝利したが、キャスターによりセイバーを奪われてアーチャーすらも裏切ってしまった事。
―――イリヤと共闘しようとアインツベルン城に向かったが、そこで現れた第八のサーヴァント『英雄王ギルガメッシュ』。
―――イリヤは救えたもののバーサーカーはやられてしまった事実。
―――己の未来の可能性存在だという事が発覚したアーチャー…『英霊エミヤ』との死闘。
―――死闘の際、剣を打ち合う度に自身に流れ込んでくるエミヤの知識と経験、そして守護者としての永遠の殺戮の記録…そして、それを乗り越え真に見つけられた本当の道。
―――黒の聖杯に染まった後輩『間桐桜』の変貌した姿。そしてやられたサーヴァント達が黒く染まり襲い掛かってきた。
―――対抗するためにイリヤと凛の協力の元、宝石剣を投影したが自身にしか使えないものを作り上げてしまい一時的に「 」に繋がってしまって第二魔法を会得してしまった事。
―――そこに大師父が現れ、代わりに自身の宝石剣を使えと貸し与えてくれた事。
―――ギルガメッシュとの戦いの折、イリヤによる魔力供給によって発動した私の本当の魔術。
―――桜とその姉である遠坂による戦いで桜を助け出すことが出来たこと。
―――言峰綺礼との聖杯をかけた最後の戦い。
―――最後にセイバーによる宝具の開放で大聖杯の完全破壊。
―――そしてたくさんの死人が出たものの、それでも最小限に止められて永遠に消えていった聖杯戦争。そしてサーヴァント達。
―――これですべて終わったと思った半年後に起きた約束の四日間の奇跡。
―――それによって受け継がれた本来ありえない者達との平和な生活の記憶と、ある一人のすべての呪いを背負わされた男の決意の記憶。
―――正義の味方として駆け抜けた八年間。その中で得た様々の出会いと別れと闘争。
―――姉の想いを知り、新しくもらった体と『シホ・E・シュバインオーグ』という名前、『全てを救う正義の味方』ではなく新しく芽生えた『大切な人達を守る正義の味方』という新たな理想。
―――大師父の魔法による世界との別離。



まるで濁流のように失われていた記憶が思い出されていく。



(ああ―――………どうして今までこんな大事な事を忘れていたんだろう私は…)

シホはすべてを思い出した。
それで心が満ちていく衝動にかられていた。

視線の先では結界内に巻き込まれたのだろうエヴァ達がいた。

「…む? 巻き込まれたか」
「そのようですね、マスター」
「これは壮観な景色でござるなー」

シホは笑みを浮かべながら、

「エヴァ…無くしていた記憶、すべて思い出したよ」
「そうか! それはよかったな!」

…そして視線を前に戻すと控えていたのだろう悪魔とシホのデットコピーどもがすべて巻き込まれていた残りは約200体くらいだろう。

「ク、クク…なんだね、この世界は? 私は聞いていない…」
「狂っているところ悪いが…この世界は私の心象を外界に反転し映し出した世界…固有結界『無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)』よ」
「そんな魔法は聞いたことがない…! ありえないありえないありえないぃぃぃ!!」
「驚くことはない。これらはすべて贋作だ。本物と比べれば取るに足らない存在だろう」

ネギ達はシホの言葉に今一度剣達を見て思う。―――これらがすべて贋作? 真偽つけられるものなのか?と。
シホが右腕を掲げれば刺さっている剣達が主の願いを聞き届けたかのように地面から抜け浮かび上がる。

「我が愛しの吸血姫…あなたは何者なのですか!!?」
「この世界の主、『剣製の魔法使い』…いや『錬鉄の魔術使い』シホ・E・シュバインオーグ!」

シホの叫びに呼応して浮かび上がるすべての剣の剣先が悪魔とデットコピーの軍勢へと向けられる。

「さて、名の知らない悪魔。貴様が挑むのは無限の剣。剣戟の極地。恐れずしてかかってきなさい!!」

そこからは様々な剣の応酬がデットコピーどもをすべて斬り、裂き、焼き、貫いていく。
数の暴力という表現も当てはまらない圧倒的な蹂躙劇。
観客はネギとその仲間達にエヴァ達一行。
デットコピーはすべて滅ぼされ、後は悪魔一人だけ。致命傷になるものだけ避けて辛うじて命を繋いでいた。
だがシホはもう手加減しない事に決めている。
手に弓とある黒い牙のような剣を手に持ち、

「赤原を駆けろ! 赤原猟犬(フルンディング)!!」

放たれた赤き魔弾は悪魔へと一直線にかけていき悪魔は必死に回避を試みるがまるで生きているかのように急旋回をしては追い続ける。その姿はまさに猟犬にふさわしい。
そしてついに魔弾は男の腹に食らいついた。
そこに畳み掛けるように、

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」
「ぐほぁー!?」

すごい破裂音と閃光に悪魔は包まれた。
爆発の煙の中からボロボロの悪魔が姿を現すが、シホは逃すはずも無く、

天の鎖(エルキドゥ)!」

悪魔を鎖で縛り上げる。
本来神性の高いものを拘束する宝具だ。神性がなければただ頑丈な鎖に過ぎない。
しかし時間稼ぎだけなら十分な時間である。

「貴様の魂はもう滅ぼす事決定なのよ。だから…最後はこれで決めてあげる」

シホの底知れない魔力が手に集まっていく。
衛宮士郎の時には造り上げるのも困難な代物だったが今の魔力容量なら造り上げる事は決して不可能ではない。
それは黄金の剣を次第に作り上げていった。
それは人々の願いにより星が造り上げた人造兵器、「究極の幻想」。

「滅びなさい、血に飢えた悪魔!!」

シホが振り上げた剣はもうあまりの輝きに剣の形が分からなくなるほどに光り輝き、そして、


約束された(エクス)―――……勝利の剣(カリバー)―――!!!」
「―――――――――ッ!!?」


振り下ろされた極光は悪魔を一刀両断し悪魔は断末魔の叫びを上げ還る事無く塵になって消滅した。
結局最後まで悪魔の名前は知る事無く決着はついてしまった。
そのあまりの余波で固有結界は砕けて辺りは元の学祭のステージに戻っていく。
シホは一息ついて、

「エクスカリバーなんて投影したからもう魔力が空っぽだわ…当分は回復を待たなきゃ…」
「シホ様~…私もちょっと自分だけの魔力じゃきついですよー」
「ごめんごめんタマモ」

タマモと会話をしているとネギが駆け寄ってきて、

「すごい…すごいです! シホさん!!」
「そうだな兄貴! なんせ世界の創造に宝具の雨霰の絨毯攻撃で最後は聖剣をぶっ放したんだからな!」

ネギ達の言葉を皮切りに一同が口々にすごいと言っているがその中で夕映が皆に聞こえるようにシホにある事をいった。

「シホさん! その、その翼で背中はいたくないですか?」
「あ………、うん。もう大丈夫よ、夕映」

シホは苦笑いを浮かべながらも悪魔の翼を背中に収納していく。
そしてすべてが消えるとただ残ったのは以前に見せた酷い削られたような痕だけだった。
それを見てネギ達は熱が冷めたのか冷静な思考を取り戻してきて、

「シホさん、その…」
「大丈夫ですよネギ先生。でも一つ言わせてください。それに皆にも…」

なんだろうと?という表情になり、

「確かにさっき悪魔が言ったように酷い魔法使い達がいて私は今こんな事にされてしまったけど、でもそれは極一部のものだけよ。
だから魔法の世界そのものを嫌悪し嫌いにならないであげて…。
そして願わくば魔法と関わりを持つという事のその本質を見抜いて行動して。ただただファンタジーの世界の出来事だと思っていると私みたいに足元すくわれちゃうから」

それに全員は頷いた。どうやら分かってもらえたようだ。

「うん。それならよしね。エヴァ、ちょっといい?」
「ん? なんだ?」
「小太郎を学園長に合わせに行こうか。いつまでも無法滞在させておくわけにも行かないからね」
「そうだな」
「ってわけで小太郎。私達についてきなさい。かけ合ってみるから」
「おう! シホの姉貴!」
「あ、姉貴って…まぁいいわ。それじゃ楓、みんなの着替えを手配してくれる?」
「了解でござる」

それからシホ達はネギ達と別れて学園長室に向かっている最中、

「なぁなぁシホの姉貴! あんたは吸血鬼の真祖で強いんやろ?」
「え? まぁこれでも人間の時から『剣製の魔法使い』とか言われていたからそこそこの腕はあると思うわよ?」
「お! こりゃまたビッグネームやな。俺も話し聞いたことあるで」
「ちなみに私は『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』のエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルだ」
「あんたも真祖かい。二人も真祖がいるなんて麻帆良は魔窟か?」
「あながちそうかもしれないな」
「そうね。他にも強そうなのは色々いるし」
「うー…こっちにいさせてもらえないかかけ合ってみるか? ネギもおるしアスナや刹那、楓姉ちゃん達もおるから強そうな奴がたくさんや。楽しめそうや」
「ふふ…それじゃまずはおそらく脱走だろう件は謝らないとね」
「うっ!…あたっとる」

それで笑いが起きた。

その翌朝、小太郎の願いは叶い麻帆良にいてもいいという事になりすぐにネギに会いにいって、そこでネギは『魔法拳士』になることを決めたのだった。


 

 

033話 日常編 士郎としての過去と仮契約

 
前書き
更新します。 

 


あの悪魔達の事件から数日後。
生徒達が中間試験に向けて勉強している最中。
場所はエヴァの家。さらに別荘の中。
そこにエヴァ、茶々丸、チャチャゼロ、シホ、タマモが集まっていた。
ネギには今日は修行は無しだと伝えてあるのでいない。

「いよいよですねー」
「そうだな。色々あってまだ見る事は出来ないでいたがようやく見れる」
「ケケケ、楽シメレバイイナ」
「シホさん、心の準備は大丈夫ですか?」
「ええ…見せるって約束だったからね」
「では見せてもらおう。長い間封印されてきたお前のこの世界に来る前の記憶を」

エヴァの記憶を見る魔法が発動し全員はシホの過去のさらに過去にダイブした。
そして見る。
シホがまだ衛宮士郎だった頃の過去の最初のページを。

「なんだ、これは…!?」

エヴァが最初に言葉を発した。
そこは根源的な恐怖を覚えさせる光景。
赤い煉獄…そう表現するのもあんまりで救いの無い景色。
町は黒い炎に焼かれ、燃え上がる大地、一面の焼け野原、耳に響いてくる阿鼻叫喚、次々と聞こえてこなくなる人々の声、鼻につく肉の焦げる臭い、そして見上げれば黒い太陽。

「これが、シホの…いや衛宮士郎の原初の記憶だというのか?」
「なんて事でしょう…これがシホ様の始まりだったなんて…」
「ケケケ…イキナリダナオイ」

記憶は流れていき、黒い太陽は次第に消えていき雨が降り出してその中を傷だらけの赤毛の少年がおぼつかない足取りで歩いている。

「あれは…士郎君ですか、シホ様?」
《ええ、そうよタマモ。でもあれは私なのよ》

士郎は歩きを止めなかった。まだかろうじて生きていた人から助けを求められても自分にはなんにもできないと顔を背け歩き続けた。
しかしとうとう倒れてしまい、しかしまだ生きたいのか空に向けて手のひらをかざす。
でもそれも力尽きて落ちようとした時にその手を掴まれた。
手を掴んだ男性は士郎以上に憔悴した姿で、士郎を救ったはずなのにそれ以上に救われたような表情をしていた。
そこで士郎の意識は途切れて次に目を覚ましたのは病室だった。
そこには士郎以外にも生きていた子供たちが何人もいた。
しかし士郎は関心を向けようとしなかった。その顔は何もかもが抜け落ちていたからだ。
ただ生きているというだけで名前以外をすべて失ってしまったのだから。
そこに士郎を救った男性が病室に入ってきて、

『こんにちわ、君が士郎君だね?』
『おじさんは…?』
『僕は衛宮切嗣。率直に聞くけど、孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんに引き取られるの、君はどっちがいいかな?』

男性の言葉に士郎は迷いを見せずに、否―――どちらでも変わらないだろうという思いで切嗣の養子になることを決めた。
■■士郎が衛宮士郎になった瞬間だった。

「この世界ではシホ様は衛宮切嗣の実の息子ではないのですか…?」
《ええ。私は本当の両親の顔を一切覚えていないのよ。》

『そうか、よかった。なら早く身支度を済ませよう。新しい家に、一日も早く慣れなくちゃいけないからね』

切嗣は士郎の荷物をまとめ始めながらも、

『おっと、大切なコトを一つ言い忘れていた。うちに来る前に、一つだけ教えなくちゃいけないことがある。』
『なんだ…?』
『うん、はじめに言っておくとね、僕は魔法使いなんだ』

それから二人ででかい武家屋敷に住むようになり切嗣は士郎が料理家事洗濯が出来て一人でも暮らしていけるようになると何度も海外に出て行くことが多くなった。
士郎はなぜ出て行くのか分からなかったが帰ってくるたびに聞く土産話を楽しみにしていた。




《…思えば切嗣は何度も迎えにいこうとしていたんだと思う》
「誰をだ?」
《私の義理の姉・イリヤを…》




そして必死に魔術というものを教えてくれと言って教えてもらいながらも五年の月日が過ぎ、ある綺麗な月夜の事。
士郎と切嗣は縁側にいた。
切嗣の姿はやつれて見るからに衰えている。
おそらく死期を悟っていたのだろう。
士郎にあることを伝える。

『子供の頃、僕は正義の味方に憧れていた』
『なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ』
『うん、残念ながらね、ヒーローは期間限定で大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと、もっと早くに気が付けばよかった』
『そっか、それじゃしょうがないな』
『そうだね、本当に、しょうがない』
『うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ』

そこで切嗣は驚きの顔をした。

『爺さんは大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ、任せろって、爺さんの夢は俺が―――…』
『そうか。ああ…安心した』

そして切嗣は眠るように息をひきとる。
それが切嗣の最後だった。
それから上達しない魔術を何度も繰り返しながらも人助けを続けて高校生二年に成長していた。




「シホ様…衛宮切嗣はシホ様に間違った鍛錬の仕方を教えていたのですね?」
《ええ。それは師匠に指摘された。私は何度も一から魔術回路を作るものだと思っていたからね》




そしてある夜、士郎は目撃する。
ありえない者達の戦いを。
一人は青い軽鎧に赤い槍を持った男と、赤い外套に褐色肌白髪で黒白の中華刀、干将・莫耶を振るう男の戦いを。




「あれは…私と同じサーヴァント」
《そう。聖杯戦争の戦いを私は偶然目撃してしまったの》
「赤い男のほうはお前の武器を使っているな。なにか関係があるのか?」
《まぁ、ね…》




記憶の中の士郎はすぐに逃げようとしたが音を出してしまい校舎の中まで逃げたがランサーのサーヴァントに追いつかれ心臓を槍で貫かれてそこで一度記憶は暗転する。
そして目を覚ましたときには胸の傷はなぜか塞がっていて、とりあえずなのだろうか清掃して自宅に帰った。
しかし暗い家の中、外の警戒用の魔術トラップが鳴り響きまたもやランサーに殺されそうになる。
なんとか成功した強化の魔術で繰り出される槍を受け止めるがそれもすぐに終わり士郎は外の土蔵まで蹴り飛ばされてしまう。
このままでは死を待つしかないという時に土蔵の中の魔法陣が発動してエーテルの風が吹き荒れる。
そこから金色の髪に碧眼で青いドレスに騎士甲冑を纏った女性が現れランサーを土蔵の外に吹き飛ばした後、

『問おう。貴方が、私のマスターか』
『マス、ター…? ッ!?』

突然の苦痛の声で左手の甲を見るとなにかの聖痕が刻まれていた。

『令呪の存在を確認しました。私はセイバーのサーヴァントです。―――これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。―――ここに、契約は完了した』

それからセイバーはランサーを迎え撃つために土蔵から出て行った。
何度か打ち合いランサーは撤退するというがセイバーはトドメを刺そうとする。
そこでランサーは己の宝具を解放する。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!』

一直線に心臓を狙う槍をセイバーは一度避けたがしかし因果逆転の呪いでセイバーに迫る。だがくらったものの必殺には及ばなかったのでセイバーは助かった。
そして今度こそランサーは撤退していった。
そこで一息つけると思った矢先にまたサーヴァントの気配を感じセイバーは傷も癒えぬまま出て行った。
見た先では校舎で戦っていた赤いサーヴァントがいてそのマスターもいた。
セイバーが切り捨てようとした時に咄嗟に士郎が令呪を使ってセイバーを止めてしまった。
その後、赤いサーヴァント、アーチャーのマスターである遠坂凛と話し合いをすることになった。
聖杯戦争の事を聞いた士郎は驚愕していた。
それから監督役の言峰綺礼に会いに行くというので全員で行く事になった。
そして、士郎はこの戦いを止めようと参加を決意する。

『喜べ少年、君の願いはようやく叶う。正義の味方には、倒すべき悪が必要だからな』

言峰綺礼の言葉に士郎は反応した。顔にはなぜそれを…という表情がありありと表れていた。
その帰りに凛からは明日から敵同士よと告げられ別れようとしたその時、

『ねぇ、お話はもう終わり?』

そこには恐怖の体言があった。
白い少女の背後で鉛色の体をした巨体が立っていたのだ。

『こんばんは、お兄ちゃん。これで会うのは二度目ね』
『始めまして、リン。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』
『アインツベルン…!』
『ええ、そうよ。トオサカの当代。それじゃもういいよね?やっちゃえ、バーサーカー!』
『■■■■■■■―――――――!!』

そこからは撤退戦で墓地まで逃げてきてセイバーは善戦するが決定打を決められずにいると突如として士郎は殺気の視線を感じセイバーをかばう様に飛び出す。
そして炸裂するアーチャーの矢。それはバーサーカーを一度貫き殺す事に成功する。
イリヤは驚きの表情をしているがそれだけでバーサーカーの正体をいう。
バーサーカーはギリシャの大英雄であるヘラクレス。宝具である十二の試練(ゴッド・ハンド)の能力で十二回殺さなければ倒せないというもの。
その日は気まぐれかイリヤは撤退していった。
そして凛とは共闘戦線を張る事が決まり衛宮邸に駆け込み師匠としてやってきた。




《ちょっと長いから少し早送りな感じで映像を流していくわね》

そこでシホのそんな言葉が聞こえてくる。




言葉通り場面はいきなり飛んだ。

―――その後にライダーとの死闘を辛くも勝利したが、キャスターによりセイバーを奪われてアーチャーすらも裏切ってしまった事。
―――イリヤと共闘しようとアインツベルン城に向かったが、そこで現れた第八のサーヴァント『英雄王ギルガメッシュ』。
―――イリヤは救えたもののバーサーカーはやられてしまった事実。
―――己の未来の可能性存在だという事が発覚したアーチャー…『英霊エミヤ』との死闘。
―――死闘の際、剣を打ち合う度に自身に流れ込んでくるエミヤの知識と経験、そして守護者としての永遠の殺戮の記録…そして、それを乗り越え真に見つけられた本当の道。
―――黒の聖杯に染まった後輩『間桐桜』の変貌した姿。そしてやられたサーヴァント達が黒く染まり襲い掛かってきた。
―――対抗するためにイリヤと凛の協力の元、宝石剣を投影したが自身にしか使えないものを作り上げてしまい一時的に「 」に繋がってしまって第二魔法を会得してしまった事。
―――そこに大師父が現れ、代わりに自身の宝石剣を使えと貸し与えてくれた事。
―――ギルガメッシュとの戦いの折、イリヤによる魔力供給によって発動した私の本当の魔術。
―――桜とその姉である遠坂による戦いで桜を助け出すことが出来たこと。
―――言峰綺礼との聖杯をかけた最後の戦い。
―――最後にセイバーによる宝具の開放で大聖杯の完全破壊。
―――そしてたくさんの死人が出たものの、それでも最小限に止められて永遠に消えていった聖杯戦争。そしてサーヴァント達。
―――これですべて終わったと思った半年後に起きた約束の四日間の奇跡。
―――それによって受け継がれた本来ありえない者達との平和な生活の記憶と、ある一人のすべての呪いを背負わされた男の決意の記憶。
―――正義の味方として駆け抜けた八年間。その中で得た様々の出会いと別れと闘争。
―――姉の想いを知り、新しくもらった体と、『全てを救う正義の味方』ではなく新しく芽生えた『大切な人達を守る正義の味方』という新たな理想。
―――大師父の魔法による世界との別離。





◆◇―――――――――◇◆




記憶を見る魔法は解除され一同はグテッとしている。
ただ茶々丸はもくもくと記憶フォルダを作成していた。

「これがお前の半生か…。ぼーやと比べるでもなくすさまじいものだな。英霊エミヤの存在がそれを際立たせている」
「そして、シホ様は正義の味方というある意味呪いにも似た理想を掲げて駆け抜けていたというわけですか…」
「ケケケ、オ前モ相当歪ンデイルナ」
「しかしお前の義姉によって新たな目標を立てる事が出来た。もう英霊エミヤになることはない」
「ええ。聖杯戦争が終わって世界に出た後も決して世界とは契約はしなかったから」
「そしてこの世界でもう存在が真祖として固定されてしまったから世界と契約する事も無い、か…。
ああ、お前の今まで歩んできた人生をぼーやにも見せてやるべきだったか? 正義だの悪だの未だに括っている奴にはとっておきのものではないか」
「まぁ、まだネギ先生には早いものだと思うよ」
「それで? お前は男性の時の記憶も思い出したわけだがここ数日でそんなに変化はないようだな」
「え? うん。なんていうか女性として過ごした時間が長かったのかもう男性のような思考はほぼ持ち合わせていないんだよね」
「なるほど…。ではお前は今までどおり“衛宮士郎”ではなく“シホ・E・シュバインオーグ”として接しても構わないのだな…?」
「ええ。というか態度を変えられたらさすがに悲しくなる」
「私はシホ様が男でも女でも構いません!」

タマモが大声でそんな事を叫んでいる。
それでシホも恥ずかしそうにしていた。

「…まぁいいだろう。ところで一ついいか?」
「なに?」
「お前も第二魔法…並行世界の運営を使えるということでいいんだよな?」
「ええ。まぁ半人前だからそう簡単に世界を移動できるほど腕は無いけど…せいぜい別の並行世界から魔力を持ってきたり、一つの世界の中限定で転移くらいはできるくらい。後材料が揃えば並行世界の観測とかそこら…かな。そこらへんは凛にしこたま扱かれたんで知識は十分あるからできるよ」
「なるほどなるほど…。シホ…私の従者になれ」
『!?』

エヴァの表情がニタッと笑う。
そこにはアクマが存在していた。

シュバッ!

気づけばシホとタマモの体に糸が巻き付いていた。

「ちょっ…脈絡がなくない!?」
「エヴァンジェリン!?」
「くくく…ここまでお前というものを知り、欲しいか欲しくないかと問われれば答えは欲しいだ。なに、仮契約をするだけだ。奴隷にしないから安心しろ」
「なんでよー!?」

シホとタマモはじたばたと暴れるがエヴァの行動は早く地面には既に魔法陣が敷かれていてその勢いのままシホに唇を押し付けた。

「んーーーッ!!?」
「シホ様―――!!?」

そして現れる仮契約カード。当然主人はエヴァである。

「プハッ…ククク、これでお前は私の従者だな」
「ううぅ…ひどい」
「どこともしれない男とするよりはマシだろう? 別にお前の行動を制限するともいわん」
「シホ様、しっかりしてくださ~い…タマモはどこまでもついていきますよぉ~?」
「うん…ありがとタマモ」

しばらくしてシホは立ち直ったのか仮契約カードを確認し始める。

「称号が『夢幻の鍛冶師』か…」
「お前に打ってつけの称号ではないか。とりあえずどういったアーティファクトなのか出してみたらどうだ?」
「そうね。来れ(アデアット)

そして光と共に現れるアーティファクトは、なかった…。というかカードのままだった。

『は…?』

それには全員が声をそろえて間抜けな声を出すほど。

「なんで? カードのままってなにか条件が揃わないと発動しないアーティファクト?」
「茶々丸、なにか検索できないか?」
「少しお待ちを…」

茶々丸が調べている間、カードを見てみたが今までのアスナや刹那のように武器を持っていなくて赤い外套姿のままだった。

「検索終了しました。おそらくですがシホさんのアーティファクトは蓄積型の『贋作の王』と呼ばれるものです」
「効果は…?」
「はい。他人の所有しているアーティファクトを登録し、登録した後はそのアーティファクトを形状と能力を完全再現するというものです」
「数の限りは…?」
「調べた限りは…ほぼ無いと思われます」
「なんだ、そのチートなアーティファクトは…」
「とりあえず今アーティファクトの所持が判明しているのはアスナさん、このかさん、のどかさん、刹那さんの四名です。
機会がありましたら話を振ってみましょう。ちなみに登録の仕方はカード同士を合わせて『登録』と唱えるだけでよいそうです」
「これを期にアーティファクト収集を趣味にしていくのもいいんじゃないでしょうか、シホ様?」
「それはどうなんだろう…。まぁそれじゃ後で了解を得て試してみましょう」




◆◇―――――――――◇◆




ちなみに後日、四人に話を降ってみたところ特に弊害もなく四人のアーティファクトの登録に成功した。
するとシホのカードに変化が起こり、シホの周りに四人のカードが浮いているという感じに絵が変わっていた。
それで試しにアスナの『ハマノツルギ』をハリセン状態と大剣状態の両方で発動でき、ネギに魔法を打ってもらいそれらはすべて無効化できたことから能力もしっかりと受け継がれていた。
『匕首・十六串呂』『東風ノ檜扇』『南風ノ末廣』『いどのえにっき』もすべて能力は使えた。

「すげぇ…契約者がいるだけ増やしていけるとかそれどんなチートっすか?」

カモにはスゴイ目で見られていた。当然他の面々にも。

「さすがマスターの従者のカードだけありますね」
「っていうかさぁ~よくシホはエヴァちゃんと仮契約する気になったよね」
「…する気はなかったわ。あれはまさしく略奪だった。気づいた時には唇を奪われていたから」
『……………』

重苦しい空気が辺りを満たしたそうな。




◆◇―――――――――◇◆




場所は戻り、

「さて、ところでシホにタマモ。いまさらの話になるのだが中間テストが終わったら学園祭だがお前ら、なにかの部活に入っていたか?」
「いえ、入ってないわよ?」
「ふむ、ではお前の古今東西の料理の腕を私が見込んだ上で超鈴音と五月の経営している『超包子(チャオパオズ)』で学祭の期間の間だけ働いてみたらどうだ? 後で私が掛け合ってみるが」
「む…確かに面白そうかも」
「ですね、シホ様」

それで今回の話は一応終わった。


 
 

 
後書き
『剣製の魔法少女戦記』でくどいくらいに感想や評価で士郎の過去はグレーゾーンだグレーゾーンだと言われましたので、序盤の展開だけ書いて後は流しました。


それと、これにてストックは終了です。
今後の更新は他の小説も書いているために予定はないですが、読者の皆様の反応を見てどうするかゆっくりと考えます。 

 

034話 日常編 自問自答とカウンセリング

 
前書き
せっかくやる気になったので最近書いていなかったのでリハビリに一話更新して反応を見ます。 

 


…………私は、愚かで浅はかでダメ人間でした。


そう、綾瀬夕映は何度もそんな思考に陥っていた。
きっかけはやはりというべきか、あの悪魔事件での一件である。
そこで知る事になったシホの凄惨なという言葉では軽すぎて深くは語りつくせないであろう過去の出来事。
シホは夕映に何度か魔法に関わることに関してあまり快く思っていない事は分かっていた。
夕映もそれでなぜなんだろうと?考えたことはあったが、まさか箱を開けてみればシホは魔法関係で深い傷跡を負う事になったというのには夕映も含めてあの場にいた全員は思い知ったことになった。
シホ自身はあの時、

『確かにさっき悪魔が言ったように酷い魔法使い達がいて私は今こんな事にされてしまったけど、でもそれは極一部のものだけよ。
だから魔法の世界そのものを嫌悪し嫌いにならないであげて…。
そして願わくば魔法と関わりを持つという事のその本質を見抜いて行動して。ただただファンタジーの世界の出来事だと思っていると私みたいに足元すくわれちゃうから』

と、自身のことも含めて皮肉も込めてそんな事を言っていたが、内心では色々な感情が綯い交ぜになっていたのだろうと夕映は思った。
なにせその言葉を発している時に表情は自分達の精神状態を鑑みてか薄っすらと笑みを浮かべてはいたが、自分の過去の事を知られてしまったのだから後ろめたい感情もあったのだろう、眉が少し下がっていて目も揺れていたから……(夕映はそう感じたのだが、実際は失っていた記憶を思い出したために感動面もあったとの事)。

だから夕映は自身が無知で愚かであったと思わざるをえないのであった。
翌日にはシホはなんでもない顔をしていたが、それがどうしても作り笑いにしか夕映の目には映らなかった。
そんな事を考えていたために中間テストの勉強にも気が入らずに、結果ビリにはならなかったが思いっきりバカブラックとして目立つことになってしまった。
三人部屋で同室のハルナにも心配され、のどかにまで気を使われている自分が情けなくて仕方がなかった。

「ちょっと、ユエ吉どうしたのさー? いつにも増して表情が暗いぞー?」
「ハルナ、うるさいです。私は少し気持ちが塞ぎこんでいるのです……」
「そう言われてもね。のどかもなんか少し最近表情が固い事があるし、もしかしてネギ先生絡みでなにかあったのかなってね?」
「…………ノーコメントで」
「夕映、やっぱ調子悪いみたいね。いつものあんたなら即座にその言葉を返していたよ?」
「…………」

反論のし様がなかったと認める夕映。
その後も何度かハルナに絡まれたがなんとか逃げ出すことに成功して、でも寮部屋から出てきてしまっては行く当てもなく彷徨う事になった。

「(…………せっかくですから謎ジュースでも探りに行きますか)」

そんな事を思いつつ足取りは気づけばネギ先生達の部屋へと向かっていた。
扉をノックすると中からいつも通りに『はいな』とこのかの声が聞こえてきて、

「あれ? 夕映、どうしたん?」
「このかさん、その……今平気ですか?」
「なにやら重大そうやね。いいえ。今はせっちゃんも来とるから相談事なら任せとき!」

そう言って胸を叩くこのかの姿に夕映は少しだけ気持ちが和らいだ。
それで部屋の中に入らせてもらうと、刹那を含めてアスナもいた。
ちなみにまだネギはエヴァとの修行のために帰ってきていない。
ネギの姿が今ないのは逆にありがたいと思う夕映であった。
こんな惨めな事を相談できないだろうから、女子会でもいいだろうと、それにちょうどこの間の事件の関係者だけであるから余計に好都合である。

「夕映ちゃん、どうしたの?……やっぱりまだこの間の事が頭から抜けない……?」
「アスナさん……」

珍しくアスナに気持ちを言い当てられて夕映は顔を俯かせる。

「私は……愚かだったんでしょうね」
「ユエー?」
「綾瀬さん?」

その言葉にこのかと刹那が首を傾げる。
だけども夕映は言葉を続ける。

「ネギ先生を通して魔法の事を知って気持ちが舞い上がっていたのは認めるです。
でも、ただただファンタジーなんだろうという気持ちもあったわけで、シホさんの事を通して現実の世界と何ら変わらない非常識ながらもれっきとした日常というものがあり、そしてシホさんはそんな非日常の犠牲者の一人なんだと…………。
考えだしたらそれが何度も頭をリフレインしてしまい、あの悪魔が語った以外にも凄惨な事をシホさんは20年という言葉では表現できないあれこれを受けていたんだと考えると……自分が如何に無知で愚かだったのかと思い知らされてしまうです……」

自身の気持ちを隠さずに三人に話すと、アスナ達もどこか他人事ではないような顔をしていて、アスナは「あはは……」と苦笑いを零しながらも、

「やっぱユエちゃんもそうだよね……。あたしもまだ気持ちの整理が出来てなくてシホとの距離感を測りかねてんだ」
「ウチもや。いつも優しいシホがそんな事を受けていただなんて……事前に知っていたとはいえ、ウチも無知やったと思い知ったんよ」
「私は一度、シホさんが暴走する姿を目撃することがありましたが……あれは当然だったんでしょうね」
「「「え……?」」」
「あっ……」

刹那はつい言葉が滑ってしまったという顔をしてしまい、即座に「忘れてください!」と言ったのだが、アスナ達は刹那に詰め寄って、

「刹那さん、そこんところ詳しく教えて?」
「せっちゃん、隠し事は嫌やよ?」
「さすがに聞き逃せません。教えてくださいです」

それで刹那は淡々しながらも、ゆっくりと春先にあった大停電の時の出来事を話し出す。
ネギとアスナがエヴァと戦っていた時の同時間に西の刺客によって魑魅魍魎が学園に攻め込んできていた時の事であった……。
そこまで話していると三人は改めて東と西は仲が悪かったんだなと思う事になる。

「まぁ、そうですね。まだネギ先生によって書状が渡される前でしたからギクシャクしていたのは認めます。
それで私やシホさん達も含めて魔法先生や生徒達が対処に当たっていたのですが、その時にふらっと一体の悪魔が姿を現したときに、その……これを話すのは少し遠慮したいのですが……シホさんのもう一つの人格が暴走しまして……」
「もう一つの人格!?」
「もしかしてシホさんは!?」
「多重人格やったの!?」

驚く三人。
まぁ今まで知らなかったのだがらしょうがないが、改めてシホの心の傷の一端を垣間見れた瞬間であった。

「…………20年も色々とやられていて心に障害が残らないのもあり得ない話でして……はい」

刹那もそれ以上はシホの事を思い言葉を噤んだ。

「それで、その悪魔はどうなったのですか?」
「シホさんのもう一つの本物の吸血鬼とも言える残忍な人格に還されることもなく抹殺されました……」
『…………』

京都での一件でこのかの魔力によって大量召喚された鬼達は、それでも全員無事に還っていったと聞いたが、還る事も出来ずに殺されるのはどういう気持ちだろうと考えて、夕映はそれ以上は怖くて考えるのを脳が拒否した。
アスナとこのかも同様のようで少し震えていた。
それから細々な事を刹那から教えてもらい、アスナは天井を見上げながら、

「そっか……。あの翌日に学校に来なかったのはそんな理由だったのね……」
「やはり、私達は無知だったのでしょうね……」
「せやね……」

落ちこむ三人。
刹那もやはりまだ話すのは早かったかと反省していた。
それからしばらくして、

「ネギと……いや、シホともこれからも魔法関係で関わっていくとしたら……もう無知ではいられないよね?」
「はいです」
「せやな」
「そうですね。私も裏の関係は関わっている身としては要警戒しないといけません」

