幻想の運び屋外伝 天覇絶槍が幻想入り


 

第一話 天覇絶槍が幻想入り

ここは幻想郷。忘れ去られたものが最後に辿り着く楽園である。
その幻想郷の東の端に存在する神社がある。
その神社は“博麗神社”。楽園の素敵な巫女こと、博麗霊夢がいる神社である。




「さて、することもないし。掃除でもしようかしら?」
 ある日の朝、境内を掃除しようとした私は、見慣れない服を着た茶色い髪の青年が倒れているのを見つけた。
 青年は人里で見かける者とは違い、頭には鉢巻が巻かれ、上半身は赤い革の上着のみを羽織り、火炎模様の入ったズボンにまた赤い臑当て(すねあて)と足袋(たび)を帯びていた。
 人里でこんな人を見かけたことはないし、ましてやこんな姿の妖怪も見たことはない。
 でも…この人を人間って呼んでもいいのか疑問に思うくらいに放っている雰囲気が違う。
 一体この人は何者なのだろうか……。
「ホント、面倒くさいわ……」
 私は溜息を吐きながらも彼を母屋の中へと運んで行った。


 徐々に差し込んでくる光の眩しさに目を覚ました。最初に眼に入ってきたのはよく見る木の天井。ここは上田城……なのか?
「あ、やっと起きた」
 半身を起こした所で某から見て右手にある襖が開く。そこには袖のない変わった巫女服で、肩と腋を出して白の袖を別に括り付けている黒髪の女子が立っていた
「アンタ、人の家で何日寝ているのよ」
 あんた? 多分某の事であろう……。
「……巫女殿、某はどれ位寝ていたのでござるか?」
「五日よ。全く、死んでいるのかと思ったじゃない」
「い、五日!」
 俺はそんなに長い間眠り続けていたというのか……?
「まあそれはいいとして……アンタは一体何者?」
「? それはどういう意味で……?」
「言葉通りの意味よ。見た目は人間だけど妖怪じゃない……なんていうか“アンタを人間って言っちゃいけない”ような気がするのよ」
「某は間違いなく人ですぞ!」
「人間だってことは判っているわよ。でも、なんというか……ねぇ?」
 巫女殿の妖怪発言も気になるが俺を人と言ってはいけないという言葉はあんまりだ!
「ところでアンタ、名前はなんて言うの? いい加減アンタっていうのも失礼だと思うし」
「! 失礼をいたした。某、“真田幸村”と申す」
「“真田幸村”ね……!」
 俺の名前を告げた途端、巫女殿の顔がコロっと変わったが…いかがしたのでござるのか?
「あの……巫女殿?」
「ふぇ! あ、私の名前ね。私は霊夢、博麗霊夢よ。そういえばなんで、境内で倒れていたのよ?」
「境内? するとここは神社かお寺かなにかで?」
「ここは博麗神社よ。私はここで巫女をしているわ」
「そうでござったか……」
「で、なんで幸村はなんで倒れていたのよ?」
「確か……」
 政宗殿と勝負をしていた時…死んだはずの松永に襲撃されて……。
「某は……殺された筈……」
「え!」
 そして俺は、霊夢殿に己に降りかかった出来事を話した。霊夢殿は嫌がるそぶりを見せずに真剣に聞いてくれた。
「そう。つまりその松永っていうやつに殺された筈なのに、ここにいると…………先に言っておくけど、ここは死後の世界じゃないからね」
「……なら、ここは日ノ本のどこ辺りでござるか……?」
「そういえば言ってなかったわね。ここは“幻想郷”。幸村からしてみれば別の世界ね」

少女説明中&熱血漢理解中

「最後の楽園、でござるか……」
「そうよ。」
 どうやら俺は、己の想像すら付かぬ非常識なところに来てしまったようだ。
「とりあえず、暫く家に居なさいよ」
「え? ……な、何故にござるか?」
「この世界は幸村のいた世界じゃないし、行く宛もないのでしょ」
「まぁ……確かに」
 この世界、俺の知っている人はいない。霊夢殿が某に手を差し伸べてくれるのは嬉しいのだが……。
「真に……よいのか? 霊夢殿がその……人間じゃないと思われる人を置いても」
「だからよ、もし幸村がさっき松永って奴と戦った感じに、ここ幻想郷で同じく暴れないように監視しなくちゃいけないからね」
 まぁ俺の武は人を簡単に吹き飛ばすなど容易だからな。
「もし、某が暴れたとして霊夢殿は止められるでござるか?」
「舐めないで頂戴。こう見えて私は幻想郷のバランス、均衡を保つ役割を担っていて、異変や妖怪退治は私の仕事なのよ」
「……つまり、その手の専門家ということでござるな」
「そうよ」
「…………」
「……? どうしたのよ幸村」
「それってつまり、某を遠回しに妖怪かなんかの化け物と一緒にしていると言うことでござるか?」
「ハァぁ~~~~~~~~」
 なんで霊夢殿は溜息を吐くのだ?
「あのね……幸村の話を聞いたら誰でもアンタを化け物みたいに言うわよ! 槍の先から火を出すとか、気合で自分の百倍はある巨大兵器を槍二つで破壊するなんて。この世界も外から見れば非常識だけど、あんたも十分“非常識”よ!?」
「…………(汗)」
「……話が逸れたけど、取り敢えず、今幸村はここにいる! わかった?」
「う、うむ! 了解した……」
「それならいいわ。それじゃあ食事作って持ってくるから待ってなさいよ」
 そういう霊夢殿は少し微笑んでいた。
「承知したでござる……」
「あ、それと。ここに居させるけど、色々働いてもらうからその積りでね」
「ああ、居候させてもらう身ですからそれ位はしかとやりますぞ!」
「なら安心だわ。それじゃぁ待っていてね」
 俺がそう返事すると、霊夢殿は部屋から出て行った。
 さて、これからどうするべきか……
「……ってあれ? 首にかけてある六文銭がない!?」
 あの時の戦いで無くなったのか、それとも霊夢殿が外したのか?
 悩んでもしかたないか。今はこうして生きている……。
「お館様……某はまだ、生きていろということでございますか?」
 誰もいない部屋で一人、お館様のことを思い出していた。


