IS~夢を追い求める者~


 

第1話「プロローグ」

 
前書き
ただただ「こんな話を書きたい」という衝動から生まれた作品です。過度な期待はしないでください。
ありがちな設定というか、無茶苦茶な設定ばかりになってしまうかもしれません。
衝動書きですけど、これでも一つの小説として精一杯頑張るつもりなので、おかしい部分などがあったら指摘、もしくはアドバイスが頂けるとありがたいです。

 

 


       =???視点=



「おい!織斑千冬(おりむらちふゆ)が決勝に出ているぞ!?」

「嘘だろ!?弟を誘拐すれば棄権するはずだろ!?」

  誘拐犯達が大会の様子をモニターで確認しながらそう喚く。...尤も、外国語だから細かい部分は少し分からないけど。

「(....そっか。所詮、“出来損ない”だから、助けられなかったんだな...。)」

  助けられなかった事に対し、俺は随分と冷めた思考をしていた。



  ―――“出来損ない”

  それは、俺以外の家族の皆が才能に溢れてばかりだったから付けられたレッテルだ。姉は第一回モンド・グロッソ優勝者で世界最強。兄は何でもそつなくこなす万能の天才。妹は今の所家事よりだが、その才能は相当だと言われている。...対して、俺は何でも人一倍努力しなければ身につかない“非才”だった。だから周りからはいつも蔑まされていた。

最初の頃は、家族や姉の友人の姉妹、その家族は兄以外味方だった。...だけど、姉の友人――篠ノ之束(しのののたばね)さん――がISを開発した辺りに、いきなり環境が変化した。家族も、姉の友人の姉妹も掌を返したように俺を蔑むようになった。

それだけじゃなかった。それ以降、どんなに俺が良い行いをしても、その全てが兄のおかげになっていた。

...原因は感づいている。兄だ。どういう方法でそうなったかは分からないが、兄が俺を“ざまぁみろ”と言わんばかりに見ていたのを知ったからだ。

...それからは、俺の居場所はないに等しかった。だけど、それでも俺は努力して、挫けずに生きてきた。...でも、もうそれも疲れてきた...。

「...ちっ、出来損ないの方を連れてきたのが間違いだったか。」

「どうする?」

「...依頼人の命令は“織斑千冬を棄権させる事”だ。誘拐はその手段の一つでしかない。」

  目の前で男二人がそんな会話をしている。

「こいつの生死は特に言われてない...か。」

「おい、坊主。どうする?」

  男の一人が尋ねてくる。

「...もう、疲れた。...どうせ、口封じするんだろ?さっさと殺してくれ。」

「...お前....。」

  こんな誘拐をしておいて、無事で済むはずがない。...だけど、もう生きるのに疲れたんだ。

「...俺たちのような下っ端には分からないが、余程の事があったんだな。」

「“出来損ない”って言われてたんだ。ロクな人生じゃなかっただろう。...俺たちが言えた事じゃないが。」

「....だから、せめて楽に殺してやるよ。せめてもの情けだ。」

  銃口を突きつけられる。

「...なにか、言い残すことは?対して影響はないが、俺たちがしっかりと胸に刻んどいてやる。」

「....一つ、だけ。」

  大きく息を吸い、感情をきっちりと込めてはっきりと言う。

「誰か、この狂った世界をぶっ壊してくれ...!」

「....あぁ。その言葉、覚えておいてやる。」

  撃鉄が起こされ、引き金に指がかかる。...あぁ、俺はここで死ぬんだな...。







     ―――ガァン!!





「な、なんだ!?」

  銃声にしてはやけに鈍く、そして響く音。誘拐犯達も事態が分からなみたいだ。

     ―――ガァン!ガァン!ゴガシャァン!!

「―――ここ!?」

  扉がぶち破られ、中に誰かが入ってくる。

「だ、誰だ!?」

「...っ!?篠ノ之...束...!?」

  入ってきた人物は、トレードマークであろう機械的なウサ耳カチューシャや不思議の国のアリスのような服ではなかったものの、紫っぽい長い黒髪のその人は、かつて俺を励まし続けてくれた篠ノ之束そのものであった。

「...束...さん....?」

「君は...君が....。」

  束さんは俺を見て、何かを呟く。....あれ?束さんの目って、桜色(・・)だったっけ...?

「...残念ながら、俺は篠ノ之束じゃない。」

「なに!?」

「え......。」

  よくよく見れば、今着ている病人が着ているような白衣からは、束さんにあるはずの胸がなかったし、目つきも若干鋭かった。

「くっ....!」

  男の一人が再起動して、銃を向ける。

「遅い!」

「がぁっ!?」

  けど、束さん(偽)は一瞬で男の懐に入り込み、銃を弾き飛ばし、背負い投げを決めた。

「なっ!?」

「はい、動くなよ?」

  その事に驚いたもう一人に、弾いた銃をキャッチして向ける。

「とりあえず、気絶してもらう。」

「うっ....。」

  あっさりと無力化し、二人を気絶させる束さん(偽)。

「...あなたは....?」

「俺...?俺は...そうだな...束の幼馴染って所か?」

「束さんの!?」

  幼馴染がいるなんて聞いた事...あ、そうだ。一度だけ、聞いた事があったっけ...?

     ―――「....私にはね、ちーちゃん以外にもう一人、親友がいたの。」

  ...あの“親友”が、この人...?

神咲桜(かんざきさくら)って言うんだ。...こんな名前と容姿だが、男だからな?」

「は、はぁ...?...って、男!?」

  こんなに束さんにそっくりなのに!?

「それで...君は、織斑秋十(おりむらあきと)君で合ってるね?」

「は、はい。」

  手足が縛られて動けない俺に目線を合わせてしゃがむ神咲さん。

「...かつての家族と、居場所を取り戻したい?」

「....ぇ...?」

「取り戻したいのなら、この手を取ってくれ。」

  そう言って、俺を縛っている縄をほどいて手を差し伸べる神咲さん。

「(...取り戻...せる....?千冬姉の...マドカの...束さんの...箒の...皆の優しさが...?俺の...居場所が....?本当に...?)」

「この狂いに狂った世界も、ぶっ壊せるぞ?」

  その言葉は悪魔の囁きのようで、希望をくれる天使のようだった...。

「...取り戻したい...。」

「うん?」

「...取り戻したい...!皆を、かつての優しい皆を、取り戻したい!」

  そう力強く叫び、手を取った。

「...いい返事だ。さぁ、行こう。」

「行く...?って、どこへ?」

「そうだな...。まずは、寝惚けておかしくなってる兎を叩き起こしにでも行こうかな!」

  そう言って、俺を囚われていた所から連れ出して行く神咲さん。









「....さぁ、世界の修正の始まりだ。」







 
 

 
後書き
はい。と言う訳でやっちゃったぜ的な話の始まりです。
一応、千冬さんはドイツ軍の人たちに誘拐された事を教えてもらったので、その恩返しとして原作通りにドイツへ教導しに向かいます。尤も、この時点での千冬さんは秋十君に対して後悔とかは抱いていません。

感想、待ってます。

 

 

閑話1「プロローグ~Another~」

 
前書き
今回の話は桜視点です。
桜がどうやって秋十君の下へ辿り着いたかが分かります。
...ちょっと物語の核心に触れている部分がありますけど。

それでは、どうぞ。

 

 


       =桜視点=









   ―――.....ここは...どこだ....?

  意識が朦朧とする中、俺はただそう思った。





「―――....。―――。」

   ―――誰....だ...?

  そんな中、視界に誰かが映ったのが見えた。何か語りかけてくるが、良く聞こえない。

「―――ぇますか?....聞こえますか?聞こえるなら何か反応を示してください。」

  今度の言葉は聞こえた。

   ―――反応...?どうやって...。

  反応を返そうにもなぜか声は出ない。身動きもできない。

「...聞こえているみたいですね。」

  何も反応は返せてないと思ったのに、目の前の人物は聞こえていると分かったようだ。

「勝手な願いだと言うのは分かっています。ですけど、今頼めるのは貴方しかいないんです。」

   ―――頼み.....?

「はい。今、貴方のいる世界はとある存在...転生者によって歪んでいっています。このままでは、世界の道筋は捻じれ切れ、世界そのものが崩壊してしまいます。」

  また言葉も返せていないのに、心を読んだように自分と会話を成立させる目の前の人物。...聞こえてくる声色的に女性だろうか?

   ―――崩壊...だって...?

「はい。世界には元々、決められた道筋というモノがあります。所謂運命みたいなものでしょうか?その道筋は世界の行く様を定めており、多少逸れる事はあっても完全に外れる事はないのです。」

   ―――それが、捻じ切れる?

「そうです。転生者という、輪廻から外れ、無理矢理この世界に入り込んだ存在は、世界の道筋を完全に無視してしまっています。その影響で、世界に不具合が生じ、道筋が消えてしまうのです。」

  ...話が壮大すぎたけど、何となくわかった。...つまり、端的に言えば転生者の所為で世界が崩壊の危機を迎えているって事だな。

   ―――話は分かったけど、どうすればいいんだ?

「簡単な事です。幸い、転生者は一人しかいないので、それを抑えつつ道筋を元に戻せばいいだけです。」

   ―――...でも、なんで俺なんだ?

「それは、貴方の存在が道筋に大いに影響しているからです。」

   ―――俺が?

「はい。貴方の親友、篠ノ之束は世界の情勢を変えてしまうような発明品を造ります。」

   ―――...っ、束が....?

  束とは、幼稚園の頃からの親友だ。頭が良すぎたが故にどちらも孤立していて、孤立していた者同士仲良くなった。そしてもう一人、千冬ともその後仲良くなった。

「本来なら、貴方と織斑千冬の三人と共に夢見た宇宙へ飛び立つための発明だったものです。」

   ―――あれか....。

  賢すぎた俺たちでも、宇宙の果てなどは決して分からなかった。だから、自由に(そら)を飛びたいと夢見た事があった。おそらく、そのための発明だったのだろう。

「ですが、その発明は宇宙開拓の物としては見られず、兵器として見られるようになってしまいました。さらには、女性しか乗れないと言う不具合から、世界は女尊男卑になってしまいます。」

   ―――束は、そんなの望んじゃいないだろうに...。

「はい。ですから、近々目覚める貴方はその世界を知り、元の男女平等の世界に戻し、かつての夢を叶える。...そんな道筋でした。」

   ―――...それが、転生者によって狂わされた...と。

  大体は理解できた。確かに、俺がいないと影響が大きいな。

「その通りです。転生者を転生させた存在がいたのですが、その存在が厄介な能力を転生者に与えていたんです。」

   ―――能力?それに、その存在は...?

「能力については、簡単に言えば洗脳です。それと、その存在についてですけど、その存在はきっちりと相応の裁きが下されました。もう干渉する事はないでしょう。」

   ―――洗脳...だって?まさか、束達はそれで...。

「はい。転生者にとっての“原作”に沿うために、彼女達は洗脳されてしまいました。」

  その言葉を聞いた瞬間、何も身動きも取れないのに、怒りでいてもたってもいられなくなった。

「落ち着いてください。そのために一時的に貴方を呼び寄せたんです。」

   ―――呼び寄せた?

「はい。貴方は、ここに来る前の記憶を覚えていますか?」

  そう言われて思い出してみる。...そうだ。確か、俺は束を庇って車に....。

「...その様子だと思い出したようですね。車に轢かれた貴方を、篠ノ之束は回収して、自作の治療カプセルに入れて自力で回復させようとしていました。」

   ―――...束、そんなもの作ってたのか...。

  まだ小学一年生なのに凄まじいな。...俺が言える事じゃないが。

「本来なら、篠ノ之束は貴方の治療を続け、今頃には既に完治して目覚めているはずなんです。」

   ―――それは、洗脳された事によって変わってしまったのか?

「その通りです。洗脳された結果、“原作”には登場しない貴方の事を忘れてしまい、貴方は放置されてしまっています。」

   ―――治療しているのを放置されたら、死ぬんじゃ...。

「大丈夫です。元々10年程放置しても保つ装置でしたし、篠ノ之束の音を調べるために捜索していた研究者達が貴方を別の場所に連れ出し、治療を再開しています。」

  ....それはそれで心配なんだけど...。

「...これから貴方は目覚め、世界を元の道筋に戻すよう行動してもらいます。」

   ―――行動...って言ったって...。

「簡単な事です。洗脳を解除し、女尊男卑の世界を正せばいいだけです。」

  確かに言うだけなら簡単な事だ。...だけど。

   ―――女尊男卑はともかく、洗脳はどうやって...。

「あまり干渉できないから心許ないですが、貴方に強い“きっかけ”となる事を示せば、洗脳を解除できる能力を授けます。」

   ―――...随分、偏った能力だな。

「これ以上便利にすると転生者とは違う悪影響が出かねないので...。ちなみに、“きっかけ”となるものは洗脳される前の事であれば貴方が関係していない事でも構いません。」

  使い勝手が難しい能力だけど、洗脳を解除するにはこうするしかないのなら仕方ない。

「それと、念のため“原作”の知識を授けます。後、洗脳に関しては貴方が世界の修正の一歩を踏み出したら使えないように世界の修正力が働きますので、二度手間になる事はありません。」

   ―――...分かった。

「...では、世界の事を...私が大切にしている貴方の世界を、頼みます。」

  彼女がそう言うと共に、俺の視界は光に満たされ、意識が沈んでいった。





















   ―――...コポッ...





「(...っ、ここは....?)」

  目の前に水泡が浮かんでいくのを見ながら、意識を取り戻した俺はそう思った。

「(....これは...一体...。)」

  黄緑色の液体が視界を覆っている。...というより、何かしらの液体の中か。これは。

「....おぉ...!目を覚ましたぞ!」

「(...誰だ?)」

  目を開けた俺に気付いたのか、白衣を来た男が驚きの声を上げていた。

「昏睡状態からなかなか変化がなく、どうしたものかと思っていたが...。これはいい...。」

  そう言いつつ、俺の傍にある装置を弄る。

   ―――プシューッ!

「ぅ....ぁ....。」

「おっと。...無理もないか。約13年もカプセルの中だったようだからな。」

  液体がなくなり、カプセルが開く。俺は地力で立とうとするが、倒れそうになって男に受け止められる。

「ぁ...じゅ...さ..ね....?」

「声も出ないか。まぁ、いい。」

  確か、事故を起こしたのは小学生一年だったはず...。だとすると、今の俺は20歳ぐらい...?

「あの篠ノ之束の友人となれば、いくらでも利用価値はあるな。...まずは逆らえないように“コレ”でも付けておくか。」

  そう言って男は俺の首に何かを付ける。

「容姿も篠ノ之束にそっくりなのは驚いたが...まぁ、大した支障はない。」

「....な....に....を....?」

  途切れ途切れに声を出して聞いてみる。...嫌な予感しかしない...。

「なに、私達の目的に利用させてもらうだけさ。」

「(...やっぱり、研究者とかに連れられるって碌な事にならないんだな。)」

  マンガとかでありそうな展開に、俺は呆然とそんな事を考えていた。







     ~10ヶ月後~





「...ふむ、これで終わりだ。ご苦労。」

「....はぁ。」

  俺を監督している男にそう言われ、俺は溜め息をつく。

  この10ヶ月間、俺はまず体の機能を取り戻させられ、首についてるリング(爆弾だった)を脅迫材料に、強制的に従わされてきた。...と言っても、そこまで非人道的な事はされてないが。

「身体能力、頭脳共にとんでもない数値だな...。やはり天才は天才を呼ぶのか?」

「.....。」

  俺から取ったデータを見ながら、最初に出会った男がそう呟いていた。

「...そろそろいいだろう。そこに座れ。」

「...はい。」

  言われるがままに指定された椅子に座る。

「君の大体のデータをほぼ取れた。...そこで、君にやってもらう事がある。」

「...なんでしょうか。」

  大人しく従う様に返事を返す。下手に怒らせたりしたら、首のリングで死ぬからね。

「この“ISコア”を解析してもらおう。」

「コア....を?」

  “ISコア”。束が開発した宇宙開発のためのパワードスーツ“IS”の核とも言えるもの。世界に497個しかなく、一介の研究所が持っているとは思えないんだが...。

「これは一体...?」

「なに、君を発見した時に一緒に置かれていてね。おそらく、ISのプロトタイプのようなものだろう。」

「...そうですか。」

「では、解析を頼むね。」

  そう言って部屋を出て行く男。...俺は、この研究所では一応実験動物のような扱いだ。...ただ、ひどい事をされる訳でもなく、ただ言う事を実行させられるだけだ。...一人だけ、俺にコスプレをさせる変態がいたけど。...やっぱり変人が集まるんだな。研究者とか科学者は。

「....とりあえず、解析っと。」

  このISコアが男の言った通り、俺の傍に置かれていたのなら、元々これは俺と束で開発しようとしていた“本当”のISコアなのだろう。だったら、もしかすると...。

   ―――カタカタカタカタ....

「...やっぱりな。」

  簡単に解析が終わり、ISコアの所有者に俺が登録される。元々これは俺のために束が作ったものなのだろう。だから俺だと簡単に解析ができたし、俺が所有者に登録されたんだろう。

「...ほとんど完成しているな。」

  機体の形や、名前などは決まってないが、それはこれからどうにかしよう。

「...今の内に....。」

  ISコアに機体の形や名称を登録していく。研究者達はまだ俺が解析しきったとは思ってないだろう。作業を監視されてるだろうけど、解析してるように見せかけてるから大丈夫だ。...というか、案外ザル警備だ。

「...これで良し...と。」

  そう言ってエンターキーを押して、作業を完了する。

「(...これならその気になればいつでもこの研究所を脱出できるな。)」

  首の爆弾も、このコアをを使えば簡単に解除できるし、研究所のシステムも掌握できる。

「(...タイミングは、奴らが油断したその時だ。)」

  作業が止まったのを見て、解析が終わったと判断して研究者が部屋に入ってくる。

「どうかね?解析の方は。」

「...大体は解析できました。ただ、やはりプロトタイプだったようで、現在のISコアよりも劣ります。」

「...ふむ。どうやら、利用する事は難しそうだな。致し方ない。」

  嘘の報告を真に受ける男。...まぁ、俺が従順な態度を取ってるから嘘をついてるとは思っていないのだろう。演技だけど。

「ただ、所有者に自分が登録されていました。」

「ほう、やはり友人となれば、専用の機体が与えられるのか。...とりあえず、このコアは預かっておこう。」

  さすがにコアを持たせておくのは危険だと思ったのか、コアを預かろうと迫ってくる。ただ、今まで散々従順に従ってきたからその動きは油断していた。

  .....このタイミングか。

「....来い、想起(そうき)!」

  コアを起動させ、機体を展開する。機体の形は俺専用に設定されてないだけで、デフォルトの形があったので、今回はそれを使わせてもらう。...最適化もまだだしな。

「なっ、なに!?」

「ハッキング開始...掌握完了!」

  コアを通じてまずは爆弾の機能を停止させる。

「貴様...!..なっ!?爆弾が!?」

「今までただ単に従ってきたと思ったか?こうやってずっと反撃の機会を伺ってたのさ!」

  そう言ってる間にも研究所のシステムにアクセスし、機能を奪っていく。

「さすが束だぜ。まだ未完成なのに、ここまでの機能を備えてる。」

「貴様....!」

  完全に俺を制御下に置けなくなった男は俺をとんでもない形相で睨んでくる。

「なぜ、男の貴様がISを...!」

「そういえば普通のISは男には使えないんだったな。だけど、これは特別製だ。俺の、俺のために作られた、俺専用のISだからな。」

  俺のためのISだから、女性にしか反応しないとか関係ないからな。

「利用できると思って、色々と手を施したのが間違いだったな。」

  この研究所の奴らは、俺の利用価値を上げるために、知識だけでなく、運動機能も上げさせてくれた。おかげで、自分でも分かるほど強くなれた。

「...まぁ、お前らは俺にそこまでひどい事はしていなかったから、殺すことはしねぇよ。じゃあな。」

  そう言って、俺は研究所のシステムを完全にダウンさせ、研究所をある程度破壊していった。

「...ん?...これは...。」

  休憩室のような場所で、雑誌とかを見つける。

「...今の世界の状況を知っておくためにも持っておくか。」

  雑誌をいくつか持ち、拡張領域に入れておく。...今更だけどこのIS、武器ないんだよな。

「肝心な部分の知識は貰ったからこの程度でいいだろう。」

  そう言って、俺は研究所から脱出した。









「...ここらで少し状況を整理しよう。」

  研究所から、他の誰かに見られないように飛んで、森の中に着陸する。操作などはISについての知識を覚えさせられてたのでコツさえ掴めば簡単にできる。

「今の時期は俺が事故に遭ってから14年近く経っている。これは研究所で目が覚めた時に研究者が言ってたから確実だな。」

  その13年間分を埋めるように知識とかを詰め込まれたのはきつかったが。

「...あの人から貰った知識の通りだと、早めに行動した方がいいな。」

  夢の中(?)で出会った彼女から貰った知識は“原作”だけでなく、今の束たちの状況のもあった。

「...織斑秋十...彼を早く助けねば。」

  ふと、雑誌に目を通すと、近々第二回モンド・グロッソが開かれる旨が書かれていた。

「確か、この時に“織斑一夏”は誘拐される。」

  “原作”の知識と合わせ、照らし合わせる。

「...“主人公”に関わる大きな事件だ。何か起こるかもな。」

  今の千冬の所の状況を考えると、織斑秋十が身代わりに誘拐されるかもしれない。

「とにかく、このタイミングで織斑秋十を保護するか。」

  そうと決まれば、日時が明日となっているので、急いで大会の場へと向かう。









「....どこだ...?」

  夜明けぐらいにモンド・グロッソが開催される場所の近くに来れたのはいいが、この人口の中から一人の人間を探すのは困難だった。

「...ダメだ。少し休憩するか。」

  ISのエネルギーもほとんどないので、徒歩で人気のない場所へ向かう。

「...やばいな...。“原作”と同じように誘拐事件が起きるとしたら、悠長な事はしてられんな...。」

  既に大会は始まっている。しかも、もう準決勝が始まるらしい。

「何とかして、探し出さないと...。....うん?」

  休んでられないとその場を立ち去ろうとして、怪しい人影を見つける。

「.....。」

  見つからないように気配を殺しながら、聞き耳を立てる。

「作....成...よう...。」

「織....冬の...誘拐...れば...。」

「(“誘拐”....!)」

  所々聞こえなかったが、肝心のキーワードは分かった。そこから考えると今の会話は大体こんな感じのはずだ。

   ―――「作戦は成功のようだな。」

   ―――「織斑千冬の弟を誘拐すれば...。」

  この事から考えると、会話している奴らとは別に実行犯がいて、こことは違う場所にいるという事か。

「(...連絡を取り合っている機器があるはず。ISコアを接続して逆探知できれば...。)」

  そうと決まれば一気に人影に近づく。

「な、なんだ!?」

「し、篠ノ之束!?」

  さすがに気づいたが、案の定動揺してるから隙だらけだ。...束と勘違いされたが。

「人違いですよっと!」

  間合いを詰める勢いで一人を突き飛ばし、もう一人を軽く攻撃を入れて怯ませた所を気絶させる。突き飛ばした方も、また間合いを詰めて同じように気絶させる。

「....これか。」

  倒した奴(男)の懐からケータイを取り出す。それをISコアに接続する。

「急がねばな....。......ここか!」

  研究所で向上させられた頭脳を生かし、一気に場所を突き止める。

「行くぞ。想起!」

  ISを起動させ、現場へ向かう。....あ、ちなみに一次移行(ファーストシフト)は終わったから最適化も済んでいる。









「....あそこか...。」

  案の定見張りがいる。...さて、どうするか。

「....あー、もう研究所のでストレスが溜まってるんだ。正面突破で行く!」

  ...え?そうすると人質に取られるかもだって?...大丈夫、正面突破と言っても基本音を立てないし、気づかれないようにするから。

「....てな訳で...シッ!」

  見張りの視線が一瞬揃って逸れた瞬間を狙い、一気に近づく。

「...?....っ!?ガッ...!?」

「なにっ!?ぐあっ!?」

  一人目を振り向いた所で顎を掠らせるように蹴って気絶させ、もう一人は蹴りの勢いを利用してさらに回し蹴りをして吹き飛ばす。上手い事頭に命中させたからこっちも気絶させれたはず。

「......。」

  音を立てないように扉を開け、中に入る。

「....ISありか....。」

  進んでいくと、男だけでなくISを持った女性もいた。

「(...俺もISを持っているとはいえ、プロトタイプのままでは勝てないかもしれん。なら、展開する前に一瞬で気絶させるか。)」

  身体能力を生かして、音もなくISを持っている女性に接近する。

「.....うぐっ!?」

「....これでよし、と。」

  研究所でなぜか覚える機会があったCQCで気絶させる。

「他の奴は....気づいてないな。」

  それなら好都合だと、他の奴も同じように気絶させていった。もちろん、何度か気付かれたけど一瞬で沈めれば事なきを得た。







「どこだ....?」

  建物の中を探し続ける。途中に出会った奴らは片っ端から片づけて行った。もうすぐ最深部に着くな。

「ここで最後か...。」

  扉が施錠されているな。蹴破るか。

   ―――ガァン!

「な、なんだ!?」

「(ビンゴ!やっぱりここか!)」

  中から声が聞こえてくる。今度はもっと力を込めて蹴る。

   ―――ガァン!ガァン!ゴガシャァン!!

「ここ!?」

  扉を蹴破り、中に飛び込む。中には二人の銃を持った男と、手足を縛られた青年がいた。

「だ、誰だ!?」

「...っ!?篠ノ之...束...!?」

「...束...さん....?」

「君は...君が....。」

  貰った知識にある特徴と一致する。...間違いない。彼が織斑秋十君だな。

  ...それと、やっぱり全員俺が束だと勘違いしているな。

「...残念ながら、俺は篠ノ之束じゃない。」

「なに!?」

「え......。」

  否定の言葉を出すと、全員が動揺する。...好都合。ついでに気絶させてもらおう。

「くっ....!」

「遅い!」

「がぁっ!?」

  一人の男が俺に銃を向けるが、それよりも早く俺は懐に潜り込み、銃を真上に弾き飛ばしてその勢いで背負い投げを決める。

「なっ!?」

「はい、動くなよ?」

  その早業に驚いたもう一人にすかさず弾いた銃をキャッチして向ける。もちろん既に撃鉄は起こしてあるからいつでも撃てる。

「とりあえず、気絶してもらう。」

「うっ....。」

  一気に近づいて気絶させる。背負い投げで蹲ってる方ももちろん気絶させる。

「...あなたは....?」

「俺...?俺は...そうだな...束の幼馴染って所か?」

「束さんの!?」

  俺の事を聞かれたので正直に答えると、凄く驚かれた。

「神咲桜って言うんだ。...こんな名前と容姿だが、男だからな?」

「は、はぁ...?...って、男!?」

  ...やっぱり男に見られてなかったか。そんなに女っぽいか?

「それで...君は、 織斑秋十君で合ってるね?」

「は、はい。」

  秋十君に目線を合わせて話しながら縛っている縄をほどきにかかる。

「...かつての家族と、居場所を取り戻したい?」

「....ぇ...?」

「取り戻したいのなら、この手を取ってくれ。」

  縄をほどききり、手を差し伸べる。

「この狂いに狂った世界も、ぶっ壊せるぞ?」

  貰った知識の通りなら、彼はこの狂ってしまった世界に不満を持っている。だからこんな悪魔の囁きのような事を言ってしまった。...まぁ、こうでもしないと乗ってくれないだろうし。

「...取り戻したい...。」

「うん?」

「...取り戻したい...!皆を、かつての優しい皆を、取り戻したい!」

  彼は力強く、はっきりとそう言って、確かな意志を持って俺の手を取った。

「...いい返事だ。さぁ、行こう。」

「行く...?って、どこへ?」

  秋十君の疑問は尤もだな。...俺がまず向かう場所は決まっている。

「そうだな...。まずは、寝惚けておかしくなってる兎を叩き起こしにでも行こうかな!」

  ...この歪んだ世界を変えるには、まずは束の協力が必要だ。だから、束の洗脳を解いて、味方につける。

  ...居場所は既に貰った知識にある。飛んでいくためのISエネルギーもある。













「....さぁ、世界の修正の始まりだ。」











   ―――カチリ...と、何かが動き出した音がした。







 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか?
ちなみに、桜が貰った知識は“原作”の知識と、今の幼馴染たちの現状などです。
それと、最後の音は世界が元の道筋に戻り始めた事を表す...つまり、洗脳の能力が封じられた事を示します。

次回は束と再会です。

感想、待ってます!

 

 

第2話「再会(再開)」

 
前書き
束と再会します。原作と束の性格が違うのでそこの所ご了承ください。

 

 


       =桜side=



「....ここか。」

  どこかの孤島。そこに俺達二人は来ていた。

「ここに...束さんが...。」

「ああ。行くぞ。」

  孤島に降り立ち、怪しい所を探す。...と言っても、貰った知識が正しい場所を教えてくれるのでさっさと秘密のボタンを見つけて押す。

  すると、地下へと通じる扉が現れる。

「まったく、大層なモン作りやがって。」

  ま、俺にはあまり関係ないか。

「秋十君、俺の後ろにいておいてくれよ。」

「わ、分かった。」

  俺の後ろをついて歩く秋十君。...来るか。

   ―――ビーッ!ビーッ!

〈侵入者!侵入者!これより撃退します。〉

「だろうな。」

「ちょ、どうするんですか!?」

  俺と秋十君に差し向けられる重火器。

「...駆け抜ける!」

「えっ...うわぁああああああああ!!??」

  秋十君をしっかりと背負い、一気に駆け抜ける。

「...邪魔だ!」

「え、えええええええ!!?」

  途中、ガードロボみたいなのが出てきたが、勢い任せの飛び蹴りでぶっ飛ばす。

「...ちっ、ロック式の扉か。」

「そ、そうなんですか!?じゃあ、どうするんですか...?」

「ぶち破る!」

「やっぱりぃいいいい!!?」

  奥の方にロック式の扉が見えたが、ISを足に部分展開し、一気に蹴り破った。







  その後も、ごり押しでどんどん奥へと進んでいき、ついに最深部...束のいる所へ辿り着いた。







     ~最深部~





「....よぉ。」

  最深部まで辿り着き、そこにいた束にそう言う。

「...誰なのかな君。この束さんのラボに...それもあんな強引な突破で突入してくるなんて。」

「っ....。」

  ...やっぱり、親友に忘れられてるって言うのは辛いな...。

「しかも、そんな“出来損ない”を連れて。」

「おいおい...彼を出来損ない呼ばわりとは...随分と口が悪くなったな...束。」

  ちなみに秋十君は気絶してます、はい。ちょっとさっきのはきつかったか...。

「勝手に呼び捨てにしないでくれる?」

「はっ、呼び捨てするように言ってきたのは束...お前の方だぜ?」

「はぁ?何言ってんの?私がそんな事言う訳ないじゃん。」

  ...埒が明かねぇな。束の隣に控えてる銀髪の少女も敵意むき出しだし。

「...ま、覚えてないのは分かってたけどな。」

「当たり前だよ。お前みたいな紛い物、覚える必要もない。」

「紛い物...ねぇ。」

  当時はそっくりだって喜んでた癖に...。これが洗脳とそれにより記憶改竄の影響か。

「しゃーない。大切な思い出の品は持ってないが、記憶に根付いてそうな言葉でも言おうか?」

「はっ、なんだか知らないけど、そんなの聞きたくないね。」

  はいはい。今の束の言ってる事は無視だ無視。

「まぁ、まずはこれを見ろよ。」

  取り出すのは想起のISコア。俺の傍に置いてあったものだから重要かもな。

「...そんなプロトタイプのコアがどう...した...。」

「束様!?どうしたんですか!?」

  俺のISコアを見て、束は少し固まる。

「あれ...?どうしてかな...なんで、そのISコアを見てると、懐かしい気分に...。」

「そりゃあ、本当の“夢”を叶える第一歩のものだからだろ。」

「“夢”....?」

  お?反発的な態度だったのに、こっちの言う事をしっかり聞いてるぞ?

「...あの日、束と千冬と俺で誓ったろ...?」









   ―――“絶対、三人で宇宙へ...無限の成層圏へ行こう!”







「―――ってさ...。」

「あ.....。」

  完全に束が固まる。...もうひと押しか...?

「...それとさ、ありがとな。」

「え....?」

「束が約10年間...俺が事故に遭ってからずっと治療し続けてくれたんだろ?だから、俺はこうして完全に回復する事ができた。だから、ありがとうな?これで、俺は...神咲桜はまた束達と夢を追う事ができる。」

「あ...あぁ.....。」

  頭を抱えて蹲りだす束。

「っ...!束様に何を...!?」

「すまんが、少し眠っててくれ。」

「なっ!?ぁ.....。」

  銀髪の少女に一瞬で近づき、気絶させる。

「く、くーちゃ...あぅ....!」

「...束、まだ..思い出せないか?」

  束の傍に近寄り、そう言う。

「神咲...桜...。....桜....さー...君....?」

「っ...!そうだ。さー君だよ。束。」

「あぐっ...頭が....!」

  ...もしかして、これって自力で洗脳に抗ってる?なら、さっさと開放しなければ...!

「確か...解除の仕方は...いや、知らなかった!?」

  やべぇ、能力を貰ったのはいいが、やり方が分からん。

「...ああもう!ままよ!」

  とにかく、洗脳を解くように念じながら束に手をかざす。

   ―――カッ!

「うおっ!?」

  瞬間、束が光に包まれる。...え?これでよかったのか?

「ぁ...あああああ!!?」

  束は叫び、すぐに気絶して倒れこんでしまう。

「あ...やべ...!?」

  背負ってる秋十君は気絶、束も少女も気絶してる。...けど防犯システムは起動中...これはやばい。

「あー、畜生!」

  ISコアを最深部のコンピュータに接続し、解除に取り掛かる。だけど、とても複雑なプログラムに阻まれる。

「そりゃあ、当然ハッキングされずらいよなぁ!」

  束のアジトのセキュリティだ。そう簡単にハッキングできる訳がない。

「だけど、こっちも束と同じような(天災)なんだ!この程度!」

  途轍もないスピードでキーボードを叩き、一気にシステムを解除させていく。

「.....これで、最後!」

  最後のシステムを解除し、そこで俺はへたり込む。

「...つっっかれたぁ....!」

  これでもここまで来るのに体力が結構減っていた。しかも、研究所を脱出してから一睡もしていない。

「俺もこのまま一休みしてぇが...。仕方ない...。」

  他の三人が気絶したままなので、全員寝やすい場所に運ぶ。

「....ふぅ、俺も寝よ。」

  運び終わったので、その場で横になると、すぐに眠った。







「....ぅ....ううん....。」

  目を覚ます。体感じゃ分からないけど、相当疲れてたから結構眠ってたはずだ。

「...んあ?なんか...やわらかい...?」

  視界も何かに塞がれて良く見えないし、なんだこれ?

「あっ!起きた?」

「うん...?その声は束か...?」

  とりあえず、いつまでも横になってる訳にはいかないので起き上がる。

「お、おお..?もしかして...膝枕?」

  起き上がり、さっきまで横になってた場所を見ると、そこには束が正座で座っていた。...そこから導き出される結論...即ち膝枕だ。

「せいかーい!さー君久しぶり!」

「あぁ。本当に久しぶりだな。...約14年。」

「ホントだねー。もう14年も経ってるもんねー。」

  ...あぁ、この明るすぎるような性格。...以前と変わらないな。

「...洗脳は、解けたか?」

「...うん。おかげ様でね。」

  そう言って束は俯く。...どうしたんだ?

「....ごめんね...。」

「...あぁ、洗脳されてた時の事か。」

「うん。...あっ君には謝って許してはもらったんだけど、どうしても、申し訳なくて...。」

  辛いだろうな...。親しくしていた相手に対してきつく当たったり、助けたい相手を忘れてしまって放置してしまってたんだから。

「...俺も気にしちゃいねぇよ。」

「でも...。」

「じゃあ、束はもう夢を諦めたのか?」

「えっ?」

  突然の質問に少し呆ける束。

「洗脳されてた時にしでかした事が申し訳ないからって、夢を諦めるのか?」

「それは...ありえないよ。どんな事があっても、どんなに夢を否定されても、私はあの夢を諦めないんだから。」

「...なら、それでいいんじゃねぇの?」

「え...?」

  俺の言葉に首を傾げる束。

「また夢を叶えるために生きて行けばいい。申し訳ないと思うんなら、俺としては14年前も目指していた夢をまた目指してもらいたいな。」

「あ....。」

「それも、俺と千冬...三人でな。」

  その言葉に束はハッとしたような顔をして、徐々に目を潤ませ...って、ええっ!?

「...ぐすっ.....ありがと~~!!」

「うわっとと...束!?」

  いきなり泣き出しながら抱き着いてくるなんて...。

「ぐすっ...洗脳が解けて、さー君と4年も会ってないのを思い出して、あっ君にきつく当たってた事に対して罪悪感が湧き出て...本当に申し訳なくて、申し訳なくて....ひっぐ...許してもらえても罪悪感とか、こんな世界にしてしまった後悔が凄くて...私...私....!」

「束....。」

  いくら明るく元気な束でも、自分の望まない事ばかりやってたら、そりゃその後悔に押しつぶされそうになるよな...。

「だから...ひっぐ...だから私...さー君に許してもらえて...どうすればいいか教えてくれて...本当に良かった....!」

「束....。...辛かったなら、今は思いっきり泣いてもいいぞ...。」

「ぐすっ....うわぁあああああああああん!!!」

  俺に抱き着きながら泣き続ける束。....今まで一度も思いっきり泣いた事なかったもんな...。今は好きにさせてあげよう。





  ...だから、こっそり覗かないでくれ。秋十君、銀髪の少女よ。









「......。」

「あー、その、ごめんなさい束さん...。」

「すいません束様...。」

  顔を真っ赤にしながらつーんとした態度を取る束に必死に謝る二人。

「あー...恥ずかしかったのは分かるが、許してやれよ。」

「むぅ....。」

  未だに不機嫌なままだが、とりあえずは会話をするようにしたようだ。

「とりあえず束、そこの銀髪の少女は誰なんだ?束を慕ってるようだけど。」

「あ、それは俺も知りたいです。」

  どうやら秋十君も知らなかったようだ。俺がまだ眠っている時に聞いたもんだと思ってた。

「...この子はクロエ・クロニクル。とある実験で失敗作扱いされた試験管ベビーだよ。」

「あの...束様?そろそろ許してくれないでしょうか...?」

  失敗作...つまり、処分されそうな所を保護したって訳か。束が洗脳中の出来事だろうけど、飽くまで“原作”っぽい性格になるだけだから、保護するぐらいの器量はあったんだな。

  ...ところで、今紹介した時の束の言い方がなんかぶっきらぼうだったため、クロエが束に今のように懇願している。

「あー、完全に拗ねちゃってるな。後で何とかしておくから気にしないでくれ。」

「は、はぁ...。」

「...どうした?何かあるのか?」

  どこか束を見る表情が戸惑っているような...。

「い、いえ...。このような束様は初めて見るので...。」

  ...なるほどな。“原作”の性格だと、ここまで拗ねないしな。

「それについては後で説明する。...こっちも自己紹介しておかないとな。」

「あ、先程紹介してもらいました。神咲桜さんですよね?束様の親友の。」

「お?俺の事は紹介してたのか。まぁ、その通りだな。」

  多分、気絶から目覚めた時、俺を攻撃しようとして洗脳が解けた束に止められて説明したんだろうな。

「すいません。まさか、束様の親友だったとは...。」

「いや、いいよ。色々と事情があるんだし。」

  洗脳とかされてて俺の事覚えてなかったんだし。

「...そう言えば、なんで君は束の事を“様”付けで呼んでるんだ?」

  束にそんな趣味があるとは思えないんだが。

「えっと...私が試験管ベビーなのはさっき言いましたよね?」

「言ったな。」

「私、束様に保護されて、それでここで過ごす事となったので、せめて居候として敬称を付けておこうかなと....。」

「いや、なんでそれで“様”に?」

  普通“さん”とかなはずだが。

「私、普段から他人の事は“さん”付けにするみたいで...こう、特別な敬称としてはこれしか思いつきませんでした。...それに、束様は私の事を娘のように思ってくれるんですが、それが恥ずかしいのもありまして...。」

「なんというか、まぁ...。」

  束に感謝しているのは伝わるけど、考えが少し極端だな。可愛らしいけど。

「君がいいならそれでいいよ。」

「あの、クロエと呼んでもらっても構いませんよ?」

「そうか?なら、そう呼ばせてもらうよ。」

  これで彼女...クロエとの和解も済んだな。

  ...次は、今のやり取りを拗ねた表情で見つめてる束をどうにかするか。

「...はぁ、まったく。」

「ほにゃっ!?」

  ぶすっとした顔で見てくる束をとりあえず撫でる。

「嫉妬したい気持ちは分かるが、そう拗ねるなよ?」

「あぅ~...。」

  撫でられ喜ぶ顔と、咎められてバツが悪い顔が混ざった複雑な顔をする束。

「...なんというか、お二人は姉妹のようですね。束様が妹で、桜さんが姉のようです。」

「あー、確かにそんな感じなような...。」

  外野二名が俺たちのやり取りを見てそう言う。

「....うん。見た目が似てるからそう言いたいのは分かるが、一応男のつもりの俺にとっては姉呼ばわりは嬉しくない。」

「あ、すいません...。」

「さー君...その見た目で男って言われても意味ないと思うよ?」

  秋十君は発言を謝り、束はそんな俺の言葉にそう言う。その会話を聞いたクロエは俺が男だと気付き、驚愕する。

「だ、男性だったんですか!?す、すいません!」

「いや、いいよ。束の言うとおり、見た目が問題だし。」

  髪も14年も切らずに放置してたから伸びに伸びてるしな。

「んー、私はこのままでいいと思うなー。...お・ね・え・ちゃ・ん?」

「ていっ!」

「あうっ!?」

  ふざけた事を束がぬかしたのでチョップで静粛しておく。

「誰がお姉ちゃんだ。誰が。」

「あうー...私だって甘えたいもん。」

「はいはい。それは分かったからお姉ちゃんはやめろ。」

  今の束は家族の誰にもあまり会えない。だから甘える相手もいない。...と言っても、元々頭が良すぎて甘えるという行為をしようとしなかったけど。

「それより、服どうしようか...。」

「えっ?」

  唐突に呟いた俺の言葉に秋十君が疑問の声を返す。

「ほら、束とクロエがここに住んでるなら、二人の服はあるんだろうけど、俺たち男の分がないじゃん?」

「あっ...。」

「俺たちの服、今着てるのしかないぞ?」

  秋十君は誘拐時に着ていた私服。俺は患者が着ていそうな白い服。それが今着ている服だ。

「えー?さー君は私の服でいいじゃん。...あっ君は...ガンバ!」

「おい!」

「あだっ!?」

  百歩...いや、一万歩譲って俺が束の服を着るのは我慢しよう...。だけど、秋十君の“ガンバ”はなに!?ずっとそれを着とけと!?

「じょ、冗談だよ...。私に掛かれば代えの服が必要ないほど早く洗濯できるよ。」

「まぁ、量子変換できる技術があるなら、それくらいできてもおかしくはないな。」

「でも私としてはさー君には私の服を着てほs...っつぅ~...!」

「いい加減にしろ。」

  まだ俺に女装させる気か。

「分かったよ~...。」

  とりあえず、当分の間はこの服のみだな。...何度か束の服を着せられるかもだが。







「...束。」

「あ、さー君。」

  その日の夜。俺は束のいる部屋にいる。

「...これからの具体的な行動を決めよう。」

「...そうだね。」

  いつものお気楽な雰囲気は消え去り、真剣な顔をした束になる。

「まず、昼の時は話せなかった事を話しておこう。」

  束に俺が目覚める前に見ていた夢の事を話しておく。

「―――そして、今に至るって訳だ。」

「...そっか。...うん、納得がいったよ。」

  一気に話しただけだが、やっぱり簡単に理解してくれたな。

「...全部、あいつのせいか...。」

「ま、そうなるかもな。」

  “あいつ”...多分中身が転生者の織斑一夏だろう。

「秋十君に取り戻せるとか言った手前、それは実現させなきゃな。」

「うん。夢を追うのは中断したくない。....あ、そうだ!」

  なにかを閃いたのか、束が立ち上がる。

「確か、“原作”の話の流れがあるんでしょ?だったらそれを利用して....。」

  束が言いたいことは、敢えて原作に近い状況を進め、それでいて全てが織斑一夏の思い通りにはならないようにするという事だった。

「おま...随分ねちっこいやり方だな...。賛成だけど。」

「でしょ!じゃあ、早速、その準備に取り掛からないとね!」

「だな。」

  まずは“原作”に影響を与えない程度に俺たちが自由に動ける土台を作らなければな。

「手っ取り早いのは会社を作る事だね。私に任せて!」

「オッケー。あ、“原作”の知識、できるだけ教えておこうか?」

「それもそうだね。後でよろしく!」

  俺も結構ノリノリで準備を進めて行く。

「“夢”を追うため、いつまでもIS関係で後ろめたい事をやらせておくのも嫌だな...。」

「なら、どうにかしよう!これぐらいなら同時進行でできるでしょ!」

  着々と予定を組み立てて行く。予定とは言え、全て俺たちならほぼ確実にできる事ばかりだ。

「あとは人員の確保だが...。」

「これも同時進行で探そうか。今日はここらへんにしとこう!」

「そうだな。」

  行動に移すのは明日だ。今日はもう寝る事にしよう。





 
 

 
後書き
束が原作と違う部分が多々あると思いますが、飽くまでこれは“原作”に似た世界線なのであしからず。...というか、桜がいる時点で結構違います。
...原作まで、もう少しかかるかな。 

 

第3話「増える住人」

 
前書き
オリジナルの展開を書こうとするとなかなか思いつかないもんですね...。
今回は別作品のキャラが出てきます。

※【】のセリフは通信機器を通した会話です。「」と二重になってる場合は肉声もある、もしくはその場にいる人物のセリフです。 

 


       =桜side=



「あ、あっ君。剣道って、まだ続けてる?」

  これからの方針を決めた次の日、朝食が終わった辺りで束がそう言いだした。

「剣道...ですか?一応、まだ欠かさずやってますけど...。」

「ほうほう...なら、ちょっと見せてもらえるかな?」

  貰った知識と束に聞いた話によると、秋十君は才能を補って余りあるほどの努力ができるそうだ。剣道...束の実家がやってた篠ノ之流もずっと努力していたらしい。

「...あまり期待できるものじゃないと思いますよ?」

「いいからいいから!」

  そう言って、試合ができるような場所へと移動する。...え?道具とかはあるのかって?一応なんでも揃えてるらしい。束も剣道をやってたからな。

「じゃあ、私が相手するね?」

「えっ?束さんがですか!?」

  束が相手をする事に驚く秋十君。...あー、秋十君は束も剣道をしてた事を知らないのか。

「実家の流派を覚えてない程度じゃ、天災は名乗れないからね!あ、ちゃんと昔に習ってたよ?結構衰えたかもしれないけど。」

「そ、そうですか...。」

「...さぁ、あっ君の全力、見せてね!」

  そう言って構える束。...おい、どこが衰えただ。確かに構えが荒くなってる節があるけど、素人には気づけない誤差レベルじゃねえか。むしろ俺が知ってる時よりもいいんだけど。

「....始め!」

  俺の合図によって二人の試合が始まる。

  最初は、束が秋十君に合わせるように防いでいたが、何かを感じ取ったのか、攻勢にも出るようになった。その攻撃に圧倒される秋十君だが、決して一本も取られない。

  何度も負けそうになるが、段々と動きに対応していき、まるで...いや、実際に何度も研ぎ澄まされた剣筋になっていく。

「(...おいおい、一体どれだけ努力したんだよ...。)」

  秋十君の動きを見て、ただただ俺はそう思った。...実際、かつての俺よりもいい動きをしている。...俺も結構天才染みた才能だったんだがな...。

「せいやぁあああっ!!」

「っ!」

  一瞬の隙を突き、秋十君が決めに掛かる。

「...一本!」

「....負けました。」

  結果は...束の勝ち。あの瞬間、見事にカウンターを決められ、秋十君は負けてしまった。

「...やはり、勝てませんでしたね...。」

「いや、正直、これが公式の試合なら秋十君の勝利だったかもしれないぞ?」

「えっ?」

  俺の言葉に疑問の声を上げる秋十君。

「束の最後の動き、あれは完全にオリジナルの動きだ。反則ギリギリだったしな。」

「そうそう。まさか、あそこまで凄いとは思わなかったよー。束さん、気迫で負けるところだったよ。」

  確かに、後半の秋十君の気迫は、相当な凄さだった。思わず俺も冷や汗を流すほど。

「...なぁ、秋十君、君は一体、どれほどの努力を重ねてきたんだ?」

「えっ...?えっと...俺は人より才能が少なかったので、暇さえあればひたすら竹刀を振ったりしてきたので、どれくらいと言われても...。」

「...いや、大体わかった。」

  少なくとも、常人の二、三倍は努力してるだろう。もしかしたら五倍かもしれない。

「...これ程の“力”を見つけられないとは、周りの目も曇ったもんだな。」

「...そうだね。お父さんやお母さんは気づいてたけど、洗脳された私達は気づいてなかったよ。」

  洗脳は仕方ないと思うが...。というか、やっぱりあの二人は気づいていたか。

「ま、大体秋十君の強さは分かった。」

「は、はぁ...。」

「とにかく、着替えて戻るぞ。」

  秋十君は自分の力がどれほどのものか実感していないようだけど、今は置いておこう。









「【束、言った通り、研究所を潰しておいたぞ。】」

【りょうかーい。じゃあ、見つからないように戻ってきてね。】

  あれから数週間後、俺は今ドイツにあるとある違法研究所を潰してアジトに帰るところだ。

  あれからした事と言えば、まずは俺のISをプロトタイプから第三世代レベルまで強化した(俺と束で一気に済ませた)事と、会社を立ち上げるための準備とかだな。それと、違法研究所の場所も探し出したりしている。

「さて、さっさと戻るか...。」

  ISで飛びながらアジトへ向かう。束から貰ったステルス装置を使ってあるから簡単には見つからないはずだ。

「....うん?」

  ふと、そこで気がかりなものが見えた。

「...なんだ?あのいかにも怪しい車は。」

  視界に寂れた倉庫とそこに停めてある一台の車が映る。

「...見に行くか。」

  なにやら嫌な予感がしたので、ISでそこに向かう。





「...やっぱり誘拐だったか...。」

  ステルスで見張りにばれないように倉庫の中をハイパーセンサーで探ると、大人が数名に、子供...それも少女の反応があった。

「(おまけに状況はよろしくないようだ...。)」

  中から誘拐されたであろう少女の嫌がる声が聞こえる。...このままではR-18な展開になってしまうな。

「(それじゃあ...。)」

「うごっ!?」

「なっ!?どうしtガッ...!?」

  さっさと見張りの二人を気絶させ、こっそりと中へ入る。

「いやっ!やめてください!」

「へへへ...ここに助けなんてkぎゃあっ!?」

  今まさに襲っている男がいたのでとりあえずステルス解除しつつ蹴り飛ばす。

「ったく...胸糞悪くなる所に遭遇するとはな。」

「な、なんだお前は!?」

  傍から見るといきなり現れた俺に驚く誘拐犯(仮)共。

「じゃあ、くたばっとけ!」

  どうみても誘拐現場だったので量子変換しておいた非殺傷用拳銃を取り出して全員を気絶させる。ちなみに中身はゴム弾だ。

「随分あっさりだな。...計画的な犯行じゃなかったか。」

  人数も少ないし、偶々誘拐したって感じか?

「あ、あの...あなたは...?」

「あー...ちょっとした通りすがり...かな。篠ノ之束に似ているが別人だからな?」

  改めて誘拐されていた少女に向き直る。ウェーブのかかった長めの金髪。どこか儚げな雰囲気を持つ彼女は、怯えた表情で俺を見ていた。

「...一応、君を誘拐した奴は全員倒したつもりだ。自分で歩いて帰れるなら俺はこのまま帰るが...。」

「あ...その...。」

  オロオロした感じで口籠る。...なにかあるのか?

「...私...捨てられたんです...。それで、途方に暮れてた時にこんな目に遭ってしまって...。」

「....詳しい話を聞かせてもらえるか...?」

  やっぱり何か事情があるらしく、話を聞かせてもらう事にした。

  ...聞けば、彼女の家はちょっとした金持ちらしく、実力主義な一面もあるため、病弱だった彼女は冷遇されていたようだ。唯一、優しくしてくれた母親が少し前に亡くなり、最終的に捨てられて今に至る...と。

「...そりゃ、ひでぇな...。詰まる所、君は令嬢なのだろう?なのに捨てられるとは...。」

「...優秀な、姉がいましたから...。」

  ...ますます秋十君に似た境遇だな...。

「じゃあ、行く宛てがないんだな?」

「....はい....。」

  拘束が解けた手で、膝を抱え込む彼女。...ふむ。

「...なら、俺の所に来るか?」

「えっ...?」

  俺の言葉にキョトンとする彼女。

「あー...なんだ、俺の所にも君に似た境遇の奴がいてな。見捨てられないんだよ。第一、このまま置いて行ったら君はどうしようもないだろ?」

  元々見捨てるのも嫌だし、秋十君の境遇と似てるならなおさらだ。

「...いいんですか...?」

「ああ。君さえよければいいんだ。」

  ...と言っても、今の俺って結構怪しい存在だけどな。

「...お世話になります。」

「...ああ。」

  彼女の手を取り、立たせてあげる。

「...っと、名前を聞いてなかったな。俺は神咲桜って言うんだ。君は?」

「...ユーリ・エーベルヴァインです。」

「ユーリちゃんね。よろしくな。...あ、あと俺は男だからな?」

  言い忘れていたので付け足しておく。ちなみに未だに髪は切ってない。というか束に全力で阻止された。ちくせう。

「え、おと...こ...?」

「よし、それじゃあ早速行こうか。」

  驚かれるのにはもう慣れたので反応を無視してお姫様抱っこで運んでいく。

「じっとしててくれよ?落ちたらやばいからな。」

  ステルス装置を起動してISで抱える。

「お、おお、おとっ、男の人なんですか!?」

「そうだぞー。いやー、普通の反応をありがとう。」

  男に抱えられるのはやはり恥ずかしいのか、“はわわ”とか言って顔を赤くしているユーリちゃん。...暴れないのは助かるな。

「あれっ!?なんでISを使えるんですか!?」

「後で分かるさ。とりあえず、一気に飛ぶから舌噛むぞ。」

「えっ?きゃぁあああああああ!!??」

  アジトに向かってスピードを出す。...皆になんて言われるだろうか。









「....ねぇ、さー君、その子は...?」

「拾ってきた。」

  とりあえずアジトに帰還したのはいいが、ちょっと怒ってる束に尋問される。

  ...うん。なんで今のように拾ってきたなんて答えたんだ?俺。

「拾ってきたって...はぁ、しかも目を回してるし...。」

「結構スピード出してたからな。気絶してないだけマシかな。」

「そーいう問題じゃないでしょ。」

「すまんすまん。」

  とにかく起こすか。ほい、ねこだまし。

「はわっ!?え、えっ?ええっ...!?」

「おーい、起きたかー?」

「は、はい....。ここ、どこですか?」

  辺りを見回しながらそういうユーリちゃん。...うん、小動物っぽくてかわいらしい。

「今の俺たちの拠点だな。」

「はぁ...?あの、その方はもしかして...。」

「その通り、篠ノ之束本人だ。」

  束の方向を向いたまま固まるユーリちゃん。...いや、無関係な人なら当然の反応か。

「...あー、とにかく事情を聞かせてくれる?どうしてこうなったか。」

  おい束、コミュ障が発動してるぞ。まったく...昔も他人と話す時は無愛想になってたよな...。

「は、はい。えっと...。」

  ユーリちゃんが経緯を一通り説明していく。





「―――それで、ここに居るんです。」

「....ふむ...。」

  ユーリちゃんの話を聞いて考え込む束。

「...うん、いいよ。ここに住んでも。」

「い、いいんですか?」

  あっさり許可されて驚くユーリちゃん。

「いやぁ、事情を聞くだけでも放っておけないし、あっ君と似た境遇ならなおさらだよ。」

「そ、そうですか...。」

  ユーリちゃんは最悪の事態にならずにホッとしているようだ。

「篠ノ之博士って、大事に思っている人物以外には辛辣だと思ってましたけど、そうじゃなかったんですね。」

「あー、えっと、以前の私はちょっとおかしかっただけで...いや、人見知りで無愛想になるからあながち間違ってない...のかな?」

「ま、根はいい奴だ。そう思い詰める必要もないさ。」

  そう言えば、ニュースとかでの束の性格は親しい人以外には横暴な感じだとか言われてるよなぁ。

「...これからよろしくお願いします。」

「うん。ようこそ、私の研究所へ!」

  こうして、また一人仲間が増えた。

「...ところでお二人はどんな関係なんですか?」

「え?えっとねー、夫h<ベシッ>あだっ!?」

「幼馴染だな。よく似ているとか言われてたよ。」

  おかしな事を抜かしそうになったのでチョップで黙らしておく。

「あはは...。ホントにそっくりですもんね...。」

「実は双子だとか言われたりしたが、遺伝子上一切関係ないからな。」

「もし姉妹とかだったら結婚とかもできn<ベシッ!>っつぅ~っ!?」

  またふざけた事を抜かしたのでもっと強くチョップしておく。

「俺は男だっつの。」

「...仲いいですね。」

「ま、親友だからな。」

「親友...ですか...。」

  ...っと、やべ、ユーリちゃんにはきつい事だったか?