そう結論が着いたところで、

「刹那さん。この事はネギには……?」
「まだ、話さないほうがいいと思います。ただでさえ自身の事でもネギ先生も心の傷を抉られましたから他の人の事を考えている余裕はないでしょうし……」
「ネギくん。最近ただでさえ落ち込み気味やもんね」
「私もそれがいいと思うです。シホさんもですが、ネギ先生も心労は計り知れないと思うですから」
「それじゃこの話はこの場限りってことで。朝倉や古菲、本屋ちゃんにも内緒でね。
夕映ちゃんもそこんとこよろしくね?」
「わかりました……ですが」

そこで夕映は少し歯切れを悪くして、

「その、のどかはそんな事はしないと思うですが、もしアーティファクトで気持ちを覗かれたら……」
「のどかに限ってそんなことはないと思うえ?」
「はい。のどかさんは誠実な方ですからそのようなことはないと思います」
「心配しすぎよ」
「そう、ですね……また愚かです。親友を信用できないとは……」

もう何度目になるか分からないほどに夕映は表情を曇らせていた。
さすがにアスナ達も今の状態の夕映を捨て置けないと感じたのか、

「あー……それじゃさ、一回シホ本人に確認を入れてみようよ?」
「シホさんに、ですか? さすがにご迷惑ではないでしょうか……?」
「ウチも賛成や。今のままのもやもやした気持ちのままシホと接するのはなんや違うと思うし、それに気持ち悪いわ……」
「私も賛成です。今なら寮の部屋にいると思いますから行ってみましょう」

そう決まって急がば回れと言わんばかりに四人はシホの寮の部屋へと歩いて行った。
呼び鈴を鳴らせば『どうぞ』という声が聞こえてくるので、

「シホ。その……今平気……?」

アスナが代表してそう扉を開けて声をかける。
そしてシホが中から歩いてきて、

「今更でしょ? なにか悩み事があるんでしょ? 大方私の過去の事で悩んでるんだろうけどね」
「あ、やっぱりバレてる?」
「そりゃーね。もう古菲と朝倉にのどかは一回私に相談しに来たし……みんなもそのうち来るだろうとは思っていたし」
「のどか……私も一緒に誘ってほしかったです……」

落ち込む夕映にシホは肩に手を置きながら、

「そう言わないであげて。のどかものどかで色々と限界だったみたいだし……。
どうせだからと私のアーティファクト『贋作の王』でいどのえにっきを出して本音トークをしていたし……」
「それはまた、控えめなのどからしいやり取りやねー」
「シホさんももうアーティファクトを使いこなしていますね」
「それなりにはね。で? 四人はどうする? いどのえにっき使う……?」

四人は少し考えて、やめておきますと揃えて言葉を出した。
さすがに今の正直な気持ちをシホ本人には知られたくないという感情の方が上回ったらしい。

「そう……。それじゃ中に入って。タマモー? 夜食四人追加でお願いねー?」
「わかりましたー♪」

と、御勝手の方からタマモの声が響いてきた。
どうやら当然だがタマモもいたらしい。

「さて、それじゃ今夜はまだこれからだから溜まっている気持ちを吐き出してしまいなさいな。私は受け入れるから」
『はい……』

それから夕映の気持ちを中心にシホに隠さずに伝えて、そのたびにシホが言葉を紡ぐなどを繰り返して、しばらくしてようやくすっきりしたのか、

「シホさん……相談に乗っていただき、感謝します。それで、その……」
「ん? なに?」
「改めて言わせてもらえないでしょうか? シホさんの言う現実も含めて私は受け入れて魔法に関わってもよろしいでしょうか……?」

そのどこか後ろめたいような、遠慮がちにそう言う夕映。
それに対してシホはというと、一回ため息を吐きながらも、

「その道を夕映が選ぶんだったら私はもう止めないわ。でも、やっぱりのどかと親友なだけはあるわね。のどかも夕映と同じような事を言っていたわよ?
まぁ、のどかに関してはネギ先生に対する思いの方が強いんでしょうけどもね」

そうクスクスと微笑ましいのか笑みを浮かべるシホ。
そんなシホの笑みを見て四人は、なにかが溶けるような気持ちになってこう感じた。

『やはりシホ(さん)は自分達より貫禄ある大人なんだな』と……。












その後に、夕食もともに食べて見送りしようと思った時であった。

「でも、やっぱりまだネギ先生だけは訪問してこないのよね……色々と溜まっているだろうし、カウンセリングはしておきたいんだけど……」
「それじゃあたし達でネギに言っておこうか? あたし達もシホと同じ感想だし」
「お願いできる? ネギ先生はただでさえ溜め込みがちだし、私としても心配なのよね」
「子供は素直に白状しておくものです。シホ様が寛大な精神で説き伏せてやるものですよ?」

それから少しして解散したのであった。
ちなみに夕映は色々とシホの本音の言葉を聞けて幾分気持ちが和らいだために、部屋に戻ったらのどかと正面切って話し合いをしたそうな。


 
 

 
後書き
原作の続きを書く前にまだ癒えていないであろう他の人たちの描写などを……。
リハビリで5000文字は書けた方かな。 

 

035話 学祭準備編 学祭に向けての出し物決め

 
前書き
更新します。 

 



中間テストも終わり、ようやく落ち着けるかと思っていた矢先に今度は学園祭が始まるという事でシホはシホでお祭り騒ぎが好きな学校だなーと思う次第であった。
登校風景はそれはもう前夜祭にも劣らないほどの主に大学生が中心の仮装集団でごった返していて、見れば学園の目立つ場所にはパリの凱旋門かと疑うほどの出来の学園門というものが出来上がりつつある。
聞けばこの学園はサークルや部活などはお金稼ぎをしていいというものなのでより一層精を出す若者が多いとの事。

「…………この中でならタマモも元の姿でもただの仮装としか思われないのかしら?」
「それはどうなんでしょうかねー? 分かる人には気づかれてしまうとは思いますが」

シホの言葉にタマモも案外楽しんでいるようで言葉が弾んでいる。
それだけこの学園は学園結界の効果もあり気づく人が少ない認識なのだろうと納得する。
そういえば、とシホはとある数日前の出来事を思い出す。
それはもう報告も込めてお馴染みとなった学園長室での一コマ。





『―――……という事がありました』

シホは学園長にあの悪魔事件での出来事を伝えた。
それを聞いた学園長は一瞬ではあるが目を見開いた後に、

『そうか……シホ殿を……していた悪魔が現れてしもうたのか。よくぞ無事で済んだものじゃ』
『あはは……はい、なんとかこうして無事でいます。結局名前も聞き出せずに抹消してしまいましたけどね』
『ほっほ。還すどころか抹消とな。まぁシホ殿の過去の出来事を踏まえれば存在を消したい気持ちも分からなくはないかの。じゃがほどほどにの。その悪魔がどこでシホ殿の存在を嗅ぎつけたのか詳細は分かってはおらん。そして他にも知っているものがどこかで潜伏しているやもしれん。
儂の方でもいろいろと調べてはいるが尻尾は掴めておらんからな。これからもシホ殿は用心するに越したことはないからの』
『はい、私も気を付けて行動しますね』
『それならよしじゃ。ところでシホ殿、近々学園祭が近づいておるのは知っておるな?』
『はい。なんでも某ランドにも負けないほどの賑わいを見せるとかなんとか……』
『その通りじゃ。他にも今年に限っては見過ごせない案件がある。とある日に魔法使い達を集めて集会をするが、シホ殿も参加してほしいんじゃ』

学園長のそんなどこか真剣みを帯びた言葉に、シホも少し真面目な顔になり、

『なにかきな臭い案件ですか……?』
『まぁの。その時になったら呼ぶからそんなに今から緊張はせんようにの』
『わかりました』

それで学園長との会談は終わった。






そんな事を思い出しつつ、

「(本当にこの学園は飽きがこないものね……)」

と、少しばかりこの学園の空気に感化されてきているシホは、それでも客観的に見る視線も交えつつ『その時』というのを待つのであった。




そんな事を思いつつも教室に入るとなにやらきな臭い事を一同がやり始めているではないか。
それぞれ可愛らしい格好(おもにメイドに該当するもの)に身を包んで思い思いに楽しんでいるというもの。

「あ、エミヤンにアヤメさん、来たね! まずはおはよう」
「おはよう、朝倉」
「おはようございますー。ところでこの賑わいはなんなのでしょうか?」
「よくぞ聴いてくれた。私達は学園祭ではクラスの出し物は『メイドカフェ』でもしようかなって思ってね」
「なるほど……あれ? でも、出すものとかいつ決めてたっけ?」

シホの疑問に朝倉は少し苦い顔をしながらも、

「それがまだ決まっていないんだよ。でも委員長も話をしたら乗り気でメイド服各種を取り揃えてくれたし、いいかなって」
「そうなの……」
「というわけで、エミヤンも何かに着替えてよ!」

それで出される服装種類各種。
それにシホは一瞬眉を細める。
まず感じるのが記憶を思い出す前のシホのままだったら、素直に来ていただろうけど、今はもう『衛宮士郎』としての記憶も思い出されているわけで可愛い格好はあんまりしたくないのが本心であるシホ。
それでどうしたものかと思っていたところで目についたのがとあるバーテンダーの衣装。

「これを着てみるわ」
「それではわたくしめは素直にメイド服を着させてもらいますね」

シホはバーテンダーの服を。
タマモはメイド服を試着した。
そしてみんなの前に姿を現すとそれぞれ騒いでいた一同がシホを見て思わずどこかほう……っとした顔つきになる。

「シホさんって、そういう衣装も意外と、っていうかかなり似合ったりする……?」
「どうかしら? でも、バーテンダーの仕事なら前にしたことあるしそれなりには……」
「ほう……?」

そこで話を聞いていたエヴァが目を光らせていた。
その視線に気づいたシホは思わず身を引くがエヴァの目は訴えていた。


“貴様の腕を私の舌で試させてもらおう”


と。
それでシホは仕方がなくなぜかカウンターまで用意されているので、

「五月、ちょっと場所借りるわね」
「………―――どうぞ……」

それからはまだ一同は未成年なのでノンアルコールの(エヴァだけはアルコールもの)を選び調合してプロも顔負けの腕でシェイカーを振って、コップに均等に注いでいく。

「どうぞ……」
「ふわー……色が綺麗……」
「匂いもどこか上品さがある……」
「シホさんはどこでこんな技術を……?」

委員長にそう聞かれてシホは曖昧な笑みを浮かべて惚けるしかなかった。
まぁぶっちゃけ衛宮士郎時代にルヴィア邸でのバイトで腕を磨いたというのが真相なのであるが、ここでは話すに話せないのである。
エヴァもすでに一口喉に通していて、一言。

「さすがだな……私の喉も久しぶりに唸ったぞ」
「お褒めにあずかり光栄です」

と、飲んだ人たちはそれぞれにシホの腕を褒めていた。
五月やチャオなども飲んでは「むぅ……」と唸っていてなかなかに好評であった。
そんな時にタイミングよくネギが教室に入ってくる。

「わぁっ!? な、なんですかこれは!?」

ネギは素直に驚き、この惨状をどうするか悩んでいたが生徒達に言葉巧みに誘導され出し物のお客役になっていて、生徒達がそれぞれどこかの怪しい大人のお店の女店員を彷彿とさせる行動をネギに試していて、

「……いいの、あれ?」
「放っておけ。馬鹿どものお遊びだ。それよりシホ、もう一杯くれないか」
「わかったわ」

そんな感じで場は流れていき、ついには新田先生が突撃してきて「全員正座!!」と相成ったのであった。
まぁあのままではネギが本気でお金を払いかねなそうであったので流れてよかったかもね
とシホは思うのであった。
そして結局、メイドカフェは新田先生によって禁止にされてしまったのであった。
お酒類はなんとか隠せたけども、ある意味ではよかったのかもしれない……。







…………翌日の事。


シホはエヴァに『超包子(チャオパオズ)』で一時的に働いてみたらどうだ?という提案を受けていたのだけど、さすがに今から頼み込んでもバイトのシフト関係で迷惑を掛けるだろうと思い、辞退をしていたのであった。
五月やチャオは残念がっていたが、まぁ仕方がない。
まぁそれはそれとしてシホとタマモは露店には顔を出してはいるのだが、

「あ、エミヤンにアヤメさんネ。来ていたノ?」
「ええ、チャオさん。なにか頂ける? ニンニクが使われているのもいいけど、少し苦手でね」
「わたくしは点心でも頂けますか?」

チャオにはまだ正体は明かしていないために、そう誤魔化しながらも頼むシホであったが、そこで意外な反応をされるとは思っていなかったシホ。
そう、チャオはこう言ったのだ。

「わかてるネ。シホさんは異界の人でエヴァさんと同じ(・・・・・・・・・・・・・)……。特別なものにしておくヨ」
「ッ!? チャオさん、あなたは……」
「ん? なにカナ?」
「…………、いえ」

その、チャオの邪気の無い笑みを向けられてシホは黙り込むしかなかった。
それでチャオはなんでもないように歩いて食事を取りに行った。
そんな後姿を見送りながらも、

「……シホ様。なにやらチャオからきな臭いものを感じました。彼女にはご注意してくださいね?」
「わかった。タマモもそう言うんならなにかあるんでしょうね。私も彼女の動きには警戒しておく……」

そんな会話をしながらも、それでも出てきた食事には美味さに舌鼓を打つのであった。








そして、チャオもチャオで裏方の方で壁に背中を預けて息を整えながらも思う事があった。

「シホさん……。私は正直アナタが怖いネ……。私の歴史には存在しなかった人物……『赤き翼』に加入してすでに歴史に干渉している。だからこれからどう歴史に影響してくるのか皆目見当がつかないヨ……。
…………せめてもの救いと言ってはシホさんに悪いが、シホさんが赤き翼の最終決戦に参戦しなかった事カ? これも歴史の修正力と言うモノなのカナ……?」

チャオの悩みは晴れなかった。
その頃、ネギはシホとチャオの会話など知る由もなく五月のスープを飲んで気合を燃やしていた。






そしてホームルームの時間。
今度こそ出し物を決めようと張り切っていたネギだったのだが、桜子の発言によってまた混乱することになる。

「『ドキッ☆女だらけの水着大会・カフェ♪』がいいと思いまーす!」

それで全員ずべっと滑る事になる。

「頭が痛いわね……」
「こー言う時にバカは困りますね」

一番後ろの席でシホが頭を抱えて、千雨がまた震えていた。
だが3-Aの勢いは止まらない。
『それだ……!』と納得するものが数名。
さらには、

「じゃあじゃあ『女だらけの泥んこレスリング大会喫茶』!!」
「負けねーぞ! 『ネコミミラゾクバー』!!」

と、バカ発言が続き、

「もう素直に『ノーパン喫茶』でいいんじゃないかしら?」
「「「それだああぁぁぁぁぁっ!!」」」

と、悪い方向に盛り上がりを見せていく。
それで意味が理解できなかったのかネギやのどかなどは震えて涙を流していたり。
それを誰にも聞かないようにと説得する辰宮の額にも嫌な汗が流れる。
さすがに中学生がしていい会話ではない。

「(さすがに黙っていられないか? このままじゃ死人(意味深)が出る……)」

と、シホも発現しようとしたところで、それも遅くハルナが落ち着いてある事を語り出す。

「確かに……可愛い女の子を見世物にするというのは些か単純かもしれないわね……それならいっそのこと逆で!」

起こるどよめき。
一同の目線の先にはネギがターゲットに入り、ネギは思わず震える。

「ネギ君をノーパンに!!」
「きゃあああああ!!?」

そして余りの騒ぎにまたしても新田先生が突入してきて、脱がされる途中のネギの姿を見てゾッとした顔をしながらも、

「なにをしているかー!! 全員正座!!」

それでまたしても出し物は決まらずに流れてしまう事になってしまった。

「うーん……あまりに統率がないうちのクラスはこんな調子で学園祭を迎える事ができるのかしら……」
「アハハハ! 中々に笑えるではないか!」
「わたくしもあまりの奇想天外さに笑いが抑えられませんよ~~!」

シホは心配し、エヴァとタマモは心底おかしく笑っていた。

「ちょっと、励ましにいってこようかな?」

と、シホはネギの後を追ったアスナに合流する。

「それで、アスナはどうするの?」
「どうするって……あれじゃどうしようもないわよね」
「なにかで発散できればええんやろうけどね」
「難しいものですね」

四人の視線の先には一人涙しているネギの姿があり、どう声を掛ければいいか分からないのである。
そんな時に五月がネギのところに現れて屋台に誘っていた。
五月の料理に素直に美味いと言うネギの姿を見て、もう大丈夫かな?と思っていたがそこに新田先生達が姿を現して思わず隠れるネギ。
五月の暴動を鎮める姿を見て、強い人だなと思いつつそこに新田先生に見つかってネギは絡まれてしまう。
そのままなし崩しに一緒に飲むことになったんだが、ネギは甘酒を呑んでしまい酔いつぶれてしまった。
さらにはネギが実は泣き上戸だったことが判明し、タカミチが来たことによって一時は落ち着いたのだが、

「違うんですぅ! 僕は強くなってないんですー! 僕っ……ただ逃げていただけなんです!! シホさんの事も何も知らずにとんでもない無知だったんですー!!」

とうとう鬱憤が爆発したのかその後もネギは「僕はダメ先生でダメ魔法使いなんですー!!」と危ない発言をぶちかましていた。



そんな中で、それを聞いていたシホはというと、

「やっぱり……10歳の子供には私の事はショックが大きかったみたいね……」
「ですね……」

そのままネギは屋台で寝かせてもらって、翌日に五月と何かがあったのかスッキリした顔になっていた。
その勢いとでもいうのか、ホームルームでは、

「それで僕の厳選と皆さんの投票をもって出し物は『お化け屋敷』にしたいと思うんですが、どうでしょうか?」
「「「「「「いいんじゃない!?」」」」」」

と、納得された。
こうして3-Aの出し物は『お化け屋敷』に決定したのであった。


 
 

 
後書き
原作を抽出しながらもオリジナルの場面も加えてみました。 

 

036話 学祭準備編 お化け騒動

 
前書き
久しぶりに更新します。 

 
…………それは遡る事、ようやくネギの手腕によって決まった3-Aの出し物である『お化け屋敷』。
それは他にも『演劇』や『占いの館』、『大正カフェ』、『中華飯店』、そしてなぜか根強くエントリーしていた『水着相撲』『ネコミミラゾクバー』等など……それらを押しのけて投票の結果とネギの采配で決まったものであった。
しかし、投票数一票(誰が手を上げたのかはなんとなくだが察してもらおう)の『水着相撲』はともかくとして他の出し物候補も結構強く、シホはというとどれにしようかと悩んでいた時であった。
ふと、シホの目に止まったのは窓際一番前の本来ならだれも座っていない席の場所にいる幽霊の子……相坂さよがネギがお化け屋敷を提案した時に手を上げているのを見て、

「(あれって……自分も幽霊だからっていうブラックジョークみたいなものなのかしら……?)」

と、思っていたのだがそこでネギが手を上げた人の名前を点呼している時に、

「…………と、それに“相坂”さん、楓さん……」
「ッ!?」


ネギは無意識なのか、意識的なのか……あの様子だと無意識なのだろうとシホはネギの様子を見て思っていた。
ネギがこの学校に来てからというもの、全然気にしていない様子であったからシホもさすがに見えていないのだろうと思っていたが、無意識だろうと気づいてあげられたことはシホにとっても嬉しく感じられたために、

「あ、ネギ先生」
「はい。なんですか、シホさん?」
「私もお化け屋敷でいいですか?」
「いいですよー」
「タマモはどうする?」
「シホ様の提案ならわたくしも同じにしますよ?」

シホの提案には基本従うタマモだからこそ、他のみんなも甲斐甲斐しいと思いながらも微笑ましく思っていた。
これで票数は8票となって、こうしてお化け屋敷に決定した経緯があった。
それでさよも嬉しそうに笑っていたので、シホはそれでウィンクして返すとさよは一瞬驚いた顔をしながらも「まさか……」という表情になっていた。








―――その放課後の事であった。

教室にはもうすでに誰もいないようでさよは昼間の出来事を思い出しながらも、

『シホさん……もしかして……私が見えているのかな……?』

そんな事を思いつつ、さよは窓の外を見るとどこかで視線を感じ思わずその方向へと振り向くとそこには今自身の中で気になっていた人物、シホがさよが顔を出している窓を見ていたのだ。
その光景にまたしてもさよはないはずの脈拍が鼓動するかのように胸のドキドキが止まらないでいた。

『勘違いなんかじゃない! シホさんは私が見えている!』

そう感じ取った瞬間にはさよはすでに窓を通り抜けて一直線にシホのもとへと飛んでいく。
シホも動揺した素振りなどせずにただたださよが自身の所までやってくるのを待ってあげていた。
そして、

『あ、あの! もしかして、私の事が……!』

そう叫んださよの言葉に、シホは無言で頷いて笑みを浮かべた。
それからシホは手招きをしながらも人気のないところまでさよを誘導して周りに誰もいないことを確認したのちに、

「ふぅ……ここなら大丈夫かな……?」
『あ、あのー……』
「あぁ、大丈夫。私はあなたのことが“視えているわ”」
『や、やっぱり……。で、でもいつから!?』
「んー……そうね。いつからって言うと、私が転校してきた初日からって感じかな?」
『うそ!?』

さよはそれで驚きの顔をしていた。

『で、でもどんな霊媒師でも私の存在には一切気づかなかったのに……』
「そうね……。さよさんで、いいんだよね?」
『はい……私は相坂さよです。今は地縛霊をしています……』
「確認取れて良かった。ところでさよさんは私の事をどれくらい把握しているの……?」
『どれくらい、ですか……? 3-Aの生徒さんですよね?』
「そっか……それじゃ私の裏の顔は知らないんだね?」
『は、はい……』

それでシホは簡単に自身の説明などをさよにした。
すると見る見るうちにさよの顔は驚愕に染まっていく。

『シホさんって、吸血鬼さんなんですか!?』
「ええ」
『はわー……驚きです』
「私的には地縛霊をしているさよさんの存在の方が驚きなんだけどね。私のもとの世界の時計塔の降霊科の魔術師が見たらおそらく卒倒するわよ? 自我がこんなにはっきりしているし成仏する気配すらないわけだし」
『その時計塔?とか降霊科?とかいうのはあんまりわからないです。私、少しおバカなもので……』
「気にする必要はないわ」
『あ、でもどうしてシホさんは今更になって私と接触をしてきたんでしょうか……?』

さよの発言にシホは本題に入ったか、とばかりに真剣な表情になって、

「……昼間の出し物でさよさんは手を上げていたでしょ? 本来なら気づかれることもないのに……」
『はい……で、でもネギ先生は一瞬ですが気づいてくれました!』
「そう、それよ」
『はい……?』
「もしかしたらネギ先生や他のみんなにもあなたの存在が知ってもらえるかもしれない絶好のチャンスだと思ってね」

シホの発言にさよは目をぱちくりさせている。どうやらまだ現状が理解が及んでいないのだろう。
シホはそれは仕方がないと思いつつも、話を続ける。

「さよさんは幽霊になった後から誰かとお話をすることに飢えていたりしない……?」
『そ、それは……はい。現に今シホさんとお話をできてとても嬉しいです!』
「そう。それじゃいい機会だと思ってネギ先生に接触してみない? 仲介は私がするから」
『それはとてもありがたいんですけど……どうして私のためにそこまで……?』
「んー……まぁ内緒ってことで」
『はぁ……?』

今一要領を得ていないために首を傾げているさよだったが、シホはシホである考えをしていた。
すなわちさよは果たして無害のただの幽霊なのか……?という事である。
実際シホがさよに接触してみて人畜無害という言葉が当てはまるくらいにはさよという子は大人しいし無害だとは思うだろう。
しかし、だからと言って放っておいたらそのうち友達になりたいという飢餓感が暴走して、最悪悪霊にまで変異して生徒達を襲わないという保証はないのである。
シホがしたいことというのはつまり、ようはストレスの発散場を作ってあげる事がさよの為でもある。
まぁ、あれこれ考えてはいるが結局はただのシホのお節介なだけでもある。




それからシホとさよは夜道を歩いていると前方からネギ達一行が歩いてきたのを確認して、シホは小声で「(ほら、チャンスよ。話しかけて見なさい)」とさよを鼓舞していた。

「あれ? シホさん、こんな夜道でアヤメさんも連れずに歩いているなんて珍しいですね?」
「はい、ネギ先生。ちょっと用があったもので……」
「シホったらなにかまた隠し事をしていないわよね? できれば話してほしいなって……」

アスナの気遣いの言葉にシホは感謝しつつも、

「ありがと、アスナ。でも今は本当になにもないから。あ、でも……」

シホは一瞬視線をさよに向けた。
そんなかすかなシホの動きにも反応できる刹那が言葉を発する。

「シホさん……? どうされたのですか? そちらには誰もいませんよね?」
「まぁ、そうなんだけど……刹那はなにか感じない?」
「なにか、ですか……?」

そんな会話をしている間にもさよはさよで行動を起こしていた。
ネギの視界に手を振ったりしていたり、しまいには、

『あ、あの……こんばんはっっ!!』

と大声で叫んでいたりした。
だが、結局は気づいてもらえずに無駄骨で終わった形になった。
ダメ押しとしてなにもないところで足もないのに転んでしまっていた。

『やっぱりだめですぅ……私はダメダメな幽霊ですー!』

と、泣き叫んでいたのだが、ふとネギはさよが転んでいた先をジッと見つめていた。

「ネギくん? どうしたん……?」
「あ、いえ……気のせい、ですね……」

どこか腑に落ちないような表情のネギが首を傾げながらも気のせいだと断じて止めていた歩みを再開する。
そんなネギの姿にさよはもちろんシホも何かを察したのか、

「ネギ先生」
「はい? なんですか、シホさん」
「つかぬ事聞きたいんですけど、ネギ先生ってたとえば幽霊とか霊的なものは見えたりします……?」
「幽霊はともかく霊的なものですか? まぁ、魔法関係でしたら精霊などは見えますけど……幽霊とかそういうオカルト方面はあんまり……」
「そうですか……」

そこでシホは少し顎に手を添えて考え込むそぶりをしながらも、何かを思い至ったのか、あるいは閃いたのかネギに正面から向かい合って肩に手を置き、

「ネギ先生……」
「は、はい! なんでしょうか!?」
「シホ!? どうしたの……?」
「はわー……ドキドキな光景やね」
「これは写真に収めとくね!」

朝倉がカメラを構えてシャッターのボタンを押しているのをシホは気にせずに、

「少し、魔的な眼のトレーニングでもしてみませんか?」
「魔的なって……つまり魔眼ですか?」
「はい。ネギ先生にぜひ紹介したい子がいるんです。もちろんアスナ達にも……」
「うちらにも……?」
「シホさん、どういうことでしょうか?」
「エミヤン、どうゆうこと……?」

上手く説明ができないでいるシホはどうしたものかと視界を彷徨わせた後、ふと朝倉のカメラに目を向ける。

「朝倉。少しカメラを貸してもらってもいい……?」
「え? いいけど……はい」

朝倉からカメラを受け取ったシホはそのカメラに対して、

「―――同調開始(トレース・オン)……」

自身の魔力を流し込んでカメラに霊的な強化を施した。
それはほんの数秒で済まされてシホは朝倉にカメラを返しつつも、

「ちょっとそっちの方に向けてカメラを向けて見てくれない?」
「そっちって……え?」

シホが指さした方にはなにもない場所だった。
実際はさよが浮いているのだがいまだにシホ以外には見えていないのだ。
それで一同は少し顔を青くさせながらも、

「そ、そのさー……シホ。まさか、そこになにかいたりするの……?」
「ええ、そのまさかよアスナ。ネギ先生、クラス名簿は持ち歩いていますよね?」
「あ、はい……」

それでいそいそと名簿を取り出すネギ。

「その名簿の中で出席番号一番の子がいますよね?」
「え、えっと……はい。相坂さんですか? でも、今まで一度も教室にやってきたことは……」
「では、ネギ先生。出し物を決める時にお化け屋敷で手を上げた人の名前を上げてみてください」

そうシホに促されてネギは思い出すかのように一人、また一人と名前を上げていく。
そして次第にネギの表情が青くなる。

「相坂、さん……」
「ちょっとちょっと……ネギ、あんた冗談にしては怖すぎるわよ?」

さすがのアスナも同意見なのか顔が青い。

「ふむ……名簿のメモを見る限りタカミチも把握しているみたいね。『席を動かさない事』って……まぁ、とにかく。朝倉、一枚写真を撮ってみない?」
「こ、こわいなぁ……大丈夫なの、エミヤン?」
「大丈夫よ。彼女はただの友達が欲しいだけの幽霊なんだから」
「幽霊って隠さずに言っちゃったよ!」
「シホさん、なんなら払いますか?」
「刹那も物騒なこと言わないの。怖がっているじゃない……」

刹那の発言にさよは怖くなったのか幽霊だというのに一同以上に震えていた。

『し、シホさーん……大丈夫なんでしょうか~?』
「安心しなさい。私が責任をもって守るから」

シホがそう言って安心の言葉をさよに述べているのだが、実際に見える光景としてはただシホが虚空に向かって独り言を言っているだけにしか見えずに余計に不安が過ぎる一同。

「シホがついに独り言を言い始めたわー……」
「シホの姉貴には見えてるんすかねー?」

そこで今まで黙って聞いていたカモもつい言葉を発するほどには動揺していたり。

「まぁ、エミヤンがそこまで言うってんなら……激写!!」

朝倉が意を決してカメラのシャッターを押した。
そして液晶画面に映り出すさよの姿を見て、

「ひえええ……なんか写った!? あ、でもなんか可愛い……」
「朝倉、見せて!」
「ウチも見たいわ!」
「僕もいいでしょうか!?」

それで全員が液晶画面を通してさよの存在を確認したのがきっかけだったのか、

「あっ……」
「嘘……」
「なんかはっきり見えるわー」
「はい、お嬢様……」
「マジか……」
「相坂さん、なんですか……?」

全員がカメラ越しではなく目視でさよの存在を確認できていたのだ。

『え……? みなさん、私の事が……視えているんですか?』

さよの確認の言葉にシホを除いた全員が首を縦に振っていた。
それでさよは涙を流しながらも嬉しそうに破願して、

『シホさん! 私、やりました!』
「はいはい、よかったわねー。よしよし」

シホは手に魔力を込めて霊的にさよの頭を撫でてあげていた。
なにげに高等テクを使うシホの事を驚きつつも、さよはネギ達に振り返って、

『そ、その! ネギ先生……それに皆さん。私と……友達になってください!』

そんなさよの言葉に少し怯えもあるだろう、けどネギ達はさよの言葉を受け入れてこうして友達になることができたのであった。












…………ちなみに後日談だが、調子に乗ったさよが他のクラスメイト達とも友達になりたいと張り切ってしまい、心霊現象として校内新聞に載る騒ぎにまで発展して一時は除霊をしようと生徒達が夜中に教室で暴れて騒動を収めるのにシホ達が頑張ったとだけここに記載しておこう。

 
 

 
後書き
最終的には原作みたいな事が起こったとだけ。 

 

037話 学祭準備編 アルとの対談

 
前書き
更新します。 

 

学祭間近なこの頃。
シホは学園祭が始まる前に一度腹を割って話をしないといけないだろうという人物を脳内に浮かべていた。
タマモはそんなシホの機敏な考えに即座に思い至ったのか、

「シホ様? どうされましたか? また何かを思いついたような顔つきですが」
「さすがだねタマモ。うん。一回アルとじっくりと話をしておいた方がいいかなって思ってね」
「そうですかー。でしたらわたくしも同行いたしますね」
「うん。タマモも会話をしておいて損はないと思うしね」
「はい♪」

そんな時に教室では朝倉の全員に聞こえるような声で、

「ほいじゃみんな。学祭準備に来れる人は夜の7時半までにはお願いねー」

と、みんなに呼び掛けをしていた。
まぁ、結構締め切り期間が迫っているのでまだまだ作成しないといけない機材などがある3-Aとしては出ないといけないと思うシホだが、それよりもアルとの会話の方が大事であるために、そしてまだ本格的にヤバい段階ではないためにもしかしたら今日はいけないかも……という話を朝倉にしておくと、なにやら朝倉は怪しい目つきをしていた。

「……朝倉? その意味深な目つきはなに……?」
「いやね。普段なにかと率先してみんなの手伝いをするだろうエミヤンが今日は来れないって思うと、なにかあるのかなーって……」
「気のせいよ。ただ大事な用があるだけだから」
「はいはい。それじゃ貸し一つでね」
「相変わらず抜かりがないわね……」
「そりゃねー。エミヤンが大事な用って言うと、あっち側なんでしょ……?」

そう朝倉に言われて否定できないシホは、それでも強がりで「まぁ、否定はしないわ」と言っておいた。
それで朝倉も満足できたのか手をフリフリしていた。
なにかの敗北感を感じながらもシホは教室を出ようとしたのだが、

「おいシホ。どこに向かうんだ? 私もなんなら付き合おうか?」

そこにエヴァが話しかけてきた。
内心ではまだアルの事は内緒でお願いと言われているためにどうしたものかと思ったが、即座に言い訳をすることにした。

「大丈夫よエヴァ。ちょっと学園長と用事があって向かうだけだから」
「む。あの狸の場所か……まぁ、それなら私はだるいからおいとまさせてもらうとしようか。しかし……なにか私に隠し事をしていないか?」
「してないしてない。ね、タマモ?」
「はい。エヴァンジェリンも心配性ですねー」
「そうか……。今はその言葉を信じさせてもらおう」

なにかを察したかのような顔をしたエヴァだったが無理に干渉してこない事を感謝するシホとタマモであった。





それで学園から出ると向かうのは以前にドラゴンが住み着いていた図書館島のところまで向かうシホとタマモ。

「ですが、相変わらずアルはここでなにをしているのでしょうねー」
「さぁね。なにか動けない理由でもあるんでしょうけど……私じゃ口では勝てないからはぐらかされるだろうし……」

シホはそんな事を言いつつも、いざとなれば『いどのえにっき』を使わせてもらおうとかあくどい事を考えている。
いどのえにっきがのどかの手に渡ったのが分かるところであろう。
まずのどかはこう言ったあくどい事には絶対に使わないであろうが、こうしてシホの手にも渡ってしまったのは何かの縁以外にあり得ない。

それからエレベーターを降りていき、例の門番の所までやってくると、案の定待機していたのかドラゴンが大声を発しながら向かってきた。
しかし、以前に一回痛い目を見ているシホを視界に納めるとすぐさまに及び腰になってしまうのはなんとも情けない姿に映ってしまうのは仕方がない事だ。
ドラゴンだって自分から殺されに行くほど無能でもないし愚かではないからだ。

「通らせてもらうわね」
「グルッ……」

なにやら悔しそうなうめき声をあげながらも、道を譲るドラゴン。
すると先の方で人の影が出現し、

「おや……? シホ、来るのでしたら一言言ってくださればよかったのですが……」

アルがすぐさま瞬間移動でもしてきたかのように姿を現した。
シホはそれで笑みを浮かべながらも、

「や。アル」
「来ましたよー」
「フフフ……。なにやら騒がしくなりそうですね」
「ごめんね。なんか招待状でもないと来れないみたいな感じ……?」
「そうですね。でしたら帰り際にいつでも来れる入場券を渡しておきましょうか」
「ありがとう」

そんな会話をしつつ、シホとタマモはアルに案内されながらも内装を見つつ、

「でも……本当に地下空間とは思えない光景ね……。なんで光が射していてしかも人工物の建物があってそこに滝が流れているのよ?」
「この世界の神秘ですね、シホ様」
「フフフ……ここは裏の世界と繋がっていましてね。表向きは図書館島とは言われていますが、本来の名前は『アカシャの図書迷宮』と言われていましてね」
「アカシャの図書迷宮……なにやら物騒な名前ね」
「そうでもないですよ? 今も裏の世界の住人が何度も図書館に訪れていますからね。私が拠点にしている場所などほんの一部にすぎませんし。さ、到着しましたよ」

アルの住処に到着したのか辺りを見回すシホとタマモ。
そこはどこかエヴァンジェリンの別荘を彷彿とさせる内装でまさに魔法使いの居城と言ったところか?

