一般人(?)が転生して魔王になりました


 

プロローグ

 
前書き
 どうも始めまして、ビヨンと申します。
 色々と話したいことは在りますがそれはあとがきで。 
 では、駄文ですがどうぞ。 

 
 
 日本のとある所に、巨大な家があった。そこは代々とある一族が住んでいる場所。その家には一人と一柱の女神が住んでいた。
 
 肩にまである黒髪に、整った顔立ち。そして十二歳とは思えない引き締まった肉体を持っていた少年であった。
 
 その少年の名は御剣蓮華。
 
 御剣家百代目当主にして何故かしら前世の記憶を保持している転生者である。

「ええっと、パスポートに、現金、地図に着替えっと、これで良いか」

 
 荷物に海外で必要な物をバッグに入れていく蓮華はチャックを閉め自分の部屋を出る。
 
 そして、一階に降りてソファーに座りながら考えていた。

「さて暫らく、と言っても一週間ほど出てるわけだが、我が家の守護神様をどうしますかね?」

 
 一緒に連れて行く? 行き先がギリシャでギリシャ神話の女神である彼女を? 万が一にもというか考えたくないが、敵視している神と出会った場合、戦いが起こり面倒である。


「何だ蓮華、妾を呼んだか?」

 
 その声と共に現れたのは見た目は幼く、銀色の髪をし、可憐な顔立ちをしていた少女であった。


「いや、ね。ギリシャに行くからどうしようかと迷っていたんだよね_アテナ」


 そう。目の前にいるのは智慧の神、戦神、大地母神にして冥府の神。元まつろわぬアテナである。
 
 まつろわぬ神というのは神話から外れ、好き勝手に暴れている傍迷惑な者達の総称である。
 
 その元とは言え、まつろわぬ神であるアテナが何故、我が家の居座り守護神的な事をしているのか?
 
 それは歴代当主の、御剣家七十六代目当主_御剣泉華(みつるぎ せんか)という歴代最強の女当主がアテナと戦ったからである。
 
 御剣月華は剣技と呪術、そして異能を使いこなす歴代最強と謳われた人物だった。
 
 その人物が家に帰る途中でアテナと出会い、戦い、首を切り落としたが再生されて、負けたとか。
 
 で、その一度殺した褒美に願いを叶えよう的な事をアテナが言い、御剣月華はある事を願ったとか。
 
 その一つが『御剣家を見守ってあげて欲しい』というものであった。
 
 その他にも幾つか約定を言っていったが最初はその一つだけを了承しようとしたが『最強の女神と言ってもこの程度の事が出来ないのね。………ふっ』と嘲笑され、全ての約定を護っている。
 
 その後に、約定を結ばせた本人は百年後くらいにアテナと戦った当時の肉体で死に、天に召されたとか。
 
 ………凄いとしかいいようがないな。神様相手に約定を結ばせたなんて。それと若さの秘訣に関する本でも書いたら絶対に売れただろう。
 
 さて、次は『御剣』という家について語ろう。
 
 先の言からこの家は一般家庭ではない。
 
 この御剣家はその昔、千年ほど前からあり、最初の頃の歴史が無いのだが、戦国時代から歴史がある家である。そして戦闘を生業としてた家であった。雇われたりもしていた。というより、それが収益である。所謂傭兵だ。
 
 そのため家は傭兵家業としての名残があるので体を鍛えている。まあ、丈夫に育つようにと言う意味を込めているそうだが。
 
 え? 俺も鍛えているかって? 鍛えられていますよ。アテナに。だが、子供の教育はいいのか? まあ、一般家庭から見たらよくないだろうな。
 
 例えばだ、修行と言う名目で山の中に放り出され、サバイバルするのは当たり前。
 
 海に落され鮫と命を賭けたレースをしたり(喰うか、喰われるか)である。
 
 普通なら非行に走りそうな修行を初代から行っている。
 
 実際死んだ親父は嫌気が刺し非行少年になった所を死んだ母さんと出会って死んだ時の親父になっているらしい。
 
 まあ、この程度の事は軽々とこなして問題なかったが。
 
 前世の友からチート・バグ等と言われているので大して問題ないが……普段の出せる力が小六相応なので色々と苦労している。
 
 で、家訓が『負で動くな。己のために動け』と言うものであり、何があったのか大体想像がつく家訓である。


「ほお。そうか、妾の居た地へか。………最後に行ったのは燐と雫が生きていた頃か。懐かしいものだ」

 
 アテナは俺の両親を知っている。
 
 昔、親父_御剣 燐と母さん_御剣 雫が新婚旅行として行った場所だ。何しろギリシャは俺の両親の出会いの場とアテナの故郷的な場所である。
 
 親父は何度かギリシャに行ったそうだ。何でも修行に嫌気が差し非行時代に入り両親から逃走する為だとか。
 
 で、それを追ってきた親父の親と逃走している最中、旅行中であった母さんと出会い、一目惚れしたそうだ。
 
 親父の逃亡生活が気になったのは極自然な事だと思う。と言うよりうちの家はそれでいいのか?


『何でも、御剣家は逃げたら追いかけてその能力を上げるのだとか。あれね、必死こいて逃げればその分上がると考えているようね。そしてそこで出会いがあれば尚OK』と母さんが遊んでいた俺に言っていたな。

 
 おお、何という事でしょう。転生した家は思ったより過酷な家のような気がする。と思った俺は悪くない。
 
 まあ、二人とも俺が二歳の時に死んで幼い当主の誕生である。そして、アテナに育てられたのである。
 
 此処で言っておくと御剣の家の人間は基本的に早く死んでいる。
 
 自身の力の過信だとか、何か危なげな組織と戦って死んだとか、強者と戦って相打ちしたとか等々基本的に何かしらをしてそれが原因で死んでしまう。
 
 極稀に長く生きた先祖もいたらしいがそれは数人だけである。その人物は先に挙げた泉花と御剣家八十一代目当主_御剣 月華(げっか)という大変賭け事に強い人物で、一国の富を賭け事で稼いだ猛者である。アテナ曰く『あれほど賭け事の上手い者は千年に一度の奇跡だろう』と言わせた。おい、どれだけの駆け引きをしたのか凄く気になるのだが。
 
 そしてその金は御剣の金庫に眠っているのである。


―閑話休題―
 
 
 で、御剣の人間は結婚できる年齢になると皆結婚して子を残したとか。迎え入れている血は異能の持ち主や戦闘力が異常な者、他には才が傑出している者たちだ。
 
 これだけ聞くと何か変な感じの家だが普通の血筋だって取り入れている。基本的に家柄とか関係なく受け入れているのだ。唯単にそう言った人が多かっただけである。………そう思いたいね。
 
 結婚云々の話を聞いた時の事をアテナ説明して『生き残れるかな』と思ったのは内緒だ。
 
 前世の俺の死因は無茶な体の行使。二十の時に“ちょっとした”試し技をして出来たのはいいが体が耐え切れず体から血を噴き出した。
 
 筋繊維の断裂。血管の破裂。臓器はグシャグシャ。骨は軋み、少しの衝撃で折れるほどであった。
 
 そんな無茶をして死んだのだ。我ながらアホらしい死にかたである。
 
 その技をするにはもうちょっと頑丈な体が欲しいね。とか考えている。
 
 そう考えると蓮華が御剣の家に生まれたのは必然であると考えられる。


「で、行くか? 行かないか? どっちにするんだ?」

 
 アテナ用のパスポートや戸籍も存在している。家の人間のコネを知りたいと思うがあまり知りたくないと思ってしまうね。


「―――行かないで置こう」


「土産は?」


「年代物の葡萄酒辺りが良いが、未成年だと買えなかったな。ならば、任すとしよう」


「了解。じゃ、一週間後にまた」


 そう言い、蓮華は家を出たのであった。

 


 ◇ ◇ ◇ ◇

  蓮華を見送ったアテナは三階の談話室に上がり、ソファーに座り、天窓から見える空を見上げながら呟いた。


「―――泉華よ、始まるぞ。貴様の視た未来が」


 自身を一度殺した、人間の中では最強の頂にいた剣士にして、異端の巫女が視た遥か先の未来。

 彼女が何を見たのかを全てとは言わずとも“ある程度”教えられた自身からしてみるとその全ては充実した年月であった。
 

「最初は信じられなかったぞ。貴様ら御剣の家の意味を」


 泉華は初代当主であった人物と同じ未来視を得ていた人間であった。そして、過去を見通す目である『過去視』も得ていたため知ってしまったのだ。初代の考えと先の結末を。


「その結末の回避するための御剣家――いや、蓮華か」


 つい先ほど出発した“最後にして最強の称号を得るに足る”人物である蓮華はギリシャへと向かった。

 自身に一度殺した彼女は言った『蓮華という未来(さき)にいる私たちの子孫はあなたを飽きさせないだろう』と。

 正しくその通りだ。あれは妾を飽きさせる事無く愉しませてくれる。

 武術、呪術、技量、知恵、運、異能、魂_その全てが今まで見てきた御剣の中でも突出している逸脱者である。
 

「――あとは貴様次第だぞ、蓮華」


 それはこの先に起こる事を知っているアテナの独白であった 
 

 
後書き
 
 カンピオーネ!の原作読んでノリと勢いで書いてしまったこの作品。
 書いていると何時の間にかこのような作品となり自分でも混乱しました。
 何故投稿したか? それはノリと勢いさ!
 まあ、このような感じで書いて行きたいので、読んでくれる人は温かい目で読んでください。
  

 

神との遭遇、戦闘、そして…

 
前書き
 戦闘描写って難しいですね、苦労します。まあ、『カンピオーネ!』を書いている時点で戦闘描写を書くんですけどね。え?今気づいたのかって? ノリと勢いがこの作品の構成している大部分ですよ。何を今更な。
 だから文が粗いのだよビヨンよ!
 まあそんな下らない事よりも拙いながらも頑張りましたので、どうぞ! 

 
―ギリシャ―

「ふぁ~あ。よく寝た」


 長時間のフライトを終え、空港を出て、体を適当に動かし小気味の良い音を鳴らしていく蓮華。


「―――あ~、体動かしながら色々と見て周るか」


 そう言うと蓮華は駆け出した。

 タクシー? それを使う金があるのなら走って節約だね。

 電車? 使うのも良いけど良い景色の所がいいね。

 蓮華はそう思いながら、“誰にも気づかれる事無く”車の間を疾走したり、ビルの壁を蹴り、壁を渡っていったのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 二日経ち、蓮華は様々なものを観て、聞いて、体験した。

 パルテノン神殿を観たり、オリュンポス山を登ったり、人と触れ合ったりしたのであった。
 

「すごいな」


 ホテルのベッドで横になりながら呟いた。

 未成年が一人で宿泊というのもあれなのだがそれは魔術を使って誤魔化した。


「神様が居たとされる場所は土地の格があるね」


 名残を感じていた蓮華は感慨深く呟いた。


「まあ、アテナと居る時点で凄いんだろうけど」


 アテナと過ごしてもう十二年か。

 二歳の時に両親が死んで、アテナに育てられた身としてはアテナを母とも思えていた。それでもって、面倒見られて、面倒見て、遊んで貰って、術を習ったりと思い返してみると母親兼姉兼妹のような大切な家族であった。

 そう思うと自然と笑みが零れた。 


「――まあ、大切にしていきたい家族だな」


 そう思いながら蓮華はいつも思った事を口に出した。


「…御剣の家って何かがおかしいな」


 例を挙げるとすると人間の限界に、家系の異常さ、俺自身の基本性能。

 俺が言うのもなんだがこの家は人間の限界を超えた能力を使っている気がする。

 家の異常さは、早死にと多くの才ある血を受け入れている事。

 そして俺自身の身体性能。これは前世の全盛期であった俺の二十歳の時を超えている肉体だ。

 アテナから聞いたが御剣の人間は代々身体能力が高く、人間としては最高の性能を持つ者がいた。そしてその才能も高く、一国の富を稼いだ月華さんがいい例だ。そこから考えると遺伝と考えられるのだが違う気がするのだ。


「考えていくと不思議なんだよな。何で前世の記憶なんて持って転生したのか」


 本来なら新たな生を得るために前世の記憶を消される筈。それが蓮華に起こっていない。

 何かのミスかと考えて置く事にする。

 それに関する記憶は無いので考えても無駄である。

 そして蓮華は眠りに着いたのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 夜のギリシャの街が見せる景色を見る人影が在った。


「……久々の外界か」


 その声は男のものであった。

 その男は片足を引きずりつつも町を見ていた。


「こうして、出てくるのも悪くないが些か邪魔なものが多い」


 彼は昔の町の景色を思い浮かべながら町をその瞳に映し出す。

 神々の武具を創った身としてはこの景色は見るに耐えないものが多い。


「ならば、邪魔なものを消してしまおう」


 その言葉とともに町は火に包まれた。



◇ ◇ ◇ ◇



 膨大な呪力が撒き散らされ、それと同時に蓮華は目を覚ました。

 長年の経験から自身に迫る危険などを感知するのが長けている証明でもあった。 


「おいおい、誰だよ!これだけの呪力を撒き散らして!」


 そこで蓮華は部屋から出てホテルの屋上まで行き現状の確認をする事にした。

 屋上まで上がり目にしたのは、辺り一面炎により燃やされている光景であった。



「これだけの規模の炎、高位の魔術師でもこうは成らない。と言う事は――」


 蓮華は自身の魔力少し使い、薄く、広く広げていった。

 ―円・劣―

 ハンター×ハンターの円を模して創った広域索敵の術だ。

 何故『劣』かと言うと神獣や神の呪力耐性により弾かれるし。何故知っているかって?アテナで試した。それにオーラを使っていない。そして何より、
 

 ―バチッ!―


 今の音は円・劣が弾かれた。と言う事は 


「―最悪だな。元凶を見つけたが、こっちの居場所もバレた」


 そう魔力を少量だが使っている為、勘の良い神獣や神、そして神殺し(まだ、会っていないがアテナから教わっている)と言った連中に居場所がバレるのだ。念とかならバレなさそうであるが生憎とそう言った能力を“観た”事がないので使用できない。


「さて、どうする?」


 逃げる? 神様相手に逃げられたら苦労しないだろうけど恐らく無理。

 戦う? それもありだが死ぬ可能性が高い。

 様々な事を考えていると膨大な呪力の塊が何かを放った。


「クソッ!」


 そこから居た場所をすぐに離れると雷が落ち、壊していった。


(ビルに居た人達は皆もう出ている。だが、もし出ていなかったら悲惨だな)


「貴様か。先の魔術は」


 そこに居たのは巨大で屈強な体を持ち、肩に金槌を担ぎ、脚を引きずっている大男であった。


「――そうだと言ったら?」


 体を全身、頭から爪先まで自身の魔力を巡らせる。来るか!