 
 

 
後書き
ニコニコ動画で投稿している幻想の運び屋の外伝に当たります 

 

第二話 初日

「幸村、早速だけど廊下の雑巾がけをしてくれないかしら?」
「雑巾がけでござるか?」
「ええ、そこの縁側の廊下をお願いね。」
「合点承知の助!」
 その翌日、博麗殿の慈悲で居候させてもらった俺は早速仕事を頼まれた。
 俺は今まで戦いの中で生きていた訳で巫女の仕事など知る由も無いが、清掃ならお館様の言いつけで何度もしていたので問題はない。
「さて始めるとするか!うおおおおおぉぉぉ! 熱血ぅう~~~~!」

幸村サイドアウト

霊夢サイドイン

『うおおおぉぉぉぉぉ!熱血ぅぅぅううううっ!』
 ドタドタドタドタドタドタッ! ドタドタドタドタドタドタッ! ドタドタドタドタドタドタッ!
 掃除を彼に頼んだけど……結構五月蝿いわね。向こうにいた時はいつもこうだったのかしら? なんかイメージが崩れたわ……。
「ま、彼に任せてみましょうかね」
この判断が、後々大変な事になるとは思わなかったわ……。


それから1時間後。


「………………………………………………………………………………………………え?」
 彼の様子を確かめに来てみたら廊下が光っていた……多分、何度も何度も雑巾がけをしていたらこうなったんでしょうね……でも、どういうこと?
「霊夢殿、言われたとおりに雑巾掛けを終わらせましたぞ!」
「…………ねえ幸村、元いたところではいつもこんな感じ雑巾がけをしていたの?」
「うむ、修行の一環として足腰を鍛えるため、最低でも一日二刻はしていたでござるよ。」
 彼の顔を見て聞くとさわやかな顔で返された……。なんで四時間でこんなに綺麗になるのこの廊下!?
 恐るべし、真田幸村……いや、そのお館様っていうのが凄いのかな?

 この後、彼に境内を箒で掃いてもらうため外に出して、私は光っている縁側で茶を飲むことにした。
 それにしても……
「ほんと、つるつるね……滑らない、よね?」
「ハ~イ、お久しぶり霊夢」
「滑って帰れ……」
「いきなり酷い言われようね。」
 つるつるの縁側を触っているといきなり八雲紫がやってきた。
 八雲紫(ヤクモ ユカリ)
 私達が住む幻想郷最古参の妖怪の一人で賢者と称される最強の大妖怪……なのだが、彼女を知る大抵の人は胡散臭い印象を持つ。
 だって何か知ってそうなのに全部しゃべらないうえ、裏が読めない性格に加えて、今のように能力によって“スキマ”と呼ばれる一種の亜空間を出現させて、そこから姿を現す行為も、胡散臭さに拍車をかけている。
 そんな胡散臭さ全開な彼女が何しに来たのかしらね、このスキマ妖怪は。
「今日は何の用で来たの? 変な理由なら怒るわよ」
「変じゃないわ……彼についてよ」
「ああ、幸村のこと? 彼が何か?」
「惚けないで。わかっているでしょ、彼の力」
「……………………」
 どうやら彼についてらしい。まあ、彼の力が大きいことは解っているけど。
「そんなに危険かしら?」
「危険も何も、この世界より非常識な存在なのよ! もしかしたら、鬼すらも凌駕する力を持っているわ」
「それ位、私にも解るわよ。そんなに鈍ってないしね」
「だったらなんで彼をここに住まわせるの!」
 紫は彼がどれだけこの幻想郷に害するものなのか諭しているみたいだけど……
「そうねぇ……紫、ちょっとこの縁側歩いてみなさいよ」
「……え? なんで?」
「いいからさっさと歩いて!」
「?」
 そう言って紫は歩き出した。そしたら案の定……。
「なんで歩かなくちゃキャア!」

ドシンッ!