そしてアルはシホとタマモに席に着かせるとテキパキと紅茶やらお菓子などを用意しつつ、

「それで……本日はどういったわけで来られたのですか?」
「うん、そうね。まずはアルが前々から興味を持っていた私の記憶が蘇ったってところから話をしましょうかね?」
「ほう……? 例の異界の知識という奴ですか」
「まぁそうね。だけどその前に確認したいんだけど……アル、あなたのパクティオーカードってまだ使えるの……? それが分からない以上は私の記憶を教える気にはなれないんだけど」
「なるほど。シホの知りたいことが分かりました。本題はナギの生存についてですね?」
「察しがよくて助かるわ」

そう、アルビレオ・イマのパクティオーカード、『イノチノシヘン』はナギとの仮契約で手に入れたものである。
それがまだ使えるという事はナギの生存が確認できるという事だ。
もしナギが死んでいればただのカードに成り下がってしまうだろうし、そこら辺の正確さは折り紙付きであろう。

それを理解したのかアルは懐から一枚のカードを取り出した。
それを見てシホの顔も少しだけだが晴れやかになった。
そう、まだアルのカードは“生きて”いたのだ。

「これで満足いたしましたか?」
「ええ。これでネギ先生も喜ぶというものね」
「そうですね、シホ様。ですがアル。その肝心のナギは生きているのでしたら今はどこでなにをしているのですか……?」
「うまいところを突いてきますね、キャスター。そうですね……一辺に語るに何日もかかるかもしれません」
「つまり、今はまだ話せないってところ……?」
「そういうことですね」
「相変わらずの秘密主義ね」
「すいません。それが私の取り柄でしてね」

それでシホも聞けることは聞けたのだから頭でその情報を整理しつつ、

「それじゃ、聞けることも聞けたことだし私の記憶という事でいいかな? アル」
「はい。とても楽しみですね。シホの過去の話を聞ける機会を私はずっと待っていたのですよ」

それはもうとてもにこやかな笑みを浮かべるアルに対して、タマモは内心で「やはりいけ好かない方ですね……かの安倍晴明を見ているようです」とか思われていたり。

「どうせ、あなたのアーティファクトである『イノチノシヘン』で私の記憶をコピーするんだろうけど……」
「はい」
「私もただで記憶を見せるほどお人よしじゃないのよ。だから……」

そう言いながらもシホは懐からカードを取り出して、

「私のアーティファクト『贋作の王』であなたのアーティファクトをコピーするのとで等価交換しない?」
「ッ! まさかあなたのカードは希少中の希少である『贋作の王』だとは……。お相手はキティですか?」
「キティ……? ああ、エヴァのハンドルネームの事ね。まぁそうね。私としても仮契約する気はなかったんだけど無理やりさせられちゃってね」
「なるほど……エヴァンジェリンらしいですね。しかし、となるとシホとエヴァンジェリンのどちらかが完全に死なない限りは寿命がないゆえに無限にアーティファクトの数を増やしていけるとは……元からある力も含めてあなたも相当にチートな存在になりましたね」
「否定はしないわ。それで? 等価交換をする気にはなった?」
「いいでしょう。私も特別このカードの力が他人に渡るというのも気にはしません。そして異世界の知識が手に入るというのでしたらむしろ儲けものです」
「交渉成立ね」

そう言ってシホはアルのカードの上に自身のカードを乗せて唱えた。『登録』と……。
そしてすぐさまカードは光り輝いてシホのカードにアルのカードの絵が追加されていた。

「フフフ……それではシホも私のカードを登録できたことですし……来たれ(アデアット)

『イノチノシヘン』を顕現させて、

「見させていただきますよ……あなたのすべてを……」
「ええ」

こうして儀式は粛々と行われていった。
そして時間は過ぎていき、一冊の本がアルの手に出現した。
その本の表紙には『シホ・E・シュバインオーグ』そして『衛宮士郎』の二つの名が刻まれていた。

「フフフ……! 久しぶりに読み甲斐がありそうですね……あとでじっくりと読ませていただきましょうか。あなたのこれまでの半生を」
「そう。まぁ私の過去なんてつまらないものだとは思うけどね。でも用心してよね? ただでさえ今の私までの記録がその本にはあるんだから捕まっていた間の事も書かれているわけだし私的にはお勧めしないわ」
「そうですか。大丈夫ですよ。これでも今まで様々な書物を読んできましたし今更スプラッターな内容でも動揺はしませんから」
「ならいいけどね。それじゃ用も済んだことだしお暇させてもらうわね、アル」
「また来ますねー」
「はい。また来てくださいねシホにキャスター。……あ、そうですね」

そこでシホ達を引き留めるかのようにアルが声を上げた。
シホは「なに?」と振り返ると、

「もし、ラカンと会う機会がありましたら先制パンチでアーティファクトを登録することをお勧めしますよ。あの方がガサツですがそれでも用心深いですしね」
「なるほど、確かに。忠告、胸に秘めておくわ」

そんな感じでシホ達は今度こそアルの住処を後にしていった。
一人残されたアルはというと、

「さて、では覗かせていただきますよシホ。あなたの半生を……」














…………アルはしばらく読み耽っていってまだまだ途中であったが、聖杯戦争終結と四日間の事、そして世界を周って紛争地域に何度も足を踏み入れていくところまでは熟知出来た事で一回読むのをやめて、

「なるほど……シホが用心するのも分かりますね。これはまさしく“劇薬”ですね。一般人が見たら内容に目を背けるでしょう。しかしこれだけでも私としましては面白いと言うに他なりません。シホはかの英雄王からその宝物庫の中身をほぼ投影させてもらいましたから、まさか私の存在すら抹消できるほどの宝具を投影できるというのは驚きでしたね……。
もし、シホが捕まらずに私達とともに最終決戦に挑んでいたのでしたら、もしかしたらナギの運命は変わっていたかもしれませんね」

そこまで考えて、アルはかぶりを振ってもしものIFを考えるのはやめた。
もう過去の事なのだからやり直しはできないと言ったところか。

「それに、もし『イノチノシヘン』でシホの力を使う時が来るとしたら、それはかなりの激戦になるでしょうね……そんな日が来ない事を祈りたいですが」

そう独り言を呟きつつもアルはシホの半生を次々と読み進めていくのであった。


 
 

 
後書き
シホは『イノチノシヘン』の能力を手に入れた。 

 

038話 学祭準備編 年齢詐称薬

 
前書き
更新します。 

 



ある日の学祭準備中の3-A教室内では世界樹伝説で持ちきりであった。
それでも準備の手を止めない辺りは流石と言う他ない。
そんな話を耳に挟みながらも作業の手を止めないでいるシホはというと、

「(世界樹伝説、ね……まさか学園長が危惧しているのはこの事なのかしら?)」

概ねシホの考えは当たっているのだが、まだ学園長に正式に呼ばれていないので先走ってはいけないと思い、まだ自重していようと思うシホであった。
そんな中で同じく世界樹伝説についてこのかや刹那と会話していたアスナがふと、こちらへと振り向いて、

「そ、そういえば……ねぇシホ」
「うん? どうしたの、アスナ?」
「うん。さっきの話じゃないんだけど……シホってもしかしてネギのお父さんや、もしくは高畑先生の事とかを好きになってたりはしないのかなって……ほら? もと・お仲間だったわけだし……」

そんな見当違いな話をされて一瞬であったがシホの目つきは細められていた。
隣で聞いていたタマモも「ないない」とばかりにかぶりを振っていた。

「親愛とか仲間とかいうそんな感情はあったけど、そういうのはまずないわ。なんせ私はもう―――……」


―――化け物だし、そして元・男だったわけだし。


とはさすがに口には出さなかった。
だが、アスナも聞いた内容とシホの現状を合わせてなにかを察したのか、

「ご、ごめん……なんか気に障る言い方をしちゃったみたい」
「気にしないで。私も気にしていないから」
「そうですよー。それにシホ様にはわたくしの目が黒いうちは誰にも渡しませんよ!」

そんなタマモの言い分でシリアスになりそうな空気も散漫したようである。
そんな感じで場は流れそうになったのだが、

「そういえば、シホさん。かなり今更ですがあの学祭広場での一件の時に『記憶を思い出した』と仰っていましたが、シホさんなりに整理して受け止められたのですか……?」
「あー……刹那はあの呟きも聞こえていたのね」
「はい。なにやらあの固有魔法を使ったのがきっかけだったようですが……その、差し支えなければ教えていただけませんでしょうか?」
「刹那……」
「せっちゃん……」
「刹那さん」

刹那は先ほどまでの浮ついた感じではなく真剣な表情でそう述べているので、シホもどうするかと考えていた。
関係者になら話しても構わないかなとも思うが、話し出したら話し出したで一同がまた体調を崩すかもしれないしねと不安になっていた。
そんな時に助け船がやってきたりするのはシホの周りが恵まれているからであろうか……。

「刹那。シホの言う封印されていた過去の記憶を聞きたいか……?」
「エヴァンジェリンさん……もしかしてエヴァンジェリンさんはもうすでにシホさんの過去の事を……」
「ああ、すべて知っている。でなくば私から望んでシホと仮契約など進んでするものか。私はシホが気に入ったからしたまでの事だ」
「そうなの、シホ……?」

アスナがなぜか不安そうな顔つきでそう聞いてきた。
アスナはシホの過去の事を知って以来、なにかとシホの事をネギ同様に気遣っている。
今もその思いは変わらない。
なのでシホが内緒にしていることはできる事なら傲慢な考えだろうと話してもらいたいというのが本心なのである。

「そうね……それじゃどうしようか、エヴァ。学祭が終わったら関係者のみんなには教えようか」
「まぁ、お前がいいというのなら私も構わないよ」
「そう。それじゃ三人とも。学祭が終わったら私の過去の事を教えてあげるからそれまで我慢していてね」
「わかった……」
「了解やー」
「わかりました」

それでこのお話はお開きになった。







その晩の事であった。
タマモと二人で楽しく料理を作っていたシホのもとに呼び鈴を押す音が聞こえて来たのは。

「誰かしら? はーい」

扉を開けるとそこには悩んでいる顔をしているネギとカモ、刹那の姿があった。そして刹那の腕にはなにやら見知らぬ赤子が抱えられていた。

「ネギ先生にカモミール、それに刹那? どうしたの? それにその子は……」
「その、シホさん相談に乗ってくれませんか?」
「相談……?」

なにかしら深刻そうな顔をしているのですわ何事かという感じで部屋の中に入れるシホ。
ふとシホはアスナの姿がない事に疑問を抱いたとか。

「それで私に相談って? あ、タマモ。料理はまだラップをしておいて」
「わかりましたー」

タマモはニコニコ顔で支度をしていた。

「ちなみに、さっきから気になっているんだけど、その赤ん坊はどちらの子……?」
「お、おう。シホの姉さん。この子はっすね」
「その、お嬢様です……」
「は……?」

刹那の腕の中で「ばぶー」と言っている赤子はこのかだという。
そしてすぐさまにシホの脳裏ではある事が浮かび上がった。
過去、赤き翼時代に何度かお世話になったとある薬。

「年齢詐称薬を使ったわね……?」
「そうっす。理解が早くていいっすね。シホの姉さんは」
「カモミールが購入したの? また面倒そうな話題じゃないでしょうね?」

シホがカモ関係ではうんざりすることが多いのを経験で判断したのかうんざりした顔になっていた。

「えっと、このかさんはそのうち時間がたてば治るとは思いますので大丈夫なんですけど……その、シホさんは年齢の操作とかって得意じゃないですかね?」
「年齢の操作ですか、ネギ先生。なにか後ろめたい事でもあるんですか?」
「いえ! ただちょっと明日にアスナさんと僕がタカミチ風に変身してデートをするという話になりまして……」
「またどうしてそんな話になったんですか……?」
「ううっ……カモ君。やっぱりシホさんの目つきが明らかに呆れられてるよぉ……」
「ネギ先生、ファイトです!」
「ばぶー!」

そんな刹那達の応援とともに、カモとネギはシホに詳しく話していった。
聞くにアスナが高畑を学祭中にデートに誘いたいのだがなかなか勇気を出せないでいる。
それなのに今日は高畑と会う機会があったのに逃げ出してしまった。
そのためにまずはデートの経験をさせて慣れさせようという事になった。
しかし、近しい男子がネギしか居らずに、子供とデートしてもいつもと何ら変わらないではないか。
ここで登場したのがカモがマホネットで購入したという年齢詐称薬。
それでどうにか高畑風のおじさんに変身できないかという。
詳しく聞いていったシホとタマモはというと、

「つまりですが、アスナの意気地なしって事でファイナルアンサーって事でよろしいでしょうか? シホ様」
「うーん……聞くだけ聞くと結論だけ述べちゃうとそうなっちゃうわよねー……」

と、シホとタマモはひどいという感じの結論を出していた。

「アスナさんは普段は勇猛果敢な人なのですが、こういうことには慣れていないようでして……アスナさん曰く、『ここで必要な勇気に比べたら化け物相手に暴れる勇気なんてどーってことないよ』らしく……」
「呆れるくらいにこちらの世界に染まってきているわね、アスナも」
「そうですねー。本来はそっちの方が禁忌されるべきはずですのにねぇ」

再度、アスナのヘタレ具合に呆れるシホとタマモ。

「まぁ、そんなわけで、兄貴をうまく変身させられねぇかなってな!」
「なるほど……わかったわ。タマモ、一つ力を貸してあげて」
「え? わたくしでよろしいのですか?」
「私より、【道具作成】のスキルを持つタマモの方が向いているでしょう?」
「そうでしょうが、まぁいいです。でしたら一口シホ様も変身してみますか? わたくしの手にかかれば年齢詐称薬などはもとの物があれば量産は可能ですし」

そんな、何気ないタマモの一言に、他の四人はというと「えっ!?」という顔になっていた。

「アヤメの姉さんも、作れるんっすか!?」
「はいー♪ というわけでとりあえず大人化と子供化の飴玉を一粒ずつ頂きますね」

タマモは青と赤の飴玉を取り出すと、なにやらオーラのようなものを手から発生させる。
これが本来のタマモの……いや、サーヴァント・キャスターとしてのスキルであり、過去に数多もの人を翻弄し騙してきた玉藻の前の本領発揮である。
それからしばらくして、青と赤以外に黄色の飴玉まで量産していっていた。

それを傍目で見ていたネギ達はというと、タマモのそのスキルに驚きの念を感じているばかりであった。

「はい。とりあえずは飲用する際に念じれば可能な限りの姿に変身できるように細工いたしました」
「あ、ありがとうございます……ですが、アヤメさん、あなたはどこでこんなスキルを……?」
「フフフ♪ そこは女の秘密という事で♪」

妖艶に笑みを浮かべるタマモにそれ以上はなぜか聞く気が失せてしまったネギはただただ頷くしかできないでいた。

「まぁ、ネギ先生。一度ここで試してみたらどうですか?」
「あ、はい」

それでネギは赤い飴玉を口に放り込んでみた。
するとすぐに変化が起きてネギは大人の姿には、なったのだが……、

「ど、どうでしょうか……?」
「うん。やっぱりネギ先生の大人というものの想像力が足りていないのか、15、6歳で止まってしまっていますね」

そこにはアスナ達と同年代くらいの少年の姿があった。
それでもこのかには絶賛だったらしく、

「ばぶー!!」
「あぁ、このかもいい加減元に戻りなさいな」

タマモはそう言ってなにやら呪文を唱えると、このかは薬の効果が一瞬で切れたのかもとの姿に戻っていた。

「あ、もとに戻ったなー?」
「お、お嬢様! 早く服を着てください!」

刹那は急いで持ってきていた服を着させている間に、

「しかし、こうしてみると本当にネギ先生はナギの息子なんだなと思いますね」
「そ、そうでしょうか……?」
「はい。悪ガキの成分を抜いたナギって感じがしますね」
「はい。わたくしもシホ様に同意しますねー」

そんな感じで結局は15、6歳くらいで挑むことになったのであった。
ちなみにカモがタマモにある事を聞いていた。

「アヤメの姉さんの力で量産できるとあっちゃめっけもんっすね! 今後も御贔屓にさせてもらってもいいっすか?」
「払うものがあるのでしたらね。原価よりお安くしておきますよ」
「あざっす!……ところで、気になったんすが、その黄色い飴玉はなんの効果があるんすか?」
「ああ、これですか。そうですねー。シホ様、試しに一口試してみてくださいな♪」
「私が? いいけど……」

そう言ってシホは黄色い飴玉を口に含むと変化が起こった。
シホの姿が一瞬で男性になったのだ。
しかもその姿は学生時代の衛宮士郎と言っても過言ではない感じで。

「これは……もしかして性転換薬?」
「はい♪ ついでに赤い飴玉も服用してみてくださいな」
「ええ」

追加で赤い飴玉を食べると、今度は大人化して青年期の士郎な感じになった。ただ肌が白くて髪色も赤のままであるが。
それでも、一時的にでもシホになる前の衛宮士郎の姿に戻れるというのはいいものだとタマモは感じていた。

「ほわー!? このかっこいいお兄さん、シホなんか!」
「シホさん……なぜかとてもかっこいいです」
「僕よりかっこよくありませんか?」
「確かになー。アヤメの姉さん、やるっすね!」
「シホ様、男性になっても素敵です!」

と、五人からそんな感想を頂いて、シホはというと、

「んっん……久しぶりの感覚ね、いや感覚だな」
「久しぶり……? それってどういうことですか? シホさん」
「そうだね……タマモ、もう試験は終わったでしょ? 戻して」
「はい♪」

またタマモが呪文を唱えると効果が切れたのかもとのシホの姿に戻っていた。

「……うん。やっぱりもうこっちの方が完全にしっくりくるのね。微妙な気分だけど、魂がもうシホという殻を受け入れているという証ね」
「そのようですね、シホ様」

シホとタマモがそんな会話をしているが、ネギ達はいまいち理解できなかったのか、

「その……シホさん? どういう事ですか? できれば説明してほしいんですけど……」
「そうね、刹那。今日に学祭後に関係者には私の過去を教えるっていう話はしたわね?」
「はい。もしかして先ほどの姿は……」
「ええ、そう。フライングでネギ先生達には教えるけどあれは私が“この世界”に来る前の性転換する前の本当の姿だったのよ」
「「「「ええっ!?」」」」

そんな衝撃的な告白をされて一同は大声を上げてしまっていた。
しかし、さしずめこの部屋には防音処理がされているために外に響くことはないので安心である。

「そ、その……! シホさんってもとは男性だったんですか!?」
「ええ。訳あって今の姿になったんですが……その件もこの世界に来た時に記憶を失ってしまっていて忘れていたんですよね」
「嘘やん……シホの姿から男性の気配なんて微塵も感じへんのに……」

このかはあまりの事実に開いた口が塞がっていなかった。
シホは苦笑をしつつ、

「まぁ、もう今の私が魂に定着してしまっているのが原因でしょうね」
「そ、それと元の世界と仰いましたが、シホさんは異世界の人なんですか……?」
「ええ。これ以上は今は混乱しそうだからまとめて学祭後に話すわ。刹那達も考える時間が必要でしょう?」
「は、はい……ですが一つだけ。シホさんはなぜ、この世界に……?」

ネギの質問に一瞬シホは寂しそうな顔をしながらも、

「……元の世界に私の居場所はどこにもなくなってしまったから、かしらね……」

どこか憂いのある表情でそう語るシホの顔には哀愁が漂っていた。
それでネギ達はそれ以上は今は聞けそうにないと思った……思ってしまった。
あまりにもシホの表情が悲しそうであったからだ。

「まぁ、とにかく今は私の事は頭の片隅に置いておいてネギ先生は明日のアスナとのデートを楽しんできてください」
「は、はい……」











ネギ達は部屋に帰る際に、

「居場所がなくなってしまったとは……どういうことでしょうか?」

思わずネギは疑問を口に出していた。
それに刹那は、

「シホさんが嘘を言っていることはないでしょう。あの表情は本物でした」
「シホ……とても悲しそうやったなー」
「シホの姉貴の身に一体なにがあったんすかね……?」

ただただ疑問だけが残される形になった。
学園祭が終わるまでは聞けないという事もあり、少なからずネギ達は悶々とする事になるのであった。
ちなみにアスナとのデートは高畑としずなが一緒にいる光景以外は滞りなくできたと感じられたとの事。


 
 

 
後書き
ネギ達にほんの一部分だけシホの過去を知ってもらいました。

そして性別詐称薬を開発してしまいました。 

 

039話 学祭準備編 世界樹伝説

 
前書き
久しぶりにこっそりと更新します。 

 


「昨晩はお楽しみでしたね、シホ様……♪」
「…………」

そんな、ただでさえもう癖になってしまっている片頭痛を起こしそうなタマモの発言で、昨晩は徹夜でお化け屋敷の制作に取り組んでいたシホ含む3-Aは疲弊していた。

なにやらその前日辺りにネギをデートに誘え!という盛り上がりを見せていたが特にシホは関心を示そうとせずに「ネギ先生も大変ね……」とまるで他人事のように見ていた。
ただ、エヴァが楽しそうな笑みを浮かべていたからこれはなにか巻き込まれそうな気配がする……とはシホの低い直観でもある。

まぁ学園祭前日なのだからしょうがないのだが、そんなセリフを聞いてシホは半目になってタマモを呆れた目で見ていた。

「やっ! そんな汚物を見るような視線を浴びせられてはこのタマモ、なにか心の奥から込み上げてくるようなものがございます! でも、それもシホ様の視線であれば悪くないかも!!」
「はいはい……そんな特殊性癖は発芽させないでいいからさっさと世界樹前広場まで向かうわよ?」
「わかりましたー」

なぜ世界樹前広場?という疑問があるであろうが、それは徹夜を開けて一旦解散となって、しかしシホはこれといって部活には入っていない帰宅部の身なのでこのまま手伝いをしようかと思っていた。
……一時期、また弓道部にでも入ろうかと思っていたのだが、自慢ではないがただでさえ今の自身の実力は弓道部になど収まりきらずに変な目で見られてしまうのは確定的事実であろう。
そしてさらにただでさえ『魔弾の射手』などという似合わないあだ名を貰っているのだから今更な感じではある(どこかの探偵の敵である教授がほくそ笑んでいることなどシホにはまったくもって知った事ではない)。
そんな時に仕事用の携帯に着信が入ってきたのだ。
シホはおもむろに出てみると相手は高畑であった。

『姉さん、今大丈夫かい?』
「タカミチ……? どうしたの? 何か用事?」
『うん。学園長から事前に話は聞いていたと思うけど……集会を開くから世界樹前広場まで来てもらってもいいかい?』
「ああ……なるほど。了解したわ。すぐに向かう」

と、そんな会話があったためにシホとタマモもすぐに現場へと向かうのであった。









……そんなこんなで世界樹前広場までやってくると、すでに人払いの結界が設置されているのか不自然に人が少なかった。
その少ない人が魔法の関係者なのだろう。
見れば小太郎や高音・D・グッドマン、佐倉愛衣……そして教師陣は学園長を始め、タカミチ、刀子、瀬流彦、ガンドルフィーニなどの姿もあった。

「お! シホの姉貴! あんたも呼ばれてたんやな」
「ええ。それより……刀子さん、お久しぶりです」
「はい、先輩! 先輩はその後の調子などは大丈夫ですか……?またなにか隠し事はしていないですよね?」
「暗い事は今はないから大丈夫よ。…………それよりなにかしら知っている気配があるのは気のせいかしらねぇ……?」

シホの視線の先にはシスター・シャークティの後ろに隠れている一人のシスターの姿。
小声で「やべっ……」と声を出していたのをシホは吸血鬼の耳で聞こえていたために、

「まさか、あなたも関係者だったなんてね……ねぇ? 美空?」
「うひぃ!? 許してエミヤン!」

とうとう観念したのか美空も顔を出してきた。
そこにシャークティが、

「すみません、シホさん……この子には後でシホさんなどの話を聞かせておきます」
「わかりました」

そんなどこか和やかな空気が続いている中で、

「うむ。調子はよさそうじゃの、シホ殿」
「学園長。はい、最近は自身でも驚くほど安定していますね」
「それはなによりじゃ。ところで……なにやらエヴァがお主を従者にしたとか自慢げに話してきたのじゃが、本当かの……?」

そんな学園長の話に一瞬ざわめく一同。
さもありなん。エヴァがシホの事を引き取ったのは関係者には知られている事ではあるが、まさか仮契約するなどさすがに見過ごせない感じである。
しかしシホもそんな様々な思惑ある視線に気にせずに、

「ええ、まぁ……油断した隙に契約させられてしまいまして。手に入れたのがこれです」

素直に白状してパクティオーカードを提示するシホ。
そんなどこかあっけらかんな感じで出されたために一同も気が抜けたのか、

「普通は隠すところではないですか、先輩……? しかしあの吸血鬼め! よくも先輩の唇を!!」
「まぁまぁ……別に取って食われるわけではないですし、自由にしていいとも言われていますので特に気にはしませんかね。使える手も増えたわけですし……」
「と、いうと……シホ殿のパクティオーカードはかなりのものなのかの?」
「はい。なんか超希少なものらしいんですけど……『贋作の王』というものです」
「「「「「な、なんだってーーーーーー!!!!?」」」」」

そんな周りの反応についシホはビクッと震えてしまった。
そこまでのものなのかと言う感じで。

「なんと……! ウルトラレアである『贋作の王』を手にするとは……シホ殿も運が良いの」
「そうなんですか……?」
「うむ。オークションにでも出せば史上最高額を出すのもわけない代物じゃ。なにせ仮契約者の数だけ能力を無限に増やしていけるというものじゃからな」
「やっぱりそうなんですねー……シホ様、素晴らしいです」

タマモがご主人の事を褒められたのかシホの事を絶賛していた。

「で、でしたら……シホさん! 私のアーティファクト『オソウジダイスキ』を登録しませんか!?」
「愛衣!? いいのですか!?」
「はい! シホさんならきっと有効に使ってくれると思いますから」

そんな愛衣の申し出に、さすがに断ることもないだろうと思い、

「それじゃ……『登録』」

カードを合わせた瞬間、光り輝いてシホのカードに愛衣のカードが追加された。

「ありがとね、愛衣ちゃん」
「はい!」

そこにシャークティも歩いてきて、

「でしたら、シホさん。美空のカードもどうですか?」
「美空も持っているの?」
「うっ……ま、まぁ」

恥ずかしそうにカードを出す美空。

「ですが、いいんですか? 愛衣ちゃんのを貰った後に言うのもなんですが仮にもエヴァとの契約のものなのに、こんなに簡単に差し出してくれるなんて……」
「構いません。この場にいるものはほとんどがシホさんの事を知っていて、悪用しないと信じていますから」
「なにか、重たいですね……まぁ悪用はしないと誓っておきます」
「なら、いいではないですか」
「わかりました。美空、いいわね?」
「ええい! 持ってけドロボー!」

自棄になったのかさっさと登録しろと言わんばかりに差し出してくる美空。
苦笑しつつもカード同士を合わせて『登録』と唱えるシホ。
こうして美空のカードの能力も手に入れたシホなのであった。





こうしてなんとか場も落ち着いてきたのでシホは学園長に尋ねた。

「それで学園長。本日はどのような事を……?」
「うむ。その件なのじゃがまだ来ていないネギくん達が来てから話そうと思う」
「ネギ先生も……? まぁ呼んでいますよね」

しばらくするとネギと、そして刹那の二人が世界樹前広場までやってきた。

「ネギ君、待っとったぞ」
「あ、あの……学園長、この人達は……? シホさんにアヤメさんや小太郎君もいる……」
「うむ。ここにいる者達は麻帆良学園に散らばっている魔法先生、および生徒達じゃ」
「えーーーー!?」

ネギの大声を皮切りに、挨拶を交わしていく一同。
刹那も知らなかったようで見るからに驚いている顔をしていた。

しばらくして場が落ち着いたのを見計らって学園長が本日の話し合いの議題を話す。


―――曰く、生徒の間で噂で持ち切りの『世界樹伝説』。
これはまさに本当の事で22年に一度の周期で告白という限定で願いを叶えてしまうというもの。

その話を聞いてシホはすぐにあるものを連想した。
そう、聖杯戦争にシステムが似ていると……。
しかも性質が悪い事に告白した人はその世界樹の魔力もあってか告白成就率は120%。
まさに呪い級の代物だという。

ネギが言う。

「恋人になれるならいいんじゃないですか?」
「とんでもない。人の心を永久的に操ってしまうなど魔法使いの本義に反する。好きでもない人と恋人になりたくないじゃろ?」

それを聞いてなにかしらショックを受けているネギをよそにシホは確かに、と思っていた。

「(告白限定とはいえ、願いを叶えてしまうなんて……聖杯みたいに汚れていないだけいいとしても性質が悪すぎる……絶対に阻止しないとね)」

シホはもうすでに協力する気でいた。
そんな時にシホの耳にある起動音が聞こえて来た。
そして即座に黒鍵を投影してその場所へと正確に放った。
遅れて神多羅木も無詠唱の魔法を放っていたがシホには及ばなかった。
黒鍵が突き刺さって遅れて魔法が炸裂してなにかしらの機械が粉々に砕け散る。

「学園長……視られていたみたいです」
「そのようじゃの」

ふと、シホは視線を横に向けるとなぜかさよもその場で聞いており、なにをしているのかと頭を悩ませるシホであった。
まぁ、いいかと思うシホをよそに話は進められていき、

「さて……たかが告白と思うなかれ! コトは生徒達の青春に関わる大問題じゃ。但し魔法の使用に当たってはくれぐれも慎重に! よろしく頼むぞ!! 以上解散!!」

その言葉を合図に人払いが解けたのか一気に人が集まってくる。
愛衣などは先ほどの機械の持ち主を追ったらしいがシホはそれよりさよに関して何故いたのかと聞こうと感じていた。

「シホさんにアヤメさんはこの後はどうしますか?」

そんな時に刹那がそう話しかけてきた。

「そうね……特に今は用もないことだしタマモと二人で市場を周っているわ」
「わかりました。それではまた後程」
「シホさん、またあとで」
「シホ姉さん、またな」
「姉貴、後で修行を手伝ってな」

そんな感じでネギ、カモ、刹那、小太郎達と別れたシホ。
個人的にもタマモとも話をしておきたいと思っていたのでちょうどいいという感じである。

「それで、タマモはさっきの話を聞いてどう思った……?」
「どうと申しますと、やはり聖杯戦争のシステムに似ているという感じでしょうか?」
「よかった。タマモも同じ感想だったのね」
「はい。願いを叶える……しかも告白限定と来ました。わたくしと致しましてはぜひ阻止したい案件ですね」

目がスッと鋭くなるタマモ。
自身の過去を振り返る時によく見せる目であり、シホとしてもあまり見たくないタマモの一面である。

「呪い級だから、絶対に阻止しましょう」
「はい。シホ様の仰せのままに……」

真面目なやり取りをしている時に、今度は個人用の携帯に着信が入ってきて画面を見るとなんとそこにはあの衛宮家族の家の番号でありシホは即座に電話に出る。

『あ、シホさんかい?』
「切嗣、さん……」

電話の相手は切嗣であったのだ。
それで思わず記憶も思い出せた事もあり涙腺が緩みそうになるシホ。

『ん? どうしたんだい? なにか泣きそうな声であるけど……』
「…………、いえ。大丈夫です。それでどうしたんですか?」
『うん。今新幹線内で掛けているんだけど明日には麻帆良に到着すると思うんだ。士郎やイリヤとアイリも来ている。だから学園祭ではシホさんに案内でもと思ってね……大丈夫かい?』
「はい! 大丈夫です。任せてください」
『そうか、よかったよ。士郎とイリヤも会いたがっているから明日はよろしく頼む』
「任せてください」
『それじゃ待ち合わせ場所は―――……』

そんな感じで打ち合わせもして、通話は終了した。

「シホ様? 大丈夫ですか……?」
「うん……精一杯持て成そうね」
「はい!」

こうしてシホの予定も計らずして決まった瞬間であった。


 
 

 
後書き
次から学園再編に入りますね。いつになるか分かりませんが……。 

 

040話 学園祭編 衛宮家族との団欒

 
前書き
ひっさびさに更新します。 

 
学園祭が始まり観客がまるで遊園地かという感じで押し寄せてきてまるでパレードの様相を呈している中で、一つの家族が笑顔を浮かべながら歩いていた。

「なぁなぁ父さん! シホ姉ちゃんの出し物はどこかな!?」
「ははは。このマップを見るとどうやらお化け屋敷のようだね?」
「お化け!? い、イリヤ怖くないもんっ!! そうよねお母様!?」
「あらあら。イリヤったらやせ我慢はするものじゃないわよ?」
「お母様ー!?」

と、団欒めいていた。
そう、衛宮家族御一行である。
もしシホが今の記憶を思い出している状態でこの光景を見ていたら感涙に咽っている事であろう。それほどに幸せそうなのである。
そんな感じで校内に入っていく四人。
見れば最後尾の看板を持っているお客はかなり後のようで四人も早く並ばないとと列に入っていった。

「すげー……人気なんだなー」
「そうね。イリヤ楽しみね」
「そ、そうね……シロウはどうなのよ?」
「ん? 別に。出し物なんだから楽しんだもん勝ちだろ?」
「シロウのくせに生意気ね……」
「イリヤねえの方が怯えすぎなんだって」
「い、言ったわねー!?」

