遊戯王GX-音速の機械戦士-


 

-機械戦士-

 
前書き
注意事項が幾つかあります。
1、この小説は作者の自己満足の処女作です。
2、作者は文才、デュエルタクティクス共々皆無です。
3、元々回らないデッキを使ってるのでかなりのご都合主義です。

それでも良いという心の広い方、お入り下さい。 

 
 ――デュエルアカデミア。次世代のデュエリストを育成するために作られた、デュエルの専門高校である。その実技テストがここ、海馬ランドで開かれようとしていた。

(ってところだな。ナレーションは)

 ……俺の名前は黒崎遊矢。デュエルアカデミアを受けに来た受験生の一人で、筆記テストの順位は二番だった。

「それデーはこれよーり、入学テストの実技を始めるノーネ!」

 変なイントネーションで喋る白い外人の先生の挨拶が終わり、120番から5人ずつ、実技テストが始まっていった。

 スタジアムの上にある観客席で、多くの生徒は自分のデッキを確認していたり、俺を含めてぼーっと下の奴のデュエルを眺めていた。そんな時。

「デッキの再確認もしないとは、余裕なのかい、二番くん?」

 横から他の受験生に話しかけられた。白い服に身を包んだその男は、二番である俺の隣にいるということは、必然的にこの受験生のトップに存在する人間であるということだ。

「俺の名前は二番なんて番号じゃない。黒崎遊矢だ。お前の名前は?」

「おっと、すまない。自己紹介が遅れたな。俺の名前は三沢。三沢大地だ。よろしく」

 その一番の男は三沢大地と名乗りながら、お互いに頑張ろうという意味か手を出して来たので、とりあえず握手をしておいた。

「ところで、さっきの話だが、君は何故自分のデッキを再確認しないんだ?」

「そりゃあもちろん、決まってる。俺は自分のデッキの仲間を信じているからな」

 それを聞いた三沢は一瞬驚いたものの、すぐにその顔は笑みに変わっていた。

「驚いたな。クールそうに見えて、なかなか熱い奴じゃないか」

「そ、そうか?」

 俺のその反応が面白かったのか、三沢が失礼にも声をあげて笑う。外見でクールだと思われることはたまにあるが、そこまで笑われるとは心外だ。

「お前こそ」

「ん?」

「お前こそ何で、デッキを一回しか確認しないんだ?」

 我ながら小さいことをしたものだが、そのまま反撃とばかりに受けた質問を返してみると――

「俺は自分のデッキを信じているからな」

 ――と、ほとんど同じ答えが返って来た。三沢大地……こいつとは仲良くなれそうだ。それから三沢と雑談している内に受験は進んでいき、五番から一番。つまり、俺たちの番がやってきた。

「お互い頑張ろう、黒崎」

「黒崎じゃなく、遊矢って呼んでくれ。俺は名前の方が好きなんだ」

「……分かったよ、遊矢。お互い頑張ろう」

「ああ」

 ……しかしそんな三沢との会話に反して、デュエル場に着いて見れば、試験官の先生達数人の様子がおかしかった。

「どうかしたんですか?」

 名前を呼ばれてからデュエル場へと行く決まりだったが、気になったので近くの先生に聞いて見ると。

「いやあ、なんだがデュエル場の機械の調子が悪くてね。すまないが、直るまで待ってくれないか。」

「でしたら、俺が見てみましょうか? 機械には詳しいんです」

 先生方は少し考えたものの、門外漢な自分達が見るよりも、わざわざ言って来た俺に見せた方が良いと思ったのか、意外とあっさりとデュエル場を見ることを許してくれた。

 ……そしてそんな様子を、もう合格が決まった彼女、天上院明日香は見ていた。

 明日香は、新入生の実技テストを見に来ていた。だが、今年の一年生のレベルはあまり高いとは言えず、亮の弟というのも期待したほど強くなく、オシリス・レッドでギリギリだろう。退屈なのでそろそろ帰ろうかと思ったけど、一応最後まで見ることにした。

「モンスターで直接攻撃!」

「ぐあああああ!!」
 新入生のトップ、三沢大地のデュエルが終了する。流石はトップというべきか、彼のデュエルは一見してレベルが高い。

「流石は新入生のトップ、三沢大地だな」

「ええ…あそこが、最後のデュエルのようね」

 デュエル場の不具合で遅れていた場所だ。そこに立つ生徒…二番、黒崎遊矢。髪の色は漆黒のショートカット……顔立ちはまあまあ。そんな生徒、黒崎遊矢のデュエルが始まった。

「これより実技テストを始める。勝敗は結果に関係が無いから、落ち着いて、いつも通りのデュエルをするんだ」

 サングラスをかけ、青い服を着た先生が遊矢に向かって言う。遂に迎えたアカデミアの実技テストに、俺は一息深呼吸を入れた。

「はい。分かりました」

「「デュエル!」」

「先行は君に譲ろう」

「どうも。俺のターン、ドロー!」

 先攻を譲られた俺がまずはドローする。集まった六枚のカードを吟味しながら、まずはモンスターをデュエルディスクにセットする。

「よし、頼むぜ…俺は《マックス・ウォリアー》を攻撃表示で召喚!」

 三つ叉の槍を持った機械戦士が現れる。その瞬間、会場からどよめきが走った。

(やっぱりか…)

 この会場のざわめきは遊矢が予測していた通りの状態だ。

「え~と、君」

 聞きづらそうにしながらも、試験官の先生が遊矢に尋ねだした。自分の予想が外れていることを祈りながら。

「まさかと思うが、君のデッキは…」

「お察しの通り、ウォリアーと名の付いた戦士族中心の、【機械戦士】デッキです」

 その遊矢の一言によって会場のざわめきが更に大きくなる。受験を終えて見学していた受験生だけでなく、先生や上級生からも例外なく。
 ――おい、確か【機械戦士デッキ】って……

 ――ああ。噂のデュエルモンスターズ最弱のテーマデッキだ。

 ――え、あのデメリットカードしか入って無いって奴?

 ――何考えてるんだあいつ?

 そしてその波紋は一般生徒だけでなく明日香と亮も襲いかかっており、驚きながら会場の《マックス・ウォリアー》を見ていた。

「まさか、あのデッキを使ってる者がいるとはな」

「ええ。それも入学テストに。舐めてるのかしら?」

 生徒達が言っていることは、大体真実である。ほぼ全てのカードが、低レベル・弱小・デメリットカードという三重苦を抱えているため、デュエリストの間では、『デュエルモンスターズ最弱デッキ』と呼ばれている……それが【機械戦士】というデッキなのだ。

「君は一体、何を考えているんだね?」 対戦相手の先生も苦笑いである。その言葉に――遊矢はというと。

「うるせぇぇぇぇッ!!」

 叫んだ。力の限り、自らのデッキが馬鹿にされたと分かった瞬間、ほぼ反射的に。

「人のデッキにケチつけるのが、そんなに楽しいかお前ら……デュエルは勝ち負けじゃない。大事なのはデュエルしてて楽しいか楽しくないかだ! 俺はこいつらと一緒に戦えて楽しい! だから使っているんだ、他人にとやかく言う権利はない!」

 遊矢が突如として発した叫びに、会場は反応が追いつかずに先程とは逆に沈まり返っていた。……その沈黙を破ったのは。

「良いぞ~二番! もっと言ってやれー!」

 さっきまでいた受験生の中には見覚えのない、茶髪に黒い服の男子生徒だった。近くには三沢もいて苦笑いを浮かべている。……ああ、もっと言ってやろうじゃないか。

「それに、勝った方が楽しいからな。負ける気はないぜ。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
 
 ターンが回って来た相手の先生は真剣な表情を崩さず、静かに自分のデッキへと手を添えた。

「これも先生の務めだ。いつまでもファンデッキが通用しないことを君に教えてやる!」

「さあ、来いよ先生」

 ――楽しんで勝たせてもらうぜ!
 
 

 
後書き
まさかの入学テストが一回で終わらない斬新なラスト。…すいません。長くなりそうだったんです。感想・アドバイス待ってます。 

 

-マイフェイバリット-

 
前書き
第2話です。
相変わらず酷い文です。 

 
2ターン目

黒崎遊矢LP4000
フィールド
マックス・ウォリアー
攻撃表示
ATK1800
DEF800
リバースカード一枚

「私のターン、ドロー!」

 先生がデュエルディスクからカードを引く。これまで試験官の先生は、同時に同じデッキを使ってはいなかった。今回はどんなデッキが来るんだ?

「私は《ブラッド・ヴォルス》を攻撃表示で召喚!」

 斧を持った凶悪な風体をした魔人が、雄叫びと共にフィールドに現れる。

ブラット・ヴォルス
ATK1900
DEF1200

 攻撃力1900。1800のマックス・ウォリアーはより100ポイント上か。
「私のバトルフェイズ、ブラッド・ヴォルスでマックス・ウォリアーに攻撃!」

 斧による攻撃に、少しの時間だけ抵抗するものの、最終的にはマックス・ウォリアーは斬られて破壊されてしまう。しかしその破壊をトリガーにし、リバースカードが発動した。

「リバースカードオープン、《奇跡の残照》を発動! このカードの効果により、マックス・ウォリアーを復活させる」

 奇跡の残照……戦闘で破壊されたカードを特殊召喚できるトラップカードで、特に名前が気に入っている。

「私はカードを二枚伏せて、永続魔法、凡骨の意地を発動してターンエンドだ」

 凡骨の意地にブラッド・ヴォルス…間違いなく先生のデッキは、典型的な【凡骨ビートダウン】。通常モンスターの豊富なサポートカードを生かしたデッキだ。サポートカードが揃う前に速攻あるのみ。

「俺のターン、ドロー!」

 俺は引いたカードを手札に入れ、さらなるモンスターを召喚する。

「現れろ、《ガントレット・ウォリアー》!」

手に巨大なガントレットを付けた機械戦士が現れる。


ATK500
DEF1600

「攻撃表示? そんなモンスターをかね?」

「ええ、もちろん。…マックス・ウォリアーでブラッド・ヴォルスに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 三つ叉の機械戦士が魔人に向かって行く。そのままでは攻撃力が及ばずに観客からヤジが飛ぶが、マックス・ウォリアーには効果がある。

「マックス・ウォリアーの効果発動! 相手モンスターとバトルする時、攻撃力が400ポイントアップする!」

ATK1800→2200

 先程の恨みとばかりにブラッド・ヴォルスを連続切りによって破壊する。

「ちっ…」

先生LP4000→3700

「マックス・ウォリアー自身の効果により、マックス・ウォリアーの攻撃力、守備力は半分になり、レベルは2になります」

 マックス・ウォリアーからデメリット効果によって力が抜けていく。

 ――おいおい、半分とか使えないにも程があるだろ

 ――全く、何を考えているのか。

 そんなヤジが青い服をした集団――オベリスク・ブルーの方からそんな声が聞こえてきた。無視だ無視。

「続いて、ガントレット・ウォリアーでダイレクト――

「甘いぞ、トラップ発動、正当なる血統! ブラッド・ヴォルスを特殊召喚!」

――流石は先生……攻撃を中止してターンエンドです」

 正当なる血統は、墓地の通常モンスターを復活させるトラップカードだ。アカデミアの先生相手に、そうそう上手くはいかないな。

「私のターン、ドロー! 通常モンスターだ、更にもう一枚ドロー!」

 凡骨の意地、ドローして通常モンスターを引いた時、更にドロー出来るカードだ。デュエルキング、武藤遊戯が、親友である城之内克也に似ている。と発言したことで有名なカード。

「通常モンスターだ、更にドロー! ……これでドローフェイズを終了する」

 凡骨の意地により計三枚のカードを先生は引き、ようやくドローフェイズが終了する。

「そろそろこのデュエルを終わらせてもらおう! ブラッド・ヴォルスをリリースし、出でよ、《デーモンの召喚》!」

 雷を伴い、高位のデーモンが現れてきた。…やはりブラット・ヴォルスとは違う、上級モンスターなりのプレッシャーを感じる。

デーモンの召喚
ATK2500
DEF1200

「更に私はリバースカード、正当なる血統!」

 2枚目の正当なる血統だと……!?

「復活せよ、ブラッド・ヴォルス!」

 再び斧を持った魔人がフィールドに姿を現した。デーモンの召喚の攻撃力は2500。ブラッド・ヴォルスの攻撃力は1900。

 対するこっちは、マックス・ウォリアー攻撃力900。ガントレット・ウォリアー攻撃力500。……最高にヤバい。だけど、最高に、楽しい。

「デーモンの召喚でガントレット・ウォリアーに攻撃! 魔降雷!」

 ガントレット・ウォリアーは為すすべもなく、雷に砕け散っていく。

「ぐっ…」

遊矢LP3900→1900

「更にブラッド・ヴォルスで、マックス・ウォリアーに攻撃!」

「チィ…」

遊矢LP1900→1000

「私は愚かな埋葬を発動。デッキから《ネクロ・ガードナー》を墓地に捨てて、ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー! ……このターン、俺に出来ることはありません。ターンエンドです」

 その俺の一言に、会場中から落胆の声が上がる。

 ――なんだ、やっぱりこんなもんか。

 ――機械戦士デッキ…最弱ってのホントだったッスね。

 ――いや、まだあいつの目は死んでねぇ。何やってくるか、ワクワクするぜ!

 ……いや、一部、落胆じゃない声もあったか。

「私のターン、ドロー……これが世界の広さというものだ、黒崎くん。デーモンの召喚でダイレクトアタック! 魔降雷!」

 デーモンから放たれる雷が俺を襲う。ならその1人だけワクワクすると言ってくれた奴のために、まだ終わるわけにはいかないな!

「俺は手札から効果発動! 《速攻のかかし》!」

「何だと!?」

 デーモンから俺に放たれた雷を、現れたかかしが全て受ける。……あ、焦げた。

「速攻のかかしは、ダイレクトアタックを受けた時、手札から捨てることで、バトルフェイズを終了させるガードさ」

 さっきのターン、確かに俺は打つ手がなかった。……だが、このターンにはあったんだ。

「むう…私はデーモン・ソルジャーを攻撃表示で召喚し、装備魔法、《デーモンの斧》を発動! 攻撃力を1000アップさせる!」

デーモン・ソルジャー
ATK1900。
DEF1500。

デーモンの召喚
ATK2500→3500。

 悪魔が更に一人増えて、高位のデーモンの攻撃力が更に跳ね上がる。

「私はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺が引いたカードは…速攻魔法、手札断殺。まずはこのカードからこのデュエルの終幕が始まる……

「手札断殺を発動! お互い手札を二枚捨て、二枚ドロー! ……墓地に送った、リミッター・ブレイクの効果発動! このカードが墓地に送られた時、デッキ・手札・墓地から、スピード・ウォリアーを特殊召喚できる! 現れろ、マイフェイバリットモンスター、スピード・ウォリアー!」

『トアアッ!』

 旋風とともに現れたのがこのデッキのエース。その名も音速の機械戦士がフィールドに現れる。

「頼むぜ、スピード・ウォリアー! 更に速攻魔法、地獄の暴走召喚! このカードは、攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚された時、そのモンスターと同名カードを、デッキ・手札・墓地から特殊召喚する! 更に来い、スピード・ウォリアー!」

 デッキから二枚カードを引き抜きデュエルディスクにセット。

「そして相手は、フィールドにいるモンスターと同名カードをデッキ・手札・墓地から特殊召喚出来る。さあ、どうぞ先生」

「私はデーモンの召喚を更に2体召喚する!」

 巨大な悪魔が更に2体現れる。

「その悪魔ども、…ブラッド・ヴォルスは獣戦士だが…スピード・ウォリアーたちの結束で打ち破らさせてもらうぜ!」

「攻撃力1000以下のモンスターたちでどうするつもりだ?」

「……確かにスピード・ウォリアーの攻撃力は900だ。…だが、俺にはこのカードがある!」

 手札からカードをディスクにセットする。起死回生の一手となるべきカードを。

「装備魔法、団結の力! 団結の力は自分フィールド場のモンスターの数×800ポイント装備モンスターの攻撃力・守備力をアップさせる装備魔法カード。スピード・ウォリアー一体に力が集まっていき、スピード・ウォリアーの攻撃力は……

スピード・ウォリアー
ATK3100。

――すっげえー!やっちまえスピード・ウォリアー!

 観客席から歓声が聞こえてくる。ってか、さっきから歓声を上げているあの茶髪のことを見つつ、スピード・ウォリアーに攻撃を命じた。

「バトル。スピード・ウォリアーでデーモンの召喚に攻撃! ソニック・エッジ!」

 攻撃力3100となったスピード・ウォリアーの攻撃が、デーモンに迫る……が。スピード・ウォリアーの攻撃は、突如現れた戦士に止められていた。

「墓地のネクロ・ガードナーの効果を発動。墓地にあるこのカードを除外することで、一度だけ攻撃を無効化する。」

 先生が墓地にあったネクロ・ガードナーのガードを見せながら言う。

 ――あー惜しい! もう少しだったのによー。

 ……茶髪の野次がはいる。

「まだ君のターンだ。どうするつもりだ?」

 ……ああ、そうだ。まだ、俺たちの攻撃は終わっちゃいない!

「手札から速攻魔法、発動!」

「このタイミングでだと……?」

 流石の先生も驚いたのか、ネクロ・ガードナーを除外しながら警戒する。

「速攻魔法、ダブル・アップ・チャンス! このカードは自分のモンスターの攻撃が無効化された時、発動出来る。攻撃力を二倍にし、もう一度バトルが出来る!」

「な、何だと!?」

スピード・ウォリアー
ATK3100→6200

「スピード・ウォリアーで、デーモンの召喚に攻撃! ダブル・アップ・ソニック・エッジ!」

「ぐああああッ!!」
先生LP3700→0

「よっしゃあああッ!」

 勝った後に感極まって言う口癖を言っていると、起き上がった先生が近づいて来ていた。

「これで試験終了だ。おめでとう、結果は後日郵送で発表される。…それと、君のデッキを悪く言って悪かった」

 そう言ってぺこりと先生は頭を下げる。代わりに、こちらも似たようなポーズを取っていたが。

「いえいえ、こちらこそ熱くなってしまって……楽しいデュエルでした」

 こちらもぺこりと頭を下げると、先生の腕時計が見えた。――5時。その文字を見て、サーッと頭が冷える。

「あの、すいません、先生。実は5時から用事がありまして…」

「おっと、すまない。話は聞いている、行きたまえ」

「どうも、ありがとうございます。…では」

 走って試験会場を後にした。……俺で試験は終わっているはずだし、もう見逃すデュエルはあるまい。


 ――すごかったぜ今の二番…黒崎だっけ? のデュエル! 機械戦士デッキっての初めて見たけど、別に弱くねぇじゃんか。顔はバッチリ覚えたからなぁ今度会ったら、楽しいデュエルをしようぜ!!
さあ、俺の番はまだかーっ!!


 ――黒崎、遊矢。

 最初は機械戦士デッキなんて使ってると聞いて、デュエルアカデミアを舐めていると思ったけど、違った。

 彼は恐らく、機械戦士デッキを研究し尽くして来た。伊達にデュエルモンスターズ最弱のデッキと言われてはいないもの。

「面白いデュエルをする男だったな、明日香」

「面白い…か。確かにそうね」

 黒崎遊矢、面白い奴。そうして私は、頭に彼の名前をチェックしていた。 
 

 
後書き
遊矢の使用デッキである【機械戦士】は、イメージはシンクロモンスターとチューナーが無い遊星デッキです。
流石にキツイので、いつかシンクロモンスターを出します。
(エクシーズは未定) 

 

-クイーンとの邂逅-

 
前書き
今回はデュエルはありません。

明日香、ヒロインにしようかどうしようか… 

 
 実技テストから数日後、デュエルアカデミアから合格通知が届いた。……まあ、実技テストはギリギリだったが、筆記で二番だったから、そっちの方で優遇されたんだろうと思う。

 そして、これから太平洋にある、デュエルアカデミアに向かう為の飛行機に乗る時間である。……だか、現在俺は、

 ……走っていた。全速力で。


「遅れるっ……!」

 あと5分…全速力で走って、間に合うかどうかの距離か。そんな時、前を良く見ていなかったせいで、男の人とぶつかってしまった。結構な勢いでぶつかってしまった為、俺と男の人も揃って尻餅をついた。

「すまない、大丈夫か?」

 ぶつかってしまった人は尻餅をついてはいたが、怪我はなさそうだということを確認する。

「ああ、大丈夫だよ」

「それは良かった。では、急いでいるので!」

 相手の無事を確認したので、急いで走り出したところ。

「ああ、ちょっと待って」

 と、ぶつかってしまった男に呼び止められた。

「何ですか?」

 彼は笑みを浮かべながら、ベルトについていたミニバッグからカードを二枚取り出した。そして俺に差し出すと、ニヤリと笑ってこう言い放った。

「ラッキーカードだ。彼らは君の下へ行きたがっている」

「はい?」

 ……いきなり何をいいだすんだこの人は? というのがその時の感想だった。

「まあ、受け取ってくれ」

 彼は強引にカードを二枚押しつけると、手を降って去っていった。

「…何だ今の。って、時間が!」

 俺はぶつかってしまった男の見送りもそこそこに、ひとまずは飛行場に向かって走って行った。


 ……日頃の行いが良かったのか、それとも日頃きちんと運動していたから良かったのか、何とか間に合って俺は飛行機の席に座っていた。そして隣の席には、俺と同じく少々息を切らした三沢がいた。

「どうした三沢。お前はきちんと起きるタイプだと思ったが……?」

「いや、何。普段はそうなんだが、調べものに熱心になると時間を忘れてしまうんだ」
 三沢は苦笑いを浮かべながらそう言った。……はて、このデュエル・アカデミアに主席で合格する男の調べものとは何だろうか。

「調べものって、何をしたんだ?」

「それは勿論、君の【機械戦士】デッキのことさ」

「俺のデッキのことをか?」

 三沢の予想外の答えに俺は目を白黒させた。そんな俺の様子がおかしかったのか、三沢も少し吹き出していた。

「ああ、試験の時の逆転劇は凄かったよ」

「そりゃ……どうも」

 自分のデッキのことを褒められて悪い気はしない。だが、いつも馬鹿にされているので、急に誉められると妙にくすぐったい。

「しかし、【機械戦士】デッキは最弱のデッキなどと呼ばれていたが、かなり謎が多いデッキだったぞ」

「謎? ……そんな話は聞いたことが無いんだが、聞いてもいいか?」

 俺の言葉を聞いて三沢は逆に驚いていた。昔から、あまり噂話のようなことには、興味を引かれない性質ではあった。

「知らないのか?」
「ああ」

「そうだな……曰わく、ペガサス会長自らがデザインしたカードだ」

「……いきなり凄いのが出て来たな……」

 明らかにデマじゃないか、と流石に愕然としてしまう。

「ああ、いや、確かにこれは俺も驚いたが、これは正しくないようだ」

「まあ、だろうな……ただのコモンカードだろうに」

 俺の一言に三沢は、『いや、これがそうとも言えないんだ』という風に首を振った。

「いや、あのカードデザイナー、フェニックス氏が残したシリーズの内の一つらしい」

「……フェニックス氏!?」

 ――フェニックス氏。プラネット・シリーズなどのシリーズを描いたカードデザイナーだが、何者かに殺されてしまったために彼の作り出したカードはとても希少価値がある。

「おいおい、冗談は止めてくれよ三沢」

「いや、恐らくこれは真実だ。と、いっても、機械戦士たちに希少価値は無く普通にパックで当たるがな」

 これは俺の予想だが、と、三沢は前置きを言う。

「恐らく、フェニックス氏が新人の頃に書いたカードなんじゃないか?」

「なるほど。他には何か噂でもあるのか?」

「後は…そうだな。曰わく、【機械戦士】デッキは、カードの精霊が宿っている」

「……そこまで来るとオカルトだな……」

 俺はあまりオカルトは信用してはいない。絶対にない、などと頭ごなしに否定する気にはならないが、カードの精霊とやらはあまり信じることが出来なかった。

「ああ。この噂は流石に俺も信じられなかった」

「だろうな……そういえば、三沢のデッキはどんなデッキなんだ?」

 三沢は俺のデッキを知っているが、俺はデュエル場を直していたため、三沢のデュエルを見ていなかった。俺の質問に、三沢はふむ、と少し考える動作をして――

「いや、秘密にしておこう。そっちの方が面白そうだ」

 などとのたまった。……どうやらこいつ、ただの秀才という訳では無いらしい。

「おいおい、狡いじゃないか…と言いたいところだが、確かに、そっちの方が面白そうだ」

 ……そんな話を二人で笑いあって話していると。

「おい、見ろよ!島が見えてきたぞ!」

 その一言に皆で窓を見れば、そこにはデュエルアカデミア――俺たちがこれから三年暮らす学校があった。


 ……校長先生の長話が終わり、俺は黄色の服を渡された。

 ――ラー・イエロー。

 入学テストの筆記試験・実技試験ともに優秀な成績を収めた物が入れる寮だ。当然、一番である三沢も横で同じくラー・イエローの服を受け取っていた。

「三沢。お前だったら、特例でオベリスク・ブルーからでも良かったんじゃないか?」

 オベリスク・ブルーは中学からいる奴で、成績優秀な者、もしくは女子がいける。高校からである三沢は主席だろうとラー・イエローからだ。それを分かって言っている俺の冗談に三沢は笑う。

「まあ、俺がオベリスク・ブルーになるのは君と同じ時だな」

 軽口を言い合いながら、俺たちはラー・イエローの寮に向かった。

 コテージ風の雰囲気の良い寮の、各自一人ずつに用意された部屋に向かって、制服に着替えた。…いつも黄色い服を着ていなかったせいか、あまりしっくりこない。

 仕方ないので、制服の前のボタンを上げてジャケットのようにすることにした。すると……まあ、少しは見れるようになったと思う。

 部屋から出てみると、隣の部屋の三沢も着替え終わっていたようで廊下にいた。当然俺のように着崩してはおらず、見本のようにしっかりと着こなしていた。

「遊矢、歓迎会が始まるまで、もう少し時間がある。ちょっとここを散歩しに行かないか?」

「良い考えだな。」
 これからそれぞれの寮で歓迎会が開かれるそうだが、それにはもう少し時間がある。その前に俺と三沢は二人で散歩に行くことにした。

「こうしていると、自分がデュエルアカデミアに入ったことを実感出来るな」

 ラー・イエローの周りを散策中、三沢がそんなことを呟いた。

「そうだな…ちょっと、校舎の方に行ってみないか?」

「ふむ…ちょっと時間がギリギリだが、まあ大丈夫だろう。行こうか」

校舎の正門前に来ると、その本校の大きさに目を奪われる。一体中にはどれほどの設備があるのだろう。

「やっぱ大きいなぁ」

「ああ、ここが海馬兄弟が作ったという、デュエルアカデミアか…」

 海馬兄弟。海馬コーポレーションがここのオーナーだったな。確か。……そんな時、一人の女子が俺たちに近づいてきた。

「あなた達、三沢大地と黒崎遊矢でしょう?」

 話しかけて来た金髪の女子。染めたりはしていないような綺麗な色のロングヘアだった。

「そうだが、お前は?」

「私の名前は天上院明日香。あなた達のことを実技テストの時に見てたのよ」

「天上院明日香…と言うと、あのデュエルアカデミアのクイーンか?」

 三沢が聞き返す。そんなこと良く知ってるな。事前に調べているんだろうが。

 ……対する天上院は、その名前はあんまり好きじゃないんだけど、と頬を赤らめている。

「で、そのクイーンだかって呼ばれてる天上院は何の用だ?」

「クイーンって呼ばないで。明日香よ」

「分かったよクイーン」

「……明日香って言ったでしょ?」

「まあ、そんなに怒るなよ、クイーン」

「明・日・香!」

 アカデミアのクイーンはからかうと面白かった。三沢もやり取りがツボに入ったのか、顔を背けて明日香に見えないようにして笑っていた。

 ……そんな時。


「明日香さんに何してんのよあんたたち!」

 大声で叫びながら女子生徒二人が走ってきた。

「明日香様、ご無事ですか?」

 駆けつけた黒い髪の方がクイーン(笑)に話しかける。そして赤い髪の方がこちらを向き、強気に俺たちを威嚇してくる。

「で、あんたたちは明日香さんに何してんのよ!?」

「……何かしたか、三沢」

「君、やったのはこいつだ」

 先程のことをとぼけようとした俺に対し、三沢はこっちを指差してそう言った。……どうやら逃げることは出来ないらしい。

「あんたね! さあ言いなさい。明日香さんに何をしたの?」

「一人だけ助かる気か三沢!?」

 何故か興奮状態にある赤髪にクイーン(笑)が仲裁に入る。

「ちょっとジュンコ。私は特になにもされて無いわよ!」

「そうだ、そのクイーン(笑)の言ってる通り!」

「そうそう、……って(笑)って何よ!?」

 クイーン(笑)が反論して来る。そして、その肝心の説得を赤髪は聞いてなかった。

「あんた、黒崎遊矢ね!」

「ああ」

「……よし、デュエルよ!」

 ……おい、言葉のキャッチボールしようぜ?

「アタシが勝ったら明日香さんに何したか白状して明日香さんに土下座して貰うわ!」

「ちょっとジュンコ、落ち着いて」

「大丈夫ですわ明日香様。こんな運だけで入ってきた最弱デッキなんて蹴散らしてみせます!」

 ……カチンときた。

「やってやろうじゃないか。お前の名前は?」

 三沢がデュエルディスクを渡してくる。まさかとは思うが、あいつ、この展開を読んであんなこと言ったのか?

「枕田ジュンコよ」

 そう言って枕田もディスクを構えると、デュエルの準備を完了させた。

「さあて、このアカデミアの実力を見せてもらおうか!」

「フン、恥ずかしくて明日香さんに近づけないようにしてやるわ!」

「「デュエル!」」
 
 

 
後書き
こんな小説をお気に入り登録してくれた方、ありがとうございます!
出来ればどなたでも感想下さい。 

 

-疾走せよ-

 
前書き
相変わらずの酷い(略)
誰か、俺に文才とアストラルもビックリなぐらいのデュエルタクティクスをください! 

 
sideクイーン(笑)
明日香って言ってるでしょ!?
「どうしました、明日香さん…?」
近くにいるももえが怪訝な顔をして来る。
「いえ、何でもないわ。」
言えないわ…変な電波受信したなんて…
「私の先行、ドロー!」
ジュンコたちのせい…いや、おかげで予想外の展開になり、彼のデュエルをまた見れることとなった。恐らく三沢くんも見たかったのだろう、彼がデュエルするようにジュンコを誘導していた。…流石は筆記試験一番。敵に回したくないわ…
「私は手札から゛ハーピィ・クイーン゛を墓地に送り、゛ハーピィの狩り場゛を手札に加えるわ!」
「ハーピィの狩り場…なるほど。彼女のデッキは【ハーピィ・レディ】か。」
三沢くんが解説しながら近づいて来た。
「ええ。ジュンコは性格的に熱くなりやすいけど、なかなか強いわよ。」
「ああ。ところで、よろしく、クイー「明日香よ」明日香くん。」
他愛もない会話をしている内にデュエルが進む。
「私は、ハーピィ・レディ1を召喚するわ!」
ハーピィ・レディ1
ATK1300
DEF1400
「このカードの効果により、風属性モンスターの攻撃力は300ポイントアップするわ!」
ハーピィ・レディ1
攻撃力1300→1600
「どう?降参しなさい!」黒崎くんに向かってビシィッと指を指すジュンコ。いくらなんでもそれはムチャクチャよ…
言われた黒崎くんはあからさまに溜め息をした。
「あっ!ちょっと今溜め息したわねえ!!」
「したくもなるわ…ああ、そういえば聞きだいことがある。」
「何よ。」
「俺が負けたらそこのクイーン(笑)にしたことを白状し、土下座するんだ。だったら、お前たちに罰ゲームは無いのか?」
その言葉を聞いて、ジュンコは今初めて気づいたような顔をする…が。すぐにいつもの強気で自信がある顔に戻る。
「何でもいいわよ。私は必ず勝つからね。」
「分かった。じゃあ、罰ゲームはそこのクイーン(笑)にやってもらおう。
「「何でよ!?」」
いきなり話の矛先がこちらに向いてきたので流石に反論する。
しかし、反論にも彼は飄々とした様子で受け流す。「だって、お前は何でも良いと言ったじゃないか枕田。
それに、まさか俺に勝てる自信が無いのか?」
あからさまな挑発。当然、ジュンコには効果は抜群だ。
「いい度胸ね!!いいわ。その条件でやってやるわ!!」
「ちょっとジュン「大丈夫ですわ明日香さん!」…」
もう止められない。
「まだ私のメインフェイズ!通常魔法、゛万華鏡-華麗なる分身-発動!」
確かあれは、デッキ、手札からハーピィ・レディまたはハーピィ・レディ三姉妹を特殊召喚するカード。
…そういえば、三沢くんとももえはどこに行ったのかしら。
いた。ももえが三沢くんに猛アタックしていた。三沢くんはそれに丁寧に応対しながらデュエルを見ていた。あれじゃ解説にも回れないわね。
「万華鏡-華麗なる分身-の効果で、゛ハーピィ・レディ3゛を特殊召喚!」
ハーピィ・レディ3
ATK1300→1600
DEF1400→1600
「私は更にフィールド魔法、ハーピィの狩り場を発動!鳥獣族の攻撃力が200ポイントアップするわ!」
ハーピィ・レディ1
ATK1600→1800
ハーピィ・レディ3
ATK1600→1800
「私はカードを一枚伏せてターンエンド。」

ついに彼のターンだ…罰ゲームの話とかしていたせいで、長くなったわね…
そんなことはともかく、見せて貰うわよ黒崎遊矢!実技テストがまぐれかそうでないかを!
…でもそうすると、まぐれじゃなかったら私は罰ゲームを受けることになるのよね…
side遊矢
「俺のターン、ドロー。」
【ハーピィ・レディ】デッキか…今まで戦ったことのないデッキだな。
これだから、初めて戦う奴とのデュエルは面白いんだ。
さて、楽しんだ後は勝つ!
「楽しみながら勝つ!」
それが俺のデュエル!
(まずはあの厄介なフィールドからだな…)
「俺はカードを一枚伏せ、速攻魔法、゛ダブル・サイクロン゛このカードの効果により、俺とお前の魔法・罠カードを一枚ずつ破壊する!俺はハーピィの狩り場を破壊と、俺の伏せカードを破壊する!」
二対の竜巻が二枚のカードを飲み込む。
「くっ…ハーピィの狩り場が…だけどあんたの伏せカードも消す何て、馬鹿じゃないの?使えないカードねぇ。それ。」
あ?
「違うわジュンコ。使えないカードなんかじゃない。」
「明日香さん!?」
「そのカードは、自分のカードを破壊することに意味がある…そうでしょう?」
クイーン(笑)様は良く分かっていた。
「そこのクイーン(笑)の「明日香よ!」言う通りだ。墓地に送られたカードは、リミッター・ブレイク!このカードが墓地へ送られた時、デッキ、手札、墓地からスピード・ウォリアーを特殊召喚できる。デッキから守備表示で現れよ、スピード・ウォリアー!」
スピード・ウォリアー
ATK900。
DEF400。
「更に手札からダッシュ・ウォリアーを攻撃表示で召喚!」
ダッシュ・ウォリアー
ATK600。
DEF1200。
「攻撃力600を攻撃表示?あんた、やっぱ素人でしょ?」
数分後の君の顔が楽しみでしょうがないよ。
「バトル。ダッシュ・ウォリアーで、ハーピィ・レディ1に攻撃する!マッハ・エッジ!」
ダッシュ・ウォリアーの攻撃がハーピィ・レディ1に迫る。
「ダッシュ・ウォリアーの効果発動!このカードが攻撃する時、攻撃力は1200ポイントアップする!」
ダッシュ・ウォリアーATK600→1800
「まさか、相討ち狙い!?」違うね。
ダッシュ・ウォリアーの攻撃により、ハーピィ・レディ1は倒される。
ジュンコLP4000→3700
「ちょ、ちょっと何でよ!あんた、イカサマでもしてんの!?」
「違うわよ、ジュンコ。アナタのせい。」
「クイーン(笑)はやっぱり分かってるな。」
「明・日・香!…コホン。ジュンコ。ハーピィ・レディ1はフィールド場全ての風属性モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる効果よ。それがたとえ相手モンスターでもね。…勉強不足よ、ジュンコ。」
ダッシュ・ウォリアーは風属性モンスター。伊達に筆記試験二番じゃない。
「俺はカードを一枚伏せてターンエンド。」
「私のターン!!ドロー!!」
おお、気合い入ってんな。
「これで終わりよ!リバースカードオープン!゛ヒステリック・パーティー゛!!」
何だと!?不味い。油断していた。
「手札を一枚捨て、墓地からハーピィ・レディを可能な限り特殊召喚できる!来なさい!ハーピィたち!」
ハーピィ・クイーン
ATK1900→2200。
DEF1200。
ハーピィ・レディ1
ATK1300→1600
DEF1400
ハーピィ・レディ2
ATK1300→1600
DEF1400
ハーピィ・レディ3
ATK1300→1600
DEF1400
ハーピィ・レディ2は、今手札から墓地に送られたカードだろう。
「更に万華鏡-華麗なる分身-を発動!デッキからハーピィ・レディ三姉妹を特殊召喚する!」
ハーピィ・レディ三姉妹
ATK1900→2200
DEF2100
ハーピィ・レディシリーズ揃いぶみだな。なかなか良い眺めだ。
「あんた、余裕そうな顔してるじゃない!!この状況で!!」
枕田から怒鳴りつけられる。…お前、叫びすぎだろう。
「これで終わりよ!ハーピィ・レディシリーズでスピード・ウォリアーに攻撃!トライアングル・X・スパーク・ファースト!」
「リバースカードオープン!強制終了!このカード以外のカードをリリースすることで、バトルフェイズを終了させる!スピード・ウォリアーをリリースする!」
強制終了をリリース!とかは良い思い出です。スピード・ウォリアーがハーピィ・レディたちに突っ込んでいき、身を呈して俺とダッシュ・ウォリアーを守ってくれた。
「ありがとうよ、スピード・ウォリアー。」
「だ、だけどそんなの只の時間稼ぎにしかならないわ!私はこれでターンエンドよ!!」
時間稼ぎねぇ。まあ、そうなんだけどさぁ。
「俺のターン、ドロー!…おい、そこの三沢!」
皆忘れてないか?
三沢の方を見ると、黒髪の女子に何やら言い寄られている。…あとでからかってやろう…
「な、なんだ遊矢!」
「歓迎会まで後何分だっけか?」
三沢は時計を確認する。
「あと5分ってところだ。そろそろ帰る時間だな。」三沢の一言に枕田が反応する。
「ちょっとあんた!負けそうだからって逃げる気じゃないわよねぇ!?そんなことしたら、土下座を全校生徒の前でやってもらうんだから!!」
「それは勘弁…てかそんなことしねェよ枕田。…そろそろ、このデュエルも終わらせるって意味だよ!」
「「何ですって!?」」
念のために言っておくが、今のは枕田とクイーン(笑)だ。
「まず通常魔法、ウエポンチェンジを発動!700のライフを払い、ダッシュ・ウォリアーの攻撃力と守備力を入れ替える!」
ダッシュ・ウォリアー
ATK900→1500
DEF600
「更に装備魔法、ファイティング・スピリッツをダッシュ・ウォリアーに装備する。このカードの効果は相手モンスターの数×300ポイント装備したモンスターの攻撃力をアップさせる!!」
ダッシュ・ウォリアー
ATK1500→3000
「たっ、確かに上がったけど、まだ終わらないわね。私がハリケーンをひけばそれで終わりよ!」
枕田の言葉にニヤリと笑う。
「いや、このターンで終わりだ!更に装備魔法、゛進化する人類゛発動!このカードは、自分のライフポイントが相手より下の時、このカードの元々の攻撃力を2400にする!」
ダッシュ・ウォリアー
ATK2400→2700→4200
「攻撃力…4200…で、でもまだ!」
「ダッシュ・ウォリアーでハーピィ・レディ1に攻撃!レヴォリューション・マッハ・エッジ!」
進化する力を得たダッシュ・ウォリアーがハーピィたちに攻撃する。
「ダッシュ・ウォリアーの効果発動!このカードが攻撃する時、攻撃力が1200ポイントアップする!
ダッシュ・ウォリアー
ATK4200→5400
「え!?きゃあああああっ!!」
ジュンコLP3700→0
「よっしゃああああああああッ!!楽しいデュエルだったぜ、枕田!!」
「わ…私が負けた…」
side明日香
ジュンコが押していたように見えたが、黒崎くんのコンボによって逆転されてしまった。
確かに、ダッシュ・ウォリアーの効果を使えば、進化する人類一枚で攻撃力は3600になる。
彼が勝っているのは運じゃない。自分のデッキのカードを知り尽くしているからだ。…亮に、良いお土産話が出来たかもしれない。
「偶然よ、こんなの!!まぐれだわ!!」
「はいはいジュンコ。自分の負けを認めないのはあなたの悪い癖よ。」
「だって明日香さん、こんな奴とこんなデッキに負けるなんてぇ…」
黒崎くんの眉間にシワが寄る。それは、誰だって自分のデッキを馬鹿にされたら腹がたつ。
「ごめんなさいね黒崎くん。でも、良いデュエルを見せてもらったわ。ありがとう。」
そうしてブルー女子寮へ帰ることにした…
「待てクイーン(笑)」
「明日香よ!」
しまった。つい振り返ってしまった。
「罰ゲーム、忘れてるぜ。」
神は私を見放したわ。
どんなことを言われてしまうんだろう。ごめんなさい、亮。私、今日は灯台に行けないかもしれない…
「俺のこと、遊矢って呼んでくれ。」
「え?」
「だから、俺のことを名前で呼んでくれ。俺は名前の方が好きなんだ。」
「あ…ええ、分かったわ遊矢。」
恥ずかしい。
さっきまでの自分は何だったのか?
「どうした、顔が赤いぞ。まさか、罰ゲームって変なこと想像してたのか?これだからクイーン(笑)は…。」
「そっ想像なんてしてないし、クイーン(笑)じゃない!!」
私の一言に笑いながら、
「分かってるよ明日香。またな!!」
三沢くんと二人でラー・イエローの寮に走って行った。
「最後には明日香って言ってくれたわね…黒崎遊矢。面白い奴。」 
 

 
後書き
ダッシュ・ウォリアーの攻撃力がいきなり3600になる回でした。

一つ悩みがあり、遊矢のデッキが【装備ビート】よりなのもあり、攻撃力を上げて殴るしか今のところ無いんですよね…

感想・アドバイス・待ってます。
 

 

-サイバー・ガール-

 
前書き
今回は少し長めになっています。

流石にメインキャラは強いです。 

 
side遊矢

現在の時刻、夜9時。
早い者はもう眠りにつき、だいたいの者は自分の趣味の時間を過ごしているのだろう。
俺?俺はちょっと出掛けるところだ。
本持った。OK。
デッキ持った。OK。
クーラーボックス。OK。
そしてこいつだ!俺のなけなしの金をつぎ込んで買った釣り竿!!
俺は元々、釣りが好きである。朝、三沢と散歩した時に森の中にナイスな池を発見したので、行ってみることにしたのだ。
もちろん、寮長の樺山先生の許可は得ている。
「食堂に寄付してくれるなら釣ってきても構いませんよ。」
と、いうことだ。
更にこの釣り竿。かなり俺の魔改造がされており、色々なギミックを搭載している。今から使うのもその一つだ。
部屋の窓を開け、釣り竿をスナイパーライフルのように持ち、近くの木に狙いを定める。
「いけっ!」
スイッチを押すと、釣り針と釣り糸が一直線に飛んで木に刺さる。
そしてもう一度スイッチを押すと、釣り竿が針がある方向へ引っ張られる。釣り竿を持っていた俺は当然。
「イャッホー!」
飛ぶ。
木の近くに着地し、針を木から抜く。
ゼルダの伝説のフックショットといえば分かる人には分かるかな。by作者
ん?…何か変な電波受信した…まあいいか。
俺は釣り竿を折りたたんで、(改造)池に向かった。


side明日香
いつもの灯台での亮と兄さんについての情報交換は二人とも手がかりは無く終わった。
だから話が自然と世間話となった。
話題は当然遊矢の話。
「【機械戦士】の遊矢、やっぱり強かったわ…ジュンコの引きは悪くなかったのに、すべてジュンコの上を行ってLPを1も削られなかったもの。」
「そうか…」
そう言って考え事に入る亮。話している相手が目の前にいるのにその態度はどうなのかしら?もう慣れたけど。
「何か考え事?」
「ああ…黒崎、遊矢…あいつのデュエルには、俺のデュエルには無いものを持っている…そんな気がするんだ…」
「亮のデュエルには、無いもの…?」
それは小型のモンスターを並べることは亮のデュエルには無いものだけど…そういうことではないだろう。
「それを知るために、俺は奴とデュエルをしてみたいんだ…」
デュエルをしたい。
只それだけのことが亮には出来ない。良くも悪くもカイザーという名前が足を引っ張ってしまう。どうしようと、彼は目立つのだ。彼自身は目立ちたがりやでは無いのに。
「遊矢とデュエルする方法、ね。私も考えておくわ。」
「いつの間にか黒崎遊矢と親しくなったのだな、明日香。」
「え!?」
亮のいきなりの一言にビックリしてしまった。
「随分親しげに名前を呼んでいたと思ったが…違ったか?」
「ああ、いや、実は…」私は亮に罰ゲームについて話した。
「なるほどな。」
「ええ、そういう理由なのよ…そろそろ、今日は帰りましょうか。」
「ああ。」
二人で灯台からブルー寮へ向かった。


ブルー男子寮前で亮と別れて、私はブルー女子寮に向かう前に、兄さんが行方不明になった廃寮に向かった。
いつも通り何もなかったけど、帰り道にいつもと違うものがあった。
森の池で釣りをしている、黒崎遊矢だった。



side遊矢
入学初日に色んなことがあるなこの学校は。
三沢から聞かされた【機械戦士】たちの噂。
ブルー女子、枕田ジュンコとのデュエル。
そして、朝渡された『ラッキーカード』二枚。
両方とも聞いたことも見たことも無いカードだった。(片方はまだ使えるが、もう片方は重いな。)
二枚のうち、一枚を投入することにした。
「そんなところで何してるの?」
声をかけて近づいて来たのは、クイー…ではなく、明日香だった。
「見て分からないか?釣りだよ釣り。」
「へぇ…釣りが趣味なの?あ、隣良いかしら?」
「どっちの質問にもイエスだ。」
それじゃあ失礼します、と前置きをして明日香が隣に座る。
「そういえば明日香、昼間は枕田に横槍を入れられてしまったが、結局何の用だったんだ?」
昼間は明日香から話し掛けて来たからな。
「それは当然、これよ。」
そう言って明日香はデッキを出す。
「デュエルか?アカデミアのクイーン(笑)が、何で俺なんかに。」
クイーン(笑)はもう止めて…とうなだれる明日香。
「入学実技テストで、あなたと三沢くんと、もう一人は生徒みんなに注目されているわよ。知らなかったの?」
「知らないな。」
「まあ、そういう理由なんだけど、何故か私はあなたに一番注目したの。」
明日香の一言に硬直する。
「そ、そんなに驚かないでよ…こっちまで恥ずかしいじゃない…」
頬を赤くしてそっぽを向く明日香。
ヤバい。超可愛い。…それはともかく。
「自分が注目した人物がどれだけの強さか確かめたい。ってことか?」
俺の言葉を肯定するようにコクリと頷く明日香。
「と、言ってもなぁ…デッキは持ってるが、ディスクは流石に持ってないぞ。」
「それなら大丈夫よ。ちょっと待ってくれれば、ブルー女子寮から取って来れるわ。…というか、デュエル自体はしてくれるのかしら?」
「デュエルを断る理由がどこにある。」
「ふふ。それもそうね。」
そう言って明日香がブルー女子寮の方へ走っていく。
さて、『ラッキーカード』の重い方は使わないエクストラデッキにでも入れとくか。


程なくして明日香がデュエルディスクを二つ持って来た。
「さて、デュエルアカデミアのクイーン(笑)の実力を見せてもらう。」
「そ、そのクイーン(笑)っていうの止めてくれない…恥ずかしいから…」
「お前が勝ったら止めてやるよ。」
さあて、俺も明日香も準備OKだ!
行くぜ!
「「デュエル!!」」

俺のデュエルディスクに『後攻』と表示される。「私の先行、ドロー!」
こちらが後攻なのだから、当然明日香が先行だ。
「私はサイバー・ジムナティクスを守備表示で召喚!」
サイバー・ジムナティクス
ATK800
DEF1800
「サイバー・ジムナティクス…?」
「ええ。私のデッキはサイバー・ガールデッキ。その力を見せてあげるわ。カードを一枚伏せてターンエンド。」サイバー・ガールね…こっちの【機械戦士】の親戚か何かか?
まあいいか。
「楽しんで勝たせてもらうぜ、俺のターン。ドロー!」
よし、今回はこいつだ。
「俺はジャスティス・ブリンガーを攻撃表示で召喚!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000
「更に装備魔法、アサルト・アーマーをジャスティス・ブリンガーに装備する。このカードの効果によって、ジャスティス・ブリンガーの攻撃力は300ポイントアップ!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700→2000
「これでサイバー・ジムナティクスの守備力を上回った!攻撃だ、ジャスティススラッシュ!」
ジャスティス・ブリンガーの剣がサイバー・ジムナティクスを斬りつけて墓地に送る。
「ターンエンドだ。」
「私のターン、ドロー。…リバースカードオープン、リビングデッドの呼び声!自分の墓地からモンスター一体を復活させる。蘇れ、サイバー・ジムナティクス!」
再び体操選手のような、サイバー・ガールがフィールドに現れる。

「そしてメインフェイズ、サイバー・ジムナティクスのモンスター効果を発動!手札を一枚捨て、相手の攻撃表示モンスターを破壊することが出来る!」
「させないぜ明日香!ジャスティス・ブリンガーの効果を発動!特殊召喚されたモンスターの効果を1ターンに一度、無効に出来る!」
ジャスティス・ブリンガーの剣から衝撃波がでて、サイバー・ジムナティクスを痺れさせる。
「くっ…なら、私はサイバー・ジムナティクスをリリースし、サイバー・プリマをアドバンス召喚!」
バレリーナの格好をしたサイバー・ガールが神々しく姿を現す。
サイバー・プリマ
ATK2300。
DEF1600。
「サイバー・プリマのモンスター効果を発動するわ!このカードがアドバンス召喚に成功した時、フィールド場に存在する魔法カードを全て破壊する!」
「何ィ!?」
アサルト・アーマーは魔法カード。当然破壊され、ジャスティス・ブリンガーの攻撃力は下がる。
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700→2000→1700
「私は更に永続魔法、連合軍を発動!」
連合軍…たしか、自分フィールド場にいる戦士族モンスターの攻撃力を自分フィールド場にいる戦士族・魔法使い族モンスターの数×200ポイント攻撃力をアップさせる魔法カード…サイバー・ガールの数が揃うと不味いな…
サイバー・プリマ
ATK2300→2500
「行くわよ!サイバー・プリマでジャスティス・ブリンガーに攻撃!終幕のレヴェランス!」
サイバー・プリマの華麗なる攻撃の前にジャスティス・ブリンガーは呆気なくやられてしまう。
「くっ…ジャスティス・ブリンガーが…」
遊矢LP4000→3400
「私はこれでターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!」
よし。この手札なら…
「明日香、俺のデッキに入っている中での最強の機械戦士を見せてやるよ。…俺は手札断殺を発動!お互いのプレイヤーは手札からカードを二枚捨て、二枚ドロー!」
墓地に送ったカードはもちろんあのカード。
「墓地に送ったカード、リミッター・ブレイクの効果発動!デッキ・手札・墓地から、スピード・ウォリアーを特殊召喚出来る!」
デッキからカードを一枚抜き取る。
「出番だ!マイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー!」
ただし守備表示。
「更に手札からスピード・ウォリアーを守備表示で通常召喚する。」
『『トアアアッ!!』』
スピード・ウォリアー×2
ATK900
DEF400
「そのモンスター達で時間を稼ごうと言うの?甘いわよ。」
「違うね。これは勝利への第一歩だ。…自分フィールド場に守備表示でモンスターがニ体存在する時、手札から特殊召喚出来る!現れろ、バックアップ・ウォリアー!!」
二丁のライフル、三つの大砲を持つ兵隊が特殊召喚される。
バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0
「それでも攻撃力は2100。サイバー・プリマには適わないわ!」
「それはどうかな。俺のメインフェイズはまだ終わってないぜ?更に俺は、バックアップ・ウォリアーをリリースし、手札からターレット・ウォリアーを特殊召喚!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200。
DEF2300。
「せっかくのバックアップ・ウォリアーをリリースするの?」
「ターレット・ウォリアーは、戦士族モンスターをリリースすることで特殊召喚でき、攻撃力はリリースした戦士族モンスターの元々の攻撃力分アップする!!仲間の力を得よ、ターレット・ウォリアー!!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200→3300
「攻撃力3300ですって!?」
「これでサイバー・プリマの攻撃力を上回った!行け、ターレット・ウォリアー!サイバー・プリマに攻撃!リボルビング・ショット!!」
ターレット・ウォリアーから放たれた砲弾がサイバー・プリマを貫く。
「きゃあっ!!」
明日香LP4000→3200
「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド。」
今のところ、俺と明日香は互角だと思われる。一進一退の攻防戦…とは、こういうことを言うのかもな。
「このデュエル、最高に面白いぜ、明日香!!」
「ええ、私も…でも、勝つのは私よ。私のターン、ドロー!」
明日香がカードを引く。ターレット・ウォリアーを倒すカード、出て来るか…?
「私は手札から融合を発動!」
「融合だと!?」
「あなたのターレット・ウォリアーが機械戦士たちの切札だと言うのなら、これこそがサイバー・ガールたちの切札!手札のエトワール・サイバーと、ブレード・スケーターを融合!これが最強のサイバー・ガール!サイバー・ブレイダー!!」
サイバー・プリマと同じく、バレリーナのような格好をしたモンスターだった。
サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800
サイバー・ブレイダーの効果発動!相手フィールド場に存在するモンスターの数が三体の時、相手フィールド場に存在する魔法・罠・効果モンスターの効果を全て無効にする。パ・ド・カトル…って、言っても意味ないけどね。」
「ああ。ターレット・ウォリアーの効果は召喚ルール効果だからな。」
詳しくは遊戯王wikiを見てねby作者
「私は通常魔法、強欲な壺を発動し、デッキから二枚ドロー。」
強欲な壺…無条件にカードを二枚ドローするカード。俺のデッキには今のところ入ってないな。手札断殺とリミッター・ブレイクのコンボもあるし。
「サイバー・チュチュを攻撃表示で召喚!」
サイバー・プリマを小さくしたようなサイバー・ガールが現れた。
「永続魔法、連合軍の効果により、私のフィールド場にいるサイバー・ガールは攻撃力がそれぞれ400ポイントアップする!」
サイバー・ブレイダー
ATK2100→2500
サイバー・チュチュ
ATK1000→1400
「バトル!サイバー・チュチュでスピード・ウォリアーを攻撃!ヌーベル・ポワント!!」
サイバー・チュチュの攻撃にスピード・ウォリアーがやられてしまう。
「この瞬間、遊矢のフィールド場にいるモンスターの数がニ体になったことにより、サイバー・ブレイダーの二つ目の効果を発動!サイバー・ブレイダーの攻撃力は二倍になる!パ・ド・ドロワ!!」
「攻撃力が倍だと!?」

サイバー・ブレイダー
ATK2100→2500→5000
これが明日香の、サイバー・ガールたちの切札、『サイバー・ブレイダー』の力。能力は不安定ながらも、どれも強力だ。
「サイバー・ブレイダーでターレット・ウォリアーに攻撃!グリッサード・スラッシュ!!」
「ぐああああッ!!」
遊矢LP3400→700今のは効いた…ライフポイントが大きく削られてしまった。
「更に手札から速攻魔法、プリマの光を発動!このカードはフィールド場にいるサイバー・チュチュをリリースし、サイバー・プリマを特殊召喚出来る!出でよ、サイバー・プリマ!!」
本日二度目となる登場、サイバー・プリマ。特殊召喚なので効果は発動しない。
サイバー・プリマ
ATK2300→2700
DEF1600
「プリマの光は速攻魔法。つまり、私はまだバトルを行うことが出来る!終幕のレヴェランス!!」
ニ体目のスピード・ウォリアーがやられて、俺のモンスターゾーンはがら空きだ。
「私はこれでターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!…明日香、楽しいデュエルだったが、このターンで終わらせるぜ!」
「なんですって!?…この状況からどうやって…?」
「ああ、それと、一つ訂正することがある。さっきお前はターレット・ウォリアーのことを切札と言ったが、そいつは間違いだ。」
俺の言葉に流石に驚く明日香。
「じゃあ、まさか、あなたのデッキには更に強力な機械戦士がいると言うの!?」
その明日香の問いには首を振る。
すなわち、否定。
「いいや、ターレット・ウォリアーが俺の最強のカードだ。元々、機械戦士は攻撃力は高くない。俺の切札は俺と機械戦士たちの絆!どんなことがあろうと、俺はこいつらを信じる!それが俺の切札だ!」
いくら最弱と呼ばれても、俺はこいつらと戦い抜いてみせる。
「俺はマックス・ウォリアーを召喚!」
三つ叉の機械戦士、登場。
マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800
「そして機械には、強化パーツってのが必要不可欠だぜ?リバースカードオープン、リミット・リバース!墓地の攻撃力1000以下のモンスターを復活させる!現れろ、セカンド・ブースター!」
セカンド・ブースター
ATK1000
DEF500
「機械族モンスター!?」
「更に手札から速攻魔法、地獄の暴走召喚!特殊召喚したセカンド・ブースターを更にニ体召喚!」
「私は墓地からサイバー・プリマを復活させるわ。」
流石に三積みはしていないか。サイバー・プリマ。
「私のフィールドに戦士族モンスターが増えたため、連合軍の効果で、攻撃力が更にアップする!」
サイバー・ブレイダー
ATK2100→2700
サイバー・プリマ
ATK2300→2900

「更に速攻魔法、禁じられた聖杯を発動!対象のモンスターの攻撃力を400ポイントアップさせることで、そのモンスターの効果を無効にする…対象は当然、サイバー・ブレイダー!!これでサイバー・ブレイダーの三つの効果を無効にさせてもらうぜ!!」
サイバー・ブレイダー
ATK2100→2700→3100
「そしてこいつが本命だ!三体のセカンド・ブースターの効果発動!このカードをリリースすることで、対象のモンスターの攻撃力を1500ポイントアップさせる!対象はマックス・ウォリアー!!」
マックス・ウォリアー
ATK1800→6300
「攻撃力6300!?」
「マックス・ウォリアーで、サイバー・ブレイダーに攻撃!!マックス・ウォリアーは戦闘時、攻撃力が400ポイントアップする!!」マックス・ウォリアー
ATK1800→6300→6700
「攻撃力…6700!?」
マックス・ウォリアーの三つ叉がサイバー・ブレイダーを捉える。
「トリプルブースト・スイフトラッシュ!!」
「きゃあああああっ!!」
明日香LP3300→0
「よっしゃああああっ!!楽しいデュエルだったぜ、明日香!!」
「負けたわ…完敗ね…」
「いいや、危なかった。ギリギリの差だったな。」
「そう言ってくれると嬉しいわ…いけない、もうこんな時間じゃない。今日は楽しかったわ、ありがとう。」
「いや、こっちこそ。」
「それと、その…」
途端に頬を赤くする明日香。
「また明日も、ここにいる?」
「え?」
「いや、べ、別に変な意味じゃないわ。た、ただ気になっただけよ…」
「明日か…気分次第だな。釣りがしたくなったらいるが、他の釣り場かもしれないからな。」
「そ、そう。なら、あなたが釣りをしている時、今日みたいに隣に座って話してもいいかしら?」
明日香から妙な提案が出される。
「別にいいぞ。話相手がいた方が面白いからな。」
「わ、分かったわ。それじゃ、今日はこれで!!」
そう言って明日香はデュエルディスクを二つ持って走っていった。
「さて、俺もそろそろ帰るか。」
釣り道具や本を片付ける。
そうそう、明日から出来るだけ、ここに釣りに来るようにしないとな。 
 

 
後書き
明日香戦でした。
明日香だって弱めのファンデッキですよね(笑)

…フラグってどうやって建てるんだろう…?

感想、アドバイス待っています!
※サイバー・ブレイダーの効果でターレット・ウォリアーの効果は無効になるかは作者周辺でも議論されていて、今回は見逃してください。 

 

-互いのフェイバリット-

 
前書き
やっと原作主人公と遭遇出来ました。

デュエル書くの難しい。 

 
side遊矢
ここ、デュエルアカデミアには、当然だがデュエルの授業がある。まだ一年生ということもあるからか、基本的。かつ、大切なことを学ぶ授業だった。
「…以上が、魔法カードの詳細です。」
今も明日香が魔法カードについてきっちりと説明していた。
「それでーは~シニョール遊矢!装備魔法について答えるノーネ!!」
俺かよ……。
「装備魔法は、永続魔法とは違い、一体のみに効果を与えるカードです。対象は一部のカードを除き相手モンスターにも可能であり…」
割愛。
「スプレンディード!流石は装備魔法を良く使っているだけあるノーネ。」
あの色白の先生…クロノス教諭は、エリートありき、という考え方のようであるらしく、オベリスク・ブルーに入れる成績があるため、俺や三沢には目をかけていた。
そのせいで、俺たちはオシリス・レッドの奴から白い目で見られているが。
「シニョール翔!フィールド魔法について答えるノーネ!」
当てられた翔という奴は緊張しているようで、
「えっと…あの…」
を繰り返している。
「もう良いノーネ。オシリス・レッドではこの程度なノーネ。」
言い方は酷いが、クロノス教諭の言っていることは正しい。
それが分かっているのか、隣の三沢も複雑な顔をしていた。
「でもさぁ先生、オシリス・レッドの俺でも、先生に勝っちゃうんだから、そんなん関係ないんじゃないかぁ?」
茶髪のオシリス・レッド生がそう言う。
…確かあいつ。実技テストの時に歓声を上げてた奴だよな…
そんなことを考えている内に授業が終わり、俺は三沢に話かけていた。
「なぁ三沢。あの茶髪って誰だか知ってるか?」
「相変わらず君はデュエルの時以外はどこか抜けているな。」
「む。どういう意味だよ?」
「いや、そのままの意味だが…まあいい。」
三沢はそこで一旦言葉を切る。
「彼の名前は遊城十代。筆記試験はイマイチだが、入学試験でクロノス教諭の【暗黒の中世】デッキに勝った実力者だ。」
「俺のこと、呼んだか?」
いきなり茶髪…遊城十代がさっきの翔を連れて歩いてくる。
「よお三沢!久し振り!」
「ああ、久し振りだな、十代。」
遊城十代と三沢が親しげに挨拶をした。
「ん?2人は知り合いだったのか?」
「入学試験で知り合ったんだ。君は途中で帰ってしまったからな。」
「あんた、機械戦士デッキの遊矢だろ!?俺の名前は遊城十代!十代って呼んでくれ!!」
どうやら、随分元気な奴なようで。
「まずいッスよアニキ…黒崎遊矢ってオシリス・レッドで八百長野郎って噂になってたじゃないッスか…」
十代に耳打ちしながら俺に聞こえるように言うとはなかなか器用だな。
「そんなん只の噂じゃんか!!なあ遊矢、デュエルしようぜ!!実技テストの逆転、すげぇワクワクしたぜ!!」
「デュエルか…放課後ならいいぞ。」
「よし、決まりだ!放課後、オシリス・レッドのデュエル場まで来てくれよな!!」
その一言と共に、次の授業のチャイムが鳴った。


で、放課後。
一旦ラー・イエローまで戻り、デュエルディスクを持ってオシリス・レッドまで三沢と2人で向かおうとしたところ、明日香がいた。
「十代とデュエルするらしいわね。私も一緒に行ってもいいかしら?」
「別に構わないが…お前も十代と知り合いなのか?」
「ええ。ちょっと挨拶をした程度だけど。」
そう言って三人でオシリス・レッドへ歩き出す。
「明日香くんも、このデュエルには興味があるのかい?」
「ええ。注目の三人の内2人のデュエルですもの。」
「注目の2人?」
三沢と明日香に聞いてみると呆れ顔をされた。
「何故君は自分の噂に無頓着なんだ?」
「何故って言われてもなぁ…」
三人で話し合っていると、オシリス・レッドのデュエル場に着いた。

十代はもう既にデュエルディスクを持って、準備OKだった。
「遅いぜ遊矢!!速くデュエルしようぜ!!」
「悪い悪い。」
十代と反対の場所に立ち、デュエルディスクをセット。
それにしても、思ったより人が意外と多いな。よくて2、3人だと思っていたんだが。
まあいいか。
何人いようが、デュエルはデュエルだ。
「さあ遊矢、楽しいデュエルをしようぜ!!」
「ああ、十代。楽しんで勝たせてもらうぜ!!」
「「デュエル!!」」
俺のデュエルディスクに『後攻』と表示される。
またか!?俺はいつまで後攻なんだ!?
「へへ、俺が先行だな。ドロー!」
十代が勢い良くカードを引く。
「俺はE・HEROクレイマンを守備表示で召喚!」
E・HEROクレイマン
ATK800
DEF2000
十代のデッキはE・HEROデッキか…豊富なサポートカードと、強力な融合モンスターが自慢のデッキだ…
只のパワー馬鹿なら簡単に倒せるんだがな。
十代はそう簡単にいくかな?
「更にカードを一枚伏せて、ターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!」
頼むぜ俺のアタッカー!
「俺はマックス・ウォリアーを召喚!」
マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800
マックス・ウォリアーの登場と共に、野次馬から苦笑が聞こえるが、無視することにする。
「マックス・ウォリアーで、クレイマンに攻撃!スイフト・ラッシュ!!」
マックス・ウォリアーがクレイマンに突撃していく。
「マックス・ウォリアーが攻撃する時、攻撃力が400ポイントアップする!」
クレイマンを、一閃。
「この瞬間、リバースカードオープン!ヒーロー・シグナル!!戦闘で自分フィールド場のモンスターが破壊された時、デッキからレベル4以下のE・HEROを特殊召喚出来る!来い、E・HEROスパークマン!!」
E・HEROスパークマン
ATK1600
DEF1400
「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!」
ドローしたガードを引いた十代がニヤリと笑う。
何だ?何を引いた!?
「俺は手札からミラクル・フュージョンを発動!!このカードは、フィールド場のE・HEROと墓地のE・HEROを除外することでE・HEROと名の付いた融合モンスターを融合召喚出来る!!」
ミラクル・フュージョン…!E・HERO限定とはいえ強力なカードだ。
「フィールドのスパークマンと、墓地のクレイマンを融合!!現れろ!E・HEROサンダー・ジャイアント!!」
E・HEROサンダー・ジャイアント
ATK2400
DEF1500
「サンダー・ジャイアントは一ターンに一度、手札を一枚捨てることで、自分より元々の攻撃力が低いモンスターを破壊出来る!ヴェイパー・スパーク!!」
サンダー・ジャイアントから放たれる雷撃にマックス・ウォリアーは墓地に送られる。」
「そして、今墓地に送ったE・HEROネクロ・ダークマンの効果発動!このカードが墓地にある時、一度だけレベル5以上のE・HEROをリリースなしで召喚出来る!!出でよ、E・HEROエッジマン!!」
このままじゃまずいな。十代のペースだ。
「バトル!サンダー・ジャイアントでダイレクトアタック!ボルティックサンダー!!」
「ぐあああああッ!!」
遊矢LP4000→1600
「これでトドメだぜ、遊矢!!エッジマンで遊矢にダイレクトアタック!パワーエッジアタック!!」
金色の英雄が俺に迫る。
だが、まだだ!!
「リバースカードオープン!コンフュージョン・チャフ!!このカードは、一度のバトルフェイズ中に二回目のダイレクトアタックが宣言された時に発動できるトラップカード!!」
「何だ!?そんな条件があるトラップカード、聞いたことないぜ!?」
それはお前の勉強不足だよ。
「二回目のダイレクトアタックを宣言したモンスターと、最初にダイレクトアタックしたモンスターで戦闘を行う!!」
エッジマンの攻撃目標が俺ではなく、サンダー・ジャイアントに変わる。
「行け、エッジマン!サンダー・ジャイアントに攻撃だ!パワーエッジアタック!!」
エッジマンとサンダー・ジャイアントが戦闘し、サンダー・ジャイアントが敗れる。
「この程度で終わるわけにはいかないからな。」
十代LP4000→3800
「へへ…決まらなかったか…俺はこれでターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!」
さて、まずはあのでっかいのを倒さないとな。
「俺はマッシブ・ウォリアーを召喚!!」
マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200
「俺がモンスターの召喚に成功した時、このカードは手札から特殊召喚出来る!来い!ワンショット・ブースター!!」
ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0
「攻撃力も守備力も0?どんな効果持ってんだ!?」
「慌てんなよ十代。…バトルだ!マッシブ・ウォリアーでエッジマンに攻撃!!」
「何!?」
マッシブ・ウォリアーがエッジマンに攻撃しようとするが、攻撃力の差は歴然。当然弾かれて来た。
「マッシブ・ウォリアーは一ターンに一度、戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも受けない。よって、俺にダメージは無く、マッシブ・ウォリアーも生き残る。」
-おいおい、じゃあ何でバトルしたんだ!?
-意味無いじゃん。
「今、何でバトルしたんだとか、意味無いとか言った奴は勉強不足だ。…ワンショット・ブースターの効果発動!このカードをリリースすることで、このターン自分のモンスターと戦闘した相手モンスターを破壊する!行け、ワンショット・ブースター!!エッジマンを破壊せよ!!」
ワンショット・ブースターから放たれるミサイルによりエッジマンは破壊される。
「俺はこれでターンエンドだ。」
さあて…次はどう来る
「俺のターン、ドロー!…へへ、楽しいデュエルだな遊矢。」
「ああ。ここに来てから楽しいデュエルばかりだ。」
「そうだよな!でも、今回勝つのは俺だぜ!…頼むぜ、相棒…俺はハネクリボーを守備表示で召喚!!」
ハネクリボー
ATK300
DEF200
「俺はこれでターンエンドだ。」
ハネクリボー…確か、破壊された後の戦闘ダメージを0にする効果を持つレアカード…だが、何でE・HEROデッキに入ってるんだ?
まあ、いいか。デッキは人それぞれだからな。何か、コンボか思い入れがあるんだろう。
「俺のターン、ドロー!十代。ハネクリボーで時間稼ぎをするつもりだろうが、そうはさせない。俺はジャスティス・ブリンガーを召喚!!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000
「更に装備魔法カード、メテオ・ストライクを発動!このカードを装備したモンスターは、貫通効果を得る!」
そういえば、『貫通』って一応公式の用語じゃないんだよな。
「バトル!ジャスティス・ブリンガーでハネクリボーに攻撃!ジャスティススラッシュ!!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
十代LP3800→2300
「ハネクリボーの効果は墓地に送られてから発動する…つまり、貫通効果には無力だ。」
「だが、ハネクリボーの効果により、マッシブ・ウォリアーの追撃は受けないぜ!」
「俺はこれでターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!強欲な壺を発動!」
このタイミングで強欲な壺だと!?
「行くぜ遊矢!!魔法カード、融合を発動!!手札のE・HEROフェザーマンと、E・HEROバーストレディを融合!来い、マイフェイバリットヒーロー、E・HEROフレイム・ウィングマン!!」
E・HEROフレイム・ウィングマン
ATK2100
DEF1200
「それがお前のフェイバリットか、十代!?」
「ああ!!フレイム・ウィングマンは、戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える!ジャスティス・ブリンガーを破壊すれば、俺の勝ちだぜ!!」
確かに、俺のフィールドにリバースカードは無く、残りのライフポイントは1600…十代の言う通り、ジャスティス・ブリンガーが破壊されたら俺の負けだ。
だが十代。やる前に説明するのは失敗フラグだ!
「俺は手札からこのカードを発動する!」
発動するのはあの時、
『ラッキーカード』と言われて渡されたカードの中の一枚。
誰だか知らんが、助かったぜ!
「エフェクト・ヴェーラーの効果を発動!このカードを手札から墓地に送ることで、相手モンスターの効果を無効にする!!」
「何だって!?」
これでフレイム・ウィングマンの効果は無効化され、ジャスティス・ブリンガーが破壊されても効果ダメージは来ない。
「ちくしょう…初めて見たぜそんなカード…」
ま、俺も初めて見たよ。
周りの連中も知らないようで、それぞれ聞きあっている。
「だけど、ジャスティス・ブリンガーは破壊させてもらうぜ!フレイム・ウィングマンで、ジャスティス・ブリンガーに攻撃!フレイム・シュート!!」
「くっ!!」
遊矢LP1600→1200
「これで俺はターンエンド…くっそ~今度こそ勝ちだと思ったのによ~」
「しぶといのが俺の自慢でね。俺のターン、ドロー!」
あっちのマイフェイバリットが出たんだ。今度は俺の番だな。
「速攻魔法、手札断殺を発動!お互いに手札を二枚捨て、二枚ドロー!」
送ったカードはもちろんあのカードだ!!
「墓地に送った、リミッター・ブレイクの効果発動!デッキ・手札・墓地から、スピード・ウォリアーを特殊召喚出来る!!現れろ、マイフェイバリットカード!スピード・ウォリアー!!」
『トアアアッ!!』
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
「行くぞ十代!!お前のマイフェイバリットが勝つか、俺のマイフェイバリットが勝つか、決着をつける!!装備魔法、団結の力を発動!!」
スピード・ウォリアー
ATK900→2500
DEF400→2000
「更に装備魔法、ニトロユニットを、フレイム・ウィングマンに装備する!!」
爆弾が入った箱が、フレイム・ウィングマンに装備された。
「な、何で俺のフレイム・ウィングマンに遊矢の装備カードが!?」
「装備カードは相手モンスターに装備することも出来る。今日の授業で言ったぜ?」
てか基本だ。
「バトル!スピード・ウォリアーで、フレイム・ウィングマンに攻撃!ソニック・エッジ!!」
スピード・ウォリアーの蹴りがフレイム・ウィングマンに直撃する。
「うわっ!!」
十代LP2300→1900
「まだだ!!ニトロユニットの効果発動!このカードを装備したモンスターが戦闘で破壊された時、装備モンスターの攻撃力分のダメージが与えられる!フレイム・ウィングマンの攻撃力は2100!つまり、十代に2100ポイントのダメージを与える!!」
フレイム・ウィングマンに付いていた爆弾が爆発する!!
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
十代LP1900→0
「よっしゃあああッ!!楽しいデュエルだったぜ、十代!!」
周りからも歓声が上がる。
「くっそ~負けちまった~!!」
十代は本当に悔しそうにしている。
だが。
その顔は笑顔だった。
「ガッチャ!!楽しかったぜ!!次は負けないからなぁ!!」
「ああ。また、楽しいデュエルをしようぜ!!」
それが俺と十代の初デュエルだった。



余談だが、後から三沢に聞いた話では、オシリス・レッド寮で流れていた
「黒崎遊矢は八百長をしてデュエルアカデミアに入った」
という噂は、十代がみんなに否定して回ったらしい。
その時の理由は、
「あいつは本当に楽しそうにデュエルをするからそんなことはしない。」
だ、そうだ。 
 

 
後書き
『機械戦士』も、大体出揃いましたね…
デュエルをワンパターンにしないようにしなくては。
え?もう遅い?

感想、アドバイス待ってまず!! 

 

-地獄デッキ-

 
前書き
よっしゃあああッ!!
お気に入り登録数が20件を突破しました!!

更なる満足へ!! 

 
side遊矢
「貴様がこの頃天上院くんにつきまとっていると噂の黒崎遊矢だな!この俺様とデュエルしてもらおう!!」
デュエルアカデミアの森を明日香と歩いていたら、ブルー制服の変な奴に絡まれた。
何が、どうして、こうなった?
時間は少し遡る…


先日のオシリス・レッド寮でのデュエルから、十代たちと一緒にいることも多くなった。
基本的にいつも一緒にいるメンバーは、俺、三沢、明日香、十代、翔だ。まあ、明日香は枕田たちといることもあるが。
たが、今日の俺は1人でブラブラしていた。特に用事も無く歩くだけでもここ、デュエルアカデミアは広く、散歩をするにはとても良い場所である。
「のんびり森林浴…たまにはこういうのも良いな…うん。」
俺以外にも、なかなかの人数が集まっている。…何故だろう。オシリス・レッドの奴らが多い気がする。
更にブラブラしていたところ、知っている顔に遭遇した。
「明日香じゃないか。お前も森林浴か?」
明日香だった。
「まあ、そんなところよ。試験勉強の気晴らしにね。」
試験勉強?
「そういえば、そろそろ試験だったな。」
デュエルアカデミアには1ヶ月に一回テストがある。筆記試験と、同じ寮で成績が同じくらいの者との実技テストだ。
「ずいぶん余裕ね…オベリスク・ブルーに入れるかも知れないのよ?」
「オベリスク・ブルーねぇ…別に興味が無いな。それだったら三沢や仲の良い奴がいるラー・イエローの方がマシだ。」
「なるほどね。確かにオベリスク・ブルーの男子は好かれていないしね。」
話している間に、気がつくといつも釣りをして明日香と話す場所に着いていた。
先客がいたがね。
「天上院くんじゃないか。この俺に何か用かい?」
オベリスク・ブルーの男子が、パンを食べていた。
「万丈目くん…相変わらず自信家ね。たまたま通りかかっただけよ。」
あのブルーの男子は万丈目というらしい。
「ん、お前は…」
万条目がこちらを見る。
「黒崎遊矢!!」
そして、話は冒頭部分へ戻る…

「明日香。何時のまに俺はお前につきまとっていたんだ?」
「万丈目くん…そんなつまらない噂信じているの?」
「黒崎遊矢!貴様はイカサマをして天上院くんに勝ち、罰ゲームという名目で連れ回しているらしいじゃないか!?」
人の話を聞け。
「ちょ、ちょっと万丈目くん!その噂はどういうこと!?」
明日香からすれば堪ったものではないだろうな。
「天上院くんは黙っていてくれ!!黒崎遊矢!俺様とデュエルしろ!!」
少しは人の話を聞け。
「ま、いいだろう。デュエルならやってやるよ。」
デュエルディスクをセット。
「俺様が勝ったら、天上院くんを解放してもらう!!」
「じゃ、俺が勝ったらお前が持ってるドローパンを一つもらうぜ。」
「「デュエル!!」」
デュエルディスクに『先行』と表示される。
よっしゃあああッ!!
ようやく先行を取ったぜ!…と、言いたいところだが手札が悪いな。
良いカード、来いよ!!
「俺のターン、ドロー!」
げ。
「どうした黒崎遊矢!手札事故か!?」
「…恥ずかしながら、その通りだ。」
俺のその一言で万丈目は笑い、明日香は驚いた。
「ハーッハッハッハ!!所詮はラー・イエローの雑魚だったか!!そんな奴だから、そんなデッキしか使えんのだ!!」
「あ!?今何つったァ!?」
突然不良のような言葉使いをした俺に万丈目が驚く。
「遊矢…言葉使いが酷くなってるわよ…」
「万丈目、さっきまではお前の事なんぞどうでもよかったが、俺の機械戦士たちを馬鹿にした罪は重い!!全力で叩き潰してやるよ!!」
「…ふ、ふん!出来ることならやってみるんだな!!」
勝ってみせる。
例え手札事故が起きていようが、俺の機械戦士を馬鹿にした奴には!!
「俺はシールド・ウォリアーを守備表示で召喚!!」
シールド・ウォリアー
ATK800
DEF1600
「俺はこれでターンエンドだ。」
「ハーッハッハッハ!!そんなやられることが専門のザコモンスター一体でターンエンドとはな!手札事故とは本当のようだ!」
ゴチャゴチャとうるさい奴だ。
「俺様のターンだ!ドロー!…クク!なかなか良い手札だ!」
万丈目が手札を一枚ディスクにセットする。
「俺はまず、地獄戦士を召喚!!」
地獄戦士
ATK1200
DEF1400
「そして通常魔法、二重召喚!!このターン、俺は通常召喚が二回出来る!俺は地獄戦士をリリースし、地獄将軍・メフィストをアドバンス召喚!!」
悪魔の馬に乗った悪魔が勢いよく現れる。
地獄将軍・メフィスト
ATK1800
DEF1700
「更に、地獄将軍・メフィストに装備魔法、デーモンの斧を装備し、攻撃力が1000ポイントアップ!!」
地獄将軍・メフィスト
ATK1800→2800
「行け、地獄将軍・メフィスト!シールド・ウォリアーに攻撃だ!」
地獄将軍・メフィストの剣にシールド・ウォリアーは切り裂かれる。
「地獄将軍・メフィストには貫通能力があり、戦闘ダメージを与えた時、相手の手札をランダムに一枚捨てることが出来る!…俺から見て一番右のカードを捨てろ!」
遊矢LP4000→2800
「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
流石にマズいな。
負ける気はさらさら無いがね!
「俺はレスキュー・ウォリアーを召喚!!」レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700
「そしてレスキュー・ウォリアーをリリースし、ターレット・ウォリアーを特殊召喚!!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000
「攻撃力1200だと?ふん。地獄将軍・メフィストの敵ではないな!」
「ターレット・ウォリアーの効果!リリースした戦士の攻撃力分攻撃力をアップさせる!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200→2800
「地獄将軍・メフィストと同じ攻撃力だと!?」
「バトル!ターレット・ウォリアーで、地獄将軍・メフィストに攻撃!リボルビング・ショット!!」
「チィッ…迎撃しろ!地獄将軍・メフィスト!!」
地獄将軍・メフィストの剣がターレット・ウォリアーに迫るが、どこからともなく盾持ちの戦士が現れ攻撃を防ぐ。そしてその間にターレット・ウォリアーが地獄将軍・メフィストを打ち抜いた。
「シールド・ウォリアーの効果発動!墓地にあるこのカードを除外することで、戦闘破壊を無効化する!!」
これで破壊されるのは万丈目の地獄将軍・メフィストだけとなった。
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
カードを引いた万丈目はニヤリと笑った。
良いカードを引いたらしいな。
「俺は強欲な壺を発動し、カードを二枚ドロー!…よし、リバースカード、オープン!リビングデッドの呼び声!墓地から地獄将軍・メフィストを攻撃表示で特殊召喚!!」
地獄将軍・メフィスト
ATK1800
DEF1700
「そして地獄将軍・メフィストに闇の破神剣を装備し、攻撃力を400ポイントアップ!!」
地獄将軍・メフィスト
ATK1800→2200
攻撃力がターレット・ウォリアーに及ばない…更に装備魔法を使うのか?
「クックック…カードを一枚伏せ、俺はこのデッキの切り札を出す!!」
「切り札だと!?」
「攻撃力2000以上のモンスターと、手札全てを墓地に送り、炎獄魔人ヘル・バーナーを召喚!!ハーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
万丈目の高笑いと共に炎が溢れだし、その中から炎の悪魔が現れる!!
炎獄魔人ヘル・バーナー
ATK2800
DEF1800
「炎獄魔人ヘル・バーナーの攻撃力は、相手モンスターの数×200ポイントとなる!!」
炎獄魔人ヘル・バーナー
ATK2800→3000
「そしてリバースカードをオープン!悪魔のくちづけ!!装備モンスターの攻撃力を700ポイントアップさせる!!」
炎獄魔人ヘル・バーナー
ATK3000→3700
「炎獄魔人ヘル・バーナーでターレット・ウォリアーに攻撃だ!」
ターレット・ウォリアーは炎で跡形も無く焼き尽くされてしまった。
「ぐッ…!!」遊矢LP2800→2200
「だが、このタイミングでリバースカード、オープン!奇跡の残照!!このターン破壊されたモンスター一体を復活させる!蘇れ、ターレット・ウォリアー!!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000
「俺はこれでターンエンドだ。…せいぜい足掻くんだな!!」
「ああ。足掻かせてもらうぜ!俺のターン、ドロー!」
…引いたカードは…よし。俺にもツキが回って来た!!
「俺は装備魔法、ミスト・ボディをターレット・ウォリアーに装備する。」
あくまで時間稼ぎにしかならないがな。
「ターレット・ウォリアーを守備表示にし、ターンエンドだ。
「万策尽きたか!!俺のターン、ドロー!炎獄魔人ヘル・バーナーでターレット・ウォリアーに攻撃!」
「ミスト・ボディを装備したモンスターは、戦闘では破壊されない!!」
「ふん…只の時間稼ぎか…ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!」
もう少しだ…
「ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!…更に装備魔法、ビッグバン・シュートを発動!攻撃力を400ポイントアップさせ、貫通能力を付加する!!」
炎獄魔人ヘル・バーナー
ATK3700→4100
貫通能力だと!?
「炎獄魔人ヘル・バーナーで、ターレット・ウォリアーに攻撃!」
「ぐああああッ!!」
遊矢LP2200→100
「ハーッハッハッハ!!次のターンで終わりだ!!やはり、貴様のデッキはその程度だったようだな!!」
「機械戦士たちを馬鹿にするのは許さないぜ万丈目!!」
「許さないと言うなら、この俺様の4000のライフを削ってみせるんだな!!」
言われなくてもな。
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードは、マイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー!!
「俺はスピード・ウォリアーを召喚!!」
『トアアアッ!!』
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
「何が来るかと思えば、そんなザコモンスターか!!」「万丈目。お前はこれから、このスピード・ウォリアーに倒されるんだ!!スピード・ウォリアーに団結の力を発動!!」
スピード・ウォリアー
ATK900→2500
「お前のフィールドにモンスターが増えたことにより、炎獄魔人ヘル・バーナーの攻撃力は更に上がる!!」
炎獄魔人ヘル・バーナー
ATK4300
「ハーッハッハッハ!!攻撃力4300!!こいつを倒せるか!?無理だろうな、そんな貧弱なカードでは!!ハーッハッハッハ!!」
「悪いが、こいつの前に攻撃力は無意味何でね!!」
今日のキーカード、
行くぜェ!!
「装備魔法、魔界の足枷を発動!!炎獄魔人ヘル・バーナーに装備する!!」炎獄魔人ヘル・バーナーに顔がついた足枷が付く。
「このカードを装備したモンスターは、攻撃力・守備力が100に固定され、攻撃宣言が出来なくなる!!」
「攻撃力…100だと!?」
炎獄魔人ヘル・バーナー
ATK4000→100
DEF1800→100
「ターレット・ウォリアーを攻撃表示にし、バトル!ターレット・ウォリアーで炎獄魔人ヘル・バーナーに攻撃!リボルビング・ショット!!」
攻撃力が100しかない炎獄魔人ヘル・バーナーはターレット・ウォリアーの弾丸に耐えられず、爆発する。
「ぐあああああ!!」
万丈目LP4000→2900
「行け!スピード・ウォリアー!!万丈目にダイレクトアタック!ソニックエッジ!!」
スピード・ウォリアーが万丈目に向かって走る。
「来っ…来るなぁぁ!」
「スピード・ウォリアーの効果発動!召喚したターンのバトルフェイズ、スピード・ウォリアーの元々の攻撃力は倍になる!!」
スピード・ウォリアー
ATK2500→3400
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
万丈目LP2900→0
「よっしゃあああッ!!万丈目、スリリングな楽しいデュエルだったぜ!!」
「俺が…負けた…だと…いや、駄目だ…俺に敗北は…許されない!!」
「あ、万丈目。そのドローパン貰うな。」
何だかブツブツ言ってる万丈目からドローパンを奪う。
デュエル前に言った条件だ。
「天上院くん!今度こそ君を助けだす!!待っていてくれ!!」
「いや、だからそれは誤解…」
言い終わる前に万丈目は走っていってしまった。
「あれ、明日香いたんだ。」
「ずっといたわよ!!」
「あっはっは。悪い悪い。お詫びにこのドローパンやるよ。あんまり腹減ってないんだ。」
明日香にドローパンを渡した。

「そんじゃーな。」
明日香と別れ、ラー・イエロー寮に向かった。
(今日は三沢と一緒に試験勉強だな…)


余談だが。
ここで遊矢に渡され、明日香が食べたドローパンが黄金の卵パンであり、明日香が黄金の卵パンを食べるために購買へ足を運ぶようになるのはまた、別の話。 
 

 
後書き
万丈目戦でした。
最初の万丈目のデッキは良く分からないです。

時に、感想で
「ドドドウォリアーやトライデント・ウォリアーは遊矢のデッキ(機械戦士)に入れて良いのか」
「見た目が機械だからロケット戦士は良いのか」
と、いった指摘を受けました。

良いと思いますかね?
是非とも、ご意見をお願いします。感想も待ってますよ!! 

 

-月一テスト-

 
前書き
月一テストの話です。 

 
side遊矢
今日は月一テストの日だ。
新入生にとっては、初めてのテストだからか緊張してる奴が多いな。
「三沢。お前のデッキって、まだ調整中なのか?」
三沢には何回かデュエルに誘ったものの、「調整中だから」と言われて断念したのだ。
「いや、もう完成したよ。なかなか納得いくデッキが作れなかったが、100%完全したよ。」
「そいつは楽しみだ。」
筆記試験で俺は二番で三沢は一番。
同じ程度の成績を持つもの同士が戦うのだから、俺の相手は当然、三沢だろう。
「筆記じゃお前に適わないが、実技じゃ負けないぜ?」
「伊達にラー・イエローのトップと呼ばれてはいない。全力で勝たせてもらおう。」朝から火花を散らしあっていたが、二人とも顔は笑顔だった。

三沢は樺山先生から用事を頼まれているようなので、試験が始まる時間までブラブラしていた。
すると、立ち往生している車を見つけた。
「何やってんだ?」
ふと、気になったので、車に向かってみると、おばさんが車を押そうとしていた。
…それは無茶だろう。
「おばちゃん、何やってんだ?」
「いやぁ、何だか車が動かなくなっちゃってねぇ…あんた、誰だい?」
「俺の名前は黒崎遊矢。機械関係にはちょっと詳しいんで、見せてくれないか?」
ガソリンが入ってる部分を見てみると、機械以外の物が入っていた。
「ああ、これだよおばちゃん。変な物が入ってたせいで、接触が悪くなったんだ…っと。よし、もう動くと思うよ。」
おばちゃんが試しにエンジンを入れてみると、車が動く。
「助かったよ遊矢ちゃん。お礼にこのカードと、新しいパックを一袋上げるよ。」
「そりゃどうも。おばちゃん、名前は?」
「私の名前はトメって言うんだ。購買にいるから、来てくれたらドローパンサービスしてあげるよ。」
そう言って、トメさんは車で走っていった。
「そろそろ試験開始か…乗せてもらえば良かったな。」
試験会場の教室へ向かった。

結論から言うと、試験は問題なかった。
問題といえば、十代が遅れてきて、翔と一緒に爆睡していたぐらいのことだ。
昼休みを入れて、次は実技テストだ。
「十代たちを起こしてやるか、三沢。」
「ああ、そうだな。…流石に、可哀想だ。」
起こしてやると、予想通り翔はうなだれて、十代は筆記試験など眼中にないようだった。
「あなたたち、新パックは買いに行かないの?」
明日香だ。これで、いつものメンバー集合。
「新パック?」
「ええ、今日は新パックの発売日よ。」
「だから皆走っていったのか。…ま、俺はいいや。三沢は?」
「俺も遠慮しておこう。デッキの調整は万全だ。」
だよなぁ。
「ああ、そういえば…十代、翔。ちょっと待て。」
「何だよ遊矢!!速く行かないと売り切れちまうだろ!!」お前ら行くのか。
十代のことだから、新しいカードが見たいだけだろうが。
「ここに新しいパックがあるんだが。」
「「「「何で!?」」」」
息が合ってて良かったな。
「実はかくがくしかじかということでな…五枚入りだから、一枚ずつ分けないか?」
「賛成ッス!!速く頂戴ッス!!」
パックを開け、見えないようにカードを机の上に置く。
「俺は最後で良いや。好きなの引け。」
「よし、まずは俺からだ!ドロー!!…進化する翼?相棒のカードじゃん!!サンキュー遊矢!!」
十代は良いカード当てたな。
「次は僕が引くッス!これだッ!!…やったぁ!!スーパービークロイド・ジャンボドリルだぁ!!これさえあれば実技テストも余裕ッス!ありがとう遊矢くん!!」
どういたしまして。
「明日香くん、先にどうぞ。」
「そう?悪いわね…じゃあこれにするわ。…恋する乙女?」
「似合わねぇー!!イタッ!!何すんだよ明日香!!」
そういうことは思っても口にだしちゃ駄目だぞ十代。
「では俺は、こいつにしよう。…剣聖−ネイキッド・ギアフリードか…強いが、俺のデッキには使えないな。」
三沢は良いカードを引けなかったか。
「じゃ、最後に俺が引くか。…キューピット・キスか…」
恋する乙女専用装備魔法だ。
「おい、そこの恋する乙女(笑)いる…イタッ!!」
そんな感じで昼休みは終わった。

ついに実技テストだ。
俺の相手は予想通りだった。
「行くぜ三沢!楽しんで勝たせてもらう!!」
「どちらがラー・イエローのトップか、このデュエルではっきりしよう!遊矢!!」
「「デュエル!!」」
『後攻』と表示される。…もういいや。
「俺が先行のようだな!ドロー!!」
さあ、三沢!お前はどんなデッキだ?
「俺はピラミッド・タートルを守備表示で召喚!!」
ピラミッド・タートル
ATK1200
DEF1400
ピラミッド・タートル…アンデッド族専用のリクルーターだ。
つまり、三沢のデッキは【アンデッド族】!!
「遊矢。俺のデッキがただのアンデッド族だと思っていたら、痛い目をみることになる。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ。」
ただのアンデッド族じゃない?どういうことだ?
「俺のターン、ドロー!」
考えても仕方ない。
とにかく攻める!
「俺はマックス・ウォリアーを召喚!!」
ATK1800
DEF800
「ピラミッド・タートルを攻撃しろ!スイフト・ラッシュ!!」
マックス・ウォリアー
ATK1800→2200
「ピラミッド・タートルが破壊されたことにより、効果発動!デッキから馬頭鬼を特殊召喚!!」
馬頭鬼
ATK1700
DEF800
馬のアンデッド…?いや、アンデッドというよりは、どちらかというと妖怪だ。
「マックス・ウォリアーが相手モンスターを破壊した時、攻撃力、守備力は半分になり、レベルが2になる。」
マックス・ウォリアー
ATK1800→900
DEF800→400

カードを一枚伏せ、ターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!遊矢。このデッキが只のアンデッド族でないことを証明させてもらおう!リバースカード、オープン!リビングデッドの呼び声!墓地のピラミッド・タートルを特殊召喚!!」
ピラミッド・タートル
ATK1200
DEF1400
「リクルーターを復活させてどうするつもりだ!?」
「こうするのさ!2体のアンデッドをリリースし、伝説の妖怪を召喚する!赤鬼、招来!!」
金棒を持った地獄の使い、赤鬼。
伝説のままの姿が、そこにはあった。
赤鬼
ATK2800
DEF2100
「赤鬼が召喚に成功した時、手札を任意の枚数墓地に捨てることで、捨てた枚数ぶん相手のカードを手札に戻す!地獄の業火!!」
マックス・ウォリアーとくず鉄のかかしが手札に戻される。
これで俺のフィールドはがら空きだ。
「更に墓地にある馬頭鬼の効果発動!!このカードを墓地から除外することで、墓地からアンデッド族モンスターを特殊召喚する!出でよ!龍骨鬼!!」
龍骨鬼
ATK2400
DEF2000
「ワンターンでこれだけやるとはな…流石だぜ三沢!!」
「だが、君もまだ終わらないだろう?」
「ああ。しぶといのが自慢でね。」
「龍骨鬼で遊矢にダイレクトアタック!」
「手札から速攻のかかしを墓地に捨て、バトルフェイズを終了する!」
かかしが龍骨鬼の攻撃を止める。
「やはりな…ターンエンドだ。」
速攻のかかしを読んでたのか…流石は三沢。
「俺のターン、ドロー!」
さあて、反撃だ!
「マックス・ウォリアーを再度召喚!!」
マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800
「手札断殺を発動!!お互いのプレイヤーは手札を二枚捨て、二枚ドロー!!」
前回のデュエルでは使わなかったが、毎度お馴染みあのコンボ!!
「墓地に送った二枚のリミッター・ブレイクの効果を発動!!デッキから守備表示で出でよ、マイフェイバリットモンスターたちよ!!」
『『トアアアッ!!』』
スピード・ウォリアー×2
ATK900
DEF400
「装備魔法、団結の力を発動し、マックス・ウォリアーに装備する!!」
マックス・ウォリアー
ATK1800→4200
DEF800→3200
「更に装備魔法、デーモンの斧!!マックス・ウォリアーの攻撃力を1000ポイントアップ!」
マックス・ウォリアー
ATK5200
「バトル!マックス・ウォリアーで赤鬼に攻撃!スイフト・ラッシュ!!そして、マックス・ウォリアーは攻撃する時、攻撃力が400ポイントアップ!」
マックス・ウォリアー
ATK5200→5600
「ぐああああっ!!」
三沢LP4000→1200
「マックス・ウォリアーは攻撃した後、元々の攻撃力・守備力が半分になり、レベルが2になる。」
マックス・ウォリアー
ATK5200→4300
DEF3200→2800
「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」さっき手札に戻されたくず鉄のかかし。こいつで龍骨鬼の攻撃を防げば、次のターンで俺が勝つ!!
…しまった!説明しちまった!!
「俺のターン、ドロー!やるな遊矢!だが、俺の妖怪は不滅だ!魔法発動!生者の書-禁断の呪術-を発動!墓地から赤鬼を復活させる!黄泉の世界から再び現れろ!赤鬼!!」
ATK2800
DEF2100
「赤鬼は召喚時にしか能力を使えない。そして、生者の書-禁断の呪術-の第二の効果を発動。相手の墓地からカードを一枚選んで除外する。俺が選ぶのは速攻のかかし!」
これで速攻のかかしの再利用は出来なくなった。速攻のかかしをポケットに入れる。
「更に、酒呑童子を通常召喚する。」
酒呑童子
ATK1500
DEF800
「酒呑童子の効果を発動する。墓地のアンデッド族モンスターを2体除外し、カードを一枚ドロー!」
ドロー加速用の妖怪か…何を引いた?
「俺はサイクロンを発動!遊矢のリバースカードを破壊する!」
やっぱり説明は失敗フラグなのか!?
竜巻がくず鉄のかかしを破壊する。
「くず鉄のかかしか…破壊して正解だったようだな。」
「三沢お前、強いな。」
「妖怪という神々の力、思い知ってもらって嬉しいね!だが、まだだ!装備魔法、メテオストライクを赤鬼に装備!装備したモンスターは、貫通能力を得る!バトルだ!赤鬼でスピード・ウォリアーに攻撃!鬼火!!」
「ぐあッ!!」
遊矢LP4000→1600
「酒呑童子でもう一体のスピード・ウォリアーに攻撃!…これでマックス・ウォリアーの攻撃力は更に下がる。」
マックス・ウォリアー
ATK4300→2700
DEF2800→1200
「行け!龍骨鬼!!マックス・ウォリアーに攻撃!!」
三沢LP1200→900
「ぐっ…だが、龍骨鬼は、戦士族・魔法使い族とバトルしたダメージステップ終了じ、相手モンスターを破壊する!!マックス・ウォリアーを破壊!!」
ヤバいな…
「これで俺はターンエンドだ!」
俺のフィールドにはモンスターは0。
俺の手札は1枚。
墓地に起死回生のカードは無し。
そもそもデッキに起死回生のカードは無し。
それでもサレンダーをしてはならない。
「俺のターン、ドロー!」
さあ、最後のカードは…俺の知らないカード?


「お礼にカードをあげるよ」

あの時もらったカード…そうか、ウォリアーって名前だから、仲間がいるデッキに紛れ込んだんだな。
頼むぜ、俺の新しい仲間!!
「俺はラピッド・ウォリアーを召喚!!」
ラピッド・ウォリアー
ATK1200
DEF200
「ラピッド・ウォリアー…何だ、そのカードは!?」
「こいつは俺の新しい仲間だ!!バトルだ!!ラピッド・ウォリアーで攻撃する!!」
「攻撃だと!?妖怪たちには適わないぞ!?」
「ラピッド・ウォリアーの効果!このモンスター以外の攻撃を封じることで、相手モンスターを無視して、ダイレクトアタックが出来る!!ウィップラッシュ・ワロップ・ビーン!!」
「ぐああああああっ!!」
三沢、LP900→0
「よっしゃあああッ!!楽しいデュエルだったぜ三沢!!」
「くっ…負けたか…」




そんな感じで月一テストは終わった。
三沢を倒したのだからラー・イエローのトップになれるかと思ったが、筆記試験の方で差をつけられた結果、『ラー・イエローのダブルトップ』という名前を俺たちは襲名し、2人で苦笑いすることとなった。 
 

 
後書き
三沢のデッキはアニメの属性デッキではなく、漫画版の妖怪デッキです。

まあ、この小説は基本的にOCG遵守なのでアンデッド族になっているので、三沢が『妖怪』と言っててもアンデッドです。 

 

-サイバー・エンド-

 
前書き
かなり長くなってしまいました。

相手がガチデッキだと困りますね。 

 
side遊矢
今日も今日とで深夜に釣りをしていた。
いつもの、明日香とデュエルした場所でだ。
ちなみに、明日香は毎晩夜に用事でもあるのか、俺がここにいる時は毎晩会う。
わざわざ俺に会いに来ているとも思えないから、恐らく、「なんとなく立ち寄ってみたら偶然いた。」ということなのだろうな。
偶然とは恐ろしい。
ちなみに、明日香とは何度も夜にデュエルしているが、勝率は五分五分といったところだ。
三沢、十代も同様、五分五分くらいだな。
さて、いつもならそろそろ明日香が来る時間だが…
「こんばんは遊矢。どう?釣れてる?」
明日香、登場。
「見ての通りだ。」
クーラーボックスにいっぱいの魚。
「これだけ釣ってたら、この池に魚がいなくなっちゃうんじゃない?」
言いながら、もはや定位置となった俺の隣へ座る。
「大丈夫だ。これだけ釣るのは一週間に一度ぐらいだからな。」
「…その、遊矢。ちょっと頼みがあるんだけど…」
明日香が真面目な雰囲気で言った。
「頼み?」
「ええ。ある男と、デュエルして欲しいの。」



明日香の頼みをOKし、その男がいるという場所に向かっていた。
「デュエルして欲しいならこんな回りくどい真似しなくても、普通にデュエルすりゃ良いのによ。」
「色々と事情があってね。そうはいかないのよ。」
ここは確か…灯台に向かう道だな。
「事情?」
「…噂に興味が無いあなたも、流石に知ってるんじゃない?オベリスク・ブルーの『カイザー』丸藤亮を。」
「いや、知らん。」
「そうよね。流石に…って知らないの!?」
ナイスノリツッコミ。
「誰だそいつは。丸藤ってことは翔の関係者か?」
「本当に知らないのね…まあ良いわ。カイザー亮は確かに翔くんのお兄さんで、このデュエルアカデミアで最強と呼ばれているテュエリストよ。」
話している間に、灯台に着いた。
「で、その亮さんが何で俺なんぞとデュエルしたいんだ?」
「ここから先は、本人に聞くといいわ。…亮!遊矢を連れてきたわよ!」
明日香が呼ぶと、灯台の下から、オベリスク・ブルーの生徒が歩いてきた。
「君が黒崎遊矢か。話はいつも明日香から聞いている。俺の名前は丸藤亮、亮で良い。よろしく。」
「こっちも遊矢で良いですよ。で、何で呼んだんです?」
「敬語も無しで良い。…リスペクトデュエル。相手を尊重し、お互いの全力を出し合うデュエル。それを俺はしているんだが…」
「だが?」
「君のデュエルを見ていて、俺のデュエルに足りないものがあると感じたんだ。それをデュエルして確かめたい。」
…『リスペクトデュエル』…か。
俺のデュエルにあって、リスペクトデュエルに無いもの。
「分かった。デュエルしようじゃないか。」
「本当か!?助かる!?」
「気にするなよ…ただ、俺もデュエルアカデミア最強って奴に俺の機械戦士たちがどこまで通じるか、やってみたいだけだからな!!」
デュエルディスクをセット。準備OK。
「なら、全力で行くぞ!」
「「デュエル!!」」
デュエルディスクに表示される文字は『先行』ひさびさだぜ!!
「楽しんで勝たせてもらう!!俺のターン!!」
さあて、まずは様子見だな。
「俺はシールド・ウォリアーを守備表示で召喚!!」
シールド・ウォリアー
ATK800
DEF1600
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
さあ、どうくる!?
「俺はサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」
機械の龍がフィールドに出現する。
サイバー・ドラゴン
ATK2100
DEF1600
「サイバー・ドラゴンは、相手フィールド場にしかモンスターがいない時、特殊召喚出来るモンスターだ。」
なるほど。強いな。
「バトル!サイバー・ドラゴンで、シールド・ウォリアーに攻撃!エヴォリューション・バースト!!」
サイバー・ドラゴンが放つ光線にシールド・ウォリアーは貫かれる。
「俺は永続魔法、タイムカプセルを発動する。自分のデッキからカードを一枚選択。発動後、自分のスタンバイフェイズ後にこのカードを破壊し、選択したカードを手札に加える。」タイムカプセルがカードを一枚収納し、地下に潜る。
「更にカードを一枚伏せ、ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!」
攻撃、防御、布石も抜かりなし。デュエリストの見本だな。だが、確かに何かが、足りない。
「俺はマックス・ウォリアーを召喚!!」
マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800
「更に装備魔法、ニトロユニットを発動!サイバー・ドラゴンに装備する!!」
サイバー・ドラゴンに爆弾が装備される。
「行け、マックス・ウォリアー!サイバー・ドラゴンに攻撃!マックス・ウォリアーは相手モンスターに攻撃する時、攻撃力が400ポイントアップする!!スイフト・ラッシュ!!」
マックス・ウォリアー
ATK1800→2200
マックス・ウォリアーがサイバー・ドラゴンに攻撃を加え、爆弾が爆発する。
「通常の戦闘ダメージに加え、ニトロユニットの効果により、サイバー・ドラゴンの攻撃力分のダメージを受けてもらう!!」
「ぐうッ…!!」
亮LP4000→1800
「戦闘で相手モンスターを破壊したターン、マックス・ウォリアーの攻撃力・守備力は半分になり、レベルは2になる。」マックス・ウォリアー
ATK1800→900
DEF800→400
「最初から全開ね、遊矢。いつもはスロースターター気味なのに。」
「俺のデッキが、いつもより楽しんでるってことだよ、明日香!!リバースカードを伏せ、ターンエンド!!」
「俺のターン、ドロー!」
俺も、亮に足りないものってのが気になってきた。
ここらでちょっと聞いてみるか。
「亮。お前、このデュエル楽しいか!?」
そう聞くと、亮はニヤリと笑い、
「ああ。お前が次に何をしてくるかワクワクしている。」
と、答えた。
デュエルは楽しんでるな。
「行くぞ。俺はリバースカード、オープン!リビングデッドの呼び声!サイバー・ドラゴンを特殊召喚!!」
また来たか!!
サイバー・ドラゴン
ATK2100
DEF1600
「そして、プロト・サイバー・ドラゴンを召喚。」プロト・サイバー・ドラゴン
ATK1100
DEF600
「プロト・サイバー・ドラゴンはフィールドにいる時、サイバー・ドラゴンとなる。」
「名前を同じにするだと…まさか!?」
「手札から融合を発動!フィールドのサイバー・ドラゴン2体を融合し、サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚する!!」
双頭の機械龍が、フィールドに現れた。
サイバー・ツイン・ドラゴン
ATK2800
DEF2100
「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンで、マックス・ウォリアーに攻撃!エヴォリューション・ツイン・バースト!!」
「トラップ発動!くず鉄のかかし!!相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!!」
くず鉄のかかしが光線を受け止め、再びセットされる。
「だが、サイバー・ツイン・ドラゴンは二回の攻撃が可能だ!エヴォリューション・ツイン・バースト!!」
「ぐあッ!!」
遊矢LP4000→2000
「俺はこれでターンエンドだ。…どうだ遊矢。俺のリスペクトデュエルになく、お前のデュエルにあるもの…何だか分かるか?」
「ああ、なんとなくなだけどな。…と、言っても、確信を得たわけじゃないからもう少し待て。俺のターン、ドロー!」
考え毎ばかりしてられないな。
「俺はジャスティス・ブリンガーを召喚!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000
「ジャスティス・ブリンガーをリリースし、ターレット・ウォリアーを特殊召喚!!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000
「ターレット・ウォリアーの攻撃力は、リリースした戦士族モンスターの元々の攻撃力分アップする!!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200→2900
「これで、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力を超えた!バトル!ターレット・ウォリアーで、サイバー・ツイン・ドラゴンに攻撃!リボルビング・ショット!!」
「やるな…」
亮LP1800→1700
「ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
足りないもの…頭の中では分かっている。
だが、確信が無い。
「このターンのスタンバイフェイズ、タイムカプセルを破壊。カードを手札に加える。そして、通常魔法、強欲な壺を発動!デッキからカードを二枚引く!…死者蘇生を発動!墓地のサイバー・ドラゴンを復活させる!」
サイバー・ドラゴン
ATK2100
DEF1600
「そして、手札からパワー・ポンドを発動!!」
パワー・ポンドだと!?
「フィールド、手札のサイバー・ドラゴン3体を融合し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚する!!」
伝説の、青眼の究極龍のような機械龍…すげぇ…

「パワー・ポンドによって召喚された融合モンスターの攻撃力は倍となる。」
サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000→8000
DEF2800
「攻撃力…8000だと…」
「サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃…と、いきたいところだが、くず鉄のかかしを突破できないな。サイバー・ジラフを召喚し、リリースしてターンエンド。」
パワー・ポンド。機械族融合モンスターの攻撃力を倍にして融合召喚出来るカード…が、リスクとして、使用したターンのエンドフェイズに融合したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与えるカード。
だが、サイバー・ジラフのモンスター効果は、このカードをリリースすることでエンドフェイズ終了時まで効果ダメージを無効にするカード。
よって、残るのは攻撃力が8000のサイバー・エンド・ドラゴンだけだ。
さて、何とかしないとな。
「俺のターン、ドロー!…カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」
このターンに出来る精一杯だな。
「俺のターン、ドロー。サイクロンを発動!くず鉄のかかしを破壊する!」
何て引きしてやがる!
「サイバー・エンド・ドラゴンで、ターレット・ウォリアーに攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト!!」
トラップはくず鉄のかかしだけじゃないぜ!
「トラップ発動!ガード・ブロック!戦闘ダメージを無効にし、カードを一枚ドロー!」
ターレット・ウォリアーはやられてしまったが、何とか耐え抜いた。
「ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!俺はマッシブ・ウォリアーを召喚!」
マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200
「マッシブ・ウォリアーで、サイバー・エンド・ドラゴンに攻撃!」
「何!?」
「マッシブ・ウォリアーは一ターンに一度戦闘では破壊されず、戦闘ダメージを受けない!」
遊矢LP2000
「そして、ワンショット・ブースターを特殊召喚!」
ATK0
DEF0
「ワンショット・ブースターは自分がモンスターの通常召喚に成功したターン、特殊召喚出来る!更に、このカードをリリースすることで、自分のモンスターと戦闘し、破壊されなかったモンスター一体を破壊する!!」
「このためにマッシブ・ウォリアーで攻撃したのか!?」
「その通りだ!ワンショット・ブースター!サイバー・エンド・ドラゴンを蹴散らせ!!」
ワンショット・ブースターのミサイルがサイバー・エンド・ドラゴンを破壊する。
「俺のサイバー・エンド・ドラゴンが…」
「俺はこれでターンエンドだ。」
危ない危ない。
「俺のターン、ドロー!俺は装備魔法、再融合を発動!800ポイントのライフを払い、墓地から融合モンスターを復活させる!現れよ、サイバー・エンド・ドラゴン!!」
また来たか!?
何て引きしてやがる!?
サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000
DEF2800
亮LP1700→900
「このターン、マッシブ・ウォリアーを突破できない。ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!」
サイクロン来い!
再融合は装備魔法。
再融合を破壊すれば、サイバー・エンド・ドラゴンも破壊される…が。
「俺は、マッシブ・ウォリアーを守備表示にしてターンエンド。」
そんな都合よく引けないって。
「俺のターン、ドロー。サイバー・ラーヴァを召喚。」
サイバー・ラーヴァ
ATK400
DEF600
攻撃力400のカードを攻撃表示?
「ターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!ターンエンド。」
ドローゴーって奴だ。
「俺のターン、ドロー。」
まだモンスター引くなよ~
「俺はサイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚。」
サイバー・ドラゴン・ツヴァイ
ATK1500
DEF1000
来たよ…
「サイバー・ドラゴン・ツヴァイでマッシブ・ウォリアーに攻撃!サイバー・ドラゴン・ツヴァイは、相手モンスターに攻撃する時、攻撃力が300ポイントアップする。」
サイバー・ドラゴン・ツヴァイ
ATK1500→1800
「だが、マッシブ・ウォリアーは一ターンに一度破壊されない!」
「分かっている。サイバー・エンド・ドラゴンで、マッシブ・ウォリアーに攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト!」
「だが、マッシブ・ウォリアーは戦闘ダメージを無効にする!!」
「サイバー・ラーヴァで遊矢にダイレクトアタック!」
遊矢LP2000→1600
「ターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!」
来たか、マイフェイバリットカード!!
「俺はスピード・ウォリアーを召喚!」
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
「バトル!スピード・ウォリアーは、召喚したターンのバトルフェイズ、攻撃力が倍になる!」スピード・ウォリアー
ATK900→1800
DEF400
「サイバー・ラーヴァに攻撃!ソニックエッジ!!」
「サイバー・ラーヴァの効果発動。戦闘ダメージを0にし、デッキからサイバー・ラーヴァを特殊召喚する。残念だったな。サイバー・ラーヴァに戦闘ダメージは発生しない。」
つまり、サイバー・ラーヴァは囮だったのか。
「…ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー。これで終わりだ。サイバー・エンド・ドラゴンで、スピード・ウォリアーに攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト!」
「トラップ発動!パワー・フレーム!!」
「トラップだと!?」
「ああ。サイバー・ラーヴァの効果ぐらい知ってるぜ。ラー・イエローのダブルトップを舐めんなよ!!」
不本意な名前だが。
「サイバー・ラーヴァの囮を読んで、罠を張っていたというのか…!?」
「その通り!パワー・フレームの効果は、攻撃対象となったモンスターが、相手モンスターより攻撃力が低い時のみ発動出来る!その攻撃を無効にし、このカードを攻撃対象モンスター、つまり、スピード・ウォリアーに装備する。装備したモンスターの攻撃力は、その時の攻撃モンスター、つまり、サイバー・エンド・ドラゴンとの攻撃力の差分アップする!!」
スピード・ウォリアー
ATK900→4000
「攻撃力4000だと!?サイバー・ドラゴン・ツヴァイを守備表示にし、ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!スピード・ウォリアーで、サイバー・エンド・ドラゴンに攻撃!ソニック・エッジ!!」
「相打ち狙いだと!?」
スピード・ウォリアーとサイバー・エンド・ドラゴンが戦闘し、残ったのは、スピード・ウォリアーだった。
「シールド・ウォリアーの効果を発動!墓地にあるこのカードを除外することで、戦闘による破壊を無効にする!!」
「最初のターン、墓地に送ったカードか…」
「おい、亮。お前、『互いを尊重しあって素晴らしいデュエルが出来た。敗れても悔いは無い』とか考えてないか?」
「…どうして分かった。一字一句同じで。」
一字一句同じかよ。
「だが、互いをリスペクトしあえば勝敗など…」
「そこがそもそもの間違いだ!俺はデュエルアカデミアに来て、いろんな奴とデュエルしたけどなァ、誰一人として負けてもいいなんて思いながらデュエルする奴はいない!!」
枕田も、明日香も、十代も、万丈目も、三沢も、ラー・イエローの皆も。
「何がリスペクトだ!勝敗は関係ないと言ってる自体、相手を馬鹿にしているんだよ!!」
俺の一言に亮は固まる。
何か思うことでもあったのだろうか。
「…俺は…リスペクトデュエルは…間違っていたというのか…」
「そうは言っていない。リスペクトする対象が、少なかっただけだ。」
俺のデュエルは、いつも言っているように『楽しんで勝つ』ことが目的だ。
亮のデュエルは、
『勝つ』の部分が足りなかったんだ。
「…これからのデュエル。互いをリスペクトしながら、勝たせてもらう。」そう言った亮の顔は、憑き物が取れたような良い笑顔だった。
「ああ。来いよ亮!!俺はこれでターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
やっぱり何か、気迫が違うな!
「俺は永続魔法、未来融合-フューチャー・フュージョンを発動!デッキから融合素材を墓地に送り、2ターン後に融合召喚する!!俺はキメラテック・オーバー・ドラゴンを選択し、デッキの機械族16体を墓地に送る!」
「どんな凄いモンスターが来るか知らないが、2ターン後で間に合うのか!?」
「2ターン後を待つ必要は無い。更に魔法カード、オーバーロード・フュージョンを発動!自分フィールド場、墓地から融合素材を墓地に送ることで、融合召喚を行う!」
「サイバー・エンド・ドラゴンでも出す気か!?」
「いいや、サイバー・エンド・ドラゴンではない。フィールド、墓地の合計で25体の機械族を除外し、キメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚!!」
恐らくこれがカイザー亮の真の切り札。そうと分かる威圧感…!!
キメラテック・オーバー・ドラゴン
ATK?
DEF?
「デュエルアカデミアでこいつを出したのは久し振りだな…このカードの攻撃力・守備力は、融合素材にした機械族モンスターの数×800ポイント。融合素材の数は25体だ。」
キメラテック・オーバー・ドラゴン
ATK?→20000
DEF?→20000
「このカードを融合召喚した時、自分フィールド場のカードを全て破壊する。」
未来融合-フューチャー・フュージョン-が破壊される。
「ありがとう。遊矢。君のおかげで俺は迷いを捨てられた。行くぞ!「ちょっと待ったァ!!」何!?」
「俺は手札からエフェクト・ヴェーラーの効果発動!このカードを墓地に送り、相手モンスター一体の効果を無効にする!!」
いざという時に助かるぜラッキーカード!!
キメラテック・オーバー・ドラゴン
ATK20000→0
DEF20000→0
元々の攻撃力は『?』。つまり、0だ。
「…俺はこれでターンエンドだ…」
「俺のターン、ドロー!行け、スピード・ウォリアー!キメラテック・オーバー・ドラゴンに攻撃!ソニック・エッジ!!」
「ぐあああああっ!!」
亮LP900→0
「よっしゃあああッ!!楽しいデュエルだったぜ亮!!」
「ああ。俺もだ…そして、次は勝つ!!」
「嘘…亮が負けた…」
「…ん?いたのか明日香。」
「ずっといたわよ!!」
言ったのは俺じゃなく、亮だ。
天然で。
「さて、俺はそろそろ帰らせてもらうぞ。」
クーラーボックスを持ち、ラー・イエローの寮へ帰った。
「カイザー亮!またデュエルしようぜ!!」
それから明日香に聞いた話では、亮のデュエルから迷いが消え、勝つという気迫が出来たらしい。 
 

 
後書き
VSカイザー亮でした。

ヘルカイザーになる予定は無いのであしからず。

感想・アドバイス待ってます!! 

 

-闇のデュエル-前編-

 
前書き
今回は展開上、どうしてもいつもより見づらくなっております。
ご注意下さい。 

 
side遊矢
今日の俺は明日香と共に廃寮に来ていた。
何でも、明日香の兄である天上院吹雪が、この廃寮で行方不明になっているそうだ。
亮と共に様々な手段に訴えたものの、どれも空振り。
それでも諦めず、灯台の下で作戦会議や、情報交換を行っているそうだ。
「兄さん…」
廃寮に薔薇の花を供え、しんみりとしてしまう明日香。
この空気は、キツイ。
「それにしても、あれだな!何で明日香は俺にこのことをうち明けてくれたんだ!?」
必要以上に明るい声を出して喋る。そんな俺の小さな気遣いに気づいてくれたか、クスッと笑う明日香。
「それは、デュエルをしたり、話をしたりするうちに、あなたは信頼できる人だと思ったからよ。」
「おおう、それは嬉しいな。それより気づいてるか明日香。」
「何に?」
「今の言葉、シチュエーション的に告白みたいだったぜ?」
「そ、そんなことあるはずないじゃないっ!!」
顔を真っ赤にして即答してくれた。
明日香は何というか…普段キリッとしているから赤くなったりすると可愛い。困らせたくなる。
…俺がSに目覚めたら、確実にこいつのせいです。はい。
「…そうか…そんなわけないのか…俺は明日香が好きなのに…」
必要以上に落ち込んでみる。
「好っ!?そ、そんなに落ち込まないで遊矢…私も、その、あなたのこと…好き…だから…」
作戦成功。
「クックックッ…」
おっと、思わず笑ってしまった。明日香が怪訝な様子でこちらを見てくる。
「ドッキリ大成功でした〜ありがとうございま〜す。」
「ドッキリってどういうこ「動くな明日香!」な、何?」
手の中にあるPDAのボタンを押す。
『私も、その、あなたのこと…好き…だから…』
と、PDAから明日香の声が流れる。
「こんなこともあろうかと、さっき録音しておいたんたが、これを明日香ファンクラブの連中に売ったら何円になるか…」
「返しなさいっ!!」
「危ねェッ!!」
顔が真っ赤な明日香のパンチをギリギリで避ける。
「返せって何だよ、これは俺んだ!!」
「私の声なんだから私のものよっ!!」
「誰か助けてェェェ!!」
明日香とのリアルファイト(防戦一方)を繰り広げていたら、人が来た。
「おいどうした!!大丈夫か!!」
来たのは十代。遅れて翔と…デス・コアラ?が来た。
「助かったぞ十代!!明日香が襲ってくるんだ!!助けてくれ!!」
「はあ!?」
十代からしてみれば、釣り用のクーラーボックスとPDAを持ちながら、友人が顔を真っ赤にした友人に襲われている。という状態だ。
まるで意味が分からんぞ。
「聞いてくれ十代!これこれこういう事情があって襲われているんだ!!」
「良く分かんねぇけど、止めろよ明日香!」
十代が俺の前に立って庇ってくれる。
ああ。持つべきものは大切な友人…
「退きなさい十代!!」
「はい。」
「十代ィ!!俺を裏切ったなァァァァァァ!!」
明日香が迫る。それはもう、顔を真っ赤にしながら怒っている。
「助けてくれ翔!俺はこの声を明日香ファンクラブに売って一攫千金を狙うんだ!!お前には分かるはずだ!儲けの三割やるから!!」
助けを求める人を変えてみたら、目を逸らされた。
「翔ォォォォォ!!」
そんなことを喋っていたら、明日香にPDAを盗られてしまう。
「止めろ明日香!それには男の夢と俺の一攫千金が!!」
『音声を削除しました。』
無機質な機械音声が響く。
「ウワァァァァァ!!」
「それで、あなたたち三人はどうしてこんなところにいるの?」
叫ぶ俺を無視して、明日香は十代たちに問いかけた…


十代たちの話は、大徳寺先生にこの廃寮の話を聞いて肝試しに来たそうだ。
その話を聞いて、明日香は当然キツイ口調で止める。
「止めといた方がいいぞ十代。立ち入り禁止のところに入ったりなんかしたら、クロノス教諭が『ドロップアウトボーイは退学なノーネ』とか言い出すに決まっているだろ?」
「お、似てたぜ今のモノマネ。…そうだな。そんなんで退学になったら堪んないぜ!!」
十代を廃寮に入らないように誘導し、デス・コアラの方に視線を向ける。
「で、どちら様?」
デス・コアラはなんとも人好きのする笑顔で近づいて来た。
「十代たちのルームメイトの前田隼人なんだな。遊矢の話は良く十代たちから聞いてるんだな。」
「よろしくな隼人。…でも、もうオシリス・レッドに帰った方がいいぜ。」
「ヤベぇ!!早く帰ろうぜ!翔、隼人!!」
すぐさま十代は走り出した。
「待ってよアニキ〜」
「待って欲しいんだな十代〜」
2人も十代を追って走り去っていった。
「これでよし。」
「十代たちを行方不明者にするわけにはいかないものね。」
「おいおい、俺や亮は良いのか…どうした。」
軽口を止めたのは、明日香がただ事じゃない表情で廃寮の中を見つめていたからだ。
「今、廃寮の中に人影が…」「人影?…ってちょっと待て明日香!!」
明日香は止める間もなく廃寮の中に突っ込んでいった。
「くそッ!あの馬鹿!!」
明日香を追って廃寮の中に入っていった。


「どこだよ明日香…」
見失ってしまった。
俺の名誉の為に弁解させてもらうと…今はそんな場合じゃないな。
明日香を探して歩いている内に、人かと思って近づいたら、肖像画だった。サイン付きの。
「FUBUKI10JOIN…吹雪、天上院?」
明日香の兄さんの写真か、これ。
手がかりゲットだぜ!!
肖像画をクーラーボックスの上に置いていると。
「きゃあああああっ!!」
明日香の…叫び声!?
「明日香ァァァァ!!」
どこにいる!?
辺りを見回してみると、足下に『サイバー・ブレイダー』が落ちていた。
「誰だか知らんが、誘ってるつもりか…!!」
サイバー・ブレイダーを拾い上げ、正面へ走った。

やがて、広いデュエル場に着いた。
開いた棺桶の中で、明日香が眠っている。
「明日香!?」
「彼女はぁ、深い闇の中に捕らわれてぇいるぅ。」
「誰だ!?」
声がした方を見ると、マスクをつけた黒コートの男が姿を現す。
「我が名は闇のデュエリストタイタン…あの者を救うには、私をデュエルで打ち負かさなければならない…」
「やってやる!!」
デュエルディスクを構える。
「ほう…威勢がいい…ならば行くぞ!」
「「デュエル!!」」
「さぁ、闇のゲームの始まりだ…」
「闇のゲームだと!?」
デュエルディスクに『後攻』と表示される。
「すぐに分かる…私の先行!ドロー!」
タイタンがデュエルコートからカードを引く。
「私はぁ、フィールド魔法、万魔殿-悪魔の巣窟-を発動!」
フィールド魔法が発動し、辺りが煙に包まれる。
「さしずめ、地獄の一丁目とでも言っておこうかぁ。更に、シャドウナイトデーモンを召喚!」
シャドウナイトデーモン
ATK2000
DEF1600
「カードを一枚伏せ、ターンエンド…貴様のターンだ、遊城十代ぃ。」
は?
「俺の名前…遊城十代じゃなくて黒崎遊矢なんだけど…」
空気が固まった。
「…遊城十代ではないのかぁ?」
「ああ。そもそもあんた、何の用?」
明日香の叫び声が聞こえて頭に血が上っていたが、冷静に考えれば、何やってんだ?
「私はぁ、ある人物から闇のデュエルで遊城十代を倒して欲しいという依頼を受けたのだぁ。」
「闇のデュエルに必要な千年アイテムはエジプトに埋まったと聞いたが。」
「いや、私のは本物だぁ。見ろ、これが7つの千年パズルの内の一つだぁ。」
「千年アイテムは7つとも別の形をしているんだが。」
この前の錬金術の授業でやってたな。
意外と奥が深いぞ。
錬金術。
「…見逃してくれんかぁ。」
「あー…この島から出て行き、明日香を解放してくれたらな。」
デュエル、中断。
「彼女なら薬で眠っているだけだぁ。今すぐ、お前に返そう。」
2人で棺桶の近くに行くと、煙りが酷くなった。
「ッ!?タイタンお前!!」
「ち、違うぅ!私は何もしていないぃ!!」
タイタンがそう言う間に、辺りは闇に包まれていく。
「何だ…何が起きてる…?」
「黒崎遊矢ぁ!あれを見ろぉ!!」
タイタンが指を指した方には、黒い泡がボコボコと吹き出ていた。
そして、こちらに向かって来る!!
「うおわァァァァァ!!」
眠っている明日香がいるので逃げられない!

その時、デッキが光ったような気がした。
いくら待っても黒い泡が来ることは無く、見てみると、機械戦士たちが黒い泡を止めていた。

「どうなっているのだ黒崎遊矢ぁ!!」
「俺が聞きだいよ…あんた、闇のデュエリストじゃないのか?」
「私は只のマジシャンのインチキ闇のデュエリストだ…」
黒い泡は機械戦士たちに適わないと思ったのか、後退していった。
「みんな…」
そこには、いつも一緒に戦ってくれる仲間たちがいた。
…が。
デッキに戻ってしまった。
「何でだよ!?お前らと話がしてみたかったのに!」
「黒崎遊矢ぁ!泡が人の形になっていくぞ!」
タイタンの言葉に目を向けてみると、黒い泡がボコボコと音をたてて人の形になっていく。
てか、人の形って…
「俺たち!?」
泡は途中で2つに別れ、一つは俺。
もう一つはタイタンの形になっていた。
「そうだよ、俺。」
『俺』が喋る。
「『俺』たちはこの空間から出ると死んでしまうんだ。だからお前らの身体をもらおうと思ったんだが…失敗しちまったな。」
『俺』は、口調と声まで俺と同じだった。
不愉快だ。
「不愉快なのはこっちも同じだよ、俺。」
「ここから出せぇ!!」
タイタンが叫ぶ。
「それはぁ、我らとデュエルしぃ、勝てばの話だぁ…」
『タイタン』が口を開く。あっちもそっくりだ。
「『俺』たちが勝てば、俺の身体を戴く。『俺』たちが負ければ、この空間は消える。」
そう言って『俺』はデュエルディスクを構える。
「やるしかないか…タイタン!タッグデュエルだ!行くぞ!!」
「おうぅ!!私はぁ、こんなところで死ぬわけにはいかんのだぁ!!」
「デュエルだ、『俺』!」
「いいだろう、俺。楽しんで勝たせてもらうぜ!」
「タイタンは私だぁ!!断じてお前などではないぃ!!」
「『タイタン』は私だぁ。これからなぁ。」
全員のデュエルの準備が完了。
「さぁ、タッグフォース・ルール、闇のデュエルバージョンの開始だ。」
「絶対に勝つぞ、タイタン!」
「無論だぁ!!」

「「デュエル!!」」 
 

 
後書き
思いつきの設定を考えなしに加えたらこんな結果に。
『俺』となっているのが黒い泡遊矢。
『タイタン』となっているのが黒い泡タイタン。
無印が本物です。

どうもすいません。
感想、アドバイス待ってます!! 

 

-闇のデュエル-後編-

 
前書き
前回に引き続き、偽物には『』がついています。

タッグデュエルのルールはタッグフォースのルール遵守。 

 
遊矢&タイタンLP8000
『遊矢』&『タイタン』LP8000

side遊矢

「『俺』のターン、ドロー!」
さて、『俺』はどんなデッキだ?
「『俺』はまず、幻銃士を召喚!」
幻銃士
ATK1100
DEF800
「幻銃士…そんなカード、俺のデッキには入っていないな。」
「当然だ、俺。お前らが信じるデッキがどれほど弱いか教えてやるためだからなァ。幻銃士の効果発動!自分フィールド場のモンスターの数トークンを生み出す!」
銃士トークン
ATK500
DEF500
「更に永続魔法、冥界の宝札を発動する。」
冥界の宝札…2体のモンスターを必要としたアドバンス召喚に成功した時、二枚ドロー出来るカード…あるデッキには必要不可欠な永続魔法だ。
「なるほどぉ。奴のデッキは【冥界式最上級多用】のようだなぁ。」
「良く知ってるな、タイタン。冥界の宝札で二枚ドローしつつ、上級モンスターで倒すデッキ…上級モンスターが来る前に速攻だ。」
「慌てるなよ、俺。魔法発動、二重召喚!このターン、二回の通常召喚が可能になる。幻銃士と銃士トークンの2体をリリースし、魔王ディアボロスをアドバンス召喚!!」
魔王ディアボロス
ATK2800
DEF1000
「冥界の宝札の効果で二枚ドロー。カードを二枚伏せ、ターンエンドだ。」
もう出て来たか。
「フン…面白いぃ…まずは私のターンで良いかぁ。黒崎遊矢ぁ。」
「ああ。あのデカブツは任せる。それと名前で良い。」
「分かったぁ。私のターン、「魔王ディアボロスの効果を発動。」このタイミングでだとぉ!?」
『俺』のフィールドにある魔王ディアボロスの効果。
「相手のドローするカードを確認し、それをデッキの一番上か一番下に戻す。さあ、お前の引くカードを見せろ!」
タイタンのデュエルコートからカードが一枚抜かれる。
「インフェルノクインデーモン…何だ、只のザコカードか。一番上に戻せ。」
「私のデーモンたちを馬鹿にするのは許さん!!ドロー!!」
怒ったタイタンが、インフェルノクインデーモンをドローする。
「私はぁ、デーモン・ソルジャーを召喚!!」
デーモン・ソルジャー
ATK1900
DEF1500
「そして装備魔法、堕落!デーモンと名のつくカードが存在する時、相手のモンスター一体に装備し、装備したモンスターのコントロールを奪うぅ!!装備するのは、魔王ディアボロス!!」
魔王ディアボロスのコントロールが俺たちに移る。
「やるじゃないかタイタン!」
「これでも、プロデュエリストを目指していたのでなぁ…バトルだ!デーモン・ソルジャーでダイレクトアタック!」
「ぐうっ!」
『遊矢』&『タイタン』LP8000→6100
『俺』と『タイタン』にダメージを与えた。
それと同時に。
身体が消えていた。
「何ぃ!?」
「何を驚くことがある?闇のゲームなんだ。当然だろう?」
身体が消えているというのに、余裕そうな態度の『俺』。
「今のライフポイントはゲームのことじゃない。本物の命そのものなんだよ。」
「つまりぃ、ライフポイントが無くなったらぁ…」
「死ぬ。」
怯えるタイタンに喜々とした『俺』。
「何がそんなに嬉しいんだ、『俺』?」
「嬉しいさ…ようやくこのジメジメとした場所から出られるんだからなァ!!」
「ふざけるなぁ!!魔王ディアボロスで、ダイレクトアタック!!」
コントロールを奪った魔王が偽物どもに向かっていく。
「速攻魔法発動、サイクロン。堕落を破壊する。」
装備魔法、堕落を破壊されたため、魔王ディアボロスは偽物どものフィールドに戻る。
「貴様ぁ…何故コントロールを奪った時に発動しなかったぁ…?」
「ハンデだよ。ハ・ン・デ。」
俺の偽物さっきからイラつくな。
「ぬぅ…カードを二枚伏せ、ターンエンドだぁ!!」
「私のターン、ドロー!」
『タイタン』のターンだ。
そういえば、さっきからあいつ喋んないな。
「私はぁ、高等儀式術を発動…デッキから、メルキド四面獣、仮面呪術師カースド・キュラを墓地に送り、手札から仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを儀式召喚!!」
仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー
ATK3200
DEF1800
「攻撃力3200だとぉ!?」
「バトルぅ!魔王ディアボロスで、デーモン・ソルジャーに攻撃!」
「トラップ発動!ヘイト・バスター!!悪魔族モンスターが攻撃対象に選択された時、相手モンスターと自分のモンスターを破壊し、相手モンスターの攻撃力分のダメージを与えるぅ!!」
デーモン・ソルジャーが爆弾を持って魔王ディアボロスと自爆する。
『俺』&『タイタン』LP6100→3300
「ぬぐぅぅ!!…たがぁ、仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーでダイレクトアタック!!」
「ぐあああああっ!!」
「タイタン!大丈夫か!?」
「おっとぉ…黒崎遊矢ぁ…貴様にも当然ダメージが行くぞぉ…」
「何ッ!?がああああああッ!!」
遊矢&タイタンLP8000→4800
「更にカードを二枚伏せ、ターンエンドだぁ。」
「すまない遊矢ぁ。ライフポイントを大きく削られたぁ。」
「代わりに5000もライフポイント削ったじゃないか。後は任せろ。俺のターン!」
「貴様程度に何が出来るものかぁ。」
今度は『タイタン』が喋りだしたな。
デュエルしている奴が喋るのか。
「俺はタイタンのリビングデッドの呼び声を発動!デーモン・ソルジャーを復活させる!」
デーモン・ソルジャー
ATK1900
DEF1500
「そして、ロケット戦士を召喚!」
ロケット戦士
ATK1500
DEF1300
「ロケット戦士にロケット・パイルダーを装備する。バトル!ロケット戦士で仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーに攻撃!」
ロケット戦士が自分の身体をロケットに変形させ、突っ込む。
「ロケット戦士は自分から攻撃する時、破壊されず、ダメージを受けない!」
ロケット戦士が仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーに風穴を空ける。
「ロケット・パイルダーの効果を発動!このカードを装備したモンスターの攻撃力分、相手モンスターの攻撃力を下げる!」
仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー
ATK3200→1700
「更にロケット戦士の効果を発動!このカードとバトルしたモンスターは、500ポイント攻撃力が下がる!」
仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー
ATK1700→1200
「行け!デーモン・ソルジャー!」
デーモン・ソルジャーが力を失った仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを切り裂く。
『俺』&『タイタン』LP3300→2600
「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド「おっとぉ、速攻魔法、終焉の炎を発動!黒炎トークンを二体特殊召喚!」
黒炎トークン×2
ATK0
DEF0
「今度こそ、ターンエンドだ。」
「『俺』のターン、ドロー!…じゃあ行くぜェ!!黒炎トークン二体をリリースし、闇の侯爵ベリアルを召喚だァ!!」
闇の侯爵ベリアル
ATK2800
DEF2400
「冥界の宝札の効果で二枚ドロー!!更にトラップ発動、リビングデッドの呼び声!仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを復活させる!」
仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー
ATK3200
DEF1800
「『俺』には小細工なんて必要ねェ、度胸とパワーで押しまくるぜ!!闇の侯爵ベリアルでロケット戦士に攻撃!」
「それは結構だが、小細工は必要不可欠だと思うぞ。トラップ発動!くず鉄のかかし!!」
くず鉄で作られたかかしが闇の侯爵ベリアルの攻撃を止める。
「チィッ!!」
「化けの皮が剥がれてきたな偽物。」
「うるせェ!仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーでロケット戦士に攻撃!」
「ぐううううッ!!」
遊矢&タイタンLP4800→3100
「トラップ発動、奇跡の残照!ロケット戦士を特殊召喚!」
ロケット戦士
ATK1500
DEF1300
「さあ、身体が消えていくぜェ!!」
「それがどうした?」
「は!?」
リアクションのない俺に驚く『俺』。
「ビビらなくてもいいぜタイタン。負けたら身体が奪われるんだ。だったら、この身体が消えんのはただビビらせてるだけだろ。」
俺たちの身体が欲しいなら、消すわけにはいかないよな。
「チッ…見かけによらず洞察力がある奴だな…」
消えていた(ように見えていた)身体が元に戻る。
「見かけによらず、は余計だ。ラー・イエローのダブルトップを舐めるなよ?」
気に入ってはないがな。
「『俺』はカードを三枚伏せ、ターンエンドだ。」
「私のターン、ドロー!通常魔法、死者蘇生を発動ぅ!!貴様らの墓地の魔王ディアボロスを特殊召喚!」
魔王ディアボロス
ATK2800
DEF1000
「そしてインフェルノクインデーモンを守備表示で召喚!」
インフェルノクインデーモン
ATK900
DEF1500
「いけ、ロケット戦士!闇の侯爵ベリアルに攻撃だぁ!」闇の侯爵ベリアル
ATK2800→2300
「魔王ディアボロス、闇の侯爵ベリアルに攻撃!!」
『遊矢』&『タイタン』LP3300→2800
「デーモン・ソルジャーを守備表示にしてターンエンドぉ。」
「ターンエンドの前に終焉の炎を発動!!来い、黒炎トークン!!」
黒炎トークン×2
ATK0
DEF0
「私のターン、ドロー!思い出のブランコを発動ぅ!!メルキド四面獣を蘇生する!!」
メルキド四面獣
ATK1500
DEF1200
「そして、メルキド四面獣と黒炎トークンをリリースしぃ、仮面魔獣デス・ガーディウスを召喚するぅ!!」
仮面魔獣デス・ガーディウス
ATK3300
DEF2500
「攻撃力3300…さっきから、攻撃力高いな。」
「余裕面ができるのも今の内だけだぁ…仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー!魔王ディアボロスに攻撃!!」
「ぐおっ!!」
遊矢&タイタンLP3100→2900
「ふん…くず鉄のかかしなどという小細工がぁ…ターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、お前らがザコカードと呼んだカードの力を見るが良い!!インフェルノクインデーモンの効果発動!!デーモン・ソルジャーの攻撃力を1000ポイントアップさせる!!」
デーモン・ソルジャー
ATK1900→2900
「更に装備魔法、魔導師の力をデーモン・ソルジャーに装備する。自分フィールドにある魔法・トラップの数×500ポイント攻撃力・守備力をアップさせる!!俺たちのフィールドにある魔法・トラップは魔導師の力、くず鉄のかかしの二枚!よって、攻撃力・守備力が1000ポイントアップ!!」
デーモン・ソルジャー
ATK2900→3900
DEF1500→2500
「更に通常魔法、ダブルアタックを発動!」
「ダブルアタックだとぉ!?」
「このカードは、対象とした自分フィールド場のモンスターよりレベルが高いモンスターを手札から捨てることで、対象としたモンスターは二回攻撃ができる!!手札からバックアップ・ウォリアーを手札から捨て、このターン、デーモン・ソルジャーは二回攻撃できる!!」
「に、二回攻撃ぃ!?」
「デーモン・ソルジャーを攻撃表示にし、バトル!まず、仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーに攻撃!!」
デーモン・ソルジャーが魔導師とバックアップ・ウォリアーの力を得て、仮面の悪魔を斬る。
「ぐおぉ!」
『遊矢』&『タイタン』LP2800→2100
「更に、デーモン・ソルジャーで仮面魔獣デス・ガーディウスに攻撃!!」
『遊矢』&『タイタン』LP2100→1500
「フフフフ…仮面魔獣デス・ガーディウスの効果発動!デッキから遺言の仮面を発動出来る!」
フィールドに不気味な仮面が現れる。
「遺言の仮面はぁ、仮面魔獣デス・ガーディウスの効果で発動した時、装備魔法となり、装備したモンスターのコントロールを奪う!デーモン・ソルジャーに装備ぃ!!」
デーモン・ソルジャーのコントロールが偽物どもに移る。
「デーモン・ソルジャーがぁ!!」
「…すまない、タイタン…」
「いやぁ、気にするなぁ。勝利のためだぁ…」
歯を食いしばって悔しそうだがな。
タイタン。こいつのデッキへの愛着は本物だ。
「俺はロケット戦士を守備表示にしてターンエンド。」
「『俺』のターン、ドロー!…いくらデーモン・ソルジャーの攻撃力が高かろうと、くず鉄のかかしがあれば意味がないと思ったか、俺。」
その通りだよ『俺』。
「だが甘い!黒炎トークンと、デーモン・ソルジャーをリリースし、暗黒の侵略者を召喚!」
暗黒の侵略者
ATK2900
DEF2500
「冥界の宝札の効果で二枚ドロー。そして、リバースカードオープン!スパーク・ブレイカー!!一ターンに一度、自分フィールド場のモンスターを破壊することが出来る!暗黒の侵略者を破壊する!!」
「「何だと!?」」
自分で自分のモンスターを破壊した!?
「速攻魔法、デーモンとの駆け引きを発動!!このカードは、自分フィールド場のレベル8以上のモンスターが破壊されたターンに発動出来るカード!手札・デッキから、バーサーク・デッド・ドラゴンを特殊召喚する!」
バーサーク・デッド・ドラゴン
ATK3500
DEF0
「このドラゴンが俺たちの切り札だ。こいつの効果は、相手のモンスターに一体ずつ攻撃ができる…くず鉄で作られたかかしなんて無意味なんだよ!!更に装備魔法、メテオ・ストライクをバーサーク・デッド・ドラゴンに装備する!このカードを装備したモンスターは、貫通効果を得る!」
まずいな…。
「バトル!インフェルノクインデーモンに攻撃だ!」
「くず鉄のかかし!」
「なら、ロケット戦士に攻撃!」
「があああああッ!!」
遊矢&タイタンLP2800→600
「『俺』はこれでターンエンド。自分のターンのエンドフェイズ、バーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃力は500ポイント下がる。」
バーサーク・デッド・ドラゴン
ATK3500→3000
「私のターン、ドロー!」
頼むぜ、タイタン…
「私は、サイバーデーモンを守備表示で召喚!!」
サイバーデーモン
ATK1000
DEF2000
「カードを一枚伏せ、ターンエンド…」
これで両者手札0。
「私のターン、ドロー!」
『タイタン』のターンだ。
「私は奈落との契約を発動!手札から仮面呪術師カースド・キュラと、メルキド四面獣を墓地に捨て、仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーを儀式召喚!!」
仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー
ATK3200
DEF1800
「また来たか…」
「バトル!バーサーク・デッド・ドラゴンで、サイバーデーモンに攻撃!」
「トラップ発動!攻撃の無力化!!攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させるぅ!!」
「なんだ、ただの時間稼ぎか。ターンエンド。バーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃力は500ポイント下がる。
バーサーク・デッド・ドラゴン
ATK3000→2500
「遊矢ぁ。頼む。」
「任せろタイタン!!サイバーデーモンの効果!手札が0枚の時、通常のドローに加えてもう一枚ドローできる!!俺のターン、ドロー!!」
来てくれたな、マイフェイバリットカード!
「スタンバイフェイズ、インフェルノクインデーモンの効果でサイバーデーモンの攻撃力を1000ポイントアップさせる。」
サイバーデーモン
ATK1000→2000
「俺はスピード・ウォリアーを召喚!!」
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
『トアアアッ!!』
「そんなザコカードでぇ、どうしようというのだぁ!?」
「こうするのさ。このカードが、タイタンが繋いでくれたエンドカードだ!魔法発動、クロス・アタック!このカードは、自分フィールド場の同じ攻撃力を持つモンスター二体を選択して発動する!選択したモンスター一体は相手プレイヤーにダイレクトアタックができ、もう一体のモンスターは攻撃することができない。俺はスピード・ウォリアーと、インフェルノクインデーモンを選択!!」
「私のフェイバリットカードの力を受けとれぇ、遊矢ぁ!!」
スピード・ウォリアーが、インフェルノクインデーモンから力を受け取る。
「こいつが俺たちのフェイバリットカードの力だ!」
「だが、黒崎遊矢よぉ…スピード・ウォリアーの攻撃力、900では、我々の1500のライフを削ることは出来ないぃ…。」
「バトル!!スピード・ウォリアーは、召喚したバトルフェイズ、攻撃力が倍になる!!」
スピード・ウォリアー
ATK900→1800
「消えろ偽物!!スピード・ウォリアーでダイレクトアタック!クロス・ソニック・エッジ!!」
「ぬおおおおおっ!!」
『遊矢』&『タイタン』LP1500→0

闇が、割れた。


気がついたら、俺とタイタン、まだ眠っている明日香は廃寮の外にいた。
「ナイスだタイタン。あんたのサイバーデーモンのおかげで助かったぜ。」
「いや、トドメをさしてくれて助かったぁ。」
そうして二人で笑いあう。
「お前と共にデュエルをしたらぁ、また、プロデュエリストを目指したくなったぁ。」
「ああ、そういや言ってたな。」
-伊達にプロデュエリストを目指していたわけではない。
「ああ。一度は挫折し、インチキ闇のデュエリストまで堕ちてしまったが、またやってみせる!!」
「へへ、その息だ!プロになったら、今度は1対1でデュエルしような!」
「ああ。約束しよう…」
握手。
「…ところで、この明日香はいつまで眠ってるんだ?」
スヤスヤと。
こっちが命賭けてる時に。
「もうそろそろ起きる筈だぁ…私はそろそろ行く…また、プロを目指してな。」
立ち上がるタイタン。
俺はまだ闇のゲームの衝撃で立てん。
「さらばだ…今度会う時は、プロデュエリスト、タイタンだ。」
「その時は、楽しんで勝たせてもらうぜ!!」
去っていくタイタンの背中に、ちっちゃいインフェルノクインデーモンの精霊みたいなのが見えたのは、気のせいだよな…
「この野郎…野郎ではないが…まだ起きないのかね。」
明日香の頬をペチペチ叩く。
「可愛い顔して、実は起きてんじゃねえか?」
とりあえず明日香ファンクラブに売ってやろうと明日香の寝顔を撮ったところで。

俺の意識は途切れ、
倒れた。 
 

 
後書き
冥界式最上級多用】も【仮面魔獣デス・ガーディウス】も使ったこと無いので、純正品とは違うと思います。

タイタンはきっとこんなひとだったんだ。

感想、アドバイスも待ってます!! 

 

-知らない天井-

 
前書き
この頃『SAOの二次が書きたくなる』病に冒されています。

誰か治療法を教えて。 

 
知らない天井。
てか保健室の天井だ。
「起きたか。遊矢。」
この声は…三沢か。
「三沢…今、何時だ?」
「時間で言うと4時だ。君がここに運び込まれて次の日のな。」
三沢が時計を見て答える
「詳しいことは明日香くんから聞いた。廃寮の中で不審者に襲われたんだって?」
不審者…明日香はそう言ったのか。
「明日香くんの方は君が守ってくれたからな。問題ない。君が起きたとメールをしておくよ。」
俺が明日香を守った?
また変な噂が流れそうだよ。どうでも良いが。
「それじゃあ、俺は飲み物を買ってくるよ。」
そう言って三沢は保健室から出て行った。
入れ替わって明日香が走ってきた。
「遊矢!大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。もうなんともないぜ。」
俺の一言に明日香は、泣きだしそうになった。
「おいおい泣くなよ!?俺がなんかやったみたいじゃないか!?」
「…私…実は…意識はあったの…だから、あの変な泡とのデュエルも…ごめんなさい!!…あんなことに巻き込んで…」
「気にするな。闇のゲームってのも面白かったし、未来のプロデュエリストとも知り合いになれたしな。」
未来のプロデュエリスト、タイタン。
「…でも…」
「止めろよ明日香。」
明日香の頭にポンと手を置く。
「お前がそんなしおらしいことしても似合わないしな。反応に困る。」
「なっ!!」
「ああ、でもクイーン(笑)には、しおらしい方が良いのかな。」
「馬鹿っ!!」
ぐはッ!!
「闇のゲームより…痛い…」
平手打ちです。
「そ、そんなに強く叩いてないわよ!?」
「つまり、闇のゲームは明日香の平手打ちよりたいしたことないってわけだよ。もう大丈夫。」
「でも…」
「ああ、そういえば、渡すものがあるんだ。まず、これ。サイバー・ブレイダー。」
タイタンが落としたカードだ。
「それと、これ。」
天上院吹雪のサイン。
「これは…。」
「この人、明日香の兄ちゃんだろ?廃寮に落ちてたぞ。」
「ええ…間違いないわ…兄さんは、洒落て10JOINて書いてたから…ありがとう…」
「泣くなよ。泣き虫。」
「なっ…誰が!!」
「はい、これでこの話は終了。」
終了宣言をしたと同時に、三沢が飲み物を買ってきた。
「飲み物買ってきたぞ。遊矢は日本茶が好きなんだよな。」
三沢が飲み物を買ってきてくれたおかげで、闇のゲームについての話は終わった。
「明日香くんは紅茶で良いかな?」
「私の分まで買ってきてくれたの?いただいおくわ。」
「見てくれ三沢。頬にすごい傷が!!」
平手打ちされた頬を見せる。
実際は虫に刺されたほども痛くなかったぞ。
念のため。
「これは酷い…誰にやられたんだ。」
「そこのクイーン(笑)…」
「そういえば遊矢。私のファンクラブに売るつもりだった私の寝顔、PDAから消しておいたわ。」
「そんな馬鹿なァァ!!」
闇のゲームでちょっとダメージを受けたものの。
まあ、元気です。
~数十分後~
「そういえば遊矢、真面目な話があるの!」
真面目な…話…?
「十代たちが退学させられてしまうかも知れないの!!」
な、なんだってー!!……ふざけている場合じゃないな。

明日香と三沢の話を聞くと、だいたい事情は分かった。
俺と明日香が入った廃寮に、何故か十代たちが入ったことになっている。
あそこは立ち入り禁止の場所。何故入ったか取り調べをするために十代と翔を呼んだが、当然二人は入っていない。
査問委員会には、態度が悪いとされて停学処分を受けそうになった時、クロノス教諭が退学を賭けたタッグデュエルに無理やりしたらしい。


「クロノス教諭…良い先生なんだがな。あれがもう少しなんとかなれば。」
「まあ、そうだな。教え方も分かりやすいし。」
三人でオシリス・レッドの寮に向かっていた。
「十代はともかく、心配なのは翔だな。寮に行ったら、『僕じゃ無理だ~隼人くん変わってよ~』って言ってるぜ。絶対。」
「私もそう思ってパートナー私に変えてくださいって頼んだんだけど…断られてしまったわ。」
「それは仕方ないな。クロノス教諭も、明日香くんを退学にしたいわけじゃないからな。」
オシリス・レッド寮遠いな…
「そういえば、俺、翔とデュエルしたことないな。強いのかあいつ?」
「入学試験の時は…確か、オシリス・レッドでギリギリのラインだったわね。」
ギリギリ、デュエルアカデミアに入れるレベルのオシリス・レッドでギリギリって…
オシリス・レッド寮に到着して、十代たちの部屋に行ったところ。
「僕じゃ無理だ~隼人くん変わってよ~」
予想と全く同じだった。
隼人も、十代のパートナーを自分にしてくれと頼んだようだが、却下されたそうだ。
「要するに、勝てばいいんだな。」
「気楽に言わないでよ遊矢くん!!」
「タッグデュエルか…楽しそうだぜ!」
十代はいつも通りだな。
「アニキ、タッグデュエルやったことあるんスか?」
「いや、無い。」
翔は再びもうダメだ~と泣きだす。
「じゃあとりあえずタッグデュエルしてみようぜ。十代と翔、俺と三沢でな。」
「面白そうだな!!やろうぜ!!」
十代はいつも楽しそうで何よりだ。
オシリス・レッドのデュエル場。
俺が三沢とタッグデュエルをするつもりだったが、明日香が、
「ケガ人は休んでいなさい。」
と言われ、隼人と一緒にデュエルを見物することとなってしまった。
仕方ないさ!!
泣きそうな顔して、
「頼むから…」
とか言われて休まない男子はいないさ!!
「三沢!明日香!楽しいデュエルをしようぜ!!」
「遠慮はいらないわ。全力でかかってきなさい!」
「「「デュエル!!」」」
「…デュエル。」
約一名気合いが入ってない奴がいるな。
「私のターン、ドロー!」
明日香のターンからか。
「私はエトワール・サイバーを召喚!」
エトワール・サイバー
ATK1200
DEF1600
「更に装備魔法、融合武器ムラサメブレードをエトワール・サイバーに装備する!」
エトワール・サイバー
ATK1200→2000
「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」
「僕のターン、ドロー!」
「お、気合い入ったな翔。」
「翔だって、やるときはやるんだな。」
「僕はパトロイドを召喚!」
パトロイド
ATK1300
DEF1300
「更にリミッター解除を発動!自分フィールド場の機械族モンスターの攻撃力は倍になる!!」
ここでリミッター解除…?
パトロイド
ATK1300→2600
「バトル!パトロイドで、エトワール・サイバーに攻撃!シグナル・アタック!!」
「トラップ発動!攻撃の無力化!!攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!!」
「えぇ~そんなぁ~」
「なあ…翔…?」
「十代!タッグパートナーへの助言は禁止だぞ!」
助言したい気持ちは俺にも分かる。
「やっぱり僕じゃダメだったんだぁ~」
すっかり戦意を喪失してデュエル場に『の』という字を書きだす翔。
「…ダメね、これは。」
酷いな明日香。
「気張れ、気張るんだ翔!お前がそんなんじゃあ、十代まで退学になっちまうぞぉ!!」
横にいた隼人が声を張り上げた。
驚いたのは、俺だけじゃない筈だ。
まだ会って少しだが、こんな大声を出す人物だとは思っていなかったからな。
その声は、翔にも響いたようだ。
「よしっ…僕はこれでターンエンド!三沢くん、僕の攻撃力2600のパトロイドを破壊できるかな!?」
そう言った翔の横でパトロイドが爆発する。
「ええっ!!何で!?」
マジか。
「…俺のターン、ドロー。」
三沢もすっかりやる気がなくなっているようだ。
「俺は手札断札を発動!二枚捨て、二枚ドロー!」
三沢も墓地を良く使うから、手札断札を入れているようだ。
「そして、生者の書-禁断の呪術-を発動!墓地の龍骨鬼を特殊召喚!」
龍骨鬼
ATK2400
DEF2000
「更に愚かな埋葬を発動し、馬頭鬼を墓地に送り、効果発動!このカードを除外することで、墓地の赤鬼を特殊召喚!」
赤鬼
ATK2800
DEF2100
赤鬼、招来。
三沢のエースカード。
「バトルだ!エトワール・サイバーでダイレクトアタック!アラベスク・アタック!!」
更に、エトワール・サイバーの効果が発動する。
「エトワール・サイバーの効果!ダイレクトアタックの時、攻撃力が500ポイントアップ!」
エトワール・サイバー
ATK2000→2500
「うわああっ!!」
十代&翔LP8000→5500
「龍骨鬼でダイレクトアタック!」
十代&翔LP5500→3100
「最後だ!赤鬼でダイレクトアタック!」
十代&翔LP3100→300
「ターンエンドだ。」
流石は三沢…と、言いたいところだが。
「三沢!それに明日香!気持ちは分かるが手加減すんな!全力でやれ!!」
「手加減ってどういうことなんだな遊矢。」
「明日香の手札にはブレード・スケーターと融合がある。サイバー・ブレイダーを融合しておけば十代たちのライフは0だ。三沢は、手札に酒呑童子がいる。まだ通常召喚はしていないんだ。酒呑童子を召喚してれば終わりだ。」
「あ…。本当なんだな。」
「なんだよ三沢に明日香!全力で来いよ!!俺のターン、ドロー!」
このピンチをどうするんだ、十代。
「俺は融合を発動!手札のフェザーマンと、バーストレディを融合!」
十代のフェイバリットヒーローか。
「来い!フレイム・ウイングマン!!」
E・HEROフレイム・ウイングマン
ATK2100
DEF1200
「更にフィールド魔法、摩天楼-スカイスクレイパー-を発動!」
オシリス・レッドの寮が高層ビルへと変わる!!
「摩天楼-スカイスクレイパー-の効果で、E・HEROが自分より攻撃力が高いモンスターに戦闘を仕掛ける時、攻撃力が1000ポイントアップする!」
E・HEROフレイム・ウイングマン
ATK2100→3100
「フレイム・ウイングマンで、赤鬼に攻撃!スカイスクレイパー・シュート!!」
ビルの屋上から飛んだフレイム・ウイングマンが炎を出して赤鬼を討つ。
三沢&明日香LP8000→7700
「フレイム・ウイングマンの効果で、赤鬼の攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ!」
「ぐあああああっ!!」
三沢&明日香LP7700→4900
「カードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー!」
明日香のターンだ。
「手加減すんな…か。融合を発動!フィールド場のエトワール・サイバーと、手札のブレード・スケーターを融合!サイバー・ブレイダーを融合召喚!」
出てきたな明日香のエースカード。
サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800
「バトルよ!龍骨鬼で、フレイム・ウイングマンに攻撃!」
「させないぜ明日香!こっちも攻撃の無力化!!」
攻撃が渦に巻き込まれる。
「やるわね十代…カードを二枚伏せて、ターンエンドよ。」
「僕のターン、ドロー!強欲な壺を発動!更に二枚ドローする!」
翔…良いとこ見せてくれよ。
「…このカードは…」
あるカードを見たとたん、翔の動きが止まった。
数分間。
「マナー違反にも程があるだろ…」
「翔ー!!どうしたんだぁー!!」
隼人の声にハッとなる翔。
「ぼ、僕は、融合を発動!手札のスチームロイドと、ジャイロイドを融合して、スチームジャイロイドを融合召喚!!」
スチームジャイロイド
ATK2200
DEF1600
「バトルだ!フレイム・ウイングマンで龍骨鬼に攻撃!スカイスクレイパー・シュート!!」
フレイム・ウイングマン
ATK2100→3100
三沢&明日香LP4900→1800
「きゃあ!だけど、三沢くんの龍骨鬼の効果を発動!このカードと戦闘した戦士族・魔法使い族は、ダメージステップ終了時に破壊される!」
「えっ!!」
フレイム・ウイングマン、撃破。
「でも、アニキのリバースカード、オープン!リビングデッドの呼び声!フレイム・ウイングマンを蘇生する!」
はあ?
当然、いつまで待ってもフレイム・ウイングマンは来ない。
フレイム・ウイングマンは、融合召喚以外の特殊召喚は出来ない。
つまり、リビングデッドの呼び声では特殊召喚が出来ない。前のテストに出てたな。
「あれ、なんで来ないの…仕方ないなぁ代わりに、スチームロイドを蘇生する!」
スチームロイド
ATK1800
DEF1800
「スチームジャイロイドでサイバー・ブレイダーを倒して、スチームロイドでダイレクトアタックすれば僕の勝ちだ!」
失敗フラグ(説明)ありがとう。
「スチームジャイロイドでサイバー・ブレイダーに攻撃!ハリケーン・スモーク!!」
スチームジャイロイドが黒い雲に隠れ、サイバー・ブレイダーを攻撃した。
が。
「返り討ちよ!グリッサード・スラッシュ!!」
返り討ちにあった。
「サイバー・ブレイダーの第二の効果、相手フィールド場のモンスターが二体の時、攻撃力が倍になる。パ・ド・ドロワ。」
サイバー・ブレイダー
ATK2100→4200
「うわあああああっ!!」
十代&翔LP300→0
決着。

「そんな効果ズルイッスよ明日香さん!!」
ズルイって…
その時、PDAにメールが来た。
保健室の鮎川先生からだ。
文面から察するに、怒っていらっしゃる。
「悪いけど、俺、保健室に用があるから!じゃ、後は任せた!」
鮎川先生の怒りが怖くて、翔のことは三沢たちに丸投げして保健室に急いだ。


あれじゃ、退学かもなぁ…と思いながら。 
 

 
後書き
初の遊矢以外のデュエルでしたね。

三沢…妖怪デッキ強すぎるなぁ…どうしよう…

感想・アドバイス待ってます!! 

 

-制裁タッグデュエル-

 
前書き
スパロボZが忙しく更新が遅れました。

あと、おまけで高校生になる準備で。 

 
side遊矢

−制裁タッグデュエル。
クロノス教諭が十代と翔を退学させるために仕組んだ作戦で、十代と翔はタッグデュエルで勝たなければ退学になってしまう…が。
亮と十代がデュエルし、そのデュエルから翔はなにかが吹っ切れたようでいつもより強気になっていた。
息があったコンビネーションで、十代と翔はクロノス教諭の刺客である伝説のデュエリスト、迷宮兄弟を打ち破り、無事にこの学園に残れるようになった…
…らしい。
そう。『らしい』なのだ。
俺こと黒崎遊矢は、とある事情により闇のゲームをすることとなり、その時に負った傷(表向きには、ナイフを持った不審者を相手に明日香を庇って負傷、力を振り絞って撃退した。という事になっている。)が原因で保健室に入院。
そのせいで、俺は制裁タッグデュエルを見ていないィィィィ!!
一応、入院中は三沢や明日香、十代、翔、隼人、亮、ラー・イエローの友人たちが見舞いにきてくれて嬉しかったし、授業等もノートを写してもらっていたから問題ない。
だ・が!!
伝説のデュエリストのデュエルを見れなかったのは、とても残念である。

そんな感じで、制裁タッグデュエルは終了しました。
俺はすっかり蚊帳の外だったけどな!!

そんな感じにこの世の不条理について考えながら学園内を歩いていた。
今日は日曜日。
学園内でも定休日だ。
「相変わらず遠いな、ここは…。」
朝から、十代たちに
「一緒に宿題をやろう」
と誘われたのだ。
三沢も誘ったのだが、今日は用事がある。とのことだった。
「十代、いるか?俺だ。」
「おお!遊矢、来たかぁ!入ってくれ。」
「それじゃお邪魔しますっと…」
オシリス・レッド寮の十代たちの部屋に入る。
そこには、十代、翔、隼人のいつものメンバーが揃っていた。
「よう遊矢!まあ、座ってくれよ!」
「座るなって言われても座る。」
今日の宿題はデザイン。
カードのデザイン等を考え、実際に書く授業である。
まあ、こんな宿題に十代たちといえども苦戦するとは思えないので、
『喋りながら楽しくやろう。』
と言うことだろう。
「さて、早速やるか。」
4人で顔を合わせながら筆を進める。
「へへ!やっぱり強そうなHEROみたいな奴が良いぜ!」
「僕はやっぱり機械族かな…隼人くんはどうする?」
「俺は魔法カードにするんだなぁ。遊矢は、どうするんだぁ?」
「ここはあえてトラップだろう。」
「し、渋いッスね…」
全員で喋りながら書き始める。
「それにしても、今回の騒ぎは驚いたよなぁ。」
「遊矢くんは他人事ッスけど、僕とアニキは大変だったッス!!」
「でも面白かったよなぁ!タッグデュエル!」
「最初は翔にビックリしたけどなぁ。」
「そうそう、プレイングミスばっか。」
「ぐっ!それは言わないで欲しいッス…」
そんな他愛のないことを喋りながらデザインを完成させていった。
「俺のは、こいつだ!!」
十代が書いたのは、いかにも十代らしい戦士族。
「アニキらしいッスね…僕のは、これッス!」
それも、翔らしい機械族。
「なんか弱そうだな。翔の機械族。」
「そんなことないッス!アニキの戦士族こそ、馬鹿っぽいッス!!」
「なんだと!!」
確かに。両方とも。
「隼人のはどうだ?」
2人で言い争いをし始めた義兄弟を放っておき、隼人の絵を見ることにした。
「俺のはこれなんだなぁ。」
そう言って隼人が見せたのは、太陽が昇るエアーズロックだった。
「おお!すげェ!!」
「そ、そんなことないんだなぁ…」
「いや、これはすげェよ。そういや、今、インダストリアル・イリュージョン社にカードデザインの応募があったな。」
隼人は謙遜するが、これは凄い。
「お、そりゃいいな。やってみろよ隼人!!」
「そうッスよ!」
何時の間にか十代と翔も隼人の絵を見ていた。
「良し!じゃあ頑張って見るんだなぁ!!」
隼人はとたんにやる気を出し、またもう一枚書き始めた。
「遊矢くんのはどんなんスか?」
「俺のはこんなんさ。」
スピード・ウォリアーが青眼の白龍を蹴り飛ばしているトラップ。
「…オーナーに知られたら殺されるッスよ…」
「いや、絶対にこれを提出する。」



昼飯時になったので、十代たちの部屋からラー・イエローの自分の部屋に戻り、デザインを置いて食堂へ向かった。
「よう、三沢。これから昼飯か?」
「ああ。遊矢もか?」
食堂に行ったら、三沢がいたので、一緒に食べることにした。
「そういや、朝に言ってた用事って何だったんだ?」
「なに、ちょっとデッキのことについて相談を受けていたんだ。」
筆記試験のトップであり、気さくで話しやすい三沢には色々相談が来るのだ。
「へぇ。誰からだ?」
「オベリスク・ブルー女子の宇佐美さんからだ。」
「ああ、あの恐竜デッキの。」
あだ名はウサミン。
「それで恐竜デッキについて色々レポートを書いて、後は遊矢に勝てるように妖怪デッキの調整だな。」
「勝率は五分五分だろう…ま、機械戦士も絶賛成長中だけどな。」
二人して笑いあった。
三沢はライバルというか親友というか…まあ、どっちもだな。
なんせ、ラー・イエローのダブルトップだからな。
…何度も言うが、気に入ってはいない。



昼飯を食べ終わった後、三沢と別れて学園をブラブラしていた。
この学園に来てから、森林浴が好きになった気がする。
「シニョール遊矢ですーカ。何をやっているーノ?」
「ちょっと散歩です、クロノス教諭。」
クロノス教諭と会った。
「そうデスーカ。ゆっくりすると良いノーネ。」
クロノス教諭は良い先生何だがなぁ。
エリート意識が強く、あまり好かれてはいない。
「ところーで、シニョール遊矢とシニョール三沢は、何でオベリスク・ブルーに入らないノーネ?」
「ああ、三沢と約束したんですよ。オベリスク・ブルーに入るのは、2人一緒か、どちらかが負け越した時って。」
どちらかがラー・イエローのトップと呼ばれるようになるか、二人でオベリスク・ブルーのトップを目指すか。
「ナルホドナルホド。それは良い考えなノーネ。二人でお互いを高めあっていくノーネ。」
そう言ってクロノス教諭は去っていった。
本当に、良い先生何だがなぁ…



灯台に行ってみると、亮と明日香がいた。
「よう、何やってんだ?」
「遊矢か。俺は潮風に当たりにな。」
「私は散歩してたら偶然。」
亮っていつも灯台にいる気がするな。
「噂をすれば…という奴だな。明日香。」
「ちょ、ちょっと亮!」
噂?
「丁度今、明日香がお前が廃寮での闇のゲームで自分を守ってくれたことを話していたところだ。」
「ほほぅ…明日香もなかなか可愛いところが…」
「そっ!それより、二人ってたまにデュエルしてるんでしょ!勝率はどうなの!?」
照れ隠しだろう、明日香が急に話題を変えた。
そして、
空気が凍った。
「え?」
「そうだな、前回のデュエルはサイバー・エンド・ドラゴンが遊矢をいとも容易く蹴散らしたな。」
「嘘をつくな亮。まあ、前々回のデュエルはそのサイバー・エンド・ドラゴンをニトロユニットで爆破したがな。」
「いや、前々々回は…」
「私は勝率を聞いたんだけど…」
いきなり言い争いを始めた俺たちに、明日香は若干引いていた。
「「二勝二敗だ」」
「ま、次は俺が勝つがな。」
「今度は俺の勝ち越しだな。」
「………」
「………」
「「デュエル!!」」
「…ハァ。」



「行け、ラピッド・ウォリアー!!亮にダイレクトアタック!ウイップラッシュ・ワロップ・ビーン!!」
「ぐああああっ!!」
亮LP500→0
「よっしゃあああッ!!俺の勝ちだな!!」
「ただ運が良かっただけじゃないか!次は俺が勝つ!!」
そう言って亮はオベリスク・ブルーの寮へ向かった。
デッキを調整するつもりだろう。
「返り討ちにしてやる!」
そろそろ遅い時間だな。
「帰るか、明日香。女子寮まで送ってくぜ。」
「ええっ!?い、良いわよそんなの…」
「ナイフ持った不審者に襲われたら困るからな。気にするな。」
二人で女子寮に歩き始めた。
「…それにしても、もう少し良い言い訳は思いつかなかったか?何だよ、ナイフ持った不審者って。」
「し、仕方ないじゃない…必死だったんだから…」
本当に明日香はからかうと楽しいな。
「俺が怪我したら必死になってくれるとは、流石は恋する乙女だな。」
「へ?こ、ここここここここここ恋する乙女!?」
なんだこのリアクション。面白い。
「ほら、前に新パックで当てたじゃん。恋する乙女。」
「え…ああ…このっ!!」
平手打ち。
「痛いわ!!何すんじゃあ!?」
「うるさい!!」
顔を真っ赤にした明日香とリアルファイト。
デジャヴ。
そんなことをしている内に、女子寮の入り口に着く。
「じゃ、こっからは男子禁制だからな。」
「え、ええ…」
「またな。」
「そっその、遊矢!」
明日香に呼び止められた。
「守ってくれて、ありがとう…」
そう言って、女子寮の中へ入っていった。
「恋する乙女、かぁ…」
そんな声が聞こえた気がするが、ここにいつまでもいたら不審者なので、さっさとラー・イエローに帰った。

デュエルアカデミアの休日は、こんなもんだ。
 
 

 
後書き
評価、お気に入り登録数もなかなかの数に行きました!
ありがとうございます!!
何か特別編とかやりますかね?

感想・アドバイス待ってます!! 

 

-昇格デュエル-約束-

 
前書き
スパロボのマルグリットが可愛くて投稿が遅れました。

分かる方は同士。
分からない方はスルーしてください。 

 
遊矢side

今日は、ラー・イエローVSオシリス・レッドの野球試合。
お互い、ピッチャーの十代と三沢の球が打てず、投手戦になっていた。
俺?当然三振さ。
俺は運動が出来ないわけじゃないが、十代や三沢ほど出来るわけじゃない。
…つうか、三沢すげぇな。運動も出来るし勉強も出来るし顔も良いしデュエルも強い。
どんな完璧超人だよ。
0-0のまま回は進んでいった。そして、ラー・イエローの攻撃。
「へっ!打ってみやがれ!」
オシリス・レッドチームのエース、十代の好投により、瞬く間にツーアウトになるラー・イエローチーム。
…って、次の打者俺じゃん。
「また三振にしてやるぜ遊矢!」
「お手柔らかに頼む。」
投げられる十代の球は速く、全く打てん。
「タイムだ!」
ベンチの三沢が審判に叫ぶや否や、俺のもとへ走って来る。
「どうした、三沢?」
「遊矢、よく聞け。十代の球は確かに速いが、ある一定の法則性がある。次はストレートだ。」
法則性…単純な十代なら、あるかも知れないな。
「分かった。何とかやってみよう。」
タイムが終わり、バッターボックスに再び立つ。
「何をやってたか知らないが、意味無いぜ!くらえっ!!」
確かに速いが、どんな球かわかっていれば打てる!
カキーンと良い音をたてて、ボールは飛んでいった。
「何ぃ!!」
十代の投げる球が完璧に分かるようになったラー・イエローチームは、それからヒットを連発。9-0のコールドゲームとなった。


「いや、すげぇな三沢。普通法則性なんぞ分からんぞ。」
「なに、十代が分かり易かっただけさ。」
野球試合は大勝利に終わり、俺たちは食堂で昼飯を食べていた。
「三沢くん、遊矢くん、ちょっと良いですか?」
「樺山先生…何か用事ですか?」
樺山先生。ラー・イエローの寮長である先生だ。生徒のことを親身に考えてくれる良い先生だ。
短所は影が薄いことだな。
「クロノス教諭から連絡がありましてね…あなた達二人は、明日、オベリスク・ブルーの生徒二人と、寮の入れ替えテストをすることになりました。」
「入れ替えテスト?」
「はい。オベリスク・ブルーの生徒二人と個別にデュエルし、勝った方がオベリスク・ブルーになることになります…おめでとう、勝ったらオベリスク・ブルーですよ。」
「ありがとうございます。なるほど、そういうことか。」
クロノス教諭が
『二人同時に入れれば問題ないーノ』とか考えたんだな。
「つきましては三沢くん、あなたは部屋のワックスがけをしなさい。二人とも、今日の午後の授業は欠席にしておきます。遊矢くんは、デッキの調整をどうぞ。」
そう言って、樺山先生は去っていった。
「部屋のワックスがけを自分でやれって、どういうことだ三沢?」
部屋が酷く汚いのか?
業者さんが入れないほどに?

「…遊矢、すまないが、手伝ってくれないか?来て見れば分かる。」
「手伝いは良いが…」
どんなんなってんだ。


ワックスを持ち、三沢の部屋に着いた。
「…ここは、魔界か?」
そこには、壁一面に、ビッシリと数式が書かれていた。

「魔界とは酷いな。」
三沢は抗議するが、これは魔界だろう。
「俺は、デッキや戦術を考える時に数式を書く癖があってな。いわば、この壁一面の数式は俺の努力の証だ。」
「証、ねぇ。だからワックスがけを自分でしろと言ったのか。」
清掃業者さんが可哀相だな、これは。
「君には無いか?デッキを改造する時の癖。」
「そうだな…俺は、ゆっくりと静かに集中してやるな。」
数式よりは変じゃないだろう。
「じゃ、さっさと消してやるか。」
「ああ。」
三沢と二人でワックスがけをして、デッキの調整をした。


「すまないな、遊矢。」
「これぐらい別に良いだろう。」
絶賛ワックス塗りたての三沢の部屋に寝れるはずも無く、三沢は俺の部屋のソファーで寝る事となった。
「このデュエルに勝ったら、オベリスク・ブルーか…」
「ああ。二人でオベリスク・ブルーのトップになり、それからどっちが本当のエースか決めようじゃないか。」
「ああ。約束したからな、三沢。」
約束。
二人でオベリスク・ブルーのトップになり、それから二人で決着をつける約束。
「遊矢。俺たち片方が負けたらどうする?」
「三沢らしくない質問だな。俺たちは負けない。」
「…そうだな。お休み。」
「ああ。」


寮の入れ替えテスト。
朝一番にやる予定だったので、俺と三沢はデュエル場に向かっていた。
「おはよう遊矢。」
「明日香?どうした、こんな朝早くに。」
途中で明日香に会った。
「あなたと三沢くんが寮の入れ替えテストをするって話を聞いてね。応援しに来たのよ。」
「そりゃどうも。」
「俺もだ。」
亮が歩いて来た。
「亮もか。今日から同じ寮だな、よろしく。」
「気が早いわよ…」
明日香のツッコミが入る。
そんな俺たちのやり取りを、三沢は驚いて見ていた。
「カ、カイザー亮…」
「そういや、三沢に話してなかったか。亮とは何回かデュエルしてるんだ。」
「三沢大地か。君にも興味がある。今度、デュエルしよう。」
「は、はい!」
カイザー亮は、アカデミアの生徒の憧れらしいからな。三沢もデュエルしたいんだろう。
「さて、行くか。」
4人でデュエル場に向かった。


デュエル場には、二人のオベリスク・ブルーの生徒と、クロノス教諭がいた。
「待ってたノーネ。シニョール三沢はシニョール万丈目と、シニョール遊矢はシニョール高田とデュエルするノーネ。」
…高田?誰だ?
「高田純二朗。実力はともかく、態度が悪くてラー・イエローに落ちる罰を受けるか否かをあなたと競うことになっているわ。」
説明ありがとう明日香。
三沢は…万丈目とか…あいつも強い。頑張れよ、三沢。
高田純二朗とか言う奴とデュエル場に着く。
「貴様…天上院さんとどんな関係だ?」
「どんなって…友達だが。」
「フン、そうか。ラー・イエローのクズデッキ使いごとき、速攻で片付けてやる!」
このアカデミアは、楽しいことも多いが、イラつくことも多いな。
「人の大切なデッキ馬鹿にしたんだ、覚悟は出来てるな?」
デュエルディスク、セット完了。
「お前こそ、天上院さんの前で恥をかく覚悟はできたか!?」
「「デュエル!!」」
デュエルディスクに『先行』と表示される。
珍しい。
「楽しんで勝たせてもらうぜ、俺のターン!ドロー!」
さあて、頼むぜみんな!
「俺は、ジャスティス・ブリンガーを召喚!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ。」
さあて、どう来る?
「俺のターン、ドロー!俺は仮面竜を召喚!」
仮面竜
ATK1400
DEF1100
ジャスティス・ブリンガーより攻撃力が低いが、どうするつもりだ?
「更に通常魔法、強制転移を発動!このカードは、お互いにモンスターを一体選択し、選択したモンスターを相手フィールド場に移すカードだ!」
なるほど、そういう戦術か。
「お互いのフィールドにモンスターは一体!ジャスティス・ブリンガーは戴くぜ!」
ジャスティス・ブリンガーが高田側につく。代わりに仮面竜がこちらに来るが。
「バトル!ジャスティス・ブリンガーで、仮面竜に攻撃!ジャスティススラッシュ!!」
「くっ…」
遊矢LP4000→3700
「そして、仮面竜の効果を発動!このカードが墓地に送られた時、デッキから攻撃力が1500以下のモンスターを特殊召喚する!現れろ、仮面竜!!」
仮面竜
ATK1400
DEF1100
「こちらの攻撃力が高いモンスターを奪い、リクルーターの能力でフィールドにずっとモンスターを出す戦術か…面白じゃないか…!」
「フン!面白がる前に倒してくれるわ!仮面竜でダイレクトアタック!」
「ぐあっ…!」
遊矢LP3700→2300
「カードを一枚伏せ、ターン「ちょっと待った!」何ぃ?」
「俺はリバースカード、トゥルース・リインフォースを発動!デッキから、レベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する!」
出すのはこのカードだ!
「現れろ!ソニック・ウォリアー!!」
ソニック・ウォリアー
ATK1000
DEF500
「そんなザコカードを出したところで…ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
反撃といくか。
「俺は二重召喚を発動!このターン、二回通常召喚を行える!俺は、スピード・ウォリアーを召喚!!」
『トアアッ!!』
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
「頼むぜ、マイフェイバリット。更に、俺はソニック・ウォリアーをリリースし、ドドドウォリアーをアドバンス召喚!!」
ドドドウォリアー
ATK2300
DEF900
「ソニック・ウォリアーが墓地に送られた時、自分フィールド場のレベル2以下のモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる!スピード・ウォリアーはレベル2だ!」
スピード・ウォリアー
ATK900→1400
「バトル!スピード・ウォリアーは、召喚したターンのバトルフェイズ時、元々の攻撃力が倍になる!」
スピード・ウォリアー
ATK1400→2300

「スピード・ウォリアーで、ジャスティス・ブリンガーに攻撃!ソニック・エッジ!!」
「ちっ!」
高田LP4000→ 3400
「更に、ドドドウォリアーで仮面竜に攻撃!ドドドアックス!!」
高田LP3400→2300
「だが、墓地に送られた仮面竜の効果を発動!」
「甘いぜ!ドドドウォリアーは攻撃する時、相手はダメージステップ終了時まで、相手の墓地で発動する効果を無効にする…つまり、リクルーターやサーチャーはこいつの前じゃ無力だ!」
リクルーターやサーチャーは墓地で効果を発揮するのだ。
「なんだと…ラー・イエローごときがぁ…!」
「そろそろあんたは、そのラー・イエローに負けるんだよ。バトルフェイズ終了時、スピード・ウォリアーの攻撃力は元に戻る。」
スピード・ウォリアー
ATK2300→1400
「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!」
良いカードを引いたようだな。
顔が笑っている。
「俺はモンスターを裏側守備表示で召喚し、カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」
なんだ、防御重視か…
「俺のターン、ドロー!」
攻め込んで押し通す!
「俺はダッシュ・ウォリアーを召喚!」
ダッシュ・ウォリアー
ATK600
DEF1200
「そして、スピード・ウォリアーをリリースし、ターレット・ウォリアーを特殊召喚!!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000
「ターレット・ウォリアーは、リリースした戦士族モンスターの元々の攻撃力分アップする!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200→2100
「バトルだ!ドドドウォリアーで、裏側守備表示モンスターに攻撃!ドドドアックス!!」
ドドドウォリアーが斧を振りかざした相手モンスターは…
「お前が攻撃したモンスターはメタモルポッド!!リバース効果により、お互いに手札を全て捨て、五枚ドロー!」
メタモルポッド…ドドドウォリアーの効果じゃ無効に出来ないな。
だが。
「こいつらの攻撃が通れば終わりだ!ターレット・ウォリアーでダイレクトアタック!リボルビングショット!!」
「通るわけがないだろう!!トラップ発動!パワーウォール!!デッキを任意の枚数墓地に送ることで、墓地に送った数×100ポイントのダメージを軽減する!俺はデッキから21枚墓地に送り、ダメージを0にする!」
大量のカードが墓地に送られる。
そもそも、高田のデッキは60枚程あると思われる。
「なら、ダッシュ・ウォリアーで攻撃だ!ダッシュ・ウォリアーは、バトルフェイズ時、攻撃力が1200ポイントアップする!」
ダッシュ・ウォリアー
ATK600→1800
「ぐああっ!」
高田LP2300→500
よし、もう少しだ…!
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
何をしてくる?
「俺はまず、リバースカードをオープン!蛆虫の巣窟!このカードの効果により、俺のデッキのカードを五枚墓地に送る!」
再び高田のデッキからカードが墓地に送られる。
「更に、手札抹殺を発動!お互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドロー!」
更にカードを墓地に送る。
「さあ、行くぞ!こいつが俺様の切り札だ!出でよ、カオス・ネクロマンサー!!」
カオス・ネクロマンサー
ATK0
DEF0
「カオス・ネクロマンサーだと!?」
「ほう…こいつの効果を知ってるらしいな。カオス・ネクロマンサーの効果!自分の墓地のモンスターの数×300ポイント攻撃力をアップさせる!!」
高田はさっきから大量にカードを墓地に送っていた。
全てはこの切り札のために。
「俺の墓地のモンスターの数は30体!よって攻撃力は…9000だぁ!!」
カオス・ネクロマンサー
ATK0→9000
「攻撃力…9000…!?」
「更に、俺は通常魔法、戦士抹殺を発動!フィールド場の戦士族モンスターを全て破壊する!」
戦士族のメタカード!?
カオス・ネクロマンサーは悪魔族。
だが、俺の機械戦士は、全て戦士族だ。
「お前のフィールドは全滅だ!!」
「お前…誰と戦うかは分からなかったはずだろう!!何で俺たちへのメタカードが入ってやがる!?」
「フン、何を言ってるんだお前は?俺はただ、昨日偶然このカードを入れただけだ。」
「それはどうかしらね、高田くん。」
「明日香?」
俺と三沢のデュエルを見ていた明日香と亮がデュエル場に近付いていた。
それに、二人と一緒にいるのは…
「小原?」
そうだ。ラー・イエローの友人、小原。
デュエルは強いのだが、気が弱く緊張して負けてしまうデュエリスト。
三沢と俺のところに、大原という奴と一緒に相談に来て仲良くなった奴だ。
色々あって、普通にデュエルが出来るようになったんだが…それは別の話だな。
「遊矢…その…僕、その高田って奴に脅されて、君のデッキのことを喋っちゃったんだ!!」
「なんだと!?」
だから、高田は戦士抹殺なんか入れていたのか…墓地の方には、様々なメタカードがあるんだろうな。
「高田ァ…テメェ…!」
「そ、そんな証拠がどこにある!?デタラメを言ってるんじゃない!!」
「高田くん!そんなことをするなんて、あなたそれでもデュエリストなの!?」
「シニョーラ明日香の言う通りなノーネ。」
「クロノス教諭…」
クロノス教諭もこちらの騒ぎに気づいたのだろう。こちらに歩いて来る。
「先程、査問委員会から連絡が来たノーネ。ワタシの部屋に入り、今回のデュエルの組み合わせを覗き見た生徒二人がいると。…こんなのは最早デュエルと呼べないノーネ。シニョール遊矢の不戦勝なノーネ。」
「ま、待って下さいクロノス教諭!俺は脅されて手伝っただけなんです!万丈目に!」
慌てた高田が弁解をする。…万丈目も?
「万丈目のデッキにも、三沢のアンデッド族の特殊召喚を封じ込めるロックカードが投入されている!万丈目が主犯なんだ!」
「…このデュエル、シニョール遊矢とシニョール三沢の勝ちなノーネ。」
「「クロノス教諭!!」」
万丈目と高田が必死に食い下がるが、クロノス教諭は無視する。
「待ってください、クロノス教諭。条件付きでデュエルを続行したいのですが。」
「遊矢?」
「シニョール遊矢、条件とは何なノーネ?」
「俺と三沢が負けたら、小原を脅したことは無かったことにする。」
俺の出した条件に、会場中の人が驚いた。
「本気なのか…遊矢?」
「ああ。だが、俺たちが勝ったら、二人ともこの一年間オシリス・レッドになってもらう!」
ホテルのような暮らしをしていたオベリスク・ブルーの奴が、一年間オシリス・レッドで暮らしたらどうなるか…興味深いな。
「いっ…良いだろう黒崎遊矢!その条件で戦ってやる!高田!エリートの誇りを見せつけてやるぞ!」
デュエル再開だ。
「何、ビビることは無い…俺には攻撃力9000のカオス・ネクロマンサーがいるじゃないか…」
高田が自分に良い聞かせていた。
「そうだ!カオス・ネクロマンサーのダイレクトアタックで終わりじゃないか!!」
「手札から、エフェクト・ヴェーラーの効果を発動。このカードを墓地に送ることで、相手モンスターの効果をエンドフェイズまで無効にする。」
エフェクト・ヴェーラーがカオス・ネクロマンサーを包み込んで、効果を無くす。
「だが、それもエンドフェイズまで!カオス・ネクロマンサーはお前には倒せない!ターンエンドだ!!」
「俺のターン、ドロー!」
「遊矢…!頑張れ!」
小原の応援が効いたか、引いたカードはマイフェイバリットカード!
「大丈夫だ、小原くん。あいつは…遊矢は、俺のサイバー・エンド・ドラゴンをスピード・ウォリアーで倒す男だ。」
「カイザーを…倒す?スピード・ウォリアーで?遊矢が?」
「ああ。
ある時は効果モンスターで。
ある時は魔法カードで。
ある時はトラップカードで。
ある時はカードを全て使いこなし、俺のモンスターは遊矢の機械戦士に負けている。デッキに入っているカードを全て理解し、信頼し、組み合わせることでどんなに強いモンスターをも倒す。
それが、黒崎遊矢の【機械戦士】デッキだ。」
お褒めに預かりどうも。
「カイザーに勝った…だと…?フン!冗談を言うな!!お前程度が、カイザーに勝てる筈が無い!!」
「確かに、亮は強い。そのせいで、お前程度には、複雑なコンボを使うまでも無い!!俺は、スピード・ウォリアーを召喚!!」
『トアアッ!!』
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
「またそいつか?そんなザコカードでどうする気だ!?」
「こいつをザコカードと呼ぶ奴は、大体こいつにやられるんだよ!魔法カード発動!死者蘇生!墓地から現れろ!セカンド・ブースター!!」
セカンド・ブースター
ATK1000
DEF500
「更に、速攻魔法、地獄の暴走召喚!!攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚した時、同名カードを更に二体特殊召喚する!更に来い!セカンド・ブースター!!」
セカンド・ブースター×2
ATK1000
DEF500
「地獄の暴走召喚の効果で、俺はカオス・ネクロマンサー二体を、デッキから特殊召喚する!!」
何体出そうが問題ない!!
「セカンド・ブースターの効果発動!このカードをリリースすることで、自分フィールド場にいるモンスター一体の攻撃力を1500ポイントアップさせる!!その効果を三体一気に使わせてもらう!!」
スピード・ウォリアー
ATK900→5400
「でも…まだカオス・ネクロマンサーに及ばない!」
「心配いらないぜ小原。安心して見てな。リバースカードオープン!リミット・リバース!攻撃力が1000ポイント以下のモンスターを復活させる!蘇れ、スピード・ウォリアー!!」
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
「そして通常魔法、ブラック・コアを発動!手札を一枚捨てることで、フィールド場にいるモンスター一体を除外することが出来る!俺はお前のカオス・ネクロマンサー一体を除外する!」
「フン!一体ごときくれてやる!」
「俺の目的は除外することじゃない!手札を捨てることだ!!」
手札から捨てたのは、ひさびさ登場あのカード!
「手札から捨てたリミッター・ブレイクの効果発動!墓地から、スピード・ウォリアーを特殊召喚!!」
『『『トアアッ!!』』』
「そんなザコが何体来ようが俺のカオス・ネクロマンサーには勝てん!!」
「さっきも言ったぜ?こいつを馬鹿にする奴は、こいつにやられるんだよ!!装備魔法、団結の力!!自分フィールド場のモンスターの数×800ポイント攻撃力をアップさせる!!」
スピード・ウォリアー
ATK5400→7800
「…勝ったな。」
「ええ、遊矢の勝ち。」
流石は亮と明日香。
良く分かってるじゃないか。
「え?でもまだカオス・ネクロマンサーには勝てないんじゃ…」
「大丈夫だ。遊矢を信じろ。」
「そうそう、亮の言う通りだ。バトル!スピード・ウォリアーは、召喚したターンのバトルフェイズ、元々の攻撃力は倍になる!!」
スピード・ウォリアー
ATK8700
「バトルだ!スピード・ウォリアーで、カオス・ネクロマンサーに攻撃!ソニック・エッジ!!」
「馬鹿じゃないか!?迎撃しろ、カオス・ネクロマンサー!ネクロ・パペットショー!!」
攻撃力はスピード・ウォリアーの方が下。
そんなことは分かってる!!
「墓地からトラップカードを発動!!」
こいつが今回のキーカード!
「墓地からトラップだと!?」
「スキル・サクセサー!!墓地にあるこのカードを除外することで、俺のモンスター一体の攻撃力を、800ポイントアップさせる!!」
スピード・ウォリアー
ATK8700→9500
「カオス・ネクロマンサーの攻撃力を超えただと!?」
「高田。エリートのお前なら、お互いのモンスターの攻撃力の差500引くお前のライフポイント500の答えが分かるよな?」
500引く500
簡単な計算だ。
「…0…」
「正解だ。行け!スピード・ウォリアー!!カオス・ネクロマンサーを蹴散らせ!!」
スピード・ウォリアーがカオス・ネクロマンサーを文字通り、蹴散らす。
高田LP500→0
「よっしゃあああッ!!勝ったぜ小原!!」
「…すまなかった、遊矢…僕は…」
「気にするなよ。勝ったんだから。…それより、三沢の方はどうだ?」
三沢VS万丈目。
どちらも強い奴だ。
明日香と亮は既に三沢のデュエルを見ていた。
三沢のフィールドは竜骨鬼が一体。
ライフポイントは200。
万丈目のフィールドには、万丈目の切り札、炎獄魔人ヘル・バーナー。
お互いに800ポイント払うことで特殊召喚を無効にする王宮の弾圧。
リバースカードが一枚。
ライフポイントは700。
「まずいぞ遊矢!三沢の奴、ピンチじゃないか!?」
「大丈夫だ。三沢の切り札ならな。」
「俺のターン、ドロー!」
三沢のターンだ。
「万丈目!これでラストターンだ!」
「やれるものならやってみるがいい!!」
「墓地の馬頭鬼の効果発動!このカードを除外することで、墓地からアンデッド族モンスターを特殊召喚出来る!!赤鬼、招来!!」
赤鬼
ATK2800
DEF2100
「甘いわ!!リバースカード、オープン!奈落の落とし穴!!攻撃力1500以上のモンスターが特殊召喚された時、そのカードを除外する!!」
赤鬼が落とし穴へと落ちてゆく…
「ハーッハッハッハ!!化け物はさっさと地獄に落ちるがいい!!」
高笑いする万丈目に比べ、三沢は…冷静だった。
「狙い通りだぜ、万丈目。」
「フン!強がりはよすんだな!」
強がりなんかじゃない。
三沢は、勝つ!
「俺は手札から速攻魔法、異次元からの埋葬を発動!除外ゾーンから、墓地に赤鬼と馬頭鬼を戻す!」
「これで三沢は馬頭鬼の効果をもう一度使える!」
三沢…やっぱり強いな。
「墓地の馬頭鬼の効果を発動!赤鬼を再び特殊召喚!!」
赤鬼
ATK2800
DEF2100
「くっ…だが、貴様のフィールドにいるモンスターが増えたことで、炎獄魔人ヘル・バーナーの攻撃力はアップする!!」
炎獄魔人ヘル・バーナー
ATK3000→3200
「問題ない。赤鬼と龍骨鬼をリリースし、赤鬼をアドバンス召喚!!」
赤鬼
ATK2800
DEF2100
「赤鬼の効果発動!手札を任意の枚数捨てることで、相手のフィールドのカードを手札に戻す!手札を一枚捨て、炎獄魔人ヘル・バーナーを万丈目の手札に戻す!地獄の業火!!」
炎獄魔人ヘル・バーナーが万丈目の手札に戻る。
これで万丈目のフィールドには、王宮の弾圧のみだ。
「赤鬼でダイレクトアタック!鬼火!!」
「ぐあああああっ!!」
万丈目LP700→0
三沢のエースカード、赤鬼の炎により万丈目を倒した。
「シニョール万丈目、シニョール高田。約束通りあなたたちはオシリス・レッドになるノーネ。」
「俺様がオシリス・レッド!?そんなことになるぐらいなら、退学になる方がマシだっ!!」
万丈目は怒鳴り散らしながらデュエル場を出て行った…
「俺も万丈目と同じだ!!俺はこのアカデミアを出て行く!!」
高田も万丈目と同じように出て行った。
「悪いことしたか…」
ここまで来ると流石に罪悪感がある。
「良い気味よ。どうせ出て行くなんて出来ないんだから。」
「明日香…」
それも酷い。
「遊矢。」
三沢が近づいて来て、手を上げた。
パァーン!!
ハイタッチ。
「シニョール遊矢。シニョール三沢。あなたたちはオベリスク・ブルーに昇格なノーネ!!」
「「ありがとうございます。」」
パチパチパチパチパチパチパチパチ…
人数は少ないものの、亮、明日香、小原が拍手してくれた。
「さて、三沢。今度こそお前に勝ってオベリスク・ブルーのトップになるからな。」
「いや、俺もそう簡単に負けるわけにはいかない。」
俺、黒崎遊矢と親友、三沢大地は。
本日、オベリスク・ブルーへ昇格しました。 
 

 
後書き
遊矢と三沢がオベリスク・ブルーになりました。
はて、最初の予定ではラー・イエローのままの筈が…何故?

今回出て来た、
高田純二朗はTFキャラ。
小原はアニメキャラです。
オリキャラではありません。

感想・アドバイス待ってます!! 

 

-SuperAnimalLearning-

 
前書き
「三沢が空気じゃない代わりに十代たち空気だよね」
と、言われた。

しまったぁ… 

 
side遊矢

寮入れ替えデュエルで俺と三沢が勝利し、二人でオベリスク・ブルーに入った次の日。
引っ越しなどで時間がかかってしまい、入れ替えデュエルの日は授業に出れなかったため2日ぶりの授業だ。
二人で教室に入ると、十代が走ってきた。
「遊矢!三沢!二人とも、オベリスク・ブルーになったって噂は本当だったんだな!」
「おはよう十代。朝から元気だな。」
本当に。
3人で席に着く。…まあ、十代の席はもっと向こうだが。
「君だって、ラー・イエローに入れる実力はあるだろう?」
三沢はかねてより、十代が何故オシリス・レッドなのか気にかけていた。
「無理よ。十代がラー・イエローに入ったら、筆記が悪くてすぐ落ちるわ。」
「相変わらずキツイな明日香…でも、実技じゃ負けないぜ!」
明日香が自分の席からこちらに来た。
「おはよう、明日香。今日も綺麗だね。」
「きれっ!!」
明日香が耳まで真っ赤にするのを見て楽しむ。
うん、目の保養になる。
「なぁ三沢。今日の放課後デュエル出来るか?ひさびさに俺のHEROとお前の妖怪でデュエルしようぜ!!」
「いや、悪いが今日の放課後はラー・イエローの友人たちがお別れ会をやってくれるらしいからな。」
俺と三沢はいいと言ったんだが、ラー・イエローの奴らが無理やり企画した歓迎会だ。
まあ、断る理由もないけどな。
「…綺麗…」
明日香はまだ自分の世界から帰って来ていなかった。
「うーん…それじゃ仕方ないか!またな!!」
十代は自分の席へ戻っていった。
嵐のような奴だ。
「おい明日香。そろそろ帰ってこい。」
明日香の頬をペシペシと叩く。
「いきなりなんてこと言うのよ遊矢!…って、そんなこと言ってる場合じゃないのよ!真面目な話があるの。」
「真面目な話?」
「ここじゃちょっと…廊下まで3人で行きましょう。」


廊下だ。
授業寸前ということもあり、人気はなかった。
「…で、真面目な話って?」
「実は、昨日あなたたちが戦った二人のことなんだけど…」
万丈目準。
元、オベリスク・ブルー一年トップの生徒で、地獄デッキを使う実力者。
高田純二朗。
成績はまあまあだが態度が悪い生徒で、リクルーターを多く使ったカオス・ネクロマンサーを使うブルー生徒。
俺が出した条件により、今はオシリス・レッドにいる筈だが…
「万丈目くんと高田くん…どこにもいないらしいの。」
「何だと!?」
「それは、俺たちとデュエルした後すぐにか?」
「いえ、今日になってかららしいわ。」
万丈目準・高田純二朗同時失踪事件。
「そういやあいつら、負けた後学校を去るだのどうのこうの言ってたな…冗談じゃなかったのか…」
でも、太平洋の真ん中あたりだぞ。ここ。
「私、探しに行こうと思っているの。」
明日香は、恐らく自分の兄と同じ行方不明者になっていないか心配なのだろう。
「俺も行く。三沢、クロノス教諭に理由を説明しておいてくれ。」
「待ってくれ。なら、二人とデュエルした俺と遊矢が行くべきだろう。明日香くんが残ってくれ。」
三沢の言うことはもっともで、行方不明者の件はあまり公に出来ないせいで明日香は反論が出来ていなかった。
「それじゃ駄目だ三沢。明日香が残っても、クロノス教諭を納得させるアドリブは無理だ。」
「そっ、そんな「(合わせろ馬鹿!)」…三沢くん、お願い出来ないかしら。」
「…分かった…だが、帰って来たらきちんと説明を頼む。」
授業開始の時間が迫っていた。
急がなければ、クロノス教諭に見つかる。
「ありがとう三沢!頼んだ!」
後のことは三沢に頼み、俺と明日香は外へ走り出した。
こうして俺は、3日間連続で授業を休むこととなった。



「万丈目ー!高田ー!」
「一回負けた程度で、情けないわよー!!」
「酷いな明日香…」
こんな感じで二人を探しているのだが、全く見つからない。
この島が広いとは言っても、行方不明になるほどじゃないはずだ。
「やっぱり、二人とも行方不明者に…」
「まだ森も探し終わってないだろ。そんなこと言うのは速い。」
予想通り、明日香は万丈目と高田が行方不明者になっていないか心配していた。
「…そうね。今度はあっちを探しましょう。」
二人で森林を歩いていく。
「まったく、何を考えてるんだ?あいつら…」
いい加減溜息をつきたくなったその時。
ガサガサと草が揺れた。
「…万丈目か?高田か?」
草の向こうにいる人物は答えない。
「いい加減にしなさい!」
明日香が草の方へ近づくと。
草から何かが飛び出して来た。
「猿!?」
何だか機械がついていたが、確かに猿。

「ウキー!!」
「きゃあっ!!」
猿が明日香に飛びかかり明日香を持っていった。
「何が…起きた…?」
状況確認。
行方不明になった、万丈目と高田を捜していた俺と明日香。
そこに、機械をつけた猿が出現。
明日香を持っていった。
以上のことから導き出される結論は…
「明日香が猿にさらわれた!」
それしか分からず、とりあえず明日香と猿を追いかけた。



猿は速いが、追いかけるのは簡単だった。
なにせ明日香を運んでいるし、その明日香がキャーキャー叫ぶからな。
キャーと叫ぶ明日香にギャップという名の萌を感じながら猿を追いかけた先は、崖。
まさに崖っぷち。
…誰が上手いことを言えと。
「遊矢!」
明日香は崖の落ちるか落ちないか、というところで人質なっていた。
あの機械猿は何がしたいんだ?
てか、何者だ?
「いたぞ!」
今更ながら考えていると、黒服にサングラスのマフィアみたいな人たちと博士っぽい人が来た。
「捕まえろ。」
「ハッ!」
そう言って銃を構える黒服…ってちょっと待て!!
「何やってんだあんたら!人が見えないのか!?」
銃の前に出る。
「何だお前は?」
「俺の名前は遊矢。ここの生徒だ。あんたらは?」
博士っぽい人と言葉のキャッチボールをする。
「我々はデュエルエナジーについて研究している物だ。」
「デュエルエナジー…ねぇ。じゃ、あの機械猿は何だ?」
何だよ、デュエルエナジーって。
「我々の研究の一貫で、デュエルが出来るように機械を使い改造した猿、
Super
Animal
Learning
略してSALだ。」
…なかなか悲しいネーミングセンスの持ち主だな。
「博士!喋りすぎです!」
「おおっと、すまん。つい口が滑った。」
秘密の研究で生み出された機械猿…SALか。
俺はSALの方へ近づき、こう言った。
「おい、デュエルしろよ。俺が勝ったら明日香を返せ。お前が勝ったら自由にしてやる。」
「おい!何を勝手に!」
「いいではないか。SAL相手にここのオベリスク・ブルー生徒がどれぐらい持つか見てみたい。」
舐められたもんだな。
「と、言うわけだよSAL。デュエル出来るか?」
SALは明日香から離れ、デュエルディスクを準備する。
「明日香!動くなよ、今助けてやるからな。」
「頼むわ!」
デュエルディスク、セット。
『「デュエル!!」』
SALの機械から人語が話される。
「デュエルのために、SALにはデュエルに関する言葉をインプットしている。」
そりゃそうだ。会話出来なきゃデュエルも出来ん。
『私のターン、ドロー!』
SALの先行でスタート。
『私は、怒れる類人猿を召喚!!』
怒れる類人猿
ATK2000
DEF1000
怒れる類人猿…というと、獣族デッキか。
ま、猿だしな。
『更に、カードを一枚伏せターンエンド!』
「楽しんで勝たせてもらうぜ!俺のターン、ドロー!」
今回は速攻で行くぜ!
「魔法発動!手札断殺!お互いの手札から二枚捨て、二枚ドロー!そして、二枚捨てたリミッター・ブレイクの効果を発動!デッキから、スピード・ウォリアーを二体特殊召喚!!」
『『トアアッ!!』』
「そして、俺のフィールドに守備表示モンスターが二体いる時、バックアップ・ウォリアーを特殊召喚!!」
バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0
「更に装備魔法、デーモンの斧!バックアップ・ウォリアーに装備する!」
バックアップ・ウォリアー
ATK2100→3100
「バトルだ!バックアップ・ウォリアーで、怒れる類人猿に攻撃!サポート・アタック!!」
バックアップ・ウォリアーの銃による攻撃で、怒れる類人猿が破壊される。
…斧で攻撃しないのか?
『ウキィィィィィ!!』
SAL、LP4000→2900
「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」
よし、痛い先制攻撃を与えた。
『私のターン、ドロー!』
気合いが入ったSALがカードをドローする。
『私は、ジェネティック・ワーウルフを召喚!』
ジェネティック・ワーウルフ
ATK2000
DEF100
『そして、速攻魔法サイクロン!デーモンの斧を破壊する!!』
竜巻が斧を壊す。
バックアップ・ウォリアー
ATK3100→2100
『ジェネティック・ワーウルフで、スピード・ウォリアーに攻撃!』
「トラップ発動!くず鉄のかかし!!一ターンに一度攻撃を無効にし、再びセットする!」
くず鉄のかかしが、ジェネティック・ワーウルフの攻撃を受ける。
くず鉄のかかしには本当に助かっているよ。
『私は、これでターンエンド!』
「俺のターン、ドロー!」
さて、どうする…
ジェネティック・ワーウルフを倒せるカードは俺の手札には無い。
「俺はターンエンド。」
『私のターン、ドロー!』
だが、相手もくず鉄のかかしがあるバックアップ・ウォリアーを突破するのは難しいはずだ。
『リバースカード、オープン!スキルドレイン!!』
「何ィィィィィィィ!!」
スキルドレイン。
ライフポイントを1000払うことで、全てのモンスターカードの効果を無効にするカード。
苦手なんだよなぁ…
SAL、LP2900→1900
『更に、私は手札の機械族モンスター、アクロバットモンキーと、獣戦士族モンスター、ミノケンサチュロスを除外することで、獣神機王バルバロスUrを特殊召喚!!」
獣神機王バルバロスUr
ATK3800
DEF1200
バルバロスUr…攻撃力は3800と強力だが、
『戦闘ダメージを与えれない』
という致命的な効果を持っている。
だが。その効果もスキルドレインで無効化されているため、今はいきなり出てくる攻撃力3800のモンスターだ…
『バトル!獣神機王バルバロスUrで、バックアップ・ウォリアーに攻撃!閃光烈破弾!!』
「くず鉄のかかし!!」
危ない危ない。
『ならば、ジェネティック・ワーウルフで、スピード・ウォリアーに攻撃!』
くず鉄のかかしを使った今、防げるカードはない。
スピード・ウォリアーは墓地に送られてしまう。
『私はこれでターンエンド。』
「俺のターン、ドロー!」
獣神機王バルバロスUr。
あいつをどうにかしないと勝ち目は無い。
いや、あいつの攻撃力を利用させてもらおう!
「手札にあるドドドウォリアーは、リリース無しで召喚出来る!!出でよ!ドドドウォリアー!!」
ドドドウォリアー
ATK2300
DEF900
「リリース無しでこのカードを召喚した場合、攻撃力は1800になる…が、スキルドレインの効果でこの効果は無効化されるため、攻撃力は2300のままだ。」
SALもやってるデメリット効果の打ち消しだ。
「そして装備魔法、ジャンク・アタックを発動!」
『そんなカードを装備しても、バルバロスUrには勝てないぞ!』
ああいうことも喋れるのか…無駄に凄いな。
「ジャンク・アタックを、バルバロスUrに装備!!」
『何だと!?何を考えている!?』
やっぱりああいう台詞があった方が楽しいな。
「更に永続魔法を発動!ドミノ!!」
永続魔法を発動するが、フィールドには何も現れない。
『ドミノ?』
「ジャンク・アタックもドミノも、すぐ意味が分かるさ。バトルだ!」
『キキッ!?そちらのモンスターでは、バルバロスUrを突破出来ないのに!?』
突破するのさ。
「バックアップ・ウォリアーで、獣神機王バルバロスUrに攻撃!サポート・アタック!!」
『迎撃しろ、バルバロスUr!閃光烈破弾!!」
バルバロスUrの攻撃に、バックアップ・ウォリアーは返り討ちになる。
「ぐぅっ…!」
遊矢LP4000→2300
「だが、ジャンク・アタックの効果を発動!装備モンスターが戦闘で破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える!ジャンク・アタックは、俺のフィールドのカード…つまり、ダメージを受けるのはお前だ!」
『ウキィッ!?』
今のは、
「何だって!?」
みたいな声だったな。
「バックアップ・ウォリアーの攻撃力は2100!半分である1050のダメージを受けろ!!」
『ウキッ!!』
SAL、LP1900→850
「続いて、ドドドウォリアーでジェネティック・ワーウルフに攻撃!ドドドアックス!!」
SAL、LP850→650
「このタイミングでドミノの効果が発動する。戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分のモンスターをリリースすることで、相手モンスターを破壊する!!」
ドドドウォリアーがジェネティック・ワーウルフ、獣神機王バルバロスUrに倒れ込む。
「これがドミノだ!」
ドミノ倒しのように三体のモンスターが倒れ、墓地に送られる。
『獣神機王バルバロスUrが!?』
「俺の攻撃はまだおわっちゃいない!!」
フィールドにいるモンスターは、俺のフィールドにいるスピード・ウォリアーのみ。
「行け!スピード・ウォリアー!!ソニック・エッジ!!」
『ウキィィィィィ!!』
SAL、LP650→0
「よっしゃあああああッ!SAL!楽しいデュエルだったぜ!!」
SALは肩を落とし、明日香を俺のところへ運んで来る。
「大丈夫か、明日香。」
「…ええ、平気よ。」
「嘘つけ。さっきまで崖で震えてたくせに。」
「そ、そんなことないわよっ!!」
そんなことなくない。
「良くやってくれた。さあ、こっちに来るんだSAL。」
そういやいたな、黒服。
SALが黒服の方へ歩いていく…のを、俺と明日香が前に出て止めた。
「何のつもりだ!?」
「俺は、『俺が勝ったら明日香を返せ』と言っただけでこいつを研究所に戻すなんて、一言も言ってないぜ。」
「言葉遊びをしている場合ではない!ネット砲でやってしまえ!!」
博士の言葉に黒服が銃を構える。
「させるかよ!」
愛用の折りたたみ式釣り竿を使い、黒服が持っている銃を釣る。
「魚より随分楽だな。」
「くっ…こうなれば実力行使で…」
「待つノーネ!!」
この独特のイントネーションは!
「これ以上、このデュエルアカデミアで私の生徒に指一本触れさせないーノ!!」
「クロノス教諭!?」
確かに、そこに来たのはクロノス教諭だった。
そしてもう一人。
「どうやら、厄介ごとに巻き込まれているようだな、遊矢。」
「三沢まで…どうしてここに?」
「クロノス教諭に理由を話したら、授業が終わったら私たちも探しに行く、と言って聞かなくてな。そこで、事件に巻き込まれている二人を見つけたのさ。」
クロノス教諭…相変わらず良い先生だな。
…これでオシリス・レッドにも目を向ければなぁ…
「話は分かったノーネ。倫理委員会に連絡したから、すぐに来てくれる筈なノーネ。」
アカデミア倫理委員会。
この学園の警察…らしい。
「倫理委員会…逃げるぞ!」
博士たちは倫理委員会の名前を聞くや否や逃げ出した。
…意外とちゃんと仕事してるようだ。
「待つノーネ!!」
クロノス教諭は俺の手の中にあるネット砲を奪うと、乱射しながら博士たちを追っていった…



「よし、これで終わりだ。」
俺は今、SAL…いや、猿の機械をとっていた。
仲間たちの下に帰すために。
「じゃあな猿!また会おうぜ!!」
猿は、礼をすると森の中へ走っていった…
「遊矢、明日香くん。万丈目と高田のことが分かったんだ。」
猿がいなくなってから、三沢が口を開いた。
「三沢くん、本当に!?」
明日香が驚きの声をあげる。俺たちが一日中捜したのに三沢たちにあっさりと見つかったのか…
「いや、正確には大徳寺先生が見た。」
大徳寺先生。
錬金術の担当で、オシリス・レッドの寮長だ。
「大徳寺先生も彼らを捜していたらしいのだが、灯台の方に向かってみると二台の舟が別々の方向へ発進したのを見たらしい。」
つまり…
「万丈目と高田はもうこの学園にはいないってことか!?」
「遊矢の言う通りだろう。」
せっかく捜したのに…
徒労だった。
明日香も同じ気持ちだったらしく、ため息をついていた。
「まさか本当に退学するなんてね…」
「なあに、また帰ってくるさ。必ずな。」
あの負けず嫌い共はな。 
 

 
後書き
そろそろ遊星のアタッカーとして使用出来るウォリアーが尽きてきました。
速くシンクロ召喚を出したいよ!! 

 

-希望と絶望と-

 
前書き
最初に言っておく!!
…ごめんなさい。

ところで、近々SAOの二次を書こうと思ってます。
こっちと同じ、自己満足の駄文ですが、よろしかったらどうぞ。 

 
遊矢side


オベリスク・ブルーに昇格してから数日後。
何とかオベリスク・ブルーには慣れたけども、豪華すぎてむしろ困る。
ファミレスみたいなラー・イエローの食堂の方が良かったな。
ラー・イエローのカレーが懐かしい。
樺山先生も、
「いつでも食べに来てくれて良いですよ。」
と言ってくれたからな。
決めた。今度から食事はラー・イエローにしよう。
そんな話はともかく、明日香から聞いた話では、オシリス・レッドに転校生が来たらしい。
転校生は、入学テストより難しいテストに合格し、その時の成績に関わらずオシリス・レッドに配属され、数日後にテストの成績に応じたクラスに配属される。
つまり、入学組より難しいのだ。
そんな狭き門をくぐり抜けてこのデュエルアカデミアに入って来るのはすげぇなぁ。
などと思っただけだった。
今のところは…


3日ぶりに授業を受けた後、集会があった。
壇上にはクロノス教諭が立っている。
「そろそ~ろ、我がデュエルアカデミアと、デュエルアカデミアノース校の友好デュエルが行われるノーネ!!」
デュエルアカデミアノース校。
文字通り、この学園の北にあるデュエルアカデミア。
その学園と、ノース校の選ばれた者同士が競い合う友好デュエルがそろそろらしい。
「去年はカイザー亮が見事にノース校の代表を倒し、我がデュエルアカデミアの威厳を保ったノーネ。」
威厳って何だよ。
「あなた方も、今年の代表になれるように頑張るノーネ!!」
クロノス教諭が壇上から降りると同時に、
「やっぱり今年もカイザーだろ。」
「他のデュエルアカデミアの奴とデュエル出来るなんて面白そうだぜ!」
「機械族メタ作っとくか…でも勝てない気がする。」
などという言葉が聞こえ、皆諦めモードだ。
…約一名を除いて。
声だけで誰だか分かるな、十代よ。
「どうだ三沢。お前はどうする?」
「もちろん挑戦するさ。カイザーと君に勝ち、トップに立つのがこの頃の目標だからな。」
三沢は、こう見えて意外と熱い奴だ。
高い壁に当たったら、力を高め、対策をたてて突破する。
冷静に熱い奴。
「ま、俺も挑戦するつもりだけどな。三沢に亮…今のところはお前らがオベリスク・ブルーのトップだからな。」
二人を倒し、学園代表になりノース校の代表とデュエル。
良い展開じゃないか。
「…ところで三沢。なんだか殺気を感じないか?」
この集会が始まってからずっと感じている。
「殺気?…いや、感じないな。気のせいじゃないか?」
「気のせい…いや、確かに感じるんだが…」
「…君、誰かに恨まれているんじゃないか?」
「そんな覚えはない。」
明日香ファンクラブの奴以外には。
何だろうな……
変な感じのまま集会が終わり、オベリスク・ブルーに帰った。



オベリスク・ブルーに戻ると、殺気は消えた。
まあ、そもそも気のせいかもしれないのだが。
しかし気になる。
どこかで感じたことがあるようなあの視線…どこだったかは忘れたが…
やはり気になったので、再び寮の外に出て、視線の主を探すことにした。



ブラブラ歩いても特に感じず、オシリス・レッドの寮まで歩いて来ていた。
「…久し振りに十代たちの部屋にでも寄ってくか。」
また視線の主には会えるだろ、と半ば諦めかけて今日は十代たちと過ごすことにした。
「十代~いるか?」
ドアをノック。
「おお!いるぜ!!入って来いよ!」
「おじゃまします。」
部屋の中には、十代と翔がデュエルをしていて、隼人がベッドでそれを見るといういつもの光景があった。
「行け!フレイム・ウイングマン!!スーパービークロイド・ジャンボドリルに攻撃!スカイスクレイパー・シュート!!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
翔LP0
「ガッチャ!!楽しいデュエルだったぜ!!」
「また負けたぁ~」
十代の勝ちか。
「惜しかったな、翔。」
「なんで勝てないッスかー!?…ところで、遊矢くんはなんか用ッスか?」
「いや、只の暇つぶしだ。」
どっさりと床に座る。
…なんかいつもより狭い気がするな…
「隼人。結局あのデザインはどうしたんだ?」
隼人の、太陽が昇るエアーズロックのデザイン。
かなりうまかったので、インダストリアル・イリュージョン社のデザインコンテストへの応募を薦めたのだ。
「ああ、あの絵なら書き直してコンテストに送ったんだなぁ。」
「更に上手くなってたぜ、隼人の絵!」
そりゃ良かった。
「遊矢くん!」
翔がデッキを持って話しかけてきた。
これは、つまり。
「僕と、デュエルして欲しいッス!!」
「へぇ、前に俺から言った時は断らなかったか、お前?」
そのせいで、俺はまだ翔とデュエルをしていない。
「僕はアニキとお兄さんに勝つために、修行をしているッス!遊矢くんにも、修行相手になって貰うッス!!」
「よし、分かった!どうせやるならデュエル場でやろうぜ?」
外の目立つところで。
翔が「上等ッス!!」というかけ声と共に立ち上がる。
俺も立ち上がり、そこでベッドがもう一つあることに気がついた。
「…あれ、なんでベッドがもう一つあるんだ?」
「これは転校生のレイのベッドだ。部屋が無いらしくてこの部屋で寝泊まりしてるんだよ。」
…レイ?
「…転校生って、どんな奴なんだ十代?」
「ああ、早乙女レイって言ってさ、いつも帽子をかぶってる女の子みたいな奴だぜ!」
早乙女、レイ。
朝の集会での視線の主が分かった。
「翔、悪いがデュエルはまた後だ。急用を思い出した!」
オシリス・レッドの寮から飛び出す。
「えっ!?ちょっと、遊矢くん!?」
翔の声をスルーし、俺はオベリスク・ブルーに向かってダッシュした。



オベリスク・ブルーの寮へ着くと、予想通り木登りをしようとしているオシリス・レッド生を見つけた。
一回、深呼吸。
「何やってるんだレイ!!」
「この声は…遊矢様!会いたかった!!」
「様は止めろといつも言ってるだろう…」
こいつの名前は
『早乙女レイ』
小学五年生で、俺の……幼なじみだ。
自分のことを恋する乙女と自称し、一回デュエルでいじめっ子から助けたのがきっかけで、俺に懐いてつきまとっている。
ま、その話はいずれおいおいと…話したく無いが…
「な・ん・で小学五年生がここにいる!?」
「遊矢様に会いたくなったから…」
ダメ?と首を傾げるレイ。
…騙されるな…ここで可愛いから許したくなるのがこいつの罠だ…
「…レイ。お前んちの電話番号何だっけ?」
「xxxxx-xxxxxだよ。それが何?」
「あー、もしもし。黒崎遊矢ですけど。早乙女さん?」
早速電話だ。
『あら、遊矢くん?どうかしたの?』
早乙女ママの声だ。
久し振りだな。
「こっちにレイがいるんですけど?」
『ええ。私が行かせたもの。』
即答。
「何でですか!?」
『レイが恋する乙女だからよ?決まってるじゃない?』
恋する乙女教の教祖様は言うことが違うなァ…
「レイは!まだ!小学五年生ですッ!!」
『…相変わらずお兄ちゃんしてるわねぇ、レイも可哀想に。』
は?可哀想?
『…いいわ、明日デュエルアカデミアへの船が出るから迎えに行きます。』
「…それはどうも。」
『ところで、遊矢くんは彼女とか』
プツッ。
強制的に電話を切り、PDAをしまう。
「聞いてたな、レイ。明日帰れよ。」
「え~…仕方ないかぁ…」
おや、今日はいつになく素直だな。
自分でも無茶している自覚はあるのだろうか。
「あら、遊矢。どうしたの、こんなところで…って、この子は?」
明日香、登場。
「明日香。こいつは…」
「早乙女レイ。遊矢様の恋人よ。」
「こ、恋っ!?」
爆雷投下ァ!!
「嘘をつくなレイ。明日香、こいつは俺の幼なじみのレイで、これこれこういうことでここにいる。」
「そ、そう。幼なじみなの。…良かった、恋人じゃなくて…」
最後の呟きは聞こえなかったが、どうやらホッとしているようだ。
「遊矢様、この人は?」
「様は止めろ。こいつは天上院明日香。友達だよ。」
明日香を見てフームと探偵のようなポーズをとる。
「分かったわ。明日香さん、あなたと私はライバルみたいね。」
「「ライバル?」」
何だそりゃ。
「とぼけないで!明日香さん、あなたと私は遊矢さんを狙うライバルでしょう!!」
「…明日香。狙うって何だ。俺はハンティングされるのか?」
「このバカっ!!ちょっとあっち行ってなさい!!」
いきなり明日香に怒鳴られて(理不尽だ)俺はちょっと離れて明日香とレイの争いを見学することにした。

最初は明日香ばかりが顔を真っ赤にしていたが、次第にレイも興奮してきて問答していて数十分。
そろそろ欠伸が出そうになった頃、明日香とレイがこちらに向かって歩いてきた。
「遊矢、私たちデュエルすることになったわ。」
何でだよ!!
「遊矢様!私、絶対この胸だけ女に勝ちます!!」
胸だけ女…確かに明日香のはデカいが…
「遊矢?『妹』さんを負かしても怒らないでね。」
やたら『妹』を強調していた。
その後、二人はバチバチと火花を散らしあった。
「…なんだか良く分からんが、デュエルするなら速くしてくれ。」
いい加減疲れた。
デュエルディスクのセットがお互いに完了する。
「行くわよ『妹』さん!」
「負けないわよ胸だけ女!」
「「デュエル!!」」
女たちの戦いが始まった。
「楽しんで勝たせてもらうわ!ボクのターン、ドロー!」
レイの先行。
あの「楽しんで勝たせてもらうわ!」は俺が言っているのをレイが真似したのだ。
「ボクは、裏側守備表示でモンスターを召喚して、カードを三枚伏せてターンエンド!」
レイのデッキは…二人で組んだいつものデッキか。
「私のターン、ドロー!」
明日香のターン。
カードが三枚伏せてあると攻めにくいだろうな。
「私は、ブレード・スケーターを召喚!」
ブレード・スケーター
ATK1400
DEF1500
「更に永続魔法、連合軍!このカードの効果により、ブレード・スケーターの攻撃力が200ポイントをアップさせる!」
明日香の基本戦術は、戦士族のサポートカードで強化しつつ、癖はあるが強力なサイバー・ガールで攻めるデッキ。
サイバー・ガールの数が揃ったらキツイ戦いになるぞ…レイ。
「ブレード・スケーターで、裏側守備表示モンスターに攻撃!アクセル・スライサー!!」
「裏側守備表示モンスターは、見習い魔術師!このカードが破壊された時、デッキからレベル2の魔法使い族モンスターを裏側守備表示で特殊召喚できる!」
来たな。
レイのフェイバリットが。
「くっ…また裏側守備表示…私はカードを二枚伏せてターンエンド。」
明日香は守りを固めるようだ。
「ボクのターン、ドロー!裏側守備表示モンスターを反転召喚!来て!ボクの恋のキューピッド!恋する乙女!!」
恋する乙女
ATK400
DEF300
「こ、恋する乙女!?」
「そう!ボクのフェイバリットカード、恋する乙女!更に装備魔法、キューピッド・キス!!」
恋する乙女にいわゆるキューピッドの矢が装備される。
「恋する乙女で、ブレード・スケーターに攻撃!秘めたる思い!!」
「なんですって!?」
攻撃力の差は歴然。
恋する乙女が撃った矢をサラリと避け、反撃するブレード・スケーター。
レイLP4000→2800
「きゃっ!…だけど、そのモンスターには乙女カウンターが乗ったよ!」
「乙女カウンター?」
明日香…恋する乙女の効果を読まなかったな。
せっかくパックで再録されたカード、当たったのに。
「そして、キューピッド・キスの効果…ボクから攻撃してダメージを受けた時、乙女カウンターが乗っているモンスター一体のコントロールを得る!!」
乙女カウンターが乗っているモンスターは、ブレード・スケーター。
「さあこっちに来て、ブレード・スケーター!!」
レイの呼びかけに応じ、ブレード・スケーターがレイのフィールドに行く。
「ちょ、ちょっと!」
「ブレード・スケーターで、胸だけ女にダイレクトアタック!アクセル・スライサー!!」
「きゃあっ!!」
明日香LP4000→2600
「ボクはこれでターンエンド。」
えげつねぇ…相変わらず、えげつねぇ…
「私のターン、ドロー!…強欲な壺を発動し、二枚ドロー!」
二枚ドローしたと同時に、壺が砕ける。
「私は、サイバー・ジムナティクスを守備表示で召喚!」
サイバー・ジムナティクス
ATK800→1000
DEF1800
「サイバー・ジムナティクスの効果を発動!手札を一枚捨てることで、攻撃表示モンスターを破壊する!私は、恋する乙女を破壊!」
「あ~っ!!」
恋する乙女、爆散。
「そしてリバースカードオープン!リビングデッドの呼び声!今墓地に送った、サイバー・プリマを特殊召喚!」
サイバー・プリマ
ATK2300
DEF1600
「連合軍の効果で、サイバー・ガールたちの攻撃力は400ポイントずつアップするわ。」
サイバー・プリマ
ATK2300→2700
サイバー・ジムナティクス
ATK800→1200
「バトル!サイバー・プリマで、ブレード・スケーターに攻撃!終幕のレヴェランス!!」
「トラップ発動!ドレインシールド!相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃を無効にしてそのモンスターの攻撃力分ライフを回復する!!」
恋する乙女はライフの消費が激しいデッキ。回復系カードは必須だ。
サイバー・プリマの攻撃力は2700。
レイのライフは2700ポイント回復する。
「させないわ!リバースカードオープン!トラップ・スタン!!このターン、このカード以外のトラップカードを無効にする!!」
チェーンの逆順処理により、明日香のトラップ・スタンが最優先。
その後、レイのトラップカードが無効にされ墓地に送られる。
「わあああっ!!」
レイLP2800→1500
「私はこれでターンエンド。」
「ボクのターン、ドロー!」
気合いが入ったレイのターン。
「ボクもリバースカード、リビングデッドの呼び声!恋する乙女は、恋が実るまで何度でも蘇る!!」
恋する乙女
ATK400
DEF300
「そして装備魔法、キューピッド・キスを恋する乙女に装備!」
キューピッドの矢を持った乙女、再び。
「そして、薄幸の乙女を守備表示で召喚。」
薄幸の美少女
ATK0
DEF100
「行けっ!恋する乙女で、サイバー・ジムナティクスに攻撃!秘めたる思い!!」
レイのライフは1500。
ギリギリだ。
レイLP1500→100
「キューピッド・キスの効果で、サイバー・ジムナティクスはこっちのモンスターになるわ!」
サイバー・ジムナティクスもレイのフィールドに寝返る。
「そして、サイバー・ジムナティクスのモンスター効果!手札を一枚捨てることで、サイバー・プリマを破壊してターンエンド!!」
サイバー・プリマが破壊され、明日香のフィールドには連合軍のみ。
レイのフィールドにあるトラップは、恐らくホーリージャベリン。
明日香が攻撃してきた時、攻撃モンスターの攻撃力分ライフを回復するカード。
さて、どうする明日香。
「私のターン、ドロー!」
この状況を打開するカードを、明日香は持っている。
それは。
「私は手札から、戦士の生還を発動!墓地のブレード・スケーターを手札に加えるわ。」
ブレード・スケーターを手札に加えた…なら、明日香の勝ちだ。
「手札から融合を発動!手札のエトワール・サイバーと、ブレード・スケーターを融合し、サイバー・ブレイダーを融合召喚!!」
サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800
明日香のエースカード、サイバー・ブレイダー。
俺も何度となくあいつにやられている。
「サイバー・ブレイダーの第三の効果を発動!相手モンスターの数が三体の時、相手フィールドの効果を全て無効にする!パ・ド・カトル!!」
「えぇっー!?」
これでレイはホーリージャベリンを発動出来ない。
「これがサイバー・ガールたちの力よ!サイバー・ブレイダーで、恋する乙女に攻撃!グリッサード・スラッシュ!!」
「きゃああああっ!!」
レイLP100→0
決着。


「二人とも、楽しいデュエルだったぜ!」
「遊矢様…私、負けちゃいました…」
レイが本気で落ち込んでいる。
「まあ、妹さんも良く頑張った方よね、遊矢。」
逆に笑顔だな、こっちは。
「そうだぜ、次は勝てる!」
慰めついでに頭を撫でてやって、レイは元気になった。それから、校長先生にレイのことについて謝りに行き、オシリス・レッドの寮で十代たちに謝りに行った。
で、俺の代わりにレイが翔とデュエル。
翔が油断している隙に、スーパービークロイド・ジャンボドリルを奪ったレイの勝利だった。
明日香、レイと共に学園中を周り、釣りをした。途中で三沢や亮に会ったりしては、レイの言う
「私は遊矢様の恋人」
を否定して回った…
所詮は一日。レイを迎えに来た両親と共に、レイは本土へ帰ることとなった。
「…帰りたくなーい!」
「無茶言うなレイ…」
嫌がるレイを無理やり船に乗せる。
「またなレイ!今度は俺とデュエルしようぜ!!」
「今度は負けないッス!」
「また何だなぁ~!」
短い間だったが、レイは俺たちの仲間に入れたと思う。
「遊矢様~冬休みに帰ってきてね~!待ってるから~!」
「様は止めろ!!」
-こうして、俺の幼なじみである、早乙女レイの襲来事件は終わった。 
 

 
後書き
…レイへのフラグの立て方が分からず、遊矢とレイは幼なじみになりました。
カイザーにも、十代にも惚れてません。
感想・アドバイス待ってます!!※遼さんの感想で気づきましたが、恋する乙女の効果を勘違いしていました。
今更修正するとデュエルの結果も変わってしまいそうなのでそのままにしておきます。
すいません。 

 

-明日香争奪戦-

 
前書き
お気に入りにしてくれている方々、ありがとうございます! 

 
遊矢side

今日は授業が終わった後、オベリスク・ブルーの廊下を歩いていた。
別段用事が無いので、部屋に戻ろうとしていたところだ。
その時、バッタリと知り合いに遭遇した。
「どうだ遊矢。オベリスク・ブルーには慣れたか?」
カイザー亮だった。
「亮か。ここは無意味に広すぎるな。」
率直な感想を言うと、
「確かにな。」と同意を返された。
廊下を歩いて、二人で俺の部屋へ歩き出した。
「ところで遊矢。月一テストでの俺の相手はどちらだ?」
「多分三沢だろうなぁ。何でお前ら筆記試験満点なんだよ。」
俺は頭が悪い方ではない。というかオベリスク・ブルーに入っているのだから、この学園では良い方だ。
亮と三沢が別格すぎるだけである。
「カードをリスペクトすれば、自ずと結果はついてくる。」
「…それ、翔に言うなよ。自信なくすから。」
どんな天才肌だよ。
「…そうなのか?」
亮は意外と抜けたところがある。
特に、人間の心に。
「まさか、お前…」
「…翔が小学校の時に、言った。」
翔がああいう性格になったのは100%こいつのせいだと思う。
「パワー・ボンドの話といい…どうなってるんだ、お前らは…」
パワー・ボンド関係の話は、丸藤兄弟両方から聞いた。
「いや、しかし。翔にリスペクトデュエルを教えようとしたんだ。」
「それは分かるが…」
そんな時、PDAに電話が来た。
相手は…十代か。
「ちょっと悪い。…もしもし、何だ十代。」
『あ!遊矢か!悪いけど、テニスコートに来てくんねぇ?』
デュエルアカデミアには、テニスコートがある。
体育に使うのと、部活動に使うためだ。
テニス部は、なかなか強いらしい。
「…何でだよ。」
『俺も困ってるんだけどさぁ~分かった分かった!じゃ、速く来てくれ!!』
プツッ。
無理やりあっちから切られた。
何でだよ。
「…亮。何でだか知らんが、俺はテニスコートに行くことになった。」
「ああ、聞こえていた。また今度、デュエルでもしよう。」
亮はそのまま廊下を歩いていった。
テニスコートねぇ…
…どこにあるんだっけ?
しまったな。
亮はもう歩いて行っちゃったし、周りには誰もいないし。
とりあえず、オベリスク・ブルーの寮から出てみると、人影が見えた。
クロノス教諭だ。
「クロノス教諭…うわッ!」
道を尋ねようと近づいていったら、目のところに…おそらくボール…の跡がついていた。
「どうしたノーネ、シニョール遊矢?」
「…俺が聞きだいですよ。どうしたんですかクロノス教諭。」
「よくぞ聞いてくれたノーネ!!」
それから、数分間クロノス教諭の話が続いた。
やれ落ちこぼれだの。
やれドロップアウトボーイだの。
「…それで、何の用なノーネ?」
あ、覚えてたんだ。
「テニスコートってどう行くんでしたっけ?」
「テニスコートなら校舎に入れば分かるノーネ。」
「どうも。」
今度こそ俺はテニスコートに向けて走り出した。


「遅いぞ遊矢くん!!青春は待ってはくれないんだぞ!!」
テニスコートに入った瞬間、この暑苦しい奴に絡まれた。
「…十代、どういうことなんだ?」
「いやぁ…色々あってさあ。」
状況説明。
色々あってテニス部に仮入部することになった十代。
テニス部の練習はキツかったが、十代は持ち前の運動神経でやり遂げた。
その時、偶然立ち寄った明日香が十代と話をしているのを見て部長の綾小路が激怒。十代にデュエルを挑んだ…それだけなら俺には関係なかったのだが…
「よくわかんねぇけど、遊矢の方が明日香と仲が良いぜ。」
との十代の言葉に、
「ならその遊矢くんを連れて来るんだ!!」
という一言で今に至る。
「理由が分からん…」
「いいからデュエルだ!!青春から逃げることは出来ない!!」
黙れ暑苦しい。
観客は明日香と十代。
「ま、やるからには楽しんで勝たせてもらうぜ!」
デュエルディスク、セット。
「このデュエルで勝った方が、明日香くんのフィアンセだ!!」
「ええっ!?」
なんかいきなり景品にされたぞ、明日香。
「「デュエル!!」」
デュエルディスクに先行と表示される。
…俺は、大体先行をとると苦戦する。
「俺のターン、ドロー!」
まずは頼むぜアタッカー!
「俺はマックス・ウォリアーを召喚!」
マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800
「それが噂の機械戦士かい…!!」
「ああ。あんたもこいつらに文句を言うタチか?」
オベリスク・ブルーとオシリス・レッドにはケチをつける奴が多い。
「いや!!他人に何を言われようと自分の仲間を信じる…まさしく青春だ!!」
言ってることは良いが暑苦しい。
「ターンエンドだ。」
「僕のターン、ドロー!」さて、どんなデッキだ?
「カイザーと同等と呼ばれた僕の実力を見せてあげよう!!」
「亮と同等だと…!?」
そいつはヤバいかもしれない。
「通常魔法、サービスエースを発動!手札からこのカード以外のカードを一枚選択し、相手にそのカードの種類を選ばせる。」
…どういう効果だ?
「さあ、選びたまえ。モンスターか、魔法か、罠か。」
普通のデッキにはモンスターカードの方が多いだろう。
「モンスターカードだ。」
「不正解。このカードは罠カード、セキュリティー・ボール。相手が外した場合、選んだカードを除外して相手に1500ポイントのダメージを与える!!」
「何だと!?」
遊矢LP4000→2500
「15-0。更にカードを二枚伏せ、プラズマ・ボールを守備表示で召喚!!」
プラズマ・ボール
ATK900
DEF900
「ターンエンドだ!!さあ、君のターンだ遊矢くん!!」
暑苦しい。
テニス部らしく、テニスデッキってところか。
面白い。
「俺のターン、ドロー!」
今度はこっちから行くぞ!
「俺はスピード・ウォリアーを召喚!!」
『トアアアッ!!』
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
「そして、マックス・ウォリアーをリリースすることでターレット・ウォリアーを特殊召喚!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000
「ターレット・ウォリアーはリリースしたモンスターの攻撃力分、攻撃力をアップさせる!」
ターレット・ウォリアー
ATK1200→3000
「攻撃力3000…なかなかやるじゃないか!!」
「そいつはどうも…スピード・ウォリアーで、プラズマ・ボールに攻撃!ソニック・エッジ!!」
スピード・ウォリアーがプラズマ・ボールに向かっていく。
「スピード・ウォリアーは、召喚したターンのバトルフェイズ時、攻撃力が倍になる!」
スピード・ウォリアー
ATK900→1800
「プラズマ・ボールの守備力を超えたか…!!」
プラズマ・ボールを蹴り飛ばして墓地に送る。
「更に、ターレット・ウォリアーでダイレクトアタック!リボルビング・ショット!!」
「させないよ!トラップ発動!レシーブエース!!相手のダイレクトアタックを無効にして、1500ポイントのダメージを与える!!」
「ぐああああッ!!」
「「遊矢!!」」
遊矢LP2500→1000
「30-0。そして、デッキからカードを三枚墓地に送る。」
「流石にそっちもやるが…まだだ!手札から速攻魔法、ダブル・アップ・チャンス!!自分のモンスターの攻撃が無効になった時、攻撃力を二倍にして再び攻撃ができる!!」
ターレット・ウォリアー
ATK3000→6000
「こいつで終わりだ!ダブル・アップ・リボルビング・ショット!!」
「甘いな!トラップ発動!ダメージ・ダイエット!!このカードの効果により、戦闘ダメージを半分にする!!」
綾小路LP4000→1000
「これで30-30だな。カードを一枚伏せてターンエンドだ。」
「僕のターン、ドロー!強欲な壺を発動し、二枚ドロー!」
強欲な壺が破壊される。
「フッフッフッ…3000ダメージは嬉しい誤算だったよ。これで僕の切り札が出せる!!」
「切り札だと!?」
何が出てくる!?
「僕は永続魔法、デュースを発動!!」
「デュース?」
「始めて聞くカードだ!」
明日香と十代に同意だ。
聞いたことがない。
「デュースは、お互いのライフポイントが1000の時にのみ発動できるカード。これより、お互いのプレイヤーはライフポイントが0になっても敗北せず、一ターンに一体のモンスターのみしか攻撃出来ない。」
「なんだそりゃ!?」
「落ちつきたまえよ遊矢くん…ここからが本番さ!このカードがフィールドにある間、先に二回ダメージを与えたプレイヤーが勝利する!!」
どうりで知らんわけだ。効果がトリッキーすぎる。
「勝利条件がテニスみたいに変わったってことか…」
「その通り!!更に僕は、伝説のビッグサーバーを召喚!!」
伝説のビッグサーバー
ATK300
DEF1000
「伝説のビッグサーバーは、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る!行け!伝説のビッグサーバー!遊矢くんにダイレクトアタックだ!!」
「くっ…」
遊矢LP1000→700
デュース、綾小路1ポイント
「マッチポイント、綾小路。そして、伝説のビッグサーバーのモンスター効果を発動!このカードが戦闘ダメージを与えた時、デッキからサービスエースを手札に加え、相手はカードを一枚ドローする。」
サービスエース…!
永続魔法、デュースの効果により、二回連続でダメージを与えたプレイヤーが勝ちとなる。
「僕はサービスエースを発動!さあ、選びたまえ遊矢くん!!これが君と明日香くんの運命を決める!!」これを外せば、俺の負けだ。
綾小路部長のデッキはバーンデッキ。
ならば、魔法カードが多いはずだ…
「魔法カードだ!」
「本当にそれで良いんだね!?」
「ああ!」
頼む…当たってくれ…
「残念!僕が選択したカードは、メガ・サンダーボール。モンスターカードだ。」
魔法カードじゃ…ない…
「遊矢くんにダメージを与え、僕の勝ちだ!」
「遊矢!!」
景品である明日香の悲痛な叫びが響いた…
大丈夫だよ!!
「トラップ発動!!」
さっき伏せたリバースカード!
「ダメージ・ポラリライザー!!ダメージを与える効果を無効にし、お互いのプレイヤーはカードを一枚ドローする!」
危なかった…亮とこのカードトレードしてて助かった…
「サービスエースは防がれたが、次のターンに伝説のビッグサーバーのダイレクトアタックで終わりだ!!」
「何言ってるんだ?伝説のビッグサーバーは俺のターンで破壊させてもらうぜ!」
てか当然だ。
「出来るかな?伝説のビッグサーバーに、装備魔法デカラケを装備!!このカードが装備された伝説のビッグサーバーが攻撃対象に選択された時、その攻撃を無効にする…これで君の攻撃は封じた!!」
永続魔法、デュースの効果によりお互いのモンスターは一体しか攻撃出来ない。
装備魔法、デカラケを装備した伝説のビッグサーバーに攻撃すれば、攻撃を無効にされる。
「面白い…亮と同等ってのも、あながち間違えてないな…」
「当然さ。僕はこれでターンエンド。」
「俺のターン、ドロー!」
さて、反撃だ!!
「綾小路部長…俺には伝説のビッグサーバーを破壊する手段はない。」
「ちょ、ちょっと遊矢!」
明日香から非難の声があがる。
当然だろう、自分が景品になってるんだから。
「だが、俺が勝つ。俺はラピッド・ウォリアーを召喚!!」
ラピッド・ウォリアー
ATK1200
DEF200
「この状況から僕を倒す?…面白いねぇ、やってみると良い。」
なら、お言葉に甘えさせてもらおう!
「ラピッド・ウォリアーの効果を発動!このカード以外の攻撃を封じることで、このカードはダイレクトアタックが出来る!」
これでデカラケはクリア。
「更に魔法発動!ダブルアタック!!フィールド場のモンスターを選択し、そのモンスターよりレベルが高いモンスターを手札から捨てることで、選択したモンスターは二回の攻撃が出来る!俺はラピッド・ウォリアーを選択し、ドドドウォリアーを墓地に送る。」
「遊矢くん。デュースの効果を忘れてないかい?このカードがある限り、君は一度しか攻撃出来ないんだ!!」
「違うな。」
「何!?」
確かに綾小路部長のロックコンボは強力だ。
だが、穴がある。
俺はそこを突く!
「デュースの効果は、お互いにモンスター一体でしか攻撃出来ない…つまりは、同じモンスターで二回攻撃すれば良い!ラピッド・ウォリアーでダイレクトアタックだ!ウィップラッシュ・ワロップ・ビーン!!」
「うわっ!」
綾小路LP1000→-200
デュース、遊矢1ポイント。
まだラピッド・ウォリアーの攻撃は残っている!
「これでトドメだ!ウィップラッシュ・ワロップ・ビーン、第二打!!」
「うわあああああっ!!」
遊矢、2ポイント先制。
永続魔法、デュースの効果により、デュエルが決着する。
「よっしゃああああッ!!楽しいデュエルだったぜ、綾小路部長!」
「…この、僕が負けるなんて…うっ、うっ、うわあああああん!!」
綾小路部長は泣き叫びながらテニスコートから走り去っていった。
…おいおい。
「いやあ、危なかったな…」
「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ遊矢!」
楽しかったが、危なかったのは本当だ。
「あ、あの…遊矢…」
「どうした、明日香?」
顔を俯かせた明日香が俺に近づいた。
「私…相手が遊矢なら、フィアンセになっても「ところで遊矢!デュエルする前に言ってたフィアンセって何だ?」
何か言おうとしていた明日香を、十代が遮る。
「フィアンセってのは…結婚を約束した人のことだよ。」
そういやあったな、そんな条件。
すっかり忘れていた。
「へぇ~って事はさ、明日香、お前遊矢とけっこ「馬鹿!!」
今度は明日香が十代の言葉を、頭を殴って遮った。
たまらず十代は倒れ、明日香は走り去っていった…
「…俺がイッタイナニシタっていうんだ…」
「あー…さあ…?」
男たちの疑問は続いた… 
 

 
後書き
VS部長戦でした。
最後の明日香を書きたかっただけなので、デュエルはちょっと微妙かもしれません。
感想・アドバイス待ってます!※ガスタさんから、サービスエースにダメージ・ポラリライザーは発動出来ないという指摘を受けました。
…どうか見逃して… 

 

-冬休み-

 
前書き
ちょっと時系列がズレましたが、冬休みです。

後書きにて重要なアンケートがあります。
ご協力ください。 

 
side遊矢


冬休み。
学校の長期休暇の一つであり、生徒が待ち望むものだ。
当然だが、世間一般の学校と同じようにここ、デュエルアカデミアにも冬休みというものはある。
デュエルアカデミアは、デュエルが授業に入っているだけで他は普通の学校となんら変わることはない。
(錬金術を除く)
生徒たちは、学校に残るグループと家に帰るグループに別れて冬休みを楽しんでいた。
十代に翔、隼人は居残り組で、明日香に三沢、亮は家に帰るそうだ。
俺か?俺はもちろん…
「ただいまー。」
家に帰るグループだ。
レイにも、冬休みには帰ってくるように言われたしな。
久しぶりに自分の家に帰ってきた。
俺の家は、機械の修理・改造を担当する店だ。
結構田舎町なこともあり、需要はある。
そこで俺の父、黒崎遊輝はいつも通りに機械をいじくっていた。
「父さん、帰ったぞ。」
「んー、遊矢か。どうした、退学にでもなったか。」
いきなり笑えない冗談を言うな父上。
「冬休みだ。休み中は店を手伝うぞ。」
ここでの経験があり、自分は機械が得意になったんだろうな。
「いや、いらんよ。それより早乙女さんのところに行ってやるんだな。」
「は?なんで?」
そりゃあ、レイのところには行くつもりだが…
「昨日早乙女さんと娘さんが来てなあ。
『お宅の息子さんを冬休みが終わるまで預からせてください』
って言うもんだからよ。」
言うもんだから…何だ!?
「二つ返事でOKしちまったよ。」
「息子を売ったなこの馬鹿親父!!」
恋する乙女の行動力を再びなめていた。
「親に向かって馬鹿とはなんじゃい!?」
そう言いながらスパナを投げつけてくる。
「危ねぇ!」
ひらりと避ける。
「分かったら、速く荷物をまとめて早乙女さんのところに行ってこい!!」
こうして俺は、久々の我が家を堪能する暇も無く、レイの家に泊まりに行くこととなった…
俺の、せっかくの休みが…消えていく…



ピンポーン
泊まり込みの荷物を持ち、俺は早乙女家のチャイムを押した。
はぁ…
『あら、遊矢くん。何の用かしら?』
早乙女ママ、登場。
チャイムから聞こえてくるその声は、明らかに彼女の声だった。
「何の用、じゃないですよ。流石にあれが嘘だったら怒ります。」
『分かってるわよ。
入って頂戴。』
早乙女ママの許しを得て、早乙女家のドアを開ける。
そこには。
「遊矢様~~!!」
ホーミングミサイル(レイ)が用意されていた。
避けるわけにもいかず、体で受け止める。
「お帰りなさいませ遊矢様!」
「俺の家はここじゃないし様は止めろ!」
久々に会って数秒後に二回もつっこませないでくれ…
「それじゃようこそ!」
早乙女家は普通の一軒家で、家族は3人。
そのうち父親は単身赴任しているため不在だ。
「久しぶりね遊矢くん、元気だった?」
早乙女ママ。
優しい母であり、レイの目標である。
しかし、かなりの危険思想である。
例えば。
『女の子はみんな恋する乙女』
『恋する乙女は何をやっても大丈夫。』
『恋する乙女には不可能はない。』
などだ。
これを俺は
『恋する乙女教』
と呼んでいる…
「まあ、数週間お邪魔しますよ。」
「もちろんよ。それより、お昼ご飯にしましょう?」
俺が来るのに合わせたように、ちょうど昼ご飯だった。


「遊矢くん、学校で彼女とか出来た?」
「いや、そういうのはまったく…」
昼ご飯を食べながらの会話である。
「え、あの胸だけ女は?」
「明日香は只の友達だ。」
俺の一言に二人がアイコンタクトをする。
…なんなんだ…?
それから他愛もない会話を続けるなか、ふと、レイがこんなことを言った。
「遊矢様。私、来年にデュエルアカデミアに入ろうと思ってるの!」
「様は止めろ…だいたい、お前はまだ小学五年生じゃないか。」
「飛び級するもん!」
デュエルアカデミアには飛び級の制度がある。
あるにはあるが、とても狭き門だ。
「フッフッフッ…合格できたら、出来ることならなんでもお前の言うこと聞いてやるよ。」
俺の一言にレイは顔を輝かせる。
「ホントに!!」
「ああ。約束だ。」
「しゃあ指切り!約束しよう!」
レイと指切りをする。
こんな他愛もない冗談が、まさかあんなことになるなんて…
その時の俺は、知るよしもなかった…

いや、マジで知らないんだけど。



和気あいあいとした昼食が終わると、レイがデュエルを申し込んできた。
「あの胸だけ女に負けてから、また特訓したの!」
「明日香だって…」
いい加減名前を言えよ。
家のちょっとした庭で二人でデュエルディスクを構える。
「久しぶりに遊矢様に勝ってみせるんだから!」
「様は止めろ。手加減はしないぜ、レイ。」
両方ともデュエルディスク、セット。
「「デュエル!!」」
俺のデュエルディスクに、『後攻』と表示される。
「楽しんで勝たせてもらうわ!私のターン!ドロー!」
レイの先行。
というか、それは俺の台詞だ。
「私はシャインエンジェルを守備表示で召喚!」
シャインエンジェル
ATK1400
DEF800
「更にカードを二枚伏せてターンエンド!」
レイの基本戦術だな。
いつもならここで恋する乙女が来るが…
「楽しんで勝たせてもらう!俺のターン、ドロー!」
シャインエンジェル…光属性のリクルートカードか…
「俺はジャスティス・ブリンガーを攻撃表示で召喚!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000
「ジャスティス・ブリンガーで、シャインエンジェルに攻撃!ジャスティススラッシュ!!」
ジャスティス・ブリンガーの剣がシャインエンジェルを切り裂く。
「シャインエンジェルの効果を発動!攻撃力1500以下の光属性モンスターをデッキから特殊召喚する!来て!!薄幸の美少女!」
薄幸の美少女
ATK0
DEF100
「恋する乙女じゃないのか?」
「ジャスティス・ブリンガーは特殊召喚したモンスターの効果を無効にする…ここで恋する乙女を召喚したらやられちゃうよ!」
驚いた。
十代あたりより頭良いんじゃないか?
「ちゃんと勉強してるんだな。」
「うん、だって本気だもん!絶対デュエルアカデミアに飛び級してやるんだから!」
本気だな、レイ。
最早何も言うまい。
「カードを一枚伏せてターンエンドだ。」
「私のターン!ドロー!」
レイが勢いよくカードを引く。
「薄幸の美少女を守備表示にして、恋する乙女を召喚!」
恋する乙女
ATK400
DEF300
来たか、レイのフェイバリット!
「女の子は恋をすると強くなる!その力を遊矢様に見せるよ!!永続魔法、強者の苦痛を発動!遊矢様のモンスターはレベル×100ポイント攻撃力がダウン!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700→1300
「とりあえず、様は止めろ…」
強者の苦痛よりそっちが大事。
「私はこれでターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」
恋する乙女は怖いが、攻撃をしなければ良い話。
「ジャスティス・ブリンガーで、薄幸の美少女に攻撃!ジャスティス・スラッシュ!!」
「させないわ!トラップ発動!ディフェンス・メイデン!!」
もう伏せてたのかッ…!!
「このカードは、相手モンスターが攻撃して来た時、攻撃目標を恋する乙女に変更出来るカード!さあ、恋する乙女に振り向いて!!」
ジャスティス・ブリンガーの攻撃が恋する乙女へ変更される。
「そこで更にトラップ発動!ガード・ブロック!!戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」
ガード・ブロック…恋する乙女には効果抜群のカードだな。
戦闘ダメージは無いが、ジャスティス・ブリンガーは恋する乙女に攻撃した…
つまりは。
「これでジャスティス・ブリンガーに乙女カウンターが乗ったよ!」
「くそ…ガントレット・ウォリアーを守備表示で召喚してターンエンドだ!」
ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600
ただの時間稼ぎだが、いつまで持つかな?
「私のターン!ドロー!」
レイの手札にはあの装備魔法があるか、否か。
「私は通常魔法、アームズ・ホールを発動!私の通常召喚を封じてデッキの一番上のカードを墓地に送る代わりに、デッキ・墓地から装備魔法を手札に加える!私が手札に加えるのは、キューピット・キス!!」
…手札には無かったようだな。
代わりにサーチカードがあったが。
「キューピット・キスを恋する乙女に装備して、バトル!恋する乙女でジャスティス・ブリンガーに攻撃!秘めた想い!!」
キューピットの矢がジャスティス・ブリンガーに刺さるが、剣を振って恋する乙女を払う。
「きゃっ!」
レイLP4000→3100
「だけど、キューピット・キスの効果を発動!ジャスティス・ブリンガーはもらうよ!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1300→1700
強者の苦痛の効果が切れて攻撃力が元に戻る。
しかし、何度見てもえげつねぇ…俺もあんな風にレイに…いや、言うまい。
「いくよ!ジャスティス・ブリンガーでガントレット・ウォリアーに攻撃!ジャスティス・スラッシュ!!」
奪われたジャスティス・ブリンガーがガントレット・ウォリアーを斬る。
「カードを二枚伏せてターンエンド!」
楽しいな。
「俺のターン、ドロー!」
レイ…本当に強くなってるな…明日香とのデュエルで何か思うことがあったのか。
「俺はラピッド・ウォリアーを召喚!」
ラピッド・ウォリアー
ATK1200→800
DEF200
「ラピッド・ウォリアーの効果を発動!このターン、このカード以外のモンスターの攻撃を封じることでダイレクトアタックが出来る!」
元々、俺のフィールドにはラピッド・ウォリアーのみだ。
「ディフェンス・メイデンの効果は、相手モンスターに攻撃した時のみに発動できるカード…ダイレクトアタックには無力だ!」
「流石は遊矢様…良く知ってるね。」
レイが関心したように頷く。
いやいや。
「様は止めろ…俺とお前、何回デュエルしたと思ってるんだよ?レイのことなら何でも分かってるさ。」
そんな俺の何気ない一言にレイが赤面する。
「私だって、遊矢様のことなら誰にも負けないんだから!」
「様は止めろって…更に装備魔法、融合武器ムラサメブレードをラピッド・ウォリアーに装備する!よって、攻撃力は800ポイントアップ!」
ラピッド・ウォリアー
ATK800→1600
「そして通常魔法、拘束解放波!自分フィールドの装備魔法を選択して発動する。選択した装備魔法と、相手フィールドのセットカードを全て破壊する!」
「え~っ!?」
レイのセットカードが破壊される…ホーリージャベリンにディメンション・ウォール…破壊して正解だったな。
「だが、俺の装備魔法、融合武器ムラサメブレードは効果では破壊されないため、拘束解放波の効果を受けない。」
これでレイのフィールドは、恋する乙女、薄幸の美少女、ジャスティス・ブリンガー、ディフェンス・メイデン、強者の苦痛だ。
「バトル!ラピッド・ウォリアーで、レイにダイレクトアタック!ウイップラッシュ・ワロップ・ビーン!!」
「きゃああっ!」
レイLP3100→1500
「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」
さあて、面白くなってきたな。
「私のターン!ドロー!…強欲な壺で二枚ドロー!」
強欲な壺が砕ける。
「やったぁ!これが私の夢のカード!装備魔法、ハッピー・マリッジを発動!!」
…レイのデッキの、切り札だ…
「このカードは、自分のフィールドに相手のモンスターがいる時のみ発動出来るカード!装備したモンスターは、奪ったモンスターの攻撃力分攻撃力がアップする!!」
発動条件は厳しいが、それに見合った強力な効果だ。
「装備するのは恋する乙女!夢が叶うとき、女の子は更にパワーアップする!!」
恋する乙女
ATK400→2100
「更にもう一枚ハッピー・マリッジを発動!ジャスティス・ブリンガーに装備させるよ!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700→3400
二体ともジャスティス・ブリンガーの攻撃力分アップした。
「バトル!恋する乙女で、ラピッド・ウォリアーに攻撃!秘めた想い!!」
「速攻魔法発動!ダブル・サイクロン!!俺の魔法・トラップと、レイの魔法・トラップを破壊する!俺が破壊するのは、強者の苦痛!」
二対の竜巻が二枚のカードを破壊する。
「強者の苦痛が破壊されたことにより、ラピッド・ウォリアーの攻撃力は元に戻る。」
ラピッド・ウォリアー
ATK1600→2000
ま、恋する乙女には勝てないけどな。
「ダブル・サイクロンで破壊したリミッター・ブレイクの効果を発動!デッキから守備表示で出でよ!スピード・ウォリアー!!」
『トアアアッ!!』
スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400
「だけど、恋する乙女には適わない!攻撃を続行するよ!秘めた想い!!」
「くっ…」
遊矢LP4000→3900
「ジャスティス・ブリンガーで、スピード・ウォリアーに攻撃!ジャスティス・スラッシュ!!」
マイフェイバリットカード…助かったぞ。
攻撃力3400のダイレクトアタックはごめんだ。
「私はターンエンド!遊矢様!恋する乙女は強いのよ!」
「様は止めろ…俺だって負ける気はない…俺のターン、ドロー!」
こっちのフィールドは0だ。
「俺はレスキュー・ウォリアーを召喚!」
レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700
「更に通常魔法、死者蘇生を発動!レイの墓地のシャインエンジェルを特殊召喚!」
シャインエンジェル
ATK1400
DEF800
「レスキュー・ウォリアーとシャインエンジェルじゃ、恋する乙女には勝てないよ!」
その通りだ。
手札に装備魔法も無い。
だが。
「バトルだ!レスキュー・ウォリアーで、恋する乙女に攻撃!」
レスキュー・ウォリアーは恋する乙女に攻撃するが、矢に当たってやられてしまう。
「そっか…レスキュー・ウォリアーの効果は…!」
思いだしてももう遅い!
「レスキュー・ウォリアーは、俺への戦闘ダメージを0にする!そしてレスキュー・ウォリアーが戦闘破壊された時、元々の持ち主が自分のモンスターを奪い返す!戻ってこい!ジャスティス・ブリンガー!!」
恋する乙女に奪われたジャスティス・ブリンガーが俺の元へ帰ってくる!
「ハッピー・マリッジの効果を発動!レイのシャインエンジェルの攻撃力分、ジャスティス・ブリンガーの攻撃力がアップする!!」
ジャスティス・ブリンガー
ATK1700→3100
レイのモンスターの攻撃力をもらい、ジャスティス・ブリンガーの攻撃力がアップする。
「このためにシャインエンジェルを…」
「まだだ!レイのフィールドに俺のモンスターがいなくなったため、恋する乙女の攻撃力は元に戻る!」
恋する乙女
ATK2100→400
「ジャスティス・ブリンガーで、恋する乙女に攻撃!ジャスティス・スラッシュ!!」
「きゃあああああっ!!」レイLP1500→0

「また負けちゃったぁ…」
「いやいや、強くなったなレイ。これならデュエルアカデミアに入れるかも知れないぜ?」
半分嘘じゃない。
レイには、頑張って欲しい。
「ほんと!?じゃあ遊矢様約束守ってよね!」
約束?
「様は止めろ…」
いつもの受け答えをしながら、思いだしてみると。
-合格出来たら、出来ることなら何でも言うこと聞いてやるよ。
……しまった……
俺は自分の迂闊さを呪いながら、
「遊矢様、勉強教えて!」
というレイの笑顔に応えるために家に入った…

まあ、とりあえず。
「様は止めろ!」 
 

 
後書き
レイとデュエルしたかっただけの話でした。

前書きに書いた話ですが、議題はこうです。
『シンクロを出すか?』
皆さんの感想などで
【機械戦士】がなかなか好印象何ですが、もしかしたら
【シンクロ無し遊星】
が良いんですかね?
そんなわけでアンケートです。

1.シンクロも出して良い。
2.このままで。
3.ご自由にどうぞ。

シンクロが出る場合、ウォリアーと名のついた戦士族モンスター+αになる予定です。
あくまでも参考にするだけなので、あしからず。

セブンスターズ辺りから出そうと思っているので、それまでには。

ご協力お願いします! 

 

-本物と偽物-前編-

 
前書き
この話からちょっと書き方を変えてます。
こっちの方が読みやすいと思いますが、どうでしょう? 

 
side遊矢


冬休みが終わり、俺は再びデュエルアカデミアに帰ってきた。

レイは
『来年からは一緒にデュエルアカデミアに通う』
と入る気満々だったな。

まあ、それはともかく冬休み明けのデュエルアカデミアに、一つのイベントが舞い込んで来た。
伝説のデュエリスト、武藤遊戯さんのコピーデッキがデュエルアカデミアで公開されるそうだ。
神のカードなどは入っていないらしいが、それでもあのバトル・シティを戦い抜いた伝説のデッキだ。
見たくない奴は恐らくはいないだろう。
そんな事情もあり、デュエルアカデミアは小学校の遠足1日前のようだった。

「腹が減ったな…」
イベントがあろうとなかろうと、腹は減る。
久々にドローパンでも買おうと思い、俺は購買部に向かっていた。

いざ購買部に着くと…人だかりが出来ていて、その中に見知った顔を見つけた。

「三沢、これは何をやってるんだ?」

「遊矢か。明日は遂に武藤遊戯さんのデッキが来るからな。見学用の会場の整理券を配っていて、最後の一つをデュエルで決めているらしい。」

説明ありがとう三沢。

ちなみに、俺も三沢も整理券を買ってない。
混雑する時間に行くよりは、余裕を持って眺めた方が良いと思ったからだ。


ええと…デュエルしているのは…ラー・イエローの神楽坂。
それに翔だ。

神楽坂のライフは800。
翔のライフは2000。
翔のフィールドには、ジェット・ロイドが一体。
リバースカードは無し。

ジェット・ロイド
ATK1200
DEF1800

神楽坂のフィールドには何もなし。

圧倒的に翔の有利だ。

「俺のターン、ドロー!」
神楽坂。
ラー・イエローの成績は良い方だが、記憶力が良すぎて作ったデッキが誰かのデッキに似てしまう奴だ。
最近は、わざわざコピーデッキを作って戦っているらしい…コピーデッキで勝てるわけがないだろう…

「今回、神楽坂は誰のデッキを使っているんだ?」

「君のデッキさ。【機械戦士】デッキだよ。」

【機械戦士】デッキ。
最近は言われないようになったが、一応最弱のデッキと呼ばれるデッキ。

「俺は手札断殺を発動!お互いに手札を二枚捨て、二枚ドロー!」

…ってことは、あれは俺の真似か…?

「墓地に送ったリミッター・ブレイクの効果を発動!デッキから出でよ!マイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー!!」

『お前のじゃないだろ!?』

総ツッコミを受けるが、無視する神楽坂。

「そして速攻魔法、地獄の暴走召喚!!更に出でよ!スピード・ウォリアー!!」

スピード・ウォリアーが三体フィールドに現れる。
いつものように
『トアアアッ!!』
って声がしないな…
何でだろう。

「スピード・ウォリアーに団結の力を発動!スピード・ウォリアーは、お前のモンスター、ジェット・ロイドの攻撃力を超えた!行け!スピード・ウォリアー!ソニック・エッジ!!」

「待て!ジェット・ロイドの効果は…」

つい口出しをしてしまったが、攻撃宣言はもう完了している。

「ジェット・ロイドの効果を発動!このカードが攻撃された時、手札からトラップカードを発動できる!僕が発動するのは、魔法の筒!!相手の攻撃を無効化し、その攻撃力分のダメージを与える!!」

スピード・ウォリアーの攻撃力は3100…
ライフが800しかない神楽坂の負けだ。

「うわああああッ!」
神楽坂LP800→0


「やったッス!これで整理券は僕の物ッス!」

トメさんから整理券を貰い、翔はオシリス・レッド寮に走っていった。
十代と隼人にでも自慢するつもりだろう。

「神楽坂の奴、オシリス・レッドなんかに負けたぜ?」

「あいつはもう駄目だな…」

ごちゃごちゃうるさい連中をトメさんが追い出し、俺と三沢は倒れている神楽坂の下へ行った。

「神楽坂、大丈夫か?」

「ドンマイ。こんな時もあるさ。」

俺と三沢は今ではオベリスク・ブルーだが、よくラー・イエローの方へ遊びに行っている。
なので、あまりオベリスク・ブルーという感じはしないし、ラー・イエローである神楽坂とも仲は良い。

「今度は俺のコピーデッキなんかじゃなく、自分のデッキを使えよな。」

「…どうしろっていうんだ。俺はどう作っても誰かのデッキに似てしまう…だったら最初っから誰かのデッキを使った方が良いじゃないか…」

「神楽坂。それは駄目だ。」

たとえ誰かのデッキに似ていようと、そこから自分のコンボを組めばいい。
だから、コピーデッキは駄目だ。
自分のデッキは自分のモノだ。
コピーは、自分のデッキじゃない…

「…分かっているんだ、そんなことは…」

神楽坂も分かってはいるんだ、コピーデッキでは駄目だということを。

「だったら俺と遊矢、神楽坂の三人でデッキを組もう。」

「それは良い考えじゃないか!」

流石は三沢。

「いや、それには及ばない…」

神楽坂はふらりと立ち上がり、俺の方を向いた。

「遊矢。お前は自分のデッキに入っているカードを信頼して、理解すれば好きなカードでも使える、と言ったな。」

「まあ、微妙に違うがだいたいそうだな。」

不必要なカードなど存在しない。
どんなカードだって何かのコンボに使えるはずだ。

「…今日の夜に相談したいことがある。」

「今じゃ駄目か?」

何故に夜?

「駄目なんだ。じゃあ、またな。」

神楽坂は、どこかへ歩いていった…

「神楽坂…どうしたんだ…それはともかくトメさん。ドローパンください。」

俺は目的を思い出し、トメさんからドローパンを買った。



…具なしパンだった…



で、その夜。

冬休み明けで久し振りにいつもの池で釣りをしていた。

やはり釣りは良い。
その時、一人の人物が現れた。

「こんばんは遊矢。どう?釣れてる?」

「明日香か。この池で会うのは久し振りだな。」

冬休みの前ぶり。
ああ、そういや…

「レイから伝言があるんだが…」

「っ!?な、何かしら?」

レイの話になると、明日香はいつも途端に身構える。

「『冬休みの間、ボクと遊矢様は一つ屋根の下で暮らしていたよ』って伝えてくれって…」

瞬間。

空気が震えた。

「あ、明日香?」
ただならぬ気を放つ明日香。

「ええと、遊矢。どういうことかしら?」

めっちゃ笑顔。
めっちゃ怖い。

「いや、冬休みに実家に帰ったらさ。いきなりレイの家に泊まることになったんだよ。」

「…何もしてない?」

「勉強を教えたぐらいだよ。」

俺がレイに何をするんだよ。
逆に聞きたいわ。

「そう。…良かった…」

明日香が何事か呟いたがよく聞き取れなかった。
まあ、いいか。

「遊矢、明日香。ここにいたか。」
更に現れたのは、亮。

「亮。お前までどうした?」

「明日、デュエルキングのデッキが展示されるだろう?」

「ああ。今はその話題で持ちきりだな。」

まさか…
いやいや、カイザーとあろうものがそんなことを言うはずが無い。

「今日の夜には展示されるだろうから、先に見に行かないか?」

「マジか…」

と、言っても見たいのは事実。

「じゃ、ちょっと待ってくれ。三沢も入れて四人で行こう。…明日香も行くだろ?」

「え、…ええ…」

やっぱりみんな見たいんだよな、と思いつつ、三沢に電話をかけた。


三沢も二つ返事でOKし、四人で展示会場に向かっていた。

「まさか、亮が見たいから先に行こう。なんて言うとはなぁ。」

「俺とて一人のデュエリストだからな。」

デュエリストって言えば何でもやって言いわけじゃないからな。

その時。

『マンマミーアァァァァァァァァァァ!!』

いきなり叫び声が校舎内に響いた。
この声は…

「クロノス教諭…よね。」

「展示会場の方からじゃないか?」

「まさか、クロノス教諭とデッキに何か…?」

「行くぞ!」

四人で展示会場へ走り出した。


展示会場。
光に照らされたガラスケースは壊されてデッキが存在せず。

横には、青い顔をしたクロノス教諭がいた。

…状況証拠だけなら完璧だな。

「まさか、クロノス教諭…?」

「ちちち違うノーネ!ワタシじゃないノーネ!!」

三沢が呟いた一言に、クロノス教諭が過剰に反応する。

「落ち着いてくださいクロノス教諭!クロノス教諭がやっていないというのは、ここにいるみんなは分かってますから!」

「え!?」

明日香。
分かってなかったな。

「クロノス教諭はガラスケースの鍵を持っている。わざわざ壊す必要はない。」

「その通りなノーネ!!流石はオベリスク・ブルーの生徒たちなノーネ!!」

オベリスク・ブルーは関係ないと思うが。

「つまり、教諭が見る前に盗んだ者がいるということか。」

「じゃあ、校長に連絡を…」

「待つノーネシニョーラ明日香!このままではワタシが責任をとらされてしまうノーネ!」
クロノス教諭…
ん?
PDAにメールが来た。
そんな場合じゃないと分かっていても、つい反射的にメールを確認してしまった。

差出人は、神楽坂。
そういや、夜に相談があると言っていたな。

メールの内容は…

『俺は伝説のデュエリストのデッキを手に入れた。
海岸で待つ。』

「ッ!!皆!海岸に向かうぞ!」

「ちょっと遊矢!?」

「おい、何があった!?」

「いいから来い!」

神楽坂が待つ海岸に急いだ。

神楽坂。
何を考えてやがる…
走りながら皆に事情を説明した。
クロノス教諭は残ったようだ。

「待っていたぞ遊矢!」

海岸でデュエルディスクを二つ持って神楽坂は待っていた。

「神楽坂…どういうことだ?」

「俺は有名なデュエリストの対戦記録を全て暗記して、様々なデッキを使いこなせるようになった!なのに、何故か俺はデュエルに勝てない…彼らと俺、何が違うのか確かめたいんだ!」

これがお前が言っていた『相談』か。
レアカードが目当てだとかじゃなくて良かったがな。

「分かった。
『コピーデッキではない自分のデッキの強さ』
を、そのデュエルキングのデッキ相手に証明してやるよ。」

神楽坂からデュエルディスクを投げられ、受け止める。

「このデュエルが終わったら、遊戯さんのデッキは返せよ。」

「最初からそのつもりだ。俺は自分の力を確かめたいだけだからな。」

デュエルディスク、
セット。

「「デュエル!!」」

「俺のターン、ドロー!」

神楽坂のターンからだ。

「俺は融合を発動!手札の<幻獣王ガゼル>と<バフォメット>を融合し、<有翼幻獣キマイラ>を融合召喚!!」

有翼幻獣キマイラ
ATK2100
DEF1200

「<有翼幻獣キマイラ>…デュエルキングのデッキの特攻隊長てもいえるカード…」

「流石に良く知ってるな三沢。これで俺はターンエンドだ。」

伝説のデッキとデュエルできるとはラッキーだな。

「楽しんで勝たせてもらうぜ!」 
 

 
後書き
前後編にしたのは、まだデュエルを思いついていないからです。

ところで先日。ちょっと嬉しいことがありました。
携帯のWebサイトで
<スピード・ウォリアー>
と検索したところ、四ページ目ぐらいにこの小説が出てきましてですね、ちょっと嬉しかったです。
今回の書き方について、前回のアンケートについて、全く関係なくても感想・アドバイス待ってます。 

 

-本物と偽物-後編-

 
前書き
この小説は『生け贄』のことを『リリース』
『生け贄召喚』のことを『アドバンス召喚』
『融合デッキ』のことを『エクストラデッキ』と呼んでいます。

タグにOCG遵守ってつけてますし。

忘れてて修正が面倒くさいわけじゃありません!
ええ、本当に! 

 
神楽坂LP4000

フィールド
<有翼幻獣キマイラ>

遊矢LP4000

後攻一ターン目

「俺のターン、ドロー!」

相手は本物ではないとはいえ、伝説のデッキ。

そして神楽坂は、どんなデッキでも使いこなす実力がある。
だが、俺は自分のデュエルをするだけだ!

「俺は<マックス・ウォリアー>を召喚!」

【機械戦士】の切り込み役が現れる。

「更に装備魔法<デーモンの斧>をマックス・ウォリアーに装備!装備モンスターの攻撃力は、1000ポイントアップする!」

マックス・ウォリアー
ATK1800→2800

マックス・ウォリアーの効果も合わせれば、有翼幻獣キマイラを倒し、かなりのダメージを与えることが出来る。

「マックス・ウォリアーで有翼幻獣キマイラに攻撃!《スイフト・ラッシュ!》」

マックス・ウォリアーが三つ叉の槍を振りかざす。

「マックス・ウォリアーは、攻撃した時攻撃力が400ポイントアップする!」

マックス・ウォリアー
ATK2800→3200

マックス・ウォリアーの攻撃により有翼幻獣キマイラが墓地に送られる。

だが、<有翼幻獣キマイラ>には破壊された時に発動する効果がある。

神楽坂LP4000→2900

「くっ…だが、有翼幻獣キマイラの効果を発動!墓地から<幻獣王ガゼル>か<バフォメット>を特殊召喚出来る!出でよ!幻獣王ガゼル!」

幻獣王ガゼル
ATK1500
DEF1200

厄介なモンスターだな…

「マックス・ウォリアーが相手モンスターを破壊した時、元々の攻撃力・守備力が半分になる。」

マックス・ウォリアー
ATK2800→1900
DEF800→400

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

神楽坂のターン。

「俺は<天使の施し>を発動!デッキから三枚ドローし、二枚捨てる!…フッ。このカードは効果によりデッキから手札に加わった時、特殊召喚出来る!来い!<ワタポン>!」

ワタポン
ATK200
DEF300

ピンク色の毛玉が飛び出る。

「そしてワタポンをリリースし、<ブラック・マジシャン・ガール>召喚!」

ブラック・マジシャン・ガール
ATK2000
DEF1700

武藤遊戯しか持っていないという、デュエルモンスターズ屈指のレアカード、ブラック・マジシャン・ガール。

この目で見れる時が…いや、戦う時が来るとはな…

ちょっとだけ神楽坂に感謝しておく。

「行くぞ遊矢!幻獣王ガゼルを攻撃表示にし、バトル!ブラック・マジシャン・ガールでマックス・ウォリアーに攻撃!黒・魔・導・爆・裂・破!!」

「トラップ発動!<強制終了>!デーモンの斧を墓地に送ることで、バトルフェイズを終了させる!」

マックス・ウォリアー
ATK1400→900

このカード以外のカードを一枚墓地に送ることで、バトルフェイズを終了させるトラップカード、強制終了。

このカードがあれば防御は問題ない。

「くっ…カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

さて、反撃だ!

「俺はマックス・ウォリアーをリリースすることにより、<ターレット・ウォリアー>を特殊召喚!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

「しまった、ターレット・ウォリアーか!」

神楽坂は俺のデッキのコピーデッキを作った。
ならば、俺のデッキのモンスターの効果は知っているだろう。

「ターレット・ウォリアーは、リリースした戦士族モンスターの攻撃力分攻撃力がアップする!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200→3000

「ターレット・ウォリアーで、ブラック・マジシャン・ガールに攻撃!《リボルビング・ショット》!!」

「やらせないぜ!リバースカード、オープン!<六茫星の呪縛>!相手モンスター一体を対象とし、そのモンスターの攻撃と表示形式の変更を封じる!!」

ターレット・ウォリアーが呪縛され、動きが封じられる。

「防がれたか…メインフェイズ2、<シールド・ウォリアー>を守備表示で召喚!」

シールド・ウォリアー
ATK800
DEF1600

「そいつを待ってたぜ!リバースカード、オープン!<黒魔族復活の棺>!!」


「何だと!?」

あのカードの効果は確か…

「相手がモンスターを通常召喚した時、そのモンスターと自分フィールド場のモンスターを墓地に送り、墓地の魔法使い族を復活させる!」

「だが、お前の墓地に魔法使い族は…」

いない、と言いかけて気づいた。
墓地に、いる。

「…天使の施しの時か…」

「その通りだ!俺は幻獣王ガゼルと、シールド・ウォリアーを墓地に送る!」

武藤遊戯の魔法使い族モンスターと言えば。

「現れろ!我が最強の下僕、<ブラック・マジシャン>!!」

ブラック・マジシャン
ATK2500
DEF2100

「これが武藤遊戯のエースカード…ブラック・マジシャンか…俺はこれでターンエンド。」

「俺のターン、ドロー!」

神楽坂の手札は三枚。
最上級魔術師とその弟子がいるんだ。
何か仕掛けて来るに違いない…

「俺は装備魔法、<魔術の呪文書>を発動!ブラック・マジシャンに装備し、攻撃力を700ポイントアップさせる!」

ブラック・マジシャン
ATK2500→3200

まずい!
ターレット・ウォリアーの攻撃力は3000…

「これでターレット・ウォリアーの攻撃力が上回った!更に通常魔法!<黒・魔・導>!!自分フィールドにブラック・マジシャンがいる時、相手の魔法・トラップを全て破壊する!」

ブラック・マジシャンの杖から発せられた魔力が、俺の強制終了とリバースカードを破壊する。

だが、ただではやられない!

「リバースカードは<リミッター・ブレイク>!このカードが墓地に送られた時、デッキ・手札・墓地から<スピード・ウォリアー>を特殊召喚出来る!デッキから守備表示で出でよ!スピード・ウォリアー!!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「スピード・ウォリアーじゃ、ブラック・マジシャンたちを止められないぜ!ブラック・マジシャンで、ターレット・ウォリアーに攻撃!黒・魔・導!!」

先程と同じ魔力が、今度はターレット・ウォリアーを襲う。

「墓地のシールド・ウォリアーの効果を発動!このカードを除外することで、モンスター一体の戦闘による破壊を無効にする!」

シールド・ウォリアーが黒・魔・導を代わりに受ける。

「だが戦闘ダメージは受けてもらうぜ!」

「ぐうッ…」

遊矢LP4000→3800

「続いて、ブラック・マジシャン・ガールで、スピード・ウォリアーに攻撃!黒・魔・導・爆・裂・破!!」

「くそっ…スピード・ウォリアー…」

守る手段はなかった。

「俺はこれでターンエンドだ!」

「俺のターン!」

俺のフィールドには攻撃力3000のターレット・ウォリアーがいるが、神楽坂のブラック・マジシャンには勝てない…

ならば。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「それだけか!俺のターン、ドロー!」

確かにこれだけだが、神楽坂はどう出る…

「強欲な壺を発動し、二枚ドロー!」

ここでドローカードだと!?
引いたカードを見て、神楽坂はニヤリと笑った。

「遊矢!そのリバースカードがなんであろうと、ターレット・ウォリアーは破壊させてもらうぜ!通常魔法発動!<千本ナイフ>!!」

ブラック・マジシャンの周囲に千本のナイフが現れる。

「このカードは、ブラック・マジシャンがフィールドにいる時、相手モンスター一体を選択して破壊する!対象はもちろん、ターレット・ウォリアー!!」

ブラック・マジシャンが命じると、千本のナイフが一斉にターレット・ウォリアーを襲う。

「読み通りだぜ神楽坂!」

「何!?」

ブラック・マジシャンで攻撃して来ないで助かった。

「リバースカード、オープン!<悲劇の引き金>!!このカードは自分のモンスター一体を破壊対象に選択する魔法・トラップ・効果モンスターの効果が発動された時、その効果を正しい対象となる相手モンスターに移し替える!」

千本ナイフがターレット・ウォリアーの手前で止まり、ブラック・マジシャンの方向を向く。

「俺が移し替えるのは当然、ブラック・マジシャン!」

千本ナイフが俺の宣言と共にブラック・マジシャンを襲う。

「やらせないぜ!速攻魔法、<光と闇の洗礼>を発動!ブラック・マジシャンをリリースすることにより、デッキから<混沌の黒魔術師>を特殊召喚する!」

混沌の黒魔術師
ATK2800
DEF2600

洗礼を受けブラック・マジシャンが進化した姿。

だが、俺にとってはそちらよりリリース・エスケープにより千本ナイフが無効にされたことが残念だった。

「リリース・エスケープにより召喚したため、混沌の黒魔術師の効果はタイミングを逃すが、通常魔法、<光の護封剣>!!」

フィールドに光の剣が三本現れ、俺のフィールドを覆った。

「このカードが存在する限り、相手は三ターンの間攻撃宣言が出来ない!更に、ブラック・マジシャンが墓地に送られたため、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力は300ポイントアップする!」

ブラック・マジシャン・ガール
ATK2000→2300

「そして魔術の呪文書がフィールドから墓地に送られた時、ライフを1000回復させる!」

神楽坂LP2900→3900

「これで俺はターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

流石は神楽坂。
キチンと守るカードを残しておいたか…
俺のフィールドには、攻撃力3000のターレット・ウォリアーのみ。神楽坂のフィールドには、攻撃力2800の混沌の黒魔術師。

ブラック・マジシャンが墓地に送られたため、攻撃力が上がったブラック・マジシャン・ガール。
そして光の護封剣。
両方が両方を突破出来ない状況だ。

「ターンエンド。」
俺のターンが終わったことにより、光の護封剣の剣が一本減った。

「俺のターン、ドロー!」

神楽坂は何か仕掛けて来るか…

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

リバースカードのみ。

「俺のターン、ドロー!」

光の護封剣を破壊するカードを引かないか…

「俺はこれでターンエンド。」


俺のターン終了と共に光の剣が一本減る。

「俺のターン、ドロー!」

神楽坂の表情を察するに、あいつもキーカードが引けないようだ。

「…俺もターンエンドだ。」

「俺のターン、ドロー!
速攻魔法<サイクロン>!ターレット・ウォリアーにかかっている六亡星の呪縛を破壊させてもらうぜ!」
竜巻がターレット・ウォリアーへの呪縛を破壊する。

「俺はこれでターンエンド!」

光の護封剣が消える。
時間稼ぎはここまでだ。

「俺のターン、ドロー!混沌の黒魔術師とブラック・マジシャン・ガールを守備表示にし、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

神楽坂のフィールドには守備表示のモンスター二体とリバースカード。
ここは…

「俺は通常魔法<カード・フリッパー>を発動!手札を一枚墓地に捨てることで、相手フィールド場のモンスターの表情形式を全て変更する!」

混沌の黒魔術師、ブラック・マジシャン・ガールが攻撃表情となる。

「更に通常魔法、<ダブルアタック>!!手札からターレット・ウォリアーよりレベルの高い<バックアップ・ウォリアー>を捨てることにより、このターン、ターレット・ウォリアーは二回攻撃が出来る!」

ターレット・ウォリアーにバックアップ・ウォリアーの銃がつく。

「行け!ターレット・ウォリアー!!ブラック・マジシャン・ガールに攻撃だ!《リボルビング・ショット》!!」

ターレット・ウォリアーから撃ち出された砲弾がブラック・マジシャン・ガールを捕らえる。

「ブラック・マジシャン・ガールが…!」

神楽坂LP3900→3200

「続いて、ターレット・ウォリアーで混沌の黒魔術師に攻撃!」

「うわぁっ!」

神楽坂LP3200→3000

「どうだ神楽坂!俺はこれでターンエンド!」

ここまでは五分五分だろう。
ここからはどうなるか…

「俺のターン、ドロー!」


神楽坂のフィールドにはリバースカードが一枚。

「俺は通常魔法<トレード・イン>を発動!手札からレベル8の<マジシャン・オブ・ブラックカオス>を墓地に送ることで、二枚ドロー!…良く来てくれたな…俺は<クリボー>を召喚!!」

クリボー
ATK300
DEF200

「ク、クリボー!?」
確かに武藤遊戯を象徴するカードだが…

「クリボーの隠された能力、見せてやるぜ!リバースカード、オープン!<機雷化>!!自分フィールド場のクリボーもしくはクリボートークンを破壊し、破壊した数だけ相手のカードを破壊する!」

クリボーがターレット・ウォリアーにへばりつく。

チュドーン。

「ターレット・ウォリアー!!」

爆破。

「すまない、クリボー…だが、良くやってくれた。流石は数千枚のカードの中から俺が選んだカードだ…お前がくれたチャンス、無駄にはしないぜ!!」

…最初に言っておくがツッコミ待ちではない。

神楽坂の悪い癖だ。

「墓地に存在する光属性のワタポンと、闇属性のクリボーを除外することにより、このカードは特殊召喚出来る!」


墓地の光属性と闇属性を除外して現れるモンスターと言えば。

「現れろ!!デュエルモンスターズ界最強戦士!カオス・ソルジャー-開闢の使者-!!」

美しい甲冑を纏いし剣士がフィールドに現れる。

カオス・ソルジャー-開闢の使者-
ATK3000
DEF2500

禁止カードである混沌帝龍-終焉の使者-と対をなす最強戦士、開闢の使者。

緩い召喚条件、高い攻撃力、強力な効果を併せ持つ強力なカードだ。

…まさか、このタイミングで出してくるとはな…

ターレット・ウォリアーが爆破された今、俺のフィールドにあいつを倒せるカードは無い!

「行け!カオス・ソルジャー-開闢の使者-!遊矢にダイレクトアタックだ!《開闢走破斬》!!」

「ぐあああッ!!」

遊矢LP3800→800

「遊矢、まだ終わりじゃないぜ!!通常魔法<原初の種>!カオス・ソルジャー-開闢の使者-か混沌帝龍-終焉の使者-がいる時、自分の除外ゾーンから二枚手札に加える!俺が手札に加えるのは、クリボーとワタポン!」

「…クリボーが手札に加えられたということは…」

「その通りだ!お前が開闢の使者を突破しようとも、クリボーが戦闘ダメージを無効にする!ターンエンドだ!」

アフターケアも万全ってか…
面白いな神楽坂。

「俺のターン、ドロー!」

引いたカードはマイフェイバリット!

「スピード・ウォリアーを召喚!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400


「だが、スピード・ウォリアーでは開闢の使者を倒せたとしてもそれまで!俺を倒すことは出来ない!」

「そいつはどうかな?」

「なに?」

「確かにスピード・ウォリアーでは開闢の使者を倒せてもそこで終わりだ。」

他の対戦者と違ってスピード・ウォリアーが開闢の使者を破壊出来ると考えてくれて嬉しいね。

「そう、そこで終わりだ。」

「お前…まさか!?」

そう。
スピード・ウォリアーが開闢の使者を破壊してデュエルは終焉を迎える!

「カオス・ソルジャー-開闢の使者-に装備魔法<ニトロユニット>を装備する!」

装備モンスターが戦闘破壊された時、その攻撃力分のダメージを与えるカード。

「神楽坂!お前のライフは残り3000!開闢の使者の攻撃力も3000だ!」

「くっ…だが、開闢の使者を戦闘破壊するなど!」

「出来るさ。スピード・ウォリアーに装備魔法<バスターランチャー>を装備する!」

スピード・ウォリアーにデカいビーム砲が装備される。

だが、攻撃力は上がらない。

「何だ…その装備カードは…!?」

「使い勝手が難しいんでね。あんまり使う機会が無かったから、お前は知らないかもしれないな。」

恐らく、神楽坂のコピーデッキには入っていまい。

「バトルだ!スピード・ウォリアーでカオス・ソルジャー-開闢の使者-に攻撃!」

「なっ…!?迎え撃て!開闢の使者!開闢走破斬!!」

最強の戦士が剣を振りかざす。

「このタイミングでバスターランチャーの効果を発動!このカードは攻撃力1000以下のモンスターにしか装備出来ないが、戦闘した相手モンスターの攻撃力が2500以上だった場合、装備モンスターの攻撃力を2500アップさせる!!」

スピード・ウォリアー
ATK900→3400

「さ、3400だと!?」

「最強の戦士を破壊せよ!バスターランチャー、シュート!!」

スピード・ウォリアーが放ったビーム砲が開闢の使者を打ち倒す。

神楽坂LP3000→2600

「更にニトロユニットの効果、開闢の使者の攻撃力分のダメージを受けろ!!」

「うわあああああっ!!」

神楽坂LP2600→0

開闢の使者に付いていた爆弾が爆発し、神楽坂のライフを0にした。

「よっしゃああああッ!!
楽しいデュエルだったぜ、神楽坂!」

「負けた、か…これがコピーデッキじゃない、自分自身のデッキの力なんだな…」

神楽坂は膝をついているものの、妙に笑顔だった。

吹っ切れたのかな。

「ありがとう、遊矢。お前のおかげで伝説のデュエリストと自分の違いが分かった気がする…しかし、デュエルキングのデッキを使ってまで負けるなんて、俺には才能が無いのかな…」

「それは違う、神楽坂。」

「…三沢。」

最初からずっとデュエルを見ていた三人である、三沢、明日香、亮が近づいてきた。

「神楽坂くん。デュエルキングのデッキはブラックマジシャンを主軸にした重いデッキ。使いこなすだけでもかなりの腕が必要だろう。」

「カイザー…」

デュエルアカデミア最強のデュエリストに言われて、嬉しくないわけが無いよな。

「それに、お前を馬鹿にする奴ももうこのデュエルアカデミアにはいないだろうな。」

「どういうことだ三沢?」

「こういうことさ。」

三沢が崖の方を指さすと、そこには…

数え切れない程の、生徒・先生がいた。

『凄かったぜ神楽坂!』

『ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ!』

『今度は俺とデュエルしてくれ!』

皆が皆、神楽坂の健闘を称えている。

「スプレンディード!シニョール神楽坂、素晴らしいデュエルだったノーネ。」

「クロノス教諭まで…」

神楽坂もクロノス教諭にはあまり良い感情を持っていなかっただろう。
オベリスク・ブルーと一部の生徒以外には厳しいからな。

「クロノス教諭。神楽坂くんの処分を出来るだけ軽くしてくれませんか?」

明日香が一歩前に出る。

「明日香の言う通りです。皆、武藤遊戯のデュエルを見たかった。神楽坂のおかげでそれが叶ったんです!」

『遊矢の言う通りだぜ!』

『クロノス教諭ー!お願いしまーす!』

みんなも同じ意見のようだ。

「もちろん、ワタシは最初っからそのつもりなノーネ!」

「クロノス教諭…!」

流石はクロノス教諭!

「しかーし、ワタシはそう思っても査問委員会が納得しないノーネ。よって、シニョール遊矢!シニョール神楽坂の処分を軽くする為の署名を、明後日までに提出するノーネ!」

「分かりました!」

即答した俺に、クロノス教諭は満足そうに微笑んだ。

それから俺たちは生徒たちに署名をお願いしに行った。
驚いたのは、オベリスク・ブルーのエリートたちも署名してくれたことや、先生方も書いてくれたことだ。
クロノス教諭から署名用紙を渡してもらった時、一番最初に
『クロノス・デ・メディチ』
と書いてあったのが笑えたな。

かくして、署名が役にたったのか、神楽坂の処分は一番小さい三日間の謹慎となった。
今頃、自分だけのデッキを部屋で作っているだろう。

本来の場所に戻ったデッキは、見学会場に置かれている。

そんな感じで、武藤遊戯のデッキ盗難事件は幕を閉じた。 
 

 
後書き
VS神楽坂戦でした。
トレード・インとか機雷化って遊戯使ってないよねってツッコミは甘んじて受けましょう。
…すいません…

あ、あと活動報告の方にこの作品に関わることが書いてあります。
見てくださいね。


お気に入り登録数と感想の数があっていなくて少し寂しいです!

感想・アドバイス待ってます! 

 

-代表決定戦-

 
前書き
最近暑くなってきましたね。
どうも、連夜です。

遊矢「テストはどうした、テストは。」

知るか!!

遊矢「おい!」
 

 
side遊矢


今は錬金術の授業中。

相変わらず、何故錬金術がデュエルアカデミアの授業に入っているのか分からないが、これはこれでなかなか面白い。

特に闇のゲームについての授業とかは、闇のゲームが本当にあるって知ったので結構真剣に授業を聞いていた。

…まあ、やりたくはないな。

「それじゃ、今日のところはこれで終わりますニャー。」

錬金術担当であるオシリス・レッド寮の寮長、大徳寺先生の話が終わって今日の授業は終わりを告げた。

…そういや、あんまり大徳寺先生とは話さないな。
樺山先生とクロノス教諭とは話すんだが。

「あ。それとオベリスク・ブルーの黒崎遊矢くんと三沢大地くんは、後で校長室まで来るんだニャー。」

大徳寺先生はそう言って愛猫、ファラオと共に教室を出ていった。

俺と三沢が校長室?

…なんか変なことやったっけ…?

心当たりは無かった。


「なあ三沢。お前なんかやったか?」

「…心当たりはないな。案外君の方じゃないか?」

「有り得ない…と思う。」

てか思いたい。
大徳寺先生に言われた通り、俺と三沢は校長室へ向かっていた。


「あり?校長室ってどっちだっけ?」

「こっちだ。」

三沢に先導され、俺たちは校長室に着いた。

「鬼が出るか、蛇が出るか…失礼します。」

校長室の中には、鮫島校長。それにクロノス教諭がいた。

二人して嬉しそうであり、どうやら怒られるわけではないようだ。

「良く来たノーネ!ささ、こっちに来るノーネ!」

いつになくハイテンションですねクロノス教諭。
三沢と二人で何事かと顔を合わせて校長先生の机の前に立つ。

「さて、来てもらったのは他でもない。黒崎遊矢くん、三沢大地くん。」

鮫島校長が口を開く。

そういや、デュエルアカデミアのネットの動画サイトに鮫島校長の姿と声で

『粗挽き肉団子にしてやるぜ!!』

って言う動画があったなぁ…
どうにか思い出し笑いを抑え、鮫島校長の次の言葉を待つ。

「我がデュエルアカデミア本校の分校である、デュエルアカデミアノース校との友好デュエルが近いのは知っているね?」

「はい。」

少し前から噂になっている友好デュエルの話だ。

俺と三沢は亮から代表の座を奪うべく、筆記や実技試験をいつもの倍以上のモチベーションでテストに臨んだものの、学園一位はカイザーのままだった。

「ノース校の代表が一年生ということで、今年はこちらも一年生を、という話になってね。」

「それはつまり…」

「亮…いや、カイザーから一年生で推薦したい人はいるか、と聞いたら君たち二人の名前を出してね。」

亮…グッジョブ!
心の中でここにはいない友人にエールを送る。

「この学園に入って以来、筆記・実技試験共に優秀な三沢大地くん。そして、非公式ながらもカイザーに何度か勝ったことがあり、成績も三沢くんより下とはいえ十分な成績の黒崎遊矢くん。教職員もみんな納得したよ。」

俺と三沢の表情が驚愕に包まれた。
マジかよ…

「二人とも我が本校が誇るオベリスク・ブルーの優秀な生徒。反対する者などいないノーネ!」

さっきからクロノス教諭がやたらハイテンションだった原因はこれだったようだ。

「それで、代表を決める方法とは?」

三沢が鮫島校長に聞く。

…答えは、分かっているだろうが。

「無論、デュエルだよ。どちらかより強い方が選ばれるからね。」

やはり。
実にデュエルアカデミアらしい解決方法だ。

「デュエルは明日。いつものデュエル場で行う。」

「今日は明日に備えて準備しておくノーネ!」

鮫島校長とクロノス教諭がいる校長室から出て、俺と三沢は自分たちの寮-オベリスク・ブルー寮-に向かった。

「遊矢。君と皆の前で戦うのは最初の月一テスト以来だな。」

「ああ…そういやそうだったな。」

ラー・イエローの時の時にあった月一テストでのデュエル。

その時は辛うじて俺が新たな機械戦士、ラピッド・ウォリアーの効果により勝利を得た。

それ以来の月一テストでは、大体成績が同程度の者が戦うため、流石に中等部からのエリートたちを差し置いてトップに立てる程、俺の頭は良くない。
学年トップの三沢とは戦えていないのだ。

…言っておくが、俺の頭が悪いわけじゃない。
俺とて上から数えた方が早いレベルだ。
ただ、三沢の頭が良すぎるだけだ。

「今度はあんな風にはいかない。俺の妖怪たちが勝ってみせる。」

「俺だって代表にはなりたいんでな。勝たせてもらうぜ。」

それでも俺は、楽しんで勝ちたい。

そんな話をしている間に、隣同士の俺たちの部屋に着いた。

「明日は、楽しいデュエルをしよう。遊矢。」

「ああ。楽しんで勝たせてもらうぜ!」

お互いの部屋に入り、早速テーブルの上に【機械戦士】デッキを広げた。

三沢のデッキは豊富な特殊召喚を利用し、大型モンスターを出すテクニカルなデッキ。

…かつて行われた、寮の格上げデュエルにおいて万丈目は、三沢とデュエルするに当たって特殊召喚を抑制するトラップ《王宮の弾圧》を使ってデュエルを挑んだ。
だが、結果は、万丈目の負けだ。

それに王宮の弾圧は俺のデッキにも刺さる。

自分で自分にメタを張る奴はいない。

「…よし。」
やはりメタ等は張らず、大体いつものデッキ構成のままにすることにした。

俺はこいつらを、機械戦士を信じる。

「飯でも食うか。」

4時に校長室を出た筈なのに、気づけば7時になっていた。

…集中すると、時間がたつのは早いな。

ラー・イエローの食堂で、カレーでも食おう。

そう思い機械戦士たちをカードケースにしまい、ラー・イエローの寮に向かうことにした。



そして翌日。
ノース校との友好デュエル。その代表決定戦だ。

俺と三沢は向き合って、デュエル場に立っていた。

「遊矢。今日は、俺にとってリベンジなんだ。」

「リベンジ?月一テストの後何度も勝ってるだろ?」

勝率は五分五分だが。

「なに、月一テストのような晴れ舞台で負けたんだ。借りは晴れ舞台で返したいという、ただのくだらないプライドさ。」

三沢が自嘲気味に笑う。

「なるほど…分かるな、その気持ちは。」

俺が三沢の立場なら、きっとそう思うだろう。

晴れ舞台の借りは晴れ舞台で返す。

「そうか…ありがとう。遊矢。今日はお互いに頑張ろう。」

「ああ。」

俺たちが会話をしている間に、クロノス教諭がデュエル場に上がる。

「あ~テステス。こちらマイクのテスト中なノーネ。」

クロノス教諭、テストは良いですから。

「これより、デュエルアカデミアノース校との友好デュエル。その代表決定戦を行うノーネ!」

ワァァァァ!と生徒から歓声が上がる。
…相変わらずイベント好きな学校だな。

「代表者候補は、オベリスク・ブルー!妖怪デッキのシニョール三沢大地なノーネ!」

クロノス教諭の言葉と共に三沢がデュエルディスクをセットする。

「対するもう一人は、オベリスク・ブルー!機械戦士のシニョール黒崎遊矢なノーネ!」

デュエルディスク、
セット。

俺も三沢も準備万端だ。

「デュエルスタートなノーネ!!」

クロノス教諭の宣言と共に、俺と三沢の代表決定戦が始まった。

俺のデュエルディスクに『後攻』と表示される。

「俺のターン、ドロー!」

三沢の先攻。

「俺は《牛頭鬼》を攻撃表示で召喚!」

牛頭鬼
ATK1700
DEF800

「牛頭鬼の効果。一ターンに一度、デッキからアンデット族モンスターを墓地に送ることが出来る。」

三沢はアンデット族モンスター、《カラス天狗》をデッキから墓地に送った。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ。」

「俺のターン、ドロー!」

まずはあの厄介なのを倒すところからだ。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

頼むぜアタッカー!

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

「マックス・ウォリアーで牛頭鬼に攻撃!《スイフト・ラッシュ》!!」

相手モンスターに攻撃することで、マックス・ウォリアーの攻撃力が400ポイントアップする。

マックス・ウォリアー
ATK1800→2200

マックス・ウォリアーの三つ叉が牛頭鬼を貫く。

「このぐらいのダメージは必要経費だ…」

三沢LP4000→3500

「マックス・ウォリアーが戦闘で相手モンスターを破壊した為、攻撃力・守備力が半分になる。」

マックス・ウォリアー
ATK1800→900
DEF800→400

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ。」

「俺のターン、ドロー!」

三沢はどうくるか…?

「リバースカード、オープン!《リビングデッドの呼び声》を発動!墓地からモンスターを特殊召喚する!現れろ!《カラス天狗》!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

「カラス天狗が墓地からの特殊召喚に成功した時、相手モンスター一体を破壊する!《悪霊退治》!!」

マックス・ウォリアーが破壊される。
悪霊はお前らの方じゃないか…?

「更に《馬頭鬼》を攻撃表示で召喚!」

馬頭鬼
ATK1700
DEF800

こちらのフィールドはリバースカードのみ。

「さっき受けたダメージを返済させてもらう!カラス天狗で遊矢にダイレクトアタック!!」

「ぐあッ!」

遊矢LP4000→2600

「続いて、馬頭鬼でダイレクトアタック!!」

「させるか!リバースカード、オープン!《コンフュージョン・チャフ》!!」

俺の発動したトラップカードから白くてキラキラした物が馬頭鬼に飛ぶ。

その正体は、相手を混乱させる金属、チャフ!

「しまった!」

「知っているようだが、一応言っておくぜ三沢!このカードは、相手が二回目のダイレクトアタックを宣言した時、一回目にダイレクトアタックしたモンスターと強制的に戦闘させる!馬頭鬼でカラス天狗に攻撃!」

馬頭鬼が俺ではなくカラス天狗を切り裂く。

三沢LP3500→3000

「くっ…だが、ライフは俺の方が上だ。カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

最初の戦闘はほぼ互角。

「俺のターン、ドロー!」

赤鬼が出る前に速攻だ!

「このカードは、相手フィールド場にのみモンスターが存在する場合に、レベル4のモンスターとして特殊召喚出来る!来い!《レベル・ウォリアー》!!」

レベル・ウォリアー
ATK300
DEF600

特撮ヒーローのような機械戦士が姿を現す。
…しかし、レベル4になる意味は何だ?

「レベル・ウォリアーをリリースすることにより、《ドドドウォリアー》をアドバンス召喚!!」

ドドドウォリアー
ATK2300
DEF900

「ドドドウォリアーで、馬頭鬼に攻撃!《ドドドアックス》!!」

ドドドウォリアーの斧が馬頭鬼を墓地に送る。

三沢LP3000→2400

「だが、俺の妖怪たちは墓地に送られてから真価を発揮する!」

そう。それが三沢の妖怪たちの厄介なところだ。

今墓地に送った馬頭鬼など、その最たる例だろう。

「カードを一枚伏せて俺はターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!
遊矢。このターンで君へのダメージを利息をつけて返済させてもらう!」

「なに!?」

三沢には何か手があるようだ。

「リバースカード、《妖魔の援軍》!!ライフを1000払うことにより、墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター二体を特殊召喚出来る!」

三沢LP2400→1400

「現れろ!《カラス天狗》!!《牛頭鬼》!!」


まずい!

「カラス天狗の効果を発動!このカードが墓地から特殊召喚に成功したため」

「待った!手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動!手札から墓地に送ることで、相手モンスターの効果を無効にする!」

エフェクト・ヴェーラーがカラス天狗を包み込んで、効果を無効化する。

助かったぜ、ラッキーカード。

「ならば、牛頭鬼の効果を発動!一ターンに一度、デッキからアンデット族モンスターを墓地に送る。」

墓地に送られたのは《陰魔羅鬼》
墓地から特殊召喚した時一枚ドロー出来る妖怪…

「やっぱり、お前は強いな三沢…」

「お褒めに預かり光栄だが、まだ終わっていない。フィールドの妖怪を二体リリースし、閻魔の使者《赤鬼》を招来する!!」

赤鬼
ATK2800
DEF2100

「来たか…赤鬼!」

三沢のエースカードである赤鬼。
高い攻撃力と、召喚時にのみしか使えないものの、強力な効果を持つ。

「赤鬼の効果を発動!手札を一枚捨てることにより、相手フィールド場のカードを手札に戻す。《地獄の業火》!」

赤鬼の出す炎によりドドドウォリアーが手札に戻される。

俺のライフは2600。

赤鬼の攻撃で尽きるが、この程度で機械戦士が負けるわけがない。

少なくとも、三沢はそう考えているだろう。
無論、俺もだが。

「赤鬼で遊矢にダイレクトアタック!《鬼火》!!」

再び赤鬼から出される炎に、会場がああ…という声を出す。

「リバースカード、》トゥルース・リインフォース》を発動!デッキからレベル2以下の戦士族モンスター、《マッシブ・ウォリアー》を特殊召喚!」

デッキから現れた機械戦士が俺の代わりに炎に包まれる。

「…前のデュエルでも、そいつにやられたな…俺はリバースカードを一枚伏せ、ターンエンド。」

「俺のターン、ドロー!」

さあて、面白くなって来たな。

「俺は速攻魔法、《手札断殺》を発動!お互いに手札を二枚捨てて二枚ドロー!」

三沢の墓地も肥やすことになってしまうのであまり使いたくはないが、仕方がない。

「手札から捨てた《リミッター・ブレイク》の効果を発動!デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!デッキから守備表示で現れろ!マイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー!!」

『トアアアアッ!!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「そして、守備表示のスピード・ウォリアーをリリースし、再びドドドウォリアーをアドバンス召喚!!」

ドドドウォリアー
ATK2300
DEF900

「一ターンで場を整えられたか…流石にやるな、遊矢。」

「舐めるなよ三沢!ドドドウォリアーに《団結の力》を発動!俺のフィールドにいるモンスターは二体。よって、攻撃力は1600ポイントアップする!」

ドドドウォリアー
ATK2300→3900

これで攻撃力は大きく赤鬼を抜いた。

「行くぞ三沢!ドドドウォリアーで赤鬼に攻撃!ドドドアックス!!」

「ぐあああっ!」

三沢LP1400→300

「こいつでトドメだ!マッシブ・ウォリアーで三沢にダイレクトアタック!」

三沢のリバースカードはさっき発動しなかった。

これで俺の…

「リバースカード、オープン!」

「なに!?」

「《もののけの巣くう祠》!!自分フィールド場にモンスターがいない時、墓地からアンデット族モンスター一体を特殊召喚する!現れろ!カラス天狗!!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

しまった…!
もののけの巣くう祠。
自分フィールド場にモンスターがいない時のみしか発動できないカード…

忘れてたな…

「カラス天狗が墓地から特殊召喚されたことにより、ドドドウォリアーを破壊する!悪霊退治!!」

「くっ…マッシブ・ウォリアーの攻撃を中止し、カードを一枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

だが、三沢のフィールドもカラス天狗が一体のみ。

ここが正念場だな…

「俺は通常魔法、《浅すぎた墓穴》を発動!お互いに裏守備表示で墓地からモンスターをセットする。俺は赤鬼をセット。」

「…俺はドドドウォリアーをセットする。」

何をするつもりだ…?

「これで俺の新たな妖怪を出す準備が整った!カラス天狗と裏守備表示の赤鬼をリリースし、墓地から《九尾の狐》を特殊召喚!!」

九尾の狐
ATK2200
DEF2000

「魔法・トラップ無しで墓地から特殊召喚だと!?」

「九尾の狐は、自分フィールド場のアンデット族モンスター二体をリリースすることで、墓地から特殊召喚出来る!そして、墓地から特殊召喚された場合、破壊された時アンデット族である狐トークン二体を特殊召喚する。」

不死身の化け物…いや、妖怪ってことか…

「そして墓地の馬頭鬼の効果を発動!このカードを除外することにより、墓地のアンデット族モンスターを特殊召喚出来る!出でよ!カラス天狗!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

また来たか!!

「カラス天狗の効果でマッシブ・ウォリアーを破壊する!悪霊退治!!」

戦闘耐性を持つマッシブ・ウォリアーだが、効果破壊には無意味だ。
あっけなくマッシブ・ウォリアーは破壊される。


「バトルだ!九尾の狐で裏守備表示のドドドウォリアーに攻撃!九尾の狐は、墓地から特殊召喚された時、貫通効果を得る!」

「そのための浅すぎた墓穴か!」

リリースするためのモンスターの確保と同時に、相手モンスターへの貫通効果を狙っていた。

流石は我がライバル。

「行け!九尾の狐!《九尾槍》!!」

「ぐああッ!」

九尾の狐の攻撃力は2200。
対するドドドウォリアーの守備力は900だ。

遊矢LP2600→1300

「ダメージは受けたが、墓地の《シールド・ウォリアー》の効果を発動!この戦闘では自分のモンスターは破壊されない!」

「だが、まだカラス天狗の攻撃が残っている!カラス天狗でドドドウォリアーに攻撃!」

今度こそドドドウォリアーは破壊される。

「そしてこのターン、俺はまだ通常召喚を行っていない。九尾の狐とカラス天狗をリリースし、出現せよ《ダイダラボッチ》!!」

ダイダラボッチ
ATK2900
DEF2500

とてつもなくデカい巨人が、フィールドに出現した。

「これで攻撃力の低いカラス天狗を狙われることもない。ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

なら俺は、正面からその巨人の妖怪をぶち壊す!

力を貸してくれ。
マイフェイバリットカード!

「俺はスピード・ウォリアーを召喚!!」

『トアアアッ!!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「攻撃表示!?無駄だ!ダイダラボッチには適わない!」

「そんなことはやってみなきゃわからないぜ?リバースカード、オープン!《アサルト・スピリッツ》!!」

スピード・ウォリアーに力が集まっていく。

「このカードは発動後、装備カードとなって自分のモンスターに装備される!そして、装備したモンスターが攻撃する時、手札から攻撃力1000以下のモンスターを墓地に捨てることで、その攻撃力分攻撃力をアップさせる!」

「攻撃力1000のモンスターを捨てても攻撃力は2800!ダイダラボッチの2900には適わないぞ遊矢!」

「いいや、適うね。…バトルだ!スピード・ウォリアーで、ダイダラボッチに攻撃!」

「迎撃しろ!ダイダラボッチ!」

ダイダラボッチの巨体がスピード・ウォリアーを倒そうと動きだす。

「アサルト・スピリッツの効果を発動!手札から攻撃力1000の《ソニック・ウォリアー》を墓地に送る!」

スピード・ウォリアー
ATK900→1900

「そ、ソニック・ウォリアーだと?」

分かっているようだな、三沢。

お前の負けだと!

「ソニック・ウォリアーが墓地に送られた時、自分フィールド場にいるレベル2以下のモンスターの攻撃力は、500ポイントアップする!」

スピード・ウォリアー
ATK1900→2400

「そして、スピード・ウォリアーの効果発動!召喚したターンのバトルフェイズ、元々の攻撃力が倍になる!」

スピード・ウォリアー
ATK2400→3200

「《ソニック・エッジ》!」

「うあああああっ!!」

三沢LP300→0


デュエル、決着。


「勝者、シニョール黒崎遊矢なノーネ!!」

クロノス教諭の宣言により、自分が勝ったことを再確認する。

「よっしゃあああッ!!
楽しいデュエルだったぜ、三沢!」

「ああ、俺もだ。…今は、負けて悔しい気持ちの方が上だけどな。」

三沢と握手し、デュエル場に歓声が沸いた。

「おめでとう黒崎遊矢くん。今年のノース校との友好デュエルの代表は、君に決定しました。」

鮫島校長がマイクで喋っていた。

「三沢大地くんは残念でしたが、すばらしいデュエルを見せてくれた二人に拍手をお願いします。」

パチパチパチパチパチパチパチパチ…!

そんなことがあり、俺はノース校との友好デュエル、本校代表となった。 
 

 
後書き
そんなわけでVS三沢(二戦目)です。
今回は漫画GXのカードをメインに使いました。…強かった…
書いてる途中、何回も遊矢負けました…

ちょっとショックだったり。

感想・アドバイス待ってます!

…そろそろシンクロを使わないと禁断症状が… 

 

-友好デュエル・前夜-

 
前書き
こんな駄文に、いつも感想をくれるサティスファクションさん、ガスタさん、遼さん、特にありがとうございます!

テスト一週間前の蓮夜でした! 

 
遊矢side



どうも、つい先日に代表決定戦にて、親友にしてライバル・三沢大地とのデュエルに勝利し、デュエルアカデミア本校の代表となった黒崎遊矢です。

せっかく代表になったのだ。楽しんで勝たなくては推薦してくれた先生方や亮、勝った三沢に申し訳がたたない。

そう思って、授業後すぐにオベリスク・ブルーの自室に帰り、デッキの構築・見直しをしようと思ったのだが…

…だと言うのに…!

「遊矢。《赤鬼》をデッキに入れないか?優秀な効果と高い攻撃力が持ち味だぞ。」

「それより遊矢。《エトワール・サイバー》なんてどうかしら?デッキのイメージにも合うし、戦士族のサポートも共有出来るわ。」

…こいつらはッ!

さて、デッキを見直そうと思った時、明日香と三沢の二人が入ってきて
『自分たちにも、デッキ構築を手伝わせてくれ』
と、申し出てくれたのだ。

言われた時はとても面白かったさ。
ああ、こいつらと友達になって良かった…

と、半ば本気に感動していたところだったと言うのにッ!

「お前ら、自分の好きなカード押しつけたいだけじゃねぇか!」

「そ、そんなことないわよ!」

顔を背ける明日香。

「そんなことないわけ無いな!」

「…落ち着いて聞いてくれ、遊矢。」

途端に真面目な顔つきになって、三沢が語りかけてきた。

「俺も明日香くんも、君にノース校の代表に勝って欲しいからここに来たんだ。」

「ほう。」

うん、それは嬉しい。


「ならば、少しでもお前の助けになるように俺のカードを託したい。というか、大舞台で俺のカードが活躍するところを見たい!さあ、俺のカードを使ってくれ!」

「今本音出たぞ三沢!」

そんなことだろうと思ったさ!

「三沢くんの赤鬼より、私のエトワール・サイバーの方が良いわよ!」

明日香も負けじとエトワール・サイバーのカードを押しつけて来るが、頑として受け取らない。

てか、受け取ってたまるか。

「いい加減にしてくれ二人とも!俺の【機械戦士】にお前らのカードは入らない!」

「はは、分かっているさ。冗談に決まっているじゃないか。」

「そ、そうよ。冗談よ。」

二人は『冗談』と言いながらも、しぶしぶカードを自分のデッキに入れる。

まったく…

二人に呆れていると、部屋のドアがノックされた。

「遊矢。いるか?」

亮の声だ。
…亮なら、《サイバー・ドラゴン》をデッキに入れてくれ、とか言わないだろう。

「いるぞ。入ってきてくれ。」

「失礼する。」

やはり、友人の一人であるカイザー亮であった。

「デッキ作りの手伝いでも出来るかと思ってな。来させてもらった。」

おお…流石はカイザー…

「亮を見習え、二人とも。」

明日香も三沢もあらぬ方向を向いていた。

「何の話だ?」

「いや、気にしないでくれ。それより、俺と三沢を推薦してくれてありがとうな。」

鮫島校長の話では、最初に推薦してくれたのは亮らしい。

「なに、二人の実力を考えれば当然だ。…三沢くんは、惜しかったな。」

「一歩及びませんでしたよ。」

明日香、三沢と同じように亮もソファーに座る。

「ねぇ、遊矢。なんでこのカードが入っているの?」

「それはあれだ。このカードとコンボだよ。」

「…しかし、使いにくくないか?」

「いや、決まれば強力なコンボだ。」

オベリスク・ブルーの俺の部屋でのデッキ作りは、みんなで考えながらやった。

足りないカードを明日香とトレードしたり。

先程、明日香も言っていたが、【機械戦士】と明日香が使うサイバー・ガールシリーズは、戦士族のサポートを共有出来る。

…サイバー・ガールも、『一部』を除いて戦士族だ。

「そういえば、遊矢。」

「何だ?亮。」

「十代たちが、お前を探していたぞ。」

「十代たちが?」

もしや、十代たちもデッキ作りの手伝いをしてくれるつもりだったのだろうか。


そうだとしたら、いきなりオベリスク・ブルーの寮に来たのは失敗だったな。


十代はともかく、翔と隼人がオベリスク・ブルーの寮に入ることはできないだろう。

悪いことしたな…

「三人とも、それぞれのエースカードを持ってお前を探していた。」

前言撤回。
あいつらも三沢と明日香と同じか。

「…まあ、そろそろ遅い。俺たちはそろそろ自分たちの部屋に帰った方が良いだろう。」

「そ、そうね。そろそろ門限だわ。」

二人とも、いきなり立ち上がった。

「そうだな。遊矢、明日はお前らしいデュエルを期待している。」

「そいつはどうも…」

三人は自分たちの部屋に戻っていった。

…あ、いや。

「もう遅いしな。女子寮まで送るぜ、明日香。」

「え?そんなの良いわよ。遊矢は明日のデュエルに集中して。」

「そういうわけにはいかないな。…じゃ、三沢に亮もありがとな。」

「なに、このぐらいお安いごようさ。」

「デッキの調整なら、いつでも協力させてもらう。」

そう言って、三沢は隣の部屋に。
亮は自分の部屋の方向へ歩いていった。

…亮。お前、『デッキの調整は協力する』
って、自分がデュエルしたいだけじゃないか…?

ま、どうでも良いか。

「よし、行くぞ明日香。」

「だから、私は大丈夫だから…」

「明日香になんかあったら困るからな。」

「え…あ…う、うん。」

明日香も認めてくれたようなので、女子寮に向かうことにする。

「顔赤いぞ、明日香。」

「なんでもないわよ!」

うおう…怒られた…?

二人で女子寮に向けて、男子寮の玄関を出た。




「明日はもう友好デュエルか…どんな奴が来るかな。」

「遊矢なら大丈夫よ。私は信じてる。」

俺と明日香は、夜の森を歩いていた。

女子寮までもう少しだ。

「そういや、なんで明日香は代表決定戦に選ばれなかったんだ?」

実力も成績も、俺や三沢と引けをとらない筈だが。

「私は、ああいった舞台は苦手なのよ。…兄さんは、そういうノリが好きだったんだけど、その影響かしらね。」

…しまった。
兄さんの話題引いた。

明日香からしてみれば、ただの話題だろうが、行方不明の人間の話題を聞けるほど、自分は鈍感ではない。

「明日香。…一つ、頼みがあるんだ。」

もうすぐ女子寮。

それまでに言おう。

「なにかしら?」

「実は、俺。お前の…」

一歩、明日香に近づく。

「ええっ!?」

明日香が顔を赤くして固まる。

…たまに、明日香は面白い行動を起こすよな。

「お前の」


「ちょっと待って!まだ私…心の準備が!」

「《サイバー・ブレイダー》を貸して欲しいんだが…」

早口でまくしたてて来た明日香の言葉をスルーして自分の用件を言う。

「え?」

その年で難聴か?

「さっき、お前と三沢がデッキ作りを手伝いに来てくれたのが、すごい嬉しくてさ。二人のカードをデッキに入れるわけにはいかないから、俺が使わない、エクストラデッキに入れようと思ったんだが…」

三沢は俺と同じで、エクストラデッキ使わないから、残念ながら無理だった。

「…私…何を考えて…」

「明日香?」

「な、なんでもないわよ!」

明日香は慌てながら
「なんでもない」
ということが多いのか?

なにかしらある、と言っているようなものじゃないか。

まあ、良いか。

「そんなわけで、お守り代わりと言うか…」

「良いわよ。貸してあげる。」

そう言って、明日香は自分のデッキからサイバー・ブレイダーを取り出す。

「活躍するところが見られないのは残念だけど、あなたの助けになることを祈っているわ。」

「ありがとうな。」

サイバー・ブレイダーを、使わないエクストラデッキに入れる。

「あら?他にも、エクストラデッキに入っているの?」

「ん?ああ。いつだか、結構前に貰ったんだけどさ。背景が白で描かれてるエラーカードだよ。」

あの時貰った、エフェクト・ヴェーラーともう一つのカード。

まさかのエラーカードだった。

背景が白いカードなんて見たことねぇよ…

そうして、俺がいつも釣りをしている池に着く。

ここまで来れば、女子寮まであと一息だ。

そんな時だった。

「ねぇ、明日に備えて一回デュエルしてみない?」

明日香がこう言ったのは。

「おいおい、門限とか大丈夫か?」

「大丈夫よ。いざとなったら、ジュンコとももえにごまかしてくれるように頼むわ。」

「言ったな?なら一回デュエルしてみるか。」

デッキの調整もしたから、試してみなきゃいけないし。

明日香と俺は少し離れて、デュエルが出来る態勢になる。

「遊矢はこの学校の代表なんだから、簡単には負けないでよね。」

「いつも通り、楽しんで勝たせてもらうぜ!」

デュエルディスク、
セット。

「「デュエル!!」」


「私の先攻、ドロー!」

後攻ですが何か?

「私は、《エトワール・サイバー》を召喚!」

エトワール・サイバー
ATK1200
DEF1600

明日香の主力カードのお出ましか。
しかし、融合しないということはまだ素材がないようだ。

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

さあて…

「《ジャスティス・ブリンガー》を召喚!」

ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000

「バトル!ジャスティス・ブリンガーで、エトワール・サイバーに攻撃!ジャスティススラッシュ!!」

ジャスティス・ブリンガーが剣を振りかざす。

「リバースカード、オープン!《ドゥーブル・パッセ》!」

げ!
相変わらず扱いにくいカードを使うな…

一回、明日香にそう言ったら
『あなたにそう言われたくないわ』
って言われた。

「ドゥーブル・パッセの効果により、ジャスティス・ブリンガーの攻撃は私へのダイレクトアタックとなる!」

ジャスティス・ブリンガーが、エトワール・サイバーではなく明日香の方へ向かう。

「きゃっ!」

明日香LP4000→2300

「でも、その後に、攻撃対象となったモンスターは、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る!エトワール・サイバーで遊矢に反撃!アラベスク・アタック!!」

ダイレクトアタックされるだけでなく、エトワール・サイバーの効果が発動する。

「エトワール・サイバーが相手プレイヤーにダイレクトアタックした時、攻撃力が500ポイントアップするわ!」

エトワール・サイバー
ATK1200→1700

「ぐあッ!」

遊矢LP4000→2300

ライフポイントが並ぶ。


「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

「私のターン、ドロー!」

ドゥーブル・パッセの効果のせいで、エトワール・サイバーが破壊出来なかった。

…つまり…

「私は通常魔法《融合》を発動!」

明日香のエースが来る!

「フィールドのエトワール・サイバーと、《ブレード・スケーター》を融合!《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

サイバー・ガールたちのエース…サイバー・ブレイダー。

あ、一枚は貸してもらったけど、明日香はあと二枚持ってるからな。

…誰に言ってんだ、俺…

「行くわよ遊矢!サイバー・ブレイダーで、ジャスティス・ブリンガーに攻撃!グリッサード・スラッシュ!!」

「くっ…!」

遊矢LP2300→1900


「ターンエンドよ。」

「俺のターン、ドロー!」

不安定ながらも、優秀な効果を持つ明日香のエース…サイバー・ブレイダー。

まずはあいつだな。

「速攻魔法《手札断殺》を発動!お互いに手札を二枚捨てて二枚ドロー!」

手札断殺の後に来るカードと言えば?

「墓地に送られた二枚の《リミッター・ブレイク》の効果を発動!デッキ・手札・墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る!デッキから守備表示で出でよ!マイフェイバリットたち!」

『トアアアアッ!!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「自分フィールドに守備表示モンスター二体しか存在しない場合、このカードは特殊召喚出来る!現れろ!《バックアップ・ウォリアー》!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

…なんか、久しぶり。
バックアップ・ウォリアー。

「最後に《レスキュー・ウォリアー》を召喚!」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

「しまった…遊矢のモンスターが四体に…」

サイバー・ブレイダーの効果は、こっちのモンスターの数が1~3体の時にのみ発動する。

今はただのバニラだ。


「バックアップ・ウォリアーで、サイバー・ブレイダーに攻撃!サポート・アタック!」

攻撃力は同じ。
相討ちだ。

「レスキュー・ウォリアーで明日香にダイレクトアタック!」

「くうっ…!」

明日香LP2300→700

「ターンエンドだ。」

これで俺のフィールドには、レスキュー・ウォリアーとスピード・ウォリアー×2。
リバースカードが一枚。

明日香のフィールドには何も無い。

よし。

「やってくれたわね…私のターン!ドロー!」

逆転フラグだ。

「私は手札から通常魔法《高等儀式術》を発動!デッキからブレード・スケーター二枚を墓地に送り、手札の儀式モンスターを儀式召喚する!」

合計レベルは、8。

「サイバー・エンジェル-茶吉尼-を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-茶吉尼-
ATK2700
DEF2400

サイバー・エンジェル。
明日香が使う【サイバー・ガール】シリーズの儀式モンスター。

エンジェルと名のついていることから分かると思うが、天使族だ。

儀式召喚するには、素材と儀式モンスターのレベルをピッタリ合わせる必要があるというデメリットはあるが、どれも強力な効果を持つ。

今出てきたのは、その中でも最強のサイバー・エンジェル。

サイバー・エンジェル-茶吉尼-だ。

「サイバー・エンジェル-茶吉尼-の効果を発動!相手プレイヤーは、自分のモンスターを一体選んで破壊する!」

「くっ…俺はスピード・ウォリアーを破壊する。」

これが茶吉尼の第一の効果。

「バトル!サイバー・エンジェル-茶吉尼-で、スピード・ウォリアーに攻撃!サイバー・エンジェル-茶吉尼-は、攻撃力が相手モンスターの守備力を越えている時、貫通ダメージを与える!」

第二の効果だ。

「リバースカード、オープン!《ガード・ブロック》!戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」

危ない危ない…
スピード・ウォリアーの守備力は400。

貫通ダメージで負けてたな。

「防がれるわよね…これでターンエンドよ。」

「俺のターン、ドロー!」

防ぐこと読んでたのか?

「俺は装備魔法《ミスト・ボディ》を発動!レスキュー・ウォリアーに装備する!」

戦闘破壊をされなくなる装備魔法だ。

「そいつには、早々に退場してもらうぜ!《ワンショット・ブースター》を召喚!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

君も久しぶり。
ワンショット・ブースター。

「レスキュー・ウォリアーで、サイバー・エンジェル-茶吉尼-に攻撃!」

しかし、攻撃力はこちらの方が下。

当然、負ける。

「レスキュー・ウォリアーは、自分への戦闘ダメージを0にする。そして、ミスト・ボディにより戦闘では破壊されない。…何でレスキュー・ウォリアーで攻撃したか、明日香なら分かるよな。」

「…ワンショット・ブースターの効果のため…」

正解!

「メインフェイズ2!ワンショット・ブースターの効果を発動!このカードをリリースすることにより、このターン、自分のモンスターと戦闘した相手モンスターを破壊する!蹴散らせ!ワンショット・ブースター!」

ワンショット・ブースターから放たれるミサイルが、サイバー・エンジェル-茶吉尼-を破壊する。

「これでターンエンド。」

「私のターン、ドロー!
…強欲な壷を発動!」

明日香が二枚ドローした後、強欲な壷が破壊される。

「速攻魔法《サイクロン》!レスキュー・ウォリアーに装備されているミスト・ボディを破壊するわ!」

竜巻がミストを振り払う。

ミスト・ボディを破壊したということは、レスキュー・ウォリアーを戦闘破壊出来るカードを引いたということか…?

結論から言うと、俺の予感は当たっていた。

「私は儀式魔法《機械天使の儀式》を発動!」

また来たか…!

今度は、なんだ?

「レベル6、《サイバー・プリマ》を墓地に送り、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1500

今度は弁天か…!

このように、サイバー・エンジェルたちの最大の特徴として、
『一枚の儀式魔法《機械天使の儀式》で様々なモンスターが現れる』
ということだ。

普通は一枚の儀式魔法に対応する儀式モンスターは一体。

その常識を覆すモンスターたちなのだ。

「更に装備魔法《リチュアル・ウェポン》をサイバー・エンジェル-弁天-の装備する!このカードを装備したレベル6以下の儀式モンスターの攻撃力・守備力は、1500ポイントアップする!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800→3400
DEF1500→3000

リチュアル・ウェポン。使いどころは難しいが、一気に1500ポイントアップは凄い。

てか、ヤバい。

「サイバー・エンジェル-弁天-で、レスキュー・ウォリアーに攻撃!エンジェリック・ターン!」

レスキュー・ウォリアーは、サイバー・エンジェル-弁天-の扇による舞になすすべも無く破壊される。

「だが、レスキュー・ウォリアーは自分への戦闘ダメージを0にする!」

「効果ダメージは受けてもらうわ。サイバー・エンジェル-弁天-の効果!破壊した相手モンスターの守備力分のダメージを与える!」

レスキュー・ウォリアーの守備力は1700…意外に高い!


「ぐああッ!」

遊矢LP1900→200

「ターンエンドよ。」

ヤバいな…
仮にも代表が、代表決定戦に未参加の明日香に負けるのは如何なものか。

「俺のターン、ドロー!」

…弁天を倒せるカードは無し、と。

「《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

「それだけ?」

「ああ。フィールドに出せるのはこれだけさ。」

「私のターン、ドロー!」

明日香の手札は0。

さて、何を引く?

「私は速攻魔法《サイクロン》を発動!あなたのリバースカードを破壊するわ!」

ふざけるな!
良い引きしてやがる…

…いや、悪いか。

「チェーンしてリバースカード、オープン!《サイクロン》!お前のリチュアル・ウェポンを破壊する!」

俺と明日香のフィールドからそれぞれ竜巻が現れ、俺の竜巻が明日香のリチュアル・ウェポンを。
明日香の竜巻が、俺の竜巻を破壊した。

「リチュアル・ウェポンが破壊されたことにより、サイバー・エンジェル-弁天-の攻撃力は元に戻るぜ。」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK3400→1800
DEF3000→1500

「それでも、ガントレット・ウォリアーの守備力よりは上!破壊して効果ダメージで私の勝ちよ、遊矢!サイバー・エンジェル-弁天-で、ガントレット・ウォリアーに攻撃!エンジェリック・ターン!」

確かに、俺のフィールドにリバースカードは無い。だが、やる前に説明するのは、失敗フラグだ!

「手札から効果を発動!」

「手札からですって!?」

「出でよ、《牙城のガーディアン》!!」

牙城と、それを支える機械戦士がガントレット・ウォリアーの前に立つ。

「牙城のガーディアンの効果!自分フィールド上に守備表示で存在するモンスターが攻撃された時、 そのダメージステップ時にこのカードを手札から墓地へ送る事で、その戦闘を行う自分のモンスターの守備力は エンドフェイズ時まで1500ポイントアップする!」

ガントレット・ウォリアー
DEF1600→3100

これを予測出来る奴はあんまりいないと信じたい!

「迎撃しろ!ガントレット・ウォリアー!」


「きゃああああっ!」

明日香LP700→0

ガントレット・ウォリアーの反射ダメージにより、デュエルは決着した。

やっぱり、三沢や亮、明日香とデュエルするのは特に楽しいな。

三沢や明日香とは実力が拮抗しているため。

亮とは、自分より強い者に挑むチャレンジ精神からだ。

「負けちゃったわね…うん。これなら、明日も大丈夫でしょ。」

「そいつはどうも。信用してくれて嬉しいよ。」

「も、もちろん、信用してるに決まってるじゃない!」

決まってるのか?

「ま、いい加減時間がヤバいからな。サクッと送ってくぜ。」

「ここまでで良いわよ。もう少しだし、こんな夜中に二人で女子寮に行ったりなんかしたら…」

「したら?」

なんかあるか?

「と、とにかく大丈夫よ!それじゃ、明日は頑張ってね!」

明日香は顔を紅くして、走り去っていった。

「なんなんだ…?」

一人でここにいても仕方がないので、男子寮に戻ることにしたのだった。 
 

 
後書き
万丈目サンダーとのデュエルを期待していた方、すいません…

書いている内に何故か明日香とのデュエルに…

サイバー・エンジェルデッキはTFで作りましたが、なかなか強かったです。

OCG化しないかなぁ…

感想・アドバイス待ってます! 

 

-蘇った男、サンダー-

 
前書き
長かった…
今まで書いた中で、一番長いです。

テスト二日前なんだけど大丈夫か、俺。

遂に来た!

みんなの人気者、地獄の底から不死鳥のごとく蘇った奴の名は! 

 
遊矢side


遂に今日、デュエルアカデミア本校と、ノース校の友好デュエルの日だ。

ノース校の移動手段はなんと、潜水艦だと言うので、デュエルアカデミア本校の生徒は、港で今か今かと潜水艦の到着を待っていた。

俺は、本校代表として挨拶するために、鮫島校長の近くにいた。

「鮫島校長。ノース校の代表は一年生らしいですが、どんな奴なんですかね。」

「それが分からんのだよ。向こうの校長は『秘密兵器』としか言わんし…」

秘密兵器って…

人間か?そいつ。

「まあ、相手が誰であれ絶対に勝つんだよ遊矢くん!」

「はあ…」

いつになく殺気立った鮫島校長に、若干引いてしまった。

そこに−

ザパァァァァと、音を立てて潜水艦が浮上した。

さっきまで騒いでいた本校生徒も、流石に静かになる。

「いや、ひさびさだね鮫島校長。」

メガネをかけた男−おそらくはノース校の校長−が、潜水艦から出てくる。

「去年はそちらに負けたが、今年こそはこちらが勝たせて貰うよ。」

「はて、それはどうでしょうね…で、そちらの秘密兵器とやらは…?」

鮫島校長と、ノース校の代表が握手をする。

…近くから見ていた俺からすれば、互いに腕を潰しあっていたが。

なんか恨みでもあるのか。

「ハハハ、そう急ぐな。…皆!出てきて良いぞ!」

ノース校の校長がそう宣言すると、一糸乱れぬ統率された動きでノース校の生徒たちが出てくる。

軍隊みたいだな。

そして、その中心にいるのは-

「万丈目!?」

かつて三沢に敗れ、この学園を去った男、万丈目準だった。

「黒崎遊矢か。万丈目、さんだ!」

…本物だな。

あいつは、学園を去る時に船でどこかへ向かったらしい。

ということは、あいつ、船でノース校までたどり着いたのか…?

「紹介しましょう。彼がノース校の代表、万丈目準です。」

「違うぞ校長!地獄の底から不死鳥のごとく蘇った俺の名は!」

万丈目は叫ぶと同時に、指を天に向かって高く掲げた。

「一!」

『十!』

万丈目の叫びに呼応し、ノース校の生徒たちまで叫び始める。

「百!」

『千!』

「万丈目サンダーだ!」

…は?

突然のことに、俺-というか本校生徒-は反応出来なかった。

前言撤回。
軍隊じゃなく、宗教集団だ。

恋する乙女教とかではない、本物の。

「怖じ気づいたか黒崎遊矢!分からなければ、もう一度言って聞かせるぜ!」

万丈目…サンダー…?は、再び指を天高く掲げた。

「いや、もう良い!」

しかし、それも聞こえない様子。

「一!」

『十!』

「百!」

『千!』

「万丈目サンダー!」

『サンダー!』

「俺の名は!」

『サンダー!』

「万丈目!」

『サンダー!』

もういいや。

「ほほ…まさか万丈目くんとは…こちらの代表、黒崎遊矢くんです。」

あ、どうも。
黒崎遊矢です。


「ふん!貴様が代表だったか黒崎遊矢!」

サンダー!のかけ声を止め、俺の元へ歩いてくる。

「貴様には、一度借りがある…今度こそ貴様を倒し、天上院くんを解放させる!」

…?
…あー。万丈目が学園からいなくなる前に、学園で流れていたらしい噂だ。

『黒崎遊矢は罰ゲームとして、天上院明日香を連れまわしている』

という、根も葉もない噂である。

自然消滅したらしいが、明日香ファンクラブでは、まだその噂を支持しているとか。

「万丈目くん!」

そう言って走ってきたのは、噂の主、明日香だった。

「やあ天上院くん!久しぶりだね。」

「ええ、久しぶり。だけど、そんな噂はデタラメよ。まだ信じてたの?」

万丈目って、明日香を前にすると口調が変わるな。

なんでだろう。

「いや、俺は必ず君を救ってみせるよ。この万丈目サンダーの名に賭けて!」

話を聞かず、ビシィッと指を突く万丈目。

…付き合いきれん。

顔合わせも終わったことだし、騒動が始まる前に控え室に行こう。

「ちょ、ちょっと遊矢!」

「頑張れ明日香。健闘を祈る。」

なにやら喚いている明日香と万丈目…サンダー…を無視して、俺は控え室に向かった。


わざわざ代表の為に用意された控え室に着いたが、別にやることは無かった。

デッキの調整も昨日に済んでいるし、試しに明日香ともデュエルした。

…まあ、ようは一刻も速くあの場から離れたかっただけなのだが…

「遊矢!」

「大変なことになったぞ、遊矢!」

明日香に三沢が、いきなり駆け込んできた。

「大変なこと?」

「ああ。万丈目の兄たちがいきなりやって来たんだ。」

それのどこが大変何だよ。

「そもそも、万丈目の兄たちって誰だ?」

「万丈目くんのお兄さんたちは、それぞれ政界と財界の重要人物よ。いきなりヘリコプターでやって来たの。」

ふーん。

「いくら俺の知らない有名人が来たって…」

大変なことにはならない、と言おうとしたが、三沢が先に口を開いた。

「最後まで聞いてくれ遊矢。その万丈目の兄たちが、この友好デュエルをテレビで放映しようと、テレビ局を用意したんだ!」

「へぇ、テレビ局…テレビ局ゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

ということは…

「まさか…」

「あなたのデュエルが全国放映されるってことよ、遊矢。」

当たって欲しくない予想が、当たってしまった。

「テ、テレビ局なんて嘘だろう?」

「いや、本当のことだ。…信じたくない気持ちも、分かるが。」

こちとらただの小市民だっつーの。

いきなりテレビで全国放映されますって言われて対応できるか!

「…三沢、変わってくれ。代表決定戦、俺の負けで良いから。」

「そういう訳にはいかないな。」

ですよね。

「十代は羨ましたがってたわよ、テレビでデュエル出来るなんて。」

「なら変わってみやがれ十代!」

相手の立場に立ってみなきゃ、分からないこともある。

…深い言葉だな。

「…仕方ない。考え方によっては、【機械戦士】の力を全国のお茶の間に見せつけられるわけだ。」

ポジティブシンキングで行こうか。

「何事も考え方次第、ということか。」

「そういうこと。…それより、万丈目…サンダー。どうしたんだあいつ。」


「ええ。上手くは言えないけど…雰囲気が変わった気がするわ。」

俺たちの中で、一番万丈目…サンダー…と付き合いの長い明日香が言うのだ。

俺の気のせいではあるまい。

「あいつも、ノース校で色々あったのだろうな。」

「色々、ねぇ…」

話をしている内に、開始10分前となった。

「それじゃ、私たちはそろそろデュエル場に行くわ。」

「おう。わざわざ来てくれてありがとな。」

明日香と三沢がデュエル場に歩いていく。

二人の…いや、亮も入れて三人の…為にも、負けられないな。

デッキをもう一度見て、俺はデュエル場に向かうことにした。



友好デュエル、会場。

いつものデュエル場なのだが、テレビ局とノース校の連中がいつもと違う。

「まさーか、このワタクシがテレビに出るなんーて…」

俺も同じ気持ちですよ、クロノス教諭。

「それでは、デュエルアカデミア本校と、ノース校との友好デュエルを始めるノーネ!」

デュエル場のいたるところから歓声が上がる。

「まずは本校代表!シニョール黒崎遊矢なノーネ!」

本校生徒たちから応援の声が上がる。

どうもどうも。

「そしてノース校代表…」

「いらん。俺の名前は、俺自身が宣言する!」

万丈目…サンダー…が、クロノス教諭からマイクを奪い取って、そのままマイクパフォーマンスに入った。

「貴様ら!この俺を覚えているか!」

本校生徒に向かって叫んでいるようだ。

「俺の退学を、自業自得だと言った者!馬鹿な奴だと笑った者!俺は戻ってきたぞ!」

いや、あれは自業自得だろう。

「地獄の底から不死鳥のごとく蘇ってきた俺の名は!」

指を高く掲げた。

…またあれか…

「一!」

『十!』

「百!」

『千!』

「万丈目サンダー!」

『サンダー!』

気が済んだのか、マイクをそこらへんに投げる。

「行くぞ黒崎遊矢!」

「ああ。楽しんで勝たせてもらうぜ!」

デュエルディスク、
セット。

「「デュエル!!」」

俺のデュエルディスクに『後攻』と表示される。

「俺の先攻!ドロー!」

万丈目…サンダー…のデッキは、地獄デッキのままか?

それとも…

「俺は、《仮面竜》を守備表示で召喚!」

仮面竜
ATK1400
DEF1100


「仮面竜!?」

地獄デッキでも、十代が戦ったというVWXYZデッキでも使わないカードだ。

新しいデッキか…

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

頼むぜアタッカー!

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

マックス・ウォリアーの登場と共に、ノース校の連中から笑い声が出る。

ま、だろうな。

「黙れ貴様ら!」

万丈目…サンダー…が、ノース校の連中に向かって叫ぶ。

「こいつは、黒崎遊矢は貴様らよりはるかに強い!侮るな!」

…え?

「…お前、本当に万丈目か…?」

「万丈目、さんだ!安心したぞ、貴様がまだ【機械戦士】を使っていてな!」

どうやら、万丈目は【機械戦士】と再び戦いたかったようだ。

ただの負けず嫌いか。

「気を取り直して、マックス・ウォリアーで、仮面竜に攻撃!《スイフト・ラッシュ!》」

出来れば効果破壊したかったが、残念ながらそんなカードは無かった。

「仮面竜が破壊されたため、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスターを特殊召喚出来る!現れろ!伝説の一角!《アームド・ドラゴンLV3》!」

アームド・ドラゴンLV3
ATK1200
DEF900

「レベルアップモンスターだと!?」

レベルアップモンスター。

デュエルモンスターズの中でも、かなり数が少ないレアカードだ。

それを何故万丈目が…?

「これこそ、ノース校に伝わる伝説のカード!このカードで貴様を葬ってやるわ!」

「くっ…カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

伝説のカードなんてものを、持ち出して来たってのか。

「俺のターン!ドロー!
クックック…俺のターンのスタンバイフェイズ時に、アームド・ドラゴンLV3の効果を発動!このカードを墓地に送ることで、デッキから《アームド・ドラゴンLV5》を特殊召喚出来る!進化せよ!アームド・ドラゴンLV5!」

アームド・ドラゴンLV5
ATK2400
DEF1700

「…これが、レベルアップモンスターか…!」

「そうだ!だが、これだけではないぞ!アームド・ドラゴンLV5の効果を発動!手札からモンスターカードを一枚墓地に捨てることで、捨てたモンスターの攻撃力以下の相手モンスターを破壊することが出来る!俺は攻撃力1400の《ドラゴンフライ》を捨てて、マックス・ウォリアーを破壊する!《デストロイド・パイル》!」

セリフが長いぞ万丈目!

アームド・ドラゴンの効果により、マックス・ウォリアーは破壊されてしまう。

「これで貴様を守るモンスターはいない!アームド・ドラゴンLV5で、黒崎遊矢にダイレクトアタック!《アームド・バスター》!」

「リバースカード、オープン!《攻撃の無力化》!戦闘を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

アームド・ドラゴンLV5の攻撃が、時空の渦に吸い込まれていく。

「チィッ…ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

アームド・ドラゴンLV5…恐らくはまだ、進化することだろう。

ならば進化する前に叩く!

「《レスキュー・ウォリアー》を召喚!」
レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

「そして、レスキュー・ウォリアーをリリースすることにより、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

「ぐっ…そいつは…!」

「そういや、お前との前のデュエルでも使ったな。ターレット・ウォリアーの攻撃力は、リリースした戦士族モンスターの元々の攻撃力分、攻撃力がアップする!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200→2800


「これでアームド・ドラゴンLV5の攻撃力を超えた!ターレット・ウォリアーで、アームド・ドラゴンLV5に攻撃!《リボルビング・ショット》!」

ターレット・ウォリアーが放つ弾丸に、アームド・ドラゴンLV5は破壊される。

「ぐうっ…!」

万丈目LP4000→3600

「俺はこれでターンエンドだ。」

「俺のターン!ドロー!」

さて、どう来る?

「甘く見るなよ黒崎遊矢!リバースカード、オープン!、《|リビングデットの呼び声》!蘇れ!アームド・ドラゴンLV5!」

アームド・ドラゴンLV5
ATK2400
DEF1700

「もう復活して来たか!」

「驚くのはまだ早いぞ!更に通常魔法、《レベルアップ!》を発動!アームド・ドラゴンLV5を進化させる!出でよ!《アームド・ドラゴンLV7》!」

アームド・ドラゴンLV7
ATK2800
DEF1000


シャープなデザインになり、更に身体が大きく進化するアームド・ドラゴン。

「アームド・ドラゴンLV7の効果を発動!手札から、《闇より出でし絶望》を墓地に捨てて、貴様のフィールドの攻撃力2800以下のモンスターを全て破壊する!《ジェノサイド・カッター》!」

破壊効果も進化してやがる!

ターレット・ウォリアーの攻撃力は2800。

ちょうど2800以下だ。

「再び、貴様のフィールドはがら空きとなった!アームド・ドラゴンLV7でダイレクトアタック!《アームド・ヴァニッシャー》!」

今度は防ぐ手が無い!

「ぐあああッ!」

遊矢LP4000→1200

…ライフポイントを大きく削られた…!


「フン!貴様のターンだ黒崎遊矢!」

ターンエンドと言え!

「俺のターン、ドロー!」

流石に強いぜ万丈目…

だが、簡単には負けられないな。

「速攻魔法、《手札断殺》を発動!お互いに二枚捨て二枚ドロー!」

さあてお約束!

…は、今回は無し。

《リミッター・ブレイク》が手札に無かったからだ。

「手札にあるこのカードは、攻撃力を1800にすることでリリース無しで召喚出来る!出でよ!《ドドドウォリアー》!」

ドドドウォリアー
ATK2300→1800
DEF900


今度フィールドを空にしたら、負ける。
ならば、攻める!

「ドドドウォリアーでは、アームド・ドラゴンLV7には適わないぞ!」

「そんなことは分かってるさ。装備魔法、《デーモンの斧》と、《ジャンク・アタック》をドドドウォリアーに装備する!」

ドドドウォリアー
ATK1800→2800

これで攻撃力が並んだ。

「ドドドウォリアーで、アームド・ドラゴンLV7に攻撃!《ドドドアックス》!」

「チッ…迎え撃て!アームド・ヴァニッシャー!」

舌打ちから察するに、万丈目は俺の狙いに気づいているようだ。

「墓地から、《シールド・ウォリアー》を除外することで、この戦闘でドドドウォリアーは破壊されない!」

「やはりか!」

シールド・ウォリアーが、アームド・ドラゴンLV7の攻撃を防ぎ、その間にドドドウォリアーが斧で斬りつける。

「ジャンク・アタックの効果を発動!装備モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」

アームド・ドラゴンLV7の攻撃力は2800。

よって、ダメージは1400だ。

「ええい、一度ならず二度までもアームド・ドラゴンが…」

万丈目LP3600→2200

「ターンエンドだ!」

「俺のターン!ドロー!」

どう来る…

「俺はモンスターを守備表示でセット!更にカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

守りを硬めて来た…いや、万丈目はあくまで攻めるタイプ。

アームド・ドラゴンの為の準備だろう。

「俺のターン、ドロー!
ドドドウォリアーで、セットモンスターに攻撃!ドドドアックス!」


「セットモンスターは、《メタモルポット》だ!リバース効果により、お互いに手札を全て捨て、五枚ドロー!」

ドドドウォリアーの効果では、メタモルポットの効果は無効に出来ない…

まあ、俺の手札も増えるから良いか。

「墓地に捨てた、《リミッター・ブレイク》の効果を発動!デッキ・手札・墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る!デッキから守備表示で出でよ!マイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「加えて、ジャンク・アタックの効果を発動!メタモルポットの攻撃力の半分のダメージを受けてもらうぜ!」

メタモルポットの攻撃力は700。

…無いよりマシだ。

万丈目LP2200→1850

「ターンエンドだ!」

「この程度のダメージ、関係無い!俺のターン!ドロー!」

メタモルポットにより、万丈目の手札はとても増えている。

来るか、アームド・ドラゴン。

「まずは、速攻魔法、《サイクロン》!貴様の装備魔法、デーモンの斧を破壊する!」

竜巻にデーモンの斧が破壊される。

ドドドウォリアー
ATK2800→1800

「どんどん行くぞ!通常魔法、《死者蘇生》を発動!蘇れ!アームド・ドラゴンLV5!」

アームド・ドラゴンLV5
ATK2400
DEF1700

なんでレベル5?

レベル7が墓地にいる筈だが…ああ、蘇生制限か。

アームド・ドラゴンLV7は、通常魔法、《レベルアップ!》により召喚された。

よって、蘇生制限を満たしていないのだろう…多分。

「アームド・ドラゴンLV5の効果を発動!手札のドラゴンフライを墓地に捨てて、スピード・ウォリアーを破壊する!デストロイド・パイル!」

「ちっ…!」

スピード・ウォリアーはなすすべも無く、アームド・ドラゴンLV5に破壊される。

「貴様のそのモンスターは厄介だからな。」

「そいつはどうも…」

スピード・ウォリアーを厄介と言ったのは、多分お前が初めてだ。

「バトル!アームド・ドラゴンLV5で、ドドドウォリアーに攻撃!アームド・バスター!」

「ドドドウォリアー…!」

もっとも攻撃力が高い機械戦士がやられた…

遊矢LP1200→600


「これで俺はターンエンドだ!それと同時に、アームド・ドラゴンLV5の効果が発動する!」

「何だと!?」

「このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したエンドフェイズ時、このカードを墓地に送り、アームド・ドラゴンLV7へと進化する!現れろ!アームド・ドラゴンLV7!」

アームド・ドラゴンLV7
ATK2800
DEF1000

「俺のターン、ドロー!」

再び現れた、アームド・ドラゴンLV7。

今度はキチンと召喚条件を満たして。

だが、俺にも。

「《ロケット戦士》を攻撃表示で召喚!」

ロケット戦士
ATK1500
DEF1300

メタモルポットで得た手札がある!

「更に、モンスターが通常召喚に成功した時、このカードは特殊召喚出来る!来い!《ワンショット・ブースター》!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

「ロケット戦士で、アームド・ドラゴンLV7に攻撃!」

「自滅する気か!?」

「いいや。ロケット戦士は、自分のターンのバトルフェイズ時のみ、戦闘では破壊されず、戦闘ダメージを0にし、戦闘した相手モンスターの攻撃力を500ポイント下げる!」

アームド・ドラゴンLV7
ATK2800→2300

「それがどうした!お前のフィールドにいるモンスターの攻撃力は、0だぞ!」

「攻撃力0のモンスターを甘く見るなよ!メインフェイズ2に、ワンショット・ブースターの効果を発動する!このターン、自分のモンスターと戦闘して、破壊されなかった相手モンスターを破壊する!蹴散らせ!ワンショット・ブースター!」

ワンショット・ブースターのミサイルに、アームド・ドラゴンLV7が爆発する。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン!ドロー!」

アームド・ドラゴンを倒し続けてはいるが、正直に言うと、俺の方がピンチだ。

アームド・ドラゴンは破壊しても、様々なサポートカードにより復活する。

「俺は仮面竜を守備表示で召喚!」

仮面竜
ATK1400
DEF1100


リクルーターか。

あれを倒せば、再びアームド・ドラゴンLV3が出てくるだろう。

「俺のターン、ドロー!」

万丈目のフィールドには、ドラゴン族のリクルーター、仮面竜と、一枚のリバースカード。

対する俺のフィールドは、ロケット戦士にリバースカードが一枚だ。

「俺は通常魔法、《戦士の生還》を発動!墓地のドドドウォリアーを手札に加える!」

リバースカードが気になるが、ここは攻める!

「ドドドウォリアーを、攻撃力1800にして妥協召喚!」

ドドドウォリアー
ATK2300→1800
DEF900

「バトルだ!ドドドウォリアーで、仮面竜を攻撃!ドドドアックス!」

「くっ…だが、仮面竜の効果を発動!」

ちょっと待った!

「ドドドウォリアーが戦闘する時、ダメージステップ終了時まで、墓地で発動する効果を無効にする!よって、リクルート効果は無効になる!」

「なに!?」

これでアームド・ドラゴンLV3の特殊召喚は封じた。

「行け!ロケット戦士!万丈目にダイレクトアタック!」

「万丈目、さんだ!リバースカード、オープン!《レベルの絆》!相手プレイヤーにカードを二枚引かせる代わりに、攻撃宣言と効果を無効化したレベルアップモンスターを墓地から召喚条件を無視して特殊召喚出来る!攻撃表示でアームド・ドラゴンLV7を特殊召喚!」

アームド・ドラゴンLV7
ATK2800
DEF1000

…何度も何度も大変だな、アームド・ドラゴン。

「レベルの絆の効果で二枚ドローし、攻撃を続行する!ロケット戦士でアームド・ドラゴンLV7に攻撃!」

ロケット戦士がその名の通りロケットに変形し、アームド・ドラゴンに突撃する。

「さっきも言ったが、ロケット戦士は自分のターンのバトルフェイズ時のみ、戦闘では破壊されず、戦闘ダメージを0にし、相手モンスターの攻撃力を500ポイント下げる!」

アームド・ドラゴンLV7
ATK2800→2300

「メインフェイズ2に、墓地の《ADチェンジャー》効果を発動!墓地に存在するこのカードを除外することで、フィールド場のモンスターの表示形式を変更する!俺はロケット戦士を守備表示にする!」

俺のライフポイントはわずか600。

用心しておくにこしたことは無い。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!
通常魔法、《天使の施し》を発動!三枚ドローし、二枚捨てる!」

万丈目がニヤリと笑った。

良いカードでも引いたのか?

「俺は通常魔法、《貪欲な壺》を発動!墓地のアームド・ドラゴンLV3、5、7、仮面竜二体をデッキに戻すことで、二枚ドロー!」

墓地のモンスターを再利用可能にし、二枚ドローする優秀な魔法カード、貪欲な壺。

墓地にモンスターが溜まりやすいアームド・ドラゴンにはピッタリのカードだ。

「更に、墓地の風属性モンスターである、ドラゴンフライを除外することで、《シルフィード》を特殊召喚!」

シルフィード
ATK1700
DEF700

簡単な召喚条件と、ハンデス効果があるモンスターか。

「そして、シルフィードをリリースし、アームド・ドラゴンLV5をアドバンス召喚!」

アームド・ドラゴンLV5
ATK2400
DEF1700


「また来たか!…やっぱり、強いな、万丈目…」

「万丈目、さんだ!まだまだ終わらんぞ!俺は、フィールドのアームド・ドラゴンLV7をリリースし、手札から《アームド・ドラゴンLV10》を特殊召喚する!現れろ!伝説の最終進化!アームド・ドラゴンLV10!」

アームド・ドラゴンLV10
ATK3000
DEF2000

これがアームド・ドラゴンの最終形態…

「アームド・ドラゴンLV10のモンスター効果を発動!手札を一枚捨てることで、相手フィールドの表側表示のモンスターを全て破壊する!俺は手札のおジャ…モンスターを捨て、貴様のモンスター全てを破壊する!」

…おジャ?

「手札から、《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動!相手モンスターの効果を無効にする!」

いざという時に助かるラッキーカードだ。

エフェクト・ヴェーラーがアームド・ドラゴンLV10を包み込んで、効果を無効にする。

「何だそのカードは!」

「ラッキーカードさ。」

本当に、くれて助かったな。

「ええい、バトルだ!アームド・ドラゴンLV10で、ドドドウォリアーに攻撃!《アームド・ビッグ・ヴァニッシャー》!」

「リバースカード、オープン!《ガード・ブロック》!戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」

俺の残りライフはわずか600…アームド・ドラゴンの攻撃を食らう訳にはいかない。

「チィッ…アームド・ドラゴンLV5で、ロケット戦士に攻撃!アームド・バスター!」

ロケット戦士は破壊されたが、守備表示のためダメージは無い。

…守備表示にしておいて良かった…

「こいつでトドメだ!速効魔法、《レベルダウン!?》!フィールド場のレベルアップモンスターを選択してデッキに戻し、戻したモンスターよりレベルが低く、同じ名前を含むレベルアップモンスターを特殊召喚する!俺はアームド・ドラゴンLV10をデッキに戻し、アームド・ドラゴンLV7を特殊召喚!」

アームド・ドラゴンLV7
ATK2800
DEF1000

「速効魔法だと!?」

それはつまり…

「そうだ!俺はまだ、このターン攻撃が出来る!行け!アームド・ドラゴンLV7!黒崎遊矢に引導を渡せ!アームド・ヴァニッシャー!」

アームド・ドラゴンLV7が放った攻撃が俺に迫る!

「これでこの俺!万丈目サンダーの勝ちだ!」

まだだ!

「手札から効果を発動!《速効のかかし》!相手モンスターにダイレクトアタックされた時、手札からこのカードを捨てることで、バトルフェイズを終了させる!」

さっきのガード・ブロックで引いたカードだ。

危なかったな…

「しぶとい奴だ…!だが、貴様のフィールドにはリバースカードが一枚!手札はわずか一枚だ!少しだけ寿命が延びただけに過ぎん!カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

確かにな。

万丈目の言っていることは正しい。

「俺のターン、ドロー!」

引いたカードは…

「俺はスピード・ウォリアーを召喚!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

信じてたぜ、マイフェイバリットカード!

「貴様は最後までそいつか!スピード・ウォリアー一体で、俺のアームド・ドラゴンLV7が倒せるものか!」

「倒すさ。スピード・ウォリアーに装備魔法、《進化する人類》を発動!自分のライフポイントが相手より下の時、元々の攻撃力は2400となる!」

スピード・ウォリアー
ATK900→2400

「お前のアームド・ドラゴンが進化するように、俺の機械戦士たちも進化する!バトルだ!スピード・ウォリアーで、アームド・ドラゴンLV5に攻撃!《ソニック・エッジ》!」


進化する力を得たスピード・ウォリアーが、アームド・ドラゴンLV5に向かっていく。

「スピード・ウォリアーは、召喚したターンのバトルフェイズ時のみ、攻撃力が倍になる!」

スピード・ウォリアー
ATK2400→4800

「これで終わりだ!万丈目!」

「万丈目、さんだ!リバースカード、オープン!《突進》!アームド・ドラゴンLV5の攻撃力を、700ポイントアップさせる!」

アームド・ドラゴンLV5
ATK2400→3100

「突進だと!?」


アームド・ドラゴンLV5の攻撃力が700ポイントアップしたが、攻撃力はスピード・ウォリアーの方が上だ。

「ぐあああッ!」

万丈目LP1950→250

「甘かったな黒崎遊矢!俺のライフポイントは、まだ残っているぞ!」

「くっ…俺のライフポイントがお前より上になったため、スピード・ウォリアーの元々の攻撃力は、1000になる。」

スピード・ウォリアー
ATK4800→2000

突進が無ければ、デュエルは終わっていたが…

「さあ、ターンエンドと宣言しろ!それが貴様の最後だ!」

『サンダー!』

『サンダー!』

『万丈目サンダー!』

ノース校の連中が、万丈目の勝利を讃えるかのように叫びだす。

「…それはどうかな。」

「何?」

「まだ、俺のバトルフェイズは終わってないぜ!」

今からやるコンボは、何の偶然か、昨日の夜、4人で相談したコンボだった。

「リバースカード、オープン!《イクイップ・シュート》!」

ありがとな、明日香、三沢、亮!

「イクイップ・シュートだと…!?」

「このカードは、バトルフェイズ中にのみ発動出来る。自分フィールド上に、表側攻撃表示で存在するモンスターに装備された装備カード1枚と、相手フィールド上に存在する表側攻撃表示のモンスター1体を選択し、選択した装備カードを選択した相手モンスターに装備する。その後、選択した装備カードを装備していた自分のモンスターと、 選択した相手モンスターで戦闘を行いダメージ計算を行う!」

…相変わらず、分かり難いテキストだな。

明日香が初見で使い方が分からなかったのも頷ける。

「つまり、まずはスピード・ウォリアーに装備されている進化する人類をアームド・ドラゴンLV7に装備する!」

スピード・ウォリアーの周りにあった進化する力が、アームド・ドラゴンLV7へと移る。

「そして、スピード・ウォリアーとアームド・ドラゴンLV7でバトルを行う!」

「血迷ったか黒崎遊矢!アームド・ドラゴンLV7!スピード・ウォリアーと黒崎遊矢にトドメをさせ!アームド・ヴァニッシャー!」

アームド・ドラゴンLV7が放った攻撃は…スピード・ウォリアーには効かなかった。

「なに!?何故スピード・ウォリアーが倒せない!」

「装備魔法、進化する人類の効果により、俺のライフが相手のライフより多い場合、装備モンスターの元々の攻撃力は、1000となる!」

アームド・ドラゴンLV7
ATK2800→1000

俺のライフは600。

万丈目のライフは250だ。

「そしてスピード・ウォリアーは、進化する人類が外れたことにより、攻撃力は1800!」

スピード・ウォリアー
ATK2000→1800

「イクイップ・シュートの効果により、スピード・ウォリアーでアームド・ドラゴンLV7に攻撃!ソニック・エッジ!」

「うわああああッ!」

万丈目LP250→0


「え?万丈目さんの方が負けたのか?急いでカットだ!カット!」

テレビ局の方々が急いでカットしていた。

万丈目の兄たちに雇われたのだ、当然だろう。

…カットするのが、少し遅かったようだが。

ま、そんなことより。

「よっしゃああああッ!
楽しいデュエルだったぜ!万丈目!」

ワァァァァァァァ!

と、本校生徒から歓声が上がる。

『サンダーァァァ!』

ノース校の方だ。

こちらは、万丈目の負けを悔しかっているようだ。

…慕われてるな、万丈目。

その万丈目は、膝をついたまま動かなかったが。

「準!」

スーツ姿の男が二人、万丈目に詰め寄っていく。

察するに、彼らが万丈目の兄たちだろう。

「私たちが用意したレアカードを使わないばかりか、あんなデッキに負けおって!」

…あんなデッキ、だと?

「すまない兄さんたち…でも俺は、自分で作ったデッキで勝ちたかったんだ!」

「黙れ!この万丈目一族の恥め!」

「黙るのはあんたらの方だ、万丈目の兄貴たち。」

…しまった。
つい、入ってしまった。


「何だお前は!これは我ら兄弟の問題だ!部外者は引っ込んでいろ!」

ごもっとも。

「ならこっちはデュエリストの問題だ。レアカード=強いとか考えてるデュエリストじゃない奴は帰ってもらおう!」

『そうだそうだ!』

『遊矢の言う通りだ!』

『楽しいデュエルだった!万丈目は良くやったぜ!』

『サンダー!』

本校もノース校も関係ない、誰もがデュエリストとして万丈目を庇っていた。

「ぬう…」

「それに、文句があるならお前ら自身が来たらどうなんだ!?」

デュエルも出来ないくせに、デュエリストの領域に入ってこないでもらおう!

「帰るぞ!」

「あ、ああ…」

万丈目の兄貴たちが帰っていった時、また歓声が上がった。


友好デュエルも終わり、ノース校の連中を見送りに港にいた。

そこでは、みんなが万丈目の為に泣いていて、慕われていることが十二分に分かる。

それでも、俺に恨み事一つ言わないのだから、気持ちの良いデュエリストたちである。

「おめでとう、遊矢!」

「お、明日香か。」
話しかけて来たのは、明日香だった。

三沢たちとははぐれたのか、別れたのかは知らないが、一人だった。

「いや、昨日のコンボで助かったよ。」

「元々、あのコンボを入れてたのは遊矢でしょう。」

「いや、まあそうなんだが…」

あ。
そういえば、と思ってエクストラデッキの中から、《サイバー・ブレイダー》を取りだす。

先日明日香から、お守り代わりにもらったものだ。

「これ、ありがとな。」

「…それ、あげるわ。私はサイバー・ブレイダー四枚持ってるから、これからもお守り代わりに持っていて。」

「そうか?」

なら貰っとくか。

それから、あの時は危なかっただの話している内に、ノース校の潜水艦が出発する時刻になる。

「万丈目ともお別れか…またいつか、デュエルしたいな。」


「誰がお別れだ!誰が!」

声に振り向き、後ろにいたのは…

「万丈目!?」

「万丈目くん!?」

万丈目だった。

「万丈目、さんだ!貴様に借りを返すまで、俺はここに残る!」

元々、本校の生徒だからな…

「オシリス・レッドだがな。」

「ぐっ…黙れ三沢!」

三沢が合流する。

「オシリス・レッドってどういうことだ?」

「出席日数と、遊矢との約束でな。万丈目は「さんだ!」オシリス・レッドになったのさ。」

約束…?
あーあー。

昇格デュエルの時にノリで言ったのだ。

負けたら、一年間オシリス・レッドだと。

…忘れてたな。

「じゃ、これからよろしくな、万丈目。」

「何度も言わせるな!俺の名は!」

指を高く掲げる。

「一、十、百、千、
万丈目さんだ!」 
 

 
後書き
一、十、百、千、
万丈目サンダー!!

…あのハジケっぷりを、上手く書けてるかどうか不安です。

感想・アドバイス待ってます! 

 

-七星と新たな力-

 
前書き
いや、今回予約投稿を試してみました。

…何の意味が?

セブンスターズ編、開始です!


PS…DVDプレイヤーとして使っていたPS2がDVDを読み込まなくなった…

そんな訳で、うろ覚えの知識の下、これからは書いていきます。

(これまでもそうでしたが) 

 
遊矢side


万丈目との「さんだ!」

…モノローグに入ってくるな、万丈目。

気を取り直して、モノローグに入る。

万丈目との友好デュエルから一週間が過ぎた。

万丈目は意外な程、みんなに受け入れられていた。

友好デュエルでの見事なデュエルが評価されたのか、生徒の中でもデュエリストよりの考え方を持つ者には受けが良かった。

しかし一方で、当然、万丈目が気にくわないという生徒もいたが、万丈目本人はあまり気にしていない様子。

本人が言うには、

「言いたい奴には言わせておけ。」

だ、そうだ。

三沢が来るまで、アカデミア一年でトップだったこともあり、授業でも問題はなさそうだ。

しかし、学校内で俺に突っかかってくることが多い…

いわく、俺がいない間に天上院くんになにをしただの。

いわく、天上院くんにはこの俺、一、十、百、千、万丈目サンダーがふさわしいだの。

大体、そんな感じだ。

明日香関係のことばかり聞いてくる。

酷い時には、明日香ファンクラブの連中と結託し、白昼堂々と襲ってきた程だ。

俺はただ、明日香にドローパンを奢っただけなのだが…

いや、賭けデュエルで負けてしまって…

ちなみに、その時に出たのはディステニーパン。

原材料不明という、恐ろしいパンである。

意外に美味しそうに食べてたな…また、奢ってやっても良いか…

まあ、そんなことはともかくとして。

要するに、本校に戻って来た万丈目は、こっちが心配する必要も無かったようだ。

むしろ、少し心配した俺の気持ちを返せ、と言いたくなる程だった。

「シニョール遊矢!」

「はい。」

少々、考え事の方に集中し過ぎたな。

今は、クロノス教諭の授業中だ。

怒られるかと思ったものの。

「それに、シニョール三沢。」

三沢の名を呼んだ。

「シニョール万丈目、
シニョーラ明日香、
…シニョール十代…は、授業が終わったら、ワタシと共に校長室に来るノーネ!」

十代呼ぶ時だけ、すげぇ嫌そうだなぁ…

「三沢。話を聞いていなかったんだが、どういうことだ?」

隣の席の三沢に、静かに聞いた。

「何でも、鮫島校長から大事な話があるそうだ。」

「大事な話、ねぇ…」

前回、三沢と二人して呼び出された時は、代表決定戦の話だったな。

…今度は、何の話だ?

また何か、イベント事だったら良いんだが…

「心当たり、あるか?」

「いや、俺には無いな。次にある大きなイベントと言えば学園祭だが、それはもう少し先だ。」

だよなぁ…

再び、考え事をしそうになった俺を阻止する、絶好のタイミングで授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

…まあ、偶然だが。


そんな訳で。

俺、三沢、明日香、万丈目、十代は、クロノス教諭に引き連れられて鮫島校長の待つ、校長室へ歩いていた。

「なあクロノス教諭ー。俺たちに何の用何だ?」

切り込む十代。

「鮫島校長から説明があるノーネ。ワタシも知らないノーネ。」

クロノス教諭すらも知らない。

つまり、学校関係では無いのか?

考えても分からないな。

これ以上のことは、鮫島校長から直接聞こう。

校長室の前に着き、クロノス教諭が

「失礼しまスーノ。」

と言って扉を開け、中には椅子に座りながら難しい顔をしている鮫島校長がいた。


それともう一人。

「亮。お前も呼ばれてたのか?」

「ああ。…遊矢たちもそのようだな。」

総勢7人が、鮫島校長の前に並ぶ。

「あなたたちを呼んだのは、他でもありません。」

鮫島校長がとつとつと語りだす。

「ご存じないでしょうが、このデュエルアカデミアの地下には、とあるカードが封印されています…」

カードを封印?

俺以外も、みんな知らないようだ。

「《三幻魔》…このデュエルアカデミアの地下に古より封印されし魔のカードです。このカードの封印が解かれると、天は荒れ、地は乱れ、世界を闇に包みこみ破滅に導くと云われています…」

「はい?」

ついつい、言葉を出してしまった。

「信じられないのも、無理はありませんが…」

「いや、神のカードがあるぐらいだ、そんなカードがあるって言われても、俺は信じるぜ、校長先生!」

君は分かりやすくて良いね、十代。

かくいう俺も、闇のゲームをやってからと言うもの、そういう奴は信じるようにしているが…

「その三幻魔が、どうしたのでしょう。」

十代のせい…いや、俺のせいか…少しズレた話を、亮が修正した。

「三幻魔は、7つの鍵によって封印されています…ですが、セブンスターズ…そう呼ばれる者たちが、三幻魔復活を目論み、その鍵を奪わんと向かってきています。」

セブンスターズ。


「しかし、それで何故自分たちが呼ばれたのですか?」

質問役はよろしく頼む、三沢。

「それは、三幻魔を封印している鍵…《七星門の鍵》の封印を解く手段は、デュエルなのです。」

「「デュエル?」」

おいおい、デュエルで開く鍵って何だよ。

始めて聞いたな。

「これが、その七星門の鍵です。」

鮫島校長が、デスクから立派な木箱を取り出し、箱を開ける。

そこには、パズルのようになっている鍵が7つあった。

「三幻魔の封印を完全に解くには、この鍵をデュエルで奪う必要があると言われています。」

「そんな物騒な物、壊してしまえば良いのでは?」

「それはいけません!」

ふと、思いついた疑問を言ってみただけなんだが…

「七星門の鍵を破壊すると、三幻魔は不完全に目覚めてしまいます。それは、セブンスターズも望まないでしょうからね。」

こっちは、不完全に目覚めた三幻魔に苦しむことになるな。

「あなたたちは、この学園でも屈指の実力を持つデュエリスト。その力を見込んで、この鍵を託したい。そして、セブンスターズからこの鍵を守ってもらいたいのです。」

なるほど、だから呼んだのか。

「へへ、デュエルと聞いちゃ、やらない訳にはいかないぜ!」

最初に十代が鍵を取る。

「ま、楽しんで勝たせてもらうか。」

次に俺。

「私もやるわ。この学園を滅ぼされたら、たまらないもの。」

一番マトモな理由だな、明日香。

「日頃の研究成果を試す、良い機会だな。」

世界が滅びる危機も、お前にとってはそれか、三沢。

「フン!誰が相手であろうと、この一、十、百、」

はいはい。
分かったよ。

「このデュエルアカデミアに挑戦する不届き者ーは、ワタシが成敗してやるノーネ!」

最後に、クロノス教諭。

…挑戦者とは、少し違う気がするが。


「ありがとうございます、皆さん…」

これで俺たち7人に、世界の運命が託されたらしい。


…実感はないが。



「これで、話は終わります…遊矢くんは、少し残ってください。」

俺だけ!?

「それじゃ遊矢。俺たちは先に戻っている。」

三沢が代表してそう言うと、みんな校長室から出て行ってしまった。

薄情者ォォォォォ!

「君だけを残したのは、ある人の頼みなのです。」

「ある人?」

お偉方に知り合いはいないが…?

鮫島校長は近くにあったリモコンに手を伸ばし、設置してある巨大なテレビの電源をつけた。

「遊矢ボーイ!初めまして、《ペガサス・J・クロフォード》デース!」

「ペペペペペペペペペガサス会長!?」

巨大なテレビに映ったのは、恐らく世界一有名な会長、インダストリアル・イリュージョン社会長、ペガサス・J・クロフォード会長だった。

…あらかじめ言っておくが、知り合いでは断じてない!

「良い驚きっぷりデース。コレだからドッキリは止められまセーン。」

ドッキリ?

「遊矢くん。実はこのテレビ、テレビ電話にもなっていてね。ペガサス会長が、ただ電話して来ただけさ。」

「oh、Mr.鮫島。種明かしが早すぎマース!」

結局何なんだ!?

まさかドッキリの為に残された訳じゃないよな!

「遊矢ボーイ。Mr.鮫島に頼んで、君と話がしてみたかったのデース。」

「俺と…話?」

あのペガサス会長がか?

「先日、テレビで、アナタのデュエルを拝見させていただきまシター。」

万丈目との友好デュエルのことか。

「ファンタスティーック!低レベルモンスター中心の【機械戦士】で伝説のアームド・ドラゴンを何度となく打ち破る!素晴らしいデュエルでシター!」

「それは…どうも。」

緊張してこれだけしか言えない。

「oh…そんなに緊張しないでくだサーイ…そこで一つ、遊矢ボーイに頼みがあるのデース。」

「頼み?」

俺なんぞに?

「今度我が社は、デュエルモンスターズに革命を起こす、『低レベルモンスターが重要となる召喚』を考えていマース。」

低レベルモンスターが重要となる召喚。

デュエルモンスターズにおいて、低レベルモンスターとはさほど重要ではないというのが、常識だ。

その常識を、ぶち破る召喚方法…?


「その名を、《シンクロ召喚》と言いマース。」

「シンクロ召喚…」

アドバンスでは無く、
融合では無く、
儀式でも無い。

新たな召喚方法
《シンクロ召喚》

「それを遊矢ボーイ。アナタに渡したいのデース。」

「何故俺に?」

「まずは一つ。
アナタの【機械戦士】にワタシが感銘を受けたからデース。
二つめは、
低レベルモンスターを主軸にしている人に頼みたいのデスが…そんな人、めったにいないのデース。」

あー。
なるほど。

「最後に三つめ。
アナタが、《シンクロ召喚》に必要なモンスターである、《チューナー》と、《シンクロモンスター》を既に持っているからデース。」

「既に!?」

急いでデッキの中を確認する。

「《エフェクト・ヴェーラー》と言うカードと、背景が白いカードがある筈デース。」

二枚とも、ある。

最初に疑問には思った。
何故、エフェクト・ヴェーラーに、《チューナー》と書いてあるか。
何故、エフェクト・ヴェーラーのことを、誰も知らないか。

背景が白いカードも、エラーカードだと思ってエクストラデッキに入れたままだ。

「…二枚とも、持ってます。」

「ある人に、誰かに渡してくれ、と頼んだモノデース…遊矢ボーイに渡されるとは、運命を感じマース。」

運命、ねぇ。

「ペガサス会長。すいませんが、シンクロ召喚に必要なカードは、受け取れません。」

「what!?何故デース!?」

まさか断られるとは思っていなかったのか、慌てるペガサス会長。

「俺のデッキは【機械戦士】デッキです。低レベルモンスターが多いとはいえ、それ以外のカードは扱いません。」

そうだ。
自分のデッキは【機械戦士】なのだから。

「そうデスか…」

見るからにガッカリしているな。

「すいませんが…」

「合格デース!!」

「は!?」

落ち込んでいたペガサス会長が、いきなりクラッカーを鳴らす。


「おめでとう、遊矢くん。」

パーンと間抜けな音が、鮫島校長のクラッカーからも鳴る。

「アナタの【機械戦士】に賭ける思い。しかと見させてもらいまシター。」

またドッキリかよ!?

…外国人は、ドッキリが好きらしいな。

「心配いりまセーン。アナタに送るシンクロモンスターにチューナーは、【機械戦士】と、その強化パーツデース。」

つまり、シンクロモンスターを入れても、デッキは【機械戦士】のままってことか。

…良かった。

「では後日、シンクロモンスターとチューナーモンスターを送りマース!これからも頑張ってくだサーイ!」

最後までハイテンションのまま、ペガサス会長とのテレビ電話は切れた。

「会長は、色々とすごいお人だったね。」

「ええ、色々と…」

鮫島校長に、とりあえず全力で同意した。



鮫島校長から、シンクロ召喚に関するルールブックをもらい、自室で読んでいた。

三沢や明日香も誘おうと思ったのだが、選抜されたメンバーでオシリス・レッド寮の方に行ったらしい。

…ペガサス会長と話して、どっと疲れた俺は、オシリス・レッド寮まで行く元気が無く、自室で横になることにした。

…確かに、デュエルモンスターズに革命が起こせるかも知れない。

このシンクロ召喚は。

それほどまでに強力…いや、汎用性が高い。

まあ、全てはシンクロモンスターと、チューナーモンスターがペガサス会長に届けてもらってからだ。

それから、デッキの調整したりしなきゃな。

…おっと、セブンスターズのことも忘れていた。

漠然とした世界の危機より、新しい召喚方法のことを気にしていた。

…それより疲れた。

七星門の鍵を首にかけて、晩御飯の時間まで寝ることにした。

…zzzz



起きた。

外を見てみると、もう夜中だ。

「しまったな…」

窓の外を見て、呆然としていると。


「なんだ!?」

突然、窓や床が光だす。

そのまま、光っている物体は輝きを増していく。

とりあえず、部屋の外に…

そう思い、部屋の外に行こうとしたところ、デッキを机の上に置きっぱなしであることに気づく。

「くそッ!」

デッキを手にとった瞬間、光は更に輝き…

俺は意識を失った。
 
 

 
後書き
ペガサス会長難しい…

今回は、精霊世界での、墓守の長とのデュエルの予定だったのですが…

【墓守】の使い方が分からず、面倒くさいのでカットしました。

感想・アドバイス待ってます! 

 

-真紅眼を統べる決闘者-

 
前書き
テスト期間中は、小説の書くペースが速くなる!

では、VSダークネスです。 

 
遊矢side


光が収まり、それと同時に俺の意識も回復した。

「…ここは…」

簡潔に言うと、火山。

具体的に言うと、火口。

火口内に光の足場があり、そこに俺は立っていた。

「って、何だここ?」

「貴様等が通うデュエルアカデミア。その火山だ。」

その声を出したのは−

いつの間にか目の前にいた、黒い仮面をつけた男だった。

最初からいたのかも知れないが、意識が朦朧としていたため分からなかったな。

「誰だ、あんた?」

「我が名は、《ダークネス》セブンスターズの一人だ。」

ダークネスと名乗った男は、こちらにデュエルディスクを放り投げてくる。

「ここなら邪魔は入らん…さあ、七星門の鍵を賭けた、闇のデュエルの始まりだ…」

「いきなり呼び出しといて何を言ってやがる。」

寝起きなのによ。

「貴様は、このデュエルを断ることは出来ない…あれを見てみろ。」

ダークネスが指を差す先にいるのは−

「明日香!?」

親友の一人、天上院明日香が宙に浮かんでいた。

いや、正確には明日香を囲むように球状に足場と同じ空間が広がっていた。

「遊矢!」

「明日香、無事か!?」

「私は、無事だけど…」

そんなところにいて、無事と言えるのか。

「待ってろ!今助けてやるからな!」

「待て。」

明日香の元へ走ろうとした俺の前に、ダークネスが立ちふさがる。

「彼女を助ける為には、私をデュエルで倒せば良い…」

デュエルを拒否すれば、明日香はどうなるか。

人質のつもりかっ…!

「分かった…明日香!少し待っててくれ!」

「ええ!」

俺の声に、明日香は力強く応えてくれた。

ならば、俺もそれに応えよう。

「安心しろ。彼女を殺す気は無い。貴様を倒した後、彼女を倒さねばならないからな。」

「そんな計画、ぶっ潰してやるよ!」

デュエルディスク、
セット。

ダークネスも、専用のデュエルディスクを構える。

いかにも闇のデュエリストと言った感じで、デュエルディスクも漆黒に染まっている。

…だからこそ、ダークネスという名前なのかも知れないが。

まあ、こいつのことなんぞどうでも良い。

「さあ、闇のデュエルの始まりだ…」

「闇のデュエルなら、一回経験があるんだよ!」

廃寮での闇のデュエル。

タイタンとのタッグデュエルで、辛くも勝利を収めた時だ。

「それと、この闇のデュエルには罰ゲームがある。」

「罰ゲームだと?」

ダークネスは、自分が着ているコートの胸ポケットから一枚のカードを取りだす。

カードには、何の絵柄もなかった。

ただ、真っ暗。

「このゲームに負けた者は、このカードの中に封印される…」

カードに封印…錬金術の授業でやったな。

《魂の牢獄》カードだ。

「いいだろう…やってやる!」

「遊矢…負けないで!」

「心配するな明日香!」



「「デュエル!!」」

遊矢LP4000

ダークネスLP4000



「私の先攻、ドロー!」

ダークネスの先攻からデュエルは始まった。

「私は、《軍隊竜》を守備表示で召喚!」

軍隊竜
ATK700
DEF800


軍隊竜…破壊された時、同名カードを呼びだすモンスターだ。

「さらに、カードを一枚伏せてターンエンドだ。」

「楽しんで勝たせてもらうぜ!俺のターン!ドロー!」

シンクロモンスターは、まだ俺の元へは届いていない。

いつもの通りやるだけだ!

「俺は、《ジャスティス・ブリンガー》を召喚!」

久々登場、剣を持つ機械戦士!

ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000

「ジャスティス・ブリンガーで、軍隊竜に攻撃!《ジャスティススラッシュ》!」

守備力の大きく劣る軍隊竜では防げるわけも無く、軍隊竜は墓地に送られる。

「墓地に送られた、軍隊竜の効果を発動!デッキから、軍隊竜を特殊召喚する!」

軍隊竜
ATK700
DEF800

リクルートモンスターは厄介だ。

ドドドウォリアーを引ければ良いんだが、そう上手くはいかない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

ダークネスのターンだ。

「私は、《仮面竜》を守備表示で召喚!」

仮面竜
ATK1400
DEF1100

「ターンエンドだ。」

またリクルートモンスターか…


「俺のターン、ドロー!」

何体でも倒せば良いんだな。

「俺は、《レスキュー・ウォリアー》を召喚!」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

レスキュー隊の格好をした機械戦士。

「バトル!レスキュー・ウォリアーで、軍隊竜に攻撃!」

「再び軍隊竜を特殊召喚する。」

軍隊竜
ATK700
DEF800

「続いて、ジャスティス・ブリンガーで軍隊竜に攻撃!ジャスティススラッシュ!」

これで軍隊竜は打ち止めだ。

「これで俺はターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!
…そろそろ行くか。」

何が来るんだ?

「私は、《黒竜の雛》を召喚する!」

黒竜の雛
ATK800
DEF500

「黒竜の雛…まさか!?」

黒竜の雛といえば、あのカードしかない。

「黒竜の雛を墓地に送り、手札から、《真紅眼の黒竜》を召喚する!」

真紅眼の黒竜
ATK2400
DEF2000

レッドアイズ…!
伝説のデュエリスト、城之内克也が愛用していたと言われる、レアカード中のレアカード…!

「行け!真紅眼の黒竜!ジャスティス・ブリンガーに攻撃!《ダーク・メガ・フレア》!」

レッドアイズから放たれる火球が、ジャスティス・ブリンガーを焼き尽くす。

遊矢LP4000→3700

「ぐッ!」

炎がちょっと足に当たった…!

「私はターンを終了する。」

「俺のターン、ドロー!」

レアカードとはいえ、ただのモンスターである以上は倒せる!

「俺は、《マッシブ・ウォリアー》を召喚!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

「攻撃表示だと?」

「マッシブ・ウォリアーも、レスキュー・ウォリアーも戦闘ダメージを0にする能力を持つ。攻撃表示でも関係ないね。カードを一枚伏せて、ターンエンド。」

「私のターン。ドロー!」

さあ、どう来る?

「仮面竜を攻撃表示に変更し、バトル!真紅眼の黒竜で、マッシブ・ウォリアーに攻撃!ダーク・メガ・フレア!」

狙い通りだ!

「リバースカード、オープン!《革命-トリック・バトル-》!」

しかし、発動しても何も起こらない。

が。

マッシブ・ウォリアーがレッドアイズの火球を弾き返し、火球がレッドアイズに直撃。

レッドアイズは、破壊されてしまった。

「馬鹿な…!何故、私のレッドアイズが…!?」

「こいつの効果さ。革命-トリック・バトル-。
こいつは、自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターと、 相手フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスターが戦闘を行う時、攻撃力の低いモンスターは戦闘では破壊されず、攻撃力の高いモンスターが戦闘によって破壊されるようになる!」

まさしく、トリック・バトル。

「ぬう…ならば、仮面竜でレスキュー・ウォリアーに攻撃!」

「革命-トリック・バトル-の効果により、レスキュー・ウォリアーは戦闘破壊されるが、ダメージ計算はそのままだぜ?」

つまり、レスキュー・ウォリアーと仮面竜の攻撃力の差分ダメージだ。

ダークネスLP4000→3800

「くっ…ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

いい感じに翻弄されてくれたな。


「俺は、《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

「そして通常魔法、《ブラック・コア》を発動!手札を一枚捨てることで、仮面竜を除外する!」

これでリクルートは無い!

「マッシブ・ウォリアーで、ダークネスにダイレクトアタック!」

「ぐうッ!」

ダークネスLP3800→3200

「続いて、マックス・ウォリアーでダイレクトアタック!《スイフト・ラッシュ》!」

「ぐああっ!」

ダークネスLP3200→1400

よし、このまま押し切る!

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

「私のターン。ドロー!
…《天使の施し》を発動!三枚引き、二枚捨てる。」

ここでドローカードを引くか!

「速攻魔法、《サイクロン》を発動!革命-トリック・バトル-を破壊する!」

竜巻が、俺のカードを吹き飛ばす。

…五七五になったな。

「通常魔法、《思い出のブランコ》を発動!墓地の通常モンスターを、エンドフェイズまで特殊召喚する!対象は当然、真紅眼の黒竜!」

真紅眼の黒竜
ATK2400
DEF2000

また来たか…

「フッ…通常魔法、《黒炎弾》を発動!このターン、選択したレッドアイズの攻撃を封印することで、相手プレイヤーに2400のダメージを与える!」

「なんだと!?」

レッドアイズの火球が、俺に直撃する。

「ぐああああああッ!」

遊矢LP3700→1300

まずい…意識が…

闇のデュエルでは、意識を失っても負け。

…そんなことは分かっているが…

倒れそうになった時、偶然明日香の顔が見えた。

球状の空間に閉じこめられて、泣きそうに-

「痛いな…」

「ほう…黒炎弾に当たってまだ意識があるか…ならば、私の切り札を出そう。」

「切り札?」

レッドアイズじゃないのか…?


「手札のこのカードは、フィールドの真紅眼の黒竜をリリースした場合のみ、特殊召喚出来る!出でよ!《真紅眼の闇竜》!」

真紅眼の闇竜
ATK2400
DEF2000

レッドアイズ…ダークネス、ドラゴン。

これがダークネスの切り札か。

「真紅眼の闇竜は、墓地に存在するドラゴン族×300ポイントアップする。」

デュエルの序盤、リクルートモンスターを使いまくっていたのはこの効果の為か!

「墓地にいるドラゴン族モンスターの数は…七体だ。よって攻撃力は、2100ポイントアップする!」

真紅眼の闇竜
ATK2400→4500

攻撃力…4500!?

「まだ私のメインフェイズは終わってはいない。通常魔法、《死者蘇生》を発動。真紅眼の黒竜を特殊召喚する。」

真紅眼の黒竜
ATK2400
DEF2000

「そしてリバースカード、発動!《バーストブレス》!自分フィールド場のドラゴン族モンスターを墓地に送り、その攻撃力以下の守備力を持つ相手モンスターを全て破壊する!」

真紅眼の黒竜の攻撃力は2400…そんな守備力の奴がいるか!

マッシブ・ウォリアーとマックス・ウォリアーがやられて、俺を守るモンスターはいない。

「真紅眼の闇竜で、黒崎遊矢にダイレクトアタック!《ダークネス・ギガ・フレイム》!」

「リバースカード、オープン!《ガード・ブロック》!戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」

「ちっ…エンドフェイズ時、墓地に存在する《真紅眼の飛竜》の効果を発動!自分が通常召喚をしていないターンのエンドフェイズ、このカードを除外することで、墓地に存在する真紅眼の黒竜を特殊召喚出来る!現れろ!レッドアイズ!」

真紅眼の黒竜
ATK2400
DEF2000

真紅眼の闇竜
ATK4500→3900

墓地からドラゴン族が減り、攻撃力は下がるが、まだ強い。

「私はターンエンドだ。」

「俺のターン、ドロー!」

…状況を打開するカードが無い…

…どうすれば…?

「…ターンエンドだ。」

「私のターン、ドロー!」

ダークネスの手札は0だった。

…何を引く…?

「貴様のフィールドには、リバースカードが一枚のみ…速攻魔法、《サイクロン》!」

「チェーンしてトラップ発動!《トゥルース・リインフォース》!自分のバトルフェイズをスキップすることで、デッキからレベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚出来る!デッキから守備表示で出でよ、マイフェイバリットカード、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「フリーチェーンカードだったか…まあいい。バトルだ。真紅眼の黒竜で、スピード・ウォリアーに攻撃!ダーク・メガ・フレア!」

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外することで、スピード・ウォリアーはこの戦闘では破壊されない!」

ブラック・コアの時に送ったカードだ。

シールド・ウォリアーが、持っている盾でダーク・メガ・フレアを止めて消える。

「しぶといな…真紅眼の闇竜で、スピード・ウォリアーを攻撃!ダークネス・ギガ・フレイム!」

今度は防ぐ手段が無く、スピード・ウォリアーは破壊されてしまう。

「これで私はターンエンド…貴様のラストターンだ。観念して、タナトスの声を聞くがいい…」

タナトスってなんだよ。

このドローに…

「俺のターン…」

このドローで逆転の手を引かなければ負ける。

自分の魂がカードに封印され、もしかしたら明日香も。

頼むぜ、俺のデッキ…

「…ドロー!!」

引いたカードは…

エフェクト・ヴェーラー

…逆転の手を、引けなかった…

エフェクト・ヴェーラーを出しても、ただの壁になるだけだ。

…いや、待て。

俺はついさっき、何を聞いたんだ?

「通常魔法、《死者蘇生》を発動!墓地から、スピード・ウォリアーを復活させる!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「速攻魔法、《地獄の暴走召喚》!デッキから更に二体、スピード・ウォリアーを特殊召喚する!久々に三体一気に現れろ!スピード・ウォリアー!」


『『『トアアアッ!』』』

「地獄の暴走召喚の効果で、私は真紅眼の黒竜の2枚目を特殊召喚!」

真紅眼の黒竜
ATK2400
DEF2000

「最後に、エフェクト・ヴェーラーを召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

「エフェクト・ヴェーラーを召喚するだと!?さっきから何を考えている!?」

やべ、ちょっと意識が朦朧としてきたな。

さあ行くぜ。

世界初の-
《シンクロ召喚》

「レベル2のスピード・ウォリアー三体と、レベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング!」

エフェクト・ヴェーラーが光の帯になり、その中にスピード・ウォリアーが入っていく。

「なんだ?何が起きていると言うのだ!?」

すぐに分かるさ。

「集いし願いが新たに輝く星となる-

これが、
シンクロ召喚。


-光差す道となれ!」

マイフェイバリットカードと、ラッキーカードが一つになって現れたのは、機械の龍!

「シンクロ召喚!現れろ!《パワーツール・ドラゴン!》」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

「何だ…このモンスターは…?」

「悪いが、疑問に答えてやる暇は無い…パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動!デッキから三枚の装備魔法を選び、その中から一枚、相手にランダムに選ばせ、選んだカードを手札に加え、そのカード以外をデッキに戻す!俺が選択するのは、《魔界の足枷》《デーモンの斧》《疫病ウイルス・ブラックダスト》の三枚!パワー・サーチ!」


「くっ…一番左のカードだ!」

ダークネスはまだ混乱している様子。

ま、無理もないがね。

「装備魔法、《魔界の足枷》を発動!真紅眼の闇竜に装備させ、装備したモンスターの攻撃力・守備力は、100で固定される!」

真紅眼の闇竜
ATK3900→100

「なっ…100だと…?」


「これで終わりだ!ダークネス!パワー・ツール・ドラゴンで、真紅眼の闇竜に攻撃!《クラフティ・ブレイク!》」

「うおおおおおお!!っ」

ダークネスLP1400→0

ダークネスの胸ポケットのカード、《魂の牢獄》がダークネスの身体を包み込む。

そして、俺と明日香、仮面が外れたダークネスは、火山の近くに座っていた。

…相変わらず…良く分からないな…闇のデュエルってのは…

「明日香…無事か…?」

「あなたの方が心配よ!大丈夫なの!?」

明日香は、目に涙を浮かべながら問い詰めて来る。

あ…泣かせちゃったか…

「おーい!遊矢!明日香くん!」

三沢の声だ。

来てくれたのだろうか。

三沢が来たなら、もう安心だろう。

俺は、意識を手放した。

 
 

 
後書き
今回はちょっと事情があり、カード効果の確認が出来ずに書き上げたので、間違ってるかもしれません。

感想・アドバイス待ってます! 

 

-吸血鬼の貴婦人-前編-

 
前書き
テスト、終了。

色々と、終了… 

 
遊矢side


保健室で起きるのは、二度目だ。

タイタンとの闇のデュエルで、闇のデュエルがどんなものか分かっていたつもりだったが…甘かったな。

特に、黒炎弾が痛かった。

今度は真夜中なようで、光が差し込まず、辺り一面真っ暗闇である。

それでも保健室と分かるのは、そろそろ一年になるこのデュエルアカデミアの生活と、…近くで心地良さそうに眠る、彼女の寝息からだ。

「明日香…」

親友、天上院明日香は俺の布団の近くでうたた寝をしていた。

看病でもしてくれたのだろうか?

もしそうなら、嬉しい限りである。

「風邪引くっての…」

隣の使っていないベッドからかけ布団を持って来て、明日香にかける。

流石に、自分のかけ布団をかけることは無い。

相変わらず心地良さそうな寝息を聞き、デッキから一枚のカードを取り出した。

《パワー・ツール・ドラゴン》

ダークネスとのデュエル、こいつがいなくては負けていた。

感謝、だな。



このカードにも、このカードをくれた奴にも。

結局、誰だか分からないが。

パワー・ツール・ドラゴンをデッキにしまい込んで、このまま寝るのもいかがなものかと思った。

学園内をブラブラ散歩でもするか…

そう思った時、横の方で人が動き出す気配。

「う、うんん…」

明日香だ。

まだ、時刻は5時頃だから、起こしてしまったのだろうか。

「おはよう、明日香。」

「…ゆう、や…?」

寝ぼけてるな。

いつも、気丈に振る舞っている明日香にしては、なかなかレアな光景だ。

記憶に刻み込んでおくことにしよう。

「遊矢!」

いきなり覚醒したな。

「もう起きて大丈夫なの!?」

明日香が鬼気迫る表情で問い詰めてくる。

…悪いが、若干怖い。

「ああ。闇のデュエルも二回目だからな、もう大丈夫。」

「…良かった…」

鬼気迫る表情から、安心した表情になる明日香の目に涙が浮かぶ。

「頼むから泣かないでくれよ。」

「だって…」

泣かれたら困る。

慌てて明日香の言葉に自分の言葉を被せる。

「お前が人質になったかは関係なく、俺は闇のデュエルをやっていたさ。だから、お前が泣く必要は無い。」

「…それだけじゃ無いの。あなたがデュエルしたダークネスなんだけど…」

ダークネスなんだけど?

「…私の、兄なの。」

「兄?…って、行方不明っていう…?」

俺の質問に、明日香がコクリと頷く。

明日香の兄。

話だけしか聞いたことが無いが、名前は天上院吹雪。

亮に匹敵するほどのデュエルの腕前であり、二年前…つまり、亮が一年生の時だ…に行方不明となったらしい。

「じゃ、その兄さんは…」

ダークネスは、俺に負けた後に、カードの中に封印された。

つまり、俺に封印されたのだ。

「兄さんは、そこよ。」

「え?」

明日香が指を指した先に、茶髪の生徒が死んだように眠っていた。

「私には良く分からないのだけれど…黒い仮面が、兄さんを操っていたらしいの。」

確かにダークネスは、黒い仮面を付けていた。

「だから、カードに封印されたのは仮面の方で、兄さんは闇のデュエルの影響で倒れているみたい。」

「はは…良かった。明日香の兄さんを封印していなくて…」


「兄さんを帰ってこさせてくれて…ありがとう。遊矢。」

「ただ、闇のデュエルで勝っただけだよ。俺は関係無い。」

明日香の笑顔を直視出来ず、顔を背けながら答えた。

「そういえば遊矢。兄さんとデュエルした時に出した、あの機械の竜って何なの?」

「ああ、そういえば、まだ言ってなかったな。」

先日、シンクロモンスターについての説明を明日香たちにしていなかった。

「あれは、デュエルモンスターズでの新たな召喚方法。シンクロ召喚だ。」

「…シンクロ、召喚?」

まあ、言っても分からないよな。

「詳しいことは、後でみんなが来た時に話すよ。」

それから、明日香と世間話をしていると、セブンスターズの関係者…三沢、亮、万丈目、十代と翔と隼人…が来た。

先日の闇のデュエルに関しては、明日香に聞いていたらしく、俺の回復を喜んでくれた後、(約一名、悪態をついたサンダーがいたが)俺が使った、シンクロモンスターの話になった。

「なるほど、《融合》の魔法カードが要らない代わりに、フィールドにモンスターとチューナーを出す必要があるモンスターか。」

「流石は三沢。聞いただけで良く説明出来るな。」

「それより、そのシンクロモンスターって奴を見せてくれよ!」

十代が詰め寄ってくる。

…お前は…

「これがそのシンクロモンスターの一体、《パワー・ツール・ドラゴン》だ。」

エクストラデッキからパワー・ツール・ドラゴンを取り出す。

「格好良いッス!」

機械族つながりか、翔が一番早く反応した。

…ように見えたが、その後ろに翔の兄…亮が食い入るようにパワー・ツール・ドラゴンを見ている。

確かに機械の竜(サイバー・ドラゴン)だが、なんだろう、何か思うところでもあるのか?


「それで遊矢。シンクロモンスターとやらは、いつ頃発売されるんだ?」

「お前ならそう言うと思ってたよ、万丈目。「さんだ!」」

もう、俺は意地でも呼び捨てを続けることにしていた。

…まあ、元々、万丈目をさん付けする人物などいないのだが。

「俺も、ペガサス会長とそんな話をした訳じゃないからな…分からん。」

「チィッ…貴様が持っているのに、俺が使えないのは我慢ならん!」

「…随分、子供っぽい理由なんだな…」

良く言った隼人。

「みんな。そろそろ授業が始まる時間だ。」

三沢の呼びかけに、みんなが「また来る」との声を残して去って行った。

…明日香を除いて。

「おい、明日香。授業行かなくていいのか?」

「私は、今日から保健室で遊矢と兄さんの看病を担当するのよ。」

明日香が、看病だと…?

「…お前、看病なんて出来るのか…?」

「で、出来るわよ!」

言うや否や、火傷の薬や包帯をとってくる明日香。

「明日香?」

「あなた、兄さんのレッドアイズの攻撃で火傷してるでしょ?だからよ。」

そう言って、いそいそと火傷薬を手に取る明日香。

すまないが…

「鮎川先生を呼んできて欲しい。」

「…私じゃ、ダメなの?」

グハッ!

唇を尖らせる明日香に、とてつもない罪悪感が俺を襲う。

だが。

「お前が持っているのは消毒液だ。」

火傷薬と消毒液を間違える奴に、看病をして欲しく無いのも事実だった。

「え?…ご、ごめんなさい…今、取り替えてくるわね。」


顔を赤くしながら、今度はキチンと火傷薬を持ってくる。

「それじゃ、足出して。火傷薬、塗ってあげるわ。」

「それぐらい、自分でやるさ。火傷薬貸してくれ。」

「駄目よ!ケガ人なんだから!」

明日香は、火傷薬を絶対に渡してくれなさそうだった。

確かに、心配してくれるのはありがたいが…

「これぐらいのケガ、なんともないって。」


「いいから!」

決して退こうとしない明日香。

何がお前をそんなに駆り立てるんだ?

一進一退の攻防戦…もとい、火傷薬の奪い合いをしていた時、保健室のドアが開いた。

「あら…ごめんなさい明日香さん。お邪魔しちゃったみたいね。」

入って来たのは、オベリスク・ブルー女子寮長にして保健室の養護教諭、鮎川先生だった。

「お邪魔…?」

「そ、そんなことないです鮎川先生!」

お邪魔って何だよ。

むしろ俺は助かったぞ。

「それより遊矢くん。あなた宛てに、大量のカードが届いているのだけれど…」

そう言って鮎川先生が取り出したのは、ぎっしりと詰まったカードボックス。

もしかして…ペガサス会長がもう届けてくれたのか?

「とりあえず渡しておくわね。」

「どうもありがとうございます。」

鮎川先生からカードボックスを渡してもらい、開けてみると…


-中には、大量のカードが入っていた。

「すごい数ね…シンクロモンスター関係?」

「そうみたいだな…とりあえず、三枚ずつ送ったってところか。」

数枚手にとってみると、どれも戦士族か機械族。

デッキは【機械戦士】のまま、という約束も守ってくれたようだ。

「よし、明日香。新しいデッキ作り、手伝ってくれよ。」

「…でも、あなたケガして…」

まったく。

「心配してくれるのはありがたいが、俺は大丈夫だよ。お前も、新しいカードには興味あるだろ?」

興味はあるが、ケガを放ってはおけないって顔をする明日香。

分かりやすいな、おい。

「良いんじゃない、明日香さん。」

「鮎川先生…」

明日香に助け舟を出したのは、鮎川先生だ。

「遊矢くんのケガはたいしたことはないし、吹雪くんの面倒は私が見るわ。」

「…分かりました。兄さんをよろしくお願いします。」

結局、明日香の方が折れて、一緒にデッキ作りをすることとなった。

「シンクロモンスターも、ほとんどみんな、《ウォリアー》って名前なのね。」

「俺がそう頼んだんだよ。【機械戦士】のままが良いからな。」

元々のデッキにシンクロのギミックを入れることになり、意外と大幅な改造が必要となった。

ちょっと装備魔法を減らさないとな…

「お疲れ様、二人とも。」

鮎川先生が、お茶を持ってきてくれた。

「あ、どうも。」

「良いわよ、これぐらい。…そういえば。」

鮎川先生が、何かを思い出したかのようなポーズをとる。

「今、デュエルアカデミアで妙な噂が流れてるのよ。あなたたち、何か知ってる?」

「噂?」

あいにく、噂には疎いほうだ。


「確か…湖に吸血鬼が現れたって話だったかしら?」

「吸血鬼?」

明日香の言葉に、吸血鬼がデュエルしているところをイメージする。

…シュールだ…

「噂の出所は分からないんだけど…とりあえず、気をつけてね。」

それじゃ、と、鮎川先生は吹雪さんの看病へ戻っていく。

「吸血鬼、ねぇ…」

心当たりは一つ。

「遊矢も、そう思う?」

「ああ。十中八九、セブンスターズだろうな。」

なんたって、闇のデュエリストだ。

吸血鬼がいたところで、何もおかしくない気がする。

「今回は、誰が相手をするのかしら。」

「ダークネスの時は、相手が勝手に選んだな…ま、十代あたりじゃないか?」

自分から率先してやりそうだしな。

「じゃ、デッキ作り再開だ。」

俺と明日香は、授業が公欠になっているのを良いことに、夕方頃までずっとデッキ作りに没頭していた。

そして。

「よし、できた!」

明日香の協力のおかげで、新たな力を得た、【機械戦士】が完成した。


まさか、1日がかりになるとは思っていなかったが…

「ありがとうな明日香。デッキ作り、手伝ってくれて。」

「これぐらい、何でも無いわよ。」

明日香はすました顔でそういうものの、それでは俺の気がすまない。

「明日香。お礼に、こいつを受け取って欲しい。」

俺が渡したのは、とあるチューナーモンスターと、とあるシンクロモンスターだ。

「だ、ダメよ!これは遊矢の機械戦士だし…」

「こいつは、機械戦士ってよりはサイバー・ガールだと思うぜ。明日香なら、扱いこなせると思うんだが…」

一癖も二癖もある、サイバー・ガールたちを扱っている明日香の力は本物だ。

「それに、お前もシンクロモンスター、使いたいだろ?」

「…もらって、いいの?」

「ああ。」

俺なりの感謝の気持ちだ。

受け取ってもらって良かった。

「遊矢…」

明日香が、何かを決心したような瞳で見つめてくる。

「私、遊矢のこと…」

明日香が何事か言う前に、首に掛かっている七星門の鍵が、動いた。

「何だ!?」

明日香の方の七星門の鍵も動いているのか、明日香も慌てている。

「明日香、なんでだか知ってるか?」

「ええと…昨日、三沢くんが、
『七星門の鍵が動いて、君たちが闇のデュエルが行っている場所が分かった』
って言ってたわ。」

なるほど、三沢たちが火山にいた理由はそういうことか。

そして、頭の中にイメージが浮かぶ…これは、湖?

「明日香!行くぞ!」

「ええ!」

湖の吸血鬼。

保健室から湖は遠いが、出来るだけ急いで走った。


湖に着いた時には、もうデュエルは終盤を迎えていた。

「三沢!」

デュエルを見学している三沢に声をかける。

「遊矢!?ケガは大丈夫なのか!?」

「大丈夫だ。それより、説明頼む。」

俺を見て、三沢は大丈夫だと思ったようで、説明を始めてくれる。

「相手はセブンスターズの一人、吸血鬼のカミューラだ。」

吸血鬼。
噂は本当だったのか。

「クロノス教諭が率先して相手になり、苦戦するも相手を追い詰めているところだ。」

デュエルを見てみると、

クロノス教諭と、妙齢の美しい女性…カミューラというらしい…が、デュエルをしていた。

クロノス教諭のフィールドには、クロノス教諭のエースカードである、《古代の機械巨人》。
ライフは2000ポイントだ。

対する闇のデュエリスト、カミューラは、フィールドにいるアンデッド族モンスターの攻撃力を上げる、《ヴァンパイアバッツ》のみ。

ライフは1000。

圧倒的にクロノス教諭の方が有利だった。

「相変わらず、クロノス教諭は強いわね…」

横で明日香が呟く。

同感だ。

俺は、クロノス教諭に勝てる気がしない。

「頑張れ!クロノス教諭!」

十代や翔が応援し、クロノス教諭がその応援を受け取る。

「とくと刻むと良いノーネ!実技最高責任者、クロノス・デ・メディチの名を!カードを一枚伏せ、ターンエンドなノーネ!」

「くっ…私のターン、ドロー!」

カミューラの手札は三枚。


「フッ…私は、通常魔法、《生者の書-禁断の呪術-》を発動!《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚し、先生。あなたの墓地の、《古代の機械巨人》を除外するわ。」

ヴァンパイア・ロード
ATK2000→2200
DEF1500

カミューラは、三沢と同じくアンデッド族使い…どれだけ厄介かも、良く分かっている。

だが、アンデッド族モンスターは、基本的に攻撃力が低い。

古代の機械巨人を、どうやって突破するんだ…?

「そして、ヴァンパイア・ロードをリリースし、《ヴァンパイア・ジェネシス》を特殊召喚する!」

ヴァンパイア・ジェネシス
ATK3000→3200
DEF2100

おそらく、これがカミューラの切り札。

そうと分かる威圧感…!

「ヴァンパイア・バッツの効果で攻撃力が200ポイント上がる…攻撃力は、3200…!」

「まずいぞ、クロノスの古代の機械巨人の攻撃力を超えやがった!」

悔しいが、万丈目の言う通りだ。

どれだけ優勢でも、古代の機械巨人がやられては…

相手のカミューラも、分かっているのだろう。

口元をニヤリと笑わせる。

「行くわよ先生!ヴァンパイア・ジェネシスで、古代の機械巨人に攻撃!《ヘルヴィシャス・ブラッド!》」

ヴァンパイア・ジェネシスの攻撃が、クロノス教諭に向かっていく…

「リバースカード、オープンなノーネ!《次元幽閉》!攻撃モンスターを、除外するノーネ!」

ヴァンパイア・ジェネシスの進路上に、次元の穴が現れ、ヴァンパイア・ジェネシスを飲み込んでいく。

「なぁっ!?」

「フン!生徒ならともかく、道場破り相手に、手加減する気はないノーネ!」

まだ道場破りって言ってたんですか、クロノス教諭。

「道場破り…?我々は、闇のデュエリストよ?」

「いいや、このクロノス・デ・メディチ、断じて闇のデュエルなど認めるわけにはいかないノーネ!何故なら、デュエルとは本来、青少年に希望と光を与えるもの!恐怖と闇をもたらすものではないノーネ!」

「クロノス教諭…」

だから、闇のデュエルなど無いと否定してきたのだろう。

全て、生徒たちの為に。

「格好良いぞクロノス教諭ー!」

一番最初に叫んだのは、やはり十代。


「甘く見るんじゃないよ…人間ごときがッ!」

そう言ったカミューラの口は、口裂け女のように裂けていた。

吸血鬼。

人間にあらざる者。

「私は、魔法カード、《幻魔の扉》を発動!」

カミューラの背後に、巨大な扉が現れる。

「…なんなノーネ!?この扉ーは!」

クロノス教諭ですら知らないカード。

俺も知らない。

「幻魔の扉の第一の効果…相手モンスターを、全て破壊する!」

「なんデスート!?」

あの禁止カード、《サンダー・ボルト》と同じ効果、だと…

古代の機械巨人が扉に吸い込まれていき、クロノス教諭のフィールドはがら空きになる。

「しかーし、次の私のターンで決めれば良い話デスーノ!」

「ふふ…先生、幻魔の扉には、もう一つ効果があってよ?一度でもフィールドに出たモンスターを、あらゆる条件を無視して、私のフィールドに特殊召喚する!」

「ふざけんな!何だそのインチキカードは!」

サンダー・ボルト+死者蘇生の上位互換。

聞いただけでインチキカードだ。

「もちろん、このカードにはリスクもあるわ。」

「そりゃそうだろ!そんなカードにリスクが無いわけないじゃんか!」

十代の言う通りだ。

「このカードを使って敗北したプレイヤーの魂は、三幻魔に喰われる…それが条件よ。」

「実質ノーコストではないか!」

そんなカード、使った段階で決着する。

だから、万丈目が言う『実質ノーコスト』と言うのは間違いではない。

「さあて、今回の生け贄は誰かしら?」

カミューラがそう言った直後、幻魔の扉から触手が放たれる!

「避けろ明日香!」

少し離れていた、俺と明日香の方向に向かって来たため、明日香を突き飛ばす。

代わりに。

「ぐっ!」

謎の触手に捕まり、カミューラの下…いや、幻魔の扉の前に連れていかれる。

「あら、まあまあの顔ね。生け贄にするのはちょっともったいないわ。」

生け贄、だと…?

「さあ、彼の魂を生け贄に、古代の機械巨人を特殊召喚!」

古代の機械巨人
ATK3000
DEF3000

クロノス教諭のエースカードが、カミューラに従っている。

「敗者は、幻魔に魂を奪われる…つまり、私が負けたら生け贄にした彼の魂が三幻魔に奪われることになるわね。」

その為に、俺を生け贄にしたのか!

「私はこれでターンエンドよ。」

「クロノス教諭!攻撃してください!」

俺の決死の叫びも空しく、クロノス教諭はこちらに笑いかけるだけ。

「私のターン、ドロー。…ターンエンドなノーネ。」

クロノス教諭はドローしたカードも見ずに、ターンエンドの宣言をする。

「先生?この闇のデュエルの敗者への罰ゲーム、覚えてるかしら?」

「敗者は、人形に魂を封印される…覚悟は、出来てるノーネ。」

闇のデュエルに負けたダークネスは、カードに魂を封印された。

ならば、クロノス教諭が負ければ…

「私のターン、ドロー!」

カミューラのターンになる。

古代の機械巨人を止める手段は、もうクロノス教諭のデッキには存在しない。

「シニョール、そしてシニョーラたち。ワタシからの特別授業なノーネ。」

クロノス教諭はとつとつと語り出す。

「例え闇のデュエルに敗れたとしても、闇は光を凌駕できない。そう信じて決して心を折らぬ事。私と約束してくだサイ。」

闇は、光に適わない。

そう信じて、決して心を折らぬこと。

「最後の授業は終わりかしら?古代の機械巨人で、先生にダイレクトアタック!アルティメット・パウンド!」

古代の機械巨人の腕が、クロノス教諭に迫る。

「…光のデュエルを…!」

クロノスLP2000→0

「クロノス教諭ッ!」

クロノス教諭は、最後まで光のデュエルのことを言っていた。

糸を失った人形のように、クロノス教諭の身体が倒れていく。

手札のカードは…

古代の機械兵士が二枚と、ライトニング・ボルテックス。

…俺が捕まえられなければ、クロノス教諭は、勝っていた…

カミューラが言った罰ゲームの通り、クロノス教諭の身体は縮み、人形になっていた。

クロノス教諭が人形になったと同時に、俺に巻きついていた触手が消える。

「クロノス教諭ッ!」

急いで、人形になったクロノス教諭と、それを持つカミューラの方へ向かう。

「…やっぱり、不細工な人形ね。いらないわ。」

カミューラが、クロノス教諭の人形をどこかへ放り投げる。

「おっと!」

…良かった。

湖に落ちる前に、万丈目がキャッチしたようだ。

「それでは皆さん、また招待状を贈らせていただくわね…」

カミューラの姿が、霞のように消えていく。

…クロノス教諭…

「みんな。次は、俺があいつとデュエルする。」

出来るだけ怒りを抑えた一言に、反対する者はいなかった。

 
 

 
後書き
展開の都合上、クロノス教諭に幻魔の扉を使いました。

結構、テンプレですが。

さあ、カミューラ!

俺のテストの結果で得た苦しみと、二十五回のシンクロを使えなかった苦しみを味わうが良い!
 

 

-吸血鬼の貴婦人-後編-

 
前書き
俺の八つ当たりを受けろ!
カミューラ! 

 
遊矢side

クロノス教諭が人形にされた次の日の夕方。

今日は日曜日であったため、授業などに影響はなかったが、平日だったら大問題になっていただろうな。

クロノス教諭の代わりになる先生は、このデュエルアカデミアにはいない。

強いて言えば、佐藤先生がいるが…あの先生はあの先生で、また別の授業の担当がある。

つまり、このデュエルアカデミアにとって、クロノス教諭はいなくてはならない存在だったらしい。

流石は実技最高責任者。

クロノス教諭の為にも、このデュエルアカデミアの為にも、今回のデュエルに負けるわけにはいかない。

念のため、と言われて、後1日保健室に入院した…入院って言うのか?保健室でも…俺は、カミューラの待つ湖に向かうところだ。

デッキの準備はOK。

カミューラには、シンクロ召喚のテストをしてもらうとしよう。

「遊矢、準備出来た?」

保健室のドアが開き、明日香が顔を出す。

「ああ。万全だ。」

デッキの準備も、デュエルディスクの準備も。

「じゃ、行こうか。」

明日香と二人で保健室から出て行こうとした時。

「あ…すか…」

聞き逃す程のか細い声。

ここには、俺と明日香の他にいるのは、もう一人…

「兄さん!?」

明日香が、素早く吹雪さんの元へ駆け寄る。

「あ…すか…」

「私はここよ、兄さん…!」

明日香が必死に吹雪さんの手を握り締めて呼びかける。

「…カミューラと、戦うなら…僕の、ペンダントを、持っていくんだ…」

ダークネスの時から首にぶら下げていた、円形のペンダント。

「…きっと…役に立ってくれ、る…」

吹雪さんの近くの机にあるペンダントを取る。

「これですよね?」

「…それ、だ…」

俺の手の中にあるペンダントを見て、フッと笑うと、吹雪さんは気を失った。

「兄さん…」

「ありがとう、吹雪さん。」

言いながら、首にペンダントをかける。

…闇のデュエルに役立つ、か。

どんなものだろうな。

「明日香、お前は吹雪さんを見てるか?」

「…いいえ、兄さんは鮎川先生に任せて、クロノス教諭を助けに行きましょう。」

少し悩んだようだったが、明日香は一緒に行くことを選んだ。

「じゃ、行くぞ。」

「ええ。」

みんなは先に来ていると思う。

少し急いで、湖に向かった。


「遅いぞ黒崎遊矢!」

「何で俺だけなんだよ万丈目…」

「さんだ!」

万丈目といつものやりとりをして、全員揃っていることを確認する。

三沢、亮、万丈目、十代、翔、隼人。

それに、俺と明日香だ。

「遊矢。」

亮が一歩みんなから離れ、話しかけてくる。

「昨日は、お前がカミューラと戦うことを了承したが、幻魔の扉に対して、対策はあるのか?」

「当然だ。」

一応はある。

一枚は速攻のかかし。

二枚目はレスキュー・ウォリアーだ。

…この二枚が、幻魔の扉を放たれた時、手札にあればの話だが。



目の前にあるのは、湖にそびえ立った城。

俺たちは、吸血鬼、カミューラが待つ城のドアを開けた。

湖上の城は、持ち主のセンスというのか、おどろおどろしい雰囲気で満たされていた。

「へぇ…幽霊とか出そうだな、翔。」

「お、驚かせないで欲しいッス!」

「で、でも怖いんだな…」

十代、翔、隼人のオシリス・レッド三人組が相変わらずの会話をする。

…ん?

「何だ明日香。いつもより場所が奧だな、怖いのか?」

「なっ!そ、そんなわけないじゃない!」

「大丈夫だ天上院くん!君のことは、命を賭けてもこの俺、万丈目サンダーが守り抜こう!」

「緊張感が無いな…」

「全くだ…」

俺が明日香をからかい、万丈目が良く分からんことを口走り、比較的常識人である三沢と亮が呆れていた。

…あくまで、比較的だからな。

一階はダンスホールのようになっていた。

天井が吹き抜けになっており、二階が見える。

二階にいる人物は、当然。

「呑気なものね。今夜また、誰か人形になるというのに…」

吸血鬼、カミューラだ。

「さて、私と闇のデュエルをする者は誰かしら?」

「俺だ。」

カミューラの問いかけに、俺は一歩前に出る。

「生け贄の坊やじゃない…丁度良いわ。ダークネスの敵がとれる。二階に上がってらっしゃい。」

カミューラの言葉と共に、二階に繋がる階段が姿を現した。

俺たちはその階段を上がると、ダンスホールの物見台へと到着した。

反対側では、カミューラがデュエルディスクを構えている。

「お友達をそんなに連れてきて大丈夫?また生け贄にされちゃうわよ?」

「発動したら全力で逃げるってよ。」

来るな、と言ったのに。

「そう。大丈夫よ、お友達を生け贄にした後悔を感じる前に、あなたは人形になっているのだから…」

「俺は人間のままが良いな。」


二人のデュエルディスクが完了する。

「「デュエル!!」」


「俺の先攻!ドロー!」

珍しく俺が先攻になる。

「俺は、《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

シンクロ召喚がデッキに入っても、頼むぜアタッカー!

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ。」

「私のターン、ドロー!
…噂のシンクロ召喚ってのはしてこないのかしら?」

「さぁな。」

残念ながら1ターンでは出せないな。

「なら、出す前に決着をつけてあげるわ!私は通常魔法、《手札抹殺!》お互いのプレイヤーは、手札を全て捨てて、捨てた数だけドロー!」

手札抹殺か、ありがたい。

「墓地に捨てられた、《リミッター・ブレイク》!デッキ・手札・墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚できる!デッキから守備表示で出でよ!スピード・ウォリアー!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「ふん、そんなザコ…通常魔法、《生者の書-禁断の呪術-》を発動!あなたの墓地の、《シールド・ウォリアー》を除外し、《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚!」

ヴァンパイア・ロード
ATK2000
DEF1500

「なるほど…手札抹殺でヴァンパイア・ロードを墓地に送ると同時に、俺の墓地のカードを除外する…理にかなってるな…」

幻魔の扉頼みのデュエリストではないようだ。

クロノス教諭を追い詰めただけのことはある。

「まだまだよ!ヴァンパイア・ロードを除外することで、《ヴァンパイア・ジェネシス》を特殊召喚!」

ヴァンパイア・ジェネシス
ATK3000
DEF2100


いきなり来たか!

恐らくカミューラの切り札であろうカード、ヴァンパイア・ジェネシス。


「更に、《ヴァンパイア・バッツ》を守備表示で召喚!」

ヴァンパイア・バッツ
ATK800
DEF600

吸血鬼の眷属といえば蝙蝠。

その効果も、ヴァンパイアをサポートする効果だ。

「ヴァンパイア・バッツがいる限り、自分フィールド場のアンデット族モンスターの攻撃力は、200ポイントアップする!」

ヴァンパイア・ジェネシス
ATK3000→3200

ヴァンパイア・バッツ
ATK800→1000

マックス・ウォリアーの攻撃力は1800…ヴァンパイア・ジェネシスには全く及ばない。

「ヴァンパイア・ジェネシスで、マックス・ウォリアーに攻撃!《ヘルビシャス・ブラッド!》」

「リバースカード、オープン!《攻撃の無力化!》相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

ヴァンパイア・ジェネシスの攻撃が、渦に巻き込まれて消滅する。

「そんなもの、たかが時間稼ぎにしかならないわよ。ターンエンド。」

「俺のターン、ドロー!」

確かに時間稼ぎだが、充分稼いだ!

「俺はチューナーモンスター、《エフェクト・ヴェーラー》を召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

頼むぜ、ラッキーカード!

「チューナーモンスターってことは…」

「シンクロ召喚ってのを見せてくれよ遊矢!」

では、ギャラリーの声援に応えて…

「レベル4のマックス・ウォリアーと、レベル2のスピード・ウォリアーに、レベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング!」

合計レベルは7。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!現れろ!《セブン・ソード・ウォリアー!》」

セブン・ソード・ウォリアー
ATK2300
DEF1800

7つの剣を持つ機械戦士がフィールドに降り立つ。


「…なるほど、これがシンクロ召喚か…」

「スッゲェ!」

上から三沢に十代。

「シンクロ召喚をしたところで、攻撃力は2300!ヴァンパイア・ジェネシスには適わないわ!」

「そいつはどうかな。俺は装備魔法、《神剣-フェニックス・ブレード》を、セブン・ソード・ウォリアーに装備する!」

セブン・ソード・ウォリアー
ATK2300→2600

「それがどうしたって言うのよ…」

カミューラが呆れたような表情になる。

あんまり甘く見るなよ!

「セブン・ソード・ウォリアーの第一の効果!装備魔法を装備した時、相手プレイヤーに800ポイントのダメージを与える!《イクイップ・シュート!》」

「ぐっ!」

カミューラLP4000→3200


「まだまだだぜ!セブン・ソード・ウォリアーの第二の効果!セブン・ソード・ウォリアーに装備されている装備魔法を墓地に送ることで、相手のカードを一枚破壊する!」

「なんですって!?」

「俺が破壊するのは、当然ヴァンパイア・ジェネシス!」

セブン・ソード・ウォリアーが放った神剣-フェニックス・ブレードが、ヴァンパイア・ジェネシスを破壊する。


これであいつの切り札モンスターを倒した!

「バトル!セブン・ソード・ウォリアーで、ヴァンパイア・バッツに攻撃!《セブン・ソード・スラッシュ!》」

セブン・ソード・ウォリアーの攻撃が、ヴァンパイア・バッツを切り裂くが…

「ヴァンパイア・バッツの効果を発動!破壊される時、デッキから同名カードを墓地に送ることで、破壊を無効にする!」

厄介な効果だ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」


「私のターン、ドロー!」

カミューラのターン。

「《強欲な壺》を発動!二枚ドロー!」

カミューラが二枚ドローし、強欲な壺が砕ける。

「ヴァンパイア・ジェネシスを倒したからって、調子にのるんじゃないわよ!フィールド魔法、《不死の王国-ヘルヴァニア-》を発動!」

辺りが吸血鬼たちの国に包まれる。

「不死の王国-ヘルヴァニア-の効果を発動!このターンの通常召喚を封じて、手札からアンデット族モンスターを墓地に送ることで、フィールド場のモンスターカードを全て破壊する!」

「ブラックホール内蔵のフィールド魔法だと!?」

インチキ効果もいい加減にしやがれ!

「アンデット族モンスター、《不死のワーフルフ》を墓地に送り、フィールド場のモンスターを破壊する!」

「セブン・ソード・ウォリアー!」

セブン・ソード・ウォリアーがヘルヴァニアに引きずり込まれて行く。

「ヴァンパイア・バッツの効果で、破壊を無効にするわ。」

よって、がら空きになるのは俺のフィールドのみ。

「そして、《死者蘇生》を発動!手札抹殺で墓地に送った、2枚目のヴァンパイア・ロードを特殊召喚!」

ヴァンパイア・ロード
ATK2000→2200
DEF1500

まずいな。あれを放っておけば、またヴァンパイア・ジェネシスが出てくる。

破壊しようにも、効果破壊したら再び復活する効果を持つ。

…三沢とデュエルしている時も思うが、アンデット族モンスターは基本的に厄介なんだよな。

「行くわよ!ヴァンパイア・ロードで、あなたにダイレクトアタック!《暗黒の使徒!》」

「ぐぁぁぁッ!」

忘れてた…そういや、闇のデュエルだった…

遊矢LP4000→1800

「あら、もしかしたら闇のデュエルってことを忘れてたのかしら?」

その通りだよ畜生。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドよ。」

「俺のターン、ドロー!」

さあて…このターンで決めたいな!

「俺はリバースカード、《リミット・リバース》を発動!墓地から攻撃力1000以下のカードを、攻撃表示で特殊召喚する!出でよ!《チューニング・サポーター!》」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

「チューニング・サポーター?」

「俺の新しい機械戦士の強化パーツさ!更に通常魔法、《機械複製術》を発動!自分フィールド場の、攻撃力500以下の機械族モンスターと同名カードをデッキから特殊召喚する!増殖せよ!チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーターが三体に増える。

「そんなザコカードたちが集まったって、私のヴァンパイア・ロードには適わないわ!」

「勝とうと思えば勝てるさ。更にチューナーモンスター、《ニトロ・シンクロン》を通常召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

ペガサス会長が送ってきた、チューナーモンスターなどの機械戦士の強化パーツは、なんだかユニークな外見の奴が多い。

ま、ワンショット・ブースターもそうだが。

「チューニング・サポーターは、シンクロ素材となる時、レベルを2にすることが出来る!レベル2となったチューニング・サポーター二体と、レベル1のままのチューニング・サポーターに、ニトロ・シンクロンをチューニング!」

合計レベルは、再び7!

「集いし思いが、ここに新たな力となる!光差す道となれ!シンクロ召喚!」

現れるのは、悪魔のような機械戦士!

「燃え上がれ!《ニトロ・ウォリアー!》」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1800

「攻撃力2800ですって!?」

「続いて、ニトロ・シンクロンの効果を発動!ニトロと名の付くモンスターのシンクロ素材となった時、カードを一枚ドロー!」

ニトロ・ウォリアーの高い攻撃力と、一枚のドロー効果によってなかなか使いやすい。

まあ、素材を指定しているのは難点だが…

「そしてもう一つ。…いや、三つか。チューニング・サポーターがシンクロ素材に使われた時、カードを一枚ドロー出来る!素材にしたチューニング・サポーターは三体。よって三枚ドローする!」

0だった手札が、一気に四枚となる。

「一気に四枚ドローするなんて、幻魔の扉を馬鹿にできないじゃないの!?」

四枚ドローに驚いたのか、そんな反論をしてくるカミューラ。

「言っとくが、意外と難しいんだぜ?【機械戦士】を扱うのはさ。」

確かにシンクロ召喚は使っているが、元々は『最弱のテーマデッキ』と呼ばれる不本意なデッキ。


ペガサス会長が約束を守ってくれたおかげで、新しいカードも機械戦士だ。

もちろん、低レベル・低攻撃力・扱いにくさは継承している。

「…こいつ等をまともに使ったことも無いくせに、こいつ等を馬鹿にする奴は、俺は許さない。」

使ってから言え。

「くっ…」

反論出来なくなったのか、黙るカミューラ。

「デュエルを続行するぞ。装備魔法、《ジャンク・アタック》をニトロ・ウォリアーに装備する!」


攻撃力の変動は無い。

…今のところは。

「バトル!ニトロ・ウォリアーで、ヴァンパイア・ロードに攻撃!《ダイナマイト・ナックル!》」

ニトロ・ウォリアーがヴァンパイア・ロードに向かって行く。

「ニトロ・ウォリアーは、自分のターンに自分が魔法カードを使った時のみ、攻撃力が1000ポイントアップする!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800→3800

「攻撃力2800から、更に上がるって言うの!?」

カミューラが驚いている間にも、ニトロ・ウォリアーはヴァンパイア・ロードを殴り倒していた。

「キャァ!」

カミューラLP3200→1600

「まだだ!ジャンク・アタックの効果により、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを与える!」

ヴァンパイア・ロードの元々の攻撃力は2000。

よって、1000ポイントのダメージ!

「キィァァア…!」

徐々に、吸血鬼らしい金切り声になっていく。

だが、まだ終わりじゃない!

「ニトロ・ウォリアーの第二の効果を発動!相手モンスターを戦闘破壊した後、相手の表側守備表示モンスターを攻撃表示にして、続けて攻撃出来る!《ダイナマイト・インパクト!》」

カミューラのフィールドには、表側守備表示のヴァンパイア・バッツ。

ヴァンパイア・バッツが攻撃表示になり、ニトロ・ウォリアーとバトルする。

「こいつで終わりだ!カミューラ!」

「まだよ!リバースカード、《ガード・ブロック!》戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」

避けられたか…

「だが、墓地に送ったヴァンパイア・バッツの攻撃力は800。ジャンク・アタックの効果により、400ポイントのダメージを与える!」

「キィィッ!」

カミューラLP600→200

後もう少しだ。

「これで俺はターンエンド!」

「人間ごときが…誇り高きヴァンパイアに傷を付けるなんて…!ドロー!」


ドローしたカードを見たカミューラが、ニヤリと笑う。

「私は、通常魔法、《命削りの宝札》を発動!手札が五枚になるようドローし、五ターン後に全て捨てる!」

「命削りの宝札だと!?」

究極のレアカードであると同時に、究極のドローカード。

カードを四枚引いたカミューラの口が、裂ける。

まさか。

「みんな逃げろ!幻魔の扉だ!」

俺の声を聞き、みんなが一目散に階段を降りようとする。

が。

「逃がさないわ!」

階段を降りるためのドアが、閉まった。

「さあ…今回の生け贄は誰かしら?魔法発動!《幻魔の扉!》」

クロノス教諭を倒した扉が再び現れる。

「行きなさい!」

幻魔の扉から、昨日と同じように触手が放たれる。

…誰かが捕まってしまったら、俺はそいつを見捨ててカミューラを倒せるのか?

有り得ない。

今なら、クロノス教諭の気持ちも分かる気がする。

その時。

吹雪さんに貰ったペンダントが、光る。

「そのペンダントは…まさか、ダークネスの!?」

「ダークネスじゃない。明日香の兄さんの、吹雪さんの物だ!」

カミューラと戦うなら役に立ってくれる、と渡されたペンダントは光り輝き、その光に近づくにつれ、幻魔の扉の触手は力を失って行く。

「…クロノス教諭の言うとおりだったな。闇は光を凌駕できない。」

流石はクロノス教諭。

間違ったことは教えないんだな。

「ええい…私は、自分自身の魂を生け贄に捧げ、相手モンスターを全て破壊する!」

「ニトロ・ウォリアー!」

ニトロ・ウォリアーが幻魔の扉に吸い込まれる。

「あらゆる召喚条件を無視して、デュエル中に一度でも出たモンスターの中でもっとも攻撃力が高いモンスターを、私のフィールドに特殊召喚する!来なさい!ニトロ・ウォリアー!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1800


「どうかしら?自分自身の最強のモンスターが敵になる気分は?」

「そんなもん慣れてるよ。」

どこぞの自称・恋する乙女のおかげでな。

「最後まで減らず口を…!ニトロ・ウォリアーでダイレクトアタック!ダイナマイト・ナックル!」

敵となったニトロ・ウォリアーが迫る。

「手札から、《速攻のかかし》の効果を発動!このカードを墓地に送ることで、ダイレクトアタックを無効にして、バトルフェイズを終了させる!」

機械のかかしがニトロ・ウォリアーの攻撃を止める。

あ、殴られた。

「くっ…メインフェイズ2に、ニトロ・ウォリアーをリリースすることで、ヴァンパイア・ロードをアドバンス召喚!」

ヴァンパイア・ロード
ATK2000
DEF

わざわざ攻撃力を下げてまでのアドバンス召喚。

手札には、奴がある。

「ヴァンパイア・ロードを除外することで、ヴァンパイア・ジェネシスを特殊召喚!」

ヴァンパイア・ジェネシス
ATK3000
DEF2100

やっぱり来たな。

カミューラのエースカード!

「カードを一枚伏せ、ターンエンドよ!」

「俺のターン、ドロー!」

やっぱり、最後はお前だな!

「カードを一枚伏せ、速攻魔法、《ダブル・サイクロン!》俺のセットカードと、お前のセットカードを破壊する!」

久々に現れた二対の竜巻が、俺のセットカードとカミューラのリバースカードを消し飛ばす。

破壊されたカードは、トラップカード、《妖かしの紅月》だった。

危ない危ない。

手札のアンデッド族モンスターを墓地に送ることで、攻撃して来た相手モンスターの攻撃力分ライフを回復し、バトルフェイズを終了させる、これまた厄介なトラップカード。

「トラップカードを破壊したところで、ヴァンパイア・ジェネシスを倒さないとどうにもならないわよ?」

「確かにな。だが、俺の目的は別にある!破壊されたリミッター・ブレイクの効果を発動!デッキから現れろ!スピード・ウォリアー!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「更に速攻魔法、《地獄の暴走召喚!》自分フィールド場に攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚された時、デッキ・手札・墓地から同名カードを全て攻撃表示で特殊召喚する!現れろ!マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!!』

俺のフィールドに、三体のスピード・ウォリアーが集結する。

マックス・ウォリアーと同じように、たとえシンクロ召喚を手に入れても、スピード・ウォリアーが俺のマイフェイバリットだ!

「代わりに、お前は自分のフィールドのモンスターと同名のカードを、同じように特殊召喚出来る。」

「…ヴァンパイア・ジェネシスは、自身の効果以外では特殊召喚できない。」

知ってるさ。

ま、特殊召喚出来ても無意味だがな!

「チューナーモンスター、《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

「またチューナーモンスター!?」

「ああ、またシンクロ召喚だ!」

チェンジ・シンクロンが輪になる。

「レベル2のスピード・ウォリアー三体に、レベル1のチェンジ・シンクロンをチューニング!」

合計レベルは、三度7!

「集いし闇が現れし時、光の戦士が光来する!光差す道となれ!シンクロ召喚!現れろ!《ライトニング・ウォリアー!》」

最後にフィールドに現れるのは、光り輝く機械戦士!

ライトニング・ウォリアー
ATK2400
DEF1200

「何が出るかと思えば、たがが攻撃力2400じゃない。攻撃力3000のヴァンパイア・ジェネシスには適わないわ!」

「機械戦士には、全てのモンスターに可能性がある!チェンジ・シンクロンの効果を発動!シンクロ素材となった時、相手モンスターを守備表示にする!」

ヴァンパイア・ジェネシスが守備表示となる。

ヴァンパイア・ジェネシスの攻撃力は2100。

ライトニング・ウォリアーでも突破出来る!

「闇は光を凌駕できない。そう信じて決して心を折らぬ事。クロノス教諭の教えを、ライトニング・ウォリアーがお前にも教えてやるぜ!カミューラ!」

「何が光のデュエルよ!そんな物は、私には…!」

カミューラにはカミューラなりに、戦う理由があるのだろう。

それが何かは知らないが、カミューラにとって大切なことだというのは分かる。

だが、カミューラはクロノス教諭を人形にした。

自分に親しい人間がやられたのだ。

黙っていられるわけがない!

「ライトニング・ウォリアーで、ヴァンパイア・ジェネシスに攻撃!《ライトニング・パニッシャー!》」

手に光を溜め、ヴァンパイア・ジェネシスを蹴散らすライトニング・ウォリアー。

「くっ…だけど、まだよ!」

いや、これで終わりだ。

この瞬間、ライトニング・ウォリアーの効果が発動する!

「ライトニング・ウォリアーの効果を発動!戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手プレイヤーに相手の手札×300ポイントのダメージを与える!」

カミューラの手札は一枚。

そして、カミューラのライフは200ポイントだ。

「《ライトニング・レイ!》」

「キャァァァァァァァァァァァァァァッ!」

カミューラLP200→0

ライトニング・ウォリアーが放つ光線が、カミューラを貫き、デュエルは決着した。

「よっしゃああああッ!
楽しいデュエルだったぜ、カミューラ!」

前回は言えなかったが、どんなデュエルでも…たとえ闇のデュエルでも…デュエルはデュエルだ。

楽しまなくちゃな。

「私が…負けた…」

カミューラが茫然自失と言った様子で、膝立ちになる。

この闇のデュエルの罰ゲームは、負けた相手が人形になるというもの。

ん?待てよ。

「おい、カミューラ!人形になっちゃうんだったら、その前にクロノス教諭を元に戻せよ!」

俺の言葉に、首だけで反応を示す。

「私がいなくなったら元に戻るわ…私は、もう…」

カミューラが言葉を最後まで言い切る前に、カミューラの背後に幻魔の扉が出現する。

「闇のデュエルは終わった筈なのに…?」

後ろの方で明日香が疑問の声をあげるが、俺には分かった。

クロノス教諭とカミューラがデュエルした時、カミューラはこう言った。


-このカードを使って敗北したプレイヤーの魂は、三幻魔に喰われる。

あの時、万丈目は実質ノーコストと言ったが、カミューラが敗北した今。

カミューラは、幻魔に食われてしまう。

そう思った瞬間、カミューラが立つ物見台に飛んでいた。

「遊矢!?」

背後の仲間の驚きの声が聞こえるが、それに構ってる暇はない!

「ぐっ!」

なんとか、カミューラの元に着地する。

「…何してるのよ、あなたも幻魔に食べられるわよ。」

「お前、なんか目的があるんだろ?こんなところで死ぬなよ!」

カミューラを肩に担ぎ上げ、どこか出口を探す。


何で助けるかって?

さっきも言ったぞ。

自分に親しい人間がやられそうになっているんだ。

黙っていられるわけがないって!

「…あんた、何考えてるのよ。私は吸血鬼よ?」

「それがどうした!」

まだ出口を探し当てていないのに、幻魔の扉が開き始める。

まずいな、間に合わないかもしれない…!

「さっきのデュエル、楽しかったぜ。生きて帰ったら、またデュエルしよう!」

「…ふふ、あなた、馬鹿でしょ?」

失敬な。

これでも成績は優秀な方だぞ。

「…本当に、人間って馬鹿ね。」
カミューラがその一言を言うなり、俺をぶん投げた。

「カミューラ!?」

俺が投げられたと同時に、幻魔の扉が完全に開く。

「カミューラ!」

-ありがとう、ちょっとだけ、格好良かったわよ-

その言葉を最後に、カミューラは幻魔の扉に吸い込まれていった…

投げられた俺は、三沢と万丈目、亮にキャッチされる。

「…まったく、無茶するな、君は。」

「悪い悪い。ありがとな、三人とも。」

とりあえず、受け止めてくれた三人にお礼を言う。

そして、閉まっていた階段が開く。

帰れ、ということか。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
階段の扉が開くと同時に、城自体が揺れ始める。

「カミューラが消えたことで、城が崩れ始めているのか!?」

三沢の予想に反論する必要も無く、全員で階段を駆け降りる。

駆け降りる途中、万丈目の背中に、突如として一人の人物が現れる。

「な、なんなノーネ!」

「「クロノス教諭!」」

カミューラが消えたため、クロノス教諭の人形も元に戻ったのか。

しかし、喜んだる暇はない!

「シニョール万丈目~!一体何が起きてるノーネェ~!」

「ええい!ちょっと黙っててくださいクロノス教諭!」

クロノス教諭と万丈目の口論を聞きながら、なんとかカミューラの城を脱出する。

十代、三沢、明日香、亮、俺、翔、隼人、万丈目「さんだ!」…と、クロノス教諭。

全員、脱出したことを確認したのと同時に、カミューラの城が崩れ落ちる。

ごめんな、カミューラ。

カミューラに心の中で謝りながら、俺は仲間と共にカミューラの城を離れ、デュエルアカデミアへと帰っていった。
 
 

 
後書き
さて、ただの八つ当たり要因だった筈のカミューラが意外に善戦。

そして後半の妙な展開。

…どうしてこうなった?

感想・アドバイス待ってます!
 

 

-新たな力withサンダー-

 
前書き
うーん…書き方が上手くいかない…
 

 
side遊矢

カミューラとの闇のデュエルからしばらく経ったが、新しいセブンスターズの話はさっぱりと聞かなかった。

人形から戻ったクロノス教諭も、いつもの調子に戻った…と、言って良いものか。

なんと、あのクロノス教諭が翔に対してイヤミを言わなかったのである。

…それがどうした、と思う人もいるかも知れない。

だが、我々からすれば、まさに驚天動地の出来事…言い過ぎか…なのだ。

カミューラとのデュエルで、十代や翔の声援に応えていたし、俺と明日香が来る前に何か心変わりがあったのかも知れない。

まあ、そんな感じでいつもの日常だったのだが、またもや何か事件が起こりそうだった。

「デュエルアカデミアを買収?」

「ああ。どうやらそういう話があるらしい。」

授業が終わった放課後、少し残って課題を片付けていた俺は、訪ねてきた三沢からその話を聞いた。

「なんだそりゃ?」


「なんでも、万丈目の兄たちがデュエルアカデミアの買収を企んでいるらしい。」

万丈目の兄たち…あいつらか。

俺は万丈目との友好デュエルの時に、万丈目の横にいた男たちのことを思いだす。

…ごめん、思いだせなかった。

スーツ姿だったな、確か。

それはともかく、万丈目財閥は、ニュースや新聞に出るぐらいのやり手の金持ちだ。

しかし、このデュエルアカデミアのオーナーは世界一の会社、海馬コーポレーション。

いくら万丈目財閥でも、海馬コーポレーション相手に買収などしようものなら、破産するのがオチだろうに。

それこそ、万丈目財閥が世界一にならない限りは。

「万丈目財閥は、何時の間に世界一になったんだ?」

「いや、買収とは言ったがお金じゃない。デュエルだそうだ。」

「デュエル?」

首を傾げる俺に、言いたいことは分かる、というようにする三沢。

「オーナーの意向だそうだ。『デュエルアカデミアを買収したいなら、生徒に勝て』ということだ。」

理にかなってんたが、かなってないんだか…


「じゃあ、対戦相手はどうなるんだ?」

「万丈目財閥からは、万丈目一家の長男。こちらからは、万丈目だそうだ。」

万丈目VS万丈目兄。

「何だ、心配ないじゃないか。」

単身、ノース校のトップにまで登りつめて、このデュエルアカデミアの中でもかなり強い方に入る万丈目。

それが、素人であろう万丈目兄に負ける筈が無い。

「それが、そうもいかないんだ。」

万丈目が強いことを知っている三沢が首を振る。

「色々事情があったらしく、万丈目は攻撃力500以下のモンスターでデッキを組むことになったんだ。」

「攻撃力500以下!?」

【機械戦士】とて、シンクロ関係を除けば、攻撃力500以下はほとんどいない。

ましてや、万丈目のデッキ、【アームド・ドラゴン】に攻撃力500以下のモンスターなど入っていないだろう。

「デッキ作り、手伝うところなんだろうけどな…」

「ああ。遊矢が思っている通り、断られたよ。」

万丈目だからな…

あいつは、基本的に人の力を借りようとしない。

そういうところが、あの自信に繋がっているだろうから、一概にはダメなところとは言えないが…


「それで万丈目は、どうやってデッキを作るつもりなんだ?」

「悩んでいたが、大徳寺先生に、デュエルアカデミアに伝わる話を聞いたんだ。」

「話?」

都市伝説みたいな物か?

「『森の中の井戸に、昔捨てられた低攻撃力のモンスターがある』だ、そうだ。」

…俺たちに借りたくないからって、その井戸を探しに行ったのか?


「そんな怪しげな都市伝説に頼るぐらいなら、相談してくれりば良いのによ…」

ほとんど意地だな。

「そういうわけで、俺たちに出来るのは、万丈目を信じることだけなんだ。」

「いいや、まだ出来ることはある。」

まったく、放っておけない奴だよな。

俺と三沢は、思いついたことを実行する為に、まずは俺の部屋に向かうことにした。



そして翌日。


いつものデュエル場で、万丈目兄弟は向かい合っていた。

観客席には、俺たちを含む観客で賑やかだ。

俺、明日香、三沢の三人で見物している。

「逃げずに良く来たな、準!…そもそも、デッキはあるのか?」

万丈目兄が白々しく万丈目に問う。

…ややこしいな。

「デッキならある。それと兄さん。デュエル前の話では、攻撃力500以下のモンスターのみということだったが、俺のデッキに入っているモンスターは、全て攻撃力0だ!」

攻撃力0!?

「万丈目…自分でハンデ増やしてどうすんだよ…」

「…なんでも、井戸で拾ったカードが、全て攻撃力0だったらしい。」

攻撃力0。

すなわち、攻撃しても相手にダメージを与えられないということだ。

「そういえば遊矢。昨日、三沢くんと何をしたの?」

隣の明日香が聞いてくる。

「ああ。万丈目の部屋に、攻撃力0のカード置いてきたんだよ。面と向かって渡したら、絶対受け取らないからな。」

結構役に立つカードを置いてきた。

採用しているかどうかはわからないが。

「舐めおって…負けた時の言い訳にするなよ、準!」

「負けた時の言い訳など必要無い!」

お互いに、デュエルディスクの準備が完了する。

「「デュエル!!」」


「俺の先行!ドロー!」

万丈目のターンから、デュエルは始まった。

「さて、万丈目はどんなデッキだ…?」

【アームド・ドラゴン】ではない事は確実だが。

「俺は、《ミスティック・パイパー》を召喚!」

ミスティック・パイパー
ATK0
DEF0

現れたのは、笛を持つ機械戦士!

「あれって、遊矢のカードじゃない?」

「ああ。…まさか、使ってくれるとは。」

ドロー効果を持つものの、使いにくいモンスターだ。

「ミスティック・パイパーの効果を発動!このカードをリリースすることで、カードを一枚ドローする!」

それだけじゃない。

「更に、引いたカードがレベル1モンスターの場合、お互いに確認し、カードをもう一枚ドローする!俺が引いたのは、レベル1モンスター、《ミスティック・パイパー》だ!もう一枚ドロー!」

もう一枚のミスティック・パイパーを引いたか。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

カードを二枚伏せたものの、万丈目のフィールドにはモンスターがいない。

「いくらドローしたところで、所詮は攻撃力0!敵ではない!私のターン、ドロー!」

万丈目兄の方のデッキは…

「私は魔法カード、《融合》を発動!手札の《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》と、《神竜 ラグナロク》を融合!《竜魔神 キングドラグーン》を融合召喚!」

竜魔神 キングドラグーン
ATK2400
DEF1100

「竜魔神 キングドラグーン…万丈目長作のデッキは、【ドラゴン族】か!」

…長作って言うんだ。

ありがとう、三沢。

「竜魔神 キングドラグーンの効果を発動!手札からドラゴン族モンスターを特殊召喚する!現れろ!《ダイアモンド・ドラゴン!》」

ダイアモンド・ドラゴン
ATK2100
DEF2800


ダイヤモンドで出来たドラゴンが姿を現す。

「まさか、そのカードは…!」

「そうだ!あの時のデュエルで用意した、全てパラレルレアのカードで作ったデッキだ!」

あの時、というのは知らないが、…全部パラレルレアって。
どうりであんなに無駄にピカピカしてるのか。

「行け!竜魔神 キングドラグーン!準に…」

「リバースカード、オープン!《威嚇する咆哮》!このターン、相手は攻撃宣言が出来ない!」

竜魔神 キングドラグーンの攻撃宣言の前に発動したため、キングドラグーンは攻撃出来ない。

「チィッ…カードを一枚伏せ、ターン「待て!」何!?」

万丈目兄のターンエンドの宣言を、突然万丈目が止めた。

「兄さんのメインフェイズ2、俺はリバースカードを発動!《ウィジャ盤!》」

フィールドに、ウィジャ盤と『D』の文字が浮かび上がる。

「万丈目のデッキは、【ウィジャ盤】か…?」

なんとも扱いにくいデッキを使うな。

「ウィジャ盤は、相手のターンのエンドフェイズごとに、デッキ・手札から、《死のメッセージ》をフィールドに出し、五枚揃った瞬間、発動したプレイヤーの勝利となる!」

「何だと!?…ええい、発動前に倒してしまえば良いことだ!ターンエンド!」

「エンドフェイズ時に、《死のメッセージE》が出現する!」
『D』と『E』が現れる。

『DEATH』の完成まではまだ時間がかかるな。

「俺のターン、ドロー!」

万丈目のターンだ。

「俺は、再びミスティック・パイパーを召喚!」

ミスティック・パイパー
ATK0
DEF0

「効果を発動し、一枚ドロー!…引いたカードは、《薄幸の美少女!》よって、更にドロー!」

おお…万丈目、ミスティック・パイパーを使いこなしている…

考えてみれば当然だ。

万丈目のデッキは三つ。

一つ目は、元々使っていた地獄デッキ。

二つ目は、クロノス教諭から貰ったというVWXYZ。

三つ目は、ノース校に伝わる伝説のデッキ、アームド・ドラゴン。

コンセプトは基本的に力押しだが、意外と万丈目は、多種多様なカードを使えるデュエリストだ。

「更に俺は通常魔法、《一時休戦!》お互いにカードを一枚ドロー!」

なんか凄いカード引きまくってるな…

「ターンエンドだ!だが、俺の手札は七枚。よって、墓地に一枚捨てる。」

手札は六枚までだ。

「私のターン、ドロー!
プレイミスだな、準!フィールドががら空きだぞ!竜魔神 キングドラグーンの効果により、エメラルド・ドラゴンを特殊召喚!」

エメラルド・ドラゴン

ATK2400
DEF1400

また宝石ドラゴンか…

キラキラしすぎてむしろうざい…

「バトル!竜魔神 キングドラグーンで、準にダイレクトアタック!トワイライト・バーン!」

キングドラグーンの放つブレスが、万丈目を貫く。

ま、意味ないが。

「何!?」

キングドラグーンが放ったブレスに、全くダメージが無い万丈目が立っていた。

「一時休戦のもう一つの効果!次の俺のターンまで、全てのダメージを0にする!」

万丈目兄はデュエリストじゃない。

ただのコモンカードは覚えていないようだ。

「厄介な…!私はこれでターンエンドだ!」

「ターンエンドの瞬間!《死のメッセージA》がフィールドに現れる!」

残りは『T』と『H』。

万丈目のペースだ…!

「俺のターン、ドロー!
俺は魔法カード、《天使の施し》を発動!三枚引き、二枚捨てる!」

ウィジャ盤の進行と同時に、かなりの速度で手札交換をする万丈目。

「三枚目のミスティック・パイパーを召喚する!」

ミスティック・パイパー
ATK0
DEF0

「更に効果を発動!ミスティック・パイパーをリリースし、カードを一枚ドロー!…ドローしたカードは、《サクリファイス!》よって、カードを一枚ドロー!」

…毎ターン強欲な壺と同じ効果とか、どんな引きしてんだよ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ。…俺の手札は八枚。よって、二枚墓地に捨てる。」

万丈目のフィールドはがら空きのままだが、凄まじい勢いで手札交換と墓地肥やしが行われていく。

「ええい…私のターン、ドロー!」

いい加減、万丈目兄も焦ってきたな。

「フッ…速攻魔法、《サイクロン》を発動!私は、準のセットカードを破壊する!」

せっかくサイクロンを引いたのに、ウィジャ盤ではなくセットカードを破壊に行った。

セットカードが無くなれば、ドラゴン達の攻撃で万丈目のライフは尽きるため、あながちその選択は間違いじゃない。

が。

「兄さんのサイクロンにチェーンして、リバースカード、オープン!《和睦の使者!》このターン、戦闘ダメージは与えられない!」

フリーチェーンのカードじゃなかったらの話。

「くそっ!竜魔神 キングドラグーンの効果で、《アレキサンドライトドラゴン》を特殊召喚する!」

アレキサンドライトドラゴン
ATK2000
DEF100

また来たよキラキラ竜。


こうもたくさん見ると、パラレルレアがただのキラキラ光るカードに見えてくる…

「私はターンエンドだ。」

「ターンエンドの瞬間、《死のメッセージT》が出現する!」

残りは『H』のみ!

「俺のターン!ドロー!魔法カード、《死者蘇生》を発動!墓地からミスティック・パイパーを特殊召喚!」

ミスティック・パイパー
ATK0
DEF0

ミスティック・パイパー、四度目の登場。

…お疲れ様です。

「ミスティック・パイパーの効果を発動し、一枚ドロー!」

レベル1モンスターを引かなかったようだ。

「俺は、《薄幸の美少女》を守備表示で召喚!」

薄幸の美少女
ATK0
DEF100

薄幸の美少女…レイも良く使ってたな。

『薄幸』って響きからは程遠いが。

「更にカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!
《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

万丈目兄も負けじと二枚ドローする。

強欲な壺もパラレルレアか。

手が込んでるな。

ドローした瞬間、万丈目兄がニヤリと笑う。

「フッフッフッ…運命は私に味方したようだぞ、準!私は速攻魔法、《サイクロン》を発動!ウィジャ盤を破壊する!」

2枚目のサイクロン!?

しかも、今度はウィジャ盤狙い…!

「カウンタートラップを発動!《魔宮の賄賂!》相手の魔法・トラップを、相手に一枚ドローさせることで無効にして破壊する!」


カウンタートラップ!?

危うい賭けだ。

もし、万丈目兄がサイクロンを使わなかったら、ウィジャ盤が完成しなかったぞ。

「だが甘い!魔法カード《大嵐》を発動!フィールド場の魔法・トラップカードを全て破壊する!」

「何だと!?」

どんな引きしてやがる!

強欲な壺の時に引いてきたのだろうか。

サイクロンより遥かに強力な嵐が、万丈目のウィジャ盤と万丈目兄のリバースカードを全て破壊する。

ちなみに、万丈目兄のリバースカードはドラゴン族のサポートカード、《竜の逆鱗》だった。

「くっ…!」

「邪魔なウィジャ盤は破壊した!ダイヤモンド・ドラゴンで、雑魚モンスターに攻撃!《ダイヤモンド・ブレス!》」

ダイヤモンドで出来たキラキラブレスが、薄幸の美少女を蹴散らす。

「更に、竜魔神 キングドラグーンで、準にダイレクトアタック!トワイライト・バーン!」

しかし、なにもおきなかった。

「な、何故だ!?」

「薄幸の美少女が破壊されたターン、相手モンスターはやる気を無くし、バトルフェイズは終了する!」

やる気なんだ。

そう言われると、ドラゴン達にやる気が無いように見えなくもない。

「だが、ウィジャ盤が消えたお前には何も出来ないだろう、準!私のターンは終わりだ!」


万丈目兄の言う通りだ。

特殊勝利デッキは、普通はその特殊勝利意外勝利手段は無い。

…万丈目は、どうするか…?

「俺のターン、ドロー!
…ターンエンドだ!」

カードをチラリと見て、何もせずターンを終了する万丈目。

「遂に諦めたか、準!竜魔神 キングドラグーンで、準にダイレクトアタック!トワイライト・バーン!」

今度こそ、キングドラグーンのブレスが万丈目に迫る!

「手札から、《速攻のかかし》を発動!相手モンスターの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」


万丈目の手札から、くず鉄で作られたかかしが、キングドラグーンのブレスを防ぐ。

…焦げたな。

「いくらそんなカードで防ごうが、我がドラゴン達には勝てんぞ!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

確かに、ウィジャ盤が破壊された今、万丈目はどうするのか。

「遊矢。万丈目くんはどうすると思う?」

観客席は、すっかり万丈目のデュエルに魅せられていた。

次に万丈目が何をするのか?

明日香もその一人だろう。

「俺が渡したカードは、ミスティック・パイパーと、今使った速攻のかかしだけだ。…何をするかわからない。それと、万丈目のデッキが、本当に【ウィジャ盤】かどうかもわからない。」

「え!?」

【ウィジャ盤】意外の想像などしていなかったのだろう、明日香が驚きの声を出す。

「でも、万丈目くんはウィジャ盤を使って…」

「ウィジャ盤を使ってからと言って、【ウィジャ盤】だけとは限らない。何か、別の策があるのかもしれないな。」

明日香の疑問には、三沢が答えた。

今や観客席は、万丈目の一挙手一投足を見逃さないようにしていた。

「俺のターン、ドロー!
…兄さん!このターンで終わりだ!」

圧倒的に不利にも関わらず、万丈目は高々と宣言する。

「強がりはよすんだな、準!頼みのウィジャ盤も破壊され、お前に勝つ手段は残されてはいない!」

万丈目兄の正論を聞いても、万丈目は不敵な笑いを漏らす。

「それはどうかな、兄さん…こいつが、逆転に繋がるカードだ!魔法カード、《おジャマンダラ》を発動!」

おジャマンダラ!?

「ライフを1000払い、おジャマ三兄弟を墓地から特殊召喚する!」

万丈目LP4000→3000

残念ながら、俺はこのカードを知らなかった。

どんなモンスターが来るんだ…!?

そして、万丈目のフィールドに、三体のモンスターが現れる!


おジャマ・イエロー
ATK0
DEF1000

おジャマ・グリーン
ATK0
DEF1000

おジャマ・ブラック
ATK0
DEF1000

…なんだか形容しがたい物が、万丈目のフィールドに三体現れた。

なんだありゃ?

「ふざけているのか、準!何だそのカードは!」

万丈目兄が、怒り心頭といった様子で叫ぶ。

そりゃ怒るだろうさ、逆転に繋がるカードって言って、あいつらが出てきたら…


「こいつ等を馬鹿にすることは許さないぜ、兄さん!」


お、何か思い入れのあるカードなのか?

「確かにこいつ等は、攻撃力0で、見た目も性格も最低の雑魚モンスターだ!」

…おい、自分で言ってどうする。

自分は馬鹿にしていいのか?

「だが、俺はこいつ等に教えて貰ったことがある!」

何をだ?

『兄弟の絆をさ!!』

…!?

今、あいつら喋ったか!?
ソリッドビジョンにおいて、モンスターが雄叫びをあげることはある。

俺のフェイバリット、スピード・ウォリアーもそうだ。

だが、喋るモンスターなど、心当たりは一つしかない。

「精霊…」

カードの精霊。

一握りのカードにのみ存在し、精霊の存在を感じることが出来る人間も、また一握りだという。

万丈目のおジャマ達は、精霊なのか…?

「何か言った?遊矢。」

先程の独り言が少し聞こえたのだろう、明日香が不審そうにこちらを見る。

「いや、何でも無い…」

精霊のことなど、後で考えよう。

考え事をしている間に、万丈目が何かしようとしていた。

「兄さん、ウィジャ盤はただの囮!俺の本命はこいつだ!魔法カード|《おジャマ・デルタ・ハリケーン!》おジャマ三兄弟が自分フィールド場にいる時、相手フィールド場のカードを全て破壊する!」

「何だと!?」

おジャマ三兄弟が放った攻撃に、万丈目兄のドラゴン達が全滅する。

リバースカードは、《炸裂装甲》。

これで、万丈目兄のフィールドはがら空きだ。

「更に、魔法カード|《右手に盾を左手に剣を》を発動!このターン、フィールド場のモンスターの攻撃力・守備力を入れ替える!」

おジャマ・イエロー
ATK0→1000
DEF1000→0

おジャマ・グリーン
ATK0→1000
DEF1000→0

おジャマ・ブラック
ATK0→1000
DEF1000→0

合計攻撃力は、3000!

「行けぇ!くず共!おジャマ三兄弟で、兄さんにダイレクトアタック!」

おジャマ三兄弟が、思い思いの攻撃で万丈目兄を攻撃する。

「ぐぅぅぅっ!よくもやりおったな、準!」

万丈目長作LP4000→1000

屈辱的だろうなぁ…

「メインフェイズ2、俺は《速攻のかかし》を召喚!」

速攻のかかし
ATK0
DEF0

「速攻のかかし!?」

つい、声に出して驚いてしまった。

だが、速攻のかかしは、手札にあってこそ意味のあるカード。

何故フィールドに出す…?

「こいつで終わりだ!《サンダー・クラッシュ!》」

万丈目のフィールドに、魔法カードが表示されると、おジャマ三兄弟がトコトコ歩いて魔法カードを見に行った。

そんな、有り得ないことが起きているにもかかわらず、俺以外の観客は反応しない。

俺がおかしくなったのか、それとも…精霊が見えるようになったのか。
…いや、気のせいだろう。

「攻撃力0の役目は終わりだ!サンダー・クラッシュの効果により、俺のフィールド場のモンスターを全て破壊し、その数×300ポイントのダメージを与える!終わりだ!!」

「ぬおぉぉぉぉぉっ!」

万丈目長作LP1000→0

万丈目のフィールドの、速攻のかかしとおジャマ三兄弟の爆発により、デュエルは決着した。

勝者である万丈目は、敗者である兄に何も言わずに指を上げた。

「一!」

『十!』

「百!」

『千!』

「『万丈目サンダー!』」


…結局、いつものこれか。


万丈目が勝ったことにより、デュエルアカデミアの買収騒ぎは無くなった。

おジャマ三兄弟を上手く使っての勝利は、生徒たちの万丈目のイメージを大きく変え、かなり親しみやすくなったようだった。

…それから、精霊のことだが。

デュエル終了後に、万丈目の近くを見ても、精霊はいなかった。

…いや、見えなかっただけかも知れないが。

まあ、気のせいってことにしておこう…


余談だが、万丈目に貸した、ミスティック・パイパーと速攻のかかしだが、俺の部屋のドアに置いてあった。

盗まれたらどうすんだよ、と思いながら拾い上げると、カードの他に一枚の紙。

『なかなか使えるカードだから、今度からはこの俺様も使ってやろう。 サンダー。』

と、書いてある紙だ。

良く見てみると、三枚ずつ貸した筈の速攻のかかしが、一枚無い。

代わりに、新しいパックが二枚置いてあったが。


「トレードして欲しいなら、トレードして欲しいって言えよ…」

最後まで、万丈目は万丈目だった。
 
 

 
後書き
遊矢視点で他の人がデュエルするのって難しいですね…

これから遊矢以外の人のデュエルが始まると言うのに…

読みにくくありませんでした?

感想・アドバイス待ってます! 

 

-妖怪VSアマゾネス-

 
前書き
他の作品では、大体カットされるか、変態30%増しされる、三沢VSタニヤです。
 

 
遊矢side

…最近、デュエルアカデミアの生徒が減っている。

転校とか休学とか、そういうものではない。

本当に行方不明なのだ。

いまだに保健室で眠っているのだろう、吹雪さんのように。

吹雪さんは、明日香と鮎川先生による、毎日の献身的な介護にもかかわらず、まったく目覚める気配がなかった。

目覚めない吹雪さんと、行方不明者の噂を聞いた明日香の気持ちは…俺じゃ、言い表せないだろう。

いや、軽々しく言ってはいけない、と言うべきか。

それはともかく、生徒たちだけでなく、クロノス教諭まで消えてしまっていたため、今日の授業はカット。

クロノス教諭が人形になった時の不安は、やはり間違っていなかったようだ。

しかし、こちらには打つ手が無く、新たなセブンスターズの挑戦を待つしかなかった…


と、思うほど、我らがデュエルアカデミアの生徒たちは甘くなかった。

「おーい!」

「誰かいないかー!」

オベリスク・ブルーの女子生徒が…女子生徒はまったく行方不明になっていない…知り合いの男子生徒の鞄を森で見つけたということで、俺たちは森の中を探していた。

セブンスターズの仕業である可能性が高いので、来ているメンバーは、七星門の鍵を持つ者だけだが。

俺、三沢、明日香、万丈目、十代の五人だ。

亮は明日香に代わり、保健室で吹雪さんを看ている。

「ええい…さっぱりいないぞ…!」

「そうイラつくなよ、万丈目。」

「さんだ!」

十代と万丈目の、お決まりの挨拶を聞きながら、俺たちは森を歩いていた。

「ここまで探していないとは…どこか、一カ所にまとめられているようだな。」

三沢の考察だ。

だが、このデュエルアカデミアは、広いとはいえ所詮は島。

そんな、一カ所にまとめられる場所なんて…

…あった。

「何これ!?」

明日香の驚愕の叫びに、激しく同意したい俺がいた。

森を進んでいるとたどり着ける、広場のような場所に…古代の、闘技場のようなものが建っていた。

「…なんだこりゃ。」

少なくともこの場所に、元々はこんな物はなかった。

「すっげえな!とりあえず行って見ようぜ!」

目を輝かせた十代が、コロッセオに向かって走りだす。

「おい、待て十代!」

十代が走って行ってしまったため、残りの四人も追いかけようとしたところ、十代が戻ってきた。

…虎を引き連れて。

「虎ァァァァァァ!?」


より正確に描写すると、十代は虎から逃げてこっち来た。

「何故、虎がこんなところにいるんだ…?」

「それは確かに不思議だが、その前に逃げろ三沢!」

俺たち四人も、十代と同じように逃げだした。

「だ、大丈夫だ天上院くん!き、君のことはこの俺、万丈目サンダーが守り抜こう!」

万丈目が声を震わせながら叫ぶ。

…信用できない…

そんな時。

「パーズ!」

力強い女性の声が響きわたって、虎がその声がした方向に走っていく。

「助かった…」

「か、どうかはあいつ次第だろうな。」

パーズと呼ばれた虎の傍らに立つのは、このコロッセオに良く似合う、古代の戦士のような女性だった。

その背後には、クロノス教諭を始めとする、デュエルアカデミアの行方不明者たちがいた。

「行方不明者たち…ということは、奴が新たなセブンスターズか!?」

万丈目の言うとおりだろう。

しかし、こちらには人質が…

「はーい!皆さん、手伝ってくれてありがとう~!これ、お給料だからね~!」

…は?

セブンスターズの女性が、行方不明者たちにお給料を渡し、帰らせていた。

あ、クロノス教諭には渡さなかった。

そのまま、クロノス教諭は虎に追いかけられてどこかに消えていった…

「…なんなの?」

みんな同じ気持ちだ、明日香。

「大丈夫だ、安心しろ…彼らは、このコロッセオを作り上げる為に協力をして貰っただけだ。」

セブンスターズの女性が、こちらに歩み寄ってきた。


「私の名前はタニヤ。アマゾネスの末裔にして、セブンスターズの一員だ。」

「やっぱりセブンスターズか!?…って、アマゾネスって何だ?」

十代の一言に、その場にいる全員の気が抜けた。

…空気を読め。

「…簡単に言うと、女性だけの一族だ。」

「へぇ~。そんなんがあるのか。」

三沢の端的な返答に、十代は納得したようだった。

「気を取り直して…私が戦いを望むのは、男の中の男のみ!自らが男の中の男と思う者!名乗りを上げろ!」

「俺だ!」

「いや、俺だ!」

「俺様だ!」

「俺だ!!」

「…馬鹿。」

上から、三沢、俺、万丈目、十代、明日香だ。

男性陣は全員名乗りを上げ、明日香は馬鹿馬鹿しい、とばかりに首を振っていた。

「ふうむ…全員、顔つきはまあまあ…選ぶとすれば…」

タニヤが品定めをするように、俺たちの顔を覗きこむ。

「よし、お前だ!」

タニヤが選んだのは…三沢だった。

「あり得ん!何故この万丈目サンダーではないんだ!?」

畜生…三沢に負けた…

万丈目のように声は出さなかったが、意外とショックを受けている俺がいた。

「…馬鹿。」

明日香のため息と共に。


それから、俺たちはコロッセオの中に案内され、俺たちは観客席、三沢はタニヤと共にデュエル場についた。

「先程も言ったが、我が名はアマゾネスの末裔、タニヤ!」


「オベリスク・ブルー一年の主席、三沢大地!」

タニヤの宣言に負けじと、三沢も力強く答える。

「三沢の奴…大丈夫だろうな…?」

「三沢に心配はいらないぞ、万丈目。」

あいつに任せておけば、基本的には大丈夫だ。

三沢大地。

俺の親友で、デュエルアカデミア、一年で最強の実力者。

あいつなら、大丈夫だ。

「デュエル前に決めることがある!」

タニヤはそう叫ぶと、デッキを二つ取りだした。

…複数のデッキの使い手か。

珍しいな。

「ここにあるのは、知恵のデッキと勇気のデッキ。どちらを選ぶかで、貴様の運命は決まるだろう!」

「柔良く剛を制す!当然、知恵のデッキだ!俺は、この神話の妖怪たちで相手になろう!」

三沢とタニヤ、どちらもデュエルディスクをセットする。

「遊矢。進化しているのが、君だけではないことを見せてやる。」

「楽しみにしてるぜ。」

親友の頼もしい言葉と共に、二人の準備が完了する。

「「デュエル!!」」

三沢LP4000

タニヤLP4000

「先攻は俺からだ!俺のターン、ドロー!」

三沢の先攻で、デュエルは開始された。

「俺は《牛頭鬼》を召喚!」

牛頭鬼
ATK1700
DEF800

三沢の主力モンスターの一体だ。

あいつの効果は、地味ながら、デュエルの流れを変えることができる程。

「牛頭鬼の効果により、1ターンに一度、デッキからアンデッド族モンスターを墓地に送ることが出来る!俺が墓地に送るのは、《カラス天狗》だ!」

カラス天狗。
墓地からの召喚限定だが、強力な効果を持つモンスターだ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」


モンスターの召喚、墓地肥やし、リバースカード。

三沢の調子は良いようだな。


「私のターン、ドロー!」

タニヤがカードを引く。

「アマゾネスの末裔って言っていたタニヤ…デッキはやっぱり…」

「多分、そうだろう。」

明日香の考えに同意する。

「私は、《アマゾネスの聖戦士》を召喚!」

アマゾネスの聖戦士
ATK1700
DEF300

「やはり、【アマゾネス】か!」

女性の戦士族モンスターを主力にした、ビートダウンデッキ。

その点では、少し明日香の【サイバー・ガール】似ているデッキだ。

「アマゾネスの聖戦士は、自分フィールド場のアマゾネスと名のつくモンスター×100ポイント、攻撃力をアップさせる!」

アマゾネスの聖戦士
ATK1700→1800

牛頭鬼の攻撃力を超えた!

「更にフィールド魔法、《アマゾネスの死闘場》を発動する!」

タニヤのフィールド魔法により、二人を包むようにコロッセオに金網が張られる。

「アマゾネスの死闘場…聞いたことがないカードだな…」

閉じこめられた三沢が呟く。

三沢が知らないなら、他のみんなも知らない。

「アマゾネスの死闘場が発動した時、お互いに600ポイントライフを回復する。」
三沢LP4000→4600

タニヤLP4000→4600

「誇り高き、アマゾネスの死闘場で戦えることを光栄に思うが良い!アマゾネスの聖戦士で、牛頭鬼に攻撃!聖剣の舞!」


たった100の差だが、アマゾネスの剣により、牛頭鬼は破壊されてしまう。

「…このくらいのダメージは必要経費だ…!」

三沢LP4600→4500

「…!?闇のデュエルでは…ない…?」

三沢が、自分の身体を見て言う。

そういえば、闇のデュエル独特の重苦しい雰囲気がない。

ただ、デュエルをしているだけのような…

「気づいたか。これは、闇のデュエルではない。」

「何だと!?」

タニヤの言葉に、三沢は驚愕する。

それはそうだろう。

自分は闇のデュエル…命懸けのデュエルをしていると思っていたのだから。

「何故だ!?」

「だってぇ~あなたの魂なんていらない!私は、あなた自身が欲しいの!」

………!?

急に、女の子らしい言葉使いと仕草をするタニヤ。

正直、似合わん。

三沢も、頭が真っ白になっているようだ。

「そういえば言ってなかったな。このデュエルで貴様が負けた場合、」

場合?

「タニヤのお婿さんになってぇ~!」

…戦士の声と、女の子の声を使い分けるせいで、なおさら違和感が酷い。

「タニヤ、お前が負けたらどうするんだ?」

三沢の質問に、タニヤは迷わず即答した。

「私が三沢っちのお嫁さんになってあげるぅ~!」

…おい、勝っても負けても変わらないぞ。

「…なんか、馬鹿らしくなってきたわ。」

「…そう言うな、明日香…」

選ばれなくて良かった…

「貴様を嫁にする気など毛頭無いが、負ける気はない!」

「ならば行くぞ!アマゾネスの死闘場の効果を発動!攻撃宣言をしたプレイヤーは、モンスターで戦闘を行う度に、ダメージステップ終了時に100ライフポイントを払う事で相手ライフに100ポイントダメージを与える!」

地味な効果だなおい!

幻魔の扉のようなカードでなくて良かったが、それは微妙だろう…

「このカードは、モンスターだけではなく、デュエリスト本人が戦うカードだ!行くぞ、三沢っち!」

タニヤの姿が、ソリッドビジョンとなってモンスターゾーンに現れる。

「なんだこれは!?」

三沢の姿も同じように、ソリッドビジョンとなってモンスターゾーンに現れる。

タニヤが三沢に殴りかかり、三沢の腹にボディーブローを喰らわせる。

「ぐはっ!?」

三沢LP4500→4400

タニヤLP4600→4500

三沢は腹を抑えながら、本来いるべき場所に戻る。

「フッ…慣れないとこれは辛いからな。頑張って~三沢っち~!カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」

…馬鹿にしているのか?

そう聞きたくなる、戦士の姿と女の子の姿を使い分けるタニヤ。

「ふざけるな、タニヤ!俺のターン、ドロー!」

三沢は、デュエル中に必要以上に熱くなることはない。

その三沢が、変に叫んでいる。

…これは不味いか?

「俺はリバースカードを発動する!トラップカード、《妖魔の援軍》!1000ポイントを払うことで、墓地のレベル4以下のアンデッド族モンスターを二体特殊召喚する!蘇れ!牛頭鬼!カラス天狗!」

三沢LP4400→3400

「甘い!リバースカード、オーブン!《王宮の弾圧》を発動!800ポイント払うことで、相手の特殊召喚を無効にし、破壊する!」

タニヤLP4500→3700


王宮の弾圧!

特殊召喚封じのトラップカードの代表格だ。

「…万丈目。お前があれを使った時、三沢はどうやって攻略したんだ?」

「万丈目、さんだ!嫌なことを思い出させるな、遊矢…三沢は、特殊召喚封じだけでは足りない。あいつには、まだ二種類の鬼がいる。」

下級モンスターである牛頭鬼と馬頭鬼意外の、二体の鬼。

「王宮の弾圧か…だが、突破する!俺は、《陰魔羅鬼》を守備表示で召喚!」

陰魔羅鬼
ATK1200
DEF1000

「更に、魔法カード、《二重召喚》を発動!俺はこのターン、二回の通常召喚が行えるようになる!」

三沢は、特殊召喚がメインとはいえ、他に戦う方法はいくらでもある。

その一つが、アドバンス召喚!

