遊戯王デュエルモンスターズ ~風神竜の輝き~


 

第1話 新たなる出会い

デュエル・モンスターズ。
それは今や、多くの人々の娯楽はおろか、国際競技にもなっているカードゲームの名前だ。
日本のとある町、アルカディアシティでも、人口のおよそ7割以上がこのデュエル・モンスターズのプレイヤーであり、ソリッドビジョンシステムを駆使し、セットしたカードが実体化するようになるデュエル・ディスクが開発されてからは、日夜、様々な場所でデュエルが繰り広げられるようになった。
この町に住む少年、『南雲(なぐも) 遊雅(ゆうが)』もまた、デュエル・モンスターズの熱狂的なファンの1人であった。
そんな彼は今年から、市内の高等学校に入学する。
新たな環境で、新たな友人たちと出会い、そして、どんな楽しいデュエルが待っているのか、彼は心を躍らせながら入学式の日を迎えた。

「遊雅、友達たくさん作って来るのよ」
「ああ!デュエリストの友達ができれば、もっとたくさんデュエルができるからな!母さん、行ってきます!」

気合も十分に、遊雅は家を飛び出した。
自宅から少し移動した所で、遊雅はある人物と遭遇する。

「あっ、遊雅、おはよう!」
「よっ、亜璃沙!」

彼女は遊雅の幼馴染、『神原(しんばら) 亜璃沙(ありさ)』。
彼女もまたデュエル・モンスターズのプレイヤーであり、今春から遊雅と同じ翔竜高校(しょうりゅうこうこう)に入学する事になっている。

「その様子だと、早く新しい人と出会いたくて我慢できないみたいね?」
「当たり前だろ!早くデュエルしたくてうずうずしてるぜ!」
「もう……昨日も私とデュエルしたって言うのに……ほんとにデュエル馬鹿なんだから」
「何と言われようと、俺は三度の飯よりデュエルが好きだからな!それに……」

遊雅は自分のデッキケースから、1枚のカードを抜き取り、じっくりとそれを眺める。
《フレスヴェルク・ドラゴン》。それは、遊雅が父親から譲り受けたカードだった。

「俺はこいつと、最強のデュエリストになるって決めたんだ!」
「はいはい、もう何度も聞いたわよ。あっ、ほら、そろそろ着くわよ」
「よっしゃ、腕が鳴るぜ!」
「あっ、ちょっと遊雅!」

遊雅はまだ見ぬ好敵手との出会いに期待して、いても立ってもいられずに走り出した。
他の生徒達の隙間を縫うように、素早く確認した自分のクラスの教室へ急ぐ。
そして、教室へ入るが否や、彼は教卓に立ってこの様に叫んだ。

「みんな!俺とデュエルしようぜ!」

突然の呼び掛けに、教室内の面々は一時驚き遊雅に視線を向けたが、すぐに大部分は彼への興味を失くして、各々の会話に戻ってしまった。

「あっるぇ~?何でみんな興味なさそうなんだ……」
「あっ、いたいた。もう、遊雅、いきなり走り出さないでよ」
「あっ、亜璃沙。お前ひょっとして同じクラスか?」
「ええ、そうよ。それよりどうしたの?不思議そうな顔して」
「あぁ、いや……デュエルしようぜ、って呼び掛けたんだけど、何かみんな興味なさそうでな」
「そりゃあ、たった今初めて会った人にデュエルしようって言われても、戸惑うでしょ」
「うーん、そっかなー……俺なら喜んでデュエルするけど」
「遊雅は他の人とは違うのよ」

言い捨てながら、亜璃沙は教卓のディスプレイに表示されている座席表に従って、自分の席に向かった。
遊雅もそれに(なら)い、座席表で自分の席を確認する。
どうやら、廊下側の後ろから2番目、亜璃沙の隣の席のようだった。
自分の席に向かい、腰を落ち着けた遊雅に、後ろから話しかけてくる人物がいた。

「君、デュエルするの?」
「えっ?ああ、大好きだぜ。お前は?」
「僕は『天藤(てんどう) 秋弥(しゅうや)』。僕もデュエルが大好きなんだ。よかったら、放課後にでも、僕とデュエルしてくれないかな?」
「おっ、まじか!お安い御用だぜ!」
「それと、その……デュエルだけじゃなくて、僕と、友達になってくれないかな?」
「ああ、勿論だ!俺は南雲遊雅!よろしくな!」
「うん、よろしくね!」

2人のやり取りを見ていた亜璃沙も、その会話に参加する。

「私は遊雅の幼馴染で、神原亜璃沙って言うの。私の事もよろしくね、天藤君!」
「神原さん、だね。うん、よろしく!」
「亜璃沙もデュエルするんだぜ!まっ、俺にはかなわないけど、そこそこ出来るから、楽しみにしてろよ!」
「俺にはかなわない、は余計よ!」
「あはは、2人とも、仲がいいんだね」

3人で会話に華を咲かせていると、入学式の時間はすぐに訪れた。
上級生からの激励の言葉には多少胸を打たれる気もしたが、その後の理事長の長ったらしい演説には、辟易せざるを得ない新入生一同であった。
しかし、遊雅にとってはその後、個人的に入学式よりも大事なビッグイベントが待っている。
高校での最初の友人とのデュエルだ。
いよいよ、その瞬間が訪れようとしていた。
LHRにて担任教師からの連絡事項を聞き終えた遊雅は、秋弥と亜璃沙を引き連れて、昇降口の目の前の噴水広場に陣取った。

「よし、秋弥!早速始めるぞ!」
「うん、よろしく、遊雅!」

お互いに左腕にデュエル・ディスクを装着し、起動させる。
最初はただの長方形の機械でしかなかったデュエル・ディスクは一瞬の内に変形し、各種カードをセットするためのアームがその姿を現した。
デッキホルダーに自分のデッキをセットした2人のデュエリストは、声を揃えてこう叫ぶ。

「「デュエル!!」」

これがデュエル開始の意思表示だ。
次第に、噴水広場にこのデュエルを観戦しようと人が集まり始めた。

「先攻はもらうぜ!俺は手札から《クラスターズ・ファルコン》を召喚!」

デュエル・ディスクにセットされたカードがソリッドビジョンシステムによって実体化する。
鮮やかなエメラルドグリーンの羽毛に身を包んだ巨大な鳥のようなモンスターが、2人の間に姿を現した。

《クラスターズ・ファルコン》
☆☆☆☆ 風属性
ATK/1600 DEF/1200
【鳥獣族・効果】
このモンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、自分の手札に《クラスターズ・ファルコン》が存在する場合、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

「《クラスターズ・ファルコン》の効果発動!召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、手札に《クラスターズ・ファルコン》がある場合、そいつも特殊召喚できる!来い!《クラスターズ・ファルコン》!」

遊雅がデュエル・ディスクにもう1枚の《クラスターズ・ファルコン》を置くと同時に、フィールド上にもう1体の《クラスターズ・ファルコン》が姿を現す。

「先行は攻撃できないからな。俺はリバースカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

遊雅の足元に、表が下を向いた状態のカードが実体化する。
これが、リバース状態のカードのソリッドビジョンだ。

「よし、僕のターンだね、ドロー!」

今ドローしたカードを含めた6枚の手札を確認して、秋弥は最初の一手を打つ。

「僕は《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》を、手札から特殊召喚!」

獰猛な爪と牙を持った二足歩行の恐竜が、秋弥のすぐ隣に姿を現した。

俊足(しゅんそく)のギラザウルス》
☆☆☆ 地属性
ATK/1400 DEF/400
【恐竜族・効果】
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、相手は相手の墓地に存在するモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。

「特殊召喚する効果を使った時、相手は墓地からモンスターを特殊召喚できるけど、遊雅の墓地にはまだ何もないよね?」
「ああ、まだないぜ」
「それじゃあ、何も起こらないよ。そして僕は、《ジュラック・ガリム》を召喚だ!」

今度は、炎に包まれた一見すると鳥のような姿をした恐竜型のモンスターが現れた。

《ジュラック・ガリム》
☆☆ 炎属性
ATK/1200 DEF/0
【恐竜族・チューナー】
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時に発動する。
相手は手札を1枚捨ててこのカードの効果を無効に出来る。
捨てなかった場合、このカードを破壊したモンスターを破壊する。

「そして僕は、レベル3の《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》に、レベル2の《ジュラック・ガリム》をチューニング!」
「チューニングって……まさか、いきなりシンクロ召喚!?」

《ジュラック・ガリム》が光の輪に変わり、《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》がその輪の中を駆け抜ける。
すると、《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》もまた眩い光に包まれた。

「来い!レベル5、《ジュラック・ヴェルヒプト》!!」

俊足(しゅんそく)のギラザウルス》を包んだ光が消えた時、その姿は全く別の物に変わっていた。
爪は更に鋭い物に変わり、その身に炎をまとった紫色の二足歩行の恐竜の姿に。

《ジュラック・ヴェルヒプト》
☆☆☆☆☆ 炎属性
ATK/? DEF/?
【恐竜族・シンクロ/効果】
チューナー+チューナー以外の恐竜族モンスター1体以上
このカードの攻撃力・守備力は、このカードのシンクロ素材としたモンスターの元々の攻撃力を合計した数値になる。
また、このカードが裏側守備表示のモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算を行わず裏側守備表示のままそのモンスターを破壊できる。

「すげぇな秋弥!1ターン目からシンクロ召喚しちまうなんて!けど、攻撃力も守備力もそんなんじゃ、俺の《クラスターズ・ファルコン》は倒せないぜ!」
「それはどうかな、《ジュラック・ヴェルヒプト》の攻撃力と守備力はね、シンクロ素材にしたモンスターの攻撃力の合計と同じになるんだよ」
「シンクロ素材にしたモンスターの攻撃力の合計……と言う事は!」
「そう!素材にした《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》と《ジュラック・ガリム》の攻撃力の合計は2600。よって、《ジュラック・ヴェルヒプト》の攻撃力と守備力は、2600になる!」

《ジュラック・ヴェルヒプト》
ATK/?→ATK/2600 DEF/?→DEF/2600

「バトルだ!ヴェルヒプトで、《クラスターズ・ファルコン》に攻撃!バーニング・スクラッチ!」
「残念だが、(トラップ)カード、《大旋風(だいせんぷう)》を発動だ!」

遊雅の足元に実体化していた裏向きのカードの1枚が起き上がる。
2羽の鳥が激しく羽ばたき、巨大な竜巻が起きている様子が描かれたカードだった。

大旋風(だいせんぷう)
罠カード
自分フィールド上に表側表示の鳥獣族モンスターが2体以上存在する場合のみ発動できる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

「《大旋風(だいせんぷう)》の効果で、《ジュラック・ヴェルヒプト》の攻撃は無効!《クラスターズ・ファルコン》には届かないぜ!」

2体の《クラスターズ・ファルコン》が激しく羽ばたき、強風を発生させる。
その風に煽られ、《クラスターズ・ファルコン》に向かって力強く走り続けていた《ジュラック・ヴェルヒプト》は、その突進を続けられなくなり、秋弥の元へ吹き飛ばされてしまった。

「くっ、やるね!それじゃあ僕は、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」
「よし、俺のターン!ドロー!」

遊雅が引いたのは、《フレスヴェルク・ドラゴン》だった。

「来たぜ!俺は、2体の《クラスターズ・ファルコン》をリリースして、手札から《フレスヴェルク・ドラゴン》をアドバンス召喚!」

2体の《クラスターズ・ファルコン》が旋風に包まれ重なり合い、1つの巨大な竜巻となる。
その強風を払い、群青色の鱗に覆われた美しい鳥のような姿をしたドラゴンが、甲高い雄叫びを上げながら姿を現した。
これが、遊雅のエースモンスター、《フレスヴェルク・ドラゴン》の姿だ。

《フレスヴェルク・ドラゴン》
☆☆☆☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/2500 DEF/1800
【ドラゴン族・効果】
風属性モンスター2体をリリースしてこのモンスターのアドバンス召喚に成功した場合、以下の効果を得る。
●このモンスターは、1ターンに2回まで攻撃する事ができる。
●1ターンに1度、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する事ができる。

「風属性のモンスター2体をリリースしてアドバンス召喚したこいつは、1ターンに1度、フィールド上のカードを1枚破壊する事ができ、1度のバトルフェイズに2回攻撃する事ができる!」
「えっ、そんな!」
「まずはその効果で、《ジュラック・ヴェルヒプト》を破壊だ!ジャッジメント・ストーム!」

遊雅がそう叫んだ直後に、《フレスヴェルク・ドラゴン》もまた雄叫びを上げ、その立派な翼を激しく羽ばたかせ始める。
その風は鋭利な刃となって、《ジュラック・ヴェルヒプト》をバラバラに切り裂いた。

「あぁ!ヴェルヒプト!」
「続けてバトルだ!《フレスヴェルク・ドラゴン》で、秋弥へダイレクトアタック!ゴッドバード・スラスト!!」

今度は《フレスヴェルク・ドラゴン》自体が旋風をまとい、秋弥に向けて勢いよく飛び出した。

伏せ(リバース)カードオープン!《次元幽閉(じげんゆうへい)》!攻撃してきたモンスターをゲームから除外するよ!」

次元幽閉(じげんゆうへい)
罠カード
相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を選択して発動できる。
選択した攻撃モンスターをゲームから除外する。

《フレスヴェルク・ドラゴン》の進路に、禍々しい異次元空間が口を開けた。

「へっ、(わり)ぃがこのデュエルは俺の勝ちだ!伏せ(リバース)魔法(マジック)発動!《風神(ふうじん)加護(かご)》!」

風神(ふうじん)加護(かご)
速攻魔法カード
風属性モンスター1体を対象とする効果モンスターの効果・魔法・罠カードが発動された時に発動する事ができる。
そのカードの発動を無効にして破壊する。
また、このターン相手は、同じ対象に対して効果モンスターの効果・魔法・罠カードを発動する事はできない。

一際強い風を身にまとった《フレスヴェルク・ドラゴン》は、再び大きく吼えた。
進路上に口を開けていた異次元空間を物ともせずに突き抜け、秋弥に向かって飛行を続ける。

「このカードの効果で、《フレスヴェルク・ドラゴン》に対する《次元幽閉(じげんゆうへい)》の効果は無効!大人しく攻撃を食らってもらうぜ!」
「そんな……うわぁっ!!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》の突進を受けた秋弥は、後方へ吹き飛ばされた。
しかし、ソリッドビジョンシステムによって衝撃はある程度緩和されている。
モンスターの行動などが現実にも少しばかり影響するようにしたのは、デュエルの臨場感を少しでも高めるための開発者の計らいだろう。
もちろん、安全を最前提に設計されているため、怪我人が出た事がないのは言うまでもない。
そして、《フレスヴェルク・ドラゴン》の攻撃を受けた事で、秋弥のライフポイントが削られた。

天藤 秋弥
LP/4000→LP/1500

「まだだぜ!風属性モンスター2体をリリースして召喚された《フレスヴェルク・ドラゴン》は、1ターンに2回攻撃できる!行け、《フレスヴェルク・ドラゴン》!追撃のゴッドバード・ストライク!!」

秋弥に突進した後に上空へ舞い上がった《フレスヴェルク・ドラゴン》は再び雄叫びと共に、倒れた秋弥に向けて急降下を開始する。
強風と共に鮮やかな群青色の光を撒き散らしながら、《フレスヴェルク・ドラゴン》は秋弥に激突し、再び舞い上がった。

「うわぁっ!!」

叫び声を上げてはいるが、プレイヤーに伝わるのは若干の衝撃のみで、痛みはない。

天藤 秋弥
LP/1500→LP/0

「よっしゃあ!勝ったぜ!サンキューな!《フレスヴェルク・ドラゴン》!!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》は、最後にもう1度だけ雄叫びを上げ、遊雅のデュエル・ディスクへ群青色の光となって戻って行った。
高校生活最初のデュエルを、遊雅は勝利で飾る事ができたのだった。

「楽しいデュエルだったぜ、秋弥!」
「うん、僕もすごく楽しかった!遊雅って強いんだね!憧れちゃうよ!」
「よせよ、そんなの。って、おぉっ?いつの間にか人が……」
「おい、お前すげぇな!次、俺とデュエルしてくれよ!」
「俺も頼むよ!」
「俺も俺も!」
「お、おいおい、順番だって、順番!へへっ、よっしゃ、みんな相手してやるぜ!」
「あーあ、あんなに囲まれちゃって……これは私も、今日はしばらく帰れそうにないなぁ」

そんな事をぼやきながら、秋弥の手を掴んで起こした亜璃沙も、遊雅のデュエルを言葉には出さず応援するのだった。
そして、そんな様子を校舎の2階から眺めている人物がいた。

「そうだ……彼ならば、きっと……!」

デュエルを眺めながら、何かを閃いたこの男性は、この学校の教員。
この男性が遊雅と接触した時、彼が自分の夢を叶えるための最初の1歩を踏み出す事になるのを、今は誰も、知る者はいない。 
 

 
後書き

追記

大旋風(だいせんぷう)》の効果を『鳥獣族モンスターが2体存在する場合』から『2体以上存在する場合』に修正しました。 

 

第2話 激闘!入部試験! 前編

翌日から、遊雅の通い始めた学校で、通常授業が開始した。
正直、遊雅は勉強が苦手なので、この学校への入学試験も、ほとんどギリギリのラインで合格したに過ぎなかった。
試験の前日まで亜璃沙による地獄の指導を受けていた事は、言うまでもない。

「あぁ……早くデュエルしてぇなぁ……」
「我慢しなさいよ。この授業が終わったら今日はもう帰れるんだから」

先程から項垂れてばかりの遊雅を窘め、亜璃沙は再び講義に耳を傾け始める。
対する遊雅は既にデュエルの事しか頭にないため、授業に集中などできない様子だった。

「遊雅、終わったら真っ先にデュエルしてあげるから、我慢しよ?ねっ?」
「ホントか、秋弥!よっしゃ、頑張るぜ!」
「南雲、授業中だぞ。静かにしろ」

教室中が笑い声に包まれる。
平謝りする遊雅の隣で、亜璃沙がため息をついた。
それから数十分が過ぎ、ようやく授業が終わりを迎える。

「ふぃ~、やっと終わった。息が詰まるかと思ったぜ」
「2日目からこれじゃ、先が思いやられるわよ。中学校まではそれでよかったかも知れないけど、高校からは留年、って事もあるんだからね。しっかりしなさいよ?」
「分かってる分かってる。その時はその時で何とかするさ!それより秋弥!早速デュエル始めようぜ!」
「うん!また、噴水広場でいいかな?」
「そうだな!また新しいデュエリストに会えるかもしれないし!」

3人が噴水広場へ向かおうとしたその時。
突如、後ろから声をかけられ、3人は立ち止まる事になった。

「南雲君は、君で合ってるかな?」
「えっ?はい、俺ですけど」

後ろから声をかけて来たのはどうやら教師のようだった。
そして、彼は遊雅に話があるらしい。

「昨日の噴水広場でのデュエルを見てたよ。素晴らしい腕前だね」
「あっ、そうなんですか?ありがとうございます!」
「そこで、だ。君に頼みたい事がある」
「えっ、頼み、ですか?」
「そう。君のデュエルの腕を見込んで、この学校のデュエル部に入部してもらいたいんだ」
「お安い御用ですよ!って言うか、先生に言われなくても最初っから入るつもりでしたし!」

デュエル部というのは特に珍しい物ではなく、現代の中学校や高等学校であれば、むしろデュエル部の存在しない学校の方が珍しいほどだ。
デュエル・モンスターズは今や国家公認の競技になっているので、当然と言えば当然なのだが。

「そうか。そう言ってくれると助かる。君達も一緒にどうだい?」

教師は遊雅の脇に立つ亜璃沙と秋弥にも同じ提案を投げかけて来た。

「えっ、私達もですか?」
「ああ、そうだ。部員は1人でも多い方がいいからな」
「僕も入りたいです!僕も、デュエル大好きだから!」
「おぉ、君も確か昨日の!なるほど、君も腕が立つデュエリストのようだから、こちらも大歓迎だよ!」
「そっか、秋弥も入部するのか……じゃあ、私も入部させてもらおうかな。私も、デュエルは好きな方だし」
「本当か!?いやぁ、ありがとう。一気に3人も新入部員が入ってくれるとは、これで、我が部も安泰だな!」

亜璃沙としては、遊雅が何かしでかさないよう見張っておく面が強かったが、この際、細かい事は気にしないで置く事にした。
それから3人は、楠田(くすだ) 庄司(しょうじ)と名乗った教師に着いて、デュエル部の部室へ向かった。

◇◆◇◆◇◆◇

「おーいみんな!新入部員を連れて来たぞ!それも3人だ!」

部室には、既に2年生、3年生の部員が顔を揃えていた。
しかし、人数はと言うと、たった2人。部と言うよりは、同好会、と言った方がしっくり来るような状態だった。

「えーっと、これで全員、ですか?」
「残念ながら、な」
「っかしいなー、デュエル・モンスターズってすげぇ人気だから、たくさん部員がいると思ったのに」
「それはな……ウチの学校は、デュエル部弱小校として有名だからなんだよ」
「えっ、そ、そうなんですか?」
「ああ。練習試合での勝率も2割程度、公式大会では、これまで2回戦までしか進んだ事はない」

想像以上の惨状に、3人は思わず言葉を失ってしまった。

「理事長からも、これ以上結果を残せなければ廃部もやむを得ない、と言われていたんだが……そこで、君達のデュエルを目の当たりにした、と言うわけだ」
「なるほど、廃部を免れるために、部員を集めて結果を出そう、って事ですか」
「監督の言いたい事はわかりますが、俺達にも面子ってモンがありますよ!」

突然、部室に控えていた1人の男子生徒が声を荒げた。

「お、おぉ、鬼島(きじま)、どうしたんだ、いきなり」
「どうしたんだ、じゃないですよ!俺と海堂(かいどう)のこれまでの苦労はどうなるんですか!」
「ま、まぁまぁ、5人で切磋琢磨して行けばいいじゃないか」
「俺も鬼島先輩に賛成ッスよ!そうだ、どうせならこうしましょうよ!俺と先輩で、こいつらの入部試験をするってのはどうッスか!」
「……それはつまり、俺達がデュエルで先輩方に勝てなければ、入部は認めないって事ですか?」
「そう言う事だ。最低でも俺達に勝てる程度の腕がなければ大会を勝ち進むなんて不可能だからな。構いませんよね、先生」
「あ、ああ。そうだな。2人のまだ見ぬ力が見られるかもしれないが……それじゃあ、神原の相手は俺がしよう」

その楠田の言葉に亜璃沙は驚愕した。

「えっ!?わ、私もやるんですか!?」
「当たり前だろう。君も新入部員なんだからな」
「あー、もう何でもいいや!俺はさっさとデュエルしたいから、早速やりましょうよ!」
「おぉ、そうか。それでは我が部最強の鬼島に、君の相手をしてもらおう。いいな?鬼島」
「分かりました。おい、お前、名前は?」
「南雲遊雅です。先輩は?」
「俺は鬼島(きじま) 竜兵(りゅうへい)だ。悪いが手加減はできないぜ」
「へへっ、臨む所ですよ!早速始めましょうか!」

6人は場所をグラウンドの一角、デュエル用のスペースに移した。
一定の距離を取った位置に陣取った遊雅と竜兵は、それぞれデュエル・ディスクを起動させ、デッキホルダーにデッキをセットした。
ライフカウンターに4000と表示された所で、2人は声を揃えて叫ぶ。

「「デュエル!!」」

「先攻はお前に譲るぜ」
「じゃあ、お言葉に甘えて!俺は永続魔法《鳥兵令(ちょうへいれい)》を発動!」

鳥兵令(ちょうへいれい)
永続魔法カード
ドロー以外の方法でレベル4以下の鳥獣族モンスターが手札に加わった時、そのモンスターを自分フィールド上に表側表示で特殊召喚する事ができる。

「さらに俺は《バード・マスター》を攻撃表示で召喚!」

《バード・マスター》
☆☆☆☆ 風属性
ATK/1400 DEF/1000
【鳥獣族・効果】
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから《バード・マスター》以外のレベル4以下の鳥獣族モンスター1体を手札に加える事ができる。

「召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、デッキから《バード・マスター》以外のレベル4以下の鳥獣族を手札に加える事ができる!この効果で俺は、《ハンター・アウル》を手札に加えます!」
「なるほど、サーチ効果か」
「そして、《鳥兵令(ちょうへいれい)》の効果で、今手札に加えた《ハンター・アウル》を、そのまま特殊召喚!」

《ハンター・アウル》
☆☆☆☆ 風属性
ATK/1000 DEF/900
【鳥獣族・効果】
自分フィールド上に表側表示で存在する風属性モンスター1体につき、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
また、自分フィールド上に他の風属性モンスターが表側表示で存在する限り、相手はこのカードを攻撃対象に選択する事はできない。

「俺のフィールド上の風属性モンスターは《バード・マスター》と《ハンター・アウル》の2体。よって、《ハンター・アウル》の攻撃力は1000ポイントアップ!」

《ハンター・アウル》
ATK/1000→ATK/2000

「リバースカードを1枚セットして、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」

ドローしたカードと手札を確認し、竜兵は打つ手を考える。
少し考えてから、竜兵は動き出した。

「俺は《コマンド・ナイト》を攻撃表示で召喚!」

《コマンド・ナイト》
☆☆☆☆ 炎属性
ATK/1200 DEF/1900
【戦士族・効果】
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターの攻撃力は400ポイントアップする。
また、自分フィールド上に他のモンスターが存在する場合、相手は表側表示で存在するこのカードを攻撃対象に選択する事はできない。

「自身の効果により、《コマンド・ナイト》の攻撃力は400ポイントアップする!」

《コマンド・ナイト》
ATK/1200→ATK/1600

「何だか、遊雅の《ハンター・アウル》と似た様な効果ね」
「いや、《ハンター・アウル》は自分自身をひたすら強化する効果だけど、《コマンド・ナイト》は味方全体を少しずつ強化する効果だよ。似てるようだけど、全く正反対だ」
「へぇ~、秋弥、そんな事すぐに分かっちゃうんだ」

デュエル外の2人のそんなやり取りなど知らずに、竜兵はそのままデュエルを続行する。

「更に俺は《コマンド・ナイト》と《ハンター・アウル》を選択して、速攻魔法、《()たし()い》を発動!」

()たし()い》
速攻魔法カード
自分フィールド上に存在する戦士族モンスター1体と、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスター以外のフィールド上に存在するモンスターを全てゲームから除外し、選択したモンスター同士で戦闘を行う。
この戦闘中、お互いのプレイヤーは魔法・罠・効果モンスターの効果を発動する事はできない。
エンドフェイズ時、このカードの効果でゲームから除外されたモンスターを全て、お互いのフィールド上に特殊召喚する。

「このカードの効果によって、選択したモンスター以外のカード、即ち、《バード・マスター》を、エンドフェイズ時までゲームから除外する!」

《バード・マスター》の姿がカードに吸い込まれ、そのまま消滅してしまう。
フィールド上には、《コマンド・ナイト》と《ハンター・アウル》だけが取り残された。

「お前のフィールド上の風属性モンスターが1体減った事で、《ハンター・アウル》の攻撃力は500ポイントダウンし、《コマンド・ナイト》の攻撃力を下回る!」

《ハンター・アウル》
ATK/2000→ATK/1500

「そうか、鬼島先輩はこれが狙いで……!」
「しかも《()たし()い》の効果で、遊雅は魔法カードや罠カードを発動できない!」
「さぁ、バトルだ!《コマンド・ナイト》で、《ハンター・アウル》を攻撃!統率の剣戟!」

襲い掛かる《コマンド・ナイト》の剣は、《ハンター・アウル》を真っ二つに切り裂いた。

「くそっ、《ハンター・アウル》が!」

南雲 遊雅
LP/4000→LP/3900

「まずは挨拶代わりに少しだけのダメージだ。俺はリバースカードを2枚セットする。そして、このエンドフェイズ時に、《()たし()い》の効果で除外されていた《バード・マスター》が戻って来る」

再び、《バード・マスター》が遊雅のフィールドに姿を現す。
それと同時に、《バード・マスター》が手に持った笛を高らかに吹き始めた。

「《バード・マスター》の効果発動!特殊召喚に成功した事で、デッキからレベル4以下の鳥獣族を手札に加える!俺は、《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》を手札に加え、《鳥兵令(ちょうへいれい)》の効果でそのまま特殊召喚!」

霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)
☆☆☆☆ 風属性
ATK/1700 DEF/300
【鳥獣族・効果】
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、このカードとの戦闘で破壊されなかった相手モンスターをダメージステップ終了時に持ち主の手札に戻す。

「なるほど、《()たし()い》の効果を利用して、再びモンスターを展開したか。俺はこれでターンエンドだ」
「俺のターン!ドロー!」

遊雅がドローしたのは《フレスヴェルク・ドラゴン》だった。

「よしっ、来たぜ!俺は《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》と《バード・マスター》をリリースして、《フレスヴェルク・ドラゴン》をアドバンス召喚!」

霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》と《バード・マスター》を包み込んだ旋風が交わりあい、1つの巨大な旋風となる。
間もなくその巨大な旋風の中から、群青色の鱗に身を包む《フレスヴェルク・ドラゴン》が姿を現し、雄叫びを上げた。

「出た!《フレスヴェルク・ドラゴン》だ!」
「早くも遊雅のエースモンスターが出て来たわね」
「《フレスヴェルク・ドラゴン》は、風属性モンスター2体をリリースしてアドバンス召喚した場合、1ターンに1度、フィールド上のカードを1枚破壊でき、1度のバトルフェイズに2回まで攻撃できます!まずは効果で、そのリバースカードを破壊!ジャッジメント・ストーム!」
「おっと、そうはさせないぜ!リバースカード、《()()り》を発動!」

()()り》
罠カード
自分フィールド上に存在する戦士族モンスター1体をリリースする事で、相手モンスター1体を破壊する事ができる。

「俺は《コマンド・ナイト》をリリースして、《フレスヴェルク・ドラゴン》を破壊する!」
「なっ……!?」

《コマンド・ナイト》が《フレスヴェルク・ドラゴン》に突進する。
《フレスヴェルク・ドラゴン》は羽ばたいて風を起こし、必死に抵抗するが、決死の特攻を止める事はできず、喉に剣を突きたてられて消滅してしまう。
しかし、《コマンド・ナイト》も《フレスヴェルク・ドラゴン》の鋭利な爪に貫かれて、同じタイミングで消滅してしまった。

「《フレスヴェルク・ドラゴン》!?」
「残念だったな、折角の切り札が無駄になっちまったようだぜ」
「くっ……だが、まだ……!俺は、速攻魔法《風神竜(ふうじんりゅう)(とむら)い》を発動!」

風神竜(ふうじんりゅう)(とむら)い》
速攻魔法カード
自分フィールド上に表側表示で存在する《フレスヴェルク・ドラゴン》が破壊され墓地に送られた時に発動する事ができる。
デッキから鳥獣族モンスターを2体まで手札に加える事ができる。

「この効果で、俺はデッキから《クラスターズ・ファルコン》を2体手札に加え、《鳥兵令(ちょうへいれい)》の効果でフィールド上に特殊召喚します!」
「ちっ、次から次へと……!」
「バトル!2体の《クラスターズ・ファルコン》で、鬼島先輩へダイレクトアタック!フェザーズ・スラッシュ!」
「やらせねぇよ!(トラップ)カード発動!《(せい)なるバリア-ミラーフォース-》!!」
「しまった……!」

(せい)なるバリア-ミラーフォース-》
罠カード
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。

竜兵を覆う様に、透明な障壁が現れる。
2体の《クラスターズ・ファルコン》は、竜兵に攻撃を仕掛けようとして、その壁に弾き飛ばされ、そのまま消滅してしまった。

「くっ……!」
「ふぅ、危ねぇ危ねぇ。これでお互いにフィールドが空ッケツになっちまったな」
「けど、遊雅はもう召喚権を使ってしまっているのに対して、鬼島先輩は次のターンでまたモンスターを召喚する事ができる。圧倒的に遊雅の方が不利だよ……」
「だが、この逆境を跳ね返せる程の力がなければ、この先乗り越えていけないのも確かだ。頑張ってもらいたいが……」

切り札の《フレスヴェルク・ドラゴン》を失ってしまった遊雅。
果たして彼は、この圧倒的不利な状況を覆し、勝利を掴む事ができるのだろうか。 

 

第3話 激闘!入部試験! 中編

果敢な猛攻を(ことごと)くかわされてしまった遊雅のフィールド上には、モンスターはおろか、伏せ(リバース)カードすら存在していなかった。
既に召喚権も使ってしまっており、壁となるモンスターを召喚する事もできず、フィールドがガラ空きのまま竜兵にターンを回す事になってしまった遊雅。
果たして、彼に勝機はあるのだろうか。

「俺のターン、ドロー!」

竜兵のドローカードは《()()隊長(たいちょう)》。
元々の手札2枚にそれを加え、少し考えた上で初動を起こす。

「まずは魔法(マジック)カード、《戦士(せんし)生還(せいかん)》を発動!」

ボロボロになった甲冑を身にまとい、満身創痍となった《()()隊長(たいちょう)》が、剣を支えにして何とか生還した様子が描かれたカードがその場に姿を現す。

戦士(せんし)生還(せいかん)
魔法カード
自分の墓地の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。
その戦士族モンスターを手札に加える。

「俺はこの効果で、墓地にある《コマンド・ナイト》を手札に戻し、《()()隊長(たいちょう)》を召喚!」

戦士(せんし)生還(せいかん)》に描かれていたような姿ではなく、まだ綺麗な甲冑に身を包み、戦意も高揚している状態の《()()隊長(たいちょう)》が現れた。

()()隊長(たいちょう)
☆☆☆ 地属性
ATK/1200 DEF/400
【戦士族・効果】
このカードが召喚に成功した時に発動できる。
手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。
このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。

「《()()隊長(たいちょう)》の召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる!この効果で、俺は《コマンド・ナイト》を特殊召喚!」

()()隊長(たいちょう)》の隣に、再び《コマンド・ナイト》が姿を現した。
更に、《コマンド・ナイト》の効果により、2体の戦士族モンスターの攻撃力がそれぞれ400ポイントずつ上昇する。

()()隊長(たいちょう)
ATK/1200→ATK/1600

《コマンド・ナイト》
ATK/1200→ATK/1600

「バトルだ!2体のモンスターでダイレクトアタック!」

怒号を放ちながら、2体の戦士族モンスター達が、遊雅に突進する。
為す術のない遊雅は、左右から襲い来る凶刃を甘んじて受け止めるしかなかった。

「ぐぁっ!!」

南雲 遊雅
LP/3900→LP/700

「俺もこれ以上はできる事がない。これでターンエンドだ」
「まずいよ……遊雅のライフポイントはあと700しかない……」
「それに比べて、鬼島先輩のライフポイントはまだ4000……どうするの、遊雅……」

遊雅は、自分のデッキに視線を向ける。
ここで起死回生のカードをドローできなければ、遊雅は間違いなく負けてしまう。
残った1枚の手札は《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》。攻撃力は1200と低く、《()()隊長(たいちょう)》を戦闘破壊する事はできない。

(このドローが、俺の勝敗を分けるデスティニードローになる。デッキよ……俺に応えてくれ!!)