「やっぱりね、歩くときは気を付けないとね。」
「れ、霊夢。これってどういうこt……フミュ!」
 こけた紫は立ち上がろうとするが手を滑らして顔面を打ち付けてしまう。
「その縁側と他の廊下は彼に頼んでね、一時間くらい雑巾掛けしてもらったの。その結果が、これよ」
「ど、どれだけ磨いたのよこれ……ってきゃっ!」
「武器を持たない今の彼にはこれ位しかできない。危険だなんてどこにもない。紫、あんたが危惧する必要は無いわ」
「でもね! 彼の力は強力よ! 聞けば一人で自分の何倍もあろう兵器を崩壊させることなんて容易いみたいだし! 危険よ危険!」
「……」
「ナ、何よ霊夢」
「どこでその話を聞いたが知らないけど……その姿で何言われようとも説得力無いわよ。ククク…アッハハハハ! 駄目、笑っちゃうわ!」
「もう! 笑うことないでしょ! 仕方ないじゃない、滑って立ち上がれないんだから!」
 今の八雲紫はうつ伏せになって顔だけをこちらに向けている姿だった。立ち上がろうと手を床に付こうとするがすぐに滑ってしまう。
「と、とにかく! この神社にある“あの槍”だけは彼に知られない事、良いわね」
「フフフ……“あの槍”ね。善処するわ」
 “あの槍”…博霊家に代々伝わる神槍の事ね。博麗に生まれた男子が妖怪退治、異変解決に使っていた神槍の事。私の先々代(私の先代、つまり義母の親の世代)から使われることはなくなったらしく、神社の本殿に隠されている。まぁ、ばれることはないと思うけど。
「ま、彼が手にしたとしても悪い事には使わないわね」
「なんでそう言い切れるのよ」
「だって……」
 手にした茶を一回口に含み、飲み干して紫の眼を見て断言する。
「彼、悪い事は絶対にしないって私の勘がそう言っているしね」
「………………………そう、わかったわ」
 そう言って紫はスキマを作った。
「…信用するのもいいけど、信用し過ぎないようにね。彼は戦国の世に生きた“武将”なんだから」
 そういって紫はスキマに潜り、完全に消えていった。
「残念だけど紫、あの人は……」

 熱血バカらしいわよ

 誰もいなくなった縁側で、私はぼそっとつぶやいた。
「……全く、なんで私はこうも彼の事を信用しているのかしらね」
 まるで、これから先ずっと一緒にいるみたいじゃない。
『熱血熱血熱血熱血うううう!!』
 ……やっぱり五月蝿いわね。
 滑らないように気を付けながら彼のいる境内へ向かった。
「五月蝿いわよ!もう少し静かにできないの!?」
「れ、霊夢殿!? し、しかし某にはこれが普通かと……」
「元いたところじゃそうかもしれないけど、郷に入っては郷に従え! 静かにやりなさい!」
「わ、分かり申した霊夢殿!」
 ……やっぱり、彼を警戒することなんて少しも無いわね。


 
 

 
後書き
次回!俺っ娘魔法使い登場だぜ! 

 

第三話 俺っ娘魔法少女!