「俺は、陰魔羅鬼を-」

「リバースカード、オープン!《生け贄封じの仮面》を発動!お互いに、モンスターをリリースすることは出来ない!」

生け贄封じの仮面だと!?

こうして、三沢は特殊召喚と、アドバンス召喚の両方を封印されてしまった。

タニヤも、同じように封印されてはいるが、アマゾネスは、下級モンスターの効果も優秀であるため、効果は薄い。

対する三沢には…効果は、抜群だ。

「これこそ、アマゾネスの知恵のデッキ。突破してみせて~!」

「くっ…ターンエンドだ…」

三沢には打つ手が無い。

それほど、三沢にとってキツい状況だった。

「私のターン、ドロー!」

今がチャンスとばかりに、タニヤは攻め込んでくるだろう。

「私は、《アマゾネスの剣士》を召喚!」

アマゾネスの剣士
ATK1500
DEF1600

アマゾネスの剣士!

【アマゾネス】の中でも、屈指の厄介さを持つカード。

万丈目が使っていた、《地獄戦士》と似たような効果を持っている。

「新たなアマゾネスが現れたため、アマゾネスの聖戦士の攻撃力が更に上がる!」

アマゾネスの聖戦士
ATK1800→1900

「アマゾネスの剣士で、陰魔羅鬼に攻撃!アマゾネス・スラッシュ!」

陰魔羅鬼は、効果は強力なものの、能力は低い。

アマゾネスの剣士の斬撃に、耐えられず破壊される。

「続いて、アマゾネスの死闘場の効果を発動!私のライフを100払い、相手に100ポイントのダメージを与える!行くぞ、三沢っち!」

再び、二人の姿がソリッドビジョンになり、三沢が殴られて元に戻る。

タニヤLP3700→3600

三沢LP3400→3300

「更に、アマゾネスの聖戦士でダイレクトアタック!アマゾネスの聖剣!」

「このぐらいのダメージ、すぐに返済する…!」

三沢LP3300→1400

三沢のライフが、続々と削られていく。

「まだだ!アマゾネスの死闘場の効果により、100ポイント払い、相手に100ダメージ!」

「ぐはっ!」

タニヤLP3600→3500

三沢LP1400→1300

「私はターンエンド!負けないで~三沢っち~!」

「うるさい!俺のターン…」

「落ち着け三沢!」

いい加減、我慢の限界だ。

「そんな変なのに惑わされるなよ…進化しているのが、俺だけじゃないってこと、見せてくれるんだろ?」

三沢は、俺の一言で目が覚めたように、一旦深呼吸した。

「…すまないな、遊矢。タニヤ。ここから挽回させてもらう!」

よし。

いつもの三沢だ。


「戦士の目になったな、三沢っち…いや、三沢大地。ならば私も、アマゾネスの戦士として、女ではなく、戦士として戦おう!」

タニヤのやる気も出てしまったようだが。

「俺のターン、ドロー!」

真面目になったとはいえ、三沢にとって、とても不利な状況なのに代わりはない。

「俺は、《天使の施し》を発動!デッキから三枚引き、手札から二枚捨てる!」

手札のモンスターを捨て、新たにドロー出来る、三沢のデッキに相性が良いドローカードだ。

「そして、《魂を削る死霊》を守備表示で召喚!」

魂を削る死霊
ATK300
DEF200

三沢が出したのは、攻守問わず活躍する、アンデッド族モンスターの名脇役。

デメリットはあるが、戦闘破壊されない、この場に相応しいモンスターだ。

「ターンエンドだ!」

「私のターン!ドロー!」

対する、圧倒的に有利なタニヤ。

「私は、《アマゾネスの格闘戦士》を召喚!」

アマゾネスの格闘戦士
ATK1500
DEF1300

自分への戦闘ダメージをシャットアウトする、効果を持っている、アマゾネスの格闘戦士だ。

「アマゾネスと名のつくモンスターが増えたため、アマゾネスの聖戦士の攻撃力が上がる。」

アマゾネスの聖戦士
ATK1900→2000


「魂を削る死霊は破壊出来ないが、ダメージを与えることは出来る!アマゾネス達よ!魂を削る死霊に攻撃だ!」

アマゾネス達が、魂を削る死霊に攻撃を仕掛ける。

「だが、魂を削る死霊は、戦闘では破壊されない!」

「分かっている!アマゾネスの死闘場の効果を三回発動!300ポイント払い、300ポイントのダメージだ!行くぞ!」

また、タニヤのソリッドビジョンと三沢のソリッドビジョンの殴り合いが始まり、三沢が三回殴られる。

「ぐうっ…!」

タニヤLP3500→3200

三沢LP1300→1000

ただ殴られるなど、特殊な趣味の者しか喜ばない。

そして、三沢にそんな趣味はない。

「私はこれでターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

三沢のターン。

ボード・アドバンテージも、ライフ・アドバンテージも相手が上。

やばいぞ、三沢…

「俺は、《馬頭鬼》を召喚!」

馬頭鬼
ATK1700
DEF300

三沢の主力モンスターが登場する。

「馬頭鬼で、アマゾネスの剣士に攻撃!」

なるほど。

ダメージを受けてでも、厄介な効果を持つ、アマゾネスの剣士を倒すことを選んだようだ。

「アマゾネスの剣士の効果により、戦闘ダメージはお前が受ける!」

「すぐに返済するさ。」

三沢LP1000→800

「更に、アマゾネスの死闘場の効果を発動!」

「何!?」

驚いたのは、タニヤだけではない。

俺達もだ。

ただでさえ、三沢のライフは少ない。

100ポイント払ってまで、タニヤのライフを削る必要があるのか…?

「馬鹿かあいつは!?」

「…万丈目。あいつを信じろ。」

大丈夫だ。

なんて言ったって、あいつは三沢大地なのだから。

今度の殴り合いは、三沢の勝利に終わった。

三沢LP800→700

タニヤLP3200→3100

「遊矢って、随分三沢くんのことを信用してるわよね…私には、三沢くんが何をしようとしてるのか、まるで分からないわ。」

「信用じゃない、信頼だ。」

明日香の問いに、少し訂正を加える。

微妙な違いだが、結構大事だぞ?

「それに、俺も、あいつが何を考えているかは分からない。」

「え!?」

大丈夫とは言っているが、あいつが何をしようとしてるのかは分からない。

だが、きっとなんとかしてくれる。

それが、親友に対しての、俺なりの信頼だ。

「メインフェイズ2、俺は装備魔法、《団結の力》を発動!」

団結の力。

この前、フィールドにモンスターを大量展開する、三沢のデッキに合うんじゃないか?

と、三沢とトレードした装備魔法だ。

これならば、下級モンスターの火力でも、三沢の方が上。

馬頭鬼
ATK1700→3300
DEF700→2300

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「私のターン!ドロー!
…強欲な壺を発動し、二枚ドローする!」

タニヤがカードを二枚ドローし、強欲な壺が破壊される。

「良いカードを引いた…魔法カード、《ライトニング・ボルテックス》を発動!手札を一枚捨て、相手のモンスターを全て破壊する!」

何!?

ライトニング・ボルテックスの前には、いくら攻撃力が高かろうが、戦闘破壊されなかろうが関係ない。

タニヤのカードから放たれた雷が、三沢の妖怪たちを全滅させた。

「終わりだ、三沢大地!アマゾネスの聖戦士-」

「リバースカード、オープン!《威嚇する咆哮》!このターン、相手は攻撃宣言が出来ない!」

三沢のカードの威嚇する咆哮にて、アマゾネス達の攻撃が止まる。

「破壊された時のことも考えていたか…私は、メインフェイズ2で、《アマゾネスペット虎》を召喚する!」

アマゾネスペット虎
ATK1100
DEF1500

「アマゾネスペット虎は、自分フィールドのアマゾネスと名のつくモンスターの数×400ポイント攻撃力がアップし、このカードが破壊されない限り、アマゾネスと名のつくモンスターには攻撃出来ない!」

アマゾネス女王と並ぶ、アマゾネスの切り札だ。


タニヤは、自らのトラップカード二枚で、上級モンスターであるアマゾネス女王が出せないため、こちらを投入しているのだろう。

アマゾネスペット虎
ATK1100→2300

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

三沢が、勢い良くカードを引き、ニヤリと笑う。

良いカードでも引いたのか?

「まずは速攻魔法、《サイクロン》を発動し、王宮の弾圧を破壊する!」

竜巻が、タニヤのトラップカードを吹き飛ばす。

生け贄封じの仮面ではなく、王宮の弾圧の方を選択したということは、手札には特殊召喚するカードがあるのだろう。

「俺は魔法カード、《死者蘇生》を発動!蘇れ!陰魔羅鬼!」

陰魔羅鬼
ATK1200
DEF1000

「陰魔羅鬼が墓地から蘇った時、カードを一枚ドロー出来る!」

手札交換。

三沢は、何を狙っているのだろうか…?

「更に、手札から《酒呑童子》を召喚!」

酒呑童子
ATK1500
DEF800

「酒呑童子の効果を発動する!墓地のアンデッド族モンスターを二体除外し、一枚ドロー出来る!俺は、牛頭鬼と、竜骨鬼を除外し、一枚ドロー!」

一枚ドロー出来るのは良いが、除外とアンデッド族にシナジーはない。

確か三沢は、除外ゾーンから墓地に送る、《異次元からの埋葬》を使ってはいたが…

「そして、墓地の馬頭鬼の効果を発動!このカードを除外することで、墓地のアンデッド族モンスターを特殊召喚できる!招来せよ、《赤鬼》!」

赤鬼
ATK2800
DEF2100

三沢のエースカードである、赤鬼が招来した。

「なるほど…天使の施しの時に墓地に送っていたか…」

「正解だ。今からこの妖怪たちの力で、俺が受けたダメージを、利子をつけて返済させてもらう。」

フィールドにモンスターが無い状態から、一気に三体のモンスターの特殊召喚。

それに、赤鬼の攻撃力はタニヤの切り札、アマゾネスペット虎の攻撃力を越えている。

形勢は、逆転したと言っても良いだろう。

「やっちまえ、三沢!」

横から、十代の応援の声が響く。

しかし、三沢の次の言葉は、十代の応援とは逆だった。

「…赤鬼で攻撃はしない。」

「なんですって!?」

明日香が驚きの声を上げるが、仕方ないだろう。

タニヤのフィールドには、リバースカードがあるとはいえ、早く倒さなければ厄介な、アマゾネスペット虎がいる。

三沢も当然分かっている筈だが、赤鬼で攻撃はしないと言う。

俺達の不審な視線に答えるように、三沢はタニヤのリバースカードを指差した。

「その二枚のリバースカード。おそらく、こちらに攻撃を強制させる、《アマゾネスの弩弓隊》と、アマゾネスペット虎の攻撃力を上げる、《突進》だろう。」

三沢の予想が正しければ、三沢には攻撃が出来ない。

いや、攻撃したら負ける。

アマゾネスの弩弓隊で攻撃力が下げられ、突進で攻撃力が上がったアマゾネスペット虎に、全員で突っ込むことになる。

「サイクロンなどを、王宮の弾圧と生け贄封じの仮面に使わせ、その本命の二枚を叩き込む…まさしく、知恵のデッキだ。」

「見破ったことは褒めてやろう、三沢大地!確かにこの二枚のリバースカードはお前の予想通りだ。」

タニヤも、自分の戦術に絶対の自信があるのか、あっさりと白状する。

「まずいぜ。これじゃ三沢は攻撃出来ない!」

十代の言う通り、リバースカードをノーヒントで見破ったことは確かだが、三沢の手札は一枚。

《大嵐》を引かない限り、三沢に勝ち目はない。

タニヤは、赤鬼を除去するだけで勝てるのだから。

「さあ、どうする三沢大地!」

タニヤの問いに、三沢は、不敵な笑みで返した。

「今度、遊矢とデュエルする時の為の切り札だったんだが…仕方ない。このカードは、自分フィールド場にアンデッド族モンスターが二体以上存在する時、特殊召喚できる!招来せよ!《火車》!」

三沢のフィールドに、新たな妖怪が招来した。

火車
ATK?
DEF1000

攻撃力?。

つまりは、何らかの効果を持っている。

この状況を挽回できる程の効果が!

「火車が特殊召喚に成功した時、フィールド場のモンスターを、全てデッキに戻す!冥界入口!」

「なんだと!?」


妖怪たちも、アマゾネスたちも、火車に吸い込まれていく。

そして、火車以外のモンスターがいなくなった。

「火車の攻撃力は、デッキに戻したアンデッド族モンスターの数×1000ポイント!デッキに戻したのは、赤鬼、陰魔羅鬼、酒呑童子の三体!よって、火車の攻撃力は、3000!」

火車
ATK?→3000

アマゾネスの弩弓隊も、突進も、フィールド場にモンスターがなくては意味がない!

「バトルだ!火車でタニヤにダイレクトアタック!火炎車!」

「ぐああああああっ!」

タニヤLP3100→100

「まだだ!アマゾネスの死闘場の効果を発動!ライフを100ポイント払い、100ポイントのダメージを与える!」

先程、ピンチにも関わらずアマゾネスの死闘場の効果を使ったのは、この状況を見越していた為だったようだ。

「これで最後だ!」

「受けて立とう!」

三沢とタニヤ、二人のソリッドビジョンが現れる。

タニヤは、負けると分かっている筈だが、果敢に突っ込んでいった。

それが、アマゾネスという一族なのかもしれない。

「ぐっ…!」

三沢LP700→600

タニヤLP100→0

三沢自身の攻撃により、セブンスターズの一人、アマゾネスのタニヤとのデュエルは決着した。

「ガッチャ!楽しいデュエルだったぜ、三沢!」

「フン!手こずりやがって…」

十代と万丈目が、それぞれのやり方で祝福する。

…万丈目も、あれで祝福してるのだろう。

きっと。


「フッ…負けたか…」

タニヤが倒れ込んで、手についていたグローブがとれた。

「タニヤ!?」

倒れたタニヤの元に、クロノス教諭を追いかけていった虎、バースが現れるのと同時、タニヤの姿が、虎に変わっていた。

『楽しいデュエルをありがとう…』

そう言い残し、バースと共にタニヤは立ち去っていった…

「…三沢。お前、虎に求婚されてたみたいだぞ。」

「…勝って良かったと、心から思う。」

三沢はそう、呟いた。

 
 

 
後書き
遊矢以外のデュエル難しい…

出来るだけ、格好良い三沢を目指しました。

感想・アドバイス待ってます!
 

 

-機械少女VS……?-

 
前書き
さて本日は、この《遊戯王GX-音速の機械戦士-》が始まって、ちょうど3ヶ月となり、ちょうど30話となりました。

これも皆様のおかげ、これからも頑張っていきたいと思います! 

 
遊矢side


さて、最近は色々なことがあった。


三沢がタニヤを倒し、再び七星門の鍵を守り通した数日後。

今度のセブンスターズの闇のデュエリストは、カードの精霊だという、【黒蠍盗掘団】。

彼らは、この時の為にデュエルアカデミアに潜入しており、七星門の鍵を物理的手段で盗んだが、七星門の鍵は、デュエルしなければ封印は解かれないことを知らなかった。

そのことを知った黒蠍盗掘団の首領・ザルーグを、万丈目が名乗りを上げてデュエルをした。

黒蠍盗掘団たちのデッキは、当然ながら、【黒蠍盗掘団】だった。

《必殺!黒蠍コンビネーション》を使い、黒蠍盗掘団全員をダイレクトアタックさせる強力なコンボを展開。

万丈目の《アームド・ドラゴンL7》をも打ち破り、追い詰めるものの…

万丈目の新たな力、おジャマたちの力で逆転し、おジャマ三兄弟を融合したモンスター。《おジャマ・キングの一撃に、黒蠍盗掘団を撃破。

セブンスターズとの戦いは、またもデュエルアカデミア側の勝利となった。

次なる刺客は、生涯無敗だったという、デュエルの神様アビドス三世。

闇のアイテムの力で蘇り、十代とデュエルをした。

デュエル中に、生涯無敗だったことは、対戦相手が手加減をしていたからだということが発覚するが、実力は確かであり、切り札、《スピリット・オブ・ファラオ》の効果により、十代を追い詰めたものの、十代のヒーローの絆、《HEROフラッシュ!》により、敗北する。

十代と、あの世に来たらまたデュエルしようと約束し、昇天していった…

後は、セブンスターズには関係がないが…いや、無いわけではないが…七星門の鍵の守護者の中で、最強を誇るカイザー亮が、この学校を休学した。

七星門の鍵を鮫島校長に預け、ヘリコプターでどこかへ飛んでいってしまったのだ。

俺たちがそれを知ったのは、亮がいなくなった翌日、鮫島校長から伝えられた。

どこに行ったかは教えてくれなかったが、鮫島校長いわく。

「カイザーにはカイザーで、考えなければいけないことがある…すまないが、少しの間、君たちだけでセブンスターズと戦ってほしい。」

とのことだ。

悩み事でもあるなら、少しぐらい相談してくれればいいのだが…

変に意地っ張りである、あの負けず嫌いは。


そんなわけで、今、カイザーはいないわけたが、セブンスターズも来なかった。

来ないなら来ないにこしたことは無いため、最近、デュエルアカデミアの学園祭が近いので、これ幸いと、そっちの準備に忙しかった。

そんな時である。

深夜、保健室で、未だに目覚めぬ吹雪さんの看病をしていた、俺、三沢、明日香の三人に、

『俺は、天上院吹雪を目覚めさせる方法を知っている。廃寮で待つ。セブンスターズ、第六のデュエリスト』

という手紙が届いたのは。


「明日香。やっぱりお前がデュエルするのか?」

「ええ。兄さんのことが関わっているなら、私が行くわ。」

廃寮に着いた俺たち三人は、タイタンとデュエルをした、中のデュエル場を目指していた。

「おそらく、あの手紙は明日香くんを指名した手紙…【サイバー・ガール】に、メタを張っている可能性があるが…」

「私を指名したなら、私が行くわ。それに、私はまだデュエルしていないしね。」

三沢の忠告にも、明日香の意志は揺らがなかった。

やれやれ。

「じゃ、絶対負けんなよ。明日香。」

「もちろん、そのつもりよ。」

喋っている内に、開けたデュエル場に着く。

そこには、仮面を付けて、漆黒に染めたオベリスク・ブルーの制服を着ている男が立っていた。

「あなたがセブンスターズ?」

明日香がデュエルディスクを構え、一歩前にでる。

「その通りだ。お前が相手か?天上院、明日香。」

明日香の名前を知っている?

わざわざ調べたのだろうか。

「そうよ。あなたの名前は?」


「ククク…俺の名前、か…!」

男は、不気味な笑みを浮かべると共に、つけていた仮面を脱ぎ捨てた。

そして、出て来た顔は、俺も知る顔だった。

「俺の名前は高田純二郎。セブンスターズとなり、黒崎遊矢!お前に復讐するため帰ってきた!」

高田純二郎。

かつて、寮の昇格で俺とデュエルし、この学園を去ったオベリスク・ブルーの男子生徒。

【リクルーター軸・カオス・ネクロマンサー】使いの実力者だ。

そいつが、俺に復讐するため帰ってきた?

「どういうことだ高田!お前がなんでセブンスターズに…」

「黙れ!全て貴様のせいだ!」

俺の質問に、高田は聞く耳を持たない。

「俺への復讐なら、俺がデュエルしてやる!なんで明日香を指名した!?」

「当然、目の前で親友が消えれば悔しいだろう?」

狂っている。

学園にいたころのアイツは、威張り散らしていたが、性格は今と違う。

高田は間違いなく-狂っている。

「大丈夫よ、遊矢。…私は、そんな簡単に負けないわ。」

「なら、闇のデュエルの始まりだァ!」

高田の声と共に、闇が辺りを覆い尽くす。

「遊矢。ここは、明日香くんを信じよう。」

「くっ…気をつけろよ、明日香!」

明日香はこちらを向かずに、コクリと頷いた。

「「デュエル!!」」

明日香LP4000

高田LP4000


「俺の先行!ドロー!」

高田の先攻だ。

アイツのデッキは、前と同じ、【リクルーター軸・カオス・ネクロマンサー】だろうか。

それとも…

「俺は《終末の騎士》を召喚!」

終末の騎士
ATK1400
DEF1200

闇属性限定たが、生きた愚かな埋葬と言っていいモンスター。

「終末の騎士の効果により、俺は《ネクロ・ガードナー》を墓地に送る。」

攻撃を一度防ぐ万能カード…まだ、どんなデッキだかわからない。

「更に、俺は永続魔法、《漆黒のトバリ》を発動する。」

「ってことは…【闇属性】…?」

明日香の呟き通りか、もしくは、闇属性を主軸にしたデッキだろう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

「私のターン、ドロー!」

明日香はどう攻め込むか。

「私は、《融合》を発動!手札の《エトワール・サイバー》と、《ブレード・スケーター》を融合!《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

いきなり登場、明日香のエース、サイバー・ブレイダー!

「いくわよ!サイバー・ブレイダーで、終末の騎士に攻撃!グリッサード・スラッシュ!」

「墓地からネクロ・ガードナーを除外し、攻撃を無効にする。」

十代もよく使う戦士が、サイバー・ブレイダーの攻撃を止める。

…もう使ったか。

「カードを一枚伏せ、ターン…」

「おっと。エンドフェイズ時に《終焉の焔》を発動!二体のトークンを出させてもらうぜ?」

黒焔トークン
ATK0
DEF0

「黒焔トークン…ターンエンドよ。」

エンドフェイズに黒焔トークンを特殊召喚。

それは、大型モンスターを狙っている証。

明日香も、それはわかっているのだろう、嫌な顔をした。

「俺のターン、ドロー!
…漆黒のトバリの効果を発動!ドローした闇属性モンスター、《キラー・トマト》を墓地に捨て、一枚ドローォ!」

これこそが漆黒のトバリの効果。

墓地肥やしとドローを、同時に行うことが出来るカードだ。

「クククッ…黒焔トークン二体をリリースし、《DT-デス・サブマリン》をアドバンス召喚!」

DT-デス・サブマリン
ATK0
DEF0

『ダークチューナー!?』

俺、三沢、明日香の三人の声が重なった。

「…遊矢。ダークチューナーというのは…」

「俺も知らない。そんなモンスターの存在も、さっぱり聞いたことがない!」

そもそも、チューナーというのは、シンクロ召喚のシステム上、低レベルの筈だ。

だが、あのダークチューナー・デス・サブマリンは、レベル、9。

いや、レベル9ですらない。

あれは…

「ヒャーハッハッハ!レベル-9のDT-デス・サブマリンと、レベル4の終末の騎士をダークチューニング!」

高田が奇声を上げ、チューニング…否。ダークチューニングが始まる。

合計レベルは…-5。


ダークチューナーが闇の粒になり、モンスターにとりつき、中に入っていく。

「闇と闇重なりしとき、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ!ダークシンクロ!いでよ、《氷結のフィッツジェラルド》!」

氷結のフィッツジェラルド
ATK2500
DEF2500

…これは、シンクロ召喚じゃない…!

「闇の世界に伝わる、ダークシンクロ。ダークチューナーのレベルから、モンスターのレベルを引き、同じレベルのダークシンクロモンスターを特殊召喚出来る!」

シンクロ召喚が、レベルを足すのに対して、ダークシンクロはレベルを引くようだ。

「氷結のフィッツジェラルドで、サイバー・ブレイダーを攻撃ィ!ブリザード・ストライクゥッ!」

氷結のフィッツジェラルドから、氷の飛礫がサイバー・ブレイダーへ飛ぶ。

「リバースカード…」

「甘いんだよ!氷結のフィッツジェラルドが攻撃するとき、相手はダメージステップ終了時まで、魔法・トラップを使用できない!」

なんだと!?

クロノス教諭の、古代の機械シリーズと同じ効果か…

「きゃあっ!」

明日香LP4000→3600

「だけど、サイバー・ブレイダーは、相手モンスターが一体の時、戦闘破壊されない!
パ・ド・ドゥ!」

戦闘破壊されない、攻撃力2100のモンスター。

なかなか強力だ。

「あ?…そういや、あったなァ、そんな効果。カードを一枚伏せ、ターンエンドだァ!」

「私のターン、ドロー!」

未知の敵、ダークシンクロモンスター。

それを相手に、明日香はどう挑む…?

「私は装備魔法、《デーモンの斧》を発動!攻撃力が1000ポイントアップする!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100→3100

サイバー・ブレイダーの攻撃力が、氷結のフィッツジェラルドの攻撃力を超えた!

「サイバー・ブレイダーで、氷結のフィッツジェラルドに攻撃!グリッサード・スラッシュ!」

斧を持ったサイバー・ブレイダーが、氷結のフィッツジェラルドを蹴り倒した。

…おい、斧を使えよ。

「ククッ…」

高田LP4000→3400

自慢のダークシンクロモンスターがやられたというのに、高田は不気味な笑みを絶やさない。

「氷結のフィッツジェラルドの効果を発動!このカードが戦闘で破壊された時、他にモンスターがいない時、表側守備表示で特殊召喚する!蘇れ!氷結のフィッツジェラルドォ!」

氷結のフィッツジェラルド
ATK2500
DEF2500

高田の自信は、この効果のおかげか…

「それでも、サイバー・ブレイダーは倒せないわ!」

「ハーハッハッハッ!氷結のフィッツジェラルドの第三の効果を発動ォ!このカードが墓地からの特殊召喚に成功した時、このカードを攻撃した相手モンスターを破壊する!」

「なんですって!?」

ふざけた効果だ…!

戦闘で破壊されないどころか、相手モンスターを破壊するオマケ付きか…

「くたばれェ!サイバー・ブレイダー!」

「くっ…!」

明日香のエースモンスターが破壊され、明日香のフィールドはがら空きになる。


「…タダではやらせないわ!私は、《サイバー・ジムナティクス》を守備表示で召喚!」

サイバー・ジムナティクス
ATK800
DEF1800

現れるは、効果破壊専門のサイバー・ガール!

だが、サイバー・ジムナティクスの効果は、表側攻撃表示モンスターしか破壊できない。

今、氷結のフィッツジェラルドは表側守備表示のため、効果破壊はできない。

「ターンエンドよ。」

「俺のターン!ドロー!
漆黒のトバリの効果を発動ォ!引いたのは、闇属性モンスター、《インフェルニティ・デストロイヤー》だ!一枚ドロー!更に引いたのは、《ダークファミリア》だ!一枚ドロー!」

着実に、高田の墓地が肥えていく。

早くなんとかしないと、ヤバいぞ明日香…

「氷結のフィッツジェラルドを攻撃表示にし、バト…」

「リバースカード、オープン!《和睦の使者》!このターン、私へのダメージは0となり、モンスターは破壊されない!」


まだ、氷結のフィッツジェラルドは攻撃宣言をしていない。

よって、明日香はトラップカードを発動出来る。

「チィッ…モンスターをセットして、ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

氷結のフィッツジェラルドの効果がありながら、モンスターをセットしたのは、サイバー・ジムナティクスがいるからだろう。

氷結のフィッツジェラルドは、効果破壊には耐性を持たないようだ。

「サイバー・ジムナティクスの効果を発動!手札を一枚捨てることで、相手の攻撃表示モンスターを破壊する!」

サイバー・ジムナティクスの蹴りが、氷結のフィッツジェラルドを破壊する。

…効果破壊も、蹴りなのか…

「そして、サイバー・ジムナティクスをリリースすることで、《サイバー・プリマ》をアドバンス召喚!」

サイバー・プリマ
ATK2300
DEF1600

明日香が出したのは、上級サイバー・ガール、サイバー・プリマ!

「サイバー・プリマがアドバンス召喚に成功した時、フィールド場で表側表示の魔法カードを全て破壊する!」

フィールド場で表側表示なのは、高田の漆黒のトバリのみ。

だが、漆黒のトバリは、おそらく高田のデッキの基点。

それを破壊出来たのは、大きい。

「バトル!サイバー・プリマで、セットモンスターに攻撃!終幕のレヴェランス!」

「セットモンスターは、《メタモルポッド》だ!リバース効果により、お互いに手札を五枚捨て、五枚ドロー!」

【カオス・ネクロマンサー】の時にも投入されていた、メタモルポッド。

墓地肥やしと、手札交換を同時に出来る優秀なモンスターだ。

難点は、【デッキ破壊】以外では、相手にも得をさせてしまうどころだが…

「私は、カードを一枚伏せてターンエンドよ。」

「俺のターン!ドローォ!」

お互いに、ライフは余り削られていない。

ここからが勝負どころだろう。

「リバースカード、オープン!《リミット・リバース》!攻撃力1000以下の、DT-デス・サブマリンを復活させる!」

DT-デス・サブマリン

再び現れる、ダークチューナー。

高レベルだが、攻撃力が0のため、いくらでも復活させる手段がある。

「そして、《インフェルニティ・ビースト》を召喚!」

インフェルニティ・ビースト
ATK1600
DEF1200

先程から目にする、《インフェルニティ》と名のつく、聞いたことの無いカードたち。

あれも、闇の世界とやらに伝わるカードなのだろうか。

《インフェルニティ》が、どんな効果を持っているかは知らないが、高田がやろうとしていることはわかる。

ダークシンクロだ。

「レベル-9のDT-デス・サブマリンと、レベル3のインフェルニティ・ビーストでダークチューニングッ!」

ダークファミリアの中に、黒い玉が入っていく…

「闇と闇重なりしとき、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ!ダークシンクロ!いでよ、《地底のアラクネー》!」

地底のアラクネー
ATK2400
DEF1200

新たなダークシンクロモンスター!

どんな効果を持つ…?

「地底のアラクネーは、1ターンに一度、相手モンスターを装備することが出来る!トワイナー・スレッド!」

地底のアラクネーが伸ばした蜘蛛の糸が、サイバー・プリマを捕縛する。

そして、そのまま自分の下へ引き寄せた。

「サイバー・プリマ!」

サイバー・プリマが、地底のアラクネーに奪われたことにより、再び明日香のフィールドはがら空きとなった。

相手モンスターを装備する…要は、強力な単体除去だ。

「地底のアラクネーがバトルする時、相手は魔法・トラップを発動出来ない!行け!地底のアラクネー!天上院明日香にダイレクトアタック!ダーク・ネット!」

「きゃあああっ!」

明日香LP3600→1200

明日香のライフが大きく削られる!

「明日香!大丈夫か!?」

「え、ええ…まだまだよ!」

うずくまっていた明日香だが、なんとか起き上がった。

「サッサとくたばれば良いものを…カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」

1ターンに一度、明日香のモンスターを奪っていくダークシンクロモンスター、地底のアラクネー。

壁モンスターでは意味をなさない。

どうにか倒さなければ…

「私は、《高等儀式術》を発動!」

儀式術から召喚されるのは、サイバー・ガールたちの天使!

「デッキ内の、ブレード・スケーターを二枚墓地に送り、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-荼吉尼-
ATK2700
DEF2400

最強のステータスを持つサイバー・エンジェル。

こいつの効果があれば、地底のアラクネーを倒せる!

「サイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果!特殊召喚に成功した時、相手は、自分のモンスターを一体破壊する!」

「俺のフィールドには、地底のアラクネーしかいないッ…!」

対象をとるのが相手なのがネックだが、今は、地底のアラクネー一体のみなので関係がない!

サイバー・エンジェル-荼吉尼-が、地底のアラクネーに近づき、切り裂こうとした、その時。

いきなり、地底のアラクネーを庇うようにサイバー・プリマが現れ、代わりに切り裂かれてしまった。

「え!?」

「地底のアラクネー第二の効果は、破壊される時に、装備されているモンスターを破壊することにより、その破壊を免れる!」

何個効果があるんだよ…しかも、どれも酷い効果で。

「なら、直接破壊するわ!サイバー・エンジェル-荼吉尼-で、地底のアラクネーに攻撃!」

「リバースカード、オープン!《攻撃の無力化》!サイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

サイバー・エンジェル-荼吉尼-の攻撃が、高田が出した時空の穴に吸い込まれて消滅する。

「ククッ…目論見が外れて、残念だったなァ!」

「…私は、《サイバー・プチ・エンジェル》を守備表示で召喚!」

サイバー・プチ・エンジェル
ATK300
DEF200

天使族モンスター、《プチテンシ》を機械化したようなモンスターが現れる。

あんな外見でも、明日香のデッキには必要不可欠な存在だ。

「サイバー・プチ・エンジェルが、召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから、《機械天使の儀式》を手札に加えることが出来る!」

デュエルディスクから、一枚のカードが飛びでる。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドよ。」


「何が来るかと思えば、ただの雑魚モンスターの壁かァ!?俺のターン、ドローォ!」

圧倒的に有利な余裕から、高田は自信満々にカードを引く。

「地底のアラクネーの効果を発動ッ!対象は、サイバー・エンジェル-荼吉尼-だ!トワイナー・スレッド!」

地底のアラクネーが、再び蜘蛛の糸を伸ばし、サイバー・エンジェル-荼吉尼-を捕らえ…

「リバースカード、オープン!《ピュア・ピューピル》!自分フィールド場に、元々の攻撃力が1000以下のモンスターが存在する時、効果を発動した相手モンスターを破壊する!」

明日香のカウンタートラップ、ピュア・ピューピルから放たれた光弾に、地底のアラクネーは破壊される。

元々の攻撃力が1000以下の場合のみだが、手札コストなしの《天罰》の効果を持つカウンタートラップ。

少々使いにくいが、強力な効果だ。

明日香がサイバー・プチ・エンジェルを出したのは、壁モンスターでもあるが、なにより、ピュア・ピューピルの発動条件を満たすため。

その作戦は成功し、地底のアラクネーを破壊した。

「地底のアラクネーが破壊された、だと…」

高田も、地底のアラクネーがエースモンスターだったのか、少しショックを受けて…いや。

「とでも言うと思ったかよ!?甘めェんだ!手札から、《死者蘇生》を発動!」

蘇るのは、当然…

「蘇れ!地底のアラクネー!」

地底のアラクネー
ATK2400
DEF1200


再び現れる、蜘蛛のダークシンクロモンスター。

「もう防げまい!地底のアラクネーの効果を発動!サイバー・エンジェル-荼吉尼-を装備する!トワイナー・スレッド!」

今度こそ、地底のアラクネーの蜘蛛の糸は、サイバー・エンジェル-荼吉尼-を捕らえた。

これで、明日香はモンスターを失い、地底のアラクネーには破壊耐性がついてしまった。

「更に、《インフェルニティ・デーモン》を召喚!」

インフェルニティ・デーモン
ATK1800
DEF1200

謎のシリーズカード、《インフェルニティ》と名のつくモンスターが現れる。

しかし、特に何も効果は発動しなかった。

「まず、インフェルニティ・デーモンで、サイバー・プチ・エンジェルに攻撃!ヘル・プレッシャー!」

サイバー・プチ・エンジェルの頭上に、巨大な魔法陣が現れ、そこから出てきた手が、サイバー・プチ・エンジェルを押しつぶした。

「リバースカード、オープン!《奇跡の残照》!このターン、戦闘で破壊されたモンスターを特殊召喚する!サイバー・プチ・エンジェルを、守備表示で特殊召喚!」

サイバー・プチ・エンジェル
ATK300
DEF200

奇跡の残照…少し前、万丈目との友好デュエルの時、《サイバー・ブレイダー》を貰うだけじゃ悪かったので、後日押しつけたカードだ。



明日香の助けになったようで良かった。

「サイバー・プチ・エンジェルの効果を発動!デッキから、《機械天使の儀式》を手札に加えるわ!」

壁モンスターを作ると同時に、次のターンの布石も用意した。

「さっきからしぶといんだよッ!地底のアラクネーで、サイバー・プチ・エンジェルに攻撃!ダーク・ネット!」

防ぐ手段があるはずも無く、サイバー・プチ・エンジェルは破壊される。

「カードを三枚伏せ、ターンエンドだァ!」

「私のターン、ドロー!
…《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

明日香がカードを二枚引き、強欲な壺が破壊される。

「行くわよ!まずは、《機械天使の儀式》を発動!手札の、《サイバー・エンジェル-弁天-》を素材に、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-韋駄天-
ATK1600
DEF2000

ステータスはもっとも低いが、そのぶん強力な効果を持つサイバー・エンジェル!

「サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果を発動!このカードの特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを一枚手札に加える!私が加えるのは、強欲な壺!」

これで、制限カードである強欲な壺が使い回せる、明日香自慢のドローコンボだ。

「強欲な壺を発動し、二枚ドロー!…そして、《死者蘇生》を発動し、墓地のサイバー・ブレイダーを特殊召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

復活する、明日香のエースモンスター、サイバー・ブレイダー!

そして、高田のフィールドにモンスターは二体。


「あなたのフィールド場のモンスターは二体!よって、サイバー・ブレイダーの攻撃力は倍になる!バ・ド・カトル!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100→4200

「攻撃力4200だと!?」

「まだまだよ!…遊矢、使わせてもらうわ!私は、チューナーモンスター、《フルール・シンクロン》を召喚!」

フルール・シンクロン
ATK400
DEF200


「「チューナーモンスター!?」」

今度は、高田と三沢が驚きの声を上げる番だった。

「どういうことだ、遊矢。このデュエルアカデミアでは、君しかチューナーモンスターは持っていないんじゃないのか?」

「デッキ作りのお礼に、明日香に上げたんだよ。明日香のデッキの方が合いそうだったからな。」

カミューラとの、闇のデュエル前のことだ。

「レベル2、フルール・シンクロンと、レベル6、サイバー・エンジェル-韋駄天-をチューニング!」

明日香が新しくシンクロモンスターを手に入れていないなら、今から出てくるカードは、俺が渡したカードだろう。


「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に!シンクロ召喚!きらめけ!《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

フルール・ド・シュヴァリエ
ATK2700
DEF1400

白百合の騎士、降臨。

…《シンクロン》と、名のつくチューナーモンスターから出るシンクロモンスターだが、やっぱり【機械戦士】には似合わないな。

明日香に渡して正解だった。

「フルール・シンクロンは、シンクロ素材となった時、レベル2以下のモンスターを手札から特殊召喚出来るけど、私の手札にレベル2以下のモンスターはいないわ。…バトルよ!サイバー・ブレイダーで、インフェルニティ・デーモンを攻撃!」

「それがどうしたァ!リバースカード、オープン!《聖なるバリア-ミラーフォース-》!これで、お前のモンスターは全滅だァ!」

高田。お前の言葉をそっくりそのまま返そう。

それがどうした?

「フルール・ド・シュヴァリエの効果を発動!自分のターンに一度のみ、相手が発動した魔法・トラップカードを無効にして破壊する!」

「何ィ!?」

フルール・ド・シュヴァリエがバリアを切り裂き、そこからサイバー・ブレイダーがインフェルニティ・デーモンに迫る。

「グリッサード・スラッシュ!」

「グアアアッ!」


高田LP3400→1000

高田のライフを大きく削った!

「更に、フルール・ド・シュヴァリエで、地底のアラクネーに攻撃!フルール・ド・オラージュ!」

フルール・ド・シュヴァリエの華麗なる一撃は、地底のアラクネーの前に現れた、サイバー・エンジェル-荼吉尼-が受けた。

「地底のアラクネーの効果により、サイバー・エンジェル-荼吉尼-を墓地に送り、破壊を免れる!」

「それでも、戦闘ダメージは受けてもらうわ!」

サイバー・エンジェル-荼吉尼-を切り裂いた剣から衝撃波がほとばしり、高田を襲う。

高田LP1000→600


「グアァッ…だが、プレイミスだったな、天上院明日香ァ!これでまた、地底のアラクネーの効果を使えるぜェ!」

「それはどうかしら?」

高田の言葉を、明日香は華麗に受け流した。

これが、デュエルアカデミアの女王の異名を持つ者の実力。

皇帝と並び称される者の実力。


「メインフェイズ2。私は、《レアコールド・アーマー》をフルール・ド・シュヴァリエに装備!」


レアコールド・アーマーは、装備したモンスター以外への攻撃を封じる装備魔法。

残りライフも僅かだ。

攻撃力が低くなった、サイバー・ブレイダーを狙われることを心配したのだろう。

「私は、カードを二枚伏せ、ターンエンドよ!」

リバースカードも用意し、いきなり明日香が優勢になる。


「俺のターン、ドロー!
…ククク…地底のアラクネーを倒さなかったこと、後悔させてやるぜ!」

「リバースカード、オープン!《サンダー・ブレイク》!手札の《サイバー・チュチュ》を墓地に送り、あなたの地底のアラクネーを破壊するわ!」

明日香のトラップからの雷撃。

サイバー・エンジェル-荼吉尼-を墓地に送った今、高田に防ぐ手段はなかった。

だが、確かに地底のアラクネーは破壊されたものの、高田は…変わらず、狂気に笑っていた。

「クククッ…まんまと囮に引っかかってくれたなァッ!俺の切り札は、別にある!」

地底のアラクネー以上のカードがあるだと!?

「俺は、《インフェルニティ・ドワーフ》を召喚!」

インフェルニティ・ドワーフ
ATK800
DEF500

…俺の予想に反し、出て来たのは、あまり強そうではないモンスター。

というか、正直、見た目はただのおっさんだった。

だが、この場にいる者は、誰一人として油断をしなかった。

第一に、未知のシリーズカード、《インフェルニティ》の名を冠していること。

第二に、シンクロ素材にするならば、どんなに弱くても関係が無いからだ。

「俺はリバースカード、《凡人の施し》を発動!デッキから二枚ドローし、手札に通常モンスターがいなかった場合、手札を全て捨てる!俺の手札には通常モンスターはいない!よって、手札を全て捨てる!」

手札を全て捨てる?

それは、墓地肥やしにしてもやりすぎだろう。

手札を0にしては、何もままならない。

俺たちの疑惑の視線を感じたのか、高田は高笑いをする。

「俺が何をしようとしているか知りたいかァ?すぐに教えてやるぜ…俺のハンドレスコンボが完成した時になァ!」

ハンドレスコンボ。

つまり、手札が0の時に発動するということか…?

「明日香!気をつけろ!」

明日香もそんなことは分かっているのだろう、高田から目を放さず、頷いた。

「そして、二枚目のリバースカード、《リビングデッドの呼び声》を発動!蘇れ!《DT-ナイトメア・ハンド》!」

DT-ナイトメア・ハンド
ATK0
DEF0

やはり狙っているのは、ダークシンクロ!

「レベル2のインフェルニティ・ドワーフと、レベル-10のDT-ナイトメア・ハンドで、ダークチューニング!」

レベルの合計は…-8。


「漆黒の帳下りし時、冥府の瞳は開かれる。舞い降りろ闇よ!ダークシンクロ!いでよ、《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》!」

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン
ATK3000
DEF2500

禍々しいオーラを放つ漆黒の龍…これが、高田の真の切り札なのか…?

「ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンは、墓地に存在する、《インフェルニティ》と名のつくモンスターと同じ効果を得る…そして、《インフェルニティ》は、強力な効果を持つ代わりに、手札が0枚で無いと効果が発揮できない。」

なるほど。

故に、《ハンドレスコンボ》。

問題は、今、どんな効果を持っているかだ。

「ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの今現在の効果!インフェルニティ・ガーディアンの効果により、手札が0枚の時、戦闘・効果では破壊されず、インフェルニティ・ビーストの効果により、手札が0枚の時、このカードが攻撃する時、相手は魔法・トラップを発動出来ず、インフェルニティ・ドワーフの効果により、貫通能力を得る!」

「ふざけんな!」

つい、口に出してしまう程のチートカードだ。

倒す手段が、バウンズぐらいしかない。

「フン…貴様はそこでほざいていろ。ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンで、フルール・ド・シュヴァリエに攻撃!インフィニティ・サイト・ストリームッ!」

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの身体中の目が開き、そこから無限の光を放つ!

明日香のフィールドには、リバースカードがあったが、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの効果により、発動できない。

「くうっ…!」

明日香LP1200→1000


装備していたレアコールド・アーマーのおかげで、フルール・ド・シュヴァリエしか狙われず、ライフがギリギリ残った。

「まだまだよ!」

明日香はまだ諦めない。

デュエリストとして。

「ククッ…!いや、これで終わりだ!墓地に存在する、インフェルニティ・デストロイヤーの効果!手札が0枚の時に相手モンスターを破壊した時、1600ポイントのダメージを与える!」

「…そ、そんな…!」

明日香のライフは残り200。

耐えられるわけが…無い。

「ヒャーッハッハッハァッ!これで終わりだァッ!追撃のインフィニティ・サイト・ストリームッ!」

再び、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンから光が放たれ、明日香を…貫いた。

「…ゆう…ごめ…」

明日香LP1000→0

明日香は…静かに、倒れ伏した。

「明日香ァァァァァッ!」

何にも構わず、明日香の下に走り出した。

しかし、明日香の周りに、黒い泡が現れ、俺の接近を拒んだ。

この黒い泡は…タイタンとタッグデュエルをした時に出て来た泡!

「明日香を放せぇっ!」

黒い泡につかみかかるが、何か、障壁のような物に弾かれる。

「くそっ!」

「駄目か…」

隣では、三沢も障壁に弾かれていた。

「闇のゲームに敗れたんだ、天上院明日香には、罰ゲームを受けてもらわなきゃなァ?」

高田はこちらを見下しながら、そう言った。

「罰ゲーム…だと…!?」

「あァ…そういや、言ってなかったな。…クククッ…言ってなかったといえば、さっき、インフェルニティ・デストロイヤーの効果を最初に言うのを忘れた。そのせいで、天上院明日香に無駄な希望を味あわせてしまったなァ…クハッ!ハハハハハハハッ!」

響き渡る高田の哄笑に、俺の中の何かがキレた。

「テメェ…」

「おっと…そんな怖い顔をするなよ…まあ、見ていろ。これが敗者の罰だ…」

明日香の身体が、ズブズブと床に…いや、黒い泡に沈んでいく。

「くっ!」

俺と三沢の二人で、なんとか助けようとするが…二人じゃ、とても力が足りない。

そしてそのまま…明日香は、黒い泡に沈んでいってしまった…

「…明日、香…」


「ヒャーッハッハッハッ!」

絶望する俺の声と、何かに耐えるように目を瞑る三沢に、高田の高笑いが木霊する。

「俺とっ…俺とデュエルしろ!高田ァッ!」

感情に任せ、デュエルディスクを構える。

「落ち着け遊矢!」

「これが落ち着いていられるか!一刻も早く、あいつを倒して、明日香を助けだす!」

三沢の忠告にも耳を貸さず、デュエルディスクを構える俺を、高田は冷ややかな目で見ていた。

「断る。…お前を相手にするのは、次の次。もう一人を闇に送ってからだ。…何故かって、その方が復讐っぽいだろ?」

「ふざけんな!復讐するなら俺だけを狙え!」

俺の言葉を無視して、高田は廃寮の奥に歩いていく。

「それじゃ、また明日ってなァ?ヒャーッハッハッハァッ!」

そのまま、高田の姿は闇に消えていった…

「くっそぉぉっ!!」

知らず知らずの内に、俺は床に拳を打ちつけていた。
 
 

 
後書き
…えーっと…3ヶ月・30話というおめでたい話に、ごめん明日香。

だけど、こうしないとこの記念日が、黒蠍盗掘団とのデュエルになってしまうんだ!

…というわけで、許してください、明日香。

君も結構、善戦したよ。

そんなわけで、亮の休学、高田の誰得イカレ再登場と、明日香敗北という三つを記念日にやってしまい、ちょっと詰め込みすぎかもしれませんね。

(他の話が短い、というのもありますが…)

そして、これから期末テスト!

前回は散々でしたので、今度こそ更新速度downです!

…多分。きっと。めいびー。

感想・アドバイス待ってます! 

 

―決闘は誰の為に―

 
前書き
まだテスト中ですが、遊矢VS高田まで投稿したいので、テスト勉強をほっぽりだしての投稿…… 

 
遊矢side

現在時刻、午前11時。

俺は、自室の椅子に座り、デッキの調整をしていた。

だが、まったくと言って良い程はかどらない。

原因は分かっている。…当然、昨日のことだ。

明日香が消えて、一日がたった。

まだ、消えたのだと信じられなかったが、いつまでも現実逃避をしていても、何も変わりはしない。

だが、授業に行く気には…どうしてもなれなかった。

十代や万丈目、枕田に浜口にどんな顔をして会えば良いと言うのか?

「自分のせいで、明日香は消えてしまった」

…俺には、そんなことは言えない。

「…くそっ!」

昨日の夜から、何度目になるか分からない声を出し、机に手を叩きつける。

オベリスク・ブルーの自室で、俺はいつまでも後悔をしていた。

耳元には、明日香の最後の言葉が今でも響いている。

「ゆう…ごめ…」

明日香。謝ろうとしたなら、謝らないで欲しい。

むしろ、謝らなくてはいけないのは俺なんだ。

あの時、昇格デュエルの時に、面白がって高田と万丈目をオシリス・レッド寮へと落とさなければ、こんなことにはならなかったのだ。

その時、コン、コンと、扉をノックする音がした。

…ただいま、現在進行形で授業中だから、心配してクロノス教諭あたりが来たのだろうか。

悪いが、居留守をさせてもらおう…


「お~い、遊矢?いないのか?」

ガチャリ、と音をたてて、俺の部屋の扉が開く。

無許可で。

こんな非常識な真似をする奴は…

「…十代?」

「俺様もいるぞ!」


勝手に俺の部屋の扉を開いたのは、今、ちょうど考えていた、十代と万丈目だった。

十代は、なんだか、わざとらしく俺と目をそらしている。

十代らしくもない。

そんなことを思っていると、十代が口を開いた。

「…明日香のこと、三沢から聞いた。」

…その十代の一言に、俺は一瞬耳を疑った。

三沢が、十代たちに教えたのだと言う。

フリーズした俺を見た十代は、慌ててしゃべりだした。

「いや、遊矢のせいじゃねぇって!悪いのは、全部その高田って奴だろ!?」

「安心しろ、遊矢!次はこの俺、一、十、百、千、万丈目サンダーが、天上院くんを助けてみせよう!」

ようやく、頭が回り始める。

三沢が、後悔する俺に気を使って、俺が言う前に、セブンスターズに関わるみんなに明日香と高田のことを教えてくれたのだろう。

そして、十代と万丈目が俺の部屋に来てくれたのだ。

「…そうだな。二人は、三沢からどこまで聞いたんだ?」

「フン!全て聞いたわ!」

「ええっと…ダークシンクロのことだろ、復讐のことだろ、明日香のことだろ、高田のこと…これは聞いたぜ!」

…驚いた。

三沢の奴、俺からもう話すことが無いじゃないか。

「じゃ、俺から説明はいらないな…って、三沢はどこにいるんだ?」

「ああ、ちょっと用があるって言ってアカデミアに残ったぜ。」

ちょっと用がある…?

嫌な予感が頭をよぎった。

三沢なら、一人で高田の下に行き、デュエルを挑むなんて馬鹿なことはないだろう。

だが、高田から来た場合はどうだ?

みんなを守ろうと、デュエルを受けるのではないか…?

嫌な予感が拭いきれず、速攻でPDAを取り出し、三沢へと電話をかける。

頼む…出てくれ…!

果たして、PDAの向こうから聞こえてきた声は―

「よォ、黒崎遊矢ァ…!」

今、一番聞きたくない声だった。

「高、田…」

「三沢なら、今電話に出れるような状態じゃないからなァ…代わりに俺が出てやったぜ?」

そして、あの耳障りな笑い声が聞こえる。

「三沢を…どうしたッ…!」

「ん?昨日の天上院明日香みたいにしただけだがァ?」

…こいつだけは…!

俺の思考回路が、真っ黒に染まりそうになり、必死に腕を握り締めて耐えた。

今、落ち着きを失っても高田が喜ぶだけだ。

「高田!次は俺様が相手をしてやる!」

万丈目が、俺のPDAをひったくり、高田に向かって叫んだ。

「ァァ?…このやかましいのは、万丈目かァ?良いぜ。相手してやんよ…と、言いたいところだが…アムナエルから、お前と遊城十代とはデュエルすんなって止められてんだよなァ…」

アムナエル。

初めて聞く名前だが、それがセブンスターズ最後の一人なのだろうか。

だが、今は、そんなことはどうでも良かった。

「だったら、俺が相手だ!」

万丈目からPDAをひったくり返し、高田に向けて宣戦布告をする。

高田は、俺の番は次の次、と言っていた。

三沢が敗れた今、次の相手は俺の筈だ。

だが、高田の次の一言は、俺の予想を上回っていた。

「ハッ!お前なんぞより、今はデュエルしたい相手がいるんだよ!」


「…お前、まだ他の奴を巻き込む気か!?」

俺の他に、まだ狙う奴がいると高田は言う。

俺、十代、万丈目を除く七星門の鍵の守護者。

クロノス教諭、明日香、三沢が敗れたため、残りは一人だ。

「俺が次にデュエルする相手は、オベリスク・ブルーのカイザー亮だ。」

カイザー亮。

俺の友人の一人でもあり、デュエルアカデミア最強の男。

だが、一週間ほど前から、何かあったのか休学をしているのだ。

「だが、亮は今…」

休学中だ、と言おうとした時、十代が口を挟んだ。

「遊矢。さっき、カイザーは帰って来てたぜ。今は校長室にいるはずだ。」

帰って来てたのか。

「そいつは嬉しいなァ…今日の夜、廃寮で待っててやる。ヒャーハッハッ!」

その一言で、PDAは切られた。

PDAをポケットの中にしまい込んで、二人の方に向き合った。

「…悪いが、二人で亮のところに説明を頼めないか?俺は、デッキ調整の途中なんだ。」

机の上に散らばっている、俺の【機械戦士】たちを見て、

「じゃ、頑張ってな。」

「フン!さっさと終わらせろよ!」

と、二者二様の反応をして、十代と万丈目は俺の部屋を出て行った。

「さて…」

再び机に向き直り、デッキ調整をし直す。

亮が負けるとは思えない。

だが、念には念を。
用心をしておくにこしたことはない。

まあ、メタ等は張れないため、いつもの【機械戦士】を見直して、攻略法を考えているだけだが…

しばらくすると、PDAに十代からメールが来る。

『カイザーには伝えた。廃寮に八時に集合』

だいたい、そんな内容のメールだった。


…そして、午後八時。

俺たちは、廃寮の前に集まっていた。

「亮。ずっと休学してたけど、何やってたんだ?」

デュエル場に着くまでに、亮に気になっていたことを聞いた。

「ああ。遊矢には話をしたことはあったな。俺がこのデッキを手に入れた場所。《サイバー流》の道場に行っていた。」

「…《サイバー流》って、何だ?」

十代の呟きに、万丈目が、「ええい、そんなことも知らんのか…」と言い、十代に説明を始めた。

サイバー流。

俺も話を聞いただけだが、リスペクトデュエルを標榜し、《サイバー・ドラゴン》とその関連カードを使っている…というか、極める為に設立された流派だという。

訳あって、今は一部を除いて根絶しているようだが…

そこに行ってきたということは、新しいカードでも手に入れて来たのだろうか。

「そんな所行ったってことはさ、なんかスッゲェカードを手に入れてきたのか?カイザー。」

万丈目の長かったらしい説明をスルーし、十代が亮に向けて質問をした。

「いや、何も俺のデッキは変わってはいない。」

え?

「じゃあ、何で行ったん…」

だ、と続けようとした時、廃寮のデュエル場に着いた。

亮が、俺たちより一歩前に出ると、奥の方から、漆黒のオベリスク・ブルーの制服姿の人物…高田が出て来た。

「逃げずに良く来たなァ、カイザー…褒めてやんよォ。」

「…明日香と、三沢くんはどこだ。」

落ち着いてはいるが、明らかに怒っている声音の亮。

普段、怒らない者が怒ると怖いというが…まさしくその通りである。

「ハッ!あの二人なら、今頃、闇の世界で苦しんでいるだろうよ!…てか、ンなことはどうでもいいんだよ!構えろカイザー!」

相変わらずの、常軌を逸した言動をスルーし、亮はデュエルディスクを構える。

「俺が勝ったとき、明日香と三沢くんを解放してもらう。」

「良いだろうォ!このダークシンクロに勝てるならなァ!」

両者、準備が完了する。

「「デュエル!!」」

「俺の先攻ォ!ドローォ!」

高田が先攻を取った。

「俺は、《キラー・トマト》を攻撃表示で召喚!」

キラー・トマト
ATK1400
DEF1100

キラー・トマト…闇属性のリクルーターか…

「そして、永続魔法、《漆黒のトバリ》を発動ォ!カードを一枚伏せ、ターンエンドだァ!」

前回同様の、次のダークシンクロに繋げる為の準備をしてのターンエンド。

「俺のターン、ドロー。」

だが、亮を相手にして先攻をとってしまったのは…運が悪かったな。

「俺は、《融合》を発動!手札の、《サイバー・ドラゴン》を三体融合し、《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚!」

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000
DEF2800

いきなり降臨する、亮の切り札、サイバー・エンド・ドラゴン。

「バトル!サイバー・エンド・ドラゴンで、キラー・トマトに攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト!」

対する高田も、余裕の表情を崩さない。

「狙い通りだァ!リバースカード、オープン!《スピリット・バリア》!俺のフィールドにモンスターがいる限り、俺は戦闘ダメージを受けねェ!」

だが、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃は止まらない。

圧倒的な攻撃力を持つ、エターナル・エヴォリューション・バーストに、キラー・トマトが耐えられる分けも無く、呆気なく破壊される。

しかし、キラー・トマトの仕事は、戦闘で破壊されることだ。

「スピリット・バリアの効果により、俺は戦闘ダメージを受けず、キラー・トマトの効果を発動!闇属性の、《DT―カオスローグ》を特殊召喚ッ!」

DT―カオスローグ
ATK0
DEF0

ダークチューナーの攻撃力は0。

そして、特殊召喚制限も無いため、最上級モンスターでありながら、キラー・トマトでリクルート出来るってことか…

「…カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

「俺のターンッ!ドローォ!」

高田のフィールドには、ダークチューナーがいる。

来るか…?

「俺は、《インフェルニティ・デーモン》を召喚ッ!」

インフェルニティ・デーモン
ATK1800
DEF1200

謎のシリーズカード、《インフェルニティ》

今は、手札が0枚なので、ただのバニラだ。

「さァ…お待ちかねの、ダークシンクロだァ!レベル4のインフェルニティ・デーモンと、レベル-8のDT―カオスローグを、ダークチューニング!」

インフェルニティ・デーモンの中に、黒い球が入っていく…

合計レベルは、-4。

「闇と闇重なりし時、冥府の扉は開かれる!光無き世界へ!ダークシンクロ!現れろ!《漆黒のズムウォルト》!」

漆黒のズムウォルト
ATK2000
DEF1000

「…これが、ダークシンクロか…!」

「その通りだぜェ、カイザー!これから、こいつの力をとくと見せつけてやらァ!」

俺が今まで見たダークシンクロモンスターは、皆、酷い能力を持っていた。

あの、漆黒のズムウォルトなるモンスターも、おそらくはそうだろう。

「おっとォ…DT―カオスローグの効果を発動!このカードがダークシンクロの素材に使われた時、相手のデッキを五枚墓地に送る!」

亮の墓地に、五枚のカードが送られるが、五枚ぐらいなら、願ったり叶ったりである。

「バトル!漆黒のズムウォルトで、サイバー・エンド・ドラゴンに攻撃ィ!ダーク・ドラッグ・ダウン!」

何!?

「自滅する気かよ!?」

横で十代が叫ぶが…実際、どうなのだろう。

「ハッ!自滅ゥ?オシリス・レッド如きは黙ってやがれ!漆黒のズムウォルトの効果を発動!このカードの攻撃宣言時、攻撃対象モンスターの攻撃力がこのカードの元々の攻撃力よりも高い場合、差の数値100ポイントにつき1枚、相手のデッキの上からカードを墓地へ送るッ!」

つまり…サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は4000で、漆黒のズムウォルトの攻撃力は2000。

よって、亮のデッキから、一気に20枚墓地に送られる…!


「速攻魔法、《融合解除》!サイバー・エンド・ドラゴンをエクストラデッキに戻すことで、墓地からサイバー・ドラゴンを三体特殊召喚する!」

サイバー・ドラゴン
ATK2100
DEF1600

サイバー・エンド・ドラゴンがフィールドからいなくなったことにより、漆黒のズムウォルトの効果は無効になる。

流石は亮。

「ぐッ…漆黒のズムウォルトで、サイバー・ドラゴンに攻撃!ダーク・ドラッグ・ダウン!」

再び、漆黒のズムウォルトの効果が発動する。

しかし、漆黒のズムウォルトとサイバー・ドラゴンの攻撃力の差はたった100。

デッキを一枚墓地に送るだけで終わりだ。

「迎撃しろ、サイバー・ドラゴン!エヴォリューション・バースト!」

サイバー・エンド・ドラゴンには劣るものの、充分に強力な光が漆黒のズムウォルトに放たれる。

だが、高田の不敵な笑みは止まらない。

「漆黒のズムウォルトは戦闘では破壊されない!そして、スピリット・バリアによって俺は戦闘ダメージを受けない!」

つまり、高田の戦術は、スピリット・バリアと漆黒のズムウォルトで戦闘ダメージを防ぎ、漆黒のズムウォルトの効果でのデッキ破壊、というコンボだろう。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー。」

さて、亮はどうするか。

「俺は速攻魔法、《フォトン・ジェネレーター・ユニット》を発動する。フィールドのサイバー・ドラゴン二体をリリースすることで、デッキ・手札・墓地からサイバー・レーザー・ドラゴンを特殊召喚出来る…墓地から、《サイバー・レーザー・ドラゴン》を特殊召喚!」

サイバー・ドラゴンが二体消えた場所に、巨大な砲塔をつけたサイバー・ドラゴンが現れる。

サイバー・ドラゴンの進化系の一つ、サイバー・レーザー・ドラゴンだ。

サイバー・レーザー・ドラゴン
ATK2400
DEF1800

「ハッ!それがどうしたァ?漆黒のズムウォルトは、戦闘では破壊されねェ!」

「更に速攻魔法、《禁じられた聖槍》を、サイバー・レーザー・ドラゴンを指定して発動する。対象となったモンスターは、攻撃力が800下がり、魔法・トラップの効果を受けなくなる。」

サイバー・レーザー・ドラゴン
ATK2400→1600

もちろん、魔法・トラップの効果を受けなくなる事が目的じゃない。

狙いは、サイバー・レーザー・ドラゴンの効果だ。

「サイバー・レーザー・ドラゴンの効果を発動する。このカードの攻撃力より高い攻撃力・守備力を持つ相手モンスターを、1ターンに一度破壊する!フォトン・エクスターミネーション!」

サイバー・レーザー・ドラゴンから放たれる光弾は、先程とは違って、漆黒のズムウォルトを貫いた。

これで、高田のフィールドはがら空きだ。

「バトル!」

「くッ……リバースカード、オープン!《重力解除》!フィールド場の表側表示モンスターの表示形式を、全て変更する!」

高田のトラップにより、サイバー・ドラゴンの動きが止まり、守備表示となる。

だが、サイバー・レーザー・ドラゴンは止まらない。

「禁じられた聖槍の効果により、サイバー・レーザー・ドラゴンは、魔法・トラップの効果を受けない。サイバー・レーザー・ドラゴンで、プレイヤーにダイレクトアタック!サイバー・レーザー・ショット!」

漆黒のズムウォルトを破壊したレーザーが、高田を貫く。

「チィッッ!」

高田LP4000→2400

「よっしゃあ!流石はカイザーだぜ!」

亮が先手をとったことにより、十代が歓声を上げる。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

「俺のターン!ドローォ!引いたのは闇属性モンスター、《DT―デス・サブマリン》!墓地に捨て、一枚ドローォ!……更に引いたのは、《インフェルニティ・デストロイヤー》!墓地に捨て、一枚ドローォ!」

着実に、高田は切り札であるワンハンドレット・アイ・ドラゴンに向かっている。

アレが出たら、亮でも突破は難しいと思うが…

「更に、俺は《強欲な壺》を発動!二枚ドローォ!」

高田がカードを引き、強欲な壺は破壊される。


「リバースカード、オープン!《リミット・リバース》!攻撃力1000以下の、《DT―デス・サブマリン》を特殊召喚ッ!」

先程墓地に送られた、潜水艦のような形をしているダークチューナーだ。

「そして、《インフェルニティ・ガーディアン》を召喚!」


インフェルニティ・ガーディアン
ATK1200
DEF1700

ダークチューナーと素材がフィールドに揃う。

高田が行うことは、当然……ダークシンクロ。

「レベル4のインフェルニティ・ガーディアンに、レベル-9のDT―デス・サブマリンを、ダークチューニング!」

インフェルニティ・ガーディアンの中に、漆黒の玉が入っていく……

合計レベルは、-5。

「闇と闇重なりし時、冥府の扉が開かれる。光無き世界へ!ダークシンクロ!現れろ!《氷結のフィッツジェラルド》!」

氷結のフィッツジェラルド
ATK2500
DEF2500

現れたのは、俺と明日香と三沢の前に、初めて現れたダークシンクロモンスター、氷結のフィッツジェラルド。

戦闘破壊された時、相手モンスターを破壊しつつ蘇る、という効果を持つモンスターだ。

「バトル!氷結のフィッツジェラルドで…」

「攻撃する前に、リバースカード、オープン!《アタック・リフレクター・ユニット》!自分フィールド場のサイバー・ドラゴンをリリースすることで、デッキから《サイバー・バリア・ドラゴン》を特殊召喚する!」

サイバー・バリア・ドラゴン
ATK800
DEF2800

サイバー・レーザー・ドラゴンが、攻撃型の進化なら、サイバー・バリア・ドラゴンはまさしく、防御型の進化だ。

高い守備力と、効果を併せ持っている。

「それがどうしたァ!?氷結のフィッツジェラルドで、サイバー・レーザー・ドラゴンに攻撃ッ!ブリザード・ストライク!」

「サイバー・バリア・ドラゴンの効果を発動。このカードが攻撃表示の時、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする。」

サイバー・バリア・ドラゴンが、サイバー・レーザー・ドラゴンの前に立ち、氷結のフィッツジェラルドの攻撃を防いだ。

さながら、生きた《くず鉄のかかし》と言ったところだろうか。

このタイミングで、くず鉄のかかしと違うところは、氷結のフィッツジェラルドの効果で発動を無効化されないということだ。

「何だと……!?攻撃力800の分際でェ…カードを二枚伏せ、ターンエンド!」


「俺のターン、ドロー。
……サイバー・レーザー・ドラゴンの効果を発動し、氷結のフィッツジェラルドを破壊する!フォトン・エクスターミネーション!」

サイバー・レーザー・ドラゴンの攻撃力は2400。

氷結のフィッツジェラルドの攻撃力2500を下回るため、破壊が可能だ。

「バトル!サイバー・レーザー・ドラゴンで、プレイヤーにダイレクトアタック!サイバー・レーザー・ショット!」

「リバースカード、オープン!《ガード・ブロック》!戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローするッ!」

防がれたか……さて、亮のフィールドには攻撃表示のサイバー・バリア・ドラゴンが残ってはいるが……高田が言ったように、攻撃力は僅か800。

加えて、高田のフィールドにはまだリバースカードがある。

攻撃を無効化する効果があるとはいえ、攻撃表示のままにするか、守備表示にするか……

「俺は、サイバー・バリア・ドラゴンを守備表示にし、カードを一枚伏せてターンエンドだ。」

亮は守備表示の方を選択し、ターンを終えた。


「俺のターンッ!ドローォ!
……闇属性モンスター、《インフェルニティ・ビースト》を墓地に送り、一枚ドローォ!」


そろそろ、《インフェルニティ》が墓地に貯まりだした。

不味いな。

「俺はモンスターをセット!そして、速攻魔法、《太陽の書》!セットモンスターを反転召喚する!」

そうして、顔を出したセットモンスターは……

「《メタモルポット》のリバース効果!お互いに手札を全て捨て、五枚ドローォ!」

メタモルポット
ATK700
DEF600

お互いに、捨てるべき手札が一枚も無かったが……

「そして、リバースカード、オープン!《リビングデッドの呼び声》!墓地から、《DT―カオスローグ》を特殊召喚ッ!」

DT―カオスローグ
ATK0
DEF0

再び現れる、デッキ破壊効果を持つダークチューナー。

「レベル2のメタモルポットと、レベル-8のDT―カオスローグでダークチューニング!」

メタモルポットに、漆黒の玉が入っていく……

合計レベルは、-6。

「闇と闇重なりし時、冥府の扉が開かれる。光無き世界へ!ダークシンクロ!現れろ!《地底のアラクネー》!」

地底のアラクネー
ATK2400
DEF1200

レベル-6である、蜘蛛のダークシンクロモンスター……その効果は、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンに劣らず酷い効果だ。

「DT―カオスローグの効果により、デッキから五枚、墓地に送って貰うぜェ?」

これで、合計16枚のカードが墓地に送られた。

亮の切り札の一つ、《オーバーロード・フュージョン》がデッキに残っていれば良いが……落ちてしまった確率が高いだろう。

「そして、地底のアラクネーの効果を発動ォ!1ターンに一度、相手モンスターをこのカードに装備出来る!サイバー・バリア・ドラゴンを装備する!トワイナー・スレッド!」

地底のアラクネーから伸ばされた蜘蛛の糸が、サイバー・バリア・ドラゴンを捕縛する。

これで、地底のアラクネーは破壊耐性をも得てしまった。

「バトル!地底のアラクネーで、サイバー・レーザー・ドラゴンに攻撃!ダーク・ネット!」

地底のアラクネーと、サイバー・レーザー・ドラゴンの攻撃力は同じ。

「迎撃だ!サイバー・レーザー・ショット!」

自身の蜘蛛の糸を伸ばす、地底のアラクネーと、レーザーを発射するサイバー・レーザー・ドラゴン。

「ダメージステップ時、速攻魔法、《突進》を発動ォ!地底のアラクネーの攻撃力を、700ポイントアップさせる!」

地底のアラクネー
ATK2400→3100

地底のアラクネーの蜘蛛の糸の勢いが強くなり、サイバー・レーザー・ドラゴンのレーザーに打ち勝った。

「くっ…!」

亮LP4000→3600

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだァ!」

「俺のターン、ドロー。」

今度は、一転して亮のフィールドががら空きになる。

だが、メタモルポットの恩恵は亮にもある。

「リバースカード、オープン!《リビングデッドの呼び声》。墓地からサイバー・ドラゴンを特殊召喚する!」

サイバー・ドラゴン
ATK2100
DEF1600

「そして、《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚する。」

プロト・サイバー・ドラゴン
ATK1100
DEF600

プロト・サイバー・ドラゴンは、フィールド場ではサイバー・ドラゴンと扱う……これで、亮のフィールドにサイバー・ドラゴンが二体揃った!

「俺は、《融合》を発動!フィールド場のサイバー・ドラゴンと、サイバー・ドラゴンとなったプロト・サイバー・ドラゴンで、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を融合召喚!」

サイバー・ツイン・ドラゴン
ATK2800
DEF2100

サイバー・ツイン・ドラゴン。

サイバー・ドラゴンの攻撃力を守備力として受け継いだ、二対の頭を持つ機械の竜。

その効果も、二対ならではだ。

「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンで、地底のアラクネーに攻撃!エヴォリューション・ツイン・バースト!」

「グッ…地底のアラクネーは、装備モンスターを墓地に送ることにより、あらゆる破壊を免れるッ!そして、スピリット・バリアの効果により、戦闘ダメージは受けねェ!」

地底のアラクネーが、サイバー・バリア・ドラゴンを身代わりにすることで、エヴォリューション・ツイン・バーストを避けた。

だが、破壊されることに代わりはない。

「サイバー・ツイン・ドラゴンは、二回の攻撃が可能だ。サイバー・ツイン・ドラゴンで、再び地底のアラクネーに攻撃!エヴォリューション・ツイン・バースト!第二打!」

今度ばかりは防げるはずもなく、地底のアラクネーは破壊される。

まあ、戦闘ダメージはスピリット・バリアの影響で存在しないが。

「カードを一枚伏せ、ターン……」

「おおッと!カイザーのエンドフェイズ、《終焉の焔》を発動ォ!黒炎トークンを二体特殊召喚するッ!」

黒炎トークン
ATK0
DEF0

「……ターンエンドだ。」

「俺のターン!ドローォ!
……さァ、デュエルも終焉に向かわせてもらうぜェ?」

高田の狂った笑みが、更に深く顔に刻まれる……

来るのか、あの龍が。

「黒炎トークン二体リリースして、《DT―ナイトメア・ハンド》をアトバンス召喚ッ!」

DT―ナイトメア・ハンド
ATK0
DEF0

「DT―ナイトメア・ハンドの効果ァ!このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、手札からレベル2モンスターを特殊召喚出来るッ!現れろ!《インフェルニティ・ドワーフ》!」

インフェルニティ・ドワーフ
ATK800
DEF500

…明日香の時と同じだ…やはり、来るのは…

「カードを二枚伏せ、更にリバースカード、オープン!《凡人の施し》!二枚ドローし、手札に通常モンスターがいなかった場合、手札を全て墓地に送るッ!」

あいつのデッキに、通常モンスターなんぞ入っていないだろう。

狙いは、手札を0にすることだ。

「……残念ながらァ、手札に通常モンスターは無かったから、手札を全て墓地に送るぜェ?」

白々しい…

「気をつけろ亮!《ハンドレスコンボ》だ!」

ハンドレスコンボ。

俺からは伝えていないが、恐らくは三沢が十代たちに伝え、十代たちが亮に伝えただろう。

「気をつけろ、だァ?どう気をつけりゃァいいのか、教えてくれよ黒崎遊矢ァ…レベル2のインフェルニティ・ドワーフに、レベル-10のDT―ナイトメア・ハンドをダークチューニング!」

漆黒の玉となったDT―ナイトメア・ハンドが、インフェルニティ・ドワーフの中に入っていく。

「漆黒の帳落ちし時、冥府の瞳が開かれる。舞い降りろ闇よ!ダークシンクロ!現れろ!《ワンハンドレット・アイ・ドラゴン》!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴン
ATK3000
DEF2500

遂に現れる、明日香を葬った憎むべきダークシンクロモンスター、ワンハンドレット・アイ・ドラゴン。

高田の真の切り札で、手札が0枚という条件はあるものの、その効果は強力無比。

「さあ……行くぜェ!墓地のインフェルニティ・ビーストの効果により、相手は魔法・トラップを発動出来ない!ワンハンドレット・アイ・ドラゴンで、サイバー・ツイン・ドラゴンに攻撃ィ!インフィニティ・サイト・ストリームッ!」


ワンハンドレット・アイ・ドラゴンから放たれた無数のビームが、サイバー・ツイン・ドラゴンを消し飛ばす。

「つッ……!」

亮LP3600→3400

「まだだァ!墓地のインフェルニティ・デストロイヤーの効果により、戦闘でモンスターを破壊した時、1600ポイントのダメージを与えるッ!追撃のインフィニティ・サイト・ストリームッ!」

明日香と同じように、亮の身体を光が貫く。

「がはっ!」

亮LP3400→1800

「亮!」

これは闇のデュエル。


ダイレクトアタックのダメージは、そのままプレイヤーに行く。

更に、亮は、闇のデュエルが今回が始めてのため、衝撃は大きいだろう。

「ぐっ…大丈夫だ…」

「ハッ!何が大丈夫なモンかよ!ワンハンドレット・アイ・ドラゴンを倒す手段なんざ、存在しねェんだ!ターンエンド!」


亮のデッキは、サイバー・ドラゴンを主軸に、様々な高攻撃力モンスターを出すデッキ……それゆえに、効果破壊はあまりなく、先程破壊されたサイバー・レーザー・ドラゴンぐらいだ。

だが、サイバー・レーザー・ドラゴンは、専用カードであるフォトン・ジェネレーターユニットでなくては特殊召喚出来ない上に、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンは、インフェルニティ・ガーディアンの効果によって効果破壊も出来ない。


「俺のターン、ドロー」

どうする、亮……

「俺は、《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚!」

プロト・サイバー・ドラゴン
ATK1100
DEF600

プロト・サイバー・ドラゴン、だと…!?

フィールド場にいる時、サイバー・ドラゴンになるという、亮のデッキには欠かせないカードではあるが、融合しようにもサイバー・ドラゴンは三枚とも墓地にいる。

「ヒャーッハッハ!遂に勝負を諦めたかカイザー!」

高田の声に、亮は軽く笑みを浮かべた。

「デュエリストである以上、一度始まったデュエルを途中では諦めない……フッ、こんな当たり前のことも、俺はわかっていなかったのか……」

亮の自嘲じみた笑みは、このデュエルアカデミアにて俺とデュエルする前の、勝つ気が無かった自分を思い出してのことだろう。

リスペクトデュエル。

サイバー流の目的であるらしい、そのデュエルに亮は囚われていた。

勝てなくても、相手をリスペクト出来ればそれで良い。

その考えが、何よりも相手を馬鹿にしていることに気づかず……

その後、亮がどう考えてデュエルをしているかは知らない。

神様じゃないんだ、人がどう思っているかなんて分からないからな……

「勝たせてもらうぞ!リバースカード、オープン!《DNA改造手術》!フィールド場のモンスターを全て、《機械族》とする!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴン
ドラゴン族→機械族

「ヒャーッハッハッ!それがどうしたよカイザー!そんなことしてもよォ……な、何ィ!」

高田の狂った高笑いと同時に、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンが、プロト・サイバー・ドラゴンと共に、渦に吸い込まれていく……

この現象は……俺はあまり使わないが……まさしく。

「融合だと!?」

融合モンスター、おジャマ・キングを使う万丈目が驚きの声を上げる。

「現れろ!《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》!」

キメラテック・フォートレス・ドラゴン
ATK0
DEF0

プロト・サイバー・ドラゴンと、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンが消えたところから現れたのは、本体から首が二本出てきた機械の龍。

キメラテック・オーバー・ドラゴンに似ているが、少し違う。

「このカードは、自分フィールド場のサイバー・ドラゴンと、フィールド場の機械族モンスターを融合することで特殊召喚が出来る……融合の魔法カードは必要としないがな。」

「チィッ……ワンハンドレット・アイ・ドラゴンは、効果破壊されない筈ッ…!」

「効果破壊ではない。融合だ。」

確かに、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンを破壊することはほとんど不可能に近い。

だが、融合素材にすれば、そんなことは関係がない。

サイバー流を使う、亮にしか出来ない手段だが。

「すっげえ融合だぜ!頑張れカイザー!」

同じく、融合を主軸にしたデッキの使い手である十代の声援を受け、亮はフッと笑う。

「キメラテック・フォートレス・ドラゴンの元々の攻撃力は、融合に使用したモンスター×1000ポイントとなる!」

キメラテック・フォートレス・ドラゴン
ATK0→2000

高田の残りライフは、2400。

削りきれはしないが、大ダメージを与えられる。

「キメラテック・フォートレス・ドラゴンで、プレイヤーにダイレクトアタック!エヴォリューション・レザルト・アーティレリー!」

サイバー・ツイン・ドラゴンと同じように、二対の首から一本ずつ光弾が放たれだが……高田に届くことは無く、代わりに、空中に現れた戦士(今は機械だが)を撃ち落とした。

「墓地のネクロ・ガードナーの効果を発動ォ!このカードを除外し、相手モンスターの攻撃を無効にするッ!」

恐らく、凡人の施しの時に墓地に落としたのだろう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」


「俺のターンッ!ドローォ!」

高田のフィールドにはモンスターがいず、手札も今引いた一枚のみ。

だが、油断は出来ない。

明日香とのデュエルと、今のデュエルのおかげでダークシンクロも全貌が見えてきそうだが、まだ未知のデッキには違いない。

そう考えると、三沢のみ奇襲攻撃をしたのは、メタを張る時間と、他人に伝える時間を無くす為だったのかもしれない。

「リバースカード、オープン!《貪欲な壺》!墓地のモンスターを五体戻すことで、二枚ドローする!俺は、《漆黒のズムウォルト》・《氷結のフィッツジェラルド》・《地底のアラクネー》・《ワンハンドレット・アイ・ドラゴン》・《メタモルポット》をデッキに戻し、二枚ドローォ!」

倒したダークシンクロモンスターが、全てエクストラデッキに戻る。

「ククッ……墓地のDT―デス・サブマリンは、デュエル中に一度だけだが、俺のフィールドにモンスターがいない時、特殊召喚出来る!蘇れ!DT―デス・サブマリン!」

DT―デス・サブマリン
ATK0
DEF0

「何だと!?」

流石の亮も驚くが、この場にいる全員がそう思ったことだろう。

ノーコストで最上級モンスター、しかもダークチューナーを特殊召喚する効果。

反則すぎる。

「ヒャーッハッハ!驚いたかァ!?更に、《インフェルニティ・ネクロマンサー》を守備表示で召喚!」

インフェルニティ・ネクロマンサー
ATK0
DEF2000

貪欲な壺により、ダークシンクロモンスターは全てエクストラデッキに戻された。

また、再び現れる……!

「レベル3のインフェルニティ・ネクロマンサーに、レベル-9のDT―デス・サブマリンをダークチューニング!」

何が出るか、レベルを聞いてわかってしまった。

「闇と闇重なりし時、冥府の扉は開かれる。光無き世界へ!ダークシンクロ!現れろ!《地底のアラクネー》!」

地底のアラクネー
ATK2400
DEF1200

俺の予想通り現れる、蜘蛛のダークシンクロモンスター。

手札がある今、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンより、こちらの方を出したのだろう。

「地底のアラクネーの効果を発動ォ!お前のフィールドの、キメラテック・フォートレス・ドラゴンを装備するッ!トワイナー・スレッド!」


もちろん、防げるわけは無く、地底のアラクネーの蜘蛛の糸がキメラテック・フォートレス・ドラゴンを捕縛する。

「リバースカード、オープン!《ダメージ・ダイエット》!このターン、俺が受ける戦闘ダメージは、全て半分になる!」

地底のアラクネーには、攻撃する時に相手の魔法・トラップを封印する効果があるため、今発動したのだろう。

「ヒャーッハッハ!それがどうしたッてんだァッ!地底のアラクネーで、カイザーにダイレクトアタック!ダーク・ネット!」

「ぐああああっ!」

亮LP1800→600


「亮!」

「「カイザー!」」

地底のアラクネーのダイレクトアタックを受け、亮の身体には激痛が走っただろう。

「ぐっ…!」

「そういや、一回聞いておきたかったんだけどよォ…《リスペクトデュエル》ってのは、結局何がしたいんだ?」

うずくまる亮に対し、高田は上から見下ろしながら言った。

「リスペクトデュエル……相手と己の力を十全に発揮することが出来るならば、勝ち負けは関係ないという考えのデュエルのことだ……」

「ハッ!馬鹿らしい!」

亮の息も絶え絶えの言葉を、高田は一蹴した。

「デュエルで大事な事は、勝つことに決まってんじゃねェか!相手をリスペクトする暇があるなら、勝利のみをリスペクトしろ!勝利以外など必要無い!ターンエンドだ!」

「……俺のターン、ドロー。」

確かに、勝利することは大切だ。

だが、大切なのは勝利することだけじゃない。

大切なのは人それぞれだが、勝利のみをリスペクトするデュエルなど間違っている……!

「……俺は、《マジック・プランター》を発動する。永続トラップ、DNA改造手術を墓地に送り、二枚ドロー……」

だけど亮。

今、お前は何を考えている?

「……高田。確かに、お前の言うことも事実だ。」

「カイザー!?」

十代の驚きの声を無視して、亮はゆったりと体勢を整える。

「俺は、休学中にサイバー流道場で鍛え直している途中、同じ結論に辿り着いた。勝利のみをリスペクトするデュエルに。」

「ヒャーッハッハ!やっぱりそうだよなァカイザー!」

その時、高田の高笑いに被さるように、亮の声が響いた。

「だが、その考えに至ると同時に、遊矢の言葉を思いだした。『楽しんで勝たせてもらう』、と。……楽しむだけではなく、勝つだけでもない……それが遊矢のデュエルだった。」

高田の笑顔が、凍る。

「俺は、リスペクトデュエルを捨てたくはない。だが、俺はデュエルに負けたくはない……ならば、リスペクトしながら勝つデュエルを……真のリスペクトデュエルを目指す!通常魔法、《大嵐》を発動!フィールド場のマジック・トラップを、全て破壊する!」


亮のフィールドに魔法・トラップは無く、高田のフィールドには四枚のカード。

「チィッ!リバースカード、オープン!《無謀な欲張り》!二枚ドローする代わりに、二回のドローステップを無効にする!二枚ドローォ!」

一枚はフリーチェーンだったようだが、残り三枚……スピリット・バリアと漆黒のトバリ、装備カードとなっていたキメラテック・フォートレス・ドラゴンは破壊される。

「更に速攻魔法、《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動!自分のライフポイントを半分払い、このターンに機械族融合モンスター1体を融合召喚する場合、手札または自分フィールド上の融合素材モンスターを墓地に送る代わりに、自分の墓地に存在する融合素材モンスターをゲームから除外する事ができる!」

亮LP600→300

亮の残りライフは、僅か300となる……だが。

「更に、《融合》を発動!サイバネティック・フュージョン・サポートの効果により、サイバー・ドラゴンを三体除外する!」

サイバー・ドラゴンが三体、フィールドに現れ、すぐに融合の渦に巻き込まれる。

サイバー・ドラゴン三体で融合召喚するモンスター……当然、亮のエースカード!

「現れろ!《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000
DEF2800

サイバー・ドラゴンと並び、亮の代名詞とも言えるモンスター、サイバー・エンド・ドラゴンが、再びフィールドに現れた。

「……俺は、遊矢とデュエルしていなかったら、勝利のみをリスペクトするデュエルをしていたかもしれない……だが、俺は、このサイバー・エンド・ドラゴンと共に、真のリスペクトデュエルを掴む!バトル!サイバー・エンド・ドラゴンで、地底のアラクネーに攻撃!エターナル・エヴォリューション・バースト!」

放たれるは、攻撃力4000の光!

「グアアアアアッ!」

高田LP2400→800

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド。」

「俺のターン!無謀な欲張りの効果により、ドローフェイズはスキップされる。」
絶体絶命の筈の高田は、やはり狂った笑いを止めることは無かった。

「ククッ……ヒャーッハッハ!真のリスペクトデュエルだと!?……笑わせてくれるぜ……じゃァお前は、こいつを見ても俺をリスペクト出来るのかァ?」

パチン、と高田が指を鳴らすと、高田の背後から人が倒れてきた。

あれは……

「「翔!?」」

水色の髪と丸メガネ。まさしく丸藤翔だった。

兄である亮と、ルームメイトである十代がいち早く気づき、声を上げた。

「ククッ……お前等が来るまで暇だったからよォ……ちょっとデュエルしてきたんだよ。雑魚だったけどなァ!ヒャーッハッハ!」

「くそっ…!」

横で、翔と一番親しい十代が拳を握り締める。

無論、俺だって怒ってないわけじゃない。

だが、頭を冷やせ。

昨晩、三沢から言われたことだ。

冷静さを失っては、何にもならない。今は、亮のデュエルを見届けるんだ……!

「翔……!」

「リスペクトデュエルって奴はどうしたァ?……答えろよカイザー!」

高田の激昂した声に、亮は何も答えなかった。

「チッ……つまらねェ奴だ。もう良い、終わらせてやんよォ!魔法カード、《魔法石の採掘》を発動!手札を二枚捨て、墓地の魔法カードを一枚手札に加える!俺が手札に加えるのは……死者蘇生!」

死者蘇生。

デュエルモンスターズをやっている人物なら、誰でも……いや、デュエルモンスターズをやっていない人でも、知っているだろうカード。

「《死者蘇生》を発動ォ!墓地から蘇れ、《地底のアラクネー》!」

地底のアラクネー
ATK2400
DEF1200

最悪のタイミングで現れる、蜘蛛のダークシンクロモンスター、地底のアラクネー。

亮のフィールドにいるモンスターは、サイバー・エンド・ドラゴンのみだ……

「リバースカード、オープン!《破壊輪》!」

その時、亮が発動したカードは、信じられないカードだった。

「破壊輪は、フィールドに存在するモンスターを一枚破壊し、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける。」

高田のライフは800。

亮のライフは300。

2400ポイントなど、受けきれる筈がない……!

「バッ……馬鹿なことは止めろカイザー!この闇のデュエルは、引き分けになった場合、お互いが闇の世界に沈むことになるんだぞ!?」


珍しく慌てる高田に対し、亮はいつもの通り冷静だった。

「フッ……明日香と三沢くん、翔の三人を救えると思えば、安いものだ。……後は頼むぞ、遊矢。」

「ふざけんな、亮!後で絶対助けだしてやるから、破壊輪の発動を止めろッ!」

そうは言うものの、俺には分かっていた。

亮が絶対に、発動を止めないことを。

「もう遅い。遊矢。パーフェクトなどと呼ばれて調子にのっていた俺に、真のリスペクトデュエルの完成という、新たな目的をくれて感謝する。……破壊輪で地底のアラクネーを破壊し、お互いに攻撃力分、2400ポイントのダメージを受ける!」

「ヤッ、止めろォォォォォォォォッ!」

高田の叫びも通じず、破壊輪は地底のアラクネーに装備され……爆発する。

「亮ォォッ!」

亮LP300→0

高田LP800→0


破壊輪の爆発により、デュエル場が閃光に包まれる。

たまらず目を瞑った俺たちが次に見たものは……高笑いをする、高田だった。

「……高、田……?」

亮と翔の姿は無い。

いるのは、高笑いを続ける高田だけだった。

「貴様……どういうことだ!貴様のライフポイントは、確かに0になったはずだぞ!」

「クククッ……確かに、俺のライフは0だ。だが、俺の手札にはこいつがあった。」

万丈目の言葉に対し、そう言って、高田は背後を指差す。

そこにいるのは……

「モンスター……か?」

「そうだァ!あいつの破壊輪が発動し、ライフが0になる瞬間、こいつの効果は発動する……俺のライフポイントが2000以下の場合に相手がダメージを与える魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した時、このカード以外の手札をすべて捨てる事でのみ、このカード……《インフェルニティ・ゼロ》は、手札から特殊召喚する事ができるッ!このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、俺はライフポイントが0でも敗北しない!つまり、あのカイザーは無駄死にだったってわけだ!ヒャーッハッハ!」

「テ…メェ……!」

我慢の限界だ。

「ハッ!そんな怖い顔すんなよ……また明日。今度はテメェの番だ、黒崎遊矢ァ!ヒャーッハッハッッハッハッ!」

先日と同じように、高笑いをしながら、高田は消えていった……

「……上等だッ……!」

俺は、聞こえてはいないかも知れないが、高田への宣戦布告をした。 
 

 
後書き
若干、急ぎ足でしたね…

7月20日までには、遊矢VS高田を投稿させていただきます!

感想・アドバイス待ってます! 

 

一緒に、帰ろう-

 
前書き
も、もう少し早く投稿する筈だったのに……! 

 
遊矢side

時刻は夕方。

俺は今、デュエルアカデミアをぶらぶらと回っていた。

 学園祭の前日である今日、デュエルアカデミアの盛り上がりは最高潮に達している。

 外来からの人物の姿も増え始め、閉鎖的な島だったデュエルアカデミアにしては、珍しいことである……もちろん、喜ばしいことだ。

しかし、セブンスターズ関係者である自分たちは、手伝える時に手伝う、といったスタンスであったため、残念ながら出し物には参加できないわけだが。

ちなみに、自分たちオベリスク・ブルーは喫茶店……というよりカフェだな。

プライドが高い奴が多いのに、客商売なんて出来るのかね?
と、思ったが、予行練習を見てみたら結構真面目にやっていたな。
エリートだけあって、負けず嫌いなところが功を労した、とでも言ったところか。

「三沢とカイザーが参加出来ないのは残念だ」

と、取巻が執事服……どうやら、それがウェイターの制服らしい……にぼやかれた。
……俺は?

 ラー・イエローは、祭りらしく屋台やらなにやらを出すらしい。……くそ、俺もそっちがやりたかったな。
少し、昇格したのを後悔した。
三沢とたまに行っているとはいえ、流石に交じるわけにはいかない。
料理はというと、意外にも神楽坂が活躍していた。
なんでも、有名な焼きそば職人や、たこ焼き職人のデータを記憶して、再現しているらしい……そんなことまで出来るのか、あいつは。

「天上院さんや三沢と一緒に、食べに来てくれよ!」

と、焼きそば職人兼たこ焼き職人兼お好み焼き職人の神楽坂は手を振ってきた。

やたらと、明日香のことを強調していたのが気になったが……

 そして、俺が今いるオシリス・レッドは、隼人から聞いたところによると、コスプレデュエル大会というのを開くらしい。……いつも隣にいた翔は、今はいない。
謝ろうと思って行ったのだが、口に出す前に止められてしまった。

「助けてくれれば、それでいいんだな」

 そう言って笑う隼人に、少しこみ上げて、「任せてくれ」と頷いた後、オシリス・レッド寮を後にした。

 次に行ったのは、良く釣りをしている池だ。
 明日香と初めてデュエルした場所で、それからも何回かデュエルに使う場所である。
他にも、他愛も無い世間話をしたりと、色々な話しをした思い出の場所だ。

いつもなら、腰掛けて釣りをするところであるが、今日はそんな暇はなく、その場を後に森の奥深くに進んでいった。

 そうしてたどり着いたのは、デュエルアカデミアの元特待生寮である、廃寮。

 明日香の兄、亮の親友である天上院吹雪が行方不明になっていて、捜しに入った明日香を守りながら、タイタンと共に初めて闇のデュエルをした。

釣りをしている池とは、また違った意味で思い出の場所であるが、ここが俺の今日の目的地だ。

――さあ、行くぞ。

 今通って来た、デュエルアカデミアの道のりを思い出しながら、俺は廃寮のデュエル場に向かうため、足を踏み入れた。

「――何だ、思ったより早かったなァ、黒崎遊矢ァ……」

 デュエル場にたどり着いた俺の目の前に、高田が闇の中から現れる。

「それに、一人かよ? 遊城十代に、万丈目はどうしたァ?」

「二人なら来ねぇよ。お前ごときに、三人で来る必要なんて無いからな」

もちろん、嘘だ。
ただ、俺が集合時間30分前に廃寮に来ただけだ。
……もう、誰も巻き込みたくない。

「ハッ! 減らず口を叩いてんじゃねェよ! ……ああ、そうだ。良いもん見せてやんよ」

 そう言って、高田は指をパチンと鳴らす。
そうすると、中空に映画のスクリーンのような物がいくつか現れた。

 それらに映っているモノは……デュエルアカデミアの各所だった。

「デュエルアカデミア……?」

「クククッ…イッツ・ア・ショータイム!」

 高田が叫ぶのと同時に、スクリーンの中のデュエルアカデミアに中に現れる大量の黒い泡。
それらは形を成していき、やがて、デュエルディスクを構えたヒトガタとなった。

 それを見て、俺は高田の狙いを察した。察してしまった。

「高田テメェ、まさか……!」

「ヒャーハーッハッハッ!その通り……デュエルアカデミアにいる奴全員、闇のデュエルで消してやるのさァ!」

やはり。
あのヒトガタの黒い泡は、無差別に闇のデュエルを挑む人形であるようだ。

「くそッ!」

高田に背を向け、デュエルアカデミアに戻ろうとしたが……止めた。

「ん? どうしたァ? デュエルアカデミアに戻んなくて良いのかよ?」

せせら笑う高田に対して、俺も不敵な笑みで応えた。

「逆に、なんで戻る必要があるんだ? ……デュエルアカデミアのみんなはな、あんな化け物ごときには負けねぇんだよ!」

そうだ。
スクリーンの中で、ヒトガタたちに対してデュエルディスクを構えるみんなが……十代が、万丈目が、クロノス教諭が、隼人が、神楽坂が、取巻が、あと、何でだか知らんが、オベリスク・ブルー寮で木登りをしようとしていた自称・恋する乙女――レイが……あんな化け物ごときに負けるはずが無い。

俺はそう、信じてる。

「ハッ! まあいい! 戻らなかったことを後悔するんだな!」

 高田がデュエルディスクを構えたのを見て、対する俺もデュエルディスクを構える。

――明日香、三沢、亮、翔……必ず助けてやるッ……!

「デュエルだ高田! 決着をつけさせてもらうぜ!」

 双方の準備が完了する。

 あの時。寮の昇格デュエルの時にあんな事を言わなければ、今、こんなことにはならなかった。

 だから、俺の責任は……自分で取る。

「「デュエル!!」」

遊矢LP4000

高田LP4000

 俺のデュエルディスクに、『後攻』と表示される。

「俺の先攻! ドローォ!」

先攻の高田が、勢い良くカードを引く。

「俺は《キラー・トマト》を守備表示で召喚!」

キラー・トマト

ATK1400
DEF1100

 亮の時と同じく、ダークチューナーをリクルートするためのキラー・トマトが現れた。

「永続魔法、《漆黒のトバリ》を発動し、カードを一枚伏せてターンエンド!」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 今、高田のフィールドで厄介なのは、倒したらダークチューナーをリクルートするキラー・トマト。

漆黒のトバリも厄介といえば厄介だが……

「手札のこのカードは、元々の攻撃力を1800にすることで、リリース無しで召喚出来る! 来い! 《ドドドウォリアー》!」

ドドドウォリアー
ATK2300→1800
DEF800

 今回戦陣をきるのは、斧を持つ機械戦士!

「バトル! ドドドウォリアーで、キラー・トマトに攻撃! 《ドドドアックス》!」

 ドドドウォリアーが、自身が持つ斧でキラー・トマトを叩き斬る。

「チィッ……!」

 舌打ちをしたということは、高田はドドドウォリアーの効果を覚えているのだろう。

「ドドドウォリアーは、攻撃した場合にダメージステップ終了時まで相手の墓地で発動する効果を無効にする! キラー・トマトの効果は無効にさせてもらう!」

これで、ダークチューナーをリクルートされることは無い。

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

「俺のターン、ドローォ!」

 高田は、相も変わらず勢い良くカードを引く。

「こんなもんで、ダークシンクロを止められると思うなァ! 通常魔法、《闇の誘惑》! 二枚ドローォ! そして、闇属性モンスター《DT―カタストローグ》を除外するッ!」

せっかくのダークチューナーモンスターを除外した……?
……いや、ダークチューナーは闇属性。
『闇属性』に『除外』というキーワードがあるならば、あのリバースカードは……

「リバースカード、オープンッ!《闇次元の解放》!除外されている闇属性モンスター《DT―カタストローグ》を特殊召喚ッ!」

DT―カタストローグ
ATK0
DEF0

 来たか……!
しかも、初めて見るタイプのダークチューナーだ。
形は、亮とのデュエルに出て来たダークチューナー、カオスローグに似ているが……

「更に、俺は《インフェルニティ・ビースト》を召喚ッ!」

インフェルニティ・ビースト
ATK1600
DEF1200

インフェルニティ・ビーストのレベルは、確か3。

「クックックッ…さァ……行くぜッ! レベル3のインフェルニティ・ビーストに、レベル-8のDT-カタストローグを、ダークチューニング!」


カタストローグが分解し、漆黒の玉になり、インフェルニティ・ビーストの体内に入っていく……
合計レベルは、-5。

「闇と闇重なりしとき、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ! ダークシンクロ! いでよ、《氷結のフィッツジェラルド》ォ!」

氷結のフィッツジェラルド
ATK2500
DEF2500

 明日香と亮、どちらのデュエルにも出て来たダークシンクロモンスター、氷結のフィッツジェラルドが出現する。

「DT-カタストローグの効果を発動ッ! このカードがダークシンクロ素材となった時、フィールド場のカードを一枚破壊する! 俺は、ドドドウォリアーを破壊だァ!」

「何っ!?」

ノーコストでの一体破壊……相変わらず、ふざけんなよ……!

ドドドウォリアーの足元に現れた、DT-カタストローグが、ドドドウォリアーを闇に沈み込ませていった。

「バトルだァ! 氷結のフィッツジェラルドで……」

「させない! 攻撃宣言前に、リバースカード、オープン! 《トゥルース・リインフォース》! デッキから、レベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《マッシブ・ウォリアー》!」

 ダイレクトアタックから俺を守ってくれるのは、要塞の機械戦士!

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

「それがどうしたァ!? 氷結のフィッツジェラルドで、マッシブ・ウォリアーに攻撃! ブリザード・ストライク!」

氷結のフィッツジェラルドから、幾多もの氷がマッシブ・ウォリアーを攻撃するが、マッシブ・ウォリアーはものともしない。

「マッシブ・ウォリアーは、一ターンに一度、戦闘では破壊されない!」

「こざかしいッ…! カードを一枚伏せ、ターンエンドだァ!」

「俺のターン、ドロー!」

さて……

「手札の《死者蘇生》を発動! 蘇れ、ドドドウォリアー!」

ドドドウォリアー
ATK2300
DEF900

斧を持つ機械戦士が、フィールド場に復活する。

「更に、手札を一枚捨てて、装備魔法、《破邪の大剣―バオウ》をドドドウォリアーに装備することで、攻撃力が500ポイントアップする!」

ドドドウォリアー
ATK2300→2800

ドドドウォリアーは、元々持っていた斧を捨て、破邪の大剣を装備した。

「マッシブ・ウォリアーを攻撃表示にし、バトル! ドドドウォリアーで、氷結のフィッツジェラルドに攻撃! 破邪の大剣!」

普段使わない大剣だが、ドドドウォリアーは見事に扱って、氷結のフィッツジェラルドを切り裂く。

高田LP4000→3700

「コイツの効果を忘れたかァ!? 氷結のフィッツジェラルドは、戦闘によって破壊された時、表側守備表示で特殊召喚されるッ!」

「ドドドウォリアーに装備された破邪の大剣―バオウの効果! 戦闘で破壊した相手モンスターの効果を無効にする! よって、氷結のフィッツジェラルドの効果は無効だ!」

破邪の大剣―バオウは、手札コスト一枚というのが若干キツイものの、なかなか優秀な効果を持っている。

「続いて、マッシブ・ウォリアーでダイレクトアタック!」

「ハッ! この程度……」

高田LP3700→3100

確かに高田の言う通り、ダメージは微々たるモノかもしれないが、与えた。
たった900と侮る無かれ。

「俺はこれでターンエンドだ!」

「俺のターンッ! ドローォ! 引いたカードは闇属性モンスター、《DT-デス・サブマリン》! 漆黒のトバリの効果で墓地に捨て、一枚ドローォ!」

 ダークチューナーが墓地に落ちた。
しかも、あのデス・サブマリンには墓地から自身を特殊召喚する効果がある。

「リバースカード、オープンッ! 《リミット・リバース》!墓地から現れろ! 《DT-デス・サブマリン》!」

DT-デス・サブマリン
ATK0
DEF0

「そして、《インフェルニティ・ネクロマンサー》を守備表示で召喚ッ!」

インフェルニティ・ネクロマンサーのレベルは確か3。

「レベル3のインフェルニティ・ネクロマンサーに、レベル-9のDT-デス・サブマリンを、ダークチューニングゥ!」

合計レベルは……-6。

「闇と闇重なりしとき、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ! ダークシンクロ! いでよ、《地底のアラクネー》!」

地底のアラクネー
ATK2400
DEF1200

 現れるのは、明日香と亮を苦しめた蜘蛛のダークシンクロモンスター、地底のアラクネー。

 その効果は、あのワンハンドレット・アイ・ドラゴンと並ぶほどのチート能力。

「地底のアラクネーの効果を発動ッ! ドドドウォリアーを装備するッ! ダーク・ネット!」

 地底のアラクネーが伸ばす蜘蛛の糸がドドドウォリアーを捕らえる。

 防げる手段は無く、ドドドウォリアーはそのまま、破邪の大剣―バオウを捨てて、地底のアラクネーに引っ張られていってしまった。

「攻撃といきたいところだが……マッシブ・ウォリアーの効果を思い出した……ターンエンドだッ!」

 マッシブ・ウォリアーの効果。
一ターンに一度戦闘では破壊されず、戦闘ダメージを受けない、という頼りになるカードだ。
高田にしたら、こちらを装備したかっただろうが、攻撃力が高いドドドウォリアーを優先したようだ。

「俺のターン、ドロー!
……速攻魔法、《手札断殺》を発動! お互いに二枚ドローし、二枚捨てる!」

 高田の墓地が肥えるのはいただけないが、こればかりは仕方がない。

それに、俺にはこのカードがある!

「墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキ・手札・墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! デッキから現れろ、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「ハッ! まだそんなザコ使ってんのかよお前?」

「そのザコにやられたのはお前だろうが……俺はチューナーモンスター、《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 高田の挑発を、さらりと挑発で返し、俺はチューナーモンスターを召喚した。

 金色の、ロードローラーを模したデザインであるシンクロンだ。

「ダークシンクロなんかじゃない、本物のシンクロ召喚を見せてやるよ、高田! レベル2のスピード・ウォリアーと、同じくレベル2のマッシブ・ウォリアーに、レベル4のロード・シンクロンをチューニング!」

 ロード・シンクロンが自らのエンジンを鳴らし、光の輪となる。

「集いし希望が新たな地平へ誘う。光差す道となれ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ! 《ロード・ウォリアー》!」

ロード・ウォリアー
ATK3000
DEF1500

 ロード・シンクロンが作った光の輪を、スピード・ウォリアーとマッシブ・ウォリアーが通り抜けた時、現れたのは、機械戦士たちの皇、ロード・ウォリアー!

「バトル! ロード・ウォリアーで、地底のアラクネーに攻撃! ライトニング・クロウ!」

 ロード・ウォリアーの腕が、全力で地底のアラクネーをなぎ払う勢いで迫る。

「地底のアラクネーの効果を忘れたかァ!? ドドドウォリアーを盾にすることで、破壊を無効にする!」

 高田の高笑いと共に、地底のアラクネーが捕らえていたドドドウォリアーを盾にし、ロード・ウォリアーの攻撃を防いだ。

高田LP3100→2600

「せっかく出て来たが、次のターンで地底のアラクネーに吸収させてもらうぜェ?」

「残念だが、そいつに次のターンなんぞ無い! ロード・ウォリアーの効果を発動! 一ターンに一度、レベル2以下の戦士族・機械族モンスターをデッキから特殊召喚出来る!」

 この効果は、【機械戦士】にはとてもありがたい。
デッキのカードが、ほぼ戦士族・機械族モンスターで構成されていて、優秀な効果を持つ低レベルモンスターをノーコストで呼べるのだから。

「来い! 《ワンショット・ブースター》!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

ロード・ウォリアーが作った光から現れたのは、効果破壊専門の機械族。

「何を出そうが所詮は低レベルモンスター! 地底のアラクネーの敵じゃねぇよ!」

「そいつはどうかな。ワンショット・ブースターの効果を発動! このカードをリリースすることで、自分のモンスターと戦闘した相手モンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

「何ッ!?」

 地底のアラクネーに、もう装備カードは無いため、身代わりは無い。
ワンショット・ブースターが放つミサイルに直撃し、蜘蛛のダークシンクロモンスターは炎に包まれ、破壊された。

「ターンエンドだ!」

「チィッ……得意になってんじゃねェよッ! 俺のターン! ドロー!」

 今、高田のフィールドには何もないため、地底のアラクネーを破壊したことによりリズムが狂った筈だ。

「チッ……墓地のDT-デス・サブマリンの効果を発動ッ! 自分フィールド場にモンスターがいない時、このカードを墓地から特殊召喚出来るッ! 蘇れ! 《DT-デス・サブマリン》!」

DT-デス・サブマリン
ATK0
DEF0

 潜水艦の形をしているダークチューナーが、墓地からフィールド場に浮上した。
デュエル中に一回とはいえ、ノーコストでの特殊召喚は厄介だが、ここで使わせて良かった。

「そして、モンスターをセットし、速攻魔法、《太陽の書》をセットモンスターを指定して発動ッ!」

 このコンボは、亮とのデュエルで披露したコンボだ。
ならば、あのセットモンスターは……

「俺がリバースしたのは《メタモルポット》だァ! お互いに手札を全て捨て、五枚ドローする!」


 墓地を肥やしつつ、デッキ圧縮も出来る優秀なカード、メタモルポット。
亮とのデュエルの時には、デッキ破壊にも使われた。

「ククッ……そして、レベル2のメタモルポットとレベル-9のDT-デス・サブマリンを、ダークチューニングッ!」

 墓地からDT-デス・サブマリンを特殊召喚したのは、攻撃表示のメタモルポットをダークシンクロ素材にするためだったらしい。

 だが、重要な問題はそこじゃない。
合計レベルは-7だが……俺はまだ、レベル-7のダークシンクロモンスターを見たことがない。

「暗黒より生まれし者、万物を負の世界へと誘う覇者となれ! ダークシンクロ! 現れよ、《猿魔王ゼーマン》!」

猿魔王ゼーマン
ATK2500
DEF1600

 現れたダークシンクロモンスターは、魔法使いの服を着た猿型モンスターだった。

「カードを二枚伏せて、ターンエンドだッ!」

「俺のターン、ドロー!」

 ……攻撃、して来なかったか。
ドローしながら、猿魔王ゼーマンの効果は防御向きの効果なのだろうと推測した。

 だが、俺は攻める!

「ロード・ウォリアーの効果により、《チューニング・サポーター》を特殊召喚!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 今度光から現れたのは、中華鍋をひっくり返したような被り物をしている機械族。

 ステータスは貧弱だが、その名の通りチューニングをサポートする効果を持つ。

「そして、手札からチューナーモンスター、《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 カミューラ戦にも出した、小さな機械族がぽっと出てくる。

「通常魔法、《機械複製術》を発動し、攻撃力500以下の機械族モンスター、チューニング・サポーターをデッキから更に二体特殊召喚!」

チューニング・サポーター×2
ATK100
DEF300

「全部合わせて攻撃力500にも届かねェザコカード共が。そんなザコカード共使うより、よっぽど良いカードあるんじゃねェのかァ?」

「悪いが、俺はカードの強さだけを見てるんじゃない。デュエルに楽しんで勝つには、コイツらと一緒に戦うのが一番なんだよ! チューニング・サポーター一体の効果を発動!シンクロ素材となる時、レベルを2に変更出来る!」

 これでシンクロ素材にする、フィールド場のモンスターの合計レベルは、5だ。

「レベル2となったチューニング・サポーター一体と、レベル1のままのチューニング・サポーター二体に、レベル1のチェンジ・シンクロンをチューニング!」

力を振り絞ったチェンジ・シンクロンが、光の輪へと変身した。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い!傷だらけの戦士、スカー・ウォリアー!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 傷だらけでありながら、短剣を持って戦う不退転の戦士、スカー・ウォリアー。

「何だよ、ザコカードをシンクロ素材にしたら、シンクロモンスターもザコカードになんのかァ?」

「……チェンジ・シンクロンの効果と、チューニング・サポーター三体の効果を発動! このカードたちがシンクロ素材となった時、チューニング・サポーターたちの効果で、合計三枚ドローし、チェンジ・シンクロンの効果で、相手モンスターの表示形式を変更する! 猿魔王ゼーマンを、守備表示にしてもらう!」

 高田のわかりやすい挑発を無視し、猿魔王ゼーマンを守備表示にする。
これで、スカー・ウォリアーの攻撃力が上回り、猿魔王ゼーマンを攻撃出来る。

「バトル! スカー・ウォリアーで、猿魔王ゼーマンに攻撃! ブレイブ・ダガー!」

スカー・ウォリアーが手に持つ短剣で、猿魔王ゼーマンに切りかかる。

……さあ、どんな効果を持ってるんだ……!?

「猿魔王ゼーマンの効果を発動! 手札からモンスターカードを捨てることで、相手モンスターの攻撃を無効にする! 俺が捨てるのは、《インフェルニティ・デストロイヤー》!」

スカー・ウォリアーの前に、インフェルニティ・デストロイヤーが現れ、スカー・ウォリアーの短剣を受け止めた。

手札コストを一枚使う、《くず鉄のかかし》と言ったところだろうか。

だが、その効果により《インフェルニティ》と名のつくモンスターカードが墓地に送られると思うと、その脅威度はかなり違う。

他のダークシンクロモンスターと比べて控え目ながら、充分に優秀な効果を持っている。

「ロード・ウォリアーで、猿魔王ゼーマンに攻撃! ライトニング・クロウ!」

手札に《インフェルニティ》モンスターがいるとは限らない。
ワンハンドレット・アイ・ドラゴンはまだ来ていないのだから、今は少しでも手札を減らす!

「猿魔王ゼーマンの効果により、《インフェルニティ・ガーディアン》を墓地に送るぜェ?」

先ほどと同じように、ロード・ウォリアーの攻撃は、いきなり出て来たインフェルニティ・ガーディアンにより防がれる。

……裏目に出たな……

「カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

「俺のターン、ドローォ!
…闇属性モンスター、《DT-ナイトメア・ハンド》を引いたァ! 漆黒のトバリの効果により、墓地に捨てて一枚ドローォ!」

DT-ナイトメア・ハンド。
……まずい。あいつが、来る。
そんな予感が、DT-ナイトメア・ハンドという名前を聞いた時、俺に響く。


「リバースカード、オープン! 《リビングデッドの呼び声》!墓地から蘇れ! 《DT-ナイトメア・ハンド》!」

DT-ナイトメア・ハンド
ATK0
DEF0

「更に、《インフェルニティ・ドワーフ》を召喚ッ!」

インフェルニティ・ドワーフ
ATK800
DEF500

「そして、カードを二枚セットし、リバースカード、オープン!《凡人の施し》!手札を二枚ドローし、全て墓地に捨てる!」

……嫌な予感が、当たってしまったようだった。

合計レベルは、-8。

「レベル2のインフェルニティ・ドワーフに、レベル-10のDT-ナイトメア・ハンドをダークチューニングッ! 漆黒の帳落ちし時、冥府の瞳が開かれる。舞い降りろ闇よ! ダークシンクロ! 現れろ……《ワンハンドレット・アイ・ドラゴン》!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴン
ATK3000
DEF2500

「……ッ!」

出してしまった。
高田の切り札である、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンだ。

「ヒャーッハッハッハ!来たぜェ…ワンハンドレット・アイ・ドラゴンがよォ!」

目の前に見たからこそ、分かるこの威圧感。
……だが、逃げるわけにはいかない。
そして、負けるわけにも……いかない。

「カードを二枚も伏せてるようだが、そんなのは関係ねェ! 猿魔王ゼーマンを攻撃表示に変更し、バトル! ワンハンドレット・アイ・ドラゴンで、ロード・ウォリアーに攻撃! インフィニティ・サイト・ストリームッ!」

「ロード・ウォリアーを護れ、スカー・ウォリアー!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴンが放ったビームを恐れず、スカー・ウォリアーはロード・ウォリアーの前に立った。

「ぐッ……!」

遊矢LP4000→3100

「チッ……何しやがった!?」

「スカー・ウォリアーの効果! このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手は表側表示で存在する他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択する事はできない! 更に、このモンスターは一ターンに一度、戦闘では破壊されない!」

これが、仲間を護る戦士の効果。


「なら、猿魔王ゼーマンでスカー・ウォリアーに攻撃! カースド・フレア!」

「スカー・ウォリアー……!」

猿魔王ゼーマンが発する衝撃波に、今度こそスカー・ウォリアーは破壊される。

遊矢LP3100→2700

「ヒャーッハッハッハ! これでターンエンドだッ!」

「俺のターン、ドロー!」

高田のフィールドには、高田の切り札、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンと、猿魔王ゼーマン。

「どうしたァ? ワンハンドレット・アイ・ドラゴンを倒す手段が無くて、絶望でもしてんのかよ?」

考え込む俺を見て、高田が嘲笑を浮かべながら話しかけてくる。

「いいや、その逆だ」

「アァ?」

「ワンハンドレット・アイ・ドラゴン……このターンで倒してやるよ!」

高田の表情が一瞬驚愕に包まれたが、すぐに嘲笑へと変わる。
自分の切り札が、破壊されないと確信してのことだろう。

「面白ェ…やれるもんならやってみろよッ!」

言われなくても!

「俺は、ロード・ウォリアーの効果により、デッキから《ソニック・ウォリアー》を特殊召喚する!」

ソニック・ウォリアー
ATK1000
DEF0

「そして、ソニック・ウォリアーをリリースすることで、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

ソニック・ウォリアーをリリースして現れるは、大砲の機械戦士。

「ターレット・ウォリアーは、リリースしたモンスターの元々の攻撃力分、攻撃力がアップする!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200→2200

まあ、今回は攻撃力は関係ないが。

「俺はまだ通常召喚はしていない! チューナーモンスター、《ターボ・シンクロン》を召喚!」

ターボ・シンクロン
ATK100
DEF500

緑色の、その名の通りターボ型のチューナーモンスター。

「レベル5のターレット・ウォリアーに、レベル1のターボ・シンクロンをチューニング!」 

ターボ・シンクロンが自身のターボを吹き鳴らし、光の輪となる。

「集いし絆が更なる力を紡ぎだす。光さす道となれ! シンクロ召喚! 轟け、ターボ・ウォリアー!」

ターボ・ウォリアー
ATK2500
DEF1500

深紅の身体を持つ、ターボを内蔵した機械戦士がフィールドに降り立った。

「で? 結局、どうやってワンハンドレット・アイ・ドラゴンを倒すんだよ……そんなザコカード共でッ!」

「そりゃ、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンに比べりゃザコカードかも知れないが……そいつらで、今から倒してやるって言ってんだよ! ロード・ウォリアーで、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンに攻撃! ライトニング・クロウ!」

攻撃力は同じだが、手札が0枚のワンハンドレット・アイ・ドラゴンには、インフェルニティ・ガーディアンによって得られる破壊耐性がある。

よって、高田から見たらただの自滅だろう。

「バカが! 迎撃しろ、インフィニティ・サイト・ストリームッ!」

駆け抜けるロード・ウォリアーの前に、無数のビームが迫る。
一撃でも受けたら、受けた部分が消し飛ぶ雰囲気だ。

「ダメージステップ時、リバースカード、オープン! 《奇跡の軌跡》! 自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動する! 相手にデッキからカードを1枚ドローさせ、選択したモンスターは戦闘ダメージを与えられなくなる代わりに、このターンのエンドフェイズ時まで選択したモンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせ、1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃する事ができる! 対象は当然、ロード・ウォリアー!」

ロード・ウォリアー
ATK3000→4000

攻撃力の上がったロード・ウォリアーは、易々とインフィニティ・サイト・ストリームを弾き返し、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンに迫る。

「さあ、カードを一枚ドローしろ!」

「チィッ……クソッ!」

高田は、引くのにかなり抵抗したものの、最終的にはカードを一枚ドローした。

「お前の手札が一枚になったため、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンの効果は無効となる! 切り裂け、ライトニング・クロウ!」

明日香と亮を苦しめた龍を……俺の気持ちが伝わっているかのように、ロード・ウォリアーは力強く切り裂いた。

……だが、切り札を破壊されたというのに、高田の笑いは止まらない。

「クククッ……調子にのるなよ黒崎遊矢! ワンハンドレット・アイ・ドラゴンの、本来の効果を発動!」

「本来の効果だと!?」

墓地の《インフェルニティ》と名前の効果を得る効果ではなく、本来の効果……?

「ワンハンドレット・アイ・ドラゴンが破壊され、墓地に送られた時、デッキから好きなカードを一枚選び、手札に加えることが出来る!」

「なんだとッ……!?」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴンの本来の能力。
それは、速効性は劣るものの、あらゆるサーチカードの上位互換とも言える効果。

……最後までチートカードかよ……!?

毒づいても仕方がない。
まだ、こちらの攻撃は残っているのだ。

「ロード・ウォリアーで、猿魔王ゼーマンに攻撃! ライトニング・クロウ!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴンに引き続き、猿魔王ゼーマンをも蹴散らした。

だが、奇跡の軌跡の効果により、戦闘ダメージは発生しない。

「まだだ! ターボ・ウォリアーで、高田にダイレクトアタック! アクセルスラッシュ!」

ターボを轟かせ、ロード・ウォリアーと同様に駆け抜ける、ターボ・ウォリアー。

「リバースカード、オープン!《ガード・ブロック》!戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローするッ!」

防がれたか……

「これで俺は、ターンエンド……」

このターンで決めるほどの勢いだったが、流石にそう上手くはいかない。


「俺のターン、ドローォ!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴンの効果により、手札に加えられたカードは、おそらく……

「カードを一枚伏せ、相手フィールド場にのみモンスターしかいない時、こいつは特殊召喚出来る! 来い! 《DT-スパイダー・コクーン》!」

DT-スパイダー・コクーン
ATK0
DEF0

新たなダークチューナー!?
亮のサイバー・ドラゴンと同じ効果を持っているらしいが……

「そして、通常魔法、《ワン・フォー・ワン》!手札の《インフェルニティ・ゼロ》を墓地に送り、デッキから《バトルフェーダー》を特殊召喚ッ!」

バトルフェーダー
ATK0
DEF0

レベル1モンスター……あのダークチューナーのレベルは知らないが、自分の知っているダークシンクロモンスターはあと一種類だ。

「レベル1のバトルフェーダーと、レベル-5のDT-スパイダー・コクーンでダークチューニング!」

合計レベルは-4。

やはり、俺が知っているダークシンクロモンスターらしいな……!

「闇と闇重なりしとき、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ! ダークシンクロ! いでよ、《漆黒のズムウォルト》!」

漆黒のズムウォルト
ATK2000
DEF1000

「更にリバースカード、オープン!《スピリット・バリア》! 戦闘ダメージを受けなくなるッ!」

亮の時と同じコンボか……
亮と違って、《機械戦士》たちの攻撃力はあまり高くないから、大丈夫だろう……

「こいつが本命だ! 《死者蘇生》!」

やはり……!
俺が高田なら、一刻も早く切り札を蘇生する。

ならば、サーチするのは当然蘇生カード……!

「蘇れ……《ワンハンドレット・アイ・ドラゴン》!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴン
ATK3000
DEF2500

再び現れる、高田の切り札、ワンハンドレット・アイ・ドラゴン。

「バトル! 漆黒のズムウォルトで、ロード・ウォリアーに攻撃! ダーク・ドラッグ・ダウン!」

漆黒のズムウォルトが、ロード・ウォリアーに迫る。

だが、戦闘するのは目的じゃない。

「漆黒のズムウォルトが攻撃宣言をした時、相手の攻撃力の差分、相手のデッキの上から墓地に送るッ!」

ロード・ウォリアーの攻撃力は3000。
漆黒のズムウォルトの攻撃力は2000だから、俺のデッキから10枚墓地に送られる。

亮は上手く防いだが、これはまずい……!

「漆黒のズムウォルトの攻撃に対し、リバースカード、オープン! 《ドレインシールド》! 相手モンスター一体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分のライフを回復する!」

遊矢LP2700→4700

漆黒のズムウォルトの効果は止められないが、かなりのライフを回復するカードだ。

「そんなもんじゃ意味ねェよッ! ワンハンドレット・アイ・ドラゴンで、ロード・ウォリアーに攻撃ッ! インフィニティ・サイト・ストリームッ!」

先ほども言ったが、攻撃力は同じだが相手には……ワンハンドレット・アイ・ドラゴンには破壊耐性がある。

奇跡の軌跡の時が嘘のように、ロード・ウォリアーは消し飛んだ。

「更にッ! 相手モンスターを戦闘破壊して墓地に送った時、相手プレイヤーに1600ポイントのダメージを与えるッ! 追撃のインフィニティ・サイト・ストリームッ!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴンが放つビームが、寸分の狂い無く俺の胸を貫いた。

「ぐうッ…!」

遊矢LP4700→3100

明日香と亮も、このダメージは受けたんだ……!

この程度ッ!

俺は、倒れそうな身体に鞭打って、デュエルを継続させる意志を示す。

「ヒャーッハッハッハ! 倒れなくて良かったなァ……黒崎遊矢ァ! ターンエンド!」

「俺のターン…ドロー!
通常魔法、《貪欲な壺》を発動!墓地からスピード・ウォリアーを三体と、ロード・ウォリアーに、スカー・ウォリアーをデッキに戻し、二枚ドロー!」

ここで二枚ドロー出来る《貪欲な壺》は嬉しいカードだ。

「更に、《ヴァイロン・マター》を発動! 墓地の装備魔法を三枚デッキに戻し、漆黒のズムウォルトを破壊する!」

現れた壺のような物体から、装備魔法三枚が打ちだされ、漆黒のズムウォルトが破壊された。

ワンハンドレット・アイ・ドラゴンと違って、漆黒のズムウォルトに破壊耐性は無い。

「今更そんなザコを破壊したところで無駄なんだよ……このワンハンドレット・アイ・ドラゴンの前ではなァッ!」

「確かに、強力なモンスターだけどな……こっちが、奇跡の軌跡以外、対策してないとでも思ってんのか? 来い! チューナーモンスター、《エフェクト・ヴェーラー》!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

「レベル6のターボ・ウォリアーと、レベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング!」

初めて見た時と同じように、エフェクト・ヴェーラーが光の輪を形成する。

「集いし願いが、新たに輝く星となる! 光差す道となれ!シンクロ召喚! 現れろ! 《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

……頼むぜ、ラッキーカード!

「パワーツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから装備魔法を三枚選ぶ! 俺が選ぶのは、《団結の力》・《ダブルツールD&C》・《魔界の足枷》!」

デュエルディスクから三枚抜き取り、裏側で高田に見せる。

「真ん中のカードにしといてやるよ!」

高田の言葉は、自らの勝利を確信した者の態度だ。

その隙を……つく!

「パワーツール・ドラゴンに、《ダブルツールD&C》を装備し、自分のターンでは、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300→3300

パワーツール・ドラゴンに、ドリルとカッターが装備される。

「分かってねェのかァ!? ワンハンドレット・アイ・ドラゴンの前には、いくら攻撃力が高くても意味が無いんだよッ!」

「知ってるさ。攻撃力なんて意味ない数値だよな……パワーツール・ドラゴンで、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

パワーツール・ドラゴンは、ドリルをけたたましく音をたてながら回転させ、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンに迫る。

「俺の手札は0枚! インフェルニティ・ガーディアンの効果により、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンは戦闘では破壊されない!」

「こちらはダブルツールD&Cの効果を発動! 攻撃対象モンスターの効果を、バトルフェイズまで無効にする!」

「なにッ!?」

インフェルニティ・ガーディアンの効果を無効にし、パワーツール・ドラゴンは、そのドリルでワンハンドレット・アイ・ドラゴンを貫いた。


「ワンハンドレット・アイ・ドラゴンが二回も戦闘破壊された、だと……デッキからカードを一枚手札に加えさせてもらう……」

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」


「俺のターン、ドロー……」

切り札を二度も破壊されて意気消沈したのか、気が抜けた様子で高田はカードを引く。

「クククッ……カードを一枚伏せ、通常魔法、《天よりの宝札》を発動!お互いのプレイヤーは、カードを五枚引く!」

ここで、最強のドローカードだと!?
さっきのワンハンドレット・アイ・ドラゴンの時にサーチしてたか……!

「ヒャーッハッハッハ!意気消沈してたように見えたかァッ!? 冗談だよォ! 更に、《マジック・プランター》を発動ォ! スピリット・バリアを墓地に送り、二枚ドローォ!」

くそ……ちょっとでも落ち込んでると思った自分が馬鹿みたいだ……

「速攻魔法、《サイクロン》を発動! 俺は、自分のセットカード、《黄金の邪神像》を破壊し、トークンを呼びだすッ!」

黄金の邪神像トークン
ATK1000
DEF1000

「更に、カードを二枚伏せ、《ハードアームドラゴン》を召喚ッ!」

ATK1500
DEF800

……?
何かおかしい。妙だ。
高田のデッキは、ダークシンクロモンスターを使った、ハイビートデッキの筈。

ハードアームドラゴンも、黄金の邪神像も、クロノス教諭のようなデッキに使われるカードだ。

なぜ、高田のデッキに……?

「気になってるなァ……ワンハンドレット・アイ・ドラゴンは、所詮はダミーの切り札。今から、このデッキの真の切り札を見せてやるよッ!《二重召喚》を発動ッ!」


真の切り札、だと…!?

俺は、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンが切り札だと思っていだが……あれより、強力なカードが現れるっていうのか……?

「行くぜェ……この廃寮に蠢く亡者たちの魂と、邪神トークン、ハードアームドラゴンをリリースし……出て来いよ! 《地縛神 Ccapac Apu》!」

二体のモンスターをリリースして現れたモンスターは……
『巨人』
そうとしか、言えないカードだった。

その巨大さ故に、今、俺と高田がデュエルしているところ……廃寮の屋根をぶち壊しながら現れた。

「これが俺の真の切り札……! 地縛神 Ccapac Apu! 今はまだ、真の力を発揮できてないらしいがなァ……三幻魔の力を手に入れれば、世界を滅ぼせるほどの力を取り戻す……! 貴様を倒し、万丈目と遊城十代を倒せば……それはもうすぐだァッ!」

「……そんなこと、させるわけが無いだろうが!」

俺の怒号に、高田の高笑いが一瞬止まる。

「やれるもんならやってみろ……! 俺も機械戦士も、そんな簡単には負けねえッ!」

「……ハッ! お前、この状況が分かってねェなァ……地縛神 Ccapac Apuは、攻撃対象に選択出来ず、ハードアームドラゴンの効果により効果破壊もされない、まさしく『神』に等しき効果を持った!」

「それがどうしたって言うんだよ?」

ニヤリと笑い、高田を見据える。
まだだ。まだ俺は、負けていない……!

「チッ……最後まで、口の減らない奴だったなァ……バトル! 地縛神 Ccapac Apuは、相手モンスターを無視してダイレクトアタックが出来る! 裁きを下せ!」

地縛神 Ccapac Apuの巨大な腕が俺に迫る。

……だが、パワーツール・ドラゴンが俺と腕の間に入り込んだ。

「なにッ!?」

「ダブルツールD&Cの第二の効果! 相手ターンでは、相手はこの装備魔法を装備しているモンスターしか攻撃できない!」

更に言うならば、ダメージステップ終了時に相手モンスターを破壊する効果もあるのだが、地縛神 Ccapac Apuは、ハードアームドラゴンの効果により、効果破壊は通用しない。

パワーツール・ドラゴンは、巨人の手に押しつぶされはしたが……

「パワーツール・ドラゴンの第二の効果! 破壊される時、このカードに装備されている装備魔法を墓地に送ることで、破壊を免れる! 俺は、ダブルツールD&Cを墓地に送る!」

「だが、戦闘ダメージは受けてもらうぜェ!」


地縛神 Ccapac Apuから放たれた衝撃波が俺を襲う!

「ぐああっ!」

遊矢LP3100→2400


「まだだ! 《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地からまた蘇れ! ワンハンドレット・アイ・ドラゴン!」

ワンハンドレット・アイ・ドラゴン
ATK3000
DEF2500

高田の手札の枚数は……0枚だ。

「ワンハンドレット・アイ・ドラゴンで、パワーツール・ドラゴンに攻撃! インフィニティ・サイト・ストリームッ!」

何度となく俺たちを襲ったビームは、パワーツール・ドラゴンをかき消した。

「ぐううッ!」

遊矢LP2400→1700

「そして、戦闘破壊したことにより、1600ポイントのダメージだァッ! 追撃の、インフィニティ・サイト・ストリームッ!」

「ぐあああああああッ!」

遊矢LP1700→100

「往生際が悪い……ギリギリ残りやがって……! ターンエンドだ」

「待て……エンドフェイズ時にリバースカード、オープン。《奇跡の残照》……蘇れ……パワーツール・ドラゴン……」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

「それがどうしたんだよ……ターンエンド」

「俺のッ…ターン……ドロー……」

まずい……意識が……

「全く、そんなデッキ使ってるからそんなことになるんだよ……さあ、さっさとサレンダーしちまいなァッ!」

……意識は朦朧としてるが、今の言葉ははっきりと聞こえた。

「……【機械戦士】たちをバカにしてんじゃねぇよ…! そう言った奴は、俺は必ずデュエルで認めさせた!」

起き上がれ。
起き上がれ。
起き上がれ。

俺はまだ、楽しんで勝ってない……!

「……よし。俺は――」

「リバースカード、オープン! 《無謀な欲張り》! 二枚ドローォ!」

これで高田の手札は二枚。
何故、わざわざワンハンドレット・アイ・ドラゴンの効果を消したんだ……?

「ハッ! お前の手札が何であれ関係ない! リバースカード、オープン! 《全弾発射》! 手札を全て捨て、捨てた枚数×200ポイントのダメージを与える!」

俺のライフは100。
高田の手札は二枚だから、400ポイントのダメージだ。

「終わりだァッ!」

高田の手札がミサイルてなって飛んでくる。

……狙い通りだ!
使わせてもらうぜ、亮!

「リバースカード、オープン! 《ダメージ・ポラリライザー》! 効果ダメージを0にし、お互いにカードを一枚ドローする!」


俺に向かって来ていたミサイルは逸れて、横で爆発が起きた。

随分前、亮とトレードしたカードだ。

『お互いに一枚引く』……この効果のおかげで、ハンドレスコンボは破られた。

……ありがとう、亮。

「そして、パワーツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから、《団結の力》・《魔界の足枷》・《バスターランチャー》の三枚を選ぶ! パワー・サーチ!」

「俺から見て一番右だ……どうせこんなことしても、無駄なんだよッ!」

知るか。
それは……俺が決めることだ。

意識をハッキリとさせ、デュエルディスクにしっかりとカードを入れる。

「通常魔法、《融合》を発動!」

「融合だと!?」

高田が驚くのも無理は無い。

俺は、このデュエルアカデミアに来てから一回も《融合》を使っていないからだ。

だが、俺のエクストラデッキには、一枚だけ、融合モンスターが入っている。

……今度は、お前のカードを使わせてもらうぜ、明日香!

「手札の《エトワール・サイバー》と、《ブレード・スケーター》を融合! 現れろ! 《サイバー・ブレイダー》!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

最強のサイバー・ガールである明日香のエースカード、サイバー・ブレイダー。

万丈目との友好デュエルの時に貰って、これまではただの御守りだったが、このデュエルから、キチンと融合素材(偶然持ってた)も投入した。

「……何が出るかと思えば、天上院明日香のザコカードじゃねェかよ……ッたく、期待はずれだぜ……」

「更に俺は、こいつを召喚する! 来い! マイフェイバリットカード、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

満を持して、我がマイフェイバリットカードが召喚された姿を見て、高田は更に爆笑した。

「遂にはおかしくなったかァ!? そんなザコ共で、俺の地縛神 Ccapac Apuと、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンが倒せるかよッ!」

「倒せるか、じゃない……倒すんだよ! 手札から速攻魔法、《トラップ・ブースター》を発動! 手札を一枚捨て、手札からトラップカードを発動出来る! 俺が発動するのは、《ギブ&テイク》! パワーツール・ドラゴンのレベルを1上げて、お前のフィールドに《ADチェンジャー》を特殊召喚する!」

ADチェンジャー
ATK100
DEF100

「相手モンスターの数が三体になったことにより、サイバー・ブレイダーの効果を発動! 相手の魔法・トラップ・効果モンスターの効果を無効にする! パ・ド・カトル!」

サイバー・ブレイダーが華麗に高田のフィールドを一周すると、高田のフィールドの効果は全て意味を無くす。

「チィッ……だが、効果を無くしたところで、お前のモンスターじゃ地縛神 Ccapac Apuには勝てない!」

「何回も言ってんだろうが……勝つんだよ! スピード・ウォリアーに、《バスターランチャー》を装備する!」

先程、パワーツール・ドラゴンの効果により、手札に加えられたバスターランチャーが、スピード・ウォリアーに装備された。

「更に通常魔法、《ダブルアタック》! スピード・ウォリアーよりレベルが高い、《バックアップ・ウォリアー》を捨てることで、スピード・ウォリアーはこのターン、二回攻撃が出来る!」

これにて準備完了。

「行くぜ高田! スピード・ウォリアーで、地縛神 Ccapac Apuに攻撃!」

「スピード・ウォリアーごときが、地縛神 Ccapac Apuに適うか! 迎撃しろ、地縛神 Ccapac Apu!」

バスターランチャーを構えるスピード・ウォリアーに対し、地縛神 Ccapac Apuは、巨大な腕を振り上げた。

「神だかなんだか知らないが、俺のスピード・ウォリアーは、どんなものでもぶち破る! バスターランチャーの効果により、攻撃力が2500ポイントアップする!」

スピード・ウォリアー
ATK900→3400

「なッ……何だと!?」

「ぶち破れ、スピード・ウォリアー! バスターランチャー、シュート!」

スピード・ウォリアーが放ったバスターランチャーが、地縛神 Ccapac Apuの胸を貫いた。

高田LP2600→2200

地縛神 Ccapac Apuは、力を失い、膝をついて消えていった……

「地縛神 Ccapac Apuがやられた、だと……!? だ、だが、俺にはまだ、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンがいる!」

「サイバー・ブレイダーの第二の効果を発動! 相手モンスターの数が二体の時、攻撃力が倍になる! パ・ド・ドロワ!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100→4200

サイバー・ブレイダーの攻撃力が、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンをゆうに超える。

「サイバー・ブレイダーで、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

ハンドレスコンボを発動していないワンハンドレット・アイ・ドラゴンは、だだの攻撃力が3000のモンスターだ。

サイバー・ブレイダーの敵ではなく、蹴られて破壊された。

「グアアアッ!
……だが、ワンハンドレット・アイ・ドラゴンの効果で、好きなカードを一枚手札に加える!」

高田LP2200→1000

それがどうした?

「パワーツール・ドラゴンで、ADチェンジャーに攻撃。クラフティ・ブレイク!」

パワーツール・ドラゴンの攻撃に、墓地で使用するのが主な目的であるADチェンジャーが耐えられる筈がない。

そして、これで高田を守るモンスターカードは無くなった。

「やっ……止めてくれ、黒崎遊矢!」

「魔法カード、《ダブルアタック》の効果により、スピード・ウォリアーはこのターン、二回の攻撃が可能となっている!」

向こうでは、高田が喚いているが……聞く気はない。

だったらお前は、俺たちが同じことを言っていたら止めたのか?

「スピード・ウォリアーは、召喚したターンのバトルフェイズ時、攻撃力が倍になる!」

スピード・ウォリアー
ATK900→1800

スピード・ウォリアーの攻撃力が1000以上になったことで、装備していたバスターランチャーが破壊される。

そして、その時発生した爆発を推進力にして、スピード・ウォリアーは高田に突撃した。

「スピード・ウォリアーで、高田にダイレクトアタック!」

攻撃宣言をする前に、もう走っていたスピード・ウォリアーは、あっという間に高田の元へ迫った。

「ソニック・エッジィィィィィィィィッ!!」

「うわあああああッ!」

高田LP1000→0

スピード・ウォリアーの一撃で、闇のデュエルは終了した。

地縛神 Ccapac Apuが廃寮を破壊したせいか、高田は闇に引きずり込まれず、そこに倒れ込んだ。

闇は去り、破壊された天井や窓から光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえる。

……そして、奥の方にいる、数人の人影。

天上院明日香。
三沢大地。
丸藤亮。
丸藤翔。

四人の友人の無事な姿を見て、安心感が訪れたのか、いきなり酷い激痛が全身を襲う。

「くっ……!」

だが、身体を這うように移動させて、なんとか明日香のところにたどり着いた。

数日ぶりの筈なのに、なんだかとても久しく感じる寝顔だった。

起こしたくて、頬をぺちぺちと叩いた。

「おい、明日香。いつまで寝てんだよ?」

言葉とぺちぺちが効いたのか、少し目が開く。

「ゆう…や?」

「なに寝ぼけてんだよ……明日は学園祭だぜ?」

そうだ、学園祭だ。
イエロー寮の神楽坂に、来てくれって頼まれてたな。

他にも、色々楽しみなのがあるし。

「ほら、一緒に……」

帰ろう、という言葉は、最後まで言えなかった。 
 

 
後書き
あとがき
遅ればせながら(←遅すぎ)移転先の報告です。

『肥前のポチ』様が立ち上げたサイト、《暁》に投稿することになりました。

アドレスです↓
http://www.akatsuki-novels.com/

今はまだゴタゴタしていますが、最終的な目標は小説家になろうと同じ性能だとか。

ですが、小説投稿サイト《暁》は、まだ携帯用サイトが出来ておりません。
8月1日あたりになる予定なので、それまでは投稿出来ません。

まあ、そもそも、わざわざ自分の駄文を読みに来てくれる人はいないでしょうから……これまで、こんな駄作を読んでいただき、ありがとうございました。

新天地でも頑張っていきます。

最後に、いつも通り。
感想・アドバイス待ってます! 

 

−学園祭−

 
前書き
暁にて初投稿。 

 
 全く、病弱でも無いのにすっかり保健室に慣れてしまった……
なんとなく嫌な気分になり、つい肩を落としてため息をついた。

 ――高田との闇のデュエルから1日がたった今日。
高田が闇のデュエルで敗れた影響により、デュエルアカデミアを襲った人形が消え去ったのか、高田とのデュエルで気絶していた俺は駆けつけた十代や万丈目、クロノス教諭に救助された。

 高田に敗れ人質になっていた明日香、三沢、翔、亮は目立った外傷も無く、体に異常も無いとのことで、もうすでに保健室からは解放されていた。
喜ばしい限りだ。

 次は高田だが……もう、このデュエルアカデミアにはいない。
俺と同じく、気絶していたところを駆けつけた十代たちに保護された高田は、
またも俺と同じく保健室に運び込まれたのだが……闇のデュエルの影響だろうか、傷だらけの身体といいやせ細った身体といい、このデュエルアカデミアの医療技術では治しようが無かったため、本土に強制送還されたのだ。
……別に、ここの医療技術が悪いわけじゃない。
ここの医療技術が悪いならば、俺はとっくの昔に死んでいるか、高田と同じく本土へ強制送還されているだろう。
……つまり、高田の怪我はそれほどの怪我だったということだ。

 ――思えば、高田もただの被害者だったのかもしれない。
廃寮から離れた時、制服は元々の青色に戻り、デッキも【インフェルニティ】から俺との昇格デュエルにて使った【カオス・ネクロマンサー】に戻っていたという。
廃寮に潜む黒い泡に操られ、過酷な闇のデュエルに身を投じられながらも、最後には自らの手で地縛神を操って、黒い泡の温床たる廃寮を破壊した……というのは考えすぎか。
とにかく、今度会った時には、俺はあいつに謝らなければならない……原因は、俺なのだから。

 そして、高田がセブンスターズとして現れたことで、また一つ疑問が生まれた。
すなわち、『何故高田はセブンスターズとなったのか』
昇格デュエルで高田が島を出て行った(と、思われた)時、目撃者であるオシリス・レッドの寮長、大徳寺先生は、『万丈目とは別の方向に船で向かっていった』と言ったらしい。
だが、肝心の万丈目は「知らん」とのことだったので、これは妙だと、十代たちは大徳寺先生の部屋に行ったのだが……部屋は、もぬけの空だったそうだ。
大徳寺先生の失踪。
これが何を意味するかは、まだ分からなかった。


 最後になってしまったが、俺――黒崎遊矢のことも話そうか。
結論から言うと、無事だ。
もう何度目かに渡る闇のデュエルにて、すっかり耐性がついてしまったのか、もちろん五体満足とはいかないものの、松葉杖を使えば歩けるようにはなっていた。
鮎川先生が言うには、まだ休んでいて欲しいらしいが、今日は許してくれた。

なんて言ったって今日は――学園祭なのだから。



「あ、遊矢様!」

 保健室から出て来た俺を元気良く出迎えてくれた声は、幼なじみ――早乙女レイのものだった。
どうやら、俺を驚かそうと学園祭の前日に来ていたようだったが、高田の来襲によりそのドッキリは失敗したようだ。

「……様は止めろ、レイ」

 いつだったからかは忘れたが、すっかり恒例の挨拶を交えて俺たちは歩きだした。
それとなく、俺の身体を支えてくれるのがありがたい。

 七星門の鍵の守護者、加えて松葉杖の俺がオベリスク・ブルーの喫茶店を手伝えるはずも無く、とりあえず俺たちはオシリス・レッドの出し物に向かった。

「コスプレデュエル大会って、どんなことやるのかな?」


「……まったく予想がつかないな」

 何故かと言われれば、なんて事はない。
ただ、どんなことをやっているのか予想がつかないからだ。
慣れぬ松葉杖での、学園から遠いオシリス・レッドへの移動は大変だったが、レイのおかげでなんとかたどり着くことが出来た。

「……っと。ありがとな、レイ」

「これぐらい、何ともないよ! ……それよりさ、やってるみたいだよ、コスプレデュエル!」

 朗らかに笑うレイが指差す先には、多種多様なデュエルモンスターズのモンスターたちがいた。
正確には、デュエルモンスターズのモンスターたちの格好をした生徒、だが、皆楽しそうだ。
中央のデュエル場では、何故かコスプレをしていない十代と、モンスターそっくりのブラック・マジシャン・ガールがデュエルをしていた。

 ……あんなそっくりな生徒、このアカデミアにいたかな……?

「……まあ良いか。レイ、俺たちもせっかくだからコスプレしようぜ?」

「うん!」


 コスプレ用の衣装は寮にあるらしいので、(若干の殺気を感じながら)俺たちはオシリス・レッド寮に行くと、コスプレせずに壁に寄りかかっている明日香がいた。

「よ、明日香」

「遊矢!? 体は大丈夫なの?」

 俺の姿を見るなり、明日香は俺の元に駆け寄りつつ、身を案じてくれた。
その後に俺の身体を支えるレイを見て、若干眉をひそめたものの、すぐに心配そうな表情に戻った。

「見ての通りさ。……明日香は、コスプレしないのか?」

松葉杖を指して、『見ての通り』だということを示し、気になることを聞いた。

「わ、私はこういうのは……その……恥ずかしくて……」

「じゃ、二人でコスプレして来よ、遊矢様!」

 レイが明日香と火花を散らしながらも俺の腕をとり、向かおうとするが……

「様は止めろ……じゃなくて、やっぱ無理だ、レイ。松葉杖をついたモンスターなんていないっての」

 失念していたが、俺は今日松葉杖。
どうやってもコスプレなどは出来はしなかった。
それはレイにもすぐ分かったようで、(こう見えて頭は良い)少し残念そうな表情をしたが、すぐにいつもの明るい表情に戻って笑った。

「じゃ、私だけでも着替えて来るね!」

そう言い残し、レイがオシリス・レッド寮の階段を登って行くと……

「……ま、待ちなさい!」

……明日香が追いかけていった。
コスプレしないんじゃ無かったのか?……まあ、良いけどさ。


それからしばらく十代VSブラック・マジシャン・ガールを眺めていると、階段を降りてくる音が響いた。

「遊矢様!」

……察するに、先に来たのはレイのようだ。

「様は止めろ……って、やっぱりお前はそれか」

「うん! このカードは私自身みたいなものだからね!」

レイがコスプレをする事にしたモンスターは、当然、《恋する乙女》だった。
白いレースのドレスが、普段ボーイッシュなレイにはいつもと違う雰囲気を醸し出している。

「似合ってるな、レイ」

「えへへ……」

 ……はて、そういや何か忘れているような……?

「ゆ、ゆう……」

 消え入るような声に反応して横を見ると……明日香が、いた。
当然コスプレしているのだが、そのコスプレは明日香の主力モンスター、《サイバー・エンジェル―弁天―》だった。
和服と全身タイツを一体化させたような、いつもの制服とは違う服に身を包み、恥ずかしそうに体を隠す明日香は、その……可愛

「ねえ遊矢様! 一緒にデュエルしよ!」

 明日香に対する俺の思考を中断させ、レイが俺の手を引っ張って来た。

「お、おい! ちょっと待てレイ! 俺は今デュエルは……」

「大丈夫大丈夫! 私がドローするからさ!」

 松葉杖である俺は、引っ張ってくるレイに抵抗出来ずにデュエル場に入ってしまった。
ちょうど十代とブラック・マジシャン・ガールのデュエルが終わり、次の対戦相手を探している時に、だ。

『デュエル場に現れたのは、オベリスク・ブルーの黒崎遊矢率いる三人組ッス! 誰かあのリア充を爆発させるデュエリストはいないッスかーッ!』

 すっかり司会者役が板についた翔が、マイクパフォーマンスで生徒たちに呼びかけ、その横でXYZ―ドラゴンキャノンに扮した万丈目がこちらを睨んでいるのを見て、もう逃げられないのだと悟る。
……ん? 三人?

「ドローは私がするわ……別にレイちゃんに対抗してるわけじゃないけど!」

 横を見れば、サイバー・エンジェル―弁天―……もとい、明日香がデュエルディスクを俺の腕に付けていた。
確かに、レイじゃ身長のぶんドローするのは難しいかも知れないな……

「よし、頼んだ」

「ええ、任せて」

 明日香はいつも通り、力強く頷いてくれた。
レイは明日香とは逆の位置につき、変わらず俺を支えてくれる。


 ……たまには、こんなのも良いかも知れないな。
俺がそう思い始めた時、一人のモンスターが俺たちの前へと現れた。
確か、あのモンスターは……

「僕の名前は《魔法剣士ネオ》! 僕がお相手しよう!」

 そうそう、魔法剣士ネオだ。

『《魔法剣士ネオ》って何スか? XYZ―ドラゴンキャノンさん』

『魔法剣士ネオというのは、最初期の通常モンスターだ。
攻撃力は1700とまあまあだから、充分現役でも使えるがな』
翔と万丈目の会話が終わる頃には、俺たちと向こうの魔法剣士ネオの準備が完了していた。

「さて、黒崎遊矢くん! このデュエルで君が明日香に相応しいか確かめてあげよう!」

「……なんだそりゃ?」

 明日香に相応しいか確かめる?
俺が首を捻っている間に、横の明日香がハッとした表情となり、弱々しく問いかけた。

「まさか……兄さ……」

「おおっと! それ以上はデュエルで聞き出してみたまえ!」

 明日香の声を、魔法剣士ネオは剣を振り回しながら遮った。
……なんだか良く分からないが……

「「デュエル!」」

遊矢+明日香+レイ
LP4000

魔法剣士ネオ
LP4000


俺のデュエルディスクに『先攻』と表示された。
おお、これは幸先が……

『先攻は、僕の独断で魔法剣士ネオ!』

「ちょっと待てぇッ!」

 俺が先攻って珍しいんだよ!
先攻とるときって大概相手が亮の時だけなんだよ!
あいつが相手の場合後攻の方が良いんだよ!

『黙れッス』

 ……翔が怖い……

「それではお言葉に甘えて、僕のターン、ドロー!」

 俺の必死の抵抗も虚しく、魔法剣士ネオが先攻をとった。

「僕は、僕自身を召喚!」

魔法剣士ネオ
ATK1700
DFF1000

僕自身、ねぇ……

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「楽しんで……「楽しんで勝たせてもらうわ!」……先に言うな、レイ。俺のターン、ドロー!」

 代わりに明日香が引き、引いたカードを手札に加える。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」


ガントレット・ウォリアー
ATK500
DFF1600

 明日香がデュエルディスクにセットしたことで現れる、大きなガントレットをつけた機械戦士が守備の態勢をとる。

「更に、カードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

魔法剣士ネオは、ドローしたカードを引き、ニヤリと笑って懐から何かを取り出した。

「とうっ!」

そしてそのまま地面に叩きつけ、叩きつけられたところからもうもうと煙が上がる。

「――煙幕か!?」

外と言えども、一瞬視界が真っ白に染まってしまう。
何考えてるんだ……!?

「異空間の旅から帰還した僕は、新たな力を手に入れた! ……その名は……」

魔法剣士ネオの声が響くと共に、風が吹いて煙がはれる。
そして、俺たちの前にいたのは。

「……《魔法剣士トランス》ッ!」

魔法剣士トランス
ATK2600
DFF200

二体の魔法剣士トランスだった。
煙が上がった瞬間に、着替えとアドバンス召喚を同時に行ったようだ。

「す、凄い……」

うん、確かにレイの言う通り凄い。
が。
何の意味があるんだ……!?

「進化した僕の力を見せよう! 魔法剣士トランスで、ガントレット・ウォリアーに攻撃! マジェスティ・スラッシュ!」


魔法剣士トランスの魔法を纏った剣には、ガントレット・ウォリアーの守備力では遠く及ばない。

「やらせはしない! リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》!」

久々に現れたくず鉄のかかしがガントレット・ウォリアーを守り、再びセットされる。

「くっ……ターンエンドだ」

「俺たちのターン、ドロー!」

明日香が引いたカードを確認し、高々とカード名を宣言する。

「俺は《ハイパー・シンクロン》を召喚!」


青色のボディを持ち、1600というまあまあの攻撃力を持ったシンクロンが現れる。
……まあ、デメリット効果付きだが……

「レベル3のガントレット・ウォリアーに、レベル4のハイパー・シンクロンをチューニング!」

《シンクロ召喚》
先日、テレビにて大々的に発表され、次なるパックにて既に発売が決定したようだ。
だが、テスターとして頼まれた一人の筈の俺は、セブンスターズやら入院やらでイマイチ宣伝出来ていなかったので、若干の心苦しさがあった。
だが、ここにはデュエルアカデミアの生徒や外来の人もいる。
つまり、チャンスだ……!

「集いし願いが、新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ! 《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DFF2500

出したのは、俺が始めて見た黄色い機械龍。
狙い通りと言ったところか、観客から「これがシンクロ召喚……」という声が聞こえてくる。

「……シンクロ召喚……話には聞いていたけれど、僕が倒れている間にこんなものが……だけど、シンクロ召喚をしても攻撃力は2300。僕には適わないよ!」

念のため、僕=魔法剣士トランスだろう。多分……

「パワーツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから装備魔法を三枚選び、相手がその中からランダムに選択したカードを手札に加える。俺が選択するのは、《ダブルツールD&C》、《デーモンの斧》、《団結の力》。パワー・サーチ!」


「……真ん中にしておくよ」

魔法剣士トランスが選んだ装備魔法カードを手札に加え、そのままセットした。

「手札に加えた《ダブルツールD&C》を、パワーツール・ドラゴンに装備する!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300→3300

ダブルツールD&C。
自分のターンと相手のターンで効果が変わるという扱いにくさがあるものの、どちらも充分に強力だ。

「パワーツール・ドラゴンで、魔法剣士トランスを攻撃! クラフティ・ブレイク!」

パワーツール・ドラゴンのドリルが魔法剣士トランスを貫く。

「くっ……まだまだ!」

魔法剣士トランス
LP4000→3300

「これで俺はターンエンド」

「僕のターン、ドロー!
……リバースカード、オープン! 《凡人の施し》! 手札の《エルフの剣士》を除外し、二枚ドローする!」

凡人の施しと聞いて、つい身構えてしまった俺は悪くない。

「……よし。《大嵐》を発動し、君のカードを破壊する!」

サイクロンより遥かに強力な竜巻が、俺のダブルツールD&Cとくず鉄のかかしを破壊した。

「そして、永続魔法《絶対魔法禁止区域》を発動し、通常魔法《思い出のブランコ》を発動! 魔法剣士トランスを蘇生する!」

魔法剣士トランス
ATK2600
DEF200

通常モンスターの専用蘇生カード、《思い出のブランコ》により、魔法剣士トランスが再び現れる。


「更に魔法剣士ネオを召喚するよ!」

魔法剣士ネオ
ATK1700
DEF1000

魔法剣士トランスのフィールドに、魔法剣士が二体並び立ち、こちらに向かって剣を向けた。
……これはまずい。

「バトル! 魔法剣士トランスでパワーツール・ドラゴンを攻撃! マジェスティ・スラッシュ!」

くず鉄のかかしとダブルツールD&Cが破壊されてしまった今、防ぐ手段は無く、パワーツール・ドラゴンは呆気なく破壊されてしまった。

遊矢LP4000→3700

「続いて、魔法剣士ネオでダイレクトアタック! マジェスタ・スラッシュ!」

「ぐああっ!」

遊矢LP3700→2000

あっという間に逆転されるライフポイント。
この魔法剣士トランス、強い……!

「僕はこれでターンエンド。本来、思い出のブランコの効果で魔法剣士トランスは破壊されるけど、絶対魔法禁止区域の効果により破壊されない」

絶対魔法禁止区域は、フィールドにいる通常モンスターに魔法の効果を受けさせなくするカード。
よって、思い出のブランコの自壊効果が適用されず、完全蘇生となる厄介なコンボだ。

「俺たちのターン、ドロー!」

相手がいくら強くても、これは闇のデュエルではない。
ならば、楽しんで勝たせてもらうだけだ。

「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに手札を二枚捨て、二枚ドローする!」

さあて、この後はもちろん……

「墓地に送った二枚の《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから守備表示で現れろ! マイフェイバリットカード、《スピード・ウォリアー》!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400


「そして、自分のフィールドに二体の守備表示モンスターがいるため、《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

重火器を持った機械戦士が現れる。
シンクロ召喚が出たことで、このバックアップ・ウォリアーが特殊召喚されたターンはシンクロ召喚が出来ない、という効果が追加されてしまったが、まだまだ俺のデッキには必要なカードだ。

「更に《団結の力》をバックアップ・ウォリアーに装備する!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100→4500
DEF0→2100

機械戦士、バックアップ・ウォリアーの召喚方法により、俺のフィールドのモンスターは三体。
団結の力の効果を最大限に生かせる!

「バトル! バックアップ・ウォリアーで、魔法剣士トランスに攻撃! サポート・アタック!」

バックアップ・ウォリアーの両手に持った銃による攻撃に、魔法剣士トランスは撃ち抜かれた。

「ぐうっ!」

魔法剣士トランスLP3300→1400

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」

「くっ……僕のターン、ドロー!」

団結の力を使った攻撃により大幅にライフを削られた魔法剣士トランスは、それでも笑みを崩さずにカードを引いた。

「僕は《チェイン・スラッシャー》を召喚!」

チェイン・スラッシャー
ATK1000
DEF600

チェイン・スラッシャー……確か、墓地に同名カードがある時、同名カードの数だけ連続攻撃ができるカード……だったか。
相性が良いとは言えないが、何で入ってるんだ?
……魔法剣士ネオに似てるからか?

「墓地にチェイン・スラッシャーは二枚。よって、三回の攻撃が可能となる……手札断殺、使わせてもらったよ」

「くっ……だが、バックアップ・ウォリアーは突破されない!」

ああ、これ凄いフラグ……

「もちろんさ。チェイン・スラッシャーを対象に、《渾身の一撃》を発動! チェイン・スラッシャーはこのターン戦闘では破壊されず、チェイン・スラッシャーと戦闘した相手モンスターは破壊される!」


……つまり、俺のフィールドは全滅する。

「更に二枚目の《思い出のブランコ》を発動! 蘇れ、我が分身!」

魔法剣士トランス
ATK2600
DEF200

またも厄介な完全蘇生により、再び魔法剣士トランスが現れる。

「さあ行くよ! チェイン・スラッシャーで、バックアップ・ウォリアーにスピード・ウォリアー二体に攻撃! 
マジェスティック・スラッシャー!」

チェイン・スラッシャーが放つ鎖に、スピード・ウォリアー二体は呆気なく破壊され、バックアップ・ウォリアーは耐えたものの、楔のように打ち込まれたのか、すぐに倒れ伏した。

「フィニッシュだ! 魔法剣士トランスで、遊矢くんにダイレクトアタック! マジェスティ・スラッシュ!」

「手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了させる!」

手札から機械で出来たかかしが飛び出て、魔法剣士トランスの前に出て俺を守った。
……あ、斬られた。

「危ない危ない……」

「フフ、そうでなくてはね……これで僕はターンエンドだ!」

先程も言ったが、思い出のブランコで蘇生した魔法剣士トランスは、絶対魔法禁止区域の為に破壊されない。

「ふふ……」

なんだか、久しぶりに普通のデュエルをした気がするが……やはり、デュエルというのは元来楽しいもの。
どんな時でも、楽しまなくちゃな……!

「俺たちのターン、ドロー!」


……良し、行ける!

「俺は《ラピッド・ウォリアー》を召喚!」

ラピッド・ウォリアー
ATK1200
DEF200

「俺が通常召喚に成功したことにより、《ワンショット・ブースター》を特殊召喚!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

「フッ。何を考えているかは知らないけど、その二体じゃ僕らには適わないよ!」

「そりゃ、まだまだこれからだからな! リバースカード、オープン! 《リビングデットの呼び声》を発動! 蘇れ、《ハイパー・シンクロン》!」

ハイパー・シンクロン
ATK1600
DEF800

「パワーツール・ドラゴンじゃない……!?」

「今回のキーカードはこいつだからな……リバースカード、オープン! 《デシーブ・シンクロ》!」

効果処理はややこしいが、一度しか言わないから良く聞いておくように!


「デシーブ・シンクロの効果は、自分のエクストラデッキに存在するシンクロモンスター1体を選択し墓地へ送り、選択したモンスターのシンクロ素材が自分フィールド上に揃っている場合、それらのモンスター以外のモンスター1体の攻撃力をこのターンのエンドフェイズ時まで、選択し墓地へ送ったシンクロモンスター1体の攻撃力の半分の数値分アップする!
俺は、レベル4のハイパー・シンクロンとレベル1のワンショット・ブースターがいることにより、レベル5の《スカー・ウォリアー》を捨て、スカー・ウォリアーの攻撃力の半分、ラピッド・ウォリアーの攻撃力をアップさせる!」

ラピッド・ウォリアー
ATK1200→2250

代わりにデメリットとして、攻撃力をアップさせたモンスターしか攻撃出来ない欠点を持つ。
……効果、わかったか?

「攻撃力、2250……それじゃあ僕にトドメはさせないよ!」

「それはどうかな……ラピッド・ウォリアーの効果を発動! このカード以外の攻撃を封じることで、このカードはダイレクトアタックが出来る!」

「な、何だって!?」

元々、デシーブ・シンクロの効果で他のモンスターは攻撃出来ないけどな。
魔法剣士トランスの驚きの声を前に、ラピッド・ウォリアーは攻撃準備が出来上がる。

「バトル! ラピッド・ウォリアーで、魔法剣士トランスにダイレクトアタック! ウィップラッシュ・ワロップ・ビーン!」

「うわあああっ!」

魔法剣士トランス
LP1400→0

三人の魔法剣士をすり抜け、本体たる魔法剣士トランスにラピッド・ウォリアーが攻撃を決めたことで、デュエルは決着した。

「よっしゃああああッ!
楽しいデュエルだったぜ……って、あれ?」

デュエルの決着時の影響か、魔法剣士トランスのウィッグが外れていた。
そこにいた人物は、既に魔法剣士トランスではなく。

「天上院……吹雪さん……?」

行方不明であり、またセブンスターズの一人でもあった、保健室で倒れていた明日香の兄、天上院吹雪がそこにはいた。
思えば、さっき保健室にいなかったような気がするが……起きていたのか。


「やっぱり……兄さん……」

行方不明になった兄を目の前にして、目に涙を浮かべる明日香。
遂に、兄妹の感動の対面が……

「とうっ!」

……そんなことはなく、再び魔法剣士トランス……ではなく、吹雪さんが煙幕を地上に投げつけ、視界を一瞬真っ白にした後に逃げていった。

「ちょ、ちょっと! 何で逃げるのよ兄さん!」

明日香がそれを追い、なんとも微妙な空気で俺たちのコスプレデュエルは終わった。



俺たちのコスプレデュエルからしばらく経ったオシリス・レッド寮。
俺は、独りで未だに続くコスプレデュエルを眺めていた。
レイは、休憩時間となった十代たちに任せて先にラー・イエローの屋台に行ってもらった。
松葉杖である俺は、一人でゆっくりと行くことにしたのだ。

天上院兄妹は……未だに追いかけっこを続けているのだろうか。

「さて、行くか……」

「残念だが、貴様はどこにも行くことは出来ない」

目の前に突如として現れる、灰色のコートの男。
コスプレではなく、こいつはおそらく……

「セブンスターズ……ッ!」

セブンスターズだと思われる目の前の男は、突然本を取り出した。
あれは確か、大徳寺先生が良く持っていた、錬金術の……!

「フッ……狙い通り、高田とのデュエルで貴様はまだデュエルが出来ぬ身……今の内に捕らえさせてもらう!」

突然本が発光し、俺の身体がセブンスターズの男の背後に引き寄せられる。
男の背後には……赤色の……何かが広がっている。

「七星門の鍵を持つ者がデュエルが出来ない時……不戦敗だ。おとなしく捕まれ、黒崎遊矢」

不戦敗……!?
そんなルール聞いてッ……!

「う、うわあああッ!」

俺は、そのまま抗えずに赤色の空間に引きずり込まれていった…… 
 

 
後書き
なんか久しぶりで、デュエルを書くのが一段と難しくなった…… 

 

―幻魔降臨―

 
前書き
文化祭の準備で忙しい…… 

 
「痛ってえ……」

 まだ痛む片足をさすりながら、俺は赤い空間で倒れていた。
最期のセブンスターズに不戦敗を喫してこの赤い空間に閉じ込められてからすぐ、赤い空間で倒れ込んで気絶してしまったため、あれから何日たったかは分からない。

 ……というか、今何が起きているかも分からない。
七星門の鍵の守護者、残る十代と万丈目は あの最期のセブンスターズであるだろう灰色のコートの男に勝てただろうか……
いや、十代と万丈目ならば大丈夫だろう。
そう信じるしかない。

「……元気そうだな」

 灰色のコートのセブンスターズの声が後ろから聞こえたので、恨み言でも言おうと背後を見ると――自慢の灰色のコートも無惨に裂け、見るからにボロボロとなった男がいた。

「おい、大丈夫か!?」

 つい灰色のコートの男に駆け寄ってしまい、肩を抑えて大丈夫かを確認したところ、セブンスターズの男が被っていた仮面がとれ、音を立てて地面に落ちた。その素顔は――

「大徳寺……先生……!?」

 オシリス・レッド寮の寮長にして、錬金術の担当の……大徳寺先生だった。

「大徳寺先生、何で……」

「時間がない……手短に話すから黙って聞くんだ……!」

 ボロボロの格好ながらも、いや……だからこそ鬼気迫る表情で大徳寺先生は俺に迫り、矢継ぎ早に語り出した。

「私の身体は錬金術によって作り出したホムンクルス……賢者の石を求めてセブンスターズとなっていた」

 賢者の石というのは、大徳寺先生の錬金術の授業で知っている。
いつもの語尾につける『ニャ』をつける余裕も無く、大徳寺先生は語り続ける。

「この身体はもう限界……だが、最期に頼みたいことがある……三幻魔を、止めて欲しい」

 大徳寺先生のその願いは妙だった。
大徳寺先生が最期のセブンスターズというのであれば、むしろ三幻魔の復活を望んでいるのでは無いのか……?

 俺の疑問は顔に出ていたのか、大徳寺先生がすぐ疑問に答えてくれた。

「私のセブンスターズとなった目的は、闇のデュエルを通して三幻魔を止められるデュエリストを育てることだった……そのためとはいえ、君たちにはすまないことをした」

 大徳寺先生はぺこりと少し頭を下げ、また話を続ける。

「恐らく今、現実ではこの事件の黒幕により三幻魔は復活しようとしている」

「黒幕!?」

 セブンスターズはもう全員いないようだが、まだ黒幕がいたというのか……?

「黒幕の正体は、このデュエル
アカデミアの理事長……《影丸》という老人だ。その年は齢百年を超え、昔は私と共に賢者の石の研究を行っていた……だが、彼は三幻魔に魅せられてしまった。手に入れた者には不老長寿と最強の力を与える、という伝説に」

 影丸理事長……デュエルアカデミアの生徒なら、名前だけはもちろん知っているだろう。
まさか、そんな人が黒幕だとは鮫島校長も思うまい。

「だが、三幻魔を完全に律するには、精霊を操る力が必要だと分かった彼は、黒崎遊矢。君の精霊を操る力を奪うつもりだ」

「なっ……!?」

 精霊を操る力と言われても、俺にそんな力は無い。
そもそもカードの精霊の姿も見えないのだ。

「いや、君には遥かに強い精霊の力が宿っている……ただ、気づいていないだけだ……ぐっ!」

 まだ話は途中だろうが、大徳寺先生の身体が消えていく。
ホムンクルスの身体という奴に限界が来ているのだろうか。

「大徳寺先生!」

「……最期に、このカードを渡す。私が、自らの錬金術を結集して呼びだしたカードだ……」

 消えゆく大徳寺先生が、最期に一枚のカードを俺に渡してくる……だが、そのカードには何も描かれてはいない。

「時期が来れば、そのカードは蘇る……それと」

 身体は徐々に消えていき、もう頭しかまともに無い大徳寺先生は、先生として錬金術を教えてくれていた時のように赤い目を糸目にして笑った。

「……いつも真面目に授業を受けてくれて、嬉しかったんだニャ」

 セブンスターズとしてではなく、オシリス・レッド寮の寮長、錬金術の先生の大徳寺先生として消えた瞬間。
俺の意識は、現実に引き込まれるような感覚に陥った。



 ――ここは、どこだ?
どうやら、あの赤い空間からデュエルアカデミアに戻されたようだ。
……ここは多分、普段はあまり来たことはないが、ダークネスとデュエルした火山だと当たりをつける。

「……遊矢!?」

 日頃よく聞いている親友、三沢大地の声に反応して背後を見ると、
セブンスターズの関係者……友人たちとクロノス教諭、鮫島校長……がずらりと並んでいた。

「遊矢!」

 明日香がまたもや悲痛な叫びをあげるので、困ったように頭をかき、どこから説明しようかと思いながらも口を開こうとした時……

『待っていたぞ、黒崎遊矢!』



 ……と、またも背後から声がかかる。
スピーカーで発した声のようであり、若干くぐもってはいたが。

 ……まあ、それもそのはず。
俺の名前を呼んだ人物は、巨大な機械に乗っていたのだから。

「……あんたが影丸理事長か?」

 大徳寺先生の、齢百年を超えているという言葉を思い出し、探りをかけておく意味での質問だった。

『フッ……全てアムナエルから聞いているようだな……余計なことと言いたいところだが、説明の手間が省けて良いとしよう。そう、私の名は影丸。もう既に、三幻魔は我が手中に収まった』

 アムナエル……というのは、高田も出していた名前だ。
セブンスターズとしての、大徳寺先生の名前なのだろう。

「……アムナエルじゃない。大徳寺先生だ」

『フン……そんなことはどうでも良いことだ。貴様を倒して精霊を操る術を手に入れれば、三幻魔は完全に私のものとなる!』

 精霊を操る術。
そんなことがあるなど、俺は知らない。
ただ一つ分かることは、ここで影丸理事長を止めなければ、世界が滅ぶということだ。
それを止めてくれと、大徳寺先生に頼まれた……デュエルするのは、それだけの理由で十分だ。

「遊矢!」

 三沢がこちらに向かって、恐らく三沢の物であろうデュエルディスクを投げてくる。
それを受け取り、腕につける。

「……負けるなよ、遊矢」

「任せろよ!」

 デュエルディスクを構えてから気づいたことだが、高田との闇のデュエルの怪我が……治っている。
いつからだろうか。大徳寺先生からカードを渡された時……いや、そんなことは今はどうでも良い。

 デッキケースから【機械戦士】たちをデュエルディスクに差し込み、影丸理事長に準備が出来たことを示す。


『今この瞬間、伝説の三幻魔は蘇る!』

「喜べよみんな……相手は遂に、神様だ……!」

 互いにデュエルディスクを装着し、準備が完了する。

「『デュエル!!』」

遊矢LP4000

影丸LP4000

 デュエルディスクに『先攻』と表示され、勝手に独断で決める翔もいないので珍しく俺は先攻をとる。

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 いつも通りに楽しんで勝たせてもらうことを宣言し、カードを引く。

「俺は、《シールド・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

シールド・ウォリアー
ATK800
DEF1600


 まずは様子見として、盾を持つ機械戦士を守備表示で召喚し、防御に回す。

「更にカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

『私のターン、ドロー』

 三幻魔……どう来る?

『私は、トラップカードを三枚伏せる』

 ……は?
あまりの出来事に、一瞬放心状態となる。
背後では、万丈目が「あいつ、素人か……?」と呆れている。
リバースカードをわざわざ宣言するのは、素人か、なんちゃって心理戦を展開したい奴か、挑発したい奴のどれかだ。
……挑発目的ならば失敗と言っていい。

『フフフ……これこそが三幻魔の召喚条件なのだ……トラップカード三枚をリリース!』

 トラップカード三枚をリリース!?

『出でよ、第一の幻魔! 《神炎皇ウリア》!」

神炎皇ウリア
ATK0
DEF0


 デュエルキング、武藤遊戯が持っていたという三幻神、《オシリスの天空竜》を模したような赤い竜。
ソリッドビジョンとは思えぬ威圧感で俺を睨んでくる……!
『神炎皇ウリアは、墓地に存在するトラップカードの数×1000ポイントの攻撃力・守備力となる……よって、攻撃力・守備力は3000!」

神炎皇ウリア
ATK0→3000
DEF0→3000

 攻撃力3000……!?

「更に、神炎皇ウリアは一ターンに一度、相手のセットしたトラップカードを破壊出来る! トラップディストラクション!」

 オシリスの天空竜の効果、招雷弾のような火球が俺のセットした《くず鉄のかかし》を破壊した。

『フ……《くず鉄のかかし》か。そのようなクズカード、元々
神には効かん』

 自分のカードを馬鹿にされたことに対して、少しイラっと来たものの、神にはトラップカードが効かないのは事実だ。

『バトル! 神炎皇ウリアでシールド・ウォリアーに攻撃! ハイパーブレイズ!」

 神が放つ炎にシールド・ウォリアーは耐えられず、呆気なく墓地に送られた。

『ターンエンドだ』

「俺のターン、ドロー!」

 いきなり攻撃力3000が出て来たことについては驚いたが、実質四枚のディスアドバンテージを負っての特殊召喚。
神の勢いに惑わされるな、俺……!

「俺のフィールドにモンスターがいないことにより、このカードは特殊召喚出来る! 守備表示で来い、《アンノウン・シンクロン》!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 黒い球体……そう聞くと怪しいが、そうとしか言いようがないシンクロンだ。

「更に、《ミスティック・バイパー》を召喚!」

ミスティック・バイパー
ATK0
DEF0

 いつだか万丈目に貸した、笛を持つ機械戦士が現れる。
その笛は、カードを呼ぶ笛!

「ミスティック・バイパーの効果を発動! このカードをリリースすることにより、カードを一枚ドローする!」

 ミスティック・バイパーが笛を吹きながら消え、その瞬間に俺はドローする。

「……ドローしたカードはレベル1モンスターである《チューニング・サポーター》! 更にもう一枚ドローする!」

 まだまだ、これだけじゃ終わらない。
ミスティック・バイパーの二枚目にドローしたカードを、そのままディスクにセットする。

「俺が引いたのは、《スカウティング・ウォリアー》! このカードは、効果でドローした時に特殊召喚出来る! 来い、スカウティング・ウォリアー!」

スカウティング・ウォリアー
ATK1000
DEF1000

 武藤遊戯が使っていた、《ハネワタ》と同じ効果を持つ機械戦士。
この機械戦士の登場により、フィールドにチューナーとモンスターが並ぶ。

「行くぞ……レベル4のスカウティング・ウォリアーと、レベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング!」

 合計レベルは、5。

『シンクロ召喚という奴か……!?』

 影丸理事長の声と同時、アンノウン・シンクロンが一つの光の輪となり、中をスカウティング・ウォリアーが通る。


「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、スカー・ウォリアー!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 大地の痛みを知る傷だらけの機械戦士が神炎皇ウリアの前に立つ。
攻撃力3000ぐらいなら……超えられる!

「装備魔法《デーモンの斧》を、スカー・ウォリアーに装備する!」


スカー・ウォリアー
ATK2100→3100


 スカー・ウォリアーがデーモンの斧を装備したことにより、神炎皇ウリアの攻撃力を超える。

「バトル! スカー・ウォリアーで、神炎皇ウリアに攻撃! ブレイブ・ダガー!」

影丸LP4000→3900

 デーモンの斧ではなく、自らが持つ短剣を用いて神炎皇ウリアを倒した。
……デーモンの斧は、もしかしたら武器ではないのだろうか。
……いや、そんなことはどうでも良い。
重要なのは、三幻魔の一種を倒せたことだ。

「これで俺はターンエンドだ!」

『私のターン、ドロー……メインフェイズ、墓地に眠る神炎皇ウリアの効果を発動!』

 墓地で発動する効果!?
なんとも嫌な予感がひしひしと伝わってくる。

『神炎皇ウリアが墓地で眠る時、手札からトラップカードを一枚墓地に送ることで、神炎皇ウリアはフィールドに舞い戻る!』

「何!?」

 影丸理事長がトラップカードを墓地に送り、神炎皇ウリアが再びその姿を現した。
そして、墓地のトラップカードが増えたことによって、神炎皇ウリアの攻撃力・守備力は1000ポイントアップする。

神炎皇ウリア
ATK3000→4000
DEF3000→4000


『これこそが神炎皇ウリアの力! バトル! スカー・ウォリアーに攻撃せよ、ハイパーブレイズ!』

 更に攻撃力をアップさせた神炎皇ウリアの攻撃を受けるが、スカー・ウォリアーは自らの効果によって破壊されない。

「スカー・ウォリアーは、一ターンに一度、戦闘では破壊されない!」

『だが、ダメージ計算は受けてもらう!』

 影丸理事長のお決まりのセリフに続き、スカー・ウォリアーが防ぎきれなかった炎が俺をかすめる。

「くっ!」

遊矢LP4000→3100


『更にフィールド魔法《失楽園》を発動し、ターンエンドだ』


 フィールド魔法《失楽園》というカードの効果により、デュエルアカデミアの火山が一瞬にして焼けただれた森林になる。

「俺のターン、ドロー!」

 ドローはしたものの、起死回生の策はなく、トラップカードを伏せても神炎皇ウリアに破壊されてしまう。

「……スカー・ウォリアーを守備表示にして、ターンエンドだ」

『私のターン、ドロー!
……そして、《失楽園》の効果を発動。このカードは、三幻魔のいずれかが自分フィールド場にいるとき、更にカードを二枚ドロー出来る!」

「なっ!?」

 驚きの声と、『なんだと』というセリフが縮んだ俺の声が響くが、効果がそれで変わる訳がなく、影丸理事長はさも当たり前のように二枚のカードをドローした。

『フフフ……更に、魔法カードを三枚伏せる』

 さっきはトラップカードで今度は魔法カード……ならば来るのは。

『魔法カード三枚をリリースし、現れろ、第二の幻魔! 《降雷皇ハモン》!」

 降雷皇ハモン
ATK4000
DEF4000

 轟く雷鳴と共に現れたのは、今度は神のカード《ラーの翼神龍》に似たカード……降雷皇ハモンだった。
これで影丸理事長のフィールドには三幻魔が二枚揃い、チートカード、失楽園が存在する。


『バトル! 神炎皇ウリアで、スカー・ウォリアーに攻撃! ハイパーブレイズ!』

 神炎皇ウリアの炎がスカー・ウォリアーを包み込むが、先ほどと同じようにスカー・ウォリアーは破壊されない。

『更に、降雷皇ハモンでスカー・ウォリアーに攻撃! 失楽の霹靂!』

 鋭い雷撃がスカー・ウォリアーに落ち、今度こそ傷だらけの戦士は破壊された。

『まだだ。降雷皇ハモンが相手モンスターを破壊した時、相手に1000ポイントのダメージを与える! 地獄の贖罪!』

 スカー・ウォリアーを襲った雷撃よりは小さいが、雷撃が俺に向かって落ちる。

「ぐああッ……」

遊矢LP3100→2100


「遊矢!」

 後方の仲間たちから心配そうな叫びが発せられるが、大丈夫、と手を振って合図をする。
嫌々ながら、もう闇のデュエルには慣れてしまった。

『フン……ターンエンドだ』

「俺のターン、ドロー!」


 三幻魔……世界を滅ぼすなどという大仰な伝説があるだけに、強力なカードたちだ。
だが、神様であろうとモンスターはモンスター。
倒せないことはない筈だ。

「俺は通常魔法、《発掘作業》を発動。カードを一枚捨て、一枚ドロー!」

《手札断殺》の小型番とも言えるカードを使い、手札の交換を行った。
……よし。

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚! 来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!』

 力強い叫びと共にスピード・ウォリアーが現れ、三幻魔に対して攻撃の構えをとった。

『……スピード・ウォリアーだと? そんなザコカードで、三幻魔に適うとでも思っているのか?』

「ザコカードじゃない。俺のフェイバリットカードだ、覚えとけ!」

 そして、三幻魔を一体倒す手段もある。

「通常魔法《魂の解放》を発動! 墓地のカードを五枚除外することが出来る! 俺が除外するのは、影丸理事長の墓地のトラップカード四枚と、魔法カードを一枚!」

『ぬぅ……しまった……』

 神炎皇ウリアの効果は、プレイヤーの墓地のトラップカードの枚数で攻撃力・守備力が決定する。

元々は、三沢や亮のような墓地活用デッキが周りに多く、高田の【ダークシンクロ】にも有効に使えると思ってデッキに入れていたが……役に立てたようで良かった。


神炎皇ウリア
ATK4000→0
DEF4000→0

「バトル! スピード・ウォリアーで、神炎皇ウリアに攻撃! ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーは力を失った神炎皇ウリアに向かい、力強い足技で蹴りを繰り出した。
戦闘破壊耐性を持っているわけでも無いので、神炎皇ウリアはなすすべもなく破壊された。

『ぬおっ……ええい、あの程度のモンスターに……』

影丸LP3900→2100

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 スピード・ウォリアーにやられたのがとても悔しかったのか、影丸理事長は歯ぎしりでもしていそうな雰囲気だ。
いや、機械に乗っているから分からないが。

『私のターン、ドロー!
私のフィールドには降雷皇ハモンがいるため、失楽園の効果で二枚ドロー!』

 手札消費が激しい三幻魔の弱点を埋めるように、デッキからカードを三枚ドローする。

『まず、手札からトラップカードを捨て、神炎皇ウリアを守備表示で特殊召喚する!』

神炎皇ウリア
ATK0→1000
DEF0→1000

 神炎皇ウリアは復活するが、先ほどと違って攻撃力は1000。
しかも守備表示だ。

『そして魔法カード《幻魔の殉教者》を発動! 神炎皇ウリアと、降雷皇ハモンの二体がフィールドにいるとき、手札を二枚捨て《幻魔の殉教者トークン》を三体特殊召喚出来る!』

幻魔トークン
ATK0
DEF0
 そのおどろおどろしい外見とは裏腹に、攻撃力・守備力は0。
だが、俺にはかなりハイレベルな嫌な予感がした。

「……モンスターが……三体……!」

『ククク……その通りだ! フィールドにいるモンスター、三体の幻魔の殉教者トークンをリリースし……《幻魔皇ラビエル》を召喚!』

 失楽園の大地が裂け、最後の幻魔が――降臨した。
 
 

 
後書き
前後編にしました。
感想・アドバイス待ってます! 

 

―幻魔激戦―

 
前書き
テスト中で書きかけだったので……
ちょっと無駄に長くなってます。 

 
現在の状況

影丸理事長
LP2100

フィールド
幻魔皇ラビエル
ATK4000
降雷皇ハモン
ATK4000
神炎皇ウリア
DEF1000
失楽園

黒崎遊矢
LP2100

フィールド
スピード・ウォリアー
ATK900
リバースカード一枚

 最後の幻魔、幻魔皇ラビエルが影丸理事長のフィールドに現れたことにより、伝説の三幻魔が全て相手のフィールドに揃った。
加えて、明らかにバランスブレイカーであるフィールド魔法、《失楽園》もある。

 対するこちらのフィールドには、スピード・ウォリアーとリバースカードが一枚のみ。
……ライフポイントは同じものの、明らかにこちらが不利な状況だ。

 そして、幻魔皇ラビエルを中心に何やら力が集まっていく。

「……カード達が!?」

 背後にいる万丈目が何やら驚きの声をあげているので、そちらの方を見ていると、万丈目は自らのデッキを眺めて呆然としていた。
……いや、万丈目だけじゃない。
万丈目の様子から、自分のデッキを見た全員が呆然としている。

「どうした!?」


『フフ……ようやく気づいたか。三幻魔はその強力な力故に、今デュエルしている者以外からカードの精霊の力を奪う。三幻魔が揃ったことにより、その奪う力は世界中に及ぶ!』

 ならば今、世界中でデュエルモンスターズのカード達は消えているのだろうか。
一回デュエルするだけでカードの精霊の力を奪うとは、はた迷惑な話。
それは封印されるわけだ。

『だが、まだ三幻魔を操る力は不完全……黒崎遊矢。貴様の精霊を操る力を奪って、私の三幻魔は完成する!』

 精霊を操る力……それが俺には分からない。
俺には精霊の姿は見えないのに、精霊を操っているといわれても訳が分からない。
……大徳寺先生に、教えてもらえば良かったな。

『ククク……集まってきたぞ……!』

 この期に及んでくだらないことを考えていた俺の前の影丸理事長に、三幻魔が集めた精霊の力が集まっていく。
そして、たくましい腕が影丸理事長が乗っている、生命維持装置を『内部から』破壊した。

 生命維持装置の中の水が湧き出て、中から成人の男性が現れる。

「フゥ……遂に俺は取り戻した、この若さを!」

 スピーカー越しではないが、先ほどまで聞いていた影丸理事長の声。
三幻魔の力を使い、若返ったのであろう。

 それから影丸理事長は、自分が今まで乗っていた生命維持装置のデュエルディスクを自らの肉体に装着し、生命維持装置を海の方へ投げ捨てた。
……おい、その機械、百キロはあっただろ。

「待たせたな、遊矢……デュエルの再開といこう」

 どうやら、そんなことを気にしてる暇はないようだ。

「ああ、来いよ!」

「お言葉に甘えさせてもらう! 神炎皇ウリアにより、貴様のリバースカードを破壊する! トラップ・ディストラクション!」

 セットされたトラップカードを破壊する、神炎皇ウリアのこの効果。
ならば、セット状態でなければ良い。

「チェーンして、リバースカード、オープン! 《死力のタッグ・チェンジ》!」

 俺が伏せていたのは、永続トラップ《死力のタッグ・チェンジ》。
セットカードを破壊する、神炎皇ウリアの効果は防げるようだ。

「どんなトラップであろうと、三幻魔には通用しない! 降雷皇ハモンで、スピード・ウォリアーに攻撃だ! 失楽の霹靂!」


 降雷皇ハモンの雷に、スピード・ウォリアーは破壊されるが死力のタッグ・チェンジの発動条件が満たされる。

「死力のタッグ・チェンジの効果を発動! 表側攻撃表示のモンスターが破壊された時、戦闘ダメージを0にして、手札からレベル4以下の戦士族モンスターを特殊召喚する! 守備表示で現れろ、《ブースト・ウォリアー》!」

ブースト・ウォリアー
ATK300→600
DEF200

「貴様がモンスターを召喚・特殊召喚した時、幻魔トークンを守備表示で特殊召喚する」

幻魔トークン
ATK1000
DEF1000

 攻・守が1000のトークンを自己生成する効果……か。
他の幻魔よりかは地味だが、壁モンスターを増やすという意味では充分な効果。

「更に、効果ダメージは受けてもらうぞ! 地獄の贖罪!」

「ぐあっ!」

遊矢LP2100→1100

 死力のタッグ・チェンジの効果では、流石に効果ダメージまでは防げない。
こればっかりは仕方ないと、更に来る追撃に向けて準備をする。

「幻魔皇ラビエルで、
ブースト・ウォリアーに攻撃! 天界蹂躙拳!」

 ラビエルがその禍々しい爪を光らせ、ブースト・ウォリアーに振り下ろす。

「墓地の《シールド・ウォリアー》の効果を発動! このカードを除外することにより、ブースト・ウォリアーは戦闘では破壊されない!」

 ブースト・ウォリアーの前に、先攻一ターン目に神炎皇ウリアに破壊された盾を持つ機械戦士が現れ、ブースト・ウォリアーを守った。

「フン、小賢しい……俺はターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!
……《マジック・プランター》を発動し、死力のタッグ・チェンジをリリースし二枚ドロー!」

 前のターンに役に立ってくれた死力のタッグ・チェンジをリリースし、二枚ドローする。

 そして同じく前のターン、ブースト・ウォリアーを守ったことには、もちろん理由がある。
この魔法カードの為だ。

「通常魔法、《スターレベル・シャッフル》を発動! 自分フィールド場のモンスター一体を、墓地の同じレベルのモンスターと入れ替える! 俺はブースト・ウォリアーをリリースし、墓地の《チューニング・サポーター》を特殊召喚!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 中華鍋を逆に被ったような機械が、ブースト・ウォリアーと交換されてフィールドに出る。
《ミスティック・バイパー》によりドローし、通常魔法《発掘作業》により墓地に送られていたカードだ。

「お前がモンスターを召喚したことにより、《幻魔トークン》を守備表示特殊召喚する」

 ただの壁モンスターが影丸理事長に現れるが、今からやろうとしていることにはまったく問題ない。

「更に通常魔法《機械複製術》を発動し、チューニング・サポーターを増殖させ、チューナーモンスター、《ドリル・シンクロン》を通常召喚!」

ドリル・シンクロン
ATK800
DEF300

 その名の通り、ドリルがいくつもついた《シンクロン》が現れ、チューナーと非チューナーがいるためシンクロ召喚の準備が完了する。

「レベル3のドリル・シンクロンと、レベル1のチューニング・サポーター三体をチューニング!」

 合計レベルは6。
ドリル・シンクロンが自らのドリルを高速で回転させ、三つの輪となってチューニング・サポーターたちがその輪を通る。

「集いし力が大地を貫く槍となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 砕け、《ドリル・ウォリアー》!」

ドリル・ウォリアー
ATK2400
DEF2000

 強大なドリルを持つ、茶色の機械戦士がフィールドに降り立つ。
加えて、チューニング・サポーターの効果が発動する。

「チューニング・サポーターは、シンクロ素材となった時に一枚ドローする! 三体シンクロ素材にした為三枚ドロー!」

 デッキから三枚ドローし、目当てのカードを引いた為にそのままデュエルディスクに差し込む。

「速攻魔法、《サイクロン》! 失楽園を破壊する!」

 デュエルディスクから放たれた旋風が、フィールドを覆う死の楽園を破壊する。

「ぬうう……!」

 毎ターン三枚ドローという、強力なドローソースを失った影丸理事長が苦い顔をする。

 それに、三幻魔は確かに強大なモンスターだが、突破する手段は存在する。
例えば――倒さなければいいのだ。

「ドリル・ウォリアーは攻撃力を半分にすることにより、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る! ドリル・シュート!」


 ドリル・ウォリアーは、三幻魔を抜いて影丸理事長に迫りドリルを放つ。

「ぐうッ!」

影丸LP2100→900

 いくら三幻魔が強力であろうと、ダイレクトアタックが出来れば意味は無い。
加えて、ドリル・ウォリアーは破壊出来ない空間へ跳ぶ。

「ドリル・ウォリアーは、手札を一枚捨てることで除外出来る! ドリル・ウォリアーを除外し、ターンエンドだ!」

 ドリル・ウォリアーが空間に出来た穴に飛び込み、消えてから影丸理事長へのターンに移る。

「俺のターン、ドロー!」

 影丸理事長が力強くドローし、高笑いを上げ始めた。

「ククク……わざわざモンスターを無くすとは、勝負を投げたか遊矢! バトル! 幻魔皇ラビエルで、遊矢にダイレクトアタック! 天界蹂躙拳!」

「油断は禁物だぜ、影丸理事長! 手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了させる!」

 速攻のかかしが幻魔皇ラビエルの前に立ちふさがり、その爪に引き裂かれる。

「何ィ!?」

 当然、勝負を投げてフィールドを空にしたんじゃない。
三幻魔の攻撃から守るためにフィールドを空にしたんだ。

「ええい、小細工ばかり使いおって……通常魔法《天よりの宝札》を発動! お互いに、手札が六枚になるようにドローする!」

 失楽園を破壊された代わりに、最強のドローカードを掴んでいたらしい。
……三幻魔は、ドロー力まで授けてくれるのであろうか。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」


「俺のターン、ドロー!
……スタンバイフェイズ、自らの効果で除外したドリル・ウォリアーは戻ってくる! 帰ってこい、ドリル・ウォリアー!」

ドリル・ウォリアー
ATK2400
DEF2000

「更に、ドリル・ウォリアーの効果を発動! この効果で特殊召喚された時、墓地からモンスターを一枚手札に加える! 俺が加えるのは、《速攻のかかし》!」

 墓地から、先ほど俺を守ってくれた速攻のかかしを手札に戻す間に、背後から三沢による説明が入った。

「ドリル・ウォリアーの効果により、ダイレクトアタック・墓地肥やし・速攻のかかしによる防御が同時に出来るわけか……!」

 正解。
これだけで決まってくれれば良いんだが……

「甘い! リバースカードオープン! 《サンダー・ブレイク》! 手札を一枚墓地に送ることで、ドリル・ウォリアーを破壊する!」

 優秀なフリーチェーンの破壊カード。
その雷撃に、効果破壊耐性が無いドリル・ウォリアーは破壊されてしまう。
バトルフェイズに発動しなかったわけは、おそらく、俺の手札やシンクロモンスターを警戒したからであろう。

「お前が頼りにしていたドリル・ウォリアーは消え、更に墓地にトラップカードが増えたことにより、ウリアの攻撃力は上がる! さあ、どうする!」

神炎皇ウリア
ATK1000→2000
DEF1000→2000

「元々、ドリル・ウォリアーだけで勝とうなんて思っちゃいない。装備魔法《継承の印》を発動! 墓地に同名モンスターが三体以上ある時、そのうち一体をこのカードを装備して特殊召喚する! 来い、《チューニング・サポーター》!」

チューニング・サポーター
ATK300
DEF100

 再び現れる、逆中華鍋の機械。
墓地に同名モンスターは、まだこいつしかいない。

「更に、《地獄の暴走召喚》を発動! 攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚に成功した為、お互いに同名モンスターを特殊召喚する! 再び増殖せよ、《チューニング・サポーター》!」

「……フィールドが空いていない為、俺には特殊召喚は出来ない」

 影丸理事長はそう言うが、俺は、元々三幻魔はデッキに一枚しか入っていないだろうと当たりをつけていた。
三幻神を真似るなら、世界に一枚しか無いところまで似ているだろう。

「俺はまだ通常召喚をしていない! 《ニトロ・シンクロン》を通常召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

チューナーモンスターと、非チューナーモンスターが揃ったのだから、やることは一つだ。

「レベル1、チューニング・サポーターと、レベル2となったチューニング・サポーター二体に、レベル2のニトロ・シンクロンを
チューニング!」

 合計レベルは7。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 チューニングが終わった時、もはやニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターのユニークな外見はどこにも無く、悪魔のような形相の機械戦士が現れていた。
俺のデッキで、もっとも攻撃的な機械戦士であろう。


「ニトロ・シンクロンと、チューニング・サポーター三体がシンクロ素材となった為、それぞれの効果が発動し四枚ドロー!」

 ニトロ・シンクロンは、『ニトロ』と名の付いたシンクロモンスターのシンクロ素材となった時に一枚ドローする効果を持つ。
更に、チューニング・サポーターはシンクロ素材となった時に一枚ドローする効果を持つ……それが三体で、計四枚ドローだ。

「ニトロ・ウォリアーに装備魔法《融合武器ムラサメブレード》を装備し、攻撃力を800ポイント上げる!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800→3600

「まだだ! 幻魔の攻撃力には及ばんぞ!」

「それでもバトルだ! ニトロ・ウォリアーで、幻魔皇ラビエルに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 ナックルというより、腕にムラサメブレードが融合されているためダイナマイト・ブレードだが。

「迎撃しろ、幻魔皇ラビエル! 天界蹂躙拳!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800→3600

 幻魔皇ラビエルの爪と、ニトロ・ウォリアーの拳についたムラサメブレードがぶつかり合う。
当然、攻撃力に劣るニトロ・ウォリアーが押され始めるものの、まだニトロ・ウォリアーは強化される。

「ニトロ・ウォリアーの効果を発動! 魔法カードを使ったターン、ダメージステップ時に攻撃力が1000ポイントアップする!」

ニトロ・ウォリアー
ATK3600→4600

「幻魔皇ラビエルの攻撃力を……超えただとぉ!?」


 影丸理事長の驚愕の叫びと共に、ニトロ・ウォリアーが幻魔皇ラビエルの爪を弾き飛ばす。
そして、その身体に深々とムラサメブレードを突き立てた。


「ぬおおおッ!?」

影丸LP900→300

「更に、ニトロ・ウォリアーの第二の効果! 相手モンスターを破壊した時、相手の守備表示モンスターを攻撃表示にしてバトルする!」

 影丸理事長の表側守備表示モンスターとは、もちろん神炎皇ウリア。
三幻魔とはいえ、今の攻撃力は2000。
ニトロ・ウォリアーの敵じゃない……!

「神炎皇ウリアに攻撃! ダイナマイト・インパクト!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」

 神炎皇ウリアを戦闘破壊はしたものの、影丸理事長へのダメージ自体はガード・ブロックで止められてしまった。
これで終わってくれれば良かったが、そうもいかないか。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「良くもやりおったな……俺のターン! ドロー!」

 三幻魔の内、いきなり幻魔皇ラビエルと、神炎皇ウリアの二体を失ったが、影丸理事長は余裕そうに手札を見る。

「まずは《死者蘇生》を発動! 蘇れ、幻魔皇ラビエル!」

幻魔皇ラビエル
ATK4000
DEF4000

「そして手札からトラップカードを捨て、神炎皇ウリアを特殊召喚する!」

神炎皇ウリア
ATK4000
DEF4000

 瞬く間に三幻魔は蘇り、しかも神炎皇ウリアは攻撃力4000を突破した。
これで影丸理事長のフィールドには、攻撃力4000が三体……!

「さあ、幻魔の力に絶望しろ! 神炎皇ウリアの効果を発動。トラップ・ディストラクション!」

「チェーンしてリバースカード! 《進入禁止!No Entry!!》! 攻撃表示モンスターを全て、守備表示にする!」

 ムラサメブレードを構えて、攻撃の体勢になっていたニトロ・ウォリアーが一転、守備の体勢をとる。
だが、影丸理事長の三幻魔にはまるで意味をなさない。

「神にトラップなど効かぬ! 降雷皇ハモンで、ニトロ・ウォリアーに攻撃! 失楽の霹靂!」


 ニトロ・ウォリアーは雷撃に倒れるが、守備表示のため戦闘ダメージは来ない。
……戦闘ダメージ、は。

「降雷皇ハモンが相手モンスターを戦闘破壊した時、1000ポイントのダメージを与える! 地獄の贖罪!」

「ぐああああッ!」

遊矢LP1100→100

 ……なんとか首の皮一枚だけがつながり、ライフポイントが100ポイントだけ残った。
少し足がフラつくが……大丈夫だろう。

「幻魔皇ラビエルで、遊矢にダイレクトアタック! 天界蹂躙拳!」

「手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了させる!」

 本日二度目となる、速攻のかかしによる防御。
相手モンスターが神であろうと、いつも通り盾になってくれた。

「カードを二枚伏せ、俺はターンエンド……残りライフは僅かに百! 諦めるがいい、遊矢!」

「諦められるか……! 俺のターン、ドロー!」

 意気込んでみたは良いものの、手札に打開策はなかった。

「通常魔法《調律》を発動! デッキから《スチーム・シンクロン》を手札に加え、デッキからカードを一枚墓地に送る」

 とりあえず、このターンでやれるだけのことはやっておくべきだろう。
次のターンに、繋げる為にも。

「俺は、《マックス・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 いつもはアタッカーを務めてくれるマックス・ウォリアーだが、もちろん三幻魔には及ばない。

「カードを三枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン! ドロー!
フハハハハ! 万策尽きたようだな、そんなザコを守備表示で出すだけとは!」

「ザコじゃねぇよ。……こいつらは……三幻魔より、強いさ」

 俺の言葉を、ただのやせ我慢だと受け取ったのだろう、影丸理事長はフン、と鼻を鳴らして神炎皇ウリアに行動を命じた。

「神炎皇ウリアの効果を発動! トラップ・ディストラクショ……」

「ウリアの効果が起動する前に、《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動! 神炎皇ウリアの効果を無効にする!」

神炎皇ウリア
ATK4000→0
DEF4000→0

 エフェクト・ヴェーラーが、自らの身体で包み込んだモンスターの効果は無効になる。
それが、例え神であろうと例外ではなく、攻撃力・守備力が0の力を失った龍に成り下がった。


「……神炎皇ウリアを守備表示にする」

 影丸理事長は、わざわざエフェクト・ヴェーラーを使用してまで守った俺のトラップに何を警戒したか、神炎皇ウリアを守備表示にした。

「ええい、神にトラップなぞ効かぬ! 幻魔皇ラビエルで、マックス・ウォリアーを攻撃! 天界蹂躙拳!」

「リバースカード、オープン! 《マジカルシルクハット》!」

 影丸理事長のご期待には添えないだろうが、幻魔皇ラビエルの攻撃が届く前、マックス・ウォリアーは突如として現れたシルクハットの一つに隠した。

「な、なんだこれは!?」

「マジカルシルクハットの効果。自分のモンスターと、デッキから選んだ二枚の魔法・トラップカードを裏側守備表示で特殊召喚する」

 神のカードである三幻魔にトラップカードは効かずとも、このカードの対象はマックス・ウォリアーなので問題ない。

「良いことを教えといてやると、俺は今、効果ダメージを防ぐ手段は持っていない。降雷皇ハモンでマックス・ウォリアーを破壊すれば、あんたの勝ちだ」

「舐めるな! 幻魔皇ラビエルで、右側のシルクハットを攻撃! 天界蹂躙拳!」

 果たして、幻魔皇ラビエルの爪が引き裂いた魔術の冠には……

「……残念。マックス・ウォリアーが入ってたな」

 よって、後はただのモンスタートークンだ。

「チッ! ターンエンドだ!」

「影丸理事長のバトルフェイズ終了時、二体のモンスタートークンは破壊される……そして、ここから先が俺の本命だ!」

 マジカルシルクハットが開き、中にいた二枚のカード。
その名は……《リミッター・ブレイク》

「リミッター・ブレイクが墓地に送られたことにより、デッキから現れろ! マイフェイバリットカード、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 マジカルシルクハットがその役目を終えて消えるとき、共に消えたリミッター・ブレイクのカード内から、音速の機械戦士が二体姿を現した。

「そんなザコカード、なんだと言うのだ! 俺は変えずにターンエンド!」

 巻き戻しが発生し、再び影丸理事長がターンエンド宣言を行う。
それと同時に、エフェクト・ヴェーラーの効果が切れ神炎皇ウリアは本来の姿を取り戻した。

神炎皇ウリア
ATK4000
DEF4000

「俺のターン、ドロー!
《スチーム・シンクロン》を召喚!」


スチーム・シンクロン
ATK600
DEF800

 先程、専用サーチカードである《調律》によって手札に加えたシンクロン。
早速使わせてもらう!

「レベル2のスピード・ウォリアー二体に、レベル3のスチーム・シンクロンをチューニング!」

 合計レベルは7。
この状況を逆転させることが出来る可能性がある、ラッキーカード!

「集いし願いが新たに輝く星となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ! 《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 黄色のボディを持つ、ラッキーカードであるシンクロモンスター、パワーツール・ドラゴン。
攻防一対の効果を持ち、装備魔法カードが入っている俺のデッキとは相性が良い。

「パワーツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから装備魔法カードを三枚選択し、一枚相手が選んで手札に加える! 俺が選ぶのは、《団結の力》・《魔導師の力》・《魔界の足枷》だ! パワー・サーチ!」

「……左だ!」

 影丸理事長が選んだ、左のカードを手札に加え、二枚のカードをディスクにセットする。

「俺は《魔導師の力》と、《ダブルツールD&C》をパワーツール・ドラゴンに装備する!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300→4300

 ダブルツールD&Cの自分のターンの効果により、攻撃力が1000ポイントアップし、魔導師の力は俺のフィールドにある二枚の装備魔法により攻撃力1000ポイントアップする効果となっている。
よって攻撃力は、5300。

「バトル! パワーツール・ドラゴンで、幻魔皇ラビエルに攻撃! クラフティ・ブレイク!」


「やらせん! リバースカード、オープン! 《和睦の使者》! 自分のモンスターは戦闘では破壊されず、戦闘ダメージを受けない!」

神炎皇ウリア
ATK4000→5000
DEF4000→5000

 パワーツール・ドラゴンの攻撃は、和睦の使者によって防がれてしまい、しかも神炎皇ウリアの攻撃力・守備力が上がってしまったが……まだ手はある!

「メインフェイズ2、俺は通常召喚に成功しているため、《ワンショット・ブースター》を特殊召喚!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 モンスターを通常召喚したターン、このカードは特殊召喚出来る効果を持つ。
そして、本命の破壊効果を叩き込む!

「ワンショット・ブースターの効果を発動! このターン、ワンショット・ブースターをリリースすることで、戦闘で破壊されなかった相手モンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

 幻魔皇ラビエルを目標にし、ワンショット・ブースターが二つのミサイルを放つ。
狙い違わず幻魔皇ラビエルに命中し、幻魔皇ラビエルを破壊した。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 これで俺の手札は一枚。
そろそろ攻めるにも限界か……!?

「俺のターン! ドロー!
通常魔法《壺の中の魔術書》を発動! お互いカードを三枚ドローする!」

 手札がたった一枚の俺にもありがたいカードを使ってくれるが、もちろん影丸理事長の手札も増強されるのだ。
喜べることじゃない。

「フフフ……こう何度も幻魔を破壊するとは、誉めてやるぞ遊矢」

 お褒めに預かり光栄だね。
言い返してやろうと思ったものの、ゼィゼィと息を吐く音に邪魔されて喋れなかった。

「だがそれもここまで! 通常魔法《デビルズ・サンクチュアリ》を発動し、《メタルデビルトークン》を守備表示で特殊召喚し、そのメタルデビルトークンをリリースすることで、《暗黒の召喚神》をアドバンス召喚!」

暗黒の召喚神
ATK0
DEF0

 銀のスライムをリリースし現れたのは、一つ目の化け物。
攻撃力・守備力ともに0だが……?

「暗黒の召喚神の効果を発動! このカードをリリースすることで、墓地の三幻魔を召喚条件を無視して特殊召喚する! 墓地から蘇れ、《幻魔皇ラビエル》!」

幻魔皇ラビエル
ATK4000
DEF4000

 再び三幻魔が影丸理事長に集う。
失楽園の時も思ったが、チートカードはサポートカードまでチートカードなのか……?

「ククク……まずは、神炎皇ウリアの効果を発動! 真ん中のセットカードを破壊する! トラップ・ディストラクション!」

「くっ……チェーンしてリバースカード、オープン! 《ホーリーライフ・バリア》!」

 神炎皇ウリアの炎がリバースカードを貫く前に、ホーリーライフ・バリアが発動し俺の周辺にバリアが発生する。

「手札を一枚捨て、このターン受ける全てのダメージを0にする!」

 難点は、このバリアは俺のことしか守らないこと。

フィールドにいるモンスターは、バリアの対象外なのだ。

「ならば、パワーツール・ドラゴンは破壊させてもらうぞ! 幻魔皇ラビエルで、パワーツール・ドラゴンに攻撃! 天界蹂躙拳!」

 幻魔皇ラビエルの爪がパワーツール・ドラゴンを引き裂こうとするが、パワーツール・ドラゴンは自らが持つカッターによりその攻撃を防いだ。

「何!?」

「パワーツール・ドラゴンの効果を発動! 自らに装備されている装備魔法カードを一枚墓地に送ることで、破壊を免れる! アーマード・イクイップ!」

 パワーツール・ドラゴンに装備されていた、《魔導師の力》を墓地に送ったことにより、攻撃力は下がるがパワーツール・ドラゴンは生き残った。
そして、残るダブルツールD&Cの効果が発動する。

「ダブルツールD&Cの効果を発動! このカードを装備したモンスターを攻撃した相手モンスターを破壊する!」

 幻魔皇ラビエルの爪を防ぎきったカッターを、パワーツール・ドラゴンが幻魔皇ラビエルに向けて発射。
その身体を貫通した。

「ぬぅ……! ならば、神炎皇ウリアでパワーツール・ドラゴンに攻撃! ハイパーブレイズ!」

「ダブルツールD&Cを墓地に送り、破壊を無効にする」

 これでダブルツールD&Cが破壊されたため、破壊効果は発動しない。
発動しても、神炎皇ウリアはすぐ復活するが。

「ここでリバースカードをオープン! 《不滅階級》! 二体のモンスターをリリースすることで、墓地からレベル7以上のモンスターを特殊召喚出来る! 二体の《幻魔トークン》をリリースし、蘇れ、《幻魔皇ラビエル》!」

幻魔皇ラビエル
ATK4000
DEF4000


「破壊された恨みを晴らせ、幻魔皇ラビエル! 天界蹂躙拳!」

 パワーツール・ドラゴンを守れるトラップも無く、また装備魔法カードも無い。
パワーツール・ドラゴンは、幻魔皇ラビエルの爪に引き裂かれてしまった。

「メインフェイズ2。
俺はカードを二枚伏せてターン……」

「ターンエンド宣言の前にリバースカード、オープン! 《奇跡の残照》! このターン、戦闘で破壊されたモンスターを墓地から特殊召喚する! 蘇れ、パワーツール・ドラゴン!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 光と共にパワーツール・ドラゴンが俺のフィールドに蘇り、俺にターンが移る。

「俺のターン、ドロー!」

 パワーツール・ドラゴンの効果、パワー・サーチで《魔界の足枷》か、最低でも《ミスト・ボディ》を引くことが出来れば、まだ逆転のチャンスはある。
逆に言うと、それを外すとチャンスは無いのだが……やるしかない。

「パワーツール・ドラゴンの効果を……」

「リバースカード、オープン! 《デモンズ・チェーン》! パワーツール・ドラゴンは攻撃することが出来ず、効果の発動も不可能となる! ククク……装備魔法は使わせん!」

 パワーツール・ドラゴンの効果が……封じられた。
手札のカードにも逆転のカードは……無かった。
そんな俺の絶望の表情を見切ったのか、影丸理事長の高笑いが響く。

「ハーハッハッハ! これで終わりか、遊矢! これで……これで貴様の精霊を操る力は得て、俺は永遠の命を手に入れるのだ!」

 永遠の命……影丸理事長が勝ったのだから、そういえばそうなるのだったか。

「……最後に、一つ聞かせてほしい。……俺の精霊って言うのは、何なんだ?」

 ずっと一緒に戦って来てくれたカードの精霊がいるならば、その名前ぐらいは知っておきたい。

「まあ、良いだろう。貴様の精霊は、『デッキのモンスター全て!』貴様は、精霊を操る力と共に、愛用したカードを精霊にする力を持っているのだ!」


 影丸理事長の予想の斜め上を行く言葉に、ついデッキのカードたちを見つめる。
……やはり俺には何の姿も、声も聞こえない。

「……そうだな」

 だが、カードの精霊たちが、まだここにいる。
ここで戦っている。
俺を守ってくれている。

 なのに、俺が先に諦めるなんてあって良いわけがないッ……!

「リバースカード、オープン! 《リミット・リバース》! 墓地から攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚する! 来い、《エフェクト・ヴェーラー》!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

「ぬ……何をする気だ!?」

「さあな……俺にも分からない」

 さて、奇しくも俺のフィールドに並ぶのは二体のラッキーカード。
パワーツール・ドラゴンは悪魔の鎖で縛られていて、エフェクト・ヴェーラーは戦闘用のカードではない。
だが、エフェクト・ヴェーラーは……チューナーである。

「レベル7のパワーツール・ドラゴンと、レベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング!」

 先に言っておくと、俺はレベル8のシンクロモンスターは《ロード・ウォリアー》しか持っていない。
《フルール・ド・シュヴァリエ》は明日香にあげてしまったし、そもそも二体とも専用のチューナーでなくてはシンクロ召喚出来ない。

 ――つまり、召喚するのは大徳寺先生から貰ったカードだ。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ!」

 悪魔の鎖に縛られたパワーツール・ドラゴンを、光の輪となったエフェクト・ヴェーラーが包み込む。
そして、パワーツール・ドラゴンの黄色の装甲が外れていき、俺のデュエルディスクにセットされたカードに名前が表示された。

「現れろ! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 パワーツール・ドラゴンが、悪魔の鎖に縛られた装甲を脱ぎ捨てて、真の姿を現した。
機械で造られていたそのデザインは、あたかも伝説の龍のようになり、俺の前に降り立った。

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

「……な、何なのだそのモンスターは!?」

「……大徳寺先生に、あんたを止めてほしいって言われて貰ったカードだよ」

「アムナエルが……!?」

 大徳寺先生の真意は俺には分からない。
だけど、大徳寺先生の最後の願いは必ず叶えるッ……!


「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を発動! シンクロ召喚に成功した時、俺のライフポイントを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

遊矢LP100→4000

 俺のライフポイントを一瞬で4000に回復させ、更に大空に羽ばたき天空にて光を撒き散らした。

その光に触れた瞬間、闇のデュエルの影響であった身体の倦怠感が消える。
……デュエル前に足が治ったのも、もしかしてこのカードのおかげだろうか。

……良し、やれる!

「通常魔法《死者転生》を発動! 手札を一枚捨て、墓地から手札に《スピード・ウォリアー》を加え、そのまま召喚する! 来い、スピード・ウォリアー!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「ライフ・ストリーム・ドラゴンに、装備魔法《Pain to Power》を装備し、バトル!」

「バトルだと!?」

 影丸理事長の驚きの声をバックに、最も信頼するマイフェイバリットカードに攻撃を命じる。


「スピード・ウォリアーで、幻魔皇ラビエルに攻撃! ソニック・エッジ!」

「ただの自滅か!? 迎撃しろ、天界蹂躙拳!」

 特に何の策があるわけでも無いので、スピード・ウォリアーの蹴りは及ばず幻魔皇ラビエルに破壊されてしまった。

遊矢LP4000→900

 だが、やはりスピード・ウォリアーこそがこのデュエルの幕を引くための、キーカードの一つであるこそは間違いない。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンに装備されている《Pain to Power》の効果を発動! このカードを装備したモンスターの攻撃力は、エンドフェイズ終了時まで、装備したモンスター以外の自分フィールド上に存在するモンスター1体が攻撃を行った時に発生した自分への戦闘ダメージの数値分アップする!……つまり、スピード・ウォリアーの戦闘によって発生した戦闘ダメージ分、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力はアップする! スピード・ウォリアーよ、ライフ・ストリーム・ドラゴンに力を!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900→6000

 Pain to Power《痛みを力に》。
そのカード名の通り、ライフ・ストリーム・ドラゴンはスピード・ウォリアーの痛みの分、攻撃力をアップさせた。

「行くぞ……ライフ・ストリーム・ドラゴンで、幻魔皇ラビエルに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 亮のサイバー・エンドのように、ライフ・ストリーム・ドラゴンが口から龍の光弾を、幻魔皇ラビエルに向け放つ。

超過ダメージは2000で、影丸理事長のライフは300だ。

「フハハハハ! 神は負けん! リバースカード、オープン! 《魔法の筒》!」

 突如として、影丸理事長を護るように魔法の筒が浮かび上がり、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃を吸い込んだ。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力6000のダメージを受け、貴様は終わりだ!」


「遊矢!」

 仲間たちの叫びと共に、魔法の筒からライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃が俺に跳ね返ってくる。
だが、その光弾は俺ではなく、ライフ・ストリーム・ドラゴンに当たった。
ライフ・ストリーム・ドラゴンが、俺に当たる前に光弾の前に飛び込んだのだ。

「な……何をしている!?」

 影丸理事長の驚きをよそに、ライフ・ストリーム・ドラゴンはその光弾を――吸収した。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果、ダメージ・シャッター! 俺のフィールドにいる限り、俺は効果ダメージを受けない! よって、魔法の筒の効果ダメージは通じない!」

「だが、攻撃は無効にした! 敗北を認めるエンド宣言をするがいい!」

「エンド宣言? ……誰が?」

 まだ俺のバトルフェイズは終了していない。
なぜなら、俺にはまだ手札が一枚……残っているからだ。

「速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》!
 俺のモンスターの攻撃が無効になった時、攻撃力を二倍にして再びバトルする!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK6000→12000

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが再び動きだし、先程の光弾を口に溜め込む。

「攻撃力……12000だとッ!?」

「今度こそ終わりだ、影丸理事長。……ライフ・ストリーム・ドラゴンで、幻魔皇ラビエルを攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 影丸理事長に手札はなく、またリバースカードも無い。
防ぐ手段は……ない。

「ぐおおおおおおっ!」

影丸LP300→0

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃が、幻魔皇ラビエルを……いや、三幻魔を飲み込み、消し飛ばした。
三幻魔に囚われていた、カードの精霊たちの魂が元に戻っていくのを見届け、万感の思いを込めて言い放った。

「よっしゃあああッ!
……楽しいデュエルだったぜ、影丸理事長」

 その影丸理事長は、三幻魔によって若返った姿はもう無く、老人の姿に戻っていた。
おそらく、あれが本当の影丸理事長の姿なのだろう。

「遊矢!」

 明日香が俺の下に駆け寄ってくれたのと同時に、ライフ・ストリーム・ドラゴンの姿は消え失せる。
だが、デュエルディスクにカードはあるため、ただソリッドビジョンが消えただけのようだ。

「大丈夫、遊矢!?」

「ああ、大丈夫……ッ!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが消えた時、身体に倦怠感と足のケガが戻った。

 ……良かった。
これで完全にケガが治っていたら、三幻魔で若返った影丸理事長と何も変わらない。
カードの不思議な力でみんな治るなんて、俺は認めないから影丸理事長を止めたんだ。

 ……それを、俺がやって良いわけがない。

「……悪い明日香。やっぱダメだ」

 そのまま重力に従って明日香に倒れ込み、心地よく意識を手放すことにした。

 
 

 
後書き
はい、VS三幻魔決着しました。

ライフ・ストリーム・ドラゴン……機械でも戦士でもありませんが、ついつい出してしまいました……
シューティング・スターみたいな扱いにしたいものですが、攻撃においてはパワーツール・ドラゴンの方が優秀だという、切り札にはなんとも向かないカードです。


遊矢の精霊……まさかの全員。
《宝玉獣》たちと考えてくれれば問題ない……かな?
まあ、現段階では遊矢は精霊と喋れないので意味がないのですが。

では、感想・アドバイス待っております。 

 

―卒業デュエル 決着―

 
前書き
風邪気味だ……のど痛い……

※前話が、暁のシステムトラブルにより消失しました。
バックアップも無くどうしようも無いので、現在修正中です。
 

 
現在の状況

遊矢
LP1500

フィールド
《ライトニング・ウォリアー》 攻撃表示
《死力のタッグ・チェンジ》 表側表示
リバースカード二枚


LP1400
フィールド
無し。


「俺のターン、ドロー」

 フィールドだけを見ると俺の方が有利なのだが、相手は亮。
それだけで、少しぐらいの有利では油断してはダメだという判断基準になる。

「俺は《貪欲な壺》を発動。墓地から《サイバー・ツイン・ドラゴン》《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》《サイバー・ドラゴン》二体の、計五枚のカードをデッキに戻し、二枚ドローする」

 貪欲な壺。
融合モンスター中心の亮には、簡単に墓地が肥えるので良いドローカードなのだろう。
そして、亮は二枚ドローし……笑った?

「俺のフィールドにモンスターはいない。《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚」

サイバー・ドラゴン
ATK2100
DEF1600

「更に、《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚」

プロト・サイバー・ドラゴン
ATK1100
DEF600

 亮のフィールドに揃う二体のサイバー・ドラゴン。
一体は、サイバー・ドラゴンという名になったプロト・サイバー・ドラゴンだが……なんとも嫌な予感がするのは俺だけだろうか。

「行くぞ、遊矢……俺は《融合》を発動! 手札の《サイバー・ドラゴン》二体と、フィールドの《プロト・サイバー・ドラゴン》を融合し、《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚する!」

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000
DEF2800

「ふ……ふざけんな!」

 亮の切り札である、サイバー・エンド・ドラゴンの登場に、ついつい声を荒げる。
先程の貪欲な壺で、《サイバー・ドラゴン》二体を戻したばかりなのだ。
一体は元々あったとしても、貪欲な壺の二枚ドローで、サイバー・ドラゴン二体を引いてきたというのか……!

「フッ……デッキも応えてくれている、ということか……バトル! サイバー・エンド・ドラゴンで、ライトニング・ウォリアーに攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 この攻撃を受ければ俺は負ける……!

「負けてたまるか! リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」

 ライトニング・ウォリアーは、残念ながらエターナル・エヴォリューション・バーストに吹き飛ばされてしまうが、ガード・ブロックが俺への戦闘ダメージを0にする。
加えて、ガード・ブロックの効果で一枚ドローする。

「まだ攻撃は残っている。サイバー・ドラゴンで、遊矢にダイレクトアタック! エヴォリューション・バースト!」

「二枚目のリバースカード、オープン! 《ダメージ・ダイエット》! 戦闘ダメージを半分にする……ツッ!」

遊矢LP1500→450

 戦闘ダメージを半分にしたおかげで、首の皮が一枚つながる。

「……攻めきれなかったか……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 やはり、一気にフィールドの状況が逆転する……油断していたつもりは無いのだが……
しかし、亮のデッキの弱点は手札消費が荒いこと。
切り札である、サイバーエンド・ドラゴンの登場の代わりに、俺の攻撃を防ぐリバースカードは無い。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を召喚!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200


「更に、通常召喚に成功したことにより、《ワンショット・ブースター》を特殊召喚する!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

「そのモンスター達は……!」

 俺のフィールドに現れた、要塞の機械戦士とミサイルを積んだ機械を見て、亮の顔が少し歪む。

「この組み合わせで、何が起きるかはわかるだろ? バトル! マッシブ・ウォリアーで、サイバーエンド・ドラゴンに攻撃!」

 攻撃力の差分は、ざっと3600。
当然適うはずも無いが、マッシブ・ウォリアーは一度の戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも受けない。


 そして、マッシブ・ウォリアーが攻撃したことにより、ワンショット・ブースターの効果が発動出来るようになる!

「メインフェイズ2、ワンショット・ブースターの効果を発動! ワンショット・ブースターは自身をリリースすることで、戦闘で破壊されなかった相手モンスターを破壊出来る! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

 ワンショット・ブースターから放たれた二つのミサイルが、サイバー・エンド・ドラゴンの首の連結部分に寸分違わず当たり、サイバー・エンド・ドラゴンの機能を停止させた。

「更にカードを一枚伏せ、ターンエンド!」


「俺のターン、ドロー
……通常魔法《天よりの宝札》! お互いに、手札が六枚になるようにドローする」
 噂に名高い最強のドローカードにより、俺と亮はお互いに手札が六枚になるようにドローする。

「装備魔法《再融合》を発動! 800ポイントのライフを払い、墓地のサイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚する!」


亮LP1400→600

 先程、マッシブ・ウォリアーとワンショット・ブースターにやられた筈のサイバー・エンド・ドラゴンが、亮のライフ800を犠牲に墓地から蘇ってくる。

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000
DEF2800

「バトル! サイバー・ドラゴンで、マッシブ・ウォリアーに攻撃! エヴォリューション・バースト!」

「だが、マッシブ・ウォリアーは戦闘ダメージを無効にし、一度だけ戦闘では破壊されない!」

 サイバー・ドラゴンから放たれた光弾に、持ち前の効果でマッシブ・ウォリアーは耐える。
だが、まだ亮のフィールドにはモンスターがいる。

「分かっている……続けて、サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 一つの光弾に耐えているところに、更に強力な三つの光弾がマッシブ・ウォリアーを襲い、盾が防ぎきれず破壊された。

「……だが、マッシブ・ウォリアーの効果によって、俺は戦闘ダメージを受けない」


 マッシブ・ウォリアーは、エターナル・エヴォリューション・バーストを俺まで貫通させずに破壊された。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 戦闘ダメージを二回も防いでくれたマッシブ・ウォリアーに感謝しつつ、先程とほぼ同じ状況である亮のフィールドに目を向ける。
《再融合》を装備した、亮の切り札《サイバー・エンド・ドラゴン》に、主力モンスターである《サイバー・ドラゴン》とリバースカード一枚。
こちらはリバースカード二枚のみ。


「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨て、二枚ドロー!」

 とりあえず対処法は、ドローしてから考える。
さあて、毎度お馴染み……はなし。
墓地発動のカードを捨てたわけじゃない。

「リバースカード、オープン! 《リミット・リバース》! 攻撃力1000以下の、《ガンドレッド・ウォリアー》を特殊召喚!」

ガンドレッド・ウォリアー
ATK500
DEF1600

 先程、手札断殺によって墓地に送ったガンドレッド・ウォリアーを特殊召喚する。

「更に、《ハイパー・シンクロン》を召喚!」

ハイパー・シンクロン
ATK1600
DEF800

 蒼色のボディのシンクロン。
チューナーと非チューナーが揃い、シンクロ召喚の準備が完了する。

「レベル3のガンドレッド・ウォリアーに、レベル4のハイパー・シンクロンをチューニング!」

ハイパー・シンクロンが胸部のパーツを開け、四つの光体がガンドレッド・ウォリアーを包む。


「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ! 《セブン・ソード・ウォリアー》!」

セブンソード・ウォリアー
ATK2300
DEF1800

七つの剣を持つ、金色の鎧の機械戦士が現れる。
更に八つめを装備することで、更なる力を発揮する。

「セブンソード・ウォリアーに《神剣―フェニックスブレード》を装備する」

セブンソード・ウォリアー
ATK2300→2600

「そして、セブンソード・ウォリアーの効果を発動! 装備魔法を装備した時、相手ライフに800ポイントのダメージを与える!」


 亮のライフは残り600。
セブンソード・ウォリアーが持つ剣を投げ、亮に当たれば俺の勝ちだ。

「イクイップ・ショット!」

「リバースカード、オープン! 《ダメージ・ポラリライザー》! ダメージを無効にし、お互いに一枚ドローする!」

 ……終わらなかったか。 
亮の偏光ガラスが、セブンソード・ウォリアーの投げた剣を防いでどこかに吹き飛ばした。

「くっ、防がれたか……だが、セブンソード・ウォリアーの第二の効果を発動! このカードに装備されている装備魔法カードを墓地に送ることで、相手モンスターを破壊する! 俺は神剣―フェニックスブレードを墓地に送り、サイバー・エンド・ドラゴンを破壊する! ソードブレイカー!」


 先程と同じように、神剣―フェニックスブレードをサイバー・エンド・ドラゴンに投げる。
今度の剣は妨害されず、神剣―フェニックスブレードは確実にサイバー・エンド・ドラゴンを仕留めた。

「くっ……! サイバー・エンド・ドラゴンが……!」

 再融合が破壊されたわけでは無いため、サイバー・エンド・ドラゴンは破壊され墓地に送られる。

 そして、残りはサイバー・ドラゴン一体。
ここで、墓地の神剣―フェニックスブレードの効果を使うかどうか。
墓地の戦士族二体を除外することで、神剣―フェニックスブレードは手札に戻るが、墓地アドバンテージを失う上に、セブンソード・ウォリアーの攻撃力が上がったとしても亮にはトドメはさせない。
ならば、次のターンの効果ダメージを与えるのにとっておく。

「バトル! セブンソード・ウォリアーで、サイバー・ドラゴンに攻撃! セブンソード・スラッシュ!」

 七つの剣閃が煌めき、サイバー・ドラゴンを切り裂いた。

「ぐうっ……!」

亮LP600→400


 ライフポイントがたった50の差に詰まり、伯仲としたデュエルである事を証明する。
逆転し、逆転の連続だった。

「決めるつもりだったけどな……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー」

 もういい加減、ハイパワーのモンスターを倒すのに疲れたんだが、どう来る?

「……フッ。通常魔法《オーバーロード・フュージョン》を発動! 墓地の機械族、七体を除外し……《キメラテック・オーバー・ドラゴン》を融合召喚する!」

キメラテック・オーバー・ドラゴン
ATK?→5600
DEF?→5600

 七つの頭を持つ機械龍――サイバー・エンド・ドラゴンが表の切り札ならば、このキメラテック・オーバー・ドラゴンは裏の切り札――!

「行くぞ、キメラテック・オーバー・ドラゴンで……」

「そいつを待ってた! 手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動! 相手モンスターの効果を無効にする!」

 キメラテック・オーバー・ドラゴンの身を、俺の手札から現れたラッキーカードが包む。
いくら攻撃力が5600であっただろうと、効果を無効にされては力を失った。

「キメラテック・オーバー・ドラゴン……そいつの登場を待ってた」

 亮との初めてのデュエル。
エフェクト・ヴェーラーによって効果を無効にし、スピード・ウォリアーによって勝負を決めた。

 ――だが待て。
あの亮が、同じミスを二度もするか?

「フッ……やはりな……速攻魔法《トラップ・ブースター》を発動! 手札を一枚捨て、手札からトラップカードを発動することが出来る! 俺が発動するのは――《異次元からの帰還》!」

「何ッ!?」

 まさかオーバーロード・フュージョンは、キメラテック・オーバー・ドラゴンよりこっちが目的だったのかッ……!?

「ライフを半分払い、《サイバー・ドラゴン》を三体、《サイバー・ヴァリー》を一体特殊召喚する!」

亮LP400→200

サイバー・ヴァリー
ATK0
DEF0

サイバー・ドラゴン×3
ATK2100
DEF1600

「サイバー・ヴァリーの効果発動。このカードと、キメラテック・オーバー・ドラゴンを除外することで、カードを二枚ドローする」

 サイバー・ヴァリーとキメラテック・オーバー・ドラゴンが時空の渦に消え、エフェクト・ヴェーラーを使って出た隙も消えた。


「そして通常魔法《融合》! サイバー・ドラゴン三体を融合し、《サイバー・エンド・ドラゴン》を再び融合召喚する!」

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000
DEF2800

「……マジかよ」

 何度破壊しても蘇ってくるサイバー・エンド・ドラゴンに、若干辟易としながらも、倒すべきモンスターを見据える。

「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンで、セブンソード・ウォリアーを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

「忘れられてるトラップカード、《死力のタッグ・チェンジ》を発動! 表側表示のモンスターが破壊される時、手札から戦士族モンスターを召喚することで、戦闘ダメージを0にする! 来い、《レスキュー・ウォリアー》!」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 セブンソード・ウォリアーは破壊されたものの、レスキュー・ウォリアーが俺への衝撃の余波を防ぐ。

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 紙一重でサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃を避け、カードをドローする。


「俺は《マジック・プランター》を発動! フィールドの《死力のタッグ・チェンジ》を墓地に送り、二枚ドローする!」

 手札にサイバー・エンド・ドラゴンを破壊出来るカードは無い。
死力のタッグ・チェンジを捨ててでも、二枚ドローする。

「……よし。《セカンド・ブースター》を通常召喚!」

セカンド・ブースター
ATK1000
DEF500

 ひさびさに出て来た強化パーツが、レスキュー・ウォリアーの背後を飛ぶ。

「墓地の《ADチェンジャー》の効果を発動! サイバー・エンド・ドラゴンの表示形式を変更し、バトル!」

 手札断殺の時に墓地に送ったADチェンジャーにより、サイバー・エンド・ドラゴンは防御体勢をとる。

「更に、セカンド・ブースターの効果を発動! このカードをリリースすることで、レスキュー・ウォリアーの攻撃力を1500ポイントアップする!」


レスキュー・ウォリアー
ATK1600→3100

 セカンド・ブースターが、レスキュー・ウォリアーの背中にピタリと付き、まさしくブースターとなってレスキュー・ウォリアーをサポートする。
そして、レスキュー・ウォリアーがサイバー・エンド・ドラゴンにそのホースを突き刺し、直接内部に攻撃してサイバー・エンド・ドラゴンを破壊した。
しかし、守備表示である為にダメージは通らない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ……!」

「俺のターン、ドロー
……《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 ここに来て強欲な壺……!
相変わらずの亮に舌を巻き、どうかこれ以上、サイバー・エンド・ドラゴンが現れないでくれと願う。
……だが、それとは裏腹に、俺は、サイバー・エンド・ドラゴンがまた現れると思っていた。
……そうでなくっちゃ、面白くない……!

「俺は、《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動! ライフを半分払うことで、機械族融合モンスターを融合する時、墓地のモンスターを融合素材に出来る!」

亮LP200→100

 やはり現れる。
亮のライフはわずか100ポイントになったが、最強のサイバー・エンド・ドラゴン――!

「《パワー・ボンド》を発動! 墓地のサイバー・ドラゴンを三体融合し……《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚!」

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000→8000
DEF2800

 最後まで俺に立ちふさがる、サイバー・エンド・ドラゴン。
しかも、丸藤兄弟の思い出の魔法カード《パワー・ボンド》によって、攻撃力は倍の8000。

「バトル! サイバー・エンド・ドラゴンで、レスキュー・ウォリアーに攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 今までで一番強い光弾が俺に迫るが、レスキュー・ウォリアーも負けじと応戦した。
残念ながら負けてしまうが……レスキュー・ウォリアーが放った水は、俺の周りを覆う障壁となり、俺のライフを守る。

「レスキュー・ウォリアーは、自分への戦闘ダメージを0にする!」

「メインフェイズ2、《サイバー・ジラフ》を召喚し、リリース」

サイバー・ジラフ
ATK300
DEF800

 デュエル・アカデミアのカイザーとまで呼ばれた男が、レスキュー・ウォリアーの効果を知らない筈がない。
戦闘ダメージを受けないことも想定済みなのだろう、さほど表情を変えずに次の行動へ移った。


「カードを一枚伏せ、ターンエンド……サイバー・ジラフの効果により、俺はパワー・ボンドの効果を受けない」

 かくして、亮のターンが終了する。
マッシブ・ウォリアーとレスキュー・ウォリアーが破壊された今、俺のデッキに貫通効果を持つサイバー・エンド・ドラゴンを止められるモンスターはおらず、そもそも攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンを倒せるモンスターはいない……

「俺のターン……」

 それでも、決意を胸にカードを引く。

「ドローォォォッ!」

 引くときの気合いで、カードが決定するわけではない。
だが、どうか来てくれという願いと共に来たカードは――

「俺は通常魔法《アームズ・ホール》を発動! デッキからカードを一枚墓地に送り、デッキ・墓地から装備魔法カードを手札に加える! 俺が選ぶのは、《魔界の足枷》!」

 デッキからカードを一枚墓地に送り、デュエルディスクから一枚のカードが飛び出した。

「魔界の足枷……装備モンスターの攻撃力・守備力を、強制的に100にするカード……確かにそれなら、サイバー・エンド・ドラゴンと言えども破壊されるだろう。だが、遊矢。デメリット効果を忘れるお前ではあるまい」

 そう、万能な装備魔法サーチカードではあるが、『このターン通常召喚出来ない』という重いデメリット効果がある。

「確かに、俺の手札にモンスターはあっても特殊召喚出来るカードは無い」

 俺の一言に、会場にどよめきが走る。
つまり、何をする気なのかと。

「だが、デッキの皆は俺に応えてくれた! 墓地に送られた、《リミッター・ブレイク》の効果を発動!」

「リミッター・ブレイク……だと!?」

 アームズ・ホールの二つのデメリット効果の一つ、『デッキの上から一枚、カードを墓地に送る』
……その時墓地に送られたのが、この《リミッター・ブレイク》

「これが、デッキの皆が応えてくれた証だ! リミッター・ブレイクが墓地に送られたことにより、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400


 デッキから現れたスピード・ウォリアーが、正面から亮のサイバー・エンド・ドラゴンと応対する。
たとえ、ステータスが雲泥の差でも関係はない。

「装備魔法《魔界の足枷》を、サイバー・エンド・ドラゴンに装備する!」

 その効果は、先程亮が言った通り。
装備モンスターの攻撃力・守備力を、100ポイントに固定する。
……それが、サイバー・エンド・ドラゴンであろうと例外ではない……!

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK8000→100
DEF2800→100


「バトル! スピード・ウォリアーで、サイバー・エンド・ドラゴンに攻撃! ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーが、即座にサイバー・エンド・ドラゴンに接近し、強烈な回し蹴りを放つ。
これで俺の……

「リバースカード、オープン! 《収縮》!」

「なんだとッ!?

 言わずとしれた、優秀なコンバットトリックである速攻魔法《収縮》
対象モンスターの攻撃力を半分にするという、シンプルかつ強い効果……!

「収縮の対象は……俺のフィールドの、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 ……ッ!
《収縮》の効果を正確に言うと、対象となったモンスターの攻撃力は、元々の攻撃力の半分の数値になるということだ。
つまり、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は……

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK100→2000

亮の収縮の魔法効果は、サイバー・エンド・ドラゴンにつけられた魔界の足枷に降り注ぎ、サイバー・エンド・ドラゴンは再び眼に光を取り戻した。

「迎撃しろ、サイバー・エンド・ドラゴン! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 普段の威力には到底及ばないものの、俺とスピード・ウォリアーを仕留めるには充分な光弾が発射され、スピード・ウォリアーを飲み込んだ。

 だが、まだ俺にもリバースカードは残っている……!

「リバースカード、オープン! 《シンクロ・ライブラリー》!」

 つい一ターン前に伏せたばかりの、リバースカードが発動する。

「シンクロ・ライブラリーの効果! 自分の墓地に存在するシンクロモンスターを全てゲームから除外し、戦闘するモンスターの攻撃力は、ダメージステップの間、除外したカードの枚数×300ポイントアップする! 俺の墓地にいるシンクロモンスターは……!」

 墓地から、白色の背景で描かれたカードが、何枚か飛びだしてくる。

「一枚目! 《スカー・ウォリアー》!
二枚目! 《パワーツール・ドラゴン》!
三枚目! 《ライトニング・ウォリアー》!
四枚目! 《セブンソード・ウォリアー》!
よって、スピード・ウォリアーの攻撃力は1200ポイントアップする!」

スピード・ウォリアー
ATK900→2100


 破壊されたシンクロモンスターたちの力を受け継ぎ、スピード・ウォリアーはエターナル・エヴォリューション・バーストをかき消した。
スピード・ウォリアーとサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力の差分は100……そして、亮のライフは、残り100ポイントだ。

「スピード・ウォリアー! シンクロ・ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーが俺のかけ声に応え、サイバー・エンド・ドラゴンに渾身の蹴りを喰らわせる。
サイバー・エンド・ドラゴンは爆発し……その爆発は、そのまま亮を襲った。

「ぐわあああッ!」

亮LP100→0

 双方のデュエルディスクが、亮のライフが0になったことを示す。
何秒間だったか……双方、そして観客席共に無言だったものの、いつしか歓声が上がっていた。
その歓声に負けじと声を張り上げ、勝利宣言を行う。

「よっしゃあああッ!
……楽しいデュエルだったぜ、亮!」

「……ああ。俺もだ」

 ライフが0になった時に倒れた亮が起き上がり、こちらに握手を求めてくる。
当然、応じない理由が無く、握手しつつも笑い合う。

「だが、今度は俺が、リスペクトしながら勝たせてもらう」

「また俺が、楽しんで勝たせてもらうぜ!」

 こうして拍手と共に、卒業デュエルは決着を迎えた。


 その後、亮はプロリーグへ入り、今日もオベリスク・ブルーの制服を模した服を着た、『カイザー亮』としてデュエルをしている。
彼曰く、まだリスペクトしながら勝つ、真のリスペクトデュエルにはたどり着けていないらしいが……まあそれは、亮にしか分からないことだろう。

 俺や三沢、明日香は二年生へと進級すべく、進級テストの真っ最中だ。
学園対抗戦、セブンスターズ、三幻魔……この一年間のデュエルを思い返しつつ、俺は三沢と明日香と三人で、実技試験の会場へ向かうのだった。

―一年生、了― 
 

 
後書き
 はい、一年生編が終了致しました!
これも全て、こんな駄作を読んでくださっている読者様のおかげでございます。

 これからは、アニメでも十代以外がスポットライトを浴びることの多くなる、光の結社編……アニメもうろ覚えだし、正直書けるか不安でいっぱいですが……まあ、頑張っていこうと思います。

ありがとうございました!


※ここからは、感想で要望があった、遊矢のデッキ【機械戦士】の基本形となります。
基本がこのカードで、様々なカードを入れたり抜いたり、と言ったところでしょうか。
見たくない、という方はここまでで。



【機械戦士】
デッキレシピ(仮)

モンスター合計 22枚

スピード・ウォリアー×3
マックス・ウォリアー
ガントレット・ウォリアー
マッシブ・ウォリアー
ドドドウォリアー
ターレット・ウォリアー
シールド・ウォリアー
レスキュー・ウォリアー
ワンショット・ブースター
速攻のかかし
チューニング・サポーター×3
ターボ・シンクロン
アンノウン・シンクロン
ニトロ・シンクロン
ドリル・シンクロン
ロード・シンクロン
ハイパー・シンクロン
エフェクト・ヴェーラー


魔法カード合計11枚

サイクロン
団結の力
デーモンの斧
ファイティング・スピリッツ
魔界の足枷
進化する人類
ダブルツールD&C
手札断殺
機械複製術
地獄の暴走召喚
ダブル・アップ・チャンス

罠カード 合計7枚

ガード・ブロック
くず鉄のかかし
奇跡の残照
リミッター・ブレイク×2
リミット・リバース
強制終了

エクストラデッキ 合計13枚

アームズ・エイド
スカー・ウォリアー
グラヴィティ・ウォリアー
マイティ・ウォリアー
ターボ・ウォリアー
ドリル・ウォリアー
ニトロ・ウォリアー
セブンソード・ウォリアー
ライトニング・ウォリアー
パワーツール・ドラゴン
ロード・ウォリアー
ライフ・ストリーム・ドラゴン
サイバー・ブレイダー

 ……うーん、こんな感じでよろしいのでしょうか?
微妙に違う感がヒシヒシと伝わってきます。

 ……それにしても……何だ、この紙束は……
自分がTFで作ったデッキを元にしたのですが、主力カードがこれほど紙とは……
興味があったら、是非本家遊星とでもデュエルしてみてください。
勝つと、「よっしゃあああッ!」と言いたくなる気分になれま、す……?

では、感想・アドバイス待っています。 

 

―海馬ランドにて―

 
前書き
二年生編へのインターバル回。 

 
 さて、学期間の間にある休みにも家に帰らずにデュエル・アカデミアで暮らしていた俺は、無事に進級試験自体は終わったのだが、実はまだ二年生を名乗れない。

 その理由は単純明解。
まだ一年生が来ていないからにほかなら無い。
まだ長期休みであるのだから、当然と言えば当然なのだが……

 そこで俺が今いるのが、毎年デュエル・アカデミアの新入生候補の実技試験が行われる、海馬ランドだった。
しかし、俺たちのような高等部からの配属組の試験ではなく、万丈目や明日香が受けたであろう、デュエル・アカデミア中等部に入るための実技試験だ。

 ……そういえば聞いたところによると、明日香や万丈目たちの中等部組は、自分たちの同級生がどんなものかと、俺や三沢の実技試験を見物に来ていたらしい。
明日香と一緒に、どんなデュエリストが来るか、興味を持った亮も来ていたようだ。

 そこで、成績トップとして難なく試験を突破した三沢、最弱のテーマデッキたる【機械戦士】を駆り(ちなみに、シンクロモンスターが出た今でも、評価はあまり変わっていない)試験官を倒した俺、遅刻した後クロノス教諭に逆転勝ちした十代が、デュエル・アカデミアで噂になっていたらしいのだが……噂には疎いせいか、イマイチ良く知らなかった。

 ……少し話がズレてしまったが、俺は前回亮がいたらしい立ち見席で、せっかくの休みを享受せず、こんなところにいる同級生・先輩と共に試験を眺めていた。
座り席は、今回のデュエル・アカデミアの百人以上の受験生と先生方が並んでいるため、数少ない見物客の席はなかった。

 まあ、どの道そんな長居をする気は無いから良いのだけれど。
約一名のデュエルを見れば、それで帰るつもりだったのだが……その約一名のデュエルが、実技試験最後のデュエルだとは思ってなかったのだ。

 しかし、フィールドを見ると、二人の人物が立っていた。
どうやら、その俺の訪ね人のデュエルが始まるようだ。

「ではこれより、飛び級用の特別試験を開始する。緊張せず、いつも通りのデュエルをするように」

「はい!」

 飛び級用の特別試験は、通例として最後に回されると後で聞いた。
そして、そもそも、その難易度から、デュエル・アカデミアに飛び級してくる者が数年ぶりらしいということも……頑張れよ、レイ。

「これより特別番号、早乙女レイの実技試験を開始する!」

 先生とレイ、両者のデュエルディスクがセットし終わる。
先生の方は、デュエルコートと呼ばれる、クロノス教諭がつけているようなデュエルディスクで、それをつけているため、充分な実力者であるということが分かる。

『デュエル!』

先生LP4000

レイLP4000

「先攻は、受験者から行う」

「は、はい! ボクのターン、ドロー!」

 若干緊張した面もちで、レイがカードを引く。

「ボクは、《フォトン・サークラー》を守備表示で召喚!」

フォトン・サークラー
ATK1000
DEF1000


 光を放つ魔導師が、守備の態勢をとる。

「更に装備魔法《ミスト・ボディ》を、フォトン・サークラーに装備! カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」

 先攻一ターン目、まずは守りを固めるレイに対し、先生はどうするか……?

「カードを三枚伏せ、ターンエンド」

「え? ボ、ボクのターン! ドロー!」

 思ってもみなかった光景だ。
先生は、カードを三枚伏せただけでターンエンドの宣言をした。
手札事故か、それとも……

「来て、私の恋のキューピット! 《恋する乙女》を召喚!」

恋する乙女
ATK400
DEF300

 レイのフェイバリットカードである、恋する乙女の登場に会場は驚きの後に失笑に包まれた。
微妙な戦闘破壊耐性、使いにくいコントロール奪取、低ステータス……明らかに使いにくいことから、やはり弱カードとして扱われているからだ。
去年の自分はこんな感じだったのか……
だが、去年の自分もプレッシャーに負けなかったように、レイも負けじと声を張り上げる。

「恋する乙女の力、見せてあげるんだから! フォトン・サークラーを攻撃表示にしてバトル!」


「やらせん! バトルフェイズに入る前に、リバースカードを二枚オープン! 《アポピスの化神》!」

アポピスの化神×2
ATK1600
DEF1800

 剣と盾を持った人型の蛇……メインフェイズのみにしか現れない、トラップモンスターが現れた。
あの先生のデッキは……なんだ?

「く……攻撃を中止して、ターンエンドだよ!」

「私のターン、ドロー!」

 レイのフィールドのモンスターは、恋する乙女にフォトン・サークラー……二体とも、ステータスは頼りない。

「このままバトルフェイズに入る! アポピスの化神二体で、恋する乙女に攻撃!」

 特別試験を担当するほどの先生が、恋する乙女の効果を覚えていない筈が無い。
乙女カウンターのことより、ダメージを優先したのであろう。

「ボクはリバースカード、オープン! 《ダメージ・ダイエット》! 受けるダメージを、半分にする!」

 レイの発動したカードは攻撃を止めるカードではなく、恋する乙女は、そのまま二体のアポピスの化神に斬りつけられた。

「きゃっ……!」

レイLP4000→2800

 レイと恋する乙女を、ダメージ・ダイエットによる薄いバリアが守り、ダメージを半分にした。
そして、恋する乙女の効果が発動する。

「恋する乙女は表側攻撃表示の時、戦闘では破壊されず、攻撃してきたモンスターに乙女カウンターを乗せるよ!」

 いくらトラップモンスターであろうと、モンスターはモンスター。
アポピスの化神二体に、乙女カウンターがのる。


「……ターンエンドだ」

「ボクのターン、ドロー!」

 依然として、先生のデッキは謎のまま……だが、レイの性格なら、ここは攻めにいくだろう。

「ボクは、フォトン・サークラーに《キューピット・キス》を、恋する乙女には《進化する人類》を装備するよ!」

恋する乙女
ATK400→2400

 恋する乙女には進化するエネルギーが、フォトン・サークラーにはキューピットが持つような弓矢が装備された。
レイのデッキも、俺と似たように装備魔法が多い。

「バトル! フォトン・サークラーで、アポピスの化神に攻撃!」

 光を放つ魔導師が持つ弓矢で攻撃するものの、あっさりと盾で弾かれて剣による反撃を食らう。
だがこれこそが、レイのデッキの初手。

レイLP2800→2500

「くっ……だけど、フォトン・サークラーの効果で戦闘ダメージは半分、装備されてるミスト・ボディで戦闘破壊はされない! そして、同じく装備されてるキューピット・キスの効果を発動! 乙女カウンターがのっているモンスターに戦闘ダメージを受けた場合、そのモンスターのコントロールを得る!」

 レイのテクニカルなデッキが回り始め、もう一度放たれたキューピッドの矢を受けたアポピスの化神のコントロールが、レイのフィールドに移る。
何度見ても、えげつない……

「そして、恋する乙女でアポピスの化神に攻撃! 乙女は、恋することで進化する! 秘めたる想い!」

 進化するエネルギーによって、攻撃力2400となった恋する乙女が、アポピスの化神に向かって体当たりをする。

「リバースカード、オープン! 《宮廷のしきたり》! 私のフィールドにある永続トラップは破壊されない!」

 永続トラップを破壊されないようにするトラップカード、宮廷のしきたり……そうか、トラップモンスターは永続トラップ扱いにもなる……!

「このトラップにより、私のアポピスの化神は戦闘破壊耐性を得る!」

「だけど、戦闘ダメージは受けてもらうよ!」

先生LP4000→3200

「メインフェイズ2にして、魔法カード《マジック・プランター》を発動! アポピスの化神を墓地に送って、二枚ドロー!」

 おそらくは《ディフェンス・メイデン》などの為に入っているのだろう、マジック・プランターで、先生のカードを墓地に送りつつ二枚ドローする。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」


 先生のデッキはなんとなくわかって来たものの、まだまだ未確定だ。
どんな手を打ってくるのか……?

「私は《ハリケーン》を発動! フィールドにある魔法・罠カードを全て手札に戻す!」

「チェーンしてトラップ発動! 《進入禁止!No Entry!!》! フィールドのモンスターを、全て守備表示にするよ!」

 竜巻がカードを吹き飛ばす前に、フォトン・サークラーと恋する乙女が守備表示となる。
先生の放ったハリケーンにも疑問が残るが、レイの進入禁止!No Entry!!にもわからない点がある。
これはもはや、デュエルをしている二人にしか分からない駆け引きなのだろう。

「恋する乙女には少し驚かされたが、このカードが来た時点で君の敗北だ! 永続魔法発動、《王家の神殿》!」

 先生の背後に、どこかエジプトを連想させる、黄金の神殿が現れる。

たかが中等部の試験に、なんて永続魔法使いやがるッ……!

「この永続魔法がある限り、私はトラップをセットしたターンに使うことが出来る! 現れろ、二体の《アポピスの化神》よ!」

アポピスの化神×2
ATK1600
DEF1800

 再び現れる蛇人間。
先程、ハリケーンで手札に加えた分に加え、まだ手札に一枚あったらしい。

「更にて永続トラップ《宮廷のしきたり》を発動し、通常魔法《手札抹殺》! 君のデッキのキーである装備魔法を、全て墓地に送ってもらう!」

 ハリケーンはそのためでもあったらしい。
これは俺の予想にすぎないが、先生のデッキは《宮廷のしきたり》とトラップモンスターの性質を利用した、【トラップモンスター】とも呼べば良いのであろうデッキ。
不死のトラップモンスターで攻めたて、劣る速効性は《王家の神殿》でカバーする……こんなデッキ、絶対に今までデュエルした覚えがない。

「バトル! 二体のアポピスの化神で、恋する乙女と、フォトン・サークラーに攻撃!」

 恋する乙女の戦闘破壊耐性は、表側攻撃表示の時のみにしか無く、フォトン・サークラーのミスト・ボディは既に墓地。
レイのフィールドはがら空きとなったが、レイの進入禁止!No Entry!!の発動のおかげで、戦闘ダメージは受けずにすむ。

「ターンエンドだ」

「くう……ボクのターン、ドロー!」

 悪い形勢を前にして、祈るようにカードを引く。

「ボクは《シャインエンジェル》を、守備表示で召喚!」

シャインエンジェル
ATK1400
DEF800

 レイの祈りが通じたのか、リクルーターである天使が現れる。
これなら、まだ耐えられる筈だ。

「カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」

 デュエルコートからカードを手札に加え、そのまま発動する。

「セットしてすぐトラップ発動! 《毒蛇の供物》! 爬虫類族であるアポピスの化神をトリガーに、相手のシャインエンジェルと、リバースカードを一枚破壊する!」

 鳥獣族の《ゴットバードアタック》と同じく、手軽に2:2交換が出来るカードだ。
だが、先生のアポピスの化神は、宮廷のしきたりによって不死の能力を得ている……よって、破壊されるのはレイのカードのみだ。

 アポピスの化神により、レイのシャインエンジェルと、伏せてあった《光神化》が破壊される。

「そして、アポピスの化神でダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《リビングデッドの呼び声》! 墓地からシャインエンジェルを特殊召喚!」

シャインエンジェル
ATK1400
DEF800

「そのままバトル! アポピスの化神で、シャインエンジェルに攻撃!」

レイLP2500→2300

 リビングデッドの呼び声で特殊召喚されるも、シャインエンジェルは即座に戦闘破壊される。
だが、シャインエンジェルは戦闘破壊されるのが仕事だ。

「シャインエンジェルが戦闘破壊されたことにより、シャインエンジェルを特殊召喚!」

「リクルーターでつなぐ気か……! アポピスの化神で、二体目のシャインエンジェルに攻撃!」

レイLP2300→2100

「きゃっ! だけど、更にシャインエンジェルを特殊召喚!」

「私はターンエンドだ」

 リビングデッドの呼び声と、シャインエンジェルのおかげで首の皮一枚つながったものの、劣勢には変わりがない。
恋する乙女を出したとしても、パーツは、新たに引き当てない限りは手札抹殺で墓地に行った……

「ボクのターン、ドロー!」

 レイも力強くカードを引くが、気合いで逆転のカードを引けたら苦労はしない。

「ボクはシャインエンジェルを守備表示にして、《コーリング・ノヴァ》を守備表示にしてターンエンド……」

コーリング・ノヴァ
ATK1400
DEF800

 新たに現れたのも、シャインエンジェルと同じくリクルーター。
シャインエンジェルに比べてリクルート出来る対象は少ないが、シャインエンジェルと相互にリクルート出来る。
これだけでも、デッキの圧縮と壁になることが出来る。

「私のターン、ドロー!」

 デュエルコートからカードをドローした先生が、引いたカードを見てニヤリと笑う。

「このカードの前では、リクルーターなど無駄なこととなることを教えてあげよう! アポピスの化神をリリースし、《聖獣セルケト》をアドバンス召喚!」

聖獣セルケト
ATK2500
DEF2000

 王家の神殿を守る天使……天使には見えないが……が現れる。
レベル6でありながら攻撃力は2500、更に破壊したモンスターを除外し、500ポイント攻撃力を上げる極悪モンスター……!

「聖なる神殿の守護神、これが聖獣セルケトだ! 更に、手札から《カース・オブ・スタチュー》を発動して召喚!」

カース・オブ・スタチュー
ATK1800
DEF1000

 新たなトラップモンスター、神殿を守る石像である、カース・オブ・スタチューが動きだす。

「行くぞ、バトルだ! 聖獣セルケトで、コーリング・ノヴァを攻撃!」

 聖獣セルケトがその鋏でコーリング・ノヴァを捕まえ、頭から食い始める。
……正直、見たくないぐらい気持ちが悪い。

聖獣セルケト
ATK2500→3000

「うう……ごめん、コーリング・ノヴァ……」

 守備表示であるため、もちろんレイにダメージは無い。
だが、精神的にダメージは与えていた。
……あの試験官、後でぶん殴ってやろうか……!

「まだまだ! アポピスの化神で、シャインエンジェルを攻撃!」

「シャインエンジェルの効果で、デッキから光属性モンスターを特殊召喚する! ……力を貸して、ボクの新しい仲間! 《スパイク・エッグ》!」

スパイク・エッグ
ATK800
DEF0

 スパイク・エッグ……!?
初めて見るレイのカードと、コーリング・ノヴァかマシュマロンかと思っていたための驚愕で、試験官の先生への恨みを忘れてデュエルに見入る。

 外見はただの卵であり、攻撃力も僅かに800。
どんな効果だ……?

「ぬっ……カース・オブ・スタチューで、スパイク・エッグに攻撃!」

「きゃああっ!」

レイLP2100→1000

 またも予想に反し何も起きず、スパイク・エッグは戦闘破壊され、戦闘破壊された後も何も起きない。

「どうやら、そのスパイク・エッグというモンスターは、ただのこけおどしだったようだな……だが、まだ私のターンは終わっていない!」

 先生もスパイク・エッグのことを知らなかったらしい。
そして、先生の叫びに呼応し、王家の神殿に聖獣セルケトが移動する。

「王家の神殿の効果! このカードと聖獣セルケトをリリースすることで、エクストラデッキからモンスターを一体特殊召喚出来る! 現れろ、《A・O・J ディサイシブ・アームズ》!」

A・O・J ディサイシブ・アームズ
ATK3300
DEF3300

 A・O・J ディサイシブ・アームズ……!
この前のパックで出た、光属性メタとシンクロがメインのシリーズカード《A・O・J》の最強モンスター。
そして、レイのデッキのメインモンスターは光属性……これで次のターン、壁モンスターで耐えきることも難しくなった。

「カードを一枚伏せ、私はターンエンド!」

 先生のフィールドには、大型モンスターであるA・O・J ディサイシブ・アームズに、不死のトラップモンスター、カース・オブ・スタチューにアポピスの化神。
対するレイのフィールドは、何もない。

「先生のエンドフェイズ時、墓地に送られたスパイク・エッグの効果を発動! 破壊されたターンのエンドフェイズ時、デッキから《ミスティック》と名の付くカードを手札に加えるよ!」

 デッキからカードを一枚加えるが、正直、空元気にしか見えないレイを見るのが辛い……
くそ、頑張れよ、レイ……!

「……こんなところで負けちゃいられない……! デュエル・アカデミアに合格して、一秒でも早く遊矢様たちに追いつくんだから! ボクのターン、ドロー!」

 俺に追いつく。
そんなことの為に、レイは必死になって頑張っている。
兄貴分として、先に諦めてどうする……俺。

「来た! あと、言ってなかったや……」

 ドローしたカードを手札に加えて、レイは宣言する。

「楽しんで勝たせてもらうよ! ボクは《ハリケーン》を発動!」

 宮廷のしきたりが関与するのは、あくまで破壊のみ。
手札に戻すハリケーンには無力だ。

「そして、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を召喚!」

ミスティック・ベビー・ドラゴン
ATK1200
DEF800

 またも俺の知らない、メルヘンチックにデフォルメされた小竜が現れる。

「そんな小型モンスターでは、私のA・O・J ディサイシブ・アームズには適わないぞ!」

「恋する乙女に、適わないものなんて無い! 通常魔法《ミスティック・レボリューション》を発動! ミスティック・ベビー・ドラゴンを墓地に送り、来て! 恋する乙女を守る竜! 《ミスティック・ドラゴン》!」

ミスティック・ドラゴン
ATK3600
DEF2000

 ミスティック・ベビー・ドラゴンがリリースされて現れたのは、メルヘンチックなところは変わらないものの、比べると圧倒的に巨大な緑色の竜……攻撃力は、A・O・J ディサイシブ・アームズを超えている!

「ミスティック・ドラゴンで、A・O・J ディサイシブ・アームズに攻撃! ミスティック・ブレス!」

 ミスティック・ドラゴンが放ったブレス攻撃に、巨大な機械が陥落する。

「ぬあっ!」

先生LP3200→2900

「やった! これでボクは、ターンエンド!」

「くっ……私のターン、ドロー!」

 ミスティック・ドラゴンの召喚により、レイが優位にたったものの、まだまだ先生のライフ・手札には余裕がある。

「私は通常魔法《強欲で謙虚な壺》を発動! もちろん手札に加えるのは《王家の神殿》。そして、そのまま発動!」

 先程、聖獣セルケトと共に墓地に送られた黄金の神殿が復活する。
これで、再び先生はトラップカードを手札から使える……!

「私は、先程手札に戻された《強制脱出装置》を発動! ミスティック・ドラゴンを手札に戻す!」

 強制脱出装置!
まずい、ここでミスティック・ドラゴンがいなくなれば、レイのフィールドはがら空きだ。
……が、俺の心配は杞憂に終わった。

 ミスティック・ドラゴンが放ったブレスが、先生の強制脱出装置を無効にしたのだ。

「トラップは、恋する乙女の専売特許! ミスティック・ドラゴンがフィールドにいる時、トラップの発動と効果を無効に出来る!」

「なん、だと……!?」

 相手のトラップを、実質無効にする強力な効果。
そして先生のデッキには、これ以上無いほど刺さるカードだった。

「……ターン、エンドだ……!」

「私のターン、ドロー!」

 もはや先生のフィールドに、レイのミスティック・ドラゴンを止める術はない。

「行っけぇ、ミスティック・ドラゴン! 先生にダイレクトアタック! ミスティック・ブレス!」

「ぐあああっ!」

先生LP2900→0

「やったあああっ!」

 レイの歓声を聞き届け、俺は静かに会場を出て行く。
……実はレイは、俺に飛び級の受験日だということを言っていない。
後で驚かせるつもりだったのであろうが……妹分の行動が読めないようでは、兄貴分失格だ。


 さて、もうすぐ新学期……どんなことが起きるか期待しつつ、俺はデュエル・アカデミアへと帰っていった。 
 

 
後書き
 さて、今回のデュエルは…何だったのでしょう?

 レイのデッキは、原作アニメで一度しか使わなかった、遊戯王の小説ではわりかし珍しい《ミスティック・ドラゴン》を採用させていただきました!
某本気制限のようなデッキにするのは嫌ですし、かといって、恋する乙女でデュエルが出来るほど、自分のデュエルタクティクスは良くありませんし。
効果は、未OCG化wikiに載っていた効果になっています。

光属性・消費カード二枚でデッキから特殊召喚・攻撃力3600・トラップ無効化……強すぎますね、はい。

 そして、先生のデッキ…なんでしょうね、アレは。
リシドのデッキをOCG化した感じでしょうか、強いて言えば。
中等部の特別試験を担当するようなエリート先生が、こんなデッキを使うか? と思いましたが、使ってみたいという誘惑に屈しました。
レイのミスティック・ドラゴンと相性が悪かっただけで、意外と遊矢とは良い勝負が出来そうな気はします。

では、感想・アドバイス待ってます。 

 

―二年生、開始―

 
前書き
ずいぶん遅れてしまいました、すいません。 

 
 結局、この前の中等部入学試験では、どうやら試験中に既に見つかっていたようで、去ろうとしたところでレイに捕縛された。

 そのまま家にお持ち帰りされたり、デュエル・アカデミアに帰った時は明日香に問いつめられたりしたが……まあいいか。

 ところで、デュエルアカデミアの新学期が始まり、数時間がたった。

 昨年度の開始する時の挨拶では、鮫島校長が演説じゃないかと錯覚するような長い挨拶をしてきたので、若干身構えていたのだが……その鮫島校長は不在だった。
なんでも、私用があるのだとか……このデュエル・アカデミアの校長として、私用で学園を開けて良いのだろうか……とは考えたものの、別にどうでも良かったので、すぐ考えるのを止めた。

 不在の鮫島校長の代わりに、校長としてこの学園にいるのは、なんとクロノス教諭。
なんと、とは言ったものの、クロノス教諭の他に適任者はいないだろう。
『校長代理』と書いてある胸のプレートに、マジックペンで『代理』の文字を消しているのがクロノス教諭らしい。

 そして、その補佐にいるのが初見で絶対に忘れない見た目である、ナポレオン教頭。
クロノス教諭……いや、クロノス校長代理も大概だと思ったが、上には上がいたということだろうか。
一年間の学園生活では見なかったので、他のデュエル・アカデミアにでも出向していたのかもしれない。

 今回は早く挨拶が終わりそうだ……と思っていた時期が俺にもありました。
挨拶が二人ぶんになったぶん長く、その上、元々の話の長さも鮫島校長以上。

 新学期始めの始業式から、新入生や在校生の気力を根こそぎ奪ったのであった……


「……はあ」

 始業式も終わり、新入生歓迎会の為にオベリスク・ブルーの寮に戻る途中、ついついため息を漏らした。

「あれは、確かに長かったな」

 横で共に歩く三沢も、苦笑混じりの声だ。

「それにしても、新入生歓迎会なんてやったな……」

 その時は、俺も三沢もラー・イエローだったが。
しかし、オベリスク・ブルーの新入生となると、中等部からのエリート組。
みんな万丈目のような奴らなのかと思うと、若干嫌になってくる。
付き合ってみれば、悪い奴らでは無いのだが……

「まあ、頑張ってくれ。俺はナポレオン教頭とクロノス教諭……おっと、クロノス校長代理に呼ばれてるからな」

 何の用があるのかは知らないが、三沢はクロノス校長代理とナポレオン教頭に、校長室に来るように呼ばれていた。
今年の二年生の首席として、何か用事でもあるのだろうか。

「ああ。じゃ、後で何があったか聞かせてくれよな」

 三沢に手を振って別れ、オベリスク・ブルーの寮に向かわず、どこかで時間でもつぶしたいなあ……などと考えていると。

「黒崎先輩」

 ……背後から、声がかかった。
反射的に振り向くと、そこには見たことのない、日本人離れした男子生徒が立っていた。

 そもそもデュエル・アカデミアの服ではなく、スーツのような白い服に、同じく白色に近い髪。
先輩と呼んだことと、その服装から相手は一年生だと当たりをつける。

「……誰だ、お前?」

「おっと、申し遅れました。僕は今年、ラー・イエローに入学した、エドと言います」

 日本人離れした外見を裏切らない、《エド》と名乗った男子生徒が小さく微笑みながら、挨拶をしてくる。
新入生でラー・イエローということは、そこそこ~上位ぐらいの実力の持ち主ということだろう。

「で、そのエドが俺に何の用だ?」

「ええ……少し、僕とデュエルをしてほしくて」

 そう言いながら、デュエルディスクを一つ俺に放り投げ、自身の腕にも一つとり付ける。
そして、胸ポケットから一つのデッキを取りだした。

「僕もファンデッキ使いでしてね。デュエル・アカデミア最強のファンデッキ使いと名高い、黒崎先輩に少し、御教授願いたいんですよ」

 そんな呼び名がついていること自体始めて聞いたが、意外と名誉ありそうな名前で良かった。
ファンデッキの御教授、ね……

「遊矢で良い。俺は名前の方が好きなんだ。……それと、デュエルの件」

 先程投げられたデュエルディスクを腕に装着し、更に【機械戦士】デッキをデュエルディスクに装着する。

「別に、断る理由は見つからない」

「そうですか! それはありがとうございます」

 礼儀正しく一礼した後、エドは少し離れてデュエルの態勢をとる。
俺も合わせて少し距離をとり、デュエルの準備が完了する。
オベリスク・ブルー寮へ向かう途中の道だが、辺りに人は見られない。
みんな、新入生歓迎会の準備をしているのだろうか。

 まあ、そんなことはより、今は目の前のデュエルに集中すべきだ。

「「デュエル!!」」

遊矢LP4000

エドLP4000

 俺のデュエルディスクに、『後攻』と表示される。
……別に、「先攻は譲る」的なことを言った覚えは無いのだが……

「僕の先攻、ドロー!」

 さて、ファンデッキと言っていたが……どんなデッキだ?

「僕は、永続魔法《未来融合―フューチャー・フュージョン》を発動。エクストラデッキにある、《アクア・ドラゴン》を指定することで、融合素材である《フェアリー・ドラゴン》、《海原の女戦士》、《ゾーン・イーター》を墓地に送ります」

 正直、数回転けそうになった。
まず最初に転けそうになったのは、未来融合―フューチャー・フュージョン。
言わずもがな亮が愛用しているカードであり、結構な値を張るレアカードだ。……まあ、サイバー流の方は普通に貰えたそうだが。

 そして、アクア・ドラゴン。
デュエルモンスターズ最初期のモンスターで、あの青眼の究極竜と同じく三体融合モンスターであるものの、効果はなく、攻撃力・融合素材も貧弱……という、最初期に良く見られる融合モンスターだ。

「更に僕は、《共鳴虫》を守備表示で召喚」

共鳴虫
ATK1200
DEF1300

 次に現れたのは、昆虫族のリクルーター。
もはや、ファンデッキがどうとかではなく、デッキ構成が分からない。
好きなカードでデッキを組んだのだろうか?

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! ドロー!」

 相手が何であれ、俺は楽しんで勝たせてもらうだけ。
そんなわけで、まずは頼むぜアタッカー!

「俺は、《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 相変わらず、機械戦士たちのアタッカーを務めてくれる三つ叉の機械戦士が、エドの昆虫に狙いをつける。

「バトル! マックス・ウォリアーで、共鳴虫に攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 出来れば効果破壊したかったが、そんなに上手くはいかなかった。
易々とマックス・ウォリアーは共鳴虫を貫いたが、それこそが共鳴虫の仕事。

「共鳴虫の効果! このカードが戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター……《プチモス》を特殊召喚!」

プチモス
ATK300
DEF200

 プチモス……だと……!?
共鳴虫からリクルートされて現れたのは、ある有名なモンスター召喚の為に使う、これまた貧弱なモンスター、プチモス。

 このプチモスによって、更に目の前の後輩、エドがファンデッキ使いであるということが分かったが……何か、おかしい。

「……ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 わざわざプチモスを出してきたのだ。
手札には、もちろんあのカードがある筈。

「手札から、《進化の繭》をプチモスに装備させます」

プチモス
ATK300→0
DEF200→2000

 ただの幼虫だったプチモスが繭に包まれ、さなぎとなってフィールドに根を張った。
このまま放置すれば、虫の進化の手順をたどり、いずれ成虫となってフィールドにでる……が、進化に使う時間が必要以上に遅い。
更に、そのステータスも攻撃力が上がるマックス・ウォリアーに戦闘破壊される程度だ。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 ならば当然、あの三枚のリバースカードは進化の繭を守るカードではあるだろう。
だが、攻めなければ何も解決しない。

「手札のこのカードは、攻撃力を1800にすることで妥協召喚が出来る! 来い、《ドドドウォリアー》!」

ドドドウォリアー
ATK2300→1800
DEF900

「更に、ドドドウォリアーに《ファイティング・スピリッツ》を装備させ、攻撃力を600ポイントアップさせる!」

ドドドウォリアー
ATK1800→2400

 妥協召喚された斧を持つ機械戦士に、ファイティング・スピリッツが流れ込む。
相手モンスターの数×300ポイントアップしたため、ドドドウォリアーも進化の繭の攻撃力を超える。

「バトル! マックス・ウォリアーで、進化の繭に……」

 その時、デュエルに似つかわしくない、軽快なメロディーがフィールドに流れた。
そう、あたかも携帯電話からの音のような……

「あ、ちょっとすいません。電話かかって来ました」

 エドがデュエルを中断し、携帯電話を取りだして電話し始めたからか、マックス・ウォリアーが空気を読んで止まる。
……凄いな、お前。
これも精霊の力というやつだろうか、などと考えていると、電話を終えたエドがこちらに少し頭を下げている。

「すいません、急ぎの用だったもので……」

「……気を取り直していくぞ。マックス・ウォリアーで、進化の繭に攻撃!」

 三つ叉の槍がを持った機械戦士が、進化の繭に向かう。
マックス・ウォリアーは、戦闘時に攻撃力が400ポイントアップするため、進化の繭は倒せる……!

「バトルの前に、伏せてあった速攻魔法を二枚発動! 《時の飛躍―ターン・ジャンプ》! 発動したターンのターンプレイヤーのターンで数えて3ターン後のバトルフェイズとなる! よって、六ターン後の遊矢先輩のバトルフェイズとなる!」

 エドのリバースカードから出て来た二個の時計が、急激に回転を始める。
そして、フィールドは未来に飛んだが、変わったことと言えば、進化の繭が巨大になっていることと、エドのフィールドに、水色のドラゴンが現れていることだった。

「《時の飛躍―ターン・ジャンプ》によりカウントが進んだ、《未来融合―フューチャー・フュージョン》の効果により、エクストラデッキから《アクア・ドラゴン》を融合召喚!」

アクア・ドラゴン
ATK2250
DEF1900

 進化の繭に、未来融合―フューチャー・フュージョン……二つのカウントが、ターン・ジャンプによって進んだ。
次のターンを迎えれば、まずいことになる……!

「再びマックス・ウォリアーで、進化の繭を攻撃! スイフト・ラッシュ!」

「最後のリバースカード、《和睦の使者》を発動。僕のモンスターは、戦闘では破壊されません」

 やはりと言うべきか、リバースカードは進化の繭を守るカードだった。
だが、手札に《シールドクラッシュ》のようなカードがあるわけでもない……

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 さて、手札にあのカードは……あるだろうな。
無かったら、あのタイミングでターン・ジャンプを使う意味がない。

「進化の繭を装備してから、自分のターンで数えて6ターンが経過した《プチモス》をリリースすることで、現れろ! 《究極完全態・グレート・モス》!」

究極完全態・グレート・モス
ATK3500
DEF3000

 進化の繭を突き破り、立派な成虫の姿をした、デュエルモンスターズ史上五本の指に入るであろう召喚条件の難しさを持つモンスターが、いとも簡単に現れた。
正直、始めて見た……!

「バトル! 究極完全態・グレート・モスで、ドドドウォリアーを攻撃! モス・パーフェクト・ストーム!」

 ドドドウォリアーの攻撃力は2400……1100のダメージを俺を襲った。

遊矢LP4000→2900

「ぐうっ……! だが、装備していたファイティング・スピリッツの効果を発動! このカードを墓地に送ることで、装備モンスターの破壊を免れる!」

 ドドドウォリアーから、目に見えてファイティング・スピリッツが消えて攻撃力が下がったものの、破壊はされずに究極完全態・グレート・モスの攻撃を耐えた。

「だが、まだモンスターはいる! アクア・ドラゴンで、ドドドウォリアーに攻撃! アクア・ブレス!」

 水流のブレス攻撃が、究極完全態・グレート・モスの攻撃を耐えきったドドドウォリアーに、息を付く暇もなく追撃をかけた。
ドドドウォリアーは斧で防ぐものの、そのまま流されてしまった。

遊矢LP2900→2450

「これで僕はターンエンドです」

「俺のターン、ドロー!」

 こいつ、変な奴かと思っていたが……強い。
デッキ構成はバラバラだが、カード一枚一枚を上手く使ってくる、と言った感じだろうか。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK500
DEF1600

「更に、マックス・ウォリアーを守備表示にしてターンエンド」

 反撃と行きたいところだが、残念ながら手札にパーツが足りない。
ガントレット・ウォリアーとマックス・ウォリアーを守備表示にし、耐えしのぐしかない。

「僕のターン、ドロー!」

 究極完全態・グレート・モスの存在から、圧倒的に優位に立っているエドが、カードをドローした後、こちらに向かって不敵に笑いかける。


「どうしたんですか、遊矢先輩? ……シンクロ召喚とか、使って見せてくださいよ」

 わざわざ俺にデュエルを申し込んで来たのは、どうやらシンクロ召喚が見たかったかららしい。
残念だが、シンクロ召喚はいつでも出来るぐらい、便利すぎるわけじゃない。

「……まあいいか。通常魔法《浮上》を発動し、墓地から水族モンスターである《ゾーン・イーター》を特殊召喚」

ゾーン・イーター
ATK250
DEF200

「更にゾーン・イーターをリリースし、《ジョーズマン》をアトバンス召喚!」

ジョーズマン
ATK2600
DEF1600

 浮上してきた小さい魚のような謎の生物がリリースされ、そこから口がたくさんある鮫人間……とでも言えば良いのだろうか、モンスターが現れる。
水属性モンスターをリリースしなければアトバンス召喚が出来ないが、その攻撃力は、上級モンスターの基準値を超えている。
しかも、更に上がるのだ。

「ジョーズマンの効果! 僕のフィールドに水属性モンスター、アクア・ドラゴンがいるため、攻撃力が300ポイントアップする!」

ジョーズマン
ATK2600→2900

「バトル! アクア・ドラゴンで、ガントレット・ウォリアーに攻撃! アクア・ブレス!」

 再び流れ出す水流が、ガントレット・ウォリアーを飲み込んだ。
ドドドウォリアーと同じように、ガントレット・ウォリアーも流されていった。

「ジョーズマンで、マックス・ウォリアーに攻撃! シャーク・ストリーム!」

 続いて、ジョーズマンによりマックス・ウォリアーも破壊され、俺のフィールドはがら空きとなる。

「フィニッシュだ! 究極完全態・グレート・モスで、遊矢先輩にダイレクトアタック! モス・パーフェクト・ストーム!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」

 一ターン目から伏せられていたリバースカードがようやく日の目を見て、俺への戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする。

「くっ、ガード・ブロックだったか……だけど、次のターンで終わりですよ、遊矢先輩。ターンエンドです」

「俺のターン、ドロー!
……なあお前、そのデッキ好きじゃないだろう」

 先程から俺に違和感を与え続けていることを、気になったので面とむかって言ってみる。
何でだか分からないが、そういう感じがひしひしと伝わって来るのだ。

「何言ってるんですか遊矢先輩。せいぜいジョーズマン以外、好きじゃなきゃ使いませんよ」

「……じゃあ何で、お前は楽しそうじゃないんだ」

 ファンデッキとは、使い手が『好きなカードを使って楽しんで勝つ』ために、試行錯誤しながら作り上げるデッキ。
デッキを作り上げることに成功した時には、大なり小なり、達成感や喜びがあってしかるべきだろう。

なのにお前は、これっぽっちも楽しそうじゃない……

 自分勝手と言われるだろうが、使ってて楽しくないデッキなど、ファンデッキとは認められない。
いや、認めたくない……!

「だからそんなデッキに、俺は負けない! 力を貸してくれ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「通常召喚に成功したため、更に《ワンショット・ブースター》を召喚!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 マイフェイバリットカードたるスピード・ウォリアーと、お馴染みの機械、ワンショット・ブースターがフィールドに揃う。

「ふふふ……そんな二体のモンスターで、どうやって究極完全態・グレート・モスを倒すって言うんですか?」

「悪いが、俺のスピード・ウォリアーに不可能はない! 通常魔法《ミニマム・ガッツ》を発動! 自分のモンスター一体をリリースすることで、相手モンスター一体の攻撃力を、エンドフェイズ時まで0にする! 俺はワンショット・ブースターをリリースすることで、究極完全態・グレート・モスの攻撃力を0にする!」

 ワンショット・ブースターが、究極完全態・グレート・モスの羽根にミサイルを放ち、究極完全態・グレート・モスの身動きをとれなくした。

究極完全態・グレート・モス
ATK3500→0

「なにっ!?」


「バトル! スピード・ウォリアーで、究極完全態・グレート・モスに攻撃! ソニック・エッジ!」

 地上から動けなくなった究極完全態・グレート・モスに対して回し蹴りを放ち、空中へ吹き飛ばす。

エドLP4000→3100

まだまだ、終わりじゃない。
いや、間違えたな。

――これで、終わりだ。

「ミニマム・ガッツの第二の効果! 攻撃力を0にされたモンスターが破壊された時、そのモンスターの、元々の攻撃力分のダメージを与える!」

 空中へ吹き飛ばした究極完全態・グレート・モスを追うように、スピード・ウォリアー自身も空中へ飛んだ。
そして、空中を漂う究極完全態・グレート・モスをキャッチし、ぐるぐると回って遠心力をつけながら――究極完全態・グレート・モスを、エドに投げつけた。

「うわあああっ!」

エドLP3100→0

 ワンショットキルを達成し、デュエルディスクによって映し出されていた、ソリッドビジョンの映像が消えた瞬間。

「よっしゃあああッ!」

 俺が勝利した時のお決まりのセリフを言ってる間に、倒れていたエドが立ち上がる。

「参りました……やっぱり、お強いんですね」

「……その演技、似合ってないぜ」

 不覚にも、その顔を思いだしたのはデュエル中だった。

 俺とて、プロリーグの特集雑誌ぐらいは読む。
友人である亮がプロリーグに行ってからは、むしろ愛読者だと言っていい。

 そして、俺の前にいるのは、少し前に雑誌で特集されていた最小年プロデュエリスト――

「――エド・フェニックス」

「……何だ、知ってたのか。噂には疎いと聞いていたから、知らないと思ったんだが」

 化けの皮が剥がれた、という言い方が相応しい豹変ぶりである。
似合わない演技とは言ったのは自分だが、これほどまでに性格が違うとは。

「で、何がしたかったんだ?」

「答える必要はない。……いや、あえて斎王みたいに言うならば、『運命に従えば、いずれは分かることだ』……かな」

 まったく要領を得ない答えが返ってくる。
だが、目の前のこいつが、俺に目的を話す気がないことだけは分かった。
こいつから借りたデュエルディスクを腕から外し、投げ返す。

「運命なんて、俺は信じてないな」

「たとえお前が信じていようがいまいが、またいずれ会う運命なんだとさ……まったく、迷惑にも程がある」

 そう最後に言い残すと、エドは歩いて去って行った。
船で来ているのだろう、恐らくは港の方向だ。

「……エド・フェニックス、か……」

 エドが見えなくなった後、俺は無意識に呟いていた…… 
 

 
後書き
今回のエドのデッキは、本当にただのネタデッキ。
原作アニメでは、適当にブースターを買っていましたが、グレート・モスを使わせたいという理由から、ああなりました。
しかし、《ラーバモス》よ、活躍させて上げられずすまない……

これからは、あの子安のせいで、デュエルだけやってればそれで良いわけじゃないのかも知れないと思う今日この頃。

それと、そろそろ学校のテストが始まるので、更新が遅れます。

では、感想・アドバイス待っています。 

 

―エリートからの挑戦状―

 プロデュエリストである、エド・フェニックスの突然の来訪からしばらくたった。
依然として、あいつが何を考えて俺とデュエルをしに来たかは分からないままだったが、そんなことをずっと気にしてはいられない。

 エド・フェニックスのことはひとまず忘れ、俺はいつもの学園生活に戻ることにした。

 ……と、言ってもだ。
俺たちの周辺の人物には、今回の進級テストで寮が変わったものは少なかった為に、二年生になってもあまり変化はなかった。
変化があったとすれば、プロデュエリストとなった亮を始めとする三年生がいなくなったことと、新しくアカデミアに入った後輩ぐらいなものだ。

 だが、後輩と言われてもレイぐらいしか親しい者はおらず、また、そのレイも中等部の為に高等部である俺たちと絡むことは少ないので、俺は二年生になっても特に変化はなかった。

 だが、今回のデュエルはその後輩が引き起こしたことだった……


 デュエル・アカデミア特製デュエルフィールド・オベリスク・ブルー用。
……簡単に言うと、いつものデュエル場である。

 そこで、二人の学生がデュエルを始めようとしていた。
一人は、親友でありライバルであるオベリスク・ブルーのトップ――三沢大地。
そして、それに対抗するは、今年の入ってきた一年のオベリスク・ブルートップ……つまりは、中等部でトップだったという、五階堂宝山。
中等部トップということは、去年の万丈目と同じぐらいの強さなのだろう。

 そもそも、何故こんなことになったかと言うと。
このデュエル・アカデミアには、デュエルを申請する専用の申請用紙があり、それが相手に受託されれば待ち合わせてデュエルが出来る、というシステムがある。
余談だが、一年生の時に十代も、亮とデュエルする為に使おうとしたそうだ。
……クロノス教諭に破られたそうだが。
 まあいい。
それを五階堂が三沢に申請し、
「今年の中等部トップの実力に興味がある」
という三沢が、喜んで受託した。
そして、そのことを知ったナポレオン教頭が、トップ同士のデュエル、どうせならこのデュエル場でやって欲しいということで、今に至る。

 そんな訳で、今回のデュエルに関係はない俺は、観客席で眺めようとしているのであった。

「隣良い?」

「ああ」

 了承の返事を聞くとほぼ同時に、明日香が俺の隣の席に座った。

「そういえば、噂で聞いたんだけど。遊矢はナポレオン教頭のアイドルの件について……知らないわよね」

「アイドル? ……いやまあ、確かに知らんけど……」

 確かに俺は噂には疎いが、そこまで知らないこと前提なのはどうなんだ?
しかし、そんなことより気になることが出来た。

「なんなんだ、アイドルって?」

 俺の問いに、明日香は「ええと」と思い出すような仕草をした後、答えてくれた。

「なんでもナポレオン教頭が、デュエル・アカデミアの生徒の中から選りすぐりの生徒を亮みたいなタレントやアイドルみたいな扱いにして、デュエル・アカデミアの入学生を増やすんだとか聞いたわ」

 ……なるほど。
ナポレオン教頭の言いたいことは分かったし、効果があることも分かった。
しかし、ただデュエルしているだけだと言い、自分がタレントのような扱いを受けているとは知らない、意外と天然の亮のような卒業生はともかく、在校生にそれをさせるのはどうなんだろうな。
主に成績とか。

「ってことは、もしかしたらこのデュエルもそうかもな」

 中等部トップの五階堂と、現在トップの三沢。
どっちか勝った方がタレント……ってか。

「……フフ」

「どうしたの?」

 突然少し笑いだした俺に、当然明日香は疑問の声を投げかけてくる。

「いやなに、三沢がタレントって似合わないなって思ってさ……」

「フフ、確かにね……」

 そして、デュエル場で小さくくしゃみをした三沢と、五階堂のデュエルが始まろうとしていた。

『デュエル!!』

三沢LP4000
五階堂LP4000

「俺の先攻から。ドロー!」

 こういう時は、先攻を後輩に譲るべきだろうが、三沢のデュエルディスクは無慈悲にも三沢に先攻をとらせた。

「俺は《牛頭鬼》を召喚!」

牛頭鬼
ATK1700
DEF800

 三沢の【妖怪】デッキの中核を担う妖怪の一種、牛頭鬼。その効果もさることながら、全体的に打点不足な三沢のデッキを攻撃力で支えてくれる良いカードだ。

「牛頭鬼の効果を発動。一ターンに一度、デッキからアンデット族モンスターを一枚墓地に送ることが出来る! そして、カードを一枚伏せてターン終了だ」

「俺のターン! ドロー!」

 さて、期待のトップはどんなデッキなのか……って、なんだかあいつ、三沢を凄い勢いで睨んでいる……?

「三沢大地……遂にこの時が来た! 万丈目先輩に代わってお前を倒してやる!」

 ドローしたカードを手札に加えた矢先に、五階堂はいきなり叫びだした。
……万丈目がどうしたって?

「何のことだ?」

「とぼけるな! お前が、俺が中等部から憧れていた万丈目先輩を落ちこぼれのオシリス・レッドごときに蹴落としたんだろう!」

 五階堂のその言葉を聞くと、俺は耳が痛くなった。
なにせ、一年生の時の昇格デュエルで万丈目ともう一名をオシリス・レッドに蹴落としたのは、自分なのだから。

「それに飽きたらず、万丈目先輩をこのアカデミアから追いだしたのもお前だろう、三沢大地!」

 そのまま、三沢への五階堂の糾弾は続いた。
……正直、証拠も何もない言いがかりだったが、あいつも高田と同じく俺の迂闊な一言の犠牲者であり、それで三沢が狙われたと思うと……

「大丈夫よ。あんなのただの逆恨みじゃない……遊矢も三沢くんも、悪くないわ」

「……ありがとう、明日香」

 事情を知る明日香の一言に俺は少し救われながら、三沢と五階堂のデュエルを見学することを続けた。

「どうだ、三沢大地……このデュエル、負けた方がオシリス・レッドに落ちるっていうのは!」

 流石は万丈目の後輩……と言えば良いのだろうか。
言動が去年の万丈目にそっくりである。

 五階堂の言動に対し、反論も肯定もしなかった三沢が、遂に口を開く。

「良いだろう。万丈目をオシリス・レッドに落としたのは確かに俺だからな。だが、負けたらオシリス・レッドに落ちる条件は、俺の方だけで良い」

「フン、良い度胸だな! なら行くぞ! 俺は《切り込み隊長》を召喚!」

切り込み隊長
ATK1200
DEF400

 デュエルが続行され、五階堂は戦士族の代名詞たるモンスターを繰り出した。

「更に切り込み隊長の効果により、2枚目の《切り込み隊長》を特殊召喚し、2枚目の切り込み隊長に《融合武器ムラサメブレード》を装備する!」

切り込み隊長
ATK1200→2000
DEF400

 デュエルモンスターズにおいて、ポピュラーなロックである『切り込みロック』を作り上げながら、融合武器ムラサメブレードで低い攻撃力を補った。
このことから五階堂のデッキは、【戦士族】寄りの【装備ビート】であることが推測される。

「バトルだ! ムラサメブレードを装備した切り込み隊長で、牛頭鬼に攻撃!」

 腕をムラサメブレードと融合させた切り込み隊長が、牛頭鬼の持っていた木槌ごとその身体を切り裂いた。

「これくらいのダメージは必要経費だ……」

三沢LP4000→3700

「続けて、切り込み隊長でダイレクトアタ――」

「リバースカード、《もののけの巣くう祠》を発動! 墓地から現れよ、《カラス天狗》!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

 もののけの巣くう祠。
三沢の多用するカードの一つで、自分フィールドにモンスターがいない時、墓地のアンデット族を完全蘇生出来るという、リビングデッドの相互互換カード。
更に、牛頭鬼によって墓地に送られていたのであろうカラス天狗は、墓地から蘇生した時こそ本領だ。

「カラス天狗の効果を発動! 墓地から蘇生された時、相手モンスターを一体破壊出来る! ムラサメブレードを装備した切り込み隊長を破壊せよ、悪霊退治!」

 カラス天狗が手に持つうちわのようなもので、切り込み隊長を吹き飛ばした。
……何度となく言ってきたが、悪霊はお前だ。

「くっ……切り込み隊長の攻撃を中止し、カードをセットしてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 切り込み隊長が一体になったことにより、切り込みロックは消滅した。
ここは攻め込みたいところだが……いかんせん、三沢のデッキは初速が遅い。

「俺は《馬頭鬼》を召喚!」

馬頭鬼
ATK1700
DEF800

 そんな俺の心配も杞憂に終わり、牛頭鬼の相方たる妖怪が現れる。

「バトル! カラス天狗で、切り込み隊長に攻撃!」

「通すか! リバースカード、オープン! 《攻撃の無力化》!」

 名は体を表しまくりなカードにより、カラス天狗の攻撃は時空の渦に吸い込まれていった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 三沢は、こうなることを読んでいたかのように、特に驚きもせずに次の行動へ移る。
これで三沢のフィールドには、カラス天狗、馬頭鬼、セットカードが一枚。

「俺のターン! ドロー!」

 対する五階堂のフィールドは、単独では意味をなさない切り込み隊長のみ。
明らかにボード・アドバンテージで劣っており、苦しい展開だった。

「まずは魔法カード《テイク・オーバー5》を発動! デッキの上からカードを五枚墓地に送るぜ!」

 デッキの上から五枚墓地に送るという、素晴らしい効果を持つカード。
《蛆虫の巣窟》のほぼ完全上位互換であるカード……何であんなもの持ってやがる。

「俺は切り込み隊長をリリースし、《無敗将軍 フリード》をアドバンス召喚!」

無敗将軍 フリード
ATK2300
DEF1700

 隊長から将軍にランクアップしたな、と、俺は若干冷めた目で見た。
確かに優秀なモンスターではあるが、装備ビートにはアンチシナジーだろう。

「この無敗将軍 フリードには、対象をとる魔法カードは通用しないんだぜ!」

 俺の冷めた目線を知るはずも無く、五階堂は堂々と無敵将軍 フリードのアンチシナジーっぷりを高説する。
まあ、効果自体は優秀であるし構築は人それぞれなので、投入すること自体に文句は無いのだが……

「行くぜ! 無敗将軍 フリードで、馬頭鬼に攻撃!」

 三沢の妖怪を切り裂く無敗将軍 フリードは、将軍の名に恥じないかっこよさだった。

「くっ……!」

三沢LP3700→3100

「カラス天狗を破壊しなければ、墓地からの破壊効果は受けないぜ!」

 なるほど、それを考えて馬頭鬼を戦闘破壊したのか。
まあ、どっちでも構わないと思うが……

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 無敗将軍 フリードは確かに強力なモンスターだが、三沢ならば特に問題はないだろう。

「俺はカラス天狗をリリースし、《竜骨鬼》をアドバンス召喚!」

竜骨鬼
ATK2400
DEF2000

 五階堂の無敗将軍 フリードに負けじと、三沢も新たなモンスターをアドバンス召喚する。
それも、五階堂が使用する戦士族のメタカードだ。

「バトル! 竜骨鬼で、無敗将軍 フリードに攻撃!」

「甘い! トラップカード《デモンズ・チェーン》を発動! 竜骨鬼の効果と攻撃を無効にするぜ!」

 残念ながら、五階堂が発動した悪魔の鎖に竜骨鬼は捕らわれてしまう。
攻撃も、その戦士族に対抗する効果すら、あの悪魔の鎖は奪うのだ。

「ならば、メインフェイズ2に墓地に眠る馬頭鬼の効果を発動! 馬頭鬼を除外し、墓地から守備表示で蘇れ、《カラス天狗》!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

「カラス天狗の効果を発動! 墓地から特殊召喚に成功した時、相手モンスターを破壊出来る! 無敗将軍 フリードを破壊せよ、悪霊退治!」

 悪霊はお前だ、というツッコミも届かず、うちわのようなものの一振りで無敗将軍 フリードを打ち倒した。
三沢は、まだ馬頭鬼の効果は使うべきでは無いと考えたのだろうが、結果的にはそれが裏目に出てしまっていた。

「ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!
……墓地の《テイク・オーバー5》の効果を発動! 墓地のこのカードを除外することで、カードを一枚ドローする!」

 デッキから五枚ものカードを墓地に送り、なおかつ一枚ドローの効果を持つ。
……どっかに売ってないかな、アレ。

「スタンバイフェイズ、俺のフィールドにモンスターがいないため、墓地の《不死武士》が蘇るぜ!」

不死武士
ATK1200
DEF600

 戦士と言うよりは、むしろ三沢のデッキに似合っているカードが現れる。
先程の、《テイク・オーバー5》で落ちていたのだろう。

「更に、デモンズ・チェーンをコストに《マジック・プランター》を発動し、二枚ドロー!」

 竜骨鬼を捕らえていた悪魔の鎖を外し、代わりに二枚ドローする。
かなり有用であった、《デモンズ・チェーン》を犠牲にするほどまでに手札を補強したいのだろうか。

 だが、俺のそんな心配をよそに、五階堂はドローしたカードを見てクククと不敵な笑みを覗かせた。

「行くぞ! 俺は《不死武士》に装備魔法《グレート・ソード》を発動! 装備モンスターの攻撃力を600アップ!」

不死武士
ATK1200→1800

 不死武士に、不釣り合いなほどの豪華な剣が装備され、攻撃力が600ポイントアップする。
もちろん竜骨鬼の攻撃力には届かないが、グレート・ソードにとっては、攻撃力600ポイントアップはただのオマケ効果であり、真髄はまたもう一つの効果にある。

「グレート・ソードを装備したモンスターを使ってアドバンス召喚する時、モンスター二体ぶんにすることが出来る! 不死武士をリリースし、出でよ! 《ギルフォード・ザ・レジェンド》!」

ギルフォード・ザ・レジェンド
ATK2600
DEF2000

 グレート・ソードのもう一つの効果とは、今五階堂が言った通り、装備モンスターをダブルコストモンスターにすること。
そして、ダブルコストモンスターとなった不死武士をリリースして現れたのは、伝説となった稲妻の戦士。

「ギルフォード・ザ・レジェンドの効果を発動! このカードがアドバンス召喚に成功した時、墓地の装備魔法をフィールドの戦士族モンスターに装備出来る! 俺は墓地にある、《グレート・ソード》・《融合武器ムラサメブレード》・《神剣―フェニックスブレード》・《破邪の大剣―バオウ》・《メテオ・ストライク》の五枚の装備魔法を、全てギルフォード・ザ・レジェンドに装備する!」

ギルフォード・ザ・レジェンド
ATK2600→4800

 テイク・オーバー5で墓地に送ってあった剣型の装備魔法が合体し、優にギルフォード・ザ・レジェンドの身の丈を超える巨大な一振りの大剣になったものを、ギルフォード・ザ・レジェンドが持つ。
メテオ・ストライクも装備されていて貫通効果も完備しており、三沢のフィールドには守備表示の《カラス天狗》を攻撃することで、このデュエルは五階堂の勝利となる。
まあ、それも……

「これが俺の必殺のコンボ! バトル! ギルフォード・ザ・レジェンドで」

「リバースカード、オープン、《威嚇する咆哮》! 相手は攻撃宣言を行うことが出来ない!」

 ……攻撃出来ればの話だが。

三沢のトラップカードに攻撃を封じられ、伝説の騎士は大剣を持ったまま立ち尽くした。

「チッ、運が良い奴だ! これで俺はターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 三沢のことを運が良いと言った五階堂は、気づいているだろうか。
あの《威嚇する咆哮》を伏せたのは、無敗将軍 フリードが召喚されたターンより前……つまり、運がどうとかではなく、三沢はただこの状況になるのを、読んでいたことを。

「俺は《竜骨鬼》と《カラス天狗》をリリースし……招来せよ、《赤鬼》!」

赤鬼
ATK2800
DEF2100

 三沢の妖怪デッキのエースカード、赤鬼。
だいたい墓地からの特殊召喚で、その高攻撃力で場を制圧することが多いが、もちろんリリースして現れた時の効果も十二分に強力……!

 加えて、五階堂は魔法・罠ゾーンを全て装備魔法カードで埋め尽くしているため、絶対に妨害はないのが分かる。
例外があるとすれば、俺のラッキーカード《エフェクト・ヴェーラー》であるが、《不死武士》を採用している五階堂のデッキにあるとは思えない。

「赤鬼の効果を発動! 手札を一枚捨て、《ギルフォード・ザ・レジェンド》を手札に戻す! 地獄の業火!」

「なんだと!?」

 赤鬼が口から出した地獄の業火が、大剣を貫通してギルフォード・ザ・レジェンドに当たり、そのまま手札に戻されてしまう。
そして主を失った大剣は、デュエル場に落ちて音を響かせながら砕け散った。

「利子を含めて、ダメージを返済させてもらう! 赤鬼でプレイヤーにダイレクトアタック! 鬼火!」

 地獄の業火とはまた違う炎が、五階堂を襲う。
テイク・オーバー5で《ネクロ・ガードナー》でも落ちなかったのか、炎はそのまま五階堂を直撃した。

「ぐあああっ!」

五階堂LP4000→1200

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「くそっ……馬鹿にするなよ! 俺のターン! ドロー!」

 切り札のギルフォード・ザ・レジェンドが突破されたとはいえ、未だに手札にはある。
まだまだ戦えるだろう。

「スタンバイフェイズ、墓地から《不死武士》を特殊召喚!」

不死武士
ATK1200
DEF600

「更に、《切り込み隊長》を守備表示で妥協召喚!」

切り込み隊長
ATK1200
DEF800

 またも墓地から蘇る、不死の名に相応しい不死武士と、三枚目の切り込み隊長が五階堂の場を整える。
低レベルのモンスターの展開も、戦士族の強みの一つだ。

「更に、切り込み隊長に装備魔法《ミスト・ボディ》を装備!」

 ミスト・ボディ……最近俺は使っていないが、装備したモンスターが戦闘破壊耐性を得られる、優秀な装備魔法だ。
そして、切り込み隊長に装備したことにより、『戦闘破壊されず、他のモンスターに攻撃出来ない』という、切り込みロックの亜種のような状態となった。

「これで次のターン、もう一度ギルフォード・ザ・レジェンドが出せるぜ! ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 さて、《サイクロン》か《カラス天狗》一発で破れ、《九尾の狐》でサンドバックに出来るし、《火車》でデッキに戻されてしまうとはいえ、三沢の手札にそれはあるか。
無かったら、あれはあれで強固な壁だ……って、もしかしてあのロック、三沢にほとんど意味を成さないんじゃないか……?

「……よし。これで、勝利への方程式は完成した!」

「……フン! ならばやってみるんだな!」

 ああ、止めとけってそういうこと言うの……負けるから。

「言われなくてもそうさせてもらう。俺は《赤鬼》をリリースし、《砂塵の悪霊》をアドバンス召喚!」

砂塵の悪霊
ATK2200
DEF1800

 満を持してフィールドに現れたのは、砂塵を司るスピリットの妖怪。

 豊富な特殊召喚がメインのアンデット族において、特殊召喚が出来ないスピリットはイマイチアンチシナジーだが、東洋の神話つながりなのだろうか、三沢は数枚入れていた。
だが、アドバンス召喚の素材は素早く特殊召喚出来る妖怪たちがいて、いざ現れたスピリットの効果はどれも強大。
……かくいう俺も、何度となくスピリットに煮え湯を飲まされている。

 ……ああそれと。
さっき、俺は五階堂を『手札に切り札もあるし、まだまだやれる』と言ったが、訂正させてもらう。
……相手が悪い。

「砂塵の悪霊が召喚に成功した時、このカード以外のフィールドの表側表示のモンスターを、全て破壊する!」

「インチキ効果も……」

 五階堂は何か言いたそうだったが、砂塵の悪霊が大量に砂嵐を起こしているため、何を言っているのかがさっぱり分からない。

 そして、フィールドを包み込んでいた砂塵が止むと、五階堂の戦士たちは干からびて無残な姿を晒していた。

「……そ、そんな……馬鹿な……!」

「悪いが、結果は覆らない。砂塵の悪霊で、相手プレイヤーにダイレクトアタック!」

 砂塵の悪霊がまたも砂を操り、五階堂の周りを砂塵が包み込んだ。

「――――――!」

 ……悪い。
せっかくの最後のセリフなのに、何言ってんだかまるで聞こえない。

五階堂LP1200→0

 五階堂のライフが0になると同時にソリッドビジョンが消えるために、同様に砂塵も消える。
中心部からは、咳き込んでいる五階堂が無様……いや、無事な姿で発見された。

「相手が【装備ビート】ならば、遊矢以下の相手には負ける気がしないからな。……悪いが、勝たせてもらった」

 デュエル場にいた観客の拍手を背に、三沢はデュエル場から降りた。
そこで観客席にいた俺と目が合い、こちらに向かってくる。

 そこで、ふと。

「……なあ、明日香。これで三沢がタレントってことになるのか?」

「……そうじゃない?」

 二人とも同時に、あまり似合っていないタレントの三沢を想像し、笑いあった。
何なのか分からず、合流した三沢は首を傾げるのだった。 
 

 
後書き
まあ、テスト前最後の投稿ってことで。
 三沢VS五階堂でした。
原作通りに万丈目でも良かったのですけれど、何だか久々に三沢のデュエルが書きたくなりまして。
 三沢のデッキのスピリット……正直扱いが困るカード群のため、砂塵の悪霊以外の登場は怪しいかもしれませんね。
まあ、後の展開で。
 そして、五階堂……挑戦状と銘打っている為に、アニメ通りの謎プレイングではありません。
もしかすると、この二次で一番強化されたのはこいつかもしれません……代わりに、パワーカード頼りの馬鹿みたいな感じになってしまいましたが。
 デッキは、頑張れば現実でも通用するデッキなのですが……まあ、本文中にある通り、相手が悪かったのでしょう。
では、感想・アドバイス待ってます。  

 

―恐竜との決闘―

 
前書き
テスト(色々と)終了 

 
 ナポレオン教頭による、三沢のタレント化計画は三沢本人が苦笑いと共にお断りした為に終焉を迎えた。
……いや、元々無理がある企画だったしな。

 たまに三沢をからかう為のネタを提供しただけで、この件は忘れられていった。
ナポレオン教頭は読みが外れてご愁傷様、というかまずは人選ミスだろう。

 閑話休題。

「……《ターボ・シンクロン》か」

 遂にシンクロ召喚と、それに関係するチューナーなどが収録された新しいパックを買ってみたところ、思いっきり持っているのを引いた。

 ……時に、シンクロ召喚が実装され、充分以上のデータが集まったことにより、俺のテスターとしての仕事は終わりを告げた。
セブンスターズやら何やらで、俺が気絶していたことも手伝ってあまりシンクロ召喚のテストなどが出来なくて、《機械戦士》を送ってくれたペガサス会長には、正直言って申し訳なかったのだが、明日香と三沢に手伝ってもらってなんとか報告書を作り上げたものだ。

 しかし、一応テスターであったからか、シンクロ召喚に関係する物を見ると妙に感慨深かったりする。

 ターボ・シンクロンを始めとして、あまり狙ったのは出なかったものの、五枚のカードを大事にポケットに入れる。

「さて、と」

 これから十代にちょっとした用事がある。
十代ならオシリス・レッドの寮の近くにでもいるだろうし、いなくても翔あたりにでも聞けば分かるだろうと当たりをつけ、俺はオシリス・レッド寮に向かった。



 ……相変わらず、デュアル・アカデミア本校舎から無駄に遠い道のりを歩き、赤色だらけのところから十代がいないかを探しだした。

「おーい! 遊矢!」

 ……どうやら、こちらが先に見つかったようだ。
寮の階段の近くで、大声を出して手を振る十代を見つけ、そちらの方へ小走りで駆けだした。

「よっ、遊矢」

 いつもと変わらず元気に笑いかけてくる十代に、その隣にいるのもいつもの通り……

「誰ザウルス?」

 ……じゃなかった。
改造してあるラー・イエローの制服姿に、 黒い肌の巨漢……翔が最近ラー・イエローに昇格したとしも、断じて突然変異したとしても、翔に似ても似つかぬ男だった。
……お前こそ誰だ?

「ああ、そういや遊矢は初めてだったな! こいつはティラノ剣山って言って、かなりデュエルが強いんだぜ!」

「へぇ……俺の名前は黒崎遊矢。名前で呼ばれる方が好きだから、遊矢って呼んでくれ」

 十代の紹介に習って、俺もそのティラノ剣山に挨拶をする。
同級生にも先輩にもこんな奴がいた記憶は無いので、恐らくは後輩だろう。

「オレは十代のアニキの真の弟分、ティラノ剣山だドン。こっちこそよろしくザウルス! ……ん?」

 その特徴的な口癖を遺憾なく発揮しつつ、十代の真の弟分だという自己紹介をされ、なんとなく、十代がまた面倒くさいことをしたのだと悟った。
翔が最近、機嫌が悪そうだったのはこいつが原因か。

「アニキ。黒崎遊矢ってことは、十代のアニキが強いって言ってた黒崎遊矢かドン?」

「おう、あのカイザーに《機械戦士》で勝つぐらい強いんだぜ!」

 人のことを、尾ひれを付けて勝手に話すなよ十代。
亮とデュエルしての勝率なんて、たかが三割ぐらいだ。

「またまたアニキ。流石にそれは冗談が過ぎるドン! 《機械戦士》であのカイザーに勝つなんて、無理に決まってるザウルス!」

 ……なんだと?
十代の話を笑い話だと受け取ったティラノ剣山は、そのまま同じ勢いで語りだした。

「シンクロ召喚があるならまだしも、去年カイザーがこの学園にいた時にはまだ発売して……」

「おい」

 ティラノ剣山の肩に手を起き、十代との話を中断させる。
もっとも、話し相手の十代は冷や汗を流すだけだったが。

「何ザウルス?」

「デュエルしろよ」


 そんなわけで、用事が済んだら十代とデュエルでもしようとデュエルディスクを持って来ていたのが幸いして、俺とティラノ剣山は、オシリス・レッドのデュエル場で向かい合っていた。

「お前、さっき『シンクロ召喚があるならまだしも』って言ったよな?」

「あ、ああ……言ったドン」

 何か怒らせるようなことを言ったかと、対面のティラノ剣山は頭を捻っている様子だ。
確かに俺が《機械戦士》使いと知らないのだから、悪口を言っても仕方ないだろうが、これはもう意地の問題だ。

 エクストラデッキからシンクロモンスターを全て抜き出し、ポケットに入れる。
これで、今回はシンクロ召喚は無しだ。

「これで俺のエクストラデッキには、融合モンスターが一枚きりだ」

「……まさか、本当に《機械戦士》使いだったドン?」

 見た目に反して意外と察しが良いようだったが、ティラノ剣山もすぐにデュエリストの顔になる。

「だったらカイザーに勝ったって言うその実力に、勝たせてもらうドン!」

 あちらもデュエルディスクを展開させ、双方デュエルの準備が整った。

『デュエル!』

遊矢LP4000
剣山LP4000

 デュエルディスクに『先攻』と表示され、珍しさを感じながらデッキに手を伸ばした。

「俺の先攻。ドロー!」

 なんとなくデッキタイプは予想出来るが、まずは様子見といこう。

「俺は《ターボ・シンクロン》を召喚!」

ターボ・シンクロン
ATK100
DEF500

 さっきエクストラデッキからシンクロモンスターを抜いてしまった為に、ただの壁にしかならないが、様子見には充分だ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 さて、どんなデッキだ……って、名前からして分かるのだが、期待を裏切ってくれないだろうか。

「オレはフィールド魔法、《ジュラシックワールド》を発ドン!」

 ティラノ剣山が発ドン……違う、発動したフィールド魔法により、辺りがオシリス・レッド寮から恐竜たちの世界に変化する。
……期待を裏切ってくれなかったな。

「このフィールド魔法により、恐竜さんの攻撃力と守備力は300ポイントアップするドン! 更に、《暗黒ステゴ》を召喚するザウルス!」

暗黒ステゴ
ATK1200→1500
DEF2000→2300

 恐竜にはあまり詳しくないが、ステゴザウルスと言えば比較的有名な恐竜である。
どんな恐竜かは知らないが……

「バトル! 暗黒ステゴで、ターボ・シンクロンに攻撃だドン!」

「リバースカードオープン! 《くず鉄のかかし》! 相手の攻撃を一度だけ防ぎ、再びセットする!」

 俺のカードから現れたくず鉄のかかしが、暗黒ステゴの突進を防いで再びセットされる。

「防がれたザウルス……ターンエンドン」

「俺のターン、ドロー!」

 エンドンって何だエンドンって。
さて、相手は予想通りの恐竜族デッキであった。
ハイパワーに惑わされなければ、やれる……!

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 三つ叉の槍を持つ機械戦士とターボ・シンクロンが揃ったため、戦闘破壊耐性を持っているスカー・ウォリアーといきたいところだが、あいにくとエクストラデッキには入っていない。

「マックス・ウォリアーに装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備する!」

マックス・ウォリアー
ATK1800→2100

 装備魔法からマックス・ウォリアーに闘志が流れ込み、その攻撃力を300ポイントアップさせる。
そんなわけで、頼むぜアタッカー!

「バトル! マックス・ウォリアーで、暗黒ステゴに攻撃! 《スイフト・ラッシュ》!」

 マックス・ウォリアーがその三つ叉の槍を振りかざし、暗黒ステゴに狙いをつける。

「マックス・ウォリアーは、相手モンスターとバトルする時、攻撃力が400ポイントアップする!」

マックス・ウォリアー
ATK2100→2500

「だけどこっちも、暗黒ステゴの効果が発動するドン! 暗黒ステゴはその防衛本能によって、相手に攻撃された時に守備表示になるザウルス!」

 暗黒ステゴがその防衛本能(らしい)に従い、マックス・ウォリアーに攻撃される前に守備の態勢をとる。
だが、マックス・ウォリアーの攻撃力は、装備魔法《ファイティング・スピリッツ》によって暗黒ステゴの守備力を超えている。

 守備力が下がった暗黒ステゴに、マックス・ウォリアーの攻撃は防げず、そのまま戦闘破壊された。
代わりに、相手モンスターを戦闘破壊したことによって、マックス・ウォリアーの攻撃力・守備力は半分になってしまうが。

「暗黒ステゴの効果ぐらい知ってる。これで俺はターンエンドだ」

「オレのターン、ドローザウルス!」

 ドローザウルスって何だ、新しい恐竜みたくなってるぞ。

「くっ……《暗黒プテラ》を守備表示で召喚するドン」

暗黒プテラ
ATK1000→1300
DEF500→800

 ここで守備表示で出て来たのが、鳥獣族であるようなプテラノドンと呼ばれるタイプの恐竜だった。
ステータス自体は貧弱だが、なかなか面白い効果を持っている。

 ジュラシックワールドの効果によって、暗黒プテラの攻撃力はマックス・ウォリアーに勝ってはいるが、リバースカードに《くず鉄のかかし》があるために攻撃は出来ない。


「更にカードを二枚伏せ、ターンエンドだドン」

「俺のターン、ドロー!」

 これで剣山のフィールドは、守備表示の暗黒プテラとリバースカードが二枚。
どうやら守りを固めてきたようだ。

「元々の攻撃力を1800にすることで、《ドドドウォリアー》を妥協召喚!」

ドドドウォリアー
ATK2300→1800
DEF900

 妥協召喚される、斧を持った機械戦士。
ターボ・シンクロンをリリースして召喚しても良かったが、ここは壁に残しておく。

「バトル! ドドドウォリアーで、暗黒プテラに攻撃! ドドドアックス!」

「トラップカード《攻撃の無力化》を発動し、バトルを終了させるドン!」

 先陣を切ったドドドウォリアーの攻撃は、残念ながら時空の渦に巻き込まれて防がれてしまう。
攻撃のチャンスだったんだが、そうそう上手くはいかないか。

「このままターンエンドだ」

「オレのターン、ドローザウルス!」

 勢い良くカードをドローしたティラノ剣山が、引いたカードを見て顔を輝かせた。
何だ、そんなに良いカードを引いたのか?

「行くドン! 魔法カード《大進化薬》を発ドン!」

 ティラノ剣山が出した魔法カードから薬が中に入った注射器が飛び出し、暗黒プテラを刺した。

「大進化薬は、自分フィールドの恐竜さんをリリースすることで、レベル5以上の恐竜さんをリリース無しで召喚することが出来るドン! 進化せよ、《ダークティラノ》!」

ダークティラノ
ATK2600→2900
DEF1800→2100

 ただのプテラノドンに過ぎなかった暗黒プテラが、その名の通りに黒色に染まったティラノザウルスに進化する。
恐竜の中で、おそらくもっとも知名度があるだけあり、ティラノザウルスが目の前にいるというのは、それだけで凄い迫力だった。

「暗黒プテラは戦闘以外で墓地に送られた時、手札に戻るザウルス。更に通常魔法《テールスイング》を発ドン! 選択した自分フィールドの恐竜さん以下のレベルのモンスターを二体、持ち主の手札に戻すザウルス! いけぇ、ダークティラノ!」

 ダークティラノが勢い良く尻尾を振り仰ぎ、マックス・ウォリアーとドドドウォリアーの二体を吹き飛ばした。
その二体はそのままカードに戻り、俺の手札に帰還する。

「これで遊矢先輩のフィールドには、雑魚モンスターしかいないザウルス! バトル!」

 俺のフィールドには、守備表示のターボ・シンクロンがいる……が、確かダークティラノの効果の前では無意味……!

「ダークティラノは、相手モンスターが守備表示しかいない時、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来るドン! ターボ・シンクロンを無視して、遊矢先輩にダイレクトアタックザウルス!」

「くず鉄のかかしを発動!」

 一ターンに一度だけ攻撃を防ぐかかしが現れるが、剣山はこれを知っているはず。
ならば、もちろん対抗策もとっているに違いない。

「甘いザウルス! カウンタートラップ《魔宮の賄賂》を発ドン!」

 どこかから金を貰ったおっさんが、部下に命令させてくず鉄のかかしの発動を中断させた。
魔法・罠を両方止められる良カードではあるが、代償に相手に一枚ドローさせてしまうマイナス効果がある。
それをたがが一枚と考えるか、されど一枚と考えるか。

「前にパックで当てたレアカードだドン! くず鉄のかかしを無効にし、ダークティラノでダイレクトアタックを続行するザウルス!」

 ……魔宮の賄賂のことを考えている場合じゃなかった! ……ああ、どうせ俺は持ってねーよ!

「ぐあああッ!」

遊矢LP4000→1100

 ダークティラノの手痛い一撃に、初ダメージとしてはかなり痛い一撃を貰う。

「これが恐竜さんの力ザウルス! ターンエンドン!」

「俺のターン、ドロー!」

 さて、先輩たるもの後輩のライフを1ポイントも削らないまま負けて良いものか……いや、それはない。

「速攻魔法《手札断殺》を発動し、二枚捨てて二枚ドロー!」

 テールスイングでマックス・ウォリアーとドドドウォリアーが戻されたおかげで、ムカつくものの手札はまだ潤沢にある。
ありがたく手札を交換させて貰う……よし。

「墓地に送られた《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから守備表示で現れろ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 相変わらずのコンボによって、デッキから守備表示で現れるマイフェイバリットカード。

「更に《ドドドウォリアー》を妥協召喚する!」

ドドドウォリアー
ATK2300→1800
DEF900

 これで俺のフィールドのモンスターは三体。
……これならば、あのダークティラノを倒してお釣りが来る。

「装備魔法《団結の力》を、ドドドウォリアーに装備する!」

 ターボ・シンクロンとスピード・ウォリアー、その二体がドドドウォリアーに力を集結させ、ダークティラノの攻撃力を遥かに超える。

ドドドウォリアー
ATK1800→4200
DEF900→3300

「ダークティラノの攻撃力を超えたザウルス!?」

「バトル! ドドドウォリアーでダークティラノに攻撃! ドドドアックス!」

 剣山の驚きの声をよそに、ドドドウォリアーが力が増したおかげで片腕でぐるんぐるんと斧を回し、遠心力をつけてダークティラノを一刀両断にした。

「ぐあっ……!」

剣山LP4000→2700

 剣山の恐竜族デッキも攻撃力が自慢のようだが、基本的に装備ビート気味である自分の《機械戦士》も攻撃力では負けていない。
まったく、ただの殴り合いのデュエルになってしまうようで気が進まない。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「ダークティラノの仇をとるザウルス! オレのターン、ドローザウルス!」

 さて、ダークティラノを破壊したが、未だ剣山の手札に高レベル恐竜族はいるか否か。
いなければいないにこしたことは無いのだが……手札的には、攻勢に出てくれたらとても嬉しいね。

「まだ恐竜さんは負けないドン! 通常魔法《大進化薬》の効果を発動!」

 前のターンで暗黒プテラをリリースして発動された大進化薬は、発動してから三ターンまでフィールドに残る。
最大三回までに使い回すことが出来ることが、他の進化薬に勝る最大の長所だろう。

「リリース無しで、《究極恐獣》を召喚するザウルス!」

究極恐獣
ATK3000→3300

DEF2200→2500

 究極恐竜ではなく、究極恐獣という名が示すように、自らを進化させ続けた為に、もはや恐竜には見えない……どちらかと言えば、化け物にも見えてしまうような外見をしている恐竜族の切り札級カード。

「更に《死者蘇生》を発ドン! 墓地から、《超伝導恐竜》を特殊召喚するザウルス!」

超伝導恐竜
ATK3300→3600
DEF1400→1700

 今度は姿形はまだ恐竜に近いものの、いたるところに機械を埋め込んであり、超伝導というシステムで動いているようだ……これはこれで、究極恐獣とは違う意味で普通の恐竜とはかけ離れている。
「これで攻撃力が3600と3300の最強の恐竜さんが揃ったドン! バトル! 《機械戦士》なんて踏み潰すザウルス! 究極恐獣は、まずはこのモンスターしか攻撃してはいけない代わりに、相手モンスター全てに攻撃が出来るんだドン! ターボ・シンクロン、スピード・ウォリアー、ドドドウォリアーの順番で攻撃! アブソリュート・バイト!」

 主の言うことを忠実に聞き、ターボ・シンクロン、スピード・ウォリアー、ドドドウォリアーの順番で食いちぎる。
ドドドウォリアーに装備されている《団結の力》も、他のモンスターから倒されてしまっては攻撃力が下がる他無い。

「くっ……」

遊矢LP1100→400


「これでトドメだドン! 超伝導恐竜で、遊矢先輩にダイレクトアタックザウルス!」

「それは通さない! 《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にして一枚ドローする!」

 超伝導恐竜から放たれたレールガンは、俺の直前でいきなり消失する。
……なんとも心臓に悪い演出だな。

「トドメはさせなかったザウルスが、次のターンで超伝導恐竜の効果を使えば俺の勝ちだドン! ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 超伝導恐竜は、自分フィールドのモンスター一体をリリースし、攻撃宣言を放棄することで1000ポイントのダメージを与える効果……確かに、引導火力としては充分以上の活躍が見込めるだろう。

「つまり……この俺のターンで決着をつければ良いんだな?」

「な……バカも休み休み言うザウルス! シンクロ召喚をして来るなら何が来るかわからないドンが、フィールドがスッカラカンの状態から《機械戦士》じゃ逆転なんて出来ないザウルス!」

 シンクロ召喚ならとは言うが、今この状況をシンクロ召喚でどうしろと言うのか。
まあ、シンクロ召喚を知らないみたいだし、仕方がないとはいえシンクロ召喚はそんな万能じゃない。

「なら見てるんだな……俺は、《スピード・ウォリアー》を召喚! ……来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!』


スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 今度はリミッター・ブレイクの効果ではなく、きちんとした通常召喚……自身の効果が活かせるようにマイフェイバリットカードが現れる。

「スピード・ウォリアーに装備魔法《進化する人類》を装備! 俺のライフが下のため、スピード・ウォリアーの元々の攻撃力は2400となる!」

 なんとも久しぶりに、スピード・ウォリアーへ進化するエネルギーが集結する。
久しぶりとは言っても、この装備魔法はスピード・ウォリアーの効果を最大限まで活かせるカードだ……!

「バトル! スピード・ウォリアーは召喚したターンのみ、元々の攻撃力が倍になる! よって、攻撃力は4800!」

 スピード・ウォリアーの効果は元々の攻撃力を上げる効果のため、普段使ってもただ攻撃力が900上がるだけに過ぎない。
だが、進化する人類の効果によって、今のスピード・ウォリアーの元々の攻撃力は2400。
その倍で、4800……!

「くっ……だけど、それじゃ恐竜さんは倒せても、俺のライフを0には出来ないザウルス!」

 究極恐獣と超伝導恐竜の背後にいる剣山がその事実に気づき、腕を振りながら叫びだす。
確かに剣山のライフは2700で、二体の恐竜を倒してライフを0にする程の攻撃力を、スピード・ウォリアーは持っていない……今は。

「スピード・ウォリアーで、超伝導恐竜に攻撃! ソニック・エッジ」

攻撃宣言を受け、スピード・ウォリアーは超伝導恐竜へ向かう。
先程、剣山は『遊矢先輩のフィールドはスッカラカン』と言ったが、それは間違っている。
あの時、俺のフィールドには……リバースカードが一枚あった。

「リバースカード、オープン! 《攻撃の無効化》! 行われる戦闘を無効にすることが出来る! 俺は、スピード・ウォリアーと超伝導恐竜の戦闘を無効にする!」

「このタイミングでトラップザウルス!? ……って、え?」

 俺の発動したリバースカードに従い、超伝導恐竜へと向かっていたスピード・ウォリアーが立ち止まる。

「オレにダメージを与えられないカードに、何の意味があるザウルス!」

「意味がないカードなんて存在しない。速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》!」

 スピード・ウォリアーはただ止まっていただけではなく、力を溜めていたのだ……超伝導恐竜と剣山を、一撃で倒しきるために。

「ダブル・アップ・チャンスは攻撃が無効になった時に発動でき、攻撃が無効になったモンスターの攻撃力を二倍にし、もう一度バトルが出来る!」

 スピード・ウォリアーの攻撃力は4800。
ダブル・アップ・チャンスの効果により、更に二倍になるのだから攻撃力はもちろん……

「攻撃力……9600ザウルス!?」

「スピード・ウォリアーで、超伝導恐竜に攻撃! ソニック・エッジ!」

 最大限まで力を溜めた蹴りに、超伝導恐竜は手も足も出ず、一片たりとも残さずに消し飛ぶ。
そして、剣山のライフを削りきれないどころではないオーバーキルが、剣山を襲う……!

「うわあああっ!」

剣山LP2700→0



「負けたザウルス……」

 スピード・ウォリアーの一撃によりデュエルが決着し、ずっと階段の近くで歓声を上げつつ眺めていた十代のところへ戻った。

「まあそう気にすんなって! 負けて勝てって言うだろ?」

 十代の励ましにて剣山は少し持ち直し、俺の方へ向き直り。

「すまんザウルス!」

 いきなり謝ってきた……キッチリ斜め45度の、素晴らしい角度での謝罪だった。
……いきなり何なんだ。

「《機械戦士》を馬鹿にしてすまなかったドン……オレも、恐竜さんを馬鹿にされたら怒るザウルス……」

 ああ、なるほど。
外見やデッキと違って、ずいぶんこの後輩は礼儀正しいというか、常識人というか。

「ああ、もう良いよ。気にすんな」

「そうそう。そんなことより、俺とデュエルしようぜ遊矢!」

 ……この同級生は、少しぐらい後輩を見習ったらどうだろうか。
そう思いつつも、俺は笑いながらデュエルを受けて立つための準備をするのだった。
 
 

 
後書き
剣山とのデュエルでした。
倍プッシュだ……!
時にこの剣山、GX一、二を争う不遇キャラかと思っているのは自分だけでしょうか。
三沢や明日香、レイのような不遇キャラはいますが、彼らはその不遇っぷりからネタにされて愛されるにも関わらず、彼にはそれがない……!

中途半端に強く、中途半端な時期に出て、中途半端なポジションで、中途半端な存在感で、中途半端な寮……彼は、この二次では救われるでしょうか。
……十代の出番が少ない時点で察せることは、密に、密に。
……そろそろシンクロ召喚を使わねば……
では、感想・アドバイスを待っています。  

 

―HERO―

 いつものデュエルアカデミアの深夜、俺はなんとなく森を散歩していた。
完全消灯まで後数時間といったところで、もうあまり人の影は見えないのだが、この暖かい島での夜の散歩というのがこれでなかなか面白い。

 ……たまに、カードの精霊と思しきぼんやりとした影が、見えたり見えなかったりするのが問題点と言えば問題点だろうか。
……この頃は、薄ぼんやりと見えたりしてしまう。

 たまに考えてみるのだが、カードの精霊とは何なのだろうか。
聞いたところによると、十代にはハネクリボーの精霊が、万丈目にはおジャマ三兄弟と不特定多数のカードの精霊が憑いており、自分には、この《機械戦士》たち全ての精霊が憑いているという。
しかし、自分にカードの精霊が見えにくい為か、《機械戦士》たちを精霊の姿で見れたのは、廃寮でのタイタンとの一件だけである。
あそこには何やら化け物や闇のデュエリストとなった高田が住み着いていたことから、何か精霊として重要な場所なのかもしれないが……高田の地縛神が破壊してしまった今では、確かめようの無いことだった。

 ……そろそろ寮に戻ろう、と思って森から出ようと来た道を戻ってオベリスク・ブルー寮へ戻ろうとした時。

「……ん?」

 何やら人間二人の話し声が、風に乗って俺の耳へ聞こえてきた。
さて、わざわざこんな夜中に話すような内容だから興味がないわけではないが、それよりも厄介事はゴメンだという気持ちが強く、無視することにする……いつもならば。
だがそれが、二人とも知り合い――それも片方は、厄介な知り合い――の声であるとすれば、無視するわけにもいかない。

 どうせ寮に戻っても後は寝るだけだ、と鼓舞して、俺は声のした方向へ向かった。


 デュエルアカデミアの森の中で比較的開けた場所である、自然のデュエルスペース。

そこで、二人のデュエリストがデュエルディスクを構えて向き合っていた。

「遊矢!?」

 そのうち一人は、今や同級生で少なめになって来ている真紅の制服を着た友人、遊城十代。

「黒崎遊矢、か……今日はお前に用はない。黙って見ているんだな」

 あの時と同じ、白いスーツ姿に身を包んだプロデュエリスト――

「エド……?」

 俺の前で十代とデュエルをしようとしている人物は、間違えようもなく、先日は礼儀正しい後輩に扮して俺にデュエルを挑んできた、エド・フェニックスだった。
その口調を聞くかぎり、先日のように演技はしていないようだが……?

「十代! 何がどうなってるのか簡単に説明してくれ」

 十代に説明を求めると、そういうのが苦手そうな十代のイメージに従い、少し悩んでから手振り身振りを交えて答えた。

「ええと……目の前にいたこのエドっていうプロデュエリストが前にも挑んできて、その時は変なデッキだったんだけどさ。今度は、きちんとしたデッキを持ってきてデュエルしろって言ってきて……」

 十代の拙い説明で分かったことは、残念ながら俺には十代も、前にエドの変なデッキとデュエルを頼まれただけだということだった。
今度はもう一人、エドの方へ向き直る。

「エド。お前は俺たちとデュエルをして何がしたいんだ? 何の目的がある?」

 十代とは対照的に、面倒くさそうにかつ、慇懃無礼にエドは答えてきた。

「答える必要はあるのか……と、言いたいところだが、まあいい……ある人の命令でね」

 ある人の命令。
まだ質問の答えとしては不明瞭だが、それ以上のことは、エドは言う気は無いようだ。

 ……まだ、この新進気鋭のプロデュエリストの目的は分からない。
だが、デュエリストとしてデュエルを挑まれた時、俺も十代もとるべき行動は決まっている。
……すなわち、デュエルだと。

「なんだか良くわかんねぇけど、デュエルするなら受けて立つぜ!」

「僕は最初からそう言っている……そこのそいつが、横からしゃしゃり出てきただけだ」

 両者共に、エドの言うそこのそいつ――つまり俺だが――に中断されていたデュエルディスクを展開し、準備が完了する。

『デュエル!!』

十代LP4000
エドLP4000

「僕の先攻。ドロー」

 どうやら先攻と表示されたのはエドのようで、エドが先にカードをドローする。
この前はグレート・モスを主軸にしたビートダウンデッキだったが、あれがエドの本来のデッキというわけではない。
プロリーグにおいても、エドはファンから募集したデッキを使用して勝利を収めていて、本来のデッキではなかった。
さあ、今日はどんなデッキだ……?

「僕は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚!」

E・HERO クレイマン
ATK800
DEF2000

「HEROだって!?」

 自身もE・HERO使いである十代が、俺より先に驚きの声を上げる。
別にE・HEROは、どこかの青眼と違って一般流通されているため、ミラーマッチになってもまったく不思議ではないのだが、いきなり自分のデッキと同じデッキとデュエルすることになったら、驚くことになるだろう。
……だろう、というのは、俺がまだミラーマッチを経験したことが無いからだが……

「僕のHEROたちを、お前のようなお気楽なHEROたちと一緒にしないで欲しいね……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「お気楽?」

 エドの鼻で笑った感じを含めた言葉に、十代は自身のHEROたちを馬鹿にされたようで不快感を露わにした。

「だったら、どっちが真のHERO使いかデュエルで決着だ! 俺のターン! ドロー!」

 だが、口論をすることはなく、そのままデュエルに発展するのは、流石十代と言ったところだ。

 それと、十代は気づいていないようだが、エドは先程『僕のHEROたち』と言った。
つまり、エド本来のデッキは【E・HERO】……?

「俺は《E・HERO スパークマン》を召喚!」

E・HERO スパークマン
ATK1600
DEF1400

 俺が思索する間にも、十代の切り込み隊長の登場によってデュエルは進む。
スパークマンの攻撃力では、クレイマンの守備力には適わないが……?

「スパークマンに装備魔法《スパークガン》を装備して、効果を発動! クレイマンの表示形式を変更するぜ!」

 スパークマンに専用の銃が装備され、その効果によってクレイマンの表示形式を変更する。
なるほど、このカードがあったからか。

「バトル! スパークマンでクレイマンに攻撃! スパークフラッシュ!」

 いくら粘土の身体を持ち、守備力が高いクレイマンであろうとも、今は攻撃表示。
スパークマンが手から放つ、スパークフラッシュによって破壊された。

「く……だが、《ヒーロー・シグナル》を発動! デッキから《E・HERO フェザーマン》を守備表示で特殊召喚する!」

エドLP4000→3200

E・HERO フェザーマン
ATK1000
DEF1000
 先手は十代が貰ったが、やられたエドもただではすまない。
仲間であるクレイマンがやられたシグナルに反応し、次はフェザーマンが現れた。

「ターンエンドだぜ!」

「僕のターン、ドロー!」

 時に、エドのヒーローの方が、十代のヒーローよりも色が濃いのは何なのだろうか。
色違いなんてあったのか……

「僕は通常魔法《融合》を発動! 手札の《E・HERO バーストレディ》と、フィールドの《E・HERO フェザーマン》を融合する!」

 E・HEROの十八番を先に使うのはエド。
融合素材は十代のフェイバリットと同じだが、出て来るのはどっちだ……?

「カモン、《E・HERO フェニックスガイ》!」

E・HERO フェニックスガイ
ATK2100
DEF1200

 ……フェニックスガイの方だったか。
フレイム・ウイングマンよりは防御向きの効果ではあるものの、攻撃力2100の戦闘破壊耐性という、《スカー・ウォリアー》と同じ効果は単純ながら強力である。

「な、なんでフェザーマンとバーストレディを融合したのにフレイム・ウイングマンが出てこないんだ!?」

 対面の十代が驚きの声を上げる……おい、もしかしてお前はフェニックスガイのことを知らないのか?

「……フェザーマンとバーストレディの融合は、フレイム・ウイングマンの他にもう一体いる。それがあの、フェニックスガイだ」

「へぇ……そんなカードがあるとは知らなかったぜ!」

 どうやら本当に知らなかったらしい十代の対面では、若干呆れ顔のエドがフェニックスガイに攻撃命令を下そうとする。

「バトル! フェニックスガイでスパークマンを攻撃! フェニックス・シュート!」

 フェニックスガイの炎を纏った突撃に、スパークマンは持っている銃も使うことも適わずに破壊された。

「ぐああっ!」

十代LP4000→3500

「僕はターンを終了する」

「俺のターン! ドロー!」

 最初のターンの戦いは、エドがボード、十代がライフとハンドのアドバンテージをとったような結果で終わる。
さて、十代は戦闘破壊耐性を持っているフェニックスガイをどうするか……?

「俺は《カードガンナー》を守備表示で召喚するぜ!」

カードガンナー
ATK400
DEF400

 十代の使用する、三種類の『カード』と名の付くモンスターのうちの一つ、カードガンナーが守備表示で現れる。
他の二種類より、遥かに汎用性が高いことが特徴だ。

「カードガンナーの効果! デッキからカードを三枚墓地に送る!」

 カードガンナーの効果の限界ギリギリの三枚を墓地に送って攻撃力は上がるものの守備表示であり、そもそもフェニックスガイには届かない。
狙いは、次のターンへの布石。

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 防戦一方である十代に対し、戦闘破壊耐性の効果を持つフェニックスガイを擁するエドの次の手は、攻撃しかないだろう。

「僕は《E・HERO ワイルドマン》を召喚!」

E・HERO ワイルドマン
ATK1500
DEF1600

 背中に大きな剣を持った、罠の効果が効かないという単純かつ有効な効果を持つヒーローがエドの下へ降り立つ。
やはり、十代が召喚しているワイルドマンとは少し色が違っている。

「バトル! ワイルドマンでカードガンナーを攻撃! ワイルド・スラッシュ!」

 ワイルドマンが大剣を振り下ろし、カードガンナーの機械の身体を一刀両断にした。
だが、切り裂かれたカードガンナーの身体から、『H』の文字が頭上に舞い上がった……!

「へへ、こっちも使わせてもらうぜ! 《ヒーロー・シグナル》を発動! デッキから《E・HERO ワイルドマン》を召喚!」

E・HERO ワイルドマン
ATK1500
DEF1600

 カードガンナーのいた地点に、十代の色が薄いワイルドマンが現れる。
エドのワイルドマンと一瞬睨み合った後、エドのフィールドに戻っていった。

「更に、カードガンナーの効果で一枚ドローするぜ」

「なら、フェニックスガイでワイルドマンを攻撃! フェニックス・シュート!」

 またも炎を纏ったフェニックスガイの突撃を、突如としてワイルドマンの前に現れた戦士が防いだ。

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外することで、相手の攻撃を一度だけ無効にする!」

 なるほど、ネクロ・ガードナーがカードガンナーの効果で墓地に送られていたか。
……十代がカードガンナー使って、墓地に何も送られないことなんて無いからな……

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン! ドロー!」

 十代のフィールドにはワイルドマンが一体で、エドのフィールドにはフェニックスガイとワイルドマン、リバースカードが一枚。

「よっしゃあ! 俺は《融合》を発動!」

 十代も来たか……E・HEROのキーカード!
場にはワイルドマンで、この状況を逆転出来るヒーローといえば……

「俺はフィールドのワイルドマンと、手札のネクロダークマンを融合! 来い、《E・HERO ネクロイド・シャーマン》!」

E・HERO ネクロイド・シャーマン
ATK1900
DEF1800

 現れたのは、俺の想像通りにヒーローというよりシャーマン……というか自分でもシャーマンって言ってるしな。
ヒーローとシャーマンって兼業出来るのかな……

「ネクロイド・シャーマンの効果! フェニックスガイを破壊して、お前のフィールドにクレイマンを特殊召喚するぜ!」

 俺が限りなくどうでも良いことを考えてしまっている間に、十代のネクロイド・シャーマンがフェニックスガイを破壊した。
破壊した後に他のモンスターを特殊召喚するため、直接アドバンテージには結びつかないものの、戦闘ダメージを与えられるという点では優秀だ。

「バトル! ネクロイド・シャーマンで……」

「リバースカード、オープン! 《融合解除》! 融合解除のエフェクトにより、ネクロイド・シャーマンをエクストラデッキに戻してもらう!」

 融合デッキの切り札、融合解除もミラーマッチにおいてはただのメタカードだ。
ネクロイド・シャーマンが融合解除によって、時空の渦に吸い込まれていったものの、残念ながら融合素材は帰ってこない。

「ネクロイド・シャーマンが! く……カードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 ドローしたカードをチラリと見て、エドはデュエルディスクを操作した。
攻撃力の低いクレイマンをどうするか……

「クレイマンを守備表示にしてバトル。ワイルドマンで遊城十代にダイレクトアタック! ワイルド・スラッシュ!」

 十代がいつも使っているE・HEROが十代にダイレクトアタックをし、十代のライフが大きく削られる。

「ぐああ!」

十代LP3500→2000

「僕はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!」

 このターンでの攻防は、エドが十代の上をいったように感じられた。
しかし、十代だってまだまだ負けちゃいない……!

「俺は《強欲な壺》を発動して二枚ドロー! ……来たぜ! 墓地のネクロダークマンの効果を発動! レベル5以上のE・HEROを召喚する時、一度だけリリース無しで召喚出来る! 来い、《E・HERO エッジマン》!」

E・HERO エッジマン
ATK2600
DEF1800

 通常召喚が可能なE・HEROの中で、もっとも高い攻撃力を誇る金色のヒーロー、エッジマン。先程のネクロイド・シャーマンの融合で、リリース条件を緩和するヒーローであるネクロダークマンを落とせたと思えば、さっきの融合もまったくの無駄というわけではなかったようだ。

「バトル! エッジマンでワイルドマンに攻撃! パワー・エッジ・アタック!」

 ワイルドマンは強力な効果を持つとはいえ、ただの下級モンスター。
通常召喚出来る最強のヒーローの名は伊達ではなく、ワイルドマンをあっさりと破壊してしまう。

「ちっ……!」

エドLP3400→2300

「ターンエンドだぜ!」

「僕のターン、ドロー!
……こちらも《強欲な壺》の発動! そなエフェクトにより、二枚ドローする!」

 強欲な壺が破壊されると共に、エドも先程の十代と同じく二枚ドローする。

「僕は《E・HERO スパークマン》を召喚!」

E・HERO スパークマン
ATK1600
DEF1400

 十代が後攻1ターン目で出した、光のヒーローがエドのフィールドにも現れる。
しかし、単体ではエッジマンに適わず、エドのフィールドにもう一体いるクレイマンと融合し、《E・HERO サンダー・ジャイアント》を融合してもエッジマンは破壊出来ない。
どうする気だ……?

「僕は《ミラクル・フュージョン》を発動! セメタリーのフェニックスガイと、フィールドのスパークマンを融合させる!」

 ……この状況を想像出来なかった自分に歯噛みする。
ミラクル・フュージョンは手札を参照しないために、フィールドに出す必要があり、またスパークマンは様々な融合素材になる優秀なヒーローなのだから。

「カモン! 《E・HERO シャイニング・フェニックスガイ》!」

E・HERO シャイニング・フェニックスガイ
ATK2500
DEF2100

 エリクシーラーと並ぶ十代の切り札であるシャイニング・フレア・ウイングマンとまたも対をなすモンスター、シャイニング・フェニックスガイ。
効果はそちらと同じく、墓地のヒーローの数だけ攻撃力がアップする……!

「僕のセメタリーに眠るE・HEROは三体。よって、攻撃力は3400となる! バトル! シャイニング・フェニックスガイでエッジマンを攻撃! シャイニング・フィニッシュ!」

 光り輝く炎。
そう形容するのが、おそらくは相応しい姿にシャイニング・フェニックスガイは変身し、エッジマンを貫いた。

「ぐああっ!」

十代LP2000→1200

「更にカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン! ドロー!」

 十代のフィールドには、おそらくはブラフであろうリバースカードが一枚のみ。
対するエドは、シャイニング・フェニックスガイにクレイマン、リバースカードが二枚という磐石な態勢を整えている。

「へへ……エド。お前、すげぇ強いな!」

「ふん……それがどうした、諦めるのか?」

 あり得ない。
エド本人も分かっているだろう。
目の前の十代の姿を見れば、その質問がどれだけ意味のない、馬鹿馬鹿しいことか……!

「いや、お前を倒すことにワクワクしてきたぜ! 《ミラクル・フュージョン》を発動!」

「何っ……!?」

 初めてエドに、少しだけだが動揺が走る。
融合がE・HEROのキーカードならば、墓地が肥やされていれば、墓地のヒーローたちがまさしく無限大の選択肢を持つミラクル・フュージョンは切り札。
自分がそれを切ったあと、相手が即座にそれを返してきたのだから。

「墓地のスパークマンとエッジマンを融合! 現れろ、《E・HERO プラズマヴァイスマン》!」

E・HERO プラズマヴァイスマン
ATK2600
DEF2300

 金色のヒーロー、エッジマンがスパークマンの電撃を引き継ぎ復活する。
攻撃力自体は変わらないものの、強力な効果を兼ね備えて……!

「そしてリバースカード、《クリボーを呼ぶ笛》を発動! 手札に《ハネクリボー》を加えるぜ!」

 リバースカードはブラフではなくクリボーを呼ぶ笛だったか……ワイルドマンのダイレクトアタックの時に発動せず、まだとっておいたことが幸いしたようだ。

「プラズマヴァイスマンの効果発動! 手札を一枚墓地に送ることで相手の攻撃表示モンスター、つまりシャイニング・フェニックスガイを破壊する!」

 今手札に加えたハネクリボーを手札コストに、プラズマヴァイスマンは電撃により光り輝くヒーローを破壊した。

「シャイニング・フェニックスガイが破壊された時、僕のリバースカードが発動する。《D―タイム》を発動!」

 D―タイム……!?
三沢ならば知っていたかもしれないが、俺はそんなカード名は一度も聞いたことがなく、初めて見るカードだった。

「僕のフィールドのE・HEROがフィールドを離れた時、そのモンスターのレベル以下の《D―HERO》を手札に加える。僕はダイヤモンドガイを手札に加える」

D―HERO。
またも、聞いたことの無いシリーズカード名がエドの口から語られる。
まさか、前述のミラーマッチの話の際、俺は青眼を例えに出したが……まさか、それと似たような出自のカードか……!?

「なんだか良くわかんねぇけど、バトル! プラズマヴァイスマンでクレイマンに攻撃! プラズマ・パルサーション!」

 電撃を纏った腕による攻撃に、いくらクレイマンであろうとも耐えきれない。
更に、プラズマヴァイスマンのもう一つの効果により、エドのライフに貫通ダメージが及ぶ。

エドLP2100→1500

「カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

 先程手札に加えられた、謎のカード《D―HERO》のダイヤモンドガイ。
どんなカードなんだ……?

「……まさか出すことになるとは、やはり僕はまだ未熟だな。僕は《D―HERO ダイヤモンドガイ》を召喚!」

D―HERO ダイヤモンドガイ
ATK1400
DEF1600

 その身体はダイヤモンドで覆われ、アメリカのヒーローらしいE・HEROよりも、どこか西洋のダークヒーローを思わせる雰囲気のヒーロー、ダイヤモンドガイ。
攻撃力は1400とやや低めだから、何らかの効果を持っているだろうが……

「D―HERO。
『DESTINY』
『DESTROY』
『DEATH』の三つの意味が込められた、運命を操るヒーロー……E・HEROを超えるHEROであり、D-HEROを超えるHEROはこの地球上には存在しない」

 運命・破滅・死。
三つのDが込められた、E・HEROを越える運命を操るヒーロー……!

「なら、お前の本当のデッキは……」

「お前が考えている通りだ、黒崎遊矢。E・HEROなどただのオマケに過ぎず、僕の本当のデッキはこのD―HEROたちだ」

 期せずして、エドの本当のデッキのことを知る。
知ると言っても氷山の一角に過ぎず、まだ何なのかはさっぱりわからないが、あのエドが自らのデッキに選ぶほどの力がある、ということ。

「俺のE・HEROたちを馬鹿にすんな! 俺はまだ負けちゃいないぜ!」

「……確かにそうだな。デュエルを再開する」

 E・HEROたちが馬鹿にされたことに十代が怒り、エドがそれを受けてデュエルを再開させる。

 しかし、十代のフィールドには攻撃力2600を誇るプラズマヴァイスマンがいる。
何か突破する策はあるのだろうか……?

「まずはダイヤモンドガイのエフェクトを発動! ハードネス・アイ! デッキの一枚上のカードを確認し、通常魔法カードだった場合は墓地に送る……通常魔法カード《ミスフォーチュン》だ。よって墓地に送る」

 通常魔法カードを墓地に送る効果……?
それだけでは、何がメリットになっているのかすらわからないが、他に何かあるのだろうか。
しかし、俺の予想に反してエドは何の行動も起こさず、代わりに不敵に笑いながら十代に宣言した。

「遊城十代。このデュエルの運命は、僕の勝利で決定している! 更にフィールド魔法《ダーク・シティ》を発動!」

 十代が多用するE・HEROのサポートカード、《摩天楼−スカイスクレイパー》のように、アカデミアの森がせり上がってきた西洋風のビル街となる。

「バトル! ダイヤモンドガイでプラズマヴァイスマンに攻撃!」

 さっきの意味深な勝利宣言もそうだが、攻撃力の劣るダイヤモンドガイで攻撃……?
いや、この光景が摩天楼−スカイスクレイパーに似ていると言うのならば、もしかしたら効果も同じなのではないか……?

「ダーク・シティのエフェクト発動。D―HEROが自らよりも攻撃力の低いモンスターに戦闘を仕掛ける時、攻撃力が1000ポイントアップする!」

「返り討ちにしろ、プラズマヴァイスマン! プラズマ・パルサーション!」

 予想通りに摩天楼−スカイスクレイパーと同じ効果だったが、それだけじゃまだプラズマヴァイスマンの攻撃力に足りない。
まだあるはずだ、十代……!

「ダメージステップに《収縮》を発動! プラズマヴァイスマンの攻撃力を半分にする!」

 プラズマヴァイスマンは、トドメに攻撃力が半分になる収縮を喰らう。
しかも、ダーク・シティは摩天楼と同じ効果ならば、ダイヤモンドガイの攻撃力が上がるタイミングは攻撃宣言時であるため、ダイヤモンドガイの攻撃力1000ポイントアップは止まらない……!

 最終的にダイヤモンドガイの攻撃力は2400、プラズマヴァイスマンの攻撃力は1300だ。

「うわああっ! プラズマヴァイスマンが……」

十代LP1200→100

 十代にはぎりぎり100ポイントのライフが残った。
危なかった……!

「ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!」

 エドの発言を信じるならば、いつ決着がついてもおかしくはない。
十代としては、このターンで勝負を決めたいところであろうが、手札はたった一枚……バブルマンであったとしても、リバースカードがあるから二枚ドローは不可能だ。

「俺はリバースカード、《ヒーローズルール1・ファイブ・フリーダムス》を発動! お互いの墓地から合計五枚のカードを除外する! 俺は、俺の墓地からフェザーマンとバーストレディを、エドの墓地からバーストレディ、フェザーマン、クレイマンを除外する!」

 伏せていたカードはファイブ・フリーダムスか……罠版魂の解放と言って良いカードだが、今の状況では何の意味も……ある。

「行くぜエド! 俺は《平行世界融合》を発動! 除外ゾーンからフェザーマンとバーストレディをデッキに戻し、マイフェイバリットヒーロー《E・HERO フレイム・ウイングマン》を融合召喚!」

E・HERO フレイム・ウイングマン
ATK2100
DEF1200

 ライフが100ポイントである限界の状況の中、平行世界から舞い戻ってきたのは十代のマイフェイバリットヒーロー、フレイム・ウイングマン。
その効果を持ってすれば、エドのライフを0に出来る……!

「バトル! フレイム・ウイングマンで、ダイヤモンドガイに攻撃! フレイムシュート!」

「くっ……」

エドLP1500→800

 フェニックスガイとはまた違った炎の攻撃で、ダイヤモンドガイは無残にも消し飛ぶ。
未だに謎であるダイヤモンドガイも、戦闘破壊耐性のようなものも持っていないようだ。

「トドメだ! フレイム・ウイングマンが相手モンスターを戦闘破壊した時、相手に攻撃力分のダメージを与える!」

 フレイム・ウイングマンがエドに近寄っていき、腕の発射口を向ける。
そして、そこから大火力の炎が発射されエドに浴びせられた。

エドLP800→0

 エドのライフポイントが0になり、十代がいつものポーズを爆煙冷めやらぬエドの方へ向けた。

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 十代の勝利した時のお決まりのセリフだが、何かがおかしい。
どうしても、違和感が拭えない……

「十代! まだデュエルは終わってない!」

「……何言ってんだよ遊矢。もうエドのライフは0になったんだぜ?」

 確かに十代の言うことはもっともだ。
だが。

「だったら何で、フレイム・ウイングマンは消えていない……?」

 通常、デュエルが終わればその役目を終えて消えるはずのソリッドビジョンが、未だに十代の近くから消えない。

 そして、フレイム・ウイングマンの攻撃によって出来た爆煙が、ようやく風にのって消えていく。
その中心には、何事もなかったかのような涼しげな顔をした、エドの姿。
そのライフポイント、残り100ポイント……!

「リバースカード、《ヒーロー・ソウル》。このカードは、HEROが破壊されたターン、ライフが0になった時に自動発動し、プレイヤーのライフに100ポイント加える!」

「何だって!?」

 HEROが破壊されたターン限定の、プレイヤー蘇生カード……!
以前、高田が《インフェルニティ・ゼロ》なるカードを使ってきたが、あれと似たようなカードがあったか……!

「ただ勝つならば誰にでも出来る。……これが、プロのタクティクスだ」

「くそっ……これでターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー」

 しかし、十代のフィールドには十代のマイフェイバリットヒーロー、フレイム・ウイングマンがいるが、エドのフィールドには何もない。頼みの綱のダイヤモンドガイも、フレイム・ウイングマンに破壊されてしまったが……

「僕は前のターンのダイヤモンドガイの効果を発動!」

 前のターンの効果だと……?
前のターンにダイヤモンドガイが使った効果と言えば、通常魔法カードを墓地に送ったことだが……まさか。

「墓地に送った通常魔法は未来に飛ばされ、運命を確定させていた! 《ミスフォーチュン》を発動!」

 デッキトップが通常魔法だった場合、次のターンに発動する『運命』が確定する効果……!
発動に成功させれば、無条件で最低でもアドバンテージが一枚であり、まさしく運命を操るヒーローの効果。

 ……そして、ミスフォーチュンの効果は……

「ミスフォーチュンによって、フレイム・ウイングマンの攻撃力の半分のダメージを与える! ……言ったはずだ、このデュエルの運命は僕の勝利で決定していると」

 ダイヤモンドガイを出した時から、この状況になることが分かっていたのか……!?
そのことに戦慄する暇もなく、十代を、マイフェイバリットヒーローの攻撃力の半分のダメージが襲った……!

「うわああああっ!」

十代LP100→0


 十代も《ヒーロー・ソウル》などといったご都合展開はなく……そもそも十代にはリバースカードが無く……デュエルは、エドの予言通りに決着した。
十代は力が抜けたように、膝を地につけた。

「やはりこんなものか……黒崎遊矢。次はおそらくお前の番だ。せいぜい、簡単には負けないようにするんだな」

 そう言って、エドはまたも港の方へ立ち去っていった。

 ……次はおそらく俺。
勝てるのか、十代をも倒した、あの運命を操るヒーローに……

「……じゃなく、大丈夫か十代!」

 デュエルが終わって脱力した親友に手を貸し、なんとか立たせる。

「いやー負けちまったぜ! 惜しいところまで……っつうか、ライフポイントを0にしたのになぁ」

 見た目より充分元気そうで、いくらかホッとする。
そしたら今度は、何故だかキョロキョロと回りを見回し始めた。

「どうした?」

「いや……相棒がいないんだ。いつもは横にいるんだけどよ」

 相棒……というと、ハネクリボーの精霊のことか。
姿はぼんやりとしか見たことはないが、前に話を聞いたことがある。

「……何言ってんだ、すぐ横にいるぞ?」

 目をゴシゴシと擦ると、なんとかぼんやりと見えるようになった。
……しかし俺が場所を教えても、十代はハネクリボーを探す動作を続ける。

「まさか十代、精霊が……」

 見えなくなったのか、と続ける前に、十代はデュエルディスクの墓地を確認した。
ハネクリボーのカードを、確認しようということなのだろう。

 そして、譫言のように――呟いた。

「……カードが、見えねぇ……」

 
 

 
後書き
ようやく、ストーリーが進行し始めた気がします。

あの子安の暗躍により、カードが見えなくなった十代。
更に、子安の手は彼らをも捕らえていた……!

……次回予告風にするとこんな感じ?
(内容は予告なしで変更する恐れがあります)

では、感想・アドバイス待ってます。 

 

―挑戦状リターンズ―

 カードが見えない。
それが、今回エドに敗れた十代を襲った奇病だった。

 もちろん、あの後すぐに――消灯時間直前に行ったのは悪かったが――鮎川先生のいる保健室に十代と駆け込んで、保健室で1日ゆっくり休んだものの、十代に回復の兆しは見えなかった。

 鮎川先生にも原因もまったく分からず、俺や十代も「デュエルに負けた」程度のことしか言えなかったため、今の十代の症状は、『デュエルに負けたショックによる一時的な異変』としか診断することは出来なかった。

 十代には依然として精霊は見えないようで、俺はぼんやりと、万丈目ははっきりとハネクリボーの姿は十代の横にいることが見えるのだが……

 そして、カードが見えなくなった十代が選んだ選択は……この学園から去ることだった。
このデュエルアカデミアは、ただの遊びではなくあくまでデュエリストの養成校。
つまりはスポーツの専門校などと同じ扱いであり、十代の状態をサッカーで例えるならば、両足を失ってしまった選手のようなものだ。
……そんな選手に、学園に残ってる意味はない……自分として、辛いだけだろう。

 十代は、ナポレオン教頭に停学届けを出し――ナポレオン教頭は当然受け取った――このデュエルアカデミアから、人知れず本土との連絡船で去ったのだった。

 しかし遊城十代のデュエルアカデミアに残した影響は、俺やナポレオン教頭が思っていたよりも大きかった。
オシリス・レッドではあるが、実技に限れば成績トップの三沢大地にも勝るとも劣らない十代に、所属している寮などは関係なく、一目置いている人物は多い為だ。
十代のお膝元であったオシリス・レッド寮では、十代を希望として扱っている者すらいたため、もはやお通夜のような状態である。

 お通夜のような状態と言えば……十代をアニキと慕う、翔と剣山か。
特に翔の方は深刻であり、一日中机に突っ伏している日もあるぐらいだ……流石にそれはどうなんだ、翔。

 そして、逆に苛立っている人物は……俺と万丈目だった。
万丈目は十代のライバルという立ち位置であり――本人は否定するだろうが――苛立っているのも当然のことであろう。

 俺はまあ……当然だろう、その場にいたのだから。
その場にいた自分ならなんとか出来たのではないかと、無謀なことを考えてしまう。

 故に、俺は毎晩毎晩エドを求めて、デュエルアカデミアの森林を歩き回るのであった。

「……くそッ……」

 毒づきながら、今夜も空振りとなった森林を歩き回っていく。
自分がどうにかしたところで、あのデュエルがどうにもならないことは分かっているが……いや、何か出来た筈だという考えが頭から離れない。
自分が友人を見捨てた男だと認めたくないという、つまらない虚栄心から来るものかと思うと、余計に苛立ちが強くなるというものだ。

 ……一息ため息をつき、今日は寝るかとオベリスク・ブルー寮へと続く道から帰ろうとしたのだが、その時。

 木々の間から、途切れ途切れに声が聞こえてくる……いや、これは声というよりは悲鳴と言った方が正しいだろう。
そして、どこかで聞いたことのあるこの悲鳴の正体は……

「……万丈目!?」

 耳に自信がある方ではないが、今のは間違いなくオシリス・レッドの友人の一人、万丈目準の声。
あいつも俺と同様に苛立っていた為に、夜に森林の散歩をしていてもおかしくはないだろう。
そして、何らかの事故があったとすれば……?


「――ッ!」

 出来るだけ急ぎ、声が聞こえた方へ走りだす。
闇のデュエルを体験するようになってからは少しは身体を鍛えているものの、あくまで一般人な自分には万丈目の正確な位置など分からないが、ほうっておくわけにはいかない。

 それに、声が聞こえたということはあまり遠くない筈だ。
ならば自分の足でも間に合うかも……

 だが、そんな俺を妨害するように目の前に男が立ちふさがった。

「お前は……五階堂!?」

 俺の目の前に現れたのは、この前に三沢に挑んで敗れた万丈目を慕う中等部の首席、五階堂宝山だった。
ただし、自らの誇りのように着ていたオベリスク・ブルーの制服は俺と同じ蒼色ではなく、何故か純白であったが……

「斎王様から聞いたぞ黒崎遊矢! 万丈目先輩を学園から追いだしたのは、元はと言えば貴様のせいだそうだな!」

 斎王様? ……誰だか知らないが、五階堂に事実ではあるが、余計なことを吹き込んでくれたものだ……!
しかし、今は知らない人相手に恨み言をを言っている場合ではない。

「その万丈目の悲鳴が聞こえたんだよ! さっさとそこをどけ!」

 しかし、俺の心から万丈目を案じる言葉にも五階堂は動じず、せせら笑ってその場を離れない。

「馬鹿を言うな。今ごろ、万丈目先輩は洗礼を受けているところ。その場を貴様に邪魔されぬよう、貴様をここから通すなとの命令だ!」

 洗礼? 五階堂が何を言っているのかはまったく分からないが、いきなり付けていたデュエルディスクを構えだした。
今の話から分かるのは、五階堂は万丈目を追いだした件で俺を恨んでいることと、その恨みをデュエルで返そうとしていること、万丈目のところに行かせないように誰かに命令されているということだ。

「なら、俺が勝ったらそこを通したもらう!」

「良いだろう! 俺が負けることなど有り得ないからな!」

 デュエルディスクとデッキは、この深夜の散歩の本来の目的であるエドとのこともあって、万全な状態で持ってきている。
こちらもデュエルディスクを構え、五階堂と同じくデュエルの準備が完了する。

『デュエル!!』

遊矢LP4000
五階堂LP4000

 目的の人物とは違えど、出番となったデュエルディスクは『後攻』と示した。

「俺の先攻だな! ドロー!」

 つまり、五階堂の先攻でターンが始まった。

「俺は《切り込み隊長》を召喚! 効果により、更にもう一体の《切り込み隊長》を召喚するぜ!」

切り込み隊長
ATK1200
DEF400

 五階堂のフィールドに現れる、二体の隊長……隊長が二体というのもおかしな話だが……を見て、五階堂のデッキは、三沢と戦った【戦士族軸装備ビート】から恐らくは変わっていないだろう、と当たりをつける。
どちらかに特化しているわけではなく、両方にスイッチ出来る柔軟性を持っていた。

「これで切り込みロックの完成だ! ターンエンド!」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 そうは言うが、楽しんでばかりもいられない。
万丈目の為にも、出来るだけ速攻で終わらせたい……のだが、あまり速攻で攻撃に転ずることが出来る手札ではなく、五階堂のフィールドには切り込みロックが形成されている……仕方がない。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK500
DEF1600

 ガントレットの機械戦士が守備の態勢をとって、切り込み隊長の前に立ちふさがった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!」

 五階堂は勢いよくカードを引き、それをそのままデュエルディスクに叩きつけた。

「そんなザコシリーズ蹴散らしてやるぜ! 俺は《重装武者−ベン・ケイ》を召喚!」

ATK500
DEF800

 歴史上の有名な人物、『武蔵坊弁慶』をモチーフにした戦士族が現れる。
その逸話通り、真の力を発揮するのは武器を装備した時……!

「俺はベン・ケイに《デーモンの斧》と《ビッグバン・シュート》を装備! 合計で攻撃力を1400ポイントアップするぜ!」

 ベン・ケイに、ビッグバン・シュートのオーラが漲るデーモンの斧が装備される。
ここで大事なのは、ベン・ケイの攻撃力が上がったことなどではなく、ベン・ケイの厄介な効果の方だ。

「バトル! 重装武者−ベン・ケイで、ガントレット・ウォリアーに攻撃!」

 ガントレット・ウォリアーがベン・ケイに、珍しく使われたデーモンの斧によって切り払われる。
ビッグバン・シュートを自分のモンスターに装備するのは、本来あまり褒められたことではないが、ベン・ケイの効果と併せると厄介だった……しかも運悪く、《サイクロン》が手札に無い。

「くっ……」

遊矢LP4000→3700

「ベン・ケイは、自分に装備されているカードの数だけ攻撃出来るんだぜ! ベン・ケイで黒崎遊矢にダイレクトアタック!」

「手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了させる!」

 俺の手札から飛び出た速攻のかかしが、ベン・ケイに斬られる代わりに……いつもすまない……バトルフェイズを終了させる。

「フン! そんな小細工で、俺のこの布陣が突破出来るのか!? ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 引いたカードを見て、思わず少し笑う。
このカードならば、切り込みロックを突破出来る!

「俺は通常魔法《ブラック・コア》を発動! 手札を一枚捨てることで、相手のモンスター一体を除外する! 俺は、切り込み隊長を除外!」

 俺の手札一枚を犠牲に、切り込み隊長を久々に登場した黒い穴が飲み込んだ。
それに、このカードがもたらすものはこれだけではない。

「更に、墓地に送られた《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 守備表示で来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 俺の呼びかけに応え、デッキから即座に馳せ参ずるスピード・ウォリアー。
それを見て、五階堂は誰が見ても明らかな嘲笑を見せた。

「ブラック・コアでベン・ケイを除外しないプレミといい、その貧弱なモンスターといい……次のターン、ベン・ケイが蹴散らしてやる!」

「……プレミも貧弱かどうかも、今からやることで判断するんだな! 更に《ミスティック・バイパー》を守備表示で召喚!」

ミスティック・バイパー
ATK0
DEF0

 笛を持つ機械戦士の登場により、俺のフィールドには守備表示モンスターが二体並ぶ。
そうなれば当然、その状況で特殊召喚出来るこのモンスターが出る!

「俺のフィールドに守備表示モンスターが二体のみのため、《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚する!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

 召喚される重火器の機械戦士。
シンクロ召喚の素材にするのは難しいものの、単体での戦闘力なら機械戦士の中でも強い方だ。

「ミスティック・バイパーの効果を発動! このカードをリリースすることで、デッキからカードを一枚ドローする!」

 ……残念ながらレベル1モンスターは引けなかったが、カードを一枚ドロー出来ただけで良しとする。

「そんなモンスターを出したところで、切り込み隊長がいる限りベン・ケイに攻撃は届かないんだぜ!」

「知ってるさ。バックアップ・ウォリアーに装備魔法《ヘル・ガントレット》を装備する!」

 バックアップ・ウォリアーの腕に、先程破壊されたガントレット・ウォリアーとは違ったガントレットが付く。
だが、特にステータスは変わらない。

「バトル! バックアップ・ウォリアーで、切り込み隊長に攻撃! サポート・アタック!」

 重火器による、まったくサポートではない攻撃が切り込み隊長を撃ち抜く。
切り込み隊長は攻撃表示のまま……切り込みロックに頼りすぎだろう、お前。

五階堂LP4000→3100

「ぐ……だが、ベン・ケイさえ無事ならまだ立ち直せるぜ!」

「……悪いがベン・ケイは破壊させてもらう! バックアップ・ウォリアーに装備されたヘル・ガントレットの効果を発動! 自分フィールド場のモンスターをリリースし、このターンのダイレクトアタックを封印することで装備モンスターはもう一度バトル出来る! スピード・ウォリアーをリリース!」

 スピード・ウォリアーがヘル・ガントレットの中に飛び込み輝きだし、バックアップ・ウォリアーが再び動き始める。

「バックアップ・ウォリアー、二度目の攻撃! ベン・ケイにサポート・アタック!」

 二回目も同様に重火器が煌めき、ベン・ケイを蜂の巣にする。

「な、ベン・ケイがやられた……!?」

五階堂LP3100→2900

 【戦士族軸装備ビート】の主力モンスターを、首尾良く倒せたのは良しとしよう。

「ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!」

 ベン・ケイに代わる新たなカードを引かんと、五階堂は気合い充分でカードをドローする。

「チッ……《荒野の女戦士》を守備表示で召喚!」

荒野の女戦士
ATK1100
DEF1200

 しかし、出て来たのは戦士族のリクルーター。
《巨大ネズミ》の下位互換ではあるが、戦士族であるため五階堂のようなデッキには採用される。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 ベン・ケイが破壊されたことで、五階堂は方針を変えて守備を固める。
三沢とのデュエルの時もそう思ったが、攻撃と守備の態勢を変えるのが上手いな、こいつ。

「……バトル! バックアップ・ウォリアーで、荒野の女戦士に攻撃! サポート・アタック!」

 新しいモンスターを召喚し、ヘル・ガントレットのコストやシンクロ召喚に繋げても良いのだが……《ならず者傭兵部隊が出た時に止める術は無い。
シンクロ召喚して除去されてしまったら、悲惨だ……

「荒野の女戦士が破壊されたことにより、荒野の女戦士をデッキから特殊召喚する!」

 ……予想に反し、リクルートされたのは同じく荒野の女戦士だった。
俺が警戒した《ならず者傭兵部隊》は、入っていない確率があることを頭に入れておく。

「メインフェイズ2、《シールド・ウォリアー》を守備表示で召喚」

シールド・ウォリアー
ATK800
DEF1600

 まあしかし、念のために守備を固めておいても無駄ではない。

「ターンエンド」

「俺のターン! ドロー!
……《不死武士》を守備表示で召喚してターンエンド」

不死武士
ATK1200
DEF600

「俺のターン、ドロー!」

 まだまだ、五階堂のフィールドは守りの態勢を崩さないか。
……仕方ない、若干無理をしてでも攻める!

「俺は《ニトロ・シンクロン》を守備表示で召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 爆破するニトログリセリンの名前を冠しているくせに、その外見は消火器のようだ。

「レベル5のバックアップ・ウォリアーで、レベル2のニトロ・シンクロンをチューニング!」

 ニトロ・シンクロンが二つの星になり、バックアップ・ウォリアーを囲む。
バックアップ・ウォリアーは、特殊召喚されたターンのシンクロ召喚を封じるだけで、別にシンクロ素材に出来ないわけじゃない……!

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1800

 機械というより、むしろ悪魔のような形相をした機械戦士がフィールドに降り立つ。
機械戦士の中では、かなりの攻撃力を持つモンスターだ。

「ニトロ・シンクロンの効果によって一枚ドロー……そしてバトル! ニトロ・ウォリアーで、荒野の女戦士に攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力ならば、なんなくリクルーター程度は片付けられる。
更に、五階堂のフィールドには表側守備表示が二体、ダイナマイト・インパクトが発動する……

「リバースカード、オープン! 《攻撃の無力化》を発動し、バトルを終了させる!」

 ……そんなに上手くはいかなかったようだ。
時空の渦に弾かれ、ニトロ・ウォリアーは俺のフィールドへ戻ってくる。

「……ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!
……《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 通常のドローに加えて、強欲な壺が破壊されたことにより更に二枚ドローする。

「ククク……さあ行くぞ! まずは《サイクロン》を発動して貴様のリバースカードを破壊する!」

 竜巻が、俺が1ターン目に伏せたものの、使う機会が訪れなかったリバースカードを破壊する。
ちなみに、《くず鉄のかかし》だ。

「続いて《死者蘇生》を発動! 蘇れ《重装武者-ベン・ケイ》!」

重装武者-ベン・ケイ
ATK500
DEF800

 ここに来てのベン・ケイ蘇生……ベン・ケイに《団結の力》だろうか、それとも三沢戦に出した切り札、《ギルフォード・ザ・レジェンド》であろうか。
どちらにせよ、くず鉄のかかしが破壊された今、ニトロ・ウォリアーとシールド・ウォリアーは破壊されてしまうか……

 しかし、結論から言うと。
五階堂が狙っていた戦術は、俺の予想を超えるものだった。

「俺のフィールドの戦士族を三体リリースし、現れろ! 《ギルフォード・ザ・ライトニング》ッ!」

ギルフォード・ザ・ライトニング
ATK2800
DEF1400

 俺の予想を裏切りながらフィールドに現れたのは、伝説となる前の稲妻の戦士。
しかし、その力は劣っているわけではなく、むしろ全盛期と言っても過言ではない……!

「これが俺があの方から賜った、俺の新しい切り札だ! ギルフォード・ザ・ライトニングの効果を発動! 三体をリリースして召喚された時、相手フィールド場のモンスターを全て破壊する! ライトニング・サンダー!」

 ギルフォード・ザ・ライトニングがかざした剣から放たれた稲妻が、俺のフィールドのニトロ・ウォリアーとシールド・ウォリアーを破壊する。
禁止カードの《サンダー・ボルト》を喰らった気分だ……!

「バトル! ギルフォード・ザ・ライトニングで、黒崎遊矢にダイレクトアタック! ライトニング・クラッシュ・ソード!」

 サイクロンとギルフォード・ザ・ライトニングの効果でフィールドを丸裸にされ、速攻のかかしは使用済み……ギルフォード・ザ・ライトニングの攻撃を止める術は、今の俺にはなかった。

「ぐあああッ!」

遊矢LP3700→900

 一気にかなりのラインが削られる。
ちょっと辛いか……!

「ハーハッハ! これで俺の勝ちは決まっても当然だぜ! ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 まだ勝利宣言するには早いだろう、と言おうとしたが、勝利宣言を言った当人である五階堂は聞いてはくれないだろうから、自分のプレイに集中する。

 しかし、効果は優秀なのは分かるが【装備ビート】にギルフォード・ザ・ライトニングは重いんじゃないか?
人にもらった大事なカードなら、俺がとやかく言えることではないが……

 それはともかく……ファイナルターンだ!

「俺は魔法カード《狂った召喚歯車》を発動! 相手フィールド場のモンスター一体を選択し、相手はそのモンスターと同じレベル・種族のモンスターを特殊召喚する!」

 五階堂のフィールドで俺が選択出来るカードは、ギルフォード・ザ・ライトニング一体のみ。
当然、選択されるカードはギルフォード・ザ・ライトニングとなり、稲妻の戦士と同じレベル・種族のモンスター……つまり、レベル8の戦士族が五階堂のデッキから現れる。

「なに? ……ふん! 俺のフィールドにモンスターを特殊召喚するとはな! 《ギルフォード・ザ・ライトニング》をもう一体特殊召喚する!」

 稲妻の戦士がもう一体特殊召喚された。
流石に三積みはしておらず、また、ギルフォード・ザ・レジェンドは自身の効果で特殊召喚が出来ないために現れない。

「更に、自分の墓地の攻撃力1500以下のモンスターの同名モンスターを三体、デッキ・手札・墓地から全て攻撃表示で特殊召喚する! 現れろ、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアッ!』

 三つの歯車が、マイフェイバリットカード三体に変化する。
これならば、ギルフォード・ザ・ライトニングを倒せる。

「続いて、《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 そして現れる、ロードローラーを模した金色のチューナーモンスター。
専用のモンスターを出せる準備は、既に整っている……!

「レベル2のスピード・ウォリアー二体に、レベル4のロード・シンクロンをチューニング!」

 ロード・シンクロンが四つの星となり、スピード・ウォリアー三体のうち二体を包む。

「集いし希望が、新たな地平へいざなう。光さす道となれ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ、《ロード・ウォリアー》!」

ロード・ウォリアー
ATK3000
DEF1500

 ロード・シンクロンがそのまま巨大化したような、機械戦士たちの皇。
その効果も機械戦士たちをサポートする効果であり、ロードという名前は伊達ではない。

「ロード・ウォリアーの効果により、デッキから《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 ロード・ウォリアーがマント状のパーツから光の道を放ち、そこから中華鍋を逆に被ったようなモンスター、チューニング・サポーターが現れる。

「まだだ! 通常魔法《スターレベル・シャッフル》を発動! スピード・ウォリアーをリリースすることで、スピード・ウォリアーと同じレベルである墓地の《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚する!」

 再び現れる、消火器のチューナーモンスター。
……それにしても、シンクロ召喚を使ってからメインフェイズが長いな。

「レベルを2に変更したチューニング・サポーターと、レベル2のニトロ・シンクロンをチューニング!」

 チューニング・サポーターの効果により、自身のレベルが2に上がる。
それによって、機械戦士唯一のレベル4シンクロモンスターの出番となる……!

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

アームズ・エイド
ATK1800
DEF1200

 機械戦士たちの補助兵装、アームズ・エイド。
名は体を示しまくりであるその名の通り、ロード・ウォリアーの補助兵装となる。

「チューニング・サポーターの効果で一枚ドローし、アームズ・エイドの効果によってロード・ウォリアーにアームズ・エイドを装備する!」

 さあ、もういい加減メインフェイズを……いや、このデュエルを終わらせよう。
ロード・ウォリアーにアームズ・エイドが装備され、攻撃力が1000ポイントアップする。

「バトル! ロード・ウォリアーで、ギルフォード・ザ・ライトニングに攻撃! パワーギア・クロウ!」

 元々、ロード・ウォリアーの攻撃はクロウ。
アームズ・エイドが装備されたことによって、更にその威力は跳ね上がる!

五階堂LP2900→1700

「ええい……! だがまだまだだ!」

「いや、終わりだ。アームズ・エイドの効果を発動! 装備モンスターが相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える!」

 ギルフォード・ザ・ライトニングの元々の攻撃力は2800。
新しくもらったとかいうギルフォード・ザ・ライトニングが墓穴を掘ったな……!

 ロード・ウォリアーによって裂かれたギルフォード・ザ・ライトニングが、主である五階堂の下へ倒れ込んでいく……

「う、うわあああっ!」

五階堂LP1700→0



 デュエルが終了したことにより、ロード・ウォリアーと装備されたアームズ・エイドが消える。
いつもなら決着後のセリフが入るところだが、今はそんなことをしている場合ではない。
悲鳴を出した万丈目のところに行かなければ……!

「どけ五階堂! 万丈目のところに……」

「その必要は無い」

 ザッザッと草を踏みしめながら、五階堂がいた方向から人が歩いてくる。……いや、人、などというぼかした言い方はすまい。

「……万丈目」

 万丈目準が、いつも通りに傲岸不遜な感じで歩いてくる。
別に変なところは見当たらない……一つを除いて。

 万丈目が今着ている制服は、ノース校の制服である漆黒の制服ではなく、純白のオベリスク・ブルーの制服。
今までデュエルしていた五階堂と同じ服……!

「……万丈目、何なんだその白い制服」

「フハハハ、やはり俺様には高貴な白色が似合う! つまり、そういうことだ」

 ……言葉のキャッチボールをしろ、万丈目。
そんな文句を言う前に、万丈目はその白い制服をマントのようにたなびかせて背後を向いた。

「さあ、行くぞ五階堂!」

「はい万丈目さん!」

 万丈目は、そのまま自分の住処であるオシリス・レッド寮に歩いていき、倒れていた五階堂も起き上がってついて行った。
万丈目は嫌いな後輩として、五階堂は変わってしまった先輩として、あいつらは嫌いあってると思ったが……

「ああくそ、何なんだよいったい……!」

 新学期すぐのエドとの来襲から、明らかにこのデュエルアカデミアはおかしい。
しかし、どうにも出来ない自分に歯噛みするのだった。
 
 

 
後書き
クリスマス企画とか、そんなことを考えられる作者さんは凄いですね。

感想・アドバイスを待ってます。 

 

―アイドル決定戦―

 十代が休学してしまい、万丈目と五階堂の様子がおかしくなってしまってから結構な時が流れたが、未だに何かが起きる気配はないが、彼らが元に戻ることもなかった。

 そんな二つの異常事態の中心近くに居合わせた筈の俺だったが、このデュエル・アカデミアで何が起きているのか知る術はなく、何のアクションも起こせないでいた。

 このままでは駄目だと、いずれ高田の時のようになってしまうのではないかと、俺の中の勘はそう告げているものの、何も行動に起こせず日常生活を送っていた。

 その二つの異常に目をつぶれば、今のデュエル・アカデミアはナポレオン教頭が、未だに一部生徒アイドル化を画策している以外は平和なものだった。
……むしろナポレオン教頭のことは、生徒の間では一部の不定期開催のイベントだと認識されているが……

 閑話休題。

 現状でのデュエル・アカデミアの平和は逆を言えば、このデュエル・アカデミアを何かしらの事件に巻き込みたい等を考えている人物は、俺以外の生徒にバレないように水面下で準備を進めていることになるのだが……まあそれは、俺の考えすぎだろう。

 そんなわけで、俺は若干の不安を感じつつも、異常事態に関しては、『待ち』を選択するのであった……



 ……そして今日は、前出のナポレオン教頭の不定期開催イベント……ではなく、一部生徒アイドル化計画によるデュエルが始まるため、俺は三沢と観客席に座っていた。
噂には疎いせいで、翔のラー・イエロー昇格デュエルを始めとする不定期開催イベントのデュエルは見逃してしまうこともあったのだが、今回は親しい人がナポレオン教頭の被害者になったということで、なんとか現場に居合わせていた。

 中央のデュエルフィールドに立っている二名は、我が友人でありながらオベリスク・ブルーの女王、天上院明日香と、妹分の中等部飛び級生徒、早乙女レイだった。

「大丈夫か、あの二人がタッグデュエルだなんて……」

 今回明日香とレイが行うことになったのはタッグデュエル。
それも、相手は一人で明日香とレイはタッグという変則タッグデュエルだった。

 明日香とレイが負けたら、その対戦相手と三人でナポレオン教頭の考えた企画に乗り、明日香とレイが勝てばその時点で企画はボツとなるということだった。

「明日香くんが攻撃、レイくんが防御とコントロールを担当すればなんとかなるだろう」

 隣の席で腕組みをして座っている三沢が、いつも通りに主観を述べてくれるが、俺が心配なのはデッキの相性とかそういう問題ではなく、言うなればプレイヤー同士の相性の問題だった。

「あいつら……たまに笑顔で火花散らしあってるからなぁ……大丈夫なのか?」

 しかも火花を散らし合う時は、大体俺を挟んで散らし合うことが多い……俺が何をした。
そんな俺に、三沢は何かを含むような笑いをこぼしながら、俺の所見を否定した。

「いや、明日香くんとレイくんは普段は仲がいいさ。遊矢が絡んでいる時は感情的になっているが」

 確かに、普段は明日香が姉でレイが妹で何の違和感も無いほど仲が良い。
最初に会った時、いきなり怒鳴り合いした後にデュエルに発展したのから考えれば、とても喜ばしいことだ。

「それは分かってるけどな……っと、対戦相手が来たな」

 デュエルフィールドの明日香とレイが立っているところとは逆の場所に、対戦相手が歩いてきた。
対戦相手の格好と容姿を簡単に伝えるならば、『騎士』という言葉がもっとも相応しいだろう。
更に詳しく言うならば、中世ヨーロッパ風の騎士の正装だった。

 騎士は指を天高く掲げ、観客席に呼びかけた。

「君たち……この指の先には何が見える?」

『天!』

 全員で打ち合わせをしたかのように、タイミングバッチリでオベリスク・ブルー女子から声が挙がる。

「んんんんん~~ジョウイン!」

 ……あー、今更説明する必要も無いとは思うが、まあ、一応言っておくと対戦相手は騎士のコスプレをした吹雪さんだった。
今回のナポレオン教頭のイベントの被害者はこの三人で、容姿・成績ともに優れた三人をアイドル化させたかったらしい。

 その計画に明らかに悪ノリした吹雪さんが加わった結果、もはや専用の衣装まで持ちだす始末であった。
それを、自分たちの勝手なアイドル化反対を表明した明日香とレイがデュエルを申し込み……今に至る。

「兄さん……はぁ」

「あはは……


 兄である吹雪さんの奇行にため息をつく明日香に、苦笑いをして若干引くレイ。
そんな二人に、ナイト吹雪さん(自称)は向き直った。

「もう一度だけ言おう。君たちがアイドルになれば、確実に君たちの想い人を含めた世界中の人々のアイドルになれる! それを拒むのか!」

「……アイドルなんて嫌よ!」

「恋する乙女は、一人だけの愛で良いんだから!」

 ナイト吹雪さんの問いに、二人は拒絶の意志を表明しながら、デュエルディスクを展開した。
……しかし明日香、答えるのに少し間があったが、もしかしてちょっと興味あるんじゃないのか……?

「それでこそ、我が妹に弟分の妹……だけど、ナイトは負けないからナイトだ!」

 吹雪さんもわけのわからないことを言いつつ、負けじとデュエルディスクを展開する。
もちろんデュエルディスクにもきちんと塗装がしてあり、騎士の姿にも違和感なく溶け込んでいる……あれが噂の、無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術だろう。

 ……ああ、ちなみに、ナイト吹雪さんが言う弟分とは俺のことで、何故だか俺のことをそう呼ぶ。
そうすると、何故か明日香が顔を真っ赤にしながら怒って、吹雪さんが逃げる……まあいいか。

 そんなことより、デュエルが始まるようだから。

『デュエル!』

明日香&レイ
LP8000

ナイト吹雪
LP8000


「僕の先攻、ドロー!」

 どうやらナイト吹雪さんが先攻に選ばれたようで、まずはカードを一枚ドローする。

「僕は《エア・サーキュレーター》を守備表示で召喚!」

エア・サーキュレーター
ATK0
DEF600

 数少ない水族・風属性モンスターが守備表示で現れる。
見た目はただの機械であり、とても今のナイト吹雪さんの格好とは不釣り合いだ。

「エア・サーキュレーターが召喚された時、手札を二枚捨てて二枚ドローする」

 しかし、たとえ似合っていなくとも、生きる手札断殺とも呼べる効果は強力で、しかももう一つの効果もある。

「僕はこれでターンエンドだよ」

「私のターン、ドロー!」

 手札交換のみでターンを終えた吹雪さんに対し、明日香&レイタッグはまずは明日香からだった。

「私は《聖騎士ジャンヌ》を召喚!」

聖騎士ジャンヌ
ATK1900
DEF1300

 サイバー・ガールではないが、優秀な戦士族サポートを持ち、アタッカーにもなって女性型モンスターということで明日香のデッキにも合っているモンスター、聖騎士ジャンヌ。

「バトル! 聖騎士ジャンヌで、エア・サーキュレーターに攻撃! セイクリッド・ディシジョン!」

 聖騎士ジャンヌは攻撃する時、効果によって自身の攻撃力を300ポイント下げとしまうが、相手の守備力はわずか600、危なげなく破壊する。
だが、エア・サーキュレーターの効果が発動する。

「エア・サーキュレーターの効果。破壊された時、カードを一枚ドローするよ」

 これで、エア・サーキュレーターを召喚したことによる損失は0。
手札交換が出来たことで、実際には+されたと言って良いだろう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン。ドロー!」

 タッグデュエル用のタッグフォース・ルールでデュエルは進行するが、ナイト吹雪さんは一人のため、またナイト吹雪さんのターンとなる。

「僕は《思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスターである、《クイーンズ・ナイト》を特殊召喚する!」

クイーンズ・ナイト
ATK1500
DEF1600

 エア・サーキュレーターの効果で墓地に送っていたのであろうカード、クイーンズ・ナイト……!
絵札の三銃士と呼ばれるカードの一枚で、かのデュエルキング武藤遊戯も使っていたという。
今回の吹雪さんの格好とクイーンズ・ナイトから、恐らくはあのデッキで間違いないだろうが……

「更に《キングス・ナイト》を召喚!」

キングス・ナイト
ATK1600
DEF1400

 老齢の騎士が現れ、これで今回の吹雪さんのデッキが何なのか確定する。
すなわち……

「【絵札の三銃士】……」

 俺と同じく、明日香が静かに結論を出した。
光属性・戦士族という優良なサポートカードを使いつつ、キングス・ナイトの効果で展開し、融合や専用サポートカードで攻め立てるデッキである。

「流石はアスリン。ならばキングス・ナイトの効果を発動! クイーンズ・ナイトがフィールドにいる状態で召喚に成功した時、デッキから《ジャックス・ナイト》を特殊召喚出来る! 来い、ジャックス・ナイト!」

ジャックス・ナイト
ATK1900
DEF1000

 ジャックス・ナイトがデッキから現れたことで、正義の三銃士がフィールドに揃う……中心でポーズをとっているナイト吹雪さんが、意外にも溶け込んでいた。

「永続魔法《騎士道精神》を発動するよ」

 永続魔法《騎士道精神》。
十代が一年生の時に入れていた、同じ攻撃力のモンスターがバトルする時に自分のモンスターは破壊されない、というイマイチ扱いに困るカードである。
何故そんなカードが【絵札の三銃士】に入っているかと問われれば……まあ、カード名が全てを物語っているだろう。

「バトル! ジャックス・ナイトで聖騎士ジャンヌを攻撃!」

 しかし、そんな効果も今となっては厄介だ。
このままでは明日香は、聖騎士ジャンヌを破壊され、キングス・ナイトとクイーンズ・ナイトのダイレクトアタックを食らってしまうが……

「トラップ発動! 《ドゥーブルパッセ》!」

 ……明日香の使う扱いにくいカードの筆頭、ドゥーブルパッセが姿を現した。

「ジャックス・ナイトの攻撃は私へのダイレクトアタックになり、聖騎士ジャンヌは相手プレイヤーにダイレクトアタックするわ! セイクリッド・ディシジョン!」

 ジャックス・ナイトが明日香を斬りつけ、ドゥーブルパッセによって守られた聖騎士ジャンヌはナイト吹雪さんを斬りつけた。
聖騎士ジャンヌとジャックス・ナイトの攻撃力は同じだが、聖騎士ジャンヌは自身の効果で攻撃力が300ポイント下がる為に、ライフはナイト吹雪さんの方が上となった。

明日香LP8000→6100

ナイト吹雪LP8000→6400


 しかし、そのかいあって絵札の三銃士の残り二人は、聖騎士ジャンヌの攻撃力には届かない。

「……やるね、アスリン。バトルを終了し、通常魔法《テラ・フォーミング》を発動。デッキから《フュージョン・ゲート》を手札に加えよう」

 モンスターを除外することで融合が出来るフィールド魔法、フュージョン・ゲート。
それを手札に加えたということは、何を出そうとしているかは自ずと分かる。

「いくよ! フュージョン・ゲートを発動し、絵札の三銃士を融合!」

 空中に時空の穴が出現し、絵札の三銃士たちが吸い込まれていく。
そして代わりに、一体の融合モンスターとなって再生される……!

「降臨せよ、天位の称号を持つ究極融合剣士! 《アルカナ ナイトジョーカー》!

アルカナ ナイトジョーカー
ATK3800
DEF2500

 絵札の三銃士が融合したモンスターであり、その攻撃力は圧巻の3800。
更に、一定条件で効果を無効化する効果まで備えている。

「僕はターンエンドだ」

「楽しんで勝たせてもらうわ! ボクのターン、ドロー!」

 そんな奴相手に、レイはどうするか……?

「ボクは《恋する乙女》を守備表示で召喚!」

恋する乙女
ATK400
DEF300

 このタイミングで出て来たのは、レイの分身とも言えるカードである恋する乙女。
しかし、まだコンボパーツが集まっていないのか、アルカナ ナイトジョーカーの攻撃力を警戒したのか、その効果をまったく生かせない守備表示による登場だった。

「聖騎士ジャンヌを守備表示にして、カードを一枚伏せてターンエンドだよ」

「僕のターン、ドロー!」

 レイの基本的に非力なデッキでは、アルカナ ナイトジョーカーを倒すのは少し厳しい。
故に、守備を固めたのだろうが……そのまま明日香にターンを渡すのを、吹雪さんが許すだろうか。

「このままバトル! アルカナ ナイトジョーカーで、聖騎士ジャンヌに攻撃! ライトニングブレード!」

「リバースカード、《炸裂装甲》を発動! アルカナ ナイトジョーカーを破壊するよ!」

 レイの前に現れる、ほぼ全ての攻撃を防ぐ罠。
しかし、ここは対象をとらない《和睦の使者》のようなカードでなくてはダメだった……!

「アルカナ ナイトジョーカーの効果発動! 相手が発動したカードと同じ種類のカードを捨てることで、その効果を無効にする……僕は手札から罠カードを捨て、炸裂装甲を無効にする!」

「えぇ!?」

 レイの驚きの声と共に、炸裂装甲によって生じた爆発ごと、聖騎士ジャンヌは斬られてしまう。
ここで、聖騎士ジャンヌのメリット効果の発動タイミングであるが……レイはそれを使わなかった。
使っても墓地に戦士族はおらず、ただ聖騎士ジャンヌを手札に加えても意味がないと考えたのだろうか。

「僕はターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 アルカナ ナイトジョーカーの効果の為か、ナイト吹雪さんはあまり手札を場に出さずに静観している。
そこを、ターンが回ってきた明日香はどうするか……

「私は《サイバー・ジムナティクス》を守備表示で召喚!」

サイバー・ジムナティクス
ATK800
DEF1800

 体操選手のような格好をしたサイバー・ガールが現れ、守備の態勢をとる。
効果破壊専門のサイバー・ガールであり、今のように攻撃力が高いモンスター用に入れてあるのだろうが……どうだ?

「サイバー・ジムナティクスの効果を発動! 手札を一枚捨てることで、相手攻撃表示モンスターを破壊する!」

「もちろん無効にさせてもらうよ。手札からモンスターを捨て、効果を無効にする!」

 アルカナ ナイトジョーカーの剣からほとばしった衝撃波に、サイバー・ジムナティクスの動きが中断される。
しかも、手札コストは払われてしまった為に戻っては来ない。

「……カードを一枚伏せて、ターンエンドよ」

「僕のターン。ドロー!」

 明日香とレイの劣勢のまま、吹雪さんにターンが移る。
アルカナ ナイトジョーカーの高い制圧力を、観客席はまざまざと見せつけられていた。

「僕のスタンバイフェイズ、墓地に眠る《キラー・スネーク》の効果を発動。このタイミングでこのカードが墓地にある時、手札に戻すことが出来る!」

 無限コストとして名高いキラー・スネーク……さっきのアルカナ ナイトジョーカーの効果で捨てていたのだろう。
そしてそれは、一ターンに一度モンスター効果を封じ込められた、ということと同義だった。

「メインフェイズ、僕は《クイーンズ・ナイト》を召喚!」

 もはやキラー・スネークがいるためにアルカナ ナイトジョーカーの効果に使うまでもないのだろう、クイーンズ・ナイトがフィールドに現れる。

「バトル! クイーンズ・ナイトで、恋する乙女を攻撃! クィーンズ・セイバー・クラッシュ!」

 一気に攻勢に入ったナイト吹雪さんに対し、まずは恋する乙女がなすすべもなく破壊されてしまう。

「続いてアルカナ ナイトジョーカーで、サイバー・ジムナティクスを攻撃! ライトニングブレード!」

 サイバー・ジムナティクスの守備力もまあまあ高いが、やはりアルカナ ナイトジョーカーの攻撃力が圧倒的。
破壊効果を活かせず、そのまま破壊され……

「トラップカード《奇跡の残照》を発動! このターンに破壊された《サイバー・ジムナティクス》を特殊召喚するわ!」 

 ……俺がトレードしたカードによって蘇生され、再び現れる体操選手のようなサイバー・ガール。

 
「サイバー・ジムナティクスじゃ、僕のアルカナ ナイトジョーカーは止められないよ……ターンエンド」

「ボクのターン! ドロー!」

 タッグデュエルで足手まといにならないようにするためか、いつも以上に気合いが入ってレイはカードを引いた。

「……よし! ボクはカードを一枚伏せて、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を召喚する!」

ミスティック・ベビー・ドラゴン
ATK1200
DEF800

 レイの切り札であるドラゴンだが、ベビーの名が示す通りにまだ小さく、攻撃力も僅か1200……だが攻撃表示で出したのだから、何かしらの策はあるのだろう。

「更に魔法カード《ユニオン・アタック》! 明日香さんのサイバー・ジムナティクスの攻撃力を、ボクのミスティック・ベビー・ドラゴンに足す!」

 サイバー・ジムナティクスの攻撃力は800なので、ミスティック・ベビー・ドラゴンの攻撃力は2000。
クイーンズ・ナイトは超えたものの、アルカナ ナイトジョーカーには遠く及ばない。

「バトル! ミスティック・ベビー・ドラゴンで、クイーンズ・ナイトに攻撃! ミスティック・ベビー・ブレス!」

 イメージ通りのメルヘンチックな炎が口から放たれ、クイーンズ・ナイトを破壊する。
だが、ユニオン・アタックで強化されたモンスターが戦闘した時、相手への戦闘ダメージは0になってしまう。
よって、ナイト吹雪さんにはダメージは通らない。

「フッ……レイちゃん。それなら確かに君の切り札は呼べるだろうが、君のドラゴンではアルカナ ナイトジョーカーは倒せないよ?」

「そんなことない、恋する乙女に不可能は無いんだから!」

 いつものトンデモ理論を炸裂させ、レイが手札のカードを一枚デュエルディスクに差し込んだ。

「これでアルカナ ナイトジョーカーを倒すよ! 魔法カード、《痛み分け》を発動!」

 レイが発動を宣言したカードの効果を思いだし、ナイスだレイ、と小さくガッツポーズをとる。
アルカナ ナイトジョーカーの効果は一見強力な効果なのだが、致命的な落とし穴が一つある。
それは、対象を取らないカードを防げないということだ。

「明日香さんのサイバー・ジムナティクスをリリースすることで、相手はモンスター一体をリリースすることになるよ!」

 そして、ナイト吹雪さんのフィールドにいるモンスターはアルカナ ナイトジョーカーのみ……よって選択されるのは、必然的にアルカナ ナイトジョーカー……!

 ナイト吹雪さんの手によってリリースされ、遂に場を支配していた天位の称号を持つ究極融合剣士が墓地に送られた。

「そしてエンドフェイズ……ミスティック・ベビー・ドラゴンをリリースすることで、来て! 恋する乙女を守る竜、《ミスティック・ドラゴン》!」

ミスティック・ドラゴン
ATK3600
DEF2100

 レイの見事なコンボにより、レイたちのフィールドにはミスティック・ドラゴン。
ナイト吹雪さんのフィールドは何も無しという状況となった。

「ボクだって、明日香さんの足手まといにはならないんだから! ターンエンド!」

「やれやれ、まいったね……僕のターン、ドロー!」

 レイの切り札であるミスティック・ドラゴンを前に苦笑いし、それでもナイト吹雪さんは余裕を持ってカードを引く。

「僕は《シャインエンジェル》を守備表示で召喚!」

シャインエンジェル
ATK1400
DEF800

 光属性のリクルーターであるシャインエンジェルが守備表示で召喚されたため、流石のナイト吹雪さんでもミスティック・ドラゴンの前には防御に回るしかないようだ。

「僕はターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 ナイト吹雪さんが守りに入った今ならば、明日香が攻め込みチャンスだ。
そして、明日香の性格ならば必ず……攻め込む。

「兄さんのフィールド魔法、《フュージョン・ゲート》の効果を発動! 融合素材を除外することで、融合召喚出来る! 《エトワール・サイバー》に、《ブレード・スケーター》を融合!」

 フュージョン・ゲートはナイト吹雪さんが融合に使ったカードであるが、フィールド魔法であるが故に明日香も使用出来る。
二体のサイバー・ガールが、絵札の三銃士と同じように時空の穴に吸い込まれ、明日香の融合のエースカードが帰ってくる。

「来なさい! 《サイバー・ブレイダー》!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 これで明日香たちのフィールドには、明日香のエースカードであるサイバー・ブレイダー、レイのエースカード、ミスティック・ドラゴンにリバースカードが一枚。

「バトル! サイバー・ブレイダーで、シャインエンジェルを攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 一気に攻勢に出た明日香の前に、所詮はリクルーターであるシャインエンジェルには耐えられはしない。
だが、シャインエンジェルは……いや、リクルーターは破壊されるのが仕事だ。

「シャインエンジェルの効果により、シャインエンジェルを再び特殊召喚する」

 同名カードのリクルート。
時間稼ぎとしては有効な一手だが、その効果の特性上、特殊召喚されたリクルーターは攻撃表示であることが弱点だろう。
無論、そこを見逃す明日香ではない。

「レイちゃんのミスティック・ドラゴンで、シャインエンジェルを攻撃! ミスティック・ブレス!」

 攻撃方法はミスティック・ベビー・ドラゴンと同じだが、桁違い……いや、桁は同じだが……の攻撃がシャインエンジェルに放たれた。

ナイト吹雪LP6400→4100

「くっ……シャインエンジェルの効果で《クイーンズ・ナイト》を特殊召喚する。それにしても、なかなかのコンビネーションじゃないか、二人とも……やはりこれはアイドルに活かすべ」

「ターンエンドよ!」

「……僕のターン、ドロー」

 あくまでも余裕を崩さず、未だに二人をアイドルに誘うナイト吹雪さんの言葉を妨げて明日香がエンド宣言を行ったために、ナイト吹雪さんがしぶしぶドローした。

「フッ……来たね。僕は永続魔法《魔力倹約術》と、《次元融合》を発動! 2000のライフコストを無効にし、お互いに除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する!」

 次元融合。
除外ゾーンから可能な限り特殊召喚するという、単純かつ強力な効果を持っているのだが、初期ライフの半分である2000ポイントを払うというのは痛いので、相互互換カードの《異次元からの帰還》が使われることが多い。
よって、使うには今のようにコストを踏み倒す《魔力倹約術》を使うのが主流だ。

「僕は除外ゾーンより、絵札の三銃士を特殊召喚!」

「私は、エトワール・サイバーと、ブレード・スケーターの二体を守備表示で召喚するわ」

 異次元からの帰還にないデメリットとして、相手のモンスターをも特殊召喚してしまうこともある。

 これで、ナイト吹雪さんのフィールドのモンスターは絵札の三銃士+クイーンズ・ナイト。
明日香たちのフィールドには、ミスティック・ドラゴンにサイバー・ブレイダー、そして、今特殊召喚されたエトワール・サイバーとブレード・スケーターだ。

 しかし、不利なのは明らかにナイト吹雪さんの方だ。
ここでアルカナ ナイトジョーカーを特殊召喚してしまうと、ナイト吹雪さんのフィールドのモンスターは二体なので、サイバー・ブレイダーの第二の能力が発動し、アルカナ ナイトジョーカーの攻撃力を超える。
だからといってもう一体モンスターを召喚し、サイバー・ブレイダーから破壊してしまうと、高攻撃力のミスティック・ドラゴンが残り、持ち主であるレイのターンに移る。
 さて、どうするのか……?

「僕のフィールドのモンスターは四体。よって、サイバー・ブレイダーの効果は発動しない……通常魔法《ロイヤル・ストレート》を発動!」

「え、融合しないの……?」

 出て来た見覚えのないカードに、レイが困惑の声を出す。
飛び級でこの学園に入ったとはいえ、未だに中学生であるレイを責めるのは酷であろう。
まあ恥ずかしながら俺も、今まで融合しか頭になかったわけだが……

「自分フィールド場の絵札の三銃士をリリースすることで、デッキから《ロイヤル・ストレート・スラッシャー》を特殊召喚する!」

ロイヤル・ストレート・スラッシャー
ATK2400
DEF2000

 専用魔法カード《ロイヤル・ストレート》のみによって現れる、アルカナ ナイトジョーカーとは違う、もう一つの絵札の三銃士の合体系、ロイヤル・ストレート・スラッシャー。
その効果も、アルカナ ナイトジョーカーとは似ても似つかぬ攻撃的な効果……!

「ロイヤル・ストレート・スラッシャーは、デッキからレベル1・レベル2・レベル3・レベル4・レベル5のモンスターをそれぞれ1体ずつ墓地へ送る事で、相手フィールド上に存在するカードを、全て破壊する!」

「ええっ!?」

「チェーンしてレイちゃんのリバースカード、《ダメージ・ダイエット》! このターン受ける、全てのダメージを半分にするわ!」

 ダメージ・ダイエットはなんとか発動されたものの、ナイト吹雪さんのデッキから五枚墓地に送られたことで、ロイヤル・ストレート・スラッシャーの効果が起動した。
その手に持つ剣が光り輝き、前に戦った五階堂の《ギルフォード・ザ・ライトニング》のように、明日香たちのフィールドを全て破壊した。

「続いて、《キングス・ナイト》を召喚。効果により、《ジャックス・ナイト》を召喚するよ」

 またも揃う絵札の三銃士。
いくら展開力に優れているとはいえ、これほどまでにやれるのはデュエリストの腕だろう。

「融合……と、いきたいところだけど、先にバトルさせてもらうよ! クイーンズ・ナイトでダイレクトアタック! クィーンズ・セイバー・クラッシュ!」

 ロイヤル・ストレート・スラッシャーの効果で全て破壊され、明日香のデッキには《速攻のかかし》等のカードは入っていない。
結果として、クイーンズ・ナイトだけでなく、他の絵札の三銃士と、ロイヤル・ストレート・スラッシャーのダイレクトアタックを受けることとなった。

「くうっ……!」

明日香&レイLP6100→2400

「フッ、メインフェイズ2。フュージョン・ゲートの効果を使い、絵札の三銃士を融合し、アルカナ ナイトジョーカーを融合召喚する!」

 絵札の三銃士が時空の穴に吸い込まれ、天位の称号を持つ究極融合剣士が再び現れる。
これでまた、対象をとる効果を無効にされてしまう危険性が浮上してしまった。

「僕はこれでターンエンド」

「……負けないんだから! ボクのターン、ドロー!」

 かなり不利な状況に、レイが気合いを入れてカードを引く。

「……《ミスティック・エッグ》を守備表示で召喚!」

ミスティック・エッグ
ATK0
DEF0

 《ミスティック》シリーズの、試験で使用した《スパイク・エッグ》とはまた違う卵が守備表示で現れる。
確か……戦闘で破壊された時、エンドフェイズにミスティック・ベビー・ドラゴンを特殊召喚する、だったか。

「更にカードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 気合い充分だったが逆転には至らず、レイは無念にもナイト吹雪さんにターンを譲る。

「再びロイヤル・ストレート・スラッシャーの効果を発動! デッキからレベル1・レベル2・レベル3・レベル4・レベル5のモンスターをそれぞれ1体ずつ墓地へ送る事で、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する!」

 まだ使えたか……!
再びロイヤル・ストレート・スラッシャーの剣が輝き、レイのフィールドを切り裂いた。

「チェーンして《ホーリーライフ・バリアー》を発動! 手札を一枚捨てて、このターンのダメージを0にする!」

 手札一枚をコストに、レイと明日香を薄いバリアが護る。
ぎりぎり一ターン耐え抜いた、といったところだが……

「ターンエンド」

「私のターン、ドロー!
……《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 強欲な壺が破壊され、明日香はカードを二枚引く。

 レイはどちらかと言うと防御用のカードが多いが、逆に明日香は防御用のカードは少ない。
明日香にはあの二体の攻撃を防ぐのは難しいと思うが……防御に回らなければいい。

 方法は簡単だ。
アルカナ ナイトジョーカーを倒せば良いのだから。

「《再融合》を発動! 800ポイントのライフを払ってこのカードを装備することで、《サイバー・ブレイダー》を特殊召喚する!」

 明日香の融合のエースカードが蘇生される。
そして、ナイト吹雪さんのフィールドのモンスターの数は二体。

「兄さんのモンスターの数は二体! サイバー・ブレイダーの効果により、攻撃力は倍になる! パ・ド・トロワ!」

 これでサイバー・ブレイダーの攻撃力は4200となり、アルカナ ナイトジョーカーの攻撃力を超える。

「更に《儀式の準備》を発動! デッキからレベル7以下の《サイバー・エンジェル−弁天》を手札に加え、墓地から《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」


 儀式の準備……レベル7以下限定だが、カード一枚で儀式の用意が出来る優秀なカード……って、墓地から機械天使の儀式?

「いつの間に……そうか、サイバー・ジムナティクスの時だね」

 ナイト吹雪さんの言葉に、俺はなるほど、と納得する。
アルカナ ナイトジョーカーに無効にされた、サイバー・ジムナティクスの効果の手札コストで捨てていたようだ。

「いくわよ! 《機械天使の儀式》を発動! 《サイバー・プリマ》を墓地に送り、《サイバー・エンジェル−弁天−》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル−弁天−
ATK1800
DEF1500

 明日香の儀式のエースカード、サイバー・エンジェル−弁天−がフィールドに現れ、明日香の融合と儀式の二代エースカードが並ぶ。

 儀式の準備で使い勝手の良いサイバー・エンジェル−韋駄天−を選択せず、効果ダメージを誘発出来るサイバー・エンジェル−弁天−を選んだということは……このターンで終わらせる気なのだろう。

「サイバー・エンジェル−弁天−に、《リチュアル・ウェポン》を装備する!」


 レベル6以下の儀式モンスター限定という厳しい縛りはあるものの、攻撃力・守備力が1500ポイントもアップする。
よってサイバー・エンジェル−弁天−の攻撃力は、3300。

「バトル! サイバー・ブレイダーで、アルカナ ナイトジョーカーに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 天位の称号を持つ究極融合剣士であろうとも、攻撃力が倍になったサイバー・ブレイダーには適わない。
何体ものモンスターを破壊した剣は避けられ、蹴りを入れられてアルカナ ナイトジョーカーは破壊する。

「く……」

ナイト吹雪LP4100→3700

「続いてサイバー・エンジェル−弁天−で、ロイヤル・ストレート・スラッシャーに攻撃! エンジェリック・ターン!」

 両手に持つ扇を煌めかせ、今度は儀式のエースがロイヤル・ストレート・スラッシャーに向かう。

 だが、その効果を使用してもナイト吹雪さんのライフは残ってしまう。
だったら何故、サイバー・エンジェル-弁天-を選択したんだ……?

 そのことにナイト吹雪さんも気づいたのか、ニヤリと顔を笑わせる。

「ミスしたね、アスリン。韋駄天の方を選んでいれば……」

「いいえ。これで終わりよ! レイちゃんの墓地からトラップ発動! 《スキル・サクセサー》!」

 スキル・サクセサー……墓地から発動出来る珍しいトラップだが……ホーリーライフ・バリアーの時か……!

 サイバー・エンジェル-弁天-の攻撃力が更に上昇し、ナイト吹雪さんのライフを削りきれるようになった……!

「言ったでしょ、足手まといになんてならないんだから!」

 レイの叫びに呼応したかのように、サイバー・エンジェル-弁天-がロイヤル・ストレート・スラッシャーを切り裂いた。

「え……ちょ、待っ…」

ナイト吹雪LP3700→1900

「サイバー・エンジェル-弁天-の効果を発動! 戦闘で破壊したモンスターの守備力のダメージを与える!」

 ロイヤル・ストレート・スラッシャーの守備力は……2000。
ナイト吹雪さんが待てという話も聞かず、無慈悲にもサイバー・エンジェル−弁天−はナイト吹雪さんを攻撃した。

「うわああああっ!」

ナイト吹雪LP2000→0

 サイバー・エンジェル−弁天−の効果ダメージが炸裂し、ナイト吹雪さんの敗北でデュエルは終結を迎えた。

 ナイト吹雪さんは最後まで騎士のように振る舞い、余裕気に立ち上がった。

「ハハハ……負けちゃったよ。アスリン、レイちゃん」

「……アスリンは止めて。それと、本気を出してない相手に二人がかりで勝ったって嬉しくないわ」

 明日香はその言葉通り、勝ったにも関わらず憮然とした表情をしていた。

「えっ……あれで本気出してないの!?」

「酷いなぁ、アスリン。僕はいつだって本気さ」

 ナイト吹雪さんは笑って肩をすくめるが、半分冗談だろうな、と俺は思った。

 確かにナイト吹雪さんは本気だったが、あくまで【絵札の三銃士】での本気だろう。
吹雪さんの本気である【真紅眼の黒竜】では無いのだから。

 妹である明日香は、他人よりもそれが分かってるんだろうな。

「アスリンの言いたいことは分かるけど、僕は全力を出したよ……それじゃあ最後に、この指の先に何が見える?」

『天!』

「んんんん」

 悪いが割愛する。

 いい加減諦めれば良いのに、明日香はため息をつきながらもレイと顔を合わせ、勝った合図のように弱く拳を合わせた。

 先程のデュエルの時のコンビネーションといい、仲のいい姉妹のように見えて、見てて微笑まし……かった。
デュエルフィールドから降りる途中、何か会話したかと思うと、少し睨み合って火花を散らしあっていた。

 ああもう、お前等は仲が良いのか悪いのか……前の席に俯いて肩を落とす俺に、三沢が隣から肩に手を置いた。
 
 

 
後書き
なんだか無意味に長くなった……

感想覧で、「遊矢は、十代のいないデュエルアカデミアでどう行動するのか」という感想が良く目に付きましたが、彼が選んだのは本文中にあるように『待ち』でした。

いやしかし、転生者でない遊矢がいきなり「エドのマネージャーの斎王に憑いてる破滅の光が原因だ!」と言えるはずが無いので……ご勘弁ください。

感想・アドバイスを待ってます。
 

 

―Cyber VS HERO―

 
前書き
新年、明けましておめでとうございます。 

 
 アイドル決定戦からまた、しばらく経った。

 相変わらずの白い制服姿である万丈目に詰め寄ってみるも――それしか出来ないのが悲しいところだ――万丈目は、「白は全てを司る神秘の色! どこにそんな俺に相応しい色を身につけない理由がある!」などと、訳の分からないことを叫び、取り合ってもらえない。

 エドも現れず、結局、俺は何も出来ないのだった――


 デュエル・アカデミアのブルー寮、大ホール。
そこで、俺と三沢は二人でたてつけられた大きなテレビを見ようとしていた。
周りには生徒の数も多く、その誰もがテレビ画面を今か今かと待ちわびている。

 本来ならば、明日香やレイも誘いたかったものの、デュエル・アカデミアのブルー女子寮が男子禁制であるように、その逆もまたしかりなのだ。
このルールは、意外と昔ながらの考え方を持ったクロノス教諭が定めたもので、ブルーの男子生徒からは大ひんしゅくを食らったものの、「どうせ女子生徒はこっちに近づかないノーネ!」というクロノス教諭の言葉(現実)に黙るしかなかった。

 翔や剣山らのグループを誘っても良いが、彼らはオシリス・レッドの方で見るだろう。
明日香やレイも同様に、彼女たちの居場所で見るだろう。

 何故ならば、今回テレビで描かれるのは、デュエルモンスターズのプロリーグのデュエルの中継。
いや、それだけならば見ない生徒――具体的に言うと十代のような生徒―もいるだろうが、今回の戦いはまた別だ。

『さあーいよいよ始まるぞぉ、今回の対戦カードは……』

 プロリーグのMCが開催を告げるにつれて、大ホールに集まった生徒が一旦ざわめくが、次第に静かになっていった。

『どちらもプロ入りを果たしてからは連戦連勝の二人! カイザー亮こと丸藤亮VSエド・フェニックスー!』

 そう、今日のプロリーグの戦いは亮とエドの戦い。
俺にとっては、親友と倒すべき奴とのデュエルであり、一般的には連戦連勝を続ける人気のプロデュエリスト同士のデュエルでもある。

「遊矢。君はこのデュエルをどう見る?」

「分からない……としか言いようが無い。お前もそうだろ、三沢」

 問いかけてきた三沢も、その答えは予想していたのだろう、俺の質問に即座に頷いた。

 分からないとしか言いようが無い、などという答えを出すことは、俺はともかく三沢の分析力からしたらとても珍しいことだ。
しかし、それも仕方のないことで、実力を良く知る亮はともかく、エドの方はまだ未知数……いや、強いことは良く知っているのだが、あいつは今まで「仮のデッキ」と称し、毎回別のデッキを使ってきていた。
そして、今回の亮とのデュエルを以て、自分の本来のデッキを使う、とのことだ。

 いくら三沢でも、デッキタイプが解らずに考察など出来るわけがない。
……いや、少しだけなら知っているか。

「DESTINY.DESTROY.DEATHの3つの意味を持つヒーロー……《D-HERO》……だったか? それはどうなんだ?」

 エドと十代のデュエルの顛末は、明日香と三沢、レイには話してあるために、D-HEROのことは知っている。
言いふらさないように、とは約束してあるが。

「ああ、あれがエドの本来のデッキなんだろうが……俺は《ダイヤモンドガイ》しか見てないからな……」

 俺と三沢が実にならない考察を続けている間に、テレビでは二人のデュエルが始まろうとしていた。

『さあ準備は良いかー! デュエル・ディスク、セ~ット、オン!』

『デュエル!』

亮LP4000
エドLP4000

『まずは俺のターンから、ドロー』

 先攻はどうやら亮がとったようで、先に亮がカードを引く。

『俺は《サイバー・フェニックス》を召喚』

サイバー・フェニックス
ATK1200
DEF1600

 先攻一ターン目という状況では、サイバー・ドラゴンを出すことは出来ない。
そこで様子見として現れるのが、サイバー・フェニックスであった。

『更に《タイムカプセル》を発動し、ターンエンド』

『僕のターン、ドロー!』

 亮のデッキのカードが一枚、タイムカプセルによって地下に沈み、エドのターンへと移る。
さて、どんなデッキだ……?

『僕は《E・HERO スパークマン》を守備表示で召喚する』

E・HERO スパークマン
ATK1600
DEF1400

 様々な融合素材となる、光り輝くE・HERO……攻撃表示にしてもサイバー・フェニックスは突破出来ないために、守備表示にするのは順当だろう。

『おおっーと、エドのフィールドに現れたのは、何と《E・HERO》だぁー!』

 MCの声と共に、会場もこの大ホールも驚愕に包まれる。
しかし、デュエル中の二人はそれに構わずデュエルを続行した為に、すぐさま驚愕から見物にシフトした。

『カードを一枚伏せ、ターンを終了する』

『俺のターン。ドロー』

 どちらもまずは様子見、と言ったところであろうか。
主力モンスターを展開せずに、最初のターンは睨み合いで終わった。

『俺は《サイバー・ヴァリー》を召喚』

サイバー・ヴァリー
ATK0
DEF0

 亮が出したのは、またもや防御向きのモンスターであるサイバー・ヴァリー。
亮にしては珍しく、タイムカプセルの効果が発動するまで耐えきるつもりなのだろうか……?

「……先手を打つのはカイザーか」

 横にいる三沢のつぶやきに、ようやく亮の狙いを予測する。

『サイバー・ヴァリーの第二の効果。サイバー・フェニックスとこのカードを除外することで、二枚ドロー』

 二枚ドローすることでモンスター二枚分の損失を消しつつ、後続のサイバー・ドラゴンの為にフィールドをがら空きに出来る第二の効果。
第一の効果ばかり目にいくために忘れがちだが、十二分に強力な効果だろう。

『そして、サイバー・ドラゴンを特殊召喚』

サイバー・ドラゴン
ATK2100
DEF1600

 亮の主力モンスターである、サイバー・ドラゴンがフィールドに特殊召喚される。
サイバー・ヴァリーの効果により、エドのフィールドにのみしかモンスターがいなくったことにより、だ。

『バトル。サイバー・ドラゴンで、スパークマンを攻撃! エヴォリューション・バースト!』

 守備表示故にエドにはダメージは通らないが、スパークマンは光線により破壊される。

『スパークマンが破壊された時、《ヒーロー・シグナル》を発動! そのエフェクトにより、デッキから《E・HERO バーストレディ》を特殊召喚する!』

E・HERO バーストレディ
ATK1200
DEF800

 普通のE・HEROよりも、肌の色が深いバーストレディが、スパークマンから出たシグナルにより現れた。

『カードを一枚伏せ、ターンエンド』

『僕のターン、ドロー!』

 さて、十代の時と同様に、わざわざ下級のE・HEROの中でもステータスが低いバーストレディを選んだのだ。
理由は一つしか無いだろう。

『《融合》を発動! 手札のフェザーマンとフィールドのバーストレディを融合し、《E・HERO フェニックスガイ》を融合召喚!』

E・HERO フェニックスガイ
ATK2100
DEF1200

 先程亮が使用した、サイバー・フェニックスと同様に不死鳥を模したHERO。
あちらと違い、フェニックスガイの効果はまさしく不死だ。

『バトル! フェニックスガイで、サイバー・ドラゴンに攻撃! フェニックス・シュート!』

 攻撃力は2100と全く同じだが、フェニックスガイの方には効果がある。
亮もそれを知っているのだろう、いつもの仏頂面の中に若干苦々しい顔をした。

『攻撃力は同じだが、フェニックスガイには戦闘で破壊されないエフェクトがある』

 エドのその宣言通り、サイバー・ドラゴンが一方的に破壊されてしまった。

『僕はこれでターンエンド』

『俺のターン。ドロー
……スタンバイフェイズ、《タイムカプセル》によって除外したカードを手札に加える』

 ここで加えるとすれば、爆発力がある《パワー・ポンド》。
もしくは、安定性のある《融合》……どちらにせよ、次の亮の手は決まっている。

『リバースカード、オープン! 《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地からサイバー・ドラゴンを特殊召喚する』

 フェニックスガイには勝てないと分かっていながらの、サイバー・ドラゴンの特殊召喚。
あの無意識負けず嫌いは、発動する魔法カードまでやり返すつもりだろうか。

『《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚し、《融合》を発動!』 

 召喚されたプロト・サイバー・ドラゴンには、フィールド場にいる時は名前が《サイバー・ドラゴン》となる。
《融合解除》などとは併用しにくいが、有効な融合サポートになる。

『フィールドにいる二体のサイバー・ドラゴンを融合し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を融合召喚!』

サイバー・ツイン・ドラゴン
ATK2800
DEF2100

 選択されたのは、《パワー・ポンド》ではなく《融合》の方か。
何が来るか分からない一ターン目、ハイパワーよりも安定性を選んだようだ。

『バトル! 破壊はされないが、ダメージは受けてもらう。サイバー・ツイン・ドラゴンで、フェニックスガイに攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!』

 リバースカードも無かった為に、フェニックスガイは二つの光線をもろに受け、エドがその余波に巻き込まれる。

『……くっ』

エドLP4000→2600

 これで、初期ライフの半分近くのダメージがエドに与えられ、会場の観客の亮に対する声援が強くなる。

『ターンエンドだ』

『僕のターン、ドロー!
魔法カード《テイク・オーバー5》を発動し、セメタリーに五枚のカードを送る』

 優秀すぎる墓地肥やしカードが発動され、エドが一枚のカードをデュエルディスクの特別な場所にセットした。

『フィールド魔法《摩天楼-スカイスクレイパー-》を発動!』

 プロリーグの会場がアメリカの高層ビル街となっていく。
その名の通りにスカイスクレイパーとなり、その頂上にはフェニックスガイが立っていた。

『サイバー・エンドならばともかく、ツインなど敵ではない……バトル! フェニックスガイで、サイバー・ツイン・ドラゴンに攻撃!』

 このままではただの自爆であり、現にこちらのホールでは数名から失笑がこぼれたが、エドは構わずにフェニックスガイに攻撃を命じたままだ。
それもそのはず、スカイスクレイパーから飛び降りたフェニックスガイは、その勢いにより攻撃力が1000ポイント上がっていったからだ。

『スカイスクレイパーのエフェクト。HEROが自身よりも攻撃力が高いモンスターとバトルする時、その攻撃力が1000ポイントアップする! スカイスクレイパー・シュート!』

 スカイスクレイパーによって、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力を上回り、そのまま炎を纏った体当たりによりサイバー・ツイン・ドラゴンを破壊した。

『く……』

亮LP4000→3700

 ダメージは微々たるものだが、サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊されたのは亮にとっては痛い。

『カードを一枚伏せ、ターンエンド』

『俺のターン。ドロー』

 エドのフィールドには、戦闘破壊耐性持ちのフェニックスガイに、リバースカードが一枚……亮のフィールドには何もない。

『俺は《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を守備表示で召喚』

サイバー・ドラゴン・ツヴァイ
ATK1500
DEF900

 プロト・サイバー・ドラゴンとはまた違う、サイバー・ドラゴンの融合サポートの為の亜種。
しかし、融合してもフェニックスガイは倒せないことは証明済みだろうに……

『サイバー・ドラゴン・ツヴァイの効果。手札の魔法カードを見せることで、このカードの名前はサイバー・ドラゴンとなる』

 亮が手札から一枚見せたのは、《エヴォリューション・バースト》の魔法カード……!

『……しまった!』

『魔法カード《エヴォリューション・バースト》を発動! フィールドのサイバー・ドラゴンの攻撃を封印することで、相手モンスターを破壊する! エヴォリューション・バースト!』

 自身の効果でサイバー・ドラゴンという名称になったため、サイバー・ドラゴンの攻撃名を冠する魔法カードを扱える。
サイバー・ドラゴン・ツヴァイから放たれた光線に、フェニックスガイは貫かれて破壊される。

『エヴォリューション・バーストを使ったターン、サイバー・ドラゴンは攻撃出来ない……ターンエンドだ』

『僕のターン、ドロー!
セメタリーのテイク・オーバー5のエフェクト起動! このカードを除外することで、一枚ドローする』

 最後まで優秀なカード、テイク・オーバー5により一枚ドローする。
意外に墓地アドバンテージを良く使うHEROデッキのことだ、五枚も墓地に送ったからには何かしらのアクションがあってしかるべき……

『僕はセメタリーに眠る《E・HERO ネクロ・ダークマン》の効果を起動! レベル5以上のHEROをリリース無しで召喚出来る! カモン、《E・HERO エッジマン》!』

E・HERO エッジマン
ATK2600
DEF1800

 E・HEROの中で、もっともステータスが高い金色のHEROが、墓地のネクロダークマンのサポートもあってフィールドに降り立った。
だが、まだまだエドの快進撃は止まらなかった。

『更に《ミラクル・フュージョン》を発動! 墓地のフェニックスガイとスパークマンを除外し、カモン! 《E・HERO シャイニング・フェニックスガイ》!』

E・HERO シャイニング・フェニックスガイ
ATK2500
DEF2100

 エドのE・HEROデッキの切り札格であろうHERO、シャイニング・フェニックスガイ。
十代のシャイニング・フレア・ウィングマンと対をなした、光り輝くHEROである。

『シャイニング・フェニックスガイの攻撃力は、セメタリーのHERO×300ポイントアップする! 僕の墓地にはHEROが三体。よって、900ポイント攻撃力がアップする!』

 これで、シャイニング・フェニックスガイの攻撃力は3400にまで達し、スカイスクレイパーと併せれば、亮の切り札たるサイバー・エンド・ドラゴンをも破壊出来る攻撃力まで達する。

 しかも、亮のフィールドにいるのはサイバー・エンド・ドラゴンではなく、下級モンスターであるサイバー・ドラゴン・ツヴァイ。
見るからに亮のピンチであった。

『バトル! エッジマンで……』

『リバースカード、《和睦の使者》を発動!』

 亮とサイバー・ドラゴン・ツヴァイを守るように、二人が薄いバリアに包まれた。
攻撃しても無駄だと分かったエドは小さく舌打ちし、HEROたちの攻撃を中断させる。

『ターンエンドだ』

『俺のターン。ドロー!
……《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー』

 気合いが入ってきた亮により、強欲な壺が破壊されて二枚ドローした。
気合いが入ってきた亮ならば、この状況程度ならば逆転するだろう……!

『俺は《死者蘇生》を発動。墓地から《プロト・サイバー・ドラゴン》を特殊召喚する!』

 万能蘇生カードを使って、わざわざステータスの劣るプロト・サイバー・ドラゴンの特殊召喚。

亮のデッキを知っているのならば、何を狙っているのかは一目瞭然だ。

『プロト・サイバー・ドラゴンの特殊召喚時、《地獄の暴走召喚》を発動! デッキ・手札・墓地から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚する!』

 死者蘇生によって特殊召喚されたのは《プロト・サイバー・ドラゴン》であるが、プロト・サイバー・ドラゴンはフィールドでは《サイバー・ドラゴン》と名称が変わる効果を持っている。
よって、特殊召喚されたのは《サイバー・ドラゴン》であるということになり、《地獄の暴走召喚》によって純正の《サイバー・ドラゴン》が三体特殊召喚されるのだ。

 亮の使う名称変更コンボの中でも、一気に四枚の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚するこのコンボは、一際群を抜いて強力だった。

『……僕はデッキから、もう一枚の《E・HERO エッジマン》を特殊召喚する』

 地獄の暴走召喚のデメリットとして、エドのフィールドにエッジマンが特殊召喚されるが、亮のフィールドにはサイバー・ドラゴンがなんと五体……いや、まだ一体はサイバー・ドラゴン・ツヴァイか。
……まあ、時間の問題だろうが。

『サイバー・ドラゴン・ツヴァイの効果発動。《フォトン・ジェネレーター・ユニット》を見せることで、名称をサイバー・ドラゴンに変更する』

 フォトン・ジェネレーター・ユニット……!
戦闘破壊耐性を持ったシャイニング・フェニックスガイを、どう突破するかが鍵だったが……これならば心配はいらないな。

『フォトン・ジェネレーター・ユニットを発動! プロト・サイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・ツヴァイを墓地に送り、デッキから《サイバー・レーザー・ドラゴン》を特殊召喚する!』

サイバー・レーザー・ドラゴン
ATK2400
DEF1600

 フォトン・ジェネレーター・ユニットにより変形した、効果破壊を得たサイバー・ドラゴン。
このモンスターの効果ならば、シャイニング・フェニックスガイを破壊出来る……!

『サイバー・レーザー・ドラゴンの効果を発動。一ターンに一度、このカードの攻撃力より攻撃力・守備力が高いモンスターを破壊する! シャイニング・フェニックスガイを破壊せよ、フォトン・エクスターミネーション!』

 サイバー・ドラゴンシリーズの主力攻撃である、エヴォリューション・バーストよりも細い光線がシャイニング・フェニックスガイの胸を貫き、破壊された。。
いくら戦闘破壊耐性を持っていようが、効果破壊には意味がない。

『そして《融合》を発動。サイバー・ドラゴン二体を融合し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を融合召喚!』

 再び融合によってフィールドに召喚される、二回攻撃が可能な融合モンスターであるサイバー・ツイン・ドラゴン。
攻撃力は2800であり、エドのエッジマン二体の攻撃力を超えている。

 それにしても、サイバー・ドラゴン・ツヴァイしかいなかった状況から、サイバー・ツイン・ドラゴン、サイバー・レーザー・ドラゴン、サイバー・ドラゴンの三体まで展開させるとは……流石は亮、としか言うことが無い。

『バトル! サイバー・ツイン・ドラゴンで、一体目のエッジマンに攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!』

『こちらも《和睦の使者》を発動する!』

 これでエッジマンが破壊出来れば、サイバー・レーザー・ドラゴンの追撃で勝負は決まっていたのだが……相手もプロだ、そう上手くはいかないようだ。

『カードを一枚伏せ、ターンを終了する』

『僕のターン、ドロー!』

 場の流れは、サイバー・レーザー・ドラゴンのシャイニング・フェニックスガイ破壊によって亮に流れた。

 だが、エドのフィールドにはエッジマンが二体とスカイスクレイパーがある。
まだまだ逆転は不可能ではない。

『僕も《融合》を発動! 手札の《E・HERO ワイルドマン》とフィールドのエッジマンを融合し、《E・HERO ワイルドジャギーマン》を融合召喚!』

E・HERO ワイルドジャギーマン
ATK2600
DEF2300

 攻撃力が変わらないものの、ワイルドマンと融合したことでエッジマンが全体攻撃が可能となった姿。
よりにもよって、ここでフレイム・ウィングマンに次いでスカイスクレイパーと相性が良い融合HEROの登場に、今度は亮のピンチとなる。

『バトル! ワイルドジャギーマンで、まずはサイバー・ドラゴンに攻撃! インフィニティ・エッジ・スライサー!』

 リバースカードが機械族の切り札、《リミッター解除》であることを恐れてか、まずは一番攻撃力が低いサイバー・ドラゴンから標的にしたのだろうが、亮のリバースカードは反応せずに破壊された。

『ぐっ……』

亮LP3700→3200

『次は、サイバー・レーザー・ドラゴンを攻撃する! インフィニティ・エッジ・スライサー!』

 ワイルドジャギーマンの第二の攻撃にサイバー・レーザー・ドラゴンが破壊されても、亮のリバースカードは発動しない。
やはり、ただのブラフだったのだろうか。

亮LP3200→3000

『最後のバトル! ワイルドジャギーマンで、サイバー・ツイン・ドラゴンに攻撃! インフィニティ・エッジ・スライサー!』

 攻撃する前にワイルドジャギーマンは、スカイスクレイパーの一角にあるビルの頂上に登った。

『スカイスクレイパーのエフェクト発動! ワイルドジャギーマンの攻撃力を1000ポイントアップ――』

『速攻魔法《サイクロン》を発動! スカイスクレイパーを破壊する!』

 遂に、警戒されていた亮のリバースカードが姿を見せると同時に、ワイルドジャギーマンが登っていたスカイスクレイパーを竜巻が襲い、破壊される。

『なにっ!?』

 エドの驚愕の声が響くも、もはやワイルドジャギーマンの攻撃宣言は終わっているため、どうすることも出来はしない。
崩れ落ちるスカイスクレイパーと共に落ちていくワイルドジャギーマンを、サイバー・ツイン・ドラゴンの光弾が破壊した。

エドLP2600→2400

『チィ……エッジマンを守備表示にし、ターンエンドだ』

『俺のターン。ドロー!
……このままバトルを行う』

 先程のサイバー・ドラゴンの大展開と、スカイスクレイパーを破壊したサイクロンにより、亮の手札は0枚。
追撃は与えられないが、サイバー・ツイン・ドラゴンの効果によってこのターンに決着がついてもおかしくはない。

『サイバー・ツイン・ドラゴンで、エッジマンを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!』

 いくら融合せずに出せる最強のHEROであろうとも、守備表示でサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃には耐えられない。
エッジマンはあっけなく破壊され、エドのフィールドはがら空きとなる。

『終わりだ! サイバー・ツイン・ドラゴンで、プレイヤーにダイレクトアタック! エヴォリューション・ツイン・バースト!』

『残念だが、まだ終わらない。セメタリーに眠る《ネクロ・ガードナー》のエフェクト発動! このカードを除外することで、戦闘を無効にする!』

 エドの墓地から黒色の戦士が飛びだし、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃を防いだ。
テイク・オーバー5で墓地に送られていたのであろうが、フィールドががら空きの状況で防ぐとは……

『カードを一枚伏せ、ターンエンドだ』

『僕のターン、ドロー!
……フッ。自身のエフェクトにより、《E・HERO バブルマン》を守備表示で特殊召喚!』

E・HERO バブルマン
ATK800
DEF1200

 ……ここでバブルマンを引いた……!?
エドの手札が0枚のためにバブルマンは特殊召喚され、フィールドにはバブルマン以外に何もなかった。
……その状況でのみ、バブルマンは効果を発揮するのだが……!

『バブルマンのエフェクト発動! フィールドと手札にこのカード以外に存在しない時、二枚ドロー出来る!』

 別名、強欲な泡男の真髄が、珍しく発揮される。
二枚ドローとはいえ、バブルマン以外に何もない時という厳しい条件をクリアしたエドに対し、関心したような声がホール内ででるものの、十代で(幸か不幸か)慣れてしまっていたため、エドの次の手の方へ集中することが出来た。

『カードを一枚伏せ、ターンエンド』

『俺のターン。ドロー!』

 引いたカードを一枚伏せたのみで、エドはターンを亮へと渡した。
サイバー・ツイン・ドラゴンの効果による二回攻撃があるために、あれが防御カード、もしくは破壊カードでなくてはエドの敗北となるが……

『バトル! サイバー・ツイン・ドラゴンで、バブルマンに攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!』

 サイバー・ツイン・ドラゴンの第一撃目がバブルマンを弾き飛ばしたが、バブルマンは守備表示によって特殊召喚されていたため、エドのライフにダメージは無い。

 そして、俺の――おそらくは亮も――予想に反し、ここでエドが行動を起こした。

『リバースカード、オープン! 《デステニー・シグナル》!』

 リバースカードから上空に放たれたのは、見慣れた『H』という文字のシグナルではなく、どこか暗い雰囲気を持った『D』の文字だった――
 
 

 
後書き
亮vsエド戦、前編でした。

前書きでも書きましたが、明けましておめでとうございます。
クリスマスとか新年とかの企画には縁の無かった本作ですが、今年もよろしくお願いします。

では、いつも通りの感想・アドバイス待っております。 

 

―Cyber VS Destiny―

 現在のフィールドの状況

亮LP3100

サイバー・ツイン・ドラゴン
リバースカード一枚
手札一枚

エドLP2600

デステニー・シグナル
リバースカード一枚
手札0枚



 一見して亮の圧倒的有利だが、エドが今発動したカード……デステニー・シグナルから発せられる『D』の文字が俺に不安感を与え続ける。

『おーっと、エド・フェニックスが見たことのないカードを発動したぞーっ!』

 MCがアナウンスする通りだ。
今発動されたデステニー・シグナルという名のカード、あれは恐らく謎のシリーズカード《D−HERO》のサポートカードなのだから。

『デステニー・シグナルのエフェクト発動。僕のフィールド場のモンスターが破壊された時、デッキから《D-HERO》を特殊召喚することが出来る!』

 E・HEROを特殊召喚することが出来るトラップである、《ヒーロー・シグナル》とまったく同じ効果だった――ただ、対象がD-HEROであるだけで。
 さあ、来いよD-HERO……!

『デッキから守備表示で現れれよ、《D-HERO ドゥームガイ》!』

D-HERO ドゥームガイ
ATK1000
DEF1000

『D-HERO……!?』

 デステニー・シグナルから予感はしていたものの、ついにエドのフィールドに謎のモンスターが現れたことで、会場と亮、俺たちがいる大ホールに大いにざわめきが走る。
大体の人物が驚愕に包まれる中、俺と三沢を始めとする一部の生徒は、エドの召喚したD-HERO ドゥームガイの動向に目を配っていた。

『どうした? まだサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃は残っている……攻撃しないのか?』

 エドが亮を挑発する……このタイミングで、わざわざデステニー・シグナルによって特殊召喚したモンスターだ、当然何かあるだろうに。

 だがしかし、フェイクだろうと何だろうと、そんなことで止まる男はカイザー亮ではない。

『……サイバー・ツイン・ドラゴンで、D-HERO ドゥームガイに攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!』

 サイバー・ツイン・ドラゴンから放たれた二回目の攻撃に、十代の時のダイヤモンドガイの時と同様に、大多数の予想を裏切ってドゥームガイはあっさり破壊された。

『……ターンエンドだ』

『僕のターン、ドロー!
……スタンバイフェイズ、このタイミングでセメタリーに眠るドゥームガイのエフェクト発動!』

 さっきサイバー・ツイン・ドラゴンで破壊されたドゥームガイの効果……このタイミングで発動するだと!?

『僕のD-HEROは、その名の通り運命を操る……ドゥームガイが戦闘で破壊された時、次のターンのスタンバイフェイズにセメタリーのD-HEROを特殊召喚する未来が決定する! カモン、《D-HERO ディスクガイ》!』

D-HERO ディスクガイ
ATK300
DEF300

 手や足に円盤がついたD-HERO……今まで出て来た下級のD-HEROは、みな攻撃力・守備力共に低いが、効果はどれも特徴的で強力だった。

『ディスクガイが墓地から特殊召喚された時、プレイヤーはカードを二枚ドローする!』

 墓地から蘇生するだけで二枚ドロー……!?
ディスクガイの予想以上の有り得ない効果を活かし、エドはカードを二枚ドローする。

『そしてディスクガイをリリースし、《D−HERO ダッシュガイ》をアドバンス召喚!』

D−HERO ダッシュガイ
ATK2100
DEF1000

 今度現れたのは、車輪のようなものが足に付いた上級D−HERO。
攻撃力は2100と、サイバー・ドラゴンと同様だが、上級にしてはイマイチ物足りない数値ではある。

『更に魔法カード《ドクターD》を発動。セメタリーのD−HEROを除外することで、セメタリーに眠るレベル4以下のD−HEROを特殊召喚する! 再び蘇れ、《D−HERO ディスクガイ》!』

 再び現れる円盤のD−HERO、ディスクガイ。
再びその蘇生したら二枚ドローという効果を発動し、エドはカードを二枚ドローする。

『フッ……更にダッシュガイのエフェクト発動! 自分フィールド場のモンスターをリリースし、ダッシュガイ自身の攻撃力を1000ポイントアップさせる!』

 他のD-HEROに比べるといささか地味なものの、これでダッシュガイはサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力を超えた。

『バトル! ダッシュガイでサイバー・ツイン・ドラゴンに攻撃! ライトニング・ストライク!』

 ライトニング・ストライクという攻撃名を裏切って、漆黒のD-HEROがサイバー・ツイン・ドラゴンに即座に近づき、その腕を突き刺した。

『……っ!』

亮LP3100→2800

 今の今まで、亮の戦線を支えていたモンスターである、サイバー・ツイン・ドラゴンが破壊される。
基本的に無表情である亮も、ついに苦々しげな表情を浮かべだした。

『ダッシュガイは攻撃後、自身の効果によって守備表示となる。ターンエンドだ』

『俺のターン。ドロー!』

 苦々しげな表情から一転、亮はとても楽しそうな表情となる。
あれは良いカードを引いたわけではなく、ただエドとのデュエルを楽しんでいる表情……!

『魔法カード《埋葬呪文の宝札》を発動! 墓地から魔法カードを三枚除外することで、俺は二枚ドローする!』

 手札0のここで宝札系のドローカードを引ける、亮の相変わらずのことに舌を巻くと、亮はカードを一枚ディスクにセットした。

『魔法カード《オーバーロード・フュージョン》! 墓地の機械族モンスターを除外することで、闇属性・機械族モンスターを融合召喚する!』

 亮の最後の切り札であるモンスターを呼ぶ為のカードの一つ、オーバーロード・フュージョン。
墓地からサイバー・ドラゴンたちが次々と除外されていく……その数は、八体。

 それほどの融合素材を使うモンスターカードなど、絶対に決まっている……!

『現れろ! 《キメラテック・オーバー・ドラゴン》!』

キメラテック・オーバー・ドラゴン
ATK?→6400
DEF?→6400

 亮のデッキの切り札的存在である、キメラテック・オーバー・ドラゴン。
オーバーロード・フュージョンのカードたった一枚で現れるにもかかわらず、その攻撃力は軽々と《サイバー・エンド・ドラゴン》を超える。

 以前の亮には、『リスペクトから反する』として、使用を遠ざけられていたらしかったが、真のリスペクトデュエルを追い求めるという亮の目的の為に、今では切り札扱いという大出世を果たしていた。

『キメラテック・オーバー・ドラゴンの効果が発動する前に、伏せていた速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動する。除外ゾーンから、《サイバー・ドラゴン》三体を墓地に戻す』

 キメラテック・オーバー・ドラゴンのデメリット、自分のフィールドをリセットする効果が発動する前に、恐らくはブラフとして伏せられてあった《異次元からの埋葬》が発動された。

 次なるターンへの、亮の作戦の布石だろう。

『バトル! キメラテック・オーバー・ドラゴンで、ダッシュガイに攻撃! エヴォリューション・リザルト・アーティレリー》!』

 八門の砲台から、それぞれ一撃必殺の威力を持った光線が煌めくものの、攻撃されたダッシュガイは自身の効果により守備表示。
残念ながら、エドに対してダメージは与えられない。

『……ターンエンドだ』

『僕のターン、ドロー!』

 亮の切り札であるキメラテック・オーバー・ドラゴンに対し、絶対に攻撃力では勝てはしない。
そもそもD-HERO自体の攻撃力が全体的に低いようだし、ここは守備表示で耐えるのが順当だろうか……

『僕は魔法カード《オーバー・デステニー》を発動! セメタリーにいるD-HEROである、《D-HERO ダッシュガイ》を選択することで、そのレベルの半分以下のD-HEROをデッキから特殊召喚する! カモン、《D-HERO デビルガイ》!』

D-HERO デビルガイ
ATK600
DEF800

 このゲームにおいて、ステータスが全てでないことなどもちろん良くわかっているが、やはり一番最初に目に付くのはステータスであることは否定出来ない。またも現れたD-HEROは、ステータスだけを見れば貧弱であり、しかも攻撃表示である。
亮の切り札に対抗出来る効果があると見て間違いない……!

『デビルガイのエフェクト発動! 一ターンに一度、自分のターンのバトルフェイズをスキップすることで、相手モンスターを一体除外する! ディスティニー・ロード!』

『……な!?』

 亮の驚愕の声が最後まで届く前に、デビルガイが発生させた時空の穴に、自らの融合素材と同じようにキメラテック・オーバー・ドラゴンが吸い込まれていく。

 これで亮のフィールドはがら空きだが、エドの言葉を信じるならば、デビルガイの効果でこのターンはバトルを行えない。
デビルガイを攻撃表示で出した理由は、恐らくデビルガイの除外効果の発動条件なのだろう。

『そして、《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚する』

D-HERO ダイヤモンドガイ
ATK1400
DEF1600

 十代にその効果でトドメを刺したD-HERO、ダイヤモンドガイが召喚される。
あのデュエルで使われたように《ミスフォーチュン》を使われたなら、ハイパワーな亮のデッキはかなりのダメージだが……

『ダイヤモンドガイのエフェクト発動! デッキトップを確認し、そのカードが通常魔法ならばそのカードをセメタリーに送る。……通常魔法《デステニー・ドロー》だったため、セメタリーに送らせてもらう』

 恐らくエドは、大衆に見せる初のD-HEROの効果として、意識的に効果の説明を濁しているが、これで通常魔法《デステニー・ドロー》が未来に発動する運命が確定した。
カード名から察するに、ドローカードであろう。

『デビルガイの効果のデメリットにより、バトルは行えない。ターンエンドだ』

『俺のターン。ドロー!』

 切り札であるキメラテック・オーバー・ドラゴンも、エドのD-HEROの前にあっさりと除去されてしまった為に、亮の方には厳しい展開が戻った。
手札こそ三枚あるが、フィールドには何もおらず、ほぼ全てのモンスターは除外されている。

『俺は《サイバー・ヴァリー》を召喚』

サイバー・ヴァリー
ATK0
DEF0

 本日二度目の登場となった、優秀な三つの効果を持った小型のサイバー・ドラゴンシリーズが召喚された。
これで、エドに攻撃されてもサイバー・ヴァリーの効果でディスアドバンテージを無しにバトルを終了させることが出来る……と言いたいところだが、エドのフィールドにはデビルガイがいる。
デビルガイによって除外されてしまえば、結果は同じだがサイバー・ヴァリーの効果は発動出来ない。

『ターンエンドだ』

『僕のターン、ドロー!
……セメタリーに眠るダッシュガイのエフェクト発動! ドローしたモンスターをお互いに確認することで、そのモンスターを特殊召喚出来る!』

 サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊したD-HEROである、ダッシュガイの第二の効果が発動される。
モンスターを一体リリースすることによる1000ポイントアップは、なんだかトリッキーなD-HEROには似つかわしくないと思っていたのだが……こっちが本命だったのだろう。

 そして、エドが今引いたカードを亮に見せた後、デュエルディスクにセットした。

『カモン、《D-HERO ドレッドガイ》!』

D-HERO ドレッドガイ
ATK?
DEF?

 ダッシュガイの効果によって特殊召喚されたのは、今までのD-HEROとは明らかに違う、どちらかと言えば囚人と言った方がしっくりくるような……大男だった。

『ドレッドガイの攻撃力・守備力は、自分フィールドのD−HEROの攻撃力の合計となる……よって、現在の攻撃力・守備力は2000ポイントとなる』

 D−HEROたちの力を集めた分、攻撃力・守備力がアップするD−HERO……恐らくは、あれがD−HEROの切り札……!

『そして、ダイヤモンドガイのエフェクトを発動! 前のターンで墓地に送った通常魔法カードを、コストを使用せずに使用出来る。僕はセメタリーの《デステニー・ドロー》の効果を発動! 二枚ドローする!』

 通常魔法を次のターンに発動を確定させるという効果も驚きだが、コストを支払わないということは……《魔法石の採掘》などの強力な効果を一ターン待つだけでノーコストで使用出来るのか……

 そして、デステニー・ドローによって更に二枚ドローしたエドは、更にモンスターを展開させた。

『更に《D−HERO ダンクガイ》を召喚!』

D−HERO ダンクガイ
ATK1200
DEF1700

 バスケット選手のような新たなD−HEROが特殊召喚され、傍らに立っているドレッドガイの攻撃力が1200ポイントアップし、3200ポイントとなる。
そして、ダンクガイ自身にも効果があるだろう。

『ダンクガイのエフェクト発動! 手札のD−HEROをセメタリーに送ることで、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!』

『ぐっ……!』

亮LP3100→2600

 ダンクガイがその足で風を蹴り、風圧を亮にぶつけることで亮にダメージを与える。
手札コスト一枚で500ポイントを与えた、ということよりも、墓地で効果を発動するようなトリッキーな効果が多いD−HEROを、墓地に送るということの方が重要だ。

『今セメタリーに送った、《D−HERO ディアボリックガイ》のエフェクトを発動! セメタリーのこのカードを除外することで、デッキからディアボリックガイを特殊召喚する! カモン、《D−HERO ディアボリックガイ》!』

D−HERO ディアボリックガイ
ATK800
DEF800

 予想通りにダンクガイの効果から発動され、新たにディアボリックガイと呼ばれたD-HEROが特殊召喚された。
新たな効果が無いのなら、たかがステータス800のバニラなのだが……それでもドレッドガイのステータスは上昇し、攻撃力はなんと4000に到達した。

『バトル! ……と行きたいところだが、デビルガイのエフェクトを発動し、サイバー・ヴァリーを除外する! ディスティニー・ロード!』

 デビルガイによってキメラテック・オーバー・ドラゴンのように、サイバー・ヴァリーは自身の効果を活かせないまま時空の穴に吸い込まれ、除外されてしまう。

『まだ僕のメインフェイズは続いている。ダイヤモンドガイのエフェクト発動! ハードネス・アイ!』

 ダイヤモンドガイの効果によってデッキトップから墓地に送られたのは、いみじくも先程俺が考えた《魔法石の採掘》であった。

『これでターンエンドだ』

『俺のターン……ドロー!』

 大量のモンスターの展開、強大な切り札の召喚、亮のモンスターの除去、次のターンへの布石……全てを一ターンでやってのけたD-HEROに……いや、エドに対し、亮は……笑っていた。

 とても楽しそうに、俺とデュエルしていた時のように……そして、あんな風に笑うと必ず引くのだ。

 ……逆転への切り札を!

『《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動! ライフを半分払うことでこのターン、墓地のモンスターを除外することで機械族の融合素材とすることが出来る!』

亮LP2600→1300

 オーバーロード・フュージョンと共に、亮の墓地融合を支える魔法カードが発動される。
オーバーロード・フュージョンと違う点は、闇属性以外の機械族を融合出来る代わりに、ライフの半分という重いライフコストと、また別に融合する為の魔法カードが必要なことだ。
だが最後のデメリットは、彼ら兄弟の思い出のカードによりメリットにも変わる……!

『《パワー・ポンド》を発動! 墓地の《サイバー・ドラゴン》を三体除外し、《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚!』

サイバー・エンド・ドラゴン
ATK4000
DEF2800

 満を持しての登場となった、亮のエースカード《サイバー・エンド・ドラゴン》。
パワー・ポンドによって元々高い攻撃力は倍となり、攻撃力は8000に到達する。
エドの切り札たる、ドレッドガイの現在の攻撃力の倍の数値……!

『バトル! サイバー・エンド・ドラゴンで、デビルガイに攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!』

『くっ……《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にする!』

 発動されることなく、ずっと伏せられていたリバースカードがようやく日の目を見てエドへの戦闘ダメージを0にするが、除外効果を持つデビルガイは完膚なきまでに破壊される。

『《サイバー・ジラフ》を召喚し、リリースしてターンを終了する』

 まるで魔法カードのように扱われたものの、れっきとしたモンスターであるサイバー・ジラフの効果により、亮は《パワー・ポンド》のデメリットによるダメージを無効にした。
これで何のデメリットも無く、攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンが亮のフィールドに君臨する。

『僕のターン、ドロー!
……流石はカイザー亮。だが、お前の敗北の運命は変わらない! ファイナルターンだ!』

 エドの切り札たるドレッドガイでは、亮のサイバー・エンド・ドラゴンには適わない。
よしんばデビルガイを蘇生し、効果を使用してサイバー・エンド・ドラゴンを除外としたとしても、デメリット効果によって攻撃宣言は行えない……

 それなのに、エドはこのターンで終わらせるという。
亮に、そしてそれを見物している観客である俺たちにも緊張が走る……!

『スタンバイフェイズ、今はセメタリーに眠るデビルガイのエフェクトが発動する!』

 デビルガイの効果……!?
まだ効果があった……いや、エドの言い方だと、今は墓地にいるデビルガイの、フィールドで発動する効果のようだ。
ならば、除外効果にはまだ隠されたテキストがあったということか……?

『デビルガイが除外したモンスターは、二回目の僕のスタンバイフェイズ時に特殊召喚される……よってお前のフィールドに、《キメラテック・オーバー・ドラゴン》が特殊召喚される!』

『なっ……』

 亮の除外ゾーンから、フィールドに舞い戻るキメラテック・オーバー・ドラゴン……切り札が戻ってきた、などと喜ぶことは出来ない。
なぜなら、一度除外した為に攻撃力の変動は元に戻っており、キメラテック・オーバー・ドラゴンの元々の攻撃力は……0。

 こうなれば、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力が8000だろうと16000だろうと関係がない。
攻撃力0のキメラテック・オーバー・ドラゴンを攻撃すれば良いだけなのだから。

 本来ならば、デビルガイのこの二回目のスタンバイフェイズ時に帰還する効果は、相手モンスターが戻ってきてしまうデメリット効果なのだろう。
だが、デメリット効果すらも自分のメリットとして扱う……これがエドの本気と、運命を操るD-HEROの実力……!

『バトル! ドレッドガイで、キメラテック・オーバー・ドラゴンに攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!』

 ドレッドガイが、キメラテック・オーバー・ドラゴンにその自慢の腕を振り下ろそうとする。
囚人のような大男の腕は、力を失ったキメラテック・オーバー・ドラゴンにはまさに一撃必殺の威力を持っていた。
だが、亮にその攻撃を防ぐ手段は存在しない……!

『ぐあああああっ!』

亮LP1300→0


『おーっと、遂に決着ーっ! カイザー亮VSエド・フェニックスの激闘は、D-HEROという新たな力によってエド・フェニックスが勝利したーっ!』

 MCのエドへの勝利宣言に、観客が思いだしたように歓声を上げる。
だが、こちらのオベリスク・ブルーの大ホールでは、カイザー亮の勝利を信じて疑わなかった人物が多かった為に、テレビの会場ほどには歓声は起きなかった。

 それも当然であり、今の三年生・二年生は間近でカイザー亮の強さを見てきており、一年生は中等部からのエリートのために、カイザー亮の強さは知っているからだ。

 それほどまでに、デュエル・アカデミアにおいて『カイザー亮』という名前は、強者の証なのだった。
かくいう俺も、亮に対しては勝率は三割には満たないことから、そう思っているうちの一人だった。

「まさか、亮が負けるとはな……」

「まあ、カイザーとて無敵じゃないだろう。現に、君も勝っているじゃないか」

 横にいた三沢の意見はごもっともであったが、やはりショックなものはショックなのであった。

 亮とエドのデュエルが終わったことにより、大ホールからオベリスク・ブルーの生徒は三々五々に散っていった。
そしてテレビの中の会場では、敗者である亮がエドへと握手を申し込んでいた。

『ありがとう、エド・フェニックス。この敗北で、また俺はリスペクトデュエルの完成に近づける……そして、次は勝つ!』

 ……まったく、あのデュエル馬鹿の負けず嫌いは。
しかし、別に心配するまでも無いようだ……あれならまた、強くなってリベンジするだろう。

『フッ……また同じ結果だろうがな』

 エドのイラッとくる返答と共に、亮は握手を終えて去っていく。

 これからは勝利者であるエドに、次に誰と戦いたいか等を聞くインタビューが始まるようだった。
……それはあまり興味がないな。

「なあ三沢、ちょっとデュエルでも『黒崎遊矢』……え?」

 テレビの画面から、何故だか俺の声が響いた。

『デュエル・アカデミアの本校の学生なんですが、彼が使っているデッキは少々僕の父と関係がありましてね……僕の次の相手は、黒崎遊矢です』
 
 

 
後書き
学校が始まりましたよ……忙しくなりました。

では、感想・アドバイス待っています。 

 

―時計塔の戦慄―

 デュエル・アカデミアの夜10時、俺はいつものデュエル場に立っていた。

 先日の、プロリーグによる亮VSエドのデュエルの折に発表された、エドのデュエル・アカデミアへの……いや、俺への挑戦。
ナポレオン教頭は、喜んでエド側の申し出を承諾した――エドが勝ったら(一応)デュエル・アカデミアの生徒であるエドの宣伝に、俺が勝ったらデュエル・アカデミアの生徒の宣伝になるため、ナポレオン教頭に断る理由は無いのだろう。

 エド側の条件は、出来るだけ一目のつかない深夜にデュエルを行うことだった。

 ……エドの真意は全く分からないが、十代と亮の件もある為に、挑んでくるならば俺は受けて立つという選択肢しかない。

 そして、例の放送でエドが言ったことで気になることがもう一つある……エドの父のことだ。
カードデザイナーのフェニックス氏と言えば、このデュエルモンスターズ界では少し有名な存在で、人気なフェニックス氏がデザインしたカードは人気が出ていたのだが……ある日、何者かに殺されてしまうという痛ましい事件があり、フェニックス氏のカードが出ることは無くなった。

 エドが使用していた《D−HERO》シリーズは、氏の最後の作品であったという……そしてそれを、息子であるエドが受け継いだのだ。

 逆に《機械戦士》というと、一般的には彼の作品だというのは、あまり知られてはいない。
俺も、三沢が調べてくれる前までは知らなかったものだ。

 ……しかし、《D−HERO》と《機械戦士》に、描いている人が同じなら見当たる筈の共通点などが、何も見当たらない。
強いて言えば、全体的にステータスが低めなことは共通しているが……それは関係ないだろう。

 影丸理事長が言うには、実体化も出来ないぐらいの弱めの精霊の宿っているらしい……俺のデッキの《機械戦士》。
深読みに過ぎると自分でも思うが、《機械戦士》は氏の作品ではなく、何か秘密があるのではないか。

もしかしたら、エドは何か知っているかも知れない。

「……大丈夫、遊矢?」

 デュエル場の外にいる明日香から、ずっと考え事をしている俺に心配そうな声がかけられた。

「ああ。ちょっと考え事してただけさ」

 デュエルをする俺の他には、三沢と明日香の同行が許された。
デッキの調整を手伝ってくれたこともあるので、同行させられて良かったことは良かったのだが、中等部であるレイが断られたことが残念だった。

「相手はD-HERO……エド相手に勝機はあるか、遊矢」

「もちろん、と言いたいところだけどな……」

 俺の亮への勝率は三割……そしてそれを、D-HEROをメインになってからのエドはほぼ完封したと言って良い。
そんな相手に、俺は一体勝てるのか……いや、勝たなくてはならない。
今のデュエル・アカデミアのおかしさへの答えを得るためにも、十代のようにカードが見えなくならないためにも……

 ……そして、デュエルスタジアムに響く足音が、俺の対戦相手の来訪を告げた。

「……エド」

「黒崎遊矢……お仲間と一緒に仲良しごっこか? お前らしいな」

 ひさびさに会うなりいきなり嫌味を言われたが、いちいち構っておくこともなし、放っておく。
代わりにデュエルディスクを構え、明日香と三沢のところからデュエル場の中央に向かって歩いた。

「ふん……」

 エドも俺の行動を受けて、デュエル場の入り口から俺の位置に対応するところまで移動する。

「シニョール遊矢、シニョールエド。二人とも準備はいいノーネ?」

 代表決定戦や学園対抗戦の時と同じように、ジャッジを行うのはクロノス教……じゃなく、クロノス校長代理。
とは言っても、ジャッジとは名ばかりの始まりを告げるだけの役目ではあるが。

「ああ」

 特に気負いもせずに、エドはクロノス校長代理の言葉に気楽に答えた。
……こういうところは流石はプロ、と言ったところか。

「いつでも」

 自分もクロノス校長代理の質問に答え、勝てるのか、なんてことは考えても無意味な領域に達する。
後はデッキの《機械戦士》を信じるだけ……大丈夫だ、亮だって三幻魔だって、俺たちは打ち破ってきた……!

「デュエル開始なノーネ!」

 クロノス校長代理の宣言と共に、デュエルを行う俺たちも気合いを入れる。
そして、告げる。

『デュエ「ちょっと待ったーーッ!」

 俺たちのデュエルの宣言に被さって、やたら大きな声がデュエル場へ響く。
俺たちが状況を理解する前に、再び声の主は自分の用件を告げた。

「そのデュエルちょっと待った! エドとデュエルするなら、俺にやらせてくれ!」

 その不必要に騒がしい、もはや懐かしいと言って良い声は……
俺は声の主の正体に当たりをつけ、声がした入り口の方へ身体を向けた。

「……十代!」

「おお、遊矢!」

 エドに敗れてカードが見えなくなり、このデュエル・アカデミアを去ることになってしまった友人、遊城十代。
その元気いっぱいな姿から、カードが見えなくなることから回復したのだと分かる。

「どうなってるかは良くわかんねぇけど、エドとデュエルするなら代わってくれ遊矢!」

 十代にとっては、エドに対してのリベンジマッチ。
デュエルしたい気持ちは分からなくもないが、このデュエルは俺にだって譲れない。

「いいや、悪いけど譲れないぜ十代」

 エドがテレビでデュエルを挑んできたのは俺であるし……それに十代がエドに負けた場合、またカードが見えなくなってしまう可能性もあるのだから。

「シニョール十代、休学中だった筈でーは……ってそんなことよーり、コレはシニョール遊矢とシニョールエドとデュエルなノーネ! シニョールエドもなんとか……」

「別に良いんじゃないか?」

 ジャッジであるクロノス校長代理の意見も、エドのまさかの一言によって意味をなくした。
別に良いということは……

「二対一の変則タッグデュエルだ。もちろん僕は一人で良い。……わざわざリベンジを申し込むぐらいだ、自信はあるんだろうな」

「もちろんだ! 話が分かってありがたいぜ!」

 エドの申し出に十代はありがたく応じ、どこから持ってきたのか分からないが、デュエルディスクを構えてデュエル場の俺の横へ並ぶ。

「しか~し、オシリス・レッドであるシニョール十代が乱入する~と、特に教頭が黙っていないノーネ……」

 ナポレオン教頭は、前のクロノス教諭以上のエリート偏重主義であり、オベリスク・ブルーに配置されたアイドル養成所を初めとする、今年から導入されたことを見ても分かるだろう。
近々、オシリス・レッド自体の取り壊しを考えているとか、いないとかという噂も流れている……らしい。

「それは俺がなんとかします」

 クロノス教諭の発言を受けて立ち上がったのは三沢。
どのような方法を用いるのかは分からないが……なに、三沢ならば問題ないだろう。

「任せたぜ、三沢」

「任せてくれ……明日香くんは、ここで俺の分まで応援を頼む」

「え、ええ」

 明日香に自分の分まで応援を頼み、三沢はデュエル場を出て行く……後でお礼に何か奢ろう。

 実際、ここで三沢の行動はありがたかった。
デュエリストとしては少し認めたくないが、十代が入ってくれれば勝率はグンと上がる。

「ま、まあシニョールエドが許してくれればきっと問題ないノーネ……三人とも、準備は良いノーネ?」

「ああ」

「待ちくたびれたぜ!」

「いつでも」

 クロノス教諭の、どちらかと言うと自分に言い聞かせているような質問に、俺たちは三者三様の答えを返す。
さっきは十代のせいでお流れになってしまったが、再び宣言しよう……デュエルの開始を。

『デュエル!』

エドLP8000

十代&遊矢LP8000

「先攻は俺からだぜ! ドロー!」

 デュエルディスクが最初のターンプレイヤーに示したのは、十代。
カードが見えなくなった時の事が嘘のように、元気良くカードを引いた。

「俺は《E・HERO スパークマン》を召喚!」

E・HERO スパークマン
ATK1600
DEF1400

 十代の初手に召喚する可能性の高い、雷を操る光の特攻隊長、スパークマン。
下級E・HEROの中では、まあまあなステータスを誇っている。
「……相変わらず、たかがE・HEROか」

「へっ。今のHEROデッキを前のHEROデッキと同じにしない方が良いぜ! ターンエンド!」

 デッキを同じと思わない方が良い、ってことは、これまでの【E・HERO】とは違うデッキなのだろうか。
初手スパークマンを見る限り、そうは見えないのだが……

「僕のターン、ドロー!」

 十代のデッキについて考えている暇はないようで、エドのターンへと移る。
……まあ、デュエルを進めていればいずれ分かるだろう。

「僕は《D−HERO ディスクガイ》を守備表示で召喚!」

D−HERO ディスクガイ
ATK300
DEF300  円盤を身体に纏った、小柄なD−HEROが守備表示の態勢をとる。
その貧弱なステータスとは裏腹に、D−HEROの中でも有数の警戒すべき効果を持っている。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 先も言った通りステータスは低い代わりに、墓地で発動するディスクガイの効果は強力だ。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚ドローし、二枚捨てる!」

 喜ばしいのか悲しいのか、いきなり手札交換を行う……《リミッター・ブレイク》とかは特に無い。
この手札交換で、出来れば《ブラック・コア》を使いたかったところではあるが……まあ、そう上手くはいかない。
だからまずは、頼むぜアタッカー!

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 十代のスパークマン以上に使用頻度が高いアタッカー、マックス・ウォリアーがその三つ叉の槍を持って現れる。

「バトル! スパークマンでディスクガイを攻撃! スパークフラッシュ!」

 いくら効果が強力でも、その守備力はスパークマンの攻撃力には適わない。
だが、破壊されたディスクガイから、『D』と書いてあるシグナルが空中へと放たれた。

「リバースカード、《デステニー・シグナル》を発動! そのエフェクトにより、デッキから《D-HERO ドゥームガイ》を特殊召喚!」

D-HERO ドゥームガイ
ATK1000
DEF1000

 ドゥームガイ……確か戦闘破壊した時、墓地のD-HEROをエドのスタンバイフェイズに特殊召喚する未来が決定する効果だ。
マックス・ウォリアーの相手モンスターを戦闘破壊した時のデメリットもあるし、ドゥームガイを破壊してもディスクガイが特殊召喚されて二枚ドローされるだけだ。
ここは攻撃しないでおく。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「……攻撃しないのか。僕のターン、ドロー!」

 そりゃあ攻撃しないだろう。
だが、相手フィールド場にモンスターを残すということは、相手が攻勢に出れるということだ。

「僕はドゥームガイをリリースし、《D−HERO ダブルガイ》を召喚する!」

D−HERO ダブルガイ
ATK1000
DEF1000

 ドゥームガイをリリースされて召喚されたのは……スーツ姿の男性?
上級モンスターにしては攻撃力は低い1000という数値で、亮とのデュエルには出なかったために効果は分からない。

「そしてダブルガイに《デーモンの斧》を装備する!」

 英国紳士風の男に悪魔の斧が装備されるという、シュールでミスマッチな光景が描写された。

「バトル! ダブルガイでスパークマンに攻撃! デス・オーバーラップ!」

「《くず鉄のかかし》を発動し、ダブルガイの攻撃を無効にする!」

 英国紳士の斧による攻撃は、突然飛び出したくず鉄のかかしによって防がれる。
そしてそのままくず鉄のかかしはセットされ、次なる出番を待った。

「助かったぜ遊矢……」

「甘いな。ダブルガイのエフェクト! このモンスターは、一ターンに二回攻撃が出来る!」

 英国紳士的な容貌であったダブルガイが、徐々に姿が変わっていき……似ても似つかぬ筋骨隆々の、野性味ある荒くれへと変貌した。

「ダブルガイでマックス・ウォリアーの攻撃! デス・オーバーラップ!」

 くず鉄のかかしは、さっき発動したために発動出来ない。
悪魔の斧がこれ以上似合わない格好となったダブルガイに、マックス・ウォリアーはその槍で抵抗するも破壊されてしまう。

十代&遊矢LP8000→7800

 マックス・ウォリアーは破壊されたものの、受けるダメージは微々たるものだ、まだまだやれる。
 そして役目を終えたダブルガイは、荒くれ姿から英国紳士風の姿へ戻っていった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン! ドロー!」

 ダブルガイにやられてしまったものの、マックス・ウォリアーとくず鉄のかかしのおかげでスパークマンは健在。
スパークマンを融合素材とするモンスターが融合召喚出来れば……

「俺は《融合》を発動! 手札のクレイマンとフィールドのスパークマンを融合し、《E・HERO サンダー・ジャイアント》を融合召喚!」

E・HERO サンダー・ジャイアント
ATK2400
DEF1500

 流石は十代、としか言いようがない最高のタイミングの融合。
しかもダブルガイを処理しつつ、ダイレクトアタックまで狙える融合モンスターだ。

「サンダー・ジャイアントの効果発動! 手札を一枚捨てることで、サンダー・ジャイアントより攻撃力が低いモンスターを破壊する! ヴェイパー・スパーク!」

「リバースカード、オープン! 《天罰》! 手札を一枚捨てることで、相手モンスターのエフェクトを無効にして破壊する!」

 サンダー・ジャイアントが放った雷はエドのリバースカードに吸い込まれ、天罰として自身に降り注いだ。
その雷により、サンダー・ジャイアントは破壊されてしまう……

「くっ……サンダー・ジャイアントが……だけど魔法カード《O-オーバーソウル》を発動! 墓地から通常モンスターのE・HEROを特殊召喚する!」

 十代とて、転んでもただではおかない。
特殊召喚するのは、やはりダブルガイの攻撃を防げるクレイマンだろうか。……更なる融合を狙ってスパークマン、というのは……流石の十代と言えども無理だろう。

 だが十代が起こした行動は、俺には……おそらくエドにも……予想出来ないことであった。

「俺の新たなヒーローを紹介するぜ! 来い、《E・HERO ネオス》!」

E・HERO ネオス
ATK2500
DEF2000

 『O』という空中に浮かび上がった文字から現れ、墓地から蘇ったモンスターは、《E・HERO ネオス》というモンスター。
十代が使用する旧E・HEROたちとは、デザインからして違い、アメリカンコミックのような旧E・HEROたちに対し、三分間しか戦えない光の巨人のような……そんないでたち。

「E・HERO、ネオス……?」

 いや、デザインなど今はどうでも良いとして重要なのは、今まで見たことがないという点である。
先の驚愕のセリフはエドのものだが、あの反応をみる限り、あのプロデュエリストを以てしても知らないらしい。

「ネオスペースからやってきた、俺の新しい仲間さ! バトル! E・HERO ネオスでダブルガイに攻撃! ラス・オブ・ネオス!」

 十代のかけ声に呼応して、ネオスは高く飛び上がって、そのままの勢いでダブルガイの脳天へとチョップを喰らわせる。
攻撃力の劣るダブルガイに防げるわけもなく、英国紳士風の姿と荒くれ姿の二つの姿が両断された。

「ちっ……」

エドLP8000→7500

 エドに本当に微々たるものだが初ダメージを与えた。
ダメージを与えたということより、エドの予想を外してネオスを召喚してダブルガイが破壊出来たことが大きかった。

「俺はこれでターンエンドだぜ!」

「僕のターン、ドロー!
……破壊されたダブルガイのエフェクト発動! 破壊されてセメタリーに送られた時、次の自分のターンのスタンバイフェイズに二体の《ダブルガイ・トークン》を召喚出来る! 《ダブルガイ・トークン》を二体、守備表示で特殊召喚!」

 ネオスに破壊されたダブルガイであったが、ダブルガイもD-HERO特有の未来を操る効果を持っていた為に、英国紳士風のトークンが二体、守備表示で召喚された。
D-HEROの名を冠しておらず、攻守共に1000の為に、攻撃力2500のネオスの敵ではない……が、二体特殊召喚された為に、十分な壁になる。

「僕はフィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動する!」

 十代とのデュエルに使用した、D-HERO版がスカイスクレイパーである《ダーク・シティ》とはまた違うフィールド魔法《幽獄の時計塔》により、エドのフィールドには大きな時計塔が現れ、回りは英国風の街並みとなった。

 英国風のイメージを持つD-HEROに、良く似合ったフィールドだったが、特に何も起きなかった。
D-HEROがいないからだろうか……?

「更に僕は《戦士の生還》を発動してセメタリーから《D-HERO ドゥームガイ》をサルベージし、そのまま守備表示で召喚する!」

 墓地から手札に戻され、二回目の登場となったドゥームガイ。
ドゥームガイ自身のステータスは低いが、墓地のD-HEROを特殊召喚させる未来が決定する効果はとても厄介だ……特に、今は墓地にディスクガイもいる。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 さて、エドは壁モンスターを召喚して守備を固めてきた。
だが効果は厄介でも、どれもステータスは低い。
十代のネオスがあれば押し切れる……!

「俺は……「相手プレイヤーのスタンバイフェイズのこの瞬間。《幽獄の時計塔》は新たな時を刻む!」

 メインフェイズに移行しようとした俺に、エドの《幽獄の時計塔》の処理が入った。
時計塔の時計が動き、12時から3時を指し示す……それに何の意味があるかは分からないが。

「気を取り直して、俺のメインフェイズ。《レスキュー・ウォリアー》を攻撃表示で召喚!」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 消防士のような格好をした機械戦士がひさびさに召喚される。
攻撃向けの効果を持ったモンスターではないが、露払い程度ならばこなせる攻撃力は備えている。

「バトル! レスキュー・ウォリアーで、ダブルガイ・トークンを攻撃!」

 レスキュー・ウォリアーがその手に持った消火器から水を出し、銃のように扱ってダブルガイ・トークンを破壊した。
……エドには一枚リバースカードがあるが、全体破壊トラップではないのか。

「続いて、ネオスでダブルガイ・トークンに攻撃! ラス・オブ・ネオス!」

 ネオスの空中からのチョップによって、二体現れたダブルガイ・トークンは二体とも破壊され、エドのフィールドに残るはドゥームガイとリバースカードのみとなった。

「俺はこれでターンエンド」

「僕のターン、ドロー!
……ターンエンドだ」

 なんと、エドは何もせずにターンエンド宣言を行う。
あのリバースカードはおそらく、モンスターを破壊したり攻撃を無効にするカードではないし、そもそもデュエルモンスターズに元来の意味での【ドローゴー】など存在しないはずだ。

「とりあえず俺のターン、ドロー!」

 ……考えるよりもまずは行動を起こす十代が羨ましい。

「お前のスタンバイフェイズ、幽獄の時計塔は新たな時を刻む!」

 幽獄の時計塔が指し示す時間が、3時から6時となる。
……相変わらず、何が起きてるかは分からないが。

「どんどん行くぜ! 俺は《N・フレア・スカラベ》を召喚!」

N・フレア・スカラベ
ATK500
DEF500

 再び、休学前には持っていなかった新カードが召喚された。
しかも、新カードどころかの『ネオスペーシアン』と呼ばれた新しいシリーズカードだ。

「フレア・スカラベの攻撃力は、相手の伏せカードの枚数分500ポイントアップするぜ! フレイミング・イリュージョン!」

 500ポイントアップと言えば聞こえは良いものの、元々の攻撃力が低いせいで実際には攻撃力1500ポイント止まり。
だが、十代は先程ネオスについて「ネオスペースから~」と説明していた……『ネオスペース』と『ネオスペーシアン』。
その名前から、恐らくはお互いに関係しているカード群……!

「行くぜ! フィールドのE・HERO ネオスと、N・フレア・スカラベをコンタクト融合!」

「コンタクト融合!?」

 コンタクト融合についての驚きの声は誰のものであっただろうか……恐らくはここにいる、十代以外の全員の声だろうが。
十代のフィールドのネオスとフレア・スカラベがデッキに戻っていき、代わりに新たなヒーローが特殊召喚された。

「現れろ、コンタクト融合HERO! 《E・HERO フレア・ネオス》!」

E・HERO フレア・ネオス
ATK2500
DEF2000

 謎の融合、コンタクト融合をして現れたのは、まさしくネオスとフレア・スカラベを融合したような赤いHERO。
ステータスは変わらないが、カードを二枚消費して融合し、わざわざ同じモンスターを出すわけがない。

「フレア・ネオスの攻撃力は、フィールド場の魔法・罠カード×400ポイントアップする! 俺はカードを一枚伏せ、これでフィールド場の魔法・罠カードの数は四枚!」

 エドのフィールドには幽獄の時計塔とリバースカードがあり、俺たちのフィールドには十代が今伏せたカードと一度発動された《くず鉄のかかし》がある。
よって攻撃力は、4100ポイント。

「更に魔法カード《H-ヒートハート》を発動! フレア・ネオスの攻撃力を500ポイントアップさせ、貫通効果を得る!」

 これでフレア・ネオスは、攻撃力4600の貫通効果持ちモンスター……!

「バトル! フレア・ネオスでドゥームガイに攻撃! バーン・ツー・アッシュ!」

 エドがブラフを使っていなければ、エドのリバースカードはモンスター破壊効果や攻撃無効効果ではない。
これは、初の大ダメージか……?

「リバースカード、オープン! 《エターナル・ドレッド》! 幽獄の時計塔の針を二つ進ませる! 刻め! 運命の針!」

 幽獄の時計塔の針が六時間刻まれ、時計塔の針が再び12時に戻る……だかそれだけ。
エターナル・ドレッドはそれ以外の効果を起こすことはなく、幽獄の時計塔からも何もなかった為にフレア・ネオスはドゥームガイを破壊する。

 その炎の攻撃に相応しく、フレア・ネオスが放ったのはドゥームガイを灰にするような火力。
H-ヒートハートにより、貫通効果で3600ポイントのダメージがエドのライフにい……かない!?

 フレア・ネオスの炎は、ドゥームガイを破壊したもののエドを避け、エドのライフにはダメージはない。

「ダメージが……?」

「幽獄の時計塔が再び12時を指した時、僕は戦闘ダメージを受けない!」

 俺も十代もデッキのタイプはビートダウン。
十代のフェイバリット《E・HERO フレイム・ウイングマン》や俺の《ニトロユニット》、《ミニマム・ガッツ》のようにバーンダメージを与えるカードがあるにはあるが、それで8000ポイント……いや、7500ポイントのエドのライフを削りきらなければならない。

 そんなことはもちろん不可能なために、一刻も早くあのフィールド魔法《幽獄の時計塔》を破壊しなければ……

「くっ……ターンエンドだ」

 戦闘ダメージを与えられないのであれば、レスキュー・ウォリアーでの追撃は無意味。
十代がエンド宣言をしたことで、H-ヒートハートの効果が切れて攻撃力が4100に……

 ……いや、フレア・ネオスが十代のエクストラデッキへと戻っていった……って、は!?。

「なに戻ってんだよフレア・ネオス~っ!?」

 十代も想定していない出来事だったようで、デュエルディスクに向かって泣き言を叫んでいた。

「……フン。僕のターン、ドロー! ドゥームガイのエフェクト発動! セメタリーから《D−HERO ディスクガイ》を特殊召喚する!」

D−HERO ディスクガイ
ATK300
DEF300

 ドゥームガイの戦闘で破壊された時、次のスタンバイフェイズに特殊召喚する運命が決定する効果によって、ディスクガイが特殊召喚された。

「ディスクガイがセメタリーから特殊召喚された時、二枚ドローする! ……僕は魔法カード《大嵐》を発動! フィールド場の魔法・罠カードを、全て破壊する!」

 ディスクガイのインチキ効果に辟易する間もなく、エドの使用した魔法カードを訝しむ。
確かに、俺たちのフィールドには《くず鉄のかかし》と十代が伏せたリバースカードがもう一枚あるが、それ以上にエドのフィールドには《幽獄の時計塔》がある。

 タイムラグがあるとはいえ、自分への戦闘ダメージを全てシャットアウトするという強力な効果を持ったフィールド魔法を、わざわざ自分の手で破壊した……?

 ……ならば考えられるのは、俺の《リミッター・ブレイク》のような破壊時に発動する効果……!

「再び12時を指し示した幽獄の時計塔が破壊された時、手札またはデッキから、《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚する!」

 ドレッドガイ……確か、鉄仮面を付けた囚人のようなD-HEROで、攻撃力・守備力が自分フィールド場のD-HEROの攻撃力の合計となる効果を持った、亮にトドメをさした切り札……それが今、特殊召喚される……? 