「俺のターン、ドロー!!」

遊雅がドローしたのは、魔法(マジック)カードだった。

「俺は、《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》を攻撃表示で召喚!」

美しい尾羽に、9つの蛇の形をした模様が浮かび上がっている孔雀のモンスターが現れる。

九蛇孔雀(くじゃくじゃく)
☆☆☆ 風属性
ATK/1200 DEF/900
【鳥獣族・効果】
フィールド上のこのカードがリリースされ墓地へ送られた場合、自分のデッキ・墓地から《九蛇孔雀》以外のレベル4以下の風属性モンスター1体を選んで手札に加える事ができる。
《九蛇孔雀》の効果は1ターンに1度しか使用できない。

「《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》か。だが、攻撃力はたった1200。《()()隊長(たいちょう)》には届かないぜ」
「その通り。だから俺は、こいつをリリースして魔法(マジック)カードを発動します!」
「なにっ?」
「俺は《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》をリリースして、《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》を発動!」

吹き荒れる風の中で、風神竜が空へ舞い上がる様子が描かれたカードが実体化した。
それと同時に、《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》を激しい旋風が包み込む。

風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)
魔法カード
自分フィールド上に存在する風属性モンスター1体をリリースして発動できる。
自分の墓地に存在する《フレスヴェルク・ドラゴン》1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した《フレスヴェルク・ドラゴン》は、このターンのエンドフェイズ時まで攻撃力が500ポイントアップし、このターンのバトルフェイズ時、2回まで攻撃する事ができる。

「風神の加護を受けし青き竜よ、再びその雄々しき翼で蒼空(そうくう)を駆けよ!舞い戻れ!《フレスヴェルク・ドラゴン》!!」

九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》を包み込んだ旋風が巨大化し、その中から再び、あの美しき竜、《フレスヴェルク・ドラゴン》が姿を現し、高く咆哮する。

「馬鹿な……《フレスヴェルク・ドラゴン》が、復活しただと……!?」
「更に、《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》の効果でリリースし墓地に送られた《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》の効果を発動!デッキか墓地から、レベル4以下の風属性モンスター1体を手札に加える事ができる!俺はこの効果で、墓地から《ハンター・アウル》を手札に加えます!」
「でも、いくら手札に加えても、このターンは召喚権を使っちゃってるから……」
「違うよ亜璃沙。遊雅のフィールドには、あれがある!」
「えっ?……あっ!」

亜璃沙がすっかりその存在を忘れていたカード。それが、遊雅の勝利を切り開くためのキーカードとなった。

「更に、今手札に加えた《ハンター・アウル》を、《鳥兵令(ちょうへいれい)》の効果で特殊召喚!」
「なにっ!?手札に加えるのは、デッキからじゃなくてもいいのか!?」
「その通りですよ!」

鋭い鎌を持ち胸当てを装備した、手足が異様に発達した鳥のような姿のモンスターが、《フレスヴェルク・ドラゴン》の背中に乗るようにして現れた。
フィールド上の風属性モンスターは2体。《ハンター・アウル》の攻撃力は2000ポイントとなる。

《ハンター・アウル》
ATK/1000→ATK/2000

「《フレスヴェルク・ドラゴン》は《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》の効果で攻撃力3000になり、2回攻撃ができる……これなら!」
「さぁ、行きますよ先輩!俺は、《フレスヴェルク・ドラゴン》と《ハンター・アウル》で攻撃!!」

《ハンター・アウル》を背中に乗せたままの《フレスヴェルク・ドラゴン》が、2体の戦士族モンスターに向かって突進する。
()()隊長(たいちょう)》と《コマンド・ナイト》は自らの剣で必死に防ごうとするが、風神の加護を受けた竜を受け止めるにはかなわず、そのまま吹き飛ばされて消滅してしまう。
そして、2体の盾を失ってしまった竜兵に向かって、《フレスヴェルク・ドラゴン》の背中から飛び降りた《ハンター・アウル》が鎌を振り下ろした。

「ぐわぁっ!!」

鬼島 竜兵
LP/4000→LP/0

最後にもう一度咆哮した《フレスヴェルク・ドラゴン》は、《ハンター・アウル》と共に光になって遊雅のデッキへ戻って行った。
張り詰めていた緊張を解くために一息ついた遊雅の元に、亜璃沙と秋弥が駆け寄って来る。

「やったね、遊雅!」
「もう、ひやひやさせないでよね!」
「ははは、悪い悪い」

そして更に3人の元に、竜兵、楠田、海堂の3人も歩み寄って来た。

「いやぁ、南雲君、実に見事な逆転劇だったよ!やはり俺の見る目は間違っていなかったようだ!」
「完敗だぜ、南雲。まさかあの状況をひっくり返されるとはな。なぁ、海堂。今の見てたろ?南雲は合格だよな?」
「そうッスね。ただ、他の2人に関してはまだ分からないッスよ。そっちのひ弱そうなの!俺が相手してやるよ!」
「よ、よろしくお願いします!」
「よし、次は秋弥の番だな!頑張れよ!」
「ファイトよ、秋弥!」
「う、うん、頑張るよ!」

秋弥と海堂の2人をデュエルスペースに残して、残りの4人は2人と距離を取る。

海堂(かいどう) 宗司(そうじ)だ。お前は?」
「て、天藤 秋弥です!よ、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく頼む。行くぜ!」

お互いに向かい合った2人のデュエリストは、デュエルディスクを起動させ、そして。

「「デュエル!!」」

デュエル開始の意思表示をした。

「先攻は俺がもらうぜ!俺は手札から、《アトランティスの戦士(せんし)》を墓地に捨てて、効果を発動する!」

《アトランティスの戦士(せんし)
☆☆☆☆ 水属性
ATK/1900 DEF/1200
【水族・効果】
このカードを手札から墓地へ捨てて発動できる。
デッキから《伝説の都 アトランティス》1枚を手札に加える。

「効果により、デッキから《伝説(でんせつ)(みやこ) アトランティス》を手札に加え、それをそのまま発動!」

フィールド魔法が発動された事によって、周囲の様子が一変する。
伝説(でんせつ)(みやこ) アトランティス》は、海底に眠る遺跡のフィールド魔法カード。
辺りは海水で満たされ、すぐ近くに巨大な遺跡群が立ち並んだ。
もちろんこれもソリッドビジョンによる立体映像のため、水中だからと言って息が出来なかったりと言う事はあり得ない。

伝説(でんせつ)(みやこ) アトランティス》
フィールド魔法カード
このカードのカード名は《海》として扱う。
このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上の水属性モンスターの攻撃力・守備力は200ポイントアップする。
また、お互いの手札・フィールド上の水属性モンスターのレベルは1つ下がる。

「わぁ~、きれ~い……!」
「おい亜璃沙、のんきな事言ってる場合じゃないだろ」
「あっ、そ、そうだった、つい……」
「こいつは結構厄介なカードだぞ……秋弥、気をつけろよ……」
「更に俺は、永続魔法、《ウォーターハザード》を発動!」

《ウォーターハザード》
永続魔法カード
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札からレベル4以下の水属性モンスター1体を特殊召喚できる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「こいつの効果で、俺は手札から《海竜番兵(かいりゅうばんぺい)》を特殊召喚!」

海竜番兵(かいりゅうばんぺい)
☆☆☆☆ 水属性
ATK/500 DEF/1800
【海竜族・効果】
墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする事ができる。

「そしてこいつをリリースし、アトランティスの効果によってレベルが1つ下がり6となった《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》をアドバンス召喚!」

海堂の頭上に、刺々しいヒレや鱗、そして鋭利な爪を持つ巨大な海竜が姿を現した。

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》
☆☆☆☆☆☆☆ 水属性
ATK/2600 DEF/1500
【海竜族・効果】
自分フィールド上に存在する《海》を墓地に送る事で、このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。

「ダイダロスの攻撃力と守備力は、アトランティスの効果によって200ポイントずつアップするぜ!」

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》
ATK/2600→ATK/2800 DEF/1500→DEF/1700

「1ターン目から、攻撃力2800の上級モンスターが……!?」
「これがアトランティスの厄介な効果だ。レベル5や7のモンスターなら、アドバンス召喚のリリースを1体分減らす事ができるんだからな」
「さて、俺はこれでターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!」

全部で6枚の手札を確認してから、秋弥も初動を起こす。

「僕は、《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》を特殊召喚!」

遊雅とのデュエルでも召喚された二足歩行の恐竜が、再び秋弥の隣に現れる。

「ギラザウルスを特殊召喚した場合、相手は墓地からモンスターを特殊召喚する事ができます」
「なるほど、そいつはありがたいな。俺は墓地から、《アトランティスの戦士(せんし)》を特殊召喚するぜ!」

更にダイダロスの隣に、全身真っ青の、いかにも魚人と言ったような風貌のモンスターが現れた。

《アトランティスの戦士(せんし)
ATK/1900→ATK/2100 DEF/1200→DEF/1400

「更に僕は、《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》をリリースして、魔法(マジック)カード《大進化薬(だいしんかやく)》を発動!」

大進化薬(だいしんかやく)
魔法カード
自分フィールド上に存在する恐竜族モンスター1体をリリースして発動する。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、レベル5以上の恐竜族モンスターをリリースなしで召喚する事ができる。

「なにっ、レベル5以上のモンスターをリリースなしで召喚、だと?」
「その効果により、僕は《ジュラック・タイタン》をリリースなしで召喚!」

水中だと言うのにも関わらず、秋弥の背後で突如として大爆発が起こる。
そしてその爆炎の中から、真っ赤な鱗に覆われた巨大な恐竜モンスターが姿を現した。

《ジュラック・タイタン》
☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 炎属性
ATK/3000 DEF/2800
【恐竜族・効果】
このカードは特殊召喚できない。
このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、罠・効果モンスターの効果の対象にならない。
また、1ターンに1度、自分の墓地の攻撃力1700以下の「ジュラック」と名のついたモンスター1体をゲームから除外して発動できる。
このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。

「こ、これは何と……天藤君も負けじと上級モンスターを出して来たか……!」
「すっげぇ……秋弥の奴、こんな強ぇモンスター持ってたのかよ……」
「バトル!僕は《ジュラック・タイタン》で、《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》を攻撃!タイタニア・バースト!!」

《ジュラック・タイタン》が、《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》に向けて凄まじい勢いの炎を吹き付ける。
炎に焼かれて、ダイダロスは消滅するかのように思われた、が。

「甘いぜ、墓地の《海竜番兵(かいりゅうばんぺい)》の効果を発動!自身を除外する事で、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする!」

ダイダロスを守るように、《海竜番兵(かいりゅうばんぺい)》が姿を現し、両手に装備した巨大な盾で炎を防ぐ。
しかし、その炎に巻かれて、《海竜番兵(かいりゅうばんぺい)》はそのまま消滅してしまった。

「くっ、墓地から発動する効果……!」
「惜しかったなぁ、そこまで無策じゃあないんだよ!」
「……僕はリバースカードを1枚セットして、ターンエンドです」

お互いに最初のターンから最上級モンスターを揃えた激しいデュエル。
果たして、この激戦において勝利を掴むのは、秋弥か、海堂か、一体どちらなのだろうか。 

 

第4話 激闘!入部試験! 後編

デュエル部への入部試験第2試合。秋弥VS海堂のデュエルは、1ターン目から激戦と化していた。
伝説(でんせつ)(みやこ) アトランティス》と《ウォーターハザード》のコンボで、強力な最上級モンスターである《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》を1ターン目から召喚した海堂。
それに対して秋弥も、《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》と《大進化薬(だいしんかやく)》のコンボにより、恐竜族の中でも最強格の座に君臨する《ジュラック・タイタン》の召喚に成功する。
お互いに最上級モンスターを揃えた状態で、デュエルは2ターン目に突入する。

「俺のターンだ、ドロー!」

海堂の手札は今のドローカードを含めて2枚。
しかし、考える間もなく海堂は動いた。

「俺は、ダイダロスの効果を発動するぜ!自分フィールド上の《(うみ)》を墓地に送る事で、ダイダロス以外のフィールド上のカードを全て破壊する!」
「《(うみ)》を……?けど、先輩のフィールドにあるのは……あっ!?」
「ようやく分かったみたいだな。《伝説(でんせつ)(みやこ) アトランティス》は、カード名を《(うみ)》として扱うんだよ!俺はアトランティスを墓地に送り、ダイダロスの効果を発動!」

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》が雄叫びを上げると同時に、海底遺跡が崩壊を始める。

「くっ、リバースカード発動!《輪廻(りんね)(ことわり)》!」

輪廻(りんね)(ことわり)
速攻魔法カード
自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースして発動する事ができる。
デッキからカードを1枚ドローし、リリースしたモンスターと同じ種族のレベル4以下のモンスター1体をデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは、このターンのエンドフェイズ時に破壊される。

「ごめんよ、タイタン……僕は、《ジュラック・タイタン》をリリースして、カードを1枚ドローし、デッキから《ジュラック・グアイバ》を特殊召喚!」

《ジュラック・タイタン》は巨大な炎となって消滅し、その炎の中から、《ジュラック・タイタン》よりも小柄な、しかし同じ様に炎を身にまとった恐竜が姿を現す。

《ジュラック・グアイバ》
☆☆☆☆ 炎属性
ATK/1700 DEF/400
【恐竜族・効果】
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、デッキから攻撃力1700以下の『ジュラック』と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン攻撃宣言できない。

「へっ、折角出てきたのに悪いが、そいつにも潰れてもらうぜ!」

今現れたばかりの《ジュラック・グアイバ》は、海堂の《アトランティスの戦士(せんし)》と共に、アトランティスの瓦礫に飲み込まれて消滅してしまった。

「秋弥、どうしてわざわざモンスターを破壊されるような事を……」
「《ジュラック・タイタン》を破壊されるぐらいなら、《輪廻(りんね)(ことわり)》のコストにしてカードを1枚ドローした方がいい。それに《ジュラック・グアイバ》も無駄じゃない。墓地のモンスターが増えれば増えるほど、墓地からの特殊召喚もしやすいからな」
「そっか……じゃあ、まだ勝ち目はあるのね?」
「いや……海堂先輩も言ってる通り、秋弥のフィールドはガラ空きだ。手札から発動できるカードでもない限り、ダイダロスのダイレクトアタックが直撃してしまう」
「そんな……それじゃっ……!」
「残念だがアトランティスが崩壊した事で、ダイダロスの攻撃力は元に戻る。だが、それでもお前に大ダメージを与えられるには変わりないぜ!」

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》
ATK/2800→ATK/2600 DEF/1700→DEF/1500

「バトルだ!《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》でダイレクトアタック!リヴァイア・ストリーム!!」

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》が、秋弥に向けて強力な水流を吐き出す。
壁となるモンスターもリバースカードも存在しない秋弥は、その水流を受けるしかなかった。

「うわぁっ!!」

天藤 秋弥
LP/4000→LP/1400

「さて、俺はこれでターンを終了するぜ」
「僕のターン、ドロー!」

秋弥がドローしたのは、《ジュラック・ティラヌス》。レベル7の最上級モンスターだ。
しかし、今の秋弥の手札には、能動的に《ジュラック・ティラヌス》を召喚するためのカードがなかった。

「……僕は、モンスターを1体守備表示で召喚。更にリバースカードを2枚セットして、ターンエンドです」
「俺のターンだな、ドロー!……俺は、《深海王(しんかいおう)デビルシャーク》を召喚!」

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》の隣に、骸骨のような頭部を持つ不気味な鮫が姿を現す。

深海王(しんかいおう)デビルシャーク》
☆☆☆☆ 水属性
ATK/1700 DEF/600
【魚族・効果】
このカードは1ターンに1度だけ、対象を指定しないカードの効果では破壊されない。

「ダイダロスの効果を発動した時にこいつがいれば、もう勝負はついてたんだがな……だが、ここで終わりだ!デビルシャークで守備モンスターを攻撃!」
(来たっ……!)

デビルシャークのまるで槍のような顎が、裏側表示のカードを突き刺す。
突き刺された箇所から《ジュラック・ガリム》が姿を現し、そのまま消滅する。

「あれっ?《ジュラック・ガリム》の効果は発動しないの?」
「って事は多分、ガリムの効果は対象をとらない効果なんだろう。それならデビルシャークは破壊されないからな」
「そんな……」
「さて、とどめだ。俺は《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》でダイレクトアタック!リヴァイア・ストリーム!!」

再び、《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》が秋弥に向けて水流を放つ。
そのタイミングで、秋弥は動いた。

「リバースカード発動!《生存本能(せいぞんほんのう)》!」

生存本能(せいぞんほんのう)
罠カード
自分の墓地に存在する恐竜族モンスターを任意の枚数選択しゲームから除外する。
除外した恐竜族モンスター1枚につき、自分は400ライフポイント回復する。

「僕は墓地から《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》、《ジュラック・タイタン》、《ジュラック・グアイバ》、《ジュラック・ガリム》の4体を除外して、1600のライフポイントを回復します!」

秋弥のデュエル・ディスクの墓地から、4つの光の玉が溢れ出る。
それらの玉は秋弥のライフカウンターに吸い込まれていき、それと同時に、ライフの値が変動した。

天藤 秋弥
LP/1400→LP/3000

「ちっ、だが攻撃は受けてもらうぜ!」
「ぐぅっ!!」

ダイダロスの吐き出した水流が、再び秋弥に直撃する。

天藤 秋弥
LP/3000→LP/400

「首の皮1枚で繋がったようだが、それも次のターンまでにしてやるよ」
「残念ですが、次のターンからは僕も反撃しますよ」
「なにっ?」
「戦闘ダメージを受けた事で、僕はリバースカード、《(りゅう)抵抗(ていこう)》を発動します!」

(りゅう)抵抗(ていこう)
罠カード
相手モンスターの直接攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けた時に発動できる。
手札から、その時に受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つ恐竜族もしくはドラゴン族のモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。

「この効果で、僕は手札から《ジュラック・ティラヌス》を攻撃表示で特殊召喚!」

再び巻き起こる爆炎と共に、《ジュラック・タイタン》よりも少し小柄な恐竜が姿を現し、咆哮した。

《ジュラック・ティラヌス》
☆☆☆☆☆☆☆ 炎属性
ATK/2500 DEF/1400
【恐竜族・効果】
自分のメインフェイズ時に、このカード以外の自分フィールド上の恐竜族モンスター1体をリリースして発動できる。
このカードの攻撃力は500ポイントアップする。
また、このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、このカードの攻撃力は300ポイントアップする。

「何だと……まさかそんな方法で最上級モンスターを召喚するとは……くそっ、ターンエンドだ!」
「僕のターン!ドロー!」

ドローしたカードを確認し、秋弥はすぐにそれを発動した。

「僕はフィールド魔法、《弱肉強食の世界(ダイナソー・ザ・ワールド)》を発動!」

周囲の景色が、鬱蒼と茂るジャングルに変化する。
恐竜達の時代の風景をイメージしたフィールドなのだと、その場にいる全員がすぐに理解した。

弱肉強食の世界(ダイナソー・ザ・ワールド)
フィールド魔法カード
このカードのカード名は《ジュラシックワールド》として扱う。
このカードがフィールド上に存在する限り、恐竜族のモンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地に送った場合、もう1度続けて攻撃する事ができる。

「このフィールド魔法がある限り、恐竜族のモンスターは相手モンスターを戦闘破壊する度に、追加攻撃する事ができます!」
「なんだとっ!?そんなインチキ効果、あってたまるか!」
「バトル!《ジュラック・ティラヌス》で、《深海王(しんかいおう)デビルシャーク》を攻撃!怒涛のフレイム・バースト!!」

秋弥の指示に従って、《ジュラック・ティラヌス》はその巨大な口の中に蓄えていた赤々とした炎を、デビルシャークに向けて放出する。
激しい業火に焼き尽くされ、深海王はたちまちに灰燼(かいじん)と化してしまった。

海堂 宗司
LP/4000→LP/3200

「ここでティラヌスの効果発動!モンスターを戦闘破壊した時、自身の攻撃力を300ポイントアップする!」
「なにっ!?そ、それじゃあ……!」
「その通り、攻撃力は2800になり、ダイダロスを上回ります!」

《ジュラック・ティラヌス》
ATK/2500→ATK/2800

「そして、《弱肉強食の世界(ダイナソー・ザ・ワールド)》の効果によりバトル続行!ダイダロスへ攻撃だ!怒涛のフレイム・バースト!!」

更に続けて、巨大な海竜へ向けて炎を吐き出す《ジュラック・ティラヌス》。
これまで猛威を振るっていた海堂の切り札、《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》は、灼熱の炎によって真っ黒に焼かれてしまった。

海堂 宗司
LP/3200→LP/3000

「く、くそっ、俺のダイダロスが……!」
「そして再びティラヌスの効果を発動!攻撃力を300ポイントアップします!」

海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス》に歩み寄った《ジュラック・ティラヌス》は、黒々と焦げてしまったダイダロスを貪った。
そして、ダイダロスが消滅すると同時に、ティラヌスは高く咆哮する。

《ジュラック・ティラヌス》
ATK/2800→3100

「更に、モンスターを戦闘破壊した事でティラヌスは3度目の攻撃が可能です!」
「嘘、だろ……?」
「残念ながら、本当です」

絶望する海堂に対して、秋弥はにへっと笑いながら無慈悲にも事実を告げる。
穏やかな物腰でありながら中々に残酷な男だ、と言う思考を、観戦中の4人は不本意ながら共有する事となる。

「じゃあ行きますよ!《ジュラック・ティラヌス》の最後の攻撃!怒涛のフレイム・バースト!!」

2体のモンスターの力を吸収し、更に激しく沸き起こった炎を、《ジュラック・ティラヌス》は容赦なく海堂に向けて放った。
灼熱の炎は、海堂の周りの木々をも瞬く間に燃やして行った。

海堂 宗司
LP/3000→0

「のわぁっ!!あちっ、あちちっ!!」
「やったぁ!僕達の勝ちだぁっ!!」

一通り燃やし尽くされたジャングルは、デュエルの終了と共にその姿を消した。
それと同時に、観戦していた4人が2人の元へ歩み寄る。

「凄かったぜ、秋弥!またお前とデュエルがしたくなったぜ!」
「そうかな?ありがとう、遊雅!」
「次デュエルしたら負けちゃうかもね、遊雅?」
「馬鹿、俺はどんなに強い奴だって勝つっての!」

盛り上がる3人をよそに、残りの2人も海堂に声をかけていた。

「完敗だったな、海堂。途中までは優勢だったんだがな」
「はい……まさかあんな所で、あんな強力なカードを引かれるとは……」
「お前も言っていた通り、デビルシャークがもっと早く出せていれば勝てたんだ。今回は運がなかった、って事さ」
「そうッスね。ありがとうございます、先輩」
「さて、次は俺だな。神原、早速始めようと思うんだが、大丈夫か?」
「あっ、は、はい!大丈夫です!」
「よっしゃ、頑張れよ亜璃沙!」
「頑張って!応援してるよ!」
「う、うん……できるだけ頑張るね」

自信はなさそうに、楠田と対峙する亜璃沙。
その2人を残して、激闘を繰り広げた4人のデュエリスト達は、デュエルスペースの脇へ移動する。
向かい合う2人はそれぞれのデュエル・ディスクを起動し、自分が信じるデッキをセットする。
ライフカウンターに4000と表示されたと同時に。

「「デュエル!!」」

2人のデュエリストは、声を揃えてそう叫んだ。 

 

第5話 恐るべき煌き

 
前書き
初めに断っておきますが、今回は最初から最後までデュエルの話になってしまいました。
 

 
デュエル部への入部試験第3試合、亜璃沙VS楠田のデュエルは、秋弥と海堂のデュエルのすぐ後に開始した。

「先攻は譲ろう」
「それじゃあ、お言葉に甘えて!私は《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》を召喚!」

《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)
☆☆☆☆ 光属性
ATK/1200 DEF/600
【戦士族・効果】
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、手札から『エルフ』と名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる。

「《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》の召喚に成功したので、手札から《救済(きゅうさい)するホーリー・エルフ》を守備表示で特殊召喚します!」

救済(きゅうさい)するホーリー・エルフ》
☆☆☆☆ 光属性
ATK/800 DEF/2000
【魔法使い族・効果】
このカードが表側守備表示で存在する限り、相手は他のモンスターを攻撃対象に選択できない。

「私はリバースカードを2枚セットして、ターンエンドです」
「俺のターンだな、ドロー!……俺は《アレキサンドライドラゴン》を召喚し、カードを1枚セットして、ターンエンドだ」

《アレキサンドライドラゴン》
☆☆☆☆ 光属性
ATK/2000 DEF/100
【ドラゴン族】
アレキサンドライトのウロコを持った、非常に珍しいドラゴン。
その美しいウロコは古の王の名を冠し、神秘の象徴とされる。
――それを手にした者は大いなる幸運を既につかんでいる事に気づいていない。

「レベル4で、攻撃力2000……」
「監督のデッキの中でも特に優秀なアタッカーだぜ。もっとも、今回はホーリー・エルフの守備力と同値で動けなかったみたいだがな」
「私のターン、ドロー!」

亜璃沙がドローしたのは、魔法(マジック)カード。

「私は魔法(マジック)カード、《融合(ゆうごう)》を発動!フィールドの《救済(きゅうさい)するホーリー・エルフ》と、手札の《嘲笑(ちょうしょう)するダーク・エルフ》を融合します!」
「融合召喚だと!?」

救済(きゅうさい)するホーリー・エルフ》の隣に、肌の黒いもう1体のエルフが姿を現し、2体は突如発生した渦の中に吸い込まれて行く。
間もなく渦から眩い光があふれ出し、2体のエルフの力を宿した新たなモンスターが出現した。

「《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》を融合召喚!」

右手からは神聖なる光が、左手からは禍々しきオーラが、それぞれ溢れ出ている美しい女性の姿のモンスターだった。

混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》
☆☆☆☆☆☆☆ 光属性
ATK/2200 DEF/2000
【魔法使い族・融合/効果】
『ホーリー・エルフ』と名のついたモンスター+『ダーク・エルフ』と名のついたモンスター
このカードの属性は『闇』としても扱う。
1ターンに1度、手札から光または闇属性のモンスターを墓地に捨てる事で、そのモンスターの属性によって以下の効果を発動できる。
●光属性:自分フィールド上に存在する全ての光属性モンスターの攻撃力を、エンドフェイズまで1000ポイントアップする。
●闇属性:相手フィールド上に存在する全ての光属性モンスターの攻撃力を、エンドフェイズまで500ポイントダウンする。

「まさか、1ターン目から融合召喚をして来るとはな……」
「バトル!《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》で、《アレキサンドライドラゴン》を攻撃!カオスエンド・フォース!!」

カオス・エルフが両手の光と闇を1つに合わせた巨大な力を、《アレキサンドライドラゴン》に向けて放つ。

「おっと、(トラップ)カード発動だ!《攻撃(こうげき)無力化(むりょくか)》!」

攻撃(こうげき)無力化(むりょくか)
カウンター罠カード
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

カオス・エルフが放った攻撃は、《アレキサンドライドラゴン》の目の前に現れた禍々しい渦の中に吸い込まれて消えてしまった。

「攻撃を無効にするだけでなく、バトルフェイズは終了だ」
「くっ……私は《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》を守備表示にして、ターンエンドです」
「俺のターン、ドロー!」

楠田は計5枚の手札を確認しながら、次の手を考える。

「俺は《アレキサンドライドラゴン》をリリースして、《エメラルド・ドラゴン》をアドバンス召喚!」

《アレキサンドライドラゴン》がいなくなると同時に、翠緑の表皮が美しい新たな飛竜が姿を現す。

《エメラルド・ドラゴン》
☆☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/2400 DEF/1400
【ドラゴン族】
エメラルドを喰らうドラゴン。
その美しい姿にひかれて命を落とす者は後を絶たない。

「よし、バトルだ!」

楠田のその宣言と同時に、亜璃沙はカードの発動を宣言した。

「リバースカード発動!《エルフ(ぞく)拘束魔法(こうそくまほう)》!」

《エルフ(ぞく)拘束魔法(こうそくまほう)
速攻魔法カード
自分フィールド上に『エルフ』と名のついたモンスターが存在する時、相手モンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターは、フィールド上に存在する限り攻撃力は500ポイントダウンし、攻撃できず、表示形式も変更できない。

「自分のフィールドに『エルフ』のモンスターがいる時、相手モンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせ、攻撃を封じます!」

《エルフ(ぞく)拘束魔法(こうそくまほう)》が発動すると同時に、《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》と《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》が、《エメラルド・ドラゴン》に向けて魔法を行使する。
すると《エメラルド・ドラゴン》は、まるで見えない鎖に縛り上げられたように、身をすくませて沈黙してしまった。

《エメラルド・ドラゴン》
ATK/2400→ATK/1900

「くそっ、動きを止められたか……ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」

亜璃沙の手札は0。今のドローカードを確認した亜璃沙は、たちまちそれをデュエル・ディスクにセットした。

「私はフィールド魔法、《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》を発動!」

周囲の景色が、豊かな水を湛えた美しい森の中の集落に変化する。
水浴びをするエルフや、木々の隙間を飛び交って遊ぶ幼いエルフ達の姿が見て取れた。

《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)
フィールド魔法カード
このカードがフィールド上に存在する限り、『エルフ』と名のついたモンスターの戦闘で発生するそのモンスターのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる。
また、自分フィールド上に存在する『エルフ』と名のついたモンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地に送った場合、自分はデッキからカードを1枚ドローする事ができる。

「そして、《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》を攻撃表示にしてからバトル!《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》で、《エメラルド・ドラゴン》を攻撃!」

光と闇が交じり合った波動が、《エメラルド・ドラゴン》に襲い掛かる。
為す術もなく、《エメラルド・ドラゴン》は波動に包まれそのまま消滅してしまった。

楠田 庄司
LP/4000→LP/3700

「カオス・エルフが《エメラルド・ドラゴン》を戦闘破壊した事で、《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》の効果が発動!カードを1枚ドローします!」
「くっ、《エメラルド・ドラゴン》が……!」
「更に続けて、《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》で、楠田先生へダイレクトアタック!」

《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》が、素早い動きで楠田の元へ駆け寄る。
そして、鋭く光る短剣を、楠田に向けて振り下ろした。

「うぉっ!?」

楠田 庄司
LP/3700→LP/2500

「そして、今ドローした《翻弄(ほんろう)するエルフの剣士(けんし)》を召喚して、私はターンを終了します」

《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》の隣に、凛々しい顔立ちの剣士が姿を現す。

翻弄(ほんろう)するエルフの剣士(けんし)
☆☆☆☆ 地属性
ATK/1400 DEF/1200
【戦士族・効果】
このカードは攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。

「俺のターン、ドロー!……モンスターを1体守備表示で召喚。リバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」

ドローカードを確認してから、亜璃沙はすぐに宣言した。

「バトル!まずは《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》で、裏守備モンスターを攻撃!カオスエンド・フォース!」

混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》が、光と闇の波動を裏側表示のカードに向けて放つと、まるで金属のような体の小型の竜が姿を現し、そのまま消滅してしまった。

「《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》の効果でカードを1枚ドロー!そして、2体のモンスターでダイレクトアタック!」

《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》と《翻弄(ほんろう)するエルフの剣士(けんし)》が、2体同時に楠田に襲い掛かる。

「やった!亜璃沙の勝ちだ!」
「いや、まだだ……!」
(トラップ)カード発動!《攻撃(こうげき)無敵化(むてきか)》!」

攻撃(こうげき)無敵化(むてきか)
罠カード
バトルフェイズ時にのみ、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターはこのバトルフェイズ中、戦闘及びカードの効果では破壊されない。
●このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる。

「このカードの効果により、このターン俺が受ける戦闘ダメージは0になる!」
「そんな……これが決まれば、勝てたのに……」
「そうそう簡単に、監督が負けるわけねーよ」
「まだまだこれからッスよ!」
「……私は、これでターンエンドです」
「俺のターンだな、ドロー!」

手札を確認してから、楠田はすぐにカードの発動を宣言した。

「よし、俺は墓地の《カーボネドン》の効果を発動する!」
「《カーボネドン》?そんなカード、いつ……?」
「憶えてないかな?さっきの裏守備モンスターさ!」

言われて、亜璃沙は思い出す。
先程破壊した、あの金属のような体の竜の存在を。

《カーボネドン》
☆☆☆ 地属性
ATK/800 DEF/600
【恐竜族・効果】
《カーボネドン》の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが炎属性モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。
このカードの攻撃力は、そのダメージ計算時のみ1000アップする。
②:自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。
手札・デッキからレベル7以下のドラゴン族の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

「墓地の《カーボネドン》をゲームから除外し、デッキから《ダイヤモンド・ドラゴン》を特殊召喚!」

地響きと共に、地中から光り輝く巨竜が姿を現す。

《ダイヤモンド・ドラゴン》
☆☆☆☆☆☆☆ 光属性
ATK/2100 DEF/2800
【ドラゴン族】
全身がダイヤモンドでできたドラゴン。
まばゆい光で敵の目をくらませる。

「守備力2800……手強いね」
「ああ……けど、カオス・エルフなら、自分の効果であれを上回る事ができる。亜璃沙が光属性のモンスターを引ければいいんだけどな……」
「更に俺は、《サファイアドラゴン》を攻撃表示で召喚!そして、《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》を攻撃だ!」

《サファイアドラゴン》が、《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》に突撃する。
硬い体に勢いよく弾き飛ばされた《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》はそのまま消滅した。

「《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》の効果で、戦闘ダメージは0です」
「分かっているさ。俺はこれでターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」

ドローカードを含めた3枚の手札は、《ハイエルフ・ソードマン》、《死者蘇生(ししゃそせい)》、《和睦(わぼく)使者(ししゃ)》。
亜璃沙はそれを確認して、すぐさま行動を起こした。

「私は、《翻弄(ほんろう)するエルフの剣士(けんし)》をリリースして、《ハイエルフ・ソードマン》をアドバンス召喚します!」

エルフの剣士が光に包まれる。
光が消えた時、そこに立っていたのは、2本の長刀を持つエルフ族の戦士の姿だった。

《ハイエルフ・ソードマン》
☆☆☆☆☆☆ 光属性
ATK/2400 DEF/1200
【戦士族・効果】
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、このカードの攻撃力が守備表示モンスターの守備力を越えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「バトル!《ハイエルフ・ソードマン》で《サファイアドラゴン》を攻撃!ツインソードラッシュ!!」