「...ユーリちゃんも、俺たちと仲良くなろうぜ?」

「えっ?」

「まぁ、年は離れてるけど、ここに住むんだから、仲良くならないとな?」

  あまり気の利いた言葉じゃないけど、安心はさせておきたい。

「と言うか私から仲良くなるよ!良く見れば何この子!?すっごく可愛らしいんだけど!?」

「きゃっ!?」

  束が突然ユーリちゃんに抱き着く。

「なでなでしたい!というかこのふわふわな髪をもふもふしたい!」

「やべ、束ってこんな可愛い物好きだったか?対処が分からん...。」

  以前は見なかった行動にどう対処すればいいか俺は困惑する。

「あ、あああああの...はな、離してください...!」

「とにかく、おらっ!」

「あぐぁっ!?」

  束が暴走した時はチョップすれば万事解決だな。

「可愛いのは分かったから暴走するな。」

「はーい...。」

  ユーリちゃんをこっちに引き寄せ、束を引きはがす。

「あ....。」

「ん?すまん、どこか痛くしてしまったか?」

  ふとユーリちゃんが声を上げたので、引き寄せた際に何かやってしまったか心配する。

「い、いえ...な、なんでもありません...!」

「.....?」

「む!...はは~ん...。」

  ユーリちゃんの様子に束が何かに気付く。

「どうした?」

「ベっつに~?さー君ならありえてもおかしくないし~。」

「は...?」

  意味わからん。とにかく、ユーリちゃんに何かあった訳じゃないからいいか。

「束様ー、御夕飯の支度...が...。」

「あ、くーちゃん!」

  クロエが奥から出てくる。っと、もうそんな時間だったか。

「あの、彼女は...?」

「えっとね、今日からここに住むゆーちゃんだよ!」

  ゆーちゃんって...またあだ名かよ。親しくなった証拠だけども。

「...っと、ユーリちゃん、これ持ってくれ。」

「えっ?これは...?」

「俺と束で開発した翻訳機。それを使えば機械音声とは言え完全に翻訳してくれるぞ。」

  今のユーリちゃんはドイツ語しか喋っていない。俺と束はドイツ語も喋れるようについこの前に習得したけど、クロエも秋十君も短期間で英語以外を覚えるのは困難だ。...クロエの場合はドイツの研究所から生まれたからか習得が幾分か早いが。

  そこで発明したのがこの翻訳機だ。これならユーリちゃんも会話できるだろう。

「えっと、ユーリ・エーベルヴァインです。」

「あ、クロエ・クロニクルと言います。」

  束と違って大人しい二人の会話。...見てるだけでほっこりするんだけど。

「そうだ、クロエとも挨拶したのなら、秋十君とも会っておかないとな。」

「アキト...?」

「もう一人、ここに住んでる奴がいるんだ。というか、元々彼を保護するためにここに来たとも言えるな。」

  と言う訳で早速秋十君の所へゴー。





「ふっ...!ふっ...!」

  秋十君の所に行くと、秋十君は木刀で素振りをしていた。

「おーい、秋十くーん!」

「あっ、桜さん。...あれ?彼女は...?」

  素振りを中断し、俺の隣にいるユーリちゃんに気付く。

「今日からここに住むことになるユーリ・エーベルヴァインだ。ドイツの子でまだ日本語は喋れないからしばらくは翻訳機を使ってくれ。」

「よ、よろしくお願いします。」

  よし、これで全員との挨拶は終わったな。後はユーリちゃん自身が馴染むのを待つだけだな。









「さー君、こことこことここ。お願いね。」

「りょーかい。」

  会社を立ち上げるための資料や、IS関連の事を束に頼まれる。早速自室に戻り、俺専用に用意されたコンピュータに向かって作業を始める。

     コンコン

「....うん?どうぞー。」

「あの....。」

  ドアをノックして入ってきたのはユーリちゃん。

「どうしたんだ?」

「いえ...その...。」

  もじもじしながら遠慮がちに何か言おうとする。

「...私も何かしなくてはいけないと思ったので...。」

「あー...もしかして色々と遠慮しちゃってる?」

「...はい。」

  気にしなくてもいいって言っても、ユーリちゃんの性格なら意味ないだろうしな...。

「...しょうがない。作業しながらで悪いけど、相談に乗るよ。」

「す、すいません。作業中に...。」

「いいっていいって。他の事しながらの方が案外捗ったりするから。」

  カタカタとキーボードを叩いていく。おっ、ここはこうすべきだな。

「あの、そういえば何をしているんですか...?」

「うーん...世界を変えるための下積み?」

  会社を立ち上げて、ISに革命を起こす...と言うより本来の姿に戻すって言う方が正しいか。それを行ったりして女尊男卑をなくしたり...。まぁ、色々するな。

「下積み...ですか。」

「まぁね。女尊男卑をなくして、ISを男女共に使えるようにしたり、束の...いや、俺たちの本来の目的の宇宙進出へ辿り着くにはこれくらいしないとな。」

「....凄いんですね...。」

  まぁ、天災が二人で協力してるからな。これぐらいはできないと。

「ユーリちゃんは何かしたいとは言うけど、今は特にする事はないんだよね。一応、家事は当番制にしてるからそう言うのはするだろうけどさ。」

「そう...ですか...。」

「まぁ、秋十君だって、やる事がないから...と言うか、努力をする事がやる事って感じかな。今日みたいにただただ努力して強くなったりしてるし。」

  クロエは全員のサポートかな。もしくは器用貧乏とも言えるな。

「ユーリちゃんは見たところ、アウトドア系じゃないから、必然的にサポートやコンピュータ関連になるけど、それでも手伝う?」

「...はい。手伝わせてください。」

「よし分かった。じゃあ、早速で悪いけど、このデータを解析・整理しておいてくれ。」

  そう言ってIS関連のデータを渡す。

「い、いきなりISですか!?」

「大丈夫。ほら、ISの解析とかのための本。これ見ながらでもいいしさ。」

「わ、私、コンピュータはさすがに操作できますけど、神咲さんのように速くなんて...。」

  いや、俺を基準にされても困るなぁ...。

「大丈夫だって。それは優先度が一番低い奴だし、こういう事にチャレンジすれば自分の新しい力に気付くかもしれないしさ。」

「はぁ...?」

「ま、とにかくやってみなよ。そっちのコンピュータが空いてるからさ。」

「分かりました...。」

  そう言って隣のコンピュータの椅子に座って作業を始めるユーリちゃん。

「(...案外、彼女は解析とかの能力に長けてるかもしれないしな。)」

  なんとなく。そう、なんとなく感じたからユーリちゃんをこの仕事に割り当ててみた。

  秋十君のように才能に恵まれなかったらしいけど、なんの才能にも恵まれていないなんてありえない事だ。

  俺や束、千冬のようにあからさまに秀でてる場合もあれば、ひっそりと目立たない才能を持っている者もいる。秋十君の場合はまさにそれだ。...才能と言うには少し違うが。

「(なにはともあれ、新しい家族だ。仲良くしていこうな。)」

  そう考えて俺も俺の作業に戻っていった。







 
 

 
後書き
 想起…桜の持つISの専用機。元々は束が夢を叶える第一歩として桜にプレゼントしたプロトタイプのIS。“想起”の名は、束たち三人の夢を“想い起こす”という込められた意味がある。実は、桜のISの他にも、束や千冬専用の同じようなコアがある。

なお、作者に剣道の知識は一切ありません。

特に描写はしていませんが、誘拐のシーン以降は全員ドイツ語で喋っています。 

 

第4話「夢を追う」

 
前書き
リリなののユーリを登場させたのは好きなキャラだからです。他に特に理由はありません。 

 


       =桜side=



「桜さーん。これ、解析終わりましたー。」

「ありがとうユーリちゃん。そろそろ一段落つくから先に一休みしておいてくれ。」

「分かりましたー。」

  ユーリちゃんが作業部屋から出て行く。

  ユーリちゃんがここに住んでから一週間が経つ。最初でこそコンピュータの扱いに戸惑っていたが、解析する事に関してはすぐに慣れて俺や束に近いレベルにまでなった。

「確かに解析関連に長けているとは思ったが...ここまでとはな...。」

  なんでエーベルヴァインの所はこんな事にも気づかなかったんだ?秋十君と違って洗脳とかもされていないのに。

「...よし。終了っと。」

  ふぅ、これで一段落。俺も休みに行こう。束や他の皆もいるだろうし。







「あ、あっ君、後で訓練室に来てね。」

「訓練室にですか?」

  皆で昼食を取ってる時、束が秋十君にそう言った。...そういえばアレ(・・)完成してたっけな。

「あぁ、見せたいものがあってな。あ、クロエとユーリちゃんも見に来ていいぞ。」

「分かりました。」

  いよいよお披露目だな。秋十君、気に入ってくれるといいが。





「...それで、見せたいものってなんですか?」

「あー、少し待ってくれ。....束ー!まだかー!?」

  どこかに呼び掛けるように束を呼ぶ。

「あっくーーーん!!おっまたせーー!!」

「わぷっ!?ちょ、束さん!?」

  訓練場の観覧席からダッシュで飛びついてきた束を秋十君はなんとか受け止める。...おい束、観覧席の高さから抱き着くって、秋十君ほど鍛えてないときついぞ?俺もできるけど。

「<ベシッ!>ほら、束、さっさとするぞ。」

「ふぁ~い...。」

  チョップする事で引きはがし、本来やろうとしてる事をさせる。

「さぁさ!ご覧あれ!」

  そう言って、空中に浮かぶキーボードを叩く。すると示した場所の地面が割れ、そこから“ソレ”は現れた。

「あれは...IS?」

「そのとーり!」

  地面から現れた無骨な白い鉄の塊は束の言うとおりISだ。しかも...。

「あれは俺と束で開発した本来の(・・・)ISだ。」

「桜さんと束さんとでですか!?」

「いえ~す!私達の“夢”を追うために改めて作ったIS...その名も、夢追(ゆめおい)!」

  空を自由に飛ぶため。無限の成層圏に行くため。宇宙の果てを目指す俺たちの想いが込められたのがこのISだ。

「性能は操縦者によって左右するが、軽く第三世代を凌駕するな。」

「それって、第四世代って事ですか!?」

  ユーリちゃんが驚いたように聞いてくる。

「いや、ちょーっとばかし違うかな。」

「このISは確かに次世代型だよ。だけど、これは私達の“夢”を追うため一から作り上げた完成されたIS...。完成された世代ならその後に出る世代はない。そしてこのISは操縦者に合わせて進化し続ける。...言うなれば“最終世代”...だね。」

「最終...世代...。」

  秋十君はそう呟きながら夢追に触れる。

〈マスター、織斑秋十様を認証。初期化(ファッティング)及び最適化(パーソナライズ)を開始します。〉

「えっ!?ええっ!?」

  女性の声と共に、秋十君に纏わりつくように展開される夢追。その事に秋十君は戸惑っているようだ。

「あ、そうそう。最終世代は男女関係無く乗れるようになってるからね。...まぁ、それは秋十君専用の機体だけど。」

「せ、専用機ですか!?」

「そ。俺と束が秋十君に合わせて作ったISがこの夢追だ。」

  元々、洗脳される寸前の束は秋十君にもISをあげるつもりだったらしい。だから、このISに使われているコアはその時のコアだとか。

「俺に...合わせた...。」

「その通り。秋十君は、シンプルで応用に生かせるものと、トリッキーだけど使いこなせば強いもの。どちらのが使いやすい?」

「えっ?...俺は才能がないから、シンプルな方がやりやすいですけど...。」

  予想通りの答えだな。まぁ、その通りだけどさ。

「そんな秋十君に合わせたISがこの夢追なんだ。武装もシンプルなものでしょ?」

  夢追の今の武装は、近接ブレードが刀型と剣型の予備を合わせて四本、遠距離武器はハンドガンとアサルトライフル、ショットガンが二丁ずつで、他には手榴弾型の爆弾が何種類かぐらいの、特殊な武器のないシンプルなものだ。

「ISなしでも使われるような武器をIS用に強化しただけなシンプルさだ。これなら使いやすいでしょ?」

「..なんか、軍人とかみたいな装備ですね...。」

「本来ならその武器の代わりに宇宙開発のものを入れるはずなんだけどねぇ...。ま、世界が変わるまで我慢してね。」

  戦闘用に装備を整えた結果がこの軍人染みた武装だ。ブレードは少し違うけど。

「あ、それと単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)がもう使えるようになってるからね。」

「えっ!?それって、確か二次移行(セカンド・シフト)しなければまず使えないんじゃ...。」

  まぁ、普通はそうだね。...というか、秋十君も結構ISについて分かるようになってきたな。

「実はだねあっ君!そのワンオフは少し特殊でねー、元々あっ君のために作った夢追なら、相性の有無は関係ないんだよ。というか、相性が悪かったらそれはあっ君のために作った機体じゃないね!」

  横入りして解説をする束。...お前も説明したかったのか。

「本来ならその機体と操縦者の相性とかから自然発生する固有の特殊能力がワンオフなんだけど、夢追の場合は夢追自身(・・・・)の固有能力なんだよ!」

「夢追...自身の...?」

  良くわからないような顔をする秋十君。...見ればクロエやユーリちゃんも分かってなさそうだ。

「まぁ、まずはこれを見てみなよ。夢追のワンオフだ。」

  そう言って夢追の資料のデータを秋十君に送る。

「....“大器晩成”....?」

「そう。最初はてんで使い物にならない能力だけど、その名の通り、後になって強力になる能力だ。」

「これが、夢追自身のワンオフ...?」

  夢追と大器晩成が結びつかないのだろう。秋十君は首を傾げる。

「...“夢”って言うのはさ、叶えようと思った時は、全然叶えられそうにないけど、少しずつ、少しずつその夢に追い縋ろうと努力してきたら、いつかは叶うモノだって、私は思うんだ。」

「夢を追い求めるために努力して、いつかはその夢が実る...。大器晩成って言うのは、それを表してたりもすると思うんだ。」

「....そうか。だから、“大器晩成”...。」

  納得がいった顔をする秋十君。

「その、“大器晩成”って、どんな能力なんですか...?」

「おっと、ゆーちゃんやくーちゃんは資料を見てなかったから分からなかったね!はい、紙媒体の方の資料だよ!」

  そう言って夢追の資料を二人にも手渡す束。

「“大器晩成”の能力は、操縦者のISを扱う時間に比例して全ての能力が加算というモノだ。」

「それだけ聞くと、確かにシンプルなんですけど...。」

「...なんですか、この仕様....。」

  クロエが驚愕したように声を上げる。

「その加算される割合というモノが、100時間×0,1倍だ。」

「そんなの、全然割に合わないじゃないですか!?」

  そりゃそうだ。専用機持ちでも、搭乗時間は500時間も行かない。例えそれでも、たったの1,5倍だ。あまりにも割に合わなさすぎる。

「...だから、“大器晩成”なのさ。」

「だからって、これはさすがに...。」

「いや、秋十君の努力と合わせたら、ちょうどいい能力なんじゃないか?」

  元々秋十君に合わせて作った機体なんだ。使い物にならない能力なんてつける訳がない。

「秋十君は、才能を全て努力で補っている。その努力の結晶は、俺たち天災にも引けを取らない程だ。それを、ISに反映してみな?」

「っ....!」

「それに...秋十君。そのISを使いこなす努力の量と、その能力の相性。どう思う?」

「えっ...?ぴったりだと思いますけど...。それに、こういうシンプルな能力の方が俺にとってはいいです。」

  そう言ってのける秋十君。...実際は、そこらのワンオフよりも扱いづらかったりするんだけど...ま、秋十君との相性がいいだけなんだけどね。

「一応、IS自体に乗らなくても、ブレードとかを生身で素振りするだけでも時間は加算されるようになってるからな?...と、言う訳で秋十君。」

「はい?」

「これからは木刀じゃなくてISブレードで素振りしてね?」

「....えっ?」

  間の抜けた声をあげる秋十君。...まぁ、生身の人間が振り回すようなものじゃないからな。

「大丈夫大丈夫。実は秋十君の木刀に細工して少しずつ重くしてたから素振りできるぐらいの力は持ってるはずだよ。」

「ええっ!?いつの間に!?」

「ちなみにこれが普通の木刀。」

  ISを一度はずして木刀を持たせる。

「軽っ!?...って、どれだけ重くしてたんですか!?」

  普通の木刀が軽い=今まで使ってた木刀の重さがとんでもないという事に気付いた秋十君がそう言ってくる。ちなみに細工した方は普通の5倍の重さになってたりする。

「いやぁ、秋十君ってさ、才能ないとか言ってるけど、もう篠ノ之流を極めたんだろ?」

「...そりゃあ、必死に努力しましたから...。」

「だから次の段階に進んでみようと思ってね。」

  それでとりあえず木刀を重くしようって事になった訳。

「じゃあ、あっ君。早速データを取るために戦ってみようか!」

「ちょ、急すぎません!?」

「大丈夫大丈夫ー。あっ君はいつものように剣を振ればいいんだから。」

  そろそろ一次移行(ファースト・シフト)も終わるころだし、ちょうどいいだろう。

「そう言われても...。」

「なに、ISで篠ノ之流を使えばいいだけさ。なんなら、空を飛ばなくてもいい。」

「ちょっとさー君、それじゃあISの意味ないじゃん。」

  いや、秋十君はISに乗るの初めてなんだからいいだろ。

「...わかりました。やれるだけ、やってみます。」

  そう言って再びISを展開する秋十君。既に一次移行は終わっていたようで、白を基調に鮮やかな宇宙を表す蒼色のラインが入った機体になっている。

「よし。じゃあ早速始めようか。」

「...それはいいんですけど...。」

  いざ始めようとすると歯切れを悪くする秋十君。なんなんだ一体?

「...なんで、桜さんもISを展開してるんですか?」

「そりゃ、俺が秋十君の相手をするから。」

  そう言って試合を始める位置に俺は移動する。

「....ぇええええええ!!?」

「いや、そこまで驚く事か...?」

  束の機械よりも、違う操縦者と模擬戦した方が効率いいじゃん。

「秋十君のような努力型は、事前に知識を蓄えて理解するより、実践して地道に理解していく方がいいしな。なに、簡単な操作方法は束か夢追が教えてくれるよ。」

「そういう事ではなくて...俺、桜さんに勝てる気がしないんですけど...。」

  あー、そう言う事か。

「...当たって砕けろだ☆」

「それってつまり負けても気にするなって事ですよね!?分かりましたよ!」

  分かってくれてなによりだ。

「それじゃー、始めるよー!」

「おう。秋十君、最初は防御だけしかしないから、まずは操作方法を大体覚えてくれ。」

「わ、分かりました。」

  ISから情報を得て、俺にとりあえず斬りかかってくる秋十君。

     ギィン!

「よし、そのまましばらくやり方を覚えようか。あ、ちゃんと銃の方も使ってね?」

「...やってみます。」

  その後、しばらく秋十君の攻撃を防ぎ続けた。





「はぁ...はぁ...もう、無理です...。」

「....よし。大分覚えたみたいだな。」

  ISを纏ったまま倒れこむ秋十君。周りには銃弾や折れたブレードが散らばっている。

  あの後、秋十君が大体の武器を扱った後は、偶にカウンターや銃で攻撃したりして、最後の方は普通に戦ったりもした。

「桜さん...強すぎでしょう...。」

「そりゃ、俺の想起は同じ最終世代だし、というか、束のようにISを創れる俺がISをしっかり扱えなかったら意味ないだろ。」

  それに研究所で鍛えられたりもしたからな。生身でもISに勝てるぞ。

「じゃ、これからも秋十君はISで鍛えて行きなよ。」

「はいっ!?え、なんでそこまでISを...?」

「俺と束が世界を変える最前線に立つだけでもいいけどさ...。」

  理由はそれだけじゃない。

「...自分が取り戻したい事ぐらい、自分の手でやりたいでしょ?そのISは、それを行える立場に持っていくためだよ。」

「.....!...ありがとう、ございます。」

  秋十君が取り戻したい事は生身でも行える事ではある。だけど、洗脳されている者に不用意に接触すると、最悪ISで攻撃されるかもしれない。都合よく記憶とかも改竄されているからありえなくもない。千冬とかは特に。

「(それに、“織斑一夏”の思惑を完全に叩き潰す事もできるからな。)」

  俺が直接手を下すより、見下していた秋十君にやられる方がダメージもでかいだろう。

「攻撃、防御、速度、エネルギー...どれも第三世代の専用機の平均値を超えていますね...。」

「特殊武装がないので決定打に欠けますけど...。...なるほど、それをワンオフで補うのですか。」

  ユーリちゃんとクロエが資料を見ながらそう言う。普通なように見えて、ちゃんと欠点を補っているのが夢追だ。...まぁ、努力を怠らない秋十君が扱うからこそ欠点がないんだが。

「しばらくは決定打に欠けたままだけどな。」

「とにかく努力しろって事ですね。....あれ?いつも通りのような。」

  今更のようにそう言う秋十君。

「いつも通りだな。」

「いつも通りだね。」

「「いつも通りですね。」」

「...気づかなかった。」

  本当に今更気づいたのか...。

「努力しすぎて努力バカになっちまったか...?まぁ、悪い事ではないけどさ。」

「努力バカ....否定できないのが悔しい...。」

  むしろ折れない精神とかが好ましいから大丈夫だろ。

「さて、と言う訳で、そろそろ戻ろうか。」

「さー君とあっ君はシャワーでも浴びてねー。」

「おっけー。さ、行くぞ秋十君。」

「は、はい!」

  シャワールームに行き、そこで汗を流す。





  その後、俺は服を着替えて束と同じ作業室に入る。

「...後は、会社を立ち上げる人員だけだな。」

「そーだね。ちゃんと社員がいないと不自然だもんね。」

  会社を立ち上げる準備はほとんど終わっている。後は社員だけなんだが...。

「当てはあるか?」

「もちろん。いい所があるよ!」

  束がそう言うのは少し不安があるんだが...。

「どこなんだ?」

  俺が聞くと、束は笑顔ではっきりと言った。









亡国機業(ファントム・タスク)。裏で暗躍している秘密結社、亡国機業(ファントム・タスク)だよ。」

  ...まさか、この束の選択が、思いもよらない再会になるとはその時の俺は思わなかった。







 
 

 
後書き
ユーリは一週間の間にほとんど日本語を喋れるようになっています。病弱なだけで、頭が悪いわけではありませんから。ちなみに、秋十君とクロエもドイツ語を喋れるようになっています。

生半可な知識しかないため、ISの設定を細かく考える事ができませんが、見逃してください...。

感想、待ってます。 

 

第5話「思いのよらない再会」

 
前書き
マドカがヤンデレみたいな感じになりますが洗脳の影響です。本来はただの甘えたがりなシスコン&ブラコンです。 

 


       =桜side=



「...しかし、信じられないな。」

「んー?なにがー?」

  俺は束と共に亡国機業について調べている時、ふとそう呟いた。

「...四季さんと春華さんが千冬達を捨てたなんて。」

「...でも、事実だよ。」

  織斑四季さんと、織斑春華さん。千冬たちの親だった二人は、俺が事故に遭ってから6年近く...ちょうど、束たちが中学に上がった頃に千冬たちを置いてどこかへ行ってしまったらしい。

「何か目的があったのか、今の私でさえ、あの時の二人の考えは分からないよ。」

「そうか...。」

  俺も与えられた知識の中に二人の事は載っていなかった。

「...いい人達だったのだから、何か事情があったと信じているんだけどな...。」

「それは私もだよ。」

  俺や束は二人に結構優しくしてもらったりしていたから、実の家族達を“捨てる”なんて行為はしないはず...。

「....と、これぐらいか。」

「こっちも終わったよー。」

  そうこうしている内に、亡国機業の戦力を調べ終わった。

「じゃ、気持ちを切り替えて。」

「早速明日出発だね!」

  そうと決まれば明日に備えて早めに寝るか。









「...ここか。」

  そして翌日、早速俺たちは亡国機業のアジトの前に来ていた。

「...あの、なんで俺まで...?」

「今は秋十君と俺が戦力だからね。束は自分のISを作ってなかったし、他の皆はバックアップだ。」

【頑張ってねー!】

  早速通信から束の激励が入ってくる。

「俺、対人戦とかやったことないんですけど。」

「そうだな...まぁ、攻撃してきたのを軽く返り討ち的な感じでいいよ。」

「はぁ...?」

  よし、突入開始だ!

「【束、データを随時送るから案内を頼むぞ。】」

【任せて!】

【それ以外のバックアップは私達もします。】

【皆さん、頑張ってくださいね~!】

  クロエとユーリちゃんからの通信も入る。俄然やる気も湧いてくる。

「俺が先陣を切るから、ついてきなよ!」

「あ、ちょっ...!」

  ステルス装置を起動させ、アジトに侵入していく。正面から入ってもいいが、面倒臭いので見つからないようにしている。

「...っと、ストップ。」

「っ...。」

  秋十君を止め、通路の角に身を隠す。そうして通りかかる人をやり過ごし、また進む。





「...ここは...。」

  しばらく同じことを繰り返し、アジト内を監視できる部屋を見つける。

「...秋十君、誰か来ないか見ておいてくれ。俺が行く。」

「大丈夫ですか?」

「なに、すぐ終わらせるさ。」

  非殺傷改造した銃を二丁取り出し、ステルス装置を一時的に解除して突入する。

「っ!?なんだ!?」

「侵入者か!?」

「遅いっ!!」

  室内にいた人たちを一気に撃ち、気絶させる。

     ビーッ!ビーッ!

「ちっ、さすがに判断が速い。警報を発動させたか。」

  撃たれる直前に一人が警報ボタンを押していたようだった。

「とにかく...警報を止めてデータを入手するか。」

「さ、桜さん!どうすれば...!?」

「秋十君、ISを展開して見張っておいてくれ。ただし、正体が分からないようにフルスキンでな。」

  秋十君に指示を出し、コンピュータにハッキングを仕掛ける。

「っと、なかなかに固いな。だが、無意味だ。」

  あっという間にハッキングを終わらせ、警報を止めてアジト内のデータを束に送る。

「よし、もういいぞ秋十君!ステルスを使って移動する!」

「は、はいっ!」

  ステルス装置を起動させ、その部屋から離れる。

「光学迷彩装置も使うか...!」

  ISのエネルギーを少し使うから気が引けるが、四の五の言ってられんしな。

【さー君!あっ君!】

「【どうした束!?】」

  焦ったような声で通信を入れてくる束。

【送られてきたデータを見たんだけど、とんでもない情報があったよ!】

「【なに?】」

【そのアジトの幹部のいる場所の情報と...。】」

  そこまで言って少し言葉を区切る束。そして、続きの言葉が紡がれる。





【...あっ君の妹、織斑マドカがいるって言う情報。】





「な...に....!?」

「マドカ...?」

  秋十君の妹である織斑マドカがここに?

「【束!どこにいるか分かるか!?】」

【...ごめん。そこまでは。とにかく、一度幹部のいる所へ向かって!】

「【わかった!案内を任せる!】」

  幹部の所に行き、幹部を問い詰めればどこにいるかぐらいは分かるだろう。

「秋十君!急ぐぞ!」

「マドカ...が...?」

「秋十君!!」

  呆然としていた秋十君に一喝する。

「何がどうなっているかは、行けば分かる!今は急ぐぞ!」

「...はいっ!!」

  走りだし、束の案内の通りに進んでいく。そして...。





「ここ...かっ!!」

  辿り着いたドアを蹴破る。

「...随分と乱暴な侵入者さんね。」

  金髪の妙齢の女性が出迎えてくる。傍らには一人の女性と、少女がいた。

「敵陣地の扉を蹴り飛ばすのが趣味なんでね。」

  嘘です。さすがにそんな偏った趣味は持ってない。

「...それで、何の用かしら。篠ノ之束。」

「.....どうって事ないよ。ただの取引に来ただけ。」

  やっぱり束に勘違いされたけど、今回はそのままでもいいや。と言う訳で声と口調を変える。

「取引...ねぇ。」

「ま、ちょーっと手荒な感じになっちゃったけどね。」

  ...あれ?秋十君、戸惑ってないな。俺が束の真似してる事に少しばかり動揺すると思っていたが...。....と、思ったら別の事に囚われているみたいだな...。

「...マドカ...?」

「(...なるほど、あの少女が織斑マドカか。確かに、千冬に似ている。)」

  後ろの方に控えていた少女がその織斑マドカだった。

「秋兄?どうしてここに?」

「...それはこっちのセリフだ。どうして亡国機業に....。」

  一見、険悪な仲には見えないけど、よく見ればマドカちゃんの瞳に違和感がある。

「あら、知り合い...と言うより、兄妹だったみたいね。」

「ここに居るのはさっき知ったからね。ついでにどこにいるか聞き出そうと思ってたけど、手間が省けたよ。」

「それで、貴女はどういう取引をしようと言うのかしら?」

  秋十君達を余所に、俺らは会話を進める。

「...簡単な事だよ。この狂ってしまった世界を変えるために、私達と協力しよう。ただそれだけ。」

「協力...ね。それで私達になんのメリットがあるのかしら?」

  取引なら双方にメリットがないとおかしいからな。その質問は尤もだ。

「...あなた達個人にメリットはないけど、“亡国機業”としてはメリットがあるよ。」

「....聞かせてもらえるかしら?」

「調べてみた限り、亡国機業の目的は“恒久的平和”らしいね。そして、今は穏便派と過激派に分かれている。そしてスコール・ミューゼル、貴女は穏便派らしいね。」

  これは昨日の時点で調べがついていた事だ。良く知られている亡国機業のテロ行為はほぼ全てが過激派によって行われている。

「私の名前も当然分かってたのね。」

「本来の目的である恒久的平和とまでは行かないけど、私達は“女尊男卑”と、“ISの密かな軍事利用”の完全撤廃を目的としてるよ。それを達成できれば、そっちの目的にぐっと近づけると思うんだけど。」

「...そうね。」

  もちろん、こんな穴だらけの取引で終わらせる気はない。いざとなれば束に頼りつつ強硬手段に出るかもしれない。

「....取引に応じてみたい所だけど...そちらの戦力、いまいち信用できないのよね。」

「戦力...ね。」

「いくら私達が穏便派でも、戦力を持つに越した事はないわ。」

  それは言えてるね。もし襲撃された時に撃退できなかったら意味がない。

「...じゃあ、試してみる?」

「あら、貴女が戦うの?」

「まさか。最高戦力だけ見ても意味ないでしょ。相手なら、もうここにいるよ。」

  そう言って秋十君を見る。あ、ちなみに俺が最高戦力と言うのはあながち間違いではない。

「...えっ、俺?」

「そうだよ。あっ君が戦うんだよ?」

「いやいやいや。俺、弱いですよ?」

  そう言って戦う事を遠慮する秋十君。

「強い弱いは関係ないよ。...重要なのは、成し遂げる意志だ。」

「っ....!そうでした。」

「うん♪じゃあ、そっちから誰でもいいから相手になってくれる?」

  覚悟を決めてくれて助かるよ。確かな意志を持った秋十君は、俺にも劣らなくなるからな。

「そうね...。なら、こっちはマドカにするわ。」

「...兄妹対決をさせようって事?」

「それもあるわね。...けど、戦う方法を問われていないのが大きいわね。」

  ...なるほど。マドカちゃんにISを使わせる魂胆か。...でも残念。

「ISを使うならどうぞ。....誰も、秋十君がISを使えないとは言ってないから。」

「っ!なんですって...?」

  おお。初めて驚いた顔になったぞ。彼女。後ろの女性も驚いてるし。

「じゃ、頑張ってねー。」

「ちょっと!?丸投げみたいな言い方!?」

「....勝ちなよ。洗脳されてる相手に負けてちゃ、意味がないよ。」

  丸投げみたいな言い方で秋十君の後ろに行こうとした時、耳元でそう言う。

「っ...!...分かってます。マドカだって、いつまでもああなのは可哀想ですから。」

「...いい返事だ。なに、いつも通り、努力の成果を見せる感じでやればいい。」

  秋十君にとって、それがベストな戦い方だ。

「秋兄、ホントに勝てると思ってるの?ISに乗れるのは驚いたけど、どうせ全然使いこなせないでしょ?」

  すると、マドカちゃんがそんな事を秋十君に言い始めた。...洗脳の影響か。

「変に私に逆らわずに、大人しくしてれば許してあげるけど....。」

「っ...お断りだ。俺はもう、惨めな立場には戻らない。勝てる勝てないかじゃない。俺は、この戦いで、マドカ...お前に勝つ!!」

「なっ....!?」

  今まで散々な目に遭ってきたからか、震えていた秋十君だが、面と向かってそう言いきった。そして、その言葉を受けたマドカちゃんはショックを受けたように俯く。

  ....様子がおかしい...。

「...あは...あははは....。」

「っ!秋十君!気を付けろ!」

「アハハハハハハハハハハ!!」

  突然狂ったように笑い出す。マドカちゃん。...おいおい、これも洗脳の影響か?

「あれだけ散々調教したのに、まだ逆らうんだ!!いいよ!もう一度...今度は絶対逆らわないくらいまでボロボロに調教してあげる!!」

「くっ....!」

  狂ったようにそう口走るマドカちゃんに、秋十君は歯を食いしばる。...あんな姿を見たくないのだろう。

「...一時的だが、叩きのめしてしまえ。秋十君。」

「...いいんですか?」

「秋十君も、あんな姿を見たくないのだろう?」

「...分かりました。」

  さすがにマドカちゃんの狂った姿は、相手側も驚くほどだった。

「ほらほら、危ないから避難するよ。」

「っ...それもそうね。そっちに心配されるとは思わなかったわ。」

「あんな風に狂うのは誰だって予想しないよ。」

  用意されていた打鉄に乗って秋十君に攻撃を開始するマドカちゃん。危ないので俺たちはもっと離れる。

「...ここに連れてくる前から何かおかしいとは思ってたけど、まさかここまでとはな...。」

「ええ、私も予想外よ。」

  どうやら、亡国機業側も知らなかったようだ。

「...洗脳はここまで悪影響を及ぼすか...。」

「.....どういうことかしら。」

「彼女は洗脳されてるんだよ。それも、科学的なベクトルじゃなくて、オカルト的な方で。」

  秋十君とマドカちゃんの戦いを見ながらそう言う。

「洗脳....ですって?」

「術者の都合のいいように記憶や認識の改竄がされてるんだよ。...秋十君も、その二次被害で、今まで蔑まれてきた。」

「厄介ね...。」

  戦いに目を移すと、どうやら強さ自体は秋十君が上回っているが、妹相手だからか攻めきれていないようだ。

「くっ...!」

「どうしたの?やっぱり秋兄じゃ私に勝てないんだよ!」

  戦況自体は秋十君の圧勝だが、トドメを刺す事が出来ずに戸惑っているようだ。

「....これでどれくらいの強さか把握できたでしょ?」

「...ええ。そうね。...でも、身内と言うだけでここまで苦戦するのは...。」

  やっぱりそこが不満か。...念のためにコレ(・・)持ってきて正解だな。

「秋十君!」

「っ、なんですか!?」

「これを!」

  秋十君に渡したのは特殊なブレードで、シールドエネルギーを消費する代わりに絶対防御を貫いて操縦者を気絶させる電気を流す事ができる代物だ。

「それなら絶対に傷つける事はない!」

「っ!ありがとうございます!」

  ブレードをキャッチしてお礼を言ってくる秋十君。そして、そのままマドカちゃんに対して構える。

「そんな武器を使った所で!」

「...せぁっ!!」

  突っ込んできたマドカちゃんに対し、きっちりとカウンターを決めた。

「ガッ....!?」

「....ふぅ...。」

  電気が流れ、マドカちゃんは気絶する。

「......はい、解除っと。」

  停止した打鉄にアクセスしてマドカちゃんを降ろす。

「あの、今の武器って...。」

「特別製の非殺傷ブレードだよ。念のために持っておいたんだ。」

  使うとは思ってなかったけど。







     パチパチパチ

「.....おみごと。」

  突然、この部屋にいる人物でない声が聞こえる。

「っ、誰....だ.....!?」

  その声に俺は振り向き、その人物を確認する。そして、驚愕した。

「さすが桜君と言った所か。」

「秋十も、随分立派になったわね...。」

「四季さん、春華さん....?」

  その人物は、千冬たちの両親だった。

【嘘.....?】

  通信で聞いていた束も驚いている。

「総帥!?なぜ、総帥がここへ...!?」

  隣ではスコール・ミューゼルが驚いていた。...え?“総帥”?

「なに、ここに侵入者が出たと聞いてね。興味本位で調べてみたらまさかの知ってる子だったからね。つい来ちゃったよ。」

「まさか組織に乗り込んでくるなんて、さすが束ちゃんと桜君だわぁ。」

  束がバックにいるの普通にバレてるし。相変わらず何者だよこの二人。

「あの....知り合いですか?」

「あー...っと....秋十君の実の親だ。」

「....えっ?」

  俺と二人を交互に見てくる秋十君。...ていうか、あの二人俺が以前会った時と全く見た目が変わってないんだが。10年以上経ってるんだぞ?

「...そう言えば、秋十が物心付く前に出て行ったのよね...。」

「あー...そりゃ、覚えていなくて当然か...。」

「えっ?えっ?」

  話が良くわからなくて混乱する秋十君。

「....一度ゆっくりと話すべきか。」

「桜君、束ちゃんをここに呼べるかしら?」

「えっ、あー...。【どうだ?】」

【一応行けるよ。】

「行けるそうです。」

  あ、でもユーリちゃんとクロエはどうするんだ?

【ゆーちゃんとくーちゃんも連れてくね!】

【えっ?あ、ちょ、束様!?待ってください!】

【ええっ!?なんですかこの人参型のロケットは...って、押さないでください!】

「........。」

  ....向こうで何が起こってるのか大体想像がついた...。

「なんか束ちゃんは相変わらずのテンションだね。」

「いや、なんで通信は聞こえてないのに大体分かってるんですか。」

「勘よ!」

  そんなキッパリ言いきられても。

「...ああもう、お二人には常識が通用しないんでしたね...。」

「そこら辺は君や束ちゃんにも言える事だけどなぁ...。」

「天才的な頭脳を持ってる訳でもないのに予測不可能な事ばかりしてるあなた達よりはマシです。」

  ホント、この二人は何もかもがおかしいからな。俺が事故る前から。

「秋十~!」

「えっ、ちょ、あの....。」

「あ~、赤ん坊からこの状態に至るまでの過程を抱けなかったのは残念だわ~!」

  少し四季さんと話している内に、春華さんが秋十君に抱き着いていた。

「ほら、秋十君が戸惑っているからやめてください。秋十君にとっては、お二人は初対面も同然なんですから。」

「ぶぅ...。そんなの寂しいわよ。」

「...はぁ、とりあえず、束が到着するまで大人しくしてください。」

  ...俺一人じゃこの二人を抑え続けるか分からん。早く来てくれ束...。





 
 

 
後書き
亡国機業の思想は独自設定です。秋十君の両親が関わってますので。
公式でもチートレベルな束と、それに並ぶ桜ですが、一番のチートは実はこの二人だったりします。

感想、待ってます。 

 

第6話「真実」

 
前書き
ちょっと無理矢理な展開になりますが、どうか見逃してください。

 

 


       =遼side=



「さー君、おっまたせー!」

「つ、疲れました...。」

「い、いきなり移動させられるとは...。」

  束たちがここにやってきた。

「やっとか.....。」

「あれ?さー君疲れてる?」

「春華さんが落ち着きない...。」

  事あるごとに秋十君に抱き着くからな。それを抑えるのに苦労する。

「あら、束ちゃん。しばらく会わない内に立派になって...。特にこの辺り(・・・・)が...♪」

「っ....!もぅ!やめてよ!」

  春華さんが束に気付くと、そんな事を言いながら胸の辺りを示す。

「...あの束さんが、恥ずかしがってる...?」

「束の奴、昔から春華さんが苦手気味だったからな...。」

  それは今も変わらない...と。

「...私としては、総帥とあなた達が知り合いって事に驚いてるのだけれど。」

「あれ?知らなかったのか?」

  スコール・ミューゼルが俺にそう言ってくる。

  二人を見知ってるならそれぐらい分かってもおかしくはないはずだけど...。

「総帥を見たのは、数えるほどだけよ。しかも、名前も知らされていないわ。」

「あー、そう言う事。」

  ...あれ?さっきまでの取引的な雰囲気はどこいったっけ?...ま、いっか。

「あら?あらあらあら?」

「えっ...?」

「あ、あの...?」

  束の後ろに控えていたクロエとユーリちゃんに春華さんが近寄る。

「あらあら~?何かしらこの子達。すっごく可愛いのだけど!?」

「落ち着いてください!<スパァン!>」

  いい加減落ち着かせようと、はたく。春華さんの事だから効いてなさそうだけど。

「いっつ~...!さすがに力があるわね...。」

「春華、そこまでにしておくように。...ところで俺も気になるのだが、どういうことだい?」

  四季さんも春華さんを諭しながら聞いてくる。

「くーちゃんは私が、ゆーちゃんはさー君が拾ってきたよ!」

「保護したの間違いな。」

  後、名前が愛称だと分からん。

「...なるほど。」

「大体わかったわ。」

「ちなみに名前はクロエ・クロニクルとユーリ・エーベルヴァインですからね。」

  事情は大体察したらしいので、名前だけはちゃんと教えておく。

「あなた達が実験体だった子と、家に捨てられた子だったのね?」

「「えっ....?」」

  春華さんがそう二人に言い、二人は困惑の声をあげる。...ちょっと待て。

「春華さん、もしかして二人の事知ってたんですか?」

「これでも組織の総帥よ~?これぐらいは知ってるわ。」

  ...それだけであっさり分かるもんか?亡国機業、侮れないな。

「そういえば、君達は結局、どうしてここへ?」

「...あ、そうだった。えっと―――」

  軽く二人にも説明する。





「―――という訳です。」

「なるほど...。よし、協力しよう。」

  さすがに立場があるから早々協力してくれるわけ....えっ?

「...即決ですね。」

「そろそろ本格的に動こうと思ってた所でね。」

「二人が協力してるなら私達亡国機業穏便派も協力するわぁ。」

  ...理由が軽い...。まぁ、この二人には何を言っても無駄だな。

「そんな簡単に決めてよろしいのですか?」

「いいよいいよ。この俺たちがいなかったらこの二人も警戒してただろうけど、俺たちがいるからには互いに心を許せるようになるだろう。」

「...あながち否定する所がないのが悔しいな。」

  二人共、俺と束とは違ったベクトルのチートですからね。

「洗脳された千冬たちを解放するのにも、桜君の力が不可欠だからね。」

「...洗脳の事、知ってたんですか。」

  もう、驚かん。

「自分達の子供の事なんだから、知ってるわよぉ。」

「...さすがに、こうやってマドカを亡国機業に連れてきても解除はできなかったけどね。」

  ...まぁ、科学的な洗脳じゃなくて、オカルト的な洗脳だからな。

「あ、でもさー君なら洗脳を解除できるんじゃないかな?私の時もそうだったし。」

「なに?それは本当かい?」

  あっさり暴露する束の言葉に、俺に詰め寄る四季さん。

「....できますが、条件があります。」

「それは....?」

「....洗脳された人物が、洗脳される前の印象に残っている出来事を思い出す事です。」

  厳密には、思い出すというより切っ掛けにするんだけどな。

「なるほど...。」

「...秋十、マドカの強く印象に残ってそうな思い出とか分からない?」

「え、えっと....。」

  未だ親だと実感が湧かないのか、戸惑いつつもマドカちゃんについて思い出そうとする。

「....分かりません...ただ、仲良くしていただけしか...。」

「...私みたいに、キーワードとかがないと難しいかな...?」

  秋十君の答えに、束もそう言い、諦めムードになる。

「......秋十君、仲良くしていた時に具体的に何をしていたか覚えてるか?」

「何を...?...えっと...ゲームしたり、一緒にテレビを見たり...。」

  思い出しながら呟いていく秋十君。

「...偶に、膝枕とかしてたっけ。...懐かしいな...。」

「「「「っ、それだ!!」」」」

  最後に言った言葉に、俺・束・四季さん・春華さんが一斉に反応する。

「それだよあっ君!」

「さぁ、今すぐマドカに膝枕をしてあげなさい!」

「えっ?ええっ!?」

  捲くし立てるように言う束と春華さんに秋十君はタジタジになる。

「秋十君、膝枕がおそらくキーになると思う。」

「そ、そうですか...?」

「ああ!俺の勘がそう言ってる!」

  四季さんも便乗してそう言う。

「仲良くしていて、偶に膝枕をする仲だったんだろう?秋十君、君が膝枕をしている時、彼女はどんな顔をしていた?」

「えっと....安らかって言うか....顔が緩んだみたいな感じでした。」

  ...うん。表現がおかしいけど大体わかった。

「つまり、彼女は膝枕で安らいでいたと思う。だから、膝枕をするんだ。」

「なんでそうなるんですか!?」

「いや、だって他に印象に残りそうな思い出とかないんでしょ?」

「うっ...そうですけど...。」

  ...あー、もしかして人前だからあまりやりたくないのか?

「...よし、秋十君以外外に出よう。」

「...なるほどね。さぁ、出るわよ。」

  俺の考えをあっさり汲み取った春華さんが皆にそう指示する。

「えっ?あの、桜さん?」

「じゃあ、二人っきりにしといてあげるからごゆっくり~。」

「えええええええっ!!?」

  驚く秋十君を余所に俺たちは一旦部屋の外へ出た。

「(...後は伸るか反るか...だな。)」

  それまでゆっくり待つか。









       =マドカside=





   ―――....心地の良い、感覚がした。



「(...懐かしい....?)」

  覚えのない。そのはずなのに、妙に心地が良かった。

「(..ここ...は....?)」

  ふわふわ。ふわふわと。まるで水の中を漂っているような空間。

「(....夢....?)」

  こんな空間、ありえるはずがない。ISとかがあってもこんな空間は創りだせないはずだからだ。

「(...そうだ。私は....。)」

  さっきまで、何をしていたのか思い出した。

「(なんで...なんで、私は負けたの?)」

  あんな出来損ないの兄に、どうして負けた?

   ―――...出来...損ない...?

「(...本当に、そうなの?)」

  自分で思って自分で違和感を持った。本心から、そう思っていたのか?

「(違う...何かが、違う...!)」

  否定するように考えを巡らすと、ふと記憶が蘇ってくる。

   ―――「秋兄ー!」

   ―――「マドカ、どうしたんだ?」

   ―――「えへへー。呼んでみただけー!」

「(...これ...は....!?)」

  秋兄と、仲良くしている私の記憶。まだ小学生になった頃の、私が知らない記憶だった。

「(知らない...!知らない...!あんな、出来損ないと、仲良くしてるなんて...!)」

   ―――本当に?

「(あいつは、私が教育してやらないと、ダメな出来損ないなんだ!)」

   ―――本当に、そうなの?

  囁くような“私”の声と、私の叫びが響き渡る。

「(私が、私があんな奴にあんなやつに...!)」

   ―――...思いだしなよ...。

「(嫌だ..!嫌だ嫌だいやだいやだいやダいヤだイヤダイヤダイヤダイヤダ...!!)」

   ―――.......。

  壊れたように否定し続ける私に、“私”は黙り、溜め息を吐く。。

   ―――...しょうがないなぁ...。

「(イヤダイヤダイヤダ...!いやd......ふえっ....?)」

  途端に、最初の心地いい感覚に包まれる。

   ―――ほら、懐かしいでしょ?

「(あ.....。)」

  懐かしい感覚と共に、記憶が思い出されていく。

  秋兄と共に遊んだ記憶。仲良くしていた記憶。出来損ないと呼んだ時、実は心が痛んでいた事。それらが思い出されていく...。

「(...そうだ...私...は.....。)」

   ―――やっと、思い出したんだね...。

「(...っぐ...ぁああああああああ!!?)」

  思い出したのも束の間、突然私は激しい頭痛に見舞われる。

   ―――記憶の強制改竄による妨害!?くっ...頑張って...!

「(あ...ぁあ...ああぁ....――――)」

   ―――あなたは私で、私はあなた。これさえ乗り越えれば、きっと....。

  その声が薄れて行くと同時に、私の意識も薄れて行った...。











       =桜side=





   ―――あああああああああ!!!?

「マドカ!?」

  突然、部屋の中から聞こえてくる悲鳴に、四季さんが反応する。

「...俺が行きます!」

「っ...任せたよ、桜君!」

  もしかしたら束のように洗脳に抵抗しているかもしれない。だから俺が先行した。

「<ガチャッ!>秋十君!無事か!?」

「さ、桜さん!マドカが...マドカが!」

  部屋の中では、壁際で秋十君が驚愕した様子で尻餅をついており、マドカちゃんは頭を押さえながらのた打ち回るように苦しんでいた。

「任せろ!」

  束の洗脳を解いた時の感覚は一応覚えている。...確か....。

「こう!....だったはず。」

「桜さん!!?」

  お、覚えてると言ってもあの時も感覚だけでやったし...。

     ―――カッ!

「ほ、ほら...。」

「...これからは曖昧な感じでやらないでください。」

  ....反省してます...。いや、でも使い方知らないし...。

「...と言うか、これだけでいいんですか?」

「...束の時も同じだったさ。洗脳に抵抗もしていたみたいだし、後は目を覚ますのを待つだけだな。」

  そういえば、地味にこの能力の使い方は知らないんだよな。





「....う....ん....?」

  しばらくして、マドカちゃんが目覚める。

「こ..こは....?」

「マドカ...目が覚めた?」

  再度膝枕をしていた秋十君がマドカちゃんを心配してそう言う。

「あっ、秋兄!?」

  膝枕された体勢から驚きの声を上げるマドカちゃん。...この様子だと洗脳はちゃんと解けたか?

「わ、わたっ、私....!.....はふぅ....。」

「....洗脳は、解けたんだな...。」

  慌てたように声を上げた直後、気の抜けた声を上げるマドカちゃんに、秋十君も洗脳は解けたのだと安堵の息を漏らす。

「っ....!」

  “洗脳”という言葉に反応して、マドカちゃんは飛び起きる。

「マドカ?」

「ごめんなさい....ごめんなさい...!」

  突然、秋十君に謝りだす。...そうか、洗脳されてる時の記憶もあるんだったな...。

「私...私、秋兄に今までなんてことを...!」

「マドカ....。」

  泣きじゃくるようにそう言うマドカちゃんに、困った顔をする秋十君。

「ごめんなさい...ごめんなさい....ごめんnふえっ....?」

「.....。」

  懺悔するように謝り続けるマドカちゃんと秋十君は抱きしめる。

「...いいんだ。俺は、マドカが戻ってきてくれただけで、いいんだよ...。」

「秋....兄....?」

  優しく諭してあげる秋十君に、マドカちゃんは若干戸惑っているようだ。

「ぁ....。」

「....お帰り、マドカ。」

「....うん...ただいま...!」

  家族の一人がやっと戻ってきた。それが嬉しいのだろう。秋十君は涙を流してそう言った。マドカちゃんも、その想いが分かったのか、同じように涙を流しながら返事を返した。

「(...いい雰囲気なんだが...。)」

  俺、蚊帳の外だしな...。

「(それに...。)」

  部屋のドアを開ける。

「うん、うん...感動的だ...!」

「良かったわ...!」

  そこには、二人の両親が涙を流しながらそう言っていた。

「(...事情の説明がてら、この人達も何とかしないとな...。)」

  ふと束の方を見ると、同じような事を考えていたのか、苦笑いをしていた。

「(...ま、嫌な気はしないけどな。)」

  そんな事を考えつつ、俺は秋十君達の方へと歩いて行った。









 
 

 
後書き
この小説では束が大人しめな代わりに、オリキャラの春華さんがはっちゃけてます。
原作の束らしさは春華が吸収してる可能性が微レ存...?

後半のマドカ視点は所謂精神世界での本当の自分との問答です。原作にも精神世界(?)が出てくるし、別におかしくないよね。(白目) 

 

第7話「母親」

 
前書き
次回か次々回辺りに一気に展開が進みます。(予定では。)
というか、そろそろ原作に入らないと...!
 

 


       =桜side=



「―――...そっか。そういう事だったんだ...。」

  マドカちゃんにとりあえずこれまでの事を簡単に伝える。

「...ありがとうございます。」

「いいよ。俺だって、こんな世界は望んじゃいないしな。」

  お礼を言ってくるマドカちゃんに、俺は四季さん達を抑えながらそう返事する。

「...後は千冬ね...。」

「...千冬姉だけじゃありません。俺の幼馴染も...。」

  洗脳されている人は、後三人。千冬と秋十君の幼馴染である束の妹の箒ちゃんと、鳳鈴音(ファンリンイン)だな。他の人は別にいいと放置されているから洗脳を受けていないようだ。...助かったな。

「だけど、まずは俺たちが自由に動ける土台を作っておかなければなりません。」

「それで会社...という訳だね?」

  俺の言葉に続けるように四季さんがそう言う。

「はい。もう、設立する準備は整っています。後は、社員がいれば...。」

「それでここって事だね。」

  既に協力してくれると言っていたので、今からでも協力するのだろう。

「世界を変えるため、やるぞ。」

「オッケー!皆、いっくよー!」

  そう言って束が先行して外へと走っていく。いや、なんでだよ!?







   ―――...とまぁ、ぐだぐだだが会社を設立させた訳で...。









       ~数か月後~





「これはこうで、ここはこうして...ああもう!」

  事務処理なう。数が多すぎる...。いや、会社は繁盛してるんですけどね?

「少人数なのに活躍しすぎたか...。」

  テレビには俺たちが立ち上げた会社の事がまた紹介されている。

  突如現れた会社“ワールド・レボリューション”。世界を革命するかのように突然現れた俺たちの会社は、まずISの格納領域を利用した製品を販売して最初は地道に稼いだ。

  それからも地道に活躍すれば良かったのだろうが...なんと束がやらかして第三世代の量産機“夢想”を発明した事を会社として発表してしまったのだ。

「ぽっと出の会社が第三世代を発表だもんなぁ...。...ま、量産機と言っても今の世界じゃ、量産しづらいけどさ。」

  理論的には量産機だが、開発するのに今の世界じゃ費用が高くて難しいとのことだ。結局は量産機として各国に輸入された訳じゃないからよかったが...。

  あ、ちなみに発表したのは束本人ではなくて、世間上社長として存在している篠咲有栖(しのざきありす)(実際はそんな人物は存在せず、中身は束。)が発表した事になっている。

「....よし、終わり...!」

  一段落付けるぐらいには書類を片づけ、一息つく。

「ふぅ....。」

  この会社では今の所特に社長とかが決められていない。...近いうちに決めるんだけどね。だから、書類関係を俺がやってた。

     コンコン

「?どうぞー。」

  ドアをノックされたので、入室を許可する。

「束か。どうしたんだ?」

「えっと、さっき思ったんだけどさ...。」

  入ってきたのは束で、何か用があるみたいだ。

「なんだ?」

「...桃花(ももか)さんには、合わないの?」

「っ.....!」

  束の言う桃花...俺の母親の事だ。残念ながら、父親の方は俺が物心つく前に事故で亡くなっていたが、母さんはずっと俺を大事に育ててくれていた。

「桃花さん、さー君が事故に遭ってからずっと塞ぎこんでてさ...。」

「そう...か....。」

  話を聞けば、束が洗脳される前から抜け殻のようになってて、生きる最低限の事してしないようになってしまっているらしい。

「....行かなくちゃな。」

「さー君?」

  立ち上がり、そう言った俺に束が疑問の声を上げる。

「...今まで、散々心配をかけてしまったんだ。早く帰って安心させてやらなきゃ。」

「...そうだね。」

  どうして今まで家に帰ろうとしていなかったんだろうか。...とんだ親不孝者だな。

「ちょうど仕事も一段落ついたんだ。早速行くよ。」

「分かったよ。」

  さぁ、久しぶりに帰宅だ。









「.....懐かしいな....。」

  久しぶりに帰ってきた自宅の前で俺はそう呟く。体感時間では半年ぐらいしか経ってないが、実際は十年以上経っている。

「母さん....。」

  自宅の雰囲気は変わってしまっていた。玄関前にはごみ袋が大量に置いてあるし、心なしか家そのものがどんよりしている。

「さー君...。」

「...大丈夫。」

  心配でついてきた束が俺を心配する。そんな束に俺はそう返事しながらインターホンを鳴らした。

     ピンポーン

「.......。」

「.......。」

  ....出ない。出る気力もないのか...。

「母さん...。」

「...どうするの?」

「...どうするもなにも、家に帰ってきたんだ。やる事は一つさ。」

  玄関のドアに手を掛ける。...鍵は、かかっていない。

「―――ただいま。」

  扉を開け放ち、俺ははっきりとそう言った。

「.....静か、だね。」

「ああ....。」

  床も薄汚れてしまっている。ずっと、掃除していないのだろう。

「束、上がっていいよ。」

「...うん。」

  靴を脱ぎ、リビングへと向かう。多分、そこにいるのだろう。なんとなく、そう思えた。

「...母さん。」

「桃花さん...。」

  リビングに入り、ソファーに座っていた母さんに話しかける。

「...ぇ.....?」

  ゆっくりと、俺の方を振り返る母さん。

「っ....ただいま、母さん....!」

「さく....ら.....?」

  生命力そのものを失ってしまったかのような母さんに、俺はいてもたってもいられず、涙を流しながらそう言った。

「さく..ら...?本当に、桜なの...?」

「あぁ、ああ...!俺だよ..!母さんの息子、桜だよ...!」

  体に手を触れた瞬間に、母さんは相当弱っている事が分かってしまった。

「...よかった...また...あえ...た.....。」

「...母さん...?母さん!?」

  安心したのか、眠るようにソファーに倒れこんでしまう母さん。

「....さー君、まずいよ...!」

「っ....!」

  衰弱している。このままだと死んでしまうだろう。それだけは、何としても阻止しなくては...!

「束!何とかできないか!?」

「確か、さー君のために作っておいた治療ポッドを再開発しておいたから、それなら!」

  束に聞いてみると、俺を10年以上生かしたポッドが再開発されていたようだ。

「急ぐぞ!」

「うん!!」

  母さん...!せっかく再会できたんだから、死なないでくれよ...!





「身体の衰弱、栄養不足・運動不足による身体機能の低下...よくこれで生きてこられたな...。」

「ホントだよ...。間に合ってよかったぁ...。」

  何とか会社に連れてくることに成功し、母さんを緊急治療する。

「....外傷がメインのこの治療ポッドじゃ、これ以上は治せないよ。」

「衰弱は俺たちで何とかする...か。」

  母さんをポッドから出し、束とクロエに服などを任せる。

「桜さん、あの人は....。」

「俺の、母さんだよ。」

  秋十君とユーリちゃんが俺の所に来てそう聞いてきたので、簡潔に答える。

「ずっと、俺の帰りを待ってて、自分の体調管理もしてなかった...本当、バカな母さんだよ.....。」

「桜さん....。」

  涙が溢れてきて二人に心配される。....あんなになってまで俺の帰りを待っててくれたんだ..。あの母さんは...。

「....っ、俺らしくないな...。ちょっと、行ってくる。」

「行くって...どこにですか?」

「母さんのための食事だよ。衰弱してるからな、ちゃんと栄養を取らせないと。」

  そのための料理のレシピは頭に入っている。うん、大丈夫だ。





     コンコン

「入っていいか?」

「さー君?いいよー。」

  それからしばらくして、俺は母さんのいる部屋をノックしてから入る。

「....母さん。」

「桜....本当に、桜なのね....。」

「母さん....!」

  涙が溢れ、止まらなくなる。

「...どうして...どうしてこんなになるまで...!一歩遅かったら、死んでたかもしれないんだぞ!?」

「...ごめんね...桜....。」

「心配してたのは分かるけど、こっちまで心配させないでくれよ....!」

  母さんの寝ているベットに手を叩き付けながらそう言う。

「本当にごめんね...。...それと、帰ってきてくれて、ありがとう...。」

「っ....ぅううぅううう....!ぁああああぁああ...!!」

  涙腺が決壊する。弱々しくも撫でてくる母さんの手に、俺は居た堪れない気持ちで一杯だった。

「ごめん...!母さん...待たせて、ごめん...!」

「いいのよ...こうして、ちゃんとまた会えたんだから...。」

  誰にも邪魔されない中、俺は母さんに撫でられながらしばらく泣き続けた。





「....落ち着いたら、お腹が減ってきちゃったわね。」

「ぐすっ....恥ずかしい所見せてしまった...。」

  しばらくして泣き止んだが、黒歴史にしかならないと思う。

「......。<ニヤニヤ>」

「...あ゛。」

  しまった。この部屋には束がいるんだった...!

「....そぉい!!」

「ぬわっふぅ!!?さー君!?顔、顔を蹴るのはやめて!?」

  全力で顔にハイキックをお見舞いするが、躱される。...チッ。

「そのにやけた面、もしくは記憶をどうにかしたくてな...。大人しく蹴られろ!」

「さすがに束さんでもそれは嫌だよ!?って、戦闘態勢に入らないで!?」

  なんでよりによって束に見られたし...!

「...ふふ...相変わらず仲良しで安心したわ...。」

「....はぁ、束、絶対ここで見たことは誰にも言うなよ?」

  母さんの一言になんとなく蹴る気が失せた。

「うーん、どうしよっかなぁ~?」

     ヒュン!

「い・い・な?」

「はい....。」

  今度は手刀を顔ぎりぎりに繰り出して脅す。...さすがに俺が本気だと分かってくれたか。

「...まったく。」

「あれ?さー君どこ行くの?」

「ちょっと取ってくるものがあるから行ってくる。」

  一度部屋を出て、俺はさっき作っておいた食事を取りに行く。





「...はい、母さん。」

「あら?これ、桜が作ったの?」

「まあな。母さん、今は体が弱ってるんだから、早く回復できるようなレシピを選んだつもりだよ。」

  少し量が多めだが、今の母さんにはこれくらい食べてもらわないと困る。

「ちゃんと食べて、早く回復してくれよ。」

「あら、今度はどこに行くの?」

  また部屋を出て行こうとする俺に母さんはそう聞いてくる。

「...これ以上、ここにいたら色々と決壊しそうだからさ、ちょっと適当な作業をしてくる。」

  つまりはただの照れ隠し。一緒にいるだけでまた涙が溢れてくるだろうし。

「...母さん。」

「...?何かしら?」

「....ただいま。」

「ふふ...お帰りなさい。」

  その会話を最後に、俺は部屋を出て行った。





「はぁっ!」

「せやあっ!」

  秋十君が、最近は秋十君にべったりするようになったマドカちゃんと模擬戦しているのを横目に、俺は束の話していた。

「やっぱり、その内俺の名前を公開するのなら、母さんも会社に入れておいた方がいいと思うんだ。」

「それもそうだね...。一応、世間には事故死した扱いだったから、色々と騒ぎになるかもね。」

  俺の名前を公開するタイミングは、おそらく男性操縦者としてだろう。なら、余計に母さんをそのまま家に置いておくわけにはいかない。

「幸い、家は会社に近いからな。最悪護衛だけでもいい。」

「うん。...よし、じゃあ早速...。」





  色々と弄り、母さんはこの会社の社員となった。どうやら、俺が死んだことになってから職も失っていたらしい。

「社員になったのはいいけど、何をすればいいのかしら?」

「母さんは特に技術面とかで優れてる訳ではないからな...。でも、料理とかは上手いし、この際食堂のスタッフはどうかな?」

  ちなみに優れてないだけで普通にプログラムとか組める。

「...それもそうね。よーし、腕を振っちゃうわよ。」

「久しぶりの母さんの料理、楽しみにしてるよ。」

  自然と頬が緩む。楽しみだな。







 
 

 
後書き
今回はここまでです。料理関係の描写はありません。

ひっどい無理矢理展開だ。(自虐)...というか蛇足すぎますね。
正直、桜の母親の描写は必要ない気がしました。でも生きているんだから再会しとかないと...ね?
ちなみに桜は母親に弱いです。一つくらい桜に弱点がないとね。 

 

第8話「ユーリとドイツにて」

 
前書き
今回もリリなのキャラが出ます。(サブキャラですけど。)ご了承ください。 

 


       =桜side=



「ユーリちゃん、ついに完成したよー。」

「えっ?完成...ですか?」

  母さんが社員になってから一ヶ月程経ち、俺はふとユーリちゃんに話しかける。

「そうそう。ユーリちゃんの専用機。」

「私のですか!?」

「...と、言っても、実験機で合わなかったら変わるんだけどね。」

  ユーリちゃんの実験機に組み込んでいるのは、他のISには全くありえないモノだ。それは、優しいユーリちゃんなら使いこなせる...いや、仲良く(・・・)なれるかもしれない。

「じゃあ、ちょっと研究室に来てね。」

「は、はい。」

  あの二人(・・・・)がはっちゃけた結果の機体だからなぁ...。俺も少し不安だ。





「おーい、連れて来たぞー。」

「...そういえば、新たに何人か社員にしたんでしたっけ?」

「ああ。職を失っても研究心とかは失ってなかったからな。スカウトしてきた。」

  俺の呼びかけに白衣を着たいかにも研究者な人物が二人出てくる。

「やぁ桜君。ちょうど最終確認も終わった所だよ。」

「さぁ、これでいつでも乗れるよ!」

  優しい父親のような印象を持つ黒髪の男性と、テンションが高めの残念イケメンな男性。どちらも既婚者なのだが、職を失って好きな研究もできていなかったらしい。あ、夫婦仲は女尊男卑になる前と変わらず良いらしい。

「グランツさん、ジェイルさん、この子が操縦者です。」

「よ、よろしくお願いします!」

  ユーリちゃんはこの二人とは初対面だからな。ちょっと緊張しているか。

「紹介するよ。こちらが、グランツ・フローリアンさん。そして、もう一人がジェイル・スカリエッティさんだ。ちなみに、研究生時代の同期らしい。」

「いやぁ、職を失った時はどうしようかと思ったけど、運が良かったよ。」

「ククク...ここなら大いに研究ができるからね。」

  ちなみにジェイルさんの夢は世界征服らしい。...尤も、悪役的な意味じゃないけど。

「じゃあ、早速機体に乗ってみるか?」

「は、はい...。」

  俺がそう言うと、グランツさんが機体を出してくれる。白を基調とし、紫の模様がある機体だ。紫の模様には赤い炎のような模様も混ざっている。

「通称“番外世代”と呼ばれる機体、エグザミアだよ。」

「番外世代...?」

「ISに必要ではないものを搭載しているからね。今までの、そしてこれからの世代にもないような試みをするから“番外”なんだ。」

「なるほど...。」

  だからこそ、専用機ではなく実験機となっているんだよな。

「...あの、その搭載したものとは...。」

「乗ってみれば分かるよ。」

「は、はぁ...?」

  とりあえず、機体に乗るユーリちゃん。既に初期化は済ませてあるから後は最適化を待つだけだな。

「一応、オープンチャンネルにしておいてくれ。こちらからも上手く行くかが見てみたいんだ。」

「分かりました。」

  そう言ってISを装着し終わる。

〈装着が完了しました。〉

「...えっ?」

  すると、落ち着いた感じの少女の声が聞こえてくる。

〈操縦者検索....ユーリ・エーベルヴァイン様ですね?私はエグザミアに搭載されているAIの一人、シュテルと申します。〉

「AI...ですか?」

  AIの割には流暢に喋るシュテル。...ま、これがこの機体の特徴なんだけどね。

「そう!このエグザミアには、我々の技術の粋を集めた、最新のAIを搭載しているのだよ!」

  突然白衣をマントのように広げ、解説を始めるジェイルさん。

「自己学習能力を付け、操縦者をサポートする。さらには個性的な性格も付けてある!いつかは、そのAIを利用した装備も作って見せよう!」

〈ちなみに、既に私の他に二人搭載されています。お会いになりますか?〉

「あ、お願いします。」

  テンション高いなジェイルさん。シュテルとの温度差が凄い。

〈やっほー!ボクはレヴィだよ!ユーリ、よろしくね!〉

〈我はディアーチェと言う。そなたが盟主にふさわしいか、見極めてやろう。〉

「は、はい、よろしくお願いしますね!」

  確かに個性的だな。落ち着いた感じのシュテル、元気っ子なレヴィ、偉そうなディアーチェ。...ただ、少し気になるところが...。

「ちょっと聞きたいんだけど、どうして全員女性のAI?」

「あぁ、一応理由はあるよ。」

  あ、あるんだ。決して趣味とかじゃないんだ。

「個性的なのはジェイル君が考えたんだが、操縦者からすれば、女性のAIの方が付き合いやすいと思ってね。」

「...なるほど。操縦者は女性だから、同じ性別である女性のAIの方が何かと都合がいいと。」

  ユーリちゃんみたいな人見知りでも、同じ女性AIなら親しみやすいだろう。

「あ、そうそう。ユーリちゃん、その機体にはAIの仮想姿を映し出す機能があるんだ。使ってみてくれないか?」

「は、はい。....えっと...これ、ですね。」

  すると、ユーリちゃんのISを囲むように空中に三つのディスプレイが表示される。

  短めの茶髪に蒼い瞳、冷静な面持ちの少女がシュテル。水色の長めのツインテールに紫の瞳で、天真爛漫な雰囲気を持つのがレヴィ。短めの黒のメッシュが入った銀髪に碧眼で、偉そうにしているのがディアーチェだろう。

「...全員、ユーリちゃん達と同い年くらいの見た目だな。」

  少しジト目でグランツさんとジェイルさんを見る。

「い、いや、僕は容姿の設定はそこまで関わって...。」

「美少女の容姿の方が映えるだろう?」

  ...ダメだこの人、変態だ...。

「...とにかくユーリちゃん、動作チェックを済ませてくれ。」

「はい。」

〈装備や機能は私から説明させていただきます。〉

  会話していた間に最適化も終わり、一次移行が終了する。そして、ふわっと宙へと浮かび上がる。

「っとと...IS関係の仕事をしてたからか、飛ぶのは上手くできましたー。」

〈凄いですね。初めてとは思えない程です。〉

  ...うん。順調だな。



  こうして、しばらくエグザミアの動きを調べ、めでたくユーリちゃんの専用機となった。
  いくつか特殊な機能があったが、それはまた後述しよう。









「ドイツへ?」

「うん。さー君とあっ君、そしてゆーちゃんでドイツの研究所を潰してきてほしいんだ。」

  ユーリちゃんが専用機を使うようになってからさらに一ヶ月。束にいきなりそう言われた。

「違法研究所を潰すのは分かるが...なんで秋十君とユーリちゃんも?」

「うーん...そろそろ二人にも世界の裏側を見てもらいたくてね。ちょっとひどい事かもしれないけど、今回選んだ研究所は比較的防衛システムの水準も低いし、いざとなったらさー君が守ってくれるでしょ?」

  確かに、荒事は俺たちで受け持ってるからな...。そろそろ体験させるべきだが...いきなり違法研究所かよ...。しかもユーリちゃんの故郷。

「...2人がいいって言うのならいいが...。」

「あっ、二人ならもう許可は取ってあるよ。」

「いつの間に!?」

「さー君が作業に没頭してる時~。」

  ...はぁ。二人がいいのなら仕方ないか...。

「...分かったよ。だけど、安全第一な。」

「りょーかい!バックアップは任せて!」

  あーもう、どうしてこうなる...。







「....ふぅ。何とか終わったな。」

「はぁ~....。」

「.........。」

  研究所を潰し、俺はそう呟く。...秋十君も肉体精神共に疲労しているし、ユーリちゃんに至っては顔色が悪い。

「...やっぱ、早すぎたか?」

  二人共、年齢的にはまだ中学生だ。人間の黒い所を実際に見るのには精神的に強さが足りないのだろう。

「人体実験による“バケモノ”の製造。...被験者に生存者はいない...か。」

「ごめん....ごめんよ....!」

  束から貰ったデータによると、孤児などを攫って実験体にして、所謂キメラのような生物を誕生させようとしていたらしい。...失敗作しかできなかったようだが。
  残念ながら、理性も何もかもを失くした被験者しかいなかったため、殺すしかなかった。秋十君は、その子達を助けられなかった事を悔やんでいるようだ。

「(ISのようなものができても、こんな研究はあるのかよ...。)」

  研究者も狂ったような奴らばっかりだった。一応、逃げられないように捕縛して放置しておいたが。

「【...おい、束。】」

【....ごめん。私も早すぎたと思ってるよ。】

  さすがに束も反省しているのか、謝ってくる。

「【...とりあえず、何とかするから、お前は言い訳もしくはケアの準備をしておけ。】」

【りょーかい。...って、ちょっと待って!】

  二人を一時的にでも立ち直させようとすると、束が何かに気付く。

【今、そっちに複数のISが向かってるよ!これは...ドイツIS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼ!?】

「マジかよ....!?」

  あのドイツのか!?...ってやば、俺の想起にも反応が出てる。

「すまんが二人共、今すぐ行動しなければ...!っ!」

     ビシッ!