「カモン、《D-HERO ドレッドガイ》!」

 エドの大嵐に幽獄の時計塔は崩れていくが、その中から崩壊する瓦礫をものともせずに……D-HERO ドレッドガイが、現れた。
 
 

 
後書き
またも前後編となりました。
……というか、遊矢何もやってない……

感想・アドバイス待ってます。 

 

―運命の教理―

 
前書き
無駄に長くなってすいません 

 
現在のフィールドの状況

十代&遊矢LP7800
十代のターン

モンスター
レスキュー・ウォリアー

エドLP7500

モンスター
D−HERO ドレッドガイ
D−HERO ディスクガイ


 大嵐によって破壊された幽獄の時計塔から、時計塔内部で鎖に繋がれていた囚人がその手足に付いている鎖を引きちぎり、時計塔から脱出を果たした。

 囚人の名前はD−HERO ドレッドガイ。
時計塔と鎖によって封じ込められていた力を俺と十代に向けて存分に振るうべく、一際大きい声でいなないた。

「ドレッドガイのエフェクト発動! 幽獄の時計塔のエフェクトによって特殊召喚された時、セメタリーからD−HEROと名の付いたモンスターを二体、特殊召喚する! ドレッド・ウォールによって蘇生せよ、《D−HERO ダイヤモンドガイ》! 《D−HERO ダッシュガイ》!」

D−HERO ダイヤモンドガイ
ATK1400
DEF1600

D−HERO ダッシュガイ
ATK2100
DEF1000

 その先程のいななきに呼応するように、墓地から二体のD−HEROが特殊召喚された……俺の《手札断殺》の時か、エド自身の《天罰》によって墓地に送られていたのだろう。

 そして、恐らくはこの幽獄の時計塔による特殊召喚こそがドレッドガイの本分であろう……亮の時はダッシュガイの効果で特殊召喚したが、亮のデュエルでも力を隠し持っていた、ということか。

「そしてドレッドガイの攻撃力・守備力は、このカード以外のD−HEROの攻撃力の合計となる!」

 エドのフィールドにいるD−HEROは、ドレッドガイを除けば、ダッシュガイ・ダイヤモンドガイ・ディスクガイの三種類。
その攻撃力の合計……よって、ドレッドガイの攻撃力・守備力は、3800ポイント……いや、まだエドは通常召喚を行っていない。

 俺の嫌な予感が的中し、エドは更なるD−HEROを召喚した。

「僕は《D−HERO ダイハードガイ》を召喚!」

D−HERO ダイハードガイ
ATK800
DEF800

 新たに召喚されたD−HERO ダイハードガイのステータスは、攻守共に800と大した数値ではないものの、このタイミングではD−HEROが増えたことが重要だった。
ダイハードガイの登場により、ドレッドガイの攻撃力・守備力は神をも超え……4600ポイントとなった。

「バトル! ダッシュガイでレスキュー・ウォリアーに攻撃! ライトニング・ストライク!」

 ダッシュガイがレスキュー・ウォリアーへ向けて走る……このターンを最小限のダメージで耐える手段はあるが、今は俺がターンプレイヤーではないので、俺にプレイする権限はない。
だから頼む、気づいてくれ十代……!

「レスキュー・ウォリアーを対象に、遊矢の墓地の《シールド・ウォリアー》の効果を発動! レスキュー・ウォリアーは、この戦闘じゃ破壊されないぜ!」

 ……よく気づいてくれた十代!
最初のターンの《手札断殺》の時に、墓地へ送られていた盾を持つ機械戦士がレスキュー・ウォリアーの前へ現れ、ダッシュガイの攻撃を受けて代わりに破壊される。 

「更に、レスキュー・ウォリアーの効果で戦闘ダメージは受けないぜ!」

「……ダッシュガイは、攻撃後守備表示となる……ドレッドガイで、レスキュー・ウォリアーに攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

 その巨体から振るわれる剛腕に、たかが攻撃力1600のレスキュー・ウォリアーが防げる道理もなく、呆気なく破壊されるものの、最後にレスキュー・ウォリアーが放った水流によって守られ、俺と十代に戦闘ダメージは発生しない。

「だが、まだD-HEROたちの攻撃は残っている! ダイハードガイで、遊城十代にダイレクトアタック! デス・フォー・フィアーズ!」

遊矢&十代LP7800→7000

「続いて、ダイヤモンドガイでダイレクトアタック! ダイヤモンド・ブロー!」

「ぐあああっ!」

遊矢&十代LP7000→5600

 レスキュー・ウォリアーが破壊された後の、二体のD-HEROたちの攻撃を止められる術はなく、合計で2200のダメージを与えられてしまった。
だが、レスキュー・ウォリアーとシールド・ウォリアーのおかげでダメージは大幅に減らせたことは事実。
心の中で二体にお礼を言い、次なるエドの行動に備えた。

「メインフェイズ2、僕はダイヤモンドガイのエフェクトを発動! デッキトップが通常魔法ならば、その通常魔法をセメタリーに送る。ハードネス・アイ!」

 ダイヤモンドガイの効果によって、エドのデッキトップがめくられる。
めくられたデッキトップのカードは、《デステニー・ドロー》……通常魔法カードだ。 

「これで次のターン、デステニー・ドローの発動する未来は決定した。ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 さて、攻撃を十代だけに任せておける筈がない。
チューナーモンスターを引いたことだし、攻勢に出させてもらおう!

「俺のフィールドにモンスターはいない! よって、《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 黒い球体にしか見えないシンクロン、アンノウン・シンクロンが特殊召喚される。
ステータスは貧弱だが、チューナーモンスターにステータスなど関係ない。

「更に《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動! 攻撃力500以下の同名機械族モンスターをデッキから特殊召喚する! 増殖せよ、チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 ステータスだけを見れば、全員揃ってもエドの一番攻撃力の低いディスクガイと同等なステータス。
もちろんドレッドガイなどに及ぶべくもないが、チューナーと非チューナーが揃っている……!

「チューニング・サポーター三体の効果を発動! シンクロ素材となる時、このカードのレベルを2に変更出来る!」

 よって、合計のレベルは……7。
俺のシンクロモンスターの方のラッキーカードの出番に他ならない……!

「レベル2となったチューニング・サポーター三体に、レベル1のアンノウン・シンクロンをチューニング!」

 アンノウン・シンクロンが分解されて光の輪となり、その中に入ったチューニング・サポーターが六つの光の球となる。
そして、一際大きい光を放ち始めた。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 黄色いアーマーを着込んだ機械の竜、パワーツール・ドラゴン。
攻撃力は2300と低めだが、この状況を打破出来るカードだ。

「チューニング・サポーター三体がシンクロ素材になったため、カードを三枚ドローさせてもらう……そして、パワーツール・ドラゴンの効果発動! デッキから装備魔法カードを裏向きにして三枚選び、相手が選んだカードを手札に加える! 俺が選ぶのは《団結の力》、《ダブルツールD&C》、《魔導師の力》の三枚だ。パワー・サーチ!」

「……真ん中のカードだ」

 エドの宣言通りに真ん中のカードを手札に加え、それ以外のカードをデッキに戻す。
そして、選ばれたカードをデュエルディスクにセットした。

「《ダブルツールD&C》をパワーツール・ドラゴンに装備し、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 自分のターンと相手のターンで効果が変わる、というトリッキーというよりも扱いにくい効果を持つダブルツールD&Cだが、扱いにくい分その効果は強力だ。
特に自分のターンでの効果のおかげで、ドレッドガイを破壊出来る!

「バトル! パワーツール・ドラゴンで、ドレッドガイに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「……迎え撃て、ドレッドガイ! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

 パワーツール・ドラゴンに、前回のターンでレスキュー・ウォリアーを破壊したドレッドガイの剛腕が襲いかかる。
だが、パワーツール・ドラゴンの右腕に装着されたドリルはそれをなんなく削り、そのままドレッドガイを破壊した。

「なに!?」

「ダブルツールD&Cは、戦闘する相手モンスターの効果を無効にする! よってドレッドガイの効果は無効になり、攻撃力は0!」

 いくら攻撃力が高くなろうが、元々の攻撃力は0である限り、ドレッドガイであろうともダブルツールD&Cには適わない。
しかもエドのライフに、パワーツール・ドラゴンの攻撃力そのままのダメージが通った。

「ぐあっ!」

エドLP7500→4200

「よし、ターンエンドだ!」

 D-HEROたちのエースカードであろうドレッドガイを破壊し、更にかなりのダメージも与えた。
これ以上ない成果だったが、相手のエドは不敵な笑みを崩さないのが、俺に嫌な予感を与え続けた。

「僕のターン、ドロー!
……スタンバイフェイズ時、ダイハードガイのエフェクト発動! 前ターンで破壊されたD-HERO一体を特殊召喚する! ワンダー・アライブ!」

 ダイハードガイの横から時空の穴が出現していく。
前回の俺のターン、破壊したのは当然……ドレッドガイ!

「セメタリーから蘇れ! ドレッドガイ!」

 ダイハードガイの予期せぬ効果によって、エドのフィールドは前回のエドのターンと全く同じ状況になってしまう。
エドのフィールドのD-HEROを倒すには、ダイハードガイから倒すしか無いのか……!

「そして、セメタリーのデステニー・ドローのエフェクトを発動し、二枚ドロー! ……更に、ダッシュガイのエフェクトを発動! ディスクガイをリリースすることで、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」


 ディスクガイをフィールドに残しておいても、たかが300ポイントの上昇値であるし、そもそも墓地からの蘇生によって効果を発揮するモンスターだ、問題ないと判断したのだろう。
そしてその判断のせいで、ダッシュガイまでもがパワーツール・ドラゴンの攻撃力を超えた。

「バトル! ダッシュガイでパワーツール・ドラゴンに攻撃! ライトニング・ストライク!」

 相変わらずのどこがライトニングなのかさっぱり分からない攻撃により、このままではパワーツール・ドラゴンは破壊されてしまう。
パワーツール・ドラゴンは、自信に装備された装備魔法カードを墓地に送ることで破壊を無効にする効果がある……が、その効果はあえて発動せず、パワーツール・ドラゴンはそのまま破壊された。

「すまない、パワーツール・ドラゴン……!」

遊矢&十代LP5600→4800

「ダッシュガイは攻撃後、守備表示となる。……確かパワーツール・ドラゴンには……なるほどな。ドレッドガイで、黒崎遊矢にダイレクトアタック! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

「……《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了させる!」

 速攻のかかしのおかげで、ドレッドガイを始めとするD-HEROたちの追撃は受けなくて済んだものの、俺の心中は穏やかではなかった。

 何故ならばエドは先程、《パワーツール・ドラゴン》の効果を発動しなかったことに戸惑いを覚えており、その後の《速攻のかかし》も読んでいた。
そのことから、エドはシンクロモンスターを始めとする《機械戦士》のことを研究してきていることが分かるのと、更に一見邪道な、相手フィールドががら空きの時に一番攻撃力が高いモンスターを攻撃するということ……もちろん、《冥府の使者ゴーズ》や《血涙のオーガ》などは俺のデッキに入っていないが……をやったことで、攻撃力の低めなダイヤモンドガイとダイハードガイを守備表示にし、次なる十代のターンの攻撃を防ぐことを可能にした。
 流石はプロ……亮に完勝するだけのことはあった。

「ダイヤモンドガイとダイハードガイを守備表示にし、ダイヤモンドガイのエフェクト発動! デッキトップが通常魔法ならば、その通常魔法をセメタリーに送る。ハードネス・アイ!」

 ダイヤモンドガイの効果、ハードネス・アイが示したデッキトップのカードは《強欲な壺》。
またも、強力なドローソースの発動が決定した。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!」

 十代が勢いよくカードを引く。
だが、十代は先程のターンでフレア・ネオスをコンタクト融合した影響で、ネオスがデッキに戻ってしまっている。
……墓地や手札ならばともかく、デッキに戻されるのが一番厄介なことを、俺は三沢の《火車》を通じて良く知っている。

 十代はどうするか……?

「俺は《カードガンナー》を召喚!」

カードガンナー
ATK400
DEF400

 俺の心配をよそに、十代のフィールドに現れたモンスターは《カードガンナー》。
十代の使用するカードシリーズのモンスターの一種であり、その中でも特に効果が有用なモンスターだ。

「カードガンナーの効果発動! デッキからカードを三枚墓地に送り、攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

 カードガンナーは攻撃表示であり、攻撃力も1900ポイントにまでアップした。
よって、ドレッドガイ以外のモンスターは戦闘破壊出来ることになるが……

「バトル! カードガンナーで、ダイハードガイを攻撃する!」

 カードガンナーの腕に取り付けられた、銃のような機械から撃ち出されたカードによって、ダイハードガイは破壊される。
他のD-HEROを特殊召喚する効果はあっても、自身を守る効果はないようだ。

「カードを一枚伏せて、ターンを終了するぜ!」

「僕のターン、ドロー!
セメタリーの強欲な壺を発動し、更に二枚ドロー!」

 先程のターンと同じく、ダイヤモンドガイによってエドは計三枚のカードをドローする。
早くダイヤモンドガイを破壊しなければ、エドのデッキトップが通常魔法である限り、毎ターン何らかのアドバンテージをエドは得ることとなる。

「バトル! ドレッドガイでカードガンナーに攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

 他の守備表示のD-HEROたちは、一切攻撃表示にしないでのバトルフェイズへの突入。
それも当然であり、攻撃力が400に下がったカードガンナーが攻撃表示で放置されているのだから、十代のリバースカードは攻撃を無効にする類の罠、もしくはそれに類するものであるだろう。

「リバースカード、《攻撃の無力化》を発動!」

 ドレッドガイの攻撃は時空の穴に吸い込まれてしまうが、この程度はエドには予想出来ていたこと。
さして表情も変えず、メインフェイズ2へと移行した。

「ダッシュガイを攻撃表示に変更し、ダイヤモンドガイのエフェクト発動! デッキトップが通常魔法ならば、その通常魔法をセメタリーに送る。ハードネス・アイ!」

 このデュエルで三度目となるデッキトップの確認をすると、現れたのはまたも通常魔法のイラストだった。

「デッキトップは通常魔法《ミスフォーチュン》。よって、ミスフォーチュンは未来へと送られる!」

 十代とのデュエルで、決め手となった魔法カードが未来へと送られる。
まだ俺たちのライフに余裕はあるために、引導火力とはならないと思うが……

「僕はターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 十代が攻撃の無力化を用いて、カードガンナーを俺のターンへと回してくれた……ありがたく使わせてもらおう!

「カードガンナーの効果を使用し、デッキから三枚墓地に送る! ……更にチューナーモンスター、《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 ニトロという名に反し、赤い消火器のような形のニトロ・シンクロンを召喚する。
カードガンナーを、最後まで有効活用する為に。

「レベル3のカードガンナーと、レベル2のニトロ・シンクロンをチューニング!」

 ニトロ・シンクロンの、頭についたメーターが激しく動くと、光り輝いている二つの輪へと変化し、カードガンナーを包む。
カードガンナーも三つの光の球となり、合計レベルは、5。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 短剣を武器とした、傷だらけの機械戦士であるスカー・ウォリアーがシンクロ召喚される。
マックス・ウォリアーが通常の機械戦士のアタッカーならば、スカー・ウォリアーはその戦闘破壊耐性を活かしたシンクロモンスターのアタッカーであった。

「バトル! スカー・ウォリアーで、ドレッドガイに攻撃!」

 パワーツール・ドラゴンの時と同じく、再び攻撃力の劣るモンスターでのドレッドガイへの攻撃。
ドレッドガイの現在の攻撃力は3500だが、俺はまたも攻撃力を0にする効果を発動する。

「墓地からトラップカード発動! 《ブレイクスルー・スキル》! 墓地のこのカードを除外することで、相手モンスター一体の効果を無効にする!」

「墓地からトラップ!?」

 横の十代から驚きの声が上がるが、墓地は共通なんだからお前にも分かってた筈だろう、十代……

「墓地に送ったターンでは発動……いや、《手札断殺》の時か!」

「正解だ! ドレッドガイを破壊しろ、スカー・ウォリアー! ブレイブ・ダガー!」

 その技名の通り、短剣であろうとも勇敢に突撃していき、力を失ったドレッドガイに肉薄した。

「残念だが惜しかったな。《D-カウンター》を発動! D-HEROが攻撃対象となった時、相手モンスターを破壊する!」

「なっ!」

 ドレッドガイの前に現れた盾型のカウンターによって、いくら戦闘破壊耐性があろうとも、効果破壊ではスカー・ウォリアーは破壊されてしまう。

「く……ガードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 スカー・ウォリアーによっての反撃は失敗したが、この程度で諦めてはいられない。
このターンは絶対に守り抜き、十代にターンを回す……!

「僕は《D-HERO ダンクガイ》を召喚!」

D-HERO ダンクガイ
ATK1200
DEF1700

 亮のデュエルにも現れた、手札のD-HEROを墓地に送ることで相手にバーンダメージを与えるD-HEROが召喚される。
これにより、ドレッドガイの攻撃力が更に1200ポイントアップし、4700となった。

「バトル! ダンクガイで……「待った! 手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動! ドレッドガイの効果をこのターン、無効にする!」

 手札から飛び出したもう一枚のラッキーガードである少女が、ドレッドガイを可能な範囲で包み込み、ドレッドガイの効果を無効にする。

「このまま続行する! D-HERO ダンクガイでダイレクトアタック! パワー・ダンク!」

「リバースカード、オープン! 《シンクロコール》を発動! 墓地のチューナーと非チューナー一体を除外することで、シンクロ召喚を行う!」

 十代の使用する《ミラクル・フュージョン》のシンクロ召喚・トラップカード版であるこのカード。
チューナー一体と非チューナー一体しか選択出来ないのは難点と言えば難点だが、今から召喚しようとしているモンスターには、そんなことは関係がない。

「レベル7の《パワーツール・ドラゴン》と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》を墓地でチューニング!」

 ラッキーガード同士が墓地から現れ、いつものようにシンクロ召喚の下準備が行われていく……合計レベルは、8。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ!」

 三幻魔以来となる、俺のデッキの切り札の召喚。
エフェクト・ヴェーラーがパワーツール・ドラゴンを包み込み、その身体が紅い炎に包まれていき……遂に、装甲板が外れていった。

「……現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2500

 機械の装甲を外し、パワーツール・ドラゴンは神話の龍のような姿へと進化する。
ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功したことで、ライフポイントを4000ポイントのすることが出来るが……俺と十代のライフは4800だ、使う必要はないだろう。

「何だ……ライフ・ストリーム・ドラゴン……? ダンクガイの攻撃を中止し、セメタリーの《ミスフォーチュン》のエフェクトを発動! 攻撃していない時、相手モンスター一体の攻撃力の半分のダメージを与える!」

 先のターンにおいて、ダイヤモンドガイの効果で未来に飛ばされていたミスフォーチュンが起動する。
ライフ・ストリーム・ドラゴンという全く知らないモンスター相手にも、動揺せずに次なる手を打てるその胆力は流石だが、その魔法カードはライフ・ストリーム・ドラゴンには通じない。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがいる限り、俺は効果ダメージを受けない! ダメージ・シャッター!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンによってミスフォーチュンは無効化されたが、エドは更なる手を打った。

「ダイヤモンドガイのエフェクト発動! デッキトップが通常魔法ならば、その通常魔法をセメタリーに送る。ハードネス・アイ!」

 都合四度目の、ダイヤモンドガイの効果起動。
毎回毎回当てているのでいい加減外れろと願うものの、エドは通常魔法を引き当てる……カード名は《D-マインド》。
聞いたことがないカードであり、『D』の文字があるためにまだ見ぬD-HEROのサポートカードだと推測しておく。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!」

 十代のターン、ライフ・ストリーム・ドラゴンを託したものの、未だにドレッドガイより攻撃力は下。
他のモンスターから破壊していくことになるだろう。

「へへ、墓地のネクロダークマンの効果を発動! 手札のレベル5以上のモンスターをリリース無しで召喚出来る! 来い、《E・HERO ネオス》!」

E・HERO ネオス
ATK2500
DEF2000

 フレア・ネオスとのコンタクト融合によってデッキに戻ってしまったネオスだったが、十代は再び引いたらしい……流石、俺のドローは奇跡を呼ぶと自称するだけある。
そして、これまではエッジマンしかいなかった上級E・HEROのサポートカード、《E・HERO ネクロダークマン》の効果を発動して召喚される新ヒーロー、ネオスをどうやって使うか……?

「更に《ヒーローハート》を発動! ネオスの攻撃力を半分することで、このターン二回攻撃が出来る!」

 二回攻撃が出来るのは良いが、攻撃力を半分にしたことによって、戦闘破壊出来るモンスターはもはやダンクガイのみ。
だが、E・HEROには強力な戦闘サポートカードがある。

「ヒーローの戦うべきフィールドって奴を、見せてやるぜ! 《摩天楼-スカイスクレイパー》を発動!」

 深夜のデュエル・アカデミアのデュエル場が、E・HEROの戦うフィールドたる高層ビル街へと変化していく。
その中央にそびえ立った一際大きいビルの頂上へと、ネオスは降り立っていた。

「バトル! ネオスでダッシュガイに攻撃! ラス・オブ・ネオス!」

 高層ビルから急降下しての一撃に、ダッシュガイはとても耐えきれず破壊された。

「ちっ……」


エドLP4200→4050

 そしてダッシュガイを破壊した勢いそのまま、ネオスは次なる目標へと目を付けた。

「《ヒーローハート》の効果でダイヤモンドガイに攻撃! ラス・オブ・ネオス!」

 攻撃表示のダンクガイではなく、より効果が厄介なダイヤモンドガイへと標的を変え、ネオスのチョップが炸裂した。

 これで、四回にも渡った通常魔法を未来に飛ばすという厄介な効果を持つダイヤモンドガイも、ドレッドガイの攻撃力を大幅に増やしていた主力アタッカーであるダッシュガイが破壊され、エースであるドレッドガイの攻撃力は既にダンクガイと同じ1200ポイント。
よって、ライフ・ストリーム・ドラゴンの敵じゃない……!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンで、ドレッドガイに攻撃だ! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが口から放った光弾が、その高攻撃力で長く君臨していたドレッドガイを消し飛ばした。

「うわああっ!」

エドLP4050→2350

 十代の奇策、ヒーローハート+スカイスクレイパーによって、エドのフィールドは崩壊した。
残るは一枚のリバースカードと、攻撃表示のダンクガイのみだ。

「よっしゃ、ターンエンドだぜ!」

「……僕のターン、ドロー!」

 今ドレッドガイを蘇生してもダンクガイと同じ攻撃力にしかならず、攻撃力が戻ったネオスと、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力を超えられるとは思えない。
ならば、警戒すべきは先のターンで、ダイヤモンドガイにより未来に飛ばされていた《D-マインド》という魔法カード。
何か一発逆転のカードでなくければ良いのだが……

「セメタリーの《D-マインド》の効果発動! デッキからレベル3以下のD-HEROを特殊召喚する! カモン、《D-HERO デビルガイ》!」

D-HERO デビルガイ
ATK600
DEF800

 一発逆転のカードだと推測されていたカードはそうではなく、デッキからレベル3以下のD-HEROを特殊召喚するという、有効なサポートカードだった。

 デッキから現れたのは、その効果で亮にトドメを刺す原因となったデビルガイ。
だが、この状況ではデビルガイの効果であろうとも打破することは適わないとは思いたいが……

「更に《ドクターD》を発動! セメタリーの《D−HERO ダブルガイ》を除外し、セメタリーに眠る《D−HERO ディスクガイ》を特殊召喚! そのエフェクトにより二枚ドロー!」

 亮のデュエルにも使われた、D−HEROの蘇生カードによってディスクガイが特殊召喚され、その効果によって二枚ドローする……相変わらず便利だ、反則的なまでに。


 ……これでエドのフィールドには、ダンクガイ、ディスクガイ、デビルガイの三体が揃う。
D−HEROの下級モンスターは《機械戦士》並みに総じてステータスが低いので、そのステータスに驚きはしないが、この状況で低ステータスモンスターを並べるのに、何かを狙っていない筈がない……!

「行くぞ、これがD-HEROの切り札だ!」

「切り札だと(だって)!?」

 今までドレッドガイが切り札のような扱いなだけあって、真の切り札の登場に俺は警戒し、一緒に驚いた十代は目を輝かせた。

「D-HEROを含む三体のモンスターを特殊召喚することで、このモンスターは特殊召喚出来る! カモン、《D-HERO ドグマガイ》!」

D-HERO ドグマガイ
ATK3400
DEF2400

 そうして召喚されたのは、黒い翼をはためかせた、黒い鎧を着たいかにも西洋風のダークヒーローとした男だった。
高層ビルからその黒翼を用いて、俺と十代の前へ立ちふさがった。

「攻撃力……3400……!」

「すげぇモンスターだぜ!」

 またも俺と十代で意見が食い違ったものの、強力な切り札が登場したことには違いない。
しかし今のターンプレイヤーは十代である為に、俺が気張っても仕方がなく、十代を信じるしかない。

「更に《死者蘇生》を発動! セメタリーのドレッドガイを特殊召喚!」

 ずっと俺たちを苦しめていたドレッドガイが、万能蘇生カードによってあっさりと再び特殊召喚された。
今、エドのフィールドにいるD-HEROは切り札たるドグマガイのみ……だが、攻撃力・守備力ともに3400という恐るべきモンスターとなった。

「更にドグマガイに装備魔法《旋風剣》を装備し、バトル! ドグマガイでネオスに攻撃! デス・クロニクル!」

 今装備された装備魔法カード《旋風剣》……ステータスに変化は見られないが……から風が発せられ、ネオスを突き刺して穿った。

「うわああっ!」

遊矢&十代LP4800→3900

「旋風剣のエフェクト発動! 攻撃したダメージステップ終了後、相手の魔法・罠カードを破壊出来る! 遊城十代のフィールド魔法、《摩天楼−スカイスクレイパー》を破壊する!」

 ネオスを攻撃した時より更に大きい旋風が巻き起こり、十代の摩天楼−スカイスクレイパーが破壊される。
ネオスの攻撃力が2500であった為に、摩天楼-スカイスクレイパーが破壊されてしまったのはとても痛いが仕方ない。

「更に、ドレッドガイでライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

「くっ……だけど、ライフ・ストリーム・ドラゴンは墓地の装備魔法カードを除外することで破壊を免れるぜ! 墓地の《ダブルツールD&C》を除外する!」

遊矢&十代LP3900→3400

 ライフ・ストリーム・ドラゴンは、自身の第三の効果によって破壊を免れたものの、相手のフィールドには攻撃力3400のモンスター二体……か。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これでエドのフィールドは、ドグマガイにドレッドガイ、そしてリバースカードが二枚。
対するこっちは、ライフ・ストリーム・ドラゴンが一体のみ……

「お前のスタンバイフェイズ、ドグマガイのエフェクト発動!」

 行動の指針が固まり、手札から魔法カードをデュエルディスクに読み込ませようとしたところで、エドが言うにはドグマガイの効果の処理が入った。

「ドグマガイが召喚に成功した次の相手ターンのスタンバイフェイズ、相手ライフを強制的に半分にする! ライフ・アブソリュート!」

「なっ……!?」

 ドグマガイから黒色のオーラのようながにじみ出て、そのオーラのようなものに触れた瞬間、俺たちのライフは一瞬で半分となった。

遊矢&十代LP3400→1700

 更に上手いところは、ドグマガイの効果はダメージを半分にする効果ではなく、ライフポイントを半分にする効果であるようなので、ライフ・ストリーム・ドラゴンでは無効には出来ない。
《ミスフォーチュン》の無駄打ちの時、そこまで読み取っていたということか。

「通常魔法《アームズ・ホール》を発動! このターンの通常召喚を封じ、デッキの一番上のカードを墓地に送ることで、デッキから《団結の力》を手札に加える!」

 気を取り直し、装備魔法カードのサーチカードを発動する。
通常召喚封じは若干厳しいものの、団結の力があればドグマガイを破壊出来る……よし、ラッキーだ。
アームズ・ホールのオマケの効果で、墓地に送られたカードが更に発動する!

「墓地に送られた《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! デッキから守備表示で現れろ、マイフェバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

「ライフ・ストリーム・ドラゴンに《団結の力》を装備! 俺のフィールドのモンスターは二体のため、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力は1600ポイントアップする!」

 アームズ・ホールの効果によって、リミッター・ブレイクが墓地に落ちたのは嬉しい誤算であった。
スピード・ウォリアーがデッキから特殊召喚されたおかげで、団結の力の上昇値が更に伸び、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力は4500に到達する。

「バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、ドグマガイを攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「リバースカード、オープン! 《D−シールド》!」

 エドの使用したトラップカードから異様に大きい盾が飛び出し、ドグマガイの 《旋風剣》を持っていない方の手に装備された。
そして、ライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾に正面からぶつけると……こちらの光弾が先に砕け散った。

「D−シールドのエフェクトは、発動後装備カードとなって攻撃対象となったD−HEROに装備する。そして装備したD−HEROを守備表示にし、戦闘破壊耐性を与える!」

「ちっ……!」

 ドグマガイは守備表示になったために戦闘ダメージは与えられず、しかも戦闘破壊耐性まで得た。
それにより、先にドグマガイを破壊してドレッドガイの攻撃力を0にすることは、D−シールドを破壊するまで実質不可能……!
……スピード・ウォリアーを守備表示で召喚していて助かった。

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 しかもエドのフィールドには、攻撃した後に相手の魔法・罠カードを破壊する装備魔法《旋風剣》がある。
スピード・ウォリアーをドグマガイで攻撃すれば、旋風剣の効果が発動し、団結の力が破壊されてライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力はドレッドガイ以下となる……さっき感謝したとこ悪いが、スピード・ウォリアーの特殊召喚が裏目に出た。

 ……まあ結果的には、スピード・ウォリアーが特殊召喚されようがされまいが、どちらにせよ変わらなかったのだが。

「通常魔法《クロス・アタック》を発動! このターンのドレッドガイの攻撃を封じることで、ドグマガイはダイレクトアタックが出来る!」

 自分フィールドの同じ攻撃力を持つモンスター一体の攻撃を封じることで、もう一体がダイレクトアタック出来るようになる魔法カード、《クロス・アタック》……なるほど、ドレッドガイの効果ならばこの状況になることも容易いか。

「バトル! ドグマガイで黒崎遊矢にダイレクトアタック! デス・クロニクル!」

「《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、俺はカードを一枚ドローする!」

 いくらダイレクトアタックをしようとも、戦闘ダメージを0にされては意味がない。
ドグマガイの旋風剣から発せられた風は、俺たちの前に現れたブロックに阻まれた。

「だが、《旋風剣》のエフェクト発動! ライフ・ストリーム・ドラゴンに装備された、《団結の力》を破壊する!」

 ブロックに阻まれた風はライフ・ストリーム・ドラゴンの方に向かい、団結の力を破壊した。
これによりライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力は、元々の2900。

「……《クロス・アタック》のデメリットエフェクトでドレッドガイは攻撃出来ない。ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!
……よし、《ホープ・オブ・フィフス》を発動! ネオス、クレイマン、スパークマン、ネクロダークマン、サンダー・ジャイアントをデッキに戻すことで、二枚ドローするぜ!」

 ドローしたカードを即座にデュエルディスクにセットしたと思えば、更にカードを引くためのドローカード。
一部の例外を除いて《貪欲な壺》の下位互換に過ぎないが、今はそれで充分だ。

 墓地にいた五枚のヒーローと引き換えに、十代はカードを二枚ドローし……はちきれんばかりに目を輝かせた。

「コイツでトドメだ! 《ヒーローフラッシュ》を発動!」

 《ヒーローフラッシュ》
セブンスターズの一人、アビドス三世の時にフィニッシュの鍵となった魔法カードであり、E・HEROの通常モンスター一体をデッキから特殊召喚する上に、フィールドにいるE・HEROの通常モンスターはダイレクトアタックが出来るという強力な効果ではある。
だが、墓地の所定の魔法カード四枚を除外しなければいけないという厳しい条件がある……が。

 十代には、そんな条件あってないようなものだ。

「墓地の《H-ヒートハート》《E-エマージェンシーコール》《R-ライトジャスティス》《O-オーバーソウル》を除外し、デッキから今戻した《E・HERO ネオス》を特殊召喚!」

 十代が新たに手に入れたネオスは通常モンスター。
攻撃力2500のダイレクトアタッカーがデッキから現れると考えると……なかなかに怖いものがある。

 《H-ヒートハート》はフレア・ネオスを対象に使用され、《E-エマージェンシーコール》は、フレア・ネオスの攻撃力を上げるために伏せられたが、エドの《大嵐》で破壊され、《R-ライトジャスティス》は《カードガンナー》の効果で墓地に送られた三枚のうちの一枚であり、《O-オーバーソウル》はネオスの特殊召喚に使用された。

 そして、エドのライフは残り2350……ネオスの攻撃力以下の数値だ……!

「バトル! ドグマガイとドレッドガイをすり抜け、エドにダイレクトアタック! ラス・オブ・ネオス!」

「……その程度の攻撃は読んでいる! 《D-フォーチュン》を発動! セメタリーのダンクガイを除外することで、ダイレクトアタックを無効化する!」

 エドが読んでいると言ったことを証明するように、ずっと伏せられていたままであったD-フォーチュンというリバースカードによって、ネオスの決死のダイレクトアタックは防がれてしまう。
結果的には、攻撃表示のネオスが残るだけという最悪の結果となってしまった。

「くっ、すまねぇ遊矢……ライフ・ストリーム・ドラゴンを守備表示にして、カードを二枚伏せてターンエンド」

「僕のターン、ドロー!
このままバトルだ!」

 引いたカードの確認もそこそこに、エドはD-HEROたちに攻撃を告げた。

「僕はドレッドガイでネオスに攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

 大男による自慢の剛腕の一撃がネオスを吹き飛ばした。
十代が二枚伏せたリバースカード……そして、俺が伏せたカードも攻撃を無効にするカードではなく、言ってしまえばただのブラフだった。

遊矢&十代LP1700→600

「更にドグマガイで、ライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! デス・クロニクル!」

「《団結の力》を除外することで、ライフ・ストリーム・ドラゴンの破壊を無効にする!」

 二回目となるライフ・ストリーム・ドラゴンの破壊耐性が発動するが、これも装備魔法カードがある限りで有限に過ぎない。
しかも、エドもそれは分かっているだろう。

「ドグマガイに装備されている、《旋風剣》のエフェクト発動! ……遊城十代のリバースカードを破壊する!」

 エドが《旋風剣》の効果の破壊対象に選んだのは、俺たちのフィールドに伏せられている三枚のカードのうちの十代が伏せた一枚。

 旋風によって破壊されたのは《ヒーローブラスト》。
0:1交換が狙える優秀なHEROのサポートではあるが、今はダメージステップ終了時のために発動出来ない。

「フン……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 そして、十代のもう一枚のリバースカード……ありがたく受け取るぜ、十代!

「リバースカード、オープン! 《HEROの遺産》! 墓地にレベル5以上のHEROが二体いる時、二枚ドロー出来る!」

 俺たちの墓地にいるHEROは、さっきのエドのターンで破壊されたネオスと、カードガンナーによって墓地に送られたエッジマンがいた。
よって、俺は二枚ドローする。

「……感謝するぜ、十代。俺は《スピード・ウォリアー》を守備表示から攻撃表示に変更する!」

 俺の指示を受けたマイフェイバリットカードが、攻撃力3400のD-HERO二体を相手に果敢にも攻撃の態勢をとった。

「攻撃力900のスピード・ウォリアーを攻撃表示だと……?」

「その通り。そして、これがその答えだ! 《シンクロ・ギフト》を発動! ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力を0にし、元々の攻撃力をスピード・ウォリアーに加える! よって攻撃力は、3800!」

 これで我がマイフェイバリットカードの攻撃力は、ドグマガイとドレッドガイの攻撃力を超える。

「そして《下降潮流》を発動し、ライフ・ストリーム・ドラゴンのレベルを3にする。更にカードを一枚伏せ《サイクロン》を発動! 今伏せた俺のカードと、お前のドグマガイに装備されている《D−シールド》を破壊する!」

 ドグマガイの旋風剣に散々やられていた風と同じ旋風が、今度は俺のカードによって発せられ、ドグマガイの片腕に装備されていた巨大盾が破壊される。

「く……!」

「更に、破壊された《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから現れろ、マイフェイバリットカード!」

 俺のデッキから飛び出して現れる、もう一体のマイフェイバリット。
さあ、これでエドを倒す準備は整った!

「バトル! スピード・ウォリアーでドグマガイに攻撃! ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーの高速の回し蹴りがドグマガイに迫り、ドグマガイを正面から打ち破った……と思われたが、ドグマガイは《旋風剣》でスピード・ウォリアーのソニック・エッジを受け止めていた。

「手札の《D-HERO ダガーガイ》のエフェクト発動! ダガーガイを捨てることで、自分フィールドのD-HEROの攻撃力を800ポイントアップさせる! 返り討ちにしろ、デス・クロニクル!」

 リバースカードも無いくせに妙に強気なのはこういう理由か……!
だが、俺の方にも手札には無いが備えはある!

「墓地から《スキル・サクセサー》を発動! スピード・ウォリアーの攻撃力を、こっちも800ポイントアップさせる!」

「……なんだと!?」

 これで相対的に攻撃力・守備力の増減はプラスマイナス0となり、スキル・サクセサーの力を借りたスピード・ウォリアーがドグマガイを打ち破った。

エドLP2350→1950

「まだ俺のバトルフェイズは終わっちゃいない! リバースカード《緊急同調》を発動! バトルフェイズ中にシンクロ召喚を行う!」

 ずっとブラフとして伏せられていたままであったカード《緊急同調》が、ようやく日の目を見る。

「バトルフェイズ中にシンクロ召喚……? お前のフィールドにチューナーモンスターはいないだろう」

 プロであるのだから当然として、シンクロ召喚についても一通りの研究をしてきたらしいエドだが、流石に三幻魔戦で姿を見せた俺の切り札についての情報は持ってはいまい。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンは……チューナーモンスターだ! レベル2のスピード・ウォリアー二体に、レベル3となったライフ・ストリーム・ドラゴンをチューニング!」

 シンクロモンスターであるが、何故かチューナーモンスターであるライフ・ストリーム・ドラゴン。
元々のレベルが8と高いせいで、このようなレベル変動カードを使わねばとてもシンクロ召喚には使えないが。

「集いし闇が現れし時、光の戦士が光来する! 光差す道となれ! シンクロ召喚!」

 合計レベルは7……召喚するのはレベルはパワーツール・ドラゴンと同じレベルの、光の機械戦士!

「現れろ、《ライトニング・ウォリアー》!」

ライトニング・ウォリアー
ATK2400
DEF1200

 《緊急同調》という名の通りに緊急でシンクロ召喚され、未だバトルフェイズ中のために更なる攻撃が可能となる。
そしてエドのフィールドには、ドグマガイを失い攻撃力が0となったが、ダガーガイの効果によってギリギリ800を保っているドレッドガイのみだった。

「ライトニング・ウォリアーで、ドレッドガイに攻撃! ライトニング・パニッシャー!」

 ライトニング・ウォリアーの腕にまばゆい光がほとばしり、雷光のような瞬きを携えてドレッドガイを蹴散らした。

エドLP1950→350

「ぐっ……だがまだだ!」

「いいや、これで終わりさ。ライトニング・ウォリアーが相手モンスターを破壊した時、相手の手札×300ポイントのダメージを与える!」

 エドの手札にあるカードの枚数は二枚。
エドに与える効果ダメージは、600ポイントだ……!

「ライトニング・レイ!」

「うわあああっ!」

エドLP350→0



 ライトニング・ウォリアーが放った光線がエドを貫き、ライフを0にしてデュエルを決着に導いた。

「よっしゃあああああッ! ……楽しいデュエルだったぜ」

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 俺と十代の勝利後の決めセリフが同時に放たれたと同時に、俺の横にいたライトニング・ウォリアーが消えてデュエルが終結したことを真に知らせた。

「……僕の負け、か」

 目をつぶって、自分の胸に刻むかのように呟いた。
負けた、と言えども俺と十代の二人がかりでなんとか互角……いや、それでも圧されていたのだから恐れ入る。

「じゃあな。次に戦う時は1対1で戦えるようになっていろよ……遊矢、十代」

 そう言い残し、デュエル場から立ち去っていくエド。
その姿は、出て行く最後までプロであるということを忘れさせない後ろ姿だった。

「遊矢!」

 背後からお疲れ様、とでも言うような明日香の手が肩に置かれ、ようやく勝ったのだと身体中に認識が行き届く。

「ありがとよ、明日香……あ」

 十代がカードが見えなくなった原因や《機械戦士》のルーツなど、デュエル前に色々と考えていたことを、エドに聞くのを忘れていた……まあ、それほどまでにデュエルが楽しかったということで、ここは一つ、自分に言い訳をしておくことにする。
 
 

 
後書き
この後、エドは廊下の壁に向かって八つ当たりパンチを一発……やってそうなイメージが。

ネオスも出たことだし、そろそろ遊矢のデッキも強化のしごろでしょうかね。
ジャンク、機械龍、TG、ヒロイック……案は色々ありますが、はてさて。

感想・アドバイス待ってます。 

 

―光からの洗礼―

 少し前に訪れたプロデュエリスト、エド・フェニックスの来襲は、十代の突然の乱入によりエドVS俺&十代となったことで、うやむやとなって終わることとなった。
勝者としては、うやむやとなったことが少し納得出来ないところではあるが、エドがテレビで発信したとは言っても、出来るだけ人目につかないようにした非公式のデュエルであるし、二人がかりでようやく接戦……しかも、終始エドが優位に立っていたようなデュエルのことはうやむやにされても構わなかった。

 十代は、もともとそんなことをこだわる性格でもなし、まったく気にせずにオシリス・レッド寮へと帰っていき、再開を果たした……というとなんだか大仰だが……弟分たる剣山と翔に泣きつかれたようだった。

 あとは、俺とエドがデュエルする旨の宣言を出したプロリーグのデュエルでの敗者、カイザー亮こと丸藤亮のことであるが……まあその、なんだ。
まったく心配する気が失せるほどに大丈夫であり、少しは敗北について考えろと言いたくなるほどだった……確かに、今から自らを鍛えて再戦しようとしているのだから、きちんと考えていると言えなくもないが。

 それからは剣山と翔、どちらが十代の真の弟分か決めるデュエルだの、ついにオシリス・レッド寮を取り壊そうとしたナポレオン教頭と、それに異を唱えてその計画を阻止したクロノス教諭のデュエルだの、オベリスク・ブルーへと転校生が来るだのという、俺がつい先日まで気にしていた嫌な予感が気のせいのような、平和な学校生活が流れていた。

 だが、俺はここで二つ見落としていたことがあった。

 一つはとある夜の日から自らの制服を純白に染めあげ、やたらと『白』や『光』に固執するようになった同期、万丈目準に後輩の五階堂宝山の二人の人物のこと。
誰が見ても明らかに様子がおかしいのだが、彼らを問い詰めても要領を得ない会話しかしてこないために、いつしか学園の生徒は彼らを放置していた。

 そして二つ目……これは気づけという方が無茶な話であるが、オベリスク・ブルーへと来る転校生のことだ。
一見して何の変哲もないことだと思われるが、このデュエル・アカデミア本校に途中入学する場合、原則としてオシリス・レッドへと入寮するという義務があるために、『オベリスク・ブルーへの転校生』というだけでも異端中の異端なのだ。
転校生でない自分たちには関係がない規則のため、知らない人物も多いが、俺には早乙女レイという前例がいたために、知っていたはずなのに見逃してしまっていた。

 つまりその転校生とは、デュエル・アカデミア本校の規則を破りながら転校出来る者、もしくは規則を無視出来るように働きかけることが出来るような人物が転校してくるということだ。

 俺が見逃した二つの違和感が、今、デュエル・アカデミアのオベリスク・ブルーを襲い始めた。


 オベリスク・ブルー寮内のデュエル場、そこに立っているのは天上院明日香と万丈目準の二人の人物。

 今回の事件の発端は、万丈目がいきなりオベリスク・ブルー寮へと入って来たかと思えば、いきなり『光の結社』とやらに勧誘を始めたのがそもそもの始まりだった。
ほとんどのオベリスク・ブルー生徒は相手にしなかったようだったが、取巻を始めとした一部エリートが、万丈目をオベリスク・ブルー寮から追いだそうとデュエルを挑み、負けた者は……万丈目と同じように制服を純白に染め始め、万丈目の言う『光の結社』に入団するという不可思議なこととなった。
それと同時期に、オベリスク・ブルー寮内で五階堂も行動を開始しており、デュエル・アカデミア本校で五指に入ると言われる元・ノース校代表の万丈目と、デュエル・アカデミア中等部トップの五階堂というタッグはとても手ごわく、俺や三沢、偶然遊びに来ていた明日香が状況を把握した頃には、ねずみ算式に『光の結社』信者は、オベリスク・ブルー寮内を埋め尽くしていた。

 そして万丈目の次なる標的は明日香であり、明日香が負ければ明日香は光の結社に入り、明日香が勝てばこの騒ぎを終わらせるとしてデュエルを挑み、明日香は「負けても制服が白くなるだけ」とそれを承諾し、俺と三沢、五階堂が見守る中、万丈目と明日香のデュエルが始まった。

『デュエル!』

万丈目LP4000
明日香LP4000

「俺様のターンから、ドロー!」

 万丈目の先攻からデュエルは始まり、デュエルディスクにモンスターをセットした。

「俺は《仮面竜》を守備表示で召喚!」

仮面竜
ATK1400
DEF1100

 仮面を被ったような姿の赤い竜、万丈目の《アームド・ドラゴン》主軸のデッキ時の影の功労者たるリクルーターが守備表示で現れる。
これで今回の万丈目のデッキは、【アームド・ドラゴン】だと分かる。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 後攻となった明日香は、相変わらず強気にカードを引く。
あいつなりの、良いカードを引き寄せる為の手段なのだろうか。

「私は《サイバー・チュチュ》を召喚!」

サイバー・チュチュ
ATK1000
DEF400

 短いスカート姿のバレリーナ、明日香愛用のサイバー・ガールが召喚される。
仮面竜より攻撃は低いが、その時こそがサイバー・チュチュの効果の独壇場である。

「バトル! サイバー・チュチュは、相手モンスター全ての攻撃力より低い時にダイレクトアタック出来るわ! ヌーベル・ポアント!」

 仮面竜をすり抜けてのサイバー・チュチュの蹴りに、万丈目のライフは1000ポイントも削られる。若干無理をしてでも、相手のライフを削りに行くのは明日香らしい。

万丈目LP4000→3000

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「まだまだだ天上院くん! 俺のターン、ドロー!」

 サイバー・チュチュがダイレクトアタックをしたことにより、リクルーターである仮面竜は戦闘破壊されなかった。
よって、アームド・ドラゴンは展開出来なかったが……

「仮面竜をリリースし、《アームド・ドラゴンLV5》をアドバンス召喚する!」

アームド・ドラゴンLV5
ATK2400
DEF1700

 特殊召喚方法が豊富と言えど、アドバンス召喚を出来ないわけではないアームド・ドラゴンの基本形たるLV5。

「アームド・ドラゴンLV5の効果を発動! 手札から《アームド・ドラゴンLV3》を捨て、それより攻撃力が低いサイバー・チュチュを破壊する! デストロイド・パイル!」

「チェーンして速攻魔法《プリマの光》を発動するわ。サイバー・チュチュをリリースし、デッキから《サイバー・プリマ》を守備表示で特殊召喚!」

サイバー・プリマ
ATK2300
DEF1600

 アームド・ドラゴンLV5が自らの身体から放ったパイルだが、明日香のリバースカードからの光を浴びたサイバー・チュチュが進化し、サイバー・プリマとなったことでパイルを弾いた。
アームド・ドラゴンLV5の効果は、手札から捨てたモンスターより攻撃力が低いモンスターしか破壊出来ない。

「ならば、アームド・ドラゴンLV5で攻撃! アームド・バスター!」

 二回目に放たれたパイルはサイバー・プリマには防げず、破壊されてしまうものの守備表示で特殊召喚したために明日香にダメージはない。

「サイバー・プリマの特殊召喚は予想外だったが、相手モンスターを戦闘破壊したことにより、アームド・ドラゴンLV5は進化する! 現れろ、《アームド・ドラゴンLV7》!」

アームド・ドラゴンLV7
ATK2800
DEF1000

 アームド・ドラゴンLV5に鎧がついていき、より巨大で尖鋭的なデザインとなっていく……鎧がついたのに守備力が下がった理由は分からないが。

「俺はこれでターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 万丈目のフィールドには、いきなりのアームド・ドラゴンLV7、生半可なモンスターでは効果で破壊されてしまうだけ……明日香はどうするか。

「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を守備表示で召喚! 効果により《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」

サイバー・プチ・エンジェル
ATK600
DEF900

 天使族モンスター《プチテンシ》が機械化したかのようなサイバー・プチ・エンジェルにより、明日香の十八番である儀式魔法が手札に加えられる。

「行くわよ! 儀式魔法《機械天使の儀式》を発動し、手札の《エトワール・サイバー》とフィールドの《サイバー・プチ・エンジェル》を墓地に送り、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1500

 《機械天使の儀式》で今回選ばれたのは、改造された和服のような服を着た明日香の儀式モンスターでのフェイバリットカード、サイバー・エンジェル-弁天-。

「サイバー・エンジェル-弁天-に《リチュアル・ウェポン》を装備し、バトル! アームド・ドラゴンLV7に攻撃よ、エンジェリック・ターン!」

 リチュアル・ウェポンはレベル6の儀式モンスター限定とはいえ、上昇値はなんと破格の1500という数値。
もちろんアームド・ドラゴンLV7の攻撃力を遥かに超え、その手に持った二本の扇が美しく煌めいたかと思えば、アームド・ドラゴンLV7は切り裂かれていた。

万丈目LP3000→2500

「更に、サイバー・エンジェル-弁天-の効果発動! 相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの守備力分のダメージを与える!」

「うわあああっ!」

万丈目LP2500→1500

 アームド・ドラゴンLV7が戦闘破壊されただけでなく、サイバー・エンジェル-弁天-の効果によって守備力分のバーンダメージまで受けたために、早くも万丈目のライフは初期ライフの半分以下となった。

「流石にやるな天上院くん……! だが、伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《アームド・ドラゴンLV3》を特殊召喚する!」

アームド・ドラゴンLV3
ATK1200
DEF900

 明日香のターンのエンドフェイズでの、一番進化前たるアームド・ドラゴンLV3の特殊召喚によって、明日香の手札に《サイクロン》、またはそれに準ずるカードが無い限りは次の万丈目のターンに《アームド・ドラゴンLV5》の進化が決定する。

「……ターンエンド」

 明日香は自らの手札を見つめた後に、苦々しげにエンド宣言を行った。

「俺のターン、ドロー!
……進化せよ、《アームド・ドラゴンLV5》!」

 今度はデッキから特殊召喚され、再び万丈目のフィールドに特殊召喚されるアームド・ドラゴンLV5。
わざわざ攻撃力が劣るアームド・ドラゴンLV5を特殊召喚するということは、万丈目はこのターンでサイバー・エンジェル-弁天-を破壊出来るということだろうか……

「メインフェイズ、俺は《発掘作業》を発動し、一枚捨てて一枚ドロー! そして、捨てたカードは《おジャマジック》!」

 俺のデッキにも入っている手札交換カード《発掘作業》により墓地に《おジャマジック》を送りつつ一枚のドローに成功する。
そして、《おジャマジック》は《リミッター・ブレイク》のような墓地に送られた時に効果を発揮するカード……!

「墓地に送られた《おジャマジック》の効果発動! おジャマ三兄弟をデッキから手札に加える!」

 もはや万丈目の代名詞となりつつあるおジャマ三兄弟のカードたちではあるが、墓地にあった方が真価を発揮出来るカード群であり、手札に揃えても《融合》して《おジャマ・キング》や《おジャマ・ナイト》にしても、サイバー・エンジェル-弁天-には適わない。

『おいらたちが来たなら、大船に乗った気で「通常魔法《手札抹殺を発動! 手札を全て捨て、その枚数分ドローする!」あ~れ~……』

 相変わらず俺は、精霊の声は聞こえても姿は見えず、だが……墓地に吸い込まれていく無残なおジャマ三兄弟はリアルに想像出来た……ともかくとして、これで万丈目はおジャマ三兄弟を墓地に落としつつ手札増強をしたわけだ。

「……よし、バトルだ! アームド・ドラゴンLV5でサイバー・エンジェル-弁天-を攻撃! アームド・バスター!」

「……迎撃しなさい、エンジェリック・ターン!」

 攻撃力の劣る、アームド・ドラゴンLV5によるサイバー・エンジェル-弁天-への攻撃。
返り討ちにあうどころか、このまま戦闘破壊されればサイバー・エンジェル-弁天-の効果によって万丈目の敗北となる。

「速攻魔法《サイクロン》を発動! リチュアル・ウェポンを破壊する!」

 当然ながら、万丈目ともあろうものがそんな自殺行為を行うはずがなく、竜巻がサイバー・エンジェル-弁天-に装備されていたリチュアル・ウェポンを吹き飛ばす。
これで、サイバー・エンジェル-弁天-の攻撃力はもともとの1800となり、アームド・ドラゴンLV5の2400には及ばずに破壊されてしまった。

明日香LP4000→3400

「アームド・ドラゴンLV5を再びアームド・ドラゴンLV7へと進化させ、ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!
……《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 壺が現れて破壊されると共に、明日香はデッキからカードを二枚ドローする。

「更に《儀式の準備》を発動し、デッキからレベル6以下の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を、墓地から《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」

 手札消費がやたら荒い儀式召喚だが、有効なサポートカードでそれを補うことも充分に可能である。
例えば今の《儀式の準備》は言わずもがなであり、デッキから手札に加えた《サイバー・エンジェル-韋駄天-》などは、ドローカードをサルベージすることで、間接的に儀式召喚をサポートしていると言える。

「魔法カード《フォトン・サンクチュアリ》を発動し、《フォトントークン》を二体特殊召喚……そして、《機械天使の儀式》を発動!」

 フォトン・サンクチュアリは、攻撃力が高い二体のトークンを特殊召喚する効果ではあるが、守備表示で現れるうえに、光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できず、シンクロ素材に出来ないという厳しい制約がある。
だが、シンクロ素材に出来なかろうが、儀式のリリース素材……それも、光属性の儀式モンスターならば何のデメリットも生じない。

「レベル4のフォトントークンを二体リリースし、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-荼吉尼-
ATK2700
DEF2400

 サイバー・エンジェルシリーズの中で、最も攻撃力が高いシリーズの代表格、様々な武器を持った機械天使がフィールドに現れる。
そして、今の万丈目のフィールドに最適の効果を持っている……!

「サイバー・エンジェル-荼吉尼-が特殊召喚に成功した時、相手は自分のモンスターを一体破壊しなければならない!」

「くっ……俺は、アームド・ドラゴンLV7を破壊する……!」

 一体選んで破壊と言っても、そもそも万丈目のフィールドにいるモンスターはアームド・ドラゴンLV7しかいない。
そのために、万丈目は否が応でもアームド・ドラゴンLV7を選択せざるを得ず、苦々しげにアームド・ドラゴンLV7を破壊対象に選択し、アームド・ドラゴンLV7はサイバー・エンジェル-荼吉尼-に切り裂かれることとなった。

「これで終わりよ! サイバー・エンジェル-荼吉尼-で、万丈目くんにダイレクトアタック!」

 万丈目のフィールドにはモンスターどころかリバースカードもなく、フィールドにサイバー・エンジェル-荼吉尼-の攻撃を止められる方法は存在しない。

「俺は《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了させてもらう!」

「なんですって!?」

 だが、万丈目の手札に攻撃を防ぐ効果モンスターがあれば話は別だ。
【アームド・ドラゴン】の特性を鑑みれば、攻撃力0の《速攻のかかし》を投入する意味はないと思うが、相手はその【アームド・ドラゴン】に攻撃力0の【おジャマ】のギミックを入れている万丈目……パワーとテクニックの同居するデッキを使用するデュエリストだ。

 ……それに、あの《速攻のかかし》は、万丈目の兄によるデュエル・アカデミアの買収騒ぎの時に、俺が万丈目に借りパクならぬ貸しパクされたカード……すまない明日香……

「……ターンを終了するわ」

「俺のターン! ドロー!
《マジック・プランター》を発動! 永続罠である《リビングデッドの呼び声》を墓地に送り、二枚ドローする!」

 効果によって蘇生した《アームド・ドラゴンLV3》を進化に使用したために、フィールドにそのまま残っていた《リビングデッドの呼び声》をドローソースとして有効活用し、万丈目は二枚ドローする。
「……魔法カード《おジャマンダラ》を発動! ライフを1000払い、来い クズども!」

万丈目LP1500→500

 万丈目は若干発動したくなさそうにしたものの、それ以外に策はなかったのだろう、結局おジャマンダラの発動へと踏み切った。
ただの手札コストとして使われたおジャマ三兄弟が、再びフィールドへと舞い戻る。

『なんだよアニキ~やっぱりおいら達がひつよ』「《融合》を発動! おジャマ三兄弟を融合させる!」きゅ、究極合体~……』

 ……あれ、なんだろうこの既視感は……おジャマ三兄弟は出て来て即座に、万丈目が発動した融合によって生じた時空の穴に吸い込まれていった……だが、やがて巨大な影が時空の穴から現れた。

「クズどもの究極合体! 《おジャマ・キング》を守備表示で融合召喚!」

おジャマ・キング
ATK0
DEF3000

 巨大な白い顔……としか言いようがない、おジャマ三兄弟の究極合体……らしい姿のおジャマ・キング。
そのステータスはおジャマ三兄弟を併せた数値であり、攻撃力は0なるも守備力は3000と、サイバー・エンジェル-荼吉尼-では突破出来ない数値となった。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 守りを固めた万丈目に対し、明日香は攻勢に出たいところであろうが……サイバー・エンジェル-荼吉尼-では、おジャマ・キングの守備力には適わず、肝心の明日香自身の手札も心もとない。

「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を守備表示で召喚するわ。効果により、《機械天使の儀式》を手札に加える!」

 結果として召喚されたのは、二体目の召喚となった《機械天使の儀式》専用サーチモンスターである、機械化プチテンシことサイバー・プチ・エンジェル。

「……私はこれでターンエンド」

「俺のターン! ドロー!」

 明日香はおジャマ・キングの守備力を超えられなかったようで、万丈目のターンへと順番が回る。
しかし、攻撃力0のおジャマ・キングでは万丈目も攻勢に出れるのだろうか……

「リバースカード、《おジャマトリオ》を発動! 天上院くんのフィールドに、《おジャマトークン》を三体特殊召喚する!」

 手札コストにされたり、蘇生されたと思ったらすぐ融合されたりした、あのおジャマ三兄弟と同じ姿形のトークンが明日香のフィールドへと特殊召喚される。
これで明日香のフィールドは、五体のモンスターが埋まったこととなるが……明日香のデッキは儀式デッキ、トークンを相手に与えては利用されるだけだと万丈目が分からない筈がない。
れるだけだと万丈目が分からない筈がない……というか、一回その弱点を突かれて負けたらしいし、三幻魔の時に。

 融合召喚時におジャマ・キングの効果を発動しなかったことと、今のおジャマトリオを含め、もはや可能性は一つしかない。

「《おジャマッスル》を発動! 選択したおジャマ・キング以外の《おジャマ》を全て破壊し、その数だけ攻撃力を1000ポイントアップさせる! フィールドにいるおジャマは、天上院くんのおジャマトークンが三体!」

 おジャマ・キングが大きく息を吸い込むと、三体のおジャマトークンが抵抗するもののおジャマ・キングに吸い込まれ、何故かおジャマ・キングの腕がムキムキとなった。

「更におジャマトークンが破壊されたことにより、合計900ポイントのダメージを天上院くんに与える!」

 おジャマ・キングの身体から、先程吸い込まれてしまった、おジャマ三兄弟の……霊魂? みたいなものが現れ、明日香に体当たりを行い、当たった明日香をなんとも微妙な顔にさせた。

明日香LP3400→2500

 それにしても、自分のモンスターの攻撃力をいきなり3000にしたかと思えば、更に相手ライフに900ポイントのバーンダメージを与えるコンボ……流石は万丈目だ。

「バトル! おジャマ・キングで、サイバー・エンジェル-荼吉尼-に攻撃! おジャマッスル・フライング・ボディアタック!」

 おジャマトークンを吸収したおかげ(?)でせっかくムキムキになった腕を活用することはなく、サイバー・エンジェル-荼吉尼-をボディアタックで叩き潰した。

「く……」

明日香LP2500→2200

 明日香の戦線を支えていた、サイバー・エンジェル-荼吉尼-が破壊されてしまったことにより、一気に万丈目へと流れが変わる。

「ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

 明日香の手札には《機械天使の儀式》と、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》があることは確認されている。
あとは、儀式の素材となるモンスターカードを引ければ良いのだが……

「……カードを一枚伏せ、ターンエンドよ」

「俺のターン! ドロー!」

 明日香は残念ながらモンスターカードを引けず、それを受けて万丈目は強気にカードを引く……いや、強気なのはいつものことなのだが。

「バトル! おジャマ・キングでサイバー・プチ・エンジェルに攻撃! おジャマッスル・フライング・ボディアタック!」

 元々、サポートカードでしかないために守備表示の低いサイバー・プチ・エンジェルに、おジャマッスル・フライング・ボディアタックが耐えきれるはずがなく、耐えることなくすぐに破壊されてしまう。
万丈目は追撃のダイレクトアタックといきたかっただろうが、万丈目のライフはもはや風前の灯火と言って良いわずか500。
明日香には《サイバー・エンジェル-弁天-》の存在がある以上、その程度のライフで下級モンスターを守備表示であろうとも出すのは危険である。

「俺はこれでターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

 壁となっていた《サイバー・プチ・エンジェル》も破壊され、後がない明日香はカードを引く……そして、一枚の魔法カードを発動させた。

「《機械天使の儀式》を発動! 《サイバー・プリマ》を捨て、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-韋駄天-
ATK1600
DEF2000

 最後に儀式召喚された、三体目のサイバー・エンジェルとなるサイバー・エンジェル-韋駄天-。
他の二体に比べて防御向きなステータスなるも、効果はサイバー・エンジェルの中でも群を抜いて優秀だ。
「サイバー・エンジェル-韋駄天-が特殊召喚に成功したために、墓地から魔法カード《リチュアル・ウェポン》を手札に加える!」

 そう、特殊召喚された時という緩い条件にもかかわらず、種別を問わずに墓地から魔法カードのサルベージが出来るという優れもの。
いつもなら《強欲な壺》が選択されるところであるが、おジャマ・キングの戦闘破壊を優先したのか1500ポイントアップさせるリチュアル・ウェポンが選択される。

「甘いぞ天上院くん! サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果にチェーンして《転生の予言》を発動! 天上院くんの墓地から《リチュアル・ウェポン》・《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》をデッキに戻す!」

 墓地のカードをデッキに戻すトラップ《転生の予言》により、明日香の選択した《リチュアル・ウェポン》はデッキに戻されてしまう。
よって、サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果は不発となってしまう。

「……ターンエンドよ」


 《転生の予言》によってサイバー・エンジェル-韋駄天-の効果が不発になったことにより、明日香には出来ることはない。
そして攻撃力1600のサイバー・エンジェル-韋駄天-が攻撃表示で残るという、あまり明日香にとっては良くない状況で終了することとなった。

「俺のターン! ドロー!
《貪欲な壺》を発動する! 墓地から五枚デッキに戻し、二枚ドローする!」

 ここに来ての手札増強カードを使って二枚ドローしたが、目当てのカードを引かなかったのか、万丈目は歯噛みしておジャマ・キングに攻撃を命じた。

「そしてバトルだ! おジャマ・キングでサイバー・エンジェル-韋駄天-に攻撃! おジャマッスル・フライング・ボディアタック!」

「ううっ……!」

明日香LP2200→800

 ライフポイントもほぼ並び、ボードアドバンテージでは圧倒的に万丈目の方が上という状況になってしまう……明日香……!

「万丈目くんのターンが終わる前に、《奇跡の残照》を発動! 破壊された《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を特殊召喚!」
 俺がお守り代わりの《サイバー・ブレイダー》と交換したトラップカードにより、戦闘で破壊されたサイバー・エンジェル-韋駄天-が墓地から特殊召喚される。

「サイバー・エンジェル-韋駄天-が特殊召喚されたため、墓地から《強欲な壺》を手札に加えるわ!」

 サイバー・エンジェル-韋駄天-とサイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果は、儀式召喚の時ではなく、特殊召喚の時。
よって問題なく、サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果は発動する。

「《強欲な壺》か……カードを二枚伏せターンエンド!」

「私のターン、ドロー!
《強欲な壺》を発動して、二枚ドロー!」

 サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果によってサルベージした強欲な壺の効果で二枚ドローし、役目を終えた強欲な壺は破壊される。

「行くわよ万丈目くん! チューナーモンスター、《フルール・シンクロン》を召喚!」

フルール・シンクロン
ATK400
DEF200

 植物のようなシンクロン、明日香のデッキに入ったチューナーモンスターであるフルール・シンクロンが召喚される。

「レベル6のサイバー・エンジェル-韋駄天-と、レベル2のフルール・シンクロンをチューニング!」

 合計レベルは8……フルール・シンクロンということならば、おそらくは俺がお礼にあげたあのシンクロモンスター……!

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! きらめけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

フルール・ド・シュヴァリエ
ATK2700
DEF2300

 明日香のシンクロモンスターである、サイバー・ガールの白百合の機械騎士、フルール・ド・シュヴァリエが、名前の通りに白い百合のように可憐な姿でシンクロ召喚された。

「リバースカード《奈落の落とし穴》を発動し、フルール・ド・シュヴァリエを除外する!」

「フルール・ド・シュヴァリエの効果発動! 相手ターンに一度、相手の魔法・罠カードを無効にして破壊出来る!」

 フルール・ド・シュヴァリエのすぐ足元に、奈落の落とし穴が現れたものの、現れる前に既にその場から跳んでいたフルール・ド・シュヴァリエには通用しなかった。

「フルール・ド・シュヴァリエに《団結の力》を装備し、バトル! フルール・ド・シュヴァリエでおジャマ・キングに攻撃! フルール・ド・オラージュ!」

 《団結の力》によって攻撃力を3300にまでアップさせ、おジャマ・キングにその手に持つ騎士の剣で斬りかかった。

「速攻魔法《融合解除》を発動! おジャマ・キングをエクストラデッキに戻し、クズどもを墓地から特殊召喚する!」

 《奈落の落とし穴》でフルール・ド・シュヴァリエの効果を使用したために、もうこのターンはフルール・ド・シュヴァリエの効果を使用することは出来ない。

 おジャマ・キングが融合の時に現れた時空の穴に戻っていったかと思えば、またもやおジャマ三兄弟が守備表示で万丈目のフィールドに特殊召喚された。
《おジャマジック》の時も含めれば、コレで三度目の登場だった。

『おいら、ふっかー』

「なら、おジャマ・イエローに攻撃! フルール・ド・オラージュ!」

『きゃあああ~!』

『『弟よ~!』』

 たがだか守備力1000ではフルール・ド・シュヴァリエの剣には耐えきれず、おジャマ・イエローはあっさりと破壊される、が……なんだろう、声だけ聞こえるととてもシュールだった……

「カードを一枚伏せて、ターン終了よ」

「俺のターン! ドロー!」

 ドローしたカードを見た瞬間、万丈目がいきなりの不適な笑みを見せ始めた。
……それほど良いカードを引いたのだろうか。

「俺はチューナーモンスター、《ヴァイロン・プリズム》を召喚!」

ヴァイロン・プリズム
ATK1500
DEF1500

 万丈目が自信満々に出したモンスターは……チューナーモンスター!?
確か万丈目デッキには、シンクロモンスターは入っていないはずだろうに……!

「これぞ斎王様から賜りし、新たな力! レベル2のおジャマ・グリーンと、同じくレベル2のおジャマ・ブラックに、レベル4のヴァイロン・プリズムをチューニング!」

 合計レベルは8だ。
そして、デッキの調整を手伝ってくれたお礼にあげた明日香以外には、俺は初めて見る他人が行うシンクロ召喚。

「世界を飲み込む眩き光、闇の中から輝きを放て! シンクロ召喚! 光の化身、ライトエンド・ドラゴン!」

ライトエンド・ドラゴン
ATK2600
DEF2300

 光の化身……万丈目がその名をそう示す通りに、なんだか高貴な光を身体から発する光の龍……いや、高貴というよりは……破滅。
見ていると全てを飲み込んでしまいそうな……そんな光だった。

「そしてライトエンド・ドラゴンに、光の結社の象徴たる装備魔法、《白のヴェール》を装備!」

 ライトエンド・ドラゴンを、その名の通りに白色のヴェールが包み込んでいく。
光の化身に光の結社の象徴……二枚とも、どんなカードなんだ?

「バトル! ライトエンド・ドラゴンで、フルール・ド・シュヴァリエに攻撃! シャイニングサプリメイション!」

「返り討ち……いえ、《聖なるバリア-ミラーフォース》を発動! ライトエンド・ドラゴンを破壊するわ……え!?」

 またも攻撃力の劣るモンスターで攻撃してきた万丈目に、明日香は《ライトエンド・ドラゴン》、もしくは《白のヴェール》が戦闘時に発動する効果だと予測したのだろう、リバースカードで伏せてあった《聖なるバリア-ミラーフォース》を選択した……筈だった。

「《白のヴェール》の効果! 装備モンスターが攻撃する場合、相手フィールド上に存在する魔法・罠カードはダメージステップ終了時まで全て効果が無効化される!」

よって、明日香の発動した《聖なるバリア-ミラーフォース》と、フルール・ド・シュヴァリエに装備してあった《団結の力》も全て無効にすることになる……!

「そして、ライトエンド・ドラゴンの効果! このモンスターの攻撃力を500下げることで、相手モンスターの攻撃力を1500ポイント下げる! ライト・イクスパンション!」

 それにより、ライトエンド・ドラゴンの攻撃力も2100にまで落ち込むものの……《団結の力》が無効にされたフルール・ド・シュヴァリエは、それよりも下がって1200。

「きゃあああっ!」

明日香LP800→0

 ライトエンド・ドラゴンの光弾の一撃を喰らい、明日香のライフポイントは0となり……それと同時に、明日香が膝から崩れ落ちた。

「明日香ッ!」

 デュエル場の明日香に急いで駆け寄ろうとしたその時、俺の肩をつかんで制止した人物がいた。
俺の背後にいた人物……それはつまり、三沢大地だ。

「離せ三沢ッ! 明日香が膝から崩れ落ちたんだぞ!」

 俺の怒声にも臆せず、三沢は厳しい顔でデュエル場の明日香と万丈目の様子をうかがっていた。

「フハハハハハッ! 天上院くん。これで君も、我が光の結社の一員となるのだ!」

「――ええ、もちろんよ」

 万丈目の騒がしい問いかけに対する明日香の答えは……まさかの、YES。
確かにデュエル前にそんな約束はしたが、明日香の様子は「ただ制服の色を変えるだけ」などと言っていた時とはまるで違う。

「光って素晴らしいわ……何故今まで気づかなかったのかしら」

「明日、香……?」

 とにかく状況に頭がついていかず……いや、理性では分かっていたが、認めたくなくて……明日香に詰め寄ろうとした。
だがそれを、三沢が強引に引っ張って、俺は明日香から遠ざかっていく。

「だから離せ三沢……! 俺は、明日香を助けに……!」

「君とて分かっているだろう、今の明日香くんたちの様子は普通じゃない! ……悔しいが、明日香くんに気を取られているうちに逃げるんだ……!」

 三沢は正論しか言っていない……だが、言っている本人の表情も苦悶の表情であり、三沢も明日香を見捨てて逃げることに感情では反対していることが分かる。

「くそッ……明日香! 絶対、絶対助けにきてやるからなッ――!」

 そのまま俺と三沢はデュエル場を抜け、オベリスク・ブルー寮から出ていって脱出した……
 
 

 
後書き
……もうすぐバレンタインだというのに、ヒロイン悪堕ちという。
まあそもそも、そんな企画をたてられる気がしませんが。

では、また次回。 

 

―遊撃、巨大戦艦―

 万丈目に負けた結果、明日香は光の結社に入るようになんらかの洗脳のようなことをされた。
万丈目と明日香とのデュエルの結果、そして今オベリスク・ブルー寮を襲っている異常自体を説明するには、わけがわからないが、この説明が一番わかりやすく、さらにはしっくりときてしまう。

 オベリスク・ブルー寮から命からがら逃げだした俺と三沢は、ラー・イエロー寮へと逃げ延びることに成功した。
ラー・イエロー寮長である樺山先生には、事実をありのままに……伝えたかったが、ありのままに伝えすぎると明らかに俺と三沢が変な人、もしくは樺山先生をからかっているようになるために、かいつまんで事情を説明した。

 幸いなことに、樺山先生は「空いている部屋が二つあるから、それぞれ好きなように使いなさい」と、快く俺たちを迎え入れてくれ、宿無しになることだけは助かった。

 おっつけ、オベリスク・ブルー寮からの生き残りは、だいたいはこの寮に行き着くだろうが……そもそも、他に生き残りがいるかどうかはわからないが。

 ああいや、少なくとも吹雪さんは無事であり、俺たちとほぼ時を同じくして脱出を果たした……が、吹雪さんはラー・イエロー寮には来ず、明日香のことを探るためにもオベリスク・ブルー女子寮に身を寄せた。
……そんなことが出来るのは、おそらくこのデュエル・アカデミアであの人だけだろう。

 俺は三沢と吹雪さん、俺以外のオベリスク・ブルー寮からの生き残りが来ることを待っていたが……ついぞ、来ることは無かった。
もしかしたらオシリス・レッド寮に行ったかもしれない、と考えるが、オベリスク・ブルー寮からオシリス・レッド寮に行く者は、生き残った俺たち三人を除いて他にはいないだろうということは、俺にもすぐに考えがついた。

 今日、この学園に来るはずだった転校生とやらも、顔も知らないために、もはやどうすることも出来やしない。

 よって、オベリスク・ブルーの生徒は現在確認出来る限りは……俺と三沢、吹雪さん以外、あの光の結社を相手に全滅したことになった。
それも仕方のないことではあり、相手はこの学園で五指に入る万丈目と明日香、さらには五階堂まで揃え、負けた人間は次々と光の結社に入っていく……そんなバイオハザードのような状況から、逃げ延びることが出来ただけでも運が良かったということか。

 結局、万丈目と五階堂はいきなりどうしたのか、光の結社とはなんなのか……色々なことはわからないまま、学園は夜を迎えた。

 ――だけどこのまま、泣き寝入りするのは性分じゃない。

 ラー・イエロー寮を三沢に見つからないように抜けだし……これが一番の難題だったが……今、俺がいるのはオベリスク・ブルー寮へと向かう道だった。

 光の結社の構成員となった人物に負けてしまうと、理屈はともかくデュエルで負けた者も光の結社に入ってしまうということは分かった。
ならば逆を言えば、光の結社の構成員以外の人物である俺が、光の結社の構成員をデュエルで倒せば、その人物は元に戻るのではないか、と俺は考えた。

 当てずっぽうな仮説にも程があるが……俺に考えられるのはそれだけであり、俺が明日香たちを救うためには、もうその考えにすがるしかなかった……そういうことで、俺はオベリスク・ブルー寮へと向かっていた。

「……誰だ!?」

 もう既に夜も深いために視界も悪く、俺の少し前に人が立っていることは分かったのだが、あいにく誰だか顔は見えない。
だが、その白い制服ははっきりと見える……!

「流石は斎王様ズラ。黒崎遊矢は本当にここに来る運命だったズラ」

 白い人影が向こうから歩いて来て、暗闇からその姿を全て現した……が、姿を現すまでもなく、オベリスク・ブルーの生徒である俺には誰だかわかる。
いや、他のどの生徒でもこの声を聞けば分かったかもしれない……彼は一応、それほどの有名人であった。

「銀流星……!」

 シューティングゲーム界の若き最年少チャンプ、銀流星。
俺たちより一つ上の現在三年生であり、デュエル・アカデミアに入る前に既にシューティングゲーム界の世界大会で優勝した男である。
この学園には「次はカードゲーム界を制覇するズラ」として入学したらしいが、オベリスク・ブルー寮に入っている時点でその実力は折り紙付きだと分かる。

「その通りズラ。そして、遊矢。お前は俺とデュエルしてもらうズラ!」

「なっ……お前とデュエルしてる暇はない! どけ!」

 確かに、俺の目的は明日香とのデュエルであった為に、調整済みのデッキとデュエルディスクは持ってきてはいるが、今銀とデュエルしている暇も気もない。

「お前を倒して光の結社に入れれば、斎王様がプロデュエリストにしてくれるズラ! 俺とデュエルするズラ!」

「……ああもう、だったら俺が勝ったらそこを通してもらう!」

 こうなればさっさと銀をデュエルで倒した方が速く、倒した後に銀がどうなるかで俺の仮説が実証されるのだから、あながち銀とのこのデュエルは無駄ではないのかも知れない、と考えておく。

『デュエル!』

遊矢LP4000
銀LP4000

「俺の先攻! ドロー!」

 俺のデュエルディスクには珍しく『先攻』と表示されたため、デッキからカードをドローするが、あまり攻めに向いた手札ではない……まあ矛盾はしているが、どちらにせよ先攻なので攻撃は出来ないが。

「俺は《ターボ・シンクロン》を守備表示で召喚!」

ターボ・シンクロン
ATK100
DEF500

 緑色のF1カーのようなシンクロンを守備表示で召喚するが、俺の手札に特殊召喚出来るモンスターはおらず、チューニングは不可能だ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターンズラ。ドロー!」

 いつもならば、ここで相手のデッキの分析から入るところだが……銀のデッキは知っている。
銀が優勝したシューティングゲームを模したデッキ、【巨大戦艦】……【グラディウス】とも呼ばれることのあるデッキである。

「俺のフィールドにモンスターがいない時、このカードは特殊召喚出来るズラ! 《巨大戦艦 アサルト・コア》を特殊召喚!」

巨大戦艦 アサルト・コア
ATK1300
DEF2000

 《巨大戦艦》たちの枠組みには囚われない、唯一の効果を持つ巨大戦艦。
ステータス上の攻撃力は低いが、ターボ・シンクロンを戦闘破壊するには充分だ。

「更に巨大戦艦 アサルト・コアをリリースし、《巨大戦艦 ビッグ・コア》をアドバンス召喚するズラ!」

巨大戦艦 ビッグ・コア
ATK2300
DEF1100

 弾を防ぐ遮蔽版と、大きな青いコアが特徴の巨大戦艦……ターボ・シンクロンをどれだけオーバキルする気だ。

「効果によりビッグ・コアには三つのカウンターが乗るズラ。そしてバトル! ビッグ・コアでターボ・シンクロンを攻撃! ソーラーアサルト!」

 ビッグ・コアから放たれたビーム相手に、質量の違いもあって抵抗出来ずに消し飛ぶターボ・シンクロン……すまないが、防御カードは用意していなかった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドズラ!」

「俺のターン、ドロー!
……《リミット・リバース》を発動! 墓地から攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚する! 蘇れ、《ターボ・シンクロン》!」

 防御カードは用意していなかったが、蘇生カードならば用意はしてあったため、緑色のF1カーが再びフィールドに舞い戻る。

「更に《ハウリング・ウォリアー》を召喚!」

 新たに現れた、音を響かせる機械戦士のレベルは3のため、このままシンクロ召喚を行っても《アームズ・エイド》しか出来ず、シンクロ召喚したところで何の意味もない。
だが、召喚したことでハウリング・ウォリアーの効果が発動する!

「ハウリング・ウォリアーが召喚・特殊召喚に成功した時、俺のフィールドのモンスターをレベル3に出来る! 響け、ハウリング・ウォリアー!」

 ハウリング・ウォリアーからキィィィィンという、大多数の人間が嫌いであろう高周波が発せられ、ターボ・シンクロンのレベルが3となる。

「行くぞ! レベル3の《ハウリング・ウォリアー》と、レベル3となった《ターボ・シンクロン》をチューニング!」

 ハウリング・ウォリアーの高周波のおかげで、シンクロ召喚の調律が狂ってしまったため、合計レベルは6。

「集いし絆が更なる力を紡ぎだす。光さす道となれ! シンクロ召喚! 轟け、《ターボ・ウォリアー》!」

ターボ・ウォリアー
ATK2500
DEF1500

 ターボ・シンクロンを緑色から赤色にし、それを更に巨大化したようなモンスターである、ターボ・ウォリアーがシンクロ召喚される。

「バトル! ターボ・ウォリアーでビッグ・コアに攻撃! アクセル・スラッシュ!」

 自身よりもかなり大きいビッグ・コアに対し、ターボ・ウォリアーは果敢にも中心部のコアへと攻撃を仕掛けた。
だが、三つの遮蔽板のうちの一つがターボ・ウォリアーの攻撃を防ぎ、ビッグ・コアは無傷で終わった。

「ビッグ・コアはカウンターを一つ取り除くことで、戦闘による破壊を無効にするズラ!」

銀LP4000→3800

 擬似的な戦闘破壊耐性であろうとも、流石に戦闘ダメージまでは防げず、その戦闘破壊耐性もカウンターという制限付きだ。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドローズラ!」

 ……剣山の時も思ったが、ドローの後に口癖の語尾をつけるとなんだか固有名詞みたいに聞こえるな。

「俺は《ボスラッシュ》を発動するズラ! 更にバトル! ビッグ・コアでターボ・ウォリアーに攻撃! ソーラーアサルト!」

「……迎撃しろ、アクセル・スラッシュ!」

 ビッグ・コアを自爆特攻させて、無理やり今しがた発動させたボスラッシュの効果を発動するつもりか……いや、まだビッグ・コアにはカウンターが残っているし、わざわざそんなことをしても意味はないだろう。
自爆特攻に自壊……そして巨大戦艦の種族を照らし合わせて考えた結果、俺の頭に一枚のカードが思いつき、それと同時に銀がそのカードをかざしていた。

「ダメージステップに速攻魔法《リミッター解除》! ビッグ・コアの攻撃力を二倍にするズラ!」

 ビッグ・コアの出力がまさにリミッター解除、といった様子で上がっていき、迎撃しようとしたターボ・ウォリアーをそのビームで焼ききった。

「ぐっ……!」

遊矢LP4000→1900

 ライフの半分と少しという、デュエルの前半では致命的となり得るダメージを負ってしまい、更にターボ・ウォリアーも戦闘破壊されてしまった。

 速攻魔法《リミッター解除》のデメリット効果により、ビッグ・コアも戦闘破壊されるために相討ち……と行きたいところだが、そんなことは無い。

「ビッグ・コアはリミッター解除のデメリット効果によって破壊されるズラ。そしてエンドフェイズ、《ボスラッシュ》が起動するズラ!」

 銀のデッキの元となったシューティングゲームは比較的有名なために、俺もあまり上手くはないがやったことはある。
《ボスラッシュ》とは、そのシューティングゲームのモードの一つであり、ボスである巨大戦艦が次々と現れてくるという、一番難しいモード……!

「伏せてあった《サイバー・サモン・ブラスター》を発動し、続いて《ボスラッシュ》の効果ズラ! 巨大戦艦が破壊されたターンのエンドフェイズ時、デッキから巨大戦艦を特殊召喚するズラ! 発進せよ、《巨大戦艦 カバード・コア》!」

巨大戦艦 カバード・コア
ATK2500
DEF800

 円形のボディーとその本体を覆うようにカバーが装備されており、中心部のコアを守っている巨大戦艦 カバード・コアが特殊召喚される……コレこそが、《ボスラッシュ》の効果である。
更に、銀のすぐ近くに置かれた砲台……サイバー・サモン・ブラスターのレーザーが煌めき、俺の肩に命中した。

遊矢LP1900→1600

「サイバー・サモン・ブラスターは、機械族モンスターが特殊召喚に成功した時、相手ライフに300ポイントのダメージを与えるズラ! ターンエンドズラ!」

「俺のターン、ドロー!」

 たかが300ポイントなどと侮るなかれ、やられている方はたまったものではない……しかも、俺のデッキの機械族モンスターは特殊召喚メインなのがやるせない。

「俺は《ミスティック・バイパー》を召喚! そしてリリースし、一枚ドロー!」

 ターボ・ウォリアーが破壊された後にはすぐ展開出来ず、笛を吹く機械戦士で耐性の立て直しを計る。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 しかし《ミスティック・バイパー》では態勢を整えることは出来ずに銀のターンへと移る。
だがボスラッシュの短所は、その特殊召喚の引き換えに自身の通常召喚を封じることであり、そのせいで銀は巨大戦艦の大量展開は不可能の筈。

「よし……二枚目の《ボスラッシュ》を発動するズラ!」

「なっ!?」

 二枚目の《ボスラッシュが発動させられたことにより、俺の巨大戦艦の大量展開は出来ないだろうという俺の目論見は外れることとなった。

「バトルするズラ! カバード・コアでダイレクトアタックズラ! カバードミサイル!」

「リバースカード、オープン! 《トゥルース・リインフォース》を発動し、デッキからレベル2以下の戦士族モンスター、《マッシブ・ウォリアー》を特殊召喚する!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

 強固な壁を持つ要塞の機械戦士が特殊召喚され、カバード・コアの前に立つ。

「攻撃表示で出すとは、とんだプレイングミスズラ! カバード・コアでマッシブ・ウォリアーに攻撃! カバードミサイル!」

「残念だが、マッシブ・ウォリアーは一度の戦闘では破壊されず、戦闘ダメージは受けない!」

 カバード・コアから放たれたミサイルを、マッシブ・ウォリアーはその手に持っている盾のような岩で防ぎきった。

「防いだズラか……だが、バトルフェイズ終了後にカバード・コアは自壊し、エンドフェイズに二枚のボスラッシュの効果が発動するズラ! 出撃せよ、《巨大戦艦 ビッグ・コアMK-Ⅱ》!」

巨大戦艦 ビッグ・コアMK-Ⅱ
ATK2400
DEF1100

 コアが2つに増え、さらに上下にスライドするカバーを搭載したビッグ・コアの進化系たるビッグ・コアMK-Ⅱ。
そんな巨大戦艦がなんと……二体。

「ビッグ・コアMK-Ⅱは、特殊召喚時にカウンターがのるズラ! 更に、《サイバー・サモン・ブラスター》により合計600ポイントのダメージズラ!」

「ぐあっ!」

遊矢LP1600→1000

 マッシブ・ウォリアーのおかげでダメージは通らなくても、サイバー・サモン・ブラスターのせいでじわじわとライフが削られていく。

 銀のフィールドに展開されたビッグ・コアMK-Ⅱを放っておくわけにはいかないが、破壊すればまた《ボスラッシュ》の効果によりデッキから巨大戦艦が現れ、サイバー・サモン・ブラスターによりライフが削られる。

「ターンエンドズラ!」

「俺のターン、ドロー!」

 まさに四面楚歌な状況……いや、詰んだ状況ではあるが、打開策が無いわけではないが、このターンに出来ることはただ布石をしておくだけか。

「チューナーモンスター、《ロード・シンクロン》を守備表示で召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 金色のロードローラーを模したチューナーモンスターを守備表示で出すが、ロード・シンクロンの効果によって、自身をレベル2としてしまうために、今ではまたも《アームズ・エイド》しかシンクロ召喚出来ないこととなるため、シンクロ召喚をしても意味がない。

「ロード・シンクロンに、装備魔法《ミスト・ボディ》を発動し、《マッシブ・ウォリアー》を守備表示にして、カードを一枚伏せターンエンド!」

「逃げの一手ズラか!? 俺のターン、ドローズラ!」

 銀のフィールドにはカウンターが三つ乗った《巨大戦艦 ビッグ・コアMK-Ⅱ》が二体に《ボスラッシュ》が二枚、そして《サイバー・サモン・ブラスター》までもが控えている。

 それに対して俺のフィールドはというと、装備魔法《ミスト・ボディ》によって戦闘破壊耐性を得た《ロード・シンクロン》と、《マッシブ・ウォリアー》とリバースカードのみであり、しかもどちらも守備表示……確かにこれでは、逃げの一手と言われても仕方ないか。

「俺は《強欲な壺》を発動し、二枚ドローするズラ!」

 現れた強欲な壺が破壊されたと共に、引いたカードを見て銀はニヤリとした表情を見せた。

「俺は魔法カード《死者蘇生》を発動するズラ! 墓地から《巨大戦艦 ビッグ・コア》を特殊召喚し、《サイバー・サモン・ブラスター》により300ポイントのダメージズラ!」

遊矢LP1000→700

 言わずとしれた万能蘇生カードによって再び巨大戦艦が浮上すると共に、俺の肩をレーザーが撃ち抜く。

「バトルズラ! 《巨大戦艦 ビッグ・コア》で、マッシブ・ウォリアーに攻撃! ソーラーアサルト!」

「だが、マッシブ・ウォリアーは一度の戦闘では破壊されない!」

 ビッグ・コアが放ったレーザーも、マッシブ・ウォリアーは先程のターンと同じように自らが持った盾で防ぎきる。
そしてレーザーを放ってエネルギー切れとなったビッグ・コアは、浮上したばかりだが沈むこととなり、破壊された。

「続いての攻撃ズラ! ビッグ・コアMK-Ⅱで、マッシブ・ウォリアーに攻撃! スピンレーザー!」

 ビッグ・コアMK-Ⅱがその巨体に似合わず回転し、そのまま発射された数多ものレーザーがマッシブ・ウォリアーを襲った。
マッシブ・ウォリアーの戦闘破壊耐性は一度きりであり、持っていた盾を貫通してそれらのレーザーは直撃し、マッシブ・ウォリアーは破壊されてしまう。

「《ミスト・ボディ》のせいで《ロード・シンクロン》は破壊出来ないズラが……エンドフェイズに二枚の《ボスラッシュ》の効果が発動するズラ! 起動せよ、《巨大戦艦 ビッグ・コアMK-Ⅱ》! 《巨大戦艦 ビッグ・コア》!」

 三体目となるビッグ・コアMK-Ⅱに、二体目となるビッグ・コアが銀のデッキから特殊召喚され、これで銀のフィールドには四体の《巨大戦艦 ビッグ・コア》タイプが揃っていて、対戦相手である俺から見ても圧巻だった。

「更に《サイバー・サモン・ブラスター》! 合計600ポイントのダメージを受けてもらうズラ!」

「ぐああっ!」

遊矢LP700→100

 二体の巨大戦艦の特殊召喚に呼応し、銀の近くにあるサイバー・サモン・ブラスターのレーザーが俺を射抜く。
それによって俺の残りライフは100となり、まさに首の皮一枚繋がった状態、といえよう。

「《ミスト・ボディ》があろうとも、次のターンにビッグ・コアを自壊させれば俺の勝ちズラ! ターンエンドズラ!」

「……それはどうかな?」

 次のターンで俺の勝ちとかいう奴は、だいたい逆転されるっていうことを知らないのか?
先程のターンで布石は張り終わった……このターンで終わらせる!

「お前はこれから、自分のカードのせいで負ける! 俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを手札に加え、逆転の第一歩たるモンスターカードをデュエルディスクに置く。
そのカードはもちろん、決まっている!

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚! 来い、マイフェイバリット!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 雄叫びをあげながら、スピード・ウォリアーは守備の態勢をとるロード・シンクロンの横へと並び立つ……あたかも、次なる俺の手を、スピード・ウォリアーもわかっているかのように。

「レベル2の《スピード・ウォリアー》に、自身の効果によりレベル2となる《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 合計レベルは4……デュエル序盤からシンクロ召喚が可能だったものの、機を逃して来たシンクロモンスターを、今こそシンクロ召喚する!

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

アームズ・エイド
ATK1800
DEF1200

 ついにシンクロ召喚される、機械戦士たちの補助兵装たるシンクロモンスター。
シンクロモンスターであるにも関わらず、自身を装備モンスターとすることが出来るという、珍しいシンクロモンスターであり、そして『機械族』である。

「ただの自滅ズラか!? 《サイバー・サモン・ブラスター》で300ポイントのダメージを与えるズラ!」 

「俺は手札から《シンクロン・キーパー》の効果を発動! このカードを墓地に送ることで、相手からの効果ダメージを一度だけ0にする!」

 俺の《機械戦士》デッキの中で、唯一のアンデッド族であり、『シンクロン』と名前がついているにもかかわらずチューナーではない、と、色々特殊な存在と言える《シンクロン・キーパー》だが、その効果により俺へと《サイバー・サモン・ブラスター》のレーザーによる効果ダメージは届かない。

「くっ……だけど、結局その腕じゃ俺の巨大戦艦は倒せないズラ!」

「確かにそうだな。墓地の《シンクロン・キーパー》、第二の効果を発動! このカードとチューナーを除外することで、シンクロ召喚を行うことが出来る!」

 いましがた墓地に送ったシンクロン・キーパーと、墓地から《ターボ・シンクロン》が俺のフィールドに一時的なるも現れ、ターボ・シンクロンが自らのエンジンを吹き鳴らし、光の輪となるという、シンクロ召喚時の構えをとった。

「なっ!?」

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

マイティ・ウォリアー
ATK2200
DEF2000

 巨大な片腕を持った機械戦士、文字通りに腕自慢の戦士であるシンクロモンスターが大地を叩きつけながら現れる。

「そして《マイティ・ウォリアー》に、《アームズ・エイド》を装備する!」

 マイティ・ウォリアーの巨大な腕に、更にアームズ・エイドというアタッチメントがつき、もはやその腕に握られただけで破壊されそうな錯覚を覚えさせる。

「更にリバースカード《ブレイクスルー・スキル》を発動し、巨大戦艦 ビッグ・コアの効果を無効にし、バトル! マイティ・ウォリアーで巨大戦艦 ビッグ・コアに攻撃! パワーギア・ナックル!」

 ここで俺がマイティ・ウォリアーに標的として命じる前に発動したのは、《ブレイクスルー・スキル》という相手モンスターの効果を無効にするトラップカードであり、今、ビッグ・コアの効果は無効となった……つまり、戦闘破壊が可能である相手モンスター!

「ぐっ……! まだまだズラ!」

銀LP3800→2900

「いいや、まだまだじゃない……ビッグ・コアを戦闘破壊に成功したため、《アームズ・エイド》の効果により巨大戦艦 ビッグ・コアの攻撃力分のダメージを与え、《マイティ・ウォリアー》の効果によりビッグ・コアの攻撃力の半分のダメージを与える!」

 《サイバー・サモン・ブラスター》で散々バーンしてきた借りを、マイティ・ウォリアーとアームズ・エイドの二体分のバーン、併せて3600ポイントのダメージで返させてもらう……!

「決着を次のターンに回したのが仇になったな! ロケット・ナックル!」

「うわあああッ!」

銀LP2900→0


 二体のシンクロモンスターの効果ダメージ分のロケット・ナックルにより、銀はライフを0にしながら少し吹き飛んでいった。

「終わりだ銀!」

「ぐぐぅ……」

 このまま約束通りに銀を無視してオベリスク・ブルー寮へと行っても良いが、そもそも俺がオベリスク・ブルー寮へと行く目的は『光の結社の生徒を倒せば元に戻る』という仮説を元にしてのものであるため、ここで銀の反応を見るのは悪くない。

「お、俺は……あああッ!」

 マイティ・ウォリアーに吹っ飛ばされた後、銀はいきなり俺の前で頭を抱えて呻き始めた。

「……どうした銀!?」

「……俺は選ばれたんだ! 斎王様に、光の意志に!」

 ……は?
銀の突然の行動に俺の理解は追いつかず、俺の見ている前で止める暇もなく銀は走って行ってしまった……選ばれただの光の意志だのと、叫びながら。

「……ああ、なんなんだよ」

 俺の仮説は、今の銀の発狂によって間違っていたと証明され……もうそろそろ、巡回の仕事があるガードマンが働きだす時間だろう。

 だが、収穫がなかったわけじゃない。
さっきも言ったが、自分の仮説が間違っていたということと、五階堂も万丈目も銀も同様に口にした、『斎王様』という存在。
おそらくはその『斎王様』が、あの光の結社のトップなのだろう。

 もう一度オベリスク・ブルー寮の方角を見た後、俺はこれからの寝床であるラー・イエロー寮へと帰って行った。 
 

 
後書き
アニメの一回きりのゲストキャラ、銀流星とのデュエルでした。
さて、次回はまたゲストキャラとのデュエルにするか、修学旅行へ行ってしまうか悩んでおります。

では、感想・アドバイス待っています。 

 

―精霊使いの決闘?―

 デュエルに勝てば元に戻るという仮説が否定されてしまった今、もはや俺に光の結社の侵攻は止められる訳がなく、光の結社は続々と入信者を増やしていった。

 デュエル・アカデミアの先生方は、オベリスク・ブルー寮を『ホワイト寮』に改名することこそ認めなかったものの、外観は真っ白に塗りたくられているため、かつての青色のオベリスク・ブルー寮の姿はどこにも無かった。

 末端を止めることが出来ないのであれば、直接光の結社のトップを叩こうとしたものだが、構成員の多くがガードしてきて全く近づけやしなかった……そのせいで、俺はまだ光の結社の指導者らしい『斎王様』がどのような人物なのかすら解らなかった。
 とは言っても別に隠れている訳ではなく、十代や三沢は普通に廊下や授業でそれらしき人物を見ることもあるというので、ただ俺は避けられているだけなのだろう。

 三沢に聞いた話だが、万丈目は入信者を増やすための前線での隊長で五階堂はその補佐をしており、明日香は光の結社のナンバー2と言った役割で、『斎王様』のサポートをしているらしい……だからだろう、万丈目の姿はよく見るにも関わらず、明日香の姿をこの頃全く見ないのは。

 ……かなり話は変わるが、そろそろデュエル・アカデミアの二年生……つまり俺たちには、修学旅行という一大イベントが執り行われることとなっていた。
日本の高校の修学旅行と言えば、京都や奈良、沖縄あたりが定番であるだろうが、このデュエル・アカデミアがデュエルの専門学校である以上、デュエルに関する場所に行かないと修学旅行というイベントの意味がないのだ。

 そして、毎日毎日デュエルの歴史は更新されていく為、毎年決まった場所に行くということは不可能であるため、校長先生が修学旅行に相応しい場所を選んだ後、職員会議にかけられて決定するというシステムになっているようだった。

 ……だが今のこのデュエル・アカデミアには、本来の校長先生である鮫島校長は未だに帰ってきていないため、クロノス臨時校長とナポレオン教頭がツートップであるのだが、クロノス臨時校長は修学旅行先をイタリアにするという意見を挙げ、ナポレオン教頭はイギリスという意見を挙げ、お互いに譲らずに会議は平行線となったとか……しかも、その二国とも、デュエルに関する大きなイベントがないところが悲しいところだ。

 その平行線だった会議に割って入って行ったのが、光の結社の連中であった。
彼らは乱入するなり、『修学旅行先は斎王様が占いによって運命を見てくださる』といったことを言い始め、クロノス臨時校長とナポレオン教頭の言い争いが終わるなら、と言った様子の教師陣はこの提案を了承しかけるも、それに異を唱えたのが、偶然居合わせた十代だった。

 『だったらデュエルで決めようぜ!』という、いかにも十代らしく、そして鮫島校長風に言うならばデュエル・アカデミアらしい提案に、光の結社側も教師陣(クロノス臨時校長とナポレオン教頭は除く)も賛同し、急遽デュエルが開かれることとなった。

 これだけならば、俺には全く関係のないデュエルであったが、デュエルをするにあたって光の結社側から一つ条件が提示されていた。
『相手は三沢大地・黒崎遊矢・天上院吹雪の三人のいずれかであること』……とことんオベリスク・ブルーを全滅させたいのか、不穏分子を無くしたいのかは知らないが、指定されたのはオベリスク・ブルーの生き残りである三名であった。

 この三人ならば俺が一番弱いのだから、もしもデュエルに負けて光の結社に入ってしまっても、一番被害が少ないのは俺だ。
三沢と吹雪さんの耳に入ってしまえば、あの二人も出ようとするだろう……なので、三沢と吹雪さんには悪いが、耳に入る前に俺が光の結社とのデュエルに参加することとなった。

 対戦相手は、光の結社側であるにも関わらず、光の結社の制服を着ていないプリンセス・ローズと呼ばれる女子生徒であったが、残念ながら彼女のことは良く知らない。

「斎王様から聞いたわ。あなたも、微弱ながら精霊の存在を感じられるんですって?」

 いつものデュエルフィールドにて、対戦相手たるローズから声がかけられる。
確かに、ほとんど微弱ながら精霊の存在は感じられるものの……何故、斎王はそれを知っているんだ?

「……『も』?」

「ええ。私にも感じられるんですの……いいえ。感じられるどころか、いつでも私の側に精霊はいるのよ!」

 ローズの言っていることが全部妄想でない限り、十代の《ハネクリボー》や万丈目の《おジャマ》たちと似たような精霊を持ったデュエリスト、と言ったどころか。

「お話は終わるわよ!」

 あっちから話しかけてきたくせに、ローズは一方的に話を終わらせてデュエルディスクを展開させた。
こちらもそれに習ってデュエルディスクを展開させ、デュエルの準備が完了する。

『デュエル!』

遊矢LP4000
ローズLP4000

「私の先攻から、ドロー!」

 俺のデュエルディスクに『後攻』と表示されたのだから、対戦相手であるローズは自ずと先攻である。
しかし、プリンセスと言うがどんなデッキなのか……パッと思い浮かぶのは【マドルチェ】や【魅惑の女王】とかその辺りだろうか。

「私は《テイク・オーバー5》を発動! デッキからカードを五枚墓地に送るわ!」

 レアカードに位置される、優秀な墓地肥やしカードである《テイク・オーバー5》……やはり万丈目の《ライトエンド・ドラゴン》のように、光の結社に入った者には、『斎王様』からどこから手に入れたかは解らないが、レアカードが配給されているのだろう。

「更に《引きガエル》を守備表示で召喚!」

引きガエル
ATK100
DEF100

 ローズのフィールドに召喚された、守備の体勢をとる舌が長いカエルをまじまじと見るが、《引きガエル》に相違ない……《引きガエル》だけではまだ解らないが、ローズのデッキは【ガエル】ということだろうか……?

「更に、カードを二枚伏せてターンを終了するわ」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 ローズのフィールドには守備表示モンスターにリバースカードが二枚と、先攻の基本的な防御態勢……いつも通り、頼むぜアタッカー!

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 後攻一ターン目の俺の先陣を斬るのは 、いつも通りに三つ叉の槍を持った機械戦士の出番となり、もはや俺が攻撃宣言を行う前に、《引きガエル》に目標を定めているようにも見える。

「バトル! マックス・ウォリアーで、引きガエルに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 マックス・ウォリアーの乱れ突きの前に、引きガエルはあっけなく破壊されるが、墓地に送られる前にその長い舌を更に伸ばし、ローズのデッキからカードが一枚ドローされた。

「引きガエルは破壊された時、カードを一枚ドロー出来るわ」

「マックス・ウォリアーは戦闘で相手モンスターを破壊した時、攻撃力が半分になる」

 俺もローズも共に戦闘後の効果発動を終わらせ、メインフェイズ2に入りディスクにカードを一枚セットする。

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!
スタンバイフェイズ時、墓地の《テイク・オーバー5》の効果によって一枚ドローするわ」

 今のテイク・オーバー5の効果と引きガエルの効果によって、通常ドローも含めて三枚ドローすることとなったローズ……リバースカードを二枚も伏せたにも関わらず、手札は潤沢にも程がある。

「更にリバースカード、《リミット・リバース》を発動! 墓地から《イレカエル》を特殊召喚!」

イレカエル
ATK100
DEF2000

 ……俺も多用する、攻撃力1000以下のモンスターを蘇生するトラップカードによって蘇生されたモンスターを見て、俺は顔をしかめると同時に、ローズのデッキが純正の【ガエル】であることを悟った。

「更に《地獄の暴走召喚》を発動! イレカエルをデッキから三体特殊召喚するわ!」

 イレカエルの背後で、狂ったように回る二つの歯車……それも自身が良く使うだけあって、次に何が起きるかは言わなくても解る……すなわち、特殊召喚されたイレカエルと同じイレカエルが更に二体特殊召喚されるということ。

「……俺のデッキには、《マックス・ウォリアー》は一体しかいない」

 ローズの《地獄の暴走召喚》の効果は俺にも適用される筈だが、残念ながら俺のデッキにマックス・ウォリアーは一体しかいないため、特殊召喚出来ない。

「まだまだよ! イレカエルの効果を発動! 私のフィールドのモンスターをリリースすることで、デッキから《ガエル》と名の付いたモンスターを特殊召喚出来る! 私は《イレカエル》を三体リリース!」

 自身のその名に相応しい効果を持った《イレカエル》三体が、一声鳴き声を鳴くとフィールドから消え失せ、代わりに新たなカエル三体が、ローズのデッキから特殊召喚された。

「コレが私の王子様たちよ! 来て、《デスガエル》!」

デスガエル
ATK1900
DEF0

 前回のターンで、《テイク・オーバー5》による布石はあったものの、【ガエル】の特徴であるこの驚異的な展開を、わずか一ターンでやってのけるとは、恐れ入る……って、今なんて言った?

「……王子様?」

「そうよ。このデスガエルたちが私を守るカードの精霊……イケメンの王子様なのよ!」

 ……そう言われてしまえば、精霊の存在を感じる程度の能力しかない自分には、ローズの言葉が真実かどうか確かめようがないのだが……少なくとも、三体のデスガエルたちから精霊の存在は感じない。

「バトルよ! デスガエルでマックス・ウォリアーに攻撃! デス・リサイタル!」

「《攻撃の無力化》を発動! バトルフェイズを終了する!」

 ……今のデュエルの状況では、のんきに精霊のことなど考えている場合ではなさそうだ。
ステータス自体は低いが、水属性のサポートフィールド魔法《ウォーターワールド》や実質、専用フィールド魔法《湿地草原》など補う手段はいくらでもあり、《機械戦士》を遥かに超える圧倒的な展開力は脅威以外の何者でもない。

「私はこれでターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 さて、そのご自慢の毎ターンワンショットキルが出来るぐらいの展開力……せいぜい利用させてもらうか。

「俺は《ニトロ・シンクロン》を召喚!」


ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 ニトロという名に反し、一見消火器のようにも見えるシンクロンの召喚により、俺のフィールドにチューナーと非チューナーが並んだ。

「レベル4の《マックス・ウォリアー》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 ニトロ・シンクロンの頭についているメーターが、計測不能なほどに振り切れ、そのまま二つの光の輪となりマックス・ウォリアーを包み込む……合計レベルは、6。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

グラヴィティ・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 俺のフィールドに伏せるように降り立った機械戦士……というより、外見は機械の獣だが、俺のデッキに入っている《機械戦士》たちの仲間に相違ない。

「《マックス・ウォリアー》の方が攻撃力が高くなるのに、わざわざシンクロ召喚……何か効果が?」

「それはもちろん当たり前さ。グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 ローズのフィールドには、王子様と呼ばれていたデスガエルたちが三体……よって、グラヴィティ・ウォリアーの攻撃力は3000。

「攻撃力……3000!?」

「バトルだ! グラヴィティ・ウォリアーで、デスガエル一体に攻撃! グランド・クロス!」

 ローズの驚きの声をよそに、俺はグラヴィティ・ウォリアーへと命令を下した。
あのデスガエルが精霊だろうと王子様だろうと何だろうと、デュエルのルールには全く関係がなく、グラヴィティ・ウォリアーはデスガエルを戦闘破壊した。

ローズLP4000→2900

「きゃっ! ……だけど、王子様は私を守り、私は王子様を守るのよ! リバースカード《激流蘇生》を発動! 破壊された水属性モンスターを全て特殊召喚し、特殊召喚した数×500ポイントのダメージを相手に与える!」

 グラヴィティ・ウォリアーに戦闘破壊された筈のデスガエルが、激流を伴ってそのままフィールドに特殊召喚され、その激流は俺に直撃した。

遊矢LP4000→3500

「くっ……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 攻撃力3000のグラヴィティ・ウォリアーをシンクロ召喚したことにより、形勢は俺の方へ傾いた……と言いたいところだが、未だにローズのフィールドにはデスガエルが三体並んでいて、ボードアドバンテージもさることながら、《デスガエル》が三体フィールドに並んでいることほど、今は怖いことはない。

「王子様たちの本当の姿、見せてあげるわ! 私は《融合》を発動! フィールドの王子様三体を融合し、《ガエル・サンデス》を融合召喚!」

ガエル・サンデス
ATK2500
DEF2000

 デスガエル三体が融合したことにより、時空の穴から特殊召喚されるグラヴィティ・ウォリアーよりも巨大なカエルである、《ガエル・サンデス》……デスガエルが三体いることに対し、考慮していた方の魔法カードとはまた別のカードだったことに少し安堵しかけたものの、今の状況ではむしろこっちの方が困るということにすぐ気づいた。

「ガエル・サンデスの攻撃力は、墓地にいる《黄泉ガエル》の数×500ポイント……そして、私の墓地にいる黄泉ガエルの数は、三体よ!」

 つまり、今の《ガエル・サンデス》の攻撃力はグラヴィティ・ウォリアーを遥かに超えた、4000という神に匹敵する数値……わざわざ融合召喚したのだから、《テイク・オーバー5》によって《黄泉ガエル》が墓地に落ちているとは思っていたが、まさか三体とも落ちていたとは……!

「バトル! ガエル・サンデスで、グラヴィティ・ウォリアーに攻撃!」

 ガエル・サンデスの動作はその巨体に似合ったものだったが、突如として飛び出て来たカエルの舌に、グラヴィティ・ウォリアーはの胸は刺されてしまう。

「グラヴィティ・ウォリアー……!」

遊矢LP3500→2500

「まだ終わっていないわ! 《融合解除》を発動! 墓地から蘇って、王子様たち!」

 攻撃力が上がっていたグラヴィティ・ウォリアーの破壊に驚いていたところに、融合モンスターの特権であり切り札の、自分のバトルフェイズ中の《融合解除》が炸裂する。

「まだ私のバトルフェイズは終わってないわ! デスガエルでダイレクトアタック! デス・リサイタル!」

「《速攻のかかし》を墓地に捨て、バトルフェイズを終了させる!」

 だが、《ガエル》が三体相手フィールドにいることを恐れていた俺が、ダイレクトアタックに何の対策もしていない筈がなく、手札から現れたかかしによって、自称王子様の音波攻撃は防がれた……かかし自体は、俺を守って破壊されてしまったが。

「王子様たちの必勝攻撃でも倒せないなんて……ターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 なんとか、二度目の大量展開からのワンショットキル並みの威力を持つ攻撃を、《速攻のかかし》のおかげで耐えしのぐことが出来たものの、俺のデッキには《速攻のかかし》のカードは一枚しか入っておらず、墓地サルベージカードは手札にはない……次なるカエルたちの攻撃が防げるかどうか。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互い手札を二枚捨て、二枚ドローする!」

 ならば、大量展開とか言っていられないほどに攻め込むまでのこと……!

「墓地に捨てた《リミッター・ブレイク》の効果発動! デッキ・手札・墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェイバリット!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 お決まりの《リミッター・ブレイク》によって特殊召喚され、マイフェイバリットカードが俺の目の前でポーズをとった。

「それがあなたのマイフェイバリットカード……私の王子様の敵じゃないわね」

「確かに今は適わないかも知れないが、俺のマイフェイバリットは、俺のカードの起点となる! ……スピード・ウォリアーをリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1900
DEF1600

 マイフェイバリットカードをリリースし、久方ぶりに行うアドバンス召喚。
それもその筈であり、この新たな機械戦士である《サルベージ・ウォリアー》はアドバンス召喚時にしか効果を発揮しないのだから。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功した時、手札・墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 墓地から蘇れ、《ニトロ・シンクロン》!」

 サルベージ・ウォリアーが持っていた巨大なチェーンにより、墓地からニトロ・シンクロンが引き揚げられる……これで再び、フィールドにチューナーと非チューナーが揃ったというわけだ。

「レベル5の《サルベージ・ウォリアー》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 本日二度目となるニトロ・シンクロンによるチューニングだっだが、今からシンクロ召喚しようとしているシンクロモンスターが、自らをチューナーに指定しているからか、グラヴィティ・ウォリアーをチューニングする時よりもメーターが大きく揺れている……気がする。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1800

 悪魔のような形相をしている、爆発物の名を関した機械戦士であるニトロ・ウォリアーがシンクロ召喚される。
その2800という元々の攻撃力は《機械戦士》たちの中ではナンバーワンに位置し、魔法カードを使えば瞬間火力は更に増大するのだが……残念ながら、手札に魔法カードはなかった。

「ニトロ・シンクロンの効果により一枚ドローし、墓地の《ADチェンジャー》の効果を発動! このカードを除外することで、デスガエル一体を守備表示にする!」

 《手札断殺》の効果によって、《リミッター・ブレイク》と共に墓地へ送られていた旗を持った機械戦士が一時的にフィールドへ現れ、《Defense》を意味するのであろう青い『D』の旗によってデスガエル一体を守備表示にして除外された。

「なんで王子様を守備表示に……?」

「すぐに解るさ。バトル! ニトロ・ウォリアーで、攻撃表示のデスガエルに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 ローズの疑問もそこそこにバトルフェイズへ突入し、ニトロ・ウォリアーがデスガエルの一体に向かってパンチの雨あられを放った……やはり、手札に魔法カードがなかったことが悔やまれる。

ローズLP2900→2000

「よ、良くも王子様を……!」

「まだまだ終わっちゃいない。ニトロ・ウォリアーは相手モンスターを破壊した時、相手の守備モンスターを攻撃表示にしてもう一度バトル出来る! ダイナマイト・インパクト!」

 先程ADチェンジャーの効果によって守備表示にされたデスガエルが、今度はニトロ・ウォリアーの攻撃表示とされ、まもなくニトロ・ウォリアーの攻撃の第二の被害者となった。

ローズLP2000→1100

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「一人しゃ飽きたらず、一気に二人も王子様を倒すなんて……! 私のターン、ドロー!」

 自身のライフが1100という数値にまで削られているにも関わらず、なお自分の王子様たるマイフェイバリットカードのことを言うとは、ローズというデュエリストは尊敬に値する……王子様だの精霊だのを抜きにすれば、の話だが。

「私のフィールドには伏せカードがないから、墓地から《黄泉ガエル》を特殊召喚させるわ!」

黄泉ガエル
ATK100
DEF100

 天使の輪が頭上に浮かんだカエルが、その名の通り墓地から特殊召喚される。
《ガエル・サンデス》の攻撃力アップに貢献するため、墓地に貯まったままであった黄泉ガエルだったが、むしろこちらの蘇生効果の方がよっぽど重要であるのは間違いない。

「行くわよ、私の切り札! 黄泉ガエルと王子様をリリースし、《両生類天使-ミ・ ガエル》を特殊召喚!」

両生類天使-ミ・ ガエル
ATK1400
DEF800

 二体のモンスターをリリースし、特殊召喚されるローズの切り札……確かにデスガエルに比べればデカいが、二体のリリースを使ってこの貧弱なステータスはあり得る筈がなく、何らかの切り札たる効果を持っているに違いない。

「ミ・ガエルの効果発動! 自身のの効果で特殊召喚された時、墓地の《ガエル》を可能な限り特殊召喚出来るわ! 来て、《未知ガエル》! そして王子様たち!」

「なっ!?」

 ニトロ・ウォリアーによって破壊されたデスガエル二体と、リリースした筈のデスガエル、更にはいつの間にやら墓地に送られていた未知ガエルまでもが、《両生類天使-ミ・ ガエル》の切り札に相応しい効果によってフィールドに特殊召喚され、ローズのフィールドをガエルたちが埋め尽くした。

「更に行くわよ! 《死の合唱》を発動! 私のフィールドに《デスガエル》が三体以上いる時、相手フィールドのカードを全て破壊する! さあ歌って、王子様たち!」

 万丈目の使用する《おジャマ・デルタ・ハリケーン》に似た効果を持ち……《ガエル》の展開力の関係上、あちらより発動が楽だが……俺がこのデュエルでもっとも恐れていたカードが、満を持して発動された。

 デスガエルたちの、歌とはとても言えない音波攻撃を喰らい続けてニトロ・ウォリアーは爆散してしまい、もうもうと空になった俺のフィールドに煙をあげた。

「これであなたのフィールドにカードはない! しかも、《速攻のかかし》も使ったから防ぐ手段もない。私の勝ちね!」

「……それはどうかな」


 俺の墓地から一枚のカードが光り、デッキからフィールドに立ち込もる煙を切り裂いて一陣の風が飛び出し、五体のカエルたちを相手に守備の体勢をとった。

「……なんなの!?」

「破壊された《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから《スピード・ウォリアー》を、守備表示で特殊召喚したのさ!」

 俺のフィールドにあったカードは、ニトロ・ウォリアーを除けば一枚のリバースカードだけだった。

 そのリバースカードこそが今発動した《リミッター・ブレイク》であり、俺が《速攻のかかし》を使ってしまった後の《死の合唱》対策として伏せてあったカードであった。

「……だけど、私の王子様たちとその仲間の敵じゃないわ! 未知ガエルでスピード・ウォリアーに攻撃!」

 ローズのフィールドにいるカエルのモンスターの中で、唯一人型のモンスターである未知ガエルが、スピード・ウォリアーに攻撃してくる。
ステータスはローズのフィールドでもっとも低いが、守備表示のスピード・ウォリアーを倒すには充分であり、なおかつ貫通効果を持っている。

 だが残念ながら、俺とて対策は不完全じゃない……!

「ダメージステップ時、俺は手札の《牙城のガーディアン》を発動! このカードを墓地に送ることで、スピード・ウォリアーの守備力を、1500ポイントアップさせる!」

「手札から……牙城のガーディアン!?」

 未知ガエルに破壊されそうなスピード・ウォリアーの前に、牙城を守る機械戦士が突如現れ、未知ガエルの攻撃を跳ね返した。

「牙城のガーディアンによって、スピード・ウォリアーの守備力は1900! 700ポイントの反射ダメージを受けてもらう!」

 牙城のガーディアンに跳ね返された未知ガエルの攻撃は、そのまま本来の主たるローズの下へ返っていき、そのまま俺の代わりにローズがダメージを受けることとなった。

 俺のフィールドにあったカードは、ニトロ・ウォリアーを除けば一枚のリバースカードだけだった。

 ローズLP1100→400

「まさか、私の王子様たちの攻撃を耐えきるなんて……! カードを一枚伏せて、ターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 そして《牙城のガーディアン》の効果はエンドフェイズ時まで続くため、展開力とは裏腹のその低い火力が災いしてデスガエル三体にミ・ガエルの追撃は受けずに済んだ。

 しかし、あくまで牙城のガーディアンの効果はエンドフェイズ時までなのだから、今のスピード・ウォリアーにはもう防ぐことは不可能であるし、《リミッター・ブレイク》と《牙城のガーディアン》による《死の合唱》対策などということが何度も出来るわけがなく。

 つまり、このターンが正念場……!

「俺はスピード・ウォリアーをリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

 仲間の力を得る砲台の機械戦士が、スピード・ウォリアーをリリースしたことにより、その攻撃力2100にまで上昇させる。

「バトル! ターレット・ウォリアーで、未知ガエルに攻撃! リボルビング・ショット!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》! 私への戦闘ダメージを0にし、一枚ドロー」

 この戦闘でダメージが入っていれば終わりだったんだが、やはりそう上手くは行きはしないか。

「カードを一枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!
……墓地から《黄泉ガエル》を特殊召喚するわ」

 だが、決めきれなかったとしても相手の主力は攻撃力1900のデスガエルであり、スピード・ウォリアーの力を得たターレット・ウォリアーの攻撃力には僅かに及ばない……《ガエル・サンデス》が融合召喚でもするのであれば話は別だが、今の黄泉ガエル特殊召喚からそれはない。

「あなたの《ターレット・ウォリアー》の攻撃力の方が高い。けれど、王子様たちの打点を補うガードぐらい投入してるわ! 通常魔法《アクア・ジェット》を発動して、王子様一人の攻撃力を1000ポイントアップ!」

 《激流蘇生》の時にも使われたような激流が発射されているブースターが、デスガエルの一体の背後に取り付けられ、いかにも攻撃力が上がる装備魔法……実際には通常魔法だが……というイメージ通り、デスガエル一体の攻撃力がターレット・ウォリアーを超えた。

「バトルよ! アクア・ジェットで強化された王子様で、ターレット・ウォリアーに攻撃! デス・リサイタル!」

 背中に取り付けられていたアクア・ジェットでスピードを上げたデスガエルの音波攻撃に、ターレット・ウォリアーはじわじわと破壊されていき、そのままターレット・ウォリアーの銃弾は当たらずに破壊されてしまっていた。

「く……!」

遊矢LP2500→1700

「これで終わりよ! もう一人の王子様でダイレクトアタック! デス・リサイタル!」

「悪いが、終わるのはお前の方だ! リバースカード、《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から蘇れ――《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 デュエルの中盤ごろ、ローズの《ガエル・サンデス》に破壊されてしまった機械の獣が、罠版の万能蘇生カードにより墓地より蘇った。
シンクロ召喚によっての特殊召喚ではないので、効果は発動せず攻撃力は2100と低いままだったが、デスガエルの攻撃を止めるぐらいならば問題ない。

「しぶといわね……! バトルを中断し……」

「いや、まだだ。……まだお前のバトルフェイズは終わっちゃいない!」

 ローズの言葉に、俺にダイレクトアタックをしようとしていたデスガエルは攻撃を中断し、俺の言葉に、グラヴィティ・ウォリアーは呼応するかのように一声いなないた。

「変に思わなかったか? なぜ俺が、ニトロ・ウォリアーではなく攻撃力の低いグラヴィティ・ウォリアーを蘇生したか! グラヴィティ・ウォリアーの効果発動! 相手のバトルフェイズ時に相手フィールドの守備表示モンスターを攻撃表示にし、強制的にバトルする! デュエル・ジー・フィールド!」

「えぇ!?」

 グラヴィティ・ウォリアーが自身の身体を中心に引力を発生させ、ローズのフィールドに守備表示でいた《黄泉ガエル》を攻撃表示にさせてグラヴィティ・ウォリアーの下へと引き寄せた。

 相手のバトルフェイズ時に守備表示モンスター限定という、微妙に使いづらい効果を持っているが、このような奇襲であるならば――これ以上に有効な効果はない!

「グランド・クロス!」

「きゃああああっ!」

ローズLP400→0

 ただでさえステータスが低いモンスター群である《ガエル》の中でも、その優秀な蘇生効果と引き換えにしたようなステータスの黄泉ガエルでは、グラヴィティ・ウォリアーの一撃を耐えきれる筈がなく……グラヴィティ・ウォリアーの強靭な鉄の爪をもって、ローズとのデュエルは終了した。

「楽しいデュエルだったぜ、プリンセス・ローズ」

 デュエルの決着の余波で少し倒れてしまったローズに手を貸してやると、意外にもローズは迷いなく俺の手を借りて立ち上がった。

「負けたわ……まだ王子様たちと心を通わせきれていないのかしら」

 そう言いながら自身のデッキを見るローズは、デュエル中となんら変わるところはなく、銀のように発狂してしまうと思っていた俺は、肩すかしを喰らってしまった。

 そしてその背後に、一瞬だけうっすらと王子様の格好をしたデスガエルの精霊が一瞬現れたのだが、すぐ見えなくなってしまった……まだ、精霊としての力が足りていないのだろうか。
……しかしローズには悪いが、『私を守るイケメンの王子様』には程遠い外見をしていたな。

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ遊矢!」

 スタジアムの外、相変わらず二人の弟分を後ろに従えながら、元気に十代が決め台詞を言ってくる。

「そいつはどうも。後はお前の出番だ」

 俺がデュエルに出たのは、あくまで光の結社側の要求による十代の代理にすぎない。
自分の出番が終わったのだから、十代と入れ替わるようにデュエルフィールドを出て行った。

 そして、今まで行われていたデュエルフィールドの中心部で十代が、マイクによって自分がローズデュエル出来なかったことを若干愚痴をこぼした後、高らかに修学旅行先を告げた。

『俺たちの修学旅行先は、あの《童実野町》! キング・オブ・デュエリストの武藤遊戯さんが激闘を繰り広げた、童実野町だ!」

 ほぼ同時刻――光の結社の斎王が占った運命の場所というところが、十代の選んだ童実野町だということは……俺に知る由はなかった。
 
 

 
後書き
テスト中なので更新遅れています(現在進行形)

そして、ローズのキャラを良く覚えていなかったせいで口調がほぼ明日香という……反省材料です、はい。

それと《激流蘇生》。
マイデッキも機械戦士も水属性が少ないので、全く使う機会がない……というかそもそも持っていないのですが、何故だか解りませんがお気に入りカードだったりするので、今回ローズに使わせてみましたw

では次回は修学旅行・童実野町編。
アクセラレーション! ……はしませんが、更新はテストが終わるまでお待ちください。
 

 

―修学旅行 前編―

 
前書き
お久しぶりです 

 
「ああ、お土産期待せずに待っててくれ」

 デュエル・アカデミア生徒専用の携帯電話――PDAをポケットにしまい込み、周囲の港のような風景を一回り見回した。
そこにはせっせと働いている人は大勢いるが、見慣れた赤やら黄色やら青色の制服を着たデュエル・アカデミアの生徒は見当たらない。

 それもその筈、この港は普段のデュエル・アカデミアの港ではなく、今回十代が修学旅行先に選んだ、別名『海馬コーポレーションの城下町』とも言われている町、《童実野町》の港であったからだ。

「待たせたな、電話終わったぞ」

 この港の俺以外のデュエル・アカデミアの生徒である、先程まで船酔いでずっと気分が悪そうに寝ていた三沢に電話が終わったことを告げると、陸上に上がったことでもう気分が良くなったようで、いつも通りの笑みで返してくれた。

「それじゃあ行こうか……レイくんは何だって?」

「自分だけ仲間外れで寂しい、だとさ」

 通常デュエル・アカデミアの修学旅行は二年生のみのイベントであるのだが、今回は光の結社の方から多額の寄付があったおかげで、今年の一年生も俺たち二年生と同じように修学旅行に来ているため、剣山も含めて中等部のレイ以外は修学旅行に来ているこの状況のことを言っているのだろう。

 ちなみに、一応デュエル・アカデミアの一年生であるエドもこちらに来てはいるのだが、来るときも自家用のボートで来ていたため、未だ姿は見ていない。

「それにしても、修学旅行先がただの田舎町っていうのも変だよな」

 この修学旅行の一日目は基本的に自由行動が許されているため、とりあえずデュエルキング・武藤遊戯がデュエルしたという名所でも回っておくことにしたのだが、名所と呼ばれた場所では現地のデュエリストが活発にデュエルを行っているだけで、その伝説のデュエルが追体験出来るわけではないので、正直ただ田舎町を歩いているようにしか感じなかった。

「まあそう言うな。もしかしたら、パワースポットのような場所になっているのかも知れないぞ?」

「デュエルキングがデュエルしただけでパワースポットになるなら、この町はパワースポットじゃない所の方が少ないんじゃないか……?」

 カードの精霊だの闇のデュエルだのに関わるようになってからは、そういうオカルトなことにもわりかし肯定的になってはいるが、流石にデュエルキングがデュエルしただけでパワースポットにはならんだろう……

 そのまま童実野町をぶらぶらと散策し、ついに俺の一番の来たかった場所であるカードショップ――《亀のゲーム屋》へとたどり着いた。
すぐ前にデパートかと見まがうような大きい量販店があるにも関わらず、小さいながらも近所の常連客に愛されているような、そんな印象を持たせたこじんまりとした店である、デュエルキング・武藤遊戯の実家である。

「いらっしゃい」

 店内に入ると同時にしゃがれた老人の声に出迎えられると、デュエルモンスターズを始めとした様々なゲームが俺と三沢の目に入ってきた。

「これは……武藤遊戯や海馬瀬人が使っていたレアカードがこんなにも沢山……!」

 常日頃から良く過去のデュエリストの戦歴などを図書室で眺めている三沢には馴染み深いカードたちなのだろう、三沢は喜びを隠しきれずにカードケースを見始めた。

 俺はと言うと陳列されているカードケースを見るのはそこそこに、この亀のゲーム屋の店主である、店の奥にいるデュエルキングの祖父――武藤双六に声をかけていた。

「すいません、武藤遊戯はご在宅ですか?」

 俺がここに来た理由はただ一つ――デュエルキング・武藤遊戯に会うことであった。
貰った当初は解らなかったものだが、デュエル・アカデミア本島に行くときに、二種類のラッキーカード《エフェクト・ヴェーラー》と《パワーツール・ドラゴン》を渡してくれたのは、思い返してみればあのデュエルキングに他ならない……会ってお礼を言いたかったのだ。

「ほっほっほ、遊戯に挑戦かね? しかしじゃな、遊戯はちと旅に出ておっていないのじゃ」

 ここに来た目的は少し勘違いされてしまっていたが、デュエルキングは旅に出ていていないという、予想の斜め上を行く返答は双六老人から得られた……少し、いや、かなり残念だが仕方あるまい。

 あまりカードを買う気は無いが、三沢に習ってウィンドウショッピングでもするか、と思ったその時、双六老人が俺の顔を覗き込んできた。

「まさか君、黒崎遊矢かの?」

「……!? ええ、そうですけど」

 初対面の双六老人から突如として自分の名前を言われ、ついつい身構えてしまう俺に対し、双六老人はまたもほっほっほ、と笑いながら一枚のカードを取りだした。

「遊戯から頼まれているのじゃよ。『黒崎遊矢という人物が来たら、このカードを渡して欲しい』とな」

 そう言いながら、双六老人は俺に一枚のカードを手渡してくる……別に見たことのない背景の色だったり見たことのない効果が書いてあったりしないし、カードの絵柄が描かれていなかったりとそういったことはなかったが、見たことのないカードであることは確かだった。

「……これを俺に?」

「そういうことじゃ。遠慮なく受け取っておきなさい……それと、このカードもサービスじゃ」

 双六老人から受け取ったカードと、新しく受け取ったそのサポートカードと思しきカードをとりあえずデッキに入れると同時に、いきなり蹴破られるように亀のゲーム屋のドアが勢い良く開いた。

 そして顔を出したのは、見覚えのない、しかし、何の変哲もないどこにでもいそうなデュエルディスクを付けた二人の男だった。

「な、なんじゃアンタら!」

「黒崎遊矢と三沢大地はいるか?」

 双六老人がおっかなびっくりその男たちに声をかけるが、男たちはそれを無視して俺と三沢の名前を呼んで来た……今日は、良く知らない人間に名前を呼ばれる日だな。

「俺たちはここにいる。何か用なのか?」

 比較的ドアの近くにいた三沢が男たちの前に立ち、用件は何か告げる。
とりあえず俺も双六老人の近くにいても仕方ないと思い、三沢の横に立って二人の男の出方を見る。

「俺たちとデュエルしてもらおう……コイツらの命が惜しければ」

 そんな物騒なことを言いながら男が俺と三沢に見せてきたのは、鏡のようなものであり、中には……剣山と翔が倒れていた。

「……ッ!? お前ら、剣山と翔に何をした!?」

「デュエルで俺たちに勝てば教えてやろう」

 俺『たち』……つまり俺と三沢、そして相手は男たちで行う、二対二のタッグデュエルということか。

「黒崎くん、三沢くん。このデュエルディスクを使うんじゃ」

 双六老人から貸し出されたデュエルディスクをありがたく使わせてもらうと、四人そろってこれ以上亀のゲーム屋に迷惑がかからないように外へ出た。

「俺の名前は岩丸」

 少し太り気味な、帽子を被っている男の方の名前は岩丸。

「俺の名前は炎丸!」

 対照的にやせ細った身体をした、切れ長の目をして髪が一本立っている男が炎丸というらしい。

『デュエル!』

遊矢&三沢LP8000

岩丸&炎丸LP8000

「俺のターンから、ドロー!」

 帽子の男、岩丸の先攻からデュエルは始まる……さて、相手はどんなデッキかな?

「俺は《マイン・ゴーレム》を召喚!」

マイン・ゴーレム
ATK1000
DEF1900

 マイン・ゴーレム……《ゴーレム》の名を冠してはいるが、純正の【ゴーレム】には入りはしないことから、恐らくは岩丸という名前の通り、奴のデッキは【岩石族】だと当たりをつける。

「永続魔法《導きの鉱脈》を発動し、カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 俺と三沢のタッグは三沢から始まることになり、俺にターンが回ってくるのは一番最後となった。

「俺は《馬頭鬼》を召喚!」

馬頭鬼
ATK1700
DEF800

 三沢の妖怪デッキの、主力アタッカーたる馬頭鬼がまずは戦陣をきることとなった。
その効果は墓地にいる時にこそ効果を発揮する効果だが、全体的に下級モンスターの打点が低い三沢のデッキにはアタッカーとなり得るモンスターである。

「バトル! 馬頭鬼でマイン・ゴーレムに攻撃!」

 マイン・ゴーレムはのステータスは、守備力は高いものの攻撃力はそれほどではなく、岩丸はマイン・ゴーレムを攻撃表示で召喚した為に、馬頭鬼が持ったその斧剣に破壊されてしまう……だが、マイン・ゴーレムは被破壊時に発動する効果がある。

「マイン・ゴーレムの効果発動! マイン・ゴーレムが戦闘破壊された時、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

 馬頭鬼の斧剣に砕かれたマイン・ゴーレムの破片が動きだし、三沢と俺の方向に飛んできて俺たちのライフを削るが、破片の半分ほどはそのまま岩丸に飛んでいった。

岩丸&炎丸LP8000→7300

遊矢&三沢LP8000→7500

「更に、永続魔法《導きの鉱脈》の発動! 岩石族モンスターが破壊された時、同名モンスターをデッキから特殊召喚する!」

 俺たちにぶつかった破片が、永続魔法の効果により再結集していったため、岩丸のフィールドに再びマイン・ゴーレムが召喚された。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 全く予想通りの展開であったためか、三沢は特に驚くこともなく、淡々とカードを一枚伏せてエンド宣言を行った。

「俺のターン! ドロー!」

 さて、今度は細いほうの男である炎丸のターンであるが、岩丸と同じように自身が名乗った名前と同じデッキであろうか。

「俺は岩丸の《マイン・ゴーレム》をリリースし、燃え滾るマグマの帝! 《炎帝テスタロス》をアドバンス召喚する!」

炎帝テスタロス
ATK2400
DEF1000

 炎帝テスタロス……本来ならばアド損であるアドバンス召喚を、自身の効果によってアド損ではなくさせるという優秀な効果を持ったレアカード群である……何でそんなカードを持っているのか。

「炎帝テスタロスの効果発動! 相手プレイヤーの手札を一枚墓地に送り、モンスターカードならばレベル×100ポイントのダメージを与える! バーニング・ノーブル!」

 炎帝テスタロスから発せられた小さい炎が、三沢の手札の一枚を貫く……墓地に送られたカードは、三沢のエースカードたるレベル7モンスター《赤鬼》。

遊矢&三沢LP7500→6800

「更にバトルだ! 炎帝テスタロスで馬頭鬼に攻撃! ブレイズ・ランチャー!」

「くっ……」

 三沢の手札を削った時の小さなピンポイントの炎とは違い、その二つ名に違わぬマグマが馬頭鬼を飲み込んだ。

遊矢&三沢LP6800→6100

「カードを一枚伏せターンエンド!」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 炎丸の《炎帝テスタロス》を主軸にしたビートバーンに、少しライフが削られてしまうものの、まだ大丈夫だろうと推測する。

 それより問題なのは、炎丸の使ったカードが《炎帝テスタロス》だけなせいで結局彼のデッキが不明なことだった……名前だけで判断するならば、【炎属性】なのだが。

「俺は三沢のリバースカード《もののけの巣くう祠》を発動! 墓地から馬頭鬼を特殊召喚する!」

 解らないことを考えても仕方がない、気を取り直して三沢が伏せていたリバースカードを使わせてもらい、つい先程炎帝テスタロスに破壊された《馬頭鬼》を墓地から蘇生する。

「更にチューナーモンスター、《ドリル・シンクロン》を召喚!」

ドリル・シンクロン
ATK800
DEF300

 俺のエクストラデッキに眠る《ドリル・ウォリアー》の指定チューナーであるが、馬頭鬼のレベルは4である為にレベル6のドリル・ウォリアーはシンクロ召喚は出来ない。

 まあ、元々今回の狙いはドリル・ウォリアーのシンクロ召喚ではないのだが。

「レベル4の《馬頭鬼》に、レベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」

 ドリル・シンクロンがその身についたドリルを高速で回転させ、光の輪となり馬頭鬼を包み込んだ。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 ドリル・シンクロンと馬頭鬼の黄色のボディを持った機械竜、ラッキーカードが姿を現す……このままでは炎帝テスタロスに攻撃力が及ばないが、パワー・ツール・ドラゴンの効果を使えば超えられないことは、まずない。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果発動! デッキから装備魔法カードを三枚選び、裏向きで相手が選んだカードを手札に加える! 俺が選ぶのは《団結の力》・《ダブルツールD&C》・《デーモンの斧》。パワー・サーチ!」

「……左のカードだ!」

 炎丸に選ばれなかった二枚のカードをデッキに戻してシャッフルし、反対に選ばれた左のカードをデュエルディスクにセットする。

「パワー・ツール・ドラゴンに《ダブルツールD&C》を装備し、バトル!」

 ここで墓地の《馬頭鬼》の効果を使えば、三沢のエースカードである《赤鬼》を特殊召喚出来る……だが、炎丸のデッキは未だに不明であるし、岩丸が一枚、炎丸が一枚ずつカードをセットした為に相手のリバースカードは二枚。
パワー・ツール・ドラゴンは自身の効果によって破壊を防げるものの、赤鬼にはそんな効果はない……まだ慎重に行っても良いだろう。

「パワー・ツール・ドラゴンで、炎帝テスタロスを攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 ダブルツールD&Cの効果によって、攻撃力は炎帝テスタロスを超えている。
パワー・ツール・ドラゴンの右手についたドリルが甲高い音をだして唸り、そのまま炎帝テスタロスに突き刺そうとした。

「ただじゃ破壊されないぜ! 永続トラップ《バックファイア》!」

 炎丸のリバースカードが開かれたが、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃を阻害する効果ではなかったため、そのまま炎帝テスタロスは破壊されたが、破壊された時に残り火を残して俺に直撃した。

岩丸&炎丸LP7300→6200

遊矢&三沢LP6100→5600

 ただではやられないと言ったその言葉通りに、あの永続トラップ《バックファイア》を破壊しない限り、炎属性モンスターを破壊するごとに俺たちは500ポイントという無視出来ないダメージを負うこととなった。

「これで俺はターンエンド」

「俺のターン、ドロー!

 岩丸のターンに移ったことにより、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は一旦2300に戻る……そう、帝に破壊されてしまうぐらいの攻撃力に。

「俺は伏せていた《リミット・リバース》を発動し、《マイン・ゴーレム》を蘇生する!」

 これで都合三度目の登場となるマイン・ゴーレムであったが、当然ステータスはパワー・ツール・ドラゴンには遠く及ばない。

「マイン・ゴーレムをリリースし、揺るぎない大地の帝、《地帝グランマーグ》をアドバンス召喚する!」

地帝グランマーグ
ATK2400
DEF1000

 外れて欲しかった予想通りに、相方の炎丸と同じようにマイン・ゴーレムをリリースしてその名に対応した帝をアドバンス召喚した。

「地帝グランマーグの効果にチェーンして速攻魔法《月の書》を発動し、《パワー・ツール・ドラゴン》を裏側守備表示にする!」

 パワー・ツール・ドラゴンに月の書が発動され、裏側守備表示となってダブルツールD&Cが外れると同時に、《地帝グランマーグ》の効果が発動する。

「地帝グランマーグの効果発動! 裏側となったパワー・ツール・ドラゴンを破壊する!」

 地帝グランマーグの背後に岩が出現し、守備表示となっていたパワー・ツール・ドラゴンを破壊する。

 パワー・ツール・ドラゴンの破壊を防ぐ時に発動する効果を、月の書によって破壊されたために、計算外のパワー・ツール・ドラゴンの破壊となった。

「これでお前たちのフィールドは空だ! 地帝グランマーグでダイレクトアタック! バスター・ロック!」

「《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了させる!」

 地帝グランマーグが出現させた俺と三沢に襲いかかってきた岩を、俺の手札から飛びでた《速攻のかかし》が代わりに受けた。

「チッ……運が良いな。このままターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!
そのレアカード……君たちは、斎王や光の結社の手の者か?」

 三沢がデッキからカードを一枚引くと同時に、岩丸と炎丸に質問を問いかけた。
……なるほど、斎王の手の者ならばレアカードたる帝の存在も納得出来るが、服の色が白くないせいでその存在を頭から消していてしまっていた。

「ふん……勝てば答えてやるよ!」

 炎丸の自白により、これでこの二人が斎王や光の結社がらみの人間であることが確定した。
勝てば答えてやるよ、とは言っても、『斎王』と『光の結社』という部外者には訳の分からない二つの単語に何の反応を示さないというのは、亮並みの仏頂面か部外者ではないかどちらかであり、炎丸がそれほど役者であるとは思えない。

「なるほど、負けられなくなった訳だな。墓地の《馬頭鬼》の効果を発動し、閻魔の使者《赤鬼》を墓地から特殊召喚する!」

赤鬼
ATK2800
DEF2100

 《炎帝テスタロス》の効果によって墓地に送られた、金槌を持った赤鬼が墓地から特殊召喚される。

「更に《サイクロン》を発動し、お前たちの《導きの鉱脈》を破壊する!」

 三沢のカードから凄まじい嵐が引き起こされ、岩丸と炎丸のフィールドにあった永続魔法《導きの鉱脈》を墓地に送った。

「くそ、《導きの鉱脈》が……!」

「これで《地帝グランマーグ》がデッキから特殊召喚されることはない。更に《牛頭鬼》を召喚!」

牛頭鬼
ATK1700
DEF800

 先程墓地から除外し、赤鬼を特殊召喚した馬頭鬼と対称となっている妖怪、牛頭鬼を召喚したため、これならば相手プレイヤーへとダイレクトアタックが通る。

「牛頭鬼の効果でアンデット族モンスターを墓地に送り、バトルに入る! 赤鬼で地帝グランマーグに攻撃! 鬼火!」

 牛頭鬼が槌を地面を叩いてデッキからアンデット族モンスターを墓地に送り、赤鬼はその口からの火炎放射で地帝グランマーグを破壊する。

「チィ……!」

岩丸&炎丸LP6200→5800

「更に牛頭鬼でダイレクトアタック!」

「ぐああっ……!」

 牛頭鬼の両手持ちの槌がターンプレイヤーである岩丸を遅い、このデュエル初のダイレクトアタックが決まる。

岩丸&炎丸LP5800→4100

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン! ドロー! ……よし、《強欲な壷》を発動して二枚ドロー!」

 強欲な壷が出現しては破壊され、炎丸がデッキからカードを二枚手札に加え、引いたカードを見てニヤリと顔を綻ばせた。

「俺は手札の《スカル・コンダクター》の効果を発動! このカードを墓地に送ることで、攻撃力が合計2000になる《バーニング・スカル・ヘッド》を二体手札から特殊召喚する!」

 アンデット族の案内人がその杖を振り、炎丸の手札から二体の炎を纏ったシャレコウベが特殊召喚され、思わず顔をしかめた。

「バーニング・スカル・ヘッドの効果発動! 手札から特殊召喚された時、相手ライフに1000ポイントのダメージ! しかもそれを二体だ! ヘル・バーニング!」

「……ぐうっ!」

遊矢&三沢LP5600→3600

 手札からという条件はあるものの、特殊召喚をするだけで1000ポイントのバーンダメージを与えるという強力な効果を一気に二回もくらい、俺たちのライフが大きく削られた。

「更にやらせてもらうぜ! バーニング・スカル・ヘッドをリリースし、《炎帝テスタロス》をアドバンス召喚する!」

 バーニング・スカル・ヘッドの片割れをリリースし、二体目の炎帝テスタロスがアドバンス召喚され、帝の持ち味たるアドバンス召喚時の効果が発動する。

「炎帝テスタロスの効果発動! お前の手札を一枚削る! バーニング・ノーブル!」

 二度目となる三沢の手札をピンポイントで焼く炎に、今度はモンスターカード《ピラミッド・タートル》が墓地に送られてしまったため、更に俺たちに400ポイントのダメージが入る。

遊矢&三沢LP3600→3200

「そしてバトル! 炎帝テスタロスで牛頭鬼を攻撃! ブレイズ・ランチャー!」

「……っ!」

 自身の片割れたる馬頭鬼と同様に、炎帝テスタロスのマグマのような熱気を持った炎に焼き尽くされてしまった。

遊矢&三沢LP3200→2500

「ハハハ……カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」

「すまない遊矢……かなりライフを削られた……」

「気にすんな。俺のターン、ドロー!」

 三沢はああ言うが、フィールドには三沢のエースカードたる赤鬼にリバースカード、しかも墓地には《牛頭鬼》の効果で前のターンで墓地に送られた《タスケルトン》という《ネクロ・ガードナー》の相互互換カードがあるなど、ライフは削られたがボード・アドバンテージはかなり残してくれた。

 しかし、こちらに赤鬼がいるのにも関わらず、炎丸は構わず炎帝テスタロスをアドバンス召喚したのが少し頭に引っかかる……単純にバーンダメージを狙ったのか、伏せられたリバースカードに何かあるのか……?

「……俺は《発掘作業》を発動し、一枚捨てて一枚ドローする」

 考えても仕方がない、とりあえず手札交換カードを使っておき、墓地でこそ効果を発揮するカードを墓地に送ると同時に一枚ドローする。

「墓地に送られた《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! 守備表示で現れろ、マイフェイバリット!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 マイフェイバリットカードがリミッター・ブレイクによって守備表示で特殊召喚されるが、今のところは何もやることはない、更に続けようか。

「《スターレベル・シャッフル》を発動し、《赤鬼》を墓地に送って同じレベルの《パワー・ツール・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 自分のフィールドのモンスターを墓地に送り、そのモンスターのレベルと同じレベルのモンスターを墓地から特殊召喚する魔法カード、《スターレベル・シャッフル》によって赤鬼をリリースし、地帝グランマーグに破壊されたパワー・ツール・ドラゴンを再び呼び戻した。

「蘇ったパワー・ツール・ドラゴンの効果――」

「甘いぜ! 《ブレイクスルー・スキル》を発動! パワー・ツール・ドラゴンの効果を無効にする!」

 パワー・ツール・ドラゴンがパワー・サーチを発動しようとした瞬間、炎丸のリバースカードがパワー・ツール・ドラゴンの動きを封じ込めた。

「赤鬼をリリースしたのは失敗だったな! これで炎帝テスタロスを倒せなくなった!」

「こいつは残念、ならばチューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

 はごろもを羽根のようにしたラッキーカードの登場により、俺のフィールドにラッキーカードが並んだ……なのだから、やることなど一つしかない。

「レベル7のパワー・ツール・ドラゴンにレベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング!」

 エフェクト・ヴェーラーが光の輪になりパワー・ツール・ドラゴンの周囲を回り、その身に包んでいた鎧を炎と共に外した。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 遂に全ての装甲板が外れ、ライフ・ストリーム・ドラゴンの正体が露わにし、俺たちの上空へと飛んだ。

「くっ……これがライフ・ストリーム・ドラゴンか……!」

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、ライフを4000ポイントにする!」
 三幻魔の時以来の効果により、ライフ・ストリーム・ドラゴンが出した光に触れた俺と三沢のライフが4000ポイントまで戻る。

遊矢&三沢LP2500→4000

「……これでもうお前らのバーンは通じない……バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで炎帝テスタロスを攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「それも甘いぜ! リバースカード《聖なるバリア-ミラーフォース》を発動!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの放った光弾を、炎帝テスタロスの前に張られた光のバリアがライフ・ストリーム・ドラゴンへと跳ね返した。

「これでお前らのモンスターは全滅だ!」

「だが、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を発動する! 墓地から装備魔法《ダブルツールD&C》を除外することで、破壊を無効にする! イクイップ・アーマード!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンはその効果によって破壊を免れるものの、俺のデッキではただのバニラモンスターにも等しい《牛頭鬼》はそうもいかず、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃に当たって破壊されてしまう。

 三沢にすまない、とアイコンタクトをした後、再びライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃を命じる。

「ミラーフォースは攻撃自体を無効にはしない! よって、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃は止まりはしない!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンがもう一度光弾を撃ち、炎帝テスタロスの胸の部分を貫いて破壊した。

「ミラフォで攻撃が止まらないことなんてあんのかよ……!?」

岩丸&炎丸LP4100→3600

「だが炎帝テスタロスが破壊されたことにより、永続罠《バックファイア》の効果発動! 500ダメージを与えるぜ!」

 炎属性モンスターが破壊されたことで永続罠《バックファイア》が起動し、炎が俺たちに撃ち出されたものの、その炎は俺たちの前に立ったライフ・ストリーム・ドラゴンに吸収された。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがいる限り、俺たちにバーンダメージは届かない。ダメージ・シャッター!」

 ビートバーンよりのデッキ構成たる岩丸と炎丸にとって、ライフ・ストリーム・ドラゴンはかなりの有効な手段と化し、その効果を惜しみなく使ってライフポイントを逆転させた。

「ターンエンドだ」

「くっ……俺のターン、ドロー! ……《マジック・プランター》を発動し、二枚ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの登場によって、もはや《バックファイア》はいらなくなったのか、《マジック・プランター》で二枚ドローに昇華する。

「俺は手札から《死者蘇生》を発動! 墓地から蘇れ、《マイン・ゴーレム》!」

 ……何故ここでマイン・ゴーレムを、しかも攻撃表示で特殊召喚したんだ? 墓地にはライフ・ストリーム・ドラゴンに勝るモンスターはいないが、その中でもわざわざマイン・ゴーレムを選んで攻撃表示で特殊召喚する理由は……?

「更に速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動し、マイン・ゴーレムをデッキから更に二体特殊召喚する!」

「ならば俺は、《スピード・ウォリアー》を更に二体守備表示で特殊召喚する!」

 《地獄の暴走召喚》の効果は良く知っているし、俺のフィールドにいるスピード・ウォリアーは、もちろんデッキに三枚積まれている……先日のローズとのデュエルの時のように不発にならなくて良かった。

 これで俺たちのフィールドにはライフ・ストリーム・ドラゴンと三体のスピード・ウォリアーに、三沢が伏せた一枚のリバースカード。

 対する岩丸と炎丸のフィールドは特殊召喚されたマイン・ゴーレムが三体と、守備表示のまま放置されている《バーニング・スカル・ヘッド》のみだ。

「更に《クロス・アタック》を発動! 同じ攻撃力を持つモンスターが二体いる時、一体の攻撃を封じることでダイレクトアタックが出来る! バトル! マイン・ゴーレムでダイレクトアタックだ!」

 マイン・ゴーレム一体の攻撃を封じたことで、一体のマイン・ゴーレムがライフ・ストリーム・ドラゴンとスピード・ウォリアーたちをすり抜けて、俺たちにダイレクトアタックを仕掛けてくる……たかが攻撃力1000ポイントだ、《タスケルトン》を使わなくても構わないだろう。

遊矢&三沢LP4000→3000

「……よし、これで終わりだ! メインフェイズ2、墓地の《ブレイクスルー・スキル》を除外することで、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を無効にし、速攻魔法《トラップ・ブースター》を発動! 手札を一枚捨てることにより、このターン、俺は罠カードを手札から使うことが出来る!」

 この局面でライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を無効にしての罠カード……となると、思い浮かべるのは一枚のバーンカード……《マイン・ゴーレム》を主軸とした岩丸のデッキに入っていないわけがない、マイン・ゴーレムの強力なサポートカードが……!

「手札から《岩盤爆破》を発動! マイン・ゴーレムを全て破壊し、その数×1000ポイントのバーンダメージを与える! 俺たちのフィールドに《マイン・ゴーレム》は三体! よって、3000ポイントのダメージで終わりだ!」

「チェーンして三沢の速攻魔法、《上級魔術師の呪文詠唱》を発動! 俺は手札から魔法カードを使うことが出来る! 俺が発動するのは……《ミラクルシンクロフュージョン》!」

 俺たちのライフポイント3000ポイント引く岩盤爆破によるバーンダメージ3000ポイントという、単純な引き算で解る危機的状況に俺が使ったのは、先程双六老人に貰ったモンスターカード、そのサポートカードであるという魔法カード《ミラクルシンクロフュージョン》。

 よって、この魔法カードから現れるは、俺の新たな仲間……!

「ライフ・ストリーム・ドラゴン! スピード・ウォリアー! お前たちの力を融合する! 融合召喚! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 フィールドの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》が融合されたことにより、二人とは似ても似つかぬ槍を持った竜騎士がその翼で飛翔し、その巨大な槍を構えて俺と三沢を護るように俺たちの前に羽ばたいた。

「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》……フ、君にはいつも驚かされるな」

 三沢をもってしても知り得ないカードであるらしく、肩をすくめて小さく笑っていた。

「だ、だから何だって言うんだ! 岩盤爆破の効果の3000ダメージ、受けてもらう!」

 突如として現れたドラゴエクィテスに驚いたようだったが、《岩盤爆破》を発動させれば自らの勝ちだということを思いだしたのか、いきなり強気になって岩丸は喜々として効果処理に入った。

 マイン・ゴーレム三体に向かってダイナマイトが投下されていき、そのダイナマイトで爆発したマイン・ゴーレムが更に誘爆し、その名の通りに《岩盤爆破》と言った光景になっていく。

 だが、その爆発の衝撃は全て、ドラゴエクィテスがその手に持った槍で吸収していた。

「ドラゴエクィテスの効果発動! 俺たちが受けるバーンダメージを、全てお前らに返す! ウェーブ・フォース!」

「……何だと!?」

 ドラゴエクィテスが受けた衝撃を全てその槍から放出し、《岩盤爆破》によるダメージは全て、岩丸と炎丸へと反射された。

「ぐあああああ……!」

岩丸&炎丸LP3600→600

 自らが起こしたダメージを多大に受け、岩丸たちのライフは風前の灯火となるが、彼らはまだ諦めてはいなさそうだった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードの確認もそこそこにし、三沢は手札の一枚のカードに手を伸ばした。

「遊矢があんなモンスターを召喚したんだ、俺が何もやらないわけにはいかないな。スピード・ウォリアー二体をリリースし、《赤鬼》をアドバンス召喚する!」

 再び現れる閻魔の使者だが、先程現れた時と違うのは墓地からの特殊召喚ではなく、俺のマイフェイバリット二体をリリースしたアドバンス召喚ということであり、彼らが持つ帝と同じようにアドバンス召喚時に発動する効果が起動する。

「赤鬼がアドバンス召喚に成功したため、効果を発動する! 手札を一枚捨て、そのリバースカードを手札に戻す。地獄の業火!」

 赤鬼が吐いた、攻撃の時よりも広範囲の火炎放射が、岩丸が伏せたリバースカードを手札に戻させた。

「……《陰陽鏡》が!?」

「バトル! 赤鬼でバーニング・スカル・ヘッドに攻撃! 鬼火!」

 バーニング・スカル・ヘッド自身が纏っていた炎とは、全く比べものにならないような熱気の炎が直撃し、バーニング・スカル・ヘッドは抗いようもなく破壊され、これで岩丸と炎丸のフィールドは空となった。

「君が決めてくれ、遊矢。ドラゴエクィテスは君のカードだ」

「そうだな。お言葉に甘えさせて貰おうか」

 三沢の申し出をニヤリと笑いながら受け、新たな仲間である竜騎士にトドメの一撃を命じる。

「波動竜騎士 ドラゴエクィテスでダイレクトアタック! スパイラル・ジャベリン!」

 竜騎士の名に恥じないように翼を瞬かせて飛翔し、勢いをつけて岩丸と炎丸に槍を投げつけた。

「うわあああああっ!」

岩丸&炎丸LP600→0

 波動竜騎士 ドラゴエクィテスという新たな仲間のおかげで、デュエルは俺と三沢の勝利という結果で終結した。

「約束通り、お前らがなんでデュエルを挑んで来たか訊かせてもらおうか」

 三沢と共に勝利の余韻に浸るのもそこそこに、デュエルに敗れた衝撃で倒れた岩丸と炎丸の近くで尋問のように問いただした。

「……俺たちは、斎王美寿知様から命令されてデュエルした」

 観念したのか義理堅いのか、炎丸がとつとつと語りだした……が、今デュエル・アカデミアに在籍している『斎王』の名は、確か斎王琢磨といった名前であったはずであり、そもそも美寿知という名前から察するに女性である。

「うあああああっ!」

 突如として響いた悲鳴に俺と三沢が振り向くと、亀のゲーム屋内で倒れていた翔と剣山を移していた鏡に岩丸が吸い込まれていっていた……!?

「岩丸……わあああああっ!」

 俺たちが呆然としている間にも、相棒である岩丸を助けようとした炎丸もが鏡の中へと吸い込まれていく……高田との闇のデュエルでの、闇に吸い込まれていった明日香のように。

「離れろ遊矢! 危険だ!」

「くっ……解ってるさ……!」

 あの時の明日香がフラッシュバックしたからか、無意識に岩丸と炎丸を助けようとした俺を三沢が引き止めてくれ、岩丸と炎丸はそのまま鏡の中へと吸い込まれていった。

 そして、岩丸と炎丸と入れ替わりに、巫女装束の女性の姿が浮かび上がる……半透明であるので、本物ではなくソリッドビジョンと同じようなものであろう。

「お前が……『斎王美寿知』か?」

「――いかにも。そして、そなたらが捜している斎王琢磨の妹でもある」

 俺の自然と口から出た質問に、ソリッドビジョンの斎王美寿知は古風な口調で応えてくれる……なるほど、妹というのであれば、同じ名字であるのも頷ける。

「何が狙いだ? 翔に剣山、岩丸や炎丸をどうした?」

「質問は一つずつにせい……まあよい。その質問は、明日海馬ランドのバーチャル空間の中で答えよう……」

 それだけ言うと、斎王美寿知の姿が半透明から更に薄まっていき、その姿を写していた鏡ごと、徐々に見えなくなっていった……ここまで来てオカルトを信じないと、もはや現実逃避だな。

「明日、海馬ランドのバーチャル空間で、か……あそこのバーチャル空間は人間が閉じ込められるという事故があったと聞く」

 三沢が俺に警告めいた言葉を言いながら、『どうする?』とでも言いたげな表示でこちらを伺ってきた……俺がどう答えるか、もう解っているだろうに。

「今日で大体回ったから、明日どこに行くか迷ってたが……行き先が決まったな、三沢」

「フ……せっかくの修学旅行だからな。あの海馬ランドのバーチャル空間を学ばせてもらおう」

 ……警告めいた事を言ってくる癖に、自分も行く気しかないんじゃないか。

 こうして、俺たちの修学旅行の一日目の自由行動時間は、終わりを告げるのであった。
 
 

 
後書き
修学旅行編の開始、そして新たな切り札の入手でした……ドラゴエクィテスに出番がとられたせいで、遊矢と三沢のコンビネーション的なものがイマイチな描写になってしまいましたが……

では、感想・アドバイス待っています 

 

―修学旅行 中編―

「ふう……」

 修学旅行先のこの場所でも、デュエル・アカデミアの三寮の格差は健在であり、オベリスク・ブルー……今はホワイト寮とでも言うべき存在になっているが……は高層ホテル、ラー・イエローは和風の旅館、オシリス・レッドは武藤遊戯が初めて《オシリスの天空竜》と戦ったところで野営だそうだ。
俺も三沢も光の結社に占領されたオベリスク・ブルー寮の高層ホテルに行くことは出来ず、ラー・イエローの旅館に身を寄せていた。

 快く迎えてくれた樺山先生には悪いが、今はオベリスク・ブルーである俺たちがデカい顔をして居座るのは如何なものかと思ったため、三沢は部屋の中へ、俺は旅館の縁側で静かに座っていた。

 あのデュエルの後、二人で剣山と翔を町中を探したものだが見つからず、やはりあの斉王美寿知に捕まってしまったというのが一番可能性が高かった。

 あの二人のアニキたる十代の所へ連絡してみると、どうやら十代の方も剣山と翔がいきなりいなくなったことに気づいて捜している所に、氷丸という人物から『翔と剣山の命が惜しいなら、明日に海原ランドに来るように』という俺たちと同じ伝言を受け取ったらしい。

 斉王美寿知が何を狙っているのかは知らないが、明日、要求通りに行ってみれば解るだろう……海馬ランドへ。

「いやぁ、悪いねぇ遊矢くん。ここに泊めてもらって」

 ……ああそうそう、俺と三沢で剣山と翔を捜している時、倒れている吹雪さんのことを発見した為に俺たちの宿泊場所である、ラー・イエローの旅館に運んできていたのだ。

「まさか、一人で光の結社の宿泊場所に乗り込むとは思いませんでしたよ……」

 気づいた後に何で倒れていたのかと聞いたところ、何でも明日香に会いに光の結社の本部に乗り込んだものの、明日香ファンの構成員にやられたんだとか……

「チッチッ。僕は妹に会いに行っただけだよ義弟よ!」

「弟じゃないですって」

 しかし、光の結社に洗脳された明日香に会いにいくなんて俺には出来そうもない……恐くて。
それでも明日香を元に戻そうと、自らの危険を鑑みずに光の結社に何度となく乗り込んでいる吹雪さんのことは、俺は素直に尊敬していた。

「また明日も、愛しのアスリンのところへ行ってみるさ」

 吹雪さんのお気に入りらしいウクレレから、夜の和風の旅館というロケーションには全く似合わない音が響くと同時に、近くの草むらがガサガサと動いた。

「誰だ!?」

 俺が縁側から立ち上がって叫ぶと、草むらから息も絶え絶えと言った様子の男性が現れ、背後をチラチラと確認した後に俺の顔を見て指を刺しながら驚き始めた。

「お前は……黒崎遊矢だな! 俺の名は氷丸! 俺とデュエルしてもらおう!」

 ニット帽にコート姿の青年が、いきなりデュエルディスクを構えて俺にデュエルを挑んでくる……確か氷丸という人物は、十代に翔と剣山のことを伝えた人間だったはずだ。

 斉王美寿知の部下のような扱いであるだろう人物が何故、あのように逃げてくるように走ってきて、いきなり俺にデュエルを挑んでくるのか……?

「まあ、デュエルを挑んでくるんなら受けて……って!?」

 俺が座っていた縁側の隣に置いてあったデュエルディスクが無く、辺りを見回すと吹雪さんが俺のデュエルディスクを持って氷丸の前に立っていた。

「僕の名前は天上院吹雪。義弟と戦う前に、まずは僕とデュエルしてもらおうか」

「ちょっ……吹雪さん!?」

 俺の非難の声に吹雪さんはニコリと笑い、ウクレレを俺に投げ渡し、アロハシャツをマントのようにばっさりと脱いで、亮と同じデザインのオベリスク・ブルーの制服姿となった……どうやったかは解らない。

「……デュエル・アカデミアのキングが相手なら、美寿知様に報告しても不足はないな……よし、黒崎遊矢の前にお前からだ!」

 なんとも行き当たりばったりな氷丸の言動を見ると、どうやら斉王美寿知から言われた計画的な指示ではないのだろうか。

「君たちのせいで愛しのアスリンと義弟が迷惑をしていてね……少し、憂さ晴らしをさせてもらうよ!」

「そんなこと知るか! 俺も勝たないと美寿知様に……!」

 突発的に始まったデュエルを見るために、もはや『弟じゃない』というツッコミも忘れ、どんなデュエルが起きるか注目することとなった。

『デュエル!』

氷丸LP4000
吹雪LP4000

「俺の先攻だ! ドロー!」

 デュエルディスクが先攻だと告げたのは氷丸……岩丸や炎丸と同じようなデッキ構成であれば、《氷帝メビウス》を主軸にした【水属性】であるのだが、はてさて。

「俺は《アシッド・スライム》を守備表示で召喚!」

アシッド・スライム
ATK800
DEF1000

 酸でドロドロに溶けていっているスライムが守備表示で現れる……《スライム》というカード群はその特徴として、トリッキーな効果を活かした戦いは出来るものの、カードパワーによる決定打が無いために、他の切り札級のカードの投入を余儀なくされる。

 ……これは、俺の予測通りのデッキのようだ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「僕のターン。ドロー!」

 常勝不敗を旨とし、いつでもお互いに全力を出すリスペクトデュエルを標榜している亮と違い、双璧をなすと言われている吹雪さんはなかなか本気を出さない。
吹雪さんの言葉を借りるならば『いつでも僕は全力さ!』ということになるのだが、学園祭で俺とデュエルした時は【魔法剣士】というファンデッキであり、明日香とレイ相手のタッグデュエルでは【絵札の三銃士】を使っており、授業等では《漆黒の豹戦士 パンサーウォリアー》を主軸にした【獣戦士族】を使用するために、なかなかどうして本気のデュエルを見れないのだ。

「僕は《闇の誘惑》を発動して二枚ドロー。そして闇属性モンスターを一体除外しよう」

 闇属性を主軸にするならば、どんなデッキにも入る優秀なドローカードを使用して手札を交換した後、一枚のカードをデュエルディスクに置いた。

「僕は《真紅眼の飛竜》を召喚!」

真紅眼の飛竜
ATK1800
DEF1600

 《黒竜の雛》よりは遥かに大きいが、本家よりミニサイズの飛竜を見て、俺は少なからず驚いた。
彼がダークネスの時にも使用していた【真紅眼の黒竜】デッキこそが、吹雪さんの本気のデッキなのだろうから……まあ、鼻歌混じりにデュエルをする吹雪さんは、とても本気には見えないのだが。

「バトル! 真紅眼の飛竜で、アシッド・スライムを攻撃! ダーク・フレイム!」

 ミニチュアライズした黒炎弾が炸裂し、当たったアシッド・スライムが破裂する……ただし、吹雪さんの方向に。

「アシッド・スライムが戦闘破壊された時、相手ライフに800ポイントのダメージを与える!」

 吹雪さんに初期ライフの五分の一に値する効果ダメージを与えるが、吹雪さんは特に気にする様子もなくバトルフェイズを終了させた。

「カードを二枚伏せてターンを終了しよう」

「俺のターン! ドロー!」

 気合い充分……というよりは鬼気迫る、といった感じで氷丸はカードをドローした。

「俺は《スライム・ベース》を発動! 手札から《スライム》と名の付くカードを特殊召喚する! 《ドロー・スライム》を特殊召喚する!」

ドロー・スライム
ATK0
DEF0

 今度はカードの形をしたスライムが特殊召喚されるが、このステータスならばすぐ何かしらでリリースされるだろう。

「ドロー・スライムをリリースし、凍てつく極冠の帝、《氷帝メビウス》をアドバンス召喚する!」

氷帝メビウス
ATK2400
DEF1000

 やはり岩丸や炎丸と同様に、リリース確保に優秀なカテゴリーとサポートカードを投入し、それぞれの帝でトドメを刺すデッキのようだ。
氷丸の場合は、トリッキーな効果の《スライム》と《氷帝メビウス》を併せた【水属性】……!

「ドロー・スライムが墓地へ送られた時一枚ドローし、氷帝メビウスの効果でお前のリバースカード一枚と俺のリバースカード一枚を破壊する! フリーズ・バースト!」

 氷帝メビウスが放った二本の氷の槍が、吹雪さんのリバースカードと氷丸自身のリバースカードが貫かれる……吹雪さんのリバースカードは、ドラゴン族に貫通効果を付加する《竜の逆鱗》であったが、氷丸のカードは……

「俺が破壊したのは《呪われた棺》! 相手は手札を一枚捨てるかモンスターを一体破壊してもらうぜ!」

 ……当然、俺が多用する《リミッター・ブレイク》のような被破壊時に効果を発揮するカードに決まっており、今回破壊されたのは氷丸が説明した通り、相手に手札を一枚捨てるかモンスターを一体破壊するかを選択させるカード《呪われた棺》であった。

「……僕は《真紅眼の飛竜》を破壊しよう」

 真紅眼の飛竜は墓地で発動する効果を持っているとはいえ、フィールドの状況からてっきり手札を一枚捨てるものだと思っていたが、吹雪さんは真紅眼の飛竜を破壊する方を選択した。
これにより吹雪さんのフィールドには、氷帝メビウスに破壊されなかったリバースカード一枚を残すのみとなった。

「ふん、馬鹿が! 氷帝メビウスでダイレクトアタックだ! アイス・ランス!」

「悪いけど、ただでは受けないよ。リバースカード《闇次元の解放》を発動! 除外されている闇属性モンスターを特殊召喚する! 来い、《真紅眼の黒竜》!」

真紅眼の黒竜
ATK2400
DEF2000

 吹雪さんのエースカードたる黒いドラゴン――《真紅眼の黒竜》がその属性を活かして除外ゾーンから特殊召喚される。
最上級モンスターとしては貧弱なステータスではあるが、そのビジュアルや伝説のデュエリストが愛用していたという事実から、未だにレアカードとして人気が高いモンスターだ。

「くっ……攻撃を中止する。カードを一枚伏せてターンエンド!」

「攻撃してこないのかい? 僕のターン、ドロー!」

 氷帝メビウスと同じ攻撃力の真紅眼の黒竜が特殊召喚されたことにより、相討ちを恐れて氷丸は氷帝メビウスの攻撃をストップした。
それは吹雪さんにも言えることであり、攻撃力が同じであるがどうするのか……

「まずはこれだ! 《黒炎弾》を発動! このターン、指定した《真紅眼の黒竜》の攻撃を封じることで、相手ライフに2400のダメージを与える! 黒炎弾!」

 真紅眼の黒竜から、まさにファイヤーボールのような丸い火球が飛んでいき、《アシッド・スライム》の800などとは比べものにならないダメージが氷丸を襲った。

「ぐああああ!」

氷丸LP4000→1600

「……ところで君は、こんな話を知っているかい? ――『青き龍は勝利をもたらす。しかし、赤き竜がもたらすのは勝利にあらず、可能性なり』――その可能性の力を見せてあげよう。《融合》を発動!」

 前述の通りステータスが低く、サポートカードが多い真紅眼の黒竜だが、そのサポートカードは《融合》にまで及んでいる。
どこかで聞いたことのある言い伝えのような物を披露しながら、吹雪さんはフィールドの真紅眼の黒竜と手札のドラゴン族を融合させた。

「フィールドの《真紅眼の黒竜》と、手札の《メテオ・ドラゴン》を融合し……《メテオ・ブラック・ドラゴン》を融合召喚する!」

メテオ・ブラック・ドラゴン
ATK3500
DEF2000

 メテオ・ドラゴンと融合したことにより、真紅眼の飛竜のような、いかにも飛竜といったような形状からは外れた黒い竜となりて再びフィールドに降り立った。

「これで、君の氷帝メビウスの攻撃力は超えさせてもらったよ。バトル! メテオ・ブラック・ドラゴンで、氷帝メビウスを攻撃! バーニング・ダーク・メテオ!」

「どわあっ!」

氷丸LP1600→500

 真紅眼の黒竜よりも、更に巨大になった火炎弾が氷帝メビウスを直撃し、氷丸のライフがわずか一ターンで4000から500にまで削られることとなった。

「これで僕は、ターンを終了するよ」

「俺のターン、ドロー!」

 自身の主力たる氷帝メビウスを破壊されてしまい、いきなり状況が不利になった氷丸がカードをドローし、若干苦々しげな顔をしながら引いたカードをデュエルディスクにセットした。

「俺は《手札抹殺》を発動! お互いに手札を全て捨て、捨てたカードの数だけドローする! 更に、捨てた《ドロー・スライム》の効果で一枚ドロー!」

 《ドロー・スライム》の、墓地に捨てた時一枚ドローするという効果を使ってディスアドバンテージ無しで手札交換をやってのけ、更にカードをセットした。

「俺は《クローン・スライム》を守備表示で召喚し、カードを一枚伏せてターンエンド」

クローン・スライム
ATK0
DEF0

「僕のターン。ドロー」

 吹雪さんのフィールドには、今のこのフィールドを制圧している《メテオ・ブラック・ドラゴン》が一体のみで、《氷帝メビウス》の効果を警戒しているのかリバースカードは無い。
対する氷丸のフィールドは、攻守0の《クローン・スライム》というモンスターとリバースカードが三枚。

 ……リバースカードが三枚という氷丸の防御の中、吹雪さんはどうするか。

「僕は通常魔法《思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスター《真紅眼の黒竜》を特殊召喚!」

 墓地から再びフィールドに舞い戻った吹雪さんのエースカード、真紅眼の黒竜……だが、特殊召喚したその場所に、スライムが詰まった落とし穴が突如として出現した。

「リバースカード、《スライム・ホール》を発動! 相手がモンスターを特殊召喚した時、その相手モンスターの攻撃力分ライフを回復し、そのモンスターを破壊する!」

 真紅眼の黒竜はそのままスライムの落とし穴に落ちていってしまい、氷丸のライフが500から2900にまで回復を果たした。

「……なら、メテオ・ブラック・ドラゴンで、クローン・スライムを攻撃! バーニング・ダーク・メテオ!」

「《クローン・スライム》の効果発動! クローン・スライムが攻撃対象に選択された時、このカードをリリースして墓地の《スライム》を特殊召喚し、そのモンスターが代わりに戦闘する! クローン・スライムをリリースし、《マルチプル・スライム》を墓地から守備表示で特殊召喚!」

マルチプル・スライム
ATK1500
DEF1500

 メテオ・ブラック・ドラゴンの攻撃が届く前に、クローン・スライムはドロリと溶けると姿を変え《マルチプル・スライム》へと姿を変えた。

 特殊召喚された肝心のマルチプル・スライムはと言うと、今までのスライムの中ではもっとも攻撃力が高いが、メテオ・ブラック・ドラゴンには及ぶべくもなくそのまま破壊された。

 だがマルチプルの名の通りに、破壊された後に複数に分裂して氷丸のフィールドに特殊召喚された。

「《マルチプル・スライム》は破壊された時、攻守500の《スライム・トークン》を三体守備表示で特殊召喚する!」

 しかも、その特殊召喚されるトークンの数は三体という破格の数。

「カードを一枚伏せ、エンドフェイズ。通常召喚を行っていないターンのみ、墓地の《真紅眼の飛竜》を除外することで、墓地の《レッドアイズ》を特殊召喚出来る! 再び蘇れ、《真紅眼の黒竜》!」

 《思い出のブランコ》による蘇生は《スライム・ホール》によって失敗したものの、吹雪さんは最初からこのつもりだったのだろう、《真紅眼の飛竜》のおかげで完全蘇生を果たした。

「改めて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 依然として、フィールドを制圧しているのは吹雪さんの《メテオ・ブラック・ドラゴン》ではあるが、ボード・アドバンテージは圧倒的に氷丸が上回っている。

「俺は《リミット・リバース》を発動! 《ドロー・スライム》を特殊召喚し、《マジック・プランター》を発動! リミット・リバースを墓地に送り、二枚ドロー! 更にドロー・スライムが墓地に送られたため一枚ドロー!」

 驚異の三枚ドローをして手札を補充し、フィールドには《マルチプル・スライム》の効果によって特殊召喚された《スライム・トークン》が三体いるために、リリース用の素材もフィールドに整っている。

「俺はスライム・トークンをリリースし、《氷帝メビウス》をアドバンス召喚する!」

 吹雪さんのフィールドにメテオ・ブラック・ドラゴンがいるにも関わらず、氷帝メビウスがまたもアドバンス召喚され、アドバンス召喚時に発動する効果が起動する。

「氷帝メビウスがアドバンス召喚に成功した時、魔法・罠を二枚まで破壊する! 俺のリバースカードと、お前のリバースカードを破壊する! フリーズ・バースト!」

「チェーンしてトラップ発動! 《和睦の使者》!」

 いかに氷帝メビウスの効果であろうとも、流石にフリーチェーンのカードである《和睦の使者》相手にはどうしようもなく、和睦の使者の効果は適用される。

「く……氷帝メビウスの効果で破壊した《フライアのリンゴ》の効果を発動する! 破壊された時に一枚ドロー!」

 先のターンで発動された《呪われた棺》よりは、遥かに汎用性の低いトラップカードだったのに安藤するが、このターン大量のドローをした氷丸の手札には、《メテオ・ブラック・ドラゴン》を倒せる手があるのだろうということを思いだす。

「メテオ・ブラック・ドラゴンだけは破壊させてもらう! 魔法カード《ライトニング・ボルテックス》を発動! 手札を一枚捨て、相手モンスターを全て破壊する!」

 氷丸の潤沢な手札を一枚犠牲にして放たれた雷撃が、メテオ・ブラック・ドラゴンと真紅眼の黒竜を貫き、二体の竜はただ破壊された。

「《和睦の使者》でダメージを防げると思ったら大間違いだぜ!? 永続魔法《マスドライバー》を発動!」

 氷丸の横に、マスドライバーと呼ばれる巨大な大砲が呼び出される……本来ならば、マスキャッチャーと呼ばれる受け止めるための機械が必要なのだが、単純に相手にぶつけるためならばそんなものは必要ない。

「マスドライバーの効果を発動! モンスターをリリースすることで、相手ライフに400のダメージを与える! 俺は《スライム・トークン》二体をリリースし、発射!」

「くっ……」

吹雪LP3200→2600

 マスドライバーの中にスライム・トークンが入れられ、合計で800のダメージを吹雪さんに与えた。
これだけ聞けばたかが800、と思うかもしれないが、十体のモンスターをリリースすれば初期ライフを削り取ると言えば、あのカードの凶悪さが解る。

「フィールド魔法《ウォーターワールド》を発動し、ターンを終了する!」

「僕のターン。ドロー……いやはや、参ったなぁ」

 氷丸の大量展開によって吹雪さんのフィールドは何もなくなり、逆に氷丸のフィールドは《ウォーターワールド》によって強化された《氷帝メビウス》に、凶悪なバーンカード《マスドライバー》までもが控えている。

「なんだ、サレンダーでもするか?」

「冗談。義弟の前でカッコ悪い真似は見せられないよ……僕は墓地の《ミンゲイドラゴン》を特殊召喚!」

ミンゲイドラゴン
ATK400
DEF200

 何の前触れもなく、突如として現れた小さい竜である《ミンゲイドラゴン》の登場に、ミンゲイドラゴンの効果を知らなかったらしい氷丸は驚きで目を見開いた。

「ミンゲイドラゴンは、自分フィールド場にモンスターがいない時に墓地から特殊召喚出来る効果があるのさ。そして、《強欲な壷》を発動し二枚ドロー!」

 《強欲な壷》が破壊されたことで二枚ドローした吹雪さんに、ミンゲイドラゴンの第二の効果を活かさない手はないだろう。

「ミンゲイドラゴン第二の効果。ドラゴン族をリリースする時に二体分の素材に出来る……《ミンゲイドラゴン》をリリースし、《真紅眼の黒竜》をアドバンス召喚!」

 自己再生能力を持つダブルコストモンスターという、とてもリリース素材に便利なミンゲイドラゴンをリリースすることで、真紅眼の黒竜が今度は手札から現れる。

「更に《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターの《サファイアドラゴン》を墓地に送り、手札から《闇竜の黒騎士》を儀式召喚!」

闇竜の黒騎士
ATK1900
DEF1200

 真紅眼の黒竜を模したような、黒い鎧を付けた格好の騎士(ドラゴン族だが)が儀式召喚される……まさか、儀式召喚までデッキに入っているとは。

「そして闇竜の黒騎士の効果発動! このカードをリリースすることで、デッキから《真紅眼の黒竜》を特殊召喚する!」

 デッキから都合三体目となる《真紅眼の黒竜》が特殊召喚されたことにより、一ターンで吹雪さんのフィールドに二体の真紅眼の真紅が並ぶのは壮観だった。

「速攻魔法《超再生能力》を発動し、このターンにリリースしたドラゴン族の数だけドローする。僕がリリースしたのは、《ミンゲイドラゴン》と《闇竜の黒騎士》……よって、エンドフェイズで二枚ドローする」

 二体の真紅眼の黒竜の特殊召喚に使用した手札も、エンドフェイズ時には《強欲な壷》並みになった《超再生能力》によって補充される。

「闇竜の黒騎士によって特殊召喚された真紅眼の黒竜は、攻撃出来ないデメリットが付くし、そもそも強化された《氷帝メビウス》には適わない……だけども、関係ないさ! 《クロス・アタック》を発動!」

 同攻撃力のモンスターが二体いるとき、一体のモンスターの攻撃を封じることでもう一体のモンスターのダイレクトアタックを可能とする魔法カード《クロス・アタック》であるが、元々《闇竜の黒騎士》のデメリット効果によって攻撃は出来ないので、全く関係はない。

「バトル! 《クロス・アタック》の効果を得た真紅眼の黒竜でダイレクトアタック! ダーク・メガ・フレア!」

「ぐああっ!」

氷丸LP2900→500

 トラップカード《スライム・ホール》によって回復した分のライフが、今のダイレクトアタックによってまるまる削られ、氷丸の残りのライフはまたもや500になる。

「カードを二枚伏せ、《超再生能力》によって二枚ドローしターンエンド」

「くそっ……俺のターン、ドロー!」

 毒づきながらカードを引き、引いたカードの確認もそこそこに氷丸は氷帝メビウスに攻撃の指令を出した。

「バトル! 氷帝メビウスで、真紅眼の黒竜に攻撃! アイス・ランス!」

 凍りついた槍に貫かれて真紅眼の黒竜は破壊されるが、破壊されると共に吹雪さんのリバースカードが一枚浮かび上がった。

「リバースカード、《レッドアイズ・スピリッツ》を発動! 破壊されたレッドアイズを特殊召喚する!」

吹雪LP2400→1900

 破壊された真紅眼の黒竜が何事もなかったかのように特殊召喚され、吹雪さんのライフが変動した以外は何の変化もなくバトルフェイズは終わった。

「なら俺は《ドロー・スライム》を召喚し、《マスドライバー》で射出する!」

吹雪LP1900→1500

 僅かに、だが着実にマスドライバーから発射されるスライムの攻撃は、着実に吹雪さんのライフを削っていっていた。

「ドロー・スライムが墓地に送られたため一枚ドローし、カードを一枚伏せてターンエンド」

「僕のターン。ドロー」

 引いたカードを見て薄くニヤリと笑い、その引いたカードをそのままデュエルディスクにセットした。

「チューナーモンスター、《ガード・オブ・フレムベル》を召喚!」

ガード・オブ・フレムベル
ATK100
DEF2000

「チューナーモンスター!?」

 チューナーモンスターの登場についつい驚いてしまうが、吹雪さんは少し振り向いていつものように笑みを見せていた。

「シンクロ召喚だってもう一般発売されてるんだ、別に君だけの物ってわけじゃないだろう?」

 ……吹雪さんの言うことが正論すぎてぐうの音も出ない。
確かに一般への普及率は未だに少ないが、キチンとパックには入っているし、もはやテスターでもない俺には何の関係もないのだが、やはり驚いてしまう。

「さ、気を取り直して……レベル7の《真紅眼の黒竜》と、レベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング!」

 合計レベルは強力なモンスターが、他レベルより比較的多いという、レベル8。

「闇より暗き深淵より出でし漆黒の竜。今こそその力を示せ! シンクロ召喚! 《ダークエンド・ドラゴン》!」

ダークエンド・ドラゴン
ATK2600
DEF2100

 シンクロ召喚されたのは、どこか真紅眼の黒竜に通じるところがある漆黒の竜――万丈目や光の結社の構成員が使用する《ライトエンド・ドラゴン》と対をなす闇の竜だった。

 ……しかし、アドバンス召喚も融合召喚も儀式召喚もシンクロ召喚も一つのデッキに取り入れるとは、この天上院兄妹のデッキ構成はどうなっているのだろうか……?

「シンクロ召喚したくせに、攻撃力は氷帝メビウスには適わないな!」

 威勢良く声を張り上げる氷丸だったが、それに対する吹雪さんはやはり……余裕の表情だった。

「それはどうかな? ダークエンド・ドラゴンの効果を発動。 攻守を500ポイントずつ下げることで、相手モンスターを一体墓地へ送る! ダーク・イヴァポレイション!」

 ダークエンド・ドラゴンの胸の部分にあるもう一つの口が開かれ、そこから発射された漆黒の炎が氷帝メビウスを墓地に送り、氷丸のフィールドをがら空きにした。

「これで終わりさ! ダークエンド・ドラゴンでダイレクトアタック! ダーク・フォッグ!」

「終わりなのはそっちだ! 《魔法の筒》を発動!」

 ダークエンド・ドラゴンの攻撃が氷丸に届く前に2つの魔法の筒が現れ、ダークエンド・ドラゴンの攻撃は氷丸ではなくそちらの方へ誘導されていってしまう。

「ダークエンド・ドラゴンの攻撃力分のダメージを受けてもらう!」

「残念だったね。伏せていたカウンター罠《王者の看破》を発動! レベル7以上の通常モンスターである《真紅眼の黒竜》がいるため、《魔法の筒》を無効にして破壊する!」

 魔法の筒がダークエンド・ドラゴンの攻撃を吸収するよりも早く、真紅眼の黒竜の攻撃が横から魔法の黒を破壊し、結果的にダークエンド・ドラゴンの漆黒の炎はそのまま氷丸を直撃する――!

「そんな馬鹿なぁ――!」

氷丸LP500→0

 微妙に間抜けな声を出しながら漆黒の炎に直撃し、氷丸のライフは若干オーバーキル気味ではあるが0となりデュエルは終わりを告げた。

「ふぅ……胸キュンポイントはまあまあだったかな?」

 胸キュンポイントというのが何なのかは全く知らないが……なるほど、これが吹雪さんのデッキか。

 ダークネスとなっていた時は《真紅眼の闇竜》の効果を十全に活かすためのデッキであった。
だが今のデッキは、手札・墓地・除外ゾーン、更にはデッキからまでも《真紅眼の黒竜》を召喚し、《黒炎弾》や《融合》やシンクロ召喚に繋ぐデッキ……流石は、カイザーのライバルたるキングと言ったところであろうか。

「うわぁぁぁぁっ!?」

 俺が吹雪さんのデッキの考察に思考を巡らせているのを、氷丸の悲鳴が遮った。
岩丸や炎丸と同じように……鏡の中へと吸い込まれて行っている!

「あれは……鏡……? 危ない遊矢くん!」

 とっさのことで反応が遅れた吹雪さんを押しのけ、鏡に吸い込まれて行っている氷丸を助けようとその手を掴む。

「聞きたいことは山ほどあるんだ……絶対に助けてやる……!」

 だがしかし、鏡が引っ張っていく力が予想外に強く支えきれずに自分まで引っ張られていってしまう。

「遊矢くん!」

 見かねた吹雪さんが助けに来てくれたものの、一人増えただけでは氷丸を引っ張り出せるとは思えない……吹雪さんまで犠牲にするわけにはいかないので、吹雪さんを振り切って俺は氷丸と共に鏡の中へ吸い込まれて行った……
 
 

 
後書き
※注 氷丸の行動経路

翔&剣山を雷丸を犠牲にして倒す(原作通り)→十代に「海馬ランドに来い」と伝える→美寿知のところへ戻ったところ、氷帝メビウスを没収されて鏡に閉じ込められそうになる(原作通り)→逃げだし、岩丸と同じように「俺の力を見せつければ良い」として逃げながらイエローの旅館へ→本編へ

まさかモブの行動経路を書くことになるとは……!
本文中に明記していないので、一応書いておきました。

それにしても、吹雪さんのデッキ……ただのOCGでの【真紅眼の黒竜】だと思ったのは自分だけじゃないはず。(ビッグ・アイがいないけれど)

あ、あと初勝利ですよ吹雪さん! ……原作では、これ以上のポテンシャルを秘めている筈なのですがね。

感想・アドバイス待っています。 

 

―修学旅行 後編―

 
前書き
途中で切れば良かった……そう後悔するほど長いです。 

 
「痛てて……」

 鏡の中に頭から突っ込んだせいか、どうやら気を失っていたようだった。
辺りに一緒に突っ込んだはずの氷丸の姿は見えず、また、俺がどこにいるかも解らない。


 大徳寺先生の錬金術の本に吸い込まれて閉じ込められた時といい、俺は何かに吸い込まれることに縁でもあるのだろうか……出来ればそんな縁は今すぐ切りたいところだが。

 とりあえず立ち上がって辺りを改めて見直してみるが、人っ子一人も姿は見えず、場所も少なくてもラー・イエローの旅館ではない、というぐらいしか見て取れない。
……強いて言えば、一度本で読んだことのあるバーチャル空間に極似していることが挙げられる。

 デュエル・アカデミアに入ってからは、活かす機会がデュエルディスクの調整ぐらいしか無いのだが、こう見えて俺は元々機械には強い。
それに、現実世界とは思えないこの空気から考えるに、1日早く約束の場所に来てしまったということだろうか……いや、今まで寝てしまっていたせいで正確な時刻は解らず、PDAも圏外を示しているのだが。

 さてどうしたものか、と頭を捻っていた時、突如として俺の背後から光が差し込んでくる。
そのままその光は拡散し始め、収束すると同時に白いスーツ姿の少年がそこにはいた。

「……エド!?」

 今このバーチャル空間に来たのは、あのプロデュエリストであるエド・フェニックス……確かにこの修学旅行には来ていたようだったが、思いも寄らぬ人物の登場に、俺は驚きを露わにする。

「遊矢……なぜお前がここにいる?」

 現れたエドの方も状況を理解できていないようで、俺ほどには驚かなかったものの、イレギュラーである俺を睨みつけていた。

 更に横方向にエドの時と同じように光が出現し、収束した後にまたもや見知った顔が現れた。

「遊矢に……エド!?」

「無事が遊矢!」

 新たに現れた二人は、今や少し珍しくなった赤い制服を着た十代と、我が親友でありライバルである三沢であった。

「無事と言えば無事だが……今起きたせいで、何が起きているかは解らない」

「なるほどな……気づいているとは思うが、ここは海馬ランドのバーチャル空間だ。俺は吹雪さんに連絡を受けて、十代を連れてここに来たんだ……エドがここにいる理由は解らないが」

 三沢がざっと説明してくれたおかげで、大体の状況を理解出来た……今は、吹雪さんと氷丸のデュエルからはあまり時間はたっておらず、吹雪さんから連絡を受けた三沢が、十代を連れて迅速に海馬ランドに来てくれた、というわけだ。

「《リボルバー・ドラゴン》で起こされた時は何かと思ったぜ……なあエド、お前はどうしているんだ?」

「お前たちには関係ない」

 流石は十代、俺たちが聞きづらいことを平気で聞いてくれる……が、相手が悪かったようだ。

「俺と十代がバーチャル空間に入る前に、先にここに入っている者が三人いたようだったが、遊矢にエド、そして恐らくは……」

 三沢が言わんとしていることは大体解ったが、三沢がそのセリフを口に出す前に、三沢と十代の姿が霞のように消えた。

「三沢! 十代!」

「案ずるな……姿が見えないだけだ」

 聞いたことのある声に反応すると、この科学が支配するバーチャル空間に、不釣り合いな巫女装束を着た女――斉王美寿知が鏡の中から現れていた。

「予定が1日ばかり早まったが……まあよい。黒崎遊矢。エド・フェニックス。そなたらの誰が兄を助ける素質を持つ者なのか……デュエルしてもらうぞ!」

 兄を助ける素質……? 彼女にとって兄とは俺たちが言う『斉王』のことであろうが、それを助ける素質が何故俺たちにある? そもそも助けるとは何だ?

「何だか解らないことばかりだが……お前には聞きたいことばかりある。俺が勝ったら話してもらうぞ!」

 斉王美寿知の方へ、一歩踏みだしてデュエルディスクを展開する。
そしてその隣に、三沢や十代と違って消えなかったエドが並び立つ。

「それなら僕にある……それと、一人で二人とデュエルする気か?」

 エドのもっともな質問に美寿知は怪しい笑みで応え、美寿知の横にまたも鏡が出現したかと思えば、本体の美寿知を反対にしただけのもう一人の美寿知が鏡から現れる。
流石はバーチャル空間、もう何が起ころうと驚くまい……分身出来るのならば、恐らくは三沢と十代の方にも同じように行っていることであろう。

 三沢と十代の二人ならば心配はいらないと考え、俺はデュエルの準備を完了させる。

「せいぜい足を引っ張るなよ、遊矢」

「……そっくりそのまま返してやる」

 ……三沢と十代のタッグより、遥かに心配なのはこちらの方なのだが。

『デュエル!』

遊矢&エドLP8000

美寿知&美寿知(鏡)LP8000

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺の先攻、ドロー!」

 珍しく一番の先攻だということを俺のデュエルディスクが表示し、カードをドローする。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

 巨大なガントレットを備えた機械戦士が、その守備力を活かして守備の態勢をとった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 左にデュエルディスクを付けた、鏡ではない元々の美寿知がカードを引く。

「私は《苦渋の選択》を発動! デッキから五枚のカードを選択し、相手が選んだ一枚を手札に加え、そのカード以外を墓地に送る……さあ、選ぶが良い」

 美寿知が発動したカードの影響により、俺の目の前に五枚のカードが映し出される……墓地肥やしと手札交換を同時にこなせる、ある意味相手プレイヤーにとって苦渋の選択である。

映し出されたカードは《銀の式神―左京》、《銀の式神-右京》、《魔鏡の式神-那由多》、《魔鏡の式神-阿僧祗》、《闇の神-ダーク・ゴッド》……このことから、少なくとも本物の美寿知は【式神】デッキだと解る。

 展開力に優れた《式神》とそのサポートカードを備えたカテゴリー……一番最後の《闇の神-ダーク・ゴッド》というのは知らなかったが、映し出されたカードの映像によると最上級モンスターであり、切り札クラスのカードであることは想像に難くない。

「俺は《闇の神-ダーク・ゴッド》を選択する」

主に墓地で効果が発動する《式神》たちを墓地に送りたくはないが、切り札クラスの最上級モンスターを墓地に落としてやる方が愚策。
そう結論づけた俺は、《式神》たちを墓地に落としてやる方を選んだ。

「そして、私は《銀の式神-右京》を召喚!」

銀の式神-右京
ATK800
DEF600

「右京が召喚・特殊召喚に成功した時、墓地の《銀の式神-左京》を特殊召喚出来る。守備表示で特殊召喚!」

銀の式神-左京
ATK600
DEF800

 これこそが《式神》シリーズの厄介な効果であり、最大の長所でもある、召喚・特殊召喚時に対応する墓地の式神を特殊召喚出来る効果。
その分ステータスは低めではあるが、その展開力は《機械戦士》でも足元にも及ばない。

「更に《銀の十字路-ミラールート》を発動! 自分フィールド場の攻撃力1000以下のモンスター一体は、ダイレクトアタックが出来る! 《銀の式神-右京》でダイレクトアタック!」

 魔法カードの効果によって現れた銀色の鏡張りの道を通り抜け、銀の式神-右京が小刀で俺を刺してきた。

「この程度……!」

遊矢&エドLP8000→7200

 たかがライフの十分の一を削られた程度だ、まだまだ問題ではない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 今回は敵ではなくタッグパートナーであるエドのターンに移り、油断など微塵も無さそうにカードを引いた。

「《デステニー・ドロー》を発動し、セメタリーに一枚捨て二枚ドロー……そして、僕は《ガントレット・ウォリアー》をリリースし、《D-HERO ダブルガイ》をアドバンス召喚!」

D-HERO ダブルガイ
ATK1000
DEF1000

 俺のガントレット・ウォリアーがリリースされ、代わりに英国紳士風の男がフィールドに召喚された。

「バトル! ダブルガイで《銀の式神-右京》に攻撃! デス・オーバーラップ!」

 その獰猛な本性を隠しながら、英国紳士風のD-HEROが、まずは攻撃表示の式神の下へ向かう。

「リバースカード、《千筋の糸》を発動! その攻撃を無効にし、フィールド場の全てのモンスターの攻撃力を0にする!」

 銀の式神-右京と左京、そして攻撃していったダブルガイにも糸が巻き付いていき、全てのモンスターの攻撃力は糸に吸い込まれて0となってしまう。

「くっ……バトルフェイズを終了し、フィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動!」

 美寿知のリバースカード、《千筋の糸》の影響でダブルガイの効果を発揮することはなく、メインフェイズ2に囚人を閉じ込めている巨大な時計塔が、バーチャル空間に取って代わった。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 最後に美寿知(鏡)のターンであり、鏡から出てきただけあって、その姿だけでなく動きも左右が反対になっているだけであった。

「お前のスタンバイフェイズ、《幽獄の時計塔》は新たな時を刻む!」

 俺たちが戦っているフィールドの時計塔の時間が回る……再び12時を指すまであと三ターン、か。

「私は攻撃表示の《銀の式神-右京》をリリースし、《魔鏡の式神-阿僧祗》を攻撃表示で召喚!」

魔鏡の式神-阿僧祗
ATK1500
DEF2500

 守備力の方が高い、《銀の式神-左京》の上位モンスターである《魔鏡の式神-阿僧祗》……上級モンスターとしてはかなり低めのステータスだが、リクルーターに対応するその絶妙なステータスに、対応する式神を特殊召喚する効果は健在だ。

「《魔鏡の式神-阿僧祗》が召喚・特殊召喚に成功した時、墓地から《魔鏡の式神-那由多》を特殊召喚する!」

《魔鏡の式神-那由多》
ATK2600
DEF1400

 下位モンスターである《銀の式神-右京》の特殊召喚効果と同様に、またもや鏡の中からその成長した式神の姿を現した。

「バトル! 《魔鏡の式神-阿僧祗》で、ダブルガイを攻撃!」

 攻撃力の低い方の式神の攻撃であろうと、今のダブルガイは千筋の糸に絡まり攻撃力は0、しかも攻撃表示である。

「《D-シールド》を発動し、そのエフェクトによりダブルガイは守備表示になり、更に破壊されない!」

 ダブルガイが突如出現した巨大な盾で攻撃を防ぎ、《魔鏡の式神-阿僧祗》による攻撃も、《D-シールド》での戦闘破壊耐性を得て事なきを得る。

「ならば、永続魔法《月輪鏡》を発動し、カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 美寿知の発動した永続魔法《月輪鏡》という名も聞き覚えが無かったが、発動した時、二人の美寿知の背後に巨大な鏡が浮かんだ。

「俺は《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 考えても解らないことを考えても仕方がない、とりあえずメーターを頭に付けた、消火器のようなシンクロンを召喚する。

「速攻魔法《スター・チェンジャー》を発動し、ニトロ・シンクロンのレベルを1にする……そして、レベル6の《D-HERO ダブルガイ》と、レベル1の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 俺もガントレット・ウォリアーをリリースされたのだ、エドのダブルガイをシンクロ素材にしても全く問題あるまい。合計レベルは、速攻魔法《スター・チェンジャー》を発動したことによって7。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ!シンクロ召喚!燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1800

 消火器と英国紳士風の男がチューニングによってどういう化学変化を起こしたのか、似ても似つかぬ緑色をした悪魔のような機械戦士がシンクロ召喚された。

「ニトロ・シンクロンがニトロ・ウォリアーのシンクロ素材になったため、一枚ドロー……更に速攻魔法《手札断殺》を発動! 二枚捨てて二枚ドロー!」

 今引いた魔法カードをこれ幸いとそのままデュエルディスクにセットし、手札交換をしつつニトロ・ウォリアーの効果へと繋ぐ……更に、お約束通りのカードもある。

「墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! デッキから守備表示で現れろ、マイフェイバリット!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 マイフェイバリットカードがデッキから飛び出し、守備の態勢をとる……よし、後はそのまま殴る。

「バトル! ニトロ・ウォリアーで《魔鏡の式神-阿僧祗》に攻撃! ダイナマイト・ナックル! ……更に、ニトロ・ウォリアーは魔法カードを使ったターン、攻撃力が1000ポイントアップする!」

 炎を迸らせながら、攻撃の命令を受け取ったニトロ・ウォリアーが《魔鏡の式神-阿僧祗》にラッシュを叩き込む。
どうせ対応する式神を召喚するだけで簡単に蘇るのだ、俺は上級の式神の攻撃力が低い方を狙った。

美寿知&美寿知(鏡)LP8000→5700

「くうう……だが、《月輪鏡》の効果発動! 破壊された時、このカードにカウンターを溜める」

 破壊された魔鏡の式神-右京の魂のようなものが、美寿知の背後にある巨大な鏡に吸い込まれていく。

「……まだだ! ニトロ・ウォリアーの効果発動! 戦闘破壊した時、相手の表側守備表示の表示形式を変更してそのままバトルを行う! ダイナマイト・インパクト!」

「甘い! 《銀幕の方違え》を発動! 私のモンスターがモンスターの効果の対象に選択された時、その効果モンスターを除外する!」

 ニトロ・ウォリアーがダイナマイト・インパクトを発動した時、ニトロ・ウォリアーが鏡の中へ吸い込まれてそのまま除外されてしまう……くそ、油断した。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 本体の美寿知のターンに移り、フィールド魔法《幽獄の時計塔》のカウントが更に進む。

「私は《魔鏡の式神-左京》を召喚! 効果により、右京を特殊召喚!」

 一体のモンスターから、操っているプレイヤーと同じように鏡で分身して、鏡違いの式神が二体フィールドに現れる。

 これで奴のフィールドには式神が五体にリバースカードが一枚で、対するこちらは、守備表示のマイフェイバリットカード《スピード・ウォリアー》と、俺のデッキには何の意味もなさないフィールド魔法《幽獄の時計塔》にエドのリバースカードが一枚で俺のリバースカードが二枚……しかも、どれもあの式神たちの総攻撃を防げるカードではない。

「バトル! 魔鏡の式神-左京で、スピード・ウォリアーに攻撃!」

 一番攻撃力が低い式神の攻撃ではあったが、守備モンスターではない下級モンスターのスピード・ウォリアーには荷が重く、剣の斬撃により斬り伏せられてしまう。

「更に魔鏡の式神-右京で、そなたらにダイレクトアタック!」

 手札の《速攻のかかし》の効果を発動! と言いたいところなのだが、俺の手札に残念ながら速攻のかかしはなく……いや、このエドのリバースカード……

「エドのリバースカード、オープン! 《エターナル・ドレッド》! 幽獄の時計塔のカウンターを二つ進める!」

 幽獄の時計塔の頂上の時計の針が高速で動きだし、時計は再び12時を指してその鐘を鳴らした。

「それが何の意味がある! ダイレクトアタックのダメージを受けてもらうぞ!」

 しかして美寿知の言葉は叶わず、魔鏡の式神-右京の攻撃が俺たちにダメージを与えることはなかった。

「《幽獄の時計塔》のエフェクト。時計が再び12時を指した時、僕たちは戦闘ダメージを受けない」

 俺の横にいたエドが、自身のカードである《幽獄の時計塔》の効果を説明する……前の十代とのタッグデュエルの時にやられたのを思いだして助かった。
デッキからD-HEROの切り札となり得るモンスターを呼ぶ、後半部分の効果が印象的すぎて、前半部分の効果をつい忘れていたのは反省だ。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「僕のターン、ドロー」

 《幽獄の時計塔》のおかげで戦闘ダメージは防げるとはいえ、そのままで勝てるわけがなく、もし俺のターンに破壊されてしまうことがあれば最悪の事態だ。

「《天使の施し》を発動し、三枚ドローし二枚捨てる……そして、《サイクロン》のエフェクト発動! 僕のフィールドの《幽獄の時計塔》を破壊する!」

「なっ!?」

 エドが発動したサイクロンの指定したカードは、美寿知のフィールドに伏せられている二枚のリバースカードではなく、不気味にカウンターを貯めていく《月輪鏡》でもない自分のフィールド魔法《幽獄の時計塔》。
最初見たときは面食らったものだが、タッグパートナーにした今ではそれが頼もしい。

「再び12時を指した《幽獄の時計塔》が破壊された時、デッキから《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚する! カモン、ドレッドガイ!」

D-HERO ドレッドガイ
ATK?
DEF?

 幽獄の時計塔が壊れていき、崩落と共に時計塔に閉じ込められていた鉄仮面の囚人は目を覚まし、その力を発揮する……!

「ドレッドガイのエフェクト発動! セメタリーから二体のD-HEROを特殊召喚する! ドレッド・ウォール!」

 ドレッドガイがその巨大な腕で大地を叩くと、その背後に漆黒の影が現れていく……それも、二体。

「カモン、《D-HERO ダイヤモンドガイ》! 《D-HERO ダッシュガイ》!」

D-HERO ダッシュガイ
ATK2100
DEF1000

D-HERO ダイヤモンドガイ
ATK1400
DEF1600

 ドレッドガイの効果で墓地から特殊召喚された、二体の主力であるD-HERO……最初のターンの《デステニー・ドロー》と先程の《天使の施し》の時のどちらのタイミングかは知らないが、エドはこの状況をイメージしていたのだろう。

「更に《D-HERO ダンクガイ》を召喚し、バトル!」

D-HERO ダンクガイ
ATK1200
DEF1700

 最後のダメ押しにダンクガイも召喚され、ここに美寿知の式神VSD-HEROの構図となった対峙が始まった。

「ドレッドガイの攻撃力は、エフェクトによりD-HEROの合計値である4700となる! ……《魔鏡の式神-那由多》に攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

「リバースカード、《聖なる結界-ミラー・バインド》を発動! 私のフィールドに左京と右京がいる時、攻撃モンスターを破壊し、更にそのモンスターより攻撃力が低いモンスターを破壊する!」

 エドのD-HEROの大量展開からの猛攻に焦ったのか、美寿知はプレイングミスを犯す……美寿知は知り得ないことではあるので仕方ないのだが。

 左京と右京が二体で巨大な鏡を映しだし、そのままドレッドガイに撃ち出す……《聖なる結界-ミラー・バインド》の効果から察するに、その巨大な鏡でドレッドガイの攻撃を反射しようてというのだろうが、ドレッドガイの強靭な腕は何事もなかったかのようにそのまま鏡を壊した。

「ドレッドガイがのエフェクト発動! 特殊召喚されたターン、僕のフィールドのD-HEROはあらゆる破壊を無効にする!」 

 そのまま鏡の裏に隠れていた魔鏡の式神-那由多を見つけ、何の苦もなくなぎ倒した。

美寿知&美寿知(鏡)LP5700→3600

「まだ続くぞ……ダッシュガイで《魔鏡の式神-左京》を、ダイヤモンドガイで《魔鏡の式神-右京》を、ダンクガイで守備表示の《魔鏡の式神-左京》を、それぞれ攻撃する!」

「くあああっ!」

美寿知&美寿知(鏡)LP3600→1500

 エドのD-HEROたちにはドレッドガイの効果による破壊耐性があり、美寿知のリバースカードであった《聖なる結界-ミラー・バインド》は意味をなさなかった今、美寿知にはD-HEROたちの猛攻を防ぐ術は何もなく。
結果的には、モンスターは何も残らず美寿知のモンスターは全滅した。

「くっ……だが《月輪鏡》には破壊されたモンスターの数、つまり4つカウンターが乗る」

 またもや怪しい鏡に式神の魂が吸い込まれていく……明らかに良い雰囲気ではないので、あれも気に留めておかねばなるまい。

「バトルフェイズを終了し、ダイヤモンドガイのエフェクト、ハードネス・アイを発動! デッキトップを確認する……通常魔法《デステニー・ドロー》だ、よってセメタリーに送る。カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 ドローする苦々しげな美寿知の表情から、今は俺のタッグパートナーとして横にいるエド・フェニックスの強さを再確認する……プロというのは、伊達じゃないということを。

「私は《銀の式神-左京》を守備表示で召喚する。効果により《銀の式神-右京》を守備表示で特殊召喚し、更にその効果で《銀の式神-左京》を守備表示で特殊召喚し、その効果で《銀の式神-右京》を守備表示で特殊召喚!」

 この前のターンでエドはD-HEROたちの大量展開をやってみせたが、元々大量展開ならば【式神】の十八番……もうデュエルも中盤ということも手伝い、充分以上に墓地も肥えている。

「《銀の反閇-ミラー・コール》を発動! 左京と右京がいる時、墓地からトラップカードを手札に加える。私が加えるのは《聖なる結界-ミラー・バインド》!」

 いとも簡単に、このデュエルモンスターズで難しいとされているトラップカードの再利用を二体の式神がやってのける。
それもサルベージされたのは、右京と左京がいる時に攻撃モンスターを破壊する、厄介なトラップカード《聖なる結界-ミラー・バインド》だ。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 さて美寿知のフィールドに伏せられている三枚のカードの内、先程伏せた二枚のカード、一枚は恐らくは《聖なる結界-ミラー・バインド》であるだろうが、俺の手札には魔法・罠破壊のカードはなく、先のターンを凌いだドレッドガイもその効果を失っている。

「ダイヤモンドガイの効果により、墓地の《デステニー・ドロー》を発動し二枚ドロー!」

 ……正直、今のドローで魔法・罠破壊カードが欲しかったところではあるが、そんなに上手くいくものではない……どっちにしろ、攻撃はするが。

「《レスキュー・ウォリアー》を召喚し、バトル!」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 とりあえず、先程引いた消防士のような機械戦士を召喚し、バトルに入る。

「ダイヤモンドガイで《銀の式神-右京》に攻撃! ダイヤモンド・ブロー!」

「《聖なる結界-ミラー・バインド》を発動! 攻撃してきたダイヤモンドガイを、そして破壊したモンスターの攻撃力以下のダンクガイを破壊する!」

 左京と右京がいなければ発動出来ない為か、早くも《聖なる結界-ミラー・バインド》を発動され、ダイヤモンドガイとダンクガイが破壊される。

「ならばエドのリバースカード、《デステニー・ミラージュ》を発動! D-HEROが破壊された時、破壊されたD-HEROを特殊召喚する!」

 破壊されたそのままの状態で舞い戻る、ダイヤモンドガイにダンクガイ……これで少しは、心置きなく攻撃出来るというものだ。

「ダンクガイで《銀の式神-右京》に攻撃! パワー・ダンク!」

 美寿知のフィールドの式神たちは全て守備表示であるため、当然ダメージは通らないが、リバースカードが反応しなかったことから、あっても単体除去のトラップカードだと予想する。

「更に、ダイヤモンドガイで《銀の式神-右京》に攻撃! ダイヤモンド・ブロー!」

「リバースカード、《ミラー・トラップ》を発動! このターン使ったトラップをセットし直し、再び発動出来る!」

 銀の式神-右京に向かって攻撃を仕掛けようとしていたダイヤモンドガイの前に、大きめの鏡が立ちはだかり……その中から、更に鏡が現れた。
《ミラー・トラップ》の効果に照らし合わせれば、あの鏡は《聖なる結界-ミラー・バインド》……!

「《デステニー・ミラージュ》だけでは甘かったな! 《聖なる結界-ミラー・バインド》を発動!」

 鏡がダイヤモンドガイとダンクガイを巻き込み、デステニー・ミラージュの効果で復活する前のように、再び二体とも破壊されることとなった。

「くっ……レスキュー・ウォリアーで《銀の式神-右京》を攻撃する!」

 レスキュー・ウォリアーが背負ったポンプから水を放射し、銀の式神-右京を破壊する。
……リバースカードは残り一枚、もうモンスター破壊系はない可能性が高い。

「ダッシュガイとドレッドガイで、二体の《銀の式神-左京》を攻撃!」

 D-HEROたちが《銀の式神-左京》を蹴散らすが、守備表示の式神に阻まれたせいで肝心の美寿知には届かない。

「更に破壊されたモンスターの数、《月輪鏡》にカウンターが四つ溜まる」

 今まではただ、式神の魂が鏡に吸い込まれていっただけだったが、今回の魂を吸い込んだ時に《月輪鏡》の反応が変わり、巨大な鏡が自ら発光し始める。


「ダッシュガイは守備表示になる……カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー……《強欲な壷》を発動し、二枚ドロー!」

 万能なドローソースとなるカードである強欲な壷が現れては破壊され、美寿知が二枚ドローする。
……あの美寿知は、最初に《苦渋の選択》を使用した方の美寿知であり、怪しい光を放ち続ける《月輪鏡》と、そのまだ見ぬ切り札らしきカードに自然と身構えてしまう。

「私は魔法カード《死者蘇生》を発動! 《銀の式神-左京》を特殊召喚する! そして、その効果によって《銀の式神-右京》を召喚!」

 再び現れる美寿知の主力モンスターであるが、何故かその数は二体で止まる……今ならば、四体まで式神を展開出来るはずなのに。

「更に、私は《銀の式神-右京》と《銀の式神-左京》をリリースすることで、《闇の神-ダーク・ゴッド》をアドバンス召喚するっ!」

闇の神-ダーク・ゴッド
ATK3000
DEF1000

 式神二体を喰らいながら現れたのは、今までの美寿知の『鏡』をイメージした【式神】とは全く違ったイメージの、黒い色をした一つ目の巨人だった。

「そして永続魔法《月輪鏡》の効果を発動! カウンターが十個以上乗ったこのカードを墓地に送ることにより、デッキからフィールド魔法《無限の降魔鏡》を発動する!」

 式神たちの魂を溜めきった月輪鏡がパリンと大きな音をたてながら割れ、代わりに新たに発動されたフィールド魔法《無限の降魔鏡》の効果が発動したのか、俺たちがいる周りになんだか形容しがたい雰囲気が漂い始めた。

「《無限の降魔鏡》の効果は、私のフィールドに《闇の神-ダーク・ゴッド》がいる時、空いているモンスターゾーン全てに同じステータス・効果を持った《ダーク・ゴッド・トークン》を可能な限り特殊召喚する!」

 式神の特殊召喚をしない理由に合点がいったのと同時に、今のこの状況について考え直す。
今、闇の神-ダーク・ゴッドと同じ姿形をした《ダーク・ゴッド・トークン》が四体特殊召喚され、それぞれの攻撃力は3000……攻撃力3000がフィールドに、五体……! しかも一体一体が《闇の神-ダーク・ゴッド》と同じ、何らかの効果を持ったことを、美寿知は示唆している。

「バトル! ダーク・ゴッド・トークンで、ダッシュガイを攻撃! ダーク・ゴッドが相手モンスターを破壊した時、700ポイントのダメージを与える!」

遊矢&エドLP7200→6500

 ダッシュガイは自身の効果で守備表示となっているため、俺たちに戦闘ダメージは通らない……だが今までは、エドのフィールド魔法《幽獄の時計塔》の効果もあって大ダメージは防いできたが、これはまずい……!

「更にダーク・ゴッド・トークンで、攻撃力が0になったドレッドガイに攻撃! 更に破壊した時の700ダメージも受けてもらおう!」

「ぐあああっ!」

遊矢&エドLP6500→2800

 ドレッドガイは他にD-HEROがいないため、今の攻撃力は0……ダイレクトアタックと同じぐらいの、かなりの大ダメージを負ってしまう。

「これで最後だ! ダーク・ゴッド・トークンでレスキュー・ウォリアーに攻撃!」

「レスキュー・ウォリアーは、自身への戦闘ダメージを0にする!」

 レスキュー・ウォリアーがやられ際に、自身のポンプから水を発射すると、円上に広がり俺たちを守る盾となったが、効果ダメージまでは防げず俺たちにダーク・ゴッド・トークンの爪が襲いかかる。

遊矢&エドLP2800→2100

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 ……ダイレクトアタックをしてこない? まだ本体も含めて二体いるのにも関わらず、不自然なタイミングのターンエンドに、闇の神-ダーク・ゴッドには何らかのデメリット効果があると予想される。

「僕のターン、ドロー! セメタリーのダッシュガイの効果発動! 僕は今ドローした、《D-HERO ディアボリックガイ》を特殊召喚する!」

D-HERO ディアボリックガイ
ATK800
DEF800

 墓地にある時、ドローしたモンスターを特殊召喚するというダッシュガイの効果を使って特殊召喚されたのは、レベルはダッシュガイと同じだが、ステータスは下級以下というD-HERO……エドは何を狙っているのだろうか。

「《戦士の生還》を発動し、セメタリーからダッシュガイを手札に! そしてディアボリックガイをリリースし、《D-HERO ダッシュガイ》をアドバンス召喚!」

 先のターン、ダーク・ゴッド・トークンに破壊されたダッシュガイが、再びフィールドに召喚される。
闇の神-ダーク・ゴッドの攻撃力は3000のため、ダッシュガイの効果を使えれば、確かに破壊することは出来るかもしれないが……

「更に、セメタリーのディアボリックガイのエフェクト発動! このカードを除外することで、デッキから新たな《D-HERO ディアボリックガイ》を特殊召喚する! カモン、ディアボリックガイ!」

 なるほど、ディアボリックガイのあのレベル不相応なステータスの秘密は、この優秀な効果があるからだろう……更に、これでダッシュガイの効果も活用出来るようになる。

「ダッシュガイのエフェクトでディアボリックガイをセメタリーに送り、ダッシュガイの攻撃力を1000ポイントアップさせ、バトル! ダッシュガイで闇の神-ダーク・ゴッドに攻撃! ライトニング・ストライク!」

 相も変わらずあのダークヒーロー然とした姿が、どこがライトニングなのかは解らないが、とにかくダッシュガイの攻撃がダーク・ゴッドを貫く……はずだった。

「残念だが、闇の神-ダーク・ゴッドには戦闘破壊耐性がある」

「くっ……だが、戦闘ダメージは受けてもらう」

 その戦闘ダメージもたかが100ポイント、美寿知のライフはもう残り少ないとはいえ、エドの攻撃は失敗に終わったと言って良いだろう。

美寿知&美寿知(鏡)LP1500→1400

「ダッシュガイはエフェクトにより守備表示となる。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 ダッシュガイは自身の効果によって守備表示であり、美寿知のダーク・ゴッドたちは俺たちにダイレクトアタックは出来ない……このターンは、700ダメージだけで済むだろうか。

「バトル! ダーク・ゴッド・トークンで、ダッシュガイに攻撃!」

 容易くダッシュガイは破壊され、その強靭な腕が俺たちにも襲いかかってライフを削り、美寿知と俺たちのライフが並ぶ。

遊矢&エドLP2100→1400

「更に《禁じられた聖杯》を発動! 《闇の神-ダーク・ゴット》の効果を無効にし、そなたらにダイレクトアタックだ!」

「エフェクトの打ち消し程度読んでいる。リバースカード《D-フォーチュン》を発動! 墓地のダイヤモンドガイを除外し、バトルフェイズを終了させる!」

 《禁じられた聖杯》によって効果が打ち消されたダーク・ゴッド・トークンが、ダッシュガイを破壊した腕をそのまま俺たちに向けてくるが、エドの墓地から飛びだしたダイヤモンドガイに阻まれた。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」

 これで美寿知のフィールドには《闇の神-ダーク・ゴッド》にトークンが四体、フィールド魔法《無限の降魔鏡》にリバースカードが二枚。
対するこちらは、俺とエドのリバースカードが二枚ずつ、モンスターはいない。

「遊矢。お膳立てはしてやった……お前が決めろ」

「ああ。俺のターン、ドロー!」

 意気揚々と引いたカードは、チューナーモンスターであり《ロード・シンクロン》……ダッシュガイの効果を使わせてもらう!

「墓地のダッシュガイの効果発動! チューナーモンスター《ロード・シンクロン》を特殊召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 金色のロードローラーを模したチューナーモンスターを特殊召喚し、シンクロ召喚に繋げるために更にモンスターを召喚する。

「《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動! 増殖せよ、チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーター
ATK300
DEF100

 召喚して即座に増殖させられる、中華鍋を逆に被ったような機械族モンスター……このモンスターの登場により、俺が狙っていたモンスターのシンクロ召喚が可能となった!

「レベル1のチューニング・サポーター二体に、レベル2となったチューニング・サポーターと、レベル4のロード・シンクロンをチューニング!」

 合計レベルは8……まあ、ロード・シンクロンが本来のレベル4のままでシンクロ召喚に使える時点で、なにをシンクロ召喚するかは決まっているようなものだが。

「集いし希望が新たな地平へいざなう。光さす道となれ!シンクロ召喚!駆け抜けろ、《ロード・ウォリアー》!」

ロード・ウォリアー
ATK3000
DEF1500

 フィールドに降り立った金色の機械戦士……その効果とステータス、そして名前が示すように、名実ともに機械戦士たちの王とも言える存在のモンスターだ。

 しかも、シンクロ素材となったチューニング・サポーター三体の効果によって、三枚のカードをドローする。

「シンクロ召喚をしようが、攻撃力3000では《闇の神-ダーク・ゴッド》には適わぬ!」

「ロード・ウォリアーだけで突破しようなんて思っちゃいないさ。ロード・ウォリアーの効果を使用し、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

『トアアアアッ!』

 ロード・ウォリアーが背中に差してあった剣のようなものからを振りかざして光をだすと、その光の道からマイフェイバリットカードが現れる。

「更に《シンクロ・チェンジ》を発動! シンクロモンスターを除外し、同レベルのシンクロモンスターを、効果を無効にしエクストラデッキから特殊召喚する! ロード・ウォリアーを除外し、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を特殊召喚!」

 ロード・ウォリアーが時空の穴のような物に吸い込まれていき、代わりに現れる黄色の龍――ライフ・ストリーム・ドラゴン。

 効果が無効にされているうえに、シンクロ召喚でなく特殊召喚のためにライフ・ストリーム・ドラゴンの効果は発動しない……だが、今回はそれで充分だ。

「……わざわざ攻撃力を下げたようにしか見えぬが?」

「いいや上がるさ。《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! フィールドの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と、墓地の《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 融合召喚! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 デュエルキング親子の店《亀のゲーム屋》で貰うこととなった竜騎士が槍を振りかざして俺とエドの前に降り立つ。

「さらにリバースカード《リミット・リバース》を発動し、《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚! そしてレベル2のスピード・ウォリアーとレベル2のニトロ・シンクロンでチューニング!」

 二度目の出番となる《ニトロ・シンクロン》だったが、一度目と変わらず元気にメーターを回し、振り切れて光の輪になりシンクロ召喚の準備が完了した。

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

アームズ・エイド
ATK1800
DEF1600

 火力の底上げを狙うために、シンクロ召喚された機械戦士の補助兵装《アームズ・エイド》。

「アームズ・エイドの効果発動! ドラゴエクィテスに装備させる!」

 ドラゴエクィテスが自身の得物である槍を大地に突き刺し、腕にアームズ・エイドが装備された後にまた槍を持つ。

「攻撃力4200……!? だが、まだ……」

「ああまだだな。装備魔法《D・D・R》を発動! 手札を一枚捨て、除外されていた《ロード・ウォリアー》を特殊召喚!」

 吸い込まれていった時空の穴からロード・ウォリアーが帰還し、これで全ての準備は完了した。

「バトル! 波動竜騎士 ドラゴエクィテスで、闇の神-ダーク・ゴッドに攻撃! パワーギア・ジャベリン!」

 アームズ・エイドの力も借りて、ドラゴエクィテスが天高くからダーク・ゴッドに向け槍を投げる……だが、その前に鏡の居城が立ちはだかった。

「リバースカード《銀幕の鏡壁》! 相手モンスターの攻撃力を半分にする! 返り討ちにせよ闇の神-ダーク・ゴッド!」

 ドラゴエクィテスは鏡に映っていた自身を射抜いてしまい、攻撃力は半分に下がる。

「ならば速攻魔法《サイクロン》! ……ただし、破壊するのは俺の《D・D・R》!」

「なっ!?」

 てっきり自身の《銀幕の鏡壁》が破壊されると思ったのだろう、美寿知は驚愕に包まれた顔で俺を見て、俺のフィールドのロード・ウォリアーは《D・D・R》が破壊されたことで同様に破壊される。

「何を考えているのだ……!?」

「こう考えているのさ。リバースカード《ディフェンド・ウォリアー》を発動! 『ウォリアー』と名の付いたカードが破壊された時、破壊されたモンスターの攻撃力分、相手モンスターの攻撃力をダウンさせる! 俺は闇の神-ダーク・ゴッドの攻撃力を、破壊されたロード・ウォリアーの攻撃力分ダウンさせる!」

 破壊されたロード・ウォリアーの攻撃力は3000で、闇の神-ダーク・ゴッドの攻撃力は3000……位は多いが、小学校でも出来る簡単な計算だ。
《銀幕の鏡壁》があってドラゴエクィテスの攻撃力が半減しようとも、美寿知のライフは削りきれる。

「まだ負けぬ! チェーンして《デストラクト・ポーション》を発動し、ダーク・ゴッド・トークンを破壊して3000のライフを回復する!」

 ドラゴエクィテスの攻撃美寿知に合わせて、伏せてあった《デストラクト・ポーション》によりライフを回復されてしまったためにトドメには至らない。

美寿知&美寿知(鏡)LP4400→2300

「ふふ……残念だったな」

「いや、終わりさ。このターンで」

 言ったのは俺ではなくエドだが、確かにエドが繋げてくれたカードによって、このターンで決着がつくだろう。

「エドのリバースカード《異次元からの帰還》を発動! ライフを半分にし、除外されているモンスターを特殊召喚する! 来い、《ニトロ・ウォリアー》! 《D-HERO ダイヤモンドガイ》! 《D-HERO ディアボリックガイ》! そして、《スピード・ウォリアー》!」

 最大で五体ものモンスターを展開する、切り札となり得る爆発力を持ったカードである《異次元からの帰還》により、除外されていたモンスターが特殊召喚される。
《銀幕の鏡壁》は健在のため、攻撃力は半分になってしまうが……美寿知にトドメを刺すだけであれば、充分である。

「ダイヤモンドガイで闇の神-ダーク・ゴッドに攻撃! ダイヤモンド・ブロー!」

「く……」

美寿知&美寿知(鏡)LP2300→1600

 もはや美寿知のフィールドにリバースカードはないため、この攻撃を防ぐ方法はない。
《クリボー》などがあれば話は別だが、それならば《デストラクト・ポーション》より優先して使うだろうと思うので、それもないだろう。

「さらにニトロ・ウォリアーで攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

「くあっ……!」

美寿知&美寿知(鏡)LP1600→200

 それに加えて、闇の神-ダーク・ゴッドには戦闘破壊耐性があるために、攻撃力が0の時に攻撃されようが、戦闘によっては破壊されない。

「トドメだ! スピード・ウォリアーでダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」

「あああああああっ!」

美寿知&美寿知(鏡)LP200→0

 マイフェイバリットカード、スピード・ウォリアーの一撃でデュエルは終結し、鏡で分けられていた美寿知は一つの肉体に戻った。

「勝ったんだ……約束通り答えてもらうぞ、美寿知!」

 勝利の余韻味わうのもほどほどに、デュエルをした目的である斉王のことを聞くために、俺は一歩美寿知の元へ踏みだした。

「もちろんわかっておる……しかし、兄を救う資質を持った者が四人もおるとは幸先がよい」

 だからその兄を救う資質というのは何なんだ、と聞こうとしたその時、このバーチャル空間全土にノイズが走った。

「美寿知……なんだこれは!?」

 俺の横にいたエドもノイズに包まれている……いや、エドだけではなく俺と美寿知もだ。

「これは……外部から強制的にログアウトされようとしている!」

 ログアウト……つまり、このバーチャル空間から現実世界に帰れるということか。
だが、他の場所の三沢に十代の安否を確認せねば……

 だがその前に、エドや十代、三沢がログインしてきた時と同じく閃光がほとばしり、俺たちの意識はバーチャル空間から離れていった。
 
 

 
後書き
特殊召喚したモンスターの数は何体になるだろう……お前ら全員大量展開しすぎだ。

それに、前書きでも書きましたが一話が長すぎましたね。
前後編にしても良かったのですが、まあ、一周年ということでそれぐらいはお見逃し頂ければと存じます。

※一周年については『つぶやき』参照

では、これからもよろしくお願いします。

感想・アドバイス待っています。 

 

―修学旅行 最終日―

 最近……特にセブンスターズの件があってから……なんだか意識を失ってしまうことが多い気がするが、今回のバーチャル空間からの強制ログアウトはなんとか意識を保つ。

 ……いや、精神がバーチャル空間から自分の身体の中に戻るようなものなので、意識を失ってしまうのがおかしいのか……というか一応、これは遊園地のアトラクションなのだ、そんな危険はないと信じたい。

 バーチャル空間に行くための端末なのだろうか、なんだかカプセルのような物に寝っ転がっていた俺の身体を起こし、とりあえず伸びをした後に辺りの状況を探る。

 ……辺りはただの暗い部屋であり、俺が今し方起きたカプセルの他にも、いくつかのバーチャル空間に行くためのカプセルがあるだけで、この部屋にあるのは二つのドアだけだ。

「三沢、エド、十代!」

 はぐれてしまった友人らの名前を叫んでみるが、この部屋から返答はないため、とりあえずここから出てみようとドアのノブに手を伸ばす。

 そこで、ようやく俺は近くのカプセルの違和感に気づいた。
ここにあるカプセルに閉まっているものがある……人が入っていないカプセルは、そのまま空いているというのに。

 そのカプセルは四人分で丁度人数も合う……ということは、俺以外の四人はまだバーチャル空間へと入ったままなのか……!?

 美寿知は強制ログアウトと言っていたのに妙な話だが、そうとしか考えられない……つまり、何者かが俺のみをログアウトさせたのだ。

「その通りです……黒崎遊矢くん」

 この部屋に来て始めて聞いた人間の声に振り向くと……オベリスク・ブルーの制服を着た男子生徒が一人立っていた。

 オベリスク・ブルーが光の結社に吸収されたような今の状態のために、この制服を着ている人物は俺と三沢、そして吹雪さんの三人だけのはずだ。

 だが、俺は見たことは無いが、光の結社の中でも白く染めた制服を着ていない人物が存在するのだ。
俺は実際に会ったことがなかったものの、俺の目の前に立っている人物の心当たりは一人しかいない……!

「お前が……斎王か……!」

「荒事をしてしまって申し訳ありません。お身体は平気ですか?」

 俺の憎しみが入った視線をサラリと受け流しつつ、斎王は何故だか俺の身体の調子を確認する。

「ずいぶん余裕だな。お前がデュエル・アカデミアの皆に何をしたか教えてもらう!」

 美寿知から斎王について聞き出せなかったことは残念だったが、本人が目の前にいるのならばそんな必要はない。

「何をしたかと言われましても……彼らは、自らの意思で私に従っているだけですよ」

 今にも飛びかかりそうな俺と対比するように、いけしゃあしゃあと斉王は返答してくる……このままではアイツのペースだ、一旦落ち着こう。
 斎王が何の目的でここに来て、何故俺だけをバーチャル空間から強制ログアウトさせたのかは、斎王の腕にあるデュエルディスクを見れば何となくだが予想は出来る。

「何か聞き出したいのなら……これで聞き出すのが我々のルールでしょう?」

 これで、とは、今準備しているデュエルディスクを言っているのだろう……確かにそれは同感だ。

 意見が別れたなら、デュエルで決着するのが俺たちデュエリストのルールなのだから。

「俺が勝ったら、お前が何をしたのかを教えてもらう!」

「当然、あなたが負ければ光の結社に入ってもらいましょう」

 デュエルディスクを構えた対面の相手は、光の結社の首領……つまり、万丈目や光の結社構成員のように、倒した相手を光の結社の一員にする能力があるのだろう。

 明日香の為にも万丈目の為にも俺自身の為にも、絶対に負けるわけにはいかない……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
斉王LP4000

「私のターンから。ドロー」

 俺のデュエルディスクには『後攻』と表示され、先攻はまず斎王からとなる……本来ならば歓迎しないことだが、斉王のデッキを見極める為には必要経費もしれない。

「私は魔法カード《幻視》を発動。カードを一枚引き、相手に見せます……今から私が引くカード、それはあなたの分身とも言える運命のカードなのです……ドロー」

 怪しい占い師のような文句を言いながら、斎王がデッキから引き抜いた一枚のカード、その名は《アルカナフォース0-THE FOOL》という天使族のカードだった。

「そのカードが俺の分身だと?」

 《アルカナフォース》というカテゴリーのカードは、その名の通り大アルカナという、占いに用いるカードをモチーフにデザインされているカード群だ。
《アルカナフォース》というカード群にも大アルカナにも詳しくはない自分だが、THE FOOLの意味は……『愚者』だ。

「フフ……その引いたカードをデッキに戻してシャッフルします。そして、《アルカナフォースIII-THE EMPRESS》を守備表示で召喚します」

アルカナフォースIII-THE EMPRESS
ATK1300
DEF1300

 女帝を意味するのだろうジ・エンプレスの召喚により、斎王のデッキは【アルカナフォース】であることが確定する。
ザ・フールは他の天使族デッキにも入っているのだが、ジ・エンプレスは見たことがないからだ。

「アルカナフォースがあらゆる召喚に成功した時、運命のルーレットが回転します……さあ、あなたの手で運命を決めてください」

 エドといいこいつといい美寿知といい、最近やたら運命という言葉にこだわる人間に関わる……光の結社構成員がそう言うのも、何かしら関係があるのだろう。

「ストップだ!」

 斎王のフィールドで回っていた、ジ・エンプレスのカードが俺のかけ声で止まり、示したカードの位置は……正位置。

「これによりジ・エンプレスは正位置の効果を得ます。このままターンエンド」

「明日香たちのことを答えてもらう! 俺のターン、ドロー!」

 斎王に対して今なお腸が煮え繰り返そうだが、それではデュエルには勝てない、と頭は冷静に物事を捉えようとしている。
熱くなりすぎて焦っても何の得もない、いつも通りのデュエルをするためにも、もっとも信頼するアタッカーを召喚する。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアーATK1800
DEF800

 三つ叉の機械戦士が飛びだした瞬間、予期せぬタイミングで斎王が行動を起こした。

「この瞬間、《アルカナフォースIII-THE EMPRESS》の効果を発動します。『女帝』の正位置は豊穣を意味する――相手モンスターが通常召喚に成功した時、手札からモンスターを特殊召喚出来ます。《アルカナフォースXVIII-THE MOON》を特殊召喚」

アルカナフォースXVIII-THE MOON
ATK2800
DEF2800

 想定外の最上級モンスターの登場に驚く間もなく、アルカナフォース特有のルーレットが回転し始める。

「……ストップだ」

「運命が示したのは逆位置。よって、《アルカナフォースXVIII-THE MOON》は逆位置の効果を得ます」

 アルカナフォースは確か逆位置がデメリット効果だったはずだと思いだし、不幸中の幸いだと胸をなで下ろす。

「バトル! マックス・ウォリアーの攻撃力は400ポイントアップし、ジ・エンプレスに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 最上級モンスターであるザ・ムーンが召喚されようとも、俺がこのターンにやるべき行動はこれ以外にはない。
むしろ厄介な効果を持つジ・エンプレスだからこそ、早々にマックス・ウォリアーは戦闘破壊した。

斎王LP4000→3100

「マックス・ウォリアーはモンスターを戦闘破壊した時、攻撃力と守備力が半分になる。ターンエンドだ」

「私のターン。ドロー」

 最上級モンスターがいる余裕だろう、ジ・エンプレスが破壊されてダメージを受けようとも、斎王は涼しい顔でカードを引いた。

「私は《アルカナフォースVII-THE CHARIOT》を召喚」

アルカナフォースVII-THE CHARIOT
ATK1700
DEF1700

 いくつもの触手が飛び出た戦車型の、アタッカークラスの攻撃力を持ったモンスターの登場に、内心で少し残念に思う。

「バトル。ザ・チャリオットでマックス・ウォリアーに攻撃。フィーラー・キャノン!」

 その身体から飛び出ている触手から放たれたビームに直撃し、マックス・ウォリアーは身体を貫かれた……後、ビームを発射した触手が伸びてマックス・ウォリアーを捕らえ、そのまま斎王のフィールドに操り人形のようにして引き寄せた。

遊矢LP4000→3100

「『戦車』のカードの暗示は『征服』。つまり、勝利して支配するというシンプルな思考を表すように、ザ・チャリオットが破壊したモンスターは私のフィールドに特殊召喚されます。マックス・ウォリアーでダイレクトアタック! スイフト・ラッシュ!」

 身体をビームに貫かれボロボロとなったマックス・ウォリアーが、その槍を俺の下へ突き刺してくる。
……コントロール奪取はどこぞの恋する乙女のおかげで慣れちゃいるが、あんなギャグのような演出じゃない限りは嫌いな方だ……仲間と戦わなくてはならないのだから。

「俺は《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了する!」

 手札から巨大となったかかしが飛び出し、マックス・ウォリアーの槍の連撃を防ぎきってバトルフェイズを終了させ、ザ・ムーンの追撃をも防ぐこととなった。

「ほう……ならエンドフェイズ。ザ・ムーンの逆位置の効果を発動。このカードのコントロールをあなたに譲渡します」

 斎王がそう宣言した途端、マックス・ウォリアーの代わりと言っては何だが俺の傍らにザ・ムーンが現れる。
俺のデュエルディスクに表示されたザ・ムーンの逆位置の効果を発動すると、エンドフェイズ時に相手にモンスター一体のコントロールを移す効果らしい。

「『月』のカードの逆位置の暗示は『徐々に好転』……あなたにその意味を贈りましょう。ターンエンド」

「そうかい……俺のターン、ドロー!」

 最上級モンスターを送りつけたあげく、多少不利でも徐々に好転するというメッセージを贈ってくるとは恐れ入る。

 シンクロ召喚を使う俺に下級モンスターを送るのは愚策であるし、俺のフィールドにいるというのはもしかすると最高の防衛策かもしれない。

「なら遠慮なく使わせてもらう! バトル! ザ・ムーンでザ・チャリオットに攻撃!」

 斎王のモンスターではあるが、今コントロールを得ているのは自分だ。
攻撃力はマックス・ウォリアーより低いものの、優秀な効果となにうえ《アルカナフォース》と名の付いたモンスターであるザ・チャリオットに狙いを定め、巨大な手のひらでビンタして破壊いた。

「フ……」

斎王LP3100→2000

「更にメインフェイズ2、ザ・ムーンをリリースして《ドドドウォリアー》をアドバンス召喚!」

ドドドウォリアー
ATK2300
DEF900

 確かに機械戦士には上級モンスターは少ないが、無論いないわけでもない……かなり久々にアドバンス召喚した気がする、斧を持った機械戦士によってザ・ムーンが斎王の元へ帰るのを封じ込めた。

「俺はこれでターンエンド!」

「私のターン。ドロー」

 自分のフィールドには、アルカナフォースと何のシナジーもないモンスターである、マックス・ウォリアーだけだというのに妙に余裕そうに斎王はカードを引く。

「あなたはザ・ムーンを乗り越えモンスターを召喚する……その運命はやはり変わりません。私はマックス・ウォリアーをリリースし、《アルカナフォースXII-THE HANGED MAN》をアドバンス召喚」

アルカナフォースXII-THE HANGED MAN
ATK2200
DEF2200


 木に吊らされたアルカナフォース……ザ・ハングドマンの名の通りの姿をしたカードが現れ、アルカナフォース特有の効果によって回転が始まった。

「ストップだ」

「逆位置……よって、ザ・ハングドマンは逆位置の効果を得ます」

 アルカナフォースというカテゴリーは、ザ・ムーンを見る限り逆位置が出た時のデメリットが凄いようなので、よし、と内心で一息ついた。

「ハングドマンの逆位置は『自暴自棄』……自暴自棄となった修行者は狂い始めました。ザ・ハングドマンの効果発動。一ターンに一度相手モンスターを選択し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えます」

「なっ……!?」

 どうやら逆位置の効果を聞く限り、逆位置の方がメリット効果であったようだ。

 それにしても、ザ・ムーンをこちらに送りつけてリリースさせて上級モンスターを召喚させ、ザ・チャリオットの効果で奪ったマックス・ウォリアーを使ってアドバンス召喚したザ・ハングドマンでバーンダメージを与えるという、斎王の一連のコンボ。
鮮やかに決まってしまった自分が情けないが、《アルカナフォース》三体のルーレットが一体でも外れていれば、コンボが瓦解するどころか俺が斎王を倒していてもおかしくはない。

 そんなコンボが狙って出来るなんて、未来でも見えない限り――と、思った後、一つの単語が頭の中で閃いた。

 『運命』、と。

「私は、ザ・ハングドマンの効果で《ドドドウォリアー》を選択。2300ポイントのダメージを受けてもらいましょう」

 効果ダメージを与えた後のザ・ハングドマンのダイレクトアタックにより、俺のライフは0になる……いや、もしも斎王に自分と自分のカードの運命が見えているのだとしても。

「俺は手札の《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動! ザ・ハングドマンの効果を無効にする!」

 運命だろうが何だろうが、俺の手札まで見れるわけがない。

 ラッキーカードが斎王のフィールドの吊された男――ザ・ハングドマンを包み込み、ドドドウォリアーを守り抜いた。
「なるほど……カードを一枚伏せ、ターンを終了します」

「俺のターン、ドロー!」

 今引いたカードをチラリと確認すると、そのままデュエルディスクにセットした。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー! そして、墓地に捨てた《リミッター・ブレイク》の効果発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! デッキから現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 俺のいつもお決まりのコンボが決まり、マイフェイバリットカードがデッキから特殊召喚される……もちろん、これだけじゃない。

「さらに《ドリル・シンクロン》を召喚!」

ドリル・シンクロン
ATK800
DEF300

 ドリル・シンクロンの通常召喚により、フィールドにチューナーモンスターと非チューナーモンスターを揃えた……やることは一つ。

「レベル2の《スピード・ウォリアー》と、レベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」

 ドリル・シンクロンの身体についているドリルが高速で回転し始め、そのまま三つの光の輪となりスピード・ウォリアーを包み込む……合計レベルは、5。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 傷だらけの機械戦士、スカー・ウォリアーが短剣を構えながらシンクロ召喚される。

「バトル! ドドドウォリアーでザ・ハングドマンを攻撃! ドドドアックス!」

 ドドドウォリアーからしてみれば久々の単独での出番だが、その斧による一撃は変わらずザ・ハングドマンを切り裂いた。

斎王LP2000→1900

「更に、スカー・ウォリアーで斎王にダイレクトアタック! ブレイブ・ダガー!」

「リバースカード《ガード・ブロック》を発動。戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローします」
 スカー・ウォリアーの肉迫してからの短剣による攻撃は、斎王の前に現れたカード達に阻まれてしまったが、厄介なザ・ハングドマンを倒せただけでも良しとしよう。

「カードを一枚伏せ、俺はターンエンド」

「私のターン。ドロー……《カップ・オブ・エース》を発動します」

 アルカナフォースではない魔法カードまでも斎王の前で回り始めだが、これは俺がストップと告げるものではなかったようで、自動で正位置に止まっていた。

「《カップ・オブ・エース》の正位置の効果、二枚ドローします。更に《アルカナフォースI-THE MAGICIAN》を通常召喚」

アルカナフォースI-THE MAGICIAN
ATK1100
DEF1100

 攻撃力はスカー・ウォリアーにもドドドウォリアーにも適わないにも関わらず、攻撃表示での召喚。
なんとかルーレットでデメリット効果を出してやりたいところだが、俺がストップと告げてザ・マジシャンが止まったのは、おそらくはメリット効果である正位置だった。

「そして魔法カード《スート・オブ・ソード・X》を発動」

 そのカードの発動と共に斎王と俺の間に無数の刀が突き刺さっかと思えば、スート・オブ・ソード・Xのカードがまたもや回転を始める。

「運命が示すのは正位置。スート・オブ・ソード・Xの正位置の効果は、あなたのフィールドのモンスターを全て破壊します」

「なに!?」

 スート・オブ・ソード・Xの発動時に大地に突き刺さった刀が動きだし、俺のフィールドのスカー・ウォリアーとドドドウォリアーを滅多差しにして破壊する……今正位置になるのも、それは運命だというのか。

「そしてザ・マジシャンの効果。魔法カードを使ったターン、このカードの攻撃力は倍になります」

 ……ザ・マジシャンの元々の攻撃力は1100という大したことが無い数値だが、その倍の2200となれば話は別だ。
しかも俺のフィールドにモンスターはおらず、《速攻のかかし》は既に使ってしまっている。

「バトル。ザ・マジシャンで君にダイレクトアタック。アルカナ・マジック!」

「ぐあああっ!」

遊矢LP3100→900

 ザ・マジシャンの魔法のような一撃でライフは大きく削られ、900というデッドラインまで迫ってしまう。

「私はカードを一枚伏せてターンを終了します」

「俺のターン、ドロー!」

 斎王のフィールドには、攻撃力が戻ったアルカナフォースI-THE MAGICIANが一体に、伏せてあるリバースカードが一枚。
対する俺のフィールドだが、《速攻のかかし》は使用済みでリバースカードが一枚だけと、どうにも頼りない。

「《貪欲な壺》を発動! 墓地からモンスターを五枚デッキに戻し、二枚ドロー!」

 起死回生を賭けてのドローソースで引いたカードを確認すると、またもやドローソースではあったものの、充分展開の足がかりとなるものであった。

「更に《ブラスティング・ヴェイン》を発動! 俺のフィールドのセットカードを破壊して更に二枚ドロー!」

 永続罠を破壊して二枚ドローする、《マジック・プランター》の相互互換とも言えるこのカードであるが、こちらはセットカードを破壊するという点が大きく違っている。

「破壊したセットカードは《リミッター・ブレイク》! 効果はさっきと同じだ、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

『トアアアアッ!』

 《貪欲な壺》の効果で墓地に送られていたカードの一つであったが、再びデッキからフィールドに特殊召喚される……そして、手札の特殊召喚がトリガーのカードが起動する。

「スピード・ウォリアーが特殊召喚に成功したため、速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! デッキから更にスピード・ウォリアーを特殊召喚する!」

「ならば私も、ザ・マジシャンを二体守備表示で特殊召喚しましょう」

 デッキから特殊召喚されたマイフェイバリットカード三体と、アルカナフォースの魔術師三体がフィールドで睨み合っている。

 だが、俺はまだ通常召喚をしちゃいない。

「チューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を召喚し、チューニング!」

 《スピード・ウォリアー》と同じように、《貪欲な壺》の効果で墓地からデッキに送っていたラッキーカードを召喚し、即座にシンクロ召喚へと移行する。

 そしてラッキーカードとマイフェイバリットカードのこの組み合わせは、俺が始めてシンクロ召喚をした時に使った組み合わせと同じだった――シンクロ召喚するモンスターまでも。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 黄色のアーマーを付けた機械竜の登場に、攻撃力という点においてはフィールドを完全に制圧する……更に効果によって、まだ上がることも確定済みである。

「パワーツール・ドラゴンの効果発動! デッキから装備魔法カードを三枚選び、相手が選んだカードを手札に加える! さあ、お前が言う運命のカードとやらを選ぶんだな!」

「……左のカードにしましょう」

 アルカナフォースのルーレットにより正位置か逆位置か、つまり運命を相手に選ばせる効果の意趣返しの意味も込めて発動したパワー・サーチにより、目当ての装備魔法を手札に加えることに成功する。

「装備魔法《団結の力》をパワーツール・ドラゴンに装備し、バトル! パワーツール・ドラゴンで攻撃表示のザ・マジシャンに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「く……」

斎王LP1900→1000

 ザ・マジシャンの正位置の効果がなければ、斎王のライフポイントを削りきることが出来ていたものの、どうやらザ・マジシャンの効果は俺の……つまり相手ターンにも発動するようで、俺のライフとほぼ並ばせるだけに留まった。

 《地獄の暴走召喚》で特殊召喚されたザ・マジシャン二体が懸念材料ではあるが、それはまあ良しとしよう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー。伏せてあった《ペンタクル・オブ・エース》を発動。正位置の効果のため、500ポイントのライフを回復し、一枚のカードをドローします」

 伏せてあったのは、どうやらブラフだったらしい魔法カード《ペンタクル・オブ・エース》。
当然のように正位置を当てた斎王は一枚ドローし、新たな魔法カードをディスクへとセットした。

「魔法カード《運命の選択》を発動。相手は私の手札からカードを一枚選び、そのカードがモンスターであった場合、私のフィールドに特殊召喚される……さあ、運命の選択の時間です」

 十代が多用する《ヒーロー見参!》の、魔法カード版の相互互換カードの登場に、斎王のデッキには運命を相手に選ばせる効果ばかりなのか、と辟易する。

「一番右のカードにする」

「これがあなた自身が選んだ運命のカード、《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》を特殊召喚」

アルカナフォースIV-THE EMPEROR
ATK1400
DEF1400

 皇帝を意味するアルカナフォース、ジ・エンペラーの登場に、最上級モンスターの特殊召喚というもっとも恐れた事態にならなかったことに安堵し、回り始めたジ・エンペラーに対して「ストップ」と宣言した。

「位置は正位置。ジ・エンペラーの正位置の効果は、フィールドのアルカナフォースの攻撃力を500ポイントアップさせます」

 皇帝のくせに、ザ・チャリオットやザ・エンプレスに比べると随分地味な効果であったし、《団結の力》などを使わない限りは俺のパワーツール・ドラゴンへは届かない。

 だが、斎王のフィールドにモンスターは三体おり、未だに通常召喚の権利は残していて【アルカナフォース】は上級モンスターで攻めるデッキ。

 ここまで不安要素がある状況も、むしろ珍しい……!

「私はザ・マジシャン二体をリリースし、最強のアルカナフォース、《アルカナフォースXXI-THE WORLD》をアドバンス召喚します」

アルカナフォースXXI-THE WORLD
ATK3100
DEF3100

 最強のアルカナフォース……大アルカナの終わりを告げる『世界』の暗示のカードに相応しいステータスであり、ジ・エンペラーの正位置の効果によって、更に500ポイントアップして《団結の力》を装備したパワーツール・ドラゴンの攻撃力を超える。

「ストップだ!」

 俺のせめてもの抵抗もあざ笑うかのように、斎王が言う運命とやらでザ・ワールドも正位置となって止まった。

「フフ……バトル。ザ・ワールドでパワーツール・ドラゴンに攻撃します。オーバー・カタストロフ!」

「パワーツール・ドラゴンの効果発動! このカードに装備された魔法カードを墓地に送ることで、破壊を免れる! アーマード・イクイップ!」

遊矢LP900→600

 当然破壊を免れても戦闘ダメージは受けるが、今パワーツール・ドラゴンが破壊されれば、俺はジ・エンペラーにダイレクトアタックをくらってしまう。

 パワーツール・ドラゴンがいるのならば、次の自分のターンに攻撃力をアップさせる装備魔法か《魔界の足枷》のような装備魔法を手札に加えられれば、斎王に対抗策がなければ俺は勝利出来る。

「ジ・エンペラーは攻撃出来ませんね、メインフェイズ2に移行し、墓地の《レベル・スティーラー》の効果を発動します。ザ・ワールドのレベルを二つ下げ、レベル・スティーラーを二体、墓地から特殊召喚」

 俺の《手札断殺》の時に墓地へ送っていたのだろう、墓地からザ・ワールドの身体を突き破って、レベルを一つ奪って特殊召喚される昆虫の姿は、斎王のデッキで始めて見るアルカナフォースではないモンスターだった。
ほぼノーコストで下級モンスターを並べることが出来る、その効果は特筆に値するが、通常召喚権を無くしているこのタイミングで、それに何の意味があるのだろうか。

「そしてエンドフェイズにザ・ワールドの正位置の効果を発動。私のフィールドのモンスターを二体墓地に送ることで、あなたの次のターンをスキップします」

「な……何だと!?」

 ターンのスキップ。
その行動によって起きる恩恵は説明不要な程にあるだろうが、まさかそんな効果があるとは夢にも思っていなかった。

「《レベル・スティーラー》二体をリリースし、時よ止まれ、ザ・ワールド!」

 機械造りの昆虫二体をリリースするという代償によって起動したザ・ワールドの効果により、ドローフェイズを示すはずの俺のデュエルディスクは、まさに時が止まったように動かない。

「これにより、もう一度私のターン。ドロー」

 ターン自体が飛ばされてしまっては、パワーツール・ドラゴンの効果を発動するとかしないとかそういう話ではない。
確か《レベル・スティーラー》の効果は、指定したモンスターのレベルが4になれば発動不能だったはずなので、それまで他に上級モンスターが現れないことを祈って耐え抜くしかない。

「私はザ・ワールドのレベルを下げ、墓地から《レベル・スティーラー》二体を特殊召喚し、更に《アルカナフォースVI-THE LOVERS》を通常召喚します」

アルカナフォースVI-THE LOVERS
ATK1600
DEF1600

 後はザ・ワールドでパワーツール・ドラゴンを攻撃すれば良いだけだろうに、念には念を入れてだろうか、斎王は『恋人』を暗示するカードとレベル・スティーラーを大量展開した。

「ストップだ」

 ザ・ラバーズを示すルーレットは正位置で止まったが、斎王はさして興味も無さそうに次のフェイズへと移行した。

「バトル。ザ・ワールドでパワーツール・ドラゴンに攻撃。オーバー・カタストロフ!」

「リバースカード、《リミット・リバース》を発動! 墓地から《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚する!」

 ラッキーカードが墓地から特殊召喚されたことにより、斎王のバトルフェイズに巻き戻しの処理が入る。
斎王は少し考えるポーズをとったものの、数秒後には元の行動をそのまま実行した。

「私の運命は変わりません。ザ・ワールドでパワーツール・ドラゴンを攻撃。オーバー・カタストロフ!」

「もう一枚のリバースカード《緊急同調を発動! レベル7の《パワーツール・ドラゴン》と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 バトルフェイズ中にシンクロ召喚出来る罠カード《緊急同調》により、ラッキーカード同士がシンクロ召喚の体勢に入る。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2500

 エフェクト・ヴェーラーがパワーツール・ドラゴンを包み込み、その身体が紅い炎に包まれていき、装甲板が外れていった。
機械の装甲を外し、パワーツール・ドラゴンは神話の龍のような姿へと進化する。

 ライフ・ストリーム・ドラゴンは守備表示でシンクロ召喚されたため、攻撃力がザ・ワールドに劣っていてもダメージなどはない。
更に、曲がりなりにもシンクロ召喚に成功したため、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果が発動する。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

 出来るだけ高く飛び上がったライフ・ストリーム・ドラゴンが光を発し、その光に触れるとみるみるうちにデッドラインだったライフが初期値まで回復していく。

「なるほど……これがライフ・ストリーム・ドラゴンですか……それでも、私の運命は変わりません。ザ・ワールドでライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! オーバー・カタストロフ!」

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果発動! 墓地の装備魔法を除外することで、破壊を無効にする! 俺は《団結の力》を除外!」

 シンクロ素材であるパワーツール・ドラゴンともシナジーがある第二の効果だが、今回のデュエルはあまり装備魔法を使わなかったせいで、墓地にある装備魔法は今の《団結の力》で打ち止めだ。

「私のエンドフェイズ、《レベル・スティーラー》二体をリリースし、ザ・ワールド! まだ私だけの時間です」

「チッ……!」

 俺のデュエルディスクはまたもや反応せず、次なるターンは斎王に移るが、もうザ・ワールドのレベルは4の為にもう《レベル・スティーラー》は墓地から特殊召喚されない。
しかし、斎王のフィールドにはザ・ラバーズとジ・エンペラーがいるため、最低でも後一回は俺のターンは飛ばされてしまう。

「私のターン。ドロー。このままバトルに入ります」

 ドローしたカードの確認もそこそこに斎王はバトルに入ると、ザ・ワールドにライフ・ストリーム・ドラゴンへの攻撃を命じた。

「ザ・ワールドでライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! オーバー・カタストロフ!」

 もう墓地に装備魔法は無いためにライフ・ストリーム・ドラゴンは発動出来ず、本来はただ破壊されるだけであるが、ザ・ワールドの攻撃とライフ・ストリーム・ドラゴンの間に盾の機械戦士が飛びだした。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、戦闘破壊を無効にする!」

 ザ・ワールドの攻撃をライフ・ストリーム・ドラゴンの代わりに墓地から現れたシールド・ウォリアーが受け、ライフ・ストリーム・ドラゴンは破壊を免れた……たかが一ターン程度の気休めに過ぎないことは解っているが、やらないよりは遥かにマシである。

「……まだ策があるとは、流石。エンドフェイズにザ・ラバーズとジ・エンペラーをリリースし、時よ止まれ! ザ・ワールド!」

 これで三回目のターンスキップであるが、斎王はこのターン通常召喚を行わなかったことにより、《死者蘇生》によってモンスターを蘇生でもしない限りは二体のモンスターを出すことは出来ない。

「私のターン、ドロー。《アルカナフォースVI-THE LOVERS》を召喚」

 二回目の登場となる『恋人』の暗示となるザ・ラバーズの登場だが、たかだか攻撃力1600のモンスターであったことにひとまずは安堵する。

「……ストップだ」

「正位置の効果。そして念には念を入れ、通常魔法《魔術師の天秤》を発動。フィールドのアルカナフォースをリリースすることで、デッキから魔法カードを手札に加える……私が手札に加えるのは、当然《スート・オブ・ソード・X》!」

 先のターンで《スカー・ウォリアー》と《ドドドウォリアー》を破壊した、二分の一で禁止カードの《サンダー・ボルト》と同様の効果を得る魔法カード、《スート・オブ・ソード・X》。
もはや破壊を免れる効果はなく、正位置の効果が出れば最後、ザ・ワールドのダイレクトアタックをその身で受けることとなってしまう。

「《スート・オブ・ソード・X》を発動! 位置は……当然正位置! 君の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を破壊する」

 ……俺の願いは虚しく斎王の運命とやらに敗れ去り、スート・オブ・ソード・Xの剣は、抵抗もさせずにライフ・ストリーム・ドラゴンを刺し貫く。

「バトル。ザ・ワールドでダイレクトアタックします。オーバー・カタストロフ!」

「ぐあッ!」

遊矢LP4000→900

 最強のアルカナフォースの攻撃の直撃を受け、ほぼ一気にライフ・ストリーム・ドラゴンの効果で回復したライフの分を無意味にされる。

 もう斎王のフィールドにはザ・ワールド以外のモンスターはいないため、俺のターンを止めることはもう出来ない。
だが、俺のフィールドにはザ・ワールドの効果によるラッシュのせいで何もなく、斎王のフィールドには最強のアルカナフォース、ザ・ワールドがいる。

「私のターンはこれで終了。さあ、あなたのターンです」

「俺のターン、ドロー!」

 ザ・ワールドの効果によって飛ばされ続け、待ちに待った俺のターンがやってくる。
そして、デッキからドローしたカードも俺の意志に応えてくれる……!

「俺は《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 マイフェイバリットカードとライフ・ストリーム・ドラゴンが融合し、俺のフィールドに降り立つ槍を持った竜騎士。
その攻撃力は3200という数値であり、たかが100だけだろうとザ・ワールドよりは上を行っている。

「このターンで終わらせるぞ斎王! 通常魔法《フォース》を発動! ザ・ワールドの攻撃力を半分にし、俺のドラゴエクィテスの攻撃力にその数値を加える!」

 ザ・ワールドからエネルギーが吸い取られていき、それらは全てドラゴエクィテスに吸収される。
斎王のライフポイントは残り1500ポイントだが、これで充分にザ・ワールドを倒しながら斎王のライフを0にすることが出来る。

「バトル! ドラゴエクィテスでザ・ワールドに攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

 力を失ったザ・ワールドに対して充分以上に力を付けたドラゴエクィテスが槍を投げ、ザ・ワールドの身体の中心を貫いた。
だが、俺が墓地で発動した《シールド・ウォリアー》のようにザ・ワールドの前に新たなアルカナフォースが出現した。

「手札の《アルカナフォースXIV-TEMPERANCE》を墓地に捨てることで、私は戦闘ダメージを0にすることが出来ます」

 ここで『節制』を意味する暗示のカードである、あの《クリボー》の相互互換カードの登場と、それを予測していなかった自分の未熟さに舌を巻く。

「くっ……だが、最強のアルカナフォースのザ・ワールドは倒してやった。ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー。二枚目の《カップ・オブ・エース》を発動し、ルーレットが回転します……正位置。よって二枚ドロー」

 ルーレットがあるとはいえ、斎王が言うように運命が決まっているということが本当ならば、アレはただ《強欲な壷》と何ら変わることはない。


「フフ、確かに私のデッキの切り札は、今はザ・ワールドです。しかし、このデュエルはあなたの分身の手で決着がつく運命です」

 ……俺の分身? というと、まさか一ターン目で言っていたアルカナフォースのこと、か……?

「私は《アルカナフォース0-THE FOOL》を召喚」

アルカナフォース0-THE FOOL
ATK0
DEF0

 一番最初の斎王のターンで魔法カード《幻視》によってデッキからドローされ、そしてその幻視でデッキに戻された、斎王が俺の分身だと語る『愚者』の暗示のカードである。

 攻撃力・守備力ともにゼロだが、完璧な戦闘破壊耐性があるため【アルカナフォース】だけでなくただの【天使族】にも入る優秀なカードだ。

 だが、いくら壁モンスターとして優秀なカードであろうとそれを活かせない攻撃表示での召喚で、そもそも壁モンスターではドラゴエクィテスには適うまい。

「魔法カード《幻視》の効果発動。このカードの効果でドローしたカードがプレイされた時、あなたに1000ポイントのダメージを与えます!」

 ザ・フールの元へエネルギーが集まっていき、収束して一本のビームのようになって俺の元へ向かってくる。

 なるほど、斎王が言う俺は分身といえるカードで負ける運命、というのはそういうことかと納得する……だが、その運命は間違っているらしい。

「ドラゴエクィテスの効果発動! 効果ダメージを受けるとき、そのダメージは相手プレイヤーが代わりに受ける!」

「……なっ!」

 ザ・フールから放たれたエネルギー波はドラゴエクィテスの槍に集まっていき、ドラゴエクィテスが斎王に槍をかざすとエネルギー波は斎王へと向かっていった。

斎王LP1500→500

 魔法カード《ペンタクル・オブ・エース》の効果で500ポイント回復しただけ斎王のフィールドは残ったのが、少々残念ではあったが、恐らく《幻視》の効果を使用するために攻撃表示にしたザ・フールを攻撃すれば俺の勝ちだ。
ザ・フールを表側守備表示で召喚しなかったのは、命取りのプレイミスだったようだ。

 しかし、斎王の表情には何ら絶望した様子は感じられす、未だに不敵な笑みを見せたままだ……本当に言うように、ザ・フールが俺を倒すことが運命なのだろうか。

「……ザ・フールが召喚に成功したため、運命のルーレットが回転します」

「ストップだ」

 忘れていたが《アルカナフォース》の召喚時に発動するルーレットが回転し、ザ・フールが逆位置でストップする。

「少々の誤差はあれど言った通り、あなたの運命はあなたの分身によってここで費えることになる……バトル!」

「バトルだと!?」

 斎王が言葉に出した予想外の言葉に驚愕するが、《アルカナフォース》の属性を鑑みればもはや斎王の手札から来る可能性は一つしかない。

「私は手札から《オネスト》を発動。ザ・フールの攻撃力をドラゴエクィテスの攻撃力分アップさせます」

 成人男性に翼が生えたような天使が一瞬現れた後、そのままザ・フールの中に入ってその翼をザ・フールに移した。
ザ・フールの攻撃力は0のため、《オネスト》を使用しても攻撃力は戦闘しているドラゴエクィテスと同等だが、ザ・フールには戦闘破壊耐性がある。

 ドラゴエクィテスがその槍をザ・フールに突き刺すことに成功するものの、ザ・フールにはまるで堪える様子がなく、突き刺されたことを利用したゼロ距離からのエネルギー波によってドラゴエクィテスは破壊されてしまう。

「ドラゴエクィテス……!」

 竜騎士は破壊されてしまったものの、ザ・フールは次の俺のターンには攻撃力は0に戻る。
今俺の手札にモンスターはいないが、俺が攻撃力500以上のモンスター、もしくはそれを用意するカードを引いて攻撃出来れば、俺はこのデュエルに勝利出来る。

「これなら……!」

「いいえ、言った筈です。あなたの分身によって費えるのがあなたの運命だと。通常魔法《アルカナティック・デスサイス》!」

 斎王が魔法カードを発動すると、俺の首の前に巨大な死神の鎌が出現してその場に静止する。
名前から察するに『死神』を暗示するカードであり、嫌な予感をひしひしと感じさせて死神の鎌を前にして一歩も動けない。
「『終末』を意味する死神の鎌……フフ、『愚者』にはもったいない暗示ですね。アルカナティック・デスサイスの効果は、《アルカナフォース》と名の付くモンスター一枚をデッキから墓地に送ることで、このターン戦闘破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 このターン戦闘破壊されたモンスターはもちろんドラゴエクィテスであり、俺のライフポイントは僅か900で効果ダメージを反射する効果を持ったドラゴエクィテスは前述の通り破壊されたのだ。

「さようなら、愚者。そしてようこそ、光の結社へ……!」

「うわあああああッ!」

 俺の前で静止していた死神の鎌が動き出し、そのまま勢いをつけて俺の首を狩り取った――

遊矢LP900→0
 
 

 
後書き
「『世界』ッ! 時よ止まれ!」
「『THE WORLD』 オレだけの時間だぜ」

……別に声優ネタをする気ではなかったのですが。
解らない方はそのままスルーしてください。

では、感想・アドバイスをお待ちしています。 

 

―洗礼を受けし愚者―

 二年生の修学旅行も終わって、しばらく経ったデュエル・アカデミアの深夜――二名の男女が、今や名実ともにホワイト寮となったオベリスク・ブルー寮へと続く道に立っていた。

 一人はラー・イエローの一年で最強とも噂される生徒、ティラノ剣山。
もう一人は、このデュエル・アカデミアという専門校へと飛び級をしてきたという、実力を証明する実績を持った女子生徒、早乙女レイ。

 立場も学年も違う二人ではあるが、自分たちが慕う人物の二年生たちのグループに押しかけている者同士で、彼らは学年が違うためにセブンスターズや三幻魔などには関わっていない、という共通点もあるために、良き友人としての付き合いをしていた。

 その二人が何故、一般生徒にとってはデュエル・アカデミアでも有数の危険地帯となってしまっているこのホワイト寮の近くにいるかと言われれば、ある人を待っているからだった。

 そして、その二人の目的の人物が――待ち構えていたから当然だが――森の向こうから姿を現した。

「……遊矢様」

 ずっとここで待っていた、彼女らの目的の人物であり、彼女が慕う人物でもある者の『黒崎遊矢』が姿を現した。
だが、その身に纏っていた青の制服は純白に染まっており、自らの名前を呼んできたレイを一瞥したのみで歩みは止めない。
そしてレイは思う――いつもならば、『様は止めろ!』とやや照れた顔で返してくれるはずなのに、と。

 そう、レイは自分が慕う黒崎遊矢を光の結社から救いに来た……取り戻しに来たと言っても良い。
光の結社に洗脳されてしまい、無口な文字通りの操り人形になってしまった黒崎遊矢を助け、修学旅行に行ってしまう前の彼に戻すために、中等部の友人や彼の友人の忠告を振り切ってここに来たのだ。

「遊矢先輩……デュエルしてもらうドン!」

 ティラノ剣山はレイに誘われて来たわけではなく、オシリス・レッド寮から自身のラー・イエロー寮へと帰ろうとした際、夜にホワイト寮へと一人で向かおうとするレイを発見し、それを追いかけて来たことによる。
無論、一人で行くなんて危険だから止めろ、と止めたもののレイは言うことを聞かず、放ってはおけないので付いてきたのだった。

 もちろん剣山もただ巻き込まれたからここにいるわけではなく、ナポレオン教頭のホワイト寮を使ってのオシリス・レッド寮の取り壊しを拒んでいる兄貴分、遊城十代に変わって遊矢を助けるためにここにいる。
それに加えて、生来人が良い彼自身も遊矢を助けることを心から望んでいた。

「……良いだろう」

 まるで幽鬼のように喋る遊矢にはかつての快活さはまったく感じられず、光の結社、ひいては斎王の洗脳が万丈目や明日香以上に念入りにされていることの証明だろう。

 遊矢一人に対して剣山とレイは自然と二人ということになったものの、遊矢はただただ無言で特に何も言わず、剣山とレイは今までのデュエルの経験から対戦相手である遊矢との実力差を充分以上に理解していた。
さらに、遊矢のデッキは光の結社になったことによって、元々の《機械戦士》から斎王が支給しているレアカードを――レイはそう考えたくはないが――デッキに入れている可能性が高いため、さらに実力差は開いていると言っても差し支えないだろう。

 だが彼を助けるために、その遺憾ともしがたい実力差を埋める為に、汚いと文句を言われても二人でデュエルをする気だった……結果的には、人形のようになっている遊矢は文句一つ言わなかったが。

『『デュエル!』』

レイ&剣山LP8000
遊矢LP8000

「私のターン、ドロー!」

 一番の先攻を取ったのはレイ……彼女の一人称は『ボク』であるが、慕う人の――遊矢の前では一人称が『私』になるという癖を持っている。
無意識に『私』を使った彼女は、必ず助けるという意思の表れか。

「《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を召喚!」

ATK1200
DEF800

 レイのデッキの切り札を呼ぶために必要な主力モンスター、ミスティック・ベビー・ドラゴン。
相手モンスターを戦闘破壊をトリガーとする効果にしては、その貧弱なステータスは致命的ではあるが、補う手段はいくらでもある。

「カードを一枚伏せて、ターン終了だよ!」

「……俺のターン、ドロー」

 もはや彼自身の代名詞ともなっていた『楽しんで勝たせてもらうぜ!』との台詞もなく、遊矢はカードを引く。
そんな遊矢にレイは怒りと寂しさを覚えるが、それは後にしてまずは初手に何が来るかを考える。

 大体の確率で、攻めの《マックス・ウォリアー》か守備の《ガントレット・ウォリアー》のため、自然とそのどちらかと考えたが……

「……俺はフィールド魔法《天空の聖域》を発動」

 レイと剣山、双方の予想を大幅に上回りながら夜のアカデミアを浸食していく、天使たちが住むう天上の聖域。
レイが知る限り遊矢が自分本来のデッキでフィールド魔法を使ったことはなく、また、彼のデッキの【機械戦士】に天使族サポートカードなど必要ない。

「遊矢先輩のデッキ、【機械戦士】じゃないザウルス……!?」

 その評価から【機械戦士】を好んで使う者はおらず、半ば遊矢の専用デッキという扱いも同然となっていたレイと剣山にとって、これは想定外の出来事であった。
特にレイは、【機械戦士】は彼にとって、デュエルモンスターズというゲームに触れてから今までずっと使ってきた相棒であることを知っていて、なおさら。

「……《コーリング・ノヴァ》を召喚」

コーリング・ノヴァ
ATK1400
DEF800

 《シャインエンジェル》と双璧を成すリクルーターの登場により、遊矢のデッキは【機械戦士】ではないという事実を認めざるを得ず、そして【天空の聖域】と呼ばれるデッキの可能性が高まった。

「バトル。《コーリング・ノヴァ》で《ミスティック・ベビー・ドラゴン》に攻撃」

「ダメージステップにリバースカード《突進》を発動! ミスティック・ベビー・ドラゴンの攻撃力を700ポイントアップさせるよ!」

 似たような役割を持っている速攻魔法《収縮》には利便性で劣っているものの、コンバットトリックとしては及第点の魔法カード《突進》によって、ミスティック・ベビー・ドラゴンはコーリング・ノヴァを返り討ちにした。

「コーリング・ノヴァの効果発動。《天空の聖域》が存在する時、《天空騎士 パーシアス》を特殊召喚する」

 あまり活用されることは少ないものの、リクルーターからアタッカークラスの攻撃力と優秀な効果を持つ《天空騎士 パーシアス》が特殊召喚されるというのは、やられる側としてはたまったものではない。
だが、レイの使用した《突進》の効力はエンドフェイズまでであるため、天空騎士 パーシアスには突破は不可能であり、コーリング・ノヴァを戦闘破壊した為に、エンドフェイズに《ミスティック・ドラゴン》へと進化する。

 ……と、ここまではレイの予想通りであった。

「速攻魔法《月の書》を発動。ミスティック・ベビー・ドラゴンを裏側守備表示にし、天空騎士 パーシアスで攻撃」

 ミスティック・ベビー・ドラゴンの前で開かれた《月の書》によって、いくら攻撃力が上がっても意味がない裏側守備表示とされてしまう。
加えて、天空騎士 パーシアスにはその状態を十全に活かす貫通効果がある。

レイ&剣山LP8000→6900

「パーシアスが戦闘ダメージを与えた時、一枚ドロー……ターン終了」

「俺のターン、ドローザウルス!」

 レイのデッキが《恋する乙女》や《ミスティック・ドラゴン》によるコントロールデッキならば、剣山は恐竜族をメインに使った真正の【ハイビート】。
その持ち味は、恐竜族の強力なパワーを相手に叩きつけるという、単純明解にして有効な戦術だ。

「俺は《ダイナ・ベース》を召喚するドン!」

ダイナ・ベース
ATK0
DEF2000

 しかし、剣山が召喚したのはその前評判とは対局に位置するような壁モンスター、しかも機械族である。
だがそれも、彼の主力モンスターである恐竜のサポートカードであるためだ。

「《ダイナ・ベース》は、このカードと手札の恐竜さんをリリースすることで、エクストラデッキから《ダイナ・タンク》を《融合》のカード無しで融合召喚出来るドン! 《ダイナ・ベース》と《究極恐獣》をリリースし、現れるザウルス、《ダイナ・タンク》!」

ダイナ・タンク
ATK?
DEF?

 《融合》の魔法カードを使わないという点では、ユニオンやコンタクト融合に近いだろうが、《ダイナ・ベース》の効果は手札から融合素材を選べるという点で前述の二種より遥かに利便性は上である。

 手札から現れた《究極恐獣》が、フィールドにいた《ダイナ・ベース》をその名の通り戦車のように扱ってフィールドに現れた。

「ダイナ・タンクの攻撃力・守備力は、融合召喚に使用したモンスターの合計ザウルス!」

 よって攻撃力は最上級モンスターをほぼ一方的に破壊出来る3000という数値、守備力に至っては4200という桁違いの数値にまで到達する。
融合素材の《究極恐獣》、の全体攻撃という効果は無くなってしまったものの、新たに《ダイナ・タンク》固有の能力を得ている。

「バトルザウルス! ダイナ・タンクで天空騎士 パーシアスに攻撃!」

 ただでさえ巨大だった究極恐獣に、戦車まで加わったその質量は圧倒的であり、特に何らかの攻撃を仕掛けずとも、近づいただけで攻撃となり天空騎士 パーシアスを破壊してしまう。

 だがその戦闘ダメージは、恐竜には触れられない聖域に住む遊矢には届かない。

「《天空の聖域》は天使族モンスターの戦闘ダメージを無効にする」

 攻撃した剣山とてそれは承知しているために、ただただ恐竜族のフィールド魔法《ジュラシック・ワールド》を引くことを願った。

「カードを二枚伏せて、ターンエンドザウルス」

「俺のターン。ドロー」

 剣山とレイのフィールドに攻撃力3000というステータスのモンスターがいるにも関わらず、特に焦りもせずにカードを引く……その表情に、ワクワクしているような感情は読み取れない。

「俺は魔法カード《光神化》を発動。ステータスを半分にして《天空騎士 パーシアス》を特殊召喚」

 手札から上級モンスターだろうと最上級モンスターだろうと、天使族であるならば特殊召喚出来る魔法カード《光神化》。
その優秀な効果に比例してデメリットは重く、攻撃力・守備力のステータスを半分にし、エンドフェイズ時に破壊されてしまう。
だが、そのデメリット効果を活かした、あるカードとのコンボカードであった。

「速攻魔法《地獄の暴走召喚》。デッキ・墓地から更に二体《天空騎士 パーシアス》を特殊召喚する」

 魔法カード《光神化》によって天空騎士 パーシアスの攻撃力は、僅か950程度……つまり、攻撃力1500以下を対象とした《地獄の暴走召喚》の対象内となる。


「くっ……ダイナ・タンクは融合モンスターだから何も特殊召喚出来ないドン……」

 先のターンでダイナ・タンクに破壊されたパーシアスも含め、計三体の上級モンスターを特殊召喚しつつ、相手には特殊召喚させないという最高のタイミングの《地獄の暴走召喚》だった。

 しかし、いくら展開しようとも攻撃力は1900、3000たるダイナ・タンクには適わない。
故に、魔法カードによる戦闘サポートカードの介入があるだろうが、その点については剣山は苦慮していなかった。

 剣山のフィールドにいるダイナ・タンクは、対象をとる魔法・罠カードの対象を相手に移すという特殊な効果を持っており、レイとのバトルフェイズに使われた《月の書》等を使われても、相手に対象を移し替えることが出来るのだ。
もちろん、ダイナ・タンクへと対象をとる効果ではないといけないので、《団結の力》や《ライトニング・ボルテックス》が来たら手も足も出ないわけだが。

「俺はステータスが半分になった《天空騎士 パーシアス》をリリースすることで、《天空勇士 ネオパーシアス》を召喚」

天空勇士 ネオパーシアス
ATK2300
DEF2000

 しかして遊矢が出したのは魔法カードではなく、天空騎士 パーシアスの更に強化された姿の一つであった。

「天空勇士 ネオパーシアスの効果。《天空の聖域》があってこちらのライフポイントが上の時、相手のライフポイントとの差分だけ攻撃力がアップする」

 遊矢のライフポイントは《天空の聖域》のおかげで初期値の8000であり、レイと剣山のライフは貫通ダメージを受けたために6900……つまり、天空勇士 ネオパーシアスの攻撃力は1100ポイントアップし、合計3400ポイントとなる。

 この、全てが遊矢の思い通りに進んだような展開に、剣山は戦慄する――遊矢先輩は本気だ――と。

「バトル。天空勇士 ネオパーシアスでダイナ・タンクに攻撃」

 いくら珍しい効果を持っていようが発動しなければどうということはなく、自慢の攻撃力をあっさりと乗り越えられて、ダイナ・タンクは破壊されてしまった

レイ&剣山LP6900→6500

「天空勇士 ネオパーシアスの効果。戦闘ダメージを与えたため一枚ドロー。更に一体目の天空騎士 パーシアスでダイレクトアタック」

レイ&剣山LP6500→4600

「天空騎士 パーシアスが戦闘ダメージを与えたため、一枚ドロー。そして、二体目の天空騎士 パーシアスでダイレクトアタック」

「くっ……流石に遊矢先輩だドン……」

レイ&剣山LP4600→2700

「戦闘ダメージを与えたため、一枚ドロー。カードを二枚伏せてターンを終了する」

「……私のターン、ドロー!」

 もはやライフポイントも5000以上の数値が離れ、《天空勇士 ネオパーシアス》がその効果によって攻撃力7600の貫通効果持ち、という恐るべきモンスターとなっている。それに加えて、パーシアスの一枚ドローする効果によって手札もフィールドも潤沢であった。

 それでもレイは諦めず、遊矢を助けるという一心から気合いを込めてカードをドローした。

「《死者蘇生》を発動! 墓地から《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を特殊召喚するよ!」

 万能蘇生カードによる主力モンスターの蘇生の後、気合いと共にドローしたカード、自身の切り札を呼び込む魔法《ミスティック・レボリューション》を、そのままデュエルディスクに差し込んだ。

 否、その気合いが報われることはなかった。

「リバースカード《裁きの光》を発動。手札の光属性モンスターを一枚捨てることで、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を破壊する」

 《天空の聖域》から光が放たれ、ミスティック・ベビー・ドラゴンの直上から降り注いでいく、まさに《裁きの光》であった。
様々な発動条件はあるものの、二つの有効な効果を選択して発動出来る罠に、切り札の《ミスティック・ドラゴン》の召喚は見送られることとなった。

「うぅ……《フォトン・サークラー》を守備表示で召喚……」

フォトン・サークラー
ATK1000
DEF1000

 光の魔術師が守備表示で召喚されるが、所詮は《恋する乙女》の効果のサポートに投入しているカードでは、この守備表示にしても意味がないこの状況ではあまりにも頼りない。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド……」

「俺のターン。ドロー」

 圧倒的有利のこの状況にニコリと微笑みもせずにカードを引く遊矢には、やはり余裕とか自信とかそういう感情は感じさせなかった。

「チューナーモンスター《トラスト・ガーディアン》を召喚」

トラスト・ガーディアン
ATK0
DEF800

 羽根の生えた小さないかにもピクシーといった外見のモンスターが天空騎士 パーシアスの肩に降り立ち、クルリとその場で回ってみせる。
そして『チューナーモンスター』というその言葉に、今現在ターンを任されているレイは気を引き締める。

「レベル5、《天空騎士 パーシアス》とレベル3、《トラスト・ガーディアン》をチューニング」

 トラスト・ガーディアンが肩から飛び、今度は天空騎士 パーシアスの身体を包むように回転し……そのまま三つの光の輪と五つの光となった。

「神聖なる復讐の決闘、その天幕が今墜ちる。シンクロ召喚、光の騎士《神聖騎士 パーシアス》」

神聖騎士 パーシアス
ATK2600
DEF2100

 これで三種のパーシアスが遊矢のフィールドに揃い、後はパーシアスの種類で揃っていないのが《ダーク・パーシアス》だけとなるが、遊矢のデッキタイプを見る限り入っていないだろう。

「バトル。天空騎士 パーシアスで、フォトン・サークラーに攻撃」

 三種類のパーシアスが揃って剣を構え、まずは一番攻撃力の低い天空騎士 パーシアスが光の魔術師に切りかかった。

「かかった! 《マジックアーム・シールド》!」

 《ミスティック・ドラゴン》召喚の失敗によるさっきまでの元気の無さはどこへやら、ペロリと舌を出して相手を罠にはめることを可愛げに示す。

「マジックアーム・シールドの効果で、遊矢様の《天空勇士 ネオパーシアス》のコントロールを奪うよ!」 

 フォトン・サークラーに装備されたシールドからマジックアームが飛び出し、ネオパーシアスを捕まえて攻撃してきた天空騎士 パーシアスの前に出した。
その後、ネオパーシアスの腕にまでマジックアームは伸び、その手に持った剣を振るわせて天空騎士 パーシアスを破壊した。

「更に速攻魔法《神秘の中華鍋》を発動して、《天空勇士 ネオパーシアス》の攻撃力分ライフを回復するよ!」

 彼女曰わく、恋する乙女の罠は常に二重。
マジックアームに捕らわれた天空勇士 ネオパーシアスは神秘の中華鍋から逃れられず、そのまま美味しくレイのコンボに料理されることとなった。

レイ&剣山LP2700→5000

 惜しむらくは、未だにフィールドに残り続けている《天空の聖域》の効果によって、遊矢にはダメージが通らなかったことであろうか。

「神聖騎士 パーシアスでフォトン・サークラーに攻撃」

 バトルの前には三体いたパーシアスシリーズも、予想だにしていなかった残り一体だったが、これ以上を望むのは恋する乙女としては高望み。
レイとフォトン・サークラーは、その神聖騎士 パーシアスの剣を甘んじて受け入れた。

「フォトン・サークラーは戦闘ダメージを半分にするよ!」

レイ&剣山LP5000→4200

「メインフェイズ2、《死者蘇生》を発動して《天空勇士 ネオパーシアス》を特殊召喚。ターンエンド」

「俺のターン、ドローザウルス!」

 万能蘇生カード《死者蘇生》によって《天空勇士 ネオパーシアス》は蘇生されてしまったものの、レイが最悪の流れを切って剣山のターンに繋げてくれたのだ。
ここで自分と自分の恐竜が、どうにかしてあのパーシアス二体を倒さなければ、と剣山は考えたのだった。

「《トレード・イン》を発ドンし、《竜脚獣ブラキオン》を捨てて二枚ドローするザウルス……良し、《キラーザウルス》を捨てて《ジュラシックワールド》を手札に加えてそのまま発動するドン!」

 遊矢のフィールドに展開していた天使たちの飛ぶ聖域が崩れていき、人間がまだ生まれていなかった古代まで時代が遡っていった。
《ジュラシックワールド》というその名の通り、そこに広がっているのは見渡す限りの恐竜たちの世界だった。

「更に《究極進化薬》を発ドン! 墓地から機械族モンスターと恐竜族モンスターを1体ずつゲームから除外することで、デッキから光属性の恐竜さんを特殊召喚出来るドン! 墓地から《ダイナ・タンク》と《ダイナ・ベース》を除外し、デッキから《超伝導恐獣》を特殊召喚するザウルス!」

超伝導恐獣
ATK3300
DEF1400

 《ダイナ・ベース》と《ダイナ・タンク》はただの融合モンスターではなく、この機械と恐竜が合体したかのような《超伝導恐獣》を特殊召喚するためのカード、《究極進化薬》の発動キーでもあったのだ。
それに、剣山の進化薬によるコンボの連鎖はまだまだ終わらない。

「ダメ押しザウルス! 《ディノインフィニティ》を召喚するドン!」

ディノインフィニティ
ATK?
DEF0

 インフィニティの名前が示すように、無限にも等しい力を秘めたティラノサウルスが召喚される……恐ろしいのは、その爆発力抜群の効果に反してレベルはたった4という、下級モンスターであるところか。

「ディノインフィニティは、除外されている恐竜さんの数×1000ポイントの攻撃力だドン! 更にリバースカード《生存本能》を発動! 墓地の恐竜さんを全部除外して、その数×400ポイントのライフを回復するザウルス!」

 もはやライフポイントを回復する効果などおまけに過ぎず、《生存本能》は《ディノインフィニティ》の攻撃力を更に引き上げる撒き餌のような物だ。
除外された恐竜は《究極恐獣》を始めとする三体のため、レイと剣山のライフポイントは1200ポイント回復し、ディノインフィニティの攻撃力は《究極進化薬》の時に除外された恐竜を含め、攻撃力は4000というハイパワーとなった。

レイ&剣山LP4200→5400

 《究極進化薬》から連なる剣山の魔法カードによるコンボは、ここが終着点ということとなる。
《ダイナ・ベース》で《ダイナ・タンク》を融合召喚しつつ墓地に機械族と恐竜族を墓地に送り、《究極進化薬》と《生存本能》で除外とライフ回復とデッキからの《超伝導恐獣》の特殊召喚をこなし、ハイパワーの《ディノインフィニティ》を召喚し、フィールド魔法《ジュラシックワールド》でサポートする――という。

 デッキの理想的な回り方の一つとして考えられていたが、剣山自身ここまで上手く回ったことはなく、遊矢を救いたい気持ちが、自身と自身の恐竜さんに力を貸してくれていると信じてやまなかった。

「バトルザウルス! ディノインフィニティで天空勇士 ネオパーシアスに攻撃! インフィニティ・ファング!」

 もはや遊矢のフィールドに《天空の聖域》は無いため、《天空勇士 ネオパーシアス》のライフの差分攻撃力を上げる効果もおらず、戦闘ダメージもルール通りに適応される。

「リバースカードオープン。《攻撃の無力化》を発動」

 だがその絶好のロケーションや高攻撃力も、攻撃力が届けばの話――いや、ディノインフィニティの攻撃は《攻撃の無力化》により発生した時空の穴に吸い込まれていく筈なのだが、ディノインフィニティは止まる素振りを見せなかった。

「カウンタートラップ《ジュラシックハート》を発ドン! 恐竜さんを対象にした相手のトラップを無効にして破壊するザウルス!」

 《攻撃の無力化》によって現れたはずの時空の穴は、ディノインフィニティがその強靭な爪で天空勇士 ネオパーシアスごと切り裂いてまるで意味を為さなかった。
そして切り裂かれた天空勇士 ネオパーシアスにはもう《天空の聖域》の加護はなく、そのまま何の抵抗も出来ずに破壊された。

遊矢LP8000→6300

「更に、超伝導恐獣で神聖騎士 パーシアスに攻撃だドン!」

 超伝導恐獣の機械部分からレールガンが放たれ、神聖騎士 パーシアスの胸を貫いた……だが、そのままボロボロになっても破壊される気配はない。

「トラスト・ガーディアンがシンクロ素材となったモンスターは、攻撃力・守備力が400ポイントずつ下がる代わりに一ターンに一度戦闘では破壊されない」

 破壊される前に半透明の《トラスト・ガーディアン》が神聖騎士 パーシアスを守り、超伝導恐獣のレールガンで空いた穴を無理やり塞いだ。

「だけど、戦闘ダメージは受けてもらうザウルス!」

 神聖騎士 パーシアスの胸をそのまま貫通したレールガンは、威力は減じたものの遊矢に届き、《天空の聖域》の加護がない遊矢はそのままダメージを受けた。

遊矢LP6300→5600

「これでターンエンドだドン!」

「俺のターン。ドロー」

 剣山による、自身の手札もリバースカードも全て使い切ったラッシュにより、今までノーダメージを誇っていた遊矢もダメージを受け、レイと剣山双方のライフを回復するリバースカードもあってライフポイントはほぼ並ぶ。
だが、ボード・アドバンテージは圧倒的に《ディノインフィニティ》と《超伝導恐獣》、《ジュラシックワールド》を展開したレイ&剣山のタッグだった。

「《貪欲な壷》を発動。墓地から五枚のモンスターをデッキに戻し、二枚ドロー。……《天空の聖域》を発動」

 先程剣山の《ジュラシックワールド》に上書きされて沈没していた《天空の聖域》が、再び《ジュラシックワールド》を押し上げて出現し、そこから放った神々しい光によって《ジュラシックワールド》を破壊していく。

「ああ……恐竜さんたちの世界が破壊されるドン……」

 ソリッドビジョンとはいえ、自身が愛する恐竜たちが暮らす世界が破壊されていくのが悲しく、ついつい剣山は嫌な声を出した。

「《ゼラの戦士》を召喚してリリース。《大天使ゼラート》を特殊召喚する」

大天使ゼラート
ATK2800
DEF2300

 《天空の聖域》を目指し旅をしていた《ゼラの戦士》が悪魔の誘惑を振り切って遂に到着し、天使たちの洗礼を受けて最高位の天使である《大天使ゼラート》となって、その新しく生えた翼をはためかせ昔からの剣を振りかぶって特殊召喚された。

「大天使ゼラートの効果発動。光属性モンスターを墓地に送ることで、相手モンスターを全て破壊する。聖なる光芒」

 そのやや難しい特殊召喚条件に見合って、光属性モンスターを一枚捨てるだけで禁止カードである《サンダー・ボルト》を使うことの出来る強力な効果。
大天使ゼラートが持っている剣を恐竜たちに振りかざすと、《天空の聖域》から今までに無いほど強力な、しかも神々しい光が放たれ、剣山のフィールドの《ディノインフィニティ》と《超伝導恐獣》はその光に耐えられずに破壊された。
いかに高攻撃力の強力なモンスターであろうと、効果破壊に耐性がない以上、この運命は変わるはずもない。

「恐竜さんが……全滅だドン……」

「バトル。神聖騎士 パーシアスでダイレクトアタック」

 シンクロ素材となった《トラスト・ガーディアン》のおかげで、攻撃力・守備力は減じているものの戦闘破壊耐性を得、先程のターンの恐竜たちのラッシュを耐えきった神聖騎士 パーシアスが、その時の恨みというわけではないだろうが、剣戟によって剣山にダイレクトアタックを加えた。

レイ&剣山LP5400→3200

「更に《大天使ゼラート》でダイレクトアタック。聖なる波動」

「ぐあああっ!」

 剣山の恐竜たちを全て効果破壊した時とは違い、《天空の聖域》からではなく自身から白い光を照らして剣山にダイレクトアタックを加え、レイと剣山のライフを僅か400ポイントにまで減じさせた。

レイ&剣山LP3200→400

「ターンエンド」

「私のターン……ドロー! 《天使の施し》を発動して三枚ドローして二枚捨てる!」

 相手が天使族デッキである時に、《天使の施し》を使うことになるとはなんとも皮肉な話ではあるが、この状況を鑑みれば施しを受けてもお釣りが来るぐらいである。

「私は……《恋する乙女》を召喚!」

恋する乙女
ATK400
DEF300

 この最悪の状況に満を持して召喚されたのは、あまりにも扱いにくいコントロール奪取コンボの起点となるレイのフェイバリットカードである《恋する乙女》であった。

「このカードは私自身……遊矢様と初めて一緒に組んだデッキのフェイバリットカード……思いだしてよっ……!」

 《恋する乙女》の召喚によって、心の内に忍ばせておいた思いが止まらなくなり、彼女なりに涙ながらに訴えるものの、遊矢は眉を少しひそめたがやはり万能を返さない。
そんな遊矢の反応に、今は泣いている時じゃないと考え直したレイは、デュエルで彼を救うためにターンを再開した。

「恋する乙女で大天使ゼラートに攻撃! 秘めたる思い!」

 当然、デュエルで負けそうだからといって自殺行為に走るレイではなく、発動するのはやはり光属性かつ打点が低めなレイには欠かせないサポートカードの出番であった。

「ダメージステップに《オネスト》を発動して、《恋する乙女》の攻撃力を《大天使ゼラート》の攻撃力分アップさせるよ!」

 光属性の戦闘に関する必須カード《オネスト》の力を借りて、恋する乙女の背中に天使の羽根が生え、大天使ゼラートを戦闘破壊した――レイにとっては、斎王の支配から遊矢を解き放つ意味も込めての戦闘破壊だったのだが、その自身が使用したカード《オネスト》こそが、遊矢が敗北した要因の一つだとは、その場にいなかった彼女には知る由もない。

「メインフェイズ2、《進化する人類》と《キューピッド・キス》を装備してターンエンド!」

 ひとまず《大天使ゼラート》による《サンダー・ボルト》の危険は封じ込め、《進化する人類》によって《恋する乙女》は《神聖騎士 パーシアス》の攻撃力を超える……今のレイの手札では、ここまですることが限界だった。

「バトル。《神聖騎士 パーシアス》の効果を使用し、《恋する乙女》の表示形式を変更する」

 だがそんなレイの奮闘も空しく、遊矢は無慈悲に《神聖騎士 パーシアス》の効果によって、《進化する人類》のステータスの上昇が関係ない表示形式である守備表示へと変更する。

 ――そしてもちろん、《神聖騎士 パーシアス》にはパーシアスシリーズ共通の貫通効果がある。

「神聖騎士 パーシアスで恋する乙女を攻撃する」

「……っ、きゃあああっ!」

レイ&剣山LP400→0

 完敗。

 このデュエルを終えての状況はその言葉が一番相応しく、レイと剣山の二人がかりのデュエルの結果は《マジックアーム・シールド》や《ディノインフィニティ》によって一矢報いたものの、まさしく完敗と言って差し支えなく、遊矢を救えぬ悲しみからレイは大地に膝をついた。

 当の遊矢は勝利の余韻に浸ることもなく、敗者に言葉をかけることもなく、ただデュエルディスクをコンパクトに収納すると、涙を流して放心状態のレイの横を通り抜けてホワイト寮へと向かっていった。

「……レイちゃん、大丈夫ザウルス!?」

 一足先に完敗のショックから立ち直った剣山が、未だに放心状態となっているタッグパートナー、レイへと駆け寄った。
今の遊矢は正真正銘光の結社の一員であり、光の結社に敗北したものは、ほぼすべからく構成員へと洗脳されてしまっている。

 ティラノ剣山本人は、身体に恐竜の骨が埋まっている影響からか、光の結社の洗脳を受けつけないのは、先日に行われた斎王とのデュエルで証明済みだ。
だが、レイを光の結社にしてしまっては、自分がついてきて一緒にデュエルをした意味もないし、何より遊矢に申し訳がたたない。

「うん、大丈夫。ありがと、剣山くん!」

 放心状態はどこ吹く風、と言った感じで急に明るくなり、剣山の手を借りて立ち上がったレイの手には、一枚のカードが握られていた。

 剣山の見たところ、光の結社には洗脳されていないようだ。

「ボクたちじゃ遊矢様には適わなかったけど、一つ分かったことがあったよ」

 レイが手に持ったカードを剣山にも掲げて見せる……そのカードとは、黒崎遊矢のマイフェイバリットカードたる《スピード・ウォリアー》。
先程、遊矢がレイの横を通り抜けてホワイト寮へと行く時に渡されたカードで、クリップで『すまない』と遊矢の筆跡で書かれたメモが一緒に付いていた。

「遊矢様はまだ、ここにいるよ」

 《スピード・ウォリアー》とメモを託し、敗者であるレイを光の結社にしなかった……これを、レイは遊矢がまだ光の結社に染まりきっておらず、抵抗しているのだと考えた。

 しかし、自分の力量では遊矢を救えないことが分かった彼女は、遊矢を救うことを剣山と共にお願いに行くことにした。

 彼の親友、三沢大地の元へ――
 
 

 
後書き
白遊矢vsレイ&剣山ペアのデュエルでした。

……どっかのずっと出番なしメインヒロインより、レイの方がよっぽどヒロインしててヤバいヤバい。


どっかのメインヒロイン再登場の時、メインヒロインに出来るか心配ですね。

では、感想・アドバイス待っています。 

 

―妖怪vs大天使―

 
前書き
いつもよりか な り長くなってます。 

 
 レイと剣山はデュエルに敗北したその後、十代と並んで今の黒崎遊矢に勝てる可能性のある人物、三沢大地に会うためにラー・イエロー寮を訪れていた。
彼の所属は一年時から既に、黒崎遊矢と共に実力でオベリスク・ブルーに昇格していたものの、ホワイト寮となっているオベリスク・ブルー寮に帰れる筈もなく、ラー・イエロー寮に身を寄せている……筈だったのだが。

 いくら呼びかけと共にドアを叩こうと、PDAで三沢大地を呼びだそうとしても通じず、端的に言ってしまえば行方不明であった。
自分たちと同じように洗脳された遊矢にデュエルを挑みに行ったのか、とレイと剣山は考えたが、同寮の友人である神楽坂によると、『三沢は一週間ほど部屋から一歩も出ていない』とのことだった。

 神楽坂の証言通りならば、三沢が部屋にいることは確定なのだが……一週間も出ていないとなると、流石にその身体が心配になってきてしまう。

「仕方ない、ぶち破るザウルス!」

 言うや否や、ラー・イエロー寮のドアに剣山は、密室殺人事件の探偵ばりのタックルを三度ほどかまし、三沢の部屋のドアを吹き飛ばした。
レイが恐る恐る三沢の部屋の中を覗いてみると……そこは、彼女の理解が追いつかない空間だった。

 部屋中のもの――壁だけでなく天井や剣山が吹き飛ばしたドアなど――にびっしりと数式が書かれており、部屋の主である三沢はソファーの上で数式が書かれた紙を掛け布団のようにし、死んだように眠っていた。
辺りには、食事にしたカロリーメイト包み紙のようなものが落ちていて、そこにまで数式が書いているのだから、この部屋が狂気に満ち満ちていることを感じさせた。

「こ、怖い……」

 出来れば一生関わり合いたくない類の部屋に、つい二の足を踏んでしまうが、幸いにも剣山がドアを吹き飛ばした衝撃で、三沢がソファーから身を起こした。

「しまった、寝てしまっていたか……レイくんに剣山? どうしたんだ?」

「どうしたはこっちのセリフだドン……」

 三沢がどうしていたかは解らないが、レイは、自分たちが遊矢に挑んだが負けてしまったこと、それでも遊矢は洗脳されきっていないことなど、今の状況を説明しようとした時、三沢の部屋を訪れた意外な闖入者がレイの言葉を遮った。

「三沢。ここの入り口に遊矢が訪ねて来ているぞ。……お前とデュエルがしたいそうだ」

 背後から聞き捨てならないセリフを言いながら登場したのは、一応このデュエル・アカデミアに在籍している学生プロデュエリスト、エド・フェニックス……その人物の登場にもレイは充分に驚いたものだったが、彼女はそれよりエドの放ったセリフの方に注目したようだ。

「遊矢様が……来てるの?」

「……様? 何をさせてるんだあいつは……ああ。ついさっきここに来たらしい」

 ずっと部屋にこもって出て来ない三沢に何を感じ取ったか、それはエド本人にしか解らないことだが、エドはこの頃ラー・イエロー寮へと頻繁に顔をだし、精霊の力を借りて籠もりきりの三沢の様子を窺っていた。
部屋の中では、部屋や紙に熱心に数式を書きながら、自らのデッキを組み上げている三沢の姿があった。

「解った。遊矢とデュエルするために、俺はこのデッキを組んでいたんだ」

 レイと同様、それは全て親友を救うためのデッキ調整だ。
テーブルの上に置いてあった自らのデッキとデュエルディスクを取り、三沢は部屋から玄関先へと出ようとする。

「三沢先輩……その、このカード入れてください!」

 部屋から玄関先へと向かうすれ違いざまに、レイは三沢へと一枚のカードをデッキに入れるように頼み込んだ。
そのカードとは当然ながら、先程遊矢から託された彼本来のマイフェイバリットカード《スピード・ウォリアー》だ。

「……ああ。任せてくれ」

 レイから差し出されたスピード・ウォリアーのカードを、三沢は一瞬躊躇した後に自身のデッキへと投入した。

 彼はデッキを構築する際、全て計算づくで構築するタイプのデュエリストであるため、一枚でも余計なカードが入っては計算が狂ってしまうという懸念があった。
だが三沢は、そんな自分のくだらない計算よりも、自身が持ち得ぬ『カードの精霊の力』を信じてデッキへと投入したのだ。


 そして、部屋から出てラー・イエロー寮の玄関先へとたどり着いた彼が見たものは――変わり果てた親友の姿だった。

「……遊矢」

 一応その名を呼びかけてみたものの返事はなく、ただただデュエルディスクを構えているだけの姿は、まさに斎王の人形そのものであり、覚悟していたがやるせない感情に襲われて自然と目をつぶっていた。

「三沢。お前が負ければ僕がデュエルしてやるから、安心して負けるんだな」

 ラー・イエロー寮の壁にもたれかかるエドの憎まれ口を受け、自分が遊矢を救うのだという決意を再確認して目を開ける。

 そのまま腕についているデュエルディスクに、彼が今考えられる中で最高のデッキを差し込んだ。
部屋中を計算式だらけにして改造されたデッキには、未だ実験段階であったギミックを搭載してあったが、従来の【妖怪】デッキでは遊矢との実力が離れていることを実感していた三沢は、迷わずそのギミックをデッキへと投入していた。

 三沢がデュエルの準備を完了させたのを見ると、遊矢も緩慢な動きではあったがデュエルディスクを展開させ、デュエルの準備が完了する。

 レイに剣山、エド、神楽坂を始めとするその数を減じさせているラー・イエローの生徒たちが見守る中、遊矢と三沢のデュエルが始まった。

『デュエル!』

三沢LP4000
遊矢LP4000

「俺の先攻。ドロー!」

 デュエルディスクが先攻を示したのは三沢であり、気合い充分と言った様子でカードをドローする。

「俺はモンスターをセット。カードを一枚伏せてターンを終了する」

「俺のターン。ドロー」

 三沢の初手は、アンデット族モンスターを墓地に送ることが出来る《牛頭鬼》であることが多いため、セットモンスターを出しただけで動かず終了とは、三沢にしては珍しいことだった。

「俺は《神の居城-ヴァルハラ》を発動」

 遊矢の背後に、散っていった戦士たちが集うヴァルハラへと通じる門が開く。
《神の居城-ヴァルハラ》について、三沢は【機械戦士】でなかったことに眉をひそめ、レイと剣山はこの短時間で【天空の聖域】からデッキタイプが変わっていると驚愕した。

 それに加えて、もしかしたら光の結社の洗脳が進んでいるのではないか、という危機感も……

「神の居城-ヴァルハラにより、俺は手札から天使族モンスター《光神テテュス》を特殊召喚する」

光神テテュス
ATK2400
DEF1800

 光と共にその門が開き、ヴァルハラから上級モンスターである光神テテュスがノーコストで特殊召喚された。

「バトル。光神テテュスでセットモンスターに攻撃」

 光神テテュスから発せられた神々しい光が、三沢のセットモンスターを攻撃し、その正体を露わにしていった。

「俺のセットモンスターは《ライトロード・ハンター ライコウ》だ! よってリバース効果が発動する!」

 光神テテュスの攻撃によって純白の色をした犬がリバースされ、そのリバース効果が発動すると共に、そのデュエルを見ていた見学者たちを驚かせた。
三沢のデッキは、遊矢の【機械戦士】がそうであるように彼自身の代名詞たる【妖怪】デッキであるという前提で考えていた見学者は、リバースするモンスターのカテゴリが、まさか《ライトロード》であるなどと解るわけがなかったからだ。

 もちろん三沢のデッキが【ライトロード】になったというわけではなく、ライトロードの特色である高速の墓地肥やしへと目を付けた三沢は、優秀な効果を持ったいくつかのライトロードを、彼の【妖怪】デッキへと投入したのだった。

「《ライトロード・ハンター ライコウ》の効果により、《神の居城-ヴァルハラ》を破壊した後、デッキからカードを三枚墓地へと送る!」

 効果を単純に見れば過去の強力カードだった《人喰い虫》の上位互換である白い犬が、すぐさま遊矢のデッキのキーカードであるだろうヴァルハラへと通じる門を破壊した。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「待て。遊矢のエンドフェイズ時《もののけの巣くう祠》を発動! 俺のフィールドにモンスターがいない時、墓地からアンデット族モンスターを特殊召喚する! 出でよ《カラス天狗》!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

 三沢の主力モンスターの一体である妖怪の、《カラス天狗》が墓地から特殊召喚され、その効果を起動させる。

「カラス天狗が墓地から特殊召喚された時、相手モンスター一体を破壊出来る! 悪霊退治!」

 ライコウの効果でヴァルハラを破壊しただけでは飽きたらず、三沢はカラス天狗の扇が光神テテュスを破壊する。

 先程、ライコウの効果でテテュスを破壊していたら、この結果はなくカラス天狗の効果はただの空撃ちとなっていた。
だが、結果は見ての通りヴァルハラもテテュスも破壊することとなり、三沢の先見性とそれに賭けられる胆力を改めて感じさせた。

「このまま終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 まず最初のターンでの攻防は、遊矢のフィールドにはリバースカードが二枚だけという状況を見る限り、完璧に三沢が制したと言って良いだろう。

 そして、このタイミングで攻め込まぬ手はない。

「俺は《カラス天狗》をリリースし、《龍骨鬼》をアドバンス召喚する!」

龍骨鬼
ATK2400
DEF2000

 カラス天狗自らが起こした炎に包まれて骸骨の姿になり、その骸骨が巨大になりながら組み上げられて龍骨鬼がアドバンス召喚される。
その効果は今の遊矢のデッキ相手では活かせないので、バニラ同然ではあるが関係ない。

「バトル! 龍骨鬼で遊矢にダイレクトアタック!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動。戦闘ダメージを無効にし、一枚ドローする」

 遊矢もただでやられるわけがなく、それを象徴するように龍骨鬼の攻撃は無数のカードによって後一歩届かない。

「俺もカードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー」

 今の遊矢のデッキのキーカードである、《神の居城-ヴァルハラ》と《光神テテュス》が破壊され、すっかり下り坂となってしまった遊矢だが、その瞳には相変わらず何の感情もない。

「《天空の宝札》を発動。天使族モンスターを一枚除外し、カードを二枚ドローする」

 パワーカードの代表格の宝札という名が付いてはいるが、大型モンスターの特殊召喚がメインの天使族において、特殊召喚が出来ずバトルも行えないというのは軽いデメリットではない。

「俺は《ジェルエンデュオ》を守備表示で召喚し、ターンを終了する」

ジェルエンデュオ
ATK1700
DEF0

「俺のターン、ドロー!」

 《天空の宝札》のデメリット効果によってか、遊矢はほぼ動かずにターンを終了した。
守備表示で守備されたジェルエンデュオは、ダメージを受けた時自壊するというデメリット効果はあるものの、ダブルコストモンスターでありながら戦闘破壊耐性を持つという破格の効果を持っているため、どうにか処理をしなければ天使族の最上級モンスターがアドバンス召喚されるだろう。

「俺は《陰魔羅鬼》を召喚する」

陰魔羅鬼
ATK1200
DEF1000

 墓地から特殊召喚された時に一枚ドローするという効果を持つ、カラス天狗と並ぶ三沢のデッキの主力モンスターではあるが、手札から召喚されたためにただのステータスが低い下級モンスターにしかすぎない。

「墓地のこのカードは、フィールドのアンデット族モンスターを二体墓地に送ることで特殊召喚出来る! 現れろ《九尾の狐》!」

九尾の狐
ATK2200
DEF2000

 墓地からのアドバンス召喚と同じコストを払って召喚されたのは、妖怪に詳しくない者でもその名は知っているだろうというぐらい有名な九尾の狐。
上級モンスターの割にはステータスが低いものの、墓地から特殊召喚した時貫通効果とトークン精製効果を持った、妖怪の中でも特に小回りの効くモンスターである。

「バトル! 九尾の狐でジェルエンデュオに攻撃! 九尾槍!」

 前述の通り、九尾の狐は墓地から特殊召喚された時に貫通効果を得ることが出来、ジェルエンデュオは守備力が0の為に相性は抜群と言って良い。

遊矢LP4000→1800

 壁モンスターとして召喚されたジェルエンデュオは、その役目を果たせずにデメリット効果で自壊し、遊矢はダイレクトアタックと同等のダメージを受けた。

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「お前のエンドフェイズ《奇跡の光臨》を発動。除外されている《光神テテュス》を特殊召喚する」

 相手ターンのエンドフェイズ時にモンスターを特殊召喚するという、先のターンの三沢と同じことを、《天空の宝札》によって除外されていた光神テテュスを特殊召喚した。
《光神テテュス》は、天使族限定の《凡骨の意地》とも言える効果を持っているために、三沢は遊矢のドローフェイズに回したくはなかったが、手札を見ても《光神テテュス》を破壊出来るカードは無い。

「……このままターンエンド」

「俺のターン、ドロー……引いたカードは天使族モンスター《アテナ》。よって一枚ドロー。もう一枚の《アテナ》。更に一枚ドロー」

 強力な最上級天使族モンスターが二体引かれたことに三沢は歯噛みするが、ダブルコストモンスターである《ジェルエンデュオ》は破壊したため、少なくともこのターンでは現れないだろうと考えた。

「《トレード・イン》を発動し、手札のレベル8モンスターを捨て二枚ドロー。そして《光神化》を発動。手札の《アテナ》をステータスを半分にして特殊召喚する」

アテナ
ATK2600
DEF800

 天使族の代表格であるモンスター《アテナ》が特殊召喚されるが、《光神化》によってステータスは半分だ。
だが、次に何が起きるかデッキが違えど前回のデュエルで経験したレイと剣山は、あのモンスターが大量展開されることに息を飲んだ。

「速攻魔法《地獄の暴走召喚》。手札とデッキから更に二体《アテナ》を特殊召喚させてもらう」

「甘い! リバースカード《電闇石火》!」

 まるで雷光のように走った黒い稲妻が、《地獄の暴走召喚》によって特殊召喚されかけていた《アテナ》二体を、フィールドに特殊召喚される前に同時に破壊する。
《光神化》からの《地獄の暴走召喚》による最上級モンスター大量展開は、天使族デッキにおいては常套手段である以上、三沢大地が対策をしていない筈がない。

「《電闇石火》は相手の特殊召喚を無効にして破壊する! 更に、俺は《地獄の暴走召喚》によって《九尾の狐》をもう一体特殊召喚させてもらう!」

 遊矢の《地獄の暴走召喚》による《アテナ》の特殊召喚が無効にされようと、デメリット効果による《九尾の狐》の特殊召喚は問題なく行われる。

 だが三沢にとって誤算だったのが、特殊召喚されようとしたのが《アテナ》だったということだ。

「《光神化》によって特殊召喚したモンスターは効果までは無効にならない。《ジェルエンデュオ》を召喚し、アテナの効果。天使族モンスターが召喚・特殊召喚された時、600ポイントのダメージを与える」

「……くっ、墓地の《ダメージ・ダイエット》を除外することで、このターンの効果ダメージを半分にする!」

 とっさのことで三沢が発動した《ダメージ・ダイエット》によるシールドが、三沢の周囲を守ってアテナからの閃光によるバーンダメージを半分にする。

三沢LP4000→3700

「《ジェルエンデュオ》をリリースし、《アテナ》の効果を発動。ジェルエンデュオを墓地に送り、《アテナ》を特殊召喚する」

 二体目のハート型である天使族のダブルコストモンスターが通常召喚されるや否やリリースされ、代わりに墓地から特殊召喚を無効にされた大天使が特殊召喚され、第一のアテナによる効果ダメージが三沢を襲う。

三沢LP3700→3400

 フィールドの天使族モンスターを墓地に送ることで、墓地から天使族モンスターを特殊召喚するの効果と、天使族モンスターが召喚・特殊召喚する効果は絶妙に噛み合っており、最上級モンスターを大量展開するだけでなく、バーンダメージだけで相手プレイヤーのライフを一瞬で削り取ることも容易い。

「更に第二の《アテナ》の効果発動。《光神テテュス》をリリースすることで、第三の《アテナ》を特殊召喚する」

 天使族のドローソースである《光神テテュス》をもリリースされ、《地獄の暴走召喚》となんら変わらず三体の《アテナ》が特殊召喚される。

「二体のアテナによる合計600ポイントの効果ダメージを与える」

三沢LP3400→2800

 アテナの杖から放たれる光は、《ダメージ・ダイエット》によって三沢の周囲に展開するシールドに、そのダメージを半減させるものの、確実にライフを奪っていく。

「バトル。二体目の《アテナ》で九尾の狐に攻撃」

 《アテナ》がその手に持った長い杖を九尾の狐に向けると、三沢に放っている光とは段違いの威力を持った光が放たれ、《地獄の暴走召喚》によって特殊召喚されていた九尾の狐を破壊する。

「くっ……!」

三沢LP2800→2400

「更に三体目。九尾の狐に攻撃」

 《地獄の暴走召喚》を発動する前に、すでにフィールドにいた一体もアテナの放つ光の前に破壊されてしまうが、三沢のフィールドには二体の小さい狐が守備表示で現れていた。

「墓地から特殊召喚されたこのカードが破壊された時、二体の《狐トークン》を特殊召喚する!」

三沢LP2400→2000

 二体の《狐トークン》を精製する効果、これこそが《九尾の狐》が不死のモンスターと言われる理由である。
このトークンがフィールドに残ったまま、次の自分のターンを迎えることが出来れば、再び《九尾の狐》は墓地から蘇るからだ。

「一体目のアテナで狐トークンを攻撃」


 だが、狐トークンを自分のターンに二体残すことは適わず、最後のアテナに破壊されてしまう。
いくら《光神化》でステータスが半分になっていようとも、トークンを破壊することなど容易いことだ。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢のターンのエンドフェイズ時に《光神化》によって特殊召喚されていた《アテナ》は破壊されたが、依然として《アテナ》は二体フィールドに居座っている……このターンでどうにか処理をしなければ、次のターンでモンスターを召喚されただけで三沢は敗北への一歩を着実に歩みだすことになる。

「俺は《ソーラー・エクスチェンジ》を発動! 手札の《ライトロード》を一枚捨て、二枚ドローした後にデッキからカードを三枚墓地に送る!」

 劣勢の今の三沢には心強い、手札交換と墓地肥やしカードを兼ねた新たな魔法カードを引き入れて発動する……そして、そのおかげで三沢は願っていたモンスターを手札に引き入れることに成功した。

「俺は《狐トークン》をリリースし、《砂塵の悪霊》をアドバンス召喚する!」

砂塵の悪霊
ATK2200
DEF1800


 スピリットであるため、アンデット族では致命的とも言える特殊召喚不能効果を持っているが、そのデメリットを補って余りある効果を、この砂塵を意のままに操る妖怪は持っていた。

「このカードが召喚された時、相手フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 砂塵の悪霊はその名が伊達ではないことを証明するように、アテナたちを巨大な砂嵐を起こして包み込む。
砂塵によって水分を奪われた者の末路は人間だろうと天使だろうと変わることはなく、ただ水分を奪われたことにより干からびて死ぬだけだった。

「バトル! 砂塵の悪霊でダイレクトアタック!」

「リバースカード《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地から《アテナ》を特殊召喚」

 万能蘇生カードによって、墓地からアテナが砂塵の悪霊が発した砂をかき消しながら特殊召喚される。

「《砂塵の悪霊》の攻撃を中止し、カードを二枚伏せターンエンド」

「俺のターン。ドロー」

 三沢にとって防がれることはまだ想定内だったが、《アテナ》の特殊召喚は想定していた中でも悪い方に位置する結末だった。
せっかく《砂塵の悪霊》が《アテナ》二体を破壊したというのに、このままでは先のターンの二の舞になるだけなのだから。

「俺は《ジェルエンデュオ》を召喚」

 三体目の召喚となる天使族のダブルコストモンスターは、またもや効果を使われることはなく運命は決まっていた。

「アテナの効果発動。ジェルエンデュオが召喚されたことで、600ポイントのダメージを与える」

三沢LP2000→1400

 もう墓地に《ダメージ・ダイエット》のようなカードはなく、効果ダメージを防ぐことは出来はしないため、三沢は甘んじて第一の光を浴びた。

「更にジェルエンデュオをリリースすることで、《光神テテュス》を墓地から特殊召喚する」

 特殊召喚されたのは二体目のアテナではなく、ドロー効果を持った光神テテュスだった。
もうデュエルも中盤になったことで、お互いに手札が心もとなくなる頃であるし、アテナだろうと光神テテュスだろうと、理論上三沢にはトドメはさせるのだから大した問題は無いだろう。

三沢LP1400→800

「バトル。光神テテュスでダイレクトアタック。ホーリー・サルヴェイション」

「リバースカード、オープン! 《レインボー・ライフ》! 手札を一枚捨てることで、このターンに受けるダメージ分ライフを回復する!」

 光神テテュスの光を三沢の前に現れた虹が無力化し、そのまま三沢のライフへと還元されていき、三沢のライフポイントは800から3200の安全圏へと移る。
《砂塵の悪霊》……というかスピリット特有の効果によって三沢はフィールドを空にせざるを得ないため、二枚のリバースカードで守っておくのは当然であるのだから守ったこと事態に驚くことはない。

 三沢にとって重要なのは、《アテナ》のバーン効果を相手にするのに安心出来るライフになったことだった。

「カードを一枚伏せてターンエンド」

「遊矢。君のエンドフェイズに《妖魔の援軍》を発動。1000のライフを払うことで、墓地から《カラス天狗》と《陰魔羅鬼》を特殊召喚する!」

 《レインボー・ライフ》の効果によって安心して発動出来る罠《妖魔の援軍》によって、三沢の最も愛用している主力妖怪二体が墓地から特殊召喚される。
お互いに墓地から特殊召喚した時、発動する効果がある妖怪たちだ。

「《陰魔羅鬼》によって一枚ドローし、《カラス天狗》によって《アテナ》を破壊する! 悪霊退治!」

 二体とも墓地から特殊召喚するだけで容易にアドバンテージをとれる優秀な効果であることに加え、二体並べて特殊召喚した時にはその相乗効果が更に期待することが出来る。

 事実、フィールドを制圧していた《アテナ》は《カラス天狗》の扇の一振りで破壊されたのだから。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢の改めてのターンエンド宣言を受けてカードをドローし、手札に残る《砂塵の悪霊》を手に取った。
遊矢のフィールドに伏せられている、あのリバースカードは十中八九《砂塵の悪霊》に対抗するためのカードであるだろうが、どちらにせよ《砂塵の悪霊》を召喚しなければ《光神テテュス》を突破することは出来やしない。

「《カラス天狗》をリリースし、《砂塵の悪霊》をアドバンス召喚! 効果により、《光神テテュス》を破壊する!」

「カウンター罠《天罰》を発動。手札を一枚捨て、《砂塵の悪霊》の効果を無効にして破壊する」

 《砂塵の悪霊》の頭上にある天空が裂けていき、そこから放たれた光が《砂塵の悪霊》を貫き、まさに神が悪霊に天罰を与えているようだった。

「陰魔羅鬼を守備表示にし、ターンエンド」

「俺のターン。ドロー。引いたカードは《ウィクトーリア》、一枚ドロー。《ジェルエンデュオ》を引いた。もう一枚ドロー」

 天使族モンスター《ウィクトーリア》と《ジェルエンデュオ》が計二枚ドローされ、遊矢は《光神テテュス》の効果によって三枚のアドバンテージを獲得することに成功する。

 遊矢のフィールドには光神テテュスが一体で、三沢のフィールドは陰魔羅鬼が守備表示でお互いにリバースカードはなく、ライフポイントは遊矢が1800で三沢が2200……三沢のフィールドのモンスターが下級モンスターであること以外は、ほぼ互角と言って良いだろう。

「《ウィクトーリア》を召喚」

ウィクトーリア
ATK1800
DEF1500

 先程のドローフェイズに《光神テテュス》のドロー効果を起動させた、光り輝く龍に乗って杖を持った天使が召喚される。
天使族を攻撃対象に選択させない効果はともかく、相手の墓地のドラゴン族のコントロールを奪う効果は強力だが、三沢のデッキ相手に使えることはない。

「バトル。ウィクトーリアで陰魔羅鬼に攻撃」

 ウィクトーリアが杖を陰魔羅鬼に振りかざすと、ウィクトーリアに操られているドラゴンが陰魔羅鬼に向かって光を放って破壊した。

「更に光神テテュスでダイレクトアタック。ホーリー・サルヴェイション」

 光神テテュスの背後から放たれる光が、モンスターという壁がない三沢へと襲いかかっていくが、墓地から飛びだした三沢のデッキ唯一の戦士族が代わりに受けた。

「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外し、バトルを無効にする!」

 《ライトロード》関連の効果によって高速で墓地肥やしされる以上、戦士族とはいえ汎用性の高い《ネクロ・ガードナー》を採用しない理由は見当たらなかった。

「ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 《ネクロ・ガードナー》のおかげで危ないところを切り抜けられたことに感謝し、ドローしたカードを見てニヤリと笑う。

「魔法カード《光の援軍》を発動! デッキからカードを三枚墓地に送り、デッキから《ライトロード・サモナー ルミナス》を手札に加える!」

 ライトロード専用の《増援》といったカードの《光の援軍》で、ライトロードの中でも有数の強力な効果を持ったルミナスが三沢の手札に加えられた。

「ライトロード・サモナー ルミナスを召喚!」

ライトロード・サモナー ルミナス
ATK1000
DEF1000

 ステータス自体は攻撃力も守備力も1000といった貧弱な数値ではあるが、『サモナー』というその名の通り墓地の《ライトロード》を特殊召喚する効果を持っている。

「ライトロード・サモナー ルミナスの効果! 手札を一枚捨てることで、墓地から《ライトロード》と名の付いたモンスターを特殊召喚する! 来い、《ライトロード・パラディン ジェイン》!」

ライトロード・パラディン ジェイン
ATK1800
DEF1500

 遊矢のフィールドにいる天使族《ウィクトーリア》と偶然にも同じステータスを持った《ライトロード》におけるアタッカーであり、下級モンスターの打点が低い三沢のデッキにとって、アタッカーとしても墓地肥やしとしても一粒で二度美味しいモンスターだった。

「更に墓地の《馬頭鬼》を除外し、《カラス天狗》を墓地から特殊召喚する!」

 ライトロードシリーズの墓地肥やしのおかげで、墓地に送られていた《馬頭鬼》の効果によってまたも墓地から《カラス天狗》は特殊召喚され、その効果が発動した。

「《カラス天狗》が墓地から特殊召喚されたため、《光神テテュス》を破壊する! 悪霊退治!」

 もう三度目になるカラス天狗の扇の振りが、《光神テテュス》を効果破壊して遊矢のフィールドを《ウィクトーリア》のみにする。

「このターンで終わらせてもらう! ライトロード・パラディン ジェインで、ウィクトーリアを攻撃!」

 《ライトロード・パラディン ジェイン》と《ウィクトーリア》のステータスは同じであるが、光の聖騎士は攻撃する時に300ポイント攻撃力をアップさせる効果を持っている。
聖騎士による光る剣戟がウィクトーリアを切り裂き、遊矢に《ジェルエンデュオ》へと貫通ダメージを与えた以来の戦闘ダメージを与えることに成功する。

遊矢LP1800→1600

「更に、カラス天狗でダイレクトアタック!」

 カラス天狗とライトロード・サモナー ルミナスの二体のモンスターの攻撃で、遊矢のライフポイントは0になる。
今の遊矢の【天使族】デッキに、斎王から得られる可能性のある《冥府の使者 ゴーズ》を始めとする、手札で発動するカードは《宣告者》と呼ばれるシリーズ以外はないと、三沢は推測したのだが……

 彼は、結果として親友の《機械戦士》に対する想いを見誤っていたのかもしれない。

「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了する」

「なっ!?」

 今まで天使族モンスターで白く光るモンスターしか採用していなかったことにも関わらず、突如として出現した《速攻のかかし》がカラス天狗の遊矢への攻撃を自分を犠牲にして庇ったのだ。
別に、《速攻のかかし》は採用されていてもおかしくないカードだが、三沢には遊矢が《機械戦士》のカードを採用して、未だ斎王からの洗脳を耐えているのだと考えた。

「……君は……ターンを、終了する……」

 エンドフェイズ時に、《ライトロード・サモナー ルミナス》と《ライトロード・パラディン ジェイン》の効果によって、合計で五枚のカードがデッキから墓地に送られていく。
三沢の予測よりも、ライトロードの墓地肥やしが早く――そこが利点なのだが――デッキ切れを起こしそうなところである。

 短期決戦でいかなければ、と《速攻のかかし》によって少し緩んだ気を引き締めた。

「俺のターン。ドロー」

 三沢の《光の援軍》と《ライトロード・サモナー ルミナス》を軸とした展開力に、遊矢のフィールドにいた《光神テテュス》と《ウィクトーリア》は破壊され、リバースカードもなくフィールドは正真正銘の空だった。

「《神の居住-ヴァルハラ》を発動」

 一ターン目に《ライトロード・ハンター ライコウ》によって破壊された、戦士たちが眠る聖域へと繋がる門が遊矢の背後へと開かれる。

 まさか、このカードの発動のために先のターンで《アテナ》の効果で展開力に秀でた《アテナ》より、手札を潤沢に出来る《光神テテュス》を選択したのかと、三沢は思い至る。

 もしもそうなのであれば、自分は《神の居住-ヴァルハラ》で切り札を特殊召喚出来るように誘導されたということになるのだろうか――と。

「《神の居住-ヴァルハラ》により現れろ、斎王様より賜りし無慈悲な天使、《大天使クリスティア》」

大天使クリスティア
ATK2800
DEF2300

 天使族の代表格とも言えるレアカードに、三沢はその効果も含めてその登場に戦慄する。
大天使クリスティアを相手にするのは三沢と言えども始めてだったが、その強力な効果は良く聞き及んでいた。

 一つ目の効果は、デュエルの中盤になっているこのタイミングには意味を成さないとはいえ、自分と相手双方に特殊召喚を封じる効果は特殊召喚をメインとする三沢には弱点と言って良い。
最上級天使族モンスターを特殊召喚する遊矢のデッキにも、大天使クリスティアの効果は良く刺さる筈なのだが、もはや大天使クリスティアがいる今では他のモンスターなど必要なく、いざとなればダブルコストモンスター《ジェルエンデュオ》がいる。

 更になんとか魔法・罠によって破壊したとしたとしても、大天使クリスティアは墓地ではなくデッキトップへと戻ってしまう。
本来ならばデメリット効果であるはずのその効果は、最上級天使を容易く特殊召喚出来る《神の居住-ヴァルハラ》の効果により、再利用し易くなるメリットへと変わるのだ。

「《ジェルエンデュオ》を召喚し、バトル。大天使クリスティアでライトロード・サモナー ルミナスに攻撃」

「ぐあああっ!」

遊矢LP2200→400

 《レインボー・ライフ》によって回復したライフを一瞬で奪われてしまい、もはや風前の灯火と言ったライフになってしまう。

「更にジェルエンデュオでカラス天狗に攻撃」

「ぐうっ……!」

三沢LP400→100

 首の皮一枚だけ、なんとか100ポイントだけ繋がって三沢のライフは残った。
だが、先程まで散々手こずっていたバーン効果を持った《アテナ》を特殊召喚され、効果が発動しただけで三沢のライフは尽きるのだから。

「これでターンを終了」

「俺のターン……ドロー!」

 三沢はこれ以上後がないために、気合いを込めてカードを引くが、この状況を打破出来るカードを引くことは出来なかった。

「《酒呑童子》を守備表示で召喚……!」

酒呑童子
ATK1500
DEF800

 だが引いたカードは、墓地のアンデット族を利用することで一枚ドローする効果を持っている妖怪《酒呑童子》であり、次なるターンに希望を届けることは出来るようだ。

「《酒呑童子》の効果発動! 墓地のアンデット族を二体除外し、一枚ドローする!」

 酒呑童子によって引いたカードは自身のエースカード《赤鬼》であり、このカードを召喚することが出来れば、《大天使クリスティア》を手札に戻してこの状況を打破する策はある。
だが、このターン三沢は既に通常召喚を終えており、手札に《二重召喚》と言ったカードは無い。

「カードを二枚伏せ、ライトロード・パラディン ジェインを守備表示にしてターンエンド」

「俺のターン。ドロー」

 ジェインの効果でデッキから二枚墓地に送られる……やはりここは、守備を固めて一ターン耐えるしか三沢には道はなかった。

「大天使クリスティアで《酒呑童子》に攻撃」

 三沢のライフをほとんど削りきった光相手では、《酒呑童子》に耐えられることが出来るはずもなく、あっけなく破壊された。

「続いて、ジェルエンデュオでライトロード・パラディン ジェインに攻撃」

「墓地から《タスケルトン》を除外し、バトルを無効にする!」

 先の《ネクロ・ガードナー》のアンデット族版のモンスターが、ジェルエンデュオの攻撃を止めた。
《ネクロ・ガードナー》と違ってデュエル中に一度しか発動出来ないデメリット効果があるため、もう再利用は望めないが……

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《タスケルトン》のおかげで遊矢の攻撃をなんとか耐えきった。
フィールドには一体のモンスター《ライトロード・パラディン ジェイン》しかいないが、そこは三沢大地、赤鬼をアドバンス召喚する布石は既に打ってある。

「墓地のモンスター《スリーピー・ビューティー》の効果! このカードが墓地にいる限り、手札のアンデット族モンスターのレベルを1下げる! この効果により、ライトロード・パラディン ジェインをリリースして《赤鬼》をアドバンス召喚する!」

赤鬼
ATK2800
DEF2100

 結果的にアドバンス召喚する場合のリリースするモンスターの数を、一体少なくすることが出来る《スリーピー・ビューティー》により、満を持して現れる三沢のエースカードである閻魔の使者、《赤鬼》が炎を吐き出さんと力を溜め込んだ。

「赤鬼がアドバンス召喚に成功した時、手札を捨てた枚数だけ相手のカードを手札に戻す! 一枚捨てることで、大天使クリスティアを手札に戻す! 地獄の業火!」

 出来れば《ジェルエンデュオ》も戻したかったものだが、三沢自身の手札が少ないことと、潤沢にある遊矢の手札からまたも《速攻のかかし》が現れたら一番厄介故にジェルエンデュオは対象に選ばなかった。

「バトル! 赤鬼でジェルエンデュオに攻撃! 鬼火!」

 赤鬼から発せられた炎を延々と受けながらも、自身の効果で戦闘破壊はされずにジェルエンデュオは耐え抜いた。
だが、戦闘ダメージは発生したために、耐えきったのもつかの間即座にデメリット効果によって自壊してしまう。

遊矢LP1600→500

 三沢にとって親友を救うための負けられない戦いは、《ライトロード》を始めとする新しいカードと《赤鬼》たち妖怪のおかげもあって、一進一退の攻防を呈していた。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン。ドロー」

 遊矢のフィールドにはモンスターがいないため、《神の居住-ヴァルハラ》の条件を満たして再び《大天使クリスティア》を特殊召喚出来る。
だが、それをさせないところまでが三沢の策略だった。

「トラップカード《マインドクラッシュ》! 宣言したカードが手札にある時、そのカードを捨ててもらう! 俺が宣言するのは当然《大天使クリスティア》!」

 《マインドクラッシュ》と言ったカードは、相手の手札が未公開情報である以上不確定なものであるが、《赤鬼》の効果で手札に戻したのだから話は別だ。
フィールド上から墓地へ送られる場合のみ、大天使クリスティアのデッキトップへと戻る効果は発動するため、手札から捨てられてしまえば効果は発動しない。

 遊矢は手札から《大天使クリスティア》を三沢に見えるように墓地へ送ると、他のカードを手札からデュエルディスクに置いた。

「我が分身《アルカナフォース0-THE FOOL》を守備表示で召喚」

アルカナフォース0-THE FOOL
ATK0
DEF0

 アルカナフォースの中でもその戦闘破壊耐性に目を付けられ、通常の【天使族】デッキでも採用されることのある、大アルカナでも特別なナンバーを持ったザ・フールがフィールドで回り始めた。

「……ストップ」

 アルカナフォースの効果に従って、三沢が回るザ・フールにストップの指示を加えた。

「逆位置。よって、ザ・フールは逆位置の効果を得る。ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 いくら戦闘破壊耐性を持っていようとも、守備表示で召喚してくれたのならば、三沢の手札にあるモンスターにとっては好都合だった。

「《ライトロード・モンク エイリン》を召喚!」

ライトロード・モンク エイリン
ATK1600
DEF1000

 ライトロードの格闘技を極めた修行僧がフィールドに現れる。
彼女の効果は、守備表示モンスターに攻撃した時にダメージ計算前に攻撃した守備表示モンスターをデッキに戻すというもので、今の状況に適した効果であった……三沢としては、欲を言えばアンデット族モンスターを召喚して、墓地から《九尾の狐》を特殊召喚したかったが。

「バトル! ライトロード・モンク エイリンで、ザ・フールに攻撃! デッキへと戻ってもらう!」
 ライトロード・モンク エイリンがザ・フールをデッキへと戻そうと迫るが、攻撃を加える前にザ・フールがその触手でエイリンの胸を貫いた。

「《アルカナフォース0-THE FOOL》の逆位置の効果。このカードを対象にするカードの効果を無効にして破壊する」

 アルカナフォースは、逆位置の効果がメリットであるカードも少なからず存在していることを頭に入れておかなかったことを悔いながら、三沢はそのまま守備を固めてターンを終了する。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 だが、遊矢の方も戦闘破壊耐性のあるザ・フールのせいで《神の居住-ヴァルハラ》を発動することは出来ず、一体だけのリリース素材でアドバンス召喚出来る《光神テテュス》では赤鬼の攻撃力を超えることは出来ない筈だ。

「《コート・オブ・ジャスティス》を発動。レベル1の天使族がいる時、一ターンに一度天使族モンスターを特殊召喚出来る」

 そんな三沢の思惑も外れ、遊矢はまた別の特殊召喚の手段である光と正義が支配する法廷を用意をしてくる。
戦闘破壊耐性がいる限り、フィールドに天使族がいたら特殊召喚出来ない《神の居住-ヴァルハラ》と違って、毎ターン最上級天使族モンスターを特殊召喚される気配をはらんでいた。

「《コート・オブ・ジャスティス》の効果。《大天使クリスティア》を特殊召喚する」

 光と共に、再び特殊召喚される無慈悲な天使が赤鬼の前に立つ。
三沢と遊矢のエースカード同士が睨み合い、大天使クリスティアが赤鬼へと攻撃の意志を示した。

「大天使クリスティアで赤鬼へと攻撃」

 大天使クリスティアの光と赤鬼の炎がぶつかり合い、同じ攻撃力の為に双方同時に破壊されてしまう。
だが赤鬼と違って、大天使クリスティアには墓地へと送られる代わりにデッキトップへ送られる効果を持っているため、ドローロックをされるが再利用は《コート・オブ・ジャスティス》のおかげで容易だ。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! 《貪欲な壷》を発動して二枚ドローする! ……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

 これで三沢のフィールドはリバースカードが二枚のみで、遊矢のフィールドにはザ・フールと神の居住-ヴァルハラとコート・オブ・ジャスティスの二枚が控えている。

「俺のターン、ドロー」

 遊矢はデッキトップの大天使クリスティアを引き、フィールドが空となっている三沢へとトドメを刺さんとデュエルディスクにセットした。

「《コート・オブ・ジャスティス》の効果発動。《大天使クリスティア》を特殊召喚する」

「そこだ! カウンター罠《閻魔の裁き》!」

 コート・オブ・ジャスティスから光が放たれて大天使クリスティアが特殊召喚されようとした時、黒い炎と共に地獄の門番閻魔大王が現れ、現れかけていた大天使クリスティアを地獄に落とした。

「《閻魔の裁き》は相手の特殊召喚を無効にして破壊し、デッキから《赤鬼》を特殊召喚する!」

 閻魔大王が現れていた黒い炎が姿を変えていき、自分が地獄へと戻る代わりに閻魔の使者が特殊召喚される。
大天使クリスティアは、フィールドに出る前に召喚を無効化されたためにデッキトップへと戻れず、三沢のフィールドにはエースカードが舞い戻った。

「《ウィクトーリア》を守備表示で召喚し、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! 《ピラミッド・タートル》を召喚!」

ピラミッド・タートル
ATK1200
DEF1100

 ドローしたカードは待望のアンデット族モンスターであり、戦力としてはあまり期待出来ないリクルーターではあったが、三沢の手札にあるカードにとって、モンスターが召喚出来ればそれで良かった。

「フィールドに二体のアンデット族モンスターがいる時、このカードは特殊召喚出来る! 招来せよ《火車》!」

火車
ATK?
DEF1000

 三沢にとって赤鬼がエースカードならば、この特殊召喚されたモンスターは切り札とも言えるカード。
かつてセブンスターズの一人、タニヤとデュエルした際にもフィニッシャーとして活躍したその効果を、このデュエルでも十全に活かす。

「火車がフィールドに特殊召喚された時、全てのモンスターをデッキに戻し、戻したアンデット族モンスターの数×1000ポイント攻撃力をアップさせる! 冥界入口!」

 火車の開いた冥界への入口に、三沢の赤鬼とピラミッド・タートル、遊矢のザ・フールとウィクトーリアが吸い込まれていく。
ザ・フールの対象に選択されたら無効にして破壊する効果も、ウィクトーリアの他のモンスターを攻撃対象に選択させない効果も、冥界という名のデッキに戻されては何の意味まなさない。

「火車でダイレクトアタック! 火炎車!」

 赤鬼とピラミッド・タートルという二体のアンデット族モンスターをデッキに戻したため、その攻撃力は2000という物足りない数値ではあるが、遊矢僅か500という遊矢のライフを削りきるにはオーバーキル過ぎるぐらいだ。

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外し、バトルを無効にする」

 このタイミングでの予想だにしない《ネクロ・ガードナー》の登場に、火車の必殺の攻撃が止められてしまう。

 《ライトロード》シリーズを使って高速で墓地肥やしを行っている三沢と違って、遊矢が墓地へとカードを送ったのはただ一度だけ。
それは、カウンター罠《天罰》で三沢の《砂塵の悪霊》の効果を無効にした際、コストで墓地に送ったカードが一枚……ここまで温存していたということらしい。

「……これでターンエンド」

「俺のターン。ドロー。《貪欲な壷》を発動し二枚ドロー」

 三沢と同じように遊矢も《貪欲な壷》で手札を補充すると、二種類ある天使族モンスターサポートの内、遊矢の背後にそびえ立ったヴァルハラへと門を開いた。

「《神の居住-ヴァルハラ》を発動。《大天使クリスティア》を特殊召喚する」

 《貪欲な壷》によってデッキに戻したのだろう、再び門から遊矢の切り札である無慈悲な天使が、光とともに特殊召喚された。

「バトル。大天使クリスティアで火車に攻撃」

「《和睦の使者》を発動する!」

 攻撃表示の火車が破壊されて敗北することは避けられたが、またも特殊召喚封じの大天使クリスティアが召喚され、もう三沢には《マインドクラッシュ》や《閻魔の裁き》のようなカードはない。

「ターンエンドだ」

「俺のターン……」

 このデュエルも、お互いのライフを考えると終盤戦となって三沢のライフも手札もデッキも限界を迎え、一枚だけあるリバースカードも特殊召喚する関連カードであったので、大天使クリスティアの効果によって発動すら不可能となってしまっている。

「……三沢」

 デッキからカードをドローする直前に声をかけられて顔を上げると、遊矢が人形のようだった瞳ではなく、いつもの遊矢へと戻っているように見えた。

「自分と、その自分が組んだデッキを信じろ――そうすれば、デッキは応えてくれる」

 遊矢はそう一言言葉を絞り出すと、先程までの洗脳された人形のような瞳へと戻ってしまう。

 その言葉を聞いて、三沢は遊矢らしいと思うと共に羨ましいとも思った。
それは凡人である自分には、カードと頭脳で補うことでしか到達出来ない境地だろうから……かつてカイザー亮は、遊矢と【機械戦士】のことを『デッキに入っているカードを全て理解し、信頼し、組み合わせることでどんなに強いモンスターをも倒す』と例えたらしいが、的を射ていると自分でも思う。

「……ドロー!」

 だが自分とてこの【妖怪】デッキを信じていない訳がなく、ただデッキを信じてカードを引いた。

 そして、引いたカードとは。

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

『トアアアアッ!』

 力強い雄叫びをあげながら、デュエル前にレイから託された遊矢のフェイバリットカードが召喚された。
絶望的な状況からの《スピード・ウォリアー》を使っての逆転劇は遊矢の領分であるが、彼のデッキの精霊とやらが力を貸してくれたのだろうか。

「《ミニマム・ガッツ》を発動! 火車をリリースし、大天使クリスティアの攻撃力を0にする!」

 アンデット族モンスターを展開する三沢のデッキには、《ミニマム・ガッツ》の効果条件を満たすことは容易い。
《大天使クリスティア》はその効果によって遊矢のデッキトップに戻ってしまうため、《ミニマム・ガッツ》による効果ダメージは望めないが、攻撃力を0にするだけで充分だ。

「バトル! スピード・ウォリアーで大天使クリスティアに攻撃! ソニック・エッジ!」

 攻撃力を倍にする効果は、遊矢のライフポイントやリバースカードがないことを併せて考えると使う必要はなく、使って《朱光の宣告者》が発動でもされたら笑えない。

 だがスピード・ウォリアーが攻撃しようとした時、大天使クリスティアに元々とは別の白銀の翼が二つ生えてきて、突如として力を取り戻した。

「手札から《オネスト》を発動する」

 光属性と属する主力モンスターがほぼ天使族にとっての切り札《オネスト》の登場に、大天使クリスティアの攻撃力はスピード・ウォリアーと同じ攻撃力まで上昇し、双方とも相討ちという結果となった。

 前述の通り、《大天使クリスティア》はその効果によって遊矢のデッキトップへと戻っていく為に、《ミニマム・ガッツ》の発動条件である『墓地へ送る』ことが出来ないので効果ダメージを与えることは出来ない。
更に三沢にとって追い風となるのは、遊矢のフィールドに健在の《神の居住-ヴァルハラ》と《コート・オブ・ジャスティス》の存在で、デッキトップにあるために次のドローで引くことが確定している《大天使クリスティア》が、特殊召喚されることもまた確定しているようなものだった。

 そして、三沢にはもうその特殊召喚を封じる策は残されていない。

 だが、そんな状況にもかかわらず三沢の表情は笑っていた。

「《オネスト》があることは予測済みだった。そして、お前の相棒を直接叩き込む為に利用させてもらった! リバースカード《奇跡の残照》を発動し、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 遊矢も多用する罠カード《奇跡の残照》により、大天使クリスティアと相討ちになったそのままの姿で舞い戻ったスピード・ウォリアーは、未だにバトルフェイズの為に攻撃する構えをとっていた。

「バトル! スピード・ウォリアーで遊矢にダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーの二度目の攻撃は遂に遊矢本人へと届き、そのまま遊矢のライフポイントを削りきった。

遊矢LP500→0

「ぐああああっ!」

 敗北した遊矢が頭を抱えてうめきだすのを、三沢は計算通りだと思い胸をなで下ろした。
レイが目撃した三沢の部屋に書かれていた計算式は、三沢がデッキを作った時に書いたものだけではなく、勝った後に遊矢を助けるための理論を書き上げていたのだった。
斎王の洗脳による光の結晶からの支配を断ち切るために、尊敬するツバインシュタイン博士の論やカードの精霊の力を借りたその計算式には自信があり、事実遊矢には有効に働いているようだった。

 遊矢が頭を抱えて倒れ込むのを目撃した後――計算通りならば文字通り目覚めるはずだ――三沢も、大地に膝をついた。
一週間の部屋へと籠もった影響で、三沢も色々と無理をしていたのだ。

 レイやラー・イエローの友人が駆けつけて来てくれるのを聞きながら、三沢はやり切った心地よさと共に意識を手放した。
 
 

 
後書き
三沢vs遊矢(白)でした……どこで切るか悩んでいたら、気が付いたら最後まで行ってしまいました……

※《アテナ》の効果で《アテナ》を特殊召喚出来ないのを失念していました……もはや修正不可能の域に達しているため、このまま残しておきます……すいません。


感想・アドバイスなどお待ちしています。 

 

―ジェネックス―

 セブンスターズ関連の事件以降はずいぶんご無沙汰となっていたと思いながら、保健室のドアから新品のオベリスク・ブルーの制服を着て授業がある教室へと歩こうとする。
俺の使い慣れていたオベリスク・ブルーの制服は、光の結社の皆様方が念入りに漂白してくださったためにもう使えず、クロノス教諭に頼み込んで新しく制服を支給してもらっていた。

「遊矢様!」

「……様は止めろ」

 いつぞやの学園祭の時のように保健室のドアの前で待っていてくれて、ドアが開いた瞬間にぴょこぴょこと小動物を思わせる動きのレイに対し、久々にいつものやりとりが出来たことが嬉しい。

 俺が修学旅行で斎王に敗れた後に光の結社に洗脳されてしまい、レイや剣山、三沢と戦ったことや、バーチャル空間での斎王美寿知の兄である斎王琢磨のことについての話など、重要そうな話やどうしても思いだせない光の結社時の事の顛末は三沢から聞いたが……あまり、聞いていて気分の良くない話である。

 兄の斎王琢磨は元は心優しい占い師であったが、占いの客から一枚のカードを受け取ってしまってからは態度が豹変し、あのような性格になってしまったのだという。
だが元々の心優しい性格が邪魔して度を超した非道な事は出来ないらしく、元々の斎王琢磨が抵抗している間に、美寿知は兄を救える可能性のあるデュエリストを捜しており、そのお眼鏡にかなったのがデュエルした四人だったという話だ。

 あの後も美寿知はあのバーチャル空間へと残り続けており、斎王琢磨から身を隠している……ああ、デュエル・アカデミアに入学して以来、どうにもこういうオカルトに接する機会があるのは何故だろうと考えてみるが、俺に答えが解る筈もなかった。

 俺が光の結社になった後にも、万丈目がホワイト寮を正式な寮として認めてもらおうと、刺客を送り込んでオシリス・レッド寮を潰そうとしたり、剣山が斎王に『ストレングスの象徴』としてデュエルを申し込んだりと様々な出来事があったようだ……俺が『愚者』で剣山が『力』なのがやや納得いかないが。

「……様! 遊矢様聞いてる?」

「……あ、悪い。聞いてなかった」

 考え事に没頭してしまってレイの会話を聞き逃してしまったようで、目の前のレイは怒っていることが分かりやすく頬を膨らませていた。
よく見てみれば、もう目の前にデュエル・アカデミアの通い慣れた教室があった。

「わざわざありがとう、レイ」

「これぐらい当然だよ! 何ていったって」

 これ以降のレイの言葉はなんとなく予想出来たことなので、そのまま会話を打ち切って教室に入り、久々に座ることとなる自分の席へと腰を下ろすと、もうすでに隣の席で三沢が座っていた。

「……色々すまなかった。ありがとう」

「なに、気にするな」

 これだけの会話で、昨日までの光の結社の件についての話は終了したようだった。
……たとえ俺が覚えていなくとも、恨み言でも言われることは覚悟していたのだが、三沢からはこれ以降何の追及も無いことにまた感謝する。

 チャイムと共に授業の開始時間となり、教室のドアが開いて授業の担当の樺山先生が入ってくる……かと思ったが、教室に入って来たのはクロノス教諭にナポレオン教頭、そして世界を旅して回っている筈の鮫島校長だった。
クロノス教諭は校長代理からただの教諭に階級を落とされ、ナポレオン教頭は勝手にオシリス・レッド寮を廃止する計画などをたてていたので、双方とも鮫島校長の帰還に分かりやすくげんなりしていた。

「鮫島校長……帰ってきてたのか」

「ああ、なんでも生徒にお土産があるらしいが」

 横にいる三沢の話を聞くに、どうやら鮫島校長が帰還したとのニュースは今日の朝にはアカデミアに伝わっていたらしいが、その時俺は保健室にいたし生来の噂話に興味がない性格が災いして聞いていなかったようだ。

「私がいない間、知らない制服の者が増えたようだが……まあそれはいいでしょう」

 基本的にデュエル以外のことは放任主義である鮫島校長に、この光の結社騒動の解決を期待していた訳ではないが、鮫島校長は世界を旅してきても相変わらずのようだった。

「私が世界を旅してきて君たちに持ってきたお土産は、これになります」

 そう言いながら鮫島校長が胸ポケットから出したのは……銀色に輝き『GX』と彫られた小さなメダル。
その量産品のような輝きに、まさか宝石であるとは思わないが、あのメダルが一体何なのかと生徒たちがざわめき始める。

「これは『Generation neXt』を表す文字。それはすなわち次世代を意味する。諸君らはその次世代を担う若者たちです。そんな君たちの力が更なる輝きを放つように、私は一つの提案を各地で行ってきました」

 俺たちのざわめきには直接答えず、鮫島校長の演説会は続いていく。
自分たちが更なる輝きを放つように……というが、それとその銀色のメダルが何の関係があるのだろうか。

「このメダルを賭け、世界中の若きデュエリストたちがしのぎを削る。次世代を担う諸君らが切磋琢磨する環境を作り出してはどうだろうか、と。各国、各地で多くの人間が賛同してくれました。その中には既にプロとして活躍しているデュエリストも多くいます」

 続く鮫島校長の言葉に、俺や三沢を含む察しのよい者や勘の鋭い者はなんとなく鮫島校長の言わんとしていることを悟り、更に生徒たちのざわめきが多くなっていく。

「プロ・アマの括りに意味はない。ただ次世代を担う若者の中で、その最強を決める世界大会を行う。――すなわち、世界大会“ジェネックス”の開催を、ここに宣言する!」

 そんな狡い生徒たちの予想を遥かに超えていた世界大会《ジェネックス》。
その開催が、ただいま鮫島校長の手で宣言された。


 ジェネックスの開催地はこのデュエル・アカデミアであり、大会中は授業やテストは全て延期するという、思いきった鮫島校長らしい判断の大会だ。

 流石に、義務教育であるデュエル・アカデミア中等部はそういう訳にはいかないようだが、希望者は短縮授業による救済策と共に参加出来るそうだ……無論、レイは参加するらしい。

 最後まで残った優勝者には鮫島校長曰わく豪華商品があるそうだが、俺には……というか生徒たちにとって、そんな不明瞭な結果よりかは、確定的であるプロデュエリストとデュエル出来るという方が重要なことであった。

 まあしかし、流石に一日目ではプロデュエリストも学園には来ておらず、見知った学園の生徒たちとのデュエルとなっていた。

 そんな俺の初戦の相手は、元オベリスク・ブルーの学友であったが現在は光の結社となっている、元々は万丈目の仲間の一人であった取巻太陽。
今まで光の結社に洗脳されていた八つ当たりも含め、初戦は光の結社の構成員と決めていたのだ。

『デュエル!』

遊矢LP4000
取巻LP4000

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺の先攻、ドロー!」

 光の結社に入っていた時のことは余り覚えていないので、変な感じではあるのだが……いつも通り初期手札に並べられた《機械戦士》を見ると、なんだか妙に懐かしい感覚が俺を支配した。
その感覚をあえて否定せずに、「また改めて頼む」と小声で言った後、デュエルディスクにモンスターをセットした。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 防御の《ガントレット・ウォリアー》と並んで俺が初手に出す機会が多い、《機械戦士》たちのアタッカーである三つ叉の機械戦士、マックス・ウォリアーが登場して槍を振りかざす。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン! ドロー!」

 取巻とは同学年で同じ寮ということもあり、幾度となくとは言わないがそれなりにデュエルしているし、月一テストなどの大舞台でデュエルしたこともあるために、どんなデッキかは大体解っているつもりだ。
光の結社に入った影響で俺のようにデッキが変わっていなければの話だが。

「俺は《ゴブリンエリート部隊》を召喚!」

ゴブリンエリート部隊
ATK2200
DEF1500

 キチンとゴブリンなりに整列した部隊の登場に、取巻の今のデッキは俺の知っている元々のデッキと大きく変わっていない【最終突撃命令】だと予想しておく。

「バトル! ゴブリンエリート部隊でマックス・ウォリアーに攻撃!」

「リバースカード《くず鉄のかかし》を発動し、バトルを無効にする!」

 マックス・ウォリアーを守るように飛びだした、くず鉄で作られたかかしにゴブリンエリート部隊は総攻撃し、疲れたのかそのまま帰っていって守備の態勢をとり、攻撃を防いだくず鉄のかかしはそのままセットされる。

「くっ……カードを二枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 恐らく取巻が伏せたカードのどちらかは、彼のデッキのキーカードである《最終突撃命令》。
このままマックス・ウォリアーで攻撃しては、マックス・ウォリアーの効果のおかげで一方的に破壊はされないものの、それでも同じ攻撃力のためお互いに破壊されてしまう。

「俺は《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 そんな状況を打ち破るべく召喚されたチューナーモンスター、ニトロ・シンクロン。
その頭についているメーターが急激に動き始め、遂には振り切れてしまうほどの速度となっていく。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

マイティ・ウォリアー
ATK2200
DEF2000

 巨大な腕を持った腕自慢の機械戦士が、その腕で大地を砕きながら現れる。
このままでは攻撃力が《ゴブリンエリート部隊》と変わらず同じではあるが、《機械戦士》は元々【装備ビート】寄りのデッキ。
シンクロ召喚の投入によりその絶対数は減ったが、それでもまだこの手札の中に存在する。

「俺は《ファイティング・スピリッツ》をマイティ・ウォリアーに装備し、攻撃力が300ポイントアップする!」

 相手のフィールドのモンスターの数だけ攻撃力をアップさせる闘争心がマイティ・ウォリアーに装備され、ゴブリンエリート部隊の攻撃力を超える。

「バトル! マイティ・ウォリアーでゴブリンエリート部隊に攻撃! マイティ・ナックル!」

 攻撃表示のゴブリンエリート部隊に、マイティ・ウォリアーはその軽快なフットワークで接近し、それぞれにラッシュを叩き込んで空中に弾き飛ばした後、取巻に向かって腕を突き出した。

取巻LP4000→3700

「マイティ・ウォリアーが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える! ロケット・ナックル!」

 突き出されたマイティ・ウォリアーの腕がそのまま飛んでいき、取巻にぶつかってダメージを与えた後にマイティ・ウォリアーの手に返ってくる。

取巻LP3700→2600

「このままターンエンド」

「俺のターン! ドロー!」

 いわゆるロケットパンチでダメージを与えられた取巻だったが、俺のマイティ・ウォリアーに怯まず新たなモンスターを召喚した。

「俺は《ライトロード・マジシャン ライラ》を召喚!」

ライトロード・マジシャン ライラ
ATK1700
DEF300

 三沢が新たに《妖怪》デッキに投入したらしいカテゴリー、《ライトロード》の女魔術師を取巻した。
確か《ライトロード》は、その効果により高速で墓地肥やしが出来るデッキだったと思うが、取巻のデッキに投入するようなカテゴリーであろうか……?

「俺はライトロード・マジシャン ライラの効果を発動! このカードを守備表示にすることで、相手の魔法・罠カードを破壊する! 俺はセットされている《くず鉄のかかし》を破壊するぜ!」

 ライトロード・マジシャン ライラが放った光弾に、セットされていた《くず鉄のかかし》が破壊されてしまい、取巻がどうしてあのモンスターを投入したかを悟った。

「リバースカード、《最終突撃命令》を発動! 守備表示のライラを攻撃表示にし、もう一度効果を使用するぜ! 《ファイティング・スピリッツ》を破壊だ!」

 リバースカードは読み通り《最終突撃命令》であったが、《ライトロード・マジシャン ライラ》とのお手軽に禁止カード《ハーピィの羽箒》級の効果のコンボを喰らったため、手放しに喜べる状況ではなくなった。

 更に言うと、《マイティ・ウォリアー》を前にして取巻がライトロード・マジシャン ライラを放置するわけがなく、もう一枚のリバースカードで守る気か、それとも――

「俺は《二重召喚》を発動し、ライラをリリースして《偉大魔獣 ガーゼット》をアドバンス召喚!」

偉大魔獣 ガーゼット
ATK?
DEF0

 ――手札に《マイティ・ウォリアー》を倒す術があるか、だ。

「《偉大魔獣 ガーゼット》の効果により、こいつの攻撃力はリリースしたライラの倍になる!」

 よって攻撃力は3400となり、ただでさえ低めの《マイティ・ウォリアー》の攻撃力を大幅に超える。

「バトルだ! 偉大魔獣 ガーゼットでマイティ・ウォリアーに攻撃!」

「くっ……!」

遊矢LP4000→2800

 《ライトロード・マジシャン ライラ》と《最終突撃命令》のコンボによって、《くず鉄のかかし》と《ファイティング・スピリッツ》という二段重ねの防御が破壊されてしまっているため、どうにもならずマイティ・ウォリアーは破壊された。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 流石デュエル・アカデミア中等部からいることは伊達ではないが、やられっぱなしでいるわけにはいかないのだ、手札から新たなシンクロ召喚の為に必要なチューナーを手札からデュエルディスクに置いた。

「俺のフィールドにモンスターがいないため、《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 相手モンスターがいて俺のフィールドにモンスターがいない時、デュエル中に一度だけという制約はあるものの特殊召喚出来る黒い円盤のようなチューナーを特殊召喚し、更に新たなモンスターを召喚する。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動して更に二体特殊召喚する! 増殖せよ、チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 《機械複製術》によって三体展開される、中華鍋を被ったような姿の機械戦士の強化パーツのような存在の機械族を、アンノウン・シンクロンが光の球となって周囲を回る。

「《チューニング・サポーター》三体を自身の効果によってレベル2に変更し、レベル1の《アンノウン・シンクロン》とチューニング!」

 シンクロ召喚をするにはありがたい、まさにチューニング・サポーターと言える効果によって、俺の第二のラッキーカードを出す準備が整った。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ!シンクロ召喚! 現れろ、《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 ラッキーカードである黄色い機械竜こと、パワーツール・ドラゴンがフィールドに降り立ち、その頼れる効果の前にシンクロ素材とした《チューニング・サポーター》三体の効果が発動する。

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となった時、一枚ドローすることが出来る。よって三枚ドロー! 更に《パワーツール・ドラゴン》の効果発動! 俺が選ぶのは《団結の力》・《魔導師の力》・《デーモンの斧》。パワー・サーチ!」

「……右だ!」

 デッキから装備魔法カードを三枚選んで裏側で相手に見せ、相手が選んだカードを自身の手札に加えることが出来る。
不確定ながらも、装備魔法カードをノーコストで手札に加えることが出来る数少ない効果だ。

 取巻に選んでもらった装備魔法と、元々手札にあった《偉大魔獣 ガーゼット》を倒すことの出来る手段を遠慮なく《パワーツール・ドラゴン》へと装備する。

「パワーツール・ドラゴンに、《団結の力》と《ダブルツールD&C》を装備する!」

 パワーツール・ドラゴンの両手にドリルとカッター、更に団結の力までもが装備されることで、単純な攻撃力でも偉大魔獣 ガーゼットを上回る。

「バトル! パワーツール・ドラゴンで偉大魔獣 ガーゼットに攻撃! クラフティ・ブレイク! 更に、ダブルツールD&Cの効果発動! このカードを装備したモンスターが攻撃した時、相手モンスターの効果を無効にする!」

「なにっ!?」

 確かに偉大魔獣 ガーゼットはお手軽に高打点を叩きだすことが出来る良いカードでるが、あくまで効果によってその攻撃力を維持している以上弱点は多く、《収縮》や《禁じられた聖杯》なのが良い例だ。
そして、その天敵と行き合ってしまった偉大魔獣 ガーゼットの胸にドリルが突き刺さった……が、そのまま起きた衝撃が取巻に届くことはなかった。

「《ガード・ブロック》を発動した! 戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドロー!」

 パワーツール・ドラゴンの攻撃は残念ながら防がれてしまったが、《偉大魔獣 ガーゼット》を倒せただけでも良しとしよう。

「俺はターンエンド」

「俺のターン! ドロー! ……《マジック・プランター》を発動し、《最終突撃命令》を墓地に送って二枚ドロー!」

 取巻は自分のデッキのキーカードである《最終突撃命令》を捨てることを少しためらったようだったが、この状況で《最終突撃命令》がどうなるわけでもなし、結局は《マジック・プランター》によって二枚ドローに変換した。

「そして《手札抹殺》を発動! お互いに手札を全て捨ててその枚数だけドローする!」

 取巻の手札は四枚だった為に、俺が良く使う《手札断殺》の上位種であるカードにより四枚の手札交換を果たし、良いカードを引いたようで嬉々として手札のカードを使用した。

「まずは《大嵐》! お前の忌々しい装備魔法カードを破壊する!」

 取巻のカードから放たれた強烈な旋風により、パワーツール・ドラゴンに装備されていた《ダブルツールD&C》と《団結の力》が破壊されてしまい、パワーツール・ドラゴンは文字通りステータスの低い丸裸の状態となってしまう。

「更に《死者蘇生》を発動し、蘇れ《ポセイドン・オオカブト》!」

ポセイドン・オオカブト
ATK2500
DEF2300

 《手札抹殺》によって墓地に送っていたのだろう最上級モンスターを、万能蘇生カードによって特殊召喚するという昔ながらのお手軽強力コンボを見せてくる取巻だが、厄介なのは特殊召喚された《ポセイドン・オオカブト》だった。

「コレでトドメだ! 《ハーフ・シャット》発動!」

 予想はしていたが、来て欲しくなかったカード名を告げられてしまう。

 《ハーフ・シャット》は、偶然にも先程例に挙げた《収縮》と同じように、一ターン限り対象に取ったモンスターの攻撃力を半分にし、戦闘破壊耐性を与える効果を持ったカード。
そのまま使用してはただの《収縮》の下位互換だが、取巻のフィールドにいる《ポセイドン・オオカブト》のようなモンスターが存在するとなれば話は違う。

「もちろん《ハーフ・シャット》の対象は《パワーツール・ドラゴン》! そして、ポセイドン・オオカブトは相手の攻撃表示モンスターに三回まで攻撃することが出来るのだ!」

 相手モンスターが戦闘破壊耐性を持っているときに限り、相手をサンドバックにすることが出来る《ポセイドン・オオカブト》。
その効果と《ハーフ・シャット》の効果は相性抜群であることは否定出来ない。

「《大嵐》を使ったから伏せカードも怖くない! バト……え!?」

 だが、取巻がポセイドン・オオカブトに攻撃を命じるその前に、そのポセイドン・オオカブトのことを羽衣も着た少女が包んでいた。

 俺の第一のラッキーカード、《エフェクト・ヴェーラー》だ。

「《エフェクト・ヴェーラー》を手札から捨てることで、このターンに限りポセイドン・オオカブトの効果を無効にする!」

 エフェクト・ヴェーラーは効果をその羽衣で吸い取った後に消えていき、ポセイドン・オオカブトは持ち味の三連続攻撃を使えなくなってただの攻撃力2500のバニラとなる。

「チィ……バトルだ! ポセイドン・オオカブトでパワーツール・ドラゴンに攻撃! トライデント・スパイラル!」

「このくらいは必要経費だ……ってな」

遊矢LP2800→1350

 なんだかふと思いついてこの状況にもマッチしていたため言ってみたが、思いのほか元ネタの三沢ほど上手くいかなかったので、これからは馴れない人の真似は止めようと思う。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《ハーフ・シャット》の効果は一ターン限りということで、戦闘破壊耐性は失うが攻撃力は元の数値に戻ったものの、《大嵐》で装備魔法カードを全て破壊されてしまった影響でポセイドン・オオカブトへと攻撃力は届かない。

「パワーツール・ドラゴンの効果発動! 俺が選ぶのは《魔導師の力》・《デーモンの斧》・《魔界の足枷》、パワー・サーチ!」

「……真ん中のカードだ!」

 ならばパワーツール・ドラゴンの攻撃力をポセイドン・オオカブトの攻撃力より上にするまで、と思い発動したパワーツール・ドラゴンの効果は、皮肉にもパワーツール・ドラゴンの攻撃力を上げない装備魔法カードを引き寄せた。

「俺は《魔界の足枷》をポセイドン・オオカブトに装備する!」

 ポセイドン・オオカブトの足の部分に悪魔の顔が描かれた足枷がつき、この足枷に捕らわれた者は攻撃力・守備力は100になり攻撃宣言が行えなくなってしまうという、まさに《魔界の足枷》。

「更に《セカンド・ブースター》を召喚! リリースすることで、パワーツール・ドラゴンの攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

セカンド・ブースター
ATK1500
DEF800

 装備魔法カードの代わりとは言っては何だが、パワーツール・ドラゴンの背中には巨大なブースターが付き、速度をアップさせる。

「バトル! パワーツール・ドラゴンでポセイドン・オオカブトに攻撃! ブースト・クラフティ・ブレイク!」

「まだだ! 速攻魔法《サイクロン》を発動し、《魔界の足枷》を破壊する!」

 《大嵐》よりかは小規模の嵐が魔界の足枷からポセイドン・オオカブトを解き放ったが、セカンド・ブースターで攻撃力が上がったパワーツール・ドラゴンには太刀打ち出来ることはなく、そのままパワーツール・ドラゴンに破壊された。

「ぐあっ……!」

取巻LP2600→300

 これで取巻の手札もフィールドも0になり、ライブポイントも300だけという数値。
もう勝ちだと判断しても良いような状況だが、取巻とて中等部から鍛えられてオベリスク・ブルーへと配属されている者であり、万丈目と同じようにまごうことなきエリートなのだ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 気合いを込めてカードを引いた取巻が、引いたカードをそのままデュエルディスクにセットし、このギリギリの状況から取巻が引き寄せた彼の切り札がその全貌を見せた。

「墓地の機械族《可変機銃 ガンナードラゴン》と獣戦士族の《不屈闘士 レイレイ》を除外し、《獣神機王 バルバロスUr》を特殊召喚だ!」

獣神機王 バルバロスUr
ATK3800
DEF1200

 機械と獣戦士が合体した、デュエルモンスターズにおいて神に最も近いモンスターである従属神の名に相応しいステータスを持って召喚される。
もう一年前になるデュエルする機械、SULとデュエルした際にも現れたことがあったが、その時は《くず鉄のかかし》で防いで永続魔法《ドミノ》で突破したものだ。

「バトル! 獣神機王 バルバロスUrでパワーツール・ドラゴンを攻撃! 閃光烈破弾!」

 バルバロスUrのその緩い召喚条件の代償であるデメリット効果によって、俺へとダメージは通らないが、先のターンで自身に装備しても意味がない《魔界の足枷》をサーチした為、装備魔法カードを身代わりにすることが出来なかったパワーツール・ドラゴンは破壊されてしまった。

「どうだ! これで俺はターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 バルバロスUrは戦闘ダメージを与えられないとはいえ、取巻がそれを解っていないわけが無いのだから《禁じられた聖杯》や《愚鈍の斧》はもちろんデッキに投入していることだろう。

「俺は《貪欲な壷》を発動し、墓地からデッキに五枚戻して二枚ドロー!」

 ならば今度は俺が、俺の仲間で取巻の切り札を打ち破る番だ……!

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

『トアアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 いつも通りの力強い雄叫びと共に、臆せずに獣神機王 バルバロスUrの前に我がマイフェイバリットカードは立ちはだかった。

「《魔界の足枷》も使っちまったんだから、もうスピード・ウォリアーじゃバルバロスUrは倒せないぜ!」

「悪いが、俺のスピード・ウォリアーはどんなモンスターだろうが打ち破る! バトルフェイズ、スピード・ウォリアーの効果を発動し、スピード・ウォリアーの攻撃力は倍になる!」

 攻撃力は倍になるとは言うものの、元々の攻撃力を参照するために、攻撃力は僅か1800止まりなので獣神機王 バルバロスUrにはとてもではないが適う相手ではない。

「リバースカード《モンスター・バトン》を発動! 手札の効果モンスターを墓地に送ることで、フィールドのモンスターはその効果を発動することが出来る! 俺が墓地に送る効果モンスターは、《スピード・ウォリアー》!」

 永続罠《モンスター・バトン》から現れた第二のスピード・ウォリアーが、先んじて獣神機王 バルバロスUrに向かって走っているスピード・ウォリアーにバトンを渡して消えていき、スピード・ウォリアーの攻撃力は更に倍、3600となる。

「……だが! 獣神機王 バルバロスUrには攻撃力が足りないぜ!」

「解ってるさ。《モンスター・バトン》の第二の効果! 一回目の効果で墓地に送ったモンスターと同じレベルのモンスターを墓地に送ることで、もう一度効果を使用することが出来る! 俺はもう一枚、レベル2の《スピード・ウォリアー》を墓地に送る!」

 第三のスピード・ウォリアーもバトンを託して消えていき、最後に残ったスピード・ウォリアーが獣神機王 バルバロスUrの前に着いた頃には、元々の攻撃力を何度も倍にしていったスピード・ウォリアーの攻撃力は7200……獣神機王 バルバロスUrとは比べものにならない攻撃力となっていた。

「バトル! スピード・ウォリアーで、獣神機王 バルバロスUrに攻撃! ソニック・エッジ!」

「なっ……うわああああっ!」

取巻LP300→0

 もはや獣神機王 バルバロスUrと言えども敵ではない、そんな攻撃力となった頼れるマイフェイバリットカードの攻撃により、取巻のライフポイントは0となった……少々、オーバーキルが過ぎた気もするが。

「取巻、楽しいデュエルだったぜ」

「くそっ! 初日で敗退かよ……」

 三沢みたくなにやら小難しい計算式を頭に叩き込んだ訳ではない為に取巻を光の結社から救うことは適わないが、大多数の構成員は俺や明日香のように人格まで洗脳されていることは無いので、悪いが救う方法が確立するまで待ってくれ。

 分かりやすく悔しがっている取巻からジェネックスのメダルを貰い、デュエルディスクに組み込まれている【機械戦士】デッキを見つめた。

 精霊だとかそういうことは全く関係なく、共に戦う仲間として、これからも一緒にデュエルしていくことを誓って。
 
 

 
後書き
ジェネックス、開始! ……まあ、肝心の初戦は「デュエルが無いと寂しいから入れた」レベルのデュエルになってしまいましたが……

それよりは、なんだかえらく普通に遊矢が復活しましたが、光の結社時のことを覚えていないし、その時の様子は又聞きなので、仕方ないということでここは一つ。

そろそろ二期も終盤ですね、感想・アドバイス待ってます! 

 

―ジェネックス Ⅱ―

 鮫島校長主催の国際大会《ジェネックス》が開始されて少し経ち、このデュエル・アカデミアにも外部の人間が目立ってきた。
外部の人間とは、現役で活躍中のプロデュエリストや、鮫島校長が目を付けて誘った実力あるアマチュアなど様々で、この島がこんなに活気づいているのは文化祭以来では無かろうか。

 今のところは、俺の回りの友人たちは誰も脱落していないものの、光の結社を除くデュエル・アカデミアの生徒の大半はプロデュエリストに挑んで負ける者や、そもそもデュエルをせずに逃げるものの方が多かった。

 それもその筈、光の結社は実力ある者からスカウトしていっているらしく、一般生徒にはプロデュエリストと渡り合えるほどの実力者は少ないからだ。
三沢や吹雪さんのように実力で光の結社のスカウトをはねのけている者や、洗脳された俺を見て、光の結社と関わり合いにならないようにしている例外もいることにはいるが。

 しかしてその一方、光の結社の構成員も参加者の数を減らしつつあった。
万丈目や五階堂などの実力者は順調に勝ち進んでいるようだが、下位の構成員が日に日に脱落していっている。

 原因は……光の結社を辻斬りのように狙い撃ちしている黒崎遊矢という人物――つまり俺だった。
組織が拡大化しきった光の結社相手に、俺がやれることなどこの程度しかないのが悲しいところだが。

 しかし、実力者をスカウトしているという予想は間違っておらず、初戦の取巻のデュエルのようなヒヤヒヤさせられるデュエルも多く、なかなかスリリングだった。

 俺は光の結社狙い、十代はプロデュエリストのみの大物狙い、翔は一日一戦のノルマを下級生相手にこなして逃げ回り、エドは自分から仕掛けることなく大量に返り討ち……など、メダルの集め方にも性格が現れているような気がしてならない。

 こうして順調にデュエル・アカデミアの生徒は数を減じていったためか、ようやく俺もプロデュエリストと巡り会うこととなった。

 相手のプロデュエリストは、『数学デュエリスト』との異名を持っているデュエリスト、《マティマティカ》。 彼の所属しているリーグでの順位は、プロランク10位というれっきとした実力派である。

 相手にとって不足はない、そう考えて俺は目の前にいるマティマティカと同様にデュエルの態勢を整えた。

『デュエル!』

遊矢LP4000
マティマティカLP4000

「私の先攻から。ドローします」

 デュエルディスクは、ニュース番組のキャスターを連想させる声色のマティマティカを先攻に選んだようで、俺のデュエルディスクには後攻と表示されていた。

「私は《巨大ネズミ》を守備表示で召喚」

巨大ネズミ
ATK1400
DEF1450

 戦士族でないという点を除けば、同じようなリクルーター《荒野の女戦士》の上位互換の登場に、マティマティカのデッキは地属性メインのデッキだろうと推測される。

「カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 マティマティカのリクルーターとリバースカード二枚という磐石な態勢に、俺はとりあえず切り込むことを選択した。

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 今回戦陣を斬るのはアタッカーの《マックス・ウォリアー》ではなく、俺のマイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー。

「バトル! スピード・ウォリアーは、召喚したターンのバトルフェイズ時のみ攻撃力が倍になる! ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーの勢いが乗った回し蹴りに、巨大ネズミはたまらず破壊されてしまうが、リクルーターの仕事は破壊されること。

「《巨大ネズミ》が破壊されたので、デッキから攻撃力1500以下の地属性モンスター《測量戦士 トランシッター》を特殊召喚!」

測量戦士 トランシッター
ATK1000
DEF2100

 測量機のような外見をした、ダイレクトアタックを補助する効果を持ったモンスターが特殊召喚される。
マティマティカが参加しているプロリーグは見ていなかったのだが、確か彼の代名詞とも言える主力モンスターだと聞いたことがある。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン。ドロー」

 トランシッターの効果は、自分フィールド場のモンスターをリリースすることで、相手プレイヤーにダイレクトアタックする権利を得るというものだ。
難点は、起動効果なのでメインフェイズ時にしか効果ん発動出来ないところだろうか。

「私は永続魔法《違法召喚》を発動! 私のメインフェイズ時、お互いにデッキから好きなカードを相手のフィールドへ特殊召喚します」

 一風変わった効果の永続魔法の発動に、なんとなくマティマティカのコンボを予想しながらデッキからモンスターを選択した。

「私はデッキから《マタンゴ》を特殊召喚」

「俺は《ワンショット・ブースター》を特殊召喚する!」

マタンゴ
ATK1250
DEF500

 双方ともに相手のデッキから特殊召喚されたモンスターは守備表示を選択し、マティマティカのフィールドにワンショット・ブースター、俺のフィールドにマタンゴがそれぞれ現れる。

 俺が選択した《ワンショット・ブースター》は、マティマティカのデッキではあまり活躍の場がないだろうが、問題なのは俺のフィールドにいる《マタンゴ》。
こいつがいる限り、俺はスタンバイフェイズ時に300ポイントのダメージが与えられ続け、500ポイント払ってマティマティカに返しても《測量戦士 トランシッター》の効果のコストになるだけだ。

「さらに永続魔法《エレクトロニック・モーター》と伏せてあった《死の演算盤》を発動し、トランシッターの効果を発動! 私のフィールドの《ワンショット・ブースター》をリリースし、このターンダイレクトアタックの権利を得る。そして、私の計算はこれだけでは終わりません」

 トランシッターの効果に触発されて起動した《死の演算盤》がマティマティカの前に出現し、その演算盤の計算力を活かし、コストにされたワンショット・ブースターを俺へと射出した。

遊矢LP4000→3500

「《死の演算盤》は、モンスターが墓地に送られた持ち主に500ポイントのダメージを与える。そして永続魔法《エレクトロニック・モーター》は、私のフィールドの機械族モンスターのみの攻撃力を300ポイントアップさせます。バトル! トランシッターでダイレクトアタック!」

「なるほど、そういうコンボか……!」

遊矢LP3500→2200

 《違法召喚》で相手フィールド場に《マタンゴ》を送りつけると同時に《測量戦士 トランシッター》のコストを手に入れ、その効果で《死の演算盤》によるバーンとダイレクトアタックを行うコンボ。
バーンダメージのために送りつけた《マタンゴ》に《測量戦士 トランシッター》を破壊されないように、永続魔法《エレクトロニック・モーター》で攻撃力を300ポイントアップさせ……最後は、俺にトランシッターを攻撃させないためのロックカードだろう。

「永続魔法《平和の使者》を発動し、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」


 やはり予想通りにロックカードが現れたが、予想出来ただけでマティマティカのコンボに対する対抗策は依然としてない。

 ……いや、対抗策がないわけでは無いのだが、このターンでは発動出来ないというのが正しいか。

「あなたのフィールドの《マタンゴ》の効果。300ポイントのバーンダメージを与える!」

遊矢LP2200→1900

 打開策を考えている間にも、俺のフィールドに寄生虫のように居座るキノコの化け物にライフを吸われる。
300ポイントという微々たるダメージではあるが、このライフではそれも出来れば喰らいたくないダメージだった。

「くっ……カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「私のターン。ドロー!」

 早くも勝利を目前としたマティマティカがカードを引いて自分の手札に収め、俺にトドメを刺そうとする前に《平和の使者》の効果処理に入った。

「《平和の使者》を維持するのに100ポイントのライフを払いましょう」

 攻撃力1500以上を全て封殺するという効果であるのに、たった100ポイントという微々たる維持コストが若干納得いかないが、今はそんなことを考えている暇ではない。

「フフ、私の計算の前では防戦一方なようで。念には念を入れ、速攻魔法《サイクロン》を発動してあなたのリバースカードを一枚破壊する!」

「チェーンしてリバースカード、《ダメージ・ダイエット》を発動! このターン受けるダメージを、全て半分にする!」

 マティマティカの発した旋風が俺のリバースカードを破壊するよりも前に、《ダメージ・ダイエット》の効果で一ターンのみ俺の辺りへと薄いバリアーが張られた。

「なるほど……しかし、そんなその場しのぎでは……《違法召喚》の効果を使用し、私は再び《マタンゴ》をあなたのフィールドへ!」

「俺は《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚する」

 またもお互いにデッキからモンスターを特殊召喚することになり、マティマティカはキノコの化け物、俺は消火器のような形をしたシンクロンをお互いに守備表示で特殊召喚した。

「《測量戦士 トランシッター》の効果。ニトロ・シンクロンをリリースし、《死の演算盤》によるバーンダメージ!」

 俺の墓地に、ニトロ・シンクロンが送られたことによって《死の演算盤》が起動し、俺に500ポイントのダメージを与えようとするが、《ダメージ・ダイエット》のおかげでその半分の250ポイントで済む。

遊矢LP1900→1650

「バトル。トランシッターでダイレクトアタック!」

 スピード・ウォリアーとマタンゴ二体の壁をすり抜け、俺を《測量戦士 トランシッター》の攻撃が襲うが、《ダメージ・ダイエット》の薄いバリアーが俺を完全でないにしろ守ってくれる。

遊矢LP1650→1000

「これでトドメと行きましょう。リバースカード《停戦協定》を発動! フィールド場の効果モンスターの数×500ポイントのダメージを与える! 今フィールドにいる効果モンスターの数は四体、ダメージ・ダイエットの効果が適用されて1000ポイントのダメージ!」

 これはいくら《ダメージ・ダイエット》でも防ぎきれないが、かといってもう一枚のリバースカードは効果ダメージを防ぐカードではなく、俺のフィールドにいるモンスターもそんな効果は持っていない。

「私の計算に狂いはないのですよ」

「いいや、まだだ! 俺は手札から《シンクロン・キーパー》を捨てることで、効果ダメージを無効にする!」

 ラッキーカードである《エフェクト・ヴェーラー》の効果ダメージ版とも言えるモンスター、《シンクロン・キーパー》の活躍により、なんとか俺の敗北は免れた。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 御自慢の計算が狂わされて少し残念がっているようだが、それはマティマティカが先程口に出したようにその場しのぎにしか過ぎない。

 俺が真に攻勢に出るのはここからだ。

「スタンバイフェイズ、マタンゴ二体のバーンダメージを受けてもらいましょう」

遊矢LP1000→400

 この効果ダメージは一種の通過儀礼だと受け取って、俺はまず墓地のカードを使って反撃に転じることにした。

「墓地の《シンクロン・キーパー》の効果発動! このカードとチューナーモンスターを除外し、そのレベルに等しいシンクロモンスターを特殊召喚出来る! 俺は《ニトロ・シンクロン》と《シンクロン・キーパー》を除外し、エクストラデッキから《パワーツール・ドラゴン》を特殊召喚する!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 ラッキーカードでもある黄色い機械竜が特殊召喚されるものの、その効果は無理やり特殊召喚した代償に失っており、マティマティカの《平和の使者》によって攻撃もままならない。

「更にチューナーモンスター、《エフェクト・ヴェーラー》を召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

 羽衣を纏った中性的な容姿をしたモンスターの登場により、これでラッキーカードが二体フィールドに揃ったこととなり、パワーツール・ドラゴンの効果が無効にされていようと関係ない。

「レベル7の《パワーツール・ドラゴン》と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 エフェクト・ヴェーラーがパワーツール・ドラゴンの周囲を回り、炎と共にパワーツール・ドラゴンの装甲が外れていく。
もはや俺は見慣れたシンクロ召喚だったが、マティマティカは驚きを露わにしていた。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 パワーツール・ドラゴンの装甲が炎と共に全て外れ、その正体である神話の龍のような姿を晒し、空中へと飛び上がった。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

「その前にシンクロ召喚を行ったことにより、《死の演算盤》の効果を発動! 墓地に送られたモンスターは二体なので1000ポイントのダメージを与える!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンより《死の演算盤》の効果が先に発動し、ちょうどジャストキルになる効果ダメージが俺を襲ったが、バーンダメージはライフ・ストリーム・ドラゴンへと吸収されていく。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果発動! このモンスターがいる限り、俺は効果ダメージを受けない! ダメージ・シャッター!」

 《死の演算盤》によるバーンダメージも防ぎつつ、俺のライフを4000へと戻すという、ライフ・ストリーム・ドラゴンが正に八面六臂の大活躍を見せつける。

「更にリバースカード、オープン! 《リミット・リバース》! 墓地から《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚する!」

 しかしまだ終わらない、そのことを示すように再びラッキーカードがフィールドに特殊召喚され、シンクロ召喚の準備が完了する。

「レベル3の《マタンゴ》二体と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 マティマティカが俺のモンスターを《測量戦士 トランシッター》の効果で使うならば、俺はこのキノコの化け物共をシンクロ召喚に活用させてもらうとしよう。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

セブン・ソード・ウォリアー
ATK2300
DEF1800

 7つの剣を持つ機械戦士がシンクロ召喚されたことにより、マティマティカのフィールドの《死の演算盤》が、自分の主人にしか害を及ぼさないにも関わらず律儀に起動した。

「《死の演算盤》により、マタンゴ二体分のダメージを受けてもらう!」

 俺も《エフェクト・ヴェーラー》の分の500ポイントダメージがあるが、そのダメージは《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果で俺には届かないため、マティマティカのみダメージを受けた。

マティマティカLP4000→3000

 そして、なんだか久々にシンクロ召喚された気がする7つの剣を持つ機械戦士に、その効果を十全に活かしてもらうための装備魔法を装備した。

「装備魔法《パイル・アーム》をセブン・ソード・ウォリアーに装備する! そしてパイル・アームの効果。装備された時、装備モンスターの攻撃力を500ポイント上げると共に、相手の魔法・罠カードを一枚破壊する! 俺が破壊するのは、当然《平和の使者》!」

 装備魔法《パイル・アーム》の効果に加えて、装備したモンスターが《セブン・ソード・ウォリアー》であるため、これだけには止まらない。

「更に、セブン・ソード・ウォリアーの効果! このモンスターに装備カードが装備された時、相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

 セブン・ソード・ウォリアーの右手に装備された《パイル・アーム》からはパイルが、左手からはセブン・ソード・ウォリアー本来の武器の一つである投げナイフが放たれ、マティマティカと《平和の使者》に直撃することとなった。

マティマティカLP3000→2200

「更に、セブン・ソード・ウォリアー第二の効果! 装備された《パイル・アーム》を墓地に送り、《測量戦士 トランシッター》を破壊する!」
 装備されているカードを墓地に送ることにより、相手モンスターを一体破壊するのがセブン・ソード・ウォリアー第二の効果。
その効果により、マティマティカの主力モンスター《測量戦士 トランシッター》は破壊された。

「バトル! セブン・ソード・ウォリアーで、マティマティカにダイレクトアタック! セブン・ソード・スラッシュ!」

「《攻撃の無力化》を発動し、バトルフェイズを終了させます」

 トドメとばかりに攻撃したセブン・ソード・ウォリアーの一撃は、残念ながら時空の穴に吸い込まれて無効にされてしまった。

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「私のターン。ドロー!」

 セブン・ソード・ウォリアーとライフ・ストリーム・ドラゴン二体のシンクロ召喚により、マティマティカにはもう主力モンスター《測量戦士 トランシッター》はおらず、ライフも逆転していた。
だが、まだ相手フィールドには永続魔法《エレクトロニック・モーター》に《違法召喚》、ほとんど意味を成さないとはいえ《死の演算盤》もあるのだ、油断は出来ない。

「あなたはなかなかやるようで、私も計算をし直す必要があるようです……通常魔法《マジック・プランター》を発動し、《死の演算盤》を墓地に送り二枚ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが俺のフィールドにいる以上、自分にダメージが来るだけの罠カード《死の演算盤》を墓地に送り、マティマティカは二枚ドローする。
そんな事実よりも、マティマティカの「計算をし直す必要ある」というのはどういうことなのだろうか……?

「私は《違法召喚》の効果を発動。あなたのフィールドに《巨大ネズミ》を特殊召喚」

「俺は《チェンジ・シンクロン》を特殊召喚する」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 三度目の《違法召喚》の発動だが、俺のフィールドに特殊召喚されたのは、ライフ・ストリーム・ドラゴンのせいで効果ダメージを与えられないせいか《マタンゴ》ではなく、地属性のリクルーター《巨大ネズミ》だった。

 俺はまたもステータスの低いチューナーモンスターを特殊召喚し、先程の《ニトロ・シンクロン》のように墓地送りに利用させてもらおうと考えたのだが……マティマティカは不敵な笑みを洩らした。

「私は《巨大ネズミ》を召喚し、レベル1の《チェンジ・シンクロン》とレベル4の《巨大ネズミ》でチューニング!」

「なっ……!?」

 マティマティカのフィールドで行われていくのは、俺も見慣れたチューナーモンスターが光の輪となってモンスターを包んでいくその光景。

 そう、別にシンクロ召喚のテストが終わって一般的に発売されている今、シンクロ召喚は使用者は未だに少ないものの、決して俺専用な訳じゃないのだから。

「この世界を支配する計算式。ラプラスの悪魔の化身をここに! シンクロ召喚! 《A・O・J カタストル》!」

A・O・J カタストル
ATK2200
DEF1200

 シンクロ召喚をメインにした新カテゴリー《A・O・J》のカード……俺の前に現れたシンクロモンスターを見て、相手がシンクロ召喚を行わないという、無駄な慢心はしないことを心に誓った。

「永続魔法《エレクトロニック・モーター》の効果により、カタストルの攻撃力は300ポイントアップ。バトル! A・O・J カタストルで、セブン・ソード・ウォリアーを攻撃!」

 永続魔法《エレクトロニック・モーター》の効果で、セブン・ソード・ウォリアーの攻撃力を超えている、などと考えていたが、そんなことは全く関係がないということに気づくのは少し遅かった。

 セブン・ソード・ウォリアーは戦闘を介することなく、カタストルが発したレーザー砲が一方的に敗北したのだ。

「A・O・J カタストルは、闇属性モンスター以外が相手ならばダメージステップ開始時に破壊します」

「なるほど、一方的にやられるわけだ……!」

 《機械戦士》は闇属性モンスターの割合が少なく、いたとしてもあまり戦闘には向かないモンスターだけなのが問題だった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《測量戦士 トランシッター》の代わりにマティマティカのフィールドに現れた《A・O・J カタストル》は、闇属性モンスター以外を問答無用で破壊するという確かに強力な効果だ。

「……だが、シンクロ召喚ならば俺に一日の長がある! 通常魔法《シンクロキャンセル》を発動!」

「《シンクロキャンセル》……私の計算が確かならば、シンクロ素材だった《パワーツール・ドラゴン》は蘇生制限を満たしていない筈では?」

「……ああ、そうだな」

 そんな会話を繰り広げていた俺たちの横で、マティマティカのフィールドの《A・O・J カタストル》が光の輪のようなものに包み込まれていた。

「……な?」

「俺が《シンクロキャンセル》の対象に選ぶのは《ライフ・ストリーム・ドラゴン》じゃない……お前の、《A・O・J カタストル》だ!」

 通常魔法ではあるが、シンクロモンスターの《融合解除》とでも言えるこの魔法カードは、当然ながら相手のシンクロモンスターにも使用することが可能だった。
これまでは、レイの《恋する乙女》などにコントロールを奪取された時ぐらいしか活用法が無かったが、今は存分に相手のシンクロモンスターに使わせてもらうとしよう。

「これでお前の厄介なモンスターは消えた! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、マティマティカにダイレクトアタック! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「くっ……リバースカード、オープン! 《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》! レベル4以上のモンスターは、攻撃宣言が出来ない!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが光弾を放つよりも早く、マティマティカのリバースカードから大型モンスターを捕らえる超重力の網がフィールドに展開し、ライフ・ストリーム・ドラゴンの動きを封じた。

「フッ……シンクロモンスターへのメタも計算に入れておきましょう」

「その計算を使う機会は、もうこの大会中には無いがな! リバースカード、オープン! 《上級魔術師の呪文詠唱》! 手札の通常魔法を速攻魔法として扱うことが出来る! 俺が使うのは《シンクロ・ギフト》!」

 自分フィールド場のシンクロモンスターの攻撃力を、他のモンスターへとそのまま移すという通常魔法カード……俺のフィールドにいるのは、ライフ・ストリーム・ドラゴンとマイフェイバリットカード!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力を0にし、スピード・ウォリアーの攻撃力に加算する!」

 よって、ライフ・ストリーム・ドラゴンの力を借りたスピード・ウォリアーの攻撃力は3800であり、スピード・ウォリアーに《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》なんていうロックカードは通用しない……!

「バトル! スピード・ウォリアーで、マティマティカにダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」

「私の計算を、超えた……だと……」

マティマティカLP2200→0

 マティマティカとのデュエルがマイフェイバリットカードの一撃で終了すると、少し場違いな拍手がこの場を包んだ。

「良いデュエルだった。相変わらずのデッキのようだな、遊矢」

「……亮!」

 拍手の主はプロデュエリストとなった友人、オベリスク・ブルーの制服を模した服を着たカイザー亮だった。

「久しぶりだな遊矢。それより、メダルをどれくらい集めた?」

「開口一番デュエルのことかよ……まあ、ボチボチだ」

 こっちは相変わらずのデッキならば、あっちは相変わらずのデュエル馬鹿だった。
先だってはエドに敗北していた亮だったが、そんなことは今の亮には感じられなかった。

「まだお前とデュエルする気はないからな。最近プロデュエリストではどうだ?」

「そうか……少し残念だな」

 バトルロイヤル形式のこの世界大会で、こんな序盤に亮ほどの実力者とデュエルする気は無かったが、亮の残念そうな表情を見るに、あっちはやっても良かったようだった。

 変わらずデュエル馬鹿の友人に安心しつつ溜息をつき、しばし世間話に興じるのだった。
 
 

 
後書き
誰得かと自分でも思った、VSマティマティカ戦でした。

感想・アドバイス待っています。 

 

―ジェネックス Ⅲ―

 
前書き
お久しぶりです。
まだテスト中ではあるんですが。 

 
  ジェネックスも中盤を迎えることとなり、残っているのは掛け値なしの実力者ということだろう。
俺の友人たちの中でも、もう既に何人もの脱落者が出る事態となっていた。

 その中でも印象的だったのが十代の真の弟分こと丸藤翔であり、逃げ回っていた彼は何を想ったか心機一転、自らの兄であるカイザー亮へとデュエルを申し込んだのだった。
自らがどれだけ成長したのか、翔が一番の実力者だと認めているカイザー亮に見せつけたかったのだという。

 デュエルの結果としては敗北した翔だったが、亮を追い詰めて実力を認めさせたことで、その表情はむしろ晴れ晴れしたように見える。

そして、脱落者ではないが話しておきたいのは、神楽坂というラー・イエローでの友人のことだ。
彼は、一年生の際に今も学園に展示されている、デュエルキング・武藤遊戯のデッキの盗難事件を起こした生徒である。

 神楽坂は作ったデッキが有名なデュエリストのコピーデッキばかりになってしまうという悩みを抱えていて、そのせいで対抗策も有名なために敗北を重ねていた。
そして神楽坂は自分とコピー元の違いがデッキにあると考え、武藤遊戯のデッキを使って自分の実力と仮説を確かめようと、俺にデュエルを申し込んだ。

 そして敗北し……神楽坂は、自分だけのデッキの強さを思い知り、自分だけのデッキの構築へと乗りだした。
だが、なかなか納得のいくデッキを作ることは出来ず、いくつかの候補のデッキを使い分けるデュエリストとなっていた。

 そんな彼だったが、先日の三沢と光の結社に洗脳された俺のデュエルを見たことで、再び自分だけのデッキを作る決意をした。
光の結社に洗脳されて自分だけのデッキ以外のデッキを使わせられていた俺と、変わらず【妖怪】デッキを駆る三沢に、神楽坂なりに何かを感じたのかもしれない。

 そして、ついに神楽坂は神楽坂だけのデッキを完成させ、俺へとデュエルを申し込んできたのだった。

『デュエル!』

遊矢LP4000
神楽坂LP4000

「楽しんで勝たせてもらいぜ! 俺の先攻、ドロー!」

 俺のデュエルディスクが先攻を示したが、神楽坂の新しいデッキがどんなデッキなのか解らないため、後攻の方が望ましかった気はするが。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 決まったことをボヤいても仕方がない、いつも通りプレイすることを示すように、機械戦士のアタッカーである三つ叉の機械戦士を召喚する。

「カードを一枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 神楽坂のデッキがどんなデッキであろうとも、神楽坂はどんなデッキでも十全に活かす事が出来るデュエリストだ。
何が相手だろうと、警戒すべきなのは変わりはない。

「俺は速攻魔法《サイキック・サイクロン》を発動! お前の伏せてある罠カードを破壊する!」

 超能力のようなエネルギーを纏った竜巻に、俺のフィールドに伏せられていた《くず鉄のかかし》が破壊される。

 《サイキック・サイクロン》は通常の《サイクロン》と違い、相手のセットカードが魔法か罠かを当てないと破壊できないが、破壊した時一枚ドロー出来るギャンブルカード。
だが、相手のデッキを見るだけで相手の性格まで解るなどという観察力を持った神楽坂には、ただの《サイクロン》の一枚ドローする効果が追加された上位互換に過ぎない。

「俺は《テレキアタッカー》を召喚する!」

テレキアタッカー
ATK1700
DEF700

「サイキック族だと!?」

 神楽坂の戦陣を切ったモンスターは、シンクロ召喚と共に、新たな種族として登場したサイキック族に属するモンスターだった。
シンクロ召喚と同時期に登場したためか、シンクロ召喚に関連する効果を持ったカードも多く、また、シンクロモンスター自体も多いという。

「ああ……これが俺の、俺だけのデッキだ」

 サイキック族という種族は新しく発売されたパックで新しく出た種族であり、その上シンクロ召喚を使うことが前提になっているため、参考の有名なデッキレシピなどは存在しない。
ならば、神楽坂の悩みである『過去に見たデッキレシピや他人のデッキに似てしまうという』のは、今のデッキにおいて不可能なことなのだ。

 ……神楽坂は、それこそ始めてデッキに触ったかのように、自分だけの力でそのデッキを作ったに違いない。

「遊矢。俺の仲間たちが勝たせてもらうぜ! さらに、速攻魔法《緊急テレポート》を発動! デッキからレベル2以下のサイキック族を特殊召喚する! チューナーモンスター、《サイ・ガール》を特殊召喚!」

サイ・ガール
ATK500
DEF300

 一見すると魔法使い族のようなデザインのモンスターだったが、チューナーモンスターと聞いたためにデザインなど気にしている余裕はまるで無かった。
一ターン目でいきなりシンクロ召喚が来るか……!?

「レベル4のテレキアタッカーに、レベル2のサイ・ガールをチューニング!」

 ライフコストを支払っての高速のシンクロ召喚が、サイキック族の持ち味であるらしいが、ライフコストは使っていないものの、その前評判に違わない速度のシンクロ召喚。

「心の奥で燃える我が炎を糧に、超能力を使う悪魔が現出する! シンクロ召喚! 現れろ、《サイコ・デビル》!」

サイコ・デビル
ATK2400
DEF800

 始めて見るサイキック族のシンクロモンスターは、超能力を纏った異質な姿をした怪物だった。
その姿はもはや超能力者には見えず、どちらかというと悪魔のような姿をしていた。

「《サイコ・デビル》の効果を発動! 相手の手札一枚の種類を当てることで、このカードの攻撃力は1000ポイントアップする! 遊矢の一番右のカードは、モンスターカードだ!」

「……正解だ」

 神楽坂のセリフから察するに、一枚相手の手札をピーピング出来るという効果らしく、上昇値も1000ポイントという大幅アップ。

 更に、デッキを見たのみで相手の心理すら理解する神楽坂ならば、手札の種類を外すことは恐らくはない。
その証拠に《ロード・シンクロン》を当てられ、神楽坂に手札を一枚晒してしまう。

「そしてバトルフェイズ。サイコ・デビルでマックス・ウォリアーに攻撃!」

「くっ……」

遊矢LP4000→2400

 攻撃力が3000を超えているサイコ・デビルの攻撃には、流石のアタッカーでも適うはずもなく一方的に破壊されてしまう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 神楽坂がシンクロ召喚を主軸にしたデッキを自らのデッキにしてくれるとは、元・テスター冥利に尽きるというものだが、そんなことを考えていて敗北しては堪らない。

「俺は《チューニング・サポーター》を守備表示で召喚する!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300
 とは言ったものの俺の手札に《サイコ・デビルを倒す手段はなく、守備力は頼れないもののチューニング・サポーターに守備を託すしかない。

「俺はカードを一枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 神楽坂は新たな種族によるデッキ【サイキック族】を使っているため、次に何が来るかは予想が出来ないのも辛いところだ。

「俺は《沈黙のサイコウィザード》を召喚する!」

沈黙のサイコウィザード
ATK1900
DEF0

 召喚されたのは、下級モンスターのアタッカーたるに相応しい効果を持った槍の超能力者だった。

「《沈黙のサイコウィザード》が召喚に成功した時、墓地のサイキック族を一体除外出来る。さらにサイコ・デビルの効果発動! 遊矢の手札の真ん中は、モンスターカードだ」

「……また正解だ」

 神楽坂が当てたカードは、不幸中の幸いと言ったところか再び《ロード・シンクロン》だったため、俺の手札をこれ以上見透かされることは避けられたようだ。

 それにしても、神楽坂の怒涛の効果ラッシュに《スキルドレイン》でもやりたくなるが、そんなことをすれば機械戦士もただではすまない。
……まあ、そもそもデッキに投入していないので、言っても仕方ないのだが。

「バトル! 沈黙のサイコウィザードで、チューニング・サポーターに攻撃!」

「伏せてある《マジカルシルクハット》を発動!」

 沈黙のサイコウィザードの攻撃の前にマジシャンが使うようなシルクハットが三つ出現し、その中の一つにチューニング・サポーターはすぐさま隠れ、沈黙のサイコウィザードは攻撃対象を見失った。
残り二つのシルクハットには、デッキから選んだ二枚の魔法・罠カードがモンスターとなって隠れている。

「なるほどな……バトルを続行! 真ん中のシルクハットに攻撃だ、サイコウィザード!」

 神楽坂ほどのデュエリストならば、マジカルシルクハットからどうなるかは解るだろうが、解っていても止められる術はない。
沈黙のサイコウィザードが真ん中のシルクハットに槍を突き刺すと、そこにはチューニング・サポーターが入っていた。

「よし、バトルフェイズを終了する」

 チューニング・サポーターだけでも破壊できて良かったのだろう、《サイコ・デビル》の攻撃宣言はせずにバトルフェイズを終了した。

「解ってるだろうが宣言する! バトルフェイズ終了と共に二体のシルクハットは破壊され、隠れていた《リミッター・ブレイク》の効果が発動する! 現れろ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 マジカルシルクハットの破壊されるデメリット効果により、墓地に送られた《リミッター・ブレイク》の効果で二体のマイフェイバリットカードが特殊召喚される。
影丸理事長とのデュエルでも俺を助けてくれたコンボである。

「流石にやるな……このままターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには二体のマイフェイバリットカードがおり、手札にはチューナーモンスター《ロード・シンクロン》がいる。
ならば狙うのは、やはり機械戦士たちの皇たる《ロード・ウォリアー》か。

「悪いが、ロード・ウォリアーのシンクロ召喚はさせないぜ遊矢! お前のスタンバイフェイズ時、《マインドクラッシュ》を発動! 選択するのは、当然《ロード・シンクロン》だ!」

 相手の手札のカードを言い当てることで、そのカードを捨てさせることが出来る、いわゆる『ハンデス』カードの一種が発動される。
なるほど、確かに神楽坂ならば《サイコ・デビル》の効果と併せて最大限活用出来るだろう。

「……確かに《ロード・シンクロン》は俺の手札にある」

 《サイコ・デビル》の効果で散々確認され、当然ながら俺の手札には《ロード・シンクロン》はあったため、神楽坂に見えるようにかざした後に墓地に送った。

「……なら、俺は《ドリル・シンクロン》を召喚!」

ドリル・シンクロン
ATK800
DEF300

 神楽坂の《マインドクラッシュ》に妨害されたため、狙っていたシンクロモンスターの《ロード・ウォリアー》はシンクロ召喚出来ないものの、代わりのチューナーモンスターならば手札にある。

「レベル2の《スピード・ウォリアー》二体に、レベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」

 ドリル・シンクロンが、その頭についたドリルの高速回転を始めて光の輪となり、スピード・ウォリアー二体を包み込んでいく。

 相手は俺が始めて戦うシンクロ召喚の使い手……ならば、俺がシンクロ召喚を使うに相応しくなったかどうか、神楽坂にシンクロ召喚で勝つことで証明する……!

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

セブンソード・ウォリアー
ATK2300
DEF1800

 光の輪をその手に持った剣で切り裂きながら、金色の鎧を纏った剣の機械戦士がシンクロ召喚される。

「セブンソード・ウォリアーに装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備し、効果発動! このモンスターに装備魔法が装備された時、相手ライフに800ポイントのダメージを与える。イクイップ・ショット!」

神楽坂LP4000→3200

 セブンソード・ウォリアーにファイティング・スピリッツが装備されたことにより、神楽坂に投げナイフが投げられ、モンスターをすり抜けて狙い通りに神楽坂に直撃する。

「バトル! セブンソード・ウォリアーで、沈黙のサイコウィザードに攻撃! セブン・ソード・スラッシュ!」

 ファイティング・スピリッツの効果は、相手フィールドのモンスターの数×300ポイント攻撃力がアップするという効果であるため、セブンソード・ウォリアーの攻撃力は2900。
沈黙のサイコウィザードを易々と切り裂いたが、破壊したサイコウィザードのいた場所に、新たなモンスターが出現していた。

「沈黙のサイコウィザードがフィールドを離れた時、召喚した時に除外していたモンスターを特殊召喚する。俺が除外していたのは《サイ・ガール》!」

 《サイコ・デビル》のシンクロ素材となっていた、少女のようなチューナーモンスターが予期せぬタイミングで神楽坂のフィールドに特殊召喚された。

神楽坂LP3200→2200

「サイ・ガールが除外ゾーンから特殊召喚された時、俺のデッキの一番上のカードを除外する」

 ……さて、メインフェイズ2にセブンソード・ウォリアーの第二の効果を発動し、攻撃力3400を誇る《サイコ・デビル》を破壊する予定だったが、チューナーモンスターである《サイ・ガール》を神楽坂のフィールドに残しておくのも不安が残る。
しかしサイコ・デビルを残してしまえば、次の神楽坂のターンで、確実にセブンソード・ウォリアーは破壊されてしまうのもまた事実だ。

「メインフェイズ2、セブンソード・ウォリアーの第二の効果を発動! 装備している《ファイティング・スピリッツ》を墓地に送ることで、《サイコ・デビル》を破壊する!」

 かといって発動しないと、残った二体でレベル8の強力なシンクロモンスターが召喚されてしまうため、結局予定通りにサイコ・デビルを破壊することとなった。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 神楽坂のフィールドには下級モンスターである《サイ・ガール》が一体だけだが、その下級モンスターがチューナーモンスターであれば話は別だということを、俺は良く知っている。

「《寡黙なるサイコプリースト》を召喚し、自身の効果で守備表示となる!」

寡黙なるサイコプリースト
ATK0
DEF2100

 召喚されたのはいかにもな壁モンスターだったが、当然ここからシンクロ召喚に繋げてくるだろう。

「寡黙なるサイコプリーストの効果を発動。手札を一枚捨てることで、墓地のサイキック族モンスターを除外出来る」

 俺の予想に反して神楽坂が行ったのは、墓地のサイキック族を除外するという効果。
この《寡黙なるサイコプリースト》や、先程の《サイ・ガール》や《沈黙のサイコウィザード》の効果を見るに、神楽坂の【サイキック族】デッキは除外ゾーンを多用するらしい。

「行くぞ! レベル3の《寡黙なるサイコプリースト》に、レベル2の《サイ・ガール》をチューニング!」

 やはり最終的にはそうなるようで、神楽坂のこのデュエルにおいて二回目のチューニングが始まった。

「心の深淵で燃え上がる我が炎よ、黒き怒濤となりてこのフィールドを蹂躙せよ! シンクロ召喚!現れろ、《マジカル・アンドロイド》!」

マジカル・アンドロイド
ATK2400
DEF1700

 魔法使いのような外見をしたサイキック族モンスターがシンクロ召喚され、セブンソード・ウォリアーを超える攻撃力を持っていることに歯噛みする。
だが、神楽坂のコンボはそれだけでは終わらなかった。

「除外ゾーンから特殊召喚された《サイ・ガール》がフィールドから離れた時、除外していたカードを一枚ドローする。更に《寡黙なるサイコプリースト》がフィールドから離れた時、このモンスターの効果で除外したモンスターを特殊召喚する! 異次元から蘇れ、《サイコ・デビル》!」

 先のターンにセブンソード・ウォリアーが破壊した《サイコ・デビル》が、神楽坂の言う通り異次元から特殊召喚されて蘇る。
どうやら、サイコ・デビルを破壊することを選んだのは裏目に出たようだ。

「サイコ・デビルの効果発動。遊矢の一番右のカードは、魔法カードだ」

「一番右のカードは、《狂った召喚歯車》……正解だ」

 三回連続の正解ともなると流石に気が滅入るが、そんなことを思っていられる状況ではなかった。

「《狂った召喚歯車》……か。バトル! 《サイコ・デビル》で、セブンソード・ウォリアーに攻撃!」

「……ん?」

 てっきり《マジカル・アンドロイド》から攻撃するかと思っていたのに反し、神楽坂は《サイコ・デビル》から攻撃してきたが、悪いがどちらにせよセブンソード・ウォリアーの運命は決まっている。
……サイコ・デビルに破壊された方が痛いという差はあるが。

遊矢LP2400→1300

「そして、マジカル・アンドロイドで遊矢にダイレクトアタック!」

「手札から《速攻のかかし》を墓地に捨てることで、バトルフェイズを終了させる!」

 俺の手札からいつものようにかかしが飛び出し、マジカル・アンドロイドの攻撃を俺の代わりに受けて墓地に送られる。
今回は、マジカル・アンドロイドの攻撃が電撃を纏った超能力だったため、焦げながら破壊された。

「カードを二枚伏せてターンエンド。そしてエンドフェイズに移行し、マジカル・アンドロイドの効果を発動! 自分のサイキック族の数×600ポイントのライフを回復する」

 《サイコ・デビル》から攻撃して俺のライフを減らすことを優先したことから解っていたが、やはり神楽坂は俺の手札に《速攻のかかし》があることは読んでいたようで、攻撃が防がれても特に何も反応を見せずに《マジカル・アンドロイド》の効果を発動した。
その効果はエンドフェイズ時に発動するライフ回復効果で、このまま放置すればかなりの数値を回復されてしまうだろう。

神楽坂LP2200→3400

「俺のターン、ドロー!」

 《マインドクラッシュ》の被害もあって少し手札が心もとないが、神楽坂にもバレていることだしこの魔法カードで逆転を狙わせてもらおう。

「魔法カード《狂った召喚歯車》を発動! 墓地の攻撃力1500以下のモンスターとその同名モンスターを、三体まで特殊召喚する! 増殖して蘇れ、《チューニング・サポーター》!」

 お手軽に大量展開が出来る《地獄の暴走召喚》の相互互換だが、相手はフィールドにいるモンスターと、同じ種族・攻撃力のモンスターをデッキから可能な限り特殊召喚出来るという、《地獄の暴走召喚》より重いデメリット効果がある。

「……俺は特殊召喚しない」

「なら俺は、更に《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF500

 神楽坂のデッキは不確定だったため、少々どんなモンスターが出て来るか不安だったものの、何も出て来ないようで安堵したついでに、ニトロ・シンクロンを召喚する。

「レベル1のチューニング・サポーターに、自身の効果でレベル2となったチューニング・サポーター二体と、レベル2のニトロ・シンクロンをチューニング!」

 やはりここで呼び出すのは、専用チューナーのドロー効果と、一発の攻撃の火力が一番の信頼出来る扱いやすい機械戦士。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1800

 先程召喚に失敗した機械戦士の皇たる《ロード・ウォリアー》に次いで、機械戦士の中ではステータスが高いニトロ・ウォリアーが登場し、墓地でシンクロ素材たちがその効果を発揮する。

「シンクロ素材となったため、《チューニング・サポーター》三体と《ニトロ・シンクロン》の効果を併せて四枚ドロー! ……さらに、《手札断殺》を発動し、お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 《ニトロ・シンクロン》と《チューニング・サポーター》の効果を併せた驚異の四枚ドローの後、《手札断殺》の効果によってさらに二枚の手札交換を果たす。

 そして墓地に送った《リミッター・ブレイク》の……と言いたいところだが、《マジカルシルクハット》のコンボでもう使ってしまったため、今回は自粛する。
その代わりと言っては何だが、ニトロ・ウォリアーの効果を活かすためのカードを送っておいた。

「墓地の《ADチェンジャー》をの効果を発動! マジカル・アンドロイドを守備表示に変更する!」

 墓地の《ADチェンジャー》の効果とそれを送った《手札断殺》の効果により、ニトロ・ウォリアーの攻撃の下準備が完了する。

「バトル! ニトロ・ウォリアーで、サイコ・デビルに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 魔法カード《手札断殺》を使用したため、《ニトロ・ウォリアー》は効果により攻撃力が1000ポイントアップして《サイコ・デビル》の攻撃力を超えている。

「ダイナマイト・インパクトはさせないぜ遊矢! リバースカード《和睦の使者》を発動!」

 ニトロ・ウォリアーはサイコ・デビルに殴りかかったは良いものの、神楽坂の《和睦の使者》によって防がれたために破壊も戦闘ダメージを与えることも叶わなかったため、当然第二の効果たるダイナマイト・インパクトは発動しない。

「……だが、サイコ・デビルだけは破壊させてもらう! メインフェイズ2、《ワンショット・ブースター》を特殊召喚!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 長い付き合いだ、特殊召喚されて早速次に何をすれば良いのか解っているのか、ワンショット・ブースターはすぐにその装備されたミサイルをサイコ・デビルへと向けた。

「ワンショット・ブースターをリリースすることで、戦闘で破壊出来なかったモンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

 ワンショット・ブースターの二発の巨大なミサイルのおかげで、完璧に狙い通りとは行かずとも、神楽坂の主力モンスターの一角であるサイコ・デビルを破壊することに成功した。

「……よし、カードを一枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 だが、いくら厄介な《サイコ・デビル》を破壊したところで、神楽坂は手札もライフも未だに潤沢であるために、全く喜べる状況でも無かった。

「俺はチューナーモンスター、《メンタルシーカー》を召喚!」

メンタルシーカー
ATK800
DEF500

 神楽坂が召喚したのはまたもチューナーモンスターであり、俺も神楽坂もシンクロ召喚を使ってのデュエルで引かないようだ。

「レベル5の《マジカル・アンドロイド》にレベル3の《メンタルシーカー》をチューニング!」

 《マジカル・アンドロイド》の優秀なライフゲイン効果によってライフを回復し、その後はレベル5というレベルを活かして高レベルのシンクロ召喚に繋ぐ。
神楽坂のやっていることには無駄がなく、第三者の立場からすれば拍手喝采を送りだいところだろうが、今はデュエルしている立場なのでそうもいかない。

「逆巻け、我が炎! その炎をもって、領域の支配者たる悪魔を呼び出せ! シンクロ召喚! 《メンタルスフィア・デーモン》!」

メンタルスフィア・デーモン
ATK2700
DEF1400

 新たに登場したシンクロモンスターの外見は、《マジカル・アンドロイド》や《サイ・ガール》とは違い、デーモンの名に恥じぬ《サイコ・デビル》と似たような悪魔のような外見だった。
同じように機械戦士の中では、珍しく悪魔のような形相をしている《ニトロ・ウォリアー》とお互いに睨み合っている。

「バトル! メンタルスフィア・デーモンで、ニトロ・ウォリアーに攻撃!」


 神楽坂が攻撃力の劣るモンスターで攻撃してくるとなると、メンタルスフィア・デーモンに戦闘補助の効果があるか、手札か墓地からコンバットトリックがあるかのどちらか。
どうやら後者のようで、神楽坂は墓地のカードを発動しようとデュエルディスクに手を伸ばしていた。

「墓地から《スキル・サクセサー》の効果を発動! メンタルスフィア・デーモンの攻撃力を700ポイントアップさせる!」

 自分の《寡黙なるサイコプリースト》の時か、俺の《手札断殺》の時かは知らないが、いつの間にやら墓地に送っていた《スキル・サクセサー》が発動し、メンタルスフィア・デーモンがニトロ・ウォリアーの攻撃力を超える。

 だがこちらとて、やられっぱなしではいられる訳も無い。

「こっちも墓地から《シールド・ウォリアー》の効果を発動! ニトロ・ウォリアーは戦闘では破壊されない!」

 メンタルスフィア・デーモンがその強靭な爪をニトロ・ウォリアーに振り下ろす寸前に、その間にシールド・ウォリアーが割って入ってニトロ・ウォリアーを守り抜くが、ダメージまでは防げず俺のライフポイントが削られる。

遊矢LP1300→700

「くっ、《シールド・ウォリアー》があったか……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにいるニトロ・ウォリアーは、神楽坂のメンタルスフィア・デーモンの攻撃力を上回っているものの、モンスターの大量展開が持ち味の神楽坂相手にこの俺のライフは心許ない。

「俺は《シンクロキャンセル》を発動! ニトロ・ウォリアーをエクストラデッキに戻し、《チューニング・サポーター》三体と《ニトロ・シンクロン》を墓地から特殊召喚する!」

 通常魔法ではあるものの、シンクロモンスターバージョンの《融合解除》と言えなくもない魔法カード《シンクロキャンセル》により、再び俺のフィールドに四体のシンクロ素材が揃う。

「もう一回やらせてもらう! レベル1の《チューニング・サポーター》に、自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》二体と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 録画していた映像のように再び前のターンと同じ光景が繰り返されていくが、今からシンクロ召喚するのは《ニトロ・ウォリアー》ではなく、黄色の鎧を纏ったラッキーカード。
「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワーツール・ドラゴン》!」

パワーツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 ラッキーカードである機械龍の登場と共に発動した、シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》のドロー効果をありがたく使わせてもらい、とりあえずの指針を決める。

「パワーツール・ドラゴンの効果発動! デッキから三枚の装備魔法を選び、裏側で相手に選ばせる! パワー・サーチ!」

 俺がデッキから選んだカードは《団結の力》・《魔界の足枷》・《魔導師の力》と、どれも優秀な戦闘補助用の装備魔法カードで占められていた。

「……俺から見て一番右だ」

 散々《サイコ・デビル》の効果で、俺の手札のカードの種類を宣言してきた神楽坂の選択した装備魔法は、運良く今最も上昇値が低い《団結の力》。

 早速《パワーツール・ドラゴン》に装備……はせず、新たにモンスターを召喚する。

「俺は、チューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を召喚する!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

 エフェクト・ヴェーラーの登場によって、俺のフィールドにラッキーカードが二体並んだのだから、やることと言えば一つしかない。

「レベル7の《パワーツール・ドラゴン》と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 エフェクト・ヴェーラーが光の輪となりパワーツール・ドラゴンを取り囲むことにより、自身の力だけでは外せない黄色の鎧を外し、神話のドラゴンがその姿を炎と共に現した。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2500

 ラッキーカード同士のチューニングによって、シンクロ召喚されたライフ・ストリーム・ドラゴンが空高くへと飛び立っていった。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

遊矢LP700→4000

 空中から俺へとライフが降り注ぎ、神楽坂のサイキック族にやられたライフが初期ライフへと回復する。

「そして、ライフ・ストリーム・ドラゴンに《団結の力》を装備し、バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、メンタルスフィア・デーモンに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「ぐああっ……!」

神楽坂LP3400→2400

 パワーツール・ドラゴンの効果によって手札に加えられていた《団結の力》を伴った一撃が、神楽坂のメンタルスフィア・デーモンを貫いた。
シンクロ召喚する前に《団結の力》をパワーツール・ドラゴンに装備した方が攻撃力は上がったが、神楽坂には未だに二枚のリバースカードがあるため、破壊耐性があるライフ・ストリーム・ドラゴンをシンクロ召喚してから攻撃することを選んだ。

 メンタルスフィア・デーモンを破壊出来たことから、二枚のリバースカードは攻撃反応系では無かったためにそれは杞憂だったようだが、メンタルスフィア・デーモンを破壊出来たのだから良しとしよう。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! ……《強欲な壷》を発動!」

 強欲な壷が破壊されると共に神楽坂が二枚ドローするも、その表情はあまり浮かない。

 それもその筈、俺のフィールドには破壊耐性を持つライフ・ストリーム・ドラゴンに、リバースカードが三枚でライフは4000という布陣。
それに対し、神楽坂はライフは4600と勝っているが、フィールドは攻撃反応系ではないリバースカード二枚のみなのだから。

「速攻魔法《サイキック・サイクロン》を発動! お前の真ん中のリバースカードは、罠カードだ!」

 神楽坂の後攻一ターン目以来となる、超能力を纏った竜巻であるサイキック・サイクロンが、神楽坂の予想通りの種類である俺の《攻撃の無力化》を破壊した。

「サイキック・サイクロンの効果により……一枚ドロー!」

 逆転の思いを込めた《サイキック・サイクロン》による一枚のドローに対し、神楽坂のデッキはその思いに応えたのだった。

「……よし、リバースカード《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地から《寡黙なるサイコプリースト》を特殊召喚する!」

 万能蘇生カードの一角である《リビングデッドの呼び声》で特殊召喚されたのは、手札一枚をコストに墓地のサイキック族モンスターを除外し、自身がフィールドから離れた時に除外したモンスターを特殊召喚するというトリッキーな効果を持った《寡黙なるサイコプリースト》。

 また、効果を使った後にシンクロ召喚によってフィールドから離し、二体のシンクロモンスターを並べるコンボだろうか……?

「手札を一枚捨て、墓地のサイキック族モンスターを除外する。……そして、これが俺の逆転の一手だ! 寡黙なるサイコプリーストをリリースし、《マックス・テレポーター》をアドバンス召喚!」

マックス・テレポーター
ATK2100
DEF1200

 『逆転の一手』と銘打って予想外だったアドバンス召喚をされたのは、上級モンスターにしてはステータスが低めな《マックス・テレポーター》というモンスターだった。

「《寡黙なるサイコプリースト》がフィールドから離れたため、除外されていた《メンタルシーカー》を特殊召喚」

 《マックス・テレポーター》の効果という巨大な波が来る前に、まずは小さな波のように、リリースされた《寡黙なるサイコプリースト》の効果が発動する。

 そして、満を持して神楽坂の逆転の一手が起動した。

「マックス・テレポーターの効果発動! 2000のライフポイントを払うことで、デッキから二体のレベル3のサイキック族モンスターを特殊召喚出来る! 来い、二体の《寡黙なるサイコプリースト》!」

神楽坂LP2400→400

 初期ライフポイントの半分の数値である2000のライフを払うというド派手な効果と共に使われたのは、レベル3のサイキック族という縛りはあるものの、デッキから好きなモンスターを特殊召喚出来るという効果。

 その効果によって特殊召喚されたのは、先程《マックス・テレポーター》をリリースするために使われたモンスターと同じの、《寡黙なるサイコプリースト》。
だが神楽坂の手札は一枚であるため、二体召喚しても一体しか効果を使うことは出来ないので、《寡黙なるサイコプリースト》の危険度はやや下がる。

「そして、もう一枚のリバースカード《サイコ・チャージ》を発動! 俺の方がライフポイントが少ない時、墓地のサイキック族を二体除外することで二枚ドローする!」

 そんなことが神楽坂の計算に入っていない訳がなく、ライフ・ストリーム・ドラゴンの回復効果も逆利用され、神楽坂に《寡黙なるサイコプリースト》の効果コストを用意されてしまう。

「手札を二枚捨てて二体の《寡黙なるサイコプリースト》の効果を発動し、レベル3の《寡黙なるサイコプリースト》二体と、同じくレベル3の《メンタルシーカー》をチューニング!」

 合計レベルは俺も見たことがない9という数値であり、この局面で特殊召喚されるとあれば、名実共に神楽坂のエースカードであろう。

「最強の超能力者たる魔弾の射手、我が炎を撃ち出して敵を焦がせ! シンクロ召喚! 現れろ、《ハイパーサイコガンナー》!」

ハイパーサイコガンナー
ATK3000
DEF1800

 見るからに強そうな二対の大砲を持ったサイキック族がシンクロ召喚されたのは確かに脅威だったが、俺はそれよりも、ハイパーサイコガンナーのシンクロ召喚によってフィールドを離れた、二体の《寡黙なるサイコプリースト》のことについて考えていた。
あの二体がシンクロ素材となる前に、神楽坂が効果を発動して除外していたモンスターが何なのか……!

「フィールドを離れた二体の《寡黙なるサイコプリースト》の効果発動! 除外していた二体のモンスター……《メンタルスフィア・デーモン》と、《サイコ・デビル》を特殊召喚!」

 《マックス・テレポーター》からの脅威の大量展開により、空だったフィールドがこの一瞬で、四体の大型サイキック族モンスターが出現していたのだった。

「サイコ・デビルの効果発動! お前のその手札は、魔法カードだ!」

「……確かにそうだ」

 俺の二枚の手札の内の一枚は、神楽坂が言った通り魔法カードである、装備魔法《ダブル・バスターソード》。
優秀な効果を持っているのだが、戦士族モンスターにしか装備が出来ないデメリット効果があるために、手札で腐っていたのだった。

「まだだ! 墓地から罠カード《ブレイクスルー・スキル》を発動し、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を無効にし、メンタルスフィア・デーモンには装備魔法《サイコ・ソード》を装備する!」

 先程発動された《スキル・サクセサー》と同じ効果を持った罠カード、《ブレイクスルー・スキル》によりライフ・ストリーム・ドラゴンの破壊耐性効果は無効にされてしまい、メンタルスフィア・デーモンには何やら剣が装備された。

「《サイコ・ソード》は、俺のライフが相手のライフより下の場合、最大2000までその数値だけ攻撃力がアップする! 俺のライフは400でお前のライフは4000……よって、2000ポイントの攻撃力がアップする!」

 《マックス・テレポーター》の多大なライフコストを、《サイコ・トリガー》以外にもまだ利用してくるか。
これで神楽坂の手札も0枚でリバースカードもない為に、神楽坂のコンボはここで終わりを告げたものの、もはや何度もトドメがさせるオーバーキルにまで発展していた。

「バトル! メンタルスフィア・デーモンで、ライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃!」

 最大値の2000ほど攻撃力をアップさせる《サイコ・ソード》を持ったメンタルスフィア・デーモンが、先のターンで破壊された恨みを持ってか見事な一文字斬りでライフ・ストリーム・ドラゴンを破壊した。

「くうっ……!」

遊矢LP4000→2000

「さらに、メンタルスフィア・デーモンが相手モンスターを戦闘破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力分のライフを回復する。ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力は2900のため、俺のライフは2900回復する!」

神楽坂LP400→3300

 神楽坂のライフが俺のライフを上回ったため、メンタルスフィア・デーモンに装備された《サイコ・ソード》は効果を失うが、もはや用済みも同然の代物が使えなくなろうと、神楽坂にとっては痛くもかゆくも無いだろう。

「二回目の攻撃! ハイパーサイコガンナーで、遊矢にダイレクトアタック!」

「これ以上はやらせない! リバースカード、オープン! 《ピンポイント・ガード》! 相手のダイレクトアタック時、レベル4以下のモンスターを表側守備表示で特殊召喚出来る! 来てくれ、《スピード・ウォリアー》!」

 俺の伏せてあったリバースカード、《ピンポイント・ガード》からマイフェイバリットガードが高速で出現し、俺とハイパーサイコガンナーの間に割って入った。

「なるほどな……攻撃を続行する! ハイパーサイコガンナーで、守備表示のスピード・ウォリアーに攻撃! ハイパーサイコガンナーは、貫通効果を持っている!」

「なにっ……! 手札から《牙城のガーディアン》の効果を発動し、スピード・ウォリアーの守備力を1500ポイントアップさせる!」

遊矢LP2000→900

 ハイパーサイコガンナーのビーム砲をスピード・ウォリアーは受け止めきれず、加勢した牙城のガーディアンですら防ぎきれなかった分が俺に直撃した後、神楽坂の元へと帰っていった。

「トドメをさせなかったか……! だが、ハイパーサイコガンナーが守備表示モンスターを攻撃した時、こちらの攻撃力と守備力の差分だけライフを回復する。よって、俺は1100のライフを回復する!」

神楽坂LP2400→4300

 マックス・テレポーターの効果で2000ものライフを支払ったにもかかわらず、あっさりと初期ライフポイント数値と出来るサイキック族とそれを扱う神楽坂に戦慄する。
《ピンポイント・ガード》により、一ターンだけ破壊耐性効果を得たスピード・ウォリアーのおかげで、後続の《サイコ・デビル》と《マックス・テレポーター》の追撃を受けずに済むのは不幸中の幸いか。

「俺はもう出来ることは全てやった。ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 引いたカードは、墓地のモンスターを五枚デッキに戻すことで、二枚ドローすることが出来る効果を持った汎用的なドローソース《貪欲な壷》。

「俺は《貪欲な壷》を発動し……二枚ドロー!」

 神楽坂も先程、《サイキック・サイクロン》のドロー効果に、自分のデッキを信じて願いを込めていた。
ならばそれを、自分だけのデッキを信じる心を伝えた自分が、それを出来なくてどうするか……!

「……俺は、《ハイパー・シンクロン》を召喚!」

ハイパー・シンクロン
ATK1600
DEF800

 青色のボディが煌めく人型のシンクロンが召喚され、背面についたモーターを轟かせて胸部のパーツを開けて四つの光の玉を出した。

「……気が早いぜ、ハイパー・シンクロン。レベル2のスピード・ウォリアーと、レベル4のハイパー・シンクロンをチューニング!」

 ハイパー・シンクロンが自身の出した四つの玉と共に光の輪となり、マイフェイバリットガードを包み込んでいく。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

グラヴィティ・ウォリアー
ATK2100
DEF400

 まさに満を持してというタイミングでシンクロ召喚されたのは、獣型の機械戦士である重力の闘士《グラヴィティ・ウォリアー》。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 神楽坂のデッキの展開力をせいぜい利用させてもらい、攻撃力が3300にまで上がったところで、更に攻撃力を上げるための装備魔法を装備させた。

「グラヴィティ・ウォリアーに装備魔法《ダブル・バスターソード》を装備することで、攻撃力を1000ポイントアップさせ二回攻撃を得る!」

 神楽坂のメンタルスフィア・デーモンに装備されているサイコ・ソードに倣って、グラヴィティ・ウォリアーは二振りの剣をその両手に装備した。
攻撃力1000ポイントアップに二回攻撃と、戦士族にしか装備できないとはいえ優秀な効果であるが、エンドフェイズ時に装備したモンスターが自壊するという強烈なデメリット効果がある。

 そのため、このターン中に神楽坂の4300を誇るライフを0にすることが出来なければ……俺は、敗北をすることになるだろう。

「行くぞ神楽坂! グラヴィティ・ウォリアーで、メンタルスフィア・デーモンに攻撃! グランド・クロス・ファースト!」

 まずは一対の剣が強靭な機械の爪と共に同じく剣を持ったメンタルスフィア・デーモンを襲い、そのままメンタルスフィア・デーモンに装備されていたサイコ・ソードごと切り裂いて破壊した。

「うわああっ!」

神楽坂LP4300→2700

 あまり認めたくはないのだが、このデュエルを通して解ったことは、シンクロ召喚のことならば神楽坂の方が使うのは上手いということだった。

 だが、俺はそれでもずっと愚直に【機械戦士】を使用してきた。
シンクロ召喚では負けてしまうかもしれないが、このデュエルに負けるわけにはいかない……!

「さらに、マックス・テレポーターに攻撃! グランド・クロス・セカンド!」

神楽坂LP2700→500

 今度はダブル・バスターソードの左手側に持っていた剣で切り裂き、そもそも戦闘向けではないマックス・テレポーターは呆気なく破壊されてしまう。

「ぐっ……だが、これでグラヴィティ・ウォリアーの攻撃は終わりだ!」

「いや、まだだ! 最後のリバースカード、オープン! 《シンクロ・オーバーリミット》! このターン、戦闘で相手モンスターを破壊したシンクロモンスターは、戦闘後に破壊される代わりにもう一度だけ攻撃出来る!」

 グラヴィティ・ウォリアーが再び動き始めると、まだ神楽坂のフィールドに残っている相手モンスターに向かって行った。

「くそっ……!」

「終わりだ神楽坂! グラヴィティ・ウォリアーで、ハイパーサイコガンナーに攻撃! グランド・クロス・ラスト!」

 グラヴィティ・ウォリアーの三連続攻撃の最後の一撃は、神楽坂の残りライフを削り取った。

神楽坂LP500→0


「紙一重だったが……だからこそ、楽しいデュエルだったぜ、神楽坂」

 息詰まるシンクロ召喚同士のデュエルに疲れて神楽坂は座り込んだが、その表情はどこか晴れ晴れとしていたように見えた。

「悔しいが……これからこのデッキと一緒に成長出来ると思うと、なんだか嬉しいもんだな」

 自分のデュエルに迷走していた神楽坂はもうおらず、ここにいるのは、正真正銘の自分だけのデッキを持ったデュエリスト。

 そんな神楽坂から勝者の証たるメダルを貰い、ジェネックスの中盤はそろそろ終わりを告げようとしていた。
 
 

 
後書き
テスト中、行き帰りの電車内でずっと書いていたものを今日書き終わらせたのですが……どうしてこんなに長くなった。
やはり、もう少しデュエル自体を短くしたり文章を短くする工夫が必要でしょうか……?

それはともかく、VS神楽坂。
彼も三沢と同じくガチデッキ気味になってしまいましたが、シンクロVSシンクロが書きたかったので後悔はしていません。

そしてターボさんや、君が一番輝く時だろうに何故出なかった……

では、感想・アドバイス待ってます。
 

 

―ジェネックス Ⅳ―

 国際大会ジェネックスも中盤となったことにより、デュエル・アカデミアにもプロデュエリストの姿が目立つようになってきていた。
先日俺がデュエルした数学デュエリストの異名を持つマティマティカや、かのカイザー亮などはジェネックス開催と聞くや否や駆けつけたらしく、まだ序盤早々にこの島に来ていたが、大多数のプロデュエリストは先程入島したところだ。

 いくら三幻魔を巡る影丸理事長の思惑があったと言えども、こんな海の真ん中に学校を作るものだから、外来のプロデュエリストも来るのが大変なのだろう。

 プロデュエリストは、海馬コーポレーションが作ったデュエリストの聖地であるこのデュエル・アカデミアの中を見学していったりする者や、生徒たちに無双してるかと思えば、甘く見て万丈目などに手酷くやられる者など様々だった。

 そんな後続のプロデュエリストの中でも、入島するや否や俺とのデュエルをするために島内を散策する者がいた。

 その名はタイタン。
かつて十代を狙ってこのデュエル・アカデミアを訪れ、なんだかんだあって今は無き廃寮で俺と共に化け物とタッグデュエルをした友人だ。

 自身のマジシャンとしての技を使い、インチキ闇のデュエリストとして仕事をしていたが、あの黒い泡のような化け物に襲われてから本物の闇のデュエルを知ったため、タイタンはその業界からは足を洗ったのだった。
そして一念発起して、昔目指していたというプロデュエリストを目指すことにしたタイタンは、いつかプロデュエリストになってからデュエルするという約束をしてこの島から去っていった。

 結果として彼は、マティマティカや亮やエドのような上位のランクではないものの、ついに最近プロデュエリストの末席へと名を連ねることとなったのだった。
亮やエドと言ったプロデュエリストの知り合いがいるため、プロリーグの記事や雑誌を持っていた俺は、いち早くそのタイタンがプロデュエリストになったことを知ることが出来た。

 そして別れる時にした約束を果たさんと、俺とタイタンは廃寮跡の前でデュエルすることにした。

 セブンスターズとなった高田が破壊したこの場所は、影丸理事長が三幻魔などについて研究するための隠れ蓑だったことを後から聞いた。
影丸理事長が三幻魔を求めないのであれば、もう直す必要も無いのだから、いつか完全にこの場所は更地になることだろう。
あの、俺たちにタッグデュエルを挑んできたり高田を操ったりした黒い泡の化け物たちも、もういないことを祈りたいものだ。

 まあそんな辛気くさい話は、これから始まるタイタンとのデュエルの前に、もはや何の意味も無しはしない。
タイタンと二、三言葉を交わした後、どちらからという訳でもなくデュエルの構えを取った。

 久々の世間話よりもデュエルを優先するとは、俺も亮にデュエル馬鹿などと言えないか、などと思いながら。

『デュエル!』

遊矢LP4000
タイタンLP4000

「私のターン、ドロー!」

 タイタンの格好は黒マントに仮面という、改めて見るともの凄く不審者だったが、闇のデュエリストやプロデュエリストには格好から来るイメージというのも大切な要素なのだろう……恐らくは。

「私は《闇の誘惑》を発動し、二枚ドローして闇属性モンスターを一体除外する。そして、《トリック・デーモン》を守備表示で召喚するぅ」

トリック・デーモン
ATK1000
DEF0

 手札交換をした後に守備力が0のデーモンを守備表示とは、手札事故ではないだろうと思われるので、破壊されることが仕事のモンスターか。
そしてその現れたデーモンの名前からすると、タイタンのデッキは以前の【チェスデーモン】ではないのだろうか、ということも考えられる。

「さらにカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 タイタンのデッキが何であろうと、【デーモン】であることは確かだろう。
とりあえず攻め込むために、俺は手札にいるアタッカーへと手を伸ばした。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 三つ叉の槍を持った機械戦士のアタッカーが現れ、その槍の狙いをトリック・デーモンへとつける。

「バトル! マックス・ウォリアーで、トリック・デーモンに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 マックス・ウォリアーの槍の乱れ突きに、トリック・デーモンはあっさり破壊されたものの、その破壊された身体から現れた怨霊がタイタンのデッキに宿った。

「トリック・デーモンが墓地に送られた時ぃ、デッキから《デーモン》と名前がついたカードを一枚手札に加えるぅ」

 やはりトリック・デーモンはサーチャーだったようだが、サーチの効果範囲が広すぎて、若干破壊したのを後悔した。

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 さて、トリック・デーモンのサーチ効果で何を手札に加えたのだろうか。
ここはやはり、《デーモン》には必須のフィールド魔法を更にサーチ出来るデーモンか……?

「私は手札から《ジェネラルデーモン》を捨て、デッキからフィールド魔法《万魔殿-悪魔の巣窟》を手札に加えてそのまま発動するぅ!」

 読み通りアカデミアを侵食して辺りに広がっていく、悪魔の住処たる地獄の一丁目を一瞥し、タイタンの次なる手を待つ。
《万魔殿-悪魔の巣窟》は確かに強力なフィールド魔法だが、その効果はあくまでも受け身なため、今は警戒する必要はない。

「そしてリバースカード、オープン! 《デーモンの雄叫び》! ライフを500払いぃ、墓地のデーモンを特殊召喚するぅ! 蘇れ《トリック・デーモン》!」

タイタンLP4000→3500

 先程マックス・ウォリアーに破壊されたサーチャーのデーモンが蘇り、その効果やデーモンの雄叫びのデメリットと万魔殿-悪魔の巣窟のことを思うと、エンドフェイズ時にかなり厄介なことになるだろうと考えた。

「私のフィールドには《デーモン》がいるぅ……よって、《ジェノサイドキングデーモン》を召喚!」

ジェノサイドキングデーモン
ATK2000
DEF1500

 《チェスデーモン》の一種であるアタッカーの登場に、タイタンのデッキは純正【チェスデーモン】ではないにしろ、未だデッキにはチェスデーモンが入っているようだ。
チェスデーモンを代表すると言っても過言ではないジェノサイドキングデーモンは、破壊した相手モンスターの効果を封じるという効果と、不完全ながらも対象をとる効果に耐性を持っている。

「バトル! トリック・デーモンで、マックス・ウォリアーに攻撃!」

「リバースカード、《くず鉄のかかし》を発動する!」

 マックス・ウォリアーに攻め込もうとしたトリック・デーモンの目の前に、俺のデッキの防御の要ことくず鉄のかかしが攻撃を防ぐ。
本来ならば、攻撃力が高いジェノサイドキングデーモンへと発動させたいところなのだが……

「なるほどなぁ……ジェノサイドキングデーモンで、マックス・ウォリアーに攻撃! 炸裂!五臓六腑ぅ!」

 ジェノサイドキングデーモンの腹から飛び出た、虫のような小型悪魔がマックス・ウォリアーを襲い、ただでさえ攻撃力が下がったマックス・ウォリアーは破壊されてしまう。

「くっ……!」

遊矢LP4000→2800

 ジェノサイドキングデーモンの効果である対象をとる効果を確率で無効にする効果がなければ、あるいはタイタンが外すことに賭けることが出来る精神力が俺にあれば、ダメージを抑えたことが出来ただろうが、無かったことを言っても仕方がない。

「そしてエンドフェイズ、罠カード《デーモンの雄叫び》のデメリット効果により《トリック・デーモン》は自壊しぃ、その効果で《デーモン》と名の付いたカードを手札に加え、《万魔殿-悪魔の巣窟》によってレベル3未満の《デーモン》を手札に加えるぅ。ターンエンドだぁ」

「俺のターン、ドロー!」

 デーモンお得意の自壊によるサーチコンボを身を持って体感することになったものの、トリック・デーモンのレベルが3と低いため、サーチ出来たとしても《ヘルポーンデーモン》や《デーモン・ビーバー》クラスのデーモンしかサーチ出来ないのは不幸中の幸いか。
……代わりに、その《トリック・デーモン》のサーチ効果が優秀であるのだが。

「俺は《スチーム・シンクロン》を守備表示で召喚」

スチーム・シンクロン
ATK600
DEF800

 蒸気を出している人型のシンクロンを召喚したものの、手札が悪く攻勢に出ることは出来ないため、シンクロ召喚は出来ないただの壁である。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 ジェノサイドキングデーモンをリリースして大型のチェスデーモンをアドバンス召喚するか、下級を並べてビートダウンをしてくるか、タイタンはどちらの手を使うか……

「速攻魔法《サイクロン》を発動して伏せてある《くず鉄のかかし》を破壊しぃ、《デーモンの騎兵》を召喚するぅ!」

デーモンの騎兵
ATK1900
DEF0

 相変わらず二回目の発動をさせてもらえない《くず鉄のかかし》を破壊する竜巻と共に、下級モンスターたる悪魔の騎兵が召喚される。

「くず鉄のかかしは破壊したぁ。バト……」

「待て! お前がバトルフェイズに入る前、伏せてある《シンクロ・マテリアル》を発動する。このカードは、相手モンスターを使ってシンクロ召喚をすることが出来る!」

 スチーム・シンクロンが突如として光の輪となりデーモンの騎兵を包むと、デーモンの騎兵やタイタンの意志には関係なくシンクロ召喚の体勢をとった。
《デーモンの騎兵》の効果は詳しく知らないものの、その名前からしてチェスデーモンではないだろうし、実際対象にされた時に発動する効果はないようだ。

「加えて《スチーム・シンクロン》は、相手ターンにシンクロ召喚が出来る! レベル4のデーモンの騎兵に、レベル3のスチーム・シンクロンをチューニング!」

 デーモンの騎兵はスチーム・シンクロンが変化した光の輪から逃れられず、スチーム・シンクロンと共にレベル7のシンクロモンスターの素材となる。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 《スチーム・シンクロン》と《シンクロ・マテリアル》の効果により、シンクロモンスターのラッキーカードたるパワー・ツール・ドラゴンのシンクロ召喚に成功する。

「ぬぅ……ジェノサイドキングデーモンを守備表示にしてターンエンドだぁ」

「俺のターン、ドロー!」

 手札は相変わらず攻勢には向かない手札なものの、今の俺のフィールドにはパワー・ツール・ドラゴンがいる。
このモンスターがいるのならば、この状況でもどうとでもなる……!

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備魔法を選び、裏側で相手が選択して手札に加える! パワー・サーチ!」

 デッキから選んだ装備魔法《団結の力》・《パイル・アーム》・《ダブルツールD&C》の三種類を裏側でタイタンに見せると、見えるわけでもないだろうに妙に見つめてから選んだ。

「……右だぁ」

「お前が選んだカードはこいつだ! 装備魔法《パイル・アーム》をパワー・ツール・ドラゴンに装備し、効果発動! このカードが装備された時、相手の魔法・罠カードを破壊する! 俺が破壊するのは、当然《万魔殿-悪魔の巣窟》!」

 パワー・ツール・ドラゴンの右手に装着されたパイルバンカーから、パイルが飛び出して何もない空間に穴を開けると、周囲を侵食していた万魔殿-悪魔の巣窟がその穴に吸い込まれて消えていく。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、ジェノサイドキングデーモンに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 右手に装着されているパイルバンカーの二発目がジェノサイドキングデーモンを貫き破壊するが、残念ながら守備表示のためにタイタンにダメージは無い。

「これでターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

 万魔殿-悪魔の巣窟を破壊された今、再び張り直さない限りはチェスデーモン系列は両刃の剣となってしまう。
万魔殿-悪魔の巣窟がタイタンの手札に無いことを願うが、タイタンはそんなことは関係なく新たな戦術を用意していたのだった。

「フィールド魔法《伏魔殿-悪魔の迷宮》を発動するぅ!」

「……伏魔殿!?」

 新たにこの世界を侵食し始めたのは、俺が想像していた悪魔の巣窟ではなく悪魔の迷宮。
その効果は俺は知らず、まったくの未知数だった。

「巣窟が一丁目ならば、ここは二丁目とでも言っておこうかぁ……そして、《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》をリリース無しで召喚するぅ!」

戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン
ATK3000
DEF2000

 先程破壊した《ジェノサイドキングデーモン》が更に巨大化したような、まさしく凶皇の名に相応しいデーモン……戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモンが妥協召喚される。

「攻撃力3000……だが、こういうモンスターのお約束は……」

「その通りだぁ。妥協召喚したジェネシス・デーモンの攻撃力は半分となる。だが、伏魔殿-悪魔の迷宮がある時、フィールドの悪魔族は500ポイント攻撃力が上がるぅ……」

 よってジェネシス・デーモンの攻撃力は、伏魔殿-悪魔の迷宮の力を借りて2000ということになるが、切り札のような威圧感を持ったデーモンが妥協召喚しか効果が無いとは考えにくい……!

「ジェネシス・デーモンの効果を発動……墓地の《デーモン》と名前が付いたモンスターを除外することで、フィールドのモンスターを一体破壊するぅ! パワー・ツール・ドラゴンを破壊せよ、デーモン・バーストぉ!」

「……ならば、こちらもパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動する! 装備された装備魔法《パイル・アーム》を墓地に送ることで、その破壊を無効にする!」

 ジェネシス・デーモンから放たれた悪魔の光を、パイル・アームを盾にすることで防ぎ、そのおかげでパワー・ツール・ドラゴンは破壊されずに終わる。
パイル・アームが破壊されたことで上昇していた攻撃力は元に戻ったものの、それでも2300とジェネシス・デーモンより攻撃力は高い。

「フフフ……バトル! ジェネシス・デーモンで、パワー・ツール・ドラゴンに攻撃するぅ! ヴィシャス・エッジ!」

「……迎撃しろ、パワー・ツール・ドラゴン! クラフティ・ブレイク!」

 攻撃力の劣ったモンスターで攻撃する際に裏がないわけがなく、タイタンの手札から《収縮》などのコンバットトリックが来ることを予想していたのだが、そんなことはなくジェネシス・デーモンはあっさりと破壊された。
だが代わりに、ジェネシス・デーモンが破壊された背後から龍のような影が徐々に浮かび上がり始めたのだった。

タイタンLP3500→3200

「私はジェネシス・デーモンが破壊された時、速攻魔法《デーモンとの駆け引き》を発動ぅ! デッキから《バーサーク・デッド・ドラゴン》を特殊召喚するぅ!」

バーサーク・デッド・ドラゴン
ATK3500
DEF0

 攻撃力は破格の3500という数値であり、更に全体攻撃を持ったドラゴン……《デーモン》どころか悪魔族ですら無いが、相性の良さは今見た通りだ。
専用特殊召喚カード《デーモンとの駆け引き》は、サーチャーである《トリック・デーモン》からサーチが可能で、発動条件のレベル8モンスターは妥協召喚が可能なジェネシス・デーモンが務めるというコンボだ。

「まだ私のバトルフェイズは終了していなぁい……バーサーク・デッド・ドラゴンで、パワー・ツール・ドラゴンに攻撃!」

「……パワー・ツール・ドラゴンが破壊されるか……!」

遊矢LP2800→1600

 俺の攻めの起点だったパワー・ツール・ドラゴンがあっさりと破壊されてしまい、その上、ライフもタイタンの半分ほどとなってしまう。

「私はこれでターンエンドだぁ」

「俺のターン、ドロー!」

 タイタンのエンドフェイズ時にはバーサーク・デッド・ドラゴンの攻撃力が3500から3000となるが、まだ高いことには変わりなく、依然として俺が不利だと言って良いだろう。

「まず速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨て二枚ドロー!」

 手札を交換することで打開策を引くことに賭けて手札断殺を発動するが、その前に確実に発動するカードはある。

「墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果発動! デッキから守備表示で現れよ! マイフェイバリットカード《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 気合いの雄叫びをあげながら、俺を護るように特殊召喚されたマイフェイバリットカードに導かれたかのように手札に来た、打開策としては充分なカードをデュエルディスクにセットする。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を召喚!」

マッシブ・ウォリアー
ATK500
DEF1200

 盾を構えた要塞の機械戦士の召喚をトリガーにし、背後から黄色いミサイルをつけた機械が共に発進する。

「通常召喚に成功しているため、手札から《ワンショット・ブースター》を特殊召喚出来る! 来い、ワンショット・ブースター!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 この二体がフィールドに揃った時点で、バーサーク・デッド・ドラゴンがいくら強力なモンスターだろうと、運命は決まっていると言って良いだろう。

「バトル! マッシブ・ウォリアーで、バーサーク・デッド・ドラゴンに攻撃!」

「ぬぅ!?」

 皮肉にも先のターンでタイタンが行った自爆特攻の再現となり、タイタンが困惑している中バーサーク・デッド・ドラゴンが、攻撃してきたマッシブ・ウォリアーを返り討ちにした。

 だが、要塞の機械戦士はこの程度では破壊されない。

「マッシブ・ウォリアーは一ターンに一度戦闘では破壊されず、ダメージも受けない。そしてメインフェイズ2、ワンショット・ブースターの効果を発動! このカードをリリースすることで、戦闘で破壊出来なかったモンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

 ワンショット・ブースターに装備された二発のミサイルが火を噴いて発射され、バーサーク・デッド・ドラゴンに着弾すると、大きく爆発を起こしてバーサーク・デッド・ドラゴンを破壊した。

「よし、カードを一枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 このワンショット・ブースターの攻撃が文字通り反撃の狼煙となれば良いのだが、相手はれっきとしたプロデュエリストなのだ、フィールドが空の状態から何が来てもおかしくはない……

「私は装備魔法《デーモンの斧》を、マッシブ・ウォリアーに装備するぅ……」

 なにが来てもおかしくはないと言ったが、実際に来たのは万能な装備魔法の代表格《デーモンの斧》を俺のモンスターであるマッシブ・ウォリアーに装備するという、まったく予想外の事態。
《デーモン》と名前がついている以上、《トリック・デーモン》の効果でサーチをすることが可能であり、効果も優秀なために入っていてもおかしくはない……

 《デーモンの斧》も《デーモン》という名前がついていると考えた際、俺の脳裏に一枚のカードが閃いたが、もはや対抗する術はない。
そして、俺の脳裏に閃いたカードと同じカードをタイタンは発動した。

「装備魔法《堕落》発動し、同じくマッシブ・ウォリアーに装備するぅ!」

 盾の他にデーモンの斧を装備したマッシブ・ウォリアーだったが、そのデーモンの斧から黒色の煙のようなものが吹き出し、その煙に操られてタイタンの側についてしまった。

「マッシブ・ウォリアーは頂いたぁ……そのマッシブ・ウォリアーをリリースし、《デーモンの将星》をアドバンス召喚!」

デーモンの将星
ATK2500→3000
DEF1200

 初期にあったレアカードであり、今でも《真紅眼の黒竜》のように一部で根強く人気を誇る、悪魔族の代表格たる《デーモンの召喚》に似たモンスターがアドバンス召喚される。
俗に言うリメイクモンスターであるらしく、元となったデーモンの召喚のデザインを維持しつつ、更に悪魔らしく禍々しく変貌を遂げていた。

「《デーモンの将星》がアドバンス召喚に成功した時、墓地からレベル6のデーモンを特殊召喚出来るぅ。蘇れ、《迅雷の魔王-スカル・デーモン》!」

迅雷の魔王-スカル・デーモン
ATK2500
DEF1200

 デーモンの将星の起動効果によって特殊召喚されたモンスターは、またもや《デーモンの召喚》のリメイクモンスターである《迅雷の魔王-スカル・デーモン》だった。
悪魔族の代表格が二体並ぶのを見るのは壮観だが、迅雷の魔王-スカル・デーモンの方は守備表示の上、《万魔殿-悪魔の巣窟》がないために毎ターン維持コストを支払わなければならないといけないので、見た目ほど今は脅威ではない。

「フッフッフ……ここで《伏魔殿-悪魔の迷宮》の効果を発動するぅ」

 タイタンの背後にあった迷宮に《迅雷の魔王-スカル・デーモンが飛び込んで行ったが、その迷宮に迷いでもしたのか、何故かそのまま帰って来ずに終わる。
だが、悪魔の迷宮は不吉なことを自らアピールするように胎動し、俺に嫌な予感をひしひしと感じさせる。

「《伏魔殿-悪魔の迷宮》は私のフィールドのデーモンを一体選び、選択しなかったデーモンをリリースすることで、選択したデーモンと同じレベルのモンスターを特殊召喚するぅ! 現れろ、《暗黒魔族ギルファー・デーモン》!」

暗黒魔族ギルファー・デーモン
ATK2200→2700
DEF2500

 両肩に翼を持ち、炎を身体に纏わせた悪魔が、迅雷の魔王-スカル・デーモンの代わりに迷宮から飛翔する。
スカル・デーモンより攻撃力は下がったものの、俺のフィールドのスピード・ウォリアーよりは遥かに高いことは確かだった。

「バトル! 暗黒魔族ギルファー・デーモンで、スピード・ウォリアーに攻撃! ギルファーフレイム!」

「くうっ……!」

 守備表示のため俺にはダメージがないものの、自慢のマイフェイバリットカードは地獄の炎の前に焼き尽くされてしまう。

「トドメだぁ! デーモンの将星で遊矢にダイレクトアタック! 魔降雷撃!」

「リバースカード、オープン! 《戦士の誇り》! 墓地から、戦闘で破壊された戦士族モンスターを特殊召喚する! 守備表示で蘇れ、《スピード・ウォリアー》!」

 デーモンの将星が出した雷の前に、蘇ったスピード・ウォリアーが守備表示で再び俺を護るように立ちはだかった。

「……ならば、スピード・ウォリアーを攻撃するぅ!」

「残念だが、《戦士の誇り》で特殊召喚されたモンスターは、このターン破壊されない!」

 スピード・ウォリアーが自身に目標を変えられて放たれた雷に向け、得意技たるソニック・エッジを浴びせて雷を消し、結果的には俺もスピード・ウォリアーも無傷に終わる。

「くぅ……カードを一枚伏せ、ターンエンドだぁ」

「俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壷》を発動して二枚ドロー!」

 デュエルはお互いに手札も少なくなってくる中盤を迎え、俺のフィールドには一時の戦闘破壊耐性を失った《スピード・ウォリアー》であり、タイタンのフィールドには《伏魔殿-悪魔の迷宮》の効果により攻撃力が上昇した《デーモンの将星》と《暗黒魔族ギルファー・デーモン》が二体に、リバースカードが一枚という布陣。

 見るからに俺が圧倒的に不利であるものの、優秀なドローソース《貪欲な壷》によって逆転の一手へと成りうる手札を得た。

「俺はスピード・ウォリアーをリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚する!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1900
DEF1600

 リリースを要求する上級モンスターとしては、タイタンのフィールドにいるデーモンたちと比べると余計見劣りするが、サルベージ・ウォリアーの本分は戦闘ではない。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功したため、墓地からチューナーモンスター《チェンジ・シンクロン》を特殊召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 サルベージ・ウォリアーの手によって墓地から引き上げられた、機械の小人のようなシンクロンが輝き、シンクロ召喚の態勢をとっていく。

「行くぞ! レベル5の《サルベージ・ウォリアー》に、《レベル1の《チェンジ・シンクロン》をチューニング!」

 チェンジ・シンクロンが分裂し、その小さい身体ではなんとか一個の輪にしかならないものの、サルベージ・ウォリアーを包み込んでいく。
今回は、そちらの方がこちらにとっても好都合だ……!

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

マイティ・ウォリアー
ATK2200
DEF2000

 機械化した片腕が巨大化している機械戦士、マイティ・ウォリアーがその自慢の腕で大地を砕きながらシンクロ召喚され、ゆらりと立ち上がって二体のデーモンのことを見据える。

「それで、そのシンクロモンスターでどうする気だぁ?」

「こうするのさ。《チェンジ・シンクロン》がシンクロ素材となった時、フィールドにいるモンスターを守備表示に出来る! 俺は《デーモンの将星》を守備表示にする!」

 マイティ・ウォリアーの背後から半透明の《チェンジ・シンクロン》が現れ、モンスターを守備表示にするための力を発射し、デーモンの将星を守備表示にすることに成功する。

「そして装備魔法《ニトロユニット》を、《デーモンの将星》に装備する!」

「ぬぅ、《ニトロユニット》……!」

 デーモンの将星の胸に爆薬が設置され、俺の攻撃への布石はこれで一旦幕を閉じることになる。

「バトル! マイティ・ウォリアーで、デーモンの将星に攻撃! マイティ・ナックル!」

 守備表示のデーモンの将星へと、軽々としたフットワークで接近したマイティ・ウォリアーが、《ニトロユニット》がついている胸を狙ってアッパーカットを喰らわせる。
破壊した《デーモンの将星》は俺が《チェンジ・シンクロン》の効果で守備表示にしたため、タイタンに戦闘ダメージは無い。
だが、装備された《ニトロユニット》と《マイティ・ウォリアー》の相手を破壊した時の効果ダメージ、併せて持って行ってもらおう……!

「相手モンスターを戦闘破壊したことにより、マイティ・ウォリアーの効果を発動! 破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える! ロケット・ナックル!」

 マイティ・ウォリアーの片腕が飛んでいき、デーモンの将星の胸についている《ニトロユニット》を爆発させようとその場所を狙う。
これで二つの効果を併せたバーンダメージ、3750のダメージをタイタンは受ける……!

「墓地から罠カード《ダメージ・ダイエット》を発動ぅ! このターン受ける効果ダメージを、全て半分にするぅ!」

「なっ!?」

 シンクロ素材にした《チェンジ・シンクロン》と同様に、俺の《手札断殺》の際に墓地に送られていた罠カードの効果により、タイタンの前に薄いバリアが起きる。
そのせいでニトロユニットとマイティ・ウォリアーの効果が併せて発動しても、俺の思惑通りにトドメを刺すまでには至らなかったのだった。

タイタンLP3200→1375

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 確かに大ダメージを与えることには成功したものの、目論見通りであればトドメを刺せていたと考えれば、成功とは言い難い。
まだタイタンのフィールドには《暗黒魔族ギルファー・デーモン》もいるため、先のターンの攻撃ははっきりと失敗と言って良いのかも知れない。

「私は《インフェルノクインデーモン》を守備表示で召喚するぅ!」

インフェルノクインデーモン
ATK500
DEF1600

 チェスデーモンの一種であり、いつかのタッグデュエルでも決め手となったタイタンのフェイバリットカードだが、効果が発動するのはスタンバイフェイズ時のため、今のところは驚異ではない。

「さらに私はリバースカードを発動! 《闇次元の解放》! 除外していた闇属性モンスター、《戦慄の凶皇-ジェネシス・デーモン》を特殊召喚するぅ!」

 初手に使っていた《闇の誘惑》で除外していたらしく、タイタンが使っているデーモンの中ではまさしく切り札という、最強のデーモンが除外ゾーンから帰還した。
それも今度は妥協召喚などではなく、《闇次元の解放》という余計な重りは背負っているものの、本来の能力を発揮している。

「ジェネシス・デーモンの効果を発動。 墓地のデーモンを除外することで、マイティ・ウォリアーを破壊するぅ! デーモン・バースト!」

 悪魔の光を放つジェネシス・デーモンを相手にしても、効果破壊への耐性を持たないマイティ・ウォリアーでは相手にならず、呆気なく破壊されてしまう。

「バトルぅ! ジェネシス・デーモンで、ダイレクトアタックぅ! ヴィシャス・エッジぃ!」

「《速攻のかかし》を捨て、バトルを終了する!」

 なんとかジェネシス・デーモンの強靱かつ凶悪な爪を、《速攻のかかし》が庇ってくれたおかげで避けることが出来たが、もう手札は残り一枚と後がない。

「ふん……ターンエンドだぁ」

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを見て、残り一枚の手札とフィールドのリバースカードも併せて次の戦術を考えるものの……やはり、攻撃力3500……いや。

「お前のスタンバイフェイズ、《インフェルノクインデーモン》の効果が発動するぅ! ジェネシス・デーモンの攻撃力を、さらに1000ポイントアップ!」

 攻撃力4500のデーモンを始めとするモンスター群を有するタイタンに、今や勝つ手は一つしかない。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

 《スピード・ウォリアー》や《マックス・ウォリアー》・《ワンショット・ブースター》と共に、他の機械戦士よりはあまり目立った活躍はしないものの、昔から機械戦士を支えてくれた仲間たる手甲の機械戦士を召喚する。
その攻撃力は僅か400であり、ジェネシス・デーモンとは比べることも出来はしない。

「そのモンスターで、どうジェネシス・デーモンを倒すのだぁ?」

「いいや、こいつじゃ倒せないさ。ガントレット・ウォリアーの仕事はいつだって、他の仲間へと繋げることだ……魔法カード《モンスター・スロット》を発動!」

 魔法カード《モンスター・スロット》により、俺とガントレット・ウォリアーの間にスロットが現れ、三つのルーレットがあるのが見て取れる。
一つ目のルーレットには《ガントレット・ウォリアー》が描かれており、二つ目には墓地にいる《スチーム・シンクロン》、そして三つ目は未だに回っていた。

「《モンスター・スロット》は、フィールドにいるモンスターと同じレベルのモンスターを除外することで、一枚ドロー出来る魔法カード。そして、ドローしたカードが同じレベルであれば、そのモンスターを特殊召喚出来る! レベル3の《スチーム・シンクロン》を除外し、一枚……ドロー!」

 俺がデュエルディスクからカードを一枚引き抜き、《モンスター・スロット》の効果でタイタンに掲げて見せると共に、スロットマシンの三つ目も止まっていた。

 三つ目のルーレットに描かれたモンスター、つまり今ドローしたモンスターは――

「――《ドリル・シンクロン》を特殊召喚する!」

ドリル・シンクロン
ATK800
DEF500

 ドリルを頭にくっつけたシンクロンが召喚されるや否や、ドリル・シンクロンとガントレット・ウォリアーは即座にシンクロ召喚の態勢をとってくれる。

「俺はレベル3の《ガントレット・ウォリアー》と、同じくレベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」

 ドリル・シンクロンについているドリルが高速回転をした後、三つの光の輪になると、自らをチューナーモンスターに指定するシンクロモンスターとなるため、ガントレット・ウォリアーを包み込む。

「集いし力が大地を貫く槍となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 砕け、《ドリル・ウォリアー》!」

ドリル・ウォリアー
ATK2400
DEF2000

 専用チューナーモンスターのドリル・シンクロンと同じく茶色のボディを持ち、幾つもあったドリルが全て合体したかのような、巨大なドリルが目を引くシンクロモンスター。

「ドリル・ウォリアーは自身の攻撃力を半分にすることで、このターン、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る!」

「なるほどなぁ……だが、攻撃力を半分にしては私のライフにはギリギリ届かんぞぉ?」

 タイタンのライフは、先の《ダメージ・ダイエット》のせいで1375という微妙な数値となっており、確かにこのままではドリル・ウォリアーの攻撃は届かない。

「バトル! ドリル・ウォリアーで、タイタンにダイレクトアタック! ドリル・シュート!」

 そんなことは解っている上に関係はなく、ドリル・ウォリアーは三体のデーモンをすり抜けてタイタンに肉迫する。

 そして、これが最後の駄目押しだ……!

「リバースカード、《リミット・リバース》を発動! 墓地から《ガントレット・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 シンクロ素材となったガントレット・ウォリアーが再び蘇生されたが、またもフィールドからその姿を消そうとしていた。

「ガントレット・ウォリアーの効果を発動! ガントレット・ウォリアーをリリースすることで、ドリル・ウォリアーの攻撃力を500ポイントアップさせる!」

「なっ……なんだとぉ!?」

 ガントレット・ウォリアーがその名の通りにつけていたガントレットと、同じガントレットがドリル・ウォリアーについて攻撃力と守備力をアップさせ、タイタンのライフを削りきれる攻撃力となる。

「終わりだタイタン! ドリル・シュート!」

 バトルフェイズ中に、《ガントレット・ウォリアー》が特殊召喚されたことによって巻き戻しが発生したものの、そんな些細なことは問題ではない。
大事なことはただ一つ、ガントレット・ウォリアーの力を得たドリル・ウォリアーは、タイタンのライフを0にしたということだった。

「ぶらぁああああああ!」

タイタンLP1375→0


 ドリル・ウォリアーのダイレクトアタックにより、俺はなんとかタイタンとのデュエルを制した。
タイタンのデッキてある【デーモン】の特色である、最上級モンスターを何体を呼び出す戦術に押し負け、全てを破壊できなかったのは残念だったが。

「楽しいデュエルだったぜ、タイタン」

「むぅ……負けたか。ところで遊矢ぁ」

 デュエルのフィニッシュの影響で、尻餅をついたタイタンが起き上がるのに手を貸すと、タイタンが俺の背後を指差した。

「あそこにいる青い制服の者は、お前の友人かぁ?」

 タイタンの言葉につられて背後を見ると、デュエルで勝利した良い気分が一瞬で吹っ飛んで行ってしまうほどの衝撃を受けた。
光の結社事件が起きている今、このデュエル・アカデミアで青い制服を着ているのは俺と三沢に吹雪さん、そして模した服を着ている亮と……その事件の、中心となっている者だけど。

「友人なんかじゃなく、敵みたいなもんだ……斎王!」

 ジェネックスが始まってから、輪に掛けてホワイト寮から出て来なくなった斎王が、なぜこんなところにいるかは解らない。
しかし、理由などは今はどうでも良いことであり、明日香たちを助けて海馬ランドでの借りを返すチャンスだ……!

「黒崎遊矢……」

 俺から発散される明確な敵意を前にしても、いつも通りまったく萎縮せず……いや、どこかいつもより柔らかな雰囲気を持って斎王は俺に近づいてきた。

「最近、あなたのデュエルを見ていました……あなたならば、この鍵を託せる」

 そう言って俺の腕に何かを握らせ、斎王は他に何をするわけでもなく俺から離れていった。
手を開いてみると、そこにあるのは斎王が言った通り、一つの鍵。

「それはこの世界を滅ぼす光を封じた鍵……必ず、守ってください」

 俺から離れる前に最後にそう言い残すと、フラフラと覚束ない足で斎王は去っていく。
まさかあれが三沢から聞いた、美寿知が言っていたという優しかった頃の斎王だろうか……?

「……まあ、良いか」

 世界を滅ぼすものを封じた鍵を守ることならば、もう既に一年生の際に経験済みなのだから、二回目ともあれば慣れている。
昨年の七精門の鍵と同じようについている紐で首に引っかけると、これ以上の細かいことは後で考えることにした。
 
 

 
後書き
VS.タイタン……少々遅れてしまいました。

それも念願のPS3にエクバ、ACfaを手に入れ、暦物語などなどがあるからいけないんだ……

感想・アドバイス待ってます。 

 

―ジェネックス Ⅴ―

 
前書き
最近、タイトルが適当すぎるかと思う今日この頃。 

 
『お前が持つ鍵を賭けてデュエルを申し込む。翌日校門前、首を洗って待っているが良い
ホワイトサンダー』

 ……といった手紙が俺のラー・イエローの扉の前に置いてあったのは、俺がジェネックスでのデュエルから疲れて帰ってきたからであった。
斎王からこの鍵を預かってからというもの、光の結社からの挑戦者が異様に増加し、そのいずれも例外なく『勝ったらその鍵を返せ』と言って来るのだった。
お前らの教主様から預かってる物だ、と言っても聞く耳も持たず、挙げ句の果てにはジェネックスで敗退している者さえもデュエルを申し込んで来るので、体力が持たずに部屋に逃げ帰ってきたのだった。

 デュエリストとしては逃げることはあまりしたくなかったが、そういうことが考えられないぐらい、いつにも増して光の結社は異様な雰囲気であった。

 斎王から託されたこの鍵は何なのか、そんなことを考えながら部屋に戻ると……まあ、こんなような手紙が置いてあったという訳だ。

 この手紙の主があまり親しくない者ならば無視しても構わなかったが、寄りにもよって万丈目準という友人であり、明日のジェネックスでの対戦相手が決まったようなものだった。

 俺も、万丈目と同じように光の結社に囚われた俺を救ってくれた三沢のように、万丈目を救えるだろうか。
いや、救わねばならない……万丈目が光の結社に入る時に、その時は何も知らなかったとはいえ、助けられる可能性があったのは俺なのだから。

 とりあえず俺は隣の三沢の部屋を訪ねると、三沢ももう今日のところは休憩に入ったらしく、「入って良い」との旨の言葉が部屋から響いてきた。

「おじゃまします……って、またこれか」

 三沢の部屋は相変わらず数式で覆われた異界と化していたが、この数式の一つ一つが光の結社から俺を救うために書かれたものだということをレイから教えられているので、今回のこの数式については俺はあまり強く言えなかった。

「どうした遊矢、メダルを賭けてのデュエルなら受けないぞ?」

「そんなのこっちからお断りだ……こんな手紙が来ててな」

 三沢や亮とはこんな時期に戦う気などさらさら無く、デュエルするならば終盤か決勝だと決めている。
ホワイトサンダーからの手紙を三沢に見せると、鍵のことは既に説明しているため、三沢は大体の事情を悟ってくれたようだった。

「なるほど……遂に万丈目直々のお出ましか。デッキの調整なら手伝おう」

「確かにデッキの調整には変わりがないんだが……今回頼みたいことは、『デッキの構築』だな」

 そして俺が考えている事には、俺と三沢の二人ではまだ人手が足りない。
怪訝な顔をしている三沢を前にして、俺はポケットにあるPDAを取り出すと、未だデュエルのために走り回っているだろう友人――十代へと電話を掛けた。


「良く逃げずに来たな遊矢、そこは褒めてやろう!」

 そして翌日になった校門前、久々に会話をした友人は、洗脳まがいのことをされているとは思えぬいつも通りさで俺を待ち構えていた。

 万丈目の背後には大量の取り巻き兼光の結社の構成員が控え、周りにはデッキ調整を手伝ってくれた三沢を始め、どこからかデュエルの噂を聞きつけた者がたむろしていた。

 そして俺はその群集の中に、あまりこういうところに来るのは予想外な人物を見かけた。

「……エド、お前まで来たのか」

「ふん、お前が負けたら次は僕だそうだ。万丈目だか何だか知らないが、身の程知らずが」

「ええい、俺様を無視するな遊矢にエド!」

 そう言ったエドの首には、俺と同じように斎王から預けられた鍵がかけられていた。
斎王は俺の他にはエドに渡していたようで、万丈目は一気に二人の鍵を奪う算段なのだろう。

「悪い遊矢、寝坊しちまった!」

 大声をあげながら坂を駆け上がってくる十代の手には、黒い服……ノース校の制服が握られていた。
自分が以前着ていた服だからか黒い服だからかは知らないが、万丈目はノース校の制服を見て露骨に顔をしかめた。

「……なんだそれは」

「お前の制服だよ、万丈目」

 十代が寝坊したせいで少しデュエルする予定が遅れたが、問題なくデュエルディスクを展開する。
万丈目も同じようにデュエルディスクを展開するや否や、急にポーズを取った。

「違うぞ遊矢! 俺は光の洗礼によって生まれ変わった、万丈目!」

『ホワイトサンダー!』

 ……まさかとは思うが、後ろの取り巻きはこれを言うためだけに連れて来たのだろうか。
そんなことを思っただけでとりあえずスルーし、俺たちはデュエルを開始した。

『デュエル!』

遊矢LP4000
万丈目LP4000

「俺様の先攻! ドロー!」

 デュエルディスクが示した先攻は万丈目……これはデッキを見極めるチャンスとなる。
明日香とデュエルした時は【アームド・ドラゴン+おジャマ】だったが、光の結社になっている今、どんなデッキでもあり得るのだ。

「俺は《X-ヘッド・キャノン》を召喚する!」

X-ヘッド・キャノン
ATK1800
DEF1500

「……【VWXYZ】!?」

 俺が直接デュエルした経験もないため、予測から外していたデッキ【VWXYZ】のメインアタッカーがお目見えする。

「貴様など、斎王様から賜りしデッキを使うまでも無いのだ! カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「……何はともあれ、楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 《X-ヘッド・キャノン》は、光属性かつアタッカーとして及第点のステータスもあるため、【VWXYZ】以外のデッキかとも思ったが……今の万丈目の発言からするとそれもなさそうだ。

 何も知らないデッキを相手にするより遥かにマシであるし、これは万丈目が自力で光の結社から抜けだそうとしている証拠なのかも知れないと考えておく。

 ――問題は、俺自身のデッキなのだから。

「俺は……《魂虎》を守備表示で召喚!」

魂虎
ATK0
DEF2100

『【機械戦士】じゃない!?』

 俺とて授業の際には他のデッキぐらい使うのだが……対戦相手の万丈目のみならず、デュエルを見学している群集全体に驚かれるとは、【機械戦士】使いとしては喜ばしい限りなのだろうが、今はそんな場合ではない。

「貴様……【機械戦士】を使わないとは、この俺様をナメているのか!」

 万丈目は元々感情を隠すタイプではないものの、俺が【機械戦士】を使わない――すなわち、本気を出さない――ことに真剣に怒りを見せていた。
もちろん俺にも万丈目のその気持ちも痛いほど解るし、本気のデュエルならば【機械戦士】を使いたい。

 だがしかし。

「違うな。このデッキは、お前を光の結社から助け出す為だけに作ったデッキ……このデュエルに、こいつ程相応しいデッキはない!」

 このデッキは万丈目がノース校で使用したらしいデッキと、実の兄とのデュエルで使用した、井戸に捨てられていたカードたちがほとんどで構成されている。
つまり万丈目がホワイト寮に移って、レッド寮に残されていたカードたちであり、十代にイエロー寮まで持ってきてもらった物だ。


「俺もカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「戯れ言を……! 俺のターン、ドロー!」

 万丈目からすればこれは怒り浸透であることも解るが、俺に出来る手段は現状これしか無いのも事実だった。

「俺は《Z-メタル・キャタピラー》を召喚!」

Z-メタル・キャタピラー
ATK1500
DEF1300

 黄色のボディをした一つ目の戦車が召喚され、X-ヘッド・キャノンのボディの下部に磁力に引き寄せられて合体した。
合体といっても融合召喚ではなく、ただユニオンの効果を発動しただけのようだが。

「《X-ヘッド・キャノン》に《Z-メタル・キャタピラー》を装備することで、攻撃力・守備力が600ポイントアップ! バトルだ、その機械戦士にも劣る雑魚モンスターを破壊しろ!」

 ユニオンの効果による合体したことにより、攻撃力が上級の及第点に達したX-ヘッド・キャノンに、いくら魂虎でも耐えられずに四散してしまう。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 このデッキの基となっている万丈目が使用した二つのデッキは、攻撃力が低いカードがデッキの大半を占めている。
デッキ構築をする際に三沢にも手伝ってもらい、俺のカードも入れて打点を補強したものの……やはり、攻めに転じることは出来なさそうだ。

「俺は《王立魔法図書館》を守備表示で召喚する」

王立魔法図書館
ATK0
DEF2000

 俺の前に魔法使いたちが利用する図書館が壁のように設置され、もう一枚のカードをディスクに差すと、ペラペラと図書館の本がめくれ始めた。

「さらに俺は《折れ竹光》を王立魔法図書館に装備し、カウンターを一個乗せる」

 めくれた本からは、今装備した魔法カード《折れ竹光》が現れ、それで王立魔法図書館に装備されたこととなったらしい。
もちろんこの《折れ竹光》のままでは何の意味も無いが、当然専用サポートカードは用意してある。

「通常魔法《黄金色の竹光》を発動! 自分のフィールドに竹光と名前のついた装備魔法がある時、二枚ドロー出来る! それを二枚発動し、王立魔法図書館に二個のカウンターを乗せる!」

「チィ……!」

 安価なカードである《竹光》によるコンボにより、なんと四枚のドローをしたことが気に入らないのか、万丈目は苛立った表情を隠さなかった。

「更に王立魔法図書館の効果! カウンターを三つ取り除き、更に一枚ドロー! ……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン! ドロー!」

 《竹光》と《王立魔法図書館》の組み合わせにより合計五枚のカードをドローし、何とか手札の調子も良くなってきた。
万丈目が何もしてくれなければ、次のターンに攻め込めるものだが……そんなわけにはいかないだろう。

「俺は《Y―ドラゴン・ヘッド》を召喚! そして、《Z-メタル・キャタピラー》のユニオンを解除する!」

Y―ドラゴン・ヘッド
ATK1500
DEF1600

 X-ヘッド・キャノン、Y―ドラゴン・ヘッド、Z-メタル・キャタピラー。
三種のユニオンモンスターの代表とも言えるモンスターがフィールドに並び、わざわざ合体を解除したということは……やはり来るか。

「行くぞ! フィールドの三体のモンスターを合体させ、《XYZ-ドラゴン・キャノン》を融合召喚する!」

XYZ-ドラゴン・キャノン
ATK2800
DEF2600

 三体のモンスターがユニオンで装備された時のように引き寄せあい、そのまま合体して別のモンスターへと昇華した姿となる。
【VWXYZ】の最強モンスターには一歩及ばないものの、もう準最強モンスターと言っても良いモンスターだ……!