《ハイエルフ・ソードマン》が、怒涛の勢いで《サファイアドラゴン》に斬り掛かる。
数え切れないほどの刀傷を付けられ、《サファイアドラゴン》は消滅した。

楠田 庄司
LP/2500→LP/2000

「《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》の効果で、カードを1枚ドローします!」

デッキからカードをドローした亜璃沙は、少し状況を考えてからこう宣言する。

「……リバースカードを1枚セットして、ターンエンドです」
「よし、俺のターンだな、ドロー!」
「……何か変だな」
「どうしたの?遊雅」
「余りにも亜璃沙に戦況が傾きすぎてる。何かあるかもしれないぜ」
「そ、そう?あんまり不安になる事言わないでよ、遊雅……」

2人の不安をよそに、楠田はドローカードを確認し、それをセットする。

「俺は《ダイヤモンド・ドラゴン》をリリースし、モンスターを裏守備でアドバンス召喚!」
「《ダイヤモンド・ドラゴン》をリリース!?」

これには、遊雅、亜璃沙、秋弥の3人が皆驚いた。
亜璃沙のフィールドに並ぶ2体の強力なモンスターを阻むほど高い守備力を持つ《ダイヤモンド・ドラゴン》を、わざわざリリースした事に。

「更に、リバースカードを2枚セットしてターンエンドだ!」
「……私のターン、ドロー!」

亜璃沙は楠田の不穏な動きに警戒しつつ、ドローカードを確認する。
ドローしたのは《(いの)りのエルフ》。
先程《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》の効果でドローしたのは《復興(ふっこう)への戦備(せんび)》。
強力なカードだが、今は発動条件が揃っていない。

「私は手札から、光属性の《(いの)りのエルフ》を墓地に捨てて、カオス・エルフの効果を発動!光属性モンスターの攻撃力を1000ポイントアップします!」

混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》
ATK/2200→ATK/3200

《ハイエルフ・ソードマン》
ATK/2400→ATK/3400

「バトル!《ハイエルフ・ソードマン》で、裏守備モンスターを攻撃!」

裏側表示のカード目掛けて、雄々しきエルフ族の戦士が疾駆する。
2本の長刀で斬りつけられたカードから、全身の宝石が埋め込まれた竜が一瞬だけ姿を現し、そのまま消滅してしまった。
そして、その一瞬だけ現れた姿を見た遊雅は、再び驚愕する事になる。

「遊雅?」
「今のは……《ラブラドライドラゴン》……?」
「えっ?何なの?それは」
「それなりに高い守備力は持っているが、《ダイヤモンド・ドラゴン》よりも守備力の低いモンスターだ。どうして……」

《ラブラドライドラゴン》
☆☆☆☆☆☆ 闇属性
ATK/0 DEF/2400
【ドラゴン族・チューナー】
ラブラドレッセンスと呼ばれる特有の美しい輝きを放つウロコを持ったドラゴン。
そのウロコから生まれる眩い輝きは、見た者の魂を導き、
感情を解放させる力を持つ。
――その光は前世の記憶を辿り、人々を巡り合わせると伝えられる。

楠田 庄司
LP/2000→LP/1000

「カードを1枚ドロー!そして、《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》でダイレクトアタック!」

勝利を確信し自身に満ちた表情を浮かべた《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》が、両手の力を集約し、楠田に向けてそれを放出する。

「リバースカード発動!《ガード・ブロック》!」

しかし、楠田の前に実体化した《ガード・ブロック》のカードにより、その攻撃は阻まれてしまった。

《ガード・ブロック》
罠カード
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「また……!?」
「この効果で、俺は手札を1枚ドローさせてもらうよ」
「くっ……ターンエンドです」
「さて、俺のターンだ、ドロー!」

ドローカードを確認した楠田は、妖しく口の端を吊り上げた。

「さぁっ、これで準備は整った。今から俺のデッキの本領を見せてあげよう!」
「おっと海堂、いよいよ来るみたいだぜ」
「待ってました!」
「何だ……一体どんな事が起きるってんだ……?」

不安と期待、相反する2つの感情が入り混じる観客に見つめられる中で、楠田は今日一番とも言える明るい笑顔で、カードの発動を宣言した。

魔法(マジック)カード!《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう)降臨(こうりん)》を発動!」

5つの宝石がはめられた台座から、何か強大な存在が現れようとしている様子が描かれた魔法(マジック)カードが実体化する。

極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう)降臨(こうりん)
魔法カード
自分の墓地に『サファイアドラゴン』、『アレキサンドライドラゴン』、『エメラルド・ドラゴン』、『ラブラドライドラゴン』、『ダイヤモンド・ドラゴン』が存在する時、それらのモンスターをゲームから除外し、ライフポイントを半分払って発動できる。
手札から《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》を特殊召喚する。
このカードを発動した場合、自分はこのターン、《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》以外の召喚を行う事はできない。 

 

第6話 絆の力が穿つ穴

魔法(マジック)カード!《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう)降臨(こうりん)》を発動!」

楠田の宣言と同時に、フィールド上に古びた岩の台座が姿を現す。
台座には五芒星(ごぼうせい)が描かれ、その頂点の5ケ所に何かをはめられるような窪みがあった。

「自分の墓地の宝石竜モンスターを全てゲームから除外し、ライフポイントを半分支払う事で、手札から極彩宝石竜を特殊召喚できるカードだ!」
「極彩宝石竜……!?」
「そう!俺のデッキ最強のモンスターだ!さぁ、現れろ!グランジェム・ドラグーン!!」

楠田のデュエル・ディスクの墓地から、5体の宝石竜が現れ、それぞれが自身の名前と同じ宝石となって、台座の窪みに吸い込まれて行く。
全ての窪みが埋まった所で、今度は楠田のデュエル・ディスクのライフカウンターから、五芒星の中心に向けて光線が放たれた。

楠田 庄司
LP/1000→LP/500

光線が収まるのと同時に、五芒星から巨大な光の柱が立ち上る。
そしてその中から、目を見張るほど巨大で、そしてこの世の物と思えないほど煌びやかに飾られた竜が、咆哮と共に姿を現した。

極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 光属性
ATK/4000 DEF/4000
【ドラゴン族・効果】
このカードは通常召喚できない。
《極彩宝石竜の降臨》の効果でのみ特殊召喚できる。
1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上に存在するドラゴン族モンスター1体を墓地に送る事で、相手フィールド上に存在するカードを2枚まで選択して破壊する事ができる。
また、このカードが攻撃する時に魔法・罠・効果モンスターの効果が発動された時、このカードの攻撃力を1000ポイントダウンする事で、その発動を無効にして破壊する事ができる。

「な、何だこれ……!?」
「すごい……こんなモンスターがいるなんて……!」
「驚いている暇はないぞ!グランジェム・ドラグーンで、《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》を攻撃だ!破滅のシャイニング・ブレス!!」

高く吼えたグランジェム・ドラグーンの口から、まるで宝石が散りばめられたように光り輝くブレスが吐き出される。

「リバースカード、《和睦(わぼく)使者(ししゃ)》を発動!戦闘ダメージを0にして、モンスターの破壊も防ぎます!」

混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》の盾になるように、修道女達が姿を現し、祈りを捧げ始める。
しかし、楠田はそれを許さなかった。

「悪いが、グランジェム・ドラグーンの効果を発動する!自分の攻撃中に魔法、罠カード、効果モンスターの効果が発動された時、攻撃力を1000ポイント下げて無効にする事ができる!」
「そんなっ……!?」

ブレスの勢いは少し弱まったが、修道女達の祈りは届かず、《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》と共に、そのブレスになぎ払われてしまった。

「くっ……けど、《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》の効果で、戦闘ダメージは受けません!」
「そのカードは厄介だな……だが、それも次のターンまでだ。ターンエンド」
「私のターン……ドロー!」

計4枚の手札は《死者蘇生(ししゃそせい)》、《復興(ふっこう)への戦備(せんび)》、《エルフ(ぞく)拘束魔法(こうそくまほう)》、《エルフ(ぞく)魔力集約(まりょくしゅうやく)》。

「《死者蘇生(ししゃそせい)》を発動!墓地から《救済(きゅうさい)するホーリー・エルフ》を特殊召喚します!」

再び色白の肌の美しいエルフが、祈るように手を組んで姿を現した。

「更に手札から、《エルフ(ぞく)拘束魔法(こうそくまほう)》を発動!《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》を拘束します!」
「そうは行かない!リバースカード発動!《光塵迷彩(こうじんめいさい)》!」

光塵迷彩(こうじんめいさい)
カウンター罠カード
フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスターを対象にする効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》の姿が、光の塵のようになって消失する。
亜璃沙のフィールドのエルフ達は、魔法をかける対象を見失い、魔法を行使できなくなってしまった。

「くっ……またかわされた……!」
「危ない危ない。ここで動きを封じられるわけにはいかないからな」
「……リバースカードをセットして、ターンエンドです」
「なら俺のターンだ、ドロー!……よし、《ロックガッツ・ドラゴン》を召喚!」

極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》の脇に、岩の体を持つ竜が姿を現した。

《ロックガッツ・ドラゴン》
☆☆☆☆ 地属性
ATK/1000 DEF/2000
【ドラゴン族・効果】
墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする事ができる。

「そして《ロックガッツ・ドラゴン》をリリースし、グランジェム・ドラグーンの効果を発動!その2体のモンスターを破壊だ!グランジェム・トルネード!!」

光となった《ロックガッツ・ドラゴン》を吸収したグランジェム・ドラグーンが、巨大な翼を激しく羽ばたかせる。
1度羽ばたかせただけで発生した巨大な竜巻は、亜璃沙のフィールド上の《ハイエルフ・ソードマン》と《救済(きゅうさい)するホーリー・エルフ》を遠くまで吹き飛ばしてしまった。

「さぁバトルだ!《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》でダイレクトアタック!破滅のシャイニング・ブレス!!」

先程《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》をなぎ払った強力な息吹が、亜璃沙に襲い掛かる。
為す術のない亜璃沙は、その身でブレスを受けるしかなかった。

「きゃあっ!!」
「亜璃沙っ!?」

神原 亜璃沙
LP/4000→LP/1000

「まずいよっ、このままじゃ亜璃沙が負けちゃう!」
「くっ……まさかあんな大物が出て来るなんてな……」
「まだだ!俺は手札から、《スタンピング・クラッシュ》を発動!」

《スタンピング・クラッシュ》
魔法カード
自分フィールド上にドラゴン族モンスターが表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。
フィールド上に存在する魔法・罠カード1枚を選択して破壊し、そのコントローラーに500ポイントダメージを与える。

「その効果により、《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》を破壊し、神原に500ポイントのダメージを与える!」

グランジェム・ドラグーンが、その巨体を支える大木のような足で強く地面を蹴った。
それは巨大な地震となり、エルフ族の美しい村を形作る木々をなぎ倒して行く。
エルフ達の集落は倒れた木々に押し潰され、無残にもそのまま消滅してしまった。

神原 亜璃沙
LP/1000→LP/500

「やりましたよ先輩!厄介な《エルフ(ぞく)秘境(ひきょう)》を破壊しました!」
「ああ。監督の勝利が見えて来たな」
「亜璃沙……負けるな……!」

そんな観客達の声を聞きながら亜璃沙は……喜んでいた。
自分の切り札の発動タイミングがようやく訪れた事を。

「遊雅、大丈夫よ!私は勝つわ!」
「亜璃沙……そうだ、行け!やっちまえ!」
「ほう、この状況で勝てると言うか。では見せてもらおうか!その起死回生の一手を!」
「ええ、お安い御用です!私は速攻魔法カード、《復興(ふっこう)への戦備(せんび)》を発動!」

荒れ果てた地で、エルフ達が武器を掲げ奮起している様子が描かれたカードが姿を現す。

復興(ふっこう)への戦備(せんび)
速攻魔法カード
自分のライフポイントが1000ポイント以下の時に、自分フィールド上に存在する《エルフ族の秘境》が破壊された場合のみ発動できる。
自分の墓地に存在する『エルフ』と名のついたモンスターを、可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。

「この効果により、私は墓地から《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》、《ハイエルフ・ソードマン》、《嘲笑(ちょうしょう)するダーク・エルフ》、《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)》、《翻弄(ほんろう)するエルフの剣士(けんし)》を特殊召喚します!」
「なにっ、そんなに多くのモンスターを!?」

亜璃沙のフィールド上に、5体のエルフモンスターが姿を現す。

「自分達の故郷を滅ぼされた彼女達は、その相手を討つために、手を取り合って戦う決意をしました。次のターンで、それをお見せします!」
「くっ……ターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー!」

ドローカードの確認もせずに、亜璃沙は行動を開始した。

「まずは、《嘲笑(ちょうしょう)するダーク・エルフ》の効果を発動します!」

嘲笑(ちょうしょう)するダーク・エルフ》
☆☆☆☆ 闇属性
ATK/2000 DEF/800
【魔法使い族・効果】
このカードは1000ライフポイント払わなければ攻撃できない。
1ターンに1度、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力を300ポイントダウンする。

ダーク・エルフが《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》を嘲るように笑う。
それに対してグランジェム・ドラグーンは怒りを露わにした咆哮を返した。

極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》
ATK/3000→ATK/2700

「更に、墓地の《(いの)りのエルフ》の効果を発動!手札を1枚捨てて、このカードを手札に戻します!」

(いの)りのエルフ》
☆☆☆ 光属性
ATK/300 DEF/1200
【魔法使い族・チューナー】
1ターンに1度、手札を1枚捨てる事で、墓地に存在するこのカードを手札に戻す事ができる。

「そしてこのカードをもう一度墓地に捨てて、《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》の効果を発動!光属性モンスターの攻撃力を1000ポイントアップ!」

カオス・エルフが、増幅した右手の光を自陣に降り注がせる。

混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》
ATK/2200→ATK/3200

《ハイエルフ・ソードマン》
ATK/2400→ATK/3400

《エルフ(ぞく)斥候(せっこう)
ATK/1200→ATK/2200

「バトル!《混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》で、《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》を攻撃!カオスエンド・フォース!!」

カオス・エルフが、両手の力を集めた巨大な力を、グランジェム・ドラグーンに放つ。
その瞬間に、楠田はカードの発動を宣言した。

「墓地の《ロックガッツ・ドラゴン》の効果発動!攻撃を無効にする!」
「よっしゃあ!防いだぜ!」

グランジェム・ドラグーンを守るように、《ロックガッツ・ドラゴン》が現れる。
海堂の歓声をよそに、亜璃沙もまた、このように宣言した。

「言ったはずですよ先生!私は勝つって!速攻魔法カード、《エルフ(ぞく)魔力集約(まりょくしゅうやく)》を発動!」

カードの発動と同時に、カオス・エルフを除く4体のエルフモンスターが、カオス・エルフの手に自分達の手を重ね合わせた。
手を通じて繋がりあった5体のエルフ達を巻き込むように、巨大なオーラが発生する。
それと同時に、カオス・エルフが放った波動も更に強力な物となった。

《エルフ(ぞく)魔力集約(まりょくしゅうやく)
速攻魔法カード
自分フィールド上の『エルフ』と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力は、そのモンスター以外の自分フィールド上に存在する『エルフ』と名のついたモンスターの攻撃力の合計の数値分アップし、攻撃を無効にする事はできない。
この効果を発動する場合、このターン選択したモンスター以外は攻撃宣言を行えず、エンドフェイズ時に自分フィールド上に存在する『エルフ』と名のついたモンスターを全て破壊する。

混沌(こんとん)聖女(せいじょ)-カオス・エルフ》
ATK/3200→ATK/12200

「こ、攻撃力12200だとぉっ!?」
「《ロックガッツ・ドラゴン》の効果も効きません!これでトドメです!」

エルフ達の協力によって勢いを増した波動は、《ロックガッツ・ドラゴン》と共に、《極彩宝石竜(ごくさいほうせきりゅう) グランジェム・ドラグーン》の巨体を貫いた。
グランジェム・ドラグーンは苦しそうな呻き声を上げ、眩い光を散らばせながら、消滅した。

楠田 庄司
LP/500→LP/0

「……なんてこった……まさかグランジェム・ドラグーンがやられるとは……」
「嘘だろ……いくら攻撃力が下がってたとは言え、監督の切り札を……」
「すっげぇ!やったな亜璃沙っ!!」
「すごいよ亜璃沙!まさかあんなモンスターを倒しちゃうなんて!」
「エルフ達が頑張ってくれたお陰よ。みんな、ありがとね」

亜璃沙の労いの言葉に、エルフ達はそれぞれ微笑んでから、光となって亜璃沙のデッキへ戻って行った。

「まさか、3人とも負けるとは思ってなかったぜ。これならもう文句はないな」
「そうッスね……悔しいッスけど、負けは負けッスからね」
「よしっ!それでは改めて、我がデュエル部にようこそ!これからよろしく頼むよ!」
「はい!おっしゃあ、燃えて来たぜ!」
「うん!色々と楽しみだね、遊雅!」
「私も、何だか楽しくなって来た!」

その盛り上がりに乗じて、竜兵がこんな提案をする。

「そうと決まりゃ、歓迎会だな!監督、どっか食べに行きましょうよ!」
「おういいぞ!嬉しいから今日は俺の驕りだ!新生デュエル部の門出を祝って、派手に行くぞぉっ!!」
「おぉ、監督太っ腹ッスね!」
「本当ですか!?やったな、2人とも!何食う!?」
「そうだなー、お寿司とか?」
「フルコースディナーなんかも捨て難いんじゃない?」
「お、おい君達……あ、あんまり高いのは、勘弁してくれな?」

突如として弱気になった楠田の様子を見て、一同は爆笑の渦に包まれる。
歓迎会の舞台は、多数決によってバイキングレストランに決定した。
6人は楽しく食事をして、夢や今後の目標を言い合って盛り上がっていたが、楠田の財布は、まるで先程の自分のライフポイントのように、オーバーキル級の大ダメージを受ける事となった。
楽しい宴も終わりを告げ、遊雅と亜璃沙は4人と別れて帰路に着いていた。

「いやー、食った食った。美味かったなぁ」
「そうね……ちょっとお腹が心配かも……」
「にしても、無事にデュエル部に入れてよかったぜ。これで俺の夢にも1歩近づけたな!」
「まずは、高校生のデュエル大会に優勝するのが目標?」
「ああ!公式大会なら、すごく強ぇデュエリストもたくさんいるだろうしな!プロデュエリストにスカウトされたりして!」
「そんな簡単にはいかないわよ。……けど、応援してるわ。頑張ってね!」
「おう、ありがとよ!」

間もなく、亜璃沙の家に到着する。

「それじゃあ、また明日ね、遊雅」
「おう、明日!じゃあな!」

別れの挨拶を交わして、遊雅は再び歩き出す。
程なくして、遊雅は自分の家に辿り着いた。

「ただいまー」
「あら遊雅、おかえり。どう?美味しかった?」

みんなで食事をする件については、既に母親に連絡済みだ。

「すっげぇ美味かったよ!あっ、それと、デュエル部に入る事が決まったんだ!」
「あら、そうなの?よかったじゃない!」
「どんな奴とデュエル出来るか今から楽しみだよ!それじゃ俺、ちょっと部屋でデッキ調整して来る!」
「もう少しでお風呂沸くから、寝ちゃ駄目よ~?」

走りながら返事をした遊雅は、そのまま自分の部屋に飛び込んだ。
すぐさまデッキケースから自分のデッキを取り出し、調整の前に、一番の相棒をデッキから抜き取った。

「……頼りにしてるぜ、フレスヴェルク」

立派な翼を広げて吼える様子が描かれている風神竜のカードを眺めながら、遊雅はそう呟いた。 
 

 
後書き
これにて、第1章完結でございます。
1章から随分とデュエルだらけの忙しい章になってしまいましたが、楽しんで頂けたでしょうか?
オリカ盛り沢山のご都合主義感は否めませんが、何とか楽しいデュエルを描いていけるよう頑張りたいと思います。
今後とも、よろしくお願いします! 

 

第7話 フレスヴェルク・ドラゴンの謎

遊雅が翔竜高校に入学してから、1週間が過ぎた。
学校生活にも慣れ始め、初日の秋弥とのデュエルで出来た友人たちとも徐々に友好を深めている最中だ。
デュエル部の方も日夜デュエル三昧で、楠田や上級生2人の指導の元、主にプレイングについてを教え込まれている。
そのお陰で、遊雅はようやくリバースカードへの警戒心と言う物を身につけ始めた。
そんな、遊雅にとって実に有意義な日々が、少しずつ動き出そうとしていた。

「よう、南雲、神原」
「おう、おはよう」
「うん、おはよう」

いつも通りに遊雅と亜璃沙が一緒に登校すると、同じクラスの男子生徒が後ろから声をかけて来る。
2人もそれに返事をして、3人で教室へ向かう。

「そう言えばよ、夏のHDC、お前ら出んのか?」

HDCとは、ハイスクールズ・デュエル・クラシックの略称。
日本全国の高等学校デュエル部の精鋭達が一堂に集い、雌雄を決する大舞台だ。
無論それは、多くの中高生デュエリスト達の憧れのステージでもある。

「ああ、出場するはずだぜ。出場人数は5人だから、ウチの部はギリギリ出れるしな」
「へぇ、まじか。神原も出んのか?」
「まぁ、私も勘定に入れないと出場できないから。本当はそんなにデュエルには自信ないんだけど」
「よく言うぜ。入部試験で楠田先生にオーバーキルかましてたくせに」
「あ、あれは、ああしないと攻撃を防がれてたから……!」
「ふーん、なるほどな。ところでよ、南雲」

突如、男子生徒は不穏な事を言い始める。

「お前の持ってる《フレスヴェルク・ドラゴン》だけどさ、あれ、大会で使っても大丈夫なのか?」
「えっ?どう言う意味だよ?」
「いやな、俺、あんなカード見た事ないからさ、色んなカードカタログ読み漁ったんだがよ、どこにもあのカード載ってなかったんだよ」
「お前が見落としたか、単に載ってないカタログばっか読んでたんじゃないのか?」
「うーん、そうかな。けど、色んなメーカーの奴読んだんだぜ?それ全部に載ってないとは思えないんだよなぁ……」
「気になるわね……放課後、楠田先生にでも聞いてみる?」
「そうだな……そうするか」

口では肯定した物の、遊雅としてはそんな事は信じられなかった。
仮に《フレスヴェルク・ドラゴン》が正規のカードじゃないとしたら、デュエル・ディスクにセットした時点でエラーが出るはずだ。
遊雅はそのように考えていた。
当然遊雅は、その日1日授業に集中する事は出来なかった。

◇◆◇◆◇◆◇

放課後、遊雅と亜璃沙、そして秋弥は、部活の為にデュエル部の部室へ向かった。
グラウンドの隅に設けられた1区画だけのデュエルスペース。その脇に申し訳程度に建てられているプレハブが、デュエル部の部室だ。
準備運動を開始している運動部の様子を尻目に、3人は部室へ辿り着く。
部室では、既に楠田が待っていた。

「やぁ、3人とも揃っているな」
「楠田先生、今日は早いですね」
「ああ。仕事がいつもより早く終わってな。先に来て準備をしておこうと思ったんだ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「それで、先生。実は俺、先生にちょっと聞きたい事があるんです」
「ん?何だ、改まって」

遊雅は、朝、クラスメートから聞いた話を、楠田にそのまま話して聞かせた。

「……なるほど。確かにそれは少し不安だな」
「はい。大会に出れないかもってのもそうですし、何より、フレスヴェルクと一緒に戦えないと思うと、ちょっと……」
「ふむ……分かった。俺の方でも、何とか調べておこう。知り合いにカードに詳しい奴がいるんだ。そいつに見せてみるから、《フレスヴェルク・ドラゴン》を預かってもいいかな?」
「分かりました。ただ、今日の部活の間は使いたいんで、後ででもいいですか?」
「分かった。そう言う事なら、今日の部活が終わった後で預かっておこう」
「はい、お願いします」

丁度、竜兵と海堂が部室を訪れた為、そこでひとまずこの話は終了する事となった。
そして、部活が開始する。

「今日の活動内容だが、シンクロ召喚を組み込んだ模擬デュエルをやってみようと思う」

楠田の宣言に、一同はそれぞれに声を漏らした。

「シンクロ召喚か……」
「俺らはまだやった事ないッスよね、先輩」
「ああ、だが、幸いにも天藤がシンクロ召喚を得意としている。教えてもらう事も可能だろう」
「ええっ!?僕がですか!?」
「一気に昇進したな、秋弥」
「頑張って、秋弥。私たちにもちゃんと教えてね」

遊雅と亜璃沙の反応を見て、四面楚歌と判断した秋弥は、大人しくシンクロ召喚の講師を買って出る決意をした。
そして早速、秋弥によるシンクロ召喚の解説が始まる。

「えーっと……シンクロ召喚をする為にはまず、召喚したいシンクロモンスターのレベルと、要求されている素材を確認する必要があります」

そこまで説明してから、秋弥は自分のデッキから《ジュラック・ヴェルヒプト》を取り出した。

「例えば、僕の《ジュラック・ヴェルヒプト》のレベルは5。そして、要求されている素材はチューナーモンスターと、チューナー以外の恐竜族モンスターが1体以上です」

ここまでの説明に、講義を受けている4人全員が理解を示す。
それを確認してから、秋弥は新たに2枚のカードを取り出して講義を再開した。

「この場合、レベルの合計が5になるように、素材として要求されているモンスター達を、フィールド上から墓地に送る事で、《ジュラック・ヴェルヒプト》をシンクロ召喚できます。こんな風に」

秋弥が取り出した2枚のカードは、遊雅とのデュエルでも《ジュラック・ヴェルヒプト》のシンクロ素材となった《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》と《ジュラック・ガリム》だった。

「この2枚のカードのレベルの合計は5です。そして、《ジュラック・ガリム》はチューナー、《俊足(しゅんそく)のギラザウルス》は、チューナーではない恐竜族のモンスターです。この2体がフィールド上に揃った時に2体を墓地に送る事で、《ジュラック・ヴェルヒプト》をシンクロ召喚できます」
「シンクロ素材は、何もその2体に限った話ではないんだよな?」

竜兵が秋弥に質問をする。
それに対して秋弥は、新たに2枚のカードを取り出して応答した。

「はい。レベル5にさえなればいいので、こう言う組み合わせでも大丈夫です」

秋弥が取り出したのは、《ジュラック・アウロ》と《ジュラック・グアイバ》だ。

《ジュラック・アウロ》
☆ 炎属性
ATK/200 DEF/200
【恐竜族・チューナー】
このカードをリリースして発動できる。
自分の墓地から《ジュラック・アウロ》以外のレベル4以下の『ジュラック』と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

「《ジュラック・アウロ》はレベル1のチューナー、《ジュラック・グアイバ》はレベル4の、チューナーじゃない恐竜族モンスターです。この2体を墓地に送る事でも、ヴェルヒプトのシンクロ召喚はできます」
「よし、ここで俺から問題だ。このカードをシンクロ召喚するためのシンクロ素材を、君達のデッキから出してみてくれ」

楠田が4人に見せたのは《氷結界(ひょうけっかい)(りゅう) グングニール》だった。

氷結界(ひょうけっかい)(りゅう) グングニール》
☆☆☆☆☆☆☆ 水属性
ATK/2500 DEF/1700
【ドラゴン族・シンクロ/効果】
チューナー+チューナー以外の水属性モンスター1体以上
1ターンに1度、手札を2枚まで墓地へ捨て、捨てた数だけ相手フィールド上のカードを選択して発動できる。
選択したカードを破壊する。

「レベル7で……チューナーと水属性か」
「先輩はチューナー持ってないッスよね?お前ら、チューナー持ってるか?水属性は俺が提供するが」
「あっ、私が」

海堂の問い掛けにすぐに反応したのは亜璃沙だった。
すぐに亜璃沙がデッキから取り出したのは、《(いの)りのエルフ》。
レベル3のチューナーモンスターだ。

「3か。なら、俺はこいつを出すぜ」

海堂が取り出したのは《深海王(しんかいおう)デビルシャーク》。レベル4だ。

「監督、この2体でOKですよね?」
「ああ、その通りだ。それと1つだけ注意しておくが、チューナー以外のモンスターは何も1体じゃないといけないというわけではない。この場合なら、レベル3のチューナーと、レベル2の水属性を2体でもシンクロ召喚が可能だ」
「なるほど……大体わかりました」
「よし、それじゃあ俺から、君達のデッキに合ってると思われるシンクロモンスターとチューナーをプレゼントだ!」
「本当ッスか!?いやぁ、入部試験の時といい、監督太っ腹ッスね!」
「ああ、懐が寒いよ」

今にも泣き出しそうな顔で、楠田が4人にシンクロモンスターとチューナーモンスターを配って行く。
遊雅が受け取ったのは、《旋風(せんぷう)のボルテクス》と《こけコッコ》だった。

旋風(せんぷう)のボルテクス》
☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/2100 DEF/700
【鳥獣族・シンクロ/効果】
チューナー+チューナー以外の鳥獣族モンスター1体以上
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキからレベル4以下の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

《こけコッコ》
☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/1600 DEF/2000
【鳥獣族・チューナー】
お互いのフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードはレベル3モンスターとして手札から特殊召喚できる。
相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにカードが存在しない場合、このカードはレベル4モンスターとして手札から特殊召喚できる。
表側表示のこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。

「あれ、先生、俺もうチューナー持ってますけど」
「おぉ、そうだったか。まぁ、せっかく調達したのにもったいないだろう。受け取っておけ」
「ありがとうございます!」

確かに、効果をよく読んでみるとフィールド上に出しやすそうなモンスターだった。
遊雅が持つ唯一のチューナーモンスター《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》は、このカードと違って特殊召喚効果を有していないので、こちらの方がシンクロ素材にはしやすいだろう。

「よし、それでは今配ったカードをデッキに入れて、模擬戦を開始するぞ!」

シンクロ召喚の基礎を学んだ4人のデュエリスト達は、その腕を磨くために模擬戦に精を出し始めた。

◇◆◇◆◇◆◇

「それじゃあ、お願いします」
「ああ、任せておけ。それじゃあな」
「はい、さようなら」

楠田に《フレスヴェルク・ドラゴン》を預けた遊雅は、亜璃沙と秋弥と共に学校を後にした。

「遊雅、よかったの?《フレスヴェルク・ドラゴン》は遊雅の相棒なんでしょ?」
「本音言うときついよ。俺のデッキの主力モンスターだからな。だからさ、ちょっと今からカードショップに行って、シンクロモンスター買って来ようと思うんだ」
「えぇっ、今から?」
「ああ。母さんにはもう連絡してある。亜璃沙は帰ってもいいぞ。あんまり夜遅くまで付き合わせるわけには行かないからな」
「もう……秋弥1人じゃ心配だし、私も着いて行くわよ。遊雅は何しでかすか分からないから」
「何だよ、もうガキじゃねーんだから、そんな面倒なんか起こさないっての」
「まぁまぁ、喧嘩しないで。ほら、行くなら早く済ませちゃおう!」
「そうだな。よし、行こうぜ!」
「あっ、ちょ、ちょっと待って!」

その後、亜璃沙が両親に連絡を入れるのを待ってから、3人は街へ繰り出した。
時刻は20時。街にはまだ、遊雅達と同年代と見える人影が多く見られた。
何しろ、遊雅達同様、制服姿で街を歩いているのだから、すぐに分かってしまう。

「なぁ秋弥、どっかオススメのカードショップってないか?」
「あるよ。たくさんカードが置いてあって、僕もいっつもお世話になってるんだ。今から案内するよ」
「よかったわね、遊雅」

2人は秋弥の案内に従って、とある1軒のカードショップを訪れた。
雑居ビルの2階、フロアを全て占領して構えられた店内には、カードが飾られたショーウィンドウが所狭しと並べられていた。

「うぉー、すっげぇ!」
「すごーい……これ全部、デュエル・モンスターズなの……?」
「うん!ここならほぼ、見つからないカードはないよ!」

秋弥が豪語するだけあり、店内には多くの人が集まっていた。
遊雅と亜璃沙もショーウィンドウの中を覗いてみる。多くのカードが、カテゴリ毎に分けられてショーウィンドウに飾られていた。

「エルフのカードはどこにあるかな……」
「エルフなら、確か向こうの方にあったよ!あっ、あと遊雅は、シンクロモンスターだったよね?それなら、向こうのショーウィンドウだよ!」
「おう、ありがとよ、秋弥」

秋弥は一時、亜璃沙をエルフのショーウィンドウに案内する為、遊雅と離れた。
遊雅は1人でシンクロモンスターのショーウィンドウの元へ赴き、物色を開始した。

「へぇ~、効果を持っていないシンクロモンスターもいるんだな……おっ、こいつ、俺のデッキで使えそうかも」

遊雅が見つけたのは《風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》だった。

風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》
☆☆☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/2600 DEF/2000
【戦士族・シンクロ/効果】
風属性チューナー+チューナー以外の風属性モンスター1体以上
このカードが表側表示で存在する限り、相手は自分フィールド上に存在する他の風属性モンスターを攻撃対象、またはカードの効果の対象に選択できない。
このカードが相手モンスターを戦闘によって破壊し墓地に送った場合、そのモンスターのレベル以下のレベルを持つ風属性モンスター1体を手札か墓地から特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚されたモンスターは、このターン攻撃宣言できない。

「こいつはいいな。風属性主体の俺のデッキにもマッチしてるし、レベル7だから出しやすそうだ」
「やっ、遊雅。いいモンスターは見つかった?」

丁度、何枚かのカードを手に持った亜璃沙と共に、秋弥が遊雅の元へやって来た。

「ああ。いいカードを見つけたぜ。こいつがいれば、フレスヴェルクがいなくてもある程度戦えそうだ」
「よかったわね、私の方もいいカードが何枚か見つかったわ」
「亜璃沙もシンクロモンスター買ってみたらどうだ?」
「私はいいわ。楠田先生から頂いたモンスターが十分強そうだったし」
「そっか。秋弥は?」
「あー、実を言うとね、ジュラックのシンクロモンスターって3体しかいないんだけど、僕はもう3体とも持ってるんだよね」
「へー、そうなのか。残りの2体も見てみたいな」
「明日あたり、またデュエルする?見せてあげるよ!」

その後、近くを通りかかった店員に頼んでショーウィンドウを開け、目的のカードを取り出してもらった。
デュエル談義に華を咲かせながら、3人は店員に連れられ、会計を済ませるべくレジへ向かう。
風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》は強力なカード故、中々に値が張ったが、カードの為に貯金を欠かさなかった遊雅にとっては、さして苦にならない出費であった。
亜璃沙も5枚のエルフのカードを購入し、楠田からもらったカードも含めて、2人のデッキは十分に強化されたと言えるだろう。

「いやー、いい買い物したな。これで《フレスヴェルク・ドラゴン》が戻って来れば、向かう所敵なしだぜ!」
「あんまり調子に乗ってると、足元すくわれるわよ?」
「へいへい。わかりましたよっと」

3人が店を出ようとした時、後ろから、誰かに声をかけられた。

「やぁ、天藤君」
「あっ、店長さん。どうも!」
「うん、いつもありがとう。お友達かい?」
「はい!高校で初めて出来た友達なんです!」
「おぉ、そうか。天藤君はいつもウチの店を贔屓にしてくれてね。よかったら、君達も是非、ウチのお得意さんになってくれないかな?お安くしとくよ」
「はい!ここ、すげぇ色んなカード置いてあって気に入りました!」
「私も、是非今後はここを利用させてもらいたいと思います!」
「そうかそうか、ありがたい。今後もよろしく頼むよ。あぁ、それと天藤君。近い内に恐竜族のサポートカードが新たに入荷する予定だから、よかったら見に来るといい」
「本当ですか!?わかりました!ありがとうございます!」
「それじゃあ、失礼します」
「ああ、またおいでね」

気のいい店長に見送られて、3人は店を出た。
時刻はそろそろ21時を迎えようとしている。街を歩く人々も住宅街の方へ流れ始めていた。
3人もその流れに乗って、それぞれの家の方へ向かって歩く。

「それじゃ、また明日ね!」
「おう、また明日な!」
「じゃあね、秋弥!」

秋弥と別れた遊雅と亜璃沙は、2人で帰路に着く。

「問題ないといいわね。《フレスヴェルク・ドラゴン》」
「ああ、今はそう祈る事しかできないけど、信じてるぜ、俺は」
「そうね。小さい頃から一緒だったもんね、あのカードとは」
「そう言う事だ」

それから暫く歩いて、亜璃沙の家に到着する。
別れの挨拶を交わしてから、遊雅は再び自宅への道のりの消化を開始した。
そこで――

「ようやく見つけたぞ」

――背後から、そのように声をかけられた。
慌てて遊雅は後ろを振り返る。
そこに立っていたのは、黒いローブを纏ったいかにも怪しい人物だった。
顔はフードで隠れていて見えない。

「……誰だよ」
「ふん、やはり記憶はないか。ならば好都合だ。大人しく風神竜のカードをこちらに渡せ」
「何だと……?」

声にも、背格好にも、全く覚えがなかった。
そんな自分と無関係のように思える人物が、《フレスヴェルク・ドラゴン》の事を知っている。
遊雅は、この人物があのカードについての鍵を握っていると推測した。

「お前……《フレスヴェルク・ドラゴン》の事を何か知っているのか?」
「貴様が知る必要はない。さぁ、こちらによこせ」
「そいつは無理な相談だ。あのカードは今、俺の手元にはないからな」
「ふん、(たわ)けが。ならば力尽くだ」

男は、左手でローブを翻した。
そして遊雅は、露わになった男の左腕を見て、困惑する。
男が左腕に装着していたのは、デュエル・ディスク。いや、その様な形をしている岩盤だった。
しかし、刻まれている紋様に一瞬光が走ると同時に、それは機械で操作しているかのように勝手に動き出し、あっという間に遊雅のデュエル・ディスクのように、カードをセット出来る形態に変形してしまったのだ。

「……デュエルしろってのか」
「デュエル、か。ああ、そうだ。受けてもらうぞ」
「ちっ……やるしかねーか……!」

遊雅も左腕を構え、デュエル・ディスクにデッキをセットする。
変形が終了し、ライフカウンターに4000と表示された所で――

「「デュエル!!」」

――遊雅とローブの男は、戦いの火蓋を切った。 

 

第8話 圧倒的な力

学校帰りの遊雅に接触して来た謎のローブの男。
《フレスヴェルク・ドラゴン》について何かを知っているような口振りの男は、風神竜のカードを渡せと遊雅に迫り、デュエルを仕掛けて来るのだった。

「先攻は貴様だ」
「なら遠慮なく行くぜ」

遊雅は最初の手札となる5枚をデッキからドローする。
それらのカードを確認して、遊雅は驚愕した。

(やばっ……!)