と、子供二人はそれはそれは騒いでいた。
それを見る切嗣とアイリも優しそうな目で見守っている。






そして待機列が空いてきてようやくシロウ達の番まで回ってきて、数分後……。




出口から出てきた士郎とイリヤはそれはもう青い顔になっていた。

「あ、あの頭が長い人の人形は迫真だったわね……」
「そ、それよりも全力で逃げたはずなのにどこまでも追ってくる姉ちゃん達……いったいどうやって……」

という感じにすっかりお化け屋敷を別の意味で楽しんでいたのであった。
切嗣も切嗣でなかなかすごい技術が使われている事を見抜いて鋭い視線を各所に向けていたのだが、まぁシホの解析の能力がない限りは分析は不可能であろう(超製であるために)。
すると出口の方からシホが四人の前まで歩いてきて、

「シロウにイリヤ。二人とも楽しめた?」
「あっ! シホ姉ちゃん!」
「シホお姉ちゃん!」
「わっ!」

二人は先ほどの怯えようから嘘のように笑顔になってシホに抱き着いた。
たった一晩きりの宿泊であったのにこれなのだからかなり懐かれた方だろう。

「や。シホさん、久しぶりだね」
「あ、じーさん……じゃなくって、切嗣さんにアイリさんもお久しぶりです」
「(おや……?)」
「(あら……?)」

切嗣とアイリはそのシホの反応になにかの違和感を感じた。
そして切嗣を見た瞬間のまるで愛おしい人と再会できた時に出すみたいな表情になったのを見て、そして『じーさん』と切嗣の事を呼び間違えたのを聞いて、シホの事情を知っている二人はなにかの確信に至るにはそう難しい問題じゃなかった。
その証拠にそんなシホの眩しい表情を横で初めて見たのだろう、裕奈と桜子の二人はというと、

「(やっべ! なんかエミヤンの新しい一面を見れた気がすんだけど!? よだれ出そう……)」
「(すっごい嬉しそうな表情をしていたにぇー。もし朝倉がいたらすぐさま写真に収めていたよー。見れてラッキー☆)」

と、かなり好評であった。
それほど普段からあまり笑わないイメージが定着しているシホなのであった。
そしてシホの隣にいたタマモはというとそれはもう至福の表情で今にも鼻血でも出すんじゃないかと言わんばかりに恍惚の笑みを浮かべていた。

「(うん……アヤメさんはいつも通りだね)」
「(シホやんのある意味保護者だからねー)」

と、タマモに関しても残念なイメージが定着しているのをもしタマモ本人が知ったら、『それはそれで……』と納得もしそうだと思う二人であった。

「あ、裕奈。私とタマモは今から抜けるけど大丈夫……?」
「うん。大丈夫だよー。いいものも見れたしねー」
「その人達の案内なんでしょ? いってらー」

妙に物分かりがいいな?と思うシホ。
一回自分の表情を鏡で確かめた方がいいと言われても首を傾げるであろう。
まぁその手段はシホには使えないのだが……。
忘れそうになるであろうがシホは吸血鬼のために鏡には姿は映らないのだから。
だからいつも髪のセットなどその他はタマモに任せているというのは関係者には知られている話。

「それじゃ、行きましょう」

そんな感じですぐに出る事に成功したシホ達であった。
実際、今のシホの格好はブラックジョークかと知っている人が見たら言うであろう吸血鬼の格好に背中の方には取り付けてある悪魔の翼という容姿である(具体的にいえば某空の旅の吸血鬼みたいなイメージ)。
ちなみにタマモは普段は変化で隠している狐耳と尻尾を仮装だと言い張って出してしまっている。見る人から見れば冷え冷えものだろう。
さらにはそんな学園では可愛い事で有名であるシホ(懐かしい話だが今年の春頃までは車椅子で暮らしていたから儚いイメージが定着しているために、護らねば!という女子が多い)がとても似ている顔をしているアイリとイリヤの二人と並んで歩いている姿を見かけた人達は、もしかして家族かな!?と思ってしまうのは自然な流れでもあった。






そんなシホ一行が歩いている中で、影の方でその光景を見守っている一団があった。
その一行とはネギ、カモ、アスナ、このか、刹那のいつもの五名であった。
なぜこの五名が仕事もしないでシホ達を尾行できているのかというと、自分達の出し物や仕事はすでに『前の』自分達にぶん投げてきたからである。
なにを隠そう、ネギは現在は超からもらったカシオペアで時間旅行を繰り返しており、ネギが悩んでいた生徒達の出し物をほぼすべて消化して後は二日目までエヴァの別荘で寝ていようという魂胆だったのだが、アスナの一言、

「……そういえば、『まほら武道会』でシホとは会ったけど、それまではどこでなにをしていたんだろう……?」

という呟き。
その一言にネギは普段から大変お世話になっているシホの事も気になったために、もう後は寝るだけであったが無理してもう一回カシオペアを使ったのであった。
さらに言えばもう各所で複数いるネギ達と遭遇するかもしれないという不安感なのかお忍びで変装をして付いて行っているのであった。
まぁ不安な気持ちも分からなくもないが、数回に及ぶタイムトラベルで一回ももう一人の自分達と遭遇しなかったのだからそこらへんは保証はしていいだろう。

「わぁ! シホ、とっても嬉しそうやね」
「そうですねお嬢様。まるで本当の家族かのようです」
「なんかあの家族とは関係がありそうっすね。シホの姉貴とそっくりの容姿っす」
「そうだねカモくん。アスナさんはどう思います?…………アスナさん?」

ネギがアスナの方を向くとなぜか無言で口を押さえて涙を浮かべていた。

「シホが……シホが……あんなに普通に笑顔を浮かべている……これって、もしかして夢……?」
「姐さん姐さん……これ現実っす」
「わかってるわよ!」

アスナの気持ちが分からなくもない一同であった。
シホもシホで気持ちが上ずっているのか普段なら気づきそうな気配を気づかないでいるほどに今がある意味で幸せなのだろう。
エミヤのように同族嫌悪も士郎には感じられないので気兼ねなく過ごせている。





それからシホは衛宮家族を連れてとある場所までやってきて、

「それじゃ少し待っていてください。先に仕事をしないとですから」
「仕事って……物騒だね。なにか手伝おうかい?」
「お気持ちだけもらっておきます。タマモ、付いていてあげてね?」
「わかりました。シホ様」
「それじゃ……」

瞬間、シホは瞬間移動でもしたかのように消えて高台まで移動していた。

「(速い!? 今の目で追えた? 刹那さん)」
「(い、いえ……わたしも無理でした)」
「(せっちゃんも無理ならうちらは無理やね)」

高台まで登ったシホはドランシーバーを片手に持ちながら、

「いた……」

そして構えるのはかなり物騒である弓。
これはさすがにどうなのだろうと、前の時間でネギは龍宮の仕事ぶりを思い出しながらも思っていた。

「(龍宮隊長みたいだね)」

それを見ていたネギ達はさらに驚く光景を目にする。
矢の先にはおそらくなにかの粉末なのだろう、それを番えて構えてまるで神速かのごとく決まった方角へと数発放つ。すぐさま投影して次弾を構える。
その、龍宮よりもはるかに早いリロード力に改めて弓に関しては誰も敵わないだろう実力を発揮していた。
見れば各所で粉塵が舞っていておそらく告白生徒達がエリア外に逃げていく光景が見られる。

「(the・仕事人みたいやね)」
「(被害がそんなにない分、龍宮よりはやり手ですね。さすがシホさん)」
「(魔弾の射手の腕の見せ所っすね)」
「(やっぱシホにはどんな事をしても敵いそうにないわね……)」
「(そうですねアスナさん。あ!シホさんがいきなり駆けだしました!)」

見ればまるで無表情のシホがその手に複数の赤い布を持っていた。
そして言霊を呟く……。


『―――私に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

と……。

次の瞬間には告白しようとした複数の男子を布がまるで生きているかのように動いて拘束して、ドップラー効果を残しながら瞬動術でエリア外まで連れ去られるというトンデモ光景を目の当たりにして、ネギ達は顔を青くしていた。

「(いまの、なに……?)」
「(おそらくなにかの聖句なのでしょうか……意味はわかりませんでした……)」
「(シホ、平気やろか? なんか体から煙を出しとったよ?)」
「(えっ!?)」

その通り。
シホはマグダラの聖骸布によって手が焼けていたのである。
瞬間再生できるから気にはしていないというのは後のシホ談ではあるが、それでも聖なる物なので邪なるシホにはかなりの激痛が伴うはずなのだが、そこはほら、もう聖なるものによっての激痛に関しての耐性は開発されきってしまっているために『少しヒリヒリする』程度なのである。

その、なんでも使用するシホにアスナはある意味で悲しんでいた。

「(やっぱりシホ……どこか壊れちゃっているのかな……あんなものを普通に使っちゃうあたり……)」
「「「「…………」」」」

ネギ達はアスナのその言葉になにも反応できずにいた。
同じ気持であったから。









それからシホの仕事も終わり、後は短い時間を切嗣達と過ごそうと色々な場所を案内している光景が見られた。
タマモはそれをとても慈しみのこもった表情で見守っていて、士郎やイリヤもいろんなアトラクションを体験していてとても楽しそうである。
今は二人でアイスを食べているところだ。

シホも一息ついたのか切嗣とアイリが座るテーブルの椅子に腰を掛ける。

「お疲れ様、シホさん。おかげで二人ともとても楽しそうだったよ」
「ええ。ありがとね。シホさん」
「はい。それを聞けて安心しました」

シホも笑みを浮かべていたが、アイリが飲んでいた飲み物をテーブルに置いてカランと氷の音を響かせながらも、真面目な顔になってシホを見つめる。
見れば切嗣もシホの事をじっと見ていた。
それにシホは少し動揺しながらも、

「ど、どうしましたか……?」
「シホさん、一ついいかな?」
「なんでしょうか……?」
「もしかしてだけど、この世界に来る前の記憶を思い出したのかい?」
「ッ!!」

シホはいつかは気づかれるだろうと思っていたがまさかこのタイミングで聞かれるとは思っていなかったので目に動揺が走る。

「いつ、から……?」
「僕の事を『じーさん』って間違えて呼んだ時かな?」
「そうです、か……タマモ、少し二人の事を見ていて? 大事な話をするから」
「わかりました……シホ様、ご無理だけはしないでくださいましね?」

タマモはそれで士郎達の方へと歩いて行った。
それから少しの間、シホと切嗣にアイリの三人の間でシホの過去の事が話し合われていた。
切嗣とアイリはシホの思い出話を聞くたびに苦そうな表情に何度もなる。
なにより、シホが元の世界では切嗣とはまったくの他人で憔悴した切嗣が養子として引き取ったという話になった時にはアイリですら言葉を詰まらせていた。

「私は……後に切嗣が参加した聖杯戦争で何もかも失ったのを知って言葉がありませんでした」
「そっちの僕は、それからどうなったんだい……?」
「私を引き取って五年後に…………」

これ以上はシホは語らなかった。
それでも察してしまったのだろう、さらに苦い表情になりながら「そうか……」と言葉を落とした。

「…………―――私は、この世界がとても今は尊くて好きです。私自身はこの世界に来て辛い思いもしてきましたが、それでも切嗣が幸せに生きていてくれている……イリヤも短命ではなく普通に成長して暮らしていけている……なにより、どんな数奇なめぐり合わせなのかまったく関係のない私がアイリさんから生まれてきてしかも『士郎』と名付けられている……運命を感じずにはいられません。私には、とても眩しいです……」

そう、遠くの日が落ちて紅くなってきていた空を見ながら語るシホの横顔にアイリは思わずシホの事を涙を流しながら抱きしめていた……。

「そんな悲しい事を言わないで……。どんな事があっても、たとえ血が繋がっていなくても、世界が違っていても私達は絆で結ばれた家族なのよ……?」
「ありがとうございます……」

アイリの手を優しく握りながらシホも一筋の涙を流した。

「シホさん……いや、シホ。もしよかったらこの学校を卒業したら家に来ないかい? いつでも歓迎するよ」
「ありがとうございます。でも、私は不死です……。一か所にはいつまでもいられません」
「しかし……ッ!」
「でも、気持ちだけはしっかりと受け取っておきます。大丈夫です。いつでも会いに行けますから……」

そう言ってニコッと笑うシホは、それでも儚いと切嗣とアイリは感じずにはいられなかった。








それを遠くで聞いていたネギ達はもう無言で涙を流していた。
そんな時であった。
背後から「ひっそりと聞いていた人達はだれですかね~?」という魅惑の声量に思わず振り返るネギ達。
そこには士郎達と相手をしているはずのタマモがいた。

「アヤメさん……どうして?」
「身代わりを用意するくらいわたくしには容易いです。それよりなにか言う事があるんじゃないでしょうか……?」

その言葉に五人は素直に謝った。
それからタマモは言う。

「シホ様はいつかあなた方に過去を教えるといいますからわたくしは何も言いませんが、搔い摘んだ程度でもシホ様は不幸な道を歩みながらも、それでも幸せを掴もうと努力しています。ですからこの世界に来る前だとか、もとは男性だっただとか、そんな些細な事など気にせずにこれからもシホ様と接してくださるとわたくしめは嬉しく思います……」

タマモはそれを言い切るとまたシホの方を尊い表情で見ながら、

「だって、今この瞬間、シホ様は確かに幸運に恵まれているのですから……」

ネギ達もそれで今一度シホの表情を見る。
今まで見てきたどの表情よりも儚くも、嬉しそうであったから……。







そして場所はまほら武道会へと移っていく。


 
 

 
後書き
わぁ……最近執筆意欲がかなり落ち気味ですが、なんとか書けましたがちゃんと書けているか不安です。
最近はパソコンの前に座ってもインスピレーションが湧かない事が多くなってきていてこんなにてこずって遅くなってしまいましたから。


まぁ、愚痴はいいとして感想をお待ちしています。 

 

041話 学園祭編 まほら武闘会

 
前書き
凍結したと言ったな?嘘ではないが解凍したよ……。気まぐれな私を笑うがイイサ。 

 


シホ達は一旦落ち着いたところで夜はどうしようかという話になっていた。

「シホ。これからどうするんだい? 僕達はもう少し屋台などを周りたいとは思っているんだけどね」
「そうですね……」

切嗣にそう聞かれてシホは悩んでいた。
特段シホとタマモもこれと言ってもう本日の用はないに等しい。
ちなみに、すでにネギ達はシホにバレない様に雲隠れしていた。

「シホ様、でしたらなにやらきな臭い話である『まほら武闘会』を見てみるのもいかがではないでしょうか?」
「まほら武闘会かぁ……でも、なんか弱小なサークルの大会なんでしょう?」
「そうですね。ですが賞金は10万は貰えるそうですからシホ様なら楽勝ではないかと……」
「出るとは言っていないし、エントリーもしていないからね?」

それでもシホは暇つぶしにはいいかもしれないと思っていた時であった。
脳内に念話が響いてきたのは。

『シホ……今大丈夫か?』
「エヴァ……?」

それでシホも仮契約カードを取り出して通話を試みてみる。

『どうしたの? たまにしか使わない機能なのに……』
『まぁそう言うな。なにやら面白い大会が開かれそうなんで貴様にも声を掛けておこうと思ってな』
『それって……ネギ先生も出るとかいうまほら武闘会?』
『ああ。それで間違いない』
『でも、そんなでかい大会じゃないんじゃない?』

そこまで話をするとエヴァが念話越しに含み笑いをしながらも、

『本当ならそうだったんだがな、なにやらあの超鈴音が複数の大会をM&Aして一つの大会にして開くそうだ』
『超さんが……?』
『お前としては気になるのではないか? あの超鈴音の悪だくみが分かるかもしれないのだぞ?どうする、シホ……』

今まであまり関心がなかったシホであったが、超の名が出た途端、一気にきな臭い雰囲気が増したのを感じたシホは、

『…………、わかった。私達もこれから顔を出しに行くわ』
『そうこなくてはな。楽しみにしているぞシホ。もしやしたらお前とも戦えるやもしれんからな。あ、場所は龍宮神社だからな』

そう言ってエヴァとの念話は切れたのであった。
それでシホもこれからの方針が決まったのを合図に仮契約カードをしまい、

「気が変わりました。まほら武闘会に行ってみましょう」
「え!? シホ姉ちゃん、大会に出るのか!?」
「わー! 面白そう!」

士郎とイリヤがそれで楽しそうに話している。
尊敬しているシホがもしかしたら活躍するかもしれない、それだけで二人の子供心は沸き立っている。
そんな二人の視線に思わずシホはというと、

「(そんな視線で見られたら今更出ないだなんて言えないじゃない……)」

と、思っていた。
そこにアイリが話しかけてくる。

「シホさん。でもなんか私、嫌な予感がするのだけど……」
「アイリ。きっとその思いは間違いじゃないと思うよ? もしかしたら噂に聞く“あの”まほら武闘会だったら昔はいいけどインターネットが発達している昨今じゃ厳しいかもしれないからね」
「切嗣さんはまほら武闘会についてなにか知っているんですか?」
「まぁね。僕も噂でしか聞いたことはないけど、なんでも25年前までは裏世界の住民がこぞって参加していたらしいからね。
それに、シホにも関係してくるけどあのナギ・スプリングフィールドも25年前に参加していて優勝しているらしいからね」
「あのナギが……」
「初耳な話ですね、シホ様……」

そんな話は初めて聞いたのでまだまだナギの事を知らない事が多かったんだなとシホは感じていた。
とにかくシホ達はそれで龍宮神社まで向かうことにしたのだが、到着してみたらそれはもうたくさんの人が集まっていた。
見れば格闘家とわかるような恰好をした人が複数いた。
そしてその中にはよく見ればネギや小太郎、他にも3-Aの戦闘に長けている猛者達もほとんどがいた。

「わー! なんかすげー光景だな! 天下一武闘会でも開くのかな!?」

士郎がそれで興奮しまくっていた。
それとは別としてネギ達がシホの姿に気づいたのか近くに寄ってきた。

「あ、シホさん。シホさんも見学に来たんですか?」
「はい。ネギ先生達も……?」
「そうなんですよね」

シホとネギが呑気に会話をしているが、タマモはタマモでアスナ達に話しかけていた。

「アスナに刹那さん達は先ほどぶりですね~」
「「えっ……?」」
「(ん……?)」

アスナ達のそんな反応にタマモは内心で首を傾げた。
反応からして先ほどの事で気を遣ってくるというのを予想していただけになにも知らなそうなそんな表情に思わず疑惑が深まる。

「その、アヤメさん、先ほどとは……?」
「ですから、先ほどまでわたくし達を尾行していましたよね?」
「えっ!? そうなの!?――――あー……もしかして、また使ったのかな……?」
「恐らくですが……」

アスナと刹那は二人だけが分かるそんな会話をしているが、タマモはいまいち要領を得ていないために、二人に近寄っていく。

「……なにやら訳ありみたいのようですね……そこのところを後で詳しく教えてくださいましね?」
「「は、はい……」」
「それに、話的にもしかしたらわたくし達と一緒にいる人達の事は知らなそうですしね」

タマモの推測は、果たして当たっていたようだ。
アスナと刹那はイリヤとアイリの姿を目に入れて驚きの顔をしていた。

「シホに、似ている……」
「そうですね……」
「なるほど……(これは時渡りの術かなにかですかね……にわかには信じられませんが……)」

タマモはそれでもう事情はなんとなく察したのか、これ以上は触れない様にすることにした。
触らぬ神に祟りなし、藪をつついたら痛い目を見る。






そして、一千万という賞金を前に各々が騒ぎ出している中で、シホはエヴァと話し合っていた。

「つまらん児戯だが、シホ、貴様はどうするのだ? お前としてもこの大会の根底を知りたいところなのだろう?」
「そうねぇ……でも、私が出てもバランスブレイカーのような気がしているから見学でもいいかなって思っているけど……」

それで視線を切嗣達に向けて、エヴァも視線の先にすぐに気づいたのか一瞬ではあるが驚きの表情をしたが、すぐに納得したのか、

「…………なるほど。この世界でのシホの家族共か。なかなかに面白い光景ではないか」
「まぁ、変な神の悪戯には感謝しかない出会いなんだけどね」
「ふむ……。そしてあの小僧どもにはかっこ悪いところは見せられないというところか」
「そんな感じ。予選でもカッコいいところとかは見せておきたいけど、本選ではどうしようかって感じで……」

それで悩むシホ。
シホの言う通り、バランスブレイカー……言いえて妙である。
エヴァのように力を封印されていないから尚更に。

「ま、精々悩め。そんなに時間もないだろうがな」

見れば会場には超の姿があり、説明時に呪文の詠唱は禁止などと結構すれすれな事を宣っていた。

「あんなことを言ってるんだから怪しさ全開だし、超さん」
「そうだな。まぁ、私には知った事ではない話だがな。バレるならバレるで結構。環境が変わればその世界で適応していけばよい事だしな」
「その意見には半分同意するけど、でもまだこの世界には魔法がバレるのは時期尚早だと思うし……」
「そうだが……適当にすごしていればおのずと変わっていくものだぞ?」

そんな会話をしていると、ネギもエヴァの姿を確認したのか、

「ふふふ……私の事を忘れているんじゃないか? ん、ぼーや」
「ま、師匠(マスター)ッ!?」

そして内容的にデートのような会話が成されている。
私に負ければ最終日は付き合ってもらうとかなんとか。

「お、そうだ。こういう場では私の従者であるシホも参加させないといかんな!」
「ちょ……まだ出るとは……」

シホがまだ出るか決めていないが、そこで追い打ちの様にタカミチが現れて、

「ネギ君達に……それにシホ姉さんも出るのなら僕も出ようかな?」
「タカミチ……本気?」
「そのつもりだけど……運よく当たったらシホ姉さんに僕の集大成を見せたいし」
「こんな本気も出せない大会でー……?」
「そこはほら。臨機応変にしないとね」
「言うようになったわね、タカミチ」

シホとタカミチのそんな会話に引きずられたのかアスナとかも参加するとかいう始末でシホはまだ士郎達の憧れの視線が自身に注がれているのを無視できないために、

「はぁー……わかったわよ。出ればいいんでしょ出れば……」

大量にでかいため息を吐きながら、いつもの片頭痛が起きたかのように頭を抑えながらだるそうげにそう答えたシホであった。

「シホさんも出るんですか!?」
「そんな話になってしまったようでして……ネギ先生、もしもの時はお覚悟を」
「ひ、ひえー……」

それであの弟子入りテストの時を思い出したのかシホの胸を貫いた方の手が微妙に震えているネギである。
だが、そんな弱気なネギの心境のところで、超が追加でとある情報を与えた。





曰く、――――25年前のこの大会の優勝者は『ナギ・スプリングフィールド』と名乗る10歳の子供だと。




それを聞いたとたんにネギの表情が一気に引き締まった。
その変化を見て、

(やはり、父の名が出ると表情が変わるのね。ネギ先生……)

そんな事を思うシホの姿があり、それならと思い、

「では、ネギ先生。先ほども言いましたがもしもの時はお願いしますね」
「はい! あの時より鍛えた僕を見せます!」

先ほどまでの弱気な反応などすでになく、戦うものの顔になっていたためにシホも幾分やる気になっていた。
そしてそのまま会場の中へと入っていくシホ達。
応援席では士郎達とタマモが一緒にいて、

「シホ姉ちゃん! 頑張れー!」
「シホお姉ちゃん、頑張ってー!」
「シホ様、応援しておりますね!」

と、すでに観戦する気満々だったためにシホはやんわりと手を振りながら応えていた。
ふと、視線を会場一体に向けて見れば、ネギが参戦しているグループの中にフード姿のアルの姿を確認できたシホはというと、

(アルもなにやらモノ用みたいね……波乱に満ちているわねこの大会。まるで小同窓会みたいで……)

そしてすでに予選は始まっているようであちこちで戦闘が開始されている。
そんな中でシホのグループにはなぜか愛衣の姿があったために、

「愛衣ちゃんもこの大会に何か用があるの……?」
「はい。超さんの監視も含めて出場しています。それより……シホさん、その……その仮装のまま出ていますと可愛いですけど、冗談でもある意味怖いですよ?」
「あっ……」

そういえばとシホもそこでやっと気づく。
自身の衣装は可愛い吸血鬼の仮装のままだったのだ。
朝倉もそこは外さないかったのかタイミング悪く、

『そしてなぜか可愛い吸血鬼の衣装の女の子が紛れ込んでいる!違う舞台のゴシック衣装の少女とともこの子の詳細はいかほどに!?』

と、すでに会場を盛り上げていたために、

「…………朝倉、あとで絞める」

そう決意しつつ、

「愛衣ちゃんはちょっと下がっていて。片付けるから」
「わ、わかりました……」

そして愛衣が下がったのを皮切りに精神集中したシホはというと、一瞬でその場から姿を消したかと思ったら舞台上にはすでに愛衣とシホ以外の選手達はすでに白目を剥いて伸びていた。
その一瞬の出来事によって会場はどよめきとともにシホに注目が集まる事になっていた。
観戦していた千雨はというと、

「(な、なんだ!? あいつもなんか実力者だったのか!?常識者の仲間だと思ったのに……)」

と、裏切られたような心境だったという。

『おおっと!? なんだこの早い幕切れは!? あの少女は一体!? っていうか、エミヤーン。少しは加減しようよー!?』

そんな朝倉の実況など気にせずにシホはそうそうに舞台を出ていくのであった。
舞台を出た後に愛衣に話しかけられて、

「その、シホさん……やっぱりすごい実力ですね」
「まぁ……少し頭に血が昇っていたのもあるね、反省……」

頭を抑えつつこれからどうしようという感じのシホが出来上がっていた。
それで他の舞台も粗方終わったのかトーナメント表が発表される。





Aブロック

一回戦目  佐倉愛衣  vs 村上小太郎

二回戦目  シホ・E・シュバインオーグ  vs クーネル・サンダース

三回戦目  長瀬楓  vs 中村達也

四回戦目  龍宮真名  vs 古菲

 

Bブロック

五回戦目  田中        vs 高音・D・グッドマン

六回戦目  タカミチ・T・高畑 vs ネギ・スプリングフィールド

七回戦目  神楽坂明日菜    vs 桜咲刹那

八回戦目  エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル  vs 山下慶一




そんなトーナメント表を見て、シホは思わず苦い顔になった。
エヴァとやるならまだしもまさかのクーネル……いや、アルとの戦いとなったからだ。
そんな、少しやりにくそうな相手となった事をまだ知らないエヴァはというと、

「ふっ……シホ、貴様とは別の方になったな。これでAブロックは決まったようなものではないか」
「普通ならそう思うよね、普通なら……」
「ど、どうした? その腑抜けたような顔は……?」
「エヴァもそのうち気づくんじゃない……?」

そんなどこか投げやりなシホの言葉にエヴァは頭を悩ます事になるが、翌日には気づくだろうとシホは思いつつ、

「(超さん……この大会の不安要素同士をぶつけてきたわね。やり手だね)」

と感じ取っていた。
 
 

 
後書き
エヴァとぶつけるのも考えたんですが、こうなりました。 

 

042話 学園祭編 隠し事がバレるとの事

 
前書き
更新します。
今日からFGOで虚数大海戦イマジナリ・スクランブルが迫ってますし、艦これの雪風改二や秋イベも着々と迫ってきてますから、先日に書いて予約更新しないと次はいつ書ける事か…!
UQ HOLDER!も新刊昨日きたけど、黒幕はバアルじゃなくて並行世界を複数同時観測できて干渉も自由自在とか言う型月世界の第二魔法に喧嘩売りまくっている能力を持つダーナだろ!? 

 


今現在、エヴァの別荘ではアスナ、刹那、このかの三名が水着を着て遊んでいて、ネギは先日の色々とあった件に関してお疲れのためにぐっすりと眠りについていた。
そしてここに初めて来たのだろう、小太郎はというと感動でもしているのか、というか今までネギはここで修行をしまくっていたのかという事実を知りショックと怒りとずるい!という感情を覚えていたとか。

そんなネギ達の光景を料理を作りながら見ていたシホはというと、

「みんな、元気ねー……」

どこか気が抜けた顔をしている。

「シホ様……? なにやら精気が抜けておりますよー?」

タマモがそう話しかけるが、理由も分かっているためにあまり強く出れていないでいる。
ちなみに今のシホは背中の傷も隠せるタイプの水着を来てさらにフードを上に着ている。
そしてタマモは見た感じ夏の装いで場所が場所ならパラソルを武器に戦っているだろう姿であった。

「事情を分かっているなら今はそっとしておいて……。誰が好き好んで苦手な相手と戦うものですか」

そう愚痴るシホであったが、そこでいま聞いてはならない人物が聞き及んでいる事などいつものように気を張っていないシホには気づきようがなかった。

「―――ほう……? シホが苦手な相手とな? あのクウネルとかいうふざけた名前の奴はシホ。貴様の知り合いか?」
「げっ……エヴァ」
「ほほう……。その表情からあまり聞かれたくない会話だったらしいな。あとで聞かせてもらうぞ」

そう言いつつエヴァはネギの方へと歩いていき、ネギに魔法詠唱用の指輪を渡してそのままシホの方へと帰ってきた。

「さて、それじゃ聞かせてもらうぞシホ。クウネルとやらの正体を……」

その表情はいつものおちょくる顔ではなく、少し真剣気味であった。
シホもその表情から察したのか少しおどけながらも、

「そこまで真剣に聞いてくるならうすうすエヴァもクウネルの正体に気づいているんじゃないの……?」
「まぁな。先ほどの貴様の会話でなんとなく察しさせてもらったよ。ところでなシホ。つかぬ事を聞くが、いいか?」
「な、なに……?」

どこか得体のしれない迫力があるエヴァの顔にシホは思わず身を一歩引いてしまう。
そんな表情のエヴァはとある事を言った。





“いま、どれだけの仮契約者のカードをコピーしたのか”と……。




「あちゃー☆」

シホの隣で聞いていたタマモは思わず痛い顔になっていた。
シホもシホで内心で、「あ、ばれてる……」と察したものだ。
考えてみればそうである。
シホが増やしているカードの能力は中身はともかくカードに現身としてエヴァが持っている本体のカードにも反映されている。
つまるところ、

「私の持っている本体のシホのカードにな……どこか胡散臭い顔をしている奴のカードが映っているような気がしてならんのでな。聞いておきたかったのだ。話してみろ。怒らんから。ン?」

どこか赤い悪魔を彷彿とさせるそんなエヴァの可愛いがしかし迫力のある笑顔にシホはもうあきらめの境地になりながらも、

「アルです……アルビレオ・イマです」
「よろしい。…………――――いつからだ?」
「ネギ先生の弟子入りテストから数日の事です」
「なぜ、教えなかった?」
「アルに秘密にしてと言われていまして……」
「そうか……そしてカードを登録したのはおそらくだが準備期間の時に学園長に会いに行くとか言った時か? ククク、まんまとだまされたよ」
「その……笑顔は素敵なのになんでそんなに背後が禍々しいのですか?」
「理由を知りたいか……?」
「ごめんなさいッ!!」

シホはもう今の空気が耐えられずに即座に土下座を敢行していた。
女性となっても、女性の怖い笑顔にはめっぽう弱いのは衛宮士郎時代の時となんら変わりはないのである。

「シホ様、御労しいです~……」





それからシホとエヴァの両者ともに落ち着いたために、エヴァの脳内では思考が高速回転しているために、

「では、アルのカードがまだ生きているという事は……」
「うん。もうばれたんなら仕方がないから話すけど……ナギは生きているって事だね。いまどこでなにをしているのかとかは教えてもらえなかったけどね」
「そうか……」

それでどこか泣きそうな顔になっているエヴァであったが、その感情はいまは抑えて一回眼を擦った後にシホにある事を聞いた。

「では、あいつからどう交渉してカードを登録させてもらったのだ? そう簡単に渡す奴でもあるまい?」
「うん。まぁ……そこはあれだね。アルのカードの能力を思い出してもらえば分かると思う」
「なに?…………なるほど。貴様の記憶を見せたのか」
「ご名答。アルとは互いにそこまで秘密にするほどのものじゃなかったしね。等価交換は簡単だったよ」
「あいつは他人の物語には飢えているからな。シホの苛烈な過去は奴にとってかっこうの的だったんだろうな」
「ははは……返す言葉がありません」

それで苦笑いをするシホは頭を掻いていた。

「しかし……なるほど。それならば確かにシホが悩むのは分かるかもしれんな。今はどうかは知らんがどうせ実体では戦ってこないだろうな」
「そう。それで悩んでいたんだよ。なにをしてもダメージが通らないのなら使える物も制限されてたんじゃ千日手になっちゃうし」
「そうか……。なら、カグラザカアスナのハリセンを使わせてもらえばいいのではないか?破魔の武器だから奴にも通用するのではないか?」
「うーん……でもやりすぎるとアルが舞台から消えちゃうしなぁ……。ちょっと丘に刺さってる武器でいいのがないか検索してみるよ」

そう言って自分の世界に潜っていって動きが停止したシホの姿を見ながらエヴァはタマモに話しかける。

「しかし……なんでもありならシホはあのアルをも消滅させられる武器をいくつも持っているというのは今にしても思えばすごいことだな」
「ですね。さすがはかの英雄王の宝物庫の武器防具をありったけ解析させてもらっただけのことはありますよ」
「まぁな。しかもそれを行ったのがよりにもよってアンリマユの方の人格なんだからな。シホの方だったらそんなさすがに度を越えた事はしないだろうしな」
「そうでしょうねー」

と、エヴァとタマモが汗を流しながら話していると、戻ってきたのかシホはいつの間にか一本の竹刀をその手に握っていた。

「む? 戻ってきたか。してそのへんてこなストラップの竹刀はなんだ?」
「うん。別名『虎竹刀』。この竹刀は絶対にケガを負わせないという能力があって矛盾するけど、でも確実にダメージは与えるという概念が付属させられているんだ」
「くっ……!あっはっは!なるほど、では舞台ではあのアルがダメージを喰らう光景が見られるという事か! 俄然明日が楽しみになったな」
「ですね~!!」

と、もう明日の起こる光景を想像したのかエヴァとタマモは二人して盛大に笑っていた。

「でも……気がかりなことがあってね」
「なんだ?」
「アルの大会に出た理由なんだけどね。多分、ネギ先生がらみなんだと思う」

シホはいまだに遠くの浜辺で修行をしているネギ達の事を横目で見ながらそう零した。

「なに? どういうことだ……?」
「多分だけどね。アルは最高の演出をしようと企んでいると思う。たとえば……決勝戦でネギ先生と現身のナギを戦わせようとか、かな?」
「あー……ありえますね。とってもアルらしいニクイ発想です」
「そうか……カードの能力で過去のナギを出現させるのか」