  移動しようとした瞬間、俺たちの近くに弾丸が着弾する。

「(威嚇射撃か...!)」

「貴様ら!そこで何をしている!」

  あっという間に包囲される俺たち。さすが軍人。行動が早い。

「え、ちょ、桜さん、どうするんですか!?」

「...あまり不審な行動はしないようにな。」

  さて、突破する事自体は可能だが...。

【ラウラ・ボーデヴィッヒ....。...ごめんさー君、一度抵抗せずにじっとしててくれない?】

「【...?なんでだ?...って、何か考えがあるのか。分かった。】」

  束の指示通りするため、両手を上げて無抵抗のアピールをする。視線で秋十君とユーリちゃんにもそうするように指示する。

「...動くなよ?ISを使おうとすれば、即刻撃つ。」

「はいはい。」

  軽くボディチェックされた後、縄で拘束されて尋問される。

「さて、ここで何をしていたか聞かせてもらおうか。」

  そう言って銃を突き付けてくるのは銀髪に右目は赤目で左目は黒い眼帯の少女。

「何をしていたかって言われてもね...。研究所潰し?」

「ほう...。おい、調べてこい。」

「「「はっ!!」」」

  少女は他の隊員に指示を出し、研究所跡を調べさせる。

「(この身なりで隊長なのか...。クロエに似ているな...。)」

  銀髪なのと、容姿などがどことなくクロエに似ている。...まさか、彼女がラウラ・ボーデヴィッヒ?だとすると、束が待つように言ったのも納得だな。

「....遺伝子強化試験体...。」

「っ....!」

  俺がボソリと呟いた言葉に彼女は反応する。...これは当たりだな。

「貴様...それをどこで....!」

「なるほど。クロエに言わせてみれば、“成れなかった自分”って訳か。」

「答えろ!!」

  おお、怖い怖い。眼帯をしているのは、ヴォータン・オージェを隠すためか?

「別にただ、知ってる奴にあんたと似ている奴がいてさ、その子がそんな実験によって生まれた失敗作だったってだけの事さ。」

「...なに.....!?」

  自身と同じような境遇の人物がいる事に驚くラウラ。

「貴様らは一体....!」

「...一応、自己紹介しておこうか。俺は神咲桜。こう見えても男だからな。彼女はユーリ・エーベルヴァイン。そして、織斑秋十君だ。」

  軽く紹介をしておく。束が俺に留まるように指示したからには、何も情報を与えずにいるのは危険だしな。...想起が使えないから束のバックアップも使えないけど。

「...織斑...だと?」

「うん?...あぁ、そうか。」

  千冬は以前にドイツに教導しに行ってたんだっけ?洗脳されてる状態だから、例え秋十君の事をどうとも思ってなくても教導はしたんだな。

「貴様...まさか織斑千冬教官の弟だとは言わないよな...?」

「えっ...?」

  俺をそっちのけで秋十君に直接聞きに行くラウラ。

「答えろ。」

「....俺は...俺は、確かに千冬姉の弟だ。...だけどな、それ以前に“織斑秋十”って一個人だ!ただの付属品とかじゃない!」

「そうか。」

  秋十君は千冬が洗脳される前から比べられて、付属品のように見られてたからな...。だから、“織斑千冬の弟”という肩書きで見られたくなくてそう言ったのか。

     パァアン!

「っ....!?」

「そこだけは同感だな。私は貴様を教官の弟だとは認めない...!」

  すると、ラウラが思いっきり秋十君の頬を引っ叩いた。

「なんだと..?」

「教官の汚点である貴様を、私は絶対に認めない!」

  ...あぁ、そう言う事か。貰った知識と照らし合わせると、秋十君とラウラの関係は“原作”の一夏と少し同じような状態になっているのか。

「...そうかよ...!」

「っ!?」

     バシィッ!

  いきなり秋十君は立ち上がり、仕返しとばかりにラウラを引っ叩こうとする。さすがに相手が軍人と言うだけあって防がれたが。

「..お前に何が分かる。千冬姉と比べられ、蔑まされ、それでも必死に追いつこうとしてきた俺の気持ちが!お前なんかに何が分かる!!」

「ぐっ....!」

  ...あー、まぁ、秋十君にも思う所があって、ラウラは琴線に触れたって訳か。

「ストップ。ストップだ。」

「っ...すみません、桜さん。」

  いくら絶望の淵に立たされた事があったからって、やっぱり感情的な所があるんだな。秋十君は。

「...あー、そっちの隊長さんは、秋十君を認めたくない。対して秋十君は自分の気持ちが分かってない奴に好き勝手言われたくない....。...だったら、一勝負、してみる?」

「「はっ...?」」

  俺の言った事に素っ頓狂な返事をする二人。...案外息合ってるじゃん。

「もちろん、ISを使って...な。」

「はっ、何を言っている。男がISを使える訳が....。」

「秋十君、夢追起動して。」

「...分かりました。」

  俺の指示通り、秋十君は夢追を展開する。

「なにっ!?なぜ男である貴様がISを...!?」

「あー、隊長さんよ、俺の容姿で気づいておけばよかったな。」

  俺は束と区別をつけるために束ねていた髪を解く。

「ただ、そっくりさんじゃないって事にな...。」

「篠ノ之...束...だと....!?」

  俺の容姿を見て驚愕するラウラ。包囲している奴らも驚いている。

「束、俺の好きにしていいな?」

【あれ?もうばらしちゃうの?別にいいけどさ。】

「あぁ、ちょっとやりたい事があるからな。」

【そっか、あ、送っときたいデータがあるから送っとくね。】

「りょーかい。」

  切っておいた通信を繋げ、束に好きにしていいか聞いておく。

「...改めて、自己紹介しておこうか。俺は神咲桜。ISを創りだした篠ノ之束の親友にして、もう一人の“天災”だ。俺なら、男も使えるISを作るなんて、容易い。」

「なん...だと....!?」

  おー、驚いてる驚いてる。

「あ、容姿がそっくりなのはただの偶然だからな?そこの所、よろしく。」

「...桜さん、どうするんですか?ISを展開したのはいいですけど、ここで戦闘は...。」

「お?それもそうだな。じゃあ、場所を変えようか。...そうだな、シュヴァルツェ・ハーゼの演習場辺りがいいんじゃないか?」

  そう言って俺は立ち上がる。当然、包囲してる奴らは俺を警戒する。

「ユーリちゃんも、行くぞ。」

「えっ!?あ、はい!」

  一斉に飛び立ち、俺が先行して演習場を目指す。

「奴さんの弾は俺が撃ち落とす!二人は束の指示に従って先に行っててくれ。」

「わ、分かりました!」

【あっ君、ゆーちゃん、そのまままっすぐだよ!】

  追いながら撃ってくる奴さんの弾を相殺したり、ブレードで防ぎながら、秋十君とユーリちゃんを追いかけるように俺も演習場へと向かう。

「(さて、データ通りなら後は秋十君の頑張り次第で行動が決まるな!)」

  束から送られてきたデータを横目で確認しながら、今後の予定を決める。





  さて、もうすぐシュヴァルツェ・ハーゼの演習場だな...。





 
 

 
後書き
今回はここまでです。

ちなみにグランツさんとスカさんは一応イタリア出身という設定です。決してエル何とかな未来世界から来たり、管理世界で犯罪者をやってる訳ではありません。 

 

第9話「VTシステム」

 
前書き
秋十君は既に原作の鈴以上の強さを持っています。 

 


       =桜side=



「到着っと。」

  演習場に降り立つ。いやー、ぶっちゃけテロ紛いな事してるな。俺たち。

「あの...警報がなってるんですけど...。」

「気にしたら負けだ。大丈夫。束に丸投げするから。」

【ええっ!?】

「秋十君は隊長さんとの戦いに集中してくれ!データも渡しておくから!」

  秋十君にデータを渡しておき、俺はぞろぞろと集まってくる部隊の連中と対峙する。

「貴様ら...!こんな事しでかして、ただで済むと思うな...!」

「うーん...まぁ、ただで終わらせる訳にはいかないんだよね。やりたい事もあるし。」

「なにを...。」

「秋十君!隊長さん以外は俺とユーリちゃんが引き受けるよ!」

「「ええっ!?」」

  秋十君とユーリちゃんが同時に驚く。

「なーに、ユーリちゃんは俺の援護をすればいい..よっ!」

  拡張領域から手榴弾(IS用)を大量に取り出し、一気にばら撒く。

「っ...!散れ!!」

「はいドーン!」

  さすがと言いたくなる程の反射速度で避けようとするシュヴァルツェ・ハーゼの皆。適切な行動だけど、混乱させるために、俺はその手榴弾を全て撃ちぬく。

「【秋十君!今の内に隊長さんに!】」

「【わ、分かりました!】」

  あっち側は秋十君に任せればいいだろう。データを見れば、相手の装備にも対処できるだろうし。

「くそ...貴様....!」

「お前の相手は....俺だっ!!」

「なにっ!?くっ...!」

  爆風で一時的に連携が取れなくなったラウラに、秋十君は斬りかかり、他の奴との距離を離す。...うん、爆風だと一瞬しか場所を撹乱できないけど、上手く隙を突いてくれたね。

「さて、と。他の奴は俺が相手だ。かかってこい!」

「くそっ....隊長!!」

「この程度、一人で十分だ!!お前たちは他の奴の相手でもしていろ!」

  うーむ、一応ラウラの方が秋十君より強いから言ってる事は合ってるんだけど...。



   ―――その油断、命取りだぜ?



「ぜあっ!!」

「なっ....!?」

  秋十君のブレードの一閃に、ラウラが驚愕する。
  なぜなら、AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)という初見殺しの特殊武装を見切られたからだ。

「おっと、行かせないぜ?」

「くっ....。」

  ラウラのAICが切り裂かれた瞬間、助けに入ろうとした隊員に向けて銃を放つ。

「【ユーリちゃん、今だ!】」

【わかりました!】

  俺の後方の上空に待機しているユーリちゃんが“魄翼”を広げ、援護射撃をしてくる。

「落ち着け!相手はたった二人だ!体制を立て直し、連携を取れ!」

「「「「ハッ!!」」」」

  副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフらしき人物が指示を飛ばし、一度俺たちから距離を取る。

「いやぁ、一筋縄ではいかないね。」

【どうしますか?】

「【多分、俺を数人で抑え、後方支援であるユーリちゃんを落としにかかるだろう。俺が相手の想像以上の人数を抑えるから、ユーリちゃんは襲い掛かってきた奴をこっちに叩き落してくれ。】」

【わかりました。】

  さぁ、相手はどれぐらい耐えられるかな?







       =秋十side=





「くそ....!」

「っ、そこだ!」

  ブレードを一閃。また相手の表情が驚きに染まる。

「(本当に、桜さんの言った通りに相手にできる!)」

  確かに、相手は完全に俺よりも操作技術は高い。だけど、桜さんの言った通りに考えて行けば、弱い俺でも十分に戦える...!

「(負けた時の経験を生かし、相手の動きを体で覚え、経験を基に相手の動きを予測して対処!たったそれだけなのに、戦える!)」

  桜さんは、俺に言った事の意味は、そんな所だった。

   ―――「秋十君は確かに、弱くて良く負ける。」

   ―――「でも、負けたから得るものがなかった訳ではないだろ?」

「(分かる!思考するだけでは分からなくても、俺の体に刻み込まれた“経験”が、敵の攻撃を理解してくれる!)」

  飛んでくるワイヤーブレードをブレードで受け流すように防ぎ、躱す。
  転がるように避けて、すぐに間合いを詰める。

「(ここだ!)」

  直接斬りかからずに、少し手前をブレードで斬る。
  またもや、相手が驚愕する。

「なぜだ...なぜ、AICの位置が分かる!?」

「その機能は、イメージとかが重要なんだろ?意識を集中する必要があるから、否が応でも視線とかで狙っている位置が分かるんだよ!」

  そう、これは俺が弱くて負け続けていた時、何とかして相手に勝とうと動きを“視て”きた。ずっとそうしてきたからか、いつの間にか相手の狙っている位置が自然と分かるようになったんだ。

   ―――「弱者には、弱者なりのやり方がある。」

   ―――「自分の力を把握し、相手の力量を明確に計る。」

   ―――「そこから経験を生かし、いかに勝利に導くか。それが重要だ。」

「(あぁ、桜さん...ホント、こんな戦い方があったんだな!)」

  桜さんは“天災の俺が、弱者の事を語るなんて烏滸がましいけど”とか言ってたけど、天才だからこそ俺も知らない俺の事を分かってくれたんだと思う。

「(確かに強い。...だけど、絶対に勝てない訳ではない!)」

  相手の彼女は一度AICとか言うのを使うのを止め、プラズマ手刀という武装で斬りかかってくる。軍人と言うだけあって、鋭い一撃だけど、防げない訳でもない!

     ギィイイン!!

「くぅ....!せぁっ!」

「っ、チィイッ!」

  片方の手刀を受け流し、もう片方は気合で弾く。

「(シールドエネルギーは...まだ半分以上ある!)」

  俺の使っているこのブレードは、エネルギーを切り裂く機能がON・OFFで使えるが、代償として使っている時はシールドエネルギーが減っていく。

「(長期戦は俺の方が不利だ。だから、短期決戦で仕留める!)」

  そのためにも、相手に何とかして隙を作りだしたい。

「(相手の方が強くて隙が作れない。...だからどうした。“夢追”は、こんな所で躓くほど、軟な想いが込められてる訳じゃないんだ!)」

  桜さんの、束さんの、おそらく千冬姉のも。...そして、俺の夢も。その全てを追う想いが込められているんだ。この程度の逆境、覆して見せる!

「はぁあっ!!」

「なっ!?くっ...がぁっ!?」

  瞬間、“夢追”の単一仕様能力が発動し、相手の予想を上回る速度で接近、一撃を決める事ができた。

「(今だ!!)」

  その隙を逃さず、俺はブレードを構えなおす。

「(あの“天災”二人を驚かした(最弱)の一撃、受けてみろ!!)」

  とある日に俺が放った“技”は、あの桜さんも避ける事も防ぐこともできずに喰らった。その時は偶然だったが、今なら出来る!

二重之閃(ふたえのひらめき)!!」

「っ...!?がぁああっ!!??」

  二連撃ではなく、二回同時(・・)の斬撃。Xを描くように放たれた斬撃に、相手が防げるわけもなく、直撃した。

「(エネルギーを切り裂くブレードによる、強力な二撃。これで削りきれなかったら....。)」

「ぐ、ぅうう....!!」

「...もう少し、頑張らないとだな。」

  未だに、SE(シールドエネルギー)は削りきれていないようだ。...尤も、機体は大分破損させているから動くのもきついはずだが。

「...認めない...私は、認めない...!貴様が、教官の弟などと、絶対...認めて、なるものか....!!」

「(来るか...?)....っ、なっ....!?」

  ブレードを構え、攻撃に備えようとしたが、相手のISの様子がおかしかった。

「ぁ..あああああああああああああ!!!?」

「な、なんだ!?」

  いきなり黒い泥のようなものに、彼女のISが彼女ごと取り込まれる。
  そして、その泥が形取った姿は...。

「千冬...姉....?」





   ―――全てが黒いが、紛れもなく千冬姉の乗っていたIS(暮桜)だった。









       =桜side=



「...お、決まったな。」

  秋十君が二重之閃を決めたのを、俺は見る。

「す、凄いですね...速すぎて一回にしか見えませんでしたよ...。」

「あれが、秋十君の努力の結晶だ。」

  二撃同時に見える...いや、放つ方もそう感じる程、速い(早い)二連撃。それが秋十君の編み出した、血の滲んだ努力の結晶だった。
  ...それも、まだまだ伸びしろのある...な。

「く....隊...長.....。」

「...さすが副隊長さん。まだ意識があったか。」

「行かせ...ない....!」

  這いつくばってでも俺を止めようとする副隊長...クラリッサ。
  見れば、他の隊員は死屍累々のように気絶している。

「全滅したのに、往生際が悪いな。」

  五分。この言葉が意味するのは、俺とユーリちゃんがシュヴァルツェ・ハーゼの部隊を戦闘不能にするまでの時間だ。
  まず俺が、大半を抑えると言いつつどんどん倒して行き、支援型だと侮ってユーリちゃんに襲い掛かった数人がエグザミアの特殊武装“バルフィニカス”によって薙ぎ払われ、後は連携を取りつつ一気に人数を減らしただけの話なのだが。

【さー君!】

「分かってる。」

  束の通信に、意識を切り替える。

「な、なんだあれは....!?」

「桜さん...あれは、一体....?」

  クラリッサとユーリちゃんが驚愕の声を上げる。
  当然だ。ラウラごとISが泥のようなものに取り込まれ、あまつさえ千冬のISに変形したのだから。

「あれがVT(ヴァルキリー・トレース)システムで間違いないな?」

【うん。そうだよ。】

「VTシステムだと!?」

  束に通信で確認していると、再度クラリッサから驚愕の声が上がった。

「あの...VTシステムってあの違法の...?」

「ああ。過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘データを再現・実行するシステムだ。搭乗者に能力以上のスペックを要求するから、肉体に多大な負荷がかかり、最悪死に至る。だから違法として開発も禁止されているはずなんだが...。」

【あんな不細工な代物、どこが研究してたのやら。しかもちーちゃんのを。早速特定して潰してくるね。私直々に。】

「【あ、おい!】」

  ....束の奴、勝手に潰しに行きやがった...。こっちの事は丸投げかよ...。

「....はぁ、とにかく、止めに行くか。」

  とりあえず予定通り(・・・・)暴走したので、秋十君の所へ行く。

「秋十君。」

「桜さん、あれは....。」

「...長引くと、彼女が死ぬシステムだ。どうする?」

  ...っと、聞くまでもない瞳をしているな。

「あれは偽物でも千冬姉なんだ。それを、あんな使われ方をしてほしくないし、あんなので死んでいく彼女も見捨てられない。」

「...そうか。」

  琴線に触れるような事を言われたのに、寛大だな。

「...あれでも、千冬姉を尊敬してたのには変わりないからさ...。」

「千冬もいい弟と教え子を持ったもんだな...。よし、なら俺は援護だけに留まる。肝心な所は秋十君がやれ。いいな?」

「はい!!」

  いい返事だ。そう思いながら、俺は武装を銃に変え、撃つ。

「多分、相手は攻撃に反応してくる。俺ができるだけ援護で阻害するから、後は秋十君が自分の判断で行動してくれ。...なに、そのブレードなら勝てるさ。」

「了解!」

  そう言って斬りこむ秋十君。それに俺は当たらないように援護射撃をする。

「(千冬の太刀筋は俺の知ってた頃と同じならば、一切小手先の技術を使わず、正面から高い力と技術で圧倒してくるはずだ。...それを模倣しているというのなら、秋十君の戦い方と相性はいいはず!)」

  秋十君の戦い方は“強者に勝つため”の戦い方だ。敗北を知り、負けに負けてそれでも諦めず、何としてでも勝とうとするそれは、千冬のような強者を斃せる!

「(俺がやってもいいが...秋十君の成長を確かめるのも大事だからな。)」

  今の秋十君ではいくらコピーとは言え、千冬には勝てない。だけど、“戦う”事はできる。なら俺は、秋十君が“ギリギリ勝てる”ぐらいにまで援護しよう。

「くっ...ぁっ!」

  そう思った傍から、秋十君が隙を見せてしまう。

「させねぇよ!」

     ギィイン!

  すかさず、俺が銃を撃ち、剣を逸らす事で攻撃を阻害する。

「ぜぁっ!」

     ギギィン!

  さらに秋十君が体勢を立て直し、相手の体勢を崩す。

「本当の“夢”に辿り着くため、今は偽物の“夢”の化身を...斃す!」

  再び夢追のワンオフが発揮し、秋十君の強さが上がる。
  今のワンオフの効果は1,3倍しか発揮していない。だけど、それは“全体的に強化”した場合だ。つまり、何が言いたいのかというと...。

「斬り伏せる!」

  “斬る”という行動に、その力を集中させれば、偽物の千冬を倒すには充分だと言う訳だ。

「ゼェァアッ!!!」

  秋十君の一太刀が、偽暮桜をブレードごと切り裂く。もちろん、中にいるラウラには傷つけないように表面を..だ。

「はぁっ、はぁっ.....ふぅ....。...っとと。」

  息を切らし、斬った体勢のまま佇む秋十君だが、斬った所からラウラが出てきたので、慌てて抱える。

「お見事だ秋十君。...さすがに、緊張が解けて疲れたみたいだが。」

「はい...まぁ、疲れましたね...。」

  格上の相手に連戦だ。後半は俺が手を貸したとはいえ、疲れたのだろう。

「...早く彼女を医務室に連れて行こう。俺が運んでもいいが...。」

「俺が運びます。...一度、彼女ときっちり話をしておきたいです。」

「...そうか。」

  とりあえず、案内だけでもするか。

  ユーリちゃんに他の隊員を任せ、俺たちは医務室へとラウラを連れて行った。









 
 

 
後書き
今回はここまでです。(中途半端)

二重之閃は別に二重の極みとは一切関係ありません。(どちらかというと、fateの燕返しを参考にしました。) 

 

第10話「和解」

 
前書き
地味に桜たちのやってる事ってテロに近いんですよね...。
ドイツ軍の基地に許可もなしに入ってるし...。 

 


       =秋十side=



「じゃあ、俺は外に出てるから、何かあったら呼んでくれ。」

「はい。」

  そう言って、桜さんは医務室から出て行った。

「....千冬姉に憧れるのは分かるけどさ、手順を間違えたら意味ないだろ...?」

  束さんや桜さんから送られてきたデータの中に、彼女..ラウラについての情報もあった。
  ...どうやら彼女は、千冬姉が来るまで俺と同じように落ちこぼれ呼ばわりされていたようだ。それを千冬姉が鍛える事でここまで強くなれた...か。

「...千冬姉が洗脳されてなかったら、俺も勝てなかっただろうなぁ...。」

  千冬姉なら彼女が力の使い方を間違える可能性ぐらい想定していただろう。かつての千冬姉だと彼女はもっと強くなっていただろう。...なんとなく、そんな気がする。

「片や“出来損ない”と蔑まれ、頼れる姉さえも洗脳された俺...。片や“落ちこぼれ”と言われ、だけど成り上る事の出来たラウラ...か。」

  ...ちょっとだけ、似ているな...。

「....ぅ.....。」

  そんな事を考えていたら、ラウラが呻き声を上げて起きた。

「...ここ、は....。」

「医務室だ。」

「...お前、は....。」

  まだ体のダメージや疲れが取れていないのか、あまり元気がない。

「...お前は...どうしてあそこまで蔑まされながらも、平気でいられる...?」

「なに....?」

  突然俺の事を聞いてきて戸惑う。...なんで俺の過去を知っているんだ?

「...お前の過去を、今しがた夢で見た。...どうして、平気でいられる?」

「夢で...だと?」

  .....そういえば、束さんが言ってたっけな。“ISには意志があって、操縦者や操縦者に関わりのある人物に何かを伝えてくる可能性がある”って...。もしかして、それの事か?

「私には、お前のような経験、耐えられる気がしなかった。」

「...平気じゃなかったさ。何度も挫けそうになったし、何度も死にたくなった。それこそ、千冬姉や箒や鈴が洗脳された時は、絶望したさ。」

  “でも”と一つ区切りをつけ、

「絶望やそんな後ろめたい感情よりも、“追いつきたい”“強くなりたい”って気持ちの方が強かったし、なによりも桜さんに出会えたことで、俺は変われた。」

  いくら挫けないようにしてても、皆が洗脳され、誘拐された時は本当に心が折れた。でも、桜さんと出会った事で、俺の努力は無駄じゃなかったって知れたし、色々と希望を持てるようになった。

「.....強いな...お前は。」

「いや、俺は弱いよ。弱いから、勝ちたいと思える。何度でも立ち上がれる。弱者なりに強者を倒す方法を模索し、ありとあらゆる手を使う。...俺はそれをしているだけさ。」

「.....そう、か....。」

  何かに納得したような、そんな顔をするラウラ。

「...かつての教官ならば、“力”の事をちゃんと教えてくれたのだろうな...。」

「...ああ。千冬姉は、そういうのに鋭いからな。」

  俺に対する態度も軟化し、そう言うラウラ。

「...すまなかったな。お前の事を良く知らずにあんな事を言ってしまって。」

「...いや、分かってくれたならいいさ。」

「お前は教官の弟にふさわしい。...いや、お前は“教官の弟”としてではなく、“織斑秋十”として見てほしいのだから、この言い方はダメか。」

  俺を気遣ってか、言い方を変えようとする。

「俺を俺として見てくれてるなら、それでいいさ。」

「む...そうか。」

  変に言い方を変えられても、むず痒くなるだけだしな。

「それと、礼を言う。私を助けてくれて。」

「...いや、俺だけでは勝てなかったさ。桜さんが援護してくれたから、助けれた。」

「それでもだ。ありがとう。」

  ...まぁ、感謝されるのは嬉しいけど...。

「ところで、私が取り込まれたアレは...。」

「あー...確か....桜さーん!」

  俺も良く知らないし、説明もしにくいので桜さんを呼ぶ。

「呼んだー?」

「はい。ちょっと聞きたい事g....って桜さん!?」

  呼んだらすぐに部屋に入ってきた桜さんを見て俺は驚愕してしまう。

  ....なぜなら。

「どうして束さんの服を着てるんですか!?」

  そう。今の桜さんはまるで不思議の国のアリスのような服...つまり束さんの服を着ていたのだ。...うさ耳と声以外、ほとんど違いがないんですけど...。

「....束に、してやられたんだ。」

「束さんに?」

「戦闘でさすがに汚れたから着替えようと思ってな...。替えの服は拡張領域にいれておいたんだが...束がそれを弄って服をすべて女物に替えられていた....。」

  うわぁ....。束さんの事だから、桜さんが着てる服が一番マシだったんだろうな...。

「...って、そんな事より!彼女が捕まっていた...えーっと..VTシステムについて説明してくださいよ。」

「そ、そんな事って....。...んん゛、えっとだな―――」





「―――って訳で、まぁ今は束が潰しに行っているから気にしなくていい。」

  憐れVTシステムを研究していた研究所。束さんに直々に潰されるとは。

「なるほどな...。理解した。」

「あ、それと、VTシステムを破壊する際にシュヴァルツェア・レーゲンだっけ?あれが大分破損してしまったから、お詫びとして修理するまで俺たちはここに残る事になった。」

「....えっ?」

  初耳なんですけど...?

「束の奴が通信切りやがったからな。とりあえず、放置して帰る訳にもいかなくてな。」

「は、はぁ....。」

  束さんェ....。まぁ、あの人の自由奔放っぷりは今に始まった事じゃないし...。

「主に俺が修理に取り掛かるから、秋十君とユーリちゃんにはシュヴァルツェ・ハーゼの隊員と交流しててくれ。偶には外部の者と模擬戦って言うのも、いい経験だろうし。」

「ユーリ...あぁ、あの金髪の少女か...。」

「でも、食事とかで迷惑なのでは...?」

  模擬戦とか修理するのはともかくとして、生活する分には色々と負担を掛けてしまうと思うのだが...。

「食料は拡張領域にいくらか入っているし、サバイバルのためにも色々持ってきてある。負担はほとんどかからんよ。」

「拡張領域ってそんな使い方でしたっけ...?」

  そんな事言ったら服もなんだけど...。

「利用できるものは利用しないとな。」

「いや...まぁ...そうですけど...。」

  ラウラはそれでいいのだろうか?

「私にしてみれば恩人なのだから、その程度なら構わん。」

「...俺の考えていた事がよくわかったな。」

「戦闘時はそうでもなかったが、お前は考えている事を表情に出しやすいみたいだからな。」

  そうなのか...。直しておかないとな。

「後は上の奴らが許可してくれるかだが...。」

「あ、それは俺がVTシステムの事を盾に既に交渉済みだ。」

「...準備がいいな。」

  さすが桜さん。用意周到だ。えげつないことしてるけど。

「結果はどうだったんです?」

「特に損害を出さなければいいだってさ。」

  ...テロ紛いな事をしたのにそう言わせるって、一体何をしたんだ...。

「と言う訳で、しばらくよろしく頼む。」

「ああ。こちらこそ。」

  そう言って桜さんとラウラは握手をする。

「...っと、そろそろユーリちゃんの所に戻らないとな。」

「あっ...。」

  桜さんの言葉で思い出す。...ユーリ、あそこに置いたままだった...。

「私も行こう。お前たちだけでは、また騒ぎになるかもしれないしな...。」

「...歩けるか?」

「なんとか...な。」

  ...心配なので、体を支えさせてもらう。

「大丈夫だと言っているだろうに。」

「フラフラされてたら俺がヒヤヒヤさせられて困るんだよ。」

  身体が衰弱しているんだから無茶しないでほしいものだ。

「むぅ...なら、頼む。」

「りょーかいっと。」

  ....あの、桜さん?なんで俺とラウラのやり取りを見てニヤニヤしてるんですか?

「んー?いーや、なんでも?」

「...口に出したつもりはないんですけど。」

「顔に書いてた。」

  ...桜さんは束さんと同じで常識が通用しないから聞くだけ無駄か。

「さぁ、さっさと行くか。俺は先に行っとくよ。」

「あ、ちょっ...。」

「ではごゆっくりー。」

  ...何でゆっくりしろと?

「...あの男、色々と分からない奴だな...。」

「あはは...俺も分からん。」

  あの人のキャラが掴めない。...そこら辺も束さんに似てるんだけど。

「とにかく、私達も向かうとしよう。道は分かるか?」

「あー...覚えてないな。」

「なら私が案内する。」

  



  ...色々と突っ込みどころがあるが、和解できて何よりだな。







       =桜side=



「おー..い...って、心配は杞憂だったか。」

「さ、桜さーん...。」

  ユーリちゃんが他の隊員と険悪な状態になってないか心配だったけど、なぜか副隊長さんに愛でられている状態になっていた。

「可愛がられてるなぁ...。」

「て、敵対しないようにしただけでどうして...。」

  どうやらユーリちゃんの持ち前の優しさで対応してたらこうなったらしい。

「...えーっと、一応、一通り事情の説明はしておきました...。」

「その結果がこれか...。まぁ、敵対しなくなっただけマシだな。」

  そうこうしている内に秋十君達も来たようだ。

「えっと...これは...?」

「クラリッサ...?」

  秋十君もラウラも、ユーリちゃんの状況に戸惑っているみたいだ。

「あ、隊長!無事だったのですね!」

「あ、ああ...クラリッサ、これは一体...?」

「はい。彼女をモフると心地よい気がしたので、なんとなく。」

  なんとなくかよ!?いや、分かるけどさ。

「ど、ドイツが生まれだからか、余計に意気投合してしまって....。」

「...まぁ、仲良くしてたならいいけど。」

  苦笑いするユーリちゃんに、俺はそう言う。

「...あー、まぁ、言いたい事は少しあるが...報告が一つある!」

「っ....!」

  ラウラの一声に、一斉に隊員たちが列に並ぶ。

「先のISの暴走...VTシステムの事もあるが...先にこれを言っておこう。彼ら三名は、しばらく我が軍で共に暮らす事になる!これは既に上層部にも通達してあり、決まった事だ。いいな?」

「「「「「ハッ!!」」」」」

「なお、共に暮らすとだけあって、自由に交流や模擬戦もしてよい。戦った事で知っているとは思うが、彼らは全員手練れだ。いい経験になるぞ?」

  “おおおっ”と歓声が上がる。...さっきまで敵対していたとは思えないぐらいに雰囲気が明るいな。。これが軍の適応性か?

「あー...俺からVTシステムの事を言っておいていいか?」

「む?..そうだな。頼む。」

  ラウラに聞いてから、俺から説明する。

「あー...此度はボーデヴィッヒ隊長のIS“シュヴァルツェア・レーゲン”にVTシステムが組み込まれていた事だが...なに、特に気にしなくていい。」

  俺の言葉に隊員たちはざわめく。

「今、かの篠ノ之束が直々にVTシステムを研究している場所に向かっているからな。むしろ、気にするべきなのは研究所の奴らが同情したくなるほどひどい目に遭ってないか...ぐらいだな。」

  続けた言葉に、少しばかり笑いが漏れる。

「こうして、ボーデヴィッヒ隊長は無事に助かり、世界に跋扈している違法研究所も一つ潰えたんだ。だから、特に気にすることはない。以上だ。」

  一応、VTシステムに関する憂いは彼女達から取り除いておくべきだからな。これぐらい言っておけば大丈夫だろう。

「さて、では色々あったが、調査の結果報告を私とクラリッサがしてくる。お前たちは訓練に戻っておけ。」

「「「「ハッ!!」」」」

  ...そういえば、あの研究所(跡地)を調査に来てたんだな。









「はぁあっ!!」

「せぁっ!!」

  プラズマ手刀とブレードがぶつかり合う。

「はっ!」

「くっ...はぁっ!」

  もう片方の手刀が振るわれ、それをなんとか躱してカウンターを決めようとするが...。

「っ、しまっ...!?」

「終わりだ!」

  寸での所で躱され、至近距離からレールカノンを喰らわせられ、シールドエネルギーがゼロになる。

「そこまで!」

「あー...くそ、今度は負けたか...。」

「何を言う。あれだってギリギリだったぞ。」

  そう言って、互いに労わるラウラと秋十君。

「でも、これで負け越しだな...。」

「...その前に秋十君は軍人に対して..それも代表候補を相手にここまでする事が凄いって事を自覚しような?」

  ドイツ軍に滞在する事になって一週間。ラウラと秋十君は度々模擬戦をして、周りの人達を盛り上がらせている。何せ代表候補の中でも上位に入る者同士の闘いだ。動きも参考になるし、技術の高い闘いは盛り上がるものだ。

「いや...桜さんのような規格外の人といたらそんな感覚も鈍りますって..。」

「失敬な。俺はただISの機能を把握しているだけだ。」

「普段の身体能力もおかしいですよねぇ!?」

  何を言っている。俺はただ生身でISと戦えるだけでそこまでじゃないさ。(棒)

「ブラストファイアー!」

     ドォオオン!!

「...あっちも終わったか。」

  なお、ラウラと秋十君の模擬戦の他に、もう一つ注目されている戦いがある。

「ありがとうございました。」

「...ユーリも強いですね。...あれ、一応テスト用の機能なんですよね?」

  そう。ユーリの戦いだ。こっちは主にクラリッサ副隊長と戦っている。

「ジェイルさん...はっちゃけたなぁ...。」

  今回ユーリが使っていた武装は“ルシフェリオン”。狙撃・射撃系の武装に分類される見た目がメカメカしい杖だ。他にも、近接系の“バルフィニカス”や、広範囲殲滅系の“エルシニアクロイツ”などもある。どれもシールドエネルギーを使う武装で、癖が強いはずだけど...。

「それを見事に使いこなすのか。ユーリちゃんは...。」

「使い方さえ誤らなければ強いからな。あの武装は。」

「まぁな。どれもこれも虚を突くような武装だ。」

  見た目自体は科学っぽいが、実際に使うとまるで魔法のような効果だからな。ルシフェリオンは赤い光の球みたいなのとさっき放っていたビーム的なもの。バルフィニカスは鎌状に水色の光刃が発生する。エルシニアクロイツは闇色の爆発的なものとか、大量の剣を召喚して放ったりする。

「...俺には使いこなせそうにありませんね。」

「いやー、慣れれば案外使えると思うんだけどなぁ...。」

  今の所、ユーリちゃんもAI達のサポートがあってこそああやって使いこなせている訳だし。

【さー君!さー君!】

「【....なんだ、束?】」

  ちなみに束は滞在が決まった日の内に帰っていたりする。束もせっかくだからと言ったので、俺たちはまだ滞在しているといった具合だ。

【スカさんがゆーちゃんの新しい機能を開発したから戻ってきてくれって。】

「【...またおかしいのを作ってないだろうな...。..とりあえず、分かった。数日以内に帰る予定で行く。】」

【りょーかい!私からも伝えておくね!】

  束との通信を切る。ちなみに、“スカさん”と言うのはジェイルさんの渾名だ。束にしては珍しいタイプの渾名で少し違和感があるが、結構言いやすい。

「何かあったんですか?」

「いや、特に。」

  秋十君がどんな通信内容だったか聞いてくる。

「強いているのなら、もうすぐ帰らなければいけないという事だな。」

「っ....そう、ですか。」

  寂しそうな顔をする秋十君。どうやら、結構ここを気に入っていたみたいだ。

「ま、二度と来れないって訳じゃないさ。」

「...はい。」

  とりあえず、ユーリちゃんやラウラ達にも伝えないとな。







「じゃあ、お世話になったな。」

「いや、こちらこそ。いい経験になった。」

  俺とクラリッサが握手をしながらそう挨拶をする。
  帰還するように言われたその翌日、俺たちはシュヴァルツェ・ハーゼの皆に見送られながら帰る事となった。

「あー、えーっと...お前に、渡しておきたい物があるんだ...。」

「...?俺にか?」

  俺とクラリッサの近くでは、ラウラと秋十君がそんなやり取りをしている。

「...ナイフ?」

「な、何かお土産を持たせようと思ってな...。だが、何も思いつかなくて...とりあえず、私らしいものと言う訳で、その、ナイフを...。」

  秋十君が渡されたのはサバイバルナイフ。きちんと手入れもしてあって、そこら辺にあるサバイバルナイフよりも鋭そうだ。

「ラウラらしいというかなんというか....ま、ありがとな?」

「う、うむ...。」

  照れ臭そうにするラウラ。...見ていて和むな。

「...では、最後に記念に写真を撮っておきましょう。」

  ふと提案するクラリッサ。なるほど。それはいいな。

「はい、じゃあ固まって固まってー。」

「あわわわわ...押さないでくださーい!」

  早速カメラに収まるように固まる隊員たち。...集まられすぎてユーリちゃんが押し潰されそうになってるんだけど...。

「はい、三、二、一....。」

  “カシャッ”と言う音と共に、シャッターが切られる。確認してみると、ちゃんと全員入ってある。

「うん。これでいいな。」

「...もう、行かれるのですか?」

「ああ。ちょっと名残惜しいけどな。」

  クラリッサにそう返事をして、俺たちは飛び立つ。

「じゃあまた、どこかで!」

  俺は手を振り、秋十君とユーリちゃんは一礼してから基地を後にする。

「結構、楽しかったですね。」

「そうですね~。」

  秋十君とユーリちゃんがそんな会話をしながら俺についてくる。

「(...二人共、会社が出来てからよく笑うようになったな...。)」

  基地に居た時も結構笑っていた。多分、今まではいなかった仲のいい人達と楽しんだりすると言うのがなかったからだろう。

「(....二人には完全に笑顔が戻った。後は...。)」

  世界の道筋を外した元凶をどうにかして、この世界をまた変えなきゃな。







 
 

 
後書き
今回はここまでです。そろそろ次章に入りますね。

医務室から出たばかりなのに、桜はいつの間に交渉を済ませたのかと思いますが、実際は交渉ではなくほぼ脅して一方的に手早く済ませただけです。一応、対価としてISの強化とかを請け負ってますが。
あ、ちなみに今の舞台はドイツなので皆ドイツ語を話してます。

...クラリッサの口調ってこれでいいんですかね?ダメならこの小説独自の設定で...。(おい 

 

第11話「修正の第一歩」

 
前書き
一章最終話です。....と、言ってもぐだぐだ進むだけですが。
 

 


       =桜side=



「そこまで!」

  俺の終了の合図に、目の前で起こっていた戦いが終わる。

「なんとか...勝てた....!」

「ま、負けちゃった....。」

  戦っていたのは秋十君とマドカちゃん。勝敗はギリギリ秋十君の勝利だ。

「これで56戦中、9勝47敗だ....。...勝ち越しにはまだまだ遠いな...。」

  秋十君が呟いた通り、マドカちゃんは滅茶苦茶強く、秋十君もなかなか勝てない程だった。おまけに束が専用機である“黒騎士”を与えたため、余計に秋十君の分が悪くなっている。
  それでも勝つことができるんだから秋十君も相当なのだが。

「でも、秋兄はワンオフを使ってないじゃん。私は使ったのに...。」

「むしろ使わせないと勝てない件について。」

「マドカちゃんのワンオフはデメリットが大きいからなぁ...。ロマン技って感じ?」

  マドカちゃんのワンオフは“エクスカリバー”といい。どこぞの騎士王そのまんまの事ができる。...当然、シールドエネルギーを大量に消費するが。なお、応用もできるらしい。

「決まったと思ったんだけどなぁ...。」

「...一度喰らってから最優先に警戒してるからな...。」

  喰らった事のある秋十君に言わせれば、“トラウマビーム”との事だ。
  ...そりゃあ、警戒するわな。

「完全に身動きできなくしてから撃ったつもりだったのに...。」

「道理で手足ばかり狙ってた訳か...。」

  事の顛末はこうだ。
  マドカちゃんがまず秋十君が回避できなくするように手足を狙い、最後に地面に叩き付けてから“エクスカリバー”で決めようとする。だけど秋十君は何とかそれから抜け出し、カウンターで逆転勝利した...と言う事だ。

「まぁ、マドカちゃんの詰めが甘かったな。」

「やっぱり使わなきゃよかった...。」

  ちなみにマドカちゃんはワンオフを使わない方が強い。

「...お?」

  模擬戦後の雑談をしている俺らに、何かがふよふよと近づいてくる。

「め~ちゅか。どうした?」

  飛んできたのは、ユーリちゃんをデフォルメしたかのような人形。“チヴィット”と呼ばれるAI搭載の人形で、ユーリちゃん似のこの子は“め~ちゅ”と呼ばれている。
  なお、発明したのはグランツさんで、AIの元はシュテル達と同じで、自己学習をする。シュテル達のデフォルメ版もあり、なぜかシリーズ化されている。

「....おお、もうそんな時間か。」

  め~ちゅは喋らないため、メモ帳に文字を書いて言伝を伝えてくれる。どうやら食事の時間らしい。ちなみに、チヴィットは基本喋れない。

「おーい、二人共、夕食の時間だ。」

「あ、はーい。」

「分かりました。」

  二人とめ~ちゅを連れて食堂へと行く。





「...ふと思ったんですけど、本来なら俺たち、受験生ですよね?」

「「....あっ。」」

  “受験”と言う単語にユーリちゃんとマドカちゃんも反応する。...そう言えば三人とも同じ年だったな。

「まぁ、ちゃんとISの知識のついでに勉強は教えてるからな。」

「中退に関してもモーマンタイ!ちゃんと偽造してるよ!」

  いや、無問題ではないだろ。偽造してるから。

「あ、そうそう。受験と言えば、三人ともIS学園に通ってもらうから。」

「え...IS学園に...ですか?」

  IS学園。その名の通り、ISについて学ぶ高校だ。当然、IS関係なので、ほぼ女子高と化しているが、厳密には女子高ではない。だから、秋十君も通う事はできる。...偏差値も結構高いけどな。

「だいじょーぶ!今あっ君の事を世間にばらしたら騒ぎになるだろうけど、私達の計画では注目を浴びるだけで済むよ!」

「ダメじゃないですか!?」

  いいじゃん。どうせ、秋十君もISに乗れるのが分かってからは騒ぎになる事は覚悟してたんだしな。

「ワールド・レボリューションもだいぶ有名になったからな。秋十君の後ろ盾としても十分だろ。」

「...なーんか、それでも心配なんですけど...。」

  だろうなぁ...。..っと、さて、そろそろかな。

「束ー、ちょっと映してくれる?」

「んー?あー、あれね。オッケー。」

  空中に映像が映し出される。え?どうやってこんな事をしてるって?...ISを創れる人物が二人もここにいるんだよ?この程度、容易い。

「....どこですか?ここ。」

「IS学園の受験場所。」

「はい!?」

  そして映し出されるのは、とある部屋のカメラの映像。

「...なんですかこれ?」

「まーまー、見てなって。」

  部屋の中心には訓練用のISである“打鉄”が置かれている。
  しばらく見ていると...。

「お、来た来た。」

「来たって...これって....!?」

  誰かが入ってきた事に、秋十君は見覚えがあるのか驚きの声を上げる。
  ...当然だ。なんてったって。

「なんで...一夏が映ってるんだよ!?」

「そりゃまぁ、私がそうなるように本来なら(・・・・)仕向けてたらしいからねぇ...。」

「...“本来なら”?」

  秋十君も会話での違和感のある言葉に反応できるようになってきたか。...まぁ、今回のは束が分かりやすく強調してたからだけど。

「洗脳された私でもない。というか、この世界ではない空想上での世界だと、そうなってるみたいなんだよね。」

「...?どういう、ことですか...?」

  さすがに意図が分からない言葉を並べられて困惑する秋十君。他の皆も興味があるようで、耳を傾けてくる。

「...皆はさ、アニメや漫画での世界が、実在すると思う?」

「...?よくわからないですけど...普通は実在しないでしょう?」

「そうだね。でも、こう考えた事はないか?こことは違う、平行世界や、遠く離れた異世界には、アニメのような世界があるかも...と。」

  俺の言葉に、“まさか...”といった顔になる秋十君。

「...この世界は、“インフィニット・ストラトス”と言う、アニメにもなったライトノベルの世界と似ているそうだよ。」

「ライトノベルの世界....。」

  まぁ、普通は信じられないだろう。俺だって口頭だけで言われても信じられないし。だけど、俺の場合はあの神様に知識を直接与えられたからな。本当だと分かっている。

「だが、所詮は似ているだけだ。ライトノベルの方には、まず束の幼馴染としての“神咲桜”は登場しないし、“織斑秋十”という人物も存在しない。」

「え....?」

「そして何よりも、ライトノベルの織斑一夏とこの世界のとは、見た目こそ同じだが、中身が一切違う。...まぁ、これは理由があるけどな。」

  この世界での織斑一夏は中身が転生者で、洗脳を使う外道だからな。

「...まぁ、いずれ詳しく話すさ。今は関係ない。」

「はぁ....?」

  そうこうしている内に、ISに触れて起動させる織斑一夏。そして女性職員に捕まって騒ぎになる。

「あの...これは...。」

「“世界初の男性操縦者!”って感じだねぇ。...まぁ、初の男性操縦者は俺だけど。」

「ちなみにあっ君が二番目だね。」

  明日か明後日にでもニュースに出るだろう。

「そして、ニュースになった所を、ワールド・レボリューションとして俺たちを公表する。」

「....えっ?」

  いやぁ、騒ぎになるだろうね。(他人事)

「...で、公表するに当たって、俺と秋十君の名字は明かせない。」

「あ...既に世間には存在しませんもんね...。」

「まぁ、既に別の戸籍を用意してるんだけどな。」

  ちなみに“篠咲桜”と“篠咲秋十”となっている。...一応、兄弟な?

「...用意がいいですね。」

「まあねー。じゃ、さっき言った通り、三人はIS学園に通ってもらうよ。」

「...分かりました。」

  受験関連は大丈夫だろう。足りない所はまだあるだろうけど、補えばいいし。









  それから翌日、案の定ニュースで織斑一夏の事が放送された。

「いやぁ、騒ぎになってるな。」

「...それで、いつ頃俺たちの事も公表するんですか?」

  未だに不安そうな秋十君がそう聞いてくる。

「うーん...明日?」

  タイミング的にも、それぐらいがいいだろう。





〈では、次のニュース....っ!?し、失礼しました。き、緊急ニュースです!〉

  入ってきた情報(俺らの事)に驚くニュースキャスター。...むしろ、この程度で済んでるから流石と言うべきか。

〈最近、話題となっている会社、ワールド・レボリューションから以前からISの男性操縦者を保護していたとの情報が来ました。えー、詳細は今日の正午からの会見で説明する模様です。〉

  そう言って、次のニュースへと入っていく。結構重要なニュースなのに少ししか動揺しないなんてプロだな。

「さて、さっさと行って準備するか。」

「え、俺も何かしないといけないんですか?」

  会見する場所に早めに行こうとする俺に、秋十君はそう聞いてくる。

「うーん...いや、奥に居といてもいいよ。俺が大体説明するし。」

「あ、そうなんですか?」

「まぁ、場合によっては秋十君も何か言ってもらうかもね。」

「えっ。」

  とにかく会見する場所へ向かわなければな。





「うわぁ...結構いる...。」

「急な会見なのに、よくこれだけ集まったな...。」

  正午になり、俺たちは集まっている人達を陰から覗く。

「...束さん、ホントに大丈夫なんですか?」

「大丈夫だって。変装もバッチリだし、声も変えられるよ。」

  今の束の恰好は、架空の社長である篠咲有栖で、束のウサ耳を外して髪を茶色にした感じだ。(案外、これでばれないものなんだな。)
  ちなみに俺は、髪を後ろに束ねているだけだ。

  時間が来て、俺と束は会見するために出る。

「えー、本日は、急な会見にお集まりいただき、ありがとうございます。」

  フラッシュで少し目が眩む。あ、ちょ、焚きすぎ!

「先日初の男性操縦者が現れた事で騒ぎになっていますが、実際は彼が初の男性操縦者となります。彼は三年前にISを動かせることが分かっていましたから。」

  束(変声済み)が隣に座っている俺を紹介する。
  さらに俺に対してフラッシュが焚かれる。目が悪くなりそうだけど俺は動じない。

「篠咲桜と言います。容姿と名前が女性に近いですが、これでも男性なのであしからず。」

「そして、もう一人の男性操縦者は篠咲秋十と言い、彼の弟に当たります。動かせる事が分かったのは、二年前です。」

  秋十君の事も紹介する。...まぁ、この場に出てきてはいないけど。

「...その篠咲秋十さんは、なぜこの場にいないんですか?」

「彼はまだ学生ですからね。申し訳ありませんが、口頭だけで伝えさせてもらいます。」

「はぁ..そうですか。」

  中学生だからな。会見するような器量はまだ持ち合わせてないからな。

「しかし、なぜそれほど前から分かっていたのに、今まで公表しなかったのですか?」

  すると、尤もな質問が飛んでくる。

「理由としては...そうですね。このような騒ぎになる事でしょうか?」

「騒ぎ?」

「はい。インフィニット・ストラトスは、女性しか動かせない。これは今までの常識でした。その中にいきなり男性操縦者が現れたとしましょう。女尊男卑となっている世間は騒ぎだし、中にはその男性操縦者を異分子として亡き者にしようとする輩が出てしまうでしょう。」

  束がそう言うと、記者の内数人が目を逸らす。...女尊男卑の思想に染まった奴か?

「なので、公表はせず、ISを動かせるという事を秘密にしてきました。」

「では、どうしてこのタイミングで?」

「それは三人目の男性操縦者、織斑一夏さんが現れた事に関係しております。彼が現れた事によって、おそらくは世界中の男性がISに乗れるか検査する事でしょう。そして、私の会社、ワールド・レボリューションから二人も男性操縦者が現れたとなれば、なぜ二人も見つかったのかと勘繰られ、最悪の場合、我が社の信頼が落ちてしまいます。...なので、敢えてこちらから公表した訳です。」

  あまりちゃんとした理由ではないと思うが、それで納得した人もいる。
  ...つまりは、信頼を落としたくないって訳だしな。

「しかし、それでは結局二人が危険に晒されるのでは?」

「...実を言うと、織斑一夏さんがISに乗れると分かる前から、もうすぐ公表するつもりだったんですよ。私が会社を設立したのは、彼らにとって頼れる後ろ盾になるためですから。」

  束がそう説明する。実際、後ろ盾にもなるしな。

「...そういえば、篠咲社長と、彼らの関係は?」

「...義理の兄弟...もしくは、保護者と被保護者ですね。実の家族ではありませんが、家族のような関係のつもりです。」

「なるほど....。」

  記者の人達は一心不乱にメモにまとめている。

「...それで、これからどうするおつもりですか?」

「そうですね...IS学園に入学させるつもりです。織斑一夏さんも、彼らも、ISに乗れると分かった以上、いつものように暮らすのは危険です。例え、強力な後ろ盾がいたとしても。ならばということで、他国に干渉されづらいIS学園に入学させれば、ある程度は安全ですし、ISの技術も身に付けて自衛がしやすくなります。」

「その事に、二人は賛同しているのですか?」

  今度は俺に対して質問してくる。

「..私も、秋十君も、賛同しています。確かに、女性ばかりのいるIS学園に行くのは、抵抗がありますが、命の危険がありますので。」

  この後も些細な質問がいくつかあったが、特に何事もなく会見は終わった。







「...女尊男卑の人達が何か仕出かすと思ってましたけど、なにもありませんでしたね。」

「え?あー、それね。」

「....?」

  会見後、秋十君の言葉に、俺が曖昧な感じで返す。

「.....え゛っ?」

「お疲れー、マドカちゃん、ユーリちゃん、クロエちゃん。」

  秋十君がとある光景を見て絶句する。

  なにせ、他の人達には見られない場所で女性が何人か縛られているんだからな。

「いきなり秋兄や桜さんを襲いにかかるなんて、バカみたいだね。」

「束様や桜さんの言うとおりでしたね。」

「...あれ?弱くないですか...?」

  口々に感想を言う三人。...何気にユーリちゃんが一番ひどい事言ってるな。

「まぁ、事前に女尊男卑の奴らは来ると予想してたからな。三人に頼んで捕まえてもらった。」

「なるほど...。」

「皆お疲れー!はい、ウサちゃん飴!」

  束(変装はそのまま)が三人に兎の形をした飴を渡している。

「...で、この人達はどうするんですか?」

「...警察行きだな。」

  警察に送る前に色々と(束が)尋問するけど。

「直接襲ってきたという事は、ISの腕前は高くても、下っ端な場合があるからな...。後ろで手を引いている奴が聞きだせればいいが...。」

「まぁ、そんな簡単に行く訳ないけどねー。」

「だよなぁ...。」

  俺と束が本気出せば簡単に分かるけど。...と言うか、女尊男卑の奴らを片っ端から潰してもいいんだけどな。

「...でも、下っ端なら、もっと強い人が出てくるんじゃ...。」

「あー、ユーリ?言っておくけど、今回の奴らって普通より操縦が上手いからね?」

  ユーリちゃんが不安がって言うけど、マドカちゃんがそれを訂正する。

「....えっ?」

「あー...もしかして、自分の事を強くないって思ってる?」

「はい...会社でも、あまり勝てませんから...。」

  ちなみにユーリちゃんは相性こそあるものの、会社内では一番弱いかもしれない。勝つ時は勝ちまくるんだけどな。

「...会社の操縦者全員が代表候補生並の強さでも?」

「......はい?」

「ユーリは見てなかったから知らないだろうけど、適当な代表候補生の戦闘映像でも見てみなよ。世界の強さが分かるから。」

  ...自覚なしの強者って、恐ろしいな。

「じゃあ、会社に戻るぞ。はい、詰め込んで詰め込んで。」

「...この人達をですか?」

「当然。」

  “そんな、荷物のように...”とか言いながら気絶している女性たちをトラックに詰め込んでいく。...あ、ちゃんと人払いは済ませてあるぞ?





  その日、どこからともなく複数の女性の叫び声が聞こえたそうだが、ナンノコトヤラ(棒)







「...結局、特に収穫はなしか。」

「捨て駒だったみたいだねー。」

  翌日、俺と束は尋問した女性の情報を纏めていた。

「捨て駒ならこのまま解放しても消されるだけだな。」

「私としてはどーでもいーけど、あっ君とかは後味悪そうにしそうだなぁ...。」

  秋十君も、ユーリちゃんも優しいからな。...マドカちゃんは秋十君を護るためなら冷酷になるから論外になるけど。

「いっその事、うちで雇ってしまえば?」

「えー?女尊男卑に染まったクズだよ?メリットがないよー。」

  ...結構言う事キツイな、束...。

「俺たちは女尊男卑をなくすんだろ?女尊男卑に染まったのなら、さらにその上から正しい常識で染めればいい。たった数人だ。この程度、どうって事ないだろ?」

「....うーん...そう、だね...。」

  歯切れが悪いが何とか納得したみたいだ。

「じゃあ、彼女らを常識に染めるついでに私をさー君色に染めt」

「そぉいっ!!」

  やはり変な事を口走った束にチョップを....って、何っ!?

「ふっふっふー、甘いよさー君!」

「躱した...だと!?」

  束は俺のチョップを躱し、そのままソファーに押し倒してきた。

「私だってさー君の動きはよーく知ってるんだよ?」

「くっ...!(抜け出せない...!)」

  束も俺ほどではないが、とんでもない身体能力を有している。そのせいか、俺でも束から抜け出せん...!

「なにを...する気だ...!」

「なにをって....ナニ?」

「おまっ....!?」

  いや、まぁ、束の想いは薄々どころか確信してたけどさ...!まさか、こんな強引な手段に出るなんて...!

「私、もう我慢できないんだよ...。」

「束....。」

  頬をほんのりと赤らめながら、束が俺に迫ってくる。
  抜け出せないし、万事休すか...?