「XYZ-ドラゴン・キャノンの効果を発動! 手札を一枚捨てることで、相手のカードを破壊する! リバースカードを破壊せよ、ハイパー・デストラクション!」

 一番上部に合体しているX-ヘッド・キャノンの大砲が発射され、俺のリバースカードであった《攻撃の無力化》が破壊された。

「バトルだ! XYZ-ドラゴン・キャノンで、王立魔法図書館に攻撃! X・Y・Z ハイパー・ディストラクション!」

 効果破壊の時に使った技と何がどう違うのかは全く解らないが、技名が違う同じ大砲により、王立魔法図書館は破壊されてしまう。

「これで俺様はターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを見ると、ようやく手札にコンボパーツが揃えることが出来るカード……すなわち、攻めに転じることが出来るカードが来てくれた。

「俺は《増援》を発動し《首領・ザルーグ》を手札に加え、そのまま召喚する!」

首領・ザルーグ
ATK1400
DEF1300

『合点だダンナぁ!』

 カードの精霊らしく雄々しく雄叫びを上げ、自慢の銃を抜きながらかつての万丈目の敵、首領・ザルーグが召喚された。
もちろん彼がいるのだから、他の団員たちも既にこの場に集まっている。

「行くぞみんな! 魔法カード《黒蠍団召集》を発動! 首領・ザルーグがフィールドにいる時、黒蠍盗掘団員をフィールドに特殊召喚出来る!」

 俺の手札には五体の黒蠍盗掘団員全員が集まっているため、フィールドに黒蠍団が集合してあの良く解らないポーズを取り始めた。

『我ら、黒蠍盗掘団!』

 彼らはもちろん元・セブンスターズの黒蠍盗掘団であり、何でも万丈目を救うために、十代にデッキに入れてくれるよう頼み込んで来たらしい。
俺が多用する戦士族でもあるために他のカードよりは扱いやすく、彼らの出番と相成った訳である。

「そんな俺に敗れた雑魚共に、何が出来るというのだ!」

「こいつらの強さは良く覚えてる筈だ! 罠カード、《必殺! 黒蠍コンビネーション!」

 このターン相手へと与える戦闘ダメージが一律400になる代わりに、俺のフィールドにいる黒蠍盗掘団たちはダイレクトアタックが出来るという、まさに黒蠍盗掘団の必殺のカード。
セブンスターズだった彼らのデッキは、この黒蠍コンビネーションを相手に与えることに特化したデッキだった。

「バトル! 黒蠍盗掘団たちで、万丈目にダイレクトアタック!」

『必殺! 黒蠍コンビネーション!』

「そいつは……! リバースカード、《ピンポイント・ガード》を発動! 墓地から《Y-ドラゴン・ヘッド》を特殊召喚する!」

 ダイレクトアタックを受けた時に、破壊耐性を付加して特殊召喚する《ピンポイント・ガード》であろうとも、黒蠍コンビネーションの前では壁にすらなりはしない。
まあ発動しなければ、《黒蠍-罠はずしのクリフ》の効果で破壊されただけだったが。

そしていつかのデュエルの時のように、黒蠍盗掘団たちの得意とする武器が万丈目に一斉に叩き込まれた。

万丈目LP4000→2000

「ダメージを与えたため、黒蠍盗掘団たちの効果を発動! お前は手札を一枚捨て、XYZ-ドラゴン・キャノンをデッキの一番上に戻し、X-ヘッド・キャノンを手札に戻し、デッキの上から二枚墓地に送り、俺は《必殺! 黒蠍コンビネーション》を手札に加える!」

「チィィ……!」

 見ている時は気が気でなかったが、やってみるとなかなかどうして爽快な黒蠍コンビネーションが完璧に決まる。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「調子に乗るなよ! 俺のターン! ドロー!」

 フィールドを制圧していた頼みのXYZ-ドラゴン・キャノンもデッキに戻され、色々とボロボロになった万丈目だが、この戦術は一度乗り切っていること。
あの負けず嫌いが、一度制した戦術に負ける訳がない……!

「俺は永続魔法《前線基地》を発動し、《Y―ドラゴン・ヘッド》を特殊召喚する!」

 ユニオンモンスターを一度だけ特殊召喚することが出来る永続魔法《前線基地》により、先のターンで《ピンポイント・ガード》で特殊召喚した赤い竜が特殊召喚される。

「更にチューナーモンスター《ヴァイロン・プリズム》を特殊召喚する!」

ヴァイロン・プリズム
ATK1500
DEF1500

 明日香とのデュエルの際にも召喚されたチューナーモンスター、《ヴァイロン・プリズム》の登場に、俺はついつい身構える。
やはり来るか、光の結社の象徴であるらしい光の竜。

「レベル4の《Y―ドラゴン・ヘッド》に、レベル4の《ヴァイロン・プリズム》をチューニング!」

 ヴァイロン・プリズムが弾けて四つの光の玉になると、Y―ドラゴン・ヘッドを包み込んだ後、通常のシンクロ召喚の時より一際大きい光を放った。

「世界を飲み込む眩き光、闇の中から輝きを放て! シンクロ召喚! 光の化身、ライトエンド・ドラゴン!」

ライトエンド・ドラゴン
ATK2600
DEF2100

 吹雪さんの使っていた《ダークエンド・ドラゴン》の対となっている光の竜、ライトエンド・ドラゴンが遂にシンクロ召喚された。
このモンスターが万丈目を光の結社に縛り付けているのならば、このモンスターを破壊しなければならないのか……!

「ヴァイロン・プリズムが墓地に送られた時、500ライフを払うことでモンスターの装備魔法とすることが出来る! ヴァイロン・プリズムをライトエンド・ドラゴンに装備!」

万丈目LP2000→1500

 明日香とのデュエルの際、確か万丈目のライフはギリギリで使われなかったため、俺はヴァイロン・プリズムの装備魔法になるという効果は知らない。

「バトル! ライトエンド・ドラゴンで、首領・ザルーグに攻撃! シャイニングサプリメイション!」

 黒蠍盗掘団のボスを狙った光の一撃は、首領・ザルーグを軽々と吹き飛ばすことが出来る威力を秘めていたが、それだけではすまなかった。

「更にヴァイロン・プリズムの効果発動! 装備モンスターの攻撃力を、1000ポイントアップさせる!」

「くっ……!」

『うおおおおお!』

遊矢LP4000→1800

 首領・ザルーグの破壊されたことを示す悲痛な叫びを聞き流し、万丈目は優雅にバトルフェイズを終了した。

「俺のターン、ドロー!」

 ライトエンド・ドラゴンとヴァイロン・プリズムの予期せぬ威力の一撃により、予想外のダメージを受けた上に、黒蠍盗掘団のサポートカードの発動条件となっている首領・ザルーグも破壊されてしまった。

「だが! 《戦士の生還》を発動して首領・ザルーグを手札に戻し、召喚する!」

 俺のリバースカードは当然ながら、前の俺のターンで《黒蠍-茨のミーネ》の効果により手札に加えた、《必殺! 黒蠍コンビネーション》である……が。
万丈目のライフは、もう一撃黒蠍コンビネーションを喰らえば0になるというのに、リバースカードも無いのに万丈目は余裕そうな表情を浮かべている。

 万丈目の手札には、十中八九俺がトレードしたカードである《速攻のかかし》が握られていることだろう。
それを、このターンで倒せないということを嘆くか、俺がトレードしたカードを入れてるのならば、万丈目の洗脳は解けかかっていると喜ぶべきか。

「リバースカード、《必殺! 黒蠍コンビネーション》を発動し、バトル! 首領・ザルーグでダイレクトアタック!」

「俺は手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了する!」

 予想通りに手札から飛びだしてきて、黒蠍盗掘団たちの攻撃を万丈目の代わりにその身で受ける速攻のかかしの姿は、いつもは俺が使っている立場のためにいささか妙な感じだった。

「……再びカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! ……ククク、その目障りな連中もこれで見納めだ! 速攻魔法《スケープ・ゴート》を発動!」

 万丈目がドローしてそのまま手札から発動したカードは、身代わりの羊トークンを四体出現させる速攻魔法《スケープ・ゴート》。
かの《クリボー》の得意技《機雷化》があるわけでも無いのに、羊トークンを大量展開して黒蠍盗掘団を倒す……?

「そして、装備魔法《ヘル・ガントレット》をライトエンド・ドラゴンに装備する!」

「なるほどな……!」

 《ヘル・ガントレット》なる装備魔法は俺のデッキに入れていたカードでもあったので、幸運にもカードの効果は知っていた。
まあ、カードの効果を知っていようがいまいが、これから起こることは何ら変わらないのだが……

「バトル! ライトエンド・ドラゴンで、首領・ザルーグに攻撃! シャイニングサプリメイション!」

「させない! リバースカード、オープン! 《スピリット・バリア》!」

 させないとは言ったものの、俺とこのリバースカードに出来ることはモンスターが居続ける限り戦闘ダメージを防ぐことであり、首領・ザルーグ……ひいては黒蠍盗掘団を守ることは出来ない。

「フン、小賢しい。ヘル・ガントレットの効果発動! モンスターを一体リリースする度に、攻撃回数を増やす! 羊トークンを四体リリースし、薄汚い盗掘団を全滅させろ! シャイニングサプリメイション!」

 ヘル・ガントレットの効果を使用すると、ダイレクトアタックが出来なくなるというデメリットはあるものの、今この状況では何の関係もない。
黒蠍盗掘団を全滅させたライトエンド・ドラゴンの光に、《スピリット・バリア》が無かったらどうなっていたかと、少しゾッとしてしまう。

「フハハハハ! 全滅だ! このままターンエンド!」

「……ありがとう、黒蠍盗掘団……俺のターン、ドロー!」

 団員全員とそのサポートカードも墓地に送られた今、黒蠍盗掘団たちの再利用は難しい……短い間だけだけれど、一緒に戦ってくれた精霊たちにお礼を言った後にカードをドローした。

「《発掘作業》を発動! 手札を一枚捨て、一枚ドロー! ……そして、捨てたカードは《おジャマジック》!」

 十代が海辺で拾ったらしいおジャマ三兄弟も、自分から万丈目とデュエルをさせてくれと言ってきた黒蠍盗掘団に比べると意欲には欠けていたものの、万丈目を救うために共にデュエルをすることを了承してくれた。
今発動したサポートカードは、墓地に送られた時におジャマ三兄弟をデッキから手札に加えるサポートカードだ。

「おジャマだと!? ……ええい、どこまでもふざけたデッキだ……!」

「何度でも言うが、これはお前とのデュエルに相応しいデッキだ! 通常魔法《デスペラード・マネージャー》を発動! カードを二枚ドローし、手札のカードを三枚デッキの上に戻す」

 ノーコストで二枚ドロー出来ることはともかく、デッキの上が三枚もロックされるというのはかなりのデメリット。
だが、メリットに転換出来ることも出来るメリットだった。

「手札から《魔の試着部屋》を発動! 800ポイントライフを払い、デッキの上から四枚捲って、レベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する! 俺のデッキにあるのは、当然こいつらだ! 来い、おジャマ三兄弟!」

『おー! 遊矢のダンナー!』

 黄色・黒・緑色、三色の何とも言えないモンスター達が、俺のフィールドに守備表示で特殊召喚される。

「さらに、通常魔法《おジャマ・デルタ・ハリケーン》を発動! おジャマ三兄弟がフィールドにいる時、相手のカードを全て破壊する!」

 魔法カードに反応して何やら三体で回り始めたおジャマ三兄弟が、そのまま高速回転をした後にドーナツ状になった中央の穴から何でだか解らないがビームが出て来て、万丈目のライトエンド・ドラゴンと永続魔法《前線基地》を破壊した。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「それだけか! 俺のターン、ドロー!」

 これで使用しているのが万丈目であれば、おジャマ三兄弟をどうにかしてダイレクトアタックまでこぎつけ、相手に勝利するのだろうが……俺はそうは上手くいかない。

 騙し騙し使ってはいるが、このカードたちは元々万丈目のカードな上、半分程度デッキとしての体を成していないのだから。

「俺は魔法カード《埋葬呪文の宝札》を発動! 墓地の魔法カードを三枚除外し、二枚ドローする! ……よし、《死者蘇生》を発動! 蘇れ、《ライトエンド・ドラゴン》!」

 万能蘇生カードにより再び顕現するライトエンド・ドラゴンを前にして、おジャマ三兄弟は全員フィールドのギリギリまで下がり、盾にするようにおジャマ・イエローだけを前に出した。

「バトル! おジャマ・ブラックにライトエンド・ドラゴンで攻撃! シャイニングサプリメイション!」

『うわああああ~!』

 そんな努力も虚しく万丈目は色が黒いからかおジャマ・ブラックを狙い、ライトエンド・ドラゴンもピンポイントにおジャマ・ブラックへと光を放った。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー! 《マジック・プランター》を発動し、スピリット・バリアを破壊して二枚ドロー……くっ」

 何度か言った通り、これは万丈目を救うために作られた万丈目のカードのデッキ。
今ドローしたこのカードは、そのことを思うと使いたくはないが……このままでは、ライトエンド・ドラゴンに勝てそうにないのも事実だった。

「……俺は、《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 だが万丈目を救うという思いだけでは勝てない……デッキ構築の際にそれを思った俺は、仕方なく《機械戦士》を投入していた。
その中の一枚であるチューナーモンスター、ロード・シンクロンが始動する。

「待っていたぞ機械戦士! クズカードの相手ばかりで退屈していたところだ!」

「……レベル2のおジャマ・イエローとおジャマ・グリーンに、レベル4のロード・シンクロンをチューニング!」

 そのクズカードにフィールドを全滅させられたのは誰だとか、機械戦士はクズカードじゃなかったのか、などと色々と言いたかったことはあったものの、俺は何も言わずにシンクロ召喚に移行した。

 万丈目を救うためにデッキ構築をしたにも関わらず、機械戦士を使わないと勝てないという、俺の一つのデッキしか使って来なかった故の無力のせいか。

「集いし希望が新たな地平へいざなう。光さす道となれ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ、《ロード・ウォリアー》!」

ロード・ウォリアー
ATK3000
DEF1500

 シンクロ召喚の口上だけでもせめて華々しくいつも通りに、金色の機械戦士の皇をシンクロ召喚をした。
おジャマ二種がシンクロ素材になっているとは欠片も思えぬ、雄々しい姿でロード・ウォリアーは立っていた。

「そしてリバースカード、オープン! 《ブレイクスルー・スキル》! ライトエンド・ドラゴンの効果を無効にする!」

 ライトエンド・ドラゴンの効果――戦闘時に自身の攻撃力を500下げて相手の攻撃力を1500下げる効果――がある以上、このまま攻撃しては返り討ちにあってしまうだけだ。
だが効果を無効にされては何の意味もなく、ロード・ウォリアーはライトエンド・ドラゴンへと駆け抜けた。

「バトル! ロード・ウォリアーで、ライトエンド・ドラゴンに攻撃! ライトニング・クロー!」

 おジャマ・デルタ・ハリケーンで一度破壊されてしまった今、ライトエンド・ドラゴンには《ヴァイロン・プリズム》が装備されてはおらず、あっさりとロード・ウォリアーに破壊された。

「斎王様から賜りしモンスターを二度も……許さんぞ!」

万丈目LP1500→1100

「メインフェイズ2、ロード・ウォリアーの効果発動! デッキからレベル2以下の戦士族を特殊召喚する! 守備表示で現れろ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 ロード・ウォリアーの剣から放たれた光の道に、デッキからマイフェイバリットカードがフィールドに駆けつける。
このマイフェイバリットカードは、どうしてもデッキから抜くことが出来なかったカードだった。

「カードを二枚伏せてターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー! 前のターンで《埋葬呪文の宝札》によって除外した、《異次元からの宝札》の効果を発動! このカードは手札に戻り、お互いに二枚ドローする!」

 魔法カードの除外をコストとする《埋葬呪文の宝札》とのコンボにより、除外ゾーンの《異次元からの宝札》が手札に戻って二枚ドローされる。
俺にもドローさせるというのはデメリットであるが、手札に戻るために《VWXYZ》の手札コストにした後に再利用出来ると考えれば、万丈目にとってはメリットなのかもしれない。

「これで貴様も終わりだ! リバースカード、《異次元からの帰還》! ライフを半分にし、除外ゾーンから可能な限りモンスターを特殊召喚する!」

万丈目LP1100→550

 《異次元からの宝札》に加えて再び発動される除外関係のカードは、除外ゾーンからモンスターを可能な限り召喚出来るという、除外関係の切り札《異次元からの帰還》。
万丈目に除外ゾーンにあるカードは、《埋葬呪文の宝札》でコストとした魔法カードと、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果で除外した三体のユニオンモンスター。

 つまり万丈目のフィールドに並ぶのは、XYZ-ドラゴン・キャノンの融合素材……!

「再合体! 《XYZ-ドラゴン・キャノン》!」

 《黒蠍-強力のゴーグ》のダイレクトアタック時の効果により、エクストラデッキのトップに戻したカードだったが、再合体した後に銃口をこちらに向ける。

「XYZ-ドラゴン・キャノンの効果発動! 手札を一枚捨て、貴様のリバースカードを破壊する! ハイパー・ディストラクション!」

「チェーンして《和睦の使者》を発動する!」

 XYZ-ドラゴン・キャノンから放たれた砲撃がリバースカードを撃ち抜こうとするが、なんとか破壊される前に発動し、無事に《和睦の使者》の効果は発動される。

「……くっ、相変わらずしぶとい奴だ……! だが、俺は《V-タイガー・ジェット》を召喚!」

V-タイガー・ジェット
ATK1600
DEF1800

 XYZとはまた違う、後に新たに登場したモンスターだった《V-タイガー・ジェット》。
単体ではただの通常モンスターであり、和睦の使者が適用されている今ではアタッカーとしての活躍も望めない。

 ならば万丈目が狙っているのは、XYZ-ドラゴン・キャノンの更なる進化。

「伏せてあった《ゲットライド!》を発動し、V-タイガー・ジェットに墓地から《W-ウイング・カタパルト》を装備する!」

 恐らくは《黒蠍-罠はずしのクリフ》の効果により、デッキから墓地に直接送られていたのだろう《W-ウィング・カタパルト》が姿を現し、V-タイガー・ジェットと合体を始める……ただのユニオンではなく、合体をだ。

「W-ウィング・カタパルトとV-タイガー・ジェットを合体させ、《VW-タイガー・カタパルト》を融合召喚!」

VW-タイガー・カタパルト
ATK2000
DEF2100

 また新たな合体モンスターが融合召喚されるが、そのステータス自体はあまり脅威ではなく、俺が恐れているのはXYZ-ドラゴン・キャノンと並んだことにあった。

「フハハハハ、行くぞ遊矢! XYZ-ドラゴン・キャノンとVW-タイガー・カタパルトを合体させ、このデッキの最強モンスター! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を融合召喚する!」

VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン
ATK3000
DEF2800

 万丈目のデッキ【VWXYZ】の最強モンスターにして最終形態なだけはあり、《和睦の使者》が守ってくれていると解っていても、自然と冷や汗が身体から垂れてしまう。

「忌々しい《和睦の使者》が無ければ決まっていたが……! まあ良い、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンの効果を発動! ロード・ウォリアーを除外する! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

 《和睦の使者》があろうとモンスターを除外させる効果までは防ぎきれず、ロード・ウォリアーは呆気なく異次元へと吸い込まれていってしまう。

「これで俺様はターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! 伏せてあった《補充要員》を発動し、墓地のおジャマ三兄弟を手札に加える!」

 俺のデッキには五体以上のモンスター――具体的に言うならば黒蠍盗掘団―がおり、攻撃力1500以下のおジャマ三兄弟を、そっくりそのまま手札に加えられた。

『遊矢のダンナ~……あんなデカい奴に勝てっこな』

「俺は《手札抹殺》を発動し、お互いに手札を全て捨ててその分ドロー!」

 今おジャマ三兄弟が何か言おうとしていて、そこを俺が万丈目のようなおジャマ三兄弟の使い方をした気がするが、俺にそんなことを気にしている余裕はない。

「……よし、魔法カード《スターレベル・シャッフル》を発動! レベル2のマイフェイバリットカードをリリースし、同レベルのモンスターを特殊召喚する! 蘇れ、《おジャマ・イエロー》!」

『お、おいら~!?』

 我がマイフェイバリットカードと交換して特殊召喚されたカードは、話に聞いたところによると万丈目が最も古くから付き合ってきた精霊、おジャマ・イエロー。
きっとこのモンスターならば、万丈目の目を覚まさせることが出来るかも知れない。

『遊矢のダンナ~、おいらじゃ無理だよ~』

 ……何だか期待外れだったような気もするが、このモンスターがVWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンを打ち破るのは、当初の予定通り間違っていない。

「おジャマ・イエローに装備魔法《下克上の首飾り》を装備し、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンに攻撃!」

 装備魔法《下克上の首飾り》の効果は、戦闘するモンスターとのレベル差×500ポイントという、低レベルモンスターならばかなりの上昇値を期待出来るもの。
《機械戦士》に通常モンスターは、よくて《チューン・ウォリアー》ぐらいのため使う機会は無いが、おジャマ・イエローは首飾りに導かれるようにVWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンに向かっていった。

『下克上・おジャマ・キーック!』

「チッ……迎撃しろ、VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

 VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンのレベルは8であり、おジャマ・イエローのレベルは2であるので、《下克上の首飾り》の効果により攻撃力は同格となる。

 だがそこを、盾持ちの機械戦士がおジャマ・イエローを守った。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、おジャマ・イエローの破壊を無効にする! そして突き破れ、おジャマ・イエロー!」

 VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンの攻撃をシールド・ウォリアーが防ぎ、おジャマ・イエローの俗に言うライダーキックがボディを貫通し、最強のVWXYZは見事に爆散した。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 俺が光の結社に洗脳された時は、マイフェイバリットカードたるスピード・ウォリアーの一撃で、俺は目覚めることになったらしい。
ならば、万丈目もこの一撃で光の結社から目覚めてはくれないだろうか……?

「クズカードの分際でぇ……! 俺のターン、ドロー!」

 結果は目を覚ますどころか逆の結果になったのか、ただでさえ万丈目の怒りという名の炎に油を注いでしまったようだ。
……いや、むしろ元の万丈目に戻ってきている証拠……なのか?

「まずは速攻魔法《サイクロン》を発動! 《下克上の首飾り》を破壊する!」

 戦闘する際に効果を発揮する装備魔法《下克上の首飾り》を破壊するということは、万丈目が狙っているのは、高レベルのモンスターの特殊召喚……!

「装備魔法《次元破壊砲-S・T・U》を発動! 墓地から効果を無効にして貫通効果を付与し、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を特殊召喚し、このカードを装備する!」

 言わずと知れた蘇生出来る装備魔法《早すぎた埋葬》が、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン専用蘇生カードとなった魔法カードにより、再びVWXYZの最強モンスターが復活を遂げる。

「終わりだ、バトル! VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンで、おジャマ・イエローに攻撃! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「……万丈目。お前がホワイトサンダーである限り、お前はこのデッキにすら勝てない! 《ジャスティブレイク》を発動!」

 通常モンスターが攻撃対象に選択された時、フィールドにいる通常モンスター以外を全滅させる罠の雷――それがおジャマ・イエローから降り注ぎ、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンをまたも破壊した。

「……俺がホワイトサンダーである限り勝てない、だと……!?」

「ああ。その証拠がこのフィールドだ」

 正直に言うと、ついつい口から出てしまった出任せだったので、俺にももう余裕も何もないのだが、万丈目が反応してくれたのでこのまま行くとしよう。

「思い出せよ万丈目! ホワイトサンダーなんて言ってるお前じゃなく、真に強い万丈目サンダーを!」

 先程の言葉は口からの出任せだったが、この言葉は心からの言葉だった。
万丈目のこれまでのことを考えると生半可なことではなく、俺にそんなことは、一つたりとも出来そうに無いことだ。

 中等部トップ・ノース校チャンプ・攻撃力0デッキで勝利……様々なことを自信満々にやってのける万丈目サンダーに、俺は心の底では憧れていたのかも知れない。

「……ならばその言葉、このホワイトサンダーの象徴を倒すことで証明して見せろ! 魔法カード《シャイニング・リバース》を発動! 墓地のシンクロモンスターをシンクロ召喚する!」

 万丈目の墓地から眩い光が瞬くと、シンクロ召喚時に現れる光の輪と光の玉が次々と現れ、シンクロ素材もいないのにシンクロ召喚の準備が完了する。

「世界を飲み込む眩き光、闇の中から輝きを放て! シンクロ召喚! 光の化身、ライトエンド・ドラゴン!」

 墓地からシンクロ召喚されるライトエンド・ドラゴン……この光輝く竜を倒せば、あの万丈目サンダーが戻ってくるというのならば。

「ターンエンドだ」

「俺のターン……ドロー!」

 ……戻ってくるというのならば、絶対にあのライトエンド・ドラゴンを倒すことにしよう。

「俺は《馬の骨の対価》を発動! おジャマ・イエローをリリースして二枚ドロー! ……更に、《おジャマンダラ》を発動! 1000ライフを払い、再び蘇れ! おジャマ三兄弟!」

遊矢LP1800→800

 このデッキに入っているモンスターたちで万丈目を救うに相応しいのは、やはりこいつら――おジャマ三兄弟なのだろう。
俺の今の手札は、それを証明するような手札であった。

「更に《融合》を発動! おジャマ三兄弟を融合し、《おジャマ・キング》を融合召喚する!」

『おジャマ究極合体!』

おジャマ・キング
ATK0
DEF3000

 この期に及んでおジャマ三兄弟たちも泣き言は言わず、万丈目を救うという一心にておジャマ究極合体を行った。

「装備魔法《シールド・アタック》をおジャマ・キングに装備し、攻撃力と守備力を入れ替える!」

 よっておジャマ・キングの攻撃力は3000となり、ライトエンド・ドラゴンの2600の攻撃力を僅かに400だが超える。

「更に墓地から《ブレイクスルー・スキル》の効果を発動! ライトエンド・ドラゴンの効果を無効にする!」

 墓地からも発動出来るという優秀な罠カードである、《ブレイクスルー・スキル》が再びライトエンド・ドラゴンを束縛し、これで攻撃の準備が完了した。

「そうか……」

「行くぞ万丈目、バトルだ! おジャマ・キングで、ライトエンド・ドラゴンに攻撃! フライング・ボディアタック!」

 攻撃力を3000に上昇させたおジャマ・キングがライトエンド・ドラゴンを押しつぶすのを、万丈目はどこか静かな表情で眺めていた。

万丈目LP550→150

「……何だこの趣味の悪い白い制服は!? 明日香くんのためとはいえ、何故俺はこんな服を着ているのだ!」

「……万丈目?」

 どうやら様子がおかしい……ということはなく、洗脳された状態とそうでない時の違いが無く、区別が全くつくことがない。

「十代、俺の制服を返せ! 何故貴様が持っている!?」

「へへ……けどよ万丈目、これ何かしょっぱい匂いがするぜ?」

 「ええい、うるさい!」などと騒ぎながら十代からノース校の制服を奪うと、万丈目は即座に黒い制服へと衣替えを果たした。

「遊矢、貴様のターンだろう。早くしろ!」

「……続けるのか?」

 これにて一件落着かとも思っていた俺へと、万丈目の不意打ちが襲いかかった。

「当たり前だろう。何故貴様とデュエルしているのかは覚えていないが、途中で止めることなどしない!」

 ――それでこそ万丈目サンダーだ、と口には出さずに微笑むと、俺は何も言わずにデュエルを進行した。

「俺はこれでターンエンド。さあ来い、万丈目!」

「言われずとも! 俺のターン、ドロー!」

 万丈目のライフは150というギリギリの数値に、フィールドには何もないという絶体絶命の状況。
対する俺は、こちらもライフが800というギリギリの数値だが、《シールド・アタック》により攻撃力3000となった《おジャマ・キング》を擁している。

「俺は《アームズ・ホール》を発動! デッキからカードを一枚墓地に送り、墓地から《次元破壊砲-S・T・U》を手札に加えて発動する!」

 通常召喚を封じることで、手札・墓地から装備魔法カードを手札に加えることが出来る魔法カード、《アームズ・ホール》により、先のターンに発動された次元破壊砲-S・T・Uが手札に加えられる。
貫通効果を付与して、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》が三度目の登場と相成った。

「そしてバトル! VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンで攻撃! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「なっ……おジャマ・キング! フライング・ボディアタック!」

 攻撃力は同じ3000であり、VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンの効果は無効になっているため、睨み合いになるのかと思っていた。
だが万丈目が選んだのは、せっかく蘇生したVWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンと、俺のおジャマ・キングの相討ちという結果とすることだった。

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 双方のフィールドを空にするという、自分にも不利なこの結果を選択した万丈目のキーカードは、十中八九あのリバースカードなのだろうが……残念ながら、《サイクロン》のようなカードは手札にない。

「俺はカードを一枚伏せ、通常魔法《ブラスティック・ヴェイン》を発動! 俺のセットカードを破壊することで、二枚ドローする!」

 代わりと言っては何だが、万丈目のリバースカードではなく自分のセットカードを破壊すると、墓地でそのカードが発動した。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! 墓地からマイフェイバリットカードを特殊召喚する! 蘇れ、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

 万丈目のライフポイントは僅かに150……通るとは思えないが、スピード・ウォリアーの一撃が決まれば俺の勝利となる。

「バトル! 万丈目にダイレクトアタックだ、スピード・ウォリアー! ソニック・エッジ!」

「万丈目、さんだ! 墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外し、戦闘を無効にする!」

 このタイミングでネクロ・ガードナーとは……万丈目が出し惜しみをしていたとはとても考えられないので、運良く《アームズ・ホール》の効果でデッキトップを墓地に送る時に墓地に行ったのだろう。

「ならば《アンノウン・シンクロン》を召喚し、魔法カード《下降潮流》を発動! アンノウン・シンクロンをレベル3にする!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 本来ならばアンノウン・シンクロンとスピード・ウォリアーの合計はレベル3だが、魔法カード《下降潮流》のおかげでギリギリレベル5へと達する。

「レベル2のスピード・ウォリアーと、レベル3となったアンノウン・シンクロンをチューニング!」

 魔法カード《下降潮流》の効果で無理やり光の輪を三つにし、スピード・ウォリアーを包み込んだ。
《下降潮流》というカード名であるのに、レベルが下降してないのは良いのだろうか……なんて、くだらないことを考えられる余裕が出来たことに苦笑する。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 短剣を武器とした、傷だらけの機械戦士であるスカー・ウォリアーがシンクロ召喚される。
戦闘破壊耐性を持っているこのカードならば、次の万丈目のターンも防げるだろう。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 万丈目がドローしたカードを見ると、ニヤリと笑ってこちらを見てきた。

「このターンで終わらせるぞ遊矢! 《X-ヘッド・キャノン》を召喚!」

 このターンで終わらせるという万丈目の言葉に反し、召喚されたのはただのバニラモンスターたる《X-ヘッド・キャノン》。
X-ヘッド・キャノンで何をするのかと思っていたが、万丈目が次に行った一手は、更に俺を混乱させた。

「装備魔法《戦線復活の代償》を発動! 通常モンスターであるX-ヘッド・キャノンをリリースし、遊矢の墓地から……《おジャマ・イエロー》を特殊召喚する!」

『万丈目のアニキ~元に戻ったのね~!』

 X-ヘッド・キャノンをリリースして俺の墓地からおジャマ・イエローを蘇生すると、おジャマ・イエローはすかさず万丈目に抱きついていったが、「うるさい!」の一言と共に万丈目に弾き飛ばされてしまった。

『でもアニキ、何でおいらを特殊召喚したの?』

「決まってるじゃあないか……お前は、俺のエースカードだからだ!」

 光の結社から解き放たれた万丈目サンダーと、精霊でありエースカードであるおジャマ・イエローの美しい友情……は、他ならぬ万丈目の魔法カードで打ち砕かれた。

「魔法カード《突撃指令》を発動! 通常モンスターであるおジャマ・イエローをリリースすることで、相手モンスターを破壊する! さあ玉砕しろ、おジャマ・イエロー!」

『えええええ!?』

 文句を言いながらも悲しいかな、モンスターであるおジャマ・イエローには万丈目が使用した魔法カードには逆らえず、スカー・ウォリアーに突撃していって巻き込んで爆発した。

「そして俺は罠カード、《死の演算盤》を発動していた! 墓地に送られたモンスターの数×500ポイントのダメージを与える!」

「なっ……!」

 このジェネックス中にデュエルした、数学プロデュエリストのマティマティカが使っていたコンボだったが、リリースするモンスターを俺のモンスターにすることで、ダメージを俺に与えることコンボ。
今破壊された《スカー・ウォリアー》と《おジャマ・イエロー》は、どちらも同じく俺の墓地に送られるモンスターのため、マティマティカ戦の時と同じように《死の演算盤》が俺にのみ起動する……!

「貴様のライフは800ポイント、これで終わりだ!」

「ぐああああああっ!」

遊矢LP800→0


 まさかの《死の演算盤》によるバーンダメージで敗北し、俺は大地に膝を付いた。
万丈目を光の結社から救うことには成功したが……まさか、敗北するとは思ってもみなかった。

「遊矢貴様! 返せ、俺様のカードを! ……それにメダルはいらんぞ、【機械戦士】でない貴様に意味はない!」

 万丈目はそう言いながら、無理やり俺のデュエルディスクごとカードを奪っていき、少し雑にカードたちを懐にしまった。

「だがまあ、勝ったからには言うしかないな。一!」

『十!』

「百!」

『千!』

「『万丈目サンダーァァァッ!」』

 勝者たる万丈目サンダーを取り囲むアカデミアの生徒たちと、彼の懐に入れられたおジャマ三兄弟を始めとする精霊たちの万丈目サンダーコールが終わると、三沢が俺に手を貸して起こしてくれた。

「惜しかったな、遊矢」

「……いや、やっぱり急増デッキで勝てる相手じゃないさ。『万丈目サンダー』はな」

 しかし万丈目の性格のおかげで、ジェネックスの参加メダルを取られなくて済んだのはありがたかった。
万丈目を倒した今、光の結社が切れる俺に対する手札は一枚……いや、一人のみの筈なのだから。

「明日香……」

 オベリスク・ブルーの女王こと天上院明日香……ジェネックス参加メダルとこの鍵があれば、必ず近いうちに彼女を救える時が必ず来ると、俺は信じるのだった。
 
 

 
後書き
VS.万丈目戦。

期せずしてマティマティカ戦でのギミックを再び使ってしまったのは、かなりの反省点となっております……

感想・アドバイス待っております。 

 

―ジェネックス Ⅵ―

 たとえジェネックスが開催されていようとも、流石に草木も眠る丑三つ時となれば、デュエル・アカデミアといえども原則立ち歩きは禁止とされている。
たまに深夜の散歩をしている生徒とガードマンが現れるぐらいで、日夜デュエルの声が響いているここも、この時間ともなれば虫の声しか聞こえない。

 そんな時間の中、俺はオベリスク・ブルー女子寮へと向かう森の中の池で、久方ぶりに釣りに興じていた。
最近は色々あって出来なかったものの、太平洋のど真ん中にあるというこの島の立地もあり、やはり釣りはデュエルとはまた違う面白さがあった。

 ……まあもちろん、ここには釣りをしに来た訳ではない。

 釣りをしている背後から草を踏みしめてくる足音を聞くと、釣り竿やその他を片付けにかかり、代わりにデュエルディスクを腕に差し込んで振り向いた。

 背後からの闖入者はガードマンや学生、ましてやプロデュエリストでなく、その聞き慣れた足音から目的の人物だと解っていた。

「……明日香」

「黒崎遊矢。鍵を賭けたデュエルをしに来たわ」

 オベリスク・ブルーの女王、天上院明日香の久しぶりに見る姿は、俺の知っている明日香とは似ても似つかぬ人形ぶりだった。
斎王の人形となっていたらしい俺の姿もこうであり、対面したレイや三沢も今の俺と同じやるせない気持ちになったのだろうか。

 この場所は一年の時に良く明日香と釣りやデュエルをした場所であるのだが、それでも眉一つ動かさない明日香を見るに、斎王は余程強力な洗脳を施したようだ。

 洗脳を自力で解きかけていた万丈目とは違い、今の明日香は身も心も光の結社の一員なのだろう。

「ああ、明日香。デュエルだ……絶対に助けてやる……!」

「助ける? 私は自分の意思で光の結社に従っているのよ?」

 明日香の一言に、俺はもう話が通じることはないと悟っ……いや、待て。
三沢に話を聞くならば、本当に人形と化していた俺は何も無駄な言葉は喋らなかったらしい。

 明日香のあの言葉からすれば、斎王は明日香を完全に人形にした訳ではなく、明日香本人の意志はまだ残っているということか……?

 そうだ、彼女が洗脳された程度で黙って泣き寝入りをする訳がないということを、俺は良く知っているだろう。
それを何だ、救うと息巻いておきながら一人で諦めて……明日香も戦っている筈なのだ、こんな調子では彼女に怒られてしまう。

 後はただ、このデュエルに勝つことと、明日香を救うことだけを考えていればそれで良い……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000

 決意を新たにした結果という訳でもないだろうが、デュエルディスクは俺に先攻の権利を与えた。

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺の先攻、ドロー!」

 明日香のデッキが何になっているのかは解らない、ここはまず守備を固めさせてもらおう。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK500
DEF1600

 マックス・ウォリアーが攻撃の先鋒ならば、この機械戦士は守備の先鋒。
そんなガントレット・ウォリアーの姿を見ると、一つの情景が思い浮かんだ。

「明日香。ノース校との友好デュエルの前日のデュエル、お前はここでガントレット・ウォリアーと《牙城のガーディアン》に負けたのを覚えてるか?」

「光の洗礼を受ける前のことなんて、興味がないわ」

 まったく表情を崩さずに言ってのける明日香の姿に、落胆した気持ちがないと言えば嘘になるが、この程度で戻りはしないと決意してるのもまた事実だ。

 気を取り直してデュエルを続行させてもらおう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン。ドロー」

 万丈目のデッキは変わっていなかったが、明日香のデッキは俺のように変わっていると見るべきだ……さて、どんなデッキなのだろう。

「私は《氷結界の軍師》を守備表示で召喚」

氷結界の軍師
ATK1600
DEF1600

 【氷結界】……下級モンスターを並べることでロック効果を発揮し、変則的な上級モンスターやシンクロモンスターを扱うデッキだったか。
シンクロ召喚の登場でカードプールが増えて、どんなカードがあったかまでは覚えていないが……

「氷結界の軍師の効果。手札から《氷結界》と名の付くカードを捨てることで、一枚ドロー。カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 手札交換に守備表示モンスター、そして二枚のリバースカードと、明日香は明らかな守備体勢をとった。

「俺は《ニトロ・シンクロン》を召喚する!」

ニトロ・シンクロン
ATK500
DEF300

 ならばこちらは攻めあるのみ、そう考えてまずはチューナーモンスターを召喚すると、早速シンクロ召喚へと移った。

「レベル3のガントレット・ウォリアーと、レベル2のニトロ・シンクロンをチューニング!」

 ニトロ・シンクロンの頭の上にあるメーターが振り切れると共に、二つの光の輪となってガントレット・ウォリアーを包み込むという、いつものシンクロ召喚の風景が出現する。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 仲間を守る傷だらけの機械戦士、スカー・ウォリアーがシンクロ召喚されると、腕にくくりつけた短剣を構えてポーズをとった。
先立っては万丈目の戦術に敗れてしまったものの、戦闘破壊耐性があるのはなかなかに強力な効果だと言える。

「バトル! スカー・ウォリアーで、氷結界の軍師に攻撃! ブレイブ・ダガー!」

 軍師という職業はそもそも直接戦う職業ではなく、あっさりとスカー・ウォリアーに破壊されるが、守備表示のため明日香にダメージは無い。

「これでターンエンドだ」

「私のターン。ドロー。伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、《氷結界の軍師》を特殊召喚」

 リビングデッドの呼び声と聞いて、先のターンに墓地に送っていた上級モンスターかと思ったが、特殊召喚されたのはまたもや氷結界の軍師だった。

「氷結界の軍師の効果により、《氷結界》と名の付くカードを一枚捨てて一枚ドロー。さらにチューナーモンスター、《氷結界の術者》を召喚」

氷結界の術者
ATK1200
DEF0

 こちらに対抗するようなチューナーモンスターの登場に、下級モンスターを蘇生したのはシンクロ召喚に繋げるためだと理解する。
まあ良い、氷結界のシンクロモンスターがどのようなモンスターか、見せてもらう良い機会だ。

「レベル4の氷結界の軍師に、レベル2の氷結界の術者をチューニング」

 氷結界の術者が通常のシンクロ召喚と違って雪のように白い氷となり、氷結界の軍師を包んでいく。
あの白い氷は、今の明日香の心情を表しているようだった。

「破壊神を防ぐ聖なる盾よ、今こそ光の使者を護れ! シンクロ召喚! 《氷結界の虎王ドゥローレン》!」

氷結界の虎王ドゥローレン
ATK2000
DEF1400

 氷結界のシンクロモンスターはいずれも竜のような外見をしていると聞いていたが……ステータスも若干抑え目であるし、このドゥローレンは何か氷結界の中でも特殊なシンクロモンスターなのかも知れない。

「更にリバースカード、オープン。《安全地帯》! 発動後装備カードとなり、スカー・ウォリアーに装備する」

 罠カードでありながら装備カードになる異色のカード、《安全地帯》の効果なら知ってはいるが、スカー・ウォリアーに装備する理由とは。
《サイクロン》などで破壊すれば、確かにスカー・ウォリアーは破壊出来るが、あまり効率的とは言えないだろうに。

「更に氷結界の虎王ドゥローレンの効果。私のフィールドの表側表示のカードを手札に戻すことで、一枚につき攻撃力を500ポイントアップさせる」

「なるほどな……!」

 明日香が選んだのは、蘇生した氷結界の軍師がシンクロ素材となったためにフィールドに残っている《リビングデッドの呼び声》に、俺のスカー・ウォリアーに装備されている《安全地帯》の二枚。
つまり、万能蘇生カードであるリビングデッドの呼び声を再利用しつつ、《安全地帯》のデメリット効果によってスカー・ウォリアーを破壊し、ドゥローレンの攻撃力を上げるというコンボ。

 そのコンボの前にスカー・ウォリアーは破壊されてしまい、俺のフィールドはがら空きとなってしまう。

「バトル。氷結界の虎王ドゥローレンで、あなたにダイレクトアタック!」

「《くず鉄のかかし》を発動し、戦闘を無効にする!」

 こんな序盤に3000ものダメージを喰らうわけにはいかず、迫りくるドゥローレンをくず鉄のかかしが防ぎきり、再びセットされた。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 明日香のフィールドに再び伏せられた二枚のリバースカードは、当然ながら《リビングデッドの呼び声》と《安全地帯》……と、思いたいが、他カードの可能性は充分にある。
だがこのまま攻め込まないわけにもいかず、攻撃力がエンドフェイズ時に戻ったようなので、ドゥローレンは倒せないモンスターじゃない。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 出番は少し遅れてしまったが、いつも通りに槍を構える頼れる機械戦士のアタッカーに、俺は再びデュエルの記憶を呼び覚ます。

「明日香。お前との初めてのデュエル、フィニッシャーはこのマックス・ウォリアーだったな」

「…………」

 今度は明日香も反応すら返してくれないが、俺は更に明日香を救うという気持ちを強く出来た。
ここには、明日香との幾多ものデュエルの記憶があるのだから。

「俺はマックス・ウォリアーに装備魔法《サイクロン・ウィング》を発動し、バトル! スイフト・ラッシュ!」

 マックス・ウォリアーの背中に風を纏う翼がつき、三つ叉の槍による突きがドゥローレンを狙っていくと、その翼から明日香に向かって風が吹いた。

「《サイクロン・ウィング》の効果発動! 攻撃モンスターがバトルする時、相手の魔法・罠カードを破壊する!」

 まさに装備魔法バージョンの《サイクロン》と言える効果であり、明日香のフィールドに伏せてあった伏せカード――《安全地帯》だった――を破壊し、その風と共にマックス・ウォリアーがドゥローレンを破壊した。

明日香LP4000→3800

 コンボの起点となるカードを二枚破壊したのだ、あの再利用コンボを再現することは難しくなっただろう。
しかして明日香の瞳は、涼しいまま変わらなかった。

「マックス・ウォリアーの攻守とレベルは半分となる。ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー。伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、私は《氷結界の軍師》を特殊召喚」

 どうやらブラフではなく二枚とも再利用コンボのカードだったらしく、リビングデッドの呼び声で蘇生され、氷結界の軍師の都合三度目の登場となった。

「氷結界の軍師の効果を発動し、一枚捨てて一枚ドロー。更に、チューナーモンスター《氷結界の風水師》を召喚する」

氷結界の風水師
ATK800
DEF1200

 再び召喚される氷結界のチューナーモンスターに、またもやシンクロ召喚が来るかと身構えると、予想通りと言うべきかシンクロ召喚の態勢に入った。

「レベル4の《氷結界の軍師》に、レベル3の《氷結界の風水師》をチューニング」

 氷結界の虎王ドゥローレンの時と同様に、チューナーモンスターが白色の氷のようなものになって辺りを覆い始めた。
ドゥローレンはレベル6で今回はレベル7、またも未知の氷結界のシンクロモンスターが召喚されるらしい。

「大神より放たれしルーンの槍よ、今こそ光の敵を貫け! シンクロ召喚! 《氷結界の龍 グングニール》!」

氷結界の龍 グングニール
ATK2500
DEF1700

 ドゥローレンとは違って凍りついた翼で羽ばたき、氷結界の龍が四本の足で大地に着地した。
氷結界の虎王ドゥローレンは氷結界のシンクロモンスターの中ではイレギュラーな存在であり、氷結界のシンクロモンスターたちはドゥローレンを除いて龍の姿をしていると聞いたことがある。

「魔法カード《マジック・プランター》を発動。リビングデッドの呼び声を墓地に送り、二枚ドロー。そして、氷結界の龍 グングニールの効果を発動! 手札を二枚捨てることで、相手のフィールド場のカードを二枚破壊する!」

 氷結界の龍 グングニールが一度いななくと、空中に二本の槍のようなものが浮かんでいき、俺のフィールドのマックス・ウォリアーとくず鉄のかかしに発射された。
凍りついた槍によって、そのままマックス・ウォリアーと装備されていたサイクロン・ウィングにくず鉄のかかしは破壊され、俺のフィールドはまさにがら空きになってしまう。

「今捨てたカードは《ドロー・スライム》。このカードが墓地に送られた時、一枚ドローする。よって二枚ドロー!」

 修学旅行の際に美寿知の部下として吹雪さんと戦った、《氷帝メビウス》使いの氷丸が使っていたモンスター、《ドロー・スライム》によってグングニールの効果で使用されたカードも補充される。

「バトル! 氷結界の龍 グングニールで、相手にダイレクトアタック!」

「ぐああっ!」

遊矢LP4000→1500

 二回連続のダイレクトアタックを防ぐ手段は俺にはなく、グングニールの効果に必要な手札コストも《マジック・プランター》と《ドロー・スライム》のせいで消費されていないのが、俺に更に残念さを増す。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 たかが一回ダイレクトアタックを喰らった程度でへこたれるものか、と反骨すると、それを証明するように勢いよくカードを引いた。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 中華鍋を逆に被ったような機械族はステータス自体は頼りないものの、シンクロ召喚を行うにあたって今や【機械戦士】に必要不可欠な仲間になっていた。

「《機械複製術》を発動し、デッキから新たに《チューニング・サポーター》を二体特殊召喚! 更に魔法カード《アイアンコール》を発動し、《ニトロ・シンクロン》を墓地から特殊召喚する!」

 デッキからは新たに《チューニング・サポーター》が二体増殖し、墓地からは《スカー・ウォリアー》のシンクロ素材となっていた《ニトロ・シンクロン》が蘇る。
怒涛の下級モンスターの特殊召喚により、これでシンクロ召喚の準備が整った。

「レベル2となったチューニング・サポーター二体に、レベル1のチューニング・サポーターと、レベル2のニトロ・シンクロンをチューニング!」

 チューニング・サポーターのレベル変動効果により、変幻自在の合計レベルは7――氷となった明日香を溶かすには、うってつけのモンスターだろう。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていく。
単体でのステータスも頼れるカードであるし、更にシンクロ素材となったモンスターたちのドロー効果も付いてくる。

「ニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターには、お互いにシンクロ素材となった時に一枚ドローする効果がある! よって計四枚ドロー! そして、速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力であればグングニールを容易く破壊することは出来るものの、どうせなら合計六枚の手札交換と共にニトロ・ウォリアーの最大火力を使わせてもらおう。

「魔法カードを使用したターン、ニトロ・ウォリアーの攻撃力は1000ポイントアップする……行くぞ、バトル! ニトロ・ウォリアーで、氷結界の龍 グングニールを攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

「くっ……」

明日香LP3800→2500

 攻撃力が3800にまで上昇したニトロ・ウォリアーに対し、グングニールはただただその火力の前に溶かされることしか出来ず、あっさりと破壊された。
明日香のデッキのようにダイレクトアタックを狙うことは出来なかったが、必要充分なダメージは与えられただろう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 二ターン連続してシンクロモンスターを召喚してきた明日香だが、さて、このターンはどうするのか。

「私は魔法カード《浮上》を発動。墓地からチューナーモンスター《氷結界の術者》を特殊召喚」

 やはり墓地から蘇生されたのは氷結界のチューナーモンスターであり、このターンもシンクロモンスターが現れる可能性が飛躍的に高まった。

「更にチューナーモンスター、《氷結界の守護陣》を守備表示で召喚」

氷結界の守護陣
ATK200
DEF1600

 ……いや、俺の予想に反して、明日香はこのターンではシンクロ召喚が行なう気は無いようだ。
何故かは解らないが、どうやら守備モンスターを二体とっておきたいらしい。

「更にカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 だが守備表示のモンスターが二体というこの状況は、俺のフィールドで燃え上がるニトロ・ウォリアーに取っては好都合だった。

「カードを一枚伏せ、魔法カード……!?」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力の上昇のため、手札の魔法カードを発動しようとするが、氷結界の破術師が放った氷が俺のデュエルディスクを凍りつかせた。

「《氷結界の破術師》の効果。他に氷結界モンスターがいる時、魔法カードはセットして一ターン待たないと発動出来ない」

 罠カード《魔封じの芳香》と同じような効果に、そう言えば氷結界の下級モンスターは、並べば相手を妨害する効果を発揮するモンスターが多いのを思い出させた。

「ならば、ニトロ・ウォリアーで氷結界の破術師に攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 恐らくは無駄であろうがニトロ・ウォリアーに攻撃命令を出すと、今度は氷結界の術者の方が氷の壁を作り出し、ニトロ・ウォリアーの攻撃を止めた。

「氷結界の術者の効果。氷結界が他にいる時、レベル4以上のモンスターは攻撃出来ない」

「くっ……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃も効果もサポートも全て封じられてしまい、俺にこのターン出来ることは、次のターンに向けて魔法カードを伏せることだけだった。

「私のターン、ドロー!」

 対する明日香も俺の攻撃を封じることは出来たものの、それは向こうも同じことであり、手札もあまり多いとは言えなかった。

「私は伏せていた《サルベージ》を発動し、墓地から二枚手札に加える。そして、《氷結界の軍師》を召喚!」

 氷結界のシンクロモンスターには手札コストを始めとする必要コストが多く、召喚したのも非チューナーモンスターだったことから、今度こそシンクロモンスターが来るのだろう。

「氷結界の軍師の効果を発動し、氷結界のカードを一枚捨てて一枚ドロー。そして、レベル4の《氷結界の軍師》と、レベル2の《氷結界の術者》をチューニング!」

 その合計レベルは6と、最初に登場したシンクロモンスターの《氷結界の虎王ドゥローレン》と同じレベルだったが、今の状況で自分のカードをバウンスしてもあまり意味はない。

 ならば、別のシンクロモンスターと見るべきだろう。


「太陽神より放たれし稲妻の槍よ、今こそ闇の使徒を追え! シンクロ召喚! 《氷結界の龍 ブリューナク》!」

氷結界の龍 ブリューナク
ATK2300
DEF1400

 グングニールと同じように龍の姿をした氷のシンクロモンスター、氷結界の龍 ブリューナクがシンクロ召喚された。
形状はグングニールにより更にドラゴンに近づき、大地に足をつけずに凍りついた翼で飛翔する。

「氷結界の龍 ブリューナクの効果。手札を捨てることで、捨てた枚数分相手のカードを手札に戻す。手札を二枚捨て、ニトロ・ウォリアーとリバースカードを手札に戻す!」

「なんっ……だと!?」

 明日香は《サルベージ》で墓地からまさにサルベージした二枚の手札を捨て、氷結界の龍 ブリューナクの放った氷のブレスがニトロ・ウォリアーとリバースカードを凍りつかせた。
氷になってからそのまま砕け散ってしまい、俺の手札に戻ることとなった。

「捨てたカードは《ドロー・スライム》。よって二枚ドロー」

 やはり《サルベージ》で手札に加えていたカードはあのモンスターだったらしく、またもや明日香は手札コストを踏み倒した。

「バトル。氷結界の龍 ブリューナクで、プレイヤーにダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする」

 俺の魔法カードも含んだ伏せカード三枚の内で、手札に戻されたカードが《ガード・ブロック》ではなかったおかげで、俺のライフは首の皮一枚繋がった。

「カードを一枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドはリバースカードが一枚のみであり、明日香のフィールドには氷結界の龍 ブリューナクとリバースカードが二枚。
ボード・アドバンテージならば圧倒的に負けているが、ハンドの方ならば全く負けてはいない。

「俺はカードを一枚伏せ、リバースカード《ブラスティック・ヴェイン》を発動! 伏せカードを破壊し、二枚ドローする!」

 先のターンで発動しようとしていた魔法カードだったが、《氷結界の破術師》の効果によって発動することが出来なかった。
二枚ドローすると共に、伏せカードの破壊された時に発動する効果が発動する……!

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキ・手札・墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! デッキから現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 デッキから飛び出してくるマイフェイバリットカードは、このターンのコンボの基点となって後に続く《機械戦士》たちの道しるべとなる。
戦闘で氷結界のモンスターたちを蹴散らすスピード・ウォリアーは、またの機会とさせて頂こう。

「スピード・ウォリアーをリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1900
DEF1500

 上級モンスターにしてはステータスが高くないものの、アドバンス召喚されたサルベージ・ウォリアーは、背後に背負っていた網を地中に放り投げた。

「今度はこっちがサルベージする番だ……! サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚された時、墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 来い、《ニトロ・シンクロン》!」

 明日香の《氷結界の軍師》のように、三回目のフィールドへの登場となったチューナーモンスター、《ニトロ・シンクロン》。
その消火器のような姿には心なしか疲れが見えているが、その疲れを気合いで吹き飛ばしてシンクロ召喚の態勢を取った。

「俺はレベル5の《サルベージ・ウォリアー》とレベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング――再び燃え上がれ! 《ニトロ・ウォリアー》!」

 ブリューナクにエクストラデッキに戻されてしまったものの、やはり氷を溶かすのはこのシンクロモンスターだと、再びシンクロ召喚される。

 そして、氷結界の術者がシンクロ素材となった今、ニトロ・ウォリアーの攻撃を阻む者はいない……!

「バトル! ニトロ・ウォリアーで、氷結界の龍 ブリューナクに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 同じく氷結界の龍であったグングニールと同じように、ニトロ・ウォリアーのラッシュがブリューナクに叩き込まれていき、氷の身体をボロボロにしながら破壊されていった。

明日香LP2500→2000

「甘いわね。伏せカード《激流蘇生》! 破壊された水属性モンスターを蘇生して、特殊召喚した数×500ポイントのダメージを与える!」

 明日香の背後から氷で出来た激流が流れ出てきて、そこから破壊した筈の氷結界の龍 ブリューナクが特殊召喚される。
さらにその氷の激流は止まることはなく、俺へと雪崩のように押し寄せてきた。
遊矢LP1500→1000


「だが、ニトロ・ウォリアーの効果発動! ニトロ・ウォリアーが相手モンスターを戦闘破壊した時、もう一度続けて攻撃が出来る! 氷結界の破術師に攻撃、ダイナマイト・インパクト!」

「《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にして一枚ドロー」

 ダイナマイト・インパクトによるニトロ・ウォリアーの第二打は、俺も使用した《ガード・ブロック》にて防がれてしまったものの、魔法ロックの効果を持つ氷結界モンスターを破壊することに成功する。

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 この際、激流蘇生で負うことになったダメージなどどうでも良く、重要なのはブリューナクが蘇生されたことに尽きる……!

「氷結界の龍 ブリューナクの効果発動。手札を一枚捨て、ニトロ・ウォリアーを手札に戻す!」

 ブリューナクが放つブレスに直撃し、またもやニトロ・ウォリアーはエクストラデッキに戻されることになってしまう。
そして、これで俺のフィールドは正真正銘がら空きだ。

「私は《氷結界の破術師》を守備表示で召喚し、バトル! 氷結界の龍 ブリューナクで、あなたにダイレクトアタック!」

「……《速攻のかかし》を手札から捨て、バトルを終了させる!」

 手札から現れるいつもお世話になるかかしが氷づけになると共に、デュエルが始まった当初より明日香が熱くなっているように感じてきた。
デュエルが始まった時は、まさに氷と言ったような感じだったが、だんだん元のクールを装ったデュエル馬鹿の明日香に戻ってきているような――そんな奇妙な感覚がある。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 その感覚が間違っていないのであれば、俺のデュエルで明日香を助けられているのであれば、まだまだ俺はデュエルが出来る。
ニトロ・ウォリアーはまたもやエクストラデッキに戻されてしまったが、俺のデッキはシンクロ召喚しか出来ない訳じゃない……!

「俺は《レスキュー・ウォリアー》を召喚してリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚する!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

 レスキュー隊のような格好をした機械戦士をリリースして召喚されたのは、仲間の力を得る砲台の機械戦士。
レスキュー・ウォリアーの攻撃力を得ることによって、攻撃力は2800となり、攻撃力は控えめのブリューナクの攻撃力を超える。

「バトル! ターレット・ウォリアーで、ブリューナクに攻撃! リボルビング・ショット!」

 効果は強力だが……いや、だからこそステータスは低めのブリューナクではターレット・ウォリアーの砲台を受けきれず、穴だらけになって破壊される。

明日香LP2000→1500

「ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには、攻撃力が2800の《ターレット・ウォリアー》が一体となり、ライフポイントは残り1000ちょうど。
対する明日香のフィールドは、他に氷結界モンスターがいる時、双方の魔法カードをロックする《氷結界の破術師》にリバースカードが一枚で、ライフポイントは1500。

「私はリバースカードを発動。《光の護封剣》! あなたは三ターン、攻撃をすることは出来ない。ターンエンドよ」」
 デュエルキングが使用していたともあって、有名な時間を稼ぐことの出来る魔法カード《光の護封剣》。
天空から降り注いだ光の剣が、ターレット・ウォリアーを中心とした俺のフィールドを包み込んだ。

「……俺のターン、ドロー!」

 この場面だけを見ればこの光の剣は俺たちを守ってくれているように見えなくもないが、実質は逆で俺を閉じ込めている。
魔法カードを破壊することも出来ず、俺はターンを終了する他無かった。

「ターンエンド」

「私のターン、ドロー。《貪欲な壷》を発動し、デッキに五枚モンスターを戻して二枚ドロー!」

 明日香は《氷結界の軍師》の効果で何体も墓地に送っていたのだ、《貪欲な壷》の発動条件を満たすのは容易いだろう。

「私は《氷結界の軍師》を守備表示で召喚。効果を発動し、カードを一枚伏せてターンエンド」

 デッキに眠っていたのか墓地に戻したモンスターかは知らないが、何度目の登場か解らない《氷結界の軍師》を守備表示で召喚した。
効果を発動して手札交換を果たし、伏せカードを一枚置くなど、着々と明日香は攻撃の準備を始めている。

「俺のターン、ドロー!」

 残念ながら俺は、《光の護封剣》に囚われて身動きが出来ず、打開策と呼ばれるようなカードも手札にはない。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

 明日香は速ければ次のターンには攻勢を仕掛けると思われるので、戦闘破壊耐性を持つ要塞の機械戦士を召喚しておく。

「さらにターレット・ウォリアーを守備表示にし、ターンを終了する」

「私のターン、ドロー!」

 ターレット・ウォリアーを守備表示にしたことで、明日香から見れば破壊しやすいステータスとなっただろうが、ここは慎重に行かせてもらおう。
この残りライフでは、何かが起きてからでは遅いのだから。

「私はフィールド魔法《ウォーターワールド》を発動」

 深夜のデュエルアカデミアの森林が、途端にイルカが飛ぶような海へと変わっていき、俺と明日香はそこにある浮き島に立つこととなった。

「更にチューナーモンスター、《氷結界の術者》を召喚!」

 氷結界モンスターと並べることで戦闘ロックを発生させる、氷結界のチューナーモンスターだが、もうその効果に意味はないだろう。
守備を固めているのに、水属性モンスターの守備力が下がる《ウォーターワールド》が発動するということは、つまり。

 明日香は攻めに転じるということだろう。

「レベル4の《氷結界の軍師》と、レベル3の《氷結界の破術師》に、レベル2の《氷結界の術師》をチューニング!」

 三体をシンクロ素材にしての合計レベル9とは、なかなかのド派手なシンクロ召喚だ。
一部例外を除けばシンクロモンスターはレベルが高ければ高いほど、その基本ステータスは上がっていくのだから、合計レベル9とはかなりのステータスだろう。

「破壊神より放たれし聖なる槍よ、今こそ魔の都を貫け! シンクロ召喚! 《氷結界の龍 トリシューラ》!」

氷結界の龍 トリシューラ
ATK2700
DEF2400

 グングニールとブリューナクのいいとこ取りと言っても少し違うだろうが、シンクロ召喚された龍は、凍りついた翼と両手足のある胴長のドラゴンだった。
警戒していたよりそのステータスは高くなかったが、今まで出て来ていた氷結界のシンクロモンスターたちも、ステータスより効果の方が強力だったことを思いだす。

「氷結界が誇る最強の龍、トリシューラの効果。このカードがシンクロ召喚された時、相手のフィールド・手札・墓地のカードを一枚ずつ除外する!」

「なんだと!?」

 シンクロ召喚をしただけで俺のフィールドを三枚も除外するという、強力とかそういう次元ではないカードに俺が驚愕している間にも、トリシューラは攻撃の準備を整えていた。
トリシューラが生み出した三本の氷の矢が、俺のフィールドの《マッシブ・ウォリアー》と手札、墓地の《ニトロ・シンクロン》を纏めて除外していく。

 除外というのがまた嫌らしく、俺のデッキには除外系のギミックはあまり入ってはいない。

「バトル! 氷結界の龍 トリシューラで、ターレット・ウォリアーに攻撃!」

 そのステータスもフィールド魔法《ウォーターワールド》で補助されており、ブレスで凍らされたターレット・ウォリアーが、放たれた槍に粉々となった。

「私はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 だが、ターレット・ウォリアーを守備表示にしていたことは功を労し、不幸中の幸いかダメージは受けずに済む。

「俺は《狂った召喚歯車》を発動! 墓地の攻撃力が1500以下のモンスターとその同名モンスターを、可能な限り特殊召喚する! 来い、《チューニング・サポーター》!」

 三つの急速に回り続ける歯車の中から、チューニング・サポーターが歯車一つにつき一体特殊召喚される。

 この魔法カードには、相手は同じ属性・攻撃力のモンスターを特殊召喚出来るという、類似カードの《地獄の暴走召喚》よりも重いデメリットがある。
場合によっては特殊召喚をされることも覚悟していたが、明日香のデッキに対応するモンスターはないようで、杞憂に終わったようだった。

「そして、《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 顔だけが大きい小型のロボットのようなシンクロンが召喚されたが、明日香のフィールドの氷結界の龍 トリシューラに比べて、こちらのモンスターは比べられもしないほど小さかった。

「効果によりレベルを2とした《チューニング・サポーター》三体に、レベル1の《チェンジ・シンクロン》をチューニング!」

 しかし、いくら小さいモンスターであろうとも、シンクロ召喚によってトリシューラ程の大きさへと姿を変えることが出来る。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 氷の龍とぶつかり合うことの出来る、黄色い装甲板に覆われた機械龍《パワー・ツール・ドラゴン》。
だがそれに反してその攻撃力は、《ウォーターワールド》の支援を受けているトリシューラには及ばない。
だが、シンクロ召喚したパワー・ツール・ドラゴンだけの力だけではなく、俺たちはシンクロ素材たちの力を借りてトリシューラを打ち破る。

「チューニング・サポーターがシンクロ素材になったため、合計3枚ドローする! そして、チェンジ・シンクロンがシンクロ素材となった時、モンスター一体の表示形式を変更する! 俺はトリシューラを守備表示に!」

 たとえ戦闘も出来ない小さいモンスターであろうと、大型モンスターの助けになることは出来る。
チューニング・サポーターの効果で手札を補充し、チェンジ・シンクロンの効果でトリシューラを超えられる壁に引き下げる。

「光の護封剣があるのを忘れているの?」

 確かにパワー・ツール・ドラゴンをシンクロ召喚しようが、トリシューラを守備表示にしようが、光の護封剣は未だに俺たちを包み込んで離さない。
だがシンクロ素材が頑張ってくれたのだから、ここから先はパワー・ツール・ドラゴンの出番だ。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備魔法を選び、相手が選んだカードを手札に加えることが出来る! 俺が手札に選ぶのは、《団結の力》・《パイル・アーム》・《魔界の足枷》の三枚。パワー・サーチ!」

「……右にしておくわ」

 明日香が選んだ狙い通りの装備魔法カードにニヤリと笑いながら、他の二枚をデッキに戻してそのままデュエルディスクに差し込んだ。

「《パイル・アーム》を パワー・ツール・ドラゴンに装備したことで、効果を発動! このカードは装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせ、魔法・罠を一枚破壊する! 俺が破壊するのは、当然《光の護封剣》!」

 光の護封剣を束ねている中心部をパイルバンカーが貫くと、俺たちを拘束していた光の剣も消え失せていき、これでパワー・ツール・ドラゴンは自由になる。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、氷結界の龍 トリシューラに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 ただでさえ守備力はあまり高くはなく、更に《ウォーターワールド》で低くなっているトリシューラはパイルバンカーには耐えられず、大地に堕ちて沈黙した。

「リバースカード《奇跡の残照》を発動! 破壊された《氷結界の龍 トリシューラ》を特殊召喚する!」

 光と共に破壊したはずのトリシューラがまたも特殊召喚される……が、そんなことより、俺は他のことに驚いていた。

 罠カード《奇跡の残照》――それは、いつだか明日香とトレードしたカードなのだから。

「明日香っ……! ……いや、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 ……感傷に浸るのはまだまだ早く、依然として俺は劣勢なのだ、そんなことをしている場合ではないと気を引き締める。

「私は魔法カード《浮上》を発動。墓地から《氷結界の伝道師》を特殊召喚」

氷結界の伝道師
ATK1000
DEF400

 墓地から現れたのはいつの間にやら送っていた、ただの下級モンスターではあったものの、明日香は更に魔法カードを発動した。

「更に速攻魔法《地獄の暴走召喚》! 《氷結界の伝道師》を三体特殊召喚する!」

 俺のフィールドにはパワー・ツール・ドラゴンしかいないために特殊召喚は出来ず、明日香のフィールドに三体の《氷結界の伝道師》が並ぶ。

「そして《氷結界の伝道師》の効果を発動。このカードをリリースすることで、墓地から氷結界と名の付くモンスターを特殊召喚出来る! 三体の氷結界の伝道師をリリースすることで、蘇れ! 氷結界の聖獣たち!」

「なっ……!?」

 氷結界の伝道師が三体とも呪文を唱えながらリリースされると、伝道師がいた場所に凍りついた魔法陣が現れていく。
そしてその場所から特殊召喚されたのは……破壊したはずの、三体の氷結界のシンクロモンスター。

 これで明日香のフィールドには、トリシューラ・ブリューナク・グングニール・ドゥローレンが並び、荘厳な雰囲気を醸し出しすと共に俺を威圧した。

「ドゥローレンの効果により、ウォーターワールドを手札に戻して攻撃力を500ポイントアップさせ、更にもう一度《ウォーターワールド》を発動!」

 《安全地帯》を始めとする永続罠とのコンボ意外には、こういう単純な使い方があるのだろうドゥローレンは、ノーコストで攻撃力を1000ポイント上昇させた。
だが効果が問題なのは、共に蘇生された他の二体の方である。

「氷結界の龍 ブリューナクの効果。手札を一枚捨てることで、パワー・ツール・ドラゴンを手札に戻す!」

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動! ブリューナクの効果を無効にする!」

 羽衣を着た妖精のような姿のラッキーカードが、なんとかブリューナクがパワー・ツール・ドラゴンに氷のブレスを放つ前に、その羽衣で包み込んで効果を奪うことに成功する。
明日香の手札は残り0枚と、手札をコストにする必要のあるグングニールの効果を使用することは出来ない。

「甘いわね。ブリューナクで捨てたカードは《ドロー・スライム》。よって一枚ドロー!」

 三枚目の――《貪欲な壷》で戻したのかも知れないがそんなことはどうでも良い――手札コストを帳消しにする効果モンスター、ドロー・スライムの効果により、明日香の手札が一枚となる。

「グングニールの効果を発動。手札を一枚捨て、パワー・ツール・ドラゴンを破壊する!」

 パワー・ツール・ドラゴンには、破壊される時に装備カードを墓地に送ることで破壊を免れる効果がある……が、その効果を発動することはなく、そのまま破壊される。
その代わりパワー・ツール・ドラゴンには、伏せカードと共に新たなモンスターを召喚するための布石になってもらう。

「リバースカード、《シンクロコール》を発動! 墓地のモンスターを一体ずつ選択し、そのモンスターでシンクロ召喚が出来る!」

 背後に浮かび上がってくる墓地のモンスターは、もちろんパワー・ツール・ドラゴンとエフェクト・ヴェーラーのラッキーカードたち。
エフェクト・ヴェーラーが光の輪となってパワー・ツール・ドラゴンの周囲を回ると、その光の輪は炎となって、パワー・ツール・ドラゴンの装甲板を外して飛翔させた。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 ラッキーカードたちのチューニングによって召喚される黄色のドラゴンだったが、その攻撃力は《ウォーターワールド》がある今ではブリューナク以外には適わず、守備表示での登場となった。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、ライフポイントを4000に出来る! ゲイン・ウィータ!」

 守備表示の壁にする以外でのこのモンスターをシンクロ召喚した狙い、そのライフポイントの回復効果を体現した光が俺に降り注いだ。

「……バトル! 氷結界の龍 ブリューナクで、ライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃!」

「墓地から《パイル・アーム》を除外することで、このカードの破壊を無効にする!」

 装備魔法カードを手札に加えることの出来る、攻撃的な効果のパワー・ツール・ドラゴンとは打って変わって、破壊を無効にする防御的な効果を持つライフ・ストリーム・ドラゴン。

「更に氷結界の虎王ドゥローレンで攻撃!」

「《サイクロン・ウィング》を除外して破壊を無効にする!」

 その場持ちの良さは確実な防御に回った時にはとても堅く、二体の氷結界のモンスターたちの攻撃を受けきった。

「そして、氷結界の龍 グングニールで攻撃!」

「くっ……!」

 だが《団結の力》と《サイクロン・ウィング》で装備魔法カードは打ち止めで、グングニールが放った槍に遂には貫かれてしまう。

「厄介なライフ・ストリーム・ドラゴンが消えたわね。氷結界の龍 トリシューラで、ダイレクトアタック!」

「ぐああっ……!」

遊矢LP4000→800

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの二つの効果のおかげで何とか生き残れたが、それでもライフは一撃で危険域へと吹き飛んだ。

「私はこれでターンエンド」

 ライフがいくら少なかろうとあればドロー出来るのだ、まだ逆転の可能性を繋げてくれたライフ・ストリーム・ドラゴンに感謝しつつ、俺は気合いを込めてカードを引いた。

「俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壷》を発動して二枚ドローし、《スピード・ウォリアー》を召喚する!」

『トアアアアッ!』

 気合いを込めたからではないだろうが《貪欲な壷》を引くこと出来、更にマイフェイバリットカードの召喚にも成功する。

 そして、彼女を救うことの出来るカードも同時に手の中に。

「魔法カード《思い出のブランコ》を発動!」

「思い出の……ブランコ……!?」

 このカードは通常モンスターを基本的に多用しない俺のカードではなく、このデュエルに挑む際に吹雪さんから手渡されたカード。
天上院兄妹の思い出のカードであるらしく、今から考えれば吹雪さんは、どんなデッキだろうとこの《思い出のブランコ》を投入していたことを思いだす。

 そんな大事なカードを吹雪さんはいつになく真面目な表情で託してきた……だからこれは、吹雪さんの明日香への思いがこもったカードだ。

「墓地から通常モンスター、《ブレード・スケーター》を特殊召喚する!」

ブレード・スケーター
ATK1400
DEF1500

 明日香のデッキの主力モンスターの一体である、氷上の舞姫《ブレード・スケーター》を特殊召喚する。
投入するのは高田とのデュエル以来だが、悪いが今回も明日香を救う力になってくれ。

「更に俺は、二枚の魔法カードを発動する! 一枚目は《ミラクルシンクロフュージョン》! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 墓地のライフ・ストリーム・ドラゴンとマイフェイバリットカードの力を融合し、巨大な槍を構えた竜騎士が俺のフィールドに降り立つが、それだけではまだ終わらない。

「もう一枚は《融合》! 手札の《エトワール・サイバー》とフィールドの《ブレード・スケーター》融合する――俺に明日香を救う力を貸してくれ! 《サイバー・ブレイダー》

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF1000

 ノース校との友好デュエルがあった前日、明日香からお守り代わりとして受け取って、後に正式にトレードすることとなった《サイバー・ブレイダー》。
俺はこのモンスターを片時もエクストラデッキから抜いたことはなく、負けそうな時でもこのカードを見れば元気が……いや、負ければ明日香に怒られると思えば元気が出るものだった。

「くっ、サイバー・ブレイダー……」

 このデュエルが始まってから、ようやく明日香が動揺を表情に出した。
そろそろこのデュエルの決着をつけると共に……明日香を、助け出す。

「スピード・ウォリアーに装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備し、バトル! スピード・ウォリアーは、召喚したターンに攻撃力が倍になる!」

 自身の効果と装備魔法《ファイティング・スピリッツ》の効果を併せて攻撃力は3000となり、明日香のブリューナクとドゥローレンの攻撃力を抜いた。

「そのモンスターたちがお前を光の結社に縛っているのなら! その凍りついた龍たちを破壊する! スピード・ウォリアーでブリューナクに攻撃! ソニック・エッジ!」

 相手モンスターの数が多ければ多いほど強くなる装備魔法《ファイティング・スピリッツ》の効果を受け、スピード・ウォリアーがブリューナクの氷のブレスをはねのけ、回し蹴りをクリティカルヒットさせた。

明日香LP1500→1300

「そしてお前のフィールドのモンスターが三体になったことにより、サイバー・ブレイダーの第三の効果が発動! お前のカードの効果を全て無効にする! パ・ド・カトル!」

 相手のカードの効果を無効にするカードは数あれど、相手のみ全てのカードの効果を無効にするとなれば規格外であり、フィールドの《ウォーターワールド》が消え去っていった。

「続いて、ドラゴエクィテスでグングニールを攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

 《ウォーターワールド》が効果を失ったことによってグングニールも攻撃力が元に戻ることとなり、ドラゴエクィテスの投擲された槍を避けきれずに、グングニールは大地に串刺しとなった。

明日香LP1300→600

「これが最後だ。お前のフィールドのモンスターが二体になったことにより、サイバー・ブレイダーの第二の効果を発動! このカードの攻撃力は倍になる! パ・ド・トロワ!」

 《ウォーターワールド》の効果は復活するものの、その程度は何の意味もなさないサイバー・ブレイダーの4200という圧倒的な攻撃力。
後は氷結界たちにトドメを刺すだけだが、それより先に俺は動揺している明日香に呼びかけた。

「……俺が知ってる明日香は、一見クールっぽいけどただのデュエル馬鹿で、女王とか呼ばれてるけど意外とただの女の子だったりして、強くて綺麗でブラコンで弱いところもある親友だ! ……断じて、キチンとした女王で氷の女なんかじゃない」

「遊矢……」

 その声は俺の知っている『明日香』の声。
久々に聞くことになったその声に安堵すると、このデュエルを終わらせるために声を張り上げた。

「光の結社とはこれでお別れだ。サイバー・ブレイダーで、氷結界の龍 トリシューラに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 恥ずかしながら俺も何度となくやられた覚えのある、バレリーナのような美しい動きが伴った攻撃に、トリシューラは破壊されるのだった。

明日香LP600→0


「……遊矢、私」

 デュエルが決着して明日香を救い出してからの開口一番、明日香は顔を伏せて申しわけなさそうな顔をしてるのを見て、急いで口を挟んだ。

「そんな顔をしてもらうために助けた訳じゃない。吹雪さんの時もそうだったろ?」

 セブンスターズとなっていた吹雪さんの真紅眼の攻撃で火傷した時も、明日香はこんな表情をしていたものだ。
その時のことを思いだしたのか、明日香はクスリと笑ってくれた。

「そうだったわね……それにしても遊矢、デュエルしてる時のことは少し覚えてるんだけど、あれじゃ私がいつも負けてるみたいじゃない!」

 ガントレット・ウォリアーやらマックス・ウォリアーを召喚した時、『あのデュエルではフィニッシャーだった』などと明日香に言ったことを言っているのだろう。
アレは明日香を救うために、そして俺の意志を更に強固にするために必要な思い出だったのだが……確かに改めて聞いてみると、明日香が負けてるようにも聞こえる。

「勝率は俺の方が上なのは確かだろ?」

「言ったわね! ……っと」

 良く解らない日常の会話のようなもので、今すぐもう一回デュエルが始まりそうな一触即発の雰囲気になったものの、明日香が急に頭を抱えてよろめいた。

「どうした!?」

「大丈夫よ。……ちょっと、眠くなっちゃって」

 そういえば三沢が俺を助けた時も、俺はその場に倒れ込んだという話を聞いたことを思いだす。
斎王に深く洗脳された影響で、明日香にも何かあるかも知れない。

「寝とけよ。運んどいてやる」

「……悪いけど、頼むわ」

 明日香は近くの木にもたれかかるように倒れ込んだので、いわゆる『おんぶ』の格好で背中に明日香を背負う。
保健室はもうこの深夜では閉まっているだろうし、オベリスク・ブルー寮などに行けば俺は明日香親衛隊に殺されるだろう。

 仕方なく俺は、助け出せたことを喜びながら、明日香をラー・イエロー寮に運ぶのだった。





 しかし。
彼女は次の日になっても、目覚めることは無かった。 
 

 
後書き
遅れた割にはいつもの駄文、どうも久しぶりの蓮夜です。

そろそろ第二期も終わりに近づいて来ましたが、いつも通り感想・アドバイス待ってます。 

 

―ジェネックス Ⅶ―

 ――明日香が目覚めない。

 保健室の鮎川先生のところに連れて行ったが、その結論は全く変わることはなく、医学やオカルトの知識など全く無い俺にはどうしようもなかった。
《思い出のブランコ》を貸してくれた吹雪さんにも、デッキの調整を手伝ってくれた三沢にも、そして何よりも、必ず救うと誓った明日香に申し訳がたたない。

 だからといって打開策があるわけでもなく、「俺のせいだ」という後悔の念に苛まれながらラー・イエローの自室に戻ると、ポケットの中のPDAにメールが届いた。
無視しようかとも思ったが、反射的にそのメールを見てしまうと、俺は足早に自室を飛びだした。

 メールの文面を簡潔に表すと、こういうものだった。

 ――天上院明日香を目覚めさせたければ、デュエルの準備をし、光の鍵を持ってホワイト寮のデュエル場に来い――

 メールの送り主は知らない者からだったものの、内容を見れば何となくは解る……すなわち光の結社の指導者、斎王琢磨。
奴が明日香が負けても気を失って目覚めないように、明日香に何かをしたに違いない……!

 我ながら言いがかりにも程がある推測だったが、斎王ならばそれぐらいはやりかねなく、わざわざホワイト寮のデュエル場に呼び寄せる時点でその説に決まっている。
ほどなく俺はいつも多用していた、オベリスク・ブルー寮のデュエル場……現ホワイト寮のデュエル場へとたどり着き、斎王がどこにいるかを捜した。

「斎王! 来てやったぞ!」

「確かにメールを送ったのは斎王様だが、斎王様はここにはいない」

 万丈目をリスペクトしたような芝居がかった口調がデュエル場から発せられ、俺はイライラしながらデュエル場へと登っていった。

 声の主は思った通り、元・中等部最強のデュエリスト、五階堂宝山であり、その腕にはデュエル・ディスクを取り付けていた。

「……何だ、デュエルでもする気か?」

「当然だ。貴様が勝ったなら、斎王様に会わせてやろう」

 明日香と万丈目を失った今、彼の実力も確実に光の結社の上位に位置するのだが、たとえイライラしていてもコイツに負けるつもりはない。
俺はデュエル・ディスクを構えると、五階堂を挑発的に睨みつけた。

「お前じゃ力不足だ。せめて銀でも呼んでくるんだな」

「早まるなよ黒崎遊矢。貴様の相手は俺でも銀先輩でもない」

 五階堂や【巨大戦艦】を操る銀流星以上の実力者を呼んできたということだろうが、相手が誰であろうと今は負ける気など毛頭無い。
相手が誰かは見当が付かなかったが、さっさと来いという思いが俺を支配する。

 ……そして、五階堂に呼ばれて俺の対戦者がデュエル場へと登ってきた。
白いスーツ姿に日本人離れした容姿、そして、その腕に付いているデュエル・ディスクはアカデミアの物ではなく、旧型のデュエル・ディスクのデザインに近い。

「……エド、か」

「ふん、お前が相手か。遊矢」

 俺は光の結社に入っていたせいで、三沢に聞いた話ではあるが、斎王とエドは親友だということらしい。
豹変した親友を救うため、自らの目的を達するため……その二つの目的を達するために、エドは行動しているらしい。

 そして、これはその斎王の作戦だろう……俺たち二人をデュエルさせる状況を作り出し、片方の鍵と――こちらは斎王にとってはどうでも良いだろうが――ジェネックスのメダルを奪う、という。

「鍵とメダルを賭けてデュエルして、勝った方に斎王様はお会いになさるらしい。せいぜい頑張るんだな!」

 五階堂はそう言ってデュエル場から出て行くが、もはや俺とエドの二人に五階堂など眼中にはない。
俺たちの視界に写っているのは、どちらも譲れない物を持ったデュエリストだけだ。

「遊矢。お前が何を背負っているかは知らないが、僕は斎王を元の斎王に戻す!」

「俺も同じだ、エド。斎王を倒して、明日香を助ける!」

 もう俺たちに話し合いなど無意味であり、この平行線の議論の決着をつけるにはもうデュエルをするしか方法はない。
お互いに譲れないものがあり、どちらもこのデュエル、相手のために負けるなんてことは出来やしない。

『デュエル!』

遊矢LP4000
エドLP4000

 もはや五階堂を前にしていた時のイライラなどとうになく、デュエルに集中しなければ、目の前のプロデュエリストは勝てる相手ではない。

「僕のターン、ドロー!」

 デュエル・ディスクが導きだす先攻は、残念ながらエドに奪われる。

「僕はモンスターとカードを一枚ずつセットし、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 これまでのエドのデュエルで、トリッキーな《D-HERO》たちの特色は解っているつもりだが、何せ1対1でエドとデュエルをするのはこれが始めてだ。
観てるだけでも、タッグデュエルでも、味方に回しても解らないことがあるはずだ。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 それでも俺たちのやることに変わることはなく、未知のセットモンスターに対してアタッカーは雄々しく攻撃の意志をとる。

「バトル! マックス・ウォリアーで、セットモンスターに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

「セットモンスターは《D-ボーイズ》! このカードがリバースした時、デッキから同名モンスターを二体攻撃表示で特殊召喚する!」

D-ボーイズ
ATK100
DEF1000

 姿を表したセットモンスターは予想に反して《D-HERO》ではなく、二体の同名モンスターを特殊召喚するという展開補助モンスター。
だが、十代の《E・HERO》にとっての《ヒーロー・キッズ》のような扱いであろうあのモンスターには、確かデメリットがあったはずだ。

「《D-ボーイズ》には同名モンスターを特殊召喚した数×1000ポイントのダメージを受ける、というデメリットエフェクトがある。だが、僕はこのカードを発動していた! リバースカード《レインボー・ライフ》! 手札を一枚捨てることで、ダメージを回復に還元する!」

エドLP4000→6000

 少々手札は消費したものの、エドのデッキである《D-HERO》には墓地に送った方が都合の良いカードが多く、その上ライフの回復と二体のモンスターの展開までも果たしてきた。

「……マックス・ウォリアーのレベルと攻守は半分になる。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 プロデュエリストの実力というものを、一ターン目からさまざまと見せつけてくれたエドだったが、二体のモンスターをどう使ってくるか。

「僕は《D-HERO ディパーテッドガイ》を召喚し、フィールドの三体のモンスターをリリースする! カモン、《D-HERO ドグマガイ》!」

D-HERO ドグマガイ
ATK3400
DEF2400

 十代とのタッグデュエルでD-HEROの切り札として特殊召喚された、黒い翼を生やしたダークヒーローが早くも姿を表す。
その効果の特性上、早めに出した方がその効果を有効に使うことが出来るのだが、あまりにも早すぎる。

 エドは本気だと、ドグマガイは改めて俺に感じさせた。

「ドグマガイに装備魔法《大嵐剣》を装備し、バトル! マックス・ウォリアーを攻撃する! デス・クロニクル!」

「《くず鉄のかかし》を発動し、ドグマガイの攻撃を無効にする!」

 マックス・ウォリアーの前に現れた《くず鉄のかかし》がドグマガイの攻撃を止めたものの、ドグマガイの剣から放たれた旋風に破壊されてしまう。

「攻撃する時、《大嵐剣》のエフェクトで《くず鉄のかかし》は破壊させてもらう。これでターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 是非ともスタンバイフェイズを飛ばしたいものだが、ドグマガイがそれを許してはくれず、その恐るべき効果が俺には防げないタイミングで飛来する。

「ドグマガイのエフェクト発動! お前のライフを半分にする! ライフ・アブソリュート!」

遊矢LP4000→2000

 俺のライフはドグマガイによって半分の2000となり、エドの方は《D-ボーイズ》と《レインボー・ライフ》によって6000となる。

「俺はマックス・ウォリアーを守備表示にし、《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚する!」
ガントレット・ウォリアー
ATK500
DEF1600

 ドグマガイを倒す手は今の俺にはなく、二体の機械戦士を守備表示で固めて防ぐしか方法はない。
そしてリバースカードを伏せようにも、エドのフィールドには装備魔法《旋風剣》がある。

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー! ……モンスターを守備表示にしようと無駄だ、遊矢」

 エドの不吉な宣告と共に、どこからか俺のフィールドへとスーツを着たミイラ男が現れる……もちろん攻撃表示で、だ。

「ディパーテッドガイが僕のスタンバイフェイズにセメタリーにある時、相手のフィールドに特殊召喚される!」

D-HERO ディパーテッドガイ
ATK1000
DEF0

 ドグマガイでフィールドを制圧した後には、こちらが守備を固めるのを読んでそれを無為にするディパーテッドガイ……
エドは《D-ボーイズ》のセットから、フィールドがこの状態になるのを読んでいたのだろう。

「バトル! ドグマガイでディパーテッドガイに攻撃! デス・クロニクル!」

 流石は未来と運命を操るHEROの使い手、と言ったところだろうか……そんな強敵が相手だろうと俺はまだ、負けるわけにはいかない……!

「ガントレット・ウォリアーの効果を発動! このモンスターをリリースすることで、俺の戦士族モンスターの攻撃力・守備力を500ポイントアップさせる! 思いと力を託せ、ガントレット・ウォリアー!」

 ディパーテッドガイは戦士族モンスター……よって、問題なくガントレット・ウォリアーの効果を受けることが出来る。

 ガントレット・ウォリアーがリリースされると共に、マックス・ウォリアーとディパーテッドガイにその特徴であったガントレットが装備される。
それでも焼け石に水にしかならず、貧弱な体躯しか持たないディパーテッドガイは、当然ながらドグマガイに破壊されてしまう。

「ぐあっ……!」

遊矢LP2000→100

 それでもガントレット・ウォリアーのおかげで俺は生き延び、たとえライフが100ポイントだろうと次のターンに望みを繋げることが出来る。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ガントレット・ウォリアーに感謝しながらカードを引くと、その思いにデッキも応えてくれたのか、なかなか良いカードを引けた。

「エド、反撃と行かせてもらうぞ! 《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 小型のロボットのようなチューナーモンスターを召喚すると、早速俺はシンクロ召喚に入ることを命じた。

「俺はレベル4の《マックス・ウォリアー》に、レベル1の《チェンジ・シンクロン》をチューニング!」

 チェンジ・シンクロンがその小さい身体に等しい一筋の光となり、マックス・ウォリアーの外周を回り始めた。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 傷だらけの機械戦士……そのステータスは外見とレベルの通りあまり高くはないが、重要なのはシンクロ召喚に使用したチェンジ・シンクロンの方だ。

「チェンジ・シンクロンがシンクロ素材となった時、フィールドのモンスターを守備表示にする! 俺が守備表示にするのは、当然ドグマガイ!」

 攻撃力3400という破格の数値を誇るドグマガイだろうと、守備表示になってしまえば2400という上級の基準値程度まで落ち、その程度ならば破壊することは容易かった。

「《スカー・ウォリアー》に《融合武器ムラサメブレード》を装備し、バトル! スカー・ウォリアーでドグマガイを攻撃だ、ブレイブ・ムラサメブレード!」

 普段使用している短剣ではなく、腕に融合したようになっているムラサメブレードを使い、ドグマガイを戦闘破壊することに成功する。

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

 ドグマガイを破壊すると共に《旋風剣》も無くなったため、後顧の憂いなくリバースカードを伏せられるが、未だエドが圧倒的に有利な状態ではあった。

「僕は《D-HERO ダンクガイ》を召喚する!」

D-HERO ダンクガイ
ATK1200
DEF1700

 召喚されたダンクガイは確か、手札のD-HEROを一枚捨てることで相手にバーンダメージを与えると共に、墓地にD-HEROを送る役割のカードだったか。
どうやらエドは、ドグマガイとディパーテッドガイの攻撃が耐えられてしまった時のことも考えていたらしい……!

「ダンクガイのエフェクトを発動! 手札を一枚捨て――」

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動し、ダンクガイの効果を無効にする!」

 しかし、それぐらいならば防げないことはない。
ダンクガイをその羽衣で包み込むと、エフェクト・ヴェーラーはダンクガイの効果を一時奪って消える。

 手札コストを支払わせるかはエフェクト・ヴェーラーのタイミング次第だったが、俺は払わせることを選択したタイミングでエフェクト・ヴェーラーを発動した。

「……ならば《ドクターD》を発動! セメタリーのD-HEROを除外し、セメタリーのD-HEROを特殊召喚する! カモン、《D-HERO ディスクガイ》!」

D-HERO ディスクガイ
ATK300
DEF300

 早々とバーンによる決着を見切ったエドは、D-HEROたちのドローソースたるディスクガイを特殊召喚し、その効果で二枚のドローに成功する。


「さらに《闇次元の解放》を発動! 除外ゾーンの《D-HERO ダイヤモンドガイ》を特殊召喚する!」

D-HERO ダイヤモンドガイ
ATK1400
DEF1600

 除外ゾーンにいるD-HEROはディパーテッドガイだけだと思ったが、《ドクターD》でダイヤモンドガイを送っていたらしい。
D-HEROたちの主力モンスターといっても過言ではない、ダイヤモンドガイが特殊召喚される。

「ダイヤモンドガイのエフェクト発動! デッキの上のカード……通常魔法カード《デステニー・ドロー》を未来に飛ばす! ハードネス・アイ!」

 D-HEROの未来の運命を操る代表的な効果が発動されたが、どのモンスターも《融合武器ムラサメブレード》を装備したスカー・ウォリアーには適わない。
だが、エドのフィールドにいるモンスターが三体だと考えると、途端に冷や汗が俺から流れた。

「僕は《戦士の生還》を発動し、セメタリーのドグマガイを手札に戻す。そして三体のモンスターをリリースし、再び現れろ、《D-HERO ドグマガイ》!」

 切り札の大盤振る舞いをするエドによって二回目の召喚を果たすドグマガイは、当然スカー・ウォリアーより攻撃力が遥かに上だ。

「バトル! ドグマガイでスカー・ウォリアーに攻撃! デス・クロニクル!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にして一枚ドロー!」

 そしてスカー・ウォリアーは一ターンに一度戦闘破壊されることはなく、ドグマガイの攻撃を何とか凌ぎきる。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 ドローした後のスタンバイフェイズ時、再びドグマガイの効果であるライフ・アブソリュートが俺を襲うが、今更ライフが半分になろうと大して変わるものではない。

遊矢LP100→50

「俺はチューナーモンスター《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 《融合武器ムラサメブレード》を装備しているものの、残念ながらスカー・ウォリアーがドグマガイを相手にするのは荷が重いため、更なるシンクロ召喚に繋げさせてもらおう。

「俺はレベル5の《スカー・ウォリアー》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 ニトロ・シンクロンが、頭上のメーターを振り切らせるとその身体を光の輪とし、スカー・ウォリアーを取り囲む。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 俺がシンクロ召喚したのは、機械戦士の中でも最も高火力を誇る《ニトロ・ウォリアー》ではなく、エフェクト・ヴェーラーと対を成すラッキーカードたる機械龍。
まずは、その効果を存分に発揮させてもらうとしよう。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 俺がデッキから選択したのは汎用性が高いものを中心とした、《団結の力》・《魔導師の力》・《デーモンの斧》の三種類。

「……右のカードだ」

「右のカードを手札に加える。そして、伏せてあった《リミット・リバース》を発動し、チューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚!」

 ニトロ・ウォリアーをシンクロ召喚しなかったのは、ラッキーカードを並べてパワー・ツール・ドラゴンの拘束を解くため。
ライフが50などという数値でデュエルを続行するのは難しく、それを回復するには俺のデッキにはあのカードしかない。

「レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》と、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 またもや行われるシンクロ召喚ではあったが、今までのとは毛並みが違ってエフェクト・ヴェーラーがパワー・ツール・ドラゴンの回りをくるくると回っているのみだった。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 パワー・ツール・ドラゴンが炎と共にその身に纏っていた装甲を弾き飛ばし、真の姿を表して空中へと飛翔する。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、ライフポイントを4000に出来る! ゲイン・ウィータ!」

遊矢LP50→4000

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが空中から降り注がせた光に癒やされ、俺がドグマガイに良いようにやられたライフも何とか初期ライフまで回復する。

「そして装備魔法《団結の力》を装備し、バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、ドグマガイに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 パワー・ツール・ドラゴンの効果によって託された装備魔法、《団結の力》が宿ったライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾がドグマガイを襲った。

 ……しかし、ドグマガイは今まで装備していなかった大盾でその光弾を防いでいた。

「伏せてあった《D-シールド》のエフェクト発動! ドグマガイを守備表示にし、戦闘破壊を無効にする!」

 装備することで戦闘破壊を無効にする厄介な大盾、D-シールドによってドグマガイは守られ、ライフ・ストリーム・ドラゴンは攻撃を止める。

「俺はターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 ドグマガイの破壊には失敗したものの、ライフは初期ライフまで回復してフィールドにはライフ・ストリーム・ドラゴンと、デュエルを仕切り直すことは成功したと言っても良いだろう。

「セメタリーの《デステニー・ドロー》のエフェクトで二枚ドロー! そして、僕は《D-HERO デビルガイ》を召喚する!」

D-HERO デビルガイ
ATK600
DEF800

「デビルガイ……!」

 悪魔の格好をしたダークヒーローの登場に、俺は内心で若干……いや、かなり毒づいた。
あのモンスターの前では、ライフ・ストリーム・ドラゴンの破壊耐性であろうと何の意味も成しはしない。

「デビルガイのエフェクト発動! 相手モンスターを除外し、二ターン先の未来に飛ばす! ディスティニー・ロード!」

 デビルガイが空中に開けた、時空の穴のようなものにライフ・ストリーム・ドラゴンは吸い込まれ、エド曰わく未来へと飛ばされてしまう。

「ドグマガイを攻撃表示に変更し、アタック……と、言いたいところだが、デビルガイのデメリットエフェクトで攻撃は出来ない。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンを二ターン失うのは痛いものの、デビルガイは効果の影響で攻撃表示のままだ。

「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー! ……そして、《ターボ・シンクロン》を召喚!」

ターボ・シンクロン
ATK100
DEF500

 手札交換の後に召喚される緑色のF1カーのようなチューナーモンスターが、果敢にもドグマガイの前に立つ。

「更に《アイアンコール》を発動し、墓地から《チューニング・サポーター》を特殊召喚する! そして《機械複製術》を発動し、更に二体特殊召喚!」

 もはや三体特殊召喚するのがデフォルトとなったチューニング・サポーターだったが、数が何体であろうと彼らがやるべきことは何も変わりはしない。

「レベル1の《チューニング・サポーター》と、効果によりレベル2にした《チューニング・サポーター》二体に、レベル1の《ターボ・シンクロン》をチューニング!」

 シンクロ素材の四体合わせても、ドグマガイどころかデビルガイにすら及ばない程度の小ささしかないが、こうすることによってD-HEROたちとも戦える力を手に入れられる。

「集いし絆が更なる力を紡ぎだす。光さす道となれ! シンクロ召喚! 轟け、《ターボ・ウォリアー》!」

ターボ・ウォリアー
ATK2500
DEF1500

 深紅のボディに刺突用の腕部を持ち、ターボ・シンクロンを巨大化させたような姿の機械戦士がそのモーターを轟かした。

「ターボ・ウォリアーに《デーモンの斧》を装備し、バトル! ターボ・ウォリアーで、デビルガイに攻撃! アクセル・スラッシュ!」

「《攻撃の無力化》を発動し、攻撃を無効にする!」

 低攻撃力をわざわざ晒すのみにするエドではなく、ターボ・ウォリアーの攻撃は残念ながら時空の穴に吸い込まれてしまう。
大ダメージのチャンスだっただけになおさら残念だが、考えていても仕方がない。

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー! デビルガイのエフェクト発動! ターボ・ウォリアーを未来に飛ばす! ディスティニー・ロード!」

 《デーモンの斧》を装備したターボ・ウォリアーはドグマガイの攻撃力を超えており、またもやデビルガイの効果に頼らざるを得なかったエドだったが、ターボ・ウォリアーにその効果は通用しない。

「ターボ・ウォリアーは、レベル6以下のモンスター効果の対象にならない!」

 これこそが先程シンクロ召喚する時にターボ・ウォリアーを選んだ理由であり、このモンスターの強みでもあった。

「チッ……二体を守備表示にし、速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動! ライフ・ストリーム・ドラゴンをセメタリーに戻し、ターンを終了する」

 しかしエドもただでは転ぶデュエリストではなく、ライフ・ストリーム・ドラゴンを墓地に送ることで完全除去を果たす。

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードは速攻魔法《サイクロン》であり、エドのフィールドのドグマガイに装備されているD-シールドを、ひいてはドグマガイを破壊出来るようになった。

 さて、ドグマガイとデビルガイのどちらを攻撃するか。

「俺は速攻魔法《サイクロン》を発動し、《D-シールド》を破壊する! そしてバトル! ターボ・ウォリアーでドグマガイに攻撃! アクセル・スラッシュ!」

 答えはもちろん効果を受け付けないデビルガイではなく、ステータスの高いドグマガイの方だ。
D-シールドを竜巻により吹き飛ばされて失ったドグマガイは、ターボ・ウォリアーの深紅の一閃により破壊された。

「良し、カードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 D-HEROの切り札の二回目の戦闘破壊に成功したが、俺はまだエドにダメージを与えられていない。
この展開もエドの想定内なのだろうか、と一瞬不安に思ってしまうが、そんな弱気な思いは頭から消しておく。

「僕は《D-HERO ディバインガイ》を召喚!」

D-HERO ディバインガイ
ATK1600
DEF1400

 今までのデュエルでは見たことがない、俺にとっては初見となったD-HEROの登場に、デビルガイのような一発逆転を狙えるカードなのかと警戒する。
背後に銀色の剣のようなものを背負っている、黒いダークヒーローは、俺の警戒を知ってか知らずか不敵に笑っていた。

「ディバインガイに同じく《デーモンの斧》を装備し、バトル! ディバインガイで、ターボ・ウォリアーに攻撃!」

 やはり何か作戦があるらしく、《デーモンの斧》を装備したとはいえ攻撃力が劣るディバインガイでのターボ・ウォリアーへの攻撃宣言。
エドからどんなコンバットトリックが来るか見逃すまいとするが、効果があるのはエドの手札ではなく、ディバインガイそのものだった。

「ディバインガイのエフェクト発動! このカードが攻撃する時、相手フィールド場の装備魔法を破壊し、その数×500ポイントダメージを与える!」

 ディバインガイの背中に背負われた銀色の剣が発射され、ターボ・ウォリアーが持っていたデーモンの斧を破壊し、その破片が俺を襲う。
破片からの衝撃に耐えていた時には、既にターボ・ウォリアーはディバインガイによって切り裂かれていた。

遊矢LP4000→3400

「ターボ・ウォリアー……!」

「メインフェイズ2、フィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動し、ターンエンドだ」

 アカデミアのデュエル場が、あるD-HEROが囚われている時計塔がある町へと変わっていき、エドはターンを終了した。

「俺のターン、ドロー!」

 《幽獄の時計塔》が使用された今、そんなのんびりとデュエルを進行していく暇はないが、俺の手札にフィールド魔法を破壊出来るカードはない。

「お前のスタンバイフェイズ時、幽獄の時計塔は時を刻む!」

 大きな音をたてながら時計塔が12時から3時へと移行し、囚われのD-HEROが目覚めるまで後9時間となる。

「ならばこちらは、《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と、《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2100

 結果的にデビルガイによって墓地に送られたライフ・ストリーム・ドラゴンと、《手札断殺》で墓地に送っていたマイフェイバリットカードが力を併せて召喚された竜騎士が、早々とフィールドを支配する。

「バトル! ドラゴエクィテスで、デビルガイを攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

 《デーモンの斧》を装備しているディバインガイから破壊したかったものの、やはりデビルガイの効果で《幽獄の時計塔》完成までの時間稼ぎをされれば厄介で、攻撃目標をデビルガイとした。
下級モンスターのデビルガイに防げる攻撃ではなく、放たれた槍にデビルガイの身体は消し飛び、その槍はドラゴエクィテスの元へ戻ってくる。

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 エドはドローしたカードを見て薄く笑うと、またもや俺が見たことがないD-HEROを召喚した。

「僕は《D-HERO ドレッドサーヴァント》を守備表示で召喚し、エフェクト発動! 《幽獄の時計塔》に新たな時を刻む!」

D-HERO ドレッドサーヴァント
ATK400
DEF700

 ドレッドヘアの新たなD-HEROは、その名とその効果の通り《幽獄の時計塔》……あるいはそこに囚われているD-HEROのサポートカードなのだろう。

「僕はカードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 俺がドローした後のスタンバイフェイズ時、再び《幽獄の時計塔》のカウンターが進んでいき、俺にとってもう後がない時刻となる。

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚する!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 マイフェイバリットカードが雄々しい叫びと共に登場し、更にその手に双刃がもたらされた。

「スピード・ウォリアーに装備魔法《ダブル・バスターソード》を装備し、バトルフェイズに入る!」

 攻撃表示のままのディバインガイと、守備表示のドレッドサーヴァントをどちらから攻撃するか……《ダブル・バスターソード》は自壊を条件に二回攻撃と貫通効果を与えるため、ドレッドサーヴァントから攻撃しても良いのだが……

「ドラゴエクィテスで、ディバインガイに攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

 どちらでも変わらないと判断した俺は、【装備ビート】も取り入れている【機械戦士】にとって、厄介な効果を持ったディバインガイから攻撃することにした。

「リバースカード、オープン! 《エターナル・ドレッド》! 進め、運命の針よ!」

 《幽獄の時計塔》の針を進めることが出来る罠カード《エターナル・ドレッド》により、《幽獄の時計塔》はまた12時を回ってこちらの攻撃を受けつけなくなった。

「そして、スピード・ウォリアーでドレッドサーヴァントを攻撃! ソニック・エッジ!」

 ディバインガイは破壊できたのだから良しと考え、気を取り直してスピード・ウォリアーでドレッドサーヴァントを攻撃すると、《幽獄の時計塔》の効果でダメージはないものの、あっさりとバスターソードでドレッドサーヴァントを切り裂いた。

 ……だがドレッドサーヴァントは墓地には行かず、何故か幽獄の時計塔の頂上へと登っていった。

「ドレッドサーヴァントが破壊された時、僕のフィールドの魔法・罠カードを破壊出来る! 僕は当然、《幽獄の時計塔》を破壊する!」

 墓地に送られる運命にあるドレッドサーヴァントの最期の一撃が、《幽獄の時計塔》を破壊していき……ドグマガイと並ぶD-HEROの切り札が瓦礫の中から姿を表した。

「再び12時を指した《幽獄の時計塔》が破壊された時、デッキから《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚出来る! カモン、ドレッドガイ!」

D-HERO ドレッドガイ
ATK?
DEF?

 時計塔に封印されていた、鉄仮面をつけたD-HEROがその解放を祝うように吠えると、背後から二つの時空の穴が出現していく。

「ドレッドガイがこのエフェクトで特殊召喚に成功した時、セメタリーのD-HEROを二体特殊召喚する! ドレッド・ウォール! カモン、ディスクガイ! ディバインガイ!」

 先程ドラゴエクィテスが破壊したディバインガイと、墓地から召喚した時に二枚ドローするディスクガイが時空の穴から出現する。
よってドレッドガイの攻撃力は1900……ディバインガイとディスクガイならば、スピード・ウォリアーの二撃目で破壊が可能だが、それもドレッドガイの効果で適わない。

「ディスクガイのエフェクトで二枚ドロー……攻撃しても無駄だと解っているようだな」

 エドの余裕たっぷりなニュアンスを含んだ台詞には答えないでおく。
ドレッドガイには《ドレッド・バリア》と呼ばれる効果があり、《幽獄の時計塔》の効果で特殊召喚したターン、エドのD-HEROたちを傷つけることは出来ない。

「バトルフェイズ終了時、《ダブル・バスターソード》の効果により、スピード・ウォリアーは自壊し……ターンを終了する」

「僕のターン、ドロー!」

 俺のフィールドはドラゴエクィテスのみであり、エドのフィールドはドレッドガイ、ディバインガイにディスクガイが控えている。
フィールドのD-HEROの合計値で攻撃力・守備力が決定するドレッドガイが、ドラゴエクィテスの攻撃力を超えなければ良いのだが、それは望み薄であろう。

「僕はディスクガイをリリースし、《D-HERO ダッシュガイ》をアドバンス召喚する!」

D-HERO ダッシュガイ
ATK2100
DEF1000

 ダイヤモンドガイに並ぶD-HEROの主力モンスターの登場により、ドレッドガイの攻撃力は3700――ドラゴエクィテスの攻撃力を超えた。

「バトル! ドレッドガイでドラゴエクティスを攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

 ドレッドガイの鎖がついた剛腕にドラゴエクィテスは捕まり、そのまま抵抗も空しく握りつぶされてしまう。

遊矢LP3400→2900

「そして、ディバインガイでダイレクトアタック!」

「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了させる!」

 ディバインガイの攻撃を、速攻のかかしが代わりに受けてくれたおかげで俺はなんとか無事に済んだが、ドラゴエクィテスが破壊されてしまったのはとても痛い。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了する」
「俺のターン、ドロー! ……通常魔法《発掘作業》を発動し、一枚捨てて一枚ドロー! よし、《貪欲な壷》を発動して二枚ドロー!」

 なんとか二枚のドローソースによって戦術の目処がたち、ここからエドへの反撃を開始させてもらおう。

「カードを一枚セット! そして魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》を発動し、今セットしたカードを破壊して更に二枚ドロー!」

 ドローはおまけ……とまではいかないものの、やはりこのデッキのコンボの基点になるのは、マイフェイバリットカードの存在だった。

「破壊したのは《リミッター・ブレイク》! よって、デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! デッキから現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

 二回目――《ミラクルシンクロフュージョン》に使ったことも数えるならば三回目の登場となったマイフェイバリットカードだが、今回は他の機械戦士への繋ぎ役としての出番だ。

「そしてスピード・ウォリアーをリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚する!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1900
DEF1500

 俺のデッキではかなり珍しいアドバンス召喚時に効果を発揮する機械戦士が、その効果で墓地に向かって網を巻く。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功した時、墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 来い、《ニトロ・シンクロン》!」

 《ニトロ・シンクロン》を網で墓地から引き上げる……シンクロ召喚をサポートするためにあるこの効果を、シンクロ召喚に使わない理由はない。

「レベル5の《サルベージ・ウォリアー》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 ニトロ・シンクロンをサルベージした網ごと光の輪になると、サルベージ・ウォリアーがそこに飛び込んでいく。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

セブン・ソード・ウォリアー
ATK2300
DEF1800

 七つの剣を持った金色の機械戦士が登場し、エドのフィールドのダークヒーローたちと立ち向かう。
機械戦士たちの中でも、特にヒーロー然としているセブン・ソード・ウォリアーだからこそ、なんだか妙に様になっていた。

「セブン・ソード・ウォリアーに装備魔法《神剣-フェニックスブレード》を装備し、効果発動! 相手ライフに800ダメージを与える! イクイップ・ショット!」

 セブン・ソード・ウォリアーが投げた投げナイフがエドにかすり、ようやくエドに初ダメージを与えることに成功した。

エドLP6000→5200

「バトル! セブン・ソード・ウォリアーで、ダッシュガイに攻撃! セブン・ソード・スラッシュ!」

 七つの剣をフルに活用したセブン・ソード・ウォリアーの剣戟に、たまらずダッシュガイは切り裂かれていた。

エドLP5200→4700

 ようやくまともにダメージを与えられたものの、まだまだ微々たるダメージにしか過ぎず、エドのライフは初期ライフにすら届いていない。

「メインフェイズ2、セブン・ソード・ウォリアーの第二の効果を発動! 装備カードを墓地に送り、相手モンスターを破壊する! 俺は《神剣-フェニックスブレード》を墓地に送り、ドレッドガイを破壊する!」

 ダッシュガイがやられて力を失っていたドレッドガイに、セブン・ソード・ウォリアーからフェニックスブレードが投げられ、その身体を貫いた。

 ダッシュガイとドレッドガイを倒すことが出来たのだから、このターンはこれで上出来だろうか。
……ドレッドガイの巨体が倒れた後に、無傷のドレッドガイとダッシュガイがいなければ、の話だが。

「伏せてあった《デステニー・ミラージュ》を発動した。D-HEROが効果破壊された時、このターンに破壊されたD-HEROを全てセメタリーから特殊召喚する!」

 ……エドは全て俺の一歩先を行っているのか、俺はエドに勝つことは出来ないのか。
このデュエルの今までのターンを振り返ると、自然とそういう結論が出て来てしまう。

「こちらもカードを二枚伏せて、ターンを終了する!」

 それでもまだ、明日香を助けるためならば、エドにギリギリまで食らいついてみせる。

「僕のターン、ドロー! 《D-HERO ダイハードガイ》を召喚!」

D-HERO ダイハードガイ
ATK800
DEF800

 確かD-HEROが破壊された時に、次のスタンバイフェイズ時にその破壊されたD-HEROを特殊召喚するD-HERO、だったか。
そのダイハードガイの召喚によって、ドレッドガイの攻撃力は4300にまで上昇する。

「ダッシュガイのエフェクト発動! ダイハードガイをリリースし、攻撃力を1000ポイントアップさせ、バトル! ドレッドガイでセブン・ソード・ウォリアーに攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

 ――だが、その攻撃力が狙い目だ。

「リバースカード、《パワー・フレーム》を発動! お前の攻撃を無効にする! そしてセブン・ソード・ウォリアーに装備され、攻撃力をドレッドガイと同じにする!」

 ドレッドガイの剛腕を、セブン・ソード・ウォリアーが三つのフレームが付いた剣によって受け止めると、その剣がドレッドガイのパワーを吸い込んでいく。

「セブン・ソード・ウォリアーに装備カードが装備されたため、相手ライフに800ダメージを与える! イクイップ・ショット!」

エドLP4700→3900

 その上装備カードとなるので、セブン・ソード・ウォリアーのバーン効果も発動する。
だがそれは裏を返せば、エドのディバインガイの効果の対象となるということだ。

 ディバインガイの効果の発動には攻撃宣言が必要のため、《パワー・フレーム》を破壊しようとしては自爆特攻をせざるを得ないが……

「……ならば、ディバインガイでセブン・ソード・ウォリアーに攻撃!」

 破壊されても次のスタンバイフェイズで特殊召喚出来るダイハードガイがいるからか、エドはディバインガイによる攻撃を行ってきた。

「攻撃宣言時、ディバインガイの効果発動! お前のフィールドの装備カードとなっている《パワー・フレーム》を破壊し、500ダメージを与える!」

 ディバインガイの背後から放たれる二本の剣に、装備カードとなっているパワー・フレームは破壊されてしまうが、セブン・ソード・ウォリアーは気にせず迎撃の構えをとった。

遊矢LP2900→2400

「迎撃しろ、セブン・ソード・スラッシュ!」

 その七つの剣で応戦したセブン・ソード・ウォリアーだったが、突如としてディバインガイの攻撃力が上がり、七つの剣を突破されてしまう。

「セメタリーから《スキル・サクセサー》を発動! ディバインガイの攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 ディバインガイの攻撃力は1600であり、墓地から発動された《スキル・サクセサー》を入れれば攻撃力は2400……対するセブン・ソード・ウォリアーの攻撃力は2300と、まるで何者かに仕組まれたかのようだった。

「こちらも墓地から《シールド・ウォリアー》の効果を発動! セブン・ソード・ウォリアーの破壊を無効にする!」

 しかし、セブン・ソード・ウォリアーの前に盾を持った機械戦士がなんとか割り込み、セブン・ソード・ウォリアーは破壊されずに済んだ。

遊矢LP2400→2300

 互いの墓地まで巻き込んだディバインガイとセブン・ソード・ウォリアーの戦いは、引き分けのようなもので終わったものの、《シールド・ウォリアー》ではその場しのぎにしかならないのは解っていた。

「ダッシュガイでセブン・ソード・ウォリアーに攻撃! ライトニング・ストライク!」

 ダッシュガイの高速の一突きにセブン・ソード・ウォリアーは左胸を突かれ、そのままセブン・ソード・ウォリアーは墓地に送られる。

遊矢LP2300→1500

「僕はこれで、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 俺はデュエルの結果において、斎王の良く言っている未来だの運命が関わっていることは信じていない。
そんな陳腐な言葉でデュエルの結果すら支配されることなど、絶対に認められやしない。

「俺は《愚かな埋葬》を発動! デッキから《シンクロン・キーパー》を墓地に送る!」

 そんな俺の思いがデッキに伝わったのかどうかは解らないが、今引いた魔法カードをデュエル・ディスクに差し込み、盛大な一撃を入れるための下準備とした。

「そして、墓地の《シンクロン・キーパー》の効果を発動! このカードとチューナーモンスターを除外することで、シンクロモンスターを特殊召喚出来る!」

 盛大な一撃を与えるというのだから、もちろんシンクロ召喚……いや、特殊召喚するのは悪魔のような形相をした機械戦士。
シンクロ召喚の口上はないものの、俺のエクストラデッキから《ニトロ・ウォリアー》がこのフィールドに君臨した。

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1400

 俺の手札はもう残り二枚しかなく、そのカードも魔法カードではないのでニトロ・ウォリアーの攻撃力アップは……出来る。

「墓地の《神剣-フェニックスブレード》の効果を発動! 戦士族モンスター二体を除外し、このカードを手札に加える。そして、ニトロ・ウォリアーに装備する!」

 神剣-フェニックスブレードの真髄とも言えるサルベージ効果を使用し、ニトロ・ウォリアーに神剣-フェニックスブレードを装備するとともに、これでニトロ・ウォリアーは最大火力が出せる。

 そして魔法カードではない俺の手札は、やはりこのカード……!

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚! 来てくれ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

 俺のフィールドにはニトロ・ウォリアーとスピード・ウォリアー、エドのフィールドにはドレッドガイとディバインガイ、守備表示のダッシュガイにリバースカードが一枚。

「行くぞエド! ニトロ・ウォリアーで、ディバインガイに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 神剣-フェニックスブレードと自身の効果による最大火力により、今のニトロ・ウォリアーの攻撃力は4100という脅威の数値。

「手札から《D-HERO ダガーガイ》を捨てることで、攻撃力が800ポイントアップする!」

 フィールドにいるD-HEROたち全員に、ダガーガイが持っている短剣が託され――若干《ガントレット・ウォリアー》に似ていなくもない――攻撃力を800ポイントずつ上げるが、ニトロ・ウォリアーは意に介せずにディバインガイを破壊した。

「ぐあっ……!」

エドLP3900→2200

 エドのライフに初のクリーンヒットが入るが、ニトロ・ウォリアーの攻撃はまだ終わらない。

「ニトロ・ウォリアーは、相手モンスターを戦闘破壊した時、相手の守備モンスターを攻撃表示にして再び戦闘出来る! ダイナマイト・インパクト!」

 標的が破壊したディバインガイから、そのデメリット効果で守備表示になっていたダッシュガイに移り、攻撃表示にした後にラッシュによる攻撃で破壊した。

エドLP2200→1900

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力上昇は一度のみで、二回目の攻撃の際には上昇しないのが少し悔やまれた。

「そして、スピード・ウォリアーは召喚したターン、攻撃力が倍になる! ドレッドガイに攻撃しろ、ソニック・エッジ!」

「《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする」

 ダガーガイとガード・ブロックに阻まれ、エドのライフを0にすることは出来なかったものの、これでエドのフィールドはがら空きとなった。

「ターンエンドだ……!」

「僕のターン、ドロー!」

 一体だけ守備表示ではスピード・ウォリアーとニトロ・ウォリアーは容易く突破し、二体壁にすればダイナマイト・インパクトを発動し、スピード・ウォリアーを攻撃してもニトロ・ウォリアーには適わない……エドは何をするのだろうか。

「セメタリーのダッシュガイのエフェクトを発動! ドローしたモンスターを特殊召喚出来る! カモン、《D-HERO ダークエンジェル》!」

D-HERO ダークエンジェル
ATK0
DEF0

 純白の翼とダークヒーロー然としたボディという、矛盾した姿をしたD-HEROが特殊召喚されたが……攻撃力・守備力は0。

 エドがまだ出していない上級モンスターは、《D-HERO ダブルガイ》のみだが、リリース要因であろうか?
確かに、ダブルガイの被破壊時のトークン精製機能ならば、スピード・ウォリアーとニトロ・ウォリアーに対する壁にはなるだろうが。

「さらにセメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動! このカードを除外し、デッキからディアボリックガイを特殊召喚する!」

D-HERO ディアボリックガイ
ATK800
DEF800

 エドはやはり最上級モンスターの召喚を狙っているのか、通常召喚権を使わずに二体のモンスターの特殊召喚を成功させる。

「さらに《D-HERO ドゥームガイ》を召喚」

D-HERO ドゥームガイ
ATK1000
DEF1000

 まだ見ぬD-HEROの最上級モンスターの登場かとも思ったが、通常召喚権を使用して召喚されたのは下級モンスターのドゥームガイ……だが、嫌な予感がする。

 そう、エドが狙っている切り札が墓地に眠るドグマガイと同じ召喚条件ならば、この状況からでも特殊召喚が可能なのだから……!

「行くぞ遊矢、ファイナルターンだ! 三体のD-HEROをリリースし、現れろ究極のD! 《D-HERO BlooD》!」

 三体のD-HEROがリリースされた場所から召喚されたのは、最初は真っ赤な血の塊のようなものだった。
それが徐々に徐々に人型へと近づいていき……最終的には、どこか蒼みがかった化物のようなダークヒーローが姿を現していた。

D-HERO BlooD
ATK1900
DEF800

「究極のD……!?」

「そうだ。僕はこのカードで斎王を元に戻す! BlooDのエフェクト発動! 相手モンスターを一体装備カードとしてBlooDに装備し、そのモンスターの攻撃力の半分攻撃力を上昇させる! ニトロ・ウォリアーを装備しろ、クラプティー・ブラッド!」

 ニトロ・ウォリアーがどこかから現れた血液に捕まると、かの《サクリファイス》のようにBlooDへと囚われてしまう。
究極と呼ばれる割にはそのステータスはあまりにも低かったが、なるほどそういうことか……!

「バトル! BlooDでスピード・ウォリアーに攻撃! ブラッディ・フィアーズ!」

 BlooDの血で創られたかぎづめがスピード・ウォリアーに襲いかかるが、それより一瞬速く俺のリバースカードが発動した。

「リバースカード、オープン! 《エクサス・サモン》! 自分フィールドのモンスターが攻撃された時、そのカードを手札に戻すことで、戻したモンスターより攻撃力が低いモンスターを攻撃表示で特殊召喚する!」

 ただ闇雲に使っただけではただの自滅になってしまうが、スピード・ウォリアーを手札に戻して召喚されたモンスターは、この状況を託すに相応しいカードだった。

「スピード・ウォリアーを手札に戻し、来い! 《マッシブ・ウォリアー》!」

マッシブ・ウォリアー
ATK500
DEF1200

 一度だけ戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも0にしてくれる要塞の機械戦士がマイフェイバリットに代わりBlooDの前に立つ。
いくら攻撃力が高かろうと、俺にダメージを与えられないのでは意味がない。

「……ファイナルターンと言った筈だ、遊矢。運命は変わらない」

 エドの無慈悲な宣告と共に、マッシブ・ウォリアーが大地に沈んでいく……俺フィールドの大地全てが、BlooDの発した血によって沈められていく……!

「BlooDは、相手モンスターのエフェクトを全て無効にする……終わりだ! ブラッディ・フィアーズ!」

「うっ……うわああああっ!」

遊矢LP1500→0

 ――デュエルは決着した。
俺の敗北という最悪の形で、だが。

「……悪いが、これは僕の役目だ」

 エドはうなだれている俺から、ジェネックス参加資格のメダルと斎王から託された光の鍵を持っていく。

「僕のデュエルは、父さんの作ったD-HEROが最強だと証明するのが目的だ。……お前の目的は何なんだ、遊矢」

 最後にエドはそれだけ言ってデュエル場から出て行くと、後はこちらを一瞥もせずに五階堂と共にホワイト寮へと向かっていく……斎王に、会いに行くのだろう。

 そして俺は幾多の友人との約束であったジェネックスのメダルと、明日香を助けるための手がかりを失うこととなった……

 
 

 
後書き
VS、エド戦。
ちょっとした都合上、彼は原作より早くDDにたどり着いていますので、BlooDを持っています。

では、感想・アドバイスをお願いします。 

 

―ジェネックスを超え―

 足取りが重く、今はもはやただの惰性で歩いていると言っても差し支えなく、言うなればゾンビのようであった。
それでも俺はラー・イエローの寮に帰らなければならず、それだけのために移動しているようなものだった。

 そしてラー・イエロー寮の入り口には、予想通りの――会いたくなかった――人物が二人立っていた。
俺と同じように、今では珍しくなった蒼い制服を身にまとった友人たち。

 三沢大地に天上院吹雪……俺が今謝らなければいけない人物のうち、明日香を除けば一番優先度が高い人たちだった。

「どうしたんだい遊矢くん、明日香が帰ってきているかと思えば寝たきりだし、君は部屋にいないし……」

 急いで駆け寄ってきて、妹と自分のことを心配してくれる吹雪さんには悪いが……俺は吹雪さんの頼みを果たせなかった。

「……俺は、明日香を助けられなかった……!」

 言わなくてはいけない心情を吐露すると、流石に吹雪さんも驚いてこちらを見据えてきた。

「明日香は斎王の罠で目覚めないようになっていて……斎王に会う権利を賭けてエドとデュエルして……負けて、俺は明日香を救う方法とメダルと鍵を失った……」

 矢継ぎ早に俺の行動を報告していくと、今まで何も言わなかった三沢が俺に向かって言い放った。

「なら、どうする?」

 視線を逸らさずにしてくれている三沢に、あの親友はその言葉に反して、自分が何がしたいのか解ってくれているのだと解る。

「……それでも俺は諦められない。明日香を助けるために、二人の力を貸してほしい」

 そのセリフを聞いた二人も協力を要請されるのを待っていたようで、吹雪さんなどは露骨に「待ってました」とばかりに口笛を鳴らしてきた。

 明日香を助けるまで、今はまだ諦める状況じゃない……そう俺は心を決めると、全身に力を入れ直した。
先程までは、どうしてもネガティブになってしまっていたが、この二人の協力を得られるならば心強い。

「だが、斎王に近づくのは難しいのはどうする?」

 自力で斎王の下に行くことが可能であれば、わざわざあのメールに従わずとも良かったのだが、斎王はホワイト寮からとんと出てこない。
強行突破などしようものならば、光の結社全員を相手どることとなってしまうだろう。

 いくら明日香を助けると息巻いていても、相手の組織力という力の前には、三人程度ではどうしようもない。

「そのことなら、僕に名案がある。二人は先に、ホワイト寮へと行ってくれないか。……ああ、もちろん見つからないようにね」

 そう発言したのは吹雪さんであり、そう手には何故かPDAが握られていた。

 ……何やら騒ぎを起こすのは吹雪さんの得意分野だが、何をするつもりだろうか。

「何をするつもりとかは……」

「もちろん企業秘密さ。ま、大船に乗ったつもりでいたまえ義弟よ!」

 吹雪さんは相変わらず……いや、久々に俺を義弟と呼ぶと、肩を叩いてどこかへ移動していった。

 吹雪さんが何をやるかは非常に気になったものの、言われた通りにホワイト寮の前まで行くと……とにかく人が多かった。
白い制服を着た光の結社と思わしき人物以外にも、かなりの人物がここへ集結していた。

「……もうジェネックスも終盤だが、どうしてこんな人がいるんだ?」

「吹雪さんの作戦、と見るべきだろう」

 確かに三沢の言う通り人間が多すぎて、見張りであるだろう光の結社の構成員たちも、俺たちにはまるで気がつかなかった。
蒼い制服は目立つかとも思ったが、オベリスク・ブルーの女子が多いおかげで、さほど服の色も目立ちはしない。

「……遊矢、こっちだ!」

 この環境の中ではあまりにも小さな声になんとか反応すると、ホワイト寮の窓から見知った人物が俺に声をかけていた。

「神楽坂……!? どうしてここに?」

「俺だけじゃない、ラー・イエローのみんながホワイト寮にいる。……聞いてくれ、あのキング吹雪からの作戦の言伝だ」

 神楽坂を始めとするラー・イエロー寮のみんなも、吹雪さんの作戦に参加しているというのか……吹雪さんは顔が広いとは思っていたが、俺の予想を遥かに越えているらしい。

「今からキング吹雪とカイザーがこれからデュエルをする。それと同時に、俺たちラー・イエローが中にいる連中を引き寄せるから、遊矢と三沢は斎王のところに行ってくれ!」

 ……なるほど、これが吹雪さんの言う名案か。

 亮と吹雪さんのデュエルという噂を広めて人を集めて外の見張りを実質無効化し、内部はラー・イエローの友人たちが囮になってくれる。

「流石は年長さんだな」

「いい加減、その呼び方はなんなんだ三沢……それと、ありがとう、神楽坂」

 神楽坂は「気にするな」という感じでホワイト寮の中へと入っていく……彼も、自分の持ち場のようなものがあるのだろう。

 しばらく待つこと数分、元デュエル・アカデミアの二強と呼ばれた二人が、ホワイト寮の前に集まった。

「……いきなりどうしたんだ、吹雪。こんなところに呼びだして」

「なに、君がプロでどれだけ強くなったのかと思ってね。……それと、義弟に世話を焼くためかな」

 デュエルディスクを構える吹雪さんの視線が、ホワイト寮の窓際にいる俺と三沢へと向けられる……「行け」ということだろう。

「ありがとう、吹雪さん……!」

 デュエル・アカデミアのカイザーとキングのデュエルのかけ声と共に、俺と三沢はホワイト寮へと突入した。


 ホワイト寮には光の結社構成員の姿はとんと見ず、神楽坂たちラー・イエローの友人たちは上手くやってくれているのだろう。
問題は斎王がどこにいるかは解らないということだったが、俺は自然と慣れ親しんだ元・オベリスク・ブルーの廊下を走っていた。

 いつぞや光の結社に洗脳されたからか……何故か、俺は斎王がいる部屋への道筋を無意識に覚えていた。
……人生、何が得になるかは解らないものだ。

 辿り着いた斎王の部屋の扉を蹴り破って中に押し入ると、リビングの壁に人一人が通れる入口が出来ているのが見て取れた。
中を覗き込めば、そこには電灯によって照られた下へと延々に続く階段がある。

「いつの間にこんなものを……」

 隣にいる三沢がふと呟いたのが聞こえたが、そこまでは俺も……いや、確かオージーンとかいう人物に作らせていた記憶がぼんやりとあった。

「そんなことは良いだろ、行くぞ」

「……焦るなよ、遊矢」

 親友のアドバイスをありがたく受け取って、少し入り口の前で落ち着いた後、長く続く階段それをひたすら下って行った。
そして俺たちは、やがて終着と思われる通路に出ると……平坦な地面に降り立ち、前を見る。

 そこには巨大な女神像と斎王の姿……そして。

「エドっ!?」

 ……倒れているプロデュエリスト、エド・フェニックスの姿だった。
反射的に俺はエドに駆け寄ると、気を失いかけてはいたものの、なんとかエドは無事のようだ。

「黒崎遊矢か……もう貴様なんぞに用はない! どうしてここにいるのだ!?」

 紳士のような冷静さを持っていた姿はどこへやら、斎王は狂ったように笑い声を上げ、いかにも狂人のような姿を呈していた。

「遊矢、か……すまないな、僕が勝っておいて……」

 エドがポツリポツリと言葉を紡ぎだすが、その声は弱々しく、エドが闇のデュエルで敗北したことを告げていた。

「斎王を助けてくれ……と言いたいが、その前にやることがある……!」

 エドは倒れている状態からなんとか座り込むと、俺の腕に自らの旧型デュエルディスクを装着した。

「……エド?」

「……黙って聞いていろ。斎王が僕たち二人に託した2つの鍵、あれは世界を滅ぼすとも言われている衛星兵器『ソーラ』の発射用の鍵だった。だが……」

 俺は敗北してエドに奪われてしまい、エドは斎王に敗北したということは……その鍵は、今や2つとも斎王の手の中にある。

「起動すれば世界は終わる……ならば、起動する前に破壊するしかない。お前の機械戦士の、精霊の力で……!」

「なっ……!?」

 驚愕の連続で、もはや出すセリフもまるで無い。
三幻魔の事件の際に、影丸理事長に示唆された俺の精霊たち……俺が精霊の声しか聞こえないのが悪いのか、機械戦士たちが精霊として弱いからなのかは知らないが、まだ十代とハネクリボーのように会話も出来ない存在だ。

「何を話しているんだ、このザコどもがっ!」

 しかしエドの説明が終わる前に、狂った斎王が俺たちの元へと歩いてくる。
……そうだ、精霊でその衛星兵器を破壊するにしても、こいつを何とかしなければ明日香は救えない……!

 俺がデュエルしようにも、カードの精霊を出すためにはデュエルディスクを使用するほかないため、デュエルをしている余裕はない。
ただでさえ未知数のカードの精霊の力を頼るのだから、俺は今、何があるか解らない闇のデュエルをするわけにはいかない。

 しかし、明日香を助ける為にはその衛星兵器も破壊するとともに斎王を倒さねば……と板挟みになっている時、俺とエドの背後から斎王へと歩み寄った人物がいた。

 ここにいるのは斎王を除けば三人しかおらず、そして俺たちの背後にいたのは……三沢大地ただ一人。

「斎王。今度は俺とデュエルしてもらおう」

「三沢!?」

 割って入った三沢が言い放ったセリフは、斎王へのデュエルの誘い。
……エドの傷だらけの身体を見る限り、十中八九闇のデュエルだ。

「ほう? ……ソーラ起動までの暇つぶし程度にはなるか。良いだろう!」

 野球で言うところのバッターとピッチャーの間の空間のように、デュエルをするための空間を空けるために斎王が俺たちから遠ざかっていく。
その間に三沢は、俺たちの方へと振り向いた。

「カードの精霊のことなら俺は門外漢だ……悪いが、衛星兵器の方は任せたぞ。遊矢の精霊が返ってくるまで、なんとか俺が斎王を足止めする」

 そう言い残すと、三沢も斎王とデュエルをするべく、デュエルディスクを展開した。
エドは動けず三沢は精霊を持っていない……ならば、この布陣が確かに一番理にかなっているだろう。

 エドのデュエルディスクも併せて両手にデュエルディスクをつけると、デッキから九体のモンスターを選んでデュエルディスクに置いていく。
一体はエドのBlloDがすでに置かれており、このダークヒーローが戦陣を切るそうだ。


「……遊矢。機械戦士を僕の父さんが作ったというのは……知っているか」

「ああ。知ってるが……?」

 十代とタッグデュエルをすることになったあの日に、エドに聞こうと思っていたエドと機械戦士の関係性だったが、すっかり聞くのを忘れてしまっていたことだった。

「世間ではそう言われているが……あれは嘘だ」

 何故このタイミングでエドがその話をしだしたかは解らないが、気になることではあったので、そのまま黙って聞くことにした。

「僕の父がD-HEROをデザインしていた時……訪ねてきた、青いライダースーツのような姿の男性が……機械戦士たちを父さんの元へ持ってきたものだった」

「……機械戦士は、エドの父さんじゃなく、その青い男の作品ってことか?」

 俺のその疑問に対し、エドは何故か少し首を振って否定の意を示した。

「いいや。その男が言うには……『このカードたちは、未来を救う可能性を秘めたカードたち』……だそうだ」

 未来を救う可能性を秘めたカード……
エドの言葉を心の中で復誦すると、なんだか少し、不安な心が取り払われた気がした。

 世界を救う可能性があるのならば、衛星兵器ぐらいを壊して明日香を助けることぐらい……やってのけてくれるだろう。

「……来い、機械戦士たち!」

「カモン、BlloD!」

 俺たちの叫びに呼応してモンスターが現れ、エドのBlloDを先頭に俺のモンスターたちも天へと登っていく。

「ふん、ネオスペーシアンではないザコ精霊ごときでは、ソーラを破壊することなど出来はしない!」

 機械戦士の精霊たちの強さなど解らない俺には、その斎王の言葉を判断する術はなく、機械戦士たちを信じるほかすることはなかった。

 そしてその斎王も……デッキの精霊たちがいなくなった今、親友を、三沢大地を信じるほかない。

 俺は自らの非力さを噛みしめると、三沢と斎王のデュエルを見逃さすまいとすると。

 俺たちの目の前では、遂に三沢と斎王のデュエルが始まろうとしていた。

『デュエル!』

三沢LP4000
斎王LP4000

「俺が先攻をもらう。ドロー!」

 どうやらデュエルディスクは三沢を先攻に選んだらしく、三沢が勢い良くカードをドローする。

「遊矢。三沢大地は……大丈夫なんだろうな」

 思い返してみればエドは三沢のデュエルを見る機会がなく、自分を倒した斎王の実力は解っている筈なので、三沢に対して不安な気持ちがあるのも仕方がないだろう。

「大丈夫さ。なんたってあいつは、俺の親友だからな」

 答えはセブンスターズのタニヤの際に同じく、親友を信じるということ。
オベリスク・ブルーの現主席は、俺なんかよりもよっぽど強いのだから。

 俺の機械戦士が衛星兵器を破壊するまでの足止めどころか、先に斎王を倒してしまっても不思議ではない。

「俺は《ライトロード・パラディン ジェイン》を召喚!」

ライトロード・パラディン ジェイン
ATK1800
DEF1200

 三沢の新たなカテゴリ《ライトロード》の、攻守のバランスに優れた主力たる聖騎士が召喚される。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン! ドロー!」

 冷静にいつも通りのプレイングをする三沢に対し、やはり斎王は以前とは似ても似つかぬ狂った叫び声を上げる。
あれがエドの言う、優しい斎王に取り憑いた『何か』の意志なのだろう。

「私はフィールド魔法《光の結界》を発動!」

 斎王がフィールド魔法を発動すると共に、巨大な女神像から現れた光より、斎王と三沢をリングのように光り輝く輪が包み込んだ。

「《光の結界》……聞いたことの無いカードだな……」

「直ぐに解ることになるだろう! そして、《アルカナフォースI-THE MAGICIAN》召喚ッ!」

アルカナフォースI-THE MAGICIAN
ATK1100
DEF1100

 斎王のデッキは変わらず【アルカナフォース】であるようで、その特徴である効果と運命を決定するカードの回転が……ない?

「光の結界の効果! アルカナフォースの正位置と逆位置を決定することが出来る! マジシャンを正位置に!」

 これで万に一つも、アルカナフォースのデメリット効果が発動しなくなった、ということだろう。
アルカナフォースはデメリット効果になる可能性がある代わりに、強大なメリット効果があるカテゴリなのだが……これではただの強力なモンスター群だ。

「そして通常魔法《天使の施し》を発動することにより、マジシャンの効果を発動! このターンのエンドフェイズまで攻撃力が倍になる!」

 《天使の施し》による手札交換と共に、その交換で手軽に攻撃力を倍にしてマジシャンが戦闘態勢に入る。

「バトル! マジシャンでジェインに攻撃! アルカナ・マジック!」

「この程度のダメージは必要経費だ……」

三沢LP4000→3600

 攻撃力が倍になるとは言っても、元々の攻撃力が1100程度なので、アタッカーたるジェインを壁にすれば大したダメージにはなりはしない。

「《光の結界》第二の効果! アルカナフォースが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの攻撃力分ライフが回復する! ターンエンドだ!」

斎王LP4000→5800

 ……どうやらアタッカークラスのステータスが仇になったらしく、斎王のライフが大幅に回復する。
そして、《アルカナフォース》が戦闘破壊した時、という発動条件が嫌らしいところだ。

「俺のターン、ドロー!」

 三ターン目からライフに大きく差が開いてしまったが、三沢は気にせずリバースカードを発動した。

「伏せてあった《もののけの巣くう祠》を発動! 俺のフィールドにモンスターがいない時、墓地から妖怪を特殊召喚出来る! 蘇れ、《陰魔羅鬼》!」

陰魔羅鬼
ATK1200
DEF1000

 ライトロード・パラディン ジェインの効果で墓地に落ちていたのだろう、ステータスは頼りないものの、三沢の主力妖怪の一種が特殊召喚される。

「陰魔羅鬼が墓地からの特殊召喚に成功した時、一枚ドロー! そして、陰魔羅鬼をリリースして《龍骨鬼》をアドバンス召喚!」

龍骨鬼
ATK2400
DEF1000

 陰魔羅鬼が炎に包まれて骨のみになると、その骨が巨大化した後に龍の形を形成していき、《龍骨鬼》という一つのモンスターとなる。

「バトル! 龍骨鬼でマジシャンに攻撃!」

 マジシャンの攻撃力はエンドフェイズ時には戻っているため、もはや龍骨鬼の敵ではなく、呆気なく押しつぶされた。

斎王LP5800→4500

 それでも斎王のライフは初期ライフにすら届かず、斎王は未だに余裕の笑みを見せつけている。

「……ターンを終了する!」

「私のターン! ドロー!」

 さて、斎王はどう龍骨鬼を攻略するかと思ったが……その前に、斎王の背後の女神像にある光の中から一枚のカードが浮かび上がってきた。
緑色の装飾がかかった魔法カードであり、名前は……今この空間を支配しているフィールド魔法《光の結界》。

「スタンバイフェイズ時、《光の結界》は正位置を出さねばその効力を失う……だが! 運命は私に従うのだ!」

 そのセリフは怪しいが脚色なく本当のことで、回り始めた《光の結界》はその通り正位置へと止まった。

「そして通常魔法《運命の選択》を発動!」

 確かあのカードは十代が多用する罠カード、《ヒーロー見参!》の魔法カード版だった筈……効果がどれも強大な上級アルカナフォースを、ノーコストで特殊召喚出来る可能性を秘めている。

「……一番右のカードだ」

「貴様が選んだカードは『悪魔』の暗示! 《現れろ、アルカナフォースXV-THE DEVIL》ッ!」

アルカナフォースXV-THE DEVIL
ATK2500
DEF2500

 不吉なる死を意味する悪魔の暗示、その名に恥じぬ天使とは思えない形相のモンスターに、光が集まっていく。

「デビルの正位置の効果は、バトルする際に相手モンスターを破壊して500ポイントのダメージを与える――当然! 正位置ィ!」

 フィールド魔法《光の結界》の効果により正位置が選ばれ、同等の大きさをした龍骨鬼とデビルが睨み合った。

「バトル! デビルで龍骨鬼に攻撃! 効果により龍骨鬼を破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

 エドが使用したディバインガイと似たような発動タイミングの効果により、戦闘にすらならずに龍骨鬼は破壊され、無防備になった三沢へと悪魔が迫っていった。

「リバースカード《和睦の使者》を発動! 戦闘ダメージを0にする」

三沢LP3600→3100

 ダイレクトアタック自体は《和睦の使者》の効果もあり、すんでのところで事なきを得るが、デビルの効果によるバーンダメージはそういう訳にはいかない。
龍骨鬼は効果破壊されたので、《光の結界》のライフゲイン効果が無いのは不幸中の幸いか。

「チッ、耐えきったか……カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! 魔法カード《ソーラー・エクスチェンジ》を発動し、《ライトロード》を一枚捨てて二枚ドロー! そしてデッキからカードを三枚墓地に送る!」

 三沢も負けじと攻勢の準備を整えるべく、手札交換と墓地肥やしを同時にやってのける。
今までの三沢の【妖怪】デッキは、低速ビートダウンにならざるを得なかったものの、ライトロードにより高速の墓地肥やしを獲得した。

「そして《聖者の書-禁断の呪術-》を発動! 墓地から《カラス天狗》を蘇生し、お前の墓地の《アルカナフォースXII_THE HANGED MAN》を除外し蘇れ、《カラス天狗》!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

 《陰魔羅鬼》と並ぶ墓地蘇生の妖怪の登場に、少なからず俺はやれると思った。
その効果の汎用性と恐ろしさは、三沢よりもやられ続けてきた俺の方が、むしろ解っているに違いない。

「カラス天狗が墓地から特殊召喚された時、相手モンスターを一体破壊する! 悪霊退治!」

 今回の敵は悪魔なのだから野暮な突っ込みは無しにして、カラス天狗が扇の一振りでデビルを破壊した。

「まだ俺は通常召喚を行っていない! 《牛頭鬼》を召喚!」

牛頭鬼
ATK1700
DEF800

 相方の《馬頭鬼》と並ぶ鎚を持った鬼の登場により、斎王にモンスターはおらず三沢のフィールドには二体のモンスターが並ぶ状況となる。

「《牛頭鬼》の効果により、デッキからアンデットを一体墓地に送る。そしてバトル! カラス天狗で斎王に……」

「甘い! リバースカードは《リビングデッドの呼び声》! 墓地から《アルカナフォースXV-THE DEVIL》を特殊召喚する!」

 二体の下級妖怪の前に、突如として現れたアルカナフォースXV-THE DEVILを破壊することは出来ず、三沢の攻撃は完全にストップしてしまう。
フィールド魔法《光の結界》により、悪魔は当然、正位置となって蘇生を果たしたのだ。

「……カード一枚伏せ、ターンを終了する」

「私のターン! ドロー!」

 斎王がドローした後のスタンバイフェイズ時、フィールド魔法《光の結界》のルーレットが開始されるが、俺の思いは空しく正位置に止まる。

「私は《運命の宝札》を発動! ダイスを一回振り出た目の数だけドローし、同じ枚数分カードを墓地に送る!」

 斎王が発動した魔法カードは、あの宝札シリーズの中でもデッキ圧縮率ならばトップを誇る可能性がある《運命の宝札》。
ダイスなので、使用者が不運なことを祈るしか無いが、使用者はあの斎王だ……祈りが届くことは望み薄だろう。

「出た目は『4』! よって四枚ドローし、四枚墓地に送る! そして、《アルカナフォースVII-THE CHARIOT》を召喚ッ!」

アルカナフォースVII-THE CHARIOT
ATK1700
DEF1700

 斎王がその豊富な手札から出したモンスターは、三沢の牛頭鬼と同じ攻撃力を誇るアルカナフォースの戦車。
もはやルーレットを行う必要もなく、《光の結界》により正位置に固定された。

「バトル! アルカナフォースVII-THE CHARIOTでカラス天狗を攻撃! フィーラー・キャノン!」

 チャリオッツから出現した触手からビームが放たれると、カラス天狗を狙って一直線へと飛んで行き、その胴体を蹴散らした。

「《光の結界》第二の効果により回復しッ! 更にチャリオッツの効果発動! 戦闘破壊した相手モンスターを、こちらのフィールドに特殊召喚する!」

「それはさせん! チェーンしてリバースカード《妖魔の援軍》を発動! 1000ポイントのライフを払って《陰魔羅鬼》と《カラス天狗》を墓地から守備表示で特殊召喚する!」

三沢LP3100→2100

斎王LP4500→5900

 1000ポイントを支払うことで、墓地のレベル4アンデット族モンスターを特殊召喚する罠カード《妖魔の援軍》により、カラス天狗がチャリオッツによって特殊召喚されずに済む。
チャリオッツの触手に捕まるより早く、カラス天狗は三沢のフィールドに特殊召喚され、またもその扇を振り上げた。

「カラス天狗の効果発動! 墓地から特殊召喚された時、相手モンスターを破壊する! デビルを破壊せよ、悪霊退治!」

「させんわぁ! リバースカード《法皇の錫杖》! 相手に一枚ドローさせる代わりにこのターン、私のフィールドのカードは効果破壊はされない!」

 カラス天狗が放った扇による一撃はしかし、悪魔を守る法皇の錫杖によって防がれてしまった。

「……陰魔羅鬼の効果、法皇の錫杖の効果の合計で二枚ドローさせてもらう」

「それがどうした! デビルで牛頭鬼を攻撃! 攻撃宣言時陰魔羅鬼を破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

三沢LP2100→1600

斎王LP5900→7600

 次々に広がっていくライフポイント差に見ていられなくなり、天井を仰ぎ見るが機械戦士たちが返ってくるようには見受けられない。

「やはり口先だけの雑魚だったようだなぁ! カードを二枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 三沢のフィールドはバニラ同然のカラス天狗のみ、対する斎王はデビルにチャリオッツ、更には二枚のリバースカードが控えている。
そして《光の結界》によって、両者のライフは倍以上離れている……

「俺は速攻魔法《サイクロン》を発動し、《光の結界》を破壊する!」
「なに!? ……ええい、良くも我が結界を……!」

 先程の二枚ドローで手札に来ていたのか、大規模な竜巻が三沢と斎王の周りの光の輪を消し飛ばした。
《光の結界》のせいで、今までは見えなかったが……三沢の身体も、もうボロボロだった。

「代われ三沢! 俺の精霊たちも戻ってきた!」

 嘘を吐いた。
俺のデッキにはまだ精霊たちは戻ってきてはいないが、そんなことはデュエルには全く関係ない。

「……嘘が下手だな、遊矢。墓地の《スリーピー・ビューティー》の効果発動! このモンスターが墓地にある時、手札のアンデット族モンスターのレベルを一下げる! よって、《砂塵の悪霊》を通常召喚する!」

砂塵の悪霊
ATK2200
DEF1800

 それでも親友はデュエルを続行し、この状況を一変させることが出来るモンスターを召喚した。
砂塵の悪霊の効果ならば、斎王のデビルとチャリオッツを破壊出来る……!

「砂塵の悪霊は召喚に成功した時……」

「甘いと言っているだろうが! チェーンして速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動! 攻撃力を400ポイントアップさせ、効果を無効にする!」

 しかし、これも防がれてしまう……未来と運命を読むという斎王には、ただのデュエルで勝つ手段は無いというのか……!

「ならば、戦闘破壊だけはさせてもらう! 砂塵の悪霊でデビルに攻撃!」

 《禁じられた聖杯》の効果によって攻撃力が上がったことが功を労し、三沢を苦しめていたデビルを破壊したが……斎王の表情は余裕から崩れやしなかった。

斎王LP7600→7500

「これでターンを終了する」

 砂塵の悪霊は《スピリット》なのでエンドフェイズ時に手札に戻るはずだが、《禁じられた聖杯》の影響でその効果も無効になっているので、そのままフィールドに居残り続けた。

「私のターン! ドロー!」

 ドローしたカードを見るや否や、斎王は迷わず即座に手札のカードをデュエルディスクに置いた。
……本当に、このデュエルの未来でも見えているのだろうか。

「チャリオッツをリリースし、《アルカナフォースXII_THE HANGED MAN》をアドバンス召喚ッ!」

アルカナフォースXII_THE HANGED MAN
ATK2200
DEF2200

 『吊された男』――その名の通り木に吊された男が描かれたモンスターが、三沢の前で回転を始めた。
もう《光の結界》はないため、アルカナフォースの運命のルーレットが回転する。

「……ストップだ」

「逆位置だ! ハングドマンの逆位置の効果を発動! 相手モンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える! 当然、狙いは砂塵の悪霊!」

 逆位置だと思って一時安心したものの、ハングドマンは正位置がデメリット効果という珍しいアルカナフォースだということを思い出したが、それに何の意味はなくハングドマンの効果が三沢を襲った。

「墓地の《ダメージ・ダイエット》を除外し、効果ダメージを半分にする!」

三沢LP1600→500

 墓地から発動された半透明のバリアが三沢を包み込み、なんとか敗北を免れることに成功した。
それでも斎王のライフポイント7500とは、まさに雲泥の差であるぐらい、ギリギリの数値しか残りはしなかったが……

「往生際が悪い奴だ……! ハングドマンど陰魔羅鬼に攻撃!」

 三沢のフィールドの最後のモンスター、陰魔羅鬼も破壊されてしまったが、幸いにも守備表示だったのでダメージは無い。

「私はターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

  しかしこの絶望的な状況の中でも、親友こと三沢大地は諦めていなかった。

 精霊たちが戻ってきてから俺に引き継ぐために……そして、あわよくばそれより早く自らが斎王を下すために。

「俺は永続魔法《星邪の神喰》を発動し、墓地の《馬頭鬼》の効果を発動! 馬頭鬼を除外することで、墓地のアンデット族モンスターを特殊召喚する! 招来せよ、《赤鬼》!」

赤鬼
ATK2700
DEF2400

 墓地のモンスターを手軽に蘇生するモンスター、《馬頭鬼》によって蘇生される三沢のエースモンスター、閻魔の使者《赤鬼》。
墓地から蘇生されたため、その効果を発動することは出来ないが、その攻撃力はハングドマンを遥かに超えている。

「永続魔法《星邪の神喰》の効果発動! 墓地のモンスターが一体除外された時、そのモンスターと属性が違うモンスターを墓地へと送ることが出来る。そして、赤鬼でハングドマンに攻撃! 鬼火!」

「ふん、この程度……」

 赤鬼の火炎放射にハングドマンは破壊され、もちろん攻撃表示の為に斎王へとダメージは通るが、7000オーバーのライフを誇る斎王にとって、微々たるダメージでしかない。

斎王LP7500→7000

「《ピラミッド・タートル》を守備表示にし、ターンエンドだ!」

ピラミッド・タートル
ATK1100
DEF1200

「私のターン! ドロー!」

 赤鬼の活躍によりハングドマンは破壊されたが、それでも未だに三沢は劣勢だと言わざるを得ない。
斎王はまだ、アルカナフォースの切り札を出してもいないのだから。

「私は永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》を発動! 私のフィールドにモンスターがいない時、天使族モンスターを特殊召喚出来る! 現れろ、《アルカナフォースXXI-THE WORLD》!」

アルカナフォースXXI-THE WORLD
ATK3100
DEF3100

 降臨するアルカナフォースのラストナンバー……最強を誇る斎王の切り札、ザ・ワールド。
ターンをスキップするという前代未聞の効果を持ち、そのステータスは切り札に相応しい。

 最後の悪あがきとして、逆位置になることを望んだが……そんなことはなく、運命のルーレットは依然として斎王の味方だった。

「私は墓地の二体いる《レベル・スティーラー》の効果を発動! ザ・ワールドのレベルを二つ下げ、墓地から《レベル・スティーラー》を二体特殊召喚する!」

レベル・スティーラー
ATK600
DEF0

 ザ・ワールドの効果のコストにするための、機械の昆虫がザ・ワールドの身体を突き破りながら現れ、斎王の切り札は完璧にその効果を使用する準備を完了する。

「更に《アルカナフォースIV-THE EMPEROR》を召喚する!」

アルカナフォースIV-THE EMPEROR
ATK1400
DEF1400

 駄目押しにか召喚された新たなアルカナフォースは、皇帝を暗示したカードであるエンペラー……正位置だったため、斎王のフィールドのアルカナフォースは攻撃力が500ポイントアップする。

「バトル! 手始めにエンペラーでピラミッド・タートルを攻撃!」

 守備表示で出していたリクルーターが破壊されたが、守備表示であるため三沢にはダメージはなく、ただ後続のピラミッド・タートルをデッキからリクルートするのみで終わった。

「そしてザ・ワールドで赤鬼を攻撃! オーバー・カタストロフッ!」

「墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! このカードを除外し、ザ・ワールドの攻撃を無効にする!」

 三沢の前に現れた半透明のネクロ・ガードナーが、間一髪三沢を守り抜き、そのまま除外されていく。

「永続魔法《星邪の神喰》の効果を発動! デッキから《ネクロ・ガードナー》と違う属性のモンスターを墓地に送る!」

「チッ……エンドフェイズ、《レベル・スティーラー》をを二体リリースし、時よ止まれッ! ザ・ワールド!」
 二体のモンスターをリリースして捧げることで、相手のターンを飛ばすという有り得ない効果の発動に、三沢は成す術もない。

「私のターン、ドロー! このままバトルだ! エンペラーでピラミッド・タートルに攻撃!」

 再び斎王にターンが回るや否やすぐさまバトルフェイズに入り、エンペラーがピラミッド・タートルを破壊する。
だが、先のターンと結果は変わらず、守備表示のピラミッド・タートルが残るだけという結果となる。

「続いてザ・ワールドで赤鬼に攻撃! オーバー・カタストロフッ!」

 しかしこちらは、《ピラミッド・タートル》のように同じ結果となる訳はなく、恐らくは《ネクロ・ガードナー》はもう三沢の墓地にはない。
デッキから墓地に直接モンスターを墓地に送れる《星邪の神喰》も、違う属性でなくてはならないという制約を受けているので、先程送ったカードも《ネクロ・ガードナー》ではない。

「《ネクロ・ガードナー》は使い終わった! これでトドメだ!」

 ……だが、《ネクロ・ガードナー》とは違う属性で類似効果を持つカードならば、話は別だが。

「俺は墓地の《タスケルトン》を除外し、ザ・ワールドの攻撃を無効にする!」

「何ィ!?」

 《ネクロ・ガードナー》の時と同じく、半透明の《タスケルトン》がザ・ワールドの赤鬼への攻撃を止めることに成功する。

「そして《星邪の神喰》の効果により、デッキから墓地へと違う属性のモンスターを送る!」

 《馬頭鬼》の除外からここまでの発展が三沢の狙いであり、これならばザ・ワールドの攻撃を防ぎきるのも夢ではなかった。

「調子に乗るなァ! 私も墓地から二体の《レベル・スティーラー》を特殊召喚……何故一体しか特殊召喚されない!?」

 ザ・ワールドの現在のレベルは6なので、斎王がしようとした通り、レベル・スティーラーが二体特殊召喚出来る筈だが……ザ・ワールドの身体から出て来たレベル・スティーラーは一体のみだった。

「答えはこれだ! 墓地から《妖怪のいたずら》を発動していた!」

 《スキル・サクセサー》と同じ墓地から発動出来る罠カードであり、対象のレベルを下げることが出来る罠《妖怪のいたずら》。
墓地から発動した場合のレベル下限は1と少ないが、斎王の目論見を崩すことには成功する。

「墓地の活用には、少なからず自信があってね」

「だが時はまだ止められる! エンペラーとレベル・スティーラーをリリースし、時を止めろッ! ザ・ワールド!」

 再び三沢のターンを飛ばして斎王のターンとなったが、攻撃力を高めていたエンペラーをリリースし、ザ・ワールドももうレベル・スティーラーを召喚出来ない。

「私のターン! ドロー! ザ・ワールドで赤鬼を攻撃! オーバー・カタストロフッ!」

「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外し、攻撃を無効にさせてもらおう」

 やはり、永続魔法《星邪の神喰》の効果で墓地に送っていたらしく、ザ・ワールドの三度目の攻撃も通じることはなかった。
だが、《タスケルトン》の効果はデュエル中に一度しか使えないため、もう攻撃を防ぐことは出来ないだろうが。

「《星邪の神喰》の効果により、属性が違うモンスターを墓地に送る」

「くっ……! 《アルカナフォースVI-THE LOVERS》を召喚し、当然正位置ッ! ターンエンドだ!」

 《妖怪のいたずら》による妨害を受けたせいで、ザ・ワールドの効果に必要なコストを調達することは出来ず、三沢はなんとザ・ワールドの攻撃を耐えきった。

「俺のターン、ドロー!」

 三沢のフィールドは《赤鬼》と守備表示の《ピラミッド・タートル》に、永続魔法《星邪の神喰》。
対する斎王は自慢の切り札《アルカナフォースXXI-THE WORLD》と《アルカナフォースVI-THE LOVERS》、リバースカードが一枚。

 ザ・ワールドによる攻撃は凌ぎきれたものの、フィールドは未だに斎王の有利だった。

「俺は《酒呑童子》を召喚する!」

酒呑童子
ATK1500
DEF800

 三沢の妖怪のドローソース、酒呑童子が姿を現した。
墓地のアンデット族モンスター二体を除外することで一枚ドローすることが出来、先のターンに何度も破壊された《ピラミッド・タートル》の存在もあり、コストには困らないだろう。

「酒呑童子の効果を発動し、墓地のアンデット族モンスター二体を除外し一枚ドロー! ……そして、俺のフィールドに妖怪たちが二体以上いるため、《火車》を特殊召喚出来る! 招来せよ地獄へ導く炎の妖怪、《火車》!」

火車
ATK?
DEF1000

 赤鬼が三沢のエースモンスターならば、火車は三沢のデッキの切り札。
いくら劣勢であろうとも、火車一枚でその逆境をはねのける効果を持った妖怪。

「火車の効果発動! フィールドにいるモンスターを全てデッキに戻す! 冥界入口!」

 死者を地獄へ導く火車の身体の中は冥界入口と言って相応しく、フィールドにいたモンスターは例外なく火車に吸い込まれ、デッキという名の冥界へと送られる。

「我が……ザ・ワールドがッ!?」

「火車の攻撃力はデッキに戻したアンデット族モンスター×1000ポイント、よって火車の攻撃力は3000!」

 火車がフィールドに特殊召喚されたが最後、どんなモンスターの防備も冥界へと送られ、フィールドに残るは攻撃力3000を誇る三沢の切り札のみ。

「バトル! 火車でダイレクトアタック! 火炎車!」

「ぐああああっ!」

斎王LP7000→4000

 火車の攻撃……いや三沢の攻撃がようやく斎王にクリーンヒットし、《光の結界》で回復された分ライフを大幅に削る。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」

「私のターン! ドロー! ……ククククッ。通常魔法《ネクロ・サクリファイス》を発動! 貴様のフィールドに我が墓地のモンスター、《アルカナフォースVI-THE LOVERS》と《アルカナフォースVII-THE CHARIOT》を特殊召喚する!」

 斎王が奇妙な笑みを見せながら発動したのは、自分の墓地のモンスターを二体相手フィールドに特殊召喚する《ネクロ・サクリファイス》。
相手が蘇生したモンスターの表示形式を選べて完全蘇生を果たす代わりに、自分がこのターンアドバンス召喚する際、リリースを必要としなくなる、という魔法カードだ。

 三沢はラバーズとチャリオッツのどちらも守備表示にし、なんとか正位置を引き当てた。
こんな《クロス・ソウル》の相互互換のカードを出してきたのだ、何かしない訳がない。

「私は《アルカナフォース0-THE FOOL》を召喚する!」

アルカナフォース0-THE FOOL
ATK0
DEF0

 その予想に反して召喚されたのは、戦闘破壊されない壁モンスターの《アルカナフォース0-THE FOOL》であり、上級モンスターでは決してない。
俺たちの疑惑の視線を受けながら回るザ・フールは、そのまま逆位置へと止まった。

「そしてリバースカード《洗脳解除》! ラバーズとチャリオッツを返してもらうぞ!」

 《ネクロ・サクリファイス》によって三沢のフィールドに完全蘇生されたとはいえ、アルカナフォースは斎王のカード。
《洗脳解除》によって斎王のフィールドに戻り、通常召喚されたザ・フールと併せて三体のモンスターが並ぶ。

 通常召喚は使用しているものの、俺はついさっきのエドとのデュエルで、『三体のモンスターをリリースしての特殊召喚』を何度となく体感した。

 ――何かが来る!

「気をつけろ三沢!」

「もう遅いッ! 三体のアルカナフォースをリリースすることで、世界を破滅に導く光! 《アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER》を特殊召喚するッ!」

アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER
ATK4000
DEF4000

 アルカナフォースの三本の柱をリリースして降臨した、EXという枠組みを外れた規格外のアルカナフォース。
そのステータス、プレッシャー、どれをとってもザ・ワールドを超えた……切り札だった。

「馬鹿な……アルカナフォースはザ・ワールドが切り札ではなかったのか……?」

「切り札だったさ! 今まではな! まずは貴様には、ライトルーラーの運命を止めてもらおう!」

 いくら規格外のモンスターだろうとアルカナフォースはアルカナフォースであるらしく、今までと同じくカードが空中で回りだした。

「……ストップだ!」

「運命は正位置を指した! バトルだ! ライトルーラーで火車を攻撃! ジ・エンド・オブ・レイ!」

 ライトルーラーのボディの部分からドラゴンの首が姿を見せると、そのドラゴンが口から光線を放って火車を吹き飛ばした。

「《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にする!」

「ほう……上手く防いだようだなぁ。だが、ライトルーラーの正位置の効果を発動! 相手モンスターを戦闘破壊した時、墓地から好きなカードを手札に加えることが出来る! 私は《運命の宝札》を手札に加え、そのまま発動!」

 三沢への戦闘ダメージはなんとか《ガード・ブロック》で防いだが、ライトルーラーの効果で手札に加えた《運命の宝札》が発動され、斎王が出したダイスの目はまたもや『4』。
よって四枚のカードがドローされ、四枚のカードがデッキから墓地に送られる。

「カードを二枚伏せ、ターンエンドッ!」

「くっ……俺のターン、ドロー! 《貪欲な壷》を発動し、二枚ドロー!」

 切り札である火車も破壊されてしまい、もう後がない三沢にもたらされたのは幸運にも《貪欲な壷》。
万能ドローソースにて二枚ドローした後に、三沢はライトルーラーを破壊すべく動き出した。

「通常魔法《聖者の書-禁断の呪術-》を発動! 墓地から《カラス天狗》を守備表示で蘇生し、お前の墓地の《アルカナフォースXV-THE DEVIL》を除外する!」

 起死回生のタイミングで特殊召喚されるカラス天狗が、自身の効果を使わんとその扇を振り上げる。
だが斎王はそれを見ても……狂ったように笑ったままだった。

「リバースカード《逆転する運命》を発動! ライトルーラーを逆位置に変更する!」

 伏せてあった《逆転する運命》は、確かアルカナフォースが狙い通りの位置でなかった時に反転するカードだった筈だ。
このタイミングで発動して逆位置に発動するとは、嫌な予感しかしなかった。

「墓地から蘇生した《カラス天狗》の効果を発動! ライトルーラーを破壊せよ、悪霊退治!」

「ライトルーラーの逆位置の効果! 攻撃力を1000ポイント下げることで、このカードを対象に取るカードの効果を無効にして破壊する! クリエイティブ・ディストラクト!」

 規格外のアルカナフォース――その名に相応しく、通常のアルカナフォースと違い、ライトルーラーは正位置でも逆位置でもメリット効果がある。
つまり、《逆転する運命》のようなカードがあれば、二つの効果を切り替えることが可能なモンスターというわけだ。

「……《酒呑童子》を守備表示で召喚! 効果を発動して一枚ドロー!」

 効果で攻撃力が1000ポイント下がったとはいえ、それでもその攻撃力は3000。
《カラス天狗》の効果が避けられてしまった三沢には、守備を固めるしか出来ることはなかった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「私のターン! ドロー! そのままバトルだ、ライトルーラーで酒呑童子を攻撃! ジ・エンド・オブ・レイ!」

 斎王がドローして即座に出された攻撃宣言に反応し、ライトルーラーの本体から出たドラゴンが光を放って酒呑童子を消し飛ばした。
酒呑童子は抵抗出来ずにそのまま破壊され……ライトルーラーの光は、そのまま三沢をも飲み込んでいった。

「三沢っ!」

 我慢出来ずに三沢の元へと駆け出したが、ライトルーラーが放った光に視界を奪われ、三沢の状況がどうなっているのか解らなくなってしまう。

「お前は……」

 視界が晴れた時に見たものは、ライトルーラーの攻撃から三沢を守り通してくれた……カードの精霊たちの姿。

「機械戦士のみんなに……ネオス」

 衛星兵器『ソーラ』の破壊に行った機械戦士たちと、十代の新エースモンスターである《E・HERO ネオス》が、ライトルーラーの光から三沢を守っていたのだった。

「これが……カードの精霊たちか……」

 どんな作用が働いているかは知らないが、ネオスや機械戦士たちの姿は三沢にも見えるらしく、初めて見たカードの精霊に戸惑っていた。

 そして、カードの精霊たちがここにいるということは……

「……『ソーラ』は破壊出来た、ということだな……」

 傍らにBlloDが控えたエドが立ち上がってきて、俺の左腕につけていた、エドのデュエルディスクを取り外した。

「後は……助けるだけだ」

 豹変した斎王を、眠ったままの明日香を。
そしてその役目は、三沢とエドには悪いが俺にやらせてもらいたい……いや、やるしかない。

「おのれおのれ、ネオスペーシアンとザコどもが! この私の邪魔を――」

「三沢、交代だ。このデュエル……俺が引き継ぐ」

 三沢と手を叩きあっている場所をチェンジすると、斎王とライトルーラーに正面から向き合った。

「後は任せたぞ、遊矢」

「ここまでお膳立てされてるんだ、負けるなよ」

 エドと三沢の激励を受けて、ここまで俺を持って来てくれた……亮・吹雪さん・神楽坂にラー・イエローの友人たち、三沢にエド、そして明日香に心の中で感謝しておく。

「チィィ……相手が誰であろうと同じことだ! カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

 斎王のターンエンド宣言と共に、中空に浮かんでいた精霊たちがデッキへと戻っていく……一緒に戦ってくれるのだろう。

「楽しんで勝たせてもらうぜ……斎王!」
 
 

 
後書き
気がつけば、学校のテストも第二期もラストに近づいて参りました。

そして何故か三沢vs斎王。
某スペースティラノよろしく、スペース三沢というのも案にありましたが、即座に没にしました。

理由はお察しください。

感想・アドバイス待ってます。 

 

―VS 光の意志―

フィールドの状況

遊矢(三沢の引き継ぎ)LP500

フィールド
《聖邪の神喰》
リバースカード一枚

斎王LP4000

フィールド
《アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER》

リバースカード三枚

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 ここで負けてしまえば、今まで戦ってきた三沢を始めとする皆に申し訳がたたない……待ってろ明日香、必ず助ける!

「俺は速攻魔法《手札断札》を発動! 二枚捨てて二枚ドロー!」

「いきなり手札交換とは事故でもしたかァ!?」

 初手に《天使の施し》を使った人物には言われたくないセリフを吐かれたが、そんなことはお構いなしに手札交換をすると、当面の戦術が決定する。

「俺のフィールドにモンスターはいない! よって、《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 黒い円盤のような形をしたチューナーモンスターを特殊召喚し、更にモンスターを召喚せんと手札に手を伸ばす。

「俺は《エフェクト・ヴェーラー》を召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

 羽衣を纏ったラッキーカードが俺のフィールドに降り立つと共に、斎王から……いわば狂笑が木霊した。
攻撃力と守備力が両方とも0のレベル1モンスターで、シンクロ召喚をしようにもどちらもチューナーモンスターなのだから、そういう反応をされても仕方がないか。

「ふん、勝負を捨てたかァ!」

「もちろん違う。三沢が残したリバースカード、オープン! 《異次元からの帰還》を発動! ライフポイントを半分にし、除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する!」

遊矢LP500→250

 三沢のライフを引き継いだ俺のライフが、《異次元からの帰還》によって半分になり、もはや少しのダメージでも致命傷となるライフポイントしか残っていない。

「来い、《ネクロ・ガードナー》二体! そして閻魔の使者《赤鬼》!」

ネクロ・ガードナー
ATK600
DEF1300

赤鬼
ATK2700
DEF2400

 空中に現れた穴を通して異次元からの帰還を果たしたのは、斎王のかつての切り札《アルカナフォースXXI-THE WORLD》の攻撃から三沢を守り抜いた汎用カードと、三沢のエースカードこと閻魔の使者《赤鬼》。

 赤鬼はともかくネクロ・ガードナーよりステータスが高いカードはあったが、これで……特殊召喚するのはネクロ・ガードナーで良い。

「レベル3の《ネクロ・ガードナー》二体に、レベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」

 俺の狙いは最初からシンクロ召喚にあり、先にアンノウン・シンクロンとエフェクト・ヴェーラーを召喚したのも、わざわざネクロ・ガードナーを異次元から帰還させたのもそのためだ。
エンドフェイズ時に再び除外される運命にあったネクロ・ガードナーたちは、アンノウン・シンクロンとシンクロ召喚をすることにより、自分たちの活躍の場である墓地へと帰還を果たす。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 そうしてシンクロ召喚されるシンクロモンスターのラッキーカードに、俺は更にモンスターを展開する前に効果の発動を命じた。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキの装備魔法を三枚選び、裏側で相手が選択したカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 俺が選んだ装備魔法カードは、《デーモンの斧》・《団結の力》・《魔界の足枷》の三種類。
三枚のカードが斎王の前にソリッドビジョンで表示され、今度は斎王が装備魔法カードという運命を選ぶ。

「左のカードだ!」

 斎王が選んだ装備魔法カードを手札に加え、俺は未だにフィールドに残っているチューナーモンスター――エフェクト・ヴェーラーとパワー・ツール・ドラゴンをチューニングさせる。

「レベル7のパワー・ツール・ドラゴンと、レベル1のエフェクト・ヴェーラーをチューニング!」

 ラッキーカード同士のシンクロ召喚により、エフェクト・ヴェーラーの羽衣で覆われたパワー・ツール・ドラゴンの周囲を炎が包み込み、その装甲板を外しながら飛翔した。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 早々と降臨する神話のドラゴンが、天空からエネルギーのようなものを撒き散らして俺へと降り注いだ。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000に出来る! ゲイン・ウィータ!」

遊矢LP250→4000

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果で覚束なかったライフも回復し、斎王と同じく4000という初期ライフになる。
《異次元の帰還》を使ってライフが半分になったが、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果ならば全く問題はない。

「そして、ライフ・ストリーム・ドラゴンに《デーモンの斧》を装備し、バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、ライトルーラーに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 パワー・ツール・ドラゴンの効果によって手札に加えられたデーモンの斧を装備し、攻撃力が3900となったライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾がライトルーラーに迫っていく。
ライトルーラーの攻撃力は三沢の《カラス天狗》の効果を無効にした際、その効果によって攻撃力を3000にまで減じている……!

「光を使っている攻撃はライトルーラーには届かない! リバースカード《禁じられた聖杯》を発動! ライトルーラーの効果を無効にして攻撃力を400ポイントアップさせる!」

 発動された《禁じられた聖杯》のコンバットトリックは、ライトルーラーの攻撃力を400ポイントアップさせるだけには留まらず、攻撃力が下がる効果を無効にして4400という攻撃力を叩き出す。
無論その攻撃力は、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃力を越えている……!

「迎撃しろ! ジ・エンド・オブ・レイ!」

「やらせはしない! 墓地の《シールド・ウォリアー》を除外することで、ライフ・ストリーム・ドラゴンの破壊を無効にする!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが迎撃される前に、なんとか盾持ちの機械戦士が前に立ちはだかり、ライフ・ストリーム・ドラゴンを破壊から守り抜く。

「だが戦闘ダメージは受けてもらう!」

「くっ……」

遊矢LP4000→3500

 シールド・ウォリアーでは防げなかった、ライトルーラーの放った光が俺の元に届き、少々ライフポイントが削られる。
ライトルーラーの攻撃力は4400となり、俺のフィールドに残っている《赤鬼》では攻撃は届かない。

「だが《シールド・ウォリアー》が除外された時、三沢の《聖邪の神喰》が発動していた! デッキから違う属性のモンスターを墓地に送り、ターンエンドだ」

 俺のターンエンド宣言と共に、《異次元からの帰還》の効果で特殊召喚されていた閻魔の使者《赤鬼》が除外ゾーンへと戻っていく。

「おっと! 貴様のエンドフェイズにリバースカード《転生の予言》を発動! 貴様の墓地の厄介な《ネクロ・ガードナー》どもを除外させてもらおう!」

「なにっ!?」

 フリーチェーンのネクロ・ガードナーであろうと、発動出来るのは相手ターンのみだ、斎王の《転生の予言》に対抗する手段はない。
そのカード名は間違っておらず、本当に斎王は予言でもしているのではないかと錯覚する。

「私のターン! ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃は失敗し、ネクロ・ガードナーはデッキに戻され、ライトルーラーの攻撃力は元に戻ってしまった。
振り返ると散々なターンだったが、今は斎王のターンだ、そんなことには構っていられない。

「私は最後のリバースカード《アルカナコール》を発動! 墓地のアルカナフォースを除外し、そのモンスターと同じ効果を得る! 私は墓地の《アルカナフォースXII_THE HANGED MAN》を除外!」

 《アルカナフォースXII_THE HANGED MAN》――吊られた男を意味する暗示のアルカナフォースの逆位置の効果は、相手モンスターを一体破壊することで、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える強力な効果……!

「ハングドマンの効果を得たライトルーラーの効果を発動! 貴様のそのドラゴンを破壊する!」

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果発動! 墓地の装備魔法を除外することであらゆる破壊を免れる! 《団結の力》を除外する、イクイップ・アーマード!」

 この装備魔法《団結の力》は俺のカードではなく、いつぞや三沢とトレードしていて、三沢と斎王とのデュエル中に墓地に落ちていたカードだ。
気軽にトレードしたカードが俺の命を救うことになるとは、本当に、何が起きるか解らないものだ。

「チィィ……ならばライトルーラーで攻撃する! ジ・エンド・オブ・レイ!」

 自身の効果で破壊されなかった為に、ハングドマンのバーン効果を避けることには成功したものの、もう墓地には装備魔法カードも《シールド・ウォリアー》もない。
ライフ・ストリーム・ドラゴンは、ライトルーラーが放った光へと消えていった。

「ライフ・ストリーム・ドラゴン……!」

遊矢LP3500→3400

 ダメージは微々たるものなるも、仮にもエースカードと呼んで差し支えないモンスターが、こうもあっさり破壊されるとは夢にも思わなかった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 三沢をあそこまで追い詰めるだけはある切り札だが、俺とて今回ばかりは負けるわけにはいかない。

「俺は《戦士の生還》を発動! 墓地の戦士族を手札に戻す!」

 だから俺に力を貸してくれ……マイフェイバリットカード!

「来い、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 三沢が残してくれた《聖邪の神喰》の効果で、《シールド・ウォリアー》と入れ違いで墓地に送られていたマイフェイバリットカードが姿を現した。

「そのザコで我がライトルーラーをどう倒す!?」

「……今はたかが攻撃力が900だろうと、俺のマイフェイバリットカードは進化する! スピード・ウォリアーに装備魔法《進化する人類》を装備!」

 久々に発動する進化する人類》から、スピード・ウォリアーに進化するエネルギーが流れ込み、その攻撃力を2400までに上昇させる。

「バトル! スピード・ウォリアーでライトルーラーを攻撃! スピード・ウォリアーは召喚したターンのバトルフェイズのみ、攻撃力が倍になる!」

 もはや説明不要のコンボであるが、《進化する人類》によってスピード・ウォリアーの元々の攻撃力は2400であり……その元々の攻撃力を倍にするのだから、その攻撃力は4800……!」

「スピード・ウォリアーでライトルーラーに攻撃! エヴォリューション・ソニック・エッジ!」

「攻撃力4800……ライトルーラーを超えただとォ!? ……だが無意味だ! 伏せてあった二枚目の《アルカナコール》! 《アルカナフォース0-THE FOOL》を除外し、その効果を得る!」

 ライトルーラーに愚者の暗示ことザ・フールが吸収されていき、その愚者らしからぬ効果である戦闘破壊耐性を手に入れる。
もうスピード・ウォリアーの回し蹴りはライトルーラーにまで届いており、止めることは出来ない……!

斎王LP4000→3200

 斎王のライフポイントにダメージを与えることに成功するが、そのせいで俺のライフが上になってしまい、スピード・ウォリアーに装備されている《進化する人類》が本来の性能を発揮しなくなってしまう。
攻撃力は2400から、その効果によって1000ポイントとなってしまう……!

「くそっ、俺は……」

「落ち着け遊矢!」

 背後から鋭い親友の声が俺へと響く。

 セブンスターズのタニヤとの戦いの折り、タニヤの言動に平常心を失っていた三沢に、俺は落ち着けと言ったものだが……今回は逆の立場になってしまったか。
三沢の残してくれた希望を繋ぐことと、明日香を助けることに、俺は少し躍起になってしまっていたらしい。

「……悪いな三沢。俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「ふん! 私のターン! ドロー!」

 俺のフィールドは、《進化する人類》を装備して攻撃力が1000となったスピード・ウォリアーに、俺のデッキでは十全に効果を発揮しない永続魔法《聖邪の神喰》にリバースカードが二枚。
対する斎王はそのリバースカードを使い切り、そのフィールドには逆位置の効果を得た《アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER》のみ。

「私は《貪欲な壺》を発動し二枚ドロー! ……そしてバトル! ライトルーラーでスピード・ウォリアーに攻撃! ジ・エンド・オブ・レイ!」

 汎用ドローカードで二枚ドローしてくるなり、ライトルーラーがドラゴンの首を出しながら光の波動を放ってスピード・ウォリアーをかき消した。
俺のフィールドに伏せられた二枚のリバースカードは、いずれもこの攻撃を防げる防御カードではなく、甘んじて光の波動を受けた。

遊矢LP3400→400

「すまない、スピード・ウォリアー……」

 攻め急いだが故に破壊された相棒に対して、小声で謝罪すると闇のゲームの影響だろうか、身体から結構な力が抜けた。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! ……こちらも《貪欲な壺》を発動!」

 斎王と同じく二枚ドローし、一旦落ち着くために深呼吸をしてフィールドを見渡すと、強大な影響力を発散したライトルーラーの姿がまず見える。

 ……それでも、それでもあの三幻魔には及びはしない。
いや、それを言うならエドのBlloDや三沢の赤鬼、明日香のサイバー・ガールたちの方がまだ強かっただろう。

 相手がどんなカードだろうとモンスターならば、相手は必ず倒せる……!

「魔法カード《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地《のライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」


波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2100

 墓地のモンスターたちを融合して現れる俺のデッキの最強モンスター、ドラゴエクィテスがその槍を持ってこのフィールドへと降りたった。
残念ながら一度に二体のモンスターが融合召喚されたため、俺のフィールドに残る永続魔法《聖邪の神喰》は発動しない。

「またザコ精霊のおでましかァ!?」

「精霊の力なんぞ関係ない! バトル! 波動竜騎士 ドラゴエクィテスでライトルーラーを攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

 攻撃力が劣っているのを知ってのドラゴエクィテスの投げ槍に、斎王は顔を大きく歪ませながら笑いつつ、その一撃を向かい入れた。

「迎撃しろッ、ライトルーラー! ジ・エンド・オブ・レイ!」

 光を発射するドラゴンの首がライトルーラーの身体から現れ、ドラゴエクィテスが力の限りを尽くして放った槍を、その自身の象徴たる光で焼き尽くした。

 ……だがその間にドラゴエクィテスは、新たな得物を持ってライトルーラーの遥か頭上に飛翔していた。

「速攻魔法《旗鼓堂々》を発動! エンドフェイズまで、墓地から装備魔法カードを俺のモンスターに装備出来る! ドラゴエクィテスに《デーモンの斧》を再装備!」

 自身の本来の得物である槍を囮にドラゴエクィテスは天空へと飛翔し、墓地から再びその姿を現したデーモンの斧をその手にしていた。
ドラゴエクィテスは飛翔していた天空から急降下し、デーモンの斧をライトルーラーの本体である、無防備なドラゴンの首に振り下ろした。

「なんだとォ!?」

斎王LP3200→3000

 ライトルーラーはドラゴエクィテスを前にして沈み、斎王の前に伏せられている二枚のリバースカードも開く様子も無い。

「《旗鼓堂々》の効果により、エンドフェイズに《デーモンの斧》は破壊される……ターンエンドだ」

「ぬぅぅ……私のターン、ドロー!」

 悔しがる斎王に少しは「ざまあみろ」と言ってやりたい気分になったが、その言葉を俺が口に出す前に、斎王の表情が狂った笑みへと戻る。

「永続魔法発動! 《ザ・ヘブンズ・ロード》!」

 斎王の表情を変えたドローしたカード《ザ・ヘブンズ・ロード》……天国への門という、明らかに嫌な予感がする魔法カードが発動し、一本の緑色をした塔が斎王の背後から伸びてくる。

「続いて二枚のリバースカード、オープン! 《ザ・マテリアル・ロード》! 《ザ・スピリチュアル・ロード》!」

 ザ・ヘブンズ・ロードの緑色の塔に続き、赤色と青色の塔が二枚のリバースカードによって発動し、光の三原色の塔が斎王の背後に立つ。

「何だっていうんだ……?」

「こういうことだ! 《ザ・ヘブンズ・ロード》! 《ザ・スピリチュアル・ロード》! 《ザ・マテリアル・ロード》の三つをリリースすることで、墓地から光の支配者を特殊召喚出来るッ!」

 光の支配者、つまりはライトルーラー――斎王が出したその名前に俺が戦慄するとともに、斎王の背後の三原色の塔が破壊されていき、そこから一体のモンスターが姿を見せる。

「運命の怒りは頂点を極めた。愚かな虫けらに鉄槌を下すため、再び降臨せよ! 《アルカナフォースEX-THE LIGHT RULER》!」

 斎王の仰々しい口上とリンクして、その本体からドラゴンの首が現れ、俺とドラゴエクィテスを威嚇するようにいななく。
その姿は一度破壊されたにもかかわらず、光の支配者という名に相応しい、美しさと残酷さを兼ね備えているように感じられた。

「ライトルーラーが特殊召喚に成功したため、その効果を決定する! さあ、もはや決まった貴様の運命を選べ!」

「……ストップだ!」

 ライトルーラーのその姿とは別に映し出された、回転するカードを止めるべく声を張り上げると、その位置は――正位置。
ライトルーラーの正位置は確か、相手モンスターを戦闘破壊した時に、自分の墓地のカードをサルベージする効果。

「くっ……!」

「光の支配者にふれ伏すが良い! バトルだ! ライトルーラーでドラゴエクィテスに攻撃、ジ・エンド・オブ・レイ!」

 再び現れる斎王の切り札に歯噛みすると、斎王の攻撃宣言がドラゴエクィテスの運命を決定付けた。
もはや出しっぱなしになったドラゴンの首から放出された光が、融合素材となっているライフ・ストリーム・ドラゴンとスピード・ウォリアーと同じように、波動竜騎士は飲み込まれていく……!

「リバースカード、オープン! 《死力のタッグ・チェンジ》! 戦闘ダメージを0にして手札の戦士族モンスターを特殊召喚する! ――明日香を助ける為に、こいつを倒すために、俺を守ってくれ! マイフェイバリットカード、スピード・ウォリアー!」

『トアアアアッ!』

 俺が焦って無理な攻撃を仕掛けた為に、一度破壊されてしまったマイフェイバリットカードだったが、間一髪発動したリバースカードによりドラゴエクィテスと入れ違いに手札から飛び出した。
そうして、ドラゴエクィテスと共に俺をも飲み込もうとしたライトルーラーの光を、その身を呈して俺に届く前に食い止めた。

「ありがとう、スピード・ウォリアー……」

「ええい、往生際が悪い……! だがライトルーラーの正位置の効果により、墓地から《運命の宝札》を手札に加え、そのまま発動する!」

 ライトルーラーによってサルベージされる宝札カード、三回目の出番ながらそのダイスの目は『3』を出し、斎王のデッキから三枚のカードが引かれた。

「そして《アルカナフォースIII-THE EMPRESS》を召喚し、通常魔法《魔術師の天秤》を発動! フィールドのアルカナフォースを墓地に送ることで、デッキから魔法カードを手札に加えることが出来る!」

 女帝を暗示するアルカナフォースが召喚されるが、即座に《魔術師の天秤》のコストによって墓地へと送られる。
《魔術師の天秤》……以前の斎王とのデュエルの際は、疑似《サンダー・ボルト》となる《スート・オブ・ソートX》のカードを加えていたが、今はそのカードを加えても意味はない。

 さて何を加えたのか……と一瞬考えたものの、俺はすぐに、そんなことは考えるまでもないのだ、ということを悟ることとなった。
考えるより早く、俺の背後に浮かぶ死神の鎌を見る方が遥かに早いのだから……!

「魔法カード《アルカナティック・デスサイス》を発動! デッキからアルカナフォースを墓地に送ることで、破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与えるという、まさに一撃必殺の威力を持った魔法カード。
俺を光の結社へと引き込むこととなった、アルカナフォースを媒介とする死神の鎌の一撃が、俺を切り裂かんとその鎌を振り上げた。

 だがその魔法カードは以前、敗北した原因なのだ……対策を考えない訳がない。

「カウンター罠、《ダメージ・ポラリライザー》を発動! ダメージを無効にし、お互いにカードを一枚ドローする!」

 ここに来る際に協力してもらった友人の一人……亮からトレードしたカードにより、死神とその振り上げた鎌は消え去っていき、お互いにカードを一枚ドローする。

 心中で、今まさにデュエルをしているだろう友人にお礼を言うと、斎王は忌々しげに顔を歪ませながらカードをドローした。

「チッ……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! ……《マジック・プランター》を発動し、《死力のタッグ・チェンジ》を墓地に送って二枚ドロー!」

 ドラゴエクィテスによって破壊した筈の斎王の切り札、ライトルーラーの猛攻は何とか二枚のリバースカードによって防ぎきったものの、いずれは押し切られてしまうだろう。

 《マジック・プランター》によって加えられた、二枚のカードを見て……このデュエルを終わらせる手段が俺の頭の中で繋がった。

「斎王……このデュエル、このターンで終わらせる!」

「ほォう……やれるものならばやってみるが良い! 運命はそんな結果を示していないがな!」

 斎王の「そんな筈はない」という、絶対的な自信から来る言葉を受けると、まずはその為の始めの一手を打とうとした。

 正直に言うと、俺が考える手段の成功率は低いが……力を貸してくれ、明日香……!

「俺は墓地の《ADチェンジャー》を発動! このカードを除外するとで、お前のライトルーラーを守備表示にする!」

 最初のターンの《手札断札》で墓地に送っていたモンスター、《ADチェンジャー》がフィールドに出現し、『D』と書かれた蒼い旗を上げてライトルーラーを守備表示にしようとする。

 ここでライトルーラーを守備表示にすることが第一歩、そして今のライトルーラーは正位置の効果故に、対象を取る効果を無効にする効果ではない。

「その運命は呼んでいる! 貴様の運命は決定しているのだ! リバースカード《逆転する運命》を発動し、ライトルーラーを逆位置にする!」

 斎王の言っていることは断じて大言壮語などではなく、ただの事実だと証明するような……最高のタイミングの《逆転する運命》が発動し、ライトルーラーが正位置から逆転して逆位置となる。

「よって貴様のモンスターに対し、逆位置の効果が発動する! 攻撃力を1000ポイント下げて効果を無効にする! クリエイティブ・ディストラクト!」

 フィールドに現れたADチェンジャーを吹き飛ばし、ライトルーラーを守備表示には出来ずに除外されていく。

「……《ADチェンジャー》が除外されたため、永続魔法《聖邪の神喰》が発動する……」

 せっかく律儀に発動してくれる《聖邪の神喰》と残してくれた三沢には悪いが、地属性以外のモンスターカードを墓地に送っても、この状況を逆転することの出来るカードはない。

 運命を見通すという斎王に対しては、俺の逆転の一手などお見通しという訳か……?

「これで貴様の運命は費えた! …………なのに何故だ! 何故貴様は――笑っているッ!?」

「そりゃそうさ……狙い通りなんだからな!」

 逆に笑わずにはいられないと言ったべきか、運命を見通すなど信じてはいなかったものの、どうやら信じなければならないようだ。
そのおかげで俺は、逆転する手掛かりを手に入れることが出来たのだから、むしろありがたいのだが。

「装備魔法《バスターランチャー》をスピード・ウォリアーに装備!」

 マイフェイバリットカードに装備された巨大なビーム砲、《バスターランチャー》がマイフェイバリットカードに装備され、その銃口がライトルーラーに向けられた。

 その効果は特定の状況に限り破格の攻撃力上昇、2500を装備モンスターにもたらすという装備カード。
《バスターランチャー》によって、ライトルーラーへと攻撃する際のスピード・ウォリアーの攻撃力は3400にまで達し、攻撃力が3000となったライトルーラーを撃ち抜ける。

 そう、ライトルーラーの攻撃力は《ADチェンジャー》を無効にしたせいで……つまり斎王が運命を見通したせいで、スピード・ウォリアーはライトルーラーを破壊できるようになった。

「俺には運命なんて変えられなかった……だからお前に変えてもらった! 斎王! お前が俺の運命を変えたから、俺は明日香を助けられる!」

「運命が変わった……いや、私が変えただとッ!?」

 これこそが真の逆転の一手、《ADチェンジャー》の効果を斎王が無効にし、スピード・ウォリアーがライトルーラーを破壊できるようにすることこそが……!

「バトル! 光の支配者を撃ち抜け、スピード・ウォリアー! バスターランチャー、シュート!」

 俺の攻撃宣言の間にエネルギーをチャージしきったスピード・ウォリアーが、そのバスターランチャーの引き金を引き、大出力のビーム砲がライトルーラーへと発射された。
その光芒はどこか、ライトルーラーが散々俺のモンスターを破壊してきた光と似ており、光の支配者もまた強大な光へと飲み込まれることとなった。

「ライトルーラーが……二度までも破壊されるだとォッ!?」

斎王LP3000→2600

 しかしこれではまだライトルーラーを破壊しただけで、斎王のライフを0にすることは出来ない。
このターンで終わらせると啖呵を切ったのだ、メインフェイズ2に一枚の魔法カードを手札から発動した。

「魔法カード《二重魔法》を発動! 手札の魔法カードを墓地に送ることで、お前の墓地のカードを俺の手札に加えることが出来る!」

「私の墓地のカードをだとォ……《運命の宝札》かァ!? 貴様も運命に身を任せるというの……ッ!?」

 斎王が嬉々として言い続けていた言葉は途中で止まり、代わりにその口からは驚愕の言葉が出て来ていた。

 それもその筈だ。
斎王の首もとには今現在、死神の鎌が突きつけられているのだから……!

「俺がお前の墓地から手札に加え、そして発動したカードは! 《アルカナティック・デスサイス》! 戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える魔法カード!」

「馬鹿か貴様はァ!? 《アルカナティック・デスサイス》はアルカナフォースをデッキから墓地に送らなければ起動しない! 貴様にそれが出来るのかァッー!」

 確かに俺のデッキはもちろん【機械戦士】であり、天使族であるアルカナフォースは持ってすらいなかったし、斎王とデュエルするまでデュエルしたこともなかった。

「アルカナの暗示……確かお前は、俺の分身を『愚者』の暗示だって言ったか」

 光の結社から解放されてから斎王との再戦に向けて、アルカナフォースについて研究する際、そのモチーフである大アルカナにも少し触れることとなった。

 大アルカナの始まりを示す『愚者』の主要なテーマは「始まり・自然・信頼・一見愚かに見える」……などであり、このカードが表すのは、「予測不能で驚きに満ちた世界」。
何事も硬直せず、どんな事でも起こりうる可能性を、このカードは示している。

 運命を占う大アルカナであるにもかかわらず、運命なんて存在していないと否定しているような、矛盾に満ちた暗示のカード。

「知恵の実を食べた人間は、その瞬間より旅人となった……カードが示す旅路を巡り、未来に淡い希望を託して……」

 『愚者』のことを暗示する一文を宣言するとともに、デッキから一枚のカードを抜き取ると、斎王に見えるように掲げながらそのカード名を宣言した。

「俺はデッキから《アルカナフォース0-THE FOOL》を墓地に送り、アルカナティック・デスサイスを発動する!」

 掲げられたモンスターカードの名前を、斎王は信じられないとばかりに凝視した後に騒ぎ立てた。

「ザ・フールだとッ! 何故貴様がそのカードを持っている!?」

「……お前に貰ったんだよ」

 俺が光の結社に入れられた際の天使族デッキ……その一員として入っていたのが、俺が今手に持っているザ・フールのモンスターカード。
『愚者』のことを調べている時、気がついたらデッキの中に紛れ込んでいたカードだが……もしかしたら、エドが言う本来の斎王の差し金かも知れない。

「俺が今ザ・フールを手にしているのも、ライトルーラーを破壊出来たのもお前のおかげだ……つまり、全て運命を変えたのはお前なんだ! 運命に負けたのはお前だ、斎王!」

 手に持っていた《アルカナフォース0-THE FOOL》のカードを墓地に送ると、スピード・ウォリアーがバスターランチャーから死神の鎌に装備を入れ替え、背後に死神が佇む斎王へと向かっていった。

「運命を切り裂け、スピード・ウォリアー! ――アルカナティック・デスサイス!」

「ウオオオォォォォッ!」

斎王LP2600→0

 ……ライトルーラーの攻撃力分、4000の威力を込めた鎌に死神ごと斎王は断ち切られ、長いようで短いデュエルも終わりを告げた。

 斎王がその場に倒れ伏すのを見て、俺もそうしたい誘惑に駆られるが、俺にはまだやるべきことがある。
背後からこちらに近づいてくる三沢とエドの方を向くと、三沢は早くも俺の意図を察してくれていた。

「遊矢、ここは俺に任せて、君は行くべきところに行け」

「……何から何まで悪いな三沢。エド、この二枚とデッキ、斎王に返しといてくれ!」

 エドに俺の勝利の決定打となった二枚のカード、《アルカナティック・デスサイス》に《アルカナフォース0-THE FOOL》、そして光の結社の際の【天使族】デッキを渡す。

 エドは何も言わずにそれを受け取り、倒れ込んでいる斎王の元へ走っていった。
そして俺はその逆方向、この部屋の出口へと走っていくのだった……



「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ」

 走り続けていたからかすっかり息が上がっており、少々目的地の部屋のドアの前でしばし息を落ち着かせた。

 その目的地とはデュエル・アカデミア本校舎の保健室、俺も幾度となくお世話になった場所の、そのドアを開いた。

 そうして目に飛び込んで来るのは、保健室らしく白を貴重とした空間と……その色と対局に位置しているような鮮やかな金色の髪。

「……明日、香……!」

「……遊矢?」

 俺の名前を呼びながら近づいて来る彼女を見て、俺は彼女を救うことが出来たのだと確信した瞬間……闇のゲームのダメージが安心しきった肉体に襲いかかり、俺は見事に倒れ込んだのだった。
 
 

 
後書き
まだもうちょっとだけ続くんじゃ(某亀仙人)

……本当にもう少しだけ、第二期にお付き合いください。

感想・アドバイス待ってます。 

 

―最後のジェネックス―

 
前書き
二年生編、完結です。 

 
 斎王とのデュエルは決着したものの、エドに敗北してメダルを失った俺にはもう、ジェネックスに参加資格は既に無い。
そしてジェネックス最終日、壮絶な戦いを生き残ったデュエリストたちの頂点を決める、決勝トーナメントが開かれることとなった。

 その参加資格は、ジェネックスのメダルを50個以上持っていること――デュエルせずに逃げ延びた者も多いため――となり、デュエル・アカデミアのデュエル場でトーナメントが開かれた。
そのトーナメントは始まる前の観客勢の予想を裏切り、デュエル・アカデミアの生徒が大多数を占めるという結果になった。

 万丈目準、ティラノ剣山、早乙女レイ……多くの知り合いの名前が流れていくのを、俺は三沢と明日香と共にテレビ画面で見ていた。

「二人とも出なくて良かったのか?」

「俺はあのままだと斎王に負けていたからな。参加する資格は無いよ」

「私なんて、何にも覚えていないのに参加出来ないわよ」

 三沢も明日香も真面目というか……それに加えて流れる名簿には、十代に亮、吹雪さんの名前が流れることはなかった。
亮と吹雪さんはあの時のデュエルで引き分けになったらしく、十代はプロデュエリストの大物狙いだったため、メダルを集めきれなかったというのが実情だが。

 エドと斎王は、斎王の治療の為にひとまず先にデュエル・アカデミアから離れているし、彼らに参加する気はもう無いだろう。

「それより三沢……本当に行くのか?」

「……ああ。ジェネックスを見届けられないのは残念だが、俺の夢と言っても良いからな」

 俺たち三人は廊下のテレビでトーナメントを見つつ、ヘリポートへと向かっていた。

 三沢はジェネックス中にデュエルした、ツバインシュタイン博士に研究所に誘われ、三沢はそれに快く承諾したらしい。
ヘリコプターで帰るツバインシュタイン博士について行き、そのまま助手として活動することを、学園側にも了承させて休学となった。

「そうか……」

「三沢くんなら大丈夫、頑張ってね……それじゃ遊矢、三沢くん」

 親友が休学扱いとなって残念がる俺の隣で、明日香が俺と三沢の二人の肩を叩いた。

「記念に、ね。二人でデュエルすれば良いんじゃない?」

「……もちろんそのつもりさ、明日香くん」

 ヘリポートへと続く長い廊下を抜けた後に、もう発進準備が完了しているヘリコプターが一台ある、ヘリポートへとたどり着いた。
しかし、そのパイロットは未だ発進する気はないようで、ツバインシュタイン博士とともにジェネックスの中継を眺めていた。

「こっちも決勝戦といくか、三沢!」

 ヘリポートは当然のことながら広く、俺と三沢がデュエルするスペースぐらいならば、容易くその場所を確保してくれる。

「見物客が明日香くんしかいない、というのは不満だけどな」

 双方ともにデュエル出来る場所まで離れ、デュエルディスクの準備を完了する。
……このデュエルで三沢はアカデミアを離れていく、そうなってしまえば、こうして気軽にデュエルをする機会は無くなってしまうだろう。

 そうなるのならば、このデュエルを贈り物として三沢に送らせてもらおう……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
三沢LP4000

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺の先攻、ドロー!」

 デュエルディスクは俺に先攻を指し示し、機械戦士たちは俺の手札に集まっていく。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK500
DEF1600

 守りの要たる腕甲の機械戦士が召喚され、守備表示で俺の前に立ちふさがる。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 そのまま何も動かず三沢のターンとなり、三沢は最後のデュエルだと感じさせず、いつも通りにカードを引いた。

 ただ俺は時期の関係上、三沢のライトロードが加わった新デッキとは、未だにまともに戦ったことは無い。
三沢が新デッキを組んだ時には、俺は光の結社に入ってしまって――俺を脱退させる為に組んだのだから当然だが――おり、その後にはすぐジェネックスが始まってしまったからだ。

「俺はモンスターとカードを一枚ずつセットし、ターンエンド」

 三沢も俺と同等……いや、それ以上に守備を固めて俺にターンを譲り渡し、何も行動を起こさなかった。

「俺のターン、ドロー!」

 両者ともに守備表示の我慢比べは苦手だ、ならば俺から攻めさせてもらう……そうする為にも、機械戦士のアタッカーを召喚した。

「《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 三つ叉の槍を振り回しながらマックス・ウォリアーが飛び出し、正体が解らないセットモンスターへと振りかざした。

「バトル! マックス・ウォリアーでセットモンスターに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 マックス・ウォリアーがセットモンスターに近づくと、三沢の前にいるセットモンスターが姿を現し、そのままマックス・ウォリアーに刺し貫かれた。

「セットモンスターは《ライトロード・ハンター ライコウ》! お前のリバースカードを破壊し、デッキからカードを三枚墓地に送る!」

 マックス・ウォリアーに貫かれたのは白い光を放つ犬のモンスターで、その今輪の際に放った光が俺のフィールドにセットしてあった《くず鉄のかかし》が破壊された。

「マックス・ウォリアーは相手モンスターを戦闘破壊した時、攻撃力・守備力は半分になる……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! ……リバースカード《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地から蘇れ! 《カラス天狗》!」

カラス天狗
ATK1400
DEF1200

 墓地から蘇る三沢の主力モンスターに顔をしかめるが、そんなことには構わずに三沢は効果の発動の宣言を行った。

「効果の説明をする必要はないだろうが、一応しておこう。カラス天狗が墓地から蘇った時、相手モンスターを破壊する! ガントレット・ウォリアーを破壊せよ、悪霊退治!」

 カラス天狗が扇を振り上げて破壊するのは、攻撃の態勢を取っているマックス・ウォリアーではなく、守備表示のガントレット・ウォリアーを標的とした。

「だったらガントレット・ウォリアーの効果を発動! このカードをリリースし、マックス・ウォリアーの攻撃力を500ポイントアップ!」

 ただではガントレット・ウォリアーは破壊されず、マックス・ウォリアーにその腕甲を繋げた後に、カラス天狗によって墓地へと送られてしまう。

「そしてカラス天狗をリリースし、《竜骨鬼》をアドバンス召喚!」

竜骨鬼
ATK2400
DEF2000

 カラス天狗が立っている地面から炎の陣が立ち、そのまま骨となった後に巨大化して龍の形をかたどっていく。
そのまま竜骨鬼がアドバンス召喚され、攻撃力と守備力が半分になったマックス・ウォリアーを蹴散らさんとした。

「バトル! 竜骨鬼でマックス・ウォリアーに攻撃!」

 その巨体を活かした踏み潰し攻撃に、マックス・ウォリアーはそのまま破壊されてしまうが、その場には代わりに他のモンスターが現れていた。

「リバースカード《死力のタッグ・チェンジ》を発動! 戦闘ダメージを0にし、手札から戦士族モンスターを特殊召喚する! 《チューン・ウォリアー》を特殊召喚!」

チューン・ウォリアー
ATK1600
DEF200

 マックス・ウォリアーの代わりに登場したのは、真紅のボディを持ったチューナーモンスター、チューン・ウォリアー。

「カードを一枚伏せて、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにはチューン・ウォリアーて死力のタッグ・チェンジ、三沢のフィールドには竜骨鬼とリバースカードが一枚となった。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動! 増殖せよ、チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 チューン・ウォリアーとチューニング・サポーターが三体、そのどちらもシンクロ召喚に関わっているモンスターなのだ、やるべきことはただ一つ。

「自身の効果でレベル2としたチューニング・サポーターと、レベル1のチューニング・サポーター二体に、レベル3のチューン・ウォリアーをチューニング!」

 チューニング・サポーター一体を自身の効果でレベル2としたため、そのシンクロ素材となったモンスターたちのレベルの合計は、7。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 シンクロモンスターのラッキーカード、《パワー・ツール・ドラゴン》がシンクロ召喚をされ、その黄色の鋼鉄のボディを見せた。

 竜骨鬼の戦士族を破壊する効果は、戦士族モンスターが多い【機械戦士】デッキには相性が悪いが、機械族であるパワー・ツール・ドラゴンには関係ない。

「チューニング・サポーターがシンクロ素材になった時、一枚ドロー出来る。よって三枚ドロー! ……そして、パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから装備魔法カードを三枚選び、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 俺が選んだ三枚の魔法カードは、《団結の力》・《魔界の足枷》・《ダブルツール D&C》というカード達が三沢の前に裏側で表示されていく。

「……真ん中だ!」

「……お前が選んだのはこいつだ! 装備魔法《ダブルツール D&C》を装備し、バトル! パワー・ツール・ドラゴンで竜骨鬼に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 パワー・ツール・ドラゴンに装備されたドリルが回転し、竜骨鬼の身体に風穴を開けていく。
ダブルツール D&Cは俺のターンの場合のみ、攻撃力は1000ポイントアップし、上昇値を足してパワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は3300。

三沢LP4000→3100

「このくらいのダメージは……」

「必要経費、だろ?」

 三沢の口癖のようなものを真似てみせると、三沢は若干不機嫌そうに眉をひそませた。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ただのポーズだったらしく、すぐに三沢はその不機嫌そうな表情を止めてカードをドローした。

「俺は伏せてあった《妖魔の援軍》を発動! 1000ポイントのライフを払うことで、二体の妖怪を特殊召喚する! 蘇れ、《カラス天狗》! 《陰魔羅鬼》!」

陰魔羅鬼
ATK1100
DEF1000

三沢LP3100→2100

 再び現れる炎の陣から墓地から二体の妖怪が蘇り、それぞれその効果を発動して俺へと襲いかかって来た。

「陰魔羅鬼の効果で一枚ドロー。そして、カラス天狗の効果でパワー・ツール・ドラゴンを破壊する! 悪霊退治!」

「悪霊はお前だ!」

 常々思ったことがようやく口から出て来たが、カラス天狗の効果がツッコミで止まるわけもなく、扇による妖術のようなものがパワー・ツール・ドラゴンを襲った。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果発動! 装備魔法カードを墓地に送ることで破壊を免れる! アーマード・イクイップ!」

 ドリルとカッターを犠牲にすることで妖術から耐え、パワー・ツール・ドラゴンは何とかフィールドに維持された。
カラス天狗も陰魔羅鬼も下級モンスター、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力には遠く及ばないが、三沢のフィールドに妖怪が二体というのは嫌な予感しかしない。

「陰魔羅鬼とカラス天狗の二体をリリースすることで、閻魔の使者《赤鬼》をアドバンス召喚する!」

赤鬼
ATK2800
DEF2100

 嫌な予感第一の通り、三沢のエースカードたる閻魔の使者《赤鬼》がアドバンス召喚され、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力を超えるとともに効果が発動する。

「赤鬼がアドバンス召喚に成功した時、手札を捨てた分相手のカードを手札に戻す! パワー・ツール・ドラゴンをバウンスせよ、地獄の業火!」

「やらせるか! 手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動! 赤鬼の効果を無効にする!」

 その口から発射された地獄の業火を、俺の手札から発動したラッキーカード、《エフェクト・ヴェーラー》が包み込む形で沈下する。
その代償にエフェクト・ヴェーラーは墓地に送られたが、パワー・ツール・ドラゴンはバウンスされることなくフィールドへ残る。

「ならば赤鬼でパワー・ツール・ドラゴンに攻撃! 鬼火!」

 効果破壊にもバウンスにも耐えたパワー・ツール・ドラゴンだったが、戦闘破壊は耐えることは出来ずに赤鬼に焼き尽くされた。
だがパワー・ツール・ドラゴンの焼き尽くされた炎から、一体の小さな戦士の影が飛び出した。

「《死力のタッグ・チェンジ》の効果を発動! 戦闘ダメージを0にし、マイフェイバリットカードを特殊召喚する! 来い、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 《死力のタッグ・チェンジ》の効果が再び発動し、シンクロモンスターのラッキーカードの代わりに、マイフェイバリットカードが赤鬼の前に立ちはだかった。

「来たか、スピード・ウォリアー……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! ……速攻魔法《手札断殺》を発動し、お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 ライフポイントこそ俺のほうが二倍近く上だが、赤鬼がいる三沢にはその程度の差は瞬時に縮まってしまう。

「……よし。スピード・ウォリアーをリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1500
DEF800

 スピード・ウォリアーと赤鬼が戦う時はまだまだ後、今のところはサルベージ・ウォリアーへとマイフェイバリットカードは後を託し、サルベージ・ウォリアーは墓地へと網を伸ばす。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚された時、墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 来い、《ニトロ・シンクロン》!」

ニトロ・シンクロン
ATK600
DEF800

 消火器のようなボディをしたチューナーモンスター、ニトロ・シンクロンを効果により引き上げ、フィールドの来るや否や二つの星となった。

「レベル5の《サルベージ・ウォリアー》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 その二つの星は光の輪となっていき、サルベージ・ウォリアーを包んで一際輝く光を俺に浴びせた。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 緑色で悪魔のような形相をしたシンクロモンスター、ニトロ・ウォリアーがシンクロ召喚され、その背後で口上通りに炎が燃え上がった。

「更に魔法カード《マジック・プランター》を発動し、《死力のタッグ・チェンジ》を墓地に送って二枚ドロー!」

 二回に渡り俺のライフポイントを守ってくれた《死力のタッグ・チェンジ》を墓地に送って二枚ドローするとともに、これでニトロ・ウォリアーの効果を発動するきっかけとなる。

「バトル! ニトロ・ウォリアーで赤鬼に攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 魔法カードを使ったターンの為にニトロ・ウォリアーの効果が発動し、攻撃力が1000ポイントアップして3800、赤鬼の攻撃力を遥かに超える。
ニトロ・ウォリアーの炎を伴ったラッシュは赤鬼を捉え、そのまま連撃を叩き込んだ。

「ぐああっ……」

三沢LP2100→1100

 これで三沢のライフポイントは、俺が未だに初期ライフなのに対して、1100という四分の一程度のライフとなった。

「……ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! 《ソーラー・エクスチェンジ》を発動し、ライトロードを捨てて二枚ドローし、デッキから二枚墓地に送る」

 ライトロードシリーズの特権とも言える、高速のデッキ圧縮魔法が発動され、三沢のデッキが二枚も墓地へと送られていく。
さっきの《手札断殺》の時も入れて、三沢の墓地に着々と墓地にカードが貯まっていく。

「墓地の《スリーピー・ビューティー》の効果! 手札のアンデット族モンスターのレベルを1下げる。それが墓地に二体! よって、このモンスターをリリース無しど通常召喚出来る! 出でよ、《砂塵の悪霊》!」

砂塵の悪霊
ATK2200
DEF1800

 砂を手足のように自由自在に操る妖怪、砂塵の悪霊がフィールドに現れるとともに、どこからともなく砂塵が舞い散ってきた。

「砂塵の悪霊が召喚に成功した時、相手のフィールド場のモンスターを破壊する!」

 空を漂っていた砂がニトロ・ウォリアー目掛けて向かっていき、砂嵐が収まる時にはもうニトロ・ウォリアーの姿はそこには無かった。

「そしてバトルだ! 砂塵の悪霊でダイレクトアタック!」

「《速攻のかかし》を捨ててバトルを無効にする!」

 丸太のような形となった砂を手札から飛び出したかかしが全て防ぎきり、俺には一発も攻撃が届くことはなく、バトルフェイズが終了する。

「やはりあったか。砂塵の悪霊を手札に戻し、ターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにも何もないが、三沢のフィールドにもモンスターはおらずリバースカードが一枚だけ。
砂塵の悪霊のスピリット故のデメリット効果によって砂塵の悪霊は手札に戻ってしまったが、墓地の《スリーピー・ビューティー》がある今では、ただ手札へと緊急避難をしたにすぎないように見える。

「魔法カード《貪欲な壺》を発動し、デッキから五枚のモンスターを墓地に戻し、二枚ドロー!」

 汎用ドローカードによって二枚ドローし、今ドローしたカードも併せて次なる手を考え、一枚のカードをデュエルディスクにセットした。

「俺は《レスキュー・ウォリアー》を召喚!」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 レスキュー隊の格好をした機械戦士が召喚され、そのままがら空きの三沢にポンプを向けた。
三沢自身からフィールドを空けたのだから、あのリバースカードは十中八九こちらの攻撃を防ぐカードだろうが、それでも攻撃をしない訳にはいかないだろう。

「バトル! レスキュー・ウォリアーで三沢にダイレクトアタック!」

「リバースカード、《レインボー・ライフ》を発動する!」

 《ガード・ブロック》やら《攻撃の無力化》だったら良かったものを、手札を一枚捨てて、攻撃力分のライフを回復する罠カード《レインボー・ライフ》。
その効果によってレスキュー・ウォリアーの放った水流は、そのまま三沢のライフポイントへと変換される。

三沢LP1100→2700

「ならばメインフェイズ2、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ライフが回復されることは想定外だったが、このターンの三沢への攻撃は防がれることは前提なのだ、いつまでも後悔してはいられない。

「もちろん俺は、《砂塵の悪霊》を召喚!」

 砂塵の悪霊が召喚されると共に再び砂が舞い上がるが、その召喚を俺は止める術は持ち合わせていない。

「砂塵の悪霊の効果により……」

「《エフェクト・ヴェーラー》を発動!」

 先程のターンで赤鬼の効果を無効にしたエフェクト・ヴェーラーが、再び手札から飛びだして砂塵の悪霊を包み込み、その砂を操る効果のほとんどを奪った。

「もう使ったからって油断してたか? 《貪欲な壺》で回収させてもらった」

「くっ……ならば砂塵の悪霊でレスキュー・ウォリアーに攻撃!」

 エフェクト・ヴェーラーがその効果を奪ったとはいえ、その砂を操る能力を全ては奪えず、砂の弾丸をレスキュー・ウォリアーに発射して来た。

「リバースカード《攻撃の無力化》を発動!」

 もはや効果を説明するまでもない罠カードに、砂塵の弾丸はそのまま時空の穴に吸い込まれた。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 砂塵の悪霊は、《エフェクト・ヴェーラー》に効果を無効にされたせいで手札に帰還できず、そのままフィールドに残って砂を舞い上がらせ続けていく。

「俺は《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 金色のロードローラーを模したチューナーモンスターが召喚され、レスキュー・ウォリアーを包み込む光の輪となるべく、その車輪を限界まで回し始める。

「レベル4の《レスキュー・ウォリアー》に、自身の効果でレベル2となった《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 ロード・シンクロンの車輪が限界以上の速度で回転すると、その身体が光の輪となってレスキュー・ウォリアーを包み込んでいった。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

グラヴィティ・ウォリアー
ATK2100
DEF400

 シンクロ召喚されて空中から出現し、大地に伏すようにして重力の闘士《グラヴィティ・ウォリアー》が着地した。

「グラヴィティ・ウォリアーは、お前のフィールドのモンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 三沢のフィールドには《砂塵の悪霊》が一体しかいないため、攻撃力は僅かに300ポイントでしか無いが、砂塵の悪霊を破壊するにはこれで充分だ。

「バトル! グラヴィティ・ウォリアーで砂塵の悪霊を攻撃! グランド・クロス!」

 グラヴィティ・ウォリアーが重力を増した鋼鉄の爪を砂塵の悪霊へと振り下ろし、その身体を引き裂いて砂塵の悪霊を破壊した。

三沢LP2700→2500

 三沢のライフポイントへは大したダメージはないが、特殊召喚が出来ないスピリットなのだから、手札に戻されない限りはもう再利用は不可能だ。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 だが《砂塵の悪霊》は三沢の【妖怪】デッキにおいて、まだまだ序の口というべきか、切り札とも言える存在ではない。

「俺はリバースカード《もののけの巣くう祠》を発動し、墓地の《カラス天狗》を蘇生する!」

 自分のフィールド場にモンスターがいない時、墓地からアンデット族モンスターを完全蘇生する罠によって蘇生されるのは、相も変わらず三沢の主力モンスター《カラス天狗》。

「墓地から蘇った時、相手モンスターを破壊する! 悪霊退治!」

 カラス天狗が振りかざした扇はグラヴィティ・ウォリアーを破壊し、俺のフィールドを空にしてみせる。

「更に《牛頭鬼》を召喚し、効果発動! デッキからアンデット族モンスターを墓地に送る」

 俺のフィールドに残る一枚のリバースカードならば、カラス天狗の攻撃を防ぐことは出来たものの、更に召喚された牛頭鬼には顔をしかめるしか無かった。

「バトル! カラス天狗でダイレクトアタック!」

「くっ……」

遊矢LP4000→2600

 俺のモンスターを何体も葬ってきたその扇で、身体を切り裂かれて初のライフポイントへのダメージを受けた。

「続いて牛頭鬼で攻撃!」

「そっちは通さない! 《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にする!」

 しかし、牛頭鬼の巨大な鎚による攻撃は伏せてあった《ガード・ブロック》により防御し、更にカードを一枚ドローする。

「ターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー!」

 戦闘ダメージは受けだが、この程度ならば気にすることなど全くある筈がない。
どちらかといえば問題は、三沢のフィールドにいる妖怪たちの方で、牛頭鬼もカラス天狗も厄介なことこの上ない。

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

『トアアアアッ!』

 《死力のタッグ・チェンジ》によって特殊召喚されたのとは、また別のスピード・ウォリアーが召喚され、その手には徐々に二本の剣が浮かび上がってきた。

「装備魔法《ダブル・バスターソード》を発動! 装備した戦士族モンスターに、二回攻撃と貫通ダメージを付加する!」

 代償として、エンドフェイズ時には装備したモンスターは破壊されてしまうものの、そのデメリット効果を補って余りあるメリット効果。

「バトルフェイズ、スピード・ウォリアーはその攻撃力を倍にする! カラス天狗に攻撃だ、ソニック・エッジ!」

 スピード・ウォリアーがその攻撃力を効果によって倍にまで上昇させ、普段の回し蹴りではなく右手に持ったバスターソードにて、カラス天狗を一閃のもとに切り裂いた。

三沢LP2500→2100

「更に《牛頭鬼》に攻撃! ダブル・ソニック・エッジ!」

 カラス天狗を切り裂いた足でそのまま牛頭鬼に向かっていき、牛頭鬼が返り討ちにしようと振り上げたその鎚ごと、牛頭鬼を一刀両断にした。

「いきなり二体とも倒すか……!」

三沢LP2100→2000

 カラス天狗と牛頭鬼をその二刀で斬り伏せたものの、スピード・ウォリアーはそれでもう力尽きてしまい、倒れて破壊されてしまった。
ダブル・バスターソードを装備したモンスターは、バトルフェイズ終了後に破壊されてしまうのだから。

 心の中でマイフェイバリットカードにお礼を言うと、スピード・ウォリアーのカードを墓地へと送り、代わりにカードを一枚デュエルディスクに入れた。

「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドにはリバースカードが二枚だけで、ライフポイントは残り2600ポイント。
対する三沢のフィールドには何もなく、ライフポイントも2000ポイントと俺より少ない。

 三沢の方が劣勢のように見えるかもしれないが、この程度で終わるようなデュエリストが、アカデミアのナンバーワンになる訳がない。

「俺は通常魔法《光の援軍》を発動! 俺はデッキからカードを三枚墓地に送り、《ライトロード・マジシャン ライラ》を手札に加える!」

 手札交換と墓地肥やしを兼ねるシリーズ、ライトロードのサポートカードが発動し、《ライトロード・マジシャン ライラ》というカードが手札に加えられる。

「更にデッキから墓地に送られた《ライトロード・ビースト ウォルフ》の効果を発動! このカードがデッキから墓地に送られた時、墓地からこのカードを特殊召喚する! 蘇れ、《ライトロード・ビースト ウォルフ》!」

ライトロード・ビースト ウォルフ
ATK2100
DEF300

「なっ……!?」

 不意打ち気味に特殊召喚された《サイバー・ドラゴン》クラスのモンスターに、ついつい驚いた声を出してしまうが、それよりも怖いのは《光の援軍》によって手札に来たライトロードの方だ。

「そして《ライトロード・マジシャン ライラ》を召喚する!」

ライトロード・マジシャン ライラ
ATK1700
DEF200

 援軍に来て早速召喚されるライラ……確かジェネックスの時に、オベリスク・ブルーの友人である取巻が使っていたカード。
その効果は、自身を表側守備表示にすることで相手のリバースカードを破壊する効果……!

「そのリバースカード、破壊させてもらうぞ! ライラの効果を発動し、右のリバースカードを破壊する!」

「ならばチェーンして《シンクロコール》を発動! 墓地のモンスター同士でシンクロ召喚する!」

 俺と三沢の前に墓地から半透明ながらも一時蘇ったのは、パワー・ツール・ドラゴンとエフェクト・ヴェーラー、二体のラッキーカード達がチューニングの態勢に入った。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 パワー・ツール・ドラゴンを炎が包み込み、エフェクト・ヴェーラーも手伝ってその装甲版が外れていき、神話の竜が姿を現し飛翔する。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000に出来る! ゲイン・ウィータ!」

遊矢LP2600→4000

 そのドラゴンが放つ光を浴びてライフポイントが初期ライフへと回復し、ライフ・ストリーム・ドラゴンは三沢のフィールドにいるライトロード達の攻撃力を大幅に超え、このフィールドを制圧する。

「ライフ・ストリーム・ドラゴン……ライラの効果でデッキからカードを三枚墓地に送り、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚されたことで、ライトロード・ビースト ウォルフは攻撃出来ず、しかも特殊召喚したターンなのでそのままの表示形式。
ならばそこを狙わない手はなく、ライフ・ストリーム・ドラゴンの標的は決まった。

「バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、ライトロード・ビースト ウォルフに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「墓地から《タスケルトン》を除外し、バトルを無効にする!」
 ライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾はウォルフに届くことはなく、《馬頭鬼》か《光の援軍》かどっちかは知らないが送られていた、《タスケルトン》によって防がれてしまう。

「……ふう。君に《ネクロ・ガードナー》系統を使うと心臓に悪いな」

 俺がバトルフェイズからエンドフェイズに行ったことを、三沢はデュエルディスクで確認したらしく、少々安心したように息を吐いた。

「残念ながら、《ダブル・アップ・チャンス》は品切れだ。このままターンエンド」

「それは良かった。俺のターン、ドロー!」

 だが俺の手札に《ダブル・アップ・チャンス》が無くとも、三沢の今フィールドにいるライトロードたちでは、ライフ・ストリーム・ドラゴンに適わないのは確かだ。
二体のモンスターが並んでいるという点では不安だが、ライトロードはアンデット族モンスターではないので、三沢の切り札が降臨する心配は無い。

「ならばライトロード・ビースト ウォルフに装備魔法《団結の力》を発動! 俺のフィールドにモンスターは二体、よって攻撃力は1600ポイントアップ!」

 俺がいつだかトレードして斎王戦の時に危機を救ってくれたカードであるが、今回のデュエルでは三沢に力を貸している……本当に、何があるか解らないものだ。

「バトル! ウォルフでライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃!」

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を発動! 墓地の装備魔法《ダブル・バスターソード》を除外し、破壊を無効にする!」

 墓地の装備魔法カードを除外することで、破壊を免れる効果を使ってライフ・ストリーム・ドラゴンはフィールドへと残る。
だが当然ながら、その効果ではダメージまでは防げないが。

遊矢LP4000→3200

「カードを一枚伏せ、ライフの効果で三枚墓地に送りターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 《団結の力》のような、単純に攻撃力を上げる装備魔法カードを期待していたのだが、そうそう上手くはいかないようだ。

「俺は装備魔法《サイクロン・ウィング》をライフ・ストリーム・ドラゴンに装備!」

 攻撃宣言を行った時に相手の魔法・罠カードを破壊する装備魔法、《サイクロン・ウィング》がライフ・ストリーム・ドラゴンに装備される。

「バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンでライラに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの背中についた機械の翼が轟き、攻撃目標はウォルフではなく、厄介な効果を持ったライラの方だ。
そして攻撃宣言とともに背中の《サイクロン・ウィング》が起動し、ウォルフに装備されている団結の力を破壊し、ライラを光弾が貫いた。

 これで次なるターンにウォルフに攻撃されることはなく、ライラで俺のフィールドにあるリバースカードを破壊されることはない。

「ターンエンド」

 これで三沢のフィールドにはウォルフとリバースカードが一枚で、俺のフィールドには《サイクロン・ウィング》を装備した《ライフ・ストリーム・ドラゴン》とリバースカードが一枚。

「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動し、二枚捨てて二枚ドロー! ……《酒呑童子》を召喚!」

酒呑童子
ATK1500
DEF800

 俺も愛用している速攻魔法《手札断殺》によって手札を交換した後に、妖怪達を除外することで一枚ドロー出来る妖怪、《酒呑童子》が召喚される。

「そして、酒呑童子の効果で墓地のアンデット族モンスターを除外し一枚ドロー! 更に墓地の《馬頭鬼》を除外して《陰魔羅鬼》を特殊召喚!」

 《酒呑童子》で一枚ドローした後に、墓地から特殊召喚された時に一枚ドローする妖怪《陰魔羅鬼》の登場し、俺は急速に嫌な気配が漂って来ることを感じた。

 下級アンデット族モンスターが二体、そのどちらもライフ・ストリーム・ドラゴンには適わない……これは、三沢の切り札が召喚される……!

「行くぞ遊矢! 妖怪が二体いることで《火車》は特殊召喚出来る! 招来せよ、火車!」

火車
ATK?
DEF0

 妖怪達をその身に宿して移動する巨大な妖怪、火炎車という異名を持った三沢の切り札が炎を纏いながら登場し、その冥界へと通じる入り口を開けた。

「火車が特殊召喚された時、全てのモンスターをデッキに戻す! 冥界入口!」

 火車の冥界へと通じる入口に吸い込まれ、破壊耐性を持っているライフ・ストリーム・ドラゴンだろうと、デッキに戻されては何の抵抗も出来はしない。

「悪いが墓地には送らせてもらう! リバースカード《神秘の中華鍋》を発動し、ライフ・ストリーム・ドラゴンを墓地に送り、攻撃力分ライフを回復する!」

遊矢LP3200→6100

 だがそれもライフ・ストリーム・ドラゴンの効果では、対抗出来ないという話だ、他のカードの力を借りれば墓地に送るぐらいは何とかなる。

「火車の攻撃力はデッキに戻した妖怪×1000ポイント……よって攻撃力は2000ポイント! 火車で遊矢にダイレクトアタックだ!」

「ぐあっ……」

遊矢LP6100→4100

 対抗策は無くダイレクトアタックを受けてしまうが、《神秘の中華鍋》のおかげで未だに初期ライフは盤石だった。

「これでターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンをデッキに戻すのを妨害した理由、三沢も解っているだろうが、その魔法カードは既にこの手の中にある……!

「魔法カード《ミラクルシンクロフュージョン》! 墓地のライフ・ストリーム・ドラゴン、スピード・ウォリアー、お前たちの力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクティス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクティス
ATK3200
DEF2400

 マイフェイバリットカードとライフ・ストリーム・ドラゴンの力が一つとなり、融合召喚されて舞い降りる紫色の竜騎士。
その翼で飛翔しながら槍を振りかざすその姿は、相手の火車の姿もあいまって、妖怪を倒す勇者のように感じられる。

「バトル! ドラゴエクティスで火車に攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

「つっ……」

三沢LP2000→800

 今回の火車自体の攻撃力が高くないのも手伝って、ドラゴエクティスが投げた槍に火車は木っ端微塵に破壊されていた。

「よし! カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! 《貪欲な壺》を発動して二枚ドロー!」

 汎用ドローカードを使用してドローする枚数を増やすと、三沢はドローしたカードではなく、自身の墓地へと視線を向けた。

「俺は墓地にいるモンスター《ゾンビキャリア》の効果を発動! 手札を一枚デッキの一番上に置くことで、このカードを特殊召喚する! 蘇れ、チューナーモンスター《ゾンビキャリア》!」

ゾンビキャリア
ATK400
DEF200

「チューナーモンスターだと!?」

 墓地からコスト一枚で特殊召喚というのも驚いたが、それ以上に驚いたのは三沢の言った『チューナーモンスター』という点。
まさかここに来て、三沢はシンクロ召喚という、新たな力を使い始めたというのか……!

「シンクロ召喚か……!」

「遊矢。チューナーモンスターの使い方はシンクロ召喚だけじゃない。魔法カード《ミニマム・ガッツ》の効果を発動! ゾンビキャリアをリリースし、ドラゴエクティスの攻撃力を0にする!」

 あっさりとゾンビキャリアは、ドラゴエクティスの攻撃力を0にする為に《ミニマム・ガッツ》のコストにされた……どうやら、三沢はその特殊召喚効果に目を付けただけのようだ。

 いや、そんなのん気にゾンビキャリアのことを考えている場合ではなく、《ミニマム・ガッツ》の効果によってドラゴエクティスの攻撃力は0……!

「そして《聖者の書-禁断の呪術》を発動し、お前の墓地の《シールド・ウォリアー》を除外して、閻魔の使者《赤鬼》を特殊召喚する!」

 そしてこんな絶妙に最悪のタイミングで赤鬼が特殊召喚され、墓地に残していた《シールド・ウォリアー》も除外されてしまう。

「バトル! 赤鬼でドラゴエクティスに攻撃! 鬼火!」

 赤鬼からこれまでにないぐらいの火力の炎がドラゴエクティスに吐かれ、ドラゴエクティスの全身に炎が回るとそのまま竜騎士は崩れ落ちた。

「ドラゴエクティス……リバースカード《ダメージ・ダイエット》! 全てのダメージを半分にする!」

 ドラゴエクティスに対して祈りを捧げるよりも早く、まずはリバースカードの発動を優先すると、薄い半透明のバリアが俺を覆った。

遊矢LP4100→2700

 俺のデッキのモンスターで最強を誇るドラゴエクティスは破壊され、しかも《ミニマム・ガッツ》の恐ろしいところはこれからだ。

「《ミニマム・ガッツ》が適用されたモンスターが破壊された時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「ぐあああっ……!」

遊矢LP2700→1100

 《ダメージ・ダイエット》によって半透明のバリアが張られているとはいえ、それでもまだ痛いダメージが俺を襲い、ライフポイントを危険域まで落としていく。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 三沢のフィールドには閻魔の使者《赤鬼》が一体にリバースカードが二枚、ライフポイントが残り800ポイント。
俺にはフィールドも何もなく、ライフポイントは残り1100。

「……三沢。このターンで決着をつける!」

「確かに、そろそろヘリの発進時間だからな。俺の次のターンで終わらせよう」

 どちらももう今までのターンで余力はなく、残りの力を使いきろうとしているのだ。

「まずは速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動し、除外ゾーンから墓地に三枚カードを送る」

 まずは手始めの速攻魔法を使うと、このターンで決着をつけるべく、二枚のカードをデュエルディスクにセットした。

「カードをセットし、魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊し、二枚のカードをドローする!」

 一見ただの手札の補強ではあるけれど、むしろこのセットカードの破壊がメインというのは……なに、三沢は俺以上に解っていることだろう。

「破壊したカードは解ってるだろうが《リミッター・ブレイク》! よって墓地から、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

 マイフェイバリットカードが颯爽と登場すると、その前に突如として暗雲が立ち込み始めた。
そしてその暗雲の中には、三沢のエースカードの主たる、閻魔大王の姿……!

「やはりスピード・ウォリアーを出して来たな、遊矢。リバースカード《閻魔の裁き》! 妖怪を五種類墓地から除外することで、特殊召喚したモンスターを破壊してデッキから《赤鬼》を特殊召喚する!」

 《リミッター・ブレイク》で蘇生されたスピード・ウォリアーは、閻魔大王が発した業火にその身を焼かれてしまい、その後には赤鬼が一体増えているのだった。
マイフェイバリットカードの特殊召喚は止められ、三沢のエースカードが一体増えるという最悪の状況……!

「どうだ遊矢、スピード・ウォリアーの召喚を防がれてしまっては、さしものお前でもどうしようもないだろう?」

「確かにな……だが、スピード・ウォリアーの特殊召喚の方法は山ほどある! 通常魔法《狂った召喚歯車》を発動! 墓地にいる攻撃力1500以下のモンスターと、その同名モンスターを特殊召喚する! 来い、スピード・ウォリアー!」

『トアアアアッ!』

 新たに特殊召喚される三体のスピード・ウォリアーに、今度は閻魔大王様の裁きが来る様子はなく、フィールドに特殊召喚することに成功する。

「くっ、召喚させてしまったか……!」

「スピード・ウォリアーは、俺のデッキの中核だからな。……お前も良く知ってるだろう?」

 さて、スピード・ウォリアーが三体特殊召喚出来たとなれば、こちらの思う通りの行動が出来る。
手札にある装備魔法カードは《団結の力》――特殊召喚した方法こそ違うが、この学園に入学してきた時と同じような状況だと思いだした。

「俺は装備魔法《団結の力》を装備。そして、墓地の《神剣-フェニックスブレード》も効果によりサルベージして装備し、バトル! スピード・ウォリアーで赤鬼に攻撃!」

 俺のフィールドにいるモンスターはスピード・ウォリアーが三体――よって、装備されたスピード・ウォリアーの攻撃力は、《神剣-フェニックスブレード》も入れて3600と、優に赤鬼の攻撃力を超えて三沢のライフポイントを0に出来る。

「終わりだ三沢! ソニック・エッジ!」

「……いや、お前が終わりだ! 速攻魔法《聖水の弊害》を発動!」

 神剣-フェニックスブレードを振り上げて、赤鬼に斬りかかろうとしていたスピード・ウォリアーに聖水がかかると、突如として神剣-フェニックスブレードが破壊された。
いや、神剣-フェニックスブレードではなくスピード・ウォリアーを包んでいた、《団結の力》までもがスピード・ウォリアーから消えている……!

「今発動した速攻魔法《聖水の弊害》は、フィールドのモンスターの攻撃力を全て元に戻し、装備魔法カードを破壊するカード! これにより、スピード・ウォリアーの攻撃力は元々の900!」

 三沢の最後のリバースカード《聖水の弊害》は、まさに起死回生の一手というのに相応しく、今まさに赤鬼に攻撃しようとしているスピード・ウォリアーの攻撃力は僅か900。
今更攻撃をストップするなど出来るはずもなく、赤鬼の反撃を喰らったら俺のライフポイントは0となる。

「反撃だ赤鬼! 鬼火!」

 このデュエル・アカデミアでの最後のデュエルは三沢の勝利に終わり、三沢は勝利とともにこの学園を去ることになる……筈がない!

「手札から速攻魔法《イージーチューニング》を発動! 墓地のチューナーモンスターを除外し、その除外したモンスターの攻撃力分、指定したモンスターの攻撃力をアップする!」

「なに、まだ策があったか……だが、どのチューナーモンスターだろうと赤鬼と俺のライフは突破出来ないぞ、遊矢!」

 確かにチューナーモンスターとは平均すると攻撃力が低く、レベル1のチューナーに至っては攻撃力が0という、この場合問題外の数値だ。
だが俺は、この状況を逆転し得るモンスターを墓地から三沢に見せるため、ひとまず手に持って掲げてみせた。

「俺が除外するのはチューナーモンスター、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 《波動竜騎士 ドラゴエクティス》の融合召喚の為に除外されていた《スピード・ウォリアー》を回収した《異次元からの埋葬》だったが、その時に同時に墓地に送ったカードが、この《ライフ・ストリーム・ドラゴン》。
シンクロモンスターではあるがれっきとしたチューナーモンスターで、チューナーモンスターとしては破格の2900という攻撃力を持ったライフ・ストリーム・ドラゴン。

 つまりスピード・ウォリアーの攻撃力は、3800……!

「ライフ・ストリーム・ドラゴン、とは……やられたな」

「閻魔の使者を蹴散らせ! ソニック・エッジ!」

三沢LP800→0

 ファイナルターンは小さいながらも逆転劇の様相を呈し、スピード・ウォリアーが赤鬼を突破して三沢のライフポイントを0にした。

「よっしゃあ! ……楽しいデュエルだったぜ!」

「……結局最後まで、お前には適わなかったか」

 そう言って心なしか寂しそうにデュエルディスクをしまう三沢に、近づいていって声をかけた。

「だったらちょっと待ってろよ。……お前が一足早く行こうが、俺は絶対に追いつくからな」

 親友は一足先にデュエル・アカデミアから去ってしまうが、いつかは絶対に俺も追いついてみせる……だからその時は、またデュエルしようという約束を。

「これで学園に帰りにくくなったな。……早く来いよ、遊矢」

「心配はいらないさ、三沢」

 最後に一回力強く握手をすると、三沢はそのまま博士が待つヘリコプターへと乗り込み、発進準備が出来ていたヘリコプターはすぐに学園から飛び上がってしまう。

 俺と明日香は、ヘリコプターが見えなくなるまでその場で見送って、しばらく経つと三沢の乗ったヘリコプターは消えていった。

「……行っちゃったわね」

「……ああ」

 俺のことを影で支えてくれた親友はデュエル・アカデミアを離れていき、生徒全員よりひとまず早く自立することとなった。

 三沢、エド、斎王、吹雪さん、亮――デュエルでも人間としてでも、未だに適わないデュエリスト達はたくさんいるのだと、この一年間は特に思い知らされた。

「……強くならなきゃな、明日香を守れるぐらい……」

「何か言った、遊矢?」

 決意表明も限界まで小声で言ったおかげで、隣にいた明日香にも聞こえずに済んだようで、若干照れ隠しの意味も兼ねて校舎へと歩きだした。

「何でもないさ。それより、ジェネックス見に行こうぜ!」

「あっ、ちょっと待ちなさい遊矢!」



―二年生、了― 
 

 
後書き
前書きに書いた通り、二年生編の完結となりました。

こういう時はいつも感無量なわけなのですけれど、色々まだ課題が多くて困っております……

まだまだ未熟な拙作ですが、あの悪名高き(?)異世界編も頑張っていきますので、どうかよろしくお願いします。

感想・アドバイス待っています。 

 

―大掃除―

 
前書き
第三期、開始……(?) 

 
 国際大会《ジェネックス》も終わって長期休暇に入ったデュエル・アカデミアでは、大分人数が少なくなったものの、例年に比べると結構な人数が学園に残っていた。
何故ならば、オベリスク・ブルーの生徒にはまだ仕事のような物が残っていて、その仕事を果たす為にオベリスク・ブルー生徒が学園に残っているからだ。

 ――そう、オベリスク・ブルー寮のペンキ塗り直しである。

 業者さんに頼んでくれれば良いものを、光の結社に入った生徒たちの自業自得と鮫島校長が判断した結果、万丈目の指揮の元オベリスク・ブルー生徒たちはペンキの塗り直しをしているのである。

 かく言う俺もジェネックス中は光の結社狩りをしていたものの、俺も光の結社に入っていたということで、一緒に帰る筈だったレイと別れてペンキの塗り直しをやっていた。
俺の仕事は主に内部の方の極一部分であり、他の人に比べれば担当面積はかなり狭かったのだが、それでも俺はここを担当したくはなかった。

 俺の担当場所は二つの部屋で、オベリスク・ブルー寮一の魔窟と名高い三沢の部屋と、ジェネックスの時には気づかなかったが……斎王に使われていたせいですっかり改造されている自室だった。
三沢の親友&自分の部屋だから、という理由でこの二つの部屋を押しつけられた俺は、まずは三沢の部屋の掃除をしていた。

「……大体片づいたか」

 所要時間は実に三時間半、それが三沢の数式やらが壁に所狭しと描かれた三沢のペンキ塗りと、研究所に送ってやる私物の整頓にかかった時間だった。
流石に私物は専門の業者さんに任せて送るものの、このままの部屋では業者さんの精神衛生上よろしくなかったので、掃除するついでに纏めておいた。

「さて、次は……俺の部屋か……」

 斎王の手によって使い道の無い謎の地下道が建設された俺の部屋は、他にも装飾品が全て白くなっていたり、呪われそうな占いの用具が収納してあったりという弊害があった。
未だに斎王は療養中であるらしいので、あの占い用具は美寿知の知り合いが取りに来ることになっている。

 肩を落としながら俺の部屋に向かおうとしたところ、三沢の持ち物であるカードフォルダーがポロッとこぼれ落ち、まとめてある場所から床に転がった。
反射的に拾い上げ、そのまま元の場所に戻そうとした時、とある考えが俺の頭を横切った。

 ……見るぐらい大丈夫だろうか、と。

 ジェネックス中に消えてしまった、三沢の代わりに部屋を掃除してやっているのだから、少しだけ三沢のカードフォルダーを見るぐらい良いのではないか……いや、当然の権利だと主張しよう。

 頭の中で勝手に考えを自己完結させておくと、三沢の膨大なカード知識の一片であるだろう、カードがコレクションされているカードフォルダーを開けた。

 開かずとも大量にカードが詰まっていると解る、そこにあったカードたちは……



 白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白――

 俺は根源的な恐怖を感じて反射的にカードフォルダーを閉じると、きっと幻覚でも見たのだろうと結論づけて、深呼吸してからもう一度カードフォルダーを開いた。

 ――魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導師ピケル白魔導――

 ……幻覚ではなかったようだ。

 開けても開けても開けても白魔導師ピケルしかないという、ある意味三沢の部屋以上に、精神に異常をきたしそうなカードフォルダーであった。
もちろん三沢のデッキには、シナジーも何もない白魔導師ピケルがゲシュタルト崩壊しかねないカードフォルダーを、もう一度苦笑いをしつつペラペラとめくり返す。

 本当に白魔導師ピケルしかないカードフォルダーを、俺はこんなものを見なかったことにしようと、そのまま未練もなく閉じ――

「……ああ、いた。遊矢、私も掃除を手伝いに着たんだけど……?」

 ――る前に、すっかり全快した明日香が三沢の部屋の扉を開けて入ってきて、バッチリと白魔導師ピケルのカードフォルダーを眺めている変態の姿を視界に捉えた。

 ……不幸なことにその変態は持ち主ではなく、何故か俺だったのだが。



「へぇ、三沢くんが……何だか意外ね」

 その後しどろもどろになった俺の説明を、じっくりと三回ほど聞いた後に明日香は状況を全て理解してくれ、心底意外そうな表情をしていた。
確かに三沢はモテるのに浮いた話が一つもなく、噂には疎いので俺は知らないものの、三沢の『そういう』話題は噂にすらなったことがないらしい。

「まあ、誰にだってアイドルカードぐらいあるさ」

 アイドルカードとは、効果やステータスなどは全く関係なく、ただただイラストが気に入っているだけというカードの総称である。
一度こんな話になった時、翔は《雷電娘々》と答えたが、十代は良く解っていないようで《バーストレディ》と答えていたことがあった。

「誰にでもって……遊矢にもあるの?」

 明日香のその心から疑問に思っているかのような口調に、俺は自ら墓穴を掘るようなことを言ってしまったのだと気づいた。
下心や後ろめたい気持ちもなく、単純に好奇心で聞いてくる明日香の視線を直視出来ない。

「いや、俺はその……ないさ」

「怪しすぎるわよ、遊矢……でもそう言われると、何だか気になって来たわね」

 墓穴から更に墓穴を掘った俺の一言に対し、何だか明日香の目に炎が灯ったような錯覚を覚え、話を切り上げようと急いで立ち上がった。

「さて、掃除の続きといく……ッ!?」

 急いで立ち上がった衝撃からか神の悪戯か、ポケットからとあるデッキケースが明日香の前へと転がっていく。
いつもの【機械戦士】を入れているデッキケースは、俺のベルトにきっちりと保管しているにも関わらず。 

「デッキ? 【機械戦士】じゃないみたいだけど……」

「あ、ああ。新しいデッキなんだ」

 そのデッキを見られたくない事情がある俺は、何とかそのデッキを返してもらおうと、明日香にありがちなことを言った。
だが明日香がとった行動は、三沢の荷物にあったデュエルディスクに、そのデッキを入れて俺に渡そうとすることだった。

「デュエルしない遊矢? 私が勝ったら、あなたはアイドルカードのことを話す。私が負けたら……そうね、後の掃除は私がやるわ。どう?」

 ……どうも何も、明日香の手にあのデッキが握られている時、俺には選択をはねのけることなど出来ようもない……アレはそれぐらい重要なものなのだ。

「……解った、受けよう。だからデッキを返」

「それじゃ決まりね」

 明日香は口早に俺の台詞を被せて、自分のデュエルディスクを準備し、俺にデュエルディスクを渡して少し離れた。
無駄に広いことに定評のあるオベリスク・ブルー寮だ、一組ぐらいのデュエルならば、スペースには余裕があって余りある。

 だがデュエルディスクが戻ればこっちのものだ、早くこのデッキから【機械戦士】に入れ替えさせて――

 ――デッキが抜けない!

 明日香がデュエルディスクを俺に渡す前に、後はデュエルを宣言するだけの状態にしたのだろう、もはやデッキを変えることも適わなかった。

「どうしたの、遊矢?」

 ……やはり明日香も解っていたか、このデッキに何か俺の秘密が隠されていることを……

「……いや、何でもない」

 ……やるしかない……【機械戦士】ではないデッキで明日香に勝てるかは解らないが、俺の未来の為にも勝たねばならないのだ。

『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000

「俺の先攻、ドロー!」

 デュエルディスクは俺に先攻を示し、カードをドローして六枚の手札を見て、一息溜め息をついた。

「……明日香。デュエルの前に言っていた条件を変更したい」

 手札が悪いから、条件を少しでも軽くしてもらおうと思っているわけではなく、手札はこのデッキにしては良い方だ。

「何かしら?」

「お前が負けた時の条件を掃除じゃなくしたい」

 そもそも掃除をしてもらうと言っても、残っているのは俺の部屋であり、そこを任せるわけにはいかなかった。
明日香に向かって指を差すと、胸に秘めていた事を言い放った。

「俺が勝ったら…………明日香、お前は去年のコスプレで明日一日過ごしてもらおう!」

「なっ――――」

 俺の予想だにしていなかったのだろう一言に明日香は絶句した後、去年の姿を思いだしたのか顔を赤らめた。
オシリス・レッドのコスプレデュエル大会……その大会にて明日香は、自身のフェイバリットこと《サイバー・エンジェル-弁天-》のコスチュームを着て、場を大いに盛り上げた。

「なっ、何言って……」

「嫌なら良い。このデュエルを中止するだけだ」

 ……むしろ俺としてはそちらの方が好都合だ、と言いたくなったのを堪えて、顔を真っ赤にした明日香の返答を待った。

「…………良いわ。その条件を飲みましょう。一度やったデュエルだもの、途中で止める訳にはいかないしね」

 ……明日香の性格ならばこうなるだろうと解ってはいたが、結局はデュエルになってしまった為、俺はこのデッキを晒さなくてはならない。

「俺はモンスターをセット! 更にカードを二枚伏せてターンを終了する!」

「その布陣……確かに【機械戦士】じゃないみたいね……私のターン、ドロー!」

 いつになく守備に力を入れた俺の布陣に対し、やはり明日香は違和感を覚え、未知のデッキに対して緊張感を高めた。

「私は《聖騎士ジャンヌ》を召喚!」

聖騎士ジャンヌ
ATK1900
DEF1300

 聖女でありながら鎧を着て最前線に立つ聖騎士、《聖騎士ジャンヌ》が剣を構えながら攻撃の態勢を示し、俺のセットカードの正体を暴かんと様子見で攻撃した。

「バトル! 聖騎士ジャンヌでセットモンスターに攻撃! セイクリッド・ディシジョン!」

 聖騎士ジャンヌが攻撃する時、攻撃力が300ポイントダウンするものの、そんなことは関係なく俺のセットモンスターがその姿を現した。

 ファンタジー世界の基本となる魔法使いのローブを羽織り、緑色の髪の毛をたなびかせながら、その手に持ったロッドで懸命に攻撃を防ぐ――少女。

「……俺のセットモンスターは《風霊使い ウィン》だ!」

 もはや隠し通すことなど出来はしない、ヤケクソ気味にむしろノリノリに、そのモンスターカードの名前を叫んだ。

風霊使い ウィン
ATK500
DEF1500

「ウィ、ウィン……? ……ええと、破壊しなさい《聖騎士ジャンヌ》!」

 明日香の命令は動揺していたものの、聖騎士ジャンヌの剣は揺るぎなく、ロッドを構えて守備の態勢を取っているウィンへと振り下ろされた。
だがその剣が振り下ろされる前に、ウィンを守るように一つのバリアが出現した。

「俺は二枚のリバースカードを発動していた! 一枚目は《ガガガシールド》! 発動後ウィンに装備され、この戦闘では破壊されない!」

 右手にロッドを持左手にガガガシールドを持ったウィンは、聖騎士ジャンヌの攻撃を防ぎながら、更にロッドで次なる呪文を唱えていた。

「そして二枚目のリバースカードは《DNA移植手術》! 宣言する属性はもちろん『風属性』。……よってウィンのリバース効果により、風属性となった《聖騎士ジャンヌ》のコントロールを奪取する!」

 ウィンの呪文によって聖騎士ジャンヌが明日香のコントロールを離れるのを見て、意外なほどコンボが上手くいったのを実感したが、その代償に何か大事なものを失った気がする。

 このデッキは俺の……その、アイドルカードである《風霊使い ウィン》を主軸にしたファンデッキ、【風霊使い ウィン】である。
もちろん趣味だけで作ったので実戦には耐えないし、羞恥心の塊のようなデッキなのだ……

 そんなデッキを使いだした親友の姿を見る、明日香の心境や如何に。

「【コントロール】デッキとはね……やられたわ。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 ……どうやら俺が本当に、【コントロール】デッキを組んだのだと考えたようだ……大丈夫だろうか、このデュエル馬鹿は。

「……あ、ああ。カードが足りなくてウィンを使ってるがな。俺のターン、ドロー!」

 明日香のデュエル馬鹿さ加減と隠れ天然具合に感謝すると、出来れば【コントロール】デッキと隠し通せますように、と祈りながらカードを引いた。

「……バトルだ、聖騎士ジャンヌでダイレクトアタック! セイクリッド・ディシジョン!」

「伏せてある《ガード・ブロック》を発動し、戦闘ダメージを0にして一枚ドロー!」

 残念ながらアタッカーをドローすることが出来ず、聖騎士ジャンヌの攻撃は明日香の前に出現したカード達に防がれ、一世一代のチャンスを逃した気がする。

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 明日香のフィールドにはリバースカードが一枚だけだが、まだデュエルは始まったばかりだ、手札はまだまだ潤沢にある。

「私は《融合》を発動! 手札の《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 明日香の融合のフェイバリットカード、サイバー・ブレイダーがフィールドを滑りながら融合召喚され、俺は自分のモンスターの数を見て歯噛みした。

「相手のモンスターの数が二体の時、このモンスターの攻撃力は倍になる。パ・ド・カドル!」

 これでサイバー・ブレイダーの攻撃力は、何も装備していないモンスターとしては規格外の4200となり、早くもこのフィールドを制圧する。
不安定ながらも三つの強力な効果を持つ明日香のエースモンスターが、コントロールを奪った聖騎士ジャンヌへと牙をむいた。

「バトル! サイバー・ブレイダーで聖騎士ジャンヌを攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

「ぐああっ……!」

遊矢LP4000→1700

 サイバー・ブレイダーの鋭い蹴りで聖騎士ジャンヌはあっさりと破壊され、俺のライフポイントの半分を容易く削りきった。

「ターンエンドよ!」

「俺のターン、ドロー!」

 最近はジェネックスやら斎王関係のデュエルばかりをしていたこともあって、少しばかり久しぶりの明日香とのデュエルは、やはり楽しいものだ。

 ……デッキがこんなでも、だ。

「俺は《暗黒プテラ》を守備表示で召喚!」

 剣山が《超進化薬》のコストに使っていた翼竜が、俺のフィールドに翼を畳んで守備表示を示しながら召喚される。
これで俺のフィールドのモンスターは二体となり、サイバー・ブレイダーの攻撃力は再び4200となる。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 明日香はカードをドローしたものの、どうやら俺にトドメを刺せるカードではなかったらしく、手札に加えてからサイバー・ブレイダーに命令を下した。

「バトル! サイバー・ブレイダーで……」

「リバースカード、《風霊術-雅》を発動!」

 攻撃しようとしたサイバー・ブレイダーの前に、風霊使い ウィンがロッドを持って立ちはだかると、暗黒プテラを一陣の風としてサイバー・ブレイダーへとぶつけた。

「暗黒プテラをコストに、サイバー・ブレイダーをデッキの一番下に送る!」

 三沢の切り札《火車》と同じように、デッキの中へと送るという最大の除去に、サイバー・ブレイダーであろうと第一の効果の時では耐えられはしない。

「暗黒プテラの効果により、暗黒プテラを手札に戻す」

「くっ……私は《サイバー・プチ・エンジェル》を守備表示で召喚!」

サイバー・プチ・エンジェル
ATK600
DEF900

 機械化《プチテンシ》とでも言うべきサポートカードにより、明日香は自身のデッキのキーカードをデッキからサーチする。

「サイバー・プチ・エンジェルが召喚された時、デッキから《機械天使の儀式》を手札に加えるわ。……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《ガガガシールド》を装備したウィンしかいないが、明日香のフィールドとて《サイバー・プチ・エンジェル》しかいない。
それに俺のウィンはこのターン、新たな呪文によって明日香へと攻勢に出る……!

「俺は《暗黒プテラ》を召喚! そして《風霊使い ウィン》と《暗黒プテラ》を墓地に送ることで、ウィンに憑依装着する! デッキから《憑依装着-ウィン》を特殊召喚!」

憑依装着-ウィン
ATK1850
DEF1500

 ウィンはまたも《暗黒プテラ》を触媒に、自身の使い魔たる《プチリュウ》を召喚すると、自分の腕に風と共に憑依装着という呪文で装着する。
当然《暗黒プテラ》は、戦闘以外によって墓地に送られたため、そのまま俺の手札へと戻る。

「この効果で特殊召喚されたウィンは貫通効果を得る! バトルだ、憑依装着-ウィンでサイバー・プチ・エンジェルに攻撃!」

 腕に装着されたプチリュウから放たれた風圧に、サイバー・プチ・エンジェルを貫通して明日香にまで威力を届かせた。

明日香LP4000→3150

 ロッドを捨ててプチリュウ砲を持ったウィンが、サイバー・プチ・エンジェルを破壊して俺のフィールドへと戻ってくると……やはりソリッドビジョンは、素晴らしい発明だと再実感した。

「ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

 しかし明日香には《サイバー・プチ・エンジェル》により、キーカードである《機械天使の儀式》が手札にある。
明日香のサイバー・エンジェル達が、このターンにでも儀式召喚されるかも知れないのだ。

「私は《高等儀式術》を発動! デッキから《ブレード・スケーター》を二体墓地に送り、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-荼吉尼-
ATK2700
DEF2400

 俺の予想とは違ったが、最強のサイバー・エンジェルの姿が儀式召喚によって現れ、ウィンに向けてその刃を構えた。

「サイバー・エンジェル-荼吉尼-が特殊召喚された時、相手はモンスターを一体選んで破壊する……あなたのモンスターは一体だけだけどね」

 サイバー・エンジェル-荼吉尼-が八つ手にそれぞれ持っている刃で、憑依装着-ウィンを文字通り八つ裂きにすべく、近づいてきた。

「ああ……! ……ウィン……」

 俺はそれを見ることなど出来よう筈もなく、横を向いている間にウィンの姿は、刃を構えたサイバー・エンジェル-荼吉尼-の前に消えていた。
しかし効果破壊されたウィンのことを偲んでいる暇もなく、サイバー・エンジェル-荼吉尼-の刃は、今度は俺に対して向けられた。

「バトルよ! サイバー・エンジェル-荼吉尼-でダイレクトアタック!」

「リバースカード《ダメージ・ダイエット》を発動! 戦闘ダメージを半分に……ぐあっ!」

遊矢LP1700→450

 恐らくはウィンと同じように――いやいやきっと違う――サイバー・エンジェル-荼吉尼-の刃に切り刻まれ、俺のライフは《ダメージ・ダイエット》のバリアがあっても、もうライフポイントに後がない大ダメージとなった。

「ふふ、私はこれでターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のデッキに残るは永続罠《DNA移植手術》のみで、明日香のフィールドには《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》にリバースカードが一枚と、圧倒的に俺が不利……

「俺はカードをセットし、魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》を発動! 今セットしたカードを破壊し、二枚ドロー! ……さらに破壊したカードは《フライアのリンゴ》。このカードは破壊された時、一枚ドロー出来る」

 いつもならばマイフェイバリットカードの出番だが、今回は大人しく手札増強に務めると、逆転の目が見えるカードをドローした。

「俺はモンスターをセット! そして通常魔法《太陽の書》を発動! セットモンスターを表側表示にし、当然このモンスターは《風霊使い ウィン》!」

 二回目の登場となるこのデッキのキーカード……いや、存在意義であるウィンはロッドを構え、サイバー・エンジェル-荼吉尼-のコントロールを奪うべく呪文を詠唱をし始めた。

「ウィンの効果を発動! サイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果を奪わせてもらう!」

「それを待ってたわ。チェーンして伏せてあった《サイクロン》を発動! 《DNA移植手術》を破壊するわ!」

 明日香の伏せてあったカードから旋風が巻き起こり、俺のフィールドに発動されていた《DNA移植手術》を破壊した。

「なに!?」

 《DNA移植手術》が発動していたからこそ、発揮していたこのコンボであった為、《風霊使い ウィン》のリバース効果も不発となってしまう……低い攻撃力を晒したまま。

「……カードを二枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 サイバー・エンジェルが儀式召喚されるにしても、ある一体が儀式召喚されることを強く願う……それ以外の二体では、ほとんど俺の敗北が決定するようなものだ。

「私は《機械天使の儀式》を発動! 手札の《サイバー・プリマ》を捨てて、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1600

 明日香の儀式のフェイバリットカード、サイバー・エンジェル-弁天-が儀式召喚され、その手に持った二つの扇を構えた。
その効果は戦闘破壊したモンスターの守備力のダメージを与える、というバーン効果で、戦闘ダメージが防がれてもバーンダメージで決着をつけるつもりだろう。

「バトル! サイバー・エンジェル-弁天-で、風霊使い ウィンに攻撃!」

 再びウィンが破壊されてしまう状況に陥ってしまったが、今度は目を逸らさずに攻撃してくるサイバー・エンジェル-弁天-を見据え、俺はウィンの前に立って代わりに攻撃を受けた。

「えっ!?」

 明日香が驚愕の声を挙げるものの、俺に庇われたウィンが唱えた呪文によって、俺の前には二種類のバリアが形成されていた。

「二枚のリバースカード《スピリットバリア》に《アストラルバリア》! 俺のフィールドにウィンがいる限り、明日香、お前の攻撃は届かない」

 アイドルカードのファンデッキには必須とも言うべき二種類のバリアに、サイバー・エンジェル-弁天-の攻撃はウィンに届きはしない。
もしも儀式召喚されていたのが、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》ならウィンは効果破壊されてしまい、《サイバー・エンジェル-韋駄天》なら《サイクロン》を回収されてバリアの片方が破壊されてしまっただろう。

 感謝することではないが、サイバー・エンジェル-弁天-には少しだけ感謝しておこう。

「……私はターンを終了するわ」

「俺のターン、ドロー!」

 しかし、いつまでもこのバリアが破られない筈もなく、これではただの時間稼ぎにしか過ぎない。

「俺は《プチリュウ》を召喚!」

プチリュウ
ATK600
DEF700

 もはや【コントロール】デッキとは何ら関係もないが、やはり【風霊使い ウィン】デッキとしては、使い魔であるこのモンスターも投入すべきだろう。

「……プチリュウ?」

「こう使うのさ。通常魔法《馬の骨の対価》を発動! プチリュウを墓地に送って二枚ドロー!」

 若干、このデッキのことを疑問に思ったような明日香を納得させつつ、俺はプチリュウを墓地に送って二枚ドローする……良し。

「俺は速攻魔法《月の書》を発動し、ウィンを裏側守備表示にする。そして《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に装備魔法《幻惑の巻物》を装備する!」

「……しまったわね」

 《DNA移植手術》以外にも、相手の属性を変える手段はある――明日香のフィールドのサイバー・エンジェル-荼吉尼-に巻物が巻かれて属性が再び《風》となり、先程裏側守備表示にしたウィンの効果の対象外となる。

「ウィンをリバースして効果発動! サイバー・エンジェル-荼吉尼-のコントロールを奪わせてもらう!」

 最強のサイバー・エンジェルこと《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》のコントロールを奪い、その攻撃力は明日香へと向けられる……使っていて何だが、俺は【コントロール】は使うのも使われるのも好きじゃない。レイの《恋する乙女》のような笑えるものなら良いのだけれど、どうも自分や相手の好きなカードを奪われるというのは嫌いだった。

 ……効果を度外視して好きなカードこそ、アイドルカードなのだが。

「バトル! サイバー・エンジェル-荼吉尼-で弁天を攻撃!」

「くう……」

明日香LP3150→2250

 サイバー・エンジェル同士が攻撃しあうことになり、俺のフィールドのサイバー・エンジェル-荼吉尼-が、明日香のサイバー・エンジェル-弁天-を切り裂いた。
最強のサイバー・エンジェル、という名は伊達ではないということか……そしてまだ、俺の攻撃は終わっちゃいない。

「ウィンで明日香にダイレクトアタック!」

 ロッドを構えて呪文を唱えると、風がカマイタチとなって明日香を襲い、少しながらも確実にダメージを与えていく。

明日香LP2250→1750

「カードを二枚伏せてターンエンド!」

「……私のターン、ドロー!」

 ウィンは攻撃表示のままだけれど、二種類のバリアに加えて二枚のリバースカードもある……恐らくは問題ないだろう。

「私は《貪欲な壺》を発動し、二枚ドロー……《高等儀式術》を発動! デッキの《ブレード・スケーター》を墓地に送って、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

 汎用ドローカードの使用からの《高等儀式術》により、俺のフィールドにいる個体と鏡のように同じモンスター、サイバー・エンジェル-荼吉尼-が儀式召喚される。
俺のフィールドにいるモンスターと違うところと言えば、特殊召喚時に発動する効果を、すかさず発動しようとしていることだろうか。

「解ってると思うけど、サイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果を発動! 特殊召喚した時、相手はモンスターを一体選んで破壊するわ!」

「……俺は《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を破壊する」

 せっかくコントロールを奪ったサイバー・エンジェル-荼吉尼-だったが、同じモンスターに破壊されて明日香の元へと戻っていってしまう。
この効果でウィンを破壊されるわけにはいかなかった……いや、好き嫌いとかそういうことではなく、ウィンの効果の関係上だ。

「バトル……したいどころだけど無駄ね。このままターンエンド」


「俺のターン、ドロー! 速攻魔法《手札断殺》を発動してお互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 愛用の手札効果カードによって二枚捨てて二枚ドローし、何とかサイバー・エンジェル-荼吉尼-を処理する手段を思いつく。

「俺は《ターボ・シンクロン》を召喚!」

ターボ・シンクロン
ATK100
DEF500

 緑色のF1カーを模したチューナーモンスターの登場となったが、今この状況でシンクロ召喚をする気は毛頭ない。
エクストラデッキは【機械戦士】と共有しているので、ウィンとチューニングすれば、一応《アームズ・エイド》をシンクロ召喚することは出来るが。

「リバースカード、オープン! 《チューナー・ボム》! 俺のフィールドのチューナーモンスターを墓地に送り、その数と同数の相手モンスターを破壊し、破壊した数×1000ポイントのダメージを与える!」

 俺のリバースカードの発動と共に、ターボ・シンクロンがサイバー・エンジェル-荼吉尼-に突撃して爆発し、その誘爆は明日香にまで及んでいく。

「くっ……墓地から《ダメージ・ダイエット》を除外し、効果ダメージを半分にするわ!」

明日香LP1750→1250

 俺の《手札断殺》によって墓地に送られたのだろう、《ダメージ・ダイエットによる薄いバリアが明日香を包み込み、チューナー・ボムによるダメージを半分にした。

「まだだ! ウィンでダイレクトアタック!」

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外して攻撃を無効にする!」

 ……結果論でありどうしようもなかったのだが、どうやら《手札断殺》を使用したのはミスだったようで、俺の攻撃は明日香の墓地からことごとく防がれた。

「……ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには攻撃表示のウィンが一体とリバースカードが一枚、そして俺とウィンの身を守る二種類のバリア、《スピリットバリア》と《アストラルバリア》。
対する明日香はリバースカードもなく、手札消費が荒いためにそろそろ息切れする頃か。

「私は《エトワール・サイバー》を守備表示で召喚」

エトワール・サイバー
ATK1200
DEF1600

 明日香の融合のフェイバリットカード、《サイバー・ブレイダー》の融合素材モンスターが守備表示で召喚され、そのまあまあ高い守備力で明日香を守る。

「ターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 さて、エトワール・サイバーの守備力はリクルーターを防ぐ程度ではあるが、それでもウィンの攻撃を止めるには充分すぎる程だ。

「ウィンを守備表示に。ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 千日手のような状況に陥ってしまったものの、この千日手は明日香が《サイクロン》に類するカードを引けば、それで終わりという不安定なものだ。

「私は《思い出のブランコ》を発動し、墓地から《ブレード・スケーター》を特殊召喚! そして魔法カード《馬の骨の対価》を発動し、墓地に送って二枚ドロー!」

 あわや《サイバー・ブレイダー》再登場かと思ったが、そうではなくドローソースとして利用され、《ブレード・スケーター》は再び墓地に送られる。
……個人的には二枚ドローよりも、《サイバー・ブレイダー》の融合召喚の方が遥かに良かったのだが。

「……《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚し、効果によってデッキから《機械天使の儀式》を手札に加えて発動! フィールドの《エトワール・サイバー》と《サイバー・プチ・エンジェル》をリリースし、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

 またもや儀式召喚されるサイバー・エンジェル-弁天-だったが、先の儀式召喚よりも俺は更に警戒を強めていた。
何故ならば、今このタイミングで儀式召喚する理由で考えられるのは、明日香の攻撃の準備が整ったからではあるまいか。

「いくわよ遊矢! 魔法カード《大嵐》を発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

 遂に発動されてしまう全体除外魔法《大嵐》に、俺の生命線となっていた二種類のバリアは破壊され、残るもう一枚のリバースカードも破壊されてしまう。

「だが、破壊されたリバースカード《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから《スピード・ウォリアー》を守備表示で特殊召喚する! 来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 いくらアイドルカードがウィンだろうと、マイフェイバリットカードはこのスピード・ウォリアーだ、もちろんデッキには投入したものの……この状況でどうするか。

「スピード・ウォリアー……関係ないわ、バトル! サイバー・エンジェル-弁天-で、風霊使い ウィンに攻撃! エンジェリック・ターン!」

 その名の通り舞うような扇での連撃がウィンに迫り、破壊すれば弁天のバーン効果によって俺は敗北する。
……敗北するとか関係なく、ウィンは破壊させるわけにはいかないが!

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、戦闘破壊を無効にする!」

 《手札断殺》を明日香だけに利用される訳もなく、《シールド・ウォリアー》がサイバー・エンジェル-弁天-からウィンを守り抜いて除外され、何とかウィンと俺のライフは繋ぎ止められた。

「防がれるなんて……カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のやるべきことは、明日香の攻撃を凌ぎきった時にもう決まっている……ファイナルターンだ……!

「俺はウィンとスピード・ウォリアーを墓地に送り、《憑依装着-ウィン》をデッキから特殊召喚する!」

 マイフェイバリットカードとアイドルカード、形は違えども二種類のモンスターが力を併せ、風霊使い ウィンが最高の力を発揮する。
その攻撃力は50と言えどもサイバー・エンジェル-弁天-を超え、特殊召喚と共に、フィールドには風が吹きすさんでいた。

「更に通常魔法《アームズ・ホール》を発動し、デッキから一枚墓地に送って《ニトロユニット》を手札に加え、《サイバー・エンジェル-弁天-》に装備する!」

 《アームズ・ホール》の通常召喚出来なくなるデメリットなどもはや関係なく、サイバー・エンジェル-弁天-に一撃必殺の威力を誇る爆薬《ニトロユニット》が装備される。

「バトル! 憑依装着-ウィンでサイバー・エンジェル-弁天-に攻撃! スピード・ウォリアーの力を借り、ソニック・エッジ!」

 ウィンの腕に装着されたようなプチリュウから、風となったスピード・ウォリアーが発射されて、サイバー・エンジェル-弁天-の胸元にある《ニトロユニット》を破壊せんと向かっていく。

「リバースカード、オープン! 《ドゥーブルパッセ》! その攻撃を私のダイレクトアタックにするわ!」

「……なっ!?」

 そこで明日香が使用したのはクセの強すぎる罠カード《ドゥーブルパッセ》で、スピード・ウォリアーの攻撃はサイバー・エンジェル-弁天-ではなく、そのまま明日香へと向かっていく。
憑依装着-ウィンのダイレクトアタックを受ければ、《ドゥーブルパッセ》の第二の効果を発動するまでもなく、明日香の敗北が決定するのだが……?

 ……と、不審がっている俺の前で、急激に風と一体化していたスピード・ウォリアーが小型化していった。

「二枚目のリバースカード、《ミニチュアライズ》! 憑依装着-ウィンの攻撃力を1000ポイント下げるわ! ……きゃっ!」

明日香LP1250→400

 指定した相手モンスターの攻撃力を1000ポイント下げる罠、《ミニチュアライズ》――その効果に指定された憑依装着-ウィンには、明日香のライフポイントを0にすることは出来なかった……ウィンがミニチュアライズされたのも見てみたかった気もしたが、残念ながらミニチュアライズしたのは攻撃そのものだった。

「《ドゥーブルパッセ》の効果により、遊矢にダイレクトアタック! これで終わりよ、エンジェリック・ターン!」

 そんな邪な考えを持っていた天罰のように、俺はサイバー・エンジェル-弁天-の扇に切られた後、ご丁寧に返却された《ニトロユニット》で爆発するのだった……

「うおおおおおっ!?」

遊矢LP450→0


 三沢の部屋で軽く大爆発を起こして倒れた俺に、明日香は優しく手を差し伸べた後にこう言った。

「デュエル前の約束……覚えてるわよね?」

 その時の明日香の笑顔は、負けても良かったと若干思ってしまう程の笑顔だったと、ここに追記しておく。

 ……この後「サボるな」と万丈目に俺だけが怒られたのは言うまでもない。 
 

 
後書き
お ま け

明日香「そう言えば遊矢。このデッキ【風霊使い ウィン】デッキなのに、関連カードの《吹き荒れるウィン》が入ってないけれど……」

遊矢「アレは良いんだ」

明日香「……そうなの。何故かしら?」

遊矢「何でもさ」

……第三期開始に何でこんなデュエル書いたし。

感想・アドバイス待ってます。 

 

―三年生、開始―

 ジェネックスやらオベリスク・ブルーのペンキ塗り直しやら長期休暇やら、色々なことが終わって、俺たちは遂に三年生を迎えた。
『これから』に向けて大事なこの時期に、今年ばかりは変なイベントに巻き込まれるのは御免だと思っているが……また何か起こらないかワクワクしている自分がいるのも事実である。

 まあ二年生の時と同じように、俺たちの周りには大して変化は――無くもないが、そう劇的に日常が変わることなど早々ない。

 そんな新学期だったが、俺はいつもの池で釣り竿を垂らしてボーッとしていた。
始業式の時間になるまでの暇つぶしのつもりで始めたのだけれど、やはりというべきか熱中しすぎてしまい、ふと時計を見ると始業式の時間が迫っていることに気づいた。

「遊矢、やっぱりここにいたのね。そろそろ始業式よ」

「悪い悪い」

 本校の方から呆れ顔で歩いてきた、明日香に感謝して釣り用具を片付けようとしたものの、釣り竿が池に飲み込まれるぐらいの勢いで引っ張られた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ明日香! 大物だ!」

「まったく……」

 背後で明日香の呆れたような声がしたが、二年間この池で釣りをしてきたにもかかわらず、こんな力で引っ張られるのは初めての経験だった。
太平洋のド真ん中ということで、魚自体は本土よりも元気であるのだが、この池にはそんな力を持った魚などいなかったはずだ。

 釣り上げたいという気持ちと、どんなモノが釣れるのか確かめたいという思いが合わさり、力の限りリールを巻くがそれでは足りないようだ。
釣り竿が池に巻き込まれそうになったその時、俺の手に二つの手が重なって、釣り竿に新たな力が加わった。

「私も手伝うわよ、遊矢」

「ありがとう明日香……今だ!」

 力を貸してくれた明日香と、不思議なほど息のあって釣り竿を引っ張ることが出来、池の中にいる何かを釣り上げることに成功する。

 通常水の中に住んでいる魚というのは、陸上ではその身動きが出来なくなる筈なのだが、その釣り上げたモノは陸上であるにもかかわらずまだ動いていた。
何故ならそれは魚などではなく、長い吻と扁平な長い尾を持ち、背面は角質化した丈夫な鱗で覆われており、眼と鼻孔のみが水面上に露出するような配置になっている――

 緑色の肉食性水棲爬虫類――ワニだったのだから。

「ワニ!?」

 セブンスターズ事件の折りに、森の中で虎とエンカウントした時もそれは驚いたものだが、まさかワニを釣り上げるとは思いもよらなかった。
ワニは釣り上げたこちらを怒っているようで、こちらを見て威嚇しながら徐々に這い寄って来る。

「明日香、ワニって背中見せずに目を離さずに逃げれば良いんだっけ?」

「……それは熊よ、遊矢。じゃなくて早く逃げないと!」

 なんだかんだでパニックになっている俺と明日香を尻目に、ワニは俺たちへと迫って来ていて、もはや逃げることも適わない距離に接近されていた。

「明日香っ!」

「Hey.カレン! Wait a minute!」

 せめて明日香だけでも護らなくてはならない、と前に出た俺の行動と共にそんな声が響き渡り、ワニがその場に止まった。

 声がした方向を見ると、カウボーイのような服装とテンガロンハットを目深に配り、その左目は包帯によって隠されているという……どう見ても、このアカデミアの関係者ではない人物が立っていた。
カレンと呼ばれたワニはその人物の元へ歩いていくと、そのままカウボーイ男に背負われて静かになった……どうやらあのワニは、カウボーイ男のペットらしい。

「sorry.君たち。ケガはないか? niceな池だったからカレンを離してしまったが」

 その流暢な英語を混ぜながら話す独特な言葉は、そいつがどう考えても日本人でないことを再実感させ、なおさらカウボーイ男が不審者に見えてしょうがなくなってしまう。

「あ、ああ。それは大丈夫だが……お前は?」

「これは何度もsorry.俺はsouth校から来た留学生、ジム・クロコダイル・クックだ、よろしく!」

 不審者とも疑っている俺の言葉を知らない訳でもあるまいに、何ともカウボーイ男――ジム・クロコダイル・クックというらしいが――は、ノリノリで自己紹介をしてくれた。

「……留学生? 聞いてるか、明日香」

 留学生というのが本当であれば不審者ではないのだが、どうも自分には噂には疎いところがあるもので、後ろの明日香に聞いてみるものの、明日香も難しい顔をしていた。

「……留学生……いえ、聞いてないわね」

「何てこった! まさかsurpriseだったのか!」

 確かに鮫島校長先生であれば、始業式でサプライズ発表というのは有りそうな話であるし……何より、このカウボーイ男が不審者とは思えない。

「ところでyouはオベリスク・ブルーか……どうだ、俺とデュエルしないか?」

 そう言ってジムはデュエルディスクを構えると、デュエルをする準備を完了し、後は俺がデュエルを了承するだけという状態となる。
デュエルディスクは念のために形態してはいるが、もう少しで始業式が始まってしまう時間でもある。

「いや、もう少しで始業式が……」

「Don't worry.それまでにfinishだ」

 その言葉を受け取ると無意識にデュエルディスクを構え、俺もジムと同じようにデュエルの準備を完了させた。
どうやら自信はあるようだが、そこまで言われてしまっては受けなければ、デュエリストとしてのプライドに関わる。

「you.名前は?」

「黒崎遊矢だ。名前で呼んでくれて構わない」

 その態度からは、先程の『すぐに終わらせてやる』といった態度は万丈目のようなエリート意識などでなく、本当にただ自分の実力に見合った自信なのだと感じさせる。

「本校のオベリスク・ブルーの実力、見せてもらうぜ!」

「そっちこそ留学生なんて扱いで来るんだ、サウス校のレベルを見せてもらおう!」

 お互いにやる気は充分だ、明日香は俺の後ろから少し離れると、安全にデュエルを見れる場所へと移動した。

「頑張ってね、遊矢」

 ……ジムに本校の実力をナメられる訳にもいかないし、せっかく応援してくれた明日香の前で、負けるわけにはいかないな……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
ジムLP4000

「先攻は俺から。ドロー!」

 デュエルディスクは俺ではなく、ジムを先攻に選んだ……せっかくの後攻なのだから、どんなデッキなのか存分に見せてもらおう。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 初期手札が悪かったのか、いきなり俺も愛用する速攻魔法《手札断殺》が発動され、手札をお互いに二枚捨てて二枚ドローする。
……俺にとってはそれだけではなく、俺の墓地から一筋の光が浮かび上がったが。

「墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! このカードが墓地に送られた時、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェバリットカード!」

『トアアアアッ!』

 まだ俺のターンに回って来ていないにもかかわらず、勇んでマイフェバリットカードが特殊召喚され、俺とジムの間を走り抜けた。

「《スピード・ウォリアー》……そのデッキ、【機械戦士】か?」

「……ああ」

「……抑えてよ、遊矢」

 ジムのある意味予想出来ていた反応に、明日香からポツリと心配するような声が聞こえたが、結果的にはそんな心配はいらなかった。

「ってことはperhaps、【機械戦士】で【アームド・ドラゴン】に勝った奴か?」

「あ、ああ……」

 随分懐かしい話を持ち出されたせいか、ジムの反応が予想外であったせいか、若干尻すぼみな回答になってしまったが、ジムは全く気にしてないようだった。

「miracle! 本校に来て初戦の相手がそんなpublicとは! ……始業式までには終わりそうもないが、全力で行かせてもらうぜ!」

「……もちろんだ!」

 デュエルが終わってみたら話してみよう、こいつとは仲良くなれそうだ……今のジムの言葉は俺にとっては、そう思わせるに足る発言だった。

「まずは、《守護精霊ウルル》を守備表示で召喚する!」

守護精霊ウルル
ATK0
DEF2300

 満を辞して召喚されたのは岩石族のモンスター《守護精霊ウルル》であり、その守備偏重なステータスは、下級モンスターでは突破は難しい。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」


 ジムの前に構えている《守護精霊ウルル》は、そのステータスもさることながら、その効果により魔法・罠・効果モンスターには破壊されない。
その壁モンスターとしては理想的な《守護精霊ウルル》の前では、アタッカーである《マックス・ウォリアー》とて届きはしない。

 ……だが俺にはもう、マイフェバリットカードが付いている。

「俺はチューナーモンスター、《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 俺のデッキにあるチューナーモンスターの一種である、小型のシンクロンがスピード・ウォリアーと並ぶと、ジムはその表情に不敵に笑みをこぼした。

「シンクロ使いか……rareな相手と会えたようだ」

「なら遠慮なく味わっていくんだな。魔法カード《下降潮流》を発動し、《チェンジ・シンクロン》のレベルを3にする! そしてレベル3となった《チェンジ・シンクロン》に、レベル2の《スピード・ウォリアー》をチューニング!」

 通常魔法《下降潮流》でレベル3となった――下降していないが――《チェンジ・シンクロン》が三つの光の輪となって、マイフェバリットカードを包み込んでいった。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 短剣を武器とした、傷だらけの機械戦士であるスカー・ウォリアーがシンクロ召喚され、その前に半透明の《チェンジ・シンクロン》が浮かび上がった。

「《チェンジ・シンクロン》がシンクロ素材になった時、フィールドのモンスターの表示形式を変更する! 《守護精霊ウルル》を攻撃表示に!」

「shit! 守護精霊ウルルの攻撃力は……」

 守備偏重のステータスである《守護精霊ウルル》の攻撃力は、その代償で0という最低の数値であり、《チェンジ・シンクロン》の効果により攻撃表示を晒す。

「バトル! スカー・ウォリアーで、守護精霊ウルルを攻撃! ブレイブ・ダガー!」

「リバースカード《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドローする!」

 守護精霊ウルルはスカー・ウォリアーの短剣で破壊出来たものの、ジムへのダメージは現れたカードたちによって防がれてしまい、更に一枚のドローも許してしまう。

「くそ、ターンエンドだ」

「dangerousだぜ……俺のターン、ドロー!」

 今破壊した《守護精霊ウルル》は岩石族であるが、壁モンスターとしては汎用性が高いカードである為に、岩石族だからといって【岩石族】デッキとは限らないので、ジムのデッキはまだ何のデッキなのかは分からない。

「俺は《フォッシル・ハンマー》を発動! youのフィールドのレベルが一番高いモンスターを破壊する!」

 ジムの魔法カードが発動されると共に、空中から化石で出来たハンマーのような物が出現すると、スカー・ウォリアーを大地に打ちつけた。

「そして、その破壊したモンスターよりレベルが低いモンスターを、相手の墓地から攻撃表示で特殊召喚する! youの墓地から《スカウティング・ウォリアー》を特殊召喚だ!」

スカウティング・ウォリアー
ATK1000
DEF1000

 スカー・ウォリアーの代償としてか、最初の《手札断殺》で墓地に送っていた、特殊召喚が可能な機械戦士《スカウティング・ウォリアー》が特殊召喚される。
十代の《ネクロイド・シャーマン》の効果と、似たような魔法カードが来たということは、あまり特殊召喚されたのを喜べない状況だが。

「《チェンジ・シンクロン》はチューナーモンスター、《スピード・ウォリアー》はyouのfavoriteモンスター! だからソイツを特殊召喚させてもらった! 《風化戦士》を召喚!」

風化戦士
ATK2000
DEF1200

 スカウティング・ウォリアーを特殊召喚した理由と共に召喚されたのは、身体が風化した化石のようになっている岩石族の戦士……まさかジムのデッキは。

「バトル! 風化戦士でスカウティング・ウォリアーに攻撃だ!」

「リバースカード《くず鉄のかかし》を発動! 風化戦士の攻撃を無効にする!」

 ジムのデッキが何なのか一つ思い当たったが、そんなことを考えるより《風化戦士》の攻撃を防ぐことを優先し、《くず鉄のかかし》が攻撃を止めてセットされた。

「くっ……エンドフェイズ、《風化戦士》の攻撃力は600ポイントダウンする。ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ジムのフィールドにいる《風化戦士》は、その名の通りに化石の身体が風化していき、攻撃力を減ずるというデメリットがある。

「俺は《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 金色のロードローラーを模したチューナーモンスターが登場し、俺のフィールドにいるスカウティング・ウォリアーとチューニングの態勢をとった。

「またチューナーモンスターか!?」

「ああそうさ。レベル4の《スカウティング・ウォリアー》に、自身の効果でレベル2となった《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 ロード・シンクロンのデメリット効果によって合計レベルは6となり、二つの光の輪となったロード・シンクロンがスカウティング・ウォリアーを包み込む。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」
マイティ・ウォリアー
ATK2200
DEF2000

 巨大な片腕を持った機械戦士、文字通りに腕自慢の戦士であるシンクロモンスターが大地を叩きつけながら現れる。

「バトル! マイティ・ウォリアーで風化戦士に攻撃! マイティ・ナックル!」

 マイティ・ウォリアーの強靭な腕は、《風化戦士》の風化しつつある身体を易々と吹き飛ばし、その破片はジムの元へとダメージを与えに戻っていく。

ジムLP4000→3200

 更にまだまだマイティ・ウォリアーの攻撃は終わることはなく、マイティ・ウォリアーはその自慢の腕をジムに向けて構えた。

「マイティ・ウォリアーが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える! マイティ・ショット!」

 元々の攻撃力が高かろうとデメリット効果によって攻撃力が下がる《風化戦士》は、マイティ・ウォリアーの効果の標的としてはありがたいモンスターだった。
《風化戦士》の破片とともにジムに飛んでいったロケットパンチは、ジムに更なるダメージを与えてマイティ・ウォリアーの元へと帰ってくる。

ジムLP3200→2200

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「もうライフがhalfか……俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにはマイティ・ウォリアーとリバースカードが一枚で、ジムのフィールドには何もない……のだが、ジムのデッキが俺が予想している通りならば、まだまだ一筋縄ではいかなそうだ。

「niceなカードだ。魔法カード《化石融合-フォッシル・フュージョン》を発動!」

「やっぱりそうか……!」

 ジムのデッキは予想通り岩石族と除外ギミック、そして専用の融合カードをメインにしたデッキ【化石融合】であり、その効果は他に類を見ない唯一の効果。

「俺はyouの墓地の《スカー・ウォリアー》と、俺の墓地の《風化戦士》を化石融合! 遥かな古代より現れろ、《中生代化石騎士 スカルナイト》!」

中生代化石騎士 スカルナイト
ATK2400
DEF900

 俺の墓地のモンスターとジムの墓地のモンスターを融合するという特徴を持つ化石融合により、スカー・ウォリアーの力を借りた《中生代化石騎士 スカルナイト》が化石融合召喚された。
更に嫌になるところは、融合素材に選ばれたモンスターは除外されるということで、除外ギミックが入っていない自分にはどうしようも無くなってしまう。

「更に二枚の速攻魔法、《サイクロン》and《ハーフ・ライフ》! リバースカードを破壊し、マイティ・ウォリアーの攻撃力をhalfにしてもらうぜ!」

 速攻魔法《ハーフ・シャット》の相互互換カードであり、相手モンスターの攻撃力しか半分に出来ず、戦闘破壊耐性も一回しかその効果を発揮しない。
こう聞くと完全下位互換カードのようでもあるが、どんなカードであろうと何事も使いようである。

 そして同時に発動された《サイクロン》による竜巻で、リバースカードとなった《くず鉄のかかし》を破壊したということは……攻勢に出るということだろう。

「バトル! 中生代化石騎士 スカルナイトでマイティ・ウォリアーに攻撃!」

遊矢LP4000→2700

 化石騎士の名に恥じぬ化石の剣がマイティ・ウォリアーを切り裂くが、ジムの魔法カード《ハーフ・ライフ》の効果によって、攻撃力は半分になったものの一度限りの戦闘破壊耐性を得ている。
よってマイティ・ウォリアーは、そのバトルで破壊こそされなかったが、むしろ破壊してもらった方が幸運だった。

「中生代化石騎士 スカルナイトは、相手フィールドにモンスターがいるならもう一度攻撃が出来る! スカルナイト、second attack!」

「ぐああっ……!」

遊矢LP2700→1400

 《ハーフ・シャット》の難点は、トドメを差しきれなかった場合相手フィールドにモンスターを残してしまうことだが、《ハーフ・ライフ》は一度しか破壊耐性を与えない為に問題はない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 《中生代化石騎士 スカルナイト》と《《ハーフ・ライフ》のコンボにより、俺にダメージを与えつつマイティ・ウォリアーは破壊されたが、まだまだ終わるわけにはいかない。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! 増殖せよ、チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 中華鍋を逆さにして頭に被ったようなモンスターが、召喚されるや否や《機械複製術》によって増殖し、三体のチューニング・サポーターがフィールドに現れる。

「そんなsmallな機械でどうする気だ?」

「コイツ等だけじゃ何も出来ないな。伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地の《ロード・シンクロン》を特殊召喚!」

 汎用蘇生カードにて再びフィールドに金色のロードローラー、チューナーモンスターである《ロード・シンクロン》が現れたことで、またもやシンクロ召喚をする準備が整った。

「効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》二体と、レベル4の《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 ロード・シンクロンが本来のレベル4でシンクロ召喚するのは、その本領を発揮出来ている証拠であり、専用のシンクロモンスターがシンクロ召喚される証拠でもある。

「集いし希望が新たな地平へいざなう。光さす道となれ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ、《ロード・ウォリアー》!」

ロード・ウォリアー
ATK3000
DEF1500

 シンクロ召喚されたのは、身体が金色に包まれた機械戦士たちの皇、その効果によって更なるシンクロ召喚の呼び水となる。

「チューニング・サポーターは、シンクロ素材になった時一枚ドロー出来る。よって二枚ドロー! 更に《ロード・ウォリアー》の効果発動! デッキからレベル2以下の戦士族・機械族モンスターを特殊召喚出来る! 来い、《ニトロ・シンクロン》!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 ロード・ウォリアーの背中から抜き放たれた剣が光を発し、発した光によって作られた道から特殊召喚されたのは、消火器型のチューナーモンスター《ニトロ・シンクロン》。
そして俺のフィールドには、まだシンクロ召喚に使用していない《チューニング・サポーター》がいる。

「まさか……まだシンクロ召喚するのか!?」

「自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 俺のエクストラデッキのシンクロモンスター、その中でもレベル4モンスターは一体しかおらず、こうなったら後はシンクロ召喚をするだけだ。

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

アームズ・エイド
ATK1800
DEF1200

 機械戦士たちの補助兵装となる異色のシンクロモンスター、《アームズ・エイド》がシンクロ召喚され、その効果を活かすべくロード・ウォリアーに装備される。

「アームズ・エイドは俺のフィールドのモンスターに装備し、攻撃力を1000ポイントアップさせる! ……バトルだ、ロード・ウォリアーで中生代化石騎士 スカルナイトに攻撃! ライトニング・クロウ!」

「wait! カウンター罠《攻撃の無力化》を発動!」

 ロード・ウォリアー+アームズ・エイドのオーバーキルをも狙えた攻撃は、残念ながら時空の穴に吸い込まれて無力化されてしまい、中生代化石騎士 スカルナイトには届かない。

「……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 しかし《アームズ・エイド》を装備したため、4000の攻撃力を誇るロード・ウォリアーならば、そうそう容易く戦闘破壊はされないと思いたいが……

「通常魔法《奇跡の穿孔》を発動し、岩石族モンスターを墓地に送って一枚ドロー! ……更に《貪欲な壺》を発動して二枚ドロー!」

 罠カード《岩投げエリア》の相互互換カードにより一枚ドローした後、更に汎用ドローカードによって二枚のドローを果たす。

「good! まずは《アースクエイク》を発動! ロード・ウォリアーを守備表示に!」

「……しまった!」

 アームズ・エイドが装備されていようと守備力は上がらず、ロード・ウォリアーの守備力は1500とリクルーターを止められる程度と、中生代化石騎士 スカルナイトを止められはしない。
ロード・ウォリアーが破壊されることは覚悟したものの、ジムの行動はまだ終わってはいなかった。

「永続魔法《魔力倹約術》を発動し、《タイム・ストリーム》を発動! 『中生代』と名の付くモンスターを逆進化させる!」

 通常魔法《タイム・ストリーム》――本来、化石融合召喚でしか特殊召喚出来ないモンスターを、対応する新生代・中生代モンスターをエクストラデッキに戻すことで特殊召喚するカード。
【化石融合】の切り札とも言えるカードだが、ライフを半分にするという強大な代償がある……が、《魔力倹約術》の効果によってその代償は無い。

「《中生代化石騎士 スカルナイト》をエクストラデッキに戻し、更なる古代より現れろ! 《古生代化石騎士 スカルキング》!」

古生代化石騎士 スカルキング
ATK2800
DEF1300

 中生代化石騎士 スカルナイトが『逆進化』し、更なる力を得た姿となった《古生代化石騎士 スカルキング》が《アースクエイク》で割れた大地から現れる。
こういった魔法カードは蘇生制限を満たせないのが常だが、ジムの化石融合モンスター達は、最初から融合召喚以外の特殊召喚は不可能だ。

「バトル! 古生代化石騎士 スカルナイトでロード・ウォリアーに攻撃! 古生代に逆進化したスカルナイトは貫通効果を持つ!」

「貫通効果!?」

遊矢LP1400→100

 予想外の《古生代化石騎士 スカルナイト》の貫通効果によるダメージだったが、何とか首の皮一枚繋がった、そう俺に感じさせるライフポイントだけが残った。

「ギリギリremainingか! これでターンエンド!」

「く……俺のターン、ドロー!」

 まさかロード・ウォリアーが破壊されるとは思っていなかったが、そんなことよりはジムのフィールドにいる《古生代化石騎士 スカルナイト》だ。

「どうした、主軸のシンクロモンスターはthe endか?」

「主軸? 悪いが、【機械戦士】の主軸はシンクロじゃない。《戦士の生還》の効果を発動して《スピード・ウォリアー》を手札に戻し、そのまま召喚する!」

『トアアアアッ!』

 シンクロモンスターが主軸でないという俺の言葉と、再びフィールドに舞い戻るマイフェイバリットカードに、ジムは驚きを露わにした。

「シンクロがmainじゃない……?」

「ああ。俺のデッキの主軸は《機械戦士》全員だ! スピード・ウォリアーに装備魔法《バスターランチャー》を発動!」

 俺の前に巨大なビーム砲である《バスターランチャー》が出現し、そこにスピード・ウォリアーが飛び乗って引き金を引ける位置へと移動する。

「バトル! スピード・ウォリアーで古生代化石騎士 スカルナイトに攻撃! バスターランチャー、シュート!」

 攻撃力が2500以上のモンスターとバトルする時、装備モンスターの攻撃力を2500ポイントアップさせる装備魔法《バスターランチャー》は、いつも通りに相手の切り札を撃ち抜いた。

「ぐっ……!」

ジムLP2200→1500

 古生代化石騎士 スカルナイトは胸を貫かれた衝撃か、化石の身体をそのまま四散させ、ジムの方へと降り注いだ。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《バスターランチャー》が装備されたスピード・ウォリアーとリバースカードが二枚で、ライフポイントはギリギリ残った僅か100ポイント。
ジムのフィールドには何もいない上に、ライフポイントは1500とそろそろ危険域に入っている。

「やるじゃないか、機械戦士…… bat.これでfinishだ! 《化石融合-フォッシル・フュージョン》を発動!」

 二回目の発動となる化石融合-フォッシル・フュージョンにより、俺の墓地から《ロード・ウォリアー》の化石、ジムの墓地から《古生代化石騎士 スカルナイト》の化石が現れる。
墓地から現れた二体の化石と、スピード・ウォリアーに破壊された《古生代化石騎士 スカルナイト》の化石が融合していき、徐々に恐竜型の化石モンスターの姿を形成していく。

「化石融合! 《古生代化石竜 スカルギオス》!」

古生代化石竜 スカルギオス
ATK3500
DEF0

 そうして化石融合召喚が完成していき、ジムのフィールドに剣山が見たら怒り出しそうな、巨大な竜の化石が出来上がる。
攻撃力3500という破格の数値を誇る化石モンスターで、バスターランチャーを加味したスピード・ウォリアーの攻撃力でも3400と及ばず、そして俺の残りライフポイントは100ポイントと、まるで計ったかのようにジャストギルとなる。

「バトル! スカルギオスでスピード・ウォリアーに攻撃!」

「だが返り討ちにさせてもらう! リバースカード《ミニチュアライズ》を発動! スカルギオスの攻撃力を1000ポイント下げさせてもらう!」

 スカルギオスの身体が小さくなると共に攻撃力が2500ポイントとなり、それでもまだ《バスターランチャー》の適用攻撃力のため、スピード・ウォリアーの攻撃力は3400となる。

「迎撃しろ、スピード・ウォリアー! バスターランチャー、シュート!」

 切り札とも言えるカードであろうカード、スカルギオスが迎撃されるという状況であるのに、ジムの表情から余裕の表情は消えなかった。

「ならば、こちらも《古生代化石竜 スカルギオス》の効果を発動! 相手モンスターを攻撃する時、相手モンスターの攻撃力と守備力を入れ替える!」

「なに!?」

 スピード・ウォリアーの守備力は僅か400で、バスターランチャーの効果適応は攻撃力のみ……よって、最終的にスカルギオスの攻撃力は2500、スピード・ウォリアーの攻撃力は400……!

 バスターランチャーのビーム砲は消えていき、スピード・ウォリアーはスカルギオスに噛み砕かれてしまうものの……俺へのダメージは無数のカードが防ぎきっていた。

「伏せてあった《ガード・ブロック》を発動していた! 戦闘ダメージを0にして一枚ドローする!」

 伏せてあった《ガード・ブロック》のおかげで、何とかゲームエンドになることは防ぐことが出来たが、マイフェイバリットカードは破壊されてしまうという結果に終わった。

「finishにはまだ早かったか……モンスターをセットし、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! ……《マジック・プランター》を発動し、《ミニチュアライズ》を墓地に送って二枚ドロー!」

 スカルギオスの攻撃力は元々の3500に戻ってしまうが、このまま《ミニチュアライズ》を残していても、今の俺の手札ではどちらにせよスカルギオスを破壊は出来ない。

「……俺は《レスキュー・ウォリアー》を守備表示で召喚する」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 ならば《マジック・プランター》で二枚のドローに変換し、逆転のカードに賭けたのだが……残念ながら、スカルギオスを破壊出来るカードはドロー出来なかった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! ……セットモンスターをreverse!」

 先のターン、メインフェイズ2に伏せられていたセットモンスターが反転召喚され、その姿をフィールドにさらけ出す……《メタモルポット》だ。

メタモルポット
ATK700
DEF600

 《メタモルポット》の特徴たるそのリバース効果が発動し、お互いに手札を全て捨てて新たに五枚ドローすると、ジムは更なる追撃に出た。

「メタモルポットをリリースし、《地帝グランマーグ》をアドバンス召喚する!」

地帝グランマーグ
ATK2400
DEF1000

 アドバンス召喚されたのは揺るぎない大地の帝《地帝グランマーグ》であり、その効果のお誂え向きとばかりに、俺のフィールドにはカードが一枚セットしてあった。

「地帝グランマーグがアドバンス召喚された時、セットカードを破壊する!」

 天空から降り注ぐ岩雪崩に俺の伏せていたカード――《奇跡の残照》――が破壊されてしまい、もはや俺を守るのは《レスキュー・ウォリアー》のみとなった。

「バトル! まずは《地帝グランマーグ》で攻撃する! バスター・ロック!」

 またも天空に発生した岩雪崩がレスキュー・ウォリアーを襲い、レスキュー・ウォリアーにその攻撃を防ぐ術は無かったものの、盾を持った機械戦士が全ての岩雪崩を防ぎきった。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外することで、一度だけ破壊を無効にする!」

 《メタモルポット》の効果で墓地に落ちていた《シールド・ウォリアー》がレスキュー・ウォリアーを守った為、一度は破壊を免れたものの、まだジムのフィールドには巨大なモンスターが控えている。

「ならば、古生代化石竜 スカルギオスで攻撃! スカルギオスは貫通効果を持ってるから、守備表示でもmeaninglessだぜ!」

「こっちもレスキュー・ウォリアーの効果! レスキュー・ウォリアーのバトルで、俺は戦闘ダメージを受けない!」

 レスキュー・ウォリアーは、スピード・ウォリアーと同じようにスカルギオスに破壊されてしまうものの、その遺した水流のバリアが俺の戦闘ダメージを防ぐ。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 《レスキュー・ウォリアー》と《シールド・ウォリアー》の効果で何とか耐え抜き、《メタモルポット》のおかげで手札も潤沢……攻勢に出れる。

「俺は《ドドドウォリアー》を召喚してリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

 リリースした仲間の力を受け継ぐ機械戦士は、通常召喚出来る中で最強の機械戦士であるドドドウォリアーをリリースしたことにより、その攻撃力はスカルギオスと並ぶ3500。

「そして装備魔法《ニトロユニット》を地帝グランマーグに装備し、バトル!」

 地帝グランマーグの身体に大きく爆弾が取り付けられ、地帝グランマーグが破壊されると共に誘爆するそれに、ターレット・ウォリアーの銃口は狙いをつける。

「ターレット・ウォリアーで地帝グランマーグを攻撃! リボルビング・ショット!」

「リバースカード、オープン! 《移り気な仕立て屋》! equipmentされた《ニトロユニット》を、スカルギオスにequipmentする!」

 まさかの装備魔法《ニトロユニット》の対象変更という防御手段に俺は対応出来ず、ターレット・ウォリアーは地帝グランマーグを撃ち抜いたものの、《ニトロユニット》を誘爆させることは出来なかった。

「……がっ!」

ジムLP1500→400

 ジムのライフポイントも400という危険域に入ったものの、トドメを差しきるつもりだった為に失敗と言って何ら差し支えはないだろう。

 ……しかも俺の手札には、次なるターンのスカルギオスの攻撃を防ぐ手段がないのだから。

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには、攻撃力3500の《ターレット・ウォリアー》のみでリバースカードはなく、ライフポイントは一握りの100ポイント。
対するジムのフィールドには、同じく3500の攻撃力を誇る《古生代化石竜 スカルギオス》のみで、ライフポイントは400ポイント。

 一見拮抗しているように見える――事実拮抗しているのだけれど――スカルギオスの効果には、ターレット・ウォリアーでも太刀打ちすることは出来ず、攻撃を防ぐ手段もリバースカードもない。

「今度こそfinishだ、バトル! スカルギオスでターレット・ウォリアーに攻撃!」

 ターレット・ウォリアーとスカルギオスの攻撃力は同じ3500であるが、スピード・ウォリアーがやられたように、スカルギオスには攻撃力と守備力を入れ替える効果がある。

 当然のことながらスカルギオスはその効果を発動し、ターレット・ウォリアーをその化石で出来た牙で噛み砕かんとした時――

 ――一体の機械戦士がターレット・ウォリアーに力を与えていた。

「手札から《牙城のガーディアン》の効果! このモンスターを手札から捨てることで、指定したモンスターの守備力は1500ポイントアップする! ……よって、お前が入れ替えるターレット・ウォリアーの守備力は3500!」

「what!?」

 これで攻撃力と守備力が入れ替えられようとも、ターレット・ウォリアーの攻撃力は3500のままでスカルギオスとバトルすることになる……守備力と攻撃力を入れ替える効果は、確かに変則的で防げないが、相討ちにすることぐらい出来る……!

「……迎え撃て、ターレット・ウォリアー!」

 スカルギオスの巨大な牙は《牙城のガーディアン》が防いでいたが、直に防ぎきれずにターレット・ウォリアーを破壊しだすが、その隙をついてターレット・ウォリアーは一点を攻撃した。
その一点とは、《地帝グランマーグ》の身代わりに装備された《ニトロユニット》のことであり、その一点のみを狙った砲撃が《ニトロユニット》を貫いた。

 ……そうだ、相討ちでも全く構いはしない。

 ターレット・ウォリアーと牙城のガーディアンが、スカルギオスに噛み砕かれるのと同時に《ニトロユニット》に砲撃が直撃し、巨大な爆発はジムをも飲み込んだ……!

「ぐあああっ……!」

ジムLP400→0

 《ターレット・ウォリアー》と《牙城のガーディアン》、そして《ニトロユニット》のバーンダメージにより、何とかジムとのデュエルに辛勝する。
しかし、流石に本校に留学生として来るだけはある実力者ということか、ここまで追い込まれるとは思わなかった。

「【機械戦士】……その本当のmainはシンクロじゃなく、カードたちのunity、ってことか……負けたぜ……」

「いや、危なかったぜ」

 ワニを背負いながらうなだれるカウボーイ風の男、というとてつもなくシュールな図を見かねて声をかけるや否や、ジムは勢い良く立ち上がった。

「そっちの……明日香、だったか? も同じぐらい強いのかい?」

「遊矢ほどじゃないけど、やれるつもりよ」

 いきなり会話の矢面に立たされたにもかかわらず、腕組みしながら自信たっぷりに言えるところは、流石はオベリスク・ブルーの女王……

「遊矢、何か変なこと考えてない?」

 微笑みながら睨むという、器用なことをやってのける明日香から目をそらしていると、ジムの台詞が始まったので事なきを得たようだ。

「これが本校のオベリスク・ブルーの男子と女子か……この留学、楽しめそうだ。good-bye.エンジョイボーイにトゥモローガール!」

 そう言いながら、ジムはワニのカレンを背負いながら、森をものともせずに本校へと走っていった。

「エンジョイボーイ……?」

「トゥモローガール……?」

 それが俺と明日香の名前をモチーフにした、ジムなりのジョークを含んだ愛称だと気づいたのは、ジムが本校に走りだした理由……始業式がもう少しで始まるのを思い出し、明日香と二人してジムを倣って走りだした。

 
 

 
後書き
始業式前、まずはジムとのデュエルからとなりました。

しかし話し方、こんな感じで良いのかな……

感想・アドバイス待ってます。 

 

―始業式―

『――新入生代表、早乙女レイ』

 明日香とともに始業式に駆け込むと、何とか新入生代表挨拶には間に合って……ないか、もう終わってしまったらしい。
ジェネックスの成績を認められた為に、高等部へ編入となったレイの代表挨拶を見ていてくれ、とレイには言われていたのだが……後でお小言確定だな、これは。

 本来ならば始業式はこれで終わりなのだが、鮫島校長先生が壇上にマイクを持って立ったことにより、生徒たちが『まだ何かあるのか』とうんざりした様子を漂わせる。
このタイミングでの発表ということは、ジムを始めとする――一人ということは無いだろう――留学生たちの発表なのだろう。

 鮫島校長の説明とともに、分校チャンプであるらしい留学生たちが、そのどれも特徴的な姿を本校の生徒たちの前に現した――約一名は遅刻しながらの到着であり、十代と何やら一悶着あったが。

 もはや説明不要というか、始業式の前にデュエルした男、サウス校代表であるジム・クロコダイル・クック。

 一礼しただけで隙を見せぬ黒人の巨漢で、軍人のような雰囲気を漂わせる、ウエスト校代表であるオースチン・オブライエン。

 眼鏡をかけた一番知性が感じられる好青年、といった印象のイースト校代表であるアモン・ガラム。

 そして遅刻して十代と一悶着あり、伝説の【宝玉獣】デッキを持つという、アークティック校代表であるヨハン・アンデルセン。

 何故かノース校からは留学生が来ていないのだが、どうやらノース校は万丈目を代表として扱っているらしく、現チャンプを送る気はないそうだ。
万丈目は確かにノース校のチャンプになったことはあるが、そもそも本校の生徒である筈なのだが……

 そして留学生とは扱いが違うものの、ウエスト校から特別講師としてやってきたという、オブライエンを超える巨漢であるプロフェッサー・コブラ。
コブラ先生は、紹介されるや否や鮫島校長からマイクを奪い取り、そのまま自らでマイクパフォーマンスを始めた。

「我が校の教育方針は『実戦あるのみ』。それで常に成果を示して来た。――よってその教育方針に従い、今すぐ本校の生徒と留学生のデュエルを行う!」

 プロフェッサー・コブラがそう宣言した瞬間、本校の生徒どころか留学生、そして先生方にもざわめきが広がっているところを見ると、これはプロフェッサー・コブラの独断のようだ。
クロノス教諭とナポレオン教頭のコンビが騒いでいるが、プロフェッサー・コブラは特にそれを意に介さず、マイクでデュエルする生徒を宣言した。

「留学生からはアークティック校代表、ヨハン・アンデルセン! 本校からはオシリス・レッド、遊城十代!」

 『何故十代なんだぁぁぁぁ!』などというノース校代表(仮)の声が聞こえるが、確かに何故十代が選ばれたのかは気になるところだ……確かに、実技の成績は飛び抜けているが。

「準備の時間は必要ない。今から開始する!」

 しかし、プロフェッサー・コブラから基準が説明されることはなく、そのまま生徒たちはデュエル場へと移動させられることになった。
まあせっかくだから、宇宙から来たヒーローVS伝説の宝玉獣という、夢のドリームマッチを楽しむのは悪くないのだが。

「……君が遊矢くんかい?」

 デュエル場へと続く道を歩いていると、後ろから聞き覚えのない声に呼び止められ、振り向くとイースト校代表――アモン・ガラムがそこにはいた。

「……アモン・ガラム?」

「ああ、アモンで良いよ。君のことは、ジムから聞かせてもらった」

 その知性的な外見に似合って、理知的な話し方をするアモンだったが、その視線は何か目的があることを俺に示していた。
ジムから俺の話を聞いたとは言ったが、アモンの他の留学生たちの姿は見当たらず、どうやらここにはアモン単独で来たようだ。

「君の腕前をジムから聞いてね。少し、僕とデュエルしてくれませんか?」

「デュエル? それなら構わないが……今は十代とヨハンのデュエルが始まるだろう?」

 むしろイースト校の代表とデュエル出来るなど、こちらからお願いしたいところではあるけれど、今から始まる十代とヨハンのデュエルも見たいのも確かだ。

「なに、今から始まる伝説のデュエルのデモンストレーションとすれば、皆さんも納得してくれるでしょう」

 アモンはそう言い放つとデュエル場へと歩いていき、観客となっている生徒たちの前に姿を現すと、どこからかマイクを出して喋り始めた。

「皆様すいません。伝説となるデッキ同士のデュエルが開始される前に、少し、デモンストレーションを行いたいと思います」

 アモンが突如として言いだしたその言葉に、観客の生徒たちはざわめきが広がっていき、俺にはどんどんと身体全体に冷や汗が広がっていく。

「僕と本校生徒のデュエル。伝説同士のデュエルには及ばないでしょうが、どちらも皆様を楽しませる実力はあると自負しています」

 アモンは全校生徒にそう宣言しながら、横目で俺に来るように示しているようだが……アモンがここまで言ってしまったので、もはや俺に逃れる術はないだろう。

「……何考えてるんだ……?」

 アモンが何を考えているかはさっぱり解らないが、逃げる術がないことだけは確かであり、観念してデュエル場へと出ると、少なからず野次と歓声が湧いた。
十代や三沢には適わないものの、俺とてこの学園での実力者だと自負しているのだから、このままアモンにナメられている訳にはいくまい。

「来てくれると思っていましたよ」

「……お前が何考えてるかは解らないが、何にせよデュエルで負ける気はない」

 プロフェッサー・コブラと十代にヨハンがデュエル場に入ってきたのを傍目で見たが、もはやデュエルが始まるのは止められないようで、ただ俺とアモンのデュエルを見るしか出来ないようだった。

『デュエル!』

遊矢LP4000
アモンLP4000

「僕のターン、ドロー」

 デュエルディスクが先攻を選んだのはアモンの方で、俺はアモンのデッキを観察する時間が出来たことに感謝する。

「僕は《雲魔物-羊雲》を守備表示で召喚!」

雲魔物-羊雲
ATK0
DEF0

「【雲魔物】、か……」

 低いステータスと多くの雲魔物にある自壊デメリットの代償に、様々なトリッキーな効果による変幻自在の戦術を見せる、まさに雲のようなカテゴリーとでも言うべきか。

 アモンの外見のイメージからすれば、デッキは【機械族】かと思っていたのだが……剣山の【恐竜族】の時のように、見た目だけで判断出来る方が珍しいか。

「僕はカードを一枚伏せてターンエンド」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 《雲魔物》は守備表示にしていたら自壊すると思っていたが、アモンのフィールドにある《雲魔物-羊雲》は守備表示。
例外的な雲魔物であることは間違いないが、俺がやるべきことはいつもと変わらない。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 俺のデッキにおけるアタッカーの登場にも、アモンは表情一つ変えてこない……ということは、やはりアモンはジムから俺のデッキのことまで聞いているか。
しかしあのジムのことだ、俺のデッキの中身までペラペラ喋るようなキャラだとは思えないので、喋るにしても【機械戦士】であるということだけだろう。

「バトル! マックス・ウォリアーで雲魔物-羊雲に攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 アタッカーによる三段突きが雲魔物-羊雲を捉えるが、守備表示なのでアモンにはダメージが無い上に、アモンのフィールドには二体の雲魔物が増えていた。

「雲魔物-羊雲は破壊された時、二体の《雲魔物トークン》を特殊召喚する」

 結果的にマックス・ウォリアーの攻撃は、アモンのフィールドに守備表示の雲魔物トークンを二体特殊召喚するという、あまり芳しくない結果に終わったようだ。

「マックス・ウォリアーのレベル・攻守は半分になる……カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 続いてアモンのターンだが、あの二体の貧弱なトークンで何をするつもりなのだろうか……?

「僕は再び《雲魔物-羊雲》を召喚」

 最初のターンと同じように召喚された雲魔物-羊雲だが、初手と大きく異なる点は、その雲魔物-羊雲が攻撃表示であること。
あのステータスで攻撃表示とは、自爆特攻をしてトークンを特殊召喚するにしては、ライフに被害が多すぎる。

「バトル! 雲魔物-羊雲でマックス・ウォリアーに攻撃!」

 アモンは、マックス・ウォリアーの半減した800程度ならば問題ないと判断したのか、そのまま雲魔物-羊雲を自爆特攻させてくる。
当然マックス・ウォリアーは返り討ちにするが、アモンへのダメージはバリアのようなものに吸収されていた。

「戦闘時、伏せてあった《スピリットバリア》を発動し、戦闘ダメージを0に! そして《雲魔物-羊雲》が破壊されたため《雲魔物トークン》を二体守備表示で特殊召喚する」

 初手に伏せてあったあのリバースカード、アレは【雲魔物】の必須だという《スピリットバリア》だったらしく、俺はモンスターがいる限り戦闘ダメージを与えられない。

「メインフェイズ2、永続魔法《宝札雲》を発動! 雲魔物を二体召喚したターン、エンドフェイズに僕は二枚ドローする。二枚ドローし、ターンエンド」

「……俺のターン、ドロー!」

 四体の《雲魔物トークン》と《スピリットバリア》で守備を固めつつ、《宝札雲》による二枚ドローで手札を溜めていく……アモンが何を狙っているかは解らないが、とにかく良い感じはしない。

「俺は《レスキュー・ウォリアー》を召喚!」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 一刻も早く《雲魔物トークン》の防壁を突破したいところではあるが、残念ながら今の手札で出来ることは、《レスキュー・ウォリアー》を召喚するだけだ。

「バトル! マックス・ウォリアーとレスキュー・ウォリアーで、それぞれ雲魔物トークンに攻撃!」

 リバースカードが無いアモンには防ぐ手段もなく、そして防ぐ気もないようで、雲魔物トークンの数は一気に半分に減じた。

 そして相手モンスターを破壊したマックス・ウォリアーも、破壊したのはトークンの為にデメリット効果は発生しない。

「ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 今までのターンは不気味な沈黙を見せてきたアモンだが、手札もフィールドも潤沢なのだから、そろそろ攻めに転じてきてもおかしくないと思うが……

「僕は《雲魔物-タービュランス》を召喚!」

雲魔物-タービュランス
ATK800
DEF0

 周囲の雲を飲み込まんとする雲魔物が現れると、実際にはその体内から三つの小さな雲が出現し、雲魔物-タービュランスに纏わりついた。
スタンダードな《雲魔物》が持っている効果の一つで、召喚した際にの効果の触媒となる、《フォッグカウンター》を自身に乗せる能力である。

「タービュランスは自身に乗ったフォッグカウンターを一つ取り除くことで、デッキから《雲魔物-スモークボール》を特殊召喚出来る。二つのフォッグカウンターを取り除き、スモークボールを二体、守備表示で特殊召喚!」

雲魔物-スモークボール
ATK200
DEF600

 デッキから特殊召喚された新たな雲魔物自体は脅威ではないものの、アモンのフィールドには五体の雲魔物が埋まっており、二体召喚したことによって《宝札雲》の発動が決定する。

「そして装備魔法《団結の力》をタービュランスに装備し、攻撃力は4800となる!」

「くっ……!」

 俺も愛用してるが故に馴染み深いその装備魔法により、他の雲魔物からタービュランスへと力が終結していくと、タービュランスは他とは比べられない程巨大な雲となる。

 トリッキーな効果とその展開力、そして攻勢に出た際のこの攻撃力……これが【雲魔物】デッキの恐ろしさと言っても過言ではない。

「バトル! タービュランスでマックス・ウォリアーに攻撃!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドロー!」

 マックス・ウォリアーは破壊されてしまったが、俺へのダメージは無数のカード達が防いでくれて事なきを得たものの、タービュランスの圧倒的な攻撃力はそのままだ。

「メインフェイズ2、更に永続魔法《雲魔物のスコール》を発動し、《宝札雲》により二枚ドローしてターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 新たに発動された永続魔法《雲魔物のスコール》は、アモンのスタンバイフェイズにフィールドにいるモンスターに《フォッグカウンター》を乗せるというもので、いつまでも放っておけばフィールドがフォッグカウンターだらけになってしまうだろう。

 しかし《雲魔物のスコール》より前に、俺のフィールドにはレスキュー・ウォリアーのみだが、アモンのフィールドは魔法・罠ゾーン一つ以外全て埋まっているという、この絶望的なまでの差をどうにかしなければ。

 アモンのフィールドには《団結の力》を装備して攻撃力4800の《雲魔物-タービュランス》を初めとして、《雲魔物トークン》が二体に《雲魔物-スモークボール》が二体ずつ。
そして魔法・罠ゾーンには、戦闘ダメージを無効にする《スピリットバリア》と攻撃力4800を与える《団結の力》、ドローソースの《宝札雲》にフォッグカウンターを与える《雲魔物のスコール》が控えている。

 タービュランスは《団結の力》により攻撃力4800を誇り、《団結の力》を破壊してもタービュランスは戦闘では破壊されず、《スピリットバリア》にて戦闘ダメージは発生しない。

 ならばタービュランス以外の雲魔物を狙って攻撃力を下げようにも、次なるターンで《雲魔物のスコール》によるフォッグカウンターで再び特殊召喚され、《宝札雲》で二枚ドローされるだけだ。

「……こういう状況を一枚のカードで突破するのが、デュエルモンスターズの面白いところだな。俺はチューナーモンスター、《チェンジ・シンクロン》を召喚!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 先のジム戦でも活躍したチューナーモンスターの登場に、アモンもシンクロという想定外のモンスターが出て来ることに顔を歪めた。

「チューナーモンスター……シンクロ召喚か!?」

「正解だ! レベル4の《レスキュー・ウォリアー》に、レベル1の《チェンジ・シンクロン》をチューニング!」

 レスキュー・ウォリアーの周りをチェンジ・シンクロンが変化した光の輪が包み込むと、シンクロ召喚するべくレスキュー・ウォリアーも四つの光の球となった後、一際大きな光を発した。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 シンクロ召喚される傷だらけの機械戦士……そのステータスは外見とレベルの通りあまり高くはないが、雲魔物たちは圧倒している上に何よりも重要なのは、シンクロ召喚に使用したチェンジ・シンクロンの方だ。

「チェンジ・シンクロンがシンクロ素材となった時、フィールドのモンスターの表示形式を変更する! タービュランスを守備表示に!」

「しまった……!」

 雲魔物は戦闘破壊耐性の代償として、『守備表示になれば自壊する』という重いデメリットがついていて、低いステータスと併せて使いづらいと言われる所以である。
《チェンジ・シンクロン》によって突いたのはその弱点であり、その圧倒的な攻撃力が嘘のように、タービュランスはあっさりと《団結の力》ごと自壊する。

「バトル! スカー・ウォリアーでスモークボールを攻撃! ブレイブ・ダガー!」

 スモークボールではスカー・ウォリアーの攻撃は防げず、守備表示の為アモンにはダメージを通さないだけで精一杯のようだ。

「これでターンエンドだ!」

「やはりなかなかやる……僕のターン、ドロー!」

 攻撃力4800のタービュランスは破壊したが、《チェンジ・シンクロン》ではタービュランスを破壊するのが限度であり、まだまだアモンのフィールドは潤沢のままだ。

「《雲魔物のスコール》により、フィールドのモンスターは全てフォッグカウンターが乗る。更に《雲魔物-スモークボール》をリリースし、《雲魔物-ニンバスマン》をアドバンス召喚!」

雲魔物-ニンバスマン
ATK1000
DEF1000

 基本的に小柄であった今までの雲魔物たちとは異なり、ずんぐりとした見た目の雲魔物-ニンバスマンがアドバンス召喚されると、二体の《雲魔物トークン》がニンバスマンに吸収されていった。

「ニンバスマンは、アドバンス召喚の時に好きな数水属性モンスターをリリースでき、リリースした数だけこのモンスターにフォッグカウンターを乗せる! ダウンパワーシャワー!」

 リリースした二体の《雲魔物トークン》の分、フォッグカウンターがニンバスマンの周囲に浮くが、ニンバスマンはどのようにフォッグカウンターを使うのか。

「そしてニンバスマンは、フィールドのフォッグカウンターの数だけ攻撃力が500ポイントアップする。よってニンバスマンの攻撃力は、2500ポイント!」

 ニンバスマンに乗っているカウンターが二つ、スカー・ウォリアーに乗っているカウンター一つ……よってニンバスマンの攻撃力は、アモンが言う通り2500ポイント。
タービュランスの4800よりはインパクトが小さいが、ニンバスマンは《雲魔物のスコール》によって、アモンのスタンバイフェイズごとに攻撃力を上げる。

「バトル! ニンバスマンでスカー・ウォリアーに攻撃!」

「だが、スカー・ウォリアーは一度だけ戦闘では破壊されない!」

遊矢LP4000→3600

 不退転の戦士という別名を持つスカー・ウォリアーは、その名の通り一度の戦闘で破壊されるようなことはなく、ニンバスマンの攻撃に耐える。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにはスカー・ウォリアーしかおらず、アモンのフィールドには攻撃力2500ポイントのニンバスマンに、リバースカードが二枚と《宝札雲》・《スピリットバリア》・《雲魔物のスコール》。

 ニンバスマンも早く破壊したいところではあるが、アモンの戦術を支えるあの三枚のカードも厄介なことこの上なく、あれだけ展開しているのにアモンの手札はまだある。

「俺はチューナーモンスター《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 消火器のような形をしたチューナーモンスターを召喚し、二体のモンスターにシンクロ召喚をとらせる。

「レベル5の《スカー・ウォリアー》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 スカー・ウォリアーとニトロ・シンクロンが力を併せてチューニングし、シンクロ召喚するのは相手モンスターが雲だろうと焼き尽くす、機械戦士で最も高火力を誇るシンクロモンスター……!

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」
ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていくと雲魔物-ニンバスマンを睨みつけた。

「ニトロ・シンクロンがシンクロ素材になった時、一枚ドロー……そしてバトル! ニトロ・ウォリアーでニンバスマンに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 ニトロ・ウォリアーはシンクロ召喚されるや否や、即座にニンバスマンを殴りに行ったものの、アモンに近づくにつれてその身体が小さくなっていく……!

「伏せてあった速攻魔法《収縮》を発動! ニトロ・ウォリアーの攻撃力を半分にしてもらう」

 だがニトロ・ウォリアーの攻撃力が半分になる代わりに、ニンバスマンの前には神々しく光る聖杯が掲げられていた。

「こっちも速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動し、ニンバスマンの攻撃力を400ポイントアップさせる代わりに、その効果を無効にする!」

「くっ、相打ちか……」

 どちらの魔法カードの効果処理が完了した光景を見て、アモンがふとそう呟いたが、まだ俺のモンスターの効果処理は終わっていない。

「それはどうかな?」

 まずアモンの《収縮》によってニトロ・ウォリアーの攻撃力は半分になったが、《禁じられた聖杯》によってニンバスマンの効果は無効になって攻撃力は1400ポイントとなり、ニトロ・ウォリアーは自身の効果で攻撃力は2400ポイントとなる。

「改めてニトロ・ウォリアー、ダイナマイト・ナックル!」

 シンクロ召喚する前の俺の見込み通り、相手が雲だろうとニトロ・ウォリアーは素手でニンバスマンを攻撃し、その熱量でニンバスマンを溶かし尽くした。

 《禁じられた聖杯》のおかげで戦闘破壊には成功したが、アモンの《スピリットバリア》のせいでアモンにはダメージは通らない。

「これでターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

 アモンのターンのスタンバイフェイズ、《雲魔物のスコール》でフィールドに雨が降ると、俺のニトロ・ウォリアーへとフォッグカウンターが乗った。

「そして《雲魔物-ゴースト・フォッグ》を召喚!」

雲魔物-ゴースト・フォッグ
ATK0
DEF0

 新たに召喚された雲魔物は、ゴーストの名の通り雲というより幽霊のような外見で、イメージ通りにニトロ・ウォリアーへと纏わりついていた。

「更に《リミット・リバース》を発動し、《雲魔物-ニンバスマン》を特殊召喚」

 先のターンにてニトロ・ウォリアーに破壊されたニンバスマンだったが、早くも墓地から蘇生されたものの、フィールドのフォッグカウンターは一つのため攻撃力は僅か1500。

「バトル。雲魔物-ゴースト・フォッグでニトロ・ウォリアーに攻撃、クライシスクリープ!」

「また攻撃力0で攻撃か……!」

 もちろん攻撃力0のゴースト・フォッグでは、ニトロ・ウォリアーにはまるで適わず破壊されたが、問題はそういうことではない。

 《雲魔物-羊雲》の時と同じく攻撃力0での自爆特攻で、ニンバスマンを特殊召喚したということは、ゴースト・フォッグの効果は攻撃力を下げる効果、もしくは……

「ゴースト・フォッグが破壊された時、破壊した相手モンスターのレベル分フォッグカウンターをモンスターに残す。よって、ニンバスマンにフォッグカウンターを7つ乗せる!」

「……フォッグカウンターの方か!」

 ニトロ・ウォリアーの攻撃力を下げる方が良かったのだが、破壊されたゴースト・フォッグの破片がニンバスマンに纏わりつき、七つのフォッグカウンターとしてフィールドに残り続ける。

 今のフィールドにあるフォッグカウンターは、《雲魔物のスコール》によってニトロ・ウォリアーに一つ、ゴースト・フォッグの効果によってニンバスマンに七つ。
合計八つのフォッグカウンターの存在によって、ニンバスマンの攻撃力はその効果も含めて5000……!

「バトル! ニンバスマンでニトロ・ウォリアーに攻撃!」

「ぐあああっ……!」

遊矢LP3600→1400

 フォッグカウンターのありすぎで肥大化したニンバスマンには、さしものニトロ・ウォリアーでも抵抗することすら出来ず、容易く破壊されて俺に大ダメージを与える。

「僕はターンエンド」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 ニトロ・ウォリアーを破壊したことによりフォッグカウンターが一つ消え、ニンバスマンの攻撃力は4500となったが、まさに焼け石に水といったところか。

「速攻魔法《手札断殺》を発動し、お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 手札交換カードによって墓地に送ったカードで、反撃の狼煙を上げるように、フィールドに旋風を巻き起こしてもらうとしよう。

「墓地に送ったのは《リミッター・ブレイク》! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェイバリット!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 墓地の《リミッター・ブレイク》により特殊召喚された、反撃の狼煙ことマイフェイバリットカードだったが、今回は新たな機械戦士に繋いでもらおう。

「スピード・ウォリアーをリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1900
DEF1500

 上級モンスターではあるがニンバスマンと殴り合えるモンスターではなく、真髄はその網によって墓地からチューナーモンスターを釣り上げることにある。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功した時、手札か墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 墓地から《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚!」

「またシンクロ召喚か……」

 そう呟くアモンの口調からは、俺のシンクロ召喚にうんざりしているという訳ではなく、ましてや十代のように次にどんなシンクロモンスターが来るかワクワクしているという訳でもない。
ただただフィールドを冷静に観察しているのみと、俺が今までデュエルした者たちとは、三沢や神楽坂といった人物を連想させた。

「レベル5の《サルベージ・ウォリアー》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 ニトロ・ウォリアーに引き続きレベル7のシンクロモンスターの登場に、ニトロ・シンクロンの頭の上にあるメーターがリミッターを超え、シンクロモンスターのラッキーカードを召喚する準備が整う。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 更なるシンクロ召喚が行われたのは黄色のボディを持つラッキーカード、《パワー・ツール・ドラゴン》の出番であり、その鋼鉄の身体から内部にいるドラゴンが嘶いた。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 俺が選ぶのは《ダブルツールD&C》・《レインボー・ヴェール》・《魔界の足枷》の三種類で、そのどれもがアモンのニンバスマンを突破できる可能性を秘めていた。

「……右のカードだ」

「なら俺は《ダブルツールD&C》をパワー・ツール・ドラゴンに装備する!」

 効果によって手札に加えられた装備魔法を即座に装備し、パワー・ツール・ドラゴンの両手にドリルとカッターが付くと、まずはドリルが勢い良く回りだした。

「更に装備魔法《サイクロン・ウィング》を装備し、バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、ニンバスマンを攻撃!」

「攻撃だと!?」

 攻撃直前に取り付けられた鋼鉄の翼から暴風雨が巻き起こり、ニンバスマンを攻撃するより早く、その暴風雨がアモンを襲った。

「サイクロン・ウィングの効果発動! 装備モンスターの攻撃宣言時、相手の魔法・罠カードを破壊する! 俺は……《スピリットバリア》を破壊!」

 二枚の永続魔法《宝札雲》・《雲魔物のスコール》と、ニンバスマンを蘇生した《リミット・リバース》のどれを破壊するか迷ったものの、戦闘ダメージを全てシャットアウトする《スピリットバリア》を選択した。

 更にニンバスマンの効果と戦闘破壊耐性だろうと、今のパワー・ツール・ドラゴンの前では無力となるのだから。

「ダブルツールD&Cは、戦闘する相手モンスターの効果を無効にする! よってニンバスマンは、攻撃力1000のただのモンスターだ! クラフティ・ブレイク!」

「ぐっ……ぐあああ!」

アモンLP4000→1700

 《スピリットバリア》が消えた為に、パワー・ツール・ドラゴンがアモンへの会心の一撃を叩き込むと、俺とアモンのライフがほとんど並んだ。

「ターンエンドだ!」

「……僕のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《ダブルツールD&C》と《サイクロン・ウィング》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》しかなく、アモンのフィールドには対照的に《宝札雲》と《雲魔物のスコール》しかない。

「手札のこのカードは墓地の《雲魔物》を除外することで特殊召喚出来る。二体の雲魔物を除外し、《雲魔物-ストーム・ドラゴン》を二体特殊召喚!」

雲魔物-ストーム・ドラゴン
ATK1000
DEF0

 風を纏ったドラゴンの姿を模した雲が二体特殊召喚され、トリッキーな小型雲魔物で場をかき回すだと、何が来るか用心しておく。

「更に《雲魔物-キロスタス》を召喚し、自身にフォッグカウンターを三つ乗せる」

雲魔物-キロスタス
ATK900
DEF0

 他の雲魔物よりも大柄な雲魔物-キロスタスが召喚されると、フィールドの雲魔物の数……即ち三つのフォッグカウンターがキロスタスに乗る。

「キロスタスはフォッグカウンターを二つ取り除くことにより、相手モンスターを破壊できる! パワー・ツール・ドラゴンを破壊せよ、キロスタス!」

「甘い! パワー・ツール・ドラゴンは破壊される時、装備魔法を自身の身代わりに出来る! ダブルツールD&Cを代わりに破壊する! イクイップ・アーマード!」

 雲魔物-キロスタスの効果である、フォッグカウンターを砲弾のように発射する攻撃に《ダブルツールD&C》のドリルとカッターは破壊されてしまったが、パワー・ツール・ドラゴン本体は無傷であった。

「まだそんな効果があったか……ならば二体のストーム・ドラゴンの効果を発動! フィールド場のモンスターにフォッグカウンターを乗せることが出来る。一体をキロスタス、もう一体をパワー・ツール・ドラゴンに!」

 ストーム・ドラゴンの尾からフォッグカウンターが生成され、それぞれパワー・ツール・ドラゴンとキロスタスに纏わりつき、そのどちらもフォッグカウンターは二つになった。

「キロスタスの効果により、パワー・ツール・ドラゴンを破壊する!」

「《サイクロン・ウィング》を身代わりに、破壊を無効にする!」

 キロスタスの第二打によってサイクロン・ウィングも破壊されたが、依然としてパワー・ツール・ドラゴンは無傷なのだ、まだまだ次なるターンに立て直しは可能だろう。

「……僕はカードを二枚伏せ、《宝札雲》の効果で二枚ドローしてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 アモンのフィールドを守っていた《スピリットバリア》が破壊され、ニンバスマンのような強力なモンスターもいない今、リバースカードが二枚あろうと攻め込むチャンス……!

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 選ぶのは先のターンと似たような感じで、《レインボー・ヴェール》・《魔界の足枷》・《団結の力》の三種類を選択すると、《レインボー・ヴェール》が選ばれるよう強く願った。

「先程と同じく、右を選ぼう」

「……パワー・ツール・ドラゴンに《団結の力》を装備!」

 その願いは《レインボー・ヴェール》には届かなかったものの、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は3100にまで上昇し、アモンのライフをオーバーキル出来る程となった。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンでキロスタスに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》をオープン! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドローする」

 戦闘では破壊されないがステータスは低い雲魔物とは相性が良いのだろう、無数のカード達によってアモンへのダメージは阻まれ、キロスタスも自身の効果により破壊されない。

「ならばメインフェイズ2、《ワンショット・ブースター》を召喚する!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 戦闘破壊が出来なくとも破壊する手段はいくらでもある、パワー・ツール・ドラゴンを効果破壊する気のキロスタスに、まずはそれを教えてやろう。

「ワンショット・ブースターの効果発動! このカードをリリースすることで、戦闘で破壊されなかった相手モンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

 ワンショット・ブースターに装備されていた二体のミサイルが発射され、正確にキロスタスに直撃すると、爆発して雲はそのまま気体となった。

「そして、ターンを終了する」

「僕のターン、ドロー!」

 永続魔法《雲魔物のスコール》によって、パワー・ツール・ドラゴンに新たなフォッグカウンターが乗せられ、このターンのストーム・ドラゴンの効果で五つとなるが……ニンバスマンを召喚されてもまだ耐えられる範囲だ。

 だがアモンには、最初からフォッグカウンターなど眼中に無かったようだ。

「ストーム・ドラゴン二体をリリースし、出でよ! 《雲魔物-アイ・オブ・ザ・タイフーン》!」

雲魔物-アイ・オブ・ザ・タイフーン
ATK3000
DEF1000

 二体のストーム・ドラゴンをリリースされてアドバンス召喚されたのは、一つ目の雲の巨人――もはやそうとしか呼べない、雲魔物最強のモンスターであった。

「フッ……バトル! 雲魔物-アイ・オブ・ザ・タイフーンで、パワー・ツール・ドラゴンに攻撃!」

 攻撃宣言時に発動する効果は、アタッカーだろうと壁モンスターだろうとその存在価値を無くし、ただただアイ・オブ・ザ・タイフーンに飲まれるだけのモンスターとなる……!

「アイ・オブ・ザ・タイフーンが攻撃する時、全てのモンスターは表示形式を変更する! 更にリバースカード、《断頭台の惨劇》を発動!」

 突如として発生した風を受け、無理やり守備表示となったパワー・ツール・ドラゴンを断頭台が捕獲し、中世の処刑台のようなそれはパワー・ツール・ドラゴンを狙っていた。
相手モンスターが攻撃表示から守備表示となった時、表側守備表示のモンスターを全て破壊するという効果の処刑台は、寸分違わずパワー・ツール・ドラゴンの首を狙ってギロチンを振り下ろした。

「《団結の力》を身代わりに、パワー・ツール・ドラゴンの破壊を無効にする! イクイップ・アーマード!」

 頭上から振り下ろされたギロチンの刃は《団結の力》を犠牲にすることで何とか防ぎきったものの、パワー・ツール・ドラゴンは断頭台に捕獲されたままであり、その前にアイ・オブ・ザ・タイフーンが漂っていた。

「これで厄介な装備魔法は消えた! パーフェクト・ストーム!」

「パワー・ツール・ドラゴン……!」

 アイ・オブ・ザ・タイフーンは台風を巻き起こし、《断頭台の惨劇》とのコンボによってパワー・ツール・ドラゴンを破壊すると、アモンのフィールドに守護神のように舞い戻っていった。
不幸中の幸いと言って良いものか、パワー・ツール・ドラゴンはアモンのコンボの影響で守備表示のため、俺にダメージはないが……

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 アイ・オブ・ザ・タイフーンにはニンバスマンと違って超火力はないものの、この局面では壁モンスターの意味を成さなくなるアイ・オブ・ザ・タイフーンの効果の方が厄介であり、超火力ではないと言っても攻撃力は3000を誇る。

 その表示形式変更効果を逆手に取り、あえてモンスターを攻撃表示にしたとしても、その瞬間にニンバスマンが召喚されれば俺は負けてしまう。

 ……ならば。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を召喚!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

 ここで召喚されるのは戦闘ダメージをシャットアウトしつつ、一度の戦闘では破壊されない要塞の機械戦士《マッシブ・ウォリアー》。
アイ・オブ・ザ・タイフーンを破壊する手段がない今は、この状況に最も相応しい機械戦士である。

 先のターンで《ワンショット・ブースター》を使ってしまったことが悔やまれるが、使わなければ敗北していたことを考えれば、思った通りにはいかないものだ。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「僕のターン、ドロー……大空を漂う雲に対して壁なんて無駄さ」

 なんとも俺にとって不吉な台詞を呟きながらアモンのターンはスタートし、毎ターンお決まりの《雲魔物のスコール》が起きると、その後に一体のモンスターがデュエルディスクにセットされた。

「《雲魔物-ポイズン・クラウド》を召喚」

雲魔物-ポイズン・クラウド
ATK0
DEF1000

 新たに召喚された雲魔物のステータスを見て、攻撃力が0ではマッシブ・ウォリアーすら突破出来ない……と思った次の瞬間、ポイズン・クラウドの姿が消えていた。

「通常魔法《フォッグ・コントロール》を発動。雲魔物を一体リリースすることで、フィールドのモンスターに三つのフォッグカウンターを乗せる!」

 元々はポイズン・クラウドであったそのフォッグカウンターは、アイ・オブ・ザ・タイフーンではなくマッシブ・ウォリアーに纏わりつき、これでマッシブ・ウォリアーに乗っているフォッグカウンターは四つとなった。

「フォッグカウンターが四つ……しまった!」

「知っているようだな。速攻魔法《ダイヤモンドダスト・サイクロン》! フォッグカウンターが四つ以上乗っているモンスターを破壊し、四つ分だけカードを一枚ドローする!」

 小さな氷の結晶を内包している旋風がマッシブ・ウォリアーを襲い、俺のマッシブ・ウォリアーを破壊するとともにアモンにドローをもたらすと、俺のフィールドはがら空きとなった。

「バトル! アイ・オブ・ザ・タイフーンでダイレクトアタック、パーフェクト・ストーム!」

「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了させる!」

 手札から巨大化した《速攻のかかし》が飛び出ると、アイ・オブ・ザ・タイフーンの攻撃を俺の代わりに受け、パーフェクト・ストームに吸い込まれていく。

 《速攻のかかし》にはいつもすまないが、おかげで俺のライフは無事だ。

「くっ……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《マッシブ・ウォリアー》と《速攻のかかし》が俺を守ってくれたおかげで出来るドローだ、それに感謝しながらカードをドローすると……逆転の為に待ち望んでいたカードが姿を見せた。

「行くぞアモン! 来い、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

 このデュエルにおいて二度目の登場となるマイフェイバリットカードは、体積が倍以上違うアイ・オブ・ザ・タイフーンの前に、果敢にも立ちはだかった。

「……そのモンスターで何をする気かな」

「こうするのさ。アイ・オブ・ザ・タイフーンに装備魔法《スピリット・バーナー》を装備する!」

 三つの効果を内蔵した装備魔法《スピリット・バーナー》がスピード・ウォリアーではなく、アモンの切り札アイ・オブ・ザ・タイフーンに装備され、まずは第一の効果がアイ・オブ・ザ・タイフーンへと発揮される。

「スピリット・バーナーを装備したモンスターは、一ターンに一度守備表示に出来る! アイ・オブ・ザ・タイフーンを守備表示に!」

 たとえ最強の雲魔物だとしても、守備表示になれば自壊するデメリットは存在するため、《スピリット・バーナー》はアイ・オブ・ザ・タイフーンはその弱点をついた。
守備表示になったことにより自身のデメリット効果が発動し、アイ・オブ・ザ・タイフーンの雲の身体がバラバラになると……

 ……その後に身体を再結集させ、再びアイ・オブ・ザ・タイフーンの身体を形成した……!?

「リバースカード、《アグレッシブ・クラウディアン》の効果。雲魔物が自身の効果で自壊した時、その雲魔物をそのまま特殊召喚する」

「ならば速攻魔法《旗鼓堂々》! 墓地から《スピリット・バーナー》をアイ・オブ・ザ・タイフーンに装備する!」

 このターンの特殊召喚が出来なくなる代わりに、装備魔法を墓地から装備するという速攻魔法《旗鼓堂々》により、再び墓地から《スピリット・バーナー》がアイ・オブ・ザ・タイフーンに装備された。

 雲魔物専用蘇生カードで完全蘇生を果たしたのに悪いが、もう一度《スピリット・バーナー》によって自壊してもらおう……!

「スピリット・バーナーの効果を発動! アイ・オブ・ザ・タイフーンを守備表示に……出来ない!?」

「《アグレッシブ・クラウディアン》で蘇生された雲魔物は、カードの効果で守備表示になりはしない」

 つまりは自壊デメリットを帳消しにして特殊召喚されたということで、もはや《スピリット・バーナー》の効果は通じず、こちらは《旗鼓堂々》のデメリット効果により特殊召喚も出来なくなった。

「そちらはスピード・ウォリアー一体、どうする気だ?」

 俺の逆転の策を《アグレッシブ・クラウディアン》で防ぎ、もはや攻撃表示のスピード・ウォリアーしかいない俺のフィールドを見て、アモンは勝利を確信した笑みを浮かべ……俺はそれに負けず劣らずの不敵な笑みを浮かべた。

「スピード・ウォリアー一体か……充分じゃないか! バトル! スピード・ウォリアーの攻撃力は、召喚したターンのみ倍になる!」

「バトルだと!?」

 スピード・ウォリアーの攻撃力は1800、アイ・オブ・ザ・タイフーンの攻撃力は3000と、もとより圧倒的な差でアイ・オブ・ザ・タイフーンは戦闘破壊耐性持ち。
アモンのライフは1700ポイントの為、このターンで決めるには4700ポイントの攻撃力を叩き出す必要がある。

 まあ、そんなことをする気は全く無いのだが。

「こっちが俺の本当の狙いだ! リバースカード、オープン! 《大成仏》! 装備カードを装備したモンスターを、全て破壊する!」

「なっ……!?」

 本来ならば装備カードを多用する俺のようなデッキのメタになるカードだが、装備カードを多用するということは相手モンスターにも装備出来るということで、このカードを発動する機会は驚くほど多い。

 このフィールド場にいる中で装備カードを装備しているのはアイ・オブ・ザ・タイフーンだけであり、中空に浮かんだ雲からなる雷によって――雲魔物が雷で成仏するというのもおかしな話だが――破壊されたことにより、アモンのフィールドががら空きとなった。

 ……そしてアモンのライフポイントは先程の通り、1700ポイントというスピード・ウォリアーより低い数値からなる。

「スピード・ウォリアーでアモンにダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」

「うわああっ!」

アモンLP1700→0


 マイフェイバリットカードの攻撃と生徒たちの歓声により、俺とアモンのデュエルは決着すると、アモンが俺に近づいて握手をするようなポーズをしていた。

「楽しいデュエルだったぜ、アモン」

 俺はもちろんそれに応じると、アモンも薄く微笑んで生徒たちに俺と握手しているシーンを見せた……悪い奴ではないのだが、演出家というか策謀家というか、アモンからはそんな気質を感じさせた。

「僕も楽しいデュエルでしたよ……ですが、君は早く逃げた方が良いかもしれませんね」

 アモンの意味深な言葉とともにその視線を追うと、様々な予定外なことが重なって機嫌が悪い、クロノス教諭とナポレオン教頭がタッグを組んで、デュエル場への通路でこちらを睨んでいらっしゃる……!

「……悪い、ありがとう」

 アモンの忠告に従ってその場を急ぎ離れると、背後から』待つノーネ!』だの『待つのでアール!』だのノーネでアールだのなんだの聞こえたが、気にしないでこの後のデュエルを見れる場所へと移ることにした……


 

 

―デス・デュエル―

 ネオスペーシアンと宝玉獣という伝説のデュエルとともに始業式が終わりを告げると、全ての生徒にデュエルエナジー観測装置《デスベルト》が配られ、機械的なデザインのそれを腕に装着することを強要された。

 プロフェッサー・コブラがウェスト校で実績を残した授業方法らしく、このデスベルトから発せられたエナジーによってデュエルへの熱意や実力を判断し、その結果で寮の昇格や降格が決定されるらしい。熱意や実力が他の者に劣っているとは思わないが、座学を疎かにされたようで、あまり良い気はしていない。

 こうして、四人の留学生とプロフェッサー・コブラ、そしてディスクロージャー・デュエル――略して《デスデュエル》――を含みながら、俺たちの最後の年が始まったのだった。

 ……俺はその前に、クロノス教諭とナポレオン教頭の二人がかりの説教を喰らうことになるのだが、それは割愛させてもらう。……アモンは特にお咎め無しのようで、なんとも理不尽な話だが。



「デスデュエルにデスベルト、ねぇ……」

 それからしばらくたった後、俺は腕に装着された《デスベルト》を見ながらポツリと呟き、もう一度デスベルトを外そうと試みた。やはりどんな力を入れようともデスベルトは取れず、機械には詳しい自分でもデスベルトはどんなものかは解らなかったが。

 デュエルをするとここからデュエルエナジーというものが吸われ、専門の機械でエナジーの計測を行う、ということだ、……ウェスト校で成果を出しているのは確からしいが、何とも怪しいものだ。

 まあ、デスデュエルのことはこれ以上考えても仕方がないだろう。

 今俺がやらなければいけないことは、先日の始業式をジムとデュエルしたせいで遅刻し、晴れ舞台を見ることが出来なかった妹分への謝罪。要するに、レイのところにちょっと謝りに行くついでに、高等部へと馴染めているか見に行くということだ。

 我ながら過保護だとは思うけれど、デスデュエルについてこれ以上考えても無駄なことと、同じぐらい仕方がないことなのである。こればかりは兄貴分たる自分としては。

 そういうことで、レイが今ラー・イエロー寮にいると聞いた俺は、久しぶりにラー・イエロー寮へと赴いた。そこで見たものは……何故かラー・イエローの生徒を追いかけ回す、元気な妹分の姿だった。

「待ってよマルっち! ……あ、遊矢様!」

 俺がラー・イエロー寮内に入るなり、レイは即座に俺の姿を見つけると、急激に彼女はそのスピードを増す。そして、容易く追いかけ回していた生徒をつかまえると、こちらに笑顔で寄ってきた。

「……様は止めろ、レイ。見ない顔だけど、そっちの生徒は?」

 いつも通りの会話を繰り広げた後、レイが捕まえたラー・イエローの生徒の顔を見た。見ない顔で身長も低く、どうやらレイと同じく一年生のようだ。

「私と同じ一年生の、加納マルタンくん。マルっち、前話した遊矢先輩だよ!」

「あ……どうも……」

 小柄な見た目通りに性格も気弱なのか、マルタンはか細い声で挨拶すると、レイに「もっと元気!」という感じで怒られた。……兄貴分としては、妹分の成長を喜ぶべきなのだろうか?

「で、何でお前マルタンを追いかけてたんだ?」

「始業式で仲良くなっただけだからデュエルしてなくて……せっかくだからデスデュエルをやってみよう、と思ったんだけど……」

 ……逃げられたから追いかけ回してたのか、お前は。レイにそう言ってやりたかったが、彼女もそのことを反省しているのか、どことなくシュンとしているので止めておこう……マルタンの気持ちも、解らない訳ではないし。

 飛び級とはいえ年下の女子とデュエルして負けるのは、男子としてプライドに関わるだろうし、見るからに気弱なマルタンはそれ以上のことを考えてしまうだろう。というかレイと絡むマルタンを見て、リア充爆発しろ的な視線を向ける男子もチラホラいるので、妙な逆恨みも怖そうだ。

「じゃ、俺とデュエルしないか?」

「え、先輩とですか……」

 突如として提案された俺の発言に、マルタン案の定嫌そうに顔をしかめるが、レイに聞こえないようにマルタンの耳元に口を近づけた。

「……レイは絶対に諦めない。俺とデュエルして、デュエルで疲れたとか言うことをお勧めする」

「うう……」

 それは早くも解っているのだろうマルタンは、しばし迷った後にデュエルディスクを構えた。デスデュエル期間中はいつでもデュエル出来るように、プロフェッサー・コブラから出来るだけ付けることを推奨されている。

「何で私とデュエルするのはダメで、遊矢様とは良いの……」

 俺たちがデュエルするために準備していると、何故ハブられたか解らないレイは一人で不思議そうにしていたが、すぐさまいつもの明るい笑顔となった。

「でも、見てても楽しいから良いかな! 二人とも頑張ってね!」

 ……まあ妹分が見ている前で、下級生に負けるわけにはいかないな。デスデュエルとやらがどんなものかも、ついでに体験させてもらうとしよう。

『デュエル!』

遊矢LP4000
マルタンLP4000

「僕のターン、ドロー」

 先攻は後輩に譲るなどと言ったつもりはないが、デュエルディスクはマルタンを先攻に選び、マルタンはカードを一枚ドローした。

「僕は……《トロイホース》を召喚」

トロイホース
ATK1600
DEF1200

 木で作られたトロイの馬こと《トロイホース》。地属性の上級モンスター専用のダブルコストモンスターで、マルタンのデッキは【地属性】寄りのデッキなのだろうか。

「更に永続魔法《トイ・ボックス》を発動。モンスターを一枚除外し、ターンエンド」

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 マルタンのフィールドに発動された永続魔法は、《トイ・ボックス》という名前の通り、そのままおもちゃ箱のような外見だ。その効果もおもちゃ箱の名を裏切らず、『トイ』と名の付くモンスターを除外し、好きなタイミングでフィールドに特殊召喚できるという効果。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 いつでも好きなタイミングで帰還出来るというのは厄介だが、『トイモンスター』は一種類を除いて全て下級モンスター。今のところは度外視しても良いだろう。

「バトル! マックス・ウォリアーでトロイホースに攻撃! マックス・ウォリアーはモンスターへの攻撃時、400ポイント攻撃力がアップする! スイフト・ラッシュ!」

 ダブルコストモンスターを防ぐ手段は特になかったようで、機械戦士のアタッカーたるマックス・ウォリアーに破壊され、その破片はマルタンに飛来する。

マルタンLP4000→3400

「相手モンスターを戦闘破壊した時、マックス・ウォリアーの攻撃力・守備力は半分になる……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 マルタンがドローした後のスタンバイフェイズ時、マルタンのフィールドにある《トイ・ボックス》がもぞもぞと動き出した。

「……スタンバイフェイズ、《トイ・ボックス》の効果を発動! 除外してたトイモンスターを特殊召喚します。来てくれ、《トイ・ソルジャー》!」

トイ・ソルジャー
ATK800
DEF300

 《トイ・ボックス》の中から出て来たのは、銃を持ったクルミ割り人形……とでも言えば良いのか。例えるならばそんな外見をした、おもちゃのようなモンスターだった。

 ナポレオン教頭の主力モンスターであり、スタンバイフェイズにその効果を発揮する。

「トイ・ソルジャーの効果発動! スタンバイフェイズ、デッキから二体の《トイ・ソルジャー》を特殊召喚!」

 これこそが《トイ・ソルジャー》の効果であり、そのステータスは低いもののデッキからの特殊召喚は脅威であり、マルタンのフィールドに三体の《トイ・ソルジャー》が揃った。

「装備魔法《団結の力》を装備して、バトル! トイ・ソルジャーでマックス・ウォリアーに攻撃!」

 大量展開をした後の《団結の力》。単純な作戦ではあるが効果的で、トイ・ソルジャーの攻撃力は3200となった。

「リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》! 攻撃を無効にし、再びセットする」

 トイ・ソルジャーから放たれた弾丸は、マックス・ウォリアーを護るように前に出た《くず鉄のかかし》に防がれ、《くず鉄のかかし》は再びセットされた。

「ああ……カードを一枚伏せてターンエンド」

 マックス・ウォリアーの攻撃力・守備力は半減しているため、今ならば《トイ・ソルジャー》と同じ攻撃力なのだが、相討ちを狙ってはこないようだ。

「俺のターン、ドロー!」

 攻撃が失敗して残念そうにしているマルタンのフィールドは、トイ・ソルジャーが三体――一体は《団結の力》を装備している――に《トイ・ボックス》にリバースカード。

「俺は《マックス・ウォリアー》を守備表示にし、《ガンドレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガンドレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

 アタッカーを守備表示にするとともに、腕甲の機械戦士を守備表示で召喚したため、マルタンは俺が守備に回ったのだと安心したようだ。……後輩に教えてあげよう、この条件でのみ特殊召喚出来るモンスターがいることを。

「俺のフィールドには守備表示モンスターが二体。よって、《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

 守備表示となっている二体の機械戦士の間から、重火器で武装している機械戦士《バックアップ・ウォリアー》が特殊召喚される。

「更に速攻魔法《移り気な仕立て屋》を発動し、トイ・ソルジャーに装備されている《団結の力》をバックアップ・ウォリアーに装備する!」

「えっ!?」

 トイ・ソルジャーに流れていた《団結の力》がバックアップ・ウォリアーに流れていき、その攻撃力をトイ・ソルジャーに装備していた時と同じ、つまりは2400ポイントアップさせる。上昇値は確かに同じであるものの、《トイ・ソルジャー》と《バックアップ・ウォリアー》では元々のステータスが違う。

「バトル! バックアップ・ウォリアーで《トイ・ソルジャー》を攻撃! サポート・アタック!」

 トイ・ソルジャーのライフルとは、比べ物にならない火力を持ったバズーカがバックアップ・ウォリアーから放たれ、マルタンの《トイ・ソルジャー》へと向かっていく。

「リバースカード《強制終了》を発動します! 《団結の力》を墓地に送って、バトルを終了!」

 バックアップ・ウォリアーは攻撃を無理やり止められた上に、流れてきていた《団結の力》を失うという散々な結果に終わってしまう。まあ、マルタンの《団結の力》を処理出来ただけでも良しとしよう。

「このままターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 《トイ・ソルジャー》の効果が発動するスタンバイフェイズになったが、マルタンの《トイ・ソルジャー》は全てフィールドにいるので、その効果は不発となって終わった。

 しかしデュエルはまだまだ序盤だが、未だにマルタンのデッキが解らない。そのデッキの方向性というか、テーマ性というのか、デッキが何を目指しているか解らないのだ。

 俺のデッキであるならば、《機械戦士》たちを活躍させられるデッキというように、どんなデッキだろうとテーマはある筈なのに。

「僕は……《トイ・ソルジャー》二体をリリースし、《パペット・キング》をアドバンス召喚!」

パペット・キング
ATK2800
DEF2600

 兵隊人形二体をリリースしてアドバンス召喚されたのは、その操り人形たちの王様――《パペット・キング》。その効果は手札でしか使えない効果なので、フィールドに出た今はただのバニラだ。

 しかし、今までマルタンが使ってきたモンスターカード……《トロイホース》に《トイ・ソルジャー》、そして《パペット・キング》となると、まさか玩具関係のモンスターのファンデッキ……?

「そして速攻魔法《ダブル・サイクロン》を発動し、《トイ・ボックス》を破壊して《くず鉄のかかし》を破壊!」

 二つの旋風が俺とマルタンのフィールドに起きると、マルタンのフィールドの《トイ・ボックス》と《くず鉄のかかし》を破壊する。

「バトル! パペット・キングでバックアップ・ウォリアーに攻撃!」

「くっ……!」

遊矢LP4000→3300

 バックアップ・ウォリアーは破壊されてしまったものの、まだまだライフポイントはかすり傷を負った程度。さして気にすることはないだろう。

「カードを二枚伏せてターンを終了します」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには、マックス・ウォリアーとガンドレット・ウォリアーのみで、ライフポイントは3300。対するマルタンはパペット・キングにトイ・ソルジャー、そして《強制終了》でライフポイントは3400。

 後輩と現段階で同等というのは、正直先輩としてどうかと思うところなので、少しばかりやらせてもらおう。

「俺はチューナーモンスター《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 金色のロードローラーを模したチューナーモンスターが登場し、守備の態勢をとっていたマックス・ウォリアーが、ロード・シンクロンと並んだ。

「自身の効果でレベル2となった《ロード・シンクロン》と、レベル4の《マックス・ウォリアー》をチューニング!」

 光の輪となったロード・シンクロンがマックス・ウォリアーを包み込み、このデュエル初のシンクロ召喚となり、目の前のマルタンが気を引き締めた。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

グラヴィティ・ウォリアー
ATK2100
DEF400

 ロード・シンクロンとマックス・ウォリアーがチューニングし、シンクロ召喚されたのは獣型の機械戦士である、重力の闘士《グラヴィティ・ウォリアー》。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 グラヴィティ・ウォリアーは、マルタンのフィールドにいたモンスターを睨みつけると、その鋼鉄の爪を鋭くさせた。マルタンのフィールドにいるのは、《パペット・キング》と《トイ・ソルジャー》の二体なので、その攻撃力を2700ポイントとする。

「パペット・キングの攻撃力の方が……」

「いや、まだだ。ガンドレット・ウォリアーをリリースすることで、俺のフィールドの戦士族モンスターの攻撃力を、500ポイントアップさせる!」

 ガンドレット・ウォリアーがリリースされた代わりに、グラヴィティ・ウォリアーの腕にガンドレット・ウォリアーの腕甲が付き、さらにその攻撃力を上げていく。

「速攻魔法《サイクロン》を発動して《強制終了》を破壊し、バトル! グラヴィティ・ウォリアーでパペット・キングに攻撃! グランド・クロス!」

「ううっ……!」

マルタンLP3400→2800

 グラヴィティ・ウォリアーの腕甲が付いた鋼鉄の腕から放たれる、強靭な爪の一撃にパペット・キングは切り裂かれ、その玩具で出来た身体はバラバラとなった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「ぼ、僕のターン、ドロー!」

 パペット・キングが破壊されてしまったため、マルタンのフィールドにはもう《トイ・ソルジャー》しかおらず、その効果を発動しようにも、残り二体の《トイ・ソルジャー》は墓地にいる。従って、デッキから特殊召喚する効果は発動出来ない、と思ったのだが……

「伏せてあった《転生の予言》を発動! トイ・ソルジャー二体を墓地に戻して、フィールドの《トイ・ソルジャー》の効果でデッキから特殊召喚!」

 少々甘く見ていたようだ、とマルタンのフィールドに再び揃った《トイ・ソルジャー》を見て思うと、マルタンは伏せてあったもう一枚のリバースカードを発動した。

「リバースカード、《ハイレート・ドロー》を発動! 僕のフィールドの機械族モンスターを破壊し、破壊した数だけカードをドローする」

 特殊召喚されたや否やトイ・ソルジャーは破壊され、その代償としてマルタンは三枚のカードをドローする。三体に増える《トイ・ソルジャー》をコストに使うとは、こちらとしてはたまったものではないが、マルタンはあまり良いカードを引けなかったようだ。

「……《ブロックマン》を守備表示で召喚」

ブロックマン
ATK1000
DEF1500

 玩具で言ったところの『ジェンガ』であろうか、ブロックで構成された人型が守備の態勢をとる。あまり守備力は高くないが、フィールドに残しておくと厄介なモンスターだ。

 ……強いて言えばマルタンのデッキには、フィールドに残しておくと厄介なモンスターしかいないのか。ダブルコストモンスターといい、《トイ・ソルジャー》といい《ブロックマン》といい、《強制終了》といい。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには、攻撃力が2700ポイントと戻った《グラヴィティ・ウォリアー》と、リバースカードが一枚しかない。だがなかなかこの状況には、良い装備魔法を引くことは出来た。

「装備魔法《メテオ・ストライク》をグラヴィティ・ウォリアーに装備し、グラヴィティ・ウォリアーは貫通効果を得る! バトルだ!」

 マルタンのライフポイントは2900なので、まだトドメを刺すには至らないものの、有効打を与えることが出来るはずだ。

「グラヴィティ・ウォリアーでブロックマンに攻撃! グランド・クロス!」

「リバースカード、オープン! 《攻撃の無力化》!」

 グラヴィティ・ウォリアーの攻撃は、マルタンのフィールドに現れた時空の穴に吸い込まれてしまい、その鋼鉄の爪はブロックマンに届かない。グラヴィティ・ウォリアーは鼻息をならしながら、残念そうに俺のフィールドに帰ってきた。

「……こっちもカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー……《貪欲な壺》を発動して、二枚ドロー!」

 汎用ドローカードによって二枚のドローを果たし、マルタンはデュエルディスクから《ブロックマン》を取り出し、そのままそのカードを墓地に送った。

「ブロックマンの効果を発動。ブロックマンをリリースして、二体の《ブロックマントークン》を特殊召喚!」

 《ブロックマン》のカードが墓地に送られると、ブロックマンがバラバラになっていき、そのまま二体の小さいブロックマンとなった。だが、そのステータスは変わらないというのは、どういうことなのか。

 ブロックマンはフィールドにいたターン数、リリースした際にトークンを特殊召喚する効果を持っている。よって《攻撃の無力化》に守られたので、二体のモンスタートークンとなったのだ。

「更に通常魔法《トークン復活祭》を発動! 僕のフィールドのモンスタートークンをリリースすることで、リリースした数だけ相手のカードを破壊する。ブロックマントークンを二体リリースして、グラヴィティ・ウォリアーとリバースカードを破壊!」

 ブロックマントークンが二体、こちらに向かって突撃してくると、グラヴィティ・ウォリアーとリバースカードを巻き込んで爆発した。だが、爆発したリバースカードが墓地で光り出し、フィールドに旋風を巻き起こした。

 グラヴィティ・ウォリアーとリバースカードを破壊し、俺のフィールドをがら空きにするという目論見だったのだろうが、その目論見は成就しない。

「破壊された《リミッター・ブレイク》の効果を発動! 破壊された時、デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! 守備表示で現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 デッキからマイフェイバリットカードが飛び出し、がら空きとなっていた俺の前に、守備の態勢を取りながら駆けつけてきた。グラヴィティ・ウォリアーを破壊したことはマルタンの目論見通りだが、マイフェイバリットカードは俺にとって頼りとなることこの上ない。

「なら《トイ・ソルジャー》を召喚して、《皇帝の戴冠式》を発動! トイ・ソルジャーをリリースして、デッキから《トイ・エンペラー》を特殊召喚!」

トイ・エンペラー
ATK2300
DEF800

 玩具の兵隊がリリースされると、玩具の馬を連れてデッキから戻って来た。《トイ・ソルジャー》から昇格したのか、《トイ・エンペラー》となって。

 そのステータスは上級モンスタークラスとなり、その効果も《トイ・ソルジャー》から大きく変貌しているとともに、マイフェイバリットカードを特殊召喚しない方が良かった、と俺に思わせた。

「バトルだ、トイ・エンペラーでスピード・ウォリアーに攻撃!」

 トイ・エンペラーは馬に乗って駆けると、スピード・ウォリアーを玩具の剣で切り裂くと、マルタンのフィールドに戻っていった。スピード・ウォリアーは守備表示の為、俺のライフポイントにダメージは無いものの、《トイ・エンペラー》の効果が発動する。

「トイ・エンペラーが戦闘破壊した時、デッキから罠カードを手札に加えられる」

 相手モンスターを戦闘破壊した時、自分のデッキから罠カードを手札に加えられる、という強力な効果。惜しむらくは、上級モンスターにしてはステータスが中途半端なことだが、それはいくらでも補いようがある。

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 デッキから罠カードを手札に加えた後、一枚だけしかカードを伏せないとは、アレが《トイ・エンペラー》で手札に加えたカードだろう。マルタンの性格からして、あのカードがハッタリとはとても思えない。

「俺は《戦士の生還》を発動し、《スピード・ウォリアー》を手札に加え、そのまま召喚する!」

『トアアアアッ!』
 《トイ・エンペラー》に破壊されていたが、墓地から復活したスピード・ウォリアーがフィールドに現れ、《トイ・エンペラー》を破壊せんと意志を示した。

「このターンで終わらせるぞ! バトル! スピード・ウォリアーの攻撃力は、召喚したターンのバトルフェイズでのみ、攻撃力が倍になる!」

「このターンで……?」

 マルタンのフィールドには《トイ・エンペラー》と、その効果で手札に加えたリバースカード、そして2900のライフポイント。対する俺のフィールドには《スピード・ウォリアー》とリバースカードが一枚のみなので、マルタンがその発言に疑問を持つのは当然だろう。

 だが俺とマイフェイバリットカードは、それだけの条件でも相手を打ち破る……!

「スピード・ウォリアーでトイ・エンペラーを攻撃! ソニック・エッジ!」

「何をしてくるのか解らないけど……リバースカード、《聖なるバリア-ミラーフォース》を発動!」

 マルタンの伏せてあった罠カードは、最強の攻撃反応カード《聖なるバリア-ミラーフォース》であり、その名前に恥じぬ効果でスピード・ウォリアーの攻撃を弾き返した。

 ……だが、スピード・ウォリアーはそんなことに構わず、トイ・エンペラーに向かって突撃していく。

「……え!?」

「こっちも伏せてあった《一筋の希望》を発動! こちらのモンスターが全て効果破壊される時、モンスター一体を守り抜く! 更に速攻魔法《ウィーク・アンガー》を発動!」

 手札から発動された速攻魔法《ウィーク・アンガー》は、レベル2以下という縛りはあるものの、指定モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせるコンバットトリック。

 スピード・ウォリアーの攻撃力は2800となり、トイ・エンペラーの攻撃力を超えると、ソニック・エッジにより玩具の皇帝を破壊した。

マルタンLP2800→2300

「さらに、《ウィーク・アンガー》の効果を発動! 攻撃力をアップさせたモンスターが相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 スピード・ウォリアーの攻撃力は、自身の効果と併せて2800てなっており、ダイレクトアタックに等しいダメージがマルタンを襲う……!
「うわああっ!」

マルタンLP2300→0

 スピード・ウォリアーのソニック・エッジがマルタンに対して炸裂し、マルタンのライフポイントを全て削り取ると、スピード・ウォリアーは役目を終えてその姿を消した。

 そしてデュエルが終わった瞬間に、身体から少し力が抜けた気がしたが、これがデス・デュエルのデュエルエナジーの吸収なのだろう。これだけの腕輪でそんなことが出来るとは、なんとも素晴らしい技術力だが、それよりはマルタンの方が先だ。

「楽しいデュエルだったぜ、マルタン」

「は、はい。ありがとうございました」

 スピード・ウォリアーの一撃で倒れたマルタンを起こすと、レイも一緒に駆け寄って来て、マルタンの手を取って笑顔を見せた。

「良いデュエルだったよマルっち! ……だけど、マルっちのデッキって何なの?」

「……お父さんのカードを使って組んだデッキなんだ。だから、ちょっと弱いかもしれない」

 マルタンが少し言い辛そうにデッキの秘密を言ってくれて、俺はマルタンの不可思議なデッキ構成に納得がいった。しかし、《トイ・ソルジャー》や《トイ・エンペラー》はナポレオン教頭のカードだが……まさかな。

「じゃ、今から一緒にデッキ作らない? ほら、遊矢様も!」

「……様は止めろ」

 特に用事があった訳でもないので、マルタンのデッキ構築を手伝っても全く構わないので、手伝うことにしよう。……【機械戦士】の参考になるかもしれない。

 長年連れ添ってきた仲間のようなデッキ、【機械戦士】。コイツにも、新しいギミックを取り入れる必要があるのではないかと、最近俺はそう思っていた。

 【妖怪】にライトロードを取り入れた三沢のように、ネオスペーシアンが加わった十代のように。進化を続けるだろう彼らに対し、俺と【機械戦士】はこのままで勝てるのか……?

 答えが出るはずもないことを考えながら、マルタンのデッキ構築を手伝うため、二人とともにラー・イエロー寮へと入っていくのだった。

 
 

 
後書き
誰得デュエルと【機械戦士】強化フラグ。

感想・アドバイス待ってます。 

 

―デッキとは―

 デスデュエルが導入されてからしばし経つと、留学生やプロフェッサー・コブラがいることも慣れ、彼らは特に何事もなく日常に溶け込んだ。ジムが何やら化石を掘っていたり、オブライエンが木に吊されていたりしているが、それを見ても驚かなくなったという点では。

 あの日のマルタンのデッキ構築案はレイとマルタンと三人で考えつき、マルタンが「後は自分でやる」と言った為に、あのグループは解散となった。どんなデッキが出来上がるか、少し楽しみにしている。

 そして俺の場合、人のことばかり気にしてられないのが現状である。機械戦士たちの特色が無くならず、そのサポートに回るようなカテゴリーは、なかなか見つからなかったからだ。

 マルタンのようにデッキを一から作ってみる方がよっぽど楽かもしれないこの作業、手伝ってくれている為に付き合わせている明日香に、かなり申し訳がたたなかったりする。彼女は主軸の《サイバー・ガール》たちをメインに、サポートとして他の戦士族と天使族が入っているという、俺の【機械戦士】の理想型に近いデッキ構成なのだが……

「うーん……」

「難しいわね……」

 オベリスク・ブルー寮の俺の部屋で、二人して頭を抱えていた。幾つかの候補は挙がったものの、そのどれもが『イマイチ』という評価となっている。

「明日香、もう時間も遅いだろ。そろそろ帰った方が――」

「嫌よ。遊矢のデッキをこのままにして帰れないわ」

 相変わらず変なところでプライドが高い女王様を、その居住たる女子寮へと帰そうとしていた時、俺の部屋のドアが勢いよく放たれた。

「え、ルビー、この部屋違うって? もう少し早く言ってくれよ……」

 いきなり他人のドアを開け放ち、いきなり虚空に向かって喋りだす来訪者に、俺は少し身構えた。しかし、あの相手にはそんな警戒は必要ないと、何回か十代から聞いている。

「ヨハン・アンデルセン……」

 留学生の一人であるアークティック校チャンプ、ヨハン・アンデルセン。伝説のデッキ【宝玉獣】を使っており、十代とは早くも意気投合していた。
「悪い悪い、俺方向音痴でさ。君たちの邪魔をするつもりじゃ……うん?」

 邪魔をするつもりじゃないと言ったにもかかわらず、そのままヨハンは部屋に立ち入ってくると、俺と明日香の顔を凝視した。

「もしかして、遊矢と明日香って奴か? いつも一緒にいる強い奴って、十代が言ってたぜ」

「な、なに言ってるのよ十代!」

 こんなところで騒いでても十代には聞こえないぞ、明日香。ヨハンに「そうだ」と答えると、ヨハンははちきれんばかりの笑顔で応えてくれた。

「ああ! それじゃデュエルしないか? ……っと、でも、デッキの調整中みたいだな……」

「いいや、そろそろ終わりにしようと思ってたから大丈夫だよ。明日香、どっちからデュエルする?」

 机に置かれていた【機械戦士】たちをまとめながら、デュエルディスクを引っ張り出し、デッキをデュエルディスクに差し込んだ。本来ならばデッキの調整がてら、明日香とデュエルをする気だったので、明日香もデュエルディスクを持っている。

「そうね……」

「いや、決める必要はないさ。トライアングル・デュエルにしよう!」

 ヨハンが提案したのは、タッグデュエルと並んで変則デュエルの一つである、トライアングル・デュエル。二人が手を組んで一人を倒したり、ルールがはっきりと制定されてないことがあり、タッグデュエルに比べるとマイナー気味である。

「私たち二人が手を組むかも知れないのに、トライアングル・デュエルで良いの?」

「それはそれで面白そうだしな! 俺は問題ないよ」

 そんなつもりは毛頭無いどころか、手の内を知っている俺を先に倒しそうな明日香の悪戯めいた質問。それにヨハンは、流石のアークティック校チャンプといった、何でもないような様子で答えた。

「明日香お前、そんな気は全く無いだろ。……じゃ、トライアングル・デュエルといきますか!」

 通常のデュエルの時とは異なり、まさにトライアングルの形で離れると、三人ともデュエルの準備が完了した。……もちろん、デスベルトも反応してしまっているが。
『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000
ヨハンLP4000

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺からだ、ドロー!」

 デュエルディスクに流れるのは、いつも通り『先攻』という表示ではなく、『1st』という順番を示す文字。

 ライフポイントは全員4000、誰を攻撃しても良いが他人を庇うことは出来ない、『相手プレイヤー』を選択する場合はどちらかを選択する……

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚!」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1500

 ……そして、最初のターンは全員攻撃出来ない。これでトライアングル・デュエルのルールは、大体復習出来ただろうか。

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「よっしゃ行くぜ! 俺のターン、ドロー!」

 ヨハンのターンとなり、遂に伝説のデッキが始動する。まだ攻撃は出来ないため、あまり手は打ってこないだろうが。

「俺は《宝玉獣 エメラルド・タートル》を守備表示で召喚!」

宝玉獣 エメラルド・タートル
ATK600
DEF2000

 エメラルドがフィールドに輝きを放った後、召喚される宝玉獣 エメラルド・タートル。攻撃したモンスターを守備表示に出来る効果だ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 俺の次のターンがヨハンということは、トライアングル・デュエルの順番は俺→ヨハン→明日香だと確定する。

「私は《エトワール・サイバー》を守備表示で召喚!」

エトワール・サイバー
ATK1200
DEF1700

 明日香の融合のエースカード《サイバー・ブレイダー》の融合素材が、やはり守備表示で召喚される。明日香も今は、あまり行動を起こさないらしい。

「カードを一枚伏せてターンを終了するわ」


「俺のターン、ドロー!」

 三人とも壁モンスターで守備を固め、リバースカードが一枚という布陣。そしてこのターンから、相手を攻撃することが出来る。

「俺は《ミスティック・バイパー》を守備表示で召喚!」

ミスティック・バイパー
ATK0
DEF0

「なんだ、まだ攻めてこないのか?」

 守備表示で召喚された笛吹の機械戦士を見て、俺にそう挑発して来るヨハンだったが、もちろん俺は攻撃するつもりだ。

「俺のフィールドには守備表示モンスターが二体、よって《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

 ガントレット・ウォリアーとミスティック・バイパーの間から、重火器で武装した機械戦士《バックアップ・ウォリアー》が特殊召喚される。目を輝かせているヨハンには悪いが、攻撃目標はエメラルド・タートルではない。

「バトルだ! バックアップ・ウォリアーで、エトワール・サイバーに攻撃! サポート・アタック!」

 フィールドに宝玉として残るエメラルド・タートルより、融合素材であるエトワール・サイバーを優先して叩く。破壊には成功したものの、明日香のフィールドから一本の光差す道が現れる。

「伏せてあった《奇跡の残照》を発動! 破壊された《エトワール・サイバー》を特殊召喚するわ」

 以前トレードした《奇跡の残照》の効果により、エトワール・サイバーが復活する。……これはなかなかに苦々しい気分だ……

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! 《宝玉獣 トパーズ・タイガー》を攻撃表示で召喚!」

宝玉獣 トパーズ・タイガー
ATK1600
DEF1000

 ドローするや否や召喚される宝玉獣の切り込み隊長、トパーズ・タイガー。宝玉から黄色の輝きを見せながらの登場だ。

「バトル! 宝玉獣 トパーズ・タイガーで、バックアップ・ウォリアーに攻撃! トパーズ・バイト!」

 確かトパーズ・タイガーの効果は、ダメージステップに400ポイント攻撃力をアップさせる効果。それだけではバックアップ・ウォリアーを倒すには至らないので、まだコンバットトリックがある。

「さらにリバースカード、オープン! 《幻獣の角》! 発動後装備カードとなり、トパーズに装備する! トパーズの効果と併せて、今の攻撃力は2800!」

 獣族専用装備罠カード、《幻獣の角》。その効果で攻撃力を800ポイントアップさせたトパーズ・タイガーにより、バックアップ・ウォリアーは噛み砕かれる。

「バックアップ・ウォリアー……!」

遊矢LP4000→3300

「幻獣の角を装備したモンスターが相手を破壊した時、一枚ドローする。カードを伏せてターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー!」

 俺のフィールドのバックアップ・ウォリアーが破壊され、明日香のターンへと移っていく。エトワール・サイバーがフィールドにいる為、明日香ならば絶対に……


「私は魔法カード《融合》を発動! フィールドの《エトワール・サイバー》と手札の《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 予想通り――外れて欲しかったが――現れた融合のエース、《サイバー・ブレイダー》。その厄介な効果は、俺とヨハンのフィールドで別々に数えることになる。

 つまり俺の場合は《ガントレット・ウォリアー》しかいない為、俺はサイバー・ブレイダーは戦闘破壊耐性を持っているとして扱う。だが、ヨハンのフィールドには二体のモンスターがいる為、ヨハンにとっては攻撃力が二倍のモンスターだ。

「バトル! サイバー・ブレイダーで、トパーズ・タイガーに攻撃!」

「リバースカード、オープン! 《攻撃の無力化》!」

 せっかくの攻撃力4200の攻撃も、相手モンスターに届かなくては意味がない。ヨハンのリバースカードによる時空の穴に吸い込まれ、サイバー・ブレイダーの攻撃は止められた。

「……カードをセットして、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 ヨハンのフィールドにはエメラルド・タートルとトパーズ・タイガー。明日香のフィールドにはサイバー・ブレイダー。

 何をしてくるか解らないヨハンも脅威だが、明日香のサイバー・ブレイダーの方が解りやすい脅威だ。

「チューナーモンスター、《チェンジ・シンクロン》を召喚し、《下降潮流》を発動! チェンジ・シンクロンのレベルを2に変更する!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 小型のロボットのようなチューナーモンスターが召喚され、そのレベルを2に変更されると、ガントレット・ウォリアーとシンクロ召喚の構えをとった。

「レベル3の《ガントレット・ウォリアー》と、レベル2となった《チェンジ・シンクロン》でチューニング!」

「シンクロ召喚か!」

 ヨハンの楽しんでいそうな驚愕の声をバックに、チェンジ・シンクロンは二つの光の輪となった。またもや下降してない《下降潮流》を使ってまで狙うのは、傷だらけの機械戦士のシンクロ召喚。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 来い! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 シンクロ召喚される傷だらけの機械戦士とともに、シンクロ素材となった《チェンジ・シンクロン》がフィールドに浮かび上がった。

「チェンジ・シンクロンがシンクロ素材になった時、フィールドのモンスターの表示形式を変更する。サイバー・ブレイダーを守備表示に!」

 厄介な効果を持つサイバー・ブレイダーだが、守備力はたかが800でしかない。スカー・ウォリアーであれば、十二分に破壊が可能である。

「バトル! スカー・ウォリアーで、サイバー・ブレイダーに攻撃! ブレイブ・ダガー!」

「サイバー・ブレイダーの効果は……」

 サイバー・ブレイダーの第一の効果は戦闘破壊耐性。そんなことはもちろん解っているので、明日香のセリフが終わる前にリバースカードを発動した。

「伏せてあった《リミット・リバース》の効果を発動! 蘇れ、《ガントレット・ウォリアー》!」

 再び特殊召喚されるガントレット・ウォリアーの登場により、サイバー・ブレイダーは第二の効果となって戦闘破壊耐性を失う。しかも守備表示のため、攻撃力が二倍になっていようと意味がない。

 だが、《ガントレット・ウォリアー》の特殊召喚とともに、明日香のリバースカードも発動していた。

「リバースカード、《重力解除》発動! フィールドのモンスターの表示形式を全て変更する!」

「……チェーンして《ガントレット・ウォリアー》の効果発動! スカー・ウォリアーの攻撃力を500ポイントアップ!」

 明日香の奇策《重力解除》が発動される前に、ガントレット・ウォリアーをリリースさせ、スカー・ウォリアーに装備させる。このままでは《リミット・リバース》のデメリット効果により、破壊されてしまうところだったので、それよりは良いだろう。

 そして《重力解除》は三人のフィールドに効果を及ぼし、サイバー・ブレイダーを攻撃表示に、スカー・ウォリアーは低い守備力を晒す。

「くっ……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 狙っていたこととは真逆の状態になってしまい、歯噛みしながらヨハンのターンへと移る。

「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動! 三人とも二枚捨てて二枚ドローだ!」

 慣れ親しんだ手札交換カードがヨハンから発動され、伝説のデッキだろうと普通のカードは入ってるんだな、などと思っていると、手札を交換したヨハンが良いカードを引いたようだ。

「よし、《虹の古代都市-レインボー・ルイン》を発動!」

 フィールドがオベリスク・ブルーの俺の部屋から、ローマ時代の古代都市へと舞台が移っていく。その古代都市の頭上には、美しく輝く虹があった。

「さらに俺は魔法カード《宝玉の恵み》を発動! 墓地の宝玉獣二体を、宝玉化してフィールドに置く! 墓地の《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》と《宝玉獣 コバルト・イーグル》を魔法・罠ゾーンに!」

 これが宝玉獣の最大の特徴である、永続魔法カードのようにフィールドに残り続ける《宝玉化》。そこから様々なコンボに派生していく。

「まだまだ行くぜ! 速攻魔法《G・フォース》! 宝玉化した宝玉獣を特殊召喚する! 《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を守備表示で特殊召喚!」

宝玉獣 ルビー・カーバンクル
ATK300
DEF300

 猫のような生き物の形をした下級モンスター、ルビー・カーバンクルが宝玉から解き放たれ、その効果を発動しようとする。

「ルビー・カーバンクルが特殊召喚に成功した時、宝玉化した宝玉獣を特殊召喚する! ルビー・ハピネス!」

 しかしヨハンの台詞とは裏腹に、いつまで経ってもコバルト・イーグルが特殊召喚される様子はない。

「あ、あれ? コバルト・イーグル?」

 ヨハンは慌てて、宝玉化しているカードの精霊に語りかけていたが、悪いのは宝玉獣ではない。明日香のサイバー・ブレイダーの効果である。

「サイバー・ブレイダー第三の効果。相手モンスターが三体いる時、相手のカードの効果を無効にする。バ・ド・カドル!」

「マジかよ、そんな効果持ってたのかぁ~……」

 頭を抱えてうなだれるその様子は、どことなく十代を連想させる。……似たものどうしなのだろう、二人とも。

「ま、仕方ないか。エメラルド・タートルを守備表示にし、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 結局ヨハンは《重力解除》で攻撃表示になっていた、エメラルド・タートルを守備表示にしただけでターンを終了する。よって、未だにサイバー・ブレイダーは明日香のフィールドに健在だ。

「私は《ブレード・スケーター》を召喚!」

ブレード・スケーター
ATK1400
DEF1500

 俺のモンスターは《スカー・ウォリアー》一体で、ヨハンのフィールドは三体の宝玉獣がいる。そのどれもが、《重力解除》によって守備表示となっている。

 明日香は二体のモンスターで、果たしてどいつを攻撃するか……?

「バトル! ブレード・スケーターでルビー・カーバンクルを攻撃! アクセル・スライサー!」

 明日香の攻撃目標はヨハンになったようで、ヨハンには悪いが俺は少しばかり安心した。ルビー・カーバンクルは破壊されてしまうが、魔法・罠ゾーンにルビーが宝玉化する。

「破壊されても、ルビー・カーバンクルは宝玉化する!」

「それでも行くわよ! サイバー・ブレイダーで、トパーズ・タイガーを攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 ルビー・カーバンクルもトパーズ・タイガーも守備表示のため、ヨハンにはダメージは受けず、宝玉獣は破壊されても宝玉化する。ヨハンの《幻獣の角》が破壊され、代わりにトパーズが宝玉化した。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 スカー・ウォリアーが戦闘破壊耐性を持っているおかげで、明日香に狙われずに済んだことを感謝し、次なるモンスターへと繋ぐ。

「俺は《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

 消火器のような形をしたチューナーモンスター、《ニトロ・シンクロン》が召喚され、その頭に付いているメーターを加速させた。

「レベル5の《スカー・ウォリアー》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 そしてこの二体だけではなく、スカー・ウォリアーの腕に装着された、《ガントレット・ウォリアー》の思いも共にシンクロを行う。二つの光の輪と五つの光が瞬くと、新たなシンクロモンスターがフィールドに現れた。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていく。シンクロ素材となった、専用チューナー《ニトロ・シンクロン》の効果で、さらにカードを一枚ドローする。

「バトル! ニトロ・ウォリアーで、サイバー・ブレイダーに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 ニトロ・ウォリアーはその拳でサイバー・ブレイダーに殴りかかるが、俺のフィールドのモンスターは一体のため、サイバー・ブレイダーは第一の効果が適応されている。

「サイバー・ブレイダー第一の効果……」

「いや、速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動! サイバー・ブレイダーの攻撃力を400ポイントアップさせ、その効果を無効にする!」

 サイバー・ブレイダーの頭上に禁じられた聖杯が掲げられ、その戦闘破壊耐性は無効となる。代わりにサイバー・ブレイダーの攻撃力は上がるが、それよりもさらに、ニトロ・ウォリアーの攻撃力は上がる。

「ニトロ・ウォリアーは魔法カードを使ったターン、攻撃力が1000ポイントアップする!」

 攻撃力3800のラッシュがサイバー・ブレイダーを襲い、今までフィールドを制圧していた、明日香の融合のエースモンスターは破壊される。

「きゃあ!」

明日香LP4000→2700

 しかもニトロ・ウォリアーの行動はそれだけでは終わらず、その拳を回転させてフィールドに旋風を巻き起こし、エメラルド・タートルを攻撃表示に変更した。

「なに!?」

「ニトロ・ウォリアーが相手モンスターを戦闘破壊した時、他の守備表示モンスターを攻撃表示にして再びバトルを行う! ダイナマイト・インパクト!」

 ニトロ・ウォリアーが攻撃表示になったエメラルド・タートルにも、サイバー・ブレイダーと同じようにラッシュを叩き込む。だがその効き目は、明日香に比べると小さなものだった。

「《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果! 宝玉化した宝玉獣が二体以上いる時、一ターンに一度だけ、戦闘ダメージを半分にすることが出来る!」

ヨハンLP4000→2900

 ライフの半分を失う勢いだった攻撃にもかかわらず、虹色のバリアによってダメージを半減されてしまう。

「エメラルド・タートルは宝玉化する」

 しかも宝玉獣を破壊しても、宝玉化してしまう為に簡単に再利用が可能となってしまう。ほとんど狙い通りにニトロ・ウォリアーは活躍してくれたが、ヨハンには少ししてやられたか。

「……カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 ヨハンのフィールドにモンスターはいないが、宝玉化した宝玉獣が四体も魔法・罠ゾーンにいて、専用フィールド魔法《虹の古代都市-レインボー・ルイン》はある。

 明日香のフィールドには《ブレード・スケーター》のみで、俺のフィールドは《ニトロ・ウォリアー》とリバースカードだと考えると、ヨハンがボード・アドバンテージを独占していると考えて良いだろう。

「《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果! 宝玉化した宝玉獣が四体いる時、さらに一枚ドロー出来る! そして、魔法カード《レア・ヴァリュー》を発動!」

 フィールド魔法で一枚ドローした後、さらに魔法カードが発動されると、俺の前に四つの宝玉が浮かび上がった。

「遊矢。このカードは君が選んだ宝玉獣を墓地に送って、俺は二枚カードをドローするカード。さあ、選びな!」

「……俺は《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を選択する」

 先程は《サイバー・ブレイダー》第三の効果により、発動する機会を失ったものの、その効果は宝玉獣の中でも強力なもの。宝玉化したモンスターを、全て特殊召喚するカードをフィールドに残してはおけなかった。

「ルビーを墓地に送って二枚ドロー! ……よし、頼むぜ! 《宝玉獣 サファイア・ペガサス》!」

宝玉獣 サファイア・ペガサス
ATK1800
DEF1200

 サファイアの宝玉から光が発せられ、そこからは天駆ける天馬が飛びだしてくる。……この天馬は走るのがメインのようだが。

「サファイア・ペガサスが召喚に成功した時、デッキから宝玉獣を宝玉化出来る! 《宝玉獣 アメジスト・キャット》を魔法・罠ゾーンに!」

 新たにアメジスト色の宝玉が現れ、これで再び四体の宝玉獣が魔法・罠ゾーンに並ぶ。そしてサファイア・ペガサスが攻撃表示ということは、ニトロ・ウォリアーを倒す手段があるのだろうか……?

「そして《死者蘇生》を発動! 守備表示で蘇れ、《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》!」

 宝玉獣 ルビー・カーバンクルが、万能蘇生カードによってフィールドに特殊召喚され、俺は自らの失策を痛感する。ルビー・カーバンクルはどこからでも、特殊召喚に成功すれば、その効果は発動出来るのだ。

「今度こそやらせてもらうぜ、ルビー・カーバンクルの効果発動! 宝玉獣たちを解放する! ルビー・ハピネス!」

 ヨハンのフィールドに宝玉化していたモンスターは四体、よってフィールドが埋まる程に特殊召喚される。

 宝玉獣 ルビー・カーバンクルに導かれ、《宝玉獣 コバルト・イーグル》、《宝玉獣 アメジスト・キャット》、《宝玉獣 トパーズ・タイガー》が次々に宝玉から解放されたのだ。

「悪いけどエメラルドは留守番な。さらに《宝玉の解放》をトパーズ・タイガーに装備する!」

 更に装備魔法カードが装備されると、守備表示であるルビー・カーバンクル以外の、全ての宝玉獣が攻撃の意を示した。この総攻撃を、耐えることは出来るか……!

「行くぜみんな、バトルだ! 宝玉獣 トパーズ・タイガーで、ニトロ・ウォリアーに攻撃! トパーズ・バイト!」

 宝玉獣 トパーズ・タイガー固有の効果は、バトルフェイズに攻撃力が400ポイントアップすること。これだけでは攻撃力は2000程度であるが、トパーズ・タイガーはニトロ・ウォリアーに殴られて破壊されながらも、その強靭な顎でニトロ・ウォリアーを噛み砕いた。

 ……そう、相討ちだ。

「その装備カード……!」

「ああ、宝玉の解放を装備したモンスターの攻撃力は800ポイントアップするから、ニトロ・ウォリアーと同じ攻撃力になったのさ」

 更に破壊されてもトパーズ・タイガーは宝玉化するだけで、こちらのニトロ・ウォリアーは墓地に送られる。しかも今回は、トパーズ・タイガーの他にも、更なるオレンジ色の宝玉が宝玉化した。

「更に《宝玉の解放》は、フィールドから離れた時にデッキの宝玉獣を宝玉化させる。残る《宝玉獣 アンバー・マンモス》を宝玉化させた」

 攻撃力を800ポイント上昇させ、フィールドから離れた時にまで効果を発揮するとは、なかなか羨ましい装備カードだ。俺も一枚欲しいところだが、効果からすると宝玉獣専用カードだろう。

「まだまだ行くぜ! サファイア・ペガサスで、ブレード・スケーターに攻撃! サファイア・トルネード!」

「くうっ……」

明日香LP2700→2300

 宝玉獣たちの一斉攻撃は止まらないが、俺も明日香も自身を守ってくれるモンスターは、既に破壊されてしまって存在しない。

「コバルト・イーグルで遊矢を! アメジスト・キャットで明日香を! それぞれダイレクトアタック!」

 明日香にはペルシャ猫のようなモンスターが襲い、俺には空を飛ぶ鷹が急降下して来て、それぞれにダイレクトアタックを決めた。

「くっ……!」

遊矢LP3300→1900

「……まずいわね……」

明日香LP2300→1100

 俺のライフポイントは半分になり、明日香のライフポイントはそろそろ危険域に入っていく。これが宝玉獣の真骨頂である展開力らしく、一人で防ぎきった十代は何なのだろうか。

「俺はターンを終了するぜ」

「私のターン、ドロー!」

 明日香のフィールドには何もなく、三人の中では一番ピンチと言っても良いだろう。かく言う俺も、リバースカードが一枚あるだけなので、明日香のことは言えないけれど。

 だが、俺のフィールドががら空きということは、明日香ならば俺の《速攻のかかし》を警戒するだろう。そもそも、圧倒的に有利なヨハンを何とかしなければ、明日香に勝ち目は薄いので、俺に攻撃することは無いだろう。

「私は《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを――」

「ちょっと待った! 《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果を発動! 宝玉化した宝玉獣が三体いる時、宝玉獣を墓地に送ることで、相手の魔法・罠カードを無効にする! ルビー・カーバンクルを墓地に送って、《高等儀式術》を無効にするぜ!」

 ヨハンのフィールドにいるルビー・カーバンクルを代償に、明日香のキーカード《高等儀式術》はその効果を失った。ルビー・カーバンクルは、フィールドにいてもただの下級モンスターなので、墓地か宝玉化している方が都合が良いのだろう。

 しかし厄介なのは、フィールド魔法《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の効果で、あのカードがあるだけでヨハンはかなりのアドバンテージを誇っている。だが破壊しようにも、魔法・罠カードは一度だけ無効化され、虹の古代都市-レインボー・ルイン自体に破壊耐性もある。

「なら、私はフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を発動!」

「これ以上宝玉獣を失っちゃ……くそ、レインボー・ルインが……!」

 明日香の発動したフィールド魔法により、《虹の古代都市-レインボー・ルイン》が破壊されていき、フィールドは純白の教会に彩られていく。

 いくらレインボー・ルインが効果破壊出来なくても、フィールド魔法である以上は、フィールド魔法の張り替えをされれば無力。その為の第三の効果なのだろうが、それは明日香が囮に使った《高等儀式術》に使ってしまった。

 これ以上宝玉獣の数を減らすのは、通常のデュエルならばいざ知らず、このトライアングル・デュエルでは致命傷となる。

「さらに《融合回収》を発動! 墓地から融合素材にした《エトワール・サイバー》と《融合》の魔法カードを手札に加える。そして、フィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果を発動!」

 その名の通り融合素材を回収する魔法カード《融合回収》を使ったため、またもや《サイバー・ブレイダー》の融合召喚かと思えば、《融合》の魔法カードはリチューアル・チャーチへと吸い込まれていく。

「《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》は、手札の魔法カードを墓地に送ることで、デッキから魔法カードを手札に加えることが出来る。私が手札に加えるのは、《高等儀式術》!」

 《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の鐘が鳴ると、吸い込まれた《融合》の魔法カードの代わりに、明日香の手へと《高等儀式術》が戻ってくる。これでもう無効にされずに、儀式召喚が出来る……!

「私は《高等儀式術》を発動! デッキから《神聖なる球体》を三枚墓地に送り、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1600

 儀式召喚される明日香の儀式のエースカード、《サイバー・エンジェル-弁天-》だが、その儀式召喚は今はタイミングが良いとは言えない。その攻撃力はヨハンのサファイア・ペガサスと同じで、効果も戦闘破壊できない宝玉獣相手には、発動しないのだから。

「《貪欲な壺》を発動して二枚ドローし、チューナーモンスター《フルール・シンクロン》を召喚!」

フルール・シンクロン
ATK400
DEF200

 汎用ドローカードによって二枚ドローされた後に、機械で出来た花が芽を咲かせて召喚される。いつかに明日香とトレードした、チューナーモンスター《フルール・シンクロン》……!

 チューナーモンスター用のサポートカードが入っていない明日香にとって、チューナーモンスターと非チューナーが並んで、やることなど一つしかない。

「こっちもシンクロか!」

「ええ。レベル6の《サイバー・エンジェル-弁天-》に、レベル2の《フルール・シンクロン》をチューニング!」

 明日香は最初の《高等儀式術》から、ずっとこれを狙っていた。《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の中、サイバー・エンジェル-弁天-が光の輪に包まれていった。

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! きらめけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

フルール・ド・シュヴァリエ
ATK2700
DEF2300

 白百合の騎士たる明日香のシンクロのエース、《フルール・ド・シュヴァリエ》がフィールドに降臨し、明日香を守るように剣を構えた。

 その攻撃力はヨハンの宝玉獣たちを遥かに超え、そもそも俺のフィールドにはモンスターがいない。

「バトル! フルール・ド・シュヴァリエで、アメジスト・キャットを攻撃!」

 しかし、がら空きの俺を無視して狙うのは、ヨハンのフィールドのアメジスト・キャット。ライフポイントの少ない明日香にとって、――このデュエルでは使われてはいないが――ダイレクトアタッカーである、アメジスト・キャットを残しておいては危険だと考えたのだろう。

「こっちに来たか! ……うわっ!」

ヨハンLP2900→1400

 《虹の古代都市-レインボー・ルイン》がないヨハンには、もうダメージを半分にする効果はなく、大ダメージを喰らってしまう。これで三人のライフがほとんど並び、誰がいつ脱落してもおかしくなくなった。

「私はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 明日香も《虹の古代都市-レインボー・ルイン》を破壊し、更にモンスターを展開させ、《フルール・ド・シュヴァリエ》のシンクロ召喚までこぎつけた。

 そして、ヨハンも以前として宝玉獣を大量展開している中、俺がフィールドががら空きのままでは、全くカッコつきもしない。

「俺はチューナーモンスター《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 俺のフィールドががら空きの時、一度きりとはいえ特殊召喚出来る、黒い円盤状のチューナーモンスター。その召喚と共に、更なる展開のために魔法カードを発動する。

「速攻魔法《手札断殺》を発動し、全員二枚捨てて二枚ドロー! そして、墓地に捨てたカードは《リミッター・ブレイク》!」

 墓地へと送った《リミッター・ブレイク》が光輝き、そこから旋風とともに機械戦士が特殊召喚される。その機械戦士とは当然、俺が最も信頼するマイフェイバリットカード!

「このカードが墓地に送られた時、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! 来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 雄叫びとともに雄々しくマイフェイバリットカードが現れるが、今のままではアンノウン・シンクロンと併せてもレベル3のため、俺のデッキではシンクロ召喚は不可能だ。

 それはつまり、まだまだ終わらないということ。

「リバースカード、《ロスト・スター・ディセント》! 守備力を0にして、墓地の《ニトロ・ウォリアー》を守備表示で特殊召喚する!」

 墓地からニトロ・ウォリアーが蘇り、守備の態勢をとるものの、盾代わりにしているその腕はボロボロのままだ。守備力を0にするにもかかわらず、守備表示で特殊召喚する《ロスト・スター・ディセント》は、扱いにくいものの活用法はある。

「ロスト・スター・ディセントで蘇生したシンクロモンスターは、レベルが1下げる! レベル6となった《ニトロ・ウォリアー》と、レベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」

 再びシンクロ召喚されるのはレベル7のモンスターであり、その選択肢は幅広い。そしてその中から選ぶのは、シンクロモンスターのラッキーカード!

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 黄色の装甲を装着した機械竜が現れ、その場に羽ばたいてみせた後、威嚇のように大きく鋼鉄の嘶きを上げた。その嘶きはデッキの中の三枚のカードと共鳴し、ヨハンの前に三枚のカードが表示された。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキの装備魔法を三枚選び、裏側で相手が選択したカードを手札に加える! ヨハン、お前が選べ。パワー・サーチ!」

 俺が選んだ装備魔法カードは、《団結の力》・《デーモンの斧》・《メテオ・ストライク》という汎用装備カードばかり。しかし汎用カードということは、それだけ優秀だということだ。

「へぇ、俺が選んで良いのか。右のカードにするぜ!」

 ヨハンが選んだ右のカードを手札に加え、そのままパワー・ツール・ドラゴンに装備……はしない。俺はまだ、このターンに通常召喚を行っていない。

「チューナーモンスター、《エフェクト・ヴェーラー》を召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

 チューナーモンスターのラッキーカードが最後に通常召喚され、パワー・ツール・ドラゴンの周りをクルクルと旋回し始めた。

「チューナーモンスターって……またシンクロ召喚!?」

「これで最後さ。レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》に、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 旋回していたエフェクト・ヴェーラーの軌跡が炎になり、パワー・ツール・ドラゴンの装甲が外れていく。全ての装甲が外れ落ちる直前に、フィールドに展開している《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の天井へと飛翔した。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 機械の装甲に身を隠した神話の竜が実体化し、その降臨した証として天井から光を放ち、その光は俺に集まっていく。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンがシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000に出来る! ゲイン・ウィータ!」

 俺のライフポイントを4000に回復させつつ、ライフ・ストリーム・ドラゴンはフィールドに降り立った。その効果のおかげでヨハンと明日香、二人のライフと大きくリードする。

「まだまだ! 魔法カード《ミニマム・ガッツ》を発動! スピード・ウォリアーをコストに、フルール・ド・シュヴァリエの攻撃力を0にする!」

「なっ!?」

 スピード・ウォリアーをリリースすることにより、フルール・ド・シュヴァリエの攻撃力が0となり、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃を受ければ明日香のライフポイントは0となる。

 よしんば戦闘ダメージを防げても、戦闘破壊に成功することが出来れば、《ミニマム・ガッツ》の効果が明日香を襲う。フルール・ド・シュヴァリエの攻撃力分のダメージを受ければ、明日香のライフポイントはどちらにせよ0。

 ヨハンの宝玉獣を相手に発動しても良かったが、宝玉獣は戦闘破壊出来ないため、《ミニマム・ガッツ》の効果を存分に得られない。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンに《メテオ・ストライク》を装備し、バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、フルール・ド・シュヴァリエに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾がフルール・ド・シュヴァリエに迫り、そのまま鎧をつけている胸部へと直撃した。その身体を貫いて、明日香へと光弾は届く……筈だった。

 正確には光弾が当たっているのはフルール・ド・シュヴァリエではなく、その直前に現れた戦士がその身を犠牲に防いでいたのだから。

「残念だったわね、《ネクロ・ガードナー》よ」

 明日香が墓地から手に持っていたのは、除外することで攻撃を無効にする戦士、《ネクロ・ガードナー》。ヨハンか俺の《手札断殺》により、墓地に送っていたのだろう。

「くっ、ターンエンドだ……」

 《ミニマム・ガッツ》の効果はエンドフェイズ時までなので、フルール・ド・シュヴァリエは攻撃力が元に戻る。このターンでの俺の攻撃は、確実に失敗だった。

「俺のターン、ドロー!」

 俺も明日香も上級モンスターを揃えたため、宝玉化も併せて展開しているとはいえ、下級モンスターしかないヨハンには苦しい展開だろう。もちろん、ヨハンと宝玉獣は相手が上級モンスターだろうと、関係ないかのように破壊してきたのだが。

「俺は二枚目の《レア・ヴァリュー》を発動! 明日香、俺の宝玉化したモンスターから一人選んでくれ」

「なら……エメラルド・タートルを選ぶわ」

 明日香が選択したエメラルド・タートルが墓地に送られる代償に、ヨハンは二枚ドローすると、ニヤリと笑って新たなカードを発動した。

「遊矢、君のおかげでこいつを発動出来る! 魔法カード《GEMバースト》!」

 ヨハンが魔法カードを発動するとともに、宝玉化していた宝玉獣たちが半透明に実体化していく。そしてヨハンはその間に、墓地から三枚のカードを俺たちに向けて掲げていた。

「このカードは、墓地の《G・フォース》、《E・フォース》、《M・フォース》を除外することで発動出来る魔法カード! 宝玉化している宝玉獣の数×500ポイントのダメージを与えることが出来る!」

 《G・フォース》は自らで発動していたが、残り二枚は恐らく俺の《手札断殺》の効果により、墓地に送っていたのだろう。そしてヨハンの宝玉化している宝玉獣の数は、アンバー・マンモスとアメジスト・キャット、トパーズ・タイガーの三体。

「頼むぜみんな! GEMバースト!」

 半透明で浮かび上がっていた宝玉獣たちが、七色の光線となって発射され、俺ではなく明日香へと直撃した。《GEMバースト》の対象は、ライフ・ストリーム・ドラゴンで回復した俺ではなく、確実にトドメをさせる明日香だったらしい。

「く……私は脱落ね」

明日香LP1100→0

 明日香はライフが0になったことにより脱落し、フィールドを支配していた《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》は消えていく。俺に《GEMバースト》を使っていれば、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果で無効に出来たのだが……

 《GEMバースト》によってレーザーとなっていた宝玉獣は、ヨハンのフィールドに戻ると再び宝玉化して封印された。

「へへ。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 明日香の脱落により、トライアングル・デュエルは俺とヨハンの一騎打ちへと変更される。

 俺のフィールドには《メテオ・ストライク》を装備した《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がおり、ライフポイントはその効果によって4000ポイント。

 対するヨハンは《宝玉獣 サファイア・ペガサス》と《宝玉獣 コバルト・イーグル》が攻撃表示で、ライフポイントは1400。魔法・罠ゾーンにはリバースカードが一枚と、宝玉化した《宝玉獣 トパーズ・タイガー》に《宝玉獣 アンバー・マンモス》、《宝玉獣 アメジスト・キャット》が控えている。

 圧倒的にこちらが有利な気がするが、先程の《GEMバースト》のように、宝玉獣は何をしてくるかが解らない。

「明日香の仇討ちといかせてもらう。バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、コバルト・イーグルに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「私、遊矢の《手札断殺》のせいで負けたところもあるんだけど……」

 明日香の小声を聞こえなかったことにすると、ライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾がコバルト・イーグルに迫り、その身体を貫いてヨハンへと向かっていく。肝心のプレイヤーへのダメージは、ヨハンの前に現れた無数のカードに阻まれてしまったが。

「リバースカード、《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にして一枚ドローし、コバルト・イーグルは宝玉化する!」

 《ガード・ブロック》に阻まれてトドメはさせず、コバルト・イーグルは宝玉化するという、それだけの結果にバトルは終わる。どうせ防がれるのであれば、サファイア・ペガサスを攻撃すべきだったが……それは後の祭りか。

「ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー! ……よし、魔法カード《翼の元に》発動!」

 ヨハンが発動した魔法カードとともに、サファイア・ペガサスが天に飛び上がり、そこに宝玉化している宝玉獣たちが集まっていく。そして宝玉化から解放され、ヨハンの手札に帰っていった。

「《翼の元に》はサファイア・ペガサスがいる時、サファイア・ペガサス以外の宝玉獣たちを手札に戻す! そして《手札抹殺》を発動!」

 フィールドに宝玉化していた宝玉獣たちを手札に戻し、その後に《手札抹殺》を行うことにより莫大なアドバンテージを得て、ヨハンの手札は潤沢となる。

「さらに《貪欲な壺》で宝玉獣たちを五体デッキに戻し、二枚ドロー! ……よっしゃ、《宝玉獣 アンバー・マンモス》を召喚!」

宝玉獣 アンバー・マンモス
ATK1700
DEF1200

 さらに汎用ドローカードによって二枚ドローし、現れた宝玉獣は初めて現る《宝玉獣 アンバー・マンモス》。初めて現るといっても宝玉化はしていたので、《貪欲な壺》で墓地に戻し、二枚ドローする時にまたアンバー・マンモスを引いたというのか……!

「こいつでそのドラゴンを倒すぜ、《ユニオン・アタック》! アンバー・マンモスの攻撃力を、サファイア・ペガサスに加算する!」

 アンバー・マンモスのエネルギーが、空を飛んでいるサファイア・ペガサスへと補充されていく。自分のポリシーから破壊カードを入れていないヨハンにとって、《ユニオン・アタック》はまさしく宝玉獣たちの力を併せて、相手の上級モンスターを倒すカードなのだろう。

 その意図通りに、サファイア・ペガサスの攻撃力は3500となり、戦闘ダメージは与えられないものの、ライフ・ストリーム・ドラゴンを超えた。

「バトル! サファイア・ペガサスで、ライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! サファイア・トルネード!」

 サファイア・ペガサスが起こしたサファイア色の旋風が、アンバー・マンモスの力を借りてカマイタチとなってライフ・ストリーム・ドラゴンを襲ったが、その前に盾を持った機械戦士が立ちはだかった。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、その戦闘破壊を無効にする!」

 明日香の使った《ネクロ・ガードナー》の相互互換、《シールド・ウォリアー》のおかげで破壊されず、《ユニオン・アタック》のデメリットでダメージも受けない。

「くっそ~防がれたか! カードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンに《メテオ・ストライク》が装備されている以上、ヨハンは宝玉獣たちを攻撃表示にする他無い。だがサファイア・ペガサスもアンバー・マンモスも、下級モンスターとしては充分な攻撃力を持っている為、このターンで決着とはいかない。

 そして何より厄介なのは、ヨハンのフィールドの二枚のリバースカード。十中八九、ライフ・ストリーム・ドラゴンの攻撃を防ぐものだろうが、ここは臆せず攻める!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンで、サファイア・ペガサスに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「いいやこっちだ! アンバー・マンモスの効果発動! 他の宝玉獣への攻撃を、このカードが引き受ける!」

 サファイア・ペガサスへ光弾を放ったのだが、それを庇うように前に出たアンバー・マンモスが代わりに受ける。そして、その背後にあったリバースカードがオープンしていた。

「リバースカード、オープン! 《宝玉陣-琥珀》を発動! アンバー・マンモスが攻撃対象になった時、他の宝玉獣の攻撃力だけ、アンバー・マンモスの攻撃力をアップさせる!」

 サファイア・ペガサスの攻撃力を再び借りて、先の《ユニオン・アタック》と同じくアンバー・マンモスの攻撃力は3500となる。だがその程度であれば、ライフ・ストリーム・ドラゴンはその効果で耐えきってみせる……!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果――」

「いや、伏せてあった《ブレイクスルー・スキル》を発動! ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を無効にさせてもらうぜ!」

 だがヨハンは更なる罠カードを用意しており、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を封じると、アンバー・マンモスはライフ・ストリーム・ドラゴンを打ち破った。

「なにっ……ライフ・ストリーム・ドラゴンが……!」

遊矢LP4000→3400

 《ユニオン・アタック》の時は戦闘ダメージを受けなかったが、今回の罠カード《宝玉陣-琥珀》にはそんなデメリット効果はない。通常通り俺は戦闘ダメージを受け、ライフ・ストリーム・ドラゴンは大地に沈んで破壊される。

「……《マッシブ・ウォリアー》を守備表示で召喚し、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが破壊され、壁モンスターとして召喚したのは要塞の機械戦士《マッシブ・ウォリアー》。いつもならばその効果に自信を持てるが、今はその効果が無駄だということが解ってしまっている。

「確かそいつは……なんだったっけ。まあ良いや、墓地から《ブレイクスルー・スキル》を除外して、《マッシブ・ウォリアー》の効果を無効にする!」

 マッシブ・ウォリアーの効果を知らない、という可能性に賭けていたのだが、アークティック校チャンプには通じなかったようだ。……まあ、野性的なカンのようなものみたいだが。

「バトル! アンバー・マンモスで、マッシブ・ウォリアーに攻撃! アンバー・スタンプ!」

 アンバー・マンモスの強靭な足に踏み潰され、マッシブ・ウォリアーはその戦闘破壊耐性を適応出来ずに破壊された。

「さらに、サファイア・ペガサスでダイレクトアタック! サファイア・トルネード!」

「ぐあっ!」

遊矢LP3400→1600

 続いて放たれたサファイア色の旋風に翻弄され、4000まで回復したライフは軽々と1600にまで削られる。ただ、追撃の宝玉獣が通常召喚されなかったのは、不幸中の幸いだろうか。

「カードをセットして、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! 《貪欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンも破壊され、このまま宝玉獣と消耗戦を繰り返していれば、宝玉化が出来るヨハンが圧倒的に有利。

 ならば、このターンで決めてみせる……!

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

『トアアアアッ!』

 二回目の登場となるスピード・ウォリアーが攻撃の構えを取ると、その両手を何かを持つように構えだした。そして構えたその両手に、二対のバスターソードが構えられた。

「装備魔法《ダブル・バスターソード》を発動! スピード・ウォリアーに貫通効果を与え、バトルだ!」

「貫通効果を与えても宝玉獣たちは攻撃表示だし、そもそもスピード・ウォリアーじゃ攻撃力は及ばないぜ!」

 一回目の登場は《ミニマム・ガッツ》のコストになっただけなので、マイフェイバリットカードの真価が解らないのは解る。だが、現にヨハンのフィールドの《宝玉獣 サファイア・ペガサス》は守備表示で、スピード・ウォリアーの攻撃力は1800である。

「墓地の《ADチェンジャー》により、サファイア・ペガサスを守備表示に! そして、スピード・ウォリアーは召喚したターンのバトルフェイズ時、攻撃力は倍になる!」

 スピード・ウォリアーはその攻撃力倍にさせて、二対のバスターソードを構え、サファイア・ペガサスに向かっていく。

「さらに墓地から《スキル・サクセサー》を発動し、サファイア・ペガサスに攻撃! ソニック・エッジ!」

「アンバー・マンモスの効果発動! 攻撃をアンバー・マンモスに誘導する! ……ぐあ!」

ヨハンLP1100→200

 先のターンと同じように、アンバー・マンモスへと攻撃を誘導すると、ライフポイントを200ポイントだけ残した。……しかし、その効果は《ダブル・バスターソード》の前では無力だ……!

「《ダブル・バスターソード》の効果発動! 装備モンスターをバトルフェイズ終了後に破壊することで、二回攻撃を可能とする! サファイア・ペガサスを攻撃だ、ソニック・エッジ!」

 ダブル・バスターソードの二回目の攻撃がサファイア・ペガサスを切り裂き、そのライフポイントを0にする……筈が、サファイア・ペガサスが宝玉化するのみで終わる。

「リバースカード、《宝玉の閃光》を発動していたのさ! 手札から宝玉獣である、《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を宝玉化することで、戦闘ダメージを0にする!」

「くっ……!」

 ここでまた戦闘ダメージを0にされてしまい、またもやヨハンへのトドメには至らない。更に、《ダブル・バスターソード》の効果を使ってしまったため、《スピード・ウォリアー》の自壊が決定する。

「俺の手札には、ルビーを特殊召喚出来る《G・フォース》がある。次のターンでみんなを解放して、俺の勝ちだぜ!」

「……それはどうかな。手札から速攻魔法《上級魔術師の呪文詠唱》! 手札の魔法カードを速攻魔法として使用出来る! 俺が発動するのは、《ミラクルシンクロフュージョン》!」

 墓地から《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が一時的に蘇り、フィールドの《スピード・ウォリアー》と時空の穴に吸い込まれていく。ダブル・バスターソードは、カランと音をたててフィールドに降り立ち、消滅するタイミングで時空の穴から新たなモンスターが現れる。

「《スピード・ウォリアー》! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》! お前たちの力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 時空の穴から現れる、マイフェイバリットカードとライフ・ストリーム・ドラゴンの融合体である、俺の切り札こと《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。その荘厳たる姿に、ヨハンは子供のように目を輝かせた。

「すげぇ! それが遊矢の切り札か!」

「ああ……そして、このデュエルのフィニッシャーだ!」

 速攻魔法扱いとなった《ミラクルシンクロフュージョン》の効果により融合召喚されたため、ドラゴエクィテスはまだ攻撃が可能。可能な限り天空へと飛翔すると、その槍をヨハンに向けて構えた。

「ヨハンにダイレクトアタックだ、スパイラル・ジャベリン!」

「うわああっ!」

ヨハンLP200→0

 トライアングル・デュエルの特性上、思いの外長くなってしまったが、ドラゴエクィテスの一撃でデュエルは決着する。ヨハンはデュエルの衝撃から立ち上がると、気持ちよさそうに笑いながら近づいて来た。

「十代に聞いてた通り、二人とも強いな! 今日はもう遅いけど、次は1対1でデュエルしたいぜ!」

「ええ、やっぱり1対1でデュエルしたいわね」

 二人して好戦的なことを言ってのけるが、俺も確かにそう思っているので否定は出来ない。たけどそれより今回は、気になることが他にあった。

「……それより、ヨハン。お前のデッキ、モンスターは宝玉獣だけで、効果破壊のカードが入ってないって本当か?」

「正確には、カウンターカード以外の、だけどな。本当だぜ」

 このデュエル中でも《虹の古代都市-レインボー・ルイン》の第三の効果は使っているし、カウンターカードは入っているのだろうが、やはりそれ以外は本当だったか。

「そんなデッキ構成で良いのか?」

「ああ! 俺の家族たちの力と、相手の力を最大限活かした楽しいデュエルには、このデッキ構成が一番さ! ……今みたいに、負けちまう時もあるけどな」

 デッキの中に入っているモンスターは七枚で、そのどれもが下級モンスターで、効果破壊するカードは入っていない。そんなデッキを使っているのが、自分にとって一番楽しいというのか……

「遊矢もそうだろ? お前も、お前のデッキの精霊たちも、凄い楽しそうにデュエルしてるもんな!」

 ヨハンのその言葉にふと、デュエルディスクに差し込まれたままの、【機械戦士】デッキを見てしまう。精霊たちの声などは聞こえないが、心は通じ合っている筈だと信じて疑わない俺のデッキ。

(俺は……)

 ――デッキの改良は、まだまだ苦戦しそうだった。

 

 

―理由―

 1対1でデュエルを始めかねないヨハンを、追い出すように俺の部屋から出してから、俺は【機械戦士】デッキを机の上に置いていた。俺と明日香は目の前のソファーに座り、ヨハンが来る前の態勢へと戻る。

「遊矢。あなたをカードケースをどこへ?」

「ああ、デッキの調整の前に……やっておきたいことがあるんだ」

 今はデッキの調整より前に、やらなくてはならないことが出来た。ヨハンの【宝玉獣】デッキと戦って、俺が考えたことを自己完結する。

 そのためには。

「なんで俺は、機械戦士を使ってるのか。それを思い出したいんだ」

 思い出すとは言っても記憶喪失という訳ではなく、ただ新たなデッキを作る前に思い返しておきあたいだけだ。誰にだってあるだろう、今使っているデッキを組んだ理由が。

 誰か大切な人に貰ったでも、ただパックで当たっただけでも、イラストが気に入ったでも……カードの精霊に選ばれたでも。デュエリストとそのデッキの数だけ、そこには必ずしも一つの物語があるものだ。

「明日香には……聞いていて欲しい」

「分かったわ。そうね、紅茶でも飲みながら」

 そう言ってソファーから立ち上がり、二人分の紅茶を用意しようとする明日香に感謝しつつ、一声かけずにはいられなかった。

「……俺は緑茶で」

 確実にどうでも良いことではあるが、俺は紅茶より緑茶派だった。……そして驚きだったのが、俺が言う前に明日香が緑茶を用意していたことだ。

 二種類のお茶と、話し手となる俺に聞き手の明日香の準備が完了し、俺は【機械戦士】と関わった記憶をたどり始める。

「中学生ぐらいの頃まで、俺はデュエルモンスターズに触れてなかった」

 正確には触れてなかった訳ではないが、デュエリストでは無かったというべきか。友人たちに貸してもらったデッキで、ルールも知らずに幾度か遊んでいた程度だ。

 実家の機械工場を手伝っていた俺だったが、そこである噂を聞いた。……こんな片田舎に引っ越して来た、物好きなお金持ちがアンティデュエルを行っていると。

 俺が住んでいた田舎は大したカードもなく、そのお金持ちの息子から見れば現地のデュエリストは、まさしくカモだったことだろう。友人たちはみんなそのお金持ちに敗れて、自分のデッキを失っていった。

 偶然その現場を見つけて止めに入ったんだが、デッキを持ってないと相手にされず、そのアンティデュエルの現場を止めることは出来なかった。だったら俺も、そのデッキとやらを用意してやる……って、子供らしい正義感が働いた。

 だけどカードショップもまともにない田舎で、ただの子供が簡単にデッキを手に入れることは出来ない。どうしようかと思いながら、実家の手伝いをしていた時。

 ……家の近くにあったジャンク品の山で、捨てられていたカードを見つけた。どれもこれもステータスが低く、初心者の俺にも弱いと解るカード群たち。

「それが……」

「ああ、【機械戦士】だ」

 友人たちのおかげで簡単なルール具合は知ってたし、適当に40枚集めて実家の手伝い放り出して、俺はそのまま町に出かけた。

 そこで見つけたのは、またもやアンティデュエルの現場だった。今から思い返すと、何とも運が良い話だが。

 アンティデュエルに負けてデッキを取られていたのは、当時面識は無かった、現在の妹分の早乙女レイ。彼女も《恋する乙女》デッキを、アンティデュエルで失うところだった。
 そこで、俺が勝ったらみんなのデッキを返して、俺が負けたら家にあるデッキを全部やるって条件で、そのお金持ちとアンティデュエルをした。……もちろん、俺に家にはもうほとんどカードは無かったけど。

 そこにいたレイからデュエルディスクを借りて、そのお金持ち……名前は何だったかな、覚えてない。……準ってことにしておこう。

「それって、万丈目くんじゃないわよね……」

「……もしかしたら、そうかもしれないな」

 恐らくは人違い――というか中学生の時、万丈目は既にデュエル・アカデミアにいる――だが、準(仮)ということにしておく。そこで、俺と準(仮)とのデュエルが始まった。

 それが、俺と早乙女レイと【機械戦士】との出会いで、俺のデュエリストとしての初デュエルだった。レイから、相手のデッキは《悪魔族》と《ドラゴン族》の、混合【ハイビート】デッキって聞いたが、当時の俺にはさっぱりだ。

「そのデュエルの内容、覚えてるの?」

「まあ、一応。細かいところは間違ってるかも知れないし、あまり気が乗らないが……」

 とは言っても、これは【機械戦士】の改良の為に自ら始めたもので、明日香には付き合ってもらっている立場だ。【機械戦士】の為にも明日香の為にも、正直に思い返すしか無いだろう。

『デュエル!』

遊矢LP4000
準(仮)LP4000



 ――目の前には倒すべき相手と、後ろには守るべき少女、そして負けられない戦い。遊矢少年は、そのプレッシャーを楽しんですらいた。

「後攻か……」

 基本的にこのゲームは先攻が有利ということを知ってか知らずか、デュエルディスクに表示された後攻の文字に少し残念そうな声を漏らした。

「先攻はくれてやるよ、初心者!」

 だが、準は経験者故の驕りからその権利をあっさりと手放し、遊矢少年へと先攻を譲った。当然その心には負ける気などなく、ただの過剰な自信でしかない。

「オレのターン、ドロー!」

 気合いを入れてカードをドローするものの、所詮はただ拾い集めただけのデッキであり、思うようには回らない。結果としてどうすれば良いか戸惑い、遊矢少年は悪手を打ってしまうことになる。

「オレは《ワンショット・ブースター》を守備表示!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 対戦相手の準は遠慮なく噴き出し、見学していたレイは驚愕してワンショット・ブースターを見る。効果も壁モンスターに相応しい効果ではなく、ただの弱小モンスターにしか過ぎなかったからだ。

「ええと……ターンエンドだ!」

「素人が! 俺のターン! ドロー!」

 今までデュエルして勝ってきた相手以下と見るや否や、勝ったも当然とばかりに準はカードをドローし、まずは小手調べのモンスターを出した。

「まずは《サイクロプス》、攻撃力1200!」

サイクロプス
ATK1200
DEF1000

 おどろおどろしく初陣を飾ったのは一つ目の巨人、《サイクロプス》と呼ばれるモンスターで、その一つ目でワンショット・ブースターと遊矢少年を睨みつけた。

「さらに《ビッグバン・シュート》を発動し、攻撃力を400ポイントアップ!」

 サイクロプスの強靭な腕が炎に包まれていき、さらに攻撃力を400ポイントアップするが、遊矢少年にはその意味は解らなかった。ワンショット・ブースターは守備表示だし、攻撃力1200ならサイクロプスの方が、上昇するまでもなく上回っているからだ。

「攻撃力を上げても、守備表示モンスターには……」

「ビッグバン・シュートの効果は――」

「おっと!」

 《ビッグバン・シュート》を知らなかった遊矢少年に、自身のデュエルにおいても使用されたレイから助言が飛ぶが、準はそれを片手で制した。

「デュエル中の助言はルール違反だ! サイクロプス、ワンショット・ブースターに攻撃!」

 サイクロプスの腕がワンショット・ブースターに突かれると、ワンショット・ブースターは粉々になってしまい、その破片が遊矢少年へと飛んできた。初めて体感する、ソリットビジョンのダメージは少し身体に堪えたが、そんなことよりダメージを受けた疑問の方が先だ。

遊矢LP4000→2400

「な、なんでダメージが……!」

「ビッグバン・シュートを装備したら、守備表示モンスター相手でもダメージを与えられるの!」

 不思議がる遊矢少年にレイからのアドバイスが飛んだが、準からはレイにカード手裏剣が飛んでいき、レイを威嚇した。そしてそのカード手裏剣にしたカードはもちろん、レイのデッキのカードである。

「キャッ!」

「デュエル中のアドバイスは禁止だと言ったはずだ! 次にやったら反則負けにするぞ! ターンエンドだ!」

「わざわざありがとう、大丈夫だ。オレのターン、ドロー!」

 レイに感謝の言葉を告げながらカードをドローしたが、やはりどうにも攻勢に出れるカードは来ない。だが、準の理不尽な行動を見た遊矢少年は、むしろ落ち着いてカードをセットした。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を守備表示!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

 ワンショット・ブースターとは違い、守備向けのモンスター効果を持っている要塞の機械戦士を召喚し、さらにフィールドを整える。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「守備一辺倒か? 俺のターン! ドロー!」

 力強くカードを引き、そのままドローしたカードをデュエルディスクに叩きつけるように、準はそのモンスターを召喚する。その行為にレイと遊矢少年は眉をひそめるが、準には特に悪い意識などない。

「粉砕しろ、《ミノタウロス》!」

ミノタウロス
ATK1700
DEF1000

 巨大な斧を持ち、真紅の鎧を着込んだ牛の化け物が現れ、先にいたサイクロプスの横に並んだ。カードは乱暴に扱ってはいるが、準にカードたちへの思い入れがないわけではなく、むしろカードたちを信用していると言っても良い。

 そのカードたちを信用するだけの『理由』が、彼にはあるのだから。

「バトルだ! サイクロプスでマッシブ・ウォリアーに攻撃!」

 その理由から、彼はリバースカードなどお構いなしに攻撃を選択する。強靭な腕でマッシブ・ウォリアーに殴りかかったが、マッシブ・ウォリアーの盾は貫かれない。

「マッシブ・ウォリアーは一度だけ攻撃が効かない」

 効果の理解が微妙に違うものの、マッシブ・ウォリアーはその言葉通りにサイクロプスの攻撃を防ぎきったが、さらにミノタウロスの攻撃が迫り来る。

「ならミノタウロスで粉砕だ! アックス・クラッシャー!」

「伏せてある《くず鉄のかかし》を発動! ミノタウロスの攻撃を無効にする!」

 ミノタウロスの豪腕から振るわれる巨大な斧だったが、マッシブ・ウォリアーの前に現れたくず鉄のかかしに阻まれ、その攻撃はマッシブ・ウォリアーに届かない。さらに、《くず鉄のかかし》はその攻撃では破壊されず、そのまま遊矢少年のフィールドに戻っていく。

「《くず鉄のかかし》は再び伏せられる」

 合計三回の攻撃を敵に強制する布陣に、遊矢少年は少し気を良くしながらニヤリと笑う。

「チッ、くず鉄どもめ……! ターンエンド!」

「オレのターン、ドロー!」

 しかし、次のターンに準のフィールドに新たなモンスターが召喚されれば、この布陣を準は突破出来る。遊矢少年もそれは良く解っているので、攻勢に出れるカードを引くように祈りながらドローした。

「よし! 《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 その祈りが通じたのかは定かではないが、三つ叉の槍を持った機械戦士をドロー出来る。今では信じがたいことではあるが、遊矢少年のデッキの中で、効果も併せてこのモンスターが最も攻撃力が高かった。

「さらに《ドミノ》を発動し、バトル! マックス・ウォリアーでサイクロプスを攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 マックス・ウォリアーは、攻撃時にその攻撃力を400ポイントアップする。偶然にもサイクロプスも、《ビッグバン・シュート》によって同等のポイントがアップしているが、一方的にサイクロプスが破壊された。

「これぐらい……」

準LP4000→3400

 準のライフポイントを始めて削ることに成功し、遊矢少年はさらに嬉々として永続魔法の発動を宣言した。

「《ドミノ》の効果を発動! 相手モンスターを戦闘破壊した時、こっちのモンスターとそっちのモンスターを破壊する! オレは……マッシブ・ウォリアー》と《ミノタウロス》を破壊!」

 またもや微妙にカードの効果が間違っていたものの、問題なくマッシブ・ウォリアーとミノタウロスはドミノ倒しのように倒れ、二体とも墓地に送られた。これでフィールドにいるモンスターは、マックス・ウォリアー一体だけとなる。

「マックス・ウォリアーは戦闘で相手を破壊したら、攻撃力が半分になる。ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! ……思い出したぞ、お前のデッキを!」

 《くず鉄のかかし》があるから一度の攻撃は防げるな、などと考えていた遊矢少年に、いきなり声を荒げた準の声が木霊した。思い出したも何も、今日拾ったカードで作ったデッキに、何を思いだしたというのだろうか。

「そのデッキは【機械戦士】とかいう最弱のファンデッキ! お前にお似合いのデッキだ……そして俺のデッキは!」

 遊矢少年やレイにとっては何やら喚きながら、準は高々とデュエルディスクを掲げていた。その自らのデッキを象徴するかのように。

「俺のデッキは伝説のデュエリスト、海馬瀬人のデッキだ!」

「海馬、瀬人……」

 デュエリストであればその名を知らぬ者はいない、伝説のデュエリストの名前にレイは息を飲んだ。世界に三枚しか現存しない、《青眼の白龍》をキーカードにした彼のデッキは、どうやっても再現出来ない筈なのに。

「まさかキミ、カラーコピーを……」

「するか、そんなこと! 海馬社長が絶対に許さないことの一つだ!」

 レイの恐る恐る尋ねた質問に、準は腕を振り上げて怒りを示しながら答えた。彼にとっては、憧れの海馬社長が全てなのだろう。

「……でも、みんなのデッキを奪って……」

「うるさい! 俺は海馬社長に近づかなきゃならないんだから、武者修行みたいなもんだ!」

 武者修行がしたいならばデッキを没収する必要は無いのだが、そこはまだ子供故の考えの足りなさというべきか、ただ実力を示したいだけなのだ。

 ……その尊敬する海馬社長も、カラーコピーやらカードの強奪やらをしていたのを知らないのは、彼にとって幸いだったところだろうか。

「海馬社長のデッキに、そんな最弱のファンデッキが勝てる訳がない!」

「……あ、ごめん。聞いてなかった」

 準の宣誓をまるで聞いていなかった遊矢少年だが、わざと聞かずに相手を挑発するような性格ではない。

 彼は拾い集めた【機械戦士】デッキが、デッキという体を成していることを聞いて、少し思索に耽っていた。一人がまとめて捨てたとは思えぬ、無造作に捨てられたカードたちを拾い集めただけなのに、それでデッキとなっているらしいのだから……子供心に、運命的なモノを感じざるを得なかった。

 そして、良くは聞いていなかったが、そんな運命のデッキを『最弱』などと呼ばれれば……闘志が出るのも当然だった。

「だったら伝説のデッキに勝ってやる!」

「生意気な……魔法カード《黙する死者》! 墓地から《ミノタウロス》を守備表示で特殊召喚する!」

 デュエルが再開され、発動された魔法カードにより蘇生する《ミノタウロス》。遊矢少年は知り得ないことであるが、特殊召喚したミノタウロスは、《黙する死者》のデメリット効果で攻撃することは出来ない。

「更に《大嵐》を発動して貴様のカードを破壊! さらに《クロス・ソウル》!」

 《大嵐》によって、《ドミノ》と《くず鉄のかかし》が破壊されていくのに驚いたが、それより遊矢少年が驚いたのはマックス・ウォリアーが消えていくこと。大嵐が二枚のカードを破壊して止んだ後、何故かマックス・ウォリアーまでもが消えていくのだった。

「《クロス・ソウル》は相手モンスターをリリースし、こちらのアドバンス召喚に使える! ミノタウロスと貴様のマックス・ウォリアーをリリースし、出でよ! 海馬社長が使いし龍! ――《ダイヤモンド・ドラゴン》!」

ダイヤモンド・ドラゴン
ATK2100
DEF2800

 遂に降臨する《青眼の白龍》――ということが出来る訳もなく、現れたのは宝石龍の一体である《ダイヤモンド・ドラゴン》。レベル7で2100のステータスは、正直に言うと扱いに困るのだが、その巨体はカードの無い遊矢少年を圧倒していた。

「バトル! ……と行きたいところだが、このターンは見逃してやろう。ターンエンド」

「……オレのターン、ドロー!」

 見逃してやるとかそういうことではなく、ただ《クロス・ソウル》のデメリット効果で攻撃出来ないだけなのだが、遊矢少年はそんなことを知らずにカードをドローした。

 準の思惑が何にせよ、遊矢少年のフィールドに何もないことは確かなのだから。

「俺は……《スピード・ウォリアー》を召喚!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 そんな状況でフィールドに旋風とともに召喚されたのは、後のフェイバリットカードである《スピード・ウォリアー》。マイフェイバリットカードと言っていなくとも、この局面で召喚されるのはやはりこのモンスターなのだ。

「装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備し、バトル! スピード・ウォリアーで、ダイヤモンド・ドラゴンに攻撃!」

 スピード・ウォリアーに装備された《ファイティング・スピリッツ》から、エネルギーが溢れ出してエネルギーを与え、スピード・ウォリアーはダイヤモンド・ドラゴンへと向かっていく。その体格差と攻撃力の差は一目瞭然であったが、それでもスピード・ウォリアーは向かっていく。

「迎撃しろ、ダイヤモンド・ブレス!」

「スピード・ウォリアーは召喚したターンのバトルフェイズのみ、攻撃力が倍になる! そして、《ファイティング・スピリッツ》によって更に300ポイントアップ! ソニック・エッジ!」

 ダイヤモンド・ドラゴンからの攻撃が放たれるが、スピード・ウォリアーはその攻撃力を効果によって上昇させ、ダイヤモンド・ブレスをまともに受けきった。スピード・ウォリアーは自身の効果によりその攻撃力を1800にし、ファイティング・スピリッツによって更に300ポイント上昇させたことで、その攻撃力はダイヤモンド・ドラゴンと同じになる。

「相討ちか……!」

 準の歯噛みした言葉とは裏腹に、スピード・ウォリアーの蹴りの一閃によって、ダイヤモンド・ドラゴンは破壊された。ダイヤモンド・ブレスは、《ファイティング・スピリッツ》によるエネルギーを削るのみに終わったのだ。

「《ファイティング・スピリッツ》は装備モンスターの身代わりになる! スピード・ウォリアーは破壊されない!」

 よってダイヤモンド・ドラゴンは破壊されたものの、スピード・ウォリアーは無傷で遊矢少年のフィールドに舞い戻る。ファイティング・スピリッツは失ってしまったが、準の切り札の《ダイヤモンド・ドラゴン》を倒したのだから、安いものだと考えた。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! 《強欲な壺》を発動し、更に二枚ドロー!」

 一方の準は落ち着いて《強欲な壺》で手札を補充する。もちろん切り札が破壊されてショックではあるが、海馬社長は怒りながらも次なる手を仕込むのだと考えたからだ。

「俺は《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》を召喚し、《ドラゴンを呼ぶ笛》発動!」

ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-
ATK1100
DEF1200

 ドラゴンの骨を被った魔法使いが召喚され、さらにその存在意義ともされる魔法カードを準は発動する。遊矢少年はデュエルに詳しくなく、故にそのことは知らなかったのだろう。

 海馬瀬人のデッキには、海馬瀬人自身の切り札たるドラゴンが三枚投入されていて、一体倒しただけではまだまだだということを……!

「このカードは、手札のドラゴン族モンスターを二体特殊召喚出来る! 来い、二体の《ダイヤモンド・ドラゴン》!」


 先程スピード・ウォリアーが破壊した準の切り札、ダイヤモンド・ドラゴンが更に二体現れる。《くず鉄のかかし》が破壊されてしまった今、スピード・ウォリアーを守るリバースカードはない。

「バトル! ダイヤモンド・ドラゴンでスピード・ウォリアーに攻撃! ダイヤモンド・ブレス!」

「うわああっ!」

遊矢LP2400→1200

 ダイヤモンド・ドラゴンの攻撃に、ファイティング・スピリッツがないスピード・ウォリアーでは耐えることは出来ず、遊矢少年のライフの半分と共に墓地に送られた。

「トドメだ! ダイヤモンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了する!」

 手札から巨大化して飛び出した《速攻のかかし》が、あわやというところでダイヤモンド・ブレスを防いだことで、何とか遊矢少年のライフは守りきられた。トドメだとばかり思っていた準は、露骨に舌打ちをしてターンを終了させた。

「ターンエンドだ!」

「オレのターン、ドロー!」

 準のフィールドにはダイヤモンド・ドラゴンが二体に、ドラゴン族モンスターに耐性を与えるロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-がいて、ライフポイントは3400。

 対する遊矢少年のフィールドには何もなく、そのライフポイントも1200と心許ない数値である。

 そんな絶望的な状況でドローしたカードは、起死回生のカード……という訳にもいかないが、準のフィールドに多大な影響を与えるカードだった。

「オレは《光の護封剣》を発動!」

 準のドラゴンたちとドラゴンを統べる魔法使いが、突如として上空から降下してきた光の剣に閉じ込められた。ロード・オブ・ドラゴンがドラゴンに耐性を与えると言っても、その耐性は所詮対象に取る効果のみ、光の護封剣に対しては無力だ。

「……《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚し、ターンエンドだ」

 だが、遊矢少年の手札では《光の護封剣》による足止めと、ガントレット・ウォリアーを壁として召喚する事しか出来なかった。耐性を持ったダイヤモンド・ドラゴンたちを、倒す術は無かったのである。

「防戦一方か! 俺のターン、ドロー!」

 《光の護封剣》を破壊するカードを引けば勝てる、そう思いながら準はカードをドローしたが、引いたカードはモンスターカード。先程《大嵐》を使ってしまった準としては、《巨竜の羽ばたき》をドローするほか無い。

「命拾いしたな……《サイクロプス》を召喚」

 最初のターンに切り込み隊長として召喚された、一つ目の巨人が再び召喚された。もうそのステータス等は判明しているため、特に警戒はしなかったが。

「ターンエンドだ」

「オレのターン、ドロー! カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 準のダイヤモンド・ドラゴンを閉じ込める《光の護封剣》が一本消えたが、遊矢少年はリバースカードを伏せたのみでターンを終了する。《光の護封剣》が完全に消える前に、あのダイヤモンド・ドラゴンを突破できるか。

「オレのターン、ドロー! ……カードを一枚伏せてターンエンド」

 準のターンにはなったがリバースカード以外に特に動くことはせず、これで光の護封剣による剣は残り一つとなった。もはや準は、魔法カードを破壊するカードを引かずとも、時間経過でも遊矢少年を倒せると考えていた。

「オレのターン、ドロー!」

 そんなことは露知らず遊矢少年はカードをドローしたが、《光の護封剣》が消えても問題のない布陣を敷けるカードをドロー出来ない。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了」

 ここからは両者ともに特に動くことはなく、遊矢少年が《ガントレット・ウォリアー》にリバースカードが二枚、準は《サイクロプス》とリバースカードが一枚新たに伏せられた。

 そして効果が適用される最後のターンで《光の護封剣》の効力が切れ、待ちかねていたとばかりに《ダイヤモンド・ドラゴン》達が嘶きを上げると、準のターンへと回って来た。

「オレのターン、ドロー!」

 遊矢少年のフィールドにいるのは、ただの壁モンスターでしかない《ガントレット・ウォリアー》。どっちみち、ダイヤモンド・ドラゴンたちの敵ではないと考えたが、準は念には念を入れて魔法カードを発動した。

「魔法カード《守備封じ》を発動! ガントレット・ウォリアーを攻撃表示にする!」

「なっ!?」

 ガントレット・ウォリアーはその守備の態勢を封印されてしまい、ダイヤモンド・ドラゴン達に対して攻撃の意を示す。

「バトル! ダイヤモンド・ドラゴンでガントレット・ウォリアーに攻撃! ダイヤモンド・ブレス!」

 ダメージを通さない守備表示から変更され、ガントレット・ウォリアーはダイヤモンド・ドラゴンと対峙する。準は遊矢少年の伏せてあるリバースカードは、当然こちらの攻撃を防御するものだろうと考えていたが……

 確かに遊矢少年がリバースカードを発動する、というのは準の読み通りではあったものの、攻撃を防ぐ気などさらさら無かった。

「リバースカード、オープン! 《反転世界》!」

 デュエルフィールド一帯の世界が反転していき、敵味方構わずにその反転世界へと巻き込んでいく。フィールドごと変えるというその影響力に、ロード・オブ・ドラゴンでは抗うことが出来なかった。

「《反転世界》は、フィールドのモンスター全ての攻撃力・守備力を入れ替える!」

 その効果によって守備力の高いガントレット・ウォリアーは、低い攻撃力を守備力に回して攻撃力を上げる。だが、発動されたリバースカードに準は我慢ならずに高笑いをした。

「そんなものは無駄どころか、お前の首を絞めるだけだ! ダイヤモンド・ドラゴンの守備力は2800! よって、その攻撃力は2800となる!」

 ガントレット・ウォリアーが力を増すと共に、ダイヤモンド・ドラゴンの攻撃力もまた上がる。2800の攻撃力となったダイヤモンド・ブレスが、ガントレット・ウォリアーに殺到した。

 だがそれを、ガントレット・ウォリアーの前に現れたガーディアンが防ぎきった。

「手札から《牙城のガーディアン》を発動していた! このカードは手札から捨てることで、守備力を1500ポイントアップする……よって、ガントレット・ウォリアーの攻撃力はその効果も併せて3100!」

「3100だと!?」

 《牙城のガーディアン》の力を借りてダイヤモンド・ブレスを弾き、ガントレット・ウォリアーはその腕甲を持った腕で、ダイヤモンド・ドラゴンを破壊した。

準LP3400→3100

 切り札の一体がガントレット・ウォリアーに迎撃され、他のモンスターはそのステータスよりも低い。そんな状況でありながら、準はふてぶてしく不敵に笑っていた。

「ダイヤモンド・ドラゴンは破壊されたが……《反転世界》は、やはり俺に利することになる! リバースカード、オープン! 《死のデッキ破壊ウイルス》!」

 満を持して発動されたリバースカードは、海馬瀬人の象徴たるカードの一枚である《死のデッキ破壊ウイルス》。その発動には、攻撃力1000・闇属性のモンスターを触媒にする必要があるが、サイクロプスの攻撃力は……《反転世界》の影響で800だ。

 《死のデッキ破壊ウイルス》は、サイクロプスを触媒に遊矢少年のフィールドへと感染していくと、攻撃力が3100を誇るガントレット・ウォリアーが溶かされていく。遊矢少年の攻撃力1500ポイント以上のモンスターは、全て死滅する運命となってしまうのだ。

「ガントレット・ウォリアー……!」

 ガントレット・ウォリアーは溶けてしまい、遊矢少年はその一枚しかない手札――速攻魔法《手札断殺》――を準に晒した。ガントレット・ウォリアーのことを悲しんでいる暇もなく、まだ準のフィールドには攻撃が可能なモンスターがいるのだ。

「トドメだ! ダイヤモンド・ドラゴンでダイレクトアタック! ダイヤモンド・ブレス!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドローする!」

 ダイヤモンド・ブレスをカードの束が防ぎ、何とかその攻撃を防ぎきりながら、カードを一枚ドローする。引いたカードは攻撃力1000の《ソニック・ウォリアー》であり、《死のデッキ破壊ウイルス》によって消滅しないものの、今はあまり役に立たないモンスターだった。

「チッ……ロード・オブ・ドラゴンでダイレクトアタック! 竜魂招来!」

「ぐぁ……!」

遊矢LP1200→100

 《反転世界》の影響でダイヤモンド・ドラゴンを倒せたが、同じく影響で《死のデッキ破壊ウイルス》を発動させてしまい、更に影響でロード・オブ・ドラゴンのダイレクトアタックをギリギリ持ちこたえた。

 リバースカード一枚でこうも二転三転する、デュエルモンスターズの醍醐味とも言える展開に、遊矢少年はこの時に心を奪われたのかもしれない。

「ターンエンドだ!」

「オレのターン……ドロー!」

 敵は強大であり、ライフポイントもまだまだ残っている。ロード・オブ・ドラゴンに護られた、ダイヤモンド・ドラゴンを倒す手段など、遊矢少年の現段階の【機械戦士】には存在しない。

 だが、せっかくその楽しさが解ったというのに、負けてしまえば準にデッキが奪われてしまう。そんなことは嫌だという子供らしい気持ちが、遊矢少年にカードをドローさせた。

「オレが引いたのは《貪欲な壺》! そのまま発動して二枚ドローする!」

 《死のデッキ破壊ウイルス》の効力はまだ続いており、遊矢少年はカードを晒すと共に発動する。墓地の機械戦士たちを五体デッキに戻し、デッキから二枚カードを引いて準に見せる――罠カード《リミッター・ブレイク》が二枚。

 そして遊矢少年の手札に残る魔法カードは、先のターンに晒された通りに《手札断殺》である。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 可能性をデッキに残るカードに託す更なるドローだったが、そのドローはそれだけではない。墓地に送った二枚のカードが光り出し、フィールドに旋風を巻き起こした。

「なに!?」

「墓地に送られた二枚《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! ――来い、スピード・ウォリアー!」

『トアアアアッ!』

 威風堂々とした雄叫びがフィールドへと響き渡り、二体のスピード・ウォリアーがダイヤモンド・ドラゴンと対峙する。そのコンボと光景に準はしばし驚愕したものの、たかだか一度破壊した下級モンスターだと気持ちを新たにし、遊矢少年のデッキに感染しているウイルスの発動を宣言する。

「《死のデッキ破壊ウイルス》の効果だ! ドローしたカードを見せろ!」

 まだ遊矢少年のデッキに《死のデッキ破壊ウイルス》は感染しているため、最上級モンスターが来ようとも、ただ墓地に送られるのみだ。……準には二体のスピード・ウォリアーを、何らかのコストやアドバンス召喚に使うことしか頭に無かった。

 しかし遊矢少年が見せたカードは、二枚の魔法カードであってモンスターですらない。一枚はダイレクトアタックを可能とする通常魔法カード《クロス・アタック》であり、もう一枚は速攻魔法――

「俺は《クロス・アタック》を発動し、バトル! スピード・ウォリアーでダイレクトアタックだ! ソニック・エッジ!」

 ――遊矢少年が見せた魔法カードに準は硬直したが、リバースカードが無い彼に止める術はもう無い。同じ攻撃力のモンスターがいる時、片方のダイレクトアタックを可能とする《クロス・アタック》により、スピード・ウォリアーは準へのダイレクトアタックを成功させた。

準LP3100→2200

 だが準のライフポイントからすれば微々たるダメージで、次のターンでダイヤモンド・ドラゴンでスピード・ウォリアーを破壊すれば、準の勝利でこのデュエルは終結する。しかし遊矢少年は、準が恐れていたもう一枚の魔法カードをデュエルディスクに置いた。

「速攻魔法《狂戦士の魂》を発動!」

 最後の《手札断殺》で引いていたカードは、《クロス・アタック》とこの速攻魔法《狂戦士の魂》。まさに起死回生のカードと言えた、もはや伝説にもなったカードである。

 そんなことを遊矢少年が知る由も無いけれど、落ちていたカードたちで唯一のレアカードだったため、そのデッキに投入されていた。

「攻撃力1500以下のモンスターがダイレクトアタックに成功した時、カードを一枚ドローする。そのカードがモンスターだった場合、何度でも! 何度でも! 何度でも攻撃が出来る! ドロー!」

 準のライフポイントの残りは2200、二回連続でモンスターカードを引けば、あるいは逆転が出来るというあり得ない可能性。その可能性に遊矢少年は賭けるほかなく、スピード・ウォリアーとデッキを信じてカードを引いた。

「一枚目は《レスキュー・ウォリアー》! このカードを墓地に送り、ソニック・エッジ!」

 
「ぐふっ……!」

準LP2200→800

 墓地で発動する《ソニック・ウォリアー》の効果によって、モンスターカードを連続で引かなくてはならない回数は一度減っている。遊矢少年は、決着を付けるべく更にもう一枚カードをドローすると、準とレイの元へとそのカードを晒した。

「二枚目のカードは……《ワンショット・ブースター》!」

 ……二枚目にドローされたのは、先攻一ターン目に破壊されてしまっていた機械族、《ワンショット・ブースター》。遊矢少年が《貪欲な壺》によりデッキに戻したカードだが、準にとって最初に破壊した雑魚モンスターによって、自らの敗北が確定したようなものだった。

「スピード・ウォリアー、三度目の攻撃! ソニック・エッジ!」

「うわああああっ……!」

準LP800→0

 準のライフポイントは0を刻んだものの、《狂戦士の魂》はその名前の通り自分では止めることが出来ず、魔法・罠カードが来るまで攻撃は続く。

「三枚目は……《奇跡の残照》だ」

 三枚目に引いたカードは罠カード《奇跡の残照》であり、少し残念がっていながらも、遊矢少年は初デュエルにて勝利したのだった。



「……とまあ、こんな感じだったかな」

 このデュエルから本格的にデュエリストになったり、デッキを真っ先に取り替えしたレイに懐かれたり、友人とデュエルしたりなど色々なことをした。やはり思い返してみると、あのデュエルが俺の転換期だったのだろう。

「……レイちゃんとの馴れ初めは後で聞くとして」

 若干黒い笑みを見せた明日香が、俺のデュエルディスクから取り外していた【機械戦士】を取り出した。新たな機械戦士やシンクロ召喚により、一線から退いた機械戦士はいるものの、そのデッキのモンスターたちは長年愛用してきたモンスターたちが占めている。

「私も……ね」

 明日香もデュエルディスクから【サイバー・ガール】を取り出すと、そのデッキを愛おしそうに見つめた。

「強いデッキじゃなくて楽しいデッキ……兄さんにそれを教わって、このデッキを作ったのよね……」

 誰にだって自分が使っているデッキには思い入れがある筈で、好きなカードで勝ちたいという気持ちがある筈だ。俺はそれをいつも、デュエルをする前にいつも口に出しているじゃないか。

 『楽しんで勝たせてもらうぜ』――俺の信条でありデュエルする理由を、俺は勝利にこだわるあまり少し忘れていたのかもしれない。【機械戦士】をデッキケースにしまい込むと、飲んでいなかった緑茶を一気飲みした。

「手伝ってもらって悪いが、明日香。【機械戦士】の大幅な改造は……無しだ」

「そうね……その方が、良いかもしれないわね」

 俺は【機械戦士】とともに強くなっていく、そう決意していた初デュエルのことを思い出した今、他のカテゴリーを入れる気にはなれなかった。

 この頃感じていた、俺はこのままで勝てるのかという迷いは晴れていく。そして、俺は【機械戦士】とともに楽しんで勝たせてもらう、ということを改めて誓ったのだった。

「それで遊矢、レイちゃんの話なんだけど……」

「……帰れ、明日香」

 
 

 
後書き
という訳でフラグクラッシュ!

 ……すいません。そもそも【機械戦士】強化フラグは、自分がデュエル展開を思いつかなくなったから、つまり自分の実力不足からカードプールを増やして、デュエル展開の選択肢を増やそうとした訳です。

TGが第一候補でしたが、ここで強化してしまえばファンデッキではない! という内なるツッコミにより、フラグクラッシュと相成りました。

期待してくれた方、すいません。遊矢のデッキは【機械戦士】のままになります。

感想・アドバイス待ってます。

※《反転世界》は効果モンスターに効かない、ということを忘れていました……《ダイヤモンド・ドラゴン》や《サイクロプス》にまで効果が適応されていて、修正不可能です……すいません。 

 

―炎の急襲―

 
前書き
随分遅れてしまいました 

 
『Hello.エンジョイボーイ! ちょっと頼まれてくれないか?』

 ……などとジムに言われた数十分後、俺は明日香とともに森林を歩いていた。ジムに半ば無理やり持たされた、計測器のような変な機械とともに。

 ――デッキ強化の件が一段落ついたために、デス・デュエルは行わずに自室で惰眠を貪っていた時、突如としてドアがノックされた。睡眠を妨害されたことに若干腹をたてながらも、無視する訳にもいかないのでドアを開けると、そこにいるのはいつものカウボーイ姿のジムがいた。

 そこで言われたのが冒頭部分の台詞であり、それからジムの言葉はこう続いた。

「todayもいつも通りにフィールドワークをしてたんだが、持ってたmeterがabnormalな反応を示したんだ」

 この年齢で地質学に詳しいというジムが、このデュエル・アカデミアでも何やら機械を持ってフィールドワークを行っているのは、噂に疎い俺でも知っている程に有名な話だ。そんな本格派なジムが持っている計測器に、何やら異常な反応を示すエネルギーが見つかったという。

「心当たりは無いか? あんまりgoodな反応じゃあない」

 ジム程ではないにしろ、良く森林浴や釣りをするために森の中へ行っている俺を、ジムは訪ねてきたのだろう。このデュエル・アカデミアで、異常なエネルギーで心当たりと言えば……やはり《三幻魔》だろうか。

 あまり部外者であるジムに詳しいことは言いたくないが、影丸理事長ではないにしろ、またセブンスターズのような連中がいるのかも知れない。そんな中、ジムが異常な反応を調査しに行くのは危険すぎる……

「……可能性は低いけど心当たりはある。俺も一緒に行って良いか?」

「what? 心当たりを言ってくれれば、俺とカレンだけでno problemだぜ?」

 ジムは背後に背負っているカレンを指差しながら、そんなことをうそぶいてみせるが、俺の真剣な表情を見て少しばつの悪そうな顔をした。

「sorry.本校には何だかdangerousな奴があるってのは聞いてるさ。エンジョイボーイの力を借りよう」

「解ってくれて助かるよ。で、その具体的な場所は……」

 俺の言葉への解答は言葉ではなく、ジムのポケットから広げられた地図によるものだった。デュエル・アカデミアの全体図に、森の中心近くに大きく円が書いてある。

「feel shame.今解ってるのはこれだけなんだ。そこで、二手に別れて中心に向かっていきたい」

 確かにジムの言う通り、まだ地図上に描かれた怪しい場所を示す円は広く、二手に別れた方が効率的ではあるだろう。だが、その単独行動が危険であるのだから、俺は同行を申し込んだのだ。

「俺もfoolじゃない、カレンとその他にも人を頼むさ。エンジョイボーイも、トゥモローガールに一緒に行ってくれるよう頼んでくれよ」

 俺の非難の視線を感じたのか、肩をすくめてジムはそんなことを言った後、俺に計測器の一つを預けてくる。その怪しいエネルギーをキャッチするのだろうメーターは、今はピクリとも動いていない。

「反応が来れば動く筈だ。何かあったら……」

「ああ、連絡する」


 ――ということが自室であったため、計測器に注意を払いつつも森の中心へと歩みを進めていた。明日香には、計測器の代わりに周辺を見回してもらっている。

「このアカデミアで変な反応……確かに三幻魔の確率が高いけど、アレは火山に封印してあるんじゃないの?」

 散策の途中の明日香の疑問に、俺は確かにそうかも知れない、と思っていた。だが、もしかしたら三幻魔かも知れないのだから、このまま放っておく訳にもいかないだろう。

「またセブンスターズみたいな連中がいるかも知れないからな。今度あったら、不戦敗なんかにはならない……」

 あまり思い出したくない苦い思い出ではあるが、結果的には大徳寺先生の真意と《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に会えたのだから、あながち悪い思い出とは言えない。

「二回目があったら……か。確かに、私も今度は負けたくないわね」

 《ワンハンドレット・アイ・ドラゴン》に敗れたことを思い出しているのだろう、明日香は強く拳を握り締めて悔しそうな表情を崩していなかった。

「相手が悪かっただけだろ、アレは」

「でも、遊矢は勝ってるんだから……危ない!」

 明日香の台詞とともに俺は明日香に突き飛ばされると、突如のことに反応出来ずに俺は大地に伏すこととなった。痛みを堪えながら急いで振り向いたものの、俺を押した筈の明日香の姿は……どこにも無かった。

「明日香!?」

 辺りを見回してみても明日香の姿は見えず、いつも通りのアカデミアの森でしかない。だが俺の耳には、明日香の物ではない足音が聞こえていた。

「誰だ!」

 足音が聞こえた茂みに向かって声を投げかけてみると、その茂みからゆっくりと、黒人の男性が姿を現した。その姿は、あまり話したことは無かったものの、俺も一方的に良く知った顔だった。

 オースチン・オブライエン。デス・デュエルが始まったというウエスト校チャンプにもかかわらず、このデス・デュエルでは不気味に静観を決め込んでいて、そのデッキのタイプすら解らない。

 何故か草むらの茂みに隠れていたオブライエンは、表情もおくびも変えずに言い放った。

「天上院明日香は預かった」

「……お前がか……!」

 俺の怒りの籠もった発言を無視して、オブライエンは無言で自分の頭上に向かって指を差した。つられて頭上を確認すると、木の上に横たわる明日香の姿が……!

「明日香に……何をした!?」

「ワイヤートラップだ。お前を庇ったせいで、打ち所でも悪かったようだがな」

 あの時明日香が庇ってくれたのは、周囲の確認をしていたが故に、ワイヤートラップに気づいたからであろう。……結局、また明日香を危険に晒してしまった……!

「お前は、やっちゃいけないことをやった……!」

 一年生の時も二年生の時も、俺は明日香を危険に巻き込んでしまった……だから、今度こそは守ってみせると決めたのに。三沢の旅立ちの時に、俺も明日香を守れるぐらい強くなるって決めたのに。

「……お前の目的なんざ解らないし、どうでも良い。デュエルだ、オブライエン!」

「……デュエルか。お前が負けたら、ここの調査は諦めるんだな」

 銃が収納されているような袋から、目にも止まらない速さで大型の銃を抜き取ると、その銃はデュエルディスクへと変形する。少しばかりそのギミックに驚いたものの、構わずにこちらもデュエルの準備をする。

 ……先程地面に落とした計測器が、異常な数値を示しているのを見過ごしたまま。

『デュエル!』

遊矢LP4000
オブライエンLP4000

 俺の一種の冷静さを失った闘志とは裏腹に、俺のデュエルディスクは『後攻』を示した。確かにオブライエンはウエスト校チャンプ、頭に血が上っている状態で勝てる相手ではない。

「俺のターン、ドロー」

 俺が一度深呼吸をして気分を落ち着かせると、それと同時にオブライエンはカードをドローした。せっかくの後攻なのだから、オブライエンのデッキがどんなものか、しかと確認させてもらおう。

「俺は《ヴォルカニック・リボルバー》を守備表示で召喚」

ヴォルカニック・リボルバー
ATK1200
DEF600

 オブライエンのデュエルディスクの形のような、炎を纏った銃口が守備表示で召喚される。このモンスターが召喚されたということは、十中八九オブライエンのデッキは、【ヴォルカニック・バーン】に類するデッキ……!

「カードを一枚伏せて、ターンを終了する」

「明日香を返してもらう! 俺のターン、ドロー!」

 【機械戦士】たちも俺に応えていてくれるのか、なかなかに良い手札が揃っていた。機械戦士たちと気持ちは同じだと信じていたい。

「俺は《レベル・ウォリアー》をレベル4にして特殊召喚!」

レベル・ウォリアー
ATK300
DEF600

 特撮ヒーローのような姿をした機械戦士、レベル・ウォリアーが自身の効果でレベルが4となりながら特殊召喚され、その効果で次なる機械戦士に繋ぐ。

「更に《ニトロ・シンクロン》を召喚し、行くぞ!」

ニトロ・シンクロン
ATK500
DEF600

「来るか、シンクロ召喚……」

 オブライエンの呟いた声の通りに、レベル・ウォリアーとニトロ・シンクロンはシンクロ召喚の構えを取る。どちらも、《ヴォルカニック・リボルバー》にすら勝てないステータスだが、シンクロ召喚によって光り輝く。

「俺はレベル4となった《レベル・ウォリアー》に、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 ニトロ・シンクロンの頭上のメーターが振り切れていき、光の輪となってレベル・ウォリアーを包み込んでいく。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

マイティ・ウォリアー
ATK2200
DEF2000

 巨大な片腕を持った機械戦士、文字通りに腕自慢の戦士であるシンクロモンスターが大地を叩きつけながら現れる。俺の怒りに呼応するように、大地を砕く量がいつもより多かった。

「バトル! マイティ・ウォリアーで、ヴォルカニック・リボルバーに攻撃! マイティ・ナックル!」

 ヴォルカニック・リボルバーをアッパーカットで殴り抜き、そのまま容易く破壊したものの、守備表示のためにダメージはない。だが戦闘破壊したために、マイティ・ウォリアーの効果が発動する。

「マイティ・ウォリアーが相手モンスターを戦闘破壊した時、相手モンスターの攻撃力の半分のダメージを与える! ロケット・ナックル!」

「……破壊されたヴォルカニック・リボルバーの効果。《ヴォルカニック》と名前のついたモンスターを、デッキの一番上に置く」

オブライエンLP4000→3400

 マイティ・ウォリアーの効果ダメージを微々たるものだとでも判断したのか、特に反応を見せずに《ヴォルカニック・リボルバー》の効果処理など移る。ヴォルカニックと名前の付くモンスターをデッキの一番上にサーチするという、速効性には劣るものの優秀なサーチ効果であることは違いなかった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 《ヴォルカニック・リボルバー》の効果でサーチしたカードをドローし、オブライエンはその引いたカードを手札に入れると、他のカードをデュエル・ディスクにセットした。

「俺は《ヴォルカニック・エッジ》を守備表示で召喚!」

ヴォルカニック・エッジ
ATK1800
DEF1200

 【ヴォルカニック・バーン】の主力モンスター、《ヴォルカニック・エッジ》が通常召喚されるや否や、その口に炎を溜めていく。

「ヴォルカニック・エッジが通常召喚された時、相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与える!」

遊矢LP4000→3500

 先のターンのオブライエンが、マイティ・ウォリアーによるダメージを微々たるものだと考えたように、こちらもそのつもりで対応する。しかも【ヴォルカニック・バーン】が恐ろしいのは、そのデッキの名前に反してバーンカードではない。

「さらに永続魔法《ブレイズ・キャノン》を発動! 攻撃力が500以下の炎族モンスターを墓地に送ることで、相手モンスターを破壊する! 《ヴォルカニック・パレット》を墓地に送り、マイティ・ウォリアーを破壊!」

「マイティ・ウォリアー……!」

 【ヴォルカニック・バーン】デッキの真骨頂である、《ブレイズ・キャノン》が起動すると、発射された《ヴォルカニック・パレット》にマイティ・ウォリアーは破壊される。発動したターンはバトルフェイズが行えない、という軽くないデメリットはあるものの、それは《ヴォルカニック・エッジ》を始めとするバーン効果があれば問題ない。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 そんなデッキを相手にして俺が選んだ戦術は、奇しくも同じバーン効果による決着。こちらが相手を焼き尽くすのが先か、あちらがこちらを焼き尽くすのが先かの勝負……!

「俺のフィールドにモンスターはいない! 《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 黒い円盤状のモンスターがフィールドに特殊召喚されると、更なるモンスターが俺の手札から展開される。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動! デッキからさらに二体特殊召喚する!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 もはや定番となったコンボにより、チューニング・サポーターとアンノウン・シンクロンが展開したものの、当然ながら全員の攻撃力を併せても《ヴォルカニック・エッジ》には勝てない。それも当然だ、このモンスター達はシンクロ召喚専用のようなものなのだから。

「レベル2となった《チューニング・サポーター》三体に、レベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」

 チューニング・サポーターのレベルを1から2に変更し、アンノウン・シンクロンが一筋の光の輪となると、チューニング・サポーター三体を包み込んだ。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

セブン・ソード・ウォリアー
ATK2300
DEF1800

 七つの剣を持つ金色の機械戦士、《セブン・ソード・ウォリアー》がシンクロ召喚され、早くもそこに新たな剣が装備される。装備カードを扱うということに限ってならば、この機械戦士に及ぶ機械戦士はいない。

「セブン・ソード・ウォリアーに《神剣-フェニックスブレード》を装備し、攻撃力が300ポイントアップ!」

 八つ目の剣を装備したことにより、攻撃力が300ポイントアップするしつつ、セブン・ソード・ウォリアーの効果が発動する。

「セブン・ソード・ウォリアーの効果! このモンスターに装備カードが装備された時、相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

「……くっ」

オブライエンLP3400→2600

 セブン・ソード・ウォリアーが投げた小刀が命中し、オブライエンのライフポイントを更に削っていくが、まだ本命であるセブン・ソード・ウォリアーの攻撃が残っている。

「バトル! セブン・ソード・ウォリアーで――」

「甘い! リバースカード、オープン! 速攻魔法《クレイジー・ファイヤー》! 俺のライフを500ポイント払うことで、《ブレイズ・キャノン》とフィールドのモンスターを全て破壊する!」

 セブン・ソード・ウォリアーが攻撃するよりも早く、オブライエンの傍らにあった《ブレイズ・キャノン》が自爆すると、フィールドのほとんどを飲み込んで爆発した。オブライエン自身のヴォルカニック・エッジと、俺のセブン・ソード・ウォリアーもだ。

オブライエンLP2600→2100

「さらに、俺のフィールドに《クレイジー・ファイヤー・トークン》を特殊召喚する」

クレイジー・ファイヤー・トークン
ATK1000
DEF1000

 火の玉を模したトークンがオブライエンのフィールドに特殊召喚され、これで《クレイジー・ファイヤー》の効果は終了する。俺はもはや通常召喚も不可能で、ターンを終了する他なかった。

「……ターンエンドだ」

「お前のエンドフェイズ、伏せてあった《神の恵み》を発動する!」

 カードをドローする度に、ライフポイントを回復する罠カード《神の恵み》が発動され、俺のエンドフェイズへと巻き戻しが起きるが、変わらずターンを終了させるしかない。

「俺のターン、ドロー。《神の恵み》により、ライフを回復する」

オブライエンLP2100→2600

 俺のフィールドにはリバースカードが一枚であり、オブライエンのフィールドには《クレイジー・ファイヤー・トークン》と《神の恵み》……何が来るかによって、この先の展開は変わる。

「俺は《クレイジー・ファイヤー・トークン》をリリースし、《ヴォルカニック・ハンマー》をアドバンス召喚する!」

ヴォルカニック・ハンマー
ATK2400
DEF1500

 ハンマーとは言ったもののそのモンスターの姿はハンマーではなく、ヴォルカニック・エッジと同じく炎を纏った獣のような姿をしており、その効果もヴォルカニック・エッジの強化版のようなモンスターだった。

「墓地の《ヴォルカニック・パレット》の効果を発動。ライフを500ポイント払うことで手札に加え、速攻魔法《ファイヤー・サイクロン》を発動!」

オブライエンLP2600→2100

 オブライエンの発動した魔法カードとともに、オブライエンのフィールドに炎を纏った竜巻が現れると、俺のフィールドにセットされた《くず鉄のかかし》を焼き尽くした。《ファイヤー・サイクロン》は手札の炎族モンスターを捨てることで、その捨てたモンスターの数だけ、相手の魔法・罠カードを破壊する効果を持っているため、《ヴォルカニック・パレット》を捨てたのだろう。

「バトル! ヴォルカニック・ハンマーでダイレクトアタック!」

「ぐあああっ!」

遊矢LP3500→1100

 《くず鉄のかかし》という守りの要を失ってしまっていた自分は、ヴォルカニック・ハンマーのダイレクトアタックをまともに受けてしまう。やはりどこの分校であろうとチャンプの実力に変わりなく、例外なくオブライエンも強い……!

「《ファイヤー・サイクロン》の効果。発動時にコストにしたモンスターの数だけ、エンドフェイズ時にカードをドローする。……ターンを終了」

オブライエンLP2100→2600

 オブライエンがこのターン発動した魔法カード《ファイヤー・サイクロン》は、エンドフェイズ時にコストにした炎族モンスターの枚数分ドロー出来る効果を持つ。それによってカードを一枚ドローし、永続罠《神の恵み》の発動トリガーにもなる。

「俺のターン……ドロー!」

 だからといって負けるわけにはいかない。明日香に対して何かをした奴相手には、俺は負けるわけにはいかない……!

「リバースカード、オープン! 《ウィキッド・リボーン》! 800ライフを払うことで、墓地からセブン・ソード・ウォリアーを特殊召喚する!」

遊矢LP1100→300

 墓地からセブン・ソード・ウォリアーが特殊召喚されるものの、その装備はボロボロのままで効果も無効にされている。だが、セブン・ソード・ウォリアーの存在は次なるモンスターに繋ぐ。

「更に魔法カード《シンクロ・チェンジ》を発動! セブン・ソード・ウォリアーを除外することで、エクストラデッキから同レベルの《パワー・ツール・ドラゴン》を特殊召喚する!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 鎧を付けた機械竜ことシンクロモンスターであるラッキーカードが、セブン・ソード・ウォリアーと入れ違いで特殊召喚されたが、繋げるのはまだまだこれだけじゃない。

「俺はまだ通常召喚をしていない! 《エフェクト・ヴェーラー》を召喚!」

エフェクト・ヴェーラー
ATK0
DEF0

 羽衣を纏ったチューナーモンスターが召喚されたことにより、二種類のラッキーカードがフィールドに並び、更なるシンクロ召喚の構えをとった。

「レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》に、レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》をチューニング!」

 エフェクト・ヴェーラーがパワー・ツール・ドラゴンの周りを旋回し、パワー・ツール・ドラゴンは力を解き放つかのようにその装甲を外すと、いななきとともに飛び上がった。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 オブライエンのデッキの主軸である、バーン効果と相手モンスターの効果破壊の双方に耐性があるモンスターであり、飛翔していった先から放たれる光は俺のライフを回復させる。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

遊矢LP300→4000

 これで一旦ライフは仕切り直しとなり、ライフ・ストリーム・ドラゴンは空中から俺の元へと帰ってくる。そして、そのままヴォルカニック・ハンマーを見た。

「バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンで、ヴォルカニック・ハンマーに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

「……っ!」

オブライエンLP2600→2100

 ライフ・ストリーム・ドラゴンの光弾がヴォルカニック・ハンマーを貫き、威力は減じたもののオブライエンにも貫通した。ライフ・ストリーム・ドラゴンは、あたかも神話に出て来る竜のように佇んでいて、頼もしいことこの上ない。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー。《神の恵み》により、500ポイントのライフを回復する」

オブライエンLP2100→2600

 ドローをする度に500ポイントのライフが回復するものの、もはやその回復量は焼け石に水だ……と言いたいところだが、そんなこともない。【ヴォルカニック・バーン】デッキには、500ポイント払うことで発動する効果も多く、その分のライフコストは取り戻せるからだ。

「《マジック・プランター》を発動。《神の恵み》をコストに二枚ドロー。俺は《ヴォルカニック・ロケット》を守備表示で召喚!」

ヴォルカニック・ロケット
ATK1900
DEF1400

 《神の恵み》をコストに二枚カードをドローした後、守備表示で召喚されたのは炎を纏ったロケットのようなモンスターで、フィールドを飛び回った後にオブライエンのデッキへと近づいた。アタッカークラスのステータスがあるにも関わらず、ヴォルカニック・ロケットには驚くべき効果がある。

「ヴォルカニック・ロケットが召喚に成功した時、デッキから《ブレイズ・キャノン》を手札に加えることが出来る。ブレイズ・キャノンを発動!」

 デッキから加わってそのまま発動された、炎を打ち出す大砲こと《ブレイズ・キャノン》。二回目の発動となったオブライエンのデッキのキーカードに、俺は知らず知らずの内に歯噛みした。

「更に墓地から《ヴォルカニック・パレット》の効果を発動。500ポイント払うことで、デッキの《ヴォルカニック・パレット》を手札に加える」

オブライエンLP2600→2100

 墓地で発動する《ヴォルカニック・パレット》の効果が再び発動し、オブライエンの手札に《ブレイズ・キャノン》の弾丸が装填される。だが、もうデッキには《ヴォルカニック・パレット》はなく、今のところだが発動はもう出来ない。

「《ブレイズ・キャノン》を起動! ヴォルカニック・パレットを墓地に送り、ライフ・ストリーム・ドラゴンを破壊する。シュート!」

「ライフ・ストリーム・ドラゴンは、墓地の装備魔法を除外することで、破壊を無効にする! イクイップ・アーマード!」

 墓地の《神剣-フェニックスブレード》を除外することで、猛スピードで発射されたヴォルカニック・パレットを弾き返し、ライフ・ストリーム・ドラゴンは無傷。更に加えて、もう《ヴォルカニック・パレット》は全て墓地にいるため、オブライエンの弾切れを祈る。

「甘いな。《貪欲な壺》を発動し、墓地のモンスターをデッキに戻して二枚ドロー! さらに《ブレイズ・キャノン》を墓地に送り、《ブレイズ・キャノン-トライデント》へとモードチェンジ!」

 ……俺のその見通しは甘かったようで、《ヴォルカニック・パレット》の弾丸の補充をこなすと共に、そのブレイズ・キャノン自体も大幅な強化を遂げる。砲身は一門から三門となり、まさしくトライデントの名前に相応しい。


「ライフを500ポイント払って《ヴォルカニック・パレット》を手札に加え、《ブレイズ・キャノン-トライデント》を起動! ライフ・ストリーム・ドラゴンを破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

オブライエンLP2100→1600

 強化されて再び《ブレイズ・キャノン-トライデント》が起動し、三門となった砲塔から増殖したヴォルカニック・パレットが打ち出され、遂にライフ・ストリーム・ドラゴンを捉えた。墓地に装備魔法カードはなく、ライフ・ストリーム・ドラゴンを守る手段は存在しない。

「ライフ・ストリーム・ドラゴン……!」

遊矢LP4000→3500

 ライフポイントへのダメージは微々たるものだが、ライフ・ストリーム・ドラゴンが破壊されてしまったのは痛い。フィールドの展開ということもあるし、オブライエンのバーンが封じられる効果もあってだ。

「ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 しかしまだ、ライフ・ストリーム・ドラゴンが破壊されただけども言える。ライフ・ストリーム・ドラゴンに、ライフポイントを4000まで回復してくれたことに感謝すると、新たなカードをデュエルディスクにセットした。

「速攻魔法《手札断札》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 オブライエンが《神の恵み》をコストに《マジック・プランター》を使ったことが幸いし、お互いに手札を交換する《手札断札》が発動される。それに加えてこちらは、墓地に送ったカードが光るとともに、フィールドに旋風を巻き起こしたけれど。

「墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 守備表示で現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 フィールドを駆け抜けた旋風とともに現れた、マイフェイバリットカードが俺の前で守備の態勢をとる。今はマイフェイバリットが活躍する時じゃない。

「《ミスティック・バイパー》を守備表示で召喚し、《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚する!」

ミスティック・バイパー
ATK0
DEF0

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

 スピード・ウォリアーに引き続き、笛を持つ機械戦士や重火器の機械戦士が続々と召喚されていき、俺のフィールドのモンスターは三体となる。……攻撃に出れるのは《バックアップ・ウォリアー》のみであるが。

「ミスティック・バイパーの効果を発動! 自身をリリースして一枚ドロー! 俺がドローしたのは《ワンショット・ブースター》のため、もう一枚ドロー!」

 ミスティック・バイパーが笛を吹きながらリリースされ、その代償に俺はカードをもう一枚ドローし、レベル1モンスターを引いた為に更なるドローを果たす。

「バックアップ・ウォリアーに装備魔法《メテオ・ストライク》を装備し、バトル! ヴォルカニック・ロケットに攻撃、サポート・アタック!」

「貫通効果か……!」

オブライエンLP1600→900

 バックアップ・ウォリアーが放った銃弾は、守備表示だったヴォルカニック・ロケットを貫通していき、オブライエンにその弾丸を届かせた。これでオブライエンのライフは900と、迂闊に【ヴォルカニック・バーン】の特色でもある、自身のライフをコストにすることは出来ないだろう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには、《バックアップ・ウォリアー》と《スピード・ウォリアー》、そしてリバースカードが一枚。対するオブライエンは、《ブレイズ・キャノン-トライデント》のみではあるが、そのブレイズ・キャノン-トライデントこそがキーカードであるのだから油断は出来ない。

 しかし、ブレイズ・キャノン-トライデントでバックアップ・ウォリアーを破壊しようと、まだ俺のフィールドにはスピード・ウォリアーがいる。オブライエンの手札も今のドロー四枚だが、二体を破壊するような手札消費はしないとは思うが……

「俺は《ブレイズ・キャノン-トライデント》の効果を起動! 手札の炎族モンスターを墓地に送り、バックアップ・ウォリアーを破壊して500ポイントのダメージを与える! シュート!」

「来るか……!」

遊矢LP3500→3000

 バックアップ・ウォリアーには悪いが、ブレイズ・キャノン-トライデントが発動することは織り込み済みだ。先程までとは違う弾丸が、バックアップ・ウォリアーと俺に飛来し、双方にダメージを与える。

 ブレイズ・キャノン-トライデントの次弾が来るか、と身構えていた俺にオブライエンは一枚のカードを見せた。どうやら先程、《ブレイズ・キャノン-トライデント》の弾丸になったカードであるらしいが……

「まだだ。俺が墓地に送ったのは《ヴォルカニック・バックショット》。このカードが墓地に送られた時、500ポイントのダメージを与え、ブレイズ・キャノンの弾丸に使われた時、デッキから二枚の《ヴォルカニック・バックショット》を墓地に送ることで、相手モンスターを全て破壊する! シュート!」

「何だと!?」

 再びブレイズ・キャノン-トライデントに《ヴォルカニック・バックショット》が装填され、まるで炸裂弾かのように俺のフィールドを燃やし尽くす。その炎は俺のライフに更なるダメージを与え、スピード・ウォリアーをも破壊していく。

遊矢LP3000→2500

「そして、墓地に送った二枚の《ヴォルカニック・バックショット》のダメージも受けてもらう」

「ぐああっ!」

遊矢LP2500→1500

 俺にのみに向かって放たれる二体の炸裂弾に、俺は更なる業火に包まれることとなる。バックアップ・ウォリアーもスピード・ウォリアーも破壊され、残るはリバースカード一枚……!