手札に2枚ある魔法カード。その片方は、《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》だった。
《フレスヴェルク・ドラゴン》がデッキに入っていない以上、このカードは全く意味を為さない物となってしまっている。
もう1枚のサポートカードである《風神竜(ふうじんりゅう)(とむら)い》共々、遊雅はデッキからそれらのカードを抜き取る事を失念してしまっていた。
しかし、何も残りの4枚が手札事故を起こしているわけでもなかった。

「俺は手札から、《こけコッコ》を特殊召喚!」

フィールド上に、可愛らしい鶏のような姿のモンスターが姿を現す。

「お互いのフィールド上にモンスターがいない時に特殊召喚した場合、《こけコッコ》のレベルは3になる!更に俺は《シールド・ウィング》を召喚する!」

《こけコッコ》の隣に、美しい翼を持った一見すると竜のようにも見えるモンスターが姿を現す。

《シールド・ウィング》
☆☆ 風属性
ATK/0 DEF/900
【鳥獣族・効果】
このカードは1ターンに2度まで、戦闘では破壊されない。

「そして、レベル2の《シールド・ウィング》に、レベル3の《こけコッコ》をチューニング!」

《こけコッコ》が光の輪に変化する。
そしてその中を潜り抜けた《シールド・ウィング》もまた、眩い光に包まれた。

「シンクロ召喚!現れろ、《旋風(せんぷう)のボルテクス》!!」

光に包まれた《シールド・ウィング》は、様々な武器で武装した鳥人の姿に生まれ変わった。
ここで遊雅は、《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》の活用法を見出す。

(罠カードだと思って警戒するかもしれないな)

リバースカードへの警戒心を身に付け始めた遊雅なりの策だった。

「俺は永続魔法、《鳥兵令(ちょうへいれい)》を発動。更に、リバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」
「俺のターン」

男は静かにカードをドローした。
そして6枚の手札を確認し、すぐに動き始める。

「カードを2枚伏せ、魔法カード《手札抹殺(てふだまっさつ)》を発動」

実体化したカードには、奈落の底へ落ちて行く数枚のカードが描かれていた。

手札抹殺(てふだまっさつ)
魔法カード
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。

「手札交換カードか」
「俺は3枚の手札を捨て、デッキから新たに3枚のカードをドローする」

遊雅もその効果に従って、残った1枚の手札を墓地に捨て、デッキから新たに1枚ドローした。

「ここで、今墓地に捨てた《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》の効果を発動する」
「なにっ、墓地に捨てて発動する効果!?」
「カードの効果によって手札から墓地に捨てられた時、相手フィールド上のカードを1枚破壊できる。俺が墓地に捨てたグラファのカードは2枚。よって、貴様のカードを2枚破壊させてもらう」

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》
☆☆☆☆☆☆☆☆ 闇属性
ATK/2700 DEF/1800
【悪魔族・効果】
このカードは《暗黒界の龍神 グラファ》以外の自分フィールド上に表側表示で存在する『暗黒界』と名のついたモンスター1体を手札に戻し、墓地から特殊召喚する事ができる。
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の手札をランダムに1枚確認する。
確認したカードがモンスターだった場合、そのモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

「破壊するのは、永続魔法カードとモンスターカードだ」

男のデュエル・ディスクの墓地から溢れ出した禍々しい力の奔流が、遊雅のフィールドを蹂躙する。
それによって、《旋風(せんぷう)のボルテクス》と《鳥兵令(ちょうへいれい)》は破壊されてしまった。

「くっ……何て効果だ……!」
「更に、先に伏せておいた魔法カードをここで発動する。《暗黒界(あんこくかい)(いかずち)》」

暗黒界(あんこくかい)(いかずち)
魔法カード
フィールド上に裏側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。
その後、自分の手札を1枚選択して捨てる。

「その伏せカードを破壊だ」

遊雅の伏せた《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》に、激しい電流が生じ、そのまま消滅してしまう。
あっという間に、遊雅のフィールドはガラ空きになってしまった。

「そして、手札を1枚捨てる。ここで、今捨てたカードの効果を発動する」
「またか……!?」
「捨てたカードは《暗黒界(あんこくかい)武神(ぶしん) ゴルド》。カード効果で手札から捨てられた場合、自分フィールド上に特殊召喚できる」

男のフィールド上に、巨大な斧を握り、黄金の装飾を身にまとった悪魔が姿を現した。

暗黒界(あんこくかい)武神(ぶしん) ゴルド》
☆☆☆☆☆ 闇属性
ATK/2300 DEF/1400
【悪魔族・効果】
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、このカードを墓地から特殊召喚する。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手フィールド上に存在するカードを2枚まで選択して破壊する事ができる。

「更にもう1枚の伏せカード、《暗黒界(あんこくかい)取引(とりひき)》を発動。お互いのプレイヤーはカードを1枚ドローした(のち)、手札からカードを1枚墓地に捨てる」

暗黒界(あんこくかい)取引(とりひき)
魔法カード
お互いのプレイヤーはデッキからカードを1枚ドローし、その後手札を1枚選んで捨てる。

2人は共にカードをドローし、自ら選んだカードを墓地に捨てる。

「そして再び、捨てたカードの効果を発動。ゴルド同様、手札から捨てられた時にフィールド上に特殊召喚できる。出でよ、《暗黒界(あんこくかい)軍神(ぐんしん) シルバ》」

両手に剣を逆手に握った、銀色の体を持つ悪魔が、黄金の悪魔の隣に並び立った。

暗黒界(あんこくかい)軍神(ぐんしん) シルバ》
☆☆☆☆☆ 闇属性
ATK/2300 DEF/1400
【悪魔族・効果】
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、このカードを墓地から特殊召喚する。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手は手札を2枚選択して好きな順番でデッキの下に戻す。

「攻撃力2300のモンスターが……2体……」
「バトルだ。2体のモンスターで、貴様へ直接攻撃を行う」

おぞましい形相の2体の悪魔が、遊雅に襲い掛かる。
2本の剣と大斧の連続攻撃によって、遊雅は後ろへ吹き飛ばされてしまった。

「うわぁっ!!」

南雲 遊雅
LP/4000→LP/0

「ふん、他愛(たわい)もない。さぁ、大人しく風神竜のカードをこちらに渡せ」
「くっ……だから、今は持ってないって言ってるだろ……!」
「あくまでも世迷言を抜かし続けるつもりか。ならば無理にでも奪わせてもらうぞ」

男は遊雅に近づき、デュエル・ディスクから強引にデッキを奪い取った。

「くそっ、返せ!!」

遊雅の静止も聞かず、男はデッキの物色を続ける。
強引に取り返そうと考えた遊雅だったが、どういうわけか体が言う事を聞かなかった。
まるで、ソリッドビジョンではなく実体から攻撃を受けたような、そんな感覚で、体は重々しくまるで動かせない状態だ。

「なにっ、まさか本当に……!」

デッキの物色を終えたのだろう。男は悔しさのような、怒りのような感情を露わにした。

「くっ、風神竜はどこだ!答えろ!」
「へっ……、誰が、答えてやるもんかよ……」
「貴様っ……!!」

ようやく見えた男の顔は、先程の2体の悪魔にも引けを取らない形相に歪んでいた。
男は遊雅に詰め寄る。しかし、遊雅の胸倉を掴んだ所で、男は急に怒気を忍ばせた。

「はっ、しかし。……かしこまりました」

誰かと会話するような口振りの男は、そのまま遊雅を掴んでいた手を離し、デッキもその場に落として、「次はこうは行かんぞ」と捨て台詞を残して去って行った。

「何だったんだ、あいつ……」

息も切れ切れに、遊雅は散らばった自分のデッキを回収し、ようやく重々しさも収まり始めた体で、覚束ない足取りながらも残りの帰路を急いだ。
程なくして、遊雅は自宅前に到着する。
母親に何かを問われた時の言い訳を頭の中で整理し、玄関の扉を開く。
案の定、ふらふらとした足取りの遊雅を見た母親が、何事かと訊ねて来た。

「お帰りなさ……遊雅、あんたどうしたの?」
「いや、カード見るのにはまっちゃって遅くなったから、走って帰って来たんだよ」
「走ったぐらいでそんなになるわけないじゃない。どうしたのよ?」
「いや、だから……」

そこで、ダイニングルームから今度は父親が姿を現した。

「どうした?何かあったのか?」
「お父さん……遊雅の様子が変なのよ。聞いてもちゃんと答えてくれなくて」

我ながら嘘が下手だと痛感しながら、遊雅は正直に話す決心をした。

「分かった。正直に話すよ」
「その前に、まずは腰を落ち着けよう。お前もその方がいいだろう」

3人でダイニングルームへ向かう。
食卓について少し待ってから、遊雅は一連の出来事についてを両親に話して聞かせた。

「実は……帰りに、亜璃沙の家であいつと別れた後に、妙な奴に絡まれたんだ」
「絡まれた?」
「ああ。そいつ、《フレスヴェルク・ドラゴン》の事知ってるみたいで、あのカードをよこせって言って来たんだ」
「……《フレスヴェルク・ドラゴン》を、か……」
「そんで、デュエルを挑まれて……あいつのモンスターの直接攻撃を受けたら、思うように体が動かなくなったんだ。今はもう、いくらかましになったけど」
「そう……それで、その人はどうしたの?」
「分からない。俺にカードの在り処を聞き出そうとする途中で、何かぶつぶつ独り言言いながら、どっか行っちまったんだ」

そこまで話すと、両親は急に黙り込んでしまった。
遊雅は、朝からずっと気になっていた事を、両親に訊ねた。

「なぁ、《フレスヴェルク・ドラゴン》って、どうやって手に入れたんだ?」
「えっ……どう言う事?」

とぼけたつもりだろうが、母親は目に見えて動揺していた。
実の息子である遊雅が、そんな様子を見逃すはずがなかった。

「朝、クラスメートに言われたんだ。色んなカードカタログを見たけど、あんなカードどこにも載ってなかったって」
「た、たまたま、載ってないカタログを見てたんじゃ……」
「そうかもしれない。俺もそう思ったよ。けど、あのカードを狙って実際に襲撃されたとあっちゃ、疑わざるを得ないだろ」
「け、けど……」
「母さん、いい。俺から話そう」

反論しようとする母親を制して、父親がその様に告げた。

「いいか、遊雅。今から話す事は全て真実だ。お前を誤魔化そうと嘘をついているわけじゃない、と言う事を先に言っておく」

その宣言に、遊雅は言葉の代わりに首肯を返した。
それを見た父親は、ゆっくりと語り始める。

「お前に渡した3枚のカード、《フレスヴェルク・ドラゴン》と2枚の風神竜のカードは、お前が産まれて来た時に抱えていた物なんだ」
「えっ……?」

無論、遊雅は驚いた。
とても信じられない話だが、父親の『嘘はつかない』と言う宣言が、彼にこの話を信じさせた。
父親は自分が言った事を絶対に貫き通す人間だと言う事を、遊雅は知っていたからだ。
これまでの人生の中で、父親が約束を破った事など、遊雅は一度も見た事がなかった。

「産まれたばかりのお前が、あの3枚のカードを抱きかかえていたんだ」
「……どう言う事だ?」
「勿論、俺達も驚いたさ。赤ん坊が何かを持って産まれて来る。ましてそれがカードだなんて、信じたくても信じられないからな。だが、それは現実だった」
「だからあのカードは俺に何か関係があるって事で、俺に渡したのか?」
「そうだ。何かの縁があって、ひょっとしたらお前のお守り代わりにもなるかもしれないと母さんと話した上で、お前にあの3枚を渡したんだ」
「……そう、なのか」

ダイニングルームは、しばしの間静寂に包まれる。
それから最初に口を開いたのは、遊雅の母だった。

「遊雅、もうあのカードは手放しなさい」
「母さん、どうして?」
「あのカードが狙われているなら、素直に渡した方がいいわ。そうじゃないと、あんたの身に危険が及ぶかもしれないのよ?」

確かに、母親が言うのは最もな事だった。
たかがカード。その為に、自分の身が危険に晒される必要はなかった。
しかし、遊雅は――

「嫌だ」

――それを拒否した。

「どうして!」
「フレスヴェルクは……あいつは、小さい頃からずっと一緒だったんだ!どこのどいつかも知らない奴に、あいつを渡したくなんてない!」
「遊雅、現にお前は襲われたんだぞ?それでもか?」
「それでもだ!襲って来るんなら、片っ端からぶっ倒してやればいい!今日は負けたけど、絶対もっと強くなってやるんだ!」
「遊雅!」

母親が声を荒げる。
無理もない。自分達の大切な息子が、危険に晒されているのだから。

「俺は絶対に嫌だ!」

何と言われようと、遊雅はこの意思を貫き通したかった。
幼い頃からずっと一緒だったから、と言うだけではない。
あのカードは絶対に手放してはいけない。先程の男と接触した時から、遊雅の心中にはそんな感情が芽生えていた。

「母さん、やめておけ。こいつは俺に似てる奴だからな。こうだ、と決めたら折れないだろう」
「お父さん!遊雅が危ないのよ!?」
「本人がぶっ倒してやると言っているんだ。それだけの自信があるって事だろ?」

遊雅の目をまっすぐに見据えながら、父親はそう遊雅に訊ねた。
力強く頷いた遊雅を見て、父親は顔を綻ばせる。

「なら、俺はもう何も言わんよ。遊雅、お前の夢は、最強のデュエリストだもんな」
「ああ」
「それなら大丈夫だ」
「お父さん!」
「暴行を受けたわけでもない。遊雅が挑まれたのはデュエルだ。ならこいつが強くなれば、それで解決だろう?」
「……どうしてそんなに楽観的なのよ」
「別に、楽観的だと言う意識はないさ。母さんも、遊雅を信用してやれ。俺達の応援が、何よりこいつの力になるはずだ」
「……遊雅」

父親の信頼の眼差しと、母親の不安の眼差しが交じり合った視線が、遊雅に向く。
遊雅はそれを、真正面から受け止めた。

「母さん、大丈夫だよ。俺は誰にも負けないから」
「……そう。思えば、小さい頃からあんたが大人しく言う事聞いた事もなかったわね」
「そう言えばそうだ。全く、嫌な所が似てしまったもんだなぁ」

2人はそんな事を言いながら笑っている。
遊雅も少し複雑な気分ではあったが、ひとまず、信頼を勝ち取れた事を喜ぶ事にした。
暫くしてから、母親が夕食の準備をする為にキッチンへ向かう。
遊雅も一旦、自分の部屋に戻る事にした。

「……よしっ」

決意は確固たる物になった。
後は、自分が強くなるだけだ。
遊雅は自分のデッキの上に手を置いて、気を引き締めた。
最強のデュエリストになってやると言う気持ちは、よりいっそう強くなったのだった。 
 

 
後書き
はい、すみません。風神竜の設定思いっきりARC-Ⅴの柚子のブレスレットの設定と被ってますね。
ただ1つ言い訳をさせてもらうと、パクったわけではないです。何とか色々考えたんですが、私の中でしっくり来る設定がこれしかなかったわけです。はい。

と言うわけで、まずは1つ明らかになった風神竜の謎。
この謎がこれからどのように動いていくのか。是非是非、ご期待くださいませ。 

 

第9話 風神竜の帰還

翌日、遊雅はいつもと変わらないように登校した。
クラスメート達といつも通りの挨拶を交わし、自分の席につく。
そこで、遊雅に挨拶をしようと彼の顔を見た亜璃沙は、ある異変に気付いた。

「おはよう、遊雅。……あれっ?どうしたの?それ」
「ん?あぁ、これか。まぁ、昨日ちょっと色々あってな」
「ふーん……そう。気をつけなさいね」

彼女が気付いたのは、遊雅の頬の絆創膏。
昨夜、あの謎の男の襲撃の時に地面にこすって出来た傷をかばうための物だ。

「遊雅、怪我したの?大丈夫?」

後ろから遊雅の顔を覗き込むようにして話しかけて来たのは秋弥だった。

「おう。大した事ないぜ。ただの擦り傷だからな」
「そっか。気をつけてね、遊雅」
「ああ、ありがとよ」

間もなく、授業が開始する。
それに集中しつつも遊雅は、時々あの男の事を考えていた。

◇◆◇◆◇◆◇

放課後、遊雅と亜璃沙は楠田の元を訪れていた。
理由は勿論、《フレスヴェルク・ドラゴン》の事を聞くためだ。

「それで、先生。フレスヴェルクはどうでしたか?」
「ああ。昨日言った知り合いに見てもらったんだが……やはり、見覚えはないそうだ」
「そうですか……」

2人の落胆した様子を見た楠田は、続いてこのように告げた。

「しかし、まだ可能性はある。この後、デュエル・モンスターズ協会にあのカードを持って行く予定だ。協会が用意したデュエル・ディスクで、《フレスヴェルク・ドラゴン》の動作試験をするためにな」
「本当ですか?」
「ああ。それをパスすれば、晴れて公式大会での使用も可能との事だ。君のディスクで読み込んだならば、協会が用意した物でも大丈夫だろう」
「よかった……あっ、じゃあすみませんが、この2枚もお願いしてもいいですか?」

そして遊雅は、自分のデッキケースから《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》と《風神竜(ふうじんりゅう)(とむら)い》を取り出して、楠田に手渡した。

「なるほど、《フレスヴェルク・ドラゴン》のサポートカードか。確かにこの2枚も試験を受けておいた方がいいだろうな。受け取っておこう」
「ありがとうございます。それじゃあ、よろしくお願いします」

楠田に深々と頭を下げてから、遊雅と亜璃沙は学校を後にした。
今日は楠田がデュエル・モンスターズ協会に赴くため、部活は休みとなっている。
竜兵と海堂はおろか、秋弥も用事があるとの事で先に下校していた。
まだ桜が咲き誇る通学路を、2人で並んで歩く。
そんな時に亜璃沙は、朝からずっと抱いていた疑問を、遊雅にぶつけた。

「ねぇ、遊雅。その傷の事だけど」
「傷?……あぁ、これか。どうした?」
「それ、さ……どうして、ついたの?」
「どうしてって……転んだだけだよ。それがどうかしたか?」
「転んで頬だけに傷がつくはずないじゃない。どんな転び方したのよ」
「いや、それは……」

確かにそう言われれば、もっともな話だった。
転んで頬が傷つくには、顔が地面にこすれなければならない。
自分で躓いて転んだとすればまず先に地面に手が突くのは必然で、顔に傷がつく可能性は限りなく低い。
亜璃沙が指摘するのはそう言う事だろう。

「誰かに、何かされたの?」

遊雅は何も答えられなかった。
そして同時に、彼女の目はどう足掻いても誤魔化せないと再認識した。
幼い頃からずっと一緒だった彼女が、彼の変化を見逃すはずがなかったのだ。
外見の変化も、そして、心境の変化も。

「できれば、心配かけたくなかったんだけどな」

前置きとしてそう述べてから、遊雅は昨夜の一幕の全貌を、亜璃沙に話して聞かせた。

「昨日、お前と別れた後にさ、妙な男に襲われたんだ」
「襲われたって……!?」
「落ち着け。暴力をふるわれたわけじゃない。ただそいつは、俺の《フレスヴェルク・ドラゴン》の事を知っていて、あのカードを渡せ、ってデュエルを挑んで来たんだ」
「デュエルを……それに、《フレスヴェルク・ドラゴン》の事を知っていたって……あのカードの事を知っている人は限られているはずじゃ……」
「そう。だから俺も不思議だったんだ。奴は何者で、どうしてフレスヴェルクの事を知っているのか」
「それで……その傷は?」
「あいつとのデュエルで、モンスターの直接攻撃を食らった時に、後ろに吹き飛ばされたんだ。その時についた」

亜璃沙は手で口元を押さえながら驚く。

「攻撃で傷ついたって……ソリッドビジョンじゃないの?」
「落ち着けって。何もモンスターの攻撃でついたわけじゃない。攻撃の衝撃で吹き飛ばされた時に、地面にこすれてついたんだよ」
「それにしたっておかしいじゃない!ソリッドビジョンシステムの適用化では、現実の地面や壁にぶつかった衝撃もある程度緩和されるはずでしょ?」

やはり鋭いな、と内心彼女を賞賛しながら、遊雅は続けた。

「確かにおかしい。あいつの攻撃を受けて、俺はどう言うわけか体に重々しさを感じた。まるで本当に、生身の存在から突き飛ばされたように、確かな痛みを感じた」
「そんな……大丈夫なの?」
「ああ。一晩寝れば大分(だいぶ)楽になった。心配はいらねーよ」
「心配するに決まってるじゃない!そんな危険な目に遭ったんなら、尚更……!」

必死に言葉を並べる亜璃沙の肩に優しく手を置いて、遊雅はそれを宥めた。

「心配すんなって。危ないと思ったら真っ先に逃げるから」
「けど……遊雅にもしもの事があったら……」
「大丈夫だ。俺はそんな簡単に大怪我したりしない。小さい頃から一緒にいるんだから、俺が丈夫な事ぐらい知ってるだろ?」

亜璃沙はしばし無言で遊雅の目を見つめる。
まっすぐに自分の目を見つめ返す遊雅の様子に安心したのか、亜璃沙は妥協点を提示した。

「……分かったわ。それじゃあ、最後に1つだけ。何かあった時、私に隠す事はやめて」
「ああ、悪かったよ。今度からは何かあっても隠したりしない。ただ、心配はかけたくないから、お前に何か聞かれた時だけ答える事にする。それでいいか?」
「……うん。分かった」

頷いた亜璃沙と共に、遊雅はまた歩き出した。

◇◆◇◆◇◆◇

翌日の放課後。
遊雅、亜璃沙、秋弥はデュエル部の部室を訪れた。
楠田の用事も済んだ為、今日からは普通に部活が再開されるのだ。
そして遊雅としては、その用事について真っ先に聞きたい所だった。
3人の後に部室を訪れた楠田に、遊雅はすぐさま声をかけた。

「お疲れ様です、先生。それで、その……」
「やぁ、3人とも。ああ、分かっているさ。《フレスヴェルク・ドラゴン》の結果だが……」

楠田は少しの間を空けてから、満を持してこう宣言した。

「問題なしだ!これで晴れて、《フレスヴェルク・ドラゴン》と2枚の魔法カードは、公式大会でも使用する事ができるぞ!」
「本当ですか!?おっしゃあ!やったぜ!」
「よかったわね、遊雅」
「やったね、遊雅!」
「嬉しすぎるぜ!おい秋弥、先輩達来るまでデュエルしようぜ!早速フレスヴェルクと一緒に戦いたいんだ!」
「うん、いいよ!」
「よし、それじゃあこいつを返しておこう」

遊雅は、楠田に預けておいた3枚のカードを受けとった。

「お帰り、相棒。またよろしく頼むぜ」

そしてそのように言葉をかけてから、自分のデッキに3枚のカードを加え、デュエル・ディスクにセットする。
それから遊雅と秋弥は、デュエルスペースに移動した。

「それじゃあ始めるぜ、秋弥!」
「うん、いつでもいいよ!」

2人はそれぞれのデュエル・ディスクを起動する。
お互いに5枚の手札をドローした所で――

「「デュエル!!」」

――2人のデュエリストは同時に宣戦布告する。

「んじゃ、先攻はもらうぜ!俺は手札から《こけコッコ》を特殊召喚!お互いのフィールドにモンスターがいない場合、レベルは3になる!」

ボールのように丸く、愛らしい姿の鶏のようなモンスターが現れる。

「更に、《バード・マスター》を召喚!効果により、デッキから《クラスターズ・ファルコン》を手札に加えるぜ!」

鋭い目つきで、背中に黒い翼が生えた鳥人は、現れると同時に手に持った角笛を吹き始める。

「まだまだ行くぜ!レベル4の《バード・マスター》に、レベル3の《こけコッコ》をチューニングだ!」

《こけコッコ》は甲高い鳴き声と同時に、光の輪に変化する。
空中に舞い上がった3つの光の輪を、漆黒の翼を翻し飛び立った《バード・マスター》が潜り抜ける。
最後の1つを潜り抜けた所で、《バード・マスター》の姿は激しい旋風に包まれ消えてしまった。

「勇敢なる戦士よ、大いなる風の意思を感じ、(おの)が力とせよ!」

風を纏いし騎士を呼び出しながら、遊雅はカードをデュエル・ディスクにセットする。

「シンクロ召喚!現れろ、《風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》!!」

《バード・マスター》を包み込んでいた旋風が、凄まじい風圧を伴いながら飛散する。
そしてその場に現れたのは、純白の鎧に身を包み、凛々しい顔立ちで立ちはだかる者を見据える、勇敢な騎士の姿だった。
その長い髪は、常に風に吹かれているかのように、微かに揺らめいている。

「すごい……これが遊雅の、新しいモンスター……!」
「そして俺は、リバースカードを1枚セットしてターンエンドだ!」
「僕のターン、ドロー!僕は《ジュラック・ヴェロー》を召喚!」

フィールド上に、青い手足、黄緑色の胴体、赤い頭、なんともカラフルな色合いの二足歩行の恐竜が姿を現した。

《ジュラック・ヴェロー》
☆☆☆☆ 炎属性
ATK/1700 DEF/1000
【恐竜族・効果】
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから攻撃力1700以下の『ジュラック』と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。

「そして、リバースカードを1枚セットして、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」

遊雅はドローカードを確認する。

「よし、俺は《クラスターズ・ファルコン》を召喚!効果により、更にもう1体の《クラスターズ・ファルコン》も召喚だ!」

風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》の両隣に、エメラルドグリーンの羽毛が美しい巨大な鳥のモンスターが、1体ずつ現れた。

「バトルだ!《風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》で、《ジュラック・ヴェロー》を攻撃!オラージュ・スラスト!!」

風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》が、右手の剣に自らの左手をかざし、鍔から剣先にかけて徐々になぞっていく。
剣先までなぞり終えた瞬間に、剣は激しい旋風を帯びた。
それを下段に構えた状態で、デルフォイアは《ジュラック・ヴェロー》に向かって疾駆する。
一瞬の内に標的との距離を詰めたデルフォイアは、そのまま得物を標的に向けて素早く突き出す。
《ジュラック・ヴェロー》は、竜巻にも引けをとらない風圧で回転しながら吹き飛ばされてしまった。

天藤 秋弥
LP/4000→LP/3100

「更に、デルフォイアの効果を発動!戦闘でモンスターを破壊した時、そのモンスター以下のレベルを持つ風属性モンスターを、手札か墓地から特殊召喚できる!この効果で、墓地から《バード・マスター》を特殊召喚!」

風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》が、自分の剣を地面に突き刺し、それに両手をかざして何かを唱え始める。
すると、剣を中心に光が広がり、その光の中から、《バード・マスター》が姿を現した。

「更に、《バード・マスター》の効果で、デッキから《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》を手札に加える!」
「あっという間に、遊雅のフィールドに4体のモンスターが……!」
「それじゃあ、僕もモンスター効果を発動させてもらうよ。《ジュラック・ヴェロー》は戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1700以下の新たなジュラックを特殊召喚できる!来い!《ジュラック・プロトプス》!!」

赤と青の対照的な色合いの恐竜モンスターが現れる。

《ジュラック・プロトプス》
☆☆☆☆ 炎属性
ATK/1700 DEF/1200
【恐竜族・効果】
このカードの攻撃力は相手フィールド上のモンスターの数×100ポイントアップする。

「《ジュラック・プロトプス》は、相手フィールド上のモンスター1体につき、100ポイント攻撃力をアップするよ!」

《ジュラック・プロトプス》
ATK/1700→ATK/2100

「攻撃力2100か……デルフォイア以外のモンスターじゃ太刀打ちできないな。ターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!」

ドローカードを確認した秋弥は、不適な、しかしどこか愛らしさがある、そんな笑みを浮かべた。

「遊雅、お待ちかねのもう1体のシンクロジュラックを見せてあげるよ!僕は《ジュラック・デイノ》を召喚!」

現れたのは、オレンジ色と黄色の体で、腹に何やら顔のような模様がある小型の恐竜だった。

《ジュラック・デイノ》
☆☆☆ 炎属性
ATK/1700 DEF/800
【恐竜族・チューナー】
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊したターンのエンドフェイズ時に1度だけ、自分フィールド上の『ジュラック』と名のついたモンスター1体をリリースして発動できる。
デッキからカードを2枚ドローする。

「そして、レベル4の《ジュラック・プロトプス》に、レベル3の《ジュラック・デイノ》をチューニング!」

《ジュラック・デイノ》が、3つの光の輪に変化する。
その3つの輪の中を、《ジュラック・プロトプス》は4本の足で地を鳴らしながら力強く駆け抜けると、足元から吹き上がった巨大な火柱に包み込まれてしまった。

轟炎(ごうえん)(まと)いし太古の支配者よ、今その本能に(のっと)り、立ちふさがる者を喰らい尽くせ!シンクロ召喚!レベル7、《ジュラック・ギガノト》!!」

火柱が収まった時にそこに立っていたのは、先程の四足歩行の恐竜ではなく、強靭な下半身と鋭い鉤爪を持つ、真っ青な体で二足歩行の恐竜だった。

《ジュラック・ギガノト》
☆☆☆☆☆☆☆ 炎属性
ATK/2100 DEF/1800
【恐竜族・シンクロ/効果】
チューナー+チューナー以外の恐竜族モンスター1体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上の『ジュラック』と名のついたモンスターの攻撃力は、自分の墓地の『ジュラック』と名のついたモンスターの数×200ポイントアップする。

「すっげぇ……これがもう1体のシンクロモンスターか!」
「驚くのはまだ早いよ!《ジュラック・ギガノト》は、自分の墓地のジュラック1体につき、自分のジュラックの攻撃力を200ポイントアップさせる!僕の墓地のジュラックは3体、よって、ギガノトの攻撃力は600ポイントアップだ!」

《ジュラック・ギガノト》
ATK/2100→ATK/2700

「なっ、攻撃力2700……!?」
「バトル!《ジュラック・ギガノト》で、《風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》を攻撃!ダッシュ・インパクト・チャージ!!」

《ジュラック・ギガノト》が、その強靭な足腰を活かした素晴らしいスプリントで、《風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》に迫る。

「そうは行かない!リバースカード《大旋風(だいせんぷう)》発動!鳥獣族が2体以上いる時、攻撃を無効にするぜ!」
「悪いけどそれは読んでるよ!カウンター(トラップ)発動!《魔宮(まきゅう)賄賂(わいろ)》!」

魔宮(まきゅう)賄賂(わいろ)
カウンター罠カード
相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
相手はデッキからカードを1枚ドローする。

「なにっ!?」
「《大旋風(だいせんぷう)》の発動を無効にして破壊!そして、《ジュラック・ギガノト》の攻撃は止まらないよ!」

《ジュラック・ギガノト》の全力の突進が、《風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》に襲い掛かる。
重い鎧で身を固めているはずの騎士が、その体を宙に舞わせて、そのまま消滅してしまう。

「デルフォイア!?」

南雲 遊雅
LP/4000→LP/3900

「《魔宮(まきゅう)賄賂(わいろ)》の効果で、遊雅はカードを1枚ドローしていいよ」

効果に従って、遊雅はデッキからカードを1枚ドローする。

「僕はリバースカードを1枚セットして、ターンエンド!」
「へっ、やるな秋弥!まさか1ターンでデルフォイアがやられるとは思わなかったぜ!俺のターン、ドロー!」

お互いに1歩も譲らない攻防戦。
果たしてこの激しい戦いを制し、勝利を掴むのはどちらのデュエリストなのだろうか。 
 

 
後書き
すみません、ちょっと色々やらなきゃいけない事が重なってしまっているので、次の話の投稿は少し先になってしまいます。
2、3週間を目処にお待ちください。申し訳ありません。 

 

第10話 胎動する陰謀

 
前書き
遅くなってしまって申し訳ありません。
デュエルの展開を忘れてしまった方はお手数ですがもう1度、前話からの閲覧をおすすめします。 

 
《フレスヴェルク・ドラゴン》が無事に正規のカードと認められた遊雅は、嬉しさのあまり秋弥をデュエルに誘う。
しかし、デュエルは《フレスヴェルク・ドラゴン》が現れる前から、熾烈(しれつ)極まりない物となっていた。

「へっ、やるな秋弥!まさか1ターンでデルフォイアがやられるとは思わなかったぜ!俺のターン、ドロー!」

遊雅のドローカードは、《シールド・ウィング》だった。

(今の俺の手札じゃ……《ジュラック・ギガノト》を倒す事はできない。あいつが来るまでは、ひたすら耐えるしかないな……!)