     ―――ガチャッ



「桜さん、束さん、少し休憩に―――」

「「....あ。」」

  唇と唇が重なる寸前、ドアが開いてユーリちゃんが入ってくる。

「えっ?あ、あ、あああの、えっと..その....!」

  顔を真っ赤にしながらしどろもどろになるユーリちゃん。

「.......きゅぅ...。」

「えっ?ちょ、ユーリちゃん!?」

  脳がショートでもしたのか、ついには気絶してしまう。





「...はぁ...。」

  頭を抱えながら、ユーリちゃんを膝枕している束をチラ見する。

「ちゃんと口止めしておかないとな...。ユーリちゃんは言いふらす性格じゃないけど。」

「んー、むしろ、ゆーちゃんも一緒に...。」

「おいやめろ。」

  なに巻き込もうとしてるんだ。

「えー?だって、ゆーちゃんもさー君の事を...。」

「それでもだ。まだ中学三年生の年齢だぞ?」

  もうすぐ高校生だけど、それでもダメだ。
  ...え?ユーリちゃんの気持ちには気づいてたのかって?...まぁ、俺といる時は常に嬉しそうにしてたから、さすがに...な。

「(...天災の俺でも、恋愛だけは苦手なんだよなぁ...。)」

  どう対処すればいいのか分からないし、ましてや二人以上に好かれるとなるとどうしようもない気がしてくる。

「...とりあえず、起きたら適度な説明と口止めだな。」

「ちぇ、つまんないなぁ。」

「あのなぁ....。」

  この後、束の不貞腐れっぷりに呆れつつも、起きたユーリちゃんに説明をして念のために言いふらさないように言っておいた。





  ....しばらくユーリちゃんが俺と目を合わせる度に顔を赤くして逃げるようになったのは、泣きたくなった。...純真な子な分、拒絶紛いな事をされると余計傷つく...。







 
 

 
後書き
あ、黒騎士の設定は原作とは違いますよ?参考にはしますけど。(というか原作未読です。)

と、言う訳で次回から原作へと飛びます。受験とかの過程はキングクリムゾンで消し去る。
...まぁ、二章の前にキャラ設定を挟みますがね。

それではまた次章で。
 

 

キャラ設定(1章終了時点)

 
前書き
拙い表現ですが、とりあえずキャラ設定を載せておきます。
 

 




       神咲桜(かんざきさくら)

  性別…男 年齢…23歳

  容姿…原作の束を吊り目にして髪を後ろで束ねた感じ。だが男だ。

   今作の主人公。
   束と千冬の幼馴染で、小学一年生の頃に束を庇って交通事故に遭った。
   10年程は束によって治療を施されていたが、束が洗脳されてからはしばらく
   放置されていた。後に、研究者が束の技術を少しでも盗めないかと桜が収容
   されていたラボに捜索に入った際に、回収される。
   夢の中で、謎の女性(神か何かだと推測している)に世界の現状や、運命が捻
   じ切れようとしているのを聞き、様々な知識を与えられ、目覚める。
   目が覚めてからは、しばらく研究者達の言う事を聞いていたが、桜の専用機
   である“想起”に出会い、研究所を脱出する。
   その後は、織斑秋十を保護し、その勢いで束の基地を見つけ出し、洗脳を解
   除。束との再会を果たす。
   そこからは女尊男卑の世界を変えるために、まずは違法研究所を適度に破壊、
   その過程でユーリを保護する。
   会社を設立するために、亡国機業と協力し、秋十の両親とも再会する。会社
   設立した後は母親と再会して、会社をどんどん大きくしていった。
   束と同レベルの天才で、身体能力は束を大きく上回る。ISの腕前も凄まじく、
   現在は会社内一の強さを誇っている。特技は束の声真似。
   世間には“篠咲桜”として通している。

  専用機…想起
   束の昔のラボに、桜と共に保管されていた。プロトタイプなので、性能は低
   かったが、後の束と桜の改良によって、進化した。分類上は最終世代となる。
   ほとんどの武装が通常の武器なので、大した事がないと思われがちだが、性
   能は成長し続け、過去を想い起すような事を攻撃として再現できる武装があ
   る。シールドエネルギーを多く使う武装だが、元々想起はシールドエネルギ
   -が途轍もなく多いので、問題はない。単一仕様はまだ不明。
   待機形態は首からかけれるペンダント。





       織斑秋十(おりむらあきと)

  性別…男 年齢…15歳

  容姿…原作の一夏の髪を少し伸ばした感じ。

   サブ主人公。
   よくあるテンプレのように、世間から出来損ない扱いを受けていた。
   強靭な不屈の心を持っていたが、度重なる中傷や軽蔑に加え、優しかった姉
   や知り合いが皆、人が変わったように蔑んできたので、誘拐の際についに壊
   れそうになった。
   原作の一夏のように誘拐されるが、千冬は助けに来ず、生きる気力を一度失
   う。しかし、桜の救出により、何とか再起する。
   兄である一夏を嫌っており、千冬や幼馴染たちが変わったのも彼が原因だと 
   見抜いている。ただし、恐怖の対象ではない。
   桜を兄(姉ではない)のように慕っており、千冬に続く憧れであり超える対象
   となっている。
   努力をする事を絶えず続け、確実に力を付けるという大器晩成な成長をする。
   その力は天才である束や桜を驚愕させる程であり、底はまだ知れない。
   ワールド・レボリューションでは役割がよくわかっていないので雑務や家事な
   どを行っている。(なお、他の社員はそれで大助かりしている。)
   自他共に認める才能無しだが、伸びしろの限界がない事により、ゆっくりと、
   確実に、どこまでも強くなっている。
   初めて違法研究所を潰す手伝いをした時、その場の流れでドイツ軍のラウラ
   と戦う事になり、勝利する。その後は仲良くなり、ライバルとして共に競い
   合う事になった。
   使用ISは“夢追”と言い、桜たちの夢を追いかけるため、秋十本人の“皆が
   また優しくなれるように”と言う願いを叶えるために作られた“四つ目”の
   “最終世代”。
   ISの腕前は会社内上の下程であり、本人は弱いのだと思っているが、代表候
   補生に勝つほどには強い。
   ISが動かせると公表したため、IS学園に通う事となる。一夏と容姿が似てい
   るため、色々と疑われるのではと思っているが、半ば諦めている。
   世間には“篠咲秋十”という桜の義弟として通っている。

  専用機…夢追
   束と桜の合作。最終世代となっているが性能はそこまでずば抜けていない。
   夢を追うための機体なため、操縦者の想いによって性能に影響される模様。
   武装は秋十に合わせて使いやすい現代兵器ばかりを積んでいる。
   単一仕様は“大器晩成”。夢追を扱った時間によって性能が上がるように
   なっている。
   しかし、その割合は100時間×0,1倍という低効率。ただし、秋十本人はこ
   れはこういうものだと思っている。
   待機形態はミサンガのような腕輪。





       ユーリ・エーベルヴァイン

  性別…女 年齢…15歳

  容姿…リリカルなのはinnocentのユーリそのまま

   誘拐され、家に見捨てられた所を桜に助けられた少女。
   令嬢だったが、病弱で才能もあまりないと見られ、捨てられた。優秀な姉
   もいた事から、どことなく秋十と境遇が似ている。
   唯一母親にだけは優しくされていたが、その母親が亡くなってしまったた
   め、捨てられたようだ。家名も母親のものらしい。
   誘拐自体は突発的なものであり、逆に言えばその誘拐がなかったら桜に助
   けられる事もなかったと言える。
   桜に助けられてからは、暗かった性格も幾分か改善され、大人しく可愛ら
   しい子になった。
   家では才能がないと言われていたが、コンピュータ関連の解析に関しては
   束程ではないにしても相当な才能があるらしい。(桜曰く)
   会社が設立されてからは、社員からマスコットのような扱いを受けており、
   とても可愛がられている。(もはやアイドル)
   未だに実家に対しては苦手意識を持っているが、一応桜たちによって鍛え
   られ(というより影響された)、既に実家の誰よりも全てにおいて優れてい
   る。
   実は、桜に助けられてからは密かに想いを寄せていたりする。
   専用機“エグザミア”を使う様になってからは、さらにマスコット的な存
   在っぷりに拍車をかけた。
   なお、リリカルなのはに出てくるユーリとは一切関係がない模様。

  専用機…エグザミア
   束や桜は技術提供のみで、作ったのはグランツとジェイル。
   番外世代という特殊な機体で、他の世代にはない試みを用いられている。
   なお、性能的には第三世代以上である。
   自己学習型AIが搭載されており、他にもシールドエネルギーを使うも強力
   な特殊武装がある。
   AIは三体おり、それぞれシュテル、レヴィ、ディアーチェという名前があ
   る。(リリなのとは名前と性格以外関係ありません。)
   武装は遠距離射撃型のルシフェリオン、近接・中距離型のバルフィニカス、
   広域殲滅型のエルシニアクロイツと言う扱いの難しい武装と、基本的な
   武装がいくつかある。
   単一仕様は未だ不明。
   なお、待機形態はめ~ちゅというチヴィットの姿。





       織斑マドカ

  性別…女 年齢…15歳

  容姿…原作(もしくはアニメ)のマドカを可愛らしくした感じ。

   原作と違い、三つ子の秋十の妹。
   織斑一夏に洗脳されたうえに、秋十が誘拐されるよりも前に亡国機業に誘拐
   されていた。ちなみに、その誘拐の本当の目的は彼女の両親が洗脳に気付き、
   どうにかして解けないかと考えたかららしい。
   それからは、ナノマシンなどで脅されて亡国機業の一員として過ごしていた。
   ...実際は脅しに使われたナノマシンは治癒力向上の効果しかなかったのだが。
   後に来訪した桜と秋十のおかげにより、洗脳は解けて元の性格であったシス
   コン&ブラコン(秋十に対して)に戻った。
   それからは個人的にも亡国機業としても桜たちに協力するようになり、会社内
   ではユーリと同じように妹のように可愛がられている。
   ISの強さは相当あり、専用機“黒騎士”を束に作ってもらってからは、さらに
   強さに拍車をかけた。会社でも五本指に入る強さを持っている。
   会社内では与えられた仕事以外の時間では専ら秋十にベッタリしている。さす
   がはブラコンだ...。
   秋十に対してはブラコン愛だけでなく、異性としての好意も持っていたりする。
   なお、世間には一応“篠咲マドカ”として通っている。

  専用機…黒騎士
   束が自ら作ったIS。ちなみに最終世代ではなく第四世代。
   武装は剣以外秋十と同じ現代兵器系。...本人が望んだかららしい。
   主な武器として扱う剣は、シールドエネルギーを少しずつ消費する代わりに風
   を扱う事ができる。その気になれば刀身を隠す事も可能。
   他にも斬撃を飛ばす事もできるので、専ら攻撃する際には剣しか使わない。
   他の武装は牽制にしか使わないつもりらしい。
   単一仕様は“エクスカリバー”といい、相当な量のシールドエネルギーを消費
   する代わりに、どんなISでも一撃で倒せてしまう程の極光を放つ能力。
   ...所謂、fateのエクスカリバーそのままである。
   もちろん、消費が激しすぎるため、ただのロマン技になっている。
   本人も使わない方が戦いやすいとの事。





       篠ノ之束(しのののたばね)

  性別…女 年齢…23歳

  容姿…原作通り

   皆さんご存知ISの製作者束さん。ただしこの小説では色々優しくなっている。
   ISを作った際に織斑一夏の洗脳を受けてしまい、それまで優しくしていた秋十
   に対して辛辣になってしまう。
   故に桜によって解いてもらった際に後悔している。
   女性しか乗れないISに対して、失敗してしまったと思い、女尊男卑を失くすた
   めに桜と協力して会社を設立する。
   作ったISコアには実はプロトタイプが三つあり、試作品且つ完成品だったとの
   事。このコアによって桜の専用機が作られた。
   会社を設立してからは、一応社長の立場に就いているが、普段は“篠咲有栖”
   という架空の人物を装い、振る舞っている。
   桜からこの世界はアニメなどの世界として存在していたりするなど、かなり核
   心に迫るような事を教えてもらっており、以前から嫌悪していた織斑一夏をさ
   らに嫌悪するようになった。
   性格に関しては、原作よりも幾分か柔らかく、赤の他人に対しても態度などに
   よっては辛辣にはならない。ただし、嫌悪する相手に対しては原作通り。
   桜とは幼馴染で、桜に対して好意を持っている。愛してくれればハーレムも辞
   さないらしく、同じく好意を持っているユーリを応援している。

  専用機…なし
   今の所専用機は作ってないが、訓練機の腕前は相当なため、作られた時は相当
   な強さを誇るだろう。
   なお、使うコアはプロトタイプの物だと決めている。





       織斑四季(おりむらしき)

  性別…男 年齢…43歳

  容姿…原作一夏の髪を少し伸ばして目つきが優しくも鋭くなった感じ

   秋十達の父親。40を超えているのに20代の若々しさを持っている。
   束たちが中学に上がる頃に家族を置いて妻と共に行方不明になる。
   それからは亡国機業を立ち上げ、二人一組の総帥として色々と暗躍した。
   家族を置いていったのは、一夏の異常さに気付いた故らしいが、詳しくは不明。
   一応、しばらくしたら再会ぐらいはするつもりだったが、一夏が洗脳を仕出か
   したので、もうしばらく会わないようにした。
   それからさらに数年経った時、洗脳を解こうとするため、マドカを拉致する。
   千冬や束はその時点でIS関連で有名になっていたため、拉致という行動は危険
   だと判断し、やめておいた模様。
   なお、洗脳を解く事が出来なかったため、せめて身近に置く事に決める。
   桜と再会してからは、亡国機業穏便派の総帥として桜たちに協力する。
   最近の悩みは未だに秋十と親子らしく付き合えない事らしい。

  専用機…なし
   どうやら既存のISでは適性がないらしい。(むしろ頻繁に男性操縦者が見つかっ
   たら困る)ただし、身体能力だけでも並のISに普通に勝てる。





       織斑春華(おりむらはるか)

  性別…女 年齢…43歳

  容姿…ふんわりとした長めの茶髪に、優しげな雰囲気を持つ顔

   秋十達の母親。年齢詐欺レベルで若々しい。
   行動のほとんどが四季と共に行っているため、辿った道もほとんど同じ。
   ちなみに四季と幼馴染だったらしい。
   束や桜を結構甘やかしたりしており、束はむしろそれを苦手としている模様。
   原作束のはっちゃけっぷりをこの人物が体現しているといってもいいほど。
   掴みどころのない言動だが、四季と協力すれば束や桜にも予想外な事を仕出かす。
   最近の悩みは四季と同じく秋十と親子らしく付き合えない事。

  専用機…なし
   四季と違い、生身でISを倒せる訳ではないが、どんなISも扱えるため、専用機
   が必要ない。(使えば千冬に引けを取らないほど。)





       神咲桃花

  性別…女 年齢…44歳

  容姿…セミロングの紫がかった黒髪に、母性溢れる雰囲気の顔

   桜の母親。やはり年齢詐欺レベルの容姿である。
   桜が事故に遭って以降、生きる最低限の事しかしないほど元気をなくした。
   束がISを世間に発表するまでは篠ノ之家の人や織斑家の人が様子を見に来ていた
   が、一向に元気にならなかった。
   桜と再会した時には、衰弱死する危険性が途轍もなく高かったらしい。
   桜と再会し、元気を取り戻した後は会社の食堂のスタッフとして働いている。
   性格は、(二次元には)よくいる優しい母親的な感じで母性に溢れている。

  専用機…なし
   そもそも、ISに乗るつもりはないらしい。





       織斑一夏

  性別…男 年齢…15歳

  容姿…原作通り

   実は中身が転生者。なお、第1章では一切出番がなかった模様。
   転生する際、神に好き放題できるように洗脳能力を貰っており、秋十の事を転生
   者だと決めつけて居場所をなくすために色々としでかす。
   結果、秋十は居場所をなくし、周りの女性陣は洗脳されてしまった。
   洗脳をされたのは、原作のこの時点で登場しているヒロインや千冬や束。男性も
   洗脳はできるのだが、しなかったらしい。
   しかし、桜が別の神によって目覚めさせられ、束の洗脳が解除されると共に世界
   の修正力的なご都合主義によって洗脳ができなくなる。
   ちなみに、まだその事に気付いていない。
   性格は典型的なクズで、自分のためなら平気で他の人を蹴落とす。
   自分が主人公だと思っており、秋十の事は違う転生者で踏み台として見ていた。
   原作の一夏のようになろうとしているが、実は細かい所で空回りしている。





       その他の登場人物

  織斑千冬…桜と束の幼馴染。原作よりも性格が柔らかめだが、洗脳によって改変させ
     られている。

  クロエ・クロニクル…ほぼ原作通り。色々とサポートに回っており、頼りになる存在。
     束の事は恩人として見ているが、母親代わりとしては恥ずかしくて見れない。

  ラウラ・ボーデヴィッヒ…ドイツ軍シュヴァルツェ・ハーゼの隊長。専用機にVTシステ
     ムが搭載されており、一度はそれに囚われたが、秋十により救済。秋十を好敵
     手として見るようになる。(嫁宣言はまだしていない。)

  クラリッサ・ハルフォーフ…ドイツ軍シュヴァルツェ・ハーゼ副隊長。日本のオタク文
     化に魅入られた一人であり、時たま間違った日本の知識をラウラに教えている。

  グランツ・フローリアン…イタリアの元研究者。女尊男卑によって職を失っていたが、
     桜たちに雇ってもらい、ISの開発がてら、VR技術を研究している。

  ジェイル・スカリエッティ…同じくイタリアの元研究者。グランツと同期だが、こちら
     はVR技術ではなく生物関連について研究している。グランツと同じく職を失った
     所を会社に雇われる。妻子持ちで娘が結構いる。

  篠ノ之箒…第1章未登場。洗脳前は秋十の努力の様に惚れていた。

  凰鈴音…第1章未登場。原作通りいじめられていた所を秋十に助けられるが、洗脳によっ
     て記憶が改竄されている。

  スコール・ミューゼル…亡国機業穏便派の幹部の一人。セレブ然としておりちょっとSな
     性格をしているが、基本的に優しいかも。

  オータム…亡国機業穏便派の一人。一人称が“オレ”で男勝りな性格と口調をしている
     が、案外乙女思考な所も。スコールとは恋人関係。

  冒頭の女性…世界を管理する女神らしい。運命の道筋を大きくはずれた世界を戻すため
     に、桜に正すように頼む。

  





 
 

 
後書き
こんなものです。原作と違う部分はあると思いますが、原作とずれた世界なのでそうだという事にしてください。 

 

第12話「IS学園」

 
前書き
ようやく原作です。原作の小説を見ていないので、大体がwikiや二次創作頼りになると思うので、設定が曖昧です。ご了承ください。(今更)
 

 


       =秋十side=



「(.....やばい...。)」

  周りを見渡し、緊張と同時に冷や汗を掻く。

「(ガチで周りが女子しかいねぇ....!)」

  見渡す限り女、女、女。男なんて一人もいない。

  ...実際は前の方と後ろに二人男がいるけど。

「(桜さんは全然男に見えないし、あいつは論外だ。)」

  というか、桜さんは男らしくなるつもりはあるのか?

「ははは、まぁ、落ち着け秋十君。会社でも女性に囲まれてただろう?」

「...それは気を許せる相手だから大丈夫だっただけですよ...。」

  それに、意外と男性もいましたし。

「皆さん、このクラスの副担任になる山田麻耶です、よろしくお願いします。」

  ...っと、副担任の先生が来たという事は、もうすぐHRが始まるな。

「......え、えっとぉ....。」

  シーンと反応がない教室。....まぁ、あれだ。世にも珍しい男性操縦者がいるから、それに注目しすぎてるんだよな。
  ...後は、山田先生の容姿が中学生みたいで背伸びをした大人にしか見えないからか。

「...あー、これからよろしくお願いしますね。山田先生。」

「っ...!はい!よろしくお願いしますね!」

  桜さんが見かねて返事をする。それが嬉しかったのか、山田先生が語気を強くしてそう言った。

「えー、では、名簿の順で自己紹介をしていきましょう。」

  一応、名簿はあるのだが、席順は自由と言う事になっているらしい。ちなみに、俺と桜さんは真ん中の後ろの方に二人で並んで座っている。

  そうこうしている内に自己紹介が進んでいき、アイツの出番になる。

「えー.....えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします。」

  女子全員がアイツに注目する。...タジタジになってるように見えるけど、あれ、ただの見せかけだな。頭ん中じゃ、どうせ下らない事でも考えてるんだろ。

「...以上です!」

     ガタタン!

  すっぱりと切ったアイツに対して、半分くらいの女子が漫才よろしくズッコケる。

「(見てられねぇ。寝る。)」

  アイツの見るに堪えない演技なんていらん。そう思って俺は机に突っ伏した。





   ―――キャァアアアア!!

「っ!?」

  いきなり聞こえた歓声に、うとうとしてきた俺の意識が覚醒する。

「(っ....なるほどね...。)」

  見れば、千冬姉が前に立っている。恐らく、担任なのだろう。いつの間にIS学園の教師になったのかは知らないが、やっぱり久しぶりに見ると胸の奥が痛む。

「...残りの男子生徒、挨拶しろ。」

  いつの間にか話が進んでいたのか、俺たちが自己紹介する事になっている。
  俺が前にいるので、俺からするか。

「篠咲秋十だ。趣味は鍛錬。特技は家事...かな。好きなものは俺自身よく分かっていないが、嫌いなものは女尊男卑のように、自分を驕っているような奴だ。ワールド・レボリューションのテストパイロットとなっているが、そんな肩書きに関係なしに仲良くできると嬉しい。これから一年間、よろしく頼む。」

  そこまで言って一礼してから座る。
  当然のように女子が騒ぎ出すが...

「静かにしろ!」

  という千冬姉の一声で静まる。...次は桜さんか。

「篠咲桜だ。こんな容姿と名前だが、男なのでそこの所は分かっていてほしい。...秋十君とは、義理の兄弟でもある。ちなみに、俺の年は23歳だが、年上だとかを意識せずに接してくれると一番助かる。それと特技だが...容姿から何となく分かると思うが、篠ノ之束のモノマネだ。」

  そう言って桜さんはどこからともなくウサ耳(機械)を取り出して頭に装着し...

「ハロハロー、私が天災の束さんだよー。」

     パァアン!

  あまりにも似すぎていたため、クラスの女子達が噴出しそうになった瞬間に、千冬姉の出席簿によるチョップが決まる。...って、出席簿の出す音じゃねぇ!?

「痛い痛い!ちーちゃん、痛いよ~!」

「...ふざけるな。いいな?」

  ...これ、洗脳とかの性格関係なしに千冬姉怒ってね?すっげぇ怖いんだけど。

「...はいはい。..とまぁ、これぐらい得意だ。織斑先生が怒るからするのは控えるけどな。それじゃあ、一年間よろしく頼む。」

  そう言って桜さんは座る。さすがにインパクトが強すぎて歓声は起こらなかったな。







「うわーお、これはひどい...。」

「むしろ怖いですね。」

  HRが終わり、廊下を見てみると何かの群れのように女子生徒が群がっていた。
  ...中には二年生や三年生らしき人までいるし....。

「ちょっとよろしくて?」

「うん?」

  皆が遠慮して俺たちに話しかけない中、誰かが話しかけてくる。
  見れば、金髪のいかにもお嬢様な髪型の生徒が立っていた。

「まあ!何ですのそのお返事は!私に話しかけられるだけでも光栄なことなのだからそれ相応の態度があるのではなくて?」

「(うわぁ...態度が...。)」

  横暴過ぎる態度に、俺は呆れて何も言えなかった。

「イギリス代表候補生、セシリア・オルコットだな。代表候補と言う肩書きと、相手が男という事で高飛車な態度を取るのは結構だが、そうしていると程度が知れるし、国家代表にはなれんぞ?」

「な、なんですって!?」

  桜さんがきっぱりとそう言う。
  ...結構当然な事だな。国の代表なんだから、代表の人柄で国そのものに影響するしな。

「それと、男だからって侮るなよ?こっちは二年前から危険から身を護るため、知識や技術だけでなくISの事まで叩き込まれたからな。」

「(...俺、なんも喋れてねぇな。)」

  桜さんが全部対応しちゃっている。

「この...!女々しい容姿をしている癖に...!」

「容姿と中身は別だろ。」

  主にアイツみたいにな。桜さん曰く、アイツの場合は本来の魂と別の魂が入っているとの事だけど...なんで桜さんはそんな事が分かるんだ?

「...あ、そういえばマドカとユーリはどこのクラスなんですか?」

「うん?あー、確か二人共四組だったはずだ。上手い具合に二人ずつで固まったな。」

「そうですね。」

  少し疑問になった事を桜さんに聞く。

「ちょっと!?私を無視しないでくれます!?」

「あー、忘れてたわー。」

  凄く棒読みですね桜さん。まぁ、俺も態とだったんですけど。

「そりゃぁ、男だからと見下しに来た奴を相手にしてられないしな。」

「っ....ふん、所詮、男なんて立場を弁える事もできない生き物なのですわね。」

「あー、はいはい。そろそろ時間だし、席に戻りなよー。」

  桜さんが適当に受け流す。...滅茶苦茶面倒臭そうにだけど。







「(...IS学園の授業って、やっぱりISが中心なんだな。)」

  会社で散々勉強をさせられたから全て理解できるけど。...まぁ、アイツは分からないだろう。突然の入学だし。同情はしないけどな。

「ほとんど全部わかりません...!」

「えっ....全部ですか..?」

  とか考えていたら、案の定分からなくなっていた。...いや、まだ最初の方なんだからいくら突然の入学でも勉強しときゃ分かるだろ。

「今の段階で分からない人はどのくらいいますか?」

「「「「......。」」」」

  山田先生が他の人に呼びかけるが、当然全員分かっている。

「篠咲君達は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。一応、二年前から勉強していましたから。」

  俺がそう答える。...桜さんの場合、全部暗記してるだろうけど。
  すると、アイツが小さく舌打ちして俺を睨んでくる。...なんだ?

「...織斑、入学前の参考書は読んだか?」

  教室のドアの近くで腕を組んで立っていた千冬姉がアイツにそう聞く。

「いや...電話帳と間違えて捨てましt」

     スパァアン!!

「必読と書いてあっただろうが。...後で再発行してやるから、一週間以内に覚えろ。いいな?」

「いや、一週間であの厚さはちょっと...。」

「やれと言っている。」

  凄い威圧感で千冬姉はそう言う。...なぜだろう。以前の俺なら思いっきり怯んだはずなのに、平然としてる...。...桜さんや束さんで慣れてしまったか...?

「っ....はい...やります...。」

  さすがにアイツもこれには耐えられないようだ。

「あーっと...織斑先生?」

「なんだ?」

  唐突に桜さんが発言する。

「再発行はしなくていいです。俺のを譲るので。」

「....お前はどうするつもりだ?」

「俺は暗記してるので。もし忘れても、秋十君のがありますから。」

  やっぱり覚えてたんですか。...そう言えば、桜さんは俺の参考書を適当に見ながら俺に教えてたような...。まさか、あれで覚えたのか?

「....いいだろう。再発行の手間が省けるからな。そう言う事だ。後で貰っておけ。」

「....わ、分かりました。」

  訝しむような目で俺と桜さんを見てくる一夏。...どうせ、碌な事考えてないだろうな。

「では、授業を進めます。テキストの12ページを―――」

  この後は、特に何事もなく授業が進んでいった。





「桜さん、ここってどういうことですか?」

「そこか?そこはだな....。」

  休み時間、少しだけ分からなかった事があったので、桜さんに教えてもらう。

「ねぇねぇ、さくさく~。」

「....俺の事か?」

  間延びしたような声色で桜さんが(多分)呼ばれる。

「そうだよ~。ホントに参考書の内容覚えてるのー?」

「まぁな。なんならいくつか質問してみてくれ。」

「ん~、じゃー遠慮なく~。」

  しばらく話しかけてきた少女と桜さんの問答が続く。...桜さんが暗記しているのはもう慣れたけど、彼女もなかなか凄いな。それなりに覚えてるし...。見掛けに寄らねぇ...。

「お~!ホントに覚えてるんだね~。」

「だろう?...ところで君は?」

  しばらくしてからようやく桜さんが彼女の名前を聞く。

「私は布仏本音(のほとけほんね)だよ~。」

「そうか。よろしくな本音。」

「うん~。あっきーもよろしくね~?」

  あっきーって...俺の事か?

「さっきからさくさくとかあっきーとか...俺たちの渾名か?」

「そうだよ~?桜だからさくさく。秋十だからあっきーだよ~。」

「なんというか...まぁ...。」

  ネーミングセンスがずれているというか...。まぁ、気にしたら負けか。

「あ、あなた達!あなた達も教官を倒しましたの!?」

「ん?」

「なんだ?」

  いきなり甲高い声が掛けられる。見れば、オルコットだったか?そいつがアイツの近くにいて俺たちを指差していた。

「教官だ?...試験の時の奴か?」

「それ以外何がありまして!?」

「(会社の誰かとか?)」

  生憎、教官と呼ぶような立場の人はいないけど。強いて言うなら桜さんか。

「あーそれか...。訓練機だったからなぁ...引き分けだ。」

「え?桜さんがですか?...あ、ちなみに俺は勝ったぞ。」

  意外な事に桜さんが引き分けたらしい。とりあえず、オルコットの方に俺も答えておく。

「そりゃあ、相手が訓練機とはいえ本気で来たからな。」

「...桜さんなら、本気でも倒せると思いますが。」

「いや、織斑先生だし。」

  その瞬間、空気が固まった。

「あ...あなた...織斑先生と..引き分けたんですの...?」

「試験だから本気で来ないと油断してたからなぁ...それがなければ勝てたのに...。」

  さらに空気が凍る。...桜さん?とんでもない事言ってる自覚あります?

「なんで織斑先生は本気になったんですか?」

「うーん...俺が篠ノ之束に似ているのと、同い年だからかな。」

  なるほど。...なぜか納得できました。後、幼馴染ですもんね。

「な...あっ....!」

「うん?」

  オルコットが震えながら桜さんを驚愕の目で見ている。...よく見ればアイツも同じように桜さんを見ていた。

「お、覚えてらっしゃいー!!」

「お、おう...。」

  逃げるように自分の席に座ったオルコット。...そう言えばチャイムもなってたな。

「ほら、お前ら座れ。授業を始めるぞ。」

  千冬姉が教室に入ってきて、クラスの皆は速やかに席に座る。

「あの...織斑先生。」

「なんだ。」

「...篠咲君が織斑先生と引き分けたって、本当ですか...?」

  一人の女子生徒が恐る恐る質問する。

「....そうだ。もちろん、訓練機とはいえ、私は本気だったぞ?」

     ―――ざわ...!ざわざわ...!

「ええい!喧しいぞ貴様ら!静かにしろ!」

  さっきの桜さんの言葉が事実だったことにざわめくが、千冬姉の一喝で静かになる。

「それでは授業を始める。」

  そして、何事もなかったかのように、三時間目が始まった。





「...っと、そうだ。再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。」

  少ししてから、思い出したかのようにそう言う千冬姉。...忘れてたのか?

「あの、代表者って?」

  アイツが質問をする。

「代表者とはそのままの意味だ。クラス対抗戦だけでなく、生徒会が開く会議や委員会に出席...まぁ、所謂クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間は余程の事情がない限り変更はないから覚悟しておけ。」

  分かりやすく簡潔に説明する千冬姉。...桜さんでも推薦しておくか?

「はい!織斑君を推薦します!」

「あ、私は篠咲君の弟さんの方を!」

「じゃあ私はお義兄さんの方を!」

「なんかニュアンスが違くない!?」

  一人変なのがいた気がするけど、皆男性操縦者を珍しがって俺たちを推薦してくる。

「候補者は織斑一夏と篠咲秋十、篠咲桜か...。他にいないか?自薦他薦は問わないぞ。」

  推薦で名が挙がったのはやはり俺たちだけなようだ。

「...推薦された者に拒否権は?」

「ない。推薦した者の気持ちを汲み取ってやれ。」

「....なん...だと...!?」

  桜さんも代表は嫌なのか、質問するが、キッパリと拒否権がない事を言われ、頭を抱える。

「あー...一つだけ言わせてもらいたいんだが―――」

「納得いきませんわ!!」

  桜さんが再度何かを言おうとした瞬間、オルコットが机を叩いて立ち上がる。

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!この、セシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

  喧しい声でそう言うオルコット。...もう、無視でいいや。

「...桜さん、さっき、何を言おうとしたんですか?」

「...推薦するのは構わないが、せめて物珍しさだけじゃなく、実力や人柄から選ぶようにしてくれって、言いたかったんだ。」

  至極真っ当な事だな。既に推薦された俺たちはそのままだが。

「...けど、それって余計に桜さんが推薦されるんじゃないんですか?桜さん、ちh..織斑先生に勝ったって事が分かっているんですし。」

「いや、それはもう諦めてるから...。」

  諦めたんだ....。まぁ、推薦された者には拒否権がないしなぁ...。

「―――大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

「イギリスだって大したお国自慢はないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ。」

「なっ....!?」

  未だに続くオルコットの言葉に、アイツが勝手に突っ込む。

「あ、あなたねぇ!私の祖国を侮辱しますの!?」

「先にバカにしたのはそっちだろ!」

  俺からしたらどっちもうるさいだけなんだが...。

「....男と日本を侮辱したオルコットに織斑がキレた。以上が今の状況だ。」

「あ、ありがとうございます。」

  桜さんから簡潔に状況を伝えられる。正直、無視してたから話聞いてなかったしな。

「はぁ...なぁ、オルコット。」

「なんですの!?口を挟まないでくださいまし!」

「お前さぁ...死にたいの?」

「は....?」

  桜さんが唐突に言った言葉に、一時的に固まるオルコット。

「織斑に加担するつもりでいう訳じゃないが、このクラスの大半は日本人だ。その中で日本を侮辱してみろ。日本人の怒りを買う上に、イギリスの評価が下がる。そうなるとお前はイギリスから切り捨てられるぞ?」

「なっ.....!?」

  あり得るかもしれない事に、オルコットの顔が青くなる。

「第一、日本を侮辱する前に少し考えてみろ。ISを作ったのは、第一回モンド・グロッソで優勝したのは、どこの国の人物だ?」

「ううっ....。」

「世界の最先端を行くISの発祥地である日本を後進的な国?ちょっと不用意な発言すぎるぞ?」

  桜さんの言葉にタジタジなオルコット。...千冬姉と引き分けたという事実もオルコットをビビらせる要因になってるのか?
  ...というか俺、今の所桜さんのオマケだな。

「あ、それとな。」

  そう言って桜さんは一度立ち上がり、そして....。

「男をあまり、舐めるな。」

「っ.....!?」

  一瞬でオルコットの背後に立つ。いや、あの、それは桜さんが特別なだけじゃぁ...。

「よく世間で女性が優れてるとか言われてるけどな、優れているのはISであって女性じゃない。今のように一瞬で背後に回られてみろ。ISを展開するまでもなく、死ぬぞ?」

「そこまでだ篠咲兄。」

  強い威圧感を放って周りをビビらせている桜さんに、千冬姉のストップが入る。

「...どちらも納得しないというのなら、一週間後の月曜、放課後の第三アリーナで戦え。それで最終的な代表を決めろ。」

「俺は実力と人柄さえ伴っていれば誰でもいいんですがね...。」

「そうか。だが今決定した事だ。織斑とオルコット、篠咲兄弟は一週間後の用意をしておくように。」

「りょーかいです。」

  そう言って桜さんは席に戻る。

「..........。」

  そんな桜さんを密かに睨みつける一夏。アイツ...まるで自分の思い通りにならないって顔をしているな。お前の考えなんか知るかっての。

「(初日から面倒臭い事になったなぁ...。)」

  原因の一端に桜さんも絡んでいるから何とも言えんが。





  それ以降の授業は滞りなく進み、放課後になった。ちなみに、俺たちを見に来る女子生徒たちの所為で、俺たちは碌に廊下を出歩けなかった。
  ...マドカやユーリに会いに行っておきたかったんだがなぁ...。

「....なぁ。」

「うん?」

  放課後になって、アイツが俺に話しかけてくる。

「ちょっと話があるんだ。屋上へ行かないか?」

「.....。(どうしますか?)」

「(好きにしていいぞ。秋十君ならどうとでもできる。)」

  桜さんにアイコンタクトを取り、とりあえずついて行くことに決める。

「ああ。いいぞ。」

「よし、なら行こうか。あ、箒、悪いが男子だけで話がしたいんだ。席を外しておいてくれ。」

「分かった。」

  一夏は箒にそう言い、箒が引き下がる。男子だけって、桜さんもか?

「俺もか?」

「...ああ、そうだ。」

「まぁ、いいだろ。」

  とりあえず桜さんもついて行くみたいだ。屋上へ行くために俺たちが歩き出すと、見に来ていた女子生徒がモーゼの奇跡のように割ける。
  ...ある意味圧巻だな...。





「....で、話ってなんだ?」

「......。」

  屋上に着き、俺がそう言う。着いたばかりでまだ背を向けたままの一夏の表情は見えない。

「っ!?がっ...!?」

  すると、突然振り返り、睨みつけながら俺の襟を持つ。

「てめぇ、何のこのこ出てきてんだ?」

「はぁ....?」

「誤魔化せてるとでも思ってんのか!?てめぇはどう見ても織斑秋十だろうが!?出来損ないの癖に今更出てきてんじゃねぇよ!」

  脅すように俺に怒鳴りつける一夏。襟を持ち上げられているので少し締め付けられる...!

「おい....。」

「おう、動くんじゃねぇぞ?動いたらコイツがどうなるか分かってるだろうな?」

「....チッ....。」

  桜さんが動こうとして俺を人質に取る。大方、桜さんが俺の事を大事にしているから人質が効くとでも思ったのだろう。

「俺が織斑一夏で主人公なんだ!てめぇみたいな他の転生者で紛い物は、俺の踏み台にでもなってりゃいいんだよ!!」

「ぐっ...何言ってんだ....?」

  主人公?転生者?踏み台?頭おかしいだろ、コイツ...。

「しらばっくれんじゃねぇ!てめぇなんざ原作に存在しなかっただろうが!」

「原作...?なんの話だよ....。」

  息苦しい。喋りづらいんだが...。

「それとてめぇもだ!束さんの姿を真似やがって...ぶっちゃけキメェんだよ!男の癖に束さんの容姿になるとか!」

「あ゛?」

  ちょ、桜さん!?青筋立ってますよ!?

「どっちも転生者なんて事はお見通しなんだよ!いつまでもしらばっくれてんじゃねぇぞ!?」

  どうやら、コイツの中で俺たちは転生者とか言う者だと断定しているようだ...。

「(...もう、やっていいですか?)」

「(ああ。いいぞ。俺もちょっとキレてる。)」

  うわぁ...。桜さん...と言うか束さんは桜さんの容姿を大事にしてるからなぁ...(似てるからとかそんな理由で。)。だから、それをバカにしたら最悪束さんが...。

  ...っと、それどころじゃなかったな。

「....ふっ!」

「ぐぅっ!?」

  襟首を掴んでいる手を思いっきり捻る。
  たったそれだけで俺は解放される。

「てめぇ....!」

「いつまでもやられるだけの俺だと思ったか?」

「なんだと....?」

  昔の俺なら怯んでいた睨みを俺はあっさりと受け流す。

「ほら、かかってこいよ?“自称天才”さん?」

「っ...調子乗ってんじゃねぇぞっ!!」

  殴りかかってくるのを避け、腕を掴んでそのまま関節技を掛ける。

「がぁあああっ!?」

「はぁ...バカだねぇ..。俺がさっき手を出さなかったのは、秋十君が人質に取られたからじゃなくて、秋十君だけでも対処できるからなんだよなぁ...。」

  なんか、こんな奴に俺はいつもやられていたのかと思うと、怒りさえも萎える程馬鹿らしくなってきた。

「ぐっ.....。」

「いいのか?」

「はい。物理的に仕返ししても、空しいだけだと思いましたから。」

「そうか。」

  手を離し、解放する。

「てめぇ....!」

「じゃあな。」

  睨みつけてくる一夏を無視し、俺たちは荷物を取りに教室へと戻っていった。







 
 

 
後書き
何気に一部の原作の流れ(ハンデとかのセリフ)を乱している桜さん。おかげで一夏はぐぬぬ状態です。それが目的なんですけどね! 

 

閑話2「IS学園~Another~」

 
前書き
今回は前回出番がなかったユーリちゃん視点です。四組sideで始まります。
オリキャラも出るよ!(ほんの少しだけ)
 

 


       =ユーリside=



  桜さんが言った通りに、私達はIS学園に入学しました。ですが....。

「..........。」

「ユーリ、大丈夫?」

「な、なんとか....。」

  見れらてます。すっごく見られてます....!

「この待機状態、何とかならないんですか...?」

「グランツさん曰く、それ以上の縮小は難しいだって。」

  そう、私が注目されている理由は、今私の頭の上に垂れパンダのように乗っているめ~ちゅが原因です。...実は、このめ~ちゅ、“エグザミア”の待機形態なんですよね...。

「...はぁ...我慢するしかないんですね...。」

「これを機にユーリも人見知りを克服したら?」

「克服する前に挫けそうなんですが...!」

  皆さん、あまり見ないでくださいー!

「はい、HRを始めるよ。」

  すると、担任と副担任の先生が入ってきて皆を席に着けさせる。...って、あの人達は...。

「それじゃあ、まずは自己紹介をしましょうか。私は担任のアミティエ・フローリアンです。まだ教師になって間もないけど、まぁ、それは皆も同じようなものだから、一緒に頑張って行きましょうね。」

「私は副担任のキリエ・フローリアンよ~。名前から分かる通り、お姉ちゃんの妹よ~。」

「...って、アミタとキリエ!?」

  赤い三つ編みの女性とピンクの長い髪の女性。...やっぱり私の知っている人でした。...というか、グランツさんの娘さんです。
  マドカさんも驚いたのか、つい立ち上がって突っ込んでしまいます。

「篠咲さん、教師には先生とつけるように!」

「うっ...はい。」

  アミタさんに注意され、マドカさんは座り直します。

「は~い、私達と篠咲さんの関係も気になるだろうけど、それは自己紹介の時に喋ってもらうから早速していきましょうね~。」

「名簿の順でお願いしますねー。」

  アミタさん...これからはアミタ先生と呼びましょうか。
  アミタ先生の指示により、名簿の順で自己紹介をしていきます。

  しばらくして、マドカさんの番になりました。

「篠咲マドカです。アミタ...先生達と知り合いなのは、同じワールド・レボリューションに所属してて、よく会ったりするからです。一組に男性操縦者の秋兄がいますけど、手を出したら...殺っちゃうよ☆」

  前半は普通でしたけど、後半で皆さんがシーンとなります。...あの、可愛げに言ってもその笑顔は恐ろしい系の笑顔なので意味ないですよ...?

「はい、見ての通りブラコンですが、それ以外は普通なので安心してね~?」

「ちょ、キリエ!?貴女が紹介しちゃ意味ないでしょ!」

  キリエ先生が補足の紹介を入れ、アミタ先生がその事に突っ込みます。
  とにかく、マドカさんはこれで終わりのようで、次の人に行きます。



  ...またしばらくして、ようやく私の番になります。

「....ユーリ・エーベルヴァインです...。えっと...マドカさんと同じワールド・レボリューションに所属しています。...えっと、その...頭に乗ってるのは“エグザミア”と言う私の専用機の待機形態で、チヴィットと言う会社で開発しているAI搭載のロボットでもあります。...あの、一年間よろしくお願いしますっ!」

  緊張と恥ずかしさで言い切った瞬間に座ってしまいます。

「可愛らしいなぁ...。」

「抱きしめたくなるね!」

「私...何かに目覚めそう....。」

「誰かこの人止めて!?」

  周りが私を見ながらヒソヒソと話しています。...余計に恥ずかしいです...!
  あ、何か変な事言った人は無視です。ああいうのは気にしたらダメだと桜さんに教わりました。

「我が社の商品宣伝もしてくれてありがとねー。」

「ちなみに~、ああ見えてちゃんと同い年だからねー?」

  小さくて悪かったですね...!というか、緊張のあまり自己紹介の内容も思い浮かばずに宣伝をしてました...!

「はい、では次の人ー。」

  次からの人の自己紹介は、やってしまった恥ずかしさでよく聞いていませんでした...。





「はぁ~....。」

「お疲れだね、ユーリ。」

  机に突っ伏す私に、マドカさんが話しかけてきます。

「人見知りだからか、余計に疲れました...。」

「まぁ、桜さんはそれも克服するようにって考慮してたんだと思うよ。」

「そうですか....。」

  ふと、廊下を見てみれば、一組方面に生徒が集まってました。

「...男性操縦者....だからですかね。」

「多分ねー。まぁ、ユーリも十分注目されてるけど。」

「うぅ~....。」

  確かに私に注目している人も結構います。私に、というよりはめ~ちゅにですけど...。

「グランツ博士は何を思ってこの待機形態に...。」

「ジェイルさんも一緒だったからねぇ...私もわからないよ。」

  ...はぁ、もう、注目されるのは諦めましょう。

「ところでマドカさん。」

「ん?なにー?」

  話を切り替え、今度は私からマドカさんに話しかけます。

「...怪しい人と、重要そうな人、このクラスに何人でしたか?」

「....んー...怪しいのは四、五人。重要そうなのは一人...かな。」

  ちなみに、怪しい人と言うのは女尊男卑思想の過激な人の事で、重要そうな人は有名だったり手を出さない方がいい人だったりする人の事です。

「ま、怪しい方は放置しててもいつの間にか桜さんが潰してるだろうから...重要そうな方、かな。」

「...そうですね。」

  マドカさんが顔を向けた先は、今は誰も座っていない席。
  先程、HRが終わったらすぐにどこかへ行ってしまったようです。

「名前は更識簪(さらしきかんざし)。...まぁ、あの更識家の子って事ね。」

「対暗部用暗部“更識家”...まぁ、裏では有名な家系ですね。」

  ちなみに情報源は桜さんや束さんです。一体、どこまで知ってるんですか...。

「“楯無”の名を持っていないという事は当主ではなさそうだね。」

「確か、妹さんの方ですね。姉の方が二年にいます。」

「あー、そうだったね。生徒会長だし、優秀なんだろうな。」

  マドカさんの言葉に少し胸が痛みます。...なにせ、私も優秀な姉と比べられてきましたから。どこか、簪さんと私の境遇が似ている気がするんですよね...。

「...っと、ごめんごめん。」

「いえ...大丈夫ですから。」

  マドカさんも失言に気付いたのか、謝ってきます。

「...それよりも、他の情報は...。」

「えっとね...あ、専用機の開発が凍結されたらしいよ。」

「専用機の開発がですか?」

  マドカさんの情報端末を覗かせてもらうと、開発しているのは倉持技研という所で、凍結された理由は男性操縦者の専用機“白式”の開発が優先されたから...と。

「...ひどいですね。」

「....実は、束さんもコレに関わっていたりするんだよね。」

「えっ...?」

  どうやら、“流れ”というものに必要な事をしたらしいです。...その“流れ”というモノが分からないんですけど...。

「おまけに、アフターケアは私とユーリに任せるってさ。...なんで私達が彼女と同じクラスになる事を見越したような指示を....。」

「...案外、そうするように仕向けていたりしてそうです。」

「否定できない....!」

  実はこのクラス分け、束さんと桜さんが操作していたりしませんよね?

「...って、そんな事してる間に二時間目だ。」

「そうですね。」

  件の簪さんはチャイムが鳴るギリギリで帰ってきていました。
  ...そんなギリギリで大丈夫なんでしょうか...。





「あれ?ユーリどこ行くの?」

「ちょっとお手洗いにです。」

  二時間目は特になにもなく終わり、再び休み時間です。
  ちなみに、簪さんはまたすぐにどこかへ行ってしまいました。

「あ、私もついて行くよ。」

  マドカさんもついてくるようです。まぁ、特に何かある訳ではありませんから気にしませんが。





「....あら?」

「ぁ.....。」

  お手洗いから帰る時、見覚えのある女性と目が合います。

「あらあら....なんで貴女がここにいるのかしら?」

「ゆ、ユリア姉様....。」

  私に似たようなウェーブのかかった金髪に、私をそのままスレンダーに成長させたような容姿の女性は、まごうことなき私の姉でした。

「....誰?」

「.....何度か話した、私の姉です。」

「ふ~ん...。」

  一緒にいるマドカさんの質問に答えます。

「...もう一度聞くわ。なぜ、貴女のような“出来損ない”がここにいるのかしら?てっきりとっくに死んだと思ってたのだけれど?」

「...助けて助けて頂いたんですよ。今、私が所属している会社に。」

  正直、会いたくなかった。でも、やっぱりこの学園にいました。家でも、IS関連の事を教えられていたので、ここに入学する事は分かっていましたし...。

「ふーん...。で?この学園にのこのこと入学してきたと...。」

「はい...。」

「...調子乗ってるんじゃないわよ?」

  私を睨みながら姉様はそう言います。

「出来損ないの癖に、拾って貰った程度で図々しいのよ。第一、なんでまだエーベルヴァインの名を語ってるの?貴女はもうエーベルヴァインの者ではないのよ?」

「っ....母様の名は、捨てたくありません...!」

  これは、桜さんにも言った事です。唯一優しくしてもらった母様の事だけは忘れたくないから、家名はずっとエーベルヴァインでいたいと....!

「あら、何を言ってるのやら。貴女は既に家の者ではない。ならば、お母様の子ですらないという事よ。だから、お母様は既に貴女の親ではないわ。」

「っ......!」

  常に見下すように私を見てくる姉様の姿に、強い憤りを感じます。

「....はぁ、行こう、ユーリ。」

「マドカ...さん?」

「こんな奴、相手にするだけ無駄だよ。」

  マドカさんは私の手を引いて姉様を無視して行こうとします。

「....所詮、家族の本当の長所にも気づけない程度の存在なんだから。」

「...なんですって?」

「事実だよ。第一、才能とかよりも私は性格とか人柄を取るね。....あぁ、それとさ。」

  そう言ってマドカさんはセリフを区切り、すれ違いざまに...

「―――アンタのような奴が、ユーリに勝てるわけないでしょ。」

「.........。」

  そう言って私を連れて教室に戻っていきます。
  姉様は、ずっと私達を睨んでいました。

「ほら、ユーリ、いつまでさっきのを引きずってるの?」

「あ...すいません...。」

  さすがに呆れたような目でマドカさんは私を見ます。

「家族を捨てるような奴なんかをいつまでも気にしちゃいけないよ。...第一、今じゃユーリの方が全てにおいて優れてるんだから。」

「そうなんでしょうか...?」

「...あの束さんや桜さんに鍛えられて、強くならないとでも?」

  苦笑いしながらそういうマドカさん。...確かにそうですね。

「....それにしても、どうして姉様はこの一年生の階に?」

「秋兄や桜さんとか男性操縦者がいるからでしょ。どんな人か偵察しにって感じに。」

  なるほど...。...姉様は女尊男卑思想ですから、偵察というのは的を射てますね。

「...っと、さっさと戻らないと。」

「もうこんな時間ですか。」

  チャイムが鳴りそうな時間だったので、私達は急いで教室に戻りました。





「はい、それじゃあクラス代表を決めますよー!」

  三時間目、アミタ先生が授業を始める時にそう言いました。

「クラス代表って言うのは、名前の通りね。ちょーっと行事での雑用とかが任せられたり、クラス別でISの対戦で代表として出たりするわ。」

「では、立候補もしくは推薦する人は挙手をお願いします。」

  キリエ先生、アミタ先生と言い切った直後、まばらに手が上がります。

「はい!エーベルヴァインさんが良いと思います!」

「はい!私も!」

「え、ええっ!?」

  何故か挙手したほとんどの人が私を推薦しました。ど、どうして....?

「あ、あの...!」

「ちなみに~、推薦された人に拒否権はないわよ~?」

「うぅ.....。」

  辞退しようとしたら、キリエ先生に無理だと言われました...。

「あの...せめて私を選んだ理由を....。」

  それだけでも聞かせてほしいと、私はそう言います。

「専用機持ちって言うのもあるけど....なによりも。」

「「「「「可愛らしいから!」」」」」

  クラスのほとんどが一斉にそう言います。...って、マドカさんや先生方まで!?

「そ、それだけ...ですか?」

「何言ってるのエーベルヴァインさん!」

「可愛いは正義だよ!」

「というか、こんな可愛らしい子がうちのクラスにいるのを自慢したい。」

  クラスメイトのあまりの気迫に少し引いてしまいます...。...って、最後の人、ぶっちゃけましたね...。

「...ユーリ、他の人が推薦されていない時点で、決まったことだよ。諦めて、クラス代表になるようにね?」

「うううううぅ....!!」

  気が進まないですけど...諦めるしか、ないんですね...。

「じゃあ、クラス代表はエーベルヴァインさんに決定...と、言いたいところだけど、納得いかない人が何人かいるみたいですね。」

  見れば、何人かが私を睨んでいました。おそらく、会社に敵意を持っている方か、単純に納得がいかない方達なんでしょう。

「納得がいかない理由って、実力があるとは思えないのと、代表候補性とか肩書きを持ってないからって感じかな?...後は、ポッと出の会社の奴に代表をやられたくないとか。」

  マドカさんが睨んできた方達を睨み返します。どうやら、図星だったみたいで、睨んでいた方達は目を逸らしました。

「....まぁ、そこまで言うなら、私がユーリの相手になって実力を示してあげるよ。」

「ま、マドカさんとですか!?」

  マドカさんがいきなり模擬戦をする事を言い出したので、思わず突っ込んでしまいます。

「え?だって、これが一番手っ取り早いよ?」

「....私、マドカさんよりも弱いんですけど...。」

「実力を示すには充分だって。」

  なら、マドカさんがやればいいじゃないですか....!
  ...推薦されてないので無理なんですけどね...。

「よし、それじゃあ近い内に...一週間後かな?その時に、篠咲さんとエーベルヴァインさんで模擬戦をしてもらいます。その結果でふさわしいか決める。...それでいいですね?」

  誰も反論をしません。異論はないのでしょう。

「では、少し時間が余ったので、授業を少しだけしましょうか。」

  アミタ先生の言葉に、半分くらいの生徒が不満の声を上げます。

「ええ~。」

「皆さんが言うのは分かりますが...キリエ!貴女が面倒臭がってどうするんですか!」

「だって、このまま終わる雰囲気じゃない。」

「副担任なのにそれをいいますか....。」

  副担任としてあるまじき言葉ですよキリエ先生...。

「...はぁ。....まぁ、授業ができる教材を今は持ってきてないので、結局は授業はしないんですけどね。」

「...自分だって後先考えてないじゃない。」

「うぐっ....。」

  コントのように会話をする先生方。クラスの方達もあの二人なら親しみやすくていいと思ってるのでしょう。少し笑ってる方もいます。

「と、とにかく、時間が余ったので、適当にクラスメイト同士で交流してください。」

「はい、それじゃあ、自由時間~。」

  先生の言葉を合図に、半分くらいのクラスメイトは立ち上がり、いろんな人に話しかけて行きます。...私は、とりあえず先生方の方へ行きましょうか。

「ねぇねぇ!エーベルヴァインさんは好きな食べ物とかある?」

「その子、触らせてほしいんだけど....。」

「わぁ~、近くで見るとさらに可愛らしい!」

「え?あ、あの....!」

  席を立とうとした瞬間、複数の人達は私に寄ってきました。
  ど、どうすればいいんでしょう...。私、人見知りですからコミュニケーションが...。

「あー、ユーリは人見知りだから、そんなに詰め寄ったら困っちゃうよ。大抵の事は私が答えるね。」

  すると、マドカさんがほとんどの人を請け負ってくれました。

「ありがとうございます...。」

「..早く慣れなよー。」

「は、はい..。」

  大抵の質問はマドカさんが答え、プライベートやマドカさんが答えていいのか分かりづらい質問は私が答えて行きました。







「...はぁ~....疲れました....。」

「学校ってこんなに疲れるものなの...?」

  今日ある全ての授業が終わった時には、私とマドカさんは結構な疲労感に襲われていました。
  ...私達は中学校なる場所には通ってませんでしたからね...。

「どちらかというと、クラスメイトの方達の質問の応答の方が多かったような...。」

「あー...それで疲労感が大きいのかぁ...。」

  こういうのって、転校生にある宿命じゃないんですか....?どうして普通に入学した私がこんな目に...。

「....め~ちゅもだいぶ疲れてますね...。」

「弄ばれてたからねぇ。...メンテしてきたら?」

「そうですね。」

  私の頭の上でだれるようにしているめ~ちゅを抱え、整備室へと向かいます。
  ちなみに、場所は校内の地図が入学前のパンフレットに載っていたので分かっています。





「....ここですね。」

  整備室に入り、隅の方に行きます。...あまり見られたくないですし...。

「えっと...め~ちゅの今の状態は....。」

  解析するためにコードを繋ぎ、キーボードを叩いて行きます。

「疲労による一部の回路が接触不良を起こす可能性あり....ですね。どれだけ弄り倒されたのでしょうか...。」

  接触不良になりにくいようにしているはずですが...。

「シュテル、細かい部分を教えてください。直しますから。」

〈分かりました。〉

  直すべき場所をシュテルに教えてもらいながら、メンテナンスをこなしていきます。
  シュテル以外にもレヴィやディアーチェでもいいんですが...やっぱりこういうのはシュテルが最も向いているので...。

「ここが...こうで....えっと、これは...こうですね。」

〈最近はメンテナンスをしていなかったので、整備する箇所が多いですね。...あ、ユーリ、これもです。〉

「そうですねー...。まぁ、手軽に済ませれるものだけでよかったです。」

  私は解析が得意なだけでメンテナンスはそこまで得意ではありませんからね....。軽い故障はともかく、重要な部分とかは無理です。

〈.....これで大丈夫です。〉

「ありがとうございました。」

〈いえ、こちらこそ。〉

  エグザミアの横に出ていた画面が消えます。普段はシュテル達は画面を介して私達と会話をしますからね。チヴィットに接続して直接話す事もできますけどね。

「め~ちゅもお疲れ様でした。」

  メンテナンス中は眠っていため~ちゅが目を覚まし、また私の頭に乗ります。

     ―――カタン

「っ、誰ですか...?」

  機材による物音がしたので、そちらへと振り返ります。
  そこには、水色の髪をして眼鏡をかけた、大人しそうな少女がいました。

「...貴女は確か...クラスメイトの更識簪さん?」

「あ、えっと....。」

  なぜかおどおどしている簪さん。どうしたのでしょう?

「ご、ごめんなさい、勝手に覗いちゃってて....。」

「覗いてたって...メンテナンスしてた所をですか?」

「う、うん...。」

  ...と、言う事はシュテルと会話してたのも見られてますね。
  別に、隠す必要はないんですけどね。

「さっきのは...。」

「私の専用機“エグザミア”に搭載されている自己学習型AIの一人です。他にも二人いて、さっきのはシュテルと言います。」

「AI.....。」

  自己学習型のAIが搭載されているISなんて他にないですからね。珍しがるのも当然です。

「...少し、会話してみますか?」

「えっ?」

「シュテル。」

〈はい。〉

  再び画面が宙に投影され、そこにシュテルが映ります。

〈....1年4組の更識簪さんですね。私はシュテルと申します。〉

「凄い....本当にAI?」

〈はい。自己学習機能を付けた事で、より人間らしくなっておりますが、AIです。〉

  簪さんの大人しそうな雰囲気からシュテルが一番相性がいいと思いましたけど、その通りでしたね。...レヴィも水色が好きなので仲良くなりそうですけど。

「そういえば、一週間後に模擬戦をするって言ってたけど...。」

「あれですか...。正直、マドカさんに勝てる気はしないんですけど...まぁ、頑張るつもりです。」

〈まったく勝ち目がない訳ではありませんしね。〉

  シュテル達の分析を上手く使いこなせば、勝てる事もありますしね。

「...ところで簪さんはどうして整備室に?」

「私は...専用機を完成させるため...。」

「...未完成なんですか?」

  技術者でもないのに、完成させるのは相当難しいはずですが...。

「.....良ければ、手伝いましょうか?」

「えっ?...できるの?」

「これでも解析は得意ですから。どこをどうすればいいのかぐらいは分かりますよ。」

  桜さんにもアフターケアを任されていますからね。

「....でも、いいよ。」

「え?そうですか?」

「私一人で完成させなきゃ、意味ないから....。」

  意味....?なぜ一人じゃないと....?

「(....あ、そういえば、姉の更識楯無さんは、一人で完成させたとか言われてましたね...。)」

  劣等感から来る意地って所でしょうか?(桜さんが)調べた限りじゃ、本当に一人で完成させた訳じゃないのに...。

「だから、手伝わなくても、いいよ。」

「っ.....。」

  そう言った簪さんの眼が、なんだかかつての私のように見えました。
  ...私は....どうすれば.....。

「.......。」

「...じゃあ、私は作業に戻るから...。」

  そう言って簪さんは自分が作業していた場所へと戻ってしまいました。

「(....私は....。)」

  簪さん以外に用がなくなってしまったため、私は整備室を後にしました。





「あ、いたいた。おーい!ユーリー!」

「マドカさん...。」

  割り当てられた部屋の番号を私は知らないので、一度教室に戻るとマドカさんがいました。

「...あれ?どうしたの?」

「いえ、ちょっと...。」

「....何か、あったみたいだね。無理には聞かないよ。」

  ...そう言われたら、頼ってしまおうと話したくなってしまうじゃないですか...。

「その言い方は、ずるいですよ...。」

「えっ?」

「...まぁ、話した方が気が楽ですしね。」

  少しばかり、話しておきましょうか。





 
 

 
後書き
リリなのGODではユーリは名前を呼び捨てにしていましたが、この小説ではinnocent仕様で環境も違うのでほとんどを敬称付けで呼ぶようになっています。(ただしシュテル達は例外)

教師になったばかりの二人に担任と副担任を任せてる事を気にしたら負けです。(ゆ、優秀だから大丈夫だよきっと...。)

中途半端(?)で終わってますが次回で合流するのでその時に話が繋がります。
 

 

第13話「代表決定戦まで・前」

 
前書き
完全オリジナルの小説よりも、中途半端に知識がある二次創作の方が書くのが難しいと最近分かりました。(当たり前ですけどね。)

それはともかく、今回は千冬が関わってきます。(幼馴染なのにいつまでも放置はよくないので。)
ちなみに時間軸はまだ前回、前々回が終わった直後です。 

 


       =桜side=



  教室に戻ると、なぜか山田先生がオロオロしていた。

「山田先生?どうしたんですか?」

  放置する訳にもいかないので、声を掛けるとオロオロしてたのが嘘のように顔が明るくなった。

「良かったぁ!もういなくなってたから、どうしようかと思って...。」

「あの、それで、どうしたんですか?」

「あっ、そうでした!これです!部屋のキーです!」

  そう言って部屋の番号が書かれてる紙とそのキーを渡してくる。

「....って、もう部屋が決まってたんですか?一週間はホテルから通うと思ってたんですけど。」

「そうなんですけど、事情が事情なので、無理矢理決めたそうです。」

  ...会見で危険をできるだけ減らすためにIS学園に通うって言ってたしな。まぁ、納得はした。先生方には少し悪いことしたけど。

「そうなんですか。...けど、荷物は...。」

「...しょうがない。急ぎで手配を頼むけど、今日は諦めた方がいいな。」

「...でしょうね。」

  とりあえず、会社の適当な人に...クロエでいいか。連絡して、荷物を持ってきてもらうように頼んでおく。

「すみません..こちらも急だったので...。」

「まぁ、大丈夫ですよ。」

  いざとなれば想起の拡張領域に入れている生活必需品を使えばいいし。...なんでそんな所に入れてるかって?いや、本来の使い方だし。

「あの、織斑君は見ませんでしたか?」

「あー...あいつなら...。」

  秋十君が言いよどむ。まぁ、嫌いな相手だしな。

「今は多分屋上にいますよ。荷物も机に置きっぱなしなので、いずれここに戻ってくると思います。」

「そ、そうですね。じゃあ私は待っていますね。」

  さて、他に何か聞きたい事は...。

「他に何か連絡事項とかはありますか?」

「あっ、えっと...夕食は六時から七時、寮の一年生用食堂で取ってください。各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけどね。...あ、でも今の所篠咲君達は使えません。」

「えっ?どうしてですか?」

  何故か入れない事に秋十君が聞く。

「秋十君。本来はISとは女性にしか動かせない。だから、このIS学園も男性用の設備が少ない。つまり、大浴場は本来女子専用なんだ。...後は分かるな?」

「あー...そりゃ、無理ですね。...って、少ないって事は少しはあるんですか?」

「まぁな。用務員に男性が一人いるから、その人のために一か所だけ男性用トイレと更衣室がある。...その程度だが。」

  その用務員は実は....と、今は別にいいか。

「なるほど...。じゃあ、俺たちもトイレに行く時はそっちに...。」

「まぁ、そうだな。授業に遅れないためにも行く時は急ぎだな。」

  俺たちならそこまで時間的にきつくないだろうけど。

「...他に連絡事項はないですね。では、私は織斑君にキーを渡した後、会議なので...。二人共、寄り道しないで、ちゃんと寮に行くんですよ?」

「了解です。先生も頑張ってくださいね。」

「では先生、さようなら。」

  俺たちはそう言って廊下に出る。...まだ女子達が俺たちを見てるな。

「桜さん、マドカとユーリに会いに行きませんか?」

「お、そうだな。結局会えず仕舞いだったし。」

  そう言う訳なので、早速四組へと向かう。

「....あー...早く慣れないと...。」

「視線か?...俺は、以前から視線を集めてたからな。もう慣れちまったよ。」

  主に容姿のせいでな。何度束と双子って言われたか...。

「...そうですか。」

「っと、着いたぞ。」

  四組に着き、中を覗くと、ユーリちゃんとマドカちゃんが何か会話していた。

「おーい、二人共ー。」

「あ、桜さん、秋十さん。」

  ユーリちゃんが振り返り、俺たちの名を呼ぶ。

「何話してたんだ?」

「いえ、ちょっと....。」

「ユーリが整備室で、更識家の妹さんと会ったんだって。」

  話を聞けば、凍結された専用機制作を一人でやってたので手伝おうと申し出たところ、意地を張ってなのか断られたとの事。また、姉に対する劣等感が自分に似てるとの事らしい。

「それで、何とかしたいと思って....。」

「なるほどね....。」

  色々と思う所があるんだろう。

「....俺らのような、優れちまってる奴らが口出しできる事じゃないな...。秋十君やユーリちゃんみたいな、かつてその子と同じような気持ちを味わった人じゃないと。」

「そう...ですか...。」

「まぁ、ユーリちゃんのやりたいようにやればいいよ。」

  ユーリちゃんは優しい。だから、悪いことにはならないだろう。

「...分かりました。」

「.....あ、お兄ちゃん、部屋ってどこなの?」

  ちょっとしんみりした感じだったので、マドカちゃんが話を切り替える。

「あー、えっと...1024号室だな。桜さんと一緒だ。」

「へー、私は1020号室だよ。ユーリも一緒。結構近いね。」

  それぞれ二人で同じ部屋のようだ。

「じゃ、そろそろ行くか。先生に寄り道しないように言われたし。」

「そうですね。」

  そうして、俺たちは寮に歩いて行った。





「じゃ、私達はこっちだから。後でそっちに遊びに行ってもいい?」

「おう、いいぞ。」

  マドカちゃんとユーリちゃんは一度部屋に行ってから後で俺たちの部屋に遊びに来るようだ。...他の女子達に変に噂されなきゃいいが...。

「...って、なんで隣の部屋のドアは穴だらけなんだ?」

「さぁ....?俺にも分かりません。」

  隣...1025号室のドアは何か内側から突きだされたような穴があった。

「ま、いいか。俺たちも部屋に入ろうか。」

「はい。」

  部屋に入り、鞄を置く。

「風呂場に簡易的なキッチン...ベッドやテレビとかも...さすがIS学園。」

「設備もそれぞれが綺麗ですし...。凄いですね。」

  まぁ、金を掛けてるからな。これぐらいは普通だろう。

「しかし...早くても明日まで、どうやってここで...。」

「あぁ、それなら...。」

  想起の拡張領域から日用品(部屋にあるもの以外)を取り出す。
  中には予備の服もあるからこれで大丈夫だろう。

「...そう言えば、宇宙進出のためのISなんですから、生活必需品を入れるのは普通でしたね。」

「正確に言えば、日用品を入れるのも少し間違ってるけどな。」

  本当は宇宙を開拓するための道具を入れるからな。

「まぁ、これで凌げるだろう。」

「ありがとうございます。」

  すると、俺のケータイが鳴った。...クロエからか。

「【もしもし?クロエか?】」

【桜さんですか?荷物をまとめたので、今からでも送り届けれますが...。】

「【早いな。そうだな...頼むよ。】」

  早いに越した事はないからな。

【わかりました。では...。】

「...との事だ。」

「さすがクロエですね。」

  束もいるからな。よくよく考えれば早くてもおかしくないな。

「お兄ちゃ~ん、桜さ~ん!来たよー!」

「...マドカも来るのが早いですね。」

「そうだな。」

  ユーリちゃんの少し疲れたような声も聞こえてくる。

「とりあえず、入ってきてくれー。」

「はーい!」

「お、お邪魔します...。」

  マドカちゃんはノリノリで、ユーリちゃんは遠慮がちに部屋に入ってきた。

「適当に寛いでくれ。キッチンに何かないかなっと...。」

  二人を秋十君に任せ、俺はキッチンにある棚などにお茶とかがないか見てみる。

「ちょっとしたおもてなしの分はあるのか。じゃ、これで。」

  紅茶のパックを使い、四人分の紅茶を淹れる。

「へー、アミタさんとキリエさん、いつの間にここの先生に...。」

「あー、そういえば聞きそびれちゃったなぁ...。」

  戻ると、部屋にある机の所で三人は雑談していた。

「あ、桜さん。桜さんはアミタさん達が先生になってる理由って知ってますか?」

「ん?ああ、知ってるよ。なにせ、先生になるように言ったの俺と束だし。」

  俺がそう言うと三人とも驚きはしたがすぐに納得の表情になる。

「会社でやる事が少ないって言ってたからな。....あんま驚かないんだな。」

「なんか...どんな事も束さんと桜さんがした事なら納得いくようになりましたから。」

  なんじゃそりゃ。解せぬ。

「...後30分程したら食堂に行くぞ。そろそろ夕食だし。」

「わかりました。」

  俺たちは紅茶を飲み、しばらくしてから食堂で夕食を取った。





「...よし、じゃあ1024号室に運んでおいてくれ。秋十君もいるし、大丈夫だろう。」

「分かりました。」

  夕食後、クロエが荷物を持ってきたので、俺が立ち会い、寮に運んでおいてもらう。

「俺はするべき事があるから。」

「はい。...頑張ってください。」

  クロエと一端別れ、すぐに服を着替えてあるモノを頭に付けてから屋上へと移動する。

  







  IS学園の屋上で、私は空を見上げながら佇んでいた。すると、屋上の扉が開かれる。

「....そこで何をしている。」

  織斑先生...いや、ちーちゃんがやってきた。まぁ、チラッと私の姿が見えるようにして誘導したからね。来るのは分かってた。

「何って...待ってたんだよ?」

「私をか?...それで、ここへ何の用だ()。」

  少しばかり殺気を混ぜて言ってくるちーちゃん。...そんなに私って厄介?