「目障りだ。消―」


 その言葉を言い終わる前に、足に集中させた魔力を放出し瞬動術で駆ける。そしてその神の目の前に行き、拳打を放った。

 ―桜楼(おうろう)

 全身のバネを利用し、力を一点収束させた拳打である。

 目の前に居た神は吹き飛び、蓮華は神の居た場所に立っていた。

 蓮華は全身から力を抜き、一気に駆ける。

 吹き飛んでいる神に並び、抜き去り、後ろに回る。

 ―剛力徹破・咬牙―

 内側と外側を同時に壊す同時破壊の拳が、神の背後にダメージを与える。
 

「ガッ! 人間風情が舐めるな!!」


 金槌を振り、蓮華に振るう。それの金槌にあたり“吹き飛んでいく”。

 それは本来ならそれは悪手である。神の膂力から放たれる力に対抗できる訳も無くその身は砕かれる。

 これが唯の魔術師や腕の立つ剣士であれば金槌が当たると同時に骨が砕け、内臓を壊され、肉体は潰されたであろう。

 しかし、此処にいるのは“ただ一つの結末を回避する為にその血と才を高めた御剣一族千年の集大成”であり、それを知っているアテナがその程度で壊れる様な柔な修行を付けていない。また、威力を緩和する為に振られた方向に事前に跳び、対物障壁連続して展開していたためダメージはほぼ通っていないのである。

 ダメージといえばビルに勢いよく衝突し、擦り傷を負った程度である。


「……流石に生身で喰らいたくないわな…ッ!」


 背筋に走った悪寒を感じそのビルから急いで退避する。

 先ほどまで蓮華のいたビルは膨大な熱量により形を変えドロドロに溶かされたのであった。


「人間相手に大人気ないな。………あ、アテナもだったな」


 何気に修行では手を抜かないからな、アテナは。

 尤も本気で殺しに掛かっているけど全力ではない。それが蓮華の修行を付けているアテナの内容であ
った。


「さて、ダラダラすると、こっちの死ぬ率が高くなるか」


 蓮華は逃げようかと思っていた。何せ相手をしているのは確認しているとは言え雷と火の力を有し、金槌を武器としている神だ。

 
「雷に金槌だと北欧の雷神トールを連想するけど、火は無かった筈。それに此処はギリシャだ。北欧の神であるトールは違うと思うんだけどな」


 頭を掻きながらも蓮華の中に詰め込まれている各神話の神の有している属性や特徴に合う武器を持った神を探していく。

 逃げるかどうかを考えたが、神を傷つけ、逃げる。しかし蓮華を追って日本に来たりでもしたら厄介極まりない。なら、取るべき行動は二つ。

 一つは此処で死ぬ事。これについては論外すぎる。死んだら色々と面倒だし、何よりアテナとの生活を気に入っているから死ぬ気なんてさらさら無い。

 もう一つは限りなく可能性は低いが、あの神を殺すこと。そうすれば追って来ることも出来ないので問題が無くなる。

 ただ、神を殺すと何かしらの事があるとアテナが言っていたが今は気にしていられない。

 
「それじゃあ、ちょっとばかし神様でも狩りでもしますか」


 そう言い、蓮華はあの神を屠るべく駆けだした。

 この時の蓮華は予想だにしなかった。自分が神殺しとして人々から恐れられ、崇められる日常に。そして神々との多くの闘争をする事になるとは。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 魔力を使わずただ自身の強大な脚力を持って吹き飛ばされた距離をたった二歩で詰め、神に肉迫して行った。


「ム?やはり生きておったか、人間!!」

 
 ビルを溶かした神はどうやら蓮華があの程度で死んでいるとは思っておらず、様子を見ていたようだ。
 
 そして目の前に現れた蓮華に驚く事無く冷静に対処し、神は金槌を振るい、蓮華の視に当てた。


「なんだと!!?」


 しかし、それは当ったのに対し手応えが無く、蓮華の体をすり抜けたのであった。
 
 神が振るったのは高速で動いていた蓮華の残像であり、そこに蓮華の実体はいない。


 そして


「何処に!? グフッ!!」


 蓮華は神の右側面に居り、拳を放っていた。

 ―崩月(ほおづき)

 内部集中破壊を目的とした拳は神の体の中を崩(壊)した。

 しかし、神はまた金槌を振るった。それを蓮華は避ける。

 そして、神は口角を上げ、鋼すらも容易に溶かす火球を放つ。

 それを蓮華は避けようとするが避けられず直撃した。

 何故なら金槌を持っていた手を振るったと同時に離し、蓮華の右腕を掴んでいたからだ。

 
「はっはっはっは! 貴様は強かったぞ人間! このへーパイストスに此処までの傷を負わせるとは。もう少しすれば貴様が神殺しに成っていたであろうな」


 そう言い、へーパイストスと呼ばれた神は煙に包まれている蓮華の手を離した。

 離してしまったのだ。それが自身を殺す一瞬だと知らずに。


「――あ~、なるほど。あんた雷、火山、火と鍛冶の神のへーパイストスか」


「なっ!!?」



 煙の方を向くとそこには空白の出来ている煙が残っており、何かしらが通った後のようになっていた。


「武神や剣神、戦神だったら“反応”されて反撃喰らって死んでたな」


 煙のほうから聞こえていた声は今度は自身の後ろから聞こえてきた。

 そして振り返るとそこには炭化して死んでいる筈の蓮華が体を向けずに立って生きていた。

 しかし、鋼を溶かす熱量を喰らって無事なわけでも無く、所々火傷を負っていた。

 そして腰には日本刀を差していた。


「…何故生きてる!?」


 驚愕の声を上げる神_ヘーパイストス。当然だ。膨大な熱の奔流をその身に受け、本来なら肉体が炭化している筈なのだから。


「理由は簡単だ。耐熱防御の魔術に九割近くの魔力を注いでの全力防御。そして残りの魔力で武器を呼び出した。いやー、そのお蔭で少しばかり生きられたけど、魔力がスッカラカンになった。治癒の魔術すら掛けられない。けど―――」


 顔だけを振り向かせ笑ったと同時に何かが砕け散る音が聞こえた。


「倒せたからね、良いとしよう」


「何を言って」


 ると言おうとすると体の至る所から血が出始めた。まるで、切られたのを今認識したかのように次々と血が出る。


「思いのほか硬かったから完全には切れなかったけど、頚動脈と心臓は切ったんだよね。というか頑張ったよ」


 そう蓮華が言ったと同時に頚動脈から血が勢いよく噴き出し、左胸部_心臓からも血が出た。


「先の音は刀が砕けた音。全力の動作に刀がに耐えられなくてね。まあ、それも当然かな。なにせ神の認識外から放つ俺の奥義、終式_桜花剣嵐。光の速さからなる億の剣撃は見えたかな」


 ヘーパイストスが血を噴き出したと同時に蓮華も血を噴き出しながら倒れこんだのであった。
  
 

 
後書き
 蓮華クンがアテナに鍛えられ、何とか戦えた状況ですね。これが何も鍛えられていなかったら死んでますね。

 さて、感想を書かれて、この作品を呼んで楽しみにしてくれる人がいると嬉しいものですね!
 テンションが上がってきましたよ! まあ、書く速度はいつも通りですけどね。(苦笑)
 さて、お気に入り登録数42件。この作品をお気に入りに入れてくれて嬉しいですけどプレッシャーが凄いですね。自分よりもお気に入り登録数が多い他の作者さんたちはこれ以上のプレッシャーの中で作品を書いていると考えると凄いですね!
 では、この作品_作者が書いた駄文を読んでくれてありがとうございます!これからも更新したら読んでくれると嬉しいです!

 PS
 どうしたら戦闘描写が上手く書ける様になるのでしょうか?
 誰かアドバイスを下さい!! 

 

新生、会話、驚愕、起きる者

 
前書き
 お気に入り登録数…120件……だと…!?
 驚きました。驚いています。え?何故かって?登録数が百を超えたからさ!
 正直言うと、ノリと勢いで書いているので文が粗かったりして読みづらかったり、変なところが在るのではと常々思いながら投稿しているのです。
 その作品がお気に入り百件を超えたんですよ!驚愕です!

 まあ、そんな話は置いておいて。では、本編をどうぞ。 

 
 痛いな、おい。

 蓮華は薄れゆく意識の中でそう考えた。

 何故蓮華が倒れたか? それは終式_桜花剣嵐にあった。

 そもそも、人は光速の域に踏み入る事はできるか? 

 その問いに対する答えは否である。

 まず第一に、人の身で光速に至れるものはいない。

 第二に、至ったとしてもその光速という環境下で動く肉体の負担は生半可なものでなく、自身を強化しておかなければ、筋繊維や血管、臓器など体の内側はボロボロになり良くて後遺症が残る程度。悪ければ死ぬのである。

 第三に、それほどの速度の負荷に対応できる術が無い。
 だが、蓮華は第一の課題である光速に至るというクリアした。それも前世でである。
 しかし、第二に述べた事が当然起こり彼は死んだ。しかもソレを“ちょっとした”技の練習と言ったのである。

 それでもって『御剣蓮華』として転生したのである。

 そして御剣と言う家は呪術、魔術を使っていた当主がおり、そう言った文献もあり、それを読み漁っていた。そこで負担を軽減させる術を構築していたのだが、その当時出来た術は、消費する魔力量、技術的問題など様々な諸事情によりやめたのである。

 仮に、完成していたとしても耐熱防御に九割以上の魔力を注ぎ、残った魔力で日本刀を召喚した時点で魔力切れだ。

 そして、幾らか身体能力が前世に比べて上がっている蓮華でも耐え切れずに全身から血を噴き倒れたのだ。

 最初から出していれば勝てたのではとも思う。しかしだ、この業は蓮華の前世の死因であり、使えば全盛期より上である耐久度でも、死ぬ可能性が高かったのである。

 尤も全盛期を超えた肉体であっても負荷に耐え切れずに血を噴いていたであろうが。

 それにだ、最初にヘーパイストス相手にダメージを与えて隙が少なくなり、更にはもし相手をしている神が、剣神・武神・戦神のどれかの神であった場合、光の速度であるとは言え反応され反撃を喰らっていた可能性があった。だから使わなかったのだ。

 まあ、相手は鍛冶の神であり、どちらにしろあの場合、最後の隙だったので確実に殺しきれる終式を使用したのだが。
 

「あ~、ちくしょう。臓器は無事だが血管と筋繊維は半分以上逝ったな」


 自身の傷を確認した蓮華は『…この体凄いな』と思っていた。

 臓器は何処も潰れておらず、少しばかり傷めた程度。しかし筋肉と血管は半分以上がボロボロである。

 まあ、確認したのは良いのだが血を出しすぎて意識が朦朧として、出血多量で死に掛けているのだが。


「それに、眠くなってきたな。…………って、眠りそうだな」


 まあ、死期が近いのかねと半分当たって半分外れている事を思いながら意識を失った。


◇ ◇ ◇ ◇


「……人間に倒されるとはな」


 蓮華に全身と頚動脈、心臓を斬られたヘーパイストスは膝をつきながら自身の力が蓮華の流れていっているのを視ていた。

 流れていった力は蓮華の身体を再構成し始めた。

 これの意味するところは一つ。るパンドラとその夫であるエピメテウスが施した魔王の誕生祭。

 神を殺しを成功させた者がその神の権能を奪い、その力を振るう事ができる人類の守護者にして、災厄を振り撒く者。それを人は『カンピオーネ』と呼んでいる。


「……来たか、パンドラ」


「あら、ヘーファイスト様じゃありませんか。お久しぶりですね。何年ぶりですかね」


「忘れたわ。それよりもさっさと済ませろ。でないとお前の新しい子、死に掛けているからな」


「そうですね。それでは_さあヘーファイスト様、祝福と憎悪をこの子に与えて頂戴! 六人目の神殺し、人の身で光の速度に至った魔王に祝福と憎悪の言葉を捧げて頂戴!」


「いいだろう、人の子よ。神殺しの王として新生を遂げるお前に祝福を与えよう。貴様は我から―へーパイストスから権能を簒奪した最初の神殺しだ! 貴様は自分の腕に合う武具を創れ!既存の武具では話にならん!そして、多くと戦いその腕を上げろ! 貴様なら至高の武具を造れるだろう!」


 そう言いヘーパイストスは蓮華にその全ての力を簒奪されながら消えていった。


 
 ◇ ◇ ◇ ◇


 目を覚ましてみたら見知らぬ景色が広がっていた。

 地平線の先まで灰色で、距離感が掴めなくなっていた。


「………何処だ、此処?」


 ちょっと待て。俺は意識を失った。と言う事はだな此処は、自身の心の中か、死者の国、またはそれに準ずる何かか?