エヴァも思いいたったのか、どこか黄昏顔になっている。
もしやしたら幻でも想いを寄せているナギとまた会えるかもしれないエヴァにとっては絶好の機会だからだ。
幾分悩みもするであろう。

「そっ。だから私はこのままアルと戦って、もし勝っちゃったらネギ先生にとっては残念なことにしかならないかなと思ってね。きっと、そんな事になったらネギ先生の成長を阻害しかねないし。ネギ先生の師匠のエヴァ的にはどう思う……?意見を聞きたいんだけど……」
「ふむ……確かにぼーやの成長には一手加える事は出来るだろうが、しかしそれは所詮現状はシホのただの予想であってアルの願望かはまだ分からんだろう? その時はその時だ。シホ。貴様がもしぼーやが勝ち上がってきたならばとてもでっかい壁になってやれ。コテンパンにのめすことを許す」
「いいの……?」
「ああ。別に学祭中にさっきのシホの予想をしなくても、一度落ち着いた場でじっくりと制限時間内でぼーやとナギを会わせてやればいい事ではないか。ま、その時には当然私もその場には立ち会わせていただくがな」
「ちゃっかりしているね」
「ふっ……当然だろう」

それでにやりと笑みを浮かべるエヴァの顔を見てシホもどこかすっきりしたのか、

「わかった。それじゃ魔法は使えない範囲で、それでも真剣にネギ先生とは戦ってみるよ」
「ああ。貴様が本気を出したら今のレベルではあのぼーやは一瞬どころの話ではないからな」
「ふふ、そうだね」

それでシホもすっきりしたのか、エヴァとの会話中でも分割思考で作っていた料理が完成していたために、

「ネギ先生にアスナ達も。料理ができたんだけど食べるー?」
「たべるたべる!」
「腹ごしらえやな!」
「ありがとうございます、シホさん!」
「酒ノツマミニハイイカモナ♪」

と、場はおおいに盛り上がっていた。





◆◇―――――――――◇◆





それから翌日になってシホ達は賑やかな会場の中で控室にいた。
シホの格好はというと、先日の吸血鬼の格好ではなく、少し気合を入れて戦闘時の服ではないがそれに似た感じの赤いコートを来て動きやすい格好をしていた。
ネギや小太郎が控室に入ってくるとネギがタカミチに「手加減しないでね」と宣言している中で、小太郎がシホに話しかけてきて、

「シホの姉貴! 絶対に二回戦に勝ち上がるから勝負してな!」
「ええ。本気は出せないけど真剣に戦ってあげるわ。…………勝ち上がっていけたらだけどね」
「なんやシホの姉貴に限って珍しく弱気な発言やな?」
「まぁ、色々とあるのよ」

そう言いつつ、シホの視線の先ではアルがにこやかに笑いながら手をやんわりとシホに向けて振っていた。
それで少し変な意味で頭に痛みが走るシホであったが、なるべく気にしない事にした。
そして登場する朝倉と超の二人がルールの説明をしている中で、タカミチが小声でシホに話しかけてきて、

「(それで、シホ姉さんも超くんが怪しいと睨んでいるのかい?)」
「(うん。きっとなにか起こすと思うから。だからタカミチも警戒していてね?)」
「(シホ姉さんがそこまで言うのなら……わかったよ)」

それで会話をやめてそのまま試合会場に入っていく。
見ればもう人、人、人だらけ。
衛宮家族と一緒にタマモも同じ場所で見学をしていた。
シホはかっこわるいところは見せられないなと少しだけ気合を入れなおしながらも、一回戦の小太郎と愛衣の戦闘を見ていた。
そこでは女には手をあげん。が信条の小太郎の手のひらの風圧による吹き飛ばしで愛衣は一気に吹き飛ばされて場外の池に落ちていく光景を見ながらも、

(うん。最初から派手だね。普通に人はあんなに簡単に吹っ飛ぶわけないし)

と、考えていて、同時にすぐに自分の番がやってくるのをひしひしと感じ取っていた。

『それでは第二回戦、始まります! 昨日は吸血鬼の可愛い衣装を披露していました麻帆良女子中等部3-A所属、シホ・E・シュバインオーグ選手! 対するはフードで全身を隠す謎の男、名前も偽名なんじゃねー!?と話題のクウネル・サンダース選手!』

朝倉の実況の中でシホは虎竹刀を握りながらも、

「どんな目論見があるのか分からないけど、ただで負けてやらないわよ?」
「フフフ……お相手になりましょうか」

『おっとすでに会話が白熱しそうかもです! それでは第二回戦、Fightッ!!』

こうしてシホとクウネル、もといアルとの戦いが始まったのであった。



 
 

 
後書き
シホが使えるカード能力を増やしたら同時にエヴァにも誰のを登録したのかそっこうでバレるとかいう秘密もへったくれもあったもんじゃない感じです。


それとマジでハーメルンの方で少し盛り上がったシホさん達(剣製の方)の異世界旅はまだ草案であって書く気はぜんぜんありませんからね?あしからずに。 

 

043話 学園祭編 シホとアルの試合

 
前書き
お久しぶりでございます……。

ここ数か月、書き手としてのメンタルが完全に死んでいました。
どうにか一作書けましたが、マジで書き方を忘れていてやばい!?と感じましたね。

今後も亀亀更新ですが是非お付き合いください。

ああ、ちゃんと書けているか心配で心配で……。 

 
朝倉の試合開始の合図とともにシホは足に履いているあるもの(・・・・)に力を込める。
それは学祭準備期間中に学園長に呼び出されて集まった集会時に春日美空によって譲られた脚力を強化する靴タイプのアーティファクト……美空本人曰く、『加速装置』。
それを履いていたシホは、瞬動術も駆使してただの一般人には知覚できないほどの一瞬でアルに肉薄して虎竹刀を瞬間的な加速も込めた威力を以てして胴に叩きこんだ。

「ッ!?」

それにはさすがのアルも対応し切れなかったのか、はたまた久方ぶりの本体にまで届く攻撃を喰らったためか、さながらダンプカーに撥ねられたかの如く吹き飛び池に着水してそれはもうでかい水しぶきを上げて沈んでいた。



『おおーっと!?シュバインオーグ選手のとっても速い動きとともに放たれた胴薙ぎが炸裂してクウネル・サンダース選手が池に沈んだーーーーッ!!』



朝倉の実況とともにシホは一瞬の技後硬直もものともせずにすぐさまに態勢を整えて油断せずに構えていた。

そんなシホの勝負を見ていたエヴァはニヤッと笑みを浮かべながら、

「(ククク……あのアルの一瞬の驚愕の表情を見れただけでも私としては満足なのだがな…さて、すり抜ける筈の体に攻撃が貫通されると分かった奴はシホに対してどういったなにかを仕掛けてくるかな…?)」

まだ池から顔を出さないアルに対してなにかしらのことをしてくるだろうと睨んでいるエヴァ。
しかし、一方でアルの事を知らない他の面子はシホの容赦なき攻撃に汗を垂らしながら状況を見守っている。

「シホさん……その、すごいんですけど相手の方はただの武闘家さんなのではないでしょうか…?」
「いや、兄貴。シホの姉さんがあそこまで容赦しないんすからやっぱり関係者で知り合いの線が高くないっスか?」
「そうなのかな?カモ君…」

ネギは相手のアルの事を心配していて、

「アカン……武者震いがしてきたで。シホの姉貴と次戦うんは俺やから覚悟せんとな!」

ネギの隣では小太郎がもうすでに武者震いをしてシホと戦えることの楽しみで体を大いにわなわなと震わせていた。

そんな中で池に沈んでいようと朝倉はカウントを開始する。

『えっと……池から上がってきませんがルールですのでカウントさせていただきます』

1…!2…!とカウントしていく朝倉。
だが、次の瞬間には舞台の上に一瞬でアルがダメージを見せない余裕そうな笑みを浮かべながら瞬間移動のごとく戻ってきた。
それにはさすがの会場もどよめきとともにアルに視線が向けられる。
アルはそんな視線など感じていないのか、いや…はなからシホしか見ていないのか気にしていないのだろう。シホに話しかける。

「いや……さすがですね。まさかダメージを貰うとは思っていませんでした」
「それにしては楽しそうね、ア「クウネルです」……クウネル」
「はい。それはもう昔を思い出す気持ちですね」
「そう……」

『両者、先ほどの事がなにごともなかったかのように平然と会話をしています。これは一体…?それよりクウネル選手が舞台に戻ってきましたので試合再開!』

朝倉の再開の合図とともに、アルが先に動いた。
先ほどのシホのやり返しなのか一瞬でシホの背後を取る、が…シホも虎竹刀を背後に持っていきアルの掌底打ちをガードする。

「さて……それでは少しばかりギアを上げていきましょうか」
「ええ!」

それから二人は瞬動術の枠に収まっていないほどの瞬間的な移動を繰り返してあちこちで打撃音が響く。
その戦闘風景を魅せられて会場の観戦者達のボルテージは否応なしに上がっていく。
一回戦での小太郎達の戦いは一瞬で終わったためにそんなに楽しめずに、二回戦目では最初はただの中学生少女と怪しい長身のフードの男というだけで色物か?と思われたがその評価はいい意味で覆されている。
観客席で見ていた士郎とイリヤは目を輝かせながら、

「シホの姉ちゃんすげー!」
「すごいねシホお姉ちゃん!ね、お母様」
「え、ええ……」

純粋に楽しんで観戦している士郎とイリヤだったが、アイリはその戦闘能力の高いシホの光景を見て悩んでいた。

「(あれほどの力を手にするまでにあの子はどんな苦悩を味わったのかしら……異世界での話も聞かされたから純粋に楽しめていないわね…)」
「アイリ。君の気持ちは分かるよ」
「あなた……」
「シホはね。たぶん過去に色々あってああなってしまったんだけど、でももう過去は変えられない。だから今のあの子の現実を受け止めて、そして応援してやろうじゃないか」
「そうね、キリツグ……」

想いに耽る二人をよそに戦闘は激化していく。
本気を出せば舞台を軽々と破壊できるシホとアルではあるが、いまは一般人も見ている純粋な表舞台での試合。
ゆえに両者は実力も高いだけに決め手に欠けていた。

実際、ダメージが通ると判断したアルはシホの攻撃を避ける戦法を取っており、大っぴらに魔法を使えないために決め手は少なく、対するシホも投影魔術やその他兵装を使えないために(使おうと思えば無詠唱で錬鉄魔法は行使できる)やはり決め手を欠いていた。
残り時間も五分を切った頃合いだろうか?二人は一回肉薄した後に互いに距離を取って息を整えながら、

「フフフ……楽しいですね。ですが決め手が少ないのもいただけません」
「そうね。それで…?どうするの?」
「ですから…………―――――『彼ら』の力を借りる事にします」

その『彼ら』という単語がアルの口から出た途端、シホは最大限の警戒をする。

そしてアルは懐から一枚のカード……見る人が見れば分かるであろうパクティオーカードを取り出して、次の瞬間にはアルの周りを何冊もの本が出現して浮遊している。
見学していたネギはアーティファクト!?と驚いた顔をしていて、アスナや刹那など関係者一同も同様に驚いていた。
そんな中でそのカードの能力を知っていたタカミチは、

「(ああ……貴方だったんですね。アル……)」

驚愕と同時にシホとの親しそうなやり取りにも納得の実感を得た。
そして、あとでじっくりと話し合わないとな……と今後の予定を作る算段を脳内で考えていた。

「来たわね……ッ!でも、いいの?これは一般人も見ているのよ?」
「こういった舞台では目立つ方が逆に気づかれにくいものなんですよ……?では、いきます」

アルは一冊の本を手に取り、一つの栞をその手に取った本を開いて差し込み、次にはスライドさせるように思い切り栞を引き抜く。
瞬間、噴き出す大量の白い煙は舞台上を外から見えない様に覆い隠す。

『わぷっ!? 突然の大量の煙は一体何なのでしょう!? 両者の姿が覆い隠されて見えません! これもなにかの演出か!?』

朝倉もさすがに魔法関係を大っぴらにできない事は分かっているために言葉を選んで『演出』という単語を使い、一般人に納得してもらえるように努めている。







…………………


煙の中では、シホと相対しているのは2メートルはあるであろう身長、褐色肌で白髪の巨漢の男であった。

「……んだ? 俺様を使うとはな……相手は……?……ッ!?」

巨漢の男は鋭い眼光をシホに向けた。
途端、くわっと目を見開いて同時に男はいくつもの感情を呼び起こされていき、自身が幻でなければ盛大にシホの事を抱きしめに行っていただろう、だが……幻故に葛藤し、そしてすぐにその感情はあまりに自分らしくないととどまってぐっとその思いを飲み込み目を瞑る、一瞬のあとに目を開きいつも通りの余裕そうな笑みを浮かべながら、

「……よお、シホ。久しぶりじゃねーか。生きていたんだな……」
「……ええ。ラカン」

そう、その男こそ赤き翼で活躍した英雄の一人。
その名は『ジャック・ラカン』。
そして『千の刃のラカン』の異名を持つシホのかつての戦友だ。

シホもシホで懐かしい気持ちになっていたが、それはさておき、

「分かっていると思うけど……」
「ああ。俺は幻だ。だがな、幻でもてめぇに一泡吹かせてぇ。幻だからアーティファクトを使えねぇのが残念だが……いくぜ?」
「わかったわ」

シホも無詠唱で錬鉄魔法を身に纏って構える。

「「…………」」

二人は無言で構えをして睨み合いを続けて、同時に地面が爆ぜた。
シホとラカンの顔は第三者が見れば実に楽しそうだろうと感想を漏らすほどであった。
一瞬の攻防……その一瞬で何十もの応酬が繰り返され、拳が衝突するだけで衝撃波がその場を蹂躙していく。

「ハハハハハハハハッ!!!!楽しいなぁシホ!お前が消えた後は寂しかったんだぜ!?ナギの野郎も本気で笑わなくなっちまったしな!!」
「それは悪かったわね!勝手にいなくなっちゃって!!」

一見、ラカンが優勢に見えるが、それ以上にシホの拳での攻撃は一撃一撃が宝具を纏っているゆえに着実にラカンにダメージを与えている。

「いずれ、またあなたに会いに行くわね…」
「いいねぇ……本体の俺はてめぇと会った途端に多分だが感情を爆発させると思うから今のうちに覚悟しておきな。いまの俺でさえ結構ギリギリだからな?」
「え、えぇ……覚悟しておくわ……」

若干引き気味の表情になるシホであったが、次には笑顔を浮かべて、

「それじゃ決めさせてもらうわ!」
「受けて立つぜ!」

両者の最大限の攻撃が同時に放たれて、少しばかり拮抗したあとに次第にラカンは追い詰められてシホの攻撃が炸裂したのを地面に叩きつけられながら実感するラカンは消える意識の中で、

「(チッ……やられちまったか。だが、楽しめたぜシホ。また、会おうぜ……!)」

そして同時に舞台を包んでいた白い煙はシホの攻撃の余波で吹き飛んだのか、事前に効果が切れて元の姿に戻って地面に仰向けに倒れているアルと、それを見ているシホという図がその場で展開されていた。

『おっと……? 煙が吹き飛びましたが立っているのはシュバインオーグ選手だ!まるで台風でもあったかのような惨状になっていますが一体何が起こっていたのでしょうか……?カウントはいりますか?』
「いえ……私の敗北で結構です」

仰向けに倒れていてもなお余裕の笑みを浮かべながらそう話すアルに朝倉も納得したのか、

『クウネル・サンダース選手の敗北宣言!よって勝者はシュバインオーグ選手だ!!一回戦突破です!』

瞬間、会場は場の空気もさることで流された感じはあるがシホに対して喝采の言葉が投げられることになった。
なお、舞台が先ほどの朝倉の言葉通りにまるでハリケーンにでもあったかのように破壊されているのでしばらくの会場修理が行われるのでしばしの間、試合進行はストップになった。

シホとアルは控室に戻る中で、

「フフフ……負けてしまいましたね。これで私の計画も台無しになってしまいました」
「それってやっぱりネギ先生とナギを戦わせようとか考えてたの……?」
「さて、どうでしょうね……?ですが、機会を貰えるのであれば後程にネギ君とじっくりと話し合う時間を頂ければ嬉しいですね」

そう言葉を零すアルに最初から聞いていたかのように、

「よかろう! 私の判断で時間を作ってやる。当然私もその場に参加させてもらうがな!」
「ケケケ!上機嫌ダナ御主人!」

エヴァが姿を現してそう宣言していた。

「おや……。いたのですね、キティ」
「ッ、その名で呼ぶな!!」

先ほどまでの上機嫌から一転して怒り出すエヴァにさすがのシホも噴き出す笑みを浮かべていたのであった。








それからしばらくして会場修理は完了して一回戦第三試合の長瀬楓vs中村達也の試合で少なからず遠当てが披露されたがなんなく楓が勝利し、第四試合の古菲と真名との試合も危ないところだったがなんとかネギ達の応援もあり古菲が勝利、しかし腕が折れていたために棄権と相成っていた。
第五試合の田中と高音・D・グッドマンの試合は……可愛そうなので明記しない事にしよう。ただ、多少の犠牲とともに高音が勝ったとだけ……。



第五試合が行われている間、違う場所では小太郎、アスナ、刹那、カモがタカミチと話していて、小太郎が小手先の先制でタカミチの技を探る行動をしていたが、なんとなくつかめたのか満足そうである。

「ふふ……いいね。僕も、シホ姉さんの試合を見てから年甲斐もなくワクワクさせられていてね。ネギ君との勝負は……楽しみだ」
「そ、そうだ!高畑先生!さっきのシホに倒されたフードの人って…知り合いですか!?」
「ん?あ、そうだね……うん。多分まだ会場にいると思うから機会があれば話してみるといい。特にアスナ君は彼の方から多分絡んでくるだろうしね」
「え?それって……」

タカミチの意味深な発言に悩みだすアスナであったが、理由を聞く前に、

「ははは。それじゃ僕も次の試合があるんでそろそろ行かせてもらう。アスナ君も僕の事は気にせずにネギ君の事を応援してあげなさい」
「は、はい……」

そう言ってタカミチは行ってしまった。

「どういうことなのかな……?」
「さぁ…。ですが、次はネギ先生達の試合です。悩むより素直に観戦していましょう」
「そうだね刹那さん。そういえばシホはどこにいったのかな?」
「そういえば……」

話題のシホはシホでキリツグ達のもとへいっていて、玉藻を中心に士郎、イリヤが盛大にシホの事を褒めちぎっていたのであった。


 
 

 
後書き
はやくアーティファクト蒐集が増えていって、いくつも同時展開とかバグ技披露したい…。

『千の顔を持つ英雄』が全アーティファクト中最強と称されるなら、『贋作の王』はさしずめジョーカー的な?


少なからず赤き翼メンバーに大小あれど深い傷を負わせた女、シホ。なお玉藻() 

 

044話 学園祭編 真価と傷、一回戦の終わり

 
前書き
更新します


※曇らせ注意 

 
 

 

舞台が賑わいを見せている。

 

 

 

「桜華崩拳!!!!」


現在、ネギとタカミチの試合が行われており、ネギの渾身の叩きつける拳の一撃がタカミチに振り下ろされている最中の出来事であった。

 

シホはアルにとある事を託されていた。

 

 

「私に……それが務まるかしら……」
「あなたなら大丈夫ですよ、シホ。それに今のあなたには『贋作の王』があります。ですからきっといけるでしょう」
「まぁ……できない事もないんでしょうけど……私としてはネギ先生の成長具合とかも観たかったけど……でも、ナギの頼みなら仕方がないか」
「ええ。それにしても……『贋作の王』はラカンの『千の顔を持つ英雄』より希少性と秘められている能力に関してはチート性能ですね。まさか、コピーした際に形や能力だけではなく内包されている記録まで現時点でのすべてを写し取ってしまうとは……」

 

そうなのだ。
シホの贋作の王はアルの『イノチノシヘン』を登録した際にアルが今まで蒐集してきた人々の記録や情報をすべてなんの劣化もなく写し取ってしまったのである。
同じ蓄積型の『イノチノシヘン』とはすでにランクが何段階も違うと言ったところか。

 

シホもこの事実に気づいたのはアルのを登録して試しに使ってみるとか思った矢先に自分には与り知らない膨大な人数の情報が溢れてしまった事が事の発端。
そしてその事をシホとアルの試合後に教えたところ、アルにしては珍しく動揺した顔をさせて汗を流した。
それで改めて『贋作の王』がまだまだ未知数で馬鹿げた力を秘めていることが判明した瞬間であった。

 

「言うなれば、最強のアーティファクトと称されるものが『千の顔を持つ英雄』なのだとすれば、『贋作の王』はジョーカー……ありとあらゆる切り札と化すでしょうか?シホの今後の蒐集にかかってきますね。
あのオコジョ君にはぜひにも頑張ってもらいたいですね」

 

カモミールの事を褒めているアルの言葉に、暗に今後もネギとの仮契約者がぞくぞくと増えていく事を未来視しているかのようでシホはげんなりする。


しかし、実際そうなのかもしれない。

 

シホの手にはすでにアスナの魔法無効化の剣『ハマノツルギ』、このかの癒しの扇『東風ノ檜扇』『南風ノ末廣』、のどかの心を読む本『いどのえにっき』……など、すでに切り札級の能力は登録されているのだ。
ネギの頑張り次第ではまだまだ隠された切り札が増えるかもしれない。
だが、とシホは思い悩む。
それはつまり今後もネギと関わり魔法に手を出す生徒が増えるかもしれないという事である懸念。

 

「ネギ先生の事だから今後も存分にバラしていくんでしょうね……頭が痛いわ」
「フフフ。そう言わずに。ネギ君の事を見守っていくと決めているのでしょう?」
「それはそうなんだけどね……」

 

シホの疲れ気味の表情に、アルはいくつか笑みを零した後に、

 

「それとですが、シホ……」


急に真面目な顔になって真剣な音色で話しかけてくるアルにシホは『うわっ!急に落ち着くな!?』という感想を脳内で漏らした。


「なに?急に改まって……?」
「あなたの記憶の断片を見させていただいた感想なのですが……」
「あ、それ? それがどうしたの?やっぱりグロかった……?」
「ええ、まぁ……猟奇的なものも含めてあらゆる特殊性癖が詰められていましたね、と。いえ、そういう事ではなく今後、あなたはきっと……辛い出会いをするでしょう」
「辛い出会い……?」
「ええ。捕まった後に正気を失い意識が幾度も朦朧とするほどの凄惨な体験をしていたからあなたはいちいち奴らにされたことを事細かくは覚えていないのでしょうが……」

 

 



 

「―――――…………です」
「ッ!?う、っぷ……」

 

 

 
 

それをアルから聞かされたシホは口元を手で覆い吐きそうになり、もう片方の手を震わせながらお腹のある部分をさする仕草をしたというだけ……。
それほどにその内容が強烈だという事……。
もし、もしそれが本当だとすれば……シホは今後また幾度も正気を失うかもしれない事実であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

 

シホはアルと一旦別れたあと、青い顔をしながらもいつまでもこんな顔ではいられない。カラ元気でもみんなの前ではいつも通りでいようとした。
しかしその姿はとても痛々しかった……。

 

そんなシホは、それでもタカミチとの勝負で勝利したネギの元へと向かった。
到着してみればそこではすでにみんなに囲まれてもみくちゃにされているネギの姿があり……。
ネギはシホが来てくれたのを気付いたのか、

 

「あ、シホさん!」
「ネギ先生……その、おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」

いまはただただネギの感謝の顔が眩しいと感じたシホ。
そこにハルナが待っていたと言わんばかりに、

「そういえばエミヤンもすごかったじゃん! なに、あの動き!?エミヤンってあんなに強かったの!?」
「ま、まぁ……そこそこは」
「あのフードの人もなんかすごかったけど……あの本はなんだったんだろうね……?」

 

ハルナのその一言に魔法関係者はビクッと震える。
しかし、シホも慣れたもので。

 

「CGじゃないかしら……?」
「そうなのかな?でも、あたし的にはネギ先生の戦いも含めて『魔法』って感じだったけど」
「(鋭い……)」

 

ハルナのその勘の良さにシホは思わず舌を巻く。
もしかしたらこの子もそのうちネギ先生の従者になるのでは?と考えてしまうシホ。
だけどのどかや夕映が引きずっていってなんとか場は収まる。
それで千鶴なども部屋を出ていった。
そして残るのは魔法関係者だけになる。
それを確認してか、

 

「シホさん。あの方は……誰なんですか?」
「そうよ、シホ! あんたがあんなに本気で戦うなんてそうはないでしょ!?」

 

ネギとアスナに当然問い詰められるシホであった。
シホはどう話したものかと考えているが、エヴァが引き継ぐように、

 

「今はまだ詳しく言えん。だが、そのうち知る事になる」
師匠(マスター)……」
「エヴァちゃんももう知ってるの……?」
「まぁな。どうせまだアイツの方から色々と絡んでくるだろうから適当に相手でもしてやれ。……それとシホ、少し顔を貸せ。今の貴様はどうにも放っておけん」
「…………わかった」

 

するとアスナ達も何事かと反応するが、エヴァは後でな!と言ってシホを連れて部屋を出ていき、少し離れたところで、

 

「アルになにを言われた……?」
「なにをって……その、ネギ先生に私の代わりにナギの言葉を聞かせてやってくださいって……」
「そうではない!ほかにも言われたんだろう?」
「…………」

 

すべて見透かされている事を悟ったシホは、アルに言われたことをポツリポツリと話した後に少しエヴァの肩に寄りかかって、そして少しばかり泣いた……。
そんな久しぶりの弱気なシホの姿にエヴァも仕方がなく頭を撫でてやる事しかできないでいた。

 

「(ええい!アルの奴……こんな時にシホの瘡蓋をまた開くことをするでない!!
たとえ衛宮士郎としての記憶を思い出して精神が幾分安定したとはいえ、シホの大部分を占めるおもな精神構造は記憶喪失の間に新たに構築し形成された人格がメインであり、魔法使い共に捕まって停滞していた期間を差し引いてもシホの精神年齢は二十歳にも満たない小娘のそれなのだぞ!?)」

そう、本来ならば精神喪失して植物人間にでもなってもおかしくはない。
だが、それだけはタマモが心をずっと護り続けて阻止した。
しかし、それでもシホとして生活した時間を考えればまだ十代前半でもおかしくないほどに精神構造は幼い。
知識や力があっても精神は体に引っ張られてしまうためにそれ相応のものになる。
まだまだ成長段階だったのにシホはそれをぐちゃぐちゃにされてしまったのだ……。



「(私はまだよかった……火炙りにもされた事はあったがそれでも何とか逃げ延びれていたのだからな……。だが、シホは違う)」

まだ自身の肩でわずかに震えているシホは幼子のようで……。
それなのに、あの悪魔共は……シホのありとあらゆる尊厳を奪い、無理やりに……されてしまった。
エヴァ達が記憶を見た時に一番最悪だと思ったのは当然シホが悪魔に食されている時だが、二番目に来るのはありとあらゆる女性がおそらくは嫌悪してシホに深く共感し奴らを憎悪までするであろう方法だった……。

「(20年だ……20年という頭が痛くなるほどの期間、シホは……)」


エヴァはそこまで思い出して、また怒りがぶり返りそうになりながらも、シホの事を気遣う。

「もう平気かシホ……?」
「うん……ごめん」
「いい、いい……なにかあれば胸はないが貸してやる」
「ありがと……」
「あとでアヤメにも報告しとくか。もう決まってしまっているかもしれない運命とは言え、その事でシホを泣かせたアルの罪は重い」
「あはは……」

シホはそれでなんとか幾分気分が治まってきたために、一回エヴァから離れて深呼吸した後に、

「うん。ありがとエヴァ。もう大丈夫……いつか越えなければならないとはいえまだ今じゃないから、その時までに覚悟決めておくね」
「わかった…………無理はするなよ?」
「ええ」

精一杯笑顔を浮かべるシホの顔は、やはりエヴァには痛々しく見えているのであった……。






◆◇―――――――――◇◆




場所は戻ってファンシーな衣装を身にまとったアスナと刹那は羞恥心から顔を盛大に赤くさせていた。
その場には持ち直したシホと、エヴァもすでにいた。
エヴァが言う。
アスナが鍛えていたとしても神鳴流の刹那には敵わないだろうと。
しかし、そこで現れるアル……クウネル。
アスナの頭を突然撫でながら、

「しかし驚きです……あの人形のように大人しかったあなたがここまで活発になるとは」

次には赤き翼の一人であったガトウ・カグラ・ヴァンテンバーグの名を出しながら、

「何も考えずに自分を無にしてみなさい。アスナさん。あなたにはできるはずだ。そうすればタカミチと同様の事があなたにもきっとできる……」
「ちょ、本当にあんた誰なの……?」

困惑するアスナをよそに、

「おい、ア「クウネルです」……なんだそのふざけた名は?ア「クウネルです」……だから「クウネルです」…………おい、シホ。こいつ絞めていいか……?」
「あ、あはは……」

お怒りのエヴァにさすがのシホも苦笑い。
誰なのかと楓達が聞いてエヴァは話す。

「ぼーやの父親の友人の一人で名を『アル……』」
「『クウネル・サンダース』で結構ですよ。それにシホに負けてしまった私はもうただの傍観者でしかないのですから。助言くらいはいいでしょう?エヴァンジェリン……?」
「別に構わんが……カグラザカアスナになにを仕込むつもりだ?」
「フフフ……いずれあなたにもお教えします。シホ……ですので口出しは無用ですよ?」

全員の視線がシホに刺さる。
存外に話せ!と言われているようで、

「今は私もまだ話せない……ごめん、みんな」

そう力なく言葉を零すしかできないシホであった。
なんか釈然としないものの、頭が悪いのでどうすればいいか分からないアスナは今は保留にすることにして、

「そっか……いつか教えてねシホ!」
「ええ、アスナ」

シホも申し訳なく言葉を返した。

「アスナさん。いま、あなたは力が欲しいのでしょう?ネギ君を護るために……。私が少し助力します。もう二度とあなたの目の前で、誰かが死ぬことのないように……」

そう伝えてアスナと刹那を送り出した後に、シホはアルの隣に立ち、

「クウネル……アスナの事、どうする気?」
「どうもしませんよ。ただ、今のままではネギ君に着いていけないでしょう?」
「そうだけどさ……」
「ええい!二人だけで意味深な会話をするな!!」

シホとアルの会話がじれったいためにエヴァが食って掛かる。

「エヴァンジェリン……賭けをしませんか?」
「賭け、だと……?」
「はい。もうシホからナギの事に関しては聞いているのでしょう?」
「まぁな……生きているのだろう?」
「ええ」

外野から「ホンマあるカ!?」「これは朗報でござるな」とうるさいがここは放置する。

「アスナさんの情報などどうでしょう?」
「あまり魅力的ではないな。聞こうと思えばシホからも聞き出せるしな」
「まぁそう言わずに……それでしたらあなたの知りたい情報などを話せる分はお教えしましょう」
「言ったな……?」
「ええ。ですが……アスナさんが勝ちましたらエヴァンジェリン。あなたには次の試合に」

ポンッ!とその手に出したるは『スクール水着(エヴァの文字の刺繡入り)』。

「これを着ていただきます」
「ふざけているのか!?」
「いえいえ、存分に本気ですよ」

それを聞いてカモミールが「なっ!?スク水だとぉ!!」と鼻息を荒くして反応している。
それをシホが「カモミール……?」と爪を鋭くさせて威嚇するが、

「シホの姉さん!ここは引けねーぜ!」

と謎の気合を入れているのでシホも諦めた。
アスナと刹那の試合は意外にもアスナが善戦していて、その都度にアルが念話でアスナに色々と吹き込んでいる。
アスナもアスナでちゃっかりタカミチの使う『咸卦法』を発動して身体能力をブーストしていたり。

「…………使えたんだ」
「ええ」

短いやり取りのシホとアル。

そして勝負は終盤に入っていき、アルのある一言でアスナの脳内でなにかのタガが外れるのを実感し、無意識にハリセンを剣の状態にして刹那に斬りかかってしまった。
アルもまずいと思ったのか、しかし刹那の機転でどうにか抑える事に成功した。
当然アスナは刃物を使ってしまったので反則負けになったのであったが……。
それでもアスナと刹那は終始戦いを健闘しあっていた。

「…………わ、私の勝ちだな。あとでいろいろと聞かせてもらうからな?」
「御主人、慌テマクッテタナ」
「追加オプションでネコミミとメガネにセーラー服だからなぁ……俺っちはぜひ見たかったけどな」
「カモミール。テメェモ存外命知ラズダナ」

チャチャゼロとカモミールのそんな愉快(?)な会話を横に、

「はい。長いので学祭後でどうでしょう?」
「わかった……」

その後、八回戦目のエヴァと山下慶一という格闘家との試合はエヴァが一撃で沈めて、こうして一回戦すべてが終了した。

休憩を挟んで二回戦目が開始されるというが、同時に一回戦での試合がネットに流出しているという話を千雨に聞かされて、あたふたしているネギ達がいたとかいないとか……。



 
 

 
後書き
察しがいい人はシホやエヴァが何を懸念しているのか分かると思います。
と、同時に今後の予定が決まったかもしれない感じですね、自分的に。

キーワードに『曇らせ』を追加しました。


それとなにやらネットで見れるUQ(最新話より二話前)話でトラック転生している不死者がいるそうで……。
 

 

045話 学園祭編 自覚する差と芽生える覚悟

 
前書き
更新します。 

 


『それでは第二回戦第一試合を始めさせていただきます!』

朝倉の実況で会場が盛り上がる。
片や第一試合で愛衣を一発で場外に吹き飛ばした村上小太郎。
片や謎のフードの男と苛烈な試合を見せたシホ・E・シュバインオーグ。
まだ見た目は中学生と小学生といったところか?
しかし、それでもこの大会では他にもそう言った子達が沢山出ている。
見た目に惑わされるなかれ…。
きっと、この二人の試合……いや、すべての試合で勝利した者達は自分達をもっと楽しませてくれると……。
予選で敗れた者達は直に味わったからこそそう感じる。


『村上小太郎選手は一回戦で女子生徒である佐倉愛衣選手と戦いしましたが、まやもや今度も女子生徒であるシホ・E・シュバインオーグ選手との試合……はたしてどうするか?』

試合が始められる前の朝倉の実況が会場に響く。
当然視線は小太郎に向けられるが、小太郎はそんなたくさんの視線など意に介していなかった。




【決勝で会おう、ネギ!】




ライバルであるネギにそう誓いを立てた小太郎。
それがたとえ敵わないであろう相手であるシホだとしても、



―――それがどうした!?相手が強ければ強い程燃えるやろ!?そしてネギと勝負するんや!そのためには……何が何でも勝たせてもらうで?シホの姉貴!!