「...ちーちゃんさぁ、いつになったら戻ってくるの?」

「戻る?なんの事だ。」

「今表に出ているお前には関係ないよ。紛い物。」

  ちょっと敵意を混ぜてちーちゃんにそう言う。

「...ほう、私が紛い物だと?」

「当たり前じゃん。本物のちーちゃんはあっ君の事を溺愛してたし、さー君の事も覚えてる。...なのに、今のお前からはそれらが感じられない。それどころか、あんな本当の紛い物を溺愛してしまってる。....本物な訳ないじゃん。」

  言葉を言い切ると同時に顔を少し横にずらす。
  すると、寸前まで顔があった場所を出席簿が掠めて行った。

「危ないなぁ...。私じゃなかったら当たってたよ?」

「当然だ。当てるつもりで放ったからな。...そんな事より、私があんな“出来損ない”を溺愛してただと?冗談にしても笑えんな。それとさー君とは何者だ。私は知らん。...そして何よりも...。」

「っ...!」

  ヒュッと振られる出席簿を少ししゃがむ事で回避する。

「一夏の事を紛い物呼ばわりだと?思い上がりも大概にしろよ?」

「思い上がりもなにも、事実だよ。」

「はっ、お前こそ前まで溺愛してた癖に、よく言えたものだな。」

  目の前にちーちゃんの膝が映る。...膝蹴りだ。
  上体を逸らし、そのままバク転に移る事でそれを回避する。

「当たり前じゃん。だって、あの時の私も紛い物だったのだから。」

  “それに”と言って近寄り....

「その私がさー君だと、気づかないだなんてねぇ?」

「なっ!?束!?」

  ちーちゃんの後ろにあった物陰から“私”が出てくる。

「本当のちーちゃんなら、さー君の変装だって気づけたはずなのに。」

「変装...だと?」

「自己紹介の時に声真似が得意だって言ったはずなのにな。」

「お前は....!」

  声と口調を戻し、千冬にそう言う。...案外演技は楽しかった。

「あ、でもあの時のちーちゃんも完全に騙されてたっけ?」

「あの時の驚いた顔は面白かったな。...後が怖かったけど。」

  ちなみに竹刀(篠ノ之家の道場から借りてた)で追いかけまわされた。
  いやー、束と二人で謝りまくらなきゃ、たんこぶでは済まなかったな。

「っ....なんだ...前にも、こんな事が.....。」

「あれ?これだけで思い出しかけてる?」

「そんな印象深い記憶だっけ?...まぁ、元に戻せるからいいけどさ。」

  ...もう少し後押しが必要だな。

「さぁ、さっさと戻ってこい。千冬。」

「ちーちゃんがいないと、せっかく三人で交わした約束が果たせられないよ。」

「約...束.....?」

  かつて束が言った事であり、俺たち三人で誓った事...。

「“絶対、三人で宇宙へ...無限の成層圏へ行こう!”...ってな。」

「...ちーちゃんがいないと...三人じゃないと、ダメだよ。」

「ぁ.....ぁ.......。」

  俺たちの言葉によろめく千冬。頭も抱えている事から、洗脳に抵抗してるのだろう。

「さー君!」

「任せろ!」

  千冬に手を翳し、洗脳が解けるように念じる。
  すると、束やマドカちゃんの時と同じように光に包まれる。

「っ...ぁああああああ!!?」

「ちーちゃんの珍しい絶叫!一応録音しておこう!」

「結構大事な事してるのにお気楽だなおい!?」

  俺の事信じてるからこその行動だろうけどさ!
  後で殺されそうだな...。

「ひぶっ!?」

「あ。」

  光の中から出席簿が振られ、束の側頭部に当たる。

「た~ば~ね~...!何をしてる...!」

「嘘っ!?私もまーちゃんも気絶したのに、なんでちーちゃんは無事なの!?」

「思い出している間に貴様が変な事をしでかしてたからだ!」

  光が収まり、さらに執拗に束を殴ろうと出席簿を振う千冬。

「もしかして怒りだけで気絶しずに済んだ!?ちーちゃん凄すぎ!?」

「ついでにさっきの騙しで昔の怒りも再燃している!その分も叩かせてもらう!!」

「理不尽!?」

  うわぁ....。さすが千冬というべきか...。

「桜!貴様もだ!覚悟しておけ!」

「げっ....。」

  俺も便乗していたため、ロックオンされる。
  逃げねば.....!







「はぁっ、はぁっ、こ、今回は私を正気に戻してくれたのだから、これぐらいで許してやる。」

  知らなかったか?ブリュンヒルデからは逃げられない。
  ...まぁ、逃げたのだが案の定二人仲良くしばかれました。

「ひぅ~...痛いよちーちゃん...。」

「束...洗脳という人の一大事にふざけるからだ!」

  ちなみに、束は録音という事もあってか俺よりもしばかれていた。

「...まったく、桜、貴様はまさかあの演技のためだけに女装をしたのか?」

「そうだが?」

     スパァアン!

「二度とやるな。いいな?」

「おーぅ.....。」

  出席簿の出す音じゃねぇな...。いてぇ....。

「いや、理由はあるんだよ。千冬の洗脳を解くには、印象深い思い出を示す必要があったから、とにかくインパクトの強い思い出を...。」

「ほう...。つまり、私が怒ると分かったうえであんな事を....。」

「....あっ。」

  振り上げられる出席簿。...これは避けられんな...。

     スパァアン!!

「着替えてこい。」

「へーい...。....見るなよ?主に束。」

「私限定!?」

  有無を言わさない声色で言ってきたため、素直に二人から離れて物陰で着替える。
  ちなみに着替えは想起の拡張領域に入れておいた。

「ふふふ...そう簡単に引き下がる束さんじゃないよさー君!」

「ああ。想起に干渉して俺の裸体を撮ろうとするのは分かってたから、対策プログラムを組んでおいたし。ついでに認識阻害も。」

「ぬわーっ!?これじゃぁ、見れないよ!?」

  案の定、束が覗こうとして来たため、予め用意しておいた束対策で全て防ぐ。

「ほい、着替え終わり。さて、軽く説明するか。」

「そうだね。」

「ようやく本題か...。待ちわびたぞ。」

  千冬に束と二人で一通り説明する。...まぁ、一部の事は隠したままだけど。
  説明したのは洗脳に関する事と原因が織斑一夏だという事。...まぁ、秋十君達にも説明した内容だな。あ、洗脳自体はもう使えない事も伝えておいた。

「―――...なるほど。納得もいくな。」

「この私だけじゃなく、ちーちゃんにまで手を出してるからね。....制裁は私達に任せてよ。ちーちゃん。」

「....分かった。任せよう。」

  今までにないくらい恐ろしい雰囲気を出しながら言う束に、千冬も素直に従う。

「千冬は今まで通りに身内贔屓なしに教師を続けていればいいよ。」

「そうか。わかった。...だが、私も私情を挟んでしまうかもしれないぞ?...洗脳と言う暴挙に出た以上、普通に接する事ができる自信がない。」

「その時はその時だ。」

  むしろ偶に私情を挟んで織斑一夏の思い通りにならない方がいいしな。

「それじゃあ、私は帰るねー。」

「....束、相変わらず技術力が高いな...。桜もいるからか?」

  束がとあるリモコンを取り出してボタンを押すと、何もなかったはずの場所からニンジンの形をしたロケットが現れる。

「さー君と協力した結果だよこれは。さすがに私一人じゃまだ作ってないかな...。」

「IS学園の設備でさえ一切感知されないステルス機能に、認識阻害か...。」

「...見ただけで大体察する千冬も大概だけどな。」

  千冬の言った通りニンジンロケットにはそういう機能がついている。

「じゃあねー。」

「見逃すのは今回だけだ。次からは侵入者として捕まえるぞ。」

  束は再度リモコンを押し、ロケットが見えなくなる。...まぁ、飛び立つ際は少し景色が歪むから千冬とかなら見えてしまうけどな。

「じゃあ、明日から改めて頼むよ。織斑先生?」

「....正直、お前には教える事などないのだがな..。」

  いやいや...一応、俺は義務教育終えてないんだぞ?独学で十分だけどさ。

「その...だな。私はお前が事故に遭って、束が治療していた事は知っていたんだ。...だが、正直治るとは思えなかった....。」

「........。」

「....だから、桜、お前と再会できて、嬉しかった....!」

  涙を流しそう言う千冬。...束が引っ掻き回したので誤魔化されていたけど、長年会ってなかったも同然だもんな...。

「...ったく、千冬が泣くなんて似合わない事やめろって。」

「っ.....。」

「....また、剣道とかで競い合おうぜ?」

  手を差し伸べ、そう言う。千冬は俺を少し驚いたような目で見た後....。

「...ああ。負けないからな?」

「何を。こっちこそ、十年以上の空きがあるが、負ける気はない。」

  ...こんな感じこそ、俺たちらしいな。

「じゃあ、俺も部屋に戻るか。」

「そうだな。....秋十に会うには少し心の準備が必要だ。洗脳が解けた事を伝えるだけにしてくれ。」

「分かった。...じゃ、また明日。」

  そう言って俺も千冬と別れて部屋に戻る。





「戻ったぞー。」

「あ、桜さん。どこに行ってたんですか?」

「ん、ちょっと野暮用で屋上にな。」

  部屋に戻ると、秋十君がクロエによって持ってこられた荷物を整理していた。

「(敢えて千冬の洗脳を解いた事を黙っておいた方が、判明した時面白そうだ。)」

  そう言う事で俺は敢えて何をしていたのかはぐらかす事にした。

「...そうですか。あ、桜さんも整理を手伝ってくださいよ。」

「お、そうだな。」

  ...と言っても、既にほとんどが整理されているのでさほど時間はかからなかった。

「明日から、念のために代表決定戦の対策を練るぞ。」

「はい。...と、言っても基本やる事なんて変わりませんよね?」

「まぁ...そうだな。」

  秋十君はとにかく素振りとかしておけばいいし、アリーナの使用許可が下りれば模擬戦とかもするからな。セシリア・オルコットや織斑一夏の機体も既にどういうものか大体知ってるし。

「ブルー・ティアーズ...BT兵器による多方向からの攻撃だけど....正直、ユーリの誘導弾の方が厄介なんですよね。」

「ユーリちゃんの場合は偶に十個程の誘導弾を使ってくるからな。」

「接近戦もマドカやラウラで相当鍛えられて....あれ?」

  あ、秋十君が対策の必要がなさそうな事に気付いた。

「ま、まぁ、とりあえず対策をするだけしましょうか。」

「そうだな。」

  とりあえず、秋十君は多方向からのレーザー攻撃の回避を練習する事にした。
  ...正直、ユーリちゃんを相手にするのと変わらないんだけどね。

「あ、そうそう。秋十君。」

「はい、なんですか?」

「...俺とも戦う事、忘れてないよね?」

  とりあえず模擬戦までどんな特訓をしようか考えていた秋十君が固まる。

「....一応聞いておきますけど、手加減は...。」

「する訳ないだろう?」

「ですよねー...。」

  苦笑いしながらそう言う秋十君。

「...まぁ、やるからには全力で行きますよ桜さん。」

「おう、どんと来い。」

  最近は秋十君とISで対戦してないからな。結構楽しみだ。

「じゃあ、今日は早めに寝るか。明日から色々するつもりだし。」

「そうですね。」

  その後は順番に風呂に入ってそれぞれベットで寝た。

  途中、マドカちゃん達が乱入してきたけど、まぁ、少し会話したら戻っていったし、特筆する事もないな。







 
 

 
後書き
中途半端ですがここで切ります。
次回はユーリ視点がメインになると思います。

 

 

第14話「代表決定戦まで・中」

 
前書き
原作未読でアニメと二次小説の知識だけなので、結構おかしい場所があると思います。(今更)
アニメなどとではセリフを言う人物が違ったりしますが、それは千冬の洗脳が解けた事や、束たちの状況によるバタフライ効果的なものだという設定です。

 

 


       =桜side=



  翌朝、俺たちは朝食を取りに食堂に来ていた。

「....へぇ、結構美味いじゃん。」

  母さんとはまた違った美味さだな。

「さすがIS学園ですね。食事も美味しい。」

「私は秋兄の料理の方が好みかなー?」

  ちなみに、マドカちゃんとユーリちゃんも一緒に食事を取っている。
  周りの女子から“先越された...!”とか言われてるけど....まぁ、いいか。

「...それにしても、どうしてこんな隅の方に?...いえ、私としてもあまり目立たなくて気が楽なんですけど....。」

「あー...まぁ、単純に近くにいたら絡まれるだろうから。」

  疑問をぶつけてくるユーリちゃんに、ある方向にいる奴を示す。

「...織斑一夏さん...ですね。なるほど...。」

「ま、それはそうとさっさと食っておかないと千冬にどやされるぞ。」

「あ、はい。」

  そう言ってユーリちゃんも食べるペースを上げる。

「...織斑先生の事、呼び捨てで呼んで大丈夫なんですか?」

「ん?まぁ、個人的な会話だし、本人には聞かれて....たっぽいな。」

「えっ?....あ。」

  俺の後ろにいつの間にか千冬が立っていた。

「....次はないぞ?」

「....へーい。」

  運が良かったのか、注意だけで済んだようだ。

「じゃ、さっさと食うか。」

  違う場所に行った千冬が早く食べるように催促していたので、さっさと平らげる。

「...ごちそうさまでしたっと。食器とトレイを返したら、さっさと教室に行った方がいいかもな。これは。」

「...そうですね。」

  千冬の事だし、遅刻した奴にはとんでもない罰が下りそうだ。

「じゃあ、マドカちゃん、ユーリちゃん、お先に。」

「はい。また休み時間...には会えなさそうなので、放課後にです。」

  休み時間は未だに俺たちを見に来る女子達がいるため、会えないと判断したみたいだ。...まぁ、俺も同じこと思ってたし、あながち間違いじゃなさそうだけどな。







     ―――キーンコーンカーンコーン

「んん゛。」

  チャイムが鳴り、千冬が咳払いをした事により、それまで会話をしていた生徒たちが一気に静かになる。

「織斑。お前のISだが、準備に時間がかかるぞ。」

「へっ?」

「予備の機体がない。だから、学園で専用機を用意するそうだ。」

  千冬のその言葉に、女子達がざわめく。...まぁ、ただでさえ数の少ないISの、さらに専用機を用意されるんだ。ざわめくのも当然だな。

「(....というか、アイツ、専用機が貰えるのが分かったような顔をしてるな...。)」

  ...あの女性(おそらく神様)に貰った知識に、奴の言う“原作”を照らし合わせると...なるほど。“原作”でも同じような展開で貰ってるって事か。

「せんせーい!篠咲君達は訓練機なんですか?」

「いや、篠咲達は既に専用機を持っている。」

  一人の生徒の質問に千冬が答える。...一応、待機状態のISを俺も秋十君も見せておく。ちなみに俺のはペンダント、秋十君はミサンガの形の待機状態だ。

「..と、言う事は...クラスに専用機持ちが四人!?」

「すごーい!」

  俺たちが専用機持ちだと示すと、さらにざわつく。

「それを聞いて安心しましたわ!」

  ...あ、オルコットが織斑の前に立ってなんか言ってる。

「クラス代表の決定戦!私と貴方では勝負は見えていますけど、さすがに私が専用機、貴方が訓練機では、フェアではありませんものねぇ?」

「(...俺は別に訓練機でもいいけど。)」

  というか、俺たちとも戦うの忘れてね?眼中になしか?

「お前も、専用機ってのを持っt―――」

     ―――スパァアン!

「っつぅ~....!?」

  織斑が何か言おうとした瞬間、オルコットの頭に出席簿が振り下ろされた。

「オルコット、授業中に堂々と立ち歩くな。」

「す、すいません....。」

  千冬に注意され、すごすごと戻っていくオルコット。...まぁ、当然だわな。

「....織斑は専用機についてあまり分かってないようだから、授業の一環としてついでに説明してやろう。...山田先生がな。」

「えっ!?わ、私がですか!?」

  ....千冬の奴、自分がそこまで説明が得意ではないから押し付けたな?

「....篠咲兄。言いたい事があるのならばはっきり言え。」

「言いたい事なんてありませんよー。」

  思いっきり感づかれていたので誤魔化す。...相変わらず直感が半端ねえな。

「えっと...専用機というのは、ほとんどの場合が各国の代表候補生に与えられるもので、全世界にも467機しかないISで専用機を持っているという事は...簡単に言えばエリートさんですね。」

  とりあえず説明を始める山田先生。...織斑にも分かるように簡単に説明してるな。

「....467機....たったの?」

「ISに使われている“コア”という技術は、一切開示されておらず、現在世界中にある467機のコアは篠ノ之束博士が作成したものなんです。」

  また“原作”とやらの展開と違ったのか、織斑は複雑な顔を一瞬見せた。
  そんな織斑に気付かずに山田先生は説明を続ける。

「(本当の所は俺と束と千冬のためだけのコアを合わせて470個だけどな。)」

  山田先生の説明を聞きながら、そんなどうでもいいことを考える俺。
  ちなみに、俺と束と千冬のはプロトタイプ(と言う名の完成品)だが、俺と同じ最終世代の夢追や番外世代のエグザミアは束がどこからか入手した既存のコアらしい。
  新しくコアを創るのは、ISがちゃんと宇宙進出のために使われるようになってからだって束は言ってたしな。相変わらずこれ以上はコアを創らないのだろう。

「ISのコアは完全なブラックボックスなんです。篠ノ之博士以外は誰もコアを創れないんです。」

「(....すまん、俺も創れるんだが...。)」

  言ったら騒ぎになる...もしくは言っても信じられないので言わないが。

「しかし、篠ノ之博士は一定数以上のコアを創る事を拒絶しているんです。国家、企業、組織機関では割り振られたコアを使用して研究、開発訓練を行うしかない状況なんです。」

「本来ならば、専用機は国家、あるいは企業に所属した人間にしか与えられない。....が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意される。理解できたか?」

「な、なんとなく...。」

  オルコットは国家、俺たちは企業だな。...というか、男性操縦者のデータ収集って悪く言えばモルモットじゃ....。...まぁ、仕方ないか。





  この後、篠ノ之が束の妹だというのが判明して一悶着あったが、千冬が無理矢理場を収めた。...発端も千冬があっさり妹だとばらしたからだけどな。







「.....はぁ....。」

「ユーリちゃん、元気ないな。」

  食堂にて、昨日と同じ面子で食事しているとユーリちゃんが溜め息を吐いた。

「...ユーリ、件の子の事を随分と気に掛けてたから...。」

「いざ自分と同じような劣等感で苛まれている人を見ると、どうも引きずってしまうみたいで....。...どうにか、したいんですけど...。」

  好きにしていいと言っても、何をすればいいのか分からないのだろう。

「.....一人では、いつか潰れる。」

「えっ....?」

  唐突に呟いた俺の言葉に、ユーリちゃんが顔を上げる。

「...どんなに心が強くても、どんなに天才的な頭脳や能力を持っていても、一人だったらいつか潰れてしまう。」

「桜さん...?」

「....まぁ、一人だけで頑張るなって事だ。」

  遠回し且つ、意味が分かりにくい言葉だったけど、ユーリちゃんは今ので自分がどうしたいのか気づけたみたいだ。

「...ありがとうございます。桜さん。」

「ん。後はユーリちゃん次第だ。」

「はい!」

  そうこうしている内に昼休みの時間も残り少ない。さっさと昼食を食べてしまおう。







       =ユーリside=



「一人では...いつか潰れる。」

  放課後。桜さんが昼休みに言っていた事を反芻する。

「...私も、秋十さんも、一人で頑張ろうとして、挫けかけた。...天災である束さんも、一人では宇宙進出を成し遂げられない...。」

  そう。結局人間は一人では全てこなせる訳ではない。
  それどころか、一歩間違えれば二度と復帰できないような、とんでもない心の傷を負うかもしれない。....私や秋十さんが、そうなりかけたように。

「どんなに優秀でも、一人だとできない事があるんですよね...。」

  生徒会長である楯無さんだって、一人でなんでもできるわけではない。
  ...だから、簪さんも無理して一人で頑張らないようにしないと...。

「(そのためにも...。)」

  専用機の作成を、手伝いたい。その一心で、私は整備室の扉を開けました。



「....あなたは....。」

「...簪さんの、お手伝いに来ました。」

  整備室に入り、少し奥の方に行くと、簪さんはいました。

「...必要ない。これは、私だけで....。」

「ずっとそうだと、いつか潰れますよ?」

「っ....。」

  動かしていた手が止まる。

「いつまでも一人で頑張って、無理していたら、いつか取り返しのつかない心の傷を負いますよ?」

「....それでも、一人で完成させなきゃ...!」

「...生徒会長は、一人で専用機を完成させた訳じゃありません。」

  私の言葉に、目を見開く簪さん。

「調べた限り、細かい所は他の人達も手伝っていました。だから、無理に一人で完成させる必要はありませんよ。」

「....あなたに...あなたに、何が分かるの!?」

  諭すように言っていたのがまずかったのか、簪さんは大きな声で私にそう言ってきました。

「ずっとお姉ちゃんに劣って、そのせいでいくら私が頑張ってもお姉ちゃんの妹としか見られなくて!誰も“更識簪”という一個人として見てくれない...だから!私はお姉ちゃんを超えようと一人ででも専用機を完成させようとしてるのに....!」

「......。」

「恵まれた立場にいるあなたに、私の気持ちなんて...!」

  “分かる訳ない”そう言おうとした簪さんを、優しく抱擁します。

「っ.....!?」

「...分かりますよ。...私も、優秀な姉がいたのが原因で、家に捨てられた程ですから...。」

「えっ....!?」

  私の言葉に、驚く簪さん。

「...エーベルヴァイン。聞いた事ありませんか?」

「....ドイツの、有名な家系...だよね?」

「はい。...ただ、実力主義なせいで、私は捨てられました。」

「っ.....。」

  ...尤も、今では桜さん達に出会えてむしろ良かったんですけどね。

「優秀な姉がいる事による劣等感。...私にも、分かります。」

「だったら....。」

「....だからって、意地を張り続ける事はありません。」

  ...私の場合は、意地を張る事なんで、家名以外になかったほどですし...。

「全体で劣っているとしても、長所で超えればいいんです。」

  私も解析関連は桜さんも唸らせる程でしたからね。...これだけはエーベルヴァインの誰よりも優れていると自負しています。

「....私に、お姉ちゃんに勝てるような長所なんて...。」

「.....“めげずに努力する”....それこそが長所だと思いますよ?」

「え....?」

  簪さんは確かに意地を張ってるだけでした。...ですが、それもれっきとした“努力”の一つです。
  努力は必ず力になる。...秋十さんもそう言ってましたから。

「簪さんも努力...してましたよね?」

「...うん。お姉ちゃんに、追いつきたかったから...。」

「なぜ、努力をしたのですか?追いつきたいという理由などではなく、何を補うためで...。」

「それ..は....。」

  私の言葉に少し考え込む簪さん。

「....足りない才能を、補うため....。」

「..そうです。その時点で、簪さんは“努力”という点でお姉さんよりも優れています。...優秀なら、努力する事もありませんから...。」

「......!」

  ハッとした顔をする簪さん。...盲点だったのでしょう。

「努力というのは、すればするほど力になります。才能がない故に、それを補うために必死に同じ事を反復する...。その分、才能にも勝る程の力になる事もありますから...。」

「.....。」

「私にも、まさにその通りの人物がいますから。」

  秋十さんが本当にいい例です。

「それに、簪さんに意地があったように、お姉さんにも意地があったのだと思います。」

「えっ?」

「....更識の家は、対暗部の組織である故に、様々な裏の人間から警戒...もしくは狙われたりします。姉妹であり姉である生徒会長はもし簪さんが狙われた時を警戒して、常に優秀であろうとしてるのでしょうから。」

  ....私の場合、母様以外、誰も守ってくれませんでしたけどね...。

「あ....。」

「護るべき妹だからこそ、護れるように優秀になろうと、意地になってたんでしょう...。」

「....そう、なのかな....。」

  ....本当の所は私にはわかりませんけどね。

「....でも、それでも、私はお姉ちゃんを超えたい。守ってもらってばかりは嫌。」

「...そういうと思いましたよ。...ですが、一人で何もかもやろうとしないでくださいね?」

「.....うん。」

  本当に分かってくれたのでしょうか?...少し不安です。

「...かつて生徒会長が専用機を完成させた時、手伝っていた人はダメな部分がないか細かい所を手伝っていたと聞きます。...私もそれぐらいは手伝いますよ?」

「......ありがとう。」

  早速、簪さんを手伝います。データ関連を見せてもらえたので、そこからこのままだと危険な部分を割り出したりとしていきました。







       =桜side=



「簪さん、ここが少し...。」

「あ、ホントだ。...ありがとう。」

「いえいえ。」

  耳を澄ますと聞こえてくる二人の会話を聞き、俺は整備室を後にする。

「(...ユーリちゃんにも友達が出来てなによりだな。)」

  人見知りな性格とかもあって密かに心配していたが...杞憂に終わってよかった。

「....ところで、そろそろ出てきたら?」

  適当に歩き続け、校庭の一角に差し掛かった所で、物陰に向かってそう言う。

「...バレていたのね...。」

「ま、素人にゃ気づけなかったろうがな。千冬辺りなら普通に気づくだろうが。」

  出てきたのは水色の髪で先が少しはねている女子生徒。扇で口元を隠しており、その扇に“お見事”と書かれている。

「織斑先生を呼び捨てするなんてね...。」

「そりゃ、同い年だしな。...で、何の用だ?生徒会長。」

  そう、その女子生徒は更識楯無。生徒会長であり、ユーリちゃんと話していた更識簪の姉だ。

「今話題の男性操縦者の一人を見に来た...ではダメかしら?」

「当たり前だろう。見に来たのなら隠れる必要はないし、今みたいに警戒心を強められてちゃな。」

「.....。」

  気づかれていたと言わんばかりに、扇を畳む更識楯無。

「...いきなり現れた会社、ワールド・レボリューション。そしてそこに所属している二名の男性操縦者。さらには私達“更識”についても知っている。...なのに、情報がほとんど掴めないという異質さを調べに来たのよ。」

「...だろうな。」

  怪しまれるなんてわかりきった事だ。

「この際だから、単刀直入に言うわ。あなた達の目的は何かしら?ただ偶然見つけた男性操縦者二名を保護するためだけに会社を立ち上げたとは思えないわ。...それほどまでにワールド・レボリューションは優れている。」

「目的...目的ねぇ....。」

  話すべきか話さないべきか...。こいつの性格によるな。

「...今は明かすつもりはないな。」

「....ま、当然ね。そう簡単に目的をばらす方がおかしいわね。」

  ...ふむ、相手にどう出られても対処できるようにはしてるみたいだな...。

「...でも、実際に姿を見て気づけた事もあるわ。」

「ほう...?」

「“篠咲桜”という人物はいくら調べても何も分からなかったけど、あなたの容姿と桜という名前から、約17年前のとある事故が出て来たわ。」

  ...確か、それは俺が事故に遭った...。

「事故に遭ったのは神咲桜。当時6歳で、轢かれそうになった友人を助けようとして代わりに自分が...というのが普通で知れる情報ね。」

「普通...と言う事は他の事も知ってると?」

「ええ。...その事故にあった少年を、助けられた少女...篠ノ之束がどこかへ隠したらしいという真実をね。結局、行方不明扱いだったらしいけど...。そこの所どうなのかしら?」

  閉じていた扇を再び開き、口元を隠しつつ俺にそう言う。

「...さぁな。俺は知らんよ。本人にでも聞けば分かるだろうが....。」

「世界的に指名手配されて行方不明な篠ノ之博士に?無茶を言うのね。」

「だろうな。」

  実際は会社で今まさに俺たちの様子を見てるだろうけど。

「...それにしても、気がかりな事があるのよね。...その少年、神咲桜は篠ノ之束の容姿とそっくりだったらしいのよ。さらには頭脳や身体能力も。当時の近所の人達も双子だと思ってる程に。...実際は違うのだけどね。」

  “不思議♪”と書かれた扇を見せるように広げる。

「何が言いたい?」

「もし、その神咲桜が篠ノ之束によって行方不明になったのは嘘で、彼女の治療によって生き永らえていたら?そして、その人物が今のこの世界を変えようとしているのなら?」

「.......。」

「....ねぇ、そこの所、どう思うかしら?その神咲桜と共通点が多すぎる篠咲桜さん?」

  確信めいた笑みを扇で隠しながら俺にそう言う。

「....ったく、さすがは更識家当主と言った所か?限りある情報の中から推測してここまで嗅ぎつけるだなんて...。」

「あら?貴方が思ってる程、更識は弱くはないわよ?」

  大人しく同一人物だと認める俺に、生徒会長はそう言う。

「いや、更識を舐めていた訳ではないさ。...ただ、妹の事となるとてんでダメになる姉だったからな。少々油断してた。」

「っ....!」

  図星を突かれたように動揺する生徒会長。

「俺をこうやって尾行しようと思ったのも、妹を見ていた時に俺やユーリちゃんが来たからだろう?...おまけに、つい言ってしまった言葉で妹を傷つけて、何とか仲直りしようと悩んでいたのに、ユーリちゃんがあっさり慰めてしまったのがショックだったみたいだし。」

「なっ....なんでそこまで知ってるの!?」

「えっ、マジだったのかよ...。」

「うっ....。」

  ほとんど憶測だったんだがな...。全部正しいみたいだ。

「そ、そんな事より!これで貴方が“神咲桜”だという事が分かったわね。」

  気を取り直してそう言う生徒会長。

「うん...まぁ...認めたからなぁ....。」

「....あの、そんな憐れむような目で見ないでくれる?」

  おっと。生徒会長が残念なシスコンだと分かってしまったからか、そんな感じの視線を向けていたようだ。

「...ま、それだけの情報でここまで予想できた褒美をあげよう。」

「っ...。」

  改めて生徒会長は真剣な顔で向き直る。

「そう警戒する事はない。俺の目的の一部を教えるだけさ。」

「....全部は教えないのね。」

「全部教えなくてもその内わかるだろう?」

  生徒会長なら、目的の半分を達成する時には全て分かっているだろう。

「俺の...俺たちの目的は、決して生徒会長のようなまとm....まとも?な人間には手を出すような事じゃない。...それだけだ。」

「ちょっと待って。今“まとも”の所で言い淀んだわよね?それって私がまともじゃないとでも言いたいの?そうなんでしょ!?」

  やっべ、全然締まらねぇ...。いや、今のは俺の所為だけどさ。

「じゃあな。早い事妹と仲直りしろよ。」

「っ、大きなお世話よ。」

「....中には、決して相容れない姉妹もいるんだからな....。」

「えっ....。」

  そう言って生徒会長と別れる。

「....さて、秋十君の所へ戻りますかね。」

  手を出さなくてもいいだろうけど、一応代表決定戦まで鍛えないとな。

「.....安心しろ千冬。お前は仲直りできる。」

「...やはり、分かっていたか。」

  物陰から千冬が出てくる。

「教師として盗み聞きはダメだと思うが...。まぁ、いいか。俺が言っていたのはユーリちゃんの事だ。第一、お前らは姉妹じゃないだろ。」

「そうなんだがな...。いざ家族関係の話になるとな...。」

「ま、そこはお前自身の問題だ。俺は手出ししないぞ。」

  そう言って秋十君がいるであろう場所へと向かう。

「分かってる。...決心がついたら機会を見て話しに行くつもりだ。」

「そうか。じゃ、またな。織斑先生。」

「....やはり、お前に先生と呼ばれると違和感しかない。」

「ほっとけ。」

  俺も呼ぶ際に違和感だらけだ。







 
 

 
後書き
今回はここまでです。
いやぁ、代表決定戦まで長いですね。オリジナルの展開を挟むと。
この小説は福音戦までなので、早めに更識姉妹を仲直りさせておきます。...まぁ、今の所まだですけど...。
他の二次小説で見られるアンチキャラの噛ませっぷりが表現しにくいですね...。そういう描写、向いてないのかと思えてきました。まぁ、それでも精一杯やっていくつもりですけど。

次回はアニメとかとほぼ同じように進みます。書く事もあまりないので。
 

 

第15話「代表決定戦まで・後」

 
前書き
異様に長くなって三つに分かれてしまった...。
今回でタイトル通り代表決定戦までいきます。 

 


       =秋十side=



「ふっ!ふっ!ふっ!」

  息を吐くのと同時に木刀を振り下ろす。

「ふっ!ふっ!....ふぅ...。」

  日課である早朝の素振りを終わる。
  ちなみに、他にも色々あるのだが、素振りが一番最後なので既に終わっている。

「お疲れ、秋十君。」

「あ、桜さん。」

  桜さんが素振りを終わらした俺にタオルと飲み物を持ってきてくれる。

「今日はいませんでしたけど、何してたんですか?」

「んあー?あー、ちょっと簡易メンテしてた。」

  そう言って待機形態のペンダントを見せる桜さん。

「ちなみに日課はその前に終わらしておいた。」

「..早いですね。通りで起きた時にはいなかった訳ですか。」

  桜さんも俺と同じ日課がある。俺としてはそれがなくても桜さんは十分に強いと思うのだが、桜さん曰く“うさぎとかめ”みたく追いつかれるかもしれないからやっているらしい。

「まぁな。....さて、いっちょ一本やるか?」

「....そうですね。」

  そう言って桜さんは木刀を構える。
  偶にやる、日課後の模擬戦だ。剣道場内でやる訳じゃないからより実戦的だ。
  ...実戦的だからって役に立つ時はあってほしいくないけど。

「それじゃあ、行きますよ...!」

「よし、来い!」

  俺はしっかりと木刀を構え、桜さんに突っ込んでいった。







「....いつつつ....。」

「いやー、強いな。」

「ほとんど防いでおいてなに言ってるんですか...。」

  結果、当然の如く圧倒的差で負けた。

「そうは言うが、秋十君、本気じゃないだろ?」

「そりゃあ、模擬戦ですから。桜さんもでしょう?」

  桜さんの本気(ISは未使用)を俺は一度だけ見た事がある。
  けど、それは今回のと比べものにならないくらい強かった。

「...なるほど、代表決定戦のお楽しみってか?」

「はい。お互い、手の内を全て晒す訳にはいきませんから。」

  ...本当はほとんど晒し合ってるけどな。
  桜さんの場合はさらに奥の手とかありそうだけど。ISを生身で倒すほどだから。

「さて、そろそろ朝食に行くぞ。マドカちゃんもユーリちゃんも起きてるだろうしな。」

「はい。」

  放課後は代表決定戦に向けて対策だ。







「....ま、先輩らが使ってて使用許可降りないわな。」

「ですよね~....。」

  時間は飛び、放課後。
  案の定対策をするためにアリーナとISを借りようとしたが、予定がいっぱいで無理だった。

「ユーリちゃんも色々やってるし、マドカちゃんもそれに付き合ってるし...。」

「どうしましょうか?」

「...しょうがない。剣道場辺りを借りて生身を鍛えるか。」

  そういう訳なので、剣道場を使わせてもらえるか確かめるために剣道場へと向かった。





「....なんだ?」

「何かあったのですかね?」

  剣道場に行くと、少し人だかりがあった。

「何かあったのか?」

  桜さんが一人の女子生徒に尋ねる。

「えっ?あ、噂の男性操縦者が剣道で特訓してるんだって。」

  ....そう言う事か。あいつが何かしてるんだな。
  そう思って見てみると、箒があいつを扱いていた。....弱くね?

「でもなんか弱いらしいんだよねー。」

「ふーん...。」

「どうしましょうか?」

  あいつに会うのは癪だが、鍛えるなら剣道場がいいしな。

「...別に、俺たちが使ったらダメって訳じゃないよな?」

「えっ?うん。大丈夫だよ。」

「じゃあ、ちょっと剣道部の部長に...。」

  そう言って桜さんはキョロキョロと見回す。
  俺も部長がどこにいるか(誰かも分からないが)探す。

「あの人...かな。じゃあ、秋十君、ちょっと話をつけてくる。」

「あ、はい。待ってます。」

  部長っぽい人を見つけたのか、桜さんは人ごみを掻き分けてその人の下へ向かった。

  しばらくすると、桜さんは戻ってきた。

「木刀を借りてもいいってさ。早速やるか?」

「はい、やりましょうか。」

  二人で木刀を取りに行く。周りの人達も俺たちに気付いたのか、あいつの方だけでなく、俺たちの方にも注目してくる。

「なんだ貴様ら!ここは今、私と一夏が使っているのだ!」

「だからって剣道場を使ったらダメな理由にはならないだろ。部長にも許可を取ったし、別に邪魔をするつもりはない。」

  突っかかってきた箒になんでもないように桜さんは言い返す。

「さて、秋十君。やるぞ。あ、それと、見てる人には悪いが俺たちがやるのは剣道じゃない。.....剣戟だ。」

「....行きます!」

  木刀を構え、隙を伺いつつも踏み込み、一閃する。

「..っと。」

「っ...せぁっ!」

  当然、そんな単純な攻撃は防がれる。なので、すぐにぶつかり合った木刀を引き、反対から袈裟切りを繰り出す。

「甘い。」

「くっ....はっ!」

  しかし、それも簡単に叩き落される。すぐさま切り上げを行うが...。

「ほっ...。お返しだ。」

「っ....!」

  上体を逸らされただけで避けられ、反撃に一閃をしてくる。
  何とか、後ろに飛び退く事で避ける事に成功するが...。

「ほら、今度はこっちの番だ。」

「しまっ....!?」

  間合いを離してしまったうえに、飛び退いた際の隙を利用され、桜さんから攻撃してきた。

「はっ!」

「ぐっ....!?」

「せっ!」

「くぅっ....!」

「はっ!」

「っ....!」

  さっきの俺の攻撃を繰り返すかのように桜さんは木刀を振ってくる。
  俺も桜さんと同じように対処するが、最後の切り上げだけは上体をそらし、避けるだけで精いっぱいだった。

「...速さも力も俺より上ですね...。」

「まだまだ年下に負けてられんさ。」

  笑ってそう言う桜さん。...いや、桜さん天才だから関係ないんじゃ...。

「...まぁ、ウォーミングアップはここまでにするか。」

「そうですね。」

  今のはどっちも手加減...体を慣らすための動きだった。さっきの力量の差も、慣らす前の力量の事だ。実力とは違う。

「すー....はっ!!」

「っ!」

  息を吸い、吐くと同時に間合いを詰め、木刀を振り下ろす。
  もちろん、さっきまでとは段違いの速さと力でだ。

「っ...はっ!」

「くっ....せぁっ!」

  受け流され、反撃。それを受け流し、反撃。それを繰り返すように剣戟を繰り広げる。

「くぅ....!」

  しかし、やはり俺の方が劣っているため、防戦一方になる。

「....“散華”!」

「っ..!」

  突然、桜さんは散りゆく華を連想させるように舞いながら連撃を放ってきた。

「(まだ、これは何度も見た事はある...!)」

  初めてこの技を喰らった時は、ほとんど防げなかったけど、今なら全てを防ぎきれる...!
  俺の周りを舞う様に桜さんは斬りかかってくる。それを、何とか凌いでいく。
  そして...。

「......今!!」

「っ、しまっ....!」

  最後の一撃を綺麗に受け流し、鋭い反撃を放つ。
  完全なタイミング。これで良くて直撃。悪くても大きな隙を作れ.....!?

「躱した...!?」

「ふぅ、今のは危なかった。相変わらずカウンターが上手いな。」

  上に跳ばれ、斬撃を躱したうえで木刀の上に乗る。
  木刀は丈夫で、俺も一切剣に乱れがないように用心しているから、対して重い訳でもない桜さんが乗ってもどうという事はない。...というか、会社で振っていた木刀より少し重いくらいだ。

「え?乗ったことには驚かないの?」

  俺たちを見ている女子の誰かがそう呟く。
  ....うん。至極真っ当な意見だと思う。でも、桜さんなら普通なんだ...。

「チッ.....はっ!」

「っと。ふっ!」

  すぐさま乗せている木刀を引き、突く。
  当然躱され、反撃が繰り出されるが、身を捻らせ、回避する。

「(しまっ....!これは....!)」

「詰み....だ。」

  そのまま回転し、一閃を放つが、同じく身を回転させて繰り出された下からの攻撃に木刀が弾き飛ばされてしまう。

「....俺の負けです。」

「ふむ...本来ならまだ続けるが、木刀だけでだからな。ここまでか。」

  まさか俺の防御の特徴すら利用して誘導するとはな...。

「(...これは俺の戦い方に変化をつけるべきか?)」

  桜さん曰く、俺は今までの経験を活かせば容易に負けなくなるらしい。

「....あれ?」

  あまりに桜さんと俺の世界に集中してたからか、周りの女子達が盛り上がってたのに気付かなかった。

「すごーい!」

「あんなの、現実でできるんだー!」

  詰め寄られて、そんな事ばかり言われる。
  二つ目の発言に関しては、ISでも似たような事ができると思うが...。

「(....あ、固まってる。...そこまで驚くことか?)」

  ふと人ごみの奥に、驚愕の顔で固まっている箒とあいつがいた。

「あー...えっと....失礼したな!」

「あ、ちょ、桜さん!?」

  大量に寄ってたかられて、さすがに桜さんも耐えかねて剣道場から逃げ出す。
  俺も慌てて追いかける。





「....ダメだ。剣道場も使いづらい...。」

「ど、どうしましょうか...。」

  なんとか、一部の追いかけてきた女子を撒き、俺と桜さんは休憩がてらそんな話をする。

「...もう、無理に一緒に特訓しなくてもいいだろう。理論的な対策は部屋でもできるし、個々で特訓するようにしよう。」

「....ですね。」

  アリーナも剣道場も使えない。
  ....となると、もう空いている場所を転々とするように使うしかない。

「じゃ、俺は適当に千冬にちょっかい出してくる。」

「....反省文、書かされないようにしてくださいね?」

  あの千冬姉にちょっかいって...さすが幼馴染。性格を知り尽くしてるんですね。

「(俺は...マドカの所にでも行くか。)」

  確か、マドカはユーリと一緒にクラスメイトの専用機制作を手伝ってるんだったな。





「...ここか。」

  中に入ると、早速マドカ達を見つける。

「あ、秋兄!どうしたの?」

「いや、手持無沙汰になったからな。様子を見に来た。」

  見れば、一人の女子生徒のサポートとして、ユーリが色々していた。
  マドカは道具を運んだりしているみたいだ。
  ....って、あれ?

「布仏さん?」

「あれー?やっぱりあっきーだ~。」

  やっぱり、布仏さんだった。どうしてここに?

「私はねー、かんちゃんの従者だからねー。手伝うに決まってるよ~。」

「...なるほど。」

  布仏家は更識家のお付き的な家系って桜さんの資料にあったな。

「.....誰?」

「クラスメイトのあっきーだよ~?」

「...それじゃあ、分からないだろ...。篠咲秋十だ。」

「マドカの兄の...?私は更識簪。よろしく...。」

  大人しそうな子だな...。ユーリと気が合う訳だ。

「できれば何か助けになろうとしたけど...充分みたいだな...。」

「あ、じゃあ~、飲み物買ってきてよ~。はい、お金。」

「おう、任せろ。」

「ちょ、そんなパシリみたいな...って、いいの秋兄!?」

  じっとしてるよりも動いた方がいいからな。

「後~、私の事はそんな他人行儀な呼び方じゃなくていいよ~?」

「あー...分かった。本音。」

「むぅ....。」

  ...どうしてそこでむくれるんだ?マドカ。

「大丈夫だよまどまど~。別に取ったりしないから~。」

「っ..ほ、本音!」

  ....まぁ、いいか。とにかく行こう。

「(......ん?)」

  整備室を出た所で、ある気配を感じ取る。

「....誰かいるんですか?」

  物陰に向かって声を掛けてみる。...これで誰もいなかったら恥ずいな。

「...また気づかれた...鍛え直すべきかしら...?」

「貴女は....。」

  水色の髪で、さっきの更識簪さんと似通った所がある。そうだ、この人は...。

「いかにも。私が現生徒会長で、この学園最強の更識楯無よ。」

「....教師も含めてですか?」

「えっ?」

  あ、今の一言で分かった。この人お姉さんキャラに見えて結構弄られたりする人だ。

「いえ、“学園”だと教師も含むので、そうかと思ったんですけど....。」

「う....生徒最強...よ。」

  ...実際、桜さんに適いそうにないから生徒最強も怪しいんだが...。

「何の用ですか?」

「...特にないわ。ただ、偶々貴方を見かけただけ。」

  そうなのか?俺はてっきり...。

「妹の様子を見てたら男性操縦者の一人が現れたから、気になったのかと思いましたよ。」

「あなた達兄弟は揃って人の心を抉ってくるわね!?」

「えっ?桜さんも同じような事を?」

  いつの間に会ってたんだろうか。

「じゃ、俺は飲み物を買って来るので。」

「え、あ、そうね。」

  ....この人が生徒会長で大丈夫なのだろうか...?





「....とりあえず、自分なりに鍛えたけど...。」

  あれから数日。代表決定戦になった。
  あの後は、特に何かある訳でもなく、簪に名前で呼んでいいと言われた以外、自主練だけだった。...この日までアリーナが借りれなかったなんて...。

「先生、誰からやるんですか?」

【...生憎、織斑の専用機がまだ届いていない。おそらく、オルコットと貴様らのどちらかからやるだろう。】

  通信で別室にいる千冬姉に聞くと、そんな回答が返ってきた。

「どっちがやる?俺はどっちでもいいが...。」

「...桜さんが先でお願いします。」

  さすがに試合が始まっても専用機が届かないという事はないだろう。
  多分、最適化などをするために先にオルコットの試合をするという感じなので、多分一つ目の試合が終わったら次はあいつと誰かが戦うのだろう。
  ...なら、その相手は俺がしたい。

「....ところで、どうしてマドカとユーリはここに?」

  今俺たちがいるのは試合をするためにISがアリーナに行くための場所。
  マドカ達は普通観客席にいるはずだが...。

【エーベルヴァインが四組の代表になった際、不満の声があったらしくてな。それで実力を見せるために篠咲妹が相手になるそうだ。】

  あー、そういえば、そんな事を食事の時とか言ってたような...。

「うう....緊張します...。」

「一組の後なんだから落ち着きなよ...。」

  既にユーリは緊張していた。...まぁ、公の場での試合だからなぁ...。

「....ところで桜さん。あそこで俺たちを睨んでるの、何とかできません?」

  少し離れた所で俺たちを睨んでくる箒とあいつ。

「いや、俺に言われてもな...。」

「名前変えて伊達眼鏡付けてるだけなのに、あいつは気づかないんだね。」

  桜さんは困ったようにそう言い、マドカは眼鏡をかけただけでマドカだと分からないあいつに対して嘲笑を浮かべていた。
  ...辛辣だな。まぁ、擁護するつもりは一切ないけど。

「さすがに気づいてると思うがな....。」

「まぁ、どうでもいいんだけどね。」

  すると、山田先生が慌ただしく通信を繋いできた。

「織斑君織斑君!来ました!織斑君の専用IS!」

「っ!」

  その言葉に、織斑が反応する。

【織斑、さっさと一次移行を済ませて置け。アリーナの時間は限られているからな。先に篠咲兄とオルコットの試合をしてもらう。】

「なっ...!?」

【なんだその驚き様は。まさか、一次移行も済んでいない奴を試合に出す訳がないだろう。】

  まぁ、そりゃそうだよな。なんであいつは驚いているんだ?

【精々、どのような機能があるか確認しておけ。】

【では篠咲桜君、試合に出てください。...行けますか?】

「いつでも。」

  そう言って桜さんはISを展開し、位置に着く。

「じゃあ、秋十君。」

「はい。」

「少し、教導してくる。」

「....はい?」

  教導って...何をするつもりなんですか?

「行くぞ、想起!」

「あ、ちょっと...!」

  ...聞く前に出て行ってしまった...。

「教導って...どういうことなんだ?」

「....もしかして桜さん、オルコットさんに何か見出すような力があったのに気が付いたんでしょうか?それで、教導しに...。」

「....相変わらず、桜さんの考えは読めないな...。」

  ...ま、桜さんが負ける事はないだろう。

「とりあえず俺は桜さんの動きをよく見ておかないとな。...でないと負けるし。」

  教導って事はそれなりに長引くだろうし、参考にさせてもらいますよ...!









 
 

 
後書き
正直ぐだってしまった。反省はしている。
...とまぁ、ともかく、ようやく次回は代表決定戦です。 

 

第16話「桜の実力」

 
前書き
桜の実力(本気を出すとは言っていない)。

今回は他の話と比べて結構短いです。
 

 


       =桜side=



  アリーナへ飛び出ると、オルコットは堂々と待ち構えていた。

「最後のチャンスをあげますわ。」

  俺が対峙するとすぐにオルコットはそう言いだした。

「...聞くだけ聞いておこうか。」

「私が一方的な勝利を得るのは自明の理。今ここで謝るのなら、許してあげない事もなくってよ?」

「.....はぁ...。」

  そういうの、チャンスって言わないぞ...?

「舐められたものだな...。」

「そう...残念ですわね...。それなら....。」

  想起が警告を出してくる。
  それと同時に、試合開始となる。

「お別れですわね!」

  オルコットのレーザーライフル...スターライトmkⅢから弾が飛んでくる。
  ...それを、体を逸らすようにして避ける。

「っ....!?」

「真正面から撃ってくるなんて、避けてくださいって言ってるようなものだ。」

  挑発するようにそう言って放つと、オルコットは分かりやすく反応する。

「っ...なら!踊りなさい!私、セシリア・オルコットとブルーティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

「ほう...なら、踊ってやろうか?」

  スカート状の部位から第三世代の特殊武装であるブルー・ティアーズが展開され、それらからレーザーが飛んでくる。

「ほっ、っと、よっ...!」

「なっ....!?」

  それらのレーザーを、まるで疾風のように避ける。

「....さて、そろそろ行くか。」

  そう言って俺は近接ブレードを一つ展開する。

「っ...!私に対して近接格闘装備など...!」

「おいおい...遠距離に近距離で挑むのが愚策とは言えないぞ?」

  再度俺を囲むようにブルー・ティアーズが展開される。

「―――その動きに風を宿し、」

  そこから放たれるレーザーを再び疾風の如き動きで避ける。

「っ...!喰らいなさい!」

  避けた先をオルコットは予想したのか、スターライトmkⅢで狙撃してくる...が。

「―――その身に土を宿し、」

     ―――斬ッ!

  その攻撃は大地の如く構えた俺に断ち切られる。

「......!」

「くっ....!」

  ブルー・ティアーズで乱射してくるが、それらは先程の動きで全て捌き、オルコットを切れる間合い寸前まで迫る。

「っ...かかりましたわね!四基だけではありませんのよ!」

「っ!」

  背後にあった二つ筒状のパーツからミサイルが飛んでくる。これは....!

     ―――ドォオオオオン!!!

「や、やりましたわ....!」

  ミサイルが爆発し、煙幕で見えなくなる....が。

「―――その心に水を宿し、」

「なっ....!?」

  その煙幕から俺は飛び出し、オルコットの目の前まで迫る。
  ...そう、さっきのは直撃はせずに、ミサイルとミサイルの間をまさに流水の如くすり抜け、追尾しようとしたミサイル同士が爆発しただけだ。
  ...ほんの少しだけ爆風でシールドエネルギーが削れてるけどな。

「―――その技に火を宿す。」

「い、インターセp...!」

   ―――“羅刹”

  オルコットが近接用の武器を展開するよりも早く、俺は羅刹の如き連撃を繰り出す。

「きゃぁああああっ!!?」

  連撃の最後の一撃で、吹き飛ばす。
  ...まだシールドエネルギーは残っている...いや、残した。

「俺が戦う時によく使う心得だ。...来い、まだ戦えるだろう?」

「ひっ....!?」

  先程の連撃が効いたのか、さっきまでより戦意がごっそりと減っている。

「....一つ教えてやろう。心に水を宿せ。それでお前は化ける。」

「え....?」

  突然何かを言い出した俺に、来の抜けた返事を返してくるオルコット。

「オルコット。お前はそのライフルとBT兵器を並行して扱う事ができないようだな。...それではブルー・ティアーズの名が泣くぞ?」

「何を....!」

  挑発染みた感じで言うと、少しは戦意が戻ったようだ。

「ブルー・ティアーズ...日本語に訳せば蒼い涙。つまり、そのISは水の気質を持ち合わせている。ならば、心に水を宿せば本当の力を発揮するはずだ。」

「......。」

  俺と束はISには基本的に四つの属性...火と水と風と土の気質のどれか...または複数を持っていると思っている。さっき言っていた心得は俺が戦う時に使う心得なだけで本来はISには用いなかったはずなのだが、気質を持っているのならば、今のようにISでも使える訳だ。

「...水面に落ちる涙の雫。それをイメージしてみろ。今までできなかった事ができるはずだ。」

「なぜ、そのような事を...?」

  やはりというべきか、オルコットは俺を訝しんでくる。

「なに、このまま腐っていくのはもったいないからな。俺が言いたいのはさっきも言った通り...“心に水を宿せ”それだけだ。」

「.........。」

  少し話す間に冷静になったのか、目を瞑り心を落ち着かせるオルコット。
  隙だらけといいたいが、俺は敢えて攻撃をせずに待つ。

「っ.....!」

「...っと!」

  ブルー・ティアーズの一基からレーザーが放たれ、俺は先に少し体をずらす。
  しかし、そのレーザーが少し曲がったため、さらに俺は体をずらして避けた。

偏光制御射撃(フレキシブル)....!?今まで成功しなかったのに...!?」

「...早速これか。...やはり、俺の眼に狂いはなかったか。」

  心に水を宿そうとした結果、あっさりとオルコットは今までできなかった事を成功させた。

「これが心に水を宿した結果だ。」

「...なぜ、私に有益な情報を...。」

「さっきも言った通り、腐っていくのがもったいないからだ。」

  再び俺は構える。オルコットも戦意を取り戻したようで、戦闘態勢に入る。

「....先程までの無礼、謝罪しますわ。」

「...ほう?」

「先程の一件で、目が覚めました。....全力で行かせてもらいますわ!」

  そう言って再度ブルー・ティアーズを展開する。
  しかし、今度のはただ俺を狙うだけでなく、包囲するように展開した。

「心に....水を宿す.....!」

「...お?」

  ブルー・ティアーズからレーザーが何度も放たれるが、俺はその放ち方に声を上げた。
  避けた先を読んでそこへ放つだけではなく、俺の避ける方向を誘導していた。おまけにフレキシブルによる曲線状のレーザーも偶に混じってくるため、非常に避けづらい。

「っ、これっ、はっ....!」

「......っ、ここですわ!」

  少し体勢を崩したのを、オルコットは見逃さずにブルー・ティアーズを展開したままスターライトmkⅢで狙撃してきた。

「くっ....!なっ!?」

  そのレーザーを斬ろうとした瞬間、その剣にブルー・ティアーズのレーザーが当たり、挙動が少しだけ遅れる。

「(....見事、だ!)」

「なっ!?」

  賞賛を送りつつ、武器をレーザーの射線上に展開する。
  レーザーはそのまま展開したもう一振りの剣に阻まれ、当たった衝撃で回転した剣を俺はキャッチする。

「ふっ!」

「くぅっ....!」

  片方の剣を投げ、オルコットに避けさせる。
  まだ未熟だからか、それだけで攻撃が完全に止む。
  そして.....。

「今のはよかったぞ。」

「っ、きゃぁああっ!?」

  一気に間合いを詰め、連撃を加えてあっという間にシールドを削りきる。

〈勝者、篠咲桜。〉





「お疲れ様です。」

「おう。勝ってきたぞ。」

  ピットに戻り、秋十君に労りの言葉を掛けられる。

「それにしても、よかったのですか?彼女をさらに強くしてしまって...。」

「オルコットは女尊男卑の性格さえ何とかなれば普通に良い奴だとは思うがな。....と言うか、この学園の大半は女尊男卑さえ何とかなればいい奴ばかりだと思うな。」

「そうなんですか。」

  ユーリちゃんはそれで納得したのか、引き下がる。

「さて、少し時間を取ったら次は秋十君だ。頑張れよ?」

「はい!」

  おお、元気のいい返事だ。余程織斑と戦えるのが嬉しいのか?

「そして勝った者同士がさらにその後で戦う。...待ってるぞ秋十君。」

「はい!」

  ...え?織斑が勝つ確率?ゼロではないけど....まぁ、秋十君が余程油断しない限り、勝つ事は無理だろう。





       =out side=



「こうも代表候補生をあっさり倒すなんて....。」

  管制室で山田先生が驚いている。先程の試合で、ある程度の桜の凄さが分かったのだろう。

「....ふ、さすが。と言うべきか...。」

「織斑先生はこの結果が分かってたのですか?」

  さも当然かのように結果を見て呟いた千冬に、山田先生は質問する。

「ああ。言っただろう?訓練機とはいえ、最初から本気で戦った私が引き分けたと。」

「それ以外にも理由はありそうですけど....。」

  山田先生はそこまでで言うのを止めた。どうせ答えてくれそうにもないからだ。

「他の理由か....そうだな。強いて言うなら、幼馴染だからか?」

「えっ!?お、幼馴染ですか!?」

  まさか答えてくれるとは思わなかったのと、幼馴染という事実に驚く山田先生。

「ああ。世間では死んだ事にされているがな。...他言無用だぞ。」

「分かりましたけど...一応、理由を聞いていいですか?」

  山田先生の質問に、千冬は少し顔を顰める。

「あ、えと、言えないのならいいです...。」

「いや....理由の中に(アイツ)の存在があるからな...。それが嫌なだけだ。」

「は、はぁ....?」

「他言無用の理由か....。無闇にばらすと、アイツが全ISを停止だのさせて世界を混乱に陥れかねん。そう言う事だ。」

「て、停止って....!?」

  山田先生は千冬が束と幼馴染なのを知っている。...というか、世界中の大半が知っている。そのため、桜一人の事をばらすだけでそこまでする事に驚いたのだ。

「私と幼馴染であれば、アイツと幼馴染なのは必然だろう?」

「そ、そうですけど....。」

  束は基本的に他人に無関心。...そう世間一般では知られている。
  故にそこまでするのが理解できなかった。

「...なに、それだけアイツが篠咲兄...桜の事を好いているという事だ。」

「す...!?えっ....!?」

  衝撃の事実に言葉に詰まる山田先生。

「も、もしかして....織斑先生も...?」

「.........。」

  恐る恐る山田先生が聞くと、千冬は黙り込む。

「山田先生、この話はここまでしよう。いいな?」

「え、でも....。」

「い・い・な?」

「は、はい!」

  威圧を込めてそう言った千冬に、山田先生はタジタジだった。








       =セシリアside=





「........。」

  試合が終わり、私は更衣室で少々放心していた。

「篠咲...桜....。」

  代表候補生であるはずの私を圧倒するだけでなく、私をさらなる高みへと導いた男...。
  それだけではない、このご時世、男は女性に弱くなっている。男は必要以上に女性に怯え、何でもかんでも弱気になっていて見苦しかった。
  かくいう私も女尊男卑という風潮に染まっており、男を貶すような物言いをしてしまった。
  それなのに、まるで何ともないように振る舞う彼の姿は、私の“心”も圧倒した。

「っ......。」

  いつもお母様に弱気になっていたお父様。
  私はずっとそれを見て育ってきた。
  だからこそ、男性はここまで強いのかと、彼によって思い知らされた。

「私は...何をしていたのでしょうか...。」

  弱気な一面しか知らなかった訳ではない。
  しかし、私はずっと男性を見下してきた。
  だからこそ、彼の強さを魅せられて目を覚ますような衝撃に襲われた。

「....後で謝罪しなければなりませんね。」

  男性だけでなく、あの時は日本そのものを侮辱してしまったのだ。
  だから、クラスの方達にも謝らなければ...。

「謝罪だけでなく、感謝もですわね。」

  人としての道を踏み外しかけていた私を戻してくれた“桜さん”に....。











 
 

 
後書き
セシリアは心に水を宿す際、川の流れなどをイメージしており、ブルー・ティアーズの操作などもその一連の動作そのものを水の流れと捉える事により、今回の動きを再現させていました。

今回の“動きに風を宿す~”のセリフは、とあるゲームにあったセリフをそのまま使っていましたが、何のゲーム分かった人はいますかね...?
結構あのセリフ、意味と相まって気に入ってるんですよね。戦闘の心構えとしても滅茶苦茶使えますし。
 

 

第17話「(元)兄弟対決」

 
前書き
既に分かっていると思いますが、秋十は一夏を嫌悪しています。
洗脳だけじゃなく、性格とかの時点で最低な奴だと知っているので。
 

 




       =秋十side=



「では、行ってきます。」

「ああ。行って来い。」

  待機時間が終わり、俺の出る試合になる。
  既にアイツは出て行ったようだ。...なんか睨んでたけど知らん。

「お兄ちゃん。」

「ん?どうしたマドカ?」

「....ギッタギッタにしてきてね!」

「....お、おう。」

  いや、そんな満弁な笑みで残酷な事をしろと言われても...。
  マドカの激励のようなものを受け取り、俺はピットを飛び出した。





「...遅かったじゃねぇか。」

「......。」

  アリーナに出て、少し浮いた所に、あいつはいた。
  相変わらず、嫌な笑みを浮かべているな。

「てめぇがどんな特典を貰ったのかは知らねぇが、だからと言って“出来損ない”の弟が俺に勝てるとでも思うか?」

  またよくわからん事を言ってるな...。
  ...それに、“出来損ない”を強調してきたか。

「...ああ。少なくとも、負けるつもりはない。」

「っ、へぇ...。」

  ちなみに、この会話は他人に聞こえないようにプライベート・チャネルを使っている。

「てめぇがどう足掻いたって、この世界の主人公は俺だ!てめぇなんぞに負けるかよ!」

  そう怒鳴るように言った瞬間、試合の合図が鳴り、あいつは突っ込んできた。

「......!」

  今までは敵わなかった相手だが、今の俺は違う。

  ....やってやる!!