「ここは、生と不死の境界。色々な言い方がされているのよね。ギリシアならイデアの世界。ペルシアならメーノーグね。まあ、蓮華の考えている事は概ね正解よ」


 声がしたので目を開けてみると見知らぬ少女がいた。姿は十代半ば頃で、整った顔立ちをしている。体つきは細い。スレンダーな体型をしている少女であった。


「…………誰?」


「私の名前はパンドラ。義母さん、と呼んでね」


「……何故に?」

 
「それはあなたが私と夫の子供にあたるからよ」


「…あ~、こう言う事か。まったくちゃんと説明しておけよな、アテナ」


 道理で神を殺したものがどうなるのかと言うのを渋ったわけだよ。

 ガシガシと頭を掻きながらも納得した蓮華。

 パンドラ_ヘファイストスに作られた人類最初の女。神々からあらゆる魅力を与えられた人物。そしてプロメテウスの弟であるエピメテウスの妻となった。

 プロメテウスとは《先に考える者》といい先見の明がある賢者を意味し、エピメテウスとは《後に考える者》といい行動した後で考える愚者という意味を持つのである。


―閑話休題―


 そして神を殺した者を『カンピオーネ』、『羅刹王』、『チャンピオン』、『魔王』と様々な名称で呼ばれ《エピメテウスの申し子》と呼ぶ者もいる。頭のいい人間は神とは戦わない。それは自身の死を早めるからだ。しかしバカな思考の持ち主なら神と戦う。故に《エピメテウスの申し子》と呼ばれるのだ。


「あ、そっか。あなたアテナ様を守護神として収めた家の子ね。理解が早い訳よ」


「え? 何? 知ってるんだ?」


「当然じゃない! あの不死の神性を持つ女神を一度殺しているのよ!あと少しで新しい子が誕生すると思って手に汗握りながら見てたんだもの!」


 けどそれで、切り倒されて彼女自身が再生した時にはビックリしたけどね。と付け足した。

 俺はどう再生したのかすごく気になるのだが。あれか異能か。異能なのか!


「桜華曰く『生命力を完全にコントロールし、細胞の新陳代謝を抑えているからね。外見上は年も取らないし、いざという時は生命力を活性化させ、切られた傷も治せるんだよね。もっとも僕には及ばないけど』と言っていたわね。私も彼が何で今でも生きていられるのか疑問だったけどソレ聞いてよく分かったわ」


 何故若い状態で百歳以上生きられたのか分かったな。ん?桜華ってどこかで聞いたことがあるような………って!!


「……ちょっと待て!今の言葉を聞く限り、初代は生きているのか!?」


 御剣家初代当主_御剣桜華(おうか)

 その全貌は誰も知らず、どのような生き方をしたのかも知られていない謎だらけの人物である。唯一分かっているのは男であると言う事だけである。

 もし生きているのなら千年以上生きている人ではない“何か”である


「そうよ。桜華は人としては最高位の人間で、此処に自由に入れるほどのね」


 本来なら此処に入る事などできないのだがそれを出来てしまっているのだ。


「うわ~。え、何。家の初代当主ってそこまでの規格外だったの」


「確かにあれほどの規格外なんていないわよ。まあ、彼は肉弾戦の戦闘力があなたたちの家系のソレと比べると限りなく弱いわ。けどね、技量と術、そして異能関係は全てを極めた最強の人間よ」


 パンドラに此処まで言わせる人間って何やねん。


「それに―」


「そこまで話さないでくれ。これ以上僕が話すことが無くなるじゃないか」

 
 パンドラが何かを言おうと話すがその言葉は第三者の言葉で遮られたのである。

 その声の主を見ようと振り向こうとするとが、体が金縛りにあったように動かない。


「あら、来たのね。桜華」


「なに、ようやくこの日が来たんだ。自分の子孫くらい見てみたいものさ。さてと―」


 振り向けないのでどのような顔をしているのかを見る事は出来ないがその声からして、悪戯好きな悪餓鬼の笑顔を連想させた。


「流石に神殺しを縛っておける術はそう長く出来ないからね」


「相変わらずの手際ね。あなた私たちの息子になれたんじゃないの。そこまでの域に達したいるのなら」


 それを聞き、桜華は苦笑しながら話す。


「僕はそう言うのには興味が無かったんだよね。けどさ、最強の《鋼》について考えるとなるとどうしても力は必要さ。けど、僕が神殺しになったとしてもすぐに敗れて死ぬさ」


 苦笑しながら桜華は蓮華の背後まで歩いてきた。


「君も詳しい事を聞きたいだろうけど、それは現世に戻ってからだ。なに、会いにいくから気長に待っててくれ」


 そう言い蓮華の頭に手を乗せる。すると、体を何かが抜けるような感覚がし意識を朦朧としていった。


「じゃあ、いずれまた」


 その言葉を最後に蓮華の意識は現世にある肉体へと戻って行った。



◇ ◇ ◇ ◇


 蓮華を現世に戻し、生と不死の境界にはパンドラと御剣家初代当主である桜華だけが残っていた。


「ここで話さなくて良かったの?」


「此処で話しても戻ったら忘れてしまうだろ。なら現世で話すものさ」


 蓮華を現世の肉体に送った後、桜華は肩を揉み解しながらパンドラと話していた。


「それにしても、君たちの子供になった子って面倒だね。こっちの術に対して対抗(レジスト)してくるなんて。骨が折れるよ」


 やれやれと首を横に振りながらもその顔は楽しそうに笑っていた。


「神や私たちの子に対して魔術で縛れるあなたに言われたくないわよ【先読みの魔神】さん」


「その二つ名を聞くのも久しぶりだね」


 【先読みの魔神】とは、魔術を極め、神々の領域に踏み込んだ人間が行き着いた頂点。その力は神代の術すら行使可能になった存在。故に【魔神】の称号を得た。そして【先読み】とは桜華が持つ異能である【未来視】から捩ったもの。その二つを合わせて【先読みの魔神】と言われた二つ名である。知る者はいるが、知っていてもそれを本当であると知っているのは僅かな者達であり、他の者達は御伽噺の類だと思っているのである。


「ところで、あなたの従者は元気かしら?」


「元、が付くんだけどね。僕の子孫である蓮華君が神殺しに成ったから封は解けているよ」


 その時に成れば解けるようにしていたからね、と付け足した。


「……千年ね。私たちからしてみるとそれなりに長いけど、あなた達にしてみるとかなりの年月よね」


「―――本当だよ。僕は生命力の完全コントロールや裏技。彼は不死の化物と言われている、殺されない限り死なない不老長寿。この日をどれだけ待ったのやら」


 暫らく沈黙が続いたが桜華は踵を返した。


「じゃあ、僕は帰るよ。色々と準備しないといけないしね」


「そう。あなたも若くないんだから気を付けなさいよ。限界が近いんだから」


「ああ。もうボロボロの体を酷使しているから、いつポックリ逝くか分からなくて怖いんだよ。では、また会えたら会いましょう」


 そう言い桜華は消えていった。


◇ ◇ ◇ ◇


 蓮華が神殺しと成った同時刻、御剣邸の地下深くに、封を掛けられた人一人が入れる棺が在った。

 その封が解かれ、棺の蓋が開いた。

 そして、そこから出てきたのは、紺色の髪をし、執事服を着た青年であった。


「私が起きたと言う事は事態が動き出しましたか。やれやれ、忙しくなりますね」


 その青年は棺から出ると上着を脱いだ。


「汚れた服では『王』となる方に見せられませんからね。さて、新しい服は何処ですかね?」


「貴様、誰だ?」


 アテナが部屋の扉を開け、そこに立っていた。屋敷の異変を感知して来たのだ。


「おや?この気配。何故神が此処に……ああ、思い出しました。まったく桜華様の未来視はよく当たるものですね」


 そう言いながら一つのクローゼットを開き、上着を着る。先の古く汚れている服よりはマシと考え着たのだが、こちらも少しだが汚れており、所持している服は洗濯しておこう、と考えていた青年であった。

 そしてアテナの方に体を向け、礼を取った。


「智慧の女神である貴女からして見れば私は人に見えない者。しかしながらその在り方は人のそれ。御剣家専属執事_シリウス・F(フォルベルツ)・マクラーゲンと申します。以後お見知りおきを__落魄せし女神様」


 人の手によって化物へと変えられた元人間はそう言いながらかつての神々の女王に礼をしたのであった。

  
 

 
後書き
 この小説を読んで下さる皆さん。お読み下さりありがとうございます!
 え? テンションが高いって? 自覚してますよ。しかし、このテンションも後数日すれば下がりますよ。え?何故かって? 勉強です。試験です。ああ、最悪です。
 という訳で、少し更新速度が遅くなるかも?しれないのでそこの所よろしくお願いしまーす。
 

 

帰国、驚愕、約束、また驚愕

 
前書き
 お久しぶりです。ノリと勢いで話を書いているビヨンです。
 学校の第一の魔王(試験)を倒すものの、第二の魔王(試験)が迫る中、そんな事気にしてられるかという気持ちで書いた話です。
 第二の魔王(試験)を倒しても第三の魔王が現れ、勇者(作者)を襲う。だが勇者の前には最凶の敵(英検)が現れる。
 何この4キルは。5月後半と6月前半がキツイ。
 ああ、長期休みが恋しいです。けど、今年は忙しいんですけどね。
 作者の愚痴となってしまいましたが、相変わらずの駄文ですが本編をどうぞ。 

 
 目が覚めたらそこには青い空が広がっていた。
 
 起き上がってみると少しだが煙が立っており、まだ火が消えきっていないのだろうと推測した。

 
「あ~、何か頭がボーっとしてるな」


 何か途轍もなく貴重すぎる体験をした気がするんだが頭に靄が掛かっていて思い出せない。

 しかも、何だ? この呪力の多さ。高位の術者が百人いても捻り出せる量じゃないんだが。

 それに、ビックリしすぎて何か重要な話を聞きそびれた感じがするな。はて?なんだったか?

 ん? ちょっと待て。

 そこで昨日あった出来事を思い出していく。

 へーパイストスと戦い、終式を使い肉体がボロボロになるも、へーパイストスの体全体を切り確実に殺すために頚動脈と心臓を切った。で、死ぬ筈だったのに生きており、更には傷も治っていると。そして自身の中にある力と膨大な呪力。それらを総合して考えると…


「……成ったわけか、神殺しに」


 はあと溜息を吐きながら今後の事を考える。

 膨大な呪力を撒き散らした者がいた筈なのにそれが唐突に何故か姿を消した考えるだろう。

 そうなると何処かに消えたか誰かが倒したと考える。

 何処かに消えたと皆さん考えればいいのだが、誰かが倒したと発想したのなら最悪だ。

 誰かが神を殺し、神殺しとなったとなる。今いる王は確認されているのでも四人。

 その四人の動向を観察している者がいて(まあ、バレたら王によっては死ぬだろうが仮にだ)、誰も動いておらず神が倒されたなんて知られたら新しい王が誕生したという答えに辿り着く。ならそれは誰だと言う事になり業界が荒れるのだ。そして、取り入ろうとする連中がいる。


「……果てしなく面倒だな」


 逃げるか。幸いにもホテルに荷物は残して居らず異空間に閉まってあるため直ぐにでも移動が可能だ。結論としては即帰るべきなのだが…


「……そうは問屋が卸さなそうなんだよね」


 神殺しとしての勘か、はたまた戦いに身を置いていた『御剣』としての勘かは分からないがその勘が当たり一騒ぎ、否。二、三騒ぎが起こるのはまた別の話である。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 御剣蓮華が神殺しとなり、四日後。アテナに一週間と宣言した蓮華は日本に戻ってきた。

 ギリシャで色々在ったのだ。それはもう激動の四日間であった。


「………しばらく、ギリシャには行きたくないね」


 ギリシャでヘーパイストスの他に三柱の神と戦い、打ち倒し権能を簒奪してきたのだから。


「……アレほど死を意識した日は無かったな」


 倒したと思った次の日には別の神と戦い、のんびり出来ると思えばまた別の神と戦う。え?何これ?呪われているのか!と思ってしまうのは無理もないと思う。


「あ~、帰ってき…た……な………」

 
 蓮華の声の音量は段々と小さくなっていった。

 何故か?それは、


「…………な、な、なんじゃこりゃあああああああああああ!!?」


 自分の家の庭の地面が砕け、捲れあがり、切り裂かれた跡があり、その土肌を晒していた。最も目に付いたのは無数のクレーターが出来ている事である。小規模ながら隕石が落ちてきたようになっており、これが一番目に付いた。

