オシーンの夢


 

第一章

               オシーンの夢
 金髪で紫の目を持つ長身で端正な顔立ちの戦士オシーンはフィアナ戦士団の一員であり武芸だけでなく詩人でもあった、ブランとシュケオリングという猟犬達もいて狩りでも有名だった。
 その彼が仲間達と共に狩りに出た時にだった。
「何だあの白馬は」
「実にいい馬だな」
「体格も立派だが」
「蹉跌は銀だ」
「そこもいいな」
「そうだな、しかもだ」
 オシーンはその馬だけでなくだ。
 馬に乗っている女も見た、豊かな金髪が輝き白い肌に服を着て楚々とした雰囲気で大きな目はエメラルドの輝きを放っている。まるで妖精の様である。
 その女はオシーンの方に自ら馬に乗って来てだ、彼に言ってきた。
「今ここに迎えに来ました」
「私をですか」
「はい」
 狩人の服を着て弓矢と剣を持ち馬に乗っている彼に答えた。
「オシーン様、貴方を」
「私の名前を知っていますか」
「七年と七日前から」
「その時からですか」
「はい」
 まさにというのだ。
「私は」
「一体何処で私を知ったのでしょうか」
「ティル=ナ=ノーグから」
 美女はこう答えた。
「知りました」
「あの国からですか」
「はい」
 まさにというのだ。
「私は貴方を見てです」
「それだけの間ですか」
「父から許しを得る為に使ってきました」
「そうでしたか」
「そして私の名前ですが」
 美女はこちらの話もしてきた。
「ニアヴ、金髪のニアヴといいます」
「それが貴女の名前ですか」
「その国の王の娘です」
 即ち王女だというのだ。
「私は」
「そうなのですね」
「はい、そして」
 それにというのだ。
「迎えに来たと申し上げましたが」
「ティル=ナ=ノーグから」
「これよりです」
「あの国にですか」
「参りましょう」
「わかりました、それではです」
 確かな顔でだ、オシーンはニアヴに答えた。
「これから仲間達や家の者達に別れを告げ」
「ティル=ナ=ノーグに来て頂けますね」
「はい、犬達も連れて」
 その彼等もというのだ。
「そうさせて頂きます」
「ではその中で式を挙げてから」
 そうしてというのだ。
「そのうえで」
「私の国にですね」
「参らせて頂きます」
「それでは」
 こう話してだった。
 オシーンは仲間や家の者達にことに次第を話してだった。
 そのうえでニアヴと式を挙げ夫婦となってだった。
 ティル=ン=ノーグに旅立った、ニアヴに言われ彼女が乗っていた銀の蹉跌の白馬に乗ると後ろに彼女も乗った、すると。 

 

第二章

 二人はそのまま姿を消し気付けば青い海が前にある緑の美しい海岸に出た、その前に見事な城がありニアヴの言うままそこに入るとだった。
「ここが私達の城になります」
「ここで住むのか」
「はい、永遠に」
 見事なオシーンが知るどの宮殿よりも見事な内装の城の中で妻は言った。
「そうなります」
「信じられないことだ」
「ですが事実です、そして」
「そして。何だ」
「一つ注意して欲しいことがあります」
「注意して欲しいこととは」
「素足で大地に足を触れないで下さい」
 こう言うのだった。
「何があっても」
「そうするとどうなるのだ」
「二度と過去に戻ることが出来なくなります」
 そうなるというのだ。
「この国にいる限り歳を取ることはありませんが」
「それがか」
「この国を離れることになり」
「このティル=ナ=ノーグからか」
「そうなり」
 そうしてというのだ。
「貴方は歳を取ることになります」
「そうなるからか」
「ですから」
「素足をだな」
「大地に付けないで下さい」
「わかった、ではな」
「これよりこの城で暮らし」 
 ニアヴはオシーンにこのことを話すとあらためて微笑んで話した。
「そして領地を治めましょう」
「それであな」
 オシーンは笑顔で頷いた、そうしてあった。
 彼はその地の領主となり妻と共に領地を治める様になった、その地は実に豊かで畑ではあらゆる作物が好きなだけ手に入り果樹園でもそうだった。
「麦だけでなくな」
「他のものもですね」
「好きなだけ手に入る」
 こう妻に言うのだった。
「牧場でもな、しかもだ」
「糧だけでなく」
「昼であって欲しいと思えば昼で」
 その時間で過ごせてというのだ。
「朝と思えば朝、夜と思えば夜でだ」
「好きな時を過ごせますね」
「鍛錬も詩も狩りも楽しめる」
 好きな事柄を全てというのだ。
「時もな、しかも周りの者達もものもだ」
「その全てが」
「そなたをはじめよき者達ばかりで武器も楽器も家具もな」
 その全てがというのだ。
「素晴らしい、誰も老いず若くなろうと思えばなれて」
「好きな時を過ごせて」
「そして知恵と力もですね」
「手に入る、だが」
 それでもとだ、オシーンは妻と共に穏やかな時を過ごす中で言った。今は白の中でそうした時を過ごしているのだ。 