       =out side=



  飛びだすように一夏は秋十へと突撃する。
  一夏の乗る専用機、白式に備え付けられている武装は近接ブレード一つのみなので、必然的にそれを使い、秋十へと攻撃する事になる。

「っ!」

     ―――ギィイイン!

  その攻撃を、秋十は落ち着いて同じ近接ブレードで受け止める。

「チッ、はぁあっ!」

「.....っ!」

  一夏は舌打ちし、再度ブレードを振う。秋十はそれをを受け止め、横へと流す。

「(....あれ...?)」

「チィッ!調子に乗ってんじゃねえぞ!」

  再度振るわれる。受け流す。再度振るわれる。受け止める。再度(ry....

「(.....弱くないか?)」

「おらおら!防いでるだけかぁ!?」

  秋十からしてみれば、一夏の攻撃は分かりやすすぎた。
  故に、秋十でも容易く攻撃を凌げた。

「....シッ!」

     ―――ギィイイン!

「なっ....!?」

  攻撃の合間を見切り、秋十はブレードを大きく弾く。

「...なぁ、本気出せよ。」

「なに...!?」

  あまりの弱さに、秋十はそう言う。
  これは挑発ではなく、素でそう思ったのだろう。
  だが、一夏は侮辱されていると受け取り、さらに怒りで攻撃が雑になる。

「攻撃する暇もない癖に、よくそんな事が言えるなぁ!!」

「ん?....あぁ、その事か。」

「がっ!?」

  素早く一夏の攻撃を受け流し、秋十は鋭い蹴りのカウンターを入れる。

「俺は防御主体の戦い方が好きなんでな。生憎、攻撃は得意じゃない。」

「ぐっ...てめぇ....!!」

  蹴りをまともに喰らった一夏は秋十を睨みつける。
  そんな一夏を、秋十は冷めた目で見ていた。



「.....篠咲弟の勝ちだな。」

「...一応聞きますけど、どうしてですか?」

  管制室では、試合の様子を見て結果をそう言い切った千冬に山田先生が聞いていた。

「見ての通り、織斑の攻撃は全て完璧に防がれていた。おまけに防御主体のカウンターによる攻撃。織斑は篠咲弟と相性が悪すぎる。」

「織斑君の武器は近接ブレード一本しかありませんからね...。」

「さらに、篠咲弟はまだ力を隠している。...こちらは篠咲兄との戦いのために温存しているのだろうな。...まぁ、この二つの理由から織斑は勝てん。」

「なるほど...。」

  他にも冷静に戦況を見ているかどうかもあるが、ここでは省いておくようだ。

「...それにしても、篠咲君があんな冷めた目をするのは驚きましたね...。」

「....それだけ、辛い目に遭い、努力を重ねてきたのだろう....。」

「織斑先生...?」

  どこか暗い声色となった千冬に、山田先生は疑問に思った。

「...今は関係ない事だ。まだ試合は終わっていないぞ。」

「あ、はい、そうですね。」

  そう言って、二人は再び試合に集中し始めた。



「はぁあああっ!!」

「...ふっ!」

     ―――ギィイイン!

  突っ込んできて放たれる一夏の斬撃を、秋十は右斜め下に受け流すように防ぐ。

「...はぁっ!」

「がぁっ!?」

  そのまま秋十は回転し、地面に向かって叩き付けるようにブレードを一夏へと叩き込んだ。
  それにより、一夏は地面へと突っ込む。

「......。」

「ぐっ....くそ、が....!」

  秋十は黙って地面に降り立ち、一夏が悪態をつきながら這い出てくるのを待った。

「調子に乗るなぁああああああ!!!」

「........。」

  叫びながら一夏は秋十へと突っ込む。
  ブレード“雪片弐型(ゆきひらにがた)”が変形し、エネルギーの刃が展開される。
  白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、零落白夜(零落白夜)だ。
  それに対し、秋十は冷めた目のまま、ブレードを静かに構える。

「喰らえ!」

「......!」

     ―――ギィイイン!

「なっ....!?」

  先程までと全く変わらずに受け止められ、一夏は驚愕する。

「な、なんでだ....!?」

「...それ、エネルギーに特化したブレードみたいだけど、普通のブレードとかには切れ味が良い程度の強さしかないぞ?」

  秋十は冷静にブレードの性質を分析し、それを指摘する。
  一夏はその言葉にハッとし、しかし受け止められた状況からは不用意に動くとあっさりやられると思っているので動けず仕舞いだった。
  ちなみに、秋十がなぜブレードの仕様が分かったかというと、同じような武器を扱ったりした事があるからだ。

「くそっ....!」

「逃がさん!」

  とりあえず間合いを離そうとする一夏に対し、秋十は雪片弐型を斜め下に受け流し、踏みつける。

「なっ!?」

「はぁああっ!!」

  踏みつけ、地面に少し陥没したため、雪片弐型を動かせなくなる。
  それに驚く一夏に、秋十は容赦なく一撃を叩き込んだ。

「がぁああっ!?」

  その一撃に、一夏は雪片弐型を手放して吹き飛ばされる。

「ぐっ....て、めぇ....!」

  まだ起き上がる一夏。シールドエネルギーが辛うじて残っているのだろう。

「.......。」

「調子に...乗るんじゃ.....!」

     ―――ガァアン!

「....ぁ...?」

  銃声が鳴り響き、吹き飛んだ一夏は間の抜けた声を出す。

〈白式、シールドエネルギーエンプティ。勝者、篠咲秋十。〉

「...これ以上は無意味だからな。終わらせた。」

  秋十の手には、ライフルが展開されていた。

「卑怯、な....!」

「誰も俺がブレードしか使わないとは言ってないぞ?」

  尤も、秋十はあまり銃器は得意ではないので専ら近接ブレードしか使わないが。

「正直、想像以上に弱かったよ。...かつての俺が馬鹿らしく思えるほどにな。」

  そう言って、秋十はピットへと戻っていった。







       =秋十side=



「...はぁ....。」

  ピットに戻り、溜め息を吐く。

「お疲れ。」

「桜さん....。」

  桜さんがISを解除した俺に労いの言葉をかけてくれる。

「....失望したか?かつて自分を虐めていた奴があまりにも弱く感じて。」

「っ.....失望というより、落胆...ですかね。」

  あっさり俺の気持ちを見抜かれていた事に少し驚く。
  ...まぁ、桜さんだし、ほんの少しだけだったけど。

「...ま、復讐なんて普通にやっても空しいだけだ。」

「復讐...。...そうですね。俺はずっとあいつに復讐したかった。...結果がこれですが。」

  散々俺を虐めてきたんだ。復讐心の一つや二つ、芽生えるに決まってる。
  ...だけど、復讐したところで心は満たされないのも、分かってる。

「俺や束としちゃあ、この世界をちゃんと現実として見ていないアイツには、現実を見てもらうためには復讐染みた事...いや、復讐そのものをするがな。」

「桜さんが...?」

「ああ。俺の幼馴染が洗脳されたんだぞ?束にとっても、自分や幼馴染、妹を洗脳されたんだ。キレるに決まってる。」

  そういえば、俺も箒や鈴、マドカ、千冬姉を洗脳されたと分かった時に、怒りを抱いたっけ?そこら辺は桜さん達も同じなんだな...。

「....ねー、桜さんも秋兄も話してないでさ、これ、何とかできない?」

「え...?あ....。」

「あー、まぁ、予想はしてたんだが...。」

  マドカの方を向けば、今にも木刀で斬りかかってきそうな箒をマドカが止めていた。

「そこをどけ!」

「嫌だよ。どく理由がないもん。」

「そいつが一夏に勝つなんておかしい!どうせ卑怯な手を使ったんだ!でなければ...!」

  そう言って無理矢理マドカを振り切ろうとして....。

「ちょっと黙って。」

「ガッ....!?」

  マドカが木刀を弾き落とし、箒を壁に押し付けた。

「私も以前は同じようなものだったから強く言えないけどさ....いい加減にしろ。」

「ぐっ....!?」

  そう言って投げ捨てるようにマドカは箒から手を離した。

「......大丈夫か?」

「え...あ、大丈夫です。」

「..そうは見えないな。ほら。」

  桜さんが鏡を取り出して見せてくる。...どこに持ってたんですか?
  しかし、桜さんの言った通り、俺の顔はあまり優れていなかった。

「気持ちは分かる。...なんなら、次の対戦まで少し待つぞ?」

「...いえ、大丈夫です。」

  箒が洗脳され、俺の知ってる箒と全然違った言動や行動などが、結構俺の精神に響いているのだろう。....桜さんに拾われる前からそうだったけど、まだきつい...。

【....織斑が戻ってきて、五分間の猶予の後に最後の試合を行う。いいな?】

「分かりました。」

  千冬姉も少しは俺の労ってくれるみたいだ。
  ...そんな千冬姉も、洗脳はされてるんだけどな。

「最後...あれ?秋十君とオルコットの試合とかは?」

【本来ならそのはずなんだがな...。オルコットが“自身の過ちに気付いたから、辞退する”との事だ。そして、織斑の機体だが、先程の試合で少し損傷しててな。アリーナを使う時間もないため、次が最後となった。】

「相性とかを考慮してないんですけど...まぁ、いいですか。」

  俺も苦手な相手とかはいるんだが...最後まで勝ち抜いた人でいいんだろう。

「...お?なんか遅いと思ったら、あっちのピットから出て行ったのか。」

「どうせ負けた相手である秋兄がこっちにいるから、来たくなかったんじゃないの?」

  ...来たら来たでずっと俺の方を睨んでいそうだけどな。

「.....はぁ。」

「どうした?やっぱり手応えがないか?」

  何となく吐いた溜め息について、桜さんが聞いてくる。

「はい、まぁ...。」

「シュヴァルツェ・ハーゼぐらいの力量がないと秋十君もユーリちゃんも手応えを感じなさそうだしなぁ...。」

  そういえば、ラウラは元気にしてるだろうか...?
  ...まぁ、軍人なんだし、大丈夫だろう。

「...しょうがない。そんな手応えを感じない秋十君に、俺が一肌脱いであげよう。」

「....桜さんは一肌脱がなくても十分手応えありますって。」

  やばい。自分でハードル上げちまったかもしれん。勝てる気がしない。

「じゃあ、五分後にな。」

「はい。」

  次の試合まで、休憩がてらイメージトレーニングだな。

  ....勝てた試しがないが...やってやるぞ!







       =一夏side=



「くそ...!くそくそくそ...!くそがっ!!」

  気に食わないあいつらのいるピットに戻る訳にもいかなく、反対側のピットから出て行った俺は、白式を解除して壁に拳を叩き付けた。

「ありえねぇ...!俺は主人公なんだ...!あんな奴に負けるはずが...!」

  しかも、本来なら俺はセシリアと試合するはずだった。なのに、あの篠咲桜とかいう奴がいたせいで...!

「くそっ!なんなんだよあのイレギュラー共は...!」

  俺は神に転生させてもらう時、ISの一夏になれるように願った。美少女ばかりのいるIS学園でハーレムを築くためだ。おまけに、保険として洗脳する特典も貰った。
  それだけあればハーレムは築け、俺は満足できる人生を送れると思っていた。
  だが、今こうやって織斑秋十と篠咲桜とかいうイレギュラーのせいで、原作が狂い始めている。
  秋十の方はいい。子供の頃から散々言う事を聞かせてきたからな。おまけに信頼していた千冬姉や束さんを洗脳して、精神に多大なダメージを与えてやった。

「だが、篠咲桜...!あいつさえいなければ...!」

  もう一人のイレギュラー、束さん似の容姿をしているあのイレギュラーの所為で、色々と狂ってしまった。俺の知ってるセリフや展開がおかしくなっていたり、セシリアと試合もできなかった。

「...いや、俺はこんなもんじゃ諦めないぜ...!」

  あいつらが転生者で、どんな特典を貰っていようと、なんたって俺には....。

「洗脳があるからな...!ははは...!あいつらの周りの奴らを洗脳してやれば...!」

  あいつらの絶望の顔が目に浮かぶぜ....!









   ―――彼が洗脳を使えない事に気付くのは、もう少し後のようだ...。







 
 

 
後書き
零落白夜は実体に対しては効果が薄いという何番煎じなネタ。

そんなことより、また短くなってしまいました...。
その代わり、不定期とはいえ更新は早めにします。
どうかそれで許してください!なんでもしま(ry

それはともかく、トーナメント方式なので次回で代表決定戦は終わります。
つまり、一夏がセシリアにフラグを立てる機会が消え去ります。(代わりに桜にフラグが立ちかけてるけどね!)
ちなみに今の所一夏は秋十と桜しか眼中にないので、マドカやユーリに気付いていません。
自分でマドカを洗脳しておきながらちょっとの変装で気づけないって...。 

 

第18話「桜vs秋十」

 
前書き
桜がいかにチート染みてるかが分かります。(ISの機能あんまり関係ないし。) 

 




       =秋十side=



「ふぅ....よし!」

  ピットからアリーナへと飛び出す。
  桜さんは既にアリーナにいるので、俺は対峙するように桜さんの前に行った。

「さて、いよいよだが....。」

「...剣道場の時のようには行きませんよ?」

「そりゃ、楽しみだ。」

  俺も桜さんも至って普通の近接ブレードを展開する。
  そして、正面で構える。

「っ、はぁああああああ!!!」

  試合開始の合図と共に、先手必勝とばかりに俺は突っ込む。

「甘い。」

「っ!(流水の動き!)」

  振るった一閃は流水の如き動きで避けられる。
  オルコットとの戦いでもあった、“心に水を宿す”動きだ。

「ふっ!」

「くっ!」

  一閃は上に避けられたため、一回転すると共に桜さんは足を振り下ろしてくる。
  それを、俺は“身に土を宿し”腕で防御する。

「っと、やはりそれを使ってきたか!」

「伊達に桜さんの動きを見てきた訳じゃ...ありませんから!!」

  足を押し返すように弾き、瞬時加速(イグニッション・ブースト)と“動きに風を宿す”事を併用し、桜さんの後ろに回り込む。

「燃え盛る...焔のように!!」

「っ!?」

   ―――“羅刹”

  桜さんが完全に振り返る前に“技に火を宿し”業火の如き激しさで剣を振う。

「はぁああああああ....!!」

「っ、これっ、は.....!」

  疾風の如き動きと、業火の如き激しさを合わせた剣戟は、流水の動きを宿した桜さんでも、捌くのが精一杯のようだ。

「はぁあっ!!」

「ぐっ...!だが、これで凌ぎきった!」

  だが、俺もそれ以上の攻撃は放てなかったため、全て凌がれてしまった。

「お返し...だ!」

「っ!」

  全て捌かれ、隙を晒した俺に容赦なく桜さんはカウンターを放ってくる。
  それを....。

     ―――ギィイイン!

「経験上、こういうのには慣れてるんですよ...!」

「っ、やるじゃないか...!」

  空いた片手にもう一本ブレードを展開し、逆手に持って攻撃を防ぐ。

「でも、俺ももう片手余ってるんだよ、なっ!」

「っ!」

  反対側から来たもう一つの斬撃を、上体を逸らして避ける。
  もちろん、それだけでは隙だらけになるので、そのまま脚を振り上げ、バック中の要領で後ろに下がりつつ、ブレードを手放してマシンガンを展開して乱射する。

「....一応、二丁で乱射してるんですけど、射線上からずれずに無傷ってどういうことですか?」

「ハイパーセンサーって凄いよね。全部認識してくれた。」

  つまり認識さえすれば生身でも行けるって事ですか!?

「...つくづく桜さんって人外染みてますね...。」

「よく言うだろ?」

「.....?」

「“バケモノを倒すのは、いつだって人間さ”って。」

「なんで自分が倒される前提なんですか!?」

  しかも人外な事認めてるし!

「....落ち着いたか?」

「えっ...?...あっ。」

  ふと、さっきまで少し力が入っていた事に気付く。
  ...なるほど、やっぱり、少し緊張していたみたいだ。

「...ありがとうございます。」

「礼はここからの戦いに応えるか試合の後にしてくれ。」

「.....はいっ!」

  ここからは出し惜しみなしだ。

「動きに風を宿し、身に土を宿し、心に水を宿し、技に火を宿す....!」

「.......。」

  なにも、この戦い方は桜さんだけが使える訳じゃない。
  束さんも使えるし、それをずっと傍で見て、習得しようと努力していた俺も使える。

「っ.....!」

「っ!」

  初動もなく、しかし地面が凹む程の勢いで桜さんに接近する。
  両手にそれぞれブレードを展開し、流水と疾風の如き動きで攻撃する。
  躱され、反撃。それをもう片方のブレードで防ぎ、そのまま再度攻撃。
  しかし、それも桜さんのもう片方のブレードに阻まれ、鍔迫り合いになる。

「はぁっ!」

「っ、ぁあああ!!!」

  互いに間合いを離すようにブレードを弾き、剣戟を繰り広げる。
  斬る、防ぐ、斬る、斬る、避ける、斬る、防ぐ、防ぐ、避ける、斬る...!

「ふっ!」

「っ!はぁっ!」

  運よくいい感じに桜さんの攻撃を懐に誘い込み、思いっきりそのブレードを弾き飛ばす。

「っ、く....!」

「はっ!」

  そして、もう片方のブレードで残ったブレードを封じ、すぐさま突きを繰り出す。

「っ!危ない....な!」

「やば....!?」

  それを桜さんは上体を逸らし、刺突をしたブレードを蹴り上げて一回転しながら後ろに下がり、そのままマシンガンを展開して乱射してきた。

「っつ....!」

  すぐさま射線上から外れたけど、いくつかは命中してしまったようで、シールドエネルギーが削れている。...まだ余裕はあるか。

「さて、そろそろ武器を変えさせてもらおうか。」

「ハンドガン....!まずい....!」

  桜さんは二丁のハンドガンを展開する。
  IS用に改造されたハンドガンとはいえ、あまり需要がない武器だけど桜さんの場合は...。

「くっ....!」

  幸い、まだ間合いは離れているので俺もライフルを展開して桜さんに向けて放つ。
  しかし、それは流水と疾風を合わせた動きで避けられる。

     ―――ダン!ダン!

「っ、って、やば...!」

  ハンドガンから放たれた銃弾を流水の動きで躱してしまう。
  そのほんの一瞬の隙を突いて、桜さんは俺に接近してくる。

「っ、ぁああっ!」

「ふっ、はっ!」

  すぐさまブレードを展開して斬りかかる。
  ...が、あまりに接近されていたからか、振る直前で止められ、至近距離から弾丸を喰らう。

「ぐっ...!?この....!」

「甘い!」

「がぁっ!?」

  超至近距離と言っていいほど密着されているせいで、満足に剣を振れずに止められ、反撃と言わんばかりにハンドガンで何度も撃たれる。
  まずい、シールドエネルギーもガリガリと削れている...。このままだと...。

「(ブレードはあまりにも不利!使いこなせなくても、俺もガン・カタで...!)」

  銃を用いた近接戦闘へと、俺もシフトする。
  ...尤も、今まで剣ばかり振っていた俺には使いこなせないが。

「(間合いさえ離せれば....!)」

  桜さんが銃口を俺に向けてくる。それを片手で払いのけ、もう片方で狙...おうとして、阻まれる。すぐさまフリーになった払いのけた方の片手で狙うが、また妨害される。

「くっ.....!」

「......!」

  妨害、狙う、妨害、妨害、狙う、狙う、妨害....!
  ブレードで行っていた事を繰り返すように攻防を繰り広げる。

「はっ!」

「くっ....!」

  足払いを掛けられ、バランスが崩れる。
  ....だが、チャンスだ!

「喰らえ!」

「っ!」

  高速でハンドガンとアサルトライフルを切り替え、足払いで崩されたバランスも無視して上に飛びながら乱射する。

「(元々ISでの戦いなんだ!無理して地上で戦う事もない!)」

  さすがにハンドガン装備じゃ捌ききれないのか、桜さんは射線上から避ける。

「はっ!」

  アサルトライフルを適当に撃ちつくし、それを桜さんに投げる。
  すぐさまブレードを展開し、投げた銃に気を取られている所に一閃する。

     ―――ギィイイイン!

「...です、よね....!」

「投げ方にもう一工夫欲しかったね...!」

  投げ方に工夫ってどうすればいいんですか....。

「(速く、早く動き、明鏡止水の心で...斬る!)」

「お?」

  すぐさま間合いを離れ、瞬時加速を応用しながら斬りかかる。

     ―――キンッ!

「流水の流れを斬る事はできても...防がれる程軽いのはいけないな。」

「くっ.....!」

  流水の動きを捉えるのは難しい。だから俺も同じ領域に至って斬りかかったけど...。
  防がれちゃ、意味がない....!

「動きが軽くなるなら....こう、だ!」

「っ!」

     ―――キィン!キキキィン!!

「くっ....!」

  流水のようで捉えづらい斬撃の連続を、辛うじて防ぎきる。

「(素の力だけ行きたかったけど....出し惜しみしてられない!)」

「む?....っ!?」

  相変わらず余裕な桜さんの顔がついに驚愕に変わる。
  当然だ。いきなり俺のスピードが上がったのだから。

「ワンオフか!それもこれは....!」

「はぁあああっ!!」

  斬る、離れる、すぐ近づき、また斬る。それを繰り返す。
  以前、ラウラと戦った時は1.3倍が限界だったけど今なら...!

「煌めけ....!三重之閃(みえのひらめき)!!」

「っ!がぁあああっ!?」

  かつての二重之閃よりも一つ斬撃が多く、それでいて速くなった斬撃を放つ。
  ワンオフの効果が上がり、二倍速で動けるようになったからこそできる事だ。
  さすがに、これは防げなかったのか、ついに桜さんに明確なダメージを与える。

「(まだ.....!)」

「っ!く....!」

「ぜぁああああっ!!」

  二つあるスラスターから一気にエネルギーを放出し、二連続の加速....“二連加速(ダブルイグニッション)を行い、さっきの技で後退した桜さんの後ろに回り込み、斬撃を喰らわす。

「ぐ.......!」

「(このまま....!)」

  このまま押し切ろうとして、桜さんの顔が....笑った。

「っ!?」

「油断大敵だ。秋十君。」

  嫌な予感がし、咄嗟に飛び退こうとして....背後からレーザーを喰らう。

「あれは....BT兵器!?なんで....!?」

  レーザーが放たれた方向を見ると、そこには青色のビットが浮かんでいた。
  ...おかしい、あれはオルコットの....!

「...俺のISがなぜ“想起”と言う名か分かるか?」

「想起....思い出す...まさか!?」

「シールドエネルギーを消費するが...一時的に再現が可能なのさ!!」

  再びレーザーが放たれ、そちらに気を取られる。
  ハッと気づいた時にはもう遅く...。

「俺にここまでやらせたんだ。見事だよ秋十君。」

「ぐ....ぁ.....。」

  防ごうにも、時既に遅し。一瞬で切り刻まれ、俺は吹き飛ばされた。

〈夢追、シールドエネルギー、エンプティ。勝者、篠咲桜。〉

  アナウンスと共に聞こえる歓声が、どこか遠い物のように聞こえる。
  ....あぁ、負けたのか....。

「...まだ、届かないのか....。」

「秋十君が努力して成長するように、俺も成長している。そう簡単に追いつかれちゃ年上としての尊厳が持たないぜ。」

「ははは...。さすが桜さんだ。対処がしづらかった...。」

  剣戟、ガン・カタ、そして空中戦。
  戦い方が度々変わるのには理由があった。
  俺は何度も桜さんや他の皆と戦い、経験を積む事でありとあらゆる状況に対処できるようにしている。....そう桜さんや束さんは言っていた。
  だから、同じ戦い方だと積んできた経験で対処されるだろうと、桜さんは戦い方を変えてきたんだ。それも、俺の経験がさらに積まれるように...。

「...敵わないなぁ....。」

「そりゃあ、警戒してるからな。これでも秋十君は俺の中で結構上位に値するぞ?」

「そうなんですか?」

  意外だったなぁ....。

「...とりあえず戻るぞ。行けるか?」

「大丈夫です。鍛えてますから。」

  先程の戦いの歓声が収まらないまま、俺たちはピットへと戻っていった。







       =第三者side=



「.........。」

「はー...凄かったですねぇ...。」

  管制室にて千冬は黙り込み、山田先生は感嘆の声を漏らした。

「ISってああいう動きもできるんですねぇ...。」

「...ISはパワードスーツだからな。生身での動きも細かく再現するのは当然だろう。...だが、あの動きは....。」

「あの二人って、軍人とかどこかのエージェントだったりしないですよね?私、ああいう動きって映画とかでしか見た事がないんですけど...。」

  ISらしい試合ではなかった。二人共そう思っているが、それ以上にその試合は体術などが凄かった。そのため、二人共試合中はずっと映像に見入っていた。

「私でもやらん。...あの二人は、ISなしの方が都合がいいのかもな。」

「ええっ!?そんな織斑先生みたいな人が他にもいるんですか!?」

「どういう意味だ?」

  まるで例外的存在の基準にされたかのような言い方に反応する千冬。

「あっ、いや、別に織斑先生が生身でISに勝てるような化け物染みた存在だとかは思ってませんよ!?」

「ほう...。」

「あっ....。」

  言い訳しようとしてさらに墓穴を掘る山田先生。
  ....自業自得である。

「(....私も一人の、織斑千冬として鍛え直すべきだろうか...。このままだと、桜には引き離された気がするしな。)」

  山田先生へのお仕置きを確定しつつ、千冬はそんな事を考えていた。









       =桜side=



  いやー、まさか秋十君があそこまで強くなってるとは。
  それなりに本気出す事になるとは思わなかったな。

「秋兄お疲れー。」

「桜さんもお疲れ様です。」

  マドカちゃんが秋十君を、ユーリちゃんが俺労わってくる。

「サンキュ、マドカ。...いやぁ、やっぱ桜さんは強すぎるわ。」

「こっちもありがとなユーリちゃん。...そうは言うけど、秋十君も大概だぞ?」

  その強すぎるという相手にして戦えるんだからな。

「...あれ?篠ノ之は?」

「箒ならあいつがいないからどっか行ったよー。」

  束の妹がいないのに気付き、俺がそう呟くとマドカちゃんがそう返してくれた。

「...まぁ、いっか。...さて、次はユーリちゃんとマドカちゃんの番だ。」

「あぅ...もう出番が来ちゃいましたか...。」

  俺がそう言うとまた緊張しだすユーリちゃん。

「そこまで気負う必要はないぞ。自分の力を出し切ればいいんだ。」

「は、はい...。」

  一度深呼吸をして、心を落ち着けるユーリちゃん。
  ....もう大丈夫みたいだな。

「...ところで、このままだと代表は桜さんになるんですよね?」

「え?俺は辞退するけど?」

「えっ?」

  秋十君の言葉に俺は否定する。

「いや、だってなぁ...。自分で言うのもあれだが、俺ほどの相手が学年トーナメントとかに出てみろ。実力差ありすぎだろ。」

「あっ....。」

「かと言って、秋十君の実力も相当だしなぁ...。まだまだ伸びるし。」

  となると後はオルコットか織斑だけなんだが...。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「ん?」

「桜さんがそれで辞退するのは分かります。でも、俺の実力ってそこまで...。」

「...生粋の軍人なうえ、代表候補生の相手に互角以上の戦いをして、ほぼ本気の俺相手にまともな一撃を与えた奴が何を言ってるのかな?」

「うぐっ....!?」

  ラウラは代表候補生の中でも強いからな。AICも厄介だし。
  それ相手に何度も模擬戦して勝った事もあるしな。秋十君は。
  ...え?俺?全戦全勝ですがなにか?

「まぁ、ともかく、強すぎる人が代表になると、他のクラスの士気にも関わる。学年トーナメントとしてはそれはダメだ。」

「...じゃあ、残りはオルコットかあいつ....。」

  オルコットの方が今はもう大丈夫だからな。そっちの方がいいとは思うが。

「(...“知識”から考えると、オルコットは例え代表になっても辞退するんだよな。でも、あれは惚れた弱みとかそんな感じだし、違うか...?)」

  何かと嫌な予感がするが...まぁ、置いておこう。

【....そろそろ時間だ。エーベルヴァイン、篠咲妹。準備をしろ。】

「..っと、時間だな。頑張ってこいよ二人共。」

  ISを展開し、いつでも行ける状態になったユーリちゃんとマドカちゃんに激励を送る。

「はい!」

「じゃ、ちょっとやってくるね、秋兄!」

  そう言って二人共順番にアリーナへ飛んで行った。

「さて、ユーリちゃんがどこまで成長したのか見ものだな...。そして...。」

  先程試合中に確認した女性の顔を思い浮かべ、笑みが漏れる。

「どんな風に驚愕に染まるか...それも見ものだな。ユリア・エーベルヴァイン。」

  観客席にいた、見下すような顔で俺たち男を見ていたユーリちゃんの元姉。
  ただでさえ、俺たちで驚いてたのに、見下してきた元妹に追い抜かれた気分はどんなものだろうな...?楽しみだ。







 
 

 
後書き
戦闘の剣戟のイメージはFateのアーチャーVSランサーもしくはセイバーVSランサーを思い浮かべればわかりやすくなるかもしれません。
...あぁ、戦闘描写が上手くなりたい...。 

 

第19話「四組の代表決定戦」

 
前書き
今回は少しリリなの要素が強いかもです。
基本、エグザミアのAIは戦闘中は操縦者以外声が聞こえません。
 

 




       =ユーリside=



「.........。」

「.........。」

  アリーナにて、私とマドカさんは互いに沈黙したまま対峙します。

「(...マドカさんは総合的に見れば圧倒的に私より強い。....なら、勝つためには数少ない、私の方が優れた部分で...!)」

  先程までの緊張もどこへやら。
  私の思考は完全に戦闘状態へと切り替わったようです。

「【シュテル、レヴィ、ディアーチェ、準備はいいですか?】」

〈いつでも。〉

〈ドンとこーいっ!〉

〈場の掌握は任せるがよい。〉

  三者三様の答えに、私は笑みを漏らします。...行けますね。

「ディアーチェは場の掌握、シュテルは攻撃に対する細かいサポートを!レヴィは私と共に攻撃に専念してください!」

〈〈〈了解/よかろう!!〉〉〉

  試合開始の合図が聞こえた瞬間、私は近接用装備“バルフィニカス”を展開します。
  エネルギーを消費する事によって大鎌に変化するバルフィニカスですが...今は大振りな攻撃をする訳にはいきません。斧のままで行きましょう。

「はぁああっ!!」

「っ!」

  バルフィニカスを振りかぶり、マドカさんに向けて右から一閃します。

「(受け流された...!)」

〈左から斬り返し、来るぞ!〉

「っ....!」

  上へと逸らすようにブレードを当てられ、そのまま斬り返しで私に反撃してきます。
  それを、何とか後ろに下がる事で回避します。

「はぁっ!」

〈追撃が来ます!私が軌道予測を!〉

  もちろん、マドカさんも黙って私の攻撃を受けるだけではないので、追撃とばかりに私を攻めてきます。...ここは、シュテルの指示に従いましょう。

〈左から袈裟切り、返して右から薙ぎ、また返して左から逆袈裟です!〉

「くっ...!はっ!」

  まず袈裟切りを受け止めようとして力負けしたので、そのまま手元で回転させ、次の攻撃を柄で防ぎます。その次の逆袈裟はもう一度回転させたバルフィニカスで上手い具合に上へと逸らして隙を造ります。

「はぁああっ!!」

「甘い!」

  絶好のチャンス。そう思って斬り返しをしようとしましたが、マドカさんは肘と膝でバルフィニカスの刃の部分を挟んで防いでしまいました。

「(まずっ....!?)」

〈ユーリ!早く違う武器を展開せぬか!〉

「っ....!(ルシフェリオン!)」

  杖の形をした遠距離射撃装備“ルシフェリオン”に持ち替え、バルフィニカスは一端捨てます。...レヴィが“ボクのバルフィニカスがー!?”とか叫んでますが知りません。

〈距離を取れ!やはりうぬでは奴に近接戦で勝てん!〉

〈唐竹、来ます!〉

「くっ....!“パイロシューター”!」

  真正面からの唐竹をルシフェリオンの柄で防ぎ、瞬時にエネルギーを消費して、炎の弾を私の周りに展開して射出します。

「っと!」

「まだです!」

  後ろに下がって避けたマドカさんに対し、私はさらに距離を取りつつ、シューターを操作して再度マドカさんを狙います。

「追加です!」

「くっ...!」

  さらにエネルギーを消費する代わりにシューターを追加します。
  これなら、マドカさんも避けるだけでは済まされないはず...!

〈油断するでないぞ、ユーリ!〉

「っ!」

  ディアーチェの言うとおり、その考えは甘かったみたいです。
  ライフルを展開して全て撃ち落とされるなんて...!

〈まだまだ精密操作ができていないようですね。〉

「要練習ですね...。」

  動きながら撃つのを想定していたので、操作が甘くなっていたようです。

「考え事してる暇かな!?」

「っ!ぐっ....ぁあっ!?」

  瞬時加速で近づかれ、上段から思い切りブレードが振り下ろされます。
  それを、ルシフェリオンで防ぎますが、それごと地面に叩き落されてしまいました。

〈追撃、来ます!〉

「くっ...!」

〈ブラストファイアー!〉

  シュテルの警告に、咄嗟にルシフェリオンをマドカさんに向け、レヴィがそう叫んだ瞬間、炎の砲撃が放たれます。

「危なっ!?って、熱っ!?」

〈今だ!ユーリ!〉

「ルベライト!」

「しまっ....!」

  砲撃を避けた所へ、火の輪による拘束を仕掛けます。

「....ディアーチェ。」

〈よかろう。存分にぶちかますがよい。〉

  今の内にルシフェリオンを仕舞い、エルシニアクロイツを展開します。
  マドカさんは大抵の攻撃だと簡単に凌いでしまう。
  なら、防ぐことも躱す事もできない攻撃で....!

〈ルベライト、後2秒で解けます!〉

〈後もう少し!もう少しで撃てるよ!〉

  シュテルの警告と、レヴィの言葉に少し焦ります。
  ですが、これから放つのは広範囲攻撃...!ちょっとやそっとでは躱せないはず...!

「遠き地にて、闇に沈め...。」

〈闇に染まれ!デアボリック・エミッション!〉

  黒色に蠢く光球をマドカさんの近くに放ちます。
  そこでようやくルベライトが解けたマドカさんが逃げようとしますが...。

「間に合わな....!」

  光球は瞬く間に広範囲を飲み込みます。
  物理的ダメージはほとんどありませんが、範囲内にいるだけでシールドエネルギーが一気に削れるという恐ろしい攻撃です。

「これで...!」

〈っ!バカ!避けぬか!〉

「はぁああっ!」

「っ!?ぁあああっ!?」

  そう、物理的ダメージがないという事は、光球の中を突っ切ってくる事も可能という事。
  そのため、私は光球の中から現れたマドカさんに為す術なく斬られてしましました。

〈たたた、大変だよ!さっきのでもうエネルギーが半分切ってるよ!〉

「まずい....ですね...!」

「逃がさない!」

「くっ....!」

  すぐさまエルシニアクロイツで剣を防ぎます。
  しかし、防御の上から吹き飛ばされてしまいます。

〈このエネルギーでは戦闘の事を考えて、砲撃一発しか放てん!〉

「(何とかしないと....!)」

  ふと、後ろに下がった時に足元にある物に気付きます。

「(バルフィニカス....!)」

  そう、それはさっき弾き飛ばされたバルフィニカスでした。
  これなら...!

「はぁあああっ!」

「っ!はっ!」

  再び剣を構え突っ込んできたマドカさんに対し、すぐに足でバルフィニカスを蹴り上げ、それを掴んで剣を受け止めます。

「っ....!」

大鎌形態(スライサーフォーム)!〉

  マドカさんの剣を受け止め、レヴィの言葉と共にバルフィニカスの斧の刃の部分が開き、そこからエネルギーの刃が出て大鎌になります。

「しまっ....!」

「っと、はぁあっ!」

  マドカさんの剣に大鎌を引っ掛ける形になったので、そのまま縦に一回転する事で剣を弾き、そのまま大鎌で切り裂きます。

「レヴィ、すぐ元の形態に!」

〈分かってるよー!〉

  すぐさま斧の形態に戻します。このまま大鎌形態だったら、エネルギーが切れますからね。

「(エネルギーを消費しないで今以上に戦えるようにするには...!)」

  このままでは遠距離で戦う事ができないので近接戦で戦う事になります。
  しかし、近接戦では明らかに私の方が劣っているので、それでは勝てません...!

「(...!一つだけ、手が...!)」

  たった一つだけ、対価を支払いますが、勝てる見込みのある機能がありました。

     ―――ギィイイン!

「レヴィ!スプライトフォームです!」

  私とマドカさん、共に大きく弾かれ、間合いを離してレヴィにそう呼びかけます。

〈りょーかい!スプライトフォー...〉

〈待てユーリ!それはいかん!〉

「っ!」

  ディアーチェの制止に思わず動きを止め、マドカさんの追撃に対処する羽目になります。

「ディアーチェ、やらせてください。このままでは負けるだけです。」

〈しかし...!〉

〈...私は賛成です。ユーリ。分の悪い賭けは、嫌いではありません。〉

〈ボクのスピードなら勝てるよ!〉

〈む、むぅうう.....。〉

  しばらく私がマドカさんの剣を防ぎ、ディアーチェが悩んだ末...。

〈...分かった。我も許可しよう。〉

「レヴィ!行きますよ!」

〈オッケー!〉

  もう一度、大きくマドカさんの剣を弾き、同時に後ろに下がって間合いを取ります。

〈スプライトフォーム!レディー....ゴー!〉

「っっ!!」

  エグザミアの装甲が薄くなり、さらにスマートになります。
  そして、その瞬間、私の動きが格段に上がりました。
  ....代わりに、防御力がなくなりましたけど。

「なっ....!?」

「はぁああっ!」

     ―――ギギィイン!

  一気にマドカさんに接近し、剣を左に弾き、さらに下から上に弾く事で隙を作ります。
  そして、横に一閃し、すぐさま間合いを離します。

「速い...!」

「くぅぅ....!」

  マドカさんですら対処するのに慣れが必要なスピード。
  もちろん、それだけのスピードを出せば、私自身への負担もあります。

「....負けられないんです...!」

「っ、くっ...!」

  再び接近、高速の剣戟を繰り広げ、一撃を入れたらすぐ離れます。

「...もう、弱いだけの私でいたくないから...強くなったって、証明したいから....!」

「なっ!?避け....!?」

  離れた所に間髪入れずにライフルで狙ってきますが、むしろ弾をすり抜けるように回避しながら接近し、バルフィニカスで一閃します。

「だから、マドカさんに勝ちます!」

「っ....いいよ。やってみなよ!」

     ―――ギィイイイン!!

  高速で接近し、私のバルフィニカスと、マドカさんのブレードがぶつかり合います。

「はぁぁあああああ.....!!」

「っ....!はっ....!ぁっ....!」

  息を切らす間もない激しい剣戟。
  故に、体への負担もあり、どんどん私の体力は減っていきます。
  ...私が桜さんのような戦い方ができないのもありますけどね....。

     ―――ギィイイイン!!

「っ、はぁ、はぁ、はぁ....。」

「く、ぅ....!っ....!」

  ブレードの防御の上から、マドカさんを後退させます。
  そこで一端剣戟は止まり、マドカさんは息を切らせ、私はバルフィニカスを支えに何とか立っている状態まで消耗していました。

〈ユーリ!もうよい!そのままではうぬが....!〉

「まだ....まだです.....!」

  ディアーチェの言葉を無視して、私はよろよろとバルフィニカスを構えます。

「.........。」

「まだ、終わってませんよ.....!」

  バルフィニカスを正面に構え、無言になったマドカさんを見据えます。
  ...シールドエネルギーはもう一撃も喰らえないほど消耗しています。
  ここで決着を付けなければ.....!

「...黒騎士。」

「っ....!」

  マドカさんは静かにISの名前を呟き、ブレードの様子が変わりました。

「....いいよ、決着、付けようか。」

「っ、はぁああああああ!!!」

  その言葉と同時に、瞬時加速を使って今までで一番のスピードを出します。
  そして、マドカさんに向けて大鎌形態にしたバルフィニカスで一閃―――



     ―――キンッ!!



「......え.....?」

  しかし、それは金属が断ち切られたような音と共に、手応えなく振られます。

「....強く、なったね、ユーリ。」

「ぁ.....。」

  見れば、そこには柄だけになったバルフィニカス。
  遠くには斧の部分が無造作に横たわっていました。

「それだけ強ければ、誰も文句言わない....言わせないよ。」

「っ.....。」

  マドカさんはそう言いつつ、容赦なく私の首元にブレードを突きつけます。

「っ、ぁ.....降参....です。」

「ん。この後すぐに休みなよ。体、ボロボロなんだからさ。」

  そう言って、マドカさんは私を持ち上げ、ピットへと戻って行きました。





「....お疲れ、ユーリちゃん。」

「桜さん...。....はい、負けて、しまいましたけど...。」

  ピットに戻り、ISを解除した私を労わった桜さんにそう言うと、桜さんは優しく頭を撫でてくれました。

「ふえ....?」

「...よく頑張ったな。ユーリちゃん。」

   ―――よく頑張ったわね。ユーリ。

「っ.....!」

  撫でながらそう言った桜さんを見て、在りし日の母様を思い出します。

「ぁ...ぅぅうう.....!」

「わ、ちょっ、どうしたんだ!?」

  思わず、桜さんに抱き着いて泣いてしまいます。
  桜さんを困らせる事になりましたけど、今だけは...今だけは、こうしていたいです...。





       =桜side=



「うぁぁっ....ぁあああっ.....!」

「......。」

  俺に抱き着いて泣き続けるユーリちゃんを、優しく抱きしめ返し、撫で続ける。

「(....悔しかったんだろうな。勝ちたい、負けたくないって想いで挑んだのに、後少しで負けたのだから....。)」

  それに、ユーリちゃんは今までこういう時に優しい言葉を掛けてもらった事がない。
  会社でも労りの言葉自体は掛けるけど、それはユーリちゃんもそこまで苦労してない時の事だ。

「(きっと、俺を亡き母親と重ねたんだろうな。だから....。)」

  ユーリちゃんの母親だけは、ユーリちゃんに優しくしてあげた。
  つい、その事を思い浮かべてしまったのだろう。だからこうして泣いている...。

「(母親代わり...とは言えないが、親代わりにはなってあげよう。)」

  ユーリちゃんは本心では愛情を求めているはずだ。
  だから、俺が少しでも愛情をあげる事できればいいと思う。

「~~~♪~~~~♪」

  昔、母さんに聞かせてもらった子守唄を歌う。
  当時の俺も、その歌にはとても安心感を覚えたものだ。
  子守りのつもりではないが、きっとユーリちゃんも落ち着くはずだ。

「....すぅ.....すぅ.....。」

「...って、寝ちゃったか。」

  マドカちゃんも言ってた通り、疲れたんだろう。

「あの...桜さん。」

「どうした秋十君。今まで黙り込んでたが。」

  ずっとマドカの方にいた秋十君が小声で話しかけてくる。

「...なんか、割込めそうにない雰囲気だったので...。...後、それよりも、マドカも寝ちゃったんですが...。」

「....あれ?」

  見れば、秋十君はマドカちゃんを膝枕していた。

「桜さんの唄を聞いたら、すぐうとうととして...。」

「あれ~?そんな効果のある唄だったのか?安心感はあるけど。」

  まぁ、安心感がある=眠ってしまうだからかもしれないが。

「....と言う訳で四組である二人が眠ってしまったのですけど...どうしましょう?」

【んー、私に言われてもねぇ....。】

【それより、桜さんが敬語なのが違和感ありすぎです...。】

  四組の試合だったので、管制室にいるのはアミタとキリエに代わっている。
  ...まぁ、千冬とかもまだ管制室自体にはいると思うけど。

「学校でそれぞれ生徒と教師の立場なんだから仕方ないだろう。」

【そうねー...部屋が近いし、連れて行ってあげるとか?】

「....それが妥当か。」

  キリエの案に俺も賛成する。

【本来なら一組の人達も交えて試合の反省をする所ですが...まぁ、二人なら大丈夫でしょう。】

  そういう訳なので、俺はユーリちゃんを、秋十君がマドカちゃんを連れて行く。

「....母...様......。」

「“母様”....か。」

  俺、男だからなぁ....。母親と重ねられてもなんというか....。

「まぁ....いいか。」

  別に、特に困るような事はない。









   ―――余談だが、四組ではユーリちゃんが代表になる事への文句はなくなったそうだ。









 
 

 
後書き
ディアーチェの広域殲滅魔法が思った以上に少なかったのでオリジナル(はやて)の方から拝借しました。 

 

第20話「代表決定と和解」

 
前書き
今更ですけど、ISの設定がちょっとオカルトよりになっています。
四属性(四属性だけとは言ってない)のどれかを気質で持ち合わせてるとかオリジナル設定もありますし。
 

 




       =秋十side=



「それでは、一年一組の代表は織斑一夏君に決定です。あ、一繋がりでいいですね。」

  翌日、クラス代表がなぜかあいつになっていた。

「...あのー、なんで俺が代表に?」

「それは他の連中が訳ありでなれない、もしくは辞退したからだ。」

  さすがに疑問に思ったのか、あいつがそう聞くと、千冬姉が答えた。

「俺たちは忘れがちだが企業の人間だ。仕事関連の事もあるし、代表になってられない。」

「....と、建前上の理由はそうだが、実際の所、実力差の関係で代表トーナメントの際に他のクラスの士気に関わるため、やむなくクラス代表は取り下げられた。」

  建前なんだ...その理由。

「そして、オルコットだが...彼女は推薦ではなく、立候補による参加だ。よって、自分から辞退する事も可能だ。だから辞退した。理由としては自身の力不足を痛感したとの事だ。....それと、言いたい事があったのだな。」

「...はい。」

  なにかを決意したような顔で、オルコットが前の方に立つ。

「...皆さん、先日は身勝手な発言と、侮辱をしてしまい、真に申し訳ありませんでした。...昨日の試合で、私は目が覚めました。...どうか、仲直りしていただければ....。」

  しっかりと、気持ちの篭った心からの言葉に、俺は感心する。
  多分、桜さんとの試合で何かが変わったのだろうけど、反省したのなら俺も許そう。

「オルコットはあの試合の後、まず私達に謝罪をしにきた。...詳しくは語らないが、試合中に何かに気付いたのだろう。お前たちも、こいつの誠意に免じて許してやってくれ。」

  千冬姉もそう言ってクラスを見渡す。
  ...まぁ、このクラスの雰囲気からしたら...。

「別にいいですよ~。」

「そうそう、謝ってくれたのに許さないとかそれこそ何様って感じだし。」

「むしろ素直に謝れる方が凄いって言うか。」

  ...とまぁ、こんな感じで、案外軽く流したりする奴ばっかりだ。
  その言葉に、オルコットも嬉しくなったのか...。

「ありがとう...ございます....!」

  感激したような声色で、再び頭を下げた。

「....さて、授業を始めるぞ。オルコットも、許してもらえた事だ。自分の席に戻れ。」

「...はい。謝罪の時間を頂けた事、ありがとうございます。」

  そう言ってオルコットは自分の席へと戻り、授業が始まった。

「(まさかオルコットじゃなくてアイツになるとはなぁ...。)」

  オルコットが辞退するとは思わなかった。

「(....あ、桜さんは大体予想していたみたいだ。)」

  あっ(察し)みたいな顔してるし。絶対そうだな。

「(...で、なぜかアイツは顔を顰めてる...と。)」

  どーせ、また思い通りにならなくて、とか思ってんだろ。

「(...ま、俺には関係ないな。)」

  そんなこんなで、授業は進み、休み時間になる。



「ねーねー!せっかくクラス代表が決まったし、記念パーティー開かない?」

「あ、いいねー!ねぇ、篠咲君達もいい?」

「ん?いいぞ。親睦会も兼ねれるし。」

  女性に近い容姿だからか、既に女子との会話に馴染んでいる桜さん。
  ....それでいいのか?桜さん...。

  それはそうとパーティーを開くのか...千冬姉許可するのか?

「そうだ。どうせなら四組と合同でパーティーってのはどうだ?」

「そっか、四組もクラス代表を決めてたんだっけ?」

「それがいいよ~。」

  どうやら四組とも合同でパーティーを開くらしい。
  マドカ達もいる事だし、俺も楽しみだな。

「...ちょっとよろしいですか?」

「ん....?」

  俺と桜さんに誰かが話しかけてくる。
  誰か確認すると、それはオルコットだった。

「どうした?」

「いえ、個人的な謝罪を...。」

「...俺たち、別にもう謝られなくてもいいんだがな。」

  桜さんもオルコットの事はもう許しているらしく、オルコットにそう言った。

「...これは私なりのケジメです。....すみませんでした。」

「そうか。...おう、いいぞ。これでもう、この前の件は解決だ。」

  オルコットが頭を下げ、桜さんが改めて赦す。

「はい。...えっと、桜さん...と呼ばせてもらってもいいでしょうか?私の事もセシリアと呼んで構わないので...。」

「秋十君と被るから、別にいいぞ?」

  ...オルコットはどうしてそこまで緊張した感じで桜さんと話しているんだ?

「では...桜さん、あの...昨日の試合の事なんですけど...。」

「...“心に水を宿す”って奴か?」

  そういえば桜さんはオルコットに何か教えていたな。
  プライベートチャンネルだったから聞こえなかったけど。
  ...なるほど、それを教えていたのか。

「はい。...できれば、時間の空いた時に教えて頂ければ...と。」

「いいぞ。ただ、他の人も交えてになる事が多いが。」

「よ、よろしいんですの!?...あ、ほ、他の方々を交えるのは構いません!」

  嬉しそうにするオルコット。...うーん、やはりどこか雰囲気が...。

「ああ。なんなら、心得ぐらいなら今日からでも...あ、今日は親睦会を兼ねた記念パーティーを開くんだったな。...明日からでも教えられる。」

「ありがとうございます...!」

「どういたしまして。...と、そろそろ時間だし、席に戻っておいた方がいいぞ?」

「あ、そうですわね。では、桜さん、また後で...。」

  そう言ってオルコットが席に戻った辺りでチャイムが鳴る。







「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実戦してもらう。織斑、オルコット、篠咲兄、弟、試しに飛んでみろ。」

  ISの実践による学習にて、俺たちは見本になることに。

「分かりましたわ!」

「了解。」

「分かりました!」

  オルコット、桜さん、俺の順に、一瞬でISを纏う。
  しかし、アイツはなぜか手間取っているようだ。

「早くしろ!熟練したIS操縦者は、展開まで一秒とかからないぞ。」

  千冬姉に言われて、ようやく展開する。
  ....アイツ、あんなので俺に楽勝だと思ってたのか?

「よし。...飛べ!」

  千冬姉の合図に、俺たちは飛ぶ。
  しかし、アイツはまだ慣れていないのか、軌道がおかしかった。

【遅い!スペック上の出力なら、白式の方が上だぞ。】

  俺たちに呼びかけるための通信で、アイツは少し叱られる。
  ...そういえば、一応最終世代なのを隠すために制限してる俺たちのISは、スペックでは第三世代で白式よりは若干劣るって束さんも桜さんも言ってたっけ?

【そう言われても...自分の前方に角錐を展開させるイメージだっけ...?】

【...イメージは所詮イメージ。自分のやりやすい方法でやるのが一番手っ取り早いぞ。織斑。】

  なんかモタモタしているアイツに、桜さんが一言アドバイスする。
  アイツは少しムッとした表情をするが、アドバイスはアドバイスとして受け取った。

【理論的な思考で飛ぶ奴もいれば、それこそ空想上の物を思い浮かべて飛ぶ奴もいる。..俺の場合は“自由に動ける”事をイメージしてるな。これでも上手くいく。】

【....そのイメージ、言葉では簡単に言えますけど、実際にイメージして飛ぶのは相当難しいですわよ?...さすが桜さんですわ。】

  オルコットが桜さんを称賛している。
  ...やっぱり、オルコットの桜さんに対する態度が俺らと少し違うような...。

【俺の場合は“飛ぶ”よりも“跳ぶ”方が性に合ってるからな。別に普通に飛ぶこともできるが、地上を駆ける時のように動ける方が俺はやりやすい。】

「【あ、わかりますそれ。今まで体を自由に動かした飛ぶ事がなかったので、やっぱり“跳ぶ”方がやりやすいです。】」

  飛ぶ時の動きが桜さんと似てると思ったら、同じような考えで飛んでたんだな...。

【...私としては、跳躍のイメージであそこまで動ける方が驚きですわ...。】

【そこは個人の感性にもよるな。...っと、そろそろ次の指示だ。】

  千冬姉が通信機を使おうとしていた。
  ...どうしてタイミングが分かるんですか...。

【織斑、オルコット、篠咲兄、弟、急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から10㎝だ。】

  千冬姉の指示を聞く。
  ...地表から10㎝って...慣れてないアイツにはきつくないか?

【了解しました!では、お先に。】

  まずはオルコットが急降下し、上手い事停止する。
  誤差もほとんどなく、やはり優秀なのだと理解させられる。

【じゃあ、次は俺が行く。秋十君も頑張れよー。】

  次にお気楽な感じにそう言ってから、桜さんが急降下した。
  もちろん、あの人が失敗などする事もなく、簡単に停止する。
  ...ちゃんと見本になるようにオルコットと少し違うだけのやりやすいやり方にしてるな。
  俺にはそんな器用な事できないんだが...。

【秋十君、別に見本になる必要はない。自分のやり方でやってみろ。】

「【は、はい!】」

  次々と急降下するのについていけないアイツを放置し、俺も急降下する。
  ...俺には桜さんのような柔軟な思考は咄嗟にはできない。
  しかも、飛び方もさっき言った通り“飛ぶ”ではなく“跳ぶ”方が得意だ。
  それでは完全停止のやり方が桜さん達のように上手く行かない。
  ならば.....!

「.....っ!」

  “停止”するのではなく、地表から10㎝の所に“着地”すればいい。
  こっちの方が俺はやりやすい。

「馬鹿者。そのような見本では負担がかかるぞ。...お前なら無事でも。」

「は、はい、すいません...。」

  しかし、やはりやり方は見本には向いていなく、怒られた。

「(桜さん..!やっぱりダメじゃないですか...!)」

「(...てへぺろ?)」

  怒られるのも少し予想していたのか、なんかぶりっ子みたいな事をする桜さん。
  ....無駄に容姿と相まって違和感がないですからやめてください。

「ぁあああああっ!?」

     ―――ドォオオオン!!

「爆撃!?」

  つい突然聞こえた音にそう言ってしまう。
  ...実際はアイツが地面に突っ込んだからだけど。

「馬鹿者!誰がグラウンドに穴を開けろと言った!」

「す、すみません...。」

  当然、俺よりも強く怒られる。
  しかも、穴を埋めておくように言われたようだ。
  ...ま、自業自得だし、千冬姉は厳しいからどうなったって俺は知らん。









       =桜side=



「織斑君のクラス代表になった記念に...かんぱーい!!」

「「「「「かんぱーい!」」」」」

  放課後、食堂の一部を借りてささやかな記念パーティーを開いた。
  どうやら、これぐらいの規模なら千冬もむしろ歓迎らしい。

「ねーねーさくさく~、楽しんでるー?」

「本音か。一応な。あまりこういうパーティーとかする機会ないし。」

  なんとなく秋十君と隅の方に移動しておいたら、本音が寄ってきた。
  しかもクッキーを頬張りながら。

「あっ、いたいた!おーい!秋兄ー!」

「桜さーん!」

  すると、マドカちゃんとユーリちゃんがやってきた。
  ....って、隣にいる子は....。

「あ~っ!かんちゃんだー!」

  確か、生徒会長の妹でユーリちゃんの友達になった更識簪ちゃんだっけな。

「なんで秋兄たちはこんな隅に?」

「...できれば目立ちたくないからかな?」

  一応、俺たちはメインじゃないからな。必要以上に目立っても良い事はない。

「あの....。」

「うん?」

  ふと声を掛けられたので、振り返ると、そこにはセシリアが立っていた。

「私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「いいが...俺たちの言えた事じゃないが、パーティーの中心の方に行かなくていいのか?」

  確か、セシリアは貴族でもあったからこういうパーティーには慣れてるはずだが。

「....失礼な言い方ですけど、どうも織斑一夏は好きになれません。」

「....一応聞くが、理由は?」

「何かと私をいやらしい目で見てきますし、何より、何か企んでいるように見えるからですわ。」

  ふむ...勘が良いなセシリアは。まぁ、そういう輩とは会った事あるんだろう。
  貴族の娘だからそう言う事はあってもおかしくはない。

「ま、その判断は概ね正解だと思うがな。」

「そうですか。...ところでそちらの方々は?」

  セシリアはマドカちゃん、ユーリちゃん、簪ちゃんを向いてそう言う。

「四組の同僚って所か?一人は違うけど。ちなみにマドカちゃんは秋十君の妹でもある。」

「篠咲マドカだよー。」

「...更識簪。その...よろしく。」

「え、えっと...ユーリ・エーベルヴァインです。」

  ...うん。簪ちゃんとユーリちゃんはもうちょっとナチュラルに自己紹介できればな...。

「エーベルヴァイン...?エーベルヴァインは確か...。」

「っ....!」

「...セシリア、悪いがあまり詮索しないでやってくれ。」

「わ、わかりましたわ...。」

  ユーリちゃんの表情が変わったので、少し語気を強めてセシリアを止める。
  セシリアも俺とユーリちゃんの様子を見て、何か事情があると察して、これ以上は聞かないようにしたようだ。

「....気を取り直して、せっかくだからこのパーティーを楽しもうか。」

「...そうですね。せっかくですし。」

  各々パーティーで用意されたクッキーとかを食べだす。
  ...さっきの事はあまり気にしないようにしたみたいだ。

「....あ、上級生にインタビュー受けてる。」

「ありゃ、俺たちの所にも来るな。」

  俺たちは新聞部にインタビューされている織斑一夏の方を見ながらそう言う。
  なんか話題の新入生がどーとかこーとか聞こえたし。
  十中八九、男性操縦者についてだろう。

「あ、いたいた!新聞部でーす。ちょっと噂の新入生二人と四組代表にインタビューしたいけどいいかな?」

「はぁ...構いませんが。」

  俺も別に構わない。
  ...ただし、捏造しなかったらだけどな。

「二人はどうしてクラス代表を辞退したの?」

「まぁ、企業の専用機ですからね...。テストとしての側面が強いし、企業の仕事もあるのでそういう事はやらない方が...と言う訳で辞退したんです。」

「なるほどなるほど...。あ、セシリアちゃんはなんでかな?」

  今度はセシリアにも聞く。俺と対戦したからだな。

「単純に自身の未熟さに気付かされましたから...。あのまま代表になっていたらまた調子に乗っていたと思いますので。」

「そっかー。...んー、真面目すぎるなぁ。ま、そこら辺はこっちでちょちょいと...。」

「捏造はやめてくださいね?したら織斑先生に言っておくので。」

「ごめんなさいやりません!」

  さすが千冬だ。名前を出しただけで上級生がこうなるとは。

「次にえっと..ユーリちゃん!」

「は、はいっ!」

  あ、やっぱりインタビューだからか、緊張してるな。

「めでたく四組の代表になった訳だけど...なにか意気込みはある?」

「え、えっと...く、クラストーナメントでは優勝するつもりですっ!」

「おお~!言ったねぇ。可愛さもあるから、良い記事になりそうね!」

「え、あっ、い、今のなしです~!?」

  緊張のあまり思い切った事を言ってしまったユーリちゃん。
  ...んー、俺たちが出る訳じゃないから、案外優勝できると思うがな。

「次にそんなユーリちゃんと試合をしたマドカちゃん!ユーリちゃんと対戦してどうだった?」

「あ、やっぱり私にも来るんだ。...んー、純粋に強かった...かな。前に戦った時は簡単に勝てたんだけど、昨日のあの試合では本当に強いと思ったよ。油断してたら負けてたし。」

「かなりの高評価!これはますます頑張らないとだね、ユーリちゃん!」

「あぁぁ...!恥ずかしいですー!」

  赤くした顔を両手で覆うユーリちゃん。
  そんなユーリちゃんを、周りの人は皆微笑ましそうに見ていた。

「じゃあ最後に専用機持ちで写真を撮るよ!さぁ、寄って寄って!」

「え?えっ?」

「秋兄!一緒に撮ろ!」

  困惑するユーリちゃんに、結構ノリノリなマドカちゃん。
  セシリアと簪ちゃんも戸惑いはしたが、写真に写るように寄ってきた。

「ほら、ユーリちゃん。」

「あっ...さ、桜さん!?」

  まだ困惑していたユーリちゃんの手を掴んで引き寄せる。
  ...周りから黄色い声が上がったけど無視だ。無視。

「じゃあ撮るよー。はい、チーズ!」

  その言葉と共にシャッターが切られる。
  なお、その瞬間に周りにいた女子が何人か写真に写ろうとしていた。
  ...まぁ、記念だしいいか。

「...っと、俺、少し席を外すわ。適当に楽しんでおいてくれ。」

  とある集団を見つけたので、俺は席を外す。
  そして、その集団の方へ歩いて行く。



「よっ。」

「あっ、桜さん。」

  その集団は、所謂教師組。
  今は一組と四組が集まっているので、それぞれの担任、副担任もいるって訳だ。
  つまり、千冬と山田先生の他にアミタとキリエもいる。

「なんだ、あそこの集団にいなくていいのか?」

「いやー、せっかくだから俺も年上組にってな?」

  別に秋十君達と一緒にいてもいいが、こっちもこっちで面白そうだ。

「アミタとキリエはちゃんとやれてるか?」

「ええ、まぁ、まだ慣れてませんけど。」

「私は結構楽しいわよ~。」

  アミタとキリエはグランツさんの娘で、会社には実は所属していない。
  ほぼ所属しているように見えるが、それは女尊男卑によって居場所を失いかけたグランツさん(それとジェイルさん)を保護する時に、家族も...という訳で保護していただけである。
  つまり、仕事がなかった訳だ。
  だから今はIS学園の教師をしている。

「お知り合いなんですか?」

「パパの友人だからね~。パパの仕事関係で結構お世話になったし。」

「あの時はありがとうございました。」

  グランツさんを雇って保護した時の事を、アミタは改めてお礼を言ってくる。

「今更いいよお礼なんて。うちもうちで社員が欲しかったし、間が良かったんだよ。」

「いや、でも私達だってこうやって教師に...。」

「...俺はクラスは違えど生徒だけどな。」

  ...うん、なんだこの関係。俺は恩人だけど生徒って...複雑だな。

「そういえば一応聞いておきたいんですけど、織斑先生との関係は...。」

「ん?幼馴染だけど...。」

  敬語がなくなってるって?一応、勤務外時間だからいいんだよ。

「や、やっぱり....!」

「....どうした山田先生。なぜそんな化け物を見るような目で見る?」

「あ.....。」

  俺と千冬をそんな目で見てしまった山田先生は、千冬にアイアンクローを喰らった。

「それにしてもユーリ、強くなりましたよね~。」

「ああ。ユーリちゃん自身、勝とうと思ってたみたいだしな。」

  山田先生の悲鳴をBGMに、アミタ達と雑談を始める。

「あぁ、会社のマスコットがどんどんと高嶺の花に...。」

「なに言ってるんですかキリエ...。」

「ははは。まぁ、ユーリちゃんなら大抵は分け隔てなく接してくれるけどな。」

  邪な考えさえ抱かなければ...だけど。

「...ま、皆と親しくなれてよかったって思ってるよきっと。」

「...そうですね。」

「そうよね~。」

  IS学園に来てよかった。...そう、ユーリちゃんにも思ってもらえたら嬉しいな。

「あいたたたたたたた!織斑先生!無理!無理です!」

「...ふん、不用意な発言は控えるようにな。」

  ...と、千冬の方も終わったみたいだな。

  この後は、大人組としてささやかに盛り上がった。





       =秋十side=



「篠咲弟、後で話がある。」

  パーティーも終盤に差し掛かった頃、なぜか千冬姉に呼ばれた。

「...?分かりましたけど...。」

「場所は...そうだな。お前たちの部屋、1024号室だ。」

「えっ?桜さんは....。」

「んー?俺は席を外しとくよ。」

  そう言って一度桜さんは千冬姉に近づき...。

「(....決心したんだな?)」

「(...ああ。)」

  俺には聞こえなかったが、何かを言ったみたいだ。千冬姉も頷いていた。

「...一体なんの話なんだ...?」

  気になる...が、桜さんも分かっている事だ。
  きっと、悪い話じゃないだろう。

「...さて!そろそろパーティーは終了だ!きっちりと片づけるようにな。」

  千冬姉がそう言って、皆パーティーの片づけを始める。

「(...話...か。)」

  千冬姉とまともに話をしたのって、いつだったっけな...?