 
前書き
約半年も間更新できずに申し訳ありませんでした。
 

 
 それから数日、幸村は霊夢のもとで掃除や家事の手伝いをしていた。
 そんな中、霊夢が用事で〝人里”へ出向いている最中の出来事だ。

幸村サイドイン

 霊夢殿が人里という、幻想郷で殆どの人が暮らしている〝人里”へ出向いた。
 個人の用事で出かけたらしい。その内容は詳しく教えてもらえなかった。
 待っている間、俺は境内を掃除していた。
『霊夢~~! いるか~?』
 そんな時、どこからか博麗殿を呼ぶ声が聞こえてきた。どこにいるのかと辺りを見渡すと、突如として上空から、箒と思われる物に跨る黒い物体が現れた。
 霊夢殿が申していた妖怪の類か!?
「そなたは妖怪か!?」
「! おいおいいきなり妖怪呼ばわりは酷いんじゃないか? てかあんた誰?」
「お、女子か?」
 よく見ると、変わった形の黒い物を被り、そこから黄色い紅葉より明るい長い髪が見え、白と黒の南蛮みたいな服を着ている少女だ。背丈は俺の肩に届くくらいだろう。何故か己のことを〝俺”と呼んでいるらしいが……
「そ、そなたは?」
「名乗る時は先ず自分からだと思うぞ?」
「そ、それは失礼した! 某、真田幸村と申す」
「幸村ね。俺の名前は霧雨魔理沙! 普通の魔法使いだぜ!」
「ま、まほうつかい?」
 まほうつかい? 聞いた事がない言葉だが…俺が天覇絶槍と言うのと同じだろうか?
「あ、魔法使いってのは魔法を使う者の事を言うんだぜ」
「???」
 まほうを使う者がまほうつかい? さっぱり分からぬ……
「あぁ~~、分からないならいいよ。理解するのに時間かかりそうだし。」
「す…済まぬ」
「謝らなくてもいいよ。で、幸村はなんで霊夢のところにいるんだ?」
「その前に、霊夢殿とは知り合いで?」
「質問を質問で返すなよ……俺は霊夢の友人だぜ」
「博麗殿のご友人でしたか! 某は数日前、ここの境内で倒れていたところを博麗殿に見つけてくれて、そのままお世話になっている者でござるよ」
「! あの霊夢がね~」
 箒みたいな物から降りた霧雨殿は俺の顔をじっと見ながら、なにか考えている。
「あの、霧雨殿……某の顔に何か付いているのでござるか?」
「あ、いや、なんでもないぜ。」
「???」
「そうそう、俺のことは魔理沙でいいぜ。そんなに固くされるのは慣れてないんだ」
「そうか…では魔理沙殿。今日はどういった用件で霊夢殿に会いに?」
「(出来れば〝殿”もやめてほしいけど……)用って程じゃないけど、霊夢がいたら適当に茶と菓子を頂こうかな~って思っていただけさ」
「そうか、今霊夢殿は個人の用事で人里へ行っているぞ」
「そうか、じゃあ……」
 そういうと魔理沙殿は俺の脇を通り過ぎようとした。
「ちょっ魔理沙殿! どこに行くつもりか!?」
「ん? 霊夢が来るまで中で待つつもりだけど?」
「例え霊夢殿のご友人だとしても、そこもとの正体が確認できた訳ではないから……」
「通せないってか?」
「うむ。」
「…………」
 俺が通せないことを伝えると魔理沙殿は少し思案顔になり、なにか思いついたように言った。
「そういえば幸村は境内で倒れていたんだろ?」
「まぁ、霊夢殿からそう聞かされているが……」
「じゃあ境内に倒れていた前の記憶は覚えているだろ?」
「そうだが……」
「なら霊夢が来るまで幸村の事を聞かせてくれよ!」
「……え? 何故、某の事を?」
「霊夢が来るまでの暇つぶしさ。なんか面白そうだしな」
 俺が面白そうって、格好の事か? それなら魔理沙殿のほうが俺からしてみれば奇妙な格好なのだが……?
「そういうわけだからさ、霊夢が来るまで話してくれよ~!」
「う~む……」
「う~む、じゃないぜ。いいだろ? 霊夢に他言無用だって言われている訳じゃないだろ?」
「まぁ確かに言われていないが………………わかりもうした。魔理沙殿にはつまらない話やも知れぬが、よいか?」
「しゃあ! 構わないぜ! 早く聞かせてくれよな!」
「わ、わかったから某の背中を押すでない! ちゃんと話し申すから」
 魔理沙殿のお願いに折れた俺は母屋の縁側へ案内し、そこで俺が戦国の世で体験したことを話した。
 俺が戦場で活躍したことを話すと魔理沙殿は子供のように目を輝かせ、民に対し非道な行いをする者の事を話すと憤りを表情に出し、人が他人のために死ぬ話をすれば悲しみの表情を見せた。そして、つい気を許してしまったのか、俺が死んだ経緯を話してしまった。まずいと思った時はもう遅かった。
「……」
「……」
 き、気まずい……なんで俺はこの話をしてしまったのだ!?
「……なぁ、幸村」
「! な、なんでござるか?」
 沈黙を破ったのは魔理沙殿だった。
「結構、大変な事を経験してきたんだな」
「う、うむ」
「幸村はここに来て、まだ日は浅いんだよな?」
「あ、あぁその通りだ……?」
「じゃあ神社から出たことはないんだな!」
「そ、そうだが…?」
 暗い顔をしたと思ったら、何やら思いついた顔を見せる魔理沙殿。
「それじゃあ今度、俺の行ける範囲まで幻想郷を案内してやるよ!」
 いきなりの魔理沙殿の申し出に俺は驚いた。今まで霊夢殿には神社から外には出ないこと、と言われていた為、一度も外出したことがなかったのだ。
 しかし……
「魔理沙殿の申し出はうれしいのだが……」
「霊夢にここから出るなって言われているんだろ? だったら話は簡単さ。」
「? それはどういう……」
「それはな……お、噂をすれば。」
 魔理沙殿の向いた先を見ると、階段から上ってきた霊夢殿の姿が。
「……あら魔理沙、来てたの?」
「よう霊夢、邪魔してるぜ。」
「で、何の用? 茶菓子ならさっき買ってきたけど?」
 霊夢殿が右手に提げている袋には何やら色々入っており、煎餅の袋も見えた。
「初めはその予定だったんだが……」
 と魔理沙殿は立ち上がり、霊夢殿に近寄る。
「ちょっと話があるからさ、神社裏まで来ような?」
「は? 突然何なのよ……」
「そう言う訳だから、幸村、ちょいと霊夢借りるね~」
「ちょ!? 魔理沙いきなりなんなの!?」
「魔理沙殿!?」
 そう言って魔理沙殿は霊夢殿の腕を無理やり掴んで神社の向こう側へ消えてしまった。
「…………」
 残された俺は、仕方なく掃き掃除を始めた。