その様に考えた遊雅は、防御一辺倒の戦法を取る事に決めた。

「俺は、モンスターを1体守備表示で召喚!更に、フィールドの全てのモンスターを守備表示に変更して、ターンエンドだ!」
「僕のターン、ドロー!」

ドローカードを確認した秋弥は、それをそのままデュエル・ディスクにセットした。

「僕はフィールド魔法、《弱肉強食の世界(ダイナソー・ザ・ワールド)》を発動!」

周囲の景色が、鬱蒼と茂るジャングルのそれに変化する。

「やべっ、そのカードは……!」
「そう!恐竜族がモンスターを戦闘破壊した時、続けて攻撃する事ができるよ!更に僕は、《ジュラック・アウロ》を召喚!」

タマゴの殻を身にまとった、愛くるしい姿の小型の恐竜が現れる。

《ジュラック・アウロ》
☆ 炎属性
ATK/200 DEF/200
【恐竜族・チューナー】
このカードをリリースして発動できる。
自分の墓地から《ジュラック・アウロ》以外のレベル4以下の『ジュラック』と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚する。

「このモンスターをリリースする事で、墓地からレベル4以下のジュラックを特殊召喚できる!その効果で、《ジュラック・プロトプス》を特殊召喚!」

《ジュラック・アウロ》を炎が包み込む。
炎が消滅した時、そこには先程の四足歩行のジュラックモンスターがいた。

《ジュラック・プロトプス》
ATK/1700→2100→2700

「そして、《ジュラック・ギガノト》で、まずはその裏守備モンスターを攻撃だ!」

《ジュラック・ギガノト》が、裏側表示のカードに向けて全力疾走する。
カードの元に辿り着いた《ジュラック・ギガノト》は、それを強靭な足で踏みつけた。

「残念だが、そいつは戦闘破壊できないぜ」
「えっ!?」
「裏守備モンスターは《シールド・ウィング》!1ターンに2度まで、戦闘では破壊されないモンスターだ!」

《ジュラック・ギガノト》が踏みつけたカードから、美しい翼を持つエメラルドグリーンの竜のようなモンスターが姿を現す。

「くっ……厄介な効果だね。なら《ジュラック・プロトプス》で、《クラスターズ・ファルコン》を攻撃だ!」

《ジュラック・プロトプス》が、地に下りて翼で体を覆っている《クラスターズ・ファルコン》に突進する。
《クラスターズ・ファルコン》は、あっけなくその突進に吹き飛ばされてしまった。

「そして、続けてもう1体の《クラスターズ・ファルコン》にも攻撃だ!」

突進の勢いをそのままに、《ジュラック・プロトプス》はもう1体の《クラスターズ・ファルコン》に狙いを定める。
あっという間に、もう1体の《クラスターズ・ファルコン》も消滅してしまった。

「更に、《バード・マスター》も攻撃だ!」

直線状に存在した《バード・マスター》もまた、《ジュラック・プロトプス》の突進によって儚く散ってしまった。

《ジュラック・プロトプス》
ATK/2700→2400

「遊雅のフィールドが一気に……!」
「くっ……流石にやばいな……!」
「僕はこれで、ターンエンドだよ」
「俺のターン、ドロー!」

遊雅のドローカードは、《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》だった。

(駄目だ……こいつじゃ今はどうしようも……ん?)

そこで遊雅は、手札のあるカードの存在に気付く。

(このカード……そうだ、こいつなら……!)

思い立った遊雅は、すぐさまそれを行動に移した。

「俺は、《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》を召喚!」

両手に短剣を握る鳥人のモンスターが現れる。

「攻撃表示!?」
「いや、何か策があるんだろう」
「そして、《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》に、装備魔法、《ミスト・ボディ》を装備する!」

《ミスト・ボディ》
装備魔法カード
装備モンスターは戦闘では破壊されない。

「バトルだ!《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》で、《ジュラック・ギガノト》を攻撃だ!」
「攻撃力1700のモンスターで、《ジュラック・ギガノト》を……!?」

霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》が、《ジュラック・ギガノト》に向かって飛翔する。
両手に握った短剣をその強靭な肉体に突き立てるが、《ジュラック・ギガノト》は物ともせずに、《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》を弾き飛ばしてしまった。

南雲 遊雅
LP/3900→LP/2900

「遊雅……一体何を……」
「《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》の効果を発動!こいつとの戦闘で破壊されなかったモンスターを、持ち主の手札に戻す事ができる!」
「えっ、そんな……!?」

《ジュラック・ギガノト》は、突如巻き起こった強風に煽られ、その姿を消してしまった。

「なるほど……戦闘ダメージを受けたとしても、強敵である《ジュラック・ギガノト》を退場させる事を優先したわけか」
「俺はこれでターンエンドだ」
「やるね、遊雅……まさか、そんなコンボで《ジュラック・ギガノト》を除去して来るなんて」
「へっ、あんな厄介なモンスターをいつまでも残しておくわけには行かないんでな」
「なるほどね、確かにそれは同感だよ。僕のターン、ドロー!」

秋弥はドローしたカードを確認し、次の行動を起こした。

「僕は《ジュラック・プロトプス》をリリースして、《ジュラック・ヘレラ》をアドバンス召喚!」

《ジュラック・プロトプス》が炎に包まれる。
炎が消えた時、その場所に立っていたのは、2門の大砲を背負った二足歩行の恐竜だった。

《ジュラック・ヘレラ》
☆☆☆☆☆☆ 炎属性
ATK/2300 DEF/1500
【恐竜族・効果】
《ジュラック・ヘレラ》以外の自分フィールド上に守備表示で存在する『ジュラック』と名のついたモンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカードを手札または墓地から特殊召喚できる。

「更に、《ジュラック・ヘレラ》を選択して、手札から《テールスイング》を発動!」

《テールスイング》
魔法カード
自分フィールド上に表側表示で存在するレベル5以上の恐竜族モンスター1体を選択して発動する。
相手フィールド上に存在する裏側表示モンスターまたは選択した恐竜族モンスターのレベル未満のモンスターを合計2体まで選択し、持ち主の手札に戻す。

「その効果により、遊雅のフィールドのレベル6未満のモンスター2体を、手札に戻してもらうよ!」
「なにっ!?」

遊雅のフィールドのモンスターは《シールド・ウィング》と《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》のみ。
当然、その2体はどちらもレベル6未満だ。
《ジュラック・ヘレラ》が振り回した尻尾に弾き飛ばされた2体のモンスターはそのまま消滅する。

「くそっ、俺のモンスター達が……!?」
「そのままバトル!《ジュラック・ヘレラ》で、遊雅にダイレクトアタックだ!爆・竜・砲(フレア・マグナ・カノン)!!」

《ジュラック・ヘレラ》が背中の大砲を遊雅に向ける。
照準を済ませた《ジュラック・ヘレラ》は、轟音を響かせながら2つの燃え盛る砲弾を放った。
砲弾は遊雅の両隣に着弾し、けたたましい音と共に爆発した。

「うわぁっ!?」

南雲 遊雅
LP/2900→LP/600

「南雲のライフポイントも残りわずかか……さぁ、どうする……?」
「僕はこれでターンエンドだよ」
「くっ……俺のターン、ドロー!」

遊雅のドローカードは、《フレスヴェルク・ドラゴン》だった。

(やっと来てくれたか……けど、今の状態じゃ……)

遊雅の手札は《フレスヴェルク・ドラゴン》、《シールド・ウィング》、《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》、《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》、《ガルドスの羽根(はね)ペン》、《()(かぜ)進軍(しんぐん)》の計6枚。

(このターンを《シールド・ウィング》で防げれば……次のターンに《()(かぜ)進軍(しんぐん)》の効果で、《フレスヴェルク・ドラゴン》を出せるはずだ)

()(かぜ)進軍(しんぐん)
魔法カード
自分が風属性モンスターの通常召喚に成功したターンに発動できる。
そのターン、自分は風属性モンスターをもう1体通常召喚する事ができる。
また、このターン通常召喚された自分の風属性モンスターは、エンドフェイズまでカードの効果では破壊されない。

「よしっ……俺は、モンスターを1体守備表示で召喚して、魔法(マジック)カード、《ガルドスの羽根(はね)ペン》を発動する!」

《ガルドスの羽根(はね)ペン》
魔法カード
自分の墓地に存在する風属性モンスター2体を選択してデッキに戻し、フィールド上に存在するカード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。

「墓地の《クラスターズ・ファルコン》を2体デッキに戻し、《ジュラック・ヘレラ》を手札に戻す!」

突風に煽られた《ジュラック・ヘレラ》は、そのまま吹き飛ばされて姿を消してしまう。

「俺はこれで、ターンエンドだ」
「僕のターンだね、ドロー!」

ドローカードを含めた3枚の手札を確認し、秋弥は自分が出来る事は1つしかない事を悟った。

(あの守備モンスターはきっと《シールド・ウィング》。なら、今ここでこのモンスターを召喚した所で、どの道倒す事は出来ない……)

秋弥のドローカードは《ジュラック・グアイバ》。
モンスターの戦闘破壊がトリガーとなる効果を持ったこのモンスターは、戦闘破壊耐性を有する《シールド・ウィング》を相手にして、無力と化していた。

「モンスターを1体守備表示で召喚。そして、リバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー!俺は手札から、《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》を召喚!」

セットモンスターの隣に、尾羽に蛇の形の紋様がある孔雀のモンスターが現れる。

「そして、風属性モンスターの通常召喚に成功した時、《()(かぜ)進軍(しんぐん)》を発動できる!このカードの効果で、俺はこのターン、もう一度風属性モンスターを通常召喚できる!」
「フィールドに2体のモンスター……と言う事は……!」
「その通り!俺は裏側表示の《シールド・ウィング》と《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》をリリースして、《フレスヴェルク・ドラゴン》をアドバンス召喚!」

群青色の鱗を輝かせる美しい巨竜が、咆哮と共に姿を現す。

「リリースされた《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》の効果を発動!墓地から《バード・マスター》を手札に加えるぜ!」

そして遊雅は、もう一度、《フレスヴェルク・ドラゴン》の姿を見上げる。
《フレスヴェルク・ドラゴン》もまた、遊雅の顔を見て再び高く吼えた。

「頼むぜ、相棒!《フレスヴェルク・ドラゴン》の効果発動!風属性モンスター2体をリリースしてアドバンス召喚された場合、フィールド上のカードを1枚破壊できる!」

ここで遊雅は、破壊対象をモンスターかリバースカードか、どちらにするかを悩んだ。

(《()(かぜ)進軍(しんぐん)》の効果で、フレスヴェルクはこのターン、カードの効果では破壊されない。モンスターを破壊すれば2回の攻撃で秋弥のライフは0に出来るけど……)

遊雅は、秋弥との最初のデュエルを思い出した。
秋弥はあのデュエルで、《フレスヴェルク・ドラゴン》の攻撃に対して《次元幽閉(じげんゆうへい)》のカードを発動した。
攻撃モンスターを『破壊』するのではなく、『除外』するのが《次元幽閉(じげんゆうへい)》の効果。
つまり、現状では《フレスヴェルク・ドラゴン》の攻撃に対して《次元幽閉(じげんゆうへい)》を発動されたとしたら、それをやり過ごす手段はないと言う事になる。
それを踏まえた上で、遊雅は破壊対象を決定した。

「破壊するのは、リバースカードだ!ジャッジメント・ストーム!!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》が甲高い咆哮と共に美しい翼を羽ばたかせる。
巻き起こる風は鋭い刃のように、リバースカードを切り裂いてしまった。

「そしてバトル!《フレスヴェルク・ドラゴン》で、守備モンスターを攻撃だ!ゴッドバード・スラスト!!」

旋風を纏った《フレスヴェルク・ドラゴン》は、少しだけ後ろに飛び上がってから、矢のように飛び出した。
裏側表示のカードから、低姿勢で身を守ろうとする《ジュラック・グアイバ》が現れる。
《フレスヴェルク・ドラゴン》は自身の体よりも随分と小さい恐竜の体を貫いて、再び空に舞い上がった。

「守備表示のジュラックモンスターが戦闘破壊された時、手札から《ジュラック・ヘレラ》を特殊召喚するよ!」

先程突風に煽られ姿を消した《ジュラック・ヘレラ》が、再び姿を現す。
しかしその姿は、先程の雄々しき姿とは打って変わって、身を守る事だけに専念している、そんな姿だった。

「バトル続行!《フレスヴェルク・ドラゴン》で《ジュラック・ヘレラ》に攻撃!追撃のゴッドバード・ストライク!!」

遥か上空から、風神竜は《ジュラック・ヘレラ》に向かって急降下を開始する。
その鋭い(くちばし)に貫かれ、《ジュラック・ヘレラ》もまた消滅してしまった。

「俺はこれで、ターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!」

秋弥の手札は、たった今ドローした《次元幽閉(じげんゆうへい)》のみ。
《フレスヴェルク・ドラゴン》のカード破壊効果は、1ターンに1度使用できる。
秋弥は敗北を確信したが、あくまでまだ策はあるとでも言うように、ポーカーフェイスでそれをデュエル・ディスクにセットした。

「僕は、リバースカードを1枚セットして、ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!」

ドローカードを確認しないまま、遊雅は宣言する。

「《フレスヴェルク・ドラゴン》の効果発動!そのリバースカードを破壊する!ジャッジメント・ストーム!!」

秋弥が伏せたカードは、《フレスヴェルク・ドラゴン》が起こした風にあっけなく切り刻まれてしまった。

「バトルだ!《フレスヴェルク・ドラゴン》で、秋弥にダイレクトアタック!ゴッドバード・スラスト!!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》の突進が、秋弥に襲い掛かる。
それを真正面から受けても、秋弥は前回のように倒れこまず、何とか踏みとどまった。

天藤 秋弥
LP/3100→LP/600

「《フレスヴェルク・ドラゴン》の2回目の攻撃!追撃のゴッドバード・ストライク!!」

秋弥の頭上から、《フレスヴェルク・ドラゴン》は急降下を開始する。
凄まじい勢いで秋弥に激突した青き風神竜は、再び上空に舞い上がり高く咆哮した。

天藤 秋弥
LP/600→LP/0

「おっしゃあ!ナイスだぜ、フレスヴェルク!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》はもう一度高く吼えてから、遊雅のデュエル・ディスクへ帰還する。
遊雅がそれを見届けるのと同時に、亜璃沙と秋弥は遊雅の元に駆け寄って来た。

「完敗だよ、遊雅。やっぱり《フレスヴェルク・ドラゴン》と一緒の遊雅には、絶対敵わないね」
「秋弥だって強いじゃねーか。《ジュラック・タイタン》とか出て来たら、勝ててたか分かんなかったぜ」
「そうよ。秋弥も負けてなかったわ」
「へへへっ、そうかな。ありがとう」
「2人とも、いいデュエルだったぞ。改めて、デュエル部の未来に希望が持てそうだよ。さて、ついさっき鬼島達も到着した所だ。早速部活を始めるぞ」

後からやって来た楠田が、3人にそのように告げる。
激戦を繰り広げた直後だったが、遊雅と秋弥は疲れも見せずに部活に取り組んだのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

時刻は22時。
辺りを照らすのは微かな月の光のみ。既に人通りは疎らになっていた。
それが都心部から離れた廃工場周辺ともなれば尚更、文字通り人っ子1人いない、そんな状況なのは必然だろう。
ただし、この日は違った。
1人の男が、1棟の廃工場を目指して歩いている。
黒いローブで全身を覆っているその姿は、昼であっても夜であっても、街を歩けば好奇の眼差しを向けられるような出で立ちだろう。
しかし生憎、この場にはその視線を気にする相手がいない。
最も、それがいた所で、この男はそんな視線など気にするような人間ではなかったが。
間もなく男は、目指していた1棟の廃工場に辿り着く。
鉄製の非常に重い引き戸を開けた男は、姿は見えないがそこにいると確信している人物に向かって跪く。

「ただいま戻りました」

男は、相手の次の言葉を静かに待つ。

「風神竜はどうした」

いかにも冷酷な男であろうと印象付ける低い声で、彼はローブの男にそう問いかけた。
ローブの男はすぐさま、それに返答する。

「はっ、南雲 遊雅と言う小僧が所持していた模様です。しかし、今は手元にないとの事。念の為、彼奴のデッキも調べましたが、所持している様子はありませんでした」
「南雲 遊雅か……すると、その小僧が奴の……」
「恐らく、間違いないかと思われます」
「そうか。引き続き調査を続けろ。その南雲 遊雅とやらがあれを所持していたのであれば、いずれその手の内に戻るやもしれん」
「はっ、畏まりました」

ローブの男は胸に手を当てて、会話の相手に向けて深々と頭を下げた。
そしてすぐに立ち上がり、廃工場を後にする。

「逃げ(おお)せると思うてか、導師よ」

男は低く笑いながら、そのように呟いた。
夜はまだ深い。
それはまるで、これから1人の少年を待ち受ける運命のように、重く、そして何より暗かった。 
 

 
後書き
これにて、第2章完結となります。
今思えば、2章のタイトルと7話のタイトル入れ替えた方がよかったかなーと思っていますが、まぁこのままにしておきましょうか。
色々新たな謎が散りばめられた第2章でしたが、いかがでしたでしょうか?
謎の男達の正体は?そして『導師』とは一体?
皆さんも色々推測して、是非楽しんでください。では、3章以降もよろしくお願いいたします。 

 

第11話 運命の邂逅

5月初頭。
部室に集められたデュエル部の5人は、楠田からとある決定事項を告げられる。

「練習試合?」
「そうだ。公式大会に乗り込む以上、同じ相手ばかりではいけないと思ってな。ついさっき、約束を取り付けた所だ」
「それで、相手は?」
「アルカディア・セントラル・スクールだ」

楠田の宣言に、5人は驚愕する。

「アルカディア・セントラル・スクールって……強豪校、じゃないッスか……」
「そう。現在HDC5連覇中。10人に聞けば10人が強豪校と答える学校だろう」
「そんな相手をいきなり指名したんですか……」
「当然だ。別に負けても構わない試合だと言うんなら、より強い相手と戦った方が学べる事も多いだろう」
「そんな単純な……それにしても、よくそんな強豪校が、ウチからの申し出を受けてくれましたね」
「ああ。セントラルにはちょっとした因縁があってな。なぁ、鬼島」

竜兵の方を見ながら言う楠田の表情は、悪戯っぽく笑っていた。
対する竜兵は神妙な、それでいてどこか気合の入ったような、そんな表情で言葉を継いだ。

「そうですね。昨年は部員不足で挑めませんでしたが、最後の1年、決着が付けられそうで安心しましたよ」
「鬼島先輩に因縁があるんですね」
「そうだ。今の向こうのエースは鬼島と同い年でな。一昨年、鬼島はギリギリの所で敗北した」
「まぁ、因縁と言っても、あれ以来会っていないんだけどな」

竜兵は自嘲気味に笑いながら言う。

「そう言う事なら負けられませんね。先輩、絶対勝ちましょう!」
「分かっているさ。俺だって、2回も負ける気はないからな」
「よしっ、話は決まったな。練習試合は来週の日曜を予定している。気を引き締めておけよ」
「来週の日曜か……結構ハードだなぁ……」

遊雅のその言葉に、亜璃沙と秋弥は頷いた。
しかし楠田は、その意図を理解できない様子だった。

「ん?何かあるのか?」
「あれっ、監督知らないんですか?今週の土日、1年は林間学校ですよ」
「あぁっ、そう言えばそうだったな!うむ……1年生諸君にとっては少しハードスケジュールになってしまうな……すまん、失念していたよ」
「いえ、まぁ、一応1週間は空いてるわけですし。大丈夫ですよ」
「そ、そう言ってもらえるならばいいが……」

亜璃沙と秋弥がどう思っているかは分からなかったが、遊雅にとっては、何もイベントがなく暇を持て余すより、むしろ色々なイベントが詰め込まれていた方がありがたかった。

「と、とりあえず、連絡は以上だ。よし、それでは今日の部活は終了だ。解散!」
「ありがとうございました!」

5人の部員は声を揃えて挨拶してから、それぞれの帰路に着く。
1年生の3人は途中まで同じ道なので、3人で固まって下校するのは普段通りの様子だと言える。

「にしても、相手はセントラルか……一体どんなデュエルをするんだろうな」
「ギリギリまで迫った、とは言ってたけど、鬼島先輩が負けちゃう位強い人がいるのよね」
「もしかしたら、1年生や2年生にも腕利きのデュエリストしかいなかったりして。怖いなぁ……」
「そうか?俺は逆に燃えるけどな。どんな強ぇ奴らがいんのか、考えただけでわくわくするぜ!」
「ほんっとにデュエル馬鹿ね、遊雅は」

亜璃沙は呆れるあまりにそう言うが、『デュエル馬鹿』と言う罵りは遊雅にとって褒め言葉でしかない。

「それはそうと、まずは明日からの林間学校だな」
「そうね。クラスのみんなと更に親睦を深めるいい機会だし、楽しみだわ」
「話によると、翔竜高校以外にもどこかの学校が同じ場所に来るみたいだね」
「へー、そうなのか。デュエリストとかいるかな」
「やっぱり気にするのはそこなのね。まぁ、遊雅からデュエルを取ったら何も残らないか」
「そうそう。亜璃沙からお節介を取ったみたいにな」

そして、こんな些細な言い争いをする2人を秋弥が仲裁するのも、いつも通りの光景だった。

◇◆◇◆◇◆◇

翌日。
翔竜高校1年生一同は、噴水広場の一角に集っていた。
何をしているかは言わずもがな、林間学校の現地へ赴く前の点呼だ。
30人前後のクラスが2つ、計60人弱の生徒がひしめき合っている様は中々に窮屈な物だったが、遊雅は秋弥とデュエル談義に華を咲かせているので、そんな事は気にならない様子だった。

「よーし、全員そろってるようだな。それじゃあ出発するぞー」

生徒達はクラス毎に分かれて2台のバスに乗り込む。
全員がバスに乗り込んだ事を確認した担任が、もう一方のクラスの担任と連絡を取り合う。
話がついたらしき担任が運転手に何事か語りかけると、間もなくバスは悠然と動き出した。
目的地はアルカディア・シティから2時間ほど車で移動した場所にある、山間部の森林公園。
レジャースポットとして名高い場所で、近隣には多くの宿泊施設が軒を連ねていて、連日かなりの数の人で賑わっている。
亜璃沙を初めとした生徒達は、各々の時間を専ら林間学校に関する会話に費やしていたが、前述の通り、遊雅と秋弥に関してはその限りではなかった。

「ジュラックって爆発力は言う事なしなんだけど、防御手段に乏しいんだよね……」
「確かにそうだな。破壊耐性なんかを持ってるモンスターも少ない感じだし、たった1枚の(トラップ)カードに足元をすくわれる事もあるかもしれないな」
「うん。それを補う為にカウンター(トラップ)なんかを入れるとしても、その枚数に困っちゃって……入れすぎても手札事故を起こしそうだし」
「入れなさ過ぎてもすぐに弾切れになる、か……確かにその辺は難しいよな」

今朝、顔を会わせてから、2人はずっとデュエルの話ばかりをしている。
それも1度も途切れる事なく。この辺りに、2人が如何にデュエルが好きかが現れているだろう。

「いっその事、《王宮(おうきゅう)のお()れ》とか入れちまったらどうだ?ジュラックの戦闘力なら攻撃反応型の(トラップ)なんかも入れなくて大丈夫だろうし」
「そうだね……確かにそれなら永続的に(トラップ)カードを防げるから、いいかも知れない。ありがとう、参考になったよ!」
「お安い御用だ!そんで、実は俺も悩みがだな……」

それから2人は、目的地に到着するまでの間、延々とデュエルの話題で盛り上がっていたのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

「おー、すっげぇ!」
「空気が美味しいね~」
「アルカディア・シティに住んでると、こんなに自然が豊かな所を見かけないから新鮮ね」

生徒達は普段見慣れない大自然を目の当たりにして、歓声を上げる。
足元に広がる青々とした草原。そして視線の先に広がる緑豊かな大森林。
アルカディア・シティにも小規模な公園等は存在するが、これほど豊かな自然を見る機会はほとんどない。
故に彼らの反応は、至極当然の物と言えるだろう。

「よーし、それじゃあ今から2時間、自由時間にするぞー。森林を散策したい奴は先生達に言えば地図をやる。必ず一声かけてから行くようにしてくれ!」

その後担任から、ロープが張られている場所から先へは行かないよう指示を受けた遊雅達は、地図を受け取ってから森林に足を踏み入れた。
遊雅達の班のメンバーは遊雅、秋弥、亜璃沙の3人と、その他の男女が3人。男女比は対等だ。
木の葉の隙間から木漏れ日が差し、草木を淡く照らしている様は、中々に神秘的に見えた。

「綺麗だね~、亜璃沙ちゃん!」
「そうね、光が差してるだけなのにこんなに綺麗だなんて……」
「おい南雲、見ろよ!昼間なのにカブトムシがいるぜ!」
「うぉっ、マジだ!すげぇ!」
「わぁ~、綺麗なお花……」
「あっ、その花は触っちゃだめだよ!花びらに毒があるんだ!」
「えぇっ、そ、そうなの!?よかった……ありがとう、天藤君」

それぞれが森が見せる様々な表情に感動を覚えながら、散策を続ける。
そして、そんな6人を偶然発見した、別の集団が存在した。

◇◆◇◆◇◆◇

「あれってひょっとして、翔竜の連中か?」
「だろうな。あんな奴ら見た事ねーし。なぁ、燈輝?」
「ん?ああ、そうだな」

燈輝と呼ばれた彼、『咲峰(さきみね) 燈輝(とうき)』は、アルカディア・セントラル・スクールに通う高校1年生の少年だ。
友人に相槌を打ちながら、彼は自分達の前を横切った集団の中の、1人の少年に着目していた。
あれが翔竜高校の生徒だと言うなら、今日この場にいる目的は、自分達と同じ林間学校のはず。
それなのにその少年は、左腕にデュエル・ディスクを装着していた。
そう、彼が興味を持ったのは、紛れもなく南雲 遊雅その人だった。
新たなデュエリストとの出会いを求め、遊雅は森林公園に到着してから、ずっとデュエル・ディスクを装備しているのだ。

「あいつ、デュエリストか?じゃあ、燈輝が来週の練習試合で戦うのは……」
「十中八九、奴だろうな」
「おい燈輝、ちょっと絡んでみねーか?お前も興味あるだろ?」
「……そうだな。少しだけ話をしてみたいかもしれない」

3人の男子生徒は結論を出すが否や、狙いを定めた6人の集団への接触を図った。

◇◆◇◆◇◆◇

「おい、お前達、翔竜高校の生徒だよな?」

唐突に話かけられた遊雅達6人は、全く同じタイミングで声が聞こえた方を振り向く。
そこには、自分達が着ている翔竜高校のジャージと違うジャージに身を包んだ3人の少年がいた。
胸元に『A.C.S』と刺繍されている事から、アルカディア・セントラル・スクールの生徒なのだと瞬時に理解する。

「セントラル生か?何か用かよ?」

先陣を切って返答したのは遊雅だった。
セントラル・スクールの生徒との接触は、遊雅としても願ってもない事だったのだ。

「お前、デュエル・ディスクを持ってるって事は、デュエル部なのか?」
「ああ。来週は世話になる。そんで、そっちは3人ともデュエル部員か?」
「いや、俺だけだ」

2人の男子生徒の後ろに控えていた、もう1人の男子生徒が歩み出る。
鋭い目つきの少年だった。しかし、雰囲気はそこまで刺々しい物ではなく、むしろそれなりには接しやすそうな物腰に見える。

「ACS1年の、咲峰 燈輝だ。よろしく頼む」
「翔竜高校1年の、南雲 遊雅だ。こっちこそ、よろしく」

2人は握手を交わす。
その直後に、遊雅は笑みを浮かべながら、燈輝にこのように進言した。

「お前、デッキ持ってるか?持ってたらでいいが、ちょっと俺とデュエルしないか?」
「ああ、構わない。俺もお前の実力については、気になっていた所だからな」

燈輝は背負っていたリュックから手早くデュエル・ディスクとデッキを取り出す。
そしてディスクを左手に装着し、デッキをホルダーにセットした。

「ついて来てくれ。さっき開けた所を見つけたんだ。そこでやろう」
「ああ。って事でみんな、ごめん。ちょっとこいつとデュエルしてみたいんだ」
「僕は全然構わないよ。頑張って、遊雅!」
「結局こうなっちゃうのね……まぁ、私もいいわ。頑張ってね」
「おっしゃ、やっちまえ、南雲!」
「私もデュエル・モンスターズ見てみたかったんだ!頑張ってね!」
「ファイト!南雲君!」

6人はACSの生徒3人に先導されて、デュエルの舞台となる場所へ移動した。

◇◆◇◆◇◆◇

燈輝の言葉通り、到着した場所はかなり開けた場所で、デュエルをするには十分すぎるほどの空間だった。
お互いに距離を取ってから、両者は高らかにデュエル開始の意思表示をする。

「「デュエル!!」」

「先攻は譲ろう。遠慮なく来てくれ」
「んじゃ、お言葉に甘えて行くぜ!俺はモンスターを1体守備表示で召喚!更にリバースカードを2枚セットして、ターンエンドだ!」
「では俺のターン、ドロー!」

燈輝は6枚の手札を確認してから、すぐに行動を開始する。

「俺は《霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)》を召喚する!」

若草色の衣を身にまとう長い白髪を結った老人が、フィールドに姿を現す。

霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)
☆☆ 風属性
ATK/200 DEF/1000
【サイキック族・効果】
自分は《霊獣使いの長老》を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
①:このカードが召喚に成功したターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに『霊獣』モンスター1体を召喚できる。

「《霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)》を召喚したターン、自分はもう1度、『霊獣』と名のつくモンスターを召喚できる。俺は手札から、《精霊獣(せいれいじゅう) カンナホーク》を召喚!」

霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)》の隣に、微弱な電流を身にまとった鷹のモンスターが現れた。

精霊獣(せいれいじゅう) カンナホーク》
☆☆☆☆ 風属性
ATK/1400 DEF/600
【雷族・効果】
自分は《精霊獣 カンナホーク》を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
①:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
デッキから『霊獣』カード1枚を除外する。
発動後2回目の自分スタンバイフェイズに、この効果で除外したカードを手札に加える。

「ここで、カンナホークの効果を発動する。1ターンに1度、デッキから『霊獣』と名のつくカードをゲームから除外し、発動後、2回目のスタンバイフェイズに、自分の手札に加える事ができる。この効果で、俺はデッキから《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》を除外する!」

カンナホークが高く咆哮すると同時に、まるで炎のような(たてがみ)と尻尾を持ったライオンのようなモンスターが、燈輝の背後に姿を現す。
精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》は目を閉じたまま燈輝の後ろで姿勢を低くしており、戦闘体勢を取る気配はなかった。

「そして俺は、《霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)》と《精霊獣(せいれいじゅう) カンナホーク》を除外して、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) カンナホーク》を融合召喚!」
「なっ、除外して融合召喚だと!?」

霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)》が飛び上がり、《精霊獣(せいれいじゅう) カンナホーク》の上に乗り移る。
そして、《霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)》が杖を高く掲げると同時に、カンナホークが帯びる電流は更に強力な物となった。

聖霊獣騎(せいれいじゅうき) カンナホーク》
☆☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/1400 DEF/1600
【雷族・融合/効果】
『霊獣使い』モンスター+『精霊獣』モンスター
自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ特殊召喚できる(《融合》は必要としない)。
①:1ターンに1度、除外されている自分の『霊獣』カード2枚を対象として発動できる。
そのカードを墓地へ戻し、デッキから『霊獣』カード1枚を手札に加える。
②:このカードをエクストラデッキに戻し、除外されている自分の『霊獣使い』モンスター1体と『精霊獣』モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。

「更に、魔法(マジック)カード《封印(ふういん)黄金櫃(おうごんひつ)》を発動する!デッキからカードを1枚除外し、発動後、2回目のスタンバイフェイズ時に、そのカードを手札に加える事ができる!」

封印(ふういん)黄金櫃(おうごんひつ)
魔法カード
デッキからカードを1枚選んでゲームから除外する。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、この効果で除外したカードを手札に加える。

燈輝の頭上に、目のような紋様が刻まれた黄金の箱が姿を現す。
箱の中に1枚のカードが収められ、重い音を響かせながら蓋が閉まる。
蓋が完全に閉まりきると、黄金の箱は消えてしまった。

「この効果で、俺はデッキから《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》を除外する!」

燈輝の背後にいる《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》の隣に、若草色のマントを翻しながら、先端に金槌のような物がついた杖を持つ金髪の少女が現れる。
その少女もまたアペライオのように、目を閉じて静かに、自分の出番を待っている様子だった。