「篠咲、入るぞ。」

「..っと、そういう訳だ。俺は席を外す。」

「はい。」

  千冬姉が入ってくると同時に桜さんは席を外す。

「.......。」

「.......。」

  俺と千冬姉の間に、沈黙が走る。

「...えっ...と...話とは....?」

「っ.....。」

  ...なんだろう、いつも見てきた千冬姉と違うような...。
  でも、どこか懐かしいような....っ!?

「え、ちょ、ちふy..織斑先生!?」

  突然千冬姉は俺に抱き着いてきた。

「...すまない...!すまなかった....!」

「え.....?」

「私が...私が不甲斐ないばかりに...!」

  抱き着き、涙を流しながら、千冬姉は俺に謝ってきた。

「(まさか...洗脳が解けて...!?)」

「すまない...!すまない秋十...!」

  間違いない。明らかに千冬姉は洗脳が解けている。

「(桜さん...いつの間に...。...ありがとうございます。)」

  多分桜さんが解いたのだと思い、心の中でお礼を言っておく。





「...とりあえず、コーヒー淹れるよ。」

「...すまない。」

  ある程度落ち着いた千冬姉に、コーヒーを淹れてあげる。

「...俺としては、これからはかつての時のように接してくれればそれでいいよ。」

「だが、私は...。」

「千冬姉は悪くない。」

  悪いのは洗脳なんて事をしたアイツだ。

「確かに、当時はどうして千冬姉があんな事を...って思ったりもしたさ。だけど、今は桜さんに原因を教えて貰ったから、千冬姉には別になんの怒りも抱かないさ。」

「そう...か...。」

  ...なんか、ここまで縮こまっている千冬姉なんて新鮮だな。

「...それにしても、いつの間に桜さんは千冬姉の洗脳を解いたんだ?」

「...ん?聞いてないのか?」

「えっ?」

  あれ?なんか話が食い違っているような...。

「.....なるほど。そう言う事か...。」

  千冬姉は何か納得し、扉の方へ歩いて行く。
  ....今、足音が二つしたような...。

「桜!それと束!」

「に、逃げろ~!」

「やっぱこうなったか~!!」

  ....桜さんはともかく、なんで束さんがいるんですか...?
  IS学園のセキュリティどうなってんだ?いや、束さんなら侵入できるのか?

「桜!貴様、態と黙っていたな!」

「その方が面白いと思ったんだ!」

「束!なぜここにいる!」

「ちーちゃんが謝ってる所を見たかったから!」

  どっちも動機が不純ですね!?









  ...その日、織斑先生が侵入者を追いかけていたという噂が立ったが...俺は聞かなかった事にした。







 
 

 
後書き
今回はここまでです。
アニメだとパーティーの時間帯(おそらく夕方)に鈴がやってきてますが、アニメと展開が変わらないので、この小説ではそのシーンを省きました。 

 

第21話「セカンド幼馴染」

 
前書き
こういうアンチされる側の異常な性格って何気に苦手なんですよね。
精進しなきゃ...!(使命感) 

 




       =桜side=



「ね~ね~、知ってる~?」

「ん?何をだ?」

  パーティーの翌日、本音ちゃんが俺にそう話しかけてきた。
  ...ちなみに、昨日は束は逃げ切れたが、俺は結局寮住まいなので捕まって説教を受けてしまった。半分照れ隠しな所とかあったから説教っぽくなかったけど。

「中国からのー、転校生だよー。」

「あぁ、その事か。」

  噂の伝達力はさすが女子と言った所だな。昨日学園に来ただけなのにもう知れ渡ってるとは。
  ちなみに俺は束から教えられてた。

「でも二組にだろ?俺らには直接関係は..あるかもしれないか。」

「うんー、代表候補生らしいからねー。」

「この時期となるとむしろ俺らに関係ない方が珍しいか。」

  セシリアと違って、この中途半端な時期だと十中八九俺ら男性操縦者関連だろう。
  どういう人物なのか調査してこいって所か。
  代表候補生なのはせっかくだから技術も磨いてこいって事だろう。

「しかしそれだとどうして一組に来ないのか分かりませんわ。」

「...確かにな。」

  セシリアの言うとおり、なぜ一組ではなく二組なのか。
  “知識”で知っている俺にも分からん。

「まぁ、これでクラス対抗でのパワーバランスがマシになるだろう。」

「...何気にユーリさんも強いですからね。」

  俺たちと違ってユーリちゃんの方は他に立候補もしくは推薦された生徒はいなかったからな。
  マドカちゃんもユーリちゃんより強く、俺たちと同じ理由で却下されたし。
  それと、企業の仕事についてはマドカちゃんが補佐をする事で兼任できるようにしたらしい。

「何気に偏ってるんだよなー、専用機持ちって。」

  一組に四人、四組に三人だ。
  ...本当に偏りすぎだろ。俺たちの強さ関係なしに士気に関わるぞ。

「どの道、専用機持ちは一組と四組にしかいないのには変わりないから、警戒するのは四組だけで大丈夫だよ。」

  会話に参加していた女子の一人がそう言う。

「その情報、古いよ!」

「っ.....。」

  突然、教室の入り口からそんな声が聞こえてくる。
  ...その声を聞いて秋十君は少し反応した。

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから!」

  入口の方を見れば、茶髪のツインテールの少女が仁王立ちしていた。

「(...なるほど、彼女が鳳鈴音(ファン リンイン)、秋十君の二人目の幼馴染か。)」

「鈴...?お前、鈴か!?」

  俺がそんな事を考えているのを余所に、織斑が彼女に対して反応する。

「そうよ!中国代表候補生、鳳鈴音!今日は宣戦布告に来たって訳!」

  そう言ってビシッと織斑を指差す。
  ...なんかカッコつけてるけど似合わないな。

「...宣戦布告するなら四組じゃないのか?あそこ、今の所一番強いし。」

「そうだよねー。桜さんも秋十君も出ないんだし。」

  俺の言葉に隣にいた女子が同意する。
  それが聞こえたのか、鳳はこちらに反応した。

「....えっ!?篠ノ之束!?」

「あ、やっぱ勘違いされた。」

「(昨日本物がいたなんて言えない...。)」

  秋十君、聞こえてるぞ。確かに言えない事だが。

「...って、あんたが噂の女性そっくりな男性操縦者?...本当に女性にしか見えないわね...。」

  そう言って鳳は俺をじろじろ見てくる。
  ...胸に視線が行くのはあれか?コンプレックスか?

「あー、とりあえず先に教室に戻れ。皆のトラウマが振り下ろされるぞ。」

「トラウマ?何を...。」

  “言っているのか”と続けようとした鳳の後ろに千冬が立つ。

「誰が“皆のトラウマ”だと?」

「ち、千冬さん...!?」

「織斑先生と呼べ。...もうSHRの時間だ。早く戻れ。」

「す、すいません...。」

  いや、あの出席簿は一度喰らうと軽くトラウマになるぞ?
  凄く痛いし、なぜかたんこぶはできん。俺も同じことができるが。

「...また後で来るからね!逃げないでよ一夏!」

  鳳はそう言い捨てて自分のクラスに戻った。

「っ......。」

「...気をしっかり持て。今更だろう?」

「...はい。」

  やはり織斑の洗脳に掛かっているのを見るのがつらいのか、秋十君は歯噛みしている。
  ...箒ちゃんはもう慣れてきたのだろうし、千冬の場合は普段の性格はあまり変わらなかったからな。改めて実感させられたのだろう。

「(俺は秋十君の幼馴染達は知らない。鍵となれるのは、秋十君だけか...。)」

  洗脳を解くには強く印象に残った出来事を連想、もしくは再現しなければならない。
  ...だが、千冬と束以外は俺には無理だ。



「...ところで秋十君。」

「なんですか?」

  SHRが終わり、一時間目が始まるまでの時間に秋十君に話しかける。

「おそらく次に俺が鳳と話す時、秋十君も交える事になる。...いや、それだけじゃないな。鳳がいるのだから必然的に織斑もいる。...今の内に覚悟しておけ。」

「っ...分かりました。」

「...なに、ユーリちゃんとマドカちゃんもついてくるだろうから、お前を責める奴なんて少数になるさ。」

  マドカちゃんの正体がばれるだろうけど、それはご愛嬌だ。
  別にばれてもいいってマドカちゃんは言ってたし。

「あ、ちなみになんで交える事になるかって言うと...俺がそうするからだ。」

「あんたのせいかっ!?」

     ―――スパァアン!

「おぅ...さすがは血の繋がった姉弟...威力と叩き方が似ている....!」

  秋十君はノート(丈夫な奴)で俺を叩いた。
  ...うん、出席簿には劣るが流石の威力だ。







       =秋十side=



「よう、鳳。隣の席からで悪いが、SHRでの縁だ。ちょっと話いいか?」

  桜さんは俺たちを連れて敢えて鈴やあいつが座っている隣のテーブルに場所を取る。

「ん?なによ。」

「なんでわざわざ“消去法”でクラス代表に選ばれた織斑に宣戦布告したんだ?」

  ...桜さん、初っ端から挑発してますよ...。

「なっ....!てめぇ....!」

「言っちゃ悪いが彼はズブの素人。ISの知識すらままならない。まぁ、それなのにクラス代表に選ばれた理由は推薦が原因なんだが...今は置いておこう。...で、そんな“雑魚”相手に宣戦布告した理由は....。」

  うわぁ...どんどん煽っていくなぁ...。
  心なしか、桜さんの顔が輝いているように見えるし、オルコットやユーリ、マドカ達は微妙に引いてるし...。

「貴様!一夏に対してなんて事を!」

「お前は黙っとけ。ちょいと邪魔だ。...で、どうなんだ?」

  憤った箒をなんでもないように抑制し、鈴に聞く桜さん。

「....あら、あんた、一夏の凄さを全然分かってないようね。」

「当たり前だ。まだ会って一週間ぐらいしか経ってないぞ?」

  余裕そうな態度を取る鈴。同じく余裕な態度な桜さん。
  ...なんだこの対決。

「...ま、大方数年ぶりに会ったクラスメイト、ひいては何かしらの想いを寄せてる相手とIS学園で会ったから...って所か。」

「っ...な、なんで分かるのよ!?」

「お、合ってたか。カマをかけただけなんだがな。」

  ...まぁ、ある程度ヒントは出てたしなぁ...。
  あいつを知っている口ぶり。あいつの久しぶりに会ったような言動。
  そして分かりやすい仲の良さそうな雰囲気。
  桜さんならここから予想するぐらい楽勝だよな。

「強いクラスに宣戦布告と言う意味では四組にするべきだし、ただ男性操縦者に宣戦布告するだけならあまりにも親しすぎる。...そこから適当に予想しただけだがな。」

「ぐっ...合ってるわ...。それより、四組が強いってどういう事よ。」

「そのままの意味だが?贔屓目抜きでもユーリちゃんは強い。」

「あぅ......。」

  桜さんの言葉にユーリは恥ずかしそうにする。
  ...昨日のあの言葉を思い出してしまったのか。

「....そうは見えないけどねぇ...。」

  ...と、そこで予鈴が鳴る。
  さっさと戻らないと千冬姉に叱られるな。

「...っと、秋十君、時間だから戻るぞ。」

「そうですね。」

  ...うん?今桜さんが俺の名を呼んだ時、鈴が反応したような...?
  ...あー、気づかれたな。これは。
  それに、何気にアイツがユーリの名前を聞いてから怪訝な顔をしてるし...。







「....で、話ってなんだ?」

  放課後になり、今度は鈴から俺だけを屋上に呼び出してきた。

「...ふん、あんた、一夏に勝ったとか言われていたわね。」

「ああ。事実だが?」

  多分、クラスメイトとかに聞いたのだろう、クラス代表決定戦の事を言ってくる。

「嘘つくんじゃないわよ。どうせあんたが卑怯な真似したんでしょ?」

「っ....。」

  ...やっぱり、俺には辛辣なんだな。

「第一なに?“篠咲”って。なんかもう一人の家族になってるみたいだけど、そうだとしたらもう一人が可哀想ね。こんな“出来損ない”を家族にするなんて。」

「......今、なんて言った?」

  ...別に、俺が貶されるのはもう慣れた事だし別にいい。
  鈴が俺に対して辛辣なのも洗脳のせいだと言えば耐えられる。
  ...だけど、今、桜さん達を侮辱した?ふざけるなよ?

「てめ「おい、もう一度言ってみなよ。」って、マドカ!?」

  俺がキレそうになった瞬間、マドカが鈴の背後から声をかけていた。

「なっ..!?なんでアンタが...!?」

「いいから、もう一度言ってみなよ。秋兄を、私を助けてくれた桜さんが“可哀想”?バッカみたい。本当に可哀想なのはお前らなんだよ。」

  ....あれ?マドカ、俺よりキレてね?口調が荒いし。

「わざわざ秋兄と桜さんを侮辱するためだけに呼び出したのなら、もう帰らせてもらうよ。ほら、秋兄行こっ?」

「あ、ああ..。」

  “話す価値もない”そう言わんばかりの素っ気なさでマドカは俺の手を引いてそこから立ち去った。



「...なぁ、なんでマドカがあそこにいたんだ?」

「んー、尾行してた。」

「ちょ....!?」

「だって洗脳をまだ受けてる奴に連れて行かれてるんだもん。気になるに決まってるよ。」

  ...あー、まぁ、そうだけどさ...。

「秋兄一人でももう大丈夫だとは思ってるけどさ、妹として、やっぱり心配なんだよね。」

「....ありがとう。」

  マドカはマドカとして俺の事を心配してくれたんだな。

「....ね、確か、洗脳を解く鍵って、印象に残った思い出を思い出させる事だったよね?」

「そうだが...いつ知ったんだ?」

  確か、マドカは洗脳の解き方は知らなかったはず...。

「束さんに教えて貰ってた。」

「そ、そうなのか...。」

「...それで、秋兄はなんか心当たりはない?彼女の印象に残りそうな出来事とか...。」

「うーん....。」

  鈴の印象に残りそうな事か....。

「すまん、分からん。」

「そっか...あ、でも秋兄なら無自覚にそう言う事やってのける事があるんだよね。」

「そ、そうなのか?」

  俺、そんな事やってたっけ?

「まぁ、今は気にしてもしょうがないよ。」

「.....そう、か。」

  洗脳が解けないのは嫌だけど、解く条件を満たせてないならしょうがない。
  地道に条件を探すしかない。







       =桜side=



「...で、今度は何の用だ?」

  秋十君とは別に、俺は織斑に呼び出されていた。

「どういう事だ...なぜユーリ・エーベルヴァインがここにいる!?」

「...あ?なんだ?お前、ユーリちゃんと知り合いか?その割にはユーリちゃん、なんの反応もなかったけどさ。」

  そういえば、こいつ俺の事を“転生者”とやらと決めつけていたな。
  となると、ユーリちゃんもなにかしらの“原作”に登場するのか?
  俺が与えられた知識にはユーリちゃんはいなかったし。

「しらばっくれるな!彼女のエグザミアはどうした!?マテリアルは!?」

「....エグザミアはユーリちゃんの専用機だぞ?それと...マテリアル?なんだそれ?」

  確か原材料って意味だったはずだ。
  ...まぁ、こいつが言ってるマテリアルはまた違うものだろうけど。

「惚けても無駄だ!どうせお前も魔法が使えるんだろ!?卑怯者め!」

「....はぁ、あのな、いくら天才でも魔法を再現するには至ってねぇよ。できたとしても、それは魔法に似た科学なだけだ。」

  ちなみに束は科学で魔法の再現に取り掛かってたりする。
  なんか夢で見た魔法を再現してみたいんだって。
  ...おや?何か今、ピンク色の砲撃が頭をよぎったような....?

「第一、お前はユーリちゃんがどういった環境で育ってきたか知らないだろ?」

「あ?なに言ってやがる!」

「...本人があまり広げたくないから言わないがな...少なくとも、平凡とはかけ離れた環境だったさ。だから俺たちワールド・レボリューションが引き取った。」

  ...っと、論点がずれてたな。

「あー、いくらバカでも予想できる。...お前に言っている“ユーリ・エーベルヴァイン”と、ユーリちゃんは別人だ。いい加減、目の前の現実を見ろ。」

  こいつは“原作”に囚われている愚者だ。
  千冬も束もマドカちゃんも秋十君も、その幼馴染たちだってこいつのせいで人生がかき乱された。...後、一応俺にも影響してたな。

「なにを....!」

「...ふん、一言だけ言っておいてやる。...ここは、お前の知っている世界とは全く違う。」

  そう言って、俺はその場から立ち去った。
  別に、背後から襲い掛かられようとも対処できるからな。

「...あーもう、これならネットとか二次元に依存してる奴とかの方がマシだな。」

  あれ、ガチで空想と現実を混同させてるだろ...。

「...ユーリちゃん。」

「あ、あはは...やっぱりばれますよね...。」

  物陰からユーリちゃんが姿を現す。

「すみません...大丈夫だとは思ったんですけど、やっぱり心配で...。」

「...ありがとう。」

  心配してくれたんだ。お礼は言っておかないとな。

「そ、それよりも桜さん、さっきのあの会話は....。」

「...俺にも分からん。織斑の奴、一体どんな思考をしてるんだ...?」

  自分の事だったのでユーリちゃんは少し怯えているようだ。

「...戻ろう。秋十君もそろそろ戻ってるだろうし。」

「そうですね。」

  戻れば秋十君とマドカちゃんが一緒にいた。
  多分、マドカちゃんも秋十君が心配で行っていたのだろう



  ...その日、1025室で何か揉め事があったようだが、俺たちには関係ない。







「はぁ.....。」

「.......。」

  翌日、今日は偶然俺一人で食堂で昼食を取っている所、鳳が隣の席で溜め息を吐いていた。

「.....なぁ。」

「...なによ。」

「いや、昨日と様子が大違いだから気になった。」

  なんかもう、失恋..よりはマシだけど、なんかそんな感じだった。

「別に...一夏があたしとの約束を間違えて覚えてたのがイラついただけ。」

「...そりゃひでぇ。」

  いや、もう人格とか関係なく間違えて覚えてるのはひどいわ。忘れたのはともかく。
  約束した方は滅茶苦茶傷つくし。

「....で、アンタはアンタでなんで一人なのよ。」

「他の皆はとある代表候補生の専用機の整備を手伝ってる。皆が皆、友達が作りづらい性格してるからな。交流のためにも、年上の俺は遠慮した。」

「...年上だったわね。そういえば。」

  ...同学年だから忘れられてたか。

「...ふと気になったが、お前と織斑の出会いってなんだ?」

「なによ...。」

「ほら、容姿が女性よりだから恋愛事にも興味ある的な?」

  実際は印象に残った思い出に見当をつけるためだけど。

「なっ...れ、恋愛って...!?」

「...いや、モロバレだし。」

「うぐ.....。」

  勘のいい人は皆気づいていると思う。

「...小学校に転入してきた時よ。当時は、ちょっとしたイジメを受けていてね。それであいつに助けてもらったって訳。」

「...ベタだな...。」

  洗脳の効果は記憶の置き換えもある。なら、それが秋十君の可能性が...。

「うるさいわね。...それ以来、あいつとは仲良くやってるわ。」

「...やっぱ、それって印象深いか?」

「ええ。それこそ、今でも鮮明に....鮮明に....あれ?」

  首を傾げる鳳。...思い出せないのか?

「....思い出せないのか?」

「いえ、状況とかは思い出せないけど、鮮明には...って程度。...はぁ、これじゃ、あいつの事言えないわね。」

「.......。」

  ...間違いない。これが秋十君との印象深い思い出だな。

「...ちょっと話したら少し楽になったわ。」

「...そうか。それならよかった。」

  本人の気分もマシになったみたいだし、これでいいだろう。

「じゃ、時間もあるし俺は行く。」

「そう。ありがとね。」

「...どういたしまして。」

  本当、洗脳が関係なかったら良い奴なんだよな...。









 
 

 
後書き
実際、どうして鈴は二組に転校してきたのでしょう?
シャルもラウラも一組だったのに。(原作に理由が載ってたりしたらすみません。)

そしてとりあえず“展開”をかき乱すためにはっちゃける桜さん。書いてて楽しいです。
原作束さんの外道(?)っぷりを桜は少し持っていたりします。

少し洗脳に関して大体の効果の解説を入れておきます。
・主に記憶を改竄されており、好きになった相手などが秋十から一夏にすり替えられている。
・秋十に対する扱いをひどくさせている。(嫌悪感を抱かせるなど)
・ただし、秋十に対するだけなので、他の男性には特になにもない。
・上記から、桜に対する言動などは特にひどくはなっていない。
...ぐらいですね。
つまり、洗脳を施した際に既に知り合っていた人物(この場合は秋十)への印象を書き換えるだけだったので、桜に対しては普通に接しています。(ただし一夏関係になると分からない) 

 

第22話「仲直りと決別」

 
前書き
クラス対抗戦まで一週間があるため、その間にユーリと簪に焦点を当てた話をしておきます。 

 




       =桜side=



「(...今度こそ、今度こそよ...!)」

「....なにやってんだ?」

「わひゃっ!?」

  なんか、ユーリちゃん達の様子を見に来たら生徒会長が整備室の前でなんかやってた。

「わ、私が気付けないなんて...!」

「いや、無駄に精神を落ち着けようとしてたように見えたが?」

「嘘っ!?そこまで深刻!?」

  いや、ホントなにしようとしてたんだ?
  整備室と生徒会長で何か関連性なんて.....あっ(察し)。

「....頑張れよ。ヘタレさん(生徒会長)。」

「...ねぇ、何か“生徒会長”と言った時に聞き捨てならない思念があった気がするのだけれど...。」

「気のせいだ。」

  いや、誰がどう見てもヘタレだし...。

「じゃあ、俺は行くから。」

「あ、ちょっと!」

  生徒会長の制止も聞かずに俺は整備室へと入る。
  止めようとした生徒会長も俺についてくるように整備室へと入り...。

「簪ちゃん、調子はどうだー?」

「....お姉...ちゃん...?」

「あ...えと、あはは....。」

  ...うん、見事に俺は無視されたな。予想してたけど。
  生徒会長は心の準備ができてなかったらしく、笑う事しかできてなかった。

「(やれやれ...。)なんか言いたい事があるみたいだぞ?」

「えっ?」

  俺は生徒会長にアイコンタクトで今言うように伝える。
  この機会逃したら余計に関係が悪くなりそうだしな。

「っ...、ごめんなさい簪ちゃん!私が、あんな言い方したからずっと...。」

「っ.......。」

  互いに何があったか、俺たちは詳細までは分からない。
  だけど、お互いどんな気持ちで今まで過ごしてきたかは、少しは分かる。
  ...これは、俺たちは仲介しない方がいいかもな。

「私は、貴女に危険な目に遭ってほしくなかった。更識としての責任を負わずに、普通に生きて欲しかった...!だけど、私のせいで...簪ちゃんはずっと思い詰めてたのよね...?」

「お姉ちゃん...。」

  ...なんだ。いざ対面すれば、ちゃんと言いたい事が言えてるじゃん。

「辛かったよね?苦しかったよね?...本当に、ごめんなさい...!」

「...一つだけ聞かせてほしい。...私は“無能”?」

  簪ちゃんのその言葉に、生徒会長は反応する。
  ...なるほど、それがキーワードだったのか。

「そんな訳ない!...簪ちゃんは、私よりずっと強いよ...。」

「っ....!」

  だが、その言葉を生徒会長は力強く否定した。

「ずっと今まで我慢してきた。私に追いつこうと努力してきた。...その時点で、私なんかよりも強いよ..。」

「....そう、なんだ...。」

  安心したような、そんな表情を浮かべる簪ちゃん。

「...お姉ちゃん。お詫びとして、専用機が完成したら私と戦って。」

「...えっ?」

  突然の戦いたいという言葉に困惑する生徒会長。

「....それが、あの時のケジメ。...どの道、私は無能じゃないって証明したかった。...だから、ケジメとしてお姉ちゃんが相手をして?」

「....わかったわ。それが、ケジメなら。」

  互いに試合を行う事を了承する。

「...でも、生徒会長としても、お姉ちゃんとしても、負けるつもりはないわよ?」

「...本気でないと、こっちこそ困るよ。」

  ...ま、後は自然と和解していくだろう。

「...俺たち、蚊帳の外ですね。」

「まぁ、そう言うな。」

  簪ちゃんの専用機を作る手伝いをしていた秋十君が俺にそう言ってくる。
  今更だが、ここにはマドカちゃんやユーリちゃん、本音ちゃんもいる。

「お嬢様!」

「ぃいっ!?」

  そこで突然、整備室の入口から大声が聞こえてくる。

「生徒会長の義務をさぼって、なにやっているのですか!?」

「う、虚ちゃん!?」

  ...確か、三年で生徒会の会計の人だったな。そして、本音ちゃんの姉だったはずだ。
  眼鏡に三つ編みの茶髪で、本音ちゃんとは真反対な雰囲気だな。

「...お姉ちゃん?」

「ち、違うのよ!えっと、これは...!」

「っ、...あー、大体わかりましたが、とにかく生徒会室に戻って仕事をこなしてください!」

「あ、あっ、ま、待って....!」

  ...なんというか、まぁ、締まらない終わり方だったな。

「...お姉ちゃん...。」

  簪ちゃんは簪ちゃんで、今までイメージしてた優秀すぎる姉の姿との落差で放心しかけてるし...。

「...結局は、シスコンなんだよなあの生徒会長...。」

「ある意味知りたくなかった事実...になるんですかね?」

  まぁ、行き過ぎてなければ嬉しい事だろう。

「妹や弟が大事じゃない姉なんてな、早々いないんだよ。」

「っ.....。」

  早々...はな。...エーベルヴァイン家は別だが。





「...悪いな、あんな事口にしてしまって。」

「...いえ...。」

  簪ちゃんの専用機は、まだ完成してる訳じゃなく、皆で完成に近づけている状況なので、俺は差し入れのジュースを買って来る事にした。
  ユーリちゃんは、少し気分転換として俺についてきた。

「....っと、悪い。財布を持ってきてなかった。ちょっと取りに行ってくる。」

「あ、なら待ってますよ。」

「じゃ、ちょっと行ってくるわ。」

  そう言って俺は寮の部屋に財布を取りに行った。







       =ユーリside=





「...妹や弟が大事じゃない姉なんて、早々いない...ですか。」

  桜さんが財布を取りに行って姿が見えなくなった後、私はそう呟きます。

「私の場合は例外、なんでしょうね...。」

  母様以外からは碌な扱いを受けてこなかった私。
  ...秋十さんや簪さんのように、頼れる姉はいなく、いるのは私を蔑む姉だけ。

「母様....。」

  今は亡き母様の事を思い浮かべ、つい涙腺が緩んでしまいます。
  ...ちゃんとしませんと...。

「あら、会いたくもない相手と会ってしまったわ。」

「っ....!」

  声のした方を振り向くと、そこにはユリア姉様が立っていました。

「出来損ない風情が、まぐれで代表になれたからって調子に乗るんじゃないわよ。」

「.......。」

  ...冷静に。冷静にです...。
  私はもう、実家に縛られる必要はないんですから...。

「...まぐれ。...貴女にはそう見えたのですね。」

「ええそうよ?確かに動きには驚かされたけど、あんなの貴女が実際にできる訳ないじゃない。だからまぐれだって言っているの。」

「そう思っている時点で、既に私より下。と言う事になりますね。」

  桜さんは言っていた。私は、私が卑下するよりも優れていると。
  だから、少しばかりでいい。自信を持って...!

「は?」

「確かに、あの試合はいつもより上手く行きました。...ですが、それは普段と比べても微々たるもの。そうですね...私をよく知っている人達曰く、代表候補生並には強いそうですよ?」

「っ...嘘よ!貴女如きがそんな訳...!」

  身長差で見上げる形ですが、貫くように鋭く、正面から姉様を見ます。

「っ....!」

「決して相手を侮らない。...それが出来ていない時点で、貴女は代表候補生足り得ません。」

  姉様はドイツ代表候補生。...ですけど、ラウラさんの方が候補としては優秀ですね。
  前まではラウラさんも相手を侮ってましたけど、今はもう大丈夫ですし。

「なんですって!?」

「っ!?」

  そう。こうやって口答えすると姉様はすぐに掴みかかってくる。
  いつもなら、私は動揺して動けないはずですが...。

「なっ...!?」

「...あれ?」

  体を逸らすように避け、掴みかかってきた手を自然と回避してしまいます。

「(....なるほど、桜さんの動きを散々見てきたのですから、これくらい、見切れるようになっていたんですね...。)」

  少しばかりとはいえ、私は桜さん達に鍛えられています。
  その成果が、ここにきてよく分かるように表れたのでしょう。

「っ....避けるんじゃ、ないわよ!」

「っ、っと、はっ...!」

  再度姉様は掴みかかってき、避けた所を足払い、さらに追撃をしてきます。
  それらを私はしゃがみ、跳び、後ろに下がる事で全て回避します。

  ...エーベルヴァイン家は貴族の中ではそれなりに有名です。
  よって、命の危険もない訳ではなく、こうして体術の心得も持っている訳です。
  ....尤も、桜さんどころか秋十さんにも遠く及びませんけど。

「...学園内で暴力沙汰とは、随分と品性を疑いますね。」

「うるさいわね!」

  ....由緒正しきエーベルヴァインの血筋は、母様で途絶えてしまったのですね...。

「残念です。」

「あぁ、本当に残念だ。」

「っ!?」

  またもや掴みかかろうとしてきた姉様の腕を、戻ってきた桜さんが掴む。

「万が一の可能性に掛けてしばらく様子を見ていたが、これはダメだな。」

「っ、なによ!離しなさい...!」

  姉様が桜さんの手を振りほどこうとしますが、無駄です。

「上級生に襲われてる下級生を見つけたら、助けるのが普通だろう?」

「この...!っ、例の男性操縦者ね...。男風情が、私に触るんじゃないわよ!」

  女尊男卑な性格だからか、桜さんを拒絶します。

「はぁ....ほらよ。」

「っ...!」

  見かねた桜さんは手を離します。

「...ユーリちゃんは、既にお前を上回っているよ。信じられないなら、模擬戦でもすればいいじゃないか?」

「...ふん、指図されなくとも、いずれそうするつもりよ。」

  そう言って姉様は私を睨んできました。

「....いいですよ。もう、腐りきった家には未練はありません。...叩きのめします。」

  ...多分、今までで一番威勢のいい発言で、姉様を睨み返します。

「母様の死を特に悲しみもしなかった者に、私は負けません。」

「っ...ふん。」

  そのまま姉様は去って行きました。

「....ユーリちゃん。」

「大丈夫です桜さん。...これは、私が決めた事です。」

「...そうか。」

  母様が死んだ時、エーベルヴァイン家に仕えていた人達は悲しみました。
  ...しかし、当の私以外の家族は、皆悲しむ事がなかったのです。
  私を“出来損ない”と蔑む事無く、庇い続けた結果なのでしょう。
  ...そのような結果が、私は許せません。

「...とにかく、皆の分のジュースを買って戻ろう。」

「そうですね。」

  良い機会です。今のエーベルヴァイン家の汚い部分の証拠を集めておきましょうか。
  今後、私を連れ戻そうとしても全て断るつもりなので。







       =桜side=



「おーい、持ってきたぞ。」

  ユーリちゃんの新しい...いや、成長したと思える一面を見た後、ジュースを買って整備室に戻ってきていた。

「お~さくさく、ゆーゆーありがと~。」

  本音ちゃんが率先して俺たちが買ってきたジュースを取りに来る。
  ...何度聞いても逸脱したネーミングセンスだな...。

「ほら、集中して疲れてると思うし、甘い奴を買って来たぞ。」

「あ、桜さん、ありがと。」

「...ありがとうございます。」

  マドカちゃんと簪ちゃんもお礼を言ってくれる。

「....あの、桜さん。」

「ん?どうした?」

  そこで、秋十君がジュースを受け取りつつ俺に聞いてくる。

「...ユーリ、何かあったんですか?なんというか...覚悟が決まったような...。」

「気づいたか。...まぁ、概ねその通りさ。」

  秋十君もだいぶそう言うのに敏感になったんだな。

「...近い内、ユーリちゃんは姉と決着をつけるんだ。」

「っ、なるほど....。」

「それに、実家との縁も完全に断ち切るつもりみたいだな。」

  さすがに母親の名前は大事にするみたいだが。

「...片や仲直りのための試合、片や決別のための試合。...なんだかだな。」

「そうですね...。」

  同じ姉妹なのになんでこう違うのだか...。

「さーって、喉も潤したし、もうちょっと進めちゃおうか!」

「そうだね~。この調子なら、学年別タッグトーナメントに間に合うよ~。」

  飲み物を飲み終わったマドカちゃんと、本音ちゃんがそう言う。

「...でも、一番の問題が残ってる。」

「マルチロックオンシステム...でしたね。」

  しかし、どうやら大きな問題が残っているらしい。

「あれを学生の身で一から組み立てるとなると、相当な労力が必要だな....。」

「桜さんは手を出さないでね。」

「分かってるさ。」

  確かに俺はマルチロックオンシステムを一から組み立てられるが、そんな事をしたら簪ちゃんの努力が無駄になってしまう。
  飽くまでこれは簪ちゃんがやるべきだな。

「だが、手助けぐらいはできるぞ。...具体的には、倉持技研に再度協力させるとか。」

「桜さん、それって....。」

「...ま、それは最終手段。切り札だ。使う事はないだろうよ。」

  正直言って手口が脅しになるからな。お勧めはできない。

「...俺が手を出さなくとも、助け合えばちゃんと完成するさ。」

「そうですよ。さぁ、簪さん、頑張りましょう!」

「...うん!」

  どちらも妹で、劣等感を感じていた。
  でも、今はどちらも立ち直り、こうして協力している。

「(他人事だけど、こういうのを見ると、安心するよな...。)」

  そう思いながら、俺は皆の様子を見守り続けた。







 
 

 
後書き
正直閑話でもよかった...?

更識姉妹は和解、エーベルヴァイン姉妹は決別という対照的な展開です。
次回はクラス対抗戦です。 

 

第23話「乱入と挑戦」

 
前書き
盛大なマッチポンプ的な回です。
 

 




       =秋十side=



  日にちは流れ、ついにクラス対抗戦。

「...始まったか。」

  俺と桜さんは千冬姉達と同じ場所から、あいつと鈴の戦いを見ていた。
  
「ところでなんで俺たちはここにいるんです?別に観客席でもよかったんじゃ..?」

  他のクラスメイトや他クラスの人も皆観客席に行っているのに、なぜか俺と桜さん、セシリア(名前で呼んでもいいと言われた)、箒の四人は管制室にいた。

「ん?ちょっとな。」

「...私にも聞かされてない。篠ノ之の場合は織斑を見送った後に観客席に行くのは時間がかかるからこちらの来たのだろうが、お前たちは知らん。.....が、特に禁止してる訳ではないのでな。騒がない限りは構わん。」

  千冬姉も聞かされてないらしい。...桜さん、なに企んでるんだ?

「...ん?今のは...。」

  そこで戦況が動いた。
  あいつがいきなり吹き飛ばされたのだ。
  おそらく、鈴の攻撃だろう。確か、鈴の“甲龍(シェンロン)”の武装で...。

「...“衝撃砲”...か。」

「はい。オルコットさんの“ブルー・ティアーズ”と同じ、第三世代兵器ですよ。」

「名前は“龍砲”。空間に圧力をかけて砲身を作り、衝撃を砲弾として撃ちだす。...死角もない、不可視の武装だな。」

  “おお、恐ろしい”とか言う桜さん。

「おまけに、ハイパーセンサーで認識した時にはほぼ回避不可能の距離だ。普通じゃ、どうしようもねぇな。」

「...ちなみに桜さんはどうするんですか?」

  どうせ、この人の事だ。対処法なんて普通に持ってるだろう。

「ん?空気の動きで避ける。」

「....で、デタラメですね...。」

「ちなみに織斑先生もできるだろうな。」

  山田先生が引き攣りながら言うと、桜さんがそう返す。
  思わず全員が千冬姉を見ると、さも当然かのような顔をしていた。

「(...できるんだな。)」

「第一、視覚を使って避けようとするからダメなんだ。空気の流れを読んだり、それこそ心に水を宿せば簡単に避けれる。...多分、狙撃とかを極めても行けるだろうな。」

  心に水を宿す...あ、そうか。気配を読んで避ければいいのか。

「....あれ?って事は俺も避けれると?」

「ああ。...避けれなけりゃまた稽古つけてやる。」

「え。」

  桜さんの言葉に俺は固まる。
  ...ま、まぁ、鈴と戦う事なんて早々ないだろうし...。

「ちなみに、鳳の場合はもう一つ避ける方法があるな。」

「...どういう事ですか?」

  “鈴の場合は”という意味が分からず、俺は聞き返した。

「視線だ。鳳の奴、視線が分かりやすい。多分、秋十君やセシリアも実際に戦えば気づけるだろう。」

「....なるほど。」

  確かに、視線が分かりやすかった。これならどこを狙ってるか分かるな。

「ふん、視線が分かってしまう程度では、国家代表にはなれんな。」

「...皆さん、手厳しいですね...。」

  黙って聞いていた山田先生がそう呟く。
  ...まぁ、最強クラスがここに二人もいますしね...。

「一夏....!」

「...お?仕掛けに行ったか。」

「どの道あの機体では長期戦は難しいですからね。俺もそうします。」

  長期戦には向いていないワンオフに、ブレード一本だけの武装。
  ...どう考えても短期決戦にするべきだろう。
  長期戦ができるの、桜さんと千冬姉ぐらいしか思いつかないし。

「...瞬時加速...か。」

「私が教えた。おそらく一週間ではクラス対抗戦で無様に負けるだけだろうと思ったからな。」

「使いどころを誤らなければ代表候補生とも渡り合えるからな。」

  クラスとしてあっさり負けるのはいただけないからな。
  ...と言っても、通じるのは一回だけだろうな。

「(...っと、決まるか....!?)」

  瞬間、上空のシールドを突き破って、地面に砲撃が着弾する。

「っ...なに!?なにが起きましたの!?」

「これは....!?」

  明らかに異常事態。なにせ、乱入者が現れたのだから。

「システム破損!何かがアリーナの遮断シールドを、貫通してきたみたいです!」

「っ、試合中止!織斑、鳳!ただちに退避しろ!」

  山田先生の言葉と共に、千冬姉が鋭く指示を飛ばす。

「....あいつら、やる気みたいだな。」

「少し無謀すぎません?遮断シールドを貫通する兵器を持つ敵相手に...。」

  桜さんの言葉に俺はそう返す。
  山田先生も必死に二人に呼びかけている...が、無視されているようだ。

「桜さん!私たちも行った方が...!」

「...残念だが、あれを見てみろ。」

「遮断シールドが...レベル4に...!?」

  桜さんが示したパネルにはそう書かれていた。
  しかも、扉が全てロックされている。

「まさか...あのISの仕業...?」

「...そのようだ。これでは、避難する事も、救援に向かう事もできない...。」

  その言葉で、部屋に重苦しい沈黙が訪れる。

「...緊急事態として既に政府に救援を送っており、今も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だが....。」

「....想像以上に固いようです...!」

  ...まずいな。生徒が避難できないのは厳しい...!

「桜さん....!」

「...........。」

  桜さんに声を掛けるが、桜さんはじっとアリーナを映す画面を見ていた。

「っ...!?そんな!?」

「どうした?」

「....IS反応が...上空に三体も....!」

「なっ....!?」

  さすがにそれには千冬姉も驚いた。
  おそらくアリーナにいるISと同じであろうISが三体も現れたのだから。

【織斑先生!大変です!ロックのシステムが...!】

「....システムが書きかえられてるのか...?」

  三年生からの通信に、桜さんがそう呟く。

「っ...これでは、織斑と鳳...だけじゃない、避難できていない者全員が...!」

「そんな....!?」

  千冬姉の言葉にセシリアが声を上げる。
  ...確かに、これは....!

「...観客席に、ユーリちゃんとマドカちゃん、簪ちゃんがいたはずだ。」

「.....え?」

  そう呟いた桜さんにどういうことか聞く間もなく、何か通信機らしき物を取り出す。

「ユーリちゃん!聞こえるか!?」

【さ、桜さん!?聞こえます!】

「...篠咲兄、それはなんだ?」

「...ユーリちゃんの専用機、エグザミアにあるAIとの通信機能を応用した、緊急時の通信システムだ。チヴィットを通じて通信を行っている。」

  ...そういえば、グランツさんとジェイルさんがチヴィット開発の傍らでそんなの作ってたっけ...?まさか、こんな所で役に立つとは...。

「ユーリちゃん、簪ちゃんの二人は協力して扉のロックを解除してくれ!マドカちゃんはいざという時に皆を護ってやってくれ!」

【わ、私がですか!?そ、そんなの...!】

  桜さんが通信機を使って指示を飛ばす。
  しかし、ユーリは自信がないらしく、そんな事を言う。
  ...まぁ、こんな土壇場で重要な事押し付けられたらな....。

「...できる。俺が保証しよう。」

【桜さん...?...分かりました。....やってみます!】

「よし、その意気だ。頑張れよ。」

  そう言って桜さんは通信を切った。

「...できるのか?」

「ユーリちゃんの解析能力はそれこそ俺たちの域に辿り着ける程だ。できるさ。」

「...そうか。」

  “俺たち”というのは桜さんと束さんの二人の事だろう。
  それを聞いて千冬姉も納得したらしい。

「.....で、貴様は緊急時にどこに向かおうとしている?」

「あの二人だけではすぐにやられてしまう。だから俺たちが行くつもりだが?」

「........。」

  それは俺も同意見ではある。
  でも桜さん、どうやってロックのかかった扉を...?

「ここからアリーナまでの最短の道のりに生徒はいないな?」

「避難しているか観客席に取り残されているかだからいないはずだが....まさか....。」

「後で弁償すっから!行くぞ秋十君!セシリア!」

  そう言ってアリーナへと向かっていく桜さん。

「ちょ、待ってくださいよ桜さん!」

  慌てて俺たちも追いかけて行く。







       =ユーリside=





「開けて!開けてよ!!」

「ここも出られないの!?」

  至る所から慌てる声が聞こえます。

「....シュテル、手伝ってください。」

〈分かりました。〉

  それに構う暇もなく、私はロックの解除に取り掛かります。

「簪さんは私のサポートと、できれば皆さんの安全を!」

「わ、分かった!」

  簪さんにそう言いつつ、私はロックシステムにアクセスします。

「っ...!?これは...!」

〈なんて膨大なブロック...!〉

  まるでこのシステムを解除させる訳にはいかないとばかりに、システムのブロックが多くなっていました。こんな事ができるのは...!

「(束さん...!どうして、こんな...!)」

  ロックを解除するためにキーボードを叩きながら、そんな事を考えます。

「っ....!....!」

「ゆ、ユーリ....これ...。」

  次々とパスワードが現れ、一向に解除できません。
  簪さんもその異常さに言葉を失っています。

「っ.....。」

  タン!と、キーボードを叩くのを中断します。

「(これほどの膨大なロック...私と簪さんが手を合わせた所で、破れるはずが....。)」

  こんなのが破れるのは、束さんが桜さんだけ...。
  そう思ってしまい、私は諦めかけます。

「(こんなの、できるはずが....!)」

   ―――...できる。俺が保証しよう。

「っ―――!!」

  ふと、桜さんの言葉が蘇ります。

「(...そうです。できるんです...。桜さんが...あの桜さんが、私に“できる”と言って、任せてくれた。....なら、それに答えないと!!)」

  そうと決まれば、一気にロックシステムに目を通します。

「(これを仕掛けたのは恐らく束さん。もしかしたら桜さんも一枚噛んでいるかもしれません。どうして、そんな事をしたのか、私には知るよしもないですが.....これが束さんや桜さんからの試練だというのなら、乗り越えてみせます!!)」

  増え続けるブロックに対し、それを上回る速度で私は解析し、解除する。
  さっきまでよりも早く、速く手を動かし、次々と解除していく。

「簪さん!解析の終わったブロックの解除をよろしくお願いします!私は解析に専念しますので!レヴィ、ディアーチェはアリーナにいるISの攻撃の流れ弾が来ないか、マドカさんと協力して探知しておいてください!」

「わ、分かった!」

〈まっかせてー!〉

〈うむ。そちらは頼んだぞ。〉

  私が飛ばした指示に、皆従ってくれます。
  エグザミアに搭載されているAIは、他のISとも通信はできるので、これでマドカさんも少しは楽になるはず...!

「(このシステムの構図...明らかに私に合わせて対策されています。やはり、束さんが...?)」

  徐々に、私の解析スピードが追い付かなくなってきます。
  っ....やっぱり、私が手こずりやすいシステム...!

「(...けど、それは以前までの話です!今は...もう...!)」

〈残り20。もう少しですユーリ。〉

  シュテルの言葉に、もう少し速度を上げます。
  簪さんも私に合わせようと、解析済みのブロックを次々と解除してくれます。

「(私はもう負けない。...劣等感にも、姉様にも...私自身にも!)」

「これで....最後...!」

  簪さんの言葉と共に、扉のロックが解除されます。

「っ、開いた!?」

「出して!さっさと出して!」

「いたっ!?押さないでよ!」

  解除されたのが分かった瞬間、皆さんが我先にと出て行きます。
  ...扉の横で作業をしてたので、辛うじて人の波に呑まれずに済みました...。

「....はぁ....はぁ....。」

「解除...できた...?」

〈お疲れ様です。ユーリ、簪。〉

  意識を張りつめすぎていたのか、私は息切れし、簪さんもやりきった表情で座り込んでいました。

「わ、私達も...避難しましょう...。」

「うん。」

  緊張の糸が切れて整わない息を抑えながら、私は簪さんにそう言いました。
  他の皆さんが避難し終わり、私達も立ちあがります。

〈っ、ユーリ!危険です!〉

「えっ...?」

  突然、シュテルが声を上げ、後ろの気配に違和感がありました。
  振り返ろうと、顔を動かした瞬間...。

     ―――ドォオオオオン!

「っ.....!?」

  爆風の余波に、私は腕で顔を覆います。
  ...?どうして私は無事なんでしょう?すぐ後ろに攻撃が着弾したはずなのに。

「...っと...二人共、無事?」

「マドカさん...?」

  ふと見ると、私と簪さんを庇うようにマドカさんがISを展開して立っていました。

「二人共お疲れ様。後は私と秋兄たちに任せて。」

  そう言って攻撃によって空いた穴からアリーナへと出て行きました。

「....行きましょう簪さん。」

「え?う、うん。」

  私も行った方がいいと思いますが、生憎精神を使い果たしたので、行った所で体力が持ちません。
  なので、私は後をマドカさん達に任せ、簪さんと共に避難する事します。

「(後は...任せましたよ....。)」

  ふとアリーナの方を一瞥して、私は避難しました。









       =out side=





   ―――少し時間を遡り...



「(っしゃぁ!原作通り!)」

  鈴を抱え、一夏はそんな事を考える。
  今まで桜や秋十によって色々とおかしかったが、ここで原作と全く同じ出来事が起きたのだ。考えが不純でもそう思うのは当然だった。

「っ!」

  飛んできたビームを、鈴を放すと共に避ける。

「(このまま原作通りに進めて、あいつらの立場をなくしてやる!)」

  “原作”でもあった動きをする事で、敵のISの攻撃を躱す一夏。
  躱しながらも一夏は笑みを抑えられなかった。
  いきなりとはいえ、自分の思い通りに戻ったのだから。



   ―――...尤も、二人の兎はそれを許さないが。



「っ!?嘘!?」

「どうした!?っ、なっ...!?」

  突然驚きの声をあげた鈴に、何事か聞こうとして上からのビームに阻まれる。

「もう三機...!」

「嘘だろ!?どうして...!?」

  鈴は純粋にさらに増えたことに、一夏は原作よりも三機多い事に驚く。

「何か訳があるってことね。今、このタイミングで、四機で襲ってくる訳が!」

「(どういうことだ!?なんで四機なんだよ!?ここは一機だろう!?)」

  鈴はすぐに分析し、簡単な憶測を述べながらビームを躱す。
  一方、一夏は躱せてはいるが脳内では完全に混乱していた。
  “原作”に囚われてるが故に、その通りにならない事に焦っているのだ。

「一夏!逃げなさい!」

「っ!」

  敵ISの内一機が接近してきたのを鈴が双天牙月で受け止め、一夏に叫ぶ。

「アンタじゃこいつらの相手にならないわ!あたしが時間を稼ぐから、アンタは逃げなさい!」

「っ、ぁ...で、でも...。」

  一夏は原作の“一夏”らしく言い返そうとして、言葉に詰まる。

「(っ....なんだよ。なんで言い返せねぇんだよ..!)」

  そう考える一夏の体は震えていた。
  “原作”から外れ、より命の危険が大きいため、本能的に恐怖しているのだ。

「早く!!」

「っ、ぁ...ぁ、ああ...。」

「っ、きゃあっ!?」

  恐怖で震える一夏に鈴は呼びかけるが、ついにビームに掠り、体勢が崩れてしまう。

「(まず...!?)」

  結果、大きな隙を晒す事になり、二機ほどが鈴に狙いを定める。
  ...その瞬間、



     ―――ドドォオオン!!



「えっ!?」

  鈴を狙っていた二機にレーザーが着弾する。

【着弾確認!俺と秋十君が斬りこむ!セシリアは援護!連携に自信がなければ一機だけでも引き付けてくれ!】

【わかりましたわ!】

  すかさず二つの影が鈴の前に躍り出て、ブレードを一閃。
  敵ISを飛び退かせて体制を立て直す間を確保した。

「大丈夫か!?」

「え、ええ!」

「...ちっ、あっちもか!秋十君!任せた!」

「はい!」

  自身に背を向けて構える秋十の姿を見て、鈴は既視感を覚えつつも、反射的に助けられた事にお礼を言う。
  桜は、他の二機を止めにすぐさまその場を離れて行った。

「な、なんでここに...。」

「...桜さんの強行突破だ。扉のロックを解除するのが面倒だからと、蹴破ってきた!」

  突っ込みどころがあるが、鈴の言葉に秋十はそう言いかえした。

「っ....アンタの助けなんかなくったって...!」

「そんな事言ってる場合か!っ、くっ...!」

  理不尽な秋十への嫌悪に秋十は言い返すが、敵ISの一機が秋十に殴りかかってき、それを秋十はブレードで受け止める。

「(しまっ...!?一機がノーマークだ!?)」

  だが、もう一機が秋十を素通りして鈴へと向かう。

「くっ...来るならきなさい!」

「鈴!く...邪魔...するな!!」

  受け止めているブレードで押し切り、そのまま刃を返して一閃する。
  敵ISは腕で受け止めるも、その威力で少し後退する。
  ...だが、鈴を助けに行くには不十分な間合いだった。

「(アリーナにはまだ避難できていない生徒が多数いる。....被害があっちに行かないようにするには、今目の前にいる奴に集中するしかない!)」

  思考を切り替え、秋十はブレードを構えて敵ISへと突っ込んでいった。







 
 

 
後書き
原作では一機だけだと油断している一夏に対しさらに三機追加する束さんマジドS。

システム関連についてはド素人レベルなので、多少の事は目を瞑ってくれるとありがたいです。
“こう表した方が分かりやすい”と言った書き方があればアドバイスしてくれると助かります。 

 

第24話「あの時と同じ」

 
前書き
自分の小説を書いて他の人の小説を読んで、文章力の差に落ち込むこの頃...
...まず知識を蓄えるべきですね。
 

 


       =out side=



「ぅ...ぁああああああ!!」

  迫りくるISに向けて、我武者羅にブレードを振う一夏。
  本来ならもっと真っ直ぐな剣筋だが、恐怖によってそれはぶれていた。

「っぁ...!?」

     ―――ギィイイイン!!

「...ったく!世話焼かせるな!」

  攻撃が届きそうになった時、瞬時に桜が割って入り、攻撃を防ぐ。

「(っ...!?コイツ...パワーが桁外れ!?)」

  しかし、出力で押されている事に桜は気づく。

「ぐっ....!」

  一夏を後ろに庇いながらも、抑える桜にもう一機が襲い掛かる。

「ちぃっ....!」

     ―――ギャリィ...ッ!ギィイイン!

  桜は後ろに一夏がまだいるのを把握しながら、目の前のISの攻撃を一夏に当たらないように受け流し、もう一機の攻撃を受け止めた。

「(こっちはさっきよりも弱い...あの一機だけか?)」

  同じ見た目だが、一機だけ出力が段違いだという事に桜は気づく。

「なら....!」

  それならやりようはあると、桜は銃も展開して二機を牽制する。

「織斑!怯えてる暇があったら避難しとけ!ぶっちゃけ邪魔だ!!」

「な、なんだと...!」

  敵視してる桜にそう言われ、さすがの一夏も言い返す。
  だが、それとは裏腹に体は震えていた。

「くそ...!こいつ...!」

  強い方の機体が桜を抑え、もう一機が一夏に襲い掛かろうとする。
  それを桜は何とか凌ぐが、一夏が動かない以上、ジリ貧だった。

「【セシリア!悪いがコイツの護衛を!】」

【わ、分かりましたわ!】

  一機を桜が抑え、もう一機はセシリアに任せる桜。

「.....っ!?」

  しかしその瞬間、桜を相手しているISから高エネルギー反応を感知する。

「っ、避けろぉおおおおお!!!」

「なっ...!?」

  瞬間、敵ISから超高出力のビームが撃たれた。
  運悪く、射線上に桜だけでなく一夏も入っていたので、一夏を庇うために桜が一夏を吹き飛ばし、代わりにビームが掠る。

「ぐぅっ...!?」

【桜さん!?】

  高出力なので、掠っただけでSEが大きく削られ、飛行制御も狂う。

「しまっ...!一体逃した...!」

【私が足止めを...っ、この...!】

  弱い方の機体が秋十や鈴のいる方向へ飛んでいく。
  それをセシリアは止めようとしたが、もう一機に妨害される。

「くっ....!」

  目の前の敵を倒すのが優先だと、桜は思考を切り替える。
  ...秋十が、なんとかすると信じて...。







「ぐっ....!」

     ―――ギィイイン!!

  敵ISの腕を、秋十はなんとかブレードで弾く。

「(その身に...土を宿す...!)」

  まさに大地とも思える鋼の防御力と力を生み出す“土”の力。
  それを使ってようやく互角に打ち合える力だった。

「(落ち着け、慌てるな!今は、目の前の敵を...!)」

  学園が襲われ、鈴と分断されている今、秋十の心は平常ではなかった。
  早くなんとかしなければならない...そんな焦燥感が彼の動きを乱していた。

「くっ...!」

  ギリギリ身に土を宿す事で凌いでいるが、それだけでは出力差を埋めるだけだった。
  徐々に減らされるSEを尻目に、彼の焦りは加速する。

「っ....なっ!?」

  目の前に背後からの接近があるという警告が映し出され、咄嗟に秋十は身を躱す。
  相手をしていたISの攻撃と背後からの攻撃も、ギリギリで躱す事に成功した。

「(もう一機...!?桜さんの方で一体なにが!?)」

  下の方で桜が強化機体と戦っているのが見える。
  相手のISに何かがあるのだと思い、二機に増えたISと対峙する。

「(落ち着け...!落ち着け...!心に水を宿せば、この程度...!)」

  二機に増え、ますます焦りが加速した秋十の動きが乱れる。
  ...瞬間、ついに攻撃を躱しきれずに被弾してしまった。

「がぁあああっ!?」

  地面へと吹き飛ばされ、何とか体勢を立て直す。

「(やばい...!けど、今ので落ち着いた...!)」

  攻撃を喰らった瞬間、一瞬だけ頭が真っ白になり、焦りがリセットされたのか、秋十はなんとか平常心を取り戻す事ができた。

  ....しかし。

「っ、鈴!!」

  秋十を攻撃していた二機は鈴の方へと向かって行ってしまった。

「きゃぁあああっ!?」

  ただでさえ一機だけでも苦戦するのに、同じ機体が三機に増えてしまった。
  よって、鈴は凌ぐことすらできずにあっという間に追い詰められてしまった。

「っ...!間に合え!」

  それを遠くから見えた秋十は、動きに風を宿して一気に空を駆けた。





「(いや...!ここで、終わりなの...?こんな...こんなあっさりと...?)」

  三機に押され、地面に叩き付けられた鈴は、降り立ったIS達を目の前にそう思った。

  ...その瞬間。

「(.....ぁ....なんだろう....この光景....。)」

  走馬灯...それに似た感覚で過去の記憶が蘇る。

「(...そっか、あの時と...あたしが虐められてた時と似てるんだ...。)」

  中国人だからと、特に深い理由もなくいじめられていた時。
  ...そして、助けられた時の光景に、それは似ていた。

「(あの時も三人で虐めてきてたっけ?...それで....それで.....。)」

  そこまで思考して、思い出せなくなる。

「(....あれ?一夏が助けてくれたんじゃ....?)」

  そんな鈴の思考を余所に、目の前の三機はビームの発射口を鈴に向ける。

「....ぁ....。」

  SEもほぼなく、満身創痍だった鈴はそれを見ても動く事が出来なかった。

「(....ごめんね....()()...。)」

  なぜ一夏ではなく秋十の名を思い浮かべたのか疑問に思う事もなく、やってくるであろう衝撃に鈴は目を瞑った。









「させ、るかぁああああああああ!!!」

   ―――“疾風迅雷”

  ...刹那、背後からの斬撃に、三機のISはよろめく。

「え....?」

  死ぬと思っていた矢先に助けられ、呆けた声を出す鈴。

「(...感情は昂ぶっているのに、心は妙に落ち着いている....。...当たり前だ。こんな命の関わる状況で、心を落ち着かせなくては死ぬだけだ....!)」

  秋十はそこまで考え、IS達に目を向ける。
  ...三機のISは、今まさにビームを放とうとしていた。

「(...なによりも...護るために、慌ててられるか!)」

  ...鈴を抱えて避けるには、時間がない。
  よって、秋十は鈴を庇うようにブレードを構える。

「護りたいもののため...全てを断ち切る!」

   ―――“明鏡止水”

  ビームが放たれた瞬間、心に水を宿した動きで秋十はブレードを三度振るう。

  ...刹那、三筋のビームが断ち切られた。

「っ...ふぅ.....!」

  鈴は驚いているが、秋十はそれを気にする間もなく、息を吐く。
  心に水を宿したまま強力な技を放った反動で、集中力が切れたらしい。

「(...まだだ!)」

  集中力が切れたのを基点に、動きを切り替え、一気に敵ISの一機の懐に入り込む。

「吹き飛べ!」

  腕をかち上げ、無防備になった胴体に後ろ回し蹴りを決め、吹き飛ばす。

「喰らえ!」

  さらに回し蹴りをした体勢からライフルを二つ展開し、もう二機に向けて撃つ。
  間髪入れずに片方に接近し、さっきと同じように吹き飛ばす。
  最後の一機には連続でライフルを放ち、怯ませて飛び蹴りで吹き飛ばした。

「....大丈夫か?」

「あ......。」

  一旦とはいえ、安全を確保した秋十は、鈴にそう声を掛ける。
  その姿が、鈴のかつての記憶を甦らせた。

「(...あの時と同じ...あの時も...彼は助けてくれた...!)」

  日本人らしい名前じゃないからと、どうでもいいような小さな事で虐められていた鈴。
  そんな彼女を助けたのは、秋十だったのだ。

「っ、ぁぐ....!?」

「大丈夫か!?」

  突然、激しい頭痛に見舞われる。
  洗脳によって改竄されていた記憶が蘇った際の拒絶反応である。

「っ、待ってろ...!」

  心配する秋十だが、駆け寄る暇もなくさっきの三機が戻ってくる。

   ―――...自分だって虐められてるのに、どうして...?