「更に《ヴォルカニック・エッジ》を守備表示で召喚。効果で500ポイントのダメージを与える!」

遊矢LP1500→1000

 ライフ・ストリーム・ドラゴンに回復してもらったライフポイントが、一瞬にしてオブライエンとほぼ同じ領域に落とされた。しかも、俺のフィールドのモンスターを全て破壊する、というおまけ付きで。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 フィールドとともに俺のライフをボロボロにする、これこそが【ヴォルカニック・バーン】デッキの心髄であり、オブライエンのデッキの強さなのだろう。

「カードをセット! 更に通常魔法《ブラスティック・ヴェイン》を発動し、今セットしたカードを破壊して二枚ドロー!」

 しかしオブライエンのデッキでは、俺のデッキと手札までは破壊できない。……つまり、この【機械戦士】たちの可能性までは破壊できないということに他ならない。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚し――《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚する!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1900
DEF1500

 再び《リミッター・ブレイク》によって現れたマイフェイバリットカードをリリースし、サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚される。フィールドに現れるやいなや、サルベージ・ウォリアーは自身の効果を発動するため、背中に収納してある網を出した。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功した時、墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 墓地から《ロード・シンクロン》を特殊召喚!」

 サルベージ・ウォリアーの漁業に使う網のような物に引っ張り上げられた、金色のロードローラーこと《ロード・シンクロン》は、久方ぶりにフィールドへと復活する。

「レベル5の《サルベージ・ウォリアー》に、自身の効果によってレベル2となる《ロード・シンクロン》でチューニング!」

 ロード・シンクロンはその駆動系を限界まで動かしていき、二つの光の輪となってサルベージ・ウォリアーを包み込んだ。シンクロ召喚をしようとしているモンスターの影響か、その光の輪はいつもより輝いて見えた。

「集いし闇が現れし時、光の戦士が光来する! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライトニング・ウォリアー》!」

ライトニング・ウォリアー
ATK2400
DEF1200

 光とともにライトニング・ウォリアーが光来し、その身体に電撃と光を纏わせていく。オブライエンのフィールドの《ヴォルカニック・エッジ》は守備表示だが、この光の機械戦士ならば問題ない。

「バトル! ライトニング・ウォリアーでヴォルカニック・エッジに攻撃! ライトニング・パニッシャー!」

 身体に纏っていたエネルギーを全て右腕に移動させ、ライトニング・ウォリアーは渾身の一撃をヴォルカニック・エッジに直撃させた。もちろん守備表示なので、オブライエンにダメージはないが、ライトニング・ウォリアーの効果のトリガーとなる。

「ライトニング・ウォリアーが相手モンスターを破壊した時、手札×300ポイントのダメージを与える! お前の手札は二枚、よって600ポイントのダメージ! ライトニング・レイ!」

「ぐうっ……!」

オブライエンLP900→300

 後手札をもう一枚残していれば勝てていたのだが、そうそう上手くはいかずにオブライエンのライフは300ポイント残る。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには、ライトニング・ウォリアーとリバースカードが二枚で、残りのライフポイントは1000。オブライエンのフィールドには《ブレイズ・キャノン-トライデント》しかなく、そのライフポイントは300。

 俺の方が有利なようではあるが、オブライエンのデッキは【ヴォルカニック・バーン】なのだ、1000ポイント程度削りきれるだろう。それはこちらも同じで、オブライエンの手札が残っていれば、ライトニング・ウォリアーの効果でオブライエンのライフを0に出来る。

 つまりはこのデュエル、このターンでオブライエンが俺のライフを削りきれるか否かで決まる。俺はこの二枚のリバースカードを駆使して、オブライエンのバーンを防ぎきらなくてはならない……!

「俺は……ブレイズ・キャノン-トライデントをリリースする!」

「なっ!?」

 確実に発射されるだろうと思っていた、《ブレイズ・キャノン-トライデント》が俺たちの目の前で消えていく。ブレイズ・キャノン-トライデントをコストに発動するということは、もはや発動出来ない速攻魔法《クレイジー・ファイヤー》か――【ヴォルカニック・バーン】の切り札かである。

「現れろ、《ヴォルカニック・デビル》!」

ヴォルカニック・デビル
ATK3000
DEF1800

 その姿はまさしく炎の悪魔であり、怪物のような姿をしたモンスターが多い、【ヴォルカニック・バーン】の切り札に相応しい外見である。その攻撃力と効果も、切り札としての期待を裏切らない効果を持っている。

 相手モンスターに攻撃を強制する効果と、モンスターを破壊した際に相手の全てのモンスターを破壊し、その数×500ポイントのバーンダメージを与える効果。ライトニング・ウォリアーに攻撃し、戦闘ダメージで600ポイント、その効果によって500ポイントのバーンダメージを受けて俺は敗北する。

 そして俺のリバースカードは、ヴォルカニック・デビルの攻撃を止めるカードではない。

「バトル! ヴォルカニック・デビルでライトニング・ウォリアーに攻撃! ヴォルカニック・キャノン!」

 内蔵されたかのような《ブレイズ・キャノン-トライデント》が、ヴォルカニック・デビルの腕から現れると、ライトニング・ウォリアーに炎の弾丸が発射されていく。

「……かかったな」

「……なに?」

 俺がぼそりと呟いた台詞にオブライエンが反応し、こちらを疑惑の眼差しで見るとともに疑問の意を示す。

「簡単なことさ。俺はヴォルカニック・デビルを召喚することのみを対策していた。リバースカード、オープン! 《機械仕掛けのマジックミラー》!」

 その名前の通り、機械仕掛けで作られたマジックミラーが、ヴォルカニック・デビルの進路を阻むように前に現れる。マジックミラーであるにもかかわらず、その鏡面には何も移ってはいなかったが。

「マジックミラー……だと?」

「この罠カードは、相手モンスターの攻撃宣言時に発動出来る。お前の墓地の魔法カードを選択し、このタイミングで発動出来る!」

 俺の説明とともに、マジックミラーにヴォルカニック・デビル以外の姿が映っていき、それは左右が反転した《ブレイズ・キャノン-トライデント》だった。

「《機械仕掛けのマジックミラー》の効果により、お前の墓地の《ブレイズ・キャノン-トライデント》を発動する!」

 オブライエンが切り札である、《ヴォルカニック・デビル》の召喚に賭けた故に出来た行動。ブレイズ・キャノン-トライデントは、相手モンスターを破壊しつつ500ポイントのダメージを与える……!

「残念だが、ブレイズ・キャノン-トライデントは炎族モンスターをコストにしなければ、発動は出来ても起動はしない。お前の手札は、《ミスティック・バイパー》の効果でドローした《ワンショット・ブースター》のみ。ブレイズ・キャノン-トライデントの発動は出来ないはずだ」

 何から何までオブライエンの言う通りであり、俺の手札は《ワンショット・ブースター》のみであり、これでは《ブレイズ・キャノン-トライデント》の起動は不可能だ。そもそも俺のデッキに、炎族モンスターは入っていないが。

「それはどうかな。チェーンしてリバースカード、《コード・チェンジ》! カードに記された種族を変更する!」

 最後のリバースカードは《コード・チェンジ》と呼ばれる魔法カードで、カードに記されている種族を変更することが出来る効果を持っている。その効果の対象はもちろん、マジックミラーの中にある偽物の《ブレイズ・キャノン-トライデント》。

「俺が選択するのは機械族モンスター。よって、ワンショット・ブースターを捨てて《ブレイズ・キャノン-トライデント》を起動する!」

 俺の手札からワンショット・ブースターが装填され、マジックミラーへと向かって来ていたヴォルカニック・デビルに、ブレイズ・キャノン-トライデントが火を噴いた。【ヴォルカニック・バーン】の切り札たる炎の悪魔は、自身のデッキのキーカードの一撃を耐えることが出来ず、その身体に大きな風穴を開けた。

「蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

 ヴォルカニック・デビルを破壊しても、未だに勢いを衰えさせないワンショット・ブースターは、そのままオブライエンへと直撃する……!」

「うおおおっ!」

オブライエンLP300→0

 俺のフィールドのライトニング・ウォリアーと、機械仕掛けのマジックミラーが消えていき、後には何も残らずに終わる。そこにあるのは、先程まで炎がまき散らされていたとは思えない、いつも通りのアカデミアの森林だった。

「さあ、明日香を返してもら――ッ!?」

 突如として身体から力という力が抜けていき、立っているのも困難となってそのまま森に倒れ込んだ。そう、俺の身体中のエネルギーがどこかに吸い取られているような……そんな感覚。

「オブライエン……お前……」

 デュエルをしてる間に、俺に何かやったのか――そう問いかける体力も残っておらず、そのまま俺は意識を失った。
 
 

 
後書き
デスデュエル編も、ようやく本格的に始まりました。

そろそろ異世界に行くことになると思うと、かなり気が重いですが……ここはあえて異世界に行かな(ry

それと、遊矢のデッキの強化案を募集したいと思います。【機械戦士】のままでどう強化するか……私には、今のところ思いつきません(笑)

相性が良い、と思うカードでも良いので、どうかよろしくお願いします。 

 

―もう一つの可能性―

 デュエルをした後に唐突に倒れる。そんな闇のデュエルのような症状が、今回俺を襲った症状である。 

 別の場所から調べていたジムも、様々なことがあった結果剣山とデュエルになり、そのまま倒れてしまったらしい。俺は明日香に、ジムはその場に居合わせた十代に、保健室に運び込まれて何とか一命を取り留めた。

 だが、倒れた原因は闇のデュエルと同じように原因不明……強いて言えば俺が味わったように、『全身から体力が抜けたよう』な状態になっていたらしい。俺と剣山、そしてジムは保健室での生活を余儀なくされてしまい、しかもジムと剣山は寝たきりの状態だった。

 森の奥に、何か調べられては困るものでも置いてあるのだろうか。オブライエンに聞いても何も言わないらしく、この事件はそのまま監査委員会の調査待ちとなってしまうのだった……


 そして少し経ったある日、俺は保健室の生活から脱却することに成功した。まだ保健室にいるジムと剣山には悪いが、これはデュエルで倒れた率の年期の違い、といったところだろうか。

 ……まあ、明日香とレイの若干過剰な看病のおかげ、なのかも知れないけれど。スタミナが付くお弁当のような物を作って来てくれたものの、その味については……彼女たちの名誉の為にも言わないでおこう。

 そして久方ぶりに訪れた自室にて、俺は一枚の手紙を渡されることになった。

 差出人はアモンで、文面は……オベリスク・ブルーのパーティー会場での、パーティーへのお誘いだった。謎の失神する事件で暗くなりがちの為、改めて親睦を深めるために、パーティーをしながら皆でデス・デュエルをしよう……というのが、大体の内容だった。

 そのパーティーを特に断る理由のなかった俺は、明日香にレイ、そしてマルタンを伴ってアモンのパーティーへと行くことにした。……心配をかけさせてしまった、彼女たちへのお詫びにもなると思って。



『皆様、今回は僕が主催する――』

 晩飯を兼ねたバイキングを楽しんでる最中、アモンのスピーチが会場へと響き渡った。社交辞令も兼ねた言葉と、デュエル大会の開催を宣言するのが大体の内容だったが……優勝者に送られるという、黄金のデュエルディスクというのは、果てしなく趣味が悪い。

『――では、心置きなくデュエルを楽しんで言って下さい』

 そんな結びの言葉とともに、アモンはそのまま会場から出て行ってしまう。彼自身は参加しないようで、もう一度デュエルしたいと思っていた身としては、それは少し残念だった。

「ねぇ遊矢様、デュエルしようよ!」

「……様は止めろ、レイ」

 いつまで経っても言うことを聞かないレイに、若干ため息をつきながら応対する。……もう言われ慣れすぎて、一種の通過儀礼となってしまっているが。

「あの、レイちゃん。僕の新しいデッキ出来たから、僕と……デュエルしてくれないかな?」

 以前【機械戦士】のデッキの強化の時、参考になるかと思って手伝ったマルタンのデッキ。デッキの内容はあまり変えず、デッキパワーをそのまま上げたような改造を確かしていた。

「マルっち、新しいデッキ出来たの? ……じゃ、試しにデュエルしてみよ!」

 チラリとこちらを見て謝ってから、レイはマルタンとデュエルをしに遠くへ離れていく。このまま座っていても変わらない、と隣の席に座った明日香に声をかけた。

「じゃあ、明日香……」

「あいや待った!」

 明日香にデュエルをしようと声をかけた瞬間、妙に時代がかったセリフとともに、場違いなウクレレの音が鳴り響いた。明日香はそれだけで誰が来たのか悟ったのか、ため息をつきながら顔を覆った。

「君たち……この指の先には何が見える?」

「……天井でしょう、吹雪さん」

 オベリスク・ブルーとラー・イエローのメンバーに、このパーティーの招待状は送られているのだから、当然のことながら吹雪さんも招待されている。

「フフフ義弟、元気そうで何よりだね。せっかくの機会だ、今日は僕とデュエルしてくれないかい?」

 吹雪さんとデュエルが出来るのは、以外と珍しいことだ。吹雪さんが毎日走り回っていたり、追いかけ回されていたり、サーフィンしたりしているのが主な原因で。

「……良いですよ、デュエルしましょうか」

「そうこなくっちゃ。アスリン、君も混ざるかい?」

「……変なことしないように見張っておくわ」

 自分の兄が信用出来ない……いや、『必ず何かする』という信頼があるからか、明日香はデュエルをしに行かずに、俺たちのデュエルを眺めることにしたようだ。吹雪さんと皆の前でデュエルをするのは、一昨年の学園祭の【魔法剣士】デッキとのデュエルぶりか。

 俺も吹雪さんもデュエルの準備が整い、明日香は俺の背後に控えてデュエルの準備が完了する。

『デュエル!』

遊矢LP4000
吹雪LP4000

 吹雪さんほど、何をやってくるか分からないデュエリストはいない。流れを掴んでおきたいので、先攻を望んだものの……俺のデュエルディスクは『後攻』を差した。

「……義弟よ。噂によれば、デッキの強化案に悩んでいるそうだね?」

「……まあ」

 何で知っているのだろうか思ったけれど、その相手が吹雪さんだと考えると、何故か知っていることに納得してしまう。まあ、別に隠していることではないから良いのだけれど。

「今回の僕のデッキは、そんな君の力になれるかも知れないと思って作って来た。《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

「……ッ!?」

 吹雪さんのフィールドから召喚された、信頼する三つ叉の機械戦士の姿を見て、俺は驚きを露わにする。機械戦士を相手に見ることなど、始めての経験だったからだ。

 マックス・ウォリアーを始めとする機械戦士は、十代やヨハンのカードと違って世界に一枚しかないという訳ではなく、ただのコモンカードに過ぎない。だが、使用者がいないという点ならば……彼らの伝説のカードたちと変わらない。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了しよう」

 『君の力になれるかも知れない』という言葉の真意は解らないものの、間違いなく吹雪さんのデッキは俺と同じ、機械戦士をメインにしたデッキ……

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 だったら負けるわけにはいかない。【機械戦士】使いとして、このデュエルにだけは負けられない……!

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

 このデュエルに対する決意を新たにすると、まず召喚されるのは腕甲の機械戦士。マックス・ウォリアーと戦うことになるとは、思ってもみなかっただろうが……

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 吹雪さんはドローしたカードを見てニヤリと笑うと、そのカードを手札に入れてこちらを向いた。

「僕のデッキは君の読み通り【機械戦士】だ。だけど遊矢くん、君とは違うデッキだ」

 いつかの神楽坂のように完璧なコピーデッキではなく、吹雪さんのアレンジも加わっているということだろう。俺は当然そうだろうと思っていたが、吹雪さんは何でわざわざそれを宣言した……?

「これから僕が見せるのは、君が選べるもう一つの可能性だ! 僕はチューナーモンスター《インフルーエンス・ドラゴン》を召喚!」


インフルーエンス・ドラゴン
ATK300
DEF900

 吹雪さんがドローしたカードをデュエルディスクにセットすると、そこに現れたのはチューナーモンスターらしい、細身である緑色のドラゴン。……もちろん俺の【機械戦士】に入っているカードではない……!

「ドラゴン族……?」

「インフルーエンス・ドラゴンは、フィールド場のモンスター一体をドラゴン族に出来る! ドラゴン族にしたレベル4の《マックス・ウォリアー》と、レベル3の《インフルーエンス・ドラゴン》をチューニング!」

 俺の疑問の声に答えることはなく、吹雪さんは先程とは別人のように真面目に、シンクロ召喚を行おうとする。その合計レベルは7と、俺のデッキで言うならば、シンクロモンスターの選択肢は三つてなる。

 だがそれでは、インフルーエンス・ドラゴンの効果で、マックス・ウォリアーをドラゴン族にした説明がつかない。ならば、これからシンクロ召喚されるのも、俺が知らないシンクロモンスター……!

「王者の叫びがこだまする! 勝利の鉄槌よ、大地を砕け! シンクロ召喚! 羽ばたけ、《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!」

エクスプロード・ウィング・ドラゴン
ATK2400
DEF1600

 爆音とともに登場するドラゴンが、俺とガントレット・ウォリアーに対して威嚇をしているかのようにいなないた。エクスプロード・ウィング・ドラゴンが機械戦士であるわけもなく、吹雪さんの本分であるドラゴン族だ。

「僕はさっき言ったね。『これから僕が見せるのは、君が選べるもう一つの可能性だ』と。このデッキはその言葉の通り、【機械戦士】をサポートにドラゴン族を入れたデッキだ。……君が純正の機械戦士で強くなりたいなら、まずはこのデッキを倒してみるんだね」

「吹雪さん……」

 俺は【機械戦士】を改造しようとした際に、機械戦士に別のカテゴリーやシリーズカードを投入することを考えた。三沢のライトロードのように、機械戦士のサポートをするためにだ。

 しかし俺は、マルタンやヨハンとのデュエル、そして最初のデュエルを思い返すことで……その改造案を取り消した。三沢を責める気もヨハンを褒め称える気も毛頭ないが、この機械戦士はこのままで戦っていこう……と決意した。

 そして吹雪さんが今使っているデッキは、俺の改造案をそのまま実行に移したという、機械戦士に別のカテゴリーを入れたデッキ。あのデッキに勝たなくては、俺と機械戦士は成長出来ない……!

「それじゃあ行くよ! エクスプロード・ウィング・ドラゴンでガントレット・ウォリアーに攻撃! キング・ストーム!」

 吹雪さんが持っているウクレレの音とともに、真面目な雰囲気からおちゃらけた雰囲気に戻り、エクスプロード・ウィング・ドラゴンに攻撃を命じる。ガントレット・ウォリアーは守備表示だが、あのモンスターの効果は未知数。

「エクスプロード・ウィング・ドラゴンが攻撃力以下のモンスターとバトルする時、相手モンスターを破壊して攻撃力分のダメージを与える。悪いけど、竜の暴風は盾じゃあ防げない」

 エクスプロード・ウィング・ドラゴンから放たれる、その攻撃名に恥じぬ暴風はガントレット・ウォリアーを易々と破壊し、俺のライフにまでダメージを与えてくる。

「だが、リバースカード《救急救命》を発動! 効果破壊されたモンスターを特殊召喚する!」

遊矢LP4000→3600

 《奇跡の残照》の相互互換カードにより、俺の背後からまたもやガントレット・ウォリアーが守備表示で特殊召喚された。しかし、その身体には未だにダメージが残っていたが。

「僕はターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺の前に立ちはだかっている巨大なドラゴン。まずはこのモンスターを突破する……!

「チューナーモンスター《ドリル・シンクロン》を召喚!」

ドリル・シンクロン
ATK800
DEF300

 吹雪さんの《インフルーエンス・ドラゴン》に対抗してか、ドリル・シンクロンがそのドリルを、いつも以上に回転させながら現れる。

「レベル3の《ガントレット・ウォリアー》に、同じくレベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」

 当然ながらそのままシンクロ召喚に移行し、ドリル・シンクロンの頭に付いたドリルの回転は、ますます速度を増していく。そしてその速度が臨界を向かえる時、始めてシンクロ召喚が始まるのだった。

「集いし力が、大地を貫く槍となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 砕け、《ドリル・ウォリアー》!」

ドリル・ウォリアー
ATK2400
DEF1600

 二体のモンスターが行ったチューニングにより、新たなシンクロモンスター《ドリル・ウォリアー》が、そのドリルを使って地中から現れた。そして腕についた強靭なドリルを、エクスプロード・ウィング・ドラゴンではなく吹雪さんに向ける。

「ドリル・ウォリアーは攻撃力を半分にすることで、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る! バトルだ、ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック! ドリル・シュート!」

「君の守りの相棒と言えば何だい? リバースカード、《くず鉄のかかし》を発動!」

 ドリル・ウォリアーが発射したドリルを、吹雪さんの前に現れたくず鉄のかかしが防ぎ、そのままセットされる。ドラゴン族ばかりに気を取られてしまったが、あのデッキは【機械戦士】でもあるのだ。

「メインフェイズ2。手札を一枚捨てることで、ドリル・ウォリアーを除外する。カードを伏せてターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー! ……なるほどね」

 吹雪さんはドリル・ウォリアーがいなくなった俺のフィールドと、その後にまだまだある手札を見て薄く笑う。もともと、吹雪さんを相手にして隠せるとは思っていない。

「このままバトルだ、エクスプロード・ウィング・ドラゴンでダイレクトアタック! キング・ストーム!」

「手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了する!」

 予定通りに手札から巨大化したかかしが現れ、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃を、その身を挺して防いでくれる。ドリル・ウォリアーと速攻のかかしを活かしたこのコンボは、フィールドに現れるドリル・ウォリアーを除去するか、手札に戻る速攻のかかしを処理するしかない筈だ。

 三幻魔の時には《デモンズ・チェーン》で防がれてしまったが、今回の吹雪さんは【機械戦士】でどう対応するか。

「そうだね……君の出番だ、《ジャスティス・ブリンガー》!」

ジャスティス・ブリンガー
ATK1700
DEF1000

 そんな状況でフィールドに召喚されたのは、剣を持つ機械戦士こと《ジャスティス・ブリンガー》。その登場に、俺は自分の見通しが甘かったことを悟った。

 今回のデュエルで、吹雪さんが慣れないデッキ故のミス、などということは決してないだろう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 ドローフェイズ後のスタンバイフェイズ、時空の穴からドリル・ウォリアーが帰還し、その効果を発動する。

「ドリル・ウォリアーが帰還した時、墓地のモンスターを手札に加える」

 もちろん手札に加えるモンスターは《速攻のかかし》で、次なるターン以降も、ドリル・ウォリアーと速攻のかかしのコンボで攻めていく……予定であった。

 しかし吹雪さんのフィールドにいる《ジャスティス・ブリンガー》は、特殊召喚したモンスターの効果を無効にすることが出来る効果を持つ。あのモンスターがいる限り、ドリル・ウォリアーは攻撃力半分にしてダイレクトアタックも、手札を一枚捨てて除外ゾーンへと行くことも出来ない。

 さらに《くず鉄のかかし》ともう一つセットカードも伏せられていて、ジャスティス・ブリンガーの戦闘破壊も出来ないようにしているようだが……

「速攻魔法《サイクロン》! 破壊するのはもちろん《くず鉄のかかし》!」

 もう一枚のセットカードも気になるが、《くず鉄のかかし》を破壊出来なくては元も子もない。旋風が《くず鉄のかかし》を吹き飛ばし、ドリル・ウォリアーが攻撃の準備を整えた。

「バトル! ドリル・ウォリアーでジャスティス・ブリンガーに攻撃、ドリル・ランサー!」

 披露する機会がさほど無いドリル・ウォリアーの攻撃が、ジャスティス・ブリンガーに襲いかかると、その巨大なドリルがジャスティス・ブリンガーを貫いた。

吹雪LP4000→3300

「……リバースカード、オープン! 《奇跡の残照》! ジャスティス・ブリンガーを蘇生しよう」

 確かに破壊はしたものの、光とともにジャスティス・ブリンガーは蘇生する。《くず鉄のかかし》が破壊されても良いように、対策は完璧だったらしい。

 ……これでは、ドリル・ウォリアーの効果が使えない……!

「……カードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《ドリル・ウォリアー》とリバースカードが一枚。吹雪さんのフィールドには《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》と《ジャスティス・ブリンガー》。

 ライフポイントはほぼ同じで、まだまだ序盤だからか未だに拮抗していた。

「僕は《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 チューナーモンスターである黄金色のシンクロンが召喚されたが、待てどもシンクロ召喚をする気配はない。

「バトル! エクスプロード・ウィング・ドラゴンで、ドリル・ウォリアーに攻撃! キング・ストーム!」

 エクスプロード・ウィング・ドラゴンからの攻撃がドリル・ウォリアーを襲い、俺は一瞬相討ちかと思ったが……エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果の説明を思い返す。自身の攻撃力以下のモンスターを攻撃した時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える。

 ドリル・ウォリアーの攻撃力は2400と、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力以下だ。

「エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果! ドリル・ウォリアーを破壊し、2400ポイントのダメージを与える!」

「リバースカード、オープン! 《ダメージ・ポラリライザー》を発動! 効果ダメージ発生させる効果を無効にし、お互いに一枚ドローする!」

 そのダメージを止めたのは皮肉にも、吹雪さんの親友である亮とトレードしていたカード。効果ダメージを無効にするだけでなく、効果の発動自体を無効にする効果のため、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃は止まらない。

 ドリル・ウォリアーが、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃を受けながらも、そのドリルで貫こうと接近していく。攻撃力が同じモンスター同士が戦って、結果は例外を除いて一つしかない。

「亮のカードか……懐かしいね。だけど、手札から《突進》を発動! エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力を700アップ!」

「くっ……!」

 吹雪さんの手札からのコンバットトリックにより、エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力がさらにアップされ、ドリル・ウォリアーは抵抗むなしく破壊されてしまう。

遊矢LP3600→2900

「続いて、ロード・シンクロンでダイレクトアタック!」

「……《速攻のかかし》を発動し、バトルフェイズを終了する!」

 ジャスティス・ブリンガーの一撃ぐらいならば、甘んじて受けて《速攻のかかし》を温存するつもりだったが、二体の攻撃を防ぐことは出来ない。

 ロード・シンクロンの攻撃を、二回目の出番だろうと《速攻のかかし》は防ぎきり、吹雪さんのバトルフェイズは終了する。

「じゃあ行くよ! レベル4の《ジャスティス・ブリンガー》に、レベル2の《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 合計レベルは6。機械戦士においては選択肢は二つだが、吹雪さんはドラゴン族をメインに据えている筈だ……新たなドラゴン族シンクロモンスターだろう。

「鎖に縛られし深緑の竜。その力を解放し、敵を拘束せよ! シンクロ召喚! 現れろ、《C・ドラゴン》!」

C・ドラゴン
ATK2500DEF1300

 シンクロ召喚されたのはやはりドラゴン族で、鎖を身体中に巻きつけたドラゴンが現れた。確かその効果は、《チェーン》というカテゴリーでなければ、あまり意味がないと記憶していた。

「カードをセットし、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 しかしただのバニラ同然だろうと、吹雪さんのフィールドには二体のシンクロモンスターが控えている。それに対してこちらにはモンスターがいないのだから、あまり呑気になっている場合ではない。

「伏せてあった《ロスト・スター・ディセント》を発動! 墓地から《ドリル・ウォリアー》を守備表示で特殊召喚し、さらに《ターボ・シンクロン》を召喚!」

ターボ・シンクロン
ATK100
DEF300

 墓地から光とともに特殊召喚される《ドリル・ウォリアー》と、その隣に現れる緑色のF1カーこと《ターボ・シンクロン》。《ロスト・スター・ディセント》の効果により、ドリル・ウォリアーは守備力が0であるのに守備表示だが、すぐさま次なる機械戦士に繋げられる。

「レベル5になった《ドリル・ウォリアー》に、レベル1の《ターボ・シンクロン》をチューニング!」

 《ドリル・ウォリアー》のレベルは、《ロスト・スター・ディセント》の効果で1下がっている。そのデメリット効果を活かして、ターボ・シンクロンは自らを専用チューナーに指定したモンスターをシンクロ召喚する。

「集いし絆が更なる力を紡ぎだす。光さす道となれ! シンクロ召喚! 轟け、《ターボ・ウォリアー》!」

ターボ・ウォリアー
ATK2500
DEF1600

 《ターボ・シンクロン》のボディを赤色にし、そのまま巨大化させたような機械戦士である《ターボ・ウォリアー》がシンクロ召喚され、そのエンジンを轟かせる。

「バトル! ターボ・ウォリアーで……」

 今まで活かすことは出来なかったが、その効果は『シンクロキラー』とでも言える効果を持っている。吹雪さんのフィールドにいる二体のドラゴンは、どちらも効果の適用範囲内にいるのだが……

 《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》と《C・ドラゴン》。どちらを攻撃するか。

「……《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を攻撃! 《アクセル・スラッシュ》!」

 選択したのは攻撃力がターボ・ウォリアーと同じC・ドラゴンではなく、効果が強力なことこの上なく、ターボ・ウォリアーでさえも破壊出来るエクスプロード・ウィング・ドラゴン。そしてターボ・ウォリアーの効果は、どちらにせよ問題なく発動する。

「ターボ・ウォリアーがレベル6以上のシンクロモンスターとバトルする時、相手の攻撃力を半分に出来る! ハイレート・パワー!」

「なんだって!?」

 エクスプロード・ウィング・ドラゴンの攻撃力を半分にし、ターボ・ウォリアーは赤色の腕を突き刺して爆発させる。派手な爆発が二人を襲うが、ターボ・ウォリアーは問題なくそこから帰還した。

吹雪LP3300→2000

 吹雪さんのライフポイントを半分に減じ、ターボ・ウォリアーは俺のフィールドに降り立った。かと言って《C・ドラゴン》はまだ健在と、気が抜ける状況ではない。

「ターンを終了する!」

「僕のターン、ドロー!」

 《ターボ・ウォリアー》に対して吹雪さんはどうするか。相討ち覚悟で《C・ドラゴン》に攻撃してくるか、それとも……

「それじゃあ僕も君に習って、次なるモンスターに繋げさせてもらおうかな。伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地の《ロード・シンクロン》を特殊召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 ……更なるシンクロ召喚に繋げてくるか。再び墓地から帰還する《ロード・シンクロン》の姿に、俺はまた新たなシンクロモンスターが現れると覚悟する。

「通常魔法《アームズ・ホール》を発動し、デッキの上から一枚送って装備魔法を手札に加える。僕が手札に加え、そして《C・ドラゴン》に装備するのは《幻惑の巻物》!」

 俺も多用する《アームズ・ホール》によってサーチされ、《C・ドラゴン》に巻きついて行くのは、プレイヤーとモンスターを幻惑させる巻物。装備したモンスターの属性を変える、というその効果によってか、《C・ドラゴン》が黒色に染まっていく。

「C・ドラゴンは闇属性とする。レベル6の《C・ドラゴン》と、効果でレベル2になる《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 通常召喚を犠牲にする《アームズ・ホール》を使ってまで、わざわざ属性を変える《幻惑の巻物》を装備するには、必ずしも理由があるはずだ。そしてその理由を考えた時、俺の脳裏には一体のドラゴンの姿が現れていた。

「闇より暗き深淵より出でし漆黒の竜。今こそその力を示せ! シンクロ召喚! 《ダークエンド・ドラゴン》!」

ダークエンド・ドラゴン
ATK2600
DEF2100

 その名の通りの漆黒のドラゴン、《ダークエンド・ドラゴン》がシンクロ召喚され、その嘶きが俺の耳をつんざいた。以前、氷丸とのデュエルでフィニッシャーとなった効果が、俺とターボ・ウォリアーに対して使用される。

「ダークエンド・ドラゴンは攻撃力を500ポイント下げることで、相手モンスターを一体墓地に送る。ダーク・イパヴォレイション!」

 ダークエンド・ドラゴンの口から漆黒のブレスが放たれ、ターボ・ウォリアーを飲み込んで墓地に送っていく――と思われたが、それはダークエンド・ドラゴンの前に現れた少女に阻止された。

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》を墓地に送ることで、ダークエンド・ドラゴンの効果を無効にする!」

 羽衣を身に纏った少女がダークエンド・ドラゴンを包み込み、その効果を無効にすることでターボ・ウォリアーを守り抜いた。しかしダークエンド・ドラゴンの攻撃力は、コストにしたためにもう戻りはしない。

「くっ、君にはそれもあったね……カードを一枚伏せてターン終了としよう」

「俺のターン、ドロー!」

 残念ながらアタッカークラスのモンスターを引くことは出来なかったが、ターボ・ウォリアーならばダークエンド・ドラゴンを破壊し、更なるダメージを与えることが出来る。

「《ミスティック・バイパー》を召喚し、リリースして一枚ドロー! ……引いたのはレベル1の《チューニング・サポーター》のため、もう一枚ドロー!」

 笛を吹く機械戦士の効果によって二枚のドローを果たすが、やはりアタッカーを引くことは出来ない。引いても通常召喚出来ないから無意味なので、諦めてターボ・ウォリアーに攻撃を命じた。

「バトル! ターボ・ウォリアーでダークエンド・ドラゴンに攻撃! アクセル・スラッシュ!」

「リバースカード、オープン! 《攻撃の無力化》!」

 しかしその攻撃は届かず、ターボ・ウォリアーの攻撃は時空の穴に吸い込まれていってしまう。

「……カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー! 《貪欲な壺》を発動し、さらに二枚ドロー!」

 汎用ドローカードで手札を補充する吹雪さんに対し、こちらはピンチなことこの上なかった。ダークエンド・ドラゴンの墓地に送る効果は、ターボ・ウォリアーで防ぐことは出来ないのだから。

 もちろんその為の二枚のリバースカードだが、正直に言ってしまえばただのブラフである。吹雪さんに通用するとは思えないが、やらないよりは遥かにマシだ。

「僕は《手札断札》を発動。お互いに二枚捨てて二枚ドローしようか」

 またもや俺が愛用するカードの一種が発動され、お互いに手札交換が行われる。……そしてその手札交換により、二対の旋風が俺のフィールドに舞い上がっていく。

「俺が捨てたのは《リミッター・ブレイク》! デッキから《スピード・ウォリアー》を二体守備表示で特殊召喚する! 来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 デッキから旋風とともに守備表示で特殊召喚され、ダークエンド・ドラゴンの前に立ちはだかるマイフェイバリットカード。この二体が来てくれればターボ・ウォリアーが破壊されても、ダークエンド・ドラゴンからダイレクトアタックを受けることはない。

 しかし俺は気づいてしまった。――吹雪さんのデュエルディスクの墓地が光って、フィールドにこちらと同じように、二陣の旋風が巻き起こっているということに。

「墓地に送って《リミッター・ブレイク》の効果を発動! 《スピード・ウォリアー》を二体、攻撃表示で特殊召喚する!」

 フィールドに合計四体の《スピード・ウォリアー》が特殊召喚され、攻撃表示と守備表示を取るかに別れた。吹雪さんが【機械戦士】を作ったならば、スピード・ウォリアーが入っていない道理はない……!

 こちらも吹雪さんも三体のモンスターが並び、吹雪さんの号令でぶつかり合うことは避けられない。

「ダークエンド・ドラゴンの効果を発動! 攻撃力を500ポイント下げ、ターボ・ウォリアーを破壊する! ダーク・イパヴォレイション」

 ターボ・ウォリアーは漆黒の闇の中に沈んでいくが、ダークエンド・ドラゴンの攻撃力は1600ポイントにまで落ち込んだ。しかしそれでも、フィールドで最強のステータスを誇っているのだが。

「バトル! スピード・ウォリアーでスピード・ウォリアーを攻撃! ソニック・エッジ!」

 終ぞ見ることの出来なかった、スピード・ウォリアー対スピード・ウォリアーが実現したものの、攻撃表示と守備表示では結果は目に見えている。そのステータスも効果も、俺は一番良く知っている自信があると言っても過言ではない。

 ……そう、守備表示が勝つという結果ならば目に見えている。

「手札から《牙城のガーディアン》を発動し、スピード・ウォリアーの守備力を1500アップ!」

 こちらのスピード・ウォリアーは一人ではない。《牙城のガーディアン》に支えられると、敵の回し蹴りを受け止めて逆にソニック・エッジを叩き込んだ。

「なっ……!」

吹雪LP2000→1400

 スピード・ウォリアーが弾かれた影響により、吹雪さんのライフポイントに反射ダメージが支払われ、そのライフを半分未満に減少させる。

「……油断したよ。ダークエンド・ドラゴンでスピード・ウォリアーを攻撃、ダーク・フォッグ!」

 《牙城のガーディアン》でスピード・ウォリアーが強化され、ダイレクトアタックを諦めたのか、もう一体のスピード・ウォリアーをダークエンド・ドラゴンで攻撃する。もう一度《牙城のガーディアン》を発動、などということが出来るわけもなく、スピード・ウォリアーは破壊されてしまう。

「カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには守備表示の《スピード・ウォリアー》に、リバースカードが二枚でライフポイントは3600。

 対する吹雪さんのフィールドは、ダークエンド・ドラゴンにスピード・ウォリアーが二体に、リバースカードが二枚でライフは1400。

 ライフポイントは俺の方が上だが、リバースカード二枚がダークエンド・ドラゴンに対してブラフであるし、フィールドにはスピード・ウォリアーが一体。ボード・アドバンテージは吹雪さんの方が勝っているだろう。

「俺は《スターレベル・シャッフル》を発動! スピード・ウォリアーを墓地に送ることで、同じレベルのモンスターを特殊召喚する! 現れろ、《ニトロ・シンクロン》!」

ニトロ・シンクロン
ATK500
DEF300

 スピード・ウォリアーと入れ違いで特殊召喚されたのは、消火器のような姿をしたチューナーモンスター。一度もフィールドに現れていなかったその姿を見て、吹雪さんは驚愕を露わにした。

「《ニトロ・シンクロン》……何時の間に?」

「最初の《ドリル・ウォリアー》の時に墓地に送っていた。さらに《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動して三体に増殖!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 中華鍋を逆に被ったかのような機械が、現れるなり三体に増殖していくと、ニトロ・シンクロンとともにシンクロ召喚の準備をした。

「レベル2となった《チューニング・サポーター二体に、レベル1の《チューニング・サポーター》と、レベル2の《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 ニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターが舞い上がり、光の輪となってシンクロモンスターを形作っていく。シンクロ召喚するのは、ニトロ・シンクロンを指定する悪魔のような機械戦士。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていく。単体でのステータスも頼れるカードであるし、更にシンクロ素材となったモンスターたちのドロー効果も付いてくる。

「ニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターには、お互いにシンクロ素材となった時に一枚ドローする効果がある! よって計四枚ドロー! ……装備魔法《サイクロン・ウィング》をニトロ・ウォリアーに装備し、バトル!」

 ニトロ・ウォリアーの背中に二対の翼が装備され、さらにニトロ・ウォリアー自身の効果により、その攻撃力を上昇させる。そして装備された《サイクロン・ウィング》は、攻撃する際に相手の魔法・罠カードを破壊することが出来る。

「ニトロ・ウォリアーでダークエンド・ドラゴンに攻撃し、右のリバースカードを破壊する! ダイナマイト・ナックル!」

 吹雪さんの二枚のリバースカードの内、右側の伏せカードに狙いをつけて、《サイクロン・ウィング》から旋風が放たれた。ニトロ・ウォリアーの攻撃も、その旋風に乗ってダークエンド・ドラゴンに向かっていく。

「くっ……チェーンしてリバースカード《強制終了》を発動! スピード・ウォリアーをリリースし、バトルを終了する!」

 スピード・ウォリアー一体を代償に、《強制終了》はその効果を活かしてニトロ・ウォリアーの攻撃を止める。しかし《サイクロン・ウィング》の旋風は止まらず、《強制終了》自体は破壊されてしまっていた。

「トドメにならなかったか……ターンエンド」

「参ったなぁ……僕のターン、ドロー!」

 吹雪さんは笑みを浮かべてそんなことを言うが、参っているのはこちらの方だ。二枚のリバースカードはあるが、これはダークエンド・ドラゴンに対してはブラフなのに、またもやダークエンド・ドラゴンを破壊できなかったからだ。

 しかしそのダークエンド・ドラゴンも、次に効果を使えば攻撃力は1100で守備力は100と、もはや効果を使えなくなるのは幸いか。その程度のステータスならば、戦闘で破壊するのも容易い。

「ダークエンド・ドラゴンの最後の一撃。ニトロ・ウォリアーを破壊せよ、ダーク・イパヴォレイション!」

 ダークエンド・ドラゴンの最後の一撃は、しかとニトロ・ウォリアーに届いて墓地に送ったが、ダークエンド・ドラゴンは力を失ったかのようになってしまう。これで吹雪さんのフィールドには、下級モンスタークラスのダークエンド・ドラゴンと、元々下級モンスターのスピード・ウォリアーが一体。

「そして僕は《デブリ・ドラゴン》を召喚!」

デブリ・ドラゴン
ATK1000
DEF2000

 俺のデッキホルダーに入っている、もう一つのデッキに投入されている白銀のチューナーモンスター、《デブリ・ドラゴン》。吹雪さんは機械戦士を参考にしたのだから、もう一つのデッキとは関係ないだろう。

「デブリ・ドラゴンが召喚に成功した時、墓地から攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚出来る。出でよ、《ドラグニティ-ファランクス》!」

ドラグニティ-ファランクス
ATK500
DEF1100

 風属性・ドラゴン族のカテゴリーの一種だったか、ドラグニティと呼ばれるシリーズの一種のチューナーモンスター、《ドラグニティ-ファランクス》。何時の間に墓地に送っていたかと、今度は俺が驚く番だったが、《アームズ・ホール》の時だと納得する。


 しかし、チューナーモンスターからチューナーモンスターを特殊召喚しても、シンクロ召喚に使用することは出来ないだろう。非チューナーモンスターはスピード・ウォリアーがいるが、どうやってシンクロ召喚をするのか……?

「さあ行くよ! レベル8の《ダークエンド・ドラゴン》に、レベル2の《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!」

「レ……レベル10!?」

 全く想定していなかったレベル10のシンクロ召喚。最初から素材にするつもりだったならば、ダークエンド・ドラゴンの効果多用も理由が付く。

「伝説の海神を倒しし武器の竜。その健在を現世に示し、その嘶きを現世に震わせよ! シンクロ召喚! 《トライデント・ドラギオン》!」

トライデント・ドラギオン
ATK3000
DEF2800

 脅威のレベル10シンクロ召喚されたのは、三つの首を持った巨大なドラゴン。《トライデント・ドラギオン》と呼ばれたそのモンスターは、三つの竜の頭からそれぞれ耳をつんざく雄叫びをあげた。

「トライデント・ドラギオンがシンクロ召喚に成功した時、僕のフィールドのカードを二枚まで破壊する。そして破壊した数だけ、攻撃回数を増やすことが出来るのさ!」

 《デブリ・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》が、シンクロ召喚された《トライデント・ドラギオン》に吸収されていく。吹雪さんの言う通り、吸収されていった二体は、その効果のコストにされたのだろう。

 つまり《トライデント・ドラギオン》の攻撃回数は、その効果によって――

「三回攻撃……!」

「その通りさ! トライデント・ドラギオンでダイレクトアタック! ドラギオン・インパクト!」

 《トライデント・ドラギオン》の第一の攻撃が俺に放たれたが、その攻撃を受けてもまだライフポイントは残る。しかし俺は、二枚のリバースカードのうち一枚を発動した。

「リバースカード、オープン! 《ピンポイント・ガード》! 相手の攻撃宣言時、墓地からモンスターを特殊召喚出来る! 守備表示で蘇れ、《ガントレット・ウォリアー》!」

 守備の要たる腕甲の機械戦士が守備表示で特殊召喚され、《トライデント・ドラギオン》の攻撃を俺の代わりに受け止める。《ピンポイント・ガード》は、戦闘破壊耐性をガントレット・ウォリアーに与えるため、その一撃を全て受け止め――

「悪いけどこっちもリバースカードだ、《竜の逆鱗》を発動!」

 吹雪さんの最後のリバースカードは、ドラゴン族全てに貫通効果を付与する《竜の逆鱗》。トライデント・ドラギオンの一撃がさらにパワーアップし、ガントレット・ウォリアーの守備を貫通する……!

遊矢LP3600→2200

「まだだ、ガントレット・ウォリアーに攻撃! ドラギオン・インパクト!」

 戦闘破壊耐性を得ている為に生き残った《ガントレット・ウォリアー》に、トライデント・ドラギオンから第二の攻撃が届く。その一撃は半分程度しか止められず、またもや俺のライフを大きく削った。

「くそっ……!」

遊矢LP2200→800

「これでトドメだ、ドラギオン・インパクト!」

 トライデント・ドラギオンによる最後の攻撃がガントレット・ウォリアーに迫り、結果は今までと変わらずに半分しかその威力を減ずることは出来ない。残り半分は俺へと襲いかかり、その身体を炎に包み込む……前に、カードの束が俺を守ってくれていた。

「……伏せてあった《ガード・ブロック》。戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」

 《ダークエンド・ドラゴン》の効果により、フィールドががら空きになっても大丈夫なようにしていたが、そのことが功を労したようだ。

「……まさか三回攻撃を防ぎきるとは、ね。ターンを終了するよ」

「俺のターン……ドロー!」

 今までのドラゴン族と比べても、さらに巨大な《トライデント・ドラギオン》が俺を威圧する。あの巨大なドラゴンが、俺が選択しなかった可能性の象徴なのだとすれば――

 ――俺は【機械戦士】と彼らの手によって仲間になったカードとともに、あの巨大なドラゴンを打ち破ってやる……!

「俺は《ハイパー・シンクロン》を召喚!」

ハイパー・シンクロン
ATK1600
DEF1200

 青色のロボットのような姿をしたチューナーモンスター、《ハイパー・シンクロン》が召喚されるや否や、早くもシンクロ召喚の態勢に入った。

「レベル3の《ガントレット・ウォリアー》に、レベル4の《ハイパー・シンクロン》をチューニング!」

 ハイパー・シンクロンの背中にあるエンジンが響き、胸部にあるパーツが開くと四つの光の球がガントレット・ウォリアーを包み込む。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 更なるシンクロ召喚が行われたのは黄色のボディを持つラッキーカード、《パワー・ツール・ドラゴン》の出番であり、その鋼鉄の身体から内部にいるドラゴンが嘶いた。

「今度はその機械竜かい?」

「いや、まだまだ! パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 俺がデッキから選んだ装備魔法カードは、《団結の力》・魔界の足枷》・《シンクロ・ヒーロー》の三種類で、吹雪さんに裏側で三枚を見せる。

「右のカード、かな」

 効果によって手札に加えられたのは、攻撃力を500ポイントアップさせてレベルを1上げる、《シンクロ・ヒーロー》。装備をしてもトライデント・ドラギオンは倒せないが、この装備魔法こそが俺の待ち望んだカードだった。

「パワー・ツール・ドラゴンに《シンクロ・ヒーロー》を装備し、通常魔法《シンクロ・チェンジ》! パワー・ツール・ドラゴンのレベルは8……よって、エクストラデッキの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を特殊召喚する!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 通常魔法《シンクロ・チェンジ》によって、パワー・ツール・ドラゴンの装甲板と《シンクロ・ヒーロー》が剥がれていき、その内部からドラゴンが姿を現した。シンクロ召喚ではないのでその効果は発動されないが、俺は更なる魔法カードを発動した。

「更に《ミラクルシンクロフュージョン》! ライフ・ストリーム・ドラゴンとスピード・ウォリアー、お前たちの力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2000

 俺の手札を全て使い切ったことにより、遂に融合召喚されるこのデッキの切り札《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。俺を守りながらも、槍を構えて巨大な《トライデント・ドラギオン》に立ち向かう姿は、まさしく切り札という姿に相応しい。

「ドラゴエクィテスか……僕の《トライデント・ドラギオン》の攻撃力を超えたね」

「……攻撃力を超えるだけだったら《パワー・ツール・ドラゴン》にも出来たさ。俺がこいつを召喚したのは、このターンで終わらせるためだ!」

 この切り札には、このデュエルを終わらせる効果が未だに残っている。吹雪さんのライフポイントは1000ポイント、充分に削りきることが可能だ……!

「ドラゴエクィテスは、墓地のドラゴン族シンクロモンスターを除外することにより、そのモンスターの効果を得る! 吹雪さんの墓地の《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を除外し、その効果を得る!」

「僕のカードを!?」

 波動竜騎士 ドラゴエクィテスが、半透明のエクスプロード・ウィング・ドラゴンを除外し、その翼をエクスプロード・ウィング・ドラゴンと同じものとする。付近に爆発を起こしながら、ドラゴエクィテスはトライデント・ドラギオンに向かっていく。

「バトル! 波動竜騎士 ドラゴエクィテスでトライデント・ドラギオンに攻撃! エクスプロード・ジャベリン!」

 ただ戦闘破壊するだけでは、たかだか吹雪さんのライフポイントを200ポイント削るのみで終わる。だが、ドラゴエクィテスが放った槍はトライデント・ドラギオンを貫いた後、まだまだ止まりはしなかった。

「ドラゴエクィテス以下の攻撃力のモンスターとバトルした時、そのモンスターを破壊して攻撃力分のダメージを与える! ……俺は機械戦士たちと共に進む」

 俺の言葉とともに、トライデント・ドラギオンに刺さっていた槍が爆発すると、トライデント・ドラギオンごと吹雪さんのライフポイントを削りきった。

吹雪LP1000→0


「アスリンの前で負けちゃったか、流石は我が義弟だ」

「義弟じゃないですって」

 何年間経っても様付けする奴と一緒で、どうにも吹雪さんもその呼び方を変える気は無いらしい。そして、その【機械戦士+ドラゴン族】デッキを作ってくれたことに、感謝の言葉を伝えようとした時――

 ――襲いかかってくる。

 オブライエンとのデュエルの時にも感じた、身体中から全てのエネルギーが吸い取られるような感覚。その感覚に耐えることは出来なかったが、二度目ということもあってか膝を着くぐらいで済ませる。

「遊矢、兄さん!」

 デュエルをしていなかった明日香が、膝を着いた俺と倒れた吹雪さんの元に駆け寄るが、俺はそれを制して明日香に右腕を見せた。もちろんそこには、外すことの出来ないデス・ベルトが輝いている。

「……保健室でジムと話した……この現象は、デス・ベルトが原因だと」

 先のデス・デュエルで倒れていた俺とジムだったが、保健室でただ寝ている訳ではない。デス・デュエルとデス・ベルトについて、出来うる限りの計算を行っていた。

「……俺は動けない、ジムに知らせてくれ。『思った通りだった』、って」

 彼ももう退院していることだろう、黒幕の目を欺くために寝ているフリをしていただけなのだから。そして、保健室でジムが見ている計測器から、このデス・ベルトの集計地点を導き出せる。

 ジムとの計画通りに行ったことをほくそ笑むと、俺はしばし意識を失った。

 

 

―精霊狩り―

 アモンの主催したパーティーによるデス・デュエルにて、ラー・イエローの生徒とオベリスク・ブルーの生徒の大多数は、体力を吸われて倒れることとなった。主催者のアモンも例外ではなく、デュエルをしていた万丈目とともに倒れ、アカデミアは騒然としているのだった。

 今回の事件の首謀者を見つけ出して解決する為とはいえ、この状況になるかもしれないと解っていた自分にとって、申し訳ない気持ちで一杯だったが……その甲斐もあって、ジムは場所の特定に成功したらしい。十代やジムを始めとするメンバーは、アカデミアの倒れた生徒を無事な生徒に任せ、プロフェッサー・コブラがいると思われる場所に赴いて行った。

 プロフェッサー・コブラがいるという森の奥には、何やら巨大な建造物がそびえ立っており、プロフェッサー・コブラとの戦いも最終局面を迎えていると思わせる。

 アカデミアの森の奥にある旧SAL研究所――自分にとっては懐かしい名前だ――には、俺もついて行きたかったものの、デス・デュエルで倒れてしまった自分では足手まとい。後は明日香やジム、十代に任せてゆっくりと倒れていよう……と思ったのだが。

「……行かないのか、明日香」

 俺は明日香に肩を貸されながら、今回で倒れた生徒を纏めている場所に運ばれていた。一度倒れてデス・デュエルに身体が慣れたのか、他の生徒よりも意識を保つことが出来た俺は、補助があれば一人で歩くことが出来たからだ。

「悪かったわね」

 旧SAL研究所には行かずに肩を貸してくれている明日香は、勿論とてもありがたいのだが……少々ご立腹な様子である。その原因は、俺にだって少しは察することが出来ているが。

「悪かったって、デス・デュエルのことを言わなかったのは……」

 わざとデス・デュエルをすることによって、首謀者とその位置を割り出すのはジムと考えた作戦で、他の誰にも明かしてはいなかった。明日香も例外ではなく、その言ってくれなかったことに怒っている……のだろうか。

「私だって、言ってくれれば協力したわ。……そんなに私は頼りない?」

「……そんなことは……」

 明日香の糾弾は容赦なく続いていく。先立ってはオブライエンとのデュエルでも巻き込まれた彼女を、今度こそは巻き込みたくなかったというのが本音だが…… 

「心配してくれるのはありがたいけど、私だってデュエリストなんですからね」

「明日――」

 ――そして更に言い訳を重ねようとしていた俺は、近くの森から飛来する物体に気づかなかった。銀色のマジックハンドのようなソレは、俺の腕に装着したままだったデュエルディスクに狙いをつけ、正確にデッキホルダーに刺さっている【機械戦士】デッキを掴んだ。

「なっ……!?」

 俺の驚愕の声をよそに、マジックハンドは忠実に使い手の命令を実行する機械のように、【機械戦士】デッキを掴みながら縮んでいく。そのまま縮んでいったマジックハンドに掴まれていたデッキは、その持ち主の手の中へと納められた。

「ちっこい精霊ばっかだが……大量だな」

 バイクのような物に乗って現れたその男は、【機械戦士】デッキをバイクに取り付けられた球状の箱に入れると、こちらに視線を向けた。その視線は鋭くこちらを射抜き……いや、何やら品定めをしているような視線だ。

「誰だお前……機械戦士を返せ!」

「返せと言われて返す馬鹿はいねぇ。そしてオレの名前は、精霊狩りのギース、だ」

 精霊狩り。ギースと名乗った男の言ったことに、俺は一瞬で事態を悟って戦慄した。カードの精霊を狩るものということは、あの伝説のグールズと同様に……『デッキを狩る』ということと同義だからだ。

「精霊狩り……?」

「ああ。この世にはびこる精霊を狩って、コレクションしてるような奴に売りつけるのが俺の仕事だ。このアカデミアは大量で、今はデュエリストも倒れてやがる」

 明日香の質問に嬉々として答えたギースを、早速プロフェッサー・コブラ側のデュエリストと判断すると、明日香から離れて一歩前に出た。精霊狩りだか何だか知らないが、【機械戦士】をくれてやる訳にはいかない……!

「【機械戦士】を返してもらおう!」

「だから、返せって言われて返す馬鹿はいねぇ。オレとデュエルしても良いが、デッキは持ってんのか?」

 自然と俺は、ポケットに入っているもう一つのデッキホルダーに手を伸ばすが、あの趣味のデッキで勝てるはずもない。しかしここで勝たなければ、【機械戦士】デッキを取られてしまう……!

「デッキなら……」

「私が代わりにデュエルするわ」

 もう一つのデッキを取りだそうとした俺を制し、明日香がデュエルディスクを構えながら前に出た。デュエルディスクにはもちろん、彼女のデッキである【サイバー・ガール】が取り付けられている。

「ん、そっちの女か? ……まあ良いだろう、ネオスペーシアンと宝玉獣相手の肩慣らしには丁度良い」

 やはりギースの目当てはコブラの元へ行っている十代とヨハン……正確に言えば、その二人の精霊とデッキ。彼らが本校に帰ってくる時は、十中八九コブラとのデュエルで疲弊している……ギースは、そこを狙っているのだろう。

「遊矢。ちょっと聞いてくれる?」

 ギースがバイクから降りてデュエルの準備をしている間に、明日香はこちらを振り向かずに話しかけて来た。つまりはギースの方を見ている為に、その表情は伺いしれない。

「私は三沢くんみたいに頼りにならないかも知れないけど、遊矢と一緒に戦うぐらいは出来る。いつも守ってくれてありがとう。……これからは、私も一緒に」

 明日香はそれだけ早口で言い残すと、デュエルディスクを構えたギースへと向かっていく。……明日香が向こうを見てくれていて良かった、流石にこうまで言われては照れる。

「待たせたな。オレが負けたらこのデッキは返してやる。お前が負けたら……負けた時のお楽しみ、って奴だ」

「ええ、その条件で構わないわ」

 明日香はギースの下卑た挑発を軽く受け流すと、自らのデュエルディスクを展開する。……そう、あまりにも一緒にいるものだから忘れかけてしまうが、彼女はカイザーと並ぶアカデミアの女王なのだ。

「チッ……その生意気な鼻っ柱、叩き折ってやる!」

 対するギースも言動はただのチンピラのようだが、彼は実力主義と標榜しているコブラの部下だ。その実力は疑いようも無いものだが、そもそも『真っ当な』デュエリストかも怪しいものだ。

「くそっ……!」

 デュエルが始まろうとしている今、もはや俺の言葉など何の意味も無しはしない。俺に出来ることはと言えば、明日香の勝利を願うことだった。

『デュエル!』

明日香LP4000
ギースLP4000

「先攻は俺から。ドロー!」

 デュエルディスクの選択によって先攻を得たのは、残念ながら明日香ではなく精霊狩りのギース。彼はどんなデッキなのか、それを見定めるチャンスではあるが。

「オレは《ルアー・ファントム》を召喚」

ルアー・ファントム
ATK0
DEF0

 その名前の通り、釣り竿についているルアーの幻影のようなモンスター。その攻撃力・守備力ともに0ということもあいまって、かなり不気味な様相を呈している。

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだぜ」

「私のターン、ドロー!」

 不気味なモンスター《ルアー・ファントム》が攻撃表示に、カードを二枚伏せたギースの布陣に、明日香はどうするか。何かあると言っているようなものだが、明日香ならば攻めるだろう。

「私は《ブレード・スケーター》を召喚し、バトル!」

ブレード・スケーター
ATK1400
DEF1500

 今回先陣を斬ることになったのは、明日香の主力モンスターの内の一体である《ブレード・スケーター》。召喚して即座に攻撃を宣言し、ルアー・ファントムへと狙いをつける。

「ブレード・スケーターでルアー・ファントムに攻撃、アクセル・スライサー!」

「《ルアー・ファントム》の効果を発動! このカードが攻撃された時、このカードと攻撃したカードを手札に戻すぜ!」

 ルアー・ファントムに攻撃しようとした瞬間、ブレード・スケーターはそのルアーに引っかかってしまうと、そのまま明日香の手札へと帰還するように引っ張られてしまう。永続魔法《門前払い》のような効果を持ったモンスターか、と思ったその時、ブレード・スケーターをどこからか発射した網が捕らえた。

「ブレード・スケーター!?」

 ブレード・スケーターを捕縛したその網は、元をたどればギースの開かれたリバースカードから発射されており、ブレード・スケーターを捕らえてギースのフィールドに置かれた。

「カウンター罠《ハンティング・ネット》! 相手モンスターが手札に戻った時、そいつをオレのフィールドに捕まえちまうカードさ!」

 ブレード・スケーターはそのネットから出ることは出来ず、じたばたともがいているしかない。捕らえられたモンスターは、ギースの魔法・罠ゾーンへと置かれて、更に専用の『獲物カウンター』が付く。

 墓地に送られれば再利用の方法はいくらでもあるが、相手のフィールドに置かれてしまっては再利用も出来ない。更には自分のモンスターが捕らえられている、ということから、精神的にも苦しいものがある。

 精霊狩りの名前に相応しいデッキ、ということか……!

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「ククク。オレのターン、ドロー!」

 どちらもがら空きになったフィールドだったが、明日香は悔しそうに顔を歪め、ギースは嬉しそうに笑っている。ギースは、先程手札に戻したカードと同じカードを取ると、そのままデュエルディスクに置いた。

「《ルアー・ファントム》を召喚!」

 再びフィールドに召喚される幻影の釣り竿に、伏せられているリバースカードが一枚。もちろんあのリバースカードの正体は解らないものの、明日香がこのまま攻撃しては同じ結果となるかも知れない。

「ターンエンドだぜ、再び獲物にされたければ攻撃しな!」

「……私のターン、ドロー!」

 挑発を仕掛けてくるギースをスルーしつつ、明日香はカードを一枚ドローする。先のターンではブレード・スケーターが捕らわれてしまったが、今回はどう攻めるのか。

 ……何にせよギースの戦術が前回と同じならば、明日香がそれを攻略出来ない筈がないのだけれど。

「魔法カード《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターの《ブレード・スケーター》を二体墓地に送ることで、手札の《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-茶吉尼-
ATK2700
DEF2400

 デッキの通常モンスターを素材とすることで儀式召喚出来る通常魔法《高等儀式術》により、千手観音のような手に無数の刃物を持った、最強のサイバー・エンジェルが儀式召喚される。儀式召喚されるや否や、早くもその効果を発動しながら《ルアー・ファントム》へと近づいた。

「サイバー・エンジェル-茶吉尼-が特殊召喚された時、相手はモンスターを一枚破壊しなければならない。あなたのフィールドにいるモンスターは一体、《ルアー・ファントム》を破壊してもらうわ!」

 ギースのフィールドに伏せられているリバースカードは反応せず、サイバー・エンジェル-茶吉尼-はルアー・ファントムを切り刻んでいく。その効果はもちろん発動せず、ギースのフィールドはがら空きとなった。

「バトル! サイバー・エンジェル-茶吉尼-でダイレクトアタック!」

 《ルアー・ファントム》はもうおらず、ギースのリバースカードが《ハンティング・ネット》だとしても何の問題もない。ギースを切り裂かんと近づいたサイバー・エンジェル-茶吉尼-は……突如として地面から出て来た、網に捕縛された。

「ハハハ、リバースカード《生け捕りの罠》! オレのフィールドに獲物カウンターが載ったモンスターがいる時、攻撃して来るモンスターを、その名の通り生け捕りにしちまうのさぁ!」

 網に捕らえられたサイバー・エンジェル-茶吉尼-は、ブレード・スケーターのようにギースの前に捕らえられ、明日香の元に帰ることは適わない。

「……ターンエンドよ」

「オレのターン、ドロー!」

 明日香は通常召喚せずにターンを終了し、フィールドにはリバースカードが一枚しかない。このままではギースのペースに乗せられてしまう、そんな恐れが俺に伝わって来る。

「オレは《魂を削る死霊》を召喚し、バトル!」

魂を削る死霊
ATK300
DEF200

 フードと鎌を持った悪霊のような外見をしたモンスターが召喚され、明日香へと攻撃するような態勢を取る。そのステータスは下級モンスターでしかないが、戦闘では破壊されない効果に加え、このタイミングで持って欲しくはない効果を持っている。

「魂を削る死霊でてめぇにダイレクトアタックだぜ!」

明日香LP4000→3700

 明日香のことを守るモンスターはおらず、死神の鎌は明日香に直撃した後に、その手札を一枚狩っていく。《カードを狩る死神》のように、この死神はダイレクトアタック時に手札を一枚墓地に捨てさせるのだ。

「さらに永続魔法《身代わりの痛み》を発動! エンドフェイズ、オレの獲物の数だけ相手に400ポイントのダメージを受けてもらう!」

 ギースのフィールドに捕らわれてしまったいるのは、ブレード・スケーターとサイバー・エンジェル-茶吉尼-の二体のモンスター。

「ターンエンド……800ポイントのダメージを受けてもらうぜ!」


 獲物となっている二体のモンスターの苦しみが、永続魔法《身代わりの痛み》を介してダメージとなって明日香を襲う。明日香はダメージに顔を少し歪めながら、彼女のターンが回って来る。

明日香LP3700→2900

「私のターン、ドロー!」

 ギースのフィールドにリバースカードはなく、今はモンスターが獲物として捕らわれる心配は無い。だが代わりにギースのフィールドは、戦闘破壊耐性を持つ《魂を削る死霊》と《身代わりの痛み》により、ロックバーンの様相を呈していた。 

「私は《サイバー・チュチュ》を召喚!」

サイバー・チュチュ
ATK1000
DEF800

 明日香の主力であるダイレクトアタッカーが召喚されるが、《魂を削る死霊》の攻撃力は300ポイントのため、その効果を活かすことは出来ない。幸いにも今は攻撃表示なので、サンドバックにすることは可能だが……

「さらに装備魔法《エンジェル・ウィング》! 装備するのは……もちろん、《魂を削る死霊》!」

「……チィッ……!」

 《魂を削る死霊》に似つかわしくない、機械で出来た天使の羽根のような物が装備されていくが、装備された瞬間に魂を削る死霊は破壊される。その戦闘破壊耐性とハンデス効果の代償に、魂を削る死霊は効果の対象になった時に破壊されてしまうのだ。

「バトル! サイバー・チュチュでダイレクトアタックよ、ヌーベル・ポワント!」

「ふん……効かねぇなぁ」

ギースLP4000→3000

 サイバー・チュチュの回し蹴りがギースに直撃するが、そのダメージは僅か1000ポイント。ダイレクトアタックの火力としてはやや物足りなく、ギースも余裕しゃくしゃくといったポーズをしている。

「ターンエンドよ」

「オレのターン、ドロー!」

 ギースのフィールドは二体の獲物と永続魔法《身代わりの痛み》であり、明日香のフィールドは《サイバー・チュチュ》とリバースカードが一枚。やはりまだギースが優勢だが、明日香は手札に攻める準備を整えているようだ。

 ならばこの戦局がどちらに傾くかは、このターンのギース次第と言えるだろう。

「オレは《スター・ブラスト》を発動し、500ポイントを払って手札のモンスターのレベルを一下げる。そしてレベルを下げたモンスターを召喚させてもらう!」

ギースLP3000→2500

 手札のモンスターのレベルを変更出来る魔法カード《スター・ブラスト》を発動し、どのモンスターのレベルを下げたか確認すると同時に、そのモンスターをデュエルディスクへと叩きつけた。

「現れろ《ヘル・ガンドック》!」

ヘル・ガンドック
ATK1000
DEF500

 レベル5のモンスターにしては、そのステータスは明日香の《サイバー・チュチュ》と大差のないモンスターだったが、確かその効果は《魂を削る死霊》と同じくハンデス効果。魂を削る死霊と違うのは、直接攻撃ではなく戦闘ダメージを与えるだけで問題ないということで、その低いステータスを補うことが出来れば力を発揮する。

「続いて魔法カード《破天荒な風》を発動! ヘル・ガンドックの攻撃力と守備力を1000ポイントアップさせ、バトルだぜ! ヘル・ガンドックでサイバー・チュチュに攻撃!」

 魔法カードの支援を受けて攻撃力が上がったヘル・ガンドックが、サイバー・チュチュをその強靭な顎で噛み砕き、そのまま明日香の手札にも迫った。しかし明日香への攻撃は、明日香の前に張られたカードの壁によって守られた。

「伏せてあった《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にして、カードを一枚ドローするわ」

 一ターン目から伏せてあったリバースカード《ガード・ブロック》により、ヘル・ガンドックのハンデス効果のトリガーである、戦闘ダメージを無効にする。それだけではなく一枚のドローも果たし、皮肉にもギースが狙った状況とは真逆の状態となった。

「チィ……だがエンドフェイズ、《身代わりの痛み》により800ダメージを受けてもらう!」

 獲物となった二体のモンスターからエネルギーを吸い取り、そのエネルギーが明日香に向けて発射される。リバースカードがない明日香には防ぐ手段も救う手段もなく、甘んじてそのバーンダメージを受け入れた。

明日香LP2900→2100

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだぜ」

「私のターン、ドロー!」

 明日香のターンに移って一枚ドローすると、ドローカードを見て微妙に明日香の表情が変わった。少しだけ薄く笑ったと表現すべきか、明日香がそのように笑った時は、攻撃をする準備が整った時だ。

「私は《儀式の準備》を発動! 墓地から儀式魔法カードを、デッキからレベル6以下の儀式モンスターを、それぞれサーチすることが出来る!」

 一枚で儀式モンスターと儀式魔法を手札に加えることが出来る、まさに《儀式の準備》と言える魔法カードにより、明日香は二枚のカードを手札に加える。

 そしてまずは、墓地から加えたカードをデュエルディスクに差し込んだ。

「私は《機械天使の儀式》を発動!」

「《高等儀式術》じゃねぇ……!?」

 明日香が墓地から加えた魔法カードは《機械天使の儀式》……《魂を削る死霊》の効果により墓地に送られていたのだろうが、明日香は《高等儀式術》ではなくそちらを選択した。

 しかしさしたる問題はない――《儀式の準備》で手札に加えたサイバー・エンジェルの効果を考えれば。

「手札の《サイバー・プリマ》を捨て、私は《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-韋駄天-
ATK1600
DEF2000

 儀式召喚されたのはやはり予想通り、サイバー・エンジェルの一角である《サイバー・エンジェル-韋駄天-》。そのステータスは三体のサイバー・エンジェルの中でも最も低いが、それを補って余りある効果を持っている。

「サイバー・エンジェル-韋駄天-が特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを手札に加えることが出来る! 私は《高等儀式術》を手札に加え、そのまま発動する!」

 そして再び発動される《高等儀式術》。先程の《高等儀式術》の発動により、明日香のデッキの通常モンスターである《ブレード・スケーター》は墓地に送られてしまっているので、儀式召喚されるのは三体目のサイバー・エンジェルであろう。

「デッキから通常モンスターの《神聖なる球体》を三体墓地に送り、手札から《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1600

 明日香の儀式におけるエースカードであり、三体のサイバー・エンジェルの最後のモンスター。そのバーン効果は、一撃必殺の威力が込められていることもしばしばある。

「まだよ! 《フルール・シンクロン》を召喚し、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》とチューニング!」

 通常召喚される機械の花だったが、即座にサイバー・エンジェル-韋駄天-を包み込む光の輪となり、シンクロ召喚の態勢となる。合計レベルは8、俺が交換した機械騎士がシンクロ召喚されるだろう。

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! きらめけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

フルール・ド・シュヴァリエ
ATK2800
DEF2400

 白百合の騎士がフィールドに現れ、その姿をサイバー・エンジェル-弁天-とともにギースに表した。その姿はまるで、ヘル・ガンドックを退治しに来た騎士と天使のようだった。

「行くわよ! フルール・ド・シュヴァリエで、ヘル・ガンドックに攻撃! フルール・ド・オラージュ!」

 ギースが前のターンに発動した通常魔法《破天荒な風》は、ギースのスタンバイフェイズまで効力は続いている。しかしフルール・ド・シュヴァリエの前には、ヘル・ガンドックごとき一太刀浴びせるだけで終幕となった。

「ぐうっ……! だが、ヘル・ガンドックは破壊された時、デッキから同名モンスターを特殊召喚出来る! 現れろ《ヘル・ガンドック》!」

ギースLP2500→1700

 破壊されたヘル・ガンドックから、再び新たなヘル・ガンドックが再生する。もちろん《破天荒な風》の効力は消えているため、攻撃力は1000程度であるのだが……ヘル・ガンドックは、明日香に対して攻撃の意志を示していた。明日香のフィールドにはまだ、攻撃していない《サイバー・エンジェル-弁天-》がいるにもかかわらず、だ。

「どうする、攻撃するかぁ?」

 明らかに罠だと見せつけた態度をギースは取り、さらには以前に捕らえた二体なモンスターを見せつける。攻撃してくれば、またトラップカードの餌食になるのだと、暗に示しているのだろうが……明日香はそれを一笑に付した。

「サイバー・エンジェル-弁天-でヘル・ガンドックに攻撃! エンジェリック・ターン!」

「ハッ、かかったなバカが! リバースカード《ミニチュアライズ》を発動して返り討ちだぜ!」

 ギースが発動したリバースカードは、相手モンスターの攻撃力を1000ポイント下げることが出来る永続罠《ミニチュアライズ》。確かにサイバー・エンジェル-弁天-の攻撃力を1000ポイント下げれば、ヘル・ガンドックの攻撃力の方が上がる。フルール・ド・シュヴァリエの攻撃の時に発動しなかったのは、この――『二択を外してモンスターを破壊された』という――状況を作り出し、明日香を精神的に追い詰めるつもりだったのだろう。

 ……どちらにせよ無駄な話だが。サイバー・エンジェル-弁天-にミニチュアライズの効果が及ぶより早く、フルール・ド・シュヴァリエがギースの近くへ駆け抜け、ミニチュアライズのカードを切り裂いた。

「フルール・ド・シュヴァリエは、自分のターンの時に発動された魔法か罠を無効に出来る! ミニチュアライズを無効にし、そのままサイバー・エンジェル-弁天-で攻撃!」

「なあっ……!?」

ギースLP1700→900

 ヘル・ガンドックはサイバー・エンジェル-弁天-の舞に翻弄され、そのまま持っている扇に切り裂かれる。ヘル・ガンドックは倒れ伏しながらも、その効果により後続のモンスターを特殊召喚しようとしたが、それより前にサイバー・エンジェル-弁天-の効果が発動される。

「サイバー・エンジェル-弁天-がモンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの守備力分のダメージを与える!」

「ぐっ……こっちも新たな《ヘル・ガンドック》をデッキから特殊召喚する!」

ギースLP900→400

 《ヘル・ガンドック》の守備力はその攻撃力の半分の500という数値で、ギースにトドメを刺すには至らないが、もう一度戦闘破壊すればフィニッシュとなるライフポイントとさせた。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー! もう遊びはヤメだ!」

 ギースは物騒な台詞を叫びながらデュエルディスクにモンスターを置き、新たなモンスターを召喚する。そんな台詞とともに召喚されるモンスターとして、明日香は警戒を強めたものの。

「チューナーモンスター、《ダーク・リゾネーター》を召喚!」

ダーク・リゾネーター
ATK1300
DEF300

 しかして召喚されたのは下級モンスターだったが、チューナーモンスターだということで、明日香はむしろ警戒を強めることとなる。二本の音叉を持ったチューナーモンスターの悪魔は、その音叉を鳴り響かせた。

「ククク……レベル5の《ヘル・ガンドック》とレベル3の《ダーク・リゾネーター》をチューニング!」

 その音叉がぶつかり合った音により、自身の身体を光の輪として《ダーク・リゾネーター》はヘル・ガンドックを包み込み、シンクロ召喚される準備が完了する。今はまだ何の変哲もないシンクロ召喚だが、ギースの様子はどこかいつも以上に自信満々で、怪しげな雰囲気を醸し出している。

「心の闇より生まれし者、今、魂と引き替えに降臨するがいい! シンクロ召喚! 脈動せよ、《ブラッド・メフィスト》!」

ブラッド・メフィスト
ATK2800
DEF1300

 血の悪魔という物騒な名前の、黒いシルクハットを被った魔法使いのようなモンスターがシンクロ召喚される。その攻撃力はフルール・ド・シュヴァリエと同じ2800であり、禍々しげな視線を明日香へと向けた。

「バトル! ブラッド・メフィストでサイバー・エンジェル-弁天-に攻撃! カースド・ブラッド!」

「ならリバースカード《ダメージ・ダイエット》を発動! このターンのダメージを全て半分に――ッ!?」

明日香LP2100→1600

 ブラッド・メフィストが杖を振りかざすと、サイバー・エンジェル-弁天-を軽々と吹き飛ばしたが、明日香へのダメージはリバースカードによる半透明のバリアが包み込む。……しかし《ダメージ・ダイエット》の甲斐もあっての、僅か600ポイントのダメージにもかかわらず、明日香はそのダメージによって膝を着く程のダメージを受けていた。

「明日香!?」

「くっ……大丈夫よ、遊矢」

 大丈夫と言いながら明日香は早くも立ち上がったが、この程度のダメージで膝を着いたことがまず異常なことに他ならない。フィールドに高笑いが響き渡り、俺はその発信源をギースの方を睨みつけた。

「この《ブラッド・メフィスト》は、カードを製造した時にプレイヤーの身体にまでダメージが発生する、という不具合が発生した正真正銘の闇のカード! ダイレクトアタックなんて受けたら……現実のライフが無くなっちまうかもなぁ……」

 セブンスターズたち以来の闇のカードの登場に、一瞬だけ「偽物か?」という思考が頭をよぎったものの……その明日香のダメージを見る限り、そんなことは無いようだ。

「明日香……」

「止めろなんて言わないでよね、遊矢」

 先んじて言おうとしていたことを言われてしまい、ぐうの音も出ないとはこのことか。明日香はブラッド・メフィストを前にして、一歩も引かないと言わんばかりの態勢を示した。

「ふん、ならばメインフェイズ2に魔法を発動だ、通常魔法《デコイ・ベイビー》!」

 ギースの使用した魔法カードとともに、ギースのフィールドで獲物となっていたブレード・スケーターが解放された。捕らわれていた仲間を助けようと、フルール・ド・シュヴァリエはブレード・スケーターに近づいていったが、そこをさらに巨大な網が二人を捕まえた後に分離し、《ブレード・スケーターに加えてさらに《フルール・ド・シュヴァリエ》をも獲物とした。

「囮を使って生け捕りって奴さぁ。……《身代わりの痛み》のダメージで1200ポイントを受けてもらうぜ!」

「……《ダメージ・ダイエット》の効果でダメージを半分にする!」

明日香LP1600→1000

 新たに《フルール・ド・シュヴァリエ》のエネルギーをも吸い取った一撃だったが、明日香は未だに《ダメージ・ダイエット》のバリアに守られているため、その一撃は半分程度の威力となる。

「ターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー! 《貪欲な壺》を発動して二枚ドロー!」

 汎用ドローカード《貪欲な壺》により二枚ドローし、明日香は手札を整える。ギースのカードによって、フィールドには先のターンに展開した、サイバー・エンジェル-弁天-とフルール・ド・シュヴァリエはもういないのだから。

 対するギースのフィールドには、闇のカードこと《ブラッド・メフィスト》と、バーンカード《身代わりの痛み》と捕らわれた獲物が三体。

「私のモンスターを返してもらうわ! 魔法カード《ハリケーン》を発動!」

 フィールドに巻き起こる《サイクロン》とは違う旋風に、心中で「ナイスだ明日香」と呟く。獲物カウンターは確かに相手フィールド上に封印する、という厄介極まりない効果だが、逆に言えばそのモンスターたちは相手フィールド上にいる。

 ならば、魔法・罠ゾーンのカードやモンスターカードを戻すことが出来れば、捕らわれていた仲間たちを救うことが出来る。明日香の魔法カードによって現れた旋風に、モンスターを縛っていた網が破壊され、三体のモンスターは手札へと戻る。

「テメェ……!」

「……さらに《死者蘇生》を発動! 墓地から《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を守備表示で特殊召喚!」

 万能蘇生カードによって、墓地からサイバー・エンジェル-韋駄天-が特殊召喚されると、そこには一枚の魔法カードもともに浮かんでいた。それは特殊召喚に成功したことにより、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の魔法カードサルベージ効果が、問題なく機能しているということを示していた。

「私が手札に加えて発動するのは、《高等儀式術》!」

 デッキから二体の通常モンスターが墓地へと送られていき、手札の儀式モンスターを降臨させる準備が完了する。手札にある儀式モンスターはもちろん、先程獲物から救い出したカードに他ならない。

「デッキから《ブレード・スケーター》を二枚墓地に送り、《サイバー・エンジェル-茶吉尼-》を儀式召喚!」

 またもや儀式召喚される最強のサイバー・エンジェルに、隠せないほどにギースの顔が歪む。サイバー・エンジェル-茶吉尼-は特殊召喚に成功した時、相手は一体選んで自分のモンスターを破壊しなければならないのだから。

 そしてギースのフィールドにモンスターは、切り札である《ブラッド・メフィスト》しかいない。

「サイバー・エンジェル-茶吉尼-で、ブラッド・メフィストを破壊!」

 ずっと獲物として捕らわれていた恨みだろうが、サイバー・エンジェル-茶吉尼-はいつも以上にブラッド・メフィストを切り刻み、そのままギースの前に立ちはだかった。今度切り刻む相手は、このプレイヤーだと示すように。

「バトル! サイバー・エンジェル-茶吉尼-でダイレクトアタック!」

「手札から《バトルフェーダー》の効果を発動!」

 八本の腕と刃物を振り上げたサイバー・エンジェル-茶吉尼-だったが、ギースの前に現れたモンスターに対し、攻撃せずに明日香のフィールドへと戻ってきてしまう。俺が多用する《速攻のかかし》の相互互換カードであり、速攻のかかしと違うところは、攻撃を無効にした後もフィールドに残ることだ。

 しかし肝心のバトルフェイズを終了する効果は何も変わらず、サイバー・エンジェル-茶吉尼-の攻撃は失敗に終わった。

「……ターンエンドよ」

「オレのターン、ドロー!」

 明日香は残念そうにターンを終えるものの、ギースのブラッド・メフィストは破壊して自分のフィールドにはサイバー・エンジェルが二体、という明日香に優勢な状況のはず。それでも明日香が不安がってしまう理由のは、デュエルをしている二人にしか預かり知らぬことなのだろう。

「オレは《二重魔法》を発動! 《身代わりの痛み》を墓地に送ることで、テメェの墓地の《死者蘇生》を頂くぜ!」

 自分の魔法カードを捨てることで、相手の墓地の魔法カードを奪う扱いの難しい魔法カード《二重魔法》。そのようなカードを採用するまでに、ギースのデッキは奪うことに特価しているのだろうか。

「そして《死者蘇生》を発動し、墓地から《ブラッド・メフィスト》を特殊召喚!」

 ……そんなことを考えている場合ではなく、明日香の魔法カードを使用してギースは自身の切り札たる《ブラッド・メフィスト》を特殊召喚する。闇のカードと呼ばれた血の悪魔は、再びフィールドに現れそのマントをたなびかせた。

「バトル! ブラッド・メフィストでサイバー・エンジェル-茶吉尼-に攻撃だ、カースド・ブラッド!」

「つっ……!」

明日香LP1000→900

 サイバー・エンジェルの中で最強であろうとも、サイバー・エンジェル-茶吉尼-の攻撃力はブラッド・メフィストには及ばず、そのダメージは現実の明日香にすら効力を及ぼす。100ポイント程度のダメージだったから良かったものの、ギースのハッタリではなくダイレクトアタックを喰らっては不味いことになりそうだ。

「ターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー!」

 明日香がカードをドローした瞬間、ギースのフィールドにいるブラッド・メフィストが持っている杖が、怪しく光り輝いた。その光は寸分違わず明日香の元に向かっていく。

「なっ……!?」

明日香LP900→600

 その光の正体は、明日香のライフポイントを300程度だが削るバーン効果。光を喰らった場所を抑えて耐えきる明日香に、ギースは高笑いとともにその効果の説明を行い始めた。

「ブラッド・メフィストはテメェのスタンバイフェイズ時、フィールドのカードの数×300ポイントのダメージを与える! そしてまだ、第二の効果も隠されている……いくらテメェが守備を固めようと、オレは立ってるだけで勝てるってわけだなぁ!」

 守りを固めれば固めるほど、スタンバイフェイズ時に《ブラッド・メフィスト》が与えるダメージは増していくが、守りを固めねば高攻撃力のブラッド・メフィストにやられてしまうという矛盾。明日香の墓地には《ダメージ・ダイエット》はあるが、そのバーン効果と併せて第二――恐らくそちらもバーン効果――のバーンを防げるだろうか。

「……それなら問題はないわね」

 しかしギースの誤算は、プレイヤーにダメージを与える闇のカードであるブラッド・メフィストを前に、明日香が臆して守りに徹すると考えていること。明日香のデュエルは守りが苦手、とにかく攻めることなど……ギースには知る由もないのだから。

「そして私には、まだエースカードが残っているわ。魔法カード《融合》!」

「《融合》だぁ!?」

 ギースの驚愕も当然であり、儀式にシンクロ召喚までデッキに投入しているにもかかわらず、明日香にはまだ融合が残されている。あの扱いにくいカードたちを扱い、そしてデュエルに勝つのがアカデミアの女王なのだ。

「手札の《ブレード・スケーター》と《エトワール・サイバー》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 最初のターンに獲物として捕らわれ、《ハリケーン》によって救われて《ブレード・スケーター》を融合素材に融合される、明日香の融合のエースカード《サイバー・ブレイダー》。フィールドを華麗に滑りながら、明日香の前に《サイバー・エンジェル-韋駄天-》とともに並び立った。

「サイバー・ブレイダーは相手モンスターが二体の時、その攻撃力を倍にする! パ・ド・トロワ!」

「倍ってことは……4200!?」

 フィールドを制圧していた《ブラッド・メフィスト》の攻撃力を大きく超し、サイバー・ブレイダーは悪魔にトドメを刺すべく接近した。

「……これが、あなたが獲物として扱って来たモンスターたちの力よ! サイバー・ブレイダーで、ブラッド・メフィストを――」

「おっと待ちな!」

 サイバー・ブレイダーの攻撃がブラッド・メフィストに炸裂しようとする直前、ギースの制止の声が明日香に向かって放たれる。明日香は不審に思いながらもサイバー・ブレイダーの攻撃をストップすると、ギースはそのまま明日香に向かってこう言い放った。

「オレをこのまま攻撃すれば……友達の大事なデッキがどうなるか解ってんだろうなぁ?」

「――ッ!?」

 暗に奪った【機械戦士】と精霊たちを人質にする、と発言したギースに明日香は息を呑んだ……その一瞬後に、薄く笑った。そんなことはどうでも良い、と言っているかのように。

「好きにすれば良いわ。……出来るなら、ね」

「ああッ?」

 明日香の妙な反応を気にしたギースが、奪ったデッキや精霊を捕らえてある、斜め後ろに構えているバイクを――さらに言えば、そのバイクに乗っている俺を見た。もっと正確に言えば、ギースのバイクに乗ってデッキを取り返している俺を、だ。

「テメェ……どうやって……」

「機械関係は得意なんだ。後はスキを見て、な」

 明日香とのデュエルに集中している中、俺はギースの隙をついてバイクに接近し、機械戦士と精霊たちを閉じ込めているものを解放し、後は明日香のデュエルを見学させてもらった。……思いの外上手く言ったことに、自分も驚いている。

 ……そして驚愕するギースを尻目にしながら、サイバー・ブレイダーはブラッド・メフィストに引導を果たすべく動きだした。

「サイバー・ブレイダーで攻撃、グリッサード・スラッシュ!」

「うわああああ!」

ギースLP400→0

 サイバー・ブレイダーの蹴りがブラッド・メフィストに叩き込まれ、そのままギースのライフポイントごとブラッド・メフィストを消し飛ばした。……闇のカードと言えど、破壊されれば墓地に送られるし、ライフポイントを0にすれば敗北するのは変わらない。

 そしてギースは尻餅をついた後にバイクの方を見て、驚愕……いや、怯えた表情をして後ずさる。もちろん俺やバイクを見て恐怖している訳ではなく、ギースが【機械戦士】より早く捕らわれていた、俺には見えない『何か』に怯えているのだろうが。

「明日香、大丈夫か?」

 そのまま森に向かって走っていくギースはともかく、デス・デュエルをした明日香へと駆け寄った。ブラッド・メフィストによってのダメージに加えて、デス・デュエルでの体力減少ともあれば、明日香もかなり疲弊しているに違いない。

「ええ、大丈夫よ……」

 無理しているのは見て取れる表情で言う明日香を、無理やりギースが置いていったバイクに乗せると、俺も同じようにバイクへと乗った。幸いなことに大型車故に二人ぐらいなら乗せられる上に、ギースが走っていったせいでキーは刺しっぱなしで動かせる。

 ……バイクを借りてアカデミアに急ごうとしたところ、今はコブラや十代がいるのだろう森の奥の建造物から、何やら動きがあった。遠目で良くは見えないものの、屋上から何かが……人間が落ちていっているようだ。

「何が起きてるんだ……?」

 落ちて行ったのが十代たち仲間の誰かではないことを祈りつつ、やはり放っておくわけにはいかないと、バイクを発進させようとしたところ……光が見えた。

 その建造物の屋上から光が放たれると、俺はどこかに飛ばされるような感覚を味わった……

 

 

―砂の異世界―

 肌に砂のような感触が感じられ、こそばゆくて意識が回復していく。すっかり失神からの回復にも慣れてしまったようで、個人的にはかなり不安なことになっている今日この頃だが、早く目覚めて悪いことはない。

 目を開けると、そこは意識を失う前と同じくバイクの上で、明日香も後部座席に眠っている。彼女はまだ意識を取り戻していないようだ。……そこまでは良い。

 何故俺たちがいるのはアカデミアではなく、日差しが激しく照りつけて見渡す限り一面に砂と乾いた岩が広がっている――俺は来たことがないものの、砂漠地帯の特徴にそっくりな場所にいるのか。意識を失う前に最後に見たものは、プロフェッサー・コブラの建造物から発せられた光だったが、あの光が一体何だと言うのだろう。

 そして砂漠地帯には全く相応しくない、俺がいつも慣れ親しんでいるアカデミアがそこにはある。俺と明日香以外もここに来ているのを喜ぶべきか、学校全体でこんなことに巻き込まれたのを憂うべきか。

 しかし、アカデミアの全てが巻き込まれた訳ではないようで、本校社以外のアカデミアの建造物はほとんど見当たらない。本校を中心にして一定範囲内の物が、この砂漠地帯に連れてこられたらしい。

「アカデミアのところまで行ってみるか……」

 明日香を目覚めさせてアカデミアに行こう、と思いバイクに近づいたところ、近くから砂を踏み込んだ足音が聞こえる。岩で姿は見えないものの……ここで一緒に遭難した生徒だと思うことはなく、どことなく覚束ない足音から、怪しい人物――それこそいてもおかしくないギースやコブラ――だと思った俺は、早急に明日香を起こすことにした。

「おい明日香、起きろ」

「遊矢……って、ここは!?」

 その周囲の景色から異常なことが起きている、と即座に判断したのか、明日香はすぐに目覚めてバイクから立ち上がる。俺はギースから取り返した【機械戦士】をデュエルディスクに入れると、岩の向こうにいる人物に声をかけた。

「そこの岩の後ろにいる奴! 出て来い!」

 油断無くデュエルディスクを構えた俺の言葉に、岩の向こうにいた人物は即座に向こうから現れた。危害を加えようとか奇襲をしようとか、そんな動きでは全くない――と、素人である自分にも解るような動き。外見は白いマントのようなものを羽織っており、体格は俺や明日香と同じ程度……いや、少し大きい程度だった。

 しかしそんなことを観察するより早く、俺はその白いマントの男の正体が解っていた。少々髪が伸びているようだったが、その顔を忘れる筈がない。

「三沢……!?」

 ジェネックスの終結とともにアカデミアを去った親友が、制服から白いマントへと姿を変えてそこにはいた。

「やはり遊矢だったか。それに明日香くんまで……どうしたんだ?」

「……こっちが聞きたいわよ、三沢くん。ここはどこなの?」

 どうやら三沢にしても俺たちと会うのは想定外だったようで、三沢にしては珍しく見て解るほどにうろたえている。俺たち三人はまず、情報の共有を始めることとした。

 まず三沢が何故ここにいるかというと、ツバインシュタイン博士の助手として実験をしていたところ、不慮の事故によりデュエルエナジーが暴走してしまう。その結果、三沢はこの『砂の異世界』に飛ばされてしまっていたらしい。

 俺たちもその説明を聞けば似たようなもので、ギースとデュエルした後に見た光が、そのデュエルエナジーの暴走であるのだろう。そして俺たちは、アカデミアとその周辺ごと異世界に来ることになった。……プロフェッサー・コブラの目的は謎のままであるが。

 コブラの元に行った十代たちならば何か知っているかも知れない、ということで三沢を含めた俺たち三人は、まずはアカデミアに向かうことにした。何かに――少なくともアカデミアまでの移動には――使えるかも知れないので、ギースの乗り捨てたバイクを使わせてもらうことにする。

「しかし、アカデミアは相変わらずみたいだな」

「毎年毎年、色々な厄介ごとが来るよなぁ……」

 三幻魔だの光の意志だの異世界だの。こんな学園生活が送れるのは、このアカデミアだけだろうと思う。

「三沢くん。異世界から戻る方法って知ってるの?」

「……理論上はな。俺たちが来たデュエルエナジーと、同等以上のデュエルエナジーを暴走させれば良い。だが……」

 三沢が実験で使ったというデュエルエナジーは知らないが、俺たちが来たデュエルエナジーはアカデミアの生徒のほぼ全て。そう簡単に用意出来るものでもないだろうし、俺たちの腕には未だにデスベルトがついたまま……こんな砂漠地帯の真ん中で、集団でデスデュエルをするわけにもいかない。

「……よし、動きそうだ」

 ギースのバイクのエンジンが始動すると、今では頼もしいガソリンの排出音が聞こえだした。俺がまずは運転席に座ると、明日香が俺の腰回りを掴んで運転席の後ろに座る。三沢は明日香には掴まらずに、捕まえた精霊たちを捕まえる球体を――邪魔だったのでその球体は壊したが――運んでいた場所に座った。

「三沢くん、そこで大丈夫?」

「固定する物もあるし大丈夫さ。……それに、二人を邪魔するわけにもいかないからな」

「……発車するぞ」

 三沢の軽口と背中に感じる弾力性豊かな二つの物体を意図的に無視してバイクのペダルを踏み込むと、エンジンが一際大きい音を響かせてバイクは動きだした。精霊を捕まえるシステムが搭載されているせいもあり、かなりの大型バイクであるのでそのパワーも計り知れない。

「砂地なのに結構スピード出るのね。……それと遊矢。念のために聞くけど、免許とか……」
「あると思うか?」

「……ないわよね」

 三年間アカデミアで過ごしているので、運転免許を取っている生徒など一部しかいないが、そもそもこんな大型バイクは特殊な免許がいるだろう。もちろん俺がそんなものを持っているはずもなく、足場の不安定さもあって車体が大きく揺れた。

「……転ばない?」

「多分」

 不安そうに俺を掴む明日香に頼りがいのない返答をしながら、俺はバイクの後方に乗っている三沢に声をかけた。……思い返してみれば、三人でこんな風に久し振りだ。ジェネックスが始まるまでは、この景色が日常だったにもかかわらず。

「この世界に住んでる人はいないのか? 戻れないならどこか、集落か何か……」

「いや、俺も捜してはみたが人間はいなさそうだった。ここにいる住人は……デュエルモンスターズの精霊たちだ」

 三沢の言葉に驚きながら、俺は無意識にデュエルディスクに収められている【機械戦士】へと視線を移した。こんな見渡す限り砂漠のような世界が、十代のネオスペーシアンのような、カードの精霊たちの世界だというのだろうか。

「俺はツバインシュタイン博士と十二個の異世界を発見したが、そのうちの幾つかは、デュエルモンスターズの精霊世界、と呼べる場所らしい。……これ以上の研究を進めるためにも、早く帰らなくてはな」

「なら、デュエルモンスターズの精霊と話が出来るの?」

 明日香の放った質問は俺も興味があった。精霊であるという【機械戦士】たちと、俺は未だに話すら出来ていないのだから。

「種族による……としか言いようがないな。中には敵対して来るモンスターも――」

 三沢の言葉が途切れて俺たちが乗っているバイクに影が差し、俺たちは反射的にその影の正体を見つめた。太陽を影にしている為に逆光になり、その姿は良く見えないが……紛れもなくアレは、《ハーピィ・レディ》だった。

 もっと正確に言うならば三体別々の姿をしているので、《ハーピィ・レディ 三姉妹》というところだが。そのいななきはこちらを威嚇しているようで、どうにも友好的な雰囲気ではないどころか、獲物を見る殺意が見え隠れしている。

「逃げろ遊矢!」

「そう言われてもな!」

 こちらは砂地を走っているバイク、あちらは飛行する鳥人。どちらが速いかは一目瞭然であり、徐々に《ハーピィ・レディ 三姉妹》はバイクへと近づいて来る。その見るからに鋭利な爪は、人間の身体程度ならば容易く断ち切るだろう。

「……仕方ないか。遊矢、スピードを落とすなよ!」

 そう言い放つや否や、三沢はバイクの上に立って《ハーピィ・レディ 三姉妹》へと身構えるようなポーズを取った。足場は固定されているので、振り落とされることはないものの、ハーピィ・レディに適うはずもない。

「三沢くん、何やってるの!?」

 明日香の驚きを伴った質問には答えず、三沢はその身体を覆っていた白いマントを脱ぎ捨てた。その下は、俺と変わらない蒼いオベリスク・ブルー寮の制服が着られ、その腕にはもちろん――デュエルディスクがついていた。

「遊矢、明日香くん。敵対して来るモンスターを倒すには、俺たちに出来ることはデュエルしかない!」

 三沢のデュエルディスクに反応してか、ハーピィ・レディ 三姉妹》を守るように五枚の裏向きのカードが展開する。……いや、あれは自分のことを守るための物ではなく、三沢とのデュエルの為の初期手札……?

「アカデミアに着くまでに決着をつける。デュエルだ、ハーピィ・レディ!」

 三沢はデュエルディスクを展開してデュエルの準備を完了させると、ハーピィ・レディに対してデュエルを申し込む。これだけ聞くと、三沢が異世界で生活していたせいで正気ではなくなったのか疑うところだが、その本人は至って真面目な表情をしている。

 対するハーピィ・レディもその気なのか、俺たちのバイクにこれ以上接近することはなく、三沢と一定の距離――まさしくデュエルをする際に必要な距離――を保ちながら飛翔していた。

「おいおい……」

 理解が追いつかない俺は、バックミラーで状況を確認しながら呻くものの、現実は変わらない。三沢とハーピィ・レディという、種族を超えたデュエルが始まろうとしていた。

『デュエル!』

三沢LP4000
ハーピィ・レディ1LP4000
ハーピィ・レディ2LP4000
ハーピィ・レディ3LP4000

 デュエルは俺と明日香とヨハンで行ったデュエルと同様に、トライアングル・デュエルで行われるようだ。ハーピィ・レディたちが同士討ちをするはずがなく、つまり三沢は単純計算で三対一の戦いを強いられることとなった。

「俺の先攻、ドロー!」

 先攻を取ったのは三沢。彼は異種族間のデュエルだろうと、アカデミアにいた時と同じように落ち着いてデュエルを開始していた。……この頼れる人間すらいない異世界で、何度もこうやってデュエルしてきたのだろうか。

「俺は《ライトロード・パラディン ジェイン》を召喚!」

ライトロード・パラディン ジェイン
ATK1800
DEF1200

 三沢のデッキで戦陣を切るのは光の聖騎士、《ライトロード・パラディン ジェイン》。どうやら三沢のデッキは変わらず、妖怪とライトロードを組み合わせたデッキのようだ。……まだライトロードしか召喚されてはいないが、三沢が妖怪をデッキから抜くはずがない。

「遊矢、前!」

 明日香の警告で三沢とのデュエルに集中し過ぎていたことに気づき、岩にぶつかりそうになっていたバイクを強引に右に動かして衝突を避ける。なんとか岩を避けながらバイクでアカデミアに向かうが、そこでバイクとアカデミアの間の砂漠地帯に蟻地獄のようなものが出来たかと思えば、そこから巨大なモンスターが地下から姿を表した。

「明日香、あのモンスターは……」

「確か、《サンド・ストーン》!」

 最初期の通常モンスター故に名前を思いだせなかったが、明日香のおかげで名前とフレイバー・テキストが頭に浮かぶ。確かに砂漠地帯の地下から現れて、その触手を俺たちに振るおうとしている。

 もちろんその触手に当たればバイクごと俺たちは粉々になり、蟻地獄に巻き込まれれば俺たちは脱出不能になるだろう。幸いなことに《サンド・ストーン》とはまだ距離が離れているが、接近してしまうのは時間の問題だ。

 ……だったら俺がするべき行動は一つだけだ。

「デュエルだ、サンド・ストーン!」

 バイクの操縦桿から手を離してデュエルディスクを展開すると、遠くのサンド・ストーンの前にもハーピィ・レディたちと同じように、五枚の初期手札が展開される。モンスターだろうとデュエリストならば、デュエルを受けたならば断りはしない、ということか。

「大丈夫なの遊矢!?」

「……三沢がやってるんだ、俺がやれない訳がない!」

 バックミラーを見て三沢を確認してみると、ハーピィ・レディの内一体を閻魔の使者《赤鬼》によってライフポイントを0にしていた。まだ三沢に余裕は有りそうだったものの、こちらの《サンド・ストーン》とまでデュエルすることは出来はしない。

「明日香、運転頼む」

「ええ、わかったわ」

 明日香が俺の腰から手を離して操縦桿を握り、俺の肩の上からひょっこりと顔を出して前方を確認する。《サンド・ストーン》がいる蟻地獄までは、少し距離があるものの急がなくては間に合わない。

『デュエル!』

遊矢LP4000
サンド・ストーンLP4000

 いきなりすることとなったモンスターとのデュエルにも、愛用のデュエルディスクは問題なく起動してくれたものの、残念ながら『後攻』の文字が示された。……初めての異世界でのモンスターとのデュエルだ、慎重ぐらいで良いのかもしれないが。

 サンド・ストーンの前のカードが一枚増えると、その後に三枚のカードが裏向きにセットされた。一枚のカードをドローし、モンスターのセットと二枚のリバースカードのセットを済ませたようだ。

 そこで俺のデュエルディスクが反応し、俺のターンになったことが分かる。

「楽しんで勝たせてもらうぜ! 俺のターン、ドロー!」

 異世界のモンスターだろうと俺の信念は変わらない。そして相手が三枚のカードをセットしただけの、まるっきり未知のデッキだろうと【機械戦士】のやることも変わらない。

「《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 三つ叉の機械戦士が砂漠地帯に降り立ち、明日香が運転しているバイクと併走してついて来る。そしてその槍を構えて、サンド・ストーンへのセットモンスターへと突っ込んでいく。

「マックス・ウォリアーは攻撃する時、攻撃力は400ポイントアップする。マックス・ウォリアーでセットモンスターに攻撃、スイフト・ラッシュ!」

 その効果で攻撃力を400ポイントアップさせ、マックス・ウォリアーがセットモンスターへとその槍を突きつける。カードが反転してセットモンスターが姿を現すと、俺も比較的良く見る優秀なモンスターだった。

「《ウェポンサモナー》か……」

 リバース効果モンスターで、リバースした時デッキから《ガーディアン》と名前が付いたモンスターを手札に加える、サーチ効果を持ったモンスター。マックス・ウォリアーに串刺しにされた代わりに、サンド・ストーンの手札へと《ロストガーディアン》が手札に加わった。

「……カードを一枚伏せてターンエンド」

 マックス・ウォリアーの攻撃力・守備力が半分になり、カードを一枚伏せて俺はターンを終了する。《ロストガーディアン》は現時点では何の意味もなさないカードだが、果たしてどのようなデッキだろうか。

 俺がターンを終了したことにより、サンド・ストーンへとターンが移ったようで、サンド・ストーンの手札のカードが更に一枚増える。

 そして数秒後、伏せてあったセットカードがオープンされる……罠カード《岩投げアタック》だ。岩石族モンスターを一枚墓地に送ることで、相手のライフに500ポイントのダメージを与える罠カード。

遊矢LP4000→3500

 サンド・ストーンから放たれた岩がバイクの当たって車体が大きく揺れ動いたが、明日香が何とか立て直したようですぐに安定した姿勢に戻った。

「悪い、明日香……」

「これぐらいなら大丈夫よ」

 明日香は大丈夫とは言ったものの、サンド・ストーンから攻撃が来ればこのバイクにもダメージが来てしまう。ライフポイントが0になるほどのダメージを受けてしまえば、バイクにも耐えられないほどのダメージが与えられるだろう。

「速攻で倒すに加えて、ダメージを出来るだけ受けちゃいけないな……」

 俺がそんなことを呟いている間にもサンド・ストーンのターンは続いており、更に伏せられていた一枚の罠カードが発動された。《蛆虫の巣窟》――言わずとしれたデッキの上から墓地に五枚送るカードに、先程の《ロストガーディアン》と併せて俺に冷や汗が流れた。

 そして突如としてサンド・ストーンの背後に時空を歪める穴が空いたかと思えば、そこから巨大な岩石で出来たドラゴン――《メガロック・ドラゴン》が姿を見せた。墓地の岩石族モンスターを除外して特殊召喚される岩石族の切り札で、その攻撃力は特殊召喚した時のモンスター×700ポイント。5体のモンスターを除外したようで、攻撃力は脅威の3500ポイントに到達する。

 そしてメガロック・ドラゴンが俺たちのバイクに向けて体当たりしつつ、弱体化したマックス・ウォリアーを破壊しようとするが、それを許すわけにはいかない。

「リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》!」

 バイクの進行方向に現れた《くず鉄のかかし》が《メガロック・ドラゴン》を防ぎ、そのままサンド・ストーンの元まで戻らせる。《くず鉄のかかし》はそのままセットされ直し、サンド・ストーンは新たに《ロストガーディアン》を召喚した。

 《ロストガーディアン》は除外されているモンスター×700ポイントの守備力を持ったカードであり、現在メガロック・ドラゴンと同じように3500ポイントの守備力を持っている。

 岩石で出来た最強の矛と最強の盾とでも言えば良いのだろうか、ドラゴンと守護者はちっぽけなバイクに乗った俺たちからすれば、とても巨大に見えてしまった。

「でも打ち破るしかない……俺のターン、ドロー!」

 勢い良くカードを引いたものの、あの二体のモンスターを突破出来るカードではない。確かにあまり時間は無いのだが、あの二体は無鉄砲に突撃しても勝てるモンスターではない。

「カードを二枚伏せ、マックス・ウォリアーを守備表示。更に《チューニング・サポーター》を守備表示で召喚!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 まるで中華鍋を逆に被ったようなモンスターを壁に出したものの、ステータスが違いすぎて壁の役割すら果たせないことになりそうだった。しかしこのターンでやれるだけのことはやった、後は機を待つのみ……!

「……ターンエンドだ!」

 俺のターン終了宣言によってサンド・ストーンのターンに移ると、サンド・ストーンは即座に手札の魔法カード《サイクロン》を発動させる。狙いは寸分違わず《くず鉄のかかし》で、旋風によって《くず鉄のかかし》は破壊されてしまう。

「――避けろ明日香!」

「ええっ!?」

 《メガロック・ドラゴン》の大質量を伴った体当たりが来るが、もう守ってくれる《くず鉄のかかし》は存在しない。標的になった《マックス・ウォリアー》は守備表示のため、ダメージはないもののその衝撃は計り知れない。

 明日香は俺の指示を受けてバイクを右に走らせたものの、メガロック・ドラゴンが巨大すぎてその程度の移動に意味はない……が、その時マックス・ウォリアーが動きを見せた。

 マックス・ウォリアーが大きく左へ行ってバイクから離れると、メガロック・ドラゴンはそちらの方に向かっていってバイクを標的から外したのだ。……元々バイクではなく、マックス・ウォリアーが目的なので当然のことだが。

「マックス・ウォリアー……!」

 バイクとは遠く離れた場所でマックス・ウォリアーは《メガロック・ドラゴン》に破壊されてしまい、デュエルディスクから墓地に送られてしまう。おかげで助かったことに感謝して、サンド・ストーンがカードを一枚セットしたことを確認しながら、俺はデュエルディスクの誘導に従ってカードを引いた。

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには守備表示の《チューニング・サポーター》が一体で、バイクの脇に控えるリバースカードが二枚。対するサンド・ストーンは、攻撃力・守備力が3500ポイントの《メガロック・ドラゴン》に守備力が3500ポイントの《ロストガーディアン》にリバースカードが一枚――まさに最強の矛と最強の盾である。

「《ニトロ・シンクロン》を召喚!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF500

 消火器のような外見をしたチューナーモンスターが登場するものの、シンクロ召喚をするのはもう少し後になってからだ。まずは下準備として、伏せてあるリバースカードを発動する。

「伏せてあった《ギブ&テイク》を発動! サンド・ストーンの墓地に《マックス・ウォリアー》を守備表示で特殊召喚し、ニトロ・シンクロンのレベルを4上げる!」

 この効果によって《ニトロ・シンクロン》のレベルは6。《チューニング・サポーター》の効果を合わさずとも、その合計レベルは専用シンクロモンスターのレベルとなる。

「レベル1のチューニング・サポーターに、レベル6となった《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 《ニトロ・シンクロン》がマックス・ウォリアーの力を借りたことにより、6つの光の輪となって《チューニング・サポーター》を包み込んだ。一際大きな光を発した後に二体の小さな機械は消えると、そこから緑色の機械戦士がシンクロ召喚される。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

 悪魔のような形相をした緑色の機械戦士がシンクロ召喚され、背後で炎が燃え盛っていく。ついでに背後でデュエルをしている三沢のことを見たものの、何の心配もなさそうだった。

「ニトロ・シンクロンとチューニング・サポーターには、お互いにシンクロ素材となった時に一枚ドローする効果がある! よって二枚ドローし、装備魔法《パワー・チャージャー》をニトロ・ウォリアーに装備!」

 シンクロ素材となった《ニトロ・シンクロン》と《チューニング・サポーター》の効果で二枚ドローしつつ、装備魔法《パワー・チャージャー》をニトロ・ウォリアーに装備する。巨大なバックバックを装備したニトロ・ウォリアーは、バイクから離れてサンド・ストーンへと向かって行く。

「バトル! ニトロ・ウォリアーでマックス・ウォリアーに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

 《ギブ&テイク》により、一時的にサンド・ストーンのフィールドに特殊召喚されたマックス・ウォリアーを破壊し、ニトロ・ウォリアーは自身の効果の発動トリガーとする。そしてマックス・ウォリアーはそのまま消えていかず、ニトロ・ウォリアーが背にした《パワー・チャージャー》へと吸い込まれて行く。

「《ニトロ・ウォリアー》と《パワー・チャージャー》の効果を発動! ニトロ・ウォリアーは相手の守備表示モンスターを攻撃表示にし、パワー・チャージャーは破壊したモンスターの攻撃力分、装備モンスターの攻撃力をアップさせる!」

 《パワー・チャージャー》からニトロ・ウォリアーへとマックス・ウォリアーの力が流されていき、その攻撃力は4600となる。《ロストガーディアン》の守備力も超えたが、更に《ニトロ・ウォリアー》の効果により強制的に攻撃表示にされてしまう。

「これで終わりだ! マックス・ウォリアーの力も借りた、ダイナマイト・インパクト!」

 ニトロ・ウォリアーの胸のパーツから放たれた旋風に、ロストガーディアンは攻撃表示になってニトロ・ウォリアーとバトルする――が、その前にサンド・ストーンのリバースカードが立ちはだかる。

 サンド・ストーンの最後のリバースカード《ダメージ・ダイエット》が発動したことにより、サンド・ストーンの回りを半透明のバリアが包み込んでそのダメージを半減させたのだ。

サンド・ストーンLP4000→1750

 一撃でライフポイントを削りきれる一撃だったものの、ダメージ・ダイエットによって半減されてしまってサンド・ストーンは生き延びた。俺が悔しさで少々顔を歪めていたところ、明日香の悲鳴が交じった声が聞こえて来た。

「遊矢、そろそろ蟻地獄に入ってしまうわ! 一旦バイクを止めないと!」

「……ダメだ! 今止めたらハーピィ・レディかサンド・ストーンの攻撃に直撃する!」

 目前には明日香の言う通り、サンド・ストーンが発生させた蟻地獄が開いているものの、ここで止まっては良い的になってしまう。

「でも……」

「大丈夫だ……このターンで終わらせる! リバースカード《シンクロ・オーバーリミット》を発動!」

 《ロストガーディアン》を破壊したことにより、動きが止まっていた《ニトロ・ウォリアー》がリバースカードにより再び行動を始めた。《シンクロ・オーバーリミット》はシンクロモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、そのシンクロモンスターをエンドフェイズに自壊させることにより、もう一度だけ攻撃させることの出来る罠カード……!

「更に速攻魔法《手札断札》! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 もちろんこのタイミングでの手札交換があまり意味をなすとは思えないが、フィールドに旋風を巻き起こすことになり、新たなモンスターが俺のフィールドに特殊召喚される。もちろん墓地に捨てたカードは、いつも通りのあのカードだ。

「墓地に捨てたのカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚し、《地獄の暴走召喚》を発動! 現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400


 《リミッター・ブレイク》によってデッキから特殊召喚されたスピード・ウォリアーと、《地獄の暴走召喚》によって特殊召喚された二体は、フィールドに現れるや否やバイクの側面に移動すると、三体がかりでバイクを掴んだ。その行動からスピード・ウォリアー達が何をしたいのか悟った俺は、バイクのアクセルを更に踏み込んだ。

「え? ちょ、ちょっと遊矢!」

「……二人とも、良く捕まっとけよ!」

 三体の《スピード・ウォリアー》はバイクを持ちながらジャンプすると、バイクごと空中で舞い上がっていく。蟻地獄や砂漠に紛れ込んでいた岩などの障害物を眼下にしながら、俺は《ニトロ・ウォリアー》へと攻撃を命じた。

「バトル! ニトロ・ウォリアーでメガロック・ドラゴンに攻撃!」

 ニトロ・ウォリアーの拳とメガロック・ドラゴン自身がぶつかり合うと、双方の武器に衝撃でひびが入っていく。ニトロ・ウォリアーの攻撃力は、《パワー・チャージャー》の効果によってマックス・ウォリアーとロストガーディアンの力を得て4700なのだから……結果は決まっている。

「ダイナマイト・ナックル!」

サンド・ストーンLP1750→1150

 ニトロ・ウォリアーがメガロック・ドラゴンに打ち勝つと、そのまま俺たちが乗ったバイクがサンド・ストーンの方向へと自由落下していく。ニトロ・ウォリアーの猛攻によってボロボロになっているが、遠慮なくトドメを刺させてもらうとしよう。

「スピード・ウォリアー三体で、サンド・ストーンに攻撃! トリプル・ソニック・エッジ!」

 しかしてスピード・ウォリアーは三体ともバイクを掴んでいるために動けず、サンド・ストーンに近づいての跳び蹴りなど出来る状態ではなかった。バイクはそのままサンド・ストーンに直撃し、ボロボロになっていたその身体を正真正銘のダイレクトアタックで砕いて砂漠地帯に着地するのだった。

サンド・ストーンLP1150→0

「くっ……!」

 バイクのリアルダイレクトアタックでも大丈夫なのか、と少し意外そうにサンド・ストーンが崩壊する様を見ていたが、腕に付いていたデスベルトが反応し、俺のデュエルエナジーを少量ながら奪っていく。もう回収装置はないと思って油断していたが、ずっしりと身体に倦怠感が襲ってきた。

「火車でダイレクトアタック! 火炎車!」

 三沢もハーピィ・レディの群れを倒し尽くしたようだったが、振り向いたその表情には疲労の色が濃く残っている。もちろん三沢にはデスベルトなどついてはいないが、この過酷な異世界で暮らしていて疲労しない者はいないだろう。

「相変わらず無茶をするな、遊矢。サンド・ストーンと戦わずに迂回すれば良かったんじゃないか?」

「そっちこそ、群れを相手にするようだったら一人じゃなくても良かったな」

 三年生になろうと異世界に行こうと、変わらない親友のことをお互いに確認し合ったところで、少しだけ疲労を忘れて笑みがこぼれて来る。そんな様子に明日香はため息をつきながら、俺と座る席を強引に変えさせた。

「これからは私が運転するわ。良いわね?」

「……ダメだって言ってもやるんだろ?」

 一度言ったら梃子でも動かない明日香を説得するのは、時間もないし疲労も多い。大人しく――名残惜しいものの――座っている席を変わると、明日香がバイクを再発進させた。

 最初から手加減無しの全開フルスロットルで発車したバイクに、俺と三沢は並みのジェットコースターでは味わえない恐怖を感じながら、俺たちはデュエル・アカデミアに救助されたのだった。

 ……この異世界は一体何なのだろうか。そして俺たちは、元の世界に帰ることが出来るのだろうか……? 

 

―急展開―

 事態は急展開を迎えていた。

 突如として未知の異世界に跳ばされてしまったデュエル・アカデミアだったが、研究の失敗により偶然居合わせていた三沢大地により、異世界と自分たちがいた世界はどこかで繋がっていることが実証されている。デュエルの腕前に自信がある者を中心に、交代で見張りをしながら一晩を向かえ、全校生徒がこれは夢ではないと実感するとともに事件は起きた。

 オベリスク・ブルー女子の生徒である早乙女レイが、未知のモンスターに襲われて瀕死の重傷を負ったのだ。異世界に来てしまったデュエル・アカデミアに、その傷を直すことの出来る薬はなかったが、一筋だけ光明が見えていた。

 アカデミアの近くに不時着している潜水艦、というのを三沢が以前に発見しており、比較的新しい物だったのでそこに薬や食料品があるかもしれない……ということだった。そこで各々が何かのエキスパートである留学生たちと、カードの精霊については最も理解と実力がある十代を中心に、潜水艦へと物資を取りに行くのだった。

 ……俺もその部隊に志願したものの、デス・デュエルによる疲弊があるために砂漠地帯では思うように動けないため、アカデミアに残ることとなった。明日香や剣山にアカデミアの外の見張りを任せ、俺がやることは三沢とともにこの異世界から帰還する方法を考えることだった。もちろん俺に三沢ほどの頭があるはずもなく、主に考えるのは三沢の仕事だったが、第三者としての意見ぐらいは手伝えるというものだ。

 保健室で眠っているレイが気にならない訳がないが、俺が保健室に行ったところで鮎川先生の邪魔になるだけだ。ならばここで三沢の手伝いをして、一刻も早く現実世界に帰還するのが俺に出来るレイを助ける方法だ。

 しかしそんな思いも空しく新たに事件が起こる。アカデミア内に『デュエルゾンビ』と呼ばれる生徒たちが暴れ始めたのだ。

 デュエルゾンビとなった生徒はところ構わずデュエルを挑み、敗北した生徒はデュエルゾンビになる――まるでバイオハザードのようなシステムのデュエルゾンビが、アカデミアに溢れ出したのだ。そこで厄介なのがデュエルゾンビの数と、俺たちに装着されたデス・ベルトである。デス・ベルトがある限り俺たちはデュエルをする度に体力が削られ、いつしかそのデュエルゾンビの数の前に敗北してしまう。

 しかも体力が切れてもデュエルゾンビは起き上がって来るため、何度もデュエルをしていてはあちらが死んでしまう可能性もある。敵は化物のゾンビではなく、俺たちと同じようにデス・ベルトを装着した生徒なのだから。

 よってアカデミアはバイオハザードの舞台になり、俺と三沢は帰還方法を模索していた部屋から脱出せざるを得なかった。

「赤鬼でダイレクトアタック! 鬼火!」

 三沢のエースカードの一撃がデュエルゾンビを吹き飛ばす。異世界に行っていた為に三沢はデス・ベルトを付けていないので、体力を吸い取られる心配は無いが……元々少なからず消耗している。

「計算結果は……」

「頭に入っているさ、問題ない」

 赤鬼のソリッドビジョンが消えるとともに、デュエルゾンビが再び迫ってくる前にとりあえず廊下を走る。バイオハザードが起きたとはいえまだ少数のようだが、戻す方法が分からない以上後は増えていくだけだろう。

「どうなってんだか……三沢、心当たりはあるか?」

「……いや、初めての経験だ。誰かが《洗脳光線》か、《集団催眠》でも使ったのかもしれない」

 罠カード《洗脳光線》・《集団催眠》。効果は詳しくは覚えていないが、確かエーリアンのサポートカードだったか。デュエルして敗北した者にAカウンターを乗せ、Aカウンターが乗ると《洗脳光線》か《集団催眠》によりデュエルゾンビになる……と考えれば、理には適っているかもしれない。

「遊矢、これからどうする……いや。君は決まっているな」

「流石は親友、解ってるじゃないか」

 軽口を叩きながらもデュエルゾンビがいないかを確認して走るのを止めると、息を整えながら三沢とは違う道を前にした。未だあっちにはデュエルゾンビが見えない、行くならば今しかない……

「レイを助けに行く。悪いけどそっちは任せたぜ、三沢」

 保健室で倒れているレイを助けに行かなくてはならない。重傷を負っているレイが動けるわけもなく、患者を見捨てて鮎川先生が逃げるわけもない。十代たちが薬を取って来るのを信じて、いつも妹分として元気づけてくれる彼女への恩返しといこう。

「ああ、他の生存者の救出は任せてくれ。体育館に集合させておく。……それと、こいつを渡しておく」

 そうして三沢から渡されたのはがっしりとした通信機。見れば三沢も一個持っており、異世界でも使える連絡用の通信機なのだろうか。

「場所を行ってくれれば必ず駆けつける。……死ぬなよ、遊矢」

「……そっちこそな、三沢」

 親友と顔を見合わせて頷き合うと、通信機をポケットにしまい込んで別々の方向に走っていく。度重なるデス・デュエルにより、疲労感が身体全体を支配しているが、それでも保健室へ向かって全速力で走り抜けていった。


 三沢と別れて数分経ったものの、運良くデュエルゾンビには遭遇せずに走って来れた。この調子ならば、まだ保健室方面にはデュエルゾンビは来ていないのか……と考えていた時、廊下の向こうから野球ボールぐらいの大きさの物体が、俺に向かって飛来してくるのが横目で見えた。

 三つの野球ボールを避けながら、飛んできた物体が何なのかを確認すると――

「――おジャマ三兄弟?」

 野球ボールのような物体は万丈目の精霊のカード、おジャマ三兄弟。普段精霊が見えない人間でも、この世界では例外的に見えるようで――何故か機械戦士たちの姿はないが――俺にもおジャマ三兄弟の姿は見えていた。

 どうしてこんなところにいるのか聞いてみようとしたところ、俺はおジャマ三兄弟の目の下に巨大なクマのような物が出来ていることに気づく。……そのクマはデュエルゾンビとなっている証であり、おジャマ三兄弟がデュエルゾンビだということは……

「……万丈目」

 おジャマ三兄弟が飛んできた方向を見ると、どうやらデュエルゾンビになっているらしい万丈目準が立っている。彼は食糧庫を護るという役目を負っていたため、デュエルゾンビから逃げ出すことが出来なかったのだろう。

「よぉ~遊矢。どうだ、デュエルしないかぁ?」

「……ああ、やってやるさ」

 デュエルゾンビとなった万丈目の申し出に、俺はデュエルディスクを構えてその申し出を受け入れる。それはもちろん、デュエリストだからとかそんな理由ではなく、万丈目を倒さねばその向こうの保健室に到達出来ないため。……万丈目には悪いが、三沢がやっていたようにデュエルの決着の衝撃で吹き飛ばすしかない。

 加えて他のデュエルゾンビやレイの容態のため、可能な限り素早く万丈目を倒さなくてはならない……!

 俺の申し出に対し嬉しそうに笑った万丈目もデュエルディスクを展開し、どちらもデュエルの準備が整った。

『デュエル!』

遊矢LP4000
万丈目LP4000


「先攻は俺様から。ドロー」

 先を急いでいるというのにデュエルディスクは万丈目に先攻を明け渡す。確かに後攻ならば――矛盾しているようだが――先に攻撃は出来るものの、機械戦士で後攻ワンターンキルなど夢物語だ。

「俺は《地獄戦士》を召喚!」

地獄戦士
ATK1200
DEF1400

 そして万丈目が召喚したのは、入学したての一年生以来となる《地獄戦士》。今回の万丈目のデッキは【地獄】デッキということか……?

「カードを二枚伏せてターンエンドだぁ……」

「さっさと勝たせてもらう! 俺のターン、ドロー!」

 万丈目のデッキが何であろうとも、俺は機械戦士で出来るデュエルをするだけ。それを象徴するかのように、まずは先陣を切るアタッカーへと手を伸ばした。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 機械戦士のアタッカーこと、マックス・ウォリアーが地獄戦士へとその三つ叉の槍を構える。リバースカード二枚とは、いつもの万丈目らしからぬ守備の構えだが、ここはそのまま攻める。

「マックス・ウォリアーで地獄戦士に攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 自身の効果で攻撃力を400ポイント上げたマックス・ウォリアーの攻撃に、地獄戦士は自身の盾では防ぎきれずに破壊されるが、その身体から怨霊のような物が現れる。

「地獄戦士の効果! 戦闘ダメージをお前にも受けてもらおうかぁ……」

 万丈目らしい転んでもただではすまない効果に、万丈目はマックス・ウォリアーの攻撃で、俺は地獄戦士から現れた怨霊によって、どちらも等しくダメージを受ける。

遊矢LP4000→3000
万丈目LP4000→3000

 そしてマックス・ウォリアーは戦闘で相手モンスターを破壊したことにより、そのステータスを半減させて最初の攻防は終わる。

「同じくカードを二枚伏せてターンエンド」

「俺様のターン、ドロー」

 ゆったりとした挙動でカードをドローした万丈目は、ドローしたカードを手札にしまった後にリバースカードを発動する。

「通常罠《地獄召喚》を発動! 墓地から地獄モンスターを特殊召喚出来る……《地獄戦士》を蘇らせてもらうぜぇ?」

 『地獄』と名前の付いたモンスターを完全蘇生する罠カード、《地獄召喚》により先のターンで破壊された《地獄戦士》が再びフィールドに現れるが、それだけでは万丈目は止まらない。墓地から蘇った地獄戦士の背後から、さらにもう二体の地獄戦士が突如として現れたのだ。

「速攻魔法《地獄の暴走召喚》! さらにデッキから《地獄戦士》を二体特殊召喚……」

「……俺は特殊召喚しない」

 《地獄の暴走召喚》のデメリット効果によって、俺にも特殊召喚の権利はあるものの、今フィールドにいる《マックス・ウォリアー》はデッキに一枚しか投入していないので特殊召喚は不可能だ。万丈目もそのことが分かって使ったのだろう。

「行けぇ、地獄戦士! マックス・ウォリアーにヘルアタック!」

 巨大な盾と剣を構えた悪魔のような戦士が、マックス・ウォリアーを倒さんと向かっていく。先のターンのように迎撃といきたいところだが、マックス・ウォリアーの攻撃力は半分になってしまっている。

「リバースカード《くず鉄のかかし》を発動!」
 そこを伏せてあったくず鉄で作られたかかしが防ぐが、後続の残り二体の地獄戦士が更に続く。《くず鉄のかかし》は一ターンに一度しか使用することは出来ない……!

「二体目の地獄戦士で攻撃だぁ!」

 もう《くず鉄のかかし》で防ぐことは出来ず、マックス・ウォリアーは地獄戦士の一刀に斬り伏せられてしまい、更なる地獄戦士が俺の前に立ちはだかった。

遊矢LP3000→2700

「最後の地獄戦士でダイレクトアタック!」

「二枚目のリバースカード、《ガード・ブロック》を発動!」

 剣を振りかざした地獄戦士を、《ガード・ブロック》によって俺の前に発生したカードの束が弾き飛ばす。
戦闘ダメージを0にして一枚ドローすると、そこで万丈目の追撃は終わった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

「俺のターン、ドロー!」

 デュエルゾンビなどという得体の知れないモノとなっていようが、万丈目のデュエルの腕が落ちているわけではない。ニヤニヤと笑っている地獄戦士とおジャマ三兄弟を睨みつけると、俺は機械戦士を召喚する。

「俺のフィールドにモンスターはいない、《レベル・ウォリアー》を特殊召喚!」

レベル・ウォリアー
ATK300
DEF600

 特撮による戦隊ヒーローのような外見の機械戦士が現れ、その効果により自身のレベルを4に変更する。相手フィールドにのみモンスターがいる時、このカードはレベル4として特殊召喚出来るのだから。

「更に、チューナーモンスター《ロード・シンクロン》を召喚!」

ロード・シンクロン
ATK1600
DEF800

 そして、《レベル・ウォリアー》に続いて特殊召喚されるのはチューナーモンスターである《ロード・シンクロン》。金色のロードローラーを模した外見のこのモンスターならば、そのまま《地獄戦士》をも倒すことが出来るが、無論そんなことをする気はない。

「効果でレベル4となった《レベル・ウォリアー》に、同じく効果でレベル2となる《ロード・シンクロン》をチューニング!」

「ふん……なにを出す気だ?」

 ロード・シンクロンが二つの光の輪となるとレベル・ウォリアーを包み込み、シンクロモンスターを呼び覚ます為に共鳴する。どちらもそのレベルは変更されているが、問題なくシンクロモンスターは姿を現した。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

グラヴィティ・ウォリアー
ATK2100
DEF400

 身体が機械で出来ている重力の獣。地獄戦士などより獰猛な顔つきをしたそのシンクロモンスターは、その効果を発動するために鋼鉄の咆哮を響かせた。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 万丈目が《地獄の暴走召喚》を使ったおかげで、相手のフィールドには《地獄戦士》が三体。《グラヴィティ・ウォリアー》は攻撃力を3000ポイントまで上昇させ、今にも鋼鉄の爪を万丈目に振りかざそうとしたが、その思惑は他ならぬ万丈目に阻止された。

 未だ伏せられたままの二枚のリバースカードのうち、そのうちの俺に顔を見せた一枚によって。

「伏せてあった《スキルドレイン》を発動! 1000ポイント払うことにより、貴様の機械戦士を封殺する!」

万丈目LP3000→2000

 【機械戦士】の根本的な弱点の一つ《スキルドレイン》。何故弱点なのかはもはや説明不要な域にまで達している。

 対する万丈目は、『貴様の機械戦士を封殺する』とまで言ってのけたように、墓地による発動が多い地獄デッキに《スキルドレイン》は特に邪魔にはならない。一部例外を除けばだが、むしろデメリット効果を帳消しに出来るカードも存在するほどだ。

「くっ……バトル! グラヴィティ・ウォリアーで地獄戦士に攻撃! グランド・クロス!」

 《スキルドレイン》の効果によって、攻撃力は元の数値にまで減じてしまったものの、地獄戦士に比べればまだまだ上。グラヴィティ・ウォリアーは鋼鉄の爪を振り払い、地獄戦士を薙払った。

万丈目LP2000→1100

「だがこの瞬間、地獄戦士の効果が発動する!」

 しかし、地獄戦士の役割は戦闘破壊されることでもある。墓地で発動するために《スキルドレイン》では無効にされず、地獄戦士の身体から現れた怨霊が再び俺を襲った。

遊矢LP2700→1800

 《地獄戦士》の効果のせいで、どちらのライフポイントも加速度的に減っていく。しかし、《スキルドレイン》の発動コストのせいで万丈目の方がライフポイントは少ない。

 ここは《地獄戦士》の効果を無視してでも攻め込む……!

「カードを一枚伏せ、ターンエンド……!」

「俺のターン、ドロー……」

 俺のフィールドには元の攻撃力の《グラヴィティ・ウォリアー》に、《くず鉄のかかし》とリバースカードが一枚。対する万丈目のフィールドは、《地獄戦士》が二枚に《スキルドレイン》とリバースカードが一枚。

 グラヴィティ・ウォリアーがフィールドを制圧しているものの、万丈目のフィールドにはモンスターが二体、簡単に高い攻撃力を誇るモンスターは用意出来る。

「まずは速攻魔法《サイクロン》! そして《地獄戦士》をリリースし、《地獄詩人ヘルポエマー》をアドバンス召喚!」

地獄詩人ヘルポエマー
ATK2000
DEF1400

 《くず鉄のかかし》を破壊する旋風とともに、《地獄戦士》がリリースされ《地獄詩人ヘルポエマー》となって万丈目のフィールドに立つ。棺桶のような物を背負ったそのグロテスクな身体で、グラヴィティ・ウォリアーに戦いを挑もうとしている。

「バトル! グラヴィティ・ウォリアーにヘルポエマーで攻撃だぁ!」

「……迎撃しろ、グラヴィティ・ウォリアー! グランド・クロス!」

 攻撃力が低いヘルポエマーでの自爆特攻。当然ながら万丈目の手札やリバースカードからは何の支援もなく、グラヴィティ・ウォリアーは容易くヘルポエマーを切り裂いた。

万丈目LP1100→1000

 だが、またもや切り裂いたヘルポエマーの怨霊が現れたと思いきや、俺のデュエルディスクへと侵入していく。そして怨霊は手の形となった後に、俺の墓地からその姿を現した。

「地獄詩人ヘルポエマーが戦闘破壊された時、墓地にある限り効果が発動する……《地獄戦士》を守備表示にし、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 《地獄詩人ヘルポエマー》の効果は知っている。万丈目の墓地にある限り、俺が戦闘する度にランダムに手札を一枚墓地に奪っていく厄介な効果。もちろん、墓地で発動するために《スキルドレイン》では無効にならない。

「……グラヴィティ・ウォリアーで攻撃、グランド・クロス!」

 それでも俺は《グラヴィティ・ウォリアー》へと攻撃を命じる。焦っているのは自分でも分かっているが、のんびりとしてはいられないのは確かなのだ。

 守備表示となったためどちらにもダメージは発生せず、地獄戦士はグラヴィティ・ウォリアーに破壊されたものの、代わりにその裏側にあったリバースカードが発動される。

「伏せてあったリバースカード《ヘル・ブラスト》を発動! 戦闘で相手モンスターを破壊したモンスターを破壊する!」

 発動されたリバースカード《ヘル・ブラスト》から、先程戦闘破壊された筈の《地獄戦士》が現れると、グラヴィティ・ウォリアーの胸元に剣を刺していく。グラヴィティ・ウォリアーはその剣が刺された途端、とても苦しみだすが――破壊される前に、まだ《ヘル・ブラスト》の効果は続く。

 《ヘル・ブラスト》はその効果で破壊したモンスターの、攻撃力の半分のダメージをお互いのプレイヤーに与える効果がある。《地獄戦士》と同じく痛み分けの効果だが、万丈目ならばここで俺にトドメを刺しにくる……!

「これで終わりだ遊矢……! カウンター罠《地獄の扉――」

「悪いがこっちが先だ万丈目! カウンター罠《ダメージ・ポラリライザー》!」

 《ヘル・ブラスト》によるグラヴィティ・ウォリアーの破壊は止められなかったが、その後の効果ダメージの発生を《ダメージ・ポラリライザー》は押さえ込む。効果ダメージが無くなったため、万丈目が発動していただろう《地獄の扉越し銃》は発動出来ない。

 ……前のターンに《地獄戦士》を守備表示にすることで、その効果を自分の手で封じ込めて俺に攻撃を誘発させ、攻撃して来たモンスターを《ヘル・ブラスト》で破壊してダメージを与える。そして、自身にも与えられるダメージを《地獄の扉越し銃》の効果で俺に跳ね返すことで、俺のライフポイントは0になる……

 ……グラヴィティ・ウォリアーは破壊されてしまったものの、何とか危ういところで止めることが出来た。

「《ダメージ・ポラリライザー》の効果でお互いに一枚ドローする」

「チィィ……だが、ヘルポエマーの効果は受けてもらうぞ!」

 俺の墓地から伸びた怨霊の手が、《ダメージ・ポラリライザー》の効果でドローしたカードをつかみ取り、そのまま墓地に送っていく。……ランダムというのが厄介なところだ。

「俺は《チェンジ・シンクロン》を守備表示で召喚し、カードを一枚伏せてターンを終了する」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 俺はまだこのターンで通常召喚をしていない。ステータスは頼りないものの、チェンジ・シンクロンを壁として召喚し、カードを一枚伏せてターンを終了する。

「俺のターン、ドロー……」

 《地獄の暴走召喚》で特殊召喚した、《地獄戦士》の大軍もフィールドからいなくなり、万丈目の手札は二枚。次はいかなるモンスターを繰りだしてくるか。

「カードを一枚セット! そして魔法カード《地獄宝札》を発動!」

 まず発動されたカードは『宝札』シリーズのカードの一種である《地獄宝札》。自分の手札が0枚の時のみ三枚ドロー、という強力な効果などものの、発動したターンに《地獄》モンスターを召喚・特殊召喚出来なかった場合、3000ポイントのダメージを受ける……確か《地獄の扉越し銃》の発動も不可能な筈だ。

 万丈目はデュエルゾンビになっているから、何の気負いも見せずに軽々三枚のカードをドローして手札に加え――

「俺のフィールドにモンスターはいない。よって、《地獄大百足》をリリース無しで召喚する!」

地獄大百足
ATK2600
DEF1300

 そうした状況で召喚されたモンスターは、センチピードの姿を模した巨大な昆虫。相手のフィールドにのみモンスターがいる時、攻撃力を半分にして妥協召喚する効果を持つ。

 ……しかしその効果は、万丈目のフィールドに展開している《スキルドレイン》のおかげで半ば無効にされている。結果的には、攻撃力2600のモンスターがデメリット無しで妥協召喚されたということだ。

「バトル! 地獄大百足でチェンジ・シンクロンに攻撃!」

 巨大な地獄大百足にチェンジ・シンクロンは手も足も出せず、そのまま押しつぶされてしまったが、守備表示のために俺にダメージは発生しない。

 さらに《地獄大百足》が万丈目のフィールドに撤退した後に、《チェンジ・シンクロン》が破壊された際にリバースカードが発動された。

「リバースカード《奇跡の残照》! 破壊された《チェンジ・シンクロン》を特殊召喚する!」

 伏せてあった《奇跡の残照》の効果によって、《チェンジ・シンクロン》がそのまま蘇って事なきを得る。しかし、地獄大百足に対して対抗策が無いのも依然として変わらない。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを確認して手札に加えると、頭の中でどう《地獄大百足》を倒すか算段をたてる。万丈目のフィールドは《地獄大百足》と《スキルドレイン》、そしてリバースカードと伏せてある《地獄の扉越し銃》――

「《チューニング・サポーター》を召喚し、通常魔法《機械複製術》を発動! 三体に増殖せよ、チューニング・サポーター!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 機械戦士におけるシンクロ召喚の素材の確保の常套手段に、中華鍋を逆に被ったような姿の機械族、チューニング・サポーターの姿が召喚されるや否や三体に増殖していく。これでチューナーモンスターと非チューナーモンスターが揃った……!

「レベル1の《チューニング・サポーター》三体に、レベル1の《チェンジ・シンクロン》をチューニング!」

 《スキルドレイン》の効果によって、《チューニング・サポーター》のレベル変動効果を使用することは出来ないものの、合計レベルは4。このデッキならば問題なくシンクロ召喚が出来る。

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

アームズ・エイド
ATK1800
DEF1200

 機械戦士たちの補助兵装となる――《スキルドレイン》が発動している今では、その効果を発動することは望めないが――異色のシンクロモンスター、《アームズ・エイド》がシンクロ召喚され、その姿を見た万丈目が笑いだした。

「そんな腕で俺の《地獄大百足》を破壊する気か?」

「ああ。その前にいくつかやらせてもらうがな! まずはチューニング・サポーターは、シンクロ素材になった時一枚ドロー出来る。よって三枚ドロー!」

 レベル変動効果は発動出来なかったものの、ドローをする効果は墓地で発動する効果のために、《スキルドレイン》があろうと問題なくその効果を発揮する。さらに、俺が三枚のカードをドローしている間に、半透明になった《チェンジ・シンクロン》がフィールドに浮かび上がった。

「チェンジ・シンクロンの効果を発動! シンクロ素材になった時、フィールドのモンスターの表示形式を変更する! 《地獄大百足》を守備表示に!」

「また墓地で発動か……!」

 この《チェンジ・シンクロン》も墓地で発動するカード。相手が《スキルドレイン》を使ってこようとも、機械戦士とてそれが解っていれば戦いようはある。

「バトル! アームズ・エイドで地獄大百足を攻撃! パワーギア・アームズ!」

 そして地獄大百足がいくら巨大と言えども、その守備表示は僅か1300。アームズ・エイドは確かに戦闘を目的としたカードではないが、1800と及第点程度の攻撃力は備えている。

 アームズ・エイドが地獄大百足に突撃していき、その貫手が地獄大百足を戦闘破壊する――

「リバースカード、オープン! 《地獄蟲地雷》を発動! 手札の《地獄》モンスターを一枚墓地に送ることで、相手モンスターを破壊する!」

 ――筈だったが、万丈目のリバースカードから現れた爆弾により、戦闘破壊は適わずアームズ・エイドは破壊されてしまう。もちろん《地獄大百足》自体は無傷のままだ。

 さらにバトルフェイズが終了したことにより、俺の墓地からヘルポエマーの手が現れて、俺の手札を一枚奪っていく。

「……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー……」

 俺のフィールドにはカードはなく、万丈目のフィールドには《地獄大百足》と《スキルドレイン》に《地獄の扉越し銃》。さらに、今ドローしたカードをデュエルディスクに差し込んだ。

「《死者蘇生》を発動! 墓地から蘇れ、《炎獄魔人ヘル・バーナー》!」

炎獄魔人ヘル・バーナー
ATK2800
DEF2000

 万能蘇生カードによって墓地から特殊召喚される、万丈目の地獄デッキの切り札である《炎獄魔人ヘル・バーナー》。『ヘル』と名前なので『地獄』モンスターとして扱うため、先の罠カード《地獄蟲地雷》で墓地に送っていたのだろう。

《スキルドレイン》によってデメリット効果を無効にし、その膨大な熱量を誇る炎を纏った悪魔が、巨大なセンチビードである《地獄大百足》と並ぶ。

「ヘル・バーナーで遊矢にダイレクトアタック!」

「手札から《速攻のかかし》を発動! バトルフェイズを終了する!」

 炎獄魔人ヘル・バーナーから放たれた巨大な炎を、手札から飛びだして巨大化した《速攻のかかし》が防ぎ、速攻のかかしは燃え尽きてしまったが俺には届かない。

「フン、ターンエンドだ……」

 何もない俺のフィールドを見て、やはり万丈目は《速攻のかかし》を読んでいたらしく、特に感想を漏らさずにターンを終了する。

「俺のターン、ドロー!」

 ドローしたカードを見て、このカードならば何とかなるかと少しだけ笑みを浮かべる。この逆転の一手が潰されないことを祈りながら、俺は新たなカードをデュエルディスクに差し込んだ。

「このカードは攻撃力を1800にすることでリリース無しで召喚出来る! 俺は《ドドドウォリアー》を妥協召喚!」

ドドドウォリアー
ATK2300
DEF900

 『怒』の文字を背負った斧を持った機械戦士の妥協召喚。万丈目の《地獄大百足》と似たような効果であり、もちろんこのカードの効果も《スキルドレイン》によって無効化され、攻撃力は元々の2300にまで戻る。

「さらに二枚の魔法カード、永続魔法《ドミノ》に装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を発動!」

 デュエルディスクに二枚の魔法カードを差し込むと、ドドドウォリアーに反骨する力が与えられていく。《ドミノ》はまだ発動条件が満たされていないからか、俺のフィールドに表示されているだけで何の効力もない。

「そして通常召喚に成功したターン、《ワンショット・ブースター》を特殊召喚! ……カードを一枚伏せてバトル!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 黄色のボディに二つのミサイルを持った機械族を特殊召喚し、これで全ての準備は整ってバトルフェイズへと突入する。ドドドウォリアーは背負っていたアックスを万丈目に向けた。

「ドドドウォリアーで《地獄大百足》に攻撃! ドドドアックス!」

 装備魔法《ファイティング・スピリッツ》の効果は、相手モンスターの数×300ポイントの攻撃力上昇効果。万丈目のフィールドにいるモンスターは二体のため、ドドドウォリアーの攻撃力は2900。

「ええい……」

万丈目LP1000→700

 僅か300ポイントの差であろうとも、ドドドウォリアーのアックスは地獄大百足を叩き伏せた後、永続魔法《ドミノ》へと繋げた。ワンショット・ブースターが万丈目のフィールドに飛んでいき、ミサイルを発射する体制をとる。

「永続魔法《ドミノ》の効果を発動! ワンショット・ブースターをリリースすることで、炎獄魔人ヘル・バーナーを破壊する!」

 ワンショット・ブースターがミサイルを倒れた《地獄大百足》に命中させ、その巨体を横にいた《炎獄魔人ヘル・バーナー》に向かった倒れさせ、そのまま《炎獄魔人ヘル・バーナー》を押しつぶしてしまう。

 ……これが永続魔法《ドミノ》の効果。相手モンスターを破壊した時、自分のモンスターを一体リリースすることで相手モンスターをさらにドミノ倒しのように破壊する効果。

 一年生の時、この万丈目と同じように《スキルドレイン》を使う敵――あのSULもとい猿はどうしただろうか――を《ドドドウォリアー》と《ドミノ》を使って突破したが、あの時のように楽しんではいられない。どんなデュエルだって楽しんで勝てればそれに越したことはないが……

「考え事をしているところを悪いが、ヘルポエマーの手札破壊を受けてもらうぞ!」

 俺の墓地からまたもやヘルポエマーの腕が現れ、俺の最後の手札を奪っていく。その事実が俺を考え事から現実に引き戻した。

「……ターンエンドだ」

 そんな感傷は今は考えている余裕はない。とにかく今は、このデュエルを早く終わらせてレイを助けにいかないと……!

「俺のターン、ドロー……」

 万丈目のフィールドには《ドミノ》の効果によりモンスターはおらず、フィールドにあるのは《スキルドレイン》と《地獄の扉越し銃》。手札は前のターンの《地獄宝札》のおかげもあり、今のドローも含めて三枚と潤沢だ。

「良いカードを引いた……魔法カード《高等儀式術》を発動! デッキから《ブラッド・ヴォルス》を二体墓地に送り、《仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー》を儀式召喚!」

仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー
ATK3200
DEF1800

 万丈目が何も仕掛けて来ない訳がないとは思っていたが、攻撃力3000を超える予想外の大型モンスターが登場する。《仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー》は自身の得物である杖を手にこちらを睥睨する。

「バトル! 仮面魔獣マスクド・ヘルレイザーで、ドドドウォリアーに攻撃!」

 ドドドウォリアーの現在の攻撃力は、《ファイティング・スピリッツ》の効果を得ても2600。攻撃力3200のマスクド・ヘルレイザーに適いはしないので、ここは攻撃力上昇効果ではない第二の効果の出番となる。

 《ファイティング・スピリッツ》第二の効果、装備モンスターが戦闘で破壊される際に身代わりになることが出来る。……のだが、結果的にその効果を発動することは出来なかった。

 マスクド・ヘルレイザーの攻撃が届くより早く、ドドドウォリアーに神々しい金色の槍が刺さっていて、《ファイティング・スピリッツ》が何故か無効化されているからだ。

「手札から速攻魔法《禁じられた聖槍》を発動していた! 貴様のモンスターの攻撃力を800ポイント下げ、魔法の効果を得ることは出来ない!」

 優秀な速攻魔法である『禁じられた』と名の付いた速攻魔法の一つ、《禁じられた聖槍》によってドドドウォリアーは《ファイティング・スピリッツ》の効果を失ってしまう。あの金色の槍が刺さってしまったモンスターは、全ての魔法・罠カードのサポートを得られなくなってしまうのだから。

「ぐあっ……!」

遊矢LP1800→100

 ……ドドドウォリアーはマスクド・ヘルレイザーの攻撃を受けて破壊され、俺のライフポイントはギリギリ首の皮一枚繋がった。《禁じられた聖槍》は魔法・罠カードの効力を無効にするだけではなく、そのモンスターの攻撃力を800ポイント下げる効果もあるため、必要以上のダメージを食らった結果だ。

「しぶとい奴だ……お前もデュエルゾンビになったらどうだ? ターンエンド」

「悪いがゴメンだ……ドロー!」

 遂に手札へと現れる待ち望んでいたカード。ニヤリと笑ってこれが最後のターンだと、マスクド・ヘルレイザーにやられたダメージを気にしないように身体へと気合いを入れる。

「俺は魔法カード《狂った召喚歯車》を発動! 墓地の攻撃力1500以下のモンスターと同名モンスターを、デッキ・手札・墓地から特殊召喚出来る! 現れろマイフェイバリットカード……《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 万丈目も使用した《地獄の暴走召喚》の相互互換カード、《狂った召喚歯車》によってマイフェイバリットカードが三体特殊召喚される。《地獄詩人ヘルポエマー》の効果で墓地に落ちてしまったが、その程度でスピード・ウォリアーを止めることなど出来はしない。

「だが《狂った召喚歯車》の効果は俺も使わせてもらう! 現れろ、二体の《ヘル・エンプレス・デーモン》!」

ヘル・エンプレス・デーモン
ATK2900
DEF2100

「…………ッ!」

 《地獄の暴走召喚》より手札の消費が少なくて済む《狂った召喚歯車》だが、その分デメリットは遥かに重い。《狂った召喚歯車》の場合、相手は自分のモンスターと同名モンスターではなく、同レベルで同種族であれば良い。

 よって万丈目のデッキから、マスクド・ヘルレイザーと同種族・同レベルであるモンスター《ヘル・エンプレス・デーモン》が、二体特殊召喚されたのだった。

 こちらのモンスターは《スピード・ウォリアー》が三体、対する万丈目は攻撃力3200の《仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー》と攻撃力2900の《ヘル・エンプレス・デーモン》二体と……絶望的な戦力差と言ったところか。

「そのリバースカードが最後の希望だったのだろうが、ヘル・エンプレス・デーモンが出て来るのは予想外だっただろう……!」

 《ドドドウォリアー》で反撃したターンに伏せたリバースカードを見抜いている。確かに《スピード・ウォリアー》を使って、このリバースカードを発動するつもりだったが、確かに《ヘル・エンプレス・デーモン》のことは想定していない。

「だがその程度の想定外はスピード・ウォリアーの敵じゃない! リバースカード、オープン! 《スリーカード》!」

 発動されたリバースカードから万丈目のモンスターへと三つの光が放たれ、スピード・ウォリアーがその光の道に乗って走っていく。そしてその光の道で疾走すればするほど、三体のスピード・ウォリアーの速度は上がっていく……!

「俺のフィールドに同名モンスターが三体いる時、相手のカードを三枚まで破壊出来る! 」

「なっ……んだって!?」

 当然ながら《スリーカード》によって破壊するのは、万丈目のフィールドにいる三体のモンスター。《スリーカード》から発せられた光によって、《スピード・ウォリアー》が万丈目のモンスターを打ち破っていく。

 《狂った召喚歯車》で三体が特殊召喚されたら不味かったが、万丈目がそこまでデッキを重くするとはあまり考えられないからこそ、この賭にでることが出来た。結果は見ての通り、万丈目の手にはツーペアしかなかった、ということだ。

 そしてがら空きになったフィールドを、スピード・ウォリアーはそのまま駆け抜ける……!

「スピード・ウォリアーで万丈目にダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」

「うわあああっ!」

万丈目LP700→0

 スピード・ウォリアーの回し蹴りが万丈目に叩き込まれ、保健室とは反対側の廊下の吹き飛ばす。当たりどころが悪かったのか、デスベルトで体力を吸われすぎたのか、万丈目はあまり動かなくなったが。

「ぐうっ……!」

 こちらもデスベルトに体力が吸われて廊下に倒れ込むが、身体を無理やり引きずって保健室に向かう。しかし、こちらに近づいてくる足音が廊下に響き、新手のデュエルゾンビかと隠れる場所を探し――

「……遊矢!」

 ――来たのはデュエルゾンビではなく、外の見張りを買って出ていた天上院明日香。彼女もデュエルゾンビに襲われていたのか、息が切れた様子で何かを背負っているようだ。

「レイ……?」

 明日香が背負っているのはレイに間違いない。保健室で寝ていた彼女を何故背負っているのか、鮎川先生はどこにいるのか、見張りをしていた生徒は…………と、矢継ぎ早に質問が頭の中を駆け巡るが、再び廊下に足音が響いてくる。

「……遊矢、こっち!」

 音が響いてくる方向から逃げてきた明日香は、それがデュエルゾンビの足音だと分かっているのか、俺の手を引いて近くの部屋へと隠れていった。

 
 

 
後書き
どうも久しぶりです、絶賛スランプ中で筆が止まっている蓮夜です。……ええ、スランプを打ち破る手段を募集中です。

感想・アドバイスをお待ちしています。 

 

―黒幕との邂逅―

 
前書き
明けましておめでとうございます 

 
 明日香と背負われたレイと共に逃げ込んだ部屋には、運良くゾンビがいなかったようで、少しだけだが一息つくことが出来た。ロッカーに背中を預けながら座り、同じように座った明日香と向き合う形となる。

「……何がどうなってるか、分かるか明日香?」

「……ごめんなさい、私にも分からないわ。三沢くんが体育館に生存者を集めてる、っていうのは聞いたけど」

 未だに意識を取り戻さないレイを横にして、明日香は思索に耽りながらそう呟いた。どうやら三沢は別れ際俺に言った通りに、生存者をかき集めていてくれるらしく、俺たちが目指す場所もやはり体育館ということになるだろう。

 ……その前に休憩時間も兼ねて、お互いの情報を交換するべきだ。明日香が生存者の集合場所が体育館と知っているならば、俺から言える事といえば、三沢から聞いたデュエルゾンビは《集団催眠》か《洗脳光線》のようなカードで操られている可能性が高い、ということと、レイを助けようとしていたことぐらいしか無いのだが。

「私は……見張りをしてた場所で囲まれてしまって。逃げている間に鮎川先生に会ったんだけど、レイちゃんを託されて鮎川先生は……」

 ……そこから先は明日香に聞かなくても分かる。鮎川先生ならば、そこでレイを明日香に託した後、自分はその場に残って明日香をデュエルゾンビから逃がすことだろう。

 鮎川先生のデッキは【シモッチバーン】。クロノス先生程ではないにしろ、鮎川先生も充分な実力者だが……【シモッチバーン】は連戦して常勝無敗という訳にはいかないデッキだ。強力なデッキではあるが、キーカードが引けなかったりバーン対策をされてしまって、それを何戦もすることになれば……

「……ありがとう明日香、レイを助けてくれて」

 ……こうでも言ってやらなくては明日香は救われない。明日香の肩に手を置いて、彼女の目を見ながら今の自分に出来る精一杯の励ましだ。

「こっちこそありがとう、遊矢……でも、レイちゃんは……」

 言いにくいように伏し目がちになる明日香だったが、その理由は今のレイを見れば充分に良く分かる。おでこに乗せられた手拭いは何の意味も成さず、今なお高熱でうなされて意識を取り戻してはいない。

 鮎川先生がいなくなってしまった今、もはや十代たちが探してきている薬に賭けるしかない……その為にも、俺たちは体育館に急がなくては。

「よし、俺たちも体育館を目指そう」

「悪いけどそれは困るなぁ」

 突如として部屋に響き渡る俺と明日香以外の声。声がした方向に反射的に振り向くと、そこにいたのはラー・イエローの制服を着た加納マルタン。

 デュエルゾンビになっているかと思い、早々とデュエルディスクを構えて明日香の前に出たが……彼はデュエルゾンビにはなってはいなかった。しかし普通の様子ではなく、その腕は人間の腕とは似ても似つかぬ異形の腕となっている。

「誰だお前……マルタンじゃないな!?」

「やだなぁ。ボクは正真正銘加納マルタンだよ……この身体を借りてるだけだけどね」

 その様子に俺は、二年生の時にデュエルをした斎王のことを思いだす。彼も光の意志とやらに取り憑かれていたらしいが、マルタンもそのような類の物だろうが。

 得体も知れない異世界に来ているのだから、もう何を考えても無駄かと思ったが、それでもマルタンを助ける方法や、ここから体育館に行く方法などの思考を巡らせていると。俺の視界に、マルタンの異形の腕がデュエルディスクになっており、そのデュエルディスクに数種類のカードが並んでいるのを捉えた。

 《岩の精霊 タイタン》に《エーリアン・リベンジャー》、そして《「A」細胞培養装置》に《集団催眠》。このデュエルディスクの配置は、三沢の推測が正しければ、こいつがデュエルゾンビを操っているのだと証明していた。

「てめぇ……っ!?」

 マルタンへ向けて走りだそうとした時、ロッカーの影から巨大な物体がぬっと現れた。俺の身体を掴もうとして来る巨大な物体を避けると、そのまま明日香のいる位置にまで下がる。

 果たしてその巨大な物体とは。特徴的な髪型をしたデュエル・アカデミアの教員服を着た男、俺たちにデス・デュエルを強制し、十代に倒された筈の男――

「プロフェッサー・コブラ……!」

 ――呼びかけても答えはなく、プロフェッサー・コブラ自身の意識はない、もしくは薄弱としているようだ。十代から聞いた話によると、異世界に行く直前にあの建造物から落ちていったらしいが……生き残って異世界に来ていたというのか。

 マルタンのような小柄な人間ならばともかく、プロフェッサー・コブラがこの部屋で俺たちが見回った時に隠れていられる訳がない。様子がおかしいマルタンやプロフェッサー・コブラも含め、マルタンを乗っ取っている『敵』はまさに人知を超えた存在と言えるだろう。

「この身体は心の闇が深くて心地良いんだけど……君と倒れてる彼女には、身体が抵抗して来てね。そこの彼女も、殺そうとしたのにまだ生きてるだろう?」

 俺とレイを指差しながらマルタンの中にいる怪物はうそぶく。マルタンはまだ抵抗を続けている、という情報は何よりだったものの、俺の怒りを増幅させるという結果に終わる。

「不確定要素は消しておきたいからね……君たち二人はデュエルゾンビにもならず、ここで消えてもらおうか」

 マルタンの中の怪物がそう言うと、プロフェッサー・コブラが教員用のデュエルディスク・コートを起動させ、マルタンの中の怪物を守るように前に立ちはだかる。

「彼に勝ったら……そうだな、デュエルゾンビを止めてあげようか」

 マルタンの中の怪物が冗談めかしてそんなことを言うが、例え嘘だろうと可能性があるのなら、ここで退けはしない。

「上等だ……!」

「遊矢!」

 俺も同じくデュエルディスクを展開すると、背後から明日香の呼ぶ声が俺を引き止める。彼女もまたデュエルディスクを展開し、いつでもデュエルが出来る準備が完了していた。

「……私がやるわ。あなたはデス・デュエルの疲れが取れていないでしょう?」

「いや、それは認めないよ。遊矢先輩にデュエルしてもらわなくちゃいけないからね」

 明日香のありがたい申し出に、マルタンの中の怪物から警告が届く。確かにデス・デュエルの疲労が俺にはあるが、申し出を蹴ってあの怪物から逃げるわけにはいかない。

 ……いや、逃げるにしてもタイミングを計る必要がある。

「……俺がコブラに勝った後、俺の体力が無かったらあの怪物の相手を頼む。……それか逃げろよ、明日香」

「遊矢……!」

 最後の言葉を小声で付け足しながら、明日香の心配そうな声を背後に、デュエルディスク展開する。意識がないとはいえ、先程の万丈目も普段と変わらない実力を発揮していたことを考えると、プロフェッサー・コブラも例外ではないだろう。

『デュエル!』

遊矢LP4000
コブラLP4000

「俺の先攻、ドロー!」

 先攻を示したデュエルディスクに従ってカードをドローすると、あまり攻めることには適さない手札を眺める。十代から聞いた話からすれば、守備に回っていればジリ貧になるということだが……

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

 巨大な腕甲を構えた機械戦士、ガントレット・ウォリアーが召喚されて守備の態勢を取る。まずは様子見といったところか、このターンでするべきことはこの程度だ。

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「私のターン、ドロー……」

 意識が朦朧としていながらも、デュエルコートからカードを抜き取る。まずは何が来るのか、と思った次なる瞬間に、俺たちがいる部屋は毒蛇が棲む沼地へと姿を変えていた。

「フィールド魔法《ヴェノム・スワンプ》を発動……」

 プロフェッサー・コブラのデッキ【ヴェノム】のキーカード、フィールド魔法《ヴェノム・スワンプ》が適応される。エンドフェイズ時にカウンターを一つ乗せ、カウンター一つごとに攻撃力を500ポイントダウンさせる上に、モンスターの攻撃力が0になった瞬間に破壊する……まさしく毒の沼地。

 攻撃力が400のガントレット・ウォリアーは、最低でもこのターンのエンドフェイズに破壊されることが確定し――

「……ッ!?」

 ――沼地から飛びかかってくる毒蛇をデュエルディスクで弾くと、その感触はソリッドビジョンではないと俺に感じさせる。モンスターが実体化したデュエル、つまりは。

「……闇のゲーム……!」

 異世界に来てからというもの、モンスターが実体化していることがある。だがこの闇のゲーム特有の息苦しい感覚は、もはや間違えようもない。

 意識のないプロフェッサー・コブラにそんなことが出来るわけもなく、犯人は当然、コブラの背後にいるマルタンの姿をした怪物。

「てめぇ……!」

「フフ、こちらを睨んでいる余裕があるのかい?」

 マルタンの姿をした怪物が笑うと共に、コブラの前に蛇型のモンスターが召喚される。現れた蛇がガントレット・ウォリアーに毒液を吐き出すと、ガントレット・ウォリアーは身動きが取れなくなり、毒の沼地に沈んでいってしまう。

 召喚されて効果を発動したのは《ヴェノム・サーペント》。ヴェノムカウンターを乗せることが出来る効果を持ち、ガントレット・ウォリアーは攻撃力が0になったことにより、《ヴェノム・スワンプ》に引きずり込まれた。

ヴェノム・サーペント
ATK1000
DEF800

「ヴェノム・サーペントでダイレクトアタック……」

「つっ……!」

 飛びかかって来たヴェノム・サーペントにデュエルディスクがついていない方の腕が咬まれ、ライフの四分の一が削られる。それより毒蛇に咬まれたことの方が心配だ。

遊矢LP4000→3000

「カードを一枚伏せ、永続魔法《怨霊の湿地帯》を発動してターンを終了……」

 毒の沼地から、新たに姿を持たない怨霊が幾重も浮かび上がってくる。さらにカードを一枚伏せると、かなり厄介な布陣となっている。《怨霊の湿地帯》の効果は、そのターンに召喚したモンスターの攻撃を封じること……《ヴェノム・スワンプ》の相性は言わずもがな、だ。

「俺のターン、ドロー!」

 流石はあのオブライエンの師と言ったところか。だがもちろん、俺だってこのまま守勢に回る気はない。

「《ハイパー・シンクロン》を召喚し、伏せてあった《リミット・リバース》により、《ガントレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ハイパー・シンクロン
ATK1600
DEF800

 蒼色のボディをしたシンクロンと共に、墓地から先程破壊されたガントレット・ウォリアーがフィールドに蘇る。

「レベル3の《ガントレット・ウォリアー》に、レベル4の《ハイパー・シンクロン》をチューニング!」

 毒の沼地と怨霊に捕らわれないように飛び上がり、ハイパー・シンクロンは胸部から四つの光の玉を出した後、ガントレット・ウォリアーを包み込んでいく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 黄色の装甲板をつけた機械竜がシンクロ召喚され、その内部に封じられているドラゴンが嘶く。もちろん《怨霊の湿地帯》の効果で攻撃は出来ず、《ヴェノム・スワンプ》には捕らわれてしまうが、パワー・ツール・ドラゴンの効果はその沼を消し去ることが出来る。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 俺が選んだ装備魔法は《パイル・アーム》に《団結の力》、《ファイティング・スピリッツ》の三枚のカード。モノを言わずにコブラが指をさした右のカードを手札に加え、そのままパワー・ツール・ドラゴンに装備した。

「パワー・ツール・ドラゴンに《パイル・アーム》を装備する!」

 手札に加えた装備魔法《パイル・アーム》の効果により、パワー・ツール・ドラゴンの右腕に杭打ち機が装備される。攻撃力が500ポイントアップするとともに、装備時に魔法・罠カードを破壊することが出来る装備魔法だ。

 破壊出来るのは《ヴェノム・スワンプ》に《怨霊の湿地帯》、そしてリバースカードが一枚。破壊するのはやはり《ヴェノム・スワンプ》――と考えたところで、装備されていた筈の《パイル・アーム》が、無数の蛇となって蠢いていく。

「リバースカード、《蛇神の勅命》を発動。手札の《ヴェノム》モンスターを見せることで、魔法カードの発動を無効にする……」

 手札から《ヴェノム・スネーク》を見せることで、俺の《パイル・アーム》を無効にする。パイル・アームだった蛇は振り払ったものの、毒沼と怨霊に捕らわれ、パワー・ツール・ドラゴンは身動きが取れない。

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー……」

 俺のターンエンド宣言と共に、パワー・ツール・ドラゴンに毒蛇が一体絡みつき、攻撃力を500ポイント減じさせる。装備魔法が装備されてない今、これで攻撃力が0になれば《ガントレット・ウォリアー》と同じ運命だ。

「私は《ヴェノム・サーペント》の効果を発動……ヴェノムカウンターを一つ置かせてもらおう……」

 さらにパワー・ツール・ドラゴンに、もう一つのヴェノムカウンターが乗る。あと三つ乗せられれば――いや、ヴェノム・サーペントがいるのだから二つで充分か。

「さらに《ヴェノム・スネーク》を召喚……効果を発動し、ヴェノムカウンターを一つ置く……」

 二体目の下級ヴェノムモンスターにも毒液を吐かれ、パワー・ツール・ドラゴンは身動きが取れない程に、《ヴェノム・スワンプ》へと沈んでいってしまう。

「バトル……ヴェノム・サーペントで攻撃……」

「パワー・ツール・ドラゴン……!」

 あまりにも呆気なく破壊される機械竜に、毒蛇に咬まれた痛みよりも、ラッキーカードに申し訳がたたない気持ちが強いく残る。そして、一刻も早く《ヴェノム・スワンプ》を破壊しなければならない、という確認も。

遊矢LP3000→2800

「カードを二枚伏せ、ターンエンド……」

「俺のターン、ドロー!」

 操られているのが厄介な程にやはり強い。《ヴェノム・スワンプ》のせいで守備に回ることは出来ないが、《怨霊の湿地帯》の効果によって速攻は出来ない……次のターンには、ヴェノムモンスターたちの毒にやられている。

 ならばここで取るべき戦術は……

「……《スチーム・シンクロン》を守備表示で召喚」

スチーム・シンクロン
ATK600
DEF800

 この局面を逆転する為の一打、アイロンのような形をしたシンクロンを守備表示で召喚する。その攻撃力は600と、ギリギリで《ヴェノム・スワンプ》には一度では破壊されない。

 《怨霊の湿地帯》の効果は、そのターンに召喚したモンスターの攻撃を封じること……ならば、コブラのターンでシンクロ召喚すれば、俺のターンに攻撃することが出来る。

「……カードを二枚伏せる」

 次のターンで攻撃をすることが出来れば、この状況を何とかすることが出来る。その為にも、コンボに必要な《シンクロ・マテリアル》を伏せる。

「……ターンを終了する」

「……エンドフェイズ時に《サイクロン》を発動……リバースカードを破壊する……」

 俺のそんな小手先の技など見破っていたかのごとく、リバースカードをエンドフェイズ時での《サイクロン》で破壊される。《スチーム・シンクロン》の効果があったとしても、《シンクロ・マテリアル》が無くてはシンクロ召喚は不可能だ……

 ……《シンクロ・マテリアル》が破壊されればの話だが。

「破壊されたカードは《荒野の大竜巻》! 破壊された時、表側表示のカードを破壊出来る! 破壊するのは当然、《ヴェノム・スワンプ》!」

 《リミッター・ブレイク》と同じように、破壊された時に発動する罠カード《荒野の大竜巻》が発動し、《ヴェノム・スワンプ》が大竜巻の前に吹き飛ばされる。……そして《荒野の大竜巻》の発動により、思っていたことが確信に変わる。

 今のエンドサイクといい、プロフェッサー・コブラは操られているとはいえ、デュエリストだということを。何かの事情があったかどうかは知らないが、今の敵はプロフェッサー・コブラではなく、マルタンの姿をした怪物の方だ。

「私のターン、ドロー……」

 意識もなくデュエルコートからカードを引き抜くコブラを見て、マルタンの姿をした怪物を恨むとともに、もう一つのリバースカードを発動した。

「……さっさと解放してやる……リバースカード、オープン! 《シンクロ・マテリアル》!」

 リバースカードを発動するとともに、《スチーム・シンクロン》の効果が発動する。《シンクロ・マテリアル》によって相手のモンスターカードをシンクロ素材にし、《スチーム・シンクロン》の効果によって相手ターンでのシンクロ召喚を可能とする。

「レベル4の《ヴェノム・スネーク》と、レベル3の《スチーム・シンクロン》をチューニング!」

 コブラのフィールドの《ヴェノム・スネーク》が、光の輪どなった《スチーム・シンクロン》が包み込んでいく。合計レベルは7、毒の沼地が無くなったフィールドでシンクロ召喚が行われる。

「集いし闇が現れし時、光の戦士が光来する! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライトニング・ウォリアー》!」

ライトニング・ウォリアー
ATK2400
DEF1200

 光とともにライトニング・ウォリアーが光来し、その身体に電撃と光を纏わせていく。普段より放電している雷撃の鎧は、ライトニング・ウォリアーが怒っている証拠だろうか。

「……ヴェノム・スネークの効果を発動、ヴェノムカウンターを乗せる」

 生き残ったヴェノム・スネークから毒液がかけられるが、もはや《ヴェノム・スワンプ》はここにはない。ヴェノム・スワンプがあってこそ効果を発揮するヴェノムカウンターは、現時点では何の意味も成さなかった。

「……ヴェノム・スネークを守備表示。モンスターをセットして、ターンを終了する」

 ライトニング・ウォリアーに対してコブラが打った手は守備の一手。しかしリバースカードもないその布陣に、俺はむしろ不安をかき立てられる。

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには、コブラの《ヴェノム・スワンプ》を突破するのに疲弊したため、ヴェノムカウンターが一つ乗った《ライトニング・ウォリアー》が一体いるのみ。対するコブラのフィールドは、守備表示の《ヴェノム・スネーク》にセットモンスター。

 記憶によれば、ヴェノムモンスターにリバース効果モンスターはおらず、爬虫類族のリバース効果モンスターというと……

「バトル! ライトニング・ウォリアーでヴェノム・スネークに攻撃! ライトニング・フィスト!」

 確実に破壊できるヴェノム・スネークの方を選択し、ライトニング・ウォリアーが雷撃を纏った拳により、ヴェノム・スネークを戦闘破壊する。守備表示のためにダメージはないが、ライトニング・ウォリアーの効果が起動する。

「ライトニング・ウォリアーが戦闘破壊に成功した時、相手の手札×300ポイントのダメージを与える! ライトニング・レイ!」

 コブラの手札は一枚のみ。ライトニング・ウォリアーの胸部のパーツから光線が発射され、セットモンスターを無視してコブラに直撃する。

コブラLP4000→3700

 コブラに微々たるものだが初ダメージを与え、ライトニング・ウォリアーは俺のフィールドに帰還する。ライトニング・レイが直撃しても、身じろぎ一つしないコブラが不気味で、全くダメージを受けているようには見えないが。

「……ターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー」

 相変わらずうわごとのように呟きながらカードをドローすると、コブラはまずセットモンスターの姿をこちらに見せる。

「……リバースモンスターは《メタモルポット》……お互いに手札を捨てて五枚ドロー……」

「メタモルポット……!」

 コブラのデッキのイメージに囚われすぎて、爬虫類族以外の可能性を考慮していなかった自分を恨む。リバースされた《メタモルポット》はその効果を忠実に果たし、コブラの手札は五枚に補充される。

「……そして《メタモルポット》をリリースし、《ヴェノム・ボア》をアドバンス召喚」

ヴェノム・ボア
ATK1600
DEF1200

 先程までの下級ヴェノムモンスターより、一回り巨大な毒蛇がアドバンス召喚される。上級モンスターになっただけあって、そのヴェノムカウンターに関する効果も強力になっている。

 だが、このタイミングで《ヴェノム・ボア》を召喚して来るということは、《ライトニング・ウォリアー》を戦闘破壊する算段があるか、もしくは……

「……フィールド魔法《ヴェノム・スワンプ》を発動……」

 ……ヴェノムデッキのキーカードたる《ヴェノム・スワンプ》をドローしたか、だ。毒の沼地が復活したことにより、乗せられていたヴェノムカウンターが意味を成すようになり、ライトニング・ウォリアーもまた《ヴェノム・スワンプ》に捕らえられた。

「……そして《ヴェノム・ボア》の効果を発動。ライトニング・ウォリアーにヴェノムカウンターを二つ乗せる」

 《ヴェノム・ボア》の効果は自身の攻撃を封じる代わりに、フィールドのモンスターにヴェノムカウンターを二つ乗せることが出来る。追撃が来ないということは助かるが、このままでは、ライトニング・ウォリアーまでもが《ヴェノム・スワンプ》に引きずり込まれてしまう。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 コブラのエンドフェイズを経由したことにより、ライトニング・ウォリアーに更なるヴェノムカウンターが乗せられる。その数は四つであり、ライトニング・ウォリアーの攻撃力はもはや400と、このターンで破壊が決定する域にまで達していた。

「良く耐えてくれた、ライトニング・ウォリアー……俺はライトニング・ウォリアーをリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

ターレット・ウォリアー
ATK1200
DEF2000

 ライトニング・ウォリアーに礼を言いながらリリースし、その力を受け継ぐ機械戦士《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚する。ライトニング・ウォリアーの元々の攻撃力は2400、よってライトニング・ウォリアーがヴェノムカウンターを乗せられていようが、ターレット・ウォリアーの攻撃力は2400ポイントアップする。

「バトル! ターレット・ウォリアーでヴェノム・ボアに攻撃! リボルビング・ショット!」

 攻撃力を3600としたターレット・ウォリアーの砲撃が、ヴェノム・ボアを蜂の巣と化していく。その銃弾はヴェノム・ボアを撃ち抜いてもまだ止まらず、コブラに対しても効果を発揮する。

「…………」

コブラLP3700→1700

 一気にコブラのライフポイントを半分以下にまで減じ、ライフの差を縮めるどころか引き離す。まさしく改心の一撃が命中したという訳だが、コブラはまたしても無表情のまま……リバースカードを発動した。

「……リバースカード、《ダメージ=レプトル》を発動……」

「……しまった!」

 爬虫類族専用サポートカード《ダメージ=レプトル》。受けた戦闘ダメージ以下の爬虫類族をデッキから特殊召喚するという罠カードで、強力なモンスターを特殊召喚するためには多大なダメージを受けなければいけない、ということになっている罠カードだ。

 コブラは2000ものダメージを受けたのだから、強力なモンスターも呼ぶことが出来る……という訳ではない。コブラのデッキのモンスターからしてみれば、戦闘ダメージなど少量でも良いのだから。

「……《ダメージ=レプトル》の効果により、《毒蛇王ヴェノミノン》を特殊召喚する……」

毒蛇王ヴェノミノン
ATK0
DEF0

 つまりは《ヴェノム・ボア》の召喚からはコブラの罠。ヴェノムカウンターで着々と弱らせていると見せかけ、実際は《ダメージ=レプトル》を発動し、《毒蛇王ヴェノミノン》を特殊召喚することがこそ狙いだったのだろう。

 その狙いは見事に成功し、コブラのフィールドには《毒蛇王ヴェノミノン》が特殊召喚された。……しかしあのモンスターすらも、切り札に向けての前座にしか過ぎないのだ。

「……墓地にいる爬虫類族は五体。よって《毒蛇王ヴェノミノン》の攻撃力は2500となる……」

 毒蛇王という名前に相応しく、墓地にいる爬虫類族モンスターの数だけ、攻撃力を500ポイント上昇させる効果を持つ。未だに攻撃力は低く、切り札に至る前に倒しておきたいところだが……《ターレット・ウォリアー》はもう戦闘を行ってしまっているため、このターンで俺に出来ることはない。

「……カードを一枚伏せてターンエンド」

「……私のターン、ドロー」

 俺に出来ることはリバースカードを一枚伏せるだけ。だがフィールドを覆う《ヴェノム・スワンプ》は、ターレット・ウォリアーの攻撃力を容赦なく削っていく。

「……魔法カード《マジック・プランター》を発動し、《ダメージ=レプトル》を墓地に送って二枚ドロー」

 《毒蛇王ヴェノミノン》を特殊召喚出来た今、もはや用済みということなのか、《マジック・プランター》の効果により、二枚のドローに変換する。さらにそのドローしたカードから、さらにもう一枚のカードをディスクにセットした。

「……魔法カード《ヴェノム・ショット》を発動……デッキから爬虫類族モンスターを墓地に送り、ヴェノムカウンターを二つ乗せる……」

 そして発動される、俺にとって最悪かつコブラにとって最高のカード。デッキから爬虫類族モンスターを墓地に送ることで、《毒蛇王ヴェノミノン》の攻撃力は3000にまで上昇し、ターレット・ウォリアーの攻撃力は2100にまで落ちることになったからだ。

「……毒蛇王ヴェノミノンで攻撃……ヴェノム・ブロー……」

「くっ……!」

遊矢LP2800→1900

 ヴェノミノンの操る毒蛇に身体ごと巻きつかれ、ターレット・ウォリアーも毒の沼地に沈んでいってしまう。切り札の一段落前とはいえ、ヴェノミノンとて強力なモンスターである事には違いないのだということを再確認する。

「……カードを二枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 勇んでカードをドローしたは良いものの、このターンでヴェノミノンを倒すとなると難しい。攻撃力が3000である今ならば、まだ対処は可能かもしれないが……

「……《レスキュー・ウォリアー》を守備表示で召喚」

レスキュー・ウォリアー
ATK1600
DEF1700

 レスキュー隊の格好を模した機械戦士を召喚したのみだったが、攻撃力と守備力も共にそこそこ高く、戦闘ダメージを受けない効果を持っているレスキュー・ウォリアーならば、最低でも次のターンを凌ぐことは出来るはずだ。

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 ……否。そのような思考はこの相手からすれば甘かった。俺はまだ、ターンを終了することすら許されない……!

「……リバースカード《毒蛇の供物》を発動……ヴェノミノンを破壊することで、レスキュー・ウォリアーと今伏せたリバースカードを破壊する……」

「なんだと……!」

 ヴェノミノンが自身を供物として捧げることにより、守備表示で召喚された《レスキュー・ウォリアー》に、伏せたリバースカード《ガード・ブロック》が破壊されてしまう。

 レスキュー・ウォリアーとガード・ブロック、という二種類の防御用カードを失ったものの、相手もエースを失っているのだから、これでおあいこと行きたいところだ。だが、相手が破壊したのがヴェノミノンであり、リバースカードがあるとなれば話が違う。

「……さらにリバースカード《蛇神降臨》。ヴェノミノンが効果破壊された時、デッキから《毒蛇神ヴェノミナーガ》を特殊召喚する……!」

毒蛇神ヴェノミナーガ
ATK0
DEF0

 降臨するのは毒蛇王を越えた毒蛇神。伝説の三幻神にも匹敵する耐性と、敵のライフがまだあろうともデュエルに勝利する、恐るべき効果を持つ。

「……ターン、エンドだ……」

 エンドフェイズでの効果の適応により、巻き戻しが起こって俺のエンドフェイズまで戻るが、出来ることはなくそのままターンを終了する。

「……私のターン。ドロー」

 俺のフィールドにはリバースカードが一枚のみ。コブラのフィールドには、毒の沼地こと《ヴェノム・スワンプ》に、【ヴェノム】の切り札である毒蛇神ヴェノミナーガ。

 毒蛇神ヴェノミナーガは進化する以前と同じく攻撃力は3000だが、これから無限大に上がる可能性を秘めている上に、《ヴェノム・スワンプ》のステータスダウンに耐性を持っている。

 そしてその神に等しい効果耐性のため、戦闘破壊以外では突破出来ない……

「……ヴェノミナーガで攻撃、アブソリュート・ヴェノム……」

 ヴェノミナーガの攻撃が無防備な俺に殺到して来て、悠長に考えている暇はなさそうだ。ダイレクトアタックならば《速攻のかかし》と行きたいところだが、ヴェノミナーガの効果の前ではそれすらも封じられる。

 リバースカードもヴェノミナーガには通用しない……が、ヴェノミナーガに発動しなければ問題ない。カードの発動自体を封じられた訳ではないのだから。

「伏せてあった罠カード《シンクロコール》を発動!」

 毒蛇神ヴェノミナーガの攻撃が止まるわけではないが、墓地から《パワー・ツール・ドラゴン》と、コブラの《メタモルポット》で墓地に送られていた《エフェクト・ヴェーラー》が、半透明のままフィールドに舞い戻る。《シンクロコール》は墓地のモンスター二体除外することにより、シンクロ召喚を行う罠カード……!

「レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》に、レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》をチューニング!」

 エフェクト・ヴェーラーがパワー・ツール・ドラゴンの周りを旋回し、パワー・ツール・ドラゴンは力を解き放つかのようにその装甲を外すと、いななきとともに飛び上がった。ラッキーカード同士のシンクロ召喚、それが意味することは一つしかない。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

ライフ・ストリーム・ドラゴン
ATK2900
DEF2400

 パワー・ツール・ドラゴンの装甲版から解放され、ライフ・ストリーム・ドラゴンがその真の姿を現した。しかしヴェノミナーガにその攻撃力は及ばず、守備表示でのシンクロ召喚となる。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

遊矢LP1900→4000

 守備表示だろうと《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果は発動し、降り注いだ光によって俺のライフポイントが回復していく。……そして俺の視界の端に、マルタンの姿をした怪物の姿を捉えた。

「……伝説の龍の一柱……でも守備表示とは、不様なものだね」

 マルタンの姿をした怪物が何かを呟いたものの、聞き返す前にコブラが戦闘を巻き戻し、ヴェノミナーガがライフ・ストリーム・ドラゴンに迫る。しかしその攻撃は、墓地から飛び出した盾を持った機械戦士が防ぎきる。

「墓地から《シールド・ウォリアー》を除外することで、破壊を無効にする!」

 浮かび上がった《シールド・ウォリアー》の姿は、ヴェノミナーガの攻撃を防ぎきった後は消えていく。強力な効果とはいえ《メタモルポット》は、敵にもその効果を与えてしまう。

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 未だコブラのフィールドに《ヴェノム・スワンプ》は健在であり、ライフ・ストリーム・ドラゴンにも例外なく毒蛇が絡みつく。ヴェノミナーガの攻撃力とさらに差が付いてしまうが、《ヴェノム・スワンプ》を破壊すれば良いだけだ。

「魔法カード《アームズ・ホール》を発動! デッキからカードを一枚墓地に送り、手札か墓地から装備魔法を手札に加える!」

 通常召喚を犠牲に装備魔法カードを手札に加えるカード。墓地から装備魔法を加えた後、そのまま《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に装備する。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンに《パイル・アーム》を装備する! 攻撃力を500ポイントアップさせ、魔法・罠カードを一枚破壊する! 破壊するのは当然、《ヴェノム・スワンプ》!」

  デュエル序盤に《パワー・ツール・ドラゴン》の効果で手札に加えられたが、《蛇神の勅命》に無効にされてしまっていた装備魔法《パイル・アーム》。再びその効果が発動し、空中に飛び上がった《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が《ヴェノム・スワンプ》の中心に杭を命中させると、《ヴェノム・スワンプ》は雲散霧消していった。

「ライフ・ストリーム・ドラゴンを攻撃表示にし、バトル!」

 《ヴェノム・スワンプ》が消えたことにより、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の攻撃力も元に……いや、《パイル・アーム》の分上昇した3400となる。俺が攻勢に転じることが出来るのは、コブラの《毒蛇神ヴェノミナーガ》の攻撃力を越えた今しかない……!

「ライフ・ストリーム・ドラゴンで、毒蛇神ヴェノミナーガに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

コブラLP1700→1300

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが放った光弾が貫通したことにより、ヴェノミナーガの胴体に穴が空き、そのまま持ち主であるコブラへと直撃する。

 しかし直後に墓地から現れた《ヴェノム・ボア》が、そのヴェノミナーガに出来た空洞に入り込んだかと思えば、そのままヴェノミナーガを構成する無数の蛇になることにより、問題なく活動を再開する。ヴェノミナーガの効果である、墓地の爬虫類族を除外することで、自身を墓地から特殊召喚する効果だ。

 強力な効果には違いないが、その効果を使えば使うほどヴェノミナーガの攻撃力は下がっていく、という欠点を持つ。攻撃力が2500になり、ライフ・ストリーム・ドラゴンとの攻撃力の差は開いた。

「カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー」

 コブラのデッキのキーカードこと、《ヴェノム・スワンプ》はもう二枚墓地にあるため、三枚積みをしているだろうが、あまり警戒しなくとも良いだろう。それ以上に問題なのは、この状況を一枚でひっくり返すことが出来る魔法カード。

「……魔法カード《スネーク・レイン》を発動……!」

「……くっ!」

 警戒していた当の魔法カードが姿を現す。コブラのデッキから現れた、無数の蛇がヴェノミナーガに吸い付いていき、その身体を巨大化していく。

 《スネーク・レイン》は手札を一枚捨てることにより、デッキから爬虫類族を四体墓地に送ることが出来る、強力な墓地肥やしが出来る魔法カード。手札コストも例外なく爬虫類族であり、ヴェノミナーガの攻撃力は……5000にまで上昇する。

「……バトル。《毒蛇神ヴェノミナーガ》で、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に攻撃。アブソリュート・ヴェノム……!」

「ぐああっ……!」

遊矢LP4000→2400

 触手をいくつものの大蛇へと変貌させ、四方八方からヴェノミナーガがライフ・ストリーム・ドラゴンを噛み砕く。墓地に装備魔法カードももはや無く、ライフ・ストリーム・ドラゴンは抵抗することも出来ずに飲み込まれる。

「……戦闘ダメージを与えたことにより、ハイパーヴェノムカウンターを一つ置く……」

 今までのヴェノムカウンターとは違い、ヴェノミナーガにそのカウンターは置かれる。こちらにトドメを刺す力を貯めているように見えるのは錯覚ではなく、ハイパーヴェノムカウンターが三つ乗った時、コブラの勝利は確定する。

 あと二回、ヴェノミナーガからの戦闘ダメージを受ければ俺の敗北は決定する。……攻撃力5000ともなれば、二回攻撃すれば俺のライフを0に出来るか。

「……ターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 いずれにせよ、速く決着をつけなくては、手がつけられなくなることに変わりはない。気合いを込めてカードをドローした後、後ろにいる明日香の方を振り向いた。

 自分の言った通りに、いつでも逃げられるようにレイを背負ってはいるが、その眼光は絶対に一人では逃げないと語っているようだ。

「……遊矢?」

 ――そんな彼女の力を借りる。

「……使わせてもらうぜ、明日香! 《融合》を発動!」

 俺が魔法カードを発動するとともに、フィールドに融合をする時特有の時空の穴が発生する。当然ながら、俺のエクストラデッキには融合モンスターは一体――かの銀盤の女王のみ。

「手札の《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 時空の穴から飛び出しながら、フィールドを滑る明日香の切り札《サイバー・ブレイダー》。

「さらに現れろ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 マイフェイバリットカードが先行していたサイバー・ブレイダーの前に立ち、巨大なヴェノミナーガに対してポーズを決める。このターンで終わらせてみせる、という俺の決意を汲み取ってくれているのだろうか。

「スピード・ウォリアーに装備魔法《進化する人類を装備し、バトル!」

 スピード・ウォリアーに流れ込む進化するエネルギーによって、サイバー・ブレイダーを置いて単独でヴェノミナーガに向かっていく。そしてバトルフェイズになったことにより、スピード・ウォリアーの効果が解禁される。

「スピード・ウォリアーの効果を発動! このターンのみ、元々の攻撃力を倍にする――ヴェノミナーガに攻撃、ソニック・エッジ!」

 《進化する人類》の効果で元々の攻撃力が2400となっていた《スピード・ウォリアー》は、その効果により攻撃力を4800にまで上昇させる。ヴェノミナーガもただでやられるわけもなく、無数の巨大な蛇がスピード・ウォリアーを襲う。

「そして、墓地から《スキル・サクセサー》の効果を発動! スピード・ウォリアーの攻撃力を800ポイント上昇する!

 スピード・ウォリアーは毒蛇を避けながら、ヴェノミナーガ本体に向かっていったものの、いつしか捕らわれてしまう。だが、《アームズ・ポール》の効果で墓地に送られていた《スキル・サクセサー》により、大蛇を蹴散らして本体に蹴りを叩き込む。

コブラLP1300→700

 《スピード・ウォリアー》の蹴りにより、またもやヴェノミナーガに風穴が空いたものの、墓地の爬虫類族を除外することでつつがなく特殊召喚される。攻撃力は爬虫類族が一体除外されたことにより、その攻撃力は4500へと――

「……なに?」

 ――否。マルタンの姿をした怪物が、異変に気づいて疑問の声を出したように、ヴェノミナーガの攻撃力は4500ではなく、0となっていたのだから……!

「これは……!」

 後ろにいる明日香は何故か気づく。コブラのフィールドにいる二体の悪魔と、俺のフィールドに蘇生された《スチーム・シンクロン》のことを見て。

「……俺はリバースカード《リバイバル・ギフト》を発動していた! 俺の墓地から《スチーム・シンクロン》を特殊召喚する代わりに、相手フィールドに二体の《ギフト・デモン・トークン》を特殊召喚する!」

ギフト・デモン・トークン
ATK1500
DEF1500

 守備表示で特殊召喚される、《スチーム・シンクロン》と《ギフト・デモン・トークン》。自分フィールドと相手フィールドの違いこそあれ、それらの特殊召喚がヴェノミナーガの攻撃力に異変を起こしていた。

「お前のフィールドにはモンスターが三体……よって、サイバー・ブレイダーの第三の効果が発動する!」

 サイバー・ブレイダー第三の効果、三人組で奏でられるパ・ド・カドル。相手フィールド上にモンスターが三体のモンスターがいる時、相手の全ての効果を無効にする効果である。

 ヴェノミナーガが先に召喚されていては、その効果すら無効にしてしまうものの、《スピード・ウォリアー》に破壊されたことによりフィールドを離れたため、優先権は《サイバー・ブレイダー》へと移行する。つまりは……

「ヴェノミナーガの効果を無効にする効果は無効化され、ヴェノミナーガの攻撃力は0となる!」

 そしてサイバー・ブレイダーはまだ攻撃していない。俺の命令をすぐに行動に移せるようにか、サイバー・ブレイダーはヴェノミナーガへと向かっていく。

「サイバー・ブレイダーでヴェノミナーガに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 その強大な攻撃力を無力化されたヴェノミナーガの首を、《サイバー・ブレイダー》が一蹴りで吹き飛ばす。……コブラのフィールドにはリバースカードもなく、何やらが起こる気配もない。

「……リッ、ク……」

コブラLP700→0

 最期に人の名前のようなことを呟きつつ、コブラは倒れ伏してピクリとも動かなくなる。その利用されるだけ利用された最期に、少しだけ同情しなくも無かったが、今はそれどころではない。

「スピード・ウォリアー! その怪物にソニック・エッジ!」

 デュエル後に消えるはずの《スピード・ウォリアー》だったが、そのままマルタンのような怪物へと蹴りかかる。マルタンのような怪物は、向かって来たスピード・ウォリアーに対してニヤリと笑うと、怪物らしい左腕でスピード・ウォリアーの蹴りを受け止めた。

「がはっ……!?」

 ――怪物が受け止めた瞬間、《スピード・ウォリアー》の蹴りの衝撃がそのまま自分に跳ね返って来るような感覚に襲われた。腕がミシミシと痛み、その衝撃に膝をつきそうになるも、何とか左腕を抑えながら耐える。

「……デュエルゾンビを止めてくれるんだったよな?」

「そんなこと言ったかなぁ?」

 デュエル前にしていた約束……嘘だろうとは思っていたが、ここまで白々しく言われるといっそのこと清々しい。だが、攻撃を反射するようなあの左腕があっては、迂闊に攻めることは出来ない……

「明日香、二人で止めるぞ!」

「ええ……ッ!?」

 明日香の応じる声とともに、鍵をかけていたはずの小部屋のドアがぶち破られ、外から続々とデュエルゾンビが現れ始める。異世界に来ていた生徒がほとんど、という訳ではないだろうが……そう錯覚せざるを得ない数だ。

「キミのデュエル中に呼んでいたゾンビたちが集結したみたいだね……気分はどうだい、遊矢先輩?」

 わざとらしくマルタンの真似をして『先輩』とつける怪物を睨みつけるながら、部屋の唯一の出口から現れたデュエルゾンビの様子を見る。呼んでいたゾンビたちが集結したと言っていたように、正面から無理やり突破できる数ではない。

「……悪いが、ただでやられるわけにはいかない」

 デッキから二枚のモンスターカードを取り出してセットすると、《サイバー・ブレイダー》が消える代わりに、二体の《スピード・ウォリアー》が現れる。もう少し巨大なモンスターを出したいところだが、部屋の大きさと削られるライフの心配から、マイフェイバリットカードが最適だと判断する。

「へぇ……そのモンスターでボクに攻撃してくるのかい?」

 そう試すような言い方をしながらも、マルタンの姿をした怪物は、自らを守るようにデュエルゾンビを前に配置する。あれでは、左腕に気をつけながら攻撃することなど出来やしない。

「……頼むぜ、スピード・ウォリアー!」

 元々いた一体と現れた二体が俺の叫び声に呼応すると、一体一体がそれぞれ俺と明日香にレイを背負い、部屋を走って脱出を試み始める。

「くっ……!」

「きゃっ!」

 体力が落ちている身体にこの重圧はキツいが、デュエルゾンビとなって動作が緩慢になっている生徒には捕らえられず、部屋の出口に向かって殺到するが――

「させないよ」

 マルタンの姿をした怪物の左腕から火球が放たれると、俺と明日香のスピード・ウォリアーを撃墜し、俺と明日香は部屋に叩きつけられる。もう一発がレイの乗ったスピード・ウォリアーを襲ったものの、地上に叩きつけられた二体が壁となり、レイだけでも部屋から逃がすことに成功する。

「一人逃げられちゃったか……まあ、長くないみたいだから良いか」

 後はあの《スピード・ウォリアー》と、薬を持ってくると言った十代たちを信じるしかない。……他の人の心配をしている暇は、俺たちにないということもあるが。

「……悪いな明日香、逃がせなくて」

「この状況で私だけ逃げられないわよ」

 明日香と背中合わせの態勢になり、俺たちを囲むようにしているデュエルゾンビに対し、デュエルディスクを展開する。もはや逃げられないとするならば、最後まで抵抗するだけだ。

「行くぜ、明日香……」

「ええ、遊矢」

『デュエル!』

 

 

―悪魔の囁き―

「なんでだよ……」

 デュエル・アカデミアの地下通路、十代の疑問を呈する呟きが響き渡った。そんな小さい呟きが聞こえるほど、その場は静まり返っていた。

「なんでなんだよ!?」

 遂には爆発するかのように大声を出したものの、その声に答える者はいない。名指しでは無かったが、質問をされている者は分かっている筈なのだが。

「なんでだよ……遊矢……」

 異世界に来てからの彼の初の本格的なデュエルは、友人である黒崎遊矢とだった。その後ろには黒幕であるマルタンの姿が控えているが、遊矢には操られている様子や、デュエルゾンビになっている様子はない。

 彼はいたって正気のまま、マルタンの姿をした怪物の尖兵として、十代とデュエルする道を選んだのだった。

 ――時は少しだけ遡る。

 遊矢と明日香が背中合わせにデュエルを開始し、デュエルゾンビに対して勝ち目のない戦いに徹している時のことだ。異世界に来る前も含めたデスデュエルにより、体力を既に限界まで酷使していた遊矢が遂に、相手からの必殺の攻撃を受けた。

 ……いや、受けるところだった。そのモンスターは覚悟していた遊矢のモンスターには向かわず、明日香の方へと向かっていたからだ。

「リバースカード、《ドゥーブルパッセ》を発動!」

 明日香の力強い声が響き渡り、モンスターのダイレクトアタックは明日香へと向けられる。《ドゥーブルパッセ》……明日香の愛用するカードの一枚であり、ダイレクトアタックを自身で受ける代わりに、自身のモンスターを相手に攻撃させるピーキーな罠カード。

 かくしてモンスターの攻撃を明日香が受け、《ドゥーブルパッセ》による一撃がデュエルゾンビを蹴散らした隙をつき、二人は壊していた壁から脱出した。そのまま地下通路へと抜け、デュエル・アカデミアにある地下迷宮へと逃げることに成功したのだ。

 ――だが、直接攻撃を受けた明日香はそこで限界だった。ライフポイントは残っていたものの、その一撃によって気絶しており――デスデュエルによって体力を無くして、そのまま衰弱死してしまう危険性すらあった。

「待ってろ、明日香……」

 遊矢は明日香を背負って、三沢との合流地点である体育館に向かったものの――もちろん彼も倒れる寸前である――二人の前に立ちはだかる影があった。

 遊矢が言うところの《マルタンの姿をした怪物》。悪魔の右腕をしたデュエルゾンビの親玉……いや、今回の事件の黒幕である。彼はニヤリと笑いながら、手から火球を出して遊矢に向かって放つ。

 無論遊矢にそれが避けられる筈もなく、あっけなく吹き飛んだ後に、背負っていた明日香をマルタンの姿をした怪物に奪われてしまう。気絶した明日香の首筋に腕をかざし、いつでも殺せる、とでも言いたげな笑みを浮かべながら。

「明日香をっ……返せ……!」

 遊矢の精一杯の声に、悪魔は相変わらず薄く笑みを浮かべながら答えた。

『遊城十代を出来るだけ追い込んでデュエルすれば返してやる』――と。

 それはまさに悪魔の囁きだったものの……その時の遊矢に、断ることなど出来はしなかった。

 ――そして冒頭へと戻ることになる。行方不明のアモンを除く三人の留学生が、マルタンがけしかけた悪魔と生徒を合成したモンスターとデュエルしている時と同時刻、『一人で地下迷宮に来るように』と条件をつけられた、十代の相手である。

「あんまりゆっくり話してる時間はないんだ……行くぞ、十代!」

 十代の質問には答えず、遊矢は急ぎデュエルディスクを展開する。明日香には何よりも、時間がないこともあるが……理由を知ってしまえば、十代は必ず手加減してしまうだろうから。

「くそっ……やるしかないのかよ……」

 対する十代も、生き残った生徒たちの代表として、勝たねばならない理由がある。その顔を苦々しく歪めながらも、デュエルディスクを展開し、双方ともデュエルの準備が完了する。

『デュエル!』

遊矢LP4000
十代LP4000

 ……かくしてお互いがお互いのポリシーである、『楽しいデュエル』などと思うことすらせず……悪魔の手のひらの上でのデュエルは始まった。

「……俺の先攻。ドロー」

 先手をデュエルディスクが選んだのは十代。まだ挙動には迷いがあり、訝しい顔をしながらカードをドローする。

「俺は《E・HERO クレイマン》を、守備表示で召喚して、ターンエンド!」

E・HERO クレイマン
ATK800
DEF2000

 粘土の体をした守備に長けるヒーロー。クレイマンを守備表示で召喚したのみで、十代はターンを終了する。

「俺のターン、ドロー!」

 対する遊矢は気迫を見せながらカードを引く。体力は限界に達しているものの、ここで気を抜いて倒れる訳にはいかない。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに手札を二枚捨て、二枚ドローする!」

 初手からの積極的な手札交換を図り、お互いに二枚の交換を成功させる。十代は墓地にE・HEROを送ることに成功し、遊矢は……フィールドに一陣の風が舞い込んだ。

「俺が捨てたのは《リミッター・ブレイク》! デッキから守備表示で現れろ、マイフェイバリットカード! 《スピード・ウォリアー》!」

『トァァァァッ!』

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 守備表示だが、一ターン目から現れるマイフェイバリットカード。もちろんこれで終わるはずもなく、遊矢の行動はさらに続く。

「《ミスティック・バイパー》を守備表示で召喚し、これで俺のフィールドには二体の守備表示モンスター……よって、《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚する!」

バックアップ・ウォリアー
ATK2100
DEF0

 スピード・ウォリアーと、新たに守備表示で召喚されたミスティック・バイパーの間を切り裂いて、重火器の機械戦士《バックアップ・ウォリアー》が特殊召喚される。一ターン目からのこの遊矢の布陣に、十代は遊矢が本気だということを思い知らされた。

「バックアップ・ウォリアーに装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備し、バトル! バックアップ・ウォリアーでクレイマンを攻撃、サポート・アタック!」

 《ファイティング・スピリッツ》を装備したバックアップ・ウォリアーの攻撃力は2400、いくらクレイマンでも適う相手ではない。重火器による攻撃で、クレイマンは瞬く間に蜂の巣にされる。

「メインフェイズ2、《ミスティック・バイパー》をリリースすることでドローする。引いたのはレベル1、《チューニング・サポーター》! よってもう一枚ドロー!」

 笛を持つ機械戦士がその笛を鳴らして消え、その姿をドローに変換する。そして引いたモンスターがレベル1ということで、さらにカードを一枚ドローする。

「ターンエンドだ。……お前も本気で来いよ十代。こっちと同じように、お前にだって負けられない理由があるはずだ!」

 生き残った生徒の代表である留学生と十代が勝てば、アカデミアからゾンビを撤退させて返還する――これがマルタンから出された条件。逆を言えば一人でも負ければそれは適わず、生き残った生徒たちの不満は爆発してしまうだろう。

「分かったぜ、遊矢……俺のターン! ドロー!」

 十代にとて負けられない理由がある。彼はそのことを思い出し、覚悟を決めてカードを引く。

 遊矢の《手札断殺》で十代の手札も交換されたものの、遊矢のフィールドは厄介な布陣であることに変わりはない。しかし十代は、それを突破するカードを持っていた。

「魔法カード《闇の量産工場》を発動! 墓地から、通常モンスターのクレイマンとスパークマンを手札に戻し、《融合》を発動!」

 E・HEROで通常モンスターであるという豊富なサポートを活かし、戦闘破壊されたクレイマンと、《手札断殺》で墓地に送ったスパークマンを手札に戻し、発動されるのは十代の代名詞とも言える魔法カード《融合》。

 スパークマンとクレイマンが手札から時空の穴に吸い込まれていき、新たなモンスターが融合される。

「融合召喚! 《E・HERO サンダー・ジャイアント》!」

E・HERO サンダー・ジャイアント
ATK2400
DEF1500

 融合召喚されたのは雷を纏う巨人のE・HERO。融合召喚されたそのモンスターを見て、遊矢は十代の考えを悟る。

「サンダー・ジャイアントの効果! 手札を一枚捨てることで、バックアップ・ウォリアーを破壊する! ヴェイパー・スパーク!」

「バックアップ・ウォリアー……!」

 サンダー・ジャイアントは手札を一枚捨てることで、相手の攻撃力が自身より劣るモンスターを破壊することが出来る。バックアップ・ウォリアーも、ファイティング・スピリッツにより攻撃力が上がっていたものの、サンダー・ジャイアントが参照にするのは元々の攻撃力。

 《ファイティング・スピリッツ》の戦闘破壊耐性を無為にしながら、バックアップ・ウォリアーがクレイマンにやったように、サンダー・ジャイアントの雷に呆気なく破壊された。

「バトル! サンダー・ジャイアントでスピード・ウォリアーに攻撃! ボルティック・サンダー!」

 続いて遊矢のマイフェイバリットカードを破壊したものの、守備表示なので遊矢にダメージは通らない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 バックアップ・ウォリアーを始めとした布陣は、一ターンと持たずにサンダー・ジャイアントによって突破される。だが、この程度ならば予想の範囲内だ。

「俺のフィールドにモンスターはいない! よって、《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

アンノウン・シンクロン
ATK0
DEF0

 デュエル中に一度だけ使用出来る特殊召喚効果を使用し、黒い円盤状のシンクロンが姿を現す。さらに先のターンで《ミスティック・バイパー》でドローした、レベル1モンスターに手を伸ばす。

「さらに《チューニング・サポーター》を召喚し、《機械複製術》を発動! デッキからさらに二体の《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」

チューニング・サポーター
ATK100
DEF300

 中華鍋を被ったような機械人形が現れるとともに増殖し、遊矢のフィールドにはあっという間に四体のモンスターが召喚される。……しかし、もちろんこの状態でサンダー・ジャイアントに勝てるわけもなく。

 狙いは当然、シンクロ召喚でしかない。

「レベル2とすることが出来る《チューニング・サポーター》三体に、レベル1、《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」

 十代が融合召喚ならば遊矢はシンクロ召喚で対応する。《アンノウン・シンクロン》が緑色の輪となり、チューニング・サポーターたちを包み込むと、シンクロ召喚が始まっていく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

パワー・ツール・ドラゴン
ATK2300
DEF2500

 シンクロモンスターのラッキーカード、《パワー・ツール・ドラゴン》がシンクロ召喚をされ、その黄色の鋼鉄のボディを見せた。ボディの中からは力の解放を待つ竜が嘶いている。

「チューニング・サポーターがシンクロ素材になった時、一枚ドロー出来る。よって三枚ドロー! ……そして、パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから装備魔法カードを三枚選び、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 手札に加わるように選んだカードは《団結の力》・《ダブルツールD&C》・《デーモンの斧》。どれも汎用性に富んだ、攻撃力を増強させる装備カードである。

「……真ん中を選ぶぜ」

「……装備魔法《団結の力》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備!」

 十代の選んだカードを手札に加えて即座にパワー・ツール・ドラゴンに装備し、攻撃力が十代のサンダー・ジャイアントを超える。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンでサンダー・ジャイアントに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 ならば攻撃する以外他に手はない。パワー・ツール・ドラゴンの右手に装備された、巨大なショベルがサンダー・ジャイアントを薙払……おうとした時、サンダー・ジャイアントが十代のフィールドから消え失せる。

「速攻魔法《融合解除》! サンダー・ジャイアントの融合を解除する!」

 十代のリバースカードは融合モンスターをエクストラデッキに戻すことで、融合素材を墓地から特殊召喚する、速攻魔法《融合解除》。先のターンに発動すれば、スパークマンとクレイマンで遊矢にダイレクトアタックが出来ていただろう。だが、まだデュエルは始まったばかり……十代は守備に《融合解除》を使うことを選択した。

 結果としてその判断は正解だったのか、パワー・ツール・ドラゴンの前には、二体のE・HEROが守備表示で特殊召喚されていた。

「……ならばスパークマンに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 巻き戻しが起こったことにより、パワー・ツール・ドラゴンは再度攻撃宣言を行う。狙いは融合素材として優秀なスパークマンの方で、パワー・ツール・ドラゴンには適わずあっさりと破壊された。

「カードをセットしターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃を凌いだものの、結果としてフィールドに残ったクレイマンではパワー・ツール・ドラゴンには太刀打ち出来ない。ならばここからは、新たなヒーローの出番だとばかりに、まずは墓地から半透明のモンスターが姿を現した。

「墓地の《E・HERO ネクロダークマン》の効果! 手札のE・HEROを、リリース無しで召喚できる! 現れろ、《E・HERO ネオス》!」

E・HERO ネオス
ATK2500
DEF2000

 ネオスペースから新たに十代が手に入れた新ヒーロー、ネオス。そんな売り文句ももはや過去のことであり、今や十代のデッキの中核を成している。

「ネオスとクレイマンで、どうやってパワー・ツール・ドラゴンを倒すんだ?」

「いや、更に魔法カード《ENシャッフル》を発動! フィールドのE・HEROを墓地に送り、デッキから効果を無効にしてネオスペーシアンを特殊召喚する! 《N・グラン・モール》!」

N・グラン・モール
ATK900
DEF300

 クレイマンとその名の通りシャッフルされるように特殊召喚されたのは、ネオスペーシアンの一人であるグラン・モール。パワー・ツール・ドラゴンを突破出来る効果を秘めているものの、その効果は《ENシャッフル》のデメリット効果により、無効となっている。

 だがネオスペーシアンは、ネオスとコンタクト融合をすることにより、更なる力を発揮する。

「《E・HERO ネオス》と、《N・グラン・モール》でコンタクト融合!」

 《融合》の魔法カードを使わずとも、ネオスとグラン・モールが時空の穴に吸い込まれていく。これならばグラン・モールの効果が無効化されていようと問題なく、時空の穴から新たなHEROが現れる。

「現れろ、《E・HERO グラン・ネオス》!」

E・HERO グラン・ネオス
ATK2500
DEF2000

 グラン・モールの巨大なドリルを右腕に装着し、全身にアーマーを付けた大地のコンタクト融合ネオス。つい今し方、潜水艦から脱出した際にも活躍したHEROである。

「グラン・ネオスの効果! パワー・ツール・ドラゴンをエクストラデッキに戻してもらうぜ!」

 ステータスは変わらないものの、融合素材となったグラン・モールの効果は進化して受け継がれている。一ターンに一度、相手のモンスターを手札に戻す効果であり……破壊耐性を持つパワー・ツール・ドラゴンでも、バウンスには無力だ。

 もちろん、発動出来ればの話だが。

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動。グラン・モールの効果を無効にする!」

「なにっ!?」

 ラッキーカードこと《エフェクト・ヴェーラー》が遊矢の手札から飛び出し、その羽衣で包み込みグラン・ネオスの効果を無効化する。いくら強力なバウンス効果を持っていようと、無効化されては発揮することはない。

「……《インスタント・ネオスペース》をグラン・ネオスに装備して、カードを一枚伏せてターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 結果として、《パワー・ツール・ドラゴン》は遊矢のフィールドに健在のままであり、グラン・ネオスは攻撃表示で放置されている。その状況を見て、ここが好機とばかりに、遊矢は《パワー・ツール・ドラゴン》の効果の発動を宣言する。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果! 三枚のカードを選んでもらう! パワー・サーチ!」

 パワー・ツール・ドラゴンのいななきと共に、再び十代の前に三枚の装備カードが裏向きで表示される。遊矢が選んだカードは《ダブルツールD&C》、《デーモンの斧》、《魔導師の力》。《団結の力》が既に装備されているにもかかわらず、更なる火力の向上を狙っていた。

「……右のカードだ」

「なら俺は、《ダブルツールD&C》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備する!」

 十代が選んだカードは《ダブルツールD&C》。パワー・ツール・ドラゴンに、新たにドリルとカッターが装備されていく。

「さらに《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚する……」

ガントレット・ウォリアー
ATK400
DEF1600

 腕甲を持つ機械戦士が守備表示で召喚されるとともに、そのエネルギーが《パワー・ツール・ドラゴン》に吸収されていく。《団結の力》によって攻撃力がさらに上昇しているのだ。

「バトル! 《パワー・ツール・ドラゴン》で、グラン・ネオスで攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は計4900。グラン・ネオスにその攻撃は受け止めることすら出来ず、そのドリルによって貫かれてしまう。

「うわあああっ!」

十代LP4000→1600

 当然ながら十代のライフポイントを大幅に削り、グラン・ネオスは戦闘破壊されてしまうものの……十代のフィールドには、円型の物体が浮遊していた。

「グラン・ネオスに装備していた、《インスタント・ネオスペース》の効果発動! 装備モンスターがフィールドから離れた時、デッキからネオスを特殊召喚する!」

 円型の浮遊していた物体は小型の《ネオスペース》。仲間がやられた叫びに応え、ネオスが再びフィールドに舞い戻る。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢のフィールドは《パワー・ツール・ドラゴン》と《ガントレット・ウォリアー》。そしてパワー・ツール・ドラゴンに装備されている《団結の力》と《ダブルツールD&C》に、リバースカードが一枚。

 対する十代はネオスが一体のみ……遊矢のフィールドはかなり盤石であり、十代の手札ではその布陣を突破することは難しい。しかし遊矢は、十代ならネオスを使って必ず突破してくると予想していたが……

「魔法カード《《馬の骨の対価》を発動! ネオスを墓地に送り二枚ドロー!」

 遊矢の予想を裏切り十代は自らネオスを手放した。十代にしてみても、この局面でネオスを失うのは痛手だったが、ネオスペーシアンがいない今、ネオスではパワー・ツール・ドラゴンを突破できない。

 そしてその決断が、新たなる希望を呼ぶカードを引かせる。

「さらに魔法カード《ホープ・オブ・フィフス》! 墓地のE・HEROをデッキに戻すことで、ニ枚ドローする!」

 E・HEROに限定された《貪欲な壺》の下位互換――とも言われがちなこの魔法カードだが、十代ならばこの局面でのドローというのは驚異的な効果を発揮する。

 計四枚のドローによって呼び寄せたモンスターを、十代はニヤリと笑いながらデュエルディスクに置いた。

「俺は《N・グロー・モス》を召喚!」

N・グロー・モス
ATK300
DEF900

 またもやネオスペーシアンの一体である、光る苔のような姿をしたグロー・モスが召喚される。パワー・ツール・ドラゴンとのその攻撃力の差は、実に4600もの数値。

「まだまだ! 魔法カード《NEX》を発動! グロー・モスを《N・ティンクル・モス》に進化させる!」

N・ティンクル・モスATK500
DEF1100

 グロー・モスには他のネオスペーシアンとしても珍しい、進化する能力が備えられている。十代の魔法カードの発動により、不定形だったその身体に、がっしりとした形が形成されていく。

 ティンクル・モスにもこの布陣を突破する能力はないが……十代が考えたのは簡単な話。布陣を突破するカードがないなら、そのカードをドローすれば良い。

「バトル! ティンクル・モスでガントレット・ウォリアーに攻撃!」

「……攻撃!?」

 ネオスペーシアンはステータスは貧弱であり、進化したティンクル・モスですら例外ではない。機械戦士での守備の要たる《ガントレット・ウォリアー》に適うはずもなく、遊矢はどんな効果を持っているのか警戒する。

「ティンクル・モスの効果発動! バトルの時に一枚ドローし、そのカードによって効果が発動する! シグナル・チェック!」

 ティンクル・モスの効果は、遊矢が警戒していたような破壊効果ではなかったが、地味ながら強力なバトルする際に一枚ドローする効果。十代がドローしたカード《ネオスペース》に対応し、ティンクル・モスが緑色に光り輝いていく。

「魔法カードを引いた時、ティンクル・モスはダイレクトアタック出来る! ティンクル・フラッシュ!」

「そういう効果か……」

遊矢LP4000→3500

 ティンクル・モスの光線が遊矢を貫いたものの、大したダメージではない。とはいえ、今の身体には大ダメージだが……十代に警戒されないように、遊矢は平気な演技に徹する。

「バトルを終わるぜ。ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢はカードをドローしつつ、十代のフィールドを見渡す。攻撃したからと言えば当然だが、ティンクル・モスはパワー・ツール・ドラゴンを前にして攻撃表示のままだ。
ティンクル・モスの効果で防ごうにも、パワー・ツール・ドラゴンに装備された《ダブルツールD&C》には、戦闘時に相手モンスターの効果を無効にする効果がある。

 だが十代も、それを覚えていない筈がない。ならばあのリバースカードで防ぐ気か、と当たりをつけると、パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動する。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果発動! パワー・サーチ!」

 三回目のパワー・ツール・ドラゴンの効果の発動。十代の前に表示されるのは《パイル・アーム》・《サイクロン・ウィング》・《魔界の足枷》の三枚であり、遊矢が狙うのはリバースカードの破壊。

「俺が引いたのは《パイル・アーム》! パワー・ツール・ドラゴンに装備し、そのリバースカードを破壊させてもらう!」

 遊矢が手札に加え、そして発動した装備魔法は《パイル・アーム》。装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせ、さらに相手の魔法・罠カードを一枚破壊する効果を持つ。

 パワー・ツール・ドラゴンの右腕に装備された《パイル・アーム》より、銃弾のような巨大な釘が発射され、十代のフィールドに伏せられていたリバースカードを貫いた。だがそのリバースカードは、貫かれながらも表側となる。

「チェーンして《和睦の使者》を発動! このターン、戦闘は意味ないぜ!」

 いくら破壊しようとしようが、十代が伏せたのはフリーチェーンである《和睦の使者》。ティンクル・モスを効果破壊する手段がない今、遊矢の攻撃は全て封殺された。

「……ターンエンド」

 下級モンスターを召喚することなくターンエンド。しかしフィールドには、装備魔法を四枚伏せた《パワー・ツール・ドラゴン》に《ガントレット・ウォリアー》、リバースカードが一枚という強固な布陣。

「俺のターン、ドロー!」

 対する十代はリバースカードもなく、フィールドには攻撃力が1000にも満たない《N・ティンクル・モス》のみ。フィールドだけを見れば、遊矢の方が圧倒的に有利だが……先の《和睦の使者》によって、流れだけは十代の物だ。

「《N・エア・ハミングバード》守備表示で召喚!」

N・エア・ハミングバード
ATK800
DEF600

 全身に赤い服を着た鳥人のような、風属性を担当するネオスペーシアンが守りを固める。ただ、ネオスペーシアンとしては相変わらずのステータスだが。

「エア・ハミングバードの効果発動! 相手の手札×500ポイントのライフを回復する! ハニー・サック!」

 エア・ハミングバードが十代のフィールドから飛び上がると、遊矢の手札1枚1枚から大きな花が生えて来る。遊矢が驚いて身動きが出来ない間にも、エア・ハミングバードがその花から蜜を吸うことで十代のライフを回復する。

 もちろん《パワー・ツール・ドラゴン》を対処する効果などではないものの、少なからず強力な効果である事には間違いはない。遊矢の手札の枚数は三枚……よって十代のライフは1500ポイント回復する。

十代LP1600→3100

「さらにバトル! ティンクル・モスでパワー・ツール・ドラゴンに攻撃!」

 《ダブルツールD&C》の攻撃モンスターの効果を無効化する効果は、遊矢のターンに攻撃する時のみしか発動しない。よってティンクル・モスの攻撃時の効果は防げず、戦闘も行わないために防御時の効果も意味はなさない。

「ドローしたカードは罠カード《N・シグナル》! よってティンクル・モスは守備表示になる」

 十代の引いたカードに対応してティンクル・モスが赤く光り輝き、攻撃を中断して守備表示となる。いずれにせよ自爆特攻で十代のライフが0になる、などという自滅などはせず、一枚ずつカードをドローしていく。

「カードを一枚伏せてターンエンドだぜ」

「俺のターン、ドロー!」

 《N・ティンクル・モス》のトリッキーな効果によって、すっかり調子を崩されてしまってはいるものの、遊矢のフィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》が未だ健在。さらに盤石にすべくパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動する。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! パワー・サーチ!」

 都合四回目となる《パワー・ツール・ドラゴン》の効果の発動に選ばれたのは、《メテオ・ストライク》・《サイクロン・ウィング》・《バスターランチャー》の三種類。遊矢の魔法・罠ゾーンには、すでに三枚の装備魔法とリバースカード一枚があり、これ以上の装備魔法の発動は危険なものの……《メテオ・ストライク》を装備出来れば、貫通ダメージで十代のライフを0に出来る。さらに、十中八九《N・シグナル》であるリバースカードを破壊する装備魔法、《サイクロン・ウィング》であれば、十代の反撃の芽を潰すことが出来る……

「…………ッ!」

 三枚の装備魔法カードの内一枚を選ぶ十代にもそれは良く分かっており、声を出すだけにも重いプレッシャーがのしかかり、嫌な汗が顔を垂れていく。

「……右のカードだ!」

 プレッシャーを振り切った十代が叫ぶカードは右のカード。遊矢の読み通り、リバースカードは《N・シグナル》であるため、《メテオ・ストライク》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》から、ネオスペーシアンを守り貫通ダメージを防ぐ手段は十代にはない……!

「くっ……」

 十代の祈りが通じたのか、遊矢の手札に加えられたのは、大型モンスターを破壊する用の《バスターランチャー》。遊矢にはこのターンで十代を倒す手段はない。

「……バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、ティンクル・モスに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 パワー・ツール・ドラゴンのドリルによる一撃がティンクル・モスを削り取る。《ダブルツールD&C》の効果により、ティンクル・モスの効果は無効になったものの……充分にその役割は果たし、さらにその破壊はシグナルとなって仲間を呼び覚ます。

「リバースカード《N・シグナル》! モンスターが破壊された時、デッキからネオスペーシアンを特殊召喚出来る! 現れろ、《N・アクア・ドルフィン》!」

N・アクア・ドルフィン
ATK600
DEF800

 仲間がやられたシグナルによって駆けつけたのは、十代と始めて出会ったネオスペーシアン《N・アクア・ドルフィン》。青い魚人がフィールドに現れ、パワー・ツール・ドラゴンに立ちはだかる。

「……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢のフィールドは三枚のカードが装備された《パワー・ツール・ドラゴン》と、守備表示の《ガントレット・ウォリアー》にリバースカードが一枚。ライフポイントは残り3500。

 十代のフィールドは二体のネオスペーシアン《N・アクア・ドルフィン》と《N・エア・ハミングバード》。リバースカードはなく、ライフポイントは残り3100。

 依然として《パワー・ツール・ドラゴン》がフィールドを制圧しているような印象を受けるし、確かに見る限りではそうだろう。……しかし、フィールドでは見えない流れという要素は、十代が支配していた。

「エア・ハミングバードの効果を発動! ハニー・サック!」

 再びエア・ハミングバードの効果が発動し、遊矢の手札五枚から飛び出た花の養分を吸収し、十代のライフポイントを2500ポイント回復する。これで十代のライフは5600と、遊矢のライフどころか初期ライフを越えていく。

 しかしこれで、遊矢が警戒していたエアー・ネオスの可能性を自ら消した。フレア・ネオスと並び、ハイパワーなコンタクト融合体だが、皮肉にも融合素材であるエア・ハミングバードの効果によって回復した、そのライフポイントでは効果は活かせない。

「《O-オーバソウル》を発動! 墓地からネオスを特殊召喚!」

 そして満を持して墓地から蘇る十代のエースモンスター、ネオス。遊矢はもちろんネオスとネオスペーシアンが並ぶ、という状況を警戒こそするものの、フィールドにいるネオスペーシアンが腑に落ちない。

 アクア・ネオスを融合してもパワー・ツール・ドラゴンに対応出来ず、エアー・ネオスは前述の通りその効果を活かすことは出来ない。

 ……デスデュエルで倒れていた遊矢は知らない。その存在を聞いてはいたが、その時は融合素材が違ったからか、遊矢はその考えに至らない。

 十代がやろうとしていることを、遊矢は知らない。ネオスペーシアンを二体使った、トリプルコンタクト融合……!

「行くぜ遊矢! ネオスとアクア・ドルフィンとエア・ハミングバードで、トリプルコンタクト融合!」

「――――ッ!?」

 佐藤先生やプロフェッサー・コブラといった、今までにない楽しんでいるだけではいられないデュエルを乗り越えた、十代が手に入れた新たなコンタクト融合体。アクア・ドルフィンの水とエア・風がネオスと混じり合っていき、そこで新たに生まれるのは――嵐。

「3つの力が1つとなった時、はるか大宇宙の彼方から、最強の戦士を呼び覚ます! トリプルコンタクト融合! 銀河の渦の中より現れよ! 《E・HERO ストーム・ネオス》!」

E・HERO ストーム・ネオス
ATK3000
DEF2500

 まさに嵐を象徴するかのような青色の尖鋭的なボディと、両腕に装着された巨大な鍵爪が一際目立つ。攻撃力も3000という疎かに出来ない数値だが、遊矢としてはそれより効果の方が最重要……!

「ストーム・ネオスの効果発動! 一ターンに一度、フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する! アルティメット・タイフーン!」

「なっ……!?」

 新たなトリプルコンタクト融合体、ストーム・ネオスの効果とは、言わずもがな強力なカード《大嵐》と同じ効果。その召喚条件に相応しく強力な効果で、遊矢のフィールドの魔法カードを全て破壊していく。

 遊矢のフィールドにあった魔法・罠カードである、《パワー・ツール・ドラゴン》に装備されていた、三枚の装備カードとリバースカードを全て破壊する。強固な耐性と攻撃力を備えたパワー・ツール・ドラゴンは、一瞬にしてその状態を瓦解されたのだった。

「フィールド魔法《ネオスペース》を発動し、バトル!」

 フィールドがアカデミアの地下通路から、どことなく神秘的な宇宙へと変化していく。自らの故郷と同じ場所に戦場を移したストーム・ネオスはさらに攻撃力を上げ、パワー・ツール・ドラゴンを破壊せんと飛び上がった。

「ストーム・ネオスでパワー・ツール・ドラゴンを攻撃! アルティメット・ハリケーン!》

 巻き上がるカマイタチとともに振り払われる剛爪。装備カードを失い、無防備となったパワー・ツール・ドラゴンのボディを切り裂き、そのままカマイタチが俺を襲う。

「ぐあっ……!」

遊矢LP3500→2300

 長らくフィールドを制圧していた《パワー・ツール・ドラゴン》も、ストーム・ネオスの攻撃によって爆散する。そして《パワー・ツール・ドラゴン》が庇ってくれたものの、カマイタチを受けた遊矢も膝をついてしまう。

「遊矢!」

「……これぐらい……大丈夫だ! さあ、もっと来いよ十代!」

 駆けつけようとした十代を制止し、無理やり身体に活を入れて身を起こす。十代もその場に止まったものの……我慢できないとばかりに叫びだした。

「何でこんなデュエルをする必要があるんだ! 楽しくともなんともないデュエルを……何で!」

 十代の心からの叫びが地下通路に響き渡り、遊矢もそんな十代を見て目を伏せる。しかし、遊矢にもデュエルをやらなくてはいけない理由がある……たとえ悪魔の手のひらで踊っていようとも。

「……明日香が……人質にされてるんだよ……」

「明日香が……?」

 天上院明日香はマルタンの姿をした悪魔に捕らえられ、命を握られていると言っても過言ではない状況にある。救うためには十代とデュエルをするしかない……そう、マルタンの姿をした悪魔に脅迫されているのだと、遊矢は十代に説明した。

「だから本気で来い! お前が俺を本気で倒さなければ明日香が死ぬぞ!」

 自らの力不足でこのような最悪な状況になっている、という感覚に苛まれながらも遊矢は鬼気迫る表情で十代に叫ぶ。――今の十代に知る由はないが、遊矢は佐藤先生やプロフェッサー・コブラと並ぶ……黒幕からの刺客も同然なのだから。

「……くそっ! カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 やりきれない気持ちを毒づきながらも、負けるわけにはいかない十代もターンを進行する。コンタクト融合体であるストーム・ネオスは、フィールド魔法《ネオスペース》の効果によりフィールドに留まり続けることが出来る。

「俺のターン、ドロー!」

 対する遊矢も明日香の命が人質にされている以上、このデュエルで十代に勝つしかない。ラッキーカードたる《パワー・ツール・ドラゴン》は破壊されてしまったが、彼には未だ手札がある。

「俺はカードをセットし、《ブラスティック・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊し二枚ドロー!」

 ただセットカードを破壊するだけでは、この魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》は手札交換の魔法カードにしかならない。しかし、もちろんと言うべきかフィールドには一陣の旋風が巻き起こっていく。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから現れよ、《スピード・ウォリアー》!」

 初手の《バックアップ・ウォリアー》の召喚の布石以来の登場となる、遊矢のマイフェイバリットカード、《スピード・ウォリアー》。ただ召喚されるだけならば、ネオスにすら匹敵するそのサポートにより驚きはしないのだが……十代が驚愕したのが、スピード・ウォリアーが攻撃表示だという点。

 遊矢は先のターン《パワー・ツール・ドラゴン》の効果により、先んじて対切り札用の装備魔法《バスターランチャー》を手札に加えてはいたが、その効果による上昇値は2500。破格の数値ではあるものの、それでは《ネオスペース》で強化されたストーム・ネオスには適わない。しかし遊矢の《スピード・ウォリアー》は何をして来るか分からない……と、十代は警戒を強める。

「そしてこのカードがドローによって手札に加わった時、このモンスターは特殊召喚出来る! 《スカウティング・ウォリアー》を特殊召喚!」

スカウティング・ウォリアー
ATK1000
DEF1000

 さらに《スピード・ウォリアー》とともに新たな機械戦士が並び立つ。手札に加えた時に特殊召喚される機械戦士《スカウティング・ウォリアー》だ。

「さらに《ガントレット・ウォリアー》をリリースすることで、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚する!」

サルベージ・ウォリアー
ATK1500
DEF1900

 フィールドに生き残っていた《ガントレット・ウォリアー》をリリースして召喚されたのは、機械戦士としては珍しい上級機械戦士。そのまま背後に背負っていた網を墓地に投げ、自身の効果を発動する。

「サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功した時、墓地からチューナーを一体特殊召喚する! 来い、《ニトロ・シンクロン》!」

ニトロ・シンクロン
ATK300
DEF100

「ニトロ・シンクロン!?」

 墓地から現れたチューナーモンスターは十代の予想外のモンスター。それも当然であり、《ニトロ・シンクロン》は最初の《手札断殺》の時に墓地に送っていたカードなのだから。

「まだだ! 通常魔法《ワン・フォー・ワン》を発動!」

 機械戦士の中でもハイパワーな《ニトロ・シンクロン》のシンクロ召喚。十代の予想はまたもや覆される。

「手札から一枚モンスターを捨てることで、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! 来い、《チェンジ・シンクロン》!」

チェンジ・シンクロン
ATK0
DEF0

 もっとも小型のシンクロンである、《チェンジ・シンクロン》がデッキから特殊召喚される。まだだという遊矢の言葉通り、《チェンジ・シンクロン》で終わりではない。

 フィールドがチューナーモンスターを含む、五体のモンスターで埋まったのだから……むしろ、ここから始まるのだから。

「行くぞ十代……シンクロ召喚!」

 執念によってモンスターを五体展開させてみせた遊矢に応えるように、機械戦士たちは二つのシンクロ召喚を発生させる。一つはレベル5の《サルベージ・ウォリアー》とレベル2の《ニトロ・シンクロン》。もう一つは、レベル4の《スカウティング・ウォリアー》とレベル1の《チェンジ・シンクロン》。

「――現れろ、《ニトロ・ウォリアー》! 《スカー・ウォリアー》!」

ニトロ・ウォリアー
ATK2800
DEF1000

スカー・ウォリアー
ATK2100
DEF1000

 主力カードだった《パワー・ツール・ドラゴン》を破壊した、その次のターンにもかかわらず、遊矢は次々と特殊召喚してフィールドを整える。その結果がこの遊矢のフィールドであり、二体のシンクロモンスターと《スピード・ウォリアー》が遊矢を守るように立ちはだかっていた。

「チェンジ・シンクロンの効果でストーム・ネオスの表示形式を守備表示に変更! さらに、《ニトロ・シンクロン》がシンクロ素材になったことにより一枚ドローする!」

 半透明の《チェンジ・シンクロン》が浮かび上がり、ストーム・ネオスを強制的に守備表示にするとともに、《ニトロ・シンクロン》の効果によって遊矢はカードを一枚ドローする。シンクロ召喚によって発生した効果の処理は終わり、さらに十八番たる装備魔法を二枚、デュエルディスクにセットする。

「《スピード・ウォリアー》に《バスターランチャー》を装備! さらにストーム・ネオスに《ニトロユニット》を装備する!」

スピード・ウォリアーに巨大なレーザーキャノンとストーム・ネオスの胸部に巨大な爆弾が装備され、遊矢がこのターンのメインフェイズで出来ることが終わる。さらに魔法カードを発動したことにより、《ニトロ・ウォリアー》の攻撃力を上げる効果の発動条件を満たす。

「遊矢、お前……」

「…………バトル! スピード・ウォリアーでストーム・ネオスに攻撃! バスターランチャー、シュート!」

 何か言いたげな十代の台詞にはあえて答えることはせず、遊矢はスピード・ウォリアーに攻撃を命じる。ストーム・ネオスの守備力は2500、《バスターランチャー》の効果の適応条件を満たしているため、スピード・ウォリアーの攻撃力は3400にまで上昇する。

 十代にその一撃を防ぐことは出来ず、ストーム・ネオスはあまりにも呆気なく、《バスターランチャー》によって胸部の《ニトロユニット》を狙い撃たれて破壊された。さらに《ニトロユニット》の効果が発動する。

「《ニトロユニット》の効果! 装備モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「っ……!」

十代LP5600→2600

 ストーム・ネオスの元々の攻撃力は3000。切り札に相応しいその攻撃力が、皮肉にも十代へと牙を向く。しかしエア・ハミングバードの効果のおかげもあり、未だそのライフは半分を切らない。

「さらに、スカー・ウォリアーでダイレクトアタック! ブレイブ・ダガー!」

 ストーム・ネオスを破壊したことにより、がら空きとなった十代に向かって攻撃に行くものの、突如としてスカー・ウォリアーの前にモンスターが現れる。スカー・ウォリアーに比べれば、かなり小さなモンスターではあったが……そのモンスターは、この窮地を凌げるモンスターだった。

「伏せてあった《クリボーを呼ぶ笛》を発動! デッキから《ハネクリボー》を守備表示で特殊召喚!」

ハネクリボー
ATK300
DEF200

 その正体は十代の相棒こと《ハネクリボー》。遊矢は攻撃を一旦中止した後、再び《スカー・ウォリアー》によって破壊されてしまうものの、その効果により十代はそれ以上の追撃を受けることはない。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢は確実にライフポイントを0にしにいっていたにもかかわらず、十代は《ハネクリボー》によって、紙一重だったものの防ぎきることに成功する。そしてその攻撃は、遊矢が本気を越えているような状態であることを、改めて十代に感じさせた。

「……なら俺もやらせてもらうぜ、遊矢! 《E・HERO プリズマー》を召喚!」

E・HERO プリズマー
ATK1700
DEF1200

 光り輝くクリスタルで構成されたような、新たなE・HEROが召喚される。遊矢もそのE・HEROのことは知らず、融合召喚かと思考する。

「プリズマーの効果発動! 融合素材をデッキから墓地に送ることで、そのカードの名前を得ることが出来る! リフレクト・チェンジ!」

 プリズマーの効果対象に選ばれたカードは、コンタクト融合によってデッキに戻っていた《E・HERO ネオス》。ネオスが墓地に送られるとともに、その姿形がネオスと瓜二つとなっていく。

「さらに魔法カード《ラス・オブ・ネオス》! ネオスをデッキに戻すことで……フィールド上のカードを全て破壊する!」

「……全て破壊だと!?」

 ネオスの必殺技と同じ効果を持った魔法カード。フィールドにはネオスの姿と名前を得たプリズマーがいるため、その効果を問題なく発動することが出来る。

「行け、プリズマー! ラス・オブ・ネオス!」

 ネオスの姿をしたプリズマーが飛び上がった後にすぐさま急降下し、手刀を《ネオスペース》に打ち込むとともに、フィールド上の全てのカードが爆発していく。十代のカードとて例外はなく、プリズマー自身が耐えきれなくなり、デッキに戻っていって爆発は収まっていくが、フィールドにはもう何もない。

 いや、何もない筈だった。だが、遊矢のフィールドには見違えるはずもなく、黄色の身体をしたドラゴンが拘束具を解き放ち、遊矢のフィールドに君臨していた。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》……!」

 十代が信じられない気持ちのまま呟いたように、遊矢のフィールドには《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が顕現していた。もちろん、他の機械戦士たちは十代と同様にプリズマーの自爆に巻き込まれてはいたが。

「俺はチェーンして《シンクロコール》を発動していた……!」

 墓地のチューナーモンスターと非チューナーモンスター一体ずつを除外することにより、墓地でチューニングを可能とする罠カード《シンクロコール》。プリズマーの自爆にチェーンする形で、《エフェクト・ヴェーラー》と《パワー・ツール・ドラゴン》をチューニングし、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》はシンクロ召喚されていた。

 もちろんチェーン処理の影響によって、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》もプリズマーの自爆の影響を受けたものの、それは自らの効果によって破壊を免れている。残念ながらスペルスピードの影響により、ライフ・ストリーム・ドラゴンのライフを回復する効果は発動しなかったものの、それはこの状況を作り出せたのならば些細なことだと遊矢は考えていた。

 事実、フィールドがリセットされたにもかかわらず、フィールドにいる《ライフ・ストリーム・ドラゴン》というのは、十代にとっては危機的な状況であるのだから。

「……《カードガンナー》を守備表示で召喚」

カードガンナー
ATK400
DEF400

 突如として現れたモンスターに対し、守備に回せるのは《カードガンナー》のみとあまりにも頼りない。プリズマーの《ラス・オブ・ネオス》を発動するしかない状況だったものの、依然としてフィールドは十代が劣勢のままだった。

「《カードガンナー》の効果を発動して、ターンエンド……」

「俺のターン、ドロー……!」

 遊矢も起死回生の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》のシンクロ召喚に成功したが、残念ながらここから《カードガンナー》を突破し、十代とライフを0にできるカードは手札にはない。場持ちやステータスは高いものの、ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果は攻撃向けの効果ではないのだから。

「バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴンでカードガンナーに攻撃! ライフ・イズ・ビューティーホール!」

 ライフ・ストリーム・ドラゴンが放った光弾は、あっさりとカードガンナーを破壊するが、カードガンナーの効果により十代は一枚ドローする。

「ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! ……《コンバート・コンタクト》を発動!」

 十代がドローしたカードは希望を呼び寄せるドローソース。フィールドにモンスターがいない時、という厳しい条件はあるものの、二枚のネオスペーシアンを墓地に送りながら、手札交換を果たすことが出来る優秀なカード。

 そして十代は、デッキから望むカードを引き寄せる。

「……《ミラクル・コンタクト》を発動! 墓地のネオスとネオスペーシアンたちをデッキに戻すことで、コンタクト融合が出来る!」

 プリズマーの効果で墓地に送っていたネオスと、《コンバート・コンタクト》によって墓地に送った、二体のネオスペーシアンが半透明のままフィールドに現れる。融合素材が三体ということならば……再び切り札たる、トリプルコンタクト融合だ。

「《E・HERO ネオス》と《N・フレア・スカラベ》と《N・グラン・モール》をトリプルコンタクト融合! ……現れろ、《E・HERO マグマ・ネオス》!」

E・HERO マグマ・ネオス
ATK3000
DEF2500

 先のストーム・ネオスが風と水の融合ということならば、新たに現れたトリプルコンタクト融合体は炎と地――故にネオスが纏うのは大地とそれを焼き尽くすほどの火炎で生じる灼熱のマグマ。

 プロフェッサー・コブラの切り札を正面から打倒した、E・HERO マグマ・ネオス。

「さらに魔法カード《アームズ・ホール》を発動し、墓地から《インスタント・ネオスペース》を手札に加えて装備する!」

 グラン・ネオスに装備していた、小型のネオスペースをサルベージして装備する。《アームズ・ホール》のデメリット効果により、十代は通常召喚が封じられてしまうが……そもそも十代の手札はもはや一枚もない。

「バトル! マグマ・ネオスでライフ・ストリーム・ドラゴンに攻撃! スーパーヒートメテオ!」

 マグマ・ネオスの効果はフィールドにあるカードの数×400ポイント、自身の攻撃力を上げる効果を持つ。コブラ戦後にその効果のことは遊矢も聞き及んでいたので知ってはいるが、対処出来るかと言えば話は別。フィールドにあるカードは、マグマ・ネオス自身と装備された《インスタント・ネオスペース》。遊矢のフィールドの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の計三枚であり、よってマグマ・ネオスの攻撃力は1600ポイントアップし、4600。

 しかし《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果により、墓地の装備魔法を除外することで破壊を免れる効果を持っている。遊矢の墓地には《パワー・ツール・ドラゴン》で手札に加えた四枚と、《ファイティング・スピリッツ》と《ニトロユニット》の合計六枚の装備魔法カードがある。

 十代の多用する除外カード《ヒーローズルール1 ファイブ・フリーダムス》でも除外しきれない数だったが、十代はその効果の対処策を既に持っていた。手札が0枚の十代ならば対処策はないと、遊矢は考えていたが……十代は墓地から罠カードを発動した。

「墓地から罠カード発動! 《ブレイクスルー・スキル》! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果を無効にする!」

「……《カードガンナー》の時か……!」

 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の攻撃の壁となって破壊されていた、《カードガンナー》の効果によって墓地に送られていた罠カード《ブレイクスルー・スキル》。墓地からこのカードを除外することで、相手モンスターの効果を無効にする――《カードガンナー》はただ破壊されただけではなく、自らの役割は全うしていた。

 そのまま攻撃を防ぐことは出来ず、破壊耐性効果も無効化されてしまった《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に、マグマ・ネオスの渾身の一撃が炸裂する。

遊矢LP2300→600

「……ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し二枚ドロー!」

 強大なマグマ・ネオス相手にも怯むことはなく、遊矢も負けじと《貪欲な壺》で二枚ドローする。そしてドローしたカードを見て目を見開くと、そのカードをデュエルディスクにセットした。

「俺は《ミラクルシンクロフュージョン》を発動!」

 遊矢がドローしたカードも、十代の《ミラクル・コンタクト》と同様の、墓地の仲間の力を併せて切り札を呼び寄せるキーカード。

「墓地の《スピード・ウォリアー》と、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の力を一つに! 現れろ、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

波動竜騎士 ドラゴエクィテス
ATK3200
DEF2100

 《スピード・ウォリアー》と《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が時空の穴に吸い込まれていき、力を一つに融合することで現れる、【機械戦士】の切り札《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。雄々しく翼をはためかせてマグマ・ネオスと向かい合い、その槍を構えて攻撃する意を示す。

「……波動竜騎士 ドラゴエクィテスで、マグマ・ネオスに攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

「攻撃!?」

 マグマ・ネオスの効果は攻撃をする時のみという訳ではなく、常時その攻撃力をアップさせる効果のため、未だマグマ・ネオスの攻撃力は4600。ドラゴエクィテスは戦闘時に攻撃力をアップさせる効果はないので、このままでは正真正銘の自爆特攻。

 この不毛なデュエルを自爆特攻で終わらせようとしているのでなければ、遊矢の手札には何かがあるはずだ、と自身の手札が0枚なことも併せて十代は考える。遊矢の墓地には、もはや十代が把握していないカードはない筈なのだから。

「……墓地から《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! このカードを除外し、戦闘を無効にする!」

 何があるにせよ戦闘を起こさせなければ意味はない、と十代は墓地に落ちていた《ネクロ・ガードナー》の効果を起動する。半透明の戦士がマグマ・ネオスの攻撃を代わりに受け、ドラゴエクィテスの攻撃を無効にしたのだ。

 ――にもかかわらず、ドラゴエクィテスは再び起動する。マグマ・ネオスに対し、自身の出来る最高の勢いでの一撃を叩き込まんと、大きく槍を振りかぶる。

「お前が攻撃を無効にしたことにより、《ダブル・アップ・チャンス》の効果が発動する! ドラゴエクィテスの攻撃力を二倍にし――再びマグマ・ネオスに攻撃する!」

 《スピード・ウォリアー》とともに、遊矢の代名詞とも言えるカードとなっている速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》。遊矢の手札には最初から――このカード以外には――コンバットトリックなどなく、《カードガンナー》と《アームズ・ホール》の効果により、《ネクロ・ガードナー》が落ちていて発動することに賭けたギャンブル。

 結果は成功。十代ならば確実に《ネクロ・ガードナー》を落としていただろうし、あのタイミングで《収縮》などを警戒しないことなど、遊矢のデッキを良く知っていて、かつ《ダブル・アップ・チャンス》へとたどり着くことの出来る予測力を持った人物――例えば三沢大地にしか不可能であろう。

 ……いや、この異世界という極限状態では三沢大地とて出来たかどうか。結果として遊矢はギャンブルに勝ち、マグマ・ネオスはドラゴエクィテスの投げ槍によって風穴が空くこととなる。

 ドラゴエクィテスの攻撃力は《ダブル・アップ・チャンス》によって6400――いくらハイパワーが持ち味であるマグマ・ネオスとて、この数値では相手が悪いだろう。

十代LP2600→800

 そして十代も、遂にライフポイントが危険域へと達したものの――マグマ・ネオスが託した希望が、未だフィールドに残っていた。

「マグマ・ネオスに装備されていた《インスタント・ネオスペース》の効果! デッキから《E・HERO ネオス》を特殊召喚する!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の破壊を皮きりに、お互いのモンスター達が一進一退の攻防を繰り返していた。そして最後にドラゴエクィテスと向き合うこととなったのは、通常状態であるネオス。

「……カードを一枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン――」

 お互いにもう手札もライフポイントも出せるモンスターもなく。悪魔の手のひらで踊るデュエルは、遊矢のフィールドには《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》にリバースカード、十代のフィールドには《E・HERO ネオスという布陣で最終局面を迎える。

 このドローでドラゴエクィテスを倒すだけでなく、遊矢のライフポイントを0にしなければ後はないと、十代はデッキを見つめながら思った。その考えは偶然にも間違いではなく、遊矢のデッキトップは――二人とも知る由はないが――ダイレクトアタックを可能とする《ラピッド・ウォリアー》。

 いくら守備を固めていようとも意味をなさず、ドラゴエクィテスを破壊するだけでは意味がない。そんな状況で十代は今、カードをドローする……!

「来い、十代……!」

「――ドロー!」

 ――悪魔が見守るながら十代がドローしたカードは――

「装備魔法《ネオス・フォース》をネオスに装備する!」

 ――装備魔法《ネオス・フォース》。ネオスにしか装備することしか出来ないものの、装備モンスターの攻撃力を800ポイントアップさせるとともに、戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力のダメージを相手に与える効果。

 コンタクト融合体と同様に、エンドフェイズ時にデッキに戻ってしまうデメリットはあるものの――上昇値を併せれば攻撃力はドラゴエクィテスを超え、破壊すればそのバーンダメージによって遊矢のライフポイントは0になる――そんな装備魔法。

「バトル! ネオスでドラゴエクィテスを攻撃! ネオス・フォース!」

 普段から使うラス・オブ・ネオスとは違い、全身に循環する《ネオス・フォース》を腕に集結させ、それを相手に向けて発射するという一撃。《ネオス・フォース》のエネルギー弾とも言うべきそれが、高速でドラゴエクィテスに迫っていく。

「リバースカード――」

 ……遊矢が伏せてあり、そして今から発動する罠カードは《くず鉄のかかし》。もはや効果の説明は不要となつているほどの、遊矢のデッキの守備の要によってネオスの攻撃は防がれ、次のターンに《ラピッド・ウォリアー》の攻撃で十代は敗北する。

 ――このデュエルの結果はそうなるはずだった。だが、現実はそうなることはなく……遊矢がリバースカードを発動しようとした時、彼のデュエルディスクを装着した右腕に、マルタンの姿をした悪魔から光弾が放たれていた。

「何っ……ぐっ!?」

 反射的に右腕で庇ってしまった結果、放たれていた光弾はデュエルディスクに直撃する。そのおかげで遊矢本人には大したダメージは無かったものの、デュエルディスクには甚大なダメージが発生してしまう。

「遊矢!」

 そして攻撃宣言をした《ネオス・フォース》が止まることはなく。遊矢のリバースカードは発動せず、その気弾がドラゴエクィテスを貫いた。

遊矢LP2300→2200

「ネオス! もう良い、止めてくれ!」

 十代の悲痛な叫びもネオスには届かない。《ネオス・フォース》の効果は強制効果であり、もはやネオスにも止めることは適わないのだから。そしてネオスから放たれた、ドラゴエクィテスの攻撃力分のエネルギー弾が、寸分違わず遊矢本人へと直撃した。

「ぐああああっ……!」

遊矢LP2200→0

 遊矢のライフポイントが0になってこのデュエルは終了し、破損したデュエルディスクから【機械戦士】デッキが大量にこぼれ落ちていく。なんとか意識だけは保っていたものの、遊矢もその場に倒れ伏して動けなくなってしまう。

「……みんな……!」

 デュエルディスクから床にバラまかれてしまった機械戦士に、意識が朦朧としながらも遊矢は手を伸ばしたが、その腕を潰すかのような勢いで踏みつける者がいた。当然ながら、マルタンの姿をした悪魔の仕業だ。

「……くっ。遊矢を放せ!」

「おっと。動かない方が良いよ、十代」

 十代にも、デス・デュエルによる疲労感が身体中を襲うものの、遊矢ほどのダメージはない。マルタンの姿をした悪魔に詰め寄ろうとしたものの、マルタンが遊矢を踏みつける力を増していくのを見て、その動きを止める。

「それにしても危なかったじゃないか、十代……ボクが助けないと、キミが負けちゃうところだったよ?」

 遊矢の壊れたデュエルディスクから《ティンクル・ウォール》のカードを拾い上げ、ニヤニヤと笑いながら十代に見せつける。……そして踏みつけられた遊矢が、マルタンの姿をした悪魔の言葉に反応する。

「……助けた、だと……」

「ああそうさ。十代、ボクに感謝してよ?」

 意識がはっきりとしている平常時ならば、そんなマルタンの姿をした悪魔のセリフなど、遊矢には一笑に付すことが出来ただろう。だが意識がはっきりとしない今……遊矢は倒れながらも十代を見た。

「違う! お前誰なんだよ、何でこんなことをするんだ!」

「……本当にボクのことを忘れちゃってるんだね……ボクがやっていることはね、十代。全てキミのためにやっていることなんだよ」

 今の十代には、マルタンの姿をした悪魔が何が言いたいのか、何も理解することは出来はしない。しかしその言葉は、遊矢の猜疑心を高めさせるのは充分すぎるほどだった。

「……ふざけんなよ! 遊矢を、みんなをこんなにした何が俺の為だ!」

「また後で話してあげるよ、十代。……それよりまず、敗者に罰ゲームをする方が先かな」

 マルタンの悪魔の右腕がデュエルディスクに変化していき、一枚の魔法カードをポケットから取り出して発動した。その魔法カードとは《暗黒界に続く結界通路》。

 遊矢の背後に他の異世界へと繋がっている穴が出現し、遊矢を吸い込まんとその穴から悪魔が遊矢の足に手を伸ばす。マルタンの姿をした悪魔が足で踏んでいるおかげで、何とか遊矢はこの世界にいることが出来た。

「もう一人の……明日香、だっけ? もう既にどっかに送ってあるからさ。再会出来ると良いね」

 マルタンの姿をした悪魔が足を放すと、遊矢は何も抵抗することは出来ず、暗黒界に続く結界通路に引きずり込まれていく。

 ――最期にこぼれ落ちた【機械戦士】たちと十代を見て、明日香のことを思いながら。そして結界通路の中で、十代の叫び声だけが耳に聞こえていた。

「遊矢ぁぁぁぁぁっ!」


 

 

―闇魔界と振り子―

 ――目が覚める。知らない天井とは良く言ったもので、何回かこうして目覚めてはいるが、不思議にもこういう感想しか出て来ない。

 そして岩で出来たようなその天井は、どう見ても慣れ親しんだアカデミアの保健室ではない。同じように岩で出来たような、固すぎるベッドのような物に寝かされているようだ。

「……つっ」

 朦朧としていた意識を目覚めさせて、気だるげな身体をゆっくりと起こそうとする。だが、立ち上がろうとしていたにもかかわらず、上半身を起き上がらせるのみで終わってしまう。

 身体がこれ以上動くのを拒否しているとでも言うべきか、なんだか麻酔でも利いているような感覚だ。代わりにデス・デュエルの影響だった、体力とデュエルエナジーが吸われたような感覚は無――

「――ッ!」

 ……ようやく沈んでいた意識が回復していく。異世界のこと、アカデミアのこと、十代のこと、マルタンの姿をした怪物のこと、明日香のこと――様々な出来事が頭の中を駆け巡っていく。

「明日香っ!?」

 麻酔のような感覚を無理やり振り払い、岩のようなベッドから勢い良く立ち上がる。腕から異世界に来ていた影響で壊れたのか、今まで散々エネルギーを吸い取って来たデスベルトが床に落ちて大破する。

 しかしそんなことには全く構わずに、周りの状況を確認していく。中心にある光が部屋中を薄暗く照らしており、周りには俺が寝ていたようなベッドが無数に陳列されている。どうやら施設はともかく病院のようだったが、俺以外には一人も患者はいない。

「どこだここは……」

 マルタンの姿をした怪物は俺をこの異世界に送る時、記憶が定かではないが《暗黒界に続く結界通路》を発動させていた。その記憶が確かならば、ここはデュエルモンスターズの異世界である《暗黒界》なのだろうか。

 とにもかくにも、考えているだけでは始まらない。まずは病院のようなフロアから出るべく、他の部屋に繋がっていそうな巨大なドアを開ける。

 ギギィ……と壊れかけの廃墟のような音をたてながら、巨大なドアはスピードは遅く開いていく。隣の部屋もまた、こちらのフロアと同じように薄暗く、俺がいる建物自体が廃墟のような物らしい。

 唯一つ、今までいた病院のようなフロアと違う点は、先に住人がいたこと。いや、正確には人ではなく……デュエルモンスターズの精霊たちがそこにはいた。少し見渡しただけでも、《本の精霊 ホーク・ビショップ》のような、低レベルの通常モンスターばかりだったが。

「…………」

 十人程度の数のデュエルモンスターズの精霊たちは、部屋に入ってきた俺を一瞥するなり、そのまま話しかけることさえせずに無視する。……その内の一体を除いては。

「大丈夫……なんですか?」

 物言わぬデュエルモンスターズの精霊たちから、唯一俺という闖入者の下へ歩み寄って来てくれたのは、白衣を着たメガネの女性……片腕にはデュエルディスクが装着されている。それだけでは俺と同じく人間に見えるのだが、その白衣の背中から生えている天使のような翼がその感覚を否定する。

「わたしの名前は……リリィ。お身体は……大丈夫ですか?」

 身体を心配するかのような台詞とは裏腹に、あまり彼女の表情は変わらない。それは無愛想を通り越して、感情がないかのように感じられた。

「あ、ああ。それよりここは一体……そうだ、明日香を……俺と同じくらいの背格好の、金髪の女の子はいないか!?」

 みっともないぐらいに慌てた俺に対し、リリィと名乗った白衣の天使は「落ち着いて……ください」と先手を制する。ついバツが悪くなってしまい、一度考えを纏めて落ち着こうとしたものの、どうにも情報が足らずに考えをまとめるという段階ではない。

「順番に……お話し致します」

 慌てふためいている俺に代わり、むしろ落ちつきすぎたリリィからこの状況の説明を聞く。……どうやら事態は、俺が思っている以上に深刻のようだ。

 この異世界は、俺の予想通り《暗黒界》であるらしく、最近他の世界の住民が集められているのだという。リリィやこの廃墟にいる精霊たちもそうであり……もちろん、俺も同様だ。そしてここの本来の住人である《暗黒界》の住人は、他の異世界へと出発していき……《デュエリスト狩り》を行っているらしい。

「デュエリスト狩り……?」

「《覇王》。そう呼ばれている暗黒界の首領が……それを指示しているそうです」

 その《覇王》という存在を聞くとともに、脳内にマルタンの姿をした怪物が浮かび上がっていく。自然と拳に力が込められていくが……不思議そうなリリィの表情を見て――無愛想なら無愛想なりに表情はある――、説明の続きを促した。

 ……そして先の住人である《暗黒界》を今率いているのは、《闇魔界》と呼ばれているデュエルモンスターズの精霊群。彼らもデュエリスト狩りを行っていて、この世界に来たデュエリストを……いや、デュエリストでなくとも狩っているらしい。

 そうして生き残りはこうして、闇魔界の軍勢から隠れ暮らしている……ということだ。ここもこうした隠れ家の一つであり、近くで倒れていた俺をリリィが発見して看病してくれたとのことだ……軽く数週間は気絶していたようたが。

 しかし、俺のデュエルディスクは十代とのデュエルで大破し、先程からただの重石にしかなっていない。【機械戦士】もデュエルディスクの故障の影響でどこかに消え、デッキホルダーに入れていたはずのもう一つのデッキも、盗まれたか落としたかは知らないが……どこにもない。

「……分かった」

「これから……どうなさるのですか?」

 リリィの首がコクリと傾いて疑問を示す。デッキが使えなかろうが、俺の答えは決まっている。

「明日香って奴を探しに行く。助けてくれてありがとう」

 マルタンの姿をした怪物は、俺と同じように明日香を先にこの異世界に送ったという。デッキがあるならば大丈夫だろうが、マルタンの姿をした怪物に没収されているか……回復を待たずに捕まってしまっていては。

 どこにいるかは分からないが……彼女を何としても探さなくてはならない。

「それじゃ、出口は――」

「ここを出て行くのはならん」

 相変わらず無表情なままのリリィに、この廃墟の出口を聞こうとした時……しゃがれた声が俺を制止した。先程から俺という存在を無視していた――《本の精霊 ホーク・ビショップ》を始めとする精霊たちだ。

「お前が出て行く時に見つかれば、この場所も発見されてしまう。……この場所から出るのはならん!」

 ホーク・ビショップが激昂して俺に向けた声に、他の精霊たちも『そうだ!』『勝手に行動するな!』と口々に賛成する。見る限りデッキも持っていない彼らには、その闇魔界の軍勢に立ち向かう力はないのだろう。《デュエリスト狩り》が何を意味しているのか、までは分からないが……少しでもリスクがあることはやりたくないらしい。

 彼らが俺を無視していたことにも、これで合点がいった。俺という得体の知れない存在に関わって、何かがあることが怖いのだ。……だが、合点がいったからといって「はい、そうですか」という訳にはいかない……!

「あんたらの事情も分かる。だけど、悪いが俺は明日香を助けに行かせてもらう……!」

 壊れたデュエルディスクを近くの机に置き、アカデミアの蒼い制服を整えながらホーク・ビショップに対して言い放つ。彼らはあからさまに狼狽したが、同時に俺がデッキを持っていないことを見抜いたらしく、ただの力が弱い人間だと分かってニヤリと笑った。

「ならば、力ずくでもここに――」

 ホーク・ビショップの宣言は最後まで続くことは無かった。彼の宣言の途中で、廃墟の天井から振動ともに爆破音が鳴り響き、この建物全体を揺らしたのだ。

「……リリィ!?」

「分かり……ません」

 先程から、俺とホーク・ビショップたちの一触即発の争いを無表情で眺めていたリリィに、振動で倒れないようにバランスを取りながら尋ねるものの、彼女にもこの振動の正体は分からないらしい。つまりは、俺たちの世界における地震のような物ではなく、何か人為的に起こされているものだということ……!?

 ……そしてもう一度爆破音が鳴り響くと、廃墟の天井が爆散するとともに、眩しい光が照らしてこの部屋を照らし始めた。

 いや、天井から現れたのは光だけではなく――

「デュエリストが一人、雑魚が10人……大量だなぁ!」

 ――剣を持って鎧を着込んだ、異形の怪物が一人。

「や、闇魔界の戦士だ!」

 ホーク・ビショップたちが叫ぶとともに、他の者を押しやりながら我先にと逃げようとする。だが異形の戦士――こちらの世界では《闇魔界の戦士 ダークソード》と呼ばれたモンスター――が発動した《カオス・シールド》に、退路を断たれてしまう。

「雑魚は黙って俺様のデュエルを見学してな! さぁーて……?」

 闇魔界の戦士 ダークソードは天井から俺たちのいるフロアに飛び降り、俺とリリィの前に立ちはだかった。いや、俺というよりは……デュエルディスクを持ったリリィに、か。

「俺様の名は闇魔界の軍勢が一員、《オルネッラ》! テメェらは俺様の出世の生贄になってもらおうかぁ!」

 戦士というよりはチンピラのような性格の《オルネッラ》が、リリィに対してデュエルディスクを展開する。今【機械戦士】がなく、俺に戦う力が無いことがもどかしい……!

 リリィもそれに緩慢な動作でそれに応じたものの、いつまでもデュエルディスクを展開する様子はなく、構えたまま身体が震えている。無表情な顔もよく見ると、薄くだが暗い表情に包まれている。

 彼女は――怖がっているのだ。

「どうしたぁ、早くデュエルディスクを展開しなぁ!」

「そ、そうだ! 早く追っ払っとくれ!」

 オルネッラとホーク・ビショップの二人から罵詈雑言がリリィに飛び、彼女はギュッと目を瞑りデュエルディスクを展開しようとした。……だが、その腕にもうデュエルディスクは装着されていなかった。

「規格は旧型と同じ……やれるか」

 何故なら俺が代わりに装着。そしてもう展開しているからに他ならない。……デュエルモンスターズの精霊のみにしか使えない、特別なデュエルディスクということではなく、エドが使っている物と共通規格のようだった。

「何を……してらっしゃるんですか」

「俺だって少しは腕に覚えがある。任せてくれ」

 少なくともデュエルの前に震えているよりは……とは言わないが。今このデッキが、どういったデッキなのかも分からないが……俺はここで捕まるわけにも、死ぬ訳にもいかない。

「この異世界のデュエルは……命がけなのですよ。わたしのデッキも……拾い集めたデッキで、戦力になるとは思えません」

「もうその男はデュエルディスクを展開したぁ! 外野が何を言おうが何の意味をなさないんだよぉ!」

 オルネッラが声を張り上げてリリィの忠告を掻き消す。命がけのゲーム? もう闇のゲームで経験していることだ。拾い集めたデッキ? ……そもそも俺の始めてのデッキは拾い集めたデッキだ。

「問題なんてない……!」

 半ば自分に言い聞かせるかのように呟くと、俺はリリィを巻き込まぬようにオルネッラの下へ数歩歩み寄った。……デュエルの準備はこれで完了する。

『デュエル!』

遊矢LP4000
オルネッラLP4000

 旧型のデュエルディスクで普段と勝手が違うものの、問題なくデュエルディスクとしては機能し、俺の方が先攻だと表示された。勝手が違うと言えばデッキの方が深刻だが……まずはドローしてから考えるとしよう。

「俺の先攻! ドロ――ッ!?」

 ドローしようとデッキに手を伸ばそうとしたところ、電撃のような物で弾かれてしまう。マルタンの姿をした怪物がやったような、外部からの妨害ではなく、デュエルディスク本体からの妨害だった。

「この地では……先攻にドローは出来ません。他にも……あなた達とは違うルールの筈です」

 後ろのリリィから忠告が飛んでくる。……勝手にデュエルディスクを奪っておいて、このような結果とは情けない。

 他にどのようなルールの変更があるかは分からないが、基本的には変わらないはずだ。先攻ドロー不可は、先攻を取れた身としてはかなり痛いが……いつまでもそんなことを言っている暇はない。

「俺はモンスターをセット! さらに永続魔法《タイムカプセル》を発動!」

 モンスターが一体フィールドに隠されるとともに、俺の近くに《タイムカプセル》が埋まっていく。かのカイザー亮が良く使っていた魔法カードで、確かにキーカードのサーチが目的ではあるが……このカードを発動した最大の目的は、自らのデッキの中を確認すること。

 デッキの中からキーカードを選ぶ際に、このデッキがどのようなデッキなのか分かるはずだからだ。……相手が相手なので、じっくり見てる暇はないだろうが。

「これでターンエンドだ」

 許される時間の限りでデッキを確認した後に、キーカードをタイムカプセルに封印してターンを終了する。当然ながら【機械戦士】とは似ても似つかなかったが、今はこのデッキでやるしかない……!

「俺様のターン、ドロー!」

 後は相手の腕前が、どの程度のものかに懸かっている。《闇魔界の戦士 ダークソード》と言えば、なかなかのステータスを持つ下級モンスターだが……

「俺は《ハウンド・ドラゴン》を召喚!」

 攻撃表示で召喚される黒きドラゴン。レベル3の通常モンスターとしては最大の攻撃力を誇っており、流石と言うべきか、俺がセットしたモンスターの守備力より攻撃力が高い。

「バトル! ハウンド・ドラゴンでセットモンスターにアタックぅ!」

 ハウンド・ドラゴンが接近してくるとともに、俺のフィールドに隠れていたセットモンスターが姿を現す。肌が雪のように白い魔法使いの少女だったが、あっけなくハウンド・ドラゴンに破壊されてしまう。

 しかし、ハウンド・ドラゴンの方の様子がおかしくなり……少女を破壊した顎から凍っていくと、最終的には、少女がそうであったようにセットモンスターとなってしまう。

「お前が破壊したのは《ゴーストリックの雪女》! このモンスターを破壊したモンスターは、永続的にセットモンスターとなる!」

「《ゴーストリック》……だぁ?」

 先程《タイムカプセル》で確認した際に、このデッキに投入されていたシリーズカード《ゴーストリック》。闇属性の下級モンスター群であり、自分と相手とセットするとともに、相手にダイレクトアタックを叩き込む戦術を取るカテゴリだ。

 だが、このデッキは【ゴーストリック】というにはその絶対数が足りず、あくまでもサポートに止まっているようだ。

「チッ……カードを一枚伏せ、ターンエンドだぁ!」

「俺のターン、ドロー!」

 今度はデュエルディスクから電撃などは起こらず、デッキからカードをドローする。さらに《タイムカプセル》が浮上して来るが、手札に加えることが出来るのは次なるターンだ。

「……さらにモンスターをセットして、ターンを終了する」

 《ハウンド・ドラゴン》が低い守備表示を晒している、このタイミングで攻め込んで行きたいのだが……キーカードを呼び込むことは出来ず、再びモンスターをセットすることで終わる。俺がこのデッキを使いこなしていないのもあるが、元々自ら攻め込む手段が少なすぎるようだ。

「フン。俺様のターン、ドローだぁ!」

 せっかくのチャンスに防戦一方な俺を鼻で笑いながら、オルネッラはカードをドローする。未だに判明しているのは《ハウンド・ドラゴン》のみと、敵のデッキはこちらのデッキ以上に未知数だ。

「俺は《ハウンド・ドラゴン》をリリースし、《魔装戦士 ヴァンドラ》をアドバンス召喚する!」

「……なに?」

 オルネッラが行った、セットモンスターをリリースしてのアドバンス召喚に疑問を呈したわけではなく、俺がつい疑問の声をあげたのは現れたモンスターについて。《魔装戦士 ヴァンドラ》と呼ばれるカードのことを……俺は知らなかった。

「バトル! またゴーストリックでも意味はないぜぇ、コイツはダイレクトアタックを可能とするモンスターだからなぁ! 魔装戦士 ヴァンドラでダイレクトアタックぅ!」

「……ぐあっ!」

遊矢LP4000→2000

 予想だにしない魔装戦士の一撃を受け、俺のライフポイントが早くも半分に削られる。魔装戦士というのがどんなカードか知らないが、恐らくはオルネッラのデッキは【魔装戦士】……!

「ターン終了だぁ!」

「……っ、俺のターン! ドロー!」

 ヴァンドラに受けたダメージをなんとか堪えながらも、その痛みを吹き飛ばすように気合いを込めてカードを引く。さらに、そのドローフェイズの後に、俺のフィールドに《タイムカプセル》が浮上する。

「《タイムカプセル》の効果発動。デッキから選択したカードを手札に加える。……よし、モンスターを反転召喚!」

 オルネッラはこのセットモンスターを《ゴーストリック》だと思ったようだが、残念ながらその予想は外れている。マントとシルクハットを構えながら、仕事の道具が入っているバックを構える魔法の葬儀屋――《マジカル・アンダーテイカー》だ。

「《マジカル・アンダーテイカー》のリバース効果! 墓地から魔法使い族を特殊召喚する! 蘇れ、《ゴーストリックの雪女》!」

 葬儀屋とはいってもその効果はむしろ逆。持っていたバックから、墓地に眠っていた《ゴーストリックの雪女》を目覚めさせ、墓地から特殊召喚する効果。

「レベルが低い下級モンスターばかりでぇ……!」

「レベルが低いモンスターには慣れてる……さらに《ゴーストリックの魔女》を召喚!」

 雪女とはまた違うゴーストリックの女性モンスター、《ゴーストリックの魔女》を通常召喚する。ゴーストリックたちは自身の効果により、《ゴーストリック》と名前のついたモンスターがフィールドにいなければ、表側表示で召喚することが出来ないのだ。

「そして魔女の効果! 相手モンスターを一体、セットすることが出来る。当然、ヴァンドラを裏側守備表示にさせてもらう!」

 《ゴーストリックの魔女》がその手に持つ杖を振ると、亡霊のような物が現れてヴァンドラに纏わりつき、強制的に裏側守備表示にさせてしまう。ヴァンドラは攻撃力2000のダイレクトアタッカー、という強力な効果を持つが……その守備力は僅か800。

「バトル! ゴーストリックの雪女でセットモンスターに攻撃!」

 ゴーストリックの雪女から凍える息吹が発せられ、ヴァンドラは守備の態勢のまま凍りついて破壊される。これでオルネッラのフィールドには、リバースカードが一枚のみ。

「だが破壊された、《魔装戦士 ヴァンドラ》の効果発動ぅ! ドラゴン族・魔法使い族・戦士族のいずれかの通常モンスターを、墓地から手札に加えることが出来るぅ!」

 ヴァンドラの効果により先程破壊された、《ハウンド・ドラゴン》がオルネッラの手札に戻る。魔装戦士は、通常モンスターをサポートする効果を持っているのだろうか。

 ……そんなことを考えるのは後だ。《ハウンド・ドラゴン》が手札に戻ったからと言って、オルネッラのフィールドががら空きなのに変わりはない……!

「魔女とアンダーテイカーでダイレクトアタック!」

「この程度ぅ……!」

オルネッラLP4000→2400

 この程度だとオルネッラも言う通り、やはり火力は足りていない。しかしダメージには変わりなく、そのまま油断せずに守りを固めてターンを終了する。

「カードを三枚伏せ、ターンエンドだ!」

「お前のエンドフェイズに、伏せてあった《凡人の施し》を発動ぅ! 二枚ドローし、手札の《ハウンド・ドラゴン》を除外する!」

 オルネッラが伏せていたリバースカードは《凡人の施し》。ヴァンドラの効果で手札に戻した《ハウンド・ドラゴン》を、そのままドローコストへと変換する。

「……改めて、ターンエンドだ」

 オルネッラがエンドフェイズ時にカードを発動したことにより、エンドフェイズの巻き戻しが発生するが……特に何が出来るわけでもない。そのまま改めてターンを終了する。

「俺様のターン、ドローぅ!」

 俺のフィールドには、攻撃表示の《マジカル・アンダーテイカー》と《ゴーストリックの雪女》と《ゴーストリックの魔女》。いずれもステータスが低い下級モンスターだが、それを守るように三枚のリバースカードが背後に控えている。

 オルネッラのフィールドには何もないものの、《凡人の施し》による手札交換を果たしつつ、未だに手札を温存している。先の二枚のドローによって、攻める準備が出来ているかどうかで、俺の運命は決まる。

「俺は《魔装戦士 テライガー》を召喚!」

 新たに召喚される魔装戦士。ヴァンドラが風を纏う魔装戦士だったのならば、こちらはさしずめ大地の魔装戦士ということだろうか。

「魔装戦士 テライガーは手札から守備表示で、通常モンスターを特殊召喚出来る! 来い、《ハウンド・ドラゴン》!」

 再び現れる《ハウンド・ドラゴン》だったが、その攻撃力を活かすことが出来ない守備表示。ただの通常モンスターでチューナーでもなく、《ハウンド・ドラゴン》自体は警戒する必要はない。

「さらに魔法カード《戦線復活の代償》を発動! ハウンド・ドラゴンをリリースし、墓地から《魔装戦士 ヴァンドラ》を特殊召喚する!」

 ただ《ハウンド・ドラゴン》を特殊召喚しただけで終わるわけもなく、《ハウンド・ドラゴン》をコストに更なる魔法カードを発動する。通常モンスターを墓地に送ることで、あの死者蘇生と同様の効果を発揮する魔法カード――《戦線復活の代償》により、ゴーストリックたちの連携に敗れた《魔装戦士 ヴァンドラ》が、再び蘇生されたのだった。

「これで終わりだなぁ、バトル! 魔装戦士 ヴァンドラでダイレクトアタックだぁ!」

 風の属性を持つ魔装戦士、その効果は攻撃力2000によるダイレクトアタック。先のターンで俺のライフの半分を削った一撃が、今再び繰り返されそうとしていた。

「させるか! リバースカード《皆既日蝕の書》を発動! フィールド場の全てのモンスターを、裏側守備表示にする!」

 《太陽の書》と《月の書》に並ぶ表示形式の書の一つ、《皆既日蝕の書》。その効果はフィールド全域に及び、全てのモンスターを守備表示にすることで、攻撃をストップすることが出来る。

「チッ、また裏側守備表示かぁ!? リバースカードを一枚伏せてターンエンドだぁ!」

「……いや、お前のバトルフェイズ時にもう一枚のリバースカード《グリード》を発動する!」

 《タイムカプセル》によって手札に加えていた、このデッキの中で一番ダメージを与えられるカードだったカードこと、罠カード《グリード》。その効果は発動しただけでは発生することはなく、発動しても何も起きないオルネッラは疑問で首を捻る。

「だから何だってんだぁ!?」

「……さらに、《皆既日蝕の書》の効果! 相手のセットモンスターを全て反転して表側守備表示にし、その数だけ相手はカードをドローする!」

 太陽は皆既日蝕で隠れてようともまた必ず現れて、そのフィールドに輝きをもたらす。それを体現したかのようなこのカードは、一度モンスターをセット、その後に表側守備表示にし、相手に表側守備表示のモンスターの数だけドローさせる効果を持つ。

「ヘッ、じゃあ二枚ドローさせて貰うかねぇ!」

 もちろん、ただ《攻撃の無力化》のように防御用に使うには、この相手にドローさせるデメリットがあまりにも足を引っ張る。だがそのドローさせる、という効果こそがこのカードの活用方法でもあるのだから。

「《グリード》の効果発動! ドローフェイズ以外でドローした時、相手にその数×500ポイントのダメージを与える!」

オルネッラLP2400→1400

「なぁにぃ!?」

 《皆既日蝕の書》で二枚ドローしたオルネッラに《グリード》が反応し、ドローした二枚のカードから1000ポイントのダメージを与える。これでオルネッラのライフは、俺のライフを少しだけだが下回る。

「俺のターン、ドロー!」

 《グリード》の効果によって相手のライフポイントにダメージを与え、ドローさせた相手の攻撃をゴーストリックたちを始めとする魔法使いで防ぎつつ、《皆既日蝕の書》などによってバーンダメージを狙う。――それが、見た限りはこのデッキのコンセプトだったが……【グリードバーン】としては作り込みが足りないにもかかわらず、ダメージ源は《グリード》に頼りきり。

 どちらかと言えば中途半端な構成だったが……何とか戦えそうな状況になって何よりだ。しかし、《グリード》に頼りきりだけでは遅すぎる。

「セットモンスターをリリースし、《暗黒の眠りを誘うルシファー》を召喚する!」

 《皆既日蝕の書》により、オルネッラのフィールドの魔装戦士達は、いずれも脆い守備力を曝したままだ。攻め込む手始めとして、黒いマントに覆われた魔術師がアドバンス召喚される。

「《暗黒の眠りを誘うルシファー》が召喚に成功した時、相手モンスター一体を攻撃出来なくする! 効果の対象はヴァンドラ!」

 黒いマントの奥に輝く緑色の眼が、相手のフィールドにいるヴァンドラを貫く。ダイレクトアタッカーであるヴァンドラの攻撃を封じ込めるとともに、まだ魔術師たちの展開は終わらない。

「二体のモンスターをリバース! 《ゴーストリックの魔女》! 《マジカル・アンダーテイカー》!」

 二体のモンスターが反転召喚されるとともに、さらに《マジカル・アンダーテイカー》のリバース効果が発動される。《暗黒の眠りを誘うルシファー》のリリースによって墓地に送られた、《ゴーストリックの雪女》が墓地から特殊召喚されると同時に――

 ――フィールド全域に《つり天井》が降り注いだ。

「リバースカードオープン! 《つり天井》だぁ!」

 その原因は無論オルネッラのリバースカード。フィールド場のモンスターが四体以上の時、全てのモンスターを破壊する罠カードの前に、展開していた魔術師たちは全滅してしまう。

「ヴァンドラの効果で墓地から《ハウンド・ドラゴン》を手札に加えるぅ!」

 《つり天井》によって破壊されたため、先程も発動した《魔装戦士 ヴァンドラ》の効果が発動し、《ハウンド・ドラゴン》が手札へと戻る。だが、同じく破壊された《魔装戦士 テライガー》は何の効果も発動しなかったため、魔装戦士の共通効果という訳ではないらしい。

「すまない……魔法カード《一時休戦》を発動し、ターンエンド」

 破壊された魔術師たちを想いながらも、次なるターンへと備える魔法カードを発動する。《一時休戦》はお互いに一枚ドローしつつ、次の相手ターンのエンドフェイズまで、どちらもダメージを受けないという魔法カード。たとえモンスターがいなくとも、これでダメージを受ける心配はない。

 お互いに一枚ドローしたことにより、俺のフィールドの罠カード《グリード》の効果が発動するが、同じく《一時休戦》によってダメージは無効化される。《グリード》の無意味な発動が終わり、オルネッラのターンへと移る。

「俺様のターン、ドロー!」

 俺のフィールドにはリバースカードが一枚に、永続罠《グリード》が存在している。対するオルネッラのフィールドには、自身の《つり天井》によって何もないものの、オルネッラ自身の《凡人の施し》や、俺のカードによる《皆既日蝕の書》と《一時休戦》により、大量の手札を抱え込んでいる。

「俺は《カップ・オブ・エース》を発動! コイントスで表が出た時二枚ドローするぜぇ!」

 ソリッドビジョンに映し出されたコインが表を示し、よってオルネッラは二枚のカードをドローする。《グリード》の効果発動が確定した瞬間でもあったものの、《一時休戦》によってそのダメージは発揮されない。

 そして《カップ・オブ・エース》で良いカードを引いたのか、オルネッラは狂ったように笑いだした後、こちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。

「ヘヘヘ……驚かせてやるぜぇ異世界人! 手札から《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》を、それぞれPゾーンに置くぅ!」

 オルネッラが装着していた旧型のデュエルディスク。その両側から新たにカードを置くスペースが現れ、そこにオルネッラが手札から二枚のカードを置く。

「なっ……!?」

 俺の疑問の声とともにデュエルディスクから浮かび上がっていく、黒い魔術師が浮かぶ赤色の光と白い魔術師が浮かぶ青色の光。どちらも対照的で美しく、その境界線から白い光が溢れ出す……!

「ペンデュラム召喚! 現れろ《魔装戦士》たちぃ! 《ハウンド・ドラゴン》!」

 ――そして白い境界線から現れたのは、四属性を持つ魔装戦士たちと、それに付き従う黒き竜《ハウンド・ドラゴン》。まるで幻でも見たかのように一瞬にして五体のモンスターが、オルネッラのフィールドへと集結していた。

「ペンデュラム……召喚……!?」

 オルネッラが言うところのペンデュラム召喚は終わったようで、デュエルディスクから現れていた赤色の光と青色の光、白い境界線は収束して消えていく。だが、新たにデュエルディスクから現れた『Pゾーン』は健在であり、そこに発動している二体の《魔術師》もまた、健在である。

 未知なる召喚方法に言葉も出ない俺が傑作だったのか、オルネッラが再び狂ったように笑いだす。その笑いようはこちらを挑発しているようで、自然とオルネッラを睨みつけてしまう。

「驚いてるなぁ! 良い表情してるなぁ! ――カードを一枚伏せ、ターンエンドだぁ!」

 《カップ・オブ・エース》の効果の二枚ドローにより、《グリード》の効果が発動するが、《一時休戦》によって今この瞬間まで効果ダメージはない。

「……俺のターン。ドロー!」

 カードを引いて次なる行動へと入るより早く、今起きたことを冷静に考える。オルネッラの挑発しているような、狂った笑い声を耳からシャットアウト。

 《ペンデュラム召喚》。始めてみることになる未知の召喚方法だったが、本当に幻のようにそこにいない訳ではなければ……未知の場所から出て来たという訳ではない。オルネッラは、溜め込んでいた手札を全て消費しており、その《ペンデュラム召喚》をされたモンスターは、恐らくは全て普通のモンスターだろう。ならば、あのモンスターたちは手札から召喚されたのだと分かる。魔装戦士たちだけならば、魔装戦士たち自身の効果だとも考えるのだが、《ハウンド・ドラゴン》の存在からその可能性は低い。

 情報量が少なすぎて何が分かる訳でもないが、とにかく、未知の召喚方法だろうと、ルールに則った召喚方法だということ。そして方法はどうあれ、オルネッラのフィールドには五体のモンスターが召喚され、俺のフィールドにモンスターはいないということ……!

「モンスターをセット! さらにリバースカードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

「俺様のターン! ドロー!」

 今の自分に出来る精一杯の防御。セットモンスターが一体に、リバースカードが三枚という鉄壁の布陣。……五体のモンスターを相手にしていては、少し頼りないが。

 そしてオルネッラは――デュエルをしていれば分かることではあるが――、三枚のリバースカードに躊躇するような性格では……ない。

「トドメだぁ! 魔装戦士 ヴァンドラでダイレクトアタック!」

 ――ならばそこを突く。リバースカードを警戒しないならば、そのリバースカードによって決着をつける……!

「リバースカード、《皆既日蝕の書》を発動!」

「二枚目だとぉ!?」

 先のターンで発動された速攻魔法《皆既日蝕の書》が発動され、再びフィールドの全てのモンスターを日蝕のようにセットしていく。通常モンスターである《ハウンド・ドラゴン》はもちろん、魔法カードに耐性がある魔装戦士もいないらしく、全て例外なく《皆既日蝕の書》にセットされて――

「なぁんてなぁ! こっちもリバースカード、オープン! 《ポールポジション》!」

 オルネッラのリバースカードが開示されるとともに、ヴァンドラがセットされていく魔装戦士たちの一番内側に移動する。セットされた魔装戦士たちが邪魔で、ヴァンドラにまで《皆既日蝕の書》が届かない……!

「俺様のフィールドに《ポールポジション》がある限りぃ、攻撃力が一番高いモンスターは魔法の効果を受けないんだぜぇ!」

 永続罠《ポールポジション》の効果により、攻撃力が最も高いヴァンドラには魔法効果耐性が備わる。それは《皆既日蝕の書》だろうと、魔法カードならば例外はない。

「今度こそトドメだぁ! ヴァンドラでダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」

 再びダイレクトアタックを仕掛けてくるヴァンドラを、俺の前に展開したカードの束が何とか防いでくれる。ヴァンドラの猛攻に対し、ギリギリ首の皮一枚繋がった、といったところか……

「そしてエンドフェイズ! 《皆既日蝕の書》の効果が発動する!」

 《皆既日蝕の書》によって裏側守備表示となっていた、ヴァンドラ以外の三体の魔装戦士とハウンド・ドラゴンが再びその姿を守備表示で見せる。表側表示になったのは四体と、《皆既日蝕の書》は脅威の四枚ドローをオルネッラに強いる。

「そしてエンドフェイズ時に《グリード》の効果が起動する!」

 起動した《グリード》は、ドローしていれば発動したプレイヤーなど関係ないかのように、俺とオルネッラ双方に光線を飛ばす。俺は《ガード・ブロック》によって一枚ドローしたため、500ダメージ。

 だがオルネッラは《皆既日蝕の書》により四枚ドローしたため、500ダメージどころではすまない。2000ポイントのダメージがオルネッラを襲う……!

「これで……終わりだ!」

 オルネッラのライフは残り1400ポイント。よって、このバーンダメージを受ければこのデュエルは決着がつく。それが分かっているのだろう、オルネッラは最後までドローするのを躊躇っていたが……ドローしないことは許されない。

 ……だが肝心の《グリード》による一撃は、オルネッラを庇うように現れた、半透明のモンスターによって防がれた。

「……残念だったなぁ! 《ハネワタ》の効果発動だよぉ!」

 手札から捨てることで効果ダメージを無効にするチューナーモンスター、《ハネワタ》――今の四枚のドローで引いたらしく、俺の渾身の一撃は、たった一枚によって防がれてしまう。そして《ハネワタ》は《グリード》自体を無効にした訳ではなく、オルネッラへのダメージを無効化したに過ぎないので……俺へのダメージは無効化されない。

「くっ……」

遊矢LP2000→1500

 《グリード》によるダメージは俺が受けたものの、まだ《グリード》は健在……ではなかった。俺のフィールドにあるはずの《グリード》のカードを、蛇を模した魔装戦士が破壊していたのである。

「《魔装戦士 ハイドロータス》のリバース効果だぁ! 相手の魔法・罠を破壊するぜぇ! ……リバースさせてくれてありがとうよぉ、ドローもなぁ!」

 ……キーカードたる《グリード》も破壊されてしまい、俺の反撃は《皆既日蝕の書》で四枚ドローさせるだけで終わる。その状況を見て、オルネッラが歓喜に打ち振るえるがごとく笑いだした。

「……エンドか?」

「あぁ、なんだって?」

 けたたましく笑っていたオルネッラだったが、思った以上に冷静な俺を見て笑うのを止めるとともに、訝しげに俺の方を見ながら聞き返した。

「ターン終了か、って聞いてるんだ」

「チッ……ターンエンドだよ!」

 今はまだオルネッラのエンドフェイズ時、ターン終了宣言をしないとデュエルが進行しない。やはり冷静な俺を見て疑問そうな表情を見せるものの、簡単な話だ。オルネッラの挑発のような笑い声は、もう俺には届かない。

「俺のターン、ドロー! ……その良く喋る口……黙らせてやるよ!」

 何故なら、このターンでデュエル終わらせるから。オルネッラの口を黙らせてやるからだ……!

「モンスターを反転召喚! 《センジュ・ゴッド》!」

 千住観音像を模した金色の仏像が姿を現し、その効果を発動する。召喚か反転召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターをサーチする効果であり、手札に儀式魔法があればそれだけで儀式召喚が可能な状況となる。

「手札から儀式魔法《ドリアードの儀式》を発動! センジュ・ゴッドをリリースし、《精霊術士 ドリアード》を儀式召喚!」

 満を持して儀式召喚されるのは、四つの属性を持つ儀式モンスター《精霊術士 ドリアード》。金色の髪を揺らしながら、エレメントを操る魔術師として降臨する。

「さらに《右手に盾を左手に剣を》を発動! フィールドにいるモンスターの攻守を逆転させる!」

 魔法カード《右手に盾を左手に剣を》よって、精霊術士 ドリアードの攻撃力は1400ポイントとなる。しかし、他の魔装戦士とハウンド・ドラゴンは守備表示のため、破壊してもダメージはなく、ヴァンドラは《ポールポジション》の効果によって魔法効果を受けない。

 一見意味のない魔法カードの発動。だが必ず意味はある……そして、この儀式モンスターを見て、目をつぶって二人の友人たちの顔を思い出す。このモンスターと同じく、女性方儀式召喚使いの彼女のことを。このモンスターと同じく、属性を司るHEROを使う彼のことを。

 明日香を探しだして二人で十代に謝らなければ。そのためには――

「リバースカード、オープン! 《風林火山》!」

 ――このようなところで止まっている場合ではない……!

「風林火山だとっ!?」

 俺のフィールドにデュエルの序盤から伏せてあったリバースカードに対し、オルネッラの驚愕の声が廃虚に響き渡っていく。それと同時に精霊術士 ドリアードには、四つの属性の力が貯まっていく。

 三つの強力な効果の、いずれかを選ぶことが出来る罠カード《風林火山》だが、効果に比してその発動条件は厳しい。だが、その発動条件である四属性を揃える、という条件は……《精霊術士 ドリアード》が一人で賄える条件でもある。

「《風林火山》第一の効果発動! 相手モンスターを全て破壊する!」

 吹き荒れる疾風、逆巻く水流、燃え盛る火炎、荒ぶる大地。四つの属性を持つ強大なエネルギーが《精霊術士 ドリアード》に集まっていき、光線という形となってオルネッラの魔装戦士へと襲いかかっていく。《ポールポジション》があろうと関係なく、魔装戦士とハウンド・ドラゴンは、精霊術士 ドリアードの一撃によって呆気なく壊滅したのだった。

 ……よって今フィールドにいるモンスターは、精霊術士 ドリアードただ一人。俺はそのまま容赦なく、デュエルの決着をつけるべくダイレクトアタックを命ずる。《右手に盾を左手に剣を》により、精霊術士 ドリアードの攻撃力は1400ポイント……!

「バトル! 精霊術士 ドリアードでダイレクトアタック!」

「や、止めてくれぇ……うわあぁぁぁ!」

 大げさに怯えるオルネッラに対して、もはや身を守るモンスターがいない彼には、精霊術士 ドリアードの放った光弾が直撃する。慣れないデッキで危ないところだったが……ジャストキルでオルネッラのライフポイントは0となるのだった。

「あぁぁぁ……」

 しかしデュエルが決着するなり、ライフポイントが0になったオルネッラの様子がおかしくなっていく。その場から苦しみながら動かなくなり、身体が足から徐々に消えていっている。

「おい、どうし……」

「待って……ください」

 ついつい、オルネッラに近づいて行こうとしてしまった自分を、後ろに控えていたリリィが引き止める。その面もちは神妙な表情をしつつ、俺の隣に並び立った。

「あれがデュエルに負けた者の……末路です」

 リリィは全く感情を感じさせない声色のまま、苦しむオルネッラのことを指差した。その様子を見て俺は、してはいけない最悪の想像をしてしまう。

「まさか……」

「はい……この世界でデュエルに負けた者は……死に、ます」

 否定してほしかったように震えた声の俺の質問を、リリィが幻想を打ち砕くかのような答えを示す。つまり俺は、デュエルで命のやりとりをしただけでなく……対戦相手を、殺したのだ。

「あ……」

 リリィがデュエル前に怖がっていたのも、オルネッラがトドメを刺す前に怯えていたのも当然だ、この異世界でデュエルに負けた者は何か声をかけるより速く、その姿は消えていってしまうのだから。……この世界で死んだ者は、果たしてどこへ行くのだろうか。

 何も分からない。異世界のことも、明日香のことも、十代のことも、マルタンの姿をした怪物のことも、機械戦士のことも、アカデミアのことも、この世界のデュエルのことも。隣に立っているリリィが何者なのかすら、俺には分からないままだ。

 だが、こんな異世界だろうと分かることもある。絶対に忘れられない……『明日香を探してアカデミアに帰る』という俺の目的こそがそうだ。

 ……俺はしばし、その目的を心に刻みながらも、オルネッラが消えていった場所を眺めていた。

 
 

 
後書き
ずっと使って来た機械戦士としばしの別れ。書いてる方にしても違和感しかない次第。

新たなデッキですが、流石にこのデッキのままではなく、遊矢とともに魔法使い族を中心に強化されていく予定です。

……何かアイデアがあればお願いします(笑) 

 

―振り子の担い手―

「お前のせいだ!」

 洞穴のようなモンスターたちの隠れ家に、そんな叫び声が木霊した。その叫び声の主は、ここのリーダー格である《本の精霊 ホーク・ビショップ》であり、彼に糾弾されている者は……この俺、黒崎遊矢だった。闇魔界の戦士 ダークソードこと、オルネッラと名乗った敵を倒した直後、彼は突如としてそんな言葉を俺に叫んだのだ。

「お前がここに来たせいで、闇魔界の連中が来たんだよ!」

 激昂したホーク・ビショップの叫びに呼応して、他の精霊たちも口々に俺の事を非難する言葉を吐いていく……隣に立った、リリィを除いて。

「お前が目覚めたら闇魔界の連中が来たんだ……言い逃れは出来ないぞ!」

「ちょ……ちょっと待ってくれ! 俺はあいつ等とは何の関係もない!」

 そう非難の声が叫ばれていた俺は、突然の出来事に困惑してしまい、今の事態を理解するまで言い逃れが遅れてしまう。俺は無実だと証明するべく、両手を挙げて関係がないことを叫ぶが……その動きすらも、彼らには警戒されてしまう。

 俺と、俺が付けているリリィから借りたデュエルディスクを見る精霊たちははっきりと脅える表情を見せている。俺が何をしようと彼らには届かず、彼らにとって俺は、『平穏を打ち破った危険人物』としか移らない……

「待って……ください。彼は、私たちを、守って……くれました」

「うるさい! そいつを連れてきたお前もグルだろう!」

 見かねてリリィが仲裁に入るものの、さらにそのリリィすらも槍玉に上げられてしまう。もはや彼らとは、まともに話は通じない……それほどまでに熱狂している。

 そして俺は理解する。彼らは誰かを悪役にしないと、止まることは出来ないのだと。いくら俺がオルネッラから――結果的には――みんなを守ったとしても、その俺を悪役に、敵にしないといけないほど、彼らの精神は磨り減っているのだと……

「出ていけ、疫病神!」

「違い……ます。彼は……」

 さらにヒートアップしようとしている精霊たちに、リリィは諦めずに説得を続けるものの、俺はその言葉を遮って彼女の前に出た。これ以上行ってしまえば、彼女もまた俺と同じように、悪役になってしまうだろうから。

「分かった、俺はこっから出て行く。だが、そいつは関係ない」

 わざと普段よりぶっきらぼうに、リリィの方を見ずに精霊たちに言い放つ。彼女は助けてくれた恩人ではあるのだから、こんなことに巻き込んではいけない。

 ホーク・ビショップはまだ何か言おうとはしたものの、俺の腕のデュエルディスクを見て言葉を飲み込むと、黙って他の精霊たちに梯子を用意させていた。オルネッラが派手に開けた頭上の穴から出て行け、ということだろう。

「遊矢、様……」

 精霊たちが天井に梯子を掛けている間に、背後にいるリリィがおずおずと話しかけてくる。……そんな風に様付けされるのも、どこか懐かしい遠い出来事のようだ。レイは、みんなは元の世界に戻ることが出来ただろうか、と考えつつ、リリィの方を向き直った。

「助けてくれてありがとう。……悪いが、このデュエルディスクとデッキ、借りるぜ」

 ――返せるかどうかは分からないけれど――という最後の言葉は言わずに。彼女は無表情ながらも、罪悪感を持った視線で俺を見つめて来る。

「あなたは……」

「おい、準備が出来たぞ」

 何かを言おうとしたリリィの言葉に重なって、ホーク・ビショップの威圧的な言葉が重なった。オルネッラとデュエルする以前には、この隠れ家から出て行ってはいけない、と俺を制止していたが、今は一刻も早く出て行って欲しいらしい。もちろん、そんな考えを言葉にはせず、リリィにはあえて何も言わずに梯子を登っていく。

 精霊たちが用意していたが、何らこちらの世界の梯子と変わらない、と思いつつ、天井まで登りきって外に出ようとすると――

「待っ……て!」

 ――下から聞こえて来た、そんなリリィの言葉に後ろ髪が引かれたものの……俺は隠れ家から外に出て行った。俺が外に出て行くと同時に、あったはずの天井の穴は綺麗さっぱり無くなっている。精霊たちの力で直したのか、あるように見せかけた幻なのかもしれないが……試す意味もなく、ここに帰る意味もない。

「…………」

 今はもう、出て行った場所よりこれからのことを考えなくては。

 まずは、せっかくの高所にいるのだから、この世界のことを俯瞰する。やはり一際目立つのが、そびえ立っている中央に巨大な城……恐らく、あそこが闇魔界の本拠地だろう。そして、今俺が立っている場所も含め、周囲には岩場ばかりで、とても入り組んだ場所になっている。この岩場や、かつて住んでいた廃虚に、闇魔界の軍勢ではない……狩られる者たちは隠れ住んでいるのだろう。

 そして同じく、異世界に飛ばされたはずの明日香のこと。この世界の支配者である闇魔界の軍勢は、理由はともかくデュエリスト狩りをしているという……ならば大なり小なり、明日香のことを彼らが知っている可能性は高い。……腕の立つ人間のデュエリストとしてか、倒れていた人間のデュエリストとしてかは、ともかくてして。

 と、なると。まずは、自分なりの隠れ家を見つけなくては――

「ほう。デュエリスト、か……」

 突如として発せられた声に驚きつつも、声のした方向にデュエルディスクを向けながら、身体をそちらに対して警戒させる。油断していた、こうも早く闇魔界の軍勢に見つかってしまうとは。

「オルネッラがパトロールに行って帰って来ないと思えば……ふむ」

 新しく現れた闇魔界の戦士は、冷静にこちらを値踏みするように観察してくる。……いや、目の前にいる敵は《闇魔界の戦士》ではない。戦士よりも豪華な鎧、戦士よりも強者たる佇まい、戦士よりも目立つ気配――あらゆることで戦士より格上の存在。

 俺たちの世界のモンスター名で言うならば、《闇魔界の戦士長 ダークソード》。戦士たちを束ねる長にして、ダークソード系列における最新・最強のモンスターである。

 オーラからして、ただの戦士であったオルネッラとは違う戦士長を前に、俺は……その岩場から入り組んだ路地に飛び降りた。早い話が逃げたのだ。

「なるほど、良い手だな」

 いきなり敵前逃亡をした俺を見逃してくれる、ということはなく、戦士長は悠然と岩場を飛び移って俺のことを追い詰める。俺も狭いところから狭いところへ、出来るだけ見失うように逃げているものの、これは振り切れそうにない……!

「ふん!」

 それでも全力疾走で逃げていた俺に易々と追いつき、戦士長も岩場から路地裏の俺の前へと飛び降りてくる。敵の方が勝手知ったる場所で、かつ敵の方が足が速いのだ、この結果は当然だろう。……だが、先程の隠れ家から離れることは出来た。

「まずは君を、デュエルで拘束させてもらう」

 どことなく礼儀さすら感じさせる、老紳士のような口調で戦士長はデュエルディスクを展開する。口調は老人のようではあるが、こちらも油断はせずに息を整えつつデュエルディスクを展開する。

 ……ここまで戦士長を誘き出すのが、俺に出来るリリィへの、最大の恩返し。もちろん、あそこでデュエルをしていれば目立ちすぎる、という理由もあるが……今は関係がないことだ。今関係があることは一つ、戦士長とのデュエルに関することのみ……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
戦士長LP4000

「俺の先攻!」

 リリィからの借り物のデュエルディスクが、俺に先攻だということを表示する。先攻にドローすることは出来ないが。

「俺はモンスターをセット、さらにカードを二枚伏せてターンエンド!」

 同じくリリィから借りたこのデッキとしては、安定した初手の布陣。自分から攻撃しないデッキはあまり得意ではないが、守りに入るデッキとしては、なかなかの手札だった。

「私のターン、ドロー……」

 リリィのデッキのことよりも重要なのは戦士長のデッキ。……さらに言うならば、オルネッラのデッキに投入されていた、『ペンデュラム召喚』のことである。

 二枚のカードから手札のモンスターを一度に特殊召喚する、こちらの世界にはなかった未知の召喚方法。オルネッラはあまり使いこなせてはいなかったが、その召喚方法が脅威なことには違いない。出来ることならば、戦士長に使われる前に決着をつけたいところだが……

「私はまず、そうだな。コレを使わせてもらおう」

 ――そう言って、戦士長が二枚俺に見せたカードは、モンスターカードと魔法カードが合わさったようなカード――オルネッラ戦の時にも見た、ペンデュラムモンスター!

「私はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

「いきなり……だと!」

 驚愕する俺の前でオルネッラ戦と同じように、二体の魔術師が入った赤いスケールと青いスケールが天井へと伸びていき、光の軌跡を描きながら振り子が揺れる。

 そして、振り子によって描かれたアークによって出現した魔法陣から、光となって三体のモンスターが相手フィールドに並び立つ……!

「現れろ、ガジェット族!」

 ……光とともに現れた三体のモンスターは、『ガジェット』と呼ばれるシリーズカード。レッド、イエロー、グリーンの三色の人型機械族だった。オルネッラのように上級モンスターは現れなかったものの、三種のガジェットはそのガジェットをガジェットたらしめる効果が起動する。

「ガジェット族が召喚・特殊召喚に成功した時、特定のガジェット族を手札にサーチする。よって、三種のガジェット族を手札に加えさせてもらうよ。さて……バトルだ!」

 フィールドに現れた際に後続をサーチする、という単純かつ強力な効果により、ペンデュラム召喚で無くなっていた戦士長の手札に、三枚ものカードが加わっていく。つまり、俺が次のターンにガジェットを破壊しようと、ペンデュラム召喚で更なるガジェット族が現れるだけだ。

 しかし、手札にサーチしたガジェット族を、戦士長は召喚せずにバトルを開始した。ペンデュラム召喚を行っただけで、まだ通常召喚を残しているはずなのに。手札にガジェット族を貯めるのが目的か、それとも他に何か目的が……

「レッド・ガジェットでセットモンスターを攻撃!」

 いや、次のターンや戦士長の目的を考える余裕などないほど、俺はガジェット族の物量に圧倒されていた。まずは、赤いガジェット族が俺のセットモンスターを攻撃する――その正体は《ゴーストリックの人形》、その守備力は1200。僅かに100の差ではあったものの、ゴーストリックの人形は容易く破壊されてしまう。

「おっと、これはレッド・ガジェットで攻撃して正解だったようだ。続いて、イエロー・ガジェットでダイレクトアタック!」

「ぐっ……!」

遊矢LP4000→2800

 戦士長の言う通り、イエロー・ガジェットから攻撃してくれれば、ゴーストリックの人形の守備力でも耐えることが出来たのだが。そうそう上手いことは行かず、イエロー・ガジェットのダイレクトアタックが俺に炸裂した。

「最後に、グリーン・ガジェットでダイレクトアタック!」

「……そいつは通さない! リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、一枚カードをドローする!」

 伏せられた二枚のうち一枚のリバースカード、《ガード・ブロック》が発動し、無数のカードの束がグリーン・ガジェットの攻撃を止め、その中の一枚が俺の手札へと加わる。何とか三体の攻撃は防げたらしい。

「流石、防いだか。私は永続魔法《補給部隊》を発動してターンを終了しよう」

「俺のターン、ドロー!」

 オルネッラのフィールドは一ターンにして、その状況を一変させていた。三種のガジェット族に、天に浮かんでいる二体のペンデュラムモンスター、そして発動しただけで沈黙を続ける永続魔法《補給部隊》。

 このデッキに、戦士長のデッキほどの展開力もデッキパワーはないが……その紳士ぶった足元を掬うべく、こちらも負けじとモンスターを召喚する。

「俺は《連弾の魔術師》を召喚!」

 四種類の火球を携えた、マントを被った魔法使いを召喚する。そのバーン効果は、俺の手札に通常魔法がないために発動することが出来ないが……単純な攻撃力ならば、こちらの方が上回っている。その優秀なサーチ効果とは引き換えに、ガジェット族のステータスは低いのだから。

「バトル! 連弾の魔術師でイエロー・ガジェットを攻撃!」

 更に言うならば、戦士長のフィールドにはリバースカードもない。ガジェット族の中で攻撃力が最も低いイエロー・ガジェットに狙いを定め、連弾の魔術師はその手のひらから火球を発射すると、イエロー・ガジェットを貫いた。

戦士長LP4000→3600

 僅か400のダメージ、戦士長は大して気にもしない。だが、イエロー・ガジェットが破壊されて墓地に送られた際、沈黙を続けていた永続魔法《補給部隊》が反応した。

「さて、永続魔法《補給部隊》の効果を発動させてもらおう。一ターンに一度、私のモンスターが破壊された時、カードを一枚ドローするのだよ」

 墓地に送られたイエロー・ガジェットと引き換えに、戦士長はカードを一枚ドローする。……引き換えとは言うが、イエロー・ガジェットは召喚した際の効果で、自らを召喚した際のアドバンテージを補っている為……全く引き換えになっていないのが現状だが。

 そして、これまで戦士長が使ったカードから、戦士長のデッキのコンセプトが伺える。――ペンデュラム召喚で三種のガジェットを途切れず召喚し、ガジェット族の効果と《補給部隊》でその手札消費をカバーし、そのまま優秀な下級モンスターの物量で圧倒する、という。さらにペンデュラム召喚の特性上、切り札となる上級モンスターの召喚をすることも出来る……!

 しかしどんなデッキだろうと、必ずどこかに付け入るべき隙は存在する……!

「《補給部隊》にチェーンして永続罠《グリード》を発動し、ターンエンド!」

 その時は発動しただけだが……エンドフェイズにこのカードはプレイヤーに対し、無差別に牙を向く。

「ぬぅっ!?」

戦士長LP3600→3100

 初手に伏せた《ガード・ブロック》ではない方のリバースカードが発動し、エンドフェイズ時にその効果が起動し戦士長に対して500ポイントのバーンダメージを与える。このカードこそが、戦士長のガジェット族に対する、このデッキにおける付け入るべき隙……!

「《グリード》はプレイヤーが効果でドローする度に、500ポイントのダメージを与える。つまり……」

「戦闘でモンスターが破壊される度に500ダメージ、か……」

 俺の台詞を引き継ぎ戦士長が、ダメージの原因となったドローしたカードと永続魔法《補給部隊》を見ながら呟く。戦士長の口振りからそうだろうとは予測していたが、やはり《補給部隊》のドロー効果は強制効果。いくら《グリード》が発動していようとも、戦闘でモンスターが破壊されればドローをしなくてはならない。

「ふん、久々に骨のある相手のようだな……私のターン、ドロー!」

 戦士長が気合いを入れてカードをドローした瞬間、フィールドにそびえ立っていた二体の魔術師が作り出す赤と青のスケールが再び輝きだし、天空に魔法陣が刻まれていく。

 ――ペンデュラム召喚の合図だ。

「ペンデュラムにより現れろ、《グリーン・ガジェット》! 《起動兵士デッドリボルバー》!」

 二回目のペンデュラム召喚によって現れたのは、フィールドにもう一体いる《グリーン・ガジェット》に、《起動兵士デッドリボルバー》。そして《グリーン・ガジェット》の効果により、《レッド・ガジェット》が手札に加えられるが、ドローではないので《グリード》は反応しない。

 さらに新たにペンデュラム召喚された《起動兵士デッドリボルバー》は、同系統のガジェットのサポート《機動砦 ストロング・ホールド》をひと回り小さくしたようなモンスターで、ガジェット族の火力不足を下級モンスターでありながら補うことを可能としている。

 起動兵士デッドリボルバーの中央にポッカリと空いた穴に、レッド・ガジェットがハマって歯車のように回転すると、デッドリボルバーが本来の能力で起動する。その攻撃力は、ガジェット族を遥かに超えた2000。

「バトル……と行きたいところだが。先に発動しておこう、《ナイト・ショット》!」

 戦士長の背後の空間から一筋の光が走ったと思った瞬間、俺が伏せていたリバースカードが打ち抜かれて破壊されてしまう。その速さには、チェーンを組んで発動する暇もない。

「《ナイト・ショット》はセットカードを破壊する、発動を封じながらね。さて、バトルだ! デッドリボルバーで連弾の魔術師を攻撃……ん?」

 リバースカードを破壊して心置きなく攻撃しようとするが、戦士長の思惑とは違いデッドリボルバーは動こうとはしない。いや、正確には動こうとはしないのではなく、どうやってもその場から動くことは出来なかった。

 何故ならば、起動兵士デッドリボルバーに……いや、戦士長のフィールドには、亡霊たちが蠢き機械の動作を止めていたからだ。所狭しと亡霊たちは暴れあい、デッドリボルバーは攻撃どころではない。

「これは……?」

「……お前がさっき破壊したカードの効果さ」

 墓地から一枚の罠カード――先程戦士長の《ナイト・ショット》によって墓地に送られていた、《ゴーストリック・ナイト》のカードを戦士長へと見せつける。セットカードを破壊したからと言って、必ずしも、その攻撃が通るわけではないということを。

「《ゴーストリック・ナイト》は相手に破壊された時、相手モンスターの攻撃を封じる」

「くくく、なるほど。カードを一枚伏せ、ターンエンドとしよう」

 起動兵士デッドリボルバーを始めとするモンスターの総攻撃が、結果的に自分の魔法カードによって失敗に終わったというのに、戦士長は楽しそうにくつくつと笑う。そんな態度に苛立ちながらも、まずはドローするべくデッキに手を伸ばす。

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドは、主力モンスターとなっている《連弾の魔術師》にダメージ源の永続罠《グリード》。ライフポイントは残り2800で、手札は今ドローしたカードを含めて三枚。

 ……対する戦士長のフィールドには、グリーン・ガジェットが二体にレッド・ガジェット、起動兵士デッドリボルバー。ペンデュラムモンスターである《魔術師》が二体に、モンスターが破壊されたら一枚ガードをドローする《補給部隊》にリバースカードが一枚。ライフポイントは3100で、手札は残り二枚……だが、ガジェット族と補給部隊の特性上、ほぼその手札は尽きることはない。

 ……要するに不利な状況ではあるが、絶望的という訳ではない。一つが永続罠《グリード》と永続魔法《補給部隊》の存在で、その効果が合わさって、戦士長はモンスターが破壊されたら500ダメージを受けることとなる。さらに、確かにガジェット族は脅威だが、そこまで単体で通用するステータスではない。故に、連弾の魔術師でもガジェット族とは充分に渡り合える。

 ……そして最後に、この《連弾の魔術師》というモンスターの存在、だ。

「俺は魔法カード《ヒュグロの魔導書》を発動!」

 俺が新たに発動したのは『魔導書』というカテゴリーのカードの一種の、《ヒュグロの魔導書》。その書に記された効果は単純明快、自分フィールド場の魔法使い族モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせることだ。俺のフィールドには《連弾の魔術師》しかいないため、当然ながら連弾の魔術師の攻撃力が1000ポイント上昇する。

 更にこれだけでは終わらない。攻撃力を上げるというコンバットトリックらしい効果だが、残念ながら《ヒュグロの魔導書》は通常魔法、コンバットトリックには使えない。だが、今回の場合はそれだから良い……通常魔法が発動したことにより、連弾の魔術師の効果が発動する。

「連弾の魔術師の効果発動! 通常魔法を発動した時、相手に400ポイントのダメージを与える!」

「ほう……?」

戦士長LP3100→2700

 連弾の魔術師が持つ火球の一つが戦士長へと炸裂する。戦士長はダメージを受けたことより、その効果の方に興味を示したようだったが、しっかりとライフポイントを削って、俺と戦士長のライフが微々たる差ではあるが逆転する。

「バトル! 連弾の魔術師で起動兵士デッドリボルバーを攻撃!」

 力を与える魔導書こと《ヒュグロの魔導書》の効果で攻撃力が上がり、連弾の魔術師は巨大な火球を作り出す。起動兵士デッドリボルバーも負けじと連弾の魔術師に向かって来るが、発射された巨大な火球には対抗することは出来ず、はめ込んでいた《レッド・ガジェット》を遺して破壊された。

戦士長LP2700→2100

 更に、《起動兵士デッドリボルバー》を破壊しただけでは終わらない。《ヒュグロの魔導書》には攻撃力を上げる効果だけでなく、相手モンスターを破壊した際に発動する効果がある。

「《ヒュグロの魔導書》が適応されたモンスターが相手モンスターを破壊した時、デッキから魔導書を手札に加えることが出来る!」

「だが私も《補給部隊》の効果で、一枚ドローさせてもらうとしよう」

 《起動兵士デッドリボルバー》が破壊されたことにより《補給部隊》の効果が発動し、戦士長はカードを一枚ドローする。その効果と同じように力の魔導書は、更なる魔導書をデッキから呼び込む効果をも持つ。俺がデッキから手札に加えるカードは、新たな魔導書を作り出す力を持つ《グリモの魔導書》。

「メイン2、《グリモの魔導書》の効果を発動! デッキから更に魔導書を手札に加える……そして通常魔法が発動したことにより、連弾の魔術師の効果が起動する!」

 《グリモの魔導書》、その効果はまたもや魔導書を呼び込むこと。一枚のデッキ圧縮と《連弾の魔術師》の効果の発動を伴い、更なる魔導書を手札に加えつつ、連弾の魔術師が戦士長に火球を放つ。この効果の恐ろしいところは、一ターンに何度となく発動することが出来る、ということだ。

戦士長LP2100→1600

「……モンスターとカードを一枚ずつ伏せ、ターンエンド」

 しかし《グリモの魔導書》で手札に加えたカードは通常魔法ではなく、《連弾の魔術師》の効果はここで打ち止め。だが、《起動兵士デッドリボルバー》が破壊されたことにより起動した、永続罠《グリード》のバーン効果が戦士長を襲う。

戦士長LP1600→1100

 俺も《魔導書》の効果で手札に魔法カードを加えてはいたが、それはあくまで手札に加えていただけで、《グリード》の発動トリガーとなるドローではない。《グリード》と《連弾の魔術師》のバーン効果により、戦士長のライフは大きく削られ1100ポイントとなったものの、戦士長の顔は楽しそうな笑みのままだった。

「私のターン、ドロー……《貪欲な壷》を発動!」

「なにっ!?」

 汎用ドローカード《貪欲な壷》……そのカードの使用自体は、墓地にモンスターが貯まりやすいガジェット族では、特に驚くには値しない。俺が驚いたのは、そのカードの発動について……《貪欲な壷》を発動したということは、《グリード》の効果によって1000ポイントのバーンダメージを受けると、確定したようなものなのだから。

「死ぬ気か……!?」

「ふふふ……更に伏せていた永続罠《スパーク・ブレイカー》を発動し、その効果を発動する!」

 俺が冷や汗をかきながら問うた質問には不吉な笑みで返し、戦士長は伏せていたリバースカードを発動すると、《レッド・ガジェット》がそのカードから放たれた雷により破壊された。それもそのはず、《スパーク・ブレイカー》の効果は、一ターンに一度自分のモンスターを破壊するという、普通のデッキで使う分には意味のない効果なのだから。

 しかし、今現在この局面で《スパーク・ブレイカー》の発動は意味のある発動。どんな方法であれモンスターが破壊された、ということは――

「クク、更に《補給部隊》の効果によって一枚ドロー!」

 ――自分フィールドのモンスターの破壊をトリガーとする、永続魔法《補給部隊》の効果が発動するということ。更に言うならば《補給部隊》の一枚ドロー効果に反応し、エンドフェイズに《グリード》の効果が発動するということ。

 戦士長の残るライフポイントは1100、三枚のドローを果たした今、エンドフェイズ時に《グリード》の効果によって1500のバーンダメージを受ける……!

「先に行っておくと、私の手札に《サイクロン》みたいなカードはないよ。安心してくれて良い」

 俺がたどり着くであろう結論を、先に戦士長は自分の口で封じ込める。《グリード》が発動するタイミングはエンドフェイズのため、先に《サイクロン》に類するカードで破壊しておけば、《グリード》のバーンダメージは発生しないからだ。

「じゃあ、何でわざわざドローを……」

 命が懸かっているというのに、わざわざ死にに行くようなその行動が理解出来ない……そんな俺の問いかけに対し、愚問だとばかりに鼻で笑うと、戦士長はやはりニヤリと笑いながら答えた。

「こちらが死ぬか相手が死ぬか……ドキドキするだろう?」

 ――その台詞と共に天空に掛かる光のアークが再始動し、ペンデュラムが揺れるとともに、魔法陣が光輝いていく。三回目となるペンデュラム召喚と、その戦士長の言葉から……奴は、このターンで決着をつける気だと悟る。

「ペンデュラム召喚――《マシンナーズ・フォートレス》!」

 そして天空の魔法陣からペンデュラム召喚されたのは、機械仕掛けの要塞こと《マシンナーズ・フォートレス》――それが三体。ペンデュラム召喚の本領である、大型モンスターの大量召喚が存分に発揮されていた。

 《マシンナーズ・フォートレス》。攻撃力は2500と、最上級モンスターとしては少し物足りない数値ではあるが、この状況ではその攻撃力でも充分に脅威。機械族モンスターを捨てて特殊召喚する効果を始め、低い攻撃力を補って余りあるその優秀な効果は、戦士長のデッキである【ガジェット】――いや、【マシンガジェ】に相応しい。

 ……《グリード》が発動するエンドフェイズまで、その《マシンナーズ・フォートレス》三体と《グリーン・ガジェット》二体の攻撃に耐え抜かなくてはならない。加えて、《マシンナーズ・フォートレス》を絶対に破壊してはならない、という条件付きでだ。何故かというと《マシンナーズ・フォートレス》の第二の効果として、破壊時に相手のカードを一枚道連れにする効果がある……その効果で《グリード》を破壊されてしまえば、俺にはもはや勝ち目はない。

 俺に残された手段は、攻撃表示の《連弾の魔術師》、セットモンスター、一枚のリバースカード。これらで、戦士長の総攻撃から自身のライフと《グリード》を守り抜くこと……!

「どうだ? この生きるか死ぬかの瀬戸際……わくわくするだろう?」

「……全くもって伝わらないね」

 今の自分の気持ちが伝わらないことに落胆するポーズを取る。こちらとしては、今からのことの緊張状態でそれどころではなく――戦士長は面白くなさそうにしながらも、笑って機械族たちに攻撃を命じる。

「バトル! まずはマシンナーズ・フォートレスで連弾の魔術師に攻撃!」

 遂に始まった運命のバトルフェイズ――第一の攻撃は、マシンナーズ・フォートレスの一体からの、こちらの戦線をずっと支えてきた《連弾の魔術師》への攻撃。

「速攻魔法《ゲーテの魔導書》を発動!」

 《グリモの魔導書》で手札に加えていた新たな魔導書が発動すると、墓地から今まで発動した二枚の魔導書がフィールドに現れ、《ゲーテの魔導書》に吸い込まれていく。《ゲーテの魔導書》は、魔導書を生贄にし新たな力を発揮する魔導書……吸い込まれた魔導書は、二つ。

「墓地の魔導書を二枚除外することで、攻撃してきたマシンナーズ・フォートレスを裏側守備表示にする!」

「ほう……ならば二体目のマシンナーズ・フォートレスで連弾の魔術師に攻撃!」

 一体目のマシンナーズ・フォートレスは、魔導書を二つ生贄にして得た《ゲーテの魔導書》の効果により、裏側守備表示として無効にしたが……もはやリバースカードがない俺には、二体目のマシンナーズ・フォートレスを止める術はない。マシンナーズ・フォートレスが装備した巨大な大砲に、先程までの活躍が嘘のように、連弾の魔術師は呆気なく破壊されてしまう。

「ぐっ……」

遊矢LP2800→1900

「続いて、グリーン・ガジェットでセットモンスターに攻撃!」

 マシンナーズ・フォートレスの大砲の衝撃波が収まらないうちに、グリーン・ガジェットがセットモンスターを殴りつける。隠れていた黒い服を着ていた魔法使いは、その攻撃にあえなく破壊されてしまうが……その魔法使いが持っていたバックは遺り、パカッとマジックのように開いた。

「破壊されたのは《マジカル・アンダーテイカー》! リバース効果により、《連弾の魔術師》を墓地から、守備表示で特殊召喚する!」

 《マジカル・アンダーテイカー》が遺したバックから、再び守備表示で特殊召喚される。だがその守備力は1200……せめてグリーン・ガジェットを止められたのならば良かったが、その守備力ではそれも適わない。

「二体目のグリーン・ガジェットで、連弾の魔術師を攻撃!」

 墓地からフィールドに舞い戻ったというのに、またもや連弾の魔術師は破壊されてしまい、俺のフィールドはモンスターどころかリバースカードもない、まさにがら空きという状態。

 ――対する戦士長のフィールドには、まだ攻撃をしていない《マシンナーズ・フォートレス》が残っているにもかかわらず。

「トドメだ……マシンナーズ・フォートレスで、ダイレクトアタック!」

 《連弾の魔術師》をいとも簡単に破壊したその大砲の一撃が、生身の俺に対して向けられる。明らかなオーバーキルと、デュエルに負けたら死ぬという事実から、俺はその場に恐怖で立ったまま動けずにいた。

 ガコン、と弾丸を装填する音がした瞬間、人間の身体など容易く引き裂く質量を持った弾丸が、《マシンナーズ・フォートレス》の大砲から俺のライフを0にすべく発射され――

 ――ようとした瞬間、眩い光がマシンナーズ・フォートレスの目の前で輝き、機械でも目は眩むのか大砲の狙いを俺から外し、意味もなくペンデュラムスケールが浮かぶ上空へと、その強力な弾丸を撃ちだした。

「……むっ!?」

 戦士長の驚愕の声とともに、マシンナーズ・フォートレスの前で輝いた光は俺のフィールドへと戻り、モンスターとしてセットされる。マシンナーズ・フォートレスが攻撃して来る前後で違うのは、俺の手札が減っていることと、フィールドにモンスターがセットされているということ。

「マシンナーズ・フォートレスの攻撃時、手札から《ゴーストリック・ランタン》を特殊召喚した。ゴーストリック・ランタンは、直接攻撃時に相手モンスターの攻撃を無効にした後、フィールドにセットされる」

 確かにフィールドに何もないが、残された手段は手札にある。《ゴーストリック・ランタン》は《速攻のかかし》と同じように、手札から誘発し相手の攻撃を防ぐモンスターであり、俺に残された最後の手札でもあった。

 だがこれで、戦士長の五体のモンスターは全て攻撃を完了し、俺のフィールドには永続罠《グリード》が健在……エンドフェイズ時に、戦士長に向けて1500ポイントのダメージを与えることが確定する。

 ……そんな状況でも戦士長は……笑っていた。心底、楽しそうに。

「クックック……最後に残された手札が逆転の手、というのは有るものだよ……本当に……」

 その戦士長の言葉は、最初は俺の《ゴーストリック・ランタン》に向けられたものかと思った。確かに、フィールドに何もない状況からの手札誘発で攻撃を耐え、そして勝利を得る……というのは逆転の一手としても差し支えはない。

 だがそこで俺は気づいた。戦士長の手札は三枚――内二枚は《マシンナーズ・フォートレス》の効果のコストに使う予定だったのだろう、ガジェット族が二体。……ならば残りの一枚は?

「私は永続魔法《マスドライバー》を発動!」

 『残り一枚、敵にとって未知の逆転のカード』が発動されるとともに、戦士長の横に巨大な機械仕掛けのマスドライバーが用意される。マシンナーズ・フォートレスの大砲よりも巨大なソレは、モンスターを敵に撃ち出すためのマシーンだ。

「《マスドライバー》の効果! モンスター一体をリリースすることで、相手ライフに400ポイントのダメージを与える! グリーン・ガジェットをリリース!」

「があっ!」

遊矢LP1900→1500

 セットされた《ゴーストリック・ランタン》をすり抜けて、マスドライバーにセットされた《グリーン・ガジェット》が俺に痛烈な一撃を与えて自壊する。

「そら、二発目のマスドライバーだ!」

遊矢LP1500→1100

 先程と同じく《マスドライバー》に発射された《グリーン・ガジェット》が、一度目の攻撃を食らってよろめいていた俺に直撃し、俺はそのまま近くの壁に叫び声を出す余裕もなく叩きつけられる。

 これから起きることはもう変えられない……手札もなくフィールドにも何もなく、もちろん墓地にも何もない。俺の残りのライフポイントは1100で、一度に400ポイントのダメージを与えるマスドライバーは後、三回の起動が出来る。

 わざわざ懇切丁寧に説明するまでもない。この絶望的に状況に――

「《マスドライバー》の三回目の効果を発動!」

遊矢LP1100→700

 ――対抗策はない。そのことを証明するように、三回目のマスドライバーも無抵抗で直撃する。グリーン・ガジェットよりも質量の重いマシンナーズ・フォートレスの一撃を受け、寄りかかっていた壁も耐えられずに崩壊し、そのまま俺も吹き飛んでいく。

 そしてまたもや固い岩盤に当たる……ことはなく、吹き飛んでいった俺を柔らかい何かが受け止めた。痛みに耐えながら目を開けると、そこには白い服を着た女性が――

「明日、香……?」

「違……います。でも……」

 目を開けると自分は女性に抱き留められているようで、一瞬だけ明日香の顔が頭の中に浮かんだものの……すぐに彼女ではないと悟る。雰囲気が、抱き留めている力が、何もかも彼女とは違う。

「助けに……来ました」

「リ、リィ……!?」

 追い出された隠れ家であった場所で別れた、白衣に眼鏡をかけたカードの精霊、リリィ。その腕には異世界に来るときに壊れた俺のデュエルディスクが装着され、そのリリィの背後には小柄なドラゴンが鎮座していた。

「乗って……しっかり、掴まってて……下さい」

 慣れない手つきで怪我をした俺を小柄な竜に乗せると、自身もその竜に跨がると、竜は乗った二人がちゃんと落ちないようにしているか確認したような動作をした後に、大空に舞うべく翼をはためかせた。

「貴様……デュエル中に逃げるつもりか!」

 マスドライバーによって破壊された壁の向こうから、怒りの形相の戦士長が走り抜けてくる。だが戦士長がここに到着するより早く、俺たちを乗せた小柄な竜は空へと逃げていく。

「逃がさん! マスドライバーの効果を発動!」

 大空へと逃げていく俺たちに対し、戦士長は四度目の《マスドライバー》を発動する。マシンナーズ・フォートレスがマスドライバーによって高速で発射され、俺たちが乗る竜へと、とても回避が出来そうにないスピードで襲いかかってくる。

「ぼ、《防御輪》……発動っ……!」

 リリィが装着している壊れた俺のデュエルディスクに、効果ダメージを無効とする速攻魔法《防御輪》を発動する。デュエル外からの干渉も可能なのか、理由は分からないが竜の後方に《防御輪》が現れ、マスドライバーにより発射されたマシンナーズ・フォートレスを防ぎきり、その隙に竜は戦士長の死角の方へ飛んでいき……どうやら、逃げ切ることが出来たようだ。

 その証拠に、デュエルが中断されたということか、発動していた《防御輪》と《グリード》とセットされた《ゴーストリック・ランタン》が消え、天空に描かれていたペンデュラムスケールと魔法陣も消えていた。そしてリリィがつけていた、俺が使っていたデュエルディスクもまた、役目を終えたかのように沈黙する。……デュエル・アカデミアに入学してからずっと使って来たが、最後まで助けてくれてありがとうと、心の中でデュエルディスクに礼を言う。

 そして言葉では、またも助けられてしまった彼女に対して。

「ありがとうリリィ……また、助けられた」

「いえ……あなたは、ここで死んじゃ……いけない人ですから」

 《防御輪》のカードを壊れたデュエルディスクに戻すと、リリィは落ちないように竜のことを掴みながら、器用にこちらを向いた。もちろん死にたくはないものの……死んじゃいけない人、というのはどういうことかと聞こうとしたところ、リリィの口が先に開いた。

「お願いが……あります。あなたは……このまま、覇王を倒す……」

 彼女がはっきりと言葉を紡ぐ。俺の目を見据えながら、真摯に。

「救世主に……なってくれませんか」

 

 

―勇ましき戦士達―

 闇魔界の戦士長とのデュエルに敗れた俺は、この異世界に倒れていた俺を見つけてくれた、カードの精霊《リリィ》が乗った竜に助けられた。ライフポイントが0になる、という事態からは避けられたものの、あのままでは確実に、俺は戦士長の攻撃に倒れていた。デュエルから逃げるなんて、デュエリストらしくない……などと考えている余裕などない。何故ならば、この世界でデュエルに負ければ、この世界から消滅してしまうのだから。

 そうなればどこの世界に行くかは、この世界のカードの精霊たちにも分かっていないらしい。……まさか、俺たちの世界に帰れるという事はないだろう。まだ俺は消えるわけにはいかない……十代に謝罪し、明日香を見つけだすまでは。

 そう意気込んで、精霊たちの避難所から出て行ったは良いものの……結果は惨敗。明日香を見つけだすどころか、最初に戦った相手に敗北する始末だ……それがたとえ、相手が闇魔界の最強の戦士だとしても。

 そして竜に乗って戦士長から逃げだした時、竜を操るリリィは彼女特有のたどたどしい口調のまま、俺にこう頼んで来たのだった――『覇王を倒す救世主になって欲しい』と。

「救世主……?」

 俺はリリィとともに《漆黒の闘竜》――確か闇魔界の戦士とのユニオンで、効果を発揮するモンスターだったか――に跨がりつつ、リリィの問いかけに応えた。漆黒の闘竜は敵から見つかり難いように、建物の影から建物の影を縫うように飛んでいて、あたかもジェットコースターのような様相を呈していたが、スピードは出ていないためあまり苦ではない。

「はい……救世主、です」

 リリィも《漆黒の闘竜》を慣れない様子で操りながらも、俺の言葉に小さながらもはっきりとした様子で、救世主と言ったのがが聞き間違いではないと、俺に言い聞かせるように話した。俺はそのリリィの言葉に、頭をカリカリと掻きながら返答する。

「救世主なんて資格は俺にはない。この世界を救うなんて目的はないし、そんな力もない」

 俺の目的はこの世界にいる筈の明日香を見つけだし、デュエルアカデミアがある元の世界に帰ること――この世界の実情への同情やリリィへの恩などはあるし、その目的の過程で闇魔界の軍勢とデュエルをすることはあるだろうが、救世主になどなる気はさらさらない。

「世界を救うなんて……しなくて良いんです。でも、その力を……私たちに貸して頂けませんか?」

「私……『たち』?」

 リリィの返答は何やら引っかかる言い方であった。彼女もまた、あの避難所にいるだけの精霊だと思っていたが、その口ぶりでは……闇魔界の軍勢と戦う者たちの、仲間であるような。俺のその疑惑の視線に気づいたのか、リリィは顔を俯かせて、言いにくそうにしながらも答えてくれた。

「異世界、から来た、戦士族の皆さんが……戦っています。話す機会を逃してしまい……申し訳、ありません」

 どうやら、闇魔界の軍勢と戦っていて、組織として行動出来ている者もいるらしい。……考えてみれば、当たり前のことではあるが。一刻も早く、あの避難所から出て行かなくてはならなかったからか、リリィはそのような組織があることを言うタイミングを逃してしまったようだが、それについては『気にしなくて良い』と言っておく。

「なら、この竜が向かってるのは……」

 異世界から来た戦士族……俺たちの世界でも、フリード軍やゴブリン部隊のように、ストーリーが設定されているモンスター達も存在する。あのような戦士たちの集団なのだろうか……?

「はい……その皆さんのところ、です。そこに行けば……そのデッキ、も改良出来る、と思います」

 リリィから半ば無理やり貸してもらった、俺が今装着しているデュエルディスクとデッキを指差しながら、彼女はそう言った。……戦士長に負けたのはデッキパワーのせい、などと言うつもりは毛頭ないが、確かにその申し出はありがたかった。リリィ本人も寄せ集めと言った通り、【グリードバーン】を主格にした魔法使い族にしては、かなり中途半端な構成と言わざるを得ないデッキだからだ。

 リリィの腕に申し訳程度に装着されたままの、俺がアカデミアで使っていたデュエルディスクと、今まで考えていたこのリリィのデッキのことを思うと……やはり、俺の頭の中には【機械戦士】のことが思い浮かんだ。十代とのデュエルに敗れてユベルの攻撃を受けた折に、デュエルディスクからバラまかれてしまった。ずっと共にデュエルしてきた彼らがいない――それは俺のデュエルの実力だけでなく、精神的にも多大な影響を与えていた。

「きちんと……掴まっていて、下さい!」

 そんなことを考えていると、突如としてリリィの叫び声が響く。その大きい声ではないが透き通った良い声に反応し、漆黒の闘竜にしっかり掴まると、リリィはそれを確認した後に竜を大きく迂回させ、上空から来た火炎弾を避けた。

 《火竜の火炎弾》――という魔法カードが頭の中に浮かび、火炎弾が来た上空を見てみると、俺たちが乗っている《漆黒の闘竜》と同じようなドラゴンが飛翔してこちらを睥睨していた。続けて二発目の火炎弾が発射されるが、リリィの操る漆黒の闘竜は器用にその火炎弾を回避してみせる。

「捲けるか!?」

 俺はリリィにそう言いながらも、これから俺たちがどう行動すれば良いのか悟っていた。上空にいるために良く見えないが、俺たちを襲っているのは《騎竜》――この《漆黒の闘竜》の上位種である。逃げることが出来ないならば、あの騎竜を打倒するしかないが、《火竜の火炎弾》のような魔法カードは俺もリリィも持ち合わせていない。ならば、ここから逃げることが出来る方法は一つ。

「捲く……ことは難しい、です。でも、なんとか……」

「いや。俺に、デュエルをさせてくれ」

 そう、こうなればあの《騎竜》から逃れる術は、俺があの竜に乗っているであろう操舵手に、デュエルで勝利するしかない。リリィもそれを分かっているだろうが、彼女は火炎弾を避けるだけしか行動を取ろうとしない。

「やっぱり、そんなデッキでデュエル、なんて……無謀です。私のせいで、あなたを殺したく、なんて……」

「救世主に誘ってる時点で、そんなことは今更だ」

 他人に死んで欲しくなどあるはずもなく、自らの身を省みずに助け出すために行動する。だが自分には力はないため、その行動とは裏腹に、誰かを救世主として戦わせなくてはならない。そのジレンマがリリィを苦しめている……それぐらいは見てとれた。彼女は戦士を送り出すにしては、優しすぎる性格だと分かった気がする。

「大丈夫。あんたが救世主にしようとしてる奴を、信じてくれ」

 デュエルディスクを展開させ、上空の《騎竜》を見上げながらリリィに力強く言い放つ。こんなところで戦士長でもない相手に負けるようならば、どだい救世主など務まらない、とばかりに。

「分かり……ました。その、頑張って下さい……!」

 火炎弾を撃ってきた瞬間を見計らい、遂にリリィ操る《漆黒の闘竜》が、火炎弾を避けながら上空へと向かって飛翔する。《漆黒の闘竜》も待っていたとばかりに飛び上がり、即座に《騎竜》の上を取った。

 あちらの乗っている竜の方が上位種にもかかわらず、あっさり上空が取れたことを訝しんでいたが、その理由はすぐに分かった。《騎竜》を駆り俺たちを狙っていた、《闇魔界の竜騎士 ダークソード》もデュエルディスクの展開を終わらせていた。最初から敵は、こちらとのデュエルを望んでいたのだ。

 俺も《漆黒の闘竜》に掴まりながらデュエルの準備を完了すると、あちらの竜騎士もニヤリと笑ってデュエルの準備を完了させた。

『デュエル!』

遊矢LP4000
竜騎士LP4000

 こちらから先制攻撃をしたようなシチュエーションだったが、俺のデュエルディスクに表示されたのは後攻。自ら攻めに行くタイプのデッキでもなし、ここは相手のデッキの様子見をさせてもらおう。

「私の先攻。モンスターをセットし、カードを三枚伏せてターンを終了する」

 気取った口調でカードをドローした竜騎士だったが、その布陣は守備一辺倒。合計四枚のカードをセットしてターンを終了し、そのターンを後攻である俺に譲る。

「俺のターン、ドロー!」

 さっきも言ったが、このデッキは自分から攻めにいけるデッキではない……だが、相手のデッキタイプが分からない以上、このままこちらも守備に回るのは危険。俺は《ゴーストリック》シリーズの一体を、手札からデュエルディスクにセットする。

「俺はモンスターをセットし、《太陽の書》を発動! 《ゴーストリックの魔女》を反転召喚!」

 黒を基調とした、杖を持った金色の髪をした魔法使いの少女がフィールドに降り立った。モンスターを裏側守備表示にする効果はあるが、その効果は今は意味を成さない。まずは様子見として、セットモンスターに攻撃をしてもらう。

「バトル! ゴーストリックの魔女で、セットモンスターに攻撃!」

 竜騎士のフィールドに伏せられた三枚のリバースカード、そのいずれかによってゴーストリックの魔女の攻撃は防がれる……と思っていたのだが、その予想に反してゴーストリックの魔女の魔法はセットモンスターに直撃する。その魔法は、セットモンスターであった宝箱の姿をしたモンスターの姿を一瞬だけさらけ出し、そのまま墓地へと送っていった。

「破壊されたのは《暗黒のミミックLV1》。よって私は、カードを一枚ドローする」

 こちらの世界では珍しい部類に入る、レベルアップモンスターの一種である《暗黒のミミック》シリーズ。万丈目の《アームド・ドラゴン》のように、レベルアップするごとに強力な効果や攻撃力を持ち合わせていく、という訳ではなく、最高でもそのシリーズのレベルは3。だが、そのドロー効果は見ようによっては、《アームド・ドラゴン》シリーズより厄介なもの。

「……カードを二枚セットして、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」

 さらに、《暗黒のミミック》シリーズは単体で活躍できるほどの性能はなく、他のカテゴリーのサポートのために活用される。つまり、ゴーストリックの魔女で攻撃した目的の一つ、竜騎士のデッキを見極めるには至らない。

「私はスタンバイフェイズ、《エンジェル・リフト》を発動し、墓地から《暗黒のミミックLV1》を特殊召喚する!」

 低レベルモンスター蘇生カードにより、先程《ゴーストリックの魔女》に破壊された《暗黒のミミックLV1》が即座に復活するとともに、さらに竜騎士は手札から魔法カードを発動する。未だに彼のスタンバイフェイズは続いており、ならばその魔法カードは速攻魔法。

「速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動!《暗黒のミミックLV1》を、デッキから更に二体特殊召喚させてもらおう!」

「……俺は《ゴーストリックの魔女》を更にもう一体、特殊召喚する」

 竜騎士の手札から発動された魔法カードは、俺にも馴染み深い《地獄の暴走召喚》。その効果はもはや説明不要で、デッキから更に二体の《暗黒のミミックLV1》が特殊召喚される。デメリット効果により、こちらにももう一体の《ゴーストリックの魔女》が特殊召喚されたが、あちらはスタンバイフェイズに効果を発揮するレベルアップモンスター……!

「フッ……《暗黒のミミックLV1》の効果により、レベルアップ! デッキから現れろ、《暗黒のミミックLV3》!」

 《暗黒のミミックLV1》がレベルアップすることにより、更にその宝箱に模した外見だけは荘厳な物になっていく。ステータスはLV1の際とあまり変わりなく、このレベルアップもLV3で打ち止めだ。

「これが私の勝利への第一歩……! バトルだ、《暗黒のミミックLV3》!」

「迎撃しろ、《ゴーストリックの魔女》!」

 そう勇んで叫ぶものの、出来る事ならば迎撃して欲しくはない――《暗黒のミミックLV3》の攻撃力は、レベルアップをしたとしても僅かに1000。ゴーストリックの魔女には惜しくも及ばない。だが、《暗黒のミミックLV3》は戦闘破壊された際に効果が発動されるモンスターであり、《ゴーストリックの魔女》の低い攻撃力はむしろ好都合。

「バトルする瞬間、二枚のリバースカードを発動する!」

 ……そして、そんな俺の予測を竜騎士は更に上を行くべく、二枚のリバースカードを発動した。

「ダブルリバースカード《アルケミー・サイクル》&《スピリットバリア》!」

 気取った竜騎士が格好付けながら、その伏せられていた二枚のリバースカードが俺へと姿を見せつける。戦闘ダメージを無効にする伏せカード《スピリットバリア》は、戦士長も使用していたこともあって予測出来ていた。だが問題は、同時に発動された《アルケミー・サイクル》……!

「《アルケミー・サイクル》は、自分のモンスターの攻撃力を0にする代わりに、破壊された時に一枚ドローする効果を付与する。さあ、戦いを続行せよ!」

 ただでさえ攻撃力が1000と低い《暗黒のミミックLV3》だったが、竜騎士本人が使用した《アルケミー・サイクル》により、バトル中にもかかわらず、その攻撃力は0となってしまう。もちろん《ゴーストリックの魔女》にすら手も足も出ず、《暗黒のミミックLV3》は魔法によって破壊されてしまうが、その戦闘ダメージは《スピリットバリア》に防がれてしまう。

「《暗黒のミミックLV3》の効果……レベルアップしたこのモンスターが戦闘破壊された時、二枚ドロー! 更に《アルケミー・サイクル》が適応されているため、もう一枚ドロー!」

 《暗黒のミミックLV3》の、レベルアップした際に戦闘破壊されると二枚ドローする、という効果に《アルケミー・サイクル》の一枚ドロー。この二枚を併せ竜騎士は、脅威の三枚ドロー……いや、残り二体の《暗黒のミミックLV3》も同じように特攻を果たしたため、そのドローした枚数は計九枚にもなる。

「フハハハハ! ハハハハハハハハ!」

 このコンボに使用した《エンジェル・リフト》や《地獄の暴走召喚》の分も引いても、その程度は誤差になる九枚のドローによって竜騎士はご満悦のようで、ひとしきり高笑いした後に、二枚のカードを俺に見せつけるように発動する。

「メインフェイズ2……私はスケール8の《時読みの魔術師》に、スケール1の《星読みの魔術師》をセッティング!」

 ――やはり発動される二枚のペンデュラムモンスター。大量展開がメインのペンデュラム召喚において、手札の消費率は通常のデッキ以上である。戦士長は、特殊召喚した際にサーチ効果が発動する《ガジェット》と、《補給部隊》を併せることで、その手札消費を抑えていた。この竜騎士は、《暗黒のミミック》シリーズによって手札を補充することにより、ペンデュラムモンスターを手札に呼び込むとともに、ペンデュラム召喚をするモンスターをもドローした。

 二体の魔術師が赤と青の光を発すると、空中に発生していく魔法陣から、三体の光がフィールドに降り立った。

「三体の《魔貨物車両 ボコイチ》をペンデュラム召喚!」

 何が来るかと身構えていた俺の前に現れたモンスターたちは、下級かつ通常モンスターである《魔貨物車両 ボコイチ》。ステータスだけならば、それこそ先の《暗黒のミミック》にすら及ばない、とるに足らないモンスターである。

「私は未だ通常召喚をしていない。モンスターをセットし、カードを二枚伏せてターンエンド」

 バトルフェイズは《暗黒のミミックLV3》の自爆特攻で終わっており、更にカードを二枚セットしたのみで、竜騎士は不気味にターンを終了する。

「俺のターン、ドロー!」

 しかし、竜騎士がセットしたカードはおおよその検討はついていた。《魔貨物車両 ボコイチ》がフィールドに並んだ時、リバースすることにより大量のドローを果たすことが出来る、《魔装機関車 デコイチ》――このカードに間違いない。

「俺は《ゴーストリックの雪女》を召喚!」

 《魔装機関車 デコイチ》の効果は、フィールドの《魔貨物車両 ボコイチ》の数だけ、カードをドローすることが出来る効果。ならば、ペンデュラム召喚された《魔貨物車両 ボコイチ》の数を減らすべく、新たなゴーストリックの魔法使いがフィールドに召喚された。だが、《魔装機関車 デコイチ》――だと思われるモンスター――がセットされた際に、リバースカードがもう二枚伏せられた。これはもちろん、《魔貨物車両 ボコイチ》を守るためのカードだろう。わざわざ《魔貨物車両 ボコイチ》を、攻撃表示でペンデュラム召喚したのも、罠だというあからさまな証。……《スピリットバリア》があるので、攻撃表示でも特に問題はないと踏んだのかもしれないが。

「バトル! ゴーストリックの雪女で、魔貨物車両 ボコイチに攻撃!」

 そう分かってはいても、俺の手札にはそう都合よく魔法・罠カードを破壊する効果を持つカードはない。だが、《魔貨物車両 ボコイチ》を放置しては、次の竜騎士のターンで四枚のドローを許してしまうため、攻撃をしない訳にはいかない。

 どのような罠が来るか、警戒しながらゴーストリックの雪女の攻撃を見届けていると、ゴーストリックの雪女の攻撃がボコイチに届く前に時空の穴へと吸い込まれていく。

「伏せていた、《攻撃の無力化》を発動しよう……」

 竜騎士が余裕しゃくしゃくと言った様子で《攻撃の無力化》を発動するが、防がれてしまうことは予想通り、特に驚くべきことでもない。むしろ、発動されたのが《攻撃の無力化》でありがたかったぐらいだ。そして、戦闘で破壊できないのであれば、他の手段で止めるだけだ。

「メイン2、俺は《闇の護封剣》を発動!」

 俺が発動した魔法カードより現れた、黒色に鈍く輝く剣が竜騎士のフィールドの《魔貨物車両 ボコイチ》を包み込み、三体のボコイチは一旦この天空のフィールドから消えていく。もちろん破壊した訳ではなく、ただセット状態にしただけだったが、セット状態にしておけば《魔装機関車 デコイチ》のリバース効果は十全に効果を発揮しない。

「更に三体のゴーストリックの魔法使いたちの効果を発動! 一ターンに一度、裏側守備表示に表示形式を変更出来る!」

 一ターン目は、竜騎士のデッキの様子見も兼ねて発動しなかった――そして裏目に出て、《地獄の暴走召喚》と自爆特攻を食らった――《ゴーストリック》シリーズにおける共通の効果。自身の表示形式を、裏側守備表示にすることが出来る、という《サイクル・リバースモンスター》のようなモンスター効果である。本来ならば、この裏側守備表示という状態を活かして戦うカテゴリーなのだが、この魔法使いたちにはそこまでの力はない。

「カードを二枚伏せて、ターンを終了する!」

 しかし裏側守備表示ならば、ボコイチたちをリリースして大型モンスターを召喚されようが、貫通効果を持ってさえいなければ、ダメージを受けることはない。……俺が心配しているのは、どちらかと言うと上級モンスターの召喚ではなかったが。

「ならば私のターン、ドロー!」

 空を舞う飛竜に乗ったデュエル。リリィと竜騎士がデュエルがし易いように動かしているからか、あまりデュエルをしている当人には、飛竜の上だというのは気になってはいなかった。

 俺のフィールドには《ゴーストリックの魔女》が二体に、《ゴーストリックの雪女》が一体、裏側守備表示で存在している。更に《闇の護封剣》で相手の《魔貨物車両 ボコイチ》のことを封じており、二枚のリバースカードが控えている。竜騎士が攻め込んで来ていないのもあって、ライフポイントは未だに4000。

 対する竜騎士は四枚のセットモンスター――三枚は《闇の護封剣》に封じられた《魔貨物車両 ボコイチ》で、残り一枚は恐らく《魔装機関車 デコイチ》――と、ペンデュラムスケールを発生させている二体のペンデュラムモンスター、《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》。更に、戦闘ダメージを無効にする《スピリットバリア》とリバースカード一枚が控えている。これだけ展開しているにもかかわらず、その手札は未だに潤沢だった。もちろん《スピリットバリア》があるため、そのライフポイントは4000のままだ。

「では、まずは《サイクロン》を発動! 《闇の護封剣》を破壊する!」

 竜騎士のカードから放たれた旋風が、三体の《魔貨物車両 ボコイチ》を封じ込めていた《闇の護封剣》をあっという間に破壊する。流石にこのカード一枚で耐えきることが出来る、などとは思っていなかったが、まさか一ターンで破られることになるとは思わなかった。

「総員反転召喚!」

 竜騎士の号令によって、セットされていたモンスターが全て表側攻撃表示となる。その姿を現したモンスターは、もちろん三体の《魔貨物車両 ボコイチ》と、当たって欲しくはなかった《魔装機関車 デコイチ》――よって、そのデコイチのリバース効果が発動された。

「《魔装機関車 デコイチ》がリバースした時、一枚のドローに加えて、フィールドの《魔貨物車両 ボコイチ》の数だけドローする。よって、四枚のカードをドロー!」

 先のターンで九枚のカードをドローしただけでは飽きたらず、更に四枚のカードをデッキからドローする。その結果残ったのは弱小モンスターのみだったが、それでも竜騎士はふてぶてしく笑っていた。

「これで終わりだ! 二枚の魔法カード、《サウザンドエナジー》・《リミッター解除》を発動!」

 ……発動された二枚の魔法カードによって、ようやく竜騎士のデッキの正体が判明する。《暗黒のミミック》や《魔装機関車 デコイチ》で大量にドローをしつつ、通常モンスターをペンデュラム召喚にて大量展開し、《サウザンドエナジー》と《リミッター解除》で強化をし、ワンターンキルを狙うデッキ――ドローばかりしているので、一時は《エクゾディア》かと思ったものだが。

「リリィ、結構揺れると思うが頼む!」

「そんな心配をしている場合か……バトル! 魔装機関車 デコイチでセットモンスターに攻撃!」

 《魔装機関車 デコイチ》は効果モンスターのため、発動された魔法カードの内一枚の《サウザンドエナジー》の効果は受けないが、《リミッター解除》の効果は受けている。攻撃力を倍にしたその一撃は、セット状態の《ゴーストリックの雪女》を容易く蹴散らした。

 《ゴーストリックの雪女》には戦闘で破壊された際、その破壊したモンスターを裏側守備表示に固定する効果があるが……その効果を発動することはない。発動してしまえば、《魔装機関車 デコイチ》は《リミッター解除》による自壊を無効にし、再びリバース効果を発動する機会に恵まれてしまう。

 ――それより、問題はこれからだ。

 竜騎士が先程発動した魔法カード《サウザンドエナジー》は、エンドフェイズに自壊する代わりに、レベル2の通常モンスターの元々の攻撃力と守備力を、1000ポイント上げるという魔法カード。それだけならば、ボコイチの攻撃力が1500になるだけで、あまり恐れることはない。……しかし問題は、《サウザンドエナジー》とともに発動された、《リミッター解除》。

 《サウザンドエナジー》は元々の攻撃力を1000ポイント上げるため、《リミッター解除》によって《魔貨物車両 ボコイチ》の攻撃力は、3000。《魔装機関車 デコイチ》の効果のトリガーに過ぎないモンスターが一瞬にして、攻撃力が3000のモンスターとして変わり果てたのである。

「更に魔貨物車両 ボコイチで、セットモンスターに攻撃!」

 ただでさえステータスが低いカテゴリーかつ、守備表示の《ゴーストリックの魔女》に攻撃力3000の一撃など受けきれる筈もない。続くもう一体の攻撃により、俺のフィールドはいとも簡単に制圧されてしまう。

「これで最後だ! 《魔貨物車両 ボコイチ》でダイレクトアタック!」

 俺のことを守ってくれていた、ゴーストリックの魔法使いたちはフィールドから消えており、もはや俺のフィールドにモンスターはいない。リリィが操る《漆黒の闘竜》の正面に、攻撃力を想定以上に上げられて巨大化した《魔貨物車両 ボコイチ》が立ちはだかり、その巨大な質量をもっての体当たりを敢行し――突如として現れた、ボコイチをも凌ぐカードの束に防がれた。

「なに!?」

「《ガード・ブロック》を発動させてもらった! 戦闘ダメージを0にして一枚ドロー!」

 カードの束は自分たちより何倍も巨大になった、ボコイチの体当たりを《漆黒の闘竜》に当たらないように逸らし、その中の一枚が俺の手札へとドローされる。これでボコイチたちの攻撃が終わり、そのモンスターたちはこのターンでの自壊が決定する。

「ふ、ふん……ならばリバースカード、《ハイレート・ドロー》を発動! 私のフィールドの機械族モンスターを全て破壊し、その数だけドローする! よって四枚ドロー!」

 しかし《リミッター解除》や《サウザンドエナジー》の効果で自壊する前に、竜騎士は更なるドローの為のコストとしてしまう。自分フィールド場の機械族モンスターを全て破壊し、その数だけドローする罠カード《ハイレート・ドロー》により、ボコイチたちは最後まで竜騎士のドローに活用されたのだった。

 コンボを利用したワンターンキルデッキは、一度防がれてしまえば立て直すのが困難なデッキも多いものの、竜騎士の低レベル機械族を使ったこのデッキは、そのようなデッキとは一線を画す。何故ならば、そのコンボに必要な通常モンスターは《闇の量産工場》などのサポートカードにより、容易く手札に揃えることが可能で、ペンデュラム召喚によってフィールドを制圧する。後は《サウザンドエナジー》などの魔法カードだが、それは大量のドローによって手札に呼び込んでいる。

「モンスターをセットし、カードを二枚伏せてターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 次のターンにはもう、新たな通常モンスターが並んでいることだろう。そのワンターンキルを止める為には……と、今の手札で出来ることを考える。

「俺は《センジュ・ゴッド》を召喚! デッキから儀式モンスターを手札に加え、《ドリアードの儀式》を発動する!」

 魔法使い族デッキであるこのデッキの、唯一の天使族モンスターである《センジュ・ゴッド》が、その効果でデッキから儀式モンスターをサーチするとともに、その儀式モンスターの降臨の為に自身を生贄にする。ペンデュラムスケールによって発生する魔法陣とはまた違う、空に浮かんだ魔法陣にセンジュ・ゴッドが吸い込まれていき、代わりに四つの属性を司る魔法使いが降臨する。

「儀式召喚! 《精霊術師 ドリアード》!」

 エレメントを司る儀式モンスター――今の俺の目的の象徴であるような、そのモンスターの雄志をしばし見つめた。そして、起死回生のリバースカードを発動する。

「リバースカード発動、《風林火山》!」

 もはや説明不要とも言えるコンボ。発動する為に四つの属性をフィールドに揃える必要がある《風林火山》を、四つの属性を持つ《精霊術師 ドリアード》一体で発動条件を満たす。そのリバースカードの発動とともに、《精霊術師 ドリアード》の身体に四つのエレメントが浮かび上がっていく。火、水、風、土、それぞれのエネルギーを限界までチャージして、ドリアードの杖は竜騎士の方を向けた。

 竜騎士のペンデュラム召喚と低レベルを使ったワンターンキル。いちいち先のターンのように防いでいては身が持たないので、それを未然に防ぐ必要がある。そのためには、大量のドローを防ぐか――もうこれは遅い――大量展開の要である、サポートカードである伏せカードとペンデュラムカードを破壊する……!

「《風林火山》第二の効果! お前の魔法・罠カードを全て破壊する!」

「……何だと!?」

 《精霊術師 ドリアード》の魔法が竜騎士の魔法・罠カードに炸裂する。その第二の効果は、相手の魔法・罠カードを例外なく全て破壊する……もちろん、ペンデュラムカードだろうと。ドリアードの魔法に撃たれ、竜騎士の《スピリットバリア》と伏せられていた二枚のカード――《同姓同名軍団》に《スキル・サクセサー》――更に、ペンデュラムゾーンにある《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》が破壊される。

「ぬぅぅぅ……」

 ペンデュラムゾーンの二体の魔術師が破壊されたことにより、竜騎士の背後を追うように飛んでいた赤と青のペンデュラムスケールが消える。これでひとまずは、通常モンスターの大量展開が無くなれば良いが……

「バトル! 精霊術師 ドリアードでセットモンスターに攻撃!」

「破壊されたのは《魔装機関車 デコイチ》……よって、一枚ドローさせてもらう」

 ドリアードの魔法がセットモンスターを破壊するものの、そのセットモンスターは先程もセットされていた《魔装機関車 デコイチ》。今はその効果を増大させる《魔貨物車両 ボコイチ》はいないため、ドローする枚数は一枚だけで済む。

「カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」

「……私のターン、ドロー!」

 今度フィールドが空になるのは竜騎士の番。二色のペンデュラムスケールは消え失せ、《スピリットバリア》やフィールドのモンスターも消えた。だが、その手札は未だに無尽蔵と言って良いほどに潤沢で、まだまだ俺に油断をさせることはなかった。

「私は《闇の量産工場》を発動しよう。墓地から、二枚の通常モンスターを手札に加える」

 やはり入っていた、通常モンスターの優秀なサポートカード《闇の量産工場》。ノーコストで墓地から二枚の通常モンスターを手札に加える、という強力な効果ではあるが、ペンデュラムカードを失った今、大量展開をする方法はない筈だ。

 ――と考えていた俺の希望は容易く破られることとなった。

「クククッ……私はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》をセッティング!」

「二枚目か……!?」

 改めて考えてみれば、あれだけドローしてペンデュラムカードが一枚ずつ来ない、という方が不思議である。一枚しかないと考えていた自分の甘さに歯噛みしながら、再び天空に構築される二色のペンデュラムスケールを睨みつけた。

「ペンデュラム召喚! 出でよ、我がモンスターたちよ!」

 竜騎士の雄々しい叫び声とともに、五つの光が竜騎士のフィールドへと飛来する。その光は徐々にモンスターとしての姿を取り戻していき、いつしか光ではなく四体のモンスターとなっていた。先程発動した《闇の量産工場》によってサルベージしたと思われる、再びフィールドに現れる《魔貨物車両 ボコイチ》。さらに、《風林火山》によって破壊した筈の、二体の《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》だった。

「魔術師……?」

 もちろんペンデュラムモンスターである二体の魔術師は、今までのデュエルから察するに、サポートカードを共有出来る低レベル通常モンスターではない。それをペンデュラム召喚して来たということは、このターンで決着をつけるつもりなのかと考えたが、竜騎士の手札を見ると、《魔貨物車両 ボコイチ》をペンデュラム召喚した分しか手札が減っていない――!?

「ペンデュラムモンスターが破壊された時、墓地ではなくエクストラデッキへと移動する。そして、再びペンデュラム召喚されるのを待つのだよ」

 俺の怪訝な表情を察してか、竜騎士が得意げな表情でこの状況とペンデュラムモンスターの種を説明してくれる。気取った口調のせいで分かりにくいが、要するにペンデュラムモンスターは破壊されると、墓地ではなくエクストラデッキへと送られる。さらにペンデュラム召喚をすることによって、エクストラデッキから特殊召喚が出来るということ。

 つまりいくら破壊しようが、ペンデュラム召喚をすることが出来れば、ペンデュラムモンスターは不死身も同然……!

「魔法カード《サウザンドエナジー》を発動し、バトル!」

 魔法カード《サウザンドエナジー》により、ボコイチの元々の攻撃力は再び1000ポイントアップする。墓地の《リミッター解除》を回収する手札はないようで、攻撃力は1500のままだったが、それでもこちらのライフを0に出来る数を揃えている。

「時読みの魔術師で《精霊術師 ドリアード》に攻撃する! ホロスコープカッター!」

 攻撃をしてきた《星読みの魔術師》と、迎え撃つこちらの《精霊術師 ドリアード》の攻撃力は同じく1200。だが竜騎士の墓地には、先程《風林火山》で破壊された《スキル・サクセサー》がある。俺はドリアードを守るべく、落ち着いて伏せてあったリバースカードを発動――出来なかった。何故ならば伏せてある二枚のリバースカードが、魔法陣のようなものに捕らえられていたからだ。

「二体の魔術師のペンデュラム効果! ペンデュラムモンスターが攻撃する時、相手はそれぞれ魔法・罠カードを発動出来ない!」

 ペンデュラムスケールに置かれている方の《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》が、呪文を唱えてこちらのリバースカードを封印する。ペンデュラムスケールに置かれている時にも発動する効果、という予想だにしない効果が明かされて、俺の発動しようとしていた伏せカードは封じられてしまう。

「だが私は、墓地から《スキル・サクセサー》を発動出来る! 星読みの魔術師の攻撃力を800アップ!」

 もちろん竜騎士が罠カードを使えないわけがなく、墓地から《スキル・サクセサー》が発動し、その攻撃力を800ポイントアップさせる。星読みの魔術師から先端の円盤状の物が発射され、精霊術師 ドリアードの魔法をも切り裂いて破壊すると、俺たちが乗る《漆黒の闘竜》にも炸裂する。

「……くっ!」

遊矢LP4000→3200

 初めてのダメージに《漆黒の闘竜》がぐらりと揺れるが、すぐに持ち直して安定した飛行を取る。だが、まだ竜騎士のフィールドに更なるモンスターが追撃してくる。

「墜ちたりしたら興ざめだからな、手加減してやろう! 時読みの魔術師でダイレクトアタック!」

「リリィ、気を付けてくれ!」

 俺の声を聞いてリリィは《漆黒の闘竜》に回避行動を取らせるものの、時読みの魔術師が放った魔法弾は正確に《漆黒の闘竜》の胴体を直撃する。翼を狙わなかったのが、その竜騎士が言う手加減とやらなのか。

遊矢LP3200→2000

「さらにダイレクトアタック……と言いたいところだが。罠があると分かっていて、踏み込む者はおるまい」

 どうやら俺が《星読みの魔術師》が攻撃して来た時に、リバースカードを発動しようとしていたのを目ざとく見ていたようで、竜騎士は《魔貨物車両 ボコイチ》の攻撃を中止する。

「私はメイン2に――」

「悪いがまだ、そういう訳にはいかない。速攻魔法《皆既日蝕の書》を発動!」

 《星読みの魔術師》の攻撃時に発動しようとしていたのは、フリーチェーンの魔法カード。攻撃宣言時にこだわったばかりに、二体の魔術師の攻撃を受けてしまったが、バトルフェイズ終了時に発動することに成功する。フィールドに石版が浮かび上がると、竜騎士のモンスターたちは《闇の護封剣》の時のように、強制的に裏側守備表示となってしまう。

「ぬっ……ターンを終了する」

 また《魔貨物車両 ボコイチ》をコストにドローでもするつもりだったのか、裏側守備表示となった自分のモンスターたちを見て、竜騎士は憎々しげに唸りながら、カードを一枚伏せながらターンを終了しようとする。しかしもはや、竜騎士の意志だけではエンドフェイズを終えることは出来なかった。

「まだだ! 永続罠《グリード》を発動!」

 伏せた三枚のリバースカードのうち、二枚目の永続罠が発動される。相手がドローする数×500ポイントのダメージを与える、このデッキのダメージ源のメインとなる罠カード。《暗黒のミミック》の時や《ハイレート・ドロー》の時に発動したかったものの、少し遅れての登場となる。

「そして《皆既日蝕の書》の効果を発動! 相手の裏側守備表示のモンスターを表側守備表示にし、その数だけ相手はカードをドローする!」

「なんだ……まだドローさせてくれるのか?」

 竜騎士はニタリと笑いながら、裏側守備となっていたモンスターの数――つまり四枚のカードをドローする。……喜ぶ竜騎士には気の毒だが、その四枚のドローは永続罠《グリード》の効果のトリガーとなった。

「さらにお前のエンドフェイズ終了時、永続罠《グリード》の効果を発動! お前がカードの効果でドローした枚数×500ポイントのダメージを受けてもらう!」

 竜騎士がこのターンに効果でドローをしたカードは四枚。よって、《グリード》によって2000ポイントのダメージが竜騎士とそれに乗る《騎竜》へと襲いかかった。《永続罠《グリード》のカードから雷が発射され、竜騎士のように手加減など考えずに《騎竜》へと炸裂する。

「ぬおおおおお!」

竜騎士LP4000→2000

 急激なライフの減少に竜騎士は一時《騎竜》の操縦を失うものの、流石というべきかすぐに持ち直してしまい、《騎竜》も怒ったのか遠くまで聞こえるような雄叫びを響かせた。

「おのれぇ……許さんぞ!」

「こっちも必死なんでな……俺のターン、ドロー!」

 竜騎士が怒りの形相で叫ぶとともに、その手札を六枚になるまで捨て、そのフィールドにいた《魔貨物車両 ボコイチ》が自壊していく。たとえ裏側守備表示になっていようと、《サウザンドエナジー》の効果で自壊することは避けられないのだ。

 これで俺のフィールドには永続罠の《グリード》のみで、ライフポイントはちょうど2000。対する竜騎士のフィールドは、モンスターカードゾーンにいる二体の魔術師と、ペンデュラムカードゾーンにいる二体の魔術師に、リバースカードが一枚。ライフポイントはやはりちょうど2000。

「俺は《連弾の魔術師》を召喚!」

 竜騎士のデッキの弱点として、強力なカードを防御に回すことが出来ない、というものがある。《サウザンドエナジー》はそのターンのみしか持続しない上に、そもそも通常モンスターはそのターンで自壊してしまう。それは大量のドローによって引いたカードで補うのだろうが、竜騎士のフィールドのリバースカードは一枚だけ。

「さらに《連弾の魔術師》に装備魔法《インパクト・フリップ》を発動!」

 発動したのは通常魔法カードではないので、《連弾の魔術師》の効果は発動しない。それより、装備魔法カード――それを発動しただけで、少しだけ懐かしくなってしまうのは、おかしなことだろうか。いや、装備魔法カードならば、どんなものでも扱いこなしてみせる……と心の中で決心すると、その装備魔法《インパクト・フリップ》を装備した《連弾の魔術師》に攻撃を命じる。

「《連弾の魔術師》で、《時読みの魔術師》を攻撃!」

 《連弾の魔術師》の宙に浮かべておいた火球の一つが《時読みの魔術師》に直撃し、破壊に成功するものの、《時読みの魔術師》は墓地ではなく再びエクストラデッキへと舞い戻っていく。次のターンにペンデュラム召喚を行うならば、またフィールドに現れることだろう。それより、《連弾の魔術師》に装備した《インパクト・フリップ》の効果が発動する。

「《インパクト・フリップ》の効果発動! 相手モンスターを破壊した時、相手のデッキトップを墓地に送ることが出来る!」

 《インパクト・フリップ》は相手モンスターの表示形式を、表側守備表示にすることが出来る効果を第一の効果として、第二に今発動した効果を持っている。相手モンスターの戦闘破壊をトリガーに、相手のデッキトップを墓地に送る効果――そんなもの普通ならば、相手のデッキの墓地肥やしを手伝ってしまうだけの効果。だが、今この状況においては飛びきり有用な効果に違いなかった。

 何故なら、竜騎士のデッキは《暗黒のミミック》を始めとする大量のドローで、もうデッキ枚数の限界が来ていた筈だ。それを《皆既日蝕の書》を発動したことにより、さらに四枚のドローを強いられてしまい、あと竜騎士のデッキはいかほどあるのだろうか。先のターンの《皆既日蝕の書》は《グリード》だけでなく、竜騎士のデッキ破壊も兼ねていたのだった。

「ええい……」

 竜騎士もこちらの狙いが分かったのだろう、苦々しい表情をしながらデッキトップを墓地に送っていった。

 そして、肝心の残りデッキ枚数は――一枚。竜騎士の次のターンのドローで、彼のデッキは尽きることとなる。

「……ターンエンドだ!」

 最後の一撃を仕掛けてくるとあっては、こちらも相応の防御を固めていきたいところだったが、俺にはもう生憎と手札はなかった。

「私のターン! ドロー!」

 このデュエルにおける最後のドローにより、竜騎士のデッキは尽きることとなる。だが、まだその時点で敗北することはなく、次にカードをドローすることがあれば、竜騎士の敗北は決定する。

 もちろん最後の攻撃を仕掛けるべく、背後の二色のペンデュラムスケールが輝くと、空中に魔法陣が浮かび上がっていく。そう、ペンデュラム召喚の合図である。

「ペンデュラム召喚っ――来い、我がモンスターたちよ!」

 いくばくか先程までの気取った余裕が無くなりながらも、竜騎士は力強くペンデュラム召喚を唱えると、四体のモンスターが舞い降りた。その内の三体のモンスターが同じモンスターで、機械族の通常モンスター《バット》であり、もう一体はやはり、エクストラデッキからの《時読みの魔術師》だった。

「さらに《トライアングルパワー》を発動し、バットたちの攻撃力をアップ!」

 《魔貨物車両 ボコイチ》に対して発動していた、《サウザンドエナジー》の対象をレベル1にした代わりに、上昇値が2000となった魔法カード《トライアングルパワー》。その魔法効果によって、ペンデュラム召喚された《バット》たち三体の攻撃力は、2300ポイント――《連弾の魔術師》を大きく超えることとなった。

「この五連撃、貴様には打つ手はない筈だ! バットで連弾の魔術師に攻撃!」

 俺に向かって言っているというよりは、自分に言い聞かせているようにも聞こえる台詞を吐きながら、竜騎士は俺に最後の攻撃を開始する。《バット》の一体目が《漆黒の闘竜》に肉迫して飛行すると、ミサイルが《連弾の魔術師》に向けて放たれた。《連弾の魔術師》はそのミサイルを防ぐことは出来ず、そのまま爆散してしまう。

「…………」

遊矢LP2000→1300

 なんの抵抗もなく《連弾の魔術師》が破壊されたことを、もう俺には打つ手はないと考えたのか、竜騎士の顔が喜びの表情で歪む。……自分に訪れている変化にも気づかずに。

「トドメだ! バットでダイレクトアタ――ッ!?」

 確かにもう俺には打つ手はない。もう何か手を打つ必要がないからだ。竜騎士の攻撃宣言とともに、竜騎士のフィールドにいた三体の《バット》や合計四体の魔術師たちが消えていき、そこで竜騎士も自分の身体の変化に気づいた。

 ――自分の身体が足から消えている、ということを。

「何故だ! 何故だぁ! ……何故私が、敗北しているんだ……?」

 この世界で身体が消滅していくということは、それは即ちデュエルに敗北したということ。竜騎士は何故自分が敗北したかも分からず、身体が消えていきながらも何故、と疑問の声を呈し続けていく。

「……装備魔法《インパクト・フリップ》の効果。このカードが墓地に送られた時、お互いにカードを一枚ドローする」

 《連弾の魔術師》に装備された《インパクト・フリップ》の第三の効果。このカードが墓地に送られた時に、お互いにカードをドローするという、二つ目の相手のデッキトップを墓地に送る効果では無いにしろ、あまり扱い易い効果とは言えない効果だ。だが、強制効果でドロー出来ないプレイヤーは、その時点で、デュエルから敗北することになる。

 ……竜騎士は引けなかったのだ。《インパクト・フリップ》の第三の効果による、ドローを。

「何故……何故だぁぁぁあ!」

 《インパクト・フリップ》の効果の説明をしても、受け入れることが出来なかった竜騎士が叫びながら、自身が駆る《騎竜》を俺たちの《漆黒の闘竜》に向けて飛翔させた。……自分が消える前に、体当たりで一緒に死ぬつもりか……!?

「避けてくれ、リリィ!」

 彼女も事の重大さは分かっていたようで、急いで俺たちの《漆黒の闘竜》は《騎竜》から離れていく。俺がデュエルをしていた今までとは違い、きちんと態勢を整えていなくては、吹き飛ばされてしまうほどのスピードで。だが、元々《騎竜》は俺たちの《漆黒の闘竜》よりもスピードが上であり、竜騎士も文字通り死ぬ気で操縦しているためか、どんどんと差が詰まっていく。

 ……だが、あわや「駄目か」と思って瞬間、俺たちに迫って来ていた《騎竜》が、どこかからか現れた無数の剣に串刺しにされると、その行動を停止して地上に墜ちていった。

「何故、だぁぁ……」

 ――最期までそう呟いていた竜騎士の声が耳に届いたが、突如として起こったその出来事と、飛翔する《漆黒の闘竜》に掴まっていたせいで、俺は全く事情を掴むことが出来なかった。

「あっち……です」

 どうやら、先にリリィが事情に気づいていたようで――いや、事情を知っていたのか――滞空する《漆黒の闘竜》から片腕を離すと、地上のある一点を指差した。先の《騎竜》との飛行戦により、地上へと向かっていたこともあり、現在位置は地上に近い。そのおかげで俺にも、リリィが指差した地上に、戦士の一団が待機していることが分かった。

 ――そのメンバーこそが、この世界で覇王と戦っている勇ましき戦士達の集団……《ヒロイック》と呼ばれる戦士達との出会いだった。 
 

 
後書き
遊矢以外のデュエルが書きたい……明日香、こんな時に君がいてくれたら……(白き盾感) 

 

―絶望の手がかり―

 竜騎士を破った俺たちを迎えたヒロイックの戦士たちは、地下に作られたその秘密基地のような場所に案内してきた。リリィが操縦していた《漆黒の闘竜》が、ヒロイックの戦士たちに先導されて地下へと潜っていく。いかにもといった様子の地下の秘密基地を見渡しながら、俺はリリィと共にヒロイックの戦士たちと対面した。

「ありがとう……ございます」

「うむ、良く無事に帰って来た……」

 やはりこの戦士たちの仲間だったらしいリリィが、ヒロイックの戦士たちのリーダーのような立場の人間と話していた。救世主などいった不適切な言葉も聞こえたものの、どうやら俺たちの道程のことを話しているらしい。そしてその話が一段落すると、リリィと話をしていたヒロイックのリーダーが俺の方へと歩いてきた。

「遊矢くん。まずはリリィをここまで連れてきてありがとう。私はこの反乱軍のリーダー、スパルタス」

 大きな赤い盾と剣を背中に背負ったスパルタスと名乗った戦士が、俺に対してリリィへの礼とともに握手を申し込んでくる。戦士たちのリーダーらしくない気さくな性格らしく、その手も握手を返しただけで鍛えられていると分かる。

「そして私の部下。ハルベルト、サウザント・ブレード、カンテラ――」

 ……嬉々としてスパルタスは、背後にいる部下たちを順々に紹介していくが、部下たちは一様に面白くなさそうな表情を俺に向けていた。……それも当然だ、いきなり現れた人間が、救世主が云々などと紹介されれば。スパルタスはそんな部下の様子に気づかずに、俺の肩をポンポンと叩きながら、この反乱軍へ歓迎するようなポーズを取る。

「ようこそ、我が覇王への反乱軍へ! 疲れていることだろう、ハルベルト、部屋に案内してやってくれ!」

 沈黙を保ったままの俺を緊張しているとでも思ったのか、スパルタスは大げさに声を張り上げながら、部下のハルベルトへと何やら命じていた。そしてもう一度俺の方に向くと、しっかりと肩を掴んでニッコリと笑った。

「その部屋にはカードが用意してある。存分に使って、デッキを強化してくれたまえ!」

 ハッハッハ……とその場に笑いを残して、スパルタスは他の部下やリリィを引き連れて通路を歩いていく。そこに残されたのは俺と、案内を任されていたハルベルトと呼ばれた戦士たちだった。

「……こっちだ」

 ハルベルトは口数少なく俺を促すと、スパルタスたちが向かって行った廊下とは、また違った方向へと歩き始めていく。地下の暗い道を進んで行く中で、ハルベルトは俺に語りかけた。

「分かっちゃいると思うが、あんたは歓迎なんぞされちゃいない。せいぜい、戦力が一人増えたかもしんねぇ……ってぐらいだ」

「分かってるさ。むしろ、救世主だとか言う方がどうかしてる」

 偶然、異世界から現れた人間が救世主となる――そんなヒロイック・ストーリーはどこにでもあるし、そんな話を信じなくてはならないほど、この異世界の住人は切羽詰まっている。……この異世界に無理やり飛ばされてきた当人である俺からすれば、そんな話は正直、迷惑なだけでしかない。もちろん、命を二度も救ってくれたリリィには感謝しているし、明日香を見つける為にはここに身を寄せるほか無い。

「だろうなぁ。だがまあここに来たからには、せいぜい協力してもらうぜ」

「ああ、最初からそのつもりだ」

 俺のその返答に満足する答えを得たたのか、ハルベルトは先程よりかは和らいだ口調で同情の意を示した。この反乱軍たちが俺を救世主として利用するならば、俺は明日香を見つける為にこの反乱軍を利用させてもらう。険悪とは言わないまでも、ピリピリとした空気が通路を包んでいたが、あまり時間が経たない内に辿り着いたドアの前でハルベルトは立ち止まった。

「この部屋だ。さっきリーダーが言った通り、ここで保管してあるカードを使いながら、しばらく休んでてくれ」

 そう案内するだけ案内すると、ハルベルトは仕事は果たしたとばかりに通路を逆走していく。その後ろ姿を見てしばし、ひとまず案内された部屋へ入るべく目の前のドアを開けた。

「…………」

 地下に無理やり作った部屋ということか、部屋から俺を歓迎したのはまず砂埃だった。その埃に顔をしかめた先にあったものは、1ヶ月間ほど掃除していないかのような、砂埃に埋もれた部屋とカードたちだった。

「これは……酷いな」

 百歩譲っても、客人を案内する部屋ではない。近くにある砂埃に埋もれたカードを抜き取ると……いや、抜き取ろうとしたカードは少し重く、十枚ほどの束であった。さてどのようなカードなのか、と思ってチェックしようとすると、ドアからノックする音が響いた。

 ハルベルトが戻って来たかスパルタスあたりが呼びに来たか、と拾ったカードをポケットに仕舞っておくと、ノックされたドアの方に近づいた。

「は――――ッ!?」

 ――ドアを開けた俺の前に飛び込んで来た物は、銀色に鈍く輝く刃。銀色の光が迫り来るのを見て、俺は反射的に腕に装着されているデュエルディスクを突き出し、銀色の刃とデュエルディスクが金属音とともにぶつかり合った。

「……チッ!?」

 銀色の剣を持って切りかかってきた闖入者は、舌打ちをしながら事態を飲み込めていない俺に対し、そのまま腹に蹴りを叩き込んだ。肺から空気が全て吐き出されるような感触を味わいながら、俺は悲鳴をあげる間もなく、砂埃だらけのカードの束に向かって吹き飛ばされた。

「……っつぅ……!」

 砂埃とカードの束を空中に巻き上げながら、俺はゴロゴロと回りながらドアから現れたモノを見た。ソレは入ってきたドアを閉め、キキキ、と嫌らしい音を鳴きながら、俺のデュエルディスクと鍔迫り合いを演じた剣を鞘に仕舞った。

「カンテラ……だったか? お前」

 そこにいたのは、先程スパルタスが部下として紹介した戦士の部下の一人の、ヒロイックの戦士であるカンテラ――モンスターとしては、《H・C カンテラ》という名前だったか。

「要するに邪魔なのさ。覇王への反攻作戦が始まろ~って時に、アンタみたいな奴が来ちゃ、本当はどうあれ救世主になっちまうからなぁ……」

 キキキ、とまたもや耳障りな鳴き声が俺の耳に響く。そんな今さらどんな物語にも通じないような、陳腐な理由で殺されてたまるかと立ち上がる。対してカンテラも、その腕に装着していたデュエルディスクを展開する。

「キキキ……さっきのデュエルを見てりゃ、テメェのデッキは酷いもんだった。まだ改造する暇もねぇはずだよなぁ……」

 まだこちらがデュエルディスクを展開する暇もなく、カンテラはキキキと耳障りな音をたてながら、自身のデュエルディスクから五枚のカードを引いていく。このままでは、カンテラが召喚したモンスターに良いようにやられてしまうと、こちらも対抗しようとした時……俺の行動が止められた。カンテラが行った、ある一つのことにより。

「俺は《融合》を発動! 《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を融合し――《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

 ……俺の前に現れたのは銀幕の女王。その見知ったモンスターの姿に、俺は言葉を失うとともに驚愕する。《サイバー・ブレイダー》――もはや説明不要の彼女のカードに。

「……そのカードを……ッ!」

「キキ?」

「……そのカードを、どこで手に入れたあッ!?」

 このボロボロの部屋が崩れ去るかのような俺の咆哮に、空中に飛び上がっていた砂埃とカードが再び舞い上がっていき、カンテラの不愉快な鳴き声が消える。だが、カンテラはすぐにその余裕を取り戻すと、キキキと口角を上げた。

「キキキ、デュエルで勝ったら教えてやろうじゃねぇか……」

「……そうかい……」

 カンテラを力の限り睨みつけながら、俺もデュエルディスクを展開する。カンテラは俺の目つきに蹴落とされたのか、無意識に一歩その場から下がったものの、そのデュエルディスクに入った俺のデッキのことを思い出したのか、キキキ、と鳴いて踏みとどまった。

「な、ならオレはこれでターンエンドよ! 早くカードを引きなぁ!」

 カンテラの煽ってくる言葉を無視すると、俺は気づかないうちに万力のような力を込めていた拳を開くと、その手をカードが舞い上がっている上空にかかげた。すると、無意識に自らの血にまみれていた手に、空中に舞い上がっていたカードたちが集まっていく。見ている暇もなく、舞い上がっていたカードたちはみるみるうちに40枚のカードの束……いや、俺というデュエリストとともに戦う『デッキ』となっていく――!

「キ、キキ……?」

 目の前で起きたその理解しがたい光景に、カンテラの不快な鳴き声のリズムが乱れる。それはともかくとして俺は、これまで俺を助けてくれていたリリィのデッキを、デュエルディスクから引き抜くと大切に胸ポケットに入れた。

 ありがとう……と感謝の意を示しながら、その俺の手に収まったデッキをデュエルディスクに差し込み、こちらもデュエルの準備が完了する。

「……待たせたな。さて、やろうか……!」

「キッ……おおう、来やがれ!」

 カンテラの一瞬聞こえた怯えるような声をバックに、俺は後攻でのカードの一枚ドローを含めて六枚のカードをドローすることで、変則的ながらそのデュエルは開始された。奴のフィールドに融合召喚された《サイバー・ブレイダー》を見ながら、俺は慣れた手つきでその手札の中から一枚のモンスターを手に取った。

 この異世界に来て、始めて見つけた明日香への糸口。狭くて小さいかも知れないけれど、その道を進んで行けば、必ず明日香に辿り着くことが出来るはずだ。その狭くて小さい糸口を進む為に、俺とともに歩いてくれる、どんな世界だろうと最も信頼出来るモンスターたち。


 ――その名は――

「来い、《マックス・ウォリアー》!」

 ――《機械戦士》――!


 戦陣を斬るのは三つ叉の槍を持った機械戦士。マックス・ウォリアーがフィールドに舞い降り、サイバー・ブレイダーへ向けて、槍を向けて攻撃する体勢を取った。

「おま……デッキが違うじゃねぇか! 話が違う!」

「……マックス・ウォリアーでサイバー・ブレイダーに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 喚き出すカンテラを無視しながら、マックス・ウォリアーは俺が出した攻撃命令を忠実に実行し、その三つ叉の槍でサイバー・ブレイダーへと乱れ突きを炸裂させる。マックス・ウォリアーは攻撃する際にその攻撃力を400ポイント上昇させ、サイバー・ブレイダーに攻撃力を上回る。……が、もちろん、サイバー・ブレイダーは破壊されない。

カンテラLP4000→3900

「さ、サイバー・ブレイダー第一の――」

「メイン2、手札から《ワンショット・ブースター》を特殊召喚!」

 カンテラの《サイバー・ブレイダー》の効果の発動宣言を遮りながら、さらに俺は《ワンショット・ブースター》を特殊召喚する。《サイバー・ブレイダー》第一の効果により、マックス・ウォリアーの攻撃では破壊できないくらい想定済みだ。

「なに!? だがこれで、サイバー・ブレイダーの第二の効果が発動だぁ! なんと攻撃力が――」

「《ワンショット・ブースター》はモンスターが召喚されたターン、特殊召喚が出来る。さらにこのカードをリリースすることで、戦闘で破壊されなかったモンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

「――なにぃ!?」

 《サイバー・ブレイダー》は《ワンショット・ブースター》が特殊召喚されたことにより、その効果で攻撃力を倍の4200ポイントにまで上昇させるものの、ワンショット・ブースターが放ったミサイルに直撃。そのままその効果を活かすことなく、破壊されて墓地へ送られることとなった。

「……降参するなら今の内だぞ、カンテラ。カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「……や、やってやんよぉ! オレのターン、ドロー!」

 自慢げに出した《サイバー・ブレイダー》を一ターンで破壊されたことと、俺の鬼気迫る勢いにカンテラは怖じ気づいたものの、その気持ちに負けじとデッキからカードを引く。上手く理由を言うことは出来ないが、カンテラが使っているデッキが明日香のデッキであると、俺はそう確信を持っていた。……始めて得た手がかりを、否定したくないだけかも知れないが。

「キキキ……オレは《再融合》を発動! 800ポイントのライフを払い、オレは墓地から《サイバー・ブレイダー》を特殊召喚する!」

カンテラLP3900→3100

 融合モンスター専用の《早すぎた埋葬》こと《再融合》。800ポイントのライフを払い、墓地から再び銀幕の女王が特殊召喚される。しかしその動きに、普段の美しさを感じることは出来なかった。

「バトル! サイバー・ブレイダーで、マックス・ウォリアーを攻撃!」

「リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》!」

 《マックス・ウォリアー》の攻撃力は1800と、サイバー・ブレイダーなら戦闘破壊出来ると見たカンテラの宣言により、サイバー・ブレイダーの蹴りがマックス・ウォリアーに迫り来る。だがそれは、マックス・ウォリアーの前に現れたくず鉄で作られたかかしに振るわれた。

「《くず鉄のかかし》は相手の攻撃を無効にし、そのままもう一度セットされる」

 サイバー・ブレイダーの一蹴りによって破壊された《くず鉄のかかし》だったが、その簡素な作り故に再利用も容易い。《くず鉄のかかし》は修復されると、再び俺のフィールドにセットされる。

「ぐぬ……カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《マックス・ウォリアー》にリバースカードが二枚――うち一枚は《くず鉄のかかし》――があり、カンテラのフィールドには《再融合》によってその命を繋いでいる《サイバー・ブレイダー》。そしてついさっきセットされたリバースカードが、こちらと同じく二枚。

 《マックス・ウォリアー》の効果を使いながら攻撃すれば、《サイバー・ブレイダー》の攻撃力を上回るものの、今の《サイバー・ブレイダー》は戦闘破壊をすることは出来ない。ならば、やはり狙うのは《サイバー・ブレイダー》ではない方か。

「俺は《ドリル・シンクロン》を召喚!」

 そして召喚されたのは、シンクロンシリーズの一枚であるチューナー《ドリル・シンクロン》。頭についた三つのドリルが高速で回転しつつ、マックス・ウォリアーの横に並び立った。合計レベルは7、狙うはもちろんシンクロ召喚。

「レベル4の《マックス・ウォリアー》と、レベル3の《ドリル・シンクロン》をチューニング!」

 《ドリル・シンクロン》の高速回転をしていたドリルが限界を迎えると、その身体が緑色の輪となってマックス・ウォリアーを包み込む。その間に俺は、先程拾ってポケットに入っていたカード達を、デュエルディスクのエクストラデッキへと投入する。

 《機械戦士》たちが何故この異世界にいるか、そして何故この反乱軍のカード倉庫にあるかは分からない。御都合主義とも取れるが、俺は《機械戦士》たちが俺を助けに来てくれたのだと……そう、信じている。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 そしてフィールドに降り立つ鋼を身に纏いし竜。その咆哮がフィールドを震撼させ、機械の奥から竜の瞳が俺のことを覗いていた。早く効果を使え、と急かすようにして。

「……パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! パワー・サーチ!」

 デッキから装備魔法カードを三枚裏側表示で選び出し、相手が選んだカードを手札に加えるサーチ効果。三つのカードがカンテラの前に表示され、奴が選んだカードを手札に加えると、俺はそのまま《パワー・ツール・ドラゴン》に装備した。

「装備魔法《サイクロン・ウィング》を装備し、バトル!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の鎧に包まれた翼に、二対の機械の翼が装備される。その翼には、風を引き起こすファンが装備されていたが、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は変わらない。元々パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力は、今から攻撃するサイバー・ブレイダーよりも上だが。

「サイバー・ブレイダーは第一の効果で、戦闘では破壊されないって言ってるだろうが!」

 ――そんなことはお前に言われなくても、お前以上に良く分かっている。そう宣言したくなったが、すんでのところで抑え込むと、代わりに装備魔法《サイクロン・ウィング》の効果の発動を宣言した。

「サイクロン・ウィングは装備モンスターが攻撃する時、相手の魔法・罠カードを一枚破壊する! 俺が破壊するのは《再融合》!」

 融合モンスター専用の《早すぎた埋葬》とは言ったもので、《再融合》はそのデメリットすらも忠実に受け継いでいる。この魔法カードが破壊された場合、その蘇生した装備モンスターも破壊される、というデメリットを。そして《再融合》のデメリットに忠実に従い、《サイバー・ブレイダー》は《パワー・ツール・ドラゴン》と戦うまでもなく、破壊されることとなった。

「キキキ……!?」

「巻き戻しが起こることにより、もう一度攻撃宣言をさせてもらう。……パワー・ツール・ドラゴンでダイレクトアタック! クラフティ・ブレイク!」

 戦闘もせずに破壊された《サイバー・ブレイダー》に鳴き声の調子が崩れるカンテラだったが、さらにパワー・ツール・ドラゴンが自らに向かってきたことに驚愕する。バトルをする前にサイバー・ブレイダーがフィールドから消えたことにより、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃の巻き戻しが起きて、カンテラの無防備なところに一撃を喰らわせた。

「ひゃぁぁ!」

カンテラLP3100→800

 カンテラのフィールドに伏せられた二枚のリバースカードは、その身を守るカードではなかったらしく、カンテラは情けない悲鳴をあげて《パワー・ツール・ドラゴン》の一撃を直撃する。半分以上のライフポイントを減らされ、ライフポイントは僅か800ポイントまで落ち込んでいた。

「これで俺はターンエンド……!」

「お……オレのターン、ドロー!」

 目に見えて冷や汗をかくカンテラだったが、それでも尚デッキからカードを引いた。こうなれば後には引けないということか、パワー・ツール・ドラゴンに守られながらも、俺は油断なくカンテラの動作を見た。敗北したらどこかに消えてしまう、というこの世界ならば尚更、油断することは出来やしない。

「オレは伏せてあった《融合準備》を発動! デッキから《サイバー・ブレイダー》の融合素材を手札に加え、墓地から《融合》の魔法カードを手札に加える!」

 カンテラの発動したリバースカードだったが、あたかも融合用の《儀式の準備》といったリバースカード《融合準備》といった罠カードを始めて見た。明日香のデッキに俺の知らないギミックとカードが入っていたか、カンテラが異世界のカードを使って改造したか……どちらかは分からないが、今デュエルをしている相手は明日香ではない、という事実を改めて実感する。

「さらに手札からフィールド魔法《祝福の教会―リチューアル・チャーチ》を発動!」

 フィールド魔法の発動によって、俺とカンテラがいる場所が小汚い倉庫から結婚式が行われるような、厳かな雰囲気をした白い教会へと変化していく。リチューアルという名前の通り、その効果は儀式のサポートカード。

「祝福の教会の効果を発動。手札の魔法カードを墓地に送り、デッキから儀式魔法を手札に加えることが出来る。オレは《高等儀式術》を加えるぜ、キキキ……!」

 デッキが回りだして嬉しいのか、カンテラが少し余裕余裕を取り戻したのか、キキキと喉から鳴き声を漏らした。そして、その融合から儀式に繋げるコンボは――明日香は《融合準備》ではなく、《融合回収》を使っていたが――明日香が良く使用していたコンボであり、カンテラのデッキが明日香のデッキだという確信を強める。

「《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを墓地に送り――」

「おい。お前、明日香って奴を……知ってるか?」

 こちらに《高等儀式術》を止める手段はない。《高等儀式術》によって儀式モンスターが降臨する前に、俺はカンテラに声を震わせながらも聞いた。明日香の手がかりを知るチャンス、だと思いながらも、心のどこかではカンテラが、『そんな奴は知らない』と言ってくれることを願っていたかも知れない。

「明日香ぁ? ……キキキ、このデッキの前の持ち主は、そんな名前だったかねぇ……」

 ――かくしてカンテラから語られたことは、明日香の手がかりとなるに相応しい情報ではあった。だが、なら何故カンテラがその明日香のデッキを持っているのか。その新しい謎とともに、俺の頭に最悪の光景が去来する。

「んでそんなこと聞くかは知らねぇが、キキキ……そんなことを考えてるヒマはねぇ! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

 そして儀式によって降臨する、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》。八つの腕にそれぞれの刃を持ち、こちらの《パワー・ツール・ドラゴン》のことを睥睨する。そんな最強のサイバー・エンジェルの登場に、明日香に起きている《最悪の状況》のことをどうにか頭から放り出すと、サイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果の発動に備えた。

「サイバー・エンジェル-荼吉尼-は特殊召喚された時、相手はモンスターを一枚選んで破壊する! キキキ……お前のフィールドには一体しかいないがね……」

 必然的に破壊されるのは《パワー・ツール・ドラゴン》。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の八つの刃がパワー・ツール・ドラゴンに迫ったが、その攻撃をパワー・ツール・ドラゴンは、自身の翼に装備された《サイクロン・ウィング》を犠牲にすることで、その破壊を免れる。

「《パワー・ツール・ドラゴン》は装備魔法を破壊することで、自身の破壊を免れる。イクイップ・アーマード!」

「キキキ……なら直接破壊するまでだぁ! サイバー・エンジェル-荼吉尼-でパワー・ツール・ドラゴンに攻撃!」

 効果破壊を防ぐことは出来たものの、サイバー・エンジェル-荼吉尼-の八つの刃による攻撃はまだまだ続いている。さらに連撃をたたき込もうとする最強のサイバー・エンジェルの前に、くず鉄で作り出されたかかしが立ちはだかった。

「《くず鉄のかかし》を発動! その攻撃を無効に……」

 最強のサイバー・エンジェルを前に、その程度の防壁は通用しない。発動した《くず鉄のかかし》は、サイバー・エンジェル-荼吉尼-の前に切り裂かれてしまう。

「キキキ……伏せてあった《トラップ・ジャマー》を発動! 相手の罠カードを無効にする!」

 その種はカウンター罠《トラップ・ジャマー》。バトルフェイズ中に発動した罠カードの効果を無効にするカードだ。カンテラが伏せていた二枚のサポートカードの支援もあり、パワー・ツール・ドラゴンはサイバー・エンジェル-荼吉尼-に破壊された。

遊矢LP4000→3600

 サイバー・エンジェル-荼吉尼-の刃の衝撃が襲うが、せいぜい400ポイント程度。気にすることではない。首尾良くこちらのエースカードを破壊した、カンテラの表情に笑みが浮かんでいくが、こちらにも発動するリバースカードが残っている。

「同じくリバースカード《奇跡の残照》を発動! 破壊された《パワー・ツール・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 祝福の教会に降り注ぐ光とともに、パワー・ツール・ドラゴンが鋼の咆哮を伴って復活する。簡単に復活したパワー・ツール・ドラゴンに、その表情から笑みが消えたカンテラだったが、もはやバトルフェイズに出来ることはなかった。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

「俺のターン、ドロー!」

 両者ともに、伏せられた二枚のリバースカードを消費した先のターンは、言うなれば痛み分けだっただろうか。カンテラには《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》と、一枚のリバースカードがある。そのライフポイントは僅か800ポイントと、このターンで追撃を仕掛けたいところだったが、生憎と俺の手札にモンスターカードはなかった。

「再びパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! パワー・サーチ!」

 発動されるパワー・ツール・ドラゴンの効果により選ばれたのは、《団結の力》・《デーモンの斧》・《魔界の足枷》。そのいずれも《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を破壊できたが、カンテラによって選ばれた装備魔法は、この状況では最もカンテラへのダメージが低い《団結の力》だった。

「パワー・ツール・ドラゴンに、《団結の力》を装備する!」

 手札に加えられた《団結の力》を装備する。いくら選ばれた三枚の装備魔法の中で、一番ダメージが低いとは言っても、それでも《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は3100。サイバー・エンジェル-荼吉尼-の攻撃力の2700を超え、充分に戦闘破壊が可能な数値へと跳ね上がった。尚更モンスターカードが手札になかったことが悔やまれるが、明日香のことを聞くためにも、カンテラのライフポイントを0にしてはならない……

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、サイバー・エンジェル-荼吉尼-を攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「うわぁぁ!」

カンテラLP800→400

 パワー・ツール・ドラゴンは難なくサイバー・エンジェル-荼吉尼-を破壊すると、その余波で受けたダメージによって、カンテラの残りライフポイントは400ポイント。奇しくも俺が先程、気にする程でもない僅かなダメージ、と称した数値と同じだった。

 そろそろ降参をしろ、と呼びかけようとしたものの、腐っても反乱軍に所属している戦士ということか、カンテラにはまだ降参する様子はない。相変わらずキキキ、と耳障りな鳴き声を響かせながら、その伏せられたリバースカードを発動した。

「キキキ……こっちもだ! 《奇跡の残照》を発動! 蘇れぇ、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》!」

 俺のフィールドに《パワー・ツール・ドラゴン》が復活した時と同じように、《奇跡の残照》によって《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が光とともに特殊召喚された。あの罠カードは、明日香のデッキにも入っていることは知っている。

 だが。

「それはお前が使って良いカードじゃない……!」

 あの《奇跡の残照》は、明日香の《サイバー・ブレイダー》とトレードしたカード。俺の《サイバー・ブレイダー》も明日香の《奇跡の残照》も、持ち主を変えて共に戦って来た。それを使うカンテラに対し、腕に血がにじむ程に握り締めながら睨みつける。だが、そんな感傷に浸る時間はなく《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が特殊召喚されたために、その効果を発動する。

「さっき言った通り……キキキ……《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は特殊召喚された時、相手はモンスターを破壊する!」

「……こっちもさっき言った通り、だ。《団結の力》を破壊し、パワー・ツール・ドラゴンの破壊を無効にする! イクイップ・アーマード!」

 特殊召喚したことで効果を発動し、《パワー・ツール・ドラゴン》を切り裂いた《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》だったが、《団結の力》を墓地に送ることで《パワー・ツール・ドラゴン》は破壊を免れる。しかし《団結の力》を墓地に送ってしまったことにより、その攻撃力は2300と、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃力を下回ってしまう。

 これでは次のターンで《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に破壊されるのみ――と、カンテラは計算通りだと思って笑っていることだろう。

「メイン2、俺は《アームズ・ホール》を発動! デッキからカードを一枚墓地に送り、墓地から《団結の力》を手札に加えて、再び《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、カードを一枚伏せてターンを終了する」

 そのターンでの通常召喚を封じることにより、装備魔法を手札に加えることの出来る通常魔法。俺の手札にモンスターはいないので、惜しみなく発動することが出来るが……ならば、バトルフェイズをする前に発動すれば、このターンでこのデュエルの決着をつけていられた。それでもこの《アームズ・ホール》を発動しなかったのは、明日香について手がかりを聞き出すために、カンテラのライフポイントを0にすることは出来なかっただけのこと。

 あえて一ターン見逃された、ということはカンテラにも分かったようで、こちらに対して憎らしい表情を取っていた。

「……オレのターン……ドロー……!」

 見逃されたことに怒り心頭といった様子だったが、それはカンテラだけでなくこちらも同じこと。これでサレンダーをする気がないなら、まだまだ痛みつける必要があるらしい……!

「《貪欲な壷》を発動! 墓地の五枚のモンスターを戻すことにより、二枚ドローぉ! ……さーらーにー《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚!」

 汎用ドローカードにより二枚ドローし、良いカードを引いたのか相変わらず笑いながら召喚されたのは、サイバー・エンジェルたちのサポートモンスター。その効果によって、手札に《機械天使の儀式》がカンテラの手札に加えられる。

「そして《機械天使の儀式》を発動! 《サイバー・プチ・エンジェル》と《エトワール・サイバー》をリリースし、《サイバー・エンジェル―弁天―》を儀式召喚!」

 フィールドの《サイバー・プチ・エンジェル》と、《融合準備》によって手札に加えられていた《エトワール・サイバー》を素材にし、降臨するのは扇を武器にした、明日香の儀式モンスターのフェイバリットと言える、《サイバー・エンジェル―弁天―》。

 しかしその攻撃力は1800と、《パワー・ツール・ドラゴン》には遠く及ばないにもかかわらず、攻撃表示にての召喚に警戒する。儀式モンスターの攻撃力を1500ポイント上げる、《リチュアル・ウェポン》だろうか。

「キキキ……確か、このモンスターは明日香とかいう女の大切なモンスターだったよなぁ……返してやるよぉ! 魔法カード《強制転移》!」

「……何だと!?」

 明日香のデッキにはもちろん入っていなかった、コントロール奪取系の魔法カード《強制転移》。カンテラのフィールドの《サイバー・エンジェル―弁天―》と、俺のフィールドの《パワー・ツール・ドラゴン》のコントローラーが入れ替わった。

 よって俺のフィールドには、明日香の《サイバー・エンジェル―弁天―》とリバースカードが一枚。カンテラのフィールドには、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》と、《団結の力》によって攻撃力が3900となった《パワー・ツール・ドラゴン》……!

「キキキ……バトル! サイバー・エンジェル-荼吉尼-でサイバー・エンジェル―弁天―に攻撃!」

 カンテラの魔法カード《強制転移》によって演出される、サイバー・エンジェルたちの同士討ち。最強のサイバー・エンジェルの名は伊達ではなく、荼吉尼は容易く弁天を切り裂いた。……そのサイバー・エンジェルの表情が、どちらも悲しげだった事は見間違いではあるまい。

「…………!」

遊矢LP3600→2500

「同士討ちってのはいつ見ても最高だぜ……キキキ……自分のモンスターでやられる様を見るのは、もっと最高だがな! パワー・ツール・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 コントロールを奪われた《パワー・ツール・ドラゴン》が、がら空きになった俺のフィールドに向かって攻撃を放つ。カンテラの不愉快な笑い声をバックにしながら、俺の前に砂埃まみれになっていた大量のカードたちが立ちはだかり、パワー・ツール・ドラゴンの一撃を食い止めた。

「伏せていた《ガード・ブロック》を発動。戦闘ダメージを0にし、一枚ドロー!」

「チッ……まあ良い、ターンエ、ン、ド、だ」

 大量のカードから一枚が俺の手札へと加えられ、《パワー・ツール・ドラゴン》はカンテラのフィールドへと舞い戻っていく。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》と《パワー・ツール・ドラゴン》が並び立つ光景に、俺は闘志を漲らせながらカードをドローする。

「俺は《レスキュー・ウォリアー》を召喚し、攻撃する!」

 ドローしたカードをすぐさま召喚するとともに、消防士のような格好をした機械戦士《レスキュー・ウォリアー》が召喚され、その背中に背負ったポンプで攻撃する。目標はもちろん、《パワー・ツール・ドラゴン》。

「キキキ……迎撃だ、パワー・ツール・ドラゴン!」

 攻撃力が3900となった《パワー・ツール・ドラゴン》に、何の装備魔法も装備していない下級の機械戦士では勝ち目はない。《レスキュー・ウォリアー》もその例には漏れず、あっさりと《パワー・ツール・ドラゴン》に破壊されてしまう。

 ……だが、《レスキュー・ウォリアー》の仕事はここからだ。レスキュー・ウォリアーが放ったポンプからの水流が、パワー・ツール・ドラゴンを絡めて捕らえていく。

「キキキ……!?」

「レスキュー・ウォリアーの二つの効果を発動! 俺への戦闘ダメージを0にし、コントロールを奪取されたモンスターを元々の持ち主へと奪い返す。帰ってこい、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 絡みついた水流が《パワー・ツール・ドラゴン》を引き戻し、俺のフィールドへと舞い戻って来る。《レスキュー・ウォリアー》は破壊されてしまったが、その思いは《パワー・ツール・ドラゴン》へと引き継がれていく。

「……なぁっ……!」

「そして、まだ俺のバトルフェイズは終了していない……!」

 俺のフィールドには奪い返した、《団結の力》によって攻撃力が3100に上昇した《パワー・ツール・ドラゴン》。そしてカンテラのフィールドには、攻撃力が2700の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》のみであり、そのライフポイントは僅か400ポイント。ちょうど《パワー・ツール・ドラゴン》の一撃で、カンテラのライフポイントは消える。……ライフポイントだけでなく、その存在すらも。

「話してもらおうか……明日香のことを……!」

 俺のその問いとともに、《パワー・ツール・ドラゴン》が《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に向かっていく。後はその腕を振り下ろすだけで、最強のサイバー・エンジェルごとカンテラの命は尽きる。

「さあ、話せ! 死にたくなければ!」

「ヒィッ……」

 カンテラは悲鳴をあげながら、フィールドに展開している祝福の協会の壁際まで下がっていき、そのまま尻餅をついてしまう。俺の殺気を孕んだ脅しに対して、そのままコクコクとカンテラは頷いた。

「まずは、そのデッキをどこで手に入れた……?」

「ひ、拾ったんだよ……止めろぉ!」

 明らかな嘘をつくカンテラに対して、俺は《パワー・ツール・ドラゴン》の腕を少しだけ《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に振り下ろした。カンテラからすぐさま制止する声が出され、《パワー・ツール・ドラゴン》はその動きを止める。前の持ち主の名前と好きなモンスターまで把握しているにもかかわらず、何も知らずにただ拾ったという訳がない。

「拾ったってのは本当だ……明日香とかいう奴と誰かがデュエルしてた後に、そう、拾ったんだよ! ……ヒッ!」

「……あ?」

 カンテラがそう答えるとともに、もう一度《パワー・ツール・ドラゴン》がその一撃を振り下ろそうとする。そのカンテラの口振りでは、明日香が誰かとデュエルして敗北し、そのデッキをカンテラが受け継いだように聞こえた……そしてこの世界で敗北したということは、即ち明日香は……?

「嘘をつくなよ……つくなぁッ!」

 近くにあった祝福の協会の机に、思いっきり腕を叩きつける。俺のその動きに連動するように、パワー・ツール・ドラゴンが動き始めた。

「嘘じゃねぇよぉ! だ、だから止めてくれ……!」

 もはやカンテラの言う言葉など聞こえない。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に対して、《パワー・ツール・ドラゴン》の一撃が躊躇いなく喰らわせる――ところで、俺のリリィから借りたデュエルディスクから、警告を知らせる音声が鳴り響いた。

「なに……?」

 デュエルディスクが示していたのは、今の俺のフェイズ。《パワー・ツール・ドラゴン》が攻撃しようとしていたバトルフェイズではなく、全てのターンの終わりとなっているエンドフェイズとなっていた。当然エンドフェイズに攻撃出来るはずもなく、《パワー・ツール・ドラゴン》は《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》への攻撃を中断し、俺の元へと帰還した。

「キキキ……一分間何も行動しなかったプレイヤーはターンを放棄したと見なされる……オレのターン、ドロー!」

 ……これは異世界のデュエル。俺たちが知っているデュエルとは違う、そのことは承知していた筈なのに。そのルールによって俺のターンは終了し、カンテラのターンへと移行する。尻餅をついていたカンテラは壁を背にして起き上がり、俺から逃げるようにしながらカードをドローした。

「速攻魔法《神秘の中華鍋》を発動し、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を墓地に送り、ライフを攻撃力分だけ回復する。……さらに墓地のモンスターを除外し、手札のこのモンスターを特殊召喚する!」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が墓地に送られるとともに、カンテラの背後から巨大な石盤とそのモンスターの影が浮かび上がって来る。明日香のデッキに似つかわしくない、悪魔のようなモンスターの姿が。

「墓地の闇属性・悪魔族モンスター三体と、光属性・天使族モンスターを除外することで、キキキ……現れろぉ、《天魔神 ノーレラス》!」

 四体のモンスターがカンテラの背後の石盤に吸収されると、耐えきれなくなったかのように破壊され、封印が解けたかのように悪魔が石盤から姿を見せた。サイバー・エンジェルたちとは程遠く、石盤に吸収されていった悪魔と天使を継ぎ接ぎにしたような、そんなモンスターだった。

 あの《カオス》モンスターと似たような召喚条件を持った、《天魔神》というシリーズカードの中の一枚かつ、最も強力なモンスターである《天魔神 ノーレラス》。墓地の闇属性・悪魔族モンスター三体と、光属性・天使族一体を除外する、という厳しい召喚条件を備えていて、明日香のデッキに元々入っていたカードではない。墓地に悪魔族を送っていたのは、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を《高等儀式術》で儀式召喚した時しかない。

 明日香のデッキを改造したことに対して憤っていると、最強の天魔神。ノーレラスの効果が起動しようとしていた。

「キキキ……《天魔神 ノーレラス》の効果を発動! 1000ポイントのライフを払い、フィールドのカードとお互いの手札を全て墓地に送る! セメタリー・オブ・インパクト!」

カンテラLP3100→2100

 今、この世界を構成している祝福の教会にヒビが入っていく。それと同時に《パワー・ツール・ドラゴン》の耐性効果すらも意に介さず、世界全てを破壊し尽くそうとしている、《天魔神 ノーレラス》本体ですらも。ピシィ、と一際強大な音が響き、ノーレラスの手によって全てが抹消された。

「さらにオレは一枚ドロー! ……キキキ……今引いた《死者蘇生》を――!?」

 《神秘の中華鍋》でライフポイントを回復し、《天魔神 ノーレラス》の効果のライフコストを確保して、フィールドのカードに手札を全て墓地に送る。そして一枚ドローしたカードでの追撃、とカンテラが行おうとした時――フィールドに二対の旋風が巻き起こった。

「……墓地に送られた二枚の《リミッター・ブレイク》の効果――デッキから、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

『トアアアッ!』

 マイフェイバリットカードが二体、俺のフィールドに旋風とともに並び立つ。カンテラは、予想外のタイミングで特殊召喚された《スピード・ウォリアー》のことを驚いたようだったが、所詮は下級モンスターだと判断したのか、キキキ……と笑いながら行動を続行する。

「ハッ……《死者蘇生》を発動! 墓地から《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を特殊召喚!」

 再び特殊召喚される《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》。特殊召喚されたことによって何回目かの効果が発動し、《スピード・ウォリアー》のうち一体が破壊された。

「バトル! その下級モンスターを破壊しろ!」

「くっ……!」

遊矢LP2500→900

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の八つの刃が、二体の《スピード・ウォリアー》をいとも容易く破壊し、俺のライフポイントを大きく削る。俺の手札は0枚にフィールドには何も無しと、完全にカンテラと俺の形成は逆転していた。

「キキキ……オレはこれでターンエンド。すぐにその明日香って女のところに送ってやるよ!」


「俺のターン、ドロー……!」

 カンテラの言葉を無視するとともに、勢い良くデッキからカードをドローする。このデュエルで活かす機会は無かったものの、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》には貫通効果があり、壁モンスターを守備表示で出して耐え抜くという手段は通用しない。ならば今引いたこのドローカードが、このデュエルにおけるラストドロー……!

 そして引いたカードは――俺の知らないカードだった。

「このカードは……?」

 知らないカードではあったが、そのカードの持ち主に心当たりはあった。何故ならば、そのカードに記された《ヒーロー》という文字。俺の知っているヒーロー使いで、この異世界に来る直前にデュエルした者は、一名だけしかいない。

 ――遊城十代。どうして彼のカードがこのデッキに紛れているかは分からないが、俺はそのカードをデュエルディスクにセットした。

「俺は《潜入!スパイ・ヒーロー》を発動! デッキからカードを二枚ランダムに墓地に送り、相手の墓地の魔法カードを手札に加える! 俺が手札に加えるのは、《死者蘇生》!」

「オレの墓地のカードを!?」

 カンテラのデュエルディスクから、《死者蘇生》のカードが俺に向かって飛んできたのをキャッチすると、そのままその《死者蘇生》をデュエルディスクにセットした。言わずと知れた万能蘇生カード、《死者蘇生》によって蘇らせるモンスターカードは――

「《死者蘇生》によって、お前の墓地の《サイバー・エンジェル―弁天―》を特殊召喚する! ……返してもらうぞ、明日香のフェイバリット!」

 ――《サイバー・エンジェル―弁天―》。二対の扇を持ったサイバー・エンジェル、明日香のフェイバリットカードだったモンスターを選択し、カンテラの元から彼女を解放する。《サイバー・エンジェル―弁天―》は一瞬だけこちらを振り向いたが、すぐにその扇をまだカンテラのフィールドにいる《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に向けた。

「キキキ……そんなザコモンスター蘇生しようがなぁ……!」

「俺は墓地の二枚のカードを発動! 《ADチェンジャー》! 《スキル・サクセサー》!」

 《天魔神 ノーレラス》や《潜入!スパイ・ヒーロー》の効果で《リミッター・ブレイク》たちと同様に、墓地に送られていた二枚のカード、《ADチェンジャー》と《スキル・サクセサー》。その二枚のカードによって、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の表示形式は変更され、《サイバー・エンジェル―弁天―》の攻撃力は2600となる。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の守備力は2400と、《スキル・サクセサー》の補助を受けた《サイバー・エンジェル―弁天―》なら、戦闘破壊することが可能な数値。

 ……そして《サイバー・エンジェル―弁天―》は、破壊したモンスターの守備力分のダメージを与える効果がある……

「なあっ……!?」

 そして《天魔神 ノーレラス》の効果もあって、その弁天の一撃を防げることは出来ない。カンテラもそれを理解したようで、先程と同様にこちらから背を向けて逃げ出した。それがただのポーズであり、またも一分間という時間を稼ぐためだということは分かる。

 だが、俺にはカンテラに攻撃することは出来なかった。これでトドメを刺してしまえば、明日香の手がかりは消えてしまい、この反乱軍にもいることが出来なくなってしまうだろう。とりあえず《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を戦闘破壊し、守備力分のダメージを与える効果は発動せずに、とりあえずデュエルを進める。

「《サイバー・エンジェル―弁天―》で、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃! エンジェリック・ターン! ――――っ!?」

 そう考えて《サイバー・エンジェル―弁天―》に攻撃を命じた瞬間に、部屋にデュエル外の音が鳴り響いた。控えめに部屋のドアをノックする音がした数秒後、部屋のドアが静かに開いた。

「あの……何だか、物音がした、ので……」


 ――それから起きた出来事は一瞬だった。

「キキッ……!」

 控えめなノックとともに部屋に入ってきたのは、このデュエルの音に反応して、見に来てくれたリリィ。そして、彼女に目ざとく反応したカンテラは、人質にでもしようとでも思ったのか、ドアを開けたリリィの方に向かっていく。何が起きているのか分かっていないリリィに、カンテラから逃げるようなことは出来ず、反応が追いついていなかった。

 《スキル・サクセサー》と《ADチェンジャー》の支援を受けた、《サイバー・エンジェル―弁天―》は首尾良く《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を戦闘破壊したものの、守備表示のためにカンテラにダメージはない。破壊された《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》のことには目もくれず、カンテラはリリィの元へ向かっていく。


 ――そのリリィとカンテラの様子は俺の脳内に、明日香がデュエルゾンビのモンスターに、直接攻撃を受ける光景がフラッシュバックする――

「……させるかぁぁぁぁぁ!」

 今度こそ明日香をやらせはしない――という俺の叫び声に呼応するように、《サイバー・エンジェル―弁天―》が動き出していく。リリィに向かって、腰に差していた剣を振りかざしたカンテラの背後に、サイバー・エンジェル―弁天が降り立つと――

「ギッ」

 ――カンテラの身体を横薙に切り裂くとともに、その効果で《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の守備力分のダメージを受け、そのライフポイントを0にし……カンテラはこの世界から消えることとなった。

「キキ、キキキ、キキキキキキキキキキキキ……」
 最期の瞬間まで、狂ったようにその耳障りな笑い声を響かせながら、カンテラのデュエルディスクから逃げ出すように、明日香のデッキからカードがバラバラと抜け落ちていく。デュエルの終了とともに《サイバー・エンジェル―弁天―》と両断されたカンテラの姿が消えていき、奇しくもデュエルの開始時と同じように、明日香のデッキが舞い上がっていく。

 ……そして、舞い上がったカードの向こうにいる彼女は……

「…………」

 ……明日香では、ない。 
 

 
後書き
何とも後味の悪い復帰戦である…… 

 

―激戦―

 反乱軍の基地においてカンテラから襲撃を受けた俺は、騒ぎを聞いて駆けつけた他のヒロイックに即座に拘束された。仲間であるカンテラを殺した、裏切り者として。先に襲って来たのはアイツだと説明しようにも、仲間として戦って来たカンテラの死と、異世界から来た誰とも知れない男の言葉では、どちらを信用するかは火を見るより明らかだ。現場に居合わせていたリリィが庇ってくれていなければ、俺はその場で殺されていてもおかしくはなかっただろう。

 結果として、俺は反乱軍からの信用を一瞬にして失った。……元々無いようなものだが、もう彼らに信用されることはないと確信を持って言える。俺が逆の立場ならばそうするだろうから。

 そんなことを考えながらも、俺は調整が終わった【機械戦士】デッキをデュエルディスクへと差し込んだ。用意された砂埃まみれのデッキ倉庫に埋もれていた、十代とのデュエルでバラバラになった筈の俺の【機械戦士】デッキ。どのようにしてかは分からないが、世界を超えて再び俺の手へと戻って来た。

 デュエリストがカードを選ぶのではなく、カードがデュエリストを選ぶのだ――とは良く聞く話ではあるが、【機械戦士】たちが俺を追いかけて来てくれたのだろうか。そういうことであれば……今この状況ならば助かる。明日香を助ける為の大きな力になるだろうから。

 だが、その明日香の行方を知ることはまだ出来ていない。カンテラが使っていたのは間違いなく――少し手を加えられてはいるが――明日香の【サイバー・ガール】デッキだった。奴が消滅する際に、他のデュエリストとは違ってデッキは消滅しなかったため、【サイバー・ガール】デッキは俺の手の中にあるが……それは裏を返せば、明日香が自身のデッキを持っていないことに他ならない。

 あまり考えたくない事態を無理やり頭から追い出すと、明日香のデッキを使っていないデッキホルダーに入れながら、砂埃まみれの部屋のドアを開ける。そのまま地下特有の暗い廊下を歩いて行くと、ドーム場に開けた空間へとたどり着く。そこにはリリィが乗っていた《漆黒の闘竜》を始めとした、様々な飛行出来るモンスターが鎖に繋がれていた。

 ドラゴンたちの格納庫と言えば分かりやすいだろうか……俺とリリィをこの反乱軍の基地まで連れてきてくれた、二人で乗った《漆黒の闘竜》へと近づいていくと、その背中へと飛び乗った。

 ……別に出て行こうという訳ではない。周りを見れば、自分以外の竜にも戦士たちが乗り込んで、それぞれ思い思いの行動をしている。……しかしその竜に乗っている戦士たちの中には、自分の方へと目を向けてくれる者と《ヒロイック》の戦士たちは存在しなかった。今この場にいるのは反乱軍の主戦力である《ヒロイック》の戦士たちではなく、自分のようにイレギュラーな存在だったり、命からがらこの場に逃げてきた者だったり、この異世界の原住民だったりと、《ヒロイック》の戦士たちではない者たちで構成されている。

 《ヒロイック》の戦士たちが建てた作戦はこうだ。自分たちのようなイレギュラー隊が囮となって闇魔界の軍勢と戦っている間に、ヒロイックの本隊が囚われのデュエリストを救出する。そして救出したデュエリストとともに、そのまま闇魔界の『覇王』の元に攻め込んでいく。

 ……要するに捨て駒だった、自分たちは。

「戦士の諸君! 今こそ出陣の時だ!」

 ヒロイックのリーダーであるスパルタスの声とともに、戦士たちの雄叫びが格納庫を支配した。……ヒロイックの戦士たちだけではなく、自分たち捨て駒部隊も例外ではなく。隣の竜に跨がっていながら雄叫びをあげる、傷だらけの《切り込み隊長》を冷めた目で一瞥しながら、自分は自分だけで決意を固めた。

 必ず生き残ると。明日香を見つければ……彼らを見捨てて逃げることも辞さない、と。

「あ、の……」

 ……そんな仄暗い決意を固めている俺の《漆黒の闘竜》に、もう一人の人物が乗って来た。……彼女にも最後までお世話になったものだ。

「リリィ、お前はこっちの部隊じゃないだろ?」

 元々ヒロイックの戦士たちの仲間だったらしい彼女が、こんな捨て駒部隊に配属される訳もなく、彼女の役割はヒロイックの戦士たちとともに、囚われのデュエリストを救出すること。ここの自分の立場をわきまえた突き放した口調で話しかけるが、リリィが《漆黒の闘竜》から降りようとはしなかった。

「……降りろ。降りてくれ」

 彼女の方に顔を向けずにもう一度改めて言うと、視線を向けていない俺の背後でもぞもぞと動く音がした。ようやく降りてくれたか――と思った矢先に、片手が温かい感覚に包まれた。

「わたしが絶対に、あなたの大事な人を助けます……ので、死なないで、ください」

 耳元でそう呟かれるとともに、片手を包み込んでいた温かい感覚が消えていく。そのままリリィは俺たちが乗っている《漆黒の闘竜》から飛び降りると、足早に自分の持ち場へと駆け出して行った。救出部隊は竜に乗るのではなく、目立たないように陸路を行くのだったか。

「――出撃!」

 感傷に浸る間もなくスパルタスの怒声が響き渡り、地上への道筋のように天井が開くとともに、地上の光とともに格納庫にいる竜たちが一斉に飛び上がる。自分も他の戦士たちに習ってリリィから借りた《漆黒の闘竜》を発進させると、異世界の大空へと飛び上がっていった。《闇魔界の龍騎士 ダークソード》と戦った蒼穹を逆走していくと、しばらく経たないうちに闇魔界の軍勢が居城としている、この異世界の中心が見えてくる。

 そのまま《漆黒の闘竜》を降下させようとすると、一斉に城壁から対空放火――いや、《対空放花》が火を噴いた。迫り来る植物の弾丸を《漆黒の闘竜》を再び浮上させることで避けたものの、その《対空放花》が止んだ隙に《闇魔界の龍騎士 ダークソード》たちが続々と発進して来る。ざっと見ただけでもその数はこちらの捨て駒部隊を大きく上回っており、その龍騎士部隊を正面で率いるのは――

「戦士長……」

 ――俺がリリィのデッキで対戦して危うく死にかけた、ペンデュラム召喚を取り入れた【マシンガジェ】を使用していた、闇魔界の戦士長である。あの時は無様に敗北することが確定してしまっていたが、今は俺の手の中には【機械戦士】がある。

「俺が指揮官とやる!」

 そう一緒に飛んできた者たちに告げて、返答も効かずに《漆黒の闘竜》を戦士長に向けて飛翔させると……不思議と、全く妨害を受けることはなく、戦士長の竜へと肉迫することに成功する。デュエルディスクを構えて戦士長の方を仰ぎ見ると、奴もその乗機――《デス・デーモン・ドラゴン》に乗りながら、既にデュエルディスクを展開していた。

 奴も誘っているのだ……今度こそ、最期まで決着をつけようと。故に周りにいる龍騎士部隊には邪魔されずに、戦士長の元まで来ることが出来たのだろう。俺もその戦士長の覚悟に応えるべく、リリィから借りたデュエルディスクを展開させると、デュエルの準備が完了する。

『デュエル!』

遊矢LP4000
戦士長LP4000

 ――そしてどちらも一言も交わさぬままに、二度目となるデュエルが開始される。今度こそ逃げられるなんてことはなく、どちらかが確実に消滅する――そんなデュエルを、だ。

「俺の先攻!」

 デュエルディスクが先攻として選んだのは俺の方だった。風を切って進んでいく《漆黒の闘竜》から落ちないようにすると、手札に五枚のカードを揃えて確認する。

「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚し、カードを二枚伏せてターンを終了!」

「フッ……私のターン、ドロー!」

 腕甲の機械戦士が二枚のリバースカードとともに俺の守備の布陣を固め、戦士長のターンへと移行していく。戦士長のデッキは、ペンデュラム召喚を採用した【マシンガジェ】――その大量展開の前に、先日は大敗を喫することとなった。

 だが今回は違う。今の俺の手の中には【機械戦士】たちがいる……!

「そうだな……まずは二枚のカードを、ペンデュラムスケールにセッティングしよう」

 二枚のペンデュラムカード――先のデュエルの時と同じように、まずは二体のペンデュラムの魔術師のお目見えかと、俺は気を引き締めて戦士長が構成していく二筋の光を見た。

「魔術師じゃない……!?」

 その赤と青のペンデュラムスケールをセッティングしているペンデュラムモンスターは、闇魔界の軍勢が使用している二体の魔術師ではなかった。この世界にない機械のような、まるで俺たちの世界にある機械のような黄金のモンスターが、その場に浮かんでいた。

「私がセッティングしたのは、《クリフォート・ツール》と《クリフォート・アーカイブ》。さて、ペンデュラム召喚をさせてもらおうか!」

 そして赤と青のペンデュラムスケールがそびえ立つ天空に、モンスターを呼び出す魔法陣が現れると、戦士長の号令の下でその魔法陣から新たなモンスターが現れる。その魔法陣から現れるのはガジェット族――ではなく、《クリフォート》と呼ばれる、新たな金色の機械だった。

「現れろ、《クリフォート・ゲノム》! ……ククク」

 手札からペンデュラム召喚された《クリフォート・ゲノム》を満足そうに見ると、戦士長は小さく、だが満足げに笑いだした。そしてこちらに視線を向けるとともに、そのように宣言を発した。

「私の新たなデッキ、【クリフォート】の力……君で試させてもらおう!」

「くっ……!」

 その戦士長の言葉から察するに、彼は【マシンガジェ】から新たなデッキ、【クリフォート】へと乗り換えたそうだが、そのデッキの実力とは如何なものか。今し方ペンデュラム召喚された、《クリフォート・ゲノム》というモンスターは、上級モンスターのようではあるものの、その攻撃力は1800程度のようだが……?

「まずは《クリフォート・ツール》のペンデュラム効果を発動。800のライフを払うことで、デッキからクリフォートと名の付くカードを手札に加える。私が手札に加えるのは、《クリフォート・シェル》」

戦士長LP4000→3200

 ペンデュラムスケールに置かれている《クリフォート・ツール》のペンデュラム効果により、戦士長のライフを犠牲に新たなクリフォートが手札に加えられる。まずはクリフォートというのがどのようなデッキなのか、このターンで見定めねばならない。

「そして《クリフォート・ゲノム》に装備魔法、《機殻の生贄》を装備。このカードを装備したモンスターは、クリフォート専用のダブルコストモンスターとなる。《クリフォート・ゲノム》をリリースすることで、《クリフォート・シェル》をアドバンス召喚!」

 先程デッキからサーチしたモンスターと同じモンスターだろうが、《クリフォート・ゲノム》をリリースすることで、新たに《クリフォート・シェル》という巻き貝のようなモンスターがアドバンス召喚される。最上級モンスターをリリースするならば、何故最初からペンデュラム召喚をして召喚しないのか……という疑問を俺が抱いている暇もなく、そのアドバンス召喚にて早くも盤面は動き出していた。

「《機殻の生贄》がフィールドを離れた時、デッキからクリフォートを手札に加えられる。私は二枚目の《クリフォート・ツール》を選択。さらにリリースされた《クリフォート・ゲノム》の効果! このカードがリリースされた時、相手のリバースカードを一枚破壊する!」

「このタイミングで効果の発動か……」

 リリース素材として墓地に送られていた筈の《クリフォート・ゲノム》から電撃が放たれると、俺の伏せていたリバースカード《くず鉄のかかし》が破壊される。まだ俺のフィールドには《ガントレット・ウォリアー》がいるが、新たな《クリフォート・シェル》はどのような効果を持っているか……

「そしてクリフォートをリリースしてアドバンス召喚された《クリフォート・シェル》は、二回攻撃と貫通効果を得る!」

「なにっ!?」

 《ガントレット・ウォリアー》の守備力は1600、《クリフォート・シェル》の攻撃力は2800――《くず鉄のかかし》の破壊によってその攻撃を防ぐことは出来ず、その二回攻撃を食らえば丁度4000のライフポイントを失うこととなる――

「さらに《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果! クリフォートの攻撃力を300ポイントアップ!」

 ――いや、それ以上のダメージを受けることになるらしい。だがこれで、【クリフォート】というデッキがどのようなデッキなのか、という疑問がはっきりした。《クリフォート・ツール》といったサーチ効果でクリフォートたちを揃え、ペンデュラム召喚によって、リリースされた際に効果を発揮するクリフォートモンスターを特殊召喚し、クリフォートモンスターをリリースすることによって効果を得る、最上級クリフォートモンスターによってトドメを刺す。

 ……動きは単純だが、その単純だからこそ強いクリフォートたちの力は、早くも俺のライフポイントを0にせんと追い詰めていた。

「ワンターンで終わらせてもらおう! 私は《クリフォート・シェル》で《ガントレット・ウォリアー》に攻撃!」

 《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果を得ることによって、その攻撃力は3100。さらに、自らの効果によって二回攻撃と貫通効果を得ていて、リリースした《クリフォート・ゲノム》の効果でこちらの攻撃を防ぐリバースカード《くず鉄のかかし》を破壊している。

「……だからって負けられないんだよ! 俺は手札から《牙城のガーディアン》の効果を発動!」

 《クリフォート・シェル》からの攻撃を受けようとしている《ガントレット・ウォリアー》の前に、新たな機械戦士が手札からその場にそびえ立った。その《牙城のガーディアン》の効果によって、《ガントレット・ウォリアー》の守備力は1500ポイントアップする。

「弾き返せ、《ガントレット・ウォリアー》!」

 《ガントレット・ウォリアー》の守備力と《クリフォート・シェル》の攻撃力は互角――《牙城のガーディアン》の支援を受け、《ガントレット・ウォリアー》は《クリフォート・シェル》の一撃を跳ね返した。

 ……いくら相手が強かろうと、【機械戦士】たちは一歩も引かないのだと証明するように。

「ククク……良いぞ、それでこそだ! 私は永続魔法《補給部隊》を発動し、ターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー!」

 戦士長のデッキが【マシンガジェ】から変わっているのは予想外だったが、【クリフォート】がどんなデッキなのかは嫌になるほど見せつけられた。……そして、俺が何をするかは変わらない。

「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動し、お互いに手札を二枚捨てて二枚ドローする!」

 所謂いつもの手札交換カードをまずは発動するが、《リミッター・ブレイク》のようなカードは今は俺の手札にない。……代わりと言っては何だけれど、その《手札断殺》に反応し、俺のフィールドに伏せられていた罠カードが開いたが。

「お前がドローフェイズ以外でカードをドローしたため、伏せられていた《便乗》を発動する!」

「……《便乗》だと?」

 戦士長が怪訝な視線を俺が発動した罠カードへと向ける。もちろん、普段から【機械戦士】デッキに投入している訳ではなく、この戦士長を相手だと見越して投入したものだった。メタを張ったにもかかわらずデッキが変わっていて焦ったものだが、その《補給部隊》の存在から、まだ使えなくはないようで安心した。

「《ガントレット・ウォリアー》をリリースすることで、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚! サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功したため、墓地から《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚する!」

 《ガントレット・ウォリアー》をリリースすることによって現れた《サルベージ・ウォリアー》が、その効果によって《手札断殺》の効果で墓地に送っていた《ニトロ・シンクロン》を蘇らせる。チューナーと非チューナーが揃ったところで、やるべきことは一つしかない。

「俺はレベル5、《サルベージ・ウォリアー》に、レベル2、《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」

 墓地から《サルベージ・ウォリアー》の網で救出された《ニトロ・シンクロン》の、その頭についたメーターを振り切っていき、緑色に光る星の輪となってサルベージ・ウォリアーを包み込んだ。狙うはクリフォートモンスターのパワーについて行ける、最も高火力な機械戦士……!

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

 シンクロ召喚の光とともに、悪魔のような形相をした機械戦士がそのフィールドに炎を発しながらシンクロ召喚をされる。その視線は《クリフォート・シェル》を射抜いており、自らが倒すべき敵だと確認しているかのようだった。

「《ニトロ・シンクロン》を素材としたため一枚ドロー! さらに《ニトロ・ウォリアー》に、《ファイティング・スピリッツ》を装備!」

 俺が発動したカードから《ニトロ・ウォリアー》へと力が送り込まれていき、その攻撃力を3100へと上昇させる。大量展開を主とする【クリフォート】相手ならば、この《ファイティング・スピリッツ》の効果が有用な筈だと考えると、俺は《ニトロ・ウォリアー》へと攻撃を命じた。

「ニトロ・ウォリアーは魔法カードを使ったターン、攻撃力が1000ポイントアップする! バトルだ!」

 《ファイティング・スピリッツ》を装備したことによって、《ニトロ・ウォリアー》の攻撃力を1000ポイントアップする効果の発動条件を満たし、その攻撃力は4100。《クリフォート・アーカイブ》の効果で攻撃力が上昇している《クリフォート・シェル》の攻撃力を上回る。

「ニトロ・ウォリアーでクリフォート・シェルに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」

「ぬっ……!」

戦士長LP3200→2200

 ニトロ・ウォリアーが《クリフォート・ツール》を捉え、その部分に渾身の右ストレートを叩き込むことにより、《クリフォート・シェル》の破壊に成功する。そのまま戦士長の乗っていたドラゴンにもその衝撃が伝播していき、その竜の身体が大きく揺れた。

「ペンデュラムモンスターは破壊された時、墓地ではなく、エクストラデッキに送られることとなる」

 そのペンデュラムモンスターの特性は、先の竜騎士との戦いにおいて既に分かっている。いくらクリフォートモンスターを破壊しようとも、恐らくはただ、最上級クリフォートモンスターのリリース素材となるだけだ。

「だがこちらの永続魔法《補給部隊》の効果は問題なく発動する。戦闘で破壊されたことにより、カードを一枚ドロー!」

 以前のデッキである【マシンガジェ】の際にもデッキに投入されていた、一ターンに一度という制約はあるものの、戦士長のモンスターが破壊される度に一枚カードをドローする永続魔法《補給部隊》。……その永続魔法に反応し、こちらの永続罠も起動する。

「お前がカードをドローした時、こちらの永続罠《便乗》の効果が発動する! お前がドローフェイズ以外でカードをドローした時、こちらもカードを二枚ドローする!」

「ほう……?」

 永続罠《便乗》の効果は知らなかったのか、戦士長が面白そうに《便乗》のカードを見つめていた。戦士長が使用していた《補給部隊》を始めとした、カードをドローするカードのメタだが、今のところは問題なく作用している。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 破壊された《クリフォート・シェル》をエクストラデッキに送った後に、ターンが移った戦士長はデッキからカードをドローする。このまま《ニトロ・ウォリアー》のパワーで押していければ良いが、戦士長のペンデュラムゾーンに万能にサーチ出来る《クリフォート・ツール》がある限り、そう簡単に行くことはないだろう。

「私は800のライフを払い、《クリフォート・ツール》の効果によって《クリフォート・ディスク》を手札に加える」

戦士長LP2200→1400

 そのライフポイントが半分を切るにもかかわらず、戦士長は恐れずに《クリフォート・ツール》の効果を使用し、再び新たなクリフォートモンスターを手札に加える。そして、ペンデュラムゾーンにセットされた二対のクリフォートが光り輝くと、天空にペンデュラム召喚の魔法陣が現れた。

「ペンデュラム召喚! エクストラデッキから現れよ、我がクリフォートたちよ!」

 魔法陣から光となってフィールドに降り立ったのは、《ニトロ・ウォリアー》に破壊された《クリフォート・シェル》と、そのリリース素材となった《クリフォート・ゲノム》。……破壊されずにリリースされてもエクストラデッキに行くのは、少し計算外だったが。

「そして二体をリリースし、《クリフォート・ディスク》をアドバンス召喚!」

 そしてすぐさまアドバンス召喚されたのが、先程手札にサーチされた《クリフォート・ディスク》。その名に違わず緑色の円盤のような形をしていて、あたかもUFOのようだった。しかし、俺がそれ以上の情報を調べようとする前に、まずはリリースされた《クリフォート・ゲノム》の効果が発動した。

「クリフォート・ゲノムがリリースされた時、相手の魔法・罠カードを破壊する! その《ファイティング・スピリッツ》を破壊してもらおう!」

 《クリフォート・ゲノム》の効果の狙いは、《ニトロ・ウォリアー》に装備されていた装備魔法《ファイティング・スピリッツ》。そして改めて見る《クリフォート・ディスク》の攻撃力は2800――《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果も併せ、その数値は先の《クリフォート・シェル》と同じく3100。

「さらに《クリフォート・ディスク》の効果を発動! このカードがアドバンス召喚された時、デッキからさらに二体、クリフォートモンスターを特殊召喚する! 現れよ、《クリフォート・アーカイブ》! 《クリフォート・ゲノム》!」

「さらに二体のモンスターを特殊召喚だと……!」

 《クリフォート・シェル》のように、アドバンス召喚された際に何らかの効果は持っているとは思っていたが、さらに二体現れたクリフォートモンスターに言葉を失うしかなかった。召喚された《クリフォート・アーカイブ》と《クリフォート・ゲノム》とともに、俺と《ニトロ・ウォリアー》を取り囲んでいた。

「まあ安心するんだな……《クリフォート・ディスク》の効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊され、アドバンス召喚していないクリフォートモンスターの攻撃力は1800に固定される。バトルだ!」

 戦士長が笑いながらそう言い放っているが、もちろん安心など出来るはずもない。《クリフォート・ディスク》で特殊召喚された《クリフォート・アーカイブ》と《クリフォート・ゲノム》はエンドフェイズ時に破壊されたとしても、ただエクストラデッキに置かれて次なるペンデュラムモンスターを待つだけであり、さらに《補給部隊》によって一枚のドローに変換される。

 そもそもエンドフェイズ時のことを考えるより先に、まずはこのターンの三体のクリフォートモンスターの攻撃を防ぎきらなくてはならない……!

「《クリフォート・ディスク》よ、《ニトロ・ウォリアー》を破壊せよ!」

 《ファイティング・スピリッツ》を破壊された《ニトロ・ウォリアー》と、《クリフォート・アーカイブ》の効果によって攻撃力の上がった《クリフォート・ディスク》のぶつかり合いは、当然《クリフォート・ディスク》が制することとなる。《クリフォート・ディスク》の体当たりに《ニトロ・ウォリアー》は破壊され、俺のフィールドはがら空きとなった。

遊矢LP4000→3700

「ゆけ、《クリフォート・アーカイブ》! ダイレクトアタックだ!」

「リバースカード、オープン! 《トゥルース・リインフォース》! デッキからレベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する! 来い、《マッシブ・ウォリアー》!」

 戦士長はアドバンス召喚していないクリフォートモンスターは、攻撃力は1800となるとは言っていたが、《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果により、その攻撃力は2100。新たに召喚された《クリフォート・アーカイブ》と《クリフォート・シェル》の二回の攻撃で、容易く俺のライフを消し飛ばす。その時デッキから特殊召喚され、《クリフォート・アーカイブ》の攻撃を防いだのは、要塞の機械戦士――《マッシブ・ウォリアー》。

「《マッシブ・ウォリアー》は戦闘ダメージを受けず、一度だけ戦闘では破壊されない!」

「なるほど……ならば《クリフォート・ゲノム》で攻撃!」

 《マッシブ・ウォリアー》の戦闘破壊耐性の効果は一ターンに一度。《クリフォート・ゲノム》の攻撃を受けて破壊されてしまうが、おかげで俺のライフポイントにダメージはない。

「ふん、しぶとい奴だ……カードを一枚伏せる。そして《クリフォート・ディスク》の効果で特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズとともに破壊される。破壊されたため、《補給部隊》によって一枚ドロー!」

「だが、お前がドローしたことにより《便乗》の効果によって二枚ドロー! 俺のターン、ドロー!」

 合計三枚のカードをドローして俺のターンに移行するとともに、改めてフィールドの状況を見直した。戦士長のフィールドには、ペンデュラムゾーンに一ターンに一度、800ライフを払うことでクリフォートカードをサーチする《クリフォート・ツール》に、攻撃力を300ポイントアップさせる《クリフォート・アーカイブ》。さらに攻撃力3100の《クリフォート・ディスク》に、一枚のリバースカードに永続魔法《補給部隊》。エクストラデッキには何体ものクリフォートモンスターが控えていて、そのライフポイントは1400。

 対する俺のフィールドにはモンスターはおらず、永続罠《便乗》とリバースカードが一枚。ライフポイントは3700とまだ余裕はあるが、既に二回のワンショットキルをされかけていては、いくらライフがあろうと安心は出来ない。

「俺は魔法カード《戦士の生還》を発動! 墓地から《マッシブ・ウォリアー》を手札に加え、そのまま召喚する!」

 先程クリフォートモンスターの攻撃を受けきってくれた、《マッシブ・ウォリアー》が再び墓地から特殊召喚される。今の俺の手札には、この状況を打開して戦士長のライフを削る手段はない。だが、戦士長の攻撃力3100を誇る、《クリフォート・ディスク》をあのままにしておく訳にはいかない。

「バトル! マッシブ・ウォリアーでクリフォート・ディスクに攻撃!」

「……うん?」

 《マッシブ・ウォリアー》が《クリフォート・ディスク》に攻撃するものの、その攻撃力の差は歴然であり、簡単に《マッシブ・ウォリアー》の攻撃は弾かれてしまう。戦士長はその俺の行動に疑問の声を示すが、それを無視してメインフェイズ2に移行すると、手札の新たなモンスターを掴む。

「メインフェイズ2、手札から《ワンショット・ブースター》を特殊召喚!」

 このターン、《マッシブ・ウォリアー》の通常召喚に成功しているため、ミサイルを装備した黄色い機械族《ワンショット・ブースター》が特殊召喚出来る。そして《ワンショット・ブースター》はその装備したミサイルを、《クリフォート・ディスク》へと向ける。

「《ワンショット・ブースター》の効果を発動! このカードをリリースすることで、戦闘で破壊されなかった相手モンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」

 《マッシブ・ウォリアー》の攻撃によって破壊されなかったモンスター――《クリフォート・ディスク》に向けて、《ワンショット・ブースター》は自身をリリースすることで、その二対のミサイルを炸裂させる。しっかりとミサイルは《クリフォート・ディスク》に命中すると、しばし爆発によって発生した爆煙が空間を支配する――そしてその爆煙の中心から、全くの無傷だった《クリフォート・ディスク》が姿を見せた。

「……何!?」

「通常召喚されたクリフォートモンスターには、そのレベル以下のモンスター効果は受けない。つまり、《ワンショット・ブースター》の効果など意味をなさない!」

 戦士長が主力としている、最上級クリフォートモンスターたちのレベルは8。レベル8以下のモンスター効果を受けないとすると、【機械戦士】たちの効果はそのほとんどが通用しないこととなる。内心で、無駄使いとなってしまった《ワンショット・ブースター》に謝りながら、デュエルディスクに新たな魔法カードをセットする。

「魔法カード《一時休戦》を発動! お互いに一枚ドローし、次のターンの全てのダメージを無効化する!」

 ペンデュラム召喚からの大量展開とワンショットキルを妨害するために、念のために投入していた《一時休戦》が思った通りの活躍をしてくれる。さらにお互いにドローしたことにより、さらに他のカードを誘発する――お互いに。

「ならばチェーンして《神の恵み》を発動! 《一時休戦》によってドローしたため、500ポイントのライフを回復する!」

戦士長LP1400→1900

「だがお前がドローしたため、《便乗》の効果で俺は二枚ドロー! ……さらに《マジック・プランター》を発動し、《便乗》をコストに二枚ドロー!」

 これまでドローソースとなってくれていた《便乗》を、《マジック・プランター》のコストにすれのは気が引けるものの、次のターンで《クリフォート・ゲノム》の効果によって破壊されるのは確かだろう。ただ破壊されるだけならば、いっそのことコストにして二枚ドローに変換する。

 ……そうした方が、今考えているこちらの戦術としても都合が良い。

「さらにカードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」

戦士長LP1900→2400

 カードを一枚ドローしたことにより、先程発動した《神の恵み》の効果が発動し、そのライフポイントが500ポイント回復する。《クリフォート・ツール》のライフコストも、あのカードがあれば幾ばくか減じられる。いや、《補給部隊》によってドローすることも考えれば、むしろライフは徐々に回復していく。

「私は《クリフォート・ツール》の効果を発動。ライフを800ポイント払い、デッキからフィールド魔法《機殻の要塞》を手札に加え、そのまま発動する!」

戦士長LP2400→1600

 今回サーチされるクリフォートカードは、二体特殊召喚の《クリフォート・ディスク》か二回攻撃の《クリフォート・シェル》か、それとも新たなクリフォートモンスターか――と考えていたが、手札に加えられたのは予想外のフィールド魔法。異世界の空を戦士長が発動したフィールド魔法が覆っていき、クリフォートたちの要塞がフィールドに現れた。

「さらにペンデュラム召喚を行う! 現れよ、我がモンスターたちよ!」

 フィールド魔法ばかりに構ってはいられない。天空に描かれた魔法陣から、閃光が雷のように《機殻の要塞》に炸裂すると、要塞から四体のクリフォートたち――《クリフォート・シェル》、《クリフォート・アーカイブ》、《クリフォート・ゲノム》が二体――がエクストラデッキから発進する。

「《機殻の要塞》がある限り、我がクリフォートたちは召喚を無効化されない。そしてアーカイブとゲノムをリリースし、《クリフォート・ディスク》をアドバンス召喚する!」

 《機殻の要塞》から二体目の《クリフォート・ディスク》が発進する。《一次休戦》でダメージを受けることはないと言っても、最上級クリフォートを出してフィールドを制圧していくつもりか。そして《クリフォート・ディスク》のアドバンス召喚に使われた、二体のクリフォートモンスターが半透明で浮かび上がった。

「《クリフォート・ゲノム》がリリースされた時、君のリバースカードを破壊! そして《クリフォート・アーカイブ》によって、相手モンスターを一体バウンスする!」

 《クリフォート・ゲノム》の効果は既に分かっていたが、《クリフォート・アーカイブ》の効果はモンスターのバウンスか。《マッシブ・ウォリアー》が手札へと戻されて、伏せてあった三枚のうちの一枚が破壊される。

「チェーンして罠カード《和睦の使者》を発動!」

 《クリフォート・ゲノム》の効果の標的になったのは《和睦の使者》。《一次休戦》が適用されていて、かつモンスターがいない今、発動する意味はないが……

「さらに《クリフォート・ディスク》の効果により、デッキから《クリフォート・ゲノム》と《クリフォート・アーカイブ》を特殊召喚する!」

 そしてリリースされた、《クリフォート・アーカイブ》と《クリフォート・ゲノム》が再びフィールドに現れる。正確には先程リリースされたモンスターではなく、新たにデッキからから特殊召喚されたモンスターだが。《一次休戦》の効果でダメージを与えることは出来ないため、もう戦士長にやることはないか……と思いきや、《機殻の要塞》が理由は分からないが動き出していた。

「《機殻の要塞》の第二の効果……私はクリフォートモンスターを二度、通常召喚出来る! 《クリフォート・ゲノム》二体をリリースすることで、《クリフォート・シェル》をアドバンス召喚!」

 《機殻の要塞》が動き出した理由は二度目の通常召喚。先の《クリフォート・ディスク》の効果の発動は、この《クリフォート・シェル》のアドバンス召喚に引き継ぐため。さらに言うなら《クリフォート・シェル》をアドバンス召喚することで、《クリフォート・ゲノム》二体の効果を発動するために。

「《クリフォート・ゲノム》二体の効果を発動! 君のフィールドの二枚のリバースカードを破壊してもらおう!」

 俺のフィールドに残された二枚のリバースカードも破壊され、これで俺のフィールドはがら空き。そんな俺の周囲を、挑発でもするかのように三体の最上級クリフォートモンスターが旋回する。攻撃力3100のモンスターが三体……《一次休戦》でダメージが与えられないことを承知で、戦士長はクリフォートたちでプレッシャーを与えにきた。

「……それぐらいが何だ」

 最上級クリフォートモンスター達の前に、二対の旋風が俺の盾になるかのように発生する。旋風は徐々に戦士の姿を形作っていき、俺はそのモンスターの特殊召喚を宣言した。

「《クリフォート・ゲノム》に破壊された二枚のカードは《リミッター・ブレイク》! このカードが破壊された時、デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!』

 二体のマイフェイバリットカード――《スピード・ウォリアー》が旋風からその姿を現した。最上級クリフォートモンスター達に比べれば、そのステータスは頼りにならないかも知れないけれど。マイフェイバリットカードは力強く、クリフォートモンスターたちの前に立ちはだかった。さらに一見意味のなかった先程の《和睦の使者》によって、戦闘破壊をすることも出来はしない。

「私の《クリフォート・ゲノム》を利用したか……何をしてくるか楽しみにさせてもらおう! カードを二枚伏せてターンエンド!」

 ターンエンドの宣言とともに、《クリフォート・ディスク》の効果で特殊召喚されていた《クリフォート・アーカイブ》が自壊し、《補給部隊》によって一枚のドローとなり、その一枚のドローが《神の恵み》によって500のライフポイントの回復となる。そして戦士長のフィールドに残ったのは、四体の最上級クリフォートモンスターに二枚のリバースカード、そして《補給部隊》に《神の恵み》。

「俺のターン、ドロー!」

 対する俺のフィールドには《スピード・ウォリアー》が二体のみ。しかし、守備に回っていては勝てない。ここは臆せず攻めるのみ……!

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 マイフェイバリットカードの増援に駆けつけたのは、アタッカーこと三つ叉の槍を持った機械戦士《マックス・ウォリアー》。その三つ叉の槍を振りかざし、三体の機械戦士はそれぞれ三体のクリフォートモンスターへと向かっていく。

「行くぞみんな! ここで奴らを倒す!」

「面白い……やってみろ!」

 戦士長の言葉にありがたく頷きながら、永続罠《便乗》によって稼いだ手札から、三枚の魔法カードをデュエルディスクにセットする。そのいずれもが同じ種類の魔法カード。

「スピード・ウォリアーに装備魔法《バスターランチャー》、もう一体のスピード・ウォリアーに装備魔法《シンクロニック・アビリティ》、マックス・ウォリアーに装備魔法《団結の力》を装備!」

 三体の機械戦士にそれぞれ装備魔法が装備される。《スピード・ウォリアー》には巨大なビーム砲である《バスターランチャーが、《マックス・ウォリアー》には仲間のモンスターの力を得ることが出来る《団結の力》が、そして最後の《スピード・ウォリアー》は、まだその《シンクロニック・アビリティ》のエネルギーは不確定で形がぼやけていた。

「《シンクロニック・アビリティ》は、俺のフィールドにいる同じ種族のモンスターに装備されている装備魔法を選択し、その装備魔法と同じ効果を得る! 俺は《バスターランチャー》を選択!」

 《シンクロニック・アビリティ》が装備された《スピード・ウォリアー》の周りにあった不確定なエネルギーが、もう一体の《スピード・ウォリアー》が装備していた《バスターランチャー》と同じ姿となっていく。装備魔法《シンクロニック・アビリティ》の効果は、他の装備魔法をコピーすることが出来るという効果だ。装備魔法が装備されているモンスターが同じ種族である必要がある、というデメリットがあるものの、同じモンスターなのに違う種族である筈もない。

 最上級クリフォートモンスターたちに対し、二体の《スピード・ウォリアー》は《バスターランチャー》を構え、《マックス・ウォリアー》はその二体のマイフェイバリットカードから力を借りて狙いをつけた。

「来るか!」

「バトル! スピード・ウォリアーでクリフォート・ディスクに攻撃! バスターランチャー、シュート!」

 もはや大物ぐらいとして説明不要。《バスターランチャー》は相手モンスターの攻撃力が2500以上の時、装備したモンスターの攻撃力を2500ポイントアップする。

「《クリフォート・ディスク》の攻撃力は3100。よって《スピード・ウォリアー》の攻撃力は3400!」

 《スピード・ウォリアー》の発射した《バスターランチャー》が、《クリフォート・ディスク》の中心部に風穴を空けると、そのまま《バスターランチャー》のエネルギーが貫通して戦士長へと炸裂する。風穴を開けられた《クリフォート・ディスク》はバランスを失うと、そのまま地上へと落ちていく。

LP1600→1300

「だが《クリフォート・ディスク》が破壊されたことにより、《補給部隊》によって一枚ドロー! さらにドローしたことにより、《神の恵み》によってライフを500回復する!」

LP1300→1800

「まだだ! スピード・ウォリアーで、同じく《クリフォート・ディスク》に攻撃! コピー・バスターランチャー、シュート!」

 《シンクロニック・アビリティ》によってコピーされた《バスターランチャー》を持って、スピード・ウォリアーがもう一体の《クリフォート・ディスク》へと攻撃する。装備魔法がコピーだろうとその効果は同じであるならば、もちろんその結果は同じに終わる。二体目の《クリフォート・ディスク》も先程と同じく、風穴を開けられて地に落ちていった。

戦士長LP1800→1500

「トドメだ! マックス・ウォリアーで《クリフォート・シェル》に攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 《団結の力》によって《マックス・ウォリアー》は、フィールドのモンスター×800ポイントの攻撃力がアップしている。よってその攻撃力は4200――さらに自身の効果で攻撃力が400ポイントアップし、その攻撃力は4600。そして《クリフォート・シェル》の攻撃力は3100と、戦士長のライフポイントは1500。

 《マックス・ウォリアー》の一撃でジャストキルが成立する――前に、バトルをするはずだった《クリフォート・シェル》が、バトルをする前に突如として爆発した。

「リバースカード《デストラクト・ポーション》を発動! 《クリフォート・シェル》を破壊し、その攻撃力分……3100のライフポイントを回復する!」

戦士長LP1500→4600

 フィールドのモンスターを破壊することにより、そのライフポイントを回復する罠カード《デストラクト・ポーション》。その効果によって、ライフポイントは初期ライフを超える4600ポイント――マックス・ウォリアーの攻撃力と同じ数値だが、戦士長のフィールドにはまだ、ペンデュラム召喚された《クリフォート・シェル》が一体残っている。

「くっ……《マックス・ウォリアー》で《クリフォート・シェル》の攻撃! スイフト・ラッシュ!」

「ぬぅぅ……!」

戦士長LP4600→2500

 マックス・ウォリアーの乱れ突きが《クリフォート・シェル》を貫いた。ペンデュラム召喚によって特殊召喚されたため、その攻撃力は2100ポイント止まりだったものの、戦士長のライフを守るには充分すぎる数値だった。

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

戦士長LP2500→3000

 装備魔法を駆使した三体の機械戦士の猛攻は防がれてしまい、そのライフポイントは3000ポイントまで回復してしまった。だが、最上級クリフォートモンスターをアドバンス召喚しても、三体の機械戦士の方が攻撃力は上。《クリフォート・ゲノム》と《クリフォート・アーカイブ》の効果が発動しても、三体の機械戦士全てに対応することは出来ない筈だ。

「まさかクリフォートたちを全滅させるとはな……ならば私も全力で相手をしよう! 《クリフォート・ツール》の効果を発動し、デッキから我が切り札……《アポクリフォート・キラー》を手札に加える!」

戦士長LP3000→2200

「切り札だと!?」

 ライフポイントを800ポイント支払うことにより、クリフォートカードを手札に加えるペンデュラム効果を持つ、万能サーチカード《クリフォート・ツール》。その効果により戦士長は『切り札』だというモンスター、《アポクリフォート・キラー》を手札に加えた。そして俺の疑問の声とともに、戦士長の背後にあったペンデュラムスケールが光り輝いた。

「ペンデュラム召喚! 出でよ、我がモンスターたちよ!」

 ペンデュラム召喚の魔法陣から、光とともに《機殻の要塞》へとクリフォートモンスターたちが入っていき、そこから五体のクリフォートモンスターが発進する。《クリフォート・アーカイブ》が二体と、《クリフォート・ゲノム》が三体――アドバンス召喚時に効果を発揮する、上級クリフォートたちだった。

「《クリフォート・アーカイブ》二体と《クリフォート・ゲノム》をリリースし、現れよ! 我がデッキの切り札! 《アポクリフォート・キラー》!」

 ――切り札というだけあって今までのクリフォートモンスターとは違う、まるで天使のようにも見える神々しい機械の白いボディに、三体のクリフォートをリリースしてのアドバンス召喚。その姿に目を奪われていたものの、そのアドバンス召喚された三体のクリフォートモンスターが、半透明の姿となって《アポクリフォート・キラー》の周囲に現れた。

「《クリフォート・アーカイブ》二体により、《スピード・ウォリアー》と《マックス・ウォリアー》を手札に戻してもらおう! さらに《クリフォート・ゲノム》の効果により、残る《スピード・ウォリアー》に装備した《バスターランチャー》を破壊する!」

 三体でリリースされたことにより、当然ながら三体の上級クリフォートたちの効果が全て発動する。俺のフィールドは荒れに荒らされてしまい、残るは装備魔法の破壊された《スピード・ウォリアー》が一体のみだった。

「まだだ! 《死者蘇生》を発動し、墓地から《クリフォート・ツール》を特殊召喚する!」

 最初のターンで《機殻の生贄》の効果で手札に加えられ、速攻魔法《手札断殺》によって墓地に送られた、《クリフォート・ツール》が特殊召喚される。未だ切り札の《アポクリフォート・キラー》の効果は分からないものの、《アポクリフォート・キラー》と三体の上級クリフォートで攻撃をして来るつもりか、とまで考えたところで、俺はそのことに気づいた。

 ……まだ奴には、上級クリフォートが三体残っているのだと。

「フィールド魔法《機殻の要塞》の効果により、私はもう一度クリフォートモンスターの通常召喚を可能とする! 三体のクリフォートをリリースし、現れよ! 《アポクリフォート・キラー》!」

 アドバンス召喚される二体目の切り札――《アポクリフォート・キラー》。天使か生命の樹か、神々しさを漂わせるその二体のモンスターに対して、俺はその姿を睥睨することしか適わなかった。

「《アポクリフォート・キラー》は自身の耐性により《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果は受けられない。だが、《アポクリフォート・キラー》第二の効果が既に発動している! 君の《スピード・ウォリアー》を見てみるが良い!」

「スピード・ウォリアー!?」

 戦士長の言葉に従って《スピード・ウォリアー》を見ると、《アポクリフォート・キラー》から重力のようなものが発せられており、その重圧に《スピード・ウォリアー》は潰されかかっていた。動くのがやっと、といったところのようで、バトルなどは行えないように見える。

「《アポクリフォート・キラー》は、フィールド上の特殊召喚したモンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせる。よって、君のスピード・ウォリアーの攻撃力は0!」

 《アポクリフォート・キラー》第二の効果、フィールド上の特殊召喚したモンスターの攻撃力の500ポイントダウン。クリフォートたちは、ペンデュラム召喚からのアドバンス召喚がメインのため、その効果への影響は少ないが、特殊召喚を主軸にしたこちらのデッキには大打撃を及ぼした。特殊召喚したモンスターの攻撃力が1000ポイント削られては、《アポクリフォート・キラー》を破壊するというのは並大抵のことではない。

 ……そしてそのことを考える前に、俺は二体の《アポクリフォート・キラー》を前にして、生き延びなくてはならなかった。

「バトル! 《アポクリフォート・キラー》で、《スピード・ウォリアー》に攻撃! キムラヌート・キル!」

 戦士長の攻撃を命じる攻撃とともに、《アポクリフォート・キラー》から発せられる重圧がさらに強くなると、効果が及んだのは《スピード・ウォリアー》だけではなかった。俺が飛翔していた《漆黒の闘竜》もその重圧に耐えられなくなり、大空から大地へと墜落し始めたのだ。

「まずい……!」

 そのまま俺と《漆黒の闘竜》は闇魔界の軍勢の城へと、コントロールを失って逃げるように落ちていき、そのまま地表へと墜落した。俺は幸運にも、《漆黒の闘竜》がエアバックのように勢いを殺してくれたおかげで墜落死は免れたものの、勢い良く《漆黒の闘竜》から投げ出された。

「……スピード・ウォリアー!」

 何とか俺が地表へと激突する前に、一緒に地表へと落ちてきていたスピード・ウォリアーに助けられる。スピード・ウォリアーに掴まって安全に地表へと降り立ち、隣にいるスピード・ウォリアーに顔を向けると――

「…………ッ!?」

 ――メキャ、という音とともにスピード・ウォリアーは見えない何かに押し潰され、俺は至近距離でスピード・ウォリアーが破壊された爆発を受けることとなった。

「がはっ……!」

遊矢LP3700→700

「今度は逃がさんぞ!」

 戦士長も悠々と天空から降りてくると、その乗っていた《デス・デーモン・ドラゴン》から地表に降り立った。改めて周りを良く見てみると、何やら古代ローマの闘技場のような様相を呈している場所だった。

「ここは、捕らえたデュエリストを処刑するデュエル場……幕引きには相応しいか……トドメだ、《アポクリフォート・キラー》でダイレクトアタック!」

「いや、手札から《仲裁の裁定者》の効果を発動! モンスターが破壊された時にこのモンスターを捨てることで、バトルフェイズを終了する!」

 《速攻のかかし》の相互互換とでも言うべきか。《スピード・ウォリアー》が戦闘で破壊された際に墓地に送ることで、その効果によってバトルフェイズを終了させた。バトルフェイズを終了させる効果なので、《アポクリフォート・キラー》の効果でも無効にすることは出来ない。

「面白いカードだな……ならばメイン2。私は《アポクリフォート・キラー》、第三の効果を発動!」

 自身よりレベルが低いモンスターの効果を受け付けない第一の効果。特殊召喚したモンスターの攻撃力を500ポイントを下げる第二の効果。切り札と誇称するに相応しい効果の数に、第三の効果は何かと警戒する。

「相手は一ターンに一度、フィールドか手札のモンスターを墓地に捨てなくてはならない!」

「くっ……!」

 その第三の効果は、こちらの逆転の芽を摘むハンデス効果。……いや、フィールドに強力なモンスターを展開していても、手札にモンスターがなければ、そのモンスターを墓地に置かなくてはならないという恐ろしい効果だ。今は幸か不幸か、《クリフォート・アーカイブ》の効果でバウンスされたモンスターがあるが……

「私はカードを一枚伏せ、ターンを終了」

「俺のターン、ドロー!」

 戦士長の切り札、《アポクリフォート・キラー》二体によって、俺のフィールドは壊滅的な被害を受けた。さらにターンを追うごとに第三の効果により、俺のモンスターは墓地へ送られていく。

「……俺のフィールドにモンスターはいない! よって《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」

 黒い円盤状のチューナーモンスター《アンノウン・シンクロン》が、自身の効果によって特殊召喚される。俺のフィールドにモンスターはおらず、相手のフィールドにのみモンスターがいる時、デュエル中に一度のみその効果により特殊召喚が出来る。

「さらに《チューニング・サポーター》を召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! デッキからさらに二体、《チューニング・サポーター》を特殊召喚する! 増殖せよ、《チューニング・サポーター》!」

 【機械戦士】における常套手段の一つである、《機械複製術》による《チューニング・サポーター》の増殖からのシンクロ素材の集結。《アンノウン・シンクロン》の特殊召喚効果も合わせ、これでシンクロ召喚が可能になったものの、この状況を打破出来るシンクロモンスターはいない。

 ……ならば、このまま《アンノウン・シンクロン》と《チューニング・サポーター》を四体のモンスターの壁とするか。《アポクリフォート・キラー》の効果も含めて考えても、一ターンは耐えることが出来る筈だ……

 ……いや、ここで弱気になってしまっては負ける。一ターン耐えたところで、そこから逆転出来る手段も俺にはないし、奴が《クリフォート・ツール》の効果で《クリフォート・シェル》を加えてアドバンス召喚すれば、守備力0の壁など意味をなさない。ならばここはデッキを信じ、更なる可能性に賭けるしかない。

「俺は、自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》三体と、レベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」

 覚悟を決めて小型のモンスターたちにシンクロ召喚を命じると、フィールドにいた四体全てがシンクロ素材となる。《アンノウン・シンクロン》が光の輪となり《チューニング・サポーター》たちを包み込み、《チューニング・サポーター》たちはその名の通りのことを実行する。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 閃光とともに守備表示でシンクロ召喚されたのは、ラッキーカードである《パワー・ツール・ドラゴン》。次なるカードに望みをかけるならば、その二つの効果の特性からして、やはりこのモンスターが最も適任だった。

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となった時、カードを一枚ドロー出来る。よって合計、三枚のカードをドロー! ……さらに、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果!」

「そいつはさせん! 1000ポイントのライフを払うことで、伏せてあった《スキルドレイン》を発動する!」

戦士長LP2200→1200

 戦士長の二枚の伏せカードのうちの一枚が表側表示となる。そのカードは全く俺が全く予想だにしていなかった、フィールドのモンスター効果を無効にする《スキルドレイン》。その効果によって、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果は無効となる……

「だが、これで《アポクリフォート・キラー》の効果も……」

「いや、《アポクリフォート・キラー》は魔法・罠カードの効果は受けない。《スキルドレイン》の効果すらもな!」

 第一の効果の耐性は、自身のレベル以下のモンスター効果を受け付けないだけではなく、魔法・罠カードの効果すらも受け付けない。異世界に来る前に戦った、プロフェッサー・コブラの切り札である、《毒邪神ヴェノミナーガ》と似たような効果。《クリフォート・アーカイブ》の攻撃力アップ効果を受けないのも、レベルという訳ではなく、単純に魔法・罠カードが効かないだけということか。

 ……これで俺は、モンスターの効果の発動すらも無効にされることとなった。効果を無効化され、特殊召喚したモンスターの攻撃力は1000ポイントダウンし、相手ターンに二枚のモンスターを墓地に送らなくてはならない……だが、《チューニング・サポーター》によってドローした、このカードがある!

「速攻魔法《魔力の泉》を発動! 相手の魔法・罠カードに耐性を加えることにより、相手の魔法・罠カードの数だけドロー出来る!」

 戦士長のフィールドにある、表側表示の魔法・罠カードの数は――ペンデュラムゾーンにある《クリフォート・ツール》と《クリフォート・アーカイブ》に、《スキルドレイン》と《補給部隊》に《神の恵み》の合計五枚――よって、五枚のカードをデッキからドローする……!

 だがその代償は大きく、俺は次の相手ターン終了時まで相手の魔法・罠カードを破壊することは出来ない。さらにこのターンは既に通常召喚を終えているため、この手札を活かして逆転することは出来ない……

 ……だが、次のターンにならば。

「俺はカードを三枚伏せ、ターンエンド!」

「なるほどな……ならばこのターンで決着をつけてやろう! 私のターン、ドロー!」

戦士長LP1200→1700

 戦士長がカードをドローしたことにより、《神の恵み》によってそのライフポイントを500ポイントを回復する。《アポクリフォート・キラー》二体が戦士長の意志に応えるように、《パワー・ツール・ドラゴン》にかかる重力が増していく。

「私は《クリフォート・ツール》の効果を発動し、デッキから……《アポクリフォート・キラー》を手札に加える!」

「三枚目だと!?」

 《クリフォート・ツール》のサーチ効果により、戦士長のデッキから手札に加えられたのは……三体目の切り札《アポクリフォート・キラー》。その効果は既にフィールドにある《スキルドレイン》によって無効化されるが、驚異であることに変わりはない。

「ペンデュラム召喚! 現れよ、我がモンスターたちよ!」

 そして《アポクリフォート・キラー》のリリース素材となるべく、三体のクリフォートモンスターがペンデュラム召喚によって特殊召喚される。リリースされた時、相手モンスターを一体バウンスする《クリフォート・アーカイブ》。同じくリリースされた時、相手の魔法・罠カードを破壊する《クリフォート・ゲノム》が二体。

 召喚される《アポクリフォート・キラー》が驚異なのは当然のことだが、むしろそのリリースされた際に発動する上級クリフォートの効果も厄介なことこの上ない。墓地で効果が発動するために《スキルドレイン》で無効化されず、俺の布陣はその三体の効果でボロボロにされてしまう。

「三体のクリフォートをリリースすることで、《アポクリフォート・キラー》をアドバンス召喚!」

 相手にしているこちらにすら、神々しさまで感じさせる切り札《アポクリフォート・キラー》の三体目が特殊召喚される。だからといってその姿に見とれている暇もなく、そのリリース素材となった上級クリフォートが俺に襲いかかる。

「《クリフォート・アーカイブ》により《パワー・ツール・ドラゴン》を手札に! さらにその二枚のリバースカードを破壊してもらおう!」

 半透明となった上級クリフォートがまず《パワー・ツール・ドラゴン》に襲いかかり、《パワー・ツール・ドラゴン》はその一撃に耐えることが出来ず、エクストラデッキへと戻されてしまう。さらに残る《クリフォート・ゲノム》が二枚の伏せカードを破壊せんと迫り来るが、その前に一枚のカードはその姿を見せた。

「チェーンして速攻魔法発動! 《速攻召喚》! 手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚出来る! ――来い! 《トライクラー》!」

 作業用ロボットのような三輪がある車がエンジンを轟かせ、今エクストラデッキに戻されてしまった《パワー・ツール・ドラゴン》の代わりのように、俺を守るべく守備の態勢をとった。

「ならば二体の《アポクリフォート・キラー》の効果を発動! 手札かフィールドのモンスターを、二枚墓地に送ってもらう!」

「手札の二枚のモンスターを墓地に送る!」

 トライクラーに重圧をかける《アポクリフォート・キラー》に対し、手札から二体の《スピード・ウォリアー》が現れ、俺や《トライクラー》に及ぶ重圧を軽くする。これで後は《アポクリフォート・キラー》三体の攻撃を防ぐのみ……!

「ふん……バトルだ! 《アポクリフォート・キラー》で《トライクラー》を攻撃! キムラヌート・キル!」

 攻撃力3000を誇る《アポクリフォート・キラー》には、ステータスが低い《トライクラー》では全く太刀打ちが出来ず、あっさりとバラバラに破壊されてしまう。だが、バラバラになった《トライクラー》の部品が再び固まっていき、二輪の作業用ロボットとして再びフィールドに復活した。

「《トライクラー》が破壊された時、デッキから《ヴィークラー》を特殊召喚する! 来い、《ヴィークラー》!」

「ならばもう一撃だ、《アポクリフォート・キラー》!」

 復活した瞬間《ヴィークラー》は破壊されてしまったものの、再びバラバラになった部品が復活する。しかし、最初は三輪あったタイヤは残り一個しかなく、もはやギリギリの部品しかなくなってしまう。それでも、新たに現れた《アンサイクラー》は《アポクリフォート・キラー》に立ち向かった。

「《ヴィークラー》が破壊された時、《アンサイクラー》を特殊召喚!」

「チィ……最後の《アポクリフォート・キラー》で、《アンサイクラー》に攻撃!」

 三体目の《アポクリフォート・キラー》の一撃が、《アンサイクラー》シリーズにトドメを刺さんと重圧を増す。だが《アポクリフォート・キラー》と《アンサイクラー》の間に、盾を持った機械戦士が立ちはだかった。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外することにより、《アンサイクラー》は破壊されない!」

 まだ《アンサイクラー》には、やって貰わなくてはならないことがある。墓地から――《アポクリフォート・キラー》の効果で墓地に送られていた――《シールド・ウォリアー》によって、《アンサイクラー》の戦闘破壊は防がれた。

 ……そして三体の《アポクリフォート・キラー》は全て、その行動を終えた。

「……ターンエンドだ! 君の力を見せてみろ!」

「このターン、俺と【機械戦士】の全てをぶつけてやる! 俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《アンサイクラー》のみ。対する戦士長には奴のデッキの切り札である、《アポクリフォート・キラー》が三体も並んでいる。さらに機械戦士たちの動きを封じる、《スキルドレイン》までもがある……

「魔法カード《貪欲な壷》を発動! 墓地の五枚のモンスターをデッキに戻して二枚ドロー! ……よし、装備魔法《継承の印》を発動!」

 汎用ドローカードによって二枚のカードをドローした後に、装備魔法《継承の印》を発動する。このカードは、墓地に三体同名のモンスターが揃っているモンスターに装備することで、そのモンスターを蘇生することが出来るカード。今墓地に三体揃っているモンスターは、あの機械族モンスターが一種類。

「《継承の印》の効果により、《チューニング・サポーター》を特殊召喚! さらに速攻魔法《地獄の暴走召喚》! さらに墓地から二体、《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」

 攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚されたことにより、速攻魔法《地獄の暴走召喚》の発動トリガーとなり、さらに墓地から二体の《チューニング・サポーター》が特殊召喚される。《地獄の暴走召喚》の効果は戦士長にも及ぶものの、既に《アポクリフォート・キラー》は三体フィールドに揃っている。

「さらに墓地から《ADチェンジャー》の効果を発動! このカードを除外することで、モンスターの表示形式を変更出来る。《アポクリフォート・キラー》の表示形式を守備表示に変更!」

 《アポクリフォート・キラー》には本来、自身のレベル以下のモンスター効果を受け付けない効果がある。だが三体のうち一体のみは、《スキルドレイン》の発動より後にアドバンス召喚されたため、その効果を無効化されている。その隙を突き、《アポクリフォート・キラー》が一体守備表示となった。

「……守備表示にするとは、どういうつもりだ?」

「さてな。……チューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を召喚! ――《チューニング・サポーター》三体と、《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

 チューナーモンスターであるラッキーカードの召喚とともに、すぐさまフィールドの《チューニング・サポーター》三体とシンクロ素材となる。フィールドに《アンサイクラー》一体を残し、他の四体は閃光に包まれた。

「――シンクロ召喚! 再び現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 先のターンは守備表示で召喚して効果を無効化された挙げ句、《クリフォート・アーカイブ》の効果でバウンスされてしまったが、再び《パワー・ツール・ドラゴン》はフィールドへと降臨する。機械の鎧の奥から龍のいななきを轟かせながら、俺の前に降り立ち右腕に新たなパーツを出現させた。

「《パワー・ツール・ドラゴン》に装備魔法《パイル・アーム》を発動! このカードは装備時に相手の魔法・罠カードを破壊する! 《スキルドレイン》を破壊!」

「……だが《スキルドレイン》が破壊された事により、三体目の《アポクリフォート・キラー》の効果も発動する!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》と《アンサイクラー》……俺のフィールドにかかる重圧はさらに大きくなり、特殊召喚されたモンスターの攻撃力は1500ポイントダウンすることとなる。だが《パワー・ツール・ドラゴン》はそれに負けじと、自身の効果を発動させた。

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! デッキから三枚の装備魔法を選び、相手がランダムで選んだカードを手札に加える! 《パワー・サーチ》!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の効果によって、戦士長の前に三枚の装備魔法カードが裏側で表示される。俺が選んだカードは《パワー・チャージャー》、《ニトロユニット》、《魔界の足枷》の三枚。……その中で俺が望んでいるのは一枚のみ。

「……左のカードにしておこう」

「……さらに俺は《スターレベル・シャッフル》を発動! フィールドと墓地の同じレベルのモンスターを入れ替える! レベル1の《アンサイクラー》と《エフェクト・ヴェーラー》を入れ替える!」

 戦士長が選んだカードを左の装備魔法を手札に加えつつ、通常魔法《スターレベル・シャッフル》によって、再び《エフェクト・ヴェーラー》はフィールドに舞い戻る。そして《パワー・ツール・ドラゴン》の周りを飛び回り、その真の姿を解放するためのシンクロ素材となる準備が完了した。

「レベル7、《パワー・ツール・ドラゴン》に、レベル1、《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」

「またシンクロ召喚か……!」

 通常のシンクロ召喚とはまた違う。《エフェクト・ヴェーラー》が《パワー・ツール・ドラゴン》の周囲を飛び回り、その真の姿を隠している鎧を外していき、炎とともに神話の龍を呼び覚ました。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 ラッキーカード二種によるチューニングにより、機械の鎧を外して降臨する《ライフ・ストリーム・ドラゴン》。さらにその効果を発動するために、俺たちがいるスタジアムから飛び上がった。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

 天空から降り注ぐ《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の光によって、俺のライフは《アポクリフォート・キラー》の一撃を受けた700から、初期ライフである4000に回復していく。そのまま最後までライフが回復すると、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は俺の前に再び降り立ち、戦士長はそれを目にしてニヤリと笑った。

「それが君の切り札か……さあ、来るが良い!」

「いや、まだだ……! 《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地にいる《スピード・ウォリアー》と、フィールドの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の力を一つに!」

 融合召喚には欠かせない時空の穴が出現するとともに、墓地の《スピード・ウォリアー》と《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がそこに吸い込まれていき、その力を一つにしてフィールドに再臨する。俺の、そして【機械戦士】たちの切り札として。

「――融合召喚! 現れろ、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

 嵐の槍を持ち深蒼の鎧を身に纏った、旋風の竜騎士ことドラゴエクィテスが融合召喚される。《スピード・ウォリアー》と《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の力を一つにし、《アポクリフォート・キラー》三体に向け、飛竜の翼を展開しその槍を振りかざした。

「だがどんなモンスターであろうと、特殊召喚した以上、我が切り札からは逃れることは出来ん! その攻撃力は1500ポイントダウンする!」

「……だが、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果を発動する!」

 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果。相手が発動したバーン効果を反射する効果と、墓地にいるドラゴン族のシンクロモンスターを除外することで、そのシンクロモンスターの効果と名前を得る効果。だが、バーン反射効果は自発的に発動出来るものではないし、墓地にドラゴン族シンクロモンスターはいない……だが、それでもドラゴエクィテスの効果を発動する!

「チェーンして速攻魔法《コード・チェンジ》! このカードは、カードに記された種族名を変更する! ドラゴエクィテスに記されたドラゴン族を、戦士族へと変更!」

 つまり《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果はこのターンのみ、墓地の戦士族シンクロモンスターを除外することにより、そのシンクロモンスターの効果を得る、という効果となった。墓地にある戦士族シンクロモンスターは一体だけ……俺はそのモンスターを墓地から取り出し、戦士長にそのモンスターを見せながら効果の発動を宣言した。

「俺は墓地の《ニトロ・ウォリアー》を除外することにより、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》はその効果を得る! 装備魔法《パワー・チャージャー》を装備し、バトル!」

 墓地の《ニトロ・ウォリアー》の力を受け継ぎ、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果で手札に加えた装備魔法《パワー・チャージャー》を装備し、遂に《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》が攻撃の体勢を取る。三体の《アポクリフォート・キラー》の重圧が強くなるものの、負けじと翼を展開して飛翔するとともに、その一撃を喰らわせる相手をその鋭い視線で射抜く。

「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》で、攻撃表示の《アポクリフォート・キラー》に攻撃! スパイラル・ジャベリン!」

「迎撃しろ、《アポクリフォート・キラー》! キムラヌート・キル!」

 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の元々の攻撃力は3200。だが、三体の《アポクリフォート・キラー》の効果により、その攻撃力を1700という下級モンスター程度にまで減じさせている。《アポクリフォート・キラー》の攻撃力は3000と、その攻撃力にはまるで届かない。

 しかしドラゴエクィテスも、伊達に最も火力の高い機械戦士である、《ニトロ・ウォリアー》の効果を得たわけではない。装備魔法《パワー・チャージャー》の発動により、その効果の発動条件は満たされている。

「《ニトロ・ウォリアー》から受け継いだ効果を発動! 魔法カードを発動したターン、一度だけ攻撃力を1000ポイントアップ出来る! さらに墓地から、《スキル・サクセサー》の効果を発動!」

「攻撃力が……《アポクリフォート・キラー》を上回っただと!?」

 先のターンで《速攻召喚》とともに《クリフォート・ゲノム》の効果によって破壊された、罠カード《スキル・サクセサー》が墓地から発動する。《ニトロ・ウォリアー》から受け継いだ効果と、《スキル・サクセサー》の攻撃力上昇は併せて1800――ドラゴエクィテスの攻撃力は3500ポイントとなる。

 ドラゴエクィテスから放たれたドリルのように回転するジャベリンは、《アポクリフォート・キラー》が発する重力を突破すると、その神々しい身体に風穴を開けた。

「ぐぬぅ……だが、モンスターが破壊されたことにより、《補給部隊》の効果が発動する! カードを一枚ドローし、《神の恵み》によって500のライフポイントを回復する!」

 ドラゴエクィテスによって与えられる戦闘ダメージも500ポイントと、《神の恵み》によるライフの回復と同じ数値。よって、戦士長のライフポイントに変動はない……ものの、その戦闘破壊が《ニトロ・ウォリアー》から受け継いだ効果の、更なるトリガーとなる。

「《ニトロ・ウォリアー》から受け継いだ第二の効果! 相手の守備表示モンスターを攻撃表示にし、強制的にバトルさせる!」

「このために守備表示にしたか!」

 《ニトロ・ウォリアー》をフィールドに出した時には使う機会がなかったものの、《ADチェンジャー》の効果で守備表示にしていた《アポクリフォート・キラー》に対し、その効果が発動する。《アポクリフォート・キラー》は……いや、クリフォートモンスターは自身よりレベルが低いモンスターの効果は受けない、という非常に強力な耐性を持っていて、本来ならば《ニトロ・ウォリアー》の効果は通用しない。しかし、今その効果を使用しているのは《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》であり、そのレベルは10と《アポクリフォート・キラー》と同値のため、問題なくその効果は発動する。

「さらに装備魔法《パワー・チャージャー》の効果! このカードを装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力を得る! よってドラゴエクィテスの攻撃力は、《アポクリフォート・キラー》の攻撃力分アップする!」

「……なにぃ!?」

 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》に装備されていた《パワー・チャージャー》が反応する。先程破壊した《アポクリフォート・キラーの力をその《パワー・チャージャー》が取り込むと、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》に送り込み、その攻撃力は《スキル・サクセサー》や残る《アポクリフォート・キラー》の効果を含めて加減され、最終的に――6000。

 《ニトロ・ウォリアー》の力を借りたドラゴエクィテスがその両手を炎で包み込むと、旋風によって《アポクリフォート・キラー》を引き寄せていく。そして自身にかかる重力をものともせずに飛翔すると、《アポクリフォート・キラー》に零距離まで肉薄する。

「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》で《アポクリフォート・キラー》に攻撃! ……ダイナマイト・インパクトォ!」

 ……炎の拳が《アポクリフォート・キラー》の身体を貫いた。アポクリフォート・キラーは一瞬だけ抵抗を見せたものの、すぐにその機能を停止したのを確認し、ドラゴエクィテスはその拳を引き抜いた。

 ――そして、《アポクリフォート・キラー》のドラゴエクィテスが拳で貫いた箇所から、数え切れないほどのカードが溢れ出して、あたかも戦士長を護るかのように展開した。まさかこのカードたちは――

「――《ガード・ブロック》!?」

「ご明察。私は君の二回目の攻撃時に、伏せてあった《ガード・ブロック》を発動していた。戦闘ダメージを0にして一枚ドロー!」

 俺も多用する罠カード《ガード・ブロック》。《アポクリフォート・キラー》は戦闘で破壊する以外に対処されることは、その圧倒的な耐性の為に考えられる事態は少ない。そこで戦士長は、今の俺のような一度限りの高攻撃力による、起死回生の一撃をかわせるように準備をしていたのだ……

 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》が破壊した《アポクリフォート・キラー》から流出し、戦士長を戦闘ダメージから救ったカードたちは消えていき、そのうちの一枚が戦士長の手札へと加えられる。さらにカードをドローしたことにより、永続罠《神の恵み》の効果が発動する。……結果として俺の起死回生の一撃は、ただ戦士長のライフを500ポイント回復させて終わったというのか。

戦士長LP900→1400

 ドラゴエクィテスに装備された《パワー・チャージャー》が、今戦闘破壊した《アポクリフォート・キラー》の攻撃力を吸い取り、更なる力をドラゴエクィテスに与えていく。だがその攻撃力が維持されるのは、このターンのエンドフェイズまでであり、次の戦士長のターンになれば、《アポクリフォート・キラー》より攻撃力が下回ってしまう。……いや、その前に《アポクリフォート・キラー》の効果で、自分から破壊することを選択する羽目になるか。

「一手……私の方が上だったようだな」

「いや、まだだ……まだ……」

 戦士長の目から見れば今の俺は、勝敗は既に決まったも同然だろうに、まだ敗北を認めない往生際が悪い者なのだろう。それでも俺は、まだ諦めていなかった。

「……まだ、俺のフィールドには……リバースカードがある!」

 先のターンで《クリフォート・ゲノム》の効果による破壊を免れた、俺のフィールドに残された最後のリバースカード。このカードがある限り俺は諦めない……!