「ここで、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) カンナホーク》の効果を発動する。除外されている自分の『霊獣』と名のついたカード2枚を墓地に戻す。俺が選択するのはカンナホークとアペライオ、2体の『精霊獣』だ」

カンナホークが、再び高く咆哮する。

「更に、その効果にチェーンする形で、もう1つの効果を発動する!『聖霊獣騎』をエクストラデッキに戻す事で、除外されている『霊獣使い』と『精霊獣』を、1体ずつ守備表示で特殊召喚する!」

吼え続けるカンナホークから、《霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)》は飛び降り、燈輝の背後に着地する。
そしてカンナホークもまた、燈輝の背後に舞い降り、翼を休め始めた。
霊獣使(れいじゅうつか)いの長老(ちょうろう)》は、目を閉じて静かに待っている《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》の肩を軽く叩く。
それを合図に、レラは閉じていた目を開け、《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》の背中をなでた。
同時にアペライオも立ち上がり、精霊獣とその霊獣使いは、フィールド上に躍り出た。

精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》
☆☆☆☆ 風属性
ATK/1800 DEF/200
【炎族・効果】
自分は《精霊獣 アペライオ》を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
①:1ターンに1度、自分の墓地の『霊獣』カード1枚を除外して発動できる。
このターン中、以下の効果を適用する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
●自分フィールドの『霊獣』モンスターの攻撃力・守備力は500アップする。

霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》
☆ 風属性
ATK/100 DEF/2000
【サイキック族・効果】
自分は《霊獣使い レラ》を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
①:このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地の『霊獣』モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。

「そして、1つ目の効果を処理する。除外されている《精霊獣(せいれいじゅう) カンナホーク》を墓地に戻し、デッキから《霊獣使(れいじゅうつか)い ウェン》を手札に加える」
「除外から新たなモンスターの展開に繋げて、更にカードを手札に加える……何てデッキなんだ……」

デュエル外で秋弥がそのように呟く。

「ここで、《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》の効果を発動する。墓地の『霊獣』と名のついたカードを除外し、自分フィールド上の『霊獣』と名のついたモンスターの攻撃力と守備力を500ポイントずつアップする!俺が除外するのはカンナホークだ!」

精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》が高く咆哮する。

精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》
ATK/1800→ATK/2300 DEF/200→DEF/700

霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》
ATK/100→ATK/600 DEF/2000→DEF/2500

「更に俺は、《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》と《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》を除外して、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》を融合召喚!」

霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》が、《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》の背中に飛び乗り、杖を掲げる。
杖の先端に据えられた橙色の宝石と、アペライオの首にある同じ色の宝石が、強い輝きを放つ。
それと同時に、アペライオの(たてがみ)や尻尾は、まさに猛々しい炎が燃え上がるような風貌となり、アペライオ自身も、闘争本能をむき出しにして戦闘体勢を取った。

聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》
☆☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/2600 DEF/400
【炎族・融合/効果】
『霊獣使い』モンスター+『精霊獣』モンスター
自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ特殊召喚できる(《融合》は必要としない)。
①:このカードは攻撃する場合、ダメージステップ終了時までこのカード以外のカードの効果を受けない。
②:このカードをエクストラデッキに戻し、除外されている自分の『霊獣使い』モンスター1体と『精霊獣』モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。

「バトルだ!《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》で、裏守備モンスターを攻撃!ライオフレイム・スタンプ!!」

アペライオが咆哮と共に走り出す。
あっという間に標的との間合いを詰めた獰猛な獅子は、その強靭な前足で、裏側表示のカードを踏みつけた。
しかし、カードは破壊されない。

「裏守備モンスターは《シールド・ウィング》だ。1ターンに2回まで、戦闘では破壊されないぜ!」
「ほう……そう来たか。なら俺はリバースカードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「へへっ、面白いデッキを使うな!俺も負けてられないぜ!俺のターン、ドロー!」

1ターン目からトリッキーな動きで遊雅達を驚かせた『霊獣』デッキを使用する燈輝。
遊雅はまだ見ぬモンスター達の存在に心を躍らせながら、デッキからカードをドローした。 
 

 
後書き
今回登場した『霊獣』デッキですが、実の所、私は使った事がありません。
なので回し方がこれで合っているのかわかりませんが、ご容赦ください。使ってみたかったんですw

それと、自分で文を確認して思った事を1点。
私はカード名に必ずルビを振るのですが、そうすると漢字と送り仮名がずれてしまうので、見にくかったりしないかと思いました。
もし見にくいようでしたら、今後は初登場の時のみルビを振り、それ以降は振らないようにしたいと思います。
感想やメッセージ、どれでも構いませんので、もしよろしければその辺りのご意見を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。 

 

第12話 遊雅の才能

林間学校で遊雅が遭遇した、アルカディア・セントラル・スクールの1年生、咲峰 燈輝。
燈輝は変則的な動きで相手を翻弄する『霊獣』デッキの使い手であり、1ターン目からその類稀なる展開能力で、攻撃力2600で、戦闘中は効果による破壊を受け付けない、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》を召喚する。
遊雅はその見た事もない展開方法に胸を躍らせながら、2ターン目のドローフェイズに突入したのだった。

「俺のターン、ドロー!」

ドローカードを含めた遊雅の手札は3枚。

「早速行くぜ!俺は《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》を召喚し、《()(かぜ)進軍(しんぐん)》を発動!」

身を守る《シールド・ウィング》の隣に、《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》が現れる。

「《()(かぜ)進軍(しんぐん)》の効果で、俺はこのターン、もう1度風属性モンスターを召喚できる!俺は2体のモンスターをリリースして、《フレスヴェルク・ドラゴン》をアドバンス召喚!」

《シールド・ウィング》と《霞の谷(ミスト・バレー)戦士(せんし)》が旋風に包まれ、1つの巨大な旋風となる。
間もなく巨大な旋風は振り払われ、遊雅の相棒である群青の鱗を纏った巨竜が姿を現した。

「《フレスヴェルク・ドラゴン》の効果発動!1ターンに1度、フィールド上のカードを1枚破壊できる!俺が選択するのは、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》だ!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》が翼を激しく羽ばたかせる。
巻き起こる風は刃となって《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》を切り裂く、はずだった。

「アペライオの効果を発動!アペライオをエクストラデッキに戻し、除外されている『精霊獣』と『霊獣使い』を守備表示で特殊召喚する!」
「なにっ!?」

効果発動の宣言と同時に、《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》が《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》の背中から飛び降りる。

「対象を失った《フレスヴェルク・ドラゴン》の効果は無効となる」
「へへっ、上手い具合にかわしたな!だがまだだぜ!風属性2体をリリースして召喚されたフレスヴェルクは、1ターンに2回まで攻撃できる!フレスヴェルクで、アペライオを攻撃だ!ゴッドバード・スラスト!!」

咆哮と共に、《フレスヴェルク・ドラゴン》が《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》へ突撃する。
しかしそれと同時に、燈輝もカードの発動を宣言した。

「速攻魔法発動!《霊獣(れいじゅう)相絆(しょうばん)》!」

霊獣(れいじゅう)相絆(しょうばん)
速攻魔法カード
①:自分フィールドの表側表示の『霊獣』モンスター2体を除外して発動できる。
エクストラデッキから『霊獣』モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

「フィールド上の《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》と《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》を除外し、再び《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》を特殊召喚する!」

霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》が、再び《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》の背中に飛び乗る。
するとアペライオは、瞬く間に先程の獰猛な姿に変わってしまった。

「くっ……攻撃力2600じゃ、太刀打ちできない……ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー!」

燈輝の手札は4枚。
それらを確認してから、燈輝は行動を開始する。

「まずは、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》をエクストラデッキに戻し、《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》と《精霊獣(せいれいじゅう) カンナホーク》を守備表示で特殊召喚する!」

レラが自分の背中から降りたのを確認して、アペライオは燈輝の背後へ撤退する。
それと入れ替わるように、《精霊獣(せいれいじゅう) カンナホーク》が、フィールド上に舞い戻った。

「カンナホークの効果を発動!デッキから《精霊獣(せいれいじゅう) ペトルフィン》を除外する!」

燈輝の背後に、額に青い宝石を埋め込んだ装飾を纏った桃色のイルカが、新たに姿を現す。

「更に手札から、《霊獣使(れいじゅうつか)い ウェン》を召喚!」

続いて燈輝のフィールド上に、紫色の衣を纏い、巨大な青い宝石があつられられた杖を持つ金髪の少女が現れる。

霊獣使(れいじゅうつか)い ウェン》
☆☆☆ 風属性
ATK/1500 DEF/1000
【サイキック族・効果】
自分は《霊獣使い ウェン》を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
①:このカードが召喚に成功した場合、除外されている自分の『霊獣』モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。

「ウェンが召喚に成功した時、除外されている自分の『霊獣』モンスターを特殊召喚できる!来い!《精霊獣(せいれいじゅう) ペトルフィン》!!」

先程現れた桃色のイルカが、《霊獣使(れいじゅうつか)い ウェン》の隣に、まるで空中を泳ぐようにして並んだ。

精霊獣(せいれいじゅう) ペトルフィン》
☆☆☆☆ 風属性
ATK/0 DEF/2000
【水族・効果】
自分は《精霊獣 ペトルフィン》を1ターンに1度しか特殊召喚できない。
①:1ターンに1度、手札の『霊獣』カード1枚を除外し、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを持ち主の手札に戻す。

「そして、《霊獣使(れいじゅうつか)い ウェン》と《精霊獣(せいれいじゅう) ペトルフィン》を除外し、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ペトルフィン》を融合召喚!」

霊獣使(れいじゅうつか)い ウェン》が《精霊獣(せいれいじゅう) ペトルフィン》の背中に飛び乗る。
ウェンが持つ杖の宝石と、ペトルフィンの額の宝石が、強く輝き始めた。

聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ペトルフィン》
☆☆☆☆☆☆ 風属性
ATK/200 DEF/2800
【水族・融合/効果】
『霊獣使い』モンスター+『精霊獣』モンスター
自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ特殊召喚できる(《融合》は必要としない)。
①:このカードは効果では破壊されない。
②:このカードをエクストラデッキに戻し、除外されている自分の『霊獣使い』モンスター1体と『精霊獣』モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。

「3体目の『聖霊獣騎』……」
「驚くのはまだ早いぞ!俺は《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ペトルフィン》、《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》、《精霊獣(せいれいじゅう) カンナホーク》の3体を除外し、新たな『聖霊獣騎』を融合召喚する!」
「何だってっ!?」
「さぁ、現れろ!《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ガイアペライオ》!!」

燈輝の背後に控えていた《精霊獣(せいれいじゅう) アペライオ》が、再びフィールド上に躍り出る。
その背中の上に、《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》が飛び乗り、杖を掲げると同時に、燈輝のフィールドの全てのモンスターが光に包まれてしまった。
燈輝以外の、その場にいた全員が手などで顔を覆うほどの激しい閃光。
光が消えたその場に存在したのは、(たてがみ)は燃え上がる炎となり、背中には大木が聳え立つ、巨大な獅子の姿だった。
そしてその上に、髪の先端がアペライオの炎のように赤々とした色となった《霊獣使(れいじゅうつか)い レラ》が、杖を掲げながら、大木に手を突くようにして立っていた。

聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ガイアペライオ》
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 光属性
ATK/3200 DEF/2100
【サイキック族・融合/効果】
『聖霊獣騎』モンスター+『霊獣使い』モンスター+『精霊獣』モンスター
自分フィールドの上記カードを除外した場合のみ特殊召喚できる(《融合》は必要としない)。
①:上記の方法で特殊召喚したこのカードは以下の効果を得る。
●モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、手札から『霊獣』カード1枚を除外して発動できる。
その発動を無効にし破壊する。

「な、何だよ、これっ……!?」
「バトルだ!《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ガイアペライオ》で、《フレスヴェルク・ドラゴン》を攻撃!ガイア・ライオ・ラグナロク!!」

ガイアペライオの咆哮と同時に、遊雅のフィールドを逆巻く炎が蹂躙する。
《フレスヴェルク・ドラゴン》は、あっという間に炎に巻かれて消滅してしまった。

「《フレスヴェルク・ドラゴン》!?」

南雲 遊雅
LP/4000→3300

「俺はこれで、ターンエンドだ」
「くっ……俺のターン!」

遊雅はドローカードを確認して、すぐさま行動を起こした。

「よしっ!俺は《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》を召喚し、続いて伏せ(リバース)魔法(マジック)カード、《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》を発動!」

遊雅のフィールドに現れた《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》が、すぐに旋風に包まれて消えてしまう。
旋風が振り払われ、再び青き竜が雄叫びを上げながら、その姿を現した。

「リリースされた《九蛇孔雀(くじゃくじゃく)》の効果で、墓地の《シールド・ウィング》を手札に加える!そして、《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》で特殊召喚した《フレスヴェルク・ドラゴン》は、エンドフェイズまで攻撃力が500ポイントアップし、2回攻撃できる!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》
ATK/2500→3000

「だがそれでも攻撃力は3000。ガイアペライオのそれには及ばない」
「誰がそのまま攻撃するって言った!もう1枚のリバースカード、《ガルドスの羽根(はね)ペン》を発動!墓地の風属性モンスターを2体デッキに戻し、フィールド上のカードを手札に戻す!ガイアペライオには、エクストラデッキに戻ってもらうぜ!」
「よし!相手はリバースカードがない!これが決まれば遊雅の勝ちだ!」
「……残念だが、そう言うわけには行かない。《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ガイアペライオ》の効果発動。魔法・(トラップ)・効果モンスターの効果が発動された時、手札から『霊獣』と名のつくカードを除外して、その発動を無効に出来る」
「なっ!?」

遊雅のフィールドを、再び炎が襲う。
《ガルドスの羽根(はね)ペン》のカードは、その炎によって焼き尽くされてしまった。

「くっ……」
「リバースカードもなし、手札は墓地から戻した《シールド・ウィング》のみ。もう打つ手はないようだな」
「……ターンエンドだ」

《フレスヴェルク・ドラゴン》
ATK/3000→2500

「なら俺のターンだ、ドロー!」

ドローカードを確認した燈輝は、遊雅にこのように告げる。

「遊雅、悪いがこのデュエルは、俺の勝ちだ」
「何だと……?」
「俺は手札から、2体目の《霊獣使(れいじゅうつか)い ウェン》を召喚。効果により、除外されているアペライオを特殊召喚し、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》を融合召喚する」

霊獣使(れいじゅうつか)い ウェン》が、燈輝の背後へ移動する。
すると、《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ガイアペライオ》の隣に激しい炎が巻き起こり、その中から《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》が現れた。

「バトル!《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》で、《フレスヴェルク・ドラゴン》を攻撃!ライオフレイム・スタンプ!!」

聖霊獣騎(せいれいじゅうき) アペライオ》が、全力疾走の後に高く跳躍する。
そして、《フレスヴェルク・ドラゴン》の頭上から、炎を纏った爪を勢いよく振り下ろした。
《フレスヴェルク・ドラゴン》は、断末魔と共に消滅する。

「くっ……」

南雲 遊雅
LP/3300→3200

「これで最後だ。《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ガイアペライオ》で、遊雅へダイレクトアタック!ガイア・ライオ・ラグナロク!!」

聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ガイアペライオ》の咆哮と共に、遊雅の周りの地面から、激しい炎が吹き上がる。

「うわぁっ!?」

炎に巻かれ、悲鳴を上げながら、遊雅は最後の時を迎えた。

南雲 遊雅
LP/3200→0

「へっ、何だよ、そっちからデュエルを挑んで来た割りには、大した事ないじゃねーか!」

ACS生の1人が、嘲笑しながらそのように言い捨てる。
しかし、真っ先に反駁したのは予想に反して、燈輝だった。

「よせ。遊雅は俺と全力で戦った相手だ。侮辱は誰よりも、俺が許さない」
「お、おう……悪かった」

同級生を諌めた燈輝は、悔しさを滲ませた表情で自分を見る遊雅の元へ歩み寄った。

「いいデュエルだった。こちらのデッキが回っていなければ、あの《フレスヴェルク・ドラゴン》と言うモンスターは脅威になっていただろう」
「……へへっ、そうか。そっちこそ、あんな強ぇモンスター出されちゃ困っちまうぜ」
「ああ。切り札だからな。まさかあんなに早く出せるとは思っていなかったが」
「……次は、絶対負けねぇぜ!練習試合、憶えておけよ!」
「ふっ、楽しみにしている。では、またな」

それだけ話して、燈輝は2人の生徒を引き連れて去って行った。

「お疲れ様、遊雅。残念だったわね」
「ああ。あいつすっげぇ強いぜ……けど」

一拍置いてから、遊雅は負けた後とは思えない晴れやかな笑顔で、こう言った。

「相手が強けりゃ強いほど、こっちだって燃えて来る!負けてらんないぜ!」
「まるで落ち込んでる様子がないわね……まぁ、遊雅らしい反応ね」
「にしても南雲よぉ、お前相手のライフポイント全く削れなかったじゃねーか」
「うっせぇ!次は絶対負けねーっての!」
「そうだね。お疲れ様、遊雅!」
「南雲君、お疲れ様!」
「よく分からなかったけど、相手の人、すごい強かったみたいだねー」

翔竜高校の生徒5人は、落ち込んでいない遊雅の様子に安堵しながら、再び森林散策を再開したのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

「おい燈輝、さっきはああ言ったが、実際あいつ、そこまで強くなかっただろ?」

森を歩きながら、ACS生が燈輝にそのように声をかける。
燈輝は少しだけ間を置いてから、このように断言した。

「遊雅は強いさ。確かにさっきのデュエルで、俺はノーダメージの状態で勝利する事ができた。だが、あいつは決して、弱くない」
「そうは言うがよ……」
「お前も、1度戦ってみれば分かるさ。こんな事言ったら笑われるかもしれないが、さっきのデュエルは、全てのモンスターが、楽しそうに戦っていた」
「はぁっ?モンスターが楽しそう?おいおい、そりゃないだろ。ソリッドビジョンだぜ?」
「だからさ、戦ってみれば分かるよ。俺の言ってる事が」
「けど、仮にモンスターが本当に楽しそうに見えたとして、何でそれが強いに繋がるんだよ?」
「……俺は、『精霊獣』や『霊獣使い』達があんな風に……楽しそうに戦っているのを見た事がないんだ。だからきっとあいつは、俺が持っていない『何か』を、持っているのかもしれない」
「ふぅ……燈輝、俺はたまにお前の事がよく分からなくなるぜ。けどまぁ、お前がそこまで言うなら、次の練習試合、楽しみだな」
「ああ。実に楽しみだよ。来週までなんて待ってられないくらいにな」

これまでに咲峰 燈輝の笑顔を見た事がある者は、かなり限られている。
この場にいる2人と、そしてあと数人程度しか、彼の笑顔を見た事はない。
それほどに笑わない彼が、今、いつになく晴れやかな笑顔で笑っている。
それは南雲 遊雅と言う、彼にとってはとてつもない好敵手と出会えたと言う喜びと、その好敵手と、来週末に再び、素晴らしいデュエルが出来るだろうと言う期待から来る笑顔だった。 
 

 
後書き
ちなみに補足しておきますが、燈輝は精霊が見えるわけではなく、あくまで精霊の雰囲気のような物をわずかに感じ取れる程度の力を持っています。
今後この力を活かせる展開になるかはわかりませんが、一応、そのように認識しておいて下さい。 

 

第13話 忍び寄る魔の手

自由時間の終わりが近づいている事を知った6人は、担任から受けとった地図に従って、集合場所へ向かっている最中だった。
森はキャンプ場からスタートして、1週して再びキャンプ場へ戻れるように道が出来ている。
ただし、全て回りきるには2時間では足りない時間を要するので、6人はまだ森の半分にも満たない箇所しか散策していない。
外周から外れ、森を東西に分断する道を通って、6人はもう一方の入り口へ向かっていた。

「にしても、この森広いよなぁ……2時間じゃ全部回れないぜ、これ」
「そうだね……途中でACSの生徒とデュエルしていたとは言え、半分も見て回れなかったもんね」
「まぁ、お昼ご飯の後にレクリエーションをやるって言ってたし、その時に嫌でも森を回る事になるんじゃない?」
「それもそうだな。今は大人しく戻るとするか」

6人は自由時間最後の道のりを、精一杯楽しみながらキャンプ場へ戻るのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

「2班、戻りましたー」
「ああ、了解だ。それじゃ、向こうで炊事道具を借りて来て、あっちの炊事場で待っていてくれ。くれぐれも、勝手に火を起こしたりするなよ?」
「「はーい!」」

元気よく返事を返したのは、亜璃沙以外の女子生徒2人だった。
担任以外の引率の教員が控えている場所へ赴き、食材と調理器具一式を受け取り、炊事場へ向かう。
受け取った食材は米、人参、じゃが芋、玉ねぎ、豚肉、そしてカレールウだった。

「こう言う時に作るのって必ずカレーだよな。何でだろ」
「カレーが嫌いって人もあんまりいないだろうし、適度な人数で分担できて、手ごろに作れるから、って感じじゃない?」
「そう考えると、ぴったりな献立だね」
「でもありきたりだよなぁ。俺なんて林間学校って聞いた瞬間に昼飯はカレーだろうなぁって想像できちまったぜ」
「そうだねー、でもいいんじゃない?女子としては、何気にカレーって腕の見せ所だったり!」
「そうそう!私も今日は頑張っちゃお!」

雑談を交えながらの炊事場への道のりは、想定よりも早く消化できてしまった。
調理台と思われる場所に受け取った物を置いて、6人は再び雑談に時間を割き始める。

「とは言え、何もせず待ってるってのは暇だよなぁ……」
「水ぐらいなら汲んできてもいいんじゃないか?」
「そうだね。じゃあ、誰が行こう。重いかもしれないから、男子の方がいいよね」

秋弥の言論に反応したのは、遊雅ではない方の男子生徒だった。

「そう言う事なら、俺が行って来るぜ。ちゃちゃっと汲んで来っからよ」
「わりーな。頼むよ」
「おう、任せとけ!」

男子生徒は教員から受け取っていたバケツを持って、水汲み場へ向かった。

「さて、と。俺達はどうするか」
「先に野菜の皮を剥いておく、とかも怒られそうよね」
「大人しく、話しながら待ってようか」
「そう言えば、亜璃沙ちゃんもデュエル・モンスターズするんだよね?」
「えっ?あっ、うん。一応、やってるけど」
「亜璃沙ちゃんから見て、さっきの人って強かったの?」

『さっきの人』とは恐らく咲峰 燈輝の事だろう、と亜璃沙は判断して、返答する。

「そうね……あのデッキ、かなり変則的な戦い方のデッキだったから……それを使いこなしてる時点で中々の腕前だと思うわ」
「そっかー……私よく分からなかったんだよね。同じモンスターが何度も出たり下がったりしてたくらいしか」
「天藤君は?」
「僕も概ね同意かな。僕は遊雅の事をすごく強いと思ってるけど、その遊雅を完封してしまったくらいだからね」
「けど、南雲君のあのモンスターもすごかったよね!フレ……なんだっけ?」
「《フレスヴェルク・ドラゴン》な。俺の相棒だ」

答えながら、遊雅はデッキケースから《フレスヴェルク・ドラゴン》を取り出して、2人の女子生徒に見せる。

「すごーい!かっこいいよね、この子!」
「この子……」

言うに事欠いて風神竜を『この子』呼ばわりする女子生徒に、遊雅は面食らってしまう。
このカードにそのような設定がある事など、当の本人は知る由もないわけだが。

「残念だがさっきのデュエルではいいとこ見せれなかったけど、俺はこいつに何度も助けられてるんだ」
「へぇ~……確かに、強そうだもんね」
「来週は絶対に負けられないね、遊雅!」
「ああ!次こそはあいつに勝ってみせるぜ!」
「頑張ってね、南雲君!」
「今日の二の舞にならなきゃいいわね」
「うっせ!ぜってー勝ってやるから、見とけよ!」
「はいはい、期待しておくわ」

その後、水を満載したバケツを持った男子生徒が戻って来た。
調理開始も、それ以降そこまで待つ事なく言い渡された為、遊雅達は早速、調理に取り掛かる。

「僕、野菜の皮剥いていくね」
「私はお米研ぐね!」
「じゃあ私達2人は食材を切っていくわ」
「んじゃ、俺達は火を焚くぜ」

それぞれ分担した役割を消化していく。
火起こしは火気類を使用するのではなく、施設から借りて来た火起こし用の器具を用いる事になっている。
木の棒を板にこすり付けて摩擦で火種を作る、ポピュラーなやり方だ。

「んじゃ、俺はかまどに薪を積んでくから、南雲は火種作っといてくれ」
「OK。そっちも頼むぜ」

板の窪みに器具の棒の先端を押し付け、回転させて摩擦していく。
当初、遊雅はこの作業をとても簡単な物だと思い込んでいた。
しかし、現実はそう甘くはなかった。

「ぐっ……こ、このっ……」

いくら回転させても、火種どころか煙すら出て来ない。
次第に棒を回転させる速度が、腕の疲労のせいで衰えて行く。

「はぁっ、はぁっ、くそっ……火なんてつかねーぞ……」

少しの間、腕を休ませてから、再び棒を回転させる作業を再開する。
それから5分ほど時間をかけて、ようやく火種が完成した。

「あー……疲れた……あとはこいつを……」

完成した火種を、綿を包みこんだ麻の中に放り込む。
みるみる内に火種は延焼していき、遊雅は慌ててそれをかまどの中に投げ入れた。

「おっとと、あぶねあぶね」
「おし、後はこいつを扇げば火が強くなってくだろうな」

遊雅ともう1人の男子生徒は、受け取った調理器具類に紛れていた団扇でかまどを扇ぐ。
間もなく、小さかった炎は細かな枝や新聞紙に引火し、かなりの火力となった。

「おっし、こんなもんだろ。おーい、米研げてるかー?」
「当たり前よ。研ぐだけで10分もかかるはずないじゃない」
「悪い……火起こしが予想以上に重労働だったもんでな……」
「南雲君すごい息切れてるね……そんなに大変だったの?」
「2回目は絶対にやりたくないレベルの大変さだったよ……」

意気消沈する遊雅だったが、何とか米を炊き始める所までは完了した。
飯盒(はんごう)をかまどの火にかけて、遊雅達は他の班員の様子を見に行く。

「うぉっ、秋弥、お前皮剥くの上手いな」
「えっ、そうかな?」

秋弥が剥いた皮は、全て途中で切れる事無く一繋がりになっていた。

「お前、料理とかすんのか?」
「うん。お母さんに教わって、大抵の料理は作れるよ」
「へぇ~、亜璃沙とどっちが上手いかな」
「それは亜璃沙じゃないかな。女の子だし」
「……って言うか俺、亜璃沙の料理なんて食べた事ないな。あいつそもそも料理なんてできんのか?」
「失礼ね。女を甘く見ないでくれる?」

秋弥と話す遊雅の背中を、怒気に満ちた幼馴染の声が貫いた。

「うわっ、亜璃沙。聞いてたのかよ」
「あいにく、カレーは得意料理の1つよ」
「そ、そうか……期待しとく」
「……よかったら、今度何か作ってあげるわ」
「えっ?あ、ああ、ありがとう。楽しみにしとくよ」
「くっ……お前いいよな……手料理作ってくれる女の子がいて……」
「そう言われてもなぁ……」

話が様々な方向に飛躍して行ったクッキングタイムは、すぐに終わりを迎える。
米も無事に炊き上がり、尋常じゃないやる気を見せる女性陣の奮闘によって、素晴らしい香りを漂わせるカレーが完成したのだった。

「おぉっ、うっめぇ!3人とも料理上手いんだな!」
「ふふんっ、これくらい当然よ!ねぇ、亜璃沙ちゃん!」
「そうね。もうあなた達の胃袋は掌握したわよ」
「あ、亜璃沙ちゃん……それはちょっと怖いよ……」
「でも本当に美味しいね。やっぱり女の子には敵わないなぁ」
「女子の手料理が食えるとは……くぅ~!最高だぜぇっ!」

6人は丹精込めて作ったカレーを1口食べてから、思い思いの感想を口にする。
秋弥以外の2人の男子は、2口目以降をろくに喋らずに頬張って行った。

「す、すごい……もう半分なくなってる……」
「2人とも、そんなにがっつかなくても……」
「いや、美味すぎて止まらねーんだよ!」

その後、他の4人のおよそ3倍の速さでカレーを平らげた2人は、4人の食事風景を眺めながら、もう少し味わえばよかったと後悔するのだが、それはまた別の話である。

◇◆◇◆◇◆◇

「……咲峰君、何かあったの?」
「えっ?どうしてだ?」
「いや……何か、嬉しそうと言うか、楽しそうと言うか、そんな感じがしたから」
「……精霊、だっけか。それが見えるだけでなく、とうとう人の心情まで読めるようになったのか?」

ACSの生徒達が集うキャンプ場にて、燈輝と1人の女子生徒はそんな会話を交わしていた。
少女の名は『霧島(きりしま) 火凛(かりん)』。燈輝と同じACSの1年生で、同じデュエル部に所属している。
入部早々にレギュラーとなった燈輝と違い、火凛はまだレギュラー候補の身である。
しかし、彼女にはデュエルの腕の他に、類稀なる才能があった。
それは、『精霊』が見える事。
その特殊性から決して表に出て来る事はないが、デュエル・モンスターズのカードには、そのモンスターの魂が宿っていると主張する者が、ごく稀に存在する。
彼らはそのモンスターの魂を、『精霊』と呼称している。
霧島 火凛も、その内の1人だった。

「……あのね、咲峰君。君、自分が普段どれだけ笑わないか、知ってる?」
「そんなに仏頂面ばかりしてるか?」
「うん。いっつも怒ってるんじゃないかなって思うくらい仏頂面。その君がそんなに顔を綻ばせてたら、何かあったと思う方が自然じゃない?」
「……そんなに緩んでるか?」
「そりゃあもう。玩具を買ってもらう前の子供みたいに」

言われて、燈輝は何とかいつものように戻そうと表情を固める。

「そんな無理にしかめっ面にしなくても……それで、何があったの?」
「さっき、森の中で翔竜高校の生徒と出くわしたんだ」
「ふんふん、それで?」

翔竜高校との練習試合の件は、顧問からの通達で、既にデュエル部全員に知れ渡っている。

「そこで、面白い奴と知り合ってな。南雲 遊雅と言う奴なんだが……来週の練習試合で戦う事になりそうだ」
「へぇ~、面白いって事は、咲峰君ひょっとして負けちゃったとか?」
「いや、完封勝ちだったよ」
「……どう言う事?」

今度は火凛の方が顔を(しか)める番だった。
完封勝ち出来る程度の相手を面白いと言う理由が、その時の火凛には想像もつかなかったからだ。
しかし、続く燈輝の言葉を聴いて、火凛も南雲 遊雅と言う男に興味を持ち始める事になる。

「奴とのデュエルは……モンスター達がとても楽しそうでな。今までそんな相手とデュエルした事なかったから」
「モンスター達が……楽しそう?」
「ああ。俺には精霊って物は見えないからはっきりとは分からないが……そんな雰囲気は感じた」
「……どうしてそんな」
「さぁな。けど、ひょっとしたら何かの才能があるかもしれないだろ。それにそれだけじゃない。たまたま俺のデッキが回ったから完封できただけで、デュエルの腕も中々だと思う」
「なるほど……確かに、私も興味が出て来たわ」

燈輝から話を聞いた火凛の顔も、微かに綻んでいた。

「この林間学校の間に、私もその人と会えないかな?」
「どうだろうな。向こうとこっちのスケジュールが同じとは限らないからな」
「そうだね……でもわざわざ森林公園に来といて、ちょっと森見てはいお終い、って事もなさそうじゃない?森を見て回ってれば、ひょっとしたらって事も」
「そうかもしれないな。まぁ、今回会えずとも、来週になれば嫌でも会えるんだ。急がずともな」
「やだよ、私だって早く会いたい!咲峰君ばっかずるいよ!」
「ず、ずるいと言われてもな……」

普段は冷静な彼でも、自分ではどうしようもない所で怒りを覚えられては、辟易せざるを得なかった。

◇◆◇◆◇◆◇

森の中で、翔竜高校第2班の面々は、とある理由で頭を捻っていた。

「なぁ、最後のチェックポイントのヒント、これどう言う意味だ?」
「うーん……『世界を見渡せても、足元の物を見落としては意味がない』か……」
「世界を見渡すって何?望遠鏡か何かを探せって事?」
「いや、違うだろ。まぁ、俺もよく分からんが」
「ひょっとしたら、高い所、って意味かもしれないわ。それなら、遠くまで見渡せるし」
「なるほど。すると足元の物を見落とすってのは……」
「背が高い物の根元に、次のチェックポイントがあるって事かな?」
「大樹だ!さっき見かけたでっけぇ樹の所行くぞ!」

導き出された結論に則って、6人は大木を求めて森を歩く。
何をしているかと言えば、端的に言うとウォークラリーと言うやつだ。
教員達が森の中に用意したチェックポイントを、ヒントを頼りに全て回り、広場までいち早く戻って来た班には褒美があると言うルールだった。
自由時間中の散策で大樹を見かけた6人は、数分歩いた後、無事にその場所に辿り着いた。

「おっ、あった!」
「やったぁ!早くスタンプ押そうよ!」
「おっし、この早さなら優勝間違いなしだぜ!」
「油断は禁物だよ!他の班もすぐに来るかもしれない!」
「そうと決まりゃあ急ぐぞ!全速前進だ!」

受け取った用紙にスタンプを押し終えた6人は、広場までの残りの道を、走って消化して行った。
木々に囲まれた小道を走っていると、視界に開けた場所が映り始める。
ゴールの広場だった。
勢いをそのままにして広場に飛び込んだ6人は、自分達以外には教員しかいない事を確認して歓喜する。

「おっしゃあ、一番乗りぃっ!」
「やったぁっ!」
「おっ、2班が最初か。どれ、スタンプは?」
「ちゃーんと、全部集めてますって!ほら!」

遊雅は意気揚々と教員に用紙を渡す。
設けられた5つの枠には、全て異なるスタンプが押されていた。
残りの5人の用紙も確認していく。最後の用紙を確認し終えた所で、教員はこのように言った。

「よしっ、OKだ!1位は2班だな!」

6人は手を打ちつけ合って喜びを表現する。
その後、全ての班の帰還を待ってから、表彰式が行われた。
1位の賞品は学食無料券5枚と言う中々破格な賞品だった。
表彰式が終わると共に、一同は教員が予約した宿へ向かう。
宿は風情があるログハウスだった。