という強い気持ちで無言で虎竹刀を構えるシホに集中しながらいつでも仕掛けられるように体中の全神経を研ぎ澄ます。
そして、いよいよ試合の開示の合図が…………




『試合開始!!』


告げられた。
その瞬間、小太郎は最大限の自分自身過去最高での瞬動術をしたと確信しながらもシホの背後を取った……かのように思えた矢先であった。
一瞬の意識の空白。
次の瞬間には小太郎は意識を取り戻して自分が今どういう状況かと確認して分かった事はシホを通り抜けた後方でうつ伏せに倒れていた。

「ッ!?」



いつの間に!?どう攻撃された!?見えんかった!という考えも即座に捨ててすぐに立ち上がってシホから距離を置いてまだぐわんぐわんしている意識になんとか喝を入れて立ち直る。だが足が震えている。

『おおっと!?村上選手、今の瞬間になにをうけたのでしょうか!シュバインオーグ選手が竹刀を……いや腕だけを少し動かしたかのように私の目には映りました!村上選手、頭が揺れて足も震えています!』

朝倉の第三者の実況を聞いて小太郎は今一度シホを見る。
涼しい顔をして竹刀を構えている。
ただそれだけだというのに竹刀を喰らう前とおそらく頭に喰らったのであろう後では印象がまるで違うと悟る。
シホの姿はまるでリラックスでもしているのかどこか隙だらけであるように見える。
しかし、小太郎ははたとそこである答えに至った。

「(わざと隙を作って俺の攻撃を限定して誘導させて逆に隙を突かれて反撃された!?)」

その考えに至って小太郎は目を見開いて汗をひたりと流す。
まさにその通りであった。
シホは元来、衛宮士郎時代から自分から攻撃を仕掛けるのは苦手の部類であった。
いつも相手をするのは格上ばかり……。
やられる事など度々あった。
ゆえに色々な戦術を学び、血のにじむような努力をしてありとあらゆる戦法を先読みする心眼を会得した。
そしてその心眼を駆使して相手の攻撃を自分から隙を作って誘導させることによって誘導させた以外の場所には一切攻撃が行かない様にして鉄壁の構えを取るものである。

「(下手したら喰らって即死もありうる攻撃をいつも刹那の見切りでかわしとる言うんか!?しかもそれをするのがよもや不死の吸血鬼!?)」

小太郎の脳内は困惑で一色になる。
吸血鬼……まして不死者はその特性上どんな攻撃を喰らっても傷口は瞬時に回復してやられない、死なないというある種慢心にも似たような隙を誰かしら持つものというのは知識では知っている。
だからそこに勝機を見出せば倒せる手段さえあれば決して敵わない相手ではないのだ。
しかし、もしそんな人物が鉄壁や回避を選択する戦法を格上格下の相手問わずに取ってくるとしたら……それ以上に恐ろしいものはないだろう。

「へ、へへ……ええやないか」
「……?」

圧倒的な実力の差をたった一度の攻撃で分からされたはずだというのに小太郎は敢えて笑って見せる。
そうだ、シホの姉貴は慢心を絶対にしない……そう確信した。ならば!自分もそれに応えられるように強くなればええんや!と……。
いつか、いつかたとえ遠くとも、険しい道だとしてもいつか辿り着くと……ッ!

「(すまんなネギ……俺はここで負けてまうかもしれん……負けてしまう俺にネギはまた変わらず勝負してくれるやろうか?)」

一瞬の弱気の言葉が脳内に巡る。

「(でもな! ただでやられるほどに俺は、弱くはないんや!!)」

たとえ負けてもいい。
この試合を糧にしよう。いつかの未来に繋げる!そのために!!
小太郎は時間にして一分もしないでその考えに至り、笑みを浮かべながらシホと対峙することを拳を力強く握りこみながらも歓喜した。
戦士は自分の未熟さを、弱さを素直に認める事でさらに強くなれる……小太郎はその境地に立ったのだ。
そんな……小太郎の一種の覚悟をした瞳を見たシホはすぐに察した。

「わかったわ。小太郎、あなたはまだまだ強くなれる……私が強くさせてあげる。だから……!」
「ああ!やけどただではやられんで!いくで!!」

二人は今度は同時に仕掛けた。
小太郎の攻撃は相変わらずシホには当たらず空振りするが、それでも小太郎は笑みをやめない。

「ええな! シホの姉貴、強いやんけ!いつか……いつか絶対に倒したる!強くなるんや!もっと!シホの姉貴だけやない……どんな奴も倒せるほどに強くなって!!」
「いい心構えよ、小太郎!あなたはきっと私以上に成長して強くなる!」
「へへ……シホの姉貴からそう言ってもらえるなんて嬉しいわ……!」

小太郎はもう後の事など一切考えていない。全力を駆使してシホに挑んでいる。
シホもそれに応えるために今出せるだけの動きをして挑んでいる。

『なんということでしょうか……村上選手は攻撃をかわされ続けているというのに笑っています!そして両選手はそんな攻防のラッシュの中でもなにやら会話を繰り返しています!』

そこで解説席の豪徳寺薫は思わず涙を流しながら、

『いいですね村上選手は!自分の弱さを認めてなお果敢に挑む姿は武闘者としてとても素晴らしいものです!シュバインオーグ選手もそれに全力で応えてあげています!いいものが見れていますね!』

その解説とともに会場のあちこちから「村上君がんばれ!」「シホちゃんももう少し手加減してもいいよ!でも手だけは抜くな!」「どっちも全力で頑張れ!」と応援がなされていた。
ネギも「コタロー君頑張れ!!」と叫ぶ。

舞台で戦っている二人にはいまはそんな声援も聞こえていない。
しかしいい気分だと察するに余りある。

『村上選手はもう盛大に汗を流しています!対してシュバインオーグ選手はその細い体にどこにそんなスタミナがあるのか、涼しい顔を維持しています!そしてもう間もなく時間が迫っています!』

朝倉の終了間近の言葉が聞こえたのか、

「さて……それじゃもう決めさせてもらうわね?」
「はぁ、はぁ……ええで。また、バトルしような。シホの姉貴」
「ええ。強くしてあげるわ」

シホは小太郎の気持ちを汲んで無詠唱で無名の武器を錬鉄魔法で纏い、虎竹刀が薄く光らせながら次の一撃を放つために備える。
小太郎も最後の力を振り絞って今自身が出せる大量の分身体を作り出して一斉にシホに襲い掛かった。
そこからは一瞬だった。
シホの姿が掻き消えたと思った瞬間には分身体含めて小太郎本体の身体もその竹刀で体を斜めに叩かれて舞台に落下して、小太郎はその中でなんとか起き上がろうとしても最後には首筋にシホの虎竹刀の切っ先が向けられる。
小太郎は体力もすでに尽きているのであろう、笑みを浮かべながらも、

「俺の……完敗や……」

そう言って体の力を抜いた。
その声を聞いた朝倉は、

『試合終了!!第二回戦第一試合を制したのはシュバインオーグ選手だ!』

瞬間、巻き起こる喝采の嵐。
全力で挑んだ小太郎には「頑張った!」という数々の言葉。
それに全力で応えたシホに対しては「次も頑張って!」という応援の言葉。
さらにはもう立てないほどに消耗している小太郎をお姫様抱っこして会場を後にしようとするシホの姿に、シホ×小太郎というカプ厨が複数湧いていたとかなんとか……。
当然、小太郎はシホの腕の上で暴れていたのはご愛敬。




それを見学していた楓は小太郎を盗られたような気分の中で、しかし次の自身の相手はシホに決まったことに対して、

「(あそこまでコタローを圧倒するとは……相手にとって不足無しでござるな!)」

と闘志を燃やした。
ネギも、

「(コタロー君も強かったけど、やっぱりシホさんは別格です……!それでも!!)」

と、気持ちを逸らせながらも同じく闘志を燃やしていた。
しかし、それとは別として、ネギは千雨にある説を聞かされていた。
ネットに拡散されているとりとめのない噂話……。
それに関係しているのかどこを見ても『魔法』という単語もチラついている。
まるで誰かが魔法の事をばらそうと裏で動いているかのようで……。
ネギはそんな話題を当然不気味に感じている中で、

『古菲選手は腕の骨折の為棄権となり長瀬楓選手の不戦勝となります。ですのでお次は二回戦第十一試合、ネギ・スプリングフィールド選手 VS 高音・D・グッドマン選手の試合になります』

自分の名が呼ばれたためにネギは今は後回しにして舞台に戻っていく中で、アスナや刹那、そしてシホと小太郎にも声を掛ける。

「アスナさん達すごかったです! コタロー君も……」
「そんな顔すんなやネギ!」
「でも約束……」
「……まぁな。でも、俺は満足してるんや。まだまだ高みがあるなら目指す場所があるっていう明確なビジョンがな!強くなって、そんでネギ!そん時になって正式に勝負を挑んでお前を倒すで、ネギ!」
「ッ! うん!!」
「さて、それじゃネギ先生も頑張ってください。自分は小太郎を医務室に運んでいきますから」
「分かりました、シホさん。あ、でも……後で話いいですか?なんか、その……ネットに魔法の話題が拡散されているんです……」
「……それは本当ですか?」
「はい」

シホはそれを聞いて少し考えた後に、

「わかりました。それじゃ少し考えてみます。今は……」
「ちょ、もうおろしても平気やでシホの姉貴!」
「うるさい。筋肉痛起こしている体で文句言わないの!」
「うう……はずい」

そんな感じでシホと小太郎は救護室へと消えていくのであった。
それから救護室に到着すると待っていたと言わんばかりに、穏やかな顔をしながら千鶴が待ち構えていた。

「小太郎君。大丈夫だった……?」
「心配ないで千鶴姉ちゃん……ちょっと休めばすぐに治るで」
「よかったわ……。シホさんも、コタちゃんの気持ちを汲んでくださってありがとうございます」
「いえ…でも応えられてよかったわ」

それで小太郎も一応ベッドに寝かせた後に、

「それじゃ小太郎も少し休んだらまた戻ってきなさい。ネギ先生が拗ねるだろうから」
「分かっとる。負けてもネギの事は見届けなアカンしな」
「うん」

シホはそれで小太郎に関してはもう不安なことはないだろうと感じている時に、

「シホ様! このタマモ、応援に参りました!」

みこーんと現れたタマモにシホはちょうどいいかな?と思って、

「タマモ、ちょうどよかったわ」
「みこーん……?」

シホはタマモにある事を頼むことにした。



………………



それから少ししてタマモにある事を頼んだシホはまた別れた後に舞台に戻ってくると、そこにはなぜか裸になっている高音とそれを慌ててローブで隠そうとしているネギのあたふたした姿があり、高音はローブを受け取るとともにすごい勢いで叫びを上げながら控室へと消えていく様を見て、

「なにがあったの……?」

と、その場を見ていてネギに食ってかかっているアスナ達に事情を聞いたシホはお決まりの片頭痛を感じながらも、

「うーーーーん……まぁ仕方がないのかな? 高音さんも本気で挑んだ結果だったんだし」
「それはそうだけどさ……」
「でも、それに関連して魔法関係がヤバいわね」

そこにちょうどタイミングよく愛衣もやってきて、

「ネギ先生! シホさん!大変ですー!」

と、ノートパソコンを開いて現在の現状を見せてもらって、その混乱具合にネギと一緒に見ていた愛衣ももう涙目だった。
シホは深く悩みながらも、

「いまはタマモの報告を待つしかないわね……(行方が分からなくなったタカミチの居場所も特定してもらわないとだし……)」

まだ試合でやる事が残っているために超の事をタマモに調べてもらっているシホはもう一度タマモに念話をする。
そして、ひとまずはいまはエヴァと刹那の試合を注視しようという事で気持ちを切り替えたシホであった。


 
 

 
後書き
ちょっと念入りに小太郎目線をアップしてみました。
原作とは違う感じにしましたが大丈夫でしたか……?
エヴァ対刹那までは入らなかったです。 

 

046話 学園祭編 幸せの権利

 
前書き
更新します。 

 

シホはなにやらエヴァとネギの会話に耳を傾けながら、

「(ネギ先生、エヴァとデートの約束もしていたのか……これはいよいよ以て大物かもね)」

負けたらデートという約束事。
だが、エヴァはもう満足したとかいうが、それでも一度シホの方へと向き、

「しかし、私はまだこの大会を最後まで見ないといけない理由が出来たのでな」
「理由、ですか……?師匠(マスター)……」
「ああ。ぼーやもこのままだとシホとも決勝戦で戦う事になるだろう。もしかしたら面白い手品が見れるかもしれんぞ?」
「それって……」
「エヴァ。いまはここまでで……」
「むっ。そうか」

シホが間に入ってそう説得する。
それでネギは怪訝な顔をしながらも、

「シホさん……シホさんはなにかすることでもあるんですか……?」
「うーん……そうですね。それではネギ先生、エヴァと刹那の試合が終わったら紹介したい人がいるので一度落ち合いましょうか」
「紹介したい人、ですか……?」
「はい」

それ以上はシホは語らず、そのままエヴァ達は舞台へと上がっていく。
シホは思った。
きっとエヴァは刹那に対して幸せとはとか言う問答でもするんだろうと……。
エヴァは先ほど自然とネギ達と笑いあっている刹那の横顔を見てイライラしていた。
何か事を起こすのだろうと……。


そして試合が始まってからはそれがより顕著になった。

『最近、幸せそうじゃないか刹那?』

そのエヴァの一言とともに刹那は困惑しながらも試合を始まって、即座にエヴァの糸による操糸術にはまって何度も舞台で転がされていた。

「もともとエヴァは本気を出せば300体以上は人形を操れるって聞いたからあれくらい容易いかもね……それより」
「刹那さん……ッ!」

隣を見たシホは思わずため息を吐いた。
隣ではアスナが怒りを爆発させそうになっている。
問題は舞台の上で一方的にエヴァが刹那にある事を語りかけている。

『幸せになれると思っているのか?私と同じ人外の身の上で……』
『ッ……!』

刹那の顔は歪む。
それでもエヴァは語りをやめない。
そしてとうとう物理的に『ブチッ!』という音が聞こえるほどにはキレたアスナが叫んでいた。






「くおらぁ!!こぉのバカエヴァちゃん!!」





と。
それはすさまじいものでアスナはもう周りの目など気にせずに怒鳴り散らしていた。
それを感じてかエヴァは呆れた顔をしながらも、刹那にあることを促した。
次の瞬間にはまるでエヴァと刹那の時間だけが停止したかの如くその場から一切動かなくなった。

「あー……あれは幻想空間に引きずり込まれたかな?」
「え、シホ。なにかわかったの?」
「ええ。おそらくはパクティオーカードに夢見の魔法でも使えば見に行けると思うわ。それで、ネギ先生は見に行きますか?」
「はい!いきます!」
「わかりました。それでは私は私でエヴァとは契約していますので独自に行きますので遅れませんように。チャチャゼロも一緒に行く?」
「タノムゼ」

シホはそれでエヴァから教わってなんとか形にはなっていて使える夢見の魔法で幻想空間へとダイブしていった。
パクティオーカードを額につけたまま動かなくなったシホと一緒に行ったのであろうチャチャゼロを見て、

「兄貴!」
「僕達もいきましょう!」
「ええ!」

遅れてネギ、アスナ、カモミールの三人も幻想世界へとダイブした。





………………



そこではすでに戦場のような景色が映し出されていた。
別荘はもう爆撃にでもあったかのようにズタボロになっていて、あちこちで噴煙が上がっている。
そこでは特別な衣装で戦っている刹那がそれでもエヴァに圧倒されていた。

「選べ、剣か幸福か。剣を捨て、人間として生きるのも悪くはないぞ?」
「それは……!」
「選べんか?…………そうだな。それでは貴様はシホを見てどう思う?」
「どう、とは……?」

そこでなぜか自身の話になってシホは困惑の顔になる。

「なんでそこで私の話題を出すかなぁ……」

思わずつぶやくシホ。
しかし、ネギ達はそんなシホとは対照的に真剣な顔のままだった。

「ヒトとして生き、ヒトとして死んでいく運命だったシホは……その運命を無理やり捻じ曲げられた。吸血鬼となり果て永遠の時を生きる羽目になった。
シホはお前達に心を開いているように一見見えるだろう? しかし、私から見させてもらえばシホはある一定の距離感を貴様達と開けている。それはなぜか分かるか?」
「それは……」
「分からんか?ならば言わせてもらう。もうシホは普通に生きる道をとうに諦めているんだよ」
「そんな!!」

思わず刹那は叫ぶ。
人外でもやろうと思えば共存は出来る。
そう叫ぼうとして、

「貴様は知らんだろう。はるか昔から不死の者達は世界から蔑み怖れられ除け者にされてきた罪深い歴史を……」

そう話すエヴァ。
それに呼応してシホは独り言のように話す。

「…………そうね。私はもう諦めているのかもしれない」
「シホさん!?」
「シホ! ダメよ!そんなこと言わないで!」
「気遣ってくれてありがとう、二人とも。でもね……私はとうの昔に一回あの惨劇の中であらゆる凌辱をされて心を、身体を壊された……もう人間にも戻れない。だから……」
「そんなの関係ない!そりゃ辛い事もあったと思う。わたし達には到底共感も理解もできないと思う……それでも私は、シホとこれからも友達でいたい!」
「僕もです!」
「アスナ……ネギ先生」

そんな二人の説得に呼応するように、刹那もエヴァに向かって答える。

「剣も、幸福も……どちらも選んではいけないでしょうか? そしてシホさんの幸福も一緒に探してあげたいんです。ですから、私は剣も幸福もどちらも諦めません!」
「どちらもだと……?」
「はい!」






「ほざけガキが!!シホのような絶望も味わった事もない甘ったれの貴様にそれができるのか!!」





エヴァの渾身の叫び。
それは幻想世界を震わすほどであった。
それでも刹那は怯まずにただ一言「はい!」と答え切った。
それからはもう問答など不要とばかりに二人は今出せる最大奥義をぶつけた。
次の瞬間には幻想世界は砕けて、現実に引き戻される一同。

舞台の上では爆発が起こった後に刹那の渾身の振り抜きでデッキブラシはエヴァの腹に命中しそのままダウン。
カウントの後に刹那の勝利が決定した。

それから刹那はエヴァの事を褒めているようで、エヴァも「歳か…」と呟くほどだった。
アスナ達も駆けつけて刹那の過去の事について聞かされていると話す。
それを含めて、



「凛、ゴメン……。私は……もう幸せなんて掴めないのかもしれない」



そんなアスナ達の姿を眩しそうに感じながら一歩引いたところでシホは過去の友人に話すかのようにそう呟いた。








◆◇―――――――――◇◆





それから救護室に運ばれたエヴァはアスナと刹那に話したいことがあると言い、ネギを追い出した。
ついでにシホはエヴァの過去は聞かされているために、

「それじゃ私も少し席を外すわ。エヴァもそんなに私の話題は二人には話さないでよ?」
「あー、あー。わかってるよ」

そう言ってシホは救護室を出ていった。
それを合図にアスナ達にエヴァは自身の過去の事を話していく。

中世の時代、まだ人間だったが秘術で吸血鬼にされた事を……。

「それって……シホと同じ」
「そうだ。私とシホとではやり方は違うがおそらく根元は一緒の秘術で吸血鬼にされたのだろうな」
「そんな……」

そして魔女狩りも流行っていた時代、一回本気で火刑もされかけたこともあったが、実力で逃げて、倒してを繰り返して、ここでは話さなかったが他にも不死の仲間と一緒に世界へと挑んでいき、気づけば『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』『不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトエ)』として恐れられていた事。


そこまで話し終わって、



「わかるか。私はもう人並の幸せを得るには殺しすぎた。そして長く生き過ぎた……」

そう話すエヴァだったが、どう判断をしたのか知らないがアスナと刹那からはなぜか同情にも似た感情を抱かれて、

「大丈夫。今からでも幸せにはなれるって!」
「馬鹿か貴様!」
「うん。バカでもいいよ。でも、その権利はまだエヴァちゃんも持っているんだから」
「それは、シホにも同じことを言えるか……?」
「当然でしょ?」
「はい。きっとシホさんも……!」
「どうだろうな……」

アスナと刹那がそう自身を以て頷くが、エヴァは難しい顔になって、

「ここまで首を突っ込んだんだ。貴様等にはシホのある重要な事を話してやる。それを聞いた後でもそんな戯言を話せるかどうか、見ものだな」
「シホの事……?」
「それは……?」
「シホにはな…………―――――…………」


エヴァが二人に教えた内容はあまりにも残酷なものであった。
二人は言葉を失い、涙を流しながら嘔吐感に苛まれるほどの内容。
そんな二人の姿など目に入れずにエヴァはなお語る。

「いずれシホの運命は動き出す……それを貴様らは果たして心折れずに支えられるかな……?」

それはエヴァが二人に下す挑戦状のようなもの。
これを支えられなければシホの幸せを願うなど到底叶いもしない事だからだ。

それを黙って聞いていたチャチャゼロは、

「(御主人モ甘ェナ……。ソレヲ今教エチマッタラ後ノ愉悦ノ光景ガ半減スルゼ?)」

そういう思いに耽っていた。
もし、この内容をたとえば言峰綺礼やギルガメッシュが知ったら大笑いをして愉悦を感じていた事だろうか?
いま判明している事だけでも愉悦を感じるには十分ではあるのだが……。






◆◇―――――――――◇◆





エヴァ達と別れたネギとシホは、とある場所に向かっていた。
それはあまり人が集まっていないところ。

「シホさん? その、僕に会わせたい人って」
「よおよお、シホの姉さん。それってさっきの奴か?」
「まぁね。あ、いたわ」

シホが見つけた場所には寛いでいるアル……クウネル・サンダースの姿があった。

「おや……。シホと、それにネギ君」
「あなたは、クウネルさん」
「はい。あなたとはこうして話してみたかったんですよ。ですが、シホに破れてしまい私の計画も崩されてしまったわけですが……」
「計画って……」

ネギが少し身構える。
もしかしていけないことでもするのかという思いで。
しかし、アルは笑みを浮かべながらも、

「大丈夫です。悪い事など一切考えていませんから。それよりネギ君は私の能力を知りたいのではないですか?」
「ッ!はい、ほんの一瞬で煙にも隠されて見れませんでしたがなにか本のような能力なんですよね?」
「はい。私のパクティオーカードの能力は『特定人物の身体能力と外見的特徴の再生』です」
「ッ!?」

ネギはそれで驚愕の顔をする。
だが、アルは続ける。

「他にもあるのですが、再生できる時間も少ないですからあまり戦闘向きではありませんね。ですが、ある能力があります」
「そ、それは……?」

ネギは動揺しながらもその能力を聞く。
もしかして、もしかして……という思いに駆られながらも。

「もう一つは『全人格の完全再生』……効果は10分しかないですからこれも使える物ではないです。しいていうなら『歩く遺言』です」
「まさか!?」
「はい。私はとある人物の遺言を預かっています。『自分にもし何かあった時、まだ見ぬ息子になにか言葉を残したい……』と」
「…………ッッッッ!!」

ここまで言えば聡明なネギの頭脳はとある答えに辿り着く。
同時にそれはこの大会ではもう叶わないという事も……。

「ですが、シホは私の気持ちを汲むことができます」
「し、シホさんが……?」

そこで今まで黙っていたシホが口を開く。

「はい。私の『贋作の王』はカードに蓄積された想いもすべてコピーできるんです」
「そんな!?そんな事も出来るんですか!?」
「シホの姉さん!それじゃもしかして兄貴と決勝で!?」
「それも含めて……ネギ先生にはとある事実を教えておきたいんです。最後は選択するのはネギ先生の意思ですから」

シホはそう言って懐から剣の柄……しかしその先にはまるで棒状の宝石のような不格好なものが生えているものを取り出した。
それをネギの額に向ける。

「シホさん……な、なにを……?」
「今からネギ先生に万華鏡のように連なる世界の一つ……私という異世界人がこの世界に介入しなかった世界のとある光景を見せます。そして決めてください。ネギ先生の判断に私は従います」

そして有無を言わさずに宝石状の剣……宝石剣ゼルレッチから七色の光が漏れ出した。
ネギは見る事になる。
それを見たことによって“判断”を決めた。





…………こうして麻帆良武闘会は佳境へと迫っていく事になる。



 
 

 
後書き
ネギにはとある光景しか見せません。
それがどうなるかは、あまり変わらないのかもしれませんね…。

それと、シホが使ったことによって『トリガァッ!』が成されています。分かりますね? 

 

047話 学園祭編 楓との試合

 
前書き
更新します。 

 




超はシホとアル、そしてネギがあっている光景を目敏く確認していた。

「ふむ……なにやら込み入った話をしているようネ?」
「そうですねー。あ、シホさんがネギ先生に話に聞く宝石剣というものを向けましたよ!」

葉加瀬の言葉に超はすぐさまに、

「集音マイクをあの場限定で最大限に!聞き逃したらダメと私の勘が告げているネ!!」
「は、はい!!」

それで設定をいじって周りの音をすべて置き去りにする操作をしてシホを中心に言葉を拾えるように設定を完了する葉加瀬。
そしてシホが話した内容はというと、

『今からネギ先生に万華鏡のように連なる世界の一つ……私という異世界人がこの世界に介入しなかった世界のとある光景を見せます。そして決めてください。ネギ先生の判断に私は従います』

と言った。
そして七色の光が一瞬ネギを包んだと思った次の瞬間には、光は消えていたがなにやらネギの表情は色々な感情が綯い交ぜになったような表情に変化していた。

『し、シホさん……このヴィジョンは本当ですか……?』
『兄貴! なにを見せられたんすか!?』
『はい。もしもクウネルが決勝戦でネギ先生と戦った場合に起きたであろう並行世界での一端の光景です』
『そう、ですか……』

それで少しネギは黙り込んだ後に、

『…………わかりました。シホさん、父さんとも戦いたいです……でも、今の僕の気持ちは決まりました。弟子入り試験の時から成長した僕の力で挑ませてください。もちろん父さんの力を使わずに……』
『わかりました。私も全力とはいかずとも挑ませていただきます。でも、もう決勝に進出したつもりではいけませんよ?ネギ先生には準決勝で刹那が待っているんですから。私も楓がいますが…』
『わかっています。きっと、勝ち上がります!』
『その意気です。それでは私は先に準決勝を挑んできますね』
『はい!頑張ってください』

それでシホは舞台へと向かっていった。
それで残されたネギとクウネルはというと、

『ですが、クウネルさんがまさかシホさんに名前だけでも聞かされていました父さんの戦友の一人であるアルビレオ・イマさんだったなんて……』
『おや。並行世界では名乗っているんですね。あの一瞬の光の中でネギ君はなにをどこまで見せられていたのか気になりますが、はい。ですがこの大会ではクウネルで通してください。それとシホの言う通りになりますと彼の遺言は後程に改めてという事になりますかね?』
『はい。楽しみは取っておきます』
『わかりました。さぁ、ネギ君もシホの試合を見に行ってください』
『わかりました!』

そんな感じでネギも試合を見に行く。
そして一人になったアルは……ふと視線を超達が見ているだろう方へと向けて、指を口に添えて「しぃ……」と今の光景は内緒ですよ?と言わんばかりにジェスチャーした後に一瞬で姿を消した。



………………



「ふぅ……最後は少しひやひやしたネ」
「そうですねー……まさか気づかれているとは」
「あの調子だとシホさんにも気づかれていたのカナ?」
「どうでしょー……?」
「しかし、シホさんの能力の一つである『並行世界の運営』……すごいネ。並行世界の、しかもかなり限定的な光景だけを指定して切り出してネギ坊主に見せるだなんて……。だが恐らくそんなに連発は出来ないと見たネ?この学祭で魔力が満ちているから準備もなしに出来たと思うヨ」
「多分そうですね。もし無制限でしたら私達もきっと手が負えませんからー」
「そうネ。あれは並行世界から魔力も持ってこれるという話は茶々丸の聞いた話から知っているが、それは恐らく攻撃にも転用できて条件が揃えば無限の魔力も……という事にも使える……かなり恐ろしいネ。シホさん自身も実力は相当のものだというのは折り紙付きネ。ホントに敵にはしたくないヨ……どうにかこの学祭だけでも邪魔されないようにしないと計画の失敗は必須ネ」
「どうにかできればいいんですけどねー……」
「考えねば……」

それで頭を悩ます麻帆良の頭脳である天才二人がいたとかなんとか。
しかし、その天才二人もまさかシホ(厳密に言えばタマモ)に逆に手玉に取られているとは思うまい。

「(お母様、ビンゴです。お二人を発見しました)」
「(わかりました。そのままずっと張り付いていてくださいね、琳ちゃん♪最悪憑依して着いていてね?)」

二人の背後にはタマモの使い魔である管狐『琳』がずっと無言で二人に気取られずに張り付いていたのだから……。
そして他の三匹も今頃施設をくまなく冒険もとい探索中である。
焔と刃の二匹は「なにかたくさんのタームネーターや巨大なロボット発見したー」とキャッキャと報告してるし、雅は「高畑先生を発見……現在、脱出したのか移動中。尾行します……」と普段通り冷静に判断してタカミチに付いて行っている。お供のちびせつながキョロキョロと周りを気にしているが気づかれていない。
同じ使い魔でもレベルの差が天地ほどにありすぎるのだ……。

超ははたしてどうなるのかはわからない……。
タマモはタマモで当分は泳がせるのもありかなと思っている。


そして、そんなタマモとは関係なくタカミチを探すために来たという美空とココネがエヴァとの話で少し不安定ながらも気丈に振舞っているアスナ達と合流して地下に潜っていったとかなんとか……。






◆◇―――――――――◇◆




場面は戻り、シホと楓の試合になる。

「そういえば、シホ殿とはこうして相まみえるのは初めてでござるな?」
「そういえばそうね。別段争う理由なんてなかったわけだし」
「だが、こうして舞台は整えられてしまったでござるな。なにやらシホ殿はネギ坊主に用がある感じでござるが……信用してもいいでござるか?」
「まぁそれなりには……」
「そうでござるか。あいわかった……拙者としてもシホ殿という強者と戦えるのは素直に楽しみでござるからな」

それでお互いに笑みを浮かべるシホと楓。

『お互いにヒートしているようです!お二人は同じクラスの生徒ですので楽しみです!と言いますか、3-Aの関係者が多すぎじゃね!?という疑問を拭いきれません!とにかく準決勝第一試合、始めさせていただきます!』

朝倉の「Fight!!」という宣言とともに、すごい踏み込みとともにシホは楓に竹刀を叩きつけた。
一気に吹き飛ばされた楓は池へと沈んでいく。

「ふむ……手応えがないわね」
「いや……さすがの踏み込み、恐れ入るでござるな」

いつの間にか吹き飛ばされたと思っていた楓がシホの隣に立っていて身を震わせていた。ただし、4人いるが……。

『なんと! 吹き飛ばされたと思った長瀬選手、今噂の分身をしています!』

朝倉の声とともに二人は同時に姿を消して、見ればいつの間にか空へと飛んで四人の楓がシホに襲い掛かっていた。
そんなシホは冷静に四人に対処して攻撃を受けずに、しかしその瞳を光らせていた。

「密がある分身ね。ほぼ本体と同じくらいか」
「お褒め頂き光栄でござる。しかし攻めきれないのは些か辛いでござるな」
「そう。それじゃ私から行くわね?」

シホははなから分身には目もくれずに本体の楓へと斬りかかっていく。
楓はそれで目を見開きながら回避の行動を取るが、

「どうして本体が分かるでござるか……?」
「私の能力を教えていたっけ?解析魔術を使えば本体なんて簡単に特定できるわ」
「ずるいでござるなぁ……しかし、ただではやられんでござるよ!」

楓は空中で地面を蹴る歩法『虚空瞬動』を使い、四人同時に仕掛けて『朧十字』という技を仕掛けたが、錬鉄魔法で風を纏ったシホは無理やりに、しかし的確に高速の動きをして本体の楓を地面に叩きつけた。
そしてようやく地面へと着地したシホは、叩きつけた楓を見て、

「ほら。まだこんなものじゃないでしょ?楓」
「ふふふ……そう言われるともう少し粘ってみたいでござるな」
「そうこなくちゃ」

『先ほどまでの空中戦はすごかったです!ですが見る限りシュバインオーグ選手は一切息を切らしていません!長瀬選手も涼しい顔をしていますが、果たしてこの勝負どうなる!?』

楓はまだ負けたくない気持ちを前面に出して一瞬にして16分身をして、シホへと仕掛けていった。
しかし、シホは身体が紫電に光ると同時に……それはまさしく刹那の瞬間ともいえる一瞬で、まるで光が雷鳴のごとくじぐざぐに楓の分身本体構わずに迫っていく。
そして二人はそのまま交差して、

「…………」
「…………」

二人は無言。
シホは竹刀を振りぬいたまま停止し、楓は何かを仕掛けたかのように腕を上げたまま同じように固まっていて背中合わせに動かない。


『お互いに動かない! これは一体……ッ!?』

会場が少しの間、静寂に包まれたが、しばらくして、

「拙者の、負けでござる……」

見れば楓の服装は焦げたかのように黒くなっていて肌も何か所か少し痛々しく血が流れていて、特にお腹に受けたのだろう竹刀の傷がいまだに紫電が残っているのか斬られたかのように肌が露出していて青く痣になっていた。
気でガードしたのだろうが、それでも防げなかったのだろう……。

『長瀬選手、ギブアップ!シュバインオーグ選手の勝利です!長瀬選手はボロボロのようです!早く救護室に向かってください!』

朝倉の誘導で楓は舞台から去る際に、

「ネギ坊主の事、頼んだでござるよ?」
「任せて」
「しかし、世界は広いでござるな……シホ殿に手傷すら負わせられないとは。まだまだ修行が大事でござるな」
「そんな事はないわ。最後の一撃……少しだけ腕が痺れているから」

シホはそう言いながら腕を振っていた。

「そう言っていただけると戦った甲斐があるでござるよ。ではお互いにまだまだ精進でござるな」
「そうね」

シホも舞台を去ろうとする。
そして、ネギの方へと向き、

「待っていますよ、ネギ先生……」

そう言って舞台から降りていった。
そう言われたネギは逸る気持ちを抑えながらも、

「(シホさんが決勝へ駒を進めた……僕も、勝ってまたシホさんと戦いたい……でも)」

そこでネギはシホの先ほどのセリフを思い出した。



『もう決勝に進出したつもりではいけませんよ?ネギ先生には準決勝で刹那が待っているんですから』


そうだ。強くなるためには一歩一歩前進していくしかないんだ……どうしても刹那さんには勝たないと!という気持ちでネギは選手控室に行き、試合前の精神統一を開始した。










選手席に戻ってくると、もうこの場にいるのは残り少ない選手の観客であるエヴァとアルがシホを迎えていた。

「シホ、勝ったか。まぁシホの実力を鑑みればアル「クウネルです」……クウネルが負けてしまえば後は出来レースみたいなものだったからな」
「フフフ……そうは言いますが、ネギ君の成長は目覚ましいですよ、エヴァンジェリン」
「そーかもしれんが、あのぼーやではシホには勝てんだろ?まず刹那にも勝てるか分からん」
「それはわからないわ。ネギ先生にはとある並行世界の光景を見せてきたから」
「……なに?」

それでエヴァが胡乱げにシホを、そしてアルを交互に見ながら、

「まさか宝石剣を使ったのか……?」
「ふむ、宝石剣とはなんでござるか……?」
「お金関係のものアルか?」

そこに首を突っ込んでくる古菲といつの間にか戻ってきたのか楓が聞き耳を立ててきていた。
シホはどう説明したものかと思ったが、エヴァが律儀に簡略的に説明してしまった。

「なんと……シホ殿はそんな能力も持っていたでござるか」
「まさにサポートも完璧アルな。まさか並行世界の光景を見せる事ができるとは……うはーでアル」

お手上げといった感じに古菲は折れていないほうの片腕を上げていた。
楓も「役者が違うでござるな」と素直に感心していた。

「しかし、そうなるとシホは決勝ではナギにはならないのか?」
「そうだね。ネギ先生も私自身と戦いたいって言っていたし、ナギの件は後程に改めてお願いしますって……そうよね?クウネル」
「はい。私としましては決勝戦でナギにコテンパンに打ちのめされるネギ君も見たい気持ちはありましたが……」
「わー……性格悪いアル」
「マ、コイツ的ニハ自分デ実行デキナイ以上ハ楽シマネェトナッテ感ジカ」
「まぁそうだろうな……さて、ではぼーやは刹那とはどんな勝負をするのか」

それで舞台を見れば精神統一を終えたのかネギが刹那とともに舞台へと上がっていく姿が見られた。
刹那は自然に、対してネギはまるで最初の試合かの様にガチガチになっていた。

「ありゃ? ネギ坊主、少し硬いアルネ」
「緊張しているのかはたまた……そういえば、ネギ先生と言えばアスナ達は?見ないけど」
「あぁ……そういえば先ほど美空達がやってきて高畑先生を救出するとかで数名で地下に潜っていったアルよ」
「そうなんだ? そりゃまた余計な手間が増えたわね……」

そう言うシホに古菲は「それはまたなんで?」と言った顔になっていて、

「タマモの使い魔達に超の施設を隈なく散策してもらっていて、タカミチも捜索してもらっているわ。ちょっとごめん……」

シホはタマモに念話をする。
少しして、

「タカミチはもう発見しているみたい。ついでになにやら重要な施設も発見したとか。なんかアスナ達や美空が田中さんの大群に襲われているとか……田中さんってあのロボット?」

タマモの情報により、その場に微妙な空気が流れたとか……。
ともかくネギと刹那の試合が開始されようとしていた。




 
 

 
後書き
古菲と楓は結構ずぶずぶにシホ達の情報を知っていってます。
そして超達は果たして……? 