 蓮華は気配が在るのを感じ、円・劣を使い、居場所を探す。カンピオーネになり円・劣の性能が上がり、索敵範囲がかなり上がった為、よく分かる。

 そして、円の中に二人ほどの気配を探知した。一人は馴染み深いアテナ。もう一人は、誰だか分からないが、相当な実力者だと思える。

 居場所を見つけた蓮華は、玄関扉を開け、階段を駆けていき、アテナがいる部屋の扉を勢いよく開けた。


「アテナ!! 俺が居ない間に何があった!?あと、もう一人は誰!?………って、はあ?」


 部屋を開けた蓮華が見た光景は


「―――貴様の淹れる紅茶は美味いな。しかし貴様とは分かり合えないだろうが」


 紅茶を飲みながらそんな事を言うアテナ。もの凄く機嫌が悪い。


「それはありがとうございます。流石は落魄したとは言え神々の頂点に立ったアテナ様。紅茶を飲まれている様は絵に成りますね。尤も本来の姿に戻れず、少女のままですが」


 アテナの不機嫌の元凶と思われる者がそこにいた。紺色の髪に執事服を着用しスコーンを置いている青年がアテナに毒を吐いていた。お~い。そこの執事さん。死のうとしているんですか?守護神とはいってもアテナは神ですよ。バリバリの戦闘系ですよ。


「何だ貴様?余程死にたいらしいな」


 アテナは鎌を手に持ち、呪力を撒き散らし、構えた。


「まさか。事実を言ったまでですよ。それにこれ以上戦えば屋敷を瓦礫の山に変えかねないとお互いに思い、休戦しているのですよ。そんな事も忘れたんですか?」


 執事の青年も袖から銀製のナイフやフォークを指の間に持ち、いつでも投擲できるようにしている。

 事態は一触即発の空気に成った。

 正直言おう。これは、ヤバい……。

 何がかって? ここで戦闘なんぞされたら此処を中心としている地脈が乱れ色々と影響を及ぼす。あと家が無くなったりする。

 もしかしてこの二人、俺が居ない間、ずっとこんな事をしていたのか。そして険悪なのかこの二人は。

 背筋に大量の冷や汗を滝のように流しながらもこの事態をどうするかを必死に考える。

 そしてその答えが


「………えっと、何しているの?」


 取り合えず声を掛けるである。

 これで止まってくれれば御の字。止まらなければ最悪、蓮華の行動が引鉄に成り戦闘開始。そうなれば、止められる可能性があるのは現時点で蓮華ただ一人。ただ、神殺しになった蓮華は加減というものが難しくなっているので、無傷での制圧なんぞ無理。まあ、今のレベルではこの二人を無傷でなんていうのが無理なのだが。

 そして結果は


「……ほう」


「……」


 蓮華の声に反応しピタッ!と動きを止め、アテナは鎌を、執事はナイフとフォーク、それぞれの得物を納める。そして一触即発の空気は消え去った。


「帰ってきたか蓮華よ」

 
 アテナが近寄りながら蓮華に問いかける。


「ああ、うん。まあ、帰ってきたよ」


 タイミングが良いのか悪いのか分からないが。


「やはり、神殺しとして新生したか」


 蓮華が神殺しに成ったのを見て、微笑するアテナ。先の空気が無けれかなり良かったと思う。


「……あははは、まあね。……って、その口振りからすると俺がそうなるって知っていたわけ?」


「ああ、そうだ。泉華から聞いていたぞ」


 何を今更なという顔をしてそう言うアテナ。一体何処まで読んで(視て)いたんだ。泉華さんは?


「して、どうする?このまま戦うか?」


「遠慮しておく。ギリシャでの四日間と先の場面で今は戦う気力が起こらないし、疲れが溜まっているんだよね」


 肩を叩きながらそう答える蓮華。アテナは蓮華の体全体の何かを見据えていた。


「ほう。その漏れている気配から察するに鍛冶の神と、習合している神に、死者を蘇生させた医術の神の権能を得たか?」


 アテナが蓮華の戦い得た権能を当ててきたので、蓮華の肩はギクッ!と震えた。

 鋭いな~と思う反面、何で分かったんだろと思うのは当然であるが直ぐに理解した。


「…智慧の女神だから分かったのか?」


 倒した神はギリシャ神話系列の神だし。


「それもあるが……。まあいい。貴様は妾と戦いたくないようだからな。妾としては良しと思う半面、残念と思っている。暫らくは諦めるとしよう」


 言い淀んだアテナ。何を言おうとしたのかそれはアテナのみぞ知るというものである。

 
「……暫らく?」


「ああ、暫らくだ。これは約定の内に入っている事だぞ」


 泉華さんは一体何を約定としてアテナに結ばせたのか非常に気になる今日この頃でした。


「と言っても六年先の話だが」


「は?何故に六年?」


 アテナの事だから少し先にすると思ったが、それが六年先と言う。何があったんだ?


「今の妾はある“物”が欠けている不完全な状態だ。そんな妾が成り立てとは言え神殺しと戦えば敗北する確率が高い」


 なるほど。何かしらの物が欠けているアテナは今戦う気は無い。戦うのならその欠けた物を取り戻して戦うと。そう言う訳か。


「で、その六年って言うのは?」


「その欠けた物が確実に手に入る時期だ」


 例によって、泉華さんによる未来視か。


「OK。じゃ、それまで休戦と言う事で」


「そう言うことだ。くれぐれも妾と戦う前に死ぬなよ_蓮華」


「出来れば十二年も過ごしている家族と戦いたくないけどね。……まあ、無理なんだろうけどさ。なら―――」


 六年という時間が在るのなら自分をより高みへと上げる。そこで自身の全てを見せ付けてやろう。アテナが育てた神殺しは此処までの領域に至ったのだと。


「戦うからには全力で勝たせてもらうよ、アテナ」


 六年後へ取り決められたこの戦いは蓮華とアテナの大切で、楽しい思い出となるのであった。


「ところでアテナ。あの執事とはやっぱり険悪なのか?」


 執事の事を聞くとアテナの先の上機嫌さが嘘のように消え、機嫌が急降下していき、呪力が漏れ、周りが軋み始め、死を感じさせるそれへと変わった。

 あれ?やっぱり地雷でも踏んだ!?俺が居ない間に何をしたんだあの執事は!?


「―――あの執事と妾は水と油だ。決して混ざらず、反発する。再び戦えば」


 この屋敷が瓦礫と化すぞ。

 そう言い、アテナは自室へと向かって行った。 


「………一度戦ったのね。取り合えず、あの執事に聞いてみるか」


 一体何があったのか聞きたいのもあるがアテナの様子からしてみるとかなり不快な事があった様だ。ぶっちゃけ聞くのが怖いので執事に聞いてみよう。


「……んで、誰ですか?」


「先ほどはお見苦しい所を御見せして申し訳ございませんでした。私、四百年ほど前に御剣家に仕えていた御剣家専属執事(バトラー)_シリウス・F(フォルベルツ)・マクラーゲンと言います。以後、よろしくお願いします。若き当主_蓮華様」


 執事_シリウスはそう言うと腰を曲げて挨拶をした。その礼には年を重ね、磨かれたような礼であった。


「ご丁寧にどうも。…………ちょっと待て。四百年って言ったな」


 何かもの凄い年月を聞いたのだが。聞き間違えか?


「はい」


「どうやって今まで生きていた?」


 四百年もの長い月日を人間では生きられない。そこまで生きられるのは神か神殺しくらいしか知らかった。……いや待て。何処かで千年以上生きている奴がいたと聞いた気がするのだが、何だったかな?


「ああ、その疑問ならご尤もです。それに関しては長い話なので座って話しましょう」


 とてもいい笑顔でそう言い、談話室へと向かったのであった。



◇ ◇ ◇ ◇



「……何故だか今日一日でもの凄く疲れる気がするな」


 自分の家なのに疲れるとはこれ如何に?まあ、理由は分かっているんだけどね。現実逃避しているんだよ。

 そう思っていると扉を開けて元凶の一人である執事_シリウスがティーセットを持って入ってきた。


「お待たせしました。私の話は少々長いのでお茶を飲みながらお聞きくださいませ」


 紅茶を置きながら話していくシリウス。


「ありがとう。………で、シリウス。君は一体何なんだ?」


 取り合えず疑問に思っている事を聞く。

 アテナと何があったのかは後にして、先にある疑問を処理しよう。


「そうですね。端的に申しますと、人であって人にあらず。化物であって化物にあらず。――まあ、吸血鬼のような者ですかね」


「吸血鬼ね。…………はあ!? 吸血鬼ってあの血を吸う!」


 人を餌とし血を吸い、永遠の若さと力を手にする怪物。圧倒的な膂力は人では相手にならず、倒すことは困難を極める。十字架やにんにくを嫌い、鏡に映らず、太陽の光にあたると塵と化して死ぬ。または心臓を潰される事によって死ぬ怪物。


「その吸血鬼ですよ。尤も私は吸血鬼モドキというのが正しいのですがね」


「……モドキだと?」


「そうです。私は自身の異能と魔術の融合の末に生まれたそう言った存在なんですよ」


 何だか凄い話になってきたな。おい! 
 

 
後書き
 今回はあらすじに書いていた吸血鬼モドキの登場でした。いやー、この話を投稿するまでに二週間近くも掛かるとは、遅くなりましたね。
 試験は面倒だ。
 まあ、将来なんかを考えると勉学は必要なんで頑張りたいんですけど、気がついたらパソコンと向き合っているので、中々勉強が進まないんですよね。はっはっは!
 では、また試験へと向かうので更新は遅くなります。それでは次回まで作者が生きていればまた会いましょう。
 

 

執事の正体、初代登場

 
前書き
 終わった。試験と言う魔王退治が。辛かった。パソコンに向き合えない日々。タイピングできない悲しさ。それらを終了させたぜ。イヤァッハーー!!
 そしてそのテンションで書いたこの話。若干おかしい所がある気がするが、気にしてはいけません。
 では、本編をどうぞ。 

 

「……異能と魔術の融合だと?」


 此処で異能について話そう。

 異能とは人とは明らかに違う力・才能を指す名称の事である。

 霊視や魔女術は神に仕えていた女達が有した力であり、その血の系譜からなる。あれも異能といえば異能となるが、それは血統でありまったくの別物である。

 しかし異能は違う。唐突に現れるのだ。突然変異のようなものであり、大抵の場合他者から疎まれ、碌な人生を送らないのである。そして疎まれたから故に排斥され殺され、その異能という存在を消されていった。

 時代の流れによって今でも存在しているが、碌な人生を送っているのが大半である。


「ええ、私の異能は肉体操作_体の操作などを主とします。これだけ聞くと地味に聞こえますが実際は凄いものですよ」


 そう。確かにそれだけ聞くと地味だ。しかし実際この異能は凄まじい。自身の肉体を思い道理にするのだから。

 例を挙げるなら人間の体は100%の力を使えない。

 100%の力を出してしまうと体が耐えられなくなるので、脳が力をセーブしている。本当の危機が迫れば、たまにその力を使う。それが火事場の馬鹿力である。

 だが、この異能はその100%を出せ、その肉体に掛かる負荷を力を使いながら治せるのだ。
 しようと思えばそれ以上も理論的には可能である。 

 何が言いたいかというとこの異能は肉体に関する事なら大概できるのである。

 老いを止めたり、再生速度を高めたり、身体能力を上げたり、反射神経を上げたりと肉体関する様々な事を操作できるのだ。


「ただし、自身の肉体にしか出来ないんですがね」


「…で、何でそれが魔術と融合するという事態になり、吸血鬼モドキと言われるようになったんだ?」


「そうですね、簡潔に述べると不老不死を望んだ者達が私の“内”に向いている力を“外”に向けようとした結果ですね」


 シリウスの異能が不老不死を望む権力者共の目に付き拘束され、実験された。

 そして、内に向いている力を外に向ける為様々な実験を行ったが、どれも失敗。そして、最後に残った魔術の融合による実験をしたがある意味成功して失敗した。

 何故か?それは融合させた魔術の内容が血を吸った者を同じものにする吸血鬼を模した魔術であったからだ。

 その魔術は血を吸った者を一時的に従わせ、膂力を上げるという魔術で吸血鬼という存在を基にした魔術だ。

 その魔術と異能が融合し吸血鬼の血を吸うことで上がる膂力と人を越えた膂力。更には驚異的な再生能力を手にした。そして吸血鬼の弱点が“一つ”を除いて無くなっており、倒す事は難しくなっている。しかし、姿を霧や蝙蝠に姿を変えることなどは出来ない。人から外れたが人のままという中途半端な存在が生まれたのだ。

 そしてその考案し、魔術を作り出した魔術師は真っ先にシリウスに殺され、その研究を援助していた権力者も殺し、全ての研究データを破壊し、この世から葬り去ったのである。

 そして、三百年ほど放浪した中、この御剣の家を紹介され、執事として雇われ四百年ほど仕事をこなしていたが、諸事情により屋敷の地下にある階層で三百年眠っていたそうだ。そして、俺が神殺しになった日に眠りから起き、この家の執事として舞い戻ったそうだ。


「――とまあ、このようにして今此処に居る吸血鬼モドキである_シリウス・F・マクラーゲンが居るのです」


「凄い人生だったんだな。…………ん? なあ、シリウス。お前誰に紹介してもらったんだ。あとどうして眠ったんだ?それにアテナと一体何があった?」


「それはですね―」


「最初の問いについては僕が紹介したから。次の問いは僕とちょっとした出来事に遭って、“一度”死んだから。そして最後の問いは僕も知りたいね」


 シリウスが言葉を発する前に第三者の言葉によって途切れた。

 声のしたほうを向くそこには一人の男が立っていた。年は二十四、五歳くらいだろうか? 黒いコートに、黒い手袋をつけ、黒い帽子を被った男が空いているソファーへと腰をかけた。 


「お久しぶりですね_桜華様」


 そこに居たのは見知らぬ男性であった。


「うん、久しぶりだねシリウス。で、覚えていないかもしれないから初めましてかな。御剣家現当主_御剣蓮華君」


「覚えていない…だと?」


 こんな人間一目見ていたら忘れられない。何だこの男の呪力の量は!神や神殺しである俺以上だと!!