 

第三章

「素足ではだな」
「大地を踏んではいけません」
「見れば誰もがそうしているな」
「ですからあなたもまた」
「心掛ける」
「そうして下さい」
 このことはくれぐれもとだ、ニアヴはここでもオシーンにこのことを話した、オシーンもこのことを肝に銘じて気をつけていた。
 だがある日池で泳いでだった。
 池から出た時にこの国では大地を踏まない様に観ずに少し入ったところに置いていたサンダルが水に流された、そして。
 水が引いてサンダルがあった場所が砂地即ち大地になった。それは一瞬のことであり。
 オシーンはそこに素足をやってしまった、泳いでいたので裸であり靴も脱いでサンダルを置いていたがだ。
 その踏んだ瞬間にだ、彼は。
 ふと気付いた、そこは彼の白の自室であり周りにいた共に狩りをしていた者がベッドに横たわっている彼に言ってきた。
「ああ、目覚めたか」
「そうなったか」
「よかったよかった」
「無事そうでな」
「無事?私は確か」
 ティル=ナ=ノーグにいた、そう言おうとした。だが。
 それより前にだ、周りが言ってきた。
「落馬してだ」
「それで頭を打って気を失っていたが」
「丸一日な」
「だが起きて何よりだ」
「一日だと」
 この言葉でオシーンはわかった、それで言った。
「そうか、あれは夢だったのか」
「夢?」
「そうか、夢を見ていたか」
「気を失っていた間そうだったか」
「いい夢だったか?」
「それならいいが」
「いい夢だった」
 ニアヴとティル=ナ=ノーグのことを思い出してだ、オシーンは微笑んで答えた。
「実にな」
「それは何よりだな」
「そして目覚められてな」
「怪我はないから安心しろ」
「少ししたらまた歩けるぞ」
「ワン」
「ワンワン」 
 ここでブランとシュケオリング彼の愛する二匹の猟犬達が彼の傍に来た、そして目覚めたことを喜ぶ様に彼に顔を向けて鳴いてきた。 

 

第四章

 オシーンは彼等の頭を撫でるとそれぞれ尻尾を振った、そして。
「ヒヒーーン」
「馬か」
「はい」
 ここでだ、金髪に緑の目の清楚な身なりの美女が来た、その美女がオシーンに語った。
「私の馬です、白馬の」
「白馬?銀の蹉跌の」
「それが何か」
「そなたは」
 美女を見てだ、オシーンは思わず声を上げた。そしてその名を読んだ。
「ニアヴ・・・・・・」
「金髪のニアヴと呼ばれていますね」
「そうだったな」
「あなたの妻です」
 ニアヴ、彼の妻は自ら言った。
「七年と七日前から」
「わかっている、だが」
「だが?」
「夢なのか、それとも」
 オシーンは夢のことを思い出しつつ呟く様に言った。
「これは現実か。この国は何処だ」
「?何を言っている」
「コノートだ」
「そして我々はフィアナの者だ」
「戦士団のな」 
 仲間達はオシーンに不思議そうに答えた。
「おかしなことを言う」
「夢で何かあったのか」
「それで言うのか」
「そうじゃない、しかし」
 それでもと言うのだった。
「私は起きた、起きたならな」
「まずは怪我を回復させろ」
「そしてまた戦場に立つぞ」
「そして詩を作れ」
「狩りもするんだ」
「そうする、この世でな」
「そうです、この世で為すべきことを果たしましょう」
 妻は仲間達に言った夫に微笑んで話した。
「そして全てが終われば」
「ティル=ナ=ノーグにか」
「また行きましょう」
「そうしよう」
 妻に応えた、もう全てわかっていた。
 彼はあの時確かにティル=ナ=ノーグに行っていた、妻と共にあの国での日々を過ごした。そしてだった。
 砂に素足をつけて戻った、そこで妻も一緒になった。そして。
 またあの国に行く、その時まで為すべきことをすべきだと。全てわかった彼はもう戸惑ってはいなかった。落ち着きそして微笑り妻が持ってきたオートミールを口にした。そのオートミールは実に美味かった。


オシーンの夢   完


                    2023・11・13