幸村サイドアウト

魔理沙サイドドイン


「ちょっと魔理沙! これはどういう事!?」
 神社裏まで霊夢を連れ出した俺は霊夢へ振り返る。
「なぁに、ちょいと話があるだけさ」
「話って何よ?」
「幸村についてさ」
「!」
「聞いたら、幸村は色んな体験をしてきているらしい。霊夢だって聞いたんだろ?」
「……まぁね」
「元居た世界じゃ、結構激しく動いていたみたいだったし、見た感じだと相当運動不足みたいだったぜ」
「……何が言いたいの?」
 何が言いたいのか、そりゃ勿論……。
「幸村の外出を禁止するのをやめたらどうだ?」
「……」
「いままで自由気ままにやってきたことを、急に環境が変わったからといってできなくなったらストレスを感じるはずだろ? 霊夢だって、好きな日向ぼっこや縁側でのんび~りお茶を飲む事が急にできなくなっちゃって、それが数日続いたらどうなる?」
「まぁ……ストレスを感じるわね」
「今の幸村はそんな感じ。今は恩を感じて静かにしているけど、心の中じゃ走り込みたい、激しく動きたいって思っているはずだぜ?」
「それって……幸村をペットか何かと思い違いしているんじゃないの?」
「それは無いぜ。あんまり溜めすぎると体に悪いだけ。ちゃんとストレス発散させないといけないぜ」
「…………」
「それに、今のうちに色々案内しとかないと、いざ二人で別行動する時に幸村が迷ったら探すのが大変だぜ」
「まぁそうね……ってなんで別行動するって過程なのよ!」
「だって幸村かなり強そうじゃん。ありゃ絶対戦力になるぜ」
「せ、戦力って……」
「俺はこう見えても人を見る目はある。幸村の体つきは、何度も自分を鍛えあげている証拠。しかも毎日だ」
「そう……なの?」
「あぁ、間違いないぜ! ってかだいたい霊夢は一人で行動しすぎなんだぜ。もしかしたら二人一組で異変解決にいたる可能性だってあるんだぜ」
「そ、それ位わかって……って話が脱線しているわよ。」
「取りあえず結論として、今後の事も考えて幸村を外出させることを許してやれよ、な?」
「……」
「それとも……夜に……」
「ちょっと待てい! なんか話が飛躍しすぎているわよ!?」
「あれれ? 俺は夜に素振り位させるかい? って聞こうとしていたんだがな~」
「なぁ……!?!?!?」
「おやおやぁ? 顔が赤くなってるよ~? 何を想像したのかな~?」
「う、うるさい 何も考えていないわよバカ!」
「じゃあ幸村を外出させても問題ないな?」
「えぇ! いくらでも外出させるわよ! ……ッハ!」
「よっしゃ! 許可が下りたぜ。次に霊夢は『まさか……計算の内だったのか魔理沙!』と言う」
「まさか……計算の内だったのか魔理沙! ……ッハ! ってアウト気味なネタ使うな!」
「ハッハッハッハッハッ! それじゃ許可も下りた事だし、幸村に伝えてくるぜ~。」
「スルーするな!」
 いや~霊夢をからかうのは面白いぜ。



 
 

 
後書き
外出の許可が下りた幸村は魔理沙の監視の元、霧の湖に向かう。そしてそこにいたのは……!
次回、天覇絶槍が幻想入り 『幸村、初めての遭遇の巻』
お楽しみに! 

 

第四話 幸村、初めての遭遇の巻

 
前書き
2か月以上更新できずに申し訳ありませんでした。最新話です!どうぞ! 

 
  幸村サイドイン

 俺は今、首に手ぬぐいを掛けて動きやすい服装をしている。
 先日、霊夢から条件付きで神社の周りへ外出することが許された。どうやら魔理沙殿が説得してくれたみたいだが…なぜ霊夢殿は顔を赤くされていたのだろうか?
 それは兎も角、その条件と言うのが…
「なぁ幸村~、朝早くないか?」
「何を言うか魔理沙殿。俺にとって、これくらいの早起きは当たり前ですぞ!」
「それは幸村視点からだろ~。まだ明け方だぜ?」
 そう魔理沙殿の監視付きだ。俺が外出する日時を魔理沙殿に伝えて、その時間帯に魔理沙殿が来るまで待機。彼女と合流したら外出できる。尚、行先は必ず霊夢殿に伝えることだ。
 細かく決められたが霊夢殿曰く、『幸村が妖怪に襲われても対応できない可能性があるじゃない。現に弾幕や武器が無い今の状態じゃ逃げることしかできないからよ。』とのことだ。
 霊夢殿が心配してくださるのは有難いが、俺とて無駄に死線を潜り抜けてはおらん! といつもの俺なら言う所だが、確かに戦う術がない今の俺は妖怪からしてみれば只の赤子に過ぎぬ。
 だから、自分一人でも対処できるような力が得られるまで、霊夢殿のいいつけを守ると決めたのだ。
「それでは魔理沙殿、一緒に参ろうぞ!」
「って俺は一緒に走らないからな…」
 そう言って魔理沙殿は箒に跨り宙に浮いた。魔理沙殿曰く、〝まりょく”なるもので浮かんでいるらしい。俺にはさっぱりわからぬが……