「あ、やっぱり覚えていなかったか。まあ、あそこは悟りを開いた人間くらいしかそこで起こったことを覚えられないからね。……仕方ない」


 そう言うと桜華は懐から一つの小瓶を取り出し、瓶の蓋を開け、こちらに瓶を向け、息を吹きかけた。

 すると瓶の中にあった液体は消えていき、瓶は空になった。

 甘い香りが鼻腔をくすぐったが、次の瞬間脳に激痛が走った。


「……グッ!……何を…した……ッ!」


「なに、欠けている記憶を戻す為の霊薬を使っただけさ。暫らく痛いかもしれないが我慢してくれ」


 蓮華はその言葉を聞く余裕も無いほどに頭痛は酷くなっていった。

 灰色の空間、スレンダーな体つきをしながらも『女』としての魅惑さを感じさせる少女。そこで唐突に金縛りのように動けなくなり、その少女と話ていった男性の者と思われる声。そして、意識を肉体に戻させられた。

 忘れていた記憶を思い出させるように脳を混ぜられたような感覚は最悪であった。


「…はあ……はあ……くっ…! 思い…出した…さ。…この野郎……!」


 頭の痛みのせいで足元でフラフラになっていた。

 それでも、この頭痛の元凶を睨みつけた。


「そう怖い顔をしないでくれ。記憶を戻させ、話を進めるにはこっちの方が早かったからね」


 そのお蔭でこっちは頭の中をかき混ぜられる様な痛いみを味わい最悪な目に遭ったぞ!


「―――じゃあ、僕が誰か分かるかな?」


「……御剣家初代当主_御剣桜華…」


「うん、思い出せたようで何よりだね。いやー、忘れっぱなしだと自分が誰かを説明しないといけないから面倒なんだよね」


 やれやれだぜ。と言いながらこちらを見て、シリウスに視線を戻した。


「でさ、実際何をしたのかな、シリウス?」


 それは俺も気になるので睨むのをやめて席に着き、シリウスの方に視線を向ける。


「まあ、何と言いますか。少しばかり事実を言っただけなんですよ」


「……いや、それだけであそこまで怒るものか?」


「ええ。落魄した女神の来歴を語っただけですからね」


「………そう言う事か」


 少しばかり怒気を込めて蓮華は言った。ギリシャ神話を一通り教わり、八割ほど理解している蓮華はアテナの来歴も知っている。それが彼女にとっての最悪の出来事と知っているから口には出さないが。


「そう怒らないで下さい。流石の私でも“御剣千年の集大成である”『王』の怒りを真正面から受けてられるほど肝が据わっていないので」


 シリウスは肩をすくめながらそう言った。


「ただただ、試しただけですよ。御剣の家を見守り、『王』である蓮華様の育てた女神がどれ程のものであったのかを。そして蓮華様をね」


「――で、結果はどうだい、シリウス?」


 紅茶を飲みながら、桜華は元従者に問う。


「それはもう、大変満足ですよ桜華様。『王』としてはまだまだ未熟ですが、先を考えれば仕えるに足る主です。それに幾分も力を落とされているとは言え、流石は最強の女神と言ったところですね」


 どうやら話が全然見えないが、全ては試されていたようだ。この二人――特にシリウスに。


「で、気になったんだけど実際何をどうしたら庭がああなる訳?」


「ああ、そうですね。話しますか。あれは―――」


 そう言いシリウスは蓮華がカンピオーネになった日に何が起こったのかを語りだした。



◇ ◇ ◇ ◇


「智慧の女神である貴女からして見れば私は人に見えない者。しかしながらその在り方は人のそれ。御剣家専属執事_シリウス・F(フォルベルツ)・マクラーゲンと申します。以後お見知りおきを__落魄せし女神様」


「……貴様、妾の来歴を知っているのか?」


 怒気を込めながらアテナは問いを投げかける。


「無論、知っております。神々の頂点として君臨しておきながら、力を持つ男たちに謀反を起こされその地位を剥奪され、さらにはゼウスの娘と貶められた女神d」


 言葉は最後まで言われる前に終わった。

 アテナがその首を鎌で刎ねたからだ。

 シリウスの首は地に転がり、首を失った胴体は血を噴き出し、その部屋を赤に染めた。


「……妾の来歴を語るでない」


 忌々しい出来事を思い出させられ機嫌が急降下して行ったアテナ。

 その来歴を語っていた男の首を刎ね、戻ろうと踵を返し、階段を上がろうとするが


「……痛いですね」


 首を刎ねた筈の男の声が聞こえ、アテナの足は止まり、振り返った。

 そこには首を胴体に戻しているシリウスの姿が在った。 


「首を切り落とされるのは何年振りでしたっけ?まあ、随分昔の事だと記憶しているんですがね」


 年には敵いませんね。とシリウスはそう言いながら肩をすくめた。


「……貴様は一体“何”だ」


 警戒心を上げながらアテナは問う。目の前にいる男は危険だと智慧の女神としてのそれが囁いていた。


「智慧の女神であるあなたでも、初見では分かりませんか。なら――」


 足元が光だし、部屋を照らし出す。


「教えて差し上げますよ」


 そして、その部屋から二人は消えたのであった。 
 

 
後書き
 アテナとシリウスの戦い。何故か書いている内にこうなってしまった。恐ろしいな、若さゆえの過ちと言うのは。
 因みにやる事が多すぎて、執筆できるか結構微妙ですが、頑張って更新していきます。 

 

化物の力の一端、初代の感謝と謝罪

 
前書き
 あ~~。どうも、ビヨンです。
 今回も色々とぐだぐだな気がする話ですがどうぞ。 

 
 光が視界を覆い、目を開けてみればそこは見覚えのある場所であった。

 御剣邸の広大な庭であったのだ。


「……ほう。貴様、転移魔術を使ったのか」


 難易度が高い転移魔術をいとも容易く行ったことにアテナは少しばかり驚いていた。

 高難度の魔術を容易く使えるものは過去にも先にも魔神クラス。またはそれに一歩手前の力を持つ者達くらいだ。

 だからこそアテナは警戒心を高める。とある魔神は呪力耐性が高い神に対し魔術で拘束し、悠々と去
ったと聞いたからだ。


「ええ。流石に屋敷の中で戦うとなると地脈制御の役割をしている屋敷を壊すと後々問題がありますし。あなたも困りますよね」


 その高難度の魔術を使ったシリウスは疲れた様子も無く、ただ目の前の神を見据えていた。


「……さて、お喋りは此処までにしますかねっ!」


 シリウスは袖から隠し持っていたナイフとフォークを指の間に挟み、計六本の得物をそれなりの力で投擲する。 

 音速に至った速度で向かってくるナイフとフォークをアテナは鎌で弾こうとする。しかし、


「……!!?」


 鎌がナイフに触れた瞬間、鉄の塊が激突したような衝撃が襲い、鎌の軌道が大きく逸れ、姿勢が崩れる。

 そして


「……グッ!」


 その崩れた姿勢に、五本の武器が当たり、アテナの体が吹き飛び、木を倒し、十本近く木を倒した所で木に受け止められ、その衝撃で肺から酸素が搾り出された。

 
「………ッ!」


 そして、四本の武器がアテナの四肢を貫き、固定する。


「―――まさか、この程度で倒されるほど柔ではありませんよね___女神様?」


 シリウスは既に次の投擲準備を終えており、構えており、油断無く佇んでいた。


「……やはり、人ではないな」


「先も言いましたように私は化物にされた元人間ですよ。もっとも馬鹿な老害が私の異能と魔術を混ぜ生まれてんですがね。だからその化物の弱点あまり無くて、その化物固有の能力も少なく、特性が三つしかない。しかし人から外れた膂力を手にした。そして、その膂力の数値は人間が出せる100%の力がこの肉体では10%程度となり、それ以上は―――もう体験しましたよね」


「……なるほど。そして、先の投擲はその力と技術を融合させたものか」


「流石は智慧の女神。一目見て分かりましたか。恐ろしいですね。まあ、その慧眼に応じて、私の化物の特性を教えましょう」


 人差し指を立てながらシリウスは言った。


「吸血する事で上がる膂力ですよ」


 その言葉を聞きアテナは驚愕で目を見開いた。それは誰もが憧れた一つの夢。血を吸うことで力を上げ、若さを保つ不死の化物。


「―――そう言うことか。まさか、そんな研究をし、それを行った者がいたとはな__吸血鬼」


「尤もモドキですがね」


「そのモドキが妾を磔にしている時点で十分化物だろうに」


 磔にされながらもこの状況から脱する手段を考えているアテナ。

 幸いにも魔術を込められたものではなく、単純に磔ているだけであったため、簡単に拘束が解けた。
 そして、死神を連想させる鎌を躊躇無く振るった。目の前に居るのは逸脱者の一人。手加減するのは自殺行為であった。


「魔術的意味合いが無いので直ぐに抜け出せますよ。まあ、もう抜け出したあなたには関係ないですがねっ!」


 ナイフとフォークを袖に収納し、転移魔術の応用で武器庫から一本の武器を取り出す。

 それは一振りのメイスであった。ただ、叩き、粉砕する為だけの唯の頑丈な得物。

 それがアテナの鎌を受け止めたのであった。


「……流石、闘神というところですかね。今の私では少しばかり辛いものですね」


「そう言いながら耐え切っている貴様は何だ、吸血鬼?」


 互いの得物が触れている部分は互いの膂力により、赤く熱されていた。

 片や千年近くの時を生き、力で耐え切っている吸血鬼モドキ。

 片や御剣の家の守護についている、落魄した不完全な女神。

 力と力の競り合いで、互いの得物の接触部分が赤くなり、熱を持ってきた。 

 そして、その膠着状態は長くは続かず、ただ頑丈なだけのメイスの熱を持っているところにアテナの鎌が触れ、メイスを切り落としたのだ。


「チッ!」


 迫り来る黒い鎌にシリウスに、シリウスは舌打ちを。アテナは死が濃密なソレを乗せた鎌で切り裂こうとする。

 速度は速い。接近していた為鎌の間合いから逃れるのは困難を極め、失敗すればこの身は二つに別れる。しかも心臓を切り裂くのだ。それは“非常にマズイ”。


「ならばッ!」


 無傷で避けられないと考えたシリウスは鎌の柄部分に手を沿え、軌道を僅かにズラした。

 その結果、心臓を切り裂く筈だった鎌は、左腕を切り裂き、シリウスの左腕は宙に舞、灰と化す。

 シリウスは僅かに顔を顰めながらもバックステップを行い、アテナと距離を取る。


「―――流石の貴様も心の臓は不味かったと見えるな」


「ええ。アレだけ濃密な死を乗せた鎌で心臓を切られたら確実に死ねますからね」


 シリウスの弱点。それは心臓である。吸血鬼の弱点、杭やにんにく。太陽の光、そして心臓。シリウスは心臓以外は弱点として存在していないが心臓だけはどうしようもなかった。そこを潰されれば自分は確実に死ぬと経験していたからだ。そうすると“特定”の条件を満たさなければ復活が出来ないのである。

 因みに心臓さえ潰されなければ、頭が破壊されようが、腕が宙を舞おうが、吸血鬼の特性の一つである驚異的な再生力で元に戻る。

 だが、切られたシリウスの左腕は現在、再生できていない。

 何故か? それは濃密な死で切られたからである。

 魔剣による切り傷だと傷の治りが遅い。それと同じ理由でシリウスの腕は再生していなかったのである。


「それが貴様の最大の弱点か」


「まあ、そうですね。私が尤も気をつけないといけない所ですよ。本当に」


 他にも弱点があるのだが、心臓と言う弱点と比べると致命的なものではない。まあ、魔術に関する事と、耐久面に関することが主にだが。


「他の弱点も、大体目星がついた」


「……何ですかね?」


 そう思っている中、弱点を発見したと言ったアテナの発言に、僅かだが心拍数が上がったのを感じた。


「貴様、転移系統の魔術しか使えない特化型の魔術師だ。それに吸血鬼の特性である再生能力のため、耐久力が無いな」


 表情には出さないが、シリウスは内心では舌を巻いていた。

 たったアレだけの攻防と少しの情報でそれだけの答えを導き出す智慧。流石は智慧の女神だと思い知らされた瞬間であった。

 シリウスは他の魔術も一応は使えるが、適正があまりにも無い為、転移魔術ともう一つの魔術しか使えない特化型の魔術師だ。特化型過ぎて魔神と同格に扱われた時期もあったが。

 そして、耐久力の無さ。驚異的な再生力は耐久力を犠牲にして成り立っていると考えている。まあ、確かに肉体操作が異能であるシリウスにはその弱点は克服できが、ソレをすると再生速度が遅くなるのだ。それも致命的に。一瞬で治る怪我が、下手をすれば一ヶ月も掛かるというのである。

 他の吸血鬼がいたら聞いてみたいものだ。尤も居たらいたで、面倒なので、いない方が良いのだが。


(恐ろしいものですね。慧眼は高く智慧の女神としての格があり、武も秀で、冥府の神としての力も持つ。泉華様は完全な状態であるアテナと戦い一度殺して、約定を結ばせた。全盛期の私なら倒せたんでしょうが、それを人の身で行いますか。―――というより錆びつきすぎていますね、この体)