「リバースカード、オープン! 《炸裂突破》!」

 最後のリバースカードがその姿を見せる。まだ俺はエンド宣言どころかメイン2に移行すらしておらず、未だにドラゴエクィテスの眼光は《アポクリフォート・キラー》を射抜いていた。

「まさか……まだ……」

「そのまさかだ。《炸裂突破》は自分のモンスターが一体の場合のみ発動出来る。そして、そのモンスターが相手のレベル8以上のモンスターを破壊した時、攻撃力を800ポイント下げることで、もう一度バトルを可能にする!」

 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の手に、最初の《アポクリフォート・キラー》を倒すのに使用したジャベリンが帰って来る。再びドラゴエクィテスは攻撃力の増減を経て、その攻撃力を8700に固定する。……もはや俺も【機械戦士】も全てを出し切った……俺にはもう、その一撃を命じることしか出来ない。

「行け――――スパイラル・ジャベリン!」

 俺たちの全てを込めた一撃がドラゴエクィテスによって放たれると、猛烈な勢いで《アポクリフォート・キラー》へと向かっていく。その一撃を前にして、戦士長はニヤリと笑い――

 ――見事だ。そう言い残して、その一撃を受けてこの異世界から存在が消え去った。

戦士長LP1400→0

 そして戦士長が、その乗っていた竜《デス・デーモン・ドラゴン》ごと消え去った空を、しばし望と眺めていると、その場には似つかわしくない、軽快な拍手の音がコロシアムに響き渡った。
 
 

 
後書き
ぶっちぎりで今まで一番長い話かと。何故、前後編に分けなかった……!

時に読者様は、これほどの長さでも良いのでしょうか? それとも、長いから分けた方が良いのでしょうか? ご意見を聞かせて頂けるとありがたいです。

では、また。
 

 

―女王―

 【クリフォート】を使う戦士長を倒したのも束の間、闘技場のような場所で佇んでいた俺に対し、場違いな拍手が響いていた。ここが敵の本拠地である以上、戦士長以外の敵がいることは何ら不思議でもないのだが、そ拍手の音というのは良く分からない。

 戦士長にやられた身体を無理やり起こしながら、俺は拍手の発生源へと身体を向ける。自分が今いる場所が闘技場のスタジアムならば、その音が響いているのは観客席の方からだ。

 そして、観客席にいるのは――

「覇王……!?」

 その正体について考える前に、口からその言葉が先に出る。リリィから敵の主は『覇王』と呼ばれる存在だと聞いていたが、確かにそこにいたのはまさしく《闇魔界の覇王》そのものだった。

「いかにも」

 ずっと続けていた拍手を止めると、予想に反して覇王は理知的な声色で会話をし始めた。その手には特注のデュエルディスクが装着されていたが、覇王は観客席から降りてこようとする気配はない。

「いや、まさかあの戦士長を倒すとは。驚きだよ、これではもう私では勝てはしない」

「……それじゃあ、どうする気だ」

 覇王と言えども、デュエリストの腕は未知数だと考えていたが、どうやら戦士長よりその腕前は下らしい。戦士長とのデュエルの疲労を隠すように、デュエルディスクを前に構えて威嚇するように声を発した。

「そうだなぁ……この世界から後退するしかない」

 覇王は、あくまで軽くそう言ってのけてみせた。こちらの威嚇などには何の感情を覗かせることもなく。「ただし」と前置きをしながら、覇王は台本を読むかのように言葉を続けていく。

「戦士長に匹敵する実力を持った戦士がもう一人いるんだ。ソレと戦ってからにして欲しいな。君がソレに勝てば、我々はこの世界から手を引こうじゃないか!」

 芝居がかった覇王の台詞にイライラして来るが、その条件を飲む気はさらさらない。わざわざそんな条件を飲まずとも、目の前にいる覇王を倒せば良い話なのだから。その人物が現れる前に覇王にデュエルを挑まんと、スタジアムから観客席へと走っていこうとしたその時、ギギギギ――と重い音とともに闘技場に繋がる扉が開いた。覇王と自分しかいなかった闘技場に、新たな闖入者が現れたのだ……この状況で仲間だとはとても思えない。

「…………」

 しかして現れたのは、闇魔界のモンスターでもヒロイックのモンスターでもない。所属は分からないものの、その姿は天使族の融合モンスター《聖女ジャンヌ》であった。天使族らしい神々しい姿に目を奪われてしまうが、腕に装着されていたデュエルディスクを見て、すぐにジャンヌへと警戒の視線を送る。

 ジャンヌは、そんな俺の様子を一瞥もせずに覇王の元へと歩くと、観客席にいる彼に対して膝をついてかしづいた。
「覇王様……侵入した戦士達の殲滅を完了しました」

「ふむふむ……あそこにはもう、誰もいないんだけどなぁ」

 ――その一言で俺はあらゆることを悟った。目の前にいる《聖女ジャンヌ》が敵であり、覇王の言う実力者であること。そして、捕らわれたデュエリストを救出しようとしていたヒロイックの戦士達の作戦が、デュエリストが囚われていない場所に誘導されて失敗したこと。ヒロイックの戦士達はともかく、リリィの安否が気になるところではあるが、今はそれどころではない。

 俺を眼中に入れず、覇王とジャンヌは二言三言会話を交わし終わると、聖女ジャンヌはこちらに向けてデュエルディスクを展開する。

「さて、これが先程言った戦士長に匹敵する戦士だ。条件を……飲むかい?」

「ああ……!」

 こうなれば覇王だけを狙うことは不可能だ。二人かがりで挑まれては適わないので、俺は口惜しくも戦士長の申し出を受け入れる。聖女ジャンヌに対して、こちらも負けじとデュエルディスクを展開すると、覇王がふと呟いた。

「……そう言えば君、こんな話知ってるかい?」

 そう問いかけられるものの、そんな言葉はとんと記憶にない。覇王の言葉が続いているうちはデュエルする気がないのか、聖女ジャンヌはピクリとも動こうとしない。仕方なく覇王の言葉に耳を傾けると、覇王は嬉しそうに言葉を続けた。

「デュエリストを何十人ほど同じ閉鎖空間に閉じ込めてさ。最期の一人までデュエルさせるのさ」

 ただのトーナメント制のデュエル……などという話ではない。俺たちの世界なら合宿か大会で済む話だが、この世界のデュエルとはすなわち、命がけなのだから。最期の一人になるまでの殺し合い――本来の意味でのバトルロイヤルに他ならない。

 いきなり何の話なのかと聞き返すよりも先に、覇王は熱っぽく語り出していく。

「そして最期の一人を素材にモンスターと融合! これで良いデュエリストが生まれるんだ。……君たちの世界では壺毒って言うんだっけ?」

 壺毒。器の中に多数の虫を入れて互いに食い合わせ、最期に生き残った最も生命力の強い一匹を使って呪いをする……という昔ながらの呪いのことだったか。そんなうろ覚えの知識ととともに、俺の脳内に最悪の想像が走った。まるで連想ゲームのようにその想像は、連鎖的に俺の脳内に入り込んで来る。

『デュエリストを何十人ほど同じ閉鎖空間に閉じ込めてさ。最期の一人までデュエルさせるのさ』――闇魔界の軍勢はデュエリストを捕らえ、どこかに閉じ込められていた。

『ふむふむ……あそこにはもう、誰もいないんだけどなぁ』――俺はそれを聞いた時は、捕らえたデュエリストをどこかに移動させたのかと思っていたが。そう奇をてらって考えるのではなく、本当に『いなくなった』のだとしたら。

『人を素材にモンスターと融合! これで良いデュエリストが生まれるんだ』――俺の目の前にいる覇王に忠誠を誓っているデュエリストは、《聖女ジャンヌ》。『融合』モンスターである。

 俺のこの考えが正しければ。もしも明日香が闇魔界の軍勢に捕まっていたとしたら。彼女はもういない――ないし、俺が今から彼女を殺すこととなる。

「……いくわよ」

 茫然自失となっている俺から反応がないのがつまらなかったのか、楽しげに語っていた覇王の言葉が止まると、聖女ジャンヌがデュエルの準備を完了させる。ただで殺されるわけにはいかない、こちらもデュエルの準備を完了させねば……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
ジャンヌLP4000

「私の先攻」

 先攻を得たのは聖女ジャンヌ。……一度考えてしまうと、その凛々しい姿はどうしても明日香と被ってしまう。

「くっ……」

 デュエル中に文字通り命取りになる思考を頭から追い出すと、俺はジャンヌのデッキの内容へと思考を切り替える。明日香のデッキは紆余曲折あったのか、ヒロイックの一人であるカンデラが所持していて、今は俺のデッキケースの中にあるが……いや、あの聖女ジャンヌは明日香とは関係ない。……関係ないのだから明日香のデッキのことを考える必要はないはずだ。

「私は儀式魔法《祝祷の聖歌》を発動!」

「儀式!?」

 聖女ジャンヌが発動した儀式魔法《祝祷の聖歌》に驚きの声が漏れる。サイバー・エンジェルではないようだが……偶然だと信じきれなくなってきている……

「あら、儀式がそんなに珍しいかしら? ……まあ良いわ、私は《儀式魔人デモリッシャー》と《儀式魔人プレコグスター》をリリースし、《竜姫神サフィラ》を儀式召喚!」

 どこからか聞こえてくる祝福の歌声とともに、美しく白く輝く竜をかたどったモンスターが降臨する。さらにその降臨には、モンスターに更なる効果を与える儀式魔人たちが付随している。

「カードを一枚伏せてターンエンド。そして、エンドフェイズ時に《竜姫神サフィラ》の効果が発動するわ!」

 竜姫神サフィラから発せられた光が収束すると、聖女ジャンヌのデュエルディスクに収められたデッキへと光が吸収された。それと同時に聖女ジャンヌへと、光り輝くカードが手札に加えられる。

「儀式召喚されたターン、私はカードを二枚ドローし、一枚墓地に送ることが出来る」

「……俺のターン、ドロー!」

 《竜姫神サフィラ》の効果によって聖女ジャンヌはカードをドローすると、改めて俺にターンが回ってくる。《竜姫神サフィラ》の効果が儀式召喚したターンのドロー、という効果だけとはとても思えないが……

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 まずは《レスキュー・ウォリアー》が戦陣を切る。だが、《竜姫神サフィラ》のステータスは、上級モンスターの平均値である2500。攻撃力をアップさせる効果を持たないレスキュー・ウォリアーでは適わない。

「《レスキュー・ウォリアー》をリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

 《レスキュー・ウォリアー》をリリースし、砲台の機械戦士《ターレット・ウォリアー》が特殊召喚される。効果によってマックス・ウォリアーの力を受け継ぎ、その攻撃力は2800。《竜姫神サフィラ》の攻撃力を超える。

 迷っている暇はない。今は……戦わねば。

「ターレット・ウォリアーで竜姫神サフィラに攻撃! リボルビング・ショット!」

 《ターレット・ウォリアー》の肩に装備された機銃が火を噴くと、《竜姫神サフィラ》へと放火を集中させる。神々しい姿をした美しい竜姫神に、無骨な薬莢とともに銃弾が発射された。しかし《竜姫神サフィラ》はその身体に纏った光を強くさせる。

「墓地の《祝祷の聖歌》の効果を発動! このカードを除外することで、儀式モンスターの破壊を無効にする!」

「……だがダメージは受けてもらう!」

ジャンヌLP4000→3700

 墓地にあった《祝祷の聖歌》という予想外のところから、《ターレット・ウォリアー》による《竜姫神サフィラ》の破壊は無効にされ、その衝撃は聖女ジャンヌの元へと向けられる。微々たるダメージだから気にするほどでもない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「あなたのエンドフェイズ時にリバースカード、オープン! 《明と宵の逆転》!」

 聖女ジャンヌへとターンが回る瞬間に発動される、永続罠《明と宵の逆転》。一ターンに一度、指定されたモンスターを墓地に送ることで、同じレベルの戦士族モンスターを手札に加えるカードである。指定されたモンスターとは、光属性を捨てたならば闇属性。闇属性を捨てたならば光属性のモンスターと、カード名を強く意識したカードである。

「私は、光属性レベル4の《白夜の騎士ガイア》を捨て、闇属性の《極夜の騎士ガイア》を手札に加える。さらに、《竜姫神サフィラ》の効果を発動!」

 そして聖女ジャンヌが残された一枚の手札を捨てると、新たな戦士族が手札に加えられる。そしてその効果に連動するかのように、再びサフィラに光が集まっていき、聖女ジャンヌの手札に二枚のカードが加えられた。

「墓地に光属性モンスターが捨てられた時、《竜姫神サフィラ》は効果を発動する。……カードを二枚ドローして一枚を墓地に」

 毎ターンのエンドフェイズ時に発動する効果なのかと思ったが、光属性モンスターが墓地に送られた時というトリガーがあるらしい。だが、聖女ジャンヌのフィールドに《明と宵の逆転》が残されている限り、毎ターン発動されることに変わりはない……

「そして私のターン、ドロー!」

 《竜姫神サフィラ》と《明と宵の逆転》のコンボにより、聖女ジャンヌはデッキを巧みに回転させる。迷っている暇はないどころか、迷ってなどいてはその隙に攻め込まれる、と感じさせた。

「私は《極夜の騎士ガイア》を召喚!」

 先のターンに《明と宵の逆転》によってサーチされた、かの《暗黒騎士ガイア》のリメイクモンスター、純白の馬に跨がる漆黒の騎士《極夜の騎士ガイア》。その効果は、闇属性と光属性という二つの属性に関わる効果である。

「《極夜の騎士ガイア》の効果を発動! 墓地の光属性モンスターを除外することで、私のモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる! 《竜姫神サフィラ》の攻撃力を500ポイントアップ!」

 《極夜の騎士ガイア》の効果により、《竜姫神サフィラ》の攻撃力は3000……2800の《ターレット・ウォリアー》の攻撃力を超える。《明と宵の逆転》の効果で光属性モンスターを墓地に送り、《極夜の騎士ガイア》をサーチ。光属性モンスターを墓地に送り《竜姫神サフィラ》の効果の発動トリガーにした後、《極夜の騎士ガイア》の効果のトリガーにもなり、儀式魔人とともに《竜姫神サフィラ》のサポートを行う。

 それが聖女ジャンヌのデッキ。《竜姫神サフィラ》の効果を主軸とし、《極夜の騎士ガイア》や儀式魔人などのサポートとともに攻め込むデッキ、だと仮定しておく。

「バトル! 《竜姫神サフィラ》で《ターレット・ウォリアー》に攻撃! サファイアボルト!」

遊矢LP4000→3800

 《ターレット・ウォリアー》へと発せられる青い閃光。美しく輝くその光から目を背けると、その瞬間にターレット・ウォリアーは破壊されていた。僅かなダメージが俺の元へと届くとともに、その光が俺の手札の周りを旋回する。

「素材にした《儀式魔人プレコグスター》の効果を発動! 儀式モンスターが戦闘ダメージを与えた時、あなたは一枚手札を捨てなくてはならない」

 これこそが儀式魔人シリーズの効果。儀式モンスターの降臨の素材とした時、正確に言えば違うものの、そのモンスターへと新たな効果を付加する。《竜姫神サフィラ》の素材となった《儀式魔人プレコグスター》は、儀式モンスターにハンデス効果を付加する。

 そして、俺が手札のカードを一枚、《竜姫神サフィラ》が放った光に奪われている間に、俺に向かって漆黒の騎士が駆けてきていた。

「さらに《極夜の騎士ガイア》でダイレクトアタック!」

「つっ……!」

遊矢LP3800→2200

 早くもダイレクトアタックを一撃食らってしまうが、まだまだデュエルは序盤だ。敵のデッキタイプが分かったと思えば問題はない。

「さらに永続罠《明と宵の逆転》の効果を発動。光属性モンスターを捨て、闇属性モンスターを手札に加える。よってエンドフェイズ、《竜姫神サフィラ》の効果が発動!」

 光属性モンスターを墓地に送ることにより、エンドフェイズに《竜姫神サフィラ》の効果が発動することが決定する。聖女ジャンヌはカードを二枚ドローして一枚捨てると、そのまま俺にターンを渡す。

「ターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 俺の《ターレット・ウォリアー》はあっさりと攻略され、こちらのフィールドはリバースカードが一枚。聖女ジャンヌのフィールドには、エースモンスターである《竜姫神サフィラ》と《極夜の騎士ガイア》に永続罠《明と宵の逆転》が発動されている。最初のターンの攻防は、完全にこちらが遅れをとった結果に終わる。

「俺は魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊することで二枚ドロー!」

 自らのセットカードを破壊し、二枚のカードをドローする効果のある魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》の効果により二枚ドローすると、フィールドに旋風が巻き起こる。旋風が戦士の姿を形作っていくと、マイフェイバリットモンスターがその姿をフィールドに晒す。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから現れろ、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアッ!』

 雄々しい叫び声を伴って、マイフェイバリットモンスターがデッキから特殊召喚される。セットカードを破壊してカードをドローする《ブラスティング・ヴェイン》と、墓地に送られた時にスピード・ウォリアーを特殊召喚する《リミッター・ブレイク》によってフィールドを整えると、さてどうするか……と思索を巡らせる。

「スピード・ウォリアー……?」

 ――そのせいで俺は、そう一人ごちた聖女ジャンヌの呟きを聞き逃した。いや、耳には入っていたのだろうが……

「……よし。チューナーモンスター、《ドリル・シンクロン》を召喚!」

 当面の戦術をまとめて考えることを終えると、頭に小さなドリルを三つ装着したチューナーモンスター、《ドリル・シンクロン》を新たに召喚する。そのレベルは3であり、レベル2のスピード・ウォリアーとチューニングしては、対応するモンスターをシンクロ召喚するにはレベルが一つ足りない。

「さらに装備魔法《シンクロ・ヒーロー》を《スピード・ウォリアー》に装備! 攻撃力を500ポイント上げ、更にそのレベルを1上げる。――二体のモンスターでチューニング!」

 装備魔法《シンクロ・ヒーロー》の効果により、スピード・ウォリアーのレベルを3に変更。これで合計のレベルは6となり、《ドリル・シンクロン》のドリルが高速で回転していく。

「集いし力が大地を貫く槍となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 砕け、《ドリル・ウォリアー》!」

 そして二体のモンスターによって、シンクロモンスター《ドリル・ウォリアー》がシンクロ召喚される。巨大なドリルで闘技場に穴を空けながら登場するが、《竜姫神サフィラ》にその攻撃力は及ばない。

「ドリル・ウォリアーは攻撃力を半分にすることで、相手にダイレクトアタックが出来る! バトルだ、ドリル・ウォリアー!」

 出来れば、聖女ジャンヌのデッキのキーカードである《竜姫神サフィラ》を破壊したいところだったが、一時的に攻撃力を越えたところで敵には攻撃力を補う《極夜の騎士ガイア》がいる。この点から《グラヴィティ・ウォリアー》から《ドリル・ウォリアー》を選択し、その効果によってダイレクトアタックを行っていく。

「ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック! ドリル・シュート!」

「くっ……」

ジャンヌLP3700→2500

 《ドリル・ウォリアー》のダイレクトアタック限定で仮定すれば、聖女ジャンヌのライフポイントが切れるまであと三撃。もちろんそれだけで決まるとは思えないが、どれだけこの攻撃だけで削りきれるか。

「メインフェイズ2。《ドリル・ウォリアー》の効果を発動! 手札を一枚捨てることにより、次のスタンバイフェイズまで、このモンスターを除外出来る」

 攻撃を終えた《ドリル・ウォリアー》が、自身の効果によって時空の穴に吸い込まれていく。これで俺のフィールドはがら空きになったものの、もちろん身を守る手段は手札に残しているので、効果の発動に戦闘ダメージを介する《儀式魔人プレコグスター》の効果は発動出来ない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「あなたのエンドフェイズ時、《明と宵の逆転》の効果を発動。光属性モンスターを捨て闇属性の戦士族を手札に。さらに《竜姫神サフィラ》の効果を発動!」

 墓地に捨てる光属性モンスターがまだ手札にあったようで、このターンにはもう発動しないだろう、と踏んでいた俺の予想を裏切った。しかし、予想を裏切ったのは効果の発動タイミングではなく、効果そのものでもあった。

「《竜姫神サフィラ》第二の効果。あなたの手札を一枚墓地に送る!」

「何!?」

 手札交換効果だけではなかったのか――と歯噛みすると、俺の手札のカードが墓地に送られる。身を守る手段だと考えていたカードが捨てられ、《ドリル・ウォリアー》の効果のコストも併せて、これで俺の手札は0枚……!

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 《儀式魔人プレコグスター》の効果と《竜姫神サフィラ》第二の効果。ハンデスまでもがデッキのコンセプトだったらしく、聖女ジャンヌには計画通りだと言わんばかりに、小さく笑みが浮かべられていた。やはり《竜姫神サフィラ》を破壊しなくては……

「まず速攻魔法《サイクロン》を発動! あなたのリバースカードを破壊する!」

「チェーンして《和睦の使者》を発動! このターン、俺は戦闘ダメージを受けない!」

 聖女ジャンヌから放たれた竜巻が俺のリバースカードに届くより早く、俺はチェーンしてリバースカード《和睦の使者》を発動する。先程《竜姫神サフィラ》の効果で捨てられた、《速攻のかかし》とのコンボが破られた時の為に伏せておいたカードだが、まさかこんなにも早く発動することになるとは。

 ……そしてこれで名実ともに、俺のフィールドには何もない。伏せカードどころか、手札さえも。

「防がれた……なら私は《儀式の準備》を発動! 私は墓地から《祝祷の聖歌》を手札に加え、デッキからレベル6以下の《竜姫神サフィラ》を手札に加える!」

 既に《竜姫神サフィラ》の第一の効果で《祝祷の聖歌》を墓地に送っていたらしい。しかし手札に加えられることで、墓地で発動する戦闘破壊耐性を与える効果ではなく、儀式魔法における本来の効果が活用される。

「私は《祝祷の聖歌》の効果を発動。墓地の《儀式魔人デモリッシャー》と《儀式魔人リリーサー》を除外することで、《竜姫神サフィラ》を儀式召喚!」

 ……儀式魔人は、墓地においても自身を除外することで、儀式召喚の素材となれる。その効果により、二体の儀式魔人を除外することで、やはり降臨する二体目の《竜姫神サフィラ》……さらにその神々しい輝きは光を増していき、《和睦の使者》に守られているにもかかわらず気圧される。

「私はこれでターンエンド。エンドフェイズ時、儀式召喚に成功した《竜姫神サフィラ》の効果により、二枚ドローして一枚捨てる」

 このターン、光属性モンスターを墓地に送っていないため、もう一体の《竜姫神サフィラ》の効果は発動しない。発動するのは、新たに降臨した《竜姫神サフィラ》のみだ。

「俺のターン……ドロー!」

 そしてこのターン、先のターンに除外ゾーンへと逃れていた《ドリル・ウォリアー》が、サルベージ効果と併せて俺のフィールドに蘇る。ハンデス効果によって手札がない以上、ここは《ドリル・ウォリアー》を頼りにするしかない――

 ――のだが、《ドリル・ウォリアー》がフィールドに帰還することはない。恐らくはこのデュエル中には。

「《竜姫神サフィラ》の降臨の素材にした《儀式魔人リリーサー》の効果。リリーサーを素材にした儀式モンスターがいる限り、あなたは特殊召喚を行うことは出来ない」

「ドリル・ウォリアー……!」

 相手の特殊召喚を封じ込める。そんな単純にして強力無比な効果こそが、《儀式魔人リリーサー》の効果である。儀式魔人の中で最も警戒していたのだが、いつの間にか墓地に送られていたらしい。本来ならば、《ドリル・ウォリアー》はスタンバイフェイズに特殊召喚される筈だが、《儀式魔人リリーサー》の効果により特殊召喚は封じられている……!

「……俺は《貪欲な壷》を発動! 墓地から五枚のモンスターをデッキに戻し、二枚ドロー!」

 《儀式魔人リリーサー》の特殊召喚封じを打開するには、二枚目の《竜姫神サフィラ》を破壊する必要がある。《儀式魔人リリーサー》を素材にした儀式モンスターがフィールドから離れれば、《儀式魔人リリーサー》の効果も効力を失うからだ。……《ドリル・ウォリアー》はもう戻って来ないが。

 ……だが、事態はそう簡単ではない。

 理由の一つに、聖女ジャンヌの墓地にある《祝祷の聖歌》。墓地から除外することにより、儀式モンスターの破壊を一度防ぐ魔法カードである。このカードが墓地にある限り、俺は二度《竜姫神サフィラ》を破壊しなくてはならない。

 更に二つ目の理由は、ハンデスを食らった俺のフィールドの状況。特殊召喚を封じられた上に、手札もフィールドも満足に揃っていないこの状況では、そもそも《竜姫神サフィラ》を破壊出来るかどうか。《竜姫神サフィラ》を破壊出来るようにパーツを集めようとしても、それこそあちらにはハンデス効果があるのだから。

 ……そんな絶体絶命の状況の中、逆転のカードを祈って《貪欲な壷》を発動する。墓地のモンスターたちをデッキに戻し、新たに二枚のカードをドローする……!

「……俺は《一時休戦》を発動! お互いにカードを一枚ドローし、次のターンの戦闘ダメージを無効にする!」

 ……逆転のカードではなかったが、この状況では非常にありがたいカードには違いない。戦士長を始めとする、この世界のデュエリストの大量展開からの一斉攻撃への対策カードとして入れておいたカードだったが、どうやら入れておいて正解だったらしい。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「随分足掻くのが上手いのね。私のターン、ドロー!」

 またハンデスされては堪らない、とドローしたカード二枚ともを伏せる。聖女ジャンヌのキーカードである《明と宵の逆転》が永続罠である以上、《大嵐》が来る可能性は低いはずだ。

「私は《明と宵の逆転》の効果により、光属性モンスターを墓地に送る」

 永続罠《明と宵の逆転》の効果により、光属性モンスターを墓地に送ることで、闇属性の戦士族モンスターを手札に加える。厄介なのは、手札に加えられた闇属性の戦士族モンスターよりも、《竜姫神サフィラ》の効果の発動が確定したことにある。

「更にカードを一枚セット。エンドフェイズ、二体の《竜姫神サフィラ》の効果を発動!」

 《一時休戦》によって攻撃は出来ないものの、もちろん効果の発動には何の制限もない。二体の《竜姫神サフィラ》のどちらもが、第一の手札交換効果を選択したようで、聖女ジャンヌは驚異の四枚のドローを行っていく。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには二枚のリバースカードであり、ライフポイントは2200で手札は0枚。対する聖女ジャンヌのフィールドには、エースカードである《竜姫神サフィラ》が二体に《極夜の騎士ガイア》に、永続罠《明と宵の逆転》とリバースカードが一枚に、ライフポイントは2500で手札は三枚。

 《儀式魔人リリーサー》を素材にした《竜姫神サフィラ》がいる限り、俺の攻め手は封じられてしまう。まずは、あのモンスターを破壊することが先決だと、望みを賭けて今ドローしたモンスターを召喚する。

「俺は《ドドドウォリアー》を妥協召喚!」

 上級モンスターなるも攻撃力を1800にすることで、斧を持った機械戦士《ドドドウォリアー》を妥協召喚する。攻撃力は及ばず、その効果もこの状況で役に立つものではないが……

「リバースカード、オープン! 装備魔法《デーモンの斧》をドドドウォリアーに装備する!」

 ハンデス効果対策に伏せてあった装備魔法《デーモンの斧》を発動すると、《ドドドウォリアー》は器用にも、元々持っていた斧とデーモンの斧を片手ずつに別々の斧を持つ。これで攻撃力が1000ポイントアップし、《竜姫神サフィラ》の攻撃力を超える――

「カウンター罠《魔宮の賄賂》を発動!」

 ――ことはなく、聖女ジャンヌが発動したカウンター罠《魔宮の賄賂》に発動を無効とされる。《ドドドウォリアー》が持っていた《デーモンの斧》が砕け散り、代わりに俺はカードを一枚ドローする。《魔宮の賄賂》のデメリット効果も、《竜姫神サフィラ》のハンデス効果があれば問題ないということか……?

「……バトル! ドドドウォリアーで極夜の騎士ガイアに攻撃! ドドドアックス!」

ジャンヌLP2500→2300

 《ドドドウォリアー》は《デーモンの斧》ではない、本来の斧をパワフルに振りかざすと、ガードしていた剣ごと《極夜の騎士ガイア》を破壊する。しかしダメージは微々たるもので、聖女ジャンヌは涼しい顔でその一撃を受け流した。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 ハンデス効果を警戒し、《魔宮の賄賂》で引いたカードをセットすると、再びこちらのフィールドは二枚の伏せカードが展開される。この状況を見るに、《サイクロン》を《和睦の使者》に無駄撃ちさせたのは不幸中の幸いか。

「私は《極夜の騎士ガイア》を召喚!」

 《明と宵の逆転》で手札に加えていたのだろう、再び召喚される《極夜の騎士ガイア》。純白の馬がいななきながら闘技場の中を駆け回る。

「《極夜の騎士ガイア》の効果を発動。墓地の光属性モンスターを除外し、《竜姫神サフィラ》の攻撃力を500ポイントアップ!」

 俺のフィールドに伏せられた二枚のリバースカードが何であれ、確実にライフポイントを0にしようとして来ているのか、先に召喚されていた《竜姫神サフィラ》の攻撃力を500ポイントアップさせる。よって攻撃力は3000と、ドドドウォリアーでは遠く及ばない。

「バトル! 《竜姫神サフィラ》でドドドウォリアーに攻撃! サファイアボルト!」

 まず攻撃して来たのは攻撃力を上げた《竜姫神サフィラ》。こちらのサフィラは《儀式魔人プレコグスター》により、戦闘ダメージをトリガーとしたハンデス効果を備えているが、俺にもはや捨てる手札はない。

 《竜姫神サフィラ》の青い閃光が《ドドドウォリアー》へと煌めく。攻撃力の差は歴然だったが、《ドドドウォリアー》は光による攻撃を受け止める。その身体には、聖なる鎧が装備されていた。

「リバースカード、《聖なる鎧 -ミラーメール-》を発動!」

「……ミラーメール!?」

 攻撃して来た相手モンスターと同じ攻撃力にする、という効果を持った聖なる鎧が《ドドドウォリアー》に装備され、その攻撃力が《竜姫神サフィラ》と同じ3000となる。サフィラから放たれた閃光を弾き返し、その身体を両断せんとドドドウォリアーが向かっていく。

「……墓地から《祝祷の聖歌》を除外し、《竜姫神サフィラ》の破壊を無効にする!」

 聖女ジャンヌの対応は早かった。墓地から儀式魔法《祝祷の聖歌》を除外すると、《竜姫神サフィラ》に戦闘破壊耐性を付与し、《ドドドウォリアー》の斧による一撃を防いだ。そして反撃に閃光を纏った光線がドドドウォリアーを消し飛ばす。

 ――しかし、《竜姫神サフィラ》が墓地から《祝祷の聖歌》によって戦闘破壊を無効したように、《ドドドウォリアー》の前には盾を持った機械戦士が立ちはだかっていた。

「墓地から《シールド・ウォリアー》を除外し、《ドドドウォリアー》の破壊を無効にする!」

 《シールド・ウォリアー》が《竜姫神サフィラ》の攻撃を防ぎきると、役目を終えたかのようにフィールドから消えていく。ハンデス効果はカードを墓地に送る両刃の剣、《儀式魔人プレコグスター》のハンデス効果の際に、《シールド・ウォリアー》を墓地に送っていた。

 《シールド・ウォリアー》に守られた《ドドドウォリアー》は、ミラーメールを装備したまま俺のフィールドへ舞い戻る。

「……カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 かくしてその聖女ジャンヌのターンの攻防は、どちらも墓地からカードを除外しただけに終わる。しかし、前のターンと決定的に違うことは、《ドドドウォリアー》の攻撃力。《聖なる鎧 -ミラーメール-》は、攻撃して来た相手モンスターと同じ攻撃力となり、更に次のターン以降も攻撃力が持続する。

 よって、ミラーメールが装備された《ドドドウォリアー》の攻撃力は、《極夜の騎士ガイア》に強化された数値と同じく3000。戦闘破壊耐性を付与する《祝祷の聖歌》は、相打ちを恐れて先のターンに使用して恐らく墓地にはない……!

「ドドドウォリアーで竜姫神サフィラに攻撃! ドドドアックス!」

「くうっ……!」

ジャンヌLP2300→1800

 ダメージとしては僅かに500ポイント、対した数値ではないが、《ドドドウォリアー》の斧は確実に《竜姫神サフィラ》を破壊した。これで新たに儀式モンスターが降臨しない限り、《儀式魔人リリーサー》の効果を受けることはない。ここから反撃だ……!

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 俺のフィールドは、《聖なる鎧 -ミラーメール-》の効果で攻撃力が3000となった《ドドドウォリアー》。更にリバースカードが二枚で、やはり手札は一枚もない。《儀式魔人リリーサー》が付与された《竜姫神サフィラ》を破壊し、ここから反撃だというタイミングだが、更に攻め込むことは難しい。

「私は《明と宵の逆転》の効果を発動。光属性モンスターを墓地に送ることで、闇属性モンスターを手札に加える。……私は《白夜の騎士ガイア》を召喚!」

 しかし聖女ジャンヌは慌てることはなく、《明と宵の逆転》の効果で《竜姫神サフィラ》の効果がエンドフェイズに発動することが確定する。しかし、召喚されたのはサーチされた闇属性モンスターではなく、光属性の戦士族《白夜の騎士ガイア》であった。

 漆黒の馬に跨がる純白の戦士。先に召喚されている《極夜の騎士ガイア》とは、鏡あわせのような存在のモンスターで、やはりその効果は戦闘を補助する効果。やはり都合良く、《ドドドウォリアー》と《竜姫神サフィラ》で睨み合い、とはいかないようだ。

「私は二体のガイアの効果を発動。墓地の光属性と闇属性モンスターを除外し、サフィラの攻撃力を500ポイントアップし、あなたのモンスターの攻撃力を500ポイントダウン!」

 《極夜の騎士ガイア》の効果が光属性モンスターを除外し、自分のモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせるならば、《白夜の騎士ガイア》の効果は鏡のように逆。闇属性モンスターを除外することで、相手モンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせる効果……よって、《ドドドウォリアー》の攻撃力は2500となり、《竜姫神サフィラ》の攻撃力は3000となる。

「バトル! 《竜姫神サフィラ》で攻撃! サファイアボルト!」

「ドドドウォリアー……!」

遊矢LP2200→1700

 墓地から戦闘破壊耐性を付与するカードを除外したのは聖女ジャンヌだけでなく、《シールド・ウォリアー》に類するカードはもう俺の墓地にはない。《竜姫神サフィラ》の攻撃に今度こそ耐えることは出来ず、《ドドドウォリアー》は青い閃光の前に散る。反撃の狼煙を上げてくれたドドドウォリアーに感謝しながら、俺は迫り来る二体のモンスターを見据えた。

「まずは《極夜の騎士ガイア》でダイレクトアタック!」

「……《儀式魔人リリーサー》の効果がなくなった今、このカードを発動出来る! リバースカード、オープン! 《シンクロコール》!」

 攻撃してくる二体のガイアの攻撃を、リバースカードから現れた半透明のモンスター二体――《レスキュー・ウォリアー》と《ドリル・シンクロン》が止めると、そのまま《ドリル・シンクロン》は頭の上のドリルを高速回転させながら、三つの光の輪となっていく。相手のバトルフェイズ中にもかかわらず、それはまさしくシンクロ召喚の光景であった。

「《シンクロコール》は墓地のモンスターでシンクロ召喚を行うことが出来る! ドリル・シンクロンとレスキュー・ウォリアーでチューニング!」

 通常罠《シンクロコール》。墓地のチューナーと非チューナー一体でシンクロ召喚を行うカードであり、当然ながら《儀式魔人リリーサー》の効果があっては発動出来なかった。だが、《ドドドウォリアー》が《竜姫神サフィラ》を破壊してくれた今、このカードを発動出来る。合計レベルは7――召喚するのはもちろん、黄色の装甲を纏った機械竜。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 半透明の《ドリル・シンクロン》と《レスキュー・ウォリアー》をシンクロ素材に、《パワー・ツール・ドラゴン》が俺のフィールドにシンクロ召喚される。鎧の中から龍の咆哮が溢れ出し、ダイレクトアタックを仕掛けようとした二体のガイアが攻撃を中断すると、聖女ジャンヌのフィールドへと戻っていく。今は攻撃力増減効果を使うことは出来ず、聖女ジャンヌには《パワー・ツール・ドラゴン》を突破する術はないようだ。

「パワー・ツール・ドラゴン…………私は、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》に、今まで発動するタイミングはないリバースカードが一枚。このターンのエンドフェイズ時まで、攻撃力3000の《竜姫神サフィラ》に二体のガイアこと《極夜の騎士ガイア》に《白夜の騎士ガイア》。サフィラの発動トリガーである永続罠《明と宵の逆転》に、リバースカードが二枚。……ただし、先のターンに《ドドドウォリアー》の攻撃を止めなかったため、攻撃を抑制する効果はないカードだろう。

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! デッキから三枚の装備魔法のうち一枚を手札に加える! パワー・サーチ!」

 ならば、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を使用して、一斉に攻勢に出る……という訳にはいかない。まずはエースカードである《竜姫神サフィラ》を破壊したいところだが、今は《極夜の騎士ガイア》のパンプアップ効果があり、破壊することは難しい。ならば、まずは状況を整えるべきか、と三枚の装備魔法を選ぶ。

「……左のカードを」

「……選ばれたカード、《スピリット・バーナー》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備する!」

 聖女ジャンヌに選ばれた装備魔法《スピリット・バーナー》が《パワー・ツール・ドラゴン》に装備する。攻撃力をアップする類の装備魔法カードではないが、それでも二体のガイアより攻撃力は上。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、極夜の騎士ガイアに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 攻撃目標は闇属性の漆黒の騎士である、《極夜の騎士ガイア》。《パワー・ツール・ドラゴン》が右手のショベルを馬に跨がった騎士へと振りかざした。……だがそれは、半透明の戦士に防がれていた。

「墓地から《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! このカードを除外し、《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃を無効にする!」

「墓地に送ってたか……」

 先のターンの《竜姫神サフィラ》の効果で墓地に送っていたのだろう、《ネクロ・ガードナー》が《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃を止める。――計算外の効果の発動だったが、むしろ好都合だとニヤリと笑うと、手札から一枚の速攻魔法を手札からデュエルディスクにセットする。

「速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》を発動! 攻撃が無効にされた時、攻撃力を倍にし、もう一度攻撃する! もう一撃だ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 《ネクロ・ガードナー》のおかげで、手札のこの魔法カードを発動することに成功する。《パワー・ツール・ドラゴン》は再び動き出し、《極夜の騎士ガイア》へと再攻撃を開始する――その攻撃力は4600。聖女ジャンヌのライフポイントは1800、《極夜の騎士ガイア》の攻撃力は1600と、この攻撃でライフポイントを0に出来る……!

「なら……伏せてあった《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドロー!」

「くっ……」


 伏せてあった二枚のうち一枚は《ガード・ブロック》。戦闘ダメージを0にし、一枚のカードをドローする罠カード。圧倒的な攻撃力となった《パワー・ツール・ドラゴン》は、あっさりと《極夜の騎士ガイア》を破壊したものの、聖女ジャンヌへのダメージは現れたカードの束が防いだ。《極夜の騎士ガイア》を破壊する、という目的は果たせたが……

「俺は《スピリット・バーナー》の効果を発動。装備モンスターを守備表示に出来る……」

 《スピリット・バーナー》第一の効果により、守備表示となった《パワー・ツール・ドラゴン》の守備力は2500。《竜姫神サフィラ》の攻撃力では突破出来ず、《白夜の騎士ガイア》の効果では攻撃力を下げることしか出来ない。《極夜の騎士ガイア》を破壊したのはこの為で、攻撃力を上げる効果が無ければ《パワー・ツール・ドラゴン》は突破出来ない。

「……俺はターンエンド!」

「私のターン、ドロー! ……私は《明と宵の逆転》の効果を発動!」

 早速発動される《明と宵の逆転》。しかし、《極夜の騎士ガイア》はもうデッキにはなく、手札には加えられない筈だと今までのデュエルを思い起こす。……そして、確かに手札に加えたカードは《極夜の騎士ガイア》のようには見えなかったが、それよりも遥かに、禍々しい様子のカード……!

「……このターンで終わらせてあげるわ! まずは魔法カード《スターレベル・シャッフル》を発動! 《白夜の騎士ガイア》を墓地に送ることで、墓地の《極夜の騎士ガイア》を特殊召喚!」

 フィールドのモンスターを墓地に送ることで、墓地の同レベルのモンスターを特殊召喚する魔法カード《スターレベル・シャッフル》により、《白夜の騎士ガイア》と《極夜の騎士ガイア》が文字通り入れ替わる。攻撃力をアップさせる効果を持つ、《極夜の騎士ガイア》の召喚は確かに痛いが、『このターンで終わらせる』と豪語している相手が、これだけで終わる筈がない。

 ならば、やはり警戒すべきは、先程手札に加えられたあのモンスターカード……!

「私の墓地に光属性と闇属性のモンスターが同数いる時、どちらかの属性のモンスターを全て除外することで、このモンスターは特殊召喚出来る。私は墓地の闇属性モンスターを全て除外!」

 他に類を見ない、特殊な条件を持ったモンスター。強いて言えばカオスモンスターに近いか――聖女ジャンヌの墓地から闇のエネルギーが溢れ出し、時空の穴へと吸い込まれていく。妨害する手段を持たない俺には、その様子を黙って見ているしかない。

「現れなさい! 《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》!」

 墓地の闇属性のモンスター達のエネルギーを生け贄とし、時空の穴を一閃して現れたのは、かの高名な元祖最強戦士カオス・ソルジャー。デュエルキングが使用した『開闢の使者』とはまた違う、新たな『宵闇の使者』だった。闇属性モンスターを除外したからか、その鎧は頭から爪先に致るまで漆黒に染まっており、兜から覗く目に理性は感じられない。正しく狂戦士、という感想を俺に抱かせた。

「《極夜の騎士ガイア》の効果。墓地の光属性モンスターを除外し、サフィラの攻撃力を500ポイントアップさせ、バトル!」

 《極夜の騎士ガイア》の効果により、《竜姫神サフィラ》の攻撃力を上げたところで、聖女ジャンヌのフィールドの三体のモンスターの一斉攻撃の準備が整う。頼む《パワー・ツール・ドラゴン》、耐えてくれ……!

「まずは《竜姫神サフィラ》で《パワー・ツール・ドラゴン》で攻撃! サファイアボルト!」

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! 装備された装備魔法を墓地に送ることで、このカードの破壊を無効にする! イクイップ・アーマード! …………ぐうっ!?」

 《パワー・ツール・ドラゴン》は自身に装備された装備魔法を除外し、一時的だが破壊耐性を得ることが出来る。装備された《スピリット・バーナー》を墓地に送っていると、《竜姫神サフィラ》の雷光が俺の元にまで届き、ライフポイントを着実に削り取った。

遊矢LP1700→1200

「く、ダメージ……!?」

「私は伏せカード《メテオ・レイン》を発動していたわ。このターン、私のモンスター達は貫通効果を得る」

 発動したターンに、自分のフィールドのモンスターに貫通効果を付与する罠カード《メテオ・レイン》。二枚のリバースカードのうち残された一枚はそのカードであり、《竜姫神サフィラ》の攻撃が貫通して俺のライフポイントを削ったのだ。そして、全てのモンスターに適応するカードであるため、まだ貫通効果は残っている……!

「まだよ! 《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》で《パワー・ツール・ドラゴン》に攻撃! 宵闇漆黒斬!」

「ぐあっ……!」

遊矢LP1200→700

 もはや《パワー・ツール・ドラゴン》を守る装備魔法はなく、《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》に一太刀の下に斬り伏せられて大地に落ちた。その衝撃が斬撃の形となって俺を襲い、さらにダメージを受けてたまらず膝をつく。

「これでトドメよ! 《極夜の騎士ガイア》でダイレクトアタック!」

 罠カード《メテオ・レイン》の貫通効果によって、《極夜の騎士ガイア》の攻撃力でも削りきれるほどに、俺のライフポイントは消耗していた。疲れと痛みから膝をついた俺に、追撃とばかりに純白の馬が駆けてくる。漆黒の騎士が剣を振り上げたが、その進路上に大量のカードが壁となって現れ、《極夜の騎士ガイア》の攻撃を阻む。

「……こちらも、伏せてあった《ガード・ブロック》の効果を発動! ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」

 聖女ジャンヌと同じくずっと伏せてあった《ガード・ブロック》が日の目を見るとともに、俺のピンチを首の皮一枚でつなぎ止める。《極夜の騎士ガイア》の攻撃を止めたカードが一枚、俺の手札に加わり、聖女ジャンヌのバトルフェイズは終了したようだ。

「……よく耐えたわね。だけどここまでよ。私はカードを一枚伏せ、エンドフェイズ時に《竜姫神サフィラ》の効果を発動!」

 このターン、《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》の手札を加える為に、《明と宵の逆転》の効果により光属性モンスターを墓地に送っていた。よって《竜姫神サフィラ》の効果が発動し――もちろん選択されたのは第二の効果であるハンデス効果であり、《ガード・ブロック》でドローした手札が使うことなく捨てられてしまう。

 ……この効果により、俺のフィールドは手札も伏せカードもない状態に戻る。まだデュエルは序盤故にフィールドを整えられたが、もうデュエルは終盤で戦術も使い切った。加えて聖女ジャンヌのフィールドには、切り札であろう《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》が控えている……

「サレンダーしなさい。そうすれば、命だけは助けてあげられる」

 絶望的な状況から聖女ジャンヌの声がかかる。死を目前にした時の凛とした彼女の声は、まさしく『聖女』のようで……俺は自然と、片手がデュエルディスクに収められたデッキの上に伸びていく。もう、これしかない……と。

「俺のターン…………!」

 デッキに手を伸ばす。俺にはもう、このデッキトップを引くしかないのだから。

「あなた……良いわ、そんなに死にたいならドローしなさい」

「ああ……俺は、明日香を助けなきゃいけないんだ……ドロー!」

 我ながら会話になっていないな、と苦笑する。それでも俺は明日香を助ける為に、カードをドローする他ない。……たとえ敵が元は明日香だったとしても、明日香を助ける為には敵を倒すしか――はて。自分は何を考えているのだろうか。思考が支離滅裂にも程がある……だが、明日香を助ける為に引いたカードをデュエルディスクに発動する。

「俺は通常魔法《狂った召喚歯車》を発動! 墓地にいる攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚し、さらにデッキから同名モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《チューニング・サポーター》!」

 ドローしたカードは《地獄の暴走召喚》の相互互換、《狂った召喚歯車》。あちらと同じように、聖女ジャンヌにはフィールドのモンスターと同じ種族とレベルのモンスターを特殊召喚する権利が与えられ、デッキから《極夜の騎士ガイア》と同じ種族とレベルの《ダーク・グレファー》が二体、念のためか守備表示で特殊召喚される。

 遂に五体のモンスターで埋まる聖女ジャンヌのフィールドに対し、俺のフィールドには三体の《チューニング・サポーター》が特殊召喚される。三体合わせても攻撃力が1000にも満たない弱小モンスターだが、この状況ではこのモンスターが最も相応しい。

「手札が0枚で、そんなモンスターを出してどうする気かしら?」

「……これで良いんだ。墓地のこのモンスターは、機械族モンスターが二体以上同時に召喚された時、墓地から特殊召喚出来る! 来い、チューナーモンスター《ブンボーグ001》!」

 まさかの墓地からのモンスターの特殊召喚に、聖女ジャンヌの顔が驚愕に包まれる。《チューニング・サポーター》は機械族であり、《狂った召喚歯車》の効果は対象モンスターの同時召喚。さらに《ブンボーグ001》はチューナーモンスターであり……これでシンクロ召喚の準備が整った。

「そんなっ……!」

「自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》二体と、レベル1のままの《チューニング・サポーター》に、レベル1の《ブンボーグ001》をチューニング!」

 そして《チューニング・サポーター》は、その名の通りシンクロ召喚のサポートに特化したモンスター。その効果を十全に活かして自身のレベルを自在に操り、合計レベルは計画通りの六。《チューニング・サポーター》たちを包んでいた光の輪が収束していき、俺のフィールドに新たな機械戦士が降り立つ。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 シンクロ召喚されるのは獣の意匠をかたどった、重力の機械戦士《グラヴィティ・ウォリアー》。フィールドに君臨するなり遠吠えを轟かせ、敵のモンスター達を睥睨していく。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 そして《グラヴィティ・ウォリアー》は、敵の数が多ければ多い程にその攻撃力を増す。聖女ジャンヌのフィールドのモンスターは、《狂った召喚歯車》の影響もあり五体。大量の敵に際し《グラヴィティ・ウォリアー》の闘争心が刺激され、彼の武器である機械化された爪が鋭く研ぎ澄まされていき――

 ――《グラヴィティ・ウォリアー》は俺のフィールドから姿を消した。

「リバースカード、オープン。《煉獄の落とし穴》」

 攻撃力2000以上の大物を対象とする《煉獄の落とし穴》。静かに発動されたそのカードに対し、《グラヴィティ・ウォリアー》はなすすべもなく破壊された。《ブンボーグ001》からの最後の望みをかけたシンクロ召喚だろうと、神から与えられる天罰には勝てないというのか……

「……だが、《チューニング・サポーター》の効果は発動している!」

 ……だが、俺には《グラヴィティ・ウォリアー》が繋げてくれた『希望』が残っている。《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になった時、カードをドローする効果は《煉獄の落とし穴》では無効にならない。何故なら、《煉獄の落とし穴》が無効化するのはチェーンした《グラヴィティ・ウォリアー》の召喚のみであり、《チューニング・サポーター》の効果処理は問題なく行われるからだ。

 ……要するに、《グラヴィティ・ウォリアー》がまだチャンスを残してくれた、ということに他ならない。

「《チューニング・サポーター》の効果により、俺はカードを三枚ドロー!」

 そしてドローした三枚のカードは――

「俺は魔法カード、《発掘作業》を発動! 手札を一枚墓地に送り、カードを一枚ドロー!」

 まずは更なるドローに繋げていく。いや、魔法カード《発掘作業》は確かにドロー効果もあるが、主に活用する効果はやはり墓地に送る効果である。そして、もちろんこの局面で現れるモンスターは――

「墓地に送ったカードは《リミッター・ブレイク》――俺はデッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚!」

『トアアアアッ!』

 ――やはり、このモンスターに他ならない。マイフェイバリットモンスターが旋風とともにフィールドに現れ、《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》へと目標を定めて立ち向かう。

「たかが攻撃力900のモンスターで、宵闇の使者に……? ……でも、あのモンスターは……」

「さらに通常魔法《アームズ・ホール》! このターンの通常召喚を封じることで、装備魔法《サイクロン・ウィング》を手札に加える!」

 このターン、俺はまだ通常召喚をしていない。よって装備魔法をサーチする魔法カード、《アームズ・ホール》を発動出来る。どうせもうモンスターは手札におらず、二枚の魔法カードをデュエルディスクにセットする……これで手札は0。このターンで決める他ない。

「さらに装備魔法《サイクロン・ウィング》を《スピード・ウォリアー》に、装備魔法《樹海の爆弾》を《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》に装備!」

 《スピード・ウォリアー》には疾風を巻き起こす機械の翼が、《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》の胸部には漆黒の球体が装備される。《樹海の爆弾》と称されたその球体は、森の枝で雁字搦めにされていて、枝が宵闇の使者に食い込んでいくと、エネルギーを吸収しているかのように肥大化していく。

「バトル! 《スピード・ウォリアー》で《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》に攻撃!」

「攻撃……!?」

 二体の攻撃力の差は言うまでもない。それでも、《スピード・ウォリアー》の攻撃に反応し、背中に装備された《サイクロン・ウィング》が風を巻き起こす。《サイクロン・ウィング》は装備モンスターが攻撃する時、フィールドの魔法・罠カードを破壊するという、生きた《サイクロン》とも言うべき効果を持つ。破壊するのは、相手のキーカード《明と宵の逆転》――ではなく、俺のフィールドの装備魔法《樹海の爆弾》。

「《樹海の爆弾》が破壊された時、装備されているモンスターを破壊し、相手にそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「…………」

 装備魔法《樹海の爆弾》の効果は今宣言した通り。《樹海の爆弾》を破壊することで、装備された《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》を破壊するとともに、その攻撃力分のダメージを与える。《ニトロユニット》の相互互換とも言える効果である。……破壊するのはモンスターではなく、装備魔法の方であるという違いはあるが。そして、攻撃する時に相手モンスターを破壊する装備魔法《サイクロン・ウィング》を絡める事により、その効果で《樹海の爆弾》を破壊する……《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》の攻撃力は3000。

 よって、聖女ジャンヌに与えられるダメージは3000。

「これで終わりだ……サイクロン・ソニック・エッジ!」

 《スピード・ウォリアー》が俺の号令を合図にし、《サイクロン・ウィング》の旋風を付加した回し蹴りを《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》の胸部にある《樹海の爆弾》へと叩き込む。すると、衝撃が漆黒の球体へと伝播していき、ビリビリとヒビが入っていく。

 爆発する前に《スピード・ウォリアー》は《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》から離れると、最後に《サイクロン・ウィング》からの旋風をカマイタチとなって発射し、《樹海の爆弾》を爆発させる。《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》のエネルギーを取り込んだ爆弾は、聖女ジャンヌのフィールドを全て飲み込む程の爆風を発生させ、《竜姫神サフィラ》たちも巻き込んでいく。聖女ジャンヌのライフポイントは1800と、あの爆風に耐えられる数値ではない。

 聖女ジャンヌは抵抗する様子もなく飲み込まれていき、俺はその様子を見てこのデュエルの勝利を確信する。それと同時に、《樹海の爆弾》に巻き込まれないように、距離を取ると――

「……遊矢……」

 ――最期に、爆風に紛れてそんな声が聞こえて。



明日香LP1800→0

 

 

―邪心経典―

「明日香ぁぁぁっ!」

 先を行く《スピード・ウォリアー》に守られながらも、《樹海の爆弾》の爆心地へと走るものの、既に聖女ジャンヌ――いや、明日香の運命は既に決定している。この世界でのデュエルの敗者に待ち受ける運命から、逃れる術など存在しない。

「明日、香……」

 《樹海の爆弾》の噴煙が風で消えていくが、そこにはもう誰もいない。爆発が強くてどこかに吹き飛ばされた――などという考えが頭をよぎるが、それはただの現実逃避に過ぎないということは分かっていた。もういくら名前を呼んでも探しても、天上院明日香はこの世界には存在しないのだ。

 ……そう、俺がこの手で明日香に引導を渡したのだから。

「あ、あ……」

「おめでとう、遊矢くん! 君の勝利だ!」

 その結論に至り愕然とする俺に対し、場違いな拍手が響き渡る。その主は言うまでもなく、この戦いを観戦していた《闇魔界の覇王》その人である。デュエル中にいつの間にか姿が見えなくなっていたが、どうやら安全地帯まで避難していたようで、拍手をしながら呑気に俺の下へ歩いてくる。

「約束した通り、我々はこの世界から手を引こう! 君の勝利だ」

 約束とは何の話だったか……などと一瞬考えると、そう言えば戦士長と聖女ジャンヌ――明日香を倒せば、闇魔界の軍勢はこの世界からは手を引く、という話しだったか。闇魔界の覇王が響かせる拍手の音を聞きながら、俺は一つの思考に囚われていた。

 ――そんなことはさせるものか、と。

「……《スピード・ウォリアー》!」

 俺の叫び声とともに、未だ消えていなかった《スピード・ウォリアー》が闇魔界の覇王に突撃していき、回し蹴りで攻撃していく。その攻撃は間一髪で避けられてしまうが、耳障りな拍手の音が止んだのは良しとする。……そうだ、この世界から逃すなどさせてはいけない。

「明日香の……仇だ……!」

「それはおかしなことを言うね、私は何の手も出していないというのに」

 《闇魔界の覇王》はそんなことを言ってのけるものの、俺にその言葉は意味を成していなかった。……明日香をこの手で殺したことを誰かのせいにしないと、気が狂ってしまいそうで。明日香が死んだのは俺のせいじゃない、アイツのせいなんだ――と、まるで子供の癇癪のようだ。

「デュエルだ……覇王!」

 デュエルディスクを再展開すると、闇魔界の覇王に攻撃していたスピード・ウォリアーが消えていく。その様子を見た闇魔界の覇王も、自身の腕についている禍々しいデュエルディスクを展開し、デュエルの準備が完了する。

「……悲しみ、苦しみ、怒り、憎しみ、疑心……やはり君こそが邪心経典の完成に相応しい……良いだろう、デュエルだ!」

 俺には分からない何事か呟きながら、俺と覇王は睨み合う。誰もいないスタジアムの中、殺気が渦巻く戦いが始まろうとしていた。

『デュエル!』

遊矢LP4000
覇王LP4000

「俺の先攻!」

 デュエルディスクが俺の方に先攻を提示する。覇王の実力は先に戦った戦士長、明日香に及ばないとのことだが、それも覇王が自ら言ったこと。真実がどうかは分からず、油断をすることは出来ない。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 機械戦士の一番槍。アタッカーこと《マックス・ウォリアー》がいつも通りに戦陣を切る。攻撃表示で召喚し、闇魔界の覇王のデッキがどんなものか誘い出す、という役割も担っている。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン……ドロー」

 合計三枚のカードを展開すると、闇魔界の覇王の元へとターンが移る。さて、どんなデッキなのかと身構える俺に対し、闇魔界の覇王は薄く笑うのみだった。

「ある日この異世界に、二人の異邦人がやって来た。一人は運良く助けられたが、もう一人は運悪く我らの領地に現れた」

 何の話だ――と怒声を浴びせようとするが、直前に俺は闇魔界の覇王が話そうとしている内容に気づく。この異世界に現れた二人の異邦人……俺と明日香のことだと。

「少女は体力を失ったまま果敢に戦うが、最後はデッキを取り落として気絶してしまう。そして闇魔界の軍勢に捕らえられたのだ。……私は《ワーム・ゼクス》を召喚!」

 そのまま闇魔界の覇王は、不出来な物語を言って聞かせるように話していたが、突如としてデュエルを再開する。召喚されたのは光属性・爬虫類族のカテゴリー、《ワーム》に属するモンスターの一種である《ワーム・ゼクス》。……闇魔界の覇王には随分不釣り合いな種族だ。

「私は《ワーム・ゼクス》の効果により、デッキからワームと名の付くモンスターを墓地に送る」

 焦らしているつもりかどうかは知らないが、どうやら今はこれ以上を話す気はないらしく、覇王は淡々と《ワーム・ゼクス》の効果処理を行っていく。……そして先程の発言は、明日香のデッキを使っていたヒロイックの戦士――カンテラの『金髪の決闘者が負けたところから奪った』という条件と一致する。

 ……闇魔界の覇王が語る言葉は真実なのか?

「さらに、墓地に送った《ワーム・ヤガン》の効果だ。こちらのモンスターが《ゼクス》のみの時、墓地から《ヤガン》をセット出来る」

 さらにワームの効果を操る闇魔界の覇王を前に、考えても仕方がないことを考えている暇ではないと、まずは目の前にいる仇敵のことを考える。《ワーム・ゼクス》のみだったフィールドには、新たなワームが墓地からセットされている。

 セットされたモンスターは《ワーム・ヤガン》で、確かリバース効果は相手のモンスターのバウンスだったか。俺のフィールドにいる《マックス・ウォリアー》の攻撃力と、《ワーム・ゼクス》の攻撃力は同じであり、バウンス効果を盾にして睨み合いでもするつもりか。

「さらに《太陽の書》を発動し、裏守備表示の《ワーム・ヤガン》を反転召喚。効果を発動!」

 結果的に言えば、睨み合いではなく攻撃の為の策。モンスターを表側攻撃表示にする《太陽の書》の効果により、《ワーム・ヤガン》はそのリバース効果をを発動し、《マックス・ウォリアー》は俺の手札にバウンスされる。

「バトル! 《ワーム・ヤガン》でダイレクトアタック!」

「…………」

遊矢LP4000→3000

 《ワーム・ヤガン》の触手の一撃が俺を襲うものの、大したダメージではないと放っておく。……明日香に比べれば、この程度のダメージなど。

「続いて《ワーム・ゼクス》でダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》!」

 二撃目を加えようとして来た《ワーム・ゼクス》の攻撃は、伏せられていた《くず鉄のかかし》が防ぎきる。

「《くず鉄のかかし》は発動後、再びセットされる」

「なるほど……私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 《マックス・ウォリアー》がバウンスされてしまったせいで、最初のターンの攻防はこちらの負けか。闇魔界の覇王のフィールドにいる、厄介な二人のワームを見つつ、俺はカードをドローする。

「俺のターン、ドロー!」

 バウンス効果と墓地からの特殊召喚を持つ《ワーム・ヤガン》も厄介だが、墓地から特殊召喚された《ワーム・ヤガン》は破壊された時除外される。そう易々と再利用には向かない筈だ。……よって今厄介なのは、《マックス・ウォリアー》と同じ攻撃力の《ワーム・ゼクス》。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 バウンスされた《マックス・ウォリアー》が再び召喚され、その三つ叉の槍をワームたちに構え直す。《ワーム・ゼクス》はフィールドに《ワーム・ヤガン》がいる時、戦闘破壊耐性を発揮する。それが厄介な理由だが、先に《ワーム・ヤガン》を破壊せねばならない。

「バトル! 《マックス・ウォリアー》で《ワーム・ゼクス》に攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 《マックス・ウォリアー》は自身の効果で攻撃力を上げ、高速のラッシュがステータスの劣る《ワーム・ヤガン》へと襲いかかる。しかし、《ワーム・ヤガン》は攻撃を受ける寸前に消えていき、《マックス・ウォリアー》の攻撃は《ワーム・ゼクス》が受けることとなった。

「伏せてあった、永続罠《ガリトラップ―ピクシーの輪―》の効果。君のモンスターは攻撃力の低いモンスターに攻撃出来ない……さらに!」

 闇魔界の覇王が発動していた罠カードは、攻撃力の低いモンスターを妖精たちが隠して攻撃させなくする、永続罠《ガリトラップ―ピクシーの輪―》。その妖精たちに隠された者は発見出来ず、《マックス・ウォリアー》は代わりに《ワーム・ゼクス》に槍を突きつけるが、《ワーム・ゼクス》は自身の効果で破壊されない。

 《マックス・ウォリアー》の槍は、破壊こそ出来なかったものの寸分違わず《ワーム・ゼクス》を貫き、そのダメージは闇魔界の覇王へと向かう……筈なのだが。空中に突如として現れた本のような物体に、ダメージが吸収されていく。

覇王LP4000→3600

「このフィールドに発動していた《邪心経典》の効果を発動! 私がダメージを受けた時、デッキから《邪心教義》と名の付くカードを墓地に送る。まずは悲しみ……」

 闇魔界の覇王のデッキから《邪心教義―悲》というカードが墓地に送られ、頭上の本のような物体に赤い血文字で『悲』と綴られる。このフィールドに発動していた、ということに驚きはあるが、今はそんなことはどうでも良い。重要なのは、《邪心経典》というカードがどんなカードであるか、だ。

 戦闘ダメージが発生した際に対応するカードを墓地に送る――似たようなカードを斎王の妹である美寿知が使っていた。あちらはカウンターが十個貯まった際に、切り札を呼び出すフィールドを張る魔法カードだったが……今はまだ、《邪心経典》がどんなカードかは分からない。

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー。……闇魔界の軍勢に捕まった彼女は、新たなデッキを与えられ、決闘者の収容所に入れられた」

 新たにカードを一枚伏せ、これで俺のフィールドは《マックス・ウォリアー》に伏せカードが三枚。《ワーム・ヤガン》を破壊することには失敗したが、戦闘破壊出来なかったことにより、マックス・ウォリアーのデメリットは発生しない。不幸中の幸いを噛みしめていると、闇魔界の覇王は再び訥々と語りだした。

「その収容所は決闘者が血で血を洗う凄惨な処刑場……仲間などおらず、周りは全て敵だった。すぐ敗北するだろうと思われたが、彼女は存外に生き残った。私はフィールド魔法《シャインスパーク》を発動!」

 聖女ジャンヌと戦う前に言っていた、捕まえた決闘者で殺し合いをさせる収容所――そこに明日香は捕らえられた。話はそこまでだと言わんばかりに、闇魔界の覇王はフィールド魔法を発動する。

 薄汚れた闘技場が光の世界へと変容していき、ワームたちが幾分か巨大化していく。フィールド魔法《シャインスパーク》。光属性モンスターの守備力を犠牲に、その攻撃力を上げるフィールド魔法である。

「さらに《ワーム・テンタクルス》を召喚する」

 《ワーム・ゼクス》と《ワーム・ヤガン》のみなら、《くず鉄のかかし》で防げたものの、もちろんそういう訳にはいかないらしい。新たに連続攻撃とパンプアップ効果、というこの状況に相応しい効果を持った《ワーム・テンタクルス》が召喚されるが、その効果は墓地にワームがいないので発動しない。だが、フィールド魔法《シャインスパーク》の効果により、その攻撃力は2200と《マックス・ウォリアー》を超える。

「バトル! ワーム・ゼクスでマックス・ウォリアーに攻撃!」

「《くず鉄のかかし》!」

 先のターンと同じく《くず鉄のかかし》がその攻撃を防ぐものの、すぐさま次のワームが《マックス・ウォリアー》を襲う。もはや《くず鉄のかかし》は発動することは適わず、《ワーム・テンタクルス》の攻撃が炸裂する。

「ワーム・テンタクルスでマックス・ウォリアーを攻撃!」

「くっ……!」

遊矢LP3000→2600

 フィールド魔法《シャインスパーク》で強化され、《ワーム・テンタクルス》は《マックス・ウォリアー》を打ち破る。そして、まだ闇魔界の覇王のフィールドにはモンスターが存在していた。

「ワーム・ヤガンでダイレクトアタック!」

 攻撃力がリクルータークラスに到達した《ワーム・ヤガン》が、がら空きになった俺のフィールドへと迫り来る。だが、《くず鉄のかかし》以外にも伏せカードはある……!

「リバースカード、オープン! 《トゥルース・リインフォース》! デッキから守備表示で現れろ、《スピード・ウォリアー》!」

 デッキからレベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する罠カード、《トゥルース・リインフォース》により、守備表示でマイフェイバリットカードが特殊召喚される。闇魔界の覇王は一瞬、わざわざデッキから特殊召喚されたスピード・ウォリアーを見て警戒したものの、ワーム・ヤガンに対して攻撃を続行させる。

「ワーム・ヤガンの攻撃は続行する」

「だが、こちらのもう一枚のリバースカード、《ドロー・マッスル》も発動していた!」

 三枚のリバースカードの最後の一枚、速攻魔法《ドロー・マッスル》が《スピード・ウォリアー》に力を与え、《ワーム・ヤガン》の攻撃を耐え抜いていく。筋力が増強された回し蹴りで触手を弾いていき、《ワーム・ヤガン》は諦めて闇魔界の覇王のフィールドへ帰っていく。

「《ドロー・マッスル》はレベル2以下のモンスターに戦闘破壊耐性を与え、俺はカードを一枚ドローする」

「なるほど……私はこれでターンエンド」

 俺のフィールドには《スピード・ウォリアー》と、伏せられた《くず鉄のかかし》。対する闇魔界の覇王にはゼクス、ヤガン、テンタクルスの三種のワームに、それを強化する《シャインスパーク》にヤガンを守る《ガリトラップ―ピクシーの輪―》。そして、謎の《邪心経典》……

「俺のターン、ドロー!」

「……しかし君、さっきから守るのは上手いが何もしないね。もしかして、戦士長と彼女に勝ったのはまぐれかい?」

 ドローするとともに状況を見渡していると、闇魔界の覇王の挑発がこちらに届く。確かにこのターンまでは防戦一方だったが……今、俺のフィールドには、マイフェイバリットカードがいる。闇魔界の覇王の挑発には、行動で答えるとしよう。

「俺は魔法カード《モノマネンド》を発動! フィールドにいるレベル2以下のモンスターの、同名モンスターをデッキから特殊召喚する! 来い、スピード・ウォリアー!」

 相手のモンスターに表側守備表示やレベル制限、様々な条件があるものの、デッキから直接マイフェイバリットカードを呼べる優秀な魔法カード《モノマネンド》。先の《トゥルース・リインフォース》で、元々戦闘破壊耐性がある《マッシブ・ウォリアー》を特殊召喚しなかったのは、この魔法カードに繋げる為でもある。そして、魔法で現れた粘土がスピード・ウォリアーの形になっていき、そこから本物の《スピード・ウォリアー》が現出する。

「さらに《ロード・シンクロン》を召喚!」

 増殖したマイフェイバリットカードに加えて、金色のロードローラーを模したチューナーモンスターが召喚され、あっという間に三体のモンスターがフィールドに並ぶ。もちろん《シャインスパーク》で強化されたワーム軍団には適う事はないが、シンクロ召喚の準備が整った。

「レベル2の《スピード・ウォリアー》二体に、レベル4の《ロード・シンクロン》をチューニング!」

 《ロード・シンクロン》が車輪とエンジンを轟かせて光の輪と化すと、《スピード・ウォリアー》を包み込んでいく。途中、《モノマネンド》の粘土から推参した《スピード・ウォリアー》が消えてしまったものの――《モノマネンド》の効果で特殊召喚したモンスターは、フィールドを離れると除外されてしまう――が、光とともに機械戦士の皇が降臨する。

「集いし希望が新たな地平へいざなう。光さす道となれ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ、《ロード・ウォリアー》!」

 専用チューナーモンスターである《ロード・シンクロン》を巨大化させ、機械戦士たちの皇に相応しく武装化したようなモンスター……《ロード・ウォリアー》がシンクロ召喚される。風格ある佇まいでワーム軍団を見下ろすと、まずは背中の剣を抜きはなった。

「《ロード・ウォリアー》の効果を発動! デッキからレベル2以下の戦士族か機械族モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《バスター・ショットマン》!」

「また低レベルモンスターの特殊召喚かい……どうせなら、もっと強いモンスターにして欲しいものだ。見てて楽しい」

 《ロード・ウォリアー》の剣から光が放たれ、光の先から新たに《バスター・ショットマン》が特殊召喚される。繰り返される低レベルモンスターの特殊召喚に辟易する闇魔界の覇王を尻目に、《バスター・ショットマン》は銃型の強化パーツに変形していき、《ロード・ウォリアー》の手に収まった。

「《バスター・ショットマン》は自分のモンスターの装備カードとすることが出来る! バトルだ、ロード・ウォリアー!」

 俗にユニオン効果と言われる効果で《バスター・ショットマン》は《ロード・ウォリアー》の装備カードとなり、その銃口は闇魔界の覇王のワーム軍団へと向けられた。ただし、最もステータスの低い《ワーム・ヤガン》だけは、永続罠《ガリトラップ―ピクシーの輪―》の効果で姿が消えていく。

 さらに、《バスター・ショットマン》を装備したモンスターは攻撃力・守備力がともに500ポイント下がってしまうが、《ロード・ウォリアー》は光属性。よって、闇魔界の覇王のフィールド魔法《シャインスパーク》によって強化され、差し引きで攻撃力は変わらない。……代わりに守備力はさらに減少しているが。

「《ロード・ウォリアー》で《ワーム・テンタクルス》に攻撃! バスター・ショット!」

 ショットガンのような銃となった《バスター・ショットマン》を器用に扱いながら、《ワーム・テンタクルス》を撃ち抜いていく。そのまま無慈悲に銃弾を発射し続け、遂には《ワーム・テンタクルス》を破壊し――《バスター・ショットマン》の効果の発動トリガーを満たす。

覇王LP3600→2800

「《バスター・ショットマン》を装備したモンスターがモンスターを戦闘破壊した時、破壊したモンスターと同じ種族のモンスターを全て破壊する!」

 破壊した《ワーム・テンタクルス》は爬虫類族モンスター。もちろん、ワームというカテゴリーの特性上、他二体のワームモンスターも爬虫類族モンスターである。《ロード・ウォリアー》はショットガンの弾をリロードすると、《バスター・ショットマン》の第二射の準備を整える。

「なっ……!?」

「蹴散らせ、《バスター・ショットマン》!」

 闇魔界の覇王の驚愕する声と俺の叫び声をバックに、《ロード・ウォリアー》はショットガンを思うさま連射していく。散弾が相手フィールド場に飛び散り、戦闘破壊耐性を持つ《ワーム・ゼクス》はもちろん、《ガリトラップ―ピクシーの輪―》によって隠れていた《ワーム・ヤガン》までもを殲滅していく。《ロード・ウォリアー》が銃を撃ちきった時、もう闇魔界の覇王のフィールドにはモンスターがいた形跡すらなかった。

「……だけど戦闘ダメージを負ったことで、《邪心経典》の効果を発動だ。次は怒りの感情を……」

 しかし、《ワーム・テンタクルス》を破壊した時の戦闘ダメージにより、再び謎の《邪心経典》が動き出す。『悲しみ』の次は『怒り』――《邪心教義―怒》が墓地に送られ、邪心経典に新たな文字が記載される。

「……これで俺はターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 まだあの《邪心経典》はどんなものか分からず、不気味に沈黙を続けていく。そのせいで、《ロード・ウォリアー》と《バスター・ショットマン》の活躍により、ワーム軍団を壊滅させたにもかかわらず、あまり喜ばしい事態とは言えなかった。頭上で怪しく光る《邪心経典》にも注意を向けながら、俺はまたもや語り出した闇魔界の覇王の話に耳を傾けた。

「生き抜く為なら泥をすすり、寝食を共にした仲間すら裏切り、血反吐を吐こうが倒れなかった。……どうやら、彼女はそこまでしてでも生き残りたいらしい。果たしてその願いが神に通じたのか、彼女は最後の一人として生き残った!」

 闇魔界の覇王が今話している話が本当だという証拠は何処にもない。むしろ、俺を決闘に集中させないようにするのが狙いだ、と考えた方が納得できる。よって、ただ話半分に聞いてこちらの思考時間とすれば良い。

 ――などと頭の中では考えていても、本能が現実を見ようとしない俺の本能へと囁いてくる。……覇王が言っていることは本当だと。

「私は《ワーム・ゼクス》を召喚!」

 後攻一ターン目と同じく、再び《ワーム・ゼクス》が召喚される。違う点と言えば、フィールド魔法《シャインスパーク》で強化されていることだが、《ロード・ウォリアー》に対してその強化は無いに等しい。召喚と同時にワームモンスターを墓地に送る効果が発動し、さらにはゆらりとフィールドに影が揺らめいた。

「《ワーム・ヤガン》の効果。フィールドに《ワーム・ゼクス》がいる時、このモンスターは裏側守備表示で特殊召喚出来る!」

 揺らめいた影の正体は《ワーム・ヤガン》。こちらも同じく、後攻一ターン目と同様の手段でフィールドに現れ、闇魔界の覇王のフィールドにセットされる。一体目の《ワーム・ヤガン》は、自身のデメリット効果により除外されている筈なので、新たに《ワーム・ゼクス》の効果で墓地に落としたモンスターか。

「さらに、《悪夢の鉄檻》を発動してターンを終了しよう」

 ならば次は《太陽の書》で《ワーム・ゼクス》をリバース――となるほど、後攻一ターン目に忠実ではなかったものの、代わりに俺のフィールドを《悪夢の鉄檻》が封じ込める。さしもの《ロード・ウォリアー》も身動きが取れず、攻撃が出来ない状況で俺たちにターンが回って来た。

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには《バスター・ショットマン》を装備した《ロード・ウォリアー》に、リバースカードとして伏せられている《くず鉄のかかし》。闇魔界の覇王のフィールドには、戦闘破壊耐性を得る攻撃表示の《ワーム・ゼクス》にバウンス効果を持つ裏側守備表示の《ワーム・ヤガン》。さらに攻撃力が低いモンスターを守る《ガリトラップ―ピクシーの輪―》に、俺たちを封じ込める《悪夢の鉄檻》……そして、《邪心経典》。

「俺は《ロード・ウォリアー》の効果を発動し、デッキから《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚!」

 再び《ロード・ウォリアー》の剣から新たなモンスターを呼び出すものの、残念ながら、俺の手札には更に通常召喚する後続のモンスターはいない。《悪夢の鉄檻》で動きを封じられていて、相手の魔法カードを破壊する手段がない今、チューナーモンスターである《ニトロ・シンクロン》を守備表示で特殊召喚し、機を待つしかない……

「……これでターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 俺のエンド宣言とともに、《ロード・ウォリアー》を封じ込めていた《悪夢の鉄檻》にヒビが入っていく。しかし、わざわざ消えるのを悠長に待っている訳にはいかない。

「生き残った彼女に私は聞いた。どうしてそんなにも生き残りたいのかと。彼女は息も絶え絶えに、『帰る場所と人がいるから』と答えた……ああ、素晴らしい!」

 闇魔界の覇王の話は続いていく。明日香に向けてなのか、場違いな拍手が《シャインスパーク》のフィールドに鳴り響く。

「ああ、しかしなんたる悲劇だ。まさか、彼女はその帰る人に殺されてしまう、とは……私は《ワーム・ヤガン》をリバース!」

 ……生き残った明日香はモンスターと融合させられてしまい、《聖女ジャンヌ》となって闇魔界の軍勢の幹部となっていた。そして、それをデュエルで倒したのは――俺に他ならない。闇魔界の覇王に明日香の仇だ、と挑むなど笑わせる……仇は自分自身なのだから。

「……手札から《エフェクト・ヴェーラー》を捨て、その効果を無効にする!」

 ……それでも俺は闇魔界の覇王に怒りをぶつけなくては気がすまない。八つ当たりだろうが、現実逃避だろうが、何だろうが――このデュエルの間だけは、明日香を手にかけたことを忘れられる。

「くっ……更にモンスターをセットし、カードを二枚伏せてターンエンド!」

 バウンス効果を持つ《ワーム・ヤガン》がフィールドにいて、対策を怠るわけがない。《ワーム・ヤガン》のリバース効果を《エフェクト・ヴェーラー》で防いだことで、闇魔界の覇王の計画は大幅に狂ったようで、さらに守りを固めていく。

 伏せられた三枚のリバースカードが何であれ、今はとにかく攻める時――と、闇魔界の覇王のフィールドを睨みつけながらカードを引く。

「俺のターン、ドロー!」

 そして俺のターンに移るとともに、まずは《ロード・ウォリアー》がその手に剣を携える。剣が光を発射すると、新たな仲間がフィールドに特殊召喚された。

「俺は《ロード・ウォリアー》の効果により、《チューニング・サポーター》を特殊召喚!」

 中華鍋を逆に被ったような機械族モンスターが光の先から現れ、さらにその姿が三体に増殖する。

「魔法カード《機械複製術》を発動し、さらにデッキから《チューニング・サポーター》を二体特殊召喚し……《ニトロ・シンクロン》とチューニング!」

 攻撃力500以下のモンスターをデッキからさらに特殊召喚する魔法、《機械複製術》による《チューニング・サポーター》の展開とともに、新たなモンスターを呼び込む力とする。先のターンで特殊召喚されていた《ニトロ・シンクロン》が光の輪と化すと、シンクロ召喚の光がフィールドに炸裂した。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 光を切り裂き現れたのは、七つの剣を持つ機械戦士《セブン・ソード・ウォリアー》。黄金色の鎧を輝かせてフィールドに現れ、まずは二本の双剣を持ちワーム軍団と相対する。そしてもちろん、シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》の効果が発動する。

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となった時、カードを一枚ドローする。……さらに魔法カード《アームズ・ホール》を発動!」

 シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》の数は三枚、よって三枚のカードをドローする。さらにデッキトップを墓地に送ることで、装備魔法をサーチする魔法カード《アームズ・ホール》を発動し、デッキから装備魔法《パイル・アーム》を手札に加える。

 《アームズ・ホール》には通常召喚を封じるデメリットがあるものの、まだ《ロード・ウォリアー》と《機械複製術》の効果による特殊召喚しかしておらず、《セブン・ソード・ウォリアー》を展開できた今、これ以上の召喚は必要としない。そしてわざわざサーチした装備魔法《パイル・アーム》は、相手の魔法・罠カードを破壊する効果を持つ。

「《パイル・アーム》を《セブン・ソード・ウォリアー》に装備し、効果発動! 相手の《悪夢の鉄檻》を破壊する!」

 《セブン・ソード・ウォリアー》の腕部にパイルバンカーが装備され、そこから発射された杭が《悪夢の鉄檻》を破壊する。どうせこのターンで自壊する魔法カードだ、放っておいて他の伏せカードを狙っても良かったが……フリーチェーンなら無駄撃ちになってしまう。

 ……いや、俺が攻め急いでいるだけか。

「さらにセブン・ソード・ウォリアーの効果! このモンスターに装備カードが装備された時、相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

「くぅ……!」

覇王LP2800→2000

 攻め急いでいることを自嘲しながらも、装備魔法を装備したことにより、《セブン・ソード・ウォリアー》の効果が発動する。《悪夢の鉄檻》から解き放たれ、クナイのような小刀を投げ放つと、闇魔界の覇王へと直接突き刺さる。謎の魔法カード《邪心経典》は効果ダメージでは起動しないようで、何の反応も返すことはなかった。

「バトル! 俺は《ロード・ウォリアー》で――」

 俺のバトルフェイズへの移行宣言とともに、《ガリトラップ―ピクシーの輪―》の効果により、攻撃表示の《ワーム・ヤガン》の効果が消えていく。しかし、《バスター・ショットマン》を装備した《ロード・ウォリアー》でセットモンスターを破壊すれば、《バスター・ショットマン》の効果が発動する。

「バトルフェイズ開始時に罠を発動させてもらおう、《W星雲隕石》!」

 しかして《ロード・ウォリアー》が攻撃を行うより早く、闇魔界の覇王が罠カードの発動を宣言する。そのカードはワームというカテゴリを代表するカードである《W星雲隕石》。

「チッ……!」

 反射的に舌打ちが発せられるが、今の俺にあのカードを止める術はない。まずは第一の効果として、フィールドにセットされたモンスターが表側守備表示となる。俺のフィールドにはいないものの、闇魔界の覇王のフィールドにはセットモンスターが一体――三体目の《ワーム・ヤガン》が姿を表した。

「《ワーム・ヤガン》のリバース効果を発動! 《ロード・ウォリアー》を手札に戻してもらう!」

 先のターンでは《エフェクト・ヴェーラー》によって防いだバウンス効果が再び襲いかかり、《ロード・ウォリアー》は無念にもエクストラデッキへと戻されてしまう。装備されていた《バスター・ショットマン》はフィールドに落とされ、そのまま破壊され墓地に送られる。

 しかも《W星雲隕石》の効果はタイミングをズラしてリバース効果を使わせること、だけではない。第二、第三の効果が控えている――いや、そちらの効果がメインであると言っても過言ではない。

 第二の効果はフィールドの光属性・爬虫類族――つまりはワーム軍団――を全て裏側守備表示にし、さらにその数だけカードをドローする効果。第三に、デッキからレベル7以上の爬虫類族モンスターを新たに特殊召喚する効果……今のままではカードを三枚ドローされて《ワーム・ヤガン》の効果が再利用される上に、切り札クラスのワームがフィールドに呼び出される。

 しかし、第一の効果が止められなかった時点で、第二、第三の効果を止めることは出来ない。……出来ることと言えば、第二の効果によるドローするカードの枚数を減らす程度。

「……なら、《セブン・ソード・ウォリアー》で守備表示の《ワーム・ヤガン》に攻撃! セブン・ソード・スラッシュ!」

 俺が取った選択肢はフィールドの爬虫類族モンスターを減らし、《W星雲隕石》の第二の効果による、闇魔界の覇王がドローする枚数を減らすこと。闇魔界の覇王のフィールドにある《ガリトラップ―ピクシーの輪》の効果により、攻撃表示の《ワーム・ヤガン》は攻撃出来ないが、今し方バウンス効果を発動した《ワーム・ヤガン》は守備表示。ダメージは与えられないが、《ガリトラップ―ピクシーの輪―》の効果の対象外のため、攻撃することは出来る……!

「さらにリバースカードを発動! 《最終突撃命令》!」

 だが、そう上手くいくことはなく、闇魔界の覇王のもう一つのリバースカードが発動する。永続罠《最終突撃命令》――リバース効果を使うワームとは一見アンチシナジーだが、《邪心経典》のサポートに投入していたのか。……いや、投入理由などは大した問題ではなく、重要なのは今このタイミングで何が起きるか、ということである。

 守備表示モンスターを強制的に攻撃表示にし、表示形式の変更を封じる永続罠《最終突撃命令》。その効果によって、《W星雲隕石》で表側守備表示だった《ワーム・ヤガン》は攻撃表示となり、《シャインスパーク》で強化されているとは言え、その低攻撃力を晒すことになる。……しかし、闇魔界の覇王のフィールドには《ガリトラップ―ピクシーの輪―》があり、俺はその効果によって最も攻撃力が低い攻撃表示モンスターに攻撃出来ない。

 つまり、《ワーム・ヤガン》は二体とも《ガリトラップ―ピクシーの輪―》の効果で消えていき、俺が攻撃出来るのは戦闘破壊耐性がある《ワーム・ゼクス》のみ……!

「くっ……ワーム・ゼクスに攻撃だ、セブン・ソード・スラッシュ!」

覇王LP2000→1400

 《シャインスパーク》で《ワーム・ゼクス》は強化されているが、《セブン・ソード・ウォリアー》とて《パイル・アーム》を装備して攻撃力は2900。《パイル・アーム》には魔法・罠カードを破壊する効果だけでなく、攻撃力を500ポイントアップする効果もある。しかし、どちらにせよ《ワーム・ゼクス》は破壊されず、戦闘ダメージを与えたことにより、《邪心経典》の効果が発動する……

「《邪心経典》の効果により、デッキから《邪心教義―苦》を墓地に送る……!」

 デッキから《邪心教義―苦》が墓地に送られるとともに、新たに《邪心経典》に『苦しみ』の文字が加えられる。悲しみ、怒りと来て苦しみ……まだどれだけあるかは分からず、不気味な沈黙を保ち続けている。

「メイン2、俺は《セブン・ソード・ウォリアー》の効果を発動! 装備された装備魔法を墓地に送ることで、相手モンスターを破壊する! 俺は《パイル・アーム》を破壊し、《ワーム・ヤガン》を破壊!」

 バトルフェイズでの戦闘破壊には失敗したものの、《セブン・ソード・ウォリアー》は最後にせめてもの一撃を与える。《パイル・アーム》と発射された剣が《ワーム・ヤガン》を破壊し、《W星雲隕石》によるドローを一枚減らす。……それぐらいの抵抗しか、俺に出来ることはなかった。

「……ターンエンド」

 俺のエンドフェイズ宣言とともに、《W星雲隕石》の第二、第三の効果が発動する。《セブン・ソード・ウォリアー》による効果破壊が、こちら側のせめてもの抵抗だと分かっているのだろう、闇魔界の覇王は余裕そうに笑って高らかに効果の発動を宣言する。

「エンドフェイズ、《W星雲隕石》の効果を発動! 《ワーム・ヤガン》と《ワーム・ゼクス》を裏側守備表示にし、二枚ドロー!」

 強制的に攻撃表示にし、表示形式の変更を封じ込める効果を持つ《最終突撃命令》だが、《W星雲隕石》の効果の発動は止められない。何故なら、《最終突撃命令》の攻撃表示にする効果はあくまで表側表示のモンスターにしか適用されない。表示形式の変更を封じ込める効果も、あくまで自発的な表示形式の変更を封じるだけで、効果による表示形式の変更は対応出来ないからだ。

「クク……さらにデッキからレベル7以上の爬虫類族モンスターを特殊召喚する!」

 ……そして闇魔界の覇王がカードを二枚ドローするとともに、《シャインスパーク》の光より巨大な隕石が降り注ぎ、スタジアムへと着弾する。そしてその隕石にへばりついていた巨大なワームが、ゆっくりとフィールドに降臨した。

「現れよ、《ワーム・クィーン》!」

 隕石から現れたのはワームの女王《ワーム・クィーン》。もちろん属性は光属性のため、《シャインスパーク》によって攻撃力が500ポイントアップする。

「私のターン、ドロー!」

 そしてワームの女王の降臨と同時に、エンド宣言の済んだ俺のターンから闇魔界の覇王のターンへと移行する。《ワーム・クィーン》を得てどのように攻めてくるか……いや、その前に。

「彼女を気に入った私は、この《邪心経典》の生け贄とするに相応しいと考えた。彼女の魂はこの書に封印され、六つの邪心教義へと分かたれる……」

「……何を言ってる?」

 物語のように分かりやすく話していた先程までと打って変わって、抽象的な儀式についての話となる。明日香の魂が《邪心経典》――あの本へと封印されている……?

「ああ、すまない……要するにだね、君と彼女の協力で《邪心経典》は完成し、大いなる力の礎となる、ということさ」

 ……要するに、怪しげな儀式に利用された、ということか。詳しいメカニズムなどに興味はないが、俺たち二人を使って何らかの儀式を行い、このデュエルを持って完成する、と。しかし、俺たち二人がこの異世界に来たのは偶然だ。そんな俺たちを、闇魔界の覇王はどうして《邪心経典》の儀式に使えるのだと分かったのか……?

 ――俺たちをこの異世界に送って、この儀式の生け贄にしようてした黒幕がいる?

「私は《マジック・プランター》を二枚発動! 永続罠二枚を破壊し、四枚のカードをドローする!」

 ……そんなことを考えている暇はない。闇魔界の覇王の総攻撃が始まろうとしていた。まずは下準備としてか、《マジック・プランター》によって用済みの永続罠を破壊して四枚のドロー。

「私は《ワーム・アポカリプス》を召喚!」

 さらに召喚される、レベル1の最下級ワームこと《ワーム・アポカリプス》。確か効果は反転召喚時に相手の魔法・罠カードを破壊するリバース効果だったと記憶しているので、さしたる意味は今はない。それどころか、《シャインスパーク》の効果は受けていても戦闘に耐えないそのステータスで、一体何をするつもりなのか気になるところである。

「さらに二体のワームを反転召喚! ワーム・ゼクス! ワーム・ヤガン!」

 そして先のターンに《W星雲隕石》で裏側守備表示になっていた、主力ワームが二体ともに反転召喚される。さらに《ワーム・ヤガン》のリバース効果であるバウンス効果で、《セブン・ソード・ウォリアー》はエクストラデッキに戻され――ない?

「ん? ワーム・ヤガンの効果は発動しないさ。さらに《ワーム・クィーン》の効果を発動! このカードをリリースし、《ワーム・キング》を特殊召喚する!」

 《ワーム・ヤガン》のバウンス効果を発動しない、という不可解な行動に、まさかこちらの手札がバレているのかと不審に考える。しかしそのことを問う暇もなく、闇魔界の覇王のフィールドには、ワームたちの王――《ワーム・キング》が特殊召喚されていた。

 《ワーム・クィーン》には、自身を含むワームをリリースすることにより、デッキからそのレベル以下のワームを特殊召喚する効果がある。その効果により自らを生け贄に捧げ、《ワーム・キング》がフィールドに現れていた。

「《ワーム・キング》の効果を発動! 《ワーム・アポカリプス》を墓地に送り、君のリバースカードを破壊し、バトル!」

 《ワーム・キング》の効果。フィールドのワームをリリースすることで、こちらのフィールドのカードを一枚破壊する、というクィーンとはある意味逆の効果とも言える。そして、俺のフィールドを守り続けていた《くず鉄のかかし》が遂に破壊され、ワームの王を始めとする軍団の矢面に《セブン・ソード・ウォリアー》は晒される。しかし、《セブン・ソード・ウォリアー》の前に現れたのは、下級モンスターである《ワーム・ゼクス》だった。

「攻撃しろ、ゼクス!」

「……迎撃だ、セブン・ソード・スラッシュ!」

 フィールド魔法《シャインスパーク》で強化されているとは言え、下級のワーム程度ならば装備魔法カードが無くとも《セブン・ソード・ウォリアー》の敵ではない。《ワーム・ゼクス》は自身の効果で破壊を免れたものの、ただダメージを受けただけの正真正銘の自爆特攻と相成った。

 しかし、戦闘ダメージを受けたこと――それはつまり、《邪心経典》の効果が発動するということに他ならない。

覇王LP1400→1300

 《ワーム・ヤガン》の効果で《セブン・ソード・ウォリアー》をバウンスしなかった理由は簡単なこと。体の良い自爆特攻の的だったというだけだ。100ポイントのダメージを受け、闇魔界の覇王はの邪心教義を墓地に送る。

「私は《邪心教義―疑》を墓地に送る。……このカードは彼女の感情だ。君に対する、ね」

「……どういうことだ?」

 またもや要領を得ない話が、闇魔界の覇王の口から紡がれる。《邪心教義―疑》のカードが墓地に送られ、『疑』の血文字が《邪心経典》に刻まれる。あのカードが明日香の感情……?

「簡単な話さ。この《邪心経典》は彼女を元に作られた。そこに刻まれていくのは彼女の感情だろ? 帰るべき人だった君に殺されて悲しい、怒り、苦しい……そして今、『何故?』という疑いの感情が刻まれた」

 あの《邪心経典》は明日香そのものであり、あの《邪心教義》は明日香の感情である――悲しみ、怒り、苦しみ、疑い。俺はこの手で彼女を殺すだけでは悪しからず、今もなお彼女に負の感情を与え続けているというのか――?

「おっと。かと言って君がどうにかしないと、私は《邪心経典》となった彼女を生け贄にする。そうさせたくないなら、君が彼女を苦しませながら私を倒したまえ。……続きだ、《ワーム・キング》で《セブン・ソード・ウォリアー》を攻撃!」

「セブン・ソード・ウォリアー……!」

遊矢LP2600→1800

 《シャインスパーク》で強化された《ワーム・キング》の一撃が《セブン・ソード・ウォリアー》に炸裂し、一撃の下にセブン・ソード・ウォリアーは破壊される。ワームの王の名は伊達ではない。

「さらに速攻魔法《突進》を発動し、《ワーム・ヤガン》でダイレクトアタック! ……さあ、防いでみせてくれたまえ!」

「――手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了させる!」

 《ワーム・ヤガン》のバウンス効果を対策し、手札に持っていた《速攻のかかし》のおかげで、突如として強化された《ワーム・ヤガン》からのダイレクトアタックの難を逃れる。もはや《邪心経典》の影響があって戦闘ダメージを発生させたくない、などと言っている場合ではない……!

「フフ、防いでくれてありがとう。《邪心経典》で降臨したモンスターの攻撃が、そんなもので防がれては興ざめだからね。ターンエンド」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには何もなく、残りのライフポイントは僅か300。対する闇魔界の覇王のフィールドには、《ワーム・キング》と《ワーム・ゼクス》に《ワーム・ヤガン》のワーム軍団に、フィールド魔法《シャインスパーク》。二枚の永続罠は《マジック・プランター》によってドローに変換され、残りライフは1300ポイント。

 そして今まで何の反応を示していなかった《邪心経典》が、『疑』の文字が刻まれるとともに脈動を開始した。そろそろ封印とやらが解けて、儀式が開始される合図だということか。

「君に良いことを教えてあげよう。《邪心経典》で墓地に送る《邪心教義》は、残り一つ――『憎しみ』だ」

 フィールドと手札を見渡して次の手を考える俺に対して、闇魔界の覇王が心底愉快そうに声をかけてくる。《ワーム・キング》を始めとしたワーム軍団がいる、という驕りからか。

 闇魔界の覇王はこう言っているのだ。『次のターンで殺されたくなければ、お前の手で《邪心経典》に――彼女に《憎しみ》を刻め』と。……あのリバースカードは自分のライフが0にならないように対策しているカードだろうに、白々しい。

「俺のフィールドにモンスターはいない。よって、《レベル・ウォリアー》を特殊!」

 その問いかけは無視しながら、特撮ヒーローのような姿の機械戦士を特殊召喚する。戦闘ダメージを与えなければ俺は敗北し、戦闘ダメージを与えれば明日香に『憎しみ』を刻むことになる――らしい。……いや、そんな不確かなことよりも、戦闘ダメージを与えれば《邪心経典》は完成し、闇魔界の覇王の目的が達成されると考えるべきか。

「俺は《レベル・ウォリアー》をリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

 どちらにせよ手詰まりだ。敗北するか邪心経典が完成するかの違いだけ――などと、こちらが全て思い通りになると思っては困る。まんまと『黒幕』とやらの手に掛かって、この異世界に来たのは確かだが……舐めるな! 

 そう思いを込めて《レベル・ウォリアー》をリリースし、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚する。サルベージ・ウォリアーは背中に装備していた網を取り出すと、墓地に向かって投げつけた。

「《サルベージ・ウォリアー》がアドバンス召喚に成功した時、墓地のチューナーモンスターを特殊召喚出来る! 蘇れ、《ニトロ・シンクロン》!」

 墓地から特殊召喚するのは《セブン・ソード・ウォリアー》のシンクロ素材となったチューナー、《ニトロ・シンクロン》。特殊召喚されるなり再びシンクロ素材となり、メーターを振り切れさせて自身を光の輪と化す。

「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」

 《サルベージ・ウォリアー》を光の輪が包み込み、シンクロ召喚されるのは悪魔のような形相をした機械戦士《ニトロ・ウォリアー》。その最も火力がある機械戦士の登場に、闇魔界の覇王はニヤリと笑った。

「なるほど……次の戦闘ダメージで私のライフを削りきれば良い、と考えたか」

「……《ニトロ・シンクロン》が《ニトロ・ウォリアー》のシンクロ素材となった時、一枚ドロー! さらにカードをセットし、《ブラステック・ヴェイン》を発動し、セットカードを破壊し二枚ドロー!」

 戦士長とのデュエルを見ていて《ニトロ・ウォリアー》の効果を知っているのか、こちらの考えを見透かしたように闇魔界の覇王は笑う。その態度には無視を貫くと、俺は《ニトロ・シンクロン》の効果と《ブラステック・ヴェイン》の効果により更なる連続ドローを果たす。しかも、《ブラステック・ヴェイン》の発動によって、《ニトロ・ウォリアー》の効果の発動が確定する。

「そして、《ブラステック・ヴェイン》の効果で破壊したカードは《フライアの林檎》……このカードが破壊された時、カードを一枚ドロー出来る」

 セットカードを破壊することで、二枚のカードをドローする魔法カード《ブラステック・ヴェイン》。普段は《リミッター・ブレイク》とのコンボに使っているが、生憎と今手札に《リミッター・ブレイク》はない。代わりに、破壊された時に一枚ドロー出来る《フライアの林檎》を破壊したが……

「さらに墓地の《ADチェンジャー》の効果を発動! 《ワーム・ヤガン》の表示形式を守備表示に変更!」

 《アームズ・ホール》の効果で墓地に送られていた、《ADチェンジャー》が《ワーム・ヤガン》を守備表示にし、これで《ニトロ・ウォリアー》の第二の効果であるダイナマイト・インパクトの準備までもが整った。……明らかにとんとん拍子に進み過ぎていて、むしろ不安感が俺を襲って来る。

 先のターンに《マジック・プランター》でドローに変換された、《最終突撃命令》か《ガリトラップ―ピクシーの輪―》のどちらかが残っていては、《ニトロ・ウォリアー》のダイナマイト・インパクトは成功しない。《最終突撃命令》があれば《ADチェンジャー》は通じず、《ガリトラップ―ピクシーの輪―》があれば《ワーム・ヤガン》を攻撃対象に選択できない。

 ――誘われている。

 《邪心経典》の完成の為に、闇魔界の覇王はこちらの攻撃をあからさまに誘っていた。俺に取れる手段が、連続攻撃で闇魔界の覇王のライフポイントを全て削りきる、ということしかないと読んだ上でだ。

「バトル! ニトロ・ウォリアーで、ワーム・キングに攻撃! ダイナマイト・ナックル」

 しかし、攻撃しないわけにはいかない。魔法カードを発動したことにより、《ニトロ・ウォリアー》はその攻撃力を1000ポイントをアップさせ、《ワーム・キング》へと殴りかかっていく。

「リバースカード、オープン! 《ダメージ・ダイエット》!」

 そしてやはり発動された闇魔界の覇王のリバースカードは、全てのダメージを半減する罠カード《ダメージ・ダイエット》。闇魔界の覇王を中心に半透明のバリアが張られるが、自身の効果で攻撃力を上げた《ニトロ・ウォリアー》は、それに構わず《ワーム・キング》を攻撃する。ワームが王は思った以上にあっさりと破壊されると、その衝撃は闇魔界の覇王に伝播した。

覇王LP1300→1000

「続いて《ニトロ・ウォリアー》の効果を発動! 《ワーム・ヤガン》を攻撃表示にし、連続攻撃を行う! ダイナマイト・インパクト!」

 《ニトロ・ウォリアー》は腕から旋風を巻き起こし、《ADチェンジャー》によって守備表示になっていた《ワーム・ヤガン》を再び攻撃表示に戻し、さらにラッシュを仕掛けて跡形もなく破壊する。しかし《シャインスパーク》の影響で《ワーム・ヤガン》は強化されており、《ダメージ・ダイエット》の効果も併せて650ダメージ――闇魔界の覇王を殺しきるには至らない。

覇王LP1000→450

「くくくく……私が戦闘ダメージを受けたことにより、《邪心経典》の効果を発動! デッキから《邪心教義―憎》を墓地に送る!」

 悲しみ怒り苦しみ疑い憎しみ――五つの負の感情が《邪心経典》へと刻まれる。

「ありがとう。君と彼女には感謝のしようもない……さあ、ターンを終了したまえ。彼女を生け贄に終わりを告げるワームは降臨する!」

「……それはどうかな」

 ハイテンションになっている闇魔界の覇王には悪いが、まだ俺のターンは終了していない。ペラペラペラペラと余計なことまで喋ってくれたおかげで、どうやって《邪心経典》を打ち破るか検討が付いた。そちらが戦闘ダメージを与えやすいように誘導していて、そのまま誘導に甘んじて相手の思い通りになるほど、俺も明日香も甘くはない――!

「俺は魔法カード《潜入! スパイ・ヒーロー》を発動!」

「……何?」

 発動するのは、異世界に来るときに混じっていた十代のカード。闇魔界の覇王の疑問の声とともに、俺はそのカードの効果を発動する。

「デッキからカードをランダムに二枚墓地に送り、相手の墓地の魔法カードを一枚手札に加えることが出来る! 俺が手札に加えるのは――」

 闇魔界の覇王の発言を総合すると、《邪心経典》の効果は戦闘ダメージを受けた時に《邪心教義》というカードを墓地に送り、その墓地の五つの《邪心教義》を対象に――恐らくは墓地から除外し――発動する。その困難な条件に比例して、《邪心経典》によって現れるカードは、もはやデュエルモンスターズという枠組みから外れているらしいが……そんなことは俺には関係も興味もない。

 つまり、墓地に《邪心教義》と名の付いたカードが存在しなくなれば――

「――《邪心教義―苦》!」

 ――容易くこのコンボは瓦解する。

「なァっ……!?」

 苦しみを選んだのはただの自己満足だった。これが明日香の感情だというのならば、せめて苦しみを味あわせないように、と。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了」

「キサマァァ……! 早くその苦しみを返せ!」

 先程までの余裕ぶった話しぶりはどこへやら、闇魔界の覇王はカードをドローしながら慌てて俺の手札を睨む。はて、返すとは一体どうすれば良いのだろう?

「チッ、なら……私は《ワーム・ゼクス》をリリースし、《ワーム・クィーン》をアドバンス召喚!」

 先のターンでは《W星雲隕石》によって特殊召喚された、新たなワームを特殊召喚する効果を持った《ワーム・クィーン》がアドバンス召喚される。《ワーム・クィーン》は最上級モンスターだが、ワームをリリースに使えば上級モンスター同様に召喚出来る、という効果も持つ。

「《ワーム・クィーン》をリリースすることで……現れろ、《ワーム・ヴィクトリー》!」

 《ワーム・クィーン》のリクルート効果を間に挟んで現れたのは、美しい深紅の身体と強靭な六本腕を持った『勝利』を司るワーム――《ワーム・ヴィクトリー》。元々の攻撃力は0とワームの中で最も低いものの、効果によってワームの王すらも超える数値を誇る。

「《ワーム・ヴィクトリー》の攻撃力は、墓地のワーム×500ポイント。……よって攻撃力は、5000!」

 闇魔界の覇王の墓地にいるワームは、《ワーム・ゼクス》に《ワーム・ヤガン》、《ワーム・クィーン》がそれぞれ二枚ずつで、《ワーム・キング》、《ワーム・アポカリプス》、《ワーム・テンタクルス》が一体ずつで、計九体。さらにフィールド魔法《シャインスパーク》も併せて、《ワーム・ヴィクトリー》の攻撃力は5000。


「死んで彼女に償うがいい! ワーム・ヴィクトリーでニトロ・ウォリアーに攻撃!」

 《ワーム・ヴィクトリー》は墓地にいたワームを貪り尽くして肥大化し、《ニトロ・ウォリアー》とは比べ物にならない程の巨体となる。《シャインスパーク》の光でなお成長しながらも、《ニトロ・ウォリアー》すら取り込まんとその触手を伸ばす。

「償うのは……お前を倒してからだ! リバースカード、オープン! 《マジカルシルクハット》!」

 《ワーム・ヴィクトリー》が襲いかかってくる寸前に、《ニトロ・ウォリアー》は三つ現れたシルクハットのいずれかに姿を隠す。残る二つのシルクハットに入っているのは、デッキから選んだ二枚のカードが仕込まれているダミーだ。

「《ニトロ・ウォリアー》がいるところを当ててみるんだな」

「チィッ……真ん中のシルクハットを破壊しろぉ、ワーム・ヴィクトリー!」

 他のワームとは比べ物にならない巨大な職種が振るわれ、真ん中のシルクハットが粉々に破壊される。中には……何も入っていない。そして《ワーム・ヴィクトリー》の攻撃が終わるとともに、右のシルクハットが破壊され、そこから《ニトロ・ウォリアー》が出現する。

「ハズレだ。さらに、《ワーム・ヴィクトリー》に破壊されたカードにバトルフェイズ終了後に破壊される二枚のカードは――《リミッター・ブレイク》!」

 《マジカルシルクハット》で特殊召喚されるダミーは、相手のモンスターに破壊されずとも、バトルフェイズ終了後には破壊される。もう一つのダミーが入っているシルクハットが割れると、その瞬間に二対の旋風がフィールドを駆け抜けた。

「《リミッター・ブレイク》は墓地に送られた時、デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! 現れろ、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアアッ!』

 《ニトロ・ウォリアー》と並び立つかのように、再び《スピード・ウォリアー》が二体、フィールドに特殊召喚される。《ワーム・ヴィクトリー》の攻撃は皮肉にも、こちらのモンスターを増やすだけという結果に終わったのだった。

「俺のターン……」

 俺のフィールドには《スピード・ウォリアー》が二体に《ニトロ・ウォリアー》、さらにリバースカードが一枚。対する闇魔界の覇王のフィールドには、攻撃力5000を誇る《ワーム・ヴィクトリー》にフィールド魔法《シャインスパーク》。そして、なんの意味も成さなくなった《邪心経典》。

「……ドロー!」

 確かに攻撃力5000の《ワーム・ヴィクトリー》の攻撃力は生半可には越えられず、脅威であることに違いはない。普段ならば、効果を無効にしたり表示形式を変更したりして突破するところだが――明日香への手向けとして、正面から叩き伏せる……!

 何が手向けだ、笑わせる――と考える理性も、確かに俺の中には存在する。しかし何であれ、目の前のコイツは力づくで正面から叩き潰してやらねば気が済まない――と、俺は手札にある『リリィに貰ったカード』を手に取った。

 戦士長と戦う前に彼女に渡されたカード――それは、デュエルに使用するためのものではなかった。カードの精霊である彼女は精霊としての力を代償にカード化をすることができ、デュエルで敗れて闇魔界の軍勢に囚われるくらいなら、精霊としての能力を失いカード化すると語っていた。

『良かったら……使ってあげて、ください』

 それが、この異世界で俺を救ってくれた恩人との最期の会話だった。……そして、彼女自身であるカードがここにある、ということは……精霊としての彼女はもう――

「――俺は《メンタル・カウンセラー リリー》を召喚!」

 リリィ――いや、白衣を来たチューナーモンスター《メンタル・カウンセラー リリー》が召喚される。そして、マイフェイバリットカード二体とチューニング――ではなく、さらに俺は一枚の魔法カードを発動する。

「俺は魔法カード《下降潮流》を発動! 《ニトロ・ウォリアー》のレベルを1にし、チューニング!」

 レベルを1から3の数値にする魔法カード《下降潮流》により、《ニトロ・ウォリアー》のレベルは1となり、俺のフィールドのモンスター全員がシンクロ召喚の態勢に入る。《メンタル・カウンセラー リリー》が魔法陣のような光の輪となり、その中にいた機械戦士たちが五つの光の魂となっていく。《メンタル・カウンセラー リリー》のレベルは3――併せて8レベルのシンクロ召喚を可能とする。

「集いし決意が拳となりて、荒ぶる巨神が大地を砕く。光さす道となれ! シンクロ召喚!」

 シンクロ召喚するは新たな機械戦士。一際巨大な光が光の輪から発せられると、フィールド魔法《シャインスパーク》を破壊しながらフィールドに現れる。それも、《セブン・ソード・ウォリアー》のように綺麗に切り裂くのではなく、グシャグシャにして崩壊させるかのように。

「――現れろ! 《ギガンテック・ファイター》!」

 大地を轟かせ荒ぶる巨神がシンクロ召喚され、《シャインスパーク》とスタジアムを衝撃波が襲う。溢れ出すほどのパワーを抑えることはなく、《ギガンテック・ファイター》はただ拳を振るう相手へと目を向ける。

「《ギガンテック・ファイター》の攻撃力は、墓地にいる戦士族モンスターの数×100ポイントアップする」

「100ポイント? ハハッ、その程度の数値じゃ《ワーム・ヴィクトリー》の足下にも及ばないじゃないか」

 荒ぶる巨神の登場に驚いていた闇魔界の覇王が、その効果を聞いて少し冷静さを取り戻す。確かにワームの数×500ポイントの攻撃力となる、《ワーム・ヴィクトリー》の効果よりは上昇値が少ないかもしれないが……もちろん、これだけではない。

 まるで幽霊のように、半透明の《メンタル・カウンセラー リリー》の姿が《ギガンテック・ファイター》の前に浮かび上がる。

「メンタル・カウンセラー リリーがシンクロ素材となった時、500ポイントのライフを払うことで、シンクロ召喚したモンスターの攻撃力を1000ポイントアップする!」

遊矢LP1800→1300

 半透明の《メンタル・カウンセラー リリー》は、俺のライフポイントを変換して《ギガンテック・ファイター》にさらに力を与え、再び墓地に消滅していく。そこに《ギガンテック・ファイター》の効果により、墓地の戦士族モンスターの数×100ポイントの数値が加算され、《ギガンテック・ファイター》の最終的な攻撃力が決定される。

 《ギガンテック・ファイター》の元々の攻撃力は2800、《メンタル・カウンセラー リリー》の効果によって1000ポイントアップし、墓地にいる戦士族モンスターは……8体。よって800ポイントの攻撃力アップとなり、最終的な攻撃力は――4600。《ワーム・ヴィクトリー》の5000には僅かながら及ばない……!

「それでも……叩き潰す! リバースカード、オープン! 《シンクロ・ストライク》!」

「シンクロ・ストライク……?」

 俺のフィールドに残された、最後のリバースカードが開かれる。その効果は、フィールドのシンクロモンスターの攻撃力を、シンクロ素材の数×500ポイントアップさせるというもの。……闇魔界の覇王のお望み通り、500ポイントアップだ。

「《ギガンテック・ファイター》のシンクロ素材の数は四体。よって、2000ポイント攻撃力をアップする!」

 《メンタル・カウンセラー リリー》を初めとした、シンクロ素材となった《スピード・ウォリアー》や《ニトロ・ウォリアー》が《ギガンテック・ファイター》に力を貸していく。正面から叩き潰すという決意の通り、《ギガンテック・ファイター》の攻撃力は6600と化し、《ワーム・ヴィクトリー》へと右の拳を向ける。

「覚悟は良いか……! バトルだ!」

「やっ、やめ――」

 闇魔界の覇王の制止する声が聞こえてくる。……もう遅い。《ギガンテック・ファイター》がその力を振るい始めれば、止められる者など誰もいない。

「ギガンテック・ファイターで、ワーム・ヴィクトリーに攻撃! ギガンテック・フィスト!」

 《ギガンテック・ファイター》が自身の拳と手のひらを打ちつけ、《ワーム・ヴィクトリー》にその拳を向ける。ワーム・ヴィクトリーは抵抗して六つの触手を振り回すが、ギガンテック・ファイターはその攻撃をものともせず――右ストレートの一撃で、容易く肥大化した《ワーム・ヴィクトリー》を破壊する。

「え」

 仲間であるワーム軍団を取り込んで肥大化し過ぎた《ワーム・ヴィクトリー》は、《ギガンテック・ファイター》の拳を受けて破壊される際、スタジアムへと倒れ込んでいく。崩壊するスタジアムの傍ら、《ワーム・ヴィクトリー》の下敷きになった闇魔界の覇王は、断末魔の叫びをあげる暇もなく潰されてしまっていた。

 ……とても呆気なく。

覇王LP450→0

「………………」

 《ワーム・ヴィクトリー》から遠い場所にいた俺は事なきを得て、デュエルが終了したことによって《ギガンテック・ファイター》と《シャインスパーク》が消えていき、残ったのは崩壊したスタジアムのみ。闇魔界の覇王を倒して、その後に俺は何をどうする気だったんだ……と、フラフラと瓦礫に近づいていく。

「……明日――」

 香、と声を出す前に背中に鋭い激痛が走る。その痛みに耐えながら何とか背後を見ると、そこには闇魔界の戦士 ダークソードの姿があった。その剣にはべったりと血が付いており、ああ、斬られたのか――と自分でも不思議なくらいに素早く状況を理解する。

「ぐふっ……!」

 背中の傷を庇いながら瓦礫に倒れ込むと、数え切れない程の闇魔界の兵士たちがそこにはいた。戦士や竜騎士、少ないながら戦士長クラスもいるようだ。……その光景を見るに、闇魔界の軍勢に攻撃を仕掛けた戦士たちは全滅し、残る敵は俺一人だけらしい。

 そして、この闇魔界の軍勢もトップがいなくなったからと言って瓦解するような連中ではなく、油断せずに俺を取り囲んでいく。……死ねば明日香に謝りにいけるのか。そう考えていた時、瓦礫の下から一枚のカードが俺の手元に収まった。

「《邪心経典》……」

 《邪心経典》。このカード自体に意志があるかのように手に収まると、そのカードに反応するかのように俺の手札にある《邪心教義―苦》が光り出す。後は苦しみの感情を与えるだけで、この《邪心経典》は完成し、新たな力を手に入れる――そう闇魔界の覇王は言っていた。

「……もう、どんな力だろうと……関係ない」

 《邪心経典》を持ってゆっくりと立ち上がりながら、《邪心教義―苦》を《邪心経典》と重ね合わせる。すると、《邪心経典》のカードに《邪心教義―苦》のカードが取り込まれていくように、ズブズブという音をたてて一体化していく。

「……明日香を助けられる力を、よこせっ……!」

 闇魔界の軍勢が向こうで何か叫んでいるが、意識が朦朧としていて聞こえない。動くな、と言っているのか。攻撃準備と言っているのか。……どうでも良い、疲れた。

 俺が《邪心経典》のカードをデュエルディスクにセットするのと、闇魔界の軍勢が一斉に襲いかかって来るのは、ほぼ同時のことだった。

「《邪心経典》――発動!」
 

 

―消失―

 仲間となったアマゾネスの小隊を引き連れて、三沢大地は覇王の軍勢の一勢力である、《闇魔界》の軍勢が支配している一角へと突入していた。仲間たちから情報収集を理由に別れた三沢が、どうしてこの地域に来たかというと、もちろん……親友を救うためだった。

 黒崎遊矢。天上院明日香。二人の親友はこの異世界に送られた、という情報をキャッチした三沢は、情報収集と守りを一時タニヤに任せ、この岩の世界に来たのである。もはやレジスタンスしかいない状況ということで、すぐにでも闇魔界の軍勢と戦う心構えできたのだが、予想に反しそこには……何もいなかった。

 闇魔界の軍勢にレジスタンスや囚われている人々、もちろん平和に暮らしている人々も、その世界には何もいなかったのである。三沢たちがアマゾネスの本隊からここに駆けつけるまで、それほど時間は経っていないにもかかわらず、である。つまり、闇魔界の軍勢は「撤退、ないし全滅した」という情報が伝達されるより早く、この異世界から姿を消したことになる……

 それでも三沢は遊矢と明日香のことを探したが、見つけることが出来たのは怯える精霊のみだった。闇魔界の軍勢に対抗することが出来ず、岩に作った隠れ家に息を潜めていた生存者を見つけることが出来たが、その精霊たちの中には遊矢と明日香のことを知っている者はいなかった。

 そして、彼ら生き残った精霊たちは一様に、『闇魔界の軍勢を焼き尽くす魔神とそれを従える男』を見た、と怯えていた。精霊たちが怯えているのは、今まで自分たちを苦しめていた闇魔界の軍勢の方ではなく……その、闇魔界の軍勢を焼き尽くした魔神の方だった。

 その魔神は、闇魔界の軍勢を全滅させるとともに消えていき、それを従えていた男もまた、忽然と姿を消していたとのことだった……その男が遊矢なのかは、情報が少なく判断出来ない。人相が分かるほどに近づいた者は、みな魔神に焼き尽くされているからだ。

 結局、三沢がその異世界で見つけられたものは1つだけで、アマゾネスの本隊へと戻ることに決定した。魔神を従えていた男が、どこに行ったかも分からない以上追跡も出来ず、本隊から離れすぎていては元も子もない。

「遊矢……明日香くん……」

 唯一の手がかりとして手に入れた、この異世界に残っていた【機械戦士】たちを手に、三沢はアマゾネスたちと生存者を引き連れて、岩の異世界から脱出していった。


 ――そして、また別の場所で。覇王軍は更に勢力を拡大させていき、とある世界に本拠地を造り上げ、司令官である《覇王》本人が最前線で指揮を取っていた。自分たちの指導者が最前線で戦っている、という事実から覇王軍の士気は高まり、もはや誰にも止めることは出来なくなっていた。

 各地で抵抗する決闘者たちは敗北し捕らえられてしまい、仲間を救い出そうと助けに行く者もまた、決闘者狩りの被害者へと変わるだけだった。捕まった決闘者はどこかに幽閉され、自分たちがどうなるか予想もつかずに、ただ怯えるのみ……

 ……そして、覇王軍が決闘者を捕らえていた目的だった《邪神教典》が遂に完成し、それによって得られた《超融合》と《邪神教典》そのものは覇王の手に献上された。よって、もはや決闘者を捕らえる必要も、捕らえた決闘者を放置しておく意味もない。

 そして覇王軍の幹部である《熟練の黒魔術師》と《熟練の白魔導師》は、覇王から決闘者の処分を言い渡され、決闘者を捕らえた牢獄へと訪れていた。いかに決闘者と言えども、デッキが全て没収されている以上、二人の敵ではなく、せいぜい『狩り』を楽しませる獲物でしかない。

 そしてせいぜい狩りを楽しむべく、見張りをしている下級モンスターに決闘者の牢獄に案内された二人の魔法使いが見たのは、悠々自適にデッキを弄る1人の人間の姿だけだった。

「なっ……!?」

「ん? ああ、ようやく来たのか。随分遅い到着じゃないか」

 そう言いながら、白いスーツに全身を包んだ男はデッキを弄るのを止め、牢獄の扉を自分の家のように簡単に開けると、二人の魔法使いの前に立つ。そもそも、しっかりと鍵を掛けていた筈の牢獄の扉には、何ら拘束もされていなかったが。

「おい、どういうこと……だ……!?」

 熟練の白魔導師は慌てながら、後ろにいる見張りの下級モンスターにこの事態を聞く。しかし振り向いたそこには、先程までいた筈の下級モンスターはおらず、代わりに青色の服を着た仏頂面の男が立っていた。

「覇王軍の幹部だな……話を聞かせてもらおうか」

 混乱している幹部の魔法使いたちを尻目に、二人の人間はそれぞれデュエルディスクをセットしていた。魔法使いを逃がさないように、二人は挟み撃ちのような陣形を取った。

 エド・フェニックスにカイザー亮。彼らもまた、友人を救うために異世界に訪れていた。

「どうした? 覇王軍の幹部とやらは、挑まれたデュエルも受けられないのか?」

「人間風情が……! 後悔するなよ!」

 エドの挑発に、魔法使いたちも混乱を抑え、覇王軍のデュエルディスクを展開する。勝負は二対二のタッグデュエルの設定とし、魔法使いたちはそれぞれエドと亮の方を向き、デュエルの準備が完了する。

「タッグデュエルか。大丈夫か? カイザー」

「問題はない」

 覇王軍の幹部である《熟練の黒魔術師》と《熟練の白魔導師》は、タッグデュエルを得意とする決闘者であり、二体で数多くの決闘者を捕らえてきた。そんな彼らの領分であるにもかかわらず、人間が余裕の表情を崩さないことにほくそ笑みつつ、四人は一斉にデュエルの開始を宣言する。

『デュエル!』

エド&亮LP8000
黒魔術師&白魔導師LP8000

「僕の先攻」

 まず最初に行動するのはエド。デッキから引いた五枚の手札を眺めて、飄々とモンスターをデュエルディスクにセットする。

「僕は《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚」

 まず召喚されたのは、D-HEROの主力モンスターであるダイヤモンドガイ。そのステータスは少し頼りない数値であるものの、その効果はそれを補って余りある特徴的な効果。

「ダイヤモンドガイのエフェクト発動。デッキの一番上のカードをめくり、それが魔法カードだった場合、そのカードをセメタリーに送る。ハードネス・アイ!」

 エドが引いたカードは魔法カード《D-バースト》。よって、D-バーストはダイヤモンドガイにより未来に飛ばされ、その発動を墓地にて待つ。

「更に永続魔法《D-フォーメーション》を発動し、カードを一枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 エドの前に何やらランプが付いたカプセルが置かれるが、そのランプに電気が通っていないのか、ランプの光は灯らず消灯したままだ。黒魔術師はカードをドローしながら、その永続魔法を訝しんだものの、彼の手札に魔法カードを破壊出来るカードはない。

「私は《グリズリーマザー》を召喚!」

 いつまで考えていてもしょうがない、と召喚したのは、魔法使いのイメージとは似ても似つかない青色のグリズリー。

「バトル! グリズリーマザーでダイヤモンドガイに攻撃!」

 グリズリーマザーの攻撃力はダイヤモンドガイと同じで、黒魔術師に攻撃力を増減させるクイックエフェクトはないが、グリズリーマザーは破壊されることが仕事だ。狙い通り、グリズリーマザーとダイヤモンドガイは相討ちになると、グリズリーマザーはその効果を発動する。

「《グリズリーマザー》の効果を発動し、デッキから新たなグリズリーマザーを特殊召喚!」

 水属性のリクルーターである《グリズリーマザー》が破壊されたことにより、デッキから新たなグリズリーマザーが特殊召喚される。再びフィールドに現れたグリズリーマザーは、その鋭利な爪をダイヤモンドガイが破壊されて無防備なエドに向ける。

「グリズリーマザーでダイレクトアタック!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする」

 しかしその攻撃は、エドの前に現れた大量のカードによって防がれた。さらに《グリズリーマザー》の攻撃を防いだ、カードの中の一枚がエドの手札に加わり、《D-フォーメーション》のランプが1つ点灯する。

「D-HEROが破壊された時、《D-フォーメーション》にDカウンターが点灯する」

「ふん……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー」

 エドの《D-フォーメーション》の効果発動宣言、黒魔術師のエンド宣言を経て、カイザーのターンへと移行する。黒魔術師が見せたカードは、未だ《グリズリーマザー》のみと、水属性ということしかデッキの情報はない。

「俺は《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を召喚」

 リクルーターである《グリズリーマザー》を破壊すれば、黒魔術師のデッキが少しは明らかになるか。亮はそう考えながら、まずは墓地の魔法カードを発動する。

「ダイヤモンドガイによって墓地に送られた、《D-バースト》の効果発動。カードを一枚ドローする」

 かつて手痛い敗北を経験した亮が、そのキーカードであるダイヤモンドガイの効果を忘れるわけもなく、墓地の《D-バースト》の効果を適応して一枚ドローする。

「《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》は手札の魔法カードを公開することで、名を《サイバー・ドラゴン》とする。魔法カード《融合》を見せ、そのまま発動する!」

 《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》の形状が、元となった《サイバー・ドラゴン》の姿に近づいていくとともに、出現した時空の穴に吸い込まれていく。フィールドの《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》に、手札の《サイバー・ドラゴン》が消えていき、再びフィールドに現れた個体は、二対の首を持っていた。

「融合召喚! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》!」

 二対の首を持った機械竜が手始めに融合召喚され、グリズリーマザーへと狙いをつける。

「《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《グリズリーマザー》に攻撃。エヴォリューション・ツイン・バースト!」

「うぐっ……だが、グリズリーマザーの効果で再び《グリズリーマザー》を特殊召喚!」

黒魔術師&白魔導師LP8000→6600

 《サイバー・ツイン・ドラゴン》のそれぞれの頭から放たれた光線に、伏せカードもない黒魔術師に防ぐことは出来ず、あっさりとグリズリーマザーは破壊されてしまう。再び《グリズリーマザー》を特殊召喚するものの、まだ《サイバー・ツイン・ドラゴン》の攻撃は終わっていない。

「サイバー・ツイン・ドラゴンは二回の攻撃が可能! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 攻撃をリクルーターで凌ぎきったと、しっかり油断しきっていた黒魔術師に再び光線が襲う。もちろんまたもや《グリズリーマザー》は消し飛び、二人の魔法使いはその余波をくらう。

黒魔術師&白魔導師LP6600→5200

「チィ……《グリズリーマザー》の効果で、デッキから《メタル化寄生生物―ルナタイト》を特殊召喚する!」

 デッキから《グリズリーマザー》が尽きると、新たに召喚されたのはスライム状の奇妙な生物。《グリズリーマザー》が尽きれば、自ずとデッキタイプは判断出来ると亮は踏んでいたが、未だにその全貌は掴めないらしい。 「これでターンエンド」

「私のターン! ドロー!」

 《サイバー・ツイン・ドラゴン》の二回攻撃のみで亮はターンを終え、ターンは最後のプレイヤーである白魔導師へと移行する。白魔導師は勢いよくカードを引くと、即座に行動を開始した。

「私は《メタル化寄生生物―ルナタイト》をリリースし、《ホルスの黒炎竜 LV6》をアドバンス召喚!」

 デッキタイプがはっきりしない黒魔術師とは対照的に、早くもそのデッキのキーカードとなり得るドラゴン《ホルスの黒炎竜》がアドバンス召喚される。ハヤブサの姿を模した銀色の竜が、炎とともにサイバー・ツイン・ドラゴンと対峙する。

「更に速攻魔法《月の書》を発動し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を裏側守備表示にする! バトルだ!」

 攻撃力は《サイバー・ツイン・ドラゴン》の方が上だが、守備表示ならばそうはいかない。《月の書》によって強制的に裏側守備表示とされ、ホルスの黒炎竜の前から姿を消した。

「ホルスの黒炎竜 LV6、裏側守備表示のモンスターを破壊せよ! ブラック・フレイム!」

 ホルスの黒炎竜 LV6が亮のフィールドを燃やし尽くし、セット状態の《サイバー・ツイン・ドラゴン》がそのまま破壊される。もちろん守備表示のため亮とエドにダメージはないが、ホルスの黒炎竜の効果が発動する。

「《ホルスの黒炎竜 LV6》が相手モンスターを戦闘破壊したため、ホルスがレベルアップ! 現れろ《ホルスの黒炎竜 LV8》!」

 破壊した《サイバー・ツイン・ドラゴン》の力を奪い取り、ホルスの黒炎竜の力が増大しレベルアップを果たす。相手の魔法カードを封殺する、強力な効果を持つホルスの黒炎竜最終形態。

「カードを一枚伏せ、私はターンを終了する!」

「僕のターン、ドロー!」

 白魔導師の布陣からして、そのデッキは典型的な【お触れホルス】。相手の魔法と罠を双方ともに封殺する、という強力なデッキであり、伏せカードも十中八九《王宮のお触れ》か。この布陣を1ターンで揃えるとは大した腕前だ、とエドは感心したが、同時にもうデッキの底が見えたと判断する。

「僕は《D-HERO デビルガイ》を召喚!」

 赤黒いマントを纏った悪魔の名を冠したヒーローが、その名前を呼ばれたとともにホルスの黒炎竜の近くに出現する。

「デビルガイのエフェクト発動! 攻撃表示の時、相手モンスターを未来に飛ばして除外する! デステニー・ロード!」

「ホルス!?」

 白魔導師の驚愕の声とともに、デビルガイの効果によって《ホルスの黒炎竜 LV8》は時空の穴に吸い込まれ、あっさりと除外されてしまう。数ターン未来に帰還する運命だが、エドはもちろんそれを許すことはない。

「ホルスが消えたことにより、僕は魔法カードを発動出来る。二枚の魔法カードを発動!」

 《デステニー・ドロー》と《異次元からの埋葬》の二枚を発動し、手札交換と《ホルスの黒炎竜 LV8》の墓地送りを果たす。デビルガイの効果は、除外ゾーンにあるモンスターをフィールドに戻す効果であり、《異次元からの埋葬》で墓地に送られた時点で帰還は不可能になる。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 がら空きになったフィールドにダイレクトアタック、といきたいところだが、デビルガイのデメリット効果でバトルフェイズを行うことは出来ない。敵のキーカードであるホルスを処理出来たと思えば、それぐらいは安いものだ。

「私のターン、ドロー!」

 そしてホルスを失った黒魔術師のターンに移ったが、黒魔術師はそのドローに表情を歪ませた。

「私は永続魔法《前線基地》を発動! 手札の《メタル化寄生生物―ソルタイト》を特殊召喚!」

 発動された永続魔法《前線基地》の効果は、1ターンに一度だけユニオンモンスターを特殊召喚すること。その効果により、先程《グリズリーマザー》の効果で特殊召喚されたルナタイトとは対をなす、《メタル化寄生生物―ソルタイト》が特殊召喚される。

「さらに墓地の水属性《グリズリーマザー》を除外し、手札の《フェンリル》を特殊召喚し、ソルタイトをユニオン!」

 水属性の《グリズリーマザー》を墓地に除外することで、時空の穴から狼のような獣が飛び出す。すると、《メタル化寄生生物―ソルタイト》がその獣を覆うと、鎧のように変化していく。ただ鎧のような姿になっただけでなく、質感や硬さまでもが本当の鎧のようだった。

「そして現れろ、我が決闘を支配するウィザード! 《ミラクル・フリッパー》!」

 何とも大げさなセリフを口にしながら、かの《ブラック・マジシャン》に似た魔法使いの少年が召喚される。現時点では何の効果も発動せず、そのまま黒魔術師は二体のモンスターで攻撃を開始する。

「バトル! いけ、ミラクル・フリッパー! デビルガイに攻撃せよ!」

「……迎撃しろ、デビルガイ! デステニー・ロード!」

  黒魔術師は雄々しく攻撃宣言を行うが、《ミラクル・フリッパー》の攻撃力は僅か300。デビルガイの攻撃力も高いとは言えない数値だが、それでもミラクル・フリッパーを易々と処理出来る程度の攻撃力はある。ミラクル・フリッパーが放った魔術を、デビルガイがあっさりとマントで跳ね返すと、ミラクル・フリッパーは自身の魔術に当たって破壊される。

黒魔術師&白魔導師LP5200→4900

「ふふふ……さらに、フェンリルでデビルガイに攻撃!」

「くっ……」

エド&亮LP8000→6900

 《ミラクル・フリッパー》が返り討ちになっても、黒魔術師は変わらず不敵に笑いながら、続いてフェンリルに攻撃を命じる。《メタル化寄生生物―ソルタイト》が装着され、さらに鋭さを増したフェンリルの爪が、デビルガイの身体を抉って破壊する。

「……だが、《D-フォーメーション》に新たなカウンターが乗り、さらにリバースカード《デステニー・シグナル》! デッキから新たなD-HEROを特殊召喚する!」

 だが、攻撃力が低いデビルガイを放置しておいたのは、もちろんエドが誘いの罠を張っていたからだ。しかし、2つのランプが点灯しきった《D-フォーメーション》はともかく、《デステニー・シグナル》の発動を期待してはいなかったが。

「ふん、白魔導師が伏せた《王宮のお触れ》を発動! 罠カードを封殺する!」

 やはり《王宮のお触れ》か――と考えながら、エドは効果を無効にされた《デステニー・シグナル》を墓地に送ると、エドのフィールドに新たなモンスターが特殊召喚された。特殊召喚された、といってもそれはエドの意志ではなく、勝手に特殊召喚されたのだが。

「ふふふ……《ミラクル・フリッパー》は戦闘破壊された時、相手のフィールドに特殊召喚される。カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 《グリズリーマザー》しか召喚しなかった1ターン目とは違い、黒魔術師は《フェンリル》に《メタル化寄生生物―ソルタイト》、永続魔法《前線基地》に白魔導師の《王宮のお触れ》と大きく動いた。そしてエドと亮のフィールドには、黒魔術師の召喚した《ミラクル・フリッパー》に、カウンターが最大まで貯まった《D-フォーメーション》がある。

「俺のターン、ドロー……!?」

 黒魔術師から亮へとターンが移り、フィールドを俯瞰した後、まずはドローフェイズが始まるが、デッキに電流が走りドローが封じられる。

「《フェンリル》が相手モンスターを戦闘で破壊した時、次の相手のドローフェイズはスキップされる!」

「なるほどな……」

 亮はその言葉を聞いてあっさりとドローを諦めると、自分たちのフィールドにいる《ミラクル・フリッパー》のことを見つめる。戦闘破壊することで相手のドローを封じる《フェンリル》に、戦闘で破壊されることで相手フィールドに特殊召喚される《ミラクル・フリッパー》のコンボにより、恒久的に相手のドローを封じることが出来る。どなれば、自分のフィールドにいる《ミラクル・フリッパー》の排除が最優先だが、相手のモンスターを破壊することならともかく、自らのモンスターを破壊するという手段は限られる。

 ならば全体破壊の魔法や罠カードを使いたいところだが、そこを【お触れホルス】使いのタッグパートナーがサポートする。魔法・罠・ドローという3つを封殺し、相手フィールドにいる《フェンリル》を破壊しようにも、身代わり効果を持つ《メタル化寄生生物―ソルタイト》が装備されている。

 つまり、黒魔術師と白魔導師のデッキは【フェンリルハンデス】と【お触れホルス】の合わせ技。《ミラクル・フリッパー》に《フェンリル》と《王宮のお触れ》がある以上、あとは《ホルスの黒炎竜 LV8》がフィールドに現れれば、魔法までもが封殺され、魔法使いたちのコンボは完成する。

「俺は《サイバー・ヴァリー》を召喚する」

 小型のサイバー・ドラゴンタイプのモンスターが召喚され、《ミラクル・フリッパー》へと絡みつく。それを2人の魔法使いは怪訝な表情で眺めていたが、亮は即座に《サイバー・ヴァリー》の効果の発動を宣言する。

「《サイバー・ヴァリー》の効果を発動。このモンスターともう一体を除外することで、二枚のカードをドローする」

 発動するのは《サイバー・ヴァリー》第二の効果。《サイバー・ヴァリー》の他に除外するのは、もちろん小さな魔法使いこと《ミラクル・フリッパー》。サイバー・ヴァリーとミラクル・フリッパーが揃って消えていき――

「甘い! 速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動! その効果を無効にする!」

「……くっ」

 ――そのまま二体はフィールドに残る。《サイバー・ヴァリー》は《ミラクル・フリッパー》に巻きつくのを止めると、攻撃表示のまま小さな魔法使いとともに並び立った。第二の効果のリリースが発動コストであれば、《ミラクル・フリッパー》だけでも処理することが出来たものの、《サイバー・ヴァリー》のリリースは効果のため元のままだ。

「《ミラクル・フリッパー》を守備表示にし、ターンエンド」

「私のターン! ドロー!」

 結局、亮にそのターンで出来ることは、《ミラクル・フリッパー》を守備表示にすることのみだった。手札コストがかさむ《融合》を主軸にするサイバー流にとって、ドローロックは非常に痛手となってしまう。

「《ホルスの黒炎竜 LV4》を召喚し、魔法カード《レベルアップ!》を発動! デッキから《ホルスの黒炎竜 LV6》を特殊召喚する!」

 そして《フェンリル》と《ミラクル・フリッパー》のコンボが決まったことにより、強気になった黒魔術師はやはりホルスの黒炎竜を展開する。一瞬だけ現れた幼生体はすぐさまレベルアップを果たし、フィールドには再び《ホルスの黒炎竜 LV6》が特殊召喚される。

「さらに! もう一枚の《レベルアップ!》を発動! LV6を進化させ、現れろ《ホルスの黒炎竜 LV8》!」

 もう一枚の《レベルアップ!》を高々と掲げながら発動し、あっさりとホルスの最終形態である《ホルスの黒炎竜 LV8》へと進化を果たす。その登場によって2人の魔法使いのコンボは完成し、狙い通り亮とエドは魔法・罠・ドローを封じられることとなった。

「バトル! まずは《フェンリル》で《ミラクル・フリッパー》に攻撃!」

 《フェンリル》はあっさりと《ミラクル・フリッパー》を破壊し、《ミラクル・フリッパー》は霧のように姿を消していく。このバトルフェイズ終了と同時に、再びその姿を再構築させるだろう。

「続いて、ホルスでその攻撃力0のモンスターに攻撃! ブラック・メガフレイム!」

「《サイバー・ヴァリー》が攻撃される時、このモンスターを除外することで、バトルフェイズを終了させ一枚ドローする」

 攻撃力0といえども、《サイバー・ヴァリー》にはまだ効果が残っている。先程が第二の効果ならば、この効果は第一の効果。自らを犠牲にし、バトルフェイズの終了と一枚のドローに変換する。

 そして《サイバー・ヴァリー》が消えた代わりのように、バトルフェイズが終了したことにより、エドたちのフィールドに《ミラクル・フリッパー》が特殊召喚される。霧のようになっていた身体が再構成され、小さな魔法使いがホルスとフェンリルの前に立ちはだかった。

「チィ……私はこれでターンエンド!」

 黒魔術師は、その《サイバー・ヴァリー》の抵抗に対し、見るからに苛立たしいように顔をしかめる。だが、自分たちのコンボが完成したフィールドを再確認すると、薄ら笑いを浮かべながら次にターンが移行するエドを眺める。

「次は君のターンだが……ふふふ。《フェンリル》の効果によりドローフェイズはスキップされる」

「確かにドローは出来ないが……新しい運命を引き寄せるまでもなく、既に運命は決定している!」

 エドの言葉とともに、そのデュエルディスクの墓地が光り輝いた。運命を司る英雄の名は伊達ではなく、たとえドローが出来なかろうと、戦うための戦術は未来に用意されていた。

「セメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクトを発動! このカードを除外することで、デッキから同名モンスターを特殊召喚する!」

 先のターンに《デステニー・ドロー》の効果で墓地に送られていた、ディアボリックガイが幻影のように姿を消すと、デッキから突如として同じ姿をしたモンスターが姿を現す。現れたディアボリックガイは、まさしく悪魔のような形相を呈していた。

「さらに《D-HERO ダイハードガイ》を召喚!」

 新たなD-HEROがフィールドに召喚されたことにより、《ミラクル・フリッパー》に《D-HERO ディアボリックガイも併せ、エドのフィールドに三体のモンスターが揃う。

「三体のモンスターをリリースすることで、このモンスターは特殊召喚出来る! カモン、《D-HERO Bloo-D》!」

「ミラクル・フリッパーが!」

 白魔導師の驚愕の声を背景に、三体のモンスターがフィールドに現れた血の池に沈んでいき、その池がマントのように変化していく。そして、そのマントを羽織るように究極の『D』――Bloo-Dがフィールドに現れた。

「そこまで封じるのなら、リリースも封じるんだったな」

「ぬぅ……」

 ――最も、リリース封じとしてポピュラーな《生け贄封じの仮面》は罠カードのため、自身の《王宮のお触れ》で無効にされてしまうのだが。

「Bloo-Dのエフェクト発動! 相手モンスターを一体装備し、そのモンスターの攻撃力の半分を奪う! クラプティー・ブラッド!」

「また……ホルスが!」

 血のマントから放たれた触手によって拘束され、《ホルスの黒炎竜 LV8》はBloo-Dに吸収されていく。レベル8まで進化したホルスの攻撃力は3000のため、Bloo-Dの攻撃力はその半分の数値である1500ポイントアップし、3400ポイント。

「バトル。Bloo-Dでフェンリルに攻撃、ブラッディ・フィアーズ!」

黒魔術師&白魔導師LP4900→2900

「ううっ……だが、フェンリルに装備された《メタル化寄生生物―ソルタイト》のユニオン効果を発動! このカードを墓地に送り、フェンリルの破壊の身代わりとなる!」

 ユニオンモンスター共通の身代わり効果。Bloo-Dから発せられた血の針を、鎧のようになっていた《メタル化寄生生物―ソルタイト》が防ぎきり、何とか本体の《フェンリル》は無事で済んだ。

「フェンリルさえ残っていれば、まだどうとでもなる……!」

「ハッ、それはどうかな? セメタリーの《D-バースト》のエフェクトを発動!」

 最初のターンにダイヤモンドガイの効果で墓地に送っていた、通常魔法カード《D-バースト》。その効果は、装備カードをコストに一枚ドローする効果と――もっとも、ダイヤモンドガイの効果でコストは無視されているが――カードを装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、墓地のこのカードを除外することで、攻撃力1000ポイントを下げ、もう一度攻撃を可能にする効果。ホルスがBloo-Dの装備カードと成り下がった今、2人の魔法使いにその魔法カードを無効にする手段はない。

 ……ホルスがいたところで、Bloo-Dによって効果は無効にされているが。

「セメタリーの《D-バースト》を除外し、Bloo-Dによる二回目のアタック! ブラッディ・フィアーズ!」

「うぉぉっ……フェ、フェンリルまでも……!」

黒魔術師&白魔導師LP2900→1900

 ドローロックという強力な効果を持っていようが、ステータスは下級モンスターの平均にも満たない。予想だにしていなかった二回攻撃に、一度の攻撃で限界を迎えていた《フェンリル》に耐えきれる訳もなく、あっさりと血の針に串刺しにされ大地に力なく横たわる。

「バトルフェイズ終了後、Bloo-Dの攻撃力は元に戻る。ターンエンドだ」

 バトルフェイズは終了したものの、戦闘破壊された訳ではないので、もちろん《ミラクル・フリッパー》は蘇生しない。フィールドにいるモンスターは、エドのBloo-Dのみとなった。

「わ、私のターン……」

 コンボが完成し、先のターンまで盤石だった魔法使いたちのフィールドには、もはや《前線基地》と《王宮のお触れ》にしか残っていなかった。そして《フェンリル》によるロックに特化した黒魔術師のデッキに、Bloo-Dに対する対抗策など用意出来るはずもなく。戦闘補助のカードならば投入しているが、肝心のモンスターであるフェンリルが破壊されてしまっている。

「……私は《前線基地》の効果を発動! 手札から《メタル化寄生生物―ルナタイト》を守備表示で特殊召喚!」

 Bloo-Dによってフィールドの効果は無効にされているが、手札を対象とする《前線基地》や『ユニオン』というルール自体を無効にすることは出来ない。特殊召喚された、銀色の蛇のようなモンスターが守備の態勢をとる。

「さらに装備魔法《ミスト・ボディ》を装備し、ターンエンド……」

 装備モンスターに戦闘破壊耐性を付与する装備魔法、《ミスト・ボディ》が《メタル化寄生生物―ルナタイト》に装備される。その場しのぎの手にすぎないが、それでもBloo-Dに対応して守備を固められるのは、流石は覇王軍の幹部といったところか。

「装備魔法、か……」

「……俺のターン、ドロー!」

 エドが小さく呟いた後、亮が今度こそ《フェンリル》に妨害されずにカードをドローする。

「俺は《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚」

 どこか2人の魔法使いのフィールドにいる、《メタル化寄生生物―ルナタイト》に似た、旧型のサイバー・ドラゴンタイプのモンスターが召喚される。そして、その召喚に反応するかのように、今まで沈黙していた《D-フォーメーション》が大きく点灯した。

「《D-フォーメーション》の効果を発動。Dカウンターが二つ乗ったこのカードを墓地に送ることで、召喚したモンスターと同名モンスターを、デッキか墓地から手札に加える」

 破壊された、ダイヤモンドガイとデビルガイの力がこもった《D-フォーメーション》が自壊していき、二枚のカードがデッキから亮の手札に加えられる。召喚したモンスターと同名モンスターのため、もちろん今召喚された《プロト・サイバー・ドラゴン》が二枚――ではない。

「《プロト・サイバー・ドラゴン》は、フィールドにいる限り《サイバー・ドラゴン》として扱う。よって、俺はデッキから《サイバー・ドラゴン》を二枚、手札に加える」

 ――そして発動される。

「魔法カード《パワー・ボンド》を発動! 三体の《サイバー・ドラゴン》を融合し、《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚する!」

 手札に加えられた二枚の《サイバー・ドラゴン》と、フィールドにいるサイバー・ドラゴン扱いの《プロト・サイバー・ドラゴン》を融合召喚し、カイザー亮の切り札が出現する。いや、ただ出現するだけではなく、機械族の究極の融合カード《パワー・ボンド》によって融合召喚されたため、その攻撃力は元々の攻撃力は倍となる。

「《パワー・ボンド》によって融合召喚されたため、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は倍の8000となる。さらに、《サイバー・エンド・ドラゴン》は貫通効果を持っている」

 そんな亮の残酷な言葉に、ただでさえ圧倒されていた2人の魔法使いは戦慄する。もはや2人を守るのが守備力500の《メタル化寄生生物―ルナタイト》のみであり、《ミスト・ボディ》など何の役にもたたないと考えれば……それも当然である。

 2人の魔法使いの戦意が完全に喪失し、どうやって逃げるか辺りを見渡しているのを見て――もちろん逃げださないように、最初から挟み撃ちにしていたわけだが――エドはデュエルディスクを下ろし、彼らにこう言ってのけた。

「僕たちも鬼じゃないし、助けてやらんでもない……僕たちにとって有意義な方はな」

 それからは早かった。所詮は『覇王』という力の象徴に従ってきただけだからか、忠誠心はあっても自らの命を捨てるほどではない。幹部としての立場故に手に入る情報から、信憑性の欠片もない話、命乞いまで2人の魔法使いは競うように行っていく。

「なるほどな……」

 2人の魔法使いの話をざっと聞き終わると、エドはそう1人ごちる。亮は何も言わなかったものの、時折思索に耽るように眉間に皺を寄せていた。

「じゃあ……」

「ああ、せめて苦しまないようにしてやる。サイバー・エンド・ドラゴン!」

 2人の魔法使いに対して亮はそう言い残すと、自らの切り札に対して攻撃を命じる。黒魔術師と白魔導師の残りライフは1900で、《メタル化寄生生物―ルナタイト》の守備力は500、貫通効果を持つ《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は8000と――結果は考えるまでもない。

「《メタル化寄生生物―ルナタイト》に攻撃。エターナル・エヴォリューション・バースト!」

黒魔術師&白魔導師LP1900→0


「覇王十代、か……」

 覇王軍の幹部である、《熟練の黒魔術師と《熟練の白魔導師》を事も無げに始末した後、エドと亮は隠れ家に戻って情報を整理していた。主に、散り散りになった仲間たちの情報を集めていたが……芳しくない。

 居所がはっきりしているのは、反乱軍と行動を共に……いや、反乱軍の司令官となっているオースチン・オブライエンに、アマゾネスと協力している三沢大地。……そして、覇王と呼ばれて侵攻を止めない十代の三人ぐらいだ。

 十代とともに行動をしているはずの仲間たちは、信じたくはないが……覇王軍に囚われて消滅した、という情報もある。その中には亮の実弟である翔も交じっているが、エドはそのことについては、亮が言わない限りは触れないようにしていた。

「やはりオブライエンとの合流か。それでいいか、カイザー?」

「ああ、異論はない」

 2人の魔法使いと戦った牢獄に囚われていたデュエリストも、今の隠れ家にしている館に隠れてもらっている。彼らを引き連れて、反乱軍の指揮をしているオブライエンと合流するのがやはりベストか。アマゾネスといる三沢よりそちらの方が近いので、翔を始めとするメンバーがいるならそちらか。

 ……ただ、この異世界に来た目的であった人物の情報は、何も得ることが出来なかった。ヨハン・アンデルセン、天上院明日香、そして――

「遊矢……お前はどこにいるんだ……」
 
 

 
後書き
次話から遊戯王GX-運命の英雄-が始まります(嘘) 

 

―封印・降臨―

「大変です!」

 エドと亮がオブライエンとの合流を決めた直後、屋敷へと一人の人物が駆け込んできた。偵察部隊として外に出ていた《戦士ラーズ》であり、その尋常ではない雰囲気にエドと亮は警戒する。

「どうした?」

「覇王軍です。どうやらこの隠れ家がバレたようです……」

 その報告を受けてからの二人の行動は早かった。収容所から助けたデュエリストたちや、その他協力者たちへと素早く連絡を済ませると、すぐさま屋敷からの脱出準備を整えていく。偵察部隊の戦士ラーズもまた、自分の役割を自覚して仲間を呼んで待機する。

「ではカイザー、頼んだぞ」

「ああ。オブライエンの基地で落ち合おう」

 偵察部隊と一部の精鋭部隊を率いて、迫り来る覇王軍にこちらから奇襲をかけるのはカイザー。非戦闘員を含む者と大多数の戦力を率い、ここからの脱出を優先するのがエド。事前に決めてあった通りに行動し、隠れ家として活用していた屋敷を亮は飛びだしていく。

 四方は全て森で覆われており、夜が明けることはないこの世界ならば脱出は容易だろう。しかし、そのことは覇王軍も百も承知の筈であり、何の策もなく攻め込んで来るはずはない。屋敷から飛び出した亮は、木の奥から何かが自分たちを見ていることに気づく。

「サイバー・ドラゴン! エヴォリューション・バースト!」

 迷わず召喚された亮のエースモンスターの攻撃に、木から隠れ家の屋敷を監視していた《ダークファミリア》が消滅する。《ダークファミリア》は覇王軍の幹部たちが持つ使い魔であり、もうすぐそこまで覇王軍の手が迫っていることを示していた。

「……尾行されていたようだな」

 伝令へと急いだ《戦士ラーズ》だったが、その背中を使い魔が観察していることは気づいていなかった。しかして彼を糾弾している暇はなく、陽動と奇襲を担当する亮たちはすぐさま行動する。エドたちが逃げ切るまで耐えるか、エドたちを追う戦力がなくなるまで叩きのめすか、そのどちらかだ。

 亮が選択するのは、もちろん叩きのめす方である。もちろん、追ってくる覇王軍の全てを殲滅しようとしては、戦力の関係上命がいくつあっても足りないので、トップのみを狙うという戦術をとった。部隊のトップである覇王軍の幹部を倒せれば、その部隊の戦力は瓦解し覇王軍自体の戦力も大きく削ることが出来る。

 そうと決めれば話は早い。亮たちは慎重に森を進み、覇王軍たちの前線基地を探していく。多かれ少なかれ、一部隊を動かすのならば必ずしも前線基地というものは必要であり、そこを潰すことが出来れば部隊を潰すことと同義だ。司令官である幹部もいるのならば、どちらも倒せれば一石二鳥というべきか。

 そして自分たちの力を誇示したい覇王軍の軍勢の関係上、その前線基地は必然的に巨大なものになる。そうとなれば見つけることは簡単であり、あまり手間はかけずに亮たちは前線基地の居所を発見する。先の使い魔《ダークファミリア》のように、慎重に前線基地の中を調査しようとしたが――どこか様子がおかしい。

「騒がしいな……」

 巡回している覇王軍の兵士程度はいると考えたが、森の中で兵士は誰一人として見当たらなかった。そして目の前の前線基地からは、何か争うような物音が断続的に響いていた。

「仲間が戦っているんでしょうか?」

「いや……とにかく、突入するぞ」

 自分たち以外に、覇王軍と戦う反乱軍の仕業ではないか――その戦士ラーズの推測に対し、亮は肯定も否定もせずに突入を決める。前線基地の中に入っても人の気配はなく――いや、人の気配は一ヶ所に集中している、とでも言うべきか。亮が広場のようになっている場所を窺うと、大量の兵士たちが円を描くように固まっていた。

 その中心には、覇王軍の幹部の一人である《カオス・ソーサラー》と、もう一人。人間のデュエリストが向かい合っていた。その青い制服はオベリスク・ブルーの証――

「遊矢!? ……いや……?」

 黒崎遊矢。行方不明になっていた親友の姿に、亮は違和感を感じたものの彼の元へ駆け寄ろうとする。しかし、その前に戦士ラーズに止められて未遂となり、彼からの警告が響く。

「死ぬ気ですか……!」

 亮たちの目の前には覇王軍の兵士たちが円形に並んでおり、その数は計り知れないほどであり、無策で突っ込めばラーズの言う通りただ死ぬだけであろう。言われずとも、亮もそれは分かっており、広場を見渡せる位置に待機する。

 もちろん、無策で突っ込めば死あるのみ、というのもあったが……第一に亮が待機したのは、遊矢のような青年の様子がおかしかったからだった。最後に亮が遊矢と会った時は、ジェネックス大会の時だったが、その時とはまるで纏う雰囲気が違う。

 ……どうやら、デュエルが開始されるようだ。

『デュエル!』

遊矢(?)LP4000
カオス・ソーサラーLP4000

 見回りの兵士がいなかったのは、このデュエルを観客として眺めるためだったようで、同時に遊矢が逃げられないようにするためだった。たった1人で攻めてきたこの人間に敬意を表し、せいぜい酒の肴にでもなればいい――カオス・ソーサラーはそう考えていた。

「私の先攻。まずは《手札断殺》を発動!」

 デュエルの初手はカオス・ソーサラーから。まずはお互いの手札を交換するカードで状況を整えると、いい手札になったと笑みを浮かべる。

「私は魔法カード《魔獣の懐柔》を発動! デッキから獣族モンスターである、《封印獣イヌン》と《モジャ》、《封印獣ヌヌラオ》を特殊召喚する!」

 自分のフィールドにモンスターがいない時、効果が無効にされエンドフェイズで破壊される、そのターンの獣族モンスター以外の特殊召喚の制限――など、無視できないデメリットはあるものの、それらがあろうと強力な魔法カード《魔獣の懐柔》。デッキからレベル2以下の獣族モンスターを三体特殊召喚する、という効果であり、カオス・ソーサラーのフィールドに三体の獣が並ぶ。

 さらに《魔獣の懐柔》のデメリットは、専用のデッキならばほぼ無視できる範囲内である。

「さらに手札のこのカードは、フィールドの《モジャ》をリリースすることで特殊召喚出来る! 現れろ《キング・オブ・ビースト》!」

 《モジャ》の効果が無効になっていようとも、手札のカード効果は無効になってはいない。愛くるしい姿だった《モジャ》は急成長していくと、獣たちの王――その名に相応しい雄々しい姿、《キング・オブ・ビースト》へと進化する。

「さらに《封印獣ヌヌラオ》をリリースすることで、《百獣王ベヒーモス》をアドバンス召喚!」

 さらに二体目の最上級モンスターとして、紫色に変色した岩のような皮膚にたてがみをたなびかせ、獰猛な牙を持った悪魔のような獣がアドバンス召喚される。《百獣王ベヒーモス》は最上級モンスターであるものの、その攻撃力を2000に減じることで、リリースに必要なモンスターを一体にすることが可能な効果を持つ。

「さらに《百獣王ベヒーモス》のアドバンス召喚に成功した時、リリースに使ったモンスターの数だけ、墓地の獣族を手札に加えることが出来る。私は墓地の《封印獣ワツム》を手札に加え、カードを一枚伏せてエンドフェイズに移行する」

 《百獣王ベヒーモス》のアドバンス召喚時の効果を使い、初手の《手札断殺》によって捨てた《封印獣ワツム》を手札にサルベージする。さらにリバースカードを一枚伏せ、エンドフェイズには《魔獣の懐柔》の効果により、特殊召喚された《封印獣イヌン》は破壊される。

「フフフフ……エンドフェイズになれば安心したかもしれないが、まだまだ私のターンは終わっていない! 破壊された《封印獣イヌン》は、破壊された時《封印の真言》を手札に加えることが出来る。さらに……もう一枚」

 カオス・ソーサラーは、彼のデッキにとってキーカードとも言える永続魔法《封印の真言》を手札に加えることに成功するとともに、もったいぶりながら手札のモンスターを表にする。そのカードはモンスターカード――《森の番人グリーン・バブーン》。

「このカードは獣族モンスターが効果で破壊された時、1000ポイントのライフを払うことで特殊召喚出来る! 現れろ《森の番人グリーン・バブーン》!」

カオス・ソーサラーLP4000→3000

 最後に《魔獣の懐柔》のデメリット効果を逆手に取った、ハンマーを持った巨大なヒヒの特殊召喚。これでカオス・ソーサラーのフィールドには、三体の最上級獣族モンスターが並び立ち、その布陣には亮も、流石は覇王軍の幹部だと感心する。しかし、それよりも重要なのは、その対戦相手である遊矢らしき人物。

「フフハハハ、さあ貴様のターンだ足掻いてみせろ!」

「俺のターン、ドロー」

 ご満悦に高笑いをするカオス・ソーサラーのような相手に、一見ただの低ステータスのモンスターである機械戦士たちで逆襲する――それが黒崎遊矢のデュエルだった。アカデミアで亮が見てきた親友のデュエルは、唯一無二の彼だけのデュエルだった。デュエルを見ればそれが黒崎遊矢であるかどうか、どんな格好をしていようが亮には分かる。

 ――しかし、亮の期待とは裏腹に、遊矢らしき人物の取った行動は予想だにしていなかった。

「儀式魔法《高等儀式術》を発動!」

「儀式魔法……? いや、【機械戦士】じゃないだと……?」

 遊矢らしき人物が発動したのは儀式魔法《高等儀式術》。手札の儀式モンスターのレベル分、デッキから通常モンスターを墓地に送ることで、儀式召喚を執り行うことが可能となる汎用儀式魔法。デッキから二枚の通常モンスターを触媒に、フィールドへ儀式モンスターが降臨する。

「降臨せよ、《終焉の王デミス》!」

 フィールドに現れていた時空の穴から、二体銀色のバトルアックスを持ち、漆黒の鎧を着込んだ悪魔が立ち上がる。そのまま肩をバトルアックスで叩きながら、カオス・ソーサラーの前にいる三体の獣を睥睨すると、その斧を大きく振り上げる。

「《終焉の王デミス》の効果発動。ライフを2000ポイント払うことで、このカード以外のフィールド上のモンスターを、全て破壊する!」

「なにぃ!?」

遊矢LP4000→2000


 《終焉の王デミス》がバトルアックスを地面に叩きつけると、世界を揺るがすほどの衝撃波が発声していき、我が物顔でフィールドを制圧していた獣たちは全て破壊される。伏せてあった一枚のリバースカードは、獣族モンスターの攻撃力を半分、他の獣族モンスターに分け与える罠カード《バーサーキング》。恐らく、妥協召喚して打点の下がった《百獣王ベヒーモス》を相手に攻撃させ、この永続罠で迎撃する腹積もりだったのだろうが……もはや意味はない。

「私の獣族が……全滅……!」

「バトル。《終焉の王デミス》でダイレクトアタック!」

 展開しきった三体の最上級獣族モンスターが全て破壊され、驚愕するカオス・ソーサラーに《終焉の王デミス》のバトルアックスが叩き込まれた。カオス・ソーサラーにその一撃を防ぐことは出来ず、あっさりと受けてライフを危険域まで減じさせる。

カオス・ソーサラーLP3000→600

「カードを一枚伏せてターンエンド」

「くっ……貴様! 何故モンスターの通常召喚をしない! 通常召喚で追撃すれば勝っていたはずだ!」

 《終焉の王デミス》の攻撃の痛みに眉をしかめながらも、カオス・ソーサラーは遊矢に向けてそう叫ぶ。確かにこのターン、遊矢はモンスターの通常召喚はしておらず、攻撃力600以上のモンスターを通常召喚すれば勝てていた。

「…………」

「ぐ……私のターン! ドロー!」

 しかし、遊矢はその問いに答えることはなく、沈黙を貫いた。そんな様子にカオス・ソーサラーは苛立ちを隠すことはなく、舌打ち混じりにカードをドローする。彼は遊矢の手札に通常召喚したモンスターがいなかった、という訳ではなく、通常召喚出来るモンスターがいたのに召喚しなかった――つまり、お前などいつでも殺せるのだ、と舐められたと考えていた。

「私は永続魔法《封印の真言》を発動!」

 先のターンに《封印獣イヌン》の効果でデッキからサーチされていた、彼のデッキのキーカード《封印の真言》が発動される。しかし単体では特に効果はなく、その真価はフィールドに封印獣が表れてからだ。

「さらに通常魔法《屍の中の真言》を発動! 《封印の真言》がフィールドにある時、墓地の封印獣の数だけカードをドローする。よって私は三枚のカードをドロー!」

 ……いや、封印獣がフィールドにおらずとも活用する手段はあったか。初手の手札交換などで墓地に送られたカードも含み、墓地にいる三枚の封印獣の数だけカードをドローする。

「モンスターを裏守備表示でセットし、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー」

 しかして三枚のドローを活かすことは出来ず、カオス・ソーサラーはモンスターを裏守備表示にしたのみでターンを終了する。

「バトル。《終焉の王デミス》で裏守備モンスターに攻撃!」

 ライフポイントの関係上、もう《終焉の王デミス》の効果を発動出来ない遊矢も、特に動くこともなくデミスに攻撃を命じる。……やはり、モンスターの通常召喚はしないまま。

「破壊されたモンスターは《封印獣ワツム》! 《封印の真言》がフィールドにある時、このカードが破壊された場合、墓地の封印獣を二枚手札に加える!」

 永続魔法《封印の真言》の効果はこのように、フィールドの封印獣の効果を解放すること。《封印の真言》がなくては封印獣は効果を解放出来ないが、《封印の真言》だけではただの永続魔法。扱いが難しい分、解放された封印獣は無敵の力を得るのだという。

「私は《封印獣ヌヌラオ》を二枚手札に加え、手札の《森の狩人イエロー・バブーン》の効果を発動! 獣族モンスターが戦闘によって破壊された時、墓地の獣族モンスターを二枚除外することで、このカードを手札から特殊召喚する!」

 効果破壊により特殊召喚される《森の番人グリーン・バブーン》の亜種である、戦闘破壊によって特殊召喚される上級獣族モンスター、《森の狩人イエロー・バブーン》。その巨大な石弓をまるで木製のごとく軽く扱い、《封印獣ワツム》の代わりとして特殊召喚された。

「追撃の下級モンスターを召喚しなかったのは、不幸中の幸いといったところか?」

「メイン2。《高等儀式術》を発動!」

 《森の狩人イエロー・バブーン》の登場により、追撃をあっさりと止めてメイン2に移ると、再び発動される《高等儀式術》。この時点で亮は、遊矢のデッキが根本から機械戦士ではない、ということを確信する。だがそれ故に、彼が遊矢だということが確信出来ないでいた。

「降臨せよ、《デーモンズ・マタドール》!」

 やはり通常モンスター二体を触媒に、降臨するのは悪魔の闘牛士《デーモンズ・マタドール》。攻撃表示で儀式召喚されたものの、その攻撃力は僅かどころか0でしかない。

「ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 そこで遊矢はターンを終了し、フィールドは攻撃力2400の《終焉の王デミス》、攻撃力0の《デーモンズ・マタドール》に伏せカードが一枚となった。もはやコストの関係上効果は使えず、攻撃力も《森の狩人イエロー・バブーン》に劣る《終焉の王デミス》はともかく。カオス・ソーサラーにとって考えさせられるのは、攻撃力0にもかかわらず攻撃表示の《デーモンズ・マタドール》に、最初のターンから伏せられたままの伏せカード。

 しかし、その2つともを彼は対策できていた。

「まずは手札の《封印獣ヌヌラオ》の効果。このカードは《封印の真言》がある時、特殊召喚効果が解放される!」

 《封印獣ワツム》によって手札に加えられた、《封印獣ヌヌラオ》の効果はノーコストでの特殊召喚。永続魔法《封印の真言》によりその効果が解放され、二体の《封印獣ヌヌラオ》がフィールドに特殊召喚された。

「そして《封印獣ヌヌラオ》を二体リリースすることで、《封印獣ブロン》をアドバンス召喚する!」

 またもや現れるのは最上級獣族モンスター。その中でも封印獣で最強を誇るモンスターであり、攻撃力0の儀式モンスター《デーモンズ・マタドール》と、謎の伏せカードの双方への対策カードだった。

「《封印の真言》により《封印獣ブロン》の効果が解放される。バトルだ、《森の狩人イエロー・バブーン》で、《終焉の王デミス》に攻撃!」

「…………」

遊矢LP2000→1800

 《森の狩人イエロー・バブーン》の巨大な石弓から放たれた矢が、《終焉の王デミス》の身中を捉え見事に破壊に成功する。しかし、遊矢ももう《終焉の王デミス》の仕事は終わったと考えていたのか、特に動揺する素振りも見せずにライフが削られる。

「続いて、《封印獣ブロン》で《デーモンズ・マタドール》に攻撃!」

 さらに攻撃力0の儀式モンスター《デーモンズ・マタドール》へと、カオス・ソーサラーは恐れずに攻撃を命じた。どのような効果であろうとも、《封印の真言》によって効果が解放された自身のエースならば、突破出来ると確信しての攻撃だった。

「《封印獣ブロン》は《封印の真言》がある時、カード効果の対象にならない効果を解放する! どんな罠かは知らないが、これで終わりだ!」

 《封印の真言》によって解放されるモンスター効果は、《封印獣ブロン》の場合は対象を取るカード効果への完全耐性。攻撃力2700を誇る最強の封印獣の牙が、相手モンスターを誘う悪魔の闘牛士に向かい――

「なっ……!」

 ――自滅していた。

「《デーモンズ・マタドール》は戦闘ダメージが発生せず、バトルした相手モンスターを破壊する」

 いくら対象を取るカードだろうと破壊耐性があるわけではなく、対象を取らないカードに対しての耐性はない。封印獣は獣らしく闘牛士に言いように操られ、いつしか勝手に自滅していった。

「ぐぅ……カードを二枚伏せてターン終了!」

「俺のターン、ドロー」

 《封印獣ブロン》という切り札をあっさりと処理され、伏せカードを二枚伏せて守りを固めながらも、カオス・ソーサラーは悔しさから遊矢を睨みつける。しかし遊矢の方も《デーモンズ・マタドール》のみでは、カオス・ソーサラーへ攻め込むことは出来なかった。闘牛士は闘牛士らしく待つしか出来ず、《デーモンズ・マタドール》は攻撃宣言が出来ない、というデメリットがついているからだ。

 そのデメリット効果がなかろうと、結局は攻撃力0な訳だが。ならばもちろん、新たなモンスターを呼び出すのみ。

「儀式魔法《高等儀式術》を発動!」

「またそのカードか……!」

 発動される三枚目の《高等儀式術》。またもや通常モンスターを触媒に使いながら、手札の儀式モンスターがフィールドに降臨する。カオス・ソーサラーはその儀式魔法を憎々しげに睨みながら、頭の中ではほくそ笑んでいた。何故なら、この《高等儀式術》は三枚目――つまり、この忌々しい儀式召喚はこれで打ち止めということなのだから。

「降臨せよ、《救世の美神ノースウェムコ》!」

 《終焉の王デミス》に《デーモンズ・マタドール》に続き、儀式召喚によって降臨したのは神々しい女神。暗い森や敵である獣たちをも光で照らしだし、全て平等に――破壊する。

「《救世の美神ノースウェムコ》が儀式召喚に成功した時、素材にしようとしたモンスターの数だけ、フィールドのカードを選択する。俺は伏せカードと《デーモンズ・マタドール》を選択し、バトル」

 《救世の美神ノースウェムコ》の儀式召喚に使用したのは、デッキから通常モンスターが二枚。よって二枚のカードを指定することになり、遊矢のフィールドにある二枚のカード――《デーモンズ・マタドール》と伏せカードが選択される。その選択が何を意味するのかは、カオス・ソーサラーにはまだ分からない。

「《救世の美神ノースウェムコ》で、《森の狩人イエロー・バブーン》に攻撃!」

 先のターンに《デーモンズ・マタドール》を攻撃しなかった為、生き長らえた《森の狩人イエロー・バブーン》に、今度こそ後光とともに《救世の美神ノースウェムコ》が天罰を下しに接近する。その攻撃力は2700と、ほんの僅かではあるが《森の狩人イエロー・バブーン》より上であった。

「リバースカード、オープン! 《苦痛のマントラ》!」

 カオス・ソーサラーが発動したリバースカードから、ビッシリと呪詛が満遍なく書かれた巻物が現れ、《救世の美神ノースウェムコ》へと巻き付いていく。呪われた巻物が装備されたノースウェムコは、苦しみに顔を歪めて《森の狩人イエロー・バブーン》への攻撃を中断してしまう。

「《苦痛のマントラ》は攻撃してきた相手モンスターを破壊し、その後デッキから《封印の真言》を手札に加える!」

 カオス・ソーサラーは満足げにそう述べた後、デッキから2枚目の《封印の真言》を手札に加え――ようとするものの、いつまで待とうとデュエルディスクから《封印の真言》が排出されることはない。何故なら《苦痛のマントラ》の効果は、相手モンスターを破壊した後に《封印の真言》を手札に加える効果であり。

 ……相手モンスターを破壊できなくては、《封印の真言》を手札に加えることは出来ない。

「な、何故ノースウェムコが生きて……ぐあっ!」

カオス・ソーサラーLP600→500

 一時は《苦痛のマントラ》によって苦しめられていたものの、《救世の美神ノースウェムコ》はあっさりとそれをはねのけた後、油断していた《森の狩人イエロー・バブーン》を破壊した。その攻撃力の差分から導きだされるダメージは、僅か100ダメージだったものの、カオス・ソーサラーのライフは刻一刻と0へと近づいてきていた。

「《救世の美神ノースウェムコ》は、儀式召喚時に選択したカードがある限り、効果では破壊されない」

 儀式召喚時に選択したカードの使い道がこの効果だ。儀式召喚の素材と同じ数の選択したカード――この場合は《デーモンズ・マタドール》と伏せカードがあれば、《救世の美神ノースウェムコ》は効果では破壊されず、《苦痛のマントラ》には攻撃を無効にする効果はないため、そのまま攻撃は続行された。さらに相手モンスターを破壊できなかったため、《封印の真言》は手札へサーチすることは出来ない。

「カードを一枚伏せターンエンド」

「ぬぅ……私のターン、ドロー!」

 先のターンは踏んだり蹴ったりの結果に終わり、フィールドも永続魔法《封印の真言》と伏せカードが一枚のみ。相手のフィールドには《救世の美神ノースウェムコ》に、《デーモンズ・マタドール》と伏せカードが二枚存在する。決意してカードをドローすると、カオス・ソーサラーはドローしたカードにニヤリと笑った。

「まず私は《封印獣ヂャムジュル》を召喚!」

 召喚されたのは下級封印獣だったが、このモンスターに劣勢を覆すほどの力はない。本命はあくまでも今ドローしたカードのほうであり、切り札の登場に相応しく、もったいぶりながらデュエルディスクにセットした。

「私は魔法カード《エアーズロック・サンライズ》を発動!」

 ――その魔法カードを発動した瞬間、まるで感情を表に出さなかった遊矢の目が見開いたことを、亮は見逃さなかった。あの魔法カードは亮もよく知っている――自分がアカデミアを卒業する直前に、同じくアカデミアを卒業した翔たちの友人が作った、遊矢にとっても思い出深い魔法カードだ。

「エアーズロック・サンライズ、か……」

「ハハ、知っているなら話は早い。《エアーズロック・サンライズ》の効果により、私は墓地から《封印獣ブロン》を特殊召喚!」

 《救世の美神ノースウェムコ》が照らす光とは別に、カオス・ソーサラーの背後から日の出の光が眩く。その光から《封印獣ブロン》が蘇ると、さらに《救世の美神ノースウェムコ》の照らす光が弱まっていく。

「このカードは墓地の獣族モンスターを特殊召喚し、さらに墓地にいる獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数×200ポイント、相手モンスターの攻撃力をダウンする!」

 元々の攻撃力が0の《デーモンズ・マタドール》はともかく、カオス・ソーサラーの墓地には破壊された獣たちが今も蠢いており、獣たちの力を得た光が《救世の美神ノースウェムコ》を弱体化させていく。墓地に眠る獣族モンスターは六体と、その攻撃力を1200ポイント減じさせる。

「バトル! 《封印獣ブロン》で《救世の美神ノースウェムコ》に攻撃!」

 《エアーズロック・サンライズ》の支援を受けた《封印獣ブロン》が、その研ぎ澄まされた牙をもって《救世の美神ノースウェムコ》を食いちぎる。そのままノースウェムコは抵抗むなしく咀嚼されていき、口から発射した衝撃波が遊矢を襲う。

遊矢LP1800→600

 《救世の美神ノースウェムコ》の破壊耐性は、効果破壊に対する耐性のみ。あっけなく《封印獣ブロン》に食い殺されると、遊矢のライフポイントもカオス・ソーサラーと同等まで落ち込んでしまう。

「さらに《封印獣ヂャムジュル》で《デーモンズ・マタドール》に攻撃!」

「《デーモンズ・マタドール》は戦闘では破壊されず、戦闘ダメージを発生させない」

 通常召喚した下級封印獣こと、《封印獣ヂャムジュル》が《デーモンズ・マタドール》に攻撃するものの、先のターンのようにその攻撃は避けられてしまう。闘牛士のように《封印獣ヂャムジュル》を誘導し、自滅を誘っていくものの、カオス・ソーサラーも無策に同じことを繰り返すほど愚かではない。

「《封印獣ヂャムジュル》は《封印の真言》により、戦闘した相手モンスターを破壊する効果が解放される!」

 《封印獣ヂャムジュル》の解放される効果は、奇しくも《デーモンズ・マタドール》と同じ、戦闘した相手モンスターを破壊するという効果。その効果は同時に発生し、両者ともに破壊されることとなる。

「速攻魔法《サイクロン》! 《封印の真言》を破壊する!」

 しかし封印獣たちの弱点は、その効果を《封印の真言》なくしては発動出来ないということに他ならない。先のターンに伏せたばかりのカードが暴かれると、遊矢のカードから《封印の真言》を破壊せんと旋風が巻き起こる。《封印の真言》を破壊された《封印獣ヂャムジュル》の効果は無効となり、ただ《デーモンズ・マタドール》の効果の前に破壊される。

 ――という、分かりやすすぎる弱点を対策する筈もなく。

「ふん、私は伏せてあった《古文書の結界》を発動! このカードがある限り、フィールドの《封印の真言》は破壊されない!」

 カオス・ソーサラーも伏せた二枚のリバースカードの残り一枚、《古文書の結界》を発動すると結界が《サイクロン》を防ぎきる。《封印の真言》をサポートするカードとして、そのカード自体をサーチする《苦痛のマントラ》とともに、《封印の真言》を破壊されないためのカードが《古文書の結界》だった。

 遊矢の速攻魔法《サイクロン》は不発に終わり、《古文書の結界》に守られた《封印の真言》は正常に効果を発動し、フィールドの封印獣たちの効果は引き続き解放される。同じ効果を持った《デーモンズ・マタドール》と《封印獣ヂャムジュル》は、戦闘を介して同時に効果を発動すると、お互いの効果によって同時討ちを果たす。

「フッ……形勢逆転だな。ターンを終了する」

 結果として、フィールドに残ったモンスターは《封印獣ブロン》のみ。さらにカオス・ソーサラーのフィールドには、封印獣の効果を解放する《封印の真言》と、それに破壊耐性を付与する《古文書の結界》が控えていた。

「エアーズロック・サンライズ……懐かしいカードだな……」

 対する遊矢のフィールドには、最初のターンから伏せられたままのリバースカードが一枚のみ。頼りの《高等儀式術》も、もう上限である三枚を使い切ったと、カオス・ソーサラーは儀式モンスターの降臨の可能性を除外する。

「あの頃に戻るために、俺は……俺のターン、ドロー!」

 ――遊矢が初めて声を荒げてカードをドローした瞬間、周りの森が何もしていないにもかかわらず、燃え上がっていく。

「な、なんだ……!?」

「俺はフィールド魔法《神縛りの塚》を発動!」

 突如として発生した炎にカオス・ソーサラーだったが、遊矢はまるで気にせずにデュエルを進行する。フィールド魔法《神縛りの塚》を発動すると、遊矢の背後には鎖が巻きついた巨大な杭が三本、そびえ立っていた。

「このフィールドでないと、このモンスターは使えない……」

 そう言いながら遊矢は、今引いたカードを意味ありげにカオス・ソーサラーへと向ける。さらに木々を焼く業火は強くなっており、森が焼き尽くされるまでそう遠くはない。

 その影響はもちろん、そのデュエルを見ていた亮たちにも及んでいた。

「カイザー亮、今のうちに撤退しなくては!」

「くっ……分かった」

 猛威を振るい続ける業火の中の戦士ラーズの進言に、亮は苦々しげな表情をしながらも頷いた。ようやく見つけた親友を前に、このままただ見逃すほど亮は薄情ではないが、このままでは業火の巻き添えをくらうことも確かだった。自分単独だったならば迷わず残ったが、今の亮は戦士ラーズたちを指揮する立場であり、エドもオブライエンと合流して待機している。

 今の自分の立場として、燃え盛る森の中を脱出する決断をした亮は、最後にもう一度遊矢の方を見て――といっても炎で何も見えなかったが――その森から脱出を果たし、オブライエンがいる反乱軍の城へと向かっていった。

「うわぁぁぁぁぁあ゛ぁあ゛あ!」

 ――最後に聞いたのはカオス・ソーサラーの断末魔であり、最後に見たのは何もかも消え去った深い森だった。……いや、木どころか草すらもなくなった場所を、もはや森と言っていいものか。


カオス・ソーサラーLP600→0



「そうか……十代以外の者たちは……」

「ああ。覇王軍に捕らわれて消滅した」

 そして先んじてオブライエンに合流したエドは、他の仲間たちの居所と顛末を聞いていた。オブライエンから帰ってきた言葉は、とても信じられない言葉であったが。万丈目準、ティラノ剣山、早乙女レイ、天上院吹雪は覇王軍に捕らわれて消滅し、ジムは覇王とデュエルして敗北した。そして覇王の正体も十代であることが確定している、と。

 例外として、丸藤翔のみはどこかで生き延びてはいるが、反乱軍に協力する気はない、ということらしい。

「……十代を止めなくてはな」

 話し合った結果、やはり今やるべきことは、覇王となった十代を止めること。まずそうしなくては、消滅した仲間たちのことや、ヨハンに遊矢や明日香のことは考えられない。ジムから十代を救うことを託されたオブライエンは、もちろんその意見に反論はない。

「すまない。遅くなった」

 そうこうしているうちに陽動を引き受けていたカイザー亮も、オブライエンの仲間である《海神の巫女》に誘導され、反乱軍の城へと合流を果たす。道中で《海神の巫女》に話を聞いていたのか、その表情は暗い。

「事情は聞いた。その上で大事な話がある」

 ――遊矢らしき人物を見た、と。

 
 

 
後書き
真シエンお帰りなさいぃぃぃぃ! 

 

―封印されし―

 エドに亮がオブライエンと合流した時、異世界のとある洞窟では。眼鏡をつけた理知的な青年がマント姿で佇んでいた。

 彼の名はアモン・ガラム。先のプロフェッサー・コブラのデスデュエルの騒ぎや、砂の異世界におけるデュエルゾンビの騒ぎの時にも裏で暗躍を果たし、今最もこの一連の事件に詳しい人物だった。しかし、彼は事件の収拾などにはまるで興味はなく、彼自らの目的で異世界をさまよっていた。

「ようやく見つけたぞ……」

 その洞窟の奥には祠があった。何かが祀られているような、それとも何かが封じられているような、とにかく神格化されたような何かが潜んでいるような。アモンの目的はこの祠の発見であり、ようやく見つけたその祠にアモンはそう独り言を呟いた。そしてデュエルディスクから五枚のカードを取り出すと、その祠に向かってかざしだした。

「長き封印から目覚めよ! 《エクゾディア》!」

 ……祠にかざした五枚のカードとは、かの伝説のカード群《エクゾディア》。砂の異世界において加納マルタンに取り憑いたユベルが、アモンへと託した――いや、必要がなくなったから置いていった、か――カードたちだ。カードたちは言わば封印を解除するカードキーであり、それをかざされた封印の祭壇から地響きが鳴り響いていく。

 ――その祭壇に祀られていたのは、まさしく《エクゾディア》そのものだった。

「うっ……」

 一瞬。その洞窟全体に、目も開けてられないほど光が瞬いたかと思えば、アモンが持っていたカードが五枚から増えていた。エクゾディアパーツしかなかった筈の五枚から、二枚増えた七枚のカードへと。

「……ふ、ふはははは! やったぞ!」

 その七枚のカードを見ると、柄にもなくアモンは誰もいない洞窟で高笑いを響かせる。エクゾディアを解放する儀式は成功したのだと、そう確信しながら。

「…………ん?」

 アモンは思うさま高笑いした後、洞窟に自分以外の誰かが入ってくる気配を感じた。つい数秒前の自分を自省しながら、アモンは侵入者の正体を見破るべく洞窟の出口を伺った。

「お前は……」

 さて、覇王軍か原住民か。覇王軍ならばエクゾディアの供物にするのも悪くはない――と考えていたアモンにとって、そこにいた人物は予想外の人物だった。マントのようにも見える、青い制服姿の青年――

「……黒崎遊矢、だと?」

 ――黒崎遊矢だった。アモンは少しだけ首を傾げた後、ニヤリと笑って遊矢へと話しかけた。もはやデュエル・アカデミア本校で被っていたような、優等生という名の仮面も必要ない。

「どうした? 君も仲間を救う為にでも、エクゾディアの力を得に来たのか?」

 黒崎遊矢の身に降りかかった出来事を、アモンは大体のことは把握していた。いや、遊矢のことだけではなく、十代たちのことでさえも。エクゾディアの為の情報収集をする傍ら、嫌でも異世界から来た人間たちの情報が入ってきたからだ。

「いや、違うな」

 デュエル・アカデミアで一度デュエルをした際とは、まるで雰囲気の違う遊矢の言葉にアモンは少し驚いたが、その後の遊矢の行動で気を引き締めざるを得なかった。何故なら遊矢は、アモンの前でデュエルディスクを構えたからだ。

「お前からエクゾディアの力を……奪いに来た」

「……身の程知らずが」

 そう言いながらデュエルディスクを構える遊矢に、侮蔑の意味を込めてアモンはそう吐き捨てる。それでも、調子にのった者をエクゾディアの供物にせんと、アモンもまたデュエルディスクを構え直す。彼にも、せっかく手に入れたエクゾディアの力を試したい、という思いもあったからだ。

『デュエル!』

遊矢LP4000
アモンLP4000

「僕の先攻」

 デュエルディスクの選択によって、先攻を手に入れたのはアモン。そのデッキは以前まで使用していた【雲魔物】ではなく、先程解放したエクゾディアの力を活用するデッキとなっていた。

「僕はモンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー」

 しかしてアモンはあまり動くことはせず、モンスターと伏せカード、合計三枚のカードをセットしてターンを終了する。そして遊矢のターンへと移行すると、遊矢は一枚の魔法カードをデュエルディスクにセットする。

「俺は儀式魔法《高等儀式術》を発動」

「……何?」

 さて、どんな下級モンスターかそれともシンクロか。そう考えていたアモンの予想は裏切られ、発動したカードは儀式魔法《高等儀式術》。デッキから選ばれた二枚の通常モンスターを触媒に、儀式モンスターがフィールドへと降臨する。

「なんだ、機械戦士は捨てたのか?」

「……降臨せよ、《破滅の女神ルイン》!」

 ――アモンの問いに答えることはなく、遊矢は《破滅の女神ルイン》を儀式召喚させていた。

「バトル! 《破滅の女神ルイン》でセットモンスターを攻撃!」

「セットモンスターは《エア・サーキュレーター》だ。破壊された時、カードを一枚ドローする」

 《破滅の女神ルイン》が持つ杖から発せられた光が、アモンのフィールドにセットされていた裏側モンスターを照らし出す。そして、そのまま破壊には成功するものの、《エア・サーキュレーター》の効果が発動される。裏側守備表示での召喚だったため、第一の手札交換効果は活用出来なかったが、破壊時のカードをドローする効果は発動する。

「だが《破滅の女神ルイン》が戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう一度だけ続けて攻撃出来る! ダイレクトアタック!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、その後カードを一枚ドローする」

 負けじと遊矢も《破滅の女神ルイン》の効果、戦闘破壊時の連続攻撃効果を活用するものの、アモンの伏せていた罠カード《ガード・ブロック》に防がれてしまう。しかもただ防がれただけではなく、アモンにカードをドローさせるという結果までもついてきて。

「ターンエンド」

「ふん……僕のターン、ドロー!」

 結局、遊矢のターンはアモンの手札交換を手助けするだけに終わる。アモンのデッキは先に戦った【雲魔物】ではないことは明白であり、状況から見て恐らく【エクゾディア】。このまま手札を交換させてしまっていては、遊矢は怒りの業火によって無条件に敗北する。

「僕は《終末の騎士》を召喚する」

 手札交換によって潤沢な手札から召喚されたのは、闇属性を司る《終末の騎士》。赤いマントをたなびかせながら、《破滅の女神ルイン》へと剣を向ける。

「《終末の騎士》が召喚された時、デッキの闇属性モンスターを墓地に送る。僕が墓地に送るのは……《封印されしエクゾディア》!」

「なに!?」

 伝説のエクゾディアパーツの一角。それがあっさりと墓地に送られる。しかし闇属性で低ステータス、という要素からサルベージも容易であり、完成まで一歩近づいたと言える。

 ――だがアモンの戦術は、遊矢の想像を越えていた。

「さらに僕はフィールド魔法《霧の王城》を発動し、《終末の騎士》で攻撃する!」

「……迎撃しろ、ルイン!」

 アモンの背後に、まるで蜃気楼のように揺らめく城が現れたのを警戒する間もなく、《終末の騎士》が《破滅の女神ルイン》へと攻撃を仕掛けた。いくら《破滅の女神ルイン》の攻撃力が低めと言えども、流石に下級モンスターである《終末の騎士》程度には破壊されない。

 ルインの光があっさりと終末の騎士を破壊すると――《霧の王城》を象っていた霧が、その騎士としての姿を復活させていき、いつしかフィールドに《終末の騎士》がそのままの姿で特殊召喚されていた。

「《霧の王城》の効果。僕のモンスターが破壊された時、他のモンスターゾーンを一つ使用不能にすることで、そのモンスターを特殊召喚する」

「……っ! だが戦闘ダメージは……」

 そこまで言いかけておいて遊矢は気づく。アモンのライフがダメージを受けるどころか、ただ回復しているということを。

「さらに僕は《レインボー・ライフ》を発動していた。手札を一枚捨てることで、このターン受けるダメージを全て回復に変換する。さらに《終末の騎士》の効果を発動!」

アモンLP4000→4900

 《破滅の女神ルイン》との戦闘ダメージ分、アモンは初期値からライフを回復させていき、さらに特殊召喚に成功した為に《終末の騎士》の効果が発動する。その効果で墓地に送るカードはもちろん――

「――《封印されし者の右腕》を墓地に送らせてもらう」

「くっ……!」

 アモンの墓地に、2枚目のエクゾディアパーツが墓地に送られる。それを遊矢に止める方法はなく、ただそれを黙って見ていることしか出来ない。もちろん《レインボー・ライフ》を使ってる上に、アモンがここで止める理由は何もない。

「もう一度だ。《終末の騎士》で攻撃!」

 ――それは《霧の王城》の効果で、アモンのモンスターゾーンが使用不能になるまで続いた。エクゾディアパーツは全て墓地に送られ、《レインボー・ライフ》の効果によって、アモンのライフは着々と回復していく。……《破滅の女神ルイン》の攻撃力が低かったのが幸いか。

「最後に《シャドール・ビースト》を墓地に送る。このモンスターが墓地に送られた時、カードを一枚ドローする」

アモンLP4900→7600

 最後に、墓地に送られた際にカードを一枚ドローする効果を持つモンスター、《シャドール・ビースト》を墓地に送って《終末の騎士》は復活を止める。本来ならばモンスターがいるはずのアモンのフィールドは、《終末の騎士》がいた証明のように五つの火が灯っていた。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「……俺のターン、ドロー!」

 《霧の王城》の効果によりモンスターゾーンは埋まり、アモンのフィールドを守っているのは、だったの伏せカード一枚のみ。もちろんエクゾディアパーツを全て墓地に送っただけ、などということがあるわけもない。その証拠といっては何だが、意味ありげにアモンのモンスターゾーンには火が灯されている。

「俺は《高等儀式術》を発動!」

 デッキから二枚の通常モンスターを墓地に送り、遊矢は《破滅の女神ルイン》に続き新たな儀式モンスターを降臨させる。この状況を好転させるためのキーカードを。

「降臨せよ、《終焉の王デミス》!」

 《破滅の女神ルイン》と対をなす儀式モンスター、終わりの意味を持つ《終焉の王デミス》が降臨する。ルインがその威光で正面から敵を制圧するならば、デミスは圧倒的な能力で敵を戦うまでもなく制圧する。

「《終焉の王デミス》の効果を発動! 2000ポイントのライフを払い、全てのフィールド上のカードを破壊する!」

「ほう……」

遊矢LP4000→2000

 《霧の王城》やアモンの狙いなどは分からないが、こうなれば全て吹き飛ばすのみ。デミスは相棒たる存在のルインを含め、フィールドの全てのカードを破壊していく。《霧の王城》にアモンの伏せカード――《補充要員》――もだ。

「さらにデミスでダイレクトアタック!」

「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外することで、その戦闘を無効にする」

 《レインボー・ライフ》の効果で墓地に送っていたか――というあたりを遊矢はつける。《ネクロ・ガードナー》によってデミスの攻撃は防がれ、何もなくなったフィールドでデミスは1人たたずんだ。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー」

 遊矢のライフは2000にアモンのライフは7600と、そのライフポイントは雲泥の差であるものの、遊矢のフィールドには《終焉の王デミス》がいる。《霧の王城》が破壊されたため、アモンのフィールドは再び使用可能になったものの、エクゾディアデッキにデミスを破壊する手段はない。

 その状況でアモンは――静かに笑っていた。

「君で実験させてもらおうか……エクゾディアの力を。僕は儀式魔法《エクゾディアの契約》を発動!」

 アモンが発動したのは、遊矢の《高等儀式術》と同様のカテゴリーを持つ儀式魔法。《エクゾディアの契約》と呼ばれるそのカードは、禍々しい殺気を孕んでいた。

「この儀式魔法は少し変わっていてね。モンスターをリリースするのではなく、ライフを2000ポイント供物とする」

アモンLP7600→5600

 皮肉にも遊矢の《終焉の王デミス》と同様に、アモンの儀式魔法の発動条件は2000ポイントのライフを支払うこと。その違いは《レインボー・ライフ》によるライフの違いか、アモンはそれだけの供物を支払おうが、未だに初期ライフにすら劣っていない。

「死を司る封印されし王よ。今こそその力を解放し、刃向かう者を平伏せ! 降臨せよ、《エクゾディア・ネクロス》!」
 ――それは伝説の魔神の裏側の姿。死した魔神がその力によって蘇り、封印されし能力をフィールドにて振るう。洞窟全体を覆うような殺気がフィールドに満ち、《終焉の王デミス》をまるで子供のように睥睨する。

「エクゾディア……!」

 その攻撃力は僅か1800と下級モンスタークラスだったが、そのステータスのみで判断出来るほど、遊矢は楽観的ではない。

「バトルだ、《エクゾディア・ネクロス》! エクゾディア・クラッシュ!」

「デミス!」

 《破滅の女神ルイン》と《終末の騎士》との戦闘の時のように、「迎撃しろ」などと言うことは出来なかった。ステータスが劣っているにもかかわらず、それだけの迫力があの《エクゾディア・ネクロス》にはあり、その迫力は実際の驚異となって遊矢を襲う。

「《エクゾディア・ネクロス》には、墓地に眠る5つのエクゾディアパーツに秘められた5つの効果が備わっている。《封印されし右腕》の効果により、戦闘時にその攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 《終末の騎士》と《霧の王城》によって、エクゾディアパーツを墓地に送っていたのはこのため。サルベージによる決着を狙うのではなく、アモンはエクゾディアの力を最大限に使うため、このデュエルを実験台に仕立て上げていたのだ。

「ぐっ……!」

遊矢LP2000→1600

 《エクゾディア・ネクロス》はその攻撃力を2800ポイントに上げ、右腕で《終焉の王デミス》を軽々と握り潰す。その余波で遊矢の身体に衝撃波が飛ぶが、なんとかその場に留まった。

「フッ……そう簡単に倒れないでくれよ? ターンエンドだ」

「……俺のターン、ドロー!」

 アモンのフィールドに現れた《エクゾディア・ネクロス》により、フィールドの状況は完全にアモンの優勢に移行する。遊矢が勝っているものと言えば、リバースカードの枚数ぐらいか。……それも僅か一枚だが。

「俺は《闇の量産工場》を発動! 墓地から通常モンスターを二枚、手札に加える」

 それでも遊矢とて、《エクゾディア・ネクロス》にただ蹂躙されるだけではない。通常モンスターを二枚サルベージするカード、《闇の量産工場》によって二枚の通常モンスター――《高等儀式術》によって墓地に送られていたカードだ――を手札に加え、さらにそのモンスターをアモンに向かってかざす。

 まるで魔法カードを発動するかのように。

「俺は……スケール7の《イグナイト・ドラグノフ》と、スケール2の《イグナイト・マスケット》でペンデュラムスケールをセッティング!」
「ペンデュラムだと……!?」

 遊矢が発動した二枚のカードは、異世界の技術であるペンデュラムモンスター。重火器を持った炎の戦士たちがペンデュラムスケールを構築していくのを見ると、流石のアモンもその光景に驚きを隠せていなかった。

「異世界の悪魔にでも魂を売ったか……?」

「ペンデュラム召喚! 現れろ、モンスターたち!」

 左右の赤と青の光の柱が延びていき、その上に現れた魔法陣から二体のモンスターがペンデュラム召喚された。一体は左のスケールに配置されたモンスターと同じく、狙撃銃を持った炎の戦士《イグナイト・ドラグノフ》。もう一体は幸運を呼ぶ青い鳥のような姿をした鳥獣族、《スピリチューアル・ウィスパー》。どちらもレベル4のモンスターだった。

「《スピリチューアル・ウィスパー》がペンデュラム召喚に成功した時、デッキから儀式モンスター、または儀式魔法を手札に加えることが出来る。俺はデッキから、《破滅の魔王ガーランドルフ》を手札に加える」

 ペンデュラム召喚に成功した時、儀式モンスターか儀式魔法をサーチする。その《スピリチューアル・ウィスパー》の効果が発動し、幸運を呼ぶ青い鳥はその逸話通りにカードを運ぶ。

「儀式魔法《破滅の儀式》を発動! フィールドのレベル4モンスター二体を素材に降臨せよ! 《破滅の魔王ガーランドルフ》!」

 フィールドの二体のモンスターを素材に、さらなる儀式モンスター《破滅の魔王ガーランドルフ》を儀式召喚する。先の《終焉の王デミス》とは違う、また違った雰囲気を纏った破壊神。

「《破滅の魔王ガーランドルフ》が儀式召喚に成功した時、その攻撃力以下の守備力を持つモンスターを全て破壊する!」

 その効果は《終焉の王デミス》と同様の全体破壊効果。問答無用で全てを破壊するあちらに対し、多少の使いづらさはあるものの、いずれにせよ全体破壊効果は強力なもの。戦闘を介するごとに、無限に攻撃力を上げていく《エクゾディア・ネクロス》だったが、その守備力は僅かどころか0。

 《破滅の魔王ガーランドルフ》を封じ込めていた鎖が解き放たれ、封印が解除されたことにより放たれた、その両腕から高出力の光線が《エクゾディア・ネクロス》を焼き切る勢いで発射される。

「『王』にその程度の力は通用しない……」

 アモンが静かにそう言った通りに。ガーランドルフが渾身の力を込めて放った一撃は、《エクゾディア・ネクロス》にとって何の意味もなさない一撃だった。まるで人間が蚊に刺された時のような、その程度の俗事にしか過ぎない。

「墓地の《封印されし者の左腕》による効果。このカードはモンスター効果では破壊されない」

「……ターン終了だ……」

 アモンの言をそのまま信じるのならば、《エクゾディア・ネクロス》は、墓地に眠る5つのエクゾディアパーツに秘められた5つの効果が備わっている。右腕が攻撃力を上げていく効果、左腕がモンスター効果への耐性。そうなれば、自ずと他の三つのパーツの効果も見えてくるというものだが、それが分かっただけでは何の意味もなさない。

 大事なのは効果の予測をすることではなく、そのモンスターの効果を突破すること。もっとも簡単な突破法は、墓地のエクゾディアパーツを除外することだが、除外デッキでない限りいつでもそんなカードはデッキに入っていない。墓地のモンスターを除外する儀式モンスターがいない以上、遊矢には墓地へ介入する手段はなかった。

「僕のターン、ドロー。フフ……打つ手なしか?」

 アモンの挑発に遊矢は、何も言うことはないとばかりに無言で返す。そんな遊矢の態度をつまらなさそうに鼻で笑うと、アモンは遊矢のフィールドに残る一枚の伏せカードを警戒せず、あっさりとエクゾディア・ネクロスに攻撃を命じる。

「《エクゾディア・ネクロス》で《破滅の魔王ガーランドルフ》に攻撃! エクゾディア・クラッシュ!」

「伏せてあった《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にする!」

 アモンも初期のターンに使っていた汎用罠カード、《ガード・ブロック》によって生じたカードたちが遊矢への戦闘ダメージを防ぎ、そのうちの一枚が遊矢の手札へと加わる。ただし攻撃力をさらに1000ポイント加え、攻撃力3800となった《エクゾディア・ネクロス》に対し、《破滅の魔王ガーランドルフ》は見るも無残な状態で破壊されていた。

「せいぜいそのまま足掻いてみせるんだな。カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー! ……魔法カード《貪欲な壺》を発動し、デッキに五枚のモンスターを戻して二枚ドロー!」

 ガーランドルフが破壊されたことに何ら感情を見せることはせず、遊矢は墓地に溜まっていた儀式モンスターをデッキに戻し、《貪欲な壺》によりカードを二枚ドローする。遊矢のフィールドには、ペンデュラムゾーンに二体のモンスターが配置されており、今の状態ならばレベル3から6のモンスターが同時に召喚可能。ただし、儀式モンスターをペンデュラム召喚することは不可能だが。

 対するアモンは攻撃力3800の《エクゾディア・ネクロス》に、一枚のリバースカード。さらに5000を超えるライフポイントとまさに磐石。その表情は余裕を崩そうとしないながらも、油断なく遊矢の一挙手一投足を観察していた。

 すると、遊矢の背後にあった赤と青の光の柱と魔法陣が光輝く。……ペンデュラム召喚の準備だ。

「再びモンスターをペンデュラム召喚!」

 先の召喚と同じく、遊矢のフィールドに二体のモンスターが特殊召喚される。一度フィールドに整えてしまえば、あとはいくらでも発現するのがペンデュラム召喚の強みである。

「エクストラデッキから《イグナイト・ドラグノフ》! 手札から《スピリチューアル・ウィスパー》!」

 先のターンと全く同じ布陣。違うところを挙げるとすれば、《イグナイト・ドラグノフ》がエクストラデッキから現れた、というところか。エクストラデッキから半永久的に現れることにより、儀式召喚の触媒が常に用意出来る。さらに《スピリチューアル・ウィスパー》がペンデュラム召喚に成功したため、儀式モンスターまたは儀式魔法のサーチを可能とする。

「《スピリチューアル・ウィスパー》により《大邪神の儀式》を手札に加え、そのまま発動する!」

 《スピリチューアル・ウィスパー》が運んできた儀式魔法を発動すると、やはりフィールドの二体のモンスターを素材にし、新たな儀式モンスターを降臨させる。

「守備表示にて降臨せよ、《大邪神レシェフ》!」

 まるで巨大な機械のようなモンスターが降臨したものの、《エクゾディア・ネクロス》を恐れるように守備表示の体勢を取る。もちろん、ただ壁にするために儀式召喚をしたわけではなく、その邪神としての効果を発揮する。

「《大邪神レシェフ》の効果を発動! 手札の魔法カードを捨てることで、相手モンスターのコントロールを奪う!」

「なにっ……!?」

 遊矢の取った手段はコントロールの奪取。幾つもの効果を持つ《エクゾディア・ネクロス》と言えども、モンスター奪取効果を防ぐことは出来ないと考えたからだ。その予想はまさしく正しく、モンスター効果による破壊への耐性を持った《エクゾディア・ネクロス》もコントロール奪取への耐性はなく、自分のフィールドならばどうにでもなる――のを、アモンが対策していない筈もない。

「リバースカード、オープン! 《スキル・プリズナー》!」

 アモンのフィールドに伏せられていたリバースカード。それが表側表示を見せると、《エクゾディア・ネクロス》の前に光のバリアのようなものが張られ、《大邪神レシェフ》の効果を完全に防ぎきる。

「《スキル・プリズナー》は、モンスター一体を対象にした効果を無効にする!」

「つまり《大邪神レシェフ》の効果は……」

「無効となる」

 《大邪神レシェフ》の効果が防がれた上に、遊矢にとって驚異なのはそれだけではない。《大邪神レシェフ》を守備表示で召喚したように、遊矢にとってコントロール奪取効果をアモンが対策してくることは想定内だった。問題なのは、その対策に使われたのが《スキル・プリズナー》――墓地で再発動が可能な罠カードだということ。

 もう一度《大邪神レシェフ》の効果を使おうと、《スキル・プリズナー》が墓地にいてはまた無効にされるのみだ。

「……ターン、終了」

「僕のターン、ドロー。……《大邪神レシェフ》を蹴散らせ、エクゾディア・クラッシュ!」

 アモンはドローしたカードを見て手札に加えると、即座に《エクゾディア・ネクロス》へと攻撃を命じる。その攻撃力は《大邪神レシェフ》への攻撃で、《封印されし者の右腕》の効果により4800にまで達する。

「墓地から《祝祷の聖歌》を除外することで、儀式モンスターの破壊を無効にする!」

 遊矢のフィールドにはもう伏せカードすらなかったが、《大邪神レシェフ》の効果が対策された時のための次善策として、効果コストとして墓地に送っていた《祝祷の聖歌》が効果を発揮する。儀式モンスターが破壊される際、そのカードを除外することでその破壊を無効にするという効果を持つ。

「なかなかしぶとい……エクゾディアの力は分かった、そろそろトドメを刺してやる。カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 汎用の儀式モンスター程度で抵抗する遊矢に、アモンは少し苛立ちながらターンエンドを宣言する。まだエクゾディアの力を手に入れたばかりで、デッキがアモンの手足になっていない以上――それでもこれだけ扱ってみせるのだから大したものだが――ある程度の遊矢の抵抗は予想出来ていたが、それでも遊矢の抵抗が過ぎる。

「俺のターン……ドロー!」

 ……まるでエクゾディアの力が、真に解放されていないかのように。

「俺は《アドバンスドロー》を発動! レベル8モンスターをリリースし、さらに二枚ドローする!」

 アモンの思考を打ち切ったのは、遊矢の取った魔法カード《アドバンスドロー》。フィールドのレベル8モンスターをリリースすることで、それを二枚のドローに変換するドローソース。《大邪神レシェフ》の姿が消えるとともに、そこに二枚のカードが現れる。

「《大邪神レシェフ》の発動トリガーにでも……!?」

 《スキル・プリズナー》がある以上、《大邪神レシェフ》の効果を発動しようが意味はない。それが分かった上でのアモンの挑発が、最後まで発せられることはなかった。

「貴様……そのカードは……!?」

 遊矢が《アドバンスドロー》で引いたカードに、アモンは底知れない恐怖と忌避感を感じた。カードという枠を越えたカード。そう、まるで自身が持つエクゾディアのカードのような――

「……俺は《神縛りの塚》を発動!」

 遊矢は《アドバンスドロー》で見たカードを眺め、一旦深呼吸をした後に覚悟したような表情を見せると、フィールド魔法《神縛りの塚》を発動する。遊矢の背後に巨大な祭壇が浮かび上がり、さらにもう一枚のカードをデュエルディスクをかざす。

 洞窟が崩落するかのような地響きが発生し、アモンが背にしているエクゾディアを封じていた祭壇が破裂する。そしてアモンは悟る――遊矢が召喚しようとしているモンスターの正体を。

 アモンがその考えを確信に至らしめるのと同時に、遊矢はかざしていたカードをデュエルディスクにセットする。『お前からエクゾディアの力を奪いに来た』――デュエルを開始する直前、遊矢はそう言っていた……笑えない冗談だ。

「エクゾディア……!」

 ――既に奴は力を持っている――

「その力を解放し降臨せよ、封印されし王を統べる神! ――《究極封印神 エクゾディオス》!」

 遊矢のフィールドに召喚されたのは、紛れもなく伝説の巨人『エクゾディア』。アモンのフィールドにいるものと同じ――いや、細部が違う。《究極封印神 エクゾディオス》と呼ばれたそのモンスターは、遊矢の指示を待たずに暴れだそうとしたものの、《神縛りの塚》の祭壇からの鎖に捕縛され、その身動きが封じ込められる。

「エクゾディア……何故貴様がエクゾディアの力を!」

 アモンは驚愕しながらも、鎖に繋がれた《究極封印神 エクゾディオス》のステータスを確認すると、そのステータスは攻撃力守備力ともに0。しかし《神縛りの塚》からの呪縛から逃れようと、目に見えるもの全てを破壊せんと暴れる姿は、全くそのステータスだとは感じられない。

「《究極封印神 エクゾディオス》は、墓地のモンスター全てをデッキに戻すことで、特殊召喚出来る。さらに通常魔法《ネクロマンシー》を発動!」

 さらに遊矢の行動は続いていき、新たな魔法カードの発動とともにアモンのフィールドに変化が訪れる。《エクゾディア・ネクロス》に特化しすぎているため、その一体の切り札のみだけしかいなかったフィールドに、新たなモンスターが特殊召喚されたのだ。デュエル序盤に《霧の王城》がフィールドを使用不能にしたのとは対照的に、アモンのフィールドが五体のモンスターで埋まる。

「これは……!」

「《ネクロマンシー》は相手モンスターが一体の時のみ、相手の墓地からランダムに四体のモンスターを特殊召喚する!」

 ランダムとはいえ、相手モンスターを墓地から可能な限り特殊召喚する、と、一見して相手にのみ有利な効果。だが、それも遊矢にとっては狙い通りだった――アモンのフィールドには、頭を除くエクゾディアパーツがフィールドに揃っていた。

「これでは《エクゾディア・ネクロス》の効果が……!」

 再びその言葉を借りるならば、《エクゾディア・ネクロス》には、墓地に眠る5つのエクゾディアパーツに秘められた5つの効果が備わっている。よって、エクゾディアパーツがフィールドに特殊召喚された今、《エクゾディア・ネクロス》に残された効果は頭部による効果のみ。

「だが、《封印されしエクゾディア》によって得る効果は戦闘破壊耐性。残念だがお前には《エクゾディア・ネクロス》を破壊できない!」

 ランダムで頭部がフィールドに現れなかった以上、戦闘破壊耐性はそのままであり、《エクゾディア・ネクロス》は破壊出来ない。アモンはそう虚勢を張り上げたものの、《封印されし右腕》がフィールドから離れた今、《エクゾディア・ネクロス》の攻撃力は1800まで戻っている。その上、遊矢が操る《究極封印神 エクゾディオス》の力は、同じエクゾディアの力を得たアモンだからこそ、まだ未知数だという以上のことが分かる。

「これで最後だ。《究極封印神 エクゾディオス》を対象に、《拡散する波動》を発動!」

遊矢LP1600→600

 これで最後、という言葉通りに、遊矢の最後の手札が姿を見せる。1000ポイントのライフをコストに、レベル8以上の魔法使い族モンスターに全体攻撃を付与する《拡散する波動》の発動に、《究極封印神 エクゾディオス》がその両掌に波動エネルギーを溜めていく。それは、もはや攻撃力0などとおくびにも口に出せず、カードゲームという枠組を超えて現実世界にも作用していく。

「バトル! 《究極封印神 エクゾディオス》で、《封印されし右腕》を攻撃! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 《神縛りの塚》によって封じ込められていなければ、四方三里を全て焼き尽くすかのような雷火がアモンに発せられる。エクゾディアパーツがいくら下級モンスターだろうと、攻撃力0のモンスターに負ける訳ではないが、その雷火に《封印されし右腕》は消滅する。
「《究極封印神 エクゾディオス》が攻撃する時、デッキからモンスターを一体墓地に送る。さらに墓地の通常モンスターの数×1000ポイント、攻撃力をアップする」

 《高等儀式術》のようにデッキに眠る通常モンスターを墓地に送ることで、その攻撃力を1000ポイントアップさせる。《エクゾディア・ネクロス》に似た効果により、その攻撃力は1000となり《封印されし右腕》を破壊すると、その雷火はアモンへと向かう。

「《神縛りの塚》の効果。レベル10以上のモンスターが相手モンスターを破壊した時、相手に1000ポイントのダメージを与える!」

「くっ……ぐあっ!」

アモンLP5600→4600

 その瞬間、1000ポイントとは思えぬダメージがアモンを襲った。同じエクゾディアの力をアモンを覆っているにもかかわらず、その身を焼く雷火にアモンは思わず身をすくめた。

「さらにエクゾディアパーツに攻撃する!」

 《究極封印神 エクゾディオス》はさらに攻撃を進めていき、その度にアモンの身とライフは焼かれていく。残った一枚のリバースカードは、自分のモンスターに貫通効果を与える《メテオ・レイン》。最後にトドメを刺すためのカードであり、《究極封印神 エクゾディオス》の攻撃を防ぐカードではない。

「ぐああっ……ぐぅ!」

アモンLP4600→600

 エクゾディアパーツは全て守備表示なものの、《神縛りの塚》の効果によってアモンにバーンダメージを与えていく。一撃が致命傷となるような一撃を受け続け、遂には倒れながらも、アモンは薄れいく意識の中に鎖に繋がれた《究極封印神 エクゾディオス》を見る。

 《ネクロマンシー》はその効果によって特殊召喚されたモンスターが破壊された時、フィールドのモンスターの攻撃力を600ポイント下げる効果がある。その効果において《エクゾディア・ネクロス》は力を失いアモンと同じく地に倒れ伏し、そこに繋がれた鎖を破壊しながら、エクゾディオスが見下すように立つ。

「あの力だ……僕が王になるためのちか」

 ――アモンが最後まで言葉を発することはなく。《エクゾディア・ネクロス》ごと、アモンは跡形もなくエクゾディオスに踏み潰された。

「王になるなんて興味はない……」

 踏み潰されたアモンだったものがあった場所から、五枚のエクゾディアパーツが遊矢の手へと集まっていく。雄叫びをあげながら消えていく《究極封印神 エクゾディオス》も未だ完全体ではなく、遊矢は手に入れたエクゾディアパーツを乱雑にデッキに投入する。

「……ただ、元に戻りたいだけだ」

 そう小さく呟きながら、アモンが消えていった場所を少しの間眺め、遊矢はその洞窟を後にした。そろそろか……と思いながら、その歩みは覇王の待つ城へと進んでいった。

 ――偶然か、それを時と同じくして。レジスタンスの前線基地にいるオブライエンたちは、明朝に覇王軍の城を奇襲する計画を実行に移していたのだった。
 
 

 
後書き
今回のデュエルは、もうちょっと上手く書けたなぁ、と不完全燃焼 

 

―覇王―

 
前書き
ちょっとSAOの方に力を入れていましたが、通常営業に戻ります。 

 
「敵襲ー!」

 覇王軍本拠地、ジェノサイドブリッジ。時刻で言えば夜と朝の境目、暁の時間――永遠に夜のままのこの世界で、そんな概念があるかは不明だが。ともかくその時間に、レジスタンスは覇王軍への総攻撃を開始した。

 戦士たちの電光石火の奇襲に対し、あくまで寄せ集めだった覇王軍は対応に遅れてしまうが、それも一時的なこと。幹部が1人でも前線に来るか、覇王自らがくれば戦況はひっくり返されてしまうだろう。

 しかし、残る幹部は補充した分も含めて残り二人。前線にたどり着くより先に、二人の決闘者が足止め――いや、覇王軍の幹部を壊滅させるべく動いていた。

「僕の相手が出来ることを幸運に思うんだな」

「……デュエルといこう」

 カイザー亮とエド・フェニックス。二人の異世界から来たデュエリストが、残る幹部二人の前でデュエルディスクを展開する。

『デュエル!』

 ――そして、その二つのデュエルが開始されるとともに、肝心の覇王の下に1人のデュエリストが到着した。

「覇王……」

 オースチン・オブライエン。彼はポケットの中にしまい込まれた石を握り締めると、震える声をごまかしながら覇王の名を呼んだ。覇王は、奇襲にも何ら反応を見せることはなく鎮座しており、オブライエンの呼びかけに答えるように、ゆっくりと立ち上がる。

「……お前か。臆病者に用はない」

「……俺はもう逃げたりしない!」


 しかしオブライエンの顔を見た瞬間、覇王は落胆の色を隠さず浮かべたが、オブライエンの気迫の篭もった叫びにピクリと反応する。自らを奮い立たせるように、オブライエンはさらに言葉を続けていく。

「覇王……ジムの為にもお前は倒す!」

 そう言い放つと、オブライエンは自身の愛用する銃型デュエルディスクを抜き放ち、目にも止まらぬスピードで腕に展開していく。

「……いいだろう」

 そのオブライエンの気迫を認めたのか、それともデュエリストとは戦うだけとでも言うのか。覇王専用のデュエルディスクが展開していき、オブライエンに剣を向けるような形となって、覇王のデュエルの準備は完了する。

「楽しませてもらおう」

 覇王はかつてのような台詞を――ただし十代の時とは違う意味だろう――呟き、オブライエンはその威圧感に耐えながらデュエル開始の宣言を開始する。

『デュエル!』

オブライエンLP4000
覇王LP4000

「ジム……俺を導いてくれ……俺の先攻!」

 デュエルディスクに表示された先攻は、オブライエン。もはや何度目となったかも分からぬジムへの決意を口にしながら、オブライエンは手札に揃った五枚のカードを確かめた。

「俺は《ヴォルカニック・ロケット》を召喚!」

 まず召喚されたのは炎を吹くロケット。高い水準のステータスを持ちながらも、彼のデッキである【ヴォルカニック・バーン】の中核を成すカードをサーチする効果を持つ、という強力なモンスターである。

「《ヴォルカニック・ロケット》の効果を発動。デッキから《ブレイズ・キャノン》と名の付くカードを手札に加える。さらにカードを二枚伏せ、ターンを終了」

「オレのターン、ドロー」

 下級モンスターのほぼ最高値たる攻撃力1900のモンスターを召喚し、二枚の伏せカードにて守りを固めるというなかなかの滑り出し。しかし覇王は何の頓着もせず、特に感情を見せずにターンを進行する。

「こちらのフィールドにモンスターがいない時、このモンスターは特殊召喚出来る。《E-HERO ヘル・ブラッド》!」

 かつてヒーローに憧れた少年の成長した姿。自身の効果で《E-HERO ヘル・ブラッド》は特殊召喚されると、当然のように新たな英雄への足がかりとなる。

「さらにこのカードは、相手フィールドにモンスターがいる時、リリース一体のみで召喚出来る。現れろ《E-HERO マリシャス・エッジ》!」

「…………!」

 いとも容易く召喚されるレベル7モンスターに、オブライエンは改めて覇王という存在の大きさを感じていた。エッジマンだった時の金色の身体は何も残っておらず、その身体は漆黒に染まっている。

「バトル。マリシャス・エッジでヴォルカニック・ロケットに攻撃! ニードル・バースト!」

「この程度のダメージ……」

オブライエンLP4000→3300

 確かに《ヴォルカニック・ロケット》は、下級モンスターとしては高水準のステータスだったが、《E-HERO マリシャス・エッジ》に適うはずもなく。あっさりと破壊された後、オブライエンにダメージが降りかかる。

「カードを一枚伏せ、ターン……」

「いや。エンドフェイズに入る前に、この《ブレイズ・キャノン・マガジン》を発動させてもらう」

 覇王のメインフェイズ2。《ヴォルカニック・ロケット》によってサーチされ、そして伏せられていた《ブレイズ・キャノン・マガジン》が姿を見せる。オブライエンのフィールドに巨大な弾倉が現れるが、肝心の弾丸を発射する砲身はまだない。

「自分および相手のメインフェイズに、手札のヴォルカニックカードを墓地に送ることで、カードを一枚ドロー出来る!」

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》に弾丸が込められていき、オブライエンはカードを一枚ドローする。墓地で発動する効果があるヴォルカニックカードを墓地に送りつつ、さらに手札交換を果たす有用なカードだった。

「そのままターンを終了する。だがエンドフェイズ、《E-HERO ヘル・ブラッド》の効果が発動する」

 このままカードを一枚伏せたのみでターン終了、とオブライエンは思っていたが、覇王のフィールドに半透明のヘル・ブラッドが現れる。

「このカードがHEROのリリースに使われた時、エンドフェイズ時にカードを一枚ドローする」

 上級ヒーローのアドバンス召喚に使用された際、エンドフェイズ時にその負債を補うように一枚のカードをドローさせる効果。半透明のヘル・ブラッドがカードとなり、覇王の手に加わったところでオブライエンのターンに移行する。

「お前のターンだ」

「……俺のターン、ドロー!」

 覇王のフィールドには攻撃力2600の《E-HERO マリシャス・エッジ》に、先程伏せられたカードが一枚。オブライエンのデッキに、切り札を除けばその攻撃力を越えるモンスターはいない。

「《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果により、ヴォルカニックカードを一枚捨ててカードを一枚ドローする。……よし、《ブレイズ・キャノン》を発動!」

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》と、発動された《ブレイズ・キャノン》が合体し、ドラムマガジン式の弾倉と砲塔が完成する。ガチャリと大きな音をたてて、弾倉から弾丸が装填されていく。

「さらに墓地の《ヴォルカニック・バレット》の効果を発動。500ポイントのライフを払うことで、デッキから同名カードを手札に加える」

オブライエンLP3300→2700

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》によって墓地に送られていた、《ヴォルカニック・バレット》が500ポイントのライフを糧に装填される。用途はもちろんその名の通り、《ブレイズ・キャノン》のための弾丸だ。

「《ブレイズ・キャノン》の効果を発動! 手札の攻撃力500以下のモンスターを墓地に送ることで、相手モンスターを一体破壊する!」

 オブライエンの宣言に連動して、装填されていた《ヴォルカニック・バレット》が、《ブレイズ・キャノン》から炎の弾丸として発射される。目標はもちろん《E-HERO マリシャス・エッジ》――だったが、その炎の弾丸に貫かれるより早く、マリシャス・エッジの姿は消えていた。

「チェーンして罠カード《ナイトメア・デーモンズ》を発動。マリシャス・エッジをコストに、相手フィールドに三体トークンを特殊召喚する」

 覇王が伏せていたカードは、自分のモンスターをコストに相手フィールドに三体のトークンを特殊召喚する、という効果を持つ《ナイトメア・デーモンズ》。《ブレイズ・キャノン》を避けながら三体のトークンを特殊召喚したものの、マリシャス・エッジが墓地に送られたことに代わりはない。

「ダイレクトアタック……といきたいところだが、《ブレイズ・キャノン》を発動したターンは攻撃出来ない。だが、《ヴォルカニック・エッジ》を召喚する!」

 特殊召喚された三体の《ナイトメア・デモン・トークン》と並ぶように、《ヴォルカニック・エッジ》が召喚される。確かに攻撃こそ出来ないが、オブライエンのデッキは攻撃せずともライフを削ることは出来る。

「《ヴォルカニック・エッジ》は自身の攻撃を封じることで、500ポイントのダメージを相手に与える!」

「…………」

覇王LP4000→3500

 攻撃を封じることで相手ライフに直接ダメージを与える、という《ヴォルカニック・エッジ》の効果。どうせ《ブレイズ・キャノン》のデメリット効果により攻撃は出来ないので、特に気にする必要はない。《ヴォルカニック・エッジ》の口から鋭い火球が発せられるが、覇王がその程度を気にすることはない。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

「オレのターン、ドロー!」

 オブライエンのフィールドは、相手ライフに直接ダメージを与えられる《ヴォルカニック・エッジ》に、2000というトークンとしては破格の攻撃力を誇る《ギフト・デモン・トークン》が三体。彼のデッキのキーカードたる《ブレイズ・キャノン》に《ブレイズ・キャノン・マガジン》と、二枚の伏せカードという一見盤石な態勢だった。

 それでも、覇王が何かしてくるようで恐ろしい。ただの恐怖という訳ではなく、《ナイトメア・デーモンズ》というコンボ前提のカードが発動された、という前提でもある。

「まずはその邪魔なものから退いてもらう。《大嵐》を発動!」

 使用率の高い《サイクロン》より、遥かに強い旋風がフィールド内を駆け巡っていく。覇王は伏せていた《ナイトメア・デーモンズ》を既に発動しており、その《大嵐》の標的はオブライエンの四枚の伏せカード。

「カウンター罠《ファイヤー・トラップ》を発動! 永続罠カードを破壊するカード効果を無効にする!」

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》を生命線としているオブライエンにとって、それを破壊されるのは致命的。しかしそれを対策していたカウンター罠《ファイヤー・トラップ》により、《大嵐》は何も破壊できずにひっそりと止んでいく。

「さらに《ファイヤー・トラップ》が墓地に送られた時、一枚ドロー出来る。さらに《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果により、ヴォルカニックカードを墓地に送り、さらに一枚ドロー」

 《ファイヤー・トラップ》の追加効果によって引いたモンスターを、《ブレイズ・キャノン・マガジン》によって墓地に送りつつ、さらなるドローを果たしていく。オブライエンのデッキの回りは覇王の比ではないが、それでもオブライエンは覇王への不安を拭えないでいた。

 自分がまるで、巨人を前に無駄な抵抗を絞る小人のようで。小人がどんな知恵を振り絞ろうと、巨人はその腕を一振りすれば戦いは終わる。

「ならば、オレは魔法カード《ダーク・バースト》を発動し、墓地の《E-HERO ヘル・ブラッド》を回収し、再び特殊召喚する!」

 闇属性の専用サルベージ魔法《ダーク・バースト》により手札に戻され、その自身のフィールドにモンスターがいない時に特殊召喚出来る、という効果によって、再び《E-HERO ヘル・ブラッド》が浮かび上がっていく。

「さらにヘル・ブラッドをリリースすることで、《E-HERO マリシャス・エッジ》をアドバンス召喚する」

「二体目か……」

 オブライエンがそう用心して呟いた通り、先のターンと同じくヘル・ブラッドをリリースされ、《E-HERO マリシャス・エッジ》がアドバンス召喚される。相手のフィールドにモンスターがいるため、そのリリースの素材は平常時より一つ少ない。

「バトル。マリシャス・エッジで、ナイトメア・デモン・トークンに攻撃する。ニードル・バースト!」

「リバースカード、オープン! 《進入禁止!No Entry!!》」

 その身体中に、びっしりと用意された針に貫かれるより速く、オブライエンはもう一枚の伏せカードを発動する。オブライエンのフィールドの四体のモンスター、覇王のフィールドのマリシャス・エッジ、そのどれもが例外なく守備表示となっていく。

「フィールドのモンスターを全て守備表示にする」

 守備表示になったことでマリシャス・エッジの攻撃は中止され、攻撃表示で特殊召喚されていた《ナイトメア・デモン・トークン》たちも守備表示となる。さらにマリシャス・エッジの守備力は1800と、送りつけられたナイトメア・デモン・トークンならば、充分に破壊出来る数値。

 先の小人と巨人の例を再び用いるならば、いくら巨人の力が強かろうと小人たちに届かねば意味がない。小人たちは隠れながらも必殺の一撃を蓄え、正面から戦わずに巨人に勝ってみせるのだ。

 ――覇王がただ、力を振るうだけの愚かな巨人であれば、の話だが。

「チェーンしてオレは速攻魔法、《魔力の泉》を発動する」

 発動された速攻魔法は《魔力の泉》。相手のフィールドの表側表示の魔法・罠カードの数だけドロー出来るが、次のターン終了時まで相手の魔法・罠カードを妨害と破壊が出来ないことと、自分の魔法・罠カードの数だけ手札を捨てる、というデメリット効果が存在する。

 《大嵐》で破壊出来なかったと見るや、覇王は早くも破壊より利用することに方針を転換し、オブライエンのフィールドの魔法・罠カードは三枚。よって、三枚のカードをデッキからドローすると、《魔力の泉》の一枚分だけ墓地へと送る。

 バトルフェイズにもかかわらず、覇王はメインフェイズのように魔法を繰り出していく。しかし、攻撃を止めることが出来た、というオブライエンの油断を突き――

「絶対無敵……究極の力を解き放て!」

 ――そのカードは発動される。

「速攻魔法《超融合》!」

「なっ……!」

 覇王が何の前触れもなく発動したソレに、オブライエンは固唾を飲んで動きを止める。アカデミアの仲間たちの犠牲により完成し、ジムを一撃のもとに葬り去る怪物を生みだした、最強の融合カード――

「手札を一枚捨てることで、フィールドのモンスターを二体融合させる」

 フィールドのモンスター、というのが言葉の通り。自分のフィールドに留まらず、相手のフィールドすらもその《超融合》の範囲内だ。守備表示となっていた《E-HERO マリシャス・エッジ》と、オブライエンのフィールドの《ギフト・デモン・トークン》が時空の穴に吸い込まれていく。

「融合召喚! 《E-HERO マリシャス・デビル》!」

 そして降臨する、最強――いや、最凶の英雄《E-HERO マリシャス・デビル》。マリシャス・エッジをさらに尖鋭化させたようなデザインを持ち、もちろん攻撃表示にて融合召喚されている。

「バトルを続行する。マリシャス・デビルでギフト・デモン・トークンを攻撃。エッジ・ストリーム!」

 速攻魔法《超融合》によって特殊召喚されたため、マリシャス・デビルの攻撃権は未だ保持されたままだ。発射された針がギフト・デモン・トークンを容赦なく貫いたが、不幸中の幸いというべきか《進入禁止!No Entry!!》の効果のため、《ギフト・デモン・トークン》は守備表示。

 これならば、オブライエンにダメージはない。……という訳にはいかなかった。

「《ギフト・デモン・トークン》ば破壊された時、コントローラーには800ポイントのダメージを与える」

「くぅっ……!」

オブライエンLP2700→1900

 オブライエンにとって真に不幸中の幸いだったのは、《E-HERO マリシャス・デビル》に、融合前のマリシャス・エッジの貫通効果が引き継がれなかったことかもしれない。ただ、それでも800ポイントのダメージは重く、オブライエンは少なくない衝撃を受ける。

「カードを三枚伏せ、ターンエンド。エンドフェイズ時に《E-HERO ヘル・ブラッド》の効果が発動し、オレはカードを一枚ドローする」

 《E-HERO マリシャス・エッジ》のリリース素材に使われたことにより、もちろん《E-HERO ヘル・ブラッド》の効果は再び発動される。幻影のようなヘル・ブラッドが覇王にカードを届けるとともに、ターンはオブライエンへと移行する。

「俺のターン、ドロー!」

 予期すらしていなかった大型モンスター、《E-HERO マリシャス・デビル》の迫力に一時圧されたオブライエンだったが、自分のフィールドには《ブレイズ・キャノン》があるのだと持ち直す。

 炎属性モンスターを墓地に送ることで、相手モンスターを破壊する永続魔法《ブレイズ・キャノン》。その効果を先のターンで見ている覇王が、その対策をせずにただマリシャス・デビルを出すとは思えない。恐らくあの三枚のどちらか、あるいは両方は《ブレイズ・キャノン》への対策カード――

「貴様のスタンバイフェイズにリバースカード、《バトルマニア》を発動!」

 ――というオブライエンの思考を打ち切ったのは、スタンバイフェイズという限られたタイミングでの罠カードの発動。相手モンスターを全て攻撃表示にし、バトルフェイズに強制的に移行させる罠カードであり、オブライエンのモンスターは守備表示から今度は攻撃表示となる。

 《ナイトメア・デーモンズ》の発動から、恐らくはここまでが覇王の計画の範疇。相手のフィールドにトークンを送り込み、それを融合素材として利用し、さらにマリシャス・デビルに自爆特攻させることで、戦闘ダメージとバーンダメージで相手は頭を垂れる。

「くそっ……! 俺は《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果を発動!」

 このままバトルフェイズに入れば、それだけでオブライエンの命はない。しかしオブライエンは臆せず《ブレイズ・キャノン・マガジン》を発動し、むしろバトルフェイズに入る――いや、このターンでの決着をつけるべく行動を開始する。

「《ブレイズ・キャノン・マガジン》で捨てたモンスターは、《ヴォルカニック・バックショット》!」

 オブライエンが《ブレイズ・キャノン・マガジン》によって墓地に送ったモンスターは、《ヴォルカニック・バックショット》。そのカードを覇王に見せつけるように、一枚のカード――ではなく、三枚の《ヴォルカニック・バックショット》を覇王にかざす。

「《ヴォルカニック・バックショット》が、《ブレイズ・キャノン》と名のつくカードで墓地に送られる時。デッキからさらに二枚のこのカードを墓地に送ることで、相手モンスターを全て破壊し、1500ポイントのダメージを与える!」

 墓地に送られた際に500ポイントのダメージを与える効果と、ブレイズ・キャノンと名のつくカードで墓地に送られた際、さらに二枚を送ることで相手のモンスターを全て破壊する効果。その《ヴォルカニック・バックショット》の二つの効果が合わさり、1500ポイントのダメージを与えつつ覇王のフィールドを殲滅する強力な効果となる。《ブレイズ・キャノン・マガジン》から《ブレイズ・キャノン》に装填され、三つの弾丸が《E-HERO マリシャス・デビル》へと向けられる。

「ファイヤー!」

 オブライエンの号令で《ブレイズ・キャノン》が文字通り火を吹き、覇王のフィールドを焼き尽くしていく。爆発がさらに爆発を巻き起こし、白煙が覇王城の一室を埋め尽くした。

「どうだ……!」

 白煙が窓から払拭されていくと。そこには変わらず、覇王とマリシャス・デビルが鎮座していた。まるで、何事もなかったかのように。

「伏せてあった《禁じられた聖衣》を発動した。対象モンスターへの効果を無効にする」

覇王LP3500→2000

 覇王のフィールドに伏せられていた速攻魔法の効力により、《E-HERO マリシャス・デビル》は全くの無事。ただし効果そのものを無効にした訳ではないため、覇王のライフポイントは《ヴォルカニック・バックショット》の効果で大きく削られる。だが厄介なところは、発動された《禁じられた聖衣》の効果がエンドフェイズまで、ということ。これでは残る《ブレイズ・キャノン》による追撃もままならない。

「さらに《ヴォルカニック・エッジ》の効果を発動! このカードの攻撃を封じることで、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

「……それで終わりか?」

覇王LP2000→1500

 オブライエンは怒涛の勢いで覇王のライフを削っていくが、それでもまだ削りきるには至らない。そして、スタンバイフェイズに発動された《バトルマニア》の効果により、オブライエンの《ナイトメア・デモン・トークン》は自爆特攻を強いられており、このままではオブライエンの敗北は決定してしまう。いくらライフを削ろうとも、今のオブライエンにマリシャス・デビルの攻撃を耐えることは出来ない。

「いや、まだだ。俺は二体のモンスターをリリースし、《爆炎帝テスタロス》をアドバンス召喚する!」

「ほう……」

 《ヴォルカニック・エッジ》と《バトルマニア》の効力を受けていた《ナイトメア・デモン・トークン》をリリースし、オブライエンは炎属性最強の帝王《爆炎帝テスタロス》をアドバンス召喚する。二体のモンスターが炎の旋風になっかと思えば、オブライエンの前に巨大な威圧感を伴うモンスターが鎮座していた。

「このモンスターが炎属性モンスターをリリースしてのアドバンス召喚に成功した時、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える! ビッグ・ヴォルケーノ!」

「…………」

覇王LP1500→500

 《爆炎帝テスタロス》のリリース素材になった、《ヴォルカニック・エッジ》が半透明になってフィールドに浮かび上がると、覇王にダイレクトアタックを決めるように爆発する。さらに、この効果はあくまで炎属性モンスターをアドバンス召喚した際の副次的な効果であり、《爆炎帝テスタロス》の効果はここからだ。

「爆炎帝テスタロスがアドバンス召喚に成功した時、相手の手札を確認して一枚捨てる!」

 覇王の二枚の手札が急に燃え上がったかと思えば、巨大な炎となってフィールドに映し出された。《爆炎帝テスタロス》には、捨てたカードがモンスターカードだった時、さらにそのモンスターのレベル×200ポイントダメージを相手ライフに与える、という効果もあるのだが……覇王の手札にモンスターカードはない。

 そう上手くはいかないか――という思いをオブライエンは頭の片隅に追いやると、覇王の手札にあった二枚の魔法カードを確認する。一枚目は汎用ドローカード《貪欲な壺》。二枚目は……

「……《クリボーを呼ぶ笛》……」

 デッキから、彼の相棒を特殊召喚する速攻魔法。覇王となった今でもデッキに投入されているのは、少なからずオブライエンを驚かせたものの、そんな感傷に浸っている場合ではない。

「《貪欲な壺》を捨ててもらう」

 魔法カード故に追加ダメージはないものの、汎用ドローカードを捨てさせることが出来たのは、大いに意味がある。《クリボーを呼ぶ笛》については頭に入れておくが、この局面でかのモンスターを特殊召喚したところで、何が出来る訳もない。

「あとはお望み通り、攻撃してやろう! 魔法カード《一騎加勢》を発動し、バトルだ!」

 スタンバイフェイズに発動された《バトルマニア》の影響を受けたモンスターは、《爆炎帝テスタロス》のリリース素材になったため、もうオブライエンはバトルフェイズを行う必要はない。だが、それでも《爆炎帝テスタロス》は攻撃表示でアドバンス召喚され、更なる魔法カードの支援を受けて攻撃体制に入る。

「《一騎加勢》は、自分のモンスターの攻撃力を1500ポイントアップさせる! 《爆炎帝テスタロス》で《E-HERO マリシャス・デビル》を攻撃、ヴォルカニック・ブラスト!」

 ターン終了時までとはいえ、破格の上昇値をもたらす通常魔法カード《一騎加勢》。攻撃力を4300にまで上昇させた《爆炎帝テスタロス》の攻撃を受ければ、覇王と言えどマリシャス・デビルごと灰と化す。しかしオブライエンが注目していたのは、覇王のフィールドに残ったもう一枚の伏せカードのことだった。

 《ヴォルカニック・バックショット》や《爆炎帝テスタロス》の効果ダメージを止めなかった以上、あの伏せカードはバーンメタのカードではない。ならば展開補助か攻撃を無効にするカードか、と考えていた瞬間、半透明の戦士が《爆炎帝テスタロス》の目前に現れた。

 ……が、伏せカードはピクリとも動かない。

「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外し、その戦闘を無効にする」

 いつの間にか――《超融合》のコストか《魔力の泉》か――墓地に送られていた《ネクロ・ガードナー》により、大火力を誇っていた《爆炎帝テスタロス》の攻撃は不発に終わる。《バトルマニア》と《ナイトメア・デーモンズ》のコンボによる、このターンでの敗北は凌いだものの、依然としてオブライエンのフィールドにマリシャス・デビルは健在。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了」

「オレのターン、ドロー!」

 確かにオブライエンの猛攻により、覇王のライフポイントは僅か500ポイント。バーンダメージを無効にするカードがないならば、あとは《ヴォルカニック・エッジ》の効果を発動するだけで、その勝利が確定する。ただしその猛攻の代償に、オブライエンの残る手はもう数少ない。

「魔法カード《ダーク・コーリング》を発動。墓地のモンスターを融合する!」

 しかしてそれは覇王も同じ――の筈だったが、覇王が発動したカードは、墓地融合を果たす魔法カード《ダーク・コーリング》。《E-HERO マリシャス・デビル》に続き、二体目の切り札クラスのモンスターの登場を予感させていた。

「オレは墓地の《E-HERO マリシャス・エッジ》と、《地帝グランマーグ》を融合する」

「岩石族……? まさか!」

 先の《ネクロ・ガードナー》と同様に、《超融合》か《魔力の泉》かで墓地に送っていた、大地を司る帝《地帝グランマーグ》が半透明でフィールドに現れる。その内部から食い尽くすようにマリシャス・エッジが出現し、徐々に姿が悪魔のように変わり果てていく。

 そしてオブライエンは思いだす――あの時見た、ジムを殺した英雄の姿を。

「融合召喚。《E-HERO ダーク・ガイア》!」

 岩石を翼や凶器に利用するだけ利用した悪魔。その効果は、融合素材にしたモンスターの攻撃力分、自身の効果とするというシンプルな効果。しかし、シンプルながら強いという言葉もある通り、その攻撃力は5000という数値を獲得していた。

「ジム……」

「バトルだ」

 その迫力と悪夢を前にして、知らず知らずのうちにオブライエンはその足を下がらせる。そんな相手に対しても、覇王は無慈悲に攻撃の宣言を下す。

「《E-HERO マリシャス・デビル》で、《爆炎帝テスタロス》に攻撃! エッジ・ストリーム!」

「ぐあああっ!」

オブライエンLP1900→1200

 まずはマリシャス・デビルが、その爪で《爆炎帝テスタロス》を切り裂いた。テスタロスは爆発するとともに爆発を起こし、それはダメージとなってオブライエンを襲う。

「さらに――」

「リバースカード、《ファイヤー・ウォール》を発動!」

 そしてオブライエンにトドメを差さんと、ダーク・ガイアに攻撃宣言をするより早く、覇王とオブライエンの前に炎の壁が敷かれていた。ダーク・ガイアにその壁を突破することは出来ず、爆発に巻き込まれて倒れていたオブライエンが、ふらふらとした足取りながらしっかりと立ち上がる。

「《ファイヤー・ウォール》は相手の直接攻撃時、墓地の炎属性モンスターを除外することで、その直接攻撃を無効とする」

 《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果によって、オブライエンの墓地には大量のヴォルカニックモンスター――つまり、炎属性モンスターが捨てられていた。何度直接攻撃しようと止められるほどではないが、その維持にはライフコストがあり、オブライエンのライフポイントはもう風前の灯火だった。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

 それでも、伏せカードを警戒しダーク・ガイアの攻撃を後回しにした覇王の攻撃を、一度だけでも防ぐことに成功した。それだけでも、オブライエンは《ファイヤー・ウォール》に感謝しながら、気合いを込めてカードを引く。

「俺のターン……ドロー!」

 もはやデュエルも終幕。オブライエンはそのことを感じ取り、力の限りを持ってカードをドローする。

「俺はスタンバイフェイズ、《ファイヤー・ウォール》の維持コストに500ポイントのライフを払う」

オブライエンLP1200→700

「さらに俺は《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果を発動し、手札を一枚捨てて一枚ドロー……《マジック・プランター》を発動する!」

 ドローしたカードはオブライエンのデッキの切り札、ヴォルカニック最強モンスターこと《ヴォルカニック・デビル》。《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果により、その特殊召喚は可能であるが、特殊召喚したところでE-HEROたちには適わない。勝つために切り札を捨てたことで引いたのは、更なるドローをもたらす《マジック・プランター》。今までオブライエンのデッキの潤滑油として機能していた、《ブレイズ・キャノン・マガジン》を墓地に送るとともに、オブライエンは二枚のカードをドローする。

「来たか……俺はライフを500ポイント払うことで、通常魔法《クレイジー・ファイヤー》を発動!」

オブライエンLP700
→200

 目当てのカードをドローしたオブライエンは、密やかに笑いながら魔法カードをデュエルディスクにセットする。ライフポイントを200にまで減じさせながらも、そのカードは逆転の切り札となる。

「俺の《ブレイズ・キャノン》を墓地に送ることで、フィールドのモンスターを全て破壊する!」

「――――!」

 オブライエンのフィールドに残されていた《ブレイズ・キャノン》が暴走し、自身の限界を超えた一撃をE-HEROたちに向けて放つ。その業火は《ブレイズ・キャノン》本体を自壊させながらも、覇王のフィールドを修復不能なまでに破壊する。マリシャス・デビルもダーク・ガイアも、いくら強力なモンスターだろうと、その業火の前には無力だった。

「さらにその後、俺のフィールドに《クレイジー・ファイヤー・トークン》を特殊召喚する」

 さらに追加効果として、自壊した《ブレイズ・キャノン》から新たなトークンが特殊召喚される。このトークンは攻撃力1000程度ながらも有しており、このままがら空きの覇王に攻撃すれば、デュエルに決着がつく――という訳にはいかない。《クレイジー・ファイヤー》を発動したターンには攻撃出来ず、よしんば攻撃出来たとしても、覇王のフィールドには速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》がセットされている。

「俺は《クレイジー・ファイヤー・トークン》をリリースする!」

 戦闘ダメージでの決着は出来ない。ならばこそ、オブライエンは新たなモンスターを召喚する。

「現れろ、《ヴォルカニック・ハンマー》!」

 満を持してアドバンス召喚されたのは、先に召喚されていた《ヴォルカニック・エッジ》を巨大化させたような上級モンスター、《ヴォルカニック・ハンマー》。その炎の鉄槌を覇王に振り下ろす時を、今か今かと待ち望んでいる。

「そして墓地の《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果を発動。このカードを除外することで、デッキのヴォルカニックモンスターを墓地に送る」

 《マジック・プランター》の効果によって墓地に送られていた、《ブレイズ・キャノン・マガジン》を最後まで発動しきると、更なるヴォルカニックモンスターが墓地に送られる。それと連動するかのように、《ヴォルカニック・ハンマー》が発する炎がさらに燃え盛っていく。

「《ヴォルカニック・ハンマー》の効果を発動! 墓地のヴォルカニックモンスターの数×200ポイント、相手ライフにダメージを与える!」

「…………」

 ――《ブレイズ・キャノン・マガジン》でヴォルカニックモンスターを墓地に送っていたのは、デッキの潤滑油や《ヴォルカニック・バックショット》の効果発動のため、ということももちろんある。だがオブライエンが想定していたのは、あくまでこの状況。墓地の大量のヴォルカニックモンスターに反応し、《ヴォルカニック・ハンマー》が発する炎の勢いが増していく。

「……終わりだ、覇王!」

 そしてその火力は、どうあがいても覇王のライフポイントで防ぐことの出来る数値ではない。《ヴォルカニック・ハンマー》はオブライエンの指示に忠実に従うと、覇王にありったけの火力をぶつけていく。

「オレは速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動!」

「無駄だ!」

 覇王は最後に、伏せられていた速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動する。しかしハネクリボーが特殊召喚、そして効果を発動したとしても、防ぐことが出来るのは戦闘ダメージのみ。

 ――なのに、何故。

「な、に……!?」

 ――《ヴォルカニック・ハンマー》が放った炎を、フィールドに現れた《ハネクリボー》に全て防ぐことが出来たのか――

「《ヴォルカニック・ハンマー》……」

 オブライエンは信じられない、とばかりに呟いたが、何をしようと《ヴォルカニック・ハンマー》は沈黙したのみ。もはや効果は終了し、効果の発動は一ターンに一度だけだ。

 そしてオブライエンは観察し、発見する。《ヴォルカニック・ハンマー》の効果を止めてみせた《ハネクリボー》と覇王の胸に、赤い綱のようなものが繋がっていることを。覇王の心臓部から伸びた綱は、同じくハネクリボーの人間で言うところの胸部へと繋がっており、生命共同体のような様相を呈していた。

「オレはリバースカード、《魂のリレー》を発動していた。手札のモンスターを特殊召喚し、全てのダメージを0とする」

 覇王が発動したのは、最後まで残っていた伏せカード《魂のリレー》。ノーコストで手札のモンスターを特殊召喚し、さらにそのモンスターがいる限り、全てのダメージを0にするという効果を持つ。ただし、そのモンスターが破壊された際に自身の敗北が決定する、という強大なデメリットを持つが。

 それをもって覇王は、《クリボーを呼ぶ笛》の効果で手札に加えた《ハネクリボー》を特殊召喚し、《ヴォルカニック・ハンマー》の効果ダメージを0とした。《ブレイズ・キャノン》を失ったオブライエンに、このターンで《ハネクリボー》を倒す手段はない。

「……ターン……エンドだ……」

「オレのターン、ドロー」

 オブライエンの決死の一撃が届くことはなく。無慈悲にも覇王へとターンが移行する。

「速攻魔法《バーサーカークラッシュ》を発動。墓地のモンスターを除外することで、ハネクリボーはそのモンスターのステータスを得る」

 最後に覇王が発動したのは、ハネクリボーのサポートカード《バーサーカークラッシュ》。墓地の《E-HERO マリシャス・デビル》を除外することで、《ハネクリボー》に悪魔のような鋭利な爪が発生していく。

「くそっ……」

 ……やっとの思いで《クレイジー・ファイヤー》で破壊しようとも、覇王はそれをただ利用するだけ……結局オブライエンは最後まで、覇王の手のひらで踊っていたに過ぎないのかもしれない。少なくともオブライエンは、そう感じざるを得なかった。

「バトル。《ハネクリボー》で《ヴォルカニック・ハンマー》に攻撃。バーサーカークラッシュ!」

「くそぉぉぉぉ!」

 覇王の命令とともに強化されたハネクリボーは爪を震わせ、オブライエンは無念の思いを堪えきれずに叫ぶ。しかしてその叫びが誰にも届くことはなく、ただオブライエンは悪魔の爪に引き裂かれる――

「……ハネクリボー……」

 ――ことはなかった。

 ハネクリボーの爪はまるでオブライエンを避けるように振るわれ、背後に強大な風圧を発生させる。そしてオブライエンは思いだす……この戦いはデュエルに勝つ戦いではなく、ジムの遺志を継いで十代を助ける戦いなのだと。

「……相棒!」

 オブライエンは、ジムから託されたオリハルコンの瞳を手にすると、覇王へ向かって走り出していく。《ハネクリボー》の爪によって発生した爪は、走るオブライエンの後押しとなってさらに勢いを増していく。

「うぉぉぉぉぉっ!」

オブライエンLP200→0

 
 

 
後書き
E-HEROと超融合はアニメ仕様となっております。ご了承ください。 

 

―運命封印―

「答えろ……!」

 本来の持ち主がいなくなった覇王城の頂上、エド・フェニックスは怒りを抑えながら、そこに立っていた男に問うていた。その男はくすんだ青色の服をたなびかせ、一枚のカードを持って佇んでいる。

「答えろと言っているんだ! 遊矢!」

 ――エドとカイザーが覇王城の頂上にたどり着いたのは、ちょうどオブライエンの命を賭けた特攻と同じタイミングだった。ジムとオブライエンの魂が籠もった一撃が覇王に放たれ、その心の闇がオリハルコンの瞳に吸収されていくと、後に残ったのは元の十代だった。

 ……ただし戦いに敗れたオブライエンの命は尽き、最後に残ったのは気絶した十代だけとなった。そして、エドがそこに駆け寄ろうとした時、どこからか現れたのは遊矢だった。遊矢は十代のデッキからカードを一枚抜き取ると、ゆっくりとエドに亮の方を見ていた。

 それを見たエドが感じたのは、久々に遊矢と会ったことによる喜びではなく、目の前に現れた遊矢への怒り。今の登場タイミングは明らかに狙ったものであり、彼は確実に覇王とオブライエンの戦いを見学していた。……つまり、オブライエンを見殺しにしていたのだ。

 今まで何をしていたのか、この瞬間に何をしているのか、何が狙いなのか――それらを全てひっくるめて、エドは遊矢に叫んでいた。

 ――『答えろ』と。

「答えろ……か。俺は最初から、みんなで元の世界に帰ることしか考えちゃいない」

 思いの外はっきりとした口調で、しっかりと遊矢は断言する。そのこととオブライエンのこと、一体何の関係がある――とエドが再び問いただそうとした時、遊矢は一枚のカードをデッキから取り出した。エドと亮は、そのカードから有り余る力を感じた……追求の口を緩めてしまうほどに。

「このカードはいわゆる神のカード……ただし、不完全な封印解除しかしていない。さらに封印を解除するには、覇王の持つこのカードが必要だったんだ」

 覇王のデッキから奪ったカードを憎々しげに睨みつけながらも、先程の《神のカード》と同じくエドたちに見せる。まるでそれは、生徒たちに授業をしている先生のようであったが――見せられたカードにより、二人は今度こそ戦慄する。

 遊矢が見せたカードは《邪心教典》。この最悪の状況を作り出した、たった一枚のカードがそこにあった。

「このカードの力を使って、神のカードの力を解放すれば――」

「ふざけるな!」

 人間と精霊の痛みなどの負の感情と魂を生け贄にし、新たな力を生み出す魔法カード《邪心教典》。その効力を知っているエドは遊矢の台詞を遮ると、正気を失ったような友人に訥々と語っていく。

「そんな不確かな可能性に、また多くの犠牲を出すのか? 正気を――」

「俺は大真面目だ」
 ……次に言葉を遮られるのはエドの番だった。正気を失ったような、と先に述べていたものの、エドが感じたその言葉は正しくない。

 何故なら、黒崎遊矢は正気を失ってなどいないからだ。何者かに操られている訳でもなく、神のカードによる力に溺れた訳でもなく、覇王の後釜を狙うわけでもなく。ただ全員でアカデミアに帰るために、《邪心教典》による神のカード――『エクゾディオス』の完成を目論んでいた。

「それに、この《邪心教典》は完成目前だ。大量のデュエリストの魂は必要ない。必要なのは……」

 かつて十代とのデュエルで《超融合》を生み出していた《邪心教典》だったが、その力はまだ失われてはいなかった。何故ならまだ、《邪心教典》は未完成――そのカードを構成する『疑い』の感情が、オブライエンとジムの計略によって足りないのである。

 そして呼ばれたかのように、また一人の少年がその場に現れていた。……いや、その場に現れていた、というのは少し正しくない。彼はずっと、そこで覇王のことを見ていたのだから。

「……翔」

「そうだ、お前だ」

 あとは『疑い』の感情を《邪心教典》に埋め込むだけ、それで神のカードは完全なる力を取り戻す。遊矢が翔に向けて歩き出そうとした瞬間、デュエルディスクを展開したエドが立ちはだかった。

「待てエド。弟のことなら俺が……」

「いいや、これは僕の役目だ。カイザー」


 無論エドたちからしてみれば、遊矢のやろうとしていることは、ただ仲間を殺そうとしているに過ぎない。神のカードなどという、不確かなものに囚われて。

「…………」

「それに万が一があった時、僕のヒーローより君のドラゴンの方が逃げやすい。君はそこで弟を見ていろ」

 そのエドたちの反応は見越していたのだろう、遊矢もエドに対してデュエルディスクを展開する。エドの言葉に納得したのか、エドが退かないことを悟ったのか、亮は翔を守るように少し下がる。

「……まあ、そんなことは万が一にもありえないがな」

 後ろで待つカイザーにだけではなく、対戦相手である遊矢にも宣言するかのように。エドは闘志を内面に秘めながら、デュエルの準備を完了させる。

『デュエル!』

エドLP4000
遊矢LP4000

「僕の先攻!」

 そうは言ったものの、エドは遊矢のことを過小評価しているわけでもなく、神のカードとやらを甘く見ている筈もない。カイザーが一度見たという情報が確かならば、今の遊矢は【機械戦士】ではなく、何故か《高等儀式術》をメインにした【儀式召喚】デッキを使っているそうだが。

「僕は《デステニー・ドロー》を発動! 手札のヒーローをセメタリーに捨て、さらに二枚ドローする」

 ならば、その神のカードとやらが現れる前に決着をつけねばならない。先攻を勝ち取ったエドは手札交換を果たすと、まずは行動の為の布石を打つ。

「僕はモンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 遊矢とエドがデュエルするのは、これで四度目になる。回数としては数えるほどだが、相手は現役のプロデュエリスト。それだけでも充分に多い方だ。一度目と二度目は遊矢の勝利に終わっているものの、二つとも真っ向からの1対1でのデュエルではない。

 そして、その真っ向からの1対1のデュエルをした三戦目では……遊矢は敗北している。それはまだ、遊矢はエドに勝ったことがない、ということと同義だった。

「俺は《高等儀式術》を発動!」

 さらに今の遊矢には【機械戦士】たちもついてはいない。それでも、遊矢は負けるわけにはいかなかった。

「デッキから通常モンスターを墓地に送り、《破滅の女神ルイン》を儀式召喚する!」

 ――たとえエドを殺すことになろうとも。

「バトルだ、《破滅の女神ルイン》でセットモンスターに攻撃!」

 《破滅の女神ルイン》は二回攻撃の効果を持つ儀式モンスターであり、エドのフィールドのモンスターはセットモンスターのみ。神のカードを待つまでもなく、遊矢が選んだ戦術もまた速攻だった。

「……僕を甘く見るなよ」

 エドの呆れたような溜め息混じりの声とともに、《破滅の女神ルイン》の攻撃に反応したセットモンスターが姿を現し――ルインが放った光弾を弾き返した。

「ぐっ!?」

「僕がセットしていたのは《D-HERO ディフェンドガイ》。反射ダメージを受けてもらう」

遊矢LP4000→3600

 姿を現したセットモンスターは、下級モンスターにしては破格の守備力を誇る、《D-HERO ディフェンドガイ》。易々とルインが放った光弾を遊矢に跳ね返し、遊矢の先制攻撃は400ポイントのダメージとして自分に帰ってきた。

「……カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 攻撃を失敗した遊矢は、仕方なしにカードを二枚伏せたのみでターンを終了し、エドの次なる攻撃に備えた。対するエドは、あくまで強気にカードをドローする。

「神のカードならばともかく、機械戦士を使わないお前に遅れを取るつもりはない! 僕はディフェンドガイをリリースし、《D-HERO ダブルガイ》をアドバンス召喚!」

 岩石のようにゴツゴツとしていたディフェンドガイがリリースされ、代わりに現れたのは細身の男性。そのスーツ姿はどう見ても、戦場には似つかわしくない。

「さらにフィールド魔法《ダーク・シティ》を発動!」

 エドのフィールド魔法の発動とともに、床からそびえ立ってきたビルによって風景は変わっていき、激戦の跡が残っていた覇王城の頂上は一瞬にしてヒーローが戦う舞台となる。摩天楼とはまた違う、闇の中の暗い戦場に。

「バトル! ダブルガイでルインに攻撃!」

 遊矢の《破滅の女神ルイン》と同じく、ダブルガイには二回の攻撃を可能とする効果がある。しかしてその攻撃力は、上級モンスターには似つかわしくない1000程度。

「さらにリバースカード、《D-チェーン》を発動! このカードは発動後装備カードとなり、攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 エドのリバースカードから現れた鎖を持ったことと、フィールド魔法《ダーク・シティ》の――攻撃力が上のモンスターに攻撃する時、その攻撃力を1000ポイントアップさせる――効果により、ダブルガイの攻撃力は2500にまで上昇する。

「デス・オーバーラップ・チェーン!」

 エドのかけ声とともに放たれたダブルガイの攻撃は、二つのサポートカードの効果を得て《破滅の女神ルイン》に腹部突き刺さる。そのままルインを破壊しながら鎖は貫通し、背後に控えていた遊矢にまで到達する。

「《D-チェーン》を装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、500ポイントのダメージを与える!」

「……っ!」

遊矢LP3600→2900

「まだだ! ダブルガイのエフェクトにより、二回目の攻撃! デス・オーバーラップ・チェーン!」

 スーツ姿で飄々としていたダブルガイが、突如として雄叫びをあげて巨大な怪人に変化する。先程は華麗に扱ってみせた鎖を力任せに振り回すと、再び遊矢を貫かんと投げつける。

「ぐあっ……!」

遊矢LP2900→1400

 その二回攻撃を遊矢は防ぐ手段はなく、あっさりとライフが大幅に削られてしまう。攻撃とともにダブルガイはスーツ姿の紳士となり、執事のようにエドの前へと戻っていく。

「ターンエンドだ」

「……俺のターン、ドロー!」

 遊矢は勢いよくカードを引いたものの、その頬には一筋の冷や汗が伝わっていた。自分の《破滅の女神ルイン》の攻撃はあっさりと防がれ、エドの《D-HERO ダブルガイ》の攻撃は直撃したことに。エドの方が一枚上手なのだと、思い知らされたようで。

「俺は《高等儀式術》を発動!」

 ……いや、エドが上手なのだというのは今更か、と遊矢は考え直す。ならば自分が新たに手に入れた力で、エドの虚を突くしか勝つ見込みはない。

「俺は《伝説の爆炎使い》を儀式召喚する!」

 遊矢のフィールドに儀式召喚されたモンスターは、炎を操る魔法使いこと《伝説の爆炎使い》。その効果はこのカード以外のモンスターを全て破壊する、という《終焉の王デミス》と似た強力な効果。

「さらに俺は《闇の量産工場》を発動し――」

 だが《伝説の爆炎使い》の活躍には下準備がいる。墓地から二枚のカードを回収するとともに、そのカードをエドに向けてかざす。

「スケール3の《イグナイト・ドラグノフ》と、スケール7の《イグナイト・マスケット》でペンデュラムスケールをセッティング!」

「ペンデュラム!?」

 遊矢が発動したペンデュラムカードに対し、流石のエドも驚愕をあらわにする。交戦した覇王軍の一部が使用していた、異世界における召喚法――大体のことは知っているつもりだが、遊矢がそれを使うとは流石に予想の範囲外だった。

「……馬鹿が……」

 遊矢の背後に展開していく赤と青の二つの柱を見ながら、エドは誰にも聞こえないほどの小さな声で呟く。遊矢が【機械戦士】ではなくペンデュラムカードを使ったことが、遊矢が異世界の住人になってしまったような気がして。

「そして伏せていた《ペンデュラム・バック》を発動! ペンデュラムスケールの間のレベルを持ったモンスターを、墓地から二枚手札に加えることが出来る!」

 そんならしくない感慨は後だ――と、エドは今のデュエルに集中する。遊矢が発動したのは通常罠《ペンデュラム・バック》と、発生しているペンデュラムスケールの間のモンスターを、二枚まで手札に加えるカード。

 要するに。現在発生しているペンデュラムスケールは、スケール3とスケール7ということで、レベル3から7のモンスターを、二枚まで手札に加えることが出来る、ということだ。

「さらに《伝説の爆炎使い》の効果を発動! このカードに貯まった魔力カウンターを三つ取り除くことで、このモンスター以外のモンスターを全て破壊する!」

「魔法カード……ペンデュラムカードか!」

《伝説の爆炎使い》は、プレイヤーが魔法を使うごとに魔力カウンターを溜め、三つ取り除くことて効果を発動する。エドは遊矢が発動したのは《闇の量産工場》のみ――と考えていたが、展開する二枚のペンデュラムカードによってすぐに考えを改める。

 ペンデュラムカードをスケールにセッティングする時は、モンスターカードではなく魔法カードとして扱うため、《伝説の爆炎使い》には既に三つの魔力カウンターが貯まっている。

「プロミネンスドロップ!」

 《伝説の爆炎使い》の周囲を漂っていた炎がさらに火力を高めていき、全てを焼き尽くさんとエドのフィールドに迫り、あっけなくダブルガイを焼き尽くしていく。ここで《終焉の王デミス》と違うことは、今は自分のフィールドへの影響はないこと。ペンデュラムスケールは無事なまま、気兼ねなくその効果を発動することが出来る。

「さらにモンスターをペンデュラム召喚! 現れろ、イグナイトモンスター!」

 先に《ペンデュラム・バック》で手札に加えていた、二枚のイグナイトモンスターこと《イグナイト・イーグル》と《イグナイト・ドラグノフ》が、空中に浮かび上がった魔法陣からフィールドに降り立った。同時に何体ものモンスターを並べる新たな召喚方により、遊矢のフィールドのモンスターはこれで三体。

「バトル! イグナイト・ドラグノフでダイレクトアタック!」

「伏せてあった《D-フォーチュン》を発動! セメタリーの《D-HERO ダブルガイ》を除外することで、相手のダイレクトアタックを無効にし、バトルを終了させる!」

 しかし、イグナイト・ドラグノフが持った銃がエドに届くより早く、先程破壊されたはずのダブルガイがその身を挺してエドを守る。《D-フォーチュン》の効果によってバトルフェイズは終了し、遊矢の総攻撃は失敗に終わってしまう。

「ターンエンド」


「僕のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時、破壊された《D-HERO ダブルガイ》の効果を発動!」

 スーツ姿の紳士とワイルドな野獣と、二つの姿を持ったトークンがエドのフィールドに現れる。ダブルガイは二回攻撃だけでなく、破壊された次のスタンバイフェイズに、二体のトークンを精製する効果を併せ持っているのだ。

 これでエドのフィールドには《ダブルガイ・トークン》が二体に、フィールド魔法《ダーク・シティ》。伏せられていた二枚のリバースカードはどちらも発動され、もはや一枚も伏せカードはないが、未だそのライフに傷は付いていない。

 対する遊矢は《伝説の爆炎使い》に二体のイグナイトモンスター、そしてセッティングされたペンデュラムスケールに、一枚のリバースガード。《D-HERO ダブルガイ》の猛攻を受け、そのライフは1400まで落ち込んでしまっている。

「さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚!」

 フィールドだけを見れば五分五分だが、エドはまだまだ余裕を残している。大型モンスターを交えた猛攻に、遊矢はいつまで耐えることが出来るか、という勝負になるか。

「ダイヤモンドガイの効果発動! デッキトップの通常魔法を未来に送る! ハードネス・アイ!」

 ダイヤモンドガイの効果で捲ったカードは、通常魔法《終わりの始まり》。よってそのカードは墓地に送られ、次なるターンにおける発動が確定する。……そして未来ではなく今、エドのフィールドにはD-HEROを含む三体のモンスター……!

「僕は三体のモンスターをリリースし、《D-HERO ドグマガイ》を特殊召喚する! カモン、ドグマガイ!」

「…………!」

 ダブルガイが破壊されることも最初から計画のうち、ダブルガイ・トークン二体とダイヤモンドガイがリリースされ、黒翼を背負った最上級D-HEROが特殊召喚される。その巨体と禍々しい刃は伊達ではなく、その攻撃力は他に類を見ない3400という数値。

「バトル!」

「いや、リバースカードを発動させてもらう! 《立ちはだかる強敵》!」

 ドグマガイの攻撃がイグナイトモンスターに向けば、それだけで遊矢のライフポイントは尽きる――そんな状況で発動されたリバースカードは、相手モンスターの攻撃を誘導する《立ちはだかる強敵》。本来ならば、他のモンスターとのコンボ用カードなのだが、今回ばかりはしょうがなく《伝説の爆炎使い》を対象に発動する。

「ふん……ドグマガイで伝説の爆炎使いに攻撃! デス・クロニクル!」

「ぐぅぅぅっ……!」

遊矢LP1400→400

 《立ちはだかる強敵》の効果により《D-HERO ドグマガイ》の攻撃は《伝説の爆炎使い》に向き、遊矢のライフポイントはギリギリ400ポイントだけ残る。

「ターンを終了」

「俺のターン……ドロー!」

 だがエドの攻撃はまだ終わらない。遊矢がカードをドローした直後、ドグマガイがその圧倒的な翼を広げると、遊矢のライフがドグマガイに奪われていく。

「ドグマガイが召喚された次のターン、スタンバイフェイズに相手ライフは半分となる。ライフ・アブソリュート!」

「…………!」

遊矢LP400→200

 エドのライフを100ポイント削ることすら出来ずに、もはや遊矢のライフは風前の灯火。ライフポイントを吸われた影響で片膝をつきながら、遊矢は先のエドとのデュエルのことを思い出していた。

 光の結社事件の時のデュエルも、こうやって制圧されてライフ100にまで追い込まれたと。その時は確か、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を使って逆転を――

「……ハッ」

 ――持っていないカードに頼って何になる。遊矢は苦笑しながら立ち上がると、モンスターをデュエルディスクにセットしていく。

「俺はカードを二枚伏せ、二体のイグナイトモンスターを守備表示に変更し、ターンエンドだ」

「防御に回るだけか? 僕のターン、ドロー!」

 遊矢がドグマガイに向けて取った手だては、自分が今出来る全ての手段を防御に使うこと。圧倒的な攻撃力を誇るドグマガイの前に、今の遊矢が出来ることはそれだけだった。

「ダイヤモンドガイのエフェクトにより、未来に飛ばされていた《終わりの始まり》の効果を発動! カードをさらに三枚ドローする!」

 ダイヤモンドガイの効果で未来に飛ばされていた魔法カードの効果が発動し、エドは《終わりの始まり》の効果によって三枚のカードをドローする。

「さらに《トレード・イン》を発動し……よし、《D-HERO ディバインガイ》を召喚する!」

 さらに手札のレベル8モンスターを引き換えに、二枚ドローする魔法カード《トレード・イン》によって手札を整えると、新たなD-HEROをフィールドに特殊召喚する。先に現れていたドグマガイとともに、銀色の刃を背負ったディバインガイがイグナイトモンスターたちを睥睨する。

「バトル! ドグマガイ、ディバインガイ、奴らを消し去れ!」

 エドの宣言とともに、守備表示のイグナイトモンスター二体は何の抵抗も出来ずに破壊され、遊矢のモンスターゾーンには何も残ることはなかった。……ただし、先のターンで伏せられた二枚の伏せカード、そのどちらもが発動していた。

「俺は二枚の《臨時収入》を発動していた。エクストラデッキにモンスターが送られる度に、このカードに魔力カウンターを置く」

「魔力カウンターだと……」

 エクストラデッキにカードが加わる、という聞き慣れない特異な発動条件。それは明らかに、破壊された場合エクストラデッキに置かれるという性質を持った、ペンデュラムモンスターのサポートカードだった。

「……カードを二枚伏せ、さらにフィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動!」

 魔力カウンターを二つ溜めたのみで動こうとしない《臨時収入》を警戒しつつ、エドはメインフェイズ2に移行し新たなフィールド魔法を発動される。今まで発動していた《ダーク・シティ》は墓地に送られ、代わりにある男が幽閉された英国の時計塔が出現する。

「僕はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これでエドのフィールドには《D-HERO ディバインガイ》に《D-HERO ドグマガイ》と、二枚のリバースカードに《幽獄の時計塔》。ライフポイントはまだ削られてすらおらず、この遊矢のスタンバイフェイズに《幽獄の時計塔》の針が一つ進む。

 対する遊矢は、魔力カウンターが二つ貯まった永続罠《臨時収入》が二枚。そしてペンデュラムスケールだけだが、その性質上ペンデュラムモンスターは不死身。それを証明するかのように、再び天空に魔法陣が描かれていく。

「モンスターをペンデュラム召喚!」

 ドグマガイとディバインガイ、二体のモンスターに破壊されたイグナイトモンスターたちが、破壊される前の姿のままフィールドに舞い戻る。幾度破壊されようとも、ペンデュラムスケールさえ無事ならば、何度でもペンデュラムモンスターは蘇る。

「さらにペンデュラムゾーンにセットされた、《イグナイト・ドラグノフ》のペンデュラム効果を発動! ペンデュラムゾーンのカードを全て破壊することで、デッキか墓地から炎属性・戦士族モンスターを手札に加える!」

 そして役目を終えたように二対の柱は自壊していき、遊矢の手札にその効果によってサーチされたモンスターが手札に加えられる。そのペンデュラム効果によるサーチ効果に、炎属性・戦士族モンスターという指定以外、何の制約も指定も存在しない。

「二体のイグナイトモンスターをリリースし、《イグナイト・スティンガー》をアドバンス召喚!」

 そしてサーチされ、そのまま二体のイグナイトモンスターを供物に召喚されたのは、最強のイグナイトモンスターこと《イグナイト・スティンガー》。フィールドにいた二体のイグナイトモンスターを合体したようなモンスターは、ステータスでは劣るにもかかわらずドグマガイに銃口を向け……そして激流へと流されていった。

「リバースカード、《激流葬》を発動した。フィールドのモンスターを全て破壊する」

「なっ……!」

 満を持して召喚された最強のイグナイトモンスターは、エドの発動した罠カード《激流葬》にかかり、何の戦果もなくそのまま破壊される。さらにペンデュラムモンスターでもないために、エクストラデッキではなく墓地へと送られる……よしんばペンデュラムモンスターだったとしても、もはやペンデュラムスケールにカードはセッティングされていないのだが。

 そしてエドのフィールドと言えば、無傷だ。……いや、無傷というには少々語弊があるか。

 何故なら、むしろモンスターが一体増えているのだから。

「さらに僕は《リビングデッドの呼び声》を発動し、墓地から《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚していた!」

 エドのフィールドにいつの間にか現れていた大男を見て、エドのフィールドに何が起きたのか遊矢は理解した。どうして《激流葬》が、自分のフィールドにのみしか及んでいないのか……全てはドレッドガイの効果にある。

「ドレッドガイが特殊召喚された時、このターンD-HEROたちは破壊されず、僕はダメージを受けない。ドレッド・ウォール!」

 ドレッドガイがその巨体で《激流葬》を全て防ぎきったことにより、エドのフィールドの《激流葬》の影響はない。さらにその効果はそのターン中全てに及び、さらにエドは戦闘ダメージを受け付けない。

「……俺は《臨時収入》の効果を発動! 魔力カウンターが3つ貯まったこのカードを墓地に送ることで、俺はカードを二枚ドロー出来る!」

 発動されていた二枚の《臨時収入》の効果はドローソース。先のターンにD-HEROたちに戦闘破壊された分と、ペンデュラム効果で自壊した分で3つの魔力カウンターは溜まっており、遊矢は永続罠をコストに四枚のドローを果たす。

「…………ッ!」

 ――そしてエドは感じる。遊矢が引いたカードの一つから、限りない力の奔流を。まるで『神』のカードのような。

「俺はフィールド魔法《神縛りの塚》を発動!」

 エドのフィールドには《幽獄の時計塔》が発動しているように、遊矢のフィールドには神を祀っているかのような祭壇、《神縛りの塚》がフィールドを支配していく。しかし遊矢のフィールドには今度こそ何もなく、まだ神のカードが出現するには時間が――というところまで考え、エドはその思考を改める。

 ――神のカードは既に遊矢の手の中にあり、それを呼ぶ手段もあるのだろう。

「このカードは墓地のモンスターを全てデッキに戻すことで、特殊召喚が出来る! ……来い、《究極封印神エクゾディオス》!」

 墓地に送られていたモンスターたちが砕け散り、遊矢の手札から凝縮された力がフィールドに現れる。かの伝説の魔神のまた別の形態――怒りの雷火をフィールドに撒き散らしながら、《究極封印神エクゾディオス》はエドとD-HEROの前に姿を表した。

「くっ……!」

 その雷火はエドだろうがD-HEROだろうが遊矢だろうが無差別であり、何かの効果を発動した訳ではないだろうに、覇王城を崩壊させていく。エクゾディオスはそのまま雄叫びをあげ、さらなる破壊をもたらそうとしたが、間一髪のところで《神縛りの塚》から延びた鎖に阻まれた。

 両腕両足どころか首や胴までもが鎖で固定され、まるでまたも封印されたような様相を呈しているからか、そのステータスは攻守ともに0。

「さらに《高等儀式術》を発動。デッキから通常モンスターを墓地に送り、《終焉の王デミス》を儀式召喚する」

 その神の怒りに遊矢は動じることなくプレイを進めていき、エクゾディオスの他に新たなモンスターを儀式召喚する。《終焉の王デミス》は確かに強力な効果を持つモンスターではあるが、そのライフコストは2000と、残りライフが風前の灯火である遊矢に使用は実質不可能。その上ドグマガイに及ばないからか、守備表示での登場となった。

「そしてエクゾディオスは、墓地の通常モンスターの数×1000ポイント、その攻撃力をアップさせる」

「なるほどな……」

 そのエクゾディオスの効果によって、遊矢がわざわざ《終焉の王デミス》を儀式召喚した意味に得心がいった。《高等儀式術》によって、直接墓地に送られた三体の通常モンスターたちがエクゾディオスの供物となり、その攻撃力は一瞬にして3000となる。

「バトル! エクゾディオスでディバインガイに攻撃! エクゾード・ブラスト!」

「ドレッドガイのエフェクトを忘れたか! このターンD-HEROは破壊されず、僕は戦闘ダメージは受けない!」

 《激流葬》からD-HEROたちを守った効果は未だ健在であり、たとえ相手がエクゾディオスだろうと、今のエドにダメージを与えることは不可能だ。

「エクゾディオスは攻撃する時、デッキからモンスターを一枚墓地に送ることが出来る。よって、攻撃力は4000となる!」

 だがそんなことは遊矢も百も承知。全てはエクゾディオスの効果を発動する為であり、さらにエクゾディオスはその攻撃力を上げていく。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 遂に許してしまった神のカードの召喚。エドは緊張を表に出さないようにカードをドローすると、改めてフィールドを観察する。《神縛りの塚》に封印されているにもかかわらず、確かに神のカードとして相応しいオーラを纏っているエクゾディオスだったが、その攻撃力は今は4000。二体のD-HEROの攻撃力を合計した、ドレッドガイの方が今はまだ上回っている。つまり、ドレッドガイでエクゾディオスを攻撃すれば、ライフが残り200しかない遊矢はそれで終わり……だが、遊矢がそのことを分かっていない筈もない。

 だとすれば、その一枚伏せられたリバースカードへの撒き餌か。遊矢はこのターンを凌ぐことさえ出来たならば、あとは無限に攻撃力を上げるエクゾディオスで、D-HEROたちを攻撃すればいいだけだ。ならばあの伏せカードは、エドの攻撃を防ぐ為のものか。

「……僕は三体のD-HEROを守備表示にし、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 ……結論からすれば、エドはその賭けには乗らなかった。あの伏せカードを破壊する手段があったならば……と、今まで自分に向いていた『デュエルの流れ』が、エクゾディオス召喚から遊矢に流れているとエドは感じた。

「俺は《金満な壷》を発動! エクストラデッキのペンデュラムモンスターを三枚デッキに戻し、カードを二枚ドローする!」

 エドのフィールドの《幽獄の時計塔》の針がまた進んでいく。かの汎用ドローカード《貪欲な壷》の亜種カード、ペンデュラムモンスターをデッキに戻す《金満な壷》が発動され、遊矢はカードを二枚ドローする。ペンデュラムモンスターは、エクストラデッキに溜まれば溜まるほど力を増す筈だが、もはやペンデュラムモンスターなど必要ではないということか。

「《終焉の王デミス》を攻撃表示に変更し、さらに永続魔法《フィールドバリア》を発動!」

 攻撃体勢に入る《終焉の王デミス》とともに発動されたカードは、フィールド魔法にも破壊耐性を付与し、新たなフィールド魔法の発動を無効にする永続魔法《フィールドバリア》。これで遊矢の《神縛りの塚》を破壊することだけでなく、エドの《幽獄の時計塔》の破壊された時に発動する、一発逆転の可能性を秘めた効果が封じられる。

「バトル! 究極封印神エクゾディオスで、ドグマガイに攻撃! エクゾード・ブラスト!」

 エクゾディオスの放った雷火にドグマガイは消し飛び、守備表示であるにもかかわらずエドに多大な衝撃を与えた。エクゾディオスの攻撃時に新たなモンスターが墓地に送られていき、これでエクゾディオスの攻撃力は5000となった。通常モンスターということで《ネクロ・ガードナー》などの心配はないが、このままではエクゾディオスは無限に攻撃力を増していく。

「さらに《神縛りの塚》の効果を発動! レベル10のモンスターが相手モンスターを破壊した時、相手ライフに1000ポイントのダメージを与える!」

「なに……ぐうっ!?」

エドLP4000→3000

 デュエルが始まって以来のエドへの初ダメージは、フィールド魔法《神縛りの塚》によるバーンダメージ。エクゾディオスの雷火が祭壇を伝わってエドに加えられ、信じられない火力に口から苦痛の声が湧く。

「さらにデミスでドレッドガイを攻撃!」

 いくらドレッドガイといえども、今のフィールドにいる他のD-HEROはディバインガイのみ。それでは高いステータスを維持することが出来ず、あっさりと《終焉の王デミス》に破壊されてしまう。

「俺はこれでターンエンド」

「くっ……僕のターン、ドロー!」

 《究極封印神エクゾディオス》の登場から、あっという間に盤面はひっくり返されてしまう。神のカードなどと言うだけのことはある、とディバインガイのみになったフィールドを見ながら、エドは気迫を込めてカードをドローした。

 遊矢のフィールドには《究極封印神エクゾディオス》に《終焉の王デミス》、そしてフィールド魔法《神縛りの塚》と《フィールドバリア》に一枚のリバースカード。効果が使えない《終焉の王デミス》はともかく、攻撃力が5000にまで到達したエクゾディオスに、《幽獄の時計塔》を実質封印する《フィールドバリア》、そして恐らくはこちらの攻撃を防ぐリバースカードは驚異そのものだ。

「僕は《D-HERO ドレッドサーヴァント》を召喚!」

 それでもエドは、自らが信じるヒーローたちを展開していく。相手が神のカードだろうとなんだろうと、まだ打つ手はあるのだと。

「ドレッドサーヴァントのエフェクト発動! このカードが召喚された時、《幽獄の時計塔》の針を一つ進める!」

 エドのフィールドに発動している《幽獄の時計塔》が、ドレッドサーヴァントの効果により遂に9時を指す。次の遊矢のスタンバイフェイズで12時となり、これで《幽獄の時計塔》は真の効果を発揮することが可能になる。

「さらにセメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動! このカードを除外することで、デッキから同名モンスターを特殊召喚する! カモン、ディアボリックガイ!」

 さらに先のターンで《デステニー・ドロー》によって墓地に送られていた、《D-HERO ディアボリックガイ》が遂にその効果を発動し、デッキから姿を現した。これによってエドのフィールドのモンスターは三体――ドグマガイと双璧をなす切り札の召喚条件が整った。

「来るか、最強の『D』……!」

「三体のD-HEROをリリースし、現れろ! 《D-HERO Bloo-D》!」

 ディアボリックガイ、ドレッドサーヴァント、ディバインガイ――三体のD-HEROたちが出現した血の池に呑まれていくと、そこから新たなヒーローが姿を現した。血の池はそのヒーローの翼となっていき、最強の『D』ことBloo-Dが完全な姿で降臨する。

「Bloo-Dの効果発動! 相手モンスター一体を吸収し、装備カードとする! クラプティー・ブラッド!」

 Bloo-Dの血の翼の一部から、その力を奪い取ろうと、触手のように赤い血が伸びていく。ただ、それと同時に《神縛りの塚》が光ったかと思えば、その触手はエクゾディオスに近づけないでいた。

「だが《神縛りの塚》がある限り、レベル10モンスターは効果の対象にならない!」

 遊矢とエドの前回のデュエルにおいて、その効果をフルに使用してフィニッシャーとなったBloo-D。もちろん遊矢がその効果を覚えていない訳でも、対策をしていない訳でもない。

「だが《終焉の王デミス》はレベル8。デミスをBloo-Dに装備する!」

 しかしてその対策は完全ではなく。確かにエクゾディオスは《神縛りの塚》によって防がれたが、代わりに《終焉の王デミス》がBloo-Dに吸い込まれていき、その力を吸収されてしまう。

「バトル! Bloo-Dでエクゾディオスにアタック!」

「…………ッ!」

 Bloo-Dはその効果により、吸収した相手モンスターの攻撃力の半分の攻撃力を得る。《終焉の王デミス》の攻撃力は2400――よって1200の攻撃力がアップし、元々の攻撃力と合わせて3100となっている。

 なかなかの攻撃力だが、無限に攻撃力を上げるというエクゾディオスには及ばない――という訳ではなかった。5000という圧倒的攻撃力を誇るエクゾディオスは、今やその力を失い倒れ伏しているも同然なのだから。鎖によってがんじからめにされていなければ、本当に倒れ伏していたのだろう。

「Bloo-Dがいる時、相手のモンスターエフェクトは全て無効となる……いけ、ブラッディ・フィアーズ!」

 Bloo-Dのもう一つの効果。このモンスターが存在する時、相手のモンスター効果を全て無効化する、という疑似《スキルドレイン》とでもいうような効果。《神縛りの塚》で防げる対象を取る効果ではないため、その効果の対象範囲内は神のカードだろうと例外ではなく、エクゾディオスは効果を無効化されて攻撃力は0。

 ……他のカードの効果の干渉を受けるのは、遊矢の使う《究極封印神エクゾディオス》が、未だ未完成ということの証明だろうか。

「くっ……リバースカード、オープン! 《究極封印防御壁》!」

 Bloo-Dの発射した血の針がエクゾディオスを貫くより早く、遊矢の発動したリバースカードからバリアが発生し、血の針は全てそれに阻まれエクゾディオスに届くことはなかった。

「永続罠《究極封印防御壁》は、《究極封印神エクゾディオス》がいる時、相手のバトルフェイズをスキップする」

「ほう……」

 確かにエドの読み通り、遊矢の伏せていたカードは攻撃を防ぐためのものだったが、予想よりも遥かに厄介な代物だった。《究極封印防御壁》は永続罠のため、このままではエクゾディオスがいる限り、エドは攻撃をすることは出来ない。

「ターンを終了する」

「……俺のターン、ドロー!」

 遊矢がカードを引いた直後、《幽獄の時計塔》の針は再び12時を指し、時計の音をフィールドに広げていく。Bloo-Dの召喚により、再び戦況はエドの優勢へと返り咲いた――

「俺は魔法カード《封印されし者の憤怒》を発動!」

 ――訳ではなかった。遊矢が従えている《究極封印神エクゾディオス》は、不完全と言えども神のカードそのものであり、この程度で揺さぶられる『格』ではない。魔法カードの発動とともにエクゾディオスが雄叫びをあげると、エクゾディオスはみるみるうちに力を取り戻していく。

「なに!?」

「魔法カード《封印されし者の憤怒》は、エクゾディオスがいる時、フィールドで発動しているカードの効果を選択し、無効にする!」

 当然ながら遊矢が無効にするように選択したのは、フィールドを一時制圧した切り札《D-HERO Bloo-D》。相手モンスターを吸収する効果を無効にされ、装備していた《終焉の王デミス》が遊矢の墓地に送られるとともに、相手モンスターの効果を無効化する効果も無効となる。

 よってエクゾディオスは、墓地の通常モンスターの数だけ攻撃力を上げる効果を取り戻し、再びその攻撃力は5000へと返り咲いていく。

「バトル! エクゾディオスでBloo-Dに攻撃! エクゾード・ブラスト!」

「だが《幽獄の時計塔》が再び12時を指した時、全ての戦闘ダメージを無効にする!」

 力を取り戻したエクゾディオスの力は圧倒的であり、《終焉の王デミス》を失ったBloo-Dと比べるべくもなく。その一撃に何の抵抗もなくBloo-Dがかき消されていくが、そのダメージは《幽獄の時計塔》に吸収されエドには届かない。

 ……だが、《神縛りの塚》の祭壇に、その雷火の残りカスが充填されていく。

「《神縛りの塚》の効果により、1000ポイントのダメージを与える!」

「がっ……!」

エドLP3000→2000

 《幽獄の時計塔》はあくまで戦闘ダメージをシャットアウトするのみで、《神縛りの塚》によって発生する効果ダメージを防ぐことは出来ない。Bloo-Dを破壊したことによる1000ポイントのダメージがエドを襲い、エクゾディオスの力の一端だとしても気絶してしまいそうな威力を保っていた。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 だからといって倒れるわけにはいかない。エドは意識を強く保ちながらカードをドローすると、そのカードをそのままデュエルディスクにセットする。

「通常魔法《ドクターD》を発動! セメタリーのD-HEROを除外することで、同じくセメタリーのD-HEROを特殊召喚する! カモン、《D-HERO ダイヤモンドガイ》!」

 エドがドローし、そして発動したカードは、D-HEROの専用蘇生魔法《ドクターD》。その効果によって、墓地からダイヤモンドガイを特殊召喚することに成功するが、その手は遊矢にとって考えに至っていなかった。

 何故なら《幽獄の時計塔》の効果により、戦闘ダメージを全て無効にすることが出来るため、現状ではモンスターを出す意味がない。いや、むしろ《神縛りの塚》のバーンダメージのトリガーとなってしまうため、モンスターを出すのはダメージを誘発するだけの筈だ。

 それでもダイヤモンドガイを特殊召喚したということは、デッキトップの魔法カードを未来に飛ばす――その効果に全てを託しているからか。

「ダイヤモンドガイのエフェクト、ハードネス・アイを発動! 運命よ……僕に応えてみせろ!」

 運命を司るヒーローたちを操るエド。ただ運否天賦に身を任せているわけではなく、自らの運命に自分の命すらも賭けたのだ。そしてダイヤモンドガイが導く、運命の魔法カードは――

「……魔法カード《オーバー・デステニー》の発動が決定した!」

 未来に飛ばされたのは魔法カード《オーバー・デステニー》。発動条件はあれど、デッキから直接D-HEROを特殊召喚する、という強力な効果を持つ。

 そして、そのダイヤモンドガイの効果は、エドの勝利が次のターンに確定した瞬間だった。

「……ターン、エンドだ」

 もはやエドに出来ることは何もない。ただ次のターンまで、その残り2000のライフを守りきるのみだ。防御するためのカードも何もないが、どうせエクゾディオス相手には無力だ。あろうが無かろうが変わらない。

「俺のターン……ドロー」

 そして自身の敗北までが秒読みであることを、遊矢もまた分かっており、苦々しい顔でカードをドローする。

 エドの次のターンに発動が決定した《オーバー・デステニー》の効果は、墓地のD-HEROを除外しそのレベルの半分のモンスターを、デッキから特殊召喚するというものだ。エドの墓地にはレベル8のドグマガイにBloo-D、ドレッドガイがおり、そのデッキには相手にバーンダメージを与える《D-HERO ダンクガイ》が控えている。

 つまり、このターンでエドを倒すことが出来なければ、残りライフ200の遊矢は、ダンクガイのバーンダメージに敗北する。たとえ神のカードがフィールドにいようとも、ライフが0になれば敗北は決定するのだから。

「……バトル!」

 ドローしたカードを手札に加えながら、遊矢はメインフェイズに何をする訳でもなく、そのままバトルフェイズに移行する。エクゾディオスはその声に応えて雄叫びをあげ、エドは覚悟を決めてその一撃を待ち構える。

「……来い! 遊矢!」

「エクゾディオスでダイヤモンドガイに攻撃! エクゾード・ブラスト!」

 遂に天上の雷火はフィールド全体を焼き尽くすまでに成長し、ダイヤモンドガイをついでのように消滅させていく。ただし《幽獄の時計塔》から発せられるバリアによって、エドがいるところだけは安全地帯となっていた。

「《幽獄の時計塔》のエフェクトにより、戦闘ダメージは無効となる」

「だが《神縛りの塚》の効果により、1000ポイントのダメージを与える!」

 《神縛りの塚》から放たれた雷火により、遂に《幽獄の時計塔》のバリアは破られてしまい、エドの身を焼いていく。だが、エドもそのダメージは覚悟の上。悲鳴一つを上げることなく耐えてみせる。

「これで終わりか? ――遊矢!」

エドLP2000→1000

 これでエドの残るライフは1000ポイントと、《神縛りの塚》のバーンダメージ一回分までに落ち着いてしまう……が、まだ生きている。ライフがいくらになろうと、まだ生きていればデュエルは続行されるのだから。

「……いや、まだだ。リバースカード、《未来王の予言》を発動!」

 ――そして遊矢も最後のリバースカードを発動する。先のターンに伏せられていた、このデュエルに終わりを告げるための切り札を。

「《未来王の予言》は、魔法使い族モンスターが相手モンスターを破壊した時、あらゆる召喚を封じることで、再度攻撃を可能とする!」

「二回攻撃……だが、戦闘ダメージは無効にされ、僕のフィールドにモンスターはもういない!」

 確かにエドがそう言う通り、このタイミングで二回攻撃を可能としたところで、エドにダメージを与えることは出来ない。戦闘ダメージは《幽獄の時計塔》の効果で無効にされ、《神縛りの塚》のバーンダメージを与えようにも、トリガーとなるモンスターはもういない。……だが、そうも言ってられない状況になっていく。

「…………!」

 エクゾディオスの前に魔法陣が出現し、その魔法陣には雷火ではなく業火が出現していくと、うっすらと首がない魔神の姿が映っていく。

 陽炎のように揺らめくその魔神は、かの伝説の――エクゾディアそのものだった。

「なんだ……何が起きている……」

 エドには何かが起きようとしていることしか分からず、その異様な光景に息を飲んでしまう。そして遊矢はデッキから一枚のカードを引き抜くと、ゆっくりと口を開きだした。

「エクゾディオスの最後の効果。このカードの効果でエクゾディアパーツを五枚墓地に送ることで、特殊勝利が決定する……」

「特殊勝利……エクゾディア……か」

 ……遊矢がデッキから引き抜いたカードは、《封印されしエクゾディア》のカード。《究極封印神エクゾディオス》の攻撃と同時に墓地に置かれ、魔法陣の前に揺らめいていた《エクゾディア》が完成する。これまでの五回の攻撃は全て、エクゾディオスの攻撃力を上げるためではなく、この特殊勝利の効果のため。

「…………。エクゾディオスの攻撃、天上の業火――」

「カイザー! 逃げろ!」

 そしてエドは自らの敗北を悟る。エクゾディアというのは、デュエリストにとってそういうモノであり、戦闘ダメージを無効にするとか効果ダメージを与えるとか、そういう次元の話をしているのではないのだ。そして最後に背後にいる筈のカイザーとその弟に叫ぶ。エドが最後に見たものは、業火が揺らめいている魔法陣に完成したエクゾディアと、遊矢の――

「――エクゾード・フレイム!」

エドLP1000→0


「……亮と翔は……逃がしたか」

 ……全てが燃え尽きた覇王城の屋上にて、ソリッドビジョンを消した遊矢はそうひとりごちた。目的だった翔に亮、そして気絶していた十代の姿はもうどこにもなく、ここにはもう意味のあるものは何もない。

「エド……明日香だけじゃなく……エドまで……」

 こんな形での決着を望んでいた訳ではないのに。

「……もう、止めることなんて出来やしない……出来やしないんだ……」
 

 

―見えない地平―

「…………」

 覇王城、ジェノサイドブリッジの攻略戦の後しばし。とある野営地で、カイザーこと丸藤亮は一人、もの思いに耽っていた。空を見ると、自分たちの世界では見ることは珍しい、満点の星空が広がっていた……代わりにこの世界には夜しかないわけだが。

「……カイザー」

 そんな亮に話しかけてきたのは、青い制服を着た二人組。先程の覇王城での決戦の際に、撤退ルートを示してくれた三沢大地にクロノス教諭である。二人とエドのおかげで、亮は十代と翔を連れて覇王城から撤退することが出来ていたのだ。

「三沢、十代はどうだ?」

「あ、ああ。今は翔と二人で話してるが……ダメだな、すっかりふさぎ込んでいる」

「仕方のないことナノーネ……」

 自分の意志でなかったとはいえ、覇王であった時の経験は十代の心に深い闇を落としていた。……確かにそれも心配だが、今はそれよりも考えなくてはならないことがある。

「シニョール遊矢のことナノーネ……」

 亮から話を聞いていたクロノス教諭が小さく呟く。神のカードの封印を解くために、翔が持つ悲しみのカードを追っていること。エドをも打ち負かし――この世界で打ち負かすという事は――今も、翔のことを狙っているということ。

「シニョール遊矢は……真面目すぎるノーネ……」

「カイザー、遊矢とは俺に戦わせてくれ。あいつとは俺が一番戦ってきたんだ」

「……ダメだ。三沢、お前では今の遊矢には勝てない」

 こうして逃げ回っていても、神のカードの力を不完全ながら得た遊矢から、いつまでも逃げられる訳でもない。かつての親友として、異世界で戦い抜いてきたデッキを構えて三沢はそう宣言するものの、亮にバッサリと否定されてしまう。

「今の遊矢は、君が知っている遊矢ではない。エクゾディオスを見たことのない三沢よりは、俺が戦った方がまだ勝率はあるだろう」

 亮が訥々と語っていく理由に、三沢は反対意見を口にすることが出来ない。確かに亮の言う通り、実力の面や情報面でも、確実にカイザーの方が勝率は高いのだから。

「……なら、あなたは遊矢を殺すことが出来るのか、カイザー」

「出来る」

 この世界におけるデュエルの勝利という事は、つまりそういうこと――そう問いかけた三沢の質問に、亮は一瞬の躊躇もなく肯定の言葉を言ってのけた。

「翔を守るためなら、俺は悪魔にでも魂を売ろう」

 カイザー亮がそんな意味深な言葉を吐くとともに、その大地に地響きが鳴り響いた。地震のように感じられたが、一瞬で収まると――

「……邪心経典を差し出す気がないのなら、そうするしかない」

 ――そこには、件の少年である黒崎遊矢が現れていた。三沢にクロノス教諭は、驚愕しながらも彼の名を呼ぶものの、遊矢はその呼び声に応えることはなく。ただ静かにデュエルディスクを展開する。

「…………」

 もはや言葉など意味をなさない。それが分かっている亮も、デュエルディスクにデッキを装着し、遊矢とデュエル出来る距離に近づいていく。

「三沢、さっきの地震は……遊矢!」

「お兄さん……」

 野営地から十代と翔も姿を現し、その一触即発の気配を感じて三沢たちに合流する。……もはや彼らは観客に過ぎず、二人のデュエルを止めることは出来なかった。

 ……それと同様に、エドを消滅させてしまった時点で、遊矢にももう退くことは出来なくなっていた。ここで諦めてしまえば、ただエドと明日香は無駄死にになってしまう、と。誰を犠牲にしても、最後には神のカードの力で全員を蘇らせれば、それで――

『……デュエル!』

遊矢LP4000
亮LP4000

 ――それが間違っているとは分かっていても。遊矢に亮……両者ともに、悪魔に魂を売ろうとも。

「俺の先攻」

 得も知れぬ緊張感の中、先攻を掴んだのは遊矢。そのデッキはエクゾディオスから変わりはない。

「モンスターをセット。さらに永続魔法《凡骨の意地》を発動し、ターンエンド」

 最初のターンは特に行動を起こさずに、遊矢は《凡骨の意地》という次のターンへの布石を打ったのみで、まずはターンを終了する。この異世界で手に入れた《イグナイト》と名のつくペンデュラムモンスターは、いずれもモンスターとしてはただの通常モンスターであり、《凡骨の意地》はその為であろう。

「俺のターン、ドロー」

 いつも以上に冷静沈着な声をもって、カイザー亮のターンが始まる。まずは十八番の《サイバー・ドラゴン》か、それともいきなり《融合》か――と遊矢が警戒するなか、亮は一枚の魔法カードを発動する。

「俺は《竜の霊廟》を発動。デッキからドラゴン族モンスターを墓地に送り、そのモンスターが通常モンスターならば、さらにもう一体のモンスターを墓地に送る」

「《竜の霊廟》……!?」

 デッキから通常モンスターを含む、二枚のドラゴン族モンスターを墓地に送る亮の姿に、驚愕の声をあげたのは対戦相手である遊矢だけではなかった。カイザー亮といえば《サイバー・ドラゴン》、サイバー・ドラゴンといえばカイザー亮。それほどまでのイメージを誇っていた彼が、ドラゴン族のサポートカードを使う姿など、想像もつかなかったからだ。

「言ったはずだ、悪魔にでも魂を売ると。俺は《サイバー・ダーク・キール》を召喚する!」

 ……亮が神のカードに対抗する為にデッキに投入したのは、裏サイバー流とも言われる禁じられたカード。その名の通り、白銀の《サイバー・ドラゴン》とは対になるように、召喚されたモンスターは漆黒に染まっていた。

 この異世界に来るにあたって、マスター鮫島から託されていたこの裏サイバー流のカード。使うことはないだろうと考えていたが、今の遊矢に対抗するには、このカードの力も必要不可欠だと考えた。

 外道には外道をもって。今、封印されていたサイバー・ダークが牙を向く。

「《サイバー・ダーク・キール》の効果を発動! 墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスターを装備することで、その攻撃力を得る!」

 《竜の霊廟》で墓地に送っていた、ドラゴン族の通常モンスターである《ハウンド・ドラゴン》が装備され、《サイバー・ダーク・キール》は元々の攻撃力である800と併せて攻撃力を2500にまで上昇させる。

「サイバー・ダーク、か……!」

「バトル。サイバー・ダーク・キールでセットモンスターに攻撃! ダーク・ウィップ!」

 一瞬にしてその攻撃力を上級モンスターの領域にまで上げた、裏サイバー流のモンスターに遊矢が戦慄すると同時、亮が《サイバー・ダーク・キール》に攻撃を命じる。もちろん遊矢が伏せていたモンスターは、その攻撃を防ぐことは出来ず、ダメージはないがあっけなく破壊されてしまう。

「破壊されたのは《イグナイト・イーグル》。よって墓地ではなく、エクストラデッキへと置かれる」

 しかしてただやられる訳ではなく、遊矢もそのペンデュラムモンスターの特性を活かし、さらなる反撃の準備を整える。だがその前に《サイバー・ダーク・キール》の獰猛な鞭は、遊矢のことを捉えていた。

「《サイバー・ダーク・キール》が相手モンスターを破壊した時、300ポイントのダメージを与える!」

遊矢LP4000→3700

 予想外に受けることになったダメージに、遊矢は顔をしかめるものの、幸いにもたかが300ポイントのダメージ。まだまだ気にする必要はないと判断し、それより必要なのは亮の動きに警戒することだ。

「メインフェイズ2。フィールド魔法《ブラック・ガーデン》を発動する」

 亮のフィールド魔法の発動とともに、夜の異世界に薔薇の茨が生い茂っていく。遊矢と亮を闘技場のごとく囲むように展開するが、茨の動き自体は、何かを狙うようにうねうねと動きを止めない。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了」

「俺のターン、ドロー……《凡骨の意地》の効果を発動する」

 この局面で最も信頼する《サイバー・ドラゴン》たちではなく、あえて裏サイバー流で立ち向かってくる――遊矢には亮が何を考えているかは分からないが、とにかく今の亮はアカデミアで戦ってきた亮でないということは分かる。だが、それは遊矢も同じだ。

「《凡骨の意地》により、ドローしたモンスターが通常モンスターだった場合、さらにもう一枚ドロー出来る! ……二枚目も通常モンスターにより、さらにドロー」

 先述の通り、今の遊矢のデッキを占める《イグナイト》モンスターたちは、ほぼ全て通常モンスター。よって《凡骨の意地》の発動トリガーとなると、遊矢は労せずして二枚のペンデュラムモンスターを手札に加える。
「俺はスケール2の《イグナイト・キャリバー》と、スケール7の《イグナイト・ドラグノフ》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 ならば行われるべきは、ペンデュラムスケールのセッティング。《凡骨の意地》によってドローされた二枚のイグナイトモンスターにより、遊矢はレベル3から6のモンスターが同時に召喚可能となる。

「ペンデュラム召喚! 現れろ、イグナイトモンスター!」

 手札とエクストラデッキ、それぞれ一枚ずつイグナイトモンスターがペンデュラム召喚される。しかし《サイバー・ダーク・キール》の攻撃力には適わないのか、召喚された《イグナイト・ライオット》と《イグナイト・イーグル》のどちらもが守備表示での登場だった。

 ――そして魔法陣から現れた二体のモンスターに、魔界の薔薇が絡みついた。

「《ブラック・ガーデン》の効果を発動。モンスターが現れた時、そのモンスターの攻撃力を半分にする」

「……!」

 召喚された二体のイグナイトモンスターが茨に絡め取られ、養分を吸収するようにその攻撃力を吸収する。召喚するだけで上級モンスターほどの攻撃力を持つ《サイバー・ダーク》を相手に、召喚したモンスターの攻撃力を半分にする、というのは単純にどうしようもない効果だ。

 しかし今回は守備表示での召喚のため、幸いなことに影響はない。効果を知れただけでも助かったと考えた遊矢の前に、《ブラック・ガーデン》の蕾が亮のフィールドに花を咲かせた。

「さらにこちらのフィールドに、ローズトークンを特殊召喚する」

 モンスターの養分を吸い、花を咲かせる魔界の花園――そう異名を取る《ブラック・ガーデン》の通り、亮のフィールドにモンスタートークンという花を咲かせる。攻撃力は僅か800程度のモンスターではあるが、攻撃力が半分となった今では十分な脅威。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド

「俺のターン、ドロー」

 サイバー・ダークの前に早くも防戦一方な遊矢を追いつめるように、亮はただ淡々とカードを引くと、迷わずにさらなる一手を繰り出した。

「俺は《サイバー・ダーク・ホーン》を召喚する」

 既にフィールドにいる《サイバー・ダーク・キール》に引き続き、新たなサイバー・ダークがフィールドに召喚される。まずは共通効果たる墓地のドラゴン族の装備……より早く、魔界の花園が養分を得ようとその身体を捕縛する。

「《ブラック・ガーデン》は俺のフィールドにも適応される。よって、相手フィールドに《ローズトークン》を特殊召喚する」

 フィールド魔法たる《ブラック・ガーデン》は、自分や相手の区別はなくその効果を適応する。よって、召喚された《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力は半分となり、遊矢のフィールドにそれを養分として《ローズトークン》が攻撃表示で特殊召喚される。

「《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力は半分となった……が、効果を発動し、墓地の《ハウンド・ドラゴン》を装備する!」

「つまり攻撃力は……!」

 確かに《ブラック・ガーデン》の攻撃力を半分にする効果からは逃れられないが、サイバー・ダークたちの元々の攻撃力は僅かに800。ローズトークンと同じ程度でしかなく、そこからドラゴン族を装備し攻撃力が決まる。

 よって元々の攻撃力を半分にした数値に、《ハウンド・ドラゴン》を装備した分の攻撃力となり、最終的なその攻撃力は2100。《ブラック・ガーデン》によって半減する遊矢のモンスターを殲滅するには、何てことはないステータスを誇っていた。

「バトル。《サイバー・ダーク・キール》で、ローズトークンに攻撃! ダーク・ウィップ!」

 さらに、効果はそれだけではない。いくらイグナイトモンスターで守備を固めようと、《ブラック・ガーデン》にの効果が一度発動すれば、《ローズトークン》が遊矢のフィールドに強制的に召喚される。しかも攻撃表示で、だ。もちろんそれを見逃さない亮ではなく、攻撃力2500を保っている《サイバー・ダーク・キール》がローズトークンを狙う。

「伏せていた《スピリットバリア》を発動! 戦闘ダメージを0にする!」

「……だが《ローズトークン》は破壊された。《サイバー・ダーク・キール》の効果により、300ポイントのダメージを受けてもらう」

遊矢LP3700→3400

 ステータスは低いものの、スケールを維持すれば半永久的に壁となる、ペンデュラムモンスターの特性から採用した、《スピリットバリア》が遊矢への戦闘ダメージを防ぐ。しかし《サイバー・ダーク・キール》の効果までは防げず、《ローズトークン》の戦闘破壊をトリガーに300ポイントのダメージが遊矢に与えられる。

「さらに《サイバー・ダーク・ホーン》で《イグナイト・イーグル》に攻撃。ダーク・スピア!」

 貫通効果を持った一撃が、壁として召喚されていた《イグナイト・イーグル》を襲うものの、その戦闘ダメージは《スピリットバリア》によって無効化される。もちろん《イグナイト・イーグル》は破壊されてしまうが、ペンデュラムモンスター故にエクストラデッキで次なる召喚を待つのみだ。

「これで俺はターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これで亮のフィールドには《サイバー・ダーク・ホーン》と《サイバー・ダーク・キール》という二種のサイバー・ダークに、守備表示となった《ローズトークン》、フィールド魔法《ブラック・ガーデン》と一枚の伏せカード。対する遊矢のフィールドは、攻撃力が半減した《イグナイト・ライオット》のみだが、2つのペンデュラムスケールがセッティングされており、永続罠《スピリットバリア》に通常魔法《凡骨の意地》も発動されている。

 ペンデュラムスケールがセッティングされている限り、ペンデュラムモンスターたるイグナイトたちは不死身であり、再び空中に魔法陣が映し出された。

「ペンデュラム召喚! 現れろ、《スピリチューアル・ウィスパー》! 《イグナイト・イーグル》!」
 エクストラデッキからはまたも《イグナイト・イーグル》、手札からは《スピリチューアル・ウィスパー》がそれぞれ守備表示で召喚される。それに《ブラック・ガーデン》の茨が反応し、モンスターの攻撃力を半分にしながら、亮のフィールドに《ローズトークン》を生み出した。

「《スピリチューアル・ウィスパー》がペンデュラム召喚に成功した時、デッキから儀式モンスターか儀式魔法を手札に加えることが出来る。俺は《リトマスの死儀式》を手札に加え、発動する!」

 幸せを呼ぶ青い鳥とでも言うのか、《スピリチューアル・ウィスパー》が羽ばたくと、デッキから一枚のカードが遊矢の手札に加えられる。そして二体のイグナイトモンスターを素材にすることで、新たな儀式モンスターが特殊召喚される。

「イグナイトたちをリリースし、儀式召喚! 《リトマスの死の剣士》!」

 二刀を持った死を司る剣士。イグナイトモンスターを供物に儀式召喚されたが、もちろんそんなモンスターだろうと例外なく《ブラック・ガーデン》は発動し、魔界の茨はその身体を絡め取っていく……が、その《リトマスの死の剣士》の攻撃力は元々0。半減することはない。

 しかし《ローズトークン》は亮のフィールドに特殊召喚され、亮のフィールドが三体のトークンを含む五体のモンスターで埋まる。そして《ブラック・ガーデン》の茨が《リトマスの死の剣士》を解放すると、みるみるうちに《リトマスの死の剣士》はその攻撃力を解放していく。

「《リトマスの死の剣士》は、フィールドに罠カードがある限り、攻撃力が3000に固定される!」

「…………」

 亮はその儀式モンスターのことを知っていた。《リトマスの死の剣士》――攻撃力と守備力が共に0だが、実質永続罠がある限り攻撃力が3000に固定され、戦闘と罠に耐性を持つ儀式モンスター。その効果は《ブラック・ガーデン》をも受け付けず、サイバー・ダークたちの攻撃力をあっさりと超える。

「バトル! 《リトマスの死の剣士》で……《サイバー・ダーク・ホーン》に攻撃!」

 遊矢は亮のフィールドのどのモンスター――最も攻撃力が高い《サイバー・ダーク・ホーン》、貫通効果を持つ《サイバー・ダーク・キール》、低い攻撃力を晒したままの《ローズトークン》――のどれを標的にするか考え、最終的には最も攻撃力が高い《サイバー・ダーク・ホーン》を選択する。《リトマスの死の剣士》の二刀が煌めき、《サイバー・ダーク・ホーン》を切り刻む……かと思えば、切り刻んだのは装備されていた《ハウンド・ドラゴン》のみだった。

「サイバー・ダークは破壊される時、装備モンスターを身代わりにすることが出来る」

「……だがダメージは受けてもらう!」

 サイバー・ダークには共通効果として、装備されていたモンスターを身代わりにする効果を持つが、遊矢の言うとおりダメージまで防ぐことは出来ない。《ハウンド・ドラゴン》の破片が亮の頬を掠め、初ダメージとしてライフポイントを削る。

亮LP4000→3500

 また、《ハウンド・ドラゴン》を失った《サイバー・ダーク・ホーン》の攻撃力は元に戻り、ローズトークンと同じ僅か800。戦闘に耐えうる数値ではない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 カードを一枚新たに伏せ、遊矢のフィールドは《リトマスの死の剣士》に守備表示の《スピリチーュアル・ウィスパー》、さらに二対のペンデュラムモンスターに《スピリットバリア》にセットカード。サイバー・ダークたちの攻撃力を超える《リトマスの死の剣士》の降臨に、亮が新たに打つ手は……

「俺は《トークン復活祭》を発動!」

 ……フィールドのローズトークンたちを利用することだった。

「《トークン復活祭》は、自分フィールドのトークンを破壊した数だけ、相手フィールドのカードを破壊する。俺のフィールドには《ローズトークン》が三体!」

 カイザー亮ともあろうものが、ただ考えなしに自分フィールドを圧迫する《ローズトークン》を特殊召喚する訳もなく、専用の魔法カード《トークン復活祭》のトリガーとなる。まずは亮のフィールドの《ローズトークン》が破壊され、連鎖的に遊矢のフィールドの《リトマスの死の剣士》、《スピリットバリア》、伏せていた罠カード《イグナイト・バースト》が破壊される。。

「《リトマスの死の剣士》が……!」

 《トークン復活祭》は魔法カード、戦闘と罠に耐性を持った《リトマスの死の剣士》でも防ぐことは出来ず、あっさりと《ローズトークン》の道連れになってしまう。これからの主軸と目していたモンスターがあっさり破壊され、遊矢のフィールドのモンスターは守備表示の《スピリチュアル・ウィスパー》のみとなった。

 伏せカードとして破壊された《イグナイト・バースト》には、エクストラデッキのペンデュラムモンスターを回収する効果があるが、今は特に発動する理由はない。

「俺は《サイバー・ダーク・エッジ》を召喚する」

 そして、その隙を亮は見逃さない。三種目のサイバー・ダークこと、《サイバー・ダーク・エッジ》が新たに召喚され、《ブラック・ガーデン》がその効果を発動する。《ローズトークン》が遊矢のフィールドに特殊召喚され、《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃力は半分になるものの、墓地の《ハウンド・ドラゴン》を装備して事なきを得る。

「バトルを行う。《サイバー・ダーク・エッジ》でローズトークンを攻撃、カウンター・バーン!」

「ぐあっ!」

遊矢LP3400→2100

 特殊召喚されるなり《サイバー・ダーク・エッジ》に《ローズトークン》は破壊され、むしろ遊矢へのダメージソースとなる。さらに他二種のサイバー・ダークの連撃が続く。

「《サイバー・ダーク・ホーン》で《スピリチュアル・ウィスパー》に攻撃、ダーク・スピア》!」

「……だが《スピリチューアル・ウィスパー》は、一度だけ戦闘では破壊されない!」

 儀式モンスターのサーチカードたる青い鳥は、それだけでなく一度限りの戦闘破壊耐性に2000の守備力を備えている。《サイバー・ダーク・キール》の貫通ダメージは防げないが、続く《サイバー・ダーク・ホーン》による攻撃は、《ハウンド・ドラゴン》を失った今行えない。

遊矢LP2100→2000

 戦闘破壊耐性があるならば、《トークン復活祭》の破壊効果を《スピリチューアル・ウィスパー》に回しても良かったか――とは考えたが、今更どう思おうが後の祭りだ。ペンデュラム召喚という、異世界の召喚法の関連カードまで、流石の亮も把握しきれてはいない。

「《サイバー・ダーク・ホーン》を守備表示にし、ターンエンドだ」

 《スピリチューアル・ウィスパー》の戦闘破壊耐性により攻撃のチャンスを失い、《ハウンド・ドラゴン》も失った為に攻撃力が低下した《サイバー・ダーク・ホーン》が守備表示となる。亮はこれでターンを終えると、そのフィールドは三体のサイバー・ダークに《ブラック・ガーデン》、ずっと伏せられたままのリバースカード。

「俺のターン、ドロー……引いたのは通常モンスター、《イグナイト・マグナム》。よってもう一枚ドロー!」

 2ターン目ぶりに《凡骨の意地》の効果が発動すると、《イグナイト・マグナム》とさらにもう一枚ドローし、そのドローフェイズを終える。

「ペンデュラムゾーンの《イグナイト・キャリバー》の効果を発動! ペンデュラムゾーンにある二枚のイグナイトモンスターを破壊することで、デッキから炎属性・戦士族モンスターを手札に加える!」

 維持されていた二対の光の柱が自壊していき、遊矢の手札に新たなイグナイトモンスターが加えられる。ペンデュラムゾーンで破壊されたイグナイトモンスターも、ただエクストラデッキに移動しただけであり、遊矢の手札には二枚のペンデュラムモンスターが控えている。

「さらに魔法カード《大嵐》を発動!」

「なにっ……!」

 ペンデュラム召喚か――と考えていた亮の眼前に示されたのは、フィールドの全ての魔法・罠カードを破壊する《大嵐》。遊矢のフィールドにあるのは《凡骨の意地》のみだが、亮のフィールドには《ブラック・ガーデン》に一枚の伏せカード――さらに、サイバー・ダークが装備したモンスターがある。

 モンスターと言えども装備魔法として扱われている以上、《大嵐》の破壊対象からは逃れられない。サイバー・ダークに装備されていた《ハウンド・ドラゴン》たちが破壊されていき、ただの低火力を晒してしまう。

「そうか……装備カードはお前の十八番だったな」

「…………俺はスケール2の《イグナイト・マスケット》と、スケール7の《イグナイト・マグナム》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 亮の戦線を支えていたカードたちが破壊されてしまった瞬間、亮が何かを懐かしむかのような表情を見せた。そういえば自分にとってのキーカードが《サイバー・ドラゴン》だったように、遊矢は装備カードを巧みに操るデュエリストだったと。機械戦士やシンクロの影に隠れがちだが、遊矢のデッキにはなくてはならない存在だった――という、亮の言葉を無視しながら、遊矢は再びペンデュラムスケールをセットする。

「集いし騎士たちよ! 今、革命の炎とともに現れ出でよ! ペンデュラム召喚!」

 二体のイグナイトモンスターたちが発する光の柱と、ただ天空に浮かぶ魔法陣。そこからエクストラデッキに待機していたイグナイトモンスターたちが次々に現れると、遊矢のフィールドは一瞬でモンスターで埋まる。

「《イグナイト・イーグル》! 《イグナイト・ドラグノフ》! 《イグナイト・キャリバー》! 《イグナイト・ライオット》!」


 先のターンに召喚されていた《スピリチューアル・ウィスパー》を入れて、五体のモンスターが一瞬で遊矢のフィールドに集結する。これこそがペンデュラム召喚の真骨頂、いくら破壊されようが蘇り、その力を一瞬で集結させるのだ。

 ――そして、その力が亮に牙を向く。

「バトル! 《イグナイト・ライオット》で、《サイバー・ダーク・ホーン》に攻撃!」

 まずは守備表示の《サイバー・ダーク・ホーン》が破壊され、伏せカードも先の《大嵐》で破壊された亮には防ぎようがない。今回は守備表示にしていたためダメージはないが、残り二回の攻撃とダイレクトアタックはそうはいかない。

「さらに《イグナイト・イーグル》で《サイバー・ダーク・キール》に攻撃!」

「ぐっ!」

亮LP3500→2300

 さらに《サイバー・ダーク・ホーン》以外のモンスターは、《ブラック・ガーデン》によりその攻撃力を半減している。《ハウンド・ドラゴン》を破壊された今、それはさらに顕著に亮を襲っていた。

「続いて、《イグナイト・ドラグノフ》で《サイバー・ダーク・エッジ》を攻撃!」

亮LP2300→1000

 イグナイトモンスターたちから放たれる一斉砲火に、最後のサイバー・ダークが破壊される。亮を守るものはもうなく、遊矢のフィールドには攻撃していない《イグナイト・キャリバー》が残っている。

「終わりだ! イグナイト・キャリバーでダイレクトアタック!」

「俺は手札から《バトルフェーダー》の効果を発動する!」

 《イグナイト・キャリバー》のトドメの一撃。その重機関銃が亮を貫かんと発射された瞬間、亮の手札から新たなモンスターが特殊召喚される。その《バトルフェーダー》が放たれた銃弾から亮を守ると、そのまま守備表示で亮のフィールドに留まった。

「相手の直接攻撃時、手札からこのモンスターを特殊召喚することで、バトルフェイズを終了させる」

「……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 ペンデュラム召喚からの一斉攻撃の対策に投入していた《バトルフェーダー》が功を労し、亮はイグナイトモンスターたちの総攻撃から生き延びる。

「俺のターン、ドロー! ……カードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

 しかし、イグナイトモンスターたちの継戦能力は圧倒的。サイバー・ダークたちはもう手札になく。今しがたドローしたカードを含めた、二枚のカードを伏せて亮はターンを終了する。

「俺のターン……ドロー!」

 亮が伏せた二枚のカード。亮はこの状況でも、諦めたり対抗策を用意しないデュエリストではなく、確実に何かが仕込まれている……が、あいにく先に《大嵐》を使った遊矢の手札に、リバースカードを破壊する手段はない。

「……バトル! 《イグナイト・ライオット》で、《バトルフェーダー》を攻撃!」

 結局、遊矢はそのままの攻撃を選択する。伏せカードを破壊しようがない限り、悩んでいようが仕方のない。さらに、よしんばあれがミラーフォースのようなカードでも、ペンデュラムモンスターはその特性上被害はないも同然だ。

 そして《イグナイト・ライオット》の攻撃が炸裂し、予想に反して《バトルフェーダー》はあっさりと破壊される。その効果により墓地ではなく除外されていき、亮を守るモンスターはいなくなった。

「続いて、《イグナイト・イーグル》でダイレクトアタック!」

「伏せてあった《和睦の使者》を発動し、戦闘ダメージを無効にする」

 伏せられた二枚のカードにうち、《イグナイト・イーグル》の攻撃時に発動されたカードは、相手からのダメージを無効にする《和睦の使者》。……しかし、その発動タイミングは、誰が見ても明らかなほどにおかしかった。《和睦の使者》には戦闘破壊を無効にする効果があるにもかかわらず、なぜ《バトルフェーダー》が破壊されてから発動したのか。

「ターン――」

 ――その答えは、遊矢がエンド宣言をしたのと同時に明らかになった。

「遊矢。お前のエンドフェイズ、俺は最後の伏せカード《裁きの天秤》を発動させてもらう……!」

 亮が最後のカードだというように、その発動されたカードが亮のフィールド……いや、手札も併せて発動された最後のカード。そして、そのカードはこの状況でこそ最大の力を発揮する……!

「《裁きの天秤》は、相手フィールドのカードが自分の手札とフィールドのカードより多い時のみ、発動出来るカード。その差分だけ、俺はカードをドローする!」

 ……本来デュエルを進行するにあたって、自分の手札とフィールドを合計しても、相手のフィールドのカードの枚数以下となることは稀な光景だ。それでも発動出来れば最強のドローソースとなることは変わらず、事実、亮はその発動に成功する。

「俺のフィールドにはカードが八枚……!」

「俺のフィールドは《裁きの天秤》が一枚のみ。よってその差分、七枚のカードをドローする!」

 さらに遊矢のデッキのウリである、ペンデュラム召喚からの大量展開と二枚のペンデュラムスケールにより、自ずと遊矢のフィールドの枚数は多くなる。ペンデュラムゾーンとモンスターゾーンにいる六体のイグナイトモンスター、守備表示のままの《スピリチューアル・ウィスパー》、伏せられた一枚のカード――そのフィールドの合計は八枚。

「ターン……エンド……」

「俺のターン、ドロー!」

 亮のフィールドは《裁きの天秤》のみだったため、この局面で脅威の七枚ドローを果たす。遊矢にはこれ以上何をすることも出来ず、ただ亮にターンを渡すことしか出来ない。

「俺は通常魔法《未来破壊》を発動! 手札の枚数だけ、俺はデッキの上からカードを墓地に送る!」

 ハンドレスから一転、通常のドローも併せて八枚の手札を得た亮の取った手段はまず、魔法カード《未来破壊》の発動。その効果は……自身の未来たるデッキそのもの、自らの手で破壊することだった。

「俺はデッキの上から手札の枚数分、七枚のカードを墓地に送る!」

「亮……!」

 これで今のターンだけで14枚のカードが亮のデッキから墓地に送られ、最初のドローや《竜の霊廟》なども併せれば、もはや亮のデッキに後はない。もちろん墓地肥やしが重要な戦術だということは、今更言うまでもないことではあるが、それが行き過ぎればただの自殺に過ぎない。

「地獄に近づかねば見えぬ地平がある……俺は《サイバー・ダーク・インパクト》を発動!」

 さらに発動される魔法カードとともに、破壊された筈の三体のサイバー・ダークがフィールドに舞い戻る。しかし無事という訳ではなく、その身体は半透明な上に至る所がボロボロだった。唯一無事と言えるのが、《サイバー・ダーク・ホーン》なら角、《サイバー・ダーク・エッジ》なら爪、というように、自身の名を冠しているパーツのみ。

「このカードの効果により、墓地のサイバー・ダーク三種を除外することで、融合召喚を可能とする!」

「三体……融合……!」

 カイザー亮が操る三体融合――もちろん『あのモンスター』が出て来る訳ではないだろうが、嫌でもソレを連想させられてしまう。それに間違いなく分かることは、今から現れるのはかのモンスターに比類するほどのモンスターだということ……!

「出でよ! 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》!」

 《サイバー・ダーク・エッジ》、《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ダーク・キール》。三種のサイバー・ダークがバラバラに分裂すると、一番本体に損傷が少なかった《サイバー・ダーク・キール》をメインにし、そこに他のサイバー・ダークの主兵装たる爪や角が装着されていく。最後に壊れかけのパーツだろうとなんだろうと吸収していき、裏サイバー流の切り札に相応しいモンスター――《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》として転生する。

「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》が融合召喚に成功した時、墓地からドラゴン族モンスター一体を装備し、その攻撃力を得る。俺が装備するのは、《ダーク・アームド・ドラゴン》!」

 その効果は融合素材となった下級サイバー・ダークたちの上位互換であり、レベル3以下という限定がなくなった為に、墓地からレベル7である《ダーク・アームド・ドラゴン》を装備する。《未来破壊》で送られていたのだろう、そのモンスターの攻撃力を得るのはもちろんのこと、まだ終わりを告げることはない。

 ――サイバー・ダークは進化を求め続ける。

「さらに《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は、墓地のモンスターの数だけ、その攻撃力をアップする」

 亮の墓地には《未来破壊》によりモンスターたちが蠢いている。よって、その攻撃力は――4800。元々の攻撃力が1000とは思えない数値にまで成長する。

「バトル。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で、《イグナイト・キャリバー》を攻撃! フル・ダークネス・バースト!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を――ッ!」

 何とかその攻撃を遊矢は伏せていた《ガード・ブロック》で防ぐが、戦闘ダメージは防げても衝撃までは防ぐことは出来ない。サイバー・ダーク・ドラゴンから放たれた光弾は、《イグナイト・キャリバー》を一瞬にして燃やし尽くした後、衝撃波として遊矢を襲う。《ガード・ブロック》の壁が無くては、その風圧で吹き飛ばされていたかも知れない。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

「俺のターン、ドロー!」

 ……だが、進化を求める闇のカードならば、既に遊矢の手の中にもある。

「このカードは、墓地のモンスターを全てデッキに戻すことで特殊召喚出来る!」

「来るか……!」

 遊矢が翳したカードから力が溢れ出していく。墓地のモンスターの力を奪い――とは言っても《リトマスの死の剣士》しか存在しないが――遂に、神の力を持ったモンスターが生け贄を求め降臨する。

「《究極封印神エクゾディオス》!」

 雷鳴轟く地鳴りとともに、遂に《究極封印神エクゾディオス》がフィールドに現れる。しかし、力をまるで制御出来ていないように、怒りの雷撃を四方八方にまき散らしていく。

 その雷撃の標的には、もちろんデュエルをしている両者プレイヤーも含まれていた。

「くっ……!」

「さらに《イグナイト・マグナム》のペンデュラム効果を発動! ペンデュラムゾーンのカードを破壊し、デッキから炎属性・戦士族モンスターを手札に加える!」

 亮と揃って雷撃を避けながらも、遊矢はターンを進めていく。エドとデュエルをした際よりもエクゾディオスのコントロールは出来ておらず、地割れや雷撃の天変地異が夜の異世界を侵略していく。

「さらに魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手が前のターンに発動したカードを、手札に加えることが出来る! そして、そのまま発動!」

 相手プレイヤーが使ったカードを奪う、という効果を持った魔法カード《蜘蛛の糸》。亮が先程のターンで使ったカードと言えば、遊矢のデッキでは使えない《サイバー・ダーク・インパクト》に――《未来破壊》。

「俺は手札の枚数、四枚のカードを墓地に送り、フィールド魔法《神縛りの塚》を発動する!」

 遊矢の手札は、先にサーチされたカードも含めて四枚。それらのカードをデッキから引き抜いた後、フィールド魔法《神縛りの塚》を発動する。現れた祭壇から伸びた鎖がエクゾディオスを捕らえ、そうしてようやくエクゾディオスの暴走は収まった。

「ふぅ……そして、エクゾディオスは墓地の通常モンスターの数だけ、その攻撃力を1000ポイントアップする!」

 特殊召喚する際に墓地のモンスターを全て墓地に戻してしまうため、エクゾディオスの攻撃力はどう足掻いても最初は0。その為に亮の墓地から《未来破壊》のカードを奪っていた。

「亮。お前が地獄に近づかないと、見えない地平があるっていうなら……その地平は、俺にはもう見えている!」

 デッキから引き抜いていた四枚のカードを掲げた後、そのカードたちの居場所である墓地へと送る。そこから祭壇を通してエクゾディオスの力となり、その攻撃力は何枚通常モンスターを墓地に送れたか、により決定する。

「よって、《究極封印神エクゾディオス》の攻撃力は――4000!」

「……引き当てたか……」

 遊矢が《未来破壊》によって墓地に送ったのは、エクゾディオスの糧となる通常モンスターが四枚。遊矢の勝利への執着心が、そのカードたちを引き寄せたのだ。

「バトル! 《究極封印神エクゾディオス》で、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》に攻撃! エクゾード・ブラストォ!」

 エクゾディオスの攻撃力4000に対し、亮のフィールドを守りし《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力は4800。一見して及ばないように感じるものの、エクゾディオスには、攻撃時にデッキからモンスターを一枚、墓地に送る効果がある。

 もちろん墓地に送るカードは通常モンスター。さらにエクゾディオスの力への贄が増え、攻撃の直前にさらに進化を果たす。

「お前の覚悟は伝わった……だが、俺とて負けるわけにはいかん! 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は、装備モンスターを身代わりに破壊を無効に出来る! ――――ぐぅぅっ!」

亮LP1000→800

 《神縛りの塚》を通して現れた怒りの雷撃に、亮と《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は真正面から受け止める。しかし、下級サイバー・ダークたちと同様、その身代わり効果により何とかフィールドに留まった。

 身代わりにした《ダーク・アームド・ドラゴン》は原型を留めぬ程に粉砕され、亮にも少なくない現実におけるダメージを喰らったものの、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》が生き残ったことで遊矢の追撃は止まってしまう。戦闘破壊出来ていれば《神縛りの塚》によりバーンダメージが、それが防がれていようが残りのイグナイトモンスターがいたのだが……戦闘破壊出来ねば《神縛りの塚》は効果を発揮せず、下級モンスター程度の攻撃力を持たないイグナイトモンスターでは、自身の効果で攻撃力を上げた《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を突破出来ない。

「っ……! ……イグナイトモンスターを全て守備表示。カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「俺の、ターン。……ドロー!」

 遊矢のフィールドには、満を持して召喚された《究極封印神エクゾディオス》。守備表示のイグナイトモンスターたちと《スピリチューアル・ウィスパー》はいるが、もはや大勢に影響を及ぼすには至らないだろう。四体のモンスターという数が問題にならないほど、《究極封印神エクゾディオス》という存在が圧倒的なのだから。さらにフィールド魔法《神縛りの塚》に、二枚のリバースカードが伏せられている。

 対する亮のフィールドには、裏サイバー流の切り札こと《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》が控えているが、先のエクゾディオスの攻撃に装備していたドラゴンを失い、もはや下級モンスターほどの攻撃力しか残っていない。……こちらも、先のターンに伏せられた伏せカードが二枚存在している。

「フッ……俺は《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》をリリース!」

 ドローしたカードを見て、亮は一瞬微笑んだような気配を見せると、なんと切り札である《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》をリリースしてしまう。しかし、遊矢はそれ自体に驚くことはない――もはやそのステータスでは、エクゾディオスに及ばないことは明白だったからだ。

 肝心なのは、それをリリースして亮が何をしてくるかだ。

「《サイバー・ドラゴン》をアドバンス召喚する!」

 ――モンスターをリリースする魔法カードの発動かと思いきや、亮が選んだ手段はまさかのアドバンス召喚。それも彼の主力モンスターである、《サイバー・ドラゴン》の遅すぎる登場だった。

「リバースカード、オープン! 《激流葬》!」

 しかし、その《サイバー・ドラゴン》が何をするよりも早く、一番最初に開帳した遊矢のリバースカード《激流葬》の効果が適応される。カードから流れた激流がフィールドを殲滅していき、遊矢のエクゾディオス以外のモンスターと、《サイバー・ドラゴン》を例外なく墓地に送る。《神縛りの塚》の効果により、レベル10モンスターである《究極封印神エクゾディオス》には、対象を取る効果と効果破壊耐性が付与されているため、フィールドにいたモンスターの中で唯一の無傷。

 遊矢がイグナイトモンスターたちを犠牲にしてまでも、素の《サイバー・ドラゴン》を破壊するためだけに《激流葬》を発動したのは、この状況を逆転できるコンボを警戒してのこと。

「……読まれていたか」

 亮のフィールドに伏せられた《DNA改造手術》に、エクストラデッキに眠る《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》。その効果はフィールドの機械族モンスターを融合素材にする――という特異な融合モンスターであり、《DNA改造手術》により機械族を選択すれば、フィールドのモンスター全てを飲み込む最強の除去と化す。それは例え、《神縛りの塚》に守られたエクゾディオスだろうと防げるものではなく、そのコンボを持ってすればエクゾディオスの攻略も可能だった。

 ……だが、それを警戒した遊矢の《激流葬》により、エクゾディオス以外のモンスターは破壊されてしまう。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》を失い、《サイバー・ドラゴン》のアドバンス召喚により、召喚権を失うという最悪の結果に終わる。

「だが……俺にはまだ、『切り札』が残っている! 速攻魔法《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動!」

「まさか……!」

亮LP800→400

 亮が自身のライフの半分を対価に発動したその速攻魔法に、遊矢は驚愕に目を見開く。アカデミアにその名を轟かせた、カイザー亮の必勝パターンの第一歩――《サイバネティック・フュージョン・サポート》。ライフポイントを半分にすることで、機械族モンスターの墓地融合を可能とする速攻魔法である。ただ《ミラクル・フュージョン》のような類似カードとは違い、このカードだけで融合召喚が可能な訳ではなく、さらに別途融合召喚をするカードの発動が必要不可欠だ。

 しかしそれも、カイザーの手に掛かればメリットへと変わる。《サイバネティック・フュージョン・サポート》の効果が適応され、亮はさらにもう一枚のカードを発動する。

「俺の信じる、最強の融合カード――《パワー・ボンド》!」

 ――そして、このコンボから現れる最強のモンスターは、もう既に決まっている。

「現れろ……《サイバー・エンド・ドラゴン》ッ!」

 遂に降臨する、カイザー亮が誇る最強の切り札。《未来破壊》と先程の《激流葬》で墓地に送られていた、《サイバー・ドラゴン》たちが一つに合体し、神のカードたる《究極封印神エクゾディオス》と並び立つ。放たれる雷撃をものともせず、ただ主の命令を待ってフィールドに鎮座する。

「《パワー・ボンド》の効果により、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は8000。さらにレベル10モンスターのため、《神縛りの塚》の効果を得る」

 フィールド魔法である《神縛りの塚》は、遊矢のフィールドにだけではなく亮のフィールドにも影響を及ぼしてしまう。神のカードと同等の力を手に入れた《サイバー・エンド・ドラゴン》は、究極の融合カードたる《パワー・ボンド》により、元々の攻撃力を倍にしその攻撃力を8000とする。

「サイバー・エンド・ドラゴン……だが、負けるわけには……!」

「バトルを行う。サイバー・エンド・ドラゴンで、エクゾディオスに攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 エクゾディオスの攻撃力をゆうに超えた、《サイバー・エンド・ドラゴン》のレーザーがエクゾディオスに発射される。さらに《神縛りの塚》の耐性をも備えて――しかし、遊矢とて負けられない理由がある、と《サイバー・エンド・ドラゴン》に立ち向かう。

「リバースカード、オープン! 《封印防御壁》!」

 先のエドとのデュエルにおいても発動された、《究極封印神エクゾディオス》のサポートカードたる罠カード。その効果はレベル10モンスターを対象に取る効果でもなく、ましてや破壊する効果でもない。

「相手モンスターが攻撃宣言をした時、そのバトルフェイズを終了させる!」

 永続的な強制バトルフェイズ終了効果。遊矢の周囲に、発動された《封印防御壁》を中心として防壁が展開され、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃だろうと防ぎきる。

 ――だが《封印防御壁》はその役目を果たせず、防壁を展開するより早くバラバラに破裂していく。

「チェーンして《トラップ・ジャマー》を発動した。バトルフェイズ中に発動された、罠カードの効果を無効にする」

「――――ッ!?」

 ……青色の防壁がパリンと砕け散ると、遊矢の目の前には《サイバー・エンド・ドラゴン》が放った光の柱。先程自らで宣言した、負けるわけにはいかない――というセリフが脳内でリフレインするが……遊矢にもはや、その攻撃を止める手段は存在しなかった。

「俺は……負けるわけには……負けるわけにはあああああっ!」

 最後にもう一度そう叫ぶと、遊矢は光の奔流に巻き込まれていく。鎖で縛りつけられた、エクゾディオスとともに……

遊矢LP2000→0

 
 

 
後書き
肝心な時に勝てない系主人公。さて、予定通りになるなら、3期はあと2話~4話で完結する予定です。では、また。最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

 

―一手―

 ――生きてる。

 最初に思ったことはそれだった。次にサイバー・エンドに討ち滅ぼされる自分と、こちらをただ見据えてくる亮の姿。この世界で敗れた者は消える運命の筈だが、どうやら自分は生きているらしい……いや、もしかしたら地獄か何かか。

 両手足が無事に動く感覚と、デュエルディスクの感覚はある。それだけ確認できれば充分だとばかりに、俺はゆっくりと目を開けた。

 そこに広がっていたのは、幸いなことに地獄ではなく。満点の星空と見渡す限りの砂地……と、自分が今までいた異世界の姿と遜色ない。

 しかし、そんなことより遥かに重要なのは。

「エクゾディオス……?」

 自分が敗れたにもかかわらず、まだ世界に現存しているエクゾディオス。そして、そんな神のカードの前に立つ一人のデュエリスト――カイザー。亮の前にはモンスターはおらず、それでもエクゾディオスは亮に迫っていた。

「亮……亮っー!」

 ――そして、時は少し遡り。

「…………」

 遊矢を必殺の一撃で仕留めた亮は、しばし黙祷を捧げるように目をつむる。弟を守るために地獄が見える地平を目指そうとも、こんな形で決着をつけたくなかった、と親友を悼み――すぐにそれを中断する。

「……カイザー――」

「――近づくな十代!」

 デュエルが終わったからか、駆け寄ろうとしてくる十代たちを制止する。まだデュエルは終わっていない、と確信した亮は辺りを注意深く観察する。

「エクゾディオスが消えていない……!」

 亮に続き気づいた三沢が呟くと、十代たちも遅れて警戒する。神のカード――その恐ろしさを身を持って知っている彼らにとって、不気味にも動かないエクゾディオスは不気味な様相を呈していた。

 ……そしてエクゾディオスの背後から、ゆっくりとその人物が歩み寄ってきた。理知的な雰囲気を漂わせた青年であり、その顔には笑みが浮かんでいた。

「お前は……」

「アモン!?」

 その現れた人物に面識がなかった亮の代わりに、十代が驚愕の意を示す。その十代の名前で亮もアカデミアに来ている留学生、という話を聞いたことを、亮も思い出したが……臨戦態勢を解くことはなかった。

「流石はカイザー亮。その名に違わぬ腕前だ」

「……そういうお前は、随分と物騒な気配をしているようだが」

 面々からの疑惑の視線を受け流すと、アモンは先のカイザー亮のデュエルに拍手を送る。その後、懐からゆっくりと一枚のカードを取りだした。

 ――《封印されしエクゾディア》。

「元々そこの神のカードは僕のなんだが……遊矢くんに奪われるついでに殺されてしまってね。取り返しに来たのさ」

 以前遊矢に敗北したアモンは、この世界の宿命通りに消え去ることとなった。だが、手に入れていた《エクゾディア・ネクロス》の力で脱出……この異世界に戻ってきていた。もちろん、そんなことを亮が知る由もないが、それでも亮は臨戦態勢を解かなかった。

「悪いが、ここでそのエクゾディオスのカードは破壊させてもらう。誰のものだろうとな」

「それは困るな。このカードの力を使って、僕は王になるのだから」

 その声とともに、《神縛りの塚》に封じられていたエクゾディオスが雄叫びをあげると、一枚のカードとなってアモンの手の内となる。アモンはその《究極封印神エクゾディオス》のカードを、わざわざ挑発するように亮に見せてから、デッキに投入しデュエルディスクを構える。

「どうやら神も君にお怒りのようだ。……このまま君を生贄に捧げてみせろ、と言っている」

「……いいだろう」

 再び亮もデュエルディスクを構えると、そのフィールドに《サイバー・エンド・ドラゴン》が再出現する。さらに伏せられていたリバースカードも現れ、どうやら『このまま生贄に捧げる』という言葉通り、先の遊矢とのデュエルを引き継いでいるらしい。……その極限まで減ったライフポイントと、残り少ないデッキ枚数すらも。

「無茶だお兄さん! そんな引き継ぎなんて……」

「いやシニョール翔。カイザーの好きなように、やらせてあげるノーネ……」

 あまりにも無謀なそのデュエルに対し、制止に行こうとする翔をクロノス教諭は引き止める。確かに絶望的な状況ではあるが、亮のフィールドには切り札たる《サイバー・エンド・ドラゴン》に、墓地には数え切れないほどの布石となりうるカード。アモンがエクゾディア……ないしそれに類するカードを使うのならば、ライフがいくら減っていても、その前に相手のライフを削りきらねばならない。

「ありがとうございます……クロノス先生」

 ――それに加えて、今から新たなデュエルを始められる程の余力は、もはや亮には残されていない。

「よく見ておくんだ、十代」

「カイザー……」

 先の遊矢のデュエルでのダメージが色濃く残りながらも、平静を装って構えるカイザーの姿から、目をそらそうとする十代だったが、三沢の言葉で静かに見守ることを選択した。

「フッ、英断だな」

「鬼にならねば見えぬ地平がある……」

 ……それに加えて、カイザーにはこのデュエルを引き継いで行う理由が、もう一つあった。遊矢とのデュエルをアモンが引き継いだ事により、先のデュエルの決着はまだ付いていない。よってこのデュエルを受けさえすれば、親友の命を助けられることが確定する。

『デュエル!』

亮LP800
アモンLP4000

亮、フィールド(引き継ぎ)
サイバー・エンド・ドラゴン
リバースカード、一枚

 ……ただ、その代償はあまりにも重い。
「俺のターンの続きからだ。メインフェイズ2、《サイバー・ジラフ》を召喚する」

 そして開始される変則デュエル。カイザーのメインフェイズ2から開始され、新たなサイバーモンスターを召喚する。

「《サイバー・ジラフ》をリリースすることで、このターン俺は効果ダメージを受けない。ターンを終了」

 まだ亮のフィールドには、《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合した際に使用した、《パワー・ボンド》の効果が残っている。そのデメリット効果により、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力分のダメージが発生するが、そこは《サイバー・ジラフ》の効果で防ぐ。特に動きを見せることはなく、まずはアモンの手を様子見か。

「よくやる……だが、手を抜いたりはしない! 僕のターン、ドロー!」

 満身創痍の亮を見たところで、アモンの決意は揺るがない。彼にとて勝たねばならぬ理由はあり、手をゆるめる理由はない。

「僕は《死者への手向け》を発動! 手札を一枚捨てることで、相手モンスターを破壊する! 破壊するのは当然、《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

「サイバー・エンド……!」

 手札一枚をコストに相手モンスターを破壊する魔法カード、《死者への手向け》によって頼みの《サイバー・エンド・ドラゴン》は一瞬のうちに破壊されてしまう。いくら攻撃力を倍にしようと、この状況では無力だった。

「そして魔法カード《ナイト・ショット》を発動! 相手のセットされているカードを破壊する!」

「…………」

 そして《死者への手向け》に引き続き、セットされていた罠カード《DNA改造手術》までもが破壊され、亮のフィールドには何のカードもなくなってしまう。もちろん、アモンがそこで行動を止めるはずもなく。

「さらに《クリッター》を召喚し、バトル!」

 サーチャーの代表格たるモンスター、《クリッター》がアモンのフィールドに召喚される。その攻撃力は僅か1000ではあるが、亮のフィールドにモンスターはなく、そのライフを削りきって余りある。

「まさか、こんなあっけない結末じゃあないだろう? クリッターでダイレクトアタック!」

「……墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外することで、攻撃を無効にする」

 《未来破壊》で墓地に送っていた《ネクロ・ガードナー》の効果が発動し、《クリッター》の攻撃を亮に届くまでに防ぎきる。肝心のエクゾディオス相手には、《神縛りの塚》の効果もあって活躍は出来なかったものの、引き継いだこのデュエルでは亮の命を救ってみせる。

「防がれたか。ならばカードを一枚伏せ、僕はターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 アモンは攻撃が防がれたことに驚きを見せず、カイザーは着々と反撃の為の手札を蓄えていく。一見動きのない地味な戦いだが、どちらもが一瞬たりとも油断を見せなかった。

「……カードを二枚伏せる」

 しかし、カイザーの手はやはり鈍い。遊矢のエクゾディオスを打倒するためにあらゆる手段を使った亮のデッキには、もはや次なる手は限られた数しか存在しなかった。頼みの《サイバー・エンド・ドラゴン》は破壊され、三枚の《サイバー・ドラゴン》とサイバー・ダークは、それぞれ《サイバネティック・フュージョン・サポート》、《サイバー・ダーク・インパクト》によって除外されてしまっている。

 ……要するに、亮にはもうキーカードがないのだ。それでも、キーカードを回収出来るカードを待つ。……ただカイザー亮という男は、待っている間に防御をするだけ、などという芸のないデュエリストではない。

「さらに《サイバー・ダーク・エッジ》を召喚!」

 召喚されるサイバー・ダークの一角。二枚目となるこのカードのみでは融合は不可能だが、その効果は遺憾なく発揮される。

「墓地の《ハウンド・ドラゴン》を装備し、その攻撃力を得る。よって《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃力は2500」

 先のデュエルで墓地に送られていた《ハウンド・ドラゴン》がまたもや装備され、《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃力は2500という上級レベルにまで到達する。もちろん、ただのサーチャーであるクリッターとは比べるまでもない。

「バトル。《サイバー・ダーク・エッジ》は、与えるダメージを半分にすることで、ダイレクトアタックを可能とする。カウンター・バーン!」

「なに……うぐっ!」

アモンLP4000→2750

 遊矢とのデュエルでは発揮すべきタイミングがなかったが、《サイバー・ダーク・エッジ》としての固有の能力は、相手モンスターを無視してのダイレクトアタック効果。与えるダメージは半分になってしまうが、それでも1250ダメージと、ダイレクトアタッカーとしては驚異的な数値。破壊されてもエクゾディアパーツをサーチするだけだろう、《クリッター》を避けつつアモンへ手痛い一撃を与えることに成功する。

「ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 これで亮のフィールドには攻撃力2500の《サイバー・ダーク・エッジ》に、一枚のリバースカード。ライフポイントは残り800。

 対するアモンのフィールドは、クリッターとリバースカードが二枚。ライフは残り2750ポイント。

「君が破壊してくれないなら、自ら破壊するまでだ。魔法カード《ドールハンマー》を発動!」

 アモンの発動した魔法カードから、玩具のような大槌が出て来たかと思えば、自分のモンスターであるクリッターを押し潰した。おもちゃの大槌がなくなったかと思えば、そこにはクリッターではなく二枚のカードが浮遊していた。

「《ドールハンマー》は、自分のモンスターを破壊する代わりに、二枚のドローを可能とする。その後、相手モンスターの表示形式を変更する効果もあるが……そちらは必要ない」

 自分のモンスター一体を代償に、二枚のドローと相手モンスターの表示形式変更を可能とする魔法カード。ただ、《サイバー・ダーク・エッジ》の表示形式を変える必要はないという。……サイバー・ダークシリーズは、その攻撃力とは裏腹に守備力は低いというのに。

「さらに破壊された《クリッター》の効果を発動。デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える」

 それが意味することとは、攻撃力2500の《サイバー・ダーク・エッジ》を正面から破壊することが出来る、ということ。恐らく、今し方《クリッター》によってサーチされたモンスターを使って……

「さらにリバースカード、《リミット・リバース》を発動。墓地から攻撃力1000以下のモンスター……《クリッター》を蘇生し、《マジック・プランター》を発動。《リミット・リバース》を破壊し二枚ドロー」

 攻撃力1000以下のモンスターを蘇生する効果を持つ罠カード《リミット・リバース》だったが、即座に《マジック・プランター》によって破壊され、二枚のドローへと変換される。それと連鎖的に反応して《クリッター》もまた破壊されてしまう。せっかく蘇生したところで、本体である罠カードが破壊されてしまえば、モンスターも破壊されるデメリットが容赦なく纏わりつく。

 ……だが、その破壊をトリガーとするモンスターと組み合わせれば。

「再び破壊された《クリッター》の効果を発動。攻撃力1000以下のモンスター……エクゾディアパーツを手札に加えさせてもらおう」

 二回のサーチによって手札に加えたのだろう、二枚のエクゾディアパーツをアモンは亮に示す。それらを手札に加えた後、さらに一枚の魔法カードを亮に見せびらかすように発動する。

「このカードは手札、墓地にそれぞれ五種類のエクゾディアパーツがある時、墓地のエクゾディアパーツを全てデッキに戻すことで発動出来る!」

 そのカードの発動コストとして、まずアモンは墓地からエクゾディアパーツを二枚選択し、デッキに戻していく。

「二枚だと……?」

 その魔法カードの発動条件もさることながら、アモンの語った台詞に亮はやや違和感を覚える。手札に二枚のエクゾディアパーツがあることは、先程の《クリッター》によるサーチの為に分かっている。そして一枚は自力で引いていたのだろう、ということも。だが、墓地に二枚のエクゾディアパーツとは……アモンが手札を墓地に送ることの出来たチャンスは、《死者への手向け》の発動コストのみだった筈だが……

 いや、もう一つエクゾディアパーツを墓地に送るシーンがあった。しかしそれはアモンではなく、先のデュエルでのこと――

『バトル! 《究極封印神エクゾディオス》で、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》に攻撃! エクゾード・ブラストォ!』

 ――エクゾディオスは攻撃する時、デッキから一枚通常モンスターを墓地に送る効果がある。遊矢があの時、エクゾディオスの効果で墓地に送っていたカードは、十中八九エクゾディアパーツ。

「気づいたか? 黒崎遊矢のデュエルを引き継いだんだ、墓地に一枚のエクゾディアパーツは既に送られている。さらに手札の二枚のエクゾディアパーツを墓地に送ることで、魔法カード《究極封印解放儀式術》を発動!」

 手札の二種類のエクゾディアパーツを墓地に送ることで、アモンの手札に一枚のカードが現れる。その魔法カードの名前から察するに、効果は――

「デッキから現れよ! 《究極封印神エクゾディオス》!」

 ――やはり、エクゾディオスを特殊召喚すること。月の光が照らしていた異世界に、突如として雷鳴が轟き、その光とともに《神》が降臨する。遊矢が使っていた時とはまた違う、完全に封印が解放された神のカード――エクゾディオス。

「さらに《神縛りの塚》を発動し、バトルを行う!」

 遊矢も使用していたフィールド魔法、《神縛りの塚》がまたもや発動されるものの、その鎖はエクゾディオスを封印する気配は見られない。むしろ、エクゾディオスの力を高めているような……見せびらかしているような。それでも《神縛りの塚》の効果は適応され、効果の対象にならず効果によって破壊もされない。

「エクゾディオスは墓地のエクゾディアパーツの攻撃力×1000ポイント、攻撃力がアップする……よって、現在の攻撃力は2000ポイント」

 攻撃力の算出方法すら遊矢が使用していた時と違い、通常モンスターではなくエクゾディアパーツ指定となり、最初から2000ポイントの攻撃力を備えている。亮のフィールドにいる《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃力は2500だが……エクゾディオスの効果を前にしては、その程度の攻撃力の差は誤差にすぎない。

「黒崎遊矢が使役していた不完全な暴走状態とは、もはや別物だと思え! エクゾディオスでサイバー・ダーク・エッジに攻撃、天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 エクゾディオスは攻撃時に効果を発動し、デッキから一枚エクゾディアパーツを墓地に送ることで、その攻撃力を1000ポイントアップさせる。《サイバー・ダーク・エッジ》との攻撃力の差分は、僅か500ポイントではあるが、それでも充分な威力をエクゾディオスの一撃には込められていた。

「くっ……!」

亮LP800→400

 もはや残り少ないライフポイントもさることながら、エクゾディオスの攻撃に込められた衝撃が、傷ついた亮の身体に襲いかかる。奥歯を噛みしめて意識をハッキリさせると、亮はエクゾディオスを見据えた。

「《神縛りの塚》の効果により、レベル10以上のモンスターが相手を破壊した時、1000ポイントのダメージを与える」

「だがサイバー・ダークは、装備しているドラゴンを身代わりに、破壊を無効にする。よって、その効果は適応されない」

 《神縛りの塚》の効果の発動条件は、あくまで戦闘破壊をすること。《サイバー・ダーク・エッジ》は《ハウンド・ドラゴン》を盾にすることで、エクゾディオスの攻撃を何とか耐え忍んでいた。だが《ハウンド・ドラゴン》を失ったことにより、そのステータスは下級相応にまで落ち込み、もう戦力にはなりそうもない。

「ふん、ターンを終了しよう」

「……俺のターン、ドロー」

 遂にエクゾディオスの降臨を許してしまったが、亮はまだこのデュエルを捨ててはいない。あまりにも少ない選択肢の中、カイザーは次に繋げる可能性を持ったモンスターに賭ける。

「俺は《サイバー・ヴァリー》を召喚し、効果を発動」

 召喚されるやいなや、すぐさま効果の発動を宣告する。《サイバー・ヴァリー》は三つの効果を持っているが、このタイミングで発動でき、亮が発動するのは第二の効果。

「このカードとモンスターを除外することで、二枚ドローする」

 《サイバー・ヴァリー》と効果によって生き延びた《サイバー・ダーク・エッジ》を代償に、亮は更なるドローを果たす。……だが、もはやそのデッキの枚数も数えるほどしかなく。

 ――残されたキーカードを引く可能性も高まる。

「このモンスターは、墓地の光属性・機械族モンスターを任意の数だけ除外することで、特殊召喚出来る!」

「ほう……?」

 亮の墓地に溜まっていたモンスター。その中でも光属性・機械族という条件を持った、八体のモンスターが時空の穴に吸い込まれていく。その八体のモンスターを、吸い込むごとに巨大になっていく時空の穴から、新たなモンスターが姿を現す。

「出でよ、《サイバー・エルタニン》!」

 亮の切り札たる《サイバー・エンド・ドラゴン》にも勝るとも劣らぬ巨大さ、そして威圧感を放つ《サイバー・ドラゴン》を必要としないもう一つの切り札、《サイバー・エルタニン》。その効果も切り札に相応しく。

「《サイバー・エルタニン》の攻撃力は、除外したモンスターの数×500ポイントとなる。そしてこのモンスターが特殊召喚された時、フィールドのモンスターを全て墓地に送る!」

 これこそが亮が待ち望んでいた切り札。エクゾディオスには《神縛りの塚》により、効果の対象にならず効果破壊も受けない、という耐性が付与されているが……《サイバー・エルタニン》ならば、そのどちらの耐性も無視して、エクゾディオスを除去出来る。

「コンステレイション・シージュ!」

 亮の号令とともに、《サイバー・エルタニン》の八つの首が一斉に砲撃を放ち、フィールドの全域を焼き払っていく。ただし《サイバー・エルタニン》を除き、フィールドにいるのはエクゾディオスのみ……よって、その火力は全てエクゾディオスに向けられる。

 白煙がフィールドを支配し、全てを焼き払った後に残ったのは《サイバー・エルタニン》のみ――

「なっ……!?」

 ――そのはずだった。

「フッ……フフフ。笑わせてくれるな、カイザー……言ったはずだ、黒崎遊矢が使っていた不完全体と一緒にするな、とな」

 アモンの言っている通り、アモンが使うエクゾディオスと遊矢が使っていたエクゾディオスは、もはや似て非なる全くの別物と化していた。《邪心経典》の力で無理やり封印を解いた遊矢とは違い、アモンは正規の手段――愛する人を生贄に捧げ、エクゾディオスを手にしようとした。一足先に遊矢が手に入れていたため、その時は手に入らなかったが……今はもう、完全にアモンの手の内にある。

「《神縛りの塚》がなかろうと、エクゾディオスは他のカードの干渉など受けない。まさしく神なのだから!」

「……バトル。《サイバー・エルタニン》で、エクゾディオスを攻撃。ドラコニス・アセンション!」

 遊矢は制御と耐性の付与に《神縛りの塚》を必要としていたが、アモンはもうそれらは必要としていなかった。他のカードの干渉を受けないと言えど、単純な戦闘破壊ならば……と、亮は《サイバー・エルタニン》に攻撃を命じる。先程の効果の時のように、八つの光弾がエクゾディオスに迫る……が。

「エクゾディオスは相手のカードの効果は受けつけず、破壊されない」

アモンLP2750→1750

 戦闘ダメージは与えられたものの、戦闘破壊は無効にされてしまう。今の一撃でアモンのライフは半分を切ったものの、このまま攻撃していく訳には行くまい。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

「僕のターン、ドロー!」

 頼みの《サイバー・エルタニン》が封じられ、亮はリバースカードを一枚伏せただけでターンを終える。相手のカードの効果を受けない、ということは、《DNA改造手術》からの《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》すらも、実質封じられたも同義だった。

「バトル。エクゾディオスで《サイバー・エルタニン》に攻撃! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 エクゾディオスが雷撃を放つ前にその効果が発動し、デッキから一枚エクゾディアパーツを墓地に送ることで、その攻撃力は4000にまで達する。亮の《サイバー・エルタニン》と同じ攻撃力ではあるが、エクゾディオスは戦闘破壊耐性を備えているため、破壊されるのが一方的なのは明白。さらにアモンのフィールドには、戦闘破壊時に相手に1000ポイントのダメージを与える、《神縛りの塚》が存在している……!

「速攻魔法《ダブル・サイクロン》を発動! こちらの伏せカードと、《神縛りの塚》を破壊する!」

「ほう……」

 亮が伏せていた三枚のリバースカードの中の一枚、《ダブル・サイクロン》がその姿を見せるとともに、亮の伏せカードと《神縛りの塚》を破壊する。遊矢のようにエクゾディオスの制御に《神縛りの塚》を必要としないアモンは、特にその破壊に頓着することもなく、そのまま攻撃を続行する。《神縛りの塚》が破壊された時の第三の効果も、アモンのデッキに対象のモンスターがいないため発動されない。

「…………っ!」

 エクゾディオスの放った雷撃に、亮の切り札の一種たる《サイバー・エルタニン》はあっさりと破壊され、地平に落とされ大爆発を起こす。……鎧袖一触とでも言うべきか、同じ攻撃力とは感じられないほど、《サイバー・エルタニン》は、一太刀も浴びせられず破壊されてしまう。

「……亮!」

 ――ここまでが遡っていった時であり、遊矢が目を覚ますまでのデュエルだった。

「遊矢!?」

 生きていた遊矢に対して三沢が驚きの声をあげるが、遊矢はそれに対して反応することはなく、アモンの元に……エクゾディオスの元へ向かう。

「アモン……お前……!」

「黙って見ていろ、黒崎遊矢。もうお前にエクゾディアを駆る資格はない」

 身体の感覚を取り戻した遊矢は、そのままアモンに詰め寄ろうとするものの、エクゾディオスの雷撃がその行く手を阻む。その雷撃こそが、エクゾディオスの本当の持ち主を表していた。

「遊矢、お前はまだ見ていろ。この神は……俺が倒す」

 こんな状況で何を言っているのか――と、そう返そうとしたアモンの表情が、亮のフィールドを見て驚愕に包まれる。破壊したはずの《サイバー・エルタニン》の爆心地から、五体のモンスターが現れており、亮のフィールドを埋め尽くしていたのだから――

「《ダブル・サイクロン》で破壊したカードは、永続罠《サイバー・ネットワーク》。このカードは破壊された時、自分の魔法・罠カードを破壊する代わりに、除外されている光属性・機械族モンスターを可能な限り特殊召喚する」

 さらにバトルフェイズが行えなくなるデメリットもあるが、今はアモンのターンのバトルフェイズ、その効果は関係のないことだ。除外ゾーンから特殊召喚されたのは、《サイバー・ヴァリー》に《サイバー・ジラフ》、そして……三体の《サイバー・ドラゴン》。

「まさかな……カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

「俺のターン、ドロー――」

 カイザー亮のフィールドに三体の《サイバー・ドラゴン》が揃った時、次に行われるべき行動は確定している。亮はドローしたカードを一瞬だけ見たのと同時に、デュエルディスクへとセットする。

「――俺は《融合》を発動! 《サイバー・ドラゴン》三体を融合し、現れろ! 《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

 ――そして降臨する、亮の最も信ずる最強の切り札――《サイバー・エンド・ドラゴン》。先程のデュエルと同様に、神のカードたる《究極封印神エクゾディオス》にも怯まず対峙する。

「そして《サイバー・ヴァリー》の効果を発動し、《サイバー・ヴァリー》と《サイバー・ジラフ》をリリースし、二枚ドロー……バトル!」

 だが《サイバー・エンド・ドラゴン》と言えども、その攻撃力は通常の《融合》で召喚されたため、あくまで4000止まり。それでは先の《サイバー・エルタニン》と同じであり、それではエクゾディオスには及ばない。そこでまたもや《サイバー・ヴァリー》の効果が発動され、さらに二枚のカードをドローし……亮はバトルフェイズへの移行を宣言する。

「《サイバー・エンド・ドラゴン》で、《究極封印神エクゾディオス》に攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

「迎撃しろ、エクゾディオス! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 《サイバー・エンド・ドラゴン》と《究極封印神エクゾディオス》の攻撃がぶつかり合い、雷撃と光弾が辺りに拡散していく。ただ、それでもやはり、エクゾディオスの攻撃が有利……な瞬間、亮の手札から新たなカードがかざされた。

「速攻魔法《決闘融合-バトル・フュージョン》を発動!」

 決闘融合。そのカードの効果は融合モンスターが戦闘する際、相手モンスターの攻撃力を融合モンスターに加える、という効果。エクゾディオスの現在の攻撃力、4000が《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力に加えられ――

 ――その姿が消え失せる。

「サイバー・エンドが!」

 見ていたメンバーの誰かから、消えていく《サイバー・エンド・ドラゴン》へ悲鳴があがる。《サイバー・エンド・ドラゴン》がどこに行ったのか、どうなったのか――それはアモンの発動したリバースカードが、如実に表していた。

「伏せていた罠カード《次元幽閉》を発動した。……《サイバー・エンド・ドラゴン》は除外させてもらった」


 相手モンスターの攻撃宣言時、その相手モンスターを除外する罠カード《次元幽閉》。亮が決闘融合による逆転の一撃を狙っていたように、アモンもまた、その逆転の一撃を防ぐべく対策を講じていたのだ。よって《サイバー・エンド・ドラゴン》は除外され、亮のバトルフェイズは終了する。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド……悪いが、サイバー・エンドはその程度では死なん」

「……なんだと?」

 亮がカードを一枚伏せ、ターン終了宣言をしたのと同時に、フィールドに地響きが鳴り響く。そして《サイバー・エルタニン》が出現した時のように、亮の背後に巨大な時空の穴が出現し……そこから《サイバー・エンド・ドラゴン》が出現する。

「サイバー・エンド……除外したはず」

「除外したのはお前の《次元幽閉》ではない。俺は《次元幽閉》にチェーンし、速攻魔法《サイバネティック・ゾーン》を発動していた」

 決闘融合、次元幽閉。その二枚のカードとは別に、あのバトルフェイズ中に発動されていたカードが、もう一枚だけあった。そのカードこそ、速攻魔法《サイバネティック・ゾーン》。自分フィールドの機械族の融合モンスターを除外し、エンドフェイズ時に再びフィールドに戻すカード。

 ……《サイバー・エンド・ドラゴン》が除外されたのは、アモンの《次元幽閉》ではなく亮の《サイバネティック・ゾーン》。あえて自ら除外することで、《次元幽閉》の除外効果を避け、フィールドに帰還させた。そして《サイバネティック・ゾーン》の効果で帰還した、融合モンスターの攻撃力は――

「――元々の攻撃力の倍となる」

 よって、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は8000。エクゾディオスの攻撃力を効果の上昇分まで優に越し、フィールドに降臨する……しかも、それだけではない。

「あのリバースカード……」

 遊矢は亮のフィールドに伏せられた、一枚のリバースカードを見る。あの伏せカードはおそらく――いや、亮ならば確実に、相手プレイヤーに攻撃を誘発させるカード。エクゾディオスではなく、相手プレイヤーを対象としているのならば、エクゾディオスだろうとそれに抗うことは出来ない。よって、エクゾディオスが《サイバー・エンド・ドラゴン》に攻撃することになり……

「亮の……勝ちだ……」

 遊矢はそう確信して亮の顔を見るが……亮の顔は晴れていなかった。いつもの鉄面皮なのは相変わらずだったが、むしろ自身の敗北を悟っているような――

「僕のターン、ドロー……」

「感謝するぞアモン。これで俺はまだまだ上を目指せる……新たな地平を見ることが出来る」

 アモンが静かな表情でカードをドローする中、亮の独白は続いていく。

「十代、遊矢。お前たちもこんなところで立ち止まる人物じゃない。後悔も悲嘆も乗り越え……次に進め」

「バトル。エクゾディオスで、《サイバー・エンド・ドラゴン》に攻撃!」

 亮の俺と十代に対するメッセージ。それと同時に放たれるアモンの攻撃に、俺はアモンの狙いと亮の考えていたことを悟り、エクゾディオスを中心として、四つのエクゾディアパーツが集結していく。

「『一手』……遅かったな、カイザー」

 墓地に送られていた四枚のエクゾディアパーツ。この攻撃により最後のエクゾディアパーツが墓地に送られ、五枚のエクゾディアパーツが墓地に揃う。《サイバー・エンド・ドラゴン》との戦闘によるダメージ計算より先に、その五枚揃った時における効果――エクゾディアが完成する。

 エクゾディアが完成した時点で、相手プレイヤーの運命は決まっている。

「怒りの業火……エクゾード・フレイム!」

 ――エクゾディアは亮とサイバー・エンド・ドラゴンを燃やし尽くし、そのデュエルは決着した。
亮LP400→0



「やはり行くのか……遊矢、十代」

 亮とのデュエルの後、アモンは他のメンバーに興味はない、とばかりに消えていった。三沢の考えによれば、恐らくアモンはエクゾディオスの力を使い、今回の事件の元凶たる《ユベル》の元へ向かったのだろう、ということだ。砂漠の異世界でマルタンに寄生していた悪魔……アレが今回の黒幕であり、その出生には十代が関わっていたことを、遊矢は三沢から聞くことになった。

「ああ。アモンがエクゾディオスの封印を解いた、っていうなら好都合だ……奪い返して、また俺が使わせてもらう」

「……ユベルと決着をつけるのはオレにしか出来ない。カイザーが止まるな、って言ったしな……」

 そのことを三沢から聞いた遊矢と十代は、一刻も早くアモンを追うべきだと主張した。そこにユベルとアモン、この異世界を巡る一連の事件で、決着をつけるべき存在が揃っているのなら……遊矢はエクゾディオスを奪い返すため、十代はユベルとの決着をつけるために。

「僕も……お兄さんの代わりに、見届けるんだ」

「もちろん、生徒たちだけに危険な場所に行かせるのは、教師としてありえないノーネ!」

「……みんなをよろしくお願いします、クロノス先生」

 他のメンバーの覚悟を聞いた後、三沢は観念したように年長者たるクロノス先生にメンバーを頼む。そして、その言葉を不可思議に思った遊矢が口を開く。

「三沢は行かないのか?」

「ああ。悪いが……俺はみんなを救いにいきたい」

 アモンはあの時、『エクゾディアの力で脱出した』と語った。ならばこの世界で敗北した者は他の異世界に移動しており、そこから脱出すれば、救うことが出来るのではないか。そう三沢は仮説をたて、その仮説を立証するため、ユベルの元には行けないという。……だが、それを引き止めるメンバーは誰もいない。

「……そっちは頼むぜ、親友」

「任せろ。君がエクゾディオスの力なんて、使わないようにしてみせるさ」

 遊矢と三沢はジェネックスの後の時のように握手を交わすと、三沢は十代の方にも語りかける。

「今のお前も覇王十代も1人の人間の一面だ。 そしてお前には、みんなを救える覇王という力がある。……恐れるんじゃない」

「ああ……ああ!」

 ……最後に。三沢は遊矢に一つのデッキを手渡す。

「こいつは……」

「彼らも分かってる。エクゾディオスの強大な力に呑まれないように、わざと置いていったんだとな。連れて行ってやれよ、今度はな」

 遊矢は三沢に渡されたデッキを見て、少しの間迷うようにしていたものの……最終的に、元々入っていた《イグナイト》デッキの代わりに、そのデッキを使うことを決意する。イグナイトデッキを空いたデッキケースに入れると、しっかりとデュエルディスクにそのデッキをセットした。

 ……あとは、ユベルとアモンが待つ異世界への扉を開くのみ。アモンとエクゾディオスが消えた空間を、それぞれのメンバーが囲むように立った。普段ならば不可能だが……エクゾディオスの力が残留している今なら、それぞれのエースカードの力で、異世界への扉を開くことが出来るかもしれない。

「――《E・HERO ネオス》!」

 まずは十代のデュエルディスクから、宇宙の力を得たヒーローが飛び出し、異世界への扉を開けんとその力を全開する。

「《スーパービークロイド-ジャンボドリル》!」

「《古代の機械巨人》!」

 翔のデュエルディスクから二体の機械族。クロノス教諭は自身のデュエルディスクは持っていなかったが、デッキだけは持ってきており、翔のデュエルディスクを借りて召喚される。翔が召喚したジャンボドリルは……一年生の頃、十代や遊矢とともに買ったパックに入っていたものだった。

「閻魔の使者《赤鬼》!」

 同行はしないとはいえ、異世界への扉を開ける手伝い程度は出来る――と、三沢も自身のエースカードを繰り出す。これから激戦に赴く親友たちのために。

 そして――

「来い……《スピード・ウォリアー》!」

 ――遊矢のマイフェイバリットカードが現れる。エクゾディオスの力に呑まれることを恐れた遊矢が、闇魔界の支配していた異世界に置いてきた後、三沢が回収し託された【機械戦士】。その力は衰えることはなく……遊矢の指示に従い、力強く雄叫びをあげる。

 それぞれのエースカードのエネルギーが、異世界の空間に炸裂していく。そのエネルギーが限界突破した時、その空間は戦いを終わらせる扉になる。……だが、やはりこの人数では力が足りない……!

「現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》! ――十代!」

「――! 速攻魔法……《超融合》を発動!」

 遊矢がとっさに召喚した《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に対し、十代が《超融合》を発動すると――十代のフィールドにいたネオスと、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が融合していく。

『融合召喚! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!』

 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》とネオスが融合して現れた竜騎士の一撃が放たれ――異世界の空間に遂にヒビが入る。そのヒビから閃光が溢れていくと……異世界への扉は、デュエリストたちを更なる異世界へ突入させる。

「……頼むぞ、みんな……」

 一人残った三沢は、みんなの無事を祈りながらそう呟いた。
 
 

 
後書き
さらばカイザー。異世界編もあと僅かです…… 

 

―終局―

 
前書き
第三期完 

 
 ――何度か経験した異世界への移動。以前は強制的やエクゾディオスの力であったが、今回の移動は《スピード・ウォリアー》……いや、機械戦士たちによるもの。デュエルディスクに装着された【機械戦士】デッキが守ってくれることを感じながら、俺は異世界の狭間を移動していく。十代に翔、クロノス教諭の存在もそれぞれ近くに感じながら、やがて俺たちは新たな異世界に到着する。

 目を覚ますとそこは、一面が霧で覆われているような異世界。遠くどころか近い距離すらも見えないが、人間の顔だけははっきり見える……不思議な場所だった。十代にクロノス教諭、翔も無事に来ていることを確認すると……それより向こうにいる、二人のことを視認する。

「やあ十代……早かったじゃないか……」

「……ふん」

 対峙するアモンとヨハン。ただしヨハンはかつてのマルタンのように、ヨハン自身の意識はなく、カードの精霊――《ユベル》に乗っ取られている。今にもデュエルが始まりそうな一触即発だったらしく、そこに俺たちが割り込んできた、ということらしい。

「今さらお前らが何をしに来た? 覇王の抜け殻に、何の力もない奴が」

「決まってるだろ」

 エクゾディオスの手のひらに乗るアモンがこちらを睨みつけ、言外にお前らはここに来る資格はない、と見下してくる。その言葉はただの驕りではなく、エクゾディオスの力も相まって、本当の王のようでもある。だが、それに屈することはなくデュエルディスクを構え……俺はここに来た意味を宣言する。

「デュエルしに、来たんだ」

 そう宣言する俺に対し、アモンは失笑で応えた。今さらお前とデュエルする気などないと、言葉を交わさずとも分かる雰囲気だ。……いやそれどころか、むしろユベルとのデュエルの邪魔が入ったことについて、怒りすら感じられるほどだ。

「何を言うかと思えば……」

「いいじゃないか、王様」

 すると、ヨハン――いや、ユベルが予想外にも乗り気な表情で、座っていた椅子から立ち上がってデュエルディスクを展開する。……その視線はただ一点、十代にのみ向けられている。

「さっきまでは君と戦う気だったけど、十代が来たんなら話は別だ。君は後回しだよ、王様……なあ十代?」

「ユベル……」

 怒りや悲しみ、様々な感情をごちゃ混ぜにした十代の瞳が、十代に語りかけるユベルを見据える。もはや話し合いが通じる相手ではないと、十代もまたデュエルディスクを展開する。

「そういうことだそうだが?」

「ふん……確かに、ユベルと戦う前の肩慣らしに、一度負けた借りを返すのも悪くはない。いいだろう黒崎遊矢。真のエクゾディオスの力を見せてやろう」

 以前のエクゾディア・ネクロスのことを言っているのか、アモンはそう言うとエクゾディオスの手のひらから地上に飛び降り、エクゾディオス自体の姿も消えてデッキへと戻っていく。俺にアモン、十代にユベル。それぞれ別々に対峙すると、あとはデュエルを開始するのみとなる。

「翔にクロノス先生は下がっててくれ! ……お前まで消えるなよ、遊矢……!」

「そっちこそ、な」

 短く最後に十代と言葉を交わすと、お互いがお互いのデュエルの邪魔にならぬように、それぞれ一対一で対峙する。そうするとこの世界はよくできたもので、少し離れただけにもかかわらず、十代やクロノス教諭の姿はまるで見えない。

 ……今の自分に見える物は対戦相手であるアモンだけ――

「わざわざ死ににくるとはな……」

 ――いや、そのアモンの先にあるエクゾディオスを見据える。あの力を再び手中に収めることで、みんなを助けて元に戻す。そのためだけに今まで戦ってきたのだから……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
アモンLP4000

「僕の先攻」

 アモンのデッキは恐らく、先の亮のデュエルの際からあまり変わっていない。完成した《究極封印神エクゾディオス》を特殊召喚し、それらで攻め込んでいくデッキだ。アモンなりのカスタマイズは入っているだろうが、本筋はそうだろう。

「僕は魔法カード《融合徴兵》を発動。エクストラデッキの《クリッチー》を見せることで、デッキから《クリッター》を手札に加えることが出来る」

 融合素材をデッキから直接サーチする魔法カード、《融合徴兵》によってかの《クリッター》が早くも手札に加えられる。もちろんそれを融合召喚に使うことはないだろうが、《融合徴兵》にはサーチしたモンスターを、そのターンのみだが実質使用不可にするデメリットがある。ならば使い道は……

「僕はモンスターをセット。さらにカードを二枚伏せてターンを終了」

 《融合徴兵》で封じられるのは、サーチしたモンスターの効果の発動と召喚のため、セットすることはかろうじて出来る。アモンはこうして挑発しているのだ……エクゾディアが怖くなければ、攻めてこいと。

「俺のターン……」

 フェイクなどと考える必要もない。あのセットモンスターは間違いなく《クリッター》であり、リバースカードはそれを使い回すカードで、速攻でエクゾディアを揃えようとしているのだ。

「……ドロー!」

 ……だからといって、初手からアモンに呑まれてはそこで終わりだ。俺に神のカードに打ち勝つ力を……機械戦士……明日香!

「俺は魔法カード《融合》を発動!」

「……なに?」

 俺のデッキを知らないアモンが眉をひそめる。そんなアモンの探るような視線を感じながら、俺の背後で時空の穴が生成されていく。

「俺は手札の《エトワール・サイバー》と、《ブレード・スケーター》を融合! 現れろ、《サイバー・ブレイダー》!」

 時空の穴から滑るように飛び出してくる銀幕の女王。正確には機械戦士ではないが……彼女のために戦うこのデュエルに、これほど相応しいモンスターはいない。

「なるほど、機械戦士……か」

 俺の【機械戦士】に《サイバー・ブレイダー》が入っていたことを調べていたのか、アモンは合点がいったようにそう呟いた。一度アモンとは【機械戦士】でデュエルしたことがあるため、これでこちらの手の内もあちらにバレたことだろう。

「バトル! 《サイバー・ブレイダー》でセットモンスターに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

「ほう……来るか」

 アモンのフィールドに伏せられたセットモンスター――やはり《クリッター》が《サイバー・ブレイダー》に切り裂かれた。当然アモンには痛くも痒くもなく、その効果が発動される。

「《クリッター》が破壊されたことにより、デッキからデッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。僕が選ぶのは、もちろん《封印されしエクゾディア》」

 《クリッター》のサーチ効果が発動し、まずは一枚、といった調子でアモンは《封印されしエクゾディア》を手札へと加える。この結果は覚悟の上だ、今から怖がっていても仕方がない……と、俺はさらにカードを一枚デュエルディスクに差した。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了」

「その前に《リミット・リバース》を発動する。墓地から《クリッター》を特殊召喚」

 俺がカードを一枚伏せてターンを終了――かと思いきや、アモンのフィールドに再び《クリッター》が特殊召喚される。攻撃力1000以下のモンスターを墓地から特殊召喚する、という自分も多用するカードのため、効果もアモンの狙いもよく分かるが……それを止める手段は存在しない。《クリッター》が特殊召喚されたことにより、エンドフェイズから巻き戻しが発生するものの、俺にこのターンで出来ることはない。

「……このままターンエンド」

「僕のターン、ドロー」

 アモンがカードをドローし、メインフェイズになるとともに《クリッター》が破壊される。こちらが何をしたわけではなく、もちろんアモンが自発的にやったことだ。

「《リミット・リバース》の効果により、《クリッター》は自壊。さらにエクゾディアパーツを手札に加えさせてもらう」

 《リミット・リバース》は蘇生したモンスターが守備表示になれば、そのモンスターを諸共に破壊する効果があるが、《クリッター》は破壊されるのが仕事だ。さらにそのサーチ効果を発動すると、アモンの手札にまたもやエクゾディアパーツが加えられる。

「モンスターとカードをセットし、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 やはりアモンはまだ動こうとはせず、守備に徹したままエクゾディアを揃える算段だ。セットモンスターが一枚、リバースカードが二枚と、あれらがもしも一枚一枚エクゾディアパーツを揃えるカードなら、俺はこの時点で敗北が決定する。……そうならないところを見るに、そうではないらしいが。

「《サイバー・ブレイダー》でセットモンスターに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 今はそのセットモンスターを攻撃するしかない。《サイバー・ブレイダー》の二撃目はまたもあっさり決まり、いとも簡単に壁モンスターを破壊する。

「セットモンスターは《冥界の使者》。このカードが破壊された時、デッキからお互いにレベル3以下の通常モンスターを手札に加える。僕は《封印されし右腕》を」

「俺は《チューン・ウォリアー》を……カードを一枚伏せてターン終了」

 《サイバー・ブレイダー》が破壊したカードは《冥界の使者》。お互いにレベル3以下の通常モンスターを手札に加える、というサーチする効果を持っており、アモンはもちろんエクゾディアパーツを。俺はチューナーモンスターである《チューン・ウォリアー》を手札に加えた。そしてそれ以上のことをすることはなく、こちらもカードを一枚伏せたのみで、ターンを終了する。

「僕のターン、ドロー……何を考えている?」

 アモンがドローするとともに、こちらへの鋭い眼光を伴って問いかけてくる。エクゾディアのような特殊勝利デッキを相手にする際は、速攻が最も有効かつ勝てる確率が高い手段。……にもかかわらず、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚したのみで、とりたてて動きのない俺に対し、アモンが探るような視線を向けてきていた。

「……まあいい。神の前では無力だ。リバースカード、《ブレイク・ザ・シール》を発動!」

 アモンのフィールドに伏せられていた、二枚のリバースカードがそのかけ声とともに同時に発動する。どちらのカードも同名の《ブレイク・ザ・シール》。その効果は……

「《ブレイク・ザ・シール》をフィールドから二枚墓地に送ることで、デッキからエクゾディアパーツを手札に加える」

 ……エクゾディアパーツ専用のサーチカード。その効果は永続罠という特性上やや遅いものの、エクゾディアパーツを指定してサーチする、という特性だけでその短所を補って余りある。

 そしてこれで、四枚のエクゾディアパーツがアモンの手札に加えられた。一枚ずつしかデッキに投入出来ない、というエクゾディアの特性から、サーチ以外でアモンの手札に加えられていないのは……不幸中の幸いといっていいのか。

 アモンの手札は五枚であり、そのうちの四枚はエクゾディアパーツ。そして残る一枚は不明だが、恐らくはさらに行動する為の布石のカード。このタイミングだ――と、俺は遂に動きだす。

「伏せてあった速攻魔法《手札断殺》を発動!」

「……何?」

 手始めに発動したカードは多用するカードの一つ、速攻魔法《手札断殺》。もはや説明不要ではあるが、お互いは手札を二枚墓地に捨て、さらに二枚ドローするという効果を持つ。これでアモンの手札のエクゾディアパーツは墓地に送られ、完成が遅れることとなる――

 ――などということはありえない。むしろ、エクゾディアパーツの完成を助けることになるのは自明の理だ。わざわざサルベージが容易なエクゾディアパーツを墓地に遅らせてやり、相手の損失もなく手札交換をさせてやるのだから。

「貴様……」

 それが分からないアモンではなく、二枚の手札交換を果たしながら、こちらの目論見を探ろうとする。今の《手札断殺》だけで出来たことと言えば、ただの時間稼ぎに過ぎない――いや、アモン相手なら時間稼ぎにもならない。

「……あんまりカイザーを失望させるなよ、黒崎遊矢」

 命を賭けてエクゾディアに立ち向かった、カイザー――丸藤亮の名をアモンは口に出した。カイザーは俺と十代にメッセージを託して散った。アモンにそう言われるまでもない……!

「その目つき……何か考えがあるらしいが……神の前では無力だ! 魔法カード《究極封印解放儀式術》を発動!」

「――――!」

 これがエクゾディアパーツを墓地に送っても、時間稼ぎにもならない理由――手札と墓地に、それぞれエクゾディアパーツが五枚揃っている、ということが条件の魔法カード。先程までは四枚しかエクゾディアパーツを揃えていなかった筈だが、先の《手札断殺》で最後のパーツを手札と墓地に揃えたのか。

「手札と墓地に五枚のエクゾディアパーツがある時、墓地のエクゾディアパーツをデッキに、手札のエクゾディアパーツを二枚まで墓地に送ることで、デッキから《究極封印神エクゾディオス》を特殊召喚する!」

 遂に降臨する神のカード。厄介な手順はまるで降臨の儀式のようで、かつて俺が使っていた不完全体とは違い、完成した力を纏っている。効果や攻撃力も進化しており、あのカイザーを一手違いとはいえ葬るほどの力。

「エクゾディオスは墓地のエクゾディアパーツの数×1000ポイントの攻撃力アップさせる。よってその攻撃力は2000」

 俺が使っていた不完全体は出した当初は攻撃力が0だったが、《究極封印解放儀式術》を介して特殊召喚したことにより、その攻撃力は最初から2000。さらに攻撃する際、エクゾディアパーツを墓地に送ることで攻撃力がアップし、墓地に揃えることで特殊勝利が確定する。

「――対策もなく出させるほど、俺だって馬鹿じゃない」

「何……?」

 確かに神のカードの力は偉大だ――そもそもそれを得るために、俺はこうして立っているのだから。だが神のカードとて穴はあるのだ、と……それを証明するように、俺はアモンに一枚の伏せカードの存在を示す。

「俺はリバースカード、《リバイバル・ギフト》を発動していた!」

 相手フィールドに二体の《ギフト・デモン・トークン》を特殊召喚することで、墓地からチューナーモンスターを蘇生する罠カード。その効果が適応されたため、俺のフィールドには《手札断殺》で墓地に送っていた《チューン・ウォリアー》、アモンのフィールドには二体の《ギフト・デモン・トークン》が特殊召喚されていた。チューナーモンスターを蘇生出来るとはいえ、相手フィールドに二体のトークンを出す、という普通に使うには割に合わない効果だが……このカードこそが、俺がエクゾディオス攻略に賭けた一枚。

「そのカードが何だか知らないが、エクゾディオスにカード効果は通用しない!」

「その効果が無効化されてなければな……《サイバー・ブレイダー》の効果が既に発動している!」

 アモンのフィールドには《究極封印神エクゾディオス》と《ギフト・デモン・トークン》が二体。相手フィールドに三体のモンスターがいる時、《サイバー・ブレイダー》は第三の効果を発動する。

「《サイバー・ブレイダー》は相手フィールドのモンスターが三体の時、相手のカードの効果を全て無効化する! パ・ド・カトル!」

「だが、エクゾディオスはその効果すら――!」

 確かに《究極封印神エクゾディオス》の効果耐性は、《スキルドレイン》のような効果を無効化するカードも受け付けない。……だが、それも後出しした場合の話だ。エクゾディオスがフィールドに召喚された瞬間、あるいは召喚された前から発動していたカードの効果は無効化出来ない。

 二体の《ギフト・デモン・トークン》がいるフィールドに特殊召喚されたエクゾディオスは、《サイバー・ブレイダー》第三の効果によってその効果を無効化され、力を失い膝をついて倒れ伏す。

「そのまま倒れてろ……エクゾディオス!」

「くっ……!」

 かつて砂の異世界で戦ったプロフェッサー・コブラの切り札、神と同等の耐性を持ったモンスターたる《毒蛇神ヴェノミナーガ》を破った際の経験から来た一手。そして……明日香の力を得れたこその一手。

 アモンのフィールドのモンスターの数が増減するだけで、打ち破られてしまう脆いコンボではあるが……《リバイバル・ギフト》で特殊召喚したモンスターは、全て守備表示のためこのターンで自爆特攻は出来ない。まだ通常召喚はしていないが、下級モンスターを召喚させられたならば、その隙を突くことが可能となる――むしろ、ここでの適当な下級モンスターの召喚の誘発が真の狙いだと言っていいほどに。

 力を失ったエクゾディオスを眺めながら、アモンはかけている眼鏡を一度だけ上げると、ほんの少しの時間だけ考えながら……あくまで冷静に、次なる手段を打ってきた。

「よくやる……が、ここまでだ! 僕は二体の《ギフト・デモン・トークン》をリリース!」

「……最上級モンスター!?」

 ……その打った手は完全なる予想外の一手。下級モンスターの召喚ならば、まだエクゾディオスではない的が増やすことが出来た。だがアモンが取ってきた手段は、二体の《ギフト・デモン・トークン》のリリース――アモンのデッキはエクゾディオスに特化したデッキだと、俺は勝手に勘違いしていたのだ。

「来い! 《霧の王》!」

 俺が送りつけたトークンを利用して現れたのは、霧のような身体に鎧と槍を持った、一見矛盾したような姿の戦士。『王』として『神』であるエクゾディオスに従い、俺の前に立ちはだかった。

「《霧の王》の攻撃力はリリースしたモンスターの攻撃力の合計。よって3000となる……エクゾディオスだけが勝利の手段だと思わないことだ」

「……《サイバー・ブレイダー》第二の効果! 相手フィールドのモンスターが二体の時、その攻撃力を倍にする! パ・ド・トロワ!」

 しかし不幸中の幸いとでも言うべきか――《霧の王》の召喚によりアモンのフィールドは二体のため、《サイバー・ブレイダー》第二の効果が発動し、その攻撃力を倍である4200にまで上昇させる。その数値は《霧の王》の3000、《究極封印神エクゾディオス》の3000となる攻撃力では及ばない数値である。

「ふん、悪運の強い奴だ……だが、エクゾディオスでチューン・ウォリアーに攻撃! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

「ぐっ……!」

 ただし《リバイバル・ギフト》で特殊召喚されていた、《チューン・ウォリアー》は守備表示だろうとそうはいかない。エクゾディオスは攻撃と同時に、エクゾディアパーツを墓地に送ることでその攻撃力を上げ、特殊勝利へのカウントダウンを進めていく。

「あと二回……か。カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 先のエクゾディオスによる《チューン・ウォリアー》への攻撃――守備表示のためにダメージはなかった筈だが、その雷撃は俺に直接ダメージを与えていた。このまま食らっていては、ライフポイントよりも自分が参ってしまう……

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚!」

 ならばそれより先に倒すしがない。幸いなことに、俺の手札も攻撃する準備は整っている……予定は狂ってしまったが、あの《霧の王》へと狙いをつける。

「さらに《機械複製術》を発動! デッキから二体増殖せよ、《チューニング・サポーター》!」

 中華鍋を逆から被ったようなモンスターが、魔法カード《機械複製術》により増殖していく。……以前デュエル・アカデミアで戦っていた時には、まるで毎度のように使っていたが……などと、感傷に浸っている暇はない。その日常を取り戻す為に、今戦っているのだから。

「さらに装備魔法《リビング・フォッシル》を発動! 墓地からモンスターを蘇生し、このカードを装備する。蘇れ、《チューン・ウォリアー》!」

 装備魔法《リビング・フォッシル》の効果により、《チューン・ウォリアー》が再びフィールドへ蘇生される。装備魔法《リビング・フォッシル》は、蘇生させ装備したモンスターの攻撃力を1000ポイント下げ、その効果を無効にしてしまうが……シンクロ素材にするには、何の制約もない。

「永続魔法《コモンメンタルワールド》を発動し、俺はレベル2にした《チューニング・サポーター》に、レベル1の《チューニング・サポーター》、レベル3の《チューン・ウォリアー》をチューニング!」

 永続魔法《コモンメンタルワールド》を発動した後、《サイバー・ブレイダー》以外の四体のモンスターがシンクロ召喚へと移行する。《チューニング・サポーター》はシンクロ素材になる際、任意でレベルを2に変更できる効果を持つ。三体の内一体だけレベルを上げると、他のレベル1の二体、さらにレベル3の《チューン・ウォリアー》でシンクロ召喚の素材にならんと、天空で光り輝いていく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! ……シンクロ召喚!」

 光の輪となった《チューン・ウォリアー》が三体の《チューニング・サポーター》を包み込み、一際強く光輝くとともに新たなモンスターが現れる。そのシンクロ素材のレベルの合計は、《チューニング・サポーター》の効果により、7――

「現れろ! 《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 黄色のボディを持つ機械竜がシンクロ召喚され、その中に巣くう竜が雄叫びを放つ。自分がシンクロモンスターの中で最も信頼しているカードであり、その信頼に違わぬ安定性を持った効果を持っている。まずはその効果を発動する……前に、シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》の効果が発動する。

「《チューニング・サポーター》はシンクロ素材となった時、カードを一枚ドロー出来る。よって三枚のカードをドロー! ……さらに《コモンメンタルワールド》の効果を発動!」

 《チューニング・サポーター》それぞれの効果が発動することで、三枚のカードをドローしながらも、間髪入れずに《コモンメンタルワールド》の効果の発動を宣言する。この永続魔法はシンクロ召喚に反応して発動する……!

「シンクロ召喚に成功した時、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》のシンクロ召喚時に発生したエネルギーの余波が、刃となってアモンを襲う。それをアモンは避けようともせず、刃はアモンの頬を切った。

アモンLP4000→3500

「まさか、こんなバーンを繰り返す気じゃないだろう?」

「……《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動!」

 アモンの挑発には応えず、俺は《パワー・ツール・ドラゴン》の効果の発動を宣言する。俺がデッキから三枚のカードを抜き取ると、それに呼応するかのように、アモンの前に三つのカードが裏側で現れる。

「相手がランダムで選んだ装備魔法を手札に加える。パワー・サーチ!」

「……右のカードだ」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の効果により、アモンが選択した右のカードを手札に加え、残りのカードをデッキに戻しシャッフル。さらにその手札に加えた装備魔法は、そのままデュエルディスクへと差し込まれた。

「《パワー・ツール・ドラゴン》に《ダブルツールD&C》を装備する!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の右手なドリル、左手にはカッターが装備されていき、その攻撃力を1000ポイントアップさせる。これでアモンのモンスターの攻撃力を超えた上に、《ダブルツールD&C》の真の効果は戦闘する相手モンスターの効果を無効にすること。神のカードたるエクゾディオスの効果は無効に出来ないが、《霧の王》ならば問題はなく、効果を無効にした《霧の王》の攻撃力は0……!

「バトル! 《サイバー・ブレイダー》で《究極封印神エクゾディオス》を攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 まだ《サイバー・ブレイダー》はその第二の効果により、攻撃力は4200のまま――要するに《究極封印神エクゾディオス》の攻撃力よりも高い。相手が神のカードだろうと恐れずに、氷上の舞姫は華麗にフィールドを疾走していく。

「だが《究極封印神エクゾディオス》は、あらゆる手段だろうと破壊されない」

「それでも戦闘ダメージは受けてもらう!」

 エクゾディオスが破壊できないことなど百も承知。それでもまだその攻撃力は3000に過ぎず、攻撃をすれば神のカードだろうとダメージはある。《サイバー・ブレイダー》がエクゾディオスに攻撃を仕掛けようとしたその時、アモンのフィールドに発生した壁が、《サイバー・ブレイダー》の攻撃を弾き返した。

「なっ……!?」

「お前のモンスターに神へ触れる資格などない。リバースカード、《究極封印防御壁》を発動した」

 俺がエクゾディオスの力を使っていた際にも使用した、エクゾディオスの専用サポートカードである《究極封印防御壁》。自分のフィールドにエクゾディオスがいる時、相手が攻撃宣言をした瞬間にそのバトルフェイズを終了させる、という相手の攻撃を全てシャットアウトする強力な効果。

 《究極封印防御壁》によりバトルフェイズが終了した今、《サイバー・ブレイダー》も《パワー・ツール・ドラゴン》はどちらも攻撃は出来ない。これで俺は攻撃宣言を封じられたに等しく、そのターンに出来ることはなかった。

「俺は……ターンを終了する」

「ふっ……僕のターン、ドロー!」

 《リバイバル・ギフト》からの戦術も、《パワー・ツール・ドラゴン》の一撃必殺も、正面から打ち破ったアモンが余裕そうにカードをドローする。その神のカードを伴った圧倒的な威圧感に、勝てないのか――という疑念が一瞬だけ浮かぶ。

「僕は魔法カード《アームズ・ホール》を発動。デッキトップを墓地に送り、このターンの通常召喚を封じることで、デッキから装備魔法を一枚サーチする。僕は《王家の剣》をサーチ」

 通常召喚を封じるという重いデメリットはあるものの、デッキか墓地から装備魔法を手札に加える、という有用なサーチカード《アームズ・ホール》。自分も装備魔法使いとしてよく知っているが、アモンがサーチした装備魔法自体は知らなかった。

「《王家の剣》を《霧の王》に装備し、バトル!」

 《霧の王》の武器が槍から装飾過多の槍に変化し――恐らくは、《霧の王》専用の装備魔法――アモンはバトルフェイズへと移行する。俺のフィールドには攻撃力4200の《サイバー・ブレイダー》と、《ダブルツールD&C》を装備した、攻撃力2300の《パワー・ツール・ドラゴン》。

「《霧の王》で《パワー・ツール・ドラゴン》に攻撃! ミスト・ストラングル!」

「……すまない、《パワー・ツール・ドラゴン》……!」

遊矢LP4000→3300

 《パワー・ツール・ドラゴン》は、自身に装備された装備魔法を墓地に送ることで、いかなる破壊をも無効にする効果がある……が、今回はその効果は使わない。《霧の王》の振るう《王家の剣》の一閃に、《パワー・ツール・ドラゴン》は一刀両断されてしまう。

 たとえ破壊耐性効果を使ったとしても、後続の《究極封印神エクゾディオス》の的になるだけだ。それでもすまない、と謝ると、《パワー・ツール・ドラゴン》は言葉を発することなく破壊された。

「《王家の剣》の効果。《霧の王》が戦闘した時、紋章カウンターを一つ乗せる。そして、紋章カウンターの数だけその攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 そして発動した《王家の剣》の効果により、《霧の王》の攻撃力は3800となる。あのアモンがわざわざサーチした装備魔法だ、まさかそれだけの効果とは思えないが……?

「さらに《究極封印神エクゾディオス》で《サイバー・ブレイダー》に攻撃! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

「……反撃しろ、《サイバー・ブレイダー》! グリッサード・スラッシュ!」

 《サイバー・ブレイダー》は第二の効果が発動しているため、その攻撃力は4200。たとえエクゾディオスが攻撃前に自身の攻撃力を上げても、僅か200ポイントだけだがその攻撃力は及ばない……それでも、アモンは攻撃を宣言した。

 エクゾディオスが放った雷撃をサイバー・ブレイダーは何とか避けてみせ、その際に発生した衝撃波はアモンを襲う。

アモンLP3500→3300

 もちろんエクゾディオスはあらゆる手段だろうと破壊されず、アモンへのダメージも僅かに200ポイント。それでも攻撃してきた理由は決まっている……次のターン、エクゾディオスが攻撃してきた瞬間、俺の敗北は決定するからだ。これで墓地に送られたエクゾディアパーツは四枚、次のターンで最後のパーツが墓地に送られれば、《究極封印神エクゾディオス》の特殊勝利効果が発動する。

「ターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 俺の次なるターンでの敗北を回避するには、《究極封印神エクゾディオス》を攻撃させなければいいのだが……いかなる効果も通用しないエクゾディオスを止めるカードは、数あるカードの中でも数種類に限られる。……もちろん、その数種類のカードが都合よく手札にある、何てことはなく。

「俺は装備魔法《シンクロ・ヒーロー》を《サイバー・ブレイダー》に装備!」

 ――逆転のカードがないならば引くまで。

「さらに魔法カード《アドバンスドロー》を発動! レベル8となった《サイバー・ブレイダー》を墓地に送ることで、カードを二枚ドローする!」

 装備モンスターのレベルを1上げる装備魔法《シンクロ・ヒーロー》により、レベル8となった《サイバー・ブレイダー》を《アドバンスドロー》――レベル8モンスターをリリースして二枚ドロー――のコストにさらにドローする。心中でこのターンまで耐えてくれた《サイバー・ブレイダー》に礼を言いながら、明日香を心に思いカードを二枚引く。

「俺は……」

 ……二枚引いたドローの中には、《究極封印神エクゾディオス》の攻撃を封じるカードは存在しなかった。もちろん効果を封じるだとか、フィールドから排除するとか、そういうカードもなく――

「通常魔法《異次元の指名者》を発動!」

 ――あるのはただ、逆転のカードのみ。

「《異次元の指名者》……だと?」

「このカードはカード名を一枚宣言し、そのカードが相手の手札にあった場合、そのカードを除外する!」

 《異次元の指名者》――このカードは、先の《リバイバル・ギフト》と同じく、《究極封印神エクゾディオス》対策に投入されたカード。その効果を聞いたアモンからは失笑が漏れた。

「何を狙っているか知らないが、ここまで来て『神』頼みとはな……」

「神頼みなんかじゃない……その神を従えるために、俺はここにいる!」

 もちろん神頼みなどではない。アモンは《クリッター》や《冥界の使者》のサーチ効果により、高速でエクゾディアパーツを手札に揃えていた。こちらがわざと攻撃していたとはいえ、《究極封印神エクゾディオス》の降臨を待つまでもなく、そのまま《封印されしエクゾディア》の効果で特殊勝利を狙えそうなほどに。

 そこを妨害したのが俺の《手札断殺》だった。アモンは二枚以上のエクゾディアパーツを墓地に送れざるを得なくなり、それを利用することで魔法カード《究極封印解放儀式術》を発動し、エクゾディオスを降臨させた。

 《究極封印解放儀式術》の発動条件は、手札か墓地にエクゾディアパーツが五枚あり、手札のエクゾディアパーツを二枚まで墓地に送り、墓地のエクゾディアパーツをデッキに戻すこと。つまり《手札断殺》の効果で墓地に送られたパーツはデッキに戻り、手札に残った三枚のパーツのうち二枚が墓地に送られる。

 ――よって。アモンの手札には、まだ一枚エクゾディアパーツが残っている。

「お前の手札にあるカードは……」

 ……アモンは無駄なプレイなどしない。墓地に送るのも、デッキに戻すのも、サーチとサルベージをしやすい通常モンスターだろう。すなわち、アモンの手札に一枚だけ残ったエクゾディアパーツは……

「――《封印されしエクゾディア》だ!」

 俺の宣言とともに《異次元の指名者》から放たれた光弾が、アモンの手札を直撃して一枚のカードを奪っていく。もちろんそのカードは《封印されしエクゾディア》――流石のアモンも、手札のエクゾディアパーツが除外されることは想定していなかったのか、苦々しげに顔を歪めていた。

「これでエクゾディオスの効果は封じた!」

「《手札断殺》からずっとこれを狙っていたのか……!」


 《手札断殺》から《リバイバル・ギフト》に《異次元の指名者》まで。全ては《究極封印神エクゾディオス》の、デッキと手札からエクゾディアパーツを墓地に送る、という手段による特殊勝利をを封じるための戦術。先の《サイバー・ブレイダー》の効果を封じるため、《封印されしエクゾディア》をフィールドに召喚するもよし。

 ……炸裂したのは、次善策の《異次元の指名者》。流石のエクゾディオスと言えども、除外ゾーンまではその効果の範囲外だ。

「これでエクゾディオスは、ただの神のカードだ! ……俺はモンスターをセットし、カードを二枚伏せてターンエンド!」

 とにもかくにも、エクゾディオスの最も警戒すべき特殊勝利は封じた。後はどうとでもやりようはある……!

「啖呵をきっておいて守備重視か? ……ナメるなよ! 僕のターン、ドロー!」

 冷静さと余裕さを崩すことはなかったアモンが、初めて声を荒げながらカードを引く。恐らくそれは、俺をただの獲物ではなく、敵対するデュオリストと認めた証拠。今まで手加減をしていたわけではないだろうが、ここからが本当の勝負だといって差し支えないだろう。

 アモンのフィールドは攻撃力4000の《究極封印神エクゾディオス》に、装備魔法《王家の剣》を装備した攻撃力3800の《霧の王》。さらにエクゾディオスがいる限り、こちらの攻撃を全てシャットアウトする永続罠《封印防御壁》で、ライフポイントは残り3300。

 対する俺のフィールドには、セットした守備モンスターにリバースカードが二枚。さらに永続魔法《コモンメンタルワールド》で、ライフポイントは偶然にも同じく3300。

「僕は魔法カード《ダブルアタック》を発動! 《霧の王》よりレベルが高いモンスターを墓地に送ることで、このターン《霧の王》は二回攻撃が可能となる!」

 こちらのモンスターはセットモンスター一体だけにもかかわらず、アモンは《霧の王》に二回攻撃を付与する。攻撃回数を増やすことで、《王家の剣》にカウンターを増やすことも目的のうちだろうが、そもそもその攻撃力は俺のライフを超える。

「バトル! 《霧の王》でセットモンスターを攻撃! ミスト・ストラングル!」

「セットモンスターは《マッシブ・ウォリアー》! このモンスターは一ターンに一度だけ、戦闘では破壊されない!」

 セットモンスターとして現れたのは、要塞の機械戦士こと《マッシブ・ウォリアー》。その効果は戦闘ダメージのカットと一度きりの戦闘破壊耐性で、《霧の王》からの攻撃にも耐えてみせる。

「だが二回攻撃は受けてもらう! ミスト・ストラングル!」

 《王家の剣》に二つ目のカウンターを乗せながら、《霧の王》はさらに攻撃を続けてくる。《王家の剣》の一閃が、今度こそ《マッシブ・ウォリアー》を切り裂く――というところに、新たな機械戦士が《霧の王》の前に立ちはだかった。

「墓地から《シールド・ウォリアー》を除外することで、《マッシブ・ウォリアー》の戦闘破壊を一度だけ無効に出来る!」

 《手札断殺》の効果で墓地に送っていた、《シールド・ウォリアー》が《霧の王》から《マッシブ・ウォリアー》を守る。さらに《王家の剣》にカウンターが溜まり、攻撃力は5400にまで到達するが……《シールド・ウォリアー》によって守られた、《マッシブ・ウォリアー》は無傷。

「チッ……エクゾディオスでマッシブ・ウォリアーに攻撃! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

「ぐっ……!」

 流石にこれ以上の攻撃を《マッシブ・ウォリアー》は耐えられず、神の雷の前に破壊されてしまう。その余波だけでも自分にダメージを与えてくる、神のカードからの威圧に耐えながら、それでもエクゾディオスの前に立つ。

「しぶとい奴だ……カードを一枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 《究極封印防御壁》とエクゾディオスが揃っている限り、俺の攻撃は全てシャットアウトされる。攻撃をするにしても、アモンのフィールドのモンスターに対抗できるほどの火力は、今の俺の手札には存在しない。

「俺は通常魔法《ブラスティング・ヴェイン》を発動! 俺のセットカードを破壊することで二枚ドロー!」

 セットしている二枚のリバースカードのうち、その一枚のカードを破壊することで、カードを二枚ドローする。破壊したカードは、もちろん……決まっている。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! このカードが破壊された時、デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! いでよ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアァッ!』

 ――その雄叫びは何も変わっていない。力強い叫び声とともに、マイフェイバリットカードがデッキから特殊召喚される。

「さらに速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! さらにデッキから《スピード・ウォリアー》を二体、特殊召喚する!」

「……僕は《霧の王》を守備表示で特殊召喚する」

 特殊召喚した攻撃力1500以下のモンスターをさらに二体特殊召喚する、速攻魔法《地獄の暴走召喚》によって、さらにマイフェイバリットカードが二体特殊召喚される。そのデメリットにより、アモンもさらに一体《霧の王》を召喚するが、守備表示な上にその攻撃力は0。

「さらにチューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を召喚し、四体のモンスターでチューニング!」

 またもや四体のモンスターでのシンクロ召喚。マイフェイバリットカードとラッキーカードによる調律は、光とともに金属音を発生させていく。合計レベルは再び7。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 シンクロ召喚されるは7つの剣を持つ機械戦士。金色の鎧を輝かせながら、フィールドに守備表示で現れた。さらにそのシンクロ召喚に反応し、永続魔法《コモンメンタルワールド》の効果が発動する。

「シンクロ召喚に成功した時、500ポイントのダメージを与える!」

アモンLP3300→2800

 僅か500ポイントのダメージでも、積もり積もれば山となると言ったところか。さらに《コモンメンタルワールド》だけでなく、さらにアモンに直接ダメージを与えていく。

「《セブン・ソード・ウォリアー》に装備魔法《ミスト・ボディ》を装備!」

 装備モンスターを戦闘破壊させなくする、という単純明快かつ強力な装備魔法。効果を受けつけないエクゾディオスといえども、こちらのカードを無効化出来る訳ではなく、これでエクゾディオス単体では守備表示の《セブン・ソード・ウォリアー》は突破できない。

「そして装備魔法が《セブン・ソード・ウォリアー》に装備された時、相手のライフに800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

「こざかしい……!」

アモンLP2800→2000

 こざかしいと言われようが、アモンのライフはこれで半分。《封印されしエクゾディア》を除外し特殊勝利を封じた今、このままその『こざかしい手』でやらせてもらう……

「さらにカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 アモンのフィールドは《究極封印神エクゾディオス》に、《王家の剣》を装備した《霧の王》、守備表示の同じく《霧の王》にリバースカードが一枚。《王家の剣》には三つの紋章カウンターが貯まっており、その攻撃力は5400にまで上昇している。とはいえ、攻撃力を上げるだけとも思えないが……

「僕は《七星の宝刀》を発動! 守備表示の《霧の王》を除外し、二枚ドローする!」

 俺が《サイバー・ブレイダー》をコストに使った魔法カード、《アトバンスドロー》のレベル7を指定したカード――というと微妙に違うが――《七星の宝刀》が発動され、《地獄の暴走召喚》によって特殊召喚されていた、攻守ともに0の《霧の王》をコストに二枚ドローする。

「バトル。《霧の王》で《セブン・ソード・ウォリアー》に攻撃。ミスト・ストラングル!」

 《霧の王》の苛烈な攻撃が《セブン・ソード・ウォリアー》を襲うものの、《セブン・ソード・ウォリアー》の身体はまさしく霧のようになり、その攻撃をまるで受けつけない。装備魔法《ミスト・ボディ》の効果により、戦闘破壊耐性を得ているというのはアモンも承知の筈だが……?

「戦闘したことにより、《王家の剣》に4つ目の紋章カウンターが乗る」

 なるほど。考えてみれば当然で、《王家の剣》に紋章カウンターを乗せるためか――などと呑気に構えていた俺の余裕を、《王家の剣》はあっけなく打ち砕いた。四つのカウンターが溜まったその剣には、まるでこの異世界ごと消し飛ばしてしまうような――それほどの威力が秘められていると分かる、信じられないほどのエネルギーを持っていたからだ。

「まさか――」

「四つの紋章カウンターが乗った《王家の剣》の効果を発動! 《霧の王》とこのカードを墓地に送ることで、相手ライフに4000ポイントのダメージを与える!」

 《コモンメンタルワールド》や《セブン・ソード・ウォリアー》のバーンなど比較にならない、まさに桁が違う必殺の一撃。初期ライフをも一瞬で消し去るその効果に、もちろん俺のライフが耐えられる訳もない。

「エクゾディオスの効果を封じた程度で勝ったと思わないことだ! 《王家の剣》の効果を発動!」

 4000ダメージの籠もった一撃が俺に放たれ、その自身で放った攻撃に耐えきれずに《霧の王》が自壊する。その俺を破滅させんとする光が迫る間に、俺は一枚のリバースカードを発動する。

「リバースカード、オープン! 《シンクロコール》! 墓地のモンスター同士でシンクロ召喚を行う!」

「このタイミングでシンクロ召喚だと!?」

 半透明の《パワー・ツール・ドラゴン》に、同じく半透明の《エフェクト・ヴェーラー》が現れると、一瞬でシンクロ召喚の態勢を取っていく。

「レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》に、レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》をチューニング!」

 エフェクト・ヴェーラーがパワー・ツール・ドラゴンの周りを旋回し、パワー・ツール・ドラゴンは力を解き放つかのようにその装甲を外すと、いななきとともに霧の中を飛び上がる。その姿を露わにするとともに、《王家の剣》の放った光へと向かっていく。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の正体――その鎧の中に封じ込められた竜が、《王家の剣》が放った光を正面から吸収する。4000ポイントのダメージを与えるカードであろうと、何の抵抗もなく受け入れて自身の命としていき、あっさりと《王家の剣》は無効化される。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がいる限り、俺へのバーンダメージは0となる! ダメージ・シャッター!」

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》、だと……!」

 その効果で《王家の剣》のバーンダメージを無効化すると、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は改めて、守備表示で俺のフィールドに舞い降りた。《王家の剣》の効果の発動にチェーンしてシンクロ召喚したため、シンクロ召喚時というタイミングを逃し、ライフポイントを4000にする効果は使えないが……アモンもコストとして《霧の王》を失った。痛み分けといったところか。

「僕は……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 《王家の剣》の起動効果を使用するため、メインフェイズ2へと移行していたのでエクゾディオスの攻撃はない。《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の登場でさらに防御を固め、俺は落ち着いてカードをドローする。

「俺は魔法カード《潜入! スパイ・ヒーロー》を発動! デッキからカードを二枚、ランダムに墓地に送ることで、相手の墓地の魔法カードを手札に加える!」

 砂の異世界で交じってしまった十代のカード。いつだかは、このカードを返すことを目的にしていた気もするが……すっかりそんな目的ごと忘れてしまっていた。だが好都合だ、明日香だけでなく十代の力も使わせてもらう……!

「俺が手札に加えるのは魔法カード《アームズ・ホール》! そのまま発動し、デッキから《パイル・アーム》を手札に加える!」

 アモンの墓地から手札に加えたのは、アモンが装備魔法《王家の剣》をサーチする際に使った、装備魔法のサーチとサルベージを可能とする魔法カード《アームズ・ホール》。その魔法カードを奪うことで、デッキトップを一枚墓地に送り、通常召喚を封じることで装備魔法《パイル・アーム》を手札に加えて発動する。

「装備魔法《パイル・アーム》の効果! 相手の魔法・罠カードを一枚破壊する! 俺はそのリバースカードを破壊!」

「チェーンしてリバースカード、《強欲な瓶》の効果を発動」

 《パイル・アーム》を装備した《セブン・ソード・ウォリアー》が、アモンのフィールドに先のターンから伏せられたままのカードを破壊するものの、それはあいにくの《強欲な瓶》。アモンはチェーン発動して《パイル・アーム》を避け、一枚のドローを果たす。

「くっ……さらに《セブン・ソード・ウォリアー》の効果を発動! このカードに装備カードが装備された時、相手ライフに800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

「それも通さない! 罠カード《エネルギー吸収板》!」

「なに!?」

 アモンのフィールドに伏せられていたもう一枚の伏せカードは、バーンダメージを無効にしそのダメージ分だけライフを回復する《エネルギー吸収板》。《セブン・ソード・ウォリアー》の効果は無効化され、そのダメージ分だけアモンのライフが回復していく。

アモンLP2000→2800

 せっかく《セブン・ソード・ウォリアー》の効果で与えたダメージだったが、皮肉にも《セブン・ソード・ウォリアー》の効果で回復させてしまう。《ライフ・ストリーム・ドラゴン》のシンクロ召喚により、デュエルの流れはこちらに来ていると思ったが……アモンは、そこまで甘いデュエリストではなかったらしい。

「……ターンエンド」

 こちらのフィールドには守備表示の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と、同じく守備表示の《セブン・ソード・ウォリアー》。《セブン・ソード・ウォリアー》には装備魔法《ミスト・ボディ》と《パイル・アーム》が装備されており、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》も自身の効果で限りはあるものの破壊耐性を持っている。それと永続魔法《コモンメンタルワールド》に、一枚のリバースカード。これがこちらの布陣。

「僕のターン、ドロー!」

 対するアモンのフィールドには、《究極封印神エクゾディオス》と永続罠《封印防御壁》のみ。ボード・アドバンテージはこちらが有利だが……相手はその程度の差を引っくり返す、正真正銘神のカードだ。相手の力を減じさせるように戦っているとはいえ、油断出来る敵ではないのは明らかだ。

「……僕は魔法カード《マジック・プランター》を発動! 永続罠《封印防御壁》を墓地に送り、二枚ドロー!」

 こちらがバーン戦術で攻め込んでくると分かったからか、アモンは永続罠をコストに二枚ドローする《マジック・プランター》により、《封印防御壁》を墓地に送り二枚ドローする。もう攻撃力が不安定な《霧の王》がいない、というのも理由のうちだろうか。

「フッ……魔法カード《大嵐》を発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

「このタイミングでくるか……!」

 さらにアモンが発動したカードは、全ての魔法・罠カードを破壊する汎用カード《大嵐》。アモンのフィールドには《マジック・プランター》により既に魔法・罠カードはなく、俺のフィールドの四枚のカードのみが破壊されていく。装備魔法《ミスト・ボディ》、同じく《パイル・アーム》、永続魔法《コモンメンタルワールド》、さらに伏せていた《奇跡の残照》。特に戦術の中核をなしていた、《コモンメンタルワールド》と《ミスト・ボディ》が破壊されたのは多大なダメージ。

 ……いや、多大なダメージというよりも。《大嵐》まで使ったのだから、アモンはこのターン攻め込んでくる……!

「さらにフィールド魔法《神縛りの塚》を発動する」

 アモンのフィールドに祭壇が出現すると、そこから現れた鎖がエクゾディオスを守るように縛っていく。以前俺が使用していた時は、エクゾディオスを制御するのに必要不可欠なカードだったが、完全体を操るアモンには不必要なカードだったはずだ。それでもなお投入しているということは、レベル10以上のモンスターが相手モンスターを破壊した時、相手に1000ダメージを与えるバーン効果が狙い。

「バトル! 《究極封印神エクゾディオス》で、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に攻撃! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 《大嵐》と《神縛りの塚》を発動した後、アモンは遂に本格的な侵攻を開始した。こちらの防御用の魔法・罠カードは全て破壊されてしまったが、まだ《ライフ・ストリーム・ドラゴン》には自身の効果がある……!

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は墓地の装備魔法を除外することで、あらゆる破壊を無効にする! イクイップ・アーマード!」

「承知の上だ。墓地から罠カード、《ブレイクスルー・スキル》を発動!」

「墓地から罠……!」

 墓地から除外することで、相手モンスターの効果を無効にする罠カード《ブレイクスルー・スキル》。デッキトップを墓地に送る《アームズ・ホール》の効果で墓地に送られていたのか、温存していた必殺の一撃が炸裂したかのような最高のタイミングで、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果は無効とされる。

 《神縛りの塚》によって装備された鎖から神の雷が発生し、飛翔する《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を縛りつけながら、その雷撃を浴びせていく。たまらず《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は破壊され、守備表示のため俺にダメージはないが、あたかたもなく粉砕される。

「そして《神縛りの塚》の効果を発動! レベル10以上のモンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、相手に1000ポイントのダメージを与える。受けろ、神の雷を!」

「ぐあああっ!」

遊矢LP3300→2300

 《神縛りの塚》による効果ダメージというよりも、間接的だが《究極封印神エクゾディオス》という神のカードからの一撃。それはライフポイントへのダメージ以上に、俺の身体そのものにダメージを与えていた。

「これで終わりかと思ったか? 速攻魔法《トラップ・ブースター》を発動!」

「くっ……!」

 とことんまでアモンはこのターンに流れを掴むつもりなのか、さらに追撃を加えるのか速攻魔法《トラップ・ブースター》を発動する。その効果は手札を一枚捨てることで、手札の罠カードの発動を可能とする、というトリッキーな速攻魔法。

 アモンが発動する罠カードは――

「手札を一枚捨てることで、僕は通常罠カード《未来王の予言》を発動!」

 ――通常罠《未来王の予言》。

「魔法使い族モンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、このターンの召喚を封じることで、再度の攻撃を可能とする!」

 二回攻撃の許可をアモンから得たエクゾディオスが、再び動き出し鎖で《セブン・ソード・ウォリアー》を縛りつけた。咆哮とともに空から雷撃を発生させ、鎖を通じて《セブン・ソード・ウォリアー》に流し込んで破壊していく。

「《未来王の予言》という通り、王の判決を言い渡す……死だ! 《神縛りの塚》の効果を発動!」

「――――ッ!」

遊矢LP2300→1300

 《セブン・ソード・ウォリアー》が破壊されたことにより、俺にも同じように裁きの雷が放たれていく。連続で受ける神のカードからの攻撃に意識を手放しそうになるものの、あとは気力だけで意識を維持させる。

 アモンとエクゾディオスを睨みつけながら、何とかその敵意で意識を保ちながら、俺はカードをドローするためにデッキに手を近づけていく。

「早く楽になればいいものを……僕はこれでターンエンド」

「俺の、ターン……ドロー……っ!」

 ドローしたカードをチラリと見た瞬間、そのままそのカードをデュエルディスクに差し込んだ。

「俺は魔法カード《貪欲な壷》を発動! 墓地のモンスターを五体墓地に戻し、二枚ドローする!」

 汎用ドローカード《貪欲な壷》で引いた二枚ドローしたカードを見ると、俺の朦朧とした意識を一つの思いが支配した。

 ――やはりこうなったか、と。

 《リバイバル・ギフト》や《異次元の指名者》、《コモンメンタルワールド》など様々な戦術を用意し、様々なエクゾディオスの対策を考えてきた。もちろんそんな悠長なことをしている時間はなく、亮をも破ったあのアモンならば、こちらの小細工など突破してくるだろう、という思いもあった。

「アモン……」

 だから、今までの戦術は全てこのコンボまでの布石。アモンのカードを消費するためだけの囮。そして遂にコンボの発動条件が揃う――!

「……このターンで決着をつける……!」

「……ほう?」

 面白そうに笑うアモンに対しニヤリと笑い返し――たかったが、思うように顔の筋肉が動かなかったので止め――一枚のカードを、再びデュエルディスクに読み取らせる。このデッキの切り札を呼び寄せる、あの魔法カードを。

「《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と、《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 融合召喚、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》が、エースカード同士の融合した竜騎士としてフィールドに舞い戻る。素のステータスとしてはこのデッキの中で最強を誇り、名実共に切り札ではあるが、一体では神のカードに適うはずもなく……つまり、まだまだ止まらない。

「そして装備魔法《D・D・R》を発動! 手札を一枚捨てることで、除外ゾーンのモンスターを特殊召喚出来る! 再び現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 《ミラクルシンクロフュージョン》で融合素材となったモンスターの行き先は除外ゾーン。つまり除外ゾーンのモンスターを特殊召喚する《D・D・R》による帰還が可能で、さらに発動コストである墓地に捨てた一枚のカードも同時に発動する。

「さらに《D・D・R》のコストで墓地に送ったカードは《リミッター・ブレイク》! お前も墓地から蘇れ、マイフェイバリットカード!」

『トアァァァッ!』

 融合素材として除外されたモンスターとは別のカードだが、マイフェイバリットカードもが再び特殊召喚されたことで、俺のフィールドに融合モンスターとその融合素材が揃う、という希有な状況となる。もちろんこの状況を作ることが終わりではなく、さらにカードを発動していく。

「通常魔法《能力調整》を発動! 自分フィールドのモンスターのレベルを1ずつ下げる!」

 最後に発動するのは単体では何ら意味のない、シンクロ召喚をサポートするレベル変更カード。だが、このカードのおかげで……《スピード・ウォリアー》と《ライフ・ストリーム・ドラゴン》でチューニングが可能となる……!

「行くぞアモン……これで最後だ……レベル1となった《スピード・ウォリアー》に、レベル7となった《ライフ・ストリーム・ドラゴン》をチューニング!」

「チューニング……チューナーだと!?」

 そのシンクロ召喚にアモンが驚愕する。活かす機会があまりないものの、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》はれっきとしたシンクロチューナー。《パワー・ツール・ドラゴン》からさらに先に繋げる効果を持っており、遂にマイフェイバリットカードとのシンクロ召喚を果たし――合計レベルは8。

「集いし決意が拳となりて、荒ぶる巨神が大地を砕く。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ギガンテック・ファイター》!」

 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》のチューニングにより、フィールドに現れたのは白銀の巨人。《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》とともに、このデュエルを終演へと導くモンスターたち。

「この局面で最上級モンスターを二体……どうくる?」

 俺のフィールドに並び立ち、エクゾディオスと相対する《ギガンテック・ファイター》と《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。しかし、今更考察したところでもう遅い――俺はずっと、この盤面のことを考え抜いてきたのだから。

「《ギガンテック・ファイター》は墓地の戦士族モンスターの数、×100ポイントの攻撃力をアップする。墓地には戦士族が……八体。よって、攻撃力は3600!」

 単純に共にフィールド戦ってくれたモンスターだけではなく、《アームズ・ホール》や《潜入!スパイ・ヒーロー》で直接墓地に送られたモンスターの数も含め、その数は八体。《貪欲な壷》を発動したに関わらず数が多いが、《貪欲な壷》の対象は《チューニング・サポーター》などの機械族に賄ってもらったが故だ。

 ――そして並び立ったこのフィールドこそ、俺が狙っていたものだ。

「バトル! 《ギガンテック・ファイター》で、《究極封印神エクゾディオス》に攻撃! ギガンテック・フィスト!」

「――迎撃しろ、エクゾディオス! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 様々な布石を打ち終わり、あとはただぶつかるのみ。攻撃を命じられた《ギガンテック・ファイター》は、恐れずにその白銀の腕を神のカードへと向ける。……しかし、神のカードなどといったことはともかく、攻撃力という差は埋めることが出来ず。《ギガンテック・ファイター》がその攻撃を轟かせるより早く、神の雷がその身体を貫き、そこでそのまま倒れ伏してしまう。

「っ……!」

遊矢LP1300→900

 ただでさえ朦朧としていた意識に、さらに神の雷の洗礼が浴びせられる。さらに《ギガンテック・ファイター》が戦闘破壊されたことにより、フィールド魔法《神縛りの塚》の効果が俺に裁きを与えんと発動する。

「…………《神縛りの塚》の効果により、1000ポイントのダメージを与える!」

 アモンは今の自爆特攻を不信に思ったようではあるが、トドメを刺さんと《神縛りの塚》の発動を宣言する。鎖を通して神の雷が俺に襲いかかり――その雷を全て、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》がの槍が吸収していく。

「ドラゴエクィテスの効果。相手の効果によって発生した効果ダメージを、そのまま相手に跳ね返す! ウェーブ・フォース!」

「ぐああっ……!」

アモンLP2800→1800

 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》のバーンダメージ反射効果。神のカードだろうと何だろうと、そのバーンダメージはプレイヤーに平等だ。《神縛りの塚》によって発生した雷は、ドラゴエクィテスの槍に吸収された後にアモンへと放たれた。

「だが、この程度のダメージで……」

「《ギガンテック・ファイター》の効果を発動」

 アモンの台詞を遮って、戦闘破壊された《ギガンテック・ファイター》の効果の発動を宣言すると、エクゾディオスに迫っていた《ギガンテック・ファイター》が再び起き上がる。失っていた眼光がさらに鋭く灯っていき、神の雷で受けたダメージもそのままに、エクゾディオスに対しそのまま前進していく。

「《ギガンテック・ファイター》は戦闘破壊された時、墓地の戦士族モンスターを特殊召喚出来る。その対象は、今破壊された自身をも含まれる!」

 よって《ギガンテック・ファイター》の効果は、戦闘に対しての不死と同義。さらにバトルフェイズ中に特殊召喚されたことにより、《ギガンテック・ファイター》は更なる攻撃を可能とする……!

「……ギガンテック・ファイター……で、エクゾディオスに……攻撃!」

「まさか……」

遊矢LP900→500

 先程までと結果は同じ。エクゾディオスは容易く《ギガンテック・ファイター》を破壊し、さらに《神縛りの効果》の発動条件を満たす。アモンはその処理を止めようとするものの、手札にこのタイミングで発動出来るカードはなく、《神縛りの塚》の効果は強制効果であり……アモンに発動を止めることは出来ない。

「ドラゴエクィテスの効果発動!」

「無限……ループ……ッ!」

アモンLP1800→800

 アモンは信じられない、と言わんばかりにそう呟いたが、現実にドラゴエクィテスの効果はまたもやアモンを貫いた。さらに《ギガンテック・ファイター》はまたもや蘇生し、再びエクゾディオスへと適わない攻撃を続けていく。

 エクゾディオスが強大な存在だったからこそ持ち得た戦術。あと一撃で俺はその力を取り戻し、明日香たちを助けることが出来る……!

「終わ、りだ……アモン! 《ギガンテック・ファイター》で、《究極封印神エクゾディオス》に……攻撃! ギガンテック・フィスト!」

「馬鹿な――」

 神の雷を受け続けてボロボロになりながらも、さらに《ギガンテック・ファイター》は前進する。三度の前進からようやくその一撃がエクゾディオスに届き、届けたパンチから雷を受けて消滅していく。役目を果たしたかのように《ギガンテック・ファイター》が爆散し、その衝撃が俺に叩きつけられる。俺に残されたライフポイントは僅か100――霧に包まれたのか目が霞んでくるが、俺に必要なのはあと一声のみ――

「ドラゴエクィテスの効果……発動……!」

 ――自分はどうすれば良かったのだろうか。最期に思ったのはそんなことで、最期に記憶に残っているのは霧ではなく――

遊矢LP500→100

アモンLP800→0
 
 

 
後書き
最後までフラストレーションの溜まる終わり方で。遊矢はどう行動するのが正解で、最後に見たのは何だったのでしょうか。

つぶやきの方に四期の予告を載せているので是非。ではまた。
 

 

―真実を語る者の謎―

 
前書き
四期開始 

 
『……矢……遊矢……!』

 暑くて寒くて痛くて苦しい異世界。自分の身体がどうなっているかも知れない、まさにこれが『地獄』と呼ばれるような場所。そこに倒れ伏していた俺の耳に、その声が響きわたっていた。

『今か……お前をアカデ……に戻す。だから、あの世……を守っ……』

「三、沢……」

 そうだ、この声はあの親友の声だ。声はすれども姿は――いや、そもそもこの異世界に光はない。見えるようなものなど何もないのだ。

 ……だが、その世界に光が差し込まれる。その光に世界が割れるように両断されていき、その光の向こう側には、あのデュエル・アカデミアが――

『守ってくれ……ダークネスから……』

「――――」

 その三沢の言葉を最後に、俺はそこから飛び起きる。視界に映ったのは知っている天井――今までに何度も利用していた、デュエル・アカデミアの保健室の天井。今の時間は真夜中なのか、島中からまるで光は発せられていない。

「ここは……俺は……?」

 まだ混乱する自分を落ち着かせるために、今までに起きた覚えている限りのことを反芻する。十代が昔に使っていた精霊《ユベル》の計略により、異世界に送られた俺と明日香は、闇魔界の軍勢に囚われてしまった。そこで明日香は……《邪心経典》と呼ばれるカードの生け贄となり、俺はそのカードの効果で神のカードたる《究極封印神エクゾディオス》を手に入れた。

 そしてその神のカードの力を持って、この異世界で起こったことをなかったことにしようとしたが、亮に命を賭けて阻止されアモンに神のカードを奪われた。だがまた奪い返すべくアモンにデュエルを挑み、機械戦士たちと共に勝利はしたものの、そこで俺も力尽きてしまった。

 そこから再び謎の異世界に送られ、『他の異世界に囚われている仲間たちを救いに行く』と言っていた、三沢の声が確かに聞こえて……

「それ以上は忘れていただこうか」

「……誰だ!」

 虫の音しかしなかったその静寂を、いつの間にかそこに現れていた人物が遮った。部屋の扉を開けるような音はせず、先程からここにいたという訳でもない。その黒いサングラスをかけた人物は、文字通り闇の中から現れていた。

「これは失敬。自己紹介がまだだったね。私は真実を語る者、トゥルーマン。ミスターT、とでも読んでもらおうか」

「ミスター……T……」

 明らかに本名ではない……というよりも、俺たちの常識の枠内に収まるような人物なのか。異世界で出会った敵のモンスターたちと、同質の違和感を感じさせるその人物に、俺は身体の痛みを抑えながら警戒の意を示す。……平和的に解決出来るような存在ではないと、身体中が警鐘を鳴らしている。

「君の持つ真実は私たちにとって不都合だ。……消えてもらうとしよう」

 ミスターTと名乗る男はそう言って腕を突き出すと、その腕が黒く染まったデュエルディスクへと変化していく。やっぱりこうなるのか、と内心苦々しげに思いながら、俺はベッドから起き上がる。その近くに置いてあったデュエルディスクを装備し、差してあるデッキが自身の【機械戦士】であることを確認し、デュエルの準備を終わらせる。

「出来るかな? 今の君のデッキの状態で」

「何……?」

 デュエルディスクを展開させたものの、ミスターTと名乗る男はこちらを値踏みするように薄く笑う。【機械戦士】がデュエル出来るような状態か、という謎の問いが発せられる。

「君は感じられるか? 機械戦士たちの存在を。共に戦ってきた仲間たちの鼓動を」

「――――」

 ――デュエルモンスターズの精霊、などというオカルト的なものとは関係なく、デュエリストとデッキには信頼関係がある。自身が組み上げたデッキに対する信頼感、それがなければどんなに強いカードがあろうと、その真の力を発揮することはない。加えて、カードの精霊の存在……俺にその力を感じることは出来ないが、その存在は俺を支えてくれていた。

 ――それが、まるで感じられない。

「異世界で死んだのだよ。君と機械戦士は」

「う――」

「私は真実を語る者。そこから目を背けることは出来ない」

 嘘だ、という前にミスターTから痛烈な宣言が響く。その言葉は事実とともに俺に刻まれていき、デュエルディスクに差し込まれている機械戦士を見ても、そのデッキは何も応えてくれない。俺は――

「遊矢!」

 ――その叫びとともに、保健室の扉が無理やり開かれる。ミスターTは素早く俺からその乱入者へと対応を変え、俺とのデュエルの準備は中断される。

「十代……?」

 その乱入してきた人物は、あの遊城十代そのものだった。変わったところと言えば、背丈と真紅に染められたデュエルディスクのみ。それでも俺の言葉の最後に疑問符がついたのは、今までの十代のイメージと目の前の十代が異なっていたからだ。具体的にどことは言えないが、強いて言うならば。

『デュエル!』

 ――その戦士のような眼光か。

十代LP4000
ミスターTLP4000

「私のターン」

 そして俺などもはや眼中にないかのように、十代とミスターTのデュエルが開始され、ミスターTが先手を取る。あのミスターTと呼ばれる人物は何者なのか、十代に一体何があったのか――それらはまだ俺に知る由はないが、どうやら二人は敵対しているようで間違いない。

「私はモンスターをセット。さらにカードを一枚伏せてターン終了」

「オレのターン、ドロー!」

 その不気味さを表すように、ミスターTはモンスターと伏せカードをセットしたのみで、特に動くことはなくそのターンを終了させる。

「オレは《E・HERO スパークマン》を召喚し、バトル!」

 対する十代は颯爽と切り込み隊長を召喚すると、即座にその謎の布陣に攻撃をかける。雰囲気は変わろうと十代のデッキは変わらず【E・HERO】であり、闇のフィールドにスパークマンは雷光を放つ。

「セットモンスターは《ジャイアントウィルス》。破壊されたことにより、その効果を発動する」

 セットされていたモンスターはあっけなく破壊されるものの、その正体は俺もよく知る《ジャイアントウィルス》。破壊された際に相手ライフに500ポイントのダメージを与えつつ、さらにデッキから二体の《ジャイアントウィルス》を後続として特殊召喚する。

十代LP4000→3500

「……カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「私のターン、ドロー」

 スパークマンの攻撃は《ジャイアントウィルス》が増殖したのみに終わってしまうが、まだデュエルは最序盤。ここでミスターTの手の内を見られると思えば悪くはない。二体の《ジャイアントウィルス》をどう使ってくるか、普通に考えれば最上級モンスターの召喚だが……

「私は《マリスボラス・スプーン》を召喚する」

 予想に反して召喚されたのは、かの食器を持った小さな悪魔。これでミスターTのフィールドには三体のモンスターが揃ったものの、いずれもスパークマンにすら攻撃力は届かない。

 ――その共通点と問われれば、どのモンスターもレベル2ということ。

「あいにく、私のデュエルは常識に囚われないことが持ち味でね。私はレベル2のモンスター三体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

「なっ……!?」

 ミスターTの唱えたその文言とともに、《ジャイアントウィルス》二体と《マリスボラス・スプーン》が、フィールドに開いた穴へと消えていく。融合召喚とはまた違う、黒い光と星が集まっては消えていき、一際巨大な爆発が起こると、そこには新たなモンスターが現れていた。融合でもシンクロでもない、その新たな召喚方法――

「エクシーズ召喚! 漆黒の闇からの使者、《No.96 ブラック・ミスト》!」

 ――エクシーズ召喚。

 同じレベルのモンスターを用いたその新たな召喚方法をもって、ブラック・ミストと呼ばれるモンスターは――恐らくエクストラデッキから――特殊召喚される。十代は今までにも戦った経験があるのか、エクシーズ召喚に対してはさほど驚かず、あくまで警戒を強めるのみだった。

「さて……戦闘だ。ブラック・ミストでスパークマンに攻撃。ブラック・ミラージュ・ウィップ!」

 名は体を表すというが、その《ブラック・ミスト》と呼ばれるモンスターは、まさしく影のようであった。周囲を旋回する三つの星々が輝いていたが、黒い靄のような弱々しい外見の通りに、攻撃力は僅かに100ポイント。エクシーズ素材にしたモンスターたちと同様に、スパークマンの攻撃力にすら及ばない。

「迎撃だ、スパークフラッシュ!」

「ブラック・ミストの効果発動。 オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで、相手モンスターの攻撃力を半分にし、その増減分をこちらの攻撃力に加える。シャドーゲイン!」

 スパークマンが十代の指示に従って反撃するものの、ブラック・ミストの周囲を旋回していた星々の一つが砕かれると、その影はスパークマンが放った電撃を吸収していく。さらに吸収した分だけ影は人型の姿に近づいていき、スパークフラッシュをそのままスパークマンへと返す。

「スパークマン……!」

十代LP3500→3400

 相手モンスターの攻撃力を半分にする能力と、相手モンスターの攻撃力の半分を自身の攻撃力に加える能力。よってスパークマンの攻撃力は800に、ブラック・ミストの攻撃力は900になり、スパークマンは簡単に破壊されてしまう。

「オーバーレイ・ユニット……」

 先程ミスターTは、『オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで』と宣言し、ブラック・ミストの効果を発動した。数を一つ減らした周囲を旋回していた星々を見るに、アレがオーバーレイ・ユニット……そして、恐らくエクシーズ召喚の素材となった、《ジャイアントウィルス》たちの成れの果て。

「スパークマンが破壊されたことにより、リバースカード《ヒーローシグナル》を発動! デッキから《E・HERO クレイマン》を特殊召喚!」

「クレイマン……なるほど。私はこれでターンエンド」

 俺がエクシーズモンスターに対して考えている間にも、デュエルはさらに進行していく。モンスターが戦闘破壊された時、デッキから新たにヒーローを特殊召喚する罠カード《ヒーローシグナル》により、新たに土人形のヒーローが特殊召喚される。

「オレのターン、ドロー!」

 ミスターTのフィールドには《No.96 ブラック・ミスト》に、リバースカードが一枚。ブラック・ミストがその効果を戦闘時――つまり、十代のターンにも使えるのであれば、戦闘破壊は困難だ。だからこその、《ヒーローシグナル》によってのクレイマンの特殊召喚だろうが……

「魔法カード《O-オーバーソウル》を発動し、墓地からスパークマンを特殊召喚! さらに《置換融合》を発動!」

 墓地のE・HEROを特殊召喚する魔法カード《O-オーバーソウル》により、再びスパークマンがフィールドに舞い戻ると、二体のヒーローが早速融合を果たしていく。魔法カード《置換融合》はフィールドでしか融合素材を使えない、というデメリットがあるものの、代わりに通常の《融合》には持たない追加効果を持つ。

 いずれにせよ、融合召喚されるという事実は変わらない……!