「ところで幸村、今日はどこまで行くんだっけ?」
 神社の階段を駆け下り、左右の道に分かれるところまで来たところで魔理沙殿が尋ねてきた。
「霊夢殿には〝霧の湖”と言うところまで行くと伝えてありもうす。」
「霧の湖か…なら右だな。」
「右か、わかった!」
「っていきなり走るな! って速っ!」
 俺は右に向かって全速力で走る。久しぶりの走り込みに熱くなってきたぞ!
「うおおおおおおおおおおぉぉぉっ!熱血うぅぅぅうぅぅぅうううう!」
「ちょ、おま、速い! 速いって~!」
 俺の後ろを魔理沙殿が追いかける。が、そんなことは気にせず、嘗て(かつて)上田城付近で走り込んだ記憶を思い出す。
「(このように走れるとは…なんと楽しいことか!)」
「ま、待て~! 速いって!」
「これくらい普通普通!」
「んなわけないだろ~!」


半刻後…

「おお! ここが〝霧の湖”か! なんと美しい眺めだ!」
 霧の湖とやらに着くと、そこは霧に覆われているが、朝日が差し込み幻想的な風景を生み出していた。
「ハァ…ハァ……ゆ、幸村…先行するなよ…霊夢に怒られるぞ…ヒィ……」
 霧の湖に見とれていると、魔理沙殿がゆらゆらと揺れながらこっちにやってきた。
「? 魔理沙殿? 何故息が切れているのか? 箒に乗ったままでは息が切れることはないと思うが?」
「幸村が速すぎて無駄に魔力使ったからだよ! 移動するにも地味に疲れるんだよこれ!」
「う…それは失礼した…以後気を付けまする……」
「ならいいんだけど……」
 そう言って魔理沙殿は近くの木陰に座った。
「と、とりあえず休憩~~」
「なら俺は少し散策してくる。」
「あまり遠くに行くなよ~。霊夢に怒られるのは嫌だからな~。」
「しかと了解した。」
 そして魔理沙殿はかなり疲れたのか、目を閉じてすぐに寝てしまった。
 無理をさせすぎたか。次からは相手に合わせないとな……
 そう心に決めた俺は湖の淵を辿りながら散策を始めた。


 暫く散策すると、急に辺りが冷えて暗くなってきた。
「おかしい…まだ朝だから暖かくなるはずだが…?」
 嫌な予感がするので、魔理沙殿の方へ戻ろうとしたときだった。
「!」
 俺の後ろに何かが通り過ぎ、地面に刺さる音がした。
「もしや妖怪か!?」
 そんなに魔理沙殿から遠く離れていない筈なのに…急いで戻らねば不味い!
 そう考えている間にも辺りが徐々に暗くなってくる。
「くぅ!」
 俺は自らの勘を信じて一直線に走る。何度も木の枝や根っこにぶつかるが、そんなの気にしている暇はない。相手が判らぬ以上、逃げるしか俺に残された術はないのだ。


  幸村サイドアウト

  魔理沙サイドイン


  ヒューン…ゴスッ!
「いでぇ!? な、なんだ! 妖精の悪戯か! それとも妖怪の襲撃か!?」
 辺りを見渡すが何もいない。手元を見ると赤い果実が落ちていた。
「何だ、これが落ちてきただけか…」
 魔理沙はまた寝ようとして目を瞑ろうとした。
「……なんか寒いな? 〝アイツ”の仕業か?」
 辺りがなんだか寒くなってきた。また〝アイツ”だろうと予想を立て、立ち上がって辺りを見渡した。
「ん? あれは…?」
 ある一点が暗くなっており、なんか移動している。
「ってこっちに向かってるぅ!?」
 その一点がこっちに向かってきた。と、よくみるとその暗い所から赤い人影が見えた。
「あれは…幸村か!」
 辺りが寒いこと、移動する黒い点、そして逃げてくる幸村。
「やっぱあいつらか!」
 アイツらだと確信した魔理沙はポケットからあるものを取り出し、黒い点の中心へ向けた。
「幸村ぁっ! 伏せろぉぉぉっ!」