 完全状態のアテナに挑み、一度殺した泉華の力量にも驚いていた。腕の立つ魔術師だったのが、神々の領域に踏み込み、人から外れた魔神や化物にされた元人間の自分とは違い、性能は歴代女当主の中でも最強最高だったとしてもよく殺せたものだと驚いていた。

 あれもまた桜華様と同じ人から外れた逸脱者の一人なんですかね、と些か外れた考えをしていた。


「……これは、勝てそうにありませんね」


 小さな声でシリウスは呟いた。

 “現時点”のシリウスだと勝てる図がまったく浮かばないのだ。全盛期のシリウスなら話は別なのだが、百年単位の眠りは腕を錆び付かせるのには十分すぎた。そのため今のシリウスでは全盛期の三分の一もあればいい方だろう。それ以下だと最悪なのだが。

 今のアテナ様を現時点で倒せる可能性が居る者は神殺し、まつろわぬ神、御剣に於ける逸脱者の桜華様に現当主の者達くらいですかね。

 錆びつきすぎている私では話にならないですし、他の神殺しやまつろわぬ神に頼るのは論外。というか知り合いなんていませんし。桜華様はこの国にいる最強の《鋼》が目覚める可能性を潰している最中なので無理。そして現当主は聞いたところによると海外に居るので不可能。

 幾らかの錆び落しとしてはちょうど良いかもしれませんね、と思う。しかし、


「……どうやって収めますかね?」


 試す為と言え喧嘩を吹っかけたのはこちらだ。今更、死にそうなので止めましょう何て言えない。そんな事をするくらいなら端から試すなんてことはしない。


「………まあ、何とかしますかねっ!」


 そう言い、守護神であるアテナと怪物であるシリウスの戦いは一日近く続き、何とか思考を巡らしたシリウスの苦労を以って引き分けという形で終わったのであった。



◇ ◇ ◇ ◇



「―――とまあ、一日近く続いた戦いは何とか収めました」


 いやー、苦労しましたね。と言っているが蓮華は『アホか』と思うのは当然だと思う。



 庭の惨状を目にしながら一体何をしたらこんな事になるのやらと思うのは極々自然な思考だと思う。神との戦いでもアレほどの惨状になるのかと、先輩方に質問してみたいと思ったのは仕方ないと思う。


「まあ、過ぎた事は置いておくとして、桜華様。そろそろ話さなければならないのでは?」


「おっと、そうだね。時間は有限だからね」


「?」


 何を言っているのかは分からないが、桜華の纏っている雰囲気が変わった。


「さて、神殺し御剣蓮華。君が神殺しに成ってくれて、まずは感謝と謝罪を述べよう。―――ありがとう。そして、僕の願いを押し付けて_君に全てを押し付ける僕を許してくれ」


 腰を折り曲げ感謝と謝罪を述べる桜華。先のようなふざけていたそれではなく、真剣さがあった。


「………ありがとうって言うのは言わなくても良いよ。俺が神を殺してそうなった結果だ。けど、謝罪はどういう事?」


「……それについての説明は少しばかり長くなるけど良いかな?」


「問題ない。けど、俺の質問を答えてくれるか?」


「いいよ。恐らく君の知りたい事は今から話す事で分かると思うから」


 そう言い、桜華は言葉を紡いだ。


「この家はね、とある結末を回避するためにあるんだよ」


「その結末って?」


「この国に眠る最強の《鋼》のによる終わりさ」


 その言葉には長く生きてきた桜華の全てが詰まったような思いを込めた言葉であった。

 
 

 
後書き
 書いているうちに、執事のシリウスの強さがとんでもないことになっていた。年の功は伊達じゃないのだよ。
 そして、最近別の作品を考えている今日この頃。そのため少ない執筆時間が更に少なくなっています。あ~、時間が欲しいな。
 そのため更新がかなり不定期になりまが、今後ともこの作品をよろしくお願いします。 

 

何の為の御剣か?

 
前書き
 お久しぶりです、ビヨンです。
 今回も、かなりグダグダな出来に成っている為おかしな所が多数在るんだろうなと思っています。まあ、それはいつもの事なので気にせずにいきましょう。では、どうぞ! 

 
「…最強の《鋼》」


 蓮華はその言葉を噛み締めるように呟いた。それは最大にして最強の仇敵の名を本能的に感じての事であった。


「そう。世界の終末に現れ、魔王を――君ら神殺しを殺す最後にして最強の《鋼》だ」


「その《鋼》は極一部の《鋼》が持つ魔王殲滅の権能を所持している《鋼》です」


 分かり易く言えば、とシリウスが付け足すように言う。


「神殺しと対峙する事でステータスがパワーアップする権能ですね」


「………何その物騒な権能」


 その内容を理解するのに少しの時間が掛かったのは仕方の無い事だと思う。何せ、自分は世界に知られていないとは言え魔王の一人であるのだから。その魔王と対峙するとステータスが上がると言う悪い冗談以外の何物でもなかった。


「で、その権能で幾人もの魔王を討ち取ってきたんだよ。その《鋼》はね」


 まるでその時を視て来たかのような言い方に疑問が生まれた。


「……何で知っているんだ?」


「うん、そうだね。この話は御剣の始まりに繋がるからちゃんと聞くように」


 ゴホンと咳払いをしながら桜華は蓮華の瞳を見ながら話し始めた。


「僕の異能については知っているかな?」


「……未来視…」


 桜華の異名は先読みの魔神。先――つまりは未来を読み、そこから捩って繋げたのが先読みの魔神という異名だ。


「正解。人が持つには強大すぎる異能。未来視。その力は本来なら数秒程度なんだ」


 数秒でも十分凄い。相手の行動が数秒分かるだけで自分の動きが変わるし、避ける事だって容易だ。

 
「――けど、それが数秒から千年程先の未来が視えたとしたらどうかな?」


「…………は? いや、ちょっと待て。待ってくれ!」


 蓮華は驚き声を上げた。

 年単位、それも千年先だ? そんなの本当に神の領域じゃないか!!


「とは言っても“その時”は数秒程度でね。ある光景を視ただけさ」


 それが、と言い一拍置く桜華。


「――魔王を打ち倒している最強の《鋼》の姿とそれで崩れ去った文明そのものをね」


「………千年先。言い換えると今の時代か…」


 最悪だな。今の俺の実力だと幾人の魔王を倒した《鋼》には勝てそうに無い。というか確実に勝てない。目覚めたら即アウトだ。


「ああ。とは言っても千年というのはある程度確定しているのだが、正確な時期は定かではないんだよ」


「未来は酷く、不安定。だから分かりきれていないという事か…」


 ため息を吐きながら蓮華は呟いていた。


「そうだよ。そして、僕はその未来を視て、絶望したんだよ。『未来はこんなにも酷いのか』とね。そして、そこから異能を鍛え始めたんだよ。様々な可能性を視る為にね」


 魔術を極め終えており、そこから異能を極め始め、僅か一年で極めた。年単位から秒単位の未来、その全てを視れるようになった。

 そして様々な未来を視た。しかし無限に等しい数在る未来を視ていき、絶望していった。その全てが過程は違えど結果が同じになるという最悪な未来――全てが終わった未来であった。

 それでも何か一つの可能性が在るんじゃないか? けど、その全ては結局終わりだ。という二つの思いが存在した桜華は最後の一回として未来を視る事にした。


「一時は自分が王になろうかと思ったけど、僕は生粋の魔術師だ。近接戦なんか出来なかったからね。止めたんだよ」


 そして最後の一回で見つけたのだ。無限に近い有限の未来から見つけた可能性を。刀を振るい、戦っている存在を。その名を。

 そこから桜華の行動は早かった。その者が自分の子孫である事を知った桜華は様々な事をした。その過程で何故かしら美人である三人にいつの間にか包囲網を敷かれており、娶ることになっていたのだがそれは良いだろう。いや、良くないけど。まあ、桜華の人生の中では幸せ絶頂と同時に罪悪感が存在したのだが。

 生まれた子供を鍛え、育て、戦いの中に置き、成長を促進させ、次へと繋がせていく。そして、その繰り返し。武芸の出来る者や異能者の血を取り込んでいき、純化させていった。そして、その間に《鋼》が起きるような事態を避けるために可能性を潰しまわり、神を封じてきたりもした。

 その繰り返しの過程で極稀に人という枠組みから外れた存在も生まれた。その内の一人である泉華がアテナを地に着けたときは驚いたものだ。そこから約定を結ばせて、そこから先は繰り返し。そしてその中からベクトルは違えど枠から外れた存在が人相手に飽きて神相手に賭け事を吹っ掛けた時は焦ったものだ。まあ、それは置いておくとして、数多の実力者達の血筋と神格化した者の血を取り込んでいき、生まれたのが――


「御剣家現当主_御剣蓮華。君だよ」


 人にとって長い千年の年月を掛けて生まれ、逸脱者である者を超え、御剣の全てを得た原石。戦いの神であるアテナが育て上げた結果。それが御剣千年の集大成である《御剣蓮華》である。

 ただ、その最強の《鋼》に対する対抗策として。


「……成程。だから謝った訳か」


 それは最早、人の在り方でなく兵器としての在り方。人生の強要と言ってもいい。その未来(さき)にいた人物に全てを押し付ける。それはその人物の可能性を潰すような事である。


「ああ。これは僕が始めたエゴ。人という存在の終わりを防ぎたくて、自分の子孫である蓮華君を捧げたんだよ」


「…………さいですか」


 何だかアレだな。壮大な話で今更「あなたは兵器ですよ」と言われても「そうなんだ」程度にしか思わない。何故かって?異能者は人とは違う力を持っている時点で人という存在じゃない。それを早くに認識したからな。

 さて、聞いていると気になるところがあるな。


「この事を知っていた人は?」


 此処が結構重要だよね。どれだけの割合が知っていたのかなんて。まあ、興味本位なんだけど。


「全てを知りえていたのは僕とシリウス、そして泉華君に、月華君。あとはアテナだよ。で、他の当主も薄々だけど気づいていたかな?」


 大半が知っていたという事か。けど完全じゃない。しかも先に挙げられた泉華と月華は御剣で長生きした数少ない当主だな。


「………ん? 月華さんは何で分かったんだ?」


 此処でふと蓮華は疑問に思った。

 聞いた話によるとあの人は運がもの凄く良く、異能は自身の制御だけであって、未来視や過去視なんて異能は持っていなかった筈だが?


「彼ね、凄く頭が良かったんだ。過去の歴史とアテナからの少しの言葉で分かったようでね。相手の表情と配られた札で手を読んだりとかが出来た子だったからね」


 流石はアテナに『千年に一度の奇跡』と言わしめた男。単独でそこまで理解できるもんなんだな。


「泉華さんは何処まで視ていた?」


 暫らく沈黙した後に桜華は言った。


「……恐らく僕と同じ未来か、違う未来か。そのどっちかだと思う。それについてはアテナの方が詳しいと思うよ。よく一緒に過ごしていた仲だったからね」


 外から見ていた僕には分からなかったからね、と言う。


「……御剣の早死にの理由は?」


 これが結構気になる所である。皆、早く死にすぎて当主がどんどん変わっていって、百代目なんていう数字に辿り着いてしまったのだから。


「……それについては性だよ。御剣はね『戦う』という事を性としているからね。それでだよ」


「……そう」


 まあ、よく分からん組織と戦って死んだり、色々と馬鹿やって死んでいるようだからそう言う性なんだろうね。御剣と言う家は。


「最終的には君が決める事だ。だから今此処で決めてくれ」


「………てっきり、強要するかと思ったけど」


 千年も掛けているから何が何でも承諾させるかと思っていたけど、ちょっとした驚きである。


「強要しても最悪な結果を招くだけだからね。そういうのは自分で決めてもらう必要があるんだよ」


「確かに。それは賛成だな」


 だって、それで馬鹿やっている奴を前世で見てきたし。嫌々で作業していた奴なんかそれで大失敗をしていたからな。

 それだけ言うと静寂が部屋に満ちた。

 蓮華はその静寂の中どうするかを考えていた。

 この目の前にいる桜華という人間はその悲劇を回避したいがために全てを捧げた。

 視て、知って、どうにかしたいと願った。しかし自分では力が足りないと思った。たとえ神殺しに成ったとしても、自分は死ぬ。なら、自分を超える逸材に全てを託そうと思った。その未来を必死に探した。そして見つけた。それが俺_御剣蓮華だ。

 その為の時間、その為の御剣。何時か来る破滅に対する俺か。

 ………はぁ。千年という時間を掛けているし、アテナも知ってて遣っていたし。ここで、受けないという選択は無いな。それに楽しそうだしな。

 こういう思考をしている時点で御剣に染まっており、更には神殺しの性質まで加わっており、化学反応が起きていることを彼は後に知るのだが、それは先の話である。


「―――どっちにしろ戦う事になるんだろうから良いか」


 何時か戦うことは決まっている様なものだし、なら乗ったほうが面白そうだ。

 
「良いのかい?」


 桜華は確認の意を込めて聞いてくる。


「良いさ」


「――……死ぬかもしてないんだよ。最強の《鋼》と戦っても死ぬかもしれないし、その前に死ぬかもしれ
ない。それでもかい?」


 それは最後の確認。これで決まるのは蓮華の人生である。

 神殺しは天寿を全う出来て死んだ者は稀であり、中々居ないと義母さんに聞いた。戦いに明け暮れて
いればそうなるだろうね。俺もそうなる道を通るんだろうし。というか、乗った時点で天寿を全うできるかかなり怪しい。