「お洒落な宿ね。ちょっとわくわくしちゃうかも」
「そうだな。こう言う所って泊まった事ないもんな」

ちなみに部屋割りは、男女別に班毎となっている。
従って、遊雅のルームメイトは同じ班の秋弥ともう1人の男子生徒、3人で1部屋を使用する事になる。

「おー、すげぇ、立派な部屋だなぁ」
「こんな部屋を3人で使えるなんて、ちょっと贅沢すぎる気もするね」
「そんな事ないだろ。ちゃんとベッドは3つしかないし」
「いや、そう言う意味じゃねーって」

そのすぐ後、同じ班の女性陣3名が部屋を訪れ、6人は夕食までの自由時間を満喫した。
主に遊雅、秋弥、亜璃沙の3人が交代でデュエルするのを、他の3人が観戦しているだけだったが、第2班の部屋は大いに盛り上がるのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

所変わって、ACSが借りている宿にて。
夕食も入浴も全てが終わり、消灯時間を迎えた生徒達は、各々の部屋で睡眠をとるか、もしくは雑談に興じていた。
ただし咲峰 燈輝だけはその限りではなく、バルコニーで1人静かに夜風に当たっている最中だった。
今の彼の思考は、そのほとんどが南雲 遊雅についてで埋め尽くされている。
圧倒的な力を持つ《聖霊獣騎(せいれいじゅうき) ガイアペライオ》を召喚されてなお、一瞬の怯みは見せた物の衰えなかった闘志。
そして、彼が召喚した青き竜、《フレスヴェルク・ドラゴン》。
あの竜と彼の不屈の心は、いずれ自分自身の覇道を阻む物になるだろうと、燈輝は確信していた。
燈輝の夢は、最強のデュエリストになる事。遊雅のそれと全く同じ物だった。
そんな目標を掲げる2人が、いずれどこかで全力でぶつかり合う事になるのは必然。
来週の練習試合に向けて、燈輝は改めて気合を入れなおす。
そんな彼に、背後から誰かが声をかけた。

「咲峰君?どうしたの?」
「……霧島か。眠れなくてな。ちょっと夜風に当たっていた」
「なんだ、咲峰君もなんだ。私も」
「咎める気はないが、あれほど盛り上がられては、眠れた物じゃなくてな」
「あははっ、まさか眠れない理由まで同じとは思わなかった。まっ、友達の家に泊まったり、修学旅行だったり、みんなで寝泊りするのはテンションあがるもんね」
「ああ。それについては否定はしない。むしろ同意見だ」
「それより、綺麗だね、星。アルカディアシティじゃこんな綺麗な星見れないよ」
「そうだな。空気が澄んでいてよく見えるんだろう」

それから少しの間、2人は一言も言葉を交わさずに、星を見続ける。
静寂の中で先に声を発したのは、燈輝の方だった。

「それじゃあ、俺は先に部屋に戻る。霧島も、体が冷えない内に戻れよ」
「うん、ありがとう。お休み、咲峰君」
「ああ、お休み」

挨拶を交わしてから、燈輝はバルコニーを後にする。
燈輝を見送った火凛は、また空を見上げて星を眺めた。

「そう言えば、さっきのデュエル楽しかったなぁ。やっぱり咲峰君は強かったし」

さっきと言うのは、燈輝から南雲 遊雅の話を聞いた直後の事だった。
昂ぶりを抑えきれない燈輝に、火凛は1戦付き合ったのだ。
残念ながら火凛は切り札を使用したにも関わらず、惜しくも敗北してしまったのだが。

「今回は勝てると思ったんだけどなぁ。まっ、次があるよね」

改めて敗北を吹っ切った火凛は、再び空を見上げる。
それとほぼ同時に、彼女は背後に気配を感じた。
燈輝が戻って来たのだろうか、と考えた彼女は振り返る。
しかし、そこに立っていたのは全くの別人だった。
その者は、ローブで全身を覆っていた。

「悪いが、付き合ってもらうぞ」
「えっ……」

何の疑問も口にできないまま、男が右手を差し出すと同時に、火凛は意識を失ってしまった。
男は意識のない火凛を抱え上げ、バルコニーから飛び降り、夜の森の中へ消えていった。

◇◆◇◆◇◆◇

「……何だ?」

バルコニーを後にした燈輝は、そのすぐ後に、今さっきまで自分がいた場所から聞こえた異音に気をとられた。
火凛が1人で空を見上げているにしては不自然な音。
それは、火凛がバルコニーの床に倒れこんだ音だった。
燈輝はわずかに心をざわつかせ様子を見るためにもう一度バルコニーへ向かう。
空を見上げているはずの火凛は、既にその場にはいなかった。

「霧島……?」

念のため、バルコニーから身を乗り出して辺りの様子を窺う。
そして発見する。
何かを担いだまま森の中へ消えていく何者かの姿を。

「まさか、奴が……!」

燈輝は急いで自室へ戻る。
血相を変えて戻って来た燈輝にルームメイト達は驚いたが、凄まじい速さでデュエル・ディスクとデッキを持って部屋を出て行った燈輝に、誰も何があったのかを問いただす事はできなかった。

◇◆◇◆◇◆◇

舞台は再び、翔竜高校が借りている宿。
ルームメイト達が寝静まった部屋で自分のデッキを眺めていた遊雅は、突如鳴り響いたデュエル・ディスクの通知音に驚かされる。
デュエル・ディスクには通信端末の機能も搭載されており、デュエル・ディスク同士であっても、あるいは従来の通信端末に対しても、電波を送受信する事ができるのだ。
遊雅は慌ててデュエル・ディスクの画面を覗き込む。
通信の主は、咲峰 燈輝だった。
連絡先を共有せずとも、デュエル・ディスク同士であれば、一度デュエルすれば最新の10件まで、相手のパーソナルデータが保存される。
燈輝はそれを用いて、遊雅に連絡して来たのだった。

「もしもし、燈輝か?一体どうしたんだ?」
「こんな時間にすまない。だが遊雅、少し協力してもらいたい事があるんだ」

燈輝の声は焦りのあまりに、少しばかり震えていた。
その声を聞いて、何かよくない事が起きていると察知した遊雅は、すぐさま応答する。

「何があったんだ?俺にできる事なら協力するぞ!」
「ウチの生徒が1人、何者かにさらわれた。本来こんな事は同じ学校の生徒に頼めばいいと思うが……嫌な予感がするんだ」
「わかった。場所は?」
「すまないが詳しい場所を説明している時間がない。ディスクのGPS機能をオンにしてある。それを辿って追いかけて来てくれ」
「ああ、すぐに行く!」

遊雅は通信を終え、燈輝のパーソナルデータを呼び出す。
燈輝の言葉通り、GPS機能によって、彼の現在位置が把握できる状態になっていた。
念のため自分のデッキも持ち、遊雅は燈輝の反応がある場所まで急いだ。
綺麗な星が輝く夜だったが、たった今、遊雅にとっては暗雲の立ち込める重苦しい闇夜にしか思えなくなってしまったのだった。 
 

 
後書き
今回は少し駆け足になってしまいましたが、私の腕では日常パートを描きつつコンパクトにまとめるにはこれが限界でした。申し訳ないです。 

 

第14話 月夜に蘇る暗黒龍

林間学校1日目の夜。
ACSの生徒である霧島 火凛が、謎の男にさらわれてしまう。
偶然にもそれを発見した燈輝は、遊雅に協力を要請し、火凛の救出に臨む。
燈輝から連絡を受けた遊雅も、火凛を救出するために、燈輝のデュエル・ディスクのGPS機能が発する反応を元に、彼を追うのだった。

「燈輝!」

担任から受け取った森の地図とGPSの反応を照らし合わせ、遊雅は何とか燈輝を発見する。

「遊雅、すまない。こちらの面倒に巻き込んでしまって」
「燈輝は悪くないだろ。もちろんさらわれた奴だってそうだ。早く助けてやろう!」
「ありがとう。……あっ、それと」

燈輝がデッキケースから1枚のカードを取り出し、それを遊雅に差し出した。

「礼というわけではないが、こいつを受け取ってくれ。お前のデッキなら、きっと使えるはずだ」
「いいのか?」
「ああ。もしかすると、誘拐犯と戦う事になるかもしれないからな。少しでも戦力の増強は必要だろう」
「悪いな。ありがたく使わせてもらう!」

受け取ったカードを自分のデッキケースに収めながら、遊雅は再び、燈輝と共に走り出す。
誘拐犯の足取りが分からない以上、ここからは勘による捜索しかできない。

「くっ、きりがないな……」
「手分けして探そう!見つけたら連絡する!」
「そうだな。頼んだ!」

そこから、2人は別れて捜索を再開した。
しばらく森を徘徊した後に、遊雅はある物を発見する。

「これは……」

森の中に落ちていたそれは、デュエル・モンスターズのカードだった。

「森の中にカードが落ちてるなんて……ひょっとして、さらわれた奴の……?」

遊雅はそのように仮定して、辺りに他のカードが落ちていないかを探す。
すると、ある1本の道に、同じ様にカードが落ちているのが確認できた。

「あれだ!あれを辿って行けば、もしかすると!」

遊雅は道に落ちているカードを回収しながら、火凛が連れ去られたと思われる方へ急いだ。

◇◆◇◆◇◆◇

森を抜けた遊雅は、ついに探している人物と思われる姿を捕捉していた。
山の斜面が崩れ落ち、断崖絶壁と化した場所に、彼女はいた。
ローブの男の背後、絶壁にもたれかかるようにして、火凛は座っている。
ぐったりと項垂れている為、まだ意識は戻っていない様子だった。

「ほう、これは驚いたな。まさか貴様の方から現れるとは……」
「お前は……あの時の」

火凛をさらった男、それは以前、遊雅に風神竜を渡せと挑んで来たあの男だった。
男は今回はフードを被っておらず、その顔は月明かりに照らされはっきりと認識できた。
男の顔は醜悪に歪み、まるでいい獲物を見つけたとでも言わんばかりに舌なめずりをしている。

「この娘が持つカードは、貴様の風神竜のように力のあるカードかと思ったのだがな。何の事はない、普通のカードだったよ」
「……ならもう用はないだろ。大人しく、そいつをこっちに渡せ!」
「そうだな……こうしようじゃないか。南雲 遊雅、この娘と引き換えに、風神竜のカードをこちらに渡せ」
「なんだとっ……!」

反駁しようとして、遊雅はある事に気付き、先にそちらを問い質す事にする。

「お前、どうして俺の名を……」
「おっと、これは失礼した。風神竜の所持者について、色々と調べていた物でな。侘びとしては何だが、俺も名乗っておくとしよう。バラムだ。以後よろしく頼むよ」
「……フレスヴェルクを渡すわけにはいかない。デュエルで勝負だ!俺が勝ったら、そいつをこっちに渡してもらうぞ!」

遊雅の提案を聞いて、バラムは愉快そうに笑い始める。

「何がおかしい!」
「おかしくもなろう。貴様は以前、俺に1ターンキルされた事を忘れたのか?」
「……確かにあの時は、何もできずに負けた。だが、今回は違う。フレスヴェルクがいれば、俺は絶対に負けない!」
「なるほど、確かに以前は風神竜を所持していなかったな。いいだろう、かかって来るがいい」

バラムはローブを翻して左腕を露わにする。
そこには、以前と同じデュエル・ディスク型の岩盤が装着されていた。
バラムがその岩盤を謎の力で変形させると同時に、遊雅も自分のデュエル・ディスクを起動する。

「「デュエル!!」」

夜風が吹き過ぎて行く戦場で、2人は高らかに宣戦布告する。

「先攻は譲ろう」
「なら遠慮なく行くぜ、俺は《ハンター・アウル》を召喚!」

遊雅のフィールド上に、様々な武装を施した鳥人モンスターが現れた。

「更に、《ハンター・アウル》は自分フィールド上の風属性モンスターの数だけ自分の攻撃力をアップする!」

《ハンター・アウル》
ATK/1000→1500

「リバースカードを2枚セットして、ターンエンドだ!」
「では俺のターンだな。ドロー」

バラムはドローカードを確認し、すぐに動き始める。

「手札よりフィールド魔法、《暗黒界(あんこくかい)(もん)》を発動する」

周囲が更に深い闇に包まれると同時に、バラムの背後に巨大な門が現れた。

暗黒界(あんこくかい)(もん)
フィールド魔法カード
フィールド上に表側表示で存在する悪魔族モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする。
1ターンに1度、自分の墓地に存在する悪魔族モンスター1体をゲームから除外する事で、手札から悪魔族モンスター1体を選択して捨てる。
その後、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「更に、手札から《暗黒界(あんこくかい)取引(とりひき)》を発動。お互いにカードを1枚ドローした後、手札を1枚捨てる」

遊雅はカードの効果に従ってデッキから1枚ドローした後に、手札を1枚捨てる。
バラムも同じように、カードをドローして手札を1枚捨てた。

「手札から捨てられた《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》の効果を発動。相手フィールド上のカードを1枚破壊する。そのリバースカードを破壊だ」

バラムのデュエル・ディスクから放たれた禍々しい力の奔流が、遊雅のリバースカードを貫いて破壊する。

「くそっ!」
「そして俺は、《暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》を召喚する」

バラムのフィールド上に、異様に腕が長い不気味なモンスターが、狂ったように笑いながら現れる。

暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》
☆☆☆☆ 闇属性
ATK/1800 DEF/400
【悪魔族・効果】
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、自分の手札を1枚選択して捨てる事ができる。

「《暗黒界(あんこくかい)(もん)》の効果で、攻撃力と守備力は300ポイントアップする」

暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》
ATK/1800→2100 DEF/400→700

「バトルだ。ブロンで《ハンター・アウル》を攻撃」

暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》が、狂ったように甲高く笑いながら《ハンター・アウル》に肉薄する。
その長い腕で《ハンター・アウル》は地面に叩きつけられ、消滅してしまった。

「くっ……」

南雲 遊雅
LP/4000→3400

「ブロンの効果を発動。相手に戦闘ダメージを与えた時、自分は手札を1枚捨てる事ができる。俺は手札から《暗黒界(あんこくかい)術師(じゅつし) スノウ》を捨て、効果を発動する」

暗黒界(あんこくかい)術師(じゅつし) スノウ》
☆☆☆☆ 闇属性
ATK/1700 DEF/0
【悪魔族・効果】
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、自分のデッキから『暗黒界』と名のついたカード1枚を手札に加える。
相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の墓地に存在するモンスター1体を選択し、自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する事ができる。

「効果により、デッキから《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》を手札に加える」
「2枚目のグラファが手札に……!」
「メインフェイズ2、俺は《暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》を手札に戻し、墓地から《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》を特殊召喚する」

暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》が地面の中に引きずり込まれる。
直後にそこから禍々しい力を溢れさせながら現れたのは、強靭な外骨格と漆黒の翼を持つ、おぞましい姿の巨竜だった。

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》
ATK/2700→3000 DEF/1800→2100

「更に、ここで《暗黒界(あんこくかい)(もん)》の効果を発動する。墓地の悪魔族モンスター1体を除外する事で、手札を1枚捨て、新たにデッキからカードを1枚ドロー出来る」
「手札を捨てる……という事は……!」
「その通りだ。俺は墓地のスノウを除外し、手札からグラファを捨て、カードを1枚ドローする。そして捨てられたグラファの効果発動。もう1枚のリバースカードを破壊する」

バラムのデュエル・ディスクから放たれた黒い力の奔流が、もう1枚の遊雅のリバースカードを貫いて破壊する。

「俺はこれでターンエンドだ」
「くっ、俺のターン、ドロー!」

遊雅は手札を確認しながら、唯一取れる行動を取った。

「俺は《デコイ・バードマン》を攻撃表示で召喚!」

遊雅のフィールド上に、角笛を持った幼い鳥人のモンスターが現れる。

《デコイ・バードマン》
☆☆ 風属性
ATK/600 DEF/1000
【鳥獣族・効果】
①:このカードが攻撃対象に選択された時に発動できる。
その戦闘によってこのカードのコントローラーが受ける戦闘ダメージは0になる。
②:表側表示で存在するこのカードが戦闘によって破壊され墓地に送られた時に発動できる。
デッキから攻撃力1000以下の鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
《デコイ・バードマン》の①の効果は、デュエル中1度しか発動できない。

「ふんっ、その程度の雑魚を攻撃表示だと?笑わせてくれるな」
「どんなに力が弱いモンスターでも、みんな俺の仲間だ!侮辱は許さねぇぞ!」
「これは失礼した。では見せてくれたまえ、その雑魚(・・)がどのように活躍するかをな」
「くっ、言わせておけば……!手札から魔法(マジック)カード、《烏合(うごう)行進(こうしん)》発動!」

様々な種族の獣が集っているが、全く統率が取れた動きができていない、そんな様子が描かれたカードが現れる。

烏合(うごう)行進(こうしん)
魔法カード
自分フィールド上に獣族・獣戦士族・鳥獣族のいずれかのモンスターが存在する場合、その種族1種類につき1枚デッキからカードをドローする。
このカードを発動するターン、自分は他の魔法・罠カードの効果を発動できない。

「自分フィールド上に獣族、獣戦士族、鳥獣族のどれかが存在する時、1種類につき1枚、カードをドローできる!俺のフィールドには鳥獣族モンスターが1体のみ。よって、デッキからカードを1枚ドローする!……リバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」
「では俺のターン。ドロー、再び《暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》を召喚」

先程の不気味なモンスターが、再び高笑いしながらフィールドに姿を現した。

暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》
ATK/1800→2100 DEF/400→700

「バトルフェイズ。《暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》で、《デコイ・バードマン》を攻撃」

狂ったように笑い続けながら、ブロンは《デコイ・バードマン》に突進する。

「《デコイ・バードマン》の効果発動!この戦闘によって発生する俺へのダメージを0にする!」

あっという間に相手の接近を許してしまった《デコイ・バードマン》。
しかし、その長い腕に叩きつけられる直前に、《デコイ・バードマン》は精一杯手に持った角笛を吹いた。
そしてその直後に、《デコイ・バードマン》は地面に叩きつけられて消滅してしまう。

「《デコイ・バードマン》のもう1つの効果発動!表側表示のこいつが戦闘破壊された時、デッキから攻撃力1000以下の鳥獣族を特殊召喚できる!来い、《シールド・ウィング》!!」

先程まで《デコイ・バードマン》がいた場所に、身を守るような格好の《シールド・ウィング》が現れる。

「ふっ、いくら雑魚を並べようが……《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》で、《シールド・ウィング》を攻撃」

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》が、その巨大な口から禍々しい力を溢れさせながら、激しい息吹を吐き出す。

「残念だが、《シールド・ウィング》は1ターンに2度まで、戦闘では破壊されない!」

翼を広げた《シールド・ウィング》は飛翔し、グラファが吐き出した息吹を回避する。
そして、再びもといた場所に着地して、防御姿勢に戻る。

「ちっ、小癪な……ならば《暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》を手札に戻し、2枚目のグラファを特殊召喚する。これでターンエンドだ」

暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》が姿を消し、2体目の禍々しき巨竜が現れる。

暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》
ATK/2700→3000 DEF/1800→2100

「くっ……グラファが、2体……でも、まだっ……俺のターン、ドロー!」

遊雅の手札は、ドローカードを含めて2枚のみ。
しかしそのドローカードは、遊雅に更なる可能性をもたらしてくれるカードだった。

(これは……さっき燈輝がくれた……)

遊雅はそのカードをデュエル・ディスクにセットし、発動を宣言する。

魔法(マジック)カード発動!《烈風(れっぷう)宝札(ほうさつ)》!」

風に巻かれて空に舞い上がる数枚のカードが描かれた魔法カードが実体化する。

烈風(れっぷう)宝札(ほうさつ)
魔法カード
自分の手札の枚数が相手よりも少ない時、自分フィールド上に存在する風属性モンスター1体をゲームから除外して発動できる。
自分と相手の手札が同じ枚数になるように、デッキからカードをドローする。

「自分の手札が相手より少ない時、風属性モンスターを除外して発動できる!そして俺は、相手の手札と自分の手札が同じ枚数になるように、デッキからカードをドローできる!」
「ほう、手札補充カードか」
「お前の手札は5枚!俺は《シールド・ウィング》を除外して、デッキから4枚カードをドローする!」

烈風(れっぷう)宝札(ほうさつ)》の効果に従って、遊雅はデッキからカードを4枚ドローする。
計5枚の手札には、起死回生のカードがそろっていた。

「よしっ、行ける!俺は(トラップ)カード、《イタクァの暴風(ぼうふう)》を発動!」

1羽の鳥が暴風を巻き起こしている様子が描かれたカードが現れる。

《イタクァの暴風(ぼうふう)
罠カード
①:相手フィールドの全ての表側表示モンスターの表示形式を変更する。

「相手フィールド上のモンスター全ての表示形式を変更する!よって、2体のグラファは守備表示となる!」

カードに描かれている鳥が現れ、激しく羽ばたき突風を巻き起こす。
その風に煽られて、2体の《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》は、姿勢を低くして防御の体勢を取り始めた。

「続いて、手札から《こけコッコ》を特殊召喚!」

遊雅のフィールド上に、可愛らしい鶏のようなモンスターが現れる。

「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にカードが存在しない時、《こけコッコ》はレベル4として手札から特殊召喚できる!更に、《トランスフォーム・スフィア》を通常召喚!」

《こけコッコ》の隣に、翠緑色のガラス球を抱えた鳥獣モンスターが姿を現す。

《トランスフォーム・スフィア》
☆☆☆ 風属性
ATK/100 DEF/100
《鳥獣族・効果》
1ターンに1度、相手フィールド上に表側守備表示で存在するモンスター1体を選択して発動する事ができる。
手札を1枚捨て、選択した相手モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備する。
このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力分アップする。
このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
エンドフェイズ時、このカードの効果で装備したモンスターを相手フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する。

「そして、《トランスフォーム・スフィア》の効果発動!手札を1枚捨てて、相手フィールド上の表側守備表示のモンスター1体を、装備カード扱いとしてこのカードに装備する!」
「なにっ……!?」
「手札を1枚捨て、グラファを《トランスフォーム・スフィア》に装備するぜ!」

《トランスフォーム・スフィア》が抱えるガラス球の中に、片方のグラファが吸い込まれてしまう。

「《トランスフォーム・スフィア》は、この効果で吸収したモンスターの攻撃力分、自分の攻撃力をアップする!」

《トランスフォーム・スフィア》
ATK/100→3100

「更に俺はフィールド魔法、《デザートストーム》発動!」

遊雅のフィールド上に、強い風が吹き始める。

《デザートストーム》
フィールド魔法カード
フィールド上に表側表示で存在する風属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ポイントダウンする。

「フィールド上の風属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ポイントダウンする!」

《こけコッコ》
ATK/1600→2100 DEF/2000→1600

《トランスフォーム・スフィア》
ATK/3100→3600 DEF/100→0

「バトルだ!《トランスフォーム・スフィア》で、《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》を攻撃!」

《トランスフォーム・スフィア》が持つガラス球から、グラファが放つ物と同じ力の奔流が放たれる。
それはバラムのフィールドに残ったもう1体のグラファの体を貫いて破壊した。

「くっ、俺のグラファが、こんな雑魚如きに……!」
「まだだぜ!《こけコッコ》で、お前へダイレクトアタックだ!」

《こけコッコ》がバラムへ突進する。
突進を受けたバラムは、《こけコッコ》の小さな体からは想像もできないほど勢いよく跳ね飛ばされてしまった。

「ぐおぉっ……!?」

バラムは突進を受けた箇所を強く抑え、まるで本当に強い打撃を受けたように呻き声を漏らす。

バラム
LP/4000→1900

「どうだっ!」
「ぐぅっ、小僧が……粋がるなよ……!」
「へっ、生憎だがまだ俺のターンは終わってないぜ!俺はレベル3の《トランスフォーム・スフィア》に、レベル4の《こけコッコ》をチューニング!」

《こけコッコ》が4つの光の輪に変化する。
《トランスフォーム・スフィア》はその4つの輪の中を飛び抜けると同時に、旋風に包まれた。

「勇敢なる戦士よ、大いなる風の意思を感じ、(おの)が力とせよ!」

遊雅は風の騎士を呼び出しながら、カードをディスクにセットする。

「シンクロ召喚!風と共にあれ!《風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》!!」

《トランスフォーム・スフィア》を包み込んでいた旋風が飛散する。
中から現れたのは、純白の鎧に身を包み、その体に風を纏わせる青年だった。

風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》
ATK/2600→ATK/3100 DEF/2000→1600

「《トランスフォーム・スフィア》がフィールドを離れた今、装備対象が不在となった《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》も破壊される!」
「くっ、貴様、それが目的で……!」
「お前なんかに負けるわけにはいかないからな!リバースカードを1枚セットして、ターンエンドだ!」
「……まさかこの俺が、貴様如きにここまで虚仮(こけ)にされるとはな。その愚かしさ、身を持って知るがいい!俺のターン、ドロー!」

先程までの物静かさとは打って変わって、激しい怒気を放ち始めるバラム。
対する遊雅は、余裕の表情でバラムの怒気を真正面から受け止める。
しかし、遊雅はまだ知らなかった。
バラムが《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》よりも、更に恐ろしい力を隠し持っている事を。 
 

 
後書き

※追記※
フィールド魔法の仕様をマスタールール2までと同じように扱ってしまっていた為、その点を修正しました。 

 

第15話 風神竜の導き

バラムのフィールドに《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》が2体並び、圧倒的に不利な戦況に追い込まれていた遊雅。
しかし、直前に燈輝から受け取っていた起死回生のカード、《烈風(れっぷう)宝札(ほうさつ)》がきっかけとなり、見事、2体のグラファを除去しつつ、バラムに大ダメージを与える事に成功する。
しかし、それを引き金にバラムは怒気を強め、攻勢に転じ始めるのだった。

「俺のターン、ドロー!」

バラムはドローカードを確認して、すぐさまそれを発動した。

「魔法カード、《暗黒界(あんこくかい)取引(とりひき)》発動!お互いのプレイヤーは1枚ドローし、手札を1枚捨てる!」

遊雅とバラムはお互いにカードをドローし、そして手札を1枚捨てる。

「俺は手札から《暗黒界(あんこくかい)武神(ぶしん) ゴルド》を捨てる!そしてゴルドは手札から捨てられた場合、墓地から特殊召喚できる!」

バラムのフィールド上に、前回のデュエルで遊雅にとどめを刺した、黄金の悪魔が現れる。

「更に、《暗黒界(あんこくかい)狂王(きょうおう) ブロン》を通常召喚し、2体の暗黒界を手札に戻す!墓地から《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》2体を特殊召喚だァ!!」

狂ったように声を張り上げながら、バラムは特殊召喚を宣言する。
先程召喚されたゴルドと、たった今現れたブロンは地中に引きずり込まれ、そこから2体のグラファが再び姿を現した。

「くっ、だが攻撃力は俺のデルフォイアの方が上だ!」
「ひゃはははははっ!!攻撃力ゥ!?そんな物飾りに過ぎんわァ!!俺は2体の《暗黒界(あんこくかい)龍神(りゅうしん) グラファ》でオーバーレイネットワークを構築ゥ!!」
「オーバーレイだって!?」

2体のグラファが、巨大な闇を凝縮したような球体となる。
その2つの球体は交じり合い、更に巨大な闇の球体となった瞬間に、それは弾け飛んだ。

「哀れな傀儡よ、生者を蝕む呪いと共に、今現出せよォ!」

おぞましい形相で、バラムは新たなモンスターを呼び出す

「エクシーズ召喚!!呪い殺せェ!《N(ナン)o(バーズ).15 ギミック・パペット-ジャイアント・キラー-》!!」

闇の中から現れたのは、巨大なクレーンで吊るされ、胸部に大きく穴が空いた恐ろしい操り人形だった。

N(ナン)o(バーズ).15 ギミック・パペット-ジャイアント・キラー-》
★★★★★★★★ 闇属性
ATK/1500 DEF/2500
【機械族・エクシーズ/効果】
レベル8モンスター×2
自分のメインフェイズ1でこのカードのオーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを破壊する。
破壊したモンスターがエクシーズモンスターだった場合、さらにそのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
この効果は1ターンに2度まで使用できる。

「これが……エクシーズモンスター……」
「驚くのはまだ早いぜェ~?俺はジャイアント・キラーの効果を発動する!オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、特殊召喚されたモンスター1体を破壊する!」
「なにっ……!?」

ジャイアント・キラーの周りを回っていた黒い球体の1つが、ジャイアント・キラーに吸収される。
直後に、ジャイアント・キラーは自身の指から伸びる糸を、《風纏(かぜまと)騎士(きし) デルフォイア》に巻きつけ、自分の元に引き寄せる。
デルフォイアはそのままジャイアント・キラーの胸部に空いた穴に放り込まれ、その中に備え付けられたローラーによって押し潰されてしまった。

「デルフォイアっ!?」
「ふんっ、これがエクシーズモンスターなら貴様にダメージを与えられたんだがな。だが、貴様には苦痛を味わってもらうぞ!魔法カード、《鬼神(きしん)連撃(れんげき)》を発動ォッ!!」

鬼神(きしん)連撃(れんげき)
魔法カード
自分フィールド上に表側表示で存在するエクシーズモンスター1体を選択し、そのオーバーレイ・ユニットを全て取り除いて発動する。
このターン、選択したモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

「自分のエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットを全て取り除く事で、このターン、そのモンスターの2度の攻撃を可能にする!そしてバトルだ!ジャイアント・キラーで、貴様へダイレクトアタック2連打ァッ!!」

ジャイアント・キラーの胸部の穴から、巨大な砲塔が現れる。
残った1つの黒い球体がジャイアント・キラーに吸い込まれると同時に、砲塔から強力なエネルギーが迸り始める。
そしてそれは、バラムの号令によって、2回連続で撃ち出された。
黒いエネルギー弾は遊雅の右肩と左の脇腹を貫く。
その瞬間、遊雅は自分の意識を手放しかけた。
想像を絶する痛みが彼を襲ったからだ。

「あああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

言葉にならない叫びを上げながら、遊雅は貫かれた箇所を両腕で押さえ、まるで自分の体を抱きしめるような格好で崩れ落ちる。

「ふっははははァッ!!痛いだろうッ!?このデュエルはなァ、ダイレクトアタックの痛みがプレイヤー自身に伝わるんだよォッ!ゾクゾクするだろォッ!?」

そんな遊雅の様子を見ながら、バラムは恍惚としたような、あるいは狂気に取り憑かれたような、醜悪な表情で喚き散らす。
遊雅は、立ち上がる事ができなかった。

◇◆◇◆◇◆◇

燈輝は火凛の居場所がわからず、ひたすらに森の中を駆け回っていた。
一度遊雅と合流しようと考えた彼は、デュエル・ディスクのディスプレイ上で遊雅のパーソナル・データを覗いた瞬間に、驚愕する事になる。
表示されていたのは『NOW DUEL』と言う文字列。

「遊雅……まさか奴とデュエルをしていると言うのか……!?」

その瞬間に、燈輝は再び走り出していた。
そこにきっと火凛がいると確信して、そして、生まれて初めて出会えた好敵手に加勢するために。

◇◆◇◆◇◆◇

南雲 遊雅
LP/3400→400

「はぁっ、はぁっ、くっ、そぉっ……!」
「哀れだなァ、南雲 遊雅ァッ!立てよ……まだ死闘(デュエル)は終わってないんだぜェッ!?リバースカードを1枚セットしてターンエンドだァッ!」
「くぅっ……俺の、ターンっ……!」

覚束ない足取りながらも、遊雅は何とか立ち上がる。
しかし、カードをドローしようとしても、右腕が思うように動かなかった。
先程の激痛によって、遊雅は肩から先に力を入れる事ができなくなってしまっていた。

(くそっ、動いてくれ……動いてくれよっ……!)

少しすると、徐々に腕を動かせるようになり始める。
しかし、デッキの上に右手を置いてから、再び動かせなくなってしまった。

(頼む……ここで、何か逆転のカードを引いてあいつを倒さないと……だから、早く、動いてくれ……!)

遊雅が強くそう念じると、突如、デッキの1番上のカードが、眩く輝き始める。
驚いてそれを凝視する遊雅の耳に、聞きなれたあの声が聞こえて来た。

「……フレスヴェルク……?」

それは遊雅の相棒、風神竜フレスヴェルクの咆哮だった。
そしてその1番のパートナーの声は、遊雅に大きな勇気を与えてくれた。

「……相棒、俺を導いてくれっ!ドローっ!!」

勢いよくドローしたそのカードは、デッキに入れた憶えはないどころか、遊雅がその存在自体を全く知らないカードだった。

「このカードは……よしっ、こいつならっ……!俺は、《風神(ふうじん)巫女(みこ) ネーシュ》を召喚!」

遊雅のフィールド上に、翠緑色の長い髪をなびかせながら、髪と同じ色が所々に混じった巫女装束に身を包んだ少女が現れる。

風神(ふうじん)巫女(みこ) ネーシュ》
☆☆☆ 風属性
ATK/1000 DEF/1500
【魔法使い族・効果】
①:このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから風属性モンスター1体を選択して発動できる。
選択したカードを墓地に送る。
②:①の効果を発動した次の自分のスタンバイフェイズ時、自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードをリリースする事で、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●デッキからレベル4以下の風属性モンスター1体を選択して手札に加える。
●自分のデッキから風属性モンスター1体を選択して墓地に送る。
●自分の墓地に存在する《風神の巫女 ネーシュ》以外の攻撃力2000以下の風属性モンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚する。

風神(ふうじん)巫女(みこ) ネーシュ》
ATK/1000→1500 DEF/1500→1100

「ネーシュの効果発動!召喚、反転召喚、特殊召喚に成功した時、デッキから風属性モンスター1体を墓地に送る!その効果で、俺は《フレスヴェルク・ドラゴン》を墓地に送るぜ!」
「ほう……自ら風神竜を葬るとはな」
「見せてやるぜ。これが、フレスヴェルクが俺に示してくれた可能性だ!リバースカードオープン!《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》!風属性モンスター1体をリリースし、墓地から《フレスヴェルク・ドラゴン》を特殊召喚する!」

遊雅がカードの発動を宣言すると、《風神(ふうじん)巫女(みこ) ネーシュ》が目を閉じ、両手を左右に広げた格好で、宙に浮く。
そしてその背後に、透き通った《フレスヴェルク・ドラゴン》の姿が現れた。
間もなく、風神竜の幻影の中に、風神の巫女は取り込まれる。
一瞬の輝きによって遊雅とバラムの目が眩んだ隙に、蒼い鱗を輝かせながら、雄々しき風神竜はその姿を現していた。

「《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》で特殊召喚された《フレスヴェルク・ドラゴン》は、攻撃力が500アップする!バトルだ!ゴッドバード・スラスト!!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》
ATK/2500→3000→3500 DEF/1800→1400

《フレスヴェルク・ドラゴン》が、ジャイアント・キラーに向かって突進する。
それと同時に、バラムはカードの発動を宣言した。

(トラップ)カード発動!《ガード・ブロック》!このターンの戦闘ダメージを1度だけ無効にし、カードを1枚ドローする!」

《ガード・ブロック》
罠カード
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「ジャイアント・キラーは破壊されるが、この戦闘によるダメージは0だ!」

《フレスヴェルク・ドラゴン》が、ジャイアント・キラーの胸部の穴を、その鋭い嘴で突き破る。
それによって、ジャイアント・キラーは消滅してしまった。

「ひゃっははははァッ!残念だったなァッ!俺は無傷だぜェッ!?」
(くっくっくっ、ドローしたのは《手札抹殺(てふだまっさつ)》……次のターンに召喚したブロンと、捨てられたゴルドを手札に戻して2体のグラファを特殊召喚すれば、俺の勝ちだッ!)