  魔理沙サイドアウト


  幸村サイドイン

 勘だけで走ること少し、偶然にも林を抜け、視界が開けるとそこには魔理沙殿が何かを持ってこっちに向けていた。
「幸村ぁっ! 伏せろぉぉぉっ!」
 すると、魔理沙殿が持っている物に光が集まる。俺はすぐに地面に飛び込むように伏せた。
「恋符『マスタースパーク』!」
 伏せたと同時にバチバチッと音がしたと思うと、物凄い轟音とともに俺の頭上を何かが通り過ぎていった。それは大量の光だった。
 暫くして、光が止むと魔理沙殿が駆け寄ってきた。
「大丈夫か、幸村!?」
「俺は大丈夫だったが、先ほどの光は……?」
「その説明は後だ、後ろを見な。」
 俺は立ち上がって魔理沙殿の言うとおりに後ろを向くと、二人の少女が目を回しながら倒れていた。
女子(おなご)が何故?」
「さっき幸村を襲っていた犯人だよ。まぁ、襲ったというより悪戯した犯人だな。」
「な、なんと!」
 まだ十歳近くの女子が俺を襲っていたとは……
「……ん? 魔理沙殿、あの空色の女子の背中に何かがついているようだが……?」
 よく見るとそこには、氷の結晶で作られたようなモノが女子の背中に生えている。
「あぁ、アイツはチルノ。ここいらに住んでいる妖精だよ。」
「よ、ようせい?」
「で、その隣にいるのはルーミアだぜ。」
「ま、魔理沙殿。ようせいとは一体なんなのだ? 妖怪とは違うのか? それに先ほどの光は何なのだ!?」
「順番に話すからちょっと落ち着け。先ず、妖精って言うのは自然から発生するもので、自然が無くならない限り不滅、つまり何度でも蘇るんだ。でも、逆に自然が無くなると妖精も消えてしまうんだ。」
「つまり……自然と一緒に過ごしている存在、という見解でいいのか?」
「まぁそんなもんだな。それと、妖精は大の悪戯好きさ。あ、ルーミアは本物の妖怪だぜ。」
「なるほど。では、先ほどの光は?」
「それはこれのおかげだぜ。」
 すると魔理沙殿は八角形の物体を取り出した。
「これは〝ミニ八卦炉”っていう俺の宝物だぜ。これで撃ったんだ。」
「これが…?」
 見た様子、そんな凄い物には見えないのだが……
「これを撃つときは精神を集中させ、優しく八卦炉に呪文をかける。にっくきターゲットを狙って放つのは恋の魔法! それがさっき放った光さ。」
「よく分からなかったが、何となく分かったぞ!」
「それどっちだよ……」
 すると”ちるの“と呼ばれた妖精が先に起き上がった。
「う~~、思いっきりやられた~。何だよ何だよ、ただ悪戯しただけなのにスペルカード撃ってくんなよ!」
「悪戯してきたチルノとルーミアが悪いぜ。」
「むぅ~! って誰だこいつ?」
「自分が悪戯していた奴を忘れんなよ……」
 小声で魔理沙殿が何かを呟き、妖精ちるのが俺を指さしてきた。
「某、真田源治郎幸村と申す。」
「??? 名前……どれ?」
「幸村、言い忘れていたけど妖精ってだいたいバカなやつらが殆どだぜ。」
「魔理沙! バカって言うな!」
「じゃあ一足す一は?」
「二だよ、そこまでバカじゃないもん!」
「じゃあ五引く三は?」
「………………………………二?」
「長い間だったけど正解だな。」
「だからバカ扱いするな!」
「じゃあ五かける六は?」
「……………………?」
「やっぱバカじゃん。」
「ま、まだ習ってないだけだもん!」
「魔理沙殿、苛めてはならぬぞ。」
 あまりにもちるのがかわいそうだったので止めてやった。
「むぅ……でもなぁ」
「なに、子供は遊ぶのが一番。そなたらは寂しくてつい俺に悪戯をしただけであろう?」
「う、それは……」
「それに、先程の問いは俺も分からなかったからな。」
「……え!」
 突然魔理沙殿が俺を信じられない者を見るような眼で俺の方を向いた。
「? どうした、魔理沙殿?」
「いや、なに気にしなくていいぜ(あれ? 幸村って思っていたよりチルノ並に……バカか?)」
 今、もの凄く不愉快なことを思われた気がするが・・・気にしないでおこう。
「こうなったら……」
 と、ちるのは急に空へ飛び上がった。ついでに”るーみあ“という妖怪も一緒だ。
「そこの紅い奴! あたいと勝負だ!」
「はあぁぁぁっ!?」
 突然の申し出につい声を上げて驚いてしまった。
「ちょっと待てチルノ! 幸村は幻想郷に着てまだ日が浅い。弾幕ごっこなんてこいつには出来ないぞ!」
「あのー魔理沙殿? “だんまくごっこ”とはいかがなるものか?」
「ほら、幸村だって弾幕ごっこは知らない……って霊夢から弾幕ごっこの事を聞いていないのか!?」
「うむ、一度も聞いてはおらん。」
「(だから霊夢は幸村を外に出さなかったんだな……なら、どうして教えなかったんだ? ここに住む以上、弾幕ごっこのルールは教えなきゃいけない筈。なのに、何故……?)」
「魔理沙殿? だんまくごっこ、というのは一体?」
「あ、あぁ。弾幕ごっこな。まぁそれを先に説明するよりスペルカードルールってやつを先に説明しないとな。」
「“すぺるかーどるーる”?」
「スペルカードルールっていうのはここ幻想郷内で起きた揉め事や紛争を解決するための手段で、人と妖怪が対等に戦う場合とか強い妖怪同士が戦う場合、必要以上に力を出さないようにするための決闘のルール、規則さ。」
「して、弾幕ごっことやらは?」
「弾幕ごっこっていうのは、霊夢が人と妖怪の力量を埋めるために考案されたスペルカードルールに基づいたもので相手を殺すための戦いじゃないんだ。具体的にはわざと隙間が作られていて、それを避けることができる弾幕を放っているんだ。こっちは本来の〝命を賭けた妖怪退治”を擬似的に再現したものだから“ごっこ”ってついているんだと思うぜ。」
「要するに、妖怪と人が対等に対決できる規則でいいんだな?」
「まぁそんなところだ。」