 まあ、刺激には困らない人生に成るから生きることには飽きなくて楽しいだろう。


「確かにそうだ。けど、俺が『王』になった時点で、何時かその《鋼》と戦うのは目に見えている。なら、家の―――あんたの願いをついでに叶えるさ」


「……他の神と戦って死ぬかも知れないのに?」


「ああ、それもあるね。けど俺は後六年は確実に生きるさ。―――アテナと戦うって約束したから」


 自分の全てを見せてもいないのに、アテナと戦う前に死ねない。

 だから、現時点で打てる手は全て打って置く。自分に足りないものを、組み込んでいくように。自分の全ての才を高めるように。


「―――でさ、桜華とシリウスの異能と魔術と技術の全てを教えてくんね。その全てを自分のものにするからさ」


 長い時を生きている【魔神】と呼ばれ畏れられた魔術師と元人間の化物。この二人の培って来たものは、此処にいる『王』を更に成長させる。


「……それが君の選んだ選択なのなら教えるよ」


「私も教えましょう」


「……ありがとね。じゃあ、俺はアテナに用があるから」


 そう言い蓮華は去っていたのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 蓮華が去っていったのを見送ると桜華が呟いた。


「………何だか、悪い事をした気がするな」


「あなたがそう言っては、当主の意志を無碍にする事ですよ。桜華様」


「それもそうだね」


 桜華は苦笑しながらそう言ったのであった。

 その表情を暫らく見ていたシリウスはある疑問を口にする。


「―――ところで。何処でそれ程の呪力を手にしてきたんですか?」


 自分が眠りに着く前、元主人の力は【魔神】と言われながらも人であった。神に近い呪力を持っていてもまだ人であったのだ。それが今では神と神殺しを超えて全盛期を上回ったのである。


「―――少しばかり、カンピオーネの一人『黒王子(ブラック・プリンス)』と呼ばれるアレクサンドル・ガスコインと協力して、『聖杯』の持ち主を追っていてね。呪力は『聖杯』から失敬した」


 『聖杯』_それは膨大な呪力を秘めており、その総量はかなりの物で、こぼれる量だけでカンピオーネ数十人分の呪力を有しているのである。


「少しの隙を作って、『聖杯』の中に入って、少し幾つかの細工と呪力を貰ったんだよ」


 本来なら所有者にしかそんな事は出来ない。しかし、それが出来るからこそ桜華は【魔神】と呼ばれ、畏れられ、崇められ、祀られたのだ。魔の神として。


「……『聖杯』の持ち主_《神祖》にして、『魔女王』グィネヴィアですか」


「……そしてその傍にいた最源流の《鋼》も居たよ」


「…最悪ですね」


 昔に色々とあったシリウスは顔を顰めていた。如何せんアレは面倒な《鋼》なのだ。最強の《鋼》と共に戦場を歩いていたあの英雄は。


「―――そちらは私のほうで対処すれば何とかしますか」


「ああ、お願いね。今頼めるのは君しかいないからね」


「鈍っていますがね」


「それでも頼むよ、殺神鬼(カラミティ・モンスター)」


「随分と懐かしい異名を出しますね」


 言われた本人は苦笑しながら表情を曇らせていった。それは過去の罪だ。歴史上一人で殺してきた数はシリウスが一番なのだから。


「さて、あの二人の約束は六年後。その前に色々と教えておかないといけないからね。………僕の方は持って一年かな?」


 この後、二人はワインを片手に色々とつまみ飲食していくのであった。

 
 

 
後書き
 さて、言い訳をさせて頂くなら色々と在ります。リアルが忙しかったり、書いた話を消しては書きを繰り返したり、別な小説に手を出していたりと様々です。で、書いている内に何だか迷走していき「もうこれでいいんじゃね?」となりました。
 では、言い訳を終了して次の話を書いていきましょう。まあ、忙しいので遅くなるし駄文な文が更に駄文に成りそうですが、今後ともよろしくお願いします。 

 

話と授業

 
前書き
 お久しぶりです。まあ、長い話はあとがきに書くので置いといて、書いては消し書いては消しを繰り返した駄文です。それではどうぞ。 

 
 桜華の話を聞き終えてから蓮華は家に居る時と何ら変わりない行動をしていた。

 手馴れた手つきで材料を切っていき、フライパンに入れ炒めていく。そして盛り付けてゆく。

 
「こんなもんか」


 牛フィレ肉を焼き、塩を添えたものと、根菜とトマトソースのパスタである。そして、四種のチーズのピザと、デザートのケーキと様々な料理が出来ていた。

 出来上がった料理を見ながらある事を思い出す。


「―――原初異能かー」


 蓮華がまつろわぬ神と激動の四日間戦いで遇った神が蓮華に言った謎の言葉。

 異能には様々な系統がある。シリウスの持つ肉体系に、桜華の持つ魔眼系。知り合いの自然支配系に、呪現化系と他にも様々な系統がある。そんな中でも原初異能というのは考えた事があったが一度も耳に入れたことは無かった。

 
「ま、アテナに聞いてみるのが一番か」


 蓮華はアテナの居る部屋へと向かったのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 ホテルの一室。そこの窓際に座って物思いに耽っている人物がいた。

 考えている事は一つ。友人の子について、《投函》の魔術で送られてきた手紙の内容であった。


「……蓮華が神殺しに成った…ね」


 何時か成るのだろうと分かっていたので驚きはあまり無い。ただ、有るとすれば十二歳で成ったか位だ。


「久々に顔でも出そうかな?」


 それにと呟き、ベッドの方を見る。微かに動いている影は寝息を立てていた。

 それを見て丁度いいかと思い、その人物は仕度をするのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 本来まつろわぬ神にとって人の食事とは嗜好品である。彼らは食べなくても生きていける。

 ただ、家の守護神(アテナ)の場合は三百年程、御剣と過ごしている為、食事を取る変わった神だと言えるだろう。


「何時食べても思うが、本当に良い腕前だな」


「それはどうも。土産物のワインもあるから三階の談話室で飲もう」


 今は月が出ていて、月見酒には丁度いい。


「洒落ているな」


「一人酒は詰まらんと言って、十歳の子供に酒を教えた女神の台詞ではないと思うな」


 日本酒、神酒、ワインと酒に合う摘みを作らせたり、晩酌につき合わされたりと色々と教えられたのだ。


「仕方あるまい。飲める者が蓮華しか居なかったのだから」


「カズキさんや鏡夜さんも時々来るでしょ」


 片や後見人。片や叔父にあたる二人だ。まあ、家に来るのは誕生日や新年の挨拶。行事関係と仕事が忙しくて中々来ないのだが。


「あの二人は酒を嗜む程度にしか飲まんからな。付き合いきれずに酔い潰れる」


「さいでしたね」


 そうこう話している内に談話室に着き、コルクを抜き、ワインをグラスに注いでいく。

 二人はグラスを持ち上げ、ゆっくりと口に含み、味わう。


「当たりを引いてきたか」


「まあね。これ、神様と戦っている中で助けた人が居て、その人がワインの収集家だから、助けたお礼に一本貰ったんだよね」


 摘みであるカマンベールチーズの天ぷらを摘む。揚げたチーズは外はカリッとしていて中はトロトロに溶けて、美味いね。


「さて、聞きたいことがあるんだけど」


「何だ?」


 ワインと摘みを飲み食いしているアテナは満足そうに聞いてきた。


「原初異能って何?」


「―――文字通りの始まりの異能でな。この星が始まった時から存在する世界最初にして最古の異能だ」


 ワインを一口飲み喉を潤したアテナは語っていく。


「この世に存在している全ての異能は、原初異能から枝分かれした物だ」


 その事を知るのは今では神々と極一部の人のみとなった正体不明な異能。

 遥か昔から存在する異能のルーツ。

 
「十全に扱い切れれば権能と同等以上の力を発揮する規格外の異能だ。―――ただし、異能に呑まれなければの話だが」


「呑まれる?」


「言葉通りの意味だ。何せこの星が生まれた時から存在する異能だぞ。人に扱いきれるわけが無いだろ
う」


 ま、普通に考えれば無理だな。許容量を超えて破裂しそうだし。


「使えるとしたら逸脱者のような人の枠をはみ出している奴等くらいだ」


「……逸脱者ね」


 人の枠組みからはみ出た者『逸脱者』。極々稀に人という枠組みからはみ出て、何かが神々の領域に至ったぶっ飛んだ存在。

 桜華の魔術と異能然り、シリウスの身体能力然り、泉華さん然り、月華さん然り。

 彼らは神や神殺しと勝負が成立する希少すぎる存在だ。


「ま、聞きたいことは聞けたからもう少し付き合って寝るとするよ」


 肉体は神殺しとは言え十二の子供。連戦による肉体的疲労と、桜華の話しで精神的に疲れ、酒でその溜まっていた疲れが噴出していた。


「ああ、寝ていろ。聞きたい事が出来れば明日以降に聞けば良い」


「もう一杯飲んでからだけどね」


 その後、ワインを飲み干した蓮華は明日に備えて眠りについたのであった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ 


 一人残ったアテナはワインを飲みながら月を見上げていた。


『この先の未来の私の子孫となる神殺しは、私達御剣の全てを超える最後にして最強の存在。けど、それは原石なのよ。だから、戦いの神であるあなたに育ててもらいたいのよ』


 人として変り過ぎている逸脱者はそう言った。


『妾に神殺しになる存在を育てろと?』


『ええ。あなたほどの女神なら原石次第で神殺しにすることは出来ると思うのよ』


『断る。何故妾が仇敵である神殺しとなる存在を育てなければならない』


『良いじゃないの。それにこれはお願いよ。彼の場合だと並大抵の実力者では育てる事はできないし。
それに“鋼殺しの魔王”とか面白いと思うわよ』


『……予定なのだろう』


『ええ、そうね。決して変わることの無い未来。“彼が生まれるという未来は、既に選ばれている。”―――でも神殺しに成るか成らないかは、その後どうなるのかは彼次第。まあ、そこから先は弄られていない自由な未来なのよね』


『なんだ、羨ましいのか』


『さあ、どうかしらね』


 泉華は人を魅了するように笑いながらそう言った。

 そんな会話が彼是三百年程前の話だ。


「全くもってこの三百年程で随分と甘くなったものだな」


「―――甘くなったと言うよりかは、人間味が付いて来ているんじゃないのかと僕は思うけど」


 音も無く、気配も無く、桜華は唐突に現れた。


「何用だ、魔神」


「いや何、少し聞きたいことが在るんだよ」


「奇遇だな。妾も聞きたいことが在るのでな、丁度良いだろう」


「それは良かった。では、飲みながらという事で」


 こうしてワインを手土産とした大人同士の二次会が始まったのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 次の日の朝。

 蓮華と桜華は結界によって隔離された世界に居た。


「ではこれより、第一回勉強会(戦闘実習)を始めます。質問のある方は手を上げて下さい」


 と言っても蓮華しか居ないのだが。


「桜華さん。何でこんな事になっているんですか」


 朝、朝食を食べたら庭に来いと言われて出てきてみれば、こんな事になっている。疑問に思わない奴が居るのならそれはそれで凄いと思う。


「そこは先生と呼ぶように」


 ズビッシ!と擬音が聞こえてきそうな位に指を指す。ノリがいいな。


「まあ、強いて言うなら口で言うより、神殺しなんだから実戦で教えたほうが手っ取り早いのでという訳だ」


「……そっちの方が確かに早いからいいけど」


 あの四日間で経験済みである。


「実際のところ僕の魔術は色々と混ぜすぎた結果オリジナルのモノに成ったから教え難いというのも在るんだよね。だから技術は観て盗み取れ」


 瞳の色が赤く染まっていく。それと同時に蓮華の身に適度な緊張感が張っていく。


「実戦形式の何でも在り。制限時間は三十分。一日一回。勝敗の判定は、まあ自分で付けるといいさ」


 その言葉と同時に蓮華は地を蹴り、一瞬で距離を詰め、勢いよく腕を突き出す。素手では在るものの、神にダメージを与える事ができる拳は、人相手には十分な武器になりえるレベルだ。しかし桜華は、それを完全に避ける。

 蓮華はそこから蹴り、拳、手刀と繋げていくが、その全てが避けられる。


「―――なるほど。その年で中々の体術だ。けど」


 桜華は、放たれている拳打に優しく撫でるように触れ、拳を逸らし、手首を掴み、力の向きにしたがって空中に放り投げた。

 
「まだ甘い」


 その動作は、あまりにも自然で、無駄が無く、次へと容易に動作を繋げるものであった。


「地帝乱槌」


 蓮華の真上に石柱が形成され、重力に従い落ちてくる。


「やば!」


 投げられて空中にいた蓮華は落下してくる石柱を虚空瞬動で宙を走り、避ける。

 そのまま落ちた石柱は地面を陥没させ、粉塵が舞う。

 
「地帝乱杭」


 同時に桜華が一言呟き、複数の杭が形成され、発射される。

 発射された杭が蓮華の頬掠めた瞬間、蓮華は杭の群れに対し、無造作に手を振るい、それらを薙ぎ払った。


「普通の格闘に持ち込んでも意味が無いから、やり方を変えるか」


 蓮華の右拳に見えない力の渦が巻き起こり、蓮華はそれを距離が離れているにも拘らず殴りつけた。

 放たれたそれは拳打のように桜華に向かっていった。

 桜華は障壁を展開し、それを防いぐ。 


「念動力とは、シンプルな異能だ。使用者次第で応用性が広がるね」


 念動力を大砲のように押し固め、放つ。蓮華が即興で思いついたこれは思いのほか役立つ。だが、決定打足りえなかった。

 だから蓮華は次の手札を切る事にした。


「我は敵を討つ神具を造りし鍛造者!炉に鋼を投じ、打ち、鍛え、敵を討つ刃を鍛造する者!」


 聖句が発せられると同時に炎の球が現れ、それが渦を巻いていく。触れればその身を溶かすほど熱さのそれに、蓮華は懐から取り出した玉鋼を投じる。


「求め、造りしは鋭利なる刃。眼前の敵を斬る一振りの刀!」


 するとすぐさま玉鋼に変化が起き、一振りの刀となり蓮華の手に飛んで行く。

 蓮華が最初に殺した神ヘーパイストスから簒奪した権能は神具を造る権能。蓮華がイメージする形から様々なモノを作り出す権能。

 後に賢人議会から『神具鍛造(エンシェント・スミス)』と呼ばれる権能だ。

 飛んできた刀を掴んだと同時に蓮華は一気に桜華に迫る。

 
「地帝乱柱」


「ッ!」


 しかし眼前に土の柱が現れ蓮華の動きを僅かに止め、その隙に周りに柱が次々と現れ動きを止めた。


―三式__月乃輪―


 蓮華は体を独楽のように回し動きを止めていた柱を全て斬った。


「やるね」


 舌打ちをしたくなるのを我慢し、思考を巡らせる。

 未来視の魔眼により、一瞬先の未来を視る事で桜華は、どの場所に、どんなタイミングで、何処に何が来るかが分かっている。それは戦闘におけるアドバンテージだ。

 さらに物理的に作用する地系統の術を使い、直接の対象とするのではなく、間接的に術の効果を与える。

 そして、桜華の使う術式。術式自体は見たことのあるものが在るが、理解しきれない。混ぜすぎた結果というが、混ざりすぎて訳分からん。

 どうする?
 