 

048話 学園祭編 異変の兆候

 
前書き
更新します。 

 

…………これは確実に死ぬ。
直感で悟った。
あの剣を振り下ろされたが最後、私は魂も残さず消滅するだろう。
私はただまたあなたに会いたかっただけなのに……。含みもありますがね。

ああ……どうすれば……今からではもう瞬間移動などという小細工はこの世界(・・・・)には効果もないのだろう。
さきほどから何度も試しているのだから……。

私の使命などもう無きに等しい。

ただ倒されるだけなら故郷には帰れるだろう、しかし……もうそれも許されないらしい。

死ぬ、死ぬ、死ぬ……?

この、私が……?

まだこれからやりたいことも試したいこともたくさんある。なにより残されるあの小娘(・・・・)の存在もある。

だと言うのに……。

口惜しい、憎らしい……。

この底知れぬ感情も次の瞬間には塵芥に帰すのだろう。

それがなによりも度し難い!!

しかし、もう取れる手もほぼ出し尽くした。

このまま消されてしまう。

それもまた運命……?

そんな運命など断じて認められない!

まだできることはあるはずだ!

魂は消滅しても想いを、呪詛を、慟哭を残したい。

そしてついに振り下ろされたそれ……。

だが、私が酔狂する神と呼ぶにはおぞましい邪は私を見捨てなかった。





――――ミツケタァ!!







◆◇―――――――――◇◆



麻帆良武闘会、準決勝二試合目。
ネギと刹那の戦いは関係者から見れば不出来に見えるだろう。
是か非でも決勝に進んでシホともう一度勝負したいというネギに対して、刹那は心の中で思った。

「(今のネギ先生の瞳には私が映っていない)」

私をただの過程か通過点であると思われているわけではないのだろうが、それでも先を見通すばかりでしっかりと眼前の相手を見据えていないのは武闘家として失格点であろう。
だから嫌でも私を見てもらう、刹那はその心持でネギに対して焦りから来る瞬動術の基本である「入り」と「抜き」も雑すぎると指摘しながら、

「シホさんと戦いたいのは分かります。ですがそれではダメです。勝負する相手の事をまずは第一に考えてください。サウザンドマスターの仲間だったから、父君の信頼する人だから……そんな憧れで目を曇らせてはダメです……ネギ先生は父への憧れから前へ前へと進もうとします。でも、遠くばかり見ていて足元の小石に躓いてケガをするかもしれませんよ?あるいは……」

そこで一片の桜がネギの元へと舞い落ちてきて、

「手元で咲いている花を見逃すことも……今のあなたの相手は私です。今は私を見てください、ネギ先生」
「ッ!」

それでネギはハッとする。
そうだ。なんてダメだったんだ僕はという気持ちが溢れてくる。

「そしてお父さんの背中を追う日々も……アスナさん、カモさん、シホさん達の事……お嬢様達の事……そしてみんなの事を……忘れないでください」

その言葉にネギの脳裏には今まで出会ってきた人達の顔が次々と浮かんでくる。
そして、なにも焦る必要はないんだ。
一歩、一歩を踏みしめて……僕はいつか。
でも今は、今だけは刹那さんに気持ちを集束させる。
ネギはその気持ちを確認して一息つく。
周りから見ればどこか気持ちがすっきりしたかのような表情の事だろう。
それで料金を払わないで入ってきていた3-Aのクラスメイト達は思わず涎を垂らすかもしれないほどそのネギの表情に魅入れられていた。
そしてついにネギと刹那の本気の試合が開始する。




それを見て、もう不安視することはないだろうとシホは感じた。
それでどこかで見ているであろう小太郎の気配を読んで、

「お、シホ殿も行くでござるか?」
「ええ」

小太郎がいる場所に辿り着くと、案の定小太郎はネギの急成長に頭を悩ませていた。
だからその場にいた古菲、楓、アル、そしてシホはそれぞれに小太郎に適したアドバイスをするのであった。
それで少し気分が良くなった小太郎は、

「それでシホの姉貴はネギとどう戦うつもりなんや?」
「そうね……なにやらネギ先生は秘策をまだ隠し持ってるみたいだからそれを引き出してから考えようかな?」
「秘策やて?」
「ええ。少なくともまだろくでもない特攻ではないみたいだけど、はてさて……」

それより会場がなにやら騒がしい事に気づく。
あちこちでネギの情報とやらを知った観客がネギの事を盛大に応援し始めているのだ。
シホもそれで携帯を取り出して軽くネギの事を検索してみると、出て来るわ出て来るわネギの出生や大会出場の理由など……。

「超のやつ、やってくれるわね……」

中にはシホの事も少なくない記事が作られていて、

「『半年前に突然編入してきた今は健康体であるが足が不自由だった少女の過去とは……?』…………タマモが知ったら殺しにかかりそうな記事ね……」

さすがに吸血鬼である事を仄めかす内容はなかったが、一度ネットに拡散してしまえばどこで探りを入れてくる輩が出てくるか分からない。

「……確かに、厄介な事になってきましたね」

さすがのアルも苦笑いを浮かべている。
古菲もさすがにシホの事情を知っているだけに怒り顔であった。

「まぁもう後手だししょうがないと割り切るしかないか。あ、ネギ先生が勝ったみたいね」

見ればお互いに最後の一撃にかけたのだろう。
刹那の攻撃はネギの頬を少し掠り血を出す程度のものであったが、ネギの肘鉄は刹那のお腹に直撃していた。
そのまま刹那は二、三事呟きながら倒れた。
朝倉のカウントで、


『ネギ選手勝利!これで決勝への駒を進めました!!』


朝倉の実況を聞きながら、

「さて、それじゃ少しネギ先生を揉んできますか」
「頑張ってや、シホの姉貴!」
「うう~、私も戦いたいアル。骨折が憎らしいアル!」
「それでしたら……」

そう言うとアルがご丁寧に治癒魔法をかけてあっという間に骨折を治してしまった。

「おー?治ってるアル!」
「これから彼女達と戦うかもしれないのですから骨折は不便でしょう?アフターサービスです。もし、無事にこの学園祭が終われたのならネギ先生と一緒にあなた達も私の住処に招待しますよ」
「良い事を聞いたでござるな」
「うむ♪」
「では、シホ。ほどほどにネギ先生と頑張ってくださいね?」
「わかってるわよ」

シホはそれで舞台へと向かっていった。
そんなシホの背中に悪魔の翼の幻影が映った事に対して四人は目を何度か見開いているが……。
それで楓はある事をアルに尋ねる。

「それで、クウネル殿はシホ殿の事を現状はどこまで知っているでござるか?」
「そうですね……悲しい出来事も含めて大まかにはもう知っています」
「そうでござるか……」

それ以上は楓も察したのか黙る。
古菲や小太郎も苦い顔になっている。

「あの悪魔はシホの姉貴がきっちり倒したんや。でも、なんやろな?このざわつく気持ちは……それにさっきの幻影は?」
「なんか気持ち悪いアル……シホがどこかに消えそうで」
「拙者達からすれば色々な意味で遠い存在でござるからな……」
「今は見守るしかないですね……いざという時は止めますので」







『さぁ遂に!遂に伝説の格闘大会「まほら武闘会」決勝戦です!!』

それでスクリーンにはネギとシホの映像が映される。
朝倉が色々と二人の紹介をしながらも、

『さぁ学園最強の名を手に入れるのはシホ選手かネギ選手か!?まずはシュバインオーグ選手の入場です!』

そしてシホが舞台へと無言で上がってくると、

『まずはこの人!シホ・E・シュバインオーグ選手!ここまでの試合すべてを可愛い虎のストラップのついた竹刀一本でなぎ倒してきた猛者です。他にも様々な動きを披露してこの決勝戦まで傷という傷を負っていません!その細腕のどこにそんな腕力があるのか!?
さぁ対するはわずか10歳でこの達人たちの間を勝ち上がってきた天才少年!噂の子供先生!!流派 八極拳・八卦掌の少年拳士……ネギ・スプリングフィール選手です!!』


二人の登場に会場のボルテージは最大限まで高まる。
シホとネギは無言で構えを取って今か今かと試合開始のゴングを待つ。

『両者、言葉は不要という感じですね! それでは始めさせていただきます!決勝戦最終試合……Fight!!』

その合図と同時にネギの身体はまるで闘気でも身にまとったかの如く光り出す。
それを見てシホは思わず「へぇ……」と呟く。

ネギはこの状態を過去に二度体験している。

一回目はエヴァに弟子入りするときにシホの言葉責めで過去の光景を思い出してしまい、暴走してシホの胸を陥没させるほどの威力を纏った拳を叩きこんだ時。
二度目はヘルマンとの戦いで同じく過去の光景を連想してしまい、またもや暴走して後先考えずに吶喊して、小太郎の助けがなければ石化もしていただろう時。

その二回の経験を経て、ネギは過去の情景がこの力を引き出すトリガーになりえるのだろうと読み、敢えて自身の心を向き合いながら、それを制御下に置いた。

ゆえに、

「これは一筋縄ではいかなそうね……」

思わずのシホの言葉にネギはまるで悪戯が成功したかのような笑みを浮かべながら、

「シホさん、いきます!」

言葉はそれだけでネギはヘルマンの時よりは控えめで、それでもかなりの加速がついた動きをして瞬間的にシホへと迫る。
さながら某戦闘民族が使う体に負担が大きい術のようで……。

シホはここまでネギが力を引き出せるようになっていた事に驚きと成長の喜びを感じながらも、それでも冷静に竹刀を振り下ろしていく。
しかしシホの振り下ろしにもネギは対応してなんとかすんでで避けて、そこで初めてネギの拳がシホを竹刀越しに空へと打ち上げる。

『おおっと!!ネギ選手の拳が今までの試合で優勢だったシホ選手を捉えて打ち上げた!!初めてまともなダメージか!?』

朝倉の実況に、しかしそれでもシホは冷静に、

「(術式兵装(ファンタズム・コード)…………… 是、“剛力無双”……)」

シホは錬鉄魔法でとある大英雄の斧剣を魔力にして取り込んだ。
瞬間、ネギは悪寒を感じてチャンスなのにその場を離れる。
その危機感知能力は本物で、ゆっくりと着地したシホから恐ろしい程の闘気が溢れているのだ。

「大人げないと思わないでください、ネギ先生……これを使うのは認めた相手だけですから」
「ッ!!」

シホに認められた。
それだけがネギの心を歓喜にわかせる。
シホはそんなネギの気持ちを察しながらも、竹刀に斧剣の魔力を注いで、いざいかんと思った…………その時だった。
突如としてシホの背中に激痛が走り、「憎らしや……口惜しや……」という明らかな呪詛が込められている言葉が脳内を埋め尽くそうとしてくる。
そんなシホの急激な変化に選手控えの場で見ていたエヴァは思わず、

「いかんッ!!」

声を上げども、今は試合故に手を出せずにいる自身が歯がゆい感情に浸される。
負の感情に支配されそうになるシホ。
だが寸での状態で、シホはその負の言葉を精神力で乗り切ろうとしている。
その数瞬の間でシホはなんとか正気を取り戻して、

「すみません、ネギ先生……でも、大丈夫です!いきます!」
「え、あ……は、はい!!」

瞬間、二人の姿は舞台内だけでも一般人には感知できないほどの動きを披露していく。
拳と竹刀がかち合う音が響き合い、シホの異常に気付かなかった観客はただひたすらに二人の勝負を楽しんでいる。
しかし、魔法関係者や古菲などの格闘者達はただひたすらこの試合が早く終わってくれと願うばかりだった。
シホもいまだに背中の激痛が継続して続いていて、今にも背中の衣服がはじけ飛んである(・・)ものが出てきてしまいそうになるのを必死に幾つかの思考を割いて我慢する。
そして、もう限界が近いと悟ったシホは、

「ネギ、先生……すみません……次で、決めます」

ダメージを負っていないというのに苦しそうな表情でそう話すシホの事を心配するなという方がおかしいのにネギは今はそのシホの必死の気持ちを汲んで自身ももう少しで制御ができなくなって暴走状態になるかもしれないのを察したのか、奇しくも二人とも同時に最後の一撃を叩きこもうとした。

そしてネギは最大限に拳を光らせてシホへと吶喊し、シホは虎竹刀をまるで12もの太刀筋が襲うような剣技を見せて、ネギは一方的に十二もの竹刀の攻撃を同時に受けて、

『ね、ネギ選手……立ち上がりません!カウントを取ります!』

そして、

『カウント10!!シホ・E・シュバインオーグ選手の勝利です!!』

こうしてまほら武闘会の優勝者はシホに決まった。
見ていたエヴァはもうはらはらで喉が渇くほどであったし、最後の最後で戻ってきたタカミチもそのシホの異常にすぐに察するほどであった。

そしてシホはなんとかまだ保っている意識の中で授賞式で超に心配の言葉をかけてもらうが、それすらも今のシホには苦痛に感じてしまい、賞金の一千万を受け取ると、駆けてくるマスコミも目を疑う程の動きでどこへと共なく消え去って……、













■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーッッッ!!!!


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーー!!!!!!」

どこともしれない人が立ち寄らない場所で我慢の限界だったのだろう、背中からメキメキと音を立てて悪魔の翼が顕現して激痛がシホを蝕んでいく。
そこに、

「シホっ!!」
「シホ様!!」

エヴァとタマモがすぐに駆けよってきて、

「た、まも……呪詛を、お願い……」
「わかっております!いざや顕現!
この世に蔓延る魘魅邪魅(えんみじゃみ)、禊ぎ祓うは我が鎮石……わたくし、全開でご奉仕いたします! 水天日光、ここに見参!」

タマモ……いや、真明『玉藻の前』の宝具、『水天日光天照八野鎮石』が発動し、シホを蝕んでいる呪詛を瞬く間に取り払っていく。
だが、

「馬鹿なッ!?我が鎮石を以てしても魂レベルでシホ様の悪魔の翼に呪詛が癒着していて無限に溢れてきております!!祓いきれません!!」
「なんだと!?…………くそ、あの悪魔か。最後のあがきだったか……そういえばこの翼を起こすのも指を鳴らすだけだったな。死に際に最大限のものを放ったのか!アヤメ! なんとか奴の魂は祓んのか!?」
「今もなおやっております!ですが呪詛の度合いが深すぎて……生前のわたくしならまだしもサーヴァントという制限が付く今のわたくしでは太刀打ちできません!!」
「なら封印は出来ないか!?」
「ッ!やってみます!!」

それでタマモは最大限の封印術式を展開していき、その呪詛はやや抵抗があったが、なんとか悪魔の翼の中に押し込める事に成功した。
なんとか呪詛が消え去って、その場で荒い息をしながらも、シホは……、

「あり、がと……なんとか楽になった……」
「シホ様~……申し訳ございません。力及ばず……」
「大丈夫……私の方でもなんとか、対策考えてみる……一緒に、頑張ろう……」
「はい~……わたくしも誠心誠意努力いたします……」

なんとかこの場を切り抜けたシホ達であったが、エヴァの背後でチャチャゼロがカタカタと口を震わせながらも、

「(ケケケ……マタ爆弾ガ増エチマッタナ……マジデシホノ奴、不幸度合イニ関シテハ御主人以上ジャネーカ……)」

二重人格に今回の祓いきれない呪詛、過去のあれこれ……不幸と呼ぶには言葉不足だろう。
シホはその場でうつ伏せにへたり込んでいて、疲労具合が凄まじい事になっているであろう。
もし、エヴァとタマモが駆けつけなければ呪詛によってどうにかなっていたかもしれない……。
実に恐ろしきはやはり呪いという精神に異常をきたす薬物だろう。
今後はシホはこれとも付き合っていくしかないという事実が今後どう作用するかは、まだわからない……。






こうしてまほら武闘会は閉幕してくのであった。


 
 

 
後書き
封印……それは破られるのが常と言いますもんね……。

それと今回のネギの術式は闇の魔法よりも自己流で雑で魔力の暴走状態を精神力でなんとか制御しているというものです。
ガス欠早いし長期戦には向かないからやはり闇の魔法の方がネギらしいですね。



明日から艦これは秋刀魚が始まり、来週水曜にはfgoハロウィンがきて来月には新規お断り平安京クリア条件のハードイベが来るから昨日頑張ってまほら武闘会を終わらせました。



―追記―

没案で観客が見ている中で盛大に悪魔の翼が顕現する光景を見られると言うのもあったんですが、さすがに自重しました。 

 

049話 学園祭編 シホの精神の迷宮

 
前書き
Q:とある人物がシホに憑依するタイミングは何時だったでSHOW?

※ヒント:同系列の別の作品の53話辺りを読めば分かるかも? 

 
わたくし、タマモは今現在シホ様へと憑依を決行し、精神世界の深部へと降りております。
先ほどは外側から解呪を試みましたが失敗したので、もしかしたらいつものごとく憑依して一体化すればどうにかシホ様の身体を治せる手掛かりがつかめるかもしれませんから……。
それで次々とシホ様の大切な部分へと入っていきます。
そこには今までデリケートゆえにあまり入った事がないシホ様の心の階層の入り口もあります。
そこにはまるで……迷路のように上下左右の階段が複雑に絡んで平衡感覚を狂わせられるかのような作りになっていて……。
と、そこに、ポンッ!という音とともにエヴァンジェリンの姿が出現しました。

「うむ……なんとか私も入り込めたみたいだな」
「そうみたいですね。わたくし以外がここにも入ってくると言うのはあまり快くありませんが、今は少しでも手が欲しいですからお許しいたします」

そう。なんでエヴァンジェリンまでここに入ってこれているかと言うと、やはり仮契約カードを通して精神をシホ様に流すことによってどうにかこうにか入ってこれたみたいなのです。
普通はこんな使い方などはできないようですが、エヴァンジェリンともなれば容易いのでしょうね。

「しかし……こうも迷路をしているとは……。アヤメ、貴様も今までここまでは入ってきたことはないのだよな?」
「はい、お恥ずかしながらシホ様の精神にも直結する場所ですのでそうやすやすとはいかないのです。ですから今まで憑依するのはシホ様の意識がある比較的軽い場所にわたくしのスペースを構築していたのです」
「なるほどな……ではここからは道案内もいないというわけか」
「そうなります……」

それでエヴァンジェリンは少し顎に手を添えて考える仕草をしながらも、

「ククク……面白いではないか」
「面白い、とは……?」
「なに、ここにはシホにとっても未知の世界なのだろうから、もしかしたらシホ以外の人格もどこかに潜んでいるかもしれないとな」

別の人格……つまりシホ様があの20年にも及ぶ被害で精神に異常をきたして生まれてしまった多重人格の部屋がどこかにも複数存在しているかもしれないという事ですか。
ですが、

「あの吸血鬼然とした人格の彼女もいるかもしれない、と……?」
「だろうな。学園の奴らの魔法で奥底に封印はされたと聞くが完全に封印などできはしないからな。おそらく頑丈ななにかにでも入り口を施錠されて出られないのかもしれんな。
それとは別として先ほどアヤメが封印したモノの居場所くらいは分かるのだろう?」
「当然です!」
「ならばまずはそこに案内しろ。間近で見れば私にもなにかわかるかもしれんしな」
「お任せください」

それでわたくしとエヴァンジェリンは平衡感覚が狂いそうになりそうな迷路を一つの宛を探りながら進んでいく。
その道中でいくつも扉が発見されますが、それはおそらくシホ様の記憶の領域らしく扉には『memory of 衛宮士郎』と『memory of シホ・E・シュバインオーグ』などというネームプレートが掲げられているようだった。

「ここはもう知っているからいいとして……この調子なら他の部屋も順調にいきそうか?それにしても、シホと士郎の扉が別に分かれていたのは何か意味があるのか……?」

エヴァンジェリンがそう呟きますが、なんとなくわたくしはわかりました。

「おそらく、衛宮士郎として過ごした記憶はこの世界に来るまでのもので、シホ様として記憶を失い過ごしたことによって新たに生まれた人格が今のシホ様のものなのでしょうね」
「なんだ? つまり、シホはもう衛宮士郎の記憶を……いや、もう記録と言った方がいいか?それを持っているだけの別人格ということでいいのか?」
「それは心の機微で複雑なものなのでしょうが……その認識で合っているのではと……恐らくですが、シロウの扉を開けば中にはあのシホ様が発動した『無限の剣製』の世界が広がっているのかと……」
「あの剣だらけの世界か。ならば……」

そう言ってエヴァンジェリンはおもむろにシホ様の方の記憶を開けて中を覗いてしまいます。
わたくしもつい一緒に中を覗いてしまいましたが、そこに広がっていたのは……。






「なっ……『無限の剣製』とは違うというのか?」
「みたいですね……」

そこに広がっていた光景は恐らくですが、ナギ達とともに過ごした魔法世界の光景が再現されていました。
ですが、中はとても暗く一切の星も見えない真っ暗な空間の空に一つの黒い月?でしょうか?いや、黒い太陽?とにかく見ていて心がざわめくような……。
そしてそんな世界の中心にまるで石造りの玉座の上に無表情のシホ様がぽつんと座っていました。
わたくしはつい駆けだしそうになりましたが、止まる。

『誰……?』

シホ様の無機質なそんな声とともに明らかに警戒されているようで頭上に何本もの鎌が浮かび上がる。
しかもその鎌はエヴァンジェリンにとっても不吉の対象である不死狩りの鎌『ハルペー』でしたのです。

「…………どうやら防衛機能らしいが歓迎はされていないらしいな。私は少なくともあのシホのもとに行こうとすれば精神を殺されるのは分かり切った事実だ。悔しいが……」
「エヴァンジェリン……」
「少なくともシホの記憶を知っている我らが深追いしてもいいことはない。閉めようか」
「はい……」

それで扉を閉めようとします。
だけど、閉める際にシホ様は涙を流しながら一言。

『ごめん……』

と呟いたのです。
申し訳ございませんシホ様。シホ様のもとに踏み込めない不甲斐ない従者で……。








「さて、気を取り直して別の扉を探すか」
「はい。ですがシホ様本人の記憶でさえあそこまで警戒されてしまいましたからもし別の扉が発見しましてもすぐに踏み込むのは推奨しません」
「だな……慎重に行こうか。この世界で殺されたら私もどうなるかはわからんからな」

そんな感じでまた歩を進めていくとどうやら一つの行き止まりにでも到着したのかそこには四つの扉が存在していました。
その一つはわたくしにも理解できます。
先ほどわたくしが封印した呪詛が濃縮されている扉なのですから。
ギリッと拳を握りしめながら、その扉にかけられているネームプレートを見やるとそこにはこう書かれていました。

『curse of Devil』

と。
なんといいますか、

「なんともわかりやすいな。『悪魔の呪い』とは……。もっと物々しいものが迎えてくれると警戒していたのだがな」
「そうですね。おそらくシホ様に呪詛を送りつける時間しかなかったのでしょうね、塗装なんてあってないものです。この中にあの悪魔の魂もあるのでしょうか……?」
「恐らくな……。して、他の三つの扉も気になるから先に見ておくか?解呪しようとしてトラップがあるのはお決まりだから他の扉も試しに見ておくのも悪くはないしな」
「エヴァンジェリン……その、なんと言いますかフラグのような発言はおやめください」

不死であろうと精神が死ねばどうなるか分からないのですよ?
もっと慎重にお願いしたいものです。
まぁ、意味深に近くにある人格の領域である扉なのですから見ておいて損はないでしょうが……。
ですが、一つの扉はまるでわかり切ったかのようなものでした。
なんせ、



『開けろぉ!!我をここからダセェ!!』



と、何度もダンダンッ!と扉を内側から叩く音が響いてきているのですから。
この扉の中にいるのがおそらくあの残忍な吸血鬼の人格なのでしょうね。
封印されているようで扉の外側には幾重にも頑丈に鎖が巻き付けられていました。

「…………ここは開けないほうがいいな。こちらからも開けられもしないが」
「ええ。シホ様の一部であろうと今は救う手立てはありません。残念ですが……」

その扉のネームプレートにはおあつらえ向きに『■■■〔別人格〕の部屋』と書かれていました。

「名前すら与えられていないのも寂しいものだな……」
「ですね。こちらに友好的な人格でしたらどうにかできたのでしょうが、シホ様の負の感情から生み出されてしまった彼女は、救いは今は保留ですね」

まことに力不足を感じてしまいますが、彼女の事は放置しましょう。
いつか救い出せることを信じて……。

「で?残り二つの扉だが……どうする?これはもしかしたらシホの人格はあと二つもあるという事になるのか?」
「それだけシホ様は心に傷を負っているという事でしょうか……」

エヴァンジェリンとともにそう話していると、その片方の扉から声が聞こえてきた。

『扉の外に誰かいるの……?』

どこか幼い印象を受ける感じの声でした。
これは……シホ様から生み出された幾分友好的な感じの人格の方でしょうか……?
ですが、わたくしとエヴァンジェリンはその扉にかけられているネームプレートを見て驚愕の表情を浮かべました。
そこにはこうはっきりと書かれていたのです。




『イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの部屋』



と。
イリヤスフィール!?その名前はシホ様の姉君様の!?
シホ様がこの世界に来る前にもう死んだと伺っておりますが……。
そこにエヴァンジェリンが扉越しに、

「おい貴様。貴様は本当にイリヤスフィールで間違いないのか……?」
『誰かは分からないけど……そうだよ』
「なにか証明できるものはないのか……?ここはシホの精神領域の中だから他人の意識があるのはおかしいだろう?」
『そうなんだけど、そこには深い事情があるの!それよりこの扉を開ける事は出来ないかな!?私、シホの事を助けたいの……でも、ずっとここに閉じ込められていて表に出てこれないの……』

そう言ってイリヤスフィール様は寂しい感じの声を出していました。
これは……友好的な感じなのでしょうか?
それで私は敢えて聞いてみる事にしました。

「もし、あなた様が本当にシホ様の姉であるイリヤスフィール様なのでしたら、どうやってこの空間におられるのでしょうか……?なにか事情があるのでしたら教えていただけませんか……?」

わたくしがそう聞くとしばらくして扉の中から、

『わかった。話すわ。だから信じて!』
「はい。話してくれるのでしたらわたくしも必ずお応えします」

それでイリヤスフィール様は過去でも思い出しているかのようにぽつり、ぽつりと話し出しました。
そう……それはこの世界に来る前に自身が寿命を迎えてしまい、このままではシホ様……もとい士郎様に会えないと自覚したのだろう、例の人形師に自身の魔術回路も自身の人形に込める際に強く願ったら気づいたら魂も一緒に魔術回路の中に封入されて、シホ様が人形に移った際に、シホ様の一部になってしまったという……。

「そんな事がありえるのか……?」
『わからないわよ……でも、私はもともと小聖杯を宿していたんだからそれくらい世界が融通をきかしてくれたんじゃないの?』
「まぁ、嘘は言っていないようだな。ならば表に出てこれるようになったらシホの為に動いてくれるのか?」
『もちろんよ!なんだって私はシロウ……もといシホのお姉ちゃんなんだから!』

そう自身をこめて発言してくれるのですから信用にあたいできるかもしれませんね……。
ですが、イリヤスフィール様は『でも……』と言葉を零して、

『私だけじゃ無理なの……』
「どういうことだ?」
『私の扉に近くにもう一つ扉があるでしょう?そこにはシホがこの世界に来て記憶を失う切っ掛けになったもう一人のアインツベルンがいるの』

最後の扉ですか。
確かにありますね。
そのネームプレートにはこう書かれていました。




『■■■■・アインツベルンの部屋』


と。
だけど、名前の部分だけ削れていて読めませんね。
それと、

「もう一人と言うのはどういう意味ですか?」

イリヤスフィール様にそう問いかけると答えてくれました。

『なんてことはないわよ。この世界に来る直前になってシホの魂に憑りついたのがそのアインツベルン……つまり、私の、いやアインツベルンの始祖様よ』

な、なんか壮大な話になってきましたね……。
イリヤスフィール様の方の事情は理解できましたが、それとは別としてどうやってシホ様に憑りついたのでしょうか……?
イリヤスフィール様は語りました。
なんでも、もともとイリヤスフィール様の魂にも根源に帰らずに一緒にいたらしいのですが、そのアインツベルンとは元をたどれば異世界からやってきた人物(はい。この時点でさらに混乱するワード追加です)だと言って、元の世界に帰る手段を無くしてシホ様達の世界に血と技術を残したという話ですが、シホ様が異世界に飛ばされる際に、もしや元の世界に戻れるのではないか?という淡い期待を抱いてシホ様の魂に憑依したらしいのですが、そのアインツベルンの期待は見事に裏切られて、さらには魂が一つの器に収まりきらずに着火して、異世界に飛んだ拍子にシホ様の衛宮士郎としての部分の記憶が吹っ飛んでしまったという……なんてはた迷惑なうっかりさん!!?