「話は済んだ?」
「うむ、待たせた。」
 魔理沙殿の説明を聞き、ちるのの前に立った俺は彼女を視界に捉える。
 ちるのは地面に降り立ち、腕を組んでいた。るーみあという女子はちるのの後ろで見ている。
「弾幕ごっこが初めてなら、そうだなぁ……あたいが一枚のスペルカードを放つから、幸村、だっけ? 全部避けるか、あたいに触れたらそっちの勝ち。もし一発でも当たったらあたいの勝ち、でいいよな?」
「分かった。」
「それじゃあいっくよー! 氷符『アイシクルフォール』!」
 ちるのが何かを宣言すると、彼女の周りから矢じりの形をした氷の塊が出現し、俺に向けて放ってきた。
「うおっ!?」
 摩訶不思議な減少に驚く俺だが、身を反らすことで躱せた。
「どんどんいっくよー! そぉれっ!」
 先ほどより多くの氷の塊が出現する。
「気合いで避けるだけだ! うおぉぉぉっ!」
 次々と放たれる氷の塊を気合いだけで避けていく。しかし、見たこともない現象に驚愕し身体が追い付いてゆけず、寸前のところで避けることが何回もあった。
「幸村! 弾幕をよく見るんだ!」
 その時、離れてみていた魔理沙殿が声を上げた。
「殆どのスペルカードにはちゃんと一定の動き方が存在するんだ。その動きを見極めるんだぜ!」
「動きを、見極める……」
「それと幸村が勝つためには全て避ける必要はないだろう?」
「……触れれば俺の勝ち、か。」
 魔理沙殿の助言を聞いて、ちるのが宣言したスペルカードの動きを見た。
「そぉれ! もういっちょっ!」
 ちるののすぺるかーどである〝あいしくるふぉーる”とやらは、先ず彼女の横に氷の弾幕が発射され、その後に向きが変わり、その弾幕がこちらに向かってくる。
「(まずは敵情視察だ)」

 何回かちるののすぺるかーどを観察しながら避けていた、そしたら……
「…………そこか!」
 ようやく見つけたのだ。弾幕が殆ど来ない空間。それはちるのの〝真正面”だった。
 後はそこへ向かい、ちるのに触れれば俺の勝ちだ。
「どうした幸村! あたいの弾幕に腰を抜かしたか?」
 弾幕が一旦止み、ちるのが次の攻撃に備えている途中に話しかけてきた。
「……なに、そなたの動きを見破っただけでござるよ?」
「はぁ!? そんな簡単に見破られるものか!」
 俺の挑発に乗ったちるのは弾幕を放ってきた。先ほどより弾幕の数が多いが。
「もう見切ったぁぁぁっ!」
 ちるのの氷の弾幕が放たれる。その瞬間に俺は走り出す。
「なにぃ!?」
 予想外の行動に驚くちるの。俺はそのまま走って彼女に近づいていく。
 彼女との距離まであと少し。だが、それと同時に両脇から弾幕が迫ってくる。
「うおおおぉぉぉぉっ!」
 あともう少しで彼女に触れる。そう思いながら右手を前に突き出した。



「…………」
「…………」
 俺の目の前には驚いた顔をしたちるのの顔がある。
 ちるのの放った弾幕は俺に当たらず、突き出した右手はちるのの肩を掴んでいた。
「俺の勝ち、だな。」
「…………」
 茫然としている彼女から手を離した。
「初めてな割にはやるじゃん! すげーな幸村!」
 魔理沙殿が笑顔で近づいてきた。
「魔理沙殿のおかげだ。」
「え?」
「あそこで魔理沙殿の助言を聞いていなかったら、きっと攻略方法が見つからなかったからな。」
「そ、そうかな?」
「あぁ! 助かったぞ魔理沙殿! この借り、必ずや返すぞ!」
「お、おう。そうか、でも借りを返すってそんな大げさな……」
「おい! 確か幸村って言ったな!」
 魔理沙殿に感謝の意を示していると、ちるのが大声を上げて俺に話しかけてきた。
 後ろを向くとるーみあと共に腕を組みながら宙に浮いていた。
「こ、今回はあたいが手加減したから幸村は勝ったんだからな! 勘違いするなよ!」
「うむ、俺もまだまだ精進する所存だ。」
「……〝しょうじん″とか〝しょぞん″って意味分からないけど、次は本気を出してやるからな! それまでちゃんと弾幕ごっこができるようになっとけよ! いいな!」
「ああ、約束するぞ!」
「! わ、わかったならそれでいいんだ! じゃあな!」
 そう言うと二人は俺たちに背を向けて霧の湖の向こう側へ行ってしまった。
「……さて幸村、そろそろ帰ろうぜ? 霊夢が心配すると思うぜ。」
「それはどういうことだ?」
「もう朝飯の時間過ぎてるぜ。」
「もうそんな時間か! 急がねば飯抜きにされる!」
 魔理沙殿に時間を知らされ、急いで走り出す。
「って俺を置いてくなよー!」
 

 この後、二人は遅くなった事に対して、霊夢に叱られたのは言うまでもない。
 
 

 
後書き
次回、幸村は霊夢と共に食器の買い出しに行くため香霖堂へ訪れる。そこで初めて幸村は自分以外の同性と出会う。
「幸村、香霖堂の店主と会うの巻」