バラムは心の中で、そのように算段をつけていた。
しかし、遊雅は余裕の表情でこう言い放つ。

「……へっ、そいつはどうかな!」
「何だとっ……!?」
「《風神竜(ふうじんりゅう)復活(ふっかつ)》には、もう1つ追加効果が存在する。特殊召喚された《フレスヴェルク・ドラゴン》はこのターン、2回攻撃する事ができるって効果がな!」
「2回攻撃……だとっ……!?」
「《ガード・ブロック》がダメージを無効にしてくれるのは今の戦闘のみ!もうお前の身を守る物は何もないぜ!バトル続行だ!フレスヴェルクでダイレクトアタック!追撃のゴッドバード・ストライク!!」

バラムの上空に控えていた《フレスヴェルク・ドラゴン》が、急降下しながらバラムへ突進する。
その巨体が、バラムの体を勢いよく跳ね飛ばした。

「ぬあああぁぁぁぁっ!!!!」

バラム
LP/1900→0

バラムの断末魔と同時に、フィールドは消滅する。
《フレスヴェルク・ドラゴン》も遊雅の頭上に舞い戻り、1度咆哮してから、遊雅のデュエル・ディスクへ戻って行った。

「……俺の勝ちだ。さぁ、そいつを渡してもらおうか」
「くっ、貴様……これで終わったと思わない事だなっ……!」

バラムは憎しみのあまりに、掌に爪が食い込むほど手を強く握り締める。
そして、唇を噛み締めながら遊雅を睨み付けた。

「遊雅、無事かっ!?」

丁度そこへ、血相を変えた燈輝が駆け込んで来る。
バラムは旗色が悪いと悟ったのか、ローブを翻しながら、森の中へ走り去って行った。

「逃がすかっ……遊雅、彼女を頼むっ!」
「分かった。そっちを頼むぞ、燈輝!」

お互いにそれぞれの案件を任せながら、2人は自分の役割を全うするために行動を再開する。
燈輝は逃げたバラムを追って森の中へ、遊雅はひとまず、火凛の様子を確認する。
どうやら、見える範囲には外傷はないようだった。
次に遊雅は、試しに火凛の体を揺すりながら声をかけてみる。

「おい、大丈夫か。しっかりしろ!」

しばらくそうしていると、閉じていた火凛の瞼が微かに揺れ動き始める。

「ん、んんっ……?」

そして、彼女はゆっくりと瞼を開ける。
そこに広がっていたのは、真っ暗な森の中の景色。
何より印象的だったのが、自分の目の前で安堵の表情を浮かべている、見知らぬ少年の姿だった。

「よかった、大丈夫そうだな」
「え、えっと……?」

何が起こっているのか分からない火凛は、ひとまず、現状を分析する。
辺りに誰もいるはずのない森の中で、恐らく眠っていたか気を失っていたかしていた自分の肩を掴む、見知らぬ男性。
それらの状況から、火凛は自分が置かれている状況を確信した。
もっとも、それは曲解極まりない結論であったが。

「な、何のつもりっ!?」
「えっ、何のって――おわぁっ!?」

遊雅が疑問を口にする間もなく、彼は火凛に強く突き飛ばされた。
この瞬間から、遊雅の方も何が起きているのか理解できなくなっていた。

「わ、私に何をしようとしていたの!?」
「うぇっ!?ち、違う!俺はお前を助けようと――」
「助ける?私はさっきまで宿にいたんだよ!何でこんな所に……あっ」

一通りまくし立ててから、火凛は何かに気付いて急に口を閉ざした。

「そう言えば私……知らない人に、何かされて……」
「……詳しい事は知らないが、燈輝から俺に連絡が来たんだ。ACSの生徒が1人、怪しい奴にさらわれたってな」
「咲峰君が……えっ?っていう事は、君は咲峰君の知り合いなの?」
「ああ。南雲 遊雅って言うんだ」
「南雲 遊雅……って、それって咲峰君が昼間話してた……!」

再び何か重大な事に気付いた様子の火凛をよそに、遊雅は説明を再開する。

「話を戻すぞ。燈輝から連絡が来た俺は、燈輝と一緒にお前を探していたんだ。そして、ついさっきお前をさらった奴を撃退して、俺は気を失ってたお前の様子を見てた、ってわけだ」
「そうだったんだ……咲峰君は?」
「逃げた犯人を追って行った。無事だといいんだが……」
「そうだね……ねぇ、君が助けてくれたんだよね?」
「えっ?あー、まぁ、そう言う事になんのかな?」

遊雅は歯切れ悪くそう言う。
当の本人は、途中から『誘拐犯を撃退する戦い』から『《フレスヴェルク・ドラゴン》の因縁を巡る戦い』にシフトチェンジしてしまっていたため、人を助けたと言う実感がなかったのだ。
そんな様子の遊雅に、火凛は精一杯の笑顔で謝辞を述べた。

「ほんとにありがとう。君が助けてくれなかったら、どうなってたか分からなかったよ」
「ど、どういたしまして。けど、礼なら燈輝に言ってやれよ。お前がさらわれたのに逸早く気づいたのもあいつなんだし」
「うん。あとでちゃんと言っとくよ。あっ、私は霧島 火凛って言うんだ。よろしくね」
「おう、よろしくな」

火凛は自己紹介に次いで、遊雅にこのような言葉を投げかけた。

「咲峰君から君の話聞いて、私、君にすごく会いたかったんだ。だから、嬉しいなっ」
「そ、そうか……ところで、燈輝は俺の事何て言ってたんだ?」

興味本位で遊雅はそのように質問する。
しかし、火凛から返って来た答えは、遊雅の頭を少しばかり混乱させるような内容だった。

「んーっとね……お互いのモンスター達がすごく楽しそうにデュエルしてたって。そんな人と今までデュエルした事なかったから、きっと何かの才能があるんだって」
「……モンスターが楽しそう?」
「そうだよ。あっ、そうだ、出来れば秘密にしておいて欲しいんだけどね……私、精霊が見えるの」
「精霊って?」
「デュエル・モンスターズのカードに宿った魂の事だよ。君のデッキって、風属性デッキ?それとも、鳥獣族デッキ?」
「えっ?えーっと……一応、風属性で統一してるが、何で分かったんだ?」
「君の隣に丸っこくて可愛い鶏さんと、黒い翼が生えた……鳥人、かな?そんな感じのモンスターの精霊が見えるから」
「丸っこい鶏と、黒い翼が生えた鳥人……って」

遊雅はデッキケースから、思い当たる2枚のカードを取り出す。
取り出した《こけコッコ》と《バード・マスター》の姿は、いずれも火凛の言う特徴と合致していた。

「……ほ、ほんとに見えるのか?」
「うん!咲峰君は私と違って、精霊の姿までは見えないけど、気配くらいなら感じ取れるみたいなんだ。だから、君とデュエルした時に、モンスター達が楽しそうにしてた、って感じたんだと思う」
「そ、そうなのか」
「そう言う事!あっ、あとそのデッキから何か凄い力が出てるね。そんなに強いカードを持ってるの?」
「えっと……まぁ、そうだな。俺の切り札と言うか、相棒というか」
「そうなんだ!ますます君に興味が出て来たよ!ねぇ、今から私とデュエルしない!?」
「えっ、い、今から!?」
「そう!ねぇ、いいでしょ!」

目を輝かせながら懇願する火凛と対照的に、遊雅はもう宿に戻って早々に休みたい気分だった。
なので遊雅は、もっともらしい理由を掲示して、デュエルを回避する事にする。

「えーっと、あれだ。そろそろ燈輝が戻って来るかもしれないし、やめておかないか?」
「えぇ~……まぁ、それもそっか。それじゃあさ、君の連絡先教えてくれない?」
「俺の?何でだ?」
「だって、デュエルしたい時に連絡先知らなかったんじゃ、不便じゃない?」
「あ、あぁ、そう言う事か。構わないぜ」

そして、2人はお互いのデュエル・ディスクのパーソナル・データを交換し合う。
心底嬉しそうに、火凛は遊雅に再び謝辞を述べた。

「ありがとう!それじゃあ、また連絡するね!」
「おう。いつでも受けて立つぜ」
「うん!……それで、えーっと……これからどうすればいいかな?」
「そうだな……このままここで待ってれば、多分燈輝が戻って……おっ、丁度よかった」

会話の途中に、燈輝が2人の元へ戻って来た。

「燈輝、どうだった?」
「駄目だった。追い詰めたと思ったんだが、その途端にどう言うわけか意識を保つのが難しくなってな。何とか持ち直した頃には、既に奴はどこにもいなかった。すまない」
「そうか……いや、お前が気にする事じゃない。火凛にも聞いたが、何かあいつ、妙な力が使えるみたいだからな」
「そのようだな、用心するとしよう。それはともかく霧島、目が覚めたんだな。安心したよ」
「うん。咲峰君が気付いてくれて助かったよ。遊雅君に連絡もしてくれたお陰で」

火凛の言葉を聞いて、燈輝はちょっとした悪戯心を芽生えさせた。

「ほう、もうお互いに名前で呼び合うような関係になったのか」
「ちょっ!そ、そんなんじゃないよ!?」
「ん?どう言う意味だ?」

遊雅は燈輝の言っている意味が理解できない様子だった。
一方で火凛は色恋沙汰に敏感な華の十代女子。燈輝の言葉をそのような意味で受け取り、顔を真っ赤にして猛反論し始める。
そんな彼女の様子を、燈輝は微笑しながら楽しんだ。

「冗談のつもりだったんだがな。そんなに反発すると言う事は、満更でもないと受け取ってもいいのか?」
「も、もうっ、咲峰君の馬鹿っ!!」
「お、おーい、俺にも説明してくれないかー……?」
「遊雅君は知らなくていいの!もうっ、早く宿に戻ろう!」

燈輝にからかわれたと気付いた火凛は、不満そうに1人で宿へ戻って行った。
取り残された遊雅と燈輝も、その後を追いかける。
特に遊雅は、火凛がどうして急に怒り始めたのかを理解できていなかった。

「何であいつ怒ったんだ?」
「遊雅……お前はもう少し勉強が必要みたいだな」
「何だよ!あいつが怒ったのと俺が勉強できないのに何の関係があるんだよ!?」
「そう言う意味じゃないさ。はははっ、本当に面白い奴だな、お前は」

笑う燈輝と不満を露わにする遊雅。
あのような事件が起きた直後だと言うにも関わらず、そんな楽しげな雰囲気のまま、2人はそれぞれの宿へ戻って行った。 
 

 
後書き
※追記※
一部、台詞のミスを修正しました。 

 

第16話 決意する2人

 
前書き
長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。
第3章、完結編となります。お楽しみください。 

 
遊雅がバラムを退けて火凛を救出した、その翌日。
遊雅のルームメイトである秋弥ともう1人の男子生徒は、とある理由で困り果てていた。

「どうしよう……遊雅、全く起きる気配がないよ……」
「集合時間まであと10分しかねーぞ……叩き起こすしかねーな、こりゃ」

そう、遊雅が熟睡しており、いくら声をかけても起きようとしなかったからだ。
夜更かしをした上に、常軌を逸したデュエルで疲弊した体で睡眠をとったとなれば、それも必然だろう。

「おい南雲!さっさと起きろよ!」

男子生徒は遊雅の上半身を起こし、それを前後左右に激しく揺さぶる。
そうしている内に、とうとう遊雅は目を覚まし、その重い瞼をゆっくりと持ち上げた。

「んぁ……んだよ、もう少し寝かせろよな……」
「駄目だよ遊雅!集合までもう時間がないよ!このままじゃ怒られちゃうよ!」
「早く起きろって!俺らまで巻き添えはごめんだぜ!」

2人は必死に呼びかけるが、遊雅は半覚醒状態を維持したままで、再び眠りにつこうとする。
と、そこで、集合時間間際になっても現れない3人の様子を見に、亜璃沙が部屋を訪れた。

「みんなどうしたの?そろそろ集合よ」
「あっ、亜璃沙!遊雅が起きないんだ……どうすればいいかな?」

秋弥の問いかけに、亜璃沙は一瞬、心底呆れたような表情を見せた。
ため息をつきながら、亜璃沙は遊雅の元に歩み寄り、このように声をかける。

「遊雅ー、起きないならあなたのデッキもらって行っちゃうわよー?」

一瞬、秋弥ともう1人の男子生徒は亜璃沙の意図が読めなかった。
しかし、2人はその言葉を投げかけられた相手がどんな人間であるかもまた、失念していた。

「うわぁぁっ!!」

効果覿面(こうかてきめん)。遊雅は一瞬の内に飛び起きて、自分のデッキケースに手をやり、デッキが残っている事を確認してほっと一息ついた。
そんな様子を見て、2人はなるほど、と納得する事になる。

「流石は幼馴染……」
「ほら遊雅、集合までもう時間がないの!早く!」
「なんだって!?くっそぉ、お前ら何でもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」
「しばくぞお前!?」

部屋の隅に放り投げられていた上着を拾い上げてから、遊雅は他の3人と共に部屋を出て、集合場所である、宿の食堂へ急いだ。
集合時間は7時。遊雅達が食堂に着いた時の時刻は、6時59分。7時まで30秒を切っていた。

「ふぅ……ギリギリセーフ……」
「アウトだ。5分前行動を心がけろと言ったはずだな」
「げぇっ、先生!?」

担任教師にそのように咎められ、遊雅達は平謝りする他なかった。

◇◆◇◆◇◆◇

朝食をとり終えた翔竜高校の生徒達は、森林公園の登山口で点呼を行っていた。
周囲を山で囲われたこの場所は、キャンプだけでなく、登山も楽しむ事ができるのだ。
間もなく、一同は施設の職員、並びに教員の引率に従って、登山を開始する。
別に、規則的に1列に並んで山道を行くわけではない。生徒達は集団から著しく離れない範囲内で、比較的自由な隊形でいて構わない。
故に、縦列でも横列でもない不規則な隊形で後ろを歩く生徒達を、引率者達は咎めようとしなかった。
そして遊雅達第2班の面々もその例に漏れず、各々が自由気ままに、昨日散策した森とはまた違った姿を見せる森の様子を観察しながら歩いていた。

「山登りって結構足に来るんだねぇ……ちょっと辛いかも」
「下りはこれより楽になるかなぁ?」
「いや、下りって上りより辛いらしいぜ?俺も経験した事ないけどな」
「えぇ~、南雲君、それほんと?やだなぁ……」

男性陣は年相応の好奇心を満たすような事を、注意を受けない範囲で行っていた。
一方で女性陣は、自身の体にかかる負担を鑑みて、登山と言う行為にいかばかりか不満を抱いている様子だ。
今回の登山は、山の中腹にあるコテージで2時間の自由時間を過ごした後に、再び山頂に向けて出発すると言うスケジュールで行われている。

「まだ10分かぁ……ちょっと長いなぁ……」

1人の女子生徒が、再び不満を口にする。
生徒達は事前に『コテージまでは30分近くかかる』と聞かされている。
女子生徒の言葉通り、登山開始から経過した時間は10分。まだ3分の1を消化したに過ぎなかった。

「疲れた疲れたって考えてると、余計に疲れるぞ?誰かと会話したり、周りの様子を観察したりしてたら、残りの道のりなんてきっとすぐだぜ」
「遊雅にしては珍しく共感できる意見ね」
「珍しく、は余計だけどな」
「はいはい。あっ、ほら見て、リスがいるわ!」
「わぁ、ほんとだ!可愛い~!」

亜璃沙の協力によって女子生徒が復活した事を確認して、遊雅は再び秋弥や他の男子生徒との会話に戻り、残りの道筋を消化して行くのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

山の中腹に建てられたコテージは、昨晩宿泊した施設ほどではないものの、中々の大きさだった。
流石に2クラスの生徒全員が室内で休憩するには手狭だったが、外にもベンチや東屋が設置されていたので、60人程度ならば窮屈に感じる事無く休憩出来た。
先程、同じ班の女子にはああ言ったものの、初めて経験する登山は遊雅にもそれなりの負担をかけていた。
とはいえ、消化した道のりはまだ半分程度。後半に備えて、遊雅は東屋の中にも備え付けられたベンチで体を休めている。
テーブルの上に手を置いて大きく息を吐いてから、遊雅は何となく、左手首に装着したデュエル・ディスクに注視した。
そして思い出す、昨日の出来事。

『これで終わったと思わない事だな……!』

それは、襲撃者バラムが去り際に残して行った言葉。
一体、彼は《フレスヴェルク・ドラゴン》を何のために欲しているのか。
分からない事はそれだけではなかった。
アルカディアシティで初めてバラムと接触した際、周囲に遊雅以外の人の姿がなかったにも関わらず、彼は誰かと会話しているような独り言を漏らしていた。
あれが本当に独り言だったのだろうと考えるほど、遊雅も楽観的ではなかった。
となると、敵は複数存在すると言う事になる。
昨晩は何とか彼に勝利した物の、それも《フレスヴェルク・ドラゴン》の導きがなければ勝ち取れたかも定かでない結果だった。
そんな相手に更に協力者がいるとなれば、それはもはや遊雅の手に負える相手ではなくなってしまう。
どうすればいいんだ……遊雅がそう考えた所で、彼の思考に何者かが介入して来た。

「何が?」
「えっ?」

遊雅の思考を中断させたのは、いつの間にか彼の隣に腰掛けていた亜璃沙だった。
突然声を掛けられた事にも驚いたが、何より疑問だったのは、亜璃沙に掛けられた言葉の意味だ。
遊雅はその言葉を、ほとんど変わらない形でそっくりそのまま亜璃沙に返した。

「何がだ?」
「いや、今『どうすればいいんだ』って呟いてたから……」
「……俺、口に出してたか?」
「ええ、何か悩んでるみたいだから隣に来てみたら、いきなりそんな事言うから、つい気になって聞いちゃったわ」
「そ、そうか……いや、何でもない。気にしないでくれ」
「……ねぇ、何かあったの?」

亜璃沙の問いかけに、遊雅は正直に答えるべきか否か、しばし迷った。
時間にしておよそ30秒、お互いに無言の状態でたっぷり考え込んだ結果、遊雅は亜璃沙に自分の悩みの種を打ち明ける事にした。
彼女に何かを聞かれたら正直に答える、と言う約束を遵守した結果だ。

「実は……昨日の夜、またあいつに襲われたんだ」
「あいつって……《フレスヴェルク・ドラゴン》を狙ってるって言う?」
「ああ」

その言葉を聞いて、亜璃沙の顔に明らかな動揺の色が浮かんだ。
非常に近しい存在である幼馴染が2度も襲撃されたとあっては、無理もないだろう。

「みんなが寝た後、燈輝から連絡があったんだ。ACSの生徒が1人、何者かにさらわれた。だから、取り戻すのに協力して欲しいって」
「……それで?」
「その生徒をさらったのが、あいつだったんだ。デュエルで勝てばさらった生徒を返してもらうって約束で、俺はまたあいつとデュエルしたんだ」
「勝ったの?」
「何とか、な……それで逃げる時に、あいつは言ったんだ。『これで終わったと思うな』って」

亜璃沙は俯いて、視線の先にあった自分の両手を合わせて強く握り締めた。
そうして何とか不安を押し殺しながら、彼女は遊雅の話の続きを促した。

「最初に会った時、あいつは去り際に、誰かと会話してるような口ぶりで喋ってたんだ。その場には、俺とあいつ以外に誰もいなかったのに」
「……どう言う事?」
「分からない。俺は敵が複数いるんじゃないかと思ってる。昨日も普通じゃない能力を使ってたみたいだし、離れた仲間と交信する能力があるなら、その独り言にも説明がつくだろ?」
「そんな……1人だけでも強敵なのに……仲間までいるなんて……」
「でも、負けられない。フレスヴェルクをあいつらに渡すわけにはいかないんだ」

そんな遊雅の決意表明にも似た言葉に対する亜璃沙の返答は、彼に対する激励ではなく、むしろその逆の言葉だった。

「ねぇ、遊雅……そんなに《フレスヴェルク・ドラゴン》に拘る意味があるの?」
「……どう言う意味だ?」

口ではそう問いかけた物の、遊雅は亜璃沙が言わんとする事を既に理解していた。
何しろ、似たような事を母親から既に言われている。家族のように親しい亜璃沙ならば、母親と同じように自分の身を案じて、同じような提案をして来るだろうと分かっていたのだ。
それでもあえて分かっていない振りをしたのは、遊雅にとって一種の意地のような物だった。

「自分が危険な目に遭ってまで、あのカードを使わなきゃいけない理由があるの?確かに強いカードだけど、遊雅が買ったあのシンクロモンスターだって、十分に強いじゃない。それだけじゃ、駄目なの?」

その問いに、遊雅はすぐには答えられなかった。
何しろ遊雅自身にも、明確な理由があるわけではないのだ。
しかしそれでも、彼に引き下がる気は微塵もなかった。

「俺にも分からない……でも、フレスヴェルクは絶対に誰にも渡しちゃいけないって……そんな気がしてならないんだ」

それは明確な根拠に基づいた物言いではない。
あえて何かの言葉に当てはめるとすれば、それは『第六感』とか、『直感』とか、そう言う類の物だった。

「確かに俺も、どうすればいいかなんてわからないけど……でも、出来る限りは戦い続けたいんだ」

遊雅は《フレスヴェルク・ドラゴン》が自分にとって、ひいては自分以外の誰かにとっても大切な存在である事を確信していた。
父親から明かされた真実、そして、デュエルで()の竜を使役した際の遊雅に対する態度、昨夜のバラムとのデュエルでの出来事。
それらを自分の耳で聞き、自分の目で見て来た遊雅は、もはや《フレスヴェルク・ドラゴン》は自分と無関係だとは言えなかった。

「……何を言っても無駄、って言うような顔してるわね」
「悪い。いくら亜璃沙でも……いや、例え母さんや父さんだったとしても、これだけは譲れない。許してくれ」
「分かったわ。でも、もし私にも役に立てそうな事があったら教えて。あなただけにそんな危ない事はさせられないわ」
「本当はお前を巻き込んだりはしたくないんだけどな……ああ、約束するよ。駄目って言っても聞かなそうだしな」
「お互い様じゃない」

話に一段落がついた丁度その時、第2班の面々が同じ東屋を訪れた事で、遊雅と亜璃沙の密談はそこで途絶えた。

「みんな、どうしたんだ?」
「おう南雲、何か2クラス合同でデュエル大会やるみたいだぜ。参加しないか?」
「おっ、まじか!もちろん参加するぜ!」

これからまだ山を登るというのに、尚遊ぶ元気があるのかと、女子生徒達は半ば呆れていた。
そして亜璃沙は、先程まで見せていた陰鬱な雰囲気を払拭していつも通りの様子を見せ始める遊雅の後姿を眺めながら、自分はまだ不安の檻の中に囚われていた。
そんな彼女の様子に気付いた秋弥と女子生徒2人、つまり同じ班に属する3人が、亜璃沙を心配して話しかけて来る。

「亜璃沙ちゃん、どうしたの?何だか元気がないみたいだけど」
「……ううん、何でもない。登山なんて初めてだったし、ちょっと疲れちゃったかも」
「大丈夫?私達も一緒にいようか?」
「ありがとう、でも大丈夫よ」
「そっか……無理しないでね、私達、向こうに行ってるから」
「うん、ありがとう」

亜璃沙と一通り言葉を交わしてから、2人の女子生徒は再び去って行った。
続いて、残った秋弥が彼女に話し掛ける。

「亜璃沙、何か悩み事?」
「……ううん、そうじゃないわ。心配掛けてごめんね」
「気にしないで。それじゃ、僕も遊雅達と一緒にいるから……何かあったら、相談くらいなら乗るよ。だから、あんまり思い詰めないようにね」
「うん、分かってるわ。ありがとう」

その場を後にする秋弥を見送って、亜璃沙は再び物思いに耽るのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

デュエル大会は遊雅の優勝で幕を下ろした。
優勝賞品は大会主催者が用意した菓子と言う、生徒主催にしては妥当とも言える物で、遊雅はそれを第2班の面々と分け合って頬張りながら、引率者の後について山道を歩いている最中だ。
行儀がいいとは言えない行為だが、ごみさえ自分で処理すれば構わない、と言う施設職員のお墨付きを頂いている。
山頂までの道のりも、残す所あとわずかだ。

「亜璃沙、もういいのか?」
「ええ、これ以上食べたらちょっと、ね……」

遊雅のお裾分けを、亜璃沙は苦笑しながらそう断った。
そんな様子を見て遊雅は、休憩時間中に自分が与えてしまった不安を、彼女はある程度振り払ってくれていると見て、自分もいつも通りの自分に戻る事にする。
亜璃沙も全く同じ事を考えていた事を、遊雅は知らない。

(遊雅だって、あんなに明るく振舞ってる……私が落ち込んでちゃ駄目よね)

彼女は密かに、心の中でそう言う決着をつけていた。
休憩時間中に気を掛けてくれた女子生徒達はしきりに亜璃沙の様子を気にしていたが、そんな彼女達にも謝辞を述べて、亜璃沙はいつも通りの彼女に戻ったのだった。

「あっ、おい!それ俺が食おうとしてたんだぞ!」
「いいじゃねーか、俺だってこれ好きなんだよ!」
「優勝したのは俺だぞ!」
「菓子くらいで細かい事言うなよ!」
「2人とも、喧嘩するならこれは私がもらっておくわ」

1本のチョコバーを巡って火蓋が切られた小競り合いに介入したのは、亜璃沙だった。
男子生徒の手に握られるチョコバーを瞬く間に抜き取り、2人の目の前で封を切ってかじり付く。
そんな彼女の様子を、遊雅ともう1人の男子生徒は呆然と見つめていた。

「お前、さっきいらないって……」
「神原!お前横から……この泥棒猫!」
「誰が泥棒猫よ!」

第3勢力が加わって激しさを増した私闘を微笑ましく眺めながら、秋弥は自分の隣にいる女子生徒に話しかけた。

「亜璃沙、もう大丈夫そうだね」
「そうだね。さっきはすごく調子悪そうだったけど」

女子生徒の言葉は、的を射ているとは言いがたい発言だった。
亜璃沙は調子が悪かったわけではない。いや、違う側面から見ればある意味『調子が悪い』と表現できるのかもしれないが、彼女が崩していたのは『体調』ではなく、『心象』だったのだから。
それを秋弥は、何となくだが感じ取っていた。彼女は『何でもない』と言ったが、間違いなく何かに悩んでいたのだと。
でも今の彼女の様子は、先程の弱々しい姿とは打って変わって、いつもの気丈な彼女の姿その物だった。
自分の心配が杞憂で済んだ事に安堵しながら、秋弥は2人の女子生徒を伴ったまま再び山道を行く事に専念する。
余談だが、入学から1ヶ月しか経っていないにも関わらず、秋弥は一部の女子生徒から人気を博していた。
積極的に人に手を差し伸べる彼の優しさと、俗に言う『癒し系』とでも呼ばれるような可愛らしい顔立ちが、彼女達の乙女心を刺激したのだろう。
彼について歩くこの2人の女子生徒も、その例外ではなかった。

◇◆◇◆◇◆◇

「よーし、じゃあ今からまた自由時間だ。展望台なんかもあるから、自由に見学して来ていいぞー」

教師の号令を合図に、およそ60人の生徒達は思い思いの場所へ散り散りになって行く。
遊雅と亜璃沙は、男子生徒の粋な計らい(自称)によって、2人で望遠鏡の元に赴いていた。

「亜璃沙、先に覗いてみたらどうだ?」
「いいの?それじゃ、お言葉に甘えるわ」

そう言って、亜璃沙は先に望遠鏡を覗き込んだ。
それはもう絶景なのだろう。亜璃沙は感嘆の声を上げながら景色を楽しんでいる。
遊雅も肉眼で見る山々の景色を楽しんでいた。
だから、背後から聞こえた彼を呼ぶ高い声に、一瞬反応が遅れてしまった。

「あれっ、火凛?」
「やっほー!昨日ぶりだね!」
「お、おう、そうだな。そっちもこの山に登ってたのか」
「ああ。こちらとしても、まさか同じ山にいるとは思わなかったがな」

小走りに駆け寄って来た火凛と、その後ろから遅れてやって来た燈輝。
遊雅はひとまず、2人との半日ぶりの会話に意識を向けた。

「望遠鏡目当てか?」
「それもあるが……遊雅の姿を見つけたものだから、先に挨拶でもしておこうと思ってな」
「なるほどな」
「ところで、この()は?」

火凛が望遠鏡を覗く亜璃沙の方を見て問いかける。
恐らく自分の事を言われたのだと理解して、景色を楽しんでいた亜璃沙は、その目を望遠鏡から離して火凛達の方へ向き直った。

「神原 亜璃沙です。えーっと……遊雅のお友達、ですか?」
「あっ、ごめんなさい。霧島 火凛です。遊雅君とは友達……と言っても、昨日出会ったばかりなんだけど……」
「2人とも、一応同い年だぞ。もっとフレンドリーに話したらどうだ?」
「あっ、そうだね。よろしくね、えーっと……何て呼べばいいかしら?」
「火凛でいいよ。私も、亜璃沙って呼んでいいかな?」
「ええ、よろしくね、火凛。ところで、昨日出会った、って言うのは?」

火凛の制服の胸元にACS生の刺繍を見つけて、彼女が燈輝の同級生であると悟る。
そして遊雅が火凛と知り合うには、ACSの生徒と関わり合う可能性がある時間帯でなければならない。
該当する時間帯は亜璃沙は常に遊雅と共にいたし、彼女が出会ったACS生は燈輝と、一緒にいた2人の男子生徒だけだった。
だから彼女にとって、遊雅と火凛がいつ出会ったのかが疑問だった。

「あっ、そう言えば教えてなかったか。昨日の夜の事は話したよな?」
「ええ、ACSの生徒がさらわれたって……あっ、ひょっとして、火凛が?」
「そうだ。さらわれたのはこの霧島で、それを発見した俺が遊雅に協力を頼んだんだ」
「そうだったんだ……大丈夫だった?」
「うん。怪我とかしたわけじゃないし、遊雅君が助けてくれたしね」
「そうなんだ。よかった……」
「ねっ、よかったら亜璃沙も私と連絡先交換しようよ!」
「ええ、構わないわ」

そうして、亜璃沙は自分の携帯通信端末を取り出し、火凛はリュックサックからデュエル・ディスクを取り出した。
デュエリスト全員がデュエル・ディスクで通信を行っているわけではない。むしろ年頃の少女であれば、デュエル・ディスクとは別の携帯通信端末も所持しているのがほとんどだ。
同じ少女であっても、こう言う面では火凛の方が特殊だと言えるだろう。

「えへへっ、ありがとう!休みの日とか一緒に買い物とか行こうよ!」
「そうね、部活が休みの日なら大丈夫よ」
「亜璃沙もデュエル部なんだ。だから来週は、亜璃沙もお前達と戦う事になるな」
「ほう、それは楽しみだ。来週はよろしく頼むぞ、神原」
「ええ、よろしくね。……咲峰君、だったかしら?ごめんなさい、私、昨日名乗ってなかったわね」
「気にするな。昨日のは俺とあいつらが、遊雅に一方的に絡んで行っただけだ。どちらかと言えば、礼を失していたのは俺達の方だからな」

お互いに一通り挨拶を交わして、4人は雑談に興じ始める。
その合間に、亜璃沙以外の3人は目当ての望遠鏡を覗きこんで、その景色を楽しんだりもしていた。
そして間もなく、お互いの教師陣から集合の合図がかかる。

「おっと、そろそろ時間のようだな。では、来週の練習試合、楽しみにしているぞ」
「おう。次は負けねーぜ!」

2人の少年は挑戦状を叩き付け合い――

「もう少し話したかったね」
「そうね……」
「仕方ないね、それじゃ、また今度遊ぼうよ!」
「ええ、楽しみにしているわ」

2人の少女は名残惜しそうに、それぞれの陣営へ戻って行った。
その後、翔竜高校1年生は、壮大な山々の景色を背景に集合写真を撮影した。
山を降りて宿で昼食をとった後、総勢およそ60人の生徒達は、来た時と同じバスに乗り込む。
明らかに疲れが顔に出ている生徒もいたが、ほぼ全員、総じて満足そうな表情を浮かべながら、生徒達はバスに揺られていた。
帰路についてまで楽しそうな生徒達を乗せたまま、バスは翔竜高校へ向けて走り続ける。 

 

作者からのお詫び ※次話投稿次第削除

私の小説を読んで下さっていた皆様方、お久しぶりでございます。
ほぼ1年もの間更新が途絶えていたので、流石に往時の読者様にも見限られているとは思いましたが、まずは皆様の目に付く所で謝罪を、と思いまして、この文章を投稿させて頂きました。
言い訳になる事は承知しておりますが、どうか目を通して頂けると幸いです。

実は16話(現最新話)を投稿した後、パソコンが不慮の事故で使用できない状況になっていました。
続いて、作者のリアル環境がこれまでと比較にならないほど多忙な物となってしまったので、パソコン復旧後も筆を取るどころか、遊戯王に触れる機会もない日々が続いていたのです。
最近になってようやく、少しだけ肩の荷を下ろす事ができ、溜め込んでいたARC-ⅴをネットで一挙見したり、自分の小説のあらすじを再確認したりと言った事を出来るようになりました。
なので、誠に勝手ではございますが、この小説シリーズを再開したいと思った次第でございます。
ただ残念な事に、まだ手放しで好き放題できると言う状況ではなく、これからまだ色々とやる事がありますので、16話までのようなペースでの投稿は難しいと考えています。
それでも見て頂ける、と言う方は、どうか今後とも私の小説をご贔屓にして頂けますよう、よろしくお願いいたします。

それでは、これからも遊雅とフレスヴェルク・ドラゴンの活躍をお楽しみ下さい!