 
 

 
後書き
 さて、言い訳をさせてもらうなら、リアルが忙しかったり、書いては消してを繰り返したり、スランプ状態に陥ったりという理由で更新が遅れました。それに他にも何か書こうかなと思ったりしていたり。
 ま、それは置いておいて、更新が今後もかなり遅れます。流石に一年空けることは無いかと思いますが、その時は忙しいんだなと思ってください。ではでは、何時に成るかわからない次回で会いましょう。言うまでもないが、
未成年の飲酒は駄目だぞ。 

 

 後見人と封

 
前書き
 夜のテンションで急ピッチで書き上げた駄文が出来ました。色々とおかしな所が在ると思います。それでも良いというのならどうぞ。 

 
(さてさて、どうでるのかな蓮華君は?)

 桜華は悠然とその場に佇んでいた。
 油断無く、ただ次の手を待っていた。
 相手は神殺しにして御剣の集大成。まだまだこの程度ではないだろう。

「地帝乱刃」
 
 ただ一言口にするだけで無数の刃が形成され、それが一斉に放たれる。
 それを蓮華は斬り、念動力で叩き潰していく。 

(確かにその念動力は攻防どちらにも使える汎用性の高い異能だ)

 地帝乱槌で形成された塊を念動力で逸らして向かってくる蓮華を見ながら考える。

(けど、僕にダメージを通すには決定打に欠ける。さて、本当にどうするのかな?) 

 如何にして出し抜いてくるかを待つ、その考えはとても楽しそうだと元従者は後に語っていた。

◇ ◇ ◇ ◇

 結界内での蓮華と桜華をアテナは見ていた。
 蓮華が投げられる一連の動作を。

「未来視による先読みで相手の行動を把握し、その流れに沿って力を利用する柔術。厄介なものを身につけているな」

「ええ。厄介さで言うのならダントツです」

 それは魔神が近接戦に対処する為の技術。未来視の魔眼で数秒先を視て、相手の力の流れに沿い、自身の力で向きを変えて放り投げる。
 聞いていると簡単そうに聞こえるのだが、神や神殺し相手に行えるかというとほぼ不可能に近いだろう。

「―――へぇ~。あれが世界最強の魔術師と言われる魔神(桜華)か。御伽噺と言っている人が見たら教授を願いたくなる魔術だね」

 詠唱を省いて一言で発動とか色々と理不尽だね、と言いながらアテナたちの方に向かってくる人影が二つ。

「随分と早かったな」

「どちら様でございましょうか?」

 シリウスがその声の方に問う。
 そこに居たのは黒髪を後ろで纏めている女性とその女性に手をつながれている少女であった。

「ああ、始めまして。僕の名前は伊織カズキ。蓮華君の後見人さ」

◇ ◇ ◇ ◇

 蓮華はこの状況を変える為に、此処でもう一枚カードを切ることにした。

「一は全、全は一―――我は世界の真理を知る至高の哲学者、世界の創造を再現し、極めた偉大なる者。故に我に不可能な事は無く、全てを可能としよう!」

 始祖の錬金術師と戦い、勝利して得た権能。あれはアレでかなり面倒な神であった。然しその力は応用範囲が広い。
 蓮華の目の前に赤い石が現れた。それを蓮華は口に銜え、両の手を叩き合わせた。
 行使する力は決めている。後は駆けるだけ! 
 変化は一瞬。迫っていた杭は塵と化し、障害が消える。
 その一瞬を得た蓮華は一気に駆ける。 

「地帝乱鎚」

 桜華が術を放つが――

「遅いし、意味が無い!」

 力を込めて踏み込んだ地面が爆ぜ、蓮華の姿が掻き消える。それと同時に土の柱は杭と同じように塵と化していく。
 そして消えた蓮華が桜華の前に姿を現す。
 桜華は障壁を作り出し防御する事は、予想道理である。

―四式__穿牙―

 多重障壁が張られると同時に、回転を加え貫通性を高めた鋭い刺突を放つ。刺突は障壁を易々と貫いていくが、刀身に罅が入っていく。
 最後の一枚を貫いたところで刀身が砕けてすぐに刀を手放し、次へと繋げようとするが――

「時間切れだよ――地帝乱柱」

 地面から土の柱が勢いよく現われ、それを避けるために蓮華は後ろへと距離を取った。

「……まだやれる」

 もうちょっとで届きそうなのに終わると言うのは不完全燃焼だ。

「君はそうかもしれないけど、僕は違う。それにお客さんが来ているみたいだよ」

 術で外を見ていた桜華は丁度いいと言い、結界を解く。
 隔離された結界から出ると、見知った人と知らない少女がいた。

「……カズキさんと誰だ?」

「…………」

 桜華は眉をひそめ、訝しげな眼で見ていた。そして機嫌が一気に急降下した。

「……まだ続けていた屑共がいたか…」

 ボソッと小さい声で背筋が凍るような声音で桜華は呟いた。

「…何か言った?」

 スルーするべきかかなり迷ったが言葉に込められていたのが気になりついつい聞いてしまった。
 いや、何も言ってないよとはぐらかしながら桜華は聞いた。

「ところで、あの女性は誰だい?」

 とても綺麗な美貌で、年は二十代に見える。
 背は高く、腰にまで届く長い黒髪を後ろで結っている。体のパーツは細く、どこか儚げだ。ただし、知っている人が見れば詐欺だというが。

「あ~、あの人は伊織カズキって言って親父とは親友で、俺の後見人。で、見た目は完全に女性だが、男だ」

「蓮華君の後見人ね~。………ん、男?」

 アレで?と信じられないという顔で蓮華に問う。

「初対面の人は皆間違えるんだ」

 実際俺も間違えた。初見で見破った人は今のところ数人だそうだ。
 
◇ ◇ ◇ ◇

「改めまして蓮華の後見人の伊織カズキです。よろしく」

 中性的というよりか女性的な顔立ちをし、四肢は細く、髪は長く艶やかだ。見た目は女性しか見えないのだが、それで男だと言う。一種の詐欺といえるだろう。

「うん、生まれる性別を間違えているよね」

「ええ。こんな人がいたとは、世の中には不思議な事が在りますね」

「よく言われますよ」

 言われ慣れているカズキはさして気にする事は無かった。何せ初対面の人にはよく言われているだ。

「で、そっちの子は?」

 先ほどからカズキさんに隠れている少女のほうを見る。

「ほら、隠れてないで行ってきなさい。僕以外の人と触れ合うことも必要だよ」

 その様子は子供を同年代の子と触れ合わせようとしている親だ。

「……酷い事しない?」 

「蓮華君はそんな事はしないさ。僕が保障するよ」

「…そう」

 そう言って少女はこちらに来て、じっと見るている。どうしよう。
 カズキさんはヒラヒラと手を振って桜華とシリウスを連れて行くし、アテナは興味なさそうにしている。

「………」

「…御剣蓮華だ」

「……篝火(かがりび) 彩火(さやか)

「彩火ね、いい名前だね」

「……貰った名前だから」

 ああ、カズキさん拾ってきたのか。あの人ふらっと何処かに行ったと思えば、異能者を引き取って来て、異能者協会に預けているからな。
 異能者協会とは、様々な理由のある異能者を引き取り、異能の制御法を教える、自立できるようにする、簡単に言えば学校兼孤児院という所だ。
 けど、何で今回はこっちに連れてきたんだ?

◇ ◇ ◇ ◇

「この部屋、自由に使って良いからな」

「…わかった」

 部屋を案内した後どうしようか蓮華は考えていた。
 不完全燃焼なのだから適当に体を動かすべきか。それとも頭脳を働かしているべきか

「見つけたよ、蓮華君」

「何か用ですか、カズキさん」

「ちょっと良いかな」

「良いですけど」

「蓮華君、神殺しに成ったんだろう」

「成りましたけど、何か?」

「ちょっと体を見せて欲しいんだよね」

 主治医としてね。とカズキさんは告げた。
 伊織カズキは医者をしている。蓮華が小さい頃から負って来た傷は全てカズキさんが処置して綺麗に治したものだ。
 腕は超一流で現代のブラック・ジャックという奴だ。
 
―閑話休題―

「まあ、良いですけど」

「ありがとね。それじゃあ、行こうか」

◇ ◇ ◇ ◇

 寝台でうつ伏せになっている蓮華を診ながら蓮華の今の状態を書き記していく。
 骨は頑丈、回復力生命力共に向上。

「蓮華君、異能については何か変わった事はあるかい?」

「揮える力の総量が変わったことですかね」

 内側から湧き上がるようにして念動力の出力が上がった。加減を覚えるのに苦労しているが、手札の一枚になるだろう。

「そうでしょうね。封を強引にでも破ればそうなりますよ」

「…………what?]

 え、今何ていったんだ。思わず英語が出てしまったんだが。

「だから、封ですよ。あなたが生まれた当時の話ですかね、死に掛けたんですよ。―――自身の力に耐え切れず風船が破裂するかのように。まあ、燐が止めましたよ」

 幾つかの封を掛ける――錠を掛ける様にしてですけど、とカズキは告げた。

「……もしかして、結構拙い?」

「まあ、それなりに。二つ目の封が内圧に耐えられなくて弾ける寸前と言うところですね」

 だから診察していたんですよ。と言い、カズキは器具を取り出していく。
 針だ。数十本以上の細い針だ。ただしそれには本来針には必要ないであろうオーラが在った。

「私がするのは蓮華君に掛けられた二つ目の封を解く事だけ。そうすれば万事解決です」

 ついでに、疲労回復効果もありますよ。

「因みにやらなかった場合は?」

「…………ご想像にお任せしますよ」

「お願いします」

 その間が現実味を帯びさせた。うん、流石に自身の力が原因で死にたくないからな。

「では」

 カズキは体に針を刺していく。
 あ~、何だか気持ち良い。というより、落ち着くな。欠けていた何かが嵌っていくかのよう。

「そう言えば、話は変わるけど、どうして篝火彩火と言う名にしたんですか」

「―――あの子の異能と名を与える前の呼び名でその名にしただけだよ。変かい?」

「いい名前だと思いますよ。イグニスっていう名前よりは、今の方が可愛いと思いますし」

「やっぱり分かったのか」

「ええ。まあ、気づいたのは今ですけど」

 不完全燃焼だったのを頭を働かす事により紛らわしている。
 さて、イグニスというのはラテン語で篝火、炎の意味だ。
 篝火を苗字として、火を名前に入れて、彩は女の子らしいのを選んだ結果か?
 その後処置が終わり、掛けられていた封は一つ解かれ、体の疲労が吹き飛んだのであった。

◇ ◇ ◇ ◇

「……」

 懐からキセルを取り出し、火を付け、一服。
 最近子供が傍に居たので吸う事が出来なく、ご無沙汰だった。

「終わったようだな」

 アテナが傍に立ちながらそこにいた。

「ええ、終わりましたよ。蓮華君に施された二つ目の封は解きました。後は時が進み次第です」

 けれど――

「本当によかったんですかね」

「今更だろう。元より最初の封が解かれるのは予想できていた事だ。幾ら封魔師と言われた燐でも、アレには敵わんからな」

 蓮華の中に居るモノには。

「蓮華君は何であんな力を持ってしまったんでしょうかね」

 人の身に余り過ぎ、所持者を殺す力を。

「知るわけが無かろう。当人ではないのだからな。だが、受け入れられる器は用意したつもりだぞ」


「蓮華君次第ですね。本当に」

 頑張りなよ。 
 

 
後書き
 最近忙しく、そして書けば書くほどクオリティが下がっているように感じる駄作者ビオン。スランプ気味ですが今後ともよろしくお願いします。