烏と犬と猫の友情


 

第一章

               烏と犬と猫の友情
 カナダで動物関係の教育者であり生きものの保護活動をしているケイリー=キーラー初老の癖のある黒髪にグレーの目をしたすらりとした中背の知的な顔立ちの彼女は自宅に一羽の若い烏を連れてきて生物学者の夫のフレデリック、赤髪に青い目に彫のある顔立ちの長身の彼に言った。
「本当はね」
「よくないね」
「ええ、怪我をしていてもね」
 そうであってもというのだ。
「野生の生きものを保護することは」
「それがわかっていてやるってことは」
「誰も来なかったのよ」
 妻は夫に話した。
「この子を助けに」
「それでだね」
「一時でもね」  
 そうであってもというのだ。
「保護したのよ」
「そうしたね」
「ええ、けれどね」 
 それでもというのだ。
「デッキに置いて」
「僕達は何もしない」
「そうしましょう」
 こう言うのだった。
「そうしてね」
「その子の家族が迎えに来るのを待つね」
「そうしましょう」 
 こう話してだ。
 ケイリーはその怪我をしている烏をだった。
 自宅のデッキに置いた、すると。
 翌朝だ、そこに烏達が来てだった。
「カァ」
「カァ」
 その烏を迎えた、そうして烏は飛び立ちケイリーは夫と共にこれでよかったと笑顔になった。だが。
 ある休日だ、家で愛犬のサム、白と黒のボーダーコリーの雄の彼がだった。
「ワンワン」
「どうしたの?」
 ケイリーが愛犬の方に行くとだった。
 烏がいて一緒にいた、ケイリーはその烏を見てわかった。
「貴方まさか」
「カァ」
 その烏のことを仕事が終わってから帰宅してきた夫に話した、夫は夕食の場で今は家の中にいるサムを見つつ言った。
「じゃあ」
「ええ、私が助けた烏がね」
「うちに来たんだ」
「そうなの」
 こう夫に話した。
「それでね」
「サムと遊んでいたんだね」
「仲よくね」
「君が助けたからお礼かな」
「そのせいかガラスの破片をね」 
 これをというのだ。
「ベランダに置いていたわ」
「烏は光るものを集めるね」
「それでお礼によ」
「コレクションの一つを持って来た」
「そうみたいなの」
「それで出会ったサムと仲よくなった」
「そうみたいよ、今は帰ったけれど」
 彼の巣にというのだ、何処にいるかわからないが。
「そうしたわ」
「そうなんだね」
「ええ、それでね」
 妻は夫にさらに話した。
「また来るかも知れないわね」
「そして来たらだね」
「サムと好きなだけね」
「遊ばせるんだね」
「そうしようと思うけれど」
「いいと思うよ」
 夫は豚ロースのカツを食べつつ妻に答えた。 

 

第二章

「それで」
「自然環境に影響はないし」
「サムも友達が出来たのなら」
「それでいいわね」
「うん、じゃあ僕達はね」
「彼等を見守る」
「そうしていこう」
「それではね」 
 夫婦で話してだった。
 その烏、ダーリンと名付けた彼が家に来ても何もしないことにした。その彼は家に頻繁に来る様になったが。
「カァカァ」
「ワンワン」
 サムとすっかり仲よしになりお互いの身体に付いたゴミを取り合い鬼ごっこをしたりして遊んでいた、そこにだった。
 夫婦は雌の黒猫のジジを家族に迎えたが。
「ニャア」
「カァ」
「ワン」
 今度は彼女を交えてだった、仲よく一緒に遊ぶ様になった。休日にそんな彼等を見てケイリーはフレデリックに言った。
「ジジとも仲よくなって」
「何よりだね」
「ええ、このままね」
 夫に笑顔で言った。
「ずっと一緒にね」
「いて欲しいね」
「難しいことだけれどね」
 妻はここでは少し残念そうに述べた。
「このことは」
「そうだね、やっぱりね」
「命のことはわからないから」
「それに野生だとね」
 ダーリンを見てだ、夫は妻に話した。
「何かとあるからね」
「家にいるよりもね」
「まさに明日も知れないから」
「だからね」 
 それ故にとだ、妻も話した。
「ずっといて欲しいと思っても」
「明日もわからないよ」
「けれどね」
 そうした現実があるがというのだ。
「出来る限りにね」
「二匹と一羽でね」
「一緒にいて欲しいわね」
「そうだね、じゃあ僕達は」
「その彼等をね」
「これから見守ろう」
「そうしましょう」  
 夫婦で二匹と一羽を見つつ話した、その目はこれ以上はないまでに温かいものだった。仲よく遊ぶ彼等を見るそれは。


烏と犬と猫の友情   完


                  2024・2・24