「融合召喚! 《E・HERO サンダー・ジャイアント》!」
 そして融合召喚される、クレイマンとスパークマンの融合体、《E・HERO サンダー・ジャイアント》。効果破壊をすることが珍しい十代のデッキにおいて、その効果はコストがかかるとはいえ有用だ。

「サンダー・ジャイアントの効果を発動! 手札を一枚捨てることで、このモンスターより攻撃力が低いモンスターを破壊する! ヴェイパー・スパーク!」

「リバースカード、オープン! 《ナンバーズ・ウォール》」

 しかしてその雷も、標的であるブラック・ミストに届く前に、ミスターTが発動したリバースカードに阻まれてしまう。ブラック・ミストの前にバリアのようなものが現れ、サンダー・ジャイアントの雷撃を弾いたまま維持される。

「永続罠《ナンバーズ・ウォール》は、私のNo.に効果耐性とNo.以外のモンスターからの戦闘破壊耐性を付与する。つまり……No.はNo.でしか倒せない」

「…………」

 効果耐性を用いてサンダー・ジャイアントの効果を避け、さらにはNo.以外からの戦闘では破壊されないようになった。謎の召喚方法であるエクシーズ召喚によって現れる、No.と呼ばれるモンスターが十代のデッキに――俺の知っている十代ならば――入っている訳もなく、十代も苦々しげに口を閉ざす。

「カードを一枚伏せて……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー」

 サンダー・ジャイアントは戦闘をすることもなく、十代はそのターンを終了する。恐らくミスターTが用いるNo.と呼ばれるモンスターは、あのペンデュラムと同様に異世界の力……十代が持っていることはないだろう。

「バトル。ブラック・ミストでサンダー・ジャイアントに攻撃。ブラック・ミラージュ・ウィップ!」

 ブラック・ミストがスパークマンの攻撃力の半分を得たとはいえ、サンダー・ジャイアントの攻撃力に及ぶべくもない……が、その戦闘の結果は目に見えている。サンダー・ジャイアントの放った雷撃を再び吸収していき、ブラック・ミストはさらに先鋭的な外見に近づいていくとともに、サンダー・ジャイアントの攻撃力をも奪い去っていく。

「オーバーレイ・ユニットを一つ使い、ブラック・ミストの効果発動。シャドーゲイン!」

「くっ……!」

十代LP3400→2300

 剣のようになった影を突き刺され、サンダー・ジャイアントはその巨躯に反してあっさりと倒れ伏す。その余波は十代にダメージを与えていき、しっかりと、加えて着実に十代のライフが削られていく。……ミスターT自体のライフポイントは、まだ微動だにしていないにもかかわらず。

「私はこれでターンエンド」

「……オレのターン、ドロー!」

 十代のフィールドにはリバースカードが一枚、ミスターTのフィールドには攻撃力2100にまで成長した《No.96 ブラック・ミスト》に、No.に耐性を与える永続罠《ナンバーズ・ウォール》。ブラック・ミストのオーバーレイ・ユニットは一つ残っており、その効果はまだ使用可能なのだろう。

 そのオーバーレイ・ユニットの件も含めて、まだまだ余裕があるようにも感じるミスターTに対し、十代が打つ新たな一手は。

「通常魔法《コンバート・コンタクト》を発動! 自分のフィールドにモンスターがいない時、デッキと手札から一枚ずつネオスペーシアンを墓地に送ることで、カードを二枚ドローする!」

 E・HEROではなく十代の使用するもう一つのカテゴリー、ネオスペーシアン。そのサポートカードである《コンバート・コンタクト》により、手札を交換しつつ十代の反撃が始まる。

「オレは《N・グロー・モス》を召喚し、魔法カード《NEX》を発動!」

 召喚されるはネオスをサポートする仲間、ネオスペーシアンの一員であるグロー・モス。さらにネオスペーシアンを進化させる魔法カード《NEX》を発動し、グロー・モスは進化を果たしフィールドに現れる。《N・ティンクル・モス》――

「バトル! ティンクル・モスでブラック・ミストに攻撃! ティンクル・フラッシュ!」

「…………」

 攻撃力は僅か500ながら、ティンクル・モスは果敢にも成長したブラック・ミストへと挑んでいく。ミスターTもその戦闘に対してはブラック・ミストの効果は使わないでいると、ティンクル・モスの頭部が三色に光り出す。

「攻撃する時、ティンクル・モスの効果発動。シグナルチェック!」

 赤、青、黄色。三色に輝いていたティンクル・モスの光は、十代がカードをドローすることによって決定する。ティンクル・モスは戦闘時にカードを一枚ドローし、そのドローしたカードの種類によって効果が決定する。

「オレが引いたのは魔法カード。よってティンクル・モスの攻撃は、ダイレクトアタックになる! いけ、ティンクル・モス!」

ミスターTLP4000→3500

 十代が魔法カード《スペーシア・ギフト》を引き当てたことにより、ティンクル・モスの頭部は青色に光り出し、ダイレクトアタック効果を得る。光の槍を生み出しミスターTにぶつけるものの、その攻撃力からではダメージも微々たるものだった。

「メインフェイズ2、オレは今引いた《スペーシア・ギフト》を発動! フィールドのネオスペーシアンの数だけ、よって二枚ドロー!」

 さらにティンクル・モスの効果でドローした、《スペーシア・ギフト》を発動してさらにドローする。フィールドのネオスペーシアンの数だけドローする魔法カードであり、グロー・モスの進化系であるティンクル・モスは、《N・グロー・モス》と《N・ティンクル・モス》の二つの名前を持つため、一体で二枚のドロー源となることが出来るのだ。

「そして墓地から魔法発動!」

「墓地から魔法……?」

 十代が宣言したその魔法カードの発動に、初めてミスターTが少なからず疑問の声を漏らす。十代のフィールドに半透明で浮かび上がる、墓地に送られていた魔法カード――《ギャラクシー・サイクロン》。

「《ギャラクシー・サイクロン》は墓地から除外することで、相手の魔法・罠カードを破壊できる!」

 《E・HERO サンダー・ジャイアント》の効果は無駄ではなく、墓地に《ギャラクシー・サイクロン》という布石を打っていた。突如として墓地から巻き起こる旋風に巻き込まれるのは、もちろんミスターTのフィールドにある《ナンバーズ・ウォール》。モンスターに強固な耐性を付与するそのカードでも、そのカード自体に耐性は何もなく、《ギャラクシー・サイクロン》により破壊される。

「さらにカードを一枚伏せてターン終了!」

「……私のターン、ドロー」

 ただしバトルフェイズを既に終えている十代に、そのターンで出来ることは既になく。……ただ、効果破壊耐性を付与する《ナンバーズ・ウォール》が無くなったことにより、十代のリバースカード二枚がミスターTにプレッシャーを与える。わざわざ《ギャラクシー・サイクロン》を用いてまで、このタイミングで《ナンバーズ・ウォール》を破壊したのだから、十代のリバースカードには《No.96 ブラック・ミスト》を破壊する手段があるのではないか。

 ――そう対戦相手に思わせる。ただ攻撃しなくては、ティンクル・モスの効果で十代は手札を補充していく。

「私は《マリスボラス・ナイフ》を召喚」

 十代らしからぬ心理戦を見せた後ミスターTは新たなモンスターを召喚する。ブラック・ミストをエクシーズ召喚する際にも現れた、銀食器の名を象った悪魔と同種のモンスター。

「《マリスボラス・ナイフ》は召喚に成功した時、墓地からマリスボラスを特殊召喚する。《マリスボラス・スプーン》を特殊召喚」

 やはり同じカテゴリーのモンスターだったらしく、墓地から先の《マリスボラス・スプーン》が特殊召喚される。《マリスボラス・ナイフ》自体にはそれ以上の効果はないようではあるが、その効果により――ミスターTのフィールドに、同じレベルのモンスターが二体揃う。

「レベル2の《マリスボラス・ナイフ》と《マリスボラス・スプーン》で、オーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!」

 再び行われるエクシーズ召喚。三体のモンスターではないため、少なくともフィールドにいる《No.96 ブラック・ミスト》ではないが、むしろその召喚は変幻自在。同じレベルのモンスターを二体並べるだけで、エクストラデッキのモンスターの数だけ選択肢が生まれる……それが、エクシーズ召喚という召喚方らしい。

「呪われし裁きの執行者。《No.65 裁断魔人ジャッジ・バスター》!」

 闇のオーラを纏ったハサミ。第一印象はその程度だったものの、そのハサミが変形していき悪魔の顔が姿を現し、最終的にはハサミを持った悪魔にまで変形を果たす。その攻撃力は1300とブラック・ミスト同様に控えめだが、どのような効果があるかはまだ分からない。

「バトル! ジャッジ・バスターでティンクル・モスに攻撃!」

「ティンクル・モスの効果発動! シグナルチェック!」

 そしてバトルフェイズへと移行すると、新たに召喚されたジャッジ・バスターがティンクル・モスを狙う。だがティンクル・モスもただでやられることはなく、効果を発動してその戦闘の結果を操作しようとし――

「ティンクル・モス……!?」

 ――十代がカードをドローするより早く、ティンクル・モスはジャッジ・バスターのハサミに両断されていた。

「ジャッジ・バスターはオーバーレイ・ユニットを二つ取り除き、相手のカード効果を無効にし、相手ライフに500ポイントのダメージを与える。……加えて、戦闘ダメージを受けてもらうとしよう」

 ティンクル・モスが発動しようとした効果は、ジャッジ・バスターの効果によって無効化されることとなり、結果としてティンクル・モスは非力なまま戦闘に臨むこととなった。当然ながら適う訳もなく、ジャッジ・バスターの効果によるバーンダメージに加えて、ティンクル・モスが破壊されたことによる戦闘ダメージが十代を襲う。

十代LP3400→2100

 ……そしてその十代のライフポイントの数値は、狙いすましたかのように、現在の成長したブラック・ミストと同じだった。

「さぁ、トドメだ遊城十代。ブラック・ミストでダイレクトアタック。ブラック・ミラージュ・ウィップ!」

「いや、まだだ! 速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動! デッキから《ハネクリボー》を特殊召喚する!」

 十代のフィールドに伏せられた二枚の伏せカードのうち一枚、デッキから《ハネクリボー》を特殊召喚する速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》が発動され、十代の相棒がブラック・ミストの前に立ちはだかる。これで一ターンの壁になる、そう思って安堵した俺を後目に、十代はさらにリバースカードを発動させた。

「さらに速攻魔法《進化する翼》!」

 その速攻魔法の発動コストは手札を二枚墓地に送り、指定したモンスターをフィールドから墓地に送ること、という規格外の発動条件を誇る。ただその厳しい発動条件を満たした時、フィールドに現れるのはその指定したモンスターの最強の姿――つまり、《ハネクリボー》の文字通り進化した姿である。

「手札を二枚捨てることで、《ハネクリボーLV10》を特殊召喚!」

「ぬ……」

 十代の手札二枚を養分に進化したハネクリボーに、ミスターTも小さく呻き声を鳴らす。その効果を防ぐ《ナンバーズ・ウォール》は先のターンに既に破壊され、《No.65 裁断魔人ジャッジ・バスター》の効果は《N・ティンクル・モス》に発動済み……もはや止めることは出来ない。

「《ハネクリボーLV10》は自身をリリースすることで、相手モンスターを全て破壊し、攻撃力の合計のダメージを与える!」

 十代の起死回生の一手。自身を犠牲にしたハネクリボーの最強の一撃の前に、《ナンバーズ・ウォール》という文字通り壁を失ったナンバーズたちは、あっさりと瓦解していく。……ただ、十代が想定した通りには、ダメージは与えられなかっただろうが。

「ブラック・ミストの元々の攻撃力は100。よって《ハネクリボーLV10》の効果で受けるダメージも、元々の攻撃力分だ」

ミスターTLP3500→2100

 本来は一撃必殺の威力を誇る《ハネクリボーLV10》ではあるが、元々の攻撃力が僅か100のブラック・ミスト、高いとは言えないジャッジ・バスターが相手では、本来のポテンシャルは発揮しきれない。ライフポイントを互角にするだけが精一杯であった。

「おっと……私のメインフェイズ2。カードを二枚伏せ、ターンを終了しよう」

「オレのターン、ドロー!」

 これでミスターTのフィールドには、二枚のリバースカードのみ。ここぞと攻め込みたいタイミングではあるが、十代の手札も《進化する翼》の効果によって心もとない。

「墓地の《置換融合》の効果を発動! このカードを除外し、墓地の融合モンスターをエクストラデッキへと戻すことで、オレはカードを一枚ドロー!」

 《E・HERO サンダー・ジャイアント》の融合召喚に使用された、特殊な融合魔法《置換融合》の効果。自身を除外することで、墓地に送られた融合モンスターをエクストラデッキに戻して再利用を可能にし、さらにカードを一枚ドローさせる。これで十代の手札は三枚……十代には充分な枚数である。

「そして墓地の《E・HERO ネクロダークマン》の効果を発動! このモンスターが墓地にある時一度だけ、リリース無しでE・HEROを召喚出来る! 来い! 《E・HERO ネオス》!」

 《進化する翼》で墓地に送っていたのであろう、E・HEROのアドバンス召喚のリリースを不要にする効果を持つヒーロー、《E・HERO ネクロダークマン》の力を借り……今、十代の主力ヒーローがフィールドに降臨する。光の巨人のような姿をしたそのヒーローは、ミスターTのがら空きのフィールドに飛び込んでいく。

「バトル! 《E・HERO ネオス》でダイレクトアタック! ラス・オブ・ネオス!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」

 ただしそう上手くいくわけもなく、ネオスの攻撃は惜しくもカードの束に防がれ、ミスターTに一枚のドローを許してしまう。

「……メインフェイズ2、カードを二枚伏せてターンエンド!」

「私のターン、ドロー」

 ネオスの召喚に加えてカードを二枚伏せたことで、十代は持ち得る手札を全て使い切る。フィールドのネオスを前面に押し出し、このまま押し切るつもりか。

「私は魔法カード《ダーク・バースト》を発動。墓地の《マリスボラス・スプーン》を手札に加え、そのまま召喚する」

 攻撃力1500以下の闇属性モンスターを回収する魔法カード《ダーク・バースト》により、これまで二体のナンバーズのエクシーズ素材となってきた悪魔が、再びフィールドに召喚される。闇属性、低レベル、低攻撃力とサポートカードが潤沢なマリスボラスたちに、再びエクシーズ召喚するのは容易だろう。

「さらに伏せてあった罠カード、《エンジェル・リフト》を発動。墓地から《マリスボラス・ナイフ》を特殊召喚」

 その考察は残念ながら現実になってしまうようで、レベル2以下のモンスターを蘇生する罠カード《エンジェル・リフト》により、あっさりと二体のマリスボラスが揃う――が、まだ終わることはない。

「《マリスボラス・スプーン》の効果発動。このモンスターの他にマリスボラスモンスターが特殊召喚された時、墓地からレベル2の悪魔族モンスターを特殊召喚する。蘇れ、《ジャイアントウィルス》!」

 今までエクシーズ素材となっていただけで、効果を使わなかった《マリスボラス・スプーン》が遂に牙を剥く。連鎖的に反応するように墓地から《ジャイアントウィルス》を蘇らせ、あっけなくフィールドに三体のレベル2モンスターを揃わせる。

「レベル2の《マリスボラス・スプーン》、《マリスボラス・ナイフ》、《ジャイアントウィルス》でオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 またもや行われる、三体のモンスターを素材としたエクシーズ召喚。三体の悪魔の力を一つにしていき、さらなる悪魔の力を呼び覚ます。

「エクシーズ召喚。死者の眠りを妨げる冒涜の化身、《No.43 魂魄傀儡鬼ソウル・マリオネッター》!」

 そしてエクシーズ召喚されるは、同じエクシーズ素材を要求している――と思われる――《No.96 ブラック・ミスト》ではなく、新たなナンバーズである《No.43 魂魄傀儡鬼ソウル・マリオネッター》。人形使いのような外見に反することはなく、その指からは人形を踊らせる糸が垂れている。

 ――そしてそのナンバーズの登場とともに、十代のフィールドにも新たなモンスターたちが現れていた。

「そのモンスターは……」

 十代のフィールドに現れていたのは、ネオスペーシアンたちの幼生体である《コクーン》モンスターたち。まだ成長しきっていないため、ネオスペーシアンたちの能力を使うことは出来ず、ステータスもネオスペーシアン以上に低いが……それらが四体、いつの間にか十代のフィールドに揃っていた。

「リバースカード、《コクーン・パーティー》を発動した。墓地のネオスペーシアンの数だけ、デッキからコクーンモンスターを特殊召喚する」

 ソウル・マリオネッターを警戒してか、伏せてあった罠カード《コクーン・パーティー》から四体のモンスターが守備表示で現れ、先に召喚していたネオスも含めて十代のフィールドを埋め尽くす。《コンバート・コンタクト》に《進化する翼》で、ネオスペーシアンたちは充分なほど墓地に溜まっていたため、《コクーン・パーティー》は十全に威力を発揮する。

「……まあいい。ソウル・マリオネッターの効果発動。このカードのオーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、墓地のナンバーズをこのカードに装備する。私は《No.96 ブラック・ミスト》を装備」

 最初にエクシーズ召喚されたナンバーズである、ブラック・ミストが操り人形のように扱われながら、ソウル・マリオネッターに装備される。ただし、その装備によって攻撃力や守備力が増減することはなく――相変わらず、ソウル・マリオネッターの攻撃力は不気味に0を保っていた。

「ソウル・マリオネッターはナンバーズを装備している限り、戦闘、効果では破壊されない。さらに魔法カード《三位一択》を発動!」

 ソウル・マリオネッターのナンバーズ装備効果は、かの《ナンバーズ・ウォール》のような破壊耐性付与効果。そちらも充分に厄介ではあったが、ミスターTのさらに発動した魔法カードに目を凝らす。

「《三位一択》はエクストラデッキのモンスターの種類を選択し、その種類のモンスターが多かったプレイヤーは、3000ポイントのライフを回復する。私が選択するのは、もちろんエクシーズモンスター」

 エクストラデッキにあるモンスターの種類。融合、シンクロ――そしてエクシーズ。そのモンスターの種類の数によって、勝ったプレイヤーは3000ポイントのライフを回復する……などと言えば聞こえはいいが、発動したプレイヤーの回復が目に見えた出来レース。十代のエクストラデッキにはもちろん融合モンスターしかなく、ミスターTのエクストラデッキには黒いカード……エクシーズモンスターだけだ。よってミスターTがライフを3000ポイント回復し――

 ――ソウル・マリオネッターがその回復に反応する。

「ソウル・マリオネッターの効果発動。私がライフを回復した時、そのライフを回復した分を攻撃力とし、さらに相手にその分のダメージを与える!」

ミスターTLP2100→5100

 ミスターTが回復したのは3000ポイント。よってソウル・マリオネッターの攻撃力は3000ポイントとなり、十代には3000ポイントのダメージが与えられる。攻撃力をこれ以上ないほど増したソウル・マリオネッターが、そのエネルギーをそのまま十代へと向かって放つ。

「リバースカード、《コクーン・ヴェール》を発動! フィールドのコクーンをリリースすることで、このターンの効果ダメージを無効にする!」

 十代が伏せていたもう一枚のリバースカードの効果により、四体のうち一体のコクーンをリリースすることにより、何とかバーンダメージによる敗北を避ける。さらに《コクーン・ヴェール》はバーンダメージを防ぐだけではなく、さらにコクーンたちを進化させる機能も備えていた。

「さらにリリースされたコクーンに記されたモンスターを特殊召喚する! 現れろ、《N・グラン・モール》!」

 リリースされたコクーンは《C・モーグ》。よって、本来は《C・モーグ》の効果によって呼び出されるネオスペーシアン、《N・グラン・モール》が特殊召喚される。ネオスペーシアンの中でも一際強力な効果を持つモンスターだが、それを見てミスターTは小さく笑う。

「なるほど、グラン・モールか……そのモンスターは厄介だ。先に消させてもらうとしよう。速攻魔法《禁じられた聖杯》を発動し、バトルに入る」

 十代のエースカードであるネオスよりも、グラン・モールを警戒してかミスターTはそちらを優先する。そしていくら強力な効果を持っていようとも、効果を無効にされては発動することは出来ず……《禁じられた聖杯》の対象となったグラン・モールは、その効果を失ってしまう。

「ソウル・マリオネッターでグラン・モールに攻撃。ブラック・ミラージュ・ウィップ!」

 ミスターTが宣言した攻撃名と、実際に攻撃するのは操り人形と化しているブラック・ミスト。それをソウル・マリオネッターは器用に動かしていき、効果が無効となったグラン・モールに痛烈な一撃を加えた。

「ぐああっ……!」

十代LP2100→400

 皮肉にも《禁じられた聖杯》の攻撃力上昇効果によって、十代のライフポイントは何とか首の皮一枚繋がった。それでも大ダメージであることに変わりはなく、十代はそのダメージに息も絶え絶えといった様子で堪えている。

「私はこれでターンエンド」

「……オレのターン、ドロー!」

 十代のフィールドはネオスにコクーンが三体、リバースカードは使い切ってもはやなく、ライフポイントは400残った。対するミスターTもフィールドは《No.43 魂魄傀儡鬼ソウル・マリオネッター》のみで、魔法カードも装備カードとなった《No.96 ブラック・ミスト》のみだ。先のターン多く展開したことによる弊害だろうが、ライフポイントは圧倒的な差である5100。

「オレはネオスを守備表示にし……ターンエンド」

「フッ……私のターン、ドロー」

 ミスターTの攻勢に対し十代は、ネオスを守備表示に変更することがやっと。壁モンスターは大量にいるものの、まだ攻勢に出られそうではなく……よしんば攻勢に出たところで、5100ポイントのライフを削りきれるか。

「バトル。ソウル・マリオネッターでネオスに攻撃。ブラック・ミラージュ・ウィップ!」

 操り人形と化したブラック・ミストがネオスをあっさりと破壊し、その衝撃がフィールドを震わせていく。守備表示のためにダメージは受けないものの、これで残るはコクーンモンスターのみ。

「カードを一枚伏せてターン終了」

「オレのターン、ドロー!」

 ……確かに十代は、ソウル・マリオネッターが召喚されてから防戦一方だった。だが、それから二回のドローを果たし――十代が逆転するのに充分な、それだけの隙を与えたミスターTのミスだ。

「オレはフィールド魔法《ネオスペース》を発動!」

 フィールドが闇夜の保健室から、ネオスペーシアンたちの生まれ故郷である宇宙へと変化していく。闇と影が薄くなったことにより、ソウル・マリオネッターの姿がより鮮明になるとともに、十代のフィールドのコクーンモンスターたちが震え出す。

「コクーンモンスターは《ネオスペース》がある時、自身をリリースすることで、それぞれのネオスペーシアンを特殊召喚する! 現れろ、ネオスペーシアンたち!」

 生まれ故郷と同じフィールドてなったコクーンモンスターは、急激に成長し本来の姿を取り戻していく。それぞれ効果を発動していくと、十代のフィールドには三体のネオスペーシアン――《N・アクア・ドルフィン》、《N・エア・ハミングバード》、《N・ブラック・パンサー》――が集結する。

「さらに魔法カード《セメタリー・リバウンド》を発動! このカードは墓地の魔法カードの効果をコピーする!」

「コピーだと……?」

 墓地の魔法カードと同じ効果を発動することが出来る――と、まさしく魔法カードをコピーすると言うに相応しい効果。十代がそう宣言するとともに、《セメタリー・リバウンド》のカードが墓地の《スペーシア・ギフト》へと複製されていく。

「《スペーシア・ギフト》はフィールドのネオスペーシアンの数だけドロー出来る。よって三枚のカードをドロー!」

 先のターンで発動していた《スペーシア・ギフト》を発動することにより、さらに三枚のカードをドロー。ネオスペーシアンたちから受け取った、三枚のドローしたカードを十代はさらに展開させていく。

「先に発動していた《ネオスペース》を墓地に送ることで、フィールド魔法《摩天楼2―ヒーローシティ》!」

 十代自ら発動していたフィールド魔法を貼り替えると、ネオスペーシアンたちの宇宙から、ヒーローたちの守る聖地へと形を変えていく。十代がこのアカデミアに入学する前から使っていた、以前のスカイスクレイパーではなく、あの旧友から受け取った第二の摩天楼――

「《摩天楼2―ヒーローシティ》は一ターンに一度、戦闘で破壊されたヒーローを墓地から特殊召喚出来る! 蘇れ《E・HERO ネオス》!」

 十代の墓地に現在存在する、戦闘破壊されたヒーローは一種類だけ。先のターンで破壊されたネオスが、摩天楼2から帰還したことにより、フィールドにネオスとネオスペーシアンが揃う。

「オレはネオスとエア・ハミングバード、アクア・ドルフィンを、トリプルコンタクト融合! 《E・HERO ストーム・ネオス》!」

 ネオスにエア・ハミングバード、アクア・ドルフィン。三種のモンスターが宇宙で一つになっていき、新たな英雄となってこのフィールドに舞い戻る。灼熱、混沌、旋風――それらを司るトリプルコンタクト融合体の中で、フィールドに降り立ったのは旋風を司るネオス。

「ストーム・ネオスは一ターンに一度、フィールドの魔法・罠カードを全て破壊出来る! アルティメット・タイフーン!」

 耐性を付与するためにカオス・マリオネッターが装備していたブラック・ミスト、新たに伏せられていたリバースカード、ヒーローシティ。三つのカードがストーム・ネオスの効果で破壊されていき、旋風が去った後には何も残ることはなく。フィールドはネオスとソウル・マリオネッターが睨み合う。

「……ありがとな、隼人……《コンタクト・アウト》を発動! ストーム・ネオスの融合を解除し、融合素材をデッキから特殊召喚する!」

 役目を終えてもろともに破壊することととなった、《摩天楼2―ヒーローシティ》について小さく呟いた後、十代はさらなる魔法カードを発動する。コンタクト融合体専用の《融合解除》であり、デッキから再びネオスにエア・ハミングバード、アクア・ドルフィンがフィールドに揃う。もちろん、ただフィールドに戻した訳ではなく。

「さらにネオスとエア・ハミングバードをコンタクト融合! 《E・HERO エアー・ネオス》!」

 息も吐かせぬ連続コンタクト融合。ストーム・ネオスでフィールドの魔法・罠カードを破壊した後、本命のエアー・ネオスがフィールドに融合召喚される。その効果は限られた条件下でのみ、十代のデッキの中でも最高の攻撃力を発揮する。

「エアー・ネオスは、相手とのライフポイントの差分だけ攻撃力をアップする!」

「なっ……!」

 ミスターTのライフポイントは5100ポイント、十代のライフポイントは僅か400ポイント――《三位一択》で大きくライフを回復したミスターTと、ビートバーンでライフを削られ続けた十代。そのライフポイントの差は歴然であり、歴然であれば歴然であるほど、エアー・ネオスはその攻撃力を上げていく。

 その差分、4700。よってエアー・ネオスの攻撃力は、ソウル・マリオネッターの攻撃力を軽々と越え――7200。

「バトル! エアー・ネオスでソウル・マリオネッターに攻撃! スカイリップ・ウィング!」

 エアー・ネオスの翼による強烈な一撃が、先のストーム・ネオスの効果によってブラック・ミストを失った、直にソウル・マリオネッターに炸裂する。ソウル・マリオネッターは一撃で消し飛び、その衝撃波はカマイタチとなって無防備なミスターTに襲いかかる。

「ぐううっ!」

ミスターTLP5100→900

 ミスターTのライフポイントが一瞬にして削られていき、ブラック・ミストを装備していないソウル・マリオネッターは、あっさりとエアー・ネオスに破壊されていく。……そしてまだ十代のフィールドには、攻撃していないモンスターが残っている。

「トドメだ! ブラック・パンサーでダイレクトアタック! ダーク・クロー!」

「――――!」

ミスターTLP900→0

 ブラック・パンサーの一撃がミスターTに炸裂し、そのライフポイントが消え去るとともに、ミスターTの姿自体も消えていく。そこにはカードが一枚だけ――《No.96 ブラック・ミスト》のカードだけが残されており、デュエルの後は不気味なまでの静寂だけが残されていた。
 
 

 
後書き
祝、エクシーズ解禁。その理由は次話以降おいおいと…… 

 

―『帰る』べき場所―

「遊矢くん。ひとまず……無事で何よりです」

 俺の意識が保健室で回復してから――十代とミスターTという謎の男とのデュエルから一晩経ち、俺は精密検査の後に校長室を訪れていた。異世界での出来事は聞いていたのだろう、沈痛な面もちで鮫島校長は頷いた。

「それより、他のみんなは」

「異世界に行ったメンバーは、君たちの尽力でみな帰還しているよ。……異世界に自ら残った、という三沢くんを除いてだが」

「三沢……」

 俺と十代が最終決戦に向かう前に、三沢はあの異世界で敗北した者たちを救いに行く、と言い残して異世界に残った。自分たちがこのアカデミアにいるということは、どうやら三沢の目論見は成功したらしいが……その三沢当人は、アカデミアに帰って来てはいないらしい。

 ……俺に、アカデミアに迫る危機があることを言い残して。

「三沢は言いました。アカデミアに、この世界に危機が迫っていると」

「確かに。十代くんが幾度となく交戦しているという存在でしょう」

 エクシーズ召喚を操るミスターTと名乗る男。先日十代と戦っている、恐らくは異世界からの侵略者がこの世界に現れているという。鮫島校長が言うには、彼らが何者かも未だに不明らしいが、例の黒いカードを使ったその召喚法に対抗するため、鮫島校長はペガサス会長と協力し、《エクシーズ召喚》というシステムを作った、ということ。

「同じルールで戦えるならば、あの《No.》にも勝ち目はあります。エクシーズ召喚は既にこの世界に普及しているでしょう」

 デュエルのルールを新たに整備することで、異世界の謎の召喚法からエクシーズ召喚というルールに落とし込み、同じ土俵でデュエル出来るようにした、と。そのおかげで、少なくともデュエルになるのならば、あとはデュエリストの腕前次第だ。

「鮫島校長。なら……俺を、アイツ等と戦わせてくれませんか」

「……それは、アカデミアの生徒である前に、この世界を守る戦士であろう、ということですか?」

 鮫島校長の問いかけにコクリと頷いた。異世界でエクゾディアを使って仲間の命を狙った俺が、今更どの面下げて一緒に学生生活を送れるというのか。会わす顔がない――などといったレベルの話ではなく。

 ――この手で殺したも同然の者もいるというのに。

「君もですか……」

「君、も?」

 鮫島校長は小さく嘆息すると、その机からある書状を取り出した。退学届と銘打たれたその手紙には、十代の名前が描かれている。

「十代くんも似たようなことを言ってきました。……ですが、二人の申し出はこのアカデミアの校長として、受けることは出来ません」

 異世界に行く前と様子が変わった十代も、俺と同じような考えを持っていたらしい。鮫島校長はその手紙を再び机の中に仕舞い込みながら、そのまま俺と――ここにはいない十代への言葉を続けていく。

「いくらデュエルが強かろうと、いくら苛烈な経験をしていようと、君たちはまだ不安定な子供です。このアカデミアを卒業するまでは、君たちの戦いを見守る義務が私にはあります」

 ――本来ならば、生徒に戦わせることが心苦しいのですが……と、鮫島校長の言葉は続く。

「しかし君たちは、恐らく戦うことになるでしょう。その時、帰って来れる場所がこのアカデミアなのです……吹雪くん!」

 俺たちへの鮫島校長の言葉が終わるとともに、鮫島校長は突如として吹雪さんの名前を呼ぶと、校長室の扉が開き吹雪さんが入室する。普段の楽しげな様子はどこにもなく、神妙な面もちである以上に、無事であることにホッとする。

「やあ。久々だね、遊矢くん……君に頼みがあって、待っていたんだ」

「頼み?」

 そう語る吹雪さんの手には一枚のカード――《ダークネス》のカードが存在した。かつてセブンスターズとして戦わされていた際に使用していた、ダークネスの力を封じ込めたカード――そのカードについ身構える俺に対して、吹雪さんはその頼みについて静かに語り始める。

 今この世界を侵略しようとしているのは、吹雪さんが使っていたダークネスと同種の力だということ。再びダークネスの力を解放すれば、敵のことが判明するかも知れないこと。解放した後にデュエルで自分を止める役割を、吹雪さんは俺に頼みたいこと――

「病み上がりの君にお願いするのも悪いけど、君がいいんだ。頼めるかな?」

「俺は……」

 吹雪さんの申し出を受けて、俺は自然と自らのデッキである【機械戦士】を見た。ミスターTとの戦いから、全く力を感じない……何も響かない相棒たちを。

「俺は……」

「……いや、突然すまないね。そうだ、アカデミアも久々だろう。ちょっと見てくるといいよ」

 俺が何か言おうとするよりも早く、吹雪さんはそう言ってこちらの肩に手を置いた。そのまま二の句もつかせぬうちに、俺を無理やり校長室の扉から廊下へと出すと、吹雪さんは校長室に残ったまま俺は廊下に放り出されてしまう。……何か言い返そうとも思ったが、こうして強引になった吹雪さんは何を言っても届くまい。

 ひとまずその言葉に従って、アカデミアの中を散策することにする。かと言ってこの時間は授業中の為、活動範囲は限られているし、仲間たちにも会うことは出来まい――今はどちらにせよ、会わせる顔がないが――ならばどこに行くべきか……と、考えるより早く、俺はその場所へ歩を進めていた。

 授業中だというにもかかわらず、アカデミアの中には少しばかりだが、自由に歓談する生徒の数が見受けられた。もちろんサボっている訳ではなく、この時間に授業がない生徒なのだろう……サボっている可能性も否定できないが。幸いにも同級生に会うことはなく、俺はアカデミアのある場所にたどり着いていた。

「…………」

 アカデミアの森の中。そのある一角にある小さい池――俺が趣味の釣りをしている時に、よく利用していた場所だった。一年生の時からここには何度も訪れ、デッキの構築や様々なことを行っていた――明日香や三沢と、夜中にデュエルしたりと。

 足が勝手に導いた思い出の場所。釣りの為の道具など持って来てはいないが、今や懐かしいその場所に座り込もうとすると――池の前から、デュエルをしているような二人の男女の声が聞こえてきた。もちろん自分専用の場所という訳ではないため、誰がいようと不思議ではないのだが……不思議と、どちらも見知った声であった。

 誰がデュエルしているのか気になった俺は、木の陰からこっそりとその様子を窺っていた。オベリスク・ブルーとラー・イエローの下級生で、そのうち青い服を着たオベリスク・ブルーの方は女子生徒。

「いくよ! ボクの先攻!」

 ――早乙女レイ。小さい時から自分を慕ってくれている、妹分の姿がそこにあった。砂の異世界でユベルに傷を負わされて寝込んでいて、彼女を三沢に託して俺は違う異世界に飛ばされてしまっていたので、その無事はずっと気がかりだったが――異世界に行って《超融合》の生け贄となったと聞いていたものの、変わらない元気な姿を見せてくれていた。

「……よし」

 レイに対するラー・イエローの男子生徒は、同じく後輩である加納マルタン。砂の異世界でユベルに取り憑かれていたが、どうやらあちらも無事らしい。むしろ異世界に行く前より、若干成長したように感じられる。

 ちょうどデュエルが始まったばかりらしく、俺はそのまま木の陰から二人の後輩のデュエルを見ることにした。特にそうする理由はなかったが、どうしてもそうしなければいけないような――そんな気がしていた。

レイLP4000
マルタンLP4000

 レイの先攻一ターン目。鮫島校長が語っていた、ミスターTの来襲によるエクシーズ召喚などのルール改訂の影響か、この世界でも先攻のドローは出来なくなったらしく、レイの初期手札は五枚。

「ボクは《トリオンの蟲惑魔》を召喚!」

 レイが召喚したのは俺が知る恋する乙女やミスティックシリーズのカードではなく、新たなカテゴリーである蟲惑魔と呼ばれるモンスター。少女と植物が合体したようなそのモンスターに、レイも自分が知らないところで成長しているのだと感じさせた。

「《トリオンの蟲惑魔》は召喚した時、デッキから落とし穴と名の付いたカードを手札に加えるよ! カードを一枚セットして、ターンエンド!」

 《トリオンの蟲惑魔》の効果は落とし穴をサーチする効果だと聞いて、レイは確かに魔法や罠カードの扱いを得手としていた、と納得する。恋する乙女の罠は強い、とのことだったか――恐らく、サーチしたカードをそのまま伏せて、次のマルタンの手を警戒させる。

「僕のターン、ドロー!」

 そしてマルタンのターンへと移る。かつてマルタンとデュエルした際は、いまいちコンセプトが分かりにくいデッキだったが、あれからどう変わっているのか。

「まずは速攻魔法《サイクロン》を発動して、さらに魔法カード《予想GUY》を発動!」

 これは落とし穴系統のカードだぞ、と警戒させたのが裏目に出て、マルタンの発した旋風にレイの《落とし穴》が破壊される。さらに心置きなく発動された通常魔法カードの効果は、確か――

「僕のフィールドにモンスターがいない時、デッキからレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる! 来てくれ、《ジェネクス・コントローラー》!」

 かつてのマルタンのデッキにはなかった、壊れかけの玩具のような通常モンスター。デッキから特殊召喚されたソレは、ビリビリと電波を垂れ流していた。

「さらに《ジェネクス・ウンディーネ》を通常召喚!」

 さらに現れる、ジェネクスと名の付いたモンスター。二体のモンスターから、マルタンの新たなデッキは【ジェネクス】なのだと推測できる。……彼も、自分自身のデッキを見つけたのだろう。

「ジェネクス・ウンディーネは、デッキから水属性モンスターを墓地に送ることで、《ジェネクス・コントローラー》を手札に加えることが出来る。……いくよ、二体のモンスターでチューニング!」

 【ジェネクス】デッキは、チューナーモンスターである《ジェネクス・コントローラー》を中心として、様々なシンクロモンスターを展開していくデッキ。さらに機械族と属性についての効果を持ち、種類は十代の使うHEROたちに比肩する程の数を誇る。

「水天集いし逆巻け! シンクロ召喚! 来てくれ、《ハイドロ・ジェネクス》!」

 シンクロ召喚されるは、水属性のジェネクスこと《ハイドロ・ジェネクス》。そのままレイのフィールドの、罠を失った《トリオンの蟲惑魔》へと牙を剥く。

「バトルだ、《ハイドロ・ジェネクス》で《トリオンの蟲惑魔》に攻撃!」

「きゃっ!?」

レイLP4000→3300

 下級モンスターである《トリオンの蟲惑魔》にその攻撃は防ぎきれず、あっさりと《ハイドロ・ジェネクス》が発したウォーターカッターの前に破壊される。さらにそれだけではなく、破壊されたトリオンをハイドロ・ジェネクスは吸収していき、使い手であるマルタンにそのエネルギーを与える。

「《ハイドロ・ジェネクス》が相手モンスターを戦闘破壊した時、その攻撃力分のライフを得る! さらにカードを一枚伏せて、ターンエンド」

マルタンLP4000→5600

「ボクのターン、ドロー!」

 ライフを削られたレイとは対照的に、マルタンは《ハイドロ・ジェネクス》の効果で、《トリオンの蟲惑魔》の攻撃力の1600分、そのライフを回復させる。自分が知る限りレイのデッキのモンスターの攻撃力は低めだが、ならばこそこれ以上ライフを回復されれば面倒だ。

「ボクは《ティオの蟲惑魔》を召喚!」

 レイが再び召喚するは蟲惑魔シリーズのモンスター。ハエトリグサの様相を呈した少女が、何やらフィールドに植物の種を植えていた。

「《ティオの蠱惑魔》は召喚に成功した時、墓地の蠱惑魔モンスターを特殊召喚できる! 蘇って、《トリオンの蠱惑魔》!」

 ティオの蠱惑魔が植えた種にジョウロで水をやると、先のターンに破壊されたトリオンの蠱惑魔が墓地から特殊召喚される。デッキから《落とし穴》をサーチする効果は、通常召喚した時のみの効果であるらしく、トリオンの蠱惑魔の効果は発動しない……サーチ効果は、だが。

「《トリオンの蠱惑魔》が特殊召喚された時、相手の魔法・罠カードを一枚破壊できる!」

「チェーンして《強欲な瓶》を発動! カードを一枚ドローする」

 《トリオンの蠱惑魔》が特殊召喚に成功した際の効果は、相手の魔法・罠カードを破壊する効果。その標的は、マルタンのフィールドに伏せられていたカードとなるが、マルタンの伏せていたのはフリーチェーンの罠カード《強欲な瓶》。

「うーん……でも気を取り直して、いくよマルっち! ボクは二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 せっかく破壊したカードが、マルタンに一枚ドローさせたのみだったことに少し落胆しながらも、レイは気を取り直してソレを命じる。マルタンが使ったチューニングとは違う、新たな召喚法であるエクシーズ召喚――レイは既に取り入れていたらしい。

「恋する乙女を守って! 敵を惑わす花弁の罠、《フレシアの蠱惑魔》!」

 レイのデッキに加わっていたシリーズ《蠱惑魔》は、エクシーズ召喚をも取り入れた結果だったらしく。二人の植物少女が新たなモンスターに構築され、エクシーズ召喚としてラフレシアの少女がフィールドに現れる。

 しかしてその表示形式は守備表示。今までの蠱惑魔モンスターからして、恐らくは罠カード……とりわけ落とし穴に関する効果を持つのだろうが……

「ふふん、ボクはこれでターンエンドだよ!」

「……僕のターン、ドロー!」

 レイは不敵に笑みを浮かべながら、《フレシアの蠱惑魔》をエクシーズ召喚したのみでターンを終了する。少なくとも守備表示でのエクシーズ召喚から、あまり攻撃には向かないカードではあるのだろうが……

「僕は《ジェネクス・ワーカー》を召喚!」

 不気味に沈黙する《フレシアの蠱惑魔》に対して、マルタンは果敢にもジェネクスモンスターをさらに展開していく。召喚されたのは、他のジェネクスをサポートする機械。

「《ジェネクス・ワーカー》は自身をリリースすることで、手札から他のジェネクスを特殊召喚できる! 《ジェネクス・ブラスト》を特殊召喚!」

 《ジェネクス・ワーカー》の効果は自身をリリースすることで、手札のジェネクスモンスターを特殊召喚する効果。その効果によって風属性のジェネクス、《ジェネクス・ブラスト》が特殊召喚された。一見、ただ通常召喚するのとフィールドからすると代わりはなく、手札を無駄遣いしたようにも見える……が、それも《ジェネクス・ブラスト》の効果の発動のため。

「《ジェネクス・ブラスト》は特殊召喚に成功した時、デッキから闇属性のジェネクスを手札に加えることが出来る。さらに魔法カード《アイアンコール》を発動し、墓地から《ジェネクス・コントローラー》を特殊召喚!」

 《ジェネクス・ブラスト》の特殊召喚された際の効果は、デッキから闇属性のジェネクスをサーチすること。さらに機械族の専用蘇生カードこと、《アイアンコール》によって《ジェネクス・コントローラー》が蘇生され――やるべきことは一つだ。

「僕はレベル3の《ジェネクス・コントローラー》に、レベル4の《ジェネクス・ブラスト》をチューニング!」

 《ジェネクス・ブラスト》は風属性。よって《ジェネクス・コントローラー》はソレ専用に電波を調整し直すと、新たなシンクロモンスターを調律させる。

「疾風集いし吹き荒れろ! シンクロ召喚! 《ウインドファーム・ジェネクス》!」

 水属性の《ハイドロ・ジェネクス》に引き続き、新たにシンクロ召喚されるは風属性の《ウインドファーム・ジェネクス》。シンクロ素材となった《ジェネクス・ブラスト》の意匠をかたどっており、その巨体を持って《フレシアの蠱惑魔》を威嚇する。

「でもこの瞬間、《フレシアの蠱惑魔》の効果を発動! このカードのオーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、デッキから落とし穴をこのモンスターの効果として、発動出来る!」

「えぇ!?」

 マルタンの驚愕の声とともに、《フレシアの蠱惑魔》を中心として浮遊していた、オーバーレイ・ユニットが一つ砕け散っていく。すると、レイのデッキから一枚のカードが排出され、ソレは《フレシアの蠱惑魔》の効果として発動される。

「デッキから《奈落の落とし穴》を発動!」

 攻撃力1500以上のモンスターを破壊した後に除外する、有用な罠カード《奈落の落とし穴》がデッキから発動され、《フレシアの蠱惑魔》が《ウインドファーム・ジェネクス》を呑み込んでいく。せっかくのシンクロモンスターであろうとも、破壊耐性を持たない限りは抗う術はない。

「カードを……二枚伏せて、ターンエンド」

「ボクのターン、ドロー!」

 《フレシアの蠱惑魔》の守備力は2500のため、攻撃力2300の《ハイドロ・ジェネクス》では適わない。ただしそれはレイも同じことであり、既にフィールドにいる《ハイドロ・ジェネクス》を破壊するには、一部の例外を除き召喚時に効果を発揮する、《落とし穴》系統では不可能だ。

「ボクは《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を召喚し、魔法カード《ミスティック・レヴォリューション》を発動!」
 かと言って、レイに攻める手がない訳でもなく。彼女が中等部に飛び級で入学する際から使っている、メルヘンチックな竜をモチーフとしたモンスター、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》が召喚される。それとともに、専用レベルアップカード《ミスティック・レヴォリューション》が発動され、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》は更なる成長を果たす。

「《ミスティック・ベビー・ドラゴン》をリリースすることで、デッキから《ミスティック・ドラゴン》を特殊召喚するよ! 来て、恋する乙女を守る竜! ミスティック・ドラゴン!」

 緑色を基調とした大型のドラゴン――メルヘンチックな外見とは裏腹に、その攻撃力は圧倒的な3600を誇り、相手の罠カードの効果を無効にする効果をも持つ、レイの攻撃における最強のカード。これでマルタンは、《フレシアの蠱惑魔》により《落とし穴》系統の見えないプレッシャーを受けつつ、《ミスティック・ドラゴン》による分かりやすい驚異を同時に与えられることとなった。

「バトルだよ、《ミスティック・ドラゴン》! 《ハイドロ・ジェネクス》に攻撃! ミスティック・ブレス!」

「うわぁぁ!」

マルタンLP5600→4300

 《ハイドロ・ジェネクス》はその一撃には耐えられず、あっさりと破壊されるものの、その効果によって回復したライフはまだ健在。《フレシアの蠱惑魔》は攻撃に参加しないまま、レイはバトルフェイズを終了する。

「ボクはカードを一枚伏せて、これでターン終了!」

「くっ……僕のターン、ドロー!」

 《フレシアの蠱惑魔》と《ミスティック・ドラゴン》。自分に襲いかかる二体の大型モンスターに、負けじとマルタンはカードを引く。

「僕は《ジェネクス・ドクター》を召喚!」

 恐らくは、先の《ジェネクス・ブラスト》の効果でサーチしていたのだろう、闇属性のジェネクスこと《ジェネクス・ドクター》。ただの下級モンスターであるドクターに、この戦局を変える能力はない。

「さらに魔法カード《思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスター、《ジェネクス・コントローラー》を特殊召喚!」

 チューナーかつ機械族かつ通常モンスター。それらのサポートを一身に受けることが出来る《ジェネクス・コントローラー》は、どこからであろうと特殊召喚される。そしてまた、《ジェネクス・コントローラー》と非チューナーであるジェネクスがフィールドに揃う。

「僕はレベル3の《ジェネクス・ドクター》に、同じくレベル3の《ジェネクス・コントローラー》をチューニング!」

 ジェネクスが擁しているシンクロモンスターは、水属性なら《ハイドロ・ジェネクス》、風属性なら《ウインドファーム・ジェネクス》というように、それぞれ四属性を司るモンスターのみ。しかしシンクロ素材となる《ジェネクス・ドクター》は闇属性――ならば、シンクロ召喚されるのは。

「変幻自在の力集いし貫け! シンクロ召喚! 《A・ジェネクス・トライアーム》!」

 こうしてシンクロ召喚されたのは、白いボディのロボット。ジェネクスモンスターの中でも《A・ジェネクス》と呼ばれるカテゴリーに入った、闇属性のシンクロモンスターである。その効果はシンクロ素材によって変化する、マルタンの言った通り変幻自在の力を操るロボット。

「闇属性をシンクロ素材とした《A・ジェネクス・トライアーム》の効果発動! 手札を一枚捨てることで、光属性モンスターを破壊する!」

 シンクロ素材とした《ジェネクス・ドクター》は闇属性のため、《A・ジェネクス・トライアーム》の左手に黒色のレーザーライフルが装備される。その能力は光属性モンスターの破壊――レイのエースカードである、《ミスティック・ドラゴン》は光属性だ。

「でも《フレシアの蠱惑魔》の効果発動! デッキから《蠱惑の落とし穴》を発動!」

 しかして《フレシアの蠱惑魔》のオーバーレイ・ユニットはまだ残っており、再びデッキから落とし穴が発動される。

「このターン特殊召喚されたモンスターが効果を発動した時、その効果を無効にして破壊するよ!」

 《奈落の落とし穴》とはまた違う、異なる系統だが強力な罠カード。《A・ジェネクス・トライアーム》の効果を無効にしながら、それを破壊することが出来る――地下から現れたラフレシアが、《A・ジェネクス・トライアーム》を捕食しようと迫り行く。

「リバースカード、オープン! 《禁じられた聖衣》を発動!」

「あっ……!」

 その《A・ジェネクス・トライアーム》に対し、速攻魔法《禁じられた聖衣》が発動される。攻撃力を600下げる代わりに、効果の対象にならず効果破壊耐性を得る。いくら《フレシアの蠱惑魔》の効果が強力だろうと、それは落とし穴の破壊効果を発動しているに過ぎない――《禁じられた聖衣》が発動された今、トライアームは破壊されない。

「《A・ジェネクス・トライアーム》の効果はそのまま、《ミスティック・ドラゴン》を破壊!」

「ミスティック・ドラゴン!」

 黒色のレーザーライフルが独特の音を響かせながら、光属性である《ミスティック・ドラゴン》を撃ち貫いた。まずはかなりの攻撃力を誇るエースカードを制し、さらにマルタンはフィールドを支配していた《フレシアの蠱惑魔》にまで手を伸ばす。

「この効果で光属性モンスターを破壊した時、カードを一枚ドローする。さらに墓地に送った《ADチェンジャー》の効果を発動、《フレシアの蠱惑魔》を攻撃表示に!」

 《A・ジェネクス・トライアーム》の効果の発動コストに捨てられていたのは、自分も使っているモンスターカード《ADチェンジャー》。自身を墓地から除外することで、フィールドのモンスターの表示形式を変更する効果があり、《フレシアの蠱惑魔》はその低い攻撃力を晒す。

「さらに永続魔法《エレクトロニック・モーター》を発動し……バトルだ! 《A・ジェネクス・トライアーム》で、《フレシアの蠱惑魔》に攻撃!」

「うぅ……!」

レイLP3300→1500

 さらに発動された、自分フィールドの機械族モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる永続魔法《エレクトロニック・モーター》により強化され――ただし《禁じられた聖衣》で攻撃力は下がり――《フレシアの蠱惑魔》を撃ち抜くと、レイのライフポイントは半分を切る。

「よし……ターンエンド!」

「やるねマルっち……ちょっと遊矢様みたい。ドロー!」

 レイのフィールドの二体のモンスターは破壊され、今では一枚のリバースカードが残されたのみ。対するマルタンのフィールドには、攻撃力が2600となった《A・ジェネクス・トライアーム》に、永続魔法《エレクトロニック・モーター》と一枚のリバースカード。

 今まで優勢だったのが一転、圧倒的にレイの不利。マルタンの手際によく分からない賞賛をしながらも、レイは更なる手札を求めてカードを引く。

「でも勝つのはボクだからね! 魔法カード《貪欲な壷》を発動してさらに二枚ドロー!」

 墓地の五枚のモンスターをデッキに戻すことで二枚ドローする、汎用ドローカードによってレイは更なるドローを果たす。口では虚勢を張りながらも難しい顔をしていた彼女だったが、その二枚のカードを引いた瞬間、顔を明るくほころばせた。

「まずは速攻魔法《サイクロン》でマルっちの伏せカードを破壊! そして真打ち登場だよ、来て! 《恋する乙女》!」

 速攻魔法《サイクロン》がマルタンの伏せていた《緊急同調》を破壊しながら、遂にレイの代名詞とも言えるモンスター《恋する乙女》が登場する。レイの半分を切ったライフでは、その効果を使うことは難しいように感じられるが……

「さらに魔法カード《死者蘇生》を発動! マルっちの墓地の《ハイドロ・ジェネクス》を特殊召喚し、《恋する乙女》には装備魔法《ハッピー・マリッジ》を装備!」

 次々とレイの手札から魔法カードが発動されていく。まずは汎用蘇生カードこと《死者蘇生》により、マルタンの墓地のシンクロモンスター《ハイドロ・ジェネクス》を、持ち主が異なるレイのフィールドに特殊召喚する。《ハイドロ・ジェネクス》では《エレクトロニック・モーター》によって強化された《A・ジェネクス・トライアーム》には適わないが、《ハイドロ・ジェネクス》を特殊召喚したということに意味がある。

「あっ……!」

 レイが《死者蘇生》に続いてさらに発動し、《恋する乙女》に装備したカードは《ハッピー・マリッジ》。その効果は……元々の持ち主が相手のモンスターが自分フィールドにいる時、その元々は相手のものだったモンスターの攻撃力を、装備モンスターに加えるという効果。

 つまり、ただの下級モンスターに過ぎなかった《恋する乙女》は一瞬にして、攻撃力――元々の攻撃力である400に《ハイドロ・ジェネクス》の2300を加えて――『2700』という上級モンスターに匹敵する数値となり。何より《A・ジェネクス・トライアーム》の攻撃力を越えていた。

「どう? 恋する乙女は一瞬でも目を離した隙に強くなるんだから! バトル、《恋する乙女》で《A・ジェネクス・トライアーム》に攻撃! 秘めたる思い!」

 レイの流れるようなコンボからのマイフェイバリットカードの攻撃が炸裂し、《ハイドロ・ジェネクス》の力を得たその一撃は、《A・ジェネクス・トライアーム》と同格。ただし《恋する乙女》は攻撃表示の場合、戦闘では破壊されない効果を持つ。

「攻めに回った恋する乙女は無敵なんだから!」

 よって《A・ジェネクス・トライアーム》が一方的に破壊され――そしてもちろん、《ハイドロ・ジェネクス》の攻撃も残っている。

「さらに《ハイドロ・ジェネクス》で、マルっちにダイレクトアターック!」

「ううっ……!」

マルタンLP4300→2000

 少なくともライフポイントだけは、《ハイドロ・ジェネクス》により圧倒的優勢を誇っていたはずのマルタンだったが、皮肉にもその《ハイドロ・ジェネクス》の一撃によりレイと同格にまで持ち込まれる。さらにそのフィールドにはカードはなしと、再び戦局はレイに大きく傾いた。

「ボクはこれでターンエンド!」

「僕のターン……ドロー!」

 もはやデュエルも終盤。お互いの残った手札や策も既に心もとなく、あとはどちらが先に相手のライフポイントを0にするか、という構造がもっと単純になっていく。レイのフェイバリットカードに対抗する、マルタンが新たにフィールドに召喚するモンスターとは。

「僕は《ジェネクス・コントローラー》を召喚する!」

 ――これまで何体ものシンクロモンスターの素材になっていた、名実ともにマルタンのデッキのキーカードである《ジェネクス・コントローラー》。今までもっぱら特殊召喚によってフィールドに現れていたが、最序盤のターンに《ジェネクス・ウンディーネ》によって手札に加えられていた、最初にサーチされた《ジェネクス・コントローラー》が遂に通常召喚によって目を覚ます。

「さらに《二重召喚》を発動! このターン、二回の通常召喚が可能となる……さらに手札のこのモンスターは、フィールドに《ジェネクス・コントローラー》がいる時、リリース無しで召喚出来る! 来てくれ、《ジェネクス・ヒート》!」

 マルタンも負けじと魔法カードを絡めて展開していき、フィールドに炎属性のジェネクスである《ジェネクス・ヒート》の召喚に成功する。《ジェネクス・ヒート》はレベル5の上級モンスターではあるが、フィールドに《ジェネクス・コントローラー》がいるならリリース無しで召喚出来る、という半上級モンスターでもある。ただし、その効果の代償か攻撃力は控えめであるが……ジェネクスたちの本領は、この後さらに続いていく。

「僕はレベル5の《ジェネクス・ヒート》に、レベル3の《ジェネクス・コントローラー》をチューニング!」

 合計レベルは8。そのデッキの切り札クラスのシンクロモンスターを数多く擁するレベルであり、もちろんシンクロ召喚を多用する【ジェネクス】でも例外ではなく。

「業火よ集いし燃え盛れ! シンクロ召喚! 《サーマル・ジェネクス》!」

 シンクロ召喚される炎属性のジェネクス。小型だった水と風のジェネクスとは違う、炎らしい爆発力を持った切り札のようなシンクロモンスターであり、その召喚とともに業火が燃え盛る。

「このモンスターの攻撃力は、墓地の炎属性モンスターの数×200ポイントアップする。墓地には《ジェネクス・ヒート》一体だけだけど……永続魔法《エレクトロニック・モーター》によって、さらに300ポイントアップ!」

 《サーマル・ジェネクス》の元々の攻撃力は2400。そこから自身の効果により2600、永続魔法《エレクトロニック・モーター》により2900にまで到達する。炎属性モンスターを主軸としていれば、更なる攻撃力上昇を見込めたが、この状況ならばその攻撃力でも充分だ。

「いくよレイちゃん、これでトドメだ! 《サーマル・ジェネクス》で、《ハイドロ・ジェネクス》に攻撃!」

 レイの残るライフは1500。いくら攻撃力が強化されてるとはいえ、《ハイドロ・ジェネクス》を破壊する際の戦闘ダメージでは削りきれない。しかし《サーマル・ジェネクス》の第二の効果――戦闘で相手モンスターを破壊した時、墓地のジェネクスモンスター×200ポイントのダメージを与える効果。

 マルタンの墓地には、今までシンクロ素材となったジェネクスモンスターたちが、今のレイのライフポイントを削りきれるほど存在する。そして《サーマル・ジェネクス》の炎を伴った一撃が、レイに奪われた《ハイドロ・ジェネクス》に炸裂する。

「っ……!」

レイLP1500→1300

「《サーマル・ジェネクス》の効果発動! 相手モンスターを戦闘破壊した時、相手に墓地のジェネクス×200ポイントのダメージを与える!」

 炎属性と水属性のジェネクスがぶつかり合ったからか、フィールドは水蒸気のような煙に覆われる。そしてマルタンは《サーマル・ジェネクス》の効果の発動宣言をし、その効果によりレイにバーンダメージが与えられる――

 ――ことはなく。

「……えっ」

 マルタンが疑問の声を発するとともに、フィールドを覆っていた煙が晴れていく。そこには相手を攻撃した《サーマル・ジェネクス》、無事なままフィールドに残る《ハイドロ・ジェネクス》――そして、攻撃を受けた《恋する乙女》の姿があった。

「ボクは永続罠《ディフェンス・メイデン》を発動してたよ! このカードが発動されている限り、相手モンスターの攻撃は《恋する乙女》が受ける!」

 レイのフィールドに伏せられた最後のリバースカード。それは《恋する乙女》に攻撃を誘導する罠カード、《ディフェンス・メイデン》。その効果により、《サーマル・ジェネクス》の攻撃は《恋する乙女》へと誘導されており――先のレイへの戦闘ダメージも、《恋する乙女》との戦闘の結果である――《恋する乙女》は攻撃表示であるならば、相手モンスターに破壊されることはない。

 そして《サーマル・ジェネクス》の効果の発動条件は、相手モンスターを戦闘破壊すること。……《恋する乙女》が破壊されない以上、その効果は発動されることはなく。代わりに《恋する乙女》に攻撃をした代償が、《サーマル・ジェネクス》へと送られる。

「《恋する乙女》を攻撃した相手モンスターは、乙女カウンターが乗るよ!」

「うっ……僕は……ターンエンド……」

 必殺の一撃が回避され、他に出来ることもなくマルタンはターンを終了する。未だ《サーマル・ジェネクス》は健在だが、それが何を意味するのか。

「ボクのターン、ドロー! ボクは《恋する乙女》に装備魔法《キューピット・キス》を装備!」

 《恋する乙女》に《ハッピー・マリッジ》だけではなく、新たな装備魔法《キューピット・キス》までもが装備される。その外見は十人が十人その通りに想像するような、恋のキューピットが持っている白い弓矢。それがこの状況では、このデュエルに終幕を告げる必殺の一撃――

「バトル! 《恋する乙女》で《サーマル・ジェネクス》を攻撃! 秘めたる思い!」

 再び《サーマル・ジェネクス》と《恋する乙女》の戦闘。装備魔法《キューピット・キス》による矢が炸裂するが、結果は先のターンと同じ。《サーマル・ジェネクス》にはその攻撃を通じず、《恋する乙女》はその効果により戦闘では破壊されない。結果的には、レイが戦闘ダメージを受けたのみ……だが、それが重要なことだ。

レイLP1300→1100

「装備魔法《キューピット・キス》の効果発動! 乙女カウンターが乗ったモンスターと戦闘した時、ダメージステップ終了後にそのモンスターのコントロールを奪うよ!」

 これこそがレイの《恋する乙女》コンボの本領。乙女カウンターが乗ったモンスターが《キューピット・キス》を装備したモンスターに攻撃された時、そのコントロールはレイへと移る。よって、コントロールを奪った相手モンスターの攻撃力を得る装備魔法《ハッピー・マリッジ》により、さらに《恋する乙女》の攻撃力がさらにアップするが……その必要はないだろう。

「いくよ! 二体のジェネクスでマルっちにダイレクトアタック!」

「うわぁぁぁぁ!」

マルタンLP2000→0

 《サーマル・ジェネクス》がコントロール奪取されたことによりマルタンのフィールドは空き、ジェネクスモンスターたちのダイレクトアタックが直撃。そのままライフポイントを削りきり、デュエルはレイの勝利によって終了する。

「えへへ、今回はボクの勝ちだね、マルっち!」

「負けちゃったかぁ……」

 倒れたマルタンをレイが助け起こしながら、あそこが良かった――など、デュエルの流れを話しだす。そこには、今まで俺たちが異世界でやっていたような、命を賭けたデュエルではなく。勝っても負けても得るものがある、このアカデミアでの本来のデュエルの姿。

「……レイ! マルタン!」

 木の陰に隠れるのを止めて、そんな二人の名を呼びかける。突如として話しかけられた二人は、驚きながら俺の方を向いた後、半ば信じられないのような物を見るような目をしながら――俺の腕の中に温かいものが飛び込んできた。

「……遊矢様!」

 飛びついてきたレイを捕まえながら、泣き出してしまう彼女の頭を撫でる。いつもなら――いや、以前ならば様付けはやめろ、というところではあるが。……今回のところは止めておく。

「……遊矢先輩……その、すいません……」

 マルタンも痛々しい顔をしながらこちらに近づいてくると、かつてユベルに取り憑かれていたことか、謝罪しながら頭を伏せる。ユベルに取り憑かれていたことの記憶が残っているのか、本当に申し訳なさそうな謝罪だった。

「それはお前のせいじゃない……そんなことより、二人とも強くなってたな」

「あ……今のデュエル、見てたの?」

 徐々に泣き止んできたレイが、腕の中からこちらを上目づかいで覗いてくる。

「ああ、最初から。特にマルタン。今回は負けだけど、デッキもしっかり変わって」

 かつてのデッキから【ジェネクス】という形作られたデッキとなり、こうしてデュエルを魅せてくれる程になっていた。あまり先輩面していられるほど交流があった訳ではないが、かつての学園生活を思い出してマルタンに語りかける。

「ありがとうございます……遊矢先輩のを、参考にして」

「わたしも手伝ったよ!」

 嬉しそうに語る二人だったが、その表情が少し暗くなっていく。その後、何かを決心したような顔つきで、マルタンが口を開いた。

「僕……これから転校するんだ。遊矢先輩の目が覚めるまで、って随分待ってもらったから……もうすぐ。最後に遊矢先輩にデュエルを見てもらえて、良かった」

 負けちゃったけど――と、マルタンの言葉は続いていく。ノース校などを始めとした、アカデミアの分校に転校するという……それぞれの事情を問い詰めることはしないが、マルタンはこの本校からいなくなってしまうらしい。

「……今度会う時」

「え?」

「今度会う時、絶対にデュエルしよう」

 口約束ではあるが。この世界を今の敵から守ることが出来れば……その時はこの約束を果たそう。マルタンもその言葉に多少驚きながらも、力強く頷いてくれた。

「……はい!」



 ……そうして積もる話は後にして、レイとマルタンと別れた俺は、アカデミアの屋上へとたどり着いていた。十代がよく昼寝していたところであり、アカデミアの前の方の全てを見渡すことが出来る場所だ。森やオシリス・レッド寮の向こうには、輝く太平洋を臨むことも出来る。

「俺は……」

 温かい潮風が俺の肌を触り、俺の呟きが潮風に乗っていく。その呟きを聞くものも答えるものは他にはおらず、そこにいるのは俺しかいない。

「……帰り、たいっ」

 目が覚めて鮫島校長と話して、帰ってきたアカデミアを見て回って、レイとマルタンのデュエルを見て。俺は強くそう思っていた……位置の問題ではなく、あのアカデミアでの生活に。仲間と競い合って笑い合ってデュエルしてデッキを構築して授業を受けて、デュエル・アカデミアでしか出来ない学園生活を。

 ――それだけではなく。

「――守りたい」

 その学園生活を送っている仲間を守りたい。この世界を狙っているという者たちから。それが、あの異世界で許されざることをした俺の罪滅ぼしと、アカデミアをもう一度見て回った俺の意志。

「……決心は、ついたかい?」

 その声に反応して後ろを見てみると、いつの間にかやってきていた吹雪さんが立っていた。その格好はオベリスク・ブルーの制服やアロハシャツではなく、ダークネスに操られていた際の黒いコート。異世界からの侵略者の正体を誘うために、ダークネスの力を使った吹雪さんとのデュエルのための準備だろう。

「……ありがとうございます。吹雪さん」

「さて、何のことかな? それじゃあ行こうか」

 吹雪さんのおかげで戦う理由を思い出せたことに礼を言うが、それはいつものような飄々とした様子で流されてしまう。その様子に少し安心したように息を吐きながら、デュエルをする場所に行くべく吹雪さんの後を追う。

「明日香……」

 吹雪さんに聞こえないように彼女の名を呟く。――俺は必ず、彼女といた場所に『帰る』のだと――
 
 

 
後書き
予定だとこのデュエルはすっぱりありませんでした。なのでストーリー的にはまるで進んでませんが、やって良かったと思います。なんとなく。
 

 

―目覚め―

 デュエル・アカデミア旧寮跡。かつてタイタンとの闇のデュエルや、セブンスターズとの戦いで用いられたそこが、吹雪さんが戦いの場所として示した場所だった。

「この寮が僕の最初の場所だ……亮や友人と、この寮で過ごした……いや、今はそれより、キミとのデュエルが先だ」

 昔のことを思い出して感傷に浸るよりも、今迫りつつある危機を防ぐため、黒いコートを着込んだ吹雪さんは決意したような表情を見せる。そして封印していた《ダークネス》のカードを解き放ち、再びその黒い仮面を身につける。

「ぐっ……うぉぉぉぉぉ!」

「吹雪さん!」

 苦痛を伴った叫びをあげる吹雪さんに駆け寄ろうとするも、それはすぐさま手で制される。肩で息をするような状態だったものの、吹雪さんに何とかダークネスの力は定着し、再びあのデュエリストが俺の前に姿を現していた。

「僕は……まだ大丈夫だ。そう簡単にはね。さあ、早速始めようか」

「……はい」

 デュエルを通してダークネスの記憶を辿ることで、俺たちの世界への侵略者の正体を探る。そのために闇のカードの封印を解放し、命を賭けた吹雪さんからの頼みに対し、俺もデュエルディスクをセットする。

 ……肝心の【機械戦士】からは、まだ何の答えも返ってこないが。それでもやるしかない……吹雪さんが敵の正体を闇から探るように、俺もこのデュエルを通じて、【機械戦士】たちとの絆を取り戻す……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
吹雪LP4000

「俺の先攻」

 デュエルディスクが指し示したのはこちらから。しかし、【機械戦士】たちとの絆が感じられないからなのか、それとも別の要因か……吹雪さんを相手取るのは厳しい手札だった。

「俺はモンスターとカードを一枚ずつセットし、ターンを終了する」

「……僕のターン、ドロー」

 最初の俺の布陣に何を思ったのか、吹雪さんは少し沈黙してからカードを引いた。確かダークネスとしてのデッキは真紅眼を取り込んだ【ドラゴン族】――いつもの吹雪さんとは違い、真紅眼はメインでなく切り札扱いであり、その分多様なドラゴン族が投入されていた。

「僕は《幻木龍》を召喚!」

 封印されている間に力を蓄えてデッキも変わったのか、先のデュエルでは見せなかった龍が召喚される。……むしろ、先のダークネスとは別物と考えた方がよさそうだ。

「そしてフィールドに地属性モンスターがいる時、手札の《幻水龍》は特殊召喚できる!」

 さらに吹雪さんのフィールドに現れるのは、先の《幻木龍》が地属性の龍ならばまさしく水の龍。レベル8の最上級モンスターではあるが、そのステータスは驚異的ではない……が。むしろ吹雪さんの目的は、そのモンスターを二体フィールドに揃えることではないか。

「さらに《幻木龍》の効果。フィールドの水属性モンスターと、同じレベルとなる……二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

「……ッ!」

 二体の龍のかみ合った効果を最大限に活かした、速攻で行われるエクシーズ召喚に舌を巻くと、《幻水龍》と《幻木龍》の姿が重なっていく。今吹雪さんが使っている力が、あのミスターTと同じものであるならば――エクシーズ召喚されるカテゴリーのモンスターは。

「雷鳴よ轟け! 稲光よ煌めけ! 顕現せよ、我が金色の龍! 《No.46 神影龍ドラッグルーオン》!」

 ――やはり降臨する《ナンバーズ》。金色の雲を纏いながら、その神々しい姿を顕現させると、雄々しい雄叫びがフィールドに轟いた。


「そしてドラッグルーオンの効果を発動! 自分フィールドにこのカード以外のモンスターがいない時、手札からドラゴン族モンスターを特殊召喚できる! 現れろ、《真紅眼の黒竜》!」

 その雄叫びに呼応するかの如く、さらに吹雪さんの十八番こと《真紅眼の黒竜》がフィールドに降り立つと、最上級ドラゴン族二体がちっぽけな俺を睥睨する。まだ後攻一ターン目にもかかわらずその布陣は、吹雪さんが本気だということを感じさせた。

「くっ……」

「さあ、一気にいくぞ遊矢くん……《真紅眼の黒竜》でセットモンスターに攻撃! ダーク・メガ・フレア!」

 俺がその威圧感にたじろいでしまう間にも、吹雪さんは自身のエースモンスターに対して攻撃を命じる。真紅眼の黒竜から放たれた火球に、俺が伏せていたセットモンスター――《ガントレッド・ウォリアー》は一瞬にして破壊されてしまう。

「さらにドラッグルーオンでダイレクトアタック! 火炎神激!」

「リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》! その攻撃を無効にする!」

 どんなものでも焼き尽くしてしまいそうな火炎放射は、しかして、くず鉄で作られたかかしに防がれる。《くず鉄のかかし》が何とか攻撃を防いでくれると、その効果によって再びセットされる。

「僕は……カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「……俺のターン、ドロー!」

 《くず鉄のかかし》で何とか防ぐことが出来たが、次のターンまでに対策をしないような相手ではない。まずは降臨したナンバーズ……あのモンスターを何とかしなくては、今の調子では何も始まらない。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を召喚!」

 召喚されるは要塞の機械戦士。ステータスは下級モンスター水準ではあるが、その効果のために攻撃表示でも問題はない。むしろ、そうでなくては問題である程に。

「さらに通常召喚に成功したことにより、このモンスターは特殊召喚できる! 来い、《ワンショット・ブースター》!」

 自身の効果によって、黄色いミサイルを積んだ機械族が特殊召喚される。こちらの常套手段でもあったその二体に、吹雪さんから目的は明白だろうが……

「バトル! 《マッシブ・ウォリアー》でドラッグルーオンに攻撃!」

 当然、その戦闘の結果は分かりきったものだったが、《マッシブ・ウォリアー》は戦闘ダメージを受けない。さらに一度だけ破壊されない効果も併せ持ち、ドラッグルーオンの火炎放射も盾を構えて防ぎきった。

「メインフェイズ2、《ワンショット・ブースター》の効果を発動! このカードをリリースすることで、戦闘を行って破壊されていない相手モンスターを破壊する!」

 《ワンショット・ブースター》が2つのミサイルを発射すると、ドラッグルーオンは何の抵抗もなくミサイルに直撃、爆発する――が、無傷のままだ。よく目を凝らして見据えると、ドラッグルーオンの前に透明の壁のようなものが展開していて。

「僕は永続罠《ナンバーズ・ウォール》を発動した。このカードがある限り、ナンバーズはナンバーズでしか倒せない」

「あの罠か……」

 十代とミスターTのデュエルの際にも使われていた、ナンバーズに強固な体勢を付与する《ナンバーズ・ウォール》。十代は《ナンバーズ・ウォール》自体を破壊することで対処したが、今の俺の手札に永続罠を破壊できるカードはない。

「カードを一枚伏せて……ターン、終了」

「僕のターン、ドロー」

 結局、《ナンバーズ・ウォール》に攻撃を防がれた俺に出来ることは、もう一枚カードを伏せるだけ。戦闘破壊耐性を持つ《マッシブ・ウォリアー》に、一度だけ攻撃を無効にする《くず鉄のかかし》を含めた二枚のリバースカード。防御の布陣を整えたように見えたものの。

「僕は《ミラージュ・ドラゴン》を召喚し、バトルに入る。ミラージュ・ドラゴンでマッシブ・ウォリアーに攻撃! ミラージュ・クラッシュ!」

「リバースカード――!?」

 ドラッグルーオンの影から召喚されるは、下級ドラゴン族モンスター《ミラージュ・ドラゴン》。その金色の爪をもって《マッシブ・ウォリアー》を切り裂く前に、伏せてあった《くず鉄のかかし》を発動しようとするも――《ミラージュ・ドラゴン》が一にらみするだけで、《くず鉄のかかし》が石化されたように動きを封じられる。

「《ミラージュ・ドラゴン》がいる時、お互いにバトルフェイズ中に罠カードは発動出来ない。よって《くず鉄のかかし》は無効にさせてもらう」

「……だが、《マッシブ・ウォリアー》は一度だけ破壊されず、ダメージも受けない!」

 《くず鉄のかかし》を封じられた俺は、せめてもの抵抗として《マッシブ・ウォリアー》の効果を宣言する。その言葉に違わず《マッシブ・ウォリアー》は《ミラージュ・ドラゴン》の爪を耐えきるが、吹雪さんのフィールドにはまだ二体のモンスターが残っている。

「だが耐えられるのも一度だけだ。《真紅眼の黒竜》で攻撃、ダーク・メガ・フレア!」

 続いて攻撃してくる《真紅眼の黒竜》の攻撃を防ぐことは出来ず、先の《ガントレット・ウォリアー》のように、《マッシブ・ウォリアー》もその盾ごと砕け散る。……そして無防備となった俺を、ドラッグルーオンは見据えていた。

「……ドラッグルーオンでダイレクトアタック。火炎神激!」

「ぐぁぁぁっ……!」

遊矢LP4000→1000

 今度は攻撃を防ぐことは出来ず直撃し、俺のライフは一気に1000ポイントにまで落ち込んでしまう。……いや、それ以上に。地獄の業火のような火力を持ったソレは、俺の身体と精神を焼いていく。

「ぁぁあ……ぐっ……!」

「……遊矢くん。ダークネスの力を借りて、分かったことが一つある」

 未だに苦しむ俺に対して、吹雪さんは優しく語りかけてきた。ダークネスとしてではなく……天上院吹雪という一人の先輩として。

「普段僕には感じられない精霊というのも、今の僕になら感じられる。君のデッキが……今、羽化直前の蝶のような気配だ」

 俺のデュエルディスクに挿入されたデッキ――【機械戦士】たちを指差しながら、吹雪さんはそう語る。

「異世界で君をそんな目に遭わせて……機械戦士たちも君と同じように、力を望んだんだ。今まで力を蓄えた休眠状態になって、君の呼びかけに答えないほどに」

「休眠状態……?」

 信じられない、という目線で俺も機械戦士たちを見る。こんな時、つくづく精霊の存在を感じることの出来ない自分が恨めしい。【機械戦士】たちが変わる必要はない、俺の実力が足りないだけだというのに。

「その休眠状態を目覚めさせるには……相棒である、君の呼びかけだけだろう」

「相棒……相棒、か……」

 ――そう呟いた後、ドラッグルーオンの炎を振り払って立ち上がる。三体のドラゴンたちに恐れず立ち向かい、【機械戦士】たちが入ったデュエルディスクを掲げる。

「そんな気遣いさせて悪かったな……一緒に戦ってくれ、相棒!」

 その呼びかけとともにデッキが金色に輝き――いや、その光は一瞬で収まった。まるで気のせいだったかのように。……だが、聞こえる。

「みんな……」

 デッキの声が聞こえる。あの異世界での死闘を乗り越えて、無力感に苛まれたのは自分だけではない。それは【機械戦士】も同じであり、これからは生まれ変わった新生機械戦士――

「……どうやら、一皮むけたようだ。僕はこれでターンエンド」

「いや、エンドフェイズにリバースカード、《奇跡の残照》を発動! このターン破壊された《マッシブ・ウォリアー》を、守備表示で特殊召喚する!」

 《ミラージュ・ドラゴン》が妨害するのは、あくまでバトルフェイズ中の罠カードの発動のみ。それ以外のフリーチェーンの罠カードの妨害は出来ず、《奇跡の残照》の効果によって《マッシブ・ウォリアー》が復活する。

「俺のターン、ドロー!」

 エンドフェイズの巻き戻しが起こるものの、吹雪さんがそのままターンエンドを選んだことで、俺のターンへと移行する。フィールドには《マッシブ・ウォリアー》と《くず鉄のかかし》、吹雪さんのフィールドには《No.46 神影龍ドラッグルーオン》に《真紅眼の黒竜》、《ミラージュ・ドラゴン》に《ナンバーズ・ウォール》が控えている。

「俺は魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》を発動! 俺のフィールドのセットカードを破壊し、カードを二枚ドローする!」

 《ミラージュ・ドラゴン》の高い妨害効果によって、使用不可も同然となった《くず鉄のかかし》を破壊しながら、魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》の効果によって二枚のカードをドローする。吹雪さんのフィールドの《ナンバーズ・ウォール》は既に発動しているため、《ミラージュ・ドラゴン》の効果の対象外なのがズルいところだ。

「さらに速攻魔法《手札断殺》! お互いにカードを二枚捨てて二枚ドロー!」

 ――そして新生した機械戦士の先陣を切るのは、やはりこのモンスターでなくてはならない。

「墓地に送ったカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚できる! 守備表示で現れろ、マイフェイバリットカード!」

『トアアアッ!』

 守備表示での登場となったものの、勇猛な叫びとともにフィールドへ降り立つ。その登場は、さらなる仲間への布石となりて。

「守備表示のモンスターが二体のみの時、このモンスターは特殊召喚できる! 現れろ、《バックアップ・ウォリアー》!」

 特異な召喚方法を持った重火器で武装した機械戦士が、守備表示の《スピード・ウォリアー》と《マッシブ・ウォリアー》がいることでその召喚条件を満たし、三体のドラゴン族の前に立ち向かう。このままでは下級モンスターである《ミラージュ・ドラゴン》しか破壊できないが、機械戦士にはまだ手段はある。

「さらに通常魔法《アームズ・ホール》を発動! デッキトップを墓地に送り、デッキから装備魔法《デーモンの斧》を装備し、そのまま《バックアップ・ウォリアー》に装備!」

 デッキか墓地から装備魔法を手札に加えることが出来る、という優秀な魔法カード《アームズ・ホール》。ただし発動にはデッキトップを一枚墓地に送ることと、そのターンの通常召喚を封じなくてはならない。だが、《スピード・ウォリアー》も《バックアップ・ウォリアー》も特殊召喚――問題なく発動され、《デーモンの斧》は《バックアップ・ウォリアー》に力を与え、その攻撃力を1000ポイントアップさせる。

 よって攻撃力は3100ポイント。吹雪さんのフィールドにいる最強のモンスター、《No.46 神影龍ドラッグルーオン》の攻撃力を僅かながら超える。

「だが《ナンバーズ・ウォール》がある限り、ドラッグルーオンは破壊されない!」

「ああ。だからまだだ! 俺は墓地から罠カードを発動!」

 その宣言とともに俺のフィールドの《スピード・ウォリアー》と《マッシブ・ウォリアー》の二人が、そのエネルギーを《バックアップ・ウォリアー》に与えていく。さらにその力は《バックアップ・ウォリアー》だけでなく、フィールド全域に伝わっていくと、吹雪さんのドラゴン族を汚染していく。

「墓地の罠カード……《ミスディレクションの翼》は、このカードとモンスター二体を除外することで、相手フィールドの効果を無効にし、モンスター一体の攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 自分のモンスターを二体除外する、というとてつもないデメリットはあるものの、その効果は《サイバー・ブレイダー》第三の効果に匹敵するもの。さらに自分のモンスター一体――つまり、バックアップ・ウォリアーの攻撃力を800ポイントアップさせる効果もある。

「これで《ナンバーズ・ウォール》の効果は切れた! バトルだ、《バックアップ・ウォリアー》!」

 《スピード・ウォリアー》と《マッシブ・ウォリアー》、除外された二人の力を借りた罠カードの効果が発動し、《ナンバーズ・ウォール》の効果が発動する。加えて攻撃力3900にまで達したバックアップ・ウォリアーが狙うは、先程まで永続罠に守られていたナンバーズ、ドラッグルーオンだ。

「《バックアップ・ウォリアー》でドラッグルーオンに攻撃! サポート・アタック!」

 両手と両肩に背負った重火器の一斉射撃に、ドラッグルーオンは蜂の巣と形容するのが相応しいこととなる。……いくら神秘の竜であろうと、破壊されるだけのダメージを与えられれば、当然破壊されるだけだ。

「……やるな」

吹雪LP4000→3100

 あくまでドラッグルーオンは駒の一つなのか、破壊されても特に動揺を見せることはなく。それでも、ようやく少しばかりのダメージを与えられた。

「カードを一枚伏せて、ターンを終了!」

「僕のターン、ドロー!」

 この瞬間、《ミスディレクションの翼》の効果は途切れ、吹雪さんのフィールドの効果は復活する。また、《バックアップ・ウォリアー》も《デーモンの斧》による強化分のみとなった。

「僕は《マジック・プランター》と《七星の宝刀》を発動。《ナンバーズ・ウォール》と《真紅眼の黒竜》をそれぞれコストに、四枚のカードをドローする」

 永続罠とレベル7モンスター、それぞれをコストにすることで二枚ドローを果たす魔法カードが発動し、吹雪さんはフィールドを犠牲に四枚のドローを果たす。結局《ミラージュ・ドラゴン》以外のカードはなくなり、まるでデュエルは仕切り直しだ、といっているようでもあった。

「そしてこのモンスターは、ドラゴン族モンスターを除外することで、特殊召喚できる!」

 吹雪さんがドローしたカードの中で手に取ったのは、再び切り札クラスの雰囲気を纏ったカード。《ミラージュ・ドラゴン》が先のターンでのこちらのモンスターのように除外され、その姿をフィールドに現した。

「現れろ! 《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》!」

 かつてダークネスとなった吹雪さんと戦った際に切り札だった、真紅眼がダークネスの力を得た姿。それが一部機械化したように金属で覆われており、銀色の装甲を煌めかせていた。

「《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》は、一ターンに一度、手札か墓地のドラゴン族を特殊召喚できる。雷光とともに蘇れ、《No.46 神影龍ドラッグルーオン》!」

 その効果は、奇しくもドラッグルーオンと同じような効果であり、再び俺のフィールドにドラッグルーオンが現れる。《ナンバーズ・ウォール》が《マジック・プランター》によってリリースされたのが不幸中の幸いだったが、これではどちらかを残せば永遠にどちらかを復活させられ――

「いや……」

 ――蘇生されたドラッグルーオンには、エクシーズモンスターが効果を発動するために使う、オーバーレイ・ユニットがない。ならばその効果は発動出来ず、今はバニラモンスターに等しいのではないか。

「……よし」

「さらに速攻魔法《サイクロン》により、《デーモンの斧》を破壊する!」

 そうエクシーズモンスターについて仮説を立てていると、吹雪さんが発生させた旋風に《デーモンの斧》が破壊され、その攻撃力が元々の攻撃力に戻ってしまう。

「バトル! 《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》で、《バックアップ・ウォリアー》に攻撃! ダークネスメタルフレア!」

 《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》の攻撃力は、3000の大台には届かないものの2800とそれに迫る。さらに2100の《バックアップ・ウォリアー》を破壊するには、それでも充分すぎるほどで。

「リバースカード、《マジカルシルクハット》を発動!」

 それに自分のライフポイントは僅か1000ポイント。これ以上ダメージを受けるわけにはいかず、フィールドに現れた三つのシルクハットの中の一つに、《バックアップ・ウォリアー》は守備表示となって身を隠す。

「シルクハットか……レッドアイズ、そのまま攻撃だ!」

 強化された黒い炎がシルクハットを焼き尽くすものの、そこはもぬけの空でしかなく。《バックアップ・ウォリアー》がいた証は見られない。

「ならばドラッグルーオンで攻撃! 火炎神激!」

 先のターンで俺を焼き尽くした一撃が、今度はシルクハットに向かって浴びせられる。当たるかどうかは五分五分の可能性の中、ドラッグルーオンが放ったシルクハットから――

「破壊されたのは罠カード《フライアのリンゴ》。セットされたこのカードが破壊された時、一枚ドロー出来る」

 ――ではないシルクハットから、身を隠していた《バックアップ・ウォリアー》が無事な姿を見せる。代わりにシルクハットの中に仕込まれていた罠カードは、破壊された際にカードを一枚ドローさせる《フライアのリンゴ》。

「くっ……こちらもカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 二体のドラゴンからの猛攻を何とか凌ぎつつ、俺はそれらを排除せんと新たなカードに手をかける。

「俺はチューナーモンスター、《音響戦士ドラムス》を召喚する」

「音響戦士……だと」

 今まで俺のデッキに入っていなかった、新たなウォリアー――機械族の戦士に対して、吹雪さんは少し眉をひそめる。機械戦士たちが、あくまで元の形を維持したまま、進化した証のモンスターであるが……今はまだ、その力を見せる時ではないらしい。

「レベル5の《バックアップ・ウォリアー》に、レベル2の《音響戦士ドラムス》をチューニング!」

 《バックアップ・ウォリアー》はシンクロ召喚に関するデメリット効果を持ってはいるが、あくまでその効果は《バックアップ・ウォリアー》を特殊召喚したターン時のみ。一ターン経過した今なら問題はなく、二体のモンスターは星になっていく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 黄色の装甲を装備した機械竜が、雄叫びを上げながらシンクロ召喚される。同じドラゴンだからか、吹雪さんのフィールドにそびえる二体のドラゴンを威嚇しながら、対抗するように飛翔する。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

 デッキから飛び出した三枚のカードを受け取ると、吹雪さんに選ばせるために裏側表示のカードが見せられ、その中の一枚が俺の手札に加わることとなる。選んだ装備魔法は《ダブルツールD&C》、《魔導士の力》、そして――

「……右のカードだ」

「選ばれた装備魔法、《団結の力》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、バトルフェイズ!」

 自分フィールドのモンスターの数×800ポイント、装備モンスターの攻撃力をアップさせる装備魔法《団結の力》が選ばれる。俺のフィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》が一体のみだが、それでも攻撃力は3000を超える。……どの装備魔法を選んでいようと、その結果自体は変わらなかったが。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で、《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「レッドアイズ……!」

吹雪LP3100→2800

 ダークネスの力を使った切り札とは思えぬほどに、あっさりと《パワー・ツール・ドラゴン》の一撃のもとに沈む。特殊召喚効果は確かに厄介ではあったが、その単純なステータス自体はあまり脅威的ではなかったらしい。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには《団結の力》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》に、リバースカードが二枚でライフポイントはちょうど1000ポイント。対する吹雪さんのフィールドは、オーバーレイ・ユニットがない《No.46 神影龍ドラッグルーオン》、リバースカードが一枚、ライフポイントは2800。

 こちらのライフポイントが低い以外は、どちらもエースモンスターを展開して、状況は互角……というところか。しかしてあのナンバーズが、このまま何もしないとは思えない。

「私は《オーバーレイ・リジェネート》を発動! このカードは発動後、エクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットとなる!」

 エクシーズモンスターはオーバーレイ・ユニットがなくては、その真の効果を発揮することは出来ない。わざわざ補充する専用の魔法カードがあることから、その仮説自体は合っていたようだが、ドラッグルーオンのユニットが回復されてしまう。

「ドラッグルーオンの効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、手札からドラゴン族モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《魂食神龍 ドレイン・ドラゴン》!」

「なっ……!」

 先に《真紅眼の黒竜》を特殊召喚した時のように、ドラッグルーオンはオーバーレイ・ユニット一つを代償にしながら、その雄叫びで新たなドラゴンを呼ぶ。そして特殊召喚されたドラゴンの攻撃力は――4000。何の効果も発動した様子もなく、ただ基本的なステータスは4000なのだ。

「ドレイン・ドラゴンはエクシーズモンスターの効果でのみ、特殊召喚できる。バトルだ、ドレイン・ドラゴンで《パワー・ツール・ドラゴン》に攻撃!」

 《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン》を破壊したことで、ドラッグルーオンの効果の発動条件を満たし、圧倒的ステータスを持つが運用に難があるドレイン・ドラゴンを特殊召喚する。ずいぶんあっけなく破壊された、などと思ったレッドアイズの破壊は、ただ吹雪さんに誘われていただけだった。

 レッドアイズすら囮にした、吹雪さんの必殺の策。その事実に気づいた直後に、ドレイン・ドラゴンの爪が《パワー・ツール・ドラゴン》を襲った。

「……ッ!」

遊矢LP1000→100

 まさに首の皮一枚繋がった。そして《パワー・ツール・ドラゴン》には、装備魔法を身代わりに破壊を免れる効果がある――が、《団結の力》を身代わりにしてしまえば、《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力はドラッグルーオンのものを下回る。そうなってしまえば、ドラッグルーオンの追撃で俺のライフポイントは尽きる。だが、効果を発動しないというのはもってのほかで。

 そんな詰みだと突きつけられたような状態で、俺が選んだ選択は――何もしないこと。何故なら、《パワー・ツール・ドラゴン》は、傷一つついてはいないのだから。

「あれは!」

 吹雪さんがその状況に気づく。そう、ドレイン・ドラゴンと《パワー・ツール・ドラゴン》の間に現れ、その攻撃を一身に受けていた盾の機械戦士の雄志を。

「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外することで、戦闘による破壊を無効に出来る!」

 《アームズ・ホール》によって墓地に送られていた、墓地から仲間を守る盾の機械戦士の効果を宣言すると、除外されてフィールドから消えていく。その働きにより《パワー・ツール・ドラゴン》は無傷と、《団結の力》は健在かつ破壊もされることはない。

「……メイン2。ドラッグルーオンを守備表示にし、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! まずは《パワー・ツール・ドラゴン》の効果発動、パワー・サーチ!」

 攻撃力が《パワー・ツール・ドラゴン》に勝てないと、守備表示となるドラッグルーオンを前に――それでも守備力3000を誇っているが――《パワー・ツール・ドラゴン》は、再びその効果を発動する。

「俺は《パワー・ツール・ドラゴン》に、装備魔法《ブレイク・ドロー》を装備し、バトルフェイズ!」

 その効果によって手札に加えられた装備魔法を、パワー・ツール・ドラゴン自身に装備しながらも、俺はバトルフェイズへと移行する。だが、ただ攻撃する訳ではなく――そもそも今のままではドレイン・ドラゴンには適わない――伏せていた二枚のリバースカードのうち、一枚をこのタイミングで発動する。

「さらにリバースカード《奇跡の軌跡》を発動! 相手にカードを一枚ドローさせ、戦闘ダメージを与えられない代わりに、モンスターに二回攻撃と1000ポイントの攻撃力を付与する!」

「ドレイン・ドラゴンの攻撃力を越えたか!」

 吹雪さんの言った通りに、《奇跡の軌跡》は《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力を1000ポイントアップさせ、またも僅か100ポイントだがドレイン・ドラゴンの攻撃力を超える。さらに二回攻撃も付与されたため、守備表示のドラッグルーオンも逃さない。

「バトルだ、パワー・ツール! ドレイン・ドラゴンに攻撃、クラフティ・ブレイク!」

 ただしその効果の代償として、《奇跡の軌跡》を発動しては戦闘ダメージを与えられない。……だが、ダメージを与える方法ならば存在する。

「速攻魔法《旗鼓堂々》を発動! 墓地から装備魔法を選び、モンスターに装備できる! 俺はドレイン・ドラゴンに、墓地から《ニトロユニット》を装備!」

「《ニトロユニット》だと!?」

 突如としてドレイン・ドラゴンにの胸元に、ニトロが満載された爆薬が装備される。その効果は、装備モンスターが破壊された時、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える――というもの。ドレイン・ドラゴンの攻撃力は4000、その高い攻撃力は存分に利用されることとなった。

「いつのまに《ニトロユニット》を……《アームズ・ホール》で落としたカードは、《シールド・ウォリアー》だった……」

「シルクハットの中に隠しておいたんだ」

 その一言で吹雪さんは《ニトロユニット》の出所に気づく。確かに《手札断殺》や《アームズ・ホール》で墓地に送ったカードは使いきり、もはや吹雪さんにとって俺の墓地に未知のカードはない筈だった。

 しかしデッキから魔法・罠カードを二枚、間接的にだが墓地に送れる《マジカルシルクハット》ならば。破壊された際に一枚ドローする《フライアのリンゴ》とともに、《ニトロユニット》は破壊され墓地に送られていた。

 それを墓地の装備魔法を装備させる速攻魔法《旗鼓堂々》が回収し、今……《ニトロユニット》は、《パワー・ツール・ドラゴン》によって起爆された。

「《ニトロユニット》の効果発動! 破壊されたドレイン・ドラゴンの攻撃力分のダメージを与える!」

「――墓地から《ダメージ・ダイエット》の効果を発動! 効果ダメージを半分にする……!」

 過去最大級の《ニトロユニット》の爆発がフィールドを覆い尽くす前に、吹雪さんの周囲に半透明のバリアが張られていく。墓地から発動された《ダメージ・ダイエット》は、効果ダメージを半分にする効力がある。

「……うぐっ!」

吹雪LP2800→800

 それでもダメージは甚大であり、遂に吹雪さんのライフもギリギリにまで追い込まれ――そのダークネスの力を司る仮面に、ピシリとヒビが入った。壊れることはなかったものの、一目で修復不能と分かるほどのヒビだった。

「さらに装備魔法《ブレイク・ドロー》の効果。装備モンスターが相手モンスターを破壊した時、カードを一枚ドローする。さらに二回目の攻撃、クラフティ・ブレイク!」

 さらに《奇跡の軌跡》の効果によって、《パワー・ツール・ドラゴン》は二回目の攻撃を可能とする。《ナンバーズ・ウォール》もなく、守備表示となったドラッグルーオンは、攻撃力を上げた《パワー・ツール・ドラゴン》の前に再び破壊された。

「そして《ブレイク・ドロー》の効果により、さらに一枚ドロー……ターンエンド」

「……期待通りだね、遊矢くん」

 《奇跡の軌跡》の二回攻撃と《ブレイク・ドロー》により、出来るだけ手札を補充していると、今までダークネスの時のような口調だった吹雪さんが少し優しい声色に戻る。

「吹雪さん……」

「たまには僕も亮みたく、年長らしくしないとね……さあ最後だ。止めてみせろ! 僕のターン、ドロー!」

 吹雪さんのおかげで俺はこの世界に帰りたいと、守りたいと再認識することが出来た。【機械戦士】たちと再び心を通わせることが出来た。そんな吹雪さんが最後の攻撃だと宣言し、カードをドローする。

「僕はリバースカード《闇次元の解放》を発動! 除外されている闇属性モンスターを特殊召喚する! 来い、《真紅眼の黒竜》!」

 デュエル序盤で魔法カード《七星の宝刀》のコストとなり、除外されていた吹雪さんのエースカードが、《闇次元の解放》により再びフィールドに舞い戻る。今まで様々なドラゴンが特殊召喚されてきたが、やはりその竜が最も力強く。

「さらに魔法カード《黒炎弾》を発動! 《真紅眼の黒竜》の攻撃力分のダメージを与える!」

「それは通さない! カウンター罠《ダメージ・ポラリライザー》!」

 吹雪さんが誇る最強のバーンカードたる《黒炎弾》。それに対抗するため、ずっと伏せられたままだったリバースカードがようやく開かれ、《黒炎弾》が発射される前に食い止める。

「効果ダメージを無効化し、お互いにカードを一枚ドローする」

「何かと思えば、亮のカードじゃないか。懐かしいな……」
 感傷に浸るのは少しの間だけ。以前トレードした亮のカードをしばし懐かしむと、吹雪さんはさらなるモンスターを呼び出した。

「なら《真紅眼の黒竜》をリリースし、《真紅眼の闇竜》を特殊召喚する!」

 真紅眼にダークネスの力が注ぎ込まれていき、本来ありえない強化形態へと進化を果たしていく。ステータスは一見変わらないように見えるが、その効果は攻撃的な効果へと進化していた。

「《真紅眼の闇竜》は墓地のドラゴン族×300ポイント攻撃力をアップさせる。よって、攻撃力は5500!」

 吹雪さんの墓地に送られたドラゴン族は7体。よって攻撃力は2100ポイントアップし、遂にその攻撃力にまで達する。《パワー・ツール・ドラゴン》と言えども、その一撃をくらえばひとたまりもない。

「だからまだ最後じゃない……俺は《エフェクト・ヴェーラーの効果を発動!」

 そんな闇に墜ちた怒れる竜に対して、エフェクト・ヴェーラーは優しく包み込む。手札から捨てることで、相手の効果を一時的にだけ無効化するそのカードにより、《真紅眼の闇竜》は元々の攻撃力へと戻っていく。

「カードを一枚伏せてターンを終了しよう。この瞬間《エフェクト・ヴェーラー》の効果は切れ、《真紅眼の闇竜》の攻撃力は上昇する!」
「俺のターン……ドロー! 《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動する!」

 《エフェクト・ヴェーラー》のおかげで助けられたが、それもあくまで時間稼ぎにしか過ぎない。再び《真紅眼の闇竜》の攻撃力は上昇し、状況の打開を賭けて《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動する。

「真ん中のカードにしようか」

「真ん中のカードは……《魔界の足枷》! 俺は《真紅眼の闇竜》にこのカードを装備する!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の効果は当たりを引き――吹雪さんが選んだのだからハズレか――装備モンスターの攻撃力を、強制的に100ポイントに固定してしまう装備魔法、《魔界の足枷》が《真紅眼の闇竜》に発動される。

「リバースカード、オープン! 《魔法反射装甲・メタルプラス》!」

 吹雪さんのフィールドに伏せられた最後のリバースカード、《魔法反射装甲・メタルプラス》を発動すると、《真紅眼の闇竜》は銀色の装甲に包まれる。まるで先の《レッドアイズ・ダークネス・メタルドラコン》のようなソレに、装備しようとした《魔界の足枷》は無効化されてしまう。

「確か前は、その装備魔法にやられたんだったね……《魔法反射装甲・メタルプラス》は、発動後装備カードとなり、装備モンスターへの魔法効果を無効にし、ついでに攻撃力を300ポイントアップだ」

 言われてみれば前回のデュエルでも、高攻撃力を保っていた《真紅眼の闇竜》を《パワー・ツール・ドラゴン》の効果でサーチした、《魔界の足枷》を使った一撃がフィニッシュだったか。特に意識したつもりではなかったが、以前通じた手はもはや通じることはなく。

 《魔界の足枷》……いや、《魔界の足枷》だけでなく、《真紅眼の闇竜》を対象とする魔法カードが無効にされた今、《真紅眼の闇竜》をどうすることも出来ない。幸いなことに《パワー・ツール・ドラゴン》はその効果で破壊耐性がある、守備表示にして耐えるしかこのターンはないか……

「ライフ・ストリーム・ドラゴン……?」

 ……そう思った時、エクストラデッキから呼ばれた気がした。《パワー・ツール・ドラゴン》の中で解放を待つ竜、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の声が。

「よし……頼む! 装備魔法《リビング・フォッシル》を発動! 墓地から《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚する!」

 墓地のモンスターの効果を無効化し、さらに攻撃力を1000ポイント下げることで特殊召喚する、装備魔法《リビング・フォッシル》。さらに装備されたこのカードが破壊された時、装備モンスターも破壊されてしまうが、それらのデメリットには何の意味もない。

「さらにレベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》を、レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》にチューニング!」

 装備魔法で強化された《パワー・ツール・ドラゴン》の装甲を、《エフェクト・ヴェーラー》はクルクルと回って解き放っていく。炎を伴って飛翔するドラゴンには、もはや余計な機械など装着されていなかった。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》が《エフェクト・ヴェーラー》の力を借りて、その真の力を取り戻す。さらに飛翔したそこから、俺に対してエネルギーを与えていく。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚された時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

 たった100ポイントだった俺のライフポイントが、一瞬にして初期ライフへと復帰する。ただしその効果は、このデュエルでは対して意味を成すものではない。何故なら……このターンで終わらせるからだ。

「さらに――《スピード・ウォリアー》を召喚!」

 そしてやはり呼び出されるのは、吹雪さんの《真紅眼の黒竜》がそうであったかのように、俺にとってこの局面で現れるべきモンスター。マイフェイバリットカードたる《スピード・ウォリアー》が、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》とともに並び立つ。

 ――そして、一枚の魔法カードを手に取った。

「これが、機械戦士たちの決意の証! 魔法カード《ヘルモスの爪》を発動!」

「来るか……」

 新たに【機械戦士】たちに加えられた魔法カードが発動し、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が光に包まれる。装備魔法で強化されていた《パワー・ツール・ドラゴン》を素材にしてまで、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》をシンクロ召喚したのはこれが理由。《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の声に従って、俺は《ヘルモスの爪》の効果を起動する。


「《ヘルモスの爪》は発動後、モンスターと融合し、新たな装備カードとして生まれ変わる!」

「融合?」

 吹雪さんの疑問の声とともに、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が《ヘルモスの爪》と融合していき、その身体を変形させていく。雄々しくも美しい羽を持ったドラゴンから、鋭い刀身を輝かせる一振りの剣へと。

「融合召喚! 《真紅眼の黒竜剣》!」
 対戦相手が吹雪さんだったからか――融合召喚された装備カードは、黒炎を纏った紫色の刃。フィールドに残っていた《スピード・ウォリアー》が、宙に浮かんでいたその剣を手に取った。

「《真紅眼の黒竜剣》は融合召喚された後、他のモンスターの装備カードとなり、攻撃力を1000ポイントアップさせる。さらに、お互いのフィールドと墓地のドラゴン族×500ポイント、攻撃力をアップさせる!」

 その効果は偶然にも《真紅眼の闇竜》の効果と似通ったものであり、吹雪さんの墓地に溜まったドラゴン族の力を借り、さらに《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《真紅眼の闇竜》の分も加算される。その上昇量は《魔法反射装甲・メタルプラス》と自身の効果を加えた、《真紅眼の闇竜》の攻撃力を真正面から超える。

「バトル! 《スピード・ウォリアー》は攻撃時、元々の攻撃力は倍になる! よってその攻撃力は……7300!」

「美しい剣だね……さあ来い、遊矢くん!」

 吹雪さんのライフポイントを削りきるほどの攻撃力となった《スピード・ウォリアー》が、剣を持って《真紅眼の闇竜》へと疾走する。その脚力を持って飛翔するように跳躍すると、真正面から《真紅眼の闇竜》の炎を切り裂きながら剣を振りかぶる。

「《スピード・ウォリアー》で、《真紅眼の闇竜》に攻撃! 真紅剣一閃!」

 振り上げた剣か《真紅眼の闇竜》を一閃に切り裂き、吹雪さんへとトドメを刺す。炎を撒き散らしながら破壊されていく《真紅眼の闇竜》を見ながら、吹雪さんもその閃光に包まれていった。

吹雪LP800→0

「吹雪さん!」

 倒れた吹雪さんに走り寄ると、再びダークネスの仮面がカードとなって封印されていき、元の吹雪さんの顔が露わになる。

「ああ、すまないね……でも、もう一仕事頼みたいんだ」

「え?」

 その吹雪さんの言葉が発せられた瞬間、落ちた《ダークネス》のカードが闇に包まれていく。すぐさまそこから吹雪さんを連れて離れていくと、独白は続いていく。

「僕たちの今のデュエルを介して、あちらの世界と繋がってしまった……ミスターTが来る……」

 ――奴らの名は、ダークネス。

 
 

 
後書き
何? デッキとは書き換えるものではないのか?
 

 

―戦士転生―

 吹雪さんが取り落とした《ダークネス》のカードから、先日十代が倒した筈の人物と、瓜二つの人物が出現する。自分は常識には囚われない――などとうそぶいていたが、あながち冗談でもないらしい。

「……やあ、久しいね遊矢くん。まだ君を消していなかった」

 ゆっくりと語る口調だけは友好的だったが、ミスターTと名乗る人物は明確にこちらへと敵意を向けていた。その腕からデュエルディスクに似たものを生やし、それをこちらへと向ける。

「吹雪さんは下がっててください」

「すまない……そうさせてもらうよ……」

 先のデュエルで《ダークネス》の力を使ったため、疲労を隠せない吹雪さんを庇うように前に立つと、俺も対抗するようにデュエルディスクを展開する。

「おや、その力は……やはり君はいてはならないらしい」

 新生した【機械戦士】デッキを興味深く眺めながら、ミスターTはそんなことを小さく呟いた。消えてもらう、と言われようがあっさり消える道理はこちらにはなく。敵の正体を知った吹雪さんとともに、なんとしてもアカデミアに戻らなくては。

『デュエル!』

遊矢LP4000
ミスターTLP4000


「俺の先攻」

 デュエルディスクが先に導きだしたのはこちら。五枚の手札を見渡すと、まずは一枚のモンスターを手に取った。

「俺は……モンスターをセットし、ターンエンド」

「私のターン、ドロー」

 生まれ変わった【機械戦士】。その力を試すべく、あえてモンスターをセットしたのみでターンを終了する。

「私は《アンブラル・グール》を召喚」

 恐らくミスターTのデッキは、メインデッキの違いこそあれ、エクストラデッキに存在するかの《No.》を主軸としたデッキ。先鋒として、影で身体を形成している巨人が召喚されるが、No.の正体が分からない以上デッキの正体も不明だ。

「私は《アンブラル・グール》の効果を発動。このモンスターの攻撃力を0にすることで、手札の攻撃力0のアンブラルモンスターを特殊召喚する。《アンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプ》を特殊召喚」

 やはりその効果はモンスターの展開をメインにした効果であり、新たなアンブラルモンスターが特殊召喚される。早くもエクシーズ召喚かと思われたが、新たに召喚された《アンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプ》のレベルは1。《アンブラル・グール》とレベルが合わない。

「《アンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプ》の効果。特殊召喚時、他のアンブラルモンスターと同じレベルとなる」

 ……どうやらその心配は無縁だったらしく、二体のアンブラルモンスターのレベルは4に統一される。影のような暗い色であるにもかかわらず、青白く光るという矛盾した性質を持った《アンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプ》が、そのレベルと合わせて4つに分裂する。

「レベル4の《アンブラル・グール》と《アンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプ》でオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 二体のモンスターが重なっていく。召喚方法はこちらの世界でも使えるようになったとはいえ、ミスターTの陣営が使うエクシーズモンスターは特別製だ。それを示すように黒い影がフィールドに重なっていく……

「蜃気楼の如き罪を守りし、法の鍵となりし番人。今、堕落せしその姿を見せよ! エクシーズ召喚! 《No.66 覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル》!」

 フィールドに広がっていく影から現出するのは、鎧で武装された昆虫――その中でも取り分け、カブトムシのような形状をしていた。

「バトル。マスター・キー・ビートルでセットモンスターに攻撃。キー・ブラスト!」

「セットモンスターは《音響戦士サイザス》! このモンスターがリバースした時、デッキから音響戦士を手札に加える。俺は《音響戦士ピアーノ》をサーチ」

 セットモンスターは新たなウォリアーである、音響戦士と呼ばれるシリーズカードたち。サイザスの効果は新たな仲間のサーチ効果であり、マスター・キー・ビートルに破壊されてしまうものの、その効果は無事に発動する。

「メイン2。私はカードを一枚伏せ、マスター・キー・ビートルの効果を発動。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、フィールドのカードを選択。選択されたカードはキー・ビートルが健在な限り破壊されない。ターン終了」

「俺のターン、ドロー!」

 メインフェイズ2にて発動されたキー・ビートルの効果は、他のカードに自身が健在な限り破壊耐性を付与するカード。ならばあのカードはミスターTのデッキの中核を成す永続罠であり、キー・ビートルには何らかの自身の破壊を防ぐ効果がある、と推測する。

 そして相手のデッキの推測もそこそこに、先のターンにサーチされた音響戦士の効果を発動する。

「俺は《音響戦士ギータス》を、ペンデュラムスケールにセッティング!」

「ペンデュラム……だと?」

 俺が発動したそのカードの特性に、初めてミスターTに疑問のような感情が浮かぶ。このカードはミスターTたちの力ではなく、俺と明日香が飛ばされてしまった異世界において、侵略者たちが使っていた――そして俺がエクゾディアによって手に入れた力。

 あの時使っていた《イグナイト》とはまた違うカードだが、機械戦士として生まれ変わった以上使いこなしてみせる……!

「俺は《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を発動! 手札を一枚捨てることで、音響戦士をデッキから特殊召喚する! 現れろ、《音響戦士ベーシス》!」

 二対のモンスターが揃わなくてはペンデュラム召喚は行えないが、ペンデュラム効果は永続魔法の感覚で使用可能。《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果にて、手札一枚をコストにデッキから新たな音響戦士が特殊召喚される。

「さらに《ドドドウォリアー》を妥協召喚し、二体のモンスターでチューニング!」

 攻撃力を下げることで妥協召喚が可能な《ドドドウォリアー》に、デッキから特殊召喚したチューナーである《音響戦士ベーシス》。その二体がフィールドに揃い、ミスターTのエクシーズ召喚に対抗するようにチューニングが開始される。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 合計レベルは7。よってシンクロ召喚されるは、もちろんこのラッキーカード。黄色の装甲を装備した機械竜が、雄叫びを上げながらシンクロ召喚され、その雄叫びは効果の発動に繋がっていく。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「左のカードにしておこう」

 デッキから飛び出した三つのカードのうち、一つだけが俺の手札へと加えられ、残りのカードはデッキにてその出番を待つ。そして加えられた一枚は、すぐさま《パワー・ツール・ドラゴン》へと装備される。

「俺は《パワー・ツール・ドラゴン》に《ダブルツールD&C》を装備し、バトルフェイズ!」

 攻撃力を1000ポイントアップさせ、さらに攻撃した相手モンスターの効果すら無効化する、実質的に専用装備魔法である《ダブルツールD&C》。この装備魔法ならば、マスター・キー・ビートルに隠された効果があろうとも。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で、マスター・キー・ビートルに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「リバースカード、オープン! 《安全地帯》!」

ミスターTLP4000→3200

 《パワー・ツール・ドラゴン》のドリルの一撃は、狙い通りにマスター・キー・ビートルに直撃はしたものの、ライフを少し削っただけに終わる。戦闘前に発動されたリバースカード、《安全地帯》は自分の攻撃表示モンスター一体を、あらゆる破壊から守る永続罠。

 そしてマスター・キー・ビートルの効果は、マスター・キー・ビートルが健在な限り、選択したカードの効果破壊を無効にする効果。よって《安全地帯》を破壊しようとすれば、マスター・キー・ビートルの効果で無効化され、マスター・キー・ビートルを破壊しようとすれば《安全地帯》が――と両者の効果は完結している。

「……メイン2。カードを二枚伏せて、ターンエンド」

「私のターン、ドロー」

 しかしそれは、ある意味予想出来ていたことだった。予想外だったのはミスターTが伏せていたカードが、あの《ナンバーズ・ウォール》ではなく《安全地帯》だったこと。まさか――

「私は魔法カード《ダーク・バースト》を発動。墓地から攻撃力1500以下の闇属性モンスター、《アンブラル・グール》を手札に加える」

 《ナンバーズ・ウォール》への推測にひとまず当たりをつけ、ミスターTのターンを観察する。発動した魔法カードは、墓地から闇属性モンスターをサルベージする《ダーク・バースト》。その効果により、先のターンでエクシーズ素材を経由して墓地に置かれた、《アンブラル・グール》が再び手札に戻る。

「《アンブラル・グール》を召喚し、効果を発動。手札から《アンブラル・アンフォーム》を特殊召喚する」

 再びフィールドに揃う二体のアンブラルモンスター。それも《アンブラル・ウィル・オ・ザ・ウィスプ》のようにレベルを変更する手間もなく、最初からそのレベルは両者ともに4。

「さらに魔法カード《タンホイザーゲート》を発動。攻撃力1000以下かつ同じ種族のモンスター二体を、それぞれ合計したレベルとする」

 しかしてエクシーズ召喚に使うでもなく、発動されたのは魔法カード《タンホイザーゲート》。《アンブラル・グール》の効果で攻撃力が0になったために発動条件を満たし、二体のモンスターを合計したレベル――つまり二体のアンブラルモンスターは、レベル8となってフィールドに存在する。

「私はレベル8となった二体のアンブラルモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 吹雪さんが先程使用した《No.46 神影龍ドラッグルーオン》がそうであったように、恐らくランク8はレベル8シンクロと同様、切り札クラスの実力を持っている。アンブラルモンスター二体が重なり、二体目のナンバーズが権限する――

「生と死の狭間を彷徨いし魂よ。暗黒に澱みし恨みをこの地で晴らせ。現れろ、ランク8! 《No.23 冥界の霊騎士ランスロット》!」

 銀色の鎧を着込んだ清廉なる騎士。エクシーズ召喚されたそのモンスターの第一印象は、まさしく騎士といったような感じだったが……その瞳が見開かれた瞬間、その印象は間違いだったと悟る。

 どこまでも暗い闇のような、底の見えない漆黒の瞳が俺を見据えながら、銀色の刃をこちらに向けた。

「バトル。エクシーズ素材を持ったランスロットは、相手プレイヤーにダイレクトアタック出来る」

「くっ……リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》! 相手の攻撃を無効にする!」

 ミスターTの邪悪な笑みによって、ランク8にしては低すぎる2000という攻撃力の意味を悟る。切り札クラスとしては不充分なその攻撃力だが、ダイレクトアタッカーとしては規格外にも過ぎる。《パワー・ツール・ドラゴン》を無視して突き進むランスロットの進路を、伏せてあった《くず鉄のかかし》が妨害する――

「なっ!?」

 ――ことは出来なかった。ランスロットの剣の一閃に、《くず鉄のかかし》はあっという間に切り裂かれてしまう。

「ランスロット以外のカードの効果が発動した時、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、その効果を無効にする」

「ぐあっ!」

遊矢LP4000→2000

 ミスターTの効果の説明の直後、白銀の一刺しが俺の胸を貫いた。一瞬にしてこちらのライフは半分にまで落ち込み、さらに効果を無効にされた《くず鉄のかかし》は再利用出来ず、そのまま墓地に送られてしまう。

「さらにランスロット、最後の効果。このモンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時、フィールドのカード一枚を破壊する。私は《パワー・ツール・ドラゴン》を選択」

「……《パワー・ツール・ドラゴン》の効果発動、装備魔法を墓地に送ることで破壊を無効にする! イクイップ・アーマード!」

 直接攻撃効果と、それを防ぐ相手のカードを無効化する効果、さらに相手にダメージを与えればさらに追撃する効果――全てが密接に絡み合ったランスロットにより、俺は《パワー・ツール・ドラゴン》まで破壊されそうになるものの、何とか自身の効果でそれを防ぐ。……だが、ミスターTのフィールドにはまだ、マスター・キー・ビートルがいる。

「続いてマスター・キー・ビートルでパワー・ツール・ドラゴンに攻撃。キー・ブラスト!」

「パワー・ツール……!」

遊矢LP2000→1800

 《くず鉄のかかし》と《ダブルツールD&C》という二段構えの防御を破られ、《パワー・ツール・ドラゴン》はマスター・キー・ビートルの前に沈む。

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 ミスターTのナンバーズ二体の攻勢により、防御の布陣を整えていた俺のフィールドは、あっという間にペンデュラムスケールにセッティングされた《音響戦士ギータス》、そしてリバースカードが一枚となる。

 対するミスターTのフィールドは、永続罠《安全地帯》と自身の効果で完全に破壊されない要塞と化した、《No.66 覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル》。そしてオーバーレイ・ユニットを一つ持った、《No.23 冥界の霊騎士ランスロット》にリバースカードが一枚。そのカードの効果を無効化する効果に、俺の動きは大きく封じられる。

 ただし《No.23 冥界の霊騎士ランスロット》を破壊せねば、俺は次なるターンのダイレクトアタックで敗北する。直接攻撃効果を発動するために必要な、オーバーレイ・ユニットを無効化効果で使い切らせたとしても、あっけなく補充出来るのは先の吹雪さんとのデュエルで証明済みだ。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 ならば《音響戦士ギータス》なども含めて、効果を使わずにランスロットを破壊する必要がある。そのために呼び出されたモンスターは、機械戦士のアタッカーたる三つ叉の機械戦士《マックス・ウォリアー》。生まれ変わったデッキとはいえ、いつまでもこのデッキは【機械戦士】デッキだという健在を示すように、勇猛にフィールドに躍り出た。

「バトル! 《マックス・ウォリアー》でランスロットに攻撃! スイフト・ラッシュ!」

「ほう……?」

 アタッカーとはいえ《マックス・ウォリアー》の攻撃力は1800、僅かにランスロットには及ばない。しかしマックス・ウォリアーには、その僅かながらを補うための効果がある。

「《マックス・ウォリアー》は攻撃宣言時、攻撃力を400ポイントアップさせる!」

「だがランスロットはこのカード以外のカード効果が発動した時、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、その効果を無効にする」

 《マックス・ウォリアー》の三段突きが炸裂するが、それは効果を無効にするランスロットの剣に弾かれてしまい、その衝撃で無防備な胴体を晒す。そこを見逃すランスロットではなく、素早く剣を引くと、最低限の動きの突きでマックス・ウォリアーを貫いた。

「まだだ! 墓地から《スキル・サクセサー》の効果を発動!」

 ……いや、ランスロットの細い剣は、マックス・ウォリアーの槍を持っていない方の手で握られていた。そのままランスロットの剣を握り潰すと、三つ叉の槍をグルグルと回して威力を高める。

「墓地からこのカードを除外することで、モンスターの攻撃力を800ポイントアップさせる! スイフト・ラッシュ!」

 一瞬の攻防を制したのはマックス・ウォリアー。零距離からの三段突きが遂にランスロットを捉え、あっさりと機能を停止させる。《音響戦士ギータス》の効果で墓地に送っていた《スキル・サクセサー》の効果で、最終的なマックス・ウォリアーの攻撃力は2600。

「…………」

ミスターTLP3200→2600

「戦闘で相手モンスターを破壊した時、マックス・ウォリアーの攻撃力とレベルは半分になる」

 マックス・ウォリアーが爆炎の中から帰還するとともに、ミスターTにも微少ながらダメージが入るが、特に気にはしていないらしい。確かに破壊不可の《マスター・キー・ビートル》がいる限り、ミスターTの優勢は揺るがない。

「メイン2。《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を発動し、手札を一枚捨てることでデッキから音響戦士を特殊召喚する! 現れろ、《音響戦士ピアーノ》!」

 そしてメインフェイズ2、再び発動されるペンデュラム効果の前に、デッキから特殊召喚される新たな音響戦士。チューナーモンスターとして、役目を果たした《マックス・ウォリアー》に並び立った。

「レベル3の《音響戦士ピアーノ》と、レベル2となった《マックス・ウォリアー》でチューニング!」

 相手モンスターを戦闘破壊した《マックス・ウォリアー》は、ステータスだけではなくレベルも半分になる。その効果を利用したシンクロ召喚により、その合計レベルは5。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 現れろ! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

 よってシンクロ召喚されるは、戦闘破壊耐性を持った傷だらけの機械戦士、《スカー・ウォリアー》。攻撃力はマスター・キー・ビートルには及ばないが、その戦闘破壊耐性に賭けるしか今は方法はない。

「ターンエンド!」

「私のターン、ドロー」

 ランスロットは破壊したものの、まだ《安全地帯》によって守られたマスター・キー・ビートルがいる。攻撃力は上級モンスターの平均レベルだが、あらゆる方法でも破壊されないのは厄介この上ない。

「私は伏せてあった《罪鍵の法-シン・キー・ロウ》を発動。フィールドのエクシーズモンスターを選択し、そのモンスターと同じ攻撃力の《アンブラル・ミラージュ・トークン》を特殊召喚する」

「三体!?」

 伏せられていたミスターTの罠カードが発動されると、マスター・キー・ビートルを模したトークンがさらに三体、ミスターTのフィールドに特殊召喚される。先のターンでランスロットが破壊されていなければ、ミスターTのフィールドが埋まっていたと考えると、あまり想像したくない事態になっていたに違いない。

「《アンブラル・ミラージュ・トークン》は直接攻撃出来ず、選択したエクシーズモンスターがフィールドを離れた時、同じく破壊される。バトルだ。アンブラル・ミラージュ・トークンで、スカー・ウォリアーを攻撃」

「……スカー・ウォリアーは一度だけ、戦闘では破壊されない!」

遊矢LP1800→1400

 直接攻撃出来ないというデメリットはあるものの、その効果が適用されるのは、あくまで特殊召喚された《アンブラル・ミラージュ・トークン》のみ。本体であるマスター・キー・ビートルは、ただただ自らの出番を待ち続けている……!

「ならば、二体目の《アンブラル・ミラージュ・トークン》で攻撃だ」

「くっ……!」

遊矢LP1400→1000

 そして二体目の追撃を受け、さしもの《スカー・ウォリアー》も砕け散る。その衝撃に目を覆っていると、次の瞬間にはマスター・キー・ビートルが目の前に立ち尽くしていた。

「マスター・キー・ビートルでダイレクトアタック。キー・ブラスト!」

「……リバースカード、オープン! 《シンクロコール》!」

 マスター・キー・ビートルの直接攻撃の直前、発動したリバースカード《シンクロコール》に導かれ、二体のモンスターが半透明の姿で現れる。《音響戦士ベーシス》に《スカー・ウォリアー》、二体がマスター・キー・ビートルから俺を守るようにしながら、シンクロ召喚の態勢を整える。

「墓地のモンスター二体を除外し、シンクロ召喚を行う!」

 レベル1の《音響戦士ベーシス》、レベル5の《スカー・ウォリアー》。ただ《スカー・ウォリアー》は破壊された訳ではなく、新たな機械戦士を呼ぶための布石となる。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 そしてバトルフェイズ中にシンクロ召喚されるのは、重力を操る獣をかたどった機械戦士。俺とマスター・キー・ビートルの間に降り立つと、ミスターTのフィールドにいるモンスターたちを威嚇するかのように、鋼鉄のいななきを震わせる。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 皮肉にも大量に増殖した《アンブラル・ミラージュ・トークン》の力のおかげで、《グラヴィティ・ウォリアー》の効果は十全な力を発揮する。ミスターTのフィールドにいるモンスターは四体、よって攻撃力は1200ポイントアップし――3300ポイントとなる。

「……マスター・キー・ビートルの攻撃を中止。だが、そのモンスターは破壊させてもらう。アンブラル・ミラージュ・トークンで、グラヴィティ・ウォリアーに攻撃!」

 バトルフェイズ中にモンスターが特殊召喚されたため、ミスターTはマスター・キー・ビートルの攻撃を中断する。《グラヴィティ・ウォリアー》の攻撃力が上昇したため、その選択は当然だが……最後の《アンブラル・ミラージュ・トークン》は攻撃を宣言した。

「迎撃しろ、グラヴィティ・ウォリアー! グランド・クロス!」

ミスターTLP2600→1800

 不審げに思いながらも《グラヴィティ・ウォリアー》に迎撃を命じると、あっさりと《アンブラル・ミラージュ・トークン》は破壊され、ミスターTのライフポイントはさらに削られる。迎撃に成功はしたものの、拭いきれない不信感が形作られるように、ミスターTは更なるカードを発動した。

「速攻魔法《アンブラル・デス・ブラッド》を発動。アンブラルモンスターが破壊された時、破壊したモンスターを破壊する!」

 破壊した筈の《アンブラル・ミラージュ・トークン》が再生すると、《グラヴィティ・ウォリアー》を引きずり込みながら、影の中へと諸共に消えていく。この速攻魔法が狙いだったのか、と思いながら、破壊された《グラヴィティ・ウォリアー》のことを思う。

「ターンを終了しよう」

「俺のターン、ドロー!」

 攻め手にする腹積もりだった《グラヴィティ・ウォリアー》が破壊されてしまい、何とか耐えたものの未だミスターTのフィールドには攻撃力2500クラスのモンスターが三体。対するこちらのフィールドは、ペンデュラムスケールにセットされた《音響戦士ギータス》のみ。

「俺は《ミスティック・バイパー》を召喚!」

 逆転に賭ける一打。笛吹きの機械戦士を召喚すると、その効果を早速発動する。

「このモンスターをリリースすることでカードを一枚ドローする。それがレベル1モンスターだった場合、さらに一枚ドロー出来る。《ミスティック・バイパー》をリリース!」

 《ミスティック・バイパー》をリリースすることで、まずは一枚のカードをドロー。チューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》――レベル1モンスターのため、さらに一枚のカードをドロー。手札補充を果たして更なる魔法カードを発動する。

「通常魔法《狂った召喚歯車》を発動! 墓地から攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚し、さらにその同名モンスターを二体、デッキから特殊召喚する! 来い、《チューニング・サポーター》!」

 速攻魔法《地獄の暴走召喚》の相互互換、《狂った召喚歯車》が発動され、墓地の攻撃力1500以下のモンスター……《音響戦士ベーシス》の効果で墓地に送られていた、《チューニング・サポーター》がデッキからも含めて三体特殊召喚される。そのデメリット効果として、相手は同じレベル・種族のモンスターをデッキから特殊召喚出来る、という権利を得るが、メインデッキにエクシーズモンスターがない以上特殊召喚は不可能。

「そして《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果! 手札を一枚捨てることで、デッキから音響戦士を特殊召喚出来る! 《音響戦士ドラムス》!」

 さらにデッキから音響戦士が特殊召喚されるとともに、墓地に送ったカードが光り輝いていく。手札コストと言えども、ただ墓地に送るだけではなく。

「このカードが墓地に送られた時、特殊召喚される! 来い、《リジェネ・ウォリアー》!」

 新たな機械戦士の特殊召喚により、がら空きのフィールドから五体のモンスターが揃う。もちろん揃わせるだけではなく、さらに真価を発揮する。

「レベル2の《音響戦士ドラムス》に、レベル2とした《チューニング・サポーター》二体をチューニング!」

 《チューニング・サポーター》はシンクロ素材になった時、レベルを1か2に選択することが出来る。三体のうち二体のレベルを2に、それらがシンクロ召喚の為の歯車となっていく。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

 スタジアムを拳で砕きながら大地に降り立ち、マイティ・ウォリアーがシンクロ召喚される。その拳をマスター・キー・ビートルに向け、巨大な一撃を叩き込まんと威圧する。さらにシンクロ素材になった、二体の《チューニング・サポーター》の効果が発動する。

「《チューニング・サポーター》はシンクロ素材になった時、カードを一枚ドロー出来る。よって二枚ドロー!」

 二枚のドローを果たした後に盤面を見渡す。通常召喚権は失ってしまったものの、まだフィールドには《チューニング・サポーター》と《リジェネ・ウォリアー》。まだこちらの手番は終わらない。

「さらに墓地の《音響戦士サイザス》の効果発動! このカードを除外することで、除外された音響戦士を特殊召喚する! 現れろ、《音響戦士ベーシス》!」

 最初のターンでセットしていた《音響戦士サイザス》の、墓地における効果が発動する。その効果は除外された音響戦士の帰還。通常罠カード《シンクロコール》により除外されていた、《音響戦士ギータス》がフィールドに特殊召喚される。

「レベル1の《音響戦士ギータス》に、レベル4の《リジェネ・ウォリアー》、レベル2とした《チューニング・サポーター》でチューニング!」

 そして行われる更なるシンクロ召喚。残った三体のモンスターが、新たな機械戦士を呼ぶ呼び水となる。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 アンブラルたちが巻き起こした影を光で切り裂きながら、セブン・ソード・ウォリアーがシンクロ召喚される。金色の鎧を輝かせながら、マイティ・ウォリアーとともにフィールドに並び立つ。展開しきったモンスターは二体のシンクロモンスターとなり、マスター・キー・ビートルたちに相対する。

「それでどうする気かね? 見たところ、どちらもマスター・キー・ビートルには適わないようだが」

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になった時、一枚ドロー。ああ、だからまだだ! 魔法カード《ヘルモスの爪》を発動!」

 マスター・キー・ビートルに対抗する為に発動されるのは、新たな装備魔法を生み出す魔法カード《ヘルモスの爪》。魔法カードとモンスターの融合という他に類を見ないソレは、手札の《エフェクト・ヴェーラー》をコストにしていく。時空の穴に巻き込まれたそれらは、装飾過多なハンマーとなって帰ってきた。

「融合召喚! 《タイム・マジック・ハンマー》!」

 翼が生えた金色の槌。それはまるで昔話から伝わる打出の小槌のようで、装備魔法の名手たる《セブン・ソード・ウォリアー》に装備される。剣の代わりだろうと《セブン・ソード・ウォリアー》には何の問題もなく、さらに自身の効果を適用する。

「《セブン・ソード・ウォリアー》にカードが装備された時、相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

ミスターTLP1800→1000

 装備魔法カードを装備した時のバーン効果。ライフポイントだけを見れば、こちらとミスターTは互角のポイントとなる。もちろん三体のマスター・キー・ビートルがいるあちらがまだ有利だが、それもこの《タイム・マジック・ハンマー》によって覆す。

「バトル! セブン・ソード・ウォリアーで、マスター・キー・ビートルに攻撃! タイム・マジック・ハンマー!」

「迎撃しろ、マスター・キー・ビートル。キー・ブラスト!」

 《タイム・マジック・ハンマー》には攻撃力を上げる効果はなく、セブン・ソード・ウォリアーの攻撃力はマスター・キー・ビートルより低い。しかしあらゆる手段で破壊出来ないマスター・キー・ビートルには、単純な攻撃力は必要ないとばかりに、セブン・ソード・ウォリアーは、近くの床に対してハンマーを振り下ろす。

「《タイム・マジック・ハンマー》を装備したモンスターが戦闘する時、相手モンスターをダイスの振られたターン数除外する!」

「除外……!」

 あらゆる破壊を無効にするマスター・キー・ビートルも、除外を相手にすれば無力でしかない。《タイム・マジック・ハンマー》が指し示した時刻は『3』――よって三ターン、マスター・キー・ビートルはこのフィールドから離脱する。

 そしてそれと同時に、《罪鍵の法-シン・キー・ロウ》で出現していた《アンブラル・ミラージュ・トークン》二体も影となって消えていく。姿を似せていた《No.66 覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル》がいなくなった今、《アンブラル・ミラージュ・トークン》はその姿を保つことが出来ず、ただ破壊されるのみ。

 よって残るのは、《タイム・マジック・ハンマー》を振り下ろした《セブン・ソード・ウォリアー》と――まだ行動を起こしていない《マイティ・ウォリアー》。セブン・ソード・ウォリアーの背中を乗り越えるように飛び立ち、ミスターTへと肉迫する。

「マイティ・ウォリアーでダイレクトアタック! マイティ・ナックル!」

 ミスターTに振り下ろされる強靱な腕。二体のナンバーズを攻略した上での一撃が、遂に叩き込まれる――瞬間に、ミスターTとマイティ・ウォリアーの間に、一体の壁のようなものが出現していた。

「私は手札から《バトルフェーダー》の効果を発動。ダイレクトアタックを無効にし、相手のバトルフェイズを終了させる」

 手札から誘発される《バトルフェーダー》の効果により、マイティ・ウォリアーの一撃は惜しくも止められてしまう。そして展開しきった俺には、もうこれ以上ミスターTへ追撃する手段はなく。

「……ターンエンドだ」

 俺のフィールドには《マイティ・ウォリアー》に、《タイム・マジック・ハンマー》を装備した《セブン・ソード・ウォリアー》、ライフポイントは残り1000。対するミスターTのフィールドには何もなく、ライフポイントは同じく1000。

「私のターン、ドロー」

 戦線を支えていたマスター・キー・ビートルが除外された為だが、ミスターTはそれでも無表情を崩さない。それもまた計算ずくのような――人間でない、得体の知れないものを相手取っているのだと、今更ながらに実感する。

 逆を言えば、ミスターTを驚愕させた時がこちらの勝利の時。

「私は通常魔法《悪夢再び》を発動。墓地から守備力0の闇属性モンスターを二体、手札に加える」

 ミスターTの手札に加えられたのは、恐らくはアンブラルモンスターが二体。攻撃力と守備力が0という特性を持ったアンブラルは、魔法のサポートによりその特性を最大限に活かしていた。

「そして《アンブラル・グール》を召喚。その効果により、《アンブラル・アンフォーム》を特殊召喚する」

 恐らくは先の、《悪夢再び》で手札に加えられたモンスター二体。《アンブラル・グール》の自身の攻撃力を0にすることで、手札のアンブラルモンスターを特殊召喚する効果をもって、即座に二体のアンブラルモンスターがフィールドに揃う。

 手札消費は実質ないも同然で、またもや新たなナンバーズを呼び出すか――と思いきや、ミスターTは新たな魔法カードを発動する。

「さらに《波動共鳴》を発動。モンスターのレベルを4にすることが出来る。よって《バトルフェーダー》のレベルを4に」

 フィールドのモンスター一体のレベルを4にする、という効果を持つ魔法カード《波動共鳴》。先の俺のターンで《マイティ・ウォリアー》の攻撃を防ぐために使用され、フィールドに残ったままだった《バトルフェーダー》が対象に選択されると、そのレベルが4となり――フィールドに三体のレベル4モンスターが揃う。

「三体のレベル4モンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 更なるエクシーズ召喚はレベル4モンスターが三体。それ自体は十代とのデュエルでも見せていたため、特に驚きはないものの――わざわざ三体のモンスターを使うなら、召喚されるエクシーズモンスターは、この局面を打開する力を持っているに違いない。

「疾く雷光を轟かせ、電光で世界を灼け。エクシーズ召喚! 《No.91 サンダー・スパーク・ドラゴン》!」

 今までミスターTが使っていたナンバーズとは違い、発生している影を雷光で切り裂くが如く、東洋風の飛竜がエクシーズ召喚される。その口上は伊達ではなく、雷が目前に飛来したかのような衝撃がフィールドを震撼させる。

「私はサンダー・スパーク・ドラゴンの効果を発動。オーバーレイ・ユニットを三つ取り除くことで、相手モンスターを全て破壊する」

「なに!?」

 轟く雷光と戦士達の苦痛の声。俺がその効果に驚愕している一瞬に、閃光とともに俺のフィールドはがら空きとなった。

「バトル。サンダー・スパーク・ドラゴンで――」

「――俺は《速攻のかかし》を手札から捨てることで、相手のバトルフェイズを終了させる!」

 間一髪。サンダー・スパーク・ドラゴンの雷光が俺を貫くより早く、手札から《速攻のかかし》を捨てることで、相手のバトルフェイズを終了させる。《タイム・マジック・ハンマー》で相手のフィールドをがら空きにしたと思えば、《バトルフェーダー》で攻撃を防がれてしまった先のターン。その反撃とばかりにサンダー・スパーク・ドラゴンの一撃が、俺のフィールドをがら空きにしたものの、皮肉にも同じ手札誘発の《速攻のかかし》がそれを防ぐ。

「……私はこれでターンエンド」

「俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し、さらに二枚ドロー!」

 通常のドローに加えて汎用ドローカード《貪欲な壺》を発動し、さらに二枚のカードをドローする。そして、手札に揃ったある三枚のカードを見て……俺は次の行動を決める。その三枚のカードでない、ある一枚のカード――それを手に取った瞬間、何かを問いかけるような言葉が俺に届いた。

「仲間を殺したその力、また使うのかね?」

 ――機械戦士はもう使えない、と言ってきた時と同様に。不思議と心の内側に入ってくるミスターTの言葉に、カードを選択しようとした俺の手が止まる。確かにこの力は、異世界で仲間を殺そうとした力と同種のもの。

「……ああ、使う」

 だから今度はその力を、仲間とこの世界を守るために使う。この力自体に罪があるわけではなく、今度こそ使い方を間違える気はない。動きの止まった指を無理やり動かすと、そのカードをデュエルディスクにセットする。

「俺はスケール1の《音響戦士マイクス》を、ペンデュラムスケールにセッティング!」

 異世界で得たペンデュラム召喚の力。それはあの【イグナイト】デッキから、新たな【機械戦士】デッキにも受け継がれていた。既にセッティング済みだった《音響戦士ギータス》と併せて、赤と青の柱が天に向かって伸びていく。そのスケールは1から8――よって、レベル2から7のモンスターが同時に召喚可能。

「ペンデュラム召喚! 来てくれ、俺の……俺の! マイフェイバリットカードたち!」

『トアアアッ!』

 二対の音響戦士が発生させた魔法陣からは、三体のマイフェイバリットカード――《スピード・ウォリアー》がペンデュラム召喚される。生まれ変わっても新たな力を得たとしても、変わらない永遠のマイフェイバリットカードは、雄々しい叫びをあげて並び立った。

「思い出した……三沢が俺に伝えてきた言葉……」

 異世界から俺を救い出してきた三沢が伝えてきた、ミスターTが『その真実は必要ない』と俺の命を狙いに来たその言葉。どうして《ナンバーズ・ウォール》でなく《安全地帯》だったのか、その疑問おかげでようやく答えにたどり着いた。

 《ナンバーズ・ウォール》ではなく《安全地帯》だった理由――それは、俺がナンバーズを使ってくる、と敵が考えてきたからだ。俺はエクストラデッキからミスターTに見えるように、《No.96 ブラック・ミスト》を取り出した。

「前のミスターTだったカードだ」

 十代とデュエルしたミスターT。彼が使ったナンバーズのカードであり、彼がデュエルで敗れたあとに残っていたナンバーズ。その召喚条件はレベル2モンスターが三体――今、俺のフィールドはその条件を満たしている。

「ダメだ遊矢くん! ダークネスの力をそのまま使えば、僕のようになってしまう!」

 立って歩ける程に回復した吹雪さんが、ダークネスの力を使っていた者として警告する。ただやみくもにダークネスの力を解き放てば、ミスターTの大元に力であるダークネスに乗っ取られてしまうと。

「大丈夫です吹雪さん。……三沢が、そう伝えてくれた」

「三沢くんが……?」

 三沢は語っていた。まだその半分以上は分からないので、あとで敵の正体を突き止めた吹雪さんと照らし合わせる必要があるが――ダークネスは心の闇を武器にやってくる、と。そしてダークネスが使うナンバーズモンスターは、人間の心が作り出すカードであり、誰かの心の闇を武器にしてダークネスたちはナンバーズを使うのだと。……今思えば、この《No.96 ブラック・ミスト》が、《スピード・ウォリアー》三体で召喚出来るのは、このカードが俺の心の闇なのだろう。

 仲間を殺してでも仲間を救う。そんな矛盾した目的を、異世界で力を手に入れた俺は、エクゾディアの力で叶えようとした。その心の闇が映し出し、ダークネスの力となったカード。

 だが、今は違う。この世界と仲間を、今度は間違えずに守れるように――

「俺に応えろ! ナンバーズ!」

 ナンバーズが人間の心によって作り出されたカードならば。扱う人間の心によって、また違うナンバーズとなって転生する。《No.96 ブラック・ミスト》が俺の声に応えるように、新たなナンバーズとなってその手に加わっていく。

「俺は魔法カード《能力調整》を発動! フィールドのモンスターのレベルを1下げ……三体の《スピード・ウォリアー》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 直前に発動された魔法カード《能力調整》により、レベルが1となった三体の《スピード・ウォリアー》が重なっていく。ダークネスの力に汚染されていない、俺の、俺だけのナンバーズ。もう絶対に間違えないという決意を秘めた、鉄の闘志を込めたモンスター。

「集いし鉄血が闘志となりて、震える魂にて突き進む! エクシーズ召喚! 《No.54 反骨の闘士ライオンハート》!」

 コロッセオの拳闘士のような風貌をした、鎧を着込んだ獣のような大男。身体を欠損してもなお、その歩みを止めようとしないのか、身体にはそれを補う機械が埋め込まれている。召喚とともに爆炎がフィールドを覆い尽くし、ライオンハートが芯にまで響くような雄叫びをあげる。

「バトル! ライオンハートでサンダー・スパーク・ドラゴンを攻撃!」

 しかしそのステータスは戦闘に耐えうるどころか、下級モンスターよりも軒並み低い僅か100。……いや、だからこそ突き進む反骨の闘士なのか、恐れも見せずにサンダー・スパーク・ドラゴンに向かっていく。

「ライオンハートの効果発動! このカードが戦闘する時、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、俺が受ける戦闘ダメージを相手に与える!」

「なっ――」

 ライオンハートの攻撃力は先述の通りにたった100。だからこそその一撃は、相手にとって致命傷となる。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、ライオンハートはサンダー・スパーク・ドラゴンの攻撃を全て跳ね返す……!

「ソニック・エッジカウンター!」

「アァァァァァ……」

ミスターTLP1000→0

 ライオンハートが跳ね返した雷光が直撃し、ミスターTは悲鳴とともに消えていく。命を賭けているとはいえ、二連戦のデュエル程度では消耗しなくなった自分に苦笑しながら、俺の前に降り立ったライオンハートを見た。

「これから……よろしくな、皆」

 ライオンハートも含めて生まれ変わった【機械戦士】たちに改めて挨拶すると、デュエルが終了したことにより、ソリッドビジョンが消えていってしまう。そしてデュエルを見届けてくれていた吹雪さんに肩を貸しながら、二人で帰るべきアカデミアに向かって歩き出す。

「何から何まですまないね、遊矢くん。君だって疲れているだろうに」

「異世界で鍛えられましたから。異世界で……」

 異世界で起きたことを消すことは出来ない。俺が仲間を消したことも、みんなが一度消えてしまったことも。

「俺、みんなに謝ろうと思います」

 謝って済む問題ではないけれど。ただの自己満足でしかないけれど。俺が異世界でやってしまったことを、ダークネスの侵略の前に謝っていきたい。それを聞いていてくれた吹雪さんは、一度、空とアカデミアを見上げて考え込むような動作をした後……神妙な面もちで頷いた。

「そうだね。それがいい……」



 ――そして俺たちが立ち去ったアカデミアの旧寮跡にて。もう一人のミスターTがそこに出現していたことを、俺たちが気づくことはなく――
 
 

 
後書き
感想で明日香の出番マダー? って言われました。まだです(無慈悲) 

 

―飛翔せし機械竜―

 廃寮での吹雪さんとミスターTとのデュエルを終え、吹雪さんを保健室まで送り届けた俺は、早速アカデミアをさまよっていた。身体には確かに先のデュエルの疲労感が残ってはいるが、いつまでもそう言っている訳にもいかない。

 俺の目的は、異世界で自分が起こしたことを謝ること。謝って許されることではないが……それでも、そうしなければ俺は先に進めない。しかし保健室で休んでいる吹雪さんから、『明日香のところに行くのは後回しにして欲しい』と頼まれてしまっていた。

 義兄の言うことは聞くべきだ――と言ってきた吹雪さんの言葉を、人生の先輩からの言葉として受け取っておくとして。他の人物も、プロとして今も活動している筈のエドに亮は、今からというのは難しい。ならば残るは――

「――翔!」

 ――異世界で邪神教典-疑を埋め込まれており、エクゾディアのために命を狙うことになってしまった丸藤翔。自分と同じ青色のオベリスク・ブルーの制服に身を包み、こちらを驚いたように見つめる彼には、邪神教典の影響などは残っていないことが分かる。

「大丈夫なの? もう歩き回って?」

 オベリスク・ブルー寮近くの森林。オシリス・レッド寮にいるかと思ってそちらを探していたが、どうやら最近、翔はそちらには行っていないらしく。出来るだけ知り合いには会わないようにしながら、何とか翔のことを探し当てることが出来た。

「ああ。この通り。翔……その、すまない!」

 何と言うか迷っていた挙げ句の果てに、シンプルに謝罪の言葉を言い放って頭を下げる。翔は突然の俺の行動に面食らっていたようだが、頭を下げようとしない俺を見て、異世界のことだと察したらしい。

「……いいよ。僕が同じ立場だったらそうしたかもしれないし……いや、僕はそんな道すら選べなかったんだ」

 邪神教典の影響で誰も信用出来なくなった翔は、十代や他のメンバーの行動を最後まで見守る傍観者となることを選んだ。何も自発的な行動を起こすことはなく。

「僕があの時、アニキを信じられてたら……もっと。だから、謝りたいのは僕の方だ」

 それでも、どうしても謝りたいなら――と、翔は俺の眼前に一つのデッキを見せてきていた。そのデッキボトムにあったモンスターは、《サイバー・ドラゴン》。言わずもがな、丸藤亮ことカイザーのエースカードだった。

「……兄さんはデッキとディスクだけを持って姿を消した。サイバー流を表裏ともに極める、って言い残して」

 沈痛な面もちで語る翔の言葉から、俺の脳裏に異世界で俺のエクゾディアを破った裏サイバー流のことを思いだす。しかしその後、アモンが操る真のエクゾディアの前に敗北した……ならばと、次は神をも打倒するべく亮は武者修行に出たという。

「これはその中でも、兄さんが僕に置いていったカード。兄さんの考えてることはよく分からないけど……兄さんが帰ってくるまで、僕も《サイバー・ドラゴン》が使えるくらい、強くなりたい!」

「なら……」

 するべきことは一つしかない。俺と翔は両者ともにデュエルディスクにデッキをセットし、どちらからともなく少し離れると、デュエルの準備を完了させる。

『デュエル!』

遊矢LP4000
翔LP4000

「俺の先攻!」

 デュエルディスクが指し示すのはこちらの先攻。異世界との戦争に備えてのルール整備により、こちらの世界においても先攻でのドローは禁止となっている。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 先手を取るのは迷いなく機械戦士のアタッカー、《マックス・ウォリアー》が攻撃表示で召喚される。こちらのデッキが新しく変わったように、翔のデッキも新たなものとなっている。ひとまずは様子見だ。

「僕のターン、ドロー! ……よし、《融合》を発動!」

「いきなりか……」

 先手に前触れなく発動される魔法カード《融合》。翔のデッキも十代程ではないにしろ、《融合》によって現れるモンスターは直前にならなくては予想がつかない。

「僕は《ドリルロイド》二体を融合し、《ペアサイクロイド》を融合召喚!」

 《ドリルロイド》が一度バラバラになったかと思えば、二対の自転車へと融合を果たす。その融合素材は同名の機械族モンスター×2であり、攻撃力は1600とリクルーターより少しはマシ、という程度だが。その効果は――

「バトルだ! ペアサイクロイドは、相手プレイヤーにダイレクトアタック出来る! ダブル・サイクロン!」

「ぐっ……」

遊矢LP4000→2400

 ――相手プレイヤーへの直接攻撃効果。俺に直接放たれた二対の旋風には《マックス・ウォリアー》も防げず、後攻一ターン目から手痛い一撃を食らってしまう。

「カードを二枚伏せてターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 ただし《ペアサイクロイド》は融合モンスターにもかかわらず、その攻撃力は僅か1600。既に俺のフィールドにいる《マックス・ウォリアー》でも、充分に破壊することが出来る攻撃力――だが、使い手である翔がそれを分かっていないわけがなく、故に二枚のリバースカードだろう。

「俺は《音響戦士ドラムス》を召喚し、二体のモンスターでチューニング!」

 だが直接攻撃効果を持つ《ペアサイクロイド》を放ってはおけず、誘っているならば予想以上の強い一撃を与えるまで。レベル4の《マックス・ウォリアー》と、レベル2の《音響戦士ドラムス》がシンクロ召喚のためにチューニングされていく。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

 ソリッドビジョンの大地を砕きながら、マイティ・ウォリアーがフィールドに降り立った。自慢の拳を《ペアサイクロイド》に向け、戦士らしい叫び声をあげる。

「バトルだ、マイティ・ウォリアー! ペアサイクロイドに攻撃、マイティ・ナックル!」

 翔のフィールドに伏せられた二枚のリバースカードと、攻撃力の低い《ペアサイクロイド》。それらに怯むことなく《マイティ・ウォリアー》は突き進み、その拳を振り上げた。

「リバースカード、オープン! 《スーパーチャージ》! フィールドにロイドしかいない時、相手が攻撃してきた時二枚ドロー出来る!」

 しかし発動されたのは《マイティ・ウォリアー》を迎撃するカードではなく、限定的ながら二枚のカードをドローする罠カード《スーパーチャージ》。攻撃を防ぐカードではないため、《マイティ・ウォリアー》は阻まれずに《ペアサイクロイド》を破壊し、さらに自身の効果を発動する。

「《マイティ・ウォリアー》が相手モンスターを破壊した時、相手モンスターの攻撃力の半分のダメージを与える!」

「うわっ!」

翔LP4000→2500

 戦闘ダメージに700ポイント、効果ダメージに800ポイント。合計で1500ポイントのダメージを翔は受け、ライフポイントは早くも横並びとなった。

「ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドは《マイティ・ウォリアー》にリバースカード。翔のフィールドは、先のターンから伏せられたままの一枚のリバースカードで、お互いにライフポイントは似たようなもの。まだ行く先が分からない序盤だったが、ここまでは互角といったところか。

「僕は《エクスプレスロイド》を召喚!」

 優秀な効果を持つロイドモンスターの中でも一際優秀な効果を持つ、新幹線の姿をした《エクスプレスロイド》。召喚されたその時、カードの効果が発動する。

「《エクスプレスロイド》が召喚された時、墓地のロイドを二枚手札に加える! 僕は《ドリルロイド》を二枚手札に!」

 通常モンスターにおける《闇の量産工場》のような、《エクスプレスロイド》の墓地からのサルベージ効果により、《ペアサイクロイド》の融合素材となった二体の《ドリルロイド》を回収する。

「さらに通常魔法《パーツ補充》を発動! 手札から機械族モンスターを墓地に送り、デッキから☆4の機械族モンスターを手札に加える。《ステルスロイド》をサーチ!」

 機械族のサポートカード《パーツ補充》。その効果により手札の機械族モンスターを代償に――ダブついた《ドリルロイド》か――デッキから新たな機械族モンスターをサーチする。そして翔が自身の手に揃えていくロイドたちの名前に、ある一枚の切り札級のモンスターの姿が脳裏に浮かぶ。

「伏せてあった《融合準備》を発動! 墓地から《融合》カードと、デッキから融合素材の《トラックロイド》をサーチし、融合!」

 墓地から《ペアサイクロイド》に使った《融合》をサルベージし、デッキから融合素材をサーチするのを一枚でやってのける罠カード。伏せられていたのはそんな効果を持つ《融合準備》であり、四体のモンスターが時空の穴に吸い込まれていく。

「フィールドの《エクスプレスロイド》、手札の《トラックロイド》、《ドリルロイド》、《ステルスロイド》を融合し、《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》を融合召喚!」

 かの《青眼の究極竜》を超える融合素材を持った、四体のロイドを融合することで召喚された《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》。驚愕すべきはそれが融合召喚されたことではなく、消費を出来る限り抑えながら、あっさりと融合素材を自身の手に揃えたこと。これだけの大型モンスターを融合したにもかかわらず、翔の手札に大きな消耗はない……!

「ステルス・ユニオンの効果発動! 相手モンスター一体を、このカードの装備カードとする!」

「マイティ・ウォリアー!」

 さらに《マイティ・ウォリアー》をも取り込みながら合体し、巨大なロボットとなって《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》は完成する。そして《マイティ・ウォリアー》を失った俺のフィールドには、もはや何も守ってくれるモンスターがいない。

「バトル! スーパーピークロイド-ステルス・ユニオンで、遊矢くんにダイレクトアタック! ブロウクンフィスト!」

「くっ……リバースカード、《ピンポイント・ガード》! 戦闘破壊耐性を付与し、墓地からモンスターを特殊召喚する! 蘇れ《マックス・ウォリアー》!」

 せめてもの抵抗として、伏せてあった《ピンポイント・ガード》により墓地から《マックス・ウォリアー》を特殊召喚し、《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》の間にたった。普通ならばこれで防ぐことが出来るのだが、ステルス・ユニオンを相手にしては不充分だ。

「ステルス・ユニオンは攻撃する時、攻撃力が半分になる代わりに貫通効果を持つ!」

「…………ッ!」

遊矢LP2400→1500

 ステルス・ユニオンの唯一のデメリット効果、攻撃時にその高い攻撃力が半分になる効果がなくては、このターンで俺は敗北していた。今まであまりデュエルしたことはなかったが、これまでの翔ではないと考えなくてはならない。

「僕はこれでターンエンド!」

「俺のターン、ドロー! ……速攻魔法《手札断殺》を発動!」

 どうにもデュエルの流れがよくない――と、速攻魔法《手札断殺》が反撃の狼煙として発動され、さらなる効果の発動を補助していく。まるで本当の狼煙をあげたかのように、フィールドに旋風が巻き起こっていく。

「来る……!」

「墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

『トアアアッ!』

 翔の呟きに呼応するかのように、旋風とともにマイフェイバリットカードがデッキから特殊召喚される。《手札断殺》から《リミッター・ブレイク》と《スピード・ウォリアー》に繋げ、更なるカードへと繋がっていく。

「《スピード・ウォリアー》をリリースすることで、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚!」

 上級機械戦士がアドバンス召喚されるとともに、《サルベージ・ウォリアー》はその名の通りに、墓地へと捕縛するための網を広げた。その網にかかるのは、墓地のチューナーモンスター――《音響戦士ドラムス》。

「《サルベージ・ウォリアー》がアドバンス召喚に成功した時、手札か墓地からチューナーモンスターを特殊召喚出来る。《音響戦士ドラムス》を特殊召喚し、二体のモンスターでチューニング!」

 レベル2のチューナーモンスター《音響戦士ドラムス》に、レベル5の《サルベージ・ウォリアー》が、シンクロ召喚のために光の輪となっていく。合計レベルは7、あの《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》にも対抗できる効果を持った、シンクロモンスターの機械戦士。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 金色の鎧を着た、七つの剣を持った機械戦士。装備魔法カードの扱いに長けたモンスターであり、それ故に運用方法は決まっている。

「《セブン・ソード・ウォリアー》に装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備することで、効果発動! 相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

「うっ!」

翔LP2500→1700

 《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》の貫通効果によって与えられたダメージ分を払うかのように、《セブン・ソード・ウォリアー》第一の効果が発動する。装備魔法《ファイティング・スピリッツ》が装備されたことにより、翔のライフポイントに800ポイントのダメージを与え――さらに、翔の切り札級のモンスターすらも破壊する。

「さらに《セブン・ソード・ウォリアー》は、装備魔法を墓地に送ることで、相手モンスター一体を破壊する!」

 装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を纏ったクナイが放たれると、《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》の一点へと突き刺さる。その一点から破壊は広がっていき、合体されていた《マイティ・ウォリアー》を解き放った後、爆発して破壊される。

「ステルス・ユニオンがこんな簡単に……」

「《マックス・ウォリアー》を攻撃表示に変更し、バトル! マックス・ウォリアーで翔にダイレクトアタック! スイフト・ラッシュ!」

 《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》が大爆発を起こしながら破壊されていくのを後目に、《ピンポイント・ガード》で特殊召喚されていた《マックス・ウォリアー》の表示形式を変更し、がら空きの翔のフィールドを見てバトルフェイズに入る。まずは《マックス・ウォリアー》の三段突きが炸裂するものの、それは突如として現れた凧のような形をしたロイドに阻まれてしまう。

「手札から《カイトロイド》の効果を発動! このカードを墓地に送ることで、相手モンスターの直接攻撃を無効にする!」

「……ならば《セブン・ソード・ウォリアー》でダイレクトアタック! セブン・ソード・スラッシュ!」

 《速攻のかかし》の相互互換のような手札誘発カードにより、《マックス・ウォリアー》の攻撃は全て防がれてしまう。ただし《速攻のかかし》のようにバトルフェイズを終了する効果はないようで、本命の《セブン・ソード・ウォリアー》が攻撃を叩き込まんと接近するが。

「墓地から《カイトロイド》の効果を発動! 墓地のこのカードを除外することで、相手モンスターの直接攻撃を無効にする!」

「防がれたか……」

 結局は《カイトロイド》の二回の効果発動の前には防がれてしまい、翔にダメージを与えることは出来なかった。そしてもう、このターンに出来ることはなく。

「……ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 先のターンで切り札級の《スーパーピークロイド-ステルス・ユニオン》を破壊したのは確かだが、翔はかのモンスターを融合した時に手札消費をあまり被っていない。……つまり、次なる手段をいくらでも取れる、ということだ。

「僕は《キューキューロイド》を召喚し、魔法カード《アイアンコール》を発動! フィールドに機械族モンスターがいる時、墓地から機械族モンスターを特殊召喚する! 蘇れ、《エクスプレスロイド》!」

 フィールドに機械族モンスターがいる時、墓地から機械族の下級モンスターを蘇生する魔法カード、《アイアンコール》の発動条件を通常召喚した《キューキューロイド》で満たし。墓地から《エクスプレスロイド》を特殊召喚し、その効果の発動へと繋いでいく。

「《エクスプレスロイド》が特殊召喚された時、墓地からロイドを二体手札に加える! でもこの瞬間、《キューキューロイド》の効果も発動する!」

 予め通常召喚されていた《キューキューロイド》の効果が、《エクスプレスロイド》の効果に反応して発動する。その効果は――確か。

「《キューキューロイド》がいる時、墓地から手札に加えられるロイドは、フィールドに特殊召喚される! 来い、《SR電々雷公》に《ドリルロイド》!」

 《キューキューロイド》の効果は墓地からロイドをサルベージした時、サルベージしたモンスターをフィールドに特殊召喚する、という限定的な効果。しかし《エクスプレスロイド》と組ませることで、フィールドに二体のモンスターを並べるカードとなる。問題はその特殊召喚されたカードで、一年生の時から使われている《ドリルロイド》はともかくとして。

「SR……?」

「すぐに分かるよ。いくよ遊矢くん! まずは《ドリルロイド》と《エクスプレスロイド》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 SRという見慣れないモンスターに疑問を呈す自分に、翔は不敵な笑みで応えながら、二体のレベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。レイと同じように、エクシーズ召喚を早くもデッキに取り入れていたらしく、二体のロイドがフィールドで重なっていく。

「回れ歯車! その働きでもって、新たな力を我が手に! エクシーズ召喚! 《ギアギガントX》!」

 ボディー全てに歯車をつけたような、ロイドとは趣が違った人型の機械人形がエクシーズ召喚される。そしてフィールドに降り立つや否や、その体中の歯車が回りだしていくと、周囲を旋回していたオーバーレイ・ユニットが一つ砕け散る。

「《ギアギガントX》はオーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、デッキから機械族モンスターを手札に加える」

「なるほど……」

 ――少しだけ、欲しいなという気持ちが湧き上がったが、そんなことを考えている場合ではない。サーチされた機械族もさることながら、まだ翔のフィールドには《キューキューロイド》に、謎のモンスター《SR電々雷公》が存在する。

「よし……遊矢くん、これが答えだ! 僕はレベル3の《キューキューロイド》に、レベル3の《SR電々雷公》でチューニング!」

「……チューニング!?」

 恐らくはこちらの《手札断殺》で墓地に送られ、二体のロイドのコンボで蘇生された《SR電々雷公》の正体。それはチューナーモンスターであり、翔はエクシーズ召喚に続きシンクロ召喚をも披露していく。

「十文字の姿もつ魔剣よ。その力ですべての敵を切り裂け! シンクロ召喚! 現れろ、《HSR魔剣ダーマ》!」

 翔が今まで使っていた旧来のロイドと同様に、どことなく子供の玩具を連想させる、新たなロイドことSR……HSR。その一種たる《HSR魔剣ダーマ》は、そのけん玉のような形状をこちらに見せた。

「《HSR魔剣ダーマ》は墓地の機械族モンスターを除外することで、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

「まずいな……」

遊矢LP1500→1000

 たかが500ポイントのダメージとはいえ、ここまでライフポイントを削られていては無視出来ず、事実こちらのライフは僅か1000ポイント。一ターンに一度しか使えないようだが、単純に計算してあと二回使われればアウトなのだ。

「そして永続魔法《マシン・デベロッパー》を発動し……バトルだ!」

 《キューキューロイド》の召喚からは信じられぬ、二体の上級機械族モンスターのプレッシャーが、永続魔法《マシン・デベロッパー》の効果でさらに強化されて俺に襲いかかる。先に行動を起こしたのは、《HSR魔剣ダーマ》。

「《HSR魔剣ダーマ》で、《セブン・ソード・ウォリアー》に攻撃!」

 《HSR魔剣ダーマ》の本来の攻撃力は2200だが、《マシン・デベロッパー》によって200ポイント攻撃力をアップしている。その上昇は僅かながらも、《セブン・ソード・ウォリアー》の攻撃力は2300と、《HSR魔剣ダーマ》はそれを超える。けん玉のようなボディーから放たれたビームが、あっさりと《セブン・ソード・ウォリアー》を破壊した。

遊矢LP1000→900

「さらに《ギアギガント X》で、《マックス・ウォリアー》に攻撃だ!」

「まだだ……!」

遊矢LP900→200

 《ギアギガント X》も機械族のため、もちろん《マシン・デベロッパー》の効果が適用される。攻撃力を200ポイントアップさせ、攻撃力を2500の大台に乗せた《ギアギガント X》の攻撃が炸裂する。《ピンポイント・ガード》の効果は一ターンしか持たないため、もはや戦闘破壊耐性を発揮できず、《マックス・ウォリアー》は破壊されてしまう。

「僕はカードを伏せて、これでターンエンド!」

「……俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し、さらに二枚ドロー!」

 ライフポイントは200ポイントという風前の灯火となり、翔のフィールドには《ギアギガント X》と《HSR魔剣ダーマ》。さらにリバースカードが一枚と、永続魔法《マシン・デベロッパー》。ライフポイントは1700と、この状況を打開せんと汎用ドローカード《貪欲な壺》で二枚ドローする。

「……カードをセット。そして魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊して二枚ドローする!」

 そしてセットカードをコストにする《ブラスティング・ヴェイン》により、さらにカードを二枚ドローし――それだけでは済まされない。破壊したカードの効果が適用される。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 先の《手札断殺》の時と同じように、墓地に送られたことで《リミッター・ブレイク》の効果が発動され、デッキから新たな《スピード・ウォリアー》が特殊召喚される。さらに《ブラスティング・ヴェイン》の効果でドローしたカードにより、さらに展開を進めていく。

「そして《チューニング・サポーター》を召喚!」

 召喚されるはシンクロ召喚をサポートする機械族、中華鍋を逆に被ったようなモンスター、《チューニング・サポーター》。しかしフィールドにいるもう一体のモンスターは、チューナーではない《スピード・ウォリアー》――シンクロ召喚出来ないそのフィールドに、翔はその表情に疑問符を浮かべる。

「シンクロ召喚は出来ない筈じゃ……」

「だから出来るようにするのさ。魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手が前のターンに使ったカードを発動する!」

 翔が先のターンで使った魔法カード――《蜘蛛の糸》のカードから伸ばされた糸が、翔の墓地から通常魔法《アイアンコール》を奪う。そして《貪欲な壺》の対象外になっていた、俺の墓地にいる機械族モンスター……チューナーモンスター《音響戦士ドラムス》が、再びフィールドに特殊召喚される。

「《チューニング・サポーター》はシンクロ素材となる時、レベルを2とすることが出来る! 三体のモンスターでチューニング!」

 よってフィールドにチューナーと非チューナーが揃い、三体のモンスターがチューニングされていく。《チューニング・サポーター》のレベル変更効果を使ったため、合計レベルは6。

「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 光り輝く星屑とともに降臨する、新たな機械戦士。攻撃力は2000ポイントと低いながらも、この状況では最も相応しいモンスターとして、フィールドへとシンクロ召喚した。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、シンクロ召喚に成功した時、一枚ドロー出来る。そして《チューニング・サポーター》をシンクロ素材にした時、一枚ドローする効果も合わせて、二枚のカードをドローする!」

 まずは《スターダスト・チャージ・ウォリアー》と《チューニング・サポーター》の効果がそれぞれ発動し、またもや二枚のカードをドローする。もちろん《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の効果はそれだけではなく、さらにカードを展開させていく。

「さらに装備魔法《団結の力》、《サイクロン・ウィング》を装備し……バトル! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で《HSR魔剣ダーマ》に攻撃! シューティング・クラッシャー!」

 二枚の装備魔法《団結の力》と《サイクロン・ウィング》を装備し、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は翔へと攻撃を仕掛ける。低い攻撃力は《団結の力》で補っており、《HSR魔剣ダーマ》を拳打で攻撃――する前に、装備魔法《サイクロン・ウィング》の効果が発動する。

「《サイクロン・ウィング》を装備したモンスターが攻撃する時、相手の魔法・罠カードを破壊する! 俺は《マシン・デベロッパー》を破壊する!」

 攻撃力を200ポイントアップさせていた永続魔法《マシン・デベロッパー》が破壊され、翔のフィールドの機械族が元々の攻撃力に戻り、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の一撃が炸裂する。

「うっ……!」

翔LP1700→1100

 ――そしてここからが、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の本領発揮となる。まだ《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、文字通り止まることはない。

「さらに《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃出来る! 《ギアギガント X》にも攻撃せよ、シューティング・クラッシャー!」

「なっ……うわっ!」

翔LP1100→600

 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の効果は、特殊召喚された相手モンスターへの連続攻撃。今回は翔のフィールドに二体のモンスターしかいなかったが、更なる連続攻撃も状況によっては可能だったものの、翔のフィールドからモンスターが消えたことで、流石の《スターダスト・チャージ・ウォリアー》も動きを止める。

「メイン2。《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に、装備魔法《ミスト・ボディ》を発動し……ターンエンド」

「僕のターン……ドロー!」

 出来るだけ消費を抑えて戦ってきたとはいえ、翔の手札ももはや限界を迎えているに違いない。……いや。《ギアギガント X》の効果でサーチしていたモンスターや、伏せられているリバースカードから、そう言い切ることは出来ないような、不思議な雰囲気を漂わせていた。

「僕は《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》を召喚!」

「…………ッ!」

 遂に現れる《サイバー・ドラゴン》を主としたモンスター。その中でもレベル4であるそのモンスターは、恐らくは先の《ギアギガント X》の効果でサーチされていたモンスター。

「そしてリバースカード《融合準備》を発動! 墓地から《融合》モンスターを、デッキから融合モンスターの素材となるモンスターを手札に加える!」

 デュエルの序盤に発動されていた罠カード《融合準備》により、再び翔の手札に《融合》の魔法カードと融合素材モンスターが一挙に加えられる。そして今は、《サイバー・ドラゴン》の名を持っていない《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》も、自身の効果を使って《サイバー・ドラゴン》となることは明白。

「《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》は、手札の魔法カードを見せることで名前を《サイバー・ドラゴン》とすることが出来る! 手札の《融合》を見せ……そのまま発動!」

 フィールドの名前を変更した《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》と、手札のもう一体のモンスターが時空の穴に吸い込まれていく。恐らく一度破壊した《ペアサイクロイド》はないとして、二体の《サイバー・ドラゴン》からなる《サイバー・ツイン・ドラゴン》か。だが、《サイバー・ツイン・ドラゴン》ならば今の《スターダスト・チャージ・ウォリアー》と攻撃力は同値――よって、これから融合召喚されるモンスターは、俺の知らないこの局面を打開できるモンスター。

「融合召喚! 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》!」

 ――その合って欲しくなかった予定通り、黒い金属片から二対の首を見せる新たな融合モンスター、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》。そのステータスは融合前の《サイバー・ドラゴン》と何ら変わらないが、それでは融合する意味がない。

「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》が融合召喚に成功した時、融合素材の数だけ相手の魔法・罠カードを破壊する!」

「何!?」

 融合素材となったのは《サイバー・ドラゴン・ツヴァイ》と《サイバー・ドラゴン》の二枚。よって放たれたレーザーは、寸分違わず俺のフィールドの魔法カード――《団結の力》と《ミスト・ボディ》を破壊した。これによって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備されたカードは、直接戦闘には関係しない《サイクロン・ウィング》のみ。

「そして《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の効果! 光属性・機械族モンスターをデッキから三枚まで墓地に送ることで、このターン墓地に送った機械族モンスターの数だけ、攻撃が出来る! バトルだ!」

 翔のデッキから、三枚のモンスターが墓地に送られる。よって《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は、三回の攻撃が可能となり、翔の命令で機械の竜が咆哮する。


「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》で、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に攻撃! エヴォリューション・レザルト・ブラスター!」

「ぐあっ!」

遊矢LP200→100

 ほんの100ポイント俺のライフポイントを守り、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は破壊されてしまう。しかしてそのレーザー砲台は、未だに衰える様子はなく。

「トドメだ! エヴォリューション・レザルト・ブラスター! 第二打!」

「いや……まだだ! 墓地から《ジャンク・コレクター》の効果を発動!」

 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の二回目の攻撃がこちらに届く前に、俺のフィールドに半透明のモンスターが現れる。《手札断殺》の時に墓地に送っていたモンスターだが、このモンスターに攻撃を防ぐ効果はない。

 だが、攻撃を防ぐカードへと姿を変えることは出来る。

「墓地のこのモンスターと通常罠を除外することで、除外した罠カードの効果を発動出来る! 俺は《ジャンク・コレクター》と《ピンポイント・ガード》を除外!」

「つまり――」

「《ピンポイント・ガード》の効果で《音響戦士ドラムス》を、守備表示で特殊召喚!」

 攻撃を受けた時に、レベル4以下のモンスターを、破壊耐性を付与して特殊召喚する。そんな効果を持った罠カード《ピンポイント・ガード》が、《ジャンク・コレクター》の効果で再発動されると、墓地から再度《音響戦士ドラムス》が特殊召喚される。そしてダイレクトアタックだった《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の攻撃の前に立ちはだかり、それを与えられた破壊耐性で防ぎきった。

 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》には貫通効果はないようで、三回目の攻撃は意味をなさない。なんとか三回攻撃を防ぐことに成功したらしく、翔はこちらへとターンを移す。

「くっ……ターン、エンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには《音響戦士ドラムス》が一体のみで、ライフポイントは残り100ポイント。翔のフィールドには、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》にリバースカードが一枚、ライフポイントは1700。一見こちらの絶体絶命だが……まだ、こちらにも逆転の目はある。

「俺は魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! 来い、《チューニング・サポーター》!」

 二枚目の《チューニング・サポーター》を墓地から特殊召喚するが、まだフィールドに揃っているモンスターの合計レベルは4。これでは《アームズ・エイド》しかシンクロ召喚出来ない……よってまだ、こちらの展開は続いていく。

「さらに通常魔法《モンスター・スロット》を発動! フィールドにいるモンスターのレベルと、同じレベルのモンスターを除外し、カードを一枚ドローする。そしてドローしたモンスターがそのモンスターと同じレベルなら、ドローしたモンスターを特殊召喚する!」

 俺が選択したモンスターはレベル2の《音響戦士ドラムス》。墓地から除外したモンスターは、同じくレベル2の《スピード・ウォリアー》。ここでレベル2のモンスターをドロー出来れば、そのモンスターを特殊召喚することが出来る。本来ならば低い可能性だが……レベル2ということならば、話は別だ。

「ドローしたモンスターは……《スピード・ウォリアー》! よって特殊召喚する!」

 ――ドローしたのは三枚目の《スピード・ウォリアー》。もちろんレベル2モンスターのため、《モンスター・スロット》の効果によって、除外された《スピード・ウォリアー》の代わりに特殊召喚される。

「そして墓地の《音響戦士ベーシス》の効果を発動! 墓地のこのモンスターを除外することで、フィールドの音響戦士に自身の効果を付与する!」

「自身の効果を与える?」

 音響戦士のチューナーモンスターにはそれぞれ、自身が持った属性やレベル、種族を変更する効果を持っている。《音響戦士ベーシス》が持っているのはレベルの変更効果、それを墓地から除外することで、フィールドの音響戦士の仲間に与えることが出来るのだ。

「《音響戦士ベーシス》の効果は、手札の数だけレベルを上げる効果。それをフィールドの《音響戦士ドラムス》に与え、それを発動することが出来る! ……そして、三体のモンスターでチューニング!」

 俺の残る手札は二枚。よって二つレベルが上がってレベル4となった《音響戦士ドラムス》に、レベル2の《スピード・ウォリアー》とレベル1の《チューニング・サポーター》が、それぞれシンクロ素材となっていく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 黄色い装甲をした機械竜がシンクロ召喚され、中に封印されているドラゴンが鋼鉄の雄叫びを鳴らす。遂に召喚されたそのモンスターを、苦々しげに翔は見つめていた。

「まさか、あの状況から出て来るなんて……」

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となったことで、カードを一枚ドロー。さらに《レスキュー・ウォリアー》を召喚!」

 まだ俺は通常召喚していない。《チューニング・サポーター》の効果でカードをドローしたあと、後詰めとしてさらに下級機械戦士モンスターを通常召喚する。

「さらにパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……真ん中のカードだ!」

「……俺は《デーモンの斧》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、バトル!」

 俺が選んだカードは《デーモンの斧》、《魔界の足枷》、《魔導師の力》。その中から《デーモンの斧》が選択され、《パワー・ツール・ドラゴン》に装備される。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」


 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の連続攻撃は確かに脅威だが、その攻撃力は融合前の《サイバー・ドラゴン》と変わらない。《デーモンの斧》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》には適わず、《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は一撃のもとに破壊され、翔のフィールドにモンスターはいなくなる。

 ただし戦闘ダメージは、翔の前に展開されたカードの束に防がれてしまい、さらに翔はカードを一枚ドローする。だがこれで翔の防御札もなくなり、あちらのフィールドにも何もなくなった。

「いけ、《レスキュー・ウォリアー》でダイレクトアタック!」

「墓地の《カイトロイド》の効果を発動! このモンスターを除外することで、直接攻撃を無効にする!」

 トドメの一撃とばかりに放った《レスキュー・ウォリアー》の一撃も、墓地から発動される《カイトロイド》に防がれてしまう。手札から捨てて発動していた先のカードではなく、こちらの《手札断殺》の効果で《SR電々大公》とともに送っていたのだろう。

「カードを一枚伏せてターンエンド。……しぶといな、翔……!」

「遊矢くんほどじゃないよ……僕のターン、ドロー!」

 どちらのライフも僅かしかなく、デュエルは最終盤を迎えたといっていい戦況だ。だが翔には、まだ何か秘策があると言わんばかりの意志を感じさせた。

「墓地の《HSR魔剣ダーマ》の効果を発動! 自分フィールドにカードがない時、通常召喚を封じることで、墓地からこのモンスターを特殊召喚出来る! 蘇れ、《HSR魔剣ダーマ》!」

 翔のフィールドには確かに何もなく。図らずも《HSR魔剣ダーマ》の蘇生条件を満たしてしまったことに歯噛みしながら、墓地から現れるけん玉の形をした機械が蘇るのを見る。確かその効果は。

「《HSR魔剣ダーマ》の効果を発動! 墓地の機械族を除外することで、相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

 機械族を除外してのバーン効果。僅か500ポイントのダメージながらも、100ポイントの俺のライフからはすれば、十二分に致命傷以外の何者でもない。

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果発動! このカードを手札から捨てることで、相手モンスターの効果を無効にする!」

 しかし《HSR魔剣ダーマ》の効果が発動される前に、手札から飛び出した《エフェクト・ヴェーラー》が魔剣ダーマを包み込む。一ターンだけだが効果を無効にするその布に包み込まれ、《HSR魔剣ダーマ》がこちらに向けていたレーザーは消えていった。

「《エフェクト・ヴェーラー》……使ってくれたね。魔法カード《プロトタイプ・チェンジ》を発動! フィールドの機械族と墓地の機械族を入れ替える!」

「なに?」

 《エフェクト・ヴェーラー》を使ってくれた――という翔の言葉とともに、フィールドの機械族を墓地に送り、墓地の機械族を特殊召喚する魔法カード《プロトタイプ・チェンジ》により、わざわざ特殊召喚した《HSR魔剣ダーマ》が消えていく。入れ替わるように特殊召喚されるモンスターこそ、翔が本来狙っていたモンスターなのか……?

「墓地から《ユーフォロイド》を特殊召喚!」

 特殊召喚されるのはその予想に反して、この状況では特に有用な効果を持っていない《ユーフォロイド》。光属性のロイドということで、恐らく《キメラテック・ランページ・ドラゴン》の効果で、デッキから墓地に送られていたのだろう。

「そして速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! デッキからさらに二体、《ユーフォロイド》を特殊召喚!」

 ――ただし厄介ではないのは、単体ならばの話だ。攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚された時、さらに二体を特殊召喚する速攻魔法《地獄の暴走召喚》により、《ユーフォロイド》が三体フィールドに揃う。デメリット効果としてこちらにも《地獄の暴走召喚》の恩恵があるのだが、《レスキュー・ウォリアー》はデッキに一枚しか入っておらず、《パワー・ツール・ドラゴン》は対象外のため使えない。

「《キメラテック・ランページ・ドラゴン》はこのために……」

 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》は連続効果のためもあるが、本当の目的は《ユーフォロイド》を墓地に送り、《地獄の暴走召喚》でフィールドに三体揃えるため。これまでならば、この状況の意味は分からなかったが――今ならば分かる。同じレベルのモンスターがフィールドに揃っているということを。

「レベル6の《ユーフォロイド》三体でオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 三体の《ユーフォロイド》が重なっていき、最後のモンスターがエクシーズ召喚される。翔の切り札となるモンスター――

「――《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》!」

 亮の切り札だった《サイバー・エンド・ドラゴン》が『終幕』ならば、新たに現れた《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》はその名の通り『無限』。別種の力ながらもかの《サイバー・エンド・ドラゴン》と同格の力を感じさせ、底知れぬ雰囲気を醸し出していた。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果発動! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、相手モンスター一体をオーバーレイ・ユニットとする! 僕は《パワー・ツール・ドラゴン》を吸収する!」

「……リバースカード、オープン! 《スキル・プリズナー》! モンスター一体を対象にする効果を無効に出来る!」

 《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果は奇しくも、翔の切り札のうち一枚である《スーパービークロイド-ステルス・ユニオン》と同種の効果。向こうは装備魔法とする効果であり、こちらはオーバーレイ・ユニットとする、という違いはあるものの、とにかく伏せてあった《スキル・プリズナー》を発動する。

 相手モンスターを対象に取る効果を発動された時、その効果を無効にする――といった効果を持っていた筈の罠カードは、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》が放ったレーザーに撃ち抜かれていた。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》は一ターンに一度、相手のカード効果を無効に出来る。《パワー・ツール・ドラゴン》はいただいていく!」

 こちらの抵抗も空しく《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の効果は発動されてしまい、《パワー・ツール・ドラゴン》は捕縛されたかと思えば、オーバーレイ・ユニットとされてしまう。その初めて味わう除去にどうすることも出来ず、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》は俺を睥睨していた。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の攻撃力は、オーバーレイ・ユニットの数×200ポイントアップする! よって攻撃力は2700……バトルだ!」

 元々の攻撃力は元の《サイバー・ドラゴン》と同じだが、オーバーレイ・ユニットの数×200ポイントアップする。相手モンスターを吸収する効果でオーバーレイ・ユニットを使うが、吸収したモンスターをオーバーレイ・ユニットにするため、差し引きはまるでなく三つのまま。よって攻撃力2700となり、こちらに対して攻撃の意を示す。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》で《レスキュー・ウォリアー》に攻撃! エヴォリューション・インフィニティ・ノヴァ!」

「ぐっ……だが《レスキュー・ウォリアー》は戦闘ダメージを受けない!」

 《レスキュー・ウォリアー》が破壊される直前に放った水流に、俺自身に向かっていた《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の光弾が吸収されていく。《レスキュー・ウォリアー》の戦闘ダメージを0にする効果により、何とか敗北になることを免れ――かつて亮と戦った卒業デュエル。その時にも《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃を、《レスキュー・ウォリアー》の効果で耐えたことを思い出す。

「やっぱりそんな効果だったか……僕はこれでターンエンド」

「俺のターン……ドロー!」

 そんな懐かしい思い出に顔を少し綻ばせながら、俺はカードをドローする。あらゆる効果を一度だけ無効にするという、驚異的な効果を持った《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》。それにも無効化出来ない効果があるということは、今《レスキュー・ウォリアー》が教えてくれた。

「《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》でも、召喚する効果は無効に出来ない……」

「え?」

 対抗策はある――このデュエルを終わらせる。

「俺は《ドドドウォリアー》を妥協召喚!」

 まず召喚されたのは妥協召喚が可能な上級機械戦士、斧を得物とする《ドドドウォリアー》。攻撃力を1800ポイントとすることで妥協召喚する効果は、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》で無効には出来ない。

「さらに《ドドドウォリアー》をリリースすることで、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 戦士族モンスターをリリースすることで特殊召喚出来る、仲間の力を受け継ぐ砲塔の機械戦士。《ドドドウォリアー》の妥協召喚と同じく、フィールドに特殊召喚するという効果は《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》では無効に出来ない。そして《ターレット・ウォリアー》は、特殊召喚された場合に発動する更なる効果がある。

「《ターレット・ウォリアー》はリリースした戦士族モンスターの攻撃力、自身の攻撃力をアップさせる!」

 あらゆる効果を無効化する《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》の対抗策は、効果を発動せずに破壊できるモンスターを用意すること。しかし攻撃力2700を維持する《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》に、効果を発動しないというのは難しい――だが、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》といえども無効に出来ない効果はある。

 そして《ターレット・ウォリアー》にはそれが出来る――!

「よって《ターレット・ウォリアー》の攻撃力は3500!」

 《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》が無効に出来るのは、効果を発動する効果のみ。《レスキュー・ウォリアー》の戦闘ダメージを0にする効果のような、発動することはない効果――それこそ《サイバー・ドラゴン》に備えられた妥協召喚効果のような――効果は無効化出来ず、《ターレット・ウォリアー》にはさらに攻撃力上昇効果が備わっている。こうして《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》に無効にされないまま、攻撃力3500のモンスターが俺のフィールドに降り立った。

「バトル! 《ターレット・ウォリアー》で《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》に攻撃! リボルビング・ショット!」

「うわあぁぁぁ!」

翔LP600→0

 《ターレット・ウォリアー》から放たれた砲撃が、《サイバー・ドラゴン・インフィニティ》を貫通し、遂にデュエルに終止符を打つ。終わってみればライフポイントは残り100ポイントと、もはやギリギリとしか言えない数値にまで追い詰められていた。

「負けちゃったか……やっぱりまだまだかぁ」

「いや、いいデュエルだっ――」

 ――いいデュエル。何気なく言ったその言葉に、俺はついつい固まってしまう。そんなことを考えることが出来たのは、いつぶりだっただろうか、と。

「そういえば遊矢くん、今日の夜に吹雪さんがイベントやるらしいけど、知ってるッスか?」

「イベント……? いや」

 先程保健室に連れて行ったばかりの吹雪さんの顔を思い浮かべながら、まるでそんな話は聞いていないと首を振る。前々から決まっていたなら、そんな時期にあれだけ消耗させて悪い気もするが――なんと翔に話を聞くと、今日突然決まったということで。

「吹雪さんらしいというか……もしかすると、遊矢くんの復帰祝いかもしれないッスね」

「どう……かな」

 今でもいまいち、あの人の考えていることはよく分からない。首を捻った俺の視界に、吹雪さん主催のイベントのチラシが、風でどこかに飛んでいっていた。
 
 

 
後書き
よいお年を。 

 

―明日香―

 吹雪さん主催のイベント。いつの間にか開催が決まっていたソレに呼ばれ、俺はオベリスク・ブルー寮のパーティー会場に続く廊下に立っていた。会場からはかなりの数の声が聞こえて、随分と賑わっているらしい。吹雪さんが何を考えているのかは分からないが、とにかくあの人はエンターテイナーだと実感する。

『会場にお集まりしてくださった紳士淑女の皆様。今日は急なお誘いすまないね』

 廊下に設えられたテレビ画面から、パーティー会場の映像が映る。そこでは、ワイヤーで吊された吹雪さんが空中を飛翔しており――先程ダークネスの力を使ってデュエルし、倒れていた筈なのだが――そこからマイクで会場にいる生徒に呼びかけていた。

『この指の先には何が見える……?』

『天!』

『んんんんんッ上院!』

 吹雪さんのいつものやり取りに、ついつい顔を綻ばしてしまう。それとともに、あの異世界から帰ってきたのだと――改めて、強く強く実感する。

『エンジョイン! 天上院! アカデミアのブリザード・プリンスの登場さ。親しみを込めてフブキングでも構わない!』

 観客席から黄色い歓声と『フブキング! フブキング!』などという、妙に語呂がいいコールが響く。それも吹雪さんが手を上げるとさっと止まり、さらに吹雪さんは演説を続けていく。

『でも、誰にだって別れはくる……僕たちはもう卒業だ。いや、僕は留年してるんだけどね?』

 ダークネスと三幻魔の計画に巻き込まれた吹雪さんは、確かに自分たちと同じ学年になっている。かなり悲壮感漂う境遇ではあるのだが、全くそれを感じさせないのは、吹雪さん故か。……辛いのは、自分だけではないということか。

『だからみんなと思い出を作りたい。題して卒業タッグデュエル大会の開始を、ここに宣言する!』

 卒業タッグデュエル大会――卒業生は卒業生、在校生は在校生の男女ペアでのデュエル大会だと、観客席中から響き渡る歓声に負けじと、吹雪さんはパフォーマンスも交えて説明していく。

『という訳で、まずはエキシビションマッチといこう。僕が選んだ二人のデュエリストによる、ね』

 ということだから、頼むよ――という吹雪さんの声が、テレビの下に置かれていたイヤホンから流れた。ご丁寧にマイクまで置いてあり、エキシビションマッチに出る準備は万端だ。諦めてデュエルディスクの準備をし、パーティー会場へと歩いていく。

『そう、彼はいつでも不死鳥の如く蘇ってきた。その名はかのデッキとともにあり。黒崎遊矢vs――』

 妙なあだ名がつけられていることに笑いながら、俺はパーティー会場にいくつか設置されていた、とあるデュエル場へと足を踏み入れる。保健室で寝たきりだった自分が現れたことに、観客席からかなりのざわめきが走る。これでわざわざ挨拶回りをする手間が省けた、とまで考える余裕が出て来たとともに。目の前のエキシビションマッチの対戦相手を臨むと、そこには。

『――我が愛すべき妹。このアカデミア最高のクイーン! 天上院明日香!』

 ――流れるような金色の髪に女子生徒用のオベリスク・ブルーの制服、兄のすることに困ったように笑う、まさしく天上院明日香そのものの姿がそこにはいた。異世界で自分が殺したかと思われた彼女が、健在なままでそこにはいて。

「あ、明日……」

 言葉に出来ない驚愕が明日香の表情を包み込んでいた――恐らく、自分も全く同じ表情をしていることだろう。デュエル場で固まる二人に、吹雪さんの声がかけられる。

『二人は一年の時からしのぎを削ってきた。積もる話はあるだろうけれど……デュエルをすれば全てが分かる。美しいライバル同士だ』

 それは観客に自分たちを紹介しているように見せかけた、吹雪さんからのメッセージ。話すことは、謝ることは、けなされることは――泣き合うことは、後はいくらでも出来る。まずはデュエルで心を通い合わせてみろ、と。

「明日香……」

 今言うべきことは、謝罪の言葉ではなく。再会を喜び合う言葉ではなく。

「いくぞ!」

「……ええ!」

 明日香と揃ってデュエルディスクを展開すると、お互いにデュエルの準備を完了させる。この場を用意してくれた吹雪さんに感謝しながら、喜怒哀楽もわかだまりも感情も何もかも全て、このデュエルにぶつけるべく。

『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000

「俺の先攻!」

 デュエルディスクに先攻が表示されたのはこちらから、少し不満そうな明日香をよそに、俺は五枚のカードを手札とする。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 まず召喚されるは、機械戦士が誇るアタッカー。このアカデミアに入学し、明日香と最初にデュエルした時からその勇姿は変わっていない。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 《マックス・ウォリアー》にリバースカードが二枚、その布陣から明日香のターンへと移る。

「私は《サイバー・チュチュ》を召喚!」

 威勢よく引かれたカードを手札の中に加え、召喚された《サイバー・チュチュ》。明日香が使うバレリーナのような戦士族ことサイバー・ガールの一員であり、その効果は条件付きではあるが相手プレイヤーへの直接攻撃。

「バトル! 《サイバー・チュチュ》はこのカードより攻撃力が高いモンスターしかいない時、ダイレクトアタック出来るわ! 《サイバー・チュチュ》でダイレクトアタック、ヌーベル・ポワント!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》!」

 《マックス・ウォリアー》を踊るようにすり抜け、こちらに直接回し蹴りを仕掛けてくる《サイバー・チュチュ》を、カードの束が壁のようになって防いでいく。戦闘ダメージを0にしてカードを一枚ドローする、という防御札である《ガード・ブロック》により、《サイバー・チュチュ》の攻撃は無効にされた。

「……防がれるわよね。でもまだよ。速攻魔法《プリマの光》を発動!」

 明日香のフィールドに戻っていった《サイバー・チュチュ》に、上空からスポットライトが当てられていく。その光を浴びていくごとに、《サイバー・チュチュ》の姿は成長していき……未熟さを残していた少女の姿は、熟成された大人の姿に変化していた。

「《サイバー・チュチュ》をリリースすることで、デッキから《サイバー・プリマ》を特殊召喚する!」

 《プリマの光》は明日香が今言い放った通り、《サイバー・チュチュ》を《サイバー・プリマ》に進化させるカード。重要なのは、それが速攻魔法だということ――明日香のバトルフェイズはまだ終わっていないことだ。

「《サイバー・プリマ》で《マックス・ウォリアー》に攻撃! 終幕のレヴェランス!」

「くっ……!」

遊矢LP4000→3500

 バトルフェイズ中に特殊召喚された上級モンスター、《サイバー・プリマ》の攻撃に《マックス・ウォリアー》は耐えられない。最初の攻防は、残念ながら明日香が制したと言っていいだろう。

「私もカードを二枚伏せて、ターンを終了するわ」

「俺のターン、ドロー! ……速攻魔法《手札断殺》を発動!」

 引いたカードをそのままデュエルディスクにセットし、お互いに二枚の手札を墓地に送り、二枚のカードをドローする。……そして二枚のカードの効果が発動する。

「俺は墓地に送られた《リミッター・ブレイク》と《リジェネ・ウォリアー》の効果を発動! 現れろ、《スピード・ウォリアー》! 《リジェネ・ウォリアー》!」

 カードの効果で墓地に送られた際、特殊召喚される機械戦士《リジェネ・ウォリアー》、マイフェイバリットカードをあらゆる場所から特殊召喚する罠《リミッター・ブレイク》により《スピード・ウォリアー》が、それぞれ俺のフィールドに特殊召喚される。どちらも《サイバー・プリマ》に適うステータスではなく、守備表示の特殊召喚であるが、それがまた新たな機械戦士の狼煙となる。

「守備表示モンスターが二体の時、このモンスターは特殊召喚出来る! 来い、《バックアップ・ウォリアー》!」

 自分のフィールドに守備表示モンスターが二体のみ――という特異な召喚条件を持った、《バックアップ・ウォリアー》が特殊召喚される。その銃口は、《サイバー・プリマ》をしっかりと捉えていた。

「さらに通常魔法《アームズ・ホール》を発動。このターンの通常召喚を封じることで、装備魔法を手札に加える。俺はデッキから《団結の力》を加え、《バックアップ・ウォリアー》に装備!」

「ッ……」

 明日香の息を呑む音が聞こえる。まだしていない通常召喚を封じて発動された魔法《アームズ・ホール》により、《バックアップ・ウォリアー》に装備魔法《団結の力》が装備される。フィールドにいるのは三体のモンスター……よって《バックアップ・ウォリアー》の攻撃力は、容易く4500ポイントにまで到達する。

「バトル! 《バックアップ・ウォリアー》で《サイバー・プリマ》に攻撃! サポート・アタック!」

「きゃっ!」

明日香LP4000→1800

 《団結の力》を得た《バックアップ・ウォリアー》の攻撃は、明日香に大打撃を与えそのライフを半分とする。しかしてもうこのターンで出来ることはなく、エンドフェイズの宣言をしようとすると。

「やってくれたわね……リバースカード、《奇跡の残照》を発動! 戦闘で破壊されたモンスターを特殊召喚する。蘇りなさい、《サイバー・プリマ》!」

「《奇跡の残照》……」

 ……いつだったか、明日香の《サイバー・ブレイダー》とトレードした罠カード。俺も明日香も複数枚持っていたカードだったので、特にトレードして困ることがなかったが……それでも、お互いにとって大切なカードだ。

「……ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 感傷に浸っている場合ではない……今はデュエルの時間だ。ターンを明日香へと明け渡すと、まず明日香はもう一枚のリバースカードを見せた。

「リバースカード《融合準備》。墓地から融合カード、デッキから素材モンスターを融合し、融合召喚!」

 こちらの《手札断殺》を利用して墓地に送っていたのであろう、墓地の《融合》とデッキの素材モンスターを手札に加え、明日香のフィールドに時空の穴が広がっていく。明日香が使う融合モンスターと言えば、もちろん。

「融合召喚! 《サイバー・ブレイダー》!」

 明日香の融合のエースカードにして、今最も警戒していたモンスター――サイバー・ブレイダー。氷上を滑るかの如く、パーティー会場に設えられたデュエル場を疾走する。

「《サイバー・ブレイダー》第三の効果。相手のカード効果を全て無効にする。パ・ド・カトル!」

 相手フィールドにモンスターが三体以上、という条件はあるものの。《スキルドレイン》系統など目でもない、こちらのカード効果を全て封殺するという恐るべき効果。もちろん《団結の力》の効果も無効となり、《バックアップ・ウォリアー》の攻撃力は元の2100にまで戻る。

「さらに《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚し、効果発動。デッキから《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」

 まだ明日香は通常召喚をしていない。《機械天使の儀式》――明日香が使うサイバー・エンジェルたちのサポートカードである、かの《プチテンシ》が機械化したモンスターが召喚され、効果により《機械天使の儀式》が手札に加えられる。まさか儀式まで来るかと思えば、明日香の更なる行動は俺の予想を越えていた。

「さらに魔法カード《死者蘇生》を発動。墓地から《フルール・シンクロン》を蘇生し、バトルフェイズに入るわ」

 墓地に送られていたらしい《フルール・シンクロン》を特殊召喚し、これで明日香のフィールドにはモンスターが四体。俺のフィールドのモンスターの数を越え、そのどれもが攻撃表示を取っている。

「いくわよ! 《サイバー・プリマ》で《バックアップ・ウォリアー》に攻撃! 終幕のレヴェランス!」

「バックアップ・ウォリアー……!」

遊矢LP3500→3300

 《サイバー・ブレイダー》第三の効果によって、《団結の力》が無効にされてしまった今、《バックアップ・ウォリアー》の攻撃力は元の2100。2300と僅かながら勝る《サイバー・プリマ》に敗れ、《団結の力》ごと破壊されてしまい、俺のフィールドのモンスターは二体。

「第二の効果、パ・ド・ドロワ。《サイバー・ブレイダー》の攻撃力が倍になるけど……今は意味がないわね。《サイバー・プチ・エンジェル》で《スピード・ウォリアー》を攻撃!」

 俺のフィールドのモンスターが二体になったことにより、《サイバー・ブレイダー》の効果が変化し、その攻撃力を倍にする……が。俺のフィールドに残った二体は、いずれも守備表示であったのは不幸中の幸いか。しかし低い守備力が災いして、あっさりと《スピード・ウォリアー》も破壊されてしまう。

「さらに《フルール・シンクロン》で《リジェネ・ウォリアー》に攻撃……これでがら空きね。《サイバー・ブレイダー》で遊矢にダイレクトアタック、グリッサード・スラッシュ!」

「ぐあっ!」

遊矢LP3300→1200

 残っていた《リジェネ・ウォリアー》の守備力は0と、チューナーモンスターである《フルール・シンクロン》にも劣り。明日香のエースカードである《サイバー・ブレイダー》の攻撃が、さらに俺に叩き込まれる。

「メインフェイズ2! 私はレベル2の《サイバー・プチ・エンジェル》に、同じくレベル2の《フルール・シンクロン》をチューニング!」

「レベル4……?」

 てっきりレベル6の《サイバー・プリマ》とチューニングし、《フルール・シンクロン》をチューナーとして指定した、かのシンクロモンスターが現れるとばかり思っていたが、その予想に反してレベル4のシンクロモンスターだという。俺の疑問をよそに、二体のモンスターが光に包まれていく。

「華よ開け虹よ咲かせ、天使が舞い降りる道となれ! シンクロ召喚、《虹光の宣告者》!」

 現れたのは虹色の光を灯す天使。宣告者――確か手札から捨てることで相手を妨害する、という効果を持ったカテゴリーだと記憶していたが。シンクロモンスターとなっている《虹光の宣告者》が、まさかそんな効果なわけはなく。

「カードを一枚伏せて、私はターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドは明日香の猛攻を受け、残るはリバースカード一枚という惨状であり、ライフポイントは1200。対する明日香のフィールドには、《サイバー・プリマ》に《サイバー・ブレイダー》、さらに《虹光の宣告者》。リバースカードは今まさに伏せられた一枚と、ライフポイントは1800。

「《貪欲な壺》を発動し、二枚ドロー」

 勝負はややこちらが不利だがほぼ互角。その不利も、先の明日香のターンの猛攻のためだ。不利をひっくり返すべく、俺は汎用ドローカード《貪欲な壺》で二枚のカードをドローする。

「俺のフィールドにモンスターがいない時、《レベル・ウォリアー》はレベル4となって特殊召喚出来る!」

 明日香に一掃されたフィールドを利用して、自身の効果により《レベル・ウォリアー》がレベルを4として特殊召喚される。明日香がシンクロ召喚を用いてくるのならば、応えないわけにはいかないだろう。

「さらに《音響戦士ベーシス》を召喚し、効果を発動!」

 チューナーモンスターを司る新たな機械戦士、その中でもレベルの操作能力を持つ《音響戦士ベーシス》。自身の効果により、今の俺の手札の枚数分、そのレベルを上げ――る前に。《音響戦士ベーシス》の身体を、光が貫いていた。

「《虹光の宣告者》の効果。相手がカードの効果を発動した時、このモンスターをリリースすることで、その効果を無効にする!」

「このタイミングでくるか……」

 自分の知る他の宣告者の例からして、こちらの行動を阻害する系統のカードだとは思っていたが、まさかこのタイミングとは。効果を発動しようとした《音響戦士ベーシス》は、リリースの道連れのように《虹光の宣告者》に破壊された。

「まだよ。《虹光の宣告者》が墓地に送られた時、儀式魔法か儀式モンスターを手札に加えられる。私は《サイバー・エンジェル-韋駄天》を手札に」

 さらに儀式モンスターか儀式魔法のサーチ効果まで付随していたらしく、デッキから儀式モンスターである《サイバー・エンジェル-韋駄天》が手札に加えられた。先のターンで《サイバー・プチ・エンジェル》によって手札に加えられた、儀式魔法《機械天使の儀式》も合わせることで、これで次なる明日香のターンに儀式召喚がほぼ確定する。

「……だが、こっちもまだだ。伏せてあった《リミット・リバース》を発動! 墓地から《音響戦士ベーシス》を特殊召喚し、もう一度効果を発動する!」

 最初のターンに伏せていた罠カード《リミット・リバース》が姿を現し、先程破壊された《音響戦士ベーシス》が再度フィールドに現れる。そしてまたもその効果を発動するが、今度は妨害されることはなく。

「やっぱり、やるわね……」

「……。《音響戦士ベーシス》は手札の数だけレベルを上げる。よってレベル3とし、二体のモンスターでチューニング!」

 俺の手札は二枚。よって《音響戦士ベーシス》の効果により、二つレベルが変更されて3。同じくレベルが変動した《レベル・ウォリアー》とともに、本来ならありえないチューニングを果たしていく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 変動していった合計レベルは7。よってシンクロ召喚されるは、もちろんこのラッキーカード。黄色の装甲を装備した機械竜が、雄叫びを上げながらシンクロ召喚され、その雄叫びは効果の発動に繋がっていく。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……右のカードにしておくわ」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の叫びに呼応するように、俺のデッキから一枚のカードが明日香によって選ばれ、手札に加わるとともに……《パワー・ツール・ドラゴン》に装備される。

「俺は《パワー・ツール・ドラゴン》に《ダブルツールD&C》を装備し、バトル!」

 明日香に選ばれたカードは《パワー・ツール・ドラゴン》専用の装備魔法《ダブルツールD&C》だったが、明日香のフィールドにいるモンスター……《サイバー・プリマ》と《サイバー・ブレイダー》、どちらを攻撃するか。明日香の手札には《サイバー・エンジェル-韋駄天》と《機械天使の儀式》があり、レベル6の《サイバー・プリマ》を生かしておいては、次なるターンで必ず儀式召喚される。

 対する《サイバー・ブレイダー》は、明日香の融合におけるエースカード。今はこちらのモンスターが一体のため、戦闘破壊耐性が付与されている……が、今の局面ならば《ダブルツールD&C》の効果で突破は可能だ。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で……《サイバー・ブレイダー》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 俺が選んだのは、融合のエースモンスターこと《サイバー・ブレイダー》。厄介なモンスターである以上、早めに片付けておくに越したことはない。

「《サイバー・ブレイダー》の効果! 相手モンスターが一体の時、戦闘では破壊されない……けどね」

「ああ。《ダブルツールD&C》は、戦闘する相手モンスターの攻撃を無効にする!」

 《サイバー・ブレイダー》第一の効果、パ・ド・ドゥによって戦闘破壊耐性を得てはいたが、《ダブルツールD&C》の前では意味をなさない。《パワー・ツール・ドラゴン》の右手に装備されたドリルが輝き、《サイバー・ブレイダー》を一撃で破壊する。

「でも戦闘ダメージは防がせてもらうわ。伏せてあった《ガード・ブロック》を発動し、カードを一枚ドロー」

 《サイバー・ブレイダー》の戦闘破壊には成功するものの、明日香への戦闘ダメージはカードの束によって防がれてしまう。これで明日香のフィールドに残るのは、上級モンスターである《サイバー・プリマ》のみ。

「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 手札に残っていたカードを全て伏せ、これで俺の手札は0。破壊耐性を持つ《パワー・ツール・ドラゴン》と併せて、あからさまに守備の布陣を敷いていき、明日香の攻勢への防御を試みる。

「私は《機械天使の儀式》を発動! フィールドの《サイバー・プリマ》をリリースし、《サイバー・エンジェル-韋駄天》を儀式召喚!」

 二枚のサーチカードの効果によって手札に加えられていた、《サイバー・エンジェル-韋駄天》が儀式魔法によって呼びだされる。その効果は三種の機械天使の中でも、一際強力なものと言っても過言ではない。

「《サイバー・エンジェル-韋駄天》が特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを手札に加える。私が回収するのは《死者蘇生》!」

 その効果ならば、制限カードだろうと使い回すことが出来る、ということを証明するかのように。回収した《死者蘇生》がすぐさま発動され、またもや《フルール・シンクロン》が墓地から特殊召喚され……チューナーと非チューナーが揃う。

「私はレベル6の《サイバー・エンジェル-韋駄天》に、レベル2の《フルール・シンクロン》をチューニング!」

 今度こそ《虹光の宣告者》ではない。《フルール・シンクロン》というチューナーモンスターの真髄、その本来の力と能力がまさしく開花する。

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! 煌めけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

 開花する花とともにシンクロ召喚されるは、剣を振るう白百合の騎士。自分のターンでの相手の魔法・罠カードを一度だけ無効化する効果を持つ、明日香が持つレベル8のシンクロモンスター。

「さらに《高等儀式術》を発動!」

「なに!?」

 手札や墓地の状況から、《サイバー・エンジェル-韋駄天》の効果からの《フルール・ド・シュヴァリエ》のシンクロ召喚までは読めていた。こちらのリバースカードが実質封じられるとはいえ、それならば《パワー・ツール・ドラゴン》の破壊耐性で耐えきれる……だが、《高等儀式術》まで手札に隠していたとなると。

「私はデッキの《ブレード・スケーター》二体をリリースし、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》――降臨する最強のサイバー・エンジェル。先にフィールドに現れていた《フルール・ド・シュヴァリエ》と並び立ち、何本もの腕とそれぞれの刃を持って、こちらを威圧するかのように接近する。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果発動! このカードが特殊召喚した時、相手はモンスター一体を選んで破壊する!」

 俺のフィールドにモンスターは《パワー・ツール・ドラゴン》一体のみ、よって選ぶも何もなく《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は破壊対象を《パワー・ツール・ドラゴン》に決定し、その刃で四方八方から切り刻んでいく。しかしそれは《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕に装備されたカッターが巨大化し、何とか無事に防がれたものの。

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果。装備カードを身代わりにして破壊を免れる! イクイップ・アーマード!」

「でもこれで装備カードはもうないわ。バトルよ!」

 明日香の言う通り、これでもう破壊を免れる効果は使えそうにない。そして伏せられた二枚のリバースカードも、《フルール・ド・シュヴァリエ》に封じられている――

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で、《パワー・ツール・ドラゴン》に攻撃!」

 先程の効果破壊と同じく、再び四方八方からの刃が《パワー・ツール・ドラゴン》を襲う。もはや盾とする装備カードもない――が、盾となってくれる仲間ならば存在する。

「墓地から《タスケナイト》の効果を発動!」

「《タスケナイト》……!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の身代わりとなって、墓地から一瞬だけ蘇った《タスケナイト》が代わりに攻撃を受ける。《手札断殺》で墓地に送ったカードは、《リミッター・ブレイク》に《リジェネ・ウォリアー》だと明日香の思考の外にあったようだが、《アームズ・ホール》の効果で墓地に送られていた。

「《タスケナイト》は手札0枚の時、墓地から特殊召喚してバトルフェイズを終了する!」

 俺の手札は全てリバースカードとして伏せてあり、墓地の《タスケナイト》の効果の発動条件を満たしていた。その効果によって、何とか明日香のモンスター二体の攻撃を耐え凌ぐ。

「私は……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》が健在のまま、さらに《タスケナイト》とリバースカードが二枚に、ライフポイントは1200。明日香のフィールドには《フルール・ド・シュヴァリエ》に《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》、どちらも攻撃力は2700の最上級モンスターであり、ライフポイントは1800。ドローしたカードを一目確認すると、そのままデュエルディスクにセットしていく。

「魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊し二枚ドローする!」

 ブラフとしてセットされていた《緊急同調》を破壊し、カードを二枚ドローする。さらに《パワー・ツール・ドラゴン》が咆哮を響かせ、装備魔法をデッキから呼び込む効果を発動する。

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果発動! パワー・サーチ!」

「……右のカード」

 先のターンと同じように、明日香の選んだカードが手札に加えられ、俺の手に揃った三枚の手札を見比べる。明日香のフィールドにいる二体のモンスターを、どのようにして打倒するか。

「さらに魔法カード《死者転生》を発動! 手札を一枚墓地に送ることで、墓地からモンスターを一体手札に加える。俺は《音響戦士ベーシス》手札に加え、そのまま召喚!」

 都合三度目となるチューナーモンスター《音響戦士ベーシス》の召喚の後、その効果を発動していく。手札の数だけレベルが上がる効果――こちらの今の手札は、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果で手札に加えていた、まだ発動していない装備魔法カードが一枚。

「レベル4の《タスケナイト》に、レベル2となった《音響戦士ベーシス》でチューニング!」

 合計レベルは6。光とともにフィールドに降り立ったシンクロモンスターが、その拳で大地をも砕いてみせる。

「「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

 巨大な右腕を持った機械戦士こと《マイティ・ウォリアー》が、明日香のサイバー・エンジェルたちに対抗するかの如く現れ、最後に残った装備魔法をデュエルディスクにセットする。

「装備魔法《災いの装備品》を発動! 《フルール・ド・シュヴァリエ》に装備し、装備モンスターはこちらのモンスターの数×600ポイント、攻撃力がダウンする!」

「くっ……!」

 相手モンスターを対象にしたとしても、装備魔法は発動することが出来る。それを応用した、相手モンスターにこそ装備するカードの一種、《災いの装備品》が《フルール・ド・シュヴァリエ》に装備される。その効果はモンスターの数×600ポイントのダウン――よって、その攻撃力は1200ポイントダウンし、1500ポイントと成り下がる。

「バトル! 《マイティ・ウォリアー》で、《フルール・ド・シュヴァリエ》に攻撃! マイティ・ナックル!」

「っ!」

明日香LP1800→1000

 明日香が気づいたのはダメージよりも、《マイティ・ウォリアー》が相手モンスターを戦闘破壊したということ。《フルール・ド・シュヴァリエ》の戦闘破壊に反応し、《マイティ・ウォリアー》の効果が発動する。

「《マイティ・ウォリアー》の効果を発動! 戦闘で破壊した相手モンスターの攻撃力の半分を、相手に与える!」

 《フルール・ド・シュヴァリエ》の元々の攻撃力は2700。《災いの装備品》を装備させられるより以前の数値で計算するため、《マイティ・ウォリアー》の効果は十全に発揮される。そしてそのバーンダメージは、明日香のライフポイントを超えている……!

「終わりだ明日香! ロケット・ナックル!」

 《フルール・ド・シュヴァリエ》の攻撃力の半分のバーンダメージを込めた、一撃必殺の《マイティ・ウォリアー》の拳。ロケットパンチのように右腕が明日香に飛んでいき、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》をすり抜けて直接攻撃を仕掛けていく。

「まだ、まだよ! 私は手札から《ハネワタ》の効果を発動!」

 ――しかして、その拳が明日香に届くことはなく。手札から飛びだしたあるモンスターに、あっけなく弾き飛ばされてしまう。

「《ハネワタ》は手札から捨てることで、効果ダメージを無効に出来る」

 アレが明日香の最後の手札に残されたカード。手札誘発のバーンダメージ対策、という効果を持ったチューナーモンスターに、《マイティ・ウォリアー》の攻撃は防がれてしまう。

「だが《災いの装備品》の効果発動! このカードが墓地に送られた時、相手モンスターに装備し直すことが出来る! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に再装備!」

 《災いの装備品》という名前は伊達ではなく。《フルール・ド・シュヴァリエ》が破壊されたところで、更なる装備先を求めて次は《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》へと取り憑いた。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

明日香LP1000→200

 明日香のフィールドの二体のモンスターの破壊には成功したものの、本来狙っていたトドメを刺すことは出来ずに。明日香の残りライフポイントは僅か200だが、俺にもう手も手札もない。

「俺は……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 ……思えばこのデュエルは、最初からずっとそうだった。俺が攻めれば明日香が防ぎ、明日香が攻めれば俺が防ぎ。明日香が攻撃の布石にチューナーモンスターを蘇生させれば、俺も同じことを狙っていた。

 ――そして今。俺が崖っぷちの状況で逆転のドローをし、明日香が《貪欲な壺》を発動した。ならばそのドローは……逆転の一手に違いあるまい。

「私は《儀式の準備》を発動! デッキから儀式モンスター《サイバー・エンジェル-弁天-》を、墓地から儀式魔法《高等儀式術》を手札に加え、そのまま発動!」

 アカデミアのクイーンの名は伊達ではなく。しっかりと逆転に繋がる手を引き当て、再び儀式召喚がフィールドで執り行われていく。デッキから直接、レベル2の通常モンスターたる三枚の《神聖なる球体》が墓地に送られていき、レベル6の儀式モンスターが降臨する。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-弁天-》!」

 韋駄天、荼吉尼に続いた最後の機械天使こと、明日香の儀式のエースモンスター《サイバー・エンジェル-弁天-》が儀式召喚される。その効果やステータスは他二種に及ばないものの、それらにはない爆発力がかのモンスターには存在する。

「このターンで終わりにするわ。装備魔法《リチュアル・ウェポン》を、《サイバー・エンジェル-弁天-》に装備!」

 レベル6以下の儀式モンスターの攻撃力を、なんと1500ポイントの攻撃力アップさせる、という驚異的な装備魔法。よって《サイバー・エンジェル-弁天-》の攻撃力は、《パワー・ツール・ドラゴン》も《マイティ・ウォリアー》も軽々越えた、3300という数値へと跳ね上がる。最後のターンだと宣告する明日香に負けじと、迎え撃つべくこちらも応じ。

「来い、明日香!」

「バトル! 《サイバー・エンジェル-弁天-》で、《パワー・ツール・ドラゴン》を攻撃! エンジェリック・ターン!」

 《サイバー・エンジェル-弁天-》が振るう二対の鉄扇。それは容易く《パワー・ツール・ドラゴン》の装甲を貫通していき、一刀両断に斬って捨てる。

「ぐうっ……!」

遊矢LP1200→200

 奇しくも、残ったライフポイントは明日香と同じ数値。《パワー・ツール・ドラゴン》が破壊されたと同時に、それに反応するかのようにリバースカードが瞬いた。

「リバースカード、オープン! 《クロス・ライン・カウンター》!」

 遂に発動されたリバースカードの効力により、破壊された《パワー・ツール・ドラゴン》の力が、《マイティ・ウォリアー》へと集まっていく。こちらの狙いはこの罠カードによるカウンター――その効果は、受けた戦闘ダメージの倍の数値をこちらのモンスターに加え、相手モンスターと強制的にバトルさせるという効果。

 《パワー・ツール・ドラゴン》が受けた1000ポイントのダメージは、その倍の数値となって《マイティ・ウォリアー》の力となっていき、《サイバー・エンジェル-弁天-》を追い詰める。その攻撃力は4300、《マイティ・ウォリアー》のバーン効果を狙わずとも、明日香のライフポイントを削り切れる。

「《クロス・ライン・カウンター》の効果! 《マイティ・ウォリアー》で《サイバー・エンジェル-弁天-》に攻撃! マイティ・カウンター!」

「だけど、こっちも《サイバー・エンジェル-弁天-》の効果発動! 相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターの守備力分のダメージを相手に与える!」

 しかして追い詰められた《サイバー・エンジェル-弁天-》も、俺を狙って鉄扇を振り抜く。《パワー・ツール・ドラゴン》の守備力分、2500ポイントのバーンダメージを与えんと、鉄扇を振り抜いた衝撃がカマイタチとなって放たれ。

 どちらの攻撃も止まることはなく――

「ぐああっ……!」

「きゃぁぁあっ!」

遊矢LP200→0

明日香LP200→0

 ――お互いの想いを込めた一撃は、同時にお互いを貫いた。


『決着は……引き分け! 《クロス・ライン・カウンター》の特殊な効果処理が決め手となった、二人のデュエリストに盛大な拍手を!』

 最初にその真実にたどり着いたのは、ずっと俺たちを見舞ってくれていた吹雪さん。観客席の方々からの盛大な拍手とともに、サムズアップした吹雪さんに退場を促される。

 そして明日香とともにパーティー会場から離れていき、その拍手と熱気が遠くなっていく。生徒は皆あのパーティー会場に行っているので、この冷たい廊下には人の気配すらしない。

「――明日香!」

 どこまでも吹雪さんに感謝しながら、先に歩いていた明日香に呼びかける。振り向いた彼女の瞳には……涙が浮かんでいて。そんな光景を目の当たりにしてしまい、何を言うべきか浮かばず……口から勝手に、真に伝えたかったことが零れ落ちた。

「生きていてくれて……ありがとう……」
 
 

 
後書き
遊矢「メンタルリセットォォォォォ」

えー、約 二年ぶり のメインヒロインのDEBANでした
 

 

―ラヴデュエル―

 デュエル・アカデミアのスタジアム前の廊下。そこで明日香と再開した俺は、彼女に異世界であったことを訪ねていた。ユベルによって砂の異世界から、また別の異世界に飛ばされていた俺たちは別々に、闇魔界の軍勢と戦うことになっていた。

 しかし敗北した明日香は邪心経典の素材として、無理矢理モンスターと融合させられてしまっていた。そのまま俺とデュエルすることとなり、邪心経典の生け贄となって消滅していた。その後、俺もユベルに喰われた為に詳細は分からないが……十代か三沢の力によって、俺たちはアカデミアに戻ってきていた。

「デッキ、取り戻してくれたのよね。ありがとう」

 戦っている途中に明日香はデッキを取り落としてしまったらしく、異世界にいた他の人物が持っていたのを俺が取り返していた。なら自身のデッキがない間、彼女がどうしていたかと、一つのデッキが俺に差し出されていた。

「あなたのデッキ、貸してもらってたわ」

「それは……」

 俺がどこかで落としていたもう一つのデッキ。普段から使っている【機械戦士】ではなく、半ば実戦には耐えない【風霊使いウィン】デッキ。要するに《風霊使いウィン》のファンデッキであり、以前に一度だけ明日香とデュエルしたことがあった。

「【機械戦士】じゃなくても、私に力を貸してくれていたみたい。遊矢がカードを大事にしてくれる証拠よね」

 そう言って明日香はニッコリと笑う。こちらが女性キャラのカードのファンデッキ、という最も見られたくないものをそのように嬉しそうにされ、内心悶え苦しんでいるにもかかわらず。相変わらず、明日香はそういうところは無頓着だ。

 ……相変わらず、だ。

「あ、ありがとう」

「そういえば……私にも好きなカードがあるの。ほら」

 もちろん俺の【機械戦士】と《風霊使いウィン》のように、明日香が普段使っている【サイバー・ガール】とは別種で、ということだろう。デッキケースの中から一枚のカードを取り出すと、明日香は俺に見せてくれた。

「《迷犬マロン》……?」

 何の変哲もない低レベルのコモンモンスター。その効果というよりは、様々な種類のシリーズカードがあるという事が有名なカードだ。

「ええ。異世界で拾ったんだけど、何か気に入っちゃったの」

 この後のことを知ってると、ちょっと複雑だけど――と言いながら、明日香は《迷犬マロン》をデッキケースへとしまい込む。これから《迷犬マロン》を待ち受けている運命は、アカデミアの学習を通して明日香も覚えていたらしい。

「この子みたいに、っていうのもなんだけど。遊矢も目が覚めたし……私も頑張らなくっちゃね。また、あんなことがあってもいいように」

 ――これ以上強くなられたら、こちらの立つ瀬がない……と言いたくなるのを堪えて。明日香との会話で胸のつかえが取れたように感じながら、吹雪さんから貰ったあるプリントを明日香と見る。このまま話していてもいいのだが、今スタジアムでは、吹雪さん主催のタッグデュエル大会が行われている。

「男女ペアでタッグデュエル大会。出ないか?」

 我ながらしっかりと誘ったように思えたものの、明日香は少し不機嫌そうに眉をひそめた。呆れたようにため息を吐き、明日香は小学校の先生のように言い聞かせてきた。

「まったく。久々に会ったっていうのに、もうデュエルの話?」

「それは明日香に言われたくない」

 明日香にデュエルのことばかり、とは言われたくない。明日香もその言葉には自覚があるらしく、少し言葉に詰まっていた。

「……これでも、遊矢のおかげでデュエル以外にも、色々知ったつもりなんだけど」

 そう小声で言った明日香だったが、自分で言って恥ずかしくなったのか、早歩きでスタジアムへの道を歩きだした。こちらに自身の顔を見せないように――その金色の長髪から覗く、赤らめた耳までは隠せていなかったが。

「タッグデュエル大会でしょ? 早く行きましょう」

 そう早口でまくしたててきた明日香の後ろ姿を追い、俺もタッグデュエル大会に参加せんとスタジアムに戻る。俺と明日香のエキシビジョンマッチが終わってから、そう時間は経っていない。まだ飛び入り参加は可能だろう――と、俺たちペアの最初の試合は。

「待っていたぞ天上院くん!」

 ……完全に俺の存在を無視してきたサンダーだった。しかし、万丈目の隣には女子はおらず、誰がペアなのかは分からない。

「遊矢。起き上がってきたことは褒めてやろう。その褒美に明日香くんを賭けてデュエルだ!」

「私、賭事の物じゃないわ。万丈目くん」

 どうやら俺の存在は忘れられていなかったようだが、万丈目の申し出は当の明日香に拒否される。しかし万丈目は、その言葉を聞いているのかいないのか、歌舞伎役者のように手を振っていた。

「もちろんさ天上院くん。分かっているとも。つまり、今から行うタッグデュエルでこの僕が勝てば、遊矢の代わりに僕がタッグパートナーになろうじゃないか!」

 何も分かっていないらしいが、何にせよ俺たちペアの一回戦の相手――いや、どうやら俺たちはシードだったらしく、二回戦のようで――は、万丈目ということになるらしい。

「ところで万丈目、お前のペアは?」

「万丈目さんだ!」

 答えになっていない。そしてタッグデュエル大会であるにもかかわらず、スタジアムに立っても万丈目のパートナーは現れず。……スタジアムに置いてある、人が入れるヒーローショーで使えるような《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを除けば。さらにそのぬいぐるみに、デュエルディスクが装着されていなければ。

「俺様一人で充分だということだ! 行くぞ!」

「……万丈目くん。ルールは守りましょう?」

「何を言うんだ明日香!」

 ルールというか大会参加の前提というか。呆れかえった明日香がそう糾弾するものの、それは天空をワイヤーで移動している吹雪さんが遮った。

「君を一人の力で奪おうとするサンダーの男意気を! 分からないというのか明日香!」

「分からないわ……」

「諦めろ、明日香」

 主催者が認めたというのならば、ルールも何も意味を成さない。顔を覆う明日香の肩に手を置くと、万丈目からの敵意がなみなみと注がれる。やぶ蛇だったか、と明日香から離れると、デュエルディスクを展開する。

「ラブデュエル第二章、始めさせてもらうぞ!」

「第二章?」

「ええ、三幻魔の時に一回。そういえば、あのデュエルのせいで三幻魔が目覚めたのよね……」

 ずいぶん今となっては懐かしい話だけれど。影丸理事長と三幻魔を巡る戦いにおいて、その件のラブデュエルの時に俺は不在だった。

「そ、そんなことはいいんだ! 今度こそ天上院くん、キミを僕のものにしてみせよう!」

 そう言いながら着ぐるみのデュエルディスクを展開し、万丈目たちはデュエルの準備を完了させる。明日香も溜め息混じりにデュエルディスクを展開させ、タッグデュエルの設定を終わらせる。

『デュエル!』

遊矢&明日香LP8000
万丈目&万丈目LP8000

「俺のターン!」

 まずは《おジャマ・イエロー》ではない方の万丈目のターン。俺のデュエルディスクには2ndと表示され、万丈目→俺→万丈目→明日香の順番でターンは進行するようだ。

「ラブデュエル用のカスタマイズを施したこのデッキ……まずは下準備としゃれこもう。モンスターをセットし、カードを二枚伏せてターン終了」

「……俺のターン、ドロー」

 下準備と称した万丈目のターンは、セットモンスターと二枚のリバースカード。まさしく下準備というに相応しいその一手に、俺は警戒を強めてドローする。万丈目はああ見えて、どんなデッキでも扱える、このアカデミアでも指折りの資格を持ったデュエリストである。

 その万丈目が、ラブデュエルという謎のデュエルとはいえ――このデュエルの為に、わざわざ専用のデッキまで構築してきたのだから。……恐らく、本日タッグデュエル大会の連絡を聞いてから。

「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動。お互いに手札を二枚捨て、二枚ドロー」

 ならば何か小細工をしてくる前に、さっさとこのデュエルを終わらせる。そのために速攻魔法《手札断殺》を活用し、万丈目とともに二枚の手札交換を果たす。

「ドローした《スカウティング・ウォリアー》、墓地に送られた《リジェネ・ウォリアー》と《リミッター・ブレイク》の効果を発動! 《リジェネ・ウォリアー》を守備表示、《スピード・ウォリアー》に《スカウティング・ウォリアー》を攻撃表示で特殊召喚!」

 墓地に送られた際効果を発揮する、《リジェネ・ウォリアー》に《リミッター・ブレイク》の二枚の効果と、ドローされた際の《スカウティング・ウォリアー》がの効果が発動される。自身の効果で《リジェネ・ウォリアー》は墓地から特殊召喚され、《リミッター・ブレイク》によりデッキから《スピード・ウォリアー》、手札から《スカウティング・ウォリアー》が現れる。

「さらにもう一体、スピード・ウォリアー》を召喚する!」

 雄叫びをあげて通常召喚される、二体目の《スピード・ウォリアー》。これで俺のフィールドには四体のモンスターが揃い、俺の手札にはそれらを強化する二枚の装備魔法があった。

「よし、装備魔法《団結の力》と《ダブル・バスターソード》を《スピード・ウォリアー》に装備する!」

「ちょ、ちょっと待て!」

 万丈目に流れを掴ませてはいけないと思いつつも、普段ならばいつも温存しながら戦うが、この大会の雰囲気に知らず知らずのうちに揉まれていたのかもしれない。遠慮しない大量展開の後に装備魔法《団結の力》と《ダブル・バスターソード》を装備され、通常召喚された《スピード・ウォリアー》は二刀を以て強化される。

「バトルだ! 《スピード・ウォリアー》でセットモンスターに攻撃! ソニック・エッジ!」

 万丈目の制止する声を聞くことはなく、俺は《スピード・ウォリアー》へと攻撃を命じていく。デメリットはあるものの、《ダブル・バスターソード》は二回攻撃と守備表示の相手への貫通効果、《団結の力》は言わずもがな自分のモンスターの数×800ポイントの攻撃力アップ。よって今の《スピード・ウォリアー》は、攻撃力4100の二回攻撃貫通効果持ちモンスター。

「召喚したバトルフェイズ、《スピード・ウォリアー》の元々の攻撃力は倍になる!」

 ……いや。さらにその攻撃力は900ポイントアップし、《スピード・ウォリアー》の攻撃力は5000ポイントと化す。見るからに顔が引きつる万丈目をよそに、《スピード・ウォリアー》の剣戟がセットモンスターに炸裂した。

「ぐぅぅぅっ! ……だ、だが《メタモルポット》の効果を発動! お互いに手札を全て捨て、五枚ドローする!」

万丈目&万丈目LP8000→3600

 セットモンスターは《メタモルポット》。そのリバース効果が発動し、俺と万丈目が《手札断殺》のように、お互いに手札の交換を果たす。恐らくは万丈目のコンボカードを集めるための策……なのだろうが、このままやるならば。

「《ダブル・バスターソード》は二回攻撃を付与する。《スピード・ウォリアー》でダイレクトアタック!」

「墓地に送られていた《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! その攻撃を無効にする!」

 《メタモルポット》で墓地に送られていたらしい、《ネクロ・ガードナー》が《スピード・ウォリアー》の攻撃を止める。敗北寸前の状況になったとしても、二枚のリバースカードは発動する気配もない。

「残る二体でダイレクトアタック!」

「くくく……」

万丈目&万丈目LP3600→1700

 まだ攻撃していなかった、《スカウティング・ウォリアー》と《スピード・ウォリアー》の二体の攻撃が万丈目に炸裂する。しかし《メタモルポット》で引いた手札がよかったのか、それも気にせずに不敵な笑みを浮かべていた。

「……《ダブル・バスターソード》を装備したモンスターは、バトルフェイズ終了時に自壊する。カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「俺の……」

 こちらのターン終了宣言を受けると、万丈目が自分が取り付けていたデュエルディスクを取り外すと、横に置いてあった《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを着始めた。

「……ドロー!」

 ……どうやら、《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを着た万丈目のターン、ということらしい。《おジャマ・イエロー》の着ぐるみがカードを一枚引き、先の万丈目が伏せていたリバースカードが発動する。

「リバースカード、オープン! 《リバース・リユース》を発動! 墓地のリバースモンスターを二体、特殊召喚する……貴様のフィールドにな!」

 裏側守備表示のセットモンスターが二体、俺のフィールドに特殊召喚される。こちらのフィールドに特殊召喚してどういうつもりだ、と考えている間に、万丈目はさらに盤面を進めていく。

「カードを三枚伏せ、リバースカード、《聖なる輝き》を発動!」

 裏側表示のモンスターを表側表示にする効果を持つ、リバースカード《聖なる輝き》が姿を現す。よって俺のフィールドに特殊召喚されていた、二枚のセットモンスターが姿を現し――万丈目の直前の、カードを全て伏せる行動から察するに。

「《メタモルポット》と《ニードルワーム》……二体のリバース効果を発動させてもらおうか」

 俺のフィールドに特殊召喚されていたリバースモンスターは、先の《メタモルポット》と《ニードルワーム》。再び五枚の手札が墓地に送られ、さらなる手札交換を果たす。加えて万丈目は《ニードルワーム》の効果で、デッキトップから五枚のカードが墓地に送られる。

「ふふふ……跪くがいい、この俺の最強のコンボにな! 速攻魔法《帝王の烈旋》を発動!」

 万丈目の発動した魔法カードとともに、俺のフィールドの《スピード・ウォリアー》が旋風に包まれていく。エクストラデッキからの特殊召喚を封じる代わりに、アドバンス召喚に必要な素材を相手のモンスターで賄うことが出来る、という効果を持つ速攻魔法《帝王の烈旋》。その効果により《スピード・ウォリアー》がリリースされ、万丈目の手札から新たなモンスターが現れる。

「現れろ! 《ワーム・イーロキン》をアドバンス召喚!」

「ワーム……?」

 万丈目のデッキの中でアドバンス召喚したとすれば、【アームド・ドラゴン】だと思ったが。予想外の上級モンスターがフィールドに現れ、異世界でのことから少し顔をしかめた。

「さらに手札から《トラップ・ブースター》を発動! 手札を一枚捨てることで、手札から罠カードを発動することが出来る。俺は《魂のリレー》を発動し、手札から《ワーム・クイーン》を特殊召喚する!」

 手札から罠カードを発動出来る《トラップ・ブースター》から、あらゆるモンスターを特殊召喚出来る《魂のリレー》へと繋げられ、さらに大型のワーム《ワーム・クイーン》が特殊召喚される。ただし《魂のリレー》には重いデメリットがあり、特殊召喚したモンスターがフィールドを離れた瞬間、そのプレイヤーはそのデュエルに敗北する。

 これで万丈目のフィールドには《魂のリレー》の効果で特殊召喚された《ワーム・クイーン》、《ワーム・イーロキン》。さらに《聖なる輝き》に三枚のリバースカード。

 こちらのフィールドには《スカウティング・ウォリアー》に《リジェネ・ウォリアー》。そして万丈目の《リバース・リユース》によって特殊召喚された、《メタモルポット》に《ニードルワーム》。万丈目が何を狙っているか分からない以上、伏せてある《くず鉄のかかし》が頼りだが……

「伏せてある装備魔法《フリント》を《ワーム・クイーン》に装備! さらに伏せてある《シエンの間者》を発動し、《ワーム・イーロキン》を貴様のフィールドに送りつける!」

「なあ万丈目、お前何やってるんだ……?」

 攻撃力を300ポイント下げる装備魔法《フリント》を《ワーム・クイーン》に装備し、さらに相手フィールドにモンスターを送りつける《シエンの間者》により、《ワーム・イーロキン》がこちらのフィールドに送りつけられた。

「ええい、うるさい! もう少しだ! 伏せてある《実力伯仲》を発動!」

「《実力伯仲》……?」

 長い万丈目のソリティアにも、真面目に一瞬たりとも目を離さなかった隣の明日香が、発動された魔法カードの名前を呟いた。確か、両者のフィールドにいる同じ攻撃力のモンスター二体に、効果と攻撃力宣言を無効にすることで、あらゆる効果耐性を付与するカード……だったか。こちらのフィールドには攻撃力2400の《ワーム・イーロキン》、あちらには装備魔法《フリント》で攻撃力がダウンし、2400ポイントとなった《ワーム・イーロキン》が存在する。

「発動条件は満たしてる、か……」

「そしてエンドフェイズ、《シエンの間者》の効果は終わり、《ワーム・イーロキン》はこちらのフィールドに戻る。これでターンエンドとしよう」

 長い長い万丈目のターンが終わり、残ったのは《ワーム・イーロキン》に《ワーム・クイーン》。《聖なる輝き》と《フリント》も残ってはいるが、あの二枚の役割はもう終わっているところだろう。ようやく明日香へとターンが移る。

「……私のターン、ドロー!」

「最初に言っておく。天上院くん、君は僕に何もすることは出来ない」

 明日香がいつになく慎重にカードをドローした瞬間、万丈目は高らかにそう宣言する。これまでの万丈目のソリティアによって、確かに万丈目の布陣は盤石なものとなっていた。

「みたいね……でも、やれるだけ試させてもらうわ。《機械天使の儀式》を発動!」

 神妙に頷いた明日香はまず、彼女の主力たるサイバー・エンジェルを呼びだす儀式魔法、《機械天使の儀式》を発動させた。フィールドにいた《スカウティング・ウォリアー》と《リジェネ・ウォリアー》がリリースされ――どちらの機械戦士のレベルも4、よってレベル8のサイバー・エンジェルが降臨する。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》!」

 そして降臨する最強のサイバー・エンジェル。大量の手にそれぞれ刃物を振りかざしており、まずはその起動効果を発動する。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が特殊召喚に成功した時、相手はモンスター一体を破壊する!」

「俺は《ワーム・イーロキン》を選択!」

 万丈目が選択した《ワーム・イーロキン》に対し、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が接近、目にも止まらぬスピードで切り刻んでいく。……だが、それらの攻撃は全て、《ワーム・イーロキン》には届くことはなく。

「《実力伯仲》の効果により、このカード以外の効果は受けない!」

 《ワーム・イーロキン》と《ワーム・クイーン》に適応された、攻撃と効果を封じる代わりにあらゆる効果を受けなくなり、戦闘による破壊も無効にする効果を持った魔法カード《実力伯仲》。その効果により、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果は受けつけない。

「なら、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で、《ワーム・イーロキン》に攻撃!」

 《実力伯仲》の効果によって戦闘破壊は出来ないが、ダメージを与えることは出来る。《ワーム・イーロキン》の攻撃力は、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》より下回っている……が。こちらも先程のように、何ら攻撃は意味をなさない。

「《魂のリレー》の効果! このカードで特殊召喚したモンスターがフィールドにいる限り、俺はあらゆるダメージを受けない!」

 《魂のリレー》で特殊召喚された《ワーム・クイーン》がいる限り、万丈目には戦闘ダメージだけでなく、効果ダメージすらも通用しない。代わりに《ワーム・クイーン》がフィールドを離れた際、万丈目は強制的に敗北することになるのだが……《ワーム・クイーン》は今、《実力伯仲》の効果によって、あらゆる効果と破壊から免れている。

 それはまるで、難攻不落の要塞のようで。要塞の中にいる万丈目を倒すには要塞を破壊しなくてはならないが、その要塞を絶対に破壊することは出来ない。何の比喩表現でもなく、俺たちに打つ手はなかった。

「くっ……私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 打つ手がなくなった明日香がターンエンドを宣言するとともに、万丈目が《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを脱ぎ捨てる。……その後、再び着れるように畳みながら、元々万丈目が装着していたデュエルディスクを再びつける。

「俺のターン! ドロー!」

 悔しげな明日香とは対照的に、自信満々といった様子で万丈目はカードを引き抜いた。

「だけど万丈目くん? ここからどうする気なのかしら?」

 負け惜しみのようにも聞こえるが、明日香の言った通りだ。確かに万丈目の布陣は難攻不落の要塞だが、その要塞から打って出る手段はない。恐らくはこの《要塞コンボ》を達成する為だけに構築されたそのデッキに、他に攻め手があるとは思えない。

 強いて言えば、自分のデッキ圧縮用に《メタモルポット》や《ニードルワーム》によるデッキ破壊はあったが、その二種は《リバース・リユース》によりこちらのフィールドにいる。そもそもタッグデュエルにおけるデッキ破壊とは、非効率なことこの上なく。そもそも先の過分なデッキ圧縮があって、最初にデッキ切れになるのは万丈目だ。

「もちろんさ、天上院くん。これはキミへのラヴデュエルなのだから! 俺は魔法カード《マジック・プランター》を発動。《聖なる輝き》を墓地に送り、二枚ドロー!」

 デッキ圧縮の為に使っていた《聖なる輝き》をコストに、万丈目は《マジック・プランター》による二枚のドローを果たす。《おジャマ・イエロー》の着ぐるみを着ていない万丈目も、《メタモルポット》によりその手札や墓地は盤石に過ぎる。

「俺はフィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》を発動! このカードが存在する限り、魔法・罠ゾーン以外にも、魔法カードを置くことが出来る!」

 一風変わった効果を持ったフィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》。そのカードの発動には確か、墓地に《ダーク・ネクロフィア》を必要としていた筈だが、先のデッキ圧縮の時に落としていたか。

 そしてその特異な発動条件は、ある特定のカードのサポートに他ならない。

「俺は《魔法石の採掘》により墓地から《トラップ・ブースター》を回収し、発動! 俺は手札から罠カードを発動出来る!」

 墓地の魔法カードを回収するカード《魔法石の採掘》により、先に《おジャマ・イエロー》の万丈目が発動していた、手札から罠カードを発動する《トラップ・ブースター》を回収する。どちらも手札コストを発動条件にしているにもかかわらず、豪快に発動していく万丈目の手札に残った、あのカードこそが――

「《ウィジャ盤》を発」

「カウンター罠《ピュア・ピューピル》! 攻撃力1000以下のモンスターが私のフィールドにいる時、相手のカードの効果の発動を無効にし、破壊する!」

 ――やはり特殊勝利を達成する《ウィジャ盤》だった、が。明日香のカウンター罠《ピュア・ピューピル》の効果――しかも皮肉にも、発動条件を満たしたのは万丈目のモンスターだ――により、発動することなく墓地に送られることとなった。

 フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》により、《ウィジャ盤》の弱点である防御用の魔法や罠カードを使えない、という点は解消出来ているが……墓地の《ウィジャ盤》を回収するカードは、あのコンボ用のデッキに投入されているだろうか。よしんば投入されていたとしても、先のデッキ圧縮で墓地に送られていないだろうか。そして万丈目にダメージを与えることは出来ずとも、万丈目の残り少ないデッキが切れるまで、《ウィジャ盤》の回収と発動を妨害し続けることはこちらにも出来る。

「…………」

 などといった、様々な可能性を頭によぎったのか、万丈目の動きがピタリと止まる。最後の《ウィジャ盤》は詰めが甘かったかもしれないが、ここまであのデッキを回せたのは素直に称賛に値する。

「ふっ……ふはは! 流石だ天上院くん、だが忘れていないかな? このデュエルがラヴデュエルだということを!」

 動きを取り直した万丈目の高らかな宣言により、デュエル場中から明日香に向けられていた、『空気読んでやれよ……』という視線が霧散する。そんな『ラヴ』の発音にこだわった万丈目の宣言に、明日香は意味も分からず眉をひそめる。

「……どういうこと?」

「こういうことだ! 魔法カード《ソウル・チャージ》を発動! ――墓地から蘇ったこの思い、受け取ってくれ!」

 墓地のモンスターを複数体蘇生する魔法カード、《ソウル・チャージ》により、万丈目のフィールドは一瞬にして埋まる。元々フィールドにいた《ワーム・クイーン》に《ワーム・イーロキン》、そして墓地から蘇った《ワーム・ヴィクトリー》、《ワーム・オペラ》、《ワーム・リンクス》。贔屓目に見てもグロテスクなモンスターだったが、万丈目が召喚したそれらは不思議と、どこか愛嬌がある顔をしていた。

 そしてそれぞれが、自身に対応した文字――ワームはそれぞれ、アルファベットを頭文字にしている――に変化していく。《ワーム・リンクス》のL、《ワーム・オペラ》のO、《ワーム・ヴィクトリー》のV、《ワーム・イーロキン》のE、《ワーム・クイーン》のQ。

「L.O.V.E.Queen……アカデミアのクイーンであるキミへ……」

 ……ワームモンスターを使っていたのは、このメッセージを仕込むためだったらしく。アカデミアのクイーン、という久しぶりに聞いた称号とともに、万丈目がこちら――明日香へと手を伸ばす。

「……ごめんなさい。私は――」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」

万丈目&万丈目LP1700→0

 明日香の謝罪の言葉の後に続いていた言葉は、万丈目の痛烈な悲鳴でかき消された。それほどまでに万丈目の心がダメージを受けたという訳ではなく、あくまで《ソウル・チャージ》のデメリット――蘇生したモンスターの数だけ、そのライフポイントを失う――が払われただけだ。《実力伯仲》と《魂のリレー》のコンボも、自らライフポイントを失うことへの対策はない。

 ……まったく実感が湧かないものの、こうして俺たちペアは一回戦を勝ち抜いた。倒れ伏していた万丈目に駆け寄り、明日香が膝を着いて視線を合わせた。

「ありがとう万丈目くん。気持ちも嬉しいし、コンボも凄かったわ。でも私、デュエリストが相手だとライバルに見ちゃうから……そういう対象としては見れないの」

「て、天上院くん、僕は……」

 助け起こそうとする明日香の手を拒み、万丈目は自分の力で立ち上がると、最後に何か言おうとする――前に、万丈目はデュエル場から放り出されていた。

「ほら、負けた万丈目先輩はさっさと退くザウルス」

「ま、待て剣山、最後に――」

 いつの間にかデュエル場に上がっていた剣山に、無理やり万丈目は退場させられてしまう。それでも抵抗しようとはしていたが、どこからか現れたスタッフに連行されていく。

「遊矢先輩。回復、何よりドン」

「あ、ああ……ありがとう」

 それを何とも言えない表情で見つめていた俺に、剣山が快気祝いの言葉を送ってくれる。礼儀正しく礼をする剣山の腕には、デュエルディスクが装着されており――次の対戦相手を、明日香とともに確かめると。

「そう、わたしたちだよ!」

 ティラノ剣山と早乙女レイ。後輩コンビの名が対戦表には記されており、レイが自分たちと対面のフィールドに立っていた。そこに剣山も合流し、デュエルディスクを展開していく。

「遊矢様。万丈目先輩じゃないけど……ここでわたしの想い、受け取ってもらうんだから!」

「……様つけは止めろと」

 二連続で俺たちペアがデュエルしてもいいのかと、チラリと吹雪さんを見ると、いい笑顔でGOサインを出していた。先のデュエルがアレだったので、特に俺も明日香に疲労もなく……デュエルディスクを展開し、デュエルの準備を完了させる。

『デュエル!』

遊矢&明日香LP8000
レイ&剣山LP8000

 デュエルディスクは俺の先攻を指し示し、まずは五枚のカードを手札に加える。先の万丈目のデュエルとは違い、あまり攻め手には向かない手札。

「モンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「わたしのターン、ドロー!」

 次なるターンはレイのターン。これでこのタッグデュエルのターンの順番は、おおよそ伺い知れることとなった。

「わたしは《ミスティック・エッグ》を召喚!」

 レイが使うミスティックシリーズの中でも、最も幼生体であるモンスター。ステータスのどちらもが0であり、破壊されたターンのエンドフェイズ時に、デッキから《ミスティック・ベビー・ドラゴン》をリクルートする効果を持つ。

「さらにカードを一枚伏せ、魔法カード《恋文》を発動! 相手プレイヤーは、わたしのモンスターかリバースカード、どちらかのコントロールを得る。さあ遊矢様、選んで!」

 自分のフィールドのモンスターかリバースカード、そのどちらか相手が選んだ方を明け渡すカード、ということらしい。よって《ミスティック・エッグ》がリバースカード、そのどちらかを俺は手に入れることが出来る。

「……リバースカードだ」

 使用出来るかどうか分からないリバースカードより、普通なら断然モンスターカードだが……《ミスティック・エッグ》の攻撃力は0、しかもリクルーターである。嫌な予感を隠しきることが出来ず、またセットカードをコストに二枚ドローする魔法カード、《ブラスティング・ヴェイン》の存在からリバースカードを選ぶ。

「ありがとう遊矢様、わたしの想いを受け取ってくれて……通常魔法《強制発動》を発動!」

 こちらのフィールドに移ったリバースカードがどんなものか、確認しようてした瞬間にはすでに、レイの魔法カード《強制発動》は発動されていた。俺がそのリバースカードに疑問を呈す声とともに、その名の通り相手のリバースカードを強制的に発動させるそれにより、ゆっくりとそのリバースカードは発動された。

「《パートナーチェンジ》……?」

 レイのカードではあるが今は俺のフィールドにあり、効果の確認は可能。長々と効果処理について書いてあるが、要するに――発動プレイヤーは、パートナーを交換する申し出を相手に申し込み、申し出を受け入れたプレイヤーを新たなパートナーとする。

「遊矢様の申し出なら、わたしはもちろんOKだよ!」

 こうしてレイは凄くいい笑顔とともに申し出を受け入れ、俺のパートナーとなっていた――
 
 

 
後書き
愛の力はドローカードすらも創造する(自作自演 

 

―パートナー―

遊矢・レイペア:セットモンスター リバースカード×2 《パートナーチェンジ》 LP8000

剣山・明日香ペア:《ミスティック・エッグ》 LP8000


「わたしのターン、ドロー!」

 ……ざわめく観客や俺たちを完全にスルーしながら、またもやレイがカードをドローする。全てはレイのコンボによって発動された、効果処理というかカードの効果自体が珍しい、永続罠《パートナーチェンジ》が全ての原因だった。

「頑張ろうね、遊矢様!」

「あ、ああ……」

 そんな太陽のように眩しい笑顔をしてきても、何と答えていいやらこちらが困る。俺のデュエルディスクにセットされた扱いの、レイから渡された永続罠《パートナーチェンジ》の効果を見て、そもそもどうしてこうなったのかを考える。

 相手のフィールドにセットカードを移す《恋文》。相手のセットカードを強制的に発動する《強制発動》。そして件の《パートナーチェンジ》により、俺のパートナーが明日香からレイへと移った。この自作自演――もとい、本人曰く《恋する乙女コンボ》により、レイと明日香の立ち位置が入れ替わった。そして本来、次なるターンは明日香の筈だったため、ターンが移行しても再びレイのターン、という訳となり。

「わたしは《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を召喚し、バトル!」

 そして明日香と剣山のフィールドには、レイが召喚した攻撃力0のリクルーター《ミスティック・エッグ》のみ。新たにモンスターを召喚し、そのモンスターへと狙いを定める……流れと盤面は、完全にレイに支配されていた。よくわからないうちに。

「《ミスティック・ベビー・ドラゴン》で、《ミスティック・エッグ》に攻撃! ミスティック・ベビー・ブレス!」

「きゃぁ!」

明日香・剣山LP8000→6800

 兄貴分としては、妹分の成長を喜ぶべきか――などと考えていたが、ダメージを受けた明日香の声によって現実に引き戻される。いつまでも呆けている暇ではないのだ。とにかく、メルヘンチックな小さな竜、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》の攻撃が炸裂し、その効果の発動条件を満たす。

「エンドフェイズ、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》と、破壊した《ミスティック・エッグ》の効果を発動! それぞれ対応したモンスターに進化するよ!」

 そのどちらもが、エンドフェイズという微妙に遅いタイミングだったものの。戦闘破壊した時と戦闘破壊された時、という発動条件を満たし、レイのフィールドにそれぞれ《ミスティック・ベビー・ドラゴン》と《ミスティック・ドラゴン》となって舞い戻る。レベルアップモンスターに似た独特の動きを見せながら、これでレイのフィールドは――いや、俺たちのフィールドは、いきなり攻撃力3600を誇る大型モンスターが陣取った。

「これでわたしはターンエンド」

「まだどうなったかイマイチ分からんザウルスが……とにかく負けないドン! オレのターン、ドロー!」

 剣山らしい解決方法を見せながら、次なるターンは剣山のターン。勇ましくカードを引くと、一枚のカードをデュエルディスクにセットする。

「まずは魔法カード《アースクエイク》を発動ザウルス! フィールドのモンスターを全て、守備表示にするドン!」

 フィールドのモンスター全て、とはいうものの、剣山のフィールドにモンスターはおらず。俺たちのフィールドに存在する、《ミスティック・ドラゴン》に《ミスティック・ベビー・ドラゴン》が効果を受ける。俺がセットした裏側守備表示モンスターは、効果を受ける以前にそもそも守備表示だ。

「そして《始祖鳥アーキオーニス》を召喚! さらに《超進化薬・改》を発ドン!」

 すぐさま発動された《超進化薬・改》により、《始祖鳥アーキオーニス》がリリースされていく。その効果は鳥獣族をリリースすることで、手札から最上級モンスターを特殊召喚する、という効果。

「来い! 《究極恐獣》!」

 レイも先のターン、あっさりと最上級モンスターをフィールドに出してみせたが、そもそもそれは剣山の領分であり。剣山もレイに対抗するかの如く、恐竜族でも有数の《究極恐獣》を召喚してみせる。攻撃力は《ミスティック・ドラゴン》の方が上だが、それは《アースクエイク》で対策済みであり。

「この恐竜さんは、全てのモンスターに一回ずつ攻撃できる効果を持ってるんだドン! バトル、アブソリュート・バイト!」

 こちらのフィールドにいる三体のモンスター。それらが全て《究極恐獣》の標的であり、その名に違わず噛み砕かんと迫るが、その口が噛み砕いたのはまずはモンスターではなく。

「やらせない! リバースカード、《和睦の使者》を発動!」

 伏せていた二枚のリバースカードのうち一枚、《和睦の使者》が《究極恐獣》の攻撃を防ぎきる。いくら全てのモンスターに攻撃出来るとはいえ、こちらのモンスターを戦闘破壊から守る《和睦の使者》には及ばない。

「くっ……だけど、《ミスティック・ドラゴン》だけは破壊させてもらうザウルス! メイン2、魔法カード《シールドクラッシュ》を発ドン!」

「《ミスティック・ドラゴン》!」

 《和睦の使者》で防げるのは、あくまで戦闘破壊に対してのみ。相手の守備表示モンスターを破壊するカード《シールドクラッシュ》には手も足も出ず、最も守りたかった《ミスティック・ドラゴン》は破壊されてしまう。

「よし、ターンエンドン!」

「……俺のターン、ドロー!」

 まだ明日香のターンが来ていないが、とりあえず一巡して俺のターンへと戻ってくる。こちらのフィールドには《ミスティック・ベビー・ドラゴン》にセットモンスターと、使うタイミングではないリバースカードが一枚。対する相手のフィールドは、《究極恐獣》が一体控えているのみ。このフィールドの格差は、主にレイが《パートナーチェンジ》で手番を荒らしたからだが。

「俺はセットモンスターをリバース。《音響戦士ピアーノ》!」

 最初のターンから伏せられていたセットモンスター、《音響戦士ピアーノ》が遂に姿を現した。モンスターを通常召喚するまでもなく、フィールドにはレイが用意してくれた《ミスティック・ベビー・ドラゴン》。

「遊矢様!」

「ああ! 俺はレベル4の《ミスティック・ベビー・ドラゴン》と、レベル3の《音響戦士ピアーノ》でチューニング!」

 何にせよ目の前のデュエルに集中しようと、剣山と同じような結論を出しながら、俺は二体のモンスターでチューニングしていく。レイの《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を借り、《音響戦士ピアーノ》とともに光に包まれていく。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 金色の鎧を着た、七つの剣を持った機械戦士。《セブン・ソード・ウォリアー》がフィールドに降り立ち、まるで勇者のように《究極恐獣》へと並び立った。

「さらに《アームズ・ホール》を発動。通常召喚を封じることで、デッキから装備魔法を一枚、手札に加えることが出来る。俺は《ファイティング・スピリッツ》をサーチし、《セブン・ソード・ウォリアー》に装備する!」

 デッキトップを墓地に送りながら、好きな装備魔法をサーチかサルベージが出来る優秀な魔法カード《アームズ・ホール》だが、やはり通常召喚が出来なくなるというのは痛い。レイがフィールドに《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を残してくれたおかげで発動でき、さらに《セブン・ソード・ウォリアー》への効果の発動へと繋ぐ。

「セブン・ソード・ウォリアーの効果。このモンスターに装備カードが装備された時、相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

明日香・剣山LP6800→6000

 《セブン・ソード・ウォリアー》が放った小刀が剣山に炸裂し、そのライフポイントを僅かに減らす。装備魔法《ファイティング・スピリッツ》は、上昇値がこの局面では僅か300ポイントと少なく、《究極恐獣》に及ぶべくもないが。もちろん800ポイントのバーンダメージを与えるためだけに、《セブン・ソード・ウォリアー》をシンクロ召喚したのではない。

「さらに《セブン・ソード・ウォリアー》は、装備魔法を墓地に送ることで、相手モンスターを一体破壊する!」

 狙いは当然《究極恐獣》。装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を墓地に送り、《セブン・ソード・ウォリアー》は《究極恐獣》を一太刀のもとに斬り捨てる。さらにショックを受けたような剣山の前に立ちはだかり、ただ俺の命令を待つ。

「バトル。セブン・ソード・ウォリアーで、剣山にダイレクトアタック! セブン・ソード・スラッシュ!」

「ぐあああっ!」

明日香・剣山LP6000→3700

 こちらのライフポイントがまだ8000にもかかわらず、あちらのライフポイントはすでに半分を切った。フィールドにも何もなく、どう見てもこちらが有利な局面だ。

「やったね、遊矢様!」

「……ターンエンドだ」

 すっかり最初からパートナーだったような感じになっているが、それでも息が合っていることは確かで。どこか釈然としない思いを感じながらも、俺と剣山は《パートナーチェンジ》に対応してしまっていた。……残るは。

「私のターン」

 ――何故かトーナメントに熱狂していた観客が、明日香のその一言によってピタリと止まる。まるで冷水でも浴びせられたような光景に、当のこちらは凍らされているようだ――と思いながら、遂に明日香のターンへと移る。

「ドロー」

 今まで実質ターンが回って来なかったということは、つまり手札は他のメンバーと違って潤沢ということで。ドローしたカードを含めた全ての手札を眺めながら、明日香は一瞬だけ思索するような表情を見せる。

「私は速攻魔法《サイクロン》を発動!」

「あっ……!」

 明日香が発動した一枚の汎用カードに、レイが驚いたような、しまったというような声をあげる。レイの自作自演コンボの中核を成すのは、永続罠《パートナーチェンジ》――つまり、そのカードが破壊されてしまえば、まずそのコンボは瓦解してしまう。それを対策したカードは恐らくまだデッキの中であり、明日香の旋風は為すすべもなく、俺たちのフィールドへと襲いかかった。

 ……そして旋風が吹き飛ばしたのは、俺のフィールドに残っていたリバースカード。剣山の大型モンスターを警戒して最初のターンに伏せたものの、使うタイミングが訪れなかった《ガード・ブロック》だった。

「な、なんで……」

「……さっきのデュエル」

 《パートナーチェンジ》ではなく、正体不明だったリバースカード。予想外の《サイクロン》の行き先に、レイが口から勝手に出たように、しかしはっきりと疑問の声を発する。それに明日香は俺とレイに向かって、不敵な笑みとともに返してきていた。

「引き分けなんて私の性に合わないから。決着をつけましょう、遊矢」

「…………」

 このタッグデュエル大会を前にした、先の俺と明日香のエキシビションデュエル。《パワー・ツール・ドラゴン》と《サイバー・エンジェル-弁天-》の激闘により、引き分けによって幕を閉じていた。その決着をつける為だと――効果のない《パートナーチェンジ》より、正体不明のリバースカードを優先したのだ。

「よし……来い明日香!」

「ええ! 儀式魔法《高等儀式術》を発動!」

 会場に熱気が戻っていき、明日香のデッキにおけるキーカードとも呼べるカードが発動される。デッキから二枚の通常モンスターが墓地に送られ、明日香のフィールドに機械化された天使が舞い降りる。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》!」

 降臨する最強のサイバー・エンジェル。七つの刃を持った機械天使が、登場した瞬間にこちらのフィールドの《セブン・ソード・ウォリアー》を切り刻む。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果。このモンスターが特殊召喚された時、相手はモンスター一体を破壊する」

「俺たちのフィールドには《セブン・ソード・ウォリアー》しかいない……」

 つまり、破壊されるのは《セブン・ソード・ウォリアー》に限られる。そして直接攻撃対策の《ガード・ブロック》も先の《サイクロン》で破壊され、これで俺たちのフィールドに残るのは《パートナーチェンジ》のみ――《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が迫る。

「バトル! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》でダイレクトアタック!」

「ぐあっ!」

遊矢・レイLP8000→5300

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》により、こちらへの最初のダメージが与えられ、明日香のバトルフェイズが終了する。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》がしたり顔の明日香へと戻っていき、守護天使のようにその隣へと降り立った。

「私はこれでターンエンド」

「わたしの……ターン、ドロー」

 明日香のターンから続いてレイのターンへと移行されたが、そのレイのドローに気迫がない。意気消沈をしているというべきか、より強いものに呑まれてしまっているかのようだった。

「わたしはモンスターをセット……さらに」

 貫通効果を持った《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に対して、裏側守備表示モンスターをセットするのみ、という悪手。だがレイは、さらにもう一枚の魔法カードを発動した。

「魔法カード《マジック・プランター》を発動! 永続罠を墓地に送ることで、カードを二枚ドローする!」

 永続罠――すなわち、《パートナーチェンジ》。永続罠をコストに二枚ドローする《マジック・プランター》により、《パートナーチェンジ》は墓地に送られる。よってレイが発動していたカードの効果は、他ならぬレイの手によってその効果を失った。

「レイ……?」

「レイちゃん?」

「……うん、もう止めた!」

 自分で発動したコンボを自分で破壊する、という不可解な行動に対して、明日香と俺の疑問の声が重なった。その言葉の返答のように、レイは俺に向けて指をビシリと向ける。

「好きな者は力づくで振り向かせる! それが恋する乙女の心意気なんだから!」

 宣戦布告のようにレイはそう告げると、今は明日香がいる元々のフィールドへと戻っていく。その途中で入れ替わりになる明日香と、二人は少しばかり向き合った。

「ありがとうございます、明日香さん。おかげさまで心意気を思い出しました!」

 こんなカードに頼ってるんじゃなくて――と、レイの言葉は続いた。それを微笑みでもって明日香は返答をすると、二人は元のフィールドへと戻ってきた。レイのターンから明日香のターンにはなったものの、もう通常召喚の権利は裏側守備表示モンスターのセットで失い、明日香の手札にも展開出来る手段はないらしく。実質、ターンがまたもや飛ばされたように等しかった。

「ねぇ遊矢。私、ちょっと怒ってるわ」

「え?」

 再び隣に立った明日香だったが、いきなりそんなことを呟いた。嫌な予感がしてゆっくりと明日香の方向を向くと、無表情でただただ剣山とレイのフィールドを見つめていた。むしろ怖い。

「あなた、《パートナーチェンジ》を破壊出来るのにしなかったわね?」

「……それはそっちの話じゃないのか」

 《サイクロン》で《パートナーチェンジ》ではなく、俺のリバースカードを狙ったのは明日香の方だ。しかしその反論は、明日香が早口で言いだした言葉に続くことはなかった。

「装備魔法をサーチ出来る《アームズ・ホール》。これであなたのデッキにある、魔法・罠カードを破壊出来る装備魔法《パイル・アーム》をサーチ出来たわよね?」

「…………」

 ぐうの音も出なかった。明日香の言った通りに《パイル・アーム》は、フィールドの魔法・罠カードを破壊する効果を持つ装備魔法であり、先のターンに発動した《アームズ・ホール》があればサーチ出来ていた。

「……まあ、その話はあとにしましょう。それより、この状況をどうするか考えないとね。私は、カードを一枚伏せてターンエンド!」
「あ、ああ……」

 《パートナーチェンジ》が効力を失ったことにより、またもやフィールドが劇的に変更される。俺と明日香のフィールドは、レイが残していった裏側守備表示のセットモンスター――確認すると《トリオンの蟲惑魔》だったが、俺たちのデッキでは有効活用は出来ない。さらに、明日香が今伏せたリバースカードのみ。

 剣山とレイのフィールドには、明日香が儀式召喚した《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》。悪手と思われたレイの手は、そのまま俺たちが打った悪手として残っていた。自分の妹分ながら最後まで抜け目のない。

「何が何だか分からんザウルスが……オレにはオレの出来るデュエルをするだけザウルス! ドロー!」

 《パートナーチェンジ》が適応されていない、正しい順番へと修正されたことにより、剣山の手番へと移行する。

「オレは《貪欲な壺》を発ドン! 墓地のモンスターを五体デッキに戻し、二枚ドローするザウルス! ……よし、《暗黒プテラ》を召喚!」

 恐らくはレイのモンスターも含めて五体のモンスターをデッキに戻し、剣山は汎用カード《貪欲な壺》により、二枚のドローを果たす。それとともに召喚されたのは、小型のプテラノドンと呼ばれる恐竜。

「さらに《大進化薬》を発ドン! 恐竜族をリリースすることで、恐竜族のリリースを無くせるザウルス!」

 相手のターンで3ターン、フィールドに残り続けるかの《光の護封剣》にも似た、特異な効果処理を持つ通常魔法《大進化薬》。フィールドに召喚された《暗黒プテラ》がリリースされ、これで剣山はノーコストで上級以上の恐竜族を召喚出来る。ただ、このターンは既に通常召喚を終えているが……

「《暗黒プテラ》は戦闘以外で墓地に送られた時、手札に戻るザウルス。さらに《二重召喚》を発動し、来い! 《ダークティラノ》!」

 ……そこは剣山も抜かりはない。通常召喚権を増やす《二重召喚》により、上級モンスター《ダークティラノ》の召喚を果たした。さらに《大進化薬》のコストとなった《暗黒プテラ》は、自身の効果によって剣山の手札へと戻っていき、これで剣山のメインフェイズは終了する。

「《ダークティラノ》は相手モンスターが守備表示の時だけ、ダイレクトアタック出来るザウルス! いけぇ、ダークティラノ!」

「っつ……!」

遊矢・明日香LP5300→2700

 俺たちのフィールドには裏側守備表示の《トリオンの蟲惑魔》が一体。よって《ダークティラノ》の効果が適応され、俺たちへのダイレクトアタックとなった。そのブレスが俺と明日香に直撃し、あっという間にライフは剣山たちを下回る。

「さらに《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》でセットモンスターを攻撃ザウルス!」

 《ダークティラノ》の攻撃は直接攻撃となったが、結局は《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》によって《トリオンの蟲惑魔》は破壊される。攻撃の順番の違いでしかなかったが、剣山の野生の勘が成せる技か、明日香が伏せていたリバースカードを苦々しげに眺めた。

「言うまでもないと思うザウルスが、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は貫通効果を持ってるドン」

遊矢・明日香LP2700→1200

 元はといえば明日香のモンスターだ。もちろん貫通効果は百も承知だが、一瞬にしてライフを風前の灯火にしてみせた剣山たちペアに、観客からの応援の声が強くなる。それに手を振って答えながら、剣山はバトルフェイズを終了し。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドン!」

「俺のターン、ドロー!」

 これで剣山のフィールドは《ダークティラノ》に《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》、効果が適応されたままの《大進化薬》に、今し方伏せたリバースカード。どうするか、と思索する俺に、隣から明日香が話しかけてきていた。

「……ごめんなさい遊矢。私が残してきたモンスターが……」

「大丈夫だ。アレにやられるのは慣れてるからな」

 明日香との今までのデュエルにおいて、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に何回してやられたことか。申し訳なさそうだった明日香の表情は、その一言で小さな笑みを見せていた。

「そうね。何回やられたかも分からないわ」

「ああ。今回もやってやるさ! 《スピード・ウォリアー》を召喚!」

 そして召喚されるマイフェイバリットカード。フィールドに旋風を巻き起こすそのモンスターに、レイと剣山の緊張が伝わってきた。

「さらに魔法カード《ヘルモスの爪》を発動! 手札のモンスターと融合し、新たな装備魔法となる!」

「えっ!?」

 さらに発動した魔法カード《ヘルモスの爪》に対し、レイの驚愕する声が響き渡る。百聞は一見にしかず、手札の《ガントレット・ウォリアー》を融合素材とし、それらは新たな装備カードとなって生まれ変わり、《スピード・ウォリアー》の新たな力となる。

「融合召喚! 《ヘルモス・ロケット・キャノン》!」

 《ガントレット・ウォリアー》が巨大なロケットランチャーとなり、融合召喚されるとともに、《スピード・ウォリアー》の右手に装着される。その外見に反してステータスのアップ等はないが、それはまだこれからだ。

「さらに装備魔法《バスターランチャー》を《スピード・ウォリアー》に装備し、バトル!」

 《ヘルモス・ロケット・キャノン》とは逆の、左手に新たな装備魔法《バスターランチャー》が装備され、《スピード・ウォリアー》が重火器を背負ったような姿となる。《バスターランチャー》の効果は、相手モンスターの攻撃力が2500ポイント以上の時、装備モンスターの攻撃力を2500ポイントアップさせる効果。剣山の《ダークティラノ》と《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は、そのどちらもが2500ポイント以上の攻撃力を持つ。

「《スピード・ウォリアー》で《ダークティラノ》に攻撃! バスターランチャー、シュート!」

「まだまだザウルス……!」

レイ・剣山LP3700→2900

 《ダークティラノ》の攻撃力は2600。よって《バスターランチャー》の効果が適応され、左手に装備されたランチャーが《ダークティラノ》を撃ち貫いた――さらに。

「まだだ! 《ヘルモス・ロケット・キャノン》を装備したモンスターは、二回の攻撃が出来る! 続けて《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃!」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃力は2700と、やはり《バスターランチャー》の効果が適応される数値であり、《ヘルモス・ロケット・キャノン》から放たれたロケットが荼吉尼を襲う。明日香には悪いが、そのロケットは寸分違わず《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に直撃し、その身を散らせていた。

レイ・剣山LP2900→2200

「よし……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「わたしのターン! ドロー!」

 《スピード・ウォリアー》による反撃が炸裂し、フィールドもライフポイントもそうだが、デュエルは互角の状況となっていた。そうしてターンは移行していき、レイのターンへと移る。

「わたしは《ティオの蟲惑魔》を召喚! このモンスターが召喚に成功した時、墓地から蟲惑魔を特殊召喚出来る! 来て、《トリオンの蟲惑魔》!」

 レイが新たにデッキに取り入れていたシリーズ、蟲惑魔モンスターが、その連携において二体フィールドに並ぶ。先程俺たちのフィールドにセットモンスターとして、《トリオンの蟲惑魔》を置いていったのは、この《ティオの蟲惑魔》の効果に繋げるためでもあったようだ。

「さらに《トリオンの蟲惑魔》が特殊召喚に成功した時、相手の魔法・罠カードを破壊する! 明日香さんのリバースカードを破壊!」

 さらに特殊召喚された《トリオンの蟲惑魔》は、相手の魔法・罠カードを破壊する効果を持つ。先程剣山からの攻撃の際、明日香がリバースカードを使うかどうか迷ったのを見逃さなかったらしく、《トリオンの蟲惑魔》の効果により《奇跡の残照》が破壊される。

「《奇跡の残照》……ううん、いくよ! 二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 《ティオの蟲惑魔》と《トリオンの蟲惑魔》、二体のモンスターが一体となっていく。最近の召喚方法としてまだ珍しいのか、オーバーレイ・ネットワークの構築に対し、観客の生徒から歓声が漏れる。二体の蟲惑魔によるエクシーズ召喚により、新たな蟲惑魔モンスターがフィールドに現れる。

「恋する乙女を守って! 敵を惑わす花弁の罠、《フレシアの蠱惑魔》!」

 ラフレシア。世界最大の花とも呼ばれるその花から、花に守られるように少女が姿を現した。可憐なその姿に似合わず、その効果は非常に厄介なもの。

「カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

「私のターン、ドロー!」

 レイは《フレシアの蠱惑魔》をエクシーズ召喚した後、さらにリバースカードを二枚伏せてターンを終了する。これで剣山の《大進化薬》とリバースカードを含めて、レイたちのフィールドは守勢に入る。

 対してこちらのフィールドにいるのは、《バスターランチャー》と《ヘルモス・ロケット・キャノン》を装備した《スピード・ウォリアー》と、俺が伏せたリバースカード。そこからどう攻めるか明日香が考えていると、攻め込むためにカードを発動する。

「私は《融合》を発動! 手札の《エトワール・サイバー》と、《ブレード・スケーター》を融合!」

 《融合》によってフィールドに現れるのは、明日香の融合におけるエースカード。サイバー・エンジェルとはまた違う、明日香のデッキの中核を成すモンスターだ。

「融合召喚! 《サイバー・ブレイダー》!」

 融合召喚される明日香のエースカード。融合召喚を表す時空の穴から、滑るようにフィールドに現れると、そこでレイが効果の発動を宣言する。デッキからの落とし穴の発動――これこそが他に類を見ない《フレシアの蠱惑魔》の効果であり、落とし穴を司る蟲惑魔モンスターたちの切り札に相応しい効果だ。だがそれは明日香も百の承知のようであり、あくまで《サイバー・ブレイダー》は囮のようでもあった。

 自身のエースカードすらも囮にする、豪胆な手段を取った明日香が、一つミスをしたとすれば――レイが発動した罠カードだった。

「リバースカード、オープン! 《激流葬》!」

「なんですって!?」

 発動されたカードは《フレシアの蠱惑魔》ではなく、伏せてあった《激流葬》。その効果により、こちらのフィールドの《スピード・ウォリアー》と《サイバー・ブレイダー》は破壊される。だがレイのフィールドにいた《フレシアの蠱惑魔》は、罠カードからの効果破壊耐性を持っているため、《激流葬》に巻き込まれることはなく。

「ふふん、《フレシアの蠱惑魔》の効果だと思ったでしょ!」

「確かにね……」

 《フレシアの蠱惑魔》という格好の撒き餌に誘き出され、まんまと本命の《激流葬》をくらってしまう。もちろん、嬉しそうなレイと悔しげな明日香で対照的だったが、まだ明日香のターンは終わっていない。

「私はモンスターをセット。さらにリバースカードを二枚伏せて――」

「おっと! ここで《フレシアの蠱惑魔》の効果を発動! このカードのオーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、デッキから落とし穴をこのモンスターの効果として、発動出来る!」

 落とし穴系統のカードとて、ただ召喚に反応する訳ではなく。裏側守備表示でセットした明日香にとて、その花弁の罠は襲いかかっていく。

「デッキから《硫酸のたまった落とし穴》を発動! 裏側守備表示モンスターの守備力が2000以下なら、そのモンスターを破壊する!」

 明日香が裏側守備表示でセットしていたのは、守備力1800の《サイバー・ジムナティクス》。デッキから発動された《硫酸のたまった落とし穴》の破壊圏内であり、壁モンスターとしての役目も果たせず破壊されてしまう。

「……ターンエンドよ」

「オレのターン、ドローザウルス!」

 しかし、もはや明日香に出来ることはなく。フィールドを空けたままターンを終了し、剣山のターンへと移行していく。

「フィールドにはまだ《大進化薬》が残ってるザウルス! 《暗黒ドリケラトプス》をリリース無しで召喚だドン!」

 恐竜族モンスターのリリース無しでの召喚を可能とする、《大進化薬》は未だに剣山たちのフィールドに残っている。その効果は依然として適応されたままであり、上級恐竜族モンスター《暗黒ドリケラトプス》が召喚される。

「一気に決めるドン! 伏せてあった《化石発掘》を発動し、手札を一枚捨てることで、効果を無効にして恐竜さんを墓地から復活させるザウルス! 蘇れ、《究極恐獣》!」

 一気に決める、という剣山の言葉通りに。手札も《化石発掘》のコストで使い果たしたようではあるが、あっという間に二体の恐竜族でフィールドを制圧してみせた。その圧倒的な体躯を見せつけながら、俺たちへと地響きをたてながら迫ってきていた。

「バトル! 《暗黒ドリケラトプス》で、ダイレクトアタックザウルス!」

「リバースカード、オープン! 《ピンポイント・ガード》! ダイレクトアタックを受けた時、墓地からレベル4以下のモンスターを、守備表示で特殊召喚する! 来なさい、《エトワール・サイバー》!」

 融合のエースカードこと《サイバー・ブレイダー》の融合素材、《エトワール・サイバー》が墓地から特殊召喚される。絶対絶命というタイミングでの特殊召喚だったが、《暗黒ドリケラトプス》の攻撃が止まることはなかった。

「《暗黒ドリケラトプス》は貫通効果を持ってるドン! 怪鳥!」

「きゃあっ!」

遊矢・明日香LP1200→400

 空中から急降下して勢いをつけたくちばし攻撃に、《エトワール・サイバー》の防御を通り越して、俺たちへのダメージが衝撃波となって伝播する。次の一撃は耐えられないだろう。

「だけど《ピンポイント・ガード》で特殊召喚されたモンスターは、戦闘では破壊されないわ」

 《暗黒ドリケラトプス》にボロボロにされたものの、《ピンポイント・ガード》によって破壊耐性を付加された《エトワール・サイバー》は、何とかフィールドに維持される。《化石発掘》によって蘇生された《究極恐獣》では突破出来ず、恐竜たちは剣山のフィールドに戻っていく。

「くっ……ターンエンドザウルス……」

「俺のターン、ドロー!」

 仕留めきれなかったことを悔やむような剣山から、ようやく俺のターンへと移行する。剣山のフィールドには《究極恐獣》と《暗黒ドリケラトプス》に一枚のリバースカード、そして何より《フレシアの蠱惑魔》が存在する。恐らくタッグを組むにあたって、剣山のデッキにも落とし穴系統のカードが入っていてもおかしくない。

 ここで発動されては苦しいカードは、《奈落の落とし穴》と《串刺しの落とし穴》。特に《串刺しの落とし穴》はゲームエンドに持ち込まれる可能性もあり、剣山の性格から考えると、どちらかと言えば《串刺しの落とし穴》が入ってる可能性が高い。

 ならば、こちらのフィールドにあるカードは。守備表示の《エトワール・サイバー》と、明日香と俺が伏せたリバースカードが一枚ずつだ。俺が伏せたカードは言わばブラフだったが、明日香が伏せていた、《ピンポイント・ガード》ではない方のリバースカードは――

「遊矢。……もう、何年も前だけど」

「……リバースカード、オープン! 《融合回収》! 《融合》のカードと、融合素材モンスターを手札に加える!」

 明日香が伏せていたのは罠カードではなく、自分のターンにしか使えない通常魔法カード。つまり――次のターンである俺に託したカードに他ならず、《融合》の魔法カードと融合素材となったモンスター――《ブレード・スケーター》を手札に加える。

「まさか……!」

 こうなれば、使うべきカードは一つしかない。明日香が《ピンポイント・ガード》において、守備力が高くモンスター破壊効果を持つ《サイバー・ジムナティクス》ではなく、何故《エトワール・サイバー》を蘇生させたかの答え。

「俺は魔法カード《融合》を発動!」

「遊矢先輩が……融合ザウルス!?」

 《ミラクルシンクロフュージョン》や《ヘルモスの爪》ではなく、正真正銘の《融合》魔法カード。今し方《融合回収》でサルベージした、明日香の使っていた融合カードであり、この状況において俺が融合召喚出来るカードが一枚だけある、

 ――それはある意味、シンクロモンスターの機械戦士たちよりも、長い付き合いのある仲間で。

「融合召喚! 《サイバー・ブレイダー》!」

 俺のエクストラデッキから現れる、明日香の代名詞こと《サイバー・ブレイダー》。一年生の際に貰っていたカードであり、それから印象深いデュエルの度に力を貸してくれた。セブンスターズ、光の結社、プロフェッサー・コブラ、アモン――それらの共通点は、明日香を助けるためにデュエルしていたことと、人前で行うようなデュエルではなかったことだ。

「《サイバー・ブレイダー》がなんで遊矢先輩のデッキに!?」

「……《サイバー・ブレイダー》第三の効果! 相手モンスターが三体のみの時、相手のカード効果を全て無効にする! パ・ド・カドル!」

 驚愕を顕わにする剣山からの質問をよそに、《サイバー・ブレイダー》の効果を適応する。剣山たちのフィールドには、《暗黒ドリケラトプス》に《究極恐獣》、そして《フレシアの蠱惑魔》の三体。よって《サイバー・ブレイダー》第三の効果が発動し、相手のカード効果を全て封殺する。

「さらに《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊することで、カードを二枚ドローする」

 効果を無効にしてしまえば、いくら《フレシアの蠱惑魔》だろうとその効果は使えない。心置きなくセットカードをコストに二枚ドローするカード、《ブラスティング・ヴェイン》を発動するとともに、フィールドに旋風が巻き起こっていく。

「破壊されたカードは《リミッター・ブレイク》! よってデッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚!」

 破壊されることでどこからでも《スピード・ウォリアー》を呼びだす専用サポートカード、《リミッター・ブレイク》の効果により、デッキから新たなマイフェイバリットカードが特殊召喚される。だがフィールドに巻き起こっていた旋風は、まだ収まることはなく。

「さらに、このモンスターが効果によるドローで手札に加えられた時、このモンスターは特殊召喚される! 現れろ、《リジェネ・ウォリアー》!」

 特殊召喚効果を持つ二体目の機械戦士が、自身の効果でフィールドに特殊召喚され、《スピード・ウォリアー》とともに並び立った。どちらも下級モンスター、《フレシアの蠱惑魔》を破壊できるほどの火力はないが、俺はまだ通常召喚を行っていない。

「《音響戦士ベーシス》を召喚し、三体のモンスターでチューニング!」

 新たに通常召喚されたチューナーモンスター、《音響戦士ベーシス》に《スピード・ウォリアー》、《リジェネ・ウォリアー》による三体のチューニング。《音響戦士ベーシス》を主導に旋律が集っていき、光の輪を生み出していく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 合計レベルは7。この局面にシンクロ召喚されるのは、やはりこのモンスターだ。黄色の装甲を装備した機械竜が、雄叫びを上げながらシンクロ召喚され、その雄叫びは効果の発動に繋がっていく。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「右のカード……ザウルス」

 選ばれた三枚の装備魔法から、剣山が選んだ一枚のみを手札に加えると、そのカードはそのまま《パワー・ツール・ドラゴン》に装備される。

「《デーモンの斧》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、バトル!」

 《デーモンの斧》を装備したことにより、《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は3300へと上昇し、《フレシアの蠱惑魔》を破壊できる数値にまで至る。《サイバー・ブレイダー》と合わせて、恐竜族たちに攻撃を集中させれば、ライフポイントを削りきることが出来るかもしれないが……ここは、《フレシアの蠱惑魔》を破壊することを優先する。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で、《フレシアの蠱惑魔》を攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の右のスコップが《フレシアの蠱惑魔》を貫き、守備表示のためにダメージはないものの、遂に破壊に成功する。そして剣山たちのフィールドのモンスターが二体になったため、《サイバー・ブレイダー》の効果は第二の効果となる。

「《サイバー・ブレイダー》は相手モンスターが二体の時、攻撃力を倍とする! パ・ド・ドロワ!」

 よって攻撃力は4200。剣山のフィールドにいる恐竜族モンスターたちを追い抜き、攻撃の体勢を示すようにフィールド内を疾走する。

「《サイバー・ブレイダー》で《究極恐獣》に攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

「今ザウルス! レイちゃんのリバースカード、《ダブルマジックアームバインド》を発ドン!」

 だが《サイバー・ブレイダー》の攻撃宣言の際、剣山たちのフィールドに伏せられていたリバースカードが、遂にその姿を現した。フィールドに存在していた恐竜族モンスター二体が消えていき、その効果が発動される。

「こちらのモンスターを二体リリースする代わりに、そっちのモンスターを二体、次の自分のエンドフェイズまで、コントロールを得るザウルス!」

「何!?」

 発動した二対のマジックアームに捕らわれ、《パワー・ツール・ドラゴン》と《サイバー・ブレイダー》のコントロールが奪われる。あっという間にこちらのフィールドはがら空きに、あちらのフィールドにこちらのエースカードが並ぶ。

 とはいえ打開策はなく。通常召喚権を失ってしまった今、壁モンスターを召喚するゆとりすらない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「わたしのターン、ドロー!」

 これで俺たちのフィールドには、リバースカードが一枚。そして剣山たちのフィールドは、《サイバー・ブレイダー》に《パワー・ツール・ドラゴン》。その状況下において、ターンはレイの手へと移行する。

「遊矢様……このターンでわたしの思い、全部ぶつけるから! だから……来て! 《恋する乙女》!」

 言い方は違えどファイナルターン宣言。レイのその宣言とともに、フィールドにレイそのものとも言える、代名詞のようなモンスターが現れる。俺にとっての《スピード・ウォリアー》と似たような――いや、思い入れの強さだけなら遥かに圧倒的な、フェイバリットカード。

「さらに《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せて、相手が選んだカードを手札に加えるよ! パワー・サーチ!」

「……真ん中のカードだ」

 いつもはこの装備魔法の選択を強いる側であり、初めてこの《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を敵として対面する。レイのデッキから選ばれた三枚の装備魔法の中から一枚を選ぶと、その装備魔法が即座に《恋する乙女》へと装備される。

「装備魔法《ハッピー・マリッジ》を発動! コントロールを奪ったモンスターの攻撃力分、《恋する乙女》の攻撃力をアップする!」

 レイのフィールドにいるのは《ダブルマジックアームバインド》で奪われた、《サイバー・ブレイダー》に《パワー・ツール・ドラゴン》。二体の攻撃力が加えられたことにより、《恋する乙女》の攻撃力は5800にまで到達する。明らかなオーバーキルではあるが、それがレイの思いの強さということか。

「バトル! 《サイバー・ブレイダー》でダイレクトアタック! グリッサード・スラッシュ!」

 まずは攻撃力が低いモンスターから、という基本を忘れることはなく。レイが操る三体のモンスターのうち、まずは《サイバー・ブレイダー》が俺たちに襲いかかる。それらに対して対抗出来るカードは、僅かにリバースカードが一枚――

「リバースカード、オープン!」

 発動されるリバースカード、迫る攻撃、《恋する乙女》。それら全てが解決してフィールドに立っていたのは、ライフポイントが減っていない俺たちと、俺たちを守るように立つ《サイバー・ブレイダー》だった。

「俺が発動したのは《リビングデッドの呼び声》。墓地からモンスターを攻撃表示で特殊召喚した」

 明日香が融合召喚した《サイバー・ブレイダー》を――ではなく。《リビングデッドの呼び声》で特殊召喚したのは、《アームズ・ホール》の効果で墓地に送られていた、下級機械戦士の一人《レスキュー・ウォリアー》。

 《レスキュー・ウォリアー》の効果。それは戦闘によって破壊された時、相手にコントロールを奪われたモンスターを、こちらのフィールドに取り戻す効果。この効果によって、元々の持ち主がこちらの《サイバー・ブレイダー》を奪い返し、再び俺たちを守るようにフィールドに君臨した。

「そして《サイバー・ブレイダー》は、相手モンスターが二体のみの時、攻撃力が倍になる! パ・ド・カドル!」

 ……そして攻撃力を倍とした《サイバー・ブレイダー》とは対照的に、コントロールを奪ったモンスターが《パワー・ツール・ドラゴン》のみとなった《恋する乙女》は、《ハッピー・マリッジ》の効力が弱まり。その攻撃力は3700となり、《サイバー・ブレイダー》を突破することは出来なくなっていた。

「遊矢様……ありがとう。わたしの思いに、思いっきりぶつかってくれて……」

 レイにもはや手札はなく、コンバットトリックを挟む余地もない。《ダブルマジックアームバインド》の効果が適応されるのも、このエンドフェイズまでと――逆転の芽がなくなったレイが、そっとデッキの上に手を置いた。

「わたしたちの負け。《恋する乙女》がやられるシーンも見たくないし……ごめんね、剣山くん」

 サレンダー。レイが降参の意を示した事により、ライフポイントに関係なくこちらの勝利となり、観客が健闘を称えてレイたちに拍手を送る。

「いやいや、どうせ次のターンでやられるだけだし、楽しかったザウルス!」

 《パートナーチェンジ》などで迷惑をかけたからか、剣山に深々と謝罪するレイだったが、剣山はまるで気にしていないように笑い飛ばす。レイはそれからこちらにも走ってくると、明日香の手を少し強く握りしめる。

「次決勝戦ですから、よろしくお願いしますね、明日香さん!」

「え、ええ……」

「負けたら承知しないドン!」

 そして、どうやらこちらの決着待ちだったらしく、吹雪さんのパフォーマンスとともに決勝戦開始のアナウンスが鳴る。少し休ませてはくれないのか、と思いながらも、そのパフォーマンスに苦笑いしていると……

「……レイ?」

 今まで、同じデュエルスタジアムにいたはずのレイの姿がどこにもなく、気がつけばどこかに姿を消していた。その女子用オベリスク・ブルーの制服を着た、一際小さな背丈の彼女を探そうとしたものの、その姿は忽然と消えていて。

「遊矢先輩どこ行くドン? ほら、もうすぐ決勝戦ザウルス!」

 デュエルスタジアムから降りて本格的に探しに行こうとした俺だったが、それを阻止するように剣山が立ちはだかり、その間に観客席は決勝戦ムードに変わってしまっていた。レイにも何か事情があるのだろう、と明日香とともに決勝戦用のスタジアムへと歩いていき……
 

 

―1枚を賭ける攻防―

「……十代?」

 卒業タッグデュエル大会。その決勝戦の相手として俺と明日香の前に立っていたのは、あの遊城十代だった。もはや彼の代名詞と化している真紅の服に身を包みながら、1人だけで俺たちの前に立ちはだかっていた。

「十代も参加してたの?」

「ああ……まあ、成り行きでな」

 俺のよく知る十代らしからぬ口調に驚きながらも、今はとにかく十代に用事があった。あまり聞かれたくない話のため、観客用のマイクを切って十代に近づいていく。

「ありがとう十代。保健室で助けてくれて」

 もう随分と昔のことのように感じてしまうが、異世界から帰還したものの、俺は怪我の影響で保健室で寝たきりだった。何が起きているかも分からない時、ミスターTに襲われかけていたが……そこを十代に助けられたのだ。

「……気にすんなよ」

「……それと、タッグの相手は?」

 やはり十代からの返答はそっけない。異世界での経験がそうさせたのか――と気にしながら、十代に気になっていたことを問う。タッグデュエル大会である以上、タッグが必要不可欠の――最初の相手からして万丈目1人だったが、それはともかく――筈だったが、どこにも十代のタッグパートナーの姿は見当たらない。

「いや、トメさんだったんだけどな……」

 何でもいつものブラマジガールのコスプレをしたトメさんとタッグを組み、ルールの分からないトメさんをスルーして1人で勝ち進んできたらしく。ただ準決勝戦でコスプレ用の服がほつれてしまい、鮫島校長が無理やり会場から連れ出したとか何とか。そんなこんなで、十代はタッグパートナー無しで1人だという。

「よし。明日香、あとは任せた」

「えぇ!?」

 明日香には悪いがそう言い残し、俺はスタジアムから降りてしまう。どちらにせよ、十代1人相手に二人がかりで挑む訳にもいかず――何にせよ、姿を消したレイのことが気がかりだった。……俺にだって、そっとしておいた方がいいというのは分かっているが、とにかく嫌な予感がした。

 うまく説明は出来ない、虫の知らせのような代物だったが――とにかく。けたたましく警鐘を鳴らす感覚に従って、俺はタッグデュエル会場を飛び出していた。


「ちょっと遊矢! ……もう」

 明日香が止める暇もなく、遊矢は走り去ってしまう。恐らくは、レイのことを心配してのことだろうが……明日香が少し嫉妬してしまうのもやむなしだった。十代と観客にざわめきが広がっていくが、それは明日香の兄――吹雪が何やらアドリブでカバーしていた。

「十代。デュエルしましょう?」

 実の兄ながら、そういうことばかり上手い――と明日香は苦笑しながら、デュエルディスクを対面にいる十代に構えた。突然のハプニングだったものの、明日香にとってこれはチャンスでもあった。いつ頃かデュエルする機会を失ってしまっていた、十代との大舞台でのデュエルに。

「ああ……そうするしかないみたいだな」

 対する十代はあまり気乗りしないようではあったが、一応は明日香と同様にデュエルディスクを構えた。そもそもこの大会に出たのも、トメさんに誘われたからとのことで、本人はあまり乗り気ではないようだった。

「…………」

 昔の十代ならば信じられないようなその態度が、異世界での経験によるものだとするならば。明日香は責任を感じざるを得なかった――そもそも十代たちが異世界に行ったのは、異世界に取り残された自分や遊矢、ヨハンを助けるためだったからだ。そして最初に力尽き、異なる異世界に飛ばされたのは明日香――これは本人のエゴなのかもしれないが、異世界における出来事の一端は自分にある。明日香はそう考えていた。

「ええ。楽しいデュエルをしましょう」

 ならば明日香に出来ることは、遊矢と十代に昔の気持ちを思いだしてもらうこと。図らずも遊矢には成功していたが、十代とのデュエルはまさに僥倖だった。明日香はかつて、十代が口癖のように言っていた言葉を紡ぎ、どちらもデュエルの準備を完了する。

 ただ、十代がそれに応えることはなく――

『デュエル!』

明日香LP4000
十代LP4000

「私の先攻」

 デュエルディスクが指し示した先攻は明日香。五枚のカードを眺めると、まずはモンスターを召喚する。

「私は《エトワール・サイバー》を召喚!」

 明日香の多用するサイバー・ガールの一種。普段は融合素材としての使用が主だが、今回は先陣を切る役割として召喚された。

「さらにカードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「オレのターン、ドロー!」

 低攻撃力モンスターを攻撃表示で召喚し、それを守るようにリバースカードが二枚。罠であることをを隠す気もない、誘っているかのような明日香のフィールドに、十代は迷わず一枚のカードを選択する。

「オレは《E・HERO ワイルドマン》を召喚!」

 対するはE・HEROの一員であるワイルドマン。通常モンスターも多いヒーローの中で、ワイルドマンは全カードの中でも特異な効果を持っていた。

「どんな罠があろうが、ワイルドマンは罠の効果を受けない! ワイルドマンで攻撃だ、ワイルド・スラッシュ!」

「っ……!」

明日香LP4000→3700

 ワイルドマンが振りかぶった斧剣に対し、明日香は何のカードを発動することなく、《エトワール・サイバー》は斬り裂かれてしまう。最初のターンは明日香が軽いダメージを受け、まずは十代の優勢という結果に終わった。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「……私のターン、ドロー!」

 最初のターンの攻防などいつまでも引きずることはなく、明日香は十代のフィールドを見つつ、ディスクからカードを一枚引いた。

「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚。効果で《機械天使の儀式》を手札に加え、発動するわ!」

 デッキから《機械天使の儀式》をサーチするサポートモンスター、《サイバー・プチ・エンジェル》によってサーチされ、息つく暇もなく儀式魔法が発動される。フィールドの《サイバー・プチ・エンジェル》と、手札の《ブレード・スケーター》を素材とし、儀式召喚を執り行うことが可能となる。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-弁天-》!」

 そして儀式召喚されたのは、明日香の儀式におけるエースモンスター、《サイバー・エンジェル-弁天-》。二対の扇を双剣のように持ち、ワイルドマンに立ち向かうべく降臨する。

「バトル! 《サイバー・エンジェル-弁天-》で、ワイルドマンに攻撃! エンジェリック・ターン!」

「リバースカード、オープン! 《ヒーローバリア》!」

 ただしその攻撃は、十代のリバースカードから現れた盾が防ぎ。明日香は苦々しげな表情をしながら、《サイバー・エンジェル-弁天-》を自らのフィールドに戻していく。

「私はこれでターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 確かに攻撃は失敗したものの、明日香のフィールドにはまだリバースカードが二枚残ったまま。先のターンはワイルドマンという奇策で発動がままならなかったが、ワイルドマンでは《サイバー・エンジェル-弁天-》を破壊することは適わない。

「オレは《融合》を発動! フィールドの《E・HERO ワイルドマン》と、手札の《E・HERO ネクロダークマン》を融合!」

 十代はどう攻めてくるか――と考えていた明日香に答えを示すかのように、十代の十八番たる《融合》の魔法カードが発動される。そのカードによって動き出された時空の穴は、フィールドのワイルドマンと手札のネクロダークマンを吸収し、一つの新たなヒーローとしていった。

「融合召喚! 《E・HERO ネクロイド・シャーマン》!」

 姿はヒーローというよりは、その名の通りシャーマンの格好そのものだったが、ともかく新たなE・HEROが融合召喚される。そしてネクロイド・シャーマンが杖を構えて呪文を呟いていくと、明日香のフィールドの《サイバー・エンジェル-弁天-》に異変が起きていた。

「ネクロイド・シャーマンの効果! 相手モンスターを一体破壊し、代わりに墓地のモンスターを特殊召喚する!」

 そう、ネクロイド・シャーマンが唱えた呪術は、明日香のエースモンスター《サイバー・エンジェル-弁天-》に作用し。弁天を破壊する代わりに、明日香の墓地から《サイバー・プチ・エンジェル》を特殊召喚していた。

 明日香にしてみれば、エースモンスターを弱小モンスターと入れ替えられた上に、《サイバー・プチ・エンジェル》のサーチ効果は通常召喚時限定。さらに伏せている罠カードも十全に効果を発揮しない――と、明日香はあることを確信した。

 十代はこちらのリバースカードが何か、ほとんど当たりをつけている。そして、その予想は見事に的中していると。

「さらに《カードガンナー》を召喚し、効果発動! デッキの上からカードを三枚墓地に送り、攻撃力を500ポイントずつアップする!」

 優秀な墓地肥やし能力からすれば、ほとんどオマケのような効果ではあったものの。十代が召喚した《カードガンナー》は、自身の効果で攻撃力を1900とし、明日香への攻撃準備を整えた。

「バトル! 《カードガンナー》で《サイバー・プチ・エンジェル》に攻撃!」

明日香LP3700→2400

 《カードガンナー》の砲口から放たれた札のような形をした銃弾に、あくまでサポートモンスターである《サイバー・プチ・エンジェル》が耐えられるはずもなく。元々のカードである《プチテンシ》と似たようなステータスしかなく、あっさりと破壊されて明日香のライフは削られていく。

「さらにネクロイド・シャーマンでダイレクトアタック! ダーク・シャドウ・ストライク!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドローする!」

 とはいえ明日香にしても、これ以上の攻撃を受ける訳にはいかず。ネクロイド・シャーマンの一撃は、突如として現れたカードの束が防いでいき、その中の一枚が明日香の手札へと加えられる。

「オレはカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン……ドロー。悪いけど十代、このままじゃ終わらないわよ!」

 これまでのデュエルの流れは地味ながらも、完全に十代がペースを掴んでいる。それはフィールドとライフポイントを見れば、一目瞭然ではあるのだが、劣勢の明日香はまだ闘志を絶やしてはいなかった。

「私は《儀式の準備》を発動! 墓地から儀式魔法《機械天使の儀式》と、デッキからレベル6以下の儀式モンスターを手札に加えることが出来る」

 反撃の狼煙と言っても過言ではない《儀式の準備》。魔法カード一枚で儀式魔法とモンスターを揃えてみせ、再びサイバー・エンジェルの降臨か――と見せかけて。

「私はフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を発動! このフィールドは、手札の魔法カードを墓地に送ることで、デッキから儀式魔法を手札に加えることが出来る!」

 観客たちが見守るデュエルスタジアムを塗り替えるように、純白の教会がフィールドを支配していく。その効果は明日香が説明した通り、手札の魔法カードを墓地に送ることで、デッキの儀式魔法をサーチする効果。明日香の手札の儀式魔法、《機械天使の儀式》が墓地に送られ、代わりに手札に与えられたカードは。

「サーチした儀式魔法《高等儀式術》を発動! デッキから《神聖なる球体》を三枚墓地に送り、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」

 《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を通して、明日香はデッキに眠る《高等儀式術》を手札に引き寄せてみせた。その効果によりデッキのレベル2の通常モンスター、《神聖なる球体》を三体素材にすることで、新たに《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を降臨させる。

「《サイバー・エンジェル-韋駄天-》が特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを手札に加えることが出来る」

 新たに降臨した機械天使こと、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》はステータスこと低いものの、その効果は群を抜いて優秀だった。ノーコストでの墓地からの魔法カードの回収により、明日香は再び墓地から《儀式の準備》を手札に戻す。

「よって再び、《儀式の準備》を発動!」

 効果は先程も使われた通り。今度は《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を使うまでもなく、墓地から直接《高等儀式術》を手札に加えていた。ただデッキにはもう、レベル6の儀式召喚に使える通常モンスターはおらず、《高等儀式術》は発動出来ないも同然だが……

「《貪欲な壺》を発動。墓地のモンスターを五枚デッキに戻し、カードを二枚ドロー……そして《高等儀式術》を発動!」

 ――一度デッキに戻してしまえば、何の問題もない。汎用ドローカード《貪欲な壺》を発動し、デッキに《神聖なる球体》を墓地に戻しつつ、更なる《高等儀式術》の発動に繋ぐ。

「…………」

 久方ぶりの明日香とのデュエルだったが。相変わらずのその手際に、十代は知らず知らずのうちに舌を巻く。デッキから墓地に送る《高等儀式術》と、墓地からデッキに戻す《貪欲な壺》が上手く噛み合っており……恐らくまだ終わらないことは、十代にも分かっていた。

「二体目の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚し、効果を発動! もちろん墓地から《儀式の準備》を手札に加え、発動するわ」

 二枚目の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の降臨に、再び《儀式の準備》が使い回される。通算三回目の発動となり、さらにデッキから《サイバー・エンジェル-韋駄天-》と、墓地からは《機械天使の儀式》が手札に加えられ、またもや儀式召喚が執り行われる。

「手札の《サイバー・プリマ》を素材に、儀式魔法《機械天使の儀式》を発動! 三体目の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を、儀式召喚!」

 空っぽだったフィールドがあっという間に、三体の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》によって埋め尽くされ、十代をその数で圧倒する。十代のフィールドに立つ《E・HERO ネクロイド・シャーマン》の攻撃力には及ばないが、明日香が今更そんなことを考えていない訳もなく。

「三体目の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果で、《貪欲な壺》を手札に加えて発動。二枚ドローし……《フルール・シンクロン》を召喚!」

 さらにこれだけ展開しながらも、主に《儀式の準備》のサーチにサルベージと《貪欲な壺》により、明日香の手札にはまだまだカードがあった。さらに通常召喚権も使われておらず、遂にチューナーモンスター《フルール・シンクロン》が召喚され。

「私はレベル6の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に、レベル2の《フルール・シンクロン》をチューニング!」

 召喚されるや否や《フルール・シンクロン》は光の輪と化し、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》のうち一体とシンクロ召喚の態勢に入ると、一際巨大な閃光とともに花弁の騎士となる。

「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! 煌めけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」

 どこか中世ヨーロッパのような雰囲気を感じさせる、レイピアを構えた白百合の騎士――《フルール・ド・シュヴァリエ》。十代のフィールドにいる《E・HERO ネクロイド・シャーマン》の攻撃力を超え、さらにその効果はこの局面では多大な影響力を持つ。

「さらに《リチュアル・ウェポン》を韋駄天に装備し……随分と待たせたわね。バトルよ!」

 つい前のターンのエンドフェイズ時には、フィールドががら空きだったことが嘘のように。明日香のフィールドには、《リチュアル・ウェポン》を装備した《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に、《フルール・ド・シュヴァリエ》、もう一体の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がフィールドに揃っていた。

 ライフポイントを1ポイントすら削られていない十代だったが、それでもモンスターの防御の上からワンショットキル出来るその火力に対し、十代が伏せたリバースカードは僅か一枚。しかも《フルール・ド・シュヴァリエ》には、自分のバトルフェイズ時に発動された相手の魔法・罠カードを、一度だけ無効にする効果がある。よって一枚だけの伏せカードなど、あってもなくても変わらない程度のものだ。

 そのことまで見抜いていた者も、単純に明日香の行った大量展開に驚いた者も、例外なく観客たちはその光景に感嘆していく。明日香の一発逆転――だと誰もが思った、その瞬間。

 姿が小さくて目立たなかったが、十代のフィールドに、新たなモンスターが現れていたことに気づいた。

「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動していた! デッキから《ハネクリボー》を守備表示で特殊召喚する!」

 《フルール・シンクロン》と《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がシンクロ召喚に入っている時、観客たちがその美しい閃光に目を奪われている間に、十代は自身の最も信頼するカードを特殊召喚していた。いくら《フルール・ド・シュヴァリエ》といえども、自身がシンクロ召喚する前のカード効果は無効化出来ず、明日香もそれを承知で《リチュアル・ウェポン》で火力を高めていた。

「バトル! 《サイバー・エンジェル-韋駄天-》で、ネクロイド・シャーマンを攻撃!」

十代LP4000→2900


 レベル6以下の儀式モンスターという制約はあるものの、攻撃力を1500ポイントアップする、という恐るべき装備魔法《リチュアル・ウェポン》。その効果を得て、攻撃力を3100にまで昇華させた《サイバー・エンジェル-韋駄天-》は、あっさりとネクロイド・シャーマンを切り裂いた。

「さらに《フルール・ド・シュヴァリエ》で、《カードガンナー》に攻撃! フルール・ド・オラージュ!」

「ぐっ……!」

十代LP2900→600

 さらに痛烈な一撃。攻撃力の上昇はエンドフェイズ時までの《カードガンナー》は、相手ターンになれば元々の低い攻撃力を晒してしまう弱点があった。そこを突かれ、十代のライフポイントは一気に限界域まで落ち込んだ。

「……《カードガンナー》が戦闘破壊された時、カードを一枚ドロー出来る」

「最後の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》で、《ハネクリボー》を攻撃するわ」

 とはいえ十代も、転んでもただではおかない。《カードガンナー》は破壊された時一枚ドローすることができ、明日香のワンショットキルは《クリボーを呼ぶ笛》で特殊召喚していた、《ハネクリボー》がギリギリのところで防ぐ。もしも《ハネクリボー》がいなければ、この攻勢の前に手も足も出なかったかと思えば、ゾッとするところではあったが。

「……私はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「オレのターン! ……ドロー!」

 ――どちらにも同じだけ逆転の手が残されているのが、このデュエルモンスターズというカードゲームである。このデュエル始まって以来の叫び声をあげ、十代はさらにカードをドローする。

「オレは《ヒーローアライブ》を発動! ライフポイントを半分にすることで、デッキからE・HEROを特殊召喚出来る! 来い、《E・HERO フェザーマン》!」

十代LP600→300

 十代のフィールドには、今し方《ヒーローアライブ》で特殊召喚した《E・HERO フェザーマン》のみ。リバースカードもなく、ライフポイントはさらに半分にしたことで、まさに風前の灯火という言葉が相応しかった。

 対する明日香のフィールドは、《リチュアル・ウェポン》を装備した《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に、《フルール・ド・シュヴァリエ》、もう一体の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》。さらにフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》に、リバースカードが二枚。ライフポイントは2400と、序盤の苦戦が嘘のような優勢だった。

「頑張れアニキー!」

「通常魔法《闇の量産工場》を発動し、墓地から二枚の通常モンスターを手札に加える」

 観客席から耳をつんざくような剣山の応援の声が響き、十代は墓地から二枚の通常モンスター――十中八九E・HEROモンスターが手札に加えられる。十代が明日香に勝っている点があるとすれば、《カードガンナー》によって肥やされた墓地と、まだまだ本領を発揮していなかった残る手札。それらが逆転のためにフル回転していく。

「そして魔法カード《HERO'S ボンド》を発動! 手札から二体のE・HEROを特殊召喚する!」

 先の《闇の量産工場》の効果によって加えた二枚であろう、《E・HERO バーストレディ》に《E・HERO クレイマン》が、《HERO'S ボンド》の効果によってフィールドに特殊召喚される。

「さらに《ENシャッフル》を発動! フィールドのE・HEROを墓地に送ることで、その数だけデッキからネオスペーシアンを特殊召喚出来る! 来い、ネオスペーシアン!」

 そしてフィールドに揃ったE・HEROたちは、魔法カード《ENシャッフル》によりリリースされ、代わりに三体のネオスペーシアンたちがフィールドに揃う。グラン・モールにフレア・スカラベ、ブラック・パンサー――いずれも魂を持った精霊たちは、十代の呼びかけに応え見参する。

「《スペーシア・ギフト》を発動! 自分フィールドのネオスペーシアンの数だけ、カードをドロー出来る。よって三枚のカードをドロー!」

 そしてドローソースたる《スペーシア・ギフト》に繋ぎ、十代はネオスペーシアンたちの力を借りたことにより、その効果でカードを三枚ドローする。そして十代のフィールドに、半透明のE・HEROが浮かび上がった。

「墓地に《E・HERO ネクロダークマン》がいる時、一度だけ上級E・HEROをリリース無しで召喚出来る。現れろ! 《E・HERO ネオス》!」

 ――遂に現れる十代のエースモンスター……《E・HERO ネオス》。フィールドに光とともに現れたその姿は、まさしく英雄と呼ぶに相応しい姿だった。

 そしてフィールドには、ネオスに力を与えるネオスペーシアンたちがいる。

「ネオスとグラン・モール、フレア・スカラベで、トリプルコンタクト融合!」

 ネオスとネオスペーシアンたちにのみ許された、コンタクト融合と呼ばれるその《融合》を使わない融合召喚法。三体のモンスターがネオスを中心に集まっていき、フィールドに比較しようのない熱気を浴びせていく。

「《E・HERO マグマ・ネオス》!」

 大地のグラン・モールと灼熱のフレア・スカラベの力を借り、マグマの力を借りたネオス――現段階では最強のコンタクト融合体。その効果はフレア・スカラベの効果を正しく受け継いでおり、十代のデッキにおいても最大火力を誇る効果だった。

「フィールド魔法《ネオスペース》を発動し、マグマ・ネオスの攻撃力はさらに500ポイントアップする! よって攻撃力は――」

 《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》が支配していたフィールドが、半分だけネオスの生まれ故郷である《ネオスペース》へと変化していく。《ネオスペース》の中では、ネオスは十全の効果を発揮することになり、その攻撃力を500ポイントアップする。

 それにマグマ・ネオスの効果である、フィールドのカード×400ポイント攻撃力がアップする、という効果が加わり――

「――6100」

 デュエルディスクが算出したその数値は、明日香のフィールドのどのモンスターをも軽々と超えており。ライフポイントを丸ごと焼き尽くすことの出来る、そんな数値だった。

「そんな……!」

「《N・ブラック・パンサー》の効果を《フルール・ド・シュヴァリエ》を対象に発動し、バトル! マグマ・ネオスで《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に攻撃! スーパーヒートメテオ!」

 狙うは《リチュアル・ウェポン》を装備していない、最も攻撃力が低い《サイバー・エンジェル-韋駄天-》。十二分にライフポイントを焼き尽くすその火力が、隕石の如く明日香に迫るが――明日香のフィールドには、まだ最初のターンから伏せられたままの罠カードがあった。

「リバースカード、オープン! 《ドゥーブルパッセ》!」

 最後まで残されていたそのリバースカードは、明日香の代名詞とも言える罠カード。相手モンスターの攻撃を直接攻撃に変更する代わりに、攻撃対象となったモンスターの攻撃力分のバーンダメージを相手に与え、次なるターンで直接攻撃を可能とする。まさに明日香らしい攻撃的な効果であり、自分が直接攻撃を受けるより先に相手にダメージを与えるため、ギリギリの局面ならばバーンダメージを受けた相手が敗北する。

 ――だが明日香のリバースカードは、まるで影のように真っ黒な《フルール・ド・シュヴァリエ》に切り裂かれ、効果の発動も許さずに破壊されてしまう。もちろん明日香が操る《フルール・ド・シュヴァリエ》が裏切った訳ではなく、それは十代の《N・ブラック・パンサー》が変化した姿。

「《フルール・ド・シュヴァリエ》になったブラック・パンサーの効果! 一度だけ相手のカード効果を無効にする!」

 《N・ブラック・パンサー》の効果。それは相手モンスター一体に変化することで、そのモンスター効果と名前を得ることが出来る。その効果により《フルール・ド・シュヴァリエ》の効果を得たブラック・パンサーは、明日香の発動した《ドゥーブルパッセ》の効果を無効にする……奇しくも、明日香が先程やろうとしたことを、そのまま十代が返した形となった。

 そしてマグマ・ネオスは、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に直撃していき――

「リバースカード、オープン! 《闇よりの罠》!」

 ――まだだ、まだだ。そう明日香は言わんばかりに、明日香の気迫をカードが代弁するかのように。最後のリバースカードが発動され、明日香が墓地から一枚のカードを回収する。

「このカードは自分のライフポイントが3000以下の時、1000ポイントを払って発動出来る罠カード。墓地の通常罠カードを除外する代わりに、このカードはその除外したカードの効果を得る!」

明日香LP2400→1400

 つまりは墓地の罠カードのコピー。《闇よりの罠》というカードの効果は、明日香が墓地から取り出したカードにより決定する。そのカードとはもちろん――

「――《ドゥーブルパッセ》!」

 ソリットビジョンに映った《闇よりの罠》のカードが、一瞬にして《ドゥーブルパッセ》へと書き換えられる。よってマグマ・ネオスの攻撃は明日香の直接攻撃となり、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》は十代へと直接攻撃を与える。その一撃が届くのは《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の方が早く、《ドゥーブルパッセ》の効果が適応される。

「…………?」

 そこで明日香は気づく。隕石のような形となって《ネオスペース》から降り注ごうとしていた、マグマ・ネオスの姿がどこにもない。……いや、見つけた。宇宙のように遠い空中から迫るソレは――

 ――三つのモンスターへと分離していた。

「速攻魔法《コンタクト・アウト》」

 十代が最後に手札から発動した速攻魔法は、コンタクト融合専用の《融合解除》。そのカードによってマグマ・ネオスの融合は解除され、ネオスにグラン・モール、フレア・スカラベの三体に分離していた。それが意味することとは――

「バトルの……中断!」

 明日香が愕然とした声をあげるとともに、発動していた《ドゥーブルパッセ》――《闇よりの罠》は消えていく。相手モンスターであるマグマ・ネオスが消え、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》が攻撃対象でなくなった以上、もはや《ドゥーブルパッセ》は空撃ち同然となり、その存在をフィールドに保ってはいられない。

「私の負け、ね……」

 消えていく《ドゥーブルパッセ》とこちらに迫る、《ネオスペース》によって強化されたネオス――何しろ、まだバトルフェイズは終わっていない――を見て、明日香は自らの敗北を悟って呟いた。

「ネオスで《サイバー・エンジェル-韋駄天-》に攻撃! ラス・オブ・ネオス!」

 でも楽しかった。

明日香LP1400→0


 ……でも、次は負けない。


『――決着! 皆様、両決闘者に惜しみない拍手を!』

 強化されたネオスの勢いをつけた一撃に、明日香がジャストキルをくらった形で決着がつく。残っていたソリットビジョンが消えていき、万雷の拍手の中で明日香は一息ついた。

「ありがとう十代。楽しかったわ。……次もこうはいかないわよ」

「オレは――っ!?」

 それでも掛け値なしに楽しいデュエルだった。そう確信した明日香は、対面の十代にどうだったか訪ねるものの、十代は何かに気づいたように明後日の方向を見た。

「十代……?」

「っ!」

 明日香の呼びかけにも答えることはなく、十代は構わずデュエルスタジアムから走り去ってしまう。これから優勝者インタビューをやろうとしていた吹雪などを無視して、とにかくどこかへ真っすぐ走っていく。

「ちょ、ちょっと待ちなさい……十代!」

 ざわめく観客の中、明日香もその後を追っていった――


「あ、あなた……誰……?」

 ……渾身のラブデュエルに敗れたレイは、スタジアムの外で一人涙を流していた。今度こそ勝つと意気込んだデュエルは、想い人とその恋人のコンビネーションを見せつけられる、という結果に終わったのだ。

 想い人が追いかけて来ないところを見るに、恐らく剣山が決勝戦だのと理由をつけて引き止めてくれたのだろう。その優しさに感謝しながら、涙を拭ってデュエルスタジアムにレイが帰ろうとした瞬間――その男はそこに立っていた。

 まるで気配のない、サングラスをした薄気味悪い男。明らかにアカデミアの関係者でない、いや、人間でもあるかどうか分からないその男は――レイにニヤリと笑いかけた。

「真実を語る男。トゥルーマン」
 

 

―女の話―

「お前は……!」

 タッグデュエル会場から出て行ったレイを探しに出た俺が見つけたのは、黒いサングラスの男――ミスターT。人間らしくない不気味な笑みを浮かべながら、ミスターTはこちらを見てニヤリと笑う。

「やあ遊矢くん。だが、今の君に私に構っている暇はないと思うが……」

 油断なくデュエルディスクを構えるこちらを相手に、ミスターTは不遜な態度を崩すことはなく。その含むような言い方から、俺の脳裏には一人の人物が浮かび上がった。

「レイを、どうした……!」

「だから言っているだろう? 私に構っている暇はない、と」

 レイに何をしたのか。ニタリと笑みを深めていくミスターTに、このまま殴りかかりたくなる衝動に駆られるが、そんなものは奴には無意味だろう。レイをすぐさま探しに行きたいところだが、目の前にいるこの敵を放っておく訳にはいかない。

「――遊矢!」

 ならば速攻で倒すのみ、と慌てたままにデュエルディスクを構えた瞬間、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。もはや数も少なくなった真紅の制服――十代だ。

「ここは任せろ」

 制服と同じ真紅のデュエルディスクを構えながら、疾走してきた十代が俺とミスターTの間に割って入る。それを見たミスターTが珍しく表情を歪め、一考したものの俺は決断を下す。

「頼む!」

 背格好や口調が変わっても十代は十代だと。そう確信しながら、俺はレイを探すべく走り回った。どこまでも広がるこのアカデミアの森、レイがよくいた場所は――


「……十代?」

 ――十代を追いかけていた明日香だったが、気がつけば十代の姿はどこにもなく。一瞬で森の中に消え去ってしまったような感覚に、明日香は不気味に感じて歩を止める。辺りを見回しても遊矢に十代どころか、一般生徒の気配すら感じることは出来なかった。

「ここは……」

 だが、この場所には見覚えがあった。かつてアカデミアが平和だった時、ここには明日香も幾度となく足を運んでいたことがある。アカデミアの森の中にある池、ここは……

「……遊矢様のお気に入りの場所、だよね」

「レイ……ちゃん……?」

 今まで気配すらなかったにもかかわらず、何処かから突如としてレイが出現する。比喩表現でも何でもなく、本当に何もない空間から現れた――ような。

「ボクも行きたかったなぁ……遊矢様と一緒に、ここに」

 遊矢がよく釣りをする時に座っていた場所に、レイは儚げに体育座りの体勢で座り込む。愛おしげによく座れそうな岩を撫でる姿は、まさしく早乙女レイそのものだったが――明日香はどこか、違和感を感じざるを得なかった。目の前にいる彼女は早乙女レイではないと、脳内のどこかがけたたましく警鐘を鳴らす。

「レイちゃん……なの?」

「ねぇ明日香さん。デュエルしない? デュエル!」

 つい明日香の口から出た疑問に答えることはなく、レイはいつものひまわりのような笑顔でもって、明日香にデュエルを誘う。タッグデュエル大会で付けたままのデュエルディスクを構え、レイは立ち上がるとすぐさまデュエルの準備を完了する。

「……いいわ。デュエルしましょうか」

「やった! 流石明日香さん!」

 どこか様子のおかしい彼女だったが、デュエルをすれば何かが分かるかもしれない。明日香はそう考えると、レイと同様にデュエルの準備を完了する。それを待っていたような、レイは――

「楽しいデュエルにしようね!」

 ――そう、愉しそうに笑った。

『デュエル!』

明日香LP4000
レイLP4000

「……私のターン」

 デュエルディスクが先攻を指し示したのは明日香だった。ドローした五枚のカードを見るとともに、明日香はレイに感じていた違和感の正体に気づく。

 その、貼りつけたような笑顔だ。

「私は《融合》を発動! 手札の《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」

 最初のターンからの融合召喚。氷上を滑るように明日香の融合のエースモンスターが現れ、明日香を守るように降り立った。

「私はこれでターンエンド」

「ボクのターン、ドロー!」

 明日香もレイのデッキは知っているつもりだ。コントロール奪取の《恋する乙女》、アタッカーの《ミスティック・ドラゴン》、効果破壊の蠱惑魔シリーズ。その三種を組み合わせた彼女なりのデッキであり、それを見越しての《サイバー・ブレイダー》の融合召喚だった。

 だがデュエルは、明日香の予想外の方向へ進んでいった。

「ボクは《森羅の実張り ピース》を召喚!」

「森羅……?」

 レイがつい先程まで使っていたデッキとは違う、植物族のカテゴリーのカード。疑惑の視線を向ける明日香をよそに、何の違和感もないようにレイはデュエルを進行していく。

「《森羅の実張り ピース》を召喚した時、デッキトップが植物族モンスターなら、墓地に送ることが出来るよ。さらにフィールド魔法《霞の谷の神風》を発動!」

 《森羅の実張り ピース》の効果によって、レイがデッキトップを墓地に送る。どうやら植物族であったようで、それと同時にフィールド魔法の発動により、アカデミアの森林に一陣の疾風が吹く谷と化していく。

 ただしレイが立っている場所だけは。いつも遊矢が座っていたその場所だけは、フィールド魔法に浸食されることはなく、その姿を保っていた。

「さらに手札のこのカードは、フィールドの植物族モンスターを手札に戻すことで、特殊召喚出来る。ボクは《魔天使ローズ・ソーサラー》を特殊召喚!」

 小さな豆の如き植物が一瞬にして、茨の鞭を振るう天使へと生まれ変わる。さらに《魔天使ローズ・ソーサラー》の召喚条件である、植物族モンスターを手札に戻すという行動に、フィールド魔法《霞の谷の神風》が反応した。

「《霞の谷の神風》の効果発動! 風属性モンスターが手札に戻った時、デッキからレベル4以下の風属性モンスターを特殊召喚出来る。来て、《コピー・プラント》!」

「……相手モンスターが二体になったことで、《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は倍になるわ」

 《サイバー・ブレイダー》第二の効果により、《魔天使ローズ・ソーサラー》の攻撃力を上回る。ただしそれが何の意味を持つのか――普段使うデッキではないにしろ、レイは今のデッキを十全以上に使いこなしている。

「《コピー・プラント》の効果発動。このカードのレベルは、他の植物族モンスターと同じレベルになる。よってレベルは7!」

 《コピー・プラント》が自身の効果で姿を変えていき、レイのフィールドに姿だけは《魔天使ローズ・ソーサラー》が二体。そのレベルはどちらも7であり、ランク7のエクシーズ召喚を警戒する。

「私は《魔天使ローズ・ソーサラー》と、レベル7になった《コピー・プラント》でオーバーレイ!」

 明日香の予想通り、二体の《魔天使ローズ・ソーサラー》が重なっていく。レイは既にエクシーズ召喚をマスターしていたので、今までよりは驚きは少ない。

「レイちゃん……!?」

 ――それより問題だったのは、レイがデュエルディスクから取り出した一枚のカード。裏面が真っ黒に染まっており、その漆黒は辺りの空間をも侵食するようだった。明日香はあのようなカードを一度、目の当たりにしたことがあった。

 実の兄である天上院吹雪。彼が操られていた《ダークネス》のカードだ。

「レイちゃん! そのカードを使うのを止めなさい!」

「――エクシーズ召喚!」

 明日香の悲痛な叫びを伴った警告が届くことはなく、レイはその漆黒に染まってカードをデュエルディスクに叩きつける。二体の《魔天使ローズ・ソーサラー》が重なって、新たなエクシーズモンスターと化すのだ。

「《No.11 ビッグ・アイ》……!」

 先端に白い球体がついた赤い線――神経のようにも見えるそれらが幾重にも重なっていき、《No.11 ビッグ・アイ》の円錐形な外観を作り上げていく。しかし今は、ランク7のエクシーズモンスターの召喚より、漆黒に染まったカードを召喚したレイのことだ。

「レイちゃん!」

「明日香さん……ボク、遊矢様のことが好きだったの。遊矢様のことが全て」

 心配して駆け寄ろうとした明日香に対して、レイはあくまでも笑顔で話しかけた。……貼りついたような表情で、口角を上げて。

「ボクの全部《遊矢様》をボクから奪うなら、明日香さんもボクに全部を頂戴っ……! ビッグ・アイの効果を発動!」

 レイの効果発動の宣言とともに、ビッグ・アイの真紅の瞳が光る。一定のタイミングで怪しく輝くそれは、一見してフィールドに何も影響を及ぼすようには見えなかったが――

「ビッグ・アイの効果。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、相手モンスターのコントロールを奪う。テンプテーション・グランス!」

「えっ……」

 明日香のフィールドにいるモンスターは一体――《サイバー・ブレイダー》のみ。ビッグ・アイの瞳に魅入られ、ゆっくりと明日香に振り向く《サイバー・ブレイダー》の瞳には、レイと同じように明日香への敵意に満ちていた。

「バトル。《サイバー・ブレイダー》でダイレクトアタック」

「うっ……!」

明日香LP4000→1900

 今まで明日香を守るように立っていた《サイバー・ブレイダー》から、痛烈な蹴りが明日香の腹部を炸裂する。一瞬息が出来なくなるような感覚を味わい、足が力を失って無意識に大地に膝を突いていた。

「うっ……ぐ、ぁはっ!」

「残念だけど、ビッグ・アイは効果を使ったターン、攻撃出来ないんだ。《サイバー・ブレイダー》。明日香さんと言えば、ってモンスターだよね。……ああでも、遊矢様も持ってたっけ……」

 苦悶の声と咳を漏らして倒れる明日香をよそに、レイは表情を笑顔に固定したまま話しかけていく。そして《サイバー・ブレイダー》は明日香を一瞥することもなく、レイのフィールドへと降り立っていく。

「でも全然、ボクから奪ったものには足りないよね。全然、全然、全然……ううん、カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「私の……ターン。ドロー!」

 明日香は無理矢理身体を起き上がらせると、デュエルディスクからカードを一枚引き抜いた。遊矢が兄を救った時のように、漆黒に染まったカードを破壊しつつ、デュエルに勝利するしか方法はない――と、明日香はレイを救う方法の目処を立てながら、がら空きになった自分のフィールドと、盤石なレイのフィールドを見る。

 小さいデメリットでコントロール奪取効果を持つ《No.11 ビッグ・アイ》に、明日香のフィールドから奪った《サイバー・ブレイダー》。さらにリバースカードが一枚。ビッグ・アイのコントロール奪取効果はあと一回使うことが可能であり、このまま守備を固めるだけでは新たなモンスターも奪われ、ダイレクトアタックで明日香の敗北は決定する。

「私は《融合回収》を発動! 墓地の《融合》カードと、融合素材にした《エトワール・サイバー》を回収する!」

 通常魔法カード《融合回収》により、墓地から二枚のカードをサルベージする。明日香のエクストラデッキには複数の《サイバー・ブレイダー》が投入されてはいるが、今狙っているのは融合召喚ではなく。

「さらにフィールド魔法、《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を発動!」

 レイに引き続き、明日香もフィールド魔法を発動させる。異世界からの侵略に備えたルール改正により、両プレイヤーのフィールド魔法が同時に出現する。風が吹く霧の谷に設えられた、純白の教会の中、明日香とレイのデュエルは続行される。

「《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果を……」

「明日香さん。明日香さんはボクから、遊矢様の温もりが感じられるところまで、本当に全部奪っちゃうんだね。後から、後から来たのに」

 何故か《霞の谷の神風》を発動しても残っていた、レイが立っていた場所である、遊矢がよく釣りの際に座っていた岩。それも明日香のフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》により、教会の内部へとフィールドが書き換えられていく。

「……私は、《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果により、手札の魔法カードを墓地に送り、デッキから儀式魔法を手札に加える!」

 レイの言っていることから耳を背けながら、明日香は《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果により、回収した《融合》の代わりに儀式魔法を手札に加える。そして一瞬戸惑うような動作を見せながら、明日香は手札に加えた儀式魔法を発動する。

「儀式魔法《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを墓地に送り、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚する!」

 手札に加えていたのは《高等儀式術》。デッキの通常モンスターを二体素材にすることで、最強のサイバー・エンジェルが降臨し、その特殊召喚時の効果を発動する。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が特殊召喚に成功した時、相手はモンスターを一体破壊する!」

 《No.11 ビッグ・アイ》か《サイバー・ブレイダー》か、そのどちらかを選択して、レイは破壊しなくてはならない。そして攻撃力も《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》はビッグ・アイを上回っており、効果破壊と戦闘破壊の二段構えでの《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の一撃を、レイは。

「ボクはビッグ・アイを選ぶよ」

 ビッグ・アイの方を選択する。その宣言に反応するとともに、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》がその大量の得物を持って、ビッグ・アイを切り刻んでいく――が、そのいずれもが、ビッグ・アイを破壊するには至らなかった。

「でもボクは、リバースカード《ナンバーズ・ウォール》を発動。このリバースカードがある限り、No.はNo.でしか倒せない」

「何ですって……!」

 明日香のデッキにNo.と名の付くカードがある訳もなく、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃は、全て《ナンバーズ・ウォール》に阻まれてしまう。もちろん戦闘による破壊も未然に防がれたも同然であり、明日香は手札を見直すものの魔法・罠を破壊するカードはない。

「私は……《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で、《サイバー・ブレイダー》を攻撃!」

「分かってると思うけど、明日香さんのフィールドのモンスターは一体だから、《サイバー・ブレイダー》は戦闘では破壊されないよ!」

レイLP4000→3400

 打つ手がなくなった明日香は、とりあえずのバトルフェイズに移行する。攻撃力の最も低い《サイバー・ブレイダー》に攻撃するが、今の《サイバー・ブレイダー》は第一の効果により戦闘破壊耐性を得ている。ダメージを少し与えたのみで、明日香のバトルフェイズは終了した。

「メイン2……私はまだ通常召喚してないわ。モンスターをセット。リバースカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「ボクのターン。ドロー」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》によるビッグ・アイの破壊に失敗すると、明日香はすぐさま守備の準備を整えていく。とはいえ、セットモンスターにリバースカードが二枚、という急場しのぎ布陣ではあるが……

「魔法カード《森羅の施し》を発動。カードを三枚ドローして、デッキトップに好きな順番で二枚戻すよ」

 レイがエクシーズ素材に使用したカテゴリー、森羅専用のサポートカード。先程は使われることはなかったが、森羅はデッキトップから墓地に送られることにより、効果を発揮するという特異な効果を持つカテゴリーであり。デッキトップの操作とは、攻撃の準備と同じようなものだった。

「さらにビッグ・アイの効果を発動。テンプテーション・グランス!」

 ただしこのターンには駒が揃っていないのか、はたまたレイにしか分からない別の理由か――ともかく、エクシーズ素材が取り除かれ、再びビッグ・アイの効果が発動する。その真紅の瞳が輝いていき、新たな標的は……もはや宣言するまでもなく。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》……」

「また一つ……ボクにくれたね……バトル。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》でセットモンスターに攻撃」

 敵に振るわれるはずの幾多もの刃は明日香に振るわれ、セットモンスターを細切りに切り刻む。しかもそれだけではなく、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は貫通効果を持っており、その刃と破壊されたモンスターの破片が明日香へと襲いかかっていく。

明日香LP1900→800

「《サイバー・ブレイダー》でダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《奇跡の残照》! 戦闘で破壊された《エトワール・サイバー》を、守備表示で特殊召喚する!」

 《融合回収》の効果で墓地から回収されていた、《サイバー・ブレイダー》の融合素材たる《エトワール・サイバー》。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に切り刻まれた破片が、《奇跡の残照》の光とともに再結成していき、一度きりの壁として明日香のライフを守り抜いた。

「ふうん……《奇跡の残照》って遊矢様のカードだよね? 何で明日香さんが持ってるの? ねぇ、ねぇ」

「……遊矢とトレードしたからよ」

 明日香を間一髪のところで守ったリバースカード、《奇跡の残照》は遊矢と明日香がトレードしたカードのため、確かに元をたどれば遊矢のカードだった。遊矢のエクストラデッキに今もあるモンスター、《サイバー・ブレイダー》とトレードしたカードであり――それを聞いたレイの顔が笑みで歪む。

「明日香さんはズルいや……ボクが欲しいもの全部持ってて。全部奪っていって……カードを一枚伏せて、ターンエンド」

「……確かに、そうかもしれないわね」

 笑顔を貼りつけたレイの問いかけに、明日香は埃を払いながら初めて答える。どこか自嘲めいた表情とともに。

「レイちゃんがずっと好きだった遊矢の隣に、いきなり私がいて。レイちゃんが努力して手に入れたアカデミアの席に、私は何でもないようにいて」

 アカデミア中等部を経てジェネックスで実績を残し、高等部にまで飛び級したレイを、明日香は素直に尊敬していた。その将来性豊かなデュエルの実力だけではなく、ただ好きな人の隣にいたい――という理由だけでそこまで出来る、その行動力と意志の強さにおいても。

 もしも明日香がレイと同じ境遇だったとしても、果たして同様のことは出来ただろうか。……いや、出来なかっただろうな、と明日香は思う。そんな彼女が彼を好きならば――

「でも、私も遊矢が好き」

 今まで一言も口に出したことはなかったが、レイがいつも言うようのようにスラリと口から出て来た。こんなに言って楽になるのならば、もっと早く口にしておけば良かった、と後悔するほどに。

「デュエルを競い合える遊矢が好き。デュエル以外のことを教えてくれる遊矢が好き。今まで一緒にいた……遊矢が、好き」

 一度口にしてしまえば、まるでダムが決壊するかの如くとめどなく溢れだしていく。デュエルに恋していた明日香にとって、共に競い合ってきたライバルとして――そのデュエル以外の恋を見つけさせてくれた相手として。彼のことが好きだと心の底から言い放った。

「ううん、違うよ。遊矢様はボクの全てなんだから、明日香さんのものじゃない」

「そうね……レイちゃん、あなたとは正々堂々相手をしたいの。だから――」

 明日香の告白に笑顔のままゆっくりと首を振るレイに対し、明日香は倒すべき相手を見据える。フィールドにいるだけで漆黒の気配を漂わせる、まるで幽霊のようにレイに取り付いた《No.11ビッグ・アイ》――

「――その邪魔なのは破壊させてもらうわ。私のターン、ドロー!」

 気迫を込めて明日香はカードを引く。レイのフィールドは《No.11 ビッグ・アイ》に、明日香からコントロールを奪った《サイバー・ブレイダー》に、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》。そしてリバースカードが二枚と、永続罠《ナンバーズ・ウォール》にフィールド魔法《霞の谷の神風》。

 対する明日香のフィールドは、フィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》にリバースカードが一枚のみだったが――明日香は迷いなくカードを展開していく。

「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚し、効果を発動!」

 サイバー・エンジェルのサポートカード、《サイバー・プチ・エンジェル》。その効果は儀式魔法《機械天使の儀式》のサーチであり、明日香はさらにデッキから一枚のカードを手札に加える。

「さらに魔法カード《闇の量産工場》を発動! 墓地から通常モンスター二体を手札に加える!」

 明日香の墓地にある通常モンスターは、《サイバー・ブレイダー》の融合素材と《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の儀式素材によって墓地に送られた、三枚の《ブレード・スケーター》。氷上の舞姫が二枚手札に加えられるとともに、明日香はリバースカードを発動する。

「伏せてあった《融合準備》を発動! 墓地から《融合》魔法カードと、デッキから融合素材モンスターを手札に加える!」

 最後に発動されたリバースカードは、以前のターンで発動した《融合回収》の相互互換である、通常罠カード《融合準備》。結果的には先の《融合準備》と同じように、明日香の手には融合素材と《融合》魔法カードが加えられる。

 先のターンでは《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の発動コストにするため、墓地に送った《融合》だったが、このターンにそれは必要はない。何故なら《サイバー・プチ・エンジェル》の効果により、既に儀式魔法も手札に揃っているからだ。

 つまり。

「私は《融合》に《機械天使の儀式》を発動! 現れなさい、私のエースたち!」

 そして満を持して発動される、手札に加えられた二枚の魔法カード。《融合》によって《エトワール・サイバー》に《ブレード・スケーター》が融合し、融合のエースモンスターたる《サイバー・ブレイダー》が。《機械天使の儀式》によって《ブレード・スケーター》と、手札の《サイバー・プチ・エンジェル》を素材に、儀式のエースモンスター《サイバー・エンジェル-弁天-》が。それぞれ降臨するとともに、《サイバー・ブレイダー》はその第三の効果を発動する。

「《サイバー・ブレイダー》は相手のモンスターが三体の時、相手のカード効果を全て無効にする! パ・ド・カドル!」

「あっ……」

 発動される可能性のあるリバースカード、強固な耐性を誇る《ナンバーズ・ウォール》、レイのコントロール下にあるモンスター効果。それら全てを無効にし、《サイバー・ブレイダー》は攻撃へと繋ぐ。

「《サイバー・エンジェル-弁天-》に装備魔法、《リチュアル・ウェポン》を装備し、バトル!」

 最後に攻撃力を1500アップさせる装備魔法《リチュアル・ウェポン》を装備し、明日香の命令とともに《サイバー・エンジェル-弁天-》が疾走する。フィールド全てのモンスターの攻撃力を越えた弁天の標的は、もちろんただ一体――レイを惑わしコントロールを奪う、《ナンバーズ・ウォール》の庇護を失った《No.11 ビッグ・アイ》。

「《サイバー・エンジェル-弁天-》で《No.11 ビッグ・アイ》に攻撃! エンジェリック・ターン!」

「ッ――――」

レイLP3400→2700

 弁天の《リチュアル・ウェポン》を使った一閃に、《No.11 ビッグ・アイ》はその身体の中ほどから断ち切られ、爆発とともに沈黙していく。ビッグ・アイが破壊されるともに、レイのフィールドの《ナンバーズ・ウォール》も自壊し、ナンバーズの破壊に伴う自壊効果があったと推測されるが――それは今の明日香には関係のないことだ。

「《サイバー・エンジェル-弁天-》が相手モンスターを破壊した時、相手モンスターの守備力分のダメージを与える!」

レイLP2700→700

 《No.11 ビッグ・アイ》の守備力は2000。ビッグ・アイの破壊された爆風がレイを襲い、ボーッとしたようなレイは無抵抗でそれを受け入れる。……ただしどんな暴風がその身を襲おうと、レイはまるで立ち止まった動こうとはしなかったが。

「そして相手モンスターが二体になったことで、《サイバー・ブレイダー》は自身の攻撃力を倍にする! パ・ド・ドロワ!」

 一刻も早くデュエルを終わらせようとする明日香に呼応するように、《サイバー・ブレイダー》は自身の攻撃力を倍にしてみせ、《サイバー・エンジェル-弁天-》と入れ替わるように敵と対峙する。

「終わりよ! 《サイバー・ブレイダー》で、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 攻撃目標はコントロールを奪われた《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》。攻撃力を倍にした《サイバー・ブレイダー》ならば、その攻撃力の差からレイのライフポイントを終わらせることが出来る。

「――リバースカード、オープン! 《立ちはだかる強敵》!」

「えっ……!」

 しかし《サイバー・ブレイダー》が第二の効果を発動したということは、レイのリバースカードは効果を取り戻した、ということであり。突如として動きを取り戻したレイのリバースカードにより、明日香の《サイバー・ブレイダー》の攻撃対象はレイによって決定されてしまう。

「《サイバー・ブレイダー》……」

 明日香とレイに奪われた《サイバー・ブレイダー》が攻撃しあい、どちらも攻撃力を倍加させる効果を発揮していた両者は、無惨にも同士討ちという最期を遂げる。……明日香にはもうこのターン、レイの残るライフを削る手段はない。

「どうしたの? 終わったならターンエンドって言ってよ」

「レイちゃん……ターン、終了よ」

 《No.11 ビッグ・アイ》を破壊したにもかかわらず、レイの態度は変わらない――いや、先程の貼りつけたような笑顔もなくなり、まるで能面のように無表情に成り果てていた。自身の力不足を感じて奥歯を噛み締めながら、明日香はターンを終了する。

「ボクのターン。ドロー」

 とはいえ明日香の攻勢により、レイのフィールドも《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に《霧の谷の神風》のみ。ナンバーズを失ったレイが取る手段は。

「ボクは《ワン・フォー・ワン》を発動。手札を一枚捨てて、デッキからレベル1モンスター《森羅の神芽 スプラウト》を特殊召喚」

 ――新たなナンバーズの特殊召喚に他ならない。そのために森羅のカードを使い、レイは着実にフィールドを支配していく。

「《森羅の神芽 スプラウト》の効果。特殊召喚に成功した時、デッキの上を二枚捲る」

 一見意味のない効果ではあるが。それが植物族であった場合、墓地に送る効果を持ち――森羅はデッキから墓地に送られた時、効果を発揮するシリーズカードである。

「墓地に送られた《森羅の実張り ピース》と《姫芽君 スプラウト》の効果を発動。それぞれ、墓地のレベル4以下の植物族モンスターと、自身を墓地から特殊召喚する。《コピー・プラント》と《森羅の姫芽君 スプラウト》を特殊召喚」

 デッキから墓地に送られたモンスターは、《森羅の実張り ピース》に《森羅の姫芽君 スプラウト》の二体。それぞれ墓地から植物族モンスターを特殊召喚する効果であり、レイのフィールドにさらに二体の植物族モンスターが特殊召喚される。デュエル序盤に《No.11 ビッグ・アイ》のエクシーズ素材になった《コピー・プラント》と、今まさに墓地に送られた《森羅の姫芽君 スプラウト》。

「さらにデッキトップを一枚墓地に送ることで、墓地から《グローアップ・バルブ》を特殊召喚」

 そして《ワン・フォー・ワン》によって墓地に送られていた、植物族モンスター《グローアップ・バルブ》も特殊召喚され、レイのフィールドは即座に五体のモンスターで埋まる。まずは、と言わんばかりに、特殊召喚された三体のレベル1モンスターが重なっていく。

「エクシーズ召喚! 《No.83 ギャラクシー・クィーン》!」

 《グローアップ・バルブ》、《森羅の姫芽君 スプラウト》、《森羅の神芽 スプラウト》の三体をエクシーズ素材に、新たなナンバーズが守備表示でエクシーズ召喚される。新たなナンバーズの登場に明日香は警戒するが、まだフィールドにエクシーズ素材となるべきモンスターが残っていた。

「墓地の《スポーア》の効果。墓地の植物族モンスターを除外することで、その植物族モンスターのレベルを加えて特殊召喚する。《魔天使ローズ・ソーサラー》を除外し、レベル8として《スポーア》を特殊召喚」

 最初のターンに《森羅の実張り ピース》の効果で墓地に送られていた《スポーア》が、《魔天使ローズ・ソーサラー》を吸収しながら特殊召喚され、レベル8と化してフィールドに舞い戻る。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》もレベル8であり、まだレイのフィールドには――

「《コピー・プラント》の効果。《スポーア》と同じレベルとなり、三体のレベル8モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 ――フィールドの植物族モンスターのレベルを、その名の通りコピーする効果を持つ《コピー・プラント》。明日香から奪った《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に《スポーア》《コピー・プラント》のレベル8モンスターを三体素材に、新たなナンバーズが特殊召喚される。明日香のフィールドに降臨した《サイバー・エンジェル-弁天-》を倒す、本命のナンバーズ。

「――エクシーズ召喚。《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》」

 重なっていくカードたちから花が開く。花の中から美しい女性が現れるとともに、その手には月のような剣が携えられていた。月光の下にあるその姿は、まるであれだけ美しく成長出来たなら――と、少女が願う姿のようでもあり。

「クイーン・オブ・ナイツとギャラクシー・クイーンの効果。攻撃力を300ポイントアップし、戦闘破壊耐性に貫通効果を付与する」

 《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》は複数の効果から攻撃力アップを選択し、《No.83 ギャラクシー・クィーン》は破壊耐性に貫通効果を付与させる。二体の美しい女性のナンバーズは、少女の敵を討つべくバトルフェイズへと移る。

「バトル……クイーン・オブ・ナイツで、《サイバー・エンジェル-弁天-》に攻撃!」

「くっ……!」

明日香LP800→600

 《サイバー・エンジェル-弁天-》の、《リチュアル・ウェポン》によって強化された攻撃力は3300。自身の攻撃力で永続的に攻撃力を上げた、《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》の攻撃力は3500。たかが200ポイントの違いではあったものの、明日香のエースモンスターは破壊され、フィールドはがら空きとなってしまう。

 ただ、ギャラクシー・クイーンの攻撃力やエクシーズ素材となったモンスターの総攻撃力は越えておらず、ライフポイントが少しでも残ったのは不幸中の幸いか……

「ターンエンド」

「……私のターン! ドロー! ……メインフェイズ、《貪欲な壺》を発動することで、さらに二枚ドロー!」

 明日香は気迫を込めてカードをドローするものの、その表情には浮かばない感情が目立つ。《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》に《No.83 ギャラクシー・クィーン》の二体のナンバーズを見ながら、それでもまだ諦めまいと《貪欲な壺》を使ってさらにカードをドローする。

「私は……《サイバー・ジムナティクス》を召喚!」

 守りを固めたところでギャラクシー・クイーンにより貫通効果を付与されてしまい、クイーン・オブ・ナイツの高攻撃力の前に散るだけだ。ならば明日香には攻める手段しかない――と、新たなサイバー・ガールを召喚する。

「《サイバー・ジムナティクス》の効果を発動! 手札を一枚捨てることで、相手の攻撃表示モンスターを破壊する!」

 狙っていた訳ではなかったが、効果破壊を防ぐ《ナンバーズ・ウォール》は《No.11 ビッグ・アイ》を破壊した際、同じように自壊していた。そしてギャラクシー・クイーンが付与するのは、あくまで戦闘破壊耐性のみだと、《サイバー・ジムナティクス》の一撃がクイーン・オブ・ナイツを襲う……!

「クイーン・オブ・ナイツの効果。一ターンに一度、植物族モンスターを裏側守備表示にすることが出来る」

 ――ただし、レイの冷酷な宣言が明日香を震わせる。クイーン・オブ・ナイツの花が閉じられていき、《サイバー・ジムナティクス》の一撃は避けられてしまう。攻撃表示モンスターを破壊する、という効果の対象ではなくなってしまったためだ。

「まだ……まだよ! 魔法カード《デュアル・ゲート》を発動! 発動するこのカードと墓地の同名カードを除外することで、カードを二枚ドローする!」

 ただし《サイバー・ジムナティクス》の効果により、墓地に送っていたカードが次なる可能性を示す。墓地にある同じカードと発動するカードを除外することで、カードを二枚する魔法カード《デュアル・ゲート》。その効果により二枚のカードをドローする――

「ッ……」

 ――だが、可能性を掴めるとは限らなかった。デッキからドローした二枚のカードを見たものの、明日香に取れる手段は少なかった。……少なくとも、次の明日香のターンを迎える手段はなく。

「……だけどこれなら! 通常魔法《儀式の準備》を発動! 墓地から儀式魔法と、デッキからレベル6モンスターを手札に加える!」

 引き当てたカードは優秀なサーチカード《儀式の準備》。レイが操る二体のナンバーズを倒すことは、今の状況では明日香の儀式モンスターには出来ないが、まだ可能性を残すことも出来る。

「私は《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを素材に、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」

 降臨するは三体目のサイバー・エンジェル。その効果は墓地の魔法カードを回収する効果であり、もちろんドローという『可能性』を掴むべく、明日香は《貪欲な壺》を選択する。発動の為の墓地コストは《高等儀式術》の効果で墓地に送られており、発動すること自体は容易であった。

「魔法カード《貪欲な壺》を発動!」

 デッキトップから二枚のカードをドロー……だが、明日香には半ば分かっていた。逆転の一手などデッキには残っていない、ということを。

「……私は……」

 ドローした二枚のカードではレイを救うことの出来ない。それを突きつけられた明日香は、ふと弱音を吐きそうになる口をせき止める。……ただ、諦めないという心だけでは目の前の状況を変えることが出来ない、というのもまた変えられない事実であり。ピクリとも動かないレイを見据えながらも、明日香は何もすることが出来なかった。

「でも、まだ……!」

「明日香!」

 ……それでも、まだ口だけは諦めようとしない明日香に対し、《霧の谷の神風》のフィールドの奥から声がかけられる。その声は《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の扉を開け、デュエル場へと足を踏み入れた。

「……遊矢?」

「明日香……っ。これを!」

 肩で息をした青い制服を着た青年が、《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の内部を見るとともに、何が起きているかを瞬時に悟ったらしく。ナンバーズ二体を前に操り人形のように立ち尽くす明日香に、苦々しげな表情で一枚のカードを取り出すと、明日香にそのカードを投げ渡した。

「黒い……カード?」

 受け取った明日香がカードを見てみると、漆黒に染まった何も描かれていないカード。モンスターや魔法、罠でもなく――黒い、というだけならエクシーズモンスターに近い。

「ナンバーズのカード。強く念じれば、お前の……お前の心のカードになる」

「私の……カード」

 それは以前倒したミスターTが持っていたカード。何も描かれていないカードであり、人間の心を写し新たなナンバーズとして生まれ変わる。

「頼む……レイを、助けてくれ!」

「……ええ。私は《機械天使の儀式》を発動!」

 恥も外聞もないとばかりの遊矢の頼みを聞き、明日香は一度は折れそうになった心を立て直す……レイを助けたい、という思いは変わらない。ひとまずその漆黒のカードをエクストラデッキに移すと、明日香は一枚のカードを発動する。このカードが明日香自身のカードとなるならば、どのようにして召喚するかは自ずと彼女には理解出来た。

「《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

 フィールドの《サイバー・ジムナティクス》と手札の《サイバー・プチ・エンジェル》を素材とし、再び儀式のエースたる《サイバー・エンジェル-弁天-》が降臨する。これで明日香のフィールドには、サイバー・エンジェルが二体――同じレベルのモンスターが、二体。

「……私自身のカード。レイちゃんを助ける力に……私は二体のサイバー・エンジェルで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 彼女のデッキに今までなかったエクシーズモンスター。先程遊矢に渡された漆黒のカードを取り出すと、レイを助けたいという一念と彼への思いを込めながら――カードが浮かび上がっていく。

「集いし想いよ! 熱に溶ける氷のように、一つとなりて少女に宿れ! エクシーズ召喚! 《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》!」

 サイバー・エンジェル達によって特殊召喚されたのは、ドレスアップした氷の少女。その手に持ったレイピアのような鋭い瞳でフィールドを見据え、ゆっくりと明日香の前に降り立った。

「私の、ナンバーズ……《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》の効果を発動!」

 しばしレディ・ジャスティスの姿を眺めた後、明日香が気を張りつめて効果の発動を宣言するとともに、レディ・ジャスティスは剣を大地に突き刺していく。

「オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、相手の守備表示モンスターを全て破壊する!」

 大地に突き刺したレイピアから氷の蔓が伸びていき、守備表示だった《No.83 ギャラクシー・クィーン》に、守備表示となった《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》へと絡まっていく。その蔓は徐々に広がっていき、最終的には身体全体を包み込み、モンスターの形の氷像と化していた。

「……砕け散りなさい!」

 ――そして明日香の宣告とともに、氷像と化した二体のナンバーズが文字通り砕け散った。それとともにレイは力を失って膝をつき、レディ・ジャスティスはレイピアを大地から引き抜いた。

「明日香……さん……」

「大丈夫。もう終わらせてあげるから……バトル!」

 レディ・ジャスティスの攻撃力は元々の攻撃力は500程度だが、エクシーズ素材の数×1000ポイントアップさせる効果がある。効果発動の為にエクシーズ素材を一つ使用したため、1500にまで落ちてしまったが……このデュエルを終わらせるには、もう充分だ。

「《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》で、ダイレクトアタック!」

 レディ・ジャスティスの一突きが煌めくと、レイの頬を掠めて取り憑いていた一枚のカードを突き刺した。漆黒に染まったカードはレディ・ジャスティスの一差しに力を失っていき、トドメとばかりに切り裂いた。

「ぁ……」

レイLP700→0

「レイ!」

「レイちゃん!」

 二つのフィールド魔法とレディ・ジャスティスが消えていき、遊矢と明日香の二人は倒れたレイに駆け寄っていく。大地に倒れ伏す前に遊矢が受け止め、素早く呼びかけるものの、どうやら気を失っているようだ。それに遊矢が気づいたすぐ後、心地よそうな寝息が聞こえてくる。

「……大丈夫そうだな」

 安心したように笑う遊矢は、慣れたようにレイをおぶっていく。明日香はその光景を安心したように眺め、ゆっくりと息を吐く。

「ありがとう、明日香。……おかげで助かった」

「……ううん。遊矢が来てくれなかったら、ダメだった」

 遊矢が《ナンバーズ》のカードを届けてくれていなければ、レイを助けることは出来なかった。生み出された《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》を見ながら、明日香は心の底からそう言っていた。

「……でも、助けてくれたのは確かだ。そうだ、十代の方は――」

 器用にも眠りこけたレイを担ぎながら十代と連絡を取る遊矢の後ろ姿を見ながら、明日香はレディ・ジャスティスをエクストラデッキにしまい、柔らかく微笑むとともに呟いた。遊矢には聞こえないように小さな声で。

「……私も、もっと強くならなきゃね」

 ――あなたの隣に、いつまでもいれるように。

 
 

 
後書き
斎王「――女の話をしよう」
 

 

―もう一回―

「レイ、大丈夫か?」

「うん。もうすっかり!」

 幾度となくお世話になったアカデミアの保健室。そこで今回の騒動に巻き込まれたレイを見舞いに来ていたが、ベッドに座る彼女はどうやら平気なようで。

「良かった……明日香には感謝しないとな」

「……うん、そうだね」

 迷惑をかけてしまったことの申し訳なさか、レイは明日香の名を聞くと少し顔を伏せってしまう。十代によって大元の原因であるミスターTは消滅したが、あの神出鬼没さにはまるで油断は出来ず、レイまで巻き込んでしまったことに奥歯を噛み締める。

「ごめんなレイ。巻き込んじゃって……」

「ううん! わ……ボクが弱かったのがいけないんだ。それにほら、元気になったんだから大丈夫だよ!」

 無理やりに笑顔を作っていることが丸わかりだったが、レイはそれでも太陽のような笑みを向けてくれ、さらにその言葉は続いていく。大事な話があるのだと。

「ボク……新しい恋を探すって決めたんだ。遊矢様がいつまでも想いに応えてくれないから、ボクの方からフッちゃう!」

 つーん、と顔をどこかそっぽに向けるレイ。そして目元をゴシゴシと擦った後、再びこちらの方に向き直った。

「そうか……フラれちゃったか、俺」

「えへへ、ごめんね」

 突然の話で驚いてはいるが、いつか話さなくてはならなかったことだ――レイにとっても……俺にとっても。

「これからは何て呼べばいいのかな。遊矢……お兄ちゃん?」

「それで頼む」

 名実ともに妹分となった彼女に微笑みかけ、しばし他愛のない話題で談笑していると――何せ長い時間が経ったようでも、俺はアカデミアで目覚めてからまだ数日だ――レイが思いだしたように、あ、と声を出した。

「どうした?」

「今日、確かエドが来てるって話だったから。遊矢さ……お兄ちゃん、用があるんでしょ?」

 プロデュエリスト、エド・フェニックス。一応はアカデミアの生徒である彼だったが、当然のことながらあまり学園にはいない。ただし俺は彼に用があった――異世界でのことを、謝らなくては……謝って済まされることではないが、そうでもしないと始まらない。異世界で俺のせいで被害を被った、翔に明日香には謝ったが……あとはエドに亮だ。

「ありがとうレイ。ちょっと行ってくる」

「うん」

 そうして俺は、勝手知ったる保健室から出て行った。彼女が消え入りそうな声で語った、さようなら――という言葉を聞こえないフリをしながら。


「……どうしてこうなった」

 ……そんなレイとの別れから数分後、俺は空の上にいた。正確には飛翔するヘリコプターの中だが、急展開すぎて俺の脳内の処理がついて行けなかった。

「慌てるな。どっしり構えていろ、見苦しい!」

 隣の席で貧乏揺すりを激しくしながら、同乗者こと万丈目は語る。そもそもこうなったのも、元はと言えば……誰のせいだっただろうか。エドに会いにヘリポートに行った俺が見たものは、エドに土下座するクロノス教諭であり――プロデュエリスト志望の万丈目に、プロリーグを見せてあげたいということらしい――そこに居合わせた俺を見たエドは、『そこの黒崎遊矢が同行すること』を条件としたのだ。

 どちらにせよエドと話をつけたいだけの俺は、万丈目にクロノス教諭の為にもその条件を了承……したはいいのだが、当のエドはさっさと別のヘリコプターに乗り込んでしまい、話すどころかとりつく島もない。

 そうしてしばし、空の旅を楽しむこともなく過ごした俺たちは、あるビルへと降り立っていた。やはりエドの姿はどこにもなく、何とかエドのスポンサーをしている千里眼グループのビルということが分かり、万丈目は居心地が悪そうにしていた。……万丈目グループとはライバル企業同士というのだから、そのリアクションも万丈目にとって無理はないことだろう。

「失礼します」

「……はい?」

 そうして意図も分からずヘリポートに立ち尽くしていた俺たちに、ある一人の女性が話しかけてきていた。その女性は確かエドの側に控えていた女性であり、その手にはスーツケースが二つほど担がれている。

「あなた方にはこれから、私の助手としてエドの為に働いて貰うことになります」

「何!? オレ様がどうしてエドなんぞのために――」

「……プロの世界を知るには、それが最も手っ取り早いと思いますが」

「っ……」

 女性の一方的な言葉に反論した言葉を万丈目が言い終わる前に、さらに続いた女性の台詞に万丈目はただ押し黙ってしまう。エドのマネージャーと思わしき女性は、そんな万丈目の様子を満足げに眺めて微笑んだ後、今度はこちらの方に向き直った。

「黒崎遊矢様。あなたとエド様の間に何があったかは存じません。ですが、エド様に用があるなら近い場所にいた方がいいのでは?」

「……分かった」

「では、こちらのスーツにお着替えください」

 ――こうしてマネージャーの女性に丸め込まれた俺たちは、しばしエドのマネージャーの助手として働くこととなった。確かにエドの側近となることと同義だったが、人気のプロデュエリストたるエドのマネージャーは、忙しくエドと話す余裕もなく――正直、プロデュエリストというのを舐めていたのかもしれない。

 華やかなことばかりではない。特にその裏側ともなれば、どうにも分刻みのスケジュールで動くこととなり、実際にプロとしてデュエルする時間の方が少ない程だ。そんな目が回るような事態に、気が付けばすっかり夜となって……いや、夜も更けていた。

「お疲れ様です。では、また明日」

 マネージャーの女性に当面の宿泊施設たる、古い倉庫のような場所に連れてこられ――そこでもエドが所有するカードの整理、という仕事があったが――何とか休みを貰えたらしい。万丈目と二人してソファーに倒れ込み、そのまま意識を失いそうになってしまう。

「……腹が減った」

 だが万丈目のそんな一言で、何とか意識を取り戻した。言われてみれば食事を取っておらず、意識すれば腹も減ってくるもので。

「行くぞ遊矢。安い早い美味い店くらいあるだろう」

「お前、本当に金持ちか?」

 随分と俗っぽい万丈目のリクエストに応えながら、俺たちは私服に着替えて外へと繰り出していく。エドを後援する千里眼グループのお膝元の町だけあって、深夜でもまだ大分活気は残っている。久方ぶりに見るアカデミア以外の街の様子に、懐かしげに見ていると――千里眼グループのデュエルスタジアムが、まだ光を放っていることに気づく。

「ふん……外のレベルを覗いてやるとするか」

 それには万丈目も気づいた上に興味を惹かれたらしく、そのデュエルスタジアムの方へと二人は歩む方向を変える。……しかしデュエルスタジアムに行くより以前、俺はある場所に気づくこととなった。

「おい、万丈目。……あれは」

 それは目立たない路地裏だった。常人ならば夜には立ち寄るまい、と思わせる雰囲気の場所だったが……よく目を凝らせると、ソリッドビジョン用の電流が通っている。気になってしばし近づいてみると――そこには。

「エドだと?」

 怪訝そうな声で万丈目が呟いた通り、路地裏の向こうではエド・フェニックスが、誰とも知らない男とデュエルしていた。それもどうやら行われているのはハンデ戦のようであり、フィールドはエドの絶対的な不利な状況で。

「秘密の特訓、ってことか……」

「遊矢。今日の晩飯は弁当に変更だ」

 俺たち以上のハードスケジュールをこなしておいて、さらに特訓を重ねるエドの姿に、万丈目は何を思ったのかきびすを返して弁当屋に入っていく。そこで適当に二人前の弁当を買うと、俺たちの宿泊施設へと戻ろうとしていた。

「エドも馬鹿な奴だ。あんな雑魚と百回だの千回だのデュエルするより、遊矢、お前と万回デュエルする方がいいに決まっている」

「……ああ、そうだな」

 未来のライバルたるこの万丈目サンダーに塩を送るとは、エドめ後悔するがいい――と不遜にも語る万丈目とともに、俺たちは宿泊施設へと戻っていく。弁当を机の上に、デュエルディスクを腕に、すばやくどちらも設置すると、お互いにデュエルの準備を完了させる。

「行くぞ遊矢!」

「ああ――」

『デュエル!』

遊矢LP4000
万丈目LP4000

「オレの先攻!」

 デュエルディスクは万丈目を先攻とし、あちらから五枚の手札を眺めていた。ああ見えても万丈目はあらゆるデッキを使いこなす、変幻自在のデュエリスト――まさか先のタッグデュエル大会のアレではないだろうが、どんなデッキで来るか予想もつかない。

「オレはモンスターをセット。さらに二枚カード伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 万丈目の初手は先攻一ターン目としてはスタンダードな、セットモンスターとリバースカードを二枚伏せてのターンエンド。アレだけでは万丈目がどんなデッキか、予測をつけることは適わない。

「手札のこのカードは、攻撃力を下げることで妥協召喚出来る! 来い、《ドドドウォリアー》!」

 ならば、と召喚されるはレベル6の上級機械戦士。攻撃力を1800にすることで妥協召喚することができ、さらにリクルーターやサーチャーの効果を無効にすることが出来る。万丈目のセットモンスターなら、《仮面竜》のようなモンスターの可能性が高い……!

「バトル! 《ドドドウォリアー》でセットモンスターに攻撃! ドドドアックス!」

 《ドドドウォリアー》がその背に負っていた斧を手に持ち替え、軽々とセットモンスターに向かって振り抜ける。表側表示になったそのモンスターの正体は――

『ひぇぇぇぇー!』

「……《おジャマ・イエロー》?」

 ……てっきりリクルーターだと思っていた俺の予想は外れ、珍妙な悲鳴とともに《おジャマ・イエロー》は砕け散っていく。《ドドドウォリアー》によって効果を無効にするまでもないが、代わりに万丈目が伏せたリバースカードが発動する。

「オレはリバースカード《おジャマーブル》を発動! 破壊されたおジャマモンスターをデッキに戻すことで、カードを二枚ドローして一枚捨てる!」

 発動されるは、おジャマモンスターが破壊されることを条件とした、サポート罠カード《おジャマーブル》。破壊した《おジャマ・イエロー》はデッキに、デッキから万丈目はカードを二枚ドローし、その後手札を一枚捨てるという一連の流れが素早く行われた。

「さらに捨てたカードは《おジャマジック》! このカードは墓地に送られた時、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加える!」

 ……いや。その一連の流れは、まだ終わっていなかったらしく。さらに墓地に送られることで効果を発揮する、魔法カード《おジャマジック》の効果によって、万丈目の手札におジャマ三兄弟が手札に加えられる。

「……俺もカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 手札交換とサーチを素早くこなす、その敵ながら見事な手管に舌を巻きながら、こちらも二枚のカードをセットし待ち構える。手札におジャマ三兄弟がいる以上、どのようにしてか攻め込んでくるに違いはない……!

「オレは魔法カード《おジャマ・ゲットライド!》を発動! 手札の雑魚どもを全て墓地に送ることで、デッキからユニオンモンスターを三体、特殊召喚する!」

 X、Y、Z。万丈目の使う三体のユニオンモンスターが、手札のおジャマ三兄弟と引き換えに現れる。《おジャマ・ゲットライド!》によるデメリットとしては、特殊召喚したユニオンモンスターは攻撃も効果の発動も不可能だが――そのデメリットに、果たして何か意味があるだろうか。

「合体! 《XYZ-ドラゴン・キャノン》!」

 三体のモンスターは万丈目の号令の下、一斉に合体を果たして一体の合体ロボットとなる。さらにその二対の大砲は、すぐさま《ドドドウォリアー》に向けられた。

「《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果発動! 手札を一枚捨てることで、相手のカードを破壊する!」

「《ドドドウォリアー》……!」

 大砲の集中放火を受けて《ドドドウォリアー》は破壊されてしまい、あっさりとこちらのフィールドはがら空きとなった。さらに恐ろしいところは、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果はターンに一度などという制限はない。もちろん手札コストがある以上、無限に効果を発動することは出来ないが、こちらのリバースカードも破壊するか万丈目は思索する。

「……オレは《V-タイガー・ジェット》を召喚する」

 まだまだデュエルは序盤も序盤。リバースカードの破壊よりも手札コストを優先したのか、万丈目はリバースカードを破壊することなく、新たなモンスターを召喚する。

「さらに伏せてあった《ゲットライド!》を発動! 墓地の《W-ウィング・カタパルト》を、《V-タイガー・ジェット》に装備!」

 先の《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果により、布石は既に墓地に送られていたらしく。さらに伏せられていた本家本元の《ゲットライド!》が発動され、さらにVWのユニオンもフィールドに特殊召喚される。さらにユニオンによる装備だけではなく、合体へと繋がっていく……

「合体! 《VW-タイガー・カタパルト》!」

 《おジャマ・ゲットライド》から始まったコンボに、二体の融合モンスターが即座にフィールドに揃う。さらなる融合が可能ではあるが、万丈目はまだそれを命じることはなく。

「バトル! まずは《VW-ウィング・カタパルト》で、ダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《ガード・ブロック》! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」

 まず攻撃してきたのは《VW-ウィング・カタパルト》。そのミサイルによる一撃は、俺の前に現れたカードの束によって防がれる。さらにそのカードの束のうち、一枚のカードが俺の手札に加えられた。

「ならば《XYZ-ドラゴン・キャノン》で攻撃だ! ハイパー・デストラクション!」

「ならもう一枚のリバースカード、《くず鉄のかかし》を発動する!」

 息も吐かせぬ連撃が放たれたものの、何とかこちらもリバースカードで防ぎきる。《XYZ-ドラゴン・キャノン》の攻撃は、発動された《くず鉄のかかし》に直撃したことで無効にされ、《くず鉄のかかし》は自身の効果により再びセットされる。……念のためと伏せていた二枚の伏せカードだったが、本当にどちらも使わされるとは。

「ええい、小賢しい……メイン2、オレは二体のモンスターを合体し、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を融合召喚する!」

 融合召喚とは言えども先の二種と同様、もちろん《融合》の魔法カードを発動することはなく。合体済みだった二体のモンスターがさらに合体し、最も強力な一体――《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》へと昇華される。

「VWXYZの効果を発動! そのかかしには消えてもらうぞ!」

 VWXYZの効果は融合素材の効果の正当進化。ノーコストで相手のカードを除外する効果であり、伏せてあった《くず鉄のかかし》は、その効果により除外される。

「オレはこれでターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 僅か一ターンでのVWXYZの融合召喚により、すっかりと俺のフィールドはがら空きとなった。だが万丈目もそれを代償に、フィールドは《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》のみ。確かに大型モンスターではあるが、ここは攻め込める。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! デッキからさらに二体、《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」

「……シンクロ召喚か!」

 攻撃力500以下の機械族モンスターを増殖させる、通常魔法カード《機械複製術》の効果により、召喚された《チューニング・サポーター》はすぐさま三体に増殖する。確かにシンクロ素材となった時に効果を発揮するモンスターであり、万丈目がそう感づいた意味も理解できる……が。

「違うな。俺は《チューニング・サポーター》三体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

「エクシーズだとぉ!?」

 フィールドにはレベル1のモンスターが三体。よってつい先日新たに手に入れた、俺自身のナンバーズの召喚の条件が揃う。《チューニング・サポーター》三体が重なっていき、そして――

「集いし鉄血が闘志となりて、震える魂にて突き進む! エクシーズ召喚! 《No.54 反骨の闘士ライオンハート》!」

 雄々しいたてがみを震わせながら、身体中に痛々しくも機械を埋め込んだ反骨の闘士。かつてのコロッセオにおける拳闘士のような、そんな風貌をした自分自身のナンバーズ。

「驚くのはまだ早いぞ万丈目……バトルだ、ライオンハートでVWXYZに攻撃!」

「何をする気だ……!?」

 ライオンハートの攻撃力は僅か100。もちろんVWXYZに適う数値ではないが、わざわざエクシーズ召喚までしたのだ、それだけの筈もない。VWXYZがその大砲から砲弾を放つと、ライオンハートはその身に無造作に巻きつけたマントで、放たれた砲弾を万丈目へと跳ね返してみせた。

「ライオンハートは戦闘では破壊されず、オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、受ける戦闘ダメージを全て相手に与える! バーニング・クロスカウンター!」

「なっ……おっおい馬鹿、こっちくうぉぉぉぉ!」

万丈目LP4000→1100

 跳ね返された砲弾から万丈目が逃走しようとする前に、意志を持ったように飛翔する砲弾が着弾する。《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を通り過ぎ、万丈目に直接与えられたそれは黒煙をあげていた。

「ごほっごほっ……だがVWXYZは無事、次のターンで除外してくれる!」

「次のターンがあればな。メイン2、モンスターが通常召喚に成功したターン、このカードは特殊召喚出来る。来い、《ワンショット・ブースター》!」

 確かに万丈目の言った通り、ライオンハートだけではモンスターを破壊することは適わない。しかして新たに召喚された《ワンショット・ブースター》は、その弱点を補うことの出来るカードだった。

「《ワンショット・ブースター》の効果を発動。戦闘で破壊されなかったモンスターを、このカードをリリースすることで破壊できる! 蹴散らせ、《ワンショット・ブースター》!》」

 黄色のボディを持った機械から、ブースターを伴ったミサイルが発射される。それは寸分違わずVWXYZへと直撃し、ミサイルから本体への誘爆で木っ端みじんとなりて粉砕された。

「俺はこれでターン終了」

「おのれ……オレのターン、ドロー!」

 ライオンハートと《ワンショット・ブースター》により、万丈目のライフに大きくダメージを与えながら、強大なモンスター《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を破壊することに成功する。ただもちろん、万丈目がこの程度で終わるような訳もなく――

「オレは《トワイライトゾーン》を発動! 墓地からレベル2以下の通常モンスターを、三体特殊召喚出来る!」

 墓地から三体のモンスターを一度に特殊召喚する、という驚異的な効果を持つ《トワイライトゾーン》だが、その効果の恩恵を得られるのはレベル2の通常モンスターのみ。万丈目の墓地に眠る、レベル2のモンスターといえば……もはや言うまでもなく。

『おジャマ三き』

「通常魔法《馬の骨の対価》! 通常モンスターをリリースすることで、カードを二枚ドロー出来る!」

『うわぁぁぁぁ』

 ……蘇生されたかと思えば、《馬の骨の対価》によって《おジャマ・グリーン》が墓地に送られてしまい、三兄弟が一瞬にして瓦解する。しかして、そんな様子を万丈目は気にもかけず、通常モンスターをコストに二枚ドローする魔法カード《馬の骨の対価》により、ドローしたカードを見てニヤリと笑い。

「オレは永続魔法《異次元格納庫》を発動! このカードの発動時、デッキから三体のユニオンモンスターを除外する!」

 万丈目のフィールドに、戦闘機が発進するような格納庫が配置されるが……その格納庫の内部は、まるで窺うことは出来ない。本当に異次元に繋がっているようなソレに、発動するより以前から警戒してしまう。

「さらに《V-タイガー・ジェット》を召喚し、《異次元格納庫》の効果を発動! このカードの効果で除外したモンスターに指定されたモンスターが召喚された時、そのモンスターを除外ゾーンから特殊召喚する! 除外ゾーンから現れろ、《W-ウィング・カタパルト》!」

「なるほどな……」

 まさしくその効果は《異次元格納庫》。今まさに万丈目のフィールドで起きたことから察するに、まずは三体のユニオンモンスターを除外し、その後に対応したモンスター――《W-ウィング・カタパルト》ならば、そのモンスターをユニオンできる《V-タイガー・ジェット》――が、除外ゾーンから特殊召喚される。永続魔法という特性上、恐らくは破壊されれば効果を失うのだろうが……今、《異次元格納庫》を止める手段はこちらにはない。

「そして《融合識別》を発動! このターン融合召喚する時のみ、《おジャマ・ブラック》の名称を《XYZ-ドラゴン・キャノン》として扱う!」

 《融合識別》――融合召喚のサポートカードであり、十代の使う《ヒーロー・マスク》のような、融合時のみであるが名前を変更するカード。つまり融合召喚する時のみ、《おジャマ・ブラック》は《XYZ-ドラゴン・キャノン》として扱うこととなり――万丈目のフィールドには、再び融合召喚をする条件が揃う。

「《XYZ-ドラゴン・キャノン》となった《おジャマ・ブラック》と、《VW-タイガー・カタパルト》で合体! 再び現れるがいい、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》!」

 先のターン《ワンショット・ブースター》が破壊した、【VWXYZ】の切り札たる超大型モンスター。その難解な召喚条件をものともせず、あっさりと万丈目は新たな二体目を融合召喚してみせる。

「言った筈だ、次のターンで除外してみせるとな! VWXYZ、その忌々しい新参者を除外だ!」

 いかに戦闘破壊耐性があろうと除外には対応出来ず、ライオンハートはVWXYZに万丈目の宣言通り、その効果によりフィールドから除外されてしまう。よってこちらのフィールドは、今度こそリバースカードもなしにがら空きになってしまい。

「さあ、今度こそダメージを受けてもらうぞ! VWXYZでダイレクトアタック! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「ぐあっ!」

遊矢LP4000→1000

 守られるものもなくVWXYZの一撃は直撃し、あっさりと万丈目のライフを下回る。VWXYZの高い攻撃力を利用したライオンハートの効果を使った次のターンに、まさかその高い攻撃力の直接攻撃を受けることになろうとは。

「フフン。オレはターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 こちらのフィールドにはまさしく何もなし、ライフポイントは残り1000ポイント。対する万丈目のフィールドには、あの《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に、守備表示の《おジャマ・イエロー》。そして永続魔法《異次元格納庫》……まだその効果により、除外されているユニオンモンスターがいるため、出来れば破壊しておきたいところだが。

「魔法カード《狂った召喚歯車》を発動! 墓地の攻撃力1500以下のモンスターと、その同名モンスター二体を特殊召喚出来る! 蘇れ、《チューニング・サポーター》!」

 《機械複製術》によって特殊召喚された後、エクシーズ素材となっていた《チューニング・サポーター》だが、そのライオンハートが除外されてしまったため、三体全て墓地に送られていた。その《チューニング・サポーター》を対象として発動した魔法カード《狂った召喚歯車》により、再び三体まとめてフィールドに揃う。もちろん、ここまで強力な効果にデメリットがない訳もなく。

「相手は自分のモンスターと同じ種族・レベルのモンスターを、二体デッキから特殊召喚出来る。VWXYZはともかく、おジャマは……」

「いるか!」

 ……【VWXYZ】のメインデッキに最上級機械族が投入されている訳もなく、まだ可能性があったおジャマモンスターの方を聞いたものの、怒った顔の万丈目に即座に否定された。確かに残り二体こと《おジャマ・グリーン》に《おジャマ・ブラック》は既に墓地であり、どうやらデメリット無しで召喚を可能にしたようだ。

「なら続けて《音響戦士ドラムス》を召喚する!」

 チューナーを司る機械戦士群の一員たる《音響戦士ドラムス》に、万丈目の顔に少しばかり緊張が走る。今度はエクシーズ召喚ではなく、《チューニング・サポーター》が得手とする召喚方法だ。

「俺はレベル2の《音響戦士ドラムス》に、レベル2とした《チューニング・サポーター》二体に、レベル1のままの《チューニング・サポーター》でチューニング!」

 シンクロ素材となる際のレベル変動効果を活かし、《チューニング・サポーター》は変幻自在のシンクロ召喚を可能とする。よって最終的なレベルは7となり、光の輪が《チューニング・サポーター》たちを取り囲んでいく。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 シンクロ召喚されるはラッキーカード。《パワー・ツール・ドラゴン》がその鋼鉄の装甲から吠え、竜のいななきがフィールドを震わせる。

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になった時、カードを一枚ドロー出来る。よって三枚ドロー! ……さらにこのカードが通常のドロー以外で手札に加わった時、このカードは特殊召喚出来る! 《スカウティング・ウォリアー》!」

 《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となった際の効果により、カードを合計三枚ドローすると、さらに機械戦士が手札から特殊召喚される。《スカウティング・ウォリアー》は、通常のドロー以外で手札に加わった時、自身を特殊召喚する術を持っているからだ。さらにその効果を活かすべく、新たな魔法カードを発動する。

「さらに《アイアンコール》を発動! フィールドに機械族モンスターがいる時、墓地からレベル4以下の機械族を特殊召喚する! 蘇れ、《音響戦士ドラムス》!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》のシンクロ素材となった《音響戦士ドラムス》が、あっという間に《アイアンコール》によってフィールドに舞い戻る。《パワー・ツール・ドラゴン》の存在により条件を満たし、再び《音響戦士ドラムス》は《スカウティング・ウォリアー》とシンクロ召喚の体勢を取っていく。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 《音響戦士ドラムス》のレベルは2、《スカウティング・ウォリアー》のレベルは4。その合計レベルに応えるように、重力の闘士《グラヴィティ・ウォリアー》がシンクロ召喚される。大地に降り立った鋼鉄の獣は、倒すべき相手を見定めるようにその眼光を鋭くした。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 万丈目のフィールドのモンスターは、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に《おジャマ・イエロー》の二体。よって攻撃力は600ポイントアップするが、これではまだ《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の攻撃力には届かない。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……右のカードだ」

 だが、まだこちらには《パワー・ツール・ドラゴン》の効果が残っている。デッキから選ばれた三枚の装備魔法は、万丈目に選択されたカードのみ手札に加えられ、そして《パワー・ツール・ドラゴン》に装備された。

「装備魔法《デーモンの斧》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、バトル!」

 《デーモンの斧》が装備された《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は3300――僅か300程度ではあるが、何とか《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の攻撃力を抜く。万丈目のフィールドにはリバースカードもなく、《パワー・ツール・ドラゴン》は一気にその距離を詰めた。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「おのれ……!」

万丈目LP1100→800

 二体目の《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の撃破。《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕がそのボディを削り取り、誘爆が万丈目のライフポイントを少しだけ削る。

「さらに《グラヴィティ・ウォリアー》で《おジャマ・イエロー》に攻撃!」

 相手が守備表示ということもあって、特に何ということもなくこちらの戦闘は終了する。《グラヴィティ・ウォリアー》が《おジャマ・イエロー》を戦闘破壊したことで、万丈目のフィールドは《異次元格納庫》のみとなるが、これ以上ダイレクトアタックをするモンスターはいない。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 こちらのフィールドには、《デーモンの斧》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》に《グラヴィティ・ウォリアー》、リバースカードが一枚。ターン終了時ということもあって、明らかにこちらが有利な状況であったが……

「オレは魔法カード《アームズ・ホール》を発動。デッキトップを墓地に送り、装備魔法カードを手札に加える。……そして《貪欲な壺》を発動し、二枚ドローする!」

 通常召喚を封じる事により、装備魔法カードを手札に加えるサーチカード《アームズ・ホール》。その効果によって装備魔法を加えながらも、おジャマ三兄弟を初めとするモンスターをデッキに戻し、万丈目は《貪欲な壺》によりカードを二枚ドローする。

「ふん……オレは《予想GUY》を発動! デッキから《X-ヘッド・キャノン》を特殊召喚!」

 《アームズ・ホール》のデメリットである通常召喚封じをものともせず、デッキから通常モンスターを特殊召喚する魔法カード《予想GUY》により、再び《X-ヘッド・キャノン》がフィールドに現れ――永続魔法《異次元格納庫》の効果が発動する。

「《X-ヘッド・キャノン》が召喚されたことにより、二体のユニオンモンスターを特殊召喚! そして合体せよ、《XYZ-ドラゴン・キャノン》!」

 《異次元格納庫》により除外ゾーンに格納されていた、フィールドに現れた《X-ヘッド・キャノン》の名が記されたモンスター二種が、除外ゾーンから特殊召喚される。すぐさま合体の素材となり、二体目の《XYZ-ドラゴン・キャノン》が融合召喚される。

「《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果! 手札を一枚捨て、《パワー・ツール・ドラゴン》を破壊する!」

「……だが《パワー・ツール・ドラゴン》は、装備魔法を墓地に送ることで破壊を免れる! イクイップ・アーマード!」

 装備されていた《デーモンの斧》を代償に、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の破壊効果から免れることに成功するも、攻撃力はフィールドのモンスターの中で最低に落ち込んでしまう。自身の効果で攻撃力が上昇した《グラヴィティ・ウォリアー》も、万丈目の《XYZ-ドラゴン・キャノン》には僅かながら及ばない。

「そして墓地に送ったカードは《おジャマジック》! 手札におジャマ三兄弟を手札に加え、《手札断殺》を発動! 手札を交換させてもらう」

「お互いにな」

 さらに《貪欲な壺》によりデッキに戻したおジャマ三兄弟を、このデュエル二枚目の《おジャマジック》により再度手札に加えられ、またもや《手札断殺》により墓地に送られる。こちらも二枚のカードを墓地に送り、二枚のカードをドローしながら、万丈目の次なる手について思索する。

「さらに装備魔法《次元破壊砲-S・T・U》を発動! このカードを装備することで、墓地の《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を、効果を無効にする代わり、貫通効果を付与して特殊召喚する! 蘇れ、VWXYZ!」

 恐らくは《アームズ・ホール》で手札に加えられていた、VWXYZの専用サポートカード《次元破壊砲-S・T・U》。スーパーサンダーユニットの名を冠したソレは、効果を無効にする代わりに貫通効果を付与し、またもや《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を万丈目のフィールドに蘇らせた。

「さらに《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果をもう一度発動! 《グラヴィティ・ウォリアー》を蹴散らせ!」

「《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 恐らくは最後に手札に残ったおジャマ三兄弟のうち一人をコストに発動された、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果で《グラヴィティ・ウォリアー》は破壊されてしまう。これでこちらのフィールドに残るのは、装備魔法が破壊された《パワー・ツール・ドラゴン》のみ。

「バトル! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》で、《パワー・ツール・ドラゴン》に攻撃! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「ぐうっ……!」

遊矢LP1000→300

 頼みの《パワー・ツール・ドラゴン》も適わず、スーパーサンダーユニットを装備した《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の効果に破壊され、爆炎がこちらのライフを削る。そして煙が晴れたそこには、待ち構える《XYZ-ドラゴン・キャノン》の姿。

「トドメだ! 《XYZ-ドラゴン・キャノン》で、貴様にダイレクトアタックだ! ハイパー・デストラクション!」
「手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルを無効にする!」

 零距離で放たれた《XYZ-ドラゴン・キャノン》の砲撃は、手札から巨大化した《速攻のかかし》が阻んでくれた。爆風には襲われたもののダメージはなく、何とか万丈目の猛攻を凌ぎきることに成功する。

「やはり持っていたか……メイン2。オレは永続魔法《地盤沈下》を発動する」

 どうやら万丈目はこちらが《速攻のかかし》を持っていたことは読んでいたらしく、故に《XYZ-ドラゴン・キャノン》の破壊効果をあえて使わず、《パワー・ツール・ドラゴン》との戦闘ダメージを狙っていたようだ。さらに《XYZ-ドラゴン・キャノン》でダイレクトアタックすることで、こちらの手札から《速攻のかかし》を墓地に送らせ、さらに次なる一手に繋げるために。

「永続魔法《地盤沈下》がある限り、指定したモンスターゾーンは使用出来ない。つまり遊矢、貴様のモンスターゾーンを二カ所封じる! ……カードを一枚伏せ、ターン終了だ」

「俺のターン……ドロー――」

 万丈目の発動した永続魔法《地盤沈下》により、こちらのモンスターゾーンは二カ所封じられた。残るはリバースカードが一枚のみ、という状況の中、逆転の一手を呼び込むためにカードをドローした――

「――リバースカード、オープン! 《おジャマトリオ》!」

「やっぱりか……!」

 ――瞬間。万丈目がリバースカードを発動するとともに、俺のフィールドに三体のモンスターが強制的に特殊召喚される。万丈目の代名詞とも言えるモンスター――おジャマ三兄弟たちだ。

『あ、どうぞ。お構いなく』

『えぇえぇ、お邪魔してるだけですから』

『むしろお邪魔しないと(使命感)』

 ……十代や万丈目とは違って、俺はあまり精霊の存在を感じることが出来ない。大体はおぼろげに分かる程度の筈だが、このおジャマ三兄弟たちの声はしっかりと聞こえる……気がする。

「さぁ、どうする!」

 ――などと言ってはいられない。永続魔法《地盤沈下》で二カ所封じられ、残るモンスターゾーンに《おジャマトリオ》が特殊召喚された今、俺は自由にモンスターすら召喚出来ない状況なのだから。とはいえこのままでは、次なる万丈目のターンにて、貫通効果を得た《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の攻撃により、守備貫通分のダメージを与えられて敗北する。

 さらには《おジャマトリオ》が破壊された時、破壊されたプレイヤーに300ポイントのダメージを与える効果――狙い澄ましたように、こちらの残りライフは300ポイントだ――により、《おジャマトリオ》を破壊することも出来ない。さらに言うなら、次のターンで《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果により、《おジャマトリオ》が破壊されてもこちらの負けだ。

 モンスターを召喚せずに《おジャマトリオ》を破壊せず、このターン中に万丈目のライフを0にする。そのためには――

「俺は魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手が前のターンに発動したカードを奪い、手札に加える。俺は《貪欲な壺》を選択して発動!」

 こちらのデュエルディスクから伸びた《蜘蛛の糸》が、万丈目が発動していた《貪欲な壺》を奪い取り、こちらにもその恩恵を与えてくれた。先の条件を満たしてデュエルに勝利するには、《おジャマトリオ》の抜け道を利用する他ない……!

「俺は《スターレベル・シャッフル》を発動! 自分フィールドのモンスターをリリースし、同じレベルのモンスターを墓地から特殊召喚する!」

「チッ……!」

 こちらの狙いを察したのか、万丈目は隠す気もなく舌打ちを鳴らす。発動された魔法カードは《スターレベル・シャッフル》――同じレベルのモンスターを、墓地とフィールドで入れ替える魔法カード。本来ならば、モンスターとチューナーを交換したり、妥協召喚したモンスターを墓地の最上級モンスターと交換したり、といった俺もよく使うカードだが――今回は、そのリリースというところが役に立つ。

 確かに《おジャマトリオ》は破壊された時、プレイヤーに300ポイントのダメージを与えるが、あくまでそれは破壊された時。今回のようにリリースされた時には適応されず、《おジャマトリオ》のレベルは2――つまり。

「俺は《おジャマトークン》をリリースし、墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 《おジャマトリオ》によって生み出されたトークン一体と引き換えに、万丈目の《手札断殺》によって墓地に送られていた、マイフェイバリットカードが特殊召喚される。同じくレベル2のモンスターとして、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の前に立ちはだかった。

「さらに魔法カード《アームズ・ホール》。デッキトップを墓地に送ることで、装備魔法を手札に加える。俺は《団結の力》を選択!」

 こちらも同じく装備魔法をサーチする魔法カード《アームズ・ホール》により、装備魔法《団結の力》が手札に加えられる。どうせ通常召喚をするモンスターゾーンもなく、これでこちらの攻撃準備が確定する――

「《スピード・ウォリアー》に装備魔法《団結の力》に《ヘル・ガントレット》を装備し、バトル!」

 そして発動されて《スピード・ウォリアー》に装備されるは、今し方サーチされた装備魔法《団結の力》に、同じく装備魔法《ヘル・ガントレット》。残り二体の《おジャマトークン》の力を借り、攻撃力を2400ポイントアップさせ、一躍《スピード・ウォリアー》は攻撃力のトップに躍り出た。

「《スピード・ウォリアー》で《XYZ-ドラゴン・キャノン》に攻撃! ソニック・エッジ!」

 《団結の力》を得た《スピード・ウォリアー》の攻撃力は3300――特殊召喚のために効果の発動は出来ないが、それでもVWXYZたちの砲撃をものともせず、《XYZ-ドラゴン・キャノン》に回し蹴りを叩き込んだ。

万丈目LP800→300

「……っだが、オレのライフとモンスターはまだ残っている!」

「削りきる! 《スピード・ウォリアー》に装備した《ヘル・ガントレット》を装備!」

 《団結の力》とともに装備されていた、装備魔法《ヘル・ガントレット》。まだ万丈目のフィールドに残る《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》を標的に定め、《スピード・ウォリアー》の腕部に禍々しいガントレットが輝いていく。

「《ヘル・ガントレット》は、装備モンスターの直接攻撃を封じる代わりに、モンスター一体をリリースする度に連続攻撃を可能とする! 《おジャマトークン》をリリース!」

 またもや《おジャマトークン》はリリースされていき、リリースに連動した《ヘル・ガントレット》の輝きとともに、《スピード・ウォリアー》は再び動き出していく。狙うは《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》ただ一体。

「だが《おジャマトークン》をリリースしたことで、貴様の攻撃力は――」

 万丈目の宣言した通りに。《ヘル・ガントレット》の効果でリリースした分、《団結の力》の攻撃力上昇率は下がり、《スピード・ウォリアー》の攻撃力は《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に及ばない。しかして万丈目は、俺のフィールドに残ったあるものを見つけ――

「リバースカード、オープン! 《リミット・リバース》! 蘇れ、《音響戦士ドラムス》!」

 ――こちらのフィールドに、一枚だけ残っていたリバースカード。それは墓地からモンスターを蘇生させる、罠カード《リミット・リバース》であり、《音響戦士ドラムス》が再びフィールドに蘇る。よって《団結の力》は元の上昇値を取り戻し、《スピード・ウォリアー》の攻撃力は3300。

 そして《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の攻撃力は3000であり、万丈目のライフポイントは残り300――

「《スピード・ウォリアー》で《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に攻撃! ソニック・エッジ!」

「ぐああああっ!」

万丈目LP300→0

 《スピード・ウォリアー》の二回目の攻撃が炸裂し、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の撃破とともにデュエルは終結する。こちらのフィールドにいたモンスターも消えていき、VWXYZの爆発に巻き込まれた万丈目が立ち上がった……かと思えば、すぐさま周りの空間に向けて怒鳴り散らしていた。

「ええーいうるさい! 貴様らがいいように利用されるからだろうが! ……遊矢、もう一回だ!」

 恐らくは精霊たちと口論しながらも、万丈目は素早く自身のデッキをシャッフルしつつ、融合モンスターはエクストラデッキへと戻していく。さらに念入りにもう一度シャッフルすると、デュエルディスクをこちらに向けて。

「……もう一回?」

「そうだ、エド如きに努力で負けてなるものか! ……この世界では、負けても死ぬことなどないのだからな」

 素っ頓狂な表情で聞き返してしまった俺に、万丈目は懇切丁寧に理由を説明し……照れくさそうにそっぽを向くと、小さい声で最後の言葉を付け加えた。

「そうか……」

 ……言われてみれば当然のことで、こちらの世界では、一度のデュエルの敗北などどうにもならない。一度の敗北が命に直結するあちらの世界とは違い、こちらの世界では――自分が勝つまでデュエル出来るのだから。

 当たり前のことだった筈なのに、まるで目から鱗が落ちたような気分の下、こちらも万丈目に習ってすぐさまデュエルの準備を整えた。

「そう、だな……だが万丈目、次も勝たせてもらう!」

「分かればいい……が、勝つのはこのオレ! 万丈目サンダーだ!」

『デュエル!』
 
 

 
後書き
最近考えたこと:波動竜騎士(笑) 

 

―運命の決闘者―

 エドのプロデュエリストツアーに万丈目と同行して数日。何とか仕事に慣れてきたどころか、万丈目は目覚ましい仕事をしてみせ、もはや本職の秘書のようでもあった。俺は今まで同様に雑用をこなしていたが、俺自身の目的であるエドへの謝罪を果たすことは出来ずにいた。

 そんなある日。エドにデュエル・アカデミアでの、講演を兼ねたデュエルの仕事が舞い込んできた。対戦相手はかの十代であり、どうやら俺と万丈目はそこでお役御免になりそうで。仕事が立て込んでいるために、いつもエドが使っている船ではなく、ヘリコプターでの移動となり、遂に当日を迎えたのだが――

「エドの野郎はどこに行ったぁ!」

 千里眼グループのヘリポートに万丈目の怒声が響く。そろそろヘリコプターの出発時刻だというのに、エドの姿はどこにも見あたらなかった。刻一刻と近づいてくる出発時刻に、万丈目はイライラと地を踏みつける。

「チッ、仕方ない……おい遊矢。俺様がアカデミアで開始時刻を遅らせておく。貴様はふん縛ってもエドの野郎を連れてこい!」

「……わかった!」

 万丈目の指示にひとまず従うことにすると、スタッフと万丈目は先にアカデミアへとヘリで移動していく。一部のスタッフと俺はこの街に残り、エドの捜索を続けることとなったが……やはりどこにも見当たらず。

「まさか……」

 街中を探したような錯覚に駆られるものの、探していない場所がもう一つあった。万丈目とともに目撃していた、エドが極秘で特訓しているデュエルステージ――天啓に導かれるように走り、路地裏を越えていくと、そこには。

「エド!」

「……遊矢か」

 デュエルステージに一人立つエドの姿がそこにはあり、何をしているんだ、と聞こうとした時――俺はその場に満ちる気配に気づく。独特の無の気配とも言うべきこれは、もはや間違えようもなく。

「僕もペガサス会長から聞いて知っている……敵だ」

「ダークネスなのか……?」

 デュエルステージに立ったままのエドを救おうとしたものの、何故かデュエルステージに昇ることが出来ない。俺を相手にしてる訳ではないらしく、ならばなおさらエドが危険だ――と焦る俺に対して、エドの言葉が飛んだ。

「異世界でのことなら僕は気にしていない。全て僕の弱さが招いたことだ」

 エドは、こちらの心を見透かしたようにそう呟いた。異世界におけるデュエルで――俺はエクゾディオスの力で持って、この手でエドを消滅させていた。とても許されることではないそれを、エドは自身の弱さが招いたことだと言ったのだ。

「だから僕は強くなる。何度負けようがこのヒーローたちと。だから――」

 ステージを覆い尽くしていた闇が一点に収束していき、エドの対面のデュエルステージへと集まっていく。いつしかその闇は人間の形となっていき、デュエルディスクを装着していった。

「――もう一度セメタリーへ送り返してやる。DD!」

 闇が収束し終わった後にそこにいたのは、かつてのプロデュエリスト《DD》。チャンプにまで上り詰めた後に行方不明になった彼は、確かエドの後見人という顔も持っていて。二人の間に何があったかは知らないが、どちらにもデュエルの準備を完了させる。

『デュエル!』

エドLP4000
DD LP4000

「僕の先攻!」

 デュエルディスクが選んだ先攻はエド。五枚のカードをデッキから引き抜き、一瞬だけ確認した後にすぐさま行動に移る。

「僕はモンスターをセット。カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

「私のターン。ドロー」

 デュエルの進行以外は何も語ることはなく、DDはニヤリと不気味な雰囲気を漂わせながら、旧型のデュエルディスクからカードを引き抜く。先のエドの発言を信じるならば、ダークネスは死者をも蘇らせる力があるのか。それとも、DDはダークネスに取り込まれていたのか。

「このモンスターは手札からHEROを墓地に送ることで、特殊召喚出来る。現れろ《V・HERO ファリス》!」

「HEROッ……!」

 DDの手札から特殊召喚されたのはHERO系モンスター。奇しくもHERO使いのミラーマッチとなったこのデュエル、エドが奥歯を噛み締めつつ相手を睨みつけたが、DDは淡々とデュエルを進行させていく。

「《V・HERO ファリス》が特殊召喚に成功した時、デッキからV・HEROを墓地に送ることが出来る。バトルだ、ファリス」

 十代やエドが使うHEROとは違う、新たなHEROである《V・HERO》。恐らく下準備だろう動きである、着々と墓地へと送られていく姿を見せながら、同時にエドの布陣へと攻撃を仕掛けた。

 セットモンスターに二枚のリバースカード。そこに何の躊躇もなく攻撃したファリスは、その腕から衝撃波を放つと、予想に反してセットモンスターを軽々と破壊する。

「破壊されたセットモンスターは《Dボーイズ》。このモンスターがリバースした時、デッキから新たな《Dボーイズ》を特殊召喚する」

 セットモンスターのまま破壊されたモンスター《Dボーイズ》だったが、エドのフィールドには即座に二体のモンスターが現れた。ただしその効果にはデメリットがあるが、エドのリバースカードがさらにもう一枚表側となっていた。

「《Dボーイズ》は自身のエフェクトで特殊召喚された時、その数×1000ポイントのダメージを受ける。だが発動していたリバースカード《レインボー・ライフ》の効果により、ダメージは回復へと変換される」

エドLP4000→6000

 手札を一枚コストにするものの、受けるダメージをライフに加える罠カード《レインボー・ライフ》により、ライフを2000ポイント回復しながら、エドはフィールドに二体のモンスターを揃える。

「バトルを終了。カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 最初の攻防を経てエドのフィールドには《Dボーイズ》が二体にリバースカードが一枚、DDのフィールドは攻撃力1600の《V・HERO ファリス》に、同じくリバースカードが一枚。

「僕は《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚!」

 そしてターンが一巡すると、エドの主力モンスターがフィールドに現れる。全身に金剛石を埋め込んだその英雄は、マントを翻しながら《Dボーイズ》二体を守るように立つ。

「ダイヤモンドガイのエフェクト発動。デッキトップを捲り、魔法カードならば墓地に送る。ハードネス・アイ!」

 エドが次のターンに引くべきカードを見通し――魔法カード《終わりの始まり》だったため、そのカードはエドの墓地へと送られる。次のターンのスタンバイフェイズでの発動が確定され、エドはさらに一枚のモンスターをデュエルディスクに置いた。

「さらに三体のモンスターをリリース! カモン、《D-HERO ドグマガイ》!」

 エドの切り札の一種たる《D-HERO ドグマガイ》。三体のモンスターのリリースという重い召喚条件にもかかわらず、僅か二ターン目に登場したとともに、フィールドをその威圧感で制圧する。

「バトル! ドグマガイで《V・HERO ファリス》に攻撃! デス・クロニクル!」

「…………」

DD LP4000→2200

 ドグマガイの一撃にたまらずファリスは吹き飛び、DDのライフポイントは半分ほど消し飛んだ――瞬間、DDのフィールドに新たなモンスターが現れる。

「私がダメージを負った時、墓地のV・HEROは幻影としてフィールドに現れる」

「幻影……?」

 しかしてフィールドに現れた二体のHEROは、どちらもモンスターのように力強く実体化されておらず。事実モンスターカードゾーンではなく、ヨハンのかの【宝玉獣】のように、魔法・罠カードゾーンに置かれているようだ。

「さらにファリスが破壊されたことにより、リバースカード《出幻》。デッキから《V・HERO ヴァイオン》を特殊召喚する」

 さらにファリスがドグマガイに戦闘破壊されたことにより、V・HERO専用であろう《ヒーロー・シグナル》の亜種、《出幻》により実体化したヒーローも現れる。今度は魔法・罠ゾーンではなく、きっちりとモンスターカードとしてだ。

「そして《V・HERO ヴァイオン》は特殊召喚に成功した時、デッキからV・HEROを墓地に送る」

「……メイン2。僕は《D-フォーメーション》を発動し、ターンを終了する」

 エドのバトルフェイズだということを忘れるほどに、DDは相手ターンで怒涛の効果発動を果たし。エドは永続魔法《D-フォーメーション》を発動し、警戒しているような表情でターンを終了する。

「私のターン。ドロー」

「スタンバイフェイズ、ドグマガイのエフェクト発動! 相手ライフを半分にする! ライフ・アブソリュート!」

DD LP2200→1100

 その高い攻撃力だけではなく、ライフポイントを半分にするという恐るべき効果。ドグマガイにライフポイントを半分にされ、エドとDDのライフ差は約5000ともなる。さらにその効果は、ライフを半分にする、というダメージとはまた違う効果のため、どうやらV・HEROの効果も発動しないらしく。

「私は《V・HERO グラビート》を召喚」

 しかしそのライフポイント差だろうと、DDは飄々としたまま――むしろ意識があるか不安になるほどの――新たなV・HERO、ヴァイオンを召喚する。それによって、DDのフィールドはモンスターカードゾーンには《V・HERO グラビート》に《V・HERO ヴァイオン》。そして魔法・罠ゾーンには、幻影として二体のV・HEROが控えている。

「そして《V・HERO グラビート》の効果発動。このモンスターをリリースすることで、幻影となったV・HEROを二体解放する!」

 召喚されるや否や《V・HERO グラビート》がリリースされ、幻影となっていた二体のV・HEROがモンスターとなり、モンスターカードゾーンとなって実体化する。そのV・HEROたちのレベルは3、グラビートやヴァイオンは4と、恐らく幻影となるレベル3にそれをサポートするそれ以外、という構成か。

 そして幻影から解放されたことにより、V・HEROたちの脅威が解禁される。

「幻影から解放された《V・HERO ポイズナー》の効果。相手モンスターの攻守力を半分にする!」

 幻影として現れていたうちの一体、《V・HERO ポイズナー》のレーザーがドグマガイに放たれると、その攻撃力と守備力が永続的に半減する。ただし下級V・HEROの攻撃力は軒並み低く、半減したところでドグマガイの突破は不可能。

「さらにもう一体の《V・HERO インクリース》の効果。デッキからV・HEROを特殊召喚出来る。現れろ、《V・HERO ヴァイオン》!」

 二体目のレベル3V・HEROの効果は、新たなV・HEROをデッキから特殊召喚する効果。その効果によって《V・HERO ヴァイオン》が、ヴァイオンの特殊召喚時のV・HEROを墓地に送る効果を発動しながら、DDのフィールドにはV・HEROが四体揃う。

 ――そしてそれは、レベル3のモンスターが二体と、レベル4のモンスターが二体ということと同じで。

「レベル3のV・HERO二体、レベル4のV・HERO二体で、それぞれオーバーレイ・ネットワークを構築!」

「DD……」

 二体と二体がそれぞれ重なっていくV・HEROの姿を見ながら、エドは一瞬だけどこか寂しげな表情を見せた。それにDDが気づくことはなく、エドの表情もこちらの気のせいだったかと思うほど一瞬で。

「ダブルエクシーズ召喚!」

 そして二つのエクシーズ召喚により、DDのフィールドには二体の――予想通り、《ナンバーズ》が現れていた。ダークネスの尖兵と分かるその独特なオーラを放ち、エクシーズモンスターである《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》に《No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク》がフィールドに鎮座した。

「DD……魂まで敵に売ったか!」

「……そうさ、エド」

 今まで淡々とデュエルを進行していたDDが、遂に薄気味悪い笑みを浮かべながらエドの問いに答える。驚愕するエドに対して、さらにDDは言葉を重ねていく。

「ダークネスの尖兵となることで、私はBloo-Dなどを遥かに越す力を手に入れた! ナンバーズの力を!」

 ナンバーズを自在に操ってみせるDDは、先のレイのようにナンバーズに操られているわけではなく、もはやミスターTと同等の存在になっているらしく。耳障りな高笑いと闇に溶け込む身体が、俺とエドの目と耳へと届く。

「私は魔法カード《エクシーズ・ギフト》を発動し、カードを二枚ドロー。そして体感させてやろう、ナンバーズの力を……ラプソディ・イン・バーサークの効果を発動!」

 二体のエクシーズモンスターの素材を一枚ずつ取り除くことで、二枚のカードのドローに変換する魔法カード《エクシーズ・ギフト》で手札を補充しながら。さらにもう一つのエクシーズ素材を使い、ナンバーズの片割れこと《No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク》が効果を発動する。

「相手の墓地のカードを除外し、さらに攻撃力1200ポイントアップの装備魔法として、アシッド・ゴーレムに装備する!」

 エドの墓地のカードを除外する効果と、他のモンスターの装備カードとなるどちらも独特な二種類の効果。除外されるカードは、エドの主力モンスターたるダイヤモンドガイか――と思いきや、選択されたカードは魔法カード《終わりの始まり》。ダイヤモンドガイの効果で墓地に送られていた、エドに言わせれば未来に送られたカードだった。

「除外すれば、いくらダイヤモンドガイの効果だろうと発動しない。そして、ラプソディ・イン・バーサークを装備したアシッド・ゴーレムの攻撃力は、4200!」

 未来に送るダイヤモンドガイの効果を、墓地から除外することで対応し、エドが誇る切り札の一種たるドグマガイには、その攻撃力を大幅に勝ることで対応する。柔も剛も隙を見せないその戦術に、DDはエドの戦術を知り尽くしているのだ――と、確信する。

「バトル。アシッド・ゴーレムでドグマガイに攻撃!」

「ぐぁぁっ!」

エドLP6000→3500

 さらにドグマガイの攻撃力は、幻影から解き放たれた《V・HERO ポイズナー》の効果により、本来の半分しか発揮出来ておらず。《レインボー・ライフ》で回復していなければ、致命傷ともなるほどのダメージだった。

「クク……私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「くっ……僕のターン、ドロー!」

 これでエドのフィールドには、ドグマガイの破壊に反応して、専用のカウンターが一つ乗った永続魔法《D-フォーメーション》に伏せカード。DDのフィールドは《No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク》を装備した《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》に、リバースカードが一枚。

「僕は《デステニー・ドロー》を発動! D-HEROをセメタリーに送り二枚ドロー!」

 エドが優勢のまま攻め立てていた状況はまるで幻影だったかのように、一転して二体のナンバーズを擁するDDの圧倒的有利と化した。ただしドグマガイが攻め立てたライフは、エドの攻めが幻影ではなかった、と証明しているようであり。

「さらにセメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動! このカードをセメタリーから除外することで、デッキから同名カードを特殊召喚する! カモン、アナザーワン!」

 DDの残るライフは僅か1100。いくらナンバーズを持っていようと、そのライフを0にしてしまえばエドの勝利だ。ダイヤモンドガイの効果の《終わりの始まり》が発動出来なかったのはダメージだが、エドは《デステニー・ドロー》の効果により、手札の損失なく《D-HERO ディアボリックガイ》を特殊召喚してみせる。

「さらに《D-HERO ディバインガイ》を召喚!」

「ほう……?」

 ただしディアボリックガイは守備表示なことに加え、そもそも攻撃を得手としたD-HEROではない。代わりに攻撃を担当するモンスターとして、背中に銀色のチャクラムを背負ったD-HEROが召喚された途端、DDが少しだけ顔色を変える。

「懐かしいな。ディバインガイ……それで私を殺したのだから」

「心配しなくとも、もう一度引導を渡してやる! フィールド魔法《ダーク・シティ》を発動!」

 十代の使う摩天楼と同義のフィールド魔法。路地裏の奥底のデュエルスタジアムが、イギリスの都市のような風情を漂わせたフィールドに変わっていき、その建物の一つにディバインガイは鎮座していた。

「バトル! ディバインガイでアシッド・ゴーレムに攻撃!」

 そしてフィールド魔法《ダーク・シティ》の効果を得ることで、自らより攻撃力の高いモンスターに攻撃する時、ディバインガイは攻撃力を1000ポイントアップさせる。それでもディバインガイの攻撃力は2600――4200のアシッド・ゴーレムには遠く及ばない。

「ディバインガイのエフェクト発動! このモンスターが攻撃する時、相手フィールドの装備カードを破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

「…………」

DD LP1100→600

 ディバインガイが背負ったチャクラムが放たれると、先んじてアシッド・ゴーレムの装備カードとなっていた《No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク》を破壊し、さらに残り少ないDDのライフにもバーンダメージを与えていく。

「さらにリバースカード《D-チェーン》! 発動後装備カードとなり、その攻撃力を500ポイントアップさせる!」

 さらにエドのフィールドに伏せられていた、リバースカード《D-チェーン》が発動され、ディバインガイの攻撃力はさらに500ポイントアップする。ラプソディ・イン・バーサークを失ったアシッド・ゴーレムの攻撃力は3000ポイントであり、二つの強化を得てディバインガイは3100ポイント。

DD LP600→500

 たかだか100ポイント程度の差ではあったが、それでもディバインガイはアシッド・ゴーレムを打倒する。さらにディバインガイに装備された《D-チェーン》は、その100ポイントを重要とした効果を持ち合わせていた。

「《D-チェーン》を装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、相手のライフに500ポイントのダメージを与える!」

 DDのライフポイントはディバインガイのバーンと攻撃により、ちょうど《D-チェーン》のバーンダメージ分500ポイント。ディバインガイが装備した鎖を、DDの心臓めがけて投げ放ち――

「何!?」

「リバースカード《ナンバーズ・ウォール》を発動していた。このカードがある限り、ナンバーズはナンバーズでしか破壊されない!」

 ――《D-チェーン》を破壊されなかったアシッド・ゴーレムが受け止め、DDのライフポイントは500ポイントを残し、エドのバトルフェイズは終了してしまう。ナンバーズ以外のモンスターとの戦闘破壊耐性と、全般的な効果耐性――ナンバーズを持っていないこちらが、あの《ナンバーズ・ウォール》に対抗する手段は、あの永続罠カード自体を破壊することしかない。

「こちらも二度も同じ手で死にたくはないんでねぇ。さらに私がダメージを受けたことで、墓地の英雄たちが幻影となって蘇る!」

「……そんな吹けば飛ぶような奴らを、英雄と認めるわけにいくか! カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 さらにDDにトドメを差しきれずにダメージを与えたことで、DDのフィールドにまたもや幻影となって《V・HERO》たちが現れる。これでエドのフィールドには、ディバインガイにディアボリックガイ、そして《ダーク・シティ》に《D-チェーン》、カウンターが一つ乗った永続魔法《D-フォーメーション》とリバースカード。

「私のターン、ドロー。スタンバイフェイズ時、アシッド・ゴーレムのエクシーズ素材は一つ取り除かれる」

 DDのフィールドは、今し方エクシーズ素材を全て失った《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》に、永続罠《ナンバーズ・ウォール》に幻影となった《V・HERO》が三体。ライフポイントはエドが3500でDDが500ポイントと、圧倒的にエドが優勢ではあったが……

「アシッド・ゴーレムは破滅のナンバーズ。エクシーズ素材を取り除かなくては、攻撃すら許されない」

 DDの宣言した通りにアシッド・ゴーレムは沈黙し、ピクリとも動かなくなっていった。《エクシーズ・ギフト》に自身の効果により、二つのエクシーズ素材はもう失われたために。

「だがエド。私の破滅は既にお前の手で訪れている。……ならばその破滅、お前にやろう。魔法カード《強制転移》を発動!」

 魔法カード《強制転移》。ピクリとも動かなくなったアシッド・ゴーレムが、次なる瞬間にはエドのフィールドへと移行する。そしてエドのフィールドのモンスターを一体、DDのフィールドへと移す必要があるのだが……アシッド・ゴーレムのコントロールを得たエドが、突如として全身に痛みが伝わったかのように苦しみだした。

「痛いか? 熱いか? それが私に訪れた破滅だ。お前に殺されたあの業火の!」

「っ……僕は……ディアボリックガイを選択!」

 しかしてエドはその問いには答えようともせず、痛みに苦しみながらも《強制転移》の効果処理を行っていく。そして結果としては、エドの《D-HERO ディアボリックガイ》とDDの《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》のコントロールが入れ替わる、という結果に終わり。

「業火……殺された……?」

「そうだ。エドは殺したのだよ、この私を。私は《V・HERO マルティプリ・ガイ》を召喚!」

 話の見えない俺がつい呟いた俺の言葉に反応しながらも、DDは新たなV・HEROを通常召喚する。そんなDDを、エドが痛みに耐えながら睨みつける。

「それは……お前が僕の父を殺したからだろう……!」

「確かに。確かになぁ。それでもお前は、私というもう一人の父を殺したのに変わりはない。フィールドの《V・HERO》をリリースすることで、幻影となった《V・HERO》を解き放つことが出来る! 現れろ《V・HERO インクリース》!」

 幻影となった《V・HERO》は、モンスターゾーンにいる《V・HERO》をリリースすることで、幻影から解き放つことが出来るらしく。通常召喚された《V・HERO マルティプリ・ガイ》をリリースすると、幻影となっていた《V・HERO インクリース》が代わりにフィールドへと現れる。

「《V・HERO インクリース》の効果により、デッキから《V・HERO グラビート》を特殊召喚。さらにグラビートをリリースすることで、幻影となっているV・HEROを二体、フィールドに特殊召喚する!」

 先のターンでも効果を発揮していたインクリースの効果により、デッキから新たなV・HERO――《V・HERO グラビート》が特殊召喚される。自身をリリースすることで、幻影となった《V・HERO》を二体解き放つ効果を持ち、さらにV・HEROが展開されていく。

「幻影から解き放たれた《V・HERO ミニマム・レイ》と二体目のインクリースの効果。相手のレベル4以下のモンスターを破壊し、デッキから新たなV・HEROを特殊召喚する!」

 現れた二体のV・HEROがそれぞれ効果を発動し、《V・HERO ミニマム・レイ》はエドのフィールドのレベル4以下のモンスター――つまり《D-HERO ディバインガイ》をその頭部からのレーザーで破壊し、二体目のインクリースは新たな《V・HERO ヴァイオン》を守備表示で特殊召喚する。

「ぐっ……だがディバインガイが破壊されたことで、《D-フォーメーション》にカウンターが乗る!」

「ふん……《V・HERO ヴァイオン》は特殊召喚された時、デッキからレベル4以下のV・HEROを墓地に送る。さらに魔法カード《タンホイザーゲート》を発動!」

 フィールドがほとんどがら空きという状態から、V・HEROはあっという間にDDのフィールドを埋め尽くしながら、エドの布陣をボロボロにしてみせる。一応は永続魔法《D-フォーチュン》に二つ目のカウンターを乗せたり、攻撃力3000の《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》が控えてはいるが、DDから《強制転移》で送りつけられてきた、今なおエドに苦しみを与え続けるモンスターを信頼するわけにはいかない。

「《D-HERO ディアボリックガイ》と、《V・HERO ミニマム・レイ》をどちらもそのレベルの合計、レベル9とする」

 そして発動された魔法カード《タンホイザーゲート》は、攻撃力1000以下で同じ種族のモンスター二体を、その二体のレベルの合計に合わせるという魔法カード。その効果によりレベル3だった《V・HERO ミニマム・レイ》と、レベル6だった《D-HERO ディアボリックガイ》がどちらも同じレベル9と化す。《強制転移》でディアボリックガイを選択したのはミスだったか、それともそれすらDDには見抜かれていたか――いや、DDのフィールドにはレベル4の《V・HERO ヴァイオン》もいる。

 どちらにせよ――再びのエクシーズ召喚は止められない。

「私はレベル9の《V・HERO ミニマム・レイ》に《D-HERO ディアボリックガイ》と、レベル3の《V・HERO インクリース》二体で、それぞれオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 《V・HERO ヴァイオン》を除いた四体のモンスターが、それぞれオーバーレイ・ネットワークを構築し重なっていく。二ターン連続のダブルエクシーズ召喚――しかも、その片方はレベル9という最上級ランク。

「ダブルエクシーズ召喚! ランク3《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》! ランク9《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》!」

 先のターンでエクシーズ召喚されていた、《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》に、《No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク》に続く二体のナンバーズ。ランク3のナンバーズ《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》は、DDの腕に乗るような小さな鳥だったが……《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》は違った。

 その名の通りまるで星。フィールド魔法《ダーク・シティ》を覆う巨大な――星。

「ダイソン・スフィアの効果。このカードより攻撃力が高いモンスターがいる時、エクシーズ素材を取り除くことで、このモンスターは直接攻撃出来る!」

「何!?」

 《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》の攻撃力は、その巨体に見合った2800。エドのフィールドに送りつけられた《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》により発動条件を満たし、ダイソン・スフィアの中心となっているコアは、エド本人へと狙いを定めていった。

「ダイソン・スフィアでダイレクトアタック! ブリリアント・ボンバードメント!」

「リバースカード、《D-フォーチュン》! セメタリーのD-HEROを除外することで、ダイレクトアタックを無効にする!」

 《ダーク・シティ》の上空から放たれた熱線を、エドのリバースカードによって現れた半透明のディバインガイが、その身を呈してエドへと届く前に防ぐ。《D-フォーチュン》にはバトルを終了する効果もあり、DDのターンはメインフェイズ2へと移行する。

「……ならばカードを一枚伏せ、ターンを終了」

「僕のターン、ドロー!」

 DDのフィールドは攻撃表示の《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》に、守備表示の《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》に《V・HERO ヴァイオン》。さらに永続罠《ナンバーズ・ウォール》に、リバースカードが一枚。フィールドの布陣は万全ではあるが、残るライフポイントは僅か500。その隙を突かんとエドがカードを引き抜くと――

「ぐぁぁぁぁ!」

 ――突如として、その身が業火へと包み込まれた。

エドLP3500→1500

「エド!」

「エクシーズ素材のないアシッド・ゴーレムをコントロールするプレイヤーは、スタンバイフェイズ時に2000ポイントのダメージを受ける」

 破滅のナンバーズの名は違わず、DDはこの効果を押しつけるために《強制転移》で《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》のコントロールを変更していた。いや、アシッド・ゴーレムのコントロール変更は、ただデメリットを押し付けただけでなく、さらなるエクシーズ召喚とダイソン・スフィアの効果の発動条件にも繋ぐ。

「さらにエクシーズ素材がないアシッド・ゴーレムは攻撃出来ず、プレイヤーの特殊召喚をも封じる!」

「DDッ……!」

 業火が止んでメインフェイズに移行するエドは、DDを力強く睨めながらも、同じく力強く立ち上がる。特殊召喚と自身での攻撃が封じられたエドだったが、このターンで逆転の手を引き当てなければ、ダイソン・スフィアの直接攻撃かアシッド・ゴーレムのデメリットにより、そのライフポイントは0となるだろう。

 ただしアシッド・ゴーレムのデメリットはもちろん、DDのフィールドには《ナンバーズ・ウォール》に二体の効果の全容を見せていないナンバーズがいる。DDによる悪魔的な搦め手の前に、追い詰められたエドの取った手段は。

「魔法カード《モンスターゲート》を発動! 僕のフィールドのモンスターをリリースすることで、デッキトップから通常召喚が可能なモンスターが出るまで捲り、そのモンスターを特殊召喚する!」

「……ほう」

 対するエドが取った手段はなかなかの奇策。通常魔法《モンスターゲート》の発動条件により、《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》をリリースしたことにより、DDのモンスターを利用しながら逆転の芽を掴む手段を手に入れる。あとはアシッド・ゴーレムの特殊召喚封じが無くなった今、《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》を打倒出来るような、そんなモンスターが現れれば。

「僕に応えろ、運命!」

 エドのデッキから三枚目。魔法・罠カードが墓地に送られた後にデッキに眠っていた、あるモンスターがエドの手へと導かれた。そのモンスターとは。

「カモン、《D3》!」

 《D3》――D-キュービックと呼ばれる、犬型のD-HEROのサポートモンスターが特殊召喚される。さらにその特殊召喚に成功したことにより、永続魔法《D-フォーメーション》が反応していく。

「さらに《D-フォーメーション》のエフェクトを発動! カウンターが二つ乗ったこのカードをセメタリーに送ることで、特殊召喚したモンスターと同名モンスターを、二枚手札に加えることが出来る!」

 二体のD-HEROの破壊と引き換えに乗ったカウンターにより、《D-フォーメーション》はその効果を発動する。周囲を照らしていた《D-フォーメーション》という光源から、さらに二体の《D3》がエドの手札に加えられる。

「そして《D3》は手札の同名モンスターをセメタリーに送ることで、その数だけリリースに必要な数を減らす! 僕は《D3》をリリース!」

 本来ならば、もちろん一体きりのリリース素材にしかならない《D3》だが、その効果によって三体分のリリースと化す。最上級モンスターのアトバンス召喚に必要な二体を超えた、三体分のリリースを必要とするモンスターとは、もちろん。

「現れろ! 《D-HERO Bloo-D》!」

 エドのフィールドが血の池に覆われていく。その池は《D3》を飲み込んでいき、さらに何かが潜んでいるかのように泡をたて――そして悪魔のようなヒーローへと生まれ変わる。二対の翼を持ったその姿は、やはり圧倒的であった。

「来たか最強のD!」

「今度は……このモンスターでお前を止めてやる、DD! Bloo-Dの効果発動、ダイソン・スフィアを装備カードとして吸収する!」

 Bloo-Dが《ダーク・シティ》の空を飛翔し、ダイソン・スフィアの核をその血の翼で持って引きずり出す。いくら《ナンバーズ・ウォール》で守られていようが、吸収効果には無防備であった。

「バトル! Bloo-Dで《V・HERO ヴァイオン》に攻撃! ブラッディー・フィアーズ!」

 《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》を装備したBloo-Dは、その攻撃力を3300と化していき、《ダーク・シティ》の上空から血の雨を降り注がせた。その雨は一片一片が針のように鋭く、守備表示のためDDにダメージがないとはいえ、《V・HERO ヴァイオン》を跡形もなく串刺しにしてみせた。

「これで僕はターンエンド!」

「……私のターン、ドロー」

 自分フィールドの《No.30 破滅のアシッド・ゴーレム》の排除と、DDの《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》の打倒。敗北を免れる為には必須だったその二つをやってみせ、エドはBloo-Dを前面に立たせてターンを終了する。

「スタンバイフェイズ。フォーチュンチュンの効果が発動する、が……」

「Bloo-Dの前では無力だ」

 Bloo-Dはナンバーズだろうと例外なく、相手フィールドのモンスター効果を全て無効にする。どうやらエクシーズ召喚されていた《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》には、このタイミングで発動する効果があったようであるが、その効果が発動されることはなく。

「僕のヒーローたちは、お前になど負けはしない」

「Bloo-Dの登場程度でいい気になる。私はリバースカード《女神の加護》を発動し、それを対象に《マジック・プランター》を発動する!」

「何……!?」


 Bloo-Dの登場でペースを乱されたDDが発動したリバースカードは、発動時に3000ポイントのライフを回復する《女神の加護》。その効果によって、一気にライフの上では有利になったと思いきや、DDは即座に《マジック・プランター》の二枚ドローのコストへと変換する。

 永続罠をコストとして二枚ドローする《マジック・プランター》の発動はともかく、問題は《女神の加護》のデメリット効果である。あのカードはフィールドから離れた時、3000ポイントのダメージを自分に与える効果があるため、DDは回復した分すぐさまダメージを失うこととなった。

 ……そう、DDはダメージを受けたのだ。

「私がダメージを受けた時、墓地のV・HEROは幻影となり蘇る! さらに魔法カード《幻影融合》を発動!」

 ダメージを受けるという条件を満たしたことにより、DDのフィールドに現れる二体の幻影。ただしそれはモンスターとなって現れることはなく、DDの発動した魔法カードによって時空の穴へと吸い込まれていく。

「《幻影融合》は幻影となったV・HEROを素材とし、融合召喚する。現れろ、《V・HERO アドレイション》!」

 エクシーズ召喚だけではなく融合召喚。いや、むしろ専用の融合魔法の存在から、むしろこちらがメインか――ともかく、漆黒のマントに身を包んだ、新たなV・HEROが融合召喚される。その攻撃力は2800と低くはないものの、効果を無効にされている今、Bloo-Dに対抗する手段はない。

 ――二体のV・HEROのレベルが同じでなければ。

「私はレベル8の《V・HERO ウィッチ・レイド》に《V・HERO アドレイション》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 二体の最上級V・HEROが重なっていく。融合から繋げられたエクシーズ召喚という召喚により、《ダーク・シティ》にそびえ立つビルと同等の体躯を持った巨人の姿。

「業火に焼けただれた醜い巨体を見せ、その拳で運命をも握り潰せ! エクシーズ召喚、《No.22 不乱健》!」

 その召喚口上が示しているように。ビルの上に陣取っているBloo-Dよりも身長が高く、その全身は焼けただれたように火傷で醜かった。それをまたボロボロの布で隠しながら、まるでゾンビのようにノロノロと動く。

「不乱健の攻撃力は4500、このまま攻撃させてもらおうか。Bloo-Dを破壊せよ!」

「くっ……墓地の《ネクロ・ディフェンダー》の効果を発動!」

 不乱健が振り上げた拳を、墓地から現れた《ネクロ・ディフェンダー》が防ぐ。その効果は墓地から除外することで、モンスターの戦闘ダメージと戦闘破壊を無効にする、というものであり。恐らくは最初のターンで《レインボー・ライフ》のコストで墓地に送っていたであろうそれは、遂に最高の局面で効果を発揮する。

「チッ……だが不乱健は破壊出来まい。カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン……ドロー!」

 どちらも疲弊が目立つデュエルとなり、エドがデュエルを決めるべくカードを引き抜いた。不乱健の攻撃力は4500と、《ダーク・シティ》の上昇分を足しても戦闘破壊出来ず、そもそも永続罠《ナンバーズ・ウォール》で守られている。

 エドのフィールドには《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》を装備して、攻撃力が3300となった《D-HERO Bloo-D》に《ダーク・シティ》のみ。対するDDのフィールドは、《No.22 不乱健》に守備表示の《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》、リバースカードが一枚に永続罠《ナンバーズ・ウォール》。

「まずはセメタリーの《ギャラクシー・サイクロン》を発動! このカードを墓地から除外することで、相手の表側表示の魔法・罠カードを破壊する!」

 先の《モンスターゲート》の際に墓地に送られていた、墓地で効果を発揮するサイクロン、《ギャラクシー・サイクロン》が発動する。その標的はもちろん《ナンバーズ・ウォール》であり、遂にナンバーズの破壊が可能となる。

「DD。このターンで終わらせる……ファイナルターンだ!」

 そしてそれは、エドが攻撃に出ることと同義だった。

「やれるものか……私の、私自身のナンバーズを!」

「……僕は《D-バースト》を発動! 装備カードを破壊して一枚ドローする!」

 DDのナンバーズである不乱健が、持ち主の叫びに呼応して名状しがたい叫び声をあげる。全身が焼けただれた、醜い力の結晶――それを真っ直ぐに見据えながら、エドは一枚の魔法カードを発動した。

 自分の装備カードを破壊することで、カードを一枚ドローする魔法カード《D-バースト》。もちろん破壊対象はBloo-Dの装備カードとなっていた《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》であり、ナンバーズを代償にエドはカードを一枚ドローする。

 だがそれは、カードを一枚ドローした以上に価値がある。Bloo-Dの装備カードを破壊したことで、再びその効果を発動出来るようになったのだから。

「Bloo-Dのエフェクト発動! 不乱健を吸収する!」

 いくら攻撃力が4500とあろうとも、Bloo-Dの効果から逃れる術はない。血の針が不乱健へと発射されていき、その力を奪わんと血の網へと姿を変えていく。

「リバースカード、オープン! 《モンスター・リプレイス》! モンスター効果の対象を変更する!」

「何!?」

 奇しくも先のターンのエドの《ネクロ・ディフェンダー》のように、Bloo-Dの血の網を不乱健から《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》が庇う。伏せられていた《モンスター・リプレイス》の効果により、Bloo-Dの効果の対象が変更されたのだ。そしてフォーチュンチュンの攻撃力は僅か600、Bloo-Dにはさしたる攻撃力の上昇も見込めず、さらにBloo-Dの効果は一ターンに一度しか発動出来ない。いや、よしんば出来たとしてもフォーチュンチュンを装備した今、不乱健を装備することは出来ない。

「どうしたエド。お前のターンだ」

「……僕は《貪欲な壺》を発動! セメタリーのモンスターを五体をデッキに戻し、カードを二枚ドローする!」

 Bloo-Dの効果が対策された今、エドの策はさらにドローをするしかない。恐らくは《D-バースト》でドローしたカードであるドローカード《貪欲な壺》によって、エドの手札は三枚となった。

 そしてその手札から一枚――いや、二枚のカードを取り出した。

「僕は……魔法カード《融合》を発動!」

「《融合》だとぉ!?」

 そしてエドが発動した魔法カードは、【HERO】デッキの代名詞とも言える《融合》。フィールドにいるBloo-Dをも、その時空の穴へと飲み込まれていく。

「フィールドのBloo-Dと手札のドグマガイを融合! 融合召喚、《Dragoon D-END》!」

 Bloo-Dとドグマガイ。どちらもエドとD-HEROの切り札クラスのモンスターであり、その二体にさらに竜の意匠をも融合させた、その名の通りデュエルに終わりを告げる『最後のD』。かつてBloo-Dがそこにいたように、D-ENDも《ダーク・シティ》のビルへと飛翔すると、DDの不乱健へと正面から正々堂々対峙する。

「D-ENDのエフェクト発動! バトルフェイズをスキップすることで、相手モンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える!」

 そして効果も強力無比かつ、このデュエルを終わらせるもの。不乱健の高い攻撃力とDDの残り少ないライフポイントに対し、D-ENDは自らの身体の竜の口へと火力を溜めていく。あとはエドの号令の一つで、全てを焼き尽くす竜の息吹は放たれるだろう。

「インビンシブル・D!」

「Bloo-Dとドグマガイの融合は驚かされたよ、エド。だがBloo-Dの力を無くしたのは失敗だったなぁ! 私は不乱健の効果を発動!」

 ただし落ち着き払ったDDの指示により、D-ENDの放った竜の息吹は、不乱健の強靭な腕に防がれてしまう。そのまま不乱健は守備を固めた体勢となり、D-ENDの効果で破壊されたようには見えなかった。

「不乱健はエクシーズ素材と手札を一枚墓地に送り、守備表示にすることで相手のカード効果を無効にする。残念だったなぁ」

 狂ったような笑みを向けるDDが言った通りに、次のターンの不乱健の攻撃でエドのライフは0。守備表示になったところを狙おうにも、他ならぬD-ENDの効果によって、バトルフェイズの機会は失われている。

「……言った筈だ、DD。僕のヒーローたちは、お前になど負けはしないと」

「なにぃ?」

 しかしてエドはあくまでも冷静に、最後に残った一枚のカードを発動してみせて。

「速攻魔法《ビッグ・リターン》! 一ターンに一度と制限されたエフェクトを、もう一度発動することが出来る!」

 発動されたのは速攻魔法《ビッグ・リターン》。自分フィールドのモンスターの、『一ターンに一度』という誓約がついた効果を発動する、という速攻魔法カードであり。たとえモンスター効果が無効にされていたとしても、速攻魔法《ビッグ・リターン》の効果として、一ターンに一度という誓約を無視して再度発動される。

「デュエルも、カードも、僕も。そしてD-HEROたちも進化する。亡霊にもはや居場所はない」

「…………」

 効果を無効にされていたD-ENDがゆっくりと動き出すと、先程と同じように竜の息吹が灯っていく。それをボーッとした表情で見つめるDDには、もはやD-ENDのことを止めることは出来ないようだが――彼はそんな『最後のD』の姿を見て、何を思うのか。

「……消え去れDD! インビンシブル・D!」

 《ダーク・シティ》の夜の帳をかき消すような、まるで太陽のような熱量が籠もった竜の息吹。それは無抵抗のままの《No.22 不乱健》に炸裂し、ただ光となって消えていった……

DD LP500→0



「エド……」

 こうしてフィールドは《ダーク・シティ》から元の路地裏に戻っていき、D-ENDが消えるとともにデュエルスタジアムの電源も落ちる。辺りに広がっていた闇も消えてなくなり、対面にいた筈のデュエル相手も――まるで最初からいなかったようで。

「さようなら……もう一人の父さん……」

 誰にも聞こえないような本当に小さな声で、エドは空に向かってそう呟くと。こちらに顔を見せないように、路地裏の出口に向かって歩き出していく。

「……僕は止まらない。この父さんが遺したD-HEROとともに」

 一瞬後にこちらに振り向いたエドの顔は、いつも通りの余裕ぶった不敵な笑みを浮かべていて。D-HEROたちが装填されたデュエルディスクを、こちらに剣のように構えていた。

「お前ともいずれ決着をつける。……異世界でのことは、その時のデュエルで語れ」

「……ああ」

 それだけ宣言するように言い放つと、エドは路地裏から早足で駆けていく。次なる仕事の時間が迫っている――
 
 

 
後書き
エクシーズ次元でダイナマイトガイを核爆発させる!!!

……というのはともかく、割とエドはライバルしてます。主人公とのデュエル数も、ちゃんと数えた訳じゃありませんが多分2位で、勝利経験もありと(ちなみに1位は明日香、3位は三沢と万丈目でタイ)

近々強化も約束されてますし、いっそのことラストデュエルの相手でも~なんて考えたところで、もうラストデュエルの相手なんて考える時期なんだなぁ、とちょっとしんみり。
 

 

―雷光―

『Are you ready?』

「うん!」

「――――」

「イヤッッホォォォオオォオウ!」

 ――デュエル・アカデミア上空。比喩でもなんでもなく、DDとのデュエルを終わらせた俺とエドは、ヘリコプターでアカデミアの上空へ来ていた。もうアカデミアでの仕事は始まっている時間であり、急ぎヘリポートに行かなくてはならなかったのだが。

 エドはヘリコプターから飛び降りることを選択した。俗にスカイダイビングと呼ばれるアレであり、随分と慣れたように仕事場たるデュエルスタジアムへ降下していく。……同じく俺も無理やりダイビングされたが、声など出ようはずもなく。

「デュエル・アカデミアの生徒たち! 待たせてすまない!」

 デュエルスタジアムの中心に落下したエドと俺は、アカデミアの生徒の驚愕と歓声の声に包まれていた。地上に足がついていることを何度も確認していると、エドの専属スタッフがパラシュートを回収していく。

「……何やってるんだ、遊矢」

「ああ、十代……こっちが聞きたい」

 早くもマイクパフォーマンスを行っているエドを横目に、デュエルディスクを構えた十代が呆れ顔でこちらを見ていた。なんと説明すればいいやら迷いながら、ひとまず周りを見渡してみると、どうやら今まで十代と万丈目がデュエルしていたらしく。万丈目が『エドが来るまで間を持たせる』とは言っていたが、こういうことだったとは――倒れている万丈目を見れば、勝敗は明らかだったが。

「だが僕の弟子、万丈目サンダーは立派な前座をしてくれただろう!」

「誰が弟子だ! 前座だ!」

 そんな状況をすぐさま理解したらしいエドが語ると、スタジアムに倒れていた万丈目が起き上がる。そんな抗議をまるで無視しながら、エドはさらにマイクに向かってそう語った。

「ここからが本番だ。万丈目サンダー、遊城十代、黒崎遊矢。そしてこの僕の、バトルロイヤルを始める!」

 ――台本と違う。最初に思ったことはそういうことで、アカデミアの生徒たちもその言葉を理解するのに数秒の時間を有した。しかし数秒後、観客席からは割れんばかりの歓声が鳴り響き――

「……この歓声だ。観客を魅せるこの歓声こそ、プロの仕事だ」

 エドは満足げに――どこか万丈目を見るようにしながら――語り、デュエルスタジアムの四辺に移動する。そんなエドの手管に圧倒されていると、俺と十代の背中をバシンと強く万丈目が叩き、俺たちを無理やりデュエルスタジアムの端へと押し込んでいく。

「エドめ……このオレを輝かせるステージを作ったことは褒めてやる……いくぞ十代、遊矢! このままナメられて終わるものか!」

「……ああ!」

 ここでエドの申し出を蹴っては、デュエリストとしての矜持が廃る。俺に万丈目もそう考えると、エドのようにデュエルディスクを構えながら、スタジアムの四辺へと歩いていく。

 ――俺たちと同じようにしていた十代の表情は、位置の関係でよく見ることが出来ずに、何を考えているのか分からなかったが。

 そして四人のデュエルの準備が完了し――

『デュエル!』

エドLP4000
十代LP4000
遊矢LP4000
万丈目LP4000

「まずは僕のターンから」

 バトルロイヤルが始まることとなった。まずはエドのターンからとなり、最初のターンはいずれのプレイヤーも攻撃出来ずに、同様にドローすることも出来ない。

「僕は《D-HERO ダイハードガイ》を召喚してターンエンド!」

「次はオレのターンか。《カードガンナー》を召喚!」

 エドの最初のターンは下級D-HEROこと、ダイハードガイを攻撃表示で召喚することで終了し、次なるターンは十代の手番。攻撃出来ない最初のターンで召喚されたのは、優秀な機械族モンスターこと《カードガンナー》。

「《カードガンナー》の効果発動。デッキの上から三枚墓地に送る。さらにカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン」

 まだ攻撃されないということもあってか、十代も《カードガンナー》の低攻撃力を晒すリスクを考えながらも、効果を使用しながら攻撃表示でターンを終了する。それとも、あのリバースカードは攻撃を誘っているのか。

「俺はモンスターとカードを一枚ずつセット。ターンエンドだ」

「オレ様のターン!」

 最後となるのは万丈目。ひとまず様子見に走ったこちらのターンが終わると、既に行動を決めておいたかのような迅速さで、即座にカードをデュエルディスクにセットする。

「オレはモンスターとリバースカードを一枚ずつセット! ターンを終了!」

「……僕のターン、ドロー!」

 ……やっていることは俺と全く同じだったが。そしてターンは一巡すると、エドはしばしフィールドを眺めながら、慎重にカードをドローする。エドのフィールドには《D-HERO ダイハードガイ》のみ、十代のフィールドは《カードガンナー》にリバースカード、俺と万丈目はどちらもセットモンスターとリバースカードが一枚ずつ。

「僕は《デステニー・ドロー》を発動! 手札のD-HEROをセメタリーに捨て二枚ドロー。さらに《D-HERO ドゥームガイ》を召喚!」

 《デステニー・ドロー》による手札交換と新たなD-HEROを召喚しながら、エドはまず誰に攻撃をするか思索する。

「バトル! ドゥームガイで《カードガンナー》を攻撃! ブラック・オブ・ドゥーム!」

 しかしてその思索は一瞬のもので。エドはひとまず標的を十代に定め、ドゥームガイはその腕に仕込まれた短刀で《カードガンナー》を切り裂いた。

「だが《カードガンナー》は破壊された時、カードを一枚ドロー出来る」

十代LP4000→3400

 ダメージは負ったものの、ドローと墓地送り効果の発動と、《カードガンナー》は充分な仕事を果たす。さらにダメージに晒されながら、十代の伏せてあったリバースカードが目を覚ます。

「リバースカード、オープン! 《N・シグナル》! デッキからネオスペーシアンを特殊召喚する! 来い、《N・フレア・スカラベ》!」

 さらにNの字をかたどったスポットライトから、後続のモンスターまでもが特殊召喚される。ネオスペーシアンの一種たるフレア・スカラベ――その効果は、相手の魔法・罠カードの数だけ攻撃力がアップするというもので、このバトルロイヤルにおいてはかなりの数値となる可能性を秘めている。

「……メインフェイズ2。僕はダイハードガイを守備表示にし、カードを一枚伏せターンを終了する」

「オレのターン、ドロー!」

 エドは残ったダイハードガイで俺や万丈目を追撃することはなく、守備表示とリバースカードという布陣でターンを終了する。

「墓地の《E・HERO ネクロダークマン》の効果発動! このカードが墓地にいる時一度だけ、E・HEROをリリースなしで召喚出来る! 来い、《E・HERO エッジマン》!」

 《カードガンナー》の効果で墓地に送られていた、リリースを必要としなくなるヒーロー《E・HERO ネクロダークマン》の効果により、早くもネオスの登場か――とも思ったが、手札から召喚されたのは《E・HERO エッジマン》。ホッとしたのも束の間、エッジマンには貫通効果があることを思いだす。

「バトル! エッジマンで遊矢のセットモンスターを攻撃! パワー・エッジ・アタック!」

「やらせない! リバースカード《くず鉄のかかし》!」

 エッジマンの標的はこちらのセットモンスター。とはいえただでやられる訳もなく、伏せていた《くず鉄のかかし》が何とかその一撃を防いでみせた。まだ十代のフィールドには、攻撃力が1700ポイントにまで上昇した、《N・フレア・スカラベ》が残っているが……

「……フレア・スカラベでドゥームガイに攻撃! フレイム・バレット!」

「こちらに来たか……」

エドLP4000→3300

 セットモンスターを警戒したのか、フレア・スカラベの標的はこちらではなくエドに向く。攻撃表示となっていたドゥームガイが、フレア・スカラベの放った火球に破壊されたものの――エドのフィールドにもまた、Dの字が浮かび上がっていた。

「伏せていた《デステニー・シグナル》のエフェクトを発動! デッキから《D-HERO ダイヤモンドガイ》を、守備表示で特殊召喚する!」

「……ターンエンドだ」

 先の十代のターンと奇しくも同じように、エドのフィールドには新たに《D-HERO ダイヤモンドガイ》が特殊召喚される。これでエドのフィールドには、守備表示のダイヤモンドガイにダイハードガイ、十代は攻撃表示のエッジマンにフレア・スカラベ、万丈目はまだ動かずにセットモンスターにリバースカード。

「俺のターン、ドロー! ……モンスターを反転召喚!」

 ならばこの局面で狙うべきは、最も攻撃力が高いエッジマンを擁する十代。エッジマンでこのまま十代に流れを取られては、まるでついて行けないだろう。反撃の狼煙として、セットしていたモンスターを反転召喚する。

「《ガントレット・ウォリアー》! さらにチューナーモンスター《音響戦士ピアーノ》を召喚し、チューニング!」

 反転召喚した《ガントレット・ウォリアー》に、通常召喚した《音響戦士ピアーノ》。二体のモンスターがフィールドに揃うと、素早くシンクロ召喚の体勢に移る。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 シンクロ召喚されるは獣の如き鋼の肉体を得た機械戦士。元々アタッカーとして使うモンスターではあるが、このバトルロイヤルでは十代の《N・フレア・スカラベ》同様に、さらなる効果と能力を発揮する。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 相手フィールド――つまり、エドに十代に万丈目、それぞれのフィールドのモンスターを全て合計する。ダイハードガイ、ダイヤモンドガイ、エッジマン、フレア・スカラベ、セットモンスター――計五体のモンスターがいる扱いとなり、《グラヴィティ・ウォリアー》の攻撃力は、普段のデュエルの最高火力たる3600にまで上昇する。

「バトル! グラヴィティ・ウォリアーでエッジマンに攻撃! グランド・クロス!」

「っつ……!」

十代LP3400→2400

 大きくライフを削れるフレア・スカラベを攻撃対象にしても良かったが、まだデュエルは序盤も序盤だ。《グラヴィティ・ウォリアー》の爪はエッジマンを切り裂き、十代のライフは1人落ち込んだ。

「よし、ターンエン……」

「おおっと遊矢! そのエンドフェイズ待ってもらおうか!」

 攻撃が無事に成功したとともに、《グラヴィティ・ウォリアー》がこちらのフィールドに戻ってきて、安堵の声とともにターンエンド宣言をしようとしたその時。突如として、万丈目からそんな声が放たれた。

「なんだ万丈目、いたのか」

「万丈目、さんだ! ずっといたわ!」

 覚えていろよエドめ――と、まだフィールドに何の損害も負っていないことをエドに揶揄されながら、万丈目は伏せていたリバースカードを発動する。こちらのエンドフェイズというタイミングで使われた、最初のターンから伏せられていたそのカードとは。

「伏せていたのは《重力解除》! フィールドのモンスター、全ての表示形式を変更する!」

 《重力解除》。万丈目の宣言通りに、フィールドのモンスター全ての表示形式が変更されていく。《グラヴィティ・ウォリアー》と《N・フレア・スカラベ》は守備表示に、エドのダイヤモンドガイにダイハードガイ、そして万丈目のセットモンスターが攻撃表示へと。

「オレがセットしていたのは《アームド・ドラゴンLV3》! そしてオレのターンとなり、アームド・ドラゴンは進化する!」

 ……まだ正確にはターンを終了していないのだが、もう万丈目のターンに移っていたらしい。しかしてそれはともかく、万丈目がカードをドローした後に、攻撃表示となった《アームド・ドラゴンLV3》は自身の効果で進化する。

「現れろ、《アームド・ドラゴンLV5》!」

 フィールドに現れる伝説の一角。さらに《重力解除》の効果で表示形式が変更されたことにより、守備力が低い《グラヴィティ・ウォリアー》を始めとして、他三人の布陣は崩れていた。ああ見えて見事なコンボをやってのけた万丈目に舌を巻いていると、まだまだだとばかりに万丈目は新たなカードを発動する。

「さらに《レベル・コピー》を発動! フィールドのレベルモンスターと同じ攻撃力、効果を持ったモンスタートークンを特殊召喚する! 来い、《コピー・アームド・ドラゴンLV5》!」

 そして魔法カードの効果によって特殊召喚される、完全に《アームド・ドラゴンLV5》をコピーしたモンスタートークン。実質的にもう一体のモンスタートークンが現れ、万丈目は誰を標的にしようか見定める。

「エド! ナメた口を聞いたことを後悔させてやる! アームド・ドラゴンLV5で、ダイハードガイを攻撃! ジェノサイド・カッター!」

 標的にされたのはエド。《重力解除》によって低い攻撃力を晒された、ダイハードガイにアームド・ドラゴンが放ったカッターが炸裂し、巨大な爆風となってエドに襲いかかった。

「チッ……!」

エドLP3300→1700

 かなりのダメージを与えられたことで、エドのライフはかなり落ち込むこととなり。そんな姿を満足げに眺めながら、万丈目はさらにコピー・アームド・ドラゴンに攻撃を命じる。

「お次は十代、貴様だ! コピー・アームド・ドラゴンでフレア・スカラベに攻撃!」

 コピーと言えども本物と遜色ない一撃が、十代のフレア・スカラベを一瞬で消し飛ばす。とはいえ、万丈目の《重力解除》によって守備表示となっていた為に、十代にダメージはないが。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了。さらにモンスターを戦闘破壊したことにより、《アームド・ドラゴンLV7》へと進化する!」

 さらにモンスターを戦闘破壊するという進化条件を満たしたため、アームド・ドラゴンは新たな形態へと進化する。最終形態にほど近い《アームド・ドラゴンLV7》となる――もちろん、《コピー・アームド・ドラゴン》の方もだ。

「効果までコピーした《コピー・アームド・ドラゴン》は、モンスタートークンであろうと進化する!」

「……僕のターン、ドロー! ……セメタリーの《D-HERO ダッシュガイ》のエフェクト発動!」

 これで万丈目のフィールドは《アームド・ドラゴンLV7》が二体に、リバースカードが一枚。エドはダイヤモンドガイ、十代は何もなく、俺は守備表示の《グラヴィティ・ウォリアー》に《くず鉄のかかし》。そんな状況において、先のターンの《デステニー・ドロー》により墓地に送られていたのだろう、《D-HERO ダッシュガイ》の効果が発動する。

「ダッシュガイがセメタリーにいる時一度だけ、ドローしたモンスターを特殊召喚出来る! ドローしたモンスターは、《D-HERO ディアボリックガイ》!」

 ドローしたモンスターを特殊召喚する、という他に類を見ない効果によって、新たに《D-HERO ディアボリックガイ》が特殊召喚される。さらにエドの猛攻はこれだけに留まらず、フィールドに半透明のダークヒーローが浮かび上がっていた。

「さらに前のターンに破壊された《D-HERO ドゥームガイ》のエフェクト発動! このカードが破壊された次のスタンバイフェイズ時、セメタリーのD-HEROを特殊召喚する! カモン、ダッシュガイ!」

 さらに先のターンに十代の《N・フレア・スカラベ》によって破壊されていた、《D-HERO ドゥームガイ》の効果により、今し方効果を発動した《D-HERO ダッシュガイ》を特殊召喚する。まだメインフェイズにもなっていないというのに、エドは二体のD-HEROを特殊召喚してみせ、まだ通常召喚という余力を残していた。

「さらにフィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動し、《D-HERO ドレッドサーヴァント》を召喚!」

 目まぐるしくエドのフィールドが展開されていき、さらにアカデミアのデュエルスタジアムが、ビッグベンが一際目立つ英国の都市となっていく。さらにその時計塔の直上には、一体のD-HEROがポーズを取っており、時計塔の針を3時間進めながらエドのフィールドに降り立った。

「ドレッドサーヴァントが召喚された時、時計塔の針が一つ進む。さらにダイヤモンドガイのエフェクトにより、デッキトップ……《戦士の生還》をセメタリーに送る」

 二体のD-HEROのそれぞれの効果――ドレッドサーヴァントは《幽獄の時計塔》にカウンターを一つ乗せ、ダイヤモンドガイはデッキトップの魔法カードを墓地に送り、次のターンでの発動を確定させる。そしてエドのフィールドにいた、三体のモンスターが血で出来た池に沈んでいく。

「僕は三体のモンスターをリリースし、《D-HERO Bloo-D》を特殊召喚!」

 ドレッドサーヴァント、ダイヤモンドガイ、ディアボリックガイ。三体のD-HEROをリリースすることで、エドの切り札たる最強のD――《D-HERO Bloo-D》が特殊召喚される。《幽獄の時計塔》をバックに特殊召喚されたソレは、ギョロリとした視線を万丈目に向ける。

「Bloo-Dのエフェクト発動! 一ターンに一度、相手モンスターを吸収する! 万丈目、お前の《アームド・ドラゴンLV7》をだ!」

「ええい……!」

 Bloo-Dの翼から伸びた血の糸がアームド・ドラゴンLV7を捉え、自らの力として吸収していく。《アームド・ドラゴンLV7》の半分の攻撃力を備えつつ、さらに万丈目のフィールドをがら空きにすると、そのまま万丈目に狙いを定めていた。

「バトル! Bloo-Dでアームド・ドラゴンLV7に攻撃! ブラッディー・フィアーズ!」

「ぐあっ!」

万丈目LP4000→3500

 そしてもう一体のアームド・ドラゴンLV7も、Bloo-Dに放たれた血の針に貫かれてしまう。モンスターがいなくなった万丈目のフィールドとは対照的に、エドにはまだダッシュガイがフィールドに残っているが、万丈目のフィールドにもまだリバースカードは一枚残っている。

「ダッシュガイで十代にダイレクトアタック! ライトニング・ストライク!」

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外し、攻撃を無効とする!」

 一瞬だけ思索したようだったものの、結局は万丈目にのみこだわることはなく、エドは次なるターンプレイヤーである十代を攻撃する。ただし《カードガンナー》によって墓地に送られていたのだろう、《ネクロ・ガードナー》によって防がれてしまう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 そしてターンは、フィールドががら空きな十代に移る。優勢なのはやはりフィールドを整え、さらにエースたる《D-HERO Bloo-D》を召喚したエドと、セットされたままの《くず鉄のかかし》のおかげで、攻撃されることはなかったこちらか。

「相手ターンのスタンバイフェイズにより、《幽獄の時計塔》の針はさらに進む」

「……オレは《簡易融合》を発動! 1000ポイントのライフを払い、融合モンスターを特殊召喚する。来い、《E・HERO セイラーマン》!」

十代LP2400→1400

 さらにカウンターを乗せる《幽獄の時計塔》を横目にしながら、十代エクストラデッキから融合素材を必要とせず、直接《E・HERO セイラーマン》を融合召喚する。とはいえ《簡易融合》の効果で特殊召喚したということは攻撃は出来ず、セイラーマンはこの局面を打破する効果を持ち合わせていない。

「さらに《ヒーロー・マスク》を発動! デッキからE・HEROを墓地に送ることで、フィールドのモンスターはそのE・HEROの名前となる!」

 その疑問に応える形で発動されたのは、フィールドのモンスターの名前を、デッキから墓地に送った《E・HERO》に変更する、という効果を持った魔法カード。攻撃力や効果などは変わらないが、名前というのも重要なファクターであり、セイラーマンにあるヒーロー――《E・HERO ネオス》が乗り移った。

「そして《ラス・オブ・ネオス》を発動! フィールドのネオスをデッキに戻し、フィールドのカードを全て破壊する!」

「リバースカード、オープン! 《エターナル・ドレッド》!」

 ――名前を変更したということは、ネオスとして扱うということであり。ネオスの力を得たセイラーマンが、その一撃にフィールドの全てを破壊しようとした瞬間、エドのリバースカードが発動する。そのリバースカードは《幽獄の時計塔》の針を二つ進めて、セイラーマンの一撃によって破壊された。

「破壊された《幽獄の時計塔》のエフェクト発動。デッキから《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚する!」

「オレも伏せてあった《おジャマジック》が破壊されたことにより、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加えさせてもらう」

 確かにセイラーマンはフィールドを破壊し尽くしたが、エドに万丈目は破壊された際に発動するカードでカバーする。何もなくなったフィールドに、瓦礫の底から鉄仮面の巨人――ドレッドガイが特殊召喚され、解き放たれた咆哮がフィールドを木霊する。

「さらにドレッドガイがこのエフェクトで特殊召喚された時、セメタリーから二体のD-HEROを特殊召喚する! ドレッド・ウォール!」

 その咆哮はフィールドを揺らし、エドの墓地から二体のD-HERO――ダッシュガイにダイヤモンドガイを呼び覚まし、さらにドレッドガイの咆哮がバリアのように変化していく。ドレッドガイは特殊召喚されたターン、全てのダメージとD-HEROの破壊をシャットアウトする。

 がら空きになったはずのフィールドだったが、エドのフィールドのみは盤石のままとなり。さらに十代もそれで終わるわけもなく、新たなカードを発動する。

「さらに《O-オーバーソウル》を発動! 墓地から蘇れ、ネオス!」

 《ヒーロー・マスク》によって墓地に送られていた、十代の主力ヒーローことネオスが特殊召喚され、がら空きになった俺と万丈目のフィールドを見つめた。《ラス・オブ・ネオス》でデッキに戻したモンスターは、あくまでセイラーマンということで出来る芸当に、俺たち二人は冷や汗を流して。

「バトル! ネオスで遊矢にダイレクトアタックだ、ラス・オブ・ネオス!」

「っあ!」

遊矢LP4000→1500

 十代が標的に選んだのは、《くず鉄のかかし》によって守られていたため、未だに初期ライフだったこちら。ネオスの重力を伴ったチョップの一撃に、一気にこちらのライフは消し飛んだ。

「カードを二枚伏せ、オレはターンを終了する」

「くっ……俺のターン、ドロー!」

 ネオスの一撃からどうにか復帰すると、一度リセットされたはずのフィールドを眺める。《幽獄の時計塔》の効果でフィールドを維持したエドに、ネオスとリバースカードを二枚伏せた十代。まずはこの二人をどうにかしなくては。

「相手フィールドにのみモンスターが存在する時、《レベル・ウォリアー》はレベルを4として特殊召喚出来る!」

 まずは特撮ヒーローの如き格好をした機械戦士が、自身の効果でレベルを4として特殊召喚され、さらにチューナーモンスターを召喚していく。

「そしてチューナーモンスター《音響戦士ドラムス》を召喚し、通常召喚に成功したことで、《ワンショット・ブースター》を特殊召喚する!」

 そしてこちらもエースモンスターを特殊召喚するべく、三体のモンスターをあっという間に並べてみせると、そのレベルの合計が正しいことを確認する。

「さらに墓地の《音響戦士ピアーノ》は、フィールドに音響戦士がいる時除外出来る。……三体のモンスターでチューニング!」

 次なる手への布石を打ちながら――三体のモンスターはシンクロ召喚の体勢を取り、エースモンスターを呼び出す土壌を作る。合計レベルは7、エクストラデッキから機械竜の咆哮が響き渡る。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 満を持してシンクロ召喚されるは、エースモンスターにしてラッキーカード。《パワー・ツール・ドラゴン》がその鋼鉄の装甲を通じて、竜のいななきをフィールドに震わせる。

「パワー・ツール・ドラゴンの効果を発動! デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……真ん中だ」

 万丈目の前に現れた三枚の裏側表示のカードから、真ん中のカードが俺の手札に加えられる。選択されたカードを確認しながら、俺は新たな魔法カードを発動する。

「そして《ヘルモスの爪》を発動! このカードと戦士族モンスターを融合し、新たな装備カードを召喚する!」

「何!?」

 新たにデッキに加わった魔法カード、《ヘルモスの爪》に初見のエドが驚愕の声を漏らす。魔法カードから現れた伝説の竜の爪と、手札の機械戦士が融合していき、新たな装備カードとして生まれ変わる。

「融合召喚! 《ヘルモス・ロケット・キャノン》!」

 融合召喚された新たな装備カード。その名に違わず、《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕に、ロケットを発射するキャノン砲が装備される。

「さらに《団結の力》に《ブレイク・ドロー》を装備し、バトル!」

 そして《パワー・ツール・ドラゴン》の効果によって手札に加えられたカードも含む、攻撃力を800ポイントアップさせる《団結の力》に、装備モンスターが相手モンスターを破壊した際に、カードを一枚ドロー出来る装備魔法《ブレイク・ドロー》を装備する。さらに今し方装備された《ヘルモス・ロケット・キャノン》は、二回攻撃に貫通ダメージを持つ。

「ダッシュガイに攻撃! ヘルモス・ロケット・キャノン!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の効果も併せて、強固な耐性を維持したモンスターとなった。二回攻撃の標的は、フィールドががら空きの万丈目か悩んだものの、万丈目を一撃で倒すことは出来ない。ならば、無限に攻撃力を高めるドレッドガイをフィールドに残してはおけない――と、まずはダッシュガイに向けてロケットが放たれた。

「リバースカード、オープン! 《サイクロン》で《団結の力》を破壊する!」

「十代!?」

 しかして予想外な出来事が起こる。リバースカードがないエドに攻め込んだかと思えば、十代が二枚のリバースカードのうち一枚を発動し、装備魔法《団結の力》を破壊する。《パワー・ツール・ドラゴン》には自身の効果で耐性はあるが、《団結の力》自体には存在しておらず、呆気なく《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は減少する。

「僕は手札から《D-HERO ダガーガイ》を捨てることで、フィールドのD-HEROの攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 攻撃力上昇を《団結の力》に依存していた《パワー・ツール・ドラゴン》は、元々の攻撃力に戻ってしまうものの、それでもダッシュガイよりは攻撃力は上。しかしてバトルフェイズに発動された、《D-HERO ダガーガイ》の効果により、皮肉にも800ポイントの攻撃力をアップさせる。

「返り討ちにしろ、ダッシュガイ! ライトニング・ストライク!」

「くっ……《パワー・ツール・ドラゴン》は、装備魔法を身代わりにすることで破壊を免れる! イクイップ・アーマード!」

遊矢LP1500→900

 ダガーガイの効果を得たダッシュガイに迎撃されたものの、《パワー・ツール・ドラゴン》は何とか自身の耐性で生き残る。その代償として《ブレイク・ドロー》は破壊され、残るは《ヘルモス・ロケット・キャノン》のみとなってしまったが。

「やってくれたな十代……!」

「三枚も装備魔法があるそいつは面倒だからな」

「……だが、ダイヤモンドガイでも破壊させてもらう! パワー・ツールで攻撃!」

 そいつ、と《パワー・ツール・ドラゴン》を指して十代は小さく笑う。助けられた形となるエドは何も言わなかったが、まだ《ヘルモス・ロケット・キャノン》による二回攻撃は残っている。《D-HERO ダガーガイ》の攻撃力を800ポイントアップさせる効果は、もちろんダイヤモンドガイにも及んではいるものの、ギリギリ100ポイント《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力の方が高い。

「チッ……」

エドLP1700→1600

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 ダイヤモンドガイの破壊には成功したものの、十代の横槍による妨害でライフポイントは900になるまで追い込まれる。カードを一枚伏せてターンを終了し、次なる万丈目のターンへと移行する。

「オレのターン、ドロー!」

 十代の《ラス・オブ・ネオス》のフィールド全破壊に際しても、《おジャマジック》によっておジャマ三兄弟を手札に舞い込んでいた万丈目。ドレッドガイとダッシュガイを擁するエド、ネオスとリバースカードの十代、パワー・ツールにリバースカードのこちらと違って、フィールドこそ破壊され尽くされがら空きなものの、手札の数は最も盤石だった。

「オレは《手札抹殺》を発動! 全員、手札を全て捨ててその数だけドローする!」

 そして降って湧いたような手札交換のチャンスは、やはり《おジャマジック》で手札が潤沢な万丈目が純然に活用する。手札のおジャマ三兄弟を墓地に送りながら、手札を交換した万丈目の次なる手は。

「《トワイライトゾーン》を発動し、墓地からおジャマ三兄弟を蘇生! さらに《融合》を発動する!」

 墓地のレベル2以下の通常モンスターを蘇生する《トワイライトゾーン》により、今し方墓地に送られたおジャマ三兄弟が特殊召喚され、即座に万丈目は《融合》の魔法カードを発動する。デッキから手札に、手札から墓地に、墓地からフィールドに、高速移動したおジャマ三兄弟は少し酔っているような動作を見せていたが、それに構わず時空の穴は三兄弟を吸い込んでいく。

『おジャマ究極合体~!』

「融合召喚! 《おジャマ・キング》!」

 三体のおジャマの合体した融合モンスター。万丈目の切り札とも言えるそのモンスターは、何か考えがあるのか攻撃表示での登場となり、何故かその手には巨大な判子が握られていた。

「《おジャマ・キング》の効果! エド、貴様のフィールドを三つ使用不能にする!」

 《おジャマ・キング》がその手に持った判子をエドのフィールドに押すと、『済』と判を押されたモンスターカードゾーンは使用不能となる。先のターンでダイヤモンドガイを破壊した身からすれば、万丈目のその行動についガッツポーズを取った。

「これでドレッドガイは攻撃力を上げられず、Bloo-Dは召喚出来まい! さらに《おジャマ・キング》に装備魔法《シールド・アタック》を装備!」

 エドのフィールドは既に二体のモンスターが存在するため、残り三枠のモンスターカードゾーンが埋められた今、ドレッドガイをこれ以上強化することは出来ない。さらにはBloo-Dやドグマガイと言った、三体のモンスターをリリースすることが召喚条件の、エドの切り札クラスのモンスター達も封じたのと同義。

「バトルだ、《おジャマ・キング》でネオスに攻撃! おジャマ・キング・フライングボディアタック!」

「ネオス!」

十代LP2400→1900

 そして《おジャマ・キング》に装備されたカード《シールド・アタック》は、装備モンスターの攻撃力と守備力を変化させる効果を持つ。突如として空中に飛び上がった、攻撃力3000と化した《おジャマ・キング》がネオスを押し潰していく。

「フッ……カードを二枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 ――このバトルロイヤルデュエルも三巡目となり、後半戦に突入したと言ってもいいだろう。誰もが手札が心もとなくなっており、もはや誰から脱落しようが違和感はない。そんな中、万丈目の《おジャマ・キング》によって、モンスターカードゾーンを埋められたエドにターンは移り。

「僕は《アドバンスドロー》を発動! フィールドのレベル8モンスター、ドレッドガイをリリースして二枚ドロー!」

「…………!」

 レベル8モンスターをコストに二枚ドローする魔法カード、《アドバンスドロー》の効果によって、エドのフィールドに一つだけ空きが湧く。アドバンテージで損となるダッシュガイの効果を万丈目は狙っていたようだが、その目論見は《アドバンスドロー》によってご破算となった。

「さらに《D-HERO デビルガイ》を召喚!」

 紫色のコートを羽織ったダークヒーロー。流石はエドと言うべきか――この局面を打破できる効果を持った、D-HEROをフィールドに呼び寄せてみせる。

「デビルガイのエフェクト発動! 相手モンスターを一体除外する! デスティニー・ロード!」

「くっ……速攻魔法《融合解除》! 《おジャマ・キング》を三兄弟に分離させる!」

 相手モンスターを一体除外する、というシンプルに強力な効果を前にして、万丈目は《融合解除》にて対抗する。守備表示のおジャマ三兄弟は現れ、デビルガイの効果は対象を見失って無効になったものの、《おジャマ・キング》がフィールドを去ったことでエドのフィールドは解放される。

「セメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動! デッキから同名モンスターを特殊召喚する! カモン、アナザーワン!」

 そして墓地のディアボリックガイの効果を活かした特殊召喚によって、エドのフィールドには三体のD-HEROが並ぶ。手札に切り札クラスのD-HEROはいるのか――いや、いなくても今から加えられるのだが。

「ダイヤモンドガイによって未来に送られていた、《戦士の生還》のエフェクトを発動! Bloo-Dを手札に加え、三体のモンスターをリリースして特殊召喚する!」

 ダイヤモンドガイによって未来――墓地に送られていた《戦士の生還》。既にダイヤモンドガイは破壊されているが、《戦士の生還》の発動と効果は確定していた。それによって墓地に送られていたBloo-Dは手札に加えられ、そのまま三体のモンスターをリリースすることで、エドのフィールドに再び舞い戻った。

「そこだ! 伏せてあった《ヒーロー・ブラスト》を発動!」

 だがBloo-Dの特殊召喚に反応するように、十代が伏せていたリバースカードを発動すると、半透明のネオスが十代のフィールドに現れる。

「墓地のE・HEROの通常モンスターを手札に加え、その攻撃力以下のモンスターを破壊する! Bloo-Dを破壊!」

 破壊され墓地に送られていたネオスを回収しながら、半透明のネオスがBloo-Dを破壊せんと襲いかかる。ネオスの攻撃力以下、すなわち2500以下のモンスターと、大抵のモンスターを破壊出来る数値。その上Bloo-Dはまだ召喚されたばかりで、その攻撃力を上昇させていない。

「やらせるか! セメタリーの《スキル・プリズナー》のエフェクト発動! このターン、Bloo-Dは他のエフェクトを受けない!」

「っ!」

 万丈目の《手札抹殺》により墓地に送っていたのだろう、墓地から除外することで擬似的な効果耐性を付与する罠カード《スキル・プリズナー》により、Bloo-Dは半透明のネオスの攻撃から守られる。十代にこれ以上の策はないらしく、ネオスを手札に加えながら歯噛みする。

「さて……Bloo-Dのエフェクト発動! パワー・ツール・ドラゴンを吸収する!」

「パワー・ツール・ドラゴン!」

 悲鳴をあげようが結果は変わらない。Bloo-Dの翼から生えた血の触手が、パワー・ツール・ドラゴンを捕縛し吸収していく。こうして俺と十代のフィールドはがら空きに、エドはBloo-Dを十全に活かしているものの。

「デビルガイがエフェクトを発動したターン、僕は攻撃出来ない。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「オレのターン、ドロー!」

 《融合解除》によって不発には終わったものの、発動したことに変わりはなく。デビルガイのデメリットによりエドは攻撃出来ずに、十代のターンへと移行する。

「オレは《コンバート・コンタクト》を発動! フィールドにモンスターがいない時、デッキと手札からネオスペーシアンを墓地に送り、二枚ドロー!」

 Bloo-Dとリバースカードを擁するエドに、おジャマ三兄弟とリバースカードが防備を固める万丈目と違い、俺と十代のフィールドはがら空きだった。正確には俺のフィールドにリバースカードは一枚あるが、十代はその状況を逆手に取った魔法カードを発動する。

「そして《コクーン・パーティー》を発動! 墓地のネオスペーシアンの数だけ、デッキからコクーンモンスターを特殊召喚する!」

 そして新たな魔法カードの発動により、十代のフィールドに四体のモンスターが並ぶ。ネオスペーシアンたちの幼生体ことコクーンモンスターたちで、今の段階では何の効果を持ってはいないが。

「フィールド魔法《ネオスペース》! このフィールド魔法がある時、コクーンモンスターをリリースすることで、デッキからネオスペーシアンを特殊召喚出来る!」

 フィールドが彼らの生まれ故郷たる宇宙、《ネオスペース》ともなれば話は別だ。しかもリリースして発動する効果のためにBloo-Dの効果封殺も意味をなさず、コクーンモンスターのうち二体はみるみるうちに成長していき、デッキから《N・ブラック・パンサー》と《N・グロー・モス》が特殊召喚される。デッキか手札からの召喚のため、他のネオスペーシアンは墓地に送られているのだろう、その二体のみだった。

「さらに残り二体のコクーンモンスターをリリースし、《E・HERO ネオス》をアドバンス召喚!」

 だが残る二体はネオスへと姿を変えていき、《ヒーロー・ブラスト》を経由して再びネオスがフィールドに舞い戻った。

「バトル! ネオスで《おジャマ・ブラック》に攻撃! ラス・オブ・ネオス!」

 そして十代の総攻撃へと移り、まずはネオスの攻撃によっておジャマ三兄弟の一角が破壊される。オーバーキルではあったが守備表示のため、もちろん万丈目にダメージはない。

「さらにブラック・パンサーで遊矢にダイレクトアタック! ダーク・クロー!」

「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了する!」

 こちらの残るライフは900ポイントであり、ブラック・パンサーの攻撃力は1000ポイント。絶体絶命の一撃だったが、手札から《速攻のかかし》を身代わりにすることで、何とかその一撃を凌ぐ。まだ《N・グロー・モス》の攻撃は残っていたが、《速攻のかかし》によって強制的にメインフェイズ2となる。

「……なら、オレはネオスとブラック・パンサー、グロー・モスで、トリプルコンタクト融合!」

 メインフェイズ2――十代が操る三体のモンスターが一体となっていき、時空の穴よりネオスの融合体が帰還する。

「《E・HERO カオス・ネオス》!」

 全身に先鋭化した鎧を纏ったネオス。その姿とトリプルコンタクト融合体は伊達ではなく、フィールド魔法《ネオスペース》の強化も合わせて、フィールドの最高攻撃力をBloo-Dから更新する。

「ターンエンド!」

「俺のターン、ドロー!」

 十代の切り札クラスのモンスターたる、トリプルコンタクト融合体の一種ことカオス・ネオス。フィールドにいるだけでプレッシャーとなるが、維持のためにはフィールド魔法《ネオスペース》が必須という弱点は存在する。

「俺はカードを一枚伏せ、魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》を発動! 今伏せたカードを破壊し、カードを二枚ドローする!」

 だがエドのフィールドにあるBloo-Dによって、エンドフェイズに帰還する効果をも無効にされている。十代もこれを狙っていたのだろうが、ならば《ネオスペース》にBloo-Dを破壊するまで。

「破壊したセットカードは《リミッター・ブレイク》! このカードが墓地に送られた時、デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 そしてセットカードを破壊して二枚ドローする魔法カード《ブラスティック・ヴェイン》と、破壊されることで効果を発揮する《リミッター・ブレイク》のコンボにより、遂にマイフェイバリットカードが特殊召喚される。果敢に攻撃表示で特殊召喚された上に、新たな旋風がフィールドに舞い踊る。

「さらに《ブラスティック・ヴェイン》でドローした、《スカウティング・ウォリアー》の効果を発動! このカードが通常のドロー以外で手札に加わった時、このモンスターは特殊召喚される!」

 特殊召喚されるのは《スピード・ウォリアー》だけではなく、《スカウティング・ウォリアー》も自身の効果によりフィールドに並び立った。そして墓地から一枚のカードを抜き取ると、エドたち三人にそのモンスターを見せつけた。

「そして墓地の《音響戦士サイザス》の効果。このモンスターを除外することで、除外されている音響戦士を特殊召喚出来る! 舞い戻れ、《音響戦士ピアーノ》!」

 《手札抹殺》によって墓地に送っていた《音響戦士ピアーノ》の効果により、《グラヴィティ・ウォリアー》のシンクロ素材になった後に除外されていた、《音響戦士ピアーノ》がフィールドに再び現れる。

「レベル4の《スカウティング・ウォリアー》と、レベル3の《音響戦士ピアーノ》をチューニング!」

 そして息をつかせる暇もなく、新たなモンスターを呼ばんとチューニングされていく。合計レベルは7――エクストラデッキから閃光が零れた。

「集いし闇が現れし時、光の戦士が光来する! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライトニング・ウォリアー》!」

 閃光とともにフィールドに降り立った、全身に鎧を纏った光の機械戦士。Bloo-Dやカオス・ネオスに対抗するように、スピード・ウォリアーとともにそれらと対峙する。

「そして《アームズ・ホール》を発動。通常召喚を封じることで、デッキトップを墓地に送り、装備魔法カードを手札に加える。俺は《バスターランチャー》をスピード・ウォリアーに、《パイル・アーム》をライトニング・ウォリアーに装備!」

 さらに通常召喚の権利を使っていないため、装備魔法をサーチする魔法《アームズ・ホール》の発動が可能。デッキからサーチした装備魔法を加えた、二枚の装備魔法がそれぞれ《スピード・ウォリアー》と《ライトニング・ウォリアー》に装備される。《スピード・ウォリアー》には身の丈を遥かに越す《バスターランチャー》を、《ライトニング・ウォリアー》には腕に装着された《パイル・アーム》を。

「《パイル・アーム》は装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせ、発動時に相手の魔法・罠カードを一枚破壊する!」

 《パイル・アーム》の標的は、もちろんのことながら十代の《ネオスペース》。これでカオス・ネオスはエクストラデッキに戻る……としたいところだが、そのデメリット効果はBloo-Dの効果封殺で無効となっている。

「バトル! 《スピード・ウォリアー》でBloo-Dに攻撃!」

 ならば次の標的は自ずと決まったようなもので、《スピード・ウォリアー》はBloo-Dへとその砲塔を向ける。今やBloo-Dの攻撃力は《パワー・ツール・ドラゴン》を吸収したことで、その攻撃力は3050にまで上昇しているが、それこそが好都合だった。

「装備した《バスターランチャー》の効果。相手モンスターの攻撃力が2500以上の時、装備モンスターの攻撃力を2500ポイントアップさせる! バスターランチャー、シュート!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》を吸収したことにより、《バスターランチャー》の発動条件を満たし。最大出力のバスターランチャーがBloo-Dに向かっていったが、それは巨大な大盾に防がれていた。

「リバースカード、《D-シールド》。発動後装備カードとなり、装備したBloo-Dは守備表示となり戦闘では破壊されない」

「くっ……」

 どうやらそう上手くいく訳ではなかったようで、エドのフィールドに伏せられていた《D-シールド》により、《バスターランチャー》による一撃は呆気なく防がれた。その上守備表示にもなると、戦闘ダメージすら与えられずに。

「なら……《ライトニング・ウォリアー》で、《おジャマ・イエロー》に攻撃! ライトニング・フィスト!」

 残る《ライトニング・ウォリアー》の攻撃だったが、カオス・ネオスに攻撃力では適わず、《D-シールド》による戦闘破壊耐性を得たBloo-Dを攻撃しても意味はない。ならばと万丈目の《おジャマ・イエロー》を攻撃すると、破壊には成功した筈が、何故かその場にそのままね姿で――いや、色が変わっていた。

「墓地から罠カード発動! 《おジャマーキング》! 俺のモンスターが破壊された時、墓地からおジャマモンスターを特殊召喚出来る!」

 やはり万丈目も何か墓地に送っていたらしく、《おジャマ・イエロー》の戦闘破壊には成功したものの、墓地から発動する罠カード《おジャマーキング》の効果。墓地のおジャマモンスターを代わりに特殊召喚するという効果により、破壊された《おジャマ・イエロー》の代わりに、先のターンで十代に破壊された《おジャマ・ブラック》が蘇生された。

 結局は差し引きゼロという結果に終わり、苦々しげにしながら俺はバトルを終了するする。《おジャマ・イエロー》を戦闘破壊したことで、本来なら《ライトニング・ウォリアー》の効果が発動されるのだが、それはBloo-Dによって無効となって。

「……ターンエンドだ」

「オレのターン、ドロー! ……ふっ、エースモンスターの揃い踏みといったところか」

 こちらからターンを移行された万丈目が、カードを引きながらそうして不敵に笑う。エドのBloo-D、十代のネオス――がコンタクト融合した姿である、カオス・ネオス、俺のスピード・ウォリアー。

「そうなれば、俺もエースを呼ばない訳にはいくまい! 通常魔法《思い出のブランコ》を発動! 蘇れ――《おジャマ・イエロー》!」

 ――そして万丈目のおジャマ三兄弟。とりわけその中でも特殊な、《おジャマ・イエロー》の姿。俺と十代に破壊されていたが、再びフィールドにおジャマ三兄弟が結集する。

「悪いがこのデュエル、オレ様が貰った! 魔法カード《おジャマ・デルタ・サンダー》を発動!」

「デルタ・サンダー……?」

 おジャマ三兄弟が揃った際に発動する、相手フィールドのカードを全て破壊する魔法カード《おジャマ・デルタ・ハリケーン》――ではなく。奇しくも万丈目の代名詞とも言える、サンダーの名を関した魔法カード。万丈目の強気な勝利宣言と同時に、おジャマ三兄弟も空中に円陣を組んで高速回転しつつ、帯電しながら浮かび上がっていく。

「《おジャマ・デルタ・サンダー》は、おジャマ三兄弟がフィールドにいる時、相手の手札・フィールドの数×500ポイントのダメージを与える!」

「ッ!」

 それは誰の息を呑む声だったか。デュエルも終盤でライフを少なくなってきたプレイヤーたちには、それは十二分以上のオーバーキル。空中で回転していたおジャマ三兄弟が、いつの間にか雨雲のような姿に形を変えていた。

「くらえ! おジャマ・デルタ――」

『――サンダー!』

 降り注ぐ雷撃。それに対抗するかのように、俺は最後まで残っていたリバースカードを発動した。

「伏せてあった《ダメージ・ポラリライザー》を発動! 効果ダメージを与えるカード効果を無効にし、お互いにカードを一枚ドローする!」

 俺のフィールドに伏せられていたカードは、亮が使っていた罠カード《ダメージ・ポラリライザー》。効果ダメージを無効にして一枚ドローする、というカード効果によって、《おジャマ・デルタ・サンダー》の効果は無効となった。円陣を組んで浮かび上がっていた三兄弟も地に戻り、万丈目のバーンダメージによる決着は失敗する。

「なるほどな……最後の伏せはそれか。やはりこのデュエル、このオレに勝利の女神は微笑んでいるらしい」

「……ほう」

 しかして《おジャマ・デルタ・サンダー》を無効化されたにもかかわらず、万丈目はさらに勝利を確信した笑みを深めていき、勝利宣言を撤回しないままに。《ダメージ・ポラリライザー》の効果でドローしたカードを見ることもなく、おジャマ三兄弟に更なる命令を下す。

「見せてやる、オレたちの力をな! おジャマ三兄弟を攻撃表示に変更!」

 正確には、《思い出のブランコ》の効果によってこのターン特殊召喚された、《おジャマ・イエロー》は元々攻撃表示だったものの。万丈目の宣言した通りに、おジャマ三兄弟は――攻撃力0のモンスターが三体、攻撃表示の意を示す。

「Bloo-D……確かになかなか厄介だが、エド、お前のフィールドという隙がある! リバースカード、オープン! 《ギブ&テイク》!」

 真に最後のリバースカード――先の万丈目のターンに、《融合解除》とともにフィールドに伏せられていた、通常罠カード《ギブ&テイク》が日の目を見る。そのカードの効果は、自身の墓地から相手フィールドにモンスターを特殊召喚する、というもので。

 確かに万丈目が指摘した通りに、この場で唯一エドのフィールドにのみ、Bloo-Dの効果封殺の影響はない。ならばエドのフィールドにモンスターを特殊召喚すれば、Bloo-Dがいようとモンスター効果を発動出来る、というのは道理だったものの。

 その、エドのフィールドに特殊召喚されたモンスターは――

『我ら、黒蠍盗掘団!』

「は?」

「え?」

「あいつら……」

 プレイヤーたちから三者三様の感想が響き渡り、エドのフィールドに《黒蠍盗掘団》が特殊召喚された。元・セブンスターズでありカードの精霊だった彼らは、確かに万丈目が預かっていたが、《黒蠍盗掘団》が一つに纏まったモンスターとして現れていた。

「いくぞ貴様ら! 万丈目サンダー・スペシャルだ! 三兄弟で黒蠍盗掘団に攻撃!」

『合点だ旦那!』

 そして万丈目の指示の下、黒蠍盗掘団とおジャマ三兄弟が戦闘していく。既にエドにそれを防ぐリバースカードはないが、特に奇をてらう訳ではなく、万丈目のライフポイントが削られていく。しかして確か、全員が集合した《黒蠍盗掘団》の効果は。

万丈目LP3500→500

「《黒蠍盗掘団》の効果発動! このモンスターが相手ターンに戦闘ダメージを与えた時、デッキから魔法カードを墓地に送らねばならない!」

 つまり戦闘ダメージを与えられた万丈目が効果を適応し、万丈目はデッキから三枚の魔法カードを墓地に送らねばならない。その発動条件に一枚のカードが脳裏に浮かぶと、おジャマ三兄弟がそれぞれ一枚のカードを持っていることに気づく。

「まさか!」

「そのまさかだ! オレが墓地に送るのは《ジャックポット7》!」

 エドの驚愕の言葉に、俺と十代もそのカードを確信する。おジャマ三兄弟が持っているカードは《ジャックポット7》と、相手のカード効果で三枚墓地に送られた時のみ、その効果を真に発揮するという珍しいカード。

 そしてその効果は――

「特殊……勝利……!」

 ――かのエクゾディアなどと同じく、その時点で勝利が確定する特殊勝利の効果。デッキから相手のカード効果で墓地に送られると除外され、自身の効果で除外ゾーンに三枚揃った時、そのプレイヤーはデュエルに勝利する。そんなカードを――万丈目は、おジャマ三兄弟と黒蠍盗掘団を使って揃えたのだ。

「終わりだ!」

 そうこう言っている間にも、おジャマ三兄弟が持った《ジャックポット7》のカードは巨大化していき、何故かその端には導火線がついていた。黒蠍盗掘団がその導火線に火をつけたかと思えば、おジャマ三兄弟はそれをこちらに放り投げて。

『――――ッ!』

エドLP1600→0

十代LP2400→0

遊矢LP900→0


「お前ら……オレの名前を言ってみろ! 分からなければ、言って聞かせてやる!」

 爆炎と歓声が響き渡るデュエルステージにおいて、唯一勝者として立ったままの万丈目が、腕を天に突き出した。

「一!」

『十!』

「百!」

『千!』

「万丈目、サンダー!」

『サンダー! サンダー!』

「万丈目!」

『サンダー―――ッ!』
 
 

 
後書き
『Are you ready?』→「うん!」→「イヤッッホォォォオオォオウ!」とか、「今日の最強カードは《E・HERO カオス・ネオス》!」(召喚されただけ)とか、「生きていたのか! ライトニング・ウォリアー!」(実に最後のDEBANはデス・デュエルのオブライエン戦)とか、色々言いたいことはありますが、何よりもまず。

サンダー! サンダー!

万丈目、サンダー!

 

 

―卒業デュエル―

 
前書き
サブタイトルは割と悩む方なんですが、この話ばかりは一瞬で決まりました。 

 
 パソコンのキーボードをカタカタと叩く手が、ふとした瞬間に止まってしまう。アカデミアの自習室においてしばし、俺はパソコンのモニターとにらめっこしていた。

「あら、遊矢?」

「……明日香?」

 すると他に誰もいない自習室において、新たな闖入者の姿があった。女子用オベリスク・ブルーの制服に身を包んだ、見慣れた顔をした――明日香だ。どうやら何かを探しているかのように、キョロキョロと辺りを見渡していた。

「ねぇ遊矢。クロノス先生見なかった?」

「クロノス先生? いや……そもそも明日香、そのクロノス先生の授業じゃなかったか?」

 異世界から帰ってきた折に、息子であるマルタンとともに違うアカデミアに移っていったナポレオン教頭に代わり、クロノス先生は教頭に所属することとなっていた。とはいえ相変わらず、実技最高責任者も兼任しているクロノス先生は、俺たちの授業を担当しているのだが。

「いないのよ。そのクロノス先生が」

「え?」

 ため息を吐いて腕組みをする明日香に、ついつい素っ頓狂な声をあげてしまう。あのクロノス先生が授業をサボるなど、天地がひっくり返らない限りない――と思ったが、最近は腕立て伏せとか漢字の書き取りとか、よく分からない授業だったことを思い出す。

「まったく、何考えてるのかしら。……ところで、遊矢は休みの時間に何してるの?」

「ああ……これがさ、書けなくて」

 明日香と違って、この時間の授業は休みだったが。興味津々な明日香にパソコンのモニターを見せると、明日香は納得したような声をあげた。

「進路希望……」

 ……この様々なことがあったアカデミアの生活も、もう残り僅かな期間しかない。もちろんダークネスに負ける気はないため、これからのことがまったく浮かばない。まるでもやがかかったかのように、白紙のままだった。

「明日香は卒業したらどうするんだ?」

「私は先生になるつもりよ。だからその勉強のために、留学も考えてるの」

「留学!?」

 何とはなしに聞いてみた質問だったが、とてもスケールの大きな話が飛び込んできたことに、驚愕でついオウム返しで聞き返してしまう。そんなこちらの様子がおかしいかのように、明日香はクスクスと笑っていたが。

「ええ。海外のアカデミアや教えがどんなものかも知りたいしね」

「凄いな……明日香は」

 ――私はこのアカデミア本校流の教え方しか知らないし、と言葉を続けていった明日香に対して、心の底から感嘆の念を込めた。すると明日香は、キョトンとした表情でこちらを見返していた。

「何言ってるの。遊矢、あなたのおかげなんだから」

「俺の……?」

「そ、それに!」

 こちらの疑問の声に対しては、照れたように声をまくしたてながら、明日香はデッキケースから一枚のカードを取り出した。それは彼女自身のナンバーズ、《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》。それを彼女は決意を秘めた表情で見つめると、こちらにも見えるように掲げてみせた。

「《ダークネス》に負けない。その決意に、大きい目標を持つことにしたの」

 彼女が《ダークネス》との戦いで手に入れた、彼女自身の力――《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》にその決意を込めて、明日香は夢を叶えるために戦っているのだろう。万丈目は先のエドとのデュエルで、今からプロデュエリストの道が開けているらしいし、他のみんなもそれぞれの夢を持っているのだろう。

 俺の夢は、果たして。

「明日香――」

 どうしても夢は浮かばない。彼女に何か相談しようとしたところ、またもや自習室の扉が開いた。そこには、もはや珍しくなった真紅の制服の姿があり。

「あら十代。あなたもクロノス先生探し?」

「……ああ。剣山に頼まれてな」

 最近は授業をいつもの崖で寝転んで過ごしているらしい十代が、あくびをかみ殺しながら部屋中を見渡した。特にやることもないのか剣山の頼みを聞いているようで、この自習室にいないことが分かると、すぐさまどこかに立ち去ろうとしていく。

「十代、ちょっと待ってくれ」

 そんな十代の後ろ姿に声をかけながら、俺も明日香を倣ってデッキケースから一枚のカードを取り出した。もちろん先の明日香のような決意表明ではなく、《潜入! スパイ・ヒーロー》という、十代が使っていた魔法カードだった。

 かつて俺が異世界に送られていた時、何故かこちらのデッキに混じっていたカードだ。異世界ではこのカードにも助けられたが、タイミングがなく返しそびれていた。

「十代。返しそびれてたけど……ありがとう」

「……やるよ」

 感謝の言葉とともにカードを差し出したものの、十代は背中を向けたままそう呟いた。それから何の興味もないように、自習室から出ようと扉を開けると、俺の制止の声が届くよりも早く。

「オッソレミーヨー――!」

 ――何かのコスプレをしていたクロノス先生が、廊下を爆走していった。あまりにも高速すぎたために、何のコスプレをしていたかも分からないほどだった。

「……は?」

『待てぇー!』

 十代の口から勝手に出たような声をBGMに、アカデミアに暮らすメンバー一同がクロノス先生を追って走っていた。授業をボイコットされた生徒たちはともかく、何故か鮫島校長やトメさんまでもが。

「えっと……私たちも追いましょう、遊矢!」

「あ……ああ! 十代も!」

「お……おう」


 そうしてアカデミア中のクロノス先生を追いかけ回し、ようやく追い詰めたと思った場所は、普段に授業で使うデュエル場。十代がデュエル場で追い詰めて、他のメンバーはそれぞれ取り囲んで逃げ場をなくしていた。

「かくなる上は……ドロップアウトボーイ! あなたを倒して見逃してもらうノーネ!」

 コスプレを脱ぎ捨てたクロノス先生――トメさんの格好だった――は、普段のデュエルコート姿へと変貌していた。どうやってトメさんの格好の下から、あの使いにくそうなデュエルディスク付きコートが出て来るのか、原理はよく分からないがともかく。

「……懐かしいな、その呼び方」

「先生にとって、生徒はいつまでもドロップアウトボーイなノーネ!」

 ともかくデュエルが始まりそうな雰囲気に周囲を取り囲んでいた俺たちも、とりあえずデュエルがよく見える観客席に移動していく。今ならクロノス先生は逃げられそうだが、デュエルディスクを展開する二人を見るに、その気はないようだったが。

「オレが勝ったら授業してもらうぜ!」

「むむむ……」

『デュエル!』

十代LP4000
クロノス先生LP4000

 どことなく十代の調子が、異世界に行く前に戻ってきていると感じながら。何はともあれ、十代とクロノス先生のデュエルが始まっていくクロノス先生のデュエルは授業の一環ではよく見ていたが、それはもちろん試験用のデッキ。クロノス先生自身のデッキである、【古代の機械】と戦ったことのある生徒はそう多くない。

「ワタシの先攻。今度こそ叩き潰してよるノーネ!」

「確かに、随分と久しぶりだな。クロノス先生とのデュエル!」

 その多くない一人というのが、当の十代のことだったりするけれど。クロノス先生が先攻の権利を勝ち取ると、五枚のカードを手札に加えた。

「ワタシはモンスターをセット。リバースカードを二枚伏せてターン終了ナノーネ」

「オレのターン、ドロー!」

 大型モンスターによるフィールドの制圧を得意とする【古代の機械】において、クロノス先生の初手は不気味なまでの沈黙。だが、その程度で十代が怖じ気づく訳ではなく、勇猛果敢にカードをドローする。

「オレは《E・HERO プリズマー》を召喚!」

 対する十代の最初のモンスターは、全身が結晶に包まれたような英雄。そのガラス張りの結晶で構成された身体は、あらゆる英雄へと姿を変えていく。

「プリズマーの効果、E・HEROを墓地に送ることで、そのE・HEROとして扱う! バトルだ!」

 プリズマーの姿が一瞬の後、デッキから墓地に送られた《E・HERO ネオス》へと変わっていく。とはいえネオスを墓地に送ること自体が目的だったのか、十代は即座にネオスとなったプリズマーへ攻撃命令を下す。

「ラス・オブ・ネオス!」

 ネオスの姿と攻撃名をかたどったプリズマーが、クロノス先生のフィールドにセットされた守備モンスターに攻撃を加えていく。攻撃力は変わらないものの、ネオスらしい一撃はあっけなくクロノス先生の守備モンスター――《古代の機械騎士》を破壊した。

「……?」

 とはいえ、破壊した十代の表情は浮かない。破壊された《古代の機械騎士》の攻撃力は1800、守備力は僅か500という、典型的なアタッカーだ。デッキの正体を見破られたくない訳ではあるまいに、守備表示で召喚した為にプリズマーに破壊されてしまった。

「ダブル・リバースカード・オープンにょ!」

 クロノス先生らしからぬミスか、と思った瞬間、その理由が明らかになるリバースカードが発動される。それも伏せられていた二枚が同時に発動されたと思えば、クロノス先生のフィールドには、先程破壊されたはずの《古代の機械騎士》が再び現れていた。

「まずは永続罠カード《古代の機械蘇生》! フィールドにモンスターがいない時、このターン破壊された古代の機械モンスターを、元々の攻撃力を200ポイントアップさせ、特殊召喚出来るノーネ」

 よって《古代の機械騎士》の攻撃力は2000となり、下級モンスターらしからぬ攻撃力となる。同時に発動された二枚のうち一枚が、あの《古代の機械蘇生》であるのならば、二枚目のリバースカードだったカードは。

「そしてもう一枚の同じく永続罠カード《古代の機械閃光玉》は、墓地から古代の機械モンスターが特殊召喚された時、元々の攻撃力の半分のバーンダメージを発生させるーノデス!」

「うわっ!」

十代LP4000→3000

 《古代の機械蘇生》と《古代の機械閃光玉》のコンボにより、攻撃に成功したはずの十代がダメージを受け、クロノス先生のフィールドは変わらない。いや、《古代の機械騎士》が攻撃力を上げて特殊召喚された以上、十代としては状況が悪化したと言える。

「流石クロノス先生……カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「……ふん。ワタシのターン、ドロー。メインフェイズ、《トレード・イン》を発動することで、さらに二枚ドローにょ!」

 十代も負けじと、リバースカードを一枚伏せてターンを終了し、クロノス先生は攻勢に出ようと動きだす。手始めに、手札のレベル8モンスターを墓地に送ることで、二枚ドローする魔法カード《トレード・イン》で手札の交換を果たし。

「フィールド魔法《歯車街》を発動し、《古代の機械騎士》をリリースすることで、《古代の機械巨竜》を特殊召喚ナノーネ!」

 デュエル・アカデミアのデュエルフィールドから、クロノス先生のフィールド魔法によって、全てが歯車で出来た街――文字通りの《歯車街》へと変わっていく。さらに《歯車街》から伸びたマジックアームにより、フィールドの《古代の機械騎士》が改造されていき、クロノス先生の切り札に並ぶ主力たる《古代の機械巨竜》へと姿を変えていった。

「《歯車街》が発動している時、古代の機械モンスターのリリースは、一つ少なくなるノーネ。バトル!」

 《古代の機械巨竜》のレベルは8と最上級モンスターだったが、そこは《歯車街》の効果でカバーしながら、クロノス先生は十代のプリズマーに目標を定めた。十代のフィールドにはリバースカードはあるものの、《古代の機械巨竜》が動き出した今、そのカードを発動することは出来ず。

「《古代の機械巨竜》で《E・HERO プリズマー》に攻撃! アルティメット・ブレス!」

「ぐっ……」

十代LP3000→1700

 その攻撃によって十代のライフは半分以下となり、まるで無傷なクロノス先生は対照的に余裕の笑みを見せる。まだデュエルは序盤も序盤であるが、このままの勢いで押し切られてしまえば。

「ワタシはさらにリバースカードを一枚伏せて、ターンエンドナノーネ」

「オレのターン、ドロー!」

 しかして、十代もこの程度で終わるデュエリストではない――といっても、なかなか彼にとっては辛い状況だ。まずは攻撃力3000を誇る《古代の機械巨竜》を打倒しなくてはならないが、下手に破壊してしまえば《古代の機械蘇生》と《古代の機械閃光玉》のコンボにより、十代のライフポイントは風前の灯火となる。

 ともなれば、先に《古代の機械閃光玉》と《古代の機械蘇生》から破壊したいところだが、クロノス先生のフィールドには破壊された時に発動する《歯車街》が存在する。破壊の仕方を間違えれば、クロノス先生に更なる展開を許してしまう。

「オレは《N・グラン・モール》を召喚!」

 袋小路の十代が出した答えは、ネオスペーシアンが一種である《N・グラン・モール》。戦闘した相手モンスターを手札に戻す、強力な効果を持ったモンスターであり、手札に戻したならば《古代の機械蘇生》と《古代の機械閃光玉》のコンボは発動しない。

「さらに《O-オーバーソウル》を発動し、墓地の《E・HERO ネオス》を特殊召喚!」

 さらに先のターンに墓地に送っていた《E・HERO ネオス》が特殊召喚され、フィールドにいた《N・グラン・モール》と並び立った。クロノス先生のフィールドにある、一枚のみ伏せられたままのカード――それをどう見たのか、十代はコンタクト融合を選択せず。

「バトル! 《N・グラン・モール》で《古代の機械巨竜》に攻撃!」

 ステータスの差を比べるのが馬鹿馬鹿しくなる程だが、クロノス先生の顔は苦々しい。その原因は全て、《古代の機械巨竜》にも恐れず立ち向かっていく、《N・グラン・モール》の効果にある。

「《N・グラン・モール》の効果! このモンスターと相手モンスター一体を手札に戻す!」

 ダメージ計算前に効果を発揮するため、十代にはダメージもなく。グラン・モールの効果によってバウンスされた今、永続罠《古代の歯車蘇生》のモンスターがいない時、という発動条件を満たすためか、クロノス先生は他のモンスターを召喚していない。

「バトル! クロノス先生にネオスでダイレクトアタック! ラス・オブ・ネオス!」

「やはり甘いノーネ! 伏せていた《リビングデットの呼び声》を発動し、墓地の《古代の機械巨竜》を特殊召喚しますーノ!」

「何!?」

 十代の驚愕の声とともに発動されたリバースカードは、汎用的な蘇生罠カード《リビングデットの呼び声》。しかし問題なのは、その《リビングデットの呼び声》から蘇生されたモンスター――手札にバウンスしたはずの、《古代の機械巨竜》の存在だった。

「一体しかいない訳が無いーノ。油断禁物ナノーネ」

 それは先のターンでクロノス先生が発動した、レベル8モンスターを墓地に送って二枚ドローする魔法カード《トレード・イン》による。既にフィールドにいる《古代の機械巨竜》とは別に、もう一体を墓地に送って破壊以外の除去を対策していたのだ。

「……ネオスの攻撃を中止するぜ」

「しかしこちらの《古代の機械閃光玉》の効果は発動するノーネ!」

 古代の機械モンスターが墓地から特殊召喚された時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える、永続罠《古代の機械閃光玉》はまだ健在だ。十代のグラン・ネオスが攻撃を中断した代わりのように、《古代の機械巨竜》が永続罠のサポートを受け火を噴いた。

「カウンター罠《フュージョン・ガード》! エクストラデッキから融合モンスターをランダムに墓地に送り、相手の効果ダメージを無効にする!」

 とはいえ、十代もただでやられてばかりではなく、効果ダメージは何とかカウンター罠で防ぐ。その代償として、融合モンスターが一体墓地に送られ、さらに十代はまたもこのターンの攻撃を失敗する。

「……ターンエンドだ」

「ワタシのターン。ドロー。魔法カード《トレード・イン》を発動し、さらに二枚ドローするノーネ」

 もう一度発動される魔法カード《トレード・イン》。そのコストに必要なレベル8モンスターは、十中八九、十代の《N・グラン・モール》によってバウンスされた《古代の機械巨竜》であろう。

「バトル! 《古代の機械巨竜》で、ネオスに攻撃ナノーネ! アルティメット・ブレス!」

「ネオス! ……くっ!」

十代LP1700→1200

 これでネオスは破壊されるとともに、十代のライフポイントはさらに落ち込んだ。クロノス先生のライフポイントは無傷にもかかわらず、十代はもはや《古代の機械閃光玉》の効果が発動するだけで危ういほどだ。特に《古代の機械巨竜》を破壊してしまえば、《古代の機械蘇生》と《古代の機械閃光玉》のコンボが炸裂し、すぐさま十代のライフポイントは尽きる。

「ワタシはターンエンドナノーネ!」

「オレのターン、ドロー!」

 不幸中の幸いというべきか、発動条件のある《古代の機械蘇生》のために、クロノス先生が追撃のモンスターを召喚しないことか。……それはどこか、『このコンボを打ち破ってみせろ』と、チャンスを与えつつ十代に宣言しているようにも感じられて。

「オレは《コンバート・コンタクト》を発動! デッキと手札から一枚ずつネオスペーシアンを墓地に送り、二枚ドローする!」

 フィールドにモンスターがいない時のみ使用可能な、強力なネオスペーシアンのサポートカード《コンバート・コンタクト》。手札にあるネオスペーシアンと言えば、先程自身の効果で手札に戻った《N・グラン・モール》であり、十代はクロノス先生にもうバウンス戦術は通用しないと考えたらしい。

「さらに《ミラクル・コンタクト》を発動! 墓地のネオスペーシアンで、コンタクト融合する!」

 手札の《N・グラン・モール》とデッキのさらに一体を墓地に送りつつ、十代が引き当てたのは逆転の可能性を秘めた魔法カード。墓地融合の《ミラクル・フュージョン》のコンタクト融合バージョン、といったその名の通りの魔法カードにより、フィールドに半透明のネオスとネオスペーシアンが現れ、時空の穴とともにコンタクト融合をしていく。

 《コンバート・コンタクト》によって墓地に送っていたネオスペーシアンのうち一体は、手札にあった《N・グラン・モール》。ならばグラン・モールをコンタクト融合素材とする、グラン・ネオスかマグマ・ネオスか。そしてその予測をしていた観客とクロノス先生を裏切り、宇宙に繋がる時空の穴から、コンタクト融合体が特殊召喚された。

「トリプルコンタクト融合! 《E・HERO ストーム・ネオス》!」

「何ですート!?」

 ネオスに蒼色の鎧と鋭利な爪が装着された、トリプルコンタクト融合体が一体。水《N・アクア・ドルフィン》と風《N・エア・ハミングバード》が組み合わさり、嵐となってフィールドに顕現した。《ミラクル・コンタクト》の効果は手札にまで及ぶものの、手札を融合素材とした様子はない……となれば。

 その答えは《フュージョン・ガード》。効果ダメージを無効にした際、墓地に落とされた融合モンスターは、《N・マリン・ドルフィン》――《N・アクア・ドルフィン》と同名モンスターとして扱う、融合モンスターとなった進化体である。《フュージョン・ガード》によって墓地に送られていた《N・マリン・ドルフィン》、《コンバート・コンタクト》によって墓地に送った《N・エア・ハミングバード》を素材とし、その奇跡のトリプルコンタクト融合を可能とした。

 ――そしてその効果は、まさしく逆転の一打という言葉が相応しく。

「《E・HERO ストーム・ネオス》の効果! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

「ぬぬぬぬ!?」

 『ストーム』の名に相応しいその効果によって、クロノス先生のフィールドの魔法・罠カードは全て破壊され、《古代の機械蘇生》と《古代の機械閃光玉》によるバーンコンボは瓦解する。さらに《リビングデットの呼び声》が破壊されたことにより、特殊召喚されていた《古代の機械巨竜》も破壊される。

「タダより高いモノはナイノーネ! 破壊された《歯車街》の効果を発動! 墓地から《古代の機械巨竜》を特殊召喚ナノーネ!」

 クロノス先生もフィールドをがら空きにされて甘んじることはなく、破壊された際にデッキか墓地から古代の機械モンスターを特殊召喚する、という効果を持つフィールド魔法《歯車街》の効果を適応する。墓地から《古代の機械巨竜》が特殊召喚されるが、永続罠《古代の機械閃光玉》が存在しないため、もはやバーンダメージは発生しない。

「フィールド魔法《ネオスペース》を発動し、バトル!」

 《E・HERO ストーム・ネオス》と《古代の機械巨竜》。その攻撃力はどちらも3000であり、そのまま睨み合いに持ち込まれるかと思いきや、十代が発動したフィールド魔法で均衡は崩れていく。アカデミアのデュエル場は《歯車街》の次は《ネオスペース》となっていき、自らの生まれ故郷たる宇宙に帰ってきたネオスの攻撃力は、500ポイントアップする。

「ストーム・ネオスで、古代の機械巨竜に攻撃!」

「ぬぅっ!」

クロノス先生LP4000→3500

 クロノス先生に初ダメージを与えながら、強風が叩きつけられ《古代の機械巨竜》はバラバラとなっていく。もはや蘇生されることはなく、クロノス先生のフィールドはがら空きとなっていた。

「ターン終了だ!」

「これくらいはやってもらわなければ困るノーネ。ドロー!」

 フィールド魔法《ネオスペース》の効果により、《E・HERO ストーム・ネオス》がエクストラデッキに戻る効果が発動することもなく、完全にクロノス先生と十代の状況は逆転した。ライフポイントだけは変わらず十代が圧倒的な不利だが、フィールドががら空きなクロノス先生に比べれば、その程度は不利でもなんでもない。

「ワタシは《カードガンナー》を召喚しますーノ!」

 そんな逆転された状況でもクロノス先生はニヤリと笑い、これくらいはやってもらわなければ困る、と新たなモンスターを召喚する。そのモンスターは、十代の使用するモンスターとしても馴染み深い、機械族モンスター《カードガンナー》。

「シニョール十代。別にアナタ専用のモンスターという訳ではないですーノ。効果を発動し、カードを一枚伏せてターンエンドナノーネ」

「ヘヘ、先生。呼び方がドロップアウトボーイからシニョールになってるぜ。ドロー!」

「……うるさいノーネ!」

 《カードガンナー》の効果を発動し、デッキからカードを三枚墓地に送ると、リバースカードを一枚伏せてターンを終了する。《カードガンナー》には攻撃力を上げる効果はあるが、その上がった攻撃力が維持されるのはエンドフェイズ時まで――つまり、ストーム・ネオスの前にクロノス先生を守るモンスターは、攻撃力が僅か400の《カードガンナー》のみ。

 ともすれば、あのリバースカード。いかにも攻撃を誘っている中でのあのリバースカードは、ストーム・ネオスの効果で破壊すればいい、という単純な話でもなく。

「さあ、どうするノーネ」

 何故ならストーム・ネオスの効果は、その名の通りに《大嵐》。ひとたび発動してしまえば、自身を維持する《ネオスペース》までも破壊してしまう。それでもストーム・ネオスの効果を発動するか、クロノス先生の嫌らしい笑みとともに問われた質問に、十代は一瞬だけ沈黙し。

「……ストーム・ネオスの効果発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

 十代が選択したのは効果の発動。ストーム・ネオスの発した嵐は、先のようにフィールドの魔法・罠カードを全て破壊していき、フィールド魔法《ネオスペース》が崩壊していく。そしてクロノス先生が伏せていたリバースカードにも、例外なくその旋風は迫っていき。

「チェーンしてリバースカード《ハイレート・ドロー》! 自分の機械族モンスターを全て破壊し、その数だけカードをドローするノーネ!」

 クロノス先生のフィールドに伏せられていたのは、ストーム・ネオスを迎撃するためのカードではなく。自分フィールドの機械族モンスターを破壊し、その数だけドローする罠カード《ハイレート・ドロー》であり、そのカードにより《カードガンナー》は破壊される。

「さらに《カードガンナー》は破壊された時、カードを一枚ドロー出来るノーネ」

 さらに破壊された際に発動される《カードガンナー》の効果も併せて、クロノス先生は二枚のカードをドローしてみせる。またもやフィールドががら空きにはなったものの、フィールド魔法《ネオスペース》を代償としての発動が正しかったかは……

「……バトル! ストーム・ネオスでダイレクトアタック!」

「墓地の《超電磁タートル》の効果! このモンスターを除外することで、バトルを終了させるーノデス!」

 そして肝心のストーム・ネオスによる攻撃も、《カードガンナー》によって墓地に送られていたモンスター《超電磁タートル》により、バトルフェイズを終了させられる。つまるところクロノス先生は最初から、ストーム・ネオス対策のカードは、ストーム・ネオスの効果の届かぬ場所に用意してあったのだ。

「メインフェイズ2……ストーム・ネオスに《インスタント・ネオスペース》を装備して、カードを二枚伏せてターンエンド」

 そのままストーム・ネオスがエクストラデッキに戻る、という最悪の結果に終わることはなく。十代は《インスタント・ネオスペース》をストーム・ネオスに装備し――このカードが手札にあったからこそ、ストーム・ネオスの効果を発動したのだろう――カードをさらに二枚伏せる。クロノス先生が次のターンに攻勢を仕掛けてくる、というある種の予感故か。

「ワタシのターン。ドロー!」

 十代のその予感は、おそらく正しい。《カードガンナー》と《ハイレート・ドロー》によって稼いだ手札を眺めながら、クロノス先生はまず一枚の魔法カードを発動した。

「ワタシは《狂った召喚歯車》を発動。墓地の攻撃力1500以下のモンスターを、その同名モンスター二体とともにフィールドに特殊召喚するノーネ」

 俺も多用する魔法カード《狂った召喚歯車》。簡単に三体のモンスターをフィールドに並べられる代償に、相手プレイヤーは自分のモンスターと同じレベル、種族のモンスターを二体特殊召喚出来る――のだが、十代のメインデッキに、ストーム・ネオスと同じレベルのモンスターはいない。

「そして三体のモンスターを対象に、《魔法の歯車》を発動!」

 よってメリットはクロノス先生にのみ与えられ、クロノス先生のフィールドに《古代の機械箱》というモンスターが三体並ぶ。しかして、どんな効果を持ったモンスターかも分からぬまま、クロノス先生が新たに発動したカード《魔法の歯車》によってリリースされていく。

「《魔法の歯車》はフィールドの古代の機械カードを三枚リリースすることで、デッキと手札から《古代の機械巨人》を二体、条件を無視して特殊召喚するノーネ!」

「何!?」

 十代の驚愕の声とともに、三体の《古代の機械箱》が分解されて再構築されていき、気づけば二体の《古代の機械巨人》となっていく。クロノス先生の代名詞とも言えるそれらは、古ぼけた歯車を動かしてフィールドに顕現した。

「まだまだナノーネ。《古代の機械整備場》で《古代の機械箱》をサルベージしますート、手札に加えた《古代の機械箱》の効果が発動しますーノ」

 このモンスターが通常のドロー以外で手札に加わった時、デッキから攻撃力か守備力が500以下の機械族モンスターを手札に加えられますーノ――と、クロノス先生は《古代の機械箱》の効果で、《古代の機械砲台》を手札に加えつつ。

 そして、クロノス先生の最後のカードが発動される。

「アナタにはこのカードを見せるのに、相応しいデュエリストとなったノーネ。魔法カード《融合》を発動!」

「融合!?」

 クロノス先生が《融合》を使うという話は聞いたこともなく、十代だけでなく俺や観客席のメンバーからも戸惑いの声があがる。クロノス先生の手札にあった《古代の機械巨人》に、先程手札に加えられた《古代の機械箱》と《古代の機械砲台》。それらの素材を組み合わせていき、最強の古代の機械モンスターが融合召喚される。

「融合召喚! 《古代の機械究極巨人》!」

 かの《青眼の究極竜》を彷彿とさせるその機械仕掛けの巨人は、下半身をケンタウロスのように歯車を回し、二体の《古代の機械巨人》とともにフィールドを席巻する。同じく三体を融合素材にした《E・HERO ストーム・ネオス》の攻撃力を遥かに越えており、十代の残る1200のライフでは一撃すら耐えられない。

「《古代の機械究極巨人》は、《古代の機械巨人》の効果を受け継いでいますーノ。リバースカードは無意味なノーネ! バトル!」

 もちろん古代の機械モンスター共通の、攻撃する際に相手の魔法・罠カードを封じる効果も持っているらしく。十代のフィールドに伏せられている、二枚のリバースカードがフリーチェーンでない限り、クロノス先生の攻撃を止めることは出来ない。

「《古代の機械巨人》で、《E・HERO ストーム・ネオス》に攻撃――!?」

 クロノス先生が声高に宣言したその一撃は、十代とストーム・ネオスに届くことはなく。《古代の機械巨人》の一撃は、ストーム・ネオスの前に現れた青いシールドに阻まれていたからだ。

「オレは《ヒーローバリア》を発動していたのさ! E・HEROが存在する時、攻撃を一度だけ無効にする!」

 ――先述の通りに、古代の機械モンスターの前には、攻撃宣言時に発動する魔法・罠カードは通用しない。ただし十代が使う《ヒーローバリア》は、その効果の仕様上発揮されることは少ないが、発動タイミングが限定されていないフリーチェーンのカードだ。よって《古代の機械究極巨人》が効果を適応するより早く、十代は《ヒーローバリア》を発動させていたのだ。

「……防ぐとは思わなかったノーネ。しかし! まだワタシの攻撃は残っているーノ!」

 予想もしていなかったという表情で、クロノス先生が静かに感嘆する。ただしクロノス先生にはまだ、二体の《古代の機械巨人》の攻撃が残っていて。

「《古代の機械巨人》でストーム・ネオスを攻撃! アルティメット・パウンド!」

「迎え撃て、ストーム・ネオス!」

 その攻撃力はどちらも3000。どちらにもコンバットトリックはなく、拳をぶつけ合わせてどちらも破壊される。ただしフィールドには、小さな宇宙だけが残されていた。

「装備魔法《インスタント・ネオスペース》の効果! 装備モンスターが破壊された時、デッキから《E・HERO ネオス》を特殊召喚する!」

「しゃらくさいノーネ! 最後の《古代の機械巨人》で攻撃! アルティメット・パウンド!」

 ストーム・ネオスに装備されていた《インスタント・ネオスペース》により、がら空きとなっていた十代のフィールドに、デッキから《E・HERO ネオス》がギリギリのところで特殊召喚された。守備貫通効果を持った《古代の機械巨人》に守備表示は意味はなく、攻撃表示で十代を守る盾となったものの、《古代の機械巨人》の一撃に破壊されてしまう。

十代LP1200→700

「……ターンエンド、ナノーネ」

 それでも十代のライフポイントは残り、《古代の機械究極巨人》を含む三体のモンスターの攻撃に、十代はギリギリとはいえ耐えてみせた。もう手札を使い切ったクロノス先生は、何もすることもなくターンを終了した。

「オレのターン、ドロー!」

 しかしクロノス先生のフィールドには、《古代の機械究極巨人》と《古代の機械巨人》が健在のまま。ネオスを失った十代の取る手段は――

「オレは《フュージョン・バース》を発動! デッキの上から五枚めくり、その中に融合素材モンスターがいた時、融合召喚出来る!」

 ――もちろん、融合である。E・HERO専用の変則的なデッキ融合カード《フュージョン・バース》により、十代が五枚のカードをデッキの上から捲る。あの中に融合素材モンスターがあれば、それらのモンスターを素材にして、融合召喚を可能とする。

「融合召喚!」

 その五枚の中にあった二体のE・HEROは、《E・HERO フェザーマン》に《E・HERO バーストレディ》。その二体から融合召喚されるモンスターは、十代に限って言うならば――あのヒーローしか存在しない。

「《E・HERO フレイム・ウィングマン》!」

 融合召喚されるは、十代のフェイバリットモンスター。融合召喚されるは、かつて《古代の機械巨人》を倒したヒーロー。融合召喚されるは――ずっと十代と戦ってきた、戦友とも言うべきカード。

「さらにフィールド魔法《摩天楼-スカイスクレイパー》を発動!」

 さらにアカデミアのデュエルフィールドに、高層ビルが立ち並んでいく。ヒーローの戦うべきフィールドであるその場所に、フレイム・ウィングマンは腕を組んで鎮座していた。摩天楼の屋上、その中心点から、翼をはためかせて飛び立った。

「フレイム・ウィングマンで、《古代の機械巨人》に攻撃! スカイスクレイパー・シュート!」

「――バカの一つ覚えだけでは、これからは通用しないノーネ! 墓地から罠カード《仁王立ち》を発動!」

 《摩天楼-スカイスクレイパー》の効果により、攻撃力を上げた《E・HERO フレイム・ウィングマン》が、その効果によって相手に直接ダメージを与える――そんな十代の必勝コンボを、クロノス先生は『バカの一つ覚え』と断じて。《カードガンナー》の効果によって墓地に送っていた、最後の一枚たる罠カード《仁王立ち》が発動した。

「このカードは墓地から除外することで、攻撃対象をある一体のモンスターに限定するノーネ。もちろん対象は《古代の機械究極巨人》!」

 墓地から発動された《仁王立ち》の効果は、攻撃対象の固定。十代が狙っていた《古代の機械巨人》の前に《古代の機械究極巨人》が立ちはだかり、フレイム・ウィングマンの攻撃が妨害される。その攻撃力の差は2300と、《摩天楼-スカイスクレイパー》の効果を持ってしても、その攻撃力は超えられない。

「……先生はやっぱり凄いな。だけど先生、バカの一つ覚えだって役に立つってこともあるんだぜ! リバースカード、オープン!」

「むっ……!?」

 ただし、フレイム・ウィングマンの攻撃が止まることはなく。十代のフィールドに残された最後のリバースカード――その効果が発動する。

「《ヒーローズ・バックアップ》! 墓地のE・HEROを除外することで、自分のモンスターの攻撃力を、そのモンスターの攻撃力分アップさせる!」

 墓地から除外される《E・HERO ネオス》。その攻撃力は2500を加えられたフレイム・ウィングマンの攻撃力は、4600となり《古代の機械究極巨人》を超える。永遠のフェイバリットモンスターとエースモンスター、十代の二体のモンスターの力が加えられ、炎を伴ったフレイム・ウィングマンの体当たりは《古代の機械究極巨人》の身体に風穴を空けた。

「ラス・オブ・ネオス・シュート!」

「……やっぱりバカの一つ覚えナノーネ」

クロノス先生LP3500→0

 そしてフレイム・ウィングマンの、相手モンスターを破壊した際に、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果が発動し。《古代の機械究極巨人》の攻撃力、4400ポイントのバーンダメージが、クロノス先生に直接加えられた。ライフポイントにかすり傷しか負っていなかったとはいえ、それだけのダメージを直接くらえば逆転されるのも必須だったが――敗北したはずのクロノス先生は、どこか晴れ晴れとした笑顔を見せていた。

「なぁ、クロノス先生。何で授業をいきなりしなくなったんだ?」

「……みんなが卒業するのが、寂しかったノーネ」

 そう、クロノス先生がふとこぼした。その言葉は、もう少しでアカデミアを去ることになる俺たちにも重くのしかかり、誰からともなく卒業生となる者たちは顔を見合わせた。誰かからやろう、と言った訳ではないけれど、それから顔を見合わせたみんなで立ち上がると。

『ガッチャ!』

 クロノス先生に指を突きつけながら、これまでお世話になった感謝の言葉を。……どうしてこの言葉を選んだのかは、自分たちにもよく分からないけれど。半ば勢い任せの言動だったが、不思議と後悔はなかった。

「しかし、今のデュエルで分かったノーネ。もう生徒ではなく、みんな一人の大人となるート……ならーば!」

 突如として行動を開始したクロノス先生は、目の前にいた十代を人間とは思えぬ動きで捕獲する。十代は驚愕に逃げる間もなく、呆然と辺りを見渡していた。

「だけどまだみんなワタシの生徒ですーノ! お望み通りみっちり授業してあげますノーネ!」

 そのままクロノス先生は万力のような力で十代を引っ張っていき、逃げようとする十代を離すまいと本校に向かうのを、そのまま俺たちはデュエル場で見送った。明日からはしっかり授業を受けさせてもらおう、と決意しながら。

「特にシニョール十代は最近サボリ気味だったノーで、このままでは単位なんてあげられないノーネ! じっくりみっちり授業するノーネ!」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 久しぶりに聞いたような気もする十代の悲鳴。俺に明日香もつられて笑ってしまったが――内心では、そろそろ始まるのだろうと確信していた。

 ……ダークネスとの、決戦。




 ――どこかのビル。ヘリコプターの準備が出来たと連絡を受けて、彼は、デュエルモンスターズの創始者ことペガサス・J・クロフォードは、対面のソファーに座っていた人物に声をかけた。

「これからアカデミアに向かいマース。……私が話をする間、アナタは友人たちに挨拶していても……?」

「ありがとうございます会長。しかし、多分……俺の友人たちは、その話に居合わせているでしょう」

 アカデミアの制服に身を包んだ青年が、ペガサスの申し出を断りながらソファーから立ち上がる。もはや相手の心を読む能力など、随分と昔の話になったペガサスだったが、彼からは友人たちへの信頼が感じられた。それは能力など使わずとも分かるほどで、少し彼と友人たちに微笑んで。

「これは余計なことを言ってしまったようデース……では、参りましょう。三沢ボーイ」

「――はい」
 
 

 
後書き
 今回の機械戦士、三つの出来事!

 一つ、遊矢「おい知ってるか、夢を持つとな、時々すっごい切なくなるが、時々すっごい熱くなる ……らしいぜ。俺には夢が無い、でもな(ry

 二つ、MISAWAさん来た! これで勝つる!