『……と、そんなわけなの』
「ふむ……なんというか、そのアインツベルンは大丈夫なのか……?」

心底憐れんだような感じにそう心配をするエヴァンジェリン。その気持ちわたくしもわかりますとも……。

『それがね……大丈夫でもないの。シホがそれで困難な道を歩んで結果、あんな事になっちゃって塞ぎこんじゃって。私だってできたらあんのクソどもを殺してやりたかったんだしぃ!!』

イリヤスフィール様の本音が漏れて来るようです。

『ただ、それでも始祖様が持っている技術なら今のシホの事をどうにかできるかもしれないの。不死の呪いはもう解呪できないけど、それでもそこにある呪いは払拭できるかもしれない』
「それは本当ですか!?」
『ええ。だからできれば始祖様を説得して私と一緒に扉を開けて外に自由に出れるようにしてもらえると助かるの。そしてシホと一緒に会話したい!!』

それが本音か!まぁ、構いませんね。
シホ様の為を思うのならイリヤスフィール様とその始祖の力はこれから役に立てるでしょうしね……。

「しかし、どうやって扉を開けるのだ?アヤメ、できるか……?」
「うーん……難しそうですね。精神の中にある扉ですから、外側からなにかアクションでもあれば別ですが……」
「外側、か…………お? 良い事を思いついたぞ」

それでエヴァンジェリンはなにやらあくどい笑みを浮かべているではないですか。
あやや~……なにやら不安がよぎる感じですね。




それからその始祖様とも少し会話をしたわたくし達は一旦現実世界へと帰ってきます。
そして、

「よし。アヤメ、ぼーやを連れてこい! 私はうまく事が運ぶように夜までに別荘までシホを運んで待機しとくのでな」
「よろしいですが……え?まさか外からのアクション役にネギ先生を使うのですか!?」
「そうだ。なに、前にも言ったが気心が知れているのなら構わんだろう……?」
「うーーー……今回だけですからね!?」

そう、その内容とはシホ様とネギ先生で仮契約を結んで、タイミングよくイリヤスフィール様とその始祖様二人の扉を開けてしまおうというものだった。
それって仮契約カードにどう悪影響を及ぼすのか分かりませんから、無事に成功してもらいたいものですね……。




とりま、わたくしはネギ先生を探そうとしましたが、

「どうして簡単に見つからないのですかね~~~ッ!?」

なにやらネギ先生の気配を探っていたのに何度も消失するという不可解な出来事にあいました。
もうこれはタイミングよく出会うのを待つしかないのでしょうか……?
そんな時になにやら事態は動いていたらしく、どうやらあの超が退学するという話を偶然会った刹那に聞かされました。

「そ、それでシホさんは今どうなされているのですか……?大会以降姿を見せていませんでしたが……ネギ先生も大変心配していたんですよ?」
「それは、エヴァンジェリンの別荘にネギ先生を連れてきてもらいましたらお話します。シホ様の命運も今やネギ先生頼りなのですから……」
「本当になにがあったんですか!?」

刹那の焦りも今は理解できますが、ネギ先生がいないと話になりません。
そんな感じでその後に超の送別会と称してパーティーが開かれたりして、そのまま魔法関係者が集められてエヴァンジェリンの別荘へと向かおうとしたのですが、

「なんか、別荘に着いてくる人が増えておりませんか……?」

そこには関係者である人物とは別になぜかいる早乙女ハルナと長谷川千雨の姿があり、

「わ、私はなんかいつの間にか巻き込まれたと言いますか……」
「わたしはネギ君の従者になっちゃいました☆」

と言う反応に。

「まぁ、よろしいですが……ネギ先生」
「は、はい……」
「シホ様をお願いいたしますね? ネギ先生だけが頼りなのです。あとそこの下等生物も」
「わ、わかりました!」
「へいっす!って下等生物は酷いっすよ!アヤメの姉さん!」

うるさいので無視しますが、まだシホ様の現状は伝えておりませんから実際に見てもらうしかないですね、不安ですわー……。


 
 

 
後書き
A:はい。というわけでこの世界線でも彼女はいました。
つまり、シホの異世界シリーズが私のやる気次第で今後ももし新作として続くのだとしたら切っても切れない人物に昇華してしまいました。転移直後になにかしら事故に遭うのもだいたいこの人のせい(はた迷惑な……)。
このお話では望んだ世界にはいけずに賭けに負けてしまったわけですね……。





それと、UQホルダーのゲンゴロウのもとの世界にはもしかしたらFateのゲームとかもありそうですね。 

 

050話 学園祭編 ネギとの仮契約

 
前書き
更新します。 

 

少し、時間を遡り、無事(?)タカミチとのデートで失恋を経験したアスナはこのかとともにネギ達より先に別荘へとふて寝をしにきたのだったが、別荘に入った次の瞬間になにやら騒がしい事に気づき、


「あれ……?アスナぁ、なんか知らんけど騒がしいみたいやで?」
「関係ないわよ……今のわたしは高畑先生との失恋でいっぱいいっぱいだから……」

と、とぼとぼと中心までやってきて、そこでなにやら慌しく動いているエヴァと遭遇する。
エヴァは二人を目に入れると舌打ちをしながらも、

「……ちっ。おい、神楽坂明日菜に近衛木乃香。貴様らも少し手伝え!シホがいま一大事なんだよ」
「シホが!?」
「シホになにかあったん!?」

それで二人はエヴァにある部屋に案内された。
そこでは複雑な魔法陣がいくつも敷かれていてその中心に悪魔の翼が顕わになったままで苦しい表情を浮かべているシホが台にうつ伏せの状態で横になっていた。

「ちょっと……これ、どういう事よ?麻帆良武闘会の時に様子がおかしかったけどやっぱりなにかあったの……?」
「エヴァちゃん、シホ……どうなってるんや?」

アスナは顔を真っ青に染めてもうタカミチの事など頭の片隅に放りやる感じであった。
そんなアスナを気にしながらもこのかがエヴァにそう問う。

「落ち着け、お前ら。お前らももう見ている光景だがあの夜にシホがあの悪魔を倒しただろ?」

エヴァは一旦二人を落ち着かせてあの日の番の出来事を思い出させる。
それを聞いて無言で頷くアスナとこのか。

「その時にな。あろうことか悪魔の奴は死に際にシホの顕わになっていた悪魔の翼に呪詛を浴びせた……」
「呪詛……」
「それって、呪いって事……?」
「まぁそうだな。それがどういう訳か今更になって活性化してな。シホは大会後に我慢が効かずに悪魔の翼が暴れ出しておさまりが付かなくなったのだ」

それがこの結果だ。とエヴァは話す。
それなら!とこのかが手を上げてアーティファクトを起動しようとする。
このかのアーティファクトは完全治癒以外にももう片方の扇が異常状態を治す機能もあるからだ。
だが、エヴァは無言で首を振る。

「なんで!?」
「おそらく効果はないだろう。アヤメの宝具でも治せなかったのだからただのアーティファクトでは無理だろう」
「アヤメの……?アーティファクトじゃなくって、宝具……?なにそれ?」
「貴様らはもうアヤメが普通の生き物ではないくらい知っているだろ?あいつの正体は英霊だ」
「英霊……?」

それで首を傾げる二人。
エヴァは順に説明を入れていく。
アヤメの正体は過去の英雄・反英雄が魂を昇華させて英霊と化した存在であり、アヤメの正体はかつて安倍晴明に倒された九尾の狐である『玉藻の前』であり、そんな玉藻の前の宝具は呪いを打ち消すほどのものなのだ。
だが、サーヴァントに身を落としたためにランクは下がり、全開では使えないためにシホの異常状態の治癒までには至らなかったという事。

「よくわからないけど……つまりこのかのアーティファクトより効果はすごいって事?」
「まぁそこらだけでも理解してもらえていれば上出来だな」

エヴァにこけおろされている事にもアスナは気にした素振りも見せずにただシホのことを心配そうに見つめるだけだった。

「それじゃ、シホはどうなるの……?このままだと悪化もするかもしれないんでしょ……?」
「そうだな」
「そうだなって……そんな呑気な!」
「手はあるんだ」
「ウチ以外の手があるん……?」
「ああ。ぼーやだ」
「ネギ……?」

それでエヴァはネギを話題に出しながらも、シホの精神世界での話を二人に聞かせていく。
イリヤやもう一人のアインツベルン、そして例の名無しの吸血鬼もその場にいたことなど……。

「イリヤって……シホ達と一緒に遊んでいた子供の事……?」
「いや、シホの元の世界の義理の姉に当たる人物だ。いろいろ事情があってな。今はシホの中に魂が一緒に存在しているんだ」
「一緒にって……そんなことありえるの?」
「私だってそういう例は初めて見るんだ。だから詳しい事は分からん。ただ、ぼーやとの仮契約をするタイミングで一緒に外に出れるように飛び出す準備が……この部屋の魔法陣なんだよ」

それで部屋中の魔法陣を見せながらそう話すエヴァ。

「よーわからんけど、そのイリヤさんって人が表に出てこれるようになったらシホはどうにかなるん?」
「いや、肝心なのはもう一人のアインツベルンと言う存在の方なのだ。精神世界で少し話をしたが、なんでも創造をする魔法が使えるらしくてな。その権限の一部を使用してシホの魂にこびり付いている悪魔の残滓を吹き飛ばす計画らしい」

そこまで聞いて、アスナ達はネギがくるまで待つしかないって事になったので、

「なんか、ふて寝するつもりで来たんだけど、どうにもそんな状況じゃないわよね、このか……?」
「そうやね。高畑先生に失恋したんは今は棚上げやな」
「思い出させないで!!」

それを聞いていたエヴァはアスナの滑稽な姿で一通り笑った後に、

「クククッ……ふぅ、それじゃシホの看病は頼んだぞ。私は一回外に出てくるのでな。なに、すぐに戻ってくる」
「わかった。任せてエヴァちゃん」
「シホの看病を見るへ!」









それから何日か経った(外の時間ではニ、三時間だが)あとに、一回出ていったエヴァが戻ってきた後にようやくネギ達が別荘の中に入ってきたという話を受けて、

「シホ……ネギが来たからもうすぐ苦しみから解放されるからね?」
「そうやで。もう少しの辛抱や」
「…………」

二人が話しかけるが、今はシホは気を失っており、荒い息だけがその場でされていた。
あと、何度も悪魔の翼が勝手に動いて暴れ出しそうになっていたので抑えるのに大層二人は苦労したというだけ。
勝手に翼を切り裂いてしまってシホになんらかの異常が発生したら目も当てられないからだ。






◆◇―――――――――◇◆






僕はあの大会後に、シホさんの事を探すことにしました。
試合中に見せたシホさんの異変……あれはただ事ではないと思いましたから。
でも、結局あの後はシホさんの事を発見は出来ませんでした。
ですのでその後には一緒にいた茶々丸さんや千雨さんと一緒にまだ回っていない皆さんの出し物に言ったりして、道中でシホさんと会えないかなと思って、結局夜までシホさんとは会えずに、そのまま退学するという超さんとも戦う事になって、流れ流れで僕と関わって魔法の事を知った皆さんと共に別荘へと向かう道中でアヤメさんにシホさんの現状を聞く事が出来ました。
なんでもやっぱり異変があったらしくてとにかく僕とカモ君の力が必要との事で……。

「アヤメさん……シホさんになにがあったんですか?」
「それは一回シホ様を見ていただいてからお話します。そうすればネギ先生のすることもおのずと理解できると思いますし」

アヤメさんは辛そうな表情でそう言いました。
いったい、シホさんの身になにが起きているのか……。

「ところで、早乙女さんらは大丈夫なのですか……?シホ様の事は表向きしか知らないのでしょう……?」

そうだ。ハルナさんと千雨さんはシホさんが吸血鬼って事も知らないし……。
どう説明しよう。

「そのご様子ではしょうがないですね。わたくしが説明いたしますからネギ先生はとにかくシホ様を救う事だけお考え下さい」
「わかりました」

それで別荘に入ると、当然ながらハルナさんや千雨さん……それに初めて中に入った楓さんもとてもビックリとした顔になってました。

「ネギ君!? ここどこ!?」
「どうやら異空間らしいでござるが……」
「やっぱ……着いてくるんじゃ……」

と、三者三葉の反応です。
分かります。最初は僕もとても驚きましたから。
と、そこに師匠(マスター)がやってきて、

「きたか。さて、話も急だがぼーや。少し顔を貸せ。シホがある意味危篤状態なのでな」
「危篤状態!? エヴァちゃん、シホになにかあったの!?」

と、先ほどまで驚愕していたハルナさんがいち早く反応していた。
なんだかんだでやっぱり友達思いですね。

「…………また面倒な。新人に一から説明するのには疲れるんだぞ、ぼーや?」
「すみません……」
「まぁ、魔法の存在を知っているのなら簡潔に話そう。シホは元人間であり現在はとある事情で吸血鬼だ」
「はぁっ!?」

やっぱりハルナさんはすごい顔になってるし、千雨さんも多少表情には出ていますが、なんとか頭の中で処理しようと難しい顔になっています。

「それだけ知ればあとは他の奴らにでも聞け。時間も惜しいのでな」

そう言って師匠(マスター)は背を向けて歩いていく。
僕達は急いで着いて行っている間に、のどかさんと夕映さんがハルナさんと千雨さんにシホさんの身に起きた悲劇を説明しているようで、それを聞いたお二人はとにかく目を見開いて顔を真っ青にしていたのが印象的でした。
それだけの過去をシホさんは秘めているというだけで改めてシホさんの傷は僕以上に深いと思います……。

そして、一つの部屋の前に到着し、師匠(マスター)は事前に「悲鳴は上げるなよ?」と忠告した後に、扉を開けると中には悪魔の翼を出したままで苦しそうな表情を浮かべているシホさんと、そんなシホさんをずっと看病していたのか少し顔に疲労の色が見えるアスナさんとこのかさんの姿がありました。

「これは……ッ!」
「シホさんは……大丈夫なんですか?」
「やっぱりあの翼は痛そうですー……」

みなさんがシホさんの事を心配しつつ、師匠(マスター)にシホさんの現状を聞きました。
悪魔の残滓が残した呪詛により苦しんでいる、そしてシホさんの精神世界に潜り込んで判明したシホさんの姉であるイリヤさんと言う存在と、もう一人のアインツベルンの存在……そして名無しの吸血鬼の存在……。

「シホさんは……多重人格だったんですか?」
「逆に聞くが、20年と言うむごい時間を過ごして心に傷が一つも残らないわけがないだろう。刹那に聞いてなかったのか?」

そう言われて刹那さんに聞くとまず「すみません……」と謝罪を受けた後に、シホさんの春の事件の時の話を聞かされて、僕はショックを受けました。
そんな事があったなんて……。

「ネギ先生にも話しておきべきでしたが、あの時はまだシホさんの事に関してはネギ先生には負担になると思い伏せていたのです」
「そうだったんですか……」

僕の為と言う感じでしたが、できれば教えて欲しかったです。
シホさんは僕にとって父さんと同じくらいに尊敬できる人物ですから傲慢ですが、もっと知りたいとも思っていますから。
と、そんな僕の個人的な考えはいまは伏せておくとして、

「それで、僕はなにをすればいいんですか……?」
「なに、簡単な事だよ。シホの中にいて表に出れないでいる奴らをパクティオーをしてそのタイミングで一緒に自由に出てこれるようにする。そして、出てきたものの力でシホに憑りついている悪魔の残滓を祓うと言うのが今回の目的だ」

ざっくりそう説明されましたが、ようするに僕はシホさんとキスをして仮契約を結ぶだけでいいと、そういう事なのかな……?

「おおっと? なんかラブな気配が感じなくもない感じ?でも、シホの意識がないのはどういうんだろうね?」
「そこは事後承諾で諦めてもらうしかないな。今は何よりシホを治すのが先決だ」

そう、ですね……。
とにかく今はシホさんが元通りになってくれるのが一番ですからね。

「わかりました。カモ君」
「オッケーだ、兄貴! 前々からいつかはって思っていたんでぃ!」

そう言ってカモ君は慣れた手つきで仮契約の魔法陣を描いていく。
するといつもと違って周りの魔法陣もカモ君が描いた魔法陣に重なるように連結して繋がっていく。

「よし。ぼーや、後はお前だけだ」
「ネギ。シホをお願い……」
「はい、アスナさん」

それで僕はシホさんとキスをして、光が上がったと同時に一枚のカードが現れました。
そこにはシホさんの姿が描かれていますし、なんなら他にも三人くらいの影が背後に見える感じで、とにかく特殊な感じのものでした。
そして、カードはひとりでに輝いてそこには一本の剣が浮かんでいました。
その剣は刀身が赤く、剣と柄の間に四つの色をした四角い結晶がそれぞれ埋め込まれているプレートがありました。
紅い結晶にはトランプでいうスペードのマーク、紫の結晶にはハートのマーク、青の結晶にはダイヤのマークが浮かんでいて……だけど、あと一つの結晶は他のとは違って黒く濁っていてそこに消去法で描かれているであろうクラブのマークは浮かんでいませんでした。
とにかく、そんなプレートが今度はひとりでに回転しだして青の結晶が刀身の向きに合わさった瞬間に、



【全異常削除】



そんな、どこか澄んだ女性の声が聞こえたと思いましたらその剣がシホさんの悪魔の翼を実際には斬れていないんだけどまるで切る裂くかのごとく、一太刀浴びせていました。
すると、どこからか遠い方向で、





《ぎゃあああぁぁぁぁ……――――》





という、あの時の悪魔の断末魔の叫びが響いてきました。
えっと……つまり、どうなったのでしょうか……?
それでシホさんを見ると、なんとシホさんの悪魔の翼が今までは黒かったのに白色へと変色していきます!

「ま、師匠(マスター)!これって……」
「恐らくは完全にあの悪魔が消え去った事で悪魔成分が抜けて翼も宿主をシホと完全に認めたという事になるのだろうな……詳しく調べんと分からんがこれでシホはようやく解放されたのかもしれん」
「そ、そうですか……」
「シホ様!シホ様!!」

アヤメさんがシホさんに寄りかかると先ほどまで荒い息だったシホさんの容態も落ち着いたのか規則正しい呼吸になっていました。
翼も勝手にまたシホさんの背中に収納されていき、普段通りのシホさんの姿に戻っていました。

「しかし、シホは良くなったはいいが……この剣はいったい……?」

もうそこには剣はなくカードに戻ってしまった状態で地面に落ちていました。
僕はカードを拾うと、師匠(マスター)はとにかく、よし!と言いながら、

「そうだな。シホも落ち着いた事だし目が覚めるまでは自由時間としよう。それと、早乙女ハルナに綾瀬夕映。どうせここにいるという事はぼーやと仮契約でも結んだのだろう?少しカードを見せて見ろ。悪くはせんから。ぼーやもその拾ったカードを見せろ」
「「「は、はい……」」」

謎の威圧感を放つ師匠(マスター)に僕と夕映さん、ハルナさんは仮契約カードを見せました。

「ふむ。では…………『登録』」

師匠(マスター)はシホさんとの仮契約カードを出してなんとシホさんの了解を得ずに勝手に三枚のカードを登録してしまいました!
というか、

「マスターカード側からでも登録ってできたんですか!?」
「ふふん。シホには悪いがこいつには使える手が増えた方が今後面白そうだと思ってな。私側のカードからでも登録できると言うのは試しでやってみたが、成功して安心だな」

その、どこか勝ち誇ったような顔をしている師匠(マスター)に事情を知っている夕映さんはともかく、ハルナさんはハテナ顔で、事情を聞くと、

「なにそれ!? シホのカードってずるい!!チートじゃん!!」

と、この世の不条理を嘆いていました。
そうですよねー。
今更ですけどシホさんの師匠(マスター)との間で現れたカードの能力はすごいです。
とにかく、シホさんが助かった事はよかったです!という事で僕達はようやく本格的に超さんについての対策ができる感じになってきました。


懸念としては僕とシホさんとの間で出来たカードはまだ不明瞭な部分がありますから、先ほどの剣と謎の声のことも含めて調査していく感じですかね。
そして、シホさんが目を覚ますのを待つくらいですね。




 
 

 
後書き
シホとネギが仮契約しました。

次回、やっとイリヤ達が表に出ますかね。

剣の形状はグリッ○ーブ○ードを参考に!

それと、できれば今日中に『剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ』の方も更新できたらいいなと言う感じですね。有休をちょうどとっていたので時間ありますし。 

 

051話 学園祭編 万有を齎す黄昏の剣 -メルクリウス-

 
前書き
更新します。 

 
…………うん。ん?
なんだろう?先ほどまで気絶していたのはなんとなく覚えている。
そしてアスナとこのかの二人に看病されていたのもおぼろげながらも覚えているんだけど……。
さっきまで感じていたこう、胸の奥底が締め付けられて背中の翼も相まってとんでもなく苦しくなるような衝動はもうなくなっていた。

私は少し怖い感覚になりながらも目を見開く。
すると、私の眼前には今にも泣きそうな顔をしているタマモが見下ろしていて、

「えっと、おはよう?タマモ」
「し、シホ様~~~!!」

と、いきなり泣き出してしまって抱き着かれてしまう。
いったい、私が気を失っている間に何が起こったのであろうか……。
ふと…………、私は手元に一枚のカードが置かれている事に気づく。
それは、エヴァと仮契約したものとは少し様相が違っている感じがした。

「タマモ、少し落ち着いて。それと、私が意識を失っている間になにがあったの……?」
「ぐすんぐすん……えっと、それはですね」

それで事の成り行きを聞く事になる。
なんでも、あの胸の苦しみはあの時の悪魔が原因だったとの事で……くっ。まだ私を苦しめているつもりなのかあのキチガイ悪魔……。
過去の凄惨な光景を思い出しそうになって頭痛が始まりそうになるけどなんとか耐えて、続きを聞く。
タマモとエヴァが私の精神世界に入り込んで直接悪魔の残滓を叩こうとしたらしいんだけど、なんでも私の精神世界になんとイリヤ!?ともう一人は誰かは分からないけど始祖だというアインツベルン?それに私のもう一つの人格である名無しの吸血鬼の部屋があっただとか。
それでイリヤ達が表に出てこれるように、エヴァが仮契約の仕組みを少しいじって、それでネギ先生と私の承諾なしに仮契約させて、カードが出たと思ったらそのカードがひとりでに動いて悪魔の残滓を切って捨てた、らしい……。ついでに私の悪魔の翼もなんか白色に変色したらしい。



なんか情報量が多いわね……。
とにかく、イリヤが私の中にいることは理解できたけど、なんか気配は感じるんだけど念話の感覚で話しても反応はない。これは……。

と、そこに水着姿のネギ先生が歩いてきた。

「あ、シホさん!やっと目を覚ましたんですね!」
「ネギ先生……その、なんかご迷惑をかけたみたいですみません……」
「いえ!それよりもシホさんが助かったみたいで良かったです!まだなにか違和感はありませんか……?」
「いまのところは……むしろなぜか不思議とすっきりしているんですよね」
「そうですか!それで少ししたら皆さんと一緒に超さんについて対策会議をしたいんですけど、シホさん達も参加してもらっても構いませんか……?」
「いいですよ。でも、なんかいまは疲労からでしょうか足にあまり力が入らないので……タマモ、お願いできる?」
「わかりました♪」

そのまま私はタマモにお姫様抱っこをされながらみんながいるであろうプールの方へと向かう。
すると、

「あ、シホ!もう平気になったの?」
「ええ。ごめんねアスナ。心配かけたみたいで……」
「いいわよ。それより……なんかそう抱っこされているとシホが来たときを思い出すわね」
「確かに……大丈夫。少ししたらまた歩けるようになると思うから」
「うん。よかった」

それで他にもいたみんなに心配の言葉を掛けられるも、それぞれに対応しつつ思った。

「長谷川さんにハルナにも魔法がバレたの……?」

私が知らないところでまたメンバーが増えている事にそう言葉を零した。
まぁ、ハルナに関しては遅からずって感覚だったけど。
それで私はビーチにある椅子に下ろしてもらう。

「まぁ、こんな面白そうなことは他にはないよねー」
「おい。だから私はまだ仲間になったわけじゃ……」

ハルナは能天気そうに笑い、長谷川さんはまだ現状に適応できていない御様子。
魔法バレして巻き込まれた感じかな……?

「そ、それじゃ今から超さんについての作戦会議を始めたいと思います」

ネギ先生がそう言って全員を集めて話し出す。
そういえば、超さんについては私はこれといって情報を会得していないんだよね。
さて、どんなびっくりな話が聴けるのやら……。




まず、超さんは嘘か真かネギ先生の子孫で、しかも火星人だという。
未来からタイムマシンを使ってやってきて現在進行形で歴史の改変を企てて魔法の存在を世界にばらそうとしている、らしい……。

「未来人とか火星人とか……それって嘘じゃないの……?」
「いえ、本人がそう言ってましたし。それに、未来人とか火星人とかいうのなら……その、シホさんで例えるなら……言ってしまっても構いませんか?」

刹那がそう私に問いかけてくる。
なにをとは敢えて聞かない。
私は承諾の意味も込めて無言で頷いた。

「その、シホさんは元は男性であって、しかも異世界人ですから。そういうのもありなのではと」

うん。刹那さぁ、少しは配慮してよ。
特大の爆弾を素直に落とすのも考え物だよ?
オブラードに包みなさい。
それで当然、まだ教えていない皆も驚いた顔になっていたし、特にハルナは「はぁ!?」という叫び声を上げる。

「シホって……その、TSしてきたの!?」
「TSって……まぁ、最近になってとある出来事で記憶を思い出すまで私自身、もとは男性だったなんてすっかり忘れていたわけだし……。それに、言い訳にも聞こえるけど今となっては男性としての時の記憶は前世くらいの感覚なのよね。この世界でシホとして過ごした時間があまりにも濃厚すぎて記憶を思い出した後でももう女性に対して興奮とかはこれといってしないし……」
「これは……精神的BⅬ?……それとも、精神的GⅬ?もしくはどっちも?なんだこれは、わたしの開拓したことのない未知の領域!?まだわたしの手の届かない場所があったとは……!しかも異世界人で吸血鬼で清楚系かと思えば薄幸系でしかもしかも凌辱系も追加オプションとは……!なんて敦盛!!くっ殺!!…………ぶつぶつぶつ…………」

と、なにかの燃料でも投下してしまってフルドライブでもしてしまったのかフルスロットルでぶつぶつと言い始めているハルナに対して、

「えっと、どうすればいい……?」

そう聞くが他のみんながハルナのあまりの状態異常っぷりに逆に冷静になったらしく放置をするしかないという結論に至ったらしい。
まぁ話が進まないもんね。

「と、とにかくですね。すべてが嘘でもないと思うんです……それに、超さんからお借りしたこのタイムマシンは、本物です」

そう言ってネギ先生はタイムマシンを取り出して見せてくる。
それに気づいたのかタマモは、

「あー……だからなかなか居場所が特定できずに、しかも話が噛み合わなかったのですね」

と言っている。
なにか心当たりがあったらしい。
それから今の戦力把握も大事だと、ハルナに夕映、そして私の新たな能力の確認もしたいという事でとりあえず私は足に力を込めて立ち上がる。
まだ少しふらつく感じはあるけど日常生活には異常はないだろうし。

それからまずはハルナと夕映が水着の上からアーティファクトを展開していた。
夕映の格好はローブに帽子、箒に分厚い魔法書から見る感じ純粋な魔法使い一式セットって感じかな?
そしてハルナはやはり性格と趣味がもろに影響したのかスケッチブックに汚れ防止のための前掛け、そして羽ペンとおしゃれな帽子いう漫画家みたいな感じだった。

「おっほほー!いーねいーね!!」
「可愛いです!」

と、ネギ先生達からは絶賛されていたが、遠いところで長谷川さんが遠い目をしていた。
思うことはもう私達は慣れたがおこじょであるカモミールが普通に喋っている事に対してか、はたまた自分の常識を現在進行形で壊されるところからくる達観か……。


「そ、それじゃシホさんもお願いしてもいいですか……?」
「いいですけど……その前に、ネギ先生」
「はい?」
「緊急事態だったとはいえ意識がなかった私に承諾もなしにキスをするのは今後はやめてくださいね?英国紳士としても結構アウトですし」
「はうう!? すみません!!」

それで思い出したのか顔を赤くしているネギ先生をよそに私は新たに手に入れたカードを発動する。

来れ(アデアット)……」

そして出現するのは一本の剣であり、私の格好は『贋作の王』の誰にでもなれるゆえに無色であり服装の変化はないのとは違って、赤原礼装の姿に変わっていた。

「全体的に髪色とかも含めて赤い……」
「確かに赤いね……」
「でもシホに似合っていてカッコいいわね」
「シホ様!とてもお似合いです!これでいちいち戦闘服を用意する手間も省けましたね」

みんながそう話していると、なにやら剣になにかの念のようなものが感じ取れて、ふと四つの色のプレートに目を向けると突然紫と青の結晶が光り出した。
なにごとかと思い、横に水平にしてみたところ、結晶の上にまるでホログラムかのように人の姿が現れる。
そこには……、

『あ! やっと起動した!』
『起動しましたね……』

そこにはミニチュアサイズのイリヤの姿ともう一人、イリヤを大人にしたかのような感じで白いローブを着ている女性が映し出された。

「え?イリヤ……?」
『やっほー! シホ! こうして会うのは久しぶりだね!』
「そ、そうだね……えっと」

私は少し混乱する頭で周りを見回すがみんなも固まっていてイリヤ達に視線が集中していた。
そこに冷静に勤めているのか、

「貴様がイリヤスフィールか?」
『あ、その声はシホの精神世界に入ってきた人?』
「そうだ。私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。真祖の吸血鬼であり今はシホの主人と言うところか?」
『主人!?ずーるーいー!シホは私の妹なのにー!!』

バタバタと透明のイリヤが暴れている。
小さくてかわいい……。

『イリヤさん、話が進みませんから……』
『あ、うん。始祖様』

始祖様、ね……。
アインツベルンの歴史はそんなに知らないけど、どういう人だろうか。

『皆様、お初にお目にかかります。わたくしはシルビア・アインツベルン……イリヤの、いえ……アインツベルンの始祖と言う立ち位置にあります。もう忘れ去られた肩書ですがね』

そう言ってシルビアさんはみんなに挨拶をしている。
でも、

「ちょっと……アーティファクトって意思を持つものなの?」

アスナの疑問はもっともだね。
私もそこのところ詳しく知りたかった。

『いえ、わたくし達は基本シホさんの中に魂をともにしているだけなのですが、このアーティファクト……真名を『万有を齎す黄昏の剣』……またの名を『メルクリウス』を仲介することでわたくし達の意識を表に出すことが可能になっているのです』

シルビアさんの説明になるほど……と思っていたが、そこでエヴァがわなわなと震えているので何事かな?と思っていると、

「『メルクリウス』だと!?」
「知っているのか、エヴァちゃん!?」

ライデンばりにハルナが問いかける。

「ああ。詳しくはないが伝説級のアーティファクトだと聞く……ああ、茶々丸がいればアーティファクトの詳細を検索できたものを……!」

そういえば、茶々丸がいないよね?
そっか。それじゃどうするか。
そこでふと、

「そういえば、贋作の王の方に夕映とハルナのカードも登録されているけどエヴァがしたの?」
「そうだが……今はこのもどかしさをどうにかしたいものだな……」
「わかった。夕映」
「は、はい……?なんでしょうか?」
「私の予測が正しいのなら……来れ(アデアット)・選択『世界図絵』!」

私の手元に夕映のアーティファクトのコピーが出現する。
そして本を開く。すると自動的に能力の知識が流れてきて、

「やっぱりね……」
「なにがやっぱりなんすか?シホの姉さん」
「夕映のアーティファクトはただの魔法書じゃないわ。その実態は……まほネットにも接続できて所持者の問いに応えてくれる世界中の魔法に関係する知識が閲覧できる『魔法大百科』よ」
「「「「「な、なんだってーーーッ!!?」」」」」

みんなが驚いている間にも私は『万有を齎す黄昏の剣』と『メルクリウス』に関しての情報を取得していく。

「ゲット……今からみんなにもわかるように教えるわね。曰く……」












『アーティファクトとしては最高位のもの。
使い熟せば、凡ゆる属性や天候を操る強大な力を持つもの。
更に、対象の生死や寿命(過去・現在・未来)を視認する事から見通す針(刻の剣)としての側面を持つ。

但し、人類史に於いて真の担い手はおらず、また、担い手となったが本来の一端しか力を行使を出来なかった事から、魔法世界に於いて記録さえ存在しない謎のベールに包まれたアーティファクトである。

故に現在に至るまで担い手を発見出来なかった理由は一人の技量では操作が不可能な代物だからだ。

此の剣は本来、四人の意思で支える存在で、基本的に契約者に対して
一人一つ分のアーティファクトしか担えないのが常識(複数出現型のアーティファクトも存在するが別枠として省略)の筈なのに四人分の意思とは異常である。

しかし、もし一人で四人分の意思を補う事が可能であれば、其れは人を超越した『超克者』という存在である。

真の担い手となるための素質としては、前提として『万有を齎す黄昏の剣』とは異なる、他者のアーティファクトも自身のものとして意のままに操る常識を覆す異常なアーティファクトを所持しているか否かである。

但し、其れ程の異常なアーティファクトなどの存在は、まず、稀少な上に存在が曖昧であり、担い手となるのはまず奇跡だろう。

それを踏まえてさらに『万有を齎す黄昏の剣』を手にするものがいるとすれば……(ここで記述は途切れている)』












「…………らしいわよ?なんか、壮大な話ね……」

読んだ私本人でさえつい意識が朦朧とするような内容だった。

『わーい!シホってすごい存在になったんだね』

イリヤがお気楽に笑っているけど、次の瞬間、

「「「「「はぁーーーッ!?」」」」」

と、普段冷静なものも含めて叫んでいた。
や、私もびっくりしているんだからそんなに睨まないで……。

「つまりだ。私との仮契約はきっかけになってしまったわけか……『贋作の王』……確かに他人のアーティファクトも登録すれば自在に操れることも可能だしな……」
「なんか、壮大すぎて頭が追い付かないわ……」
「わたしでさえそうなんだからアスナが分かるわけないじゃん!」
「シホ殿はすごいでござるな……」
「うむ。戦慄を感じるアル」
「シホさんが仲間内で本当によかったですね……恐ろしいです」
「せやな、せっちゃん……」
「さらっと私のアーティファクトも私以上に操っているのがその証拠ですね……」
「そうだね、ゆえー……」
「どこから突っ込んでいいか分からねー……」
「シホの姉さん……正直に言ってすごすぎっス」
「シホさん、すごい!!」
「シホ様、素敵です!!」

全員が各々に私に対して畏怖の視線を送ってくる。
やめて!
私はそんなすごい存在じゃないから!

『…………ですが、まだシホさんは真の担い手にはなっていません』

というシルビアさんのそんな言葉で現実に戻される。

「聞こうか」

エヴァの言葉で全員がまた聞く耳を立てる。

『先ほどシホさんが読んだ通りの内容だとしたら、わたくし、イリヤ、そしてシホさん……まだ三人分しかないのです。そしてプレートを見てもらえれば分かる通り、一か所だけ黒に染まっていてマークが浮かび上がっていません。
もうわたくしが言っている事は分かりますね……?』
「つまり……私がこの剣の真の担い手になるためには現在は封印されている私のもう一つの心であり、過去の残酷な経験から産み落とされてしまった私の闇……名無しと対面して説得し協力しないといけないわけね」
『そうなります。しかし、それは現状とても可能な状態ではありません。おそらく封印が解けたが最後、彼女はシホさんを確実に乗っ取りに来るでしょう』

それで静まり返る場……。
私の過去を知っているものなら容易ではないと思うのは当然のことで……。


「つまり、今は不完全でも現状維持が妥当な感じなのね」
『そうなりますね……ですがご安心ください。わたくし達も協力いたしますので』
『そうだよシホ。お姉ちゃんに任せて!』
「ありがとね……」
『それに、少し触った程度ですが……シホさん。プレートを回転させてみてください。あ、わたくしのは青の結晶です。イリヤさんのは紫の結晶……それを剣の先端に合わせるようにすれば魂が置き換わります』
「こ、こう……?」

私はプレートを回して試しにイリヤの青の結晶に合わせてみると、急に私の意識が引っ込む感覚を味わい、次の瞬間には、

『あれ!?私、小さくなったの!?』

一瞬の間に私はスペードの赤い結晶の上に透明に浮かんでいた。
つまり、

「あ!私自由に動ける!」

そう。驚くことにイリヤが実体を持ってその場にいたのだ。
ご丁寧に身長も死ぬ前のイリヤのままであり、赤原礼装もイリヤに合わせて子供サイズに変換されていて銀色の髪が赤によく映える。

「シホ様!?それにイリヤさん!?」

タマモは武闘会まで一緒にいたこの世界のイリヤを思い出してか、ペタペタとイリヤを触っていた。

「くすぐったいわよ~」
「す、すみません……しかしアーティファクトにここまでの権限もあるのは異常なのではないですか?魂の置換で姿形まで変わるだなんて……膨大な神秘です」
「それゆえの伝説級か……恐れ入るな本気で」

エヴァも舌を巻くほどだから相当だろうな。

「確認できたことだし、戻るねシホ」

それでイリヤが私の結晶を先端に合わせると、また一瞬で私の意識が表に出ていく感覚を味わい、みんなと同じサイズに戻っていた。









「ごめん…………すごすぎてちょっとふて寝していいかな?」

私の言葉に、

「まだ対策会議中ですよー!」

と、ネギ先生に泣きつかれてしまった……。
それで頭痛も発生して頭がパンクしそうなのを耐えながらも超さんについての話し合いが再開されたのだけど、私も含めてみんなはしばらくどこかぼーっとしていたのが印象的だった。



 
 

 
後書き
チートなアーティファクトぉ!!

しかしまだ真の担い手にはさせません。
説得フラグを消化しない限りただの担い手です。


そして次回は未来編に入りますかね。
シホは残るべきか一緒にいかすべきか……。