 三つ、

『ガッチャ!』

 

 

―始動―

 
前書き
最終章始動感 

 
「この万丈目サンダーを呼びつけた上で待たせるとは……」

「何の用ッスかねぇ」

 いつものメンバーが校長室に呼び出されたものの、鮫島校長はそこにはおらず。ソファーに座っていたり窓から景色を眺めたり、各々が適当に過ごしていた。

「でも何だか懐かしいわね。七精門の鍵の時みたいで」

「確かに」

 校長室にいたメンバーは、微笑んだ明日香が言ったように、件の七精門の事件に関わったメンバーがほとんどだった。大徳寺先生にクロノス教諭と隼人に亮がおらず、代わりに剣山にレイ、吹雪さんが加わってはいるが。

「でもこのメンバーが集められてるってことは……まあ、そういうことだろうねぇ」

「大丈夫です師匠! それに天上院くん! ダークネスとかいう輩は、このサンダーが蹴散らしてみせましょう!」

「なんでその二人だけに言うんスか……」

 吹雪さんが言外に読んだ通り、恐らくはかのダークネスとの決戦。このメンバーの中でも半分ほどが戦った相手に、それぞれ緊張が走っていた。

「ダークネス……」

 ダークネスが使うNo.カードに意識を乗っ取られたレイが、恐怖を帯びた声色で小さく呟いた。隣から頭をポンポンと叩いて安心させようとしたところ、顔を紅潮させて数回で逃げられてしまう。

「――アニキ!」

 緊張感を保ちながらもほのぼのと談笑していたが、ソファーに座っていた剣山が、突如として立ち上がりながら叫びだした。窓から一人で空を眺めていた十代だったが、驚きながらも剣山の方を見た。

「お、おう……」

「こんな時に……いや、こんな時だからこそ、デュエルして欲しいザウルス!」

 腰を直角に曲げて、剣山は十代にそう頼み込んだ。デュエルディスクは持っているし、この校長室はデュエル出来るだけのスペースはあるが……

「……いきなりどうしたんだ、剣山」

「オレがどれだけ強くなったか、そのダークネスとやらに通用するのか……アニキが卒業する前に、確かめたいザウルス……!」

 そう言いながら、剣山はラー・イエローのデュエルディスクを展開し、十代に見せつけるように構えた。あとは外野の俺たちに口を出す権利はなく、十代はそれに対して――

「……いいぜ、剣山。かかってこいよ」

「……ありがとうだドン!」

 ――同じくオシリス・レッドのデュエルディスクを構え、剣山に応じるようにデュエルの準備を完了する。お互いに十分な距離を取ると、その間から外野の俺たちは抜けていく。

『デュエル!』

十代LP4000
剣山LP4000

「オレからだドン!」

 先攻は挑戦者たる剣山から。お互いに五枚のカードをデッキから引くと、デュエルが開始されていく。

「オレはモンスターをセット! さらに永続魔法《凡骨の意地》を発動し、ターンエンドザウルス!」

「凡骨の意地……?」

 剣山のデッキをよくしるメンバーは、口々に剣山の初手に違和感を持った。剣山のデッキは、攻撃的な効果を持った恐竜族を進化薬シリーズで速攻召喚し、そのまま力任せに攻め立てるお手本のような【ハイビート】。

 にもかかわらず発動されたのは、通常モンスターをサポートする《凡骨の意地》。確かに《セイバーザウルス》などは投入されていたが、《凡骨の意地》を投入するほどではなかった筈だ。

「どうやら……今までの剣山くんじゃないみたいだねぇ」

「オレのターン。ドロー!」

 吹雪さんの呟き通りに。これまでの剣山とは全く違う初手に、十代も心持ち警戒してカードを引いた。

「オレは《カードガンナー》を召喚し、効果発動!」

 十代の初手は優秀な機械族である《カードガンナー》。効果を発動するとともに、十代のデッキからカードが三枚墓地に送られ、一時的にせよ攻撃力を1900にまで上昇させる。

「バトル! 《カードガンナー》でセットモンスターに攻撃!」

 《カードガンナー》の銃弾が剣山のセットモンスターを襲い、あっさりとその連射はセットモンスターを貫いた。一瞬、恐竜に乗った鎧武者のような姿が垣間見えたものの、どんなモンスターなのか見たこともなかった。

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドローザウルス!」

 そして破壊された際の効果も特にはなく、十代はカードを一枚伏せたのみでターンを終了し、不気味な沈黙を維持したまま剣山へとターンが移る。

「永続魔法、《凡骨の意地》の効果を発ドン! 通常モンスターを引けば引くだけ、追加ドローが可能ザウルス!」

 剣山の宣言通りに永続魔法《凡骨の意地》は、通常モンスターをドローすれば、際限なしにカードを引くことが出来る。剣山は合計で三枚のカードをドローすると、手札から二枚のカードを取り出していた。

「手札の《竜角の狩猟者》と、《ランスフォリンクス》で、ペンデュラムスケールをセッティングザウルス!」

「ペンデュラム!?」

 誰の驚愕の声だったかも分からない、もしかすると全員からだったかもしれない剣山の行動は、なんとペンデュラムスケールのセッティング。異世界で用いられていた召喚方法であり、覇王軍の一部が好んで使用していたものだ。

 それをどうして剣山が使用しているのか――その問の答えは今は語られず、剣山の背後に赤と青の光の柱がそびえ立った。

「ペンデュラム召喚! 来るドン、恐竜さんたち!」

 そのスケールは3から7。よってレベル4から6のモンスターが同時に召喚可能となり、剣山の頭上に描かれた魔法陣から、三体の恐竜族モンスターがフィールドに一斉に特殊召喚された。

「手札から二体の《ランスフォリンクス》! エクストラデッキから《レプティアの侍騎兵》!」

 どうやら先程《カードガンナー》に守備表示で破壊されたモンスターも、ペンデュラムモンスターだったらしく。手札からだけではなく、エクストラデッキから《レプティアの侍騎兵》と呼ばれた恐竜族モンスターが特殊召喚され、あっという間に三体の恐竜族が十代に迫り来る。

「さらに《竜角の狩猟者》のペンデュラム効果! 自分フィールドの通常モンスターは、攻撃力が200ポイントアップするザウルス!」

 さらにペンデュラムスケールにセットされていた《竜角の狩猟者》というモンスターにより、二体の《ランスフォリンクス》の攻撃力はさらに上昇する。通常モンスターにもかかわらず、ペンデュラム効果は持っているらしく、永続魔法《凡骨の意地》はあれらのモンスターのサポートカード。そして一斉展開やパワーアップが済んだ剣山は、十代に向けて攻撃を命じていた。

「まずは《レプティアの侍騎兵》で、《カードガンナー》に攻撃だドン!」

「っ……!」

十代LP4000→2600

 対する十代のフィールドに唯一残っていたのは、攻撃力上昇効果はエンドフェイズのみのため、低い攻撃力を晒していた《カードガンナー》。あっさりと《レプティアの侍騎兵》に破壊され、十代のライフに少なくないダメージを与え、さらに残る二体の攻撃に繋ぐ。

「《カードガンナー》が破壊された時、カードを一枚ドロー出来る」

「《ランスフォリンクス》でダイレクトアタックザウルス!」

 《カードガンナー》は破壊された時、カードを一枚ドローさせる効果があるが、全く関係のないかのように。まるで槍のように尖ったくちばしが目立つ翼竜、《ランスフォリンクス》が、がら空きになった十代を襲う。その元々の攻撃力は2500だったが、《竜角の狩猟者》のペンデュラム効果によって、その攻撃力は2700にまで上昇しており――計ったかのように、十代のライフポイントをギリギリ上回る数値だった。

「リバースカード、オープン! 《カウンター・ゲート》! 直接攻撃を無効にし、カードを一枚ドローする!」

 ただしこんなところで終わる十代でもなく、その一撃はしっかりとリバースカードで防いでみせた。さらに通常罠カード《カウンター・ゲート》の真価は、攻撃を防いだこれからにある。

「さらにドローしたカードがモンスターだった場合、そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚出来る! 」

 直接攻撃のダメージを防ぎ、かつ一枚ドロー出来るだけならば、汎用カードたる《ガード・ブロック》とまるで変わらないが、《カウンター・ゲート》はドローした後が一味違う。ドローしたカードがモンスターカードであれば、そのモンスターを特殊召喚出来るという追加効果を持つ。

「来い! 《E・HERO ネオス》!」

「ネオス……!」

 そして十代がドローしたカードは、流石というべきか《E・HERO ネオス》。あまりにも早いエースモンスターの登場に、剣山が苦々しげにその名を呟いた。

「でもネオスと言えども、今は《ランスフォリンクス》の方が攻撃力は上だドン! 最後のランスフォリンクスでネオスに攻撃!」

 確かに持ち直した剣山がそう自らを鼓舞するように叫んだ通りに、《竜角の狩猟者》のペンデュラム効果の分、今は《ランスフォリンクス》の攻撃力の方が上だ。しかし、二体目の《ランスフォリンクス》の攻撃がネオスに放たれたものの、その間にはある戦士が盾となっていた。

「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外することで、攻撃を無効にする」

「くっ……カードを二枚伏せて、ターンエンドザウルス」

 剣山のペンデュラム召喚からの攻勢は、十代の《カウンター・ゲート》と《ネクロ・ガードナー》の前に、半ば以上に失敗に終わる。確かにライフポイントは削ったものの、フィールドにネオスを召喚させてしまったのだから。

「チッ、冷や冷やさせやがって」

「防がれちゃったけど、剣山くんも凄い……」

「オレのターン、ドロー!」

 外野の意見はともかくとして、ターンは十代へと移行する。十代のフィールドには、《カウンター・ゲート》の効果で特殊召喚された、《E・HERO ネオス》のみ。対して剣山のフィールドは、《レプティアの侍騎兵》に《ランスフォリンクス》が二体と、ペンデュラムスケールが揃って永続魔法《凡骨の意地》に、リバースカードが二枚。

「魔法カード《アームズ・ホール》を発動! デッキトップを墓地に送ることで、装備魔法カードを一枚手札に加える」

 フィールドだけなら剣山が圧倒的だが、十代のフィールドにはネオスがいる。何か仕掛けてくるに違いない――という思考が正しいと認めるように、十代は装備魔法をサーチする魔法カード《アームズ・ホール》を発動する。通常召喚が不可能になる、という重いデメリットこそつくが――

「魔法カード《コクーン・パーティー》を発動! 墓地のネオスペーシアンの数だけ、デッキからコクーンモンスターを特殊召喚する!」

 まるでそんなデメリットを感じさせることはなく、十代は剣山に負けじとモンスターを大量展開してみせた。ネオスペーシアンの幼生体たるコクーンモンスターは、それ単体では何の効果も持たず非力ではあるが。

「フィールド魔法《ネオスペース》を発動! そしてフィールドが《ネオスペース》となった時、コクーンモンスターはネオスペーシアンに成長する!」

 十代が発動したフィールド魔法《ネオスペース》。ネオスやネオスペーシアンの生まれ故郷である宇宙に、アカデミアの校長室から風景が変わっていき、コクーンモンスターはネオスペーシアンへと成長していく。それぞれ三体のネオスペーシアン――《N・アクア・ドルフィン》、《N・エア・ハミングバード》、《N・フレア・スカラベ》。

「《N・エア・ハミングバード》の効果発動! 相手の手札×500ポイントのライフを回復する! ハニー・サック!」

十代LP2600→4100

 剣山の三枚の手札から花が咲いていき、それをエア・ハミングバードが収穫していくことで、十代のライフは初期値以上に回復する。先のターンの戦闘を無為なものとするとともに、さらに十代は新たな魔法カードを発動する。

「魔法カード《スペーシア・ギフト》を発動! フィールドのネオスペーシアンの数だけ、よって三枚のカードをドロー!」

 フィールドのネオスペーシアンの数だけドロー出来る、という癖はあるがハイリターンな魔法カード《スペーシア・ギフト》により、十代は三枚のカードをドローする。ライフの回復に手札の補充としてきたが、ネオスペーシアンたちの本領はここからだ。
「行くぜ剣山! ネオスとフレア・スカラベで、コンタクト融合!」

 ネオスとフレア・スカラベ。二体のモンスターが時空の穴に飛び込んでいき、融合の魔法カード無しでコンタクト融合を果たす。その名の通り二つの力が混じり合い、ネオスは新たな力を得てフィールドに舞い戻った。

「コンタクト融合! 《E・HERO フレア・ネオス!」

 真紅の鎧に身を包んだネオス。その効果は、融合素材となった《N・フレア・スカラベ》の効果を色濃く受け継いだものであり、この状況に相応しいモンスターでもあった。

「フレア・ネオスの効果! フィールドの魔法・罠カードの数だけ、攻撃力を400ポイントアップさせる!」

「しまったドン……ペンデュラムゾーンは魔法カード扱いザウルス!」

 剣山も気づいた通りに。魔法・罠カードの数だけ攻撃力を上げるフレア・ネオスには、剣山の二枚のペンデュラムモンスターも含まれている。つまり、フィールドの魔法・罠カードは剣山のペンデュラムモンスターが二枚、永続魔法《凡骨の意地》が一枚、リバースカードが二枚。そして十代の《ネオスペース》を合わせ六枚で、《ネオスペース》の上昇値を含めて《E・HERO フレア・ネオス》の攻撃力は、圧倒的な5400ポイントという数値にまで跳ね上がる。

「バトル! フレア・ネオスでランスフォリンクスに攻撃! バーン・ツー・アッシュ!」

「《ガード・ブロック》を発ド……どわぁ!」

 すんでのところで、伏せていた《ガード・ブロック》が剣山を守ってみせたが、その衝撃まで止めることは出来なかった。ランスフォリンクスが爆発した衝撃は剣山にまで襲いかかり、剣山は悲鳴を上げて吹き飛んでしまう。

「さらに速攻魔法《コンタクト・アウト》! フレア・ネオスのコンタクト融合を解除する!」

 しかし十代は追撃の手を緩めることはなく、《融合解除》のコンタクト融合バージョン《コンタクト・アウト》により、フィールドにはまたもやネオスとフレア・スカラベが特殊召喚された。

「ネオスで二体目のランスフォリンクスに攻撃! ラス・オブ・ネオス!」

 《ランスフォリンクス》は、確かに《竜角の狩猟者》のペンデュラム効果によって、攻撃力を200ポイント上昇させている。ただし、今のデュエルフィールドはネオスの故郷たる《ネオスペース》――よってその場で戦えば、ネオスの攻撃力は500ポイント上昇する。

剣山LP4000→3700

「さらにN・フレア・スカラベで、《レプティアの侍騎兵》に攻撃! フレア・コメット!」

 ネオスとランスフォリンクスの攻防は、ギリギリのところでネオスが上回り。さらに続いて《N・フレア・スカラベ》が、《レプティアの侍騎兵》へと攻撃を仕掛けていた。フレア・スカラベは、攻撃力500ポイントの下級モンスターに過ぎないが、その効果は先のフレア・ネオスとほぼ同様。攻撃力を1600ポイント上昇させ、《レプティアの侍騎兵》をファイヤーボールで破壊してみせた。

剣山LP3700→3400

「さらにハミングバードとアクア・ドルフィンでダイレクトアタック!」

剣山LP3400→2000

 そして剣山のフィールドががら空きになったところに、残る二体のネオスペーシアンの攻撃が炸裂し、剣山のライフポイントはあっという間に半分と化した。ネオスペーシアンたちの連撃から何とか立ち上がると、剣山は半笑いで十代に笑いかけた。

「流石は十代のアニキだドン……だけどまだまだザウルス! 永続罠《臨時収入》が発動していたドン!」

 永続罠《臨時収入》。エクストラデッキにモンスターが加わる度に、最大三つまでカウンターを乗せることが可能で、最大まで乗った《臨時収入》を墓地に送ることでに二枚ドローする。異世界での事変に際して俺も使っていたカードに、確かに二枚ドロー出来ればまだ逆転の芽はある、と思ってしまう。

 しかし、その芽はまやかしだと――十代のフィールドを見て、改めて思ってしまう。

「メイン2。ネオス、アクア・ドルフィン、エア・ハミングバードで、トリプルコンタクト融合!」

 速攻魔法《コンタクト・アウト》によって、再び《E・HERO ネオス》はフィールドに舞い戻っていた。つまり新たなコンタクト融合が可能ということであり、三体のモンスターが再び《ネオスペース》の向こうに消えていく。

「トリプルコンタクト融合! 《E・HERO ストーム・ネオス》!」

 蒼空のような透き通った青色の鎧を身に纏い、フィールドに旋風を巻き起こしながら、ネオスは新たな力を得てフィールドに舞い戻った。風と水、二つのネオスペーシアンの力を得たストーム・ネオスは、その名の通りに動くだけで旋風を引き起こしていく。

「ストーム・ネオスの効果発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する! アルティメット・タイフーン!」

「なっ……!」

 剣山が驚愕に目を見開くと、ストーム・ネオスがフィールドの全てを破壊していく。十代のフィールド魔法《ネオスペース》も諸共だったが、剣山のフィールドの《凡骨の意地》に《臨時収入》、さらにはペンデュラムスケールにセットされた二枚と、明らかに剣山の方が損害は上だ。

「装備魔法《インスタント・ネオスペース》をストーム・ネオスに装備。カードを二枚伏せて、ターンエンド」

「オ……オレのターン……」

 十代のフィールドには、攻撃力3000のトリプルコンタクト融合体である《E・HERO ストーム・ネオス》と、装備された《インスタント・ネオスペース》。さらに《N・フレア・スカラベ》とリバースカードが二枚に、ライフポイントは4100。

 対してボード・アドバンテージだけならば、圧倒的な優位を保っていたはずの剣山のフィールドは――何もなかった。コンタクト融合を絡めた連撃により、モンスターも魔法も罠も全て破壊され、剣山のフィールドには何もなくなっていた。

「……ドロー!」

 ペンデュラム召喚の弱点たる手札消費を補っていた、《凡骨の意地》に《臨時収入》も失ってしまい、剣山は必死の表情でカードをドローした。まだ諦めるわけにはいかないと、決意が感じられる叫びとともに。

「オレは《マイルド・ターキー》を召喚し、《超進化薬・改》を発動! 鳥さんを恐竜さんに進化させるザウルス! 来い、《超伝導恐獣》!」

 鳥獣族モンスターをリリースすることによって、手札から恐竜族モンスターを特殊召喚する《超進化薬・改》の効果により、剣山の切り札の一つたる《超伝導恐獣》が特殊召喚された。さらにリリース素材となった《マイルド・ターキー》というモンスターは、どうやらペンデュラムモンスターらしく、再利用可能なエクストラデッキに送られていく。

「さらに《金満な壺》を発ドン! エクストラデッキからペンデュラムモンスターを三枚デッキに戻すことで、カードを二枚ドローするザウルス!」

 ただしエクストラデッキに送られようが、ペンデュラム召喚が可能でなければ意味がないが――剣山はそれを魔法カード《金満な壺》に賭ける。エクストラデッキに貯まっていたペンデュラムモンスターをデッキに戻し、カードを二枚ドローする魔法カードだ。

「……よく来てくれたドン! オレは《マイルド・ターキー》に、《竜角の狩猟者》をセッティングザウルス!」

 そして剣山は見事にペンデュラムモンスターを引き当ててみせ、再び二対のペンデュラムスケールがセッティングされる。これでレベル3から6のモンスターが、同時に召喚可能な準備が整った。

「ペンデュラム召喚! 来てくれ! 恐竜さんたち!」

 そして新たに生成された魔法陣から、四体の恐竜がフィールドを埋め尽くした。三体の《ランスフォリンクス》と、《レプティアの侍騎兵》――それぞれ、先のターンでも十代と戦ったモンスターたちだ。

「行くザウルス……アニキ! バトルだドン!」

 ストーム・ネオスに恐竜たち。それぞれデュエリストたち同様に向き合うと、剣山の攻撃の指示がフィールドを支配する。

「まずは《超伝導恐獣》でストーム・ネオスに攻撃ザウルス!」

「くっ……!」

十代LP4100→3800

 フィールドで唯一ストーム・ネオスの攻撃力を上回っている、《超伝導恐獣》の一撃によって、まずはストーム・ネオスは破壊された。ただしその破壊された場所には、コンパクトながら確かに宇宙空間が存在していた。

「ストーム・ネオスに装備されていた《インスタント・ネオスペース》の効果発動! 装備モンスターがフィールドを離れた時、デッキから《E・HERO ネオス》を特殊召喚する!」

 その小さい宇宙空間から十代を守るべく飛び出してきたのは、やはりというべきか《E・HERO ネオス》。装備魔法《インスタント・ネオスペース》は、装備モンスターがフィールドを離れた時、デッキからネオスを特殊召喚する効果を持っているのだから。

「なら《ランスフォリンクス》でネオスに攻撃ザウルス!」

 《ランスフォリンクス》と《E・HERO ネオス》の攻撃力は互角だが、ペンデュラムゾーンにセットされた《竜角の狩猟者》の効果により、《ランスフォリンクス》の攻撃力は200ポイントアップする。先のターンは《ネクロ・ガードナー》に防がれてしまったものの、今度こそランスフォリンクスはネオスをその鋭利なくちばしで捉えていた。

「さらに二体目の《ランスフォリンクス》で、《N・フレア・スカラベ》を攻撃ザウルス!」

「ぐあっ!」

十代LP3800→2400

 ネオスへの一撃はネオスが守備表示だったため、十代へのダメージはなかったものの、下級モンスターたるフレア・スカラベへの一撃は十代に痛烈なダメージをもたらした。これでも二枚のペンデュラムゾーンのカードによって、攻撃力を上昇させてはいるのだが、他の永続魔法・罠カードは他ならぬ十代が破壊してしまった。

「まだまだザウルス! 《レプティアの侍騎兵》で、十代のアニキにダイレクトアタック!」

「リバースカード、オープン! 《リビングデッドの呼び声》! 蘇れ、ストーム・ネオス!」

 コンタクト融合体は他のE・HERO融合体とは違い、正規に融合した後なら蘇生することが出来る。その長所を活かすことで、《リビングデッドの呼び声》によってストーム・ネオスが再びフィールドに特殊召喚され、十代を守る大きな盾となった。

 剣山の残る攻撃可能モンスターは、下級モンスターの《レプティアの侍騎兵》と、残り一体の《ランスフォリンクス》。いずれにしてもストーム・ネオスを破壊するだけの攻撃力はなく、十代がまたもや防御成功――かと思いきや、《レプティアの侍騎兵》は攻撃を止めることはなかった。

「そのまま《レプティアの侍騎兵》で、ストーム・ネオスを攻撃だドン!」

「……っ!」

 《レプティアの侍騎兵》の攻撃力は僅か1800。もちろんストーム・ネオスに適う筈もなく、それ故に十代はその攻撃に警戒する。恐竜に乗った侍は、その刀をストーム・ネオスに交差させると――

「このモンスターがペンデュラムモンスター以外に攻撃する時、ダメージ計算前に相手モンスターを破壊するドン!」

 ――斬り裂いてみせた。下級モンスターがストーム・ネオスを破壊するという大金星をあげ、更なる恐竜たちの攻撃に繋げようとしたその時、十代のフィールドをオーロラのようなものが包む。

「リバースカード、《エレメンタル・ミラージュ》! E・HEROが効果破壊された時、そのモンスターをフィールドに戻す!」

 オーロラの中から現れたのは、先程《レプティアの侍騎兵》に破壊された筈のストーム・ネオス。まるでダメージを受けた様子はなく、さらにそのオーロラからは新たなモンスターも現れていく。

「さらにこのターン破壊されたE・HEROも特殊召喚する!」

 オーロラから現れたのはストーム・ネオスだけではなく、《ランスフォリンクス》に破壊されていた《E・HERO ネオス》も共だった。今度こそ剣山にストーム・ネオスを破壊する術はなく、剣山はこのターンでの決着を諦めた。

「だけど……ネオスだけでも破壊させてもらうドン! 《ランスフォリンクス》でネオスに攻撃!」

 またもや《ランスフォリンクス》がネオスを破壊したものの、先と同じく守備表示なので十代にダメージはない。これで十代のフィールドにはストーム・ネオスのみとなり、剣山はバトルフェイズを終了した。

「カードを一枚伏せて、ターンエンドザウル――」

 だが一部の例外を除いてコンタクト融合体は、エンドフェイズ時にエクストラデッキに戻る効果を持っている。剣山はこのターンでトドメを刺せなかったことを残念に思いながらも、フィールドにはエンドフェイズにエクストラデッキに戻るストーム・ネオスだけのため、実質フィールドを壊滅させたのだから、よしとすべきか……とターンを終了した瞬間――そのことに気づく。気づいてしまう。

 剣山とて伊達に十代のことをアニキと慕っている訳ではなく、そのデュエルをこれまでに何度も見てきてきた。よって、そのことに気づくことが出来たが――剣山にそれを止める手段はなかった。

「――まさか、最初からこれを狙ってたドン!?」

「……ストーム・ネオスの効果発動! このカードはエンドフェイズ時、エクストラデッキに戻る」

 フィールド魔法《ネオスペース》に装備魔法《インスタント・ネオスペース》もない以上、コンタクト融合体であるストーム・ネオスはエクストラデッキに戻ってしまう。ただし、剣山からの最初からそれが狙いだったのかという問いに、十代はニヤリという笑みでそれに答えた。

「そしてストーム・ネオスがエクストラデッキに戻った時、フィールドのカードを全てデッキに戻す!」

 十代の狙い――それはトリプルコンタクト融合体にのみ許された、エクストラデッキに戻る際に発動する効果。ストーム・ネオスの場合、それはフィールドのカードを全てデッキに戻すという効果であり、強烈な旋風は剣山のフィールドの全てをさらっていく。

「ターンエンド……ザウルス」

「オレのターン、ドロー!」

 お互いに一枚もフィールドにカードがない――などと言えば、まるで同格のようにも感じられるものの、実態はまるで違う。どちらが勝利者かなど、誰の目から見ても明らかだった。

「フィールド魔法《摩天楼2-ヒーローシティ》を発動!」

 そしてアカデミアの校長室がまたもや形を変えていき、ヒーローたちの守る都市へと形作られた。高層ビルが立ち並ぶ摩天楼の屋上には、もちろんあのヒーローが鎮座していて。

「《摩天楼2-ヒーローシティ》の効果発動! 一ターンに一度、戦闘で破壊されたE・HEROを墓地から特殊召喚出来る! 蘇れ、ネオス!」

 ――《E・HERO ネオス》。その直接攻撃を剣山が防ぐ手段はなく、ライフポイントは2000とネオスの攻撃力より低く。

「バトル! ネオスでダイレクトアタック! ラス・オブ・ネオス!」

「うわあああっ!」

剣山LP2000→0

 ネオスの一撃により長いようで短かったデュエルは終結し、外野のメンバーから惜しみない拍手が送られた。それを受けて剣山は苦笑いしながら、校長室の高級そうな絨毯に大の字で寝転んだ。

「あー……やっぱり、アニキには及ばなかったドン……」

「いいや、惜しかったぜ。……ガッチャ!」

「アニキ……」

 十代が剣山を助け起こしながら、もはや懐かしくなったいつものポーズ――矛盾しているようだが――を決めて、お互いに健闘を讃えるように肩を叩き合って。それが終わる頃合いを見計らって、ずっと気になっていたことを剣山に問うた。

「なあ剣山。あのペンデュラムモンスターたち、どうしたんだ?」

 俺のデッキに眠る音響戦士と呼ばれるペンデュラムモンスターを思いながら、他のメンバーも気になっていたであろうことを、剣山に直球で聞いていった。まさか異世界で手に入れたカードが変質した、なんて俺のようなことがないだろうが――と考えていると、剣山は困ったように笑っていた。

「その……拾ったザウルス」

「拾ったぁ?」

「そこから先はワタシが説明しマース」

 さらに聞いていこうとした瞬間、校長室の扉が開いてぞろぞろと人が入ってきた。その正面に立っているのは、真紅のスーツに身を包んだ銀髪の外人――

「でも、まずは見事なデュエルでした。十代ボーイ、剣山ボーイ」

「ペガサス・J・クロフォード会長……!」

 陽気に拍手してみせるその外人は、かのペガサス・J・クロフォード会長で間違いはなく。今のデュエルもどうやら見物していたらしく、剣山と十代に交互に拍手と握手をしていって。

「十代ボーイ。ヒーローシティを上手く使ってくれていると聞けば、ミスター隼人もきっと喜ぶでショウ!」

「え、ああ、まあ……」

 テンションの高いペガサス会長に圧されたのか、歯切れが悪いように十代が答えて。それでもかつての旧友こと隼人のことが聞けて嬉しいのか、口の端は少し笑みを浮かべていた。

「そして剣山ボーイ。実はそのペンデュラムカード、それは鮫島校長に頼み、アカデミアに放って貰ったカードなのデース」

「か、勝手に使って申し訳ないザウルス! すぐ返して――」

「とんでもありまセーン!」

 恐縮する剣山に対してペガサス会長はマシンガンのように言葉を浴びせていき、ペンデュラムカードを返そうとした剣山に、そのままの形でまた返して。

「デュエリストがカードを選ぶように、カードもまたデュエリストを選びマース……アナタは、そのペンデュラムカードに選ばれたのデース」

「オレが……?」

「もちろんデース。そしてペンデュラムを放った理由は、もちろんあの《ダークネス》に対抗する戦力とするためデース……」

 《ダークネス》。その言葉を聞いた瞬間、反射的にメンバーは硬直する。そしてペガサス会長はペンデュラムカードを剣山に突っ返した後、優しく両肩に手を置いた。

「アナタたちのような若者に託すしかないとは、申し訳ないデース……では、あとは頼みマース」

 そしてペガサス会長はゆっくりと剣山から離れると、校長室の外に声をかけた。ペガサス会長の護衛であろう黒スーツ姿の男性たちの間から、見慣れた青い制服を着た男が姿を現した。

「……久しぶりだな、みんな」

「――三沢!」

 
 

 
後書き
最終章って銘打ってから、何年もやってる感じの漫画がそろそろ終わりますね
 

 

―決戦前夜―

 
前書き
結婚前夜?(難視) 

 
「よう、遊矢」

「三沢……」

 深夜のアカデミア。夜中は出歩いては行けないという校則があった気がするが、もはや公然の秘密と化しているそれに構わず、アカデミアをブラブラしていると。白衣を着た三沢に偶然会うと、久々だというのにフレンドリーに話しかけてきた。

「どうしたんだ? こんな夜に」

「何があっても、もうすぐこことはお別れだからな。また回りたくもなる」

「そうか……そうだな。俺も似たようなものだ」

 俺は久々だから見て回っていたがな――と、三沢は苦笑する。先日、異世界からアカデミアに帰還した三沢が提示してきたのは、ダークネスへの反撃をする方法。すなわち、こちらの世界に侵攻されてばかりではなく、ダークネスの世界に打って出る計画だった。

「あとは見回りも兼ねてだな。今更、ダークネスの侵攻で失敗しました、なんて笑えない」

「……まあ、来ないだろうけどな」

 ダークネスの世界への反撃は、明日にでも始められるほどに、着実に準備が進んでいた。とはいえダークネスが妨害してくるタイミングは、恐らくは反撃を開始する時という、最も油断するタイミングに他ならないだろう。

 ――明日は、決戦になる。

「それが分かっているなら安心だな。さて、俺は次元移動施設に戻るが、遊矢はどうする?」

「俺はもう少し、見て回ってるよ」

 ダークネスがいるのは異なる次元。俺たちが散々苦しめられた、次元移動が反撃のために必要になるとは皮肉だが、今はそれに頼るほかない。異世界から帰還したと言っても、まるで変わらぬ三沢に内心で安心しながら、次元移動施設があるところまでは共に行こうとしようとするが。

「遊矢。これは独り言なんだが……さっき偶然、明日香くんにも会ってな。灯台の方に行くと言っていたぞ。お前も、行くところがあるんじゃないか?」

「……余計なお世話だ!」

 ――前言撤回。どうやら異世界の経験を活かして、三沢も少し強かになったらしい。こちらの抗議にも大人の笑みを見せる三沢と別れて、俺は灯台に向かって行った。


「明日香!」

「……遊矢?」

 そして少しの時間経過の後に、アカデミアの極東である灯台の下へとたどり着いた。灯台は光を周りに照らし続けており、灯台下暗しという言葉が嘘のように、灯台の下にいる明日香を照らしているように見えた。

「どうしたの……って、あなたも見回りよね?」

「ああ。明日香は……何でここに?」

「ここは……色々、お世話になったから。兄さんの件でね」

 明日香が灯台に手を触れて、思い出すように声を出す。吹雪さんがダークネスに囚われていた時、明日香はよくここに足を運んでいたらしい。それは亮も同様であり、何か吹雪さんとの思い出の地なのだと伺わせる。

「だから私としては、ダークネスとの戦いは兄さんにやったことへの意趣返し、っていうのもあるのかもね。……もちろん、夢のためでもあるけど」

 明日香はそう言って、少々冗談めかして笑う。思い出が詰まった地に、願掛けをしに来たのだろう。ダークネスなんて得体の知れない連中に、自らの夢を邪魔されないように、と。

「夢と言えば……遊矢は決まったの? 将来の、こと」

「俺は……」

 ダークネスとの戦いがどのようになろうと、俺たちはもうしばらくして、アカデミアを旅立つことになる。明日香は先生に、万丈目はプロに、翔はプロリーグの経営に――みんな、様々な夢を持ってこの戦いに臨んでいる。

「……決まったよ」

 ――もちろん、それは俺も例外ではない。一足先に夢を叶えた三沢を見て、ずっと考えていたことだった。最初は三沢への競争心だったかもしれないが、今は確固とした気持ちとしてそこにある。

「何か教えてもらってもいい?」

「それは………………秘密だ」

「……私は教えてるのに、それは不公平じゃない?」

 とはいえ、わざわざ自身の夢を宣言するほど気恥ずかしいものはなく、つい誤魔化してしまう。明日香は最もな理由でもって不満げな表情を見せるが、すぐにその腕に装備したデュエルディスクを見せびらかした。

「意見が割れたらデュエル、よね?」

「相変わらずデュエル馬鹿だな」

「あら。自己紹介かしら?」

 反射的に放った一言も、笑顔で皮肉を返されて臨戦態勢に入る――ただ話をしているより、こうしてデュエルしていた方が自分たちらしい。

「前のデュエルは引き分けだったものね、決着をつけましょう。それに……入ってるんでしょ? ペンデュラム」

「……ああ」

 こちらの世界では普及していないということもあって、ペンデュラムモンスターたちは今まで使用を自粛していた。だがダークネス相手にその必要もなく、剣山を始めとしたアカデミアの生徒たちも、チラホラと使用者が現れていた。

 ペンデュラムモンスターたちの改めての実戦投入に、先日のデュエルの決着。それらを含めて、俺たちはデュエルをするのに適した距離を取り、お互いにデュエルディスクを構えた。

 決戦前夜だろうと――俺たちのやることは変わらない。

『デュエル!』

遊矢LP4000
明日香LP4000

「俺の先攻」

 デュエルディスクはこちらに先攻を指し示し、俺は五枚のカードをデッキから手札とする。

「モンスターとカードを一枚ずつセット。ターンを終了!」

「私のターン、ドロー!」

 セットモンスターとリバースカードを一枚ずつ伏せ、とりあえずは様子見の防御の布陣。そして明日香のターンに移り、早速一枚のカードがお目見えする。

「儀式魔法《機械天使の儀式》を発動!」

 明日香の十八番。明日香もダークネスを相手にするべく、デッキを万全の状態にしているはずであり、それらは明日香の思いに応えるだろう。

「手札の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》をリリースすることで、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」

 儀式召喚されるは、明日香の儀式におけるフェイバリットカードである、《サイバー・エンジェル-弁天-》。儀式モンスターにしては攻撃力は多少低いものの、その程度なら幾らでもカバーする手はある。

「《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がリリースされた時、フィールドの天使族モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする!」

 その一例である《サイバー・エンジェル-韋駄天-》のリリースされた時の効果に、《サイバー・エンジェル-弁天-》の攻撃力は2800となり、他の上級モンスターと比べても遜色ない数値となる。そしてこちらのセットモンスターに目を付け、必殺の一撃の準備をして。

「《サイバー・エンジェル-弁天-》で攻撃! エンジェリック・ターン!」

「くっ……!」


 破壊されたのは《チューニング・サポーター》。元々戦闘に参加するようなモンスターではなく、呆気なく《サイバー・エンジェル-弁天-》に切り裂かれ、その破壊された破片が俺に襲いかかった。

「《サイバー・エンジェル-弁天-》が相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの守備力分のダメージを与える!」

「っ……」

遊矢LP4000→3700

 とはいえ幸か不幸か、《チューニング・サポーター》の守備力分のダメージでは微々たるものだ。特に気にする必要のないダメージを受け、明日香のバトルフェイズは終了する。

「メイン2。私はフィールド魔法《コート・バトル》を発動!」

「《コート・バトル》……?」

 明日香が多用する《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》とはまた違う、新たなフィールド魔法《コート・バトル》。発動されたにもかかわらず、フィールドを灯台からスタジアムに変える以外に何の効果を発動することはなく、明日香はさらにターンを進めていく。

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 まだどちらも様子見といったところか、最初の攻防は特に動きはなく終わる。こちらはリバースカードが一枚に、明日香は《サイバー・エンジェル-弁天-》に、不気味に沈黙するフィールド魔法《コート・バトル》にリバースカードが一枚。様子見に攻撃力2800のフェイバリットカードを出してくる、攻撃的なデュエルが明日香らしい。

「俺は《狂った召喚歯車》を発動! 相手のモンスターと同じ属性・レベルのモンスターを特殊召喚させる代わりに、攻撃力1500以下の墓地のモンスターと、その同名モンスターを特殊召喚する!」

 ならばこちらもそんな明日香に応えて。魔法カード《狂った召喚歯車》の効果により、俺は先程破壊された《チューニング・サポーター》が三体に増殖し、明日香のフィールドには《逆転の女神》が守備表示で特殊召喚された。

 フィールドの《サイバー・エンジェル-弁天-》と同じ属性・レベルならば、他の機械天使が特殊召喚されようものだが、それらは儀式モンスターにより召喚制限に引っかかる。よって《高等儀式術》のためのモンスターだろう、通常モンスターの《逆転の女神》が特殊召喚されたのだ。

「さらに《音響戦士ピアーノ》を召喚し、四体でチューニング!」

 そしてチューナーモンスターたる機械戦士、音響戦士シリーズの一員たる《音響戦士ピアーノ》により、総勢四体のモンスターがチューニングの態勢をとる。《チューニング・サポーター》はシンクロ素材となる時、レベルの変更が可能であり、合計レベルを7とする。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 明日香の儀式におけるフェイバリットカードが《サイバー・エンジェル-弁天-》ならば、こちらもシンクロモンスターの代表こと、《パワー・ツール・ドラゴン》が対面する。黄色い装甲の隙間から竜の咆哮が響き、《サイバー・エンジェル-弁天-》を威嚇する。

「ふふ。この子たちも、前回の引き分けを気にしてるのかしら」

「……かもな」

 前回の明日香とのデュエルでは、《サイバー・エンジェル-弁天-》と《パワー・ツール・ドラゴン》のぶつかり合いの果てに、俺と明日香のライフポイントは同時に0となった。それをふと思い出した明日香が微笑むが、すぐにいつものキリッとした表情に戻る。

「そんな話は後、だな。シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》は、カードを一枚ドローさせる。よって三枚ドロー!」

 シンクロ素材にした《チューニング・サポーター》は三枚。よって三枚のカードをドローすると、揃ったカードを確認して笑みを浮かべる。そして手札の中の二枚のカードを、デュエルディスクに新たに設えられたゾーンにセットする。

「俺はペンデュラムゾーンに《音響戦士マイクス》と、《音響戦士ギータス》をセッティング!」

「来たわね、ペンデュラム……」

 二対のペンデュラムスケールのセッティングに成功し、赤と青の光が浮かび上がっていく。これでレベル2から6のモンスターを同時に召喚可能となるが、俺にそんな手札の余裕はない。ただしペンデュラム召喚が出来なくとも、カード固有のペンデュラム効果の発動は可能だ。

「《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果。手札を一枚捨てることで、デッキから音響戦士モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《音響戦士ドラムス》!」

 デッキから特殊召喚されるレベル2のチューナーモンスター、《音響戦士ドラムス》。様々な音響戦士モンスターをデッキから直接特殊召喚出来ると、手札一枚をコストにしては破格の効果。もちろん《音響戦士ドラムス》だけではシンクロ召喚出来ず、もう通常召喚権は使っているが、フィールドには更なる旋風が舞い戻る。

「さらに墓地に送られた《リジェネ・ウォリアー》は、効果で墓地に送られた際にフィールドに特殊召喚される!」

 《音響戦士ギータス》の効果の手札コストとなっていた機械戦士、《リジェネ・ウォリアー》がすぐさまフィールドに帰還し、これでフィールドにチューナーモンスターと非チューナーが揃う。

「墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外し、二体のモンスターをチューニング!」

 墓地の音響戦士チューナーモンスターは、フィールドに音響戦士モンスターがいる時、自発的に除外することが出来る。その効果によって布石を打っておくと、フィールドの二体はチューニングされていく――合計レベルは6。

「集いし拳が、道を阻む壁を打ち破る! 光指す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《マイティ・ウォリアー》!」

 大地を砕きながらシンクロ召喚されたのは、レベル6のシンクロモンスターである機械戦士。機械化されて肥大化した拳を、明日香に向けて威嚇する。

「さらに《パワー・ツール・ドラゴン》の効果発動! デッキから三枚の装備カードのうち、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……右のカードよ」

 デッキから飛び出した三つのカードのうち、一つだけが俺の手札へと加えられ、残りのカードはデッキにてその出番を待つ。そして加えられた一枚は、すぐさま《パワー・ツール・ドラゴン》へと装備される。

「俺は《パワー・ツール・ドラゴン》に《ダブルツールD&C》を装備し、バトルフェイズ!」

 そして《パワー・ツール・ドラゴン》の右腕に専用の装備魔法《ダブルツールD&C》が装備され、二体のシンクロモンスターは攻撃の態勢に移る。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で、《サイバー・エンジェル-弁天-》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

  攻撃力を1000ポイントアップさせ、さらに攻撃した相手モンスターの効果すら無効化する、実質的に専用装備魔法である《ダブルツールD&C》。ただし《サイバー・エンジェル-弁天-》の攻撃力がアップしているのは、リリースされた《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果のため、無効にすることは出来ない――が、ギリギリでこちらの方が攻撃力は上であり、《パワー・ツール・ドラゴン》は《サイバー・エンジェル-弁天-》を打ち破った。

明日香LP4000→3500

「さらに《マイティ・ウォリアー》で、《逆転の女神》に攻撃! マイティ・ナックル!」

 そして《狂った召喚歯車》によってデッキから特殊召喚された、《逆転の女神》に《マイティ・ウォリアー》が殴りかかった。守備表示で特殊召喚した為に戦闘ダメージはないが、破壊に成功したことによって《マイティ・ウォリアー》の効果が発動する。

「《マイティ・ウォリアー》が相手モンスターを破壊した時、相手の攻撃力の半分のダメージを与える! マイティ・ショット!」

「くっ!」

明日香LP3500→2600

 《狂った召喚歯車》のデメリット効果も逆用した一撃に、明日香のライフポイントをかなり削ることに成功する。内心、上手く決まった――と思ったところ、戦闘で破壊された二対の天使の魂の欠片が、まだフィールドに留まっていることに気づいた。

「フィールド魔法《コート・バトル》の効果。モンスターが戦闘で破壊される度に、このカードにカウンターを置くわ」

「……ターンを終了する」

 ――もしかすると、上手く決まったのは明日香の方かと思いながら。俺は《パワー・ツール・ドラゴン》と《マイティ・ウォリアー》に守られながら、明日香へとターンを移す。

「ターン終了時、《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果を発動。除外された音響戦士を手札に加えることが出来る」

 とはいえ、ただ明日香の思い通りに動いていく訳にはいかない。ペンデュラムゾーンにセッティング済みの《音響戦士マイクス》の効果により、自身の効果によって除外されていた《音響戦士ピアーノ》を手札に加える。

「私のターン、ドロー!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》と《マイティ・ウォリアー》の攻撃により、明日香のフィールドはリバースカードが一枚のみ。とはいえ先のターンは様子見だったため、まだ明日香には余裕があった。

「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚。効果で《機械天使の儀式》を手札に加え、発動する!」

 召喚することで《機械天使の儀式》かサイバー・エンジェルをサーチする、専用のサポートモンスターである《サイバー・プチ・エンジェル》により、新たな儀式召喚が執り行われる。それは《サイバー・プチ・エンジェル》当人と、《サイバー・エンジェル-弁天-》による儀式召喚。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》!」

 レベル8のサイバー・エンジェル。弁天と韋駄天とは一つ頭抜けたサイバー・エンジェルは、儀式召喚されてすぐさま俺のフィールドに迫る。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が儀式召喚に成功した時、相手はモンスター一体を墓地へ送らなくてはならない!」

「《マイティ・ウォリアー》を選択……!」

 儀式召喚に成功した時、相手はモンスター一体を墓地へ送らなくてはならない、という他に類を見ないものの強力な除去効果。《マイティ・ウォリアー》は一刀のままに斬り伏せられてしまい、なすすべもなく破壊されてしまう。

「そしてリリースされた《サイバー・エンジェル-弁天-》の効果を発動。このカードがリリースされた時、デッキから新たな機械天使を手札に加える。私は《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を手札に」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃力は2700。こちらの《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃力は、《ダブルツールD&C》の攻撃力アップは自ターンの時のみのため、2300と劣る。とはいえ、装備魔法を身代わりに破壊は免れるか――と考えていたところ、明日香の無慈悲な言葉がこちらを貫いた。

「まだよ。魔法カード《儀式の準備》を発動し、デッキからレベル6以下の儀式モンスター、墓地から儀式魔法を手札に加える。《機械天使の儀式》を発動!」

「ッ!」

 優秀な儀式のサポート魔法《儀式の準備》により、更なる儀式召喚を明日香は可能とする。《儀式の準備》で手札に加えたのだろう、またもや《サイバー・エンジェル-弁天-》がリリースされ、新たな機械天使がフィールドに特殊召喚される。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-韋駄天-》!」

 儀式召喚される三体目のサイバー・エンジェル。他の機械天使よりステータス自体は低いものの、それを補って余りある補助的な効果を持っていた。

「まずはリリースされた《サイバー・エンジェル-弁天-》の効果。デッキから新たな機械天使をサーチし、次に儀式召喚された《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果。デッキから儀式魔法をサーチ出来る!」

 《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果は、儀式召喚に成功した時、新たな儀式魔法をサーチかサルベージすることで、新たな儀式に繋げる効果。そしてリリースされた時、新たな機械天使をサーチ出来る《サイバー・エンジェル-弁天-》と組み合わせれば――

「手札に加えた《機械天使の儀式》を発動! フィールドの《サイバー・エンジェル-韋駄天-》と、手札の《フルール・シンクロン》をリリースし、二体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」

 ――何連続もの儀式召喚も容易いこととなる。二体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が降臨したかと思えば、その次の瞬間には俺のフィールドにおり、《パワー・ツール・ドラゴン》を斬り伏せていた。

「《パワー・ツール・ドラゴン》……!」

 フィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》しかいないため、強制的に《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果の対象は、《パワー・ツール・ドラゴン》にせざるを得ない。さらに破壊ではなく墓地へ送るであるため、《パワー・ツール・ドラゴン》の耐性もまるで意味をなさない。二体の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》により、呆気なくこちらのフィールドを壊滅した。

「さらに《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がリリースされた時、私のフィールドの機械天使の攻撃力は1000ポイントアップするわ。バトル!」

 そして《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の儀式の素材になった《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果により、フィールドにいる儀式モンスターの攻撃力は1000ポイントアップさせる効果。よって二体の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は、それぞれ攻撃力が3700という驚異的な数値となり、偶然にもそれは俺のライフポイントと同じ数値だった。

「行くわよ! 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で遊矢にダイレクトアタック!」

「くっ……リバースカード、オープン!」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が八つの刃を構えて、無防備な俺に迫りくる。《パワー・ツール・ドラゴン》すら一刀に切り裂くその一撃に、俺どころか凡百のモンスターが耐えられる訳もないが――《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は、俺の前でその歩みを止める。

「《トゥルース・リインフォース》!」

 何故ならば、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の刃すらも通さぬモンスターが、こちらのフィールドに現れたからだ。その名は要塞の機械戦士――その名の通り、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃を全てシャットアウトしてみせる。

「《マッシブ・ウォリアー》……」

 明日香がその名を呟いた通りに、デッキからレベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する罠カード《トゥルース・リインフォース》により特殊召喚されたのは、要塞の機械戦士《マッシブ・ウォリアー》。マッシブ・ウォリアーは戦闘では破壊されないだけではなく、貫通効果を持つ《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》だとしても、相手からのダメージすらもシャットアウトする。

「でも破壊はさせてもらうわ! 二体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で、《マッシブ・ウォリアー》に攻撃!」

 ただし《マッシブ・ウォリアー》と言えども、戦闘破壊を無視できるのは一度のみ。二体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の猛攻には耐えられず破壊されてしまうが、最後までこちらにダメージを通すことはない。こうして二体の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃は、何とか《マッシブ・ウォリアー》のおかげで防ぐことに成功する。

「エンドフェイズ。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果が発動するわ。墓地の機械天使か《機械天使の儀式》を回収出来る」

 ただし《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果により、明日香もまた次なる猛攻の下準備に入る。墓地にあるサイバー・エンジェルか、《機械天使の儀式》をサルベージ出来るという効果であり、明日香は二体の弁天と韋駄天のサイバー・エンジェルを手札に加えた。

「これでターンを終了するわ」

「俺のターン、ドロー!」

 そして二体の猛攻を凌いだとはいっても、明日香のフィールドには攻撃力3700の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が健在であり、こちらのフィールドは壊滅的な被害を受けたことに変わりはない。

「俺は《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキから《音響戦士ベーシス》を特殊召喚!」

 しかしこちらとて、まだペンデュラムゾーンに二体のペンデュラムモンスターはセッティング済みだ。再び《音響戦士ギータス》の効果により、手札一枚をコストにデッキから《音響戦士ベーシス》を特殊召喚する。

「さらに墓地に送った《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 そして先の《リジェネ・ウォリアー》の時と同様に、手札から墓地に送られていた《リミッター・ブレイク》により、マイフェイバリットカードが旋風となって現れる。

「っ……」

 《スピード・ウォリアー》に明日香が息を呑むものの、《音響戦士ギータス》のレベルは1と、フィールドのモンスターの合計レベルは3。これでは【機械戦士】デッキにおいて、シンクロ召喚は不可能だ。

 そんなことは百も承知だと言わんばかりに、俺の上空に魔法陣が浮かび上がった。

「セッティング済みの音響戦士たちでペンデュラム召喚! 来い、機械戦士たち!」

 セッティングしてあったペンデュラムスケールにより、レベル2から6までのモンスターが同時に召喚可能。よって魔法陣から、レベル3の《ガントレット・ウォリアー》に同じく《音響戦士ピアーノ》がペンデュラム召喚される。

「そしてレベル1《音響戦士ベーシス》に、レベル3の《ガントレット・ウォリアー》、レベル2の《スピード・ウォリアー》をチューニング!」

 そしてペンデュラム召喚からシンクロ召喚に繋げ、三体のモンスターがチューニングされていく。合計レベルは6、シンクロ召喚されるは次なる可能性を掴み取るための機械戦士。

「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 新緑のような緑色を基調とした装甲に身を包んだ、星屑の機械戦士がシンクロ召喚される。シンクロモンスターの機械戦士の中でも、最も攻撃力が低いモンスターではあるが、可能性を掴むことにかけてはこの機械戦士に右に出るものはいない。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》がシンクロ召喚に成功した時、カードを一枚ドロー出来る!」

 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、可能性という名のカードを引く効果。シンクロ召喚に成功したためにカードを一枚ドローし、新たなカードをデュエルディスクに挿入する。

「通常魔法《アームズ・ホール》を発動! デッキトップを墓地に送り、装備魔法をデッキからサーチする!」

 装備魔法をサーチする魔法カード《アームズ・ホール》。その代償は通常召喚を封じるという重いものであるが、今ならばペンデュラム召喚が可能のため、そのデメリットを軽減することが出来る。事実、通常召喚が無くとも《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は展開出来ているのだから。

「そして装備魔法《継承の印》を発動! 墓地に同名モンスターが三体いる時、そのうち一体を特殊召喚する! 蘇れ、《チューニング・サポーター》!」

 そしてサーチした装備魔法《継承の印》により、《チューニング・サポーター》が蘇生する。シンクロ召喚された《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の他に、こちらのフィールドにはチューナーモンスター《音響戦士ピアーノ》が存在する。

「フィールドに音響戦士がいるため、墓地の《音響戦士ドラムス》を除外する。そして《音響戦士ピアーノ》と、《チューニング・サポーター》をチューニング!」

 《音響戦士ピアーノ》のレベルは3、シンクロ素材となる時にレベルを変更する効果を持つ《チューニング・サポーター》だが、その効果を使うことはない。よって《チューニング・サポーター》のレベルは1のまま、合計レベルは4のまま光の輪に包まれていく。

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

 シンクロ召喚されるは機械戦士たちの補助兵装。モンスターに装備出来るモンスターとして、既にフィールドにいた《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備される。

「《アームズ・エイド》はモンスターに装備することで、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

「だけどそれだけじゃ、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》には及ばないわ」

 確かに《アームズ・エイド》を装備したと言えども、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》では《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の3700を誇る攻撃力には及ばない。リリースされた《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の効果によるもので、その効果を無効にする術はない。

「まだだ! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に、《最強の盾》を装備!」

「《最強の盾》……!」

 機械天使たちとは別に戦士族使いでもある明日香は、俺が発動した装備魔法《最強の盾》に警戒する。右腕に《アームズ・エイド》、左腕に《最強の盾》を装備し、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が俺のフィールドに君臨する。

「装備魔法《最強の盾》を装備したモンスターは、守備力分を攻撃力に加える!」

 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の守備力は1300と高いわけではないが、それは右腕に装備された《アームズ・エイド》が補って余りある。よって最終的な攻撃力は――

「攻撃力……4300!?」

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、特殊召喚した相手モンスター全てに攻撃出来る! バトルだ!」

 そして《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、相手モンスター全てに攻撃出来る効果を持ち、《アームズ・エイド》は戦闘破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを与えることが出来る。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃力を僅かながらでも超えられたことは、それだけの意味がある。

「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃! パワーギア・クラッシャー!」

 そして一体目の《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に向け、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が右腕を伸ばす。左腕に装備された《最強の盾》がエネルギーを放ち、《アームズ・エイド》がギリギリと力を込めて握られ、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を殴りつけた。

「っ!」

明日香LP2600→2000

「さらに《アームズ・エイド》の効果! 装備モンスターが相手モンスターを破壊した時、相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の元々の攻撃力は2700と、明日香の残るライフポイントよりも高い。もしも防がれたとしても、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》にはまだ一撃残っている。

「――リバースカード、オープン! 《リフレクト・ネイチャー》!」

「何!?」

 明日香のフィールドに最初のターンから伏せられていたリバースカードが、遂に表側となった瞬間、明日香の前に鏡が浮かび上がっていく。そしてその鏡に向かって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が《アームズ・エイド》による一撃を放つと、その鏡はこちらにそのバーンダメージを跳ね返した。

「このカードが発動したターン、相手から受ける効果ダメージを全て跳ね返す!」

「ぐあっ!」

遊矢LP3700→1000

 思いも寄らぬ反撃によって、こちらのライフポイントは大いに削られてしまう。しかしてここでの思いも寄らぬ反撃というのは、《リフレクト・ネイチャー》というカードの性質のことだ。明日香のことだからダメージの反射は考えてはいたが、《リフレクト・ネイチャー》の場合、そのターンに受ける全てのバーンダメージを跳ね返す。

「くっ……」

 つまりそれは、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》による追撃も封じられた、ということだった。かつてのターンで《マイティ・ウォリアー》によるバーンダメージに対してでも発動出来たというのに、このように最高のタイミングまで温存されるとは。

「さらにモンスターが戦闘破壊されたことにより、フィールド魔法《コート・バトル》にカウンターが乗るわ」

 さらに思考の端に追いやっていた、フィールド魔法《コート・バトル》にカウンターが乗っていく。恐らくはカウンターが特定数乗った時、効果が発生する効果ではあるのだろうが……

「さあ、どうしたの遊矢。攻撃して来ないのかしら?」

「《音響戦士マイクス》の効果を発動して……ターンエンドだ」

 ……結局は《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の攻撃回数を残したまま、俺はターンエンドを余儀なくされる。エンドフェイズ時に除外された音響戦士を回収する効果を持つ、《音響戦士マイクス》の効果によって、《音響戦士ドラムス》を回収をしておくが、決死の一撃を避けられたショックは大きい。

「私のターン、ドロー!」

 そしてこちらのフィールドは《最強の盾》と《アームズ・エイド》を装備した《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に、二対のペンデュラム音響戦士。明日香のフィールドには《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》のみであり、お互いにライフポイントもかなり削られている。

「魔法カード《ドールハンマー》を発動! 自分のモンスターを破壊することで、カードを二枚ドローし、相手モンスターの表示形式を変更する!」


 デュエルの決着は近い――と、どちらからともなく分かり合うと、明日香が早速の行動を起こした。カードを二枚ドローして相手モンスターの表示形式を変更する代わりに、自分のモンスターを破壊する魔法カード《ドールハンマー》を、フィールドに残った《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》をコストに発動する。

「《最強の盾》を装備したモンスターが守備表示の時、守備力を攻撃力分アップさせる!」

 《ドールハンマー》によって守備表示にされたものの、《最強の盾》に表示形式変更の隙はない。元々の攻撃力を参照するため、同じく装備された《アームズ・エイド》による上昇値は加算されないが、それでも3300と充分な数値となる。

「さらに《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを素材に、手札の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」

 デッキからレベル2の通常モンスター、《神聖なる球体》三体を墓地に送ることで、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》がまたもや降臨する。先のターン、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》のサルベージ効果で回収していたため、降臨するまでは計算内だが。

「《サイバー・エンジェル-韋駄天-》が儀式召喚に成功した時、墓地から儀式魔法を回収出来る。《機械天使の儀式》を回収し、そのまま発動!」

 そして《サイバー・エンジェル-韋駄天-》の固有効果は、儀式魔法のデッキからのサーチか墓地からのサルベージ。墓地から《機械天使の儀式》が回収されるととともに発動され、手札の《サイバー・プリマ》が素材となっていく。

「儀式召喚! 《サイバー・エンジェル-弁天-》!」

 同じく先のターンに《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の効果によって回収していた、明日香の儀式のフェイバリットこと、《サイバー・エンジェル-弁天-》が儀式召喚される。《サイバー・エンジェル-韋駄天-》のサルベージ効果により、容易く機械天使たちが二体、フィールドに並ぶが――

「行くわよ遊矢。私自身の力で!」

 ――フィールドに二体、並ぶ。

「二体のサイバー・エンジェルでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 ダークネスに囚われたレイとの戦いによって得た、明日香自身の力――明日香自身のナンバーズ。一年からどころか、先の引き分けとなったデュエルの時にも持っていなかったため、失念していた氷の少女がフィールドに君臨していく。

「集いし想いよ! 熱に溶ける氷のように、一つとなりて少女に宿れ! エクシーズ召喚! 《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》!」

 レイピアを武器とする、ドレスアップした氷の少女。それが明日香自身のナンバーズとして君臨した、《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》だった。

「レディ・ジャスティスの効果! オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで、相手の守備表示モンスターを全て破壊する!」

 こちらのモンスター――《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、先の明日香の魔法カード《ドールハンマー》によって守備表示。レディ・ジャスティスが自身の得物であるレイピアを大地に突き刺すと、氷がツタとなって《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に絡みついていく。そしていつしか、氷が《スターダスト・チャージ・ウォリアー》をも覆っていき――

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動!」

 ――氷の侵食が止まった。手札から放たれた《エフェクト・ヴェーラー》に包み込まれ、レディ・ジャスティスは一瞬にしろ効果を全て失ったのだ。

「ここで《エフェクト・ヴェーラー》とはね……フィールド魔法《コート・バトル》の効果を発動。このフィールドに乗っているカウンターを、全てレディ・ジャスティスのオーバーレイ・ユニットに出来るわ」

 遂に明かされるフィールド魔法《コート・バトル》の効果。今まで破壊される度に溜まってきたカウンターを、全てエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットにすることが出来るという効果であり、三つのカウンターがレディ・ジャスティスに吸収されていく。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は破壊できないけれど……それ以外はやらせてもらうわ。魔法カード《大嵐》を発動して、ターンエンド!」

 《エフェクト・ヴェーラー》によって《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の破壊は防いだが、明日香の《大嵐》によってフィールドの魔法・罠カードは全て破壊されてしまう。明日香は役目の終わったフィールド魔法《コート・バトル》のみだが、こちらは《最強の盾》に《アームズ・エイド》、二対のペンデュラム音響戦士と被害は甚大だ。

「俺のターン、ドロー!」

「この瞬間、《エフェクト・ヴェーラー》は効果を失って、レディ・ジャスティスは効果を取り戻すわ」

 フィールドは《スターダスト・チャージ・ウォリアー》と、《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》の一騎打ちの様相を呈していた。そしてこちらにターンが移ったと同時に、《エフェクト・ヴェーラー》の効果持続時間がなくなり、明日香の言の通りにレディ・ジャスティスは効果を取り戻す。

「そしてレディ・ジャスティスは、オーバーレイ・ユニットの数×1000ポイント、攻撃力をアップさせる。よって攻撃力は4500!」

「4500……」

 レディ・ジャスティスの攻撃力は、オーバーレイ・ユニットの数で決定する。元々の攻撃力は500という下級モンスターにも劣る数値であり、《エフェクト・ヴェーラー》に効果を封じられていたため、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》を破壊することは叶わなかった。

 だがフィールド魔法《コート・バトル》により、大量のオーバーレイ・ユニットを得た今は、攻撃力4500という実に《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の二倍以上の数値を得ている。

「だけど明日香……新しい力を取り入れてるのは、何もお前だけじゃない! 俺は《音響戦士ドラムス》を召喚!」

 先のターンにおいて《音響戦士マイクス》の効果で、除外ゾーンを経由して回収していた《音響戦士マイクス》を通常召喚する。明日香の新たに使用した《ドールハンマー》や《コート・バトル》などは、《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》を活用するためのカードだろう。だがそうして、新たに手に入れた力の更なる活用を果たしているのは、こちらも同じことだ。

「さらに墓地の《音響戦士サイザス》の効果を発動! このカードを除外することで、除外ゾーンの音響戦士を特殊召喚する! 時空の狭間から蘇れ、《音響戦士ピアーノ》!」

 《アームズ・ホール》のデッキトップを墓地に送る効果によって送られていた、音響戦士の一種である《音響戦士サイザス》の効果により、除外ゾーンから《音響戦士ピアーノ》が特殊召喚される。とはいえ《音響戦士ピアーノ》と《音響戦士ドラムス》では、チューナー同士のためにシンクロ召喚は不可能であり、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》もレベルが高すぎる。

「そして《音響戦士ピアーノ》の効果! このモンスターの種族を炎族に変更する!」

 ――ならば、どうするか。シンクロ召喚以外の召喚法に決まっている。

「俺は《融合》を発動!」

「――融合!?」

 今まで《融合》と言えば、借り物の《サイバー・ブレイダー》とほぼ専用融合を持つ《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》以外を使って来なかったため、明日香から隠しきれない驚愕の言葉が響き渡った。

「集いし鉄に熱を込め、いつしか奔流となりて放たれよ! 融合召喚! 《起爆獣ヴァルカノン》!」

 融合召喚されたのは機械化された獣であり、その動力源は炎であると言われても疑わない、火力を持ってフィールドに君臨した。その融合素材は炎族と機械族モンスターという異色の組み合わせであり、機械族はともかく炎族モンスターは【機械戦士】デッキには投入されていない。ただしその融合召喚を可能とするのが、自身と音響戦士の種族を自由に変更出来る《音響戦士ピアーノ》であり、その効果は。

「《起爆獣ヴァルカノン》が融合召喚に成功した時、このモンスターと相手モンスターを破壊し、破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「何ですって!」

 起爆獣という名の通りに。明日香のフィールドにいるレディ・ジャスティスを巻き添えに、《起爆獣ヴァルカノン》は破壊されていく。相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える、という追加効果を持つものの、レディ・ジャスティスの攻撃力は僅か500。大したダメージにはなりはしない。

明日香LP2000→1500

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》を攻撃表示に変更し、バトル!」

 要するに、明日香のフィールドががら空きとなった、という事実が重要なのだから。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で明日香にダイレクトアタック! シューティング・クラッシャー!」

「きゃぁぁぁぁ!」

明日香LP1500→0


「私の負け、ね……これなら明日も、心配ないみたいね」

 長いようで短いターンのデュエルが決着し、明日香は悔しがりながらもこちらを激励するように言い放ってくれる。

「明日香こそ。レディ・ジャスティス、活かしてきてるな」

「それはどうも。約束通り、遊矢の夢のことは、ダークネスを倒してからの楽しみにしておいてあげるわ」

「……ああ」

 すっかり忘れていたが、そういえばこちらの夢がどうのこうの、というのが最初の話題だった。いざ聞かれた時は気恥ずかしかったが、今なら特に話すことに抵抗はない――と思っていると、どこからかエンジン音が響いてきた。

「十代!」

 その聞こえてきたエンジン音の行き先は、アカデミアのモーターボートに乗った十代だった。十代はこちらに気づいたのか、モーターボートを灯台に寄せてきた。

「十代、どうしたんだ?」

「……童実野町と連絡が取れない。ダークネスの仕業かもしんねぇ」

「童実野町が……?」

 童実野町と言えば、あの海馬コーポレーションの本社があるどころであり、恐らくはこのダークネス世界への侵攻計画にも深く関わっているだろう。そこと連絡がつかなくなった、となれば……何か、まずいことが起きていてもおかしくない。

「だから……行って確かめてくる。童実野町にな」

「そんな! 何かあったら一人じゃ危ないんじゃ……」

「ヨハンやジム、オブライエンも来てくれる。大丈夫だ。だから――」

 明日香の警告に留学生たちの名前を出して突っぱねながら、十代は再びモーターボートのエンジンを再び大きく掛けた。そしてもう一度、こちらを向いて。

「――アカデミアのこと、頼むぜ」

「ああ。任せろ!」

 十代の頼みに力強く頷いてみせると、モーターボートは童実野町に向けて高速でエンジンを轟かせていく。

 ――決戦前夜の出来事だった。

 
 

 
後書き
リ・コントラクト・ユニバース! リ・コントラクト・ユニバース! リ・コントラクト・ユニバース! リ・コントラクト・ユニバース!

僕だよ、サイバー・エンジェル! 僕たちはずっとこんな効果だったじゃないか!

そして出ない美朱濡。最初は美朱濡を出すためのデュエルだったのですが、はてさて。というか割とサイバー・エンジェルの殺意がヤバい。
 

 

-限界バトル-

「始まったか……」

 デュエルアカデミアのスタジアム、その轟く歓声は、中でデュエルが始まったことを示していた。それは同時に、こちらからのダークネスへの攻撃が始まったことを意味していた。

「…………」

 その歓声をスタジアムの外から聞いていた万丈目は、一枚のカードを眺めていた。そのカードには何の絵柄も入っておらず、漆黒で塗りつぶされたような姿をしており、元来の万丈目のカードではない。

「ナンバーズカードか……」

 それは預かっていた《ナンバーズ》のカード。デュエル中に使い手の心に従って現れるというそれは、まだ何の効果も絵柄も現れてはおらず。三沢が異世界から命がけで手に入れてきた、というこのカードを、万丈目は仲間たちから託されていた。

『頼むぜ、万丈目』

「万丈目、さんだ」

 遊矢にナンバーズを託された時のことを思い出しながら、万丈目はニヤリと笑ってカードをエクストラデッキに送る。そしてデュエルディスクをセットすると、スタジアムの前に現れたもう1人の人物に対し構えた。

「悪いがここは、この万丈目サンダーが通さん!」

「…………」

 ミスターT。ダークネスの尖兵として聞いていたソレは、万丈目に向かって見たことのないデュエルディスクを構え、すぐさまデュエルの準備を完了させた。

『万丈目のアニキぃ……あんなおっかない奴に本当に勝てるのぉ……?』

「ええい、いい加減覚悟を決めろ! これがオレたちの、この学園でのラストデュエルだ!」

 未だに泣き言を言ってのける三兄弟たちに活を入れ、万丈目もデュエルの準備を完了させる。万丈目が背後にしたスタジアムでは、ダークネスの世界に攻め込む為の準備が着々と進んでおり、そこを通しては作戦の失敗を意味していた。

「そしてそれと同時に、これから世界にその名を轟かす、万丈目サンダーの初陣だ! さあ――」

『デュエル!』

万丈目LP4000
ミスターTLP4000

 自分以外にも、スタジアムの入口を守る仲間たちが、攻めてきた敵に戦いを始めただろう。そんな中で自分が真っ先に負けるわけにいくかと、万丈目は気迫をもって先攻を呼び込んだ。

「オレはモンスターをセット! カードを二枚伏せ、ターンを終了する!」

「私のターン、ドロー」

 この日のために、万丈目は最強のデッキを組み上げてきたつもりだ。だが敵となるミスターTは、《ナンバーズ》を主軸とする共通点を除けば、そのデッキは変幻自在だと聞いている。一挙手一投足を見逃すまいと、まずは万丈目は守備を固めていた。

「私は《セイバー・シャーク》を召喚。さらに魚族モンスターが召喚したターン、《シャーク・サッカー》は特殊召喚出来る」

 そしてあっという間に、エクシーズ召喚の条件たる二体のモンスターを並べてみせたが、そのレベルは4と3。とはいえ、そんな初歩的なミスをするような相手ではなく。

「《セイバー・シャーク》の効果。フィールドの魚族モンスターのレベルを1上げる。《シャーク・サッカー》のレベルを1上げ、オーバーレイ!」

 魚族のレベルを変更する効果を持つ《セイバー・シャーク》を利用し、レベル4の魚族モンスター二体で、早速にエクシーズ召喚の準備を整えてみせる、そして二体の魚族モンスターが光球に生まれ変わり、新たなモンスターとなって生まれ変わる。

「エクシーズ召喚! 《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》!」

 そしてエクシーズ召喚されたモンスターは巨大なクラゲと、普段の万丈目ならば一笑にふすような外見のモンスター。ただしその威圧感は、万丈目にどうしようもなく警戒心を与えていた。

「バトル。ステルス・クラーゲンでセットモンスターに攻撃!」

「破壊されたモンスターは《仮面竜》! よってデッキから、《アームド・ドラゴンLV3》を特殊召喚する!」

 万丈目がセットしていた守備モンスターは、ステルス・クラーゲンの触手に捕縛され、そのまま飲み込まれてしまったものの。破壊された《仮面竜》はリクルーターであり、万丈目の主力モンスターの一つ、《アームド・ドラゴンLV3》が特殊召喚される。

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー! そしてこの瞬間、アームド・ドラゴンは、LV5に進化する!」

 スタンバイフェイズとなり、先のターンに特殊召喚されていた《アームド・ドラゴンLV3》は、自身の効果により《アームド・ドラゴンLV5》へと進化する。これによって攻撃力1900の《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》の攻撃力を超え、レベルアップの条件たる戦闘破壊も可能となる。

「……オレは《アームド・ドラゴンLV5》の効果を発動! 手札を一枚捨てることで、相手モンスターを破壊する! デストロイド・パイル!」

 しかし万丈目は相手モンスターの効果破壊を優先し、《アームド・ドラゴンLV5》から撃ち出された弾丸は、容赦なく《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》を破壊してみせた。

「続いて、《アームド・ドラゴンLV5》でダイレクトアタック!」

「おっと。先に《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》の効果発動。このカードが破壊された時、エクシーズ素材の数だけ、墓地とエクストラデッキから同名モンスターを特殊召喚出来る!」

 しかし破壊したと思ったのも束の間、破壊されたはずの《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》は増殖し、二体のモンスターとなって万丈目の前に立ちはだかった。アームド・ドラゴンLV5の効果は、ただ《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》を二体に増やすのみに終わったのだ。

「そして破壊された《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》のエクシーズ素材は、増殖したステルス・クラーゲンに分割配置される」

「くっ……小賢しい! アームド・ドラゴンLV5、アームド・バスター!」

「だが……再生する」

 アームド・ドラゴンの咆哮とともに放たれた一撃に、またもや《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》はあっけなく破壊されてしまう。ただし、その特異な効果によってエクシーズ素材は失っておらず、再びミスターTのフィールドに《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》は再生する。

「そして破壊された《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》のエクシーズ素材は、特殊召喚された《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》のエクシーズ素材となる」

「だがターン終了時、モンスターを戦闘破壊したことにより、アームド・ドラゴンは進化する! 現れろ、《アームド・ドラゴンLV7》!」

 そして一度《アームド・ドラゴンLV5》の効果によって破壊された際、守備表示で特殊召喚された為に、戦闘破壊されようとミスターTにダメージはない。ただし、相手モンスターを戦闘破壊したことにより、万丈目のアームド・ドラゴンもレベル7へと進化を果たしていた。

「私のターン、ドロー」

 戦況は五分五分――と見せかけて、万丈目には不穏な感情がどうしても拭えなかった。万丈目のフィールドには、主力モンスターの一角たる《アームド・ドラゴンLV7》に、リバースカードが二枚。対するミスターTのフィールドには、不死の特性を持った《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》が二体に、リバースカードが一枚。

「私は《アームズ・ホール》を発動。通常召喚権とデッキトップを対価に、装備魔法をサーチし《アームド・ドラゴンLV7》に装備させて貰おう」

「何?」

 《アームズ・ホール》の効果に関しては、万丈目はかの【機械戦士】使いを通して、憎たらしいほど分かっていた。そしてミスターTのデッキから、《アームド・ドラゴンLV7》に装備された魔法カードは――

「この装備魔法《幻惑の巻物》は、装備モンスターの属性を変更出来る」

 《アームド・ドラゴンLV7》に装備された魔法カードは、装備モンスターの属性を変更させる《幻惑の巻物》。それ単体では何の意味もなさないカードだが、組み合わせることで一撃必殺の威力を誇るカードとなる。

「そして《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》は、エクシーズ素材を墓地に送ることで、水属性モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

 もちろん選択されるのは水属性――そして《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》は、相手の水属性モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える効果がある。進化したアームド・ドラゴンの攻撃力は、2800――と万丈目が戦慄する間にも、《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》の一撃が《アームド・ドラゴンLV7》を貫いた。

「では2800ポイントのダメージを……ん?」

「甘いな。オレはリバースカード、《レベル・ソウル》を発動していた! このカードは自分フィールドのモンスターをリリースすることで、墓地のモンスターをレベルアップさせる!」

 《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》の一撃が、《アームド・ドラゴンLV7》を殺し尽くすより前に。万丈目のリバースカード、《レベル・ソウル》によって《幻惑の巻物》ごとリリースされ、辛うじて《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》の効果から逃れていた。

「現れろ、伝説の頂点! 《アームド・ドラゴンLV10》!」

 《アームド・ドラゴンLV5》の効果によって、墓地に送られていた《アームド・ドラゴンLV7》。罠カード《レベル・ソウル》により、墓地でのレベルアップを果たし、早くも最強のアームド・ドラゴンが降臨する。もちろん属性は水属性ではなく、《幻惑の巻物》もない今、《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》の効果も通用しない。

「ふむ……ならばリバースカードを発動しよう。発動した《バブル・ブリンガー》はこのカードを墓地に送ることで、墓地からレベル3以下の水属性・同名モンスターを二体、特殊召喚出来る」

 ミスターTのフィールドに伏せられていたのは、レベル4以上のモンスターの直接攻撃を封じる永続罠《バブル・ブリンガー》。そして第二の効果として、《バブル・ブリンガー》自身を墓地に送ることで、墓地のレベル3以下かつ水属性の同名モンスターを、二体まで特殊召喚する効果を持つ。

「さらに水属性モンスターが特殊召喚されたことで、手札から《シャーク・サッカー》を特殊召喚する」

 そしてミスターTのフィールドには、あっという間に三体の《シャーク・サッカー》が並んでいた。《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》のエクシーズ素材となった一体目と、《アームズ・ホール》のコストで墓地に送られていた二体目に、今し方手札から特殊召喚された三体目。

「三体の《シャーク・サッカー》でオーバーレイ!」

 《アームズ・ホール》のデメリット効果により、通常召喚が封じられているにもかかわらず、ミスターTはここまで自由自在にフィールドを操ってみせる。さらにそこまでで終わりではなく、三体の《シャーク・サッカー》を使い、エクシーズ召喚として新たなナンバーズを呼びだす土壌とした。

「エクシーズ召喚。《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》!」

 新たに特殊召喚されたのは、巨大な蝉のような姿をしたナンバーズ。とはいえ《アームド・ドラゴンLV10》に適う効果や攻撃力は持っていないのか、守備表示での降臨となった。

「《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》も守備表示のまま。カードを一枚伏せ、ターン終了」

「オレのターン、ドロー!」

 三体の守備表示のナンバーズと、一枚のリバースカード。明らかに守備を固めてきたミスターTに対し、《アームド・ドラゴンLV10》を擁する万丈目の戦術は、ドローするまでもなく決定していた。

「《アームド・ドラゴンLV10》の効果を発動! 手札を一枚捨てることで、相手モンスターを全て破壊する! デストロイド・パニッシャー!」

 最終進化を果たした《アームド・ドラゴンLV10》の前には、ミスターTのフィールドのモンスターは全て破壊されるも同然だった。万丈目の手札コストによって、《アームド・ドラゴンLV10》は動き出す――

「《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》の効果を発動」

 ――ことはなかった。ミスターTのフィールドに新たに現れていたナンバーズ、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》の超音波のような鳴き声が放たれると、《アームド・ドラゴンLV10》はその動きを止めてしまう。

「《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》は、エクシーズ素材を一つ取り除くことで、相手モンスターの効果を無効にし、守備力を500ポイントアップさせる」

 相手モンスターの効果が発動した際に、エクシーズ素材を一つ代償にその効果を無効にする、という効果を持った《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》。その効果により《アームド・ドラゴンLV10》の効果は封じられてしまい、さらに守備力も3000と攻撃による突破も不可能となった。

「……だが、墓地に送られた《おジャマジック》の効果は発動する! このカードが墓地に送られた時、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加える!」


 しかし万丈目とてタダでは転ばず、手札コストを利用して《おジャマジック》を墓地に送ることで、手札におジャマ三兄弟を加えてみせる。《アームド・ドラゴンLV10》での現状の突破は不可能だが、万丈目は手札に加えたおジャマ三兄弟を一瞥する。

「さらに《おジャマ・ゲットライド》を発動! 手札からおジャマ三兄弟を墓地に送ることで、デッキから機械族・光属性モンスターを、三体まで特殊召喚!」

 そして強力なサポートカードに繋ぎ、万丈目のフィールドには三体の機械族モンスターが特殊召喚される。攻撃と効果の発動こそ封じられているものの、その三体のモンスターのみにしか出来ない手段があった。

「オレは三体のモンスターを融合! 合体せよ、《XYZ-ドラゴン・キャノン》!」

 X、Y、Z。三体の機械族モンスターが合体し、《XYZ-ドラゴン・キャノン》として万丈目のフィールドに降臨する。本来なら【アームド・ドラゴン】と【VWXYZ】、それらのデッキを万丈目は使い分けていたが、このダークネスとの決戦において同時に扱えるように構築した。

「《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果! 手札を一枚捨て、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》を破壊する! ハイパー・デストラクション!」

「おっと……《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》の効果を発動!」

 そしてその甲斐あって二体の主力モンスターは並び立ち、《XYZ-ドラゴン・キャノン》は、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》にその砲塔を向けた。しかし再びローカスト・キングが超音波を発し、《XYZ-ドラゴン・キャノン》もまた、その動きを止めてしまう。

「言い忘れていたが、一ターンに一度などという誓約はなくてね。ローカスト・キングは、さらに守備力をアップさせる」

「……オレは魔法カード《アドバンスドロー》を発動! レベル8モンスター、つまり《XYZ-ドラゴン・キャノン》を墓地に送り、二枚ドローする!」

 《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》の守備力は3500に到達し、さらにエクシーズ素材をまだもう一つ残している。まさか一ターンに二度まで、という効果ではあるまい――と、万丈目は毒づきながら、レベル8モンスターをコストに二枚のカードをドローする《アドバンスドロー》により、《XYZ-ドラゴン・キャノン》を代償に二枚のカードをドローする。

「ならばそのエクシーズ素材、使い切らせてやるわ! 永続魔法《異次元格納庫》を発動し、《X-ヘッド・キャノン》を召喚する!」

 《アドバンスドロー》によって得た手札で、万丈目は二枚のカードを展開する。一枚目は永続魔法《異次元格納庫》と、このカードは発動時の処理で、デッキから三枚のユニオンモンスターを除外する効果を持つ。

「そして《X-ヘッド・キャノン》が召喚されたことにより、《異次元格納庫》の効果を発動! 対応するユニオンモンスターを、除外ゾーンから特殊召喚する!」

 除外ゾーンに送られるだけでは意味をなさないが、ここからが《異次元格納庫》の本領だ。フィールドに《X-ヘッド・キャノン》が召喚されたことで、除外ゾーンに送っていた対応するユニオンモンスター――すなわち、《X-ヘッド・キャノン》と合体できる、《Y-ドラゴン・ヘッド》と《Z-メタル・キャタピラー》が除外ゾーンから特殊召喚され、三体のXYZモンスターが再びフィールドに並ぶ。

「合体だ、《XYZ-ドラゴン・キャノン》!」

 つい先程《アドバンスドロー》でリリースされたのも束の間、二体目の《XYZ-ドラゴン・キャノン》が万丈目のフィールドに現れる。合体能力を持つマグネットモンスターの本領を見せ、もう一度《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》に砲塔を向ける。

「《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果! 手札を一枚捨て、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》を破壊する!」

「ローカスト・キングはエクシーズ素材を一つ取り除き、相手モンスターの効果を無効にし、守備力を500ポイントアップさせる!」

「だが、これでエクシーズ素材は使い切った! 伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動!」

 もちろん《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果の発動は、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》の効果無効効果に阻まれ、ローカスト・キングの守備力は4000と太刀打ち出来る数字ではなくなった。しかし万丈目の攻撃はまだ終わらず、伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動し、まだまだミスターTを攻め立てていく。

「墓地から蘇生するのは《V-タイガー・ジェット》! よって《異次元格納庫》の効果により、除外ゾーンから《W-ウィング・カタパルト》を特殊召喚する!」

 効果を無効にされると分かっていながら発動し、コストとして墓地に送っていた《V-タイガー・ジェット》が蘇生し、《異次元格納庫》により《W-ウィング・カタパルト》が特殊召喚される。これで《異次元格納庫》によって除外したモンスターはなくなったが、充分すぎるほどに効果を発動した。そして新たに現れた、VとWの名を冠した二体のマグネットモンスターもまた、その能力を活かして合体していく。

「《V-タイガー・ジェット》と《W-ウィング・カタパルト》で合体! 《VW-タイガー・カタパルト》!」

 合体する二体のマグネットモンスター。戦闘機のようにも見えるそのモンスターの効果は、手札を一枚捨てることで、相手モンスターの表示形式を変更するカードだが――その効果を発動する必要はない。

「さらに《XYZ-ドラゴン・キャノン》と、《VW-タイガー・カタパルト》を合体! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》!」

 そして降臨する、五体合体の《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》。先にフィールドにいた《アームド・ドラゴンLV10》と並び、二体の切り札が万丈目のフィールドに並び立った。その威圧感はミスターTのフィールドのナンバーズにも負けておらず、圧倒的な攻撃を加え始める。

「まずは《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の効果! 一ターンに一度、相手のカードを除外する! その邪魔なクラゲには消えてもらおう!」

 まず標的となったのは、エクシーズ素材を持った《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》。エクシーズ素材を持っている場合、不死の特性を持ったナンバーズだったが、除外の前には何の意味も成さなかった。

「バトル! VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノンで、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》に攻撃する!」

「だがローカスト・キングの守備力は4000」

 そしてエクシーズ素材を使い切った《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》に攻撃を仕掛けるが、ローカスト・キングはその効果によって守備力を4000にまで増しており、さしもの《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》でも突破出来ない。

「守備力がいくらあろうが無駄だ! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》と戦闘するモンスターは、その表示形式を強制的に変更される! VWXYZ-アルティメット・デストラクション!」

「ぐっ……!?」

ミスターT LP4000→2200

 戦闘する相手モンスターの表示形式を変更する、という《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の効果により、《No.3 地獄蝉王ローカスト・キング》は破壊され、ミスターTに初のダメージが入る。初期ライフの半分を削る爆発に加え、さらに万丈目にはまだ攻撃するモンスターが残っている。

「さらに《アームド・ドラゴンLV10》で、《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》に攻撃! アームド・ビッグ・パニッシャー!」

 守備表示であるためにダメージはないが、《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》もエクシーズ素材がないため、墓地からの蘇生効果を使うことは出来ない。万丈目の攻勢により、ミスターTのフィールドはリバースカードを一枚残すのみとなった。

「オレはこれでターンエンド」

「私のターン、ドロー」

 そして万丈目のフィールドには《アームド・ドラゴンLV10》と《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》という、二種類の切り札クラスのモンスターを残したまま、ミスターTのターンへと移る。しかしそんな状況だろうと、ミスターTにはまるで慌てる様子はなく。

「私は伏せてあった《エクシーズ・リボーン+》を発動。このカードをエクシーズ素材にすることで、墓地のエクシーズモンスターを特殊召喚する。蘇れ、《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》!」

 ミスターTのフィールドに伏せられていた、最後のリバースカード《エクシーズ・リボーン+》により、《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》がエクシーズ素材を持ったまま蘇生される。とはいえ、その効果は水属性モンスターを相手にしか使えず、不死の効果を使って壁モンスターにしようにも、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の前には無力だ。

「そして《エクシーズ・リボーン+》は、エクシーズ素材となったこのカードを墓地に送る代わりに、カードを二枚ドロー出来る……そして私は《スター・ブラスト》を発動」

 ミスターTも《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》を主軸に攻め込む気は毛頭なかったらしく、蘇生カード《エクシーズ・リボーン+》の効果により、エクシーズ素材をコストに二枚のカードをドローする。そして発動された魔法カードは、上級モンスターをサポートする魔法《スター・ブラスト》。

「ライフポイントを500ポイント払い、私は手札のモンスターのレベルを1下げる。そして《No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン》をリリースし、レベル6となった《超古深海王シーラカンス》をアドバンス召喚させてもらう」

ミスターT LP2200→1700

 《スター・ブラスト》の発動コストにより、万丈目とのライフポイントの差がさらに開いていく。しかしてその代償に等しく、一体のリリースで魚族の切り札クラスのモンスターである、《超古深海王シーラカンス》のアドバンス召喚に成功する。攻撃力こそ万丈目の二体のモンスターに及ばないものの、その効果は万丈目のモンスターに勝るとも劣らない。

「《超古深海王シーラカンス》の効果。手札を一枚捨てることで、デッキから下級魚族モンスターを可能な限り特殊召喚する」

 既にフィールドは一つ《超古深海王シーラカンス》で埋まっているため、四体の魚族モンスターを手札一枚をコストにデッキから特殊召喚する、という効果とほぼ同義。まるで最初から《超古深海王シーラカンス》の巨大な影に隠れていたように、レベル4の《セイバー・シャーク》が二体、《ツーヘッド・シャーク》が二体特殊召喚される。

「私はそれぞれ二体のモンスターでオーバーレイ!」

 奇しくも万丈目が使った《おジャマ・ゲットライド》の効果で特殊召喚された、《XYZ-ドラゴン・キャノン》の融合素材のマグネットモンスターのように。ミスターTの《超古深海王シーラカンス》の効果で特殊召喚された魚族は、攻撃宣言も効果の発動も出来ないが――エクシーズ素材に使うことは可能だ。それぞれ二体ずつが光球に生まれ変わっていき、新たなナンバーズとなって生まれ変わる。

「エクシーズ召喚。《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》!」

 二体のサメ型ナンバーズ。エクシーズ素材となった魚族を正しく強力にしたようなその二種が、《超古深海王シーラカンス》とともに万丈目と対峙する。

「希望織竜か……笑わせる!」

「ならば望み通りにしてあげよう。スパイダー・シャークで、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に攻撃する。スパイダー・トルネード!」

 攻撃力の劣るスパイダー・シャークによる攻撃に、名前を皮肉る余裕のあった万丈目も身構える。ヒレから起こした旋風がスパイダー・シャークから放たれると、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の鋼の身体が錆びついていく。

「スパイダー・シャークの効果。自分のモンスターが攻撃する時にエクシーズ素材を取り除き、相手モンスター全ての攻撃力を1000ポイントダウンさせる!」

「なに!?」

 いや、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》だけではなく。同じ攻撃力3000を誇っていた、《アームド・ドラゴンLV10》も同様だった。どちらの攻撃力も1000ポイントダウンし、《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》の攻撃力以下の数値となり、まずは《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》の方から破壊されてしまう。

「くっ……!」

万丈目LP4000→3400

 かすり傷程度ではあるものの、万丈目にも初めてのダメージが与えられる。さらにミスターTのフィールドには、未だにモンスターが残っているのだ。

「さらにもう一体の《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》で、《アームド・ドラゴンLV10》に攻撃!」

「ぐあっ!」

万丈目LP3400→2800

 さらにただライフポイントを削られた、という訳ではなく。二体の切り札をまとめて破壊された、という覆せない事実は、万丈目の精神的に重くのしかかった――しかし、今は精神的なことを考えるより。

「さて……終わりかな?」

 万丈目のフィールドはがら空き――無意味にフィールドに残り続ける《リビングデッドの呼び声》はあるが――という状況で、狙ったかのように万丈目のライフポイントと、ミスターTのフィールドに残る攻撃モンスター《超古深海王シーラカンス》の攻撃力は同じ。万丈目に打つ手はなく、あとは《超古深海王シーラカンス》のダイレクトアタックで決着がつく――筈だったが。

「…………?」

 ミスターTは、そこにはいないはずのモンスターの姿を見た。

「オレは墓地から《おジャマーキング》の効果を発動していた! このカードを墓地から除外することで、フィールドのモンスターが破壊された時、墓地からおジャマモンスターを特殊召喚できる!」

『おいら、ふっか――えぇぇ!? なに!? この状況なに!?』

 先のターンで《XYZ-ドラゴン・キャノン》の効果で墓地に送られていた、墓地から除外することで効果を発揮する罠カード《おジャマーキング》の効果により、墓地から《おジャマ・イエロー》が守備表示で特殊召喚される。絶体絶命の危機を救いに駆けつけてくれたエースに、万丈目は全幅の信頼を持って微笑んだ。

「壁だ!」

「……《超古深海王シーラカンス》で、《おジャマ・イエロー》に攻撃」

 そして《超古深海王シーラカンス》の起こす濁流に巻き込まれ、何を言う暇もなく《おジャマ・イエロー》は破壊された。しかし万丈目にダメージはなく、ミスターTもメインフェイズ2に移行する。

「私は魔法カード《スリー・スライス》の効果を発動。フィールドのモンスターをリリースし、そのレベルの数になるよう、デッキからモンスターを特殊召喚出来る」

 対象を《超古深海王シーラカンス》に定めて、魔法カード《スリー・スライス》が発動される。対象のモンスターのレベルが9なら、レベル3のモンスターを三体。レベル4なら、レベル2のモンスターを二体――割り切れるようにデッキからモンスターを特殊召喚する、という効果を持つ魔法カード《スリー・スライス》。そして《超古深海王シーラカンス》は、魔法カード《スター・ブラスト》の効果により、現在のレベルは6――よって、レベル2のモンスターが三体がデッキから特殊召喚される。

「レベル2の《ホワイト・ドルフィン》を素材に、オーバーレイ!」

 そして《超古深海王シーラカンス》をコストに特殊召喚されたのは、何でもない通常モンスターである《ホワイト・ドルフィン》。レベル2ということもあって、ステータスもまるで戦闘には耐えられないが、それが三体並べばエクシーズ素材となる。

「エクシーズ召喚。《No.2 蚊学忍者シャドー・モスキート》!」

 守備表示で現れる新たなナンバーズに、万丈目は警戒を強めておく。これでミスターTのフィールドには、またもや三体のナンバーズがあっという間に並び、《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》に《アームド・ドラゴンLV10》に破壊された分は、簡単に建て直したと言っても過言ではないだろう。

「さらに《エクシーズ・ギフト》を発動し、カードを二枚ドローし、ターンエンド」

 最後に自分フィールドのエクシーズ素材をコストに、カードを二枚ドローする魔法カード《エクシーズ・ギフト》により、ミスターTは手札を補充しながらターンを終了する。

「オレのターン、ドロー! ……《マジック・プランター》を発動し、カードを二枚ドローする!」

 そして万丈目のターンに移るや否や、ミスターTへの意趣返しのように、《マジック・プランター》によってカードを二枚ドローしてみせた。コストは無意味にフィールドに残り続けていた、永続罠である《リビングデッドの呼び声》でだ。
「ふん……貴様がどんなナンバーズをいくら特殊召喚しようと、オレ様のエースの前には無意味だ! 《トライワイトゾーン》を発動! 蘇れ、おジャマ三兄弟!」

 墓地のレベル2の通常モンスターを三体特殊召喚する、というもはや専用サポートにも等しい魔法カード《トライワイトゾーン》により、《おジャマ・ゲットライド》の効果で墓地に送られていた、おジャマ三兄弟が今度は三体とも一斉に特殊召喚される。そしてこの三兄弟が揃った時、万丈目が発動する魔法カードは決まっていた。

「《おジャマ・デルタ・ハリケーン》を発動! さぁ、お前たちの力を見せてやれ、おジャマ三兄弟!」

『おジャマ・デルタ・ハリケーン!』

 おジャマ三兄弟が肩を組んで高速回転しながら、ミスターTのフィールドの上空に飛翔する。するといつしか、空中で高速回転していたおジャマ三兄弟は、光の輪のようなものとなっていた。

 そしてそこから放たれた衝撃波は、ナンバーズであろうと何であろうと、問答無用で全てを破壊する。幸か不幸か、ミスターTのフィールドには何も伏せられていなかったが、それは魔法・罠カードも例外ではない。

「さらに――ん?」
 しかしフィールドに残ったおジャマ三兄弟に、更なる行動を命じようとしていた万丈目は、ミスターTのフィールドに残る一体のモンスターを見た。《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》――全て破壊され尽くしたフィールドに、そのナンバーズのみ残っていた。

「《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》は破壊された時、一度だけ墓地のモンスターを特殊召喚できる」

「……ならば魔法カード《置換融合》を発動! フィールドのおジャマ三兄弟を融合し、《おジャマ・キング》を融合召喚する!」

『おジャマ究極合体!』

 またもや万丈目の前に立ちはだかる、破壊された際に墓地から特殊召喚されるナンバーズに、万丈目は発動する魔法カードを変える。フィールドのモンスターを融合する魔法カード《置換融合》によって、おジャマ三兄弟が時空の渦に吸い込まれていく。

『おジャマ・キ~ング!』

「《おジャマ・キング》がフィールドにいる時、相手のフィールドを三つまで使用不能にする!」

 そしてフィールドに舞い戻った《おジャマ・キング》が、ミスターTのフィールドに判子を押していくと、そのフィールドは《おジャマ・キング》がいる限り使用不能となった。

「これで貴様の新たなナンバーズの召喚は封じられた! ターンエンドだ!」

「私のターン、ドロー」

 万丈目が言ったことはあながち間違いではない。二体の同レベルモンスターを揃えなくてはいけないエクシーズ召喚だったが、ミスターTのフィールドは三つが《おジャマ・キング》の効果で塞がれ、残る一つはレベルの持たない《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》で埋められている。

「どうかな。私はリバースカードを一枚伏せ、魔法カード《浮上》を発動する」

「何だと……?」

 そして《おジャマ・キング》を処理しようにも、《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》の攻撃力では、守備表示の《おジャマ・キング》には及ばない。だがミスターTは不敵な笑みを浮かべてカードをセットしながら、下級水属性専用蘇生カード《浮上》によって、墓地から《シャーク・サッカー》を特殊召喚する。これでミスターTのフィールドは埋まり、エクシーズ召喚どころか通常の召喚さえままならない――

「私は二体のモンスターをリリースし、《破壊竜ガンドラ》をアトバンス召喚する!」

 ――アトバンス召喚を除いては。ミスターTがエクシーズ召喚を主軸としていたため、まるでアトバンス召喚の可能性を考えていなかった万丈目の前に、全身に鏡を張り付けた凶悪な風貌の竜がアトバンス召喚された。

「私はライフの半分を糧に、《破壊竜ガンドラ》の効果を発動。フィールドの全てのカードを、ゲームから取り除く。デストロイ・ギガ・レイズ!」

ミスターT LP1700→850

 万丈目のフィールドの《おジャマ・キング》、永続魔法《異次元格納庫》。そしてミスターTのフィールドに伏せられた、一枚のリバースカードが《破壊竜ガンドラ》の全身から放たれた光線に射抜かれ、その身は墓地どころか除外されてしまう。

「さらに除外ゾーンから罠カード《エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ》を発動する」

「除外ゾーンから罠カードだと!?」

 その特異な発動条件に、流石の万丈目も驚きを露わにする。わざわざ自らのカードを《破壊竜ガンドラ》の効果に巻き込んだのは、罠カード《エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ》の発動条件を満たすためだったのだ。

「この罠カードが除外された時、デッキからレベル8の水属性モンスターを二体、特殊召喚できる。現れろ、《エンシェント・シャーク ハイパー・メガロドン》!」

 そして発動された効果は、デッキからレベル8の水属性モンスターを二体特殊召喚する、という派手な効果。その効果の通り、最上級モンスターが二体、ミスターTのフィールドに現れるものの、巨大な身体はピクリとも動くことはなかった。

「《エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ》で特殊召喚したモンスターは、攻撃に効果の発動、リリースが封じられる、が……」

 ――エクシーズ素材となることを封じ手はおらず、これでミスターTのフィールドには、三体のレベル8モンスターが揃っていた。

「私はレベル8の《破壊竜ガンドラ》と、《エンシェント・シャーク ハイパー・メガロドン》二体でオーバーレイ!」

 エースモンスターの代名詞とも言えるレベル8モンスター、それはそのレベル8モンスターを素材とする、ランク8モンスターも同様だった。それが三体ものモンスターを素材とし、闇とともにミスターTのフィールドに舞い降りた。

「エクシーズ召喚。《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》!」

 ――その外見は悪魔そのものだった。神話に記された蠅の悪魔、その姿のままに、万丈目の前に降臨した。

「《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》がエクシーズ召喚に成功した時、相手のエクストラデッキのモンスターを一体、墓地に送ることが出来る」

「貴様……!」

 バアル・ゼブブの眷属たる巨大な蠅が万丈目のデュエルディスクに殺到し、屈辱的な表情を隠さない万丈目に構わず、そのエクストラデッキのカードを空中に勢いよくバラまいていく。万丈目のエクストラデッキは、主におジャマとVWXYZの融合モンスターが占めていたが――一枚だけ、ミスターTの目に留まるカードがあった。

「ほう……ナンバーズ……」

 万丈目のエクストラデッキの中にある、唯一の漆黒のカード。そのカードにはまだ絵柄も名前もなく、ただ使用者の心を映す鏡となっていた。

「私はナンバーズ・カードを選択」

 だがナンバーズ・カードは力を発揮する前に、ミスターTがバアル・ゼブブの効果に選択したことにより、万丈目の墓地に送られてしまう。それ以外のエクストラデッキのモンスターは、デュエルディスクに戻っていくものの――まだミスターTが狙いは終わりではなかった。

「そしてバアル・ゼブブは、1ターンに一度、相手の墓地のナンバーズを、自身のエクシーズ素材として吸収する」

「なに!?」

 墓地に送られていたナンバーズ・カードだったが、それだけでは済まずに。墓地から発生した蠅とともに、バアル・ゼブブのエクシーズ素材として吸収されてしまい、墓地と違って再利用はほぼ絶望的となってしまう。

「くそっ……!」

 このデュエルを迎えるにあたって、万丈目は託されたナンバーズ・カードを当てにしていなかった、と言えば嘘になる。しかして万丈目が毒づく理由は、ナンバーズ・カードを使えなくなってしまったことではなく。

 自分を信じてあのナンバーズ・カードを託してくれた仲間に、この体たらくでは申し訳がたたないからだった。

「さて……決着といこうか」

 そして万丈目の屈辱はよそに。切り札クラスのナンバーズが特殊召喚されたミスターTとは違い、万丈目のフィールドは《破壊竜ガンドラ》の効果によって、その全てを除外されてしまっている。しかし万丈目に、屈辱心はあれども、恐れる心など――一片たりとも存在しなかった。

「《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》で攻撃。ゾディアコ・ヴィテ!」

「オレは手札から《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了させる!」

 そのモンスターは、かつて遊矢とトレードしていたモンスター。彼が自在に扱ってみせるように、《速攻のかかし》は《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》からの一撃を防いでみせ、万丈目はフィールドはがら空きながら何とか耐え抜いた。

「ほう……私はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 とはいえ、危機的な状況が維持されていることに変わりはない。万丈目は覚悟を決めてカードを引くものの、もはやアームド・ドラゴンもVWXYZもおジャマ三兄弟も墓地。望んだ手札を得ることは出来ない。

「墓地から《置換融合》の効果。このカードを除外することで、融合モンスターをエクストラデッキに戻し、カードを一枚ドロー出来る!」

 しかしまだ万丈目に諦めの心はない。墓地から一枚ドローさせる《置換融合》により、墓地の融合モンスターをエクストラデッキに戻しながら、カードを一枚ドローする。このカードで融合召喚した《おジャマ・キング》は除外されてしまっているが、まだ万丈目の墓地にはVWXYZ融合モンスターが存在していたからだ。

「……オレは三枚のカードをセット! そして魔法カード《地獄宝札》を発動! 手札がこのカードのみの場合、カードを三枚ドロー出来る!」

 そして万丈目は賭けに出る。手札を一枚残したのみでカードを全て伏せ、さらなるドロー加速カード《地獄宝札》を発動する。ただし三枚のカードをドローするカードの条件が、手札にこのカードだけという条件のみで済むわけがなく。特定のモンスターを召喚出来なければ、自身に3000ポイントのダメージを与える、という強烈なデメリット効果。

 その特定のモンスターとは――

「来い! 《地獄戦士》!」

 ――かつて万丈目が使用していた、地獄モンスターに他ならない。アームド・ドラゴンやVWXYZ、おジャマ三兄弟が、このアカデミアでの日々で手に入れた力ならば、この【地獄】デッキは万丈目そのものの力。

「……オレはこれで、ターンエンド」

 それが今、最強の敵を前にして、万丈目を守るように立ちはだかっていた。フィールドを制圧している《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》を破壊する力はないものの、《地獄戦士》はその特性で持ってミスターTの首元に食らいついていた。


「私のターン……ドロー……」

 万丈目のフィールドには攻撃表示の《地獄戦士》に、リバースカードが三枚、残るライフポイントは2800ポイント。対するミスターTは、フィールドには切り札クラスのナンバーズこと《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》のみ。リバースカードは一枚で、残るライフポイントは850。

 デュエルは最終局面を迎えていた。

「…………」

 ナンバーズを擁して絶対的に有利な筈のミスターTも、今回ばかりは慎重そうな様子を見せていた。不利な筈の相手が、下級モンスターを攻撃表示のまま召喚し、その後ろには三枚のリバースカードも控えている、という状況もそうだが。

「どうした? 攻撃してこないのか?」

 何よりも万丈目が頼りにしていたのは、攻撃表示で召喚された《地獄戦士》の効果。その効果は攻撃された際に、受けた戦闘ダメージを相手プレイヤーにも与えるという効果。もしも《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》で《地獄戦士》を攻撃すれば、残りのライフポイントの関係で、ライフポイントの少ないミスターTの敗北が決定する。

「《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》の効果。エクシーズ素材を一つ取り除くことで、相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

「――――!」

 ただし、それは戦闘ダメージに限った話だ。《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》は、相手モンスターを破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える効果を発動し、《地獄戦士》に波動の一撃を放つ。

「――かかったな!」

「……?」

万丈目LP2800→1600

 《地獄戦士》はその効果の前に破壊されてしまい、万丈目にその攻撃力分のダメージが与えられるとともに、フィールドはがら空きになってしまうが――万丈目は笑っていた。むしろ、目論見通りだと言わんばかりに。

「リバースカード、オープン! 《ヘル・ブラスト》!」

 万丈目の三枚のリバースカードのうち一枚が発動し、バアル・ゼブブが《地獄戦士》を破壊した波動が、その発動したカードの中に吸い込まれていく。

「《ヘル・ブラスト》の効果。自分のモンスターが破壊された時、フィールドの攻撃力が最も低いモンスターを破壊し、お互いにその攻撃力分のダメージを受ける!」

 フィールドにいるのはミスターTの《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》のみ。よって《ヘル・ブラスト》の対象となる、フィールドで最も攻撃力の低いモンスターは――攻撃力3000を誇る《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》。その攻撃力の半分、よって1500ポイントのバーンダメージがお互いに与えられる。

「――終わりだ!」

 《ヘル・ブラスト》のカードに封じられていたバアル・ゼブブの一撃が、万丈目とミスターT、二つに別れてそれぞれに放たれた。万丈目のライフは1600、ミスターTのライフポイントは850――

「ぐっ!」

万丈目LP1600→100

 奇跡のように万丈目のライフポイントは100ポイントだけ残り、万丈目に襲いかかる《ヘル・ブラスト》の処理は終了する。そしてミスターTにも、バアル・ゼブブの一撃が返っていく――

「墓地から《ダメージ・ダイエット》の効果を発動!」

ミスターT LP850→100

 ――だが、奇跡は万丈目にのみ起こるものではない。墓地から除外することで効果ダメージを半減する罠カード《ダメージ・ダイエット》により、ミスターTのライフポイントもまた、謀ったように100ポイントのみ残っていた。墓地に送ることの出来たタイミングは、《超古深海王シーラカンス》の手札コスト。

「さらに速攻魔法《エクシーズ・ダブル・バック》を発動。エクシーズモンスターが破壊された時、墓地からそのエクシーズモンスターと、そのエクシーズモンスターより攻撃力の低いモンスターを特殊召喚できる」

 そしてミスターTの手札から発動された、新たな速攻魔法《エクシーズ・ダブル・バック》の効果により、フィールドに《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》はフィールドに舞い戻る。さらに《エクシーズ・ダブル・バック》の効果により、バアル・ゼブブより攻撃力が低い、《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》も共に。

「残念だったようだね。バトル。《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》で攻撃」

「……いや。オレは《ヘル・ブラスト》の効果ダメージを受けた時、《ダメージ・メイジ》の効果を発動していた! 受けたバーンダメージの数値だけライフを回復し、このモンスターを守備表示で特殊召喚する!」

万丈目LP100→1600

 《ヘル・ブラスト》による奇襲は失敗に終わり、あくまでフィールドにのみこだわるのならば、ただ万丈目の状況が悪くなっただけだった。しかして万丈目も諦めずに、手札から《ダメージ・メイジ》を特殊召喚してライフを回復してみせるが、すぐさま《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》に破壊された。

「さらに《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》でダイレクトアタック!」

「リバースカード、《体力増強剤スーパーZ》! 2000ポイント以上のダメージを受ける時、4000ポイントのライフを回復す……ぐあああっ!」

万丈目LP1600→5600→2600

 《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》の直接攻撃が炸裂してしまうが、《体力増強剤スーパーZ》の効果により、万丈目のライフポイントは何とか守られ、ミスターTはメインフェイズ2に移行する。バアル・ゼブブの一撃から万丈目が起きあがるとともに、ミスターTは新たな魔法カードを発動した。

「私は《サルベージ》を発動。墓地から二体のレベル3以下の魚族モンスターを手札に加え、伏せてあった《ナンバーズ・オーバーレイ・ブースト》を発動する」

 魔法カード《サルベージ》により、手札に二体の魚族モンスターが加えられるとともに、伏せてあった《ナンバーズ・オーバーレイ・ブースト》が発動される。その罠カードの効果によって加えられた二枚のモンスターは、《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》のエクシーズ素材となった。

「さらに《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》の効果。相手の墓地のナンバーズを、このモンスターのエクシーズ素材とする」

「……素材ばかり集めて、どうする気だ」

 さらに自身の効果も合わせて、《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》は、破壊される前のエクシーズ素材の数を取り戻す。ただし万丈目が懐疑的に問いかけたように、ただエクシーズ素材を回収しても、万丈目のフィールドにバアル・ゼブブの効果を発動する相手はもういない。

 さらに《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》と《No.37 希望織竜スパイダー・シャーク》を蘇生した速攻魔法《エクシーズ・ダブル・バック》は、その効力はエンドフェイズという誓約があるため、次の万丈目のターンには墓地に送られてしまう。

 
「エクストラデッキに眠るこのカードは、エクシーズ素材を二つ以上持つランク8闇属性エクシーズを素材に、エクシーズ召喚出来る。現れろ、《No.84 ペイン・ゲイナー》!」

 そして万丈目の問いかけに対しての答えのように、特異なエクシーズ召喚条件を持つナンバーズ《No.84 ペイン・ゲイナー》をエクシーズ召喚してみせた。バアル・ゼブブすらも前座だったということか――と身構える万丈目の目の前で、《No.84 ペイン・ゲイナー》すらも光球となっといく。

「そしてこのナンバーズもまた、闇属性のランク10モンスターを素材に、エクシーズ召喚出来る」

 奇しくも、万丈目の考えていたことは当たっていた。先のターンで万丈目を苦しめた《No.1 インフェクション・バアル・ゼブル》どころか、今まさに現れた《No.84 ペイン・ゲイナー》すらもだ。

「化天を司る糸よ。儚き無幻となりて、我が滅び行く魂を導け。エクシーズ召喚! 現れろ! 《No.77 ザ・セブン・シンズ》!」

 四体のモンスターを素材にエクシーズ召喚される、七つの大罪をモチーフとしたミスターTの切り札。不幸中の幸いとして、ミスターTのバトルフェイズは終了しているため、その真髄を発揮するのは次なるターンからだ。

「オレのターン、ドロー!」

 そしてミスターTのフィールドには攻撃力4000を誇る《No.77 ザ・セブン・シンズ》のみで、残るライフポイントは100。だが万丈目の直感は告げていた――あの《No.77 ザ・セブン・シンズ》を破壊しなくては、このデュエルに勝利はないと。

「魔法カード《おジャマンダラ》! 1000ポイントのライフを払い、墓地からおジャマ三兄弟を特殊召喚する!」

万丈目LP2600→1600

 そして万丈目がラストターンだと決心すると、最後に特殊召喚されるはやはりこのモンスターたち。専用蘇生カードを使うことによって、再び万丈目のフィールドに現れた。

「さらにリバースカード、オープン! 《おジャマ・デルタ・ハリケーン》! 相手のカードを全て破壊する! いけ、お前ら!」

 もはやおジャマ三兄弟も泣き言を言うこともなく。最後まで残していた、必殺のリバースカードが開かれた。

「おジャマ・デルタ――」

『――ハリケーン!』

 全てを破壊するおジャマ三兄弟による決死の一撃が、再びミスターTのフィールドを襲い、万丈目は――

「な……」

 ――まるで何事もなかったかのように立つ、《No.77 ザ・セブン・シンズ》の姿を見た。

「《No.77 ザ・セブン・シンズ》は、エクシーズ素材を一つ取り除き、あらゆる破壊を無効にする」

 いくつものナンバーズを経由して現れた《No.77 ザ・セブン・シンズ》には、まだエクシーズ素材が三つ残っている。つまりあと三回までは、《おジャマ・デルタ・ハリケーン》すら意にも返さない破壊耐性効果を発動することが出来ると、残る手札は一枚の万丈目に突破することは不可能だった。

「オレは……」

 ターンエンド。万丈目の脳裏にその一言が刻み込まれる。ミスターTのフィールドにはセブン・シンズが一体のみに対して、万丈目のフィールドは守備表示のおジャマ三兄弟。次のターンくらいは壁として耐えられる可能性もある……

『……万丈目のアニキ?』

「……バカかオレは! 攻め込まないで勝てるデュエルがあるものか!」

 そんな弱気な思考を、おジャマ三兄弟から向けられた視線に気づいて振り切ると、万丈目は一枚の魔法カードをデュエルディスクにセットした。

「オレは魔法カード《馬の骨の対価》を発動! フィールドの通常モンスターをリリースすることで、カードを二枚……ドローする!」

 通常モンスターである《おジャマ・ブラック》をリリースし、万丈目はデッキからカードを二枚ドローする。自らを守ってくれるモンスターを捨て、デッキの中から可能性を掴む行動に出た万丈目が掴んだ、二枚のカードは――

「通常魔法《強制解放》を発動! フィールドのエクシーズモンスターの素材を、全て持ち主の墓地に送る!」

「何?」

 まずはエクシーズ素材を取り除く魔法カード《強制解放》により、ミスターTの《No.77 ザ・セブン・シンズ》のエクシーズ素材は全て墓地に置かれた。元々、エクシーズ素材がなければバニラ同然であるエクシーズモンスター――ナンバーズ対策に投入されたカードだったが、目論見通りの活躍となった。

「そしてオレは最後の手札! 《死の床からの目覚め》を発動する!」

 万丈目の最後の手札――魔法カード《死の床からの目覚め》は、墓地のモンスターを手札に戻すという、《死者転生》と同様の効果。ただし手札コストの代わりに、相手プレイヤーに二枚カードをドローさせる、という相互互換的なカードであり、ミスターTにはカードを二枚ドローさせてしまう。

「……何を手札に加えようと、セブン・シンズに勝てるモンスターはいたかな?」

「オレが手札に加えるモンスターは――」

 しかし、どうせ万丈目の手札は0。このターンで決着をつける気ならば、相手に二枚ドローさせるのもさしたるデメリットではない。万丈目の墓地には確かに、セブン・シンズを破壊できる可能性を持ったモンスターが眠ってはいるが、その多くは召喚に条件を持つ。手札に加えただけで召喚することは出来ず、その状況下で万丈目が選ぶカードは。

「こいつだ!」

 万丈目が高々と掲げる一枚のカードには――何の絵柄も書かれていなかった。

「ナンバーズ――!」

「返して貰ったぞ! このオレに託された力をな!」

 すなわち、白紙のナンバーズ・カード。先の《強制解放》の効果は、セブン・シンズの破壊耐性効果を無効化するだけではなく、このナンバーズ・カードを取り戻すためでもあった。

「行くぞ! 《おジャマ・イエロー》と《おジャマ・グリーン》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 仲間に託された力を取り戻し、フィールドに残った二体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築。魔法陣とともに溢れんばかりの力がフィールドを支配し、雷光がフィールドに轟いていく。

「黒き雷光よ! 今こそ迷宮を突き破り、世界にその響きを轟かせ! エクシーズ召喚!」

 そして万丈目の手の内にあったナンバーズ・カードに、デュエルモンスターズらしいカードの体裁が整っていく。万丈目はそれを一瞥してニヤリと笑い、それをデュエルディスクに設置しながら、その名を声高く轟かせた。

「――《No.64 古狸三太夫》!」

 茶釜の姿から薙刀を持った鎧武者に変形していき、遂にその姿をフィールドに現した。しかして鎧を着込んでいるのは狸のようであり、そのサイズは明らかに小さく、まるでセブン・シンズには及ばない。

「古狸三太夫の効果発動! エクシーズ素材を一つ取り除き、影武者狸トークンを特殊召喚する!」

 その効果はトークン生成効果。まるで増殖したかのように、本体と瓜二つの影武者狸トークンが特殊召喚された。

「そして影武者狸トークンは、フィールドの最も高い攻撃力を持ったモンスターと、同じ攻撃力を持つ!」

「な――――」

 ミスターTの驚愕の声も束の間、今の今まで小さな狸だった影武者狸トークンが、まるで今までが幻だったように変化していく。全身に悪魔のような意匠を施した、幾つもの眼を持った銀色の悪魔――《No.77 ザ・セブン・シンズ》、そのものの姿へと。

「バトル! 影武者狸トークンで、《No.77 ザ・セブン・シンズ》に攻撃!」

「……迎え撃てセブン・シンズ! ジェノサイドスパイダーシルク!」

 ミスターTの攻撃命令とともに、お互いのフィールドのセブン・シンズが破壊し合う。悪魔のような破壊の爪跡がお互いのフィールドに刻まれていき、いつしか二体のセブン・シンズは、どちらからともなく消えていた。

「トドメだ……」

 ――そして残るは、万丈目のフィールドの《No.64 古狸三太夫》のみ。

「古狸三太夫で、ダイレクトアタックだ!」

「――――」

ミスターTLP100→0


「万丈目、サンダー!」

 観客がいないことと身体全体に襲いかかる疲労から、自らの異名を叫ぶだけの簡易的な勝利宣言。たまらずデュエルスタジアムの壁によりかかった万丈目は、信じられない者を見た。

「…………」

 今し方倒して、ライフポイントを0にしてみせたミスターT。それらが何人もに分身して、万丈目をニヤリと笑いながら睨みつけていたからだ。

「……いいだろう」

 再びデュエルスタジアムを守るように立った万丈目は、再びデュエルディスクを展開させる。対するミスターTたち全てに向け、万丈目は負けじとニヤリと笑って言ってのけた。

「何人でも相手にしてやる! この万丈目サンダーがな!」

『デュエル!』

 
 

 
後書き
【アームド・ドラゴンVWXYZおジャマ地獄】デッキ。略して【万丈目サンダー】

万丈目のデュエルは、どれも書いていて楽しかった覚えがあります。アニメの万丈目の描写も入れる予定でしたが、長いのでカット 

 

―ティアドロップ―

「融合召喚! 《サイバー・ブレイダー》!」

 二種類のモンスターが時空の穴に吸い込まれ、そこから銀盤の女王《サイバー・ブレイダー》が融合召喚される。そのモンスターを扱うのは、当然ながら天上院明日香という名のデュエリスト。気丈に立つ彼女の傍らに、フィールドを滑走する《サイバー・ブレイダー》がピタリと付いた。

「助太刀はありがたいが天上院くん! 他の場所は大丈夫なのか?」

 デュエルアカデミアのステージ入口。明日香と同じように、《おジャマ・キング》をフィールドに召喚している万丈目が、助けに来てくれた明日香に礼を言いながらもよそを心配する。ダークネスの軍勢と戦っているのは、なにもこの万丈目が戦っている場所だけではないのだから。

「大丈夫よ。あの二人がいるから」

「あの二人……?」

 明日香が言う『あの二人』というのを万丈目は一瞬だけ考えていたが、彼女がそこまで全幅の信頼を置く人物は多くない。それもコンビというのならば、それが指している人物たちは――

「……なら貴様等は、ここで大人しくしていてもらおうか!」

 明日香にそこまで言わしめる二人を、万丈目は少し羨ましく思いながら、対戦相手の方へと向き直った。ミスターTと呼ばれるダークネスの尖兵の、その大軍とデュエルをしていた万丈目だったが――すでにデュエルは終わっていた。

『いやー、すいませんねー。おジャマしちゃって』

 ミスターTのフィールドには、いずれも《おジャマトリオ》による三体のおジャマトークンが居座っており、残る二種類のモンスターカードゾーンは、《おジャマ・キング》の効果によって封じられている。

「《サイバー・ブレイダー》、第三の効果。パ・ド・カドル。相手モンスターが三体の時、全てのカード効果を無効にするわ」

 それだけでは、ただモンスターカードゾーンを使用不能にしたにすぎないが、そこに明日香の《サイバー・ブレイダー》の効果が発動する。三体の《おジャマトリオ》が存在する限り、ミスターTはあらゆるカードの効果の発動を無効にされるが、カードの発動が出来なければ《おジャマトリオ》の排除は不可能。自爆特攻をしようにも、《おジャマ・キング》も《サイバー・ブレイダー》も守備表示のため、ダメージを受けるのみで《おジャマトリオ》は破壊されない。

「あとは……頼んだわよ……」

 ここにはいない『彼』のことを案じながら、明日香は祈りを込めて呟いた。

 ――藤原優介、という人物を知る者は少ない……いや、この世界にはいなかったと言っていい。過去のトラウマから、自らダークネスと尖兵になった彼は、世界から自らという存在を消し去ったのだ。

「やあ藤原。久しぶりじゃないか」

 しかしアカデミアには、彼の存在を知る者がいた。かつてアカデミアで競い合った、ライバルである――二人。

「スパーリングは充分だ。三年越しのデュエルといくか」

「吹雪……亮……」

 アカデミアのデュエル場に続く、万丈目が守るメイン通路とは違う、使われることの少ない対戦者用の通路。そこで待ち構えていたのは、丸藤亮と天上院吹雪――アカデミアのカイザーとキングだった。

「そうか……クク。ここに向かった連中が、跡形もなく消えていると思えば……」

「まあ、キミと戦う前の肩慣らしにはなったかな?」

 吹雪の軽口に小さく笑いながら、藤原は暗がりから二人に姿を現した。その姿はアカデミアから消えた時からまるで変わらなかったが、雰囲気は大きく変わっていた。快活とした優男だった彼は見る影もなく、漆黒のオーラを――ダークネスを背負っていた。

「お節介焼きだった吹雪はともかく……亮までいるとはな」

「吹雪のお節介焼きが感染したか……いや。やるか」

「ああ。二人がかりで来い」

「それじゃあ、遠慮なく」

 もはや語る言葉など不要だった。少ない言葉だけを聞けば、まるで世界の行く末をかけたデュエルとは思えないほどだったが、三人の雰囲気が言葉の代わりに語っていた。

 隙を見せた人物から消し飛ぶ、そんな確信を抱かせる雰囲気を。

『デュエル!』

藤原LP8000
吹雪&亮LP8000

 藤原の二人がかりで来い、という発言から、変則タッグフォースルールによるデュエルとなる。フィールド、墓地、ライフポイントを全て共有し、藤原は二人分のライフポイントからスタートとなる。

「俺の先攻」

 そしてデュエルディスクが選んだ先攻は藤原。五枚のカードを手札に加えると、最初からすべきことは決まっていたかのように、すぐさま行動を開始していた。

「モンスターをセット。さらにカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「じゃあ亮、お先に。僕のターン、ドロー!」

「ああ」

 セットモンスターとリバースカードを二枚伏せてターンを終了する、という守勢に向いた初手。シンプル故に強い、相手に自らのデッキを悟られないその布陣に、吹雪は思索を巡らせながらカードを引く。

 藤原のアカデミアの頃のデッキは、光属性の戦士族ビートダウン。とはいえ今の藤原のデッキは、かつてと同じデッキではないだろう。

「僕は《竜の霊廟》と《レッドアイズ・インサイト》を発動!」

 ならばやはり、ダークネスの軍勢が使う『ナンバーズ』を主軸としたデッキか。そう当たりをつけた吹雪は、まず通常魔法《竜の霊廟》によって二体のドラゴン族を墓地に送り、《レッドアイズ・インサイト》によってさらにレッドアイズモンスターを墓地に送り、さらにレッドアイズのサポートカードも手札に加える。

「そして《思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《真紅眼の黒竜》!」

「来たか……レッドアイズ……」

 そして《思い出のブランコ》によって特殊召喚されたのは、《竜の霊廟》によって墓地に送られていた、吹雪の象徴とも言えるモンスター《真紅眼の黒竜》。初手から出してきたエースモンスターに、藤原は何を思ってか笑みを深めた。

「さらに《伝説の黒石》を通常召喚。このモンスターは、自身をリリースすることで、デッキからレッドアイズを特殊召喚出来る!」

 さらに通常召喚されたのは、真紅に輝く竜の卵《伝説の黒石》。その外見通りにレッドアイズを特殊召喚する効果を持ち、召喚されるやいなや、自身を孵化させていき――産まれたのは、新たなレッドアイズ。

「デッキから《真紅眼の黒炎竜》を特殊召喚し、バトル!」

 デッキから特殊召喚されたのは、既にフィールドに存在するレッドアイズとは細部が異なる《真紅眼の黒炎竜》。とはいえステータスなどは一致しており、初手に二体のレッドアイズを揃えてみせた吹雪は、レッドアイズたちに攻撃を命じてみせた。

「《真紅眼の黒炎竜》でセットモンスターに攻撃! ダーク・メガ・フレア!」

「破壊されたモンスターは《クリアー・キューブ》。このモンスターは破壊された時、デッキから同名モンスターを特殊召喚する」

 《真紅眼の黒炎竜》の攻撃に正体を見せたのは、吹雪に亮も見たことのないモンスター《クリアー・キューブ》。その効果は単純にリクルート効果らしく、新たな《クリアー・キューブ》が守備表示で特殊召喚された。

「……続いて《真紅眼の黒竜》で攻撃しよう」

「三体目の《クリアー・キューブ》を特殊召喚」

 二体目のレッドアイズの攻撃が《クリアー・キューブ》を爆散させるものの、すぐさま新たな《クリアー・キューブ》がデッキから生成される。同名モンスター縛りのため、あれが最後の一枚の筈だったが、吹雪にこれ以上攻め手はない。

「メインフェイズ2。僕は二体のレッドアイズで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 結果的に藤原の二枚のリバースカードを使わせることも出来ずに、二体のレッドアイズの攻撃は簡単に防がれてしまう。藤原の腕は変わっていないようだ――と思いながら、藤原はレッドアイズに新たな力を見せろ、と命じる。


「闇より深き深淵より目覚めし、其は、真紅の瞳輝く竜! エクシーズ召喚! 《真紅眼の鋼炎竜》!」

 エクシーズ召喚の力を取り入れたレッドアイズのいななきが、フィールドに対して響き渡っていく。これでエンドフェイズに自壊するという《思い出のブランコ》のデメリット効果もなく、レッドアイズはフィールドに健在のままだ。

「だが吹雪。そのエクシーズ召喚の前に、俺は《リミット・リバース》を発動させてもらった。墓地から《クリアー・キューブ》を特殊召喚する」

 ただし変化が起こっていたのは吹雪のフィールドだけではなく、藤原のフィールドにも二体目の《クリアー・キューブ》が蘇生されていた。何かを狙っている様子だったが、吹雪の手札にそれを止める手段はない。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 最初のターンの攻防が終わり、吹雪のフィールドは《真紅眼の鋼炎竜》に二枚のリバースカード。藤原のフィールドは《クリアー・キューブ》が二体に、発動済みの《リミット・リバース》にリバースカードが一枚。

「俺は二体の《クリアー・キューブ》で、オーバーレイ!」

 《クリアー・キューブ》は攻撃的も守備力も0、効果も同名モンスターのリクルートという守備向けの効果だが――藤原のフィールドには、レベル1のモンスターが二体揃っていた。それらはやはりエクシーズの素材となっていき、吹雪たちに新たな『ナンバーズ』の降臨を予感させた。

「全てを吸い込む闇よ。変幻自在に姿を変えよ! エクシーズ召喚! 《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》!」

 ――召喚されたのは『闇』だった。闇そのものとしか形容出来ない、深く深く沈んでいく漆黒。もはやモンスターとも呼べないソレは、それでも確かに『ナンバーズ』の名を冠していた。

「《ナンバーズ・アーカイブ》は、自らをエクシーズ素材にすることで、その身を新たなナンバーズに変化させる……!」

「なるほど。アーカイブ、か……だけどタダではやらせない。《真紅眼の鋼炎竜》は、相手モンスターが効果を発動した時、500ポイントのダメージを与える! ダーク・フレア!」

藤原LP8000→7500

 《アーカイブ》の名に相応しい、他のナンバーズに変身するという効果を持つナンバーズ、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》。相手プレイヤーの効果の発動に連動して発動する、《真紅眼の鋼炎竜》のバーン効果が藤原を焼くものの、ナンバーズ・アーカイブの効果の発動自体は止められず。

「《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》!」

 闇は、新たなナンバーズとして転生した。

「っ……!」

 本来ならばデッキの切り札となり得るその威圧感に、吹雪は身を震わせる。攻撃力4000を誇る闇から産まれた竜は、その漆黒に濁った瞳でレッドアイズを睥睨した。

「ダークマター・ドラゴンがエクシーズ召喚に成功した時、俺はドラゴン族モンスターを三体墓地に送ることで、相手はデッキのモンスターを三枚除外する」

「……だけどその効果を発動した時、《真紅眼の鋼炎竜》の効果で500ポイントのダメージだ」

藤原LP7500→7000

 《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》の効果による特殊召喚だったが、どうやらエクシーズ召喚扱いになるらしく、吹雪のデッキから三枚のモンスターが除外される。だが吹雪とて地道ながらもただやられている訳ではなく、《真紅眼の鋼炎竜》の効果は藤原のライフポイントを着実に削っていく。

「墓地に送られた《エクリプス・ワイバーン》は、デッキのドラゴン族モンスターを除外できる……さらにダークマター・ドラゴンは、エクシーズ素材を一つ取り除くことで、二回の攻撃が可能となる!」

藤原LP7000→6000

 しかし藤原は、ライフポイントへのダメージに構わず効果を発動していく。墓地で発動された《エクリプス・ワイバーン》はまだともかく、ダークマター・ドラゴンの効果は、シンプルながら強力な二回攻撃であり――ライフポイントが8000であるタッグフォースルールだろうと、脅威的な効果に変わりはなく。

「バトル! 壊滅のダークマター・ストリーム!」

「ぐっ……!」

吹雪&亮LP8000→6800

 藤原にダメージを与え続けていた《真紅眼の鋼炎竜》は、ダークマター・ドラゴンの放った闇の奔流によって、破壊を周囲に撒き散らしながら消えていった。さらに問題と言えるのは――ダークマター・ドラゴンが、未だにその行動を終えていないところか。

「ダークマター・ドラゴンの二回攻撃、ダイレクトアタックだ!」

「くっ……リバースカード、オープン! 《レッドアイズ・スピリッツ》!」

 吹雪が伏せていた二枚のカードのうち一枚が開き、そのカードの中から《真紅眼の黒竜》がフィールドに舞い戻った。発動された《レッドアイズ・スピリッツ》の効果は、墓地のレッドアイズモンスターを特殊召喚する効果だったが、壁にしかならずダークマター・ドラゴンに破壊された。

「……チィ。カードをさらに一枚伏せ、ターンを終了する」

 それでもダークマター・ドラゴンの攻撃を防いだことに変わりはなく、紙一重のところで攻撃力4000の二回攻撃を防ぐことに成功する。しかし一枚のリバースカードを伏せ、藤原はターン終了の宣言をしたところ、ダークマター・ドラゴンは再びいななき始めた。

「《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》の効果で特殊召喚されたモンスターは、ターン終了時に除外される。光が来れば闇は消え失せるように」

 ダークマター・ドラゴンが叫んでいるのは苦悶の声。ナンバーズ・アーカイブによってフィールドに現れるナンバーズは、その出自から完璧な状態にはほど遠く、エンドフェイズ時には除外されてしまう。

「だが闇は――ダークネスはこの世界を覆う。光が来ることはない! リバースカード、オープン!」

 ――今までは。

「《王宮の鉄壁》、か。……俺のターンだ」

 藤原が発動したリバースカードは《王宮の鉄壁》。お互いにカードを除外できなくなる罠カードであり、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》のデメリット効果も、《王宮の鉄壁》によって封殺される。しかも《王宮の鉄壁》を破壊しようとも、もはやナンバーズ・アーカイブのデメリット効果は発動しない。

「ドロー!」

 そして吹雪、藤原のターンを経て、遂に亮のターンにたどり着く。藤原のフィールドは、攻撃力4000を誇る《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》に、永続罠《王宮の鉄壁》に一枚のリバースカード。

 亮のフィールドに残るは、吹雪が伏せたカード一枚のみ。そこで亮が取る手段は。

「俺は《未来破壊》を発動! 手札の枚数分、俺は自分のデッキの上からカードを墓地に送る」

 自らのデッキを破壊することだった。魔法カード《未来破壊》によって、初期手札五枚分のカードを墓地に送ると、さらに魔法カードを発動する。

「さらに《サイバー・ダーク・インパクト》を発動!」

「サイバー・ダーク……? サイバー・ドラゴンはどうした、カイザー?」

「すぐに分かる。《サイバー・ダーク・インパクト》は、墓地のサイバー・ダークモンスターを三種類デッキに戻すことで、融合を果たす!」

 異世界の一件から亮のデッキに投入されている、裏サイバー流こと【サイバー・ダーク】。今の今までアカデミアを去っていた藤原が知る由もなく、亮は不敵な笑みを返しながらも、《未来破壊》で墓地に送られた三枚のサイバー・ダークを融合していく。

「ならば俺は、《エクシーズ・リボーン》を発動! このカードをエクシーズ素材に、墓地からエクシーズモンスターを特殊召喚する!」

 藤原のフィールドに伏せられていたリバースカードが開示され、亮のサイバー・ダークたちの融合より早く、藤原の墓地からエクシーズモンスターが蘇生する。藤原の墓地にエクシーズモンスターは一種類しかおらず、蘇生されたモンスターは必然的に決まっていた。

「現れろ《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》! そしてその姿を変えよ!」

「こっちのターンでも発動出来るのか!?」

 吹雪の驚愕の声とともに、ナンバーズ・アーカイブは先のターンと同様に、その姿を他のナンバーズへと変化させていく。対して亮のフィールドでも、三種類のサイバー・ダークが一度バラバラになり、その姿を巨大な巨影と成していた。

「融合召喚! 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》!」

「エクシーズ召喚! 《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》!」

 お互いの二体のモンスターが同時に召喚され、フィールド内に振動を巻き起こす。どちらも曰わくを持った闇のカードらしく、相手のフィールドを威圧するオーラを放つ。

「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の効果! このモンスターが融合召喚に成功した時、墓地のドラゴン族モンスターを装備し、そのモンスターの攻撃力を得る! ……吹雪、使わせてもらう」

 本来ならば、前もって装備するドラゴン族モンスターを墓地に送っておくところだが、今回は吹雪とのタッグデュエル。既に墓地にはレッドアイズモンスターがおり、サイバー・ダーク・ドラゴンの牙がレッドアイズを捕らえていく。

「甘い! 《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》の効果を発動! 相手のレベル5以上のモンスターの効果を、ターン終了時まで無効にする! ソウル・デベロップ!」

 ただしその牙がレッドアイズを捕らえよるより早く、藤原のフィールドに現れた新たなナンバーズ、フォーカス・フォースの光線がサイバー・ダーク・ドラゴンに放たれた。その効果は、相手モンスターの効果を無効にする効果であり、サイバー・ダーク・ドラゴンの装備効果ももちろん例外ではない。

「おっと! 伏せといた《禁じられた聖杯》を発動!」

「何!?」

 ただしフォーカス・フォースの光線が、サイバー・ダーク・ドラゴンに届くことはなく。吹雪のリバースカードに防がれ、光線はどこへともなく消滅する。

「《禁じられた聖杯》の対象となったモンスターは、効果が無効化される!」

「《真紅眼の鋼炎竜》を装備し、その攻撃力を得る」

「……たがダークマター・ドラゴンの攻撃力には及ばない!」

 《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》の効果を無効化する効果を、《禁じられた聖杯》による無効化効果の無効化により、サイバー・ダーク・ドラゴンの効果は無事に発動する。墓地に眠っていた《真紅眼の鋼炎竜》の力を取り込んだが、それだけでは《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の攻撃力には及ばない。

「ああ、まだだ。サイバー・ダーク・ドラゴンは、墓地に存在するモンスター×100ポイント、攻撃力がアップする。よって攻撃力は4200」

 だが《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の効果はそれだけではなく、このデュエル序盤では微々たるものだが、それでもダークマター・ドラゴンの攻撃力を超える。《未来破壊》によって送られた亮のモンスター二体と、吹雪の二体のレッドアイズが、サイバー・ダーク・ドラゴンに力を与えていく。

「バトル。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で、ダークマター・ドラゴンに攻撃! フル・ダークネス・バースト!」

「チッ……!」

藤原LP6000→5800

 効果とリバースカードを使い切ったせめぎ合いを制し、亮の《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は、藤原の《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》を破壊してみせた。エクシーズ素材が残っている《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》より、その高い攻撃力を誇ったダークマター・ドラゴンを警戒し、亮は先に破壊することを選ぶ。

「俺はモンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー! ……《強欲で貪欲な壺》を発動! デッキトップからカードを十枚裏側で除外することで、カードを二枚、ドローする!」

 そして藤原が使ったカードは、デッキトップからカードを十枚裏側で除外する、という強烈なデメリットを代償に二枚のドローを果たすカード。裏側で除外されれば再利用出来るカードは数える程しかなく、十枚ともなればデッキ切れの可能性も出て来るが、どうやら藤原は最初からデッキ枚数を増やしたデッキらしく。

「《イービル・ゾーン》を召喚し、効果を発動!」


 藤原のフィールドに召喚された魔界の植物は、藤原の命によってすぐさま種子を破裂させて爆散する。飛び散った種子は亮と吹雪を襲うだけではなく、新たな植物を生やす土壌となっていく。

「《イービル・ソーン》は自身をリリースすることにより、300ポイントのダメージを相手に与え、さらにデッキから二体の《イービル・ソーン》を新たに特殊召喚出来る」

吹雪&亮LP6800→6500

 つまり亮と吹雪にダメージを与えながらも、藤原のフィールドには二体のモンスターが召喚される。さらに《イービル・ソーン》の効果を発動することも可能だが、藤原の狙いはそこではない。

「《イービル・ソーン》二体でオーバーレイ! 《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》をエクシーズ召喚!」

 レベル1モンスターである《イービル・ソーン》によって現れる、二体目――フィールドに現れたというだけなら三体目の、藤原の主力モンスター《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》。そして闇は、新たなナンバーズを生み出していく。

「ナンバーズ・アーカイブのエクシーズ素材を取り除き、現れろ! 《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》!」

 そして闇は、人型の戦車となって現出した。現れた新たなナンバーズは、その砲身をサイバー・ダーク・ドラゴンへと向ける。

「チャリオッツの効果。このターン、相手に与える戦闘ダメージを半分にすることで、相手モンスターとセットカードを一枚ずつ破壊する!」

「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は、装備モンスターを墓地に送ることで、破壊を免れる!」

 チャリオッツの放った一撃は、その一撃のみで《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》と、亮が先のターンに伏せたセットカードを破壊する。サイバー・ダーク・ドラゴンは、装備していた《真紅眼の鋼炎竜》を身代わりに防ぐが、セットしていた《決闘融合-バトル・フュージョン》はそうもいかずに破壊されてしまう。

「決闘融合か……いいカードを破壊したらしい」

「…………」

 さらに破壊を免れたとは言えども、装備していた《真紅眼の鋼炎竜》が破壊されたことにより、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力は大きく減じる。自身の効果によるパンプアップのみとなり、下級モンスタークラスの1500となってしまい、もちろん藤原の二体のナンバーズに及ぶべくもない。

「バトル! フォーカス・フォースでサイバー・ダーク・ドラゴンを攻撃!」

「サイバー・ダーク……」

吹雪&亮LP6500→5950

 そしてサイバー・ダーク・ドラゴンは破壊されてしまうものの、他でもないチャリオッツの効果によって、亮たちが受ける戦闘ダメージは半分となっている。崩れ落ちていくサイバー・ダークを見ながら、亮はダメージに耐えてみせた。

「さらにチャリオッツでセットモンスターに攻撃し、ターンを終了する」

「破壊されたモンスターは《サイバー・フェニックス》。このカードが戦闘破壊された時、カードを一枚ドローする」

 藤原のナンバーズの猛攻によって、再び亮と吹雪のフィールドにモンスターは消えた。これで藤原のフィールドには、《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》と《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》という二体のナンバーズと、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》のデメリット効果を消す永続罠《王宮の鉄壁》。

「すまない、吹雪。モンスターだけでも残すつもりだったが……」

「なに、お互い様さ。僕のターン、ドロー!」

 亮と吹雪のフィールドには、亮が伏せていたリバースカードが一枚という状況で、ターンは吹雪へと移行した。

「僕は《紅玉の宝札》を発動! 手札からレッドアイズを捨て二枚ドローし、さらにデッキからレッドアイズモンスターを墓地に送る!」

 専用サポートカード《紅玉の宝札》の効果により、手札の交換と墓地肥やしをしてみせ、吹雪は一時だけ手札を見て考えにふける。そして一瞬の後、新たな魔法カードをデュエルディスクにセットした。

「僕は《闇の量産工場》を発動! 墓地の通常モンスターを二体、手札に加え……《融合》を発動!」

「《融合》、か……!」

 レッドアイズに出来るのは、先のターンで見せたエクシーズモンスターだけではなく。可能性の竜という別名通りに、《闇の量産工場》によってサルベージされた二体のレッドアイズが、新たなモンスターへと生まれ変わっていく。

「融合召喚! 《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》!」

 融合素材となった新たなレッドアイズ、《真紅眼の凶星竜-メテオ・ドラゴン》の意匠を受け継ぎ、まるで不死鳥の如く進化を遂げたレッドアイズ。それが《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》であり、全身に炎を纏って燃え上がりながらも飛翔する。

「流星竜の効果! 融合召喚に成功した時、デッキからレッドアイズモンスターを墓地に送ることで、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」

「だが、まだフォーカス・フォースのエクシーズ素材は残っている! ソウル・デペロップ!」

 ただし流星竜の効果が発動するより早く、藤原の《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》の効果が発動する。相手ターンだろうとエクシーズ素材を一つ取り除くだけで、レベル5以上の相手モンスターを無効にする効果を持つフォーカス・フォースの前には、流星竜だろうと効果の発動は不可能。

「おっと残念。なら《アトバンスドロー》を発動。レベル8モンスター、つまり流星竜を墓地に送ることで、僕は二枚のカードをドローする」

 そして《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》に効果を無効にされたと見るや、あっさりと吹雪は流星竜を《アトバンスドロー》によってリリースし、すぐさまドローへと変換する――ただし流星竜は、ここからが真髄とも言えた。

「流星竜が墓地に送られた時、墓地からレッドアイズを特殊召喚出来る。現れろ、《真紅眼の黒竜》!」

「何!?」

 流星竜が墓地に送られた時、新たなレッドアイズをフィールドに残す。燃え盛る竜が消えていくと、その場には新たな真紅の瞳を持つ黒竜がフィールドに現れていた。

「さらに《思い出のブランコ》で《真紅眼の黒炎竜》を蘇生し、二体のレッドアイズでエクシーズ召喚! 《真紅眼の鋼炎竜》!」

 最初のターンに引き続き、新たに特殊召喚されるレッドアイズ・エクシーズモンスター。変幻自在に現れるレッドアイズモンスターたちは、まだ終わりではない。

「《真紅眼の鋼炎竜》の効果。エクシーズ素材を一つ取り除き、墓地からレッドアイズモンスターを特殊召喚出来る! 再び蘇れ、《真紅眼の黒竜》!」

 《真紅眼の鋼炎竜》の更なる効果により、もはや何度目になるか分からない《真紅眼の黒竜》の特殊召喚が成されるが、このままでは藤原の《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》には適わない。故にまだ吹雪の手が止まることはなく、新たな魔法カードをデュエルディスクにセットした。

「魔法カード《融合回収》を発動し、墓地から《融合》カードと融合に使ったモンスターを回収し、そのまま《融合》を発動する!」

 《融合回収》によってつい先程使われたばかりの、《融合》魔法カードと融合素材となった《真紅眼の凶星竜-メテオ・ドラゴン》が回収され、再びフィールドの《真紅眼の黒竜》とともに融合していく。魔法カード《融合回収》のサルベージ効果だけではなく、《真紅眼の鋼炎竜》の蘇生効果も絡めているため、この融合召喚の実質的な手札消費は0。二体のレッドアイズが融合していき、フィールドに現れるモンスターはもちろん。

「その燃え盛る翼をもって、再びこのフィールドに飛翔せよ! 《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》!」

「くっ……!」

 《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》による妨害もこともなげに、フィールドに揃った《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》に《真紅眼の鋼炎竜》という、融合とエクシーズ、二対のレッドアイズに藤原は歯噛みする。

「流星竜の効果! デッキから《真紅眼の黒炎竜》を墓地に送り、その攻撃力の半分、1200ポイントのダメージを与える!」

藤原LP5800→4600

 デッキから呼び出した《真紅眼の黒炎竜》の力を借りた炎が炸裂し、藤原のライフを遂に半分まで削る。さらに二体のレッドアイズは藤原のナンバーズの攻撃力を上回っており、さらに戦闘態勢に入っていく。

「《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》で、フォーカス・フォースに攻撃! メテオ・ダイブ!」

「ぐあっ!」

藤原LP4600→3900

 流星竜の攻撃は、単純に自らの質量を込めた体当たり。だがその燃え盛る翼と巨大な質量を持って、あらゆるものを破壊する一撃となる。

「さらに《真紅眼の鋼炎竜》で、チャリオッツに攻撃する!」

藤原LP3900→3600
 そしてエクシーズとなり進化した《真紅眼の鋼炎竜》もまた、通常のレッドアイズから力を増している。これで藤原の二体のナンバーズ、《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》と《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》は破壊され、藤原のフィールドに残るカードは《王宮の鉄壁》のみ。

「僕は……これでターンエンド」

「俺のターン、ドロー! なかなかやるじゃないか、吹雪ぃ……」

 ドローしたカードを確認しながら、藤原は吹雪に向かって敵愾心を込めながら笑いかける。確かにそのフィールドは《王宮の鉄壁》のみだったが、その手札は未だに潤沢であった。さらに墓地には《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の効果で墓地に送った、三体のドラゴン族モンスターが存在しているが、これまでの藤原はドラゴン族を使用していない。

「そろそろか」

「ああ……!」

 つまり、まだ藤原は手の内を見せていない。ただ《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》による小手調べをしていたのみで、亮に吹雪もこれが藤原の本気だとはまるで思っていなかった。

「俺は《死者蘇生》を発動! 墓地から――」

「《死者蘇生》の発動にチェーンし、《真紅眼の鋼炎竜》の効果! 相手がカード効果を発動した時、500ポイントのダメージを与える!」

藤原LP3600→3100

 そして藤原のターンに発動されたカードは、説明不要の蘇生カード《死者蘇生》。ただし吹雪のフィールドに再び召喚された、《真紅眼の鋼炎竜》の効果によって、あらゆるカード効果の発動に500ポイントのライフコストがつく。500ポイントのダメージを受け、藤原が《死者蘇生》で特殊召喚したモンスターは。

「《サイバー・ジラフ》だと……!?」

「亮。お前の墓地から特殊召喚させてもらった。《サイバー・ジラフ》の効果を発動し、俺はターン終了時まで効果ダメージを無効化する!」

 予想外のモンスターの登場に、亮の鉄面皮にも動揺の色が浮かぶ。そのモンスターは《未来破壊》で墓地に送られていた亮のモンスター《サイバー・ジラフ》であり、その効果は、自身をリリースすることで、効果ダメージを無効にする効果。

「っ……」

 本来は亮のデッキに眠る、あるカードのコストを無効にするためのモンスターだった。だが《死者蘇生》によって一時的にせよ藤原の手に渡った以上、《真紅眼の鋼炎竜》の持ち味である、恒久的なバーン効果はこのターンに限り封印される。

 そしてそれは、これから攻め込むという合図でもあった。

「まずは《マジック・プランター》を発動。永続罠《王宮の鉄壁》をリリースし、カードを二枚ドローする」

 もはや小手調べの時は終わったということか、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》の為の永続罠《王宮の鉄壁》を、《マジック・プランター》によって二枚のドローに変換する。

「俺は魔法カード《狂った召喚歯車》を発動! 相手にモンスターを特殊召喚する代わりに、墓地の攻撃力1500以下のモンスターを、三体特殊召喚する」

「……僕は《真紅眼の黒竜》と、《真紅眼の黒炎竜》を特殊召喚しよう」

 亮と吹雪、二人にしても遊矢が多用するという理由でよく知る、攻撃力1500以下のモンスターを三体展開する魔法カード《狂った召喚歯車》。代償に吹雪のフィールドにも、新たに二体のレッドアイズが特殊召喚されるが、藤原は気にも留めていなかった。

「俺が特殊召喚するのは、墓地に眠っていた《竜王の聖刻印》!」

 金色に輝く竜の卵。その外皮には聖なる印が刻まれているが、まだ竜となっているわけではなく、効果を持っておらずその攻撃力と守備力は0。ただし同じレベルのモンスターが三体並び、ナンバーズの登場に吹雪は警戒するが――

「さらに《馬の骨の対価》を発動し、《竜王の聖刻印》をリリースして二枚ドロー」

 エクシーズ召喚をする気配はない。それだけではなく、三体のうち一体を《馬の骨の対価》でリリースし、二枚のカードのドローするためのコストにしてしまうほどに。

 《馬の骨の対価》は通常モンスターをリリースし、二枚のカードをドローするカードだが、《竜王の聖刻印》はデュアルモンスター。再度召喚をしていないため、フィールドと墓地では通常モンスターとして扱う。

「さらに手札のこのカードは、墓地のドラゴン族・光属性モンスターと、ドラゴン族の通常モンスターを1体ずつゲームから除外することで、手札から特殊召喚できる! 《聖刻龍-ウシルドラゴン》!」

 墓地に存在していた《エクリプス・ワイバーン》と、今し方《馬の骨の対価》によって墓地に送られた《竜王の聖刻印》を除外することで、手札から《聖刻龍-ウシルドラゴン》が特殊召喚される。フィールドに存在する《竜王の聖刻印》とはレベルが違い、このままではエクシーズ召喚をすることは出来ない。

「そして《エクリプス・ワイバーン》が除外された時、除外していたモンスターを手札に加える」

 そして除外された《エクリプス・ワイバーン》の効果が発動される。墓地に送られた際に自身のモンスターを除外する効果と、自身が除外された際に、除外していたモンスターを手札に加える二つの効果を持つ《エクリプス・ワイバーン》により、新たなドラゴン族が手札に加えられる。

「そして墓地の光属性と闇属性を除外することで、手札に加えられた《ライトパルサー・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 墓地の《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》と《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》が除外され、《エクリプス・ワイバーン》によって手札に加えられた《ライトパルサー・ドラゴン》が特殊召喚され、これで藤原のドラゴン族は四体。ただし、まだ終わることはなく――

「《ライトパルサー・ドラゴン》をリリースし、《聖刻龍-アセトドラゴン》をアドバンス召喚する!」

 さらに上級ドラゴンのアドバンス召喚。またもやレベルがズレた《聖刻龍-アセトドラゴン》がフィールドに現れるが、リリースされた《ライトパルサー・ドラゴン》のいななきがフィールドに響き渡っていく。

「《ライトパルサー・ドラゴン》はリリースされた時、墓地から通常モンスターを特殊召喚出来る。《カース・オブ・ドラゴン》を蘇生!」

 《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の効果で墓地に送られていたモンスターは、《エクリプス・ワイバーン》に《竜王の聖刻印》に《カース・オブ・ドラゴン》だったらしく、最後の一枚が遂に姿を現した。《ライトパルサー・ドラゴン》のリリースされた際の効果により、《カース・オブ・ドラゴン》が墓地からフィールドに現れたことで、藤原のフィールドは五体のドラゴン族モンスターで埋まっていく。

「そして《聖刻龍-アセトドラゴン》の効果。自分フィールドの、ドラゴン族通常モンスターと聖刻モンスターのレベルを、同じレベルにする!」

「ッ!?」

 《聖刻龍-アセトドラゴン》の効果によって、藤原のフィールドの聖刻モンスターのレベル――つまりフィールドに残る他三体のモンスター、《聖刻龍-ウシルドラゴン》と二体の《竜王の聖刻印》は、《カース・オブ・ドラゴン》と同じく5となった。突如としてフィールドを埋め尽くすほどのレベル5モンスターに、もはや吹雪に警戒すらも生ぬるかった。

「レベル5モンスター二体と、レベル5モンスター三体で、オーバーレイ!」

 五体のモンスターは別々にエクシーズ素材となっていき、再び二体のナンバーズの気配がフィールドに香る。

「ダブルエクシーズ召喚! 《No.53 偽骸神 Heart-eartH》!  《No.61 ヴォルカザウルス》!」

 そして二体のナンバーズがエクシーズ召喚され、吹雪のフィールドの五体のレッドアイズと対抗する。《狂った召喚歯車》によって、吹雪のフィールドにモンスターを埋めてまで召喚したナンバーズと、二体とも強力に違いないが……

「《No.61 ヴォルカザウルス》の効果発動! 相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

 そして《No.61 ヴォルカザウルス》が起動する。その対象はもちろん、フィールドで最も攻撃力が高いモンスター――《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》。

「流星竜を破壊せよ、マグマックス!」

「なっ……があああ!」

吹雪&亮LP5950→2450

「吹雪!」

「大丈夫大丈夫……ちょっと効いたけどさ」


 《No.61 ヴォルカザウルス》が吐いたマグマは、炎に包まれていたはずの《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》までも破壊し、その火力でもってターンプレイヤーである吹雪を焼く。大幅にライフポイントを削られるものの、まだ吹雪から勝利を渇望する意志は消えない。

「それにやられてばかりでもない! 流星竜が墓地に置かれたことにより、墓地から《真紅眼の黒竜》を特殊召喚する!」

 《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》は破壊された時、墓地の通常モンスターを特殊召喚する効果を持つ。ナンバーズによる更なる攻撃を警戒してか、守備表示で流星竜の亡骸から《真紅眼の黒竜》が蘇生する。

「そして……俺は《No.61 ヴォルカザウルス》と《No.53 偽骸神 Heart-eartH》で、オーバーレイ!」

「二体ともエクシーズモンスターで……エクシーズ召喚!?」

 だが《真紅眼の黒竜》を特殊召喚したのも束の間、藤原の更なる手は二体のナンバーズによるエクシーズ召喚。その常識を超越する手段に対し、二人は驚愕を隠しきれずに。

「万界に散りし我が魂の祈りよ! 今こそこの手に集いその姿を現せ! 現れろ! ナンバーズの真の皇よ! 《No.93 希望皇ホープ・カイザー》!」

 同じランクかつ、エクシーズ素材を持ったナンバーズ――《No.53 偽骸神 Heart-eartH》、《No.61 ヴォルカザウルス》の二体をエクシーズ素材にし、ナンバーズの皇《No.93 希望皇ホープ・カイザー》がエクシーズ召喚される。皇帝の名を関しているが、ステータスは特に強力という訳ではなかったが――その圧倒的な威圧感は、既に吹雪と亮に吹き飛ばさん程だった。

「《No.93 希望皇ホープ・カイザー》の効果! このモンスターのエクシーズ素材の数だけ、エクストラデッキから直接、ナンバーズを特殊召喚する!」

「――――ッ!?」

「皇帝の名の下に集え! 《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》! 《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》! 《No.46 神影龍ドラッグルーオン》! 《No.85 クレイジー・ボックス》!」


 四体のナンバーズがあっさりとフィールドを埋め尽くし、そのいずれもが攻撃力3000を誇り、同数のレッドアイズと立ち向かっていく。ただし攻撃力3000を超えるモンスター、《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》は《No.61 ヴォルカザウルス》に破壊されてしまい、対抗出来るモンスターはない。その中にダークネスに侵された吹雪が使っていた、《No.46 神影龍ドラッグルーオン》の姿もあり、知らず知らずのうちに吹雪は舌を巻く。

「この効果を使った時、ホープ・カイザーのエクシーズ素材は一つ取り除かれ、相手に与える戦闘ダメージは半分になる……効果は無効にされているが、エンドフェイズに自壊する、なんてに甘いことは考えるなよ」

 戦闘ダメージの半減とエクシーズ素材の一つと、特殊召喚されたナンバーズの効果は無効化されるという代償のみで、類似効果のよくある自壊デメリット効果はない。まだホープ・カイザーに効果は残されている可能性もあり、レッドアイズに守られながらも、吹雪は相手から感じる威圧感を抑えられることはなかった。

「バトル! 《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》で、《真紅眼の鋼炎竜》に攻撃!」

「まだだ! 《真紅眼の鋼炎竜》の第二の効果! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、墓地からレッドアイズを特殊召喚出来る!」

 《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》に破壊される直前に、《真紅眼の鋼炎竜》もまた、最後の抵抗に墓地からレッドアイズを呼ぶ。その直後に拷問機械によって切り刻まれてしまうものの、吹雪のフィールドに希望を繋げていた。

吹雪&亮LP2450→2350

「レッドアイズどもを破壊しろ、ナンバーズ!」

「っつ……!」

吹雪&亮LP2350→1450

 残るレッドアイズたちも、攻撃力3000のナンバーズたちにそれぞれ破壊され、吹雪と亮のライフポイントはもはや普通のデュエルと変わらないほどに落ち込む。最後に守備表示で特殊召喚されていた《真紅眼の黒竜》が、ホープ・カイザーに破壊されてしまい、吹雪のモンスターは全滅する。

「……すまない……レッドアイズ……」

「……ふん。カードを三枚伏せ、ターン終了する」

 それでも守りきってくれたレッドアイズたちに、礼を言う吹雪を後目にしながら、藤原は残る三枚、全ての手札を伏せてターンを終了する。これで戦闘ダメージ半分のデメリットも消え、ナンバーズ五体が藤原のフィールドに残る。

「だけど藤原、僕は耐えられただけで充分さ」

「何?」

「知ってるだろ? 亮はこの状況、どうにでも出来るってこと」

「っ……!?」

「俺のターン、ドロー!」

 吹雪の言っていることはただの妄言ではなく、藤原に思い至ることがあるからこその警戒。そしてアカデミアのカイザーは、無感情のように見せかけて内心に意志を込めながらカードを引いた。

「墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》は、フィールドにモンスターがいない時、このモンスターを除外することで、デッキから《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 カイザー亮の十八番。墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》を除外することで、遂に純正の《サイバー・ドラゴン》がフィールドに現れる。もちろん五体のナンバーズに適う筈もないが、それもすぐに変わる。

「リバースカード、オープン! 《DNA改造手術》! ……選択する種族は当然、機械族!」

 先の亮のターンから伏せられたままだったリバースカードが開き、《DNA改造手術》はフィールドのモンスター全てを機械族としていく。そして機械族となった以上、どんな耐性を持っていようと、その一撃に耐えられるモンスターはいない。

「《サイバー・ドラゴン》と、フィールドの機械族を全て融合し、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を融合召喚する!」

 どんな耐性を持っていようが、融合素材とするという最高の除去に耐えることは出来ずに、ナンバーズ五体は《サイバー・ドラゴン》とともに時空の穴に吸い込まれていく。そして新たな融合モンスター――《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》へと生まれ変わった。

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は、融合素材の数×1000ポイント。よって攻撃力は6000ポイント」

 藤原の残るライフポイントは3600。攻撃力6000となった《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》から守るモンスターは、全て融合素材となって藤原のフィールドにはいない。

「…………」

 つまり《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》にのダイレクトアタックにより、そのライフポイントは0となり、亮と吹雪の勝利が決定する――筈だが、藤原はどこにも慌てた様子はなく、三枚のリバースカードとともに不気味な沈黙を続けている。

「……バトル! 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で、藤原にダイレクトアタック! エボリューション・リザルト・アーティレリー!」

 しかしこのまたとないチャンスに対して、みすみすと見過ごすわけにはいかなかった。亮はしばしの沈黙と思案の後、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃を命じてみせると、予想に反して六発の光弾が藤原に炸裂する。

「ぐああぁっ!」

「……これは!?」

「亮!?」

 藤原に直撃する《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃――とともに、亮のデッキに突如として異変が起きていく。デュエルディスクに闇の浸食が起きていき、デッキに墓地からモンスターカードが消えていく。

「亮ならこの状況をどうにでも出来るだと? ああ知っているとも! カイザーの腕前は、俺達がよく知っている!」

藤原LP3600→600

 そして《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃による爆炎が消えていき、中から残るライフポイントが僅か600ポイントとなった藤原が姿を現した。藤原のデュエルディスクにも同様の現象が起きており、三枚のリバースカードが全て開示されていた。

「俺は伏せていた、《ダメージ・ダイエット》と《ヘル・テンペスト》を発動していた!」

 《ダメージ・ダイエット》は戦闘ダメージを半分にする罠カードであり、その効果によって《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》からの6000ポイントの戦闘ダメージを半減、ライフポイントをギリギリのところで踏みとどまらせた。

 さらに藤原と亮のデッキに起きた異変は、《ヘル・テンペスト》によるカード効果。3000ポイント以上の戦闘ダメージを受けた時、お互いのデッキと墓地のモンスターを全て除外するという、発動条件の重さに比例した禁止級の効果を秘めたカード。これによって藤原と亮のデッキと、お互いの墓地のモンスターは死滅する。

 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃を読んだ《ヘル・テンペスト》の発動は、藤原にも大きくマイナスなようにも思えるが、藤原は《強欲で貪欲な壷》によって、自らのデッキを既に除外している。恐らくは除外ゾーンも活かしたギミックを搭載しており、二人は藤原のフィールドに顕現していたモンスターを見た。

「さらに《ヘル・テンペスト》の効果が適応される直前、俺は伏せていた《リミット・リバース》により、《No.53 偽骸神 Heart-eartH》を蘇生させていた!」

 先のターンに《No.61 ヴォルカザウルス》とともにエクシーズ召喚され、《No.93 希望皇ホープ・カイザー》のエクシーズ素材となっていたナンバーズ。ホープ・カイザーの効果コストによって墓地に送られていたらしく、唯一《ヘル・テンペスト》の効果から免れ、フィールドに特殊召喚された。

「……メインフェイズ2。《サイバー・ヴァリー》を召喚し、カードを一枚伏せてターンエンド」

 藤原の狙い通りに行動しただけということは分かっていたが、亮にこれ以上打つ手はなく。メインフェイズ2へと移行すると、最後に残ったモンスターである《サイバー・ヴァリー》を召喚し、リバースカードを一枚伏せてターンを終了する。

「俺のターン、ドロー!」

 これで藤原のフィールドには、《リミット・リバース》によって蘇生された《No.53 偽骸神 Heart-eartH》のみで、残るライフポイントは僅か600ポイント。ただし目論見通りに《ヘル・テンペスト》が決まり、わざわざ墓地から蘇生させたナンバーズもフィールドに存在する。

 対する亮と吹雪のフィールドは、攻撃力6000を誇る《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に、《サイバー・ヴァリー》と機械族を指定した《DNA改造手術》。そしてリバースカードが一枚でライフポイントは1400と、あらゆるアドバンテージを藤原を上回っているものの、《ヘル・テンペスト》によってデッキと墓地は死滅してしまっている。

「……ほう。俺は《マジック・プランター》を発動し、永続罠《リミット・リバース》をコストに、二枚のカードをドローする!」

 手札が0枚だった藤原が引いたカードは、永続罠をコストに二枚のカードをドローする通常魔法《マジック・プランター》。同然のように永続罠《リミット・リバース》をコストに、二枚のドローに変換するが、もちろん《リミット・リバース》によって蘇生されていた《No.53 偽骸神 Heart-eartH》は自壊してしまう。

「《No.53 偽骸神 Heart-eartH》は効果で破壊された時、このモンスターをエクシーズ素材にすることで、エクストラデッキから《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を、エクシーズ召喚する!」

 その行動が理解できなかった亮だったが、すぐに《No.53 偽骸神 Heart-eartH》の効果と藤原の行動を理解する。《リミット・リバース》が《マジック・プランター》によって破壊されたことで、《リミット・リバース》によって蘇生されていた《No.53 偽骸神 Heart-eartH》は破壊され、破壊された時に新たなナンバーズを呼び寄せる効果を持っていた。

「バトル! 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》で、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃!」

 ただし呼び寄せたナンバーズ《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》は、元々の《No.53 偽骸神 Heart-eartH》と同じく、攻撃力・守備力ともに0。とはいえランクは9と高い上に、結果が分かりきった《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》へと攻撃を仕掛けてきた。

「……リバースカード、オープン! 《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》を発動!」

 攻撃力6000の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》と、攻撃力0の《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》。もはや大人と子供ほどの争いだったが、『ナンバーズ』の未知なる効果は嫌という程に味わった。嫌な予感を拭いきれなかった亮は、伏せていた永続罠《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》を発動する。

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》をリリースすることで、攻撃してきた《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を破壊する!」

 《サイバー・ドラゴン》、もしくは《サイバー・ドラゴン》を融合したモンスターをコストに、何度でも相手モンスターを破壊する永続罠《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》。その効果が十全に発揮され、《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を完膚なきまでに破壊する。

「亮、お前はつくづく……思い通りに動いてくれる! エクシーズ素材を持って効果破壊された《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》は自己再生する!」

 《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》によって粉々に破壊された《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》は、エクシーズ素材をコストに自己再生を開始していく。さらに藤原や亮のデュエルディスクを浸食していた闇をも体積に含んでいき、先程とは比べ物にならない力を秘めていく。

「偽りの骸を捨て、神の龍となりて現れよ! 真の力を解き放て! 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》!」

 エクシーズ素材を失ったにもかかわらず、それは余計な殻を打ち破ったかのように。真の力を解放した《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》が、質量を含んだ闇を伴って二人の前に降臨する。

「真の力を解放した《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力は、お互いに除外されたカード×1000ポイントとなる!」

「ッ!?」

 お互いに除外されたカード――言うまでもなく《ヘル・テンペスト》によってお互いのデッキは除外されており、それらは全て《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力に変換されていく。つくづく思い通りに――と藤原が言うように、亮は《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の融合から、まんまと藤原の手の内で踊っていた。

「除外されたカードは56枚。よって攻撃力は、56000ポイントとなる!」

 タッグフォース・ルールの初期ライフを遥かに超越するその攻撃力に、亮と吹雪が感じた衝撃は驚愕すらも生温い。亮も高い攻撃力による一撃は得意とするところだが、文字通りに桁が違う数値を誇っていた。

「バトルフェイズはまだ終わっていない! 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃! ハートブレイク・キャノン!」

「くっ……《サイバー・ヴァリー》の効果発動! このモンスターが攻撃対象となった時、このカードをリリースすることで、バトルフェイズを終了し、カードを一枚ドローす――ッ!」

 間一髪、生ける《攻撃の無力化》とも言える効果を持つ《サイバー・ヴァリー》の効果により、何とか戦闘ダメージは0に抑えたものの、その衝撃は吸収しきれずに。風圧に亮は吹き飛ばされ、背にしていた壁に追突するまで止まることはなかった。

「フッ……カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」

「……僕のターン、ドロー!」

 亮を庇うように吹雪は藤原の前に立ちはだかると、ターンが移行したことによってカードをドローする。ターンプレイヤーのデッキや手札のみを使えるタッグフォース・ルールによって、《ヘル・テンペスト》の効果が適応された時は、吹雪のデッキはフィールドに存在しなかった扱いとなっていた。よって《ヘル・テンペスト》によって、デッキのモンスターは除外されてはいないが、墓地は共有のためそうはいかず。

「っ……」

 これまでのターンに展開し、そして墓地に送られてきたレッドアイズたちは、全て除外されてしまっているため、主力モンスターがいないという点については亮と変わらない。

「装備魔法《D・D・R》を発動! 手札を一枚捨て、このカードを装備することで、除外ゾーンからモンスターを特殊召喚する! 次元の狭間から蘇れ、《真紅眼の黒竜》!」

 ただし除外されたモンスターを特殊召喚する術が無いわけでもなく、そのうちの一枚である装備魔法《D・D・R》を発動する。手札一枚をコストにすることで、除外ゾーンから――もちろん《真紅眼の黒竜》を特殊召喚する。

「レッドアイズなど、今更……」

「なに……こう見えても、君らのデュエルに付き合っていたおかげで、大型食いは得意でね! チューナーモンスター《ガード・オブ・フレムベル》を召喚!


 《真紅眼の黒竜》が除外ゾーンからの特殊召喚に成功したことにより、《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力が1000ポイント下がるが、もはやそんなものは誤差の範囲内だろう。さらに吹雪が召喚したのは、チューナーモンスター《ガード・オブ・フレムベル》。

「レベル7の《真紅眼の黒竜》に、レベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング!

 そしてすぐさま《ガード・オブ・フレムベル》は光の球となっていき、《真紅眼の黒竜》を包みこんでいく。合計レベルは8、闇に広がっていく光に伴って、新たな竜のいななきが響き渡っていく。

「闇より暗き深淵より出でし漆黒の竜。今こそその力を示せ! シンクロ召喚! 《ダークエンド・ドラゴン》!」

 シンクロ召喚の光るエフェクトとは対照的に、その名が示すように、どこまでも漆黒のドラゴンがシンクロ召喚される。攻撃力は2600と、もちろん《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》に及ぶべくもない、が――

「《ダークエンド・ドラゴン》の効果を発動! 500ポイント攻撃力を下げることで、相手モンスター一体を墓地に送る! ダーク・フォッグ!」

 《ダークエンド・ドラゴン》の効果は、自身の攻撃力を500ポイント下げることによって、相手モンスター一体を墓地に送る効果。たとえ効果破壊された際に発動する効果や、効果破壊耐性を持っていたとしても、無条件に墓地へ送る。

 それは相手がナンバーズだろうと関係なく、ダークエンド・ドラゴンのブレスが《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》に迫り――

「リバースカード、オープン!」

 ――消える。

「速攻魔法《神秘の中華鍋》! 俺は《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を墓地に送り、その攻撃力分、ライフポイントを回復する!」

 ただし消えたのは、吹雪の《ダークエンド・ドラゴン》の効果によるものではなく、藤原のリバースカード《神秘の中華鍋》の効果。その効果は、自分のモンスターを一体リリースすることで、リリースしたモンスターの攻撃力分のライフポイントを――回復する。

藤原LP600→55600

 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力をそのままライフに変換した結果、藤原のライフは55600ポイントにまで達する。もはやダメージを与えてライフを削る、などという次元ではないその数値に対し、吹雪は思考が一瞬だけ空白となる。

「……バトル! ダークエンド・ドラゴンで、藤原にダイレクトアタック!」

藤原LP55600→53500

 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》にリバースカードもなくなり、無防備となった藤原に《ダークエンド・ドラゴン》の攻撃が炸裂したものの、まるでダメージを受けた様子はない。当然だ。大海に絵の具を投げ入れて、海に全て色を付けようという愚行と同じことなのだから。

「僕は……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「……諦めるな、吹雪」

 これ以上の攻撃を諦め、カードを一枚伏せてターンを終了した吹雪の隣に、ヨロヨロと亮が並び立った。先のターンに《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》に受けたダメージは深刻な様子だったが、亮の目に諦めの色は映っていない。

「……諦める? まさか、面白くなってきたところじゃないか」

「……そうだな。その通りだ」

「ふん……俺のターン、ドロー!」

 二人で自らに立ち向かう亮と吹雪を、感情が読み取れない様子で藤原は笑い、ターンプレイヤーの移行によってカードをドローする。

「俺は《ナンバーズ・エヴァイユ》を発動! エクストラデッキのナンバーズと名のついたモンスターをエクシーズ素材として、そのナンバーズの数字の合計のついたナンバーズをエクシーズ召喚する!」

 そして藤原が発動したのは、このデュエルを終局に導く一枚の魔法カード。エクストラデッキの二体のナンバーズをエクシーズ素材に、最後のナンバーズをエクシーズ召喚する。

「《No.11 ビッグ・アイ》と《No.24 竜血鬼ドラギュラス》でオーバーレイ! エクシーズ召喚ッ! 《No.35 ラベノス・タランチュラ》ァッ!」

 蜘蛛を模した巨大なナンバーズ――《No.35 ラベノス・タランチュラ》。それこそが藤原の手に残された最後のナンバーズであり、このエクシーズ召喚によってデュエルは終わる。

「…………」

 藤原のフィールドには《No.35 ラベノス・タランチュラ》のみで、ライフポイントは53500ポイント。

 対する亮と吹雪のフィールドは、効果を一度使用した吹雪の《ダークエンド・ドラゴン》に、《DNA改造手術》に《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》、吹雪と亮のリバースカードがそれぞれ一枚、ライフポイントは1400。

「《No.35 ラベノス・タランチュラ》は、お互いのライフポイントの差分、その攻撃力をアップさせる! よってその攻撃力は、52100ポイント!」

「もう驚きも薄まってきたよ……!」

 《神秘の中華鍋》でライフポイントを回復したのは、ただ吹雪からの攻撃に耐えるためではなく。お互いのライフポイントの差分により攻撃力が決定する、という効果を持つナンバーズ《No.35 ラベノス・タランチュラ》のためでもあった。

「その軽口、すぐ利けなくしてやる……! 魔法カード《大嵐》を発動!」

「――!?」

 《No.35 ラベノス・タランチュラ》の圧倒的な攻撃力の前に、もはや風前の灯火だった亮と吹雪のライフポイントは吹けば飛ぶようなもの。ただしフィールドに伏せられた二枚のリバースカードと、亮の二枚の永続罠――必ずあれ等のどれかに逆転の一打を秘めている、と読んだ藤原は、温存していた《大嵐》をここで打つ。

「かかったね」

「……なに?」

「藤原。お前が俺たちの行動を読んで利用するなら、俺たちも同じことをするまでだ」

 《大嵐》が全てを破壊していく中、吹雪と亮は小さく笑う。破壊されたはずの二枚のカードは、吹雪と亮、それぞれの前で発動される。

「破壊された《真紅眼の鎧旋》の効果を発動!」

「発動された《サイバー・ネットワーク》の効果を発動!」

 二人がそれぞれ伏せていたのは、破壊された際に発動する《サイバー・ネットワーク》と《真紅眼の鎧旋》。それぞれの発動を宣言し、効果がフィールドに現れていく。

「《真紅眼の鎧旋》が破壊された時、墓地からレッドアイズモンスターを特殊召喚出来る!」

「《サイバー・ネットワーク》が破壊された時、除外ゾーンから可能な限りサイバーモンスターを特殊召喚する」

 闇の中に消えていったモンスターが、二枚の罠カードによって二人の手の中に戻ってくる。それを頼もしげに見つめると、四枚のカードをデュエルディスクにセットした。

「――現れろ、《真紅眼の黒竜》!」

「――現れろ、《サイバー・ドラゴン》!」

 それぞれ主力モンスターを特殊召喚する罠カードであり、《真紅眼の鎧旋》によって《真紅眼の黒竜》が。《サイバー・ネットワーク》によって《サイバー・ドラゴン》が、それぞれ吹雪に亮の象徴となるモンスターが、フィールドを埋め尽くして《No.35 ラベノス・タランチュラ》に対抗する。

「――ならばそのお前らの象徴、まとめて破壊してやる! ラベノス・タランチュラの効果発動! エクシーズ素材を一つ取り除き、このモンスターの攻撃力以下のモンスターを全て破壊する!」

 ――もちろんラベノス・タランチュラの攻撃力以上のモンスターなどいるわけもなく、特殊召喚された《真紅眼の黒竜》に《サイバー・ドラゴン》の三体、さらに《ダークエンド・ドラゴン》が破壊されていき、亮と吹雪のフィールドは空になってしまう。

「いや、魂は砕けない! 手札から《真紅眼の遡刻竜》の効果を発動!」

 だが、吹雪のレッドアイズは砕けない。手札の最後の一枚に残っていたモンスター、《真紅眼の遡刻竜》の効果が発動する。他のレッドアイズとは違って随分と小ぶりの身体だが、その効果は他に類を見ないものを持っている。

「《真紅眼の遡刻竜》は、レッドアイズモンスターが破壊された時、このモンスターを手札から特殊召喚し、破壊されたレッドアイズを特殊召喚する! 蘇れ、《真紅眼の黒竜》!」

 ラベノス・タランチュラによって破壊された《真紅眼の黒竜》だったが、《真紅眼の遡刻竜》の効果によって、まるで最初から破壊などされていなかったかのように蘇生された。よって二体のレッドアイズが、吹雪と亮を守り抜かんとフィールドに特殊召喚された。

「チッ……《No.35 ラベノス・タランチュラ》で、《真紅眼の遡刻竜》を攻撃し、ターンを終了する……!」

「残念だったね藤原。僕のレッドアイズたちは死なないんだ」

「――俺のターン、ドロー!」

 攻撃力52100ポイントを誇る《No.35 ラベノス・タランチュラ》を、手札の《真紅眼の遡刻竜》の効果によって耐え抜くことに成功し、何とか次なる亮のターンへとバトンを繋ぐ。

「俺は魔法カード《救援光》を発動! 800ポイントのライフポイントを払い、除外ゾーンから光属性モンスターを手札に加える」

吹雪&亮LP1450→650

 《No.35 ラベノス・タランチュラ》の攻撃力が五万オーバーなことに変わりはないが、吹雪が亮に託したバトンは、次なるターンに回しただけではない。魔法カード《救援光》を発動して、ある光属性モンスターを一枚、亮は手札に加えた。

「さらに《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動! ライフポイントを半分払い、墓地のモンスターを融合素材とする!」

吹雪&亮LP650→325

「墓地のモンスター……《サイバー・ドラゴン》!」

 《ヘル・テンペスト》によって全て除外されていた亮のモンスターだったが、先の《サイバー・ネットワーク》によって三体の《サイバー・ドラゴン》だけはフィールドに戻った。ただし《No.35 ラベノス・タランチュラ》によってすぐに破壊されてしまったが、それを介して除外ゾーンから墓地に送られた。そして墓地にさえ存在するならば、亮は《サイバネティック・フュージョン・サポート》の効果により融合することが出来る。

「そして俺は、俺が信じる最強の融合カード……《パワー・ボンド》を発動する!」

 他の墓地融合モンスターとは違い、《サイバネティック・フュージョン・サポート》はそれ単体では融合することは出来ない。ただしそれは他のカードと組み合わせる無限だ可能性がある、ということであり――《パワー・ボンド》を組み合わせ、墓地の《サイバー・ドラゴン》三体を融合する。

「現れろ! 《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

 遂に降臨するカイザー亮の切り札《サイバー・エンド・ドラゴン》。さらに《パワー・ボンド》の効果によって、攻撃力は倍の8000となり、《No.35 ラベノス・タランチュラ》と並び立った。ただし《救援光》と《サイバネティック・フュージョン・サポート》のライフコストによって、さらに《No.35 ラベノス・タランチュラ》の攻撃力は上がっていく。

「今更《サイバー・エンド・ドラゴン》が何になる!」

「……藤原。確かにお前が言った通りだ。俺はどうやら、久しぶりに会ったお前の思い通りに動くような、昔と変わらないデュエル馬鹿らしい」

「……何?」

 《サイバー・エンド・ドラゴン》を傍らに、亮は先のターンに《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の召喚のために誘導されたことを省みる。

「そして常に共に戦ってきたこの《サイバー・エンド・ドラゴン》が、お前を倒す可能性を持つのを感謝する……! バトルだ、サイバー・エンド!」

「攻撃だと!?」

 藤原のフィールドにいるのは、攻撃力53200ポイントの《No.35 ラベノス・タランチュラ》。流石に《パワー・ボンド》を使って融合した《サイバー・エンド・ドラゴン》と言えども、とても適う相手ではない。だが亮は迷いなく《サイバー・エンド・ドラゴン》に攻撃を命じ、忠実に《サイバー・エンド・ドラゴン》は攻撃にエネルギーを貯めていく。

「使わせてもらうぞ、吹雪――藤原!」

 亮の手札にあるのは残る一枚。魔法カード《救援光》で除外ゾーンからサルベージした、ある光属性モンスター――

「俺は手札から《オネスト》の効果を発動する!」

 亮の手札から発動されたモンスターカードは、光属性の切り札とも呼ばれる天使族モンスター《オネスト》。その性能に反してさして珍しいカードではないものの、この三人にとって特別な意味を持つモンスターだった。

「な――なぜそのカード――を、お前が今、持っている!?」

「そんな連れないことを言うなよ藤原……君の相棒だろう?」

 吹雪の《真紅眼の黒竜》、亮の《サイバー・ドラゴン》のように、藤原の象徴的なカードは《オネスト》だった。藤原がダークネスの力を使い世界から消えていった時、この世界に残った唯一のモンスター――そのカードそのものだ。

「どうして今持っているか、という質問なら、君のナンバーズのモンスター効果だ」

 オネストが除外されたタイミングは、藤原の《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の除外効果。恐らくは《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力を上げるための効果発動だったのだろうが、吹雪は亮に託すために《オネスト》を除外していた。

「十代ならば、精霊の力を借りてどうこう出来るのだろうが……悪いが、俺たちは門外漢でな。荒っぽくやらせてもらう! さらに速攻魔法《リミッター解除》!」

 《オネスト》の効果は、戦闘する相手モンスターの攻撃力をこちらのモンスターに加える効果。よって藤原の《No.35 ラベノス・タランチュラ》の攻撃力である53200ポイントが、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力に加えられる。さらにそれが速攻魔法《リミッター解除》によって、機械族モンスターはその鎖を解き放ち攻撃力を倍加し――

「攻撃力124000ポイントの……《サイバー・エンド・ドラゴン》……!」

 《オネスト》の輝きに《サイバー・エンド・ドラゴン》が共鳴していき、チャージしていたエネルギーはリミッターを越え、藤原の戦慄の声とともに臨界を迎えた。

「――エターナル・エヴォリーション・バースト!」

「――――――」

藤原LP53500→0

 そして自身すらも全てを消し去る光線とともに、《サイバー・エンド・ドラゴン》の一撃でデュエルは終了する。周囲を纏っていた闇は払拭されていき、藤原の姿はどこからも消えていく。しかし亮に吹雪、二人はデュエル構えを解くことはなく、吹雪は消えていった藤原に話しかけてた。

「まさか、まだ終わりじゃないだろう?」

「ああ。せっかくの3年ぶりのデュエルだ……それに、二人がかりでないと勝てないと思われるのも癪だ。気が済むまで付き合ってもらうぞ……!」

 アカデミアに起きたダークネスの進攻と同時刻。十代が訪れた童実野町も、アカデミアと同様にミスターTたちに襲われていた。

「ヨハン……!」

 ヨハンと協力して何とか海馬コーポレーションにたどり着いた十代は、ここにダークネスの世界へと攻め込むための転移装置があると聞き、自らが囮になったヨハンと別れて転移装置の元にたどり着いた。

「ククク……」

「くそっ!」

 もう十代以外に人間の姿はなかったが、異世界への転移装置は動かすことが出来るようだ。直感的に操作をしている最中、ミスターTが周囲に現れてしまい、十代はやむを得ずデュエルディスクを構えた――ところに、部屋の扉がゆっくりと開いていて、そこからある人物が現れていた。

「ミスターT……真実を語る者、トゥルーマン、だったか。くだらん」

「あなたは……」

 その人物は白銀のコートをたなびかせると、左腕と一体化したデュエルディスクを構え、片目だけに装着したゴーグルと連動させる。すると十代には目もくれずに、ミスターTへとしっかりとした足取りで近づいていく。

「教えてやる。真実は常に、俺の手中にあるということを!」

 そしてホログラムがデュエルディスクのカードゾーンを投影していき、デュエルの準備を整えた気配を察知したミスターTもまた、やむを得ず専用のデュエルディスクを構える。

「新型ディスクの実験ネズミになれることを誇りに思うがいい! デュエルだ!」

 ミスターTとデュエルを始めるその人物に、十代は小さく礼をすると、異世界の転移装置を起動した――

 
 

 
後書き
攻撃力124000の《サイバー・エンド・ドラゴン》とか、特殊召喚数が二桁越えた《真紅眼の黒竜》とか、最後に出て来た人物がもう全部あいつでいいんじゃないかな
 

 

―太陽―

 
前書き
あけおめ 

 
「……よし。準備出来たぞ、遊矢」

「ああ」

 デュエルアカデミアの一室にて、パソコンのキーボードを目にも止まらぬ速さで叩いていた三沢は、ようやく一息ついてこちらを見た。休憩の時間かと思ったが、作業を終わらせたらしく、タブレット端末でどこかに連絡を取っていた。

「……少し、思う。どうしてあの場所で、お前と対面してるのが俺じゃないんだってな」

「それは……」

「いや、いいんだ。後悔してるわけじゃない」

 こちらが何か言おうとするよりも早く、後悔しているかのような言葉を吐いた、当の三沢に止められる。しかも後悔のような――という、こちらの予想までもが否定されて。

「世界を救う舞台でお前との決戦……というのにも憧れるが、これは裏方でも俺にしか出来ないことだからな」

 愛おしそうに先程まで酷使していたパソコンを撫でていると、三沢のタブレット端末に新たな連絡が帰ってきた。しかしてその連絡は三沢宛ではあるものの、実質は俺に向けての連絡でもあった。

「それにここの守りも必要だしな。……勝って来いよ、遊矢」

「ついでに、世界も救ってやるさ!」

 どこか晴れやかな気分のまま、他愛のない親友との会話を済ませて、部屋の奥に設えられた一角に到着したエレベーターに乗り込むと、この建物の最上階へと向かっていく――つもりだったのだが。そのエレベーターには先客がおり、その彼女が既に最上階へのボタンを押しておいてくれたらしい。

「レイ……?」

「遊矢さ……ううん。遊矢お兄ちゃん、途中まで一緒に行かせてよ」

「……ああ」

 どこから忍び込んだやら、そこにいたのは早乙女レイ。変わらぬ笑顔を見せてくれる彼女に、自然と顔を綻ばせながら、俺たちはともにエレベーターに乗り込んだ。

「ねぇ、遊矢さ……お兄ちゃん」

「……言い辛いなら、様でもいいぞ」

「ダメだよ! ボクのけじめなんだから!」

 どうしても呼び辛そうにしているレイに苦笑しながら、以前ならば天地がひっくり返っても許さなかったであろう、様付けを許そうとしたものの。それは他ならぬレイの口から否定されてしまう――彼女が言う『けじめ』を、わざわざ詮索することはないが。

「それで、わざわざどうしたんだ?」

「……近くで見届けさせて。ボクには明日香さんみたいに戦う力はないから、明日香さんの代わりに」

「それは……負けられないな」

 エレベーターは最上階に向かっていく。俺たちが行おうとしているのは、これまで防御しか出来なかったダークネスへの、こちらからの攻撃だった。

「うん! 負けたら、明日香さんの分まで容赦しないんだから!」

 その方法は、三沢によってもたらされた異次元への移動技術。先程、三沢が最終調整を終わらせたそのシステムによって、ダークネスの親玉が住まう次元に直接乗り込むのだ。もちろんそれを敵も黙って見ているわけがないが、アカデミア各地でダークネスの尖兵と、次元移動技術を守る仲間たちの戦いが始まっているだろう。

「ああ!」

 彼ら彼女らの無事を挑みながら、レイからの激励を受け取りながら、エレベーターが最上階に到着する。そこに見えてきたのは一面の青空であり、ここがアカデミアの最上階だと分かる。

『シニョール&シニョーラ! お待たせしたノーネ!』

「じゃあ……行ってくる」

「……うん!」

 どこかから中継されているクロノス教諭のアナウンスを聞きながら、レイの頭を撫でてからアカデミアの屋上を進んでいく。

『これより、卒業模範デュエルを開始するーノ!』

 次元移動技術でダークネスの次元に移動するのはいいが、その起動には多量のデュエルエナジーが必要だということは、俺たちは砂の異世界の件で身を持って体験していた。よってこの、卒業生の一人と指定された下級生によるエキシビジョンマッチである卒業模範デュエルによって、次元移動技術のデュエルエナジーを溜めるのだ。

「懐かしいな……」

 もう二年前にもなる、カイザー亮との卒業模範デュエルのことを思い出し、まさかもう一度この場に立つとは思わなかった――と苦笑する。かのバトルシティの最終決戦の場を模した、アカデミアの最上階――アカデミア・タワー。

「…………」

 そこに彼は待っていた。最小年プロデュエリスト、エド・フェニックス。一応はアカデミアの下級生であるエドとのデュエルで、ダークネス次元への移動に必要なデュエルエナジーを満たす――

 ――などというのは、もはや建て前に過ぎない。俺もエドも、出会ってから交わしてきた幾度ものデュエルへ、この場でおあて純然たる決着を。ダークネスとの戦いの為ではない、どちらがデュエリストとして上か、ケリをつけるためにここに来た。

「決着をつけよう……エド!」

「来い、遊矢!」

『デュエル!』

遊矢LP4000
エドLP4000

 このデュエルに勝利した者こそが、次元移動を果たしダークネスとの戦いに臨むことになるだろう。しかし、今は彼方に待つ『世界を救う』ことなんかよりも、目の前に立つ好敵手に征すことをおいて他にはない。

「俺の先攻!」

 それは俺にエドも、お互いに何を言わずとも分かっていた。故に余計な言葉を交わすことはなく、先攻を指し示したデュエルディスクに俺は従い、手元に現れた五枚の手札を歓迎する。

「俺は《マジカル・ペンデュラム・ボックス》を発動! カードを二枚ドローし、それがペンデュラムモンスターなら手札に加える!」

「ペンデュラム……!」

 先まではこの世界では普及していない為に使用を自重していたが、もはやこの決戦にそんなことを言っている暇はない。まずは強力なサポートカード《マジカル・ペンデュラム・ボックス》によりカードを二枚ドローすると、俺は二枚のカードを手札に加えるとともに、新たにデュエルディスクに加えられたゾーンにセッティングする。

「俺は《音響戦士マイクス》と、《音響戦士ギータス》をペンデュラムスケールにセッティング!」

 そして二対の音響戦士ペンデュラムモンスターがセッティングされ、真紅と真蒼、二つの光柱が天空に向かって伸びていく。これでレベルが2から6のモンスターが同時に召喚可能ではあるが、今はまだその時ではない。

「《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキから新たな音響戦士を特殊召喚出来る! 現れろ、《音響戦士ドラムス》!」

 ペンデュラムモンスターは、ただペンデュラム召喚を可能とするカードではなく、永続魔法のように他のモンスターのサポートに回る。発動された《音響戦士ギータス》の効果もその一種であり、デッキから《音響戦士ドラムス》が特殊召喚される。

「さらに墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外することで、フィールドの音響戦士の種族を変更出来る! 俺は《音響戦士ドラムス》の種族を炎族に変更し、さらに《音響戦士サイザス》を通常召喚!」

 《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を起点に、盤面が目まぐるしく動いていく。《音響戦士ギータス》の効果の手札コストとして墓地に送られていた、《音響戦士ピアーノ》の効果により、フィールドの《音響戦士ドラムス》の種族は炎族へと変更される。

 さらに《音響戦士サイザス》を通常召喚したことにより、チューナーモンスターを含む二体のモンスターがフィールドに揃う。対するエドも目に見えてシンクロ召喚を警戒しているようであったが、俺が得た新たな答えは違うものだった。

「そして《置換融合》を発動! フィールドの音響戦士二体を融合する!」

「融合召喚!?」

 まるで予想していなかったのか、驚愕の声をあげるエドをよそに、二体の音響戦士たちは《置換融合》によって一つとなっていく。

「集いし爆炎よ、龍の形となりて飛翔せよ! 融合召喚! 《重爆撃禽 ボム・フェネクス》!」

 融合召喚されるはその名の通りに、爆炎とともに飛翔する不死鳥。その融合素材は機械族モンスターと炎族モンスターというもので、本来ならばこの【機械戦士】デッキで融合召喚出来るものではないものの、それは種族の変更を可能とする《音響戦士ピアーノ》でカバーする。

「カードを一枚伏せ、《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の効果発動! フィールドのカード×300ポイントのダメージを相手に与える! フェネクス・ビッグ・エアレイド!」

「くっ……!」

エドLP4000→2800

 その効果は、フィールドのカードの数に比例するバーン効果。明日香とのデュエルで使った、同じ融合素材を必要とする《起爆獣ヴァルカノン》と違ってモンスターの除去は出来ないが、こちらは安定したダメージが強み。

「エンドフェイズ、《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果。除外された音響戦士を手札に加え、ターンを終了する」

「僕のターン、ドロー!」

 そして《重爆撃禽 ボム・フェネクス》とリバースカードが一枚伏せられ、エドのライフにもバーンダメージを与えつつターンを終了する。加えて《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果によって、自身の効果で除外されていた《音響戦士ピアーノ》を手札に加えた後、爆炎をバックにエドはカードをドローする。

「僕は《デステニー・ドロー》を発動! 手札のD-HEROを一枚捨て、カードを二枚ドロー……さらに《魔玩具補綴》を発動!」

 エドの初手は《デステニー・ドロー》。だが比較的よくあるその手札交換魔法とは違い、さらに発動された《魔玩具補綴》はそうではなかった。

「《魔玩具補綴》は、デッキから《融合》とエッジインプモンスターを手札に加えることが出来る。遊矢、進化しているのはお前だけじゃない! 《融合》を発動!」

 十代のE・HEROとは違い、エドのD-HEROは融合を多用するモンスターたちではなかった。しかして《融合》のサポートカードである《魔玩具補綴》とともに、エドのフィールドに新たなモンスターが融合召喚される。

「融合召喚! カモン、《D-HERO デッドリーガイ》!」

 手札の二体のモンスターを融合することで、紫雲の翼をはためかせた新たなD-HEROが現れる。進化しているのはお前だけじゃない――という言葉の通りに、ご丁寧にこちらと同様に融合召喚で。

「さらにセメタリーの《エッジインプ・シザー》のエフェクト発動! 手札を一枚デッキトップに置くことで、セメタリーから特殊召喚出来る!」

 そして墓地で効果を発動したのは、先程《魔玩具補綴》で《融合》とともに手札に加えられたエッジインプモンスターの一種、《エッジインプ・シザー》。もちろんエドと言えばHERO使いであるが、十代も同様に、カテゴリー外のモンスターをサポートに投入することも珍しくない。

「さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚し、エフェクト発動! ハードネス・アイ!」

 さらにエドは、まだ通常召喚をしていない。新たに《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚し、その特徴的な効果を発動する。デッキトップを確認し、それが通常魔法だった場合、そのカードを未来に送る。本来ならば、幾分かギャンブルな効果ではあるが、今回に限ってはそうではない。

「未来は確定している。通常魔法《終わりの始まり》はセメタリーに置かれ、未来にそのエフェクトを発動する」

 《エッジインプ・シザー》が墓地から特殊召喚された際、その代償としてデッキトップにカードが置かれた。墓地から特殊召喚する際のデメリットなのは疑いようもないが、それがダイヤモンドガイのサポートに繋がっていた。

「さらにデッドリーガイのエフェクト! 手札一枚をコストにデッキからD-HEROをセメタリーに送り、フィールドのD-HEROの攻撃力を、セメタリーのD-HEROの種類×200ポイントアップする!」

 そしてデッドリーガイの効果は、デッキのD-HEROを墓地に送ることによる全体パンプアップ。とはいえパンプアップというよりは、狙ったD-HEROを墓地に送ることの方が脅威的か。事実、デッドリーガイの攻撃力は2800ポイントと、惜しくも《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の攻撃力を越すには至らない。

「バトル! デッドリーガイでボム・フェネクスを攻撃!」

 ――にもかかわらず。エドはまったく構わないとばかりに、デッドリーガイでの攻撃を敢行した。もちろんこのままであれば、ボム・フェネクスとデッドリーガイが相打ちになるのみだが、俺の脳裏に攻撃時にD-HEROの攻撃力を上げる《D-HERO ダガーガイ》のような、攻撃力増減のカードが浮かぶ。当の《D-HERO ダガーガイ》の効果は、相手ターンにしか発動出来なかった筈だが、攻撃力増減のカードなど数え切れないほどにある。

「リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》!」

 そのプレッシャーに耐えることが出来ずに、デッドリーガイを返り討ちにすることなく、伏せていた《くず鉄のかかし》を発動する。とはいえここで《重爆撃禽 ボム・フェネクス》が破壊されてしまえば、強化された《D-HERO ダイヤモンドガイ》の直接攻撃が炸裂していたので、発動しないという手はなかったものの。

「やはり《くず鉄のかかし》……か。カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」

「っ……俺のターン、ドロー!」

 そして戦闘結果にさしたる興味もなさそうなエドの様子に、エドの手札には攻撃力増減系のカードはなかったのだと確信する。こちらのリバースカードが《くず鉄のかかし》だと読んだ上で、それを試すべく攻撃を仕掛けてきた。

「ボム・フェネクスの効果発動! フェネクス・ビッグ・エアレイド!」

 もちろん後続のダイヤモンドガイのこともあり、《くず鉄のかかし》を発動しない訳にはいかなかったが、結果的にそれは、エドのデッドリーガイを守ったということになり。エドの思った通りにデュエルが進行していることに、焦りを感じながらボム・フェネクスの効果発動を宣言する。

「フィールドのカード×300ポイントのダメージを相手に与える!」

「甘い! 僕はセメタリーの《D-HERO ディシジョンガイ》のエフェクト発動! 僕が効果ダメージを受ける時、このモンスターを手札に戻すことで、そのダメージを無効にする!」

 ただし同じ効果が二回通用するほど、エドも甘い相手ではなく。《重爆撃禽 ボム・フェネクス》による火炎弾の爆撃は、いつの間にやら墓地に送られていたモンスター、《D-HERO ディシジョンガイ》の効果で阻まれる。

「……魔法カード《アドバンスドロー》を発動! レベル8であるボム・フェネクスをコストに、カードを二枚ドローする」

 ならば攻撃――といきたいところだが、《重爆撃禽 ボム・フェネクス》は、自身の効果を使ったターンに攻撃することは出来ない。最初のバーンダメージを与えてくれたことに感謝しながら、レベル8モンスターをコストに二枚ドローする魔法カード《アドバンスドロー》によって、リリースして二枚のドローに還元する。

「さらに墓地の《置換融合》の効果。墓地の融合モンスターをエクストラデッキに戻すことで、カードを一枚ドローする!」

 さらに《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の融合召喚に使用した魔法カード《置換融合》は、融合モンスターをエクストラデッキに戻し、自身を除外することで一枚のドローとなる。よって計三枚のカードをドローし、再び手札は潤沢な状態に戻っていた。

「俺は《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキから《音響戦士ベーシス》を特殊召喚!」

 そして展開の起点はやはり、《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果。手札一枚をコストに、デッキに残る最後の音響戦士こと《音響戦士ベーシス》を手札に加える。

「さらに墓地の《音響戦士ドラムス》の効果! このカードを除外することで、フィールドの音響戦士の属性を変更する!」

 《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の融合素材となった音響戦士、《音響戦士ドラムス》が自身の効果により、フィールドの音響戦士の属性を変えつつ除外される。しかして今回の属性変更は対した意味を持つものではなく、《音響戦士ドラムス》が除外された、という結果こそが重要だった。

「そして墓地の《音響戦士サイザス》は、自身を除外することで、除外ゾーンの音響戦士を特殊召喚する! 来い、《音響戦士ドラムス》!」

 同じく《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の融合素材となっていた《音響戦士サイザス》の効果により、《音響戦士ドラムス》が除外ゾーンを経由してフィールドに戻る。これで二体の音響戦士がフィールドに並ぶが、音響戦士は単独で戦闘をこなすステータスはない。

 そんな音響戦士たちのもとに駆けつけるかの如く、俺のフィールドに展開していた二つの光柱がさらに輝きを放っていき、上空に魔法陣が形成される――ペンデュラム召喚だ。

「ペンデュラム召喚! 《音響戦士ピアーノ》! 《ターレット・ウォリアー》! 《ガントレット・ウォリアー》!」

 二体の機械戦士が魔法陣から解き放たれ、通常召喚権を使うことなく三体のモンスターが同時に召喚される。ペンデュラムモンスターを《音響戦士ギータス》と《音響戦士マイクス》しか持っていないため、その真価を発揮することは出来ないものの、こうした召喚補助には役に立つ。

 もちろん、シンクロ召喚の補助に他ならない。

「いくぞエド! まずはレベル3の《音響戦士ピアーノ》に、レベル3の《ガントレット・ウォリアー》をチューニング!」

 そして五体のモンスターが埋まったフィールドで、続々とシンクロ召喚が開始される。まずは《音響戦士ピアーノ》と《ガントレット・ウォリアー》が光に包み込まれていき、合計レベルが6のシンクロ召喚。

「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 シンクロ召喚されたのは、新緑を基調とした装甲に身を包んだ、星屑の名を冠した機械戦士。機械戦士シンクロモンスターの中でも、最も攻撃力が低いモンスターではあるが、その効果はとびきり優秀だ。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》がシンクロ召喚に成功した時、カードを一枚ドロー出来る! ――ドローした《スカウティング・ウォリアー》の効果を発動!」

 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の第一の効果は、シンクロ召喚に成功した際のドロー効果。この効果によってカードをドローし、それが新たな機械戦士の道筋となる。

「《スカウティング・ウォリアー》は通常のドロー以外で手札に加わった時、特殊召喚される。さらに墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外することで、《音響戦士ドラムス》の種族を変更し、この二体でチューニング!」

 《スカウティング・ウォリアー》が特殊召喚されたことで、新たなチューナーと非チューナーのコンビが生まれる。例によって、除外効果による種族変更自体にあまり意味はないが、ともかく《音響戦士ドラムス》と《スカウティング・ウォリアー》の二体もまた、合計レベル6のシンクロ素材となっていく。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 デュエルスタジアムという大地を打ち砕きながら、獣をかたどった機械戦士が新たにシンクロ召喚される。そしてグラヴィティ・ウォリアーはエドのフィールドを睥睨し、D-HEROたちの放つ威圧感に身を震わせて、その身をさらに鋭くしていく。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 グラヴィティ・ウォリアーは自身の効果により、エドのフィールドにいる三体のモンスター――デッドリーガイ、ダイヤモンドガイ、エッジインプ・シザー――の数だけ、その攻撃力を上げ3000の大台へと突入する。

「最後にレベル1の《音響戦士ベーシス》と、レベル3の《ガントレット・ウォリアー》をチューニング!」

 最後に残った《音響戦士ベーシス》と《ガントレット・ウォリアー》もまた、例外なくシンクロ召喚の素材へと使用される。合計レベルは4と低く、そのレベルのシンクロモンスターは、俺のデッキには一つしかない。

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

 シンクロ召喚されるは、もちろん機械戦士たちの補助兵装こと、他に類を見ない効果を持つシンクロモンスター《アームズ・エイド》。モンスターの装備カードとなる、という効果を持つモンスターとして、既にフィールドにいた《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備されていく。

「《アームズ・エイド》はモンスターに装備することで、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 よって《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の攻撃力も、《グラヴィティ・ウォリアー》と並び3000の攻撃力。エドのフィールドのD-HEROたちを、軽々と破壊できる数値となった。

「さらに魔法カード《シンクロ・クリード》を発動! フィールドに三体のシンクロモンスターがいる時、カードを二枚ドロー出来る!」

 そしてシンクロ召喚した三体のシンクロモンスターが、魔法カード《シンクロ・クリード》の発動条件を満たす。本来ならば、相手フィールドも合わせて数えるカードであるが、今回は三体ともこちらのフィールドに存在する。

「バトル! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で、《D-HERO デッドリーガイ》に攻撃! スターダスト・クラッシャー!」

「リバースカード、オープン!」

 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が放つ、《D-HERO デッドリーガイ》を狙う閃光の一撃。デッドリーガイはまるで抵抗する素振りを見せなかったが、その一撃は見えない障壁に阻まれていた。

「僕が発動したのは《リビングデッドの呼び声》。そのエフェクトにより、セメタリーから《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚していた!」

 その障壁の正体は、エドが発動したリバースカード――ではなく。正確にはそのリバースカード《リビングデッドの呼び声》によって、墓地から特殊召喚されていた《D-HERO ドレッドガイ》。

「《D-HERO ドレッドガイ》が特殊召喚されたターン、僕のD-HEROたちは戦闘ダメージを受けず、破壊されない! ドレッド・ウォール!」

 先の《D-HERO デッドリーガイ》の効果によって、先んじて墓地に送られていたのだろう、《D-HERO ドレッドガイ》の効果。それは特殊召喚された際に、D-HEROに完全な戦闘への耐性を与えるものであり、三体のD-HEROを破壊する手段は俺にはない。

「だが、D-HEROじゃないそいつは破壊させてもらう! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》、《エッジインプ・シザー》に攻撃!」

 しかして《D-HERO ドレッドガイ》の効果で守ることが出来るのは、あくまでもD-HEROモンスターのみ。守備表示のためにダメージは与えられないものの、特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃できる効果でもって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は容易く《エッジインプ・シザー》を破壊する。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備された《アームズ・エイド》の効果! 破壊した相手モンスター攻撃力分のダメージを、相手に与える!」

「ぐっ……!」

エドLP2800→1600

 さらに与えられないのは戦闘ダメージだけであり、《アームズ・エイド》の効果によって生じるバーンダメージがエドを襲った。しかし《D-HERO ドレッドガイ》の効果を、これ以上かいくぐることは出来ずに、バトルを終了しメインフェイズ2に移行する。

「メインフェイズ2、俺はまだ通常召喚していない。《ミスティック・バイパー》を召喚し、効果を発動!」

 ペンデュラム召喚を活用したために、まだ俺は通常召喚権を使っていなかった。よってメインフェイズ2に神秘の笛吹き《ミスティック・バイパー》を召喚し、リリースすることで効果を発動する。

「《ミスティック・バイパー》は自身をリリースすることで、カードを一枚ドロー出来る。さらにそれがレベル1モンスターだったため、さらにもう一枚ドロー!」

 《ミスティック・バイパー》の効果でドローしたカードがレベル1モンスターだったため、二枚のカードをドローし盤面を再確認する。俺のフィールドには攻撃力3000となった《グラヴィティ・ウォリアー》に、《アームズ・エイド》を装備したことで同じく攻撃力3000となった《スターダスト・チャージ・ウォリアー》。そしてスケールにセッティング済みの《音響戦士マイクス》と《音響戦士ギータス》に、伏せられた《くず鉄のかかし》でライフはまだ削られていない。

「カードをさらに二枚伏せ、ターンエンド。エンドフェイズ時に《音響戦士マイクス》の効果により、除外ゾーンの《音響戦士ピアーノ》を手札に加える」

「僕のターン、ドロー!」

 そしてこちらのフィールドには、さらに二枚のリバースカードが追加された。対するエドのフィールドは、《D-HERO ドレッドガイ》を始めとして、《D-HERO ダイヤモンドガイ》に《D-HEROデッドリーガイ》。そして発動済みの《リビングデッドの呼び声》と、ライフポイントは1600。フィールドやライフポイントは特に、今のところこちらが有利だと思わせるものだったが。

「まずは魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手プレイヤーが前のターンに使った魔法カードを、こちらの手札に加えることが出来る!」

 エドが発動したカードから伸びたソリッドビジョンの糸が、俺のデュエルディスクの墓地から一枚のカードを奪っていく。あのカードは――

「《シンクロ・クリード》を発動! フィールドにシンクロモンスターが三体以上存在する時、カードを二枚ドローする……だったな」

「くっ……」

 フィールドには《グラヴィティ・ウォリアー》に《スターダスト・チャージ・ウォリアー》、装備モンスターとなった《アームズ・エイド》の三体が存在しており、それらによって《シンクロ・クリード》の発動条件は満たされる。何から何までこちらのカードで二枚のカードをドローされ、エドは更なる手を進めていく。

「ダイヤモンドガイのエフェクトにより、未来に送った魔法カードが発動される。さらに《D-HERO ディシジョンガイ》を召喚!」

 先のターンで《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で墓地に送られていたのは、三枚のドローを可能とする魔法カード《終わりの始まり》。よってカードを三枚ドローするとともに、墓地から自身の効果で手札に加えられた《D-HERO ディシジョンガイ》が通常召喚される。

「さらにセメタリーの《エッジインプ・シザー》の自身を蘇生するエフェクトにより、デッキトップに通常魔法《HEROの遺産》を置き、《D-HERO ダイヤモンドガイ》のエフェクトを発動する!」

 そして先程破壊したばかりの《エッジインプ・シザー》が、再び自身の効果によって墓地から蘇生される。そしてコストとしてデッキトップに置いた通常魔法が、ダイヤモンドガイの効果によって墓地に送られ、またもやその通常魔法《HEROの遺産》が未来で発動することが確定する。

 その流れるような動きにばかり注目してしまったが、これでエドのフィールドには、下級モンスターが揃っていて。

「三体のモンスターをリリースし、僕は最強のD! 《D-HERO Bloo-D》を特殊召喚する!」

 役目を終えた《D-HERO ダイヤモンドガイ》、《D-HERO ディシジョンガイ》、《エッジインプ・シザー》の三体をリリースすることで、エドの切り札の一種たる《D-HERO Bloo-D》が特殊召喚される。下級モンスターの独特な効果でサポートしつつ、最上級モンスターを特殊召喚する――という、D-HEROが得意とする動きだ。

「《D-HERO Bloo-D》のエフェクト発動! 相手モンスターを装備し、その攻撃力の半分の攻撃力を得る!」

「……《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 そして《D-HERO Bloo-D》の効果によって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は吸収されてしまい、《アームズ・エイド》も装備カードとして破壊されてしまう。ただ高い攻撃力を得るためだけであれば、《グラヴィティ・ウォリアー》を吸収した方が高い攻撃力を得られたものの、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》を選んだのは《アームズ・エイド》を装備しているからだろう。

 事実、《グラヴィティ・ウォリアー》は《D-HERO Bloo-D》の相手モンスターの効果を全て無効化する効果により、攻撃力が元々の2100にまで戻ってしまっている。

「さらに《D-HERO デッドリーガイ》のエフェクト! 手札を一枚コストにD-HEROをデッキからセメタリーに送り、セメタリーのD-HEROの数×200ポイント、フィールドのD-HEROの攻撃力をアップする!」

 そして再び発動される、《D-HERO デッドリーガイ》の効果。とはいえ先程のターンで発動された際とは、まるで状況が違っていた。

「セメタリーのD-HEROの種類は7種類。よって1400ポイントアップ!」

 まずは墓地のD-HEROの種類が増えたため、単純に攻撃力上昇の数値が上がっているということ。そして第二に――こちらの方が重要だが――エドのフィールドに、《D-HERO ドレッドガイ》がいるということだ。

「そして《D-HERO ドレッドガイ》の攻撃力は、自分フィールドのD-HEROの合計となる」

 そして《D-HERO ドレッドガイ》もまた、当然ながらD-HEROであるため、《D-HERO デッドリーガイ》の効果を受けることになる。

「よってドレッドガイの攻撃力は、5300ポイント!」

「ッ……!」

 攻撃力5300ポイントをトップに、その他の二体も攻撃力4000に近い。三体の攻撃をまともにくらってしまえば、いくらライフポイントが初期値のままだろうが、こうなれば一瞬でライフポイントは0となる破壊力である。

「バトル! ドレッドガイで――」

「待て! 手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動し、ドレッドガイの効果を無効にする!」

 しかしその効果はあくまでドレッドガイの効果によるものであり、《ミスティック・バイパー》の効果で引いた《エフェクト・ヴェーラー》によって効果を無効とする。手札から放たれた《エフェクト・ヴェーラー》が《D-HERO ドレッドガイ》を包み込み、その攻撃力はデッドリーガイの効果による上昇分、つまり1400ポイントとなった。

「瞬殺は免れたようだが……まだD-HEROは残っているぞ! バトル! 《D-HERO Bloo-D》で、《グラヴィティ・ウォリアー》に攻撃! ブラッディー・フィアーズ!」

「ぐあっ!」

遊矢LP4000→1800

 《D-HERO ドレッドガイ》を止めることが出来たとはいえ、エドの言った通りに残る二体のD-HEROもデッドリーガイの攻撃力上昇効果を受けている。《D-HERO Bloo-D》の一撃が《グラヴィティ・ウォリアー》の装甲を貫き、初ダメージには大きすぎる一撃が加えられた。

「さらにデッドリーガイでダイレクトアタック!」

「《くず鉄のかかし》を発動!」

 最初のターンの攻防の再現のように、《くず鉄のかかし》がデッドリーガイからの攻撃をなんとか防ぐ。その後、発動を待つように再びセットされる姿に感謝する――間もなく、巨大な影が俺を覆っていた。

「ドレッドガイで攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」

「っつ!」

遊矢LP1800→400

 ドレッドガイの効果は無効にしても、デッドリーガイの効果によって上昇した攻撃力までは無効に出来ない。ダイレクトアタックの一撃を受け、俺のライフは崖っぷちに追い込まれた。

「エンドフェイズ。通常召喚に成功した《D-HERO ディシジョンガイ》のエフェクト発動! セメタリーからHEROモンスターを手札に加える。カードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン……ドロー!」

 《くず鉄のかかし》のおかげで何とか攻撃をしのぎ、こちらのターンに回ってくる。だがエドも《D-HERO ディシジョンガイ》の効果で、何やら墓地からHEROモンスターをサルベージしており、さらに二枚のリバースカードをセットしている。それらを突破して、《D-HERO ドレッドガイ》、《D-HERO Bloo-D》、《D-HERO デッドリーガイ》の三体を突破する方法は――

「俺は魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! チューナーモンスター、《トルクチューン・ギア》!」

 まずは魔法カード《ワン・フォー・ワン》により、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する。チューナーモンスターらしく、自らが戦闘に耐えられるステータスではなく、さらにモンスターを展開する。

「《チューニング・サポーター》を通常召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! さらに二体の《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」

「何をシンクロ召喚する気だ?」

 《チューニング・サポーター》を対象に《機械複製術》を使うことで、これでフィールドにはモンスターが四体。チューナーモンスターである《トルクチューン・ギア》を合わせて、いかなるシンクロモンスターだろうと召喚出来る布陣が揃う。ただしこちらがどんなモンスターをシンクロ召喚しようが、《D-HERO Bloo-D》を中心とした布陣は突破されない自信があるのか、エドはこちらを挑発してみせた。

「まだだ。《音響戦士ピアーノ》をペンデュラム召喚する!」
 確かに今のフィールドのままでは、エドの布陣を突破することは出来ないだろう。しかし俺にはまだ、《音響戦士マイクス》で除外ゾーンから手札に加えた《音響戦士ピアーノ》と、その召喚を可能とするペンデュラムがある。

「レベル3の《音響戦士ピアーノ》と、それぞれレベルを変更した《チューニング・サポーター》をチューニング!」

 そして五体のモンスターがフィールドに揃い、その内四体のモンスターがシンクロ素材となっていく。《チューニング・サポーター》はその名の通り、シンクロ召喚のサポートを可能とする効果。それぞれレベルを変更していき、指定のシンクロ召喚のサポートとなる。

「忘れたか遊矢! 《D-HERO Bloo-D》がいる限り、相手モンスターの効果は全て無効となる!」

 《D-HERO Bloo-D》をD-HEROの切り札たらしめる、相手モンスターの効果を全て封殺する強力な効果。それは《チューニング・サポーター》の効果も例外ではなく、フィールドにBloo-Dが存在する限り、レベル変更効果を使うことは出来ない――本来ならば。

「いや、墓地から《ブレイクスルー・スキル》を除外することで、《D-HERO Bloo-D》の効果を無効にする!」

「何!?」

 ただし、その封殺効果が健在ならの話だ。《ブレイクスルー・スキル》は墓地から除外することで、相手モンスター一体の効果を無効とし、《チューニング・サポーター》たちは十全にシンクロ素材となっていく。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 そして《チューニング・サポーター》のレベル変更効果を使ってシンクロ召喚されたのは、光をも斬り裂く機械戦士《セブン・ソード・ウォリアー》。その名の通りにあらゆる武器を使ってみせる彼に、フィールドに残った《トルクチューン・ギア》が近づいていく。

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になった時、カードを一枚ドローする。よって三枚ドロー! さらに《トルクチューン・ギア》は、自分フィールドのモンスターに装備することが出来る!」

 《チューニング・サポーター》のシンクロ素材になった際の効果で手札を補充しながら、《トルクチューン・ギア》の効果を発動する。攻撃力・守備力を500ポイントアップさせる装備カードとして、モンスターに装備することが出来る、という。

「そして《セブン・ソード・ウォリアー》にカードが装備された時、相手プレイヤーに800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

「ぐっ!」

エドLP1600→800

 しかしこの局面で重要なのは、《セブン・ソード・ウォリアー》にカードが装備されたということ。よって《セブン・ソード・ウォリアー》の効果が発動し、エドのライフもまた、残り800ポイントという数値となった。

「さらに《セブン・ソード・ウォリアー》に装備されたカードを墓地に送ることで、相手モンスターを破壊する! 対象はもちろん、《D-HERO Bloo-D》!」

 狙うは《D-HERO Bloo-D》。装備カードと引き換えに相手モンスターを破壊する《セブン・ソード・ウォリアー》の効果により、《トルクチューン・ギア》が変形したナイフが《D-HERO Bloo-D》に放たれ――

「リバースカード、《D-フュージョン》を発動!」

 ――《D-HERO Bloo-D》はそのナイフに当たる直前に、突如として現れた時空の穴に吸い込まれていく。いや、《D-HERO Bloo-D》だけではなく、《D-HERO デッドリーガイ》までもが。

「《D-フュージョン》は、フィールドのD-HEROを素材に融合召喚する! 現れろ、《D-HERO ディストピアガイ》!」

 伏せられていたリバースカードは罠融合。こちらの《セブン・ソード・ウォリアー》の効果破壊を避けながら、新たなエース級のD-HEROを融合召喚してみせた。その攻撃力は2800と、他にフィールドにいる《D-HERO ドレッドガイ》も自身の効果によって同様の攻撃力のため、残念ながら《セブン・ソード・ウォリアー》が適う相手ではない。

「さらに《D-HERO ディストピアガイ》のエフェクト発動! このモンスターが融合召喚に成功した時、セメタリーのレベル4以下のD-HEROの攻撃力分、相手プレイヤーにダメージを与える!」

「リバースカード、オープン! 《ダメージ・ポラリライザー》!」

 そして融合召喚された《D-HERO ディストピアガイ》の効果は、融合召喚した際の強力なバーン効果。こちらに《D-HERO ディシジョンガイ》の攻撃力分、1600ポイントの一撃が放たれるものの、なんとか伏せていた《ダメージ・ポラリライザー》で受け流すことに成功する。

「そしてお互いのプレイヤーは、カードを一枚ドローする」

 いつかのアカデミアで亮とトレードしたカードであり、お互いにカードをドローさせるその効果は、彼が標榜していたリスペクトデュエルを思い起こさせる。感謝しながらもカードを一枚ドローし、エドのフィールドに残るディストピアガイとドレッドガイ、リバースカードの一枚をどう攻略するか思索を巡らせる。

「……まだだ。魔法カード《シンクロキャンセル》を発動し、《セブン・ソード・ウォリアー》をエクストラデッキに戻すことで、シンクロ素材をフィールドに戻す!」

 新たな融合D-HEROには驚かされたものの、こちらとてまだターンは終わっていない。エドのライフに有効打を与えてくれた《セブン・ソード・ウォリアー》をエクストラデッキに戻すと、《シンクロキャンセル》の効果に《音響戦士ピアーノ》と《チューニング・サポーター》が三体、フィールドに特殊召喚される。

「またシンクロ召喚か?」

「いや……エクシーズだ! 俺は三体の《チューニング・サポーター》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 茶化すようにこちらに問いかけてきたエドにそう返し、今度はあちらが驚く手番となった。《シンクロキャンセル》で現れた三体の《チューニング・サポーター》には、シンクロ召喚の際の光に包まれるのとも、融合召喚の際の時空の穴に吸い込まれていくのとも、どちらともまた違う現象が起きていた。

「集いし鉄血が闘志となりて、震える魂にて突き進む! エクシーズ召喚! 《No.54 反骨の闘士ライオンハート》!」

 雄々しいたてがみを翻し、身体中に痛々しくも機械を埋め込んだ反骨の闘士。かつてのコロッセオにおける拳闘士のような、そんな風貌をした自分自身の――そう、俺自身のナンバーズ。

「バトル! ライオンハートでドレッドガイを攻撃!」

「攻撃力は……100だと!?」

 新たに降臨したエクシーズモンスターのステータスを見たエドが、ライオンハートの攻撃力の数値自体と、その数値で攻撃をしてくることに警戒する。もちろん、ただの自爆特効ではなく、勝利のための一手であった。

「ライオンハートのオーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、このモンスターが受ける戦闘ダメージを、全て相手に与える!」

 こちらの《No.54 反骨の闘士ライオンハート》と、《D-HERO ドレッドガイ》の攻撃力の差分は2700。エクシーズ素材となっていた《チューニング・サポーター》一体が取り除かれ、ライオンハートがドレッドガイの一撃を受け止めんと力を込めた――ところに、フィールドに鎖のジャラジャラとした音が響き渡った。

「伏せていた《D-チェーン》を、ディストピアガイに装備する!」

 その鎖の音は《D-チェーン》。D-HEROたちの専用罠カードであり、装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる効果と、装備モンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時に500ポイントダメージを与える効果を持つ。

「――よって《D-HERO ディストピアガイ》のエフェクト発動!」

 どちらの効果もこの局面には意味はなく、しかも攻撃対象ではない《D-HERO ディストピアガイ》に装備された――という、一見には何の意味もない行動だった。しかしてそれは、ディストピアガイの更なる効果の発動トリガーだったらしく。

「このモンスターの攻撃力が変動した時、その攻撃力を元々の数値に戻すことで、相手のカードを破壊する! ノーブルジャスティス!」

「な……ライオンハート!」

 攻撃力が変動した時、その攻撃力を元々の数値に戻す。発動トリガー自体はD-HEROらしくトリッキーなものだったが、効果自体は至極単純なもので。ドレッドガイに攻撃を仕掛けていたライオンハートは、ディストピアガイの一閃の前に破壊されてしまう。

「くっ……メインフェイズ2、伏せていた《リミット・リバース》で、《チューニング・サポーター》を特殊召喚する」

 決め手ともなりえた《No.54 反骨の闘士ライオンハート》のあっさりとした破壊に、少しばかりショックを隠しきれないものの、まだこちらのターンは終わっていない。もはやバトルフェイズは行えないが、まだ出来ることはあるはずだと、最後まで伏せていた《リミット・リバース》を発動し、またもや《チューニング・サポーター》を蘇生する。

「さらに墓地の《音響戦士ベーシス》の効果! このモンスターを除外することで、フィールドの音響戦士のレベルを、手札の数だけ増やす!」

 そしてそのままシンクロ召喚――する前に、墓地に存在する《音響戦士ベーシス》の効果を発動する。自身を除外することでフィールドの音響戦士に自身の効果を付与する、という音響戦士チューナーに共通の効果により、《シンクロキャンセル》で墓地に戻っていた《音響戦士ピアーノ》のレベルが手札の数――つまり2レベル上がる。

「レベル5と《音響戦士ピアーノ》と、自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》でチューニング!」

 合計レベルは7。先のシンクロ召喚の際には《セブン・ソード・ウォリアー》に出番を譲ったが、今こそ鋼鉄の咆哮がフィールドに鳴り響く。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 黄色い装甲に身を包んだ竜がその装甲の下から吐息を漏らし、もはや機械族とは思えない叫び声は、早くこの身を解放しろとせっついているようで。そして確かに、《D-HERO Bloo-D》が破壊された今、効果の発動を止められる者は存在しない。

「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になったため、カードを一枚ドロー。さらにパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動し、デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

「……右のカードだ」

 さらに《チューニング・サポーター》と《パワー・ツール・ドラゴン》の効果が発動され、カードを一枚ドローするとともに、エドが選択した装備魔法が手札に加えられる。もはやメインフェイズ2のため、装備魔法を加えようと攻撃は出来ないが、狙った装備魔法を手札に加えることに成功する。

「装備魔法《リビング・フォッシル》を発動! 攻撃力を1000ポイント下げ、効果を無効にすることで、墓地からこのカードを装備してモンスターを蘇生する! 現れろ、《エフェクト・ヴェーラー》!」

 《D-HERO ドレッドガイ》の効果を無効にする為に墓地に送っていた、《エフェクト・ヴェーラー》が装備魔法《リビング・フォッシル》によって、墓地を経由してフィールドに現れた。効果無効と攻撃力ダウンと、本来ならば無視できないデメリットがあるものの、今の《エフェクト・ヴェーラー》にはまるで関係はない。

「レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》に、レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》をチューニング!」

「まだ来るか……!」

 そして《セブン・ソード・ウォリアー》に《No.54 反骨の闘士ライオンハート》に引き続きシンクロ召喚された《パワー・ツール・ドラゴン》もまた、新たな切り札を呼び込むための呼び水となっていく。そしてこの組み合わせでシンクロ召喚されるモンスターと言えば、もはや特定されているようなものだ。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》が《エフェクト・ヴェーラー》の力を借りて、装甲を一つずつパージしていくにつれ、真の力を取り戻していく。そして炎を纏って飛翔していき、真の力を取り戻したエネルギーを俺に与えていく。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功した時、俺のライフポイントを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

「…………」

 風前の灯火だったこちらのライフポイントが初期値に戻っていき、ライフポイントだけはエドの値を大きく引き離す。またステータスにおいても、《D-チェーン》による上昇値を自らで無効にした《D-HERO ディストピアガイ》を上回っている。

「エンドフェイズ時、《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果で、除外ゾーンの《音響戦士ベーシス》を手札に加え、俺は……ターンを終了する」

「僕のターン、ドロー! ……《アトバンスドロー》を発動し、《D-HERO ドレッドガイ》をリリースすることで、カードを二枚ドロー!」

 そしてお互いが攻防を繰り広げた長い一ターンが終わり、ようやくエドのターンへと移る。まずエドはレベル8モンスターをコストに二枚ドローする魔法カード《アトバンスドロー》によって、《D-HERO ドレッドガイ》をリリースして二枚のカードをドローする。

「さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》によって未来に送られていた、《HEROの遺産》のエフェクトが発動する! よってカードをさらに三枚ドロー!」

 さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で墓地に送っていた、《HEROの遺産》というドローソースが発動し、エドはさらにカードを三枚ドローする。本来ならばHEROモンスターを融合素材とした、墓地の融合モンスターを二体エクストラデッキに戻す、という発動条件があるのだが、ダイヤモンドガイによって発動条件は無視して発動される。

「……魔法カード《大嵐》を発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

「何!?」

 そして潤沢になった手札から放たれる、フィールド全ての魔法・罠カードを破壊するカード《大嵐》。しかして破壊されるのは、エドの効果がほぼ無効となった《D-チェーン》に、無為にフィールドに残っていた《リビングデッドの呼び声》。対するこちらは、フィールドに再セットされた《くず鉄のかかし》に、《音響戦士マイクス》と《音響戦士ギータス》のペンデュラムモンスターたち。

「ようやくその厄介なペンデュラムは消えた。さらにフィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動!」

 そしてお互いのモンスターカードゾーンにいる《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と、《D-HERO ディストピアガイ》を除いて焼け野原となってしまったフィールドを、エドのフィールド魔法《幽獄の時計塔》が支配する。

「そして《D-HERO ドレッドサーヴァント》を召喚! 回れ、運命の針よ! 刻め、運命の針よ!」

 そして《D-HERO ドレッドサーヴァント》の登場により、《幽獄の時計塔》の針が進む。あの針が最後まで進んでしまえば、こちらからの戦闘ダメージは全てシャットアウトされてしまう。

「まだだ。《ドクターD》を発動し、セメタリーのD-HEROを一体除外することで、レベル4以下のD-HEROを蘇生する! 蘇れ、《D-HERO ダイヤモンドガイ》!」

 さらに発動されたD-HERO専用の蘇生カード《ドクターD》の効果により、再び《D-HERO ダイヤモンドガイ》が特殊召喚される。続々とフィールドに現れてくるD-HEROたちに、嫌な予感を感じるものの、妨害する手段はこちらにはなかった。

「ダイヤモンドガイのエフェクトで未来に送ったカードは《戦士の生還》。さらにセメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動!」

 さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果によって、デッキトップに存在していた《戦士の生還》が墓地に送られ、次なるターンに発動が確定する。そして《D-HERO デッドリーガイ》の効果で墓地に送られていたのだろう、《D-HERO ディアボリックガイ》の効果が発動する。

「《D-HERO ディアボリックガイ》は、セメタリーの自身を除外することで、デッキから同名モンスターを特殊召喚する! カモン、アナザーワン!」

 ――そしてデッキから特殊召喚された《D-HERO ディアボリックガイ》を加えて、新たにフィールドに現れたモンスターは三体。エドの切り札クラスのモンスターの召喚条件を満たし、《D-HERO Bloo-D》を破壊した今、現れるれるのは。

「三体のモンスターをリリースし、《D-HERO ドグマガイ》を特殊召喚する!」

 最も攻撃力の高いD-HEROに相応しいパワフルな動きで、黒翼をたなびかせながら《D-HERO ドグマガイ》が《幽獄の時計塔》の下に降り立った。そして元々フィールドにいた《D-HERO ディストピアガイ》と並び、こちらの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と対峙する。

「……そのドラゴンは厄介だ、破壊させてもらう! バトル! 《D-HERO ドグマガイ》で、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を攻撃! デス・クロニクル!」

「……墓地の《シールド・ウォリアー》の効果を発動! このモンスターを除外することで、戦闘破壊を無効にする!」

遊矢LP4000→3500

 《D-HERO ドグマガイ》の剛腕から放たれた一撃を、墓地から現れた盾持ちの戦士、《ワン・フォー・ワン》によって墓地に送られていた《シールド・ウォリアー》が防いでみせた。《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は自前の破壊耐性を備えてはいるものの、《D-HERO ディストピアガイ》の破壊効果を警戒し、《シールド・ウォリアー》に任せていた。

「ならばセメタリーの《D-HERO ダイナマイトガイ》のエフェクト発動! このモンスターを除外することで、フィールドのD-HERO一体の攻撃力を、1000ポイントアップする!」

「何!?」

 攻撃はないと高をくくっていた《D-HERO ディストピアガイ》の攻撃力が、墓地に送られていた《D-HERO ダイナマイトガイ》によって《ライフ・ストリーム・ドラゴン》どころか、《D-HERO ドグマガイ》すらも越えてみせる。そしてまだバトルフェイズは続いており、《D-HERO ディストピアガイ》もまた、こちらに攻撃態勢を取る。

「続いて《D-HERO ディストピアガイ》で、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を攻撃! ディストピアブロー!」

「くっ……《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果を発動! イクイップ・アーマード!」

 予想だにしない方法で攻撃力の上がった《D-HERO ディストピアガイ》の攻撃に、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果が発動する。墓地の装備魔法を除外することで破壊を無効にするというものであり、自身のシンクロ召喚に使用した装備魔法《リビング・フォッシル》をコストに、《D-HERO ディストピアガイ》の一撃を防ぐ。

遊矢LP3500→2400

「だが、これで装備魔法はなくなった。ディストピアガイのエフェクト発動! このモンスターの攻撃力を元々の攻撃力に下げ、相手のカードを破壊する! ノーブルジャスティス!」

「ライフ・ストリーム……!」

 ただしこの効果では受けるダメージを減らすことは出来ずに、《D-HERO ディストピアガイ》による効果破壊には耐えられず、あっけなく《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は破壊されてしまう。

 それでもエドにもう攻め手はないらしく、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は俺のライフを守りきってくれた、と言っていいだろう。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了する……相変わらずしぶといな、お前は」

「お褒めの言葉どうも……俺のターン、ドロー!」

 これでこちらのフィールドは文字通りがら空きになり、エドのフィールドは《D-HERO ディストピアガイ》に《D-HERO ドグマガイ》、さらに二枚のリバースカードにフィールド魔法《幽獄の時計塔》。

 勝っているのはライフポイントぐらいというこの状況で、ドローしたカードで反撃の狼煙を上げる――と、言いたいところだが。こちらのターンのスタンバイフェイズ時、運命を操るD-HEROたちが行動を開始する。

「《D-HERO ドグマガイ》のエフェクト発動! 相手ターンのスタンバイフェイズ時、相手のライフを半分にする! ライフ・アブソリュート!」

「ぐっ!」

遊矢LP2400→1200

 まずは《D-HERO ドグマガイ》の効果により、こちらのライフポイントは半分に減ずる。先のターンに《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に回復してもらったというのに、こうもすぐさま削られる姿に戦慄してしまう。

「さらに相手ターンのスタンバイフェイズ時、《幽獄の時計塔》は新たな時を刻む!」

 そしてフィールド魔法《幽獄の時計塔》もまた、こちらのターンに運命の針を進めていく。今は六時を示しており、あれがもう一度零時に針が向いた瞬間、こちらの戦闘ダメージは一切通じなくなってしまう。

「俺はカードをセット! さらに通常魔法《ブラスティング・ヴェイン》を発動し、セットカードを破壊し二枚ドロー!」

 どちらも大量に展開しているように見せて、もはやお互いに満身創痍。このデュエルは最終局面を迎えようとしており、ならば召喚されるのはこのモンスターに他ならない。

「破壊されたのは《リミッター・ブレイク》! その効果により、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

「……来たか……」

 セットカードを破壊して二枚のカードをドローする魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》と、破壊時に除外ゾーン以外のあらゆる場所から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚するサポートカード《リミッター・ブレイク》により、マイフェイバリットカードが遂にフィールドに特殊召喚される。さらに今回はそれだけではなく、新たな速攻魔法をデュエルディスクにセットする。

「さらに速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! さらに二体、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

 そして攻撃力1500以下のモンスターの特殊召喚に反応し、速攻魔法《地獄の暴走召喚》が産声をあげる。その効果によってさらに《スピード・ウォリアー》が二体特殊召喚され、エドも同名モンスターの特殊召喚権を得るが、二体のD-HEROともその条件を満たさない。

「さらに《音響戦士ベーシス》を召喚し、効果発動! 手札の数だけ、このモンスターのレベルを上げる!」

 さらに召喚されるのは、除外ゾーンを経由して手札に戻っていた《音響戦士ベーシス》。召喚とともに効果を発動し、手札の枚数――三枚分のレベルを上げる。

「レベル4となった《音響戦士ベーシス》と、レベル2の《スピード・ウォリアー》二体をチューニング!」

 そして狙うはレベル8のシンクロ召喚であり、モンスターたちが光に包まれていくとともに、フィールドに激震が走っていく。まさに《幽獄の時計塔》を破壊しかねない勢いに比例して、《スピード・ウォリアー》たちが起こす光も増していく。

「集いし決意が拳となりて、荒ぶる巨神が大地を砕く。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ギガンテック・ファイター》!」

 そして大地に拳を打ちつけながらシンクロ召喚されるは、このデッキにおける最強のシンクロモンスター。鋼の機械巨人《ギガンテック・ファイター》は、腕組みをしながら二体のD-HEROと睨み合う。

「まだだ! 魔法カード《ヘルモスの爪》を発動! このカードと《スピード・ウォリアー》を融合させる!」

「魔法カードと融合……!」

 機械戦士が新たに生まれ変わった際に現れた、モンスターと融合し装備カードとなるという効果を持つ魔法カード《ヘルモスの爪》。エドの前で使ったのはこれで二回目だが、流石にその他に類を見ない効果にエドも驚きを隠せないらしく、固唾を飲んで《ヘルモスの爪》と《スピード・ウォリアー》の融合を見守っていた。

「融合召喚! 《女神の聖弓-アルテミス》!」

「《ヘルモス・ロケット・キャノン》じゃない……?」

 確かに前回のデュエルで見せた形態は《ヘルモス・ロケット・キャノン》だったが、《スピード・ウォリアー》が今回見せた変形形態は、巨大な弓である《女神の聖弓-アルテミス》。それが《ギガンテック・ファイター》に装備され、それを一直線に《D-HERO ディストピアガイ》に向けた。

「《ヘルモスの爪》は様々な形態を持つ。そして《ギガンテック・ファイター》は、お互いの墓地の戦士族モンスターの数×100ポイント、攻撃力をアップさせる! いくぞエド!」

 機械戦士とD-HERO。お互いに戦士族モンスターを主軸とするデッキの使い手として、《ギガンテック・ファイター》は更なる攻撃力を発揮する。どちらも除外やエクストラデッキに戻すなど、墓地以外のゾーンも積極的に使っているため、圧倒的な攻撃力とまではいかないが――それでもD-HEROたちを倒すのには充分な、攻撃力4300という数値を誇った。

「《ギガンテック・ファイター》で《D-HERO ディストピアガイ》に攻撃! 女神の聖弓-アルテミス!」

「――リバースカード、オープン! 《デマイズ・アーバン》!」

 《ギガンテック・ファイター》が引き絞った《女神の聖弓-アルテミス》から、融合素材となった《スピード・ウォリアー》形のエネルギーが放出された。それが《D-HERO ディストピアガイ》に届くか届かないか――といったところで、エドのリバースカードが発動する。

「相手モンスターが攻撃してきた時、D-HEROの攻撃力をアップさせる。よって《D-HERO ディストピアガイ》のエフェクトが発動――!?」

「《女神の聖弓-アルテミス》の効果! 相手のカード効果を無効にする!」

 ただし《女神の聖弓-アルテミス》から放たれた《スピード・ウォリアー》は、先にその永続罠カード《デマイズ・アーバン》そのものを貫いた。よって《D-HERO ディストピアガイ》は攻撃力を増減させることが出来ないため、その効果を発動することは不可能だ。

 そして《スピード・ウォリアー》が止まることはなく、デュエルを終わらせんと《D-HERO ディストピアガイ》を貫いた。モンスターが破壊された爆炎が、直接的なダメージとしてエドを覆うが――何か障壁が発生しているかのように、エドには粉塵すらも寄り付かない。

「……さらにリバースカード《エターナル・ドレッド》を発動した。このカードのエフェクトにより、《幽獄の時計塔》の針はさらに二つ進む」

 エドのフィールドに伏せられていた、二枚のリバースカード。こちらが無効とした《デマイズ・アーバン》ではなく、さらに発動した《エターナル・ドレッド》の効果により、《幽獄の時計塔》の針は再び零時を指し示していた。

 こうなればこちらからの戦闘ダメージは全て無意味となり、かと言って破壊してしまえば、あの《幽獄の時計塔》に囚われている《D-HERO ドレッドガイ》が解放される。そうなってしまえば二体のD-HEROがともに現れ、こちらの戦況は一気に追い込まれてしまうだろう。

「……だが、戦闘破壊だけはさせてもらう! 《女神の聖弓-アルテミス》が無効化効果を発動した時、装備モンスターは二回攻撃が出来る!」

 一度だけしか効果を無効に出来ない隙を突かれ、《エターナル・ドレッド》の発動を許してしまったが、《女神の聖弓-アルテミス》の効果はまだ続いている。相手のカード効果を無効化した際には、さらに装備モンスターに二回攻撃を付与する効果であり、《ギガンテック・ファイター》は再び弓を引き絞った。

「ドグマガイに攻撃!」

「だが《幽獄の時計塔》のエフェクトにより戦闘ダメージは受けない」

 エドのライフポイントを削りきる一撃が二回ほど叩き込まれたが、それらのダメージは全て《幽獄の時計塔》に吸い込まれてしまう。トドメを刺せなかったことに歯噛みしながらも、二体のD-HEROを倒しただけいいと考えておく。

「カードを一枚伏せ……ターンエンド」

「僕のターン……ドロー!」

 そしてエドのターンに移行する。あちらのフィールドには《幽獄の時計塔》と対象のモンスターがいない《デマイス・アーマン》のみで、デュエル終盤ということで手札も心もとない――それはこちらも同じだが。

 しかしてエドから感じるのは――このターンでデュエルを終わらせてやる、という気迫。

「僕は《貪欲で無欲な壺》を発動! セメタリーの《D-HERO ドグマガイ》、《D3》、《エッジインプ・シザー》をデッキに戻し、二枚ドロー!」

 その気迫が間違いではないというように、墓地の種族が違うモンスターが三体デッキに戻すことで、カードを二枚ドローする魔法カード《貪欲で無欲な壺》を発動する。ただしあの魔法カードには、バトルフェイズを行えないという重いデメリットがあり、それでもなおこのターンで決める気ならば、エドの狙いは。

「さらに未来に送っていた《戦士の生還》のエフェクト発動! 墓地から《D-HERO Bloo-D》を手札に加え……ファイナルターンだ、遊矢! 」

 エドのファイナルターン宣言。やはりバトルフェイズを封じられていようと、エドはこのターンで終わらせてようとしていて――実際にこのデュエルを終結に導けるモンスターを、俺は知っていた。

「そして《融合徴兵》で《D-HERO ドグマガイ》を手札に加え……《融合》を発動する!」

エドが発動したカードは、再び《融合》。その融合素材は、《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で未来に送っていた《戦士の生還》で手札に加えた《D-HERO Bloo-D》と、《融合徴兵》によって手札に加えた《D-HERO ドグマガイ》。

 魔法カード《融合徴兵》は、融合モンスターに記されたデッキモンスターをサーチする魔法カードであり――すなわち、今から融合召喚されるのは、《D-HERO ドグマガイ》を融合素材に指定しているモンスターである。

「融合召喚! 《Dragoon D-END》!」

 そして降臨する龍の力を得たD-HERO――いや、『最後のD』。融合素材を《D-HERO Bloo-D》と《D-HERO ドグマガイ》の二体の切り札を指定している、エドの正真正銘の最後の隠し玉。攻撃力こそこちらの《ギガンテック・ファイター》には及ばないが、その効果はだからこそ有用に働いた。

「D-ENDの効果! 相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える! インビンシブル・D!」

 《Dragoon D-END》の身体に巻き付いていた竜の首が、標的に向かって何物をも一瞬で灰にするかのような熱量を伴った炎を吐いた。標的は当然ながら《ギガンテック・ファイター》。元々の攻撃力分である2800ポイントのバーンダメージに、着実に削られたこちらのライフポイントは耐えることは出来ずに、《女神の聖弓-アルテミス》も無効化効果はこのタイミングでは使えない。

「リバースカード、オープン! 《上級魔術師の呪文詠唱》!」

 ――だからこそ、俺はあの切り札の登場を待っていた。何故なら、俺は先のエドとDDのデュエルの際に、あの《Dragoon D-END》を駆るエドの姿を見ているからだ。

「このカードを発動した時、手札の魔法カードを速攻魔法として発動出来る! 俺が発動するのは――《ミラクルシンクロフュージョン》!」

 そこに付け入る隙があった。エドは最後の最後となれば、あの切り札《Dragoon D-END》で決着をつけにくる、と。そう予測をたてていた俺は、こうしてD-HEROたちに攻撃力が勝る、《ギガンテック・ファイター》という撒き餌をまいた。

「《ミラクルシンクロフュージョン》の効果! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と、《スピード・ウォリアー》の力を一つに!」

 ――エドの切り札に対して、こちらも切り札をもって対抗するために。

「現れろ! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

 そして手札の魔法カードを速攻魔法として扱う《上級魔術師の呪文詠唱》により、手札から発動されるのは《ミラクルシンクロフュージョン》。墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》を融合し、このデッキの切り札――《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》を降臨させた。

「……D-ENDの効果は……止まらない……!」

 これがD-ENDの攻撃ならば巻き戻しも発生しようものだが、あいにくとそれはD-ENDの破壊効果。こちらの切り札が降臨しようが止められるものではなく、苦々しげにエドがそう呟いた。

 そして《Dragoon D-END》が放った炎が、どこか役目を果たしたように満足げな《ギガンテック・ファイター》を燃やし尽くし破壊していく。さらにそれだけで終わるわけもなく、《ギガンテック・ファイター》を焼き尽くしたことによって得た火力が、俺本人にも牙を剥いた――

「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果発動!」

 ――だが、それこそが俺の狙い。《Dragoon D-END》の放った炎は、こちらに襲いかかってくることは出来ずに、全て《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の持つ槍に吸収されていってしまう。それこそが《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果であり、《ギガンテック・ファイター》の力が籠もった槍をエドに向けた。

「相手プレイヤーに効果ダメージを跳ね返す! ウェーブ・フォース!」

 《ギガンテック・ファイター》の力を得た、攻撃力2800ポイント分のバーンエネルギー。それは《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》によって、《Dragoon D-END》を通り過ぎ、直接エドに襲いかかっていく――

「うわぁぁぁぁ!」

エドLP800→0

 デュエルの決着とともに割れんばかりの声援が響き渡り、それでこのデュエルが卒業模範デュエルだったな、と思い出した。どこか気恥ずかしくなってしまいながらも、敗北によるダメージで膝をついたエドに歩み寄ろうとした瞬間、三沢の用意した異次元への移動装置が起動した。

 まるでペンデュラム召喚の際の魔法陣のように、空間を裂いて現れたそれは、どこか俺を待ち受けているようで。

「……行ってこい、遊矢。僕の代わりに行くんだ、負けは許されないぞ」

 ほうほうの体でエドは立ち上がった。三沢の開発したシステムによって、敗北した者のデュエルエナジーでこの異次元への移動装置は起動している。本来なら立っているのも難しいだろうに、わざわざエドが憎まれ口を叩きながら激励にきた。

「……ああ!」

 三沢、レイ、エド。いや、その三人だけではなく、今もアカデミアで敵と戦っているであろう、万丈目を始めとした仲間たち。

 そして……明日香。彼ら彼女らの力を借りることで、遂に俺は、ダークネスが待つ次元へと足を踏み入れていた。

 
 

 
後書き
 久々活躍のドラゴエクィテスさん。切り札として出したにしては、他にドラゴン族シンクロモンスターいないから効果は基本使えないし、普段は出番が少ないのに負けデュエルには必ずいたり、三期辺りに地の文で『俺のエクストラデッキに入っている融合モンスターは、《サイバー・ブレイダー》のみ』とか完全に存在を忘れられたり、ちょっと不遇な感じですがお気に入りです。なんだかんだ切り札としての面目は保たれている……ような、そうでもないような。

 突然ですがここで問題です。このデュエルで、遊矢がエドに与えた戦闘ダメージは何ポイントでしょう?

 

 

-Endless Dream-

 
前書き
※一部、機種依存文字を似た文字で代用している場所があります 

 
「十代!」

 エドとのデュエルで次元を超えた俺が最初に見たのは、どこまでも続いていく闇――その中に立っていた、炎のような真紅の制服だった。

「……遊矢」

「十代も来てたんだな。アカデミアの方は大丈夫だ……任されたしな」

 十代はアカデミアを俺たちに任せていき、童実野町を助けに行っていた。あちらには海馬コーポレーションがあるので、次元移動のシステムがあったとしても不思議ではなく、童実野町を守ることが出来たのだろう。

「なら、あとは世界を救うだけだ」

「……ああ!」

 そして闇を見つめていた十代はこちらに振り向くと、力強くそう言っていた。お互いに様々な人たちの力を借りて、ようやくこの場に立っているのだと、そう感じさせる表情に頷いて。

「来るぞ!」

 すると十代はデュエルディスクを構え、今まで見つめていた方向を再び向いた。俺も十代の隣に並び立ちながらデュエルディスクを構えると、闇の中に『ソレ』はいた。『ソレ』自体も暗い闇であるにもかかわらず、何故か巨大な質量を感じさせ、悪魔のイメージを形にしたような全身が俺たちを睥睨する。

『我が名は――ダークネス』

 その轟く声に世界が響く。いや、俺たちが声だと認識しているだけで、本来はもっと別の物かもしれないが、それ以上の会話をする気はあの『ダークネス』にはないらしい。俺たちの構えたデュエルディスクに反応したように、闇の中に五枚のカードが浮かび上がった。

 恐らく、あのダークネスは現象のようなものなのだろう。目的も何もあるわけではなく、世界を闇で被うだけのシステムのような存在であり、故に話し合っての和解など成り立たない。ならばこそ俺たちには、何をするにしてもずっと使ってきた、デュエルという手段がある。

「行くぞ遊矢!」

「ああ! 余計なお世話だってことを、この闇に分からせてやる!」

『デュエル!』

遊矢&十代LP8000
ダークネスLP8000

『我のターン……』

 しかしこのダークネスの存在意義がどうあれ、こちらの世界をこの闇しかないダークネス次元に同じにするなどと、余計なお世話に他ならない。それを分からせてやるためのデュエルが開始し、俺のデュエルディスクには2ndと表示された。俺と十代が二人がかりで挑む変則タッグデュエルであり、俺→ダークネス→十代→ダークネスの順でデュエルは進行する。

『我は《邪神官 チラム・サバク》を召喚する』

「攻撃力2500だと!?」

 つまりデュエルはダークネスから開始し、まずはお手並み拝見というところだったが、そこで現れたのは攻撃力2500の大型モンスター。レベル8を何の代償もなく呼び出したにもかかわらず、そのステータスには何の変更もない。

『《邪神官 チラム・サバク》は、自らの手札が五枚以上の時、リリースなしで召喚出来る……ターンエンドだ……』

「……俺のターン、ドロー!」

 そういうカラクリか――と内心で一人ごちながらも、ダークネスの初手を警戒しながらカードを引く。確かに攻撃力2500のモンスターには驚かされたが、それをただ単体で出すだけでは驚異にはなりえない。まさかそれだけではなく、ミスターTのように変幻自在のデュエルをしてくるだろうが……

「俺は《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキからレベル1モンスターである《チューニング・サポーター》を特殊召喚!」

 何にせよ、俺は俺のデュエルをするだけだ。そう自らに言い聞かせるように手札を動かしていき、まずはデッキから《チューニング・サポーター》を特殊召喚する。

「そして装備魔法《リビング・フォッシル》を発動し、墓地の《音響戦士ドラムス》を特殊召喚! さらに《機械複製術》を発動することで、デッキから二体《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」

 そして《チューニング・サポーター》の特殊召喚に使用した魔法カード《ワン・フォー・ワン》により、墓地に送っていたチューナーモンスター《音響戦士ドラムス》を、墓地のモンスターに装備することで蘇生する《リビング・フォッシル》で特殊召喚する。さらに《機械複製術》によって《チューニング・サポーター》を三体に増殖させることで、フィールドには容易に四体のモンスターが揃う。そしてそのモンスターたちは、すぐさまチューニングの態勢を取っていた。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 そしてシンクロ召喚される先陣、《パワー・ツール・ドラゴン》。機械竜が闇にも響くいななきを放ち、その叫びは新たな力を誘発する。

「シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》の効果で三枚ドロー! さらにパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動し、デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」

『右のカードだ……』

 そしてシンクロ素材となった時にカードを一枚ドローする、という《チューニング・サポーター》の効果で手札を補充しながら――墓地で発動する効果のため、もはや《リビング・フォッシル》のデメリット効果は関係ない――《パワー・ツール・ドラゴン》の効果で、新たな装備魔法カードを手札に加える。

「装備魔法《団結の力》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備し、バトル! 《邪神官 チラム・サバク》に攻撃だ、クラフティ・ブレイク!」

『…………』

ダークネスLP8000→7400

 そして装備魔法《団結の力》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》は、狙い通りに《邪神官 チラム・サバク》の攻撃力を超え、そのシャベルの一撃で闇に返してみせる。ダークネスにも微々たるダメージがいくが、特に堪えた様子はない。

『なるほど……素晴らしい……それだけの力があれば、さぞ心の闇を生み出して来ただろう……』

「なに?」

 そこで俺にもう攻め手はない。メインフェイズ2に移行しようとした瞬間、ダークネスが俺に――いや、十代を含めた俺たちに語りかけた。

『我を構成するは闇……デュエルで勝ちたい、負ければ全てを失う、どうしても勝てない……デュエルによって生じる心の闇こそ我が正体の一つ……』

「…………」

 ――確かに、デュエルとは勝負事だ。勝者がいれば敗者もおり、エドの後見人だったDDのように、勝利への渇望から身を落とした者もいる。

『貴様らには分かるまい、この闇が……敗北者の痛みが、苦しみが……世界を闇に包むのは、一握りの勝者以外の望みなのだ』

「……そうかもしれない。だけどそれだけじゃない!」

 だが確かに、ダークネスの言ったことは事実ではあるが。勝っても負けても相手を尊重する亮や翔のように、いくら負けても這い上がってくる万丈目のように、お互いの全てをぶつけ合う十代のように。デュエルの勝ち負けは、心の闇が全てじゃない。

『……《邪神官 チラム・サバク》が戦闘破壊された時、このモンスターは守備表示で特殊召喚される……』

 しかしダークネスはこちらからの問いかけには応えようとせず、先程《パワー・ツール・ドラゴン》が破壊した筈の《邪神官 チラム・サバク》を蘇生させる。高い攻撃力に反して守備力は0であるが、警戒しながらメインフェイズ2に移行する。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

『我のターン、ドロー……更なる《邪神官 チラム・サバク》を召喚する……』

 そしてダークネスの二ターン目となり、またもや《邪神官 チラム・サバク》がリリースなしで召喚される。手札が五枚以上という条件により容易く召喚され、同名モンスター二体から俺はエクシーズ召喚だと確信したが。

『自身の効果で蘇生した《邪神官 チラム・サバク》は、レベル8のダークチューナーとなる……二体のチラム・サバクでダークチューニング……!』

「ダークチューナー? 遊矢、確か……」

「ああ、あの時の闇の力だ……!」

 もはや随分と昔のことになってしまったが、忘れもしない一年生の時のセブンスターズの戦い。その一員となっていた者が使っていた、ダークチューナーを用いたダークシンクロモンスター。通常のシンクロ召喚とは違い、非チューナーからダークチューナーのレベルを引くことで降臨する、シンクロ召喚であってシンクロ召喚でない召喚方法。

『混沌の次元より湧き出でし力の源……この現世でその無限の渇望を暫し潤すがよい……神降せよ!』

 闇が、闇が、闇が。光を放ち輝くシンクロ召喚とは対照的に、二体の《邪神官 チラム・サバク》が闇を放ち続ける。それに世界を構築する闇までもが加わっていき、いつしか闇は新たなモンスターの姿をかたどっていた。

『ダークシンクロ……《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》……!』

 しかしてそこから生み出されたモンスターは、真紅の鱗によって構成された龍。いや、正確には龍の形をしたエネルギー体のような――そんな巨大な龍モンスター、《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》が俺たちを睥睨する。

『《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》が存在する限りお互いに、一ターンに一度しかカードをセット出来ない……だが、このフィールド魔法《ダークネス》の効果は、発動時に五枚の罠カードを同時にセットする……』

 そして降臨した《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果は、お互いに一度しかリバースカードをセット出来ない効果。防御札を満足に伏せることは出来ないデュエルになるかと思いきや、自身の名を冠するフィールド魔法《ダークネス》の発動に、五枚の罠カードが一度にセットされた。

「なんだ……?」

 デッキから五枚の罠カードをセットする、というフィールド魔法《ダークネス》ももちろん驚異だったが、何よりその五枚のセットに《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》が反応する。その巨大な体躯が光り輝いていき、明らかに異質な何かが始まろうとしていろうとしていた。

『そして《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果……我がフィールドにカードがセットされた時、エクストラデッキから決闘竜をシンクロ召喚扱いで特殊召喚出来る……』

「ッ……!?」

 明かされた《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果。カードがセットされた際に、特定のカテゴリーのモンスターを特殊召喚する――というものであり、カードは一枚しかセット出来ないという自身の制約によって、一ターンに一度しか発動出来ないはずだった。

『いでよ……四体の決闘竜!』

 しかしフィールド魔法《ダークネス》の効果により、同時に五枚のリバースカードがセットされた。よって《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果は五回発動し、突如としてダークネスのフィールドを《決闘竜》たちが埋め尽くす――

『《閃光竜 スターダスト》……《月華竜 ブラック・ローズ》……《妖精竜 エンシェント》……そして《機械竜 パワー・ツール》……我が手の元へ……!』

 モンスターカードゾーンという限界はあるために、エクストラデッキから現れたのは四体までだったが、《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》を守るように四体のドラゴンが降臨する。そして見たこともないドラゴンの中、一体だけ見知ったドラゴンの姿があった。

「《パワー・ツール・ドラゴン》……?」

『紛い物には消えてもらうとしよう……《月華竜 ブラック・ローズ》の効果。シンクロ召喚に成功した際、相手モンスターの一体を手札に戻す……』

「なに!?」

 正確には《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》による効果だったが、それはシンクロ召喚扱いの特殊召喚となり、『決闘竜』のうちの一体《月華竜 ブラック・ローズ》の効果が発動する。それは相手モンスターを一体バウンスする、というシンプルながら強力な効果であり、紛い物と呼ばれながら《パワー・ツール・ドラゴン》は耐性を活かすことなく手札に戻されてしまう。

『バトル……《妖精竜 エンシェント》でダイレクトアタック……!』

「くっ……リバースカード……」

 そしてその効果によって、こちらのフィールドにモンスターはおらず、俺は決闘竜たちに晒される。しかし伏せていたカードを発動すれば、その一撃を防ぐことは出来る――が、そちらに動く指を止め、手札からモンスター効果を発動する。

「手札から《速攻のかかし》を発動! 相手モンスターのダイレクトアタック時、手札からこのモンスターを捨てることでバトルフェイズを終了させる!」

 決闘竜たちの攻撃は手札から飛び出した《速攻のかかし》が逸らし、なんとかワンショットキルは防いでみせた。幸いにも決闘竜たちは《速攻のかかし》を無効にする類の効果は持っていなかったらしく、ダークネスのバトルフェイズは終了する。

『我はこれでターンエンド』

「オレのターン、ドロー!」

 これでダークネスのフィールドは、《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》と、究極神によって呼び出された四体の決闘竜と呼ばれるモンスター。さらに自身の名を冠するフィールド魔法《ダークネス》と、その発動とともに現れた五枚のリバースカード。ダークネスのフィールドは、ペンデュラムゾーン以外は全て埋まっており、伏せカード一枚のみのこちらとは圧倒的なボード・アドバンテージの差があった。

「オレは手札を全て捨てることで、永続魔法《守護神の宝札》を発動!」

 それに対する十代が取った手段は、自らの手札を全て捨てること。正確には永続魔法《守護神の宝札》の発動条件である、手札を五枚捨てるというものであるが、一見して自殺行為にも等しく感じられる。

「墓地に送られた《E・HERO シャドー・ミスト》の効果。デッキからE・HEROをサーチする。そして《守護神の宝札》によって二枚ドロー!」

 しかして十代は、ダークネスとの圧倒的なアドバンテージ差に怯むことはなく、《守護神の宝札》の発動時の効果によって二枚ドローする。さらに墓地に捨てた際に効果を発動する、《E・HERO シャドー・ミスト》によって新たなヒーローをサーチし、十代の手札はハンドレスから三枚となる。

「《E・HERO バブルマン》を召喚し、速攻魔法《バブルイリュージョン》を発動!」

 そしてサーチしたヒーローこと《E・HERO バブルマン》を召喚し、さらに専用サポート魔法《バブルイリュージョン》を発動する。《E・HERO バブルマン》がフィールドに存在する時のみ発動出来る、確かあのサポート魔法の効果は、一枚限定ながら手札からの罠カードを発動出来る。

「《バブルイリュージョン》の効果により、手札から《裁きの天秤》を発動! 相手フィールドのカードの数と自分の手札・フィールドのカードの差分、カードをドローする!」

 そして発動された罠カードは《裁きの天秤》。発動条件の厳しいカードではあるが、それは《守護神の宝札》によって満たしている。十代の手札を含めたフィールドは、《E・HERO バブルマン》に《守護神の宝札》と《裁きの天秤》、そして俺が伏せていたリバースカードで四枚。対するダークネスは、決闘竜が五体にセットカードが五枚にフィールド魔法《ダークネス》で十一枚。その差分でドロー枚数は決定し、よって十代のドロー枚数は7枚。

「よし……魔法カード《二重融合》を発動! ライフを500ポイントを払い、二回の融合を可能とする!」

 永続魔法《守護神の宝札》で墓地を肥やしながらも、《裁きの天秤》により初期手札よりも大きな枚数をドローしてみせる十代に、これがタッグデュエルであることに何より嬉しく思う。さらに魔法カード《二重融合》により、十代の十八番が早くも炸裂する。

遊矢&十代LP8000→7500

「融合召喚! 《E・HERO マッドボールマン》! 《E・HERO ワイルドジャギーマン》!」

 フィールドにいた《E・HERO バブルマン》も含めたヒーローたちが融合素材となり、《二重融合》の名の通りに二体の融合ヒーローが姿を現した。

『《月華竜 ブラック・ローズ》の効果を発動! 相手がレベル5以上のモンスターを特殊召喚した時、相手モンスター一体を手札に戻す!」

「相手ターンも使えるのか!?」

 ただしそこでダークネスの《月華竜 ブラック・ローズ》の効果により、《E・HERO ワイルドジャギーマン》はエクストラデッキに戻ってしまう。守備表示のマッドボールマンでは対抗手段はない……が、十代は手札から新たな魔法カードを発動する。

「《ミラクル・フュージョン》を発動! 再び現れろ、《E・HERO ワイルドジャギーマン》!」

 ただし《二重融合》によって、融合素材は既に墓地に送られている。つまりヒーロー専用の墓地融合カード《ミラクル・フュージョン》によって、再び《E・HERO ワイルドジャギーマン》が融合召喚される。流石に《月華竜 ブラック・ローズ》の効果は一ターンに一度らしく、今度は融合召喚を妨害されることはなく。

「バトル! ワイルドジャギーマンは、相手モンスター全てに攻撃出来る!」

 そしてその効果こそが、十代が再度《E・HERO ワイルドジャギーマン》を融合召喚した理由。たとえ決闘竜が五体フィールドに存在していようと、《E・HERO ワイルドジャギーマン》の効果ならば一掃できる。

「《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》に攻撃! インフィニティ・エッジ・スライサー!」

『《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》は、決闘竜がいる限り攻撃されない……』

 ただし第一の目標であった《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》は、自身が呼び出した決闘竜の影に隠れて攻撃目標にすることが出来ない。ただし《E・HERO ワイルドジャギーマン》は、先述の通りに決闘竜を一掃できる全体攻撃効果を持つ。

「なら《機械竜 パワー・ツール》に攻撃する!」

『リバースカード、オープン……《虚無》……』

 だがダークネスがそれを容易く許す筈もなく、《E・HERO ワイルドジャギーマン》の攻撃に合わせて、ついに謎のままだったリバースカードが発動する。

『《虚無》が発動した際……《無限》が同時発動し、その間のカードを全て発動する……』

「何?」

 《E・HERO ワイルドジャギーマン》の攻撃が届く前に発動していくそれらに、十代らしくもなく怪訝な声を出していた。《虚無》と《無限》――その意味深な名前を持つカードの間にあった罠カードは。

『《ダークネス2》……このカードが発動した時、フィールドのモンスターの攻撃力を、エンドフェイズまで1000ポイントアップする……迎撃せよ、機械竜!』

「っ……ワイルドジャギーマン!」

遊矢&十代LP7500→7000

 発動した《ダークネス2》からエネルギーを送られた《機械竜 パワー・ツール》が、攻撃をしようとしていた《E・HERO ワイルドジャギーマン》を破壊してしまう。そして五枚のセットカードは俺が使う《くず鉄のかかし》のように、永続罠にもかかわらず再びセットされていく。

「悪い、遊矢……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

『お互いのエンドフェイズ……セットカードはランダムにシャッフルされる……』

 ダークネスがフィールドに伏せた五枚のカード、《虚無》と《無限》とダークネス罠カード。エンドフェイズ時にランダムに位置がシャッフルされることも含めて、恐らくは三種類あるであろうダークネス罠カードを使い分ける、様々な効果を与えてくるトリッキーな戦術。

『我のターン、ドロー……』

 そしてダークネス罠カードのサポートを絡めながら、五体の決闘竜の一斉攻撃で決着をつける。パワーとトリッキーが混ざったその戦術に、十代が担当するこちらのフィールドを改める。守備表示の《E・HERO マッドボールマン》と、リバースカードが二枚に《守護神の宝札》。

『《妖精竜 エンシェント》の効果を発動。フィールド魔法が発動している時、相手モンスター一体を破壊できる……』

「くっ!」

 決闘竜のいずれの攻撃力よりも守備力が高かった《E・HERO マッドボールマン》だったが、《妖精竜 エンシェント》の効果によって破壊され、こちらのフィールドにモンスターはいなくなってしまう。

「《妖精竜 エンシェント》でダイレクトアタック……』

「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》! 頼む、ハネクリボー!」

 しかしダイレクトアタックをくらう直前に、十代のデッキから速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を介して現れた《ハネクリボー》が、《妖精竜 エンシェント》のダイレクトアタックを十代から庇う。全く適わずに破壊されてしまうが、そのまま俺たちに半透明のバリアが貼られていく。

「《ハネクリボー》が破壊された時、このターンの戦闘ダメージを無効にする!」

『ならば発動せよ……《虚無》……《無限》……』

 先のターンの《速攻のかかし》のように、このターンは十代の相棒こと《ハネクリボー》に助けられる。これ以上の戦闘ダメージは無効となったものの、再びダークネスの罠カード《虚無》と《無限》が発動され、その間には二枚のカードが存在していた。

『発動したのは《ダークネス3》……そして更なるダークネスカードがある時、更なる効果を得る……』

「ぐあっ!?」

遊矢&十代LP7000→5000

 《ダークネス3》が発動した瞬間、俺たちに闇の雷撃が放たれた。どうやらダークネス3は相手に効果ダメージを与える罠らしく、《ハネクリボー》の効果による半透明のバリアを貫通してしまう。

『《ダークネス3》は相手に1000ポイントのダメージを与える効果。そしてダークネス罠カードが発動する度に、1000ポイントずつその火力は上がっていく……ターンを終了』

「……まだだ! 遊矢が伏せた罠カード《トゥルース・リインフォース》を発動! デッキからレベル2の戦士族《ヒーロー・キッズ》を特殊召喚!」

 そして再びダークネス罠カードは、再セットされて魔法・罠ゾーンがシャッフルされる。これで破壊しようにもどの罠カードか分からず、更なる効果が発動することになるだろう。しかして十代もやられただけではなく、俺のリバースカードを使って新たなヒーローを特殊召喚する。

「そして《ヒーロー・キッズ》が特殊召喚された時、新たな《ヒーロー・キッズ》をデッキから特殊召喚する!」

「俺のターン、ドロー! 《守護神の宝札》によって二枚ドロー!」

 俺のリバースカード《トゥルース・リインフォース》を起点に、十代のデッキから《ヒーロー・キッズ》が三体特殊召喚される。そして十代が発動していた永続魔法《守護神の宝札》は、通常のドローを二枚とすることが可能となる。

「俺はチューナーモンスター《クリア・エフェクター》を召喚!」

 これで二枚のドローに加えて、さらにフィールドに《ヒーロー・キッズ》が三体。十代に託されたそのフィールドに加え、かの《エフェクト・ヴェーラー》に似たチューナーモンスターを召喚してみせる。

「レベル2の《ヒーロー・キッズ》二体と、同じくレベル2の《クリア・エフェクター》でチューニング!」

 そしてその中から三体のモンスター、合計レベル6のチューニング。確かにダークネス罠カードは強力だが、五枚の罠カードを使っているために、新たな魔法・罠カードは発動されない。さらにダークネスがそれら罠カードを発動するのは、こちらがあちらが攻撃する時を狙っているらしく、今のタイミングに妨害されることはない。

「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 その隙を突いてシンクロ召喚されるは、深緑の鎧に身を包んだ槍を持った機械戦士。ただし魔法・罠カードによる妨害がないが、それ以外の妨害があることは十代が見抜いてくれている。

『月華竜 ブラック・ローズの効果……相手モンスター一体を手札に戻す……』

「墓地の《ブレイクスルー・スキル》の効果を発動! このカードを除外することで、相手モンスターの効果を無効にする!」

 ただしそれは《守護神の宝札》の効果によって、十代が潤沢に墓地を肥やしたカードの中に対抗策が存在し、《ブレイクスルー・スキル》で《月華竜 ブラック・ローズ》の効果を無効とする。よって《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は無傷であり、その効果は先の十代の《E・HERO ワイルドジャギーマン》とほぼ同じ効果だが、決闘竜たちを相手にするには攻撃力が足りない。ならば、どうしてこのモンスターをシンクロ召喚したのか。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》と、《クリア・エフェクター》の効果発動! シンクロ召喚に成功した時とシンクロ素材になった時、カードをドローする!」

 シンクロ召喚に成功した《スターダスト・チャージ・ウォリアー》と、シンクロ素材になった《クリア・エフェクター》には、それぞれカードをドローする効果がある。さらにカードを二枚ドローすると、そのうちの一枚をデュエルディスクにセットする。

「さらに《マジカル・ペンデュラム・ボックス》を発動! カードを二枚ドローし、それがペンデュラムモンスターならば手札に加える……二体の音響戦士でペンデュラムスケールをセッティング!!」

 ペンデュラムモンスターのサポートカード《マジカル・ペンデュラム・ボックス》を発動し、さらにドローした二枚のカードのうち一枚を手札に、一枚を墓地に送る。しかし手札には二対のペンデュラムモンスターが揃い、そのままペンデュラムスケールにセッティングされ、二体の音響戦士は赤と青の光柱を作っていく。

「《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果! 手札を一枚捨てることで、デッキから音響戦士を特殊召喚する! 来い、《音響戦士ピアーノ》!」

 そして《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果によって、新たにデッキから《音響戦士ピアーノ》がフィールドに現れる。そしてまだ残っている《ヒーロー・キッズ》とともに、まだシンクロ召喚は出来る。

「墓地の《音響戦士ドラムス》を除外し、《音響戦士ピアーノ》の属性を変更する。そして《ヒーロー・キッズ》に《音響戦士ピアーノ》をチューニング!」

 合計レベルは5。墓地の《音響戦士ドラムス》を自身の効果によって除外しながら、最後の《ヒーロー・キッズ》とシンクロ召喚の光となって輝いていく。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 現れろ! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

 シンクロ召喚される傷だらけの機械戦士。攻撃力は及ばないものの、五体の決闘竜に対して怯むことなく立ち向かう。

「さらに墓地の《音響戦士サイザス》の効果。このモンスターを除外することで、除外された《音響戦士ドラムス》を特殊召喚する!」

 さらに除外されていた《音響戦士ドラムス》を、《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果によって墓地に送っていた、《音響戦士サイザス》の効果によってフィールドに特殊召喚する。さらに今度は《音響戦士ピアーノ》を除外しておくが、もはや《ヒーロー・キッズ》はおらず、シンクロ召喚することは出来ないが――俺のフィールドに魔法陣が現れる。

「ペンデュラム召喚! 《マックス・ウォリアー》よ、現れてシンクロ素材となれ!」

 だがこちらには、召喚権をもう一つ増やすことが出来るペンデュラム召喚がある。魔法陣から《マックス・ウォリアー》が現れ、《音響戦士ドラムス》とともにシンクロ素材となっていく。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 闇の中の大地に鋼の獣を模した機械戦士《グラヴィティ・ウォリアー》がシンクロ召喚され、こちらのフィールドにはシンクロモンスターが三体並ぶ。対してダークネスのフィールドには、五体の決闘竜が存在しているが、《守護神の宝札》などのドロー効果によってまだ手札に余裕はある。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 そして《グラヴィティ・ウォリアー》のシンクロ召喚時の効果により、ダークネスのフィールドの五体の決闘竜に反応し、自らの攻撃力を1500ポイントアップさせる。よって攻撃力は3600となるが、他の二体のシンクロ機械戦士は、決闘竜と戦うには攻撃力が心もとない。

「よし……装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備す……!?」

 そこで攻撃力の劣る《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に対し、装備魔法による補強をしようと発動した瞬間、《ファイティング・スピリッツ》のエネルギーが他のモンスターに流れていく。

『《機械竜 パワー・ツール》の効果……相手の装備魔法を奪い、カードを一枚ドローする……』

「……紛い物に相応しい効果じゃないか。だが狙いはこっちだ! 通常魔法《拘束解放波》を発動!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》に似た相手のモンスターに怒りを募らせながら、元々の目的でもあった魔法カードを発動する。その効果は、一発逆転の策にもなりうる効果。

「装備魔法をコストに、相手のセットカードを全て破壊する!」

 ダークネスの操る《機械竜 パワー・ツール》に奪われた装備魔法《ファイティング・スピリッツ》をコストに、相手のセットカードを全て破壊する魔法カード。強力ではあるがあくまでセットカードのみであり、本来ならばフリーチェーンのダークネス罠カードには無力。

『リバースカード、《虚無》。そして《無限》を発動……』

 ただしダークネス罠カードはその特性上、《虚無》と《無限》に挟まれたセットカードしか発動しない。つまりそれ以外のカードはセットされたままということであり、《拘束解放波》の破壊対象とすることが出来る。

『発動したのは《ダークネス1》……さらにもう一枚のカードが発動されているため、相手フィールドのカードを二枚破壊する……!』

 最後のダークネス罠カードの効果は、相手フィールドのカードの破壊効果。その効果が二度に渡って発動されたことで、俺のフィールドの《グラヴィティ・ウォリアー》と《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が標的となる――が、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の前には、羽衣を着た少女が立ちはだかっていた。

「《クリア・エフェクター》をシンクロ素材にしたモンスターは、相手モンスターに効果破壊されない! そして《拘束解放波》によって、お前のリバースカードを破壊する!」

 残念ながら《グラヴィティ・ウォリアー》は破壊されてしまったが、破壊効果の対象となった《スターダスト・チャージ・ウォリアー》だけは、なんとかシンクロ素材となった《クリア・エフェクター》の効果によって守り抜く。そして一枚だけセットされたままのダークネス罠カードに対して、《拘束解放波》による破壊効果が返された。

『く……』

 すると、ダークネスがこのデュエルが始まって初めて、苦悶の声のようなものを漏らした。その理由は《拘束解放波》によってダークネス罠カードが破壊された瞬間、他の発動していた《虚無》や《無限》も破壊されていたからだった。どうやらダークネス罠カードは、五枚で一つのセットのようなものらしく、一枚が破壊されれば揃って全てが破壊されるらしい。

「バトル! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で、《妖精竜 エンシェント》に攻撃!」

『……迎撃せよ、妖精竜……』

 幸運にも《拘束解放波》は思った以上の働きをもたらし、ダークネス罠カードを全て破壊するという戦果をもたらした。さらに《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に攻撃を命じると、その攻撃力が勝る《妖精竜 エンシェント》が迎撃に移る。

「墓地から《スキル・サクセサー》の効果発動! このカードを墓地から除外することで、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 またも十代が《守護神の宝札》によって墓地に送ってくれていた、墓地から発動しモンスターの攻撃力を上げる罠カード《スキル・サクセサー》によって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の攻撃力を2800ポイントアップさせる。その効果によって《妖精竜 エンシェント》の迎撃を弾くと、槍の一突きによって破壊していく。

ダークネスLP7400→6700

「さらに《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は、特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃出来る! スターダスト・クラッシャー!」

 ダークネスのフィールドに残る四体の決闘竜は、もちろん全て特殊召喚されたモンスター。それらは《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の射程圏であり、あの《機械竜 パワー・ツール》を含め槍による連撃が貫く――筈だった。その連撃を防いでいる決闘竜がいたのだ。


『《閃光竜 スターダスト》の効果……自分のモンスター一体に、一度だけ破壊耐性を付与する……」

 《閃光竜 スターダスト》の効果は、自分のモンスターへの破壊耐性付与。それを自らに作用することで《スターダスト・チャージ・ウォリアー》には破壊されず、決闘竜が他に残ったことで《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》にその槍は届かない。

「……だがダメージは受けてもらう!」

『……ぬぅ!」

ダークネスLP6700→5500

 《閃光竜 スターダスト》と《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》は破壊できなかったものの、それ以外の決闘竜を破壊することに成功し、その戦闘ダメージがダークネスに襲いかかった。その連撃によってお互いのライフはほぼ並び、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》はこちらのフィールドに戻ってきた。

「エンドフェイズ。《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果によって、除外ゾーンから《音響戦士ピアーノ》を手札に加える。カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

『我のターン……ドロー……』

 これでこちらのフィールドには、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に《スカー・ウォリアー》の二体のシンクロモンスター。さらに永続魔法《守護神の宝札》と今し方伏せたリバースカードに、二対のペンデュラムスケール。対するダークネスは、《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》に《閃光竜 スターダスト》とフィールド魔法《ダークネス》、ライフポイントはお互いにほぼ互角。

『よくぞ我が眷属たちを破壊した、が……闇は不滅だ……新たなフィールド魔法《ダークネス》を発動……!』

「ッ!?」

 二人がかりでようやく互角。その事実に舌を巻いていると、ダークネスが自身の名を冠するフィールド魔法を張り直した。その効果はもちろん、先程と変わることはなく。

『フィールド魔法《ダークネス》が発動した時、デッキから五枚の罠カードを同時にセット……そしてカードがセットされたことで、《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果が発動する……』

 せっかく《拘束解放波》によって破壊したにもかかわらず、二枚目のフィールド魔法《ダークネス》により、再び五枚のダークネス罠カードがセットされる。そして何より、そのセットに反応して《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果――カードがセットされた時、決闘竜を特殊召喚する効果が発動することだ。

『我が元に出でよ……《炎魔竜 レッド・デーモン》……《魔王竜 ベエルゼ》……《玄翼竜 ブラックフェザー》……!』

 そしてさらに現れた三体の決闘竜により、あっという間にダークネスのフィールドは先のターンと同じ状況となり、俺の前に五体の決闘竜と五枚のダークネス罠カードが迫る。不幸中の幸いとでも言うべきか、フィールド魔法《ダークネス》によってセットされたターンのため、ダークネス罠カードはこのターンには使えない。

『さて……バトルだ。《閃光竜 スターダスト》で、《スカー・ウォリアー》を攻撃する……』

「《スカー・ウォリアー》は、一度だけ戦闘では破壊されない!」

遊矢&十代LP5000→4700

 自身の効果によって《スカー・ウォリアー》は、まず相手の一斉攻撃の矢面に立つ。そして一度限りの戦闘破壊耐性を使い、その攻撃を防いでみせた――が、ダークネスのフィールドには、次なる決闘竜がすぐさま控えている。

『さらに《玄翼竜 ブラックフェザー》で攻撃する』

「墓地の《シールド・ウォリアー》の効果発動! このモンスターを除外することで、一度だけ戦闘破壊を無効にする!」

遊矢&十代LP4700→4000

 しかしこちらも《スカー・ウォリアー》一人ではなく、墓地から盾を持つ機械戦士がその攻撃を防ぎ、《スカー・ウォリアー》を庇ってみせる。そして《スカー・ウォリアー》は、新たな決闘竜の矢面に立った。

『《魔王竜 ベエルゼ》で攻撃する……』

「ありがとう、《スカー・ウォリアー》……」

遊矢&十代LP4000→3100

 そして遂に《スカー・ウォリアー》は、三回目の決闘竜の攻撃によってその身を崩壊させた。それでも俺のライフポイントを守ってくれたことに礼を言うと、最後の一撃に対して身を引き締める。

『《炎魔竜 レッド・デーモン》で、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に攻撃……」

「ぐああっ!」

遊矢&十代LP3100→2100

 決闘竜五体の攻撃を《スカー・ウォリアー》の奮戦で何とか防いだものの、ライフポイントは初期値から6000ポイントをも削られてしまう。炎魔竜から放たれた獄炎に包まれながら、がら空きになってしまったフィールドを見つつなんとかその身を持ち直す。

『我はこれでターンエンド……』

「くそっ……頼む、十代……」

「あとは任せろ。オレのターン、《守護神の宝札》で二枚ドロー!」

 そして再び十代のターンに移行し、こちらのフィールドには二対のペンデュラムスケールと、永続魔法《守護神の宝札》にリバースカード。その効果によって二枚ドローすると、ダークネスも罠カードの発動準備が整った。

「魔法カード《ミラクル・コンタクト》を発動! 手札と墓地のモンスターでコンタクト融合を行う!」

『来るか……ネオスペーシアン……』

 かつての斉王もそうだったが、敵はネオスペーシアンに対して警戒心を抱いており、ダークネスもその例外ではないらしく。墓地からコンタクト融合を行う魔法カード《ミラクル・コンタクト》により、《守護神の宝札》で墓地に送っていた二体のモンスターが、デッキに戻りつつ融合を果たしていく。

「コンタクト融合! 《E・HERO グロー・ネオス》!」

『リバースカード、オープン……《虚無》。そして《無限》……』

 相手のカードを破壊する効果を持つ融合ネオス、《E・HERO グロー・ネオス》の融合召喚に成功するが、ネオスペーシアンの効果をダークネスは把握しているのか、その効果が発動する前にダークネス罠カードを発動する。そして発動する効果は――

『発動したのは《ダークネス1》……そして二枚のダークネスカード……よって、三枚の相手のカードを破壊する!』

 ――最悪の位置。最初に発動した《ダークネス1》に発動が連鎖し、三枚の破壊効果となってこちらのフィールドを襲う。今し方コンタクト融合したE・HERO グロー・ネオス》、《守護神の宝札》、伏せていた《ダメージ・ポラリライザー》の三枚がだ。

「甘いな、ダークネス。どうやら心の闇って言っても、デュエリストの駆け引きって奴は、オレたちの方が上のようだぜ。《E・HERO プリズマー》を召喚!」

『なに……?』

 それに対して十代は――笑っていた。そう、《E・HERO グロー・ネオス》は、ダークネス罠カードを誘発する囮だと言わんばかりに。

「《E・HERO プリズマー》の効果! デッキから融合素材となるモンスターを墓地に送ることで、そのモンスターの名前を得る! リフレクト・チェンジ!」

 そして新たに召喚されたヒーローこと《E・HERO プリズマー》は、自身の効果によって新たなモンスターへと姿を変える。その鏡面のような身体が変質していき、残ったのは先程デッキに戻っていたヒーローの姿だった。

『ネオス……!』

「そして《ラス・オブ・ネオス》の効果発動! ネオスをコストにすることで、フィールドのカードを全て破壊する!」

 そして発動される《ラス・オブ・ネオス》。十代のフィールドに存在するのは《E・HERO プリズマー》であるが、自身の効果によって《E・HERO ネオス》ともなっている。鏡で反射されたようなネオスが飛び上がると、フィールド全体を壊すような一撃を轟かせた。

『《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》と《閃光竜 スターダスト》の効果! どちらも自身の破壊を一度だけ無効とする!』

 ただしその一撃には、二体のモンスターが耐え抜いていた。破壊を無効にする効果がある《閃光竜 スターダスト》はもちろんだが、どうやら《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》も、そのような類の効果を持っていたらしい。それでも他三体の決闘竜と、フィールド魔法《ダークネス》とダークネス罠カードは破壊され、お互いのフィールドは焼け野原となった。

「さらに魔法カード《闇の量産工場》を発動し、墓地から二体の通常モンスターを手札に加え、《融合》を発動!」

 ただしダークネスが《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》と《閃光竜 スターダスト》を持ちこたえさせたように、十代にもまた、まだ新たなモンスターを召喚出来る。《二重融合》、《ミラクル・フュージョン》、《ミラクル・コンタクト》と来て、今度は通常の《融合》として。

「《E・HERO ネオス》と《E・HERO クレイマン》を融合し、《E・HERO ネオス・ナイト》を融合召喚!」

 《E・HERO プリズマー》の効果で墓地に送っていた《E・HERO ネオス》と、《E・HERO マッドボールマン》の融合素材となっていた《E・HERO クレイマン》が融合し、甲冑を着込み剣を持ったネオスが現れる。新たなネオスの融合体は、どうやらネオスと戦士族の融合体らしく。

「《E・HERO ネオス・ナイト》が融合召喚に成功した時、融合素材となった戦士族モンスターの攻撃力の半分を得る!」

 融合素材となった《E・HERO クレイマン》が元々壁モンスターのため、上昇する攻撃力は400ポイントと微々たるものではあったが、それでも攻撃力2900と《閃光竜 スターダスト》を上回ることに成功する。どちらも先の《ラス・オブ・ネオス》によってリバースカードもなく、後はただモンスター同士がぶつかるのみだ。

「バトル! 《E・HERO ネオス・ナイト》は、戦闘ダメージを犠牲に二回攻撃が出来る! いけ、ラス・オブ・ネオス・スラッシュ!」

 デメリット効果によって戦闘ダメージは与えられないものの、《E・HERO ネオス・ナイト》は難攻不落だった《閃光竜 スターダスト》を一刀のもとに斬り伏せてみせた。もはや《閃光竜 スターダスト》の破壊を無効にする効果を使うことは出来ずに、ただ斬り伏せられるのみだった。

「さらに《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》に攻撃する!」

『《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果を発動! フィールドに決闘竜が存在しない時……このモンスターが攻撃された場合、攻撃モンスターの攻撃力をこのモンスターの攻撃力とする……』

 そして《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》を守る決闘竜は全て破壊され、遂に《E・HERO ネオス・ナイト》の刃が届く。ただしタダでは破壊されないとばかりに、究極神は残された最後の効果を発動する。

「速攻魔法《融合解除》! 《E・HERO ネオス・ナイト》の融合を解除し、ネオスとクレイマンを特殊召喚する!」

 あわや相打ち――というところで、十代の手札から《融合解除》が発動され、《E・HERO ネオス・ナイト》がエクストラデッキへと戻る。よって戦闘は無効となって相打ちは発生せず、文字通り融合が解除されたネオスとクレイマンが十代のフィールドに特殊召喚された。

「まだだ! 《E・HERO クレイマン》で、《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》に攻撃! クレイナックル!」

『……《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果! このモンスターと相手モンスターの攻撃力を同値とする!』

 そして《融合解除》は速攻魔法のため、まだ十代のバトルフェイズは続いている。《E・HERO クレイマン》が果敢にも究極神に一撃を与えていき、自身の身を犠牲にしながらももろともに破壊された。

 そしてフィールドに残ったモンスターは、ただ一体。

「ネオス! ダイレクトアタックだ!」

『ぐぅぅ……!』

ダークネスLP5500→3000

 遂にダークネスへの直接攻撃が炸裂し、ネオスの一撃がそのライフポイントを大きく削った。これでライフポイントは拮抗と言わないまでも近づき、十代はバトルフェイズを終了する。

「カードを二枚伏せ、ターン終了!」

『我のターン、ドロー……!』

 そして《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の効果の一つであった、リバースカードを一ターンに一度しか伏せられない、という制約も解除され。十代は二枚のリバースカードを伏せたが、先のターンの怒涛の連続攻撃もあって手札は心もとない。

『このカードは、自分フィールドの攻撃力値の合計が0の時、特殊召喚出来る……現れろ、《ダークネス・スライム》……』

 だが重要なのはここからだ。《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》を失ったダークネスが、これからどんな戦術を取ってくるのか――そして召喚されたのは、攻撃力、守備力ともに0の下級モンスター。フィールドにモンスターがいないのだから、もちろんその攻撃力の合計は0となる。

『さらに《ダークネス・アウトサイダー》を召喚する……』

 さらに召喚されるのは、またもやステータスの低い下級モンスター。決闘竜たちを使わないダークネスのメインデッキのモンスターは、どうやらそのようなモンスターが中心らしい。

『《ダークネス・アウトサイダー》の効果。手札を一枚捨てることで、自らのモンスターと相手のデッキのモンスターを、入れ替える……』

「何!?」

 そしてその効果は、あのフィールド魔法《ダークネス》などと同様に、他に類を見ないトリッキーかつ独特の効果。ダークネスは二枚のカードを手札から捨てると、《ダークネス・スライム》と《ダークネス・アウトサイダー》を代償に、十代のデッキから二体のモンスターを奪い取った。

『我が手の元に……《ユベル》。そして《ハネクリボー LV10》』

「ユベル、相棒……貴様ぁ!」

 二体のモンスターが奪われた十代が、らしくない叫び声をあげる。闇の鎖によって封じ込められているのは、十代の相棒が成長した姿である《ハネクリボー LV10》と――先の異世界での黒幕だった、《ユベル》。

「……っ」

 その姿を見ると反射的に怒りが湧いてきてしまうが、今はそれどころではないと自分を律する。ダークネスに奪われたその姿に、本気で怒りを覚えている十代を見て、何かあったのだろうと思ったこともあるが。

『すぐに我が力の糧となる……魔法カード《陰陽超和》を発動。モンスター一体、《ユベル》をダークチューナーとする』

 モンスターをダークチューナー化する魔法カードに、ダークネスが《ダークネス・アウトサイダー》で奪ったモンスターのレベルが、どちらも同じだということに気づく。そして先の《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》の時のように、二体のモンスターが生け贄の如く闇に包まれていく。

『このモンスターは、《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》が墓地に存在する時のみ、ダークシンクロ召喚出来る……二体のモンスターで、ダークシンクロ!』

「くっ……」

『決闘の地平に君臨する最初にして最後の神……混沌を束ね姿無き身を現世に映さん……ダークシンクロ! 《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》!


 ――自らのモンスターが召喚に利用された十代の怒りの感情とともに、新たなダークシンクロモンスターがフィールドに君臨する。墓地に《究極神 アルティマヤ・ツィオルキン》が存在することを召喚条件としたそのモンスターは、究極神を人型にして肥大化させたようなモンスターだった。その威圧感はかつて相対した神のモンスターにも匹敵し、あくまで究極神など前座であったと感じさせた。

『《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果。一ターンに一度、フィールド全てに《邪眼神トークン》を特殊召喚する……』

「な……?」

 十代のフィールドのネオスと、ダークネスのフィールドの究極幻神を除いた、フィールドのモンスターカードゾーン。それら全てに《邪眼神トークン》が守備表示で特殊召喚され、一瞬にしてモンスターカードゾーンが全て埋まる。こちらのフィールドに特殊召喚されたモンスターのために、効果の確認が可能だが、そのトークンはリリース出来ないというデメリット効果のみ。さらにステータスは、攻撃力に守備力がどちらも0と、明らかにロックを目的としたトークンだった。

『そして《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の攻撃力は、お互いのモンスターの攻撃力×1000ポイントとなる……』

「つまり――」

 ――攻撃力10000。計算するまでもなく、先の《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》自身の効果により、フィールドは《邪眼神トークン》で埋め尽くされている。よってモンスターの数は十体であり、究極幻神の攻撃力は10000となる。

『バトル……《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》で、《E・HERO ネオス》を攻撃!』

「ッ……伏せてあった《ヒーローバリア》を発動! 攻撃を無効にする!」

 E・HERO専用の防御カードで何とか防ぐが、その一撃をくらえば明らかにひとたまりもない。そう確信できる《ヒーローバリア》が防いだ衝撃に対して、無意識に唾を飲み込んだ。

『カードを一枚伏せ、ターンを終了する……』

「遊矢……」

「……俺のターン、ドロー!」

 そしてターンは俺に移行し、ダークネスのフィールドの《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》がこちらを睥睨する。対するこちらのフィールドは、十代が残してくれた《E・HERO ネオス》と、押し付けられた四体の《邪眼神トークン》。そしてリバースカードが一枚と、守備に回ることが脳裏によぎる。

「……攻撃力10000がなんだ」

 亮ならさらにその上を行く――などと自らにそう言い聞かせながら、手札のカードを一枚、デュエルディスクにセットする。

「装備魔法《魔界の足枷》を発動! 《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》に装備することで、装備モンスターの攻撃力を100ポイントに固定する!」

『ふん……』

 いくら攻撃力を増す効果があろうとも、この装備魔法《魔界の足枷》は装備モンスターの攻撃力を100ポイントに固定する。よって究極幻神はその圧倒的な攻撃力を維持できずに、ネオスの前に竜の頭を垂れる。

「バトル! ネオスで究極幻神に攻撃だ、ラス・オブ・ネオス!」

ダークネスLP3000→600

 ネオスの一撃は究極幻神に直撃し、ダークネスのライフポイントは風前の灯火となった。そのまま究極幻神は破壊される――ことはなく、むしろ徐々に身体を起こして力を増していく。

『《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》は、戦闘と効果では破壊されない。そして耐性効果が発動した時、相手モンスターを全て破壊し、その数×200ポイントのダメージを与える……!』

「なっ……ぐあっ!」

遊矢&十代LP2100→100

 ――《E・HERO ネオス》の攻撃によるエネルギーが、全てこちらに反射されてしまう。そのエネルギーは攻撃したネオスだけではなく、こちらのフィールドに特殊召喚されていた《邪眼神トークン》を全て巻き込み、こちらのライフポイントが残り100ポイントにするほどの火力となった。

『そして《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果……フィールド全てに《邪眼神トークン》を特殊召喚する……』

 そして間髪入れずに発動された究極幻神の効果によって、こちらのフィールド全てに《邪眼神トークン》が特殊召喚され、あっという間にモンスターゾーンがロックされる。リリースすることも出来なければ、俺に打つ手はない……が、ダークネスの狙いはロックなどという、生易しいものではなかった。

『リバースカード、オープン……《トークン謝肉祭》! トークンが特殊召喚された時、フィールドのトークン全てを破壊し、破壊した数×300ポイントのダメージを与える!』

「――手札から《シンクロン・キーパー》の効果を発動! このモンスターを手札から捨てることで、効果ダメージを無効にする!」

 ダークネスが狙っていたのは、《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》と《トークン謝肉祭》のコンボによる、直接のバーンダメージでの決着。それを何とか手札からの《シンクロン・キーパー》によって効果ダメージを防ぎ、さらに《シンクロン・キーパー》の第二の効果に繋いでいく。

「さらに《シンクロン・キーパー》は、この効果で墓地に送られた時、墓地のチューナーモンスターとシンクロ召喚出来る!」

 墓地から《シンクロン・キーパー》と、チューナーモンスターである《音響戦士ドラムス》を除外することで、このタイミングでのシンクロ召喚を可能とする。ただしシンクロ召喚されるモンスターは、守備表示な上に効果を無効にされてしまっているが、それでも狙う手には何の問題もない。

「再び現れろ! 《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 除外された《音響戦士ドラムス》と、《シンクロン・キーパー》の合計レベルは7。デュエルの序盤にエクストラデッキに戻されてしまっていた、《パワー・ツール・ドラゴン》が再びフィールドに現れた。

「そして《エフェクト・ヴェーラー》を召喚し、《パワー・ツール・ドラゴン》とチューニング!」

 そして効果は無効にされてしまっていたとしても、《パワー・ツール・ドラゴン》は《パワー・ツール・ドラゴン》だ。チューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚させることで、二体のモンスターにチューニングさせる。

「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 《エフェクト・ヴェーラー》が力を失った《パワー・ツール・ドラゴン》の周囲を旋回していき、力を戒めている装甲板を一枚一枚取り外す。そして全ての装甲板から解き放たれた時、炎とともに《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が飛翔する。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功した時、俺のライフポイントを4000にする! ゲイン・ウィータ!」

遊矢&十代LP100→4000

 そして《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果によって、こちらのライフは普通のデュエルにおいての初期値にまで回復する。《魔界の足枷》で攻撃力が100ポイントに固定された《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》は、今が絶好の攻撃チャンスだったが、あいにくともはやメインフェイズ2のタイミング。既にネオスで攻撃をしている以上、もはやバトルフェイズはなく、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》も守備表示でのシンクロ召喚となる。

「……ターンエンドだ」

『我のターン、ドロー……そして《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果で、《邪眼神トークン》を特殊召喚する……』

 こちらからダークネスにターンが移行した瞬間、再び《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果が発動し、お互いのモンスターカードゾーンが全て《邪眼神トークン》で埋まる。これでこちらのフィールドは、《邪眼神トークン》が四体に《ライフ・ストリーム・ドラゴン》、リバースカードに究極幻神に装備された《魔界の足枷》となった。

『我は《アカシックレコード》を発動……カードを二枚ドローし、そのカードが既に発動したカードだったならば、ドローしたカードを除外する……』

 そして魔法カード《アカシックレコード》で、二枚のカードをドローした――《アカシックレコード》は、ドローしたカードに既に発動したカードと同名カードがあった場合、除外されるというデメリットがあるが、その効果は発動しないようだ――ダークネスのフィールドは、同じく四体の《邪眼神トークン》と、《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》。残るライフポイントは600という僅かな数値だったが、究極幻神がいるからか意識している様子はない。

『通常魔法《トークン復活祭》を発動……自分フィールドのトークンを全て破壊し、その数だけフィールドのカードを破壊する……』

 そして発動された魔法カードは、トークンの数だけカードを破壊する《トークン復活祭》。四体の《邪眼神トークン》を代償に破壊されるカードは、装備魔法《魔界の足枷》に十代が伏せていた《英雄変化-リフレクター・レイ》と、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》――そして、《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果発動! このカードが破壊される時、代わりに墓地の装備魔法を除外する!」

『《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》は破壊されず、このカードが耐性を発動した時、相手モンスターを全て破壊し……その数×200ポイントのダメージを与える……!』

 まずは《トークン復活祭》によって破壊されかかった《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を自身の効果で防いでいると、自ら耐性効果を発動したことで《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の全体破壊効果が発動する。先の《トークン復活祭》の比ではない威力が、こちらのフィールドを覆い尽くした。

「まだだ! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果により、墓地の装備魔法を除外して破壊を免れる!」

『だが《邪眼神トークン》を四体破壊した……1000ポイントのダメージを受けてもらう……』

 これまでのデュエルの流れで、墓地に装備魔法はまだ送られており、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は自身の耐性効果によって破壊を免れる。ただし《邪眼神トークン》まで守ることは出来ず、《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》のバーン効果が発生するが、それはこちらに届く前に《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が受け止めた。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がいる時、俺はバーンダメージを受けない!」

『ほう……ならば、カードを一枚伏せてターンを終了する……』

 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果をフル活用して、何とかダメージなくダークネスのターンを終わらせる。ただし守ってばかりでデュエルに勝てるわけもなく、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の耐性も有限だ。

「オレのターン……ドロー!」

『《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果……お互いのフィールドに《邪眼神トークン》を特殊召喚する……』

「…………」

 そしてターンは、十代へと移行する。このターンで《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》を倒さなくては、俺たちに未来はない。そんな局面で回ってきたターンで、十代は――

「遊矢……あとは任せたぜ。オレは《左腕の代償》を発動! 手札を全て除外することで、デッキから通常魔法を手札に加える!」

 ――どこか、悲しい決意を秘めたような表情を見せていた。そして発動したのは、文字通りに手札全てを代償とする魔法カード《左腕の代償》であり、手札から一枚の通常魔法カードを手札に加えた。

「十代……?」

「オレは《ネオスペーシア・ウェーブ》を発動! 自分フィールドのモンスターを全て破壊し、その数だけデッキからネオスペーシアンを特殊召喚する!」

 十代は俺からの問いかけに答えることはなく、《左腕の代償》でサーチした魔法カード《ネオスペーシア・ウェーブ》を発動する。《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と四体の《邪眼神トークン》を全て破壊し、代わりにフィールドには、五体のネオスペーシアンがフィールドに現れていた。

『ネオスペーシアン……!』

「《N・ブラック・パンサー》の効果発動! 相手モンスター……《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果を得る!」

 そして忌々しげなダークネスの声とともに、まずは《N・ブラック・パンサー》の効果が発動される。相手モンスターの効果を得るという特異なソレは、ダークネスの《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果を得ていく。

「これなら……!」

「バトル! 《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》となった《N・ブラック・パンサー》で、お前の究極幻神を攻撃する!」

 そして《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果は、フィールドのモンスターの数×1000ポイント攻撃力を上げる効果。よって《N・ブラック・パンサー》の攻撃力も10000ポイント増し、元々の攻撃力だけダークネスの究極幻神よりも攻撃力が上回る。

『リバースカード……オープン! 《ガード・ブロック》……!』

 ――しかしここで、ダークネスが伏せていたリバースカードが正体を現し、《N・ブラック・パンサー》の攻撃を受け止めた。ダークネスへの戦闘ダメージは0となり、さらに《究極幻神 ビシバールキン》が戦闘破壊耐性を発動したため、バーン効果が発動する――

『…………』

 ――ことはなかった。何故ならここでダークネスが究極幻神のバーン効果を発動すれば、こちらの究極幻神の効果を得た《N・ブラック・パンサー》もまた、同様の耐性効果とバーン効果を発動する。そうなればバーン効果はそのままダークネスに跳ね返り、先にライフポイントが尽きるのはダークネスとなる。

「これで終わりだ、究極幻神! 《N・グラン・モール》で攻撃する!」

 故に《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》のバーン効果は発動することが出来ず、二体の究極幻神のぶつかり合いの隙に、一体のネオスペーシアンがダークネスの究極幻神に近づいてきていた。

「《N・グラン・モール》の効果発動! このモンスターが戦闘する時、その相手モンスターとグラン・モールを手札に戻す!」

『ぬ……ぐぅぅぅ……!』

 確かに《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》は、戦闘と効果破壊への耐性を持ってはいたが、その一撃には無力だった。究極幻神に特攻した《N・グラン・モール》は自らの役割を果たし、《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の打倒を果たしてみせる。

「メインフェイズ2、《N・エア・ハミングバード》の効果を発動! ハニー・ザック!」

 そしてメインフェイズ2に移行すると、残るネオスペーシアンたちが効果を発動する。まずは《N・エア・ハミングバード》の効果により、相手の手札×500ポイントのライフを回復する。

遊矢&十代LP4000→5000

「そして《N・アクア・ドルフィン》の効果! エコー・ロケーション!」

 ダークネスの手札は二枚、よって1000ポイントのライフを回復しながら、続いて《N・アクア・ドルフィン》の効果が発動する。手札を一枚捨てることで相手の手札のモンスター一体を破壊し、500ポイントのダメージを与えるハンデス効果。相手の手札のモンスターの攻撃力より、こちらのフィールドのモンスターの攻撃力が低かった場合、こちらが500ポイントダメージを受けるデメリットこそあるが、今こちらには《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》となった《N・ブラック・パンサー》がいる。

ダークネスLP600→100

「そして《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》となった、《N・ブラック・パンサー》の効果! フィールド全てに《邪眼神トークン》を特殊召喚する!」

 そしてハンデスとともに500ポイントのバーンダメージを与え、《N・アクア・ドルフィン》はダークネスの残るライフポイントを100ポイントにしてみせる。最後に《N・ブラック・パンサー》が《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果を使い、今度はダークネスのモンスターゾーンをロックしてみせた。

「ターン……終了だ」

『我のターン……ドロー』

 そして十代のエンド宣言とともに、《N・ブラック・パンサー》の効果が効力を失う。ネオスペーシアンたちの活躍によって、ダークネスの残るライフポイントは100、切り札の《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》はエクストラデッキ。おおよそ最高なターンだったが、十代の表情は晴れなかった。その理由は、ダークネスの更なる手を、なんとなく予感していたのかもしれない。

『我は二枚目の《トークン復活祭》を発動! 消え去れ……ネオスペーシアン……!』

 そして発動した魔法カードは、二枚目の《トークン復活祭》。十代が《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》の効果を使ってロックしたのが裏目となり、ダークネスのフィールドの《邪眼神トークン》と十代のネオスペーシアンたちがもろともに破壊された。

『《ダークネス・ネクロスライム》を召喚する……』

 そしてダークネスの最後の手札から召喚されたのは、やはりステータスは好守ともに0のモンスター。しかしそのモンスターが何をもたらすかは、すぐに分かることとなった。

『《ダークネス・ネクロスライム》は、このモンスターをリリースすることで、ダークネスと名の付くモンスターを墓地から特殊召喚する……現れろ、我が切り札……《ダークネス・ネオスフィア》!』

 ――遂に降臨する、ダークネスの切り札。自らの名前を冠するそのモンスターは、《ダークネス・ネクロスライム》の内部から引き裂くように現れた。そして攻撃力4000を誇るモンスターから身を守る手段は、今の十代には、ない。

『《ダークネス・ネオスフィア》でダイレクトアタック!』

「――――」

遊矢&十代LP5000→1000

「十代!」

 ライフポイントは共有とは言えども、今のターンプレイヤーは十代。その一撃は守られるもののない十代に直撃し、十代は闇の世界の中に消えていく。こちらからの呼びかけに答えることもなく、ただただ闇だけがこの空間を支配していた。

『倒れたデュエリストにターンは回って来ない……さあ、貴様のターンだ……』

 十代を探しに行こうとした俺の目の前に、ダークネスの巨大な姿が現れた。まだデュエル中だと言わんばかりであり、こちらにターンが移行する。

『そして《ダークネス・ネオスフィア》の効果……お互いのターンのエンドフェイズ時、我がライフポイントを4000とする……』

ダークネスLP100→4000

「……あとは任された、十代――ドロー!」

 十代はこうなることを予期してあんなことを言ったのか、それは今は分かるわけがない。ただし十代はその身とネオスペーシアンたちを犠牲に、《究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン》を倒し、後は俺に任せると言ってくれたのだ。ならば、あとは――このデュエルを終わらせるのみだ。

「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」

 たとえ相手のライフポイントが4000にまで回復していようと関係ない、そんな決意とともに呼び出される、マイフェイバリットカード。伝説のカードや神のカード、ましてやレアカードですらなく、ネオスペーシアンたちやネオスのように曰く付きのカードでもない。それでもずっと一緒に戦ってきた、永遠のマイフェイバリットカード――

「ダークネス! 俺はただの人間だ。負ければ相手を妬み、嫌なことがあれば苛立ちを覚えて、さっきユベルを見た時には、状況も考えずに怒りを覚えて、俺に出来ないことをやれる皆に嫉妬してる!」

 そんな《スピード・ウォリアー》を傍らに、《ダークネス・ネオスフィア》に身を隠すダークネスに啖呵を切る――このターンで終わらせる、という意志を込めて。

「そんな人並みに心の闇を持ってる俺が言ってやる! お前の出番はまだ先だ! 俺は……俺たちは、まだ何にだって諦めちゃいない! ――《スピード・ウォリアー》に装備魔法、《進化する人類》を装備する!」

 装備魔法《進化する人類》。このカードに託された名前のように、俺たちはまだそれぞれに、闇を抜けて光の中に完結する物語を持っている。ならば未来を闇に包むダークネスなど邪魔なだけであり、俺とマイフェイバリットカードがやるべきことは一つ。

「闇を斬り裂け、スピード・ウォリアー! バトルフェイズ、《スピード・ウォリアー》の元々の攻撃力は二倍となる!」

 攻撃力を二倍にする、などと言えば聞こえはいいが、《スピード・ウォリアー》の元々の攻撃力は僅か900。二倍にしたところで1800にしかならない――本来ならば。

 ただし、装備魔法《進化する人類》を装備していれば、話は別だ。元々の攻撃力を2400ポイントとする効果を持つ《進化する人類》とのコンボにより、《スピード・ウォリアー》の攻撃力は一瞬にして《ダークネス・ネオスフィア》を超えて4800ポイントとなる。

『だが《ダークネス・ネオスフィア》には戦闘破壊耐性がある。闇たる我を倒すことは不可能だ!』

「それはどうかな……《スピード・ウォリアー》で、《ダークネス・ネオスフィア》を攻撃!」

 ダークネスの言った通りに、《ダークネス・ネオスフィア》と《スピード・ウォリアー》の攻撃力は僅か800ポイントであり、到底4000ポイントにライフを回復したダークネスのライフを削りきる威力はない。二回攻撃などを加えたとしても、戦闘破壊耐性を持つ《ダークネス・ネオスフィア》には通用しない。それでも攻撃を仕掛けていく《スピード・ウォリアー》の前に――半透明の戦士が姿を現した。

「墓地から《ネクロ・ガードナー》の効果を発動するぜ、遊矢!」

 闇の中から姿を現した十代が、最初の《守護神の宝札》によって墓地に送っていた《ネクロ・ガードナー》によって、《スピード・ウォリアー》の戦闘を無効とする。《ネクロ・ガードナー》は墓地から除外することで、その戦闘を無効とする効果を持っており――そこで俺の手札に残された最後の一枚の、発動条件を満たすこととなった。

「速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》を発動! モンスターの攻撃が無効になった時、攻撃力を倍にしてもう一度攻撃する!」

『攻撃力……9600!?』

 《ダークネス・ネオスフィア》を遥かに超える攻撃力に、初めてダークネスから明確な驚愕の声が漏れた。しかしてもう遅いと示すかのように、《スピード・ウォリアー》は神速でダークネスに近づいていく。

「――ソニック・エッジ!」

『ぐあああああ!』

ダークネスLP4000→0

「ダークネス。お前の出番は、ずっと後だ」

「……いや、来させないさ」

 《スピード・ウォリアー》の一撃に破裂するダークネスに対して、俺たちが最後にそう言った瞬間、耐えられないとばかりに世界が崩壊を始めた。世界を構築していた闇が、まるでガラスのように砕けていき――

「ここは……」

 ――気づけば、俺たちはデュエル・アカデミアに帰ってきていた。十代がよくサボって寝ていた屋上で、俺が異世界から帰ってきてアカデミアを一望した場所でもある。この場所に帰ってきたい、守りたいという一心で、俺はダークネスとの戦いに足を踏み入れたのだ。

「……ただいま」

 そしてようやく、異世界に行く前のアカデミアに帰って来れた気がして。隣でアカデミアを一望する十代に聞こえないように、無意識に小さくそんなことを呟いていた――十代もそんなことを、思っていたのかもしれないが。

 ただ今は、みんなで守りきったこの場所の美しさに、少しばかり見とれていても罰は当たらない。

 ――もうすぐこの場所とも、別れる日がやってくるのだから。

 
 

 
後書き
ダークネス戦、完。残るは…… 

 

-Generation neXt-

『……卒業生代表、黒崎遊矢』

 ダークネスとの決戦の折、成り行きでなった卒業生代表だったが、それでも役目は果たす必要がある。卒業生の答辞を読み終えると、緊張から解放されたことに胸をなで下ろしながら、マイクを鮫島校長に返していた。

『では、話はこれぐらいに。パーティー会場へ移動しましょう……卒業生の皆さんは、アカデミアで過ごす最後の日です。楽しんでいってください』

 そう、鮫島校長の言った通り、今日は……俺たちがアカデミアで過ごす、最後の日となった。


「卒業おめでとう、遊矢」

「……三沢」

 思い思いの感情を浮かべながら、生徒たちは用意されたパーティー会場に向かっていく。そんな中、スーツ姿の三沢に声をかけられ、俺は生徒たちの列から外れていく。

「何が卒業おめでとう、だ。他人事みたいに」

「実際、他人事のようなものだからな」

 二年生の際にアカデミアから離れ、ツバインシュタイン博士の助手となった三沢は、確かにもはやアカデミアの学生ではない。俺たちより遥かに早く自立していった親友に、小さく笑いながらある物を投げつけた。

「これは……」

「他人事じゃないんだよ。クロノス先生からだ……卒業おめでとう、三沢」

 三沢に渡したものは、クロノス先生から託された卒業証書。アカデミアからただ去るのではなく、「卒業」したという証のソレに、三沢は珍しい目を白黒させていた。

「まったく……適わないな、クロノス先生には」

「ああ、最高の先生だ」

「そうだな……さて、遊矢」

 そうしてひとしきり笑った後、三沢は真面目な表情に戻ると、自らの背後を指差した。まるで俺が何を求めているのか、分かっているようだった。

「あいつなら向こうに行った……そう簡単に負けるなよ?」

「ああ!」

 最後にそう言葉を交わして、俺は振り向くことはなく三沢と別れた。パーティー会場に向かう列からも外れた俺が向かったのは、今は誰もいない筈のアカデミアの本校舎。その中でも、デュエルキング・武藤遊戯の当時のデッキのコピーが保管されている部屋から出て来た、真紅の制服を着た人物が目当てだった。

「……遊矢?」

「よう、十代。やっぱりパーティーには参加しないで、どっか行く気だったな」

 そう決めつけるように言った俺の問いは図星だったようで、十代はばつが悪そうに顔を背けた。とはいえ、そんなことは仲間の中で分かっていない人物はおらず、それが十代の選択ならば受け入れてやる、というのがみんなの総意だった――俺以外はだ。

「……ダークネスとの戦い、俺はトドメを刺しただけだった」

 世界を救ったあのタッグデュエルにおいて、ダークネスの切り札をことごとく破っていったのは、俺ではなくどれも十代だった。もちろん結果的にそうなっただけであり、十代も何か言いたそうにしていたものの、それを遮って言葉を続けていく。

「だから、まだお前を卒業させるわけにはいかない。俺とデュエルしろ、十代!」

「……ああ、いいぜ。オレも今、誰かと戦いたくてウズウズしてたところだ!」

 そうして二人は、それぞれのデュエルディスクを構えて向かい合うと、デュエルの準備を完了させる。お互いに同じ場所で三年間の日々を過ごし、その日々の全てを相手にぶつけるデュエル。

 ……そしてその三年間で、俺たちは、デュエルは楽しいだけのものではないと知った。時に辛いことも、苦しいことも、悲しいことも、あった――だがいずれにしても、デュエルはお互いの魂のぶつかり合いだった。

 どんなデュエリストにも信念があり、その信念を貫くための譲れないことがあった時、お互いの魂をぶつけ合って相手を打ち倒す。それこそが俺が見つけたデュエルの本質であったが、どうせやるなら――

「楽しんで勝たせてもらう!」

「楽しいデュエルをしようぜ!」

 ――そうだ、どうせやるなら、楽しい方がいい。

十代LP4000
遊矢LP4000

「俺の先攻! 《カードガンナー》を召喚!」

 先にデュエルディスクが選んだのは十代。まずは《カードガンナー》を召喚すると、その効果でデッキから三枚のカードを墓地に送る――と思いきや、そんな様子はない。

「さらに《機械複製術》を発動し、デッキからさらに二体の《カードガンナー》を特殊召喚! 三体の《カードガンナー》の効果を発動するぜ!」

 こちらも多用する魔法カード《機械複製術》によって、十代のフィールドには三体の《カードガンナー》が揃う。さらに揃って効果を発動することで、十代のデッキから9枚のカードが墓地に送られた。

「墓地に送られた《E・HERO シャドー・ミスト》の効果。デッキからHEROを手札に加え……カードを三枚伏せて、オレはターンを終了するぜ!」

「……俺のターン、ドロー!」

 《機械複製術》と《カードガンナー》のコンボによる9枚の墓地肥やしと、サーチしたHERO以外の、三枚の手札全てをリバースカードとしてセットと、相変わらず――いや、破天荒なデュエルぶりにますます磨きがかかっている。それに気圧されまいと、気合いを込めてカードを引き、ドローしたモンスターをデュエルディスクにセットした。

「俺は《ドドドウォリアー》を妥協召喚し、攻撃する!」

 ドローしたモンスターは《ドドドウォリアー》。レベル6だが攻撃的を1800に減ずることで、手札から妥協召喚する効果を持つ。さらに攻撃時に、ダメージステップ終了時まで相手の墓地で発動する効果を無効にする効果を持ち、《カードガンナー》の破壊された際の効果を無効に出来る。

「《カードガンナー》に攻撃だ、ドドドアックス!」

「リバースカード、オープン! 《ハイレート・ドロー》! 自分フィールドのモンスターを全て破壊し、その数だけドローする!」

 召喚されるや否や《ドドドウォリアー》は攻撃するものの、《カードガンナー》は他ならぬ十代のリバースカード《ハイレート・ドロー》によって破壊されてしまう。まさか三枚のリバースカードの中で、容易く攻撃が決まるとは思っていなかったが、自分から全て破壊するとは予想外だった。

「さらに《カードガンナー》が破壊された時、カードをドロー出来る。よって俺は、6枚のカードをドローするぜ!」

「……だが、《ドドドウォリアー》の攻撃は直接攻撃となる!」

「いいや、速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動する!」

 《カードガンナー》と《ハイレート・ドロー》のコンボによって、使い切った筈の十代の手札が枚数を増やして再生する。せめてライフポイントにダメージは与えてやろうとするが、速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》によって、フィールドに《ハネクリボー》が特殊召喚された。

 ――いや、まだリバースカードが一枚――

「さらに速攻魔法《進化する翼》を発動! 手札二枚をコストに、ハネクリボーを《ハネクリボー LV10》に進化させる!」

 最後のリバースカードに気づいた時にはもう遅く、ハネクリボーは最強の形態へと進化する。《カードガンナー》によって、二枚の手札コストなど支払うのは容易いことなのだから。

「《ハネクリボー LV10》は自身をリリースすることで、相手モンスターを全て破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

「手札から速攻魔法《インスタント・チューン》を発動! 相手モンスターが特殊召喚に成功した時、レベル1のチューナー扱いのトークンを特殊召喚出来る!」

 《ハネクリボー LV10》の効果は、まさに究極進化形態と呼ばれるに相応しい効果。ただしこちらもただやられる訳がなく、手札から速攻魔法《インスタント・チューン》を発動する。

「そしてチューナートークンと、フィールドのモンスターでシンクロ召喚する!」

「何!?」

 《ハネクリボー LV10》が起こした破滅の光から、《ドドドウォリアー》は特殊召喚されたチューナートークンとともに、光の輪と化すことで避けてみせる。もちろんただ避けただけではなく、合計レベル7のシンクロ召喚として。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 そしてシンクロ召喚され竜の雄叫びをあげる、ラッキーカードこと《パワー・ツール・ドラゴン》。十代の《ハネクリボー LV10》が破壊するのは、あくまで攻撃表示モンスターのみであり、守備表示でシンクロ召喚された《パワー・ツール・ドラゴン》は無傷。

「メイン2。《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動!」

 ただしそれは、こちらも攻撃のチャンスを失ったということだ。《パワー・ツール・ドラゴン》の効果によって、十代にランダムで選ばれた装備魔法を手札に加え、そのまま《パワー・ツール・ドラゴン》に装備する。

「《パワー・ツール・ドラゴン》に装備魔法《ミスト・ボディ》を装備し、カードを二枚伏せてターンエンド!」

「オレのターン、ドロー! 《コンバート・コンタクト》を発動し、手札とデッキからネオスペーシアンを墓地に送り、二枚ドロー!」

 最初のターンから息をつく間もない攻防が展開され、お互いにダメージは与えられずにいた。ただし結果としては、大量のドローと墓地肥やしを同時にこなしてみせた十代が有利であり、俺はフィールドを防御で固めていた。

「よし……通常魔法《コクーン・パーティー》、永続魔法《コクーン・リボーン》を発動! 来い、ネオスペーシアン!」

 対する十代は、こちらの防御など知らないとばかりに攻めの姿勢。墓地のネオスペーシアンの種類だけ『コクーンモンスター』を特殊召喚する魔法カード《コクーン・パーティー》と、『コクーンモンスター』をリリースすることで墓地のネオスペーシアンを特殊召喚する永続魔法《コクーン・パーティー》のコンボにより、十代のフィールドはあっという間に五体のネオスペーシアンで埋まっていた。

「《N・エア・ハミングバードの効果発動! 相手の手札×500ポイント、ライフポイントを回復する! ハニー・サック!」

十代LP4000→5000

 ネオスペーシアン。ダークネスと共に戦った時は心強い仲間だったが、今はただの相手モンスターだ。《N・エア・ハミングバード》を皮きりに、さらに効果を発動していく。

「《N・アクア・ドルフィン》の効果! 手札を一枚捨てることで、相手の手札のモンスターを破壊し、500ポイントのダメージを与える!」

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》の効果を発動し、アクア・ドルフィンの効果を無効にする!」

 《エフェクト・ヴェーラー》の羽衣が《N・アクア・ドルフィン》を包み込み、そのハンデス効果を無効にする。無効にしようがしまいが《エフェクト・ヴェーラー》は墓地に送られてしまうが、500ポイントのバーンダメージを受けないだけマシだ。

「なら通常魔法《NEX》でアクア・ドルフィンを《N・マリン・ドルフィン》に進化させ、さらに効果を発動する! エコー・ロケーション!」

「くっ……!」

 対して十代はその防御を読んでいたかのように、ネオスペーシアンを進化させる魔法カード《NEX》によって《N・マリン・ドルフィン》を特殊召喚。変わらぬハンデス効果によって、俺の手札は全て捨てられてしまう。さらに手札を捨てられた際に、こちらにダメージまで与えてくる効果により、ライフまでもが引き離されてしまう。

遊矢LP4000→3500

「さらに魔法カード《スペーシア・ギフト》を発動! フィールドのネオスペーシアンの数だけ、俺はカードをドローする!」

 ハンデスの代償として十代の手札も二枚コストとなったが、《スペーシア・ギフト》によって二回目の6枚ドローに成功したことにより、十代とこちらのアドバンテージの差が広がっていく。焦燥感を感じざるを得ないが、まだネオスペーシアンたちの攻撃は続けている。

「《N・ブラック・パンサー》の効果! 《パワー・ツール・ドラゴン》の名前とモンスター効果を得るぜ、パワー・サーチ!」

「……右のカードだ」

 ずっと相手に三枚の装備魔法を選ばせてきたが、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を俺が選ぶのは初めてだ――などと感傷に浸っていると、今し方《パワー・ツール・ドラゴン》となった《N・ブラック・パンサー》の姿が、再び別の姿に変わっていく。あの姿は――

「魔法カード《ヒーロー・マスク》! 行くぜ遊矢、ネオスとなった《N・ブラック・パンサー》と、《N・マリン・ドルフィン》と、《N・エア・ハミングバード》でトリプルコンタクト融合!」

 ――《E・HERO ネオス》。デッキからHEROを墓地に送ることで、フィールドのモンスターは、そのHEROの名を得る効果を持つ魔法《ヒーロー・マスク》により、《N・ブラック・パンサー》はネオスに姿を変えたのだ。

「現れろ、《E・HERO ストーム・ネオス》!」

 ネオスの名前を得たということは、つまり――と、俺が理解した瞬間、そのモンスターは十代のフィールドに現れていた。ネオスの究極進化系の一種、水と風を司るトリプルコンタクト融合体、《E・HERO ストーム・ネオス》。

「ストーム・ネオスの効果! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」

「チェーンしてリバースカード、オープン! 《トゥルース・リインフォース》を発動!」

 その効果は、名前通りに文字通り《大嵐》。役目を終えた十代の《コクーン・リボーン》と、こちらの二枚のリバースカードと装備魔法《ミスト・ボディ》を破壊せんと吹き荒れる嵐に、なんとかチェーンして《トゥルース・リインフォース》を発動する。

「来い、《希望の創造者》!」

「《希望の創造者》……? いや、魔法カード《O-オーバーソウル》を発動! 墓地から《E・HERO アナザー・ネオス》を特殊召喚!」

 デッキからレベル2以下の戦士族を特殊召喚する《トゥルース・リインフォース》により、守備表示で特殊召喚された《希望の創造者》に対し、十代は見たことがないとばかりに不審げな表情を見せた。ただしそれも一瞬のことで、すぐさま新たなHEROを墓地から特殊召喚する。

「《E・HERO アナザー・ネオス》は、再度召喚することで、《E・HERO ネオス》へと進化する! トリプルコンタクト融合!」

 ネオスとして扱う《E・HERO アナザー・ネオス》と、フィールドに残る二体のネオスペーシアン。二回目のトリプルコンタクト融合によって、新たなモンスターが時空の穴からコンタクト融合召喚される。

「融合召喚! 《E・HERO マグマ・ネオス》!」

 炎と地を司るトリプルコンタクト融合体。フィールド上のカードの数×400ポイント攻撃力を上げるハイパワーは厄介だが、俺のモンスターはどれも守備表示。今に限っては脅威ではない――とまで考えた俺が見たのは、十代が新たに発動した魔法カードだった。

「《ミラクル・コンタクト》! 墓地から《E・HERO カオス・ネオス》をトリプルコンタクト融合!」

「――――ッ!?」

 墓地融合のサポートカード《ミラクル・コンタクト》によって、十代のフィールドに闇と光を司るトリプルコンタクト融合体が召喚され、十代のフィールドには三体のトリプルコンタクト融合体が揃う。いずれも攻撃力は3000を超えており、その圧倒的なプレッシャーは俺を震わせていた。

「カオス・ネオスの効果発動! 相手モンスターを全て破壊する!」

 さらにトリプルコンタクト融合体と戦闘することも出来ずに、俺のフィールドにいた守備モンスターは《E・HERO カオス・ネオス》の効果により、鎧袖一触に破壊されてしまう。破壊耐性を持つ《パワー・ツール・ドラゴン》も、先んじて《E・HERO ストーム・ネオス》によって装備魔法を破壊されてしまっていた。

「バトル! 《E・HERO マグマ・ネオス》でダイレクトアタック! スーパーヒートメテオ!」

 これで俺のモンスターとリバースカード、さらには手札すらも全て破壊された。まるで何もない俺に対して、こちらのライフを一撃で削るマグマ・ネオスの攻撃が迫る。

「墓地から罠発動! 《光の護封霊剣》!」

 ――ただし、デュエルはまだ始まったばかりだ。墓地から除外することでダイレクトアタックを無効にする、先にストーム・ネオスによって破壊される罠カード《光の護封霊剣》の効果によって、トリプルコンタクト融合体たちは身動きを封じられる。

「こんなので終わりに出来ると思うなよ、十代!」

「……へへ。やるな遊矢、防がれるとは思ってなかったぜ」

 そう言いながらも十代はメインフェイズ2に移行すると、二枚のリバースカードを伏せてみせた。なんとか攻撃を防いだとはいえ、あちらのフィールドにはトリプルコンタクト融合体が三体に、リバースカードが二枚という盤石な態勢。

「さらにフィールド魔法《疑似空間》を発動! このカードは、墓地のフィールド魔法を除外することで、同じ効果を得る。オレは《ネオスペース》を除外するぜ」

 十代が発動したのはフィールド魔法《疑似空間》。エンドフェイズまで墓地のフィールド魔法を得る効果を持ち、《ネオスペース》を除外することでトリプルコンタクト融合体をフィールドに保つ。

「どうやって逆転するか、見せてもらうぜ。ターンエンド!」

「俺のターン……ドローをする前に、破壊された《希望の創造者》の効果が発動する!」

 《トゥルース・リインフォース》で特殊召喚されていた《希望の創造者》は、相手モンスターに破壊された次のターン、デッキトップに好きなカードを置く効果を持つ。次なるドローカードを逆転の一打に確定させる、文字通りに《希望の創造者》。

「シャイニング・ドロー! ……《逆転の宝札》を発動する!」

 そして発動されたのは《逆転の宝札》。文字通りに逆転の一手となる可能性を秘めた魔法カードであり、相手のフィールドの表側表示カードの数だけ、カードをドローする魔法カード。ただし発動条件は厳しく、このカード以外のカードが自分のフィールドと手札にないことであるが、十代のおかげでその発動条件は満たされる。

「さらに《マジカル・ペンデュラム・ボックス》を発動! カードを二枚ドローし、ペンデュラムモンスターの場合に手札に加える……よし、二体の音響戦士をペンデュラムスケールにセッティング!」

 《逆転の宝札》と《マジカル・ペンデュラム・ボックス》によって、何とか体勢を整えるとともに、二体のペンデュラムモンスターをスケールにセッティングする。《マジカル・ペンデュラム・ボックス》によって来てくれた二体に感謝しながら、三体のトリプルコンタクト融合体を睨みつけた。

「《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果! 手札を一枚捨てることで、デッキから音響戦士を特殊召喚し、《チューニング・サポーター》を召喚する!」

「ペンデュラムか……」

「《機械複製術》を発動し、さらに《チューニング・サポーター》を二体特殊召喚! 四体のモンスターでチューニング!」

 ペンデュラムを警戒する十代をよそに、まず召喚されるは、シンクロ召喚の構えたる《機械複製術》によって三体が揃う《チューニング・サポーター》。デッキから特殊召喚された《音響戦士ベーシス》とともに、シンクロ召喚でもって反撃の狼煙をあげる。

「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」

 《音響戦士ピアーノ》と《チューニング・サポーター》のシンクロ召喚によって生まれた光を斬り裂きながら、七つの刃を持つ機械戦士がフィールドに現れる。三体の《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となったため、効果によってカードを三枚ドローしつつ、デュエルディスクに新たなカードをセットする。

「《セブン・ソード・ウォリアー》に装備魔法《パイル・アーム》を装備。このカードが装備された時、相手の魔法・罠カードを一枚破壊する!」

「……チェーンして罠カード《ヒーローバリア》を発動するぜ!」

「だが同時に《セブン・ソード・ウォリアー》の効果を発動! カードが装備された時、相手に800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」

「っ……」

十代LP5000→4200

 《パイル・アーム》の効果は残念ながらフリーチェーンの《ヒーローバリア》によって外れてしまったが、《セブン・ソード・ウォリアー》の効果ダメージは炸裂する。とはいえ、《N・エア・ハミングバード》で回復されてはいるが。

「ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスターたち!」

 そして《セブン・ソード・ウォリアー》の召喚だけで終わることはなく、三体のモンスター――《ガントレッド・ウォリアー》、《音響戦士サイザス》、《音響戦士ドラムス》が手札からペンデュラム召喚される。

「墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外し、二体の音響戦士モンスターでチューニング!」

 墓地の《音響戦士ピアーノ》はフィールドに音響戦士がいる時に除外することができ、それを受けつつ二体のモンスターがシンクロ素材となっていく。合計レベルは6、光がフィールドに溢れ出した。

「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 槍を持つ星屑の機械戦士、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》。そのシンクロ召喚に成功した時、カードを一枚ドローすることが出来る効果とともに、墓地の《音響戦士サイザス》の効果が発動する。

「墓地の《音響戦士サイザス》は自身を除外することで、除外された音響戦士モンスターを特殊召喚出来る! 《音響戦士ピアーノ》を特殊召喚し、チューニング!」

 フィールドに残っていた《ガントレット・ウォリアー》に、除外ゾーンから特殊召喚された《音響戦士ピアーノ》がシンクロ素材となり、三体目のシンクロモンスターが現れる。シンクロ召喚の光の中で、対面の十代が笑っているのが見えた。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

「三体のシンクロモンスター……仕返しのつもりか?」

「いいや……仕返しなら、まだもう一体足りないな! 魔法カード《ジャンク・ディーラー》を発動! 墓地から戦士族と機械族モンスターを、それぞれ一体ずつ特殊召喚する!」

 《グラヴィティ・ウォリアー》がシンクロ召喚され、トリプルコンタクト融合体に反応しその攻撃力を上げていくのを確認しながら、魔法カード《ジャンク・ディーラー》を発動する。その効果によって、攻撃力が半分になりアドバンス召喚の素材に出来ないデメリットが追加された《ガントレット・ウォリアー》と《音響戦士ドラムス》が、再びフィールドに蘇った。

「さらに通常魔法《シンクロ・グリード》を発動。シンクロモンスターが三体以上いる時、カードを二枚ドロー出来る。墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外し……二体のモンスターでチューニング!」

 《シンクロ・グリード》や《音響戦士ピアーノ》の除外などの下準備を済まし、フィールドの二体のモンスターがさらにシンクロ素材となっていく。素材となるのは《音響戦士ドラムス》と、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》……合計レベルは8のシンクロ召喚である。

「集いし決意が拳となりて、荒ぶる巨神が大地を砕く。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ギガンテック・ファイター》!」

 シンクロモンスターからのシンクロ召喚に、大地を震わせながら巨人が降臨する。十代のフィールドの三体のトリプルコンタクト融合体と、こちらのフィールドの三体のシンクロモンスターが睨み合い――ぶつかり合った。

「《セブン・ソード・ウォリアー》の効果発動! 装備魔法を墓地に送り、相手のカードを一枚破壊する!」

「マグマ・ネオス……だが《ギガンテック・ファイター》以外じゃ、ネオスには適わないぜ!」

「それはどうかな。俺には、ずっと一緒に戦ってきたコイツがいる! 《ガントレット・ウォリアー》の効果発動! このカードをリリースすることで、他の戦士族モンスターの攻撃力を500ポイントアップする!」

 《ジャンク・ディーラー》によって蘇生していた《ガントレット・ウォリアー》の効果により、三体のシンクロモンスターたちにそれぞれ攻撃力が加算される。特に《ギガンテック・ファイター》は、お互いの墓地の戦士族の数だけパワーアップするため、十代の墓地のHEROたちの力も得ることとなり、攻撃力は4500という数値にまで上昇する。

「バトル! まずは《セブン・ソード・ウォリアー》で攻撃!」

「《ヒーローバリア》の効果が発動する!」

「分かってるさ。《グラヴィティ・ウォリアー》で、カオス・ネオスを攻撃! グランド・クロス!」

 十代が発動していた罠カード《ヒーローバリア》によって、最初の攻撃が防がれてしまうことは分かっていた。ただし次なるグラヴィティ・ウォリアーの攻撃が防がれることはなく、カオス・ネオスを鋼鉄の爪が引き裂いた。

十代LP4200→3700

「続いて《ギガンテック・ファイター》でストーム・ネオスに攻撃! ギガンテック・フィスト!」

「ぐあっ!」

十代LP3700→2200

 《ギガンテック・ファイター》の一撃とともに、ストーム・ネオスは砕け散った。これで《ヒーローバリア》によって妨害されたため、十代へのダイレクトアタックにまではたどり着かなかったものの、三体のトリプルコンタクト融合体の全滅に成功した。

「エンドフェイズ、《音響戦士マイクス》の効果により、除外されている音響戦士モンスターを手札に加える。カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「……まさか本当に逆転されるなんてな……だけど、勝負はこれからだぜ! ドロー!」

 こちらのフィールドには《ギガンテック・ファイター》と《セブン・ソード・ウォリアー》、《グラヴィティ・ウォリアー》に、音響戦士ペンデュラムが二枚、リバースカードが一枚という布陣。対する十代は、リバースカードが一枚と《ネオスペース》のみだが……

「《疑似空間》の効果! 墓地のフィールド魔法《摩天楼2-ヒーローシティ》を発動! 一ターンに一度、戦闘破壊されたHEROを特殊召喚出来る!」

 フィールド魔法が宇宙空間から未来的なビル群へと書き換えられ、そこからは先のターンに破壊した《E・HERO ストーム・ネオス》がフィールドに蘇った。ビル群の屋上から飛び上がったストーム・ネオスは、その翼で全てを破壊する旋風を巻き起こしていく。

「《E・HERO ストーム・ネオス》の効果発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する! アルティメット・タイフーン!」

「っ……!」

 先のターンに引き続き、ストーム・ネオスが起こした旋風が全ての魔法・罠カードを破壊する。こちらのセットカードだけではなく、二体の音響戦士ペンデュラムカードすらも。対する十代も、フィールド魔法《摩天楼2-ヒーローシティ》と化した《疑似空間》と、一枚のセットカードが破壊されていくが。

「チェーンして《リミット・リバース》を発動! 墓地から《ジャンク・コレクター》を蘇生し、その効果を発動する!」

 ただしこちらとてただやられるだけではなく、伏せていた《リミット・リバース》によって墓地の《ジャンク・コレクター》を特殊召喚し、更にその効果を発動する。

「フィールドのこのモンスターと墓地の罠を除外することで、除外した罠カードの効果を発動する! 来い、《マッシブ・ウォリアー》!」

 《ジャンク・コレクター》によって墓地から除外したのは、罠カード《トゥルース・リインフォース》。その効果によって、デッキから戦闘破壊耐性を持つ《マッシブ・ウォリアー》を特殊召喚する。

「こっちもチェーンして罠カード《融合準備》を発動! 墓地から《融合》カードと、デッキから《E・HERO スパークマン》を手札に加える。さらに《闇の量産工場》を発動し、二枚のモンスターを手札に加える」

 伏せていたのは通常罠カード《融合準備》。ストーム・ネオスに破壊される前に発動し、ともに発動した《闇の量産工場》と同じく手札を補充していく。

「今度はこっちの番だぜ! 手札から《融合》を捨て、魔法カード《融合破棄》を発動! エクストラデッキから《E・HERO フェニックスガイ》を墓地に送ることで、手札からその融合素材を特殊召喚する!」

 十代の反撃の準備は整った。とはいえその初手は《融合破棄》による、フェザーマンとバーストレディの特殊召喚という、あまり想像のつかない一手――いや、十代のあの二体と言えば。

「500ライフをコストに《二重融合》を発動! このターン、二回の融合を可能とする!」

十代LP2200→1700

 ――いや、十代はさらに想像を越えていた。フェザーマンとバーストレディ、そして先程《融合準備》で手札に加えていたスパークマンで、二回の融合召喚が行われていく。

「融合召喚! 《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》!」

 十代のフェイバリットカード、その進化系。墓地のE・HEROの数だけ攻撃力をアップする効果を併せ持つあのカードに、無意識に舌を巻く俺の脳裏に――あの《融合破棄》のことが頭をよぎる。

「さらに《ミラクルフュージョン》を発動! 墓地のスパークマンとフェニックスガイを融合し、《E・HERO シャイニング・フェニックスガイ》を融合召喚!」

 ――さらに融合召喚されたのは、以前にエドが使用していた光り輝くもう一体のHERO。シャイニング・フェニックスガイと、シャイニング・フレア・ウィングマンの二体がフィールドに並び、HEROたちが再び機械戦士たちと対峙した。

「装備魔法《ライトイレイザー》をシャイニング・フェニックスガイに装備し、バトル! 《ギガンテック・ファイター》に攻撃だ、シャイニング・フィニッシュ!」

 シャイニングシリーズは墓地のE・HEROの数だけ攻撃力が上がり、現在の攻撃力はともに4300。同じく墓地の戦士族モンスターの数を攻撃力に加算する《ギガンテック・ファイター》の攻撃力は4500と、攻撃力はこちらが勝っているが――問題は、装備された《ライトイレイザー》の効果だった。

「《ライトイレイザー》を装備した相手モンスターは、ダメージ計算後に破壊されるぜ!」

「《ギガンテック・ファイター》!」

十代LP1700→1500

 《E・HERO シャイニング・フェニックスガイ》と《ギガンテック・ファイター》の攻防は、ギガンテック・ファイターの一撃が炸裂する――ものの、シャイニング・フェニックスガイは戦闘では破壊されない効果を持つ。そしてカウンターのように放たれた《ライトイレイザー》によって、《ギガンテック・ファイター》は、蘇生効果を使うことも出来ずに除外されてしまう。

「さらにシャイニング・フレア・ウィングマンで、《グラヴィティ・ウォリアー》に攻撃! シャイニング・シュート!」

「墓地の《シールド・ウォリアー》の効果を発動! このモンスターを除外することで、戦闘では破壊されない!」

「ぐっ……!」

遊矢LP3500→2200

 シャイニング・フレア・ウィングマンには、説明不要の戦闘破壊時に相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える一撃必殺の効果を持つ。何とか《シールド・ウォリアー》の効果で防いだものの、戦闘ダメージまで防ぐことは出来なかった。

「最後だ、ストーム・ネオスでセブン・ソード・ウォリアーに攻撃!」

遊矢LP2200→2100

 ストーム・ネオスの一撃に《セブン・ソード・ウォリアー》は破壊されてしまうものの、《ガントレット・ウォリアー》の効果による強化のため、何とか被害は最小限に抑えることに成功する。これで十代も攻撃を終了したらしく、メインフェイズ2へと移行していく。

「ストーム・ネオスに装備魔法《インスタント・ネオスペース》を装備し、カードを二枚伏せ、ターン終了!」

 ストーム・ネオスに装備魔法《インスタント・ネオスペース》を装備し、リバースカードを二枚伏せることで、十代の手札にも限界が見え始める。

「俺のターン、ドロー!」

 そして俺のターンに移行し、こちらのフィールドには《グラヴィティ・ウォリアー》と《マッシブ・ウォリアー》。十代のフィールドには、《インスタント・ネオスペース》を装備した《E・HERO ストーム・ネオス》と、《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》に《E・HERO シャイニング・フェニックスガイ》とリバースカードが二枚。

「俺はカードをセットし、魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》を発動! カードを二枚ドローし、破壊した《リミッター・ブレイク》の効果により、《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」

「来たな、スピード・ウォリアー!」

「……慌てるなよ。魔法カード《シフトアップ》を発動!」

 セットカードを破壊して二枚のカードをドローする通常魔法《ブラスティング・ヴェイン》により、《リミッター・ブレイク》を破壊して《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する。さらに発動された魔法カード《シフトアップ》は、自分のモンスター全てのレベルを、最も高いレベルに合わせる効果――よって、《スピード・ウォリアー》と《マッシブ・ウォリアー》のレベルは、《グラヴィティ・ウォリアー》と同じ6となった。

「俺は《スピード・ウォリアー》と《マッシブ・ウォリアー》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

「今度はエクシーズか!」

「集いし魂よ、熱き一撃となりて敵を貫け! エクシーズ召喚! 《ガントレット・シューター》!」

 十代が驚きながらも言うように、このデッキに出来ることはシンクロ召喚だけではない。融合、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム……四つの召喚方法のどれもが、俺と機械戦士が身につけた成果の一つ。

「《ガントレット・シューター》の効果! オーバーレイ・ユニットを取り除いた数だけ、相手モンスターを破壊する!」

「何!?」

 そして現れた《ガントレット・シューター》に装備された砲台から、《スピード・ウォリアー》と《マッシブ・ウォリアー》を撃ちだしていき、《シャイニング・フェニックスガイ》と《シャイニング・フレア・ウィングマン》を破壊する。いくら攻撃力が高かろうと、戦闘破壊耐性を持っていようが関係ない。

「まだ俺は通常召喚していない! 《音響戦士ピアーノ》を召喚し、装備魔法《継承の印》を発動! 墓地から《チューニング・サポーター》を特殊召喚し、チューニング!」

 《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果で手札に回収していた《音響戦士ピアーノ》と、装備魔法《継承の印》で蘇生した《チューニング・サポーター》によるシンクロ召喚。合計レベルは4と、このデッキに唯一入っているレベルのシンクロモンスター。

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」

 機械戦士たちの装備カードとなる異色のシンクロモンスター、《アームズ・エイド》のシンクロ召喚とともに、シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》の効果によって一枚ドローする。

「《アームズ・エイド》を《ガントレット・シューター》に装備し、バトル! 《ガントレット・シューター》で、《ストーム・ネオス》に攻撃する!」

 《ガントレット・シューター》は装備した《アームズ・エイド》を撃ち出すと、ロケットパンチが如くストーム・ネオスに炸裂させ、ストーム・ネオスはその一撃の下に倒れ伏した。そして守られる者のいなくなった十代に、《アームズ・エイド》はそのまま向かっていく。

「《アームズ・エイド》を装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、その攻撃力分のダメージを与える!」

「そいつはやらせない! カウンター罠《フュージョン・ガード》を発動!」

十代LP1500→1100

 しかし《アームズ・エイド》の一撃は、十代が伏せていたカウンター罠《フュージョン・ガード》によって防がれてしまう。エクストラデッキから融合モンスターを墓地に送ることで、相手からのバーンダメージを防ぐというものであり、《アームズ・エイド》をネオスの融合体が防いでみせた。

「さらにストーム・ネオスが装備していた《インスタント・ネオスペース》の効果! デッキから《E・HERO ネオス》を特殊召喚する!」

「だが、まだバトルは終わってない! 《グラヴィティ・ウォリアー》でネオスに攻撃!」

 《インスタント・ネオスペース》で特殊召喚されたネオスを《グラヴィティ・ウォリアー》が切り裂いたものの、守備表示での特殊召喚だったため、ダメージを与えることは叶わない。

「……ターンエンドだ」

「オレのターン、ドロー! 魔法カード《HEROの遺産》を発動! 融合HEROを三枚エクストラデッキに戻し、カードを三枚ドローする!」

 そしてターンは再び十代に移行していき、まずは《HEROの遺産》で手札を補充し――笑みを浮かべた。

「リバースカード、オープン! 《ヒーローズルール1 ファイブ・フリーダムス》! お互いの墓地から合計五枚のカードを除外する!」

 十代が浮かべた笑みにこちらが戦慄している間に、十代はもう一枚のリバースカードであった《ヒーローズルール1 ファイブ・フリーダムス》を発動し、自身の墓地から五枚のカードを除外する。もちろんそれだけでは何の意味もなく、更に発動されるカードは――

「《平行世界融合》を発動! 除外ゾーンのHEROたちを融合し――オレの最強のHEROを融合召喚する!」

 《ヒーローズルール1 ファイブ・フリーダムス》は、このカードのための布石。除外ゾーンのモンスターたちがネオスに集まっていき、一つになって融合していき――時空の穴を破壊しながら、最強のHEROとしてこのフィールドに舞い戻る。

「融合召喚! 現れろ、《E・HERO ゴッド・ネオス》!」

「ゴッド・ネオス……」

 金色の鎧と翼を纏ったネオス――文字通りに神々しい存在となったその美しい姿に、一瞬だけ言葉を失ってしまう。こちらを睥睨するゴッド・ネオスから俺の意識を取り戻したのは、皮肉にも十代の言葉だった。

「ゴッド・ネオスの効果発動! 墓地のHERO、ネオス、ネオスペーシアンのいずれかを除外することで、攻撃力を500ポイントアップさせその効果を得る! オレはカオス・ネオスを選択し、効果発動! 相手モンスターを全て破壊する!」

「なっ……!?」

 ゴッド・ネオスに墓地にいた筈のカオス・ネオスが乗り移ったかと思えば、その効果によってこちらの《ガントレット・シューター》と《グラヴィティ・ウォリアー》は、一瞬にして破壊されてしまう。よって俺のフィールドにカードはなくなってしまい、がら空きなままゴッド・ネオスを迎え入れる。

「バトル! ゴッド・ネオスで遊矢にダイレクトアタック!」

 ゴッド・ネオスの効果。それは、墓地にいる仲間たちの効果を得る、まさに十代のこれまでの集大成と言えるモンスター。ならば、あのモンスターこそが――

「――まだだ! 手札から《速攻のかかし》を墓地に送り、バトルフェイズを終了させる!」

 ――ゴッド・ネオスこそ、俺が、俺と機械戦士が、最後に倒すべきモンスターに相応しい。

「カードを一枚伏せ……ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し、カードを二枚ドロー!」

 通常のドローに加えて《貪欲な壺》を発動し、カードをさらに二枚ドローする。ドローしたカードと手札のカードを確認し――先程の十代のように、不敵にもニヤリと笑ってみせた。

「今度は俺が集大成をぶつける番だ、十代!」

「ああ、来い遊矢!」

「魔法カード《エクストラ・フュージョン》を発動! 自分のエクストラデッキのモンスター二体を融合する!」

 まず発動されたのは、魔法カード《エクストラ・フュージョン》。シンクロ、ペンデュラム、エクシーズに続いて融合召喚も活用すると、エクストラデッキの二体のモンスターが時空の穴に吸い込まれていく。

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》! 《スカー・ウォリアー》! お前たちの力を一つに! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」

 ゴッド・ネオスと競うように融合召喚される、このデッキの切り札たる《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》。旋風とともに融合召喚された波動竜騎士は、その風で持って新たなモンスターが召喚される道を開く。

「来い、マイフェイバリットモンスター――《スピード・ウォリアー》!」

『トアアァァッ!』

 雄々しい叫び声とともに召喚される、マイフェイバリットモンスター。その召喚を待っていたかのように、十代はニヤリと笑っていた。

「さらに魔法カード《ヘルモスの爪》を発動! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》を融合素材に、《真紅眼の黒竜剣》を融合召喚する!」

 そしてフィールドに並び立っていた《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》は、《ヘルモスの爪》の効果によって、《スピード・ウォリアー》が振るう剣へと変化する。吹雪さんとのデュエルで生まれたその剣は、吹雪さんの意志が込められたかのような意匠が施されていた。

「《真紅眼の黒竜剣》を装備したモンスターは、攻撃力を1000ポイントアップさせ、さらにフィールドと墓地のドラゴン族×500ポイントアップする!」

 しかしドラゴン族ともなれば、俺と十代の墓地を合わせたところで、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》ぐらいのものだろう。しかしこのカードがその全てを引っくり返す――

「速攻魔法《コード・チェンジ》! 《真紅眼の黒竜剣》に記されたドラゴン族を、戦士族に書き換える!」

「何だと!?」

 最後の一枚――速攻魔法《コード・チェンジ》の効果は、カードに記された種族を変更する効果。よって《真紅眼の黒竜剣》に記されたドラゴン族は戦士族へと変わり――《スピード・ウォリアー》の攻撃力は、お互いの墓地の戦士族×500ポイントアップする。

「これが俺と《スピード・ウォリアー》の、これまでの全てだ! ……バトル!」

 機械戦士とHERO。お互いの墓地に眠った力を託され、《スピード・ウォリアー》の攻撃力は自身の効果を発動しつつ――8800という数値にまでたどり着く。《スピード・ウォリアー》が跳躍すると、ゴッド・ネオスを斬り裂かんと黒竜剣を振るう。

「攻撃力……8800!?」

「《スピード・ウォリアー》でゴッド・ネオスを攻撃! 真紅眼一閃!」

 十代の驚愕の声とともに、スピード・ウォリアーの一撃がゴッド・ネオスの元に届く。黒竜剣は一刀の元にゴッド・ネオスを斬り裂いてみせ、切り札を破壊された衝撃が十代を襲う――

「流石だぜ、遊矢……だが、まだ終わりじゃない! リバースカード、オープン! 《ビッグ・リターン》!」

 ――寸前、ゴッド・ネオスの金色の翼が、みるみるうちに虹色へと変わっていく。十代が発動した速攻魔法《ビッグ・リターン》は、一ターンに一度と記された効果を発動する、というカード。もちろんゴッド・ネオスの効果を発動したのだろうが、ゴッド・ネオスはどのHEROの効果を発動したのか――?

「オレが発動したのは《レインボー・ネオス》の効果! レインボー・ネオスは自分のモンスターをリリースすることで、相手モンスターを全てデッキに戻す! オレはゴッド・ネオスをリリース!」

「――――!?」

 虹色に輝いた《E・HERO ゴッド・ネオス》の自身をリリースすることによる衝撃に、《スピード・ウォリアー》が巻き込まれて消えていく。その光が収まった頃には、フィールドには何も存在してはいなかった。

「そうか……《フュージョン・ガード》の時……ターン、エンドだ」

「オレのターン、ドロー!」

 エクストラデッキから融合モンスターを一体墓地に送ることで、バーンダメージを無効にするカウンター罠《フュージョン・ガード》。その際にエクストラデッキから送られていたのは、十代とヨハンとの友情の証たる《レインボー・ネオス》であり、その差が勝敗を分けた。

「オレは《彼方からの詠唱》を発動! 除外した魔法カードを手札に加え――《ミラクル・フュージョン》を発動!」

 ギリギリだった、などと言い訳をするつもりもない。先のターンに発動された罠カード《ヒーローズルール1 ファイブ・フリーダムス》によって除外されていたのだろう、《ミラクル・フュージョン》を魔法カード《彼方からの詠唱》で回収しつつ、十代は新たな――いや、彼のフェイバリットHEROを融合召喚する。

「フェザーマンとバーストレディを融合! 現れろ、《E・HERO フレイム・ウィングマン》!」

 《HEROの遺産》で回収していたらしく、再び十代の隣に《E・HERO フレイム・ウィングマン》が融合召喚された。巨大な火炎放射装置となっている腕をこちらに向けると、デュエルに終わりを告げる一撃が放たれる。

「フレイム・ウィングマンでダイレクトアタック! フレイム・シュート!」

「くっそぉぉぉ!」

遊矢LP2100→0

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 悔しさがありありと込められた叫びは、フレイム・ウィングマンの一撃にかき消され、十代に聞こえることはなかったらしい。十代に助け起こされながら立ち上がると、どちらからともなく握手をしていた。

「……次は負けないからな」

「楽しみにしてるぜ」

 そこから確か、十代はどこかに去っていき――



「遊矢!」

「おわっ!?」

 ――彼女の声で途端に意識が目覚める。どうやらまたソファーで寝てしまったらしく、明日香がため息をついている様子が見て取れる。

「まったく……あっちのアカデミアと違って、オシリス・レッドで進級させてくれる、なんてないんだからね!」

「分かってる、分かってるって明日香……」

「……なら、早く準備するのね。私、先に行ってるから」

 呆れ顔の明日香がリビングの扉から出て行くのを見届けて、ソファーから立ち上がって目を覚ますように大きく伸びをする。窓の外から景色を眺めてみれば、俺が知っているものとは違うアカデミアの景色が見えていた。

 アメリカ・デュエル・アカデミア。デュエルアカデミアの中でも新興の学校であり、故に旧来のアカデミアに囚われない、自由な風習とレベルの高い授業が有名な学校だった。

 海外留学を通してアカデミアの教師になる明日香とともに、俺はこのアメリカ・アカデミアへと留学して来ていた。デュエルモンスターズの本場であるアメリカのデュエルを体験し、自らと機械戦士を高めていき――

 ――ゆくゆくは、デュエルモンスターズそのものに、何か進歩を加えることが出来たなら。

 そんなことを思っている自分に苦笑いしながらも、すぐにアカデミアへ行く準備を整えていく。留学生用に用意された一室であり、まるでホテルのようで大きな不満はない。強いて言えばソファーの寝心地が最高すぎて、こうして寝落ちしてしまうことぐらいだろうか。

「はい、ドローパン」

「……悪いな」

 そうして玄関を開けてみれば、外で待ち構えていた明日香にドローパンを分けてもらう。先に行くんじゃなかったのか――などと意地悪なことではなく、素直に礼を言いながらドローパンにかじりつく。

「うーん……肉入りか」

「なかなか黄金の卵入りは出ないわね。私のはジャムだったわ」

 残念そうに教師用のスーツ姿の明日香が笑い、期せずしてドローパンを買い込んでいることを白状する。昔はあんなにドローパン好きなことを、恥ずかしいからと周囲にひた隠しにしていたというのに――などと、今更隠し事も何もないが。

「それじゃ、今日も――楽しんで勝たせてもらうか!」


 
 

 
後書き
 全115話、これにて《遊戯王GX-音速の機械戦士-》は完結となります。今は亡きにじファンから足掛け五年、処女作であるこの作品が完結したとあって、作者も感無量であります。

 ラストデュエルが近いということもあって、最近は三万文字越えもザラになって来ていましたが、今回の話はテンポよくを目標に執筆していました。最終話にして今更、な感じもしていますが。

 アメリカ・アカデミア編に続きそうな感じではありますが、現時点では未定……というか、今のところはさっぱり構想がありません。ですが、またどこかでお会い出来ることを祈って。

 では。ガッチャ!

 

 

―正義の味方―

 
前書き
明日香とイチャイチャする話を書けと言われたので初投稿です 

 
「どうしてこうなったんだ……?」

 何度目になるかも分からない呟きは、誰にも届くことはなかった。それはこちらの声が小さいとか、周りに人がいないとかいうことではなく、物理的に届くことはなかったのだ……この顔を覆っている何かのせいで。

「Jinzoの準備できましたー!」

 要するに被り物をしているわけだ。いや、被り物だけならばまだ良かったのだが、今の俺は全身を着ぐるみに包まれていた。チラリと鏡を見てみれば、そこに映っているのは見慣れた俺の身体ではなく《人造人間 サイコ・ショッカー》の着ぐるみであり、こちら側……アメリカ風でいうならばJinzoの格好だった。

 アメリカ・アカデミアの特別授業という名目で連れてこられたのは、現地で開設された海馬ランド。もはや世界中に創設されているような海馬ランドが、アメリカにあるとしても今さら驚きもしないが、まさかその現地に連れてこられるとは思いもよらず。ヤラセ一切なしのデュエルショーが有名とは聞いていたが、アメリカ・アカデミアの生徒が授業の単位として係わっていたならば、是非もなしと言ったところだ。

「……対戦相手は?」

 そうして『中の人』の一員となった俺は、敵役のサイコ・ショッカーとなった。スタッフの一人にマイクを取りつけられて、ようやく外部との会話が可能となって。詳しいことは知らないが、このマイクはデュエルショー向けの翻訳機にもなっているらしく、流石にショーの観客相手に向けるほどの英語力はない自分には非常にありがたい。

「遅れてくるってよ。なにせカイバーマンだからな!」

 そんな海馬コーポレーションの技術に感謝しながら、近くのスタッフに対戦相手のことを訪ねてみたものの、あまり要領をえない返答しか来なかった。海馬ランドのヒーローショーで敵役はこちらなのだから、対戦相手はカイバーマンなのは当然なのだが、スタッフからどうにも苦笑いを感じる。

「ほら、行ってこい!」

 そうして詳しい説明もなく腰を叩かれてステージに立ってみれば、なるほど、確かに一番人気のショーと言えども過言ではない客入りと熱狂だった。とはいえこちらからすれば、ショッカーのスーツのせいで動くことも出来ずに、ただ棒立ちすることしか出来ないわけだが。幸いなことにショー自体は他のスタッフの尽力により、敵ボスの中の人が棒立ちだろうが問題なく進行していて。

『カイバーマン様のご到着だ。後は頼むぞ』

「……了解」

 しかしてずっと棒立ちのままで許されるはずもなく。スタッフから届けられる通信に了承して、そろそろ出番かと気を引き締めるものの、肝心のカイバーマンの相手はどこにもなく。スタッフにもう一度だけ確認をしようとしたところ、突如としてかの《青眼の白龍》を模した戦闘機が、本当に目前を飛翔した。スーツを着ていたとはいえ、目の前に来るまで気づかなかったほどの消音と、こんな地面の近くを飛翔できるパイロットの腕前に驚愕していると。

「フハハハハハハ!」

 観客の頭上で一回転してみせた戦闘機のコクピットが開いたかと思えば、そのままパラシュートもなくパイロットがステージへと降り立った。主を失った戦闘機はそのままどこかへ飛翔していくが、ステージに着地するなり腕を組んだパイロットが、観客には隠しながらもリモコンのスイッチを押すと、何事もなかったかのように戦闘機もステージに着地する。飛び降りた意味は、と聞きたい衝動に駆られたが。

「待たせたなショッカー! 貴様との決着、ここでつけてやろう!」

 ――問題はその戦闘機から降りてきた人物が、対戦相手たるカイバーマンそのものだったからだ。そんなド派手な登場をするものだから、観客の期待値も大幅に上がってしまって今さら聞く雰囲気ではない。カイバーマンのデュエルの準備は台詞とともにすっかり完了しており、特注品のデュエルディスクはまるで竜の翼のようだった。

「ただでは死なん……地獄に貴公も連れていってくれる!」

 ……旅の恥はかき捨て、というか。まさかこんな台詞を言う日が来るとは、留学の際は露とも思わなかったが、これも今回の仕事の一部なのだから仕方ないと必死で自らに言い聞かせて。翻訳されるから恥ずかしくない、翻訳されるから恥ずかしくない、と思いながら、今回のショーのカバーストーリーを思い返しておく。カイバーマンに敗れ組織からも追放されたサイコ・ショッカーが、全てを賭けてカイバーマンに最後の挑戦を挑んでくる……という、まあ、ありがちなものを。

「来るがいいショッカー! オレは全力を以て貴様を粉砕するまで!」

「貴公には玉砕がお似合いだ!」

『デュエル!』

カイバーマンLP 4000
サイコ・ショッカーLP 4000

「私のターン、ドロー」

 ……誰に言い訳するわけではないが、もちろんノリノリではない。断じて。信じてほしい。しかし対戦相手のカイバーマンはノリノリのようで、中の人が誰なのか激しく気になりはするものの、ひとまずはデュエルに集中する。なにせ勝てば単位だ。サイコ・ショッカーのスーツの問題から、普段から使っているデュエルディスクではなく、クロノス教諭が使っていたようなデュエルコートから五枚のカードを抜き取って。

「モンスターをセット。さらにカードを二枚伏せてターンエンドだ」

「ふぅん……ずいぶんと教科書通り、と言ったところか。オレのターン!」

 こちらの先攻1ターン目は、確かに凡庸な一手に終わる。今回はそのカバーストーリー的に、サイコ・ショッカーを主軸としたデッキを使うこととを義務付けられているため、普段の【機械戦士】デッキではない。それでも今回の仕事のために組んできたデッキであるし、相手も条件は同じであろうことは想像に難くない。いや、カイバーマンらしいデッキとなれば、実質構築不可能なかの【青眼の白龍】に限ってしまうため、こちらよりは構築自由度は低くないだろうが。

「オレは《E・HERO ブレイズマン》を召喚し、効果を発動! デッキから《融合》をサーチする」

 そうして召喚されたのはかのHEROシリーズの一種、《E・HERO ブレイズマン》。召喚するだけでデッキから《融合》をサーチするという有用な効果を持っており、HERO系のデッキ以外で採用されることも珍しくない。

「さらに魔法カード《愚かな埋葬》を発動。デッキから《E・HERO シャドー・ミスト》を墓地に送り、デッキから更なるE・HEROを手札に加える!」

 さらにデッキからモンスターを墓地に送る魔法カード《愚かな埋葬》の効果により、シャドー・ミストの墓地に送られた際の効果を更に発動する。その効果はデッキから新たなHEROをサーチする効果であり、カイバーマンは容易く手札に《融合》と新たなHEROをサーチしてみせる。ともすれば、次なる手は。

「《融合》を発動! 二体のモンスターを融合し、《E・HERO エスクリダオ》を融合召喚する!」

 もちろんHEROの十八番である融合。ブレイズマンと手札のモンスターを融合して、闇属性のHEROたる《E・HERO エスクリダオ》を融合召喚し、フィールドには漆黒の鎧を纏った影のような英雄が姿を見せた。その効果は墓地のHEROの数だけ攻撃力を上げる効果であり、現在のエスクリダオの攻撃力は2700。それは《愚かな埋葬》でE・HEROをサーチしたにもかかわらず、墓地に二体のHEROしかいないことを示しており、ブレイズマンとともに融合素材となったモンスターが謎であることを示していた。

「バトルだ! エスクリダオでセットモンスターに攻撃! ダーク・ディフュージョン!」

「破壊されたのは《クリッター》! デッキから攻撃力1500以下のモンスターをサーチする!」

 リバースカード二枚とセットモンスターという布陣にも、カイバーマンは何の恐れもなく攻撃を命じる。とはいえセットモンスターこと《クリッター》は破壊されるのが仕事であり、ダメージはなくデッキから新たなモンスターをサーチする。

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」

「俺……私のターン、ドロー。《闇の誘惑》を発動し、デッキからカードを二枚ドローし、闇属性モンスターを除外する」

 ついつい出てしまった一人称がマイクに拾われていないことを祈りながら、闇属性専用の手札交換カードたる《闇の誘惑》をすぐさま発動して。先のターンで《クリッター》によってサーチした、このデッキのキーカードをコストに二枚ドローし、さらにリバースカードを発動する。

「伏せてあった《闇次元の解放》により、除外ゾーンから《人造人間 サイコ・ジャッカー》を特殊召喚する!」

「ふぅん……貴様自らのデッキを持ち出してくるとはな」

「まだだ! 速攻魔法《地獄の暴走召喚》!」

 そうして除外ゾーンを経由して特殊召喚されたのは、このデッキのキーカードである《人造人間 サイコ・ジャッカー》。速攻魔法《地獄の暴走召喚》によって、お互いにフィールドにいるモンスターをさらに二体ほど特殊召喚することが出来るが、エスクリダオしかフィールドにいないカイバーマンには、《地獄の暴走召喚》の恩恵を受ける権利はない。

「そして《人造人間 サイコ・ジャッカー》は、フィールドにいる時はサイコ・ショッカーの名となる……この意味が分かるな、カイバーマン!」

「まさか……!」

「そう……我が分身が二体、デッキより特殊召喚される!」

 しかも速攻魔法《地獄の暴走召喚》の発動キーとなったサイコ・ジャッカーは、フィールドと墓地では《人造人間 サイコ・ショッカー》という名前を持つ。つまり《地獄の暴走召喚》で特殊召喚されるのは、本家本元の《人造人間 サイコ・ショッカー》が二体。

「さらにサイコ・ジャッカーの効果発動。このカードをリリースし新たな人造人間をサーチすることで、相手のセットカードを確認する!」

「何!? 貴様ぁ……オレのフィールドを土足で!」

「それだけではない。相手のフィールドに罠カードが伏せられていた時、手札の人造人間モンスターを特殊召喚することも可能なのだ。トラップ・リサーチ!」

 セットカード確認効果にやたらと怒りを示すカイバーマンをよそに、サイコ・ジャッカーは自らの本領を発揮する。まずは新たな人造人間モンスターをサーチするとともに、相手のフィールドにセットされたリバースカードを確認すれば、こちらの攻撃に反応して発動する罠カード《ヒーロー・シグナル》。フリーチェーンの発動も不可能な罠カードであり、サイコ・ジャッカーは自らを犠牲に新たなモンスターを呼び出していく。

「我が分身! 《人造人間 サイコ・ショッカー》!」

「三体のショッカー……だと……!?」

 こうしてこちらのフィールドには、三体の《人造人間 サイコ・ショッカー》が揃い踏みとなる。その着ぐるみを着込んでいる自分自身も含めれば、四体のサイコ・ショッカーがフィールドを席巻している異様な光景だが、幸いなことに観客からはそんな声は聞こえてこない。

「永続魔法《エレクトロニック・モーター》を発動!サイコ・ショッカーでエスクリダオを攻撃! 電脳エナジーショック!」

「迎え撃て! ダーク・ディフュージョン!」

 最後に発動した永続魔法《エレクトロニック・モーター》は、自分フィールドの機械族モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせるカード。巨大なモーターから電力を受け取ったサイコ・ショッカーの一体は、偶然にも同じ攻撃力であったエスクリダオと相殺してみせ、フィールドに残ったのはこちらのサイコ・ショッカーが二体。

「トドメだ、カイバーマン! 二体のサイコ・ショッカーでダイレクトアタック! ダブル・電脳エナジーショック!」

 カイバーマンのフィールドには伏せられている罠カード《ヒーロー・シグナル》のみ。確かに強力なカードではあるものの、罠カードである以上は《人造人間 サイコ・ショッカー》の罠を無効にする効果の前には無力となる。そうして二体のサイコ・ショッカーが発したエネルギー波がカイバーマンを襲うものの、その前に一体のモンスターが壁のように現れていた。

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外することで、その攻撃を無効にする!」

「だがそれも一体だけの話だ!」

「ぐあああ!」

カイバーマン LP4000→1300

 どうやらエスクリダオの融合素材となっていたのは、墓地で効果を発揮するモンスター《ネクロ・ガードナー》だったようだが、その効果が発揮できるのは一回のみ。サイコ・ショッカーの攻撃はカイバーマンを直撃し、そのライフポイントを大きく削っていた。

「どんな気分だ、カイバーマン。さらにカードを一枚伏せ、ターンを終了……」

「ふぅん……悪くない気分だ。貴様の力に、オレも全身全霊を込めて応えてやろう! オレは《E・HERO プリズマー》を召喚する!」

 とはいえカイバーマンの戦う意思にはなんら陰りは見られず、ドローをするなり即座に《E・HERO プリズマー》を召喚してみせる。その迷いのなさから見るに、どうやら先のターンでシャドー・ミストからサーチしたモンスターらしく、つまりあのプリズマーこそが相手のキーカード。

「《E・HERO プリズマー》は、デッキから融合素材を墓地に送り、同名モンスターとなる。オレが墓地に送るカードは、こいつだ!」

 プリズマーが自身の効果を発動した瞬間、それだけでフィールドにある種の緊張感が走った。本来ならばプリズマー自身が鏡合わせのように姿を変化させるはずだが、今回はどうしてかそうすることはなく、プリズマーの背後から守護霊のようにそのモンスターが姿を現していた。

 純白の翼。青い瞳。その荘厳な存在感。この世界に三枚しか存在しないはずの、それでも世界一有名なカードとして、知らぬ者はいないだろう。

「――《青眼の白龍》!」

 その轟きは世界を震わせて、対するこちらは無意識に足を退けてしまう。そんな足に気づいた俺は、アレはプリズマーの効果で現れただけの幻影だと言い聞かせ、なんとか足をその場に留まらせて。するとカイバーマンはそんな反応こそが見たかったとばかりに、ニヤリと笑いながらも愛おしそうに《青眼の白龍》を見ていた。

「これで一時的にせよ、プリズマーは青眼の力を得た。魔法カード《龍の鏡》を発動し、青眼の力を得たプリズマーと、墓地の青眼を融合する!」

 青眼の衝撃も冷めやらぬままに、カイバーマンは墓地の青眼とフィールドの青眼の力を得たプリズマーを、魔法カード《龍の鏡》によって融合していく。もちろんわざわざプリズマーの効果を発動した以上、融合召喚されるのはただのE・HEROではなく、時空の穴から銀色の龍が姿を現した。

「融合召喚! 現れろ、《青眼の双爆裂龍》!」

 かの《青眼の白龍》の融合体と言えば三体の青眼を融合した《青眼の究極竜》が有名だが、俺の前に現れたのは二体の《青眼の白龍》の融合体こと、《青眼の双爆裂龍》。プリズマーを経て二つの首がこちらを威嚇するようにいななき、海馬ランドを我が物顔で飛翔していく。

「《青眼の双爆裂龍》は、それぞれの首に攻撃力を持つ! ショッカーどもを蹴散らせ!」

「っ……!」

サイコ・ショッカー LP4000→3400

 その二つの首は伊達ではないらしく、それぞれの首から放たれた光線に二体のサイコ・ショッカーは一瞬で破壊されてしまう。永続魔法《エレクトロニック・モーター》のおかげでダメージは軽微で済んだが、あっという間に盤面は逆転されてしまったと言っていいだろう。

「よくも……!」

「……余計なことを考えている者に勝てるデュエルなどない」

 そもそもあの《青眼の白龍》たちは本物なのか。本物だとすれば、こうして対戦している相手は――とまで考えたところで、こちらの心中を読んだかのようにカイバーマンは語りだした。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

「言ってくれる……私のターン、ドロー!」

 本物だの考えている暇があるならば、デュエルに集中しろと。そう諭されてカイバーマンに内心で感謝しながらも、ひとまずは敵役として悪態をついておいて。ひとまずはデュエルに集中せんと、デュエルコートから新たなカードを引き抜いた。

「私は《マジック・プランター》を発動。永続罠カード《闇次元の解放》を墓地に送ることで、カードを二枚ドローする!」

 無意味にフィールドに残っていた《闇次元の解放》をコストに二枚ドローしながら、まずはお互いの攻防も終わったフィールドを確認する。これで俺のフィールドは永続魔法《エレクトロニック・モーター》に、リバースカードがさらに二枚でモンスターはいない。対するカイバーマンのフィールドは、攻撃力3000を誇る《青眼の双爆裂龍》に、うち一枚は《ヒーロー・シグナル》と判明しているリバースカードが三枚。ライフポイントはこちらが3400、あちらが1300とこちらが有利に見えるが、あの《青眼の白龍》に対してはまるで無意味な有利。

「私は伏せていた《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地の《人造人間 サイコ・ジャッカー》を特殊召喚し、その効果を発動する!」

「ええい……チェーンして罠カード《融合準備》を発動! デッキから融合素材を、墓地から《融合》カードを手札に加える!」

 《人造人間 サイコ・ショッカー》がフィールドにいない今、罠カードに発動の制限はない。伏せていた《リビングデッドの呼び声》により、先のターンと同様に《人造人間 サイコ・ジャッカー》の効果を発動するが、カイバーマンにも同じく《融合準備》が発動される。ただし人造人間をデッキからサーチしながらも、相手のリバースカードを確認するとともに、罠カードがあれば人造人間モンスターを特殊召喚するサイコ・ジャッカーの効果を止めるものではなく、お互いに効果を発動する。

「手札から《人造人間 サイコ・リターナー》を特殊召喚し、速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動!」

 《融合準備》は発動されてしまったものの、残る二枚のうち一枚には確認するまでもなく、伏せられたまま発動できていない罠カード、《ヒーロー・シグナル》がある。サイコ・ジャッカーの効果でサーチした《人造人間 サイコ・リターナー》をそのまま特殊召喚し、サイコ・ジャッカーに並ぶキーカードである《地獄の暴走召喚》によって、デッキからさらに二体のサイコ・リターナーを特殊召喚する。もちろんカイバーマンのフィールドの《青眼の双爆裂龍》は融合モンスターのため、《地獄の暴走召喚》の恩恵に預かることは出来ない。

「それでどうする? 攻撃してくるか?」

「……伏せられた《ハイレート・ドロー》を発動! 自分フィールドのモンスターを全て破壊し、その数だけドローする!」

 カイバーマンの挑発通りに今しがた特殊召喚した、サイコ・リターナーには相手に直接攻撃出来る効果がある。ただし問題はカイバーマンのフィールドに伏せられた《ヒーロー・シグナル》ではない、もう一枚のリバースカードだった速攻魔法《コマンド・サイレンサー》の存在だ。その効果はバトルフェイズを終了するとともに、カードを一枚ドローするというものであり、このターンの攻撃はもはや防がれたも同然だ。

「だがサイコ・リターナーは墓地に送られた時、墓地からサイコ・ショッカーを蘇生する効果を持つ! 再び立ち上がれ、我が分身!」

「ほう……」

「カイバーマン。貴公を倒すため、私は新たな力を手に入れた! 二体のサイコ・ショッカーでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 ならば戦闘は出来ずとも、せめて《青眼の双爆裂龍》だけでも破壊すると、《ハイレート・ドロー》と《サイコ・リターナー》のコンボを発動する。三枚のカードをドローしながらも、再びフィールドに《人造人間 サイコ・ショッカー》を三体ともフィールドに揃えると、そのうちの二体でオーバーレイ・ネットワークを構築する。

「刻まれた時を極め、今こそ天を掴め! エクシーズ召喚! 《甲虫装機 エクサビートル》!」

 いっそ大げさな口上でエクシーズ召喚されたのは、素材となったサイコ・ショッカー二体とは似ても似つかぬ、甲虫装機シリーズのランク6モンスター。エクシーズ召喚された際に墓地のモンスターを装備し、そのステータスの半分を吸収する効果を持つが、装備したモンスターは下級である《人造人間 サイコ・リターナー》。もちろん大した強化にはならず、守備表示でのエクシーズ召喚となる。

「エクサビートルの効果! エクシーズ素材を取り除くことで、お互いのフィールドから一枚ずつカードを墓地に送る!」

「なに!?」

 しかしてエクサビートルの効果は戦闘が本分ではなく。装備したサイコ・リターナーを砲弾にして撃ちだすことで、相手モンスターを破壊する効果を持つ。もちろん標的は《青眼の双爆裂龍》であり、カイバーマンの態度から何かしらの耐性効果を持っていたのかもしれないが、それは発揮されずにサイコ・リターナーとともに墓地へ送られた。

「そしてサイコ・リターナーが墓地に送られたことにより、墓地からサイコ・ショッカーを蘇生! バトル!」

「リバースカード、オープン! 《コマンド・サイレンサー!》」

 そして再びサイコ・リターナーの蘇生効果が発動し、墓地から《人造人間 サイコ・ショッカー》が蘇生される。先のターンと同様に二体のサイコ・ショッカーの攻撃が放たれるが、それは伏せられていた速攻魔法《コマンド・サイレンサー》によって失敗に終わる。とはいえこの展開は予想できていたことで、特に動揺することもなくメインフェイズ2へ移行する。

「だがサイコ・リターナーの効果で特殊召喚されたサイコ・ショッカーは、エンドフェイズ時に破壊される!」

「ならば進化するのみ……メイン2。私は二体のサイコ・ショッカーをリリースし、《人造人間 サイコ・ロード》を特殊召喚する!」

 確かにカイバーマンが宣言した通り、サイコ・リターナーの効果で蘇生したサイコ・ショッカーは、エンドフェイズ時に破壊される。ただしそれはサイコ・ショッカーのままであった時のみで、二体のサイコ・ショッカーはどちらも《人造人間 サイコ・ロード》へと進化を果たすことで、その自壊の運命からは免れながら力を増して。

「サイコ・ロードの効果。フィールドの罠カードを全て破壊し、その数×300ポイントのダメージを与える!」

「ふん……痛くも痒くもない」

カイバーマン LP1300→1000

 サイコ・ショッカーをリリースするという召喚条件に相応しく、サイコ・ロードはサイコ・ショッカーの正当な進化系だ。まずはサイコ・ジャッカーの蘇生に使った後、無意味にフィールドに残っていた《リビングデッドの呼び声》をコストに、小刻みながらも確実にバーンダメージを与えていく。

「それはどうかな。さらに永続魔法《トラップ・リクエスト》を発動!」

「む……?」

 とはいえカイバーマンは剛胆にも、たかが300ポイントのダメージだ、と気にする様子はない。それでも必殺のコンボの射程圏内に入ったとばかりに、永続魔法《トラップ・リクエスト》を発動する。

「私はこれでターンエンド。ああちなみに、《トラップ・リクエスト》は、私のターンのスタンバイフェイズ時、貴公のデッキから永続罠カードを私が自由に発動することが出来る。そして発動された罠カードが破壊された時、貴公は1000ポイントのダメージを受ける……言っている意味が分かるな?」

「オレのターン、ドロー……《トレード・イン》を発動し、さらに二枚ドロー。つまり?」

「つまり、次のターンに貴公の敗北は決定した!」

 永続魔法《トラップ・リクエスト》の効果。それはこちらのターンのスタンバイフェイズ時に、相手のデッキから永続罠カードを強制的にセットさせつつ破壊したらバーンダメージを与える効果であり、さらに手札にはセットされたカードを発動させる魔法カード《強制発動》が存在する。つまり、次のこちらのスタンバイフェイズ時に強制的に永続罠がセットされ、さらに《強制発動》で発動した永続罠カードを《人造人間 サイコ・ロード》の効果で破壊すれば、《トラップ・リクエスト》のバーンダメージでカイバーマンのライフは0となる。故に次のターンで終わりだと語るものの、カイバーマンにはもちろん諦める様子などなく。

「さらに《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊し二枚ドロー。……なかなかやると褒めてやりたいところだが、貴様に勝利の時は訪れん!」

 手札のレベル8モンスターを、セットされたカードを、それぞれコストに二枚のカードをドローする魔法カード《トレード・イン》に《ブラスティング・ヴェイン》。それら二枚のカードで手札の大幅な交換を果たしたが、このターンで二体のサイコ・ロードを破壊しなくては、カイバーマンは敗北する。

「オレは《E・HERO プリズマー》の効果を発動! 力を借りるのは、もちろんこのモンスター! 《青眼の白龍》!」

 そうしてしばしの後に召喚されたのは、HEROと青眼という2つのカテゴリを繋ぐカイバーマンのデッキのキーカード、名前を変更する効果を持つ《E・HERO プリズマー》。先のターンと同様に、その効果で名前を得る……もとい力を借りるモンスターは、当然のことながら《青眼の白龍》。

「さらに《闇の量産工場》を発動。墓地から通常モンスターを二体、手札に加え……貴様に神を超えた力を見せてやる。《融合》を発動!」

 《闇の量産工場》で手札を補充しながらも、カイバーマンはまたもや《融合》を発動する。先と同様に、二体のサイコ・ロードを破壊できる《青眼の双爆裂龍》の融合召喚か、と思った段階で、その考えは間違いだということに気づく。先のターンの《融合準備》で肝心の《融合》とともにサーチしたモンスターと、このターンの開始に《トレード・イン》のコストとなったモンスターに、今しがた《闇の量産工場》で回収されたモンスター……それが全て、同じモンスターだとすれば。

「三体……融合……!」

「 進化した最強ドラゴンの姿、その目に焼き付けるがいい! 融合召喚! 今こそ現れよ、《真青眼の究極竜》!」

 その可能性に思い至った瞬間、三体の龍を束ねた最強のドラゴンの姿がフィールドに現れる。いっそ美しくもあるその姿に見とれてしまいそうになったものの、目の前に立つソレは芸術品ではなく、立ちはだかる最大の敵だということをすぐさま思い出せた。

「バトル! 《真青眼の究極竜》の攻撃! アルティメット・バースト!」

「ぐああっ!」

サイコ・ショッカー LP3400→1800

 その一撃の前に、このデッキの切り札たる《人造人間 サイコ・ロード》は一瞬にして消え去った。全てを破壊するという単純な、かつ力強い光に対抗することも出来なかったが、まだ残る一体のサイコ・ロードはフィールドに残っている。サイコ・ロード一体と永続魔法《トラップ・リクエスト》に手札の《強制発動》が残れば、カイバーマンのライフを削りとるコンボは完成する。

「《真青眼の究極竜》は、エクストラデッキから青眼を墓地に送る度に、三回まで攻撃が可能となる!」

「っ……!?」

「二体目のサイコ・ロードも逃さん! ハイパー・アルティメット・バースト!」

「っつあああ!」

サイコ・ショッカー LP1800→300

 ――しかしそんな願いが果たされることはなく。エクストラデッキから青眼を墓地に送ることによる無慈悲な連撃が、《真青眼の究極竜》から二体目のサイコ・ロードにも放たれ、一体目とすぐさま同じ運命をたどる。カイバーマンが言い放ってみせた通り、サイコ・ロードと《トラップ・リクエスト》のコンボは出来そうにない。

「最後だ! 消えろ、雑魚モンスター!」

 その三つ首が示すように、《真青眼の究極竜》の連続攻撃回数は三回までが限度らしく、最後の一撃は《甲虫装機エクサビートル》に放たれた。幸いにも守備表示での特殊召喚だったためにダメージはないが、永続魔法《エレクトロニック・モーター》による機械族強化がなければ、この瞬間にライフポイントは0になってしまっていた。

「究極竜の攻撃を喰らってもまだ虫の息があるとはな。少しは褒めてやろう」

「ええい……私のターン! 永続魔法《トラップ・リクエスト》の効果が発動し、貴公のデッキから永続罠カードをセットする!」

 そうしてカイバーマンのフィールドに《真青眼の究極竜》は健在のまま、またもやこちらのフィールドは焼け野原となってターンは移行する。もはやサイコ・ロードとのコンボは不可能で、代用となる相手の魔法・罠カードを破壊するカードも手札にないが、手札の《強制発動》とのコンボは可能だ。皮肉めいた話ではあるが、相手のデッキから逆転の手札を探す。

「ええい、リバースカードだけでなくデッキまで盗み見るとは……どのカードを選ぶ!?」

「すぐに分かる。魔法カード《強制発動》! 貴公のフィールドにセットされた罠カード《輪廻独断》を発動し、ドラゴン族を選択する!」

 デッキを覗かれたことを怒るカイバーマンのデッキから選択した永続罠カードは、お互いにフィールドと墓地の種族を全て指定した種族に変更する罠《輪廻独断》。戦士族を主とするHEROとドラゴン族である青眼、それら二種類を統一するためであろうその罠カードにより、お互いのモンスターは全てドラゴン族カードとなった。

「さらに《二重魔法》を発動! 手札の魔法カードをコストに、貴公の墓地から魔法カードを一枚、手札に加える! 私が手札に加え、そして発動するのは《龍の鏡》!」

 どうしてドラゴン族を選択したかの答えは、さらに発動した《二重魔法》と《龍の鏡》が答えとなっている。サイコ・ショッカー役と聞いて投入はしていたものの、まさか使うことになるとは思っていなかったが、ありがたく使わせてもらう。カイバーマンの永続罠カード《輪廻独断》により、ドラゴン族へと変化した機械族を五体、融合素材として除外していく。

「カイバーマン……我が真の姿を見るがいい! 《F・G・D》!」

 そして五体のドラゴン族を融合したモンスターといえば、もちろんこの融合モンスター《F・G・D》。真の姿などとアドリブをかましたからか、撮影班が空気を読んだのか、《F・G・D》のソリッド・ヴィジョンが俺を包み込むように現れる。内部からはまるで自分がサイコ・ショッカーから《F・G・D》になったかのようで、外部からもそう見えていることだろう。

「この真の姿が現れた以上、貴公にもう勝ち目はない!」

「確かにな……その究極竜をも超える力、心が騒ぐ。だが真に強靭! 無敵! 最強! がどのモンスターか、次の瞬間には貴様の心に刻まれることとなる!」

「……バトル! 《F・G・D》で、《真青眼の究極竜》に攻撃!」

 対峙する《真青眼の究極竜》と《F・G・D》。強化などもなく攻撃力4500と5000の交錯に、フィールドはひりつく雰囲気が流れていた。それでも自らの勝利を一片たりとも疑うことのないカイバーマンに対して、俺はただ《F・G・D》に攻撃を命じるしかなかった。

「迎え撃て! アルティメット・バースト!」

カイバーマンLP1000→500

 その強大な力に反して、二体の竜のぶつかり合いは一瞬にして終わっていた。500の僅差とは言えども攻撃力の差を補うことはなく、《真青眼の究極竜》は《F・G・D》が放った一撃に脆くも崩れ去っていく。その衝撃はそのままカイバーマンのライフを削るが――

「無窮の時、その始原に秘められし白い力よ。鳴り交わす魂の響きに震う羽を広げ、蒼の深淵より出でよ!」

 ――片手にカードを一枚、カイバーマンは口上を述べていた。そうして崩れ去っていた《真青眼の究極竜》の眼光が鋭くなるとともに、まるで脱皮するかのように傷ついた鱗をはねのけ、新たな竜として転生していた。

「《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》! 」

 文字通り、生まれ変わったかのように。たった今しがた破壊したはずの《真青眼の究極竜》は、新たな青眼……いや、《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》として甦っていた。今までの青眼と違ってどこか女性的な雰囲気を漂わせていたが、その甲高い轟きは全てを威圧していた

「ディープアイズ……!?」

「ディープアイズはフィールドの青眼が破壊された時、手札から特殊召喚される。そしてディープアイズを呼び覚ました者は、墓地のドラゴンたちの種類×600ポイントの怒りを受ける!」

 《F・G・D》の内部から見てもなお美しい姿とは対称的な、苛烈にして全てを焼きつくす効果。皮肉にも永続魔法《トラップ・リクエスト》によって俺が発動した罠カード《輪廻独断》によって、HEROたちも交えることとなった墓地のドラゴン族の数は六種類。3600ポイントのバーンダメージとして、ドラゴンたちの怒りが《F・G・D》に直接的に叩き込まれていた。

「うわああああ!」

サイコ・ショッカー LP300→0

 耐えられるはずもないそのバーンダメージに、彼方へ飛翔していくディープアイズを見送りながらも倒れ伏した。もちろんソリッドビジョンの《F・G・D》の姿ではなく、サイコ・ショッカーの着ぐるみとなってだ。

「潔く……認めよう。カイバーマン……貴公の、勝ちだ」

「貴様もなかなかだった。この称賛とともに地獄に落ちるがいい」

 フラフラになりながらもどうにか起き上がって、最期の言葉をカイバーマンにぶつけてみれば、今度はソリッドビジョンの爆発が足下で巻き起こった。やられた怪人が爆発するのは万国共通のようで、盛大にもほどがある爆発を隠れ蓑にしながら、ほうほうの体で舞台裏へと隠れていく。

「お疲れー!」

 そうしてみればスタッフの方の拍手とともに、温かい言葉が迎えられてきていた。特にありがたかったのは冷えた水で、ストロー付きでサイコ・ショッカーを着ながらでも飲めるのが最高だったが、もうショーも終わって着ている意味はないことに気づくのには遅れてしまう。しかしてそんなことより重要なのは、共にショーをしたカイバーマンのことで。

「あの……あなたは、まさか……」

「……そのスーツでは難しいだろう。運び込め!」

「はい!」

「え?」

 おずおずと問いかけてみれば、返ってきた答えは意味のわからないもので。どういうことか聞き返そうとするより早く、どこからか現れた黒服の男たちに全身を掴まれ、そのままカイバーマンが乗ってきた青眼の姿をしたジェット機の後部座席に乗せられてしまう。

「え、ちょっ、まっ……」

「次の場所の客はデュエルの中身を重視する。貴様本来のデッキを用意しておけ!」

 そうして慣れた様子でカイバーマンはコクピットに飛び乗ると、まるで躊躇もなく発進する準備を整えていくと、俺に質問する暇も与えず青眼ジェット機は離陸する。回らない頭でカイバーマンに言われたことを反芻すると、どうやらこのまま次の海馬ランドへ向かっていき、そこで同様にデュエルショーをするらしいが――

「まずはカナダの海馬ランド! 全速前進だ!」

 ――正直、そこからの記憶は曖昧だった。世界各地を高速ジェット機で回りながら、どこにでもある海馬ランドでデュエルショーをした記憶はおぼろげながら残っていたものの、それよりは単純に疲労感がずっしりと身体を締め付けていた。何より世界各地であらゆる手を使おうとも敗北していれば、体力以上に気力がどうしようもなかった。

 その日の……いや、最初のデュエルをしてから次の日の休日の昼間、青眼ジェット機からパラシュートで落下して寮の部屋に戻ると――皮肉にも、パラシュートの使い方は今回の世界旅行でプロ並みになった自信もある。そうしてシャワーを浴びて着替えた瞬間に体力の限界を迎え、ベッドまでたどり着けずにソファーで倒れたのが最後の記憶だった。

 ――いや、その日のソファーの寝心地は、枕が非常に心地がよい思い出があった。


「……遊矢? 帰ってきてたの?」

 朝に学校で多少の用事を終わらせてきた明日香は、留学生の寮に降りていったパラシュートを見ていた。一瞬だけ理解に苦しんだものの、とにもかくにも遊矢が帰ってきたのかもしれないと、アカデミア教員のスーツのネクタイを緩めながら彼の部屋の扉を開ける。昨日と同じくチャイムを押しても反応はないが、鍵もかかっておらず、いまさら気にする関係でもないと部屋に入っていくと。

「遊……って、まったくもう」

 部屋に入って一番最初に明日香の視界に入って来たのは、アカデミアのジャージを着てソファーに倒れ伏す遊矢の姿だった。そんな姿を見て最初の数回は慌てたものだが、もはや心地よく響き渡る寝息のおかげで惑わされるわけがない。授業前なら叩き起こすところだが、あいにく今日の遊矢は全休だと把握している。

「せっかく海馬ランドのバイトの話、ドローパンでも食べながら聞こうと思ったのに」

 遊矢の寝顔がよく見える対面のソファーに座りながら、手土産に持ってきていたドローパンを片手に明日香は小さく呟いて。それともそんなに疲れるバイトだったのかと、仰向けの遊矢の寝顔を起こさないようによく見てみれば……何やら苦しんでいる様子で。悪い夢でも見ているのか、何やらうなされている表情だった。

「……もう、しょうがないわね」

 苦しむ遊矢とは対称的に少しばかり嬉しげな表情になった明日香は、遊矢を起こさないように慎重にその首を浮かすと、その隙に自らも遊矢が寝ているソファーに座る。そうして浮かしていた遊矢の首を自らの膝の上に乗せることで、ソファーではなく自身の膝枕を彼の枕として提供して。

「ちょっとやってみたかったのよね、膝枕……よしよし」

 誰に語るわけでもなく呟いていた明日香はすっかり気をよくして、自らの膝の上にある遊矢の頭を、赤子にするかのように撫でてみせる。そのかいあってか緩やかに遊矢の寝息は、苦しんでいた時から普段の明日香がよく知る寝息に変わっていて、どうやらリラックスさせられたようだ。

 ……惜しむらくは、いくら見下ろそうとしても自身の胸部が邪魔で、明日香の視界からは彼の寝顔がまったく見れないことだったが。それに明日香自身は気づいていないものの、明日香が少しでも身を屈めれば遊矢の顔面にはその胸部が押しつけられ、呼吸困難による窒息が待っているだろう。幸いにも寝心地がいいと遊矢も太鼓判を押したソファーは、身体が沈みこむほど柔らかいタイプのために、そんな不幸な事故は起きなかった。

「おやすみなさい、遊矢……」

 そうしているうちに、早朝から用事を終わらせてきた明日香も、あくびとともに目をつぶって。静かに彼へ語りかけた後に、彼女もまた意識を手放していた。

 
 

 
後書き
明日香とイチャイチャする話→\カイバーマン/ 

 

―真紅の皇―

 
前書き
注意。投稿した時点では未発売のパックのカードを含んでいます。完結したというのに何をダラダラと、という感じですが、いやもう書くしかないですよねアレ 

 
「もう始まっちゃった!?」

 アメリカ・アカデミアの留学生用の学生寮に用意された、黒崎遊矢が使う一室の扉が大きな音をたてながら開かれた。扉からはスーツ姿の明日香が飛び込んできて、息を切らしてまで走ってきたらしい様子の彼女に、ペットボトルのミネラルウォーターを渡しておく。

「いや、ちょうど始まったとこ」

 至れり尽くせりなことに定評のある学生寮だったが、その一例でもあるテレビを指差しながら。テレビ内の番組ではプロデュエリスト同士の夢の決闘、などと題されており、まさに始まる寸前と言ってよい状態だった。

「勝てるといいわね……万丈目くん」

「ああ……」

 ミネラルウォーターを豪快に飲みながらもソファーの隣に座る明日香とともに、テレビの中で敵と対峙するプロデュエリスト、万丈目サンダーのことを固唾を飲んで眺めていた。プロデュエリストとして勝ち負けを繰り返してきた万丈目だったが、今回の対戦相手は――

『さあ始まりました! 期待の新人、万丈目サンダーが正体を隠した伝説のデュエリストと相対するこの企画! 今宵、万丈目サンダーに相対するは!』

 ――伝説のデュエリスト、という触れ込みの相手だ。要するにプロリーグに入ったばかりの新人が、正体を隠した高いレベルのリーグのデュエリストを相手にする、というバラエティーめいた企画だった。とはいえわりと好評な企画でもあり、呼ばれる新人も期待の新人という言葉は嘘ではない。

『ロード・オブ・ザ・レッド!』

 そうして日本語版の実況放送が対戦相手の名を高々と叫ぶとともに、デュエルステージに二人の姿が映される。万丈目はアカデミアでも着ていたノース校の制服でもある黒いコートであり、対する対戦相手はその名に相応しい《ロード・オブ・ザ・レッド》そのままの格好でいて。もはや二人のデュエリストの前に何を語ることもないとばかりに、実況も静まり返って二人の同行を見守っていた。

『サンダーだかヨンダーだか知らないが、この男城之……ロード・オブ・ザ・レッド! 全力で相手をしてやるぜ! 来な!』

『ならばこのデュエルで忘れられないように刻んでやる! 万丈目サンダーの名をな!』

『デュエル!』

万丈目LP4,000
ロード・オブ・ザ・レッドLP4,000

『オレの先攻!』

 先攻を取ったのは万丈目。プロデュエリストになろうが――いや、プロデュエリストだからこそ、あまりデッキのコンセプトは変わってはいないだろうが。伝説のデュエリストを相手にどのような初手で戦うのか、万丈目へと注目が集まった。

『オレはモンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンを終了する』

『へ! 守ってるだけじゃ勝てないぜ、オレのターン!』

 流石の万丈目も慎重になざるを得ないのか、守備向けの初手でターンを終える――訳もない。十中八九、次のターンで攻め込むための布石作りだろうが、対戦相手はそう考えなかったようで。

『いくぜ! 《鉄の騎士 ギア・フリード》を召喚し、バトルだ! 鋼鉄の手刀!』

『破壊されたのは《おジャマ・ブルー》! このカードが破壊された時、デッキからおジャマカードを二枚、手札に加えることが出来る』

『おジャマぁ?』

 そして対戦相手はその言葉通りに、万丈目のフィールドなど気にもせずに、召喚したギア・フリードで構わず攻め込んでいく。その文字通りの鋼鉄の手刀が容易く破壊したのは、新たな青色のおジャマこと《おジャマ・ブルー》。

『さらにフィールドのおジャマモンスターが破壊された場合、伏せてあった《おジャマーブル》が発動! 破壊されたおジャマを墓地からデッキに戻すことで、デッキからカードを二枚ドローし、一枚捨てる』

 ただし万丈目もただでやられるわけがなく、破壊された《おジャマ・ブルー》の効果でおジャマカードをサーチし、さらに戦闘破壊に反応し《おジャマーブル》を発動。さらにカードを二枚ドローしてみせると、デメリットであるはずの手札を一枚捨てる効果を利用し、まだ発動の連鎖を続けていく。

『そして墓地に送ったのは《おジャマジック》! このカードが墓地に送られた時、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加える』

『こいつは……オレもデュエリストレベルMAXでいく相手らしいな! メイン2、永続魔法《凡骨の意地》と、カードを一枚伏せてターンエンド!』

『レベルMAXで戦える相手か、このターンで確かめるんだな! オレのターン、ドロー!』

 流石の対戦相手も、万丈目の豪快な手札交換と補充に何かを感じ取ったのか、《おジャマ・ブルー》が現れた時とは目付きが変わる。通常モンスターをサポートする永続魔法カード《凡骨の意地》にリバースカードを一枚セットし、更なる追撃をすることなくターンを万丈目に明け渡す。

『オレは魔法カード《おジャマ・ゲットライド》を発動! 手札からおジャマ三兄弟を捨てることで、デッキから光属性・機械族モンスターを三体、攻撃と効果を封じて特殊召喚する!』

 最初の攻防はどちらも下準備の段階と言ったところで、それが済んだ万丈目の猛攻が開始される。三兄弟を犠牲にしたお決まりの魔法カードにより、デッキから三体の機械族モンスターが特殊召喚される。それらは万丈目お得意のユニオンモンスターであり、そこから合体に繋がれていくものだが。

『合体! 《VW-ウイング・カタパルト》!』

 XYZモンスターを特殊召喚することでの《XYZ-ドラゴン・キャノン》かと思いきや、《おジャマ・ゲットライド》で特殊召喚されたのは、《X-ヘッド・キャノン》にVWモンスター。三体のうち二体が《VW-ウイング・カタパルト》に合体するが、その戦闘力は《XYZ-ドラゴン・キャノン》には劣る。

『合体能力を持つマグネットモンスター……嫌なもん思い出させるぜ……』

『まだだ! 《融合識別》を発動し、《X-ヘッド・キャノン》を《XYZ-ドラゴン・キャノン》として扱い、合体する!』

 融合素材にする際の名称を別のカードに変更する、という特異な効果を持つ魔法カード《融合識別》の発動により、ようやく俺も万丈目の狙いを悟る。XYZデッキ使いに嫌な目にでも合わされたのか、対戦相手は覆面の下からでも分かる苦々しい表情をしていて、これから起こることを予期しているかは分からなかったが。とにかく《融合識別》の効果で《XYZ-ドラゴン・キャノン》扱いとなった《X-ヘッド・キャノン》は、《VW-ウイング・カタパルト》と合体していく。

『完成! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》!』

『なぁにぃ!?』

 YとZのパーツは《融合識別》による虚像ではあるものの、その虚像は本物と合体したものと何ら違いはなく。2ターン目にして万丈目の切り札である《VWXYZ-ドラゴン・カタパルト・キャノン》がお目見えとなり、対戦相手たる《ロード・オブ・ザ・レッド》は驚愕する他なかった。

『VWXYZの効果! 相手フィールドのカードを一枚除外する!』

『おおっと待った! オレは手札から《寄生虫パラノイド》をお前にプレゼントするぜ!』

 相手フィールドの《鉄の騎士 ギア・フリード》がVWXYZで安定して倒せる相手だからか、VWXYZの除外効果の標的は伏せられたままのリバースカード。ただしその前に対戦相手の手札から発動された《寄生虫パラノイド》は、VWXYZの装備カードとなって寄生し、その種族を昆虫族へと変貌させていく。

『……だからどうした!』

『確かにオレも虫はあんま好かねぇけどよ、侮ってたら痛い目みるぜ! リバースカード《超進化の繭》!』

 ズバリ昆虫族のような見た目へと変貌してしまったVWXYZを忌々しげに見ながらも、万丈目は構わず除外効果を発動しようとするものの、対象のリバースカードが先に発動されてしまう。さらにそのカードの発動とともにVWXYZは繭に包まれていき、まるでサナギのように沈黙してしまう。

『《超進化の繭》は、カードを装備した昆虫族を墓地に送ることで、デッキから昆虫族を特殊召喚する! 来い! 《インセクト女王》!』

 サナギ、というのもあながち間違いではなかったらしい。何故なら繭に包まれていたVWXYZの内側から、巨大な昆虫の手足が突き破ってきたからだ。そのまま繭を完全に破っていき、ロード・オブ・ザ・レッドのフィールドへ《インセクト女王》が特殊召喚された。

『装備カードとなった《寄生虫パラノイド》が墓地に送られた時、手札から昆虫族を特殊召喚できるがよ……オレの手札にはねぇな!』

『くっ……オレはモンスターとリバースカードをセットし、ターンを終了する……』

『オレのターン、ドロー! 《凡骨の意地》の効果で、通常モンスターを引く度にカードをドローするぜ!』

 《寄生虫パラノイド》と《超進化の繭》のコンボによって、結局は万丈目のVWXYZによる攻撃は失敗してしまう。よって万丈目のフィールドには、まだ通常召喚していなかったことが幸いしたセットモンスターと、リバースカードが二枚。対して対戦相手のフィールドは、そのコンボによって特殊召喚された《インセクト女王》に《鉄の騎士 ギア・フリード》、永続魔法《凡骨の意地》となる。

『《キラー・ザ・クロー》……《格闘戦士アルティメーター》……《ランドスターの剣士》……よし、速攻魔法《手札断殺》を発動し、お互いに手札を二枚捨てて、二枚ドローする!』

『ありがたく捨てさせてもらおう』

『おうよ。さらに墓地の《超進化の繭》を除外して、昆虫族をデッキに戻すことで一枚ドロー。んで、儀式魔法《高等儀式術》を発動するぜ!』

 そうして《手札断殺》で《凡骨の意地》で引いた通常モンスターをコストにしながら、お互いに手札交換を強いていくと、さらに《超進化の繭》でドローを加速していく。さらにメインフェイズに移行するや否や発動されたのは、デッキから通常モンスターを素材に発動される儀式魔法《高等儀式術》。

『デッキの通常モンスターをエサにして、浮上せよ、《要塞クジラ》! そんで女王様とオーバーレイ・ネットワークを構築ってやつだぜ!』

 儀式召喚されたのは《要塞クジラ》。そのレベルはフィールドにいる《インセクト女王》と同じ。思いもよらぬことだったものの、二体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築していく。

『ロード・オブ・ザ・レッド……まさか! 墓地から《ダメージ・ダイエット》を除外し、このターン受ける効果ダメージを半分にする!』

『エクシーズ召喚! 《真紅眼の鋼炎竜》!』

 今まで出てきたモンスターや素材に統一性がまるでないだけあって、何がエクシーズ召喚されるのか戦々恐々としたものの。万丈目は何かに気づいたようで、あらかじめ墓地から、先の《手札断殺》で墓地に送っていたのであろう《ダメージ・ダイエット》を発動する。そうしてエクシーズ召喚されたのは、ロード・オブ・ザ・レッドという名の通りに、新たにエクシーズとしての力を得た《真紅眼の鋼炎竜》。とはいえその効果は純正レッドアイズがいなければ、完全には発揮できないものだったが……先に発動された《高等儀式術》のことが頭をよぎる。

『鋼炎竜はエクシーズ素材を墓地に送ることで、墓地からオレの魂のカードを召喚するぜ! 《真紅眼の黒竜》!』

『レッドアイズ……!』

『バトルだ! レッドアイズでセットモンスターに攻撃! ダーク・メガ・フレア!』

 ダメ押しとばかりに特殊召喚される《真紅眼の黒竜》は、《要塞クジラ》の降臨に使用した《高等儀式術》によって墓地に送られていたカードだろう。そうして三体のモンスターたちが、万丈目のセットカードに襲いかかっていった。

『破壊されたのは《仮面竜》! このカードが破壊された時、攻撃力1500以下の新たなドラゴン族を特殊召喚する!』

『おおっと! 効果を発動した時、鋼炎竜の効果で500ポイントのダメージを受けてもらうぜ! メガ・フレア!』

『だが発動していた《ダメージ・ダイエット》の効果で、そのダメージは半分となる!』

 セットモンスターを巡る攻防に様々な処理が発生する。まずレッドアイズに戦闘破壊された《仮面竜》のリクルート効果が発動し、新たな《仮面竜》がフィールドに特殊召喚される。ただしそのリクルート効果に反応し、相手プレイヤーがカード効果を発動した時、500ポイントのダメージを与えるという《真紅眼の鋼炎竜》のバーン効果が発動するものの。それを予め読んでいた万丈目が発動した《ダメージ・ダイエット》の効果により、半減したバーンダメージが万丈目を直接焼いていた。

万丈目LP4,000→3,750

『ならもっと焼いてやるぜ! ギア・フリードで仮面竜を攻撃!』

『新たな《仮面竜》をリクルートする!』

万丈目LP3,750→3,500

 《仮面竜》は守備表示でのリクルートも可能のため、直接的なダメージを受けることはないが、継続的な《真紅眼の鋼炎竜》の効果ダメージは続く。その《仮面竜》も最後の一体になってしまい、対戦相手は選択を迫られる。最後の《仮面竜》を破壊してダメージを与えるか、ここでバトルを止めて本命のリクルートを妨害するか。

『……構うこたぁねぇ! 鋼炎竜で最後の《仮面竜》を破壊するぜ!』

『ならば現れろ! 《アームド・ドラゴンLV3》!』

万丈目LP3,500→3,250

 そうして《仮面竜》三体で繋いだモンスターは、伝説の一角こと《アームド・ドラゴンLV3》。もはや対戦相手に攻撃する気はないらしく、これで次のターンにおける進化が確定する。

『LVモンスターか……カードを一枚伏せて、ターンを終了するぜ』

『オレのターン、ドロー! そしてスタンバイフェイズ、アームド・ドラゴンはLV5へと進化する!』

『へっ! だがよ、鋼炎竜の効果を忘れちゃ困るぜ!』

万丈目LP3,250→2,750

 スタンバイフェイズ、幼生体に過ぎなかったLV3は進化を果たし、成長期たるLV5としてフィールドに再誕する。ただし効果の発動によって鋼炎竜のバーンダメージが万丈目に与えられ、さらに先のターンに発動した《ダメージ・ダイエット》の効力は、すでにエンドフェイズに無効となっている。

『ええい、小賢しい……メインフェイズ、伏せていた《レベル・ソウル》を発動! このカードは、フィールドのモンスターを一体リリースすることで、墓地のLVモンスターをレベルアップさせる!』

『鋼炎竜の効果で500ダメージ! さらにオレもリバースカード《サイコ・ショックウェーブ》を発動! 相手が罠カードを発動した時、手札を一枚捨てることで、デッキから闇属性の機械族を特殊召喚する!』

万丈目LP2,750→2,250

 そして起死回生の一手として万丈目が発動した罠カードは、フィールドのモンスターをコストに掟破りの墓地レベルアップを果たす罠カード《レベル・ソウル》。恐らくは進化するのは墓地にいるLV3ではなく、今しがたコストにしたばかりのLV5。対してロード・オブ・ザ・レッドもまた、相手が罠カードを発動した時に発動できる罠カード《サイコ・ショックウェーブ》を発動する。

『《サイコ・ショックウェーブ》の効果により、デッキから《人造人間 サイコ・ショッカー》を特殊召喚! お前の罠カード《レベル・ソウル》は無効にさせてもらうぜ!』

『甘い! カウンター罠《ギャクタン》を発動し、《サイコ・ショックウェーブ》を無効にする!』

『何!? ってことは……』

 闇属性・機械族などと銘打ってはいるが、罠カードを発動した時などという発動条件からして、明らかな《人造人間 サイコ・ショッカー》のためのカード。そうして特殊召喚されたサイコ・ショッカーは、《サイコ・ショックウェーブ》の発動条件となった相手の罠カードを無効とするが、それは万丈目のカウンター罠カード《ギャクタン》に阻まれた。さらにカウンター罠のために、流石の《真紅眼の鋼炎竜》もチェーンを組むことは出来ず、万丈目の墓地から竜の咆哮がいなないた。

『進化せよ! 《アームド・ドラゴンLV7》!』

『ぐ……だが前にテレビで見たがよ。ご自慢の効果破壊は、エクシーズ素材のある《真紅眼の鋼炎竜》には通用しないぜ!』

『確かに……このままではな!』

 そうして特殊召喚された《アームド・ドラゴンLV7》だったが、正直に言ってしまえば戦況は厳しかった。攻撃力は《真紅眼の鋼炎竜》と同等の上に、対戦相手の指摘通りにエクシーズ素材がある鋼炎竜には効果が通用しない。それでも自信満々に万丈目はニヤリと笑うと、フィールドに半透明の《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》が浮かび上がる。

『《アームド・ドラゴンLV7》! 《VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン》! 特殊召喚に成功したこの二体を除外することで、このモンスターは合体融合召喚できる!』

「は!?」

「え!?」

 万丈目が語った召喚条件に、テレビの向こうで黙って見物していた俺と明日香も、たまらず驚愕の叫びをあげてしまう。恐らくは対戦相手も観客も、なんならこのデュエルを見ていた者は全員同じことを思ったかもしれないが、二体の万丈目の切り札はそんな驚愕をよそに時空の穴へと吸い込まれていく。

『現れろォ! 《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》!』

 ……フィールドに帰還したそのモンスターは、アームド・ドラゴンLV7がVWXYZたちを鎧として着込むような外見となっているが、やはり無茶な合体なのか背中から黒煙が漂っていたが。それでも問題なく融合してはいるのか、明らかな切り札としての威圧感を放っていた。

『散々チクチクとやられた借りを返してやる……バトル!《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》で、《真紅眼の鋼炎竜》に攻撃! アルティメット・パニッシャー!』

『どわぁぁぁ!』

ロード・オブ・ザ・レッドLP4,000→3,300

 アームド・ドラゴンの際に使っていた巨大なカッターをVWXYZの砲台に詰め込むと、勢いを増して発射することで普段以上の攻撃力を放ち、今までダメージを与えてきた《真紅眼の鋼炎竜》を遂に破壊する。わざわざここまでして召喚したモンスターだと、まだ何か効果があるはずだろうが、今は効果を発動することなくターンを終了する。

『オレはこれでターンエンド!』

『オレのターン……《凡骨の意地》で通常モンスターが出る限りドローするぜ』

 《ハーピィ・レディ》、《ベビー・ドラゴン》、《アックス・レイダー》とカードをドローしていくが、やはりロード・オブ・ザ・レッドの瞳も万丈目のフィールドに唯一鎮座する《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》を捉えたままで。自分フィールドの《真紅眼の黒竜》と《鉄の騎士 ギア・フリード》で、どうやってあのモンスターを倒すべきか考えているようだ。

『さらに《闇の誘惑》を発動! 手札の闇属性を除外することで、カードを二枚ドローするぜ』

『言っておくが、《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》がフィールドにいる限り、お前はお互いの除外ゾーンにあるカードと同名カードを使えない。注意するんだな』

『破壊しちまえば関係ねぇ! 《融合》を発動し、フィールドのレッドアイズと手札のアックス・レイダーを融合する!』

 すぐさま破壊の算段をつけたらしく、レッドアイズの本領の一つたる《融合》の発動となる。ただし融合素材は手札にある戦士族の通常モンスター《アックス・レイダー》であり、吹雪さん経由で自分が知る悪魔竜でも流星竜でもない。

『覚醒せよ、黒き竜! 《真紅眼の黒刃竜》、激レアモンスターだぜ!』

 そうして融合召喚されたのは、スラッシュドラゴンという名前に相応しく、全身に戦士族のような鎧を装着したレッドアイズ。奇しくも万丈目の《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》と同様の出で立ちだったが、あちらの方が違和感なく混ざってはいた。どちらのフィールドにも竜がいななくと、《真紅眼の黒刃竜》には更なる装備が施された。

『さらに《闇竜族の爪》を《真紅眼の黒刃竜》に装備し、バトルするぜ!』

『来るか!』

『ああ! 《真紅眼の黒刃竜》はレッドアイズの攻撃宣言時、墓地から戦士族モンスターを装備し、攻撃力を200ポイントアップさせる!』

 装備魔法《闇竜族の爪》を発動したところで、《真紅眼の黒刃竜》の攻撃力は3400。ギリギリのところで《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》には及ばないが、咆哮とともに新たな戦士の力が黒刃竜に宿っていく。どうやら《凡骨の意地》を通じて戦士族を墓地に送っていたのはこのためでもあるらしく、《ランドスターの剣士》の力を得た黒刃竜はその爪をさらに伸ばす。

『ダーク・メガ・スラァッシュ!』

『――《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果を発動!』

『何? ……だが黒刃竜にはよ!』

 アームド・ドラゴン系列でもVWXYZ系列でもなかった、相手ターンによる効果の発動。ドラゴン・キャノンやカッターが、攻撃せんとする黒刃竜へと向けられたために、相手モンスターを迎撃する効果だとばかり思ったが。

『《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》は、相手ターンに一度、自分のデッキのカードを除外することで、相手のフィールドと墓地のカードを全て除外する!』

『は!?』

『アームド・ビッグ・デストラクション!』

『ちょっ……ま……行かないでくれぇぇぇ!』

 ――予想を裏切る反則級の効果。対戦相手であるロード・オブ・ザ・レッドの悲鳴も空しく、アームド・ドラゴン・カタパルトキャノンの一斉射撃によって、そのフィールドどころか墓地までもが焼け野原と化した。その口振りからして黒刃竜には何やら迎撃された際の効果もあったようだが、全てが除外されてしまっては発動のしようもないらしい。

『ッ……』

『嬉しいぜ……どうやら、デュエリストレベルMAXどころか、限界を超えて相手をしなきゃいけないらしいな! メインフェイズ2、オレは《時の魔術師》を召喚するぜ!』

 ただし首尾よく全てを除外したにもかかわらず、万丈目の表情は晴れなかった。恐らく万丈目の計画からすれば、《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果は相手のエンドフェイズに発動し、がら空きのままこちらのターンに移行させるというもの。しかして《真紅眼の黒刃竜》の反撃により効果を発動せざるを得なかったため、まだ対戦相手にはメインフェイズ2が残っていた。

『《時の魔術師》……!』

『勝負は簡単だ。当たりが出ればそいつは破壊、ハズレが出ればオレの負け! ……ルーレットは、お前が止めていいぜ』

 さらにロード・オブ・ザ・レッドは通常召喚をしておらず、メインフェイズ2に召喚されたのは一発逆転の力を秘めたモンスター《時の魔術師》。当たりが出れば相手のモンスターを全て破壊し、ハズレが出れば自分のモンスターを破壊した上にダメージが発生する。分かりやすいギャンブルカードに対して、ここまで戦った故にか、対戦相手は万丈目にルーレットを止める権利を与えていた。

『タイム・ルーレット!』

『後悔するなよ………………ストップだ!』

 《時の魔術師》が手に持った杖の先のルーレットが回る。勝利の女神がどちらに微笑むか、このルーレットの結果によって決まるといっても過言ではなく。万丈目がストップと宣言した時、ルーレットが指していたのは――

『げっ!』

 ロード・オブ・ザ・レッドの悲鳴が木霊する通りに、《時の魔術師》が指していたのはハズレ。勝利の女神は万丈目に微笑んだのかと、千年を経過させる魔法は《時の魔術師》自身へと発生する――

『なーんてな!』

 ――筈だった。万丈目の手によってすでに止められていた筈のルーレットは、《時の魔術師》によって再び動き出していた。それも先程まではハズレが混じっていたはずのルーレットには、当たりのみしかない出来レースへと変貌していて、何が起きたのかと考える暇もないほどに万丈目は驚愕する。

『何をした!』

『速攻魔法《トラップ・ブースター》で罠カード《確率変動》を発動したのよ! このカードの効果によって、ギャンブルをやり直すぜ!』

 《時の魔術師》の効果が発動するより早く、ロード・オブ・ザ・レッドは二枚のカードを発動していた。まずは手札一枚をコストに手札から罠カードを発動する速攻魔法《トラップ・ブースター》と、ギャンブルをやり直すという効果を持った本命の罠カード《確率変動》。さらに《確率変動》にはやり直した結果にはならないという効果もあるため、《時の魔術師》は当たりのみしかないルーレットを回していたのだ。

『ルーレット、もう一回止めてもいいぜ! 当たりだけだからよ!』

『くっ……ストップだ……』

『タイム・マジック!』

 結果は決まりきっている。発動した《時の魔術師》によって千年後の未来に跳ばされたも同然の《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》は、ドラゴンの部分は老いて動くこともままならず、機械部分は錆びてたまらず自壊していった。

『ダイレクトアタック……と、いきたいところだが、もうメイン2だったな。ターンエンドだぜ!』

『オレのターン、ドロー! ……《貪欲な壺》を発動し、カードをさらに二枚ドロー!』

 《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》に《時の魔術師》によって、もはやお互いのフィールドはボロボロだった。どちらのエースモンスターもすでに破壊され、お互いの手札も残り少ない。万丈目が《貪欲な壺》を発動した時に、お互いに暗黙の了解がごとく決着はそろそろだと察していた。

『フィールド魔法《おジャマ・カントリー》を発動! 手札を一枚捨てることで、墓地からおジャマモンスターを特殊召喚する! 蘇れ! 《おジャマ・イエロー!》』

 そうしてアームド・ドラゴンやVWXYZが撃破されたとしても、まだ万丈目には彼らがいる。そう思わせるようにフィールドから復活する《おジャマ・イエロー》とともに、デュエルフィールドがおジャマたちの楽園へと塗り替えられていく。

『さらに墓地から《おジャマデュオ》を除外することで、デッキからおジャマを二体、特殊召喚する。そして《融合》を発動!』

 先の《手札断殺》によって墓地に送られていたのだろう、罠カード《おジャマデュオ》がようやく日の目を見る。墓地から除外することでデッキから二体のおジャマを特殊召喚するカードであり、《貪欲な壺》でデッキに戻していたのだろう残るおジャマ二体を特殊召喚し、フィールドにおジャマ三兄弟が集結する。そうしてすぐさま《融合》を発動すると、時空の穴から最強のおジャマが姿を現した。

『おジャマ究極合体! 融合召喚、《おジャマ・キング》!』

『うおっデカぁ!?』

『《おジャマ・キング》の効果。こいつがフィールドにいる限り、相手フィールドを三つ使用不能となる!』

 人間の体躯の何倍もあるキングの名に相応しい姿を晒し、まずは挨拶がわりに相手フィールドを三つほどロックしていく。とはいえ王とはいうものの、おジャマである以上は攻撃力は0であるにもかかわらず、万丈目が指定した表示形式は攻撃表示。もちろんただの自殺志願という訳ではなく、今のフィールドはおジャマたちによって支配されているのだ。

『フィールド魔法《おジャマ・カントリー》は、フィールドにおジャマがいる限り、フィールドのモンスターの攻撃力・守備力を入れ換える!』

『ってことは……』

『《おジャマ・キング》の攻撃力は3000だ! いけ、おジャマ・キング! フライングボディアタック!』

『だぁぁぁぁっ!』

ロード・オブ・ザ・レッドLP3,300→700

 今までダメージを与えられなかった万丈目の鬱憤を晴らすかのように、もしくは先程のイカサマギャンブルに怒ったかのように、《おジャマ・キング》必殺の一撃が《時の魔術師》に炸裂した。下級モンスターの中でもただでさえステータスの低い《時の魔術師》に耐えられるはずもなく、大きくライフを削りながらロード・オブ・ザ・レッドのフィールドはがら空きとなる。

『これで……ターンエンドだ!』

『へ……攻撃力3000かよ、燃えてきたぜ! オレのターン、ドロー!』

 もはや永続魔法《凡骨の意地》はフィールドにはなく、これでロード・オブ・ザ・レッドの手札は三枚。そのうち一枚は先のターンで引いた通常モンスターであり、《おジャマ・カントリー》の効果によって、攻撃力が3000となった《おジャマ・キング》へとあらかさまに闘士を燃やしていて。

『装備魔法《D・D・R》を発動! 手札を一枚捨ててこのカードを装備することで、除外ゾーンのモンスターを特殊召喚する! 時空の狭間から蘇れ、レッドアイズ!』

 そして装備魔法《D・D・R》から呼び出されるのは、魂のカードとまで呼んでいた《真紅眼の黒竜》。もとは《闇の誘惑》といったカードとのコンボ用なのだろうが、奇しくも《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》の効果の対策として機能し、黒竜は再びフィールドへと飛翔した。

『だが《おジャマ・カントリー》の効果で、元々の攻撃力と守備力は逆の数値となる!』

『そいつを待ってたぜ! オレはさらにこのカードで攻守逆転!』

 ただし《おジャマ・カントリー》はフィールド全てに作用するために、《真紅眼の黒竜》も本領を発揮することは出来ずにいたが――さらに発動した一枚の魔法カードが、状況の全てをひっくり返していた。

『《右手に盾を左手に剣を》! 攻守逆転ならオレにも一家言あるんでな!』

『ぐ……!』

 発動されたのは攻守逆転カードの開祖とも言える魔法カード《右手に盾を左手に剣を》。エンドフェイズまでステータスを入れ換えるという効果は、万丈目の《おジャマ・カントリー》とともに発揮され、二回の攻守逆転が起こることで結果的にステータスは元に戻る。

 万丈目の《おジャマ・キング》は力を失い、ロード・オブ・ザ・レッドの《真紅眼の黒竜》は力を取り戻し――もはや万丈目に、次の一撃を防ぐ手段は存在しなかった。

『バトル! レッドアイズでおジャマ・キングに攻撃! ダーク・メガ・フレア!』

『ぐあああああっ!』

万丈目LP2250→0

「あー……」

 テレビの向こうで万丈目がレッドアイズの一撃を受けたところで、反射的に無念そうな声が漏れた。番組の特性からして新人が勝つ方が珍しいということもあるが、流石の万丈目と言えどもプロの壁は厚かったというべきか。

「万丈目くん、惜しかったわね……」

「ああ……悪い、電話」

 やはり同様に無念そうな表情を隠さない明日香に対して、それでも新たな切り札たる《アームド・ドラゴン・カタパルトキャノン》の話を振ろうとすれば、タイミングも悪くPDAから通話を知らすアラームが鳴る。誰かをチラリと確認しながら電話に出てみれば、すぐさま不機嫌そうな声が電話先から響き渡った。

『……見たな?』

「万丈目……挨拶もなしに……」

『そんなことはいい! 次は勝つから特訓に付き合え!』

 電話してきた相手は、先程までテレビの向こうにいた――もちろん放送は生放送ではなかったが、万丈目そのもので。明日香に誰から電話が来たかを語るまでもなく、彼女は電話先から聞こえてくる声に苦笑していて、電話を代わるように小さくジェスチャーしていた。いい加減に耳元が疲れてきた時に幸いだと、手早くPDAを明日香へと渡していた。

『おい、聞いて――』

「――デュエル。もう少しだったわね、万丈目くん」

『て、天上院くん!?』

「ええ、久しぶり」

 俺に向かって怒鳴り散らしていた時とは全く違う万丈目の声をバックに、聞きなれた町の音が多少はBGMとして電話先から聞こえてきた。特訓に付き合え、などと言っていたが、本当にこの寮の近くまで来ているらしい。

『ど、どうして君が奴の電話に……いや、そんなことより! すまない天上院くん! 久々に君の声を聞いておきたいどころだが、今の弱いオレにそんな資格はない!』

「え、ええ……」

『だから待っていてくれ! キミに相応しい強い僕になった時、必ず迎えにいこう!』

 ――そうして明日香の話を何ら聞くことはなく、万丈目からの通話はあっさりと切れてしまう。ポカンとした表情の明日香から視線で今の状況の説明を求められるが、万丈目のやることなど説明できるものかと。

「勝った時じゃないと会いたくないってさ」

「うーん……なんとなく、分かった気はする……ような気もするわ」

 要するに負けていては格好つかないという万丈目のプライドの話だが、あまり万丈目の内心を勝手に話すのもどうかと、多少以上にぼやかして明日香には説明しておくと。それでも半ば放心状態の明日香からPDAを受けとると、ひとまずそれは机の上に置いておくと。それからしばし明日香と世間話に興じた後、明日香は自らの部屋へと帰っていく。明日も早いのだと、明日は休みなこちらへと微妙に不満げな様子を見せる明日香を見送ると、そっとPDAを操作してあちらへ連絡を取ると。

「明日香は帰ったけど、来るか?」

『……そうさせてもらう』

 ……どうやら今日は、久々に徹夜を覚悟することになりそうだ。
 
 

 
後書き
 問題のアレですが、未OCGサポートカードのおかげでわりと楽に出せました。この調子で万丈目の未OCGお願いしますよ。時に万丈目が使ったカードでOCG化したのは、一期後半のラブデュエル回で使った《埋蔵金の地図》が最後と聞いた時は驚きましたね。二期以降の万丈目とは一体、うごご。まあこれは万丈目に限った話ではありませんけど、特にGXでは。

 時に今回のデュエルで使ったカードやそのリメイクカードは、主にデュエリストパック-レジェンドデュエリスト編-で発売してますよ!(ステマ) 

 

―OVERLAP―

『準備はいいか、遊矢』

「バッチリだ」

 どこかから聞こえてくる三沢の声に相槌を打つと、周りの風景を改めて見渡した。そこには辺り一面に海と天空が広がっており、人工島に設えられた巨大な塔の頂点だった。そこはかつてあったバトルシティの決勝の地であり、どう見ても先までいた三沢の研究室ではない。

『外部からも問題はない。ARデュエルシミュレーターを起動する』

 何故なら俺が見ている光景は現実世界の風景ではなく、新たなデュエルディスクによって生み出された拡張現実――いわゆるAR空間と呼ばれるものだからだ。現実を空想によって拡張することで、あたかも異なる世界に見えるようにする技術は、海馬コーポレーションの新たなデュエルのための一端だった。

「デュエルシミュレーター、か……」

 そうして今回の俺の仕事は、新たなデュエルディスクとAR空間、さらにデュエルシミュレーターのテストである。今までのまさしくコンピュータといったものではなく、拡張現実にしか出来ないデュエルシミュレーターということだが……

『デュエルシミュレーター、起動!』

 外部からシステムの操作とチェックを行う三沢の声に反応するかのように、闘技場の相対する側へと新たな人影が現れていた。それは拡張現実で生み出されたものと分かっていても人間にしか見えず、いや、それ以上に――見覚えがあった。炎を思わせる金色のメッシュが入った黒髪に、学生服をマントのように羽織っていて、今では見られなくなった旧型のデュエルディスクをつけていた。

「さあ……ゲームの時間だ」

 不遜な物言いに比例するような、自信に満ちた揺るがない瞳。その姿を知らないものはデュエリストの中ではいないだろう――何故なら、彼はそのデュエリストたちにとって頂点に立った男なのだから。

「武藤……遊戯……!?」

「どうした? デュエルする前から腰が引けてるようじゃ、ハッキリ言ってオレには勝てないぜ!」

 デュエルキングが当時のままの姿でそこにはあった。拡張現実によって生み出されたものだと頭では分かっていても、その圧倒的な威圧感に尻込みしてしまうこちらの様子に、デュエルキングは嘆息しながらそう語っていて。そうした態度に先のカイバーマンの時も同様のことを言われたと思い返し、俺の身体もピシリと止まると、新型デュエルを剣のように相手へと構えてみせる。

「……誰がだ」

「……OK、相手してやるぜ。お前の持てる全ての戦術でかかってきな!」

 ……そんなこちらの殺気に、デュエルキングも何とか俺を相対する敵だと見なしてくれたらしい。ベルトに備え付けられたホルダーからデッキをセットし、旧型デュエルディスクが変形することでデュエルの準備が完了する。元よりこちらはデュエルするために来たのだと、もう準備は万端だと示してみせて。

「オレはその先を行くぜ!」

「いや、楽しんで勝たせてもらう!」

『デュエル!』

遊戯 LP4,000
遊矢 LP4,000

「オレの先攻」

 先攻はデュエルキング。彼が王だった時代にはまだ先攻によるドローは可能だったはずだが、もちろんその辺りは調整済みとでも言うべきか。

「オレは《マジシャンズ・ロッド》を召喚し、効果を発動! デッキから黒魔術師のサポートカードを手札に加える」

 そうして召喚された黒魔術師の杖だったが、アレはバトルシティにおけるデュエルキングのデッキには投入されていなかったカードと、アカデミア本校に展示されていたものを思い返す。ルールだけでなくデッキもアップグレードされているらしく、旧型なのは外見だけかと気を引きしめる。

「さらに装備魔法《ワンダー・ワンド》。このカードと装備モンスターを墓地に送ることで、カードを二枚ドロー! ……さあ行くぜ! オレは《融合》を発動!」

 黒魔術師のサポートカードを手札に加える、という役目を果たした《マジシャンズ・ロッド》は《ワンダー・ワンド》とともに墓地に送られ、二枚のドローとして変換される。そうして補充した手札で発動される《融合》だが、デュエルキングが手始めに召喚する融合モンスターと言えば。

「《有翼幻獣キマイラ》を召喚! カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー!」

 よって相手のフィールドには、切り込み隊長たる《有翼幻獣キマイラ》とリバースカードが一枚。アレが《マジシャンズ・ロッド》によってサーチされた黒魔術師のサポートカードならば、直接は《有翼幻獣キマイラ》をサポートするカードではないということだが。

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 ……何にせよ、まだ相手は様子見をしている段階ということだ。ならばこちらとしては、様子見などと驕ってみせるなと示す必要がある。

「《マックス・ウォリアー》で《有翼幻獣キマイラ》に攻撃!」

「だがキマイラの方が攻撃力は上!」

「いいや、マックス・ウォリアーの攻撃力は、相手へと攻撃する時に400ポイントアップする! スイフト・ラッシュ!」

遊戯LP4,000→3,900

 こちらのデッキの切り込み隊長として対抗した訳ではないだろうが、マックス・ウォリアーの怒濤の突きは一瞬にしてキマイラを破壊してみせた。そうすることによって、お前が様子見で出したモンスターなど、下級モンスターだけで倒せるのだと無言で威圧する。

「《マックス・ウォリアー》は相手モンスターを戦闘で破壊した時、攻撃力、守備力は半分になる」

「《有翼幻獣キマイラ》は戦闘破壊された時、墓地から融合素材を一体だけ特殊召喚する。来い、《幻獣王ガゼル!》」

「カードを二枚伏せて、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 そんなこちらの威圧が相手に伝わったかは分からないが、心なしかデュエルキングがピクリと反応する。お互いに戦闘終了後の処理を完了させるとともに、カードを二枚伏せてターンは相手へと移っていく。

「オレは永続魔法《黒の魔導陣》を発動! デッキトップを三枚めくり、その中に《ブラック・マジシャン》、もしくはそのサポートカードがあれば手札に加える!」

 フィールドに現れた魔導陣に浮かぶ三枚のカード。その中に存在した一枚のカードがデュエルキングの手の内に納められ、ニヤリと笑いながらこちらへと示してみせて。まさか、とこちらが思うよりも早く、伏せられていた一枚のカードが発動される。

「リバースカード、《マジシャンズ・ナビゲート》! 手札とデッキから黒魔術師を特殊召喚する! 現れろ、最上級魔術師とその弟子よ!」

 フィールドに集結する二体の黒魔術師。デュエルキングの代名詞とも言える《ブラック・マジシャン》と《ブラック・マジシャン・ガール》の二体の登場に震える間もなく、発動していた《黒の魔導陣》が再び光を発していた。

「そして《黒の魔導陣》の効果。《ブラック・マジシャン》が特殊召喚された時、相手のカードを一枚除外する! 魔導波!」

「くっ……チェーンしてリバースカード《トゥルース・リインフォース》! デッキからレベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《マッシブ・ウォリアー》!」

 《黒の魔導陣》から力を得た《ブラック・マジシャン》の一撃は、攻撃力が半分となった《マックス・ウォリアー》ではなく、伏せられていたリバースカードを標的とする。幸いに狙われたカードはフリーチェーンの罠カード《トゥルース・リインフォース》であり、デッキから《マッシブ・ウォリアー》が特殊召喚される。

「バトル! 《幻獣王ガゼル》、《ブラック・マジシャン・ガール》! 《マッシブ・ウォリアー》を破壊せよ!」

「っ……!」

 《マッシブ・ウォリアー》には一度だけ戦闘では破壊されない効果があるものの、《幻獣王ガゼル》と《ブラック・マジシャン・ガール》の連携により、そんな効果などないかのように破壊されてしまい。そうしてお互いのフィールドに残り対峙するのは、かの《ブラック・マジシャン》と《マックス・ウォリアー》。

「さらに《ブラック・マジシャン》で《マックス・ウォリアー》に攻撃! 黒・魔・導!」

「伏せてあった《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にしカードを一枚ドローする!」

 《マックス・ウォリアー》の半減した攻撃力をカバーするために伏せていた《ガード・ブロック》が幸いし、何とか《ブラック・マジシャン》たちからのダメージを防ぐことに成功する。こちらのフィールドはがら空きになってしまったが。

「……だが、こいつはどうかな? メインフェイズ2、オレは三体のモンスターをリリースし――」

 ――しかして魔術師たちの攻撃までが様子見だったかのように、三体のモンスターがリリースされていく。通常は必要な素材は二体のはずだが、そんなルール程度を越えていく――そんなモンスターは、まさしく神と呼ばれるモンスターだ。天が雷雲によって支配されていき、そこから真紅の巨大な龍の顎が姿を見せる。

「天空の神! 《オシリスの天空竜》を召喚する!」

「オシリス……!?」

『馬鹿な!? デュエルシミュレーターには神のカードなど搭載されていないぞ!』

 もはやこの世から失われたはずの神の存在に対して、外部からシステムを見守ってくれている三沢からも驚愕の声が響き渡る。デュエルシミュレーターには搭載されていないカードの存在、明らかに異常事態でしかなかったが……

「……三沢。このままやらせてくれ」

『遊矢、気持ちは分かるが、だが……』

「この場所で神と戦えるなんて、何だろうと逃すつもりはない!」

 かのバトルシティ決勝の地。そこに残された王の記憶などとオカルトな話だろうと何だろうと、今、この時しか出来ない経験だ。譲るつもりも逃すつもりはないと三沢に語ると、外部からは諦めたような嘆息が聞こえてきた。

『……危険があればすぐ中止する』

「ああ!」

「話は終わったか? オレはさらに《闇の量産工場》を発動。カードを一枚伏せ、ターンを終了するぜ」

「……俺のターン、ドロー!」

 外部にいる三沢との会話も把握していることといい、もはや目の前の敵をただのデュエルシミュレーターなどとは思わない。《オシリスの天空竜》を従えるその姿は、ありし日のデュエルキングに他ならない。

「俺は《マジカル・ペンデュラム・ボックス》を発動! カードを二枚ドローし、ペンデュラムモンスターでなければ墓地に送る……《音響戦士ギータス》を手札に加え、カードを一枚墓地に送る」

 誰にも知れ渡っている伝説から、神のカードたちの効果は把握しているつもりだ。《オシリスの天空竜》の効果は、自らの手札によって攻撃力は決定するというもので、相手の手札の数は《闇の量産工場》によって手札に加えた二枚のみ。よって現在の攻撃力は2000。

「俺のフィールドにモンスターがいない時、《レベル・ウォリアー》はレベル4として特殊召喚できる!」

 ただし第二の効果として、攻撃表示で召喚したモンスターに2000ポイントのダメージを与える召雷弾が存在し、実質的には攻撃力は4000といってよい。守備表示で特殊召喚した《レベル・ウォリアー》のようにすればまだ生き延びていられるが、守備を固めては《オシリスの天空竜》の攻撃力は際限なく上昇する。

「さらにペンデュラムゾーンに《音響戦士ギータス》をセットし、効果を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキから《音響戦士ピアーノ》を特殊召喚する!」

 相手が神だろうと攻めるしかない。先程《マジカル・ペンデュラム・ボックス》でドローした《音響戦士ギータス》の効果により、音響戦士の一種たる《音響戦士ピアーノ》を守備表示で特殊召喚したことで、何とかシンクロ召喚の準備を整える。

「レベル4となった《レベル・ウォリアー》に、レベル3の《音響戦士ピアーノ》をチューニング!」

 しかも攻めるだけではなく、オシリスを圧倒的に越える攻撃力で攻める必要がある。その理由は、相手フィールドに伏せられたリバースカード――ともすれば、オシリスの攻撃力を下げるだけの一手にもかかわらず、わざわざ伏せたのだから何かがある。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 ならば、呼び出すのはこのモンスターしかいまい。とはいえ神をも倒せるカードだとシンクロ召喚されたものの、《パワー・ツール・ドラゴン》は召雷弾を恐れて守備表示での召喚になったが。

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! デッキから一枚、装備魔法カードを手札に加える!」

「右のカードだ」

「……なら《パワー・ツール・ドラゴン》に、《パイル・アーム》を装備し、効果を発動! 《パイル・アーム》は装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせ、相手の魔法・罠カードを一枚破壊する!」

 そうして《パワー・ツール・ドラゴン》の効果により、相手にランダムで選ばせたカードを手札に加え、そのまま装備することで準備は着々と進んでいく。これから《オシリスの天空竜》を破壊する前祝いだとばかりに、まずは《パイル・アーム》が装備された際に発動する効果により、永続魔法《黒の魔導陣》が破壊される。

「……ならば《アームズ・ホール》を発動! 通常召喚を封じデッキトップを墓地に送ることで、装備魔法をデッキからサーチする! 俺は《デーモンの斧》を手札に加え、さらに装備!」

「いくら装備カードで強化しようが、攻めないなら勝ちはないぜ!」

「わかってるさ。墓地から《ADチェンジャー》の効果を発動! 《パワー・ツール・ドラゴン》の表示形式を変更する!」

 《音響戦士ギータス》の効果のコストに墓地に送っていた《ADチェンジャー》が効果を発動し、自身を除外することでフィールドのモンスターの表示形式を変更する。もちろん対象はオシリス――などではなく、攻撃表示での召喚と特殊召喚が発動のトリガーのため、守備表示で召雷弾を免れていた《パワー・ツール・ドラゴン》。

「バトル!」

 それが今、《デーモンの斧》と《パイル・アーム》の力を得て、攻撃力は3800のモンスターとして、攻撃表示となった。

「《パワー・ツール・ドラゴン》で《オシリスの天空竜》に攻撃! クラフティ・ブレイク!」

「リバースカード、オープン! 《永遠の魂》! 一ターンに一度、デッキから指定された魔法カードを手札に加えることが出来る!」

 発動したリバースカードはそのまま石板となると、新たなカードを一枚出現させると、そのまま手札へと加えられていく。よってオシリスの攻撃力は3000となるが、パワー・ツール・ドラゴンの攻撃力はさらに上の3800。相討ちに固執しすぎた結果とも言うが、オシリスの攻撃を避けたパワー・ツール・ドラゴンは、そのままパイルバンカーの一撃を叩き込んだ。

「…………」

「オシリス撃破……ターンエンドだ!」

遊戯LP3,900→3,100

 遂に破壊される神の一角。パワー・ツール・ドラゴンの装備したパイルバンカーに破壊され、大地に倒れ伏すオシリスとともに、俺はターンを終了する。これでこちらのフィールドは《パイル・アーム》に《デーモンの斧》を装備した《パワー・ツール・ドラゴン》と、ペンデュラムゾーンの《音響戦士ギータス》。

「オレのターン……オシリスを倒すとはな、褒めてやるぜ。なら次だ! 魔法カード《真実の名》を発動!」

 対する相手のフィールドは、石板となったまま不気味な沈黙を保つ永続罠カード《永遠の魂》。さらに手札も《ブラック・マジシャン》に《幻獣王ガゼル》、《永遠の魂》でサーチした黒魔術師のサポートカードに、ドローする未知のカードとまで分かっているが、早速その未知のカード――通常魔法《真実の名》が発動する。

「このカードの発動時、デッキトップのカードを当てることで、そのカードを手札に加える」

「デッキトップのカード……?」

「《裁きの天秤》。ドロー!」

 そんなものが分かるはずがないというこちらの疑問をものともせず、宣言通りに通常罠カード《裁きの天秤》をドローしてみせる。

 問題は、ドローした《裁きの天秤》とともに現れた、相手の背後に立つ巨大な威圧感だ。

「そしてこのカードの発動に成功した時、デッキから神属性モンスターを特殊召喚する! 我が最強のしもべ三幻神! その一つの名は《オベリスクの巨神兵》!」

 ――そうして、その威圧感の正体はすぐに明らかとなった。大地を砕きながら現れる破壊神に、とても立っていられずに膝をつく。こちらを見下すどころか視界にも入っていないだろう巨神兵に、パワー・ツール・ドラゴンも必死で立ち向かおうとしたものの、その前に一体の黒魔術師が現れていたのが、何とか立ち上がっていた俺にも見えていた。

「そして《永遠の魂》のもう一つの効果。手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚する!」

「っ……!?」

「さらに《幻獣王ガゼル》を召喚し、魔法カード《黒・魔・導》を発動! ブラック・マジシャンがフィールドにいる時、相手の魔法・罠カードを全て破壊する!」

 自らが擁しているのは神だけではないと示すように、残る二体のモンスターも手札から召喚されるとともに、先のターンで《永遠の魂》にサーチされていたサポートカード《黒・魔・導》が発動する。パワー・ツール・ドラゴンの前に現れた《ブラック・マジシャン》が魔力を放つと、装備されていた《デーモンの斧》に《パイル・アーム》、そしてペンデュラムゾーンにいた《音響戦士ギータス》までもが破壊されてしまう。

「バトルフェイズに入り、もう一度だマハード! 追撃の――魔連弾!」

 そして装備魔法が全て破壊されて丸裸となった《パワー・ツール・ドラゴン》へ、やはり《ブラック・マジシャン》からさらなる追撃が放たれる。先の《黒・魔・導》よりは抑えめながらも連射できる魔力弾がパワー・ツール・ドラゴンを襲うが、それらは全て突如として現れた盾を持つ戦士に防がれていく。

「墓地から《シールド・ウォリアー》を除外することで、この戦闘で《パワー・ツール・ドラゴン》は破壊されない!」

「ならばオベリスク! パワー・ツール・ドラゴンに攻撃せよ、ゴッドハンド・クラッシャー!」

「ぐああああ!」

遊矢LP4,000→3,900→2,200

 ブラック・マジシャンの一撃は《シールド・ウォリアー》の効果でどうにか防いだものの、その後のオベリスクの一撃はどうしようもないものだった。一瞬にしてシールド・ウォリアーもろともパワー・ツール・ドラゴンは破壊され、こちらのライフも半分へと減じさせられてしまう。

「さらに《幻獣王ガゼル》でダイレクトアタック!」

「くっ……!」

遊矢LP2,200→700

「カードを一枚伏せ、ターンを終了する。そしてターン終了時、オベリスクは墓地へ送られる」

「……俺のターン、ドロー!」

 そうして《パワー・ツール・ドラゴン》を失い守りががら空きとなった俺に痛烈な一撃が加えられ、残るライフも風前の灯と化した。不幸中の幸いは魔法カードで呼び出した神はフィールドに留まれず、墓地へと送られるということか。再び大地を鳴らしながら消えていくオベリスクを見ながら、俺は負けじとカードをドローする。

「俺は《チューニング・サポーター》を召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! さらに二体、デッキから特殊召喚する!」

 まずは《チューニング・サポーター》を召喚しつつ、《機械複製術》でさらに二体をデッキから特殊召喚しながらも、相手のフィールドを観察する。確かにオベリスクの一撃は驚異的だったものの、すでにオベリスクもオシリスも相手フィールドには存在せず、残るは《ブラック・マジシャン》に《幻獣王ガゼル》といった通常モンスターと伏せられた《裁きの天秤》のみ。

「そして手札の《ワンショット・ブースター》と墓地の《ブンボーグ001》はそれぞれ、通常召喚に成功したターンと機械族モンスターが二体同時に特殊召喚された時、特殊召喚できる!」

 これは《裁きの天秤》に臆することなく攻めるチャンスだ。《アームズ・ホール》で墓地に送られていた《ブンボーグ001》が、手札に眠っていた《ワンショット・ブースター》が、《チューニング・サポーター》と《機械複製術》に連鎖反応を起こし、墓地と手札から自身の効果で特殊召喚される。これでチューナーと非チューナーが揃うどころか、自分フィールドを一瞬にして埋めて見せたが、まだシンクロ召喚は行わない。

「俺に出来る全ての戦術を、お望み通りに見せてやる! 現れろ、光差すサーキット!」

 全ての戦術を持ってかかってこい――デュエルが始まる前に相手がそう語ったことに返答すると、フィールドには俺の呼びかけに応えてサーキットが現れる。とはいえその回路には何も接続されておらず、光を失っている状態だったが。

「アローヘッド確認。召喚条件は、チューナーモンスターを含むモンスター二体! サーキットコンバイン!」

 そのサーキットに描かれている召喚条件に適したモンスター、今ならば《ワンショット・ブースター》と《ブンボーグ001》を接続することで、サーキットは光を放ちながら動き出していく。そして新たなモンスターが、サーキットの輝きに導かれ降臨する。

「リンク召喚! 光差す者たちへの道標となれ! 《水晶機巧-ハリファイバー》!」

 ガラス繊維で機械の身体を被った人形のリンクモンスターの登場に、相手はピクリと身体を反応させたのみだった。相手にとってはルールから未知のモンスターであるはずだが、同じことが言えるシンクロ召喚にも反応がなかったあたり、どうやらこちらのカードは全て把握されているらしい。

「ハリファイバーの効果! このカードがリンク召喚に成功した時、デッキからレベル3以下のチューナーモンスターを特殊召喚できる! 《クリア・エフェクター》を特殊召喚し、三体のモンスターでチューニング!」

 そうしてリンク召喚の素材となった《ブンボーグ001》の代わりのように、当のハリファイバーからチューナーモンスターが呼び出され、再びフィールドにチューナーと非チューナーが揃うこととなり、間髪いれずにシンクロ召喚へと繋ぐ。三体のモンスターが光とともに消えていき、ハリファイバーによって増加したエクストラモンスターゾーンへと、新たなモンスターの形となって集まっていく。

「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」

 収束した閃光はいつしか戦士となり、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》として新生する。さらに《スターダスト・チャージ・ウォリアー》はシンクロ召喚に成功した時、《チューニング・サポーター》と《クリア・エフェクター》はシンクロ素材となった時、それぞれカードを一枚ドロー出来る効果がある。よって四枚のカードをドローすると、そのうちの一枚が旋風とともにフィールドへ躍り出た。

「手札の《スカウティング・ウォリアー》は、効果で手札に加えられた時、このモンスターを特殊召喚する! さらに《ワン・フォー・ワン》を発動し、手札を一枚捨ててデッキから《音響戦士ベーシス》を特殊召喚し、墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外する!」

 このターンでトドメを刺さんとすべく、《スカウティング・ウォリアー》の特殊召喚からまだ止まることはない。まずは手札を一枚墓地に送ることで、デッキからレベル1モンスターを呼び出す《音響戦士ベーシス》を特殊召喚すると、他のモンスターとチューニング……することはなく、音響戦士たちの共通効果によって墓地から《音響戦士ピアーノ》を除外する。

「そして墓地の《音響戦士サイザス》を除外することで、除外ゾーンから《音響戦士ピアーノ》を特殊召喚! レベル1の《チューニング・サポーター》に、レベル3の《音響戦士ピアーノ》をチューニング!」

 そんな自発的に除外された《音響戦士ピアーノ》は、魔法カード《ワン・フォー・ワン》の効果で墓地に送っていた《音響戦士サイザス》の、自身を除外することで除外ゾーンの音響戦士を特殊召喚する効果により、再びフィールドへ帰還する。もちろんその役割はシンクロ召喚であり、残っていた《チューニング・サポーター》とチューニングされていく。

「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備!」

 先にシンクロ召喚されるは、シンクロモンスターでありながらも機械戦士たちの補助兵装たるモンスター《アームズ・エイド》。その名の通りすぐさま《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備されたため、《水晶機巧-ハリファイバー》のリンクマーカーが空くと、残る《スカウティング・ウォリアー》に《音響戦士ベーシス》もチューニングされていた。

「集いし勇気が、仲間を護る思いとなる。光差す道となれ! 現れろ! 傷だらけの戦士、《スカー・ウォリアー》!」

 そうして最後にシンクロ召喚されたのは、傷だらけの機械戦士。シンクロ素材とするべく特殊召喚していたモンスターは全てフィールドからいなくなり、残るは敵と対峙するためのモンスターのみ。

「……最後に《シンクロ・グリード》を発動。シンクロモンスターがフィールドに三体存在するとき、カードを二枚ドロー出来る。そして装備魔法《魔導師の力》をハリファイバーに装備し、カードを一枚伏せてバトル!」

 長い下準備がようやく功を労して。こちらのフィールドには《アームズ・エイド》が装備された《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に、《魔導師の力》が装備された《水晶機巧-ハリファイバー》に《スカー・ウォリアー》と、《魔導師の力》の火力を上昇させるためのリバースカードが一枚。

「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で、《ブラック・マジシャン》を攻撃! パワーギア・クラッシャー!」

 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の攻撃力は、《アームズ・エイド》を装備したことで3000。さらに破壊した時に相手モンスターの攻撃力分のダメージを与える効果を持ち、右腕に装備された鍵爪が《ブラック・マジシャン》を襲う。

「墓地から《マジシャンズ・ナビゲート》の効果を発動! このカードを除外することで、相手の表側表示の魔法カードの効果を無効にする!」

「何!?」

 ただし鍵爪が届くより早く、ブラック・マジシャンの一撃が《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に炸裂する。それは墓地から発動した《マジシャンズ・ナビゲート》の効果が備わっており、《アームズ・エイド》の攻撃力を上昇させる効果が無効になった今、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の攻撃力は2000と《ブラック・マジシャン》より下。

「反撃だ、ブラック・マジシャン!」

「くっ……まだだ! 手札から速攻魔法《移り気な仕立て屋》を発動! ハリファイバーに装備された《魔導師の力》を、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》へと再装備する!」

 《ブラック・マジシャン》にあわや迎撃されようとしたところで、手札からの速攻魔法の発動が間に合った。ハリファイバーへと装備されていた《魔導師の力》は《スターダスト・チャージ・ウォリアー》へと装備され、その効果で攻撃力は再び3500ポイントとなって、しまっていた槍を黒魔術師へと向ける。

「スターダスト・クラッシャー!」

「ぐっ……!」

遊戯LP3,100→2,100

「さらに《スカー・ウォリアー》で《幻獣王ガゼル》を攻撃! ブレイブ・ダガー!」

遊戯LP2,100→1,500

 《マジシャンズ・ナビゲート》というイレギュラーはあったものの、イレギュラーにはこちらも《移り気な仕立て屋》というイレギュラーで対応することで、どうにか事なきを得て。さらに残っていた《幻獣王ガゼル》も《スカー・ウォリアー》が破壊し、残るライフポイントは謀ったようにハリファイバーの攻撃力と同じ1500。

「終わりだ! 俺はハリファイバーで――」

「そいつはどうかな!」

 ハリファイバーによるダイレクトアタックでトドメ。そうとだけ考えていた俺の前に、どうしてか先に破壊したばかりの黒魔術師が笑っていた。

「どうして《ブラック・マジシャン》が……!?」

「永続罠《永遠の魂》の効果で墓地から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚させてもらった。この石板とオレの命がある限り、《ブラック・マジシャン》は不滅!」

 《永遠の魂》という名前の通りに、常に傍らには《ブラック・マジシャン》の姿があった。相手ターンだろうと墓地だろうと関係ない、その姿に俺はハリファイバーの攻撃を諦めてしまう。

「どうした? オレはまだ生き残っているぜ」

「……ターンエンドだ」

「おっと。お前のエンドフェイズ、伏せていた《裁きの天秤》を発動させてもらうぜ。カードドロー!」

 お互いのフィールドのカードの数の差だけ、カードをドローすることが出来る一発逆転の罠カード。それは《真実の名》で告げられたことで分かっていたが、トドメを刺さんとその存在を無視していた。こちらのフィールドのカードは六枚、あちらのカードは手札も合わせて三枚のため、通常のドローも加えて四枚のカードが手札に加えられる。

「オレのターン! 魔法カード《馬の骨の対価》を発動し、《ブラック・マジシャン》をコストに二枚ドロー! さらに《永遠の魂》により《千本ナイフ》を手札に加え、《手札抹殺》を発動!」

 《裁きの天秤》に《馬の骨の対価》で手札を補充した後に、《手札抹殺》によって大幅な手札交換を果たしてみせる。そうして選ばれる一枚のカードは――

「神よ! モンスターの力を吸収せよ! オレは貴様のモンスターを三体リリースし、《ラーの翼神竜-球体形》を召喚する!」

「なっ――」

 《水晶機巧-ハリファイバー》、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》、《スカー・ウォリアー》の三体の力を吸収し、俺のフィールドに神は現れる。とはいえ俺に神のカードを扱う資格などあるわけもなく、太陽神はまるで動くことはない。

「魔法カード《所有者の刻印》を発動! モンスターはその本来の所有者の元に戻り、ラーは戦闘モードへと変形する! 現れろ、太陽神!」

 それを示すように相手のフィールドに戻った太陽神は本来の姿を取り戻し、攻撃力4000を誇る《ラーの翼神竜》となると、周囲の空も雷雲から 蒼穹へと変わっていく。こちらのモンスターの力を得た太陽神の咆哮が響き渡り、守ってくれるモンスターがいない俺の身体に直接ぶつけられた。

「バトル! 《ラーの翼神竜》で攻撃! ゴッド・ブレイズ・キャノン!」

「……手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了させる!」

 ……ただ、不幸中の幸いとでも言うべきか、発動された《手札抹殺》によって、バトルフェイズを終了する《速攻のかかし》を引き当てていた。太陽神からの一撃を何とか防いでみせると、墓地に送られていく《速攻のかかし》に心中で感謝するとともに、伏せられたリバースカードを発動する。

「なら伏せていた《ペンデュラム・スイッチ》を発動! エクストラデッキの《音響戦士ギータス》を、ペンデュラムゾーンに置く!」

「それでラーを倒せるか、見せてみな! ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! 《貪欲な壺》、そして《マジック・プランター》を発動し、《ペンデュラム・スイッチ》を墓地に送り四枚ドロー! さらに《音響戦士マイクス》をペンデュラムゾーンにセッティング!」

 こちらのターンに移るなり、《手札抹殺》で手札の交換をしたのは相手だけではないとばかりに、永続罠と墓地のモンスター五枚をデッキに戻すことをコストに二枚の手札補充カードを発動する。さらに永続罠カード《ペンデュラム・スイッチ》の効果により、《黒・魔・導》によってエクストラデッキへと送られていた《音響戦士ギータス》を再利用し、手札から発動した《音響戦士マイクス》とともにペンデュラムスケールを生成。ある召喚方法の証したる魔方陣が空中に浮かんでいく。

「ペンデュラム召喚! 現れろ、俺のモンスターたち!」

 そうしてペンデュラム召喚されたのは、《ドドドウォリアー》に《貪欲な壺》でデッキに戻していた《クリア・エフェクター》。二体でレベル8のシンクロ召喚も可能だが、ひとまずはシンクロ召喚をする気はない。

「さらに《音響戦士ギータス》の効果! 手札を一枚捨てることでデッキから《音響戦士ドラムス》を特殊召喚し、墓地に送られた《リジェネ・ウォリアー》は自身の効果で蘇生される! チューニング!」

 さらにペンデュラム召喚だけではなく、ペンデュラム効果によってデッキから特殊召喚された《音響戦士ドラムス》と、効果で墓地に送られた時に自己再生する効果を持つ《リジェネ・ウォリアー》がフィールドに現れるとともに、《クリア・エフェクター》と《リジェネ・ウォリアー》がチューニングされる。合計レベルは6であり、再び閃光が戦士の形となって顕現する。

「シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》! 続いて《ドドドウォリアー》とオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》のシンクロ召喚とともに、《クリア・エフェクター》のシンクロ素材となった際の効果に加えて、二枚のカードをドローする。そしてフィールドにペンデュラム召喚されていた《ドドドウォリアー》とともに、シンクロ召喚からエクシーズ召喚へと繋がっていく。二体のモンスターが地上に現れた時空の穴に吸い込まれていき、新たなモンスターとして新生し力を貸す。

「集いし魂よ、熱き一撃となりて敵を貫け! エクシーズ召喚! 《ガントレット・シューター》!」

 右腕に腕甲とともに砲台を装備したエクシーズモンスターが召喚され、相手があの《ラーの翼神竜》だろうと砲の狙いを引き絞る。まるでそれが自らの役割だと分かっているかのような動作に応えて、太陽神と対峙しながら効果の発動を命じた。

「《ガントレット・シューター》の効果発動! エクシーズ素材を一つ取り除き、相手モンスターを一体破壊する! スターダスト・クラッシャー!」

 周囲を浮かんでいた光球が《ガントレット・シューター》の砲身に装填されていき、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の力を借りた砲弾が、飛翔する太陽神へと放たれた。まるで本当にスターダスト・チャージ・ウォリアーが乗り移ったように、砲弾は誘導し太陽神の中心を穿ち抜き――《ラーの翼神竜》は、新たな形態となっていた。

「《ラーの翼神竜》は墓地に送られた時、不死鳥となって甦る!」

「……だが、《ガントレット・シューター》の効果はまだ残ってる! ドドドアックス!」

「炎の鎧にそんな物は通用しない……」

「くっ……なら、ドラムスがいることで墓地のピアーノを除外し、再び現れろ! 光差すサーキット!」

 文字通りに不死鳥と化した太陽神の前に、《ドドドウォリアー》の力を借りた《ガントレット・シューター》の効果は、炎の鎧によって無駄に終わってしまう。攻撃力も4000と《ガントレット・シューター》では太刀打ち出来ず、不死鳥とこちらのフィールドを遮るように、回路が繋がっていないサーキットが現れる。

「《音響戦士ドラムス》と《ガントレット・シューター》をリンクマーカーにセット! リンク召喚! 《水晶機巧-ハリファイバー》! 効果発動!」

 《クリア・エフェクター》に《スターダスト・チャージ・ウォリアー》とともに《貪欲な壺》なデッキで戻した《水晶機巧-ハリファイバー》の効果により、デッキからレベル3以下のチューナーモンスター《チューン・ウォリアー》を特殊召喚する。ペンデュラム、シンクロ、エクシーズ、そしてリンク召喚と繋げては来たが、不死鳥を倒す手段はない。

「魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手が前のターンに発動したカードを手札に加え、発動出来る! 俺が発動するのは、《馬の骨の対価》! 《チューン・ウォリアー》をコストに二枚ドロー……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「エンドフェイズ、不死鳥は再び墓地へと舞い戻るが、球体形となって特殊召喚される」

「こっちもエンドフェイズに《音響戦士マイクス》の効果。除外された音響戦士、ピアーノを手札に加える」

 最後に《蜘蛛の糸》で奪った《馬の骨の対価》によって、デッキから特殊召喚した《チューン・ウォリアー》をコストに二枚ドローし、カードを一枚伏せてターンを終了すると、お互いにエンドフェイズ時に発動する効果を処理していく。これで俺のフィールドは《水晶機巧-ハリファイバー》にペンデュラム音響戦士が二対に、リバースカードが一枚に残るライフポイントは700で相手ターンを迎えることとなった。

「オレのターン、ドロー! 《永遠の魂》の効果で《ブラック・マジシャン》を特殊召喚する!」

 対する相手のフィールドは、不死鳥から球体となった太陽神に蘇生された《ブラック・マジシャン》、永続罠カード《永遠の魂》に二枚のリバースカードで、残るライフポイントは1500。リンクモンスターはその特性上、守備表示が存在しないため、《ブラック・マジシャン》でハリファイバーを攻撃するだけで俺のライフは尽きるのだが、それは先の《ラーの翼神竜-球体形》の時も同様だ。

「伏せていた《転生の予言》を発動! 墓地のカードをデッキに戻し、球体形は自身をリリースすることで、デッキから《ラーの翼神竜》を特殊召喚する! 再び起動せよ、ラーの翼神竜!」

 ならば相手も分かっている、こちらが狙っているハリファイバーの効果を。その証拠に《ブラック・マジシャン》でただ攻撃してくることはなく、再び球体形から太陽神を戦闘モードへと変形させていく。そして太陽神がフィールドに現れるとともに、こちらのフィールドにも新たなドラゴンが現れていた。

「《水晶機巧-ハリファイバー》のもう一つの効果! 相手ターンにこのカードをリリースすることで、エクストラデッキからシンクロチューナーをシンクロ召喚する! 来てくれ――《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

遊矢LP700→4,000

 《水晶機巧-ハリファイバー》の効果によって、太陽神から俺を守るように《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が出現する。さらにシンクロ召喚扱いの特殊召喚のため、ライフポイントを4000へと回復する効果も発動し、太陽神の攻撃を耐え抜かんと待ち構える。

「速攻魔法《黒魔術師の継承》を発動! 墓地の魔法カードを二枚除外することで、《ブラック・マジシャン》のサポートカードを手札に加え、発動する! 《黒・魔・導》!」

「やられてばかりじゃない! 《奇跡の発掘》は破壊された時、墓地の同名カードの数だけドローできる!」

「そして《ラーの翼神竜》の効果! 1000ポイントのライフを払うことで、相手モンスターを一体破壊する!」

遊戯LP1,500→500

 そんなこちらの意思に応じるように、苛烈な攻めがこちらへと叩き込まれる。墓地から手札に加えられた《黒・魔・導》によって、ペンデュラムカードと伏せていた《奇跡の発掘》は破壊され、《奇跡の発掘》によるドロー効果など関係ないとばかりにさらに太陽神の一撃が《ライフ・ストリーム・ドラゴン》へと炸裂する。もはや《速攻のかかし》を使ってしまった今、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を破壊されるのは俺の敗北と同義。

「墓地から《スキル・プリズナー》の効果を発動! このカードを除外することで、このターン、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》はモンスター効果を受けない!」

「なら直接破壊させてもらうぜ! 《ブラック・マジシャン》で攻撃!」

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果発動! 墓地から装備魔法を除外することで、あらゆる破壊を無効にする!」

 皮肉にも相手の《手札抹殺》で墓地に送られていた《スキル・プリズナー》によってラーの一撃をかわし、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は自身の効果によって《ブラック・マジシャン》の攻撃から身を防ぐ。守備表示のためにもちろんダメージはないが、黒魔術師に続いて太陽神が飛翔する。

「ラーの翼神竜で攻撃! ゴッド・ブレイズ・キャノン!」

「まだだ! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は自身の効果で破壊を無効にする!」

「ああ、まだだぜ! リバースカード、オープン! 《神秘の中華鍋》を発動! 地から蘇りし天を舞え! 炎を纏う不死鳥となりて!」

遊戯LP500→4,500

 更なるラーからの追撃も墓地から《パイル・アーム》を除外することで防いでみせたが、太陽神は不死鳥と形態を変え、バトルフェイズ中の特殊召喚のためにさらに攻撃を仕掛けてくる。それでも《スキル・プリズナー》によってモンスター効果を受けない以上、戦闘破壊しか《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を止める術はないが、まだ墓地に身代わりとなる装備カードは残っている。

「ラーよ、竜を焼き尽くせ! ゴッドフェニックス!」

「だが、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果――」

「――それはどうかな」

 不死鳥の舞う炎の奥から垣間見えた不敵な笑み。その笑みが示すように発動して墓地に送られたはずの《魔導師の力》は墓地のどこにもなく、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は不死鳥と化した《ラーの翼神竜》に飲み込まれていく。

「《転生の予言》……ライフ・ストリーム・ドラゴン!」

 その答えは、このターン始めに発動されていた罠カード《転生の予言》。お互いの墓地から二枚までのカードをデッキに戻すあのカードによって、自身の《ラーの翼神竜》とともに俺の墓地から《魔導師の力》をデッキに戻していたのだ。よって破壊耐性を十全に活かせなかった《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は、不死鳥によって燃え尽きてしまう。

「エンドフェイズ、ラーは再び墓地へと舞い戻る。ターンエンドだ」

「……俺のターン、ドロー! カードを一枚セットし、魔法カード《 ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊して二枚ドロー!」

 それでも《ライフ・ストリーム・ドラゴン》のおかげで、俺のライフポイントは十全なまま残っている。戦闘が終わり、あちらのフィールドは《ブラック・マジシャン》と力を失った《ラーの翼神竜-球体形》に、永続罠《永遠の魂》となって。太陽神の猛攻にこちらのフィールドはがら空きとなってしまったが、そのフィールドには旋風が巻き起こる。

「破壊されたカードは《リミッター・ブレイク》! このカードが破壊された時、デッキ・手札・墓地のいずれから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェイバリットカード!」

 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が命がけで繋いでくれたフィールドに、《リミッター・ブレイク》を介しながらもマイフェイバリットカードが現れ、俺の傍らに立ちながらも黒魔術師と太陽神に対峙する。

「さらに装備魔法《継承の印》を発動! 墓地に三体揃ったモンスターのうち一体を、このカードを装備することで蘇生する! 蘇れ、《チューニング・サポーター》!」

 だが《スピード・ウォリアー》が敵と対峙するのはまだ先だ。まずは装備魔法《継承の印》で墓地の《チューニング・サポーター》を特殊召喚すると、その特殊召喚に反応して手札からの速攻魔法を発動する。

「速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動し、デッキからさらに二枚の《チューニング・サポーター》を特殊召喚することで、墓地から《ブンボーグ001》が蘇生する! 四体のモンスターでチューニング!」

 攻撃力1500以下の《チューニング・サポーター》が特殊召喚されたことで、さらに二体の同名モンスターを特殊召喚する《地獄の暴走召喚》が発動し、同時に二体の機械族モンスターが特殊召喚されたことで《ブンボーグ001》は蘇生する。その連鎖は四体のシンクロ召喚にまで繋げられ、閃光とともに鋼鉄の咆哮が木霊する。

「《パワー・ツール・ドラゴン》をシンクロ召喚し、効果発動!」

「……左のカードだ」

「……さらに――」

 シンクロ素材となった《チューニング・サポーター》の効果によって三枚のカードをドローし、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果でさらに装備魔法カードが手札に加えられる。それでも《手札断殺》によってさらに手札を交換し、ようやく待ち望んでいたそのカードを掴むと。

「……俺は、《ヘルモスの爪》を発動! モンスター一体と融合し、モンスターの装備カードとなる! 《パワー・ツール・ドラゴン》と融合!」

 ――モンスターと融合し装備カードとする魔法カード《ヘルモスの爪》。対象は機械族である《パワー・ツール・ドラゴン》であり、《パワー・ツール・ドラゴン》の装備がフィールドに残る《スピード・ウォリアー》に移し変えられていく。

「融合召喚! 《ビックバン・ドラゴン・ブロー》!」

 《スピード・ウォリアー》に《パワー・ツール・ドラゴン》の爪が、翼が、装甲が、尻尾が、それぞれ融合していくが、何より目を引くのは腕にグローブのように装備されたパワー・ツール・ドラゴンの頭部。《ビックバン・ドラゴン・ブロー》という名前の通りに竜の顎をその身に宿した《スピード・ウォリアー》は、神を打倒すべく俺から離れていく。

「《音響戦士ピアーノ》を召喚し、《ビックバン・ドラゴン・ブロー》の効果を発動! 俺のモンスターを一体リリースすることで、相手モンスターを全て破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 先のターンに《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果で手札に戻っていた《音響戦士ピアーノ》をコストに、《ビックバン・ドラゴン・ブロー》の効果を発動すれば、スピード・ウォリアーの腕に装備された竜の顎が開く。今まで無敵を誇っていた《ラーの翼神竜》だが、今は力を失った球体形と、神を倒すチャンスは今しかない。パワー・ツール・ドラゴンを模した《ビックバン・ドラゴン・ブロー》から放たれた業火は、神を含む相手のフィールドを焼き尽くしていく。

「言ったはずだぜ! 《永遠の魂》とオレのライフがある限り、《ブラック・マジシャン》は不滅だってな!」

「ならラーだけでも破壊させてもらう!」

 ただし狙いの一つだった《ブラック・マジシャン》には、石板と化した《永遠の魂》によって防がれてしまうが、球体形だったラーはなす術なく業火に巻き込まれていく。とはいえその攻撃力は0のために、《ビックバン・ドラゴン・ブロー》の追加バーンダメージは与えられずにいたが、それでもとにかく太陽神の破壊には成功する。

「さらに装備魔法《月鏡の盾》を装備し、バトル! 《スピード・ウォリアー》で《ブラック・マジシャン》に攻撃する! ソニック・エッジ!」

「だが《ブラック・マジシャン》の攻撃力は2500!」

「ああ! 《月鏡の盾》を装備したモンスターが相手モンスターと戦闘する時、相手の攻撃力に100ポイント加えた数値になるがな!」

 《パワー・ツール・ドラゴン》の効果によってサーチされていた装備魔法《月鏡の盾》が、《ビックバン・ドラゴン・ブロー》を装備していない方の腕に装備され、《スピード・ウォリアー》と《ブラック・マジシャン》が対峙する。先手を取ったブラック・マジシャンが魔力弾を連射するが、それらは全て《月鏡の盾》に弾かれていき、パワー・ツール・ドラゴンの装甲を纏った蹴りがブラック・マジシャンに炸裂する。

「っ……だが《ブラック・マジシャン》は、《永遠の魂》の効果により再びフィールドに戻る!」

遊戯LP4,500→4,400

「……メインフェイズ2、装備魔法《スピリット・バーナー》を《スピード・ウォリアー》に装備し、その効果により装備モンスターを守備表示とする」

 とはいえ破壊したところでダメージは僅かに100ポイントであり、しかも永続罠《永遠の魂》によってすぐさま主人の傍らに立つ黒魔術師の姿を見ると、とても戦闘破壊したとは思えなかった。やはりあの石板、《永遠の魂》が攻略の鍵となるか。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「オレのターン、ドロー!」

 これまでお互いに主力から切り札クラスのモンスターまでをぶつけ合ってきて、どちらもが理解していたことが一つある。こちらで言えば《ライフ・ストリーム・ドラゴン》、あちらで言えば三幻神まで使い潰したこのデュエル、もはや決着が近いと。故に戦闘においては無敵となる《月鏡の盾》を装備してなお、表示形式を守備表示とする装備魔法《スピリット・バーナー》をも出し惜しみせずに装備する。

「オレは魔法カード《騎士の称号》を発動! 《ブラック・マジシャン》をリリースすることで、デッキから《ブラック・マジシャンズ・ナイト》を特殊召喚する!」

 残る相手の手札は三枚、そのうちの一枚が発動すると、《ブラック・マジシャン》がその名の通りに《騎士の称号》を得て、杖は剣に服は鎧へと変わっていく。そのままこちらのフィールドへと向かって来て、杖の代わりとなる長剣をスピード・ウォリアーへと振りかぶった。

「《ブラック・マジシャンズ・ナイト》が特殊召喚に成功した時、相手のカードを一枚破壊する!」

「手札から《エフェクト・ヴェーラー》を捨てることで、その効果を無効にする!」

 《スピード・ウォリアー》を切り裂かんと襲いかかった長剣は、突如として現れた《エフェクト・ヴェーラー》の羽衣によって絡み取られ、武器を失った《ブラック・マジシャンズ・ナイト》は相手フィールドへと後退する。フィールドから《エフェクト・ヴェーラー》が消えるとともに、その長剣は《ブラック・マジシャンズ・ナイト》の手に戻るが、効果を失ったことには変わりはない。

「止められたか……ならば! オレに力を! 《レジェンド・オブ・ハート》! 戦士族モンスターと、2000のライフポイントを生け贄に捧げ、伝説の騎士たちを特殊召喚する!」

遊戯LP4,400→2,400

 魔法カード《レジェンド・オブ・ハート》。その強大なコストに2000ポイントのライフと、戦士族となった《ブラック・マジシャンズ・ナイト》がリリースされると、代わりに墓地から現れた三枚の魔法カードと、さらにそこからは三体の竜が出現すると、それらの竜が閃光とともに新たな姿を獲得していく。

「伝説の騎士! ティマイオス! クリティウス! ヘルモス!」

「ヘルモス……!?」

 その伝説の騎士たちの一角の名には聞き覚えがあったが、そんなことを気にしている場合ではない。フィールドに揃えられた三体の騎士は、今まで戦ってきた三幻神と勝るとも劣らないオーラを放っており、まさに竜騎士といった風貌でこちらに剣を構えているのだから。

「見せてやるぜ……オレの勝利へのラストアタックを! 伝説の騎士の効果を発動! このカードが特殊召喚された時、相手の魔法・罠カードを除外する!」

「ッ!?」

 三体の竜騎士が持つ剣から放たれたカマイタチに、俺のフィールドを守っていた三枚の装備魔法が全て除外される。《ビックバン・ドラゴン・ブロー》、《月鏡の盾》、《スピリット・バーナー》、それらを全て失った《スピード・ウォリアー》は、丸裸で伝説の騎士の前に立たされていた。

「バトル! ティマイオスでスピード・ウォリアーに攻撃! ジャスティス・ソード!」

「リバースカード、オープン! 《機械仕掛けのマジックミラー》!」

 三騎士の攻撃を防ぐ手段は今の俺には存在しない。しかして最後の最後まで残されたそのリバースカードは、相手の墓地から魔法カードを発動することが出来る効果を持つ。

「……悪いが、伝説の騎士を止められるカードは、オレのデッキにも一握りだけだぜ」

「いや……2000のライフポイントと、戦士族一体を生け贄に捧げる、だったな?」

 フィールドに現れるマジックミラーには、相手の墓地の魔法カードが浮かび上がっては消えていくが、確かにそう都合よく相手の墓地に起死回生の一手があるわけもない。それでも俺が選択し、マジックミラーに浮かぶ魔法カードはただ一つ。

「俺が選ぶカードは、《レジェンド・オブ・ハート》!」

遊矢LP4,000→2,000

 ライフコスト2000は《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果のおかげで、戦士族モンスターはフィールドにマイフェイバリットモンスターがおり、俺の墓地には魔法カード《ヘルモスの爪》が存在している。罠カード《機械仕掛けのマジックミラー》の発動条件は全て満たしており、つい先程に相手のフィールドへ起こったことのように、今までは力の一端である爪しか見せなかった伝説の竜が、《スピード・ウォリアー》とともに飛翔する。

「新たな力を掴め! スピード・ウォリアー――いや、《伝説の騎士 ヘルモス》!」

 俺の渇いた叫びに応えるかのように、《スピード・ウォリアー》と《伝説の竜 ヘルモス》が一つとなっていく。真紅の鎧を着込み剣を持った《スピード・ウォリアー》は、伝説の騎士の一角としてフィールドに再臨する。ただし相手のフィールドにいる伝説の騎士は三体に対し、こちらはヘルモス一体――なれど、遂に敵へ致命の一撃を放つ時が来た。

「《伝説の騎士 ヘルモス》の効果! このモンスターが特殊召喚に成功した時、相手の魔法・罠カードを除外する! 俺が除外するのは、永続罠カード《永遠の魂》だ!」

 ここまで戦ってきた長いデュエルの果てに、ようやく訪れた一瞬の、それもヘルモスというイレギュラーにのみしか突けない隙。ヘルモスの剣戟から放たれた衝撃波は、三体の伝説の騎士を通りすぎて《永遠の魂》へと迎い、ずっと発動されていた石板を遂に砕く。すると現世に現界する力を失ったかのように、伝説の騎士たちはフィールドから消えていく。

「……《永遠の魂》がフィールドを放れた時、俺のモンスターは全て破壊される」

 この石板とオレの命がある限り――と、わざとらしく相手から与えられていたヒント。そのヒントに違わず《永遠の魂》を失った伝説の騎士はフィールドを離れていくが、砕けた石板から影のように新たなモンスターの姿が見える。

「魔法・罠カードの効果が発動された時、《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》は手札から特殊召喚できる! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に攻撃!」

 影のような、というのはあながち間違いではなかったのか、《ブラック・マジシャン》の影のようなモンスター。バトルフェイズによる特殊召喚のため、まだバトルは続けられるものの、その攻撃力は《ブラック・マジシャン》のステータスを反対にした2100。

「墓地から《スキル・サクセサー》を発動! 攻撃力を800ポイントアップし、《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》がいる時に魔法・罠カードが発動した時、墓地から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚できる!」

 狙いは墓地からの《スキル・サクセサー》の発動とともに、《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》の攻撃力を《伝説の騎士 ヘルモス》より上げるとともに、その効果によって《ブラック・マジシャン》が特殊召喚される。これで《伝説の騎士 ヘルモス》を破壊し、《ブラック・マジシャン》のダイレクトアタックを決めればこちらの負けではあるが。

「悪いが――俺にはもう、見えている! 《伝説の騎士 ヘルモス》が攻撃対象になった時、墓地のモンスターの効果を吸収する! イクイップ・アーマード!」

遊矢LP2,000→1,900

 《伝説の騎士 ヘルモス》の第二の効果。《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果を吸収し、墓地の《継承の印》を除外することで破壊を免れる。そうしてバトルフェイズは終了し、《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》の攻撃力は元々のものになりながら、相手のフィールドへ戻っていく。

「……ターンエンド」

「俺のターン、ドロー! 《スピード・ウォリアー》を召喚!」

 相手のフィールドには二体の黒魔術師。どちらも《伝説の騎士 ヘルモス》には劣るステータスで、リバースカードも存在しない。それでも相手にはもはやターンを渡してはならないと、けたたましく直感を鳴らす警鐘に従って、二体目の《スピード・ウォリアー》を召喚し、さらにもう一枚の魔法カードを発動する。

「《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》の力を一つに! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス!》 ――バトル!」

 降臨する切り札とともに三体のモンスターが黒魔術師たちと対峙しあい、後はもう殴るだけだとばかりに攻撃宣言を行う。

「ヘルモス! ドラゴエクィテス! 黒魔術師たちを破壊せよ!」

遊戯LP2,400→1,000

 伝説の騎士と波動竜騎士のニ柱により、遂に王座を守る二対の玉座は破られたことで、王に至る道を阻むものはもう存在しない。息をつかせる暇を与えるなと、二体のモンスターの間をすり抜け《スピード・ウォリアー》が疾走する。

「《スピード・ウォリアー》は召喚したターンのみ、攻撃力は倍となる! ダイレクトアタックだ!」

 自身の効果によって相手のライフポイントを越え、マイフェイバリットモンスターは王に肉薄する。後はもう――届け、届け、と祈るしかない。

「ソニック・エッジ!」

「…………」

 ――王は敗北の瞬間まで何も語ることはなかった。ただ、どこか優しげな表情で微笑んでいたのみで。

デュエルシミュレーターLP1,000→0

「……ハァ…………」

「大丈夫か!」

 ARデュエルシミュレーターの電源が落ちるとともに、場所はバトルシティの決勝の場となった決闘塔ではなく、データを取るための機材が置かれた三沢の研究室へと戻っていく。デュエル後の疲れについつい尻餅をついて座り込んでしまうと、隣の部屋から様子をチェックしていた三沢が血相を変えて駆け込んでくる。

「ああ、大丈夫だ……疲れただけ」

「ならいいが……相手が相手だったからな」

「いや……やっぱり相手は、ただのデュエルシミュレーターだったよ」

 三沢に手を借りながら立ち上がると、今しがたまで激闘を繰り広げていた、仮初めのデュエルキングを想う。プログラムを越えて神のカードまでも現出させてみせた敵だったが、決してアレはデュエルキングなどではなかったと。例えるならば半身がないような、そんな言い様のない違和感を感じざるを得なかった。

「でもそれは、俺にも【機械戦士】にも、まだまだ先があるってことだろ?」

「デュエルはまだまだ進化する、か……どう思う、遊矢?」

「どう思うも何も――」

 今回テストしたARデュエルやデュエルシミュレーターのように、デュエル自体が進化することもあれば、その度に俺も機械戦士たちも進化していく。例えばリンク召喚もその一例であり、三沢もそう連想したのか、答えが分かりきった問いを投げかけてくる。デュエルディスクに差し込まれたままの機械戦士デッキをチラリと見ながら、愚問だとばかりにニヤリと三沢へ言葉を返す。

「――楽しんで勝ってやるに決まってるさ」

 
 

 
後書き
 彼はデュエルキングではない(腹パン)。具体的に言うと映画最初のアレ。ちなみに神のカードや名もなき竜は全てOCG効果ですが、原作効果ですとオシリスの時点で召雷弾に詰みます。

 ついでに当然のようにリンク召喚を使ってますが、まあそこら辺は適当に。ハリファイバーやばい(遺言)