「(...どうして、そんなに頑張れるの...?)」

  必死に三機の攻撃を凌ぐ秋十を見て、鈴は思わずかつての時と重ねてそう考える。

「ぐっ....!」

  SEが切れ、さらに頭痛で動けない鈴を庇い続ける秋十だが、限界が訪れた。
  元々、秋十は庇いながら戦う事に慣れていないため、必然的にSEは削られ、鈴の盾となるしかなかった。

「断ち切れ...!」

  飛んできたレーザーを切り裂く秋十。
  しかし、その直後に飛んできたISの攻撃を受けてしまう。

「ぐ、ぅう....!」

  気合で耐え、鈴を庇い続ける秋十。
  ...しかし、まともに攻撃を受けてしまった今、秋十は隙だらけだった。

「(しまっ....!?)」

「秋..十....!」

  両サイドからビームで狙われる秋十。
  その様子を見た鈴が、頭痛による痛みを顧みずに悲痛な叫びを上げる。

  ...秋十がこれまでかと、目を瞑ったその時...。





「秋兄を...やらせるかぁああああああ!!!」

  飛んできたブレードとISによる攻撃で、ビームを撃とうとしていた二機は吹き飛んだ。

「秋兄!」

「マドカ...か...!」

  助けに入ったマドカに対し、秋十は喜び半分、攻撃を受け止めている際の苦悶半分の声で答える。

「....秋兄、ここは一端私とセシリアに任せて、一度彼女を避難させて!」

「...分かった。気を付けろよ!」

  単純な実力差と状況を考え、マドカの言葉に大人しく従う秋十。
  今だ頭痛に見舞われている鈴を抱え、秋十は離脱した。

「...さーって...私の大好きなお兄ちゃんを怪我させた罪...その身を以って後悔しろ!」

「(....怖すぎて援護しにくいですわ...。)」

  やはり妹なだけあって、千冬並の殺気を出すマドカに、遠くから狙撃を狙っているセシリアは怯えていた。







「(...なんだよ、これ...なんなんだよこれは...!)」

  強化機体の敵ISと、桜の戦いを少し離れた所で見ながら、一夏は動揺していた。
  自分の知っている“原作”との違い。あまりにも活躍する場が少なすぎるこの状況。
  ...それらが、彼から冷静な判断を奪っていった。

「っ...!はっ...!...なかなかやるな...。」

  一方、一夏を庇いながら強化ISと戦う桜はまだ余裕があった。
  出力が想起よりも上とはいえ、圧倒的な戦闘センスにより、桜が有利だった。

「(...秋十君の方は、セシリアとマドカちゃんが向かったから大丈夫だな。ユーリちゃんはロックを解除するのに体力と気力を使い果たしたのか...。...ロックが解除されたのなら、教師陣が来るまで持ちこたえればいいが...。)」

  戦いながら桜は状況を解析する。
  そして、懸念事項である一夏の方を見る。

「(...何か、しでかすかもな。)...っと、ふっ!」

  思考を中断し、迫ってきた攻撃を逸らす。

「...っと、いい加減、避難しとけ織斑!もうすぐ教師たちが止めに来る!そうなるとお前は邪魔になるだけだ!」

  優勢とはいえ、邪魔には変わりないので、桜は一夏に対してそう言う。

「...る..せぇ...。」

  冷静でいられなくなり、まともな判断ができなくなっていた一夏は桜の言葉に反応する。

「うるせぇうるせぇうるせぇ!!俺は主人公なんだ!こんな見せ場で...じっとしてるかよ!!」

「っ!?おい待て!!」

  さっきまでの恐怖はどこへ行ったのか。
  一夏は雪片二型を構え、桜と戦っているISへと斬りかかった。

「てめぇなんかに俺の活躍を奪われてたまるかよ!」

  無論、その行動は恐怖からではなく、自分の欲望のためだった。

「はぁああああああ!!」

「あっのバカ!!」

  無人機である故に出されるその強大な力を前に、無謀にも斬りかかっていく一夏。
  それを止めようとする桜だったが、ほんの少し遅かった。

「がぁああっ!?」

「っ、ちっ...!」

  叩き落される一夏。それを追撃しようとする敵IS。
  なんとかそれを止める桜。

「(止めれなかったが...幸い、絶対防御のおかげで助かっている。...これで懲りただろう。)」

  邪魔は入らず、一度吹き飛ばされたからか敵ISが桜をロックオンする。
  つまり、庇う必要はなくなった訳で、桜も全力を出せるという事だ。

「...さて、反撃開始と行きますか!」

  そう意気込み、攻撃を迎え撃とうとする桜。
  ...しかし。

【一夏ぁあっ!!】

「なっ...!?」

  アリーナに響き渡る声。
  肉声ではなく、通信を通したその声に敵ISの動きが止まる。

【男なら...!男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!?】

「っ...!こんな時に...!」

  桜は声の発信源を探し当てる。
  ...見れば、アリーナを見渡せる放送室に箒がいた。

「篠ノ之!こんな時に何やっている!!早く逃げろ!」

  桜が声を張り上げ、そう言うが、既に敵ISがロックオンしていた。

「ちっ...!」

  瞬時に桜は辺りを見渡す。

「(織斑はさっきので動けない。マドカちゃんの方は...よし、押しているから三機とも放っておいてもいいな。...なら...!)」

  放送室を狙っているのは目の前の一機だけ。
  そうと分かった桜はビーム兵器を付けている腕目掛けて接近する。

「動きに風を...心に水を!」

   ―――“風水・二閃”

  速く、研ぎ澄まされた二つの斬撃が、敵ISの両腕を切りつけると同時にかちあげる。
  狙いが逸らされたビームは空の彼方へと飛んでいく。

「...咲き誇れ!」

   ―――“乱れ桜”

  腕が弾かれ、隙だらけとなった敵ISの胴体に、桜は高速の連撃を放つ。

「...終わりだ。」

  ISが後退し、間合いが離れた所で桜はライフルを展開し、撃ち抜く。
  既に斬撃でボロボロだった敵ISはそれによって沈黙した。

「....ま、出力で上回っても技術が足りんな。...言っても意味ないか。」

  沈黙した敵ISに向かって桜はそう呟くが、返事はない。
  尤も、桜はそれが分かってた...いや、()()()()()が。

「...っと!?」

   ―――ギィイイン!!

  咄嗟に飛来した物相手に桜はブレードを振い、叩き落す。

「...って、こいつ、マドカちゃんの方にいたんじゃ...。」

  飛来したものはマドカとセシリアが相手をしている三機の内一機だった。

「....あぁ、そう言う事...ってか、容赦ねぇな...。」

  見れば、セシリアが動きを制限し、マドカが容赦なく吹き飛ばしていた。
  ...それこそ、悪鬼羅刹を彷彿させるような苛烈さで。

「あはははは!!遅い遅い!!」

「(....目を合わせたくありませんわ....。)」

  笑いながら一機を追い詰め、蹂躙しているマドカに、一度吹き飛ばされた機体を相手しているセシリアは、そう思わずにはいられなかった。

「..っと、まだ生きていたか。」

  それを見ながら、桜は先程弾いた機体相手にライフルを撃ち、黙らせておく。

「...このままなら、教師の部隊が来る前に終わるかもな。」

  マドカ達の方を見ながら、桜はそう思い、視線を横に向ける。

「...だからよ、無理して行こうとするな。織斑。」

「うるせぇ...!主人公は俺なんだ...!てめぇらが活躍してんじゃねぇ!!」

  桜は一夏にそう言うが、一夏はその言葉を一蹴してマドカ達の方へ行こうとする。

「...機体がその状態でなにができる?それではISを傷つけるだけだぞ?」

「うるせぇ!....いいぜ、邪魔するのならてめぇから倒してやる!」

「(頭に血が上ってやがる...。)」

  冷静ではないと即座に判断した桜は、一夏を無力化させようと構える。

「....っ!?」

「がっ!?」

  突然、桜は咄嗟に身を躱す。
  すると、倒したはずの強化機体が桜と一夏を狙っていた。
  なお、一夏は今の攻撃(弱め)で吹き飛んでいた。

「っ、こいつ...!」

  先程桜が吹き飛ばしてしまったせいか、距離が離れすぎていた。
  既に桜と一夏はロックオンされており、桜自身はどうとでもなるが、一夏はさっきの攻撃で吹き飛ばされ、絶体絶命になっていた。

「(間に合わない...!)」

  見殺しにするか。そう考え、放たれたビームを桜は凌ごうとする。
  その瞬間...。

「風水を、剣に宿す...!」

   ―――“瞬刃・一閃”

  一夏を狙っていたビームが、切り裂かれる。

「...!秋十君、戻ってきたのか。」

「はい!...【鈴が記憶が戻る際の頭痛に苛まれています。だから、早く戦いを終わらせようと。】」

「【...なるほど。分かった。】」

  プライベートチャンネルで秋十は桜にそう伝える。
  拒絶反応による頭痛は、放置するとどうなるかは桜にも分かっていないので、早急に片を付ける事にするらしい。

「【...俺が斬りこむ。そこをすかさずライフルで狙え。...俺の動きを何度も見た秋十君ならできるだろう?】」

「【...当然です!】」

  秋十のきっぱりとした返事に、桜は笑みを漏らし、敵ISに斬りかかる。

「凛として舞え....“円水斬”!」

  ビームの銃口が向けられるのもお構いなしに、桜は接近し、そのまま円を描くような軌道と剣の軌跡で切り裂く。

「...喰らえっ!」

「おまけだ!」

  切り裂かれた瞬間、秋十はライフルを撃ち、弾かれるように吹き飛んだ所をさらに桜がライフルで追撃した。

「...敵機、沈黙。...念のため、トドメ刺しておくか。」

  さすがに動かないだろうと思う桜だが、念には念を入れて、ブレードで頭に突き刺した。

「えっ、桜さん!?」

「...あー、大丈夫大丈夫。こいつ、無人機だから。」

  躊躇なく殺したのを見て、驚きの声を上げる秋十に桜はそう言う。

「無人機...?あ、ホントですね。」

  秋十は近づいて確認する。

「いつ気づいたんですか?」

「最初にブレードをぶつけた時。人の気配がなかったからな。」

「...ISでも読めない“気配”を読める桜さんェ...。...いや、心に水を宿せば俺もできそうですけど....。」

「やったな秋十君。君も人間卒業に一歩近づいたぞ。」

「あまり嬉しくありません。」

  軽いやり取りをしつつ、二人はマドカ達の方を見る。
  すると、あちら側も終わったようだ。

「教師陣も来たようだし、後は事情聴取ってとこか?」

「でしょうね。」

  戦闘よりもそっちのが面倒そうだなと愚痴る桜。

「...って、桜さん!早く鈴を...!」

「っと、分かった分かった。」

  すぐさま鈴の下へ向かい、桜は鈴に手を翳した。
  すると頭痛で苦しんでいた鈴は、痛みから解放されたのか、そのまま気絶する。

「...これでいいが...今までで一番長く放置していた。後遺症が残る可能性がある。」

「そんな...!?」

  神によって与えられた力による記憶の改竄。
  それに自力で抗った場合、何が起こるのかは誰にも分かっていなかった。
  だからこそ、いつも桜はすぐさま洗脳を解除するのだ。

「...まぁ、多少の後遺症なら俺でも治せる。...安心しろ。」

「....わかりました。」

  断言した桜に、とりあえずは大丈夫だろうと思う秋十。

「ところで秋十君。」

「なんですか?」

  ふと、思い出したように桜は秋十に問いかける。

「...どうして織斑を助けた?」

「....えっ?」

「あいつはお前にとって報いを受けさせるべき相手で、今回の戦闘では足を引っ張っていた。...俺も見捨てようとしていた。なのに、どうして助けたんだ?」

「......。」

  桜の言葉に秋十は沈黙する。
  どうして助けたのかという理由からではない。
  まるで“死んで当然”かのように語る桜の目に、少しばかり背筋の凍る思いをしたからだ。

「....俺は、案外都合のいい考えをしてますからね。....ただ、目の前で人が死ぬのが見たくなかっただけ。...例えそれが、恨みのある相手だとしても。」

「それは、人を殺した事がないからか?」

「多分そうだと思います。...死体を見慣れたくはありませんから。」

  今まで、何度か秋十は桜と共に違法研究所を破壊してきた。
  しかし、人を殺した事はなく、研究の破壊に留めていた。

「誰もが死なずにすむ...そんな甘い考えを、俺はまだ持っているんでしょう。」

  元々、秋十はかつての皆と仲良く暮らせる生活に戻りたいと願っていた。
  そんな、“誰もが幸せで済む”ような考えが、先程の結果に繋がったのだろう。

「...そうか...。」

「っ.....!」

  スッと、冷たくなる桜の瞳に、秋十は恐怖した。

「...早めに、その考えは諦めとけよ。...後悔するだろうから。」

「...分かってます。」

  ただ、上手く行かないのを知識として知っていたから、冷たい瞳になった。
  そういう風に、普通の人は先程の桜の冷たい瞳を解釈するだろう。
  だが、秋十はその“先”を感じ取ってしまった。

   ―――あんな“クズ”、死ねばよかったんだよ。

「(....桜、さん....?)」

  天才が故に理解されない。
  なるほど、的を射ている。そう、秋十は思った。
  どこか狂気染みた思考を感じ取ってしまった秋十は、そう思わざるを得なかった。

  天才であるが故に理解されないから、周りを鬱陶しく思う。
  そして、無駄に反発する者には、一切の容赦を与えない。
  ...そんな残酷さを持つ桜の本性を、秋十は垣間見た。

「(....気のせい...だよな?)」

  教師たちが来るまで、秋十は呆然と桜を見つめていた。











 
 

 
後書き
束は飽くまで一夏を追い詰めるためにISを嗾けているので、桜でも少々苦戦する方がいいと判断し、一機だけ超強化されてます。さらには桜が相手でもお構いなしに襲い掛かります。

桜は本当に敵対した場合、容赦なんて存在しません。
元々、10年以上眠っていたので、“心”が子供のままな部分があり、原作とかの束さんっぽい残酷さを持っています。 

 

第25話「事件後」

 
前書き
襲撃が解決し、その後の話です。
 

 




       =out side=





「っ....。」

  IS学園の保健室にて、一人の少女がベッドの上で目を覚ます。

「...ここは....。」

「保健室だ。」

「っ!」

  ふと呟いた言葉に返事が返され、少女...鈴は飛び起きて声の方を見る。

「あんたは....。」

「事情聴取の方は俺以外でもできるからと、俺はお前の様子見だ。」

  そこには、桜が適当にリンゴを剥きながら座っていた。

「.......。」

「...お望みの人物が看てくれなくて残念だったな。」

「ちょ、そういう訳じゃ...!」

  何故か沈黙した鈴に桜はそう指摘する。
  否定しようとする鈴だが、どもっていては説得力がない。

「...て、あ、あれ...?」

「...あー、まだ無理するな。後遺症があるかもしれないしな。」

「あ、そういえばあたし....。」

  鈴はふらつき、そこで自分がどうしてここにいるのか、思い出した。

「じゃ、適当に検査するぞ。五感とか体を動かせるか一通りな。」

「...あんたがするの?」

「俺の責任だからな。」

  桜の言葉に鈴は首を傾げる。
  なぜ桜の責任なのか分かっていないようだ。
  ちなみに、この検査は桜個人...つまり本来は必要ないもので、教師からは特に指示を出された訳ではない。





「....これは?」

「三本。」

  しばらくして、最後に視力を簡易的に検査する。
  所謂、指の本数を示してちゃんと見えるかとかだ。

「じゃあ、これは?」

「二本ね。」

「篠ノ之束に見える?」

「見える...って、関係ないでしょ!?」

  いつのまにか束っぽい恰好をしていた桜に、鈴は思わず突っ込む。

「...よし、正常と。」

「...最後の必要?」

「いや、特に?」

「......。」

  さも当然かのようにそう言う桜に、鈴は少しばかりイラッときた。

「じゃあ、最後に....記憶の方はどうだ?」

「記憶....っ!」

  記憶を言われて、鈴はかつての記憶を思い出した。

「あ、あたし...!秋十に...恩人に対して、なにを...!?」

「...正常、と。」

  淡々と、だが頭を抱える鈴を心配そうに見ながら、桜は全ての項目にチェックし終える。

「これで晴れて精神は自由になった訳だが....気分はよさそうじゃないな。」

「当たり前よ!なによ...!なによこの記憶!?」

  記憶が書き換えられ、本来の恩人を蔑み、大して好きでもない奴を好いた状態にさせられていた。...確かに、憤慨するだろう。

「っ、ぐっ...!?」

「...興奮すると頭痛になるみたいだな。まだ安静にしておけ。」

  洗脳を解くタイミングが遅かった弊害で、鈴は頭を痛めていた。

「...あんたは、これが分かっていたの...?」

「ああ。...俺の幼馴染、束と千冬も洗脳されていたからな。」

  頭が痛いのを抑えながら、鈴は桜に聞く。
  そして、“あの”篠ノ之束と織斑千冬も洗脳されていた事に少しばかり驚く。

「だが、もう織斑は洗脳する事などできん。...世界そのものが、それを許さないからな。」

  明らかに一夏を嫌悪するようにはっきりとそう言う桜。

「...あんた...何者なの...?」

  そんな桜に、鈴は少しばかりの寒気がし、そう質問する。

「...世界の運命が捻じ曲げられ、その影響で死にかけたもう一人の天災...ってとこか?」

「....訳が、分からないわ...。」

  頭が痛い事もあり、鈴は思考するのをやめてしまう。

「とりあえず、動けるようになってからか、秋十君が来たら礼を言っときな。君を助けたのは、あの秋十君だからな。...じゃ、俺は目を覚ました事を伝えてくる。」

「...ありがと。」

  鈴が短くお礼を言うと、桜はそのまま保健室を出て行った。

  一人残った保健室で鈴は物思いに耽った。

「(....また、助けられたのね、あたし...。強く、なったつもりだったのに。)」

  想う相手は秋十。今回、助けられた時の事を思い返していた。

「(...ありがとう、秋十。こんなあたしを...あんな仕打ちをしたあたしを、まだ友達だと思っていてくれて...。)」

  過去、洗脳されていた時の鈴は、秋十にひどい仕打ちをした事があった。
  だが、それでも秋十は鈴の事を友人だと思っていてくれたのだ。

「(...会ったら、お礼言っとかないとね。)」

  そう思い、鈴は動けるようになるまで安静にしておくのだった。







  襲撃事件が終わり、事件に大きく関わった者達は会議室に集められていた。

「全員、よくやった。...と言いたい所だが、問題点が多すぎる。...まず、篠咲兄妹、オルコット。お前たちは敵の鎮静化に大きく貢献したが、独断行動は危険だ。よって、反省文10枚の罰を言い渡す。...以後、気を付けてくれ。」

「分かってます。...ただ、あれが最善だとも思っています。」

  秋十は、そう言って千冬をまっすぐ見る。

「...ああ。エーベルヴァインと更識がロックの解除をするまでの間、その思い切った行動のおかげで護られたのも確かだからな。...これでも少ない方だぞ?」

「な、なるほど...。」

  意志はちゃんと汲み取っていたんだなと思いつつ、これでも緩い方なのだと、秋十は少し引き気味に驚く。

「...だが、織斑と篠ノ之!織斑に関しては最初の行動はよかった。一時的で危険とはいえ、生徒たちを護っていたのだからな。...だが、なぜあそこまで全てを危険に回すような真似をした!」

  一転、千冬は怒鳴るように一夏と箒にそう言った。

「っ....。」

「わ、私は一夏に喝を入れようと...。」

「あんなの、喝でもなんでもないよ。...桜さんがいなければ、死人が出ていたよ?篠ノ之箒と言う、死人がさ。」

「っ...!」

  一夏は俯き、箒は反論しようとしてマドカに否定される。

「...篠咲妹はそう言っているが、それだけではない。...放送室には避難誘導をしていた生徒がいたのだ。それを篠ノ之はあろうことか気絶させて占拠したのだ。...相応の罰が必要だ。」

「なっ...!?何をしてくれてますの!?」

  他の人は知らなかった事実を千冬はその場でいい、セシリアはその事実に怒る。
  声に出してはいないが、それはその場にいる全員が同じように怒っていた。

「....そういう訳だ。なので、織斑には反省文20枚。篠ノ之に至っては反省文30枚と一週間の自室謹慎を言い渡す。」

「「なっ....!?」」

  “なぜそんな目に遭わなければならない”と言いたげに驚く二人。

「あ、あいつは...あいつはどうなんだよ!」

「あいつ?...あぁ、篠咲兄の事か。」

「あ、そう言えばなんで桜さんは席を外してもよかったんですか?」

  桜抜きでいいとも言われたが、理由までは知らないので、秋十は千冬に聞く。

「....あいつは、個別で聞かねばならん事があるからな。」

「「...あー...。」」

  なんとなく、千冬の事はよく分かっている秋十とマドカは察する。

「...あの人、容姿ばかりか行動も束さんに似てるもんね...。」

「まったく...あいつが二人に増えたみたいで頭が痛くなる...。」

  眉間を指で押さえながら、千冬はそう言う。

「あの...私達は特にないんですか?」

「エーベルヴァインと更識は三年が手こずっていたロックの解除を成し遂げただけだからな。...ただ、あの通信機については学園に伝えておくように。」

「あ、はい。分かりました。」

  ユーリ達は自分達には反省文がないのだと、少しばかり安堵する。

「おーい、鳳が目を覚ましたぞ。」

「あ、桜さん。」

  そこで、桜が鈴の所から戻ってきた。

「...行ってきな、秋十君。皆も、心配なら見舞いに行ってきなよ。」

「だが、この事件については口外しない事。そして、エーベルヴァインと更識以外は言い渡した罰をこなすように。それならば今から見舞いに行ってもいい。」

  桜の言葉に続けるように千冬はそう言い、桜の肩を掴む。

「そして篠咲兄...いや、桜。詳しく話を聞かせてもらおうか?」

「え、あ、あの織斑...先生?...肩、痛いんすけど...。」

「当たり前だ。痛くする程でなければ逃げるだろう?」

「良くお分かりでイタタタタタ!?」

  ちなみに、今の桜の恰好は鈴を看ていた時...つまり束の恰好に変えたままである。
  その事もあって千冬はいつもの二倍の強さで桜を逃がすまいとしていた。

「と言う訳だ。私は今からこいつと話があるからお前たちは見舞いに行ってきてもいいぞ。...むしろ行って来い。」

「は、はい!」

「さ、桜さん、大丈夫でしょうか...?」

「うわぁ...冬姉怒らせちゃったか...。」

  有無を言わせない迫力で言う千冬に、秋十達はそそくさと鈴の下へと向かった。

「えー、あー....千冬?」

「...なんだ?」

  残された桜は恐る恐る千冬に振り返る。それに千冬はイイ笑顔で応える。

「一体何が聞きたいので?」

「なに、今回の事件の主犯格に目的を問いただそうと思ってな。」

「既に主犯格扱い!?」

  あまりに極端な回答にさしもの桜も驚愕する。

「...というのは冗談で、独断行動の主導と一部の隔壁破壊による罰の言い渡しと、個人的に聞いておきたい事があるのだ。」

「...ちなみに罰とは?」

「反省文30枚だ。」

  Oh...と嘆く桜。

「ついでに言えば本来なら20枚で済んでいるが私の個人的判断によって増やしている。」

「ちょ、横暴!?それでも教師か!?」

「ああ。お前が相手だからな。」

  “当然だろう?”と言わんばかりにキッパリ言う千冬。

「...はぁ...で、聞きたい事は?」

  そんな千冬に桜は諦めて話を伺う。

「....今回の件、お前はどう思う?」

「どう...ってのは目的とかか?」

  桜の言葉に頷く千冬。

「テロにしては同じ場所に三機を追加するのは不自然。ましてや無人機だ。今、真耶にコアを解析してもらっているが...。」

「その前に俺に一言聞いておきたい...と。」

「ああ。」

  どう答えようか。と、悩む桜。
  ...実の所、目的は完全に把握している。ただ、それを千冬にばらす訳にはいかないのだ。

「...俺の意見としては、様子見...もしくは試したのかもな。」

「ほう...。」

「どの人物に対してまでかは分からんが、敢えて一機だけ突っ込ませて、後から三機増やした。それで、どこまでやれるか試したのかもしれん。」

  桜の意見に千冬は考え込む。
  実際は、束と桜が一夏を絶望させようと画策しただけなのだが。

「...ふむ。確かにそうかもしれんな。まぁ、後は私達で考える。」

「あ、そうそう。言ってなかったけど鳳の洗脳は解いておいたぞ。」

「ああ。秋十から一応聞いておいた。」

  そこで話は途切れ、千冬は少し考える。

「(...桜はそう言うが...本当にそうなのか?...どうもこいつとあいつが頭にチラついて仕方がない...。)」

  今回の事件について思考を巡らす千冬だが、どうしても脳裏に桜と束が思い浮かぶらしく、上手く考えられなかった。

「(...いや、もしかしたら束の仕業でもおかしくない。...無人機四機を嗾けるなぞ、あいつかこいつぐらいにしかできんからな。)」

  ...実際の所、千冬の考えは大いに当たっている。
  だが、千冬はそれは一つの可能性として取って置き、他の可能性を考えた。

「...で、そろそろ行っていいか?」

  桜は話はもういいのかと思い、千冬にそう聞く。

「いや、ダメだ。」

「...理由は?」

  しかし、拒否されたため、今度は訳を聞く。

「私達と共にコアを解析してもらう。いいな?」

「...どうせ断っても連れてくんだろ?一応、生徒という立場なんだから、そんな機密事項だらけな場所に言ってもサポートぐらいしかしないぞ?」

「ああ。それでいい。」

  そう言って、二人は山田先生のいる所へと向かっていった。







「鈴!」

「っ.....。」

  一夏は、鈴の名を呼びながら保健室の扉を開け放った。
  その際、鈴は顔を顰めていたのだが、それに気づかず一夏は鈴に駆け寄る。

「大丈夫か?心配したぞ?」

「(...秋十...。)」

  あからさまに心配するように声をかけてくる一夏を無視し、鈴は後から入ってきていた秋十を気まずげに見ていた。

「.....ねぇ、ちょっと秋十と二人きりにしてくれない?」

「は..?なんでだ?」

「...言っておきたい事があるのよ。」

  秋十の名前を出した事で少し顔を顰める一夏に構わず、鈴は皆にそう言う。

「別に二人きりにならなくたって...。」

「はいはい。他の人には聞かれたくないから二人きりになるんでしょー?だったらお邪魔な人達は出ましょうねー。」

  引き下がろうとしない一夏を、マドカが押すように追い出す。
  他の皆も鈴の事が心配であったが、同じように出て行った。

「(....ガンバッ!)」

「っ....!」

  マドカが出て行く間際で、鈴に向かってウインクする。
  鈴はマドカに気遣われたのだと思いながら、秋十に向かいあった。

「....秋十...。」

「...なんだ?」

  喉まで出かかった言葉が、出てこなくなる。
  ...言いたい事があるのに、緊張で言えない。そんな状態になる。

「あの...その....。」

「......。」

  気まずい状態で言いだそうとする鈴を、秋十はじっと待つ。

「...っ、その...今まで、ごめんなさい....。」

「....。」

  いつもの鈴のような活発な雰囲気は引っ込み、細々とした声で鈴は謝る。

「洗脳されてたから...なんて言い訳にしかならないけど、それでも、今までひどい事して、ごめんなさい...!」

  そういう鈴の脳裏に浮かぶのは、かつてマドカが亡国機業に誘拐された時。
  当時、秋十を蔑んでいた者は皆、なぜお前じゃなくてマドカなんだと、非難したのだ。
  その中で、鈴も同じように...いや、一夏と共に人一倍非難していた。
  
  その記憶が、鈴は今では途轍もなく嫌な思い出だった。

「....鈴...。」

「っ....!」

  黙って聞いていた秋十が口を開き、鈴はビビる。

「...俺はさ、確かに洗脳された鈴とか、千冬姉とかに散々言われて傷ついてきた。でも、そんな過去があったからこそ、“今”に至れてるんだ。...別に、今までの事は気にしないさ。...今の鈴が、また友達でいてくれるなら。」

「っ...ぁ...!」

  秋十の言葉に、鈴は声も上げずに涙を流した。
  ...怖かったのだろう。拒絶されるのが。許されないかもしれないのが。

「...まぁ、さすがにあいつは許せないけどな。」

「あいつ....あぁ...。」

  もちろん、一夏の事である。

「...あいつ、あたし達を洗脳して一体何を考えてるの...?」

「さぁな...。桜さんなら分かってそうだけど、俺は知りたくもない。」

  どうせ下種な事を考えているのだろうと、秋十は吐き捨てる。

「...そうね。あたしも知りたくないわ。」

  今は忌々しく思える記憶を抑え込み、鈴も同意するように言う。

「...桜s」

「あ、皆は入れなくていいのか?結構時間がかかってるけど。」

「え、あ、そうね。入れていいわよ。」

  何か言おうとして、秋十に遮られる。
  どの道、もう入れてもいいので、鈴は許可を出し、秋十は皆を呼びに行った。

「(聞きそびれたけど...他の人にも聞いた方がいいわね。)」

  少しして秋十が皆を連れて戻ってくる。

「言いそびれてたけど、久しぶりね。マドカ。」

「あ、気づいた?」

  戻ってきたマドカに鈴はそう言い、伊達眼鏡で軽い変装をしてたマドカはそういう。

「いや、バレバレよ?」

「だよねー。むしろ、なんで分からないのかと。」

  嘲るように一夏を見ながらマドカはそう言う。
  そして、当の一夏はそんなマドカを見て言葉を失っていた。

「なっ....あっ...!?」

「戸籍上は桜さんの義理の妹。...冬姉からも認めてもらってるよ。」

  一応説明として、マドカは鈴にそう言う。
  マドカの事を知っていて、驚いている一夏と箒は放置のようだ。

「...ところで、さっき鈴はなんて言おうとしたんだ?」

「あ、気づいてたの。...そうね、他の人にも聞きたいし、ちょうどいいわ。」

  秋十はさっき鈴が言い損ねてた事に気付いており、改めて聞いた。

「...あの桜さんって、何者なの?」

「....あー....。」

「...えっと...。」

「...その....。」

  いつも一緒にいる秋十、マドカ、ユーリが口籠る。
  その反応を見て、鈴は大体察する。

「...あ、うん。“そういう”類の人物なのね。」

「...印象としては束さんみたいな感じなんだけどなぁ...。」

「何者と聞かれると...なぁ?」

「...織斑先生の幼馴染としか...。」

  三者三様で言う秋十達に、鈴は“束や千冬と同じ類”と考えるようにした。

「天然チートがこんな所にも...。」

「(マドカもチート染みてきたのは...言わないでおくか。)」

  鈴がそう呟いたのに対し、秋十はついそう思ってしまう。
  ...なお、桜の周りにいる人物は大概チート染みてきている。

「...っ.....。」

「だ、大丈夫ですか?」

「...ええ。まだちょっと頭が痛いわ。...今日はもう、安静にしておくわ。」

  頭を押さえた鈴に、ユーリは心配そうに聞く。
  鈴は安静にしておくと言ったので、今日はここでお開きにするようだ。

「じゃあ、俺たちは行こうか。」

「そうだね。鈴、早く元気になってね。」

「分かってるわ。」

  そう言って秋十達は保健室を出て行く。
  その際、一夏はずっと何かを考えていたが、誰も気にしなかった。











「....もしもし。」

  日が暮れ、寮の一室にて、桜は電話を手に取り、誰かと話す。
  同室の秋十は、今はマドカの部屋にて一緒に反省文を書いている。

「...あぁ、もうすぐだな。..あぁ、分かってる。」

  電話先の相手に対し、桜は返事をする。

「...まったく、あんたも不器用だな。...ま、立場上仕方ないか。」

  桜はその相手に対し、少し苦笑いしながら応答する。

「...じゃ、後は任せろ。“デュノア社長”。」

  そう言って、桜は電話を切る。

「(...さて、場面が動き出したか...。確か、ドイツでも少し動きがあったな。)」

  これから起きるであろう出来事を、桜は想像する。

「...それはともかく、この大量の反省文...なんとかするか。」

  そこで思考を切り替え、桜は地獄の反省文に取り掛かる事にした。







 
 

 
後書き
放送室で避難誘導しているありますが、それは校舎内にいる人に向けたものです。
誘導してた人は、アリーナに向けて誘導を行おうとすれば、危険に晒すだけだと理解していました。

...キャラ動かしきれてないなぁ...。 

 

第26話「休日」

 
前書き
大体をアニメに沿って行くつもりなので、今回は休日での話です。
あの兄妹も出しとかなきゃね...。
 

 




       =桜side=



「外出?」

「ああ。どうせなら皆で外出しようって訳だ。」

  クラス対抗戦から数週間後の土曜日。
  あの事件のほとぼりも冷めて、完全に元気を取り戻した鈴に、俺はそう言った。

「どうしてあたしに...それになんであんたが?」

「秋十君とはまだギクシャクしてるんだろう?せっかくだからこの機会で元に戻れたらなって思ってな。俺が鈴に伝えるのもそれがあるからだ。」

「ぅ...なるほどね...。」

  あれから交流も何度かあり、俺も名前で呼ぶようになった。
  しかし、鈴にも罪悪感があるのか、まだ少し秋十君との関係がギクシャクしている。

「残念ながら、簪ちゃんとセシリアは代表候補生の、ユーリちゃんは専用機の点検で来れないけどな。鈴は大丈夫なのか?」

「...ええ、明日は大丈夫よ。」

  それならよかった。と、言う訳なので外出届を渡す。

「...準備いいわね。」

「再会した仲だからな。どうしても場を整えてやりたいんだ。」

「...まぁ、秋十とも、マドカとも久しぶりに会えた訳だしね。」

  そういう事で話を締めくくり、俺は部屋へと戻る。
  ...あ、ちなみに反省文はしっかり書いておいたぞ。







「うーん....!学園の外は久しぶりだな。」

「そうですねー。」

  翌日、俺たちは四人で外出していた。

「ところで、どこ行くのよ?」

「ん?そうだな....。」

  正直、あまり決めていない。
  まぁ、とりあえず...。

「この後もう一人合流するから、それから決めるか。」

「...決めてなかったのね。」

  そういう訳なので、俺たちはしばらくそこで待ち続けた。





「ごめーん、お待たせ!」

  しばらくして、その“もう一人”が合流する。
  ピンクの可愛らしい車から降りてきたのは...。

「「っ!?」」

「篠咲有栖だよー。今日はよろしくね!」

「....えっ!?」

  出てきた人物に秋十君とマドカちゃんが思わず噴き出す。
  鈴も名前を聞いて相当驚いた。
  なにせ、会社の社長がごく普通に降りてきたのだ。普通は驚くだろう。
  ....実際は束が変装しただけだと知ったら余計驚くだろうな。

「今日はオフだからね。あ、敬語とかも必要ないよ?」

「....あー、うん。正直、伝えてないのはダメだったか...。」

  鈴が完全に固まっている。
  ...まぁ、“篠咲有栖”もそれなりに知られてきたからな...。

「ちょ、さ、さ、桜さん!?」

「いやぁ、今日はやる事ないって言ってたから...なぁ?」

「愛しの兄妹達に会いに来たのだー。」

  あまりパッとしない感じの、長めの茶髪。
  それが今の束...篠咲有栖としての恰好だ。(それでも十分美人だが。)
  ちなみに、今言った理由は本当である。

「と、言う訳で今日はこの五人でエンジョイするぞ。」

「それじゃあ、レッツゴー!」

  俺と束が先導して、俺たちは出発する。

「母さんも、会社での仕事頑張って。」

「ええ。皆、楽しんできてね。」

  束を送ってくれた母さんは、そう言って車で会社へと戻っていった。

「さて...どこ行こうか...。」

「...あ、できれば...あの街に行ってみたいです。」

  秋十君が徐にそう言う。
  “あの街”とは...かつて秋十君達や俺が暮らしていた、故郷の事だ。

「....あたしも、行っておきたいわ。引っ越す前はそこに住んでいたんだから。」

「なら、決まりだな。」

「私も寄っておきたかったんだよねー。」

  今更だが、皆あの街に縁があるんだな...。
  皆が皆、元々は住んでいた訳だし。

「じゃ、目的地も決まった事だしさっさと行くか。」

  そういう訳で、俺たちは目的地へと向かった。







  そんなこんなで、あっさりと俺たちの元いた街へと着いた。

「...あまり、変わった訳じゃないな。」

「うーん...俺からしたら結構変わったかな。」

  俺が鮮明に覚えている街並みは十年以上前だからな。
  母さんを迎えに来た時にも少し見たけど、それだけだったし。

「...久しぶりだな...。」

「私の場合、もっと久しぶりだけどなぁ...。」

  秋十君とマドカちゃんがそれぞれそう言う。
  ...二人共、自分から街を去った訳じゃないもんな。

「...あいつ、元気にしてるかな?」

「“あいつ”...?」

  秋十君がふと呟いた言葉に、皆心当たりがないらしく首を傾げる。

「...あー、俺の、数少ない味方をしてくれた親友です。食堂を営んでいる家なので...。」

「...じゃあ、昼もそこにしようか。案内してくれるか?」

「任せてください。」

  散々虐められていた秋十君にも味方がいた事に安堵し、俺たちはその食堂へと向かった。







「....五反田食堂...か。」

「...あー、準備中...来るの早すぎましたね。」

  秋十君に案内されて辿り着いた食堂は、まだ準備中だった。
  昼までまだまだあるし、どう考えても早すぎた。

「せっかくだから、その親友について教えてくれないか?時間も潰せるだろうし。」

「あ、そうですね。」

  皆も気になっているみたいで、秋十君を凝視していた。

「親友...名前は五反田弾(ごたんだだん)って言うんですけど、一言で言えばバカやって皆を楽しませてくれるような奴なんです。」

「ムードメーカーって奴か。」

「実際、バカな所もありましたけど。」

  それは...まぁ、それでもいいか。ムードメーカーに変わりないし。

「弾と初めて会ったのは中学生になった時で、当初こそ俺を周りと同じような見方をしていました。....でも、単純な所もあったあいつは直接俺に会って貶してきて、その度に俺が否定してたからか、いつの間にか俺の理解者になっていたんですよ。」

「...単純故に、秋十君の本質を感じ取ったのかもな。」

「さぁ?今となっては分かりません。」

  ...まぁ、少なくとも、表面上しか見ない奴ではないと分かったな。

「...本当に、弾には助けられましたよ。アイツの言葉に対しても、正面から否定して、俺のために身を張った事もあったんですから。」

「...そりゃあ...俺たちからもお礼しないとな...。」

  そこまで秋十君を助けてくれたんだからな。
  束も、そうしようと思っているみたいだし、相応のお礼をいつかしてあげよう。

「...あたし達にとってはちょっと胸に来るわね...。」

「...でも、秋兄の味方でいてくれた事は本当にありがたいよ。」

  かつて洗脳されていたとはいえ、秋十君にひどい事していた鈴とマドカちゃんは、ちょっと申し訳なさそうな顔をしていた。

「弾のおかげで、数は少ないものの、何人か俺の事を理解してくれました。」

「...いい親友だな。」

  ....よし、何か困った事があったら無償で協力してあげよう。

「ねーねー、あっ君。」

「なんですか?たb...有栖さん。」

  そこで何かに気付いた束が秋十君を呼ぶ。

「...その弾君って、もしかして彼?」

「え?」

  ふと、束が指差した方向...五反田食堂の二階を見ると、部屋の窓から赤い髪の青年がこっちを見て窓から離れるのが見えた。

「あ、どっか行っちゃった。」

「...すぐ来るだろうよ。」

  離れるとき、随分と慌てていた。多分、確かめに降りてくるはず。

「おい弾!いきなりどこ行くつもりだ!!」

「至急確かめたい事があるんだ!見逃してくれ!」

  ドタバタと店の中から聞こえ、裏口辺りから誰かが出てくる。

「秋十っ!?」

「...久しぶりだな。弾。」

  焦ったような様子で出てきた弾なる人物は、秋十君が本人であると分かると、凄い勢いで秋十君の肩を掴んできた。

「お前、無事だったんだな!?行方不明になったって聞いたが...。」

「色々あって助けてくれたんだよ。」

  そこで気づいたかのように弾は俺たちを見回す。
  ...そして、鈴で目に留まる。

「てめっ....鈴!どうしててめぇがここにいる!!」

「っ.....。」

  彼は鈴がいる事がおかしいと思っているらしく、鈴に対してそう言う。
  ...そうか。当時は洗脳されていたから、彼にとっては悪印象なのか。

「落ち着け。鈴はもう、前とは違う。」

「っ....秋十がそう言うなら...だが、変なマネしたらただじゃおかねぇぞ。」

「...分かってるわ。」

  鈴も、特に言い訳をすることもなく、大人しく従った。
  ....あー、まだ関係に溝はあるんだな...。

「...それと、そちらのお二人はどなた様で?」

  さすがに気になったのか、俺と束に向かって彼はそう言う。
  ...マドカちゃんは知っているからスルーか。よく見れば鈴と同じように警戒してるし。

「俺は篠咲桜だ。」

「私は篠咲有栖。聞いた事はあるんじゃないかな?」

  とりあえず自己紹介すると、弾君の顔が驚愕に染まる。

「まさか、ワールド・レボリューションの...!」

「イエース!アイアム社長!」

  驚く弾君に対し、砕けた態度で言う束。

「な、なんでそんな大物人物がここに!?」

「お礼をしに来たんだよ!」

「お、お礼...?」

  無駄に明るい束にタジタジだな、弾君...。

「....実際は秋十君の紹介で来たんだ。お礼はまた別の機会にするよ。」

「お、お礼って一体何の...。」

「...君が、秋十君を信じていてくれた。だからさ。」

  一応訂正をし、何のお礼なのかも伝えておく。
  ...まぁ、ただの感謝の押し付けでもあるけどな。

「おい弾!結局店の前にいるんじゃねぇか!!そんな暇があったら手伝え!!」

「げっ...。」

  さっきも聞こえてきた男性の声が中から聞こえる。

「わ、分かった!...そ、そういう訳だから秋十!また後でな!」

  そう言って弾君は店の準備に戻っていった。
  ...と、そこでシャッターが開く。

「...ったく、一体どこのどいつだ?喋ってた奴は...。」

「厳さん!」

  出てきたのはだいぶ年を取っているが、相当若々しい様子の男性。
  どうやら、秋十君も知っているらしい。

「って、秋十の坊主か!?お前さん、戻ってきたのか!」

「はい!...色々ありましたけど、今は元気です!」

  “厳”と呼ばれた男性は、秋十君の肩を叩きつつ、そう言う。

「...ってぇなると...そっちのお二人さんが色々やってくれたのか?」

「...まぁ、そうなりますかね。...ただ、負んぶに抱っこって程じゃないですが。」

「ったりめぇだ。んな根性なしなら今ここにいねぇだろうが。」

  俺が彼の言葉に答えると、中々に厳しい言葉が返ってきた。

「...っと、秋十、おめぇ、ここで昼食っていくか?他の奴もよ。」

「元々そのつもりで来ましたから。....久しぶりですしね。」

  そうと決まれば、俺たちは店の中に入れて貰えた。
  まだ、開店した訳じゃないので、俺たちも準備を手伝う。

「...お、そうだ。秋十、おめぇは蘭に会っておけ。一番ショックを受けてたからな。」

「.....そうですね。行ってきます。」

  厳さんの言葉に秋十君は従い、二階へと昇って行った。

「さて、準備しながらで悪いけどよ....どういう了見だ?二人共。」

「「っ.....。」」

  厳さんのその凄みを込めた言葉に反応したのは、マドカちゃんと鈴。
  ....事情、話すべきか?

「忘れたとは言わせねぇぞ。どんな事情があったにせよ、秋十の坊主を散々虐めていたようだからな....。」

「っ、それは...。」

「ごめんなさい!!」

  鈴に代わるように、マドカちゃんが頭を下げて厳さんに向けて謝罪する。

「言い訳なんてしないし、できません。...ただ、もう秋兄を虐めるような...ひどい事は、もうしません!!」

「.......。」

  マドカちゃんの言葉を聞いても、まだ不機嫌そうな厳さん。

「...少し、事情を聞いてくれますか?」

「...一応、聞いてやろう。」

「では...かなり荒唐無稽な話ですが....。」

  俺が厳さんに事情を話す。
  元凶が織斑一夏だという事、二人は洗脳されていた事。
  それらを話しておいた。

「信じられねぇような話だが...少なくとも二人は以前とは違うようだな...。」

  全て信じて貰えた訳じゃないが、二人に関しては納得してもらえたみたいだ。

「...まぁいい。秋十の奴と同行してるって事は、許されたって事だろ。あいつが許したのなら、俺はとやかく言わねぇよ。」

「....二人共、だいぶ後悔してますからね...。秋十君も、洗脳される前の二人の事はむしろ好きでしたから。だから許したんでしょう。」

  そんな会話をする俺の傍らで、鈴とマドカちゃんは厳さんに頭を下げていた。

「...と、そろそろ客が出入りするようになる。今回は特別に弾の部屋を借りて時間を潰しててくれ。...だが、無闇に騒ぐなよ?」

「分かりました。」

「って、俺の部屋!?...この人数だと狭いような...。」

  昼食まで時間はあり、厳さんが弾君の部屋を貸してくれた。
  ...なお、弾君の意見は無視のようだ。

「(...そういえば、秋十君の方はどうなってるかな?蘭って子の様子見に行って、その子の泣き声が聞こえてきたまでは分かるけど...。)」

  まぁ、秋十君の事だ。慰めてたりするだろう。







       =秋十side=



「(....なんて言って会えばいいのだろうか...?)」

  厳さんに促されるまま、弾の妹である蘭の部屋の前まで来た。
  けど、一度は行方不明になった身だ。なんて言って会えばいいのか分からん。

「(...とにかく、ノックしてみるか。)」

  考えてるだけでは埒が明かないので、とりあえず四回ノックする。

「.....お祖父ちゃん?それともお兄?」

  若干棘というか、暗い声色で返事が来る。

「...久しぶりだな、蘭。...入っていいか?」

「.....ぇ...秋十...さん....?」

  俺の声に気付いたのか、蘭が戸惑う。

「ああ。俺だよ。」

「...嘘...だって、秋十さんは....でも....。」

  戸惑い、混乱する気配が、扉越しに伝わってくる。

「....入って、いいか?」

「ま...待って!」

  少し、中でドタバタと物音がする。
  そして、しばらくして...。

「...どうぞ。」

「ああ。」

  許可が降りたので、俺は蘭の部屋に入る。
  中に入ると、清楚な服に身を包んだ蘭が緊張した面持ちで佇んでいた。
  ...さっきのは着替えてたのか。

「秋...十...さん...!ホントに、秋十さん....!」

「..っと。...心配、してくれてたんだな。俺の事。」

  泣きながら俺に縋ってくる蘭。
  どれだけ心配で、どれだけ悲しんでいたのかが、よく分かる様子だった。

「秋十さんが行方不明って聞いた時、もう、どうしたらいいか、わかんなくなって...!」

「....ごめんな。今まで、諸事情で俺の事を隠しておかなきゃならんかったんだ。」

  今だって、“織斑秋十”ではなく“篠咲秋十”としてここにいる。
  未だに、“織斑秋十”は行方不明扱いなのだ。

「...いいんです。秋十さんが、ちゃんと生きてるって分かりましたから...。」

「...そうか...。」

  少し、落ち着かせるためにも俺の経緯を軽く話す。
  桜さんに助けられた事、今は“篠咲秋十”として会社の一員でもある事など。
  一応、ニュースで男性操縦者関連の事は知っていたらしく、途中からはIS学園関連について会話するようになっていた。

「....良かったです。秋十さんが、ようやく幸せな暮らしができるようになってて...。」

「...蘭のおかげもあったからさ。」

  かつて、蘭と初めて会ったのは弾の紹介からだった。
  最初は訝しまれたけど、成り行きで不良に絡まれた所を助けたら懐かれた。
  それからは、弾共々支えて貰ったりして、本当に助かっていた。

「支えてくれる人がいたから、俺はまだ生きていられる。...一人だったら、きっと自殺していただろうな...。」

  洗脳される前の束さんや千冬姉にも色んな事を教えて貰ってたしな。
  ...でなけりゃ、挫けずにはいられなかったからな。

「...ありがとうな。蘭。」

「う...ううぅう...!」

  慰めるように、俺は蘭を撫でる。
  今まで心配させてきたんだ。少しぐらい、好きに泣かせておこう....。







「落ち着いたか?」

「は、はい。...恥ずかしい所を見せちゃいました..。」

  しばらくして落ち着いたのか、蘭は俺から少し離れて顔を赤くしていた。
  ...まぁ、泣いている所を見られるのは恥ずかしいしな。

「あっくーん、皆弾君の部屋に集まってるからあっ君も......来なよって思ったけどお邪魔だったみたいだねー。」

「「.....あ。」」

  そこで束さん(便宜上は有栖さん)が入ってきて、そのまま流れるように退散していった。
  ...って、なんか勘違いされた!?

「ちょ、ま、待ってください!」

  少しの硬直の後、俺は急いで束さんを追いかける。

「(確か弾の部屋に集まってるって言っていた...なら!)」

  弾の部屋に行き、扉を開け放つ。
  そこに広がっていたのは...!

「く、くそ...!」

「ほい、必殺技っと。」

「あ、また弾が負けた。」

「桜さん、RTAさんになれるから...。」

  ...なんか、皆で楽しくゲームで対戦してた。

「って、たb..有栖さん!さっきのは...!」

「あははー、分かってるよー。あっ君はあっ君だからそう言う事は滅多にないもんね。」

「...どういう意味ですか。」

  思わず束さんと呼んでしまいそうになったが、一応誤解はしてなかったらしい。
  ...どこか、訂正したい言葉があったような...。

「...ところでなにやってるんだ?」

「弾君の持ってるゲームで対戦だよ。ISを使った格闘ゲームみたいな?」

  画面を見れば、見たことがある機体が戦っていた。
  ...色々あるな。有名どころの機体は当然で、専用機も結構あるみたいだ。

「...すごく上手いですね。桜さんやった事あるんですか?」

「ん?いや、今日が初めてだ。」

「...えっ?」

  桜さんの言葉に俺は一瞬固まる。
  ...あー、でも、桜さんなら...。

「なぁ、秋十、この人マジで何モンだ?説明書読んで一、二戦したら勝てなくなったんだが。」

「...ゲームも天才か...。」

「よーっし、じゃあ、私もやってみようかなー!」

  俺が改めて桜さんに驚いていると、束さんがやろうと言い出した。
  もちろん、束さんも初プレイらしく、最初は弾が相手するらしい。

「...なんか嫌な予感がするから本気で行っていいですか?」

「えー?私初心者だよー?」

  そう言う束さんは、どこか余裕だ。
  ...多分、説明書を読んで桜さんのプレイからシミュレーションしまくったな...。
  弾の嫌な予感は当たりだ。本気でいかなきゃ負けるだろうな...。

「(...って、そんな事より蘭を置いてきてしまった...。)」

  始まった束さんVS弾のプレイを横目に、俺は蘭の所へ戻る。







「....燃え尽きたぜ...。」

「...お疲れ様だな...。」

  その後、蘭も元気を取り戻したので戻ってみると、弾が燃え尽きていた。
  ...惨敗、したんだな...。

「そろそろ昼だからどうせなら食べて行けって厳さんが。」

「そうかっ!すまん、この戦いが終わったら!」

「すぐ行くよっ!」

  途中で厳さんから言われた事を伝えるが、桜さんと束さんは手が離せないようだ。

「....で、なんだこのプレイ。」

「神々の読み合い...みたいな?」

「ツールなしでここまでできるのね。」

  なんというか...どこぞのTASさんみたいなプレイになっていた。
  ...あ、決着ついた。...引き分けか。

「よし、行こうか。」

「ハードのスペックが足りなかったなぁ...。」

  ゲームが終わった所で、あっさりと切り上げ、二人は下へと降りて行く。
  ...って、スペック足りなくてアレですか...。







「...そういや秋十よ、IS学園にいるってこたぁ、イイ思いしてんのか?」

「...はぁ?」

  厳さんに昼食を御馳走になってる時、唐突に弾はそう言った。

「イイ思いってあのな...。周りが全員女子って精神的にきついぞ?」

「そうか?俺にとっちゃ楽園だが。」

  弾...相変わらずだな...。蘭と鈴とマドカが引いてるぞ...。

「例えるなら...会話できる程度の英語力でアメリカとかに放り込まれるようなもんだ。...常識が男とは違う所が多々あるからな。」

「...微妙な例えだな...。」

「...まぁ、一筋縄ではいかないんだよ...。」

  そこまで言って納得する弾。...お前のような気楽さがあれば楽なんだがな...。

「桜さんがいるのにか?」

「桜さんは容姿が...な。」

「「「「あー...。」」」」

「ちょ、なぜそこで皆同意する!?自覚あるけどさ!」

  自覚あるならできるだけ直してください(切実)。

「(一応、容姿も男らしい奴はいるが...アイツだけには頼らん。)」

「...なぁ、秋十。」

「なんだ?」

  ふと、弾が俺に聞いてくる。

「...お前今、幸せか?」

「....断言するにはまだ早いけどさ...以前よりはずっと幸せなのは、間違いないぜ。」

「....そうか。」

  “だったらいいんだ”と言って、弾は昼食を食べ始めた。

「(...俺、本当にいい友人に恵まれたんだな...。)」

  少し涙腺が緩くなったが、きっと皆にはばれなかったはず。
  ...あ、でも桜さんと束さんにはばれたかも。







  結局、その日は弾の家で店を手伝ったり、弾のゲームで遊んだりした。
  ...鈴との仲も、ギクシャクしなくなった...と思う。

  ...今度は、数馬の家に行ってみてもいいかもな...。









 
 

 
後書き
五反田兄妹は秋十が行方不明のショックで碌にテレビも見ていませんでした。
なので、“秋十”とと言う人物がIS学園に入学してる事を知らなかったという事です。

オチなんてない中途半端な終わりになってしまった...。 

 

第27話「姉妹対決×2」

 
前書き
蟠りの解決と決別のためのそれぞれ違う目的の姉妹対決です。
 

 




       =ユーリside=



「では、頑張ってください。」

「...うん。行ってくる。」

  そう言って、簪さんはアリーナへと飛んでいきました。

  ...今日は、簪さんと生徒会長さん。そして、私と姉様の試合がある日です。
  最初に簪さんで、次に私が試合をする手筈です。

「(...大丈夫ですよ簪さん。今の貴女なら、きっと勝っても負けても...。)」

  アリーナへ飛び立っていった簪さんを見送り、私は静かにそう思いました。







       =out side=





「...簪ちゃん...。」

「...お姉ちゃん。」

  アリーナの中心の空中。
  そこで、簪と楯無は対峙していた。

「...問答は無用。...この戦いで、全てを魅せる。」

「....うん。分かった。受けて立つ!」

  会話をする前に打ち切り、二人はそれぞれ薙刀(夢現)(蒼流旋)を構える。

【試合開始】

「「っ....!」」

  試合開始の合図と共に、二人はぶつかり合う。
  簪は、自身の全力を見せるため。楯無は、そんな簪の想いを受け止めるため。

「(受け流されるのは分かってる!)」

  “学園最強”と謳われるだけあり、簪の攻撃を槍で器用に受け流される。
  だが、それは簪も重々承知している事である。

「(元々格上...超えるつもりでも正攻法じゃ勝てない。...だったら!)」

  反撃の槍を跳び上がって回避し、叩き付けるように薙刀を振う。
  それも最小限な動きで横に回避される。....が、その回避方向にミサイルが迫る。

「っ!?」

「お姉ちゃんの動き...私だって、良く知ってるんだから!」

  それは、簪が回避方向を予測し、そこへ放ったミサイルだった。
  楯無の癖、戦闘データ。その他諸々から簪は楯無がどう避けるか予測したのだ。
  ...いつも姉を超えようと努力していた簪だからこそできる芸当だ。

「...なるほど。さすが簪ちゃん。」

「っ....!」

  ミサイルの煙の中から、そんな声が聞こえ、簪は距離を取る。

「水の...バリア....。」

「ナノマシンで操ると、こういう風にもできるの。」

  そう。楯無は水を操り、それを盾としてミサイルを防いだのだ。

「(あのバリアがある限り、遠距離武装は効果が薄い...なら!)」

  唯一水のバリアを斬り裂ける夢現で近距離戦を仕掛ける。

「(お姉ちゃんの方が戦闘技術は上。そんなのは分かってる。...でも、武器の性質上の隙を突けば...!!)」

  槍の一突きの際に、カウンターの要領で薙刀を一閃。
  槍を逸らしつつ、薙刀による攻撃が楯無に届く。

「っ....!」

「(躱された...いや、掠った!!)」

  しかし、その攻撃は上体を逸らされ、掠る程度に終わる。
  だが、それでも簪にとっては十分な一撃だ。
  なにせ、自身の力は姉に及ぶ物だと分かったからだ。

「(...けど!)」

「踏み込み過ぎよ!簪ちゃん!!」

「っ....!!」

  その一撃で大きな隙を晒し、楯無の蒼流旋に装備されているガトリングガンの攻撃をまともに受けそうになってしまう。
  かろうじて直撃は避けたが、明確なダメージを受けてしまった。

「(やっぱり、接近戦だけだと勝てない!でも、ISの経験でもお姉ちゃんに劣ってる分、遠距離でも全体的に見て不利!...それなら...!)」

  総合的に見て、簪は楯無に劣っている。
  たった一年とはいえ、経験の差がその力量差を生み出しているのだ。

  ...つまり、簪に勝機があるとすれば、楯無の意表を突いた攻撃のみ。

「(...中距離に変えてきた?)」

  薙刀を仕舞い、簪は中距離向けのライフルを展開して放つ。
  それを楯無は一度避け、追撃を蛇腹剣(ラスティー・ネイル)で防ぐ。

「(...移動しながらなうえに、ギリギリ清き熱情(クリア・パッション)の範囲外...。でも、だからと言って戦況が変わる訳ではない...どうするつもりかしら?)」

  反撃の危険性が高い近距離から中距離に変えた事は分かる。
  だが、だからといって戦況が変わらない事に、楯無は少し訝しむ。

  ...自分を必死に超えようとしてきた妹が、その程度なはずがない...と。
  ...同時に、そんな妹に楯無は無意識に期待していた。

「(....仕掛ける!)」

「っ...!」

  瞬間、楯無に向けていくつものミサイルが放たれる。
  強力とはいえ、あからさまな攻撃。愚策にしか見えなかった。

  ...だからこそ、楯無は経験からミサイルを避けつつ、最大限の警戒をした。

「はぁっ!!」

「っ!!」

  背後からの、薙刀の一閃。
  本来なら死角からの一撃であるそれは、ハイパーセンサーによって察知され、防がれる。

「っ....!」

「逃がさな...っ!」

  すぐさま簪は退き、それを楯無は阻止しようとする。
  その瞬間、反射的に楯無は飛来したモノを蛇腹剣で叩き落す。

「(簪ちゃんの薙刀!?)」

  それは、簪がついさっきまで使っていた薙刀だった。

  そして、武器を投げつけるという行為に動揺した楯無にISからの警告音が鳴る。

「(うし―――っ!?)」

「はぁぁっ!!」

  ブレードによる一閃。それを、楯無はまともに受け、大きく吹き飛ばされたた。

「ぐっ...ぁっ...!?」

「はぁっ...はぁっ...入った...!」

  楯無からすれば、その攻撃は不可解だった。
  簪は、薙刀を投げる際に後ろに退いた。だが、先程の一撃は背後からだった。

  瞬時加速を使えばその距離の移動は可能だが、反転して攻撃は体に負担が掛かる。
  なら、どうしたか?

「(...皆から教えて貰った“水”の動き...やっぱり、応用できた...!)」

  そう、“心に水を宿す”。それを一端とはいえ、簪は為したのだ。

  先程の動きは、瞬時加速の際、流水の動きを為す事で、体に掛かる負担さえも遠心力と共に楯無へと叩き込んだという事だった。
  なお、簪はその動きを為す事に精一杯でブレードを振るうのに力が一切込められてなかったが、動きで生まれた勢いによって生じた威力だけで楯無を吹き飛ばしたらしい。

「(今の内に...。)」

  楯無を吹き飛ばし、その隙に簪は叩き落された薙刀を回収しておく。
  先程の一撃は確かに強力だったが、SEを全て削りきれたとは簪は思わなかったからだ。

「(どれも、私が知る限りお姉ちゃんが経験した事のない攻撃方法。...でも、お姉ちゃんは国家代表。すぐに対応してくる。....だから、ここからは根競べ...!)」

  吹き飛ばされた際に生まれた砂煙の中から、攻撃の警告が現れる。
  それに従い、簪は接近しながら躱す。

「(お姉ちゃんに使えなくて、私が使えるモノ....やっぱり、“これ”しかない!)」

  先程までの動きとは違い、流れるように楯無に接近する簪。
  するり、するりと攻撃を躱しつつ接近してくる簪に、楯無も動揺する。

「(簪ちゃん、避けるの上手い!?...いえ、これは...!?)」

  更識家当主として、楯無は武術を扱っている。
  そのため、簪の動きの凄さにいち早く気づけた。

「くっ....!」

「...はっ!」

  先程までよりも避けづらく、鋭い一撃。
  それを、楯無は辛うじて避け、距離を取ろうとする。

  だが、その度に簪は流れるように接近し、間合いを取るのを許さない。

「(...でも、その動きはまだ未熟!)」

「っ!!」

  しかし、その動きに隙がまだあるのを楯無は見抜き、そこを突く。
  簪は、その攻撃に対して辛うじて躱す。

「しまっ....!」

「ちょっときついの、行くわよ!」

  躱す際に少し距離を取り、簪はそこで蒸し暑さに気付く。
  だが、気づくのが一歩遅く、簪は爆発に巻き込まれた。

  ...“清き熱情(クリア・パッション)”。水を操るナノマシンによって起こされた爆発だ。

「くっ....!」

「(...想定よりもダメージが少ない...。あそこからダメージを軽減したのね...。)」

  爆発の範囲から弾きだされるように出てきた簪は、そこまでダメージを負ってなかった。
  飛び退きつつ、“水”の動きで爆風を少しだけ切り裂いたからだ。
  ちなみに、直撃していたらSEは削りきられていた。

  ...しかし、それでもダメージは大きい。
  楯無も先程の一撃が効いており、互いにSEは残り少ない。

「(“水”の動きはまだ使いこなせない。そんな状態でお姉ちゃんと長期戦を繰り広げてたら動きを把握されて負ける!だから...!)」

「(簪ちゃんは恐らく短期決戦をしてくるはず。...私自身、長期戦に持っていける程余裕はない。...だったら、簪ちゃんの全てを受け止めるためにも...!)」

「「(次の一撃で決める!!)」」

  槍を、薙刀を構え、二人は一気に間合いを詰める。
  決着を付けるための最後の一撃。それが今、ぶつかり合った...!







「....本当に...本当に、強くなったわね...簪ちゃん...。」

「...お姉ちゃん....。」

「....でも、まだお姉ちゃんとして、負けないわよ♪」

  ...勝ったのは、楯無だった。

「私は更識家当主。...護りたい存在より弱かったら、意味ないでしょ?」

「.......。」

  ぶつかり合う瞬間、楯無は簪の動きを見抜き、クロスカウンターの要領で攻撃したのだ。

「....次は...負けないよ。お姉ちゃん。」

「...ふふ、次も負けないわよ。簪ちゃん!」

  楯無が簪の手を取り、二人は仲良くピットへ帰っていった。







       =ユーリside=



「(...よかったですね、簪さん...。)」

  私は改めて仲直りできた二人を見て、ただただそう思いました。

「...次はユーリちゃんの出番だ。」

「...分かっています。」

  桜さんが、緊張している私を落ち着かせるように肩に手を置きます。

「相手の機体名は“ゴルト・シュメッターリング”。通称“金色の蝶”だな。」

「...第三世代のIS...ですよね。」

  姉様も専用機を持っていた。...まぁ、エーベルヴァイン家は結構凄いですから。
  ...中身の質は別ですけど。

「特徴は蝶のように舞うのと、名前に見合った武装がある事だ。」

「...桜さん、説明はそこまででいいですよ。」

  恐らく機体のほとんどを知り尽くしてあるであろう桜さんの説明を、私は止めます。

「...そこからは、私自身の目で確かめます。」

「...いつになく強気だな。」

「私の手で、成し遂げたいですから。」

  母様のためにも、過去の私とは違うと証明するためにも。
  ...ここからは全て、私の戦いです。

「....頑張れよ。」

「はいっ!」

  桜さんに元気よく返事を返し、私はアリーナへと飛び立っていきました。





「...来たわね。出来損ない。」

「ええ。来ましたよ。....母様の名を穢した者を倒すため。」

  かつて、エーベルヴァインの歴史を母様に見せてもらった事があります。
  ...その歴史には、少なくとも姉様みたいな人物は存在していませんでした。

「...由緒正しきエーベルヴァインの血は、私が引き継ぎます!...母様の、エーベルヴァインの名は、私が守って見せます!!」

「思い上がらないで頂戴!出来損ないが!」

  私は変わる。その想いで、大きく宣言をする。
  それと同時に、試合が始まり、姉様が仕掛けてきた。

  鞭型の武装を用いた、舞うような動き。

「...その、程度...!」

  しかしそれを、私は同じく舞う様に躱します。

「あはは!結局避けてばかりじゃない!なら、存分に舞って、そして堕ちなさい!」

「....バルフィニカス!」

  目の前に来た回避できそうにない鞭を、バルフィニカスで切り払います。

「【....言い忘れていましたが、シュテル、レヴィ、ディアーチェ。...今回の戦い、あなた達のサポートはいりません。...私自身の力で勝ちます。】」

〈...了解しました。〉

〈ふむ...良い機会だ。自分だけの力を見極めてみるがよい。〉

  迫りくる鞭を切り払いながら、私は皆にそう忠告しておきます。

〈え~!ボクも一緒に戦いたいよー!〉

〈ええいレヴィ!空気を読まんか!〉

〈...なーんてね。頑張ってねユーリ!〉

  皆、分かってくれているようで、応援してくれました。
  ...これは、ますます負けられませんね!」

「(なるほど。さすが専用機を持つだけはあります。なかなか近づく事の出来ない、近距離も遠距離も対応できる鞭型の武装。....厄介ですね。“普通なら”。)」

  姉様の戦法を見て私はそう評価します。
  ...なにせ、私の身近には“普通”から圧倒的に離れた域にいる人がいるのですから。

「(この程度の攻撃、生身の桜さんの方が強いです!)」

  一度鞭を切り払い、少しの間が出来た瞬間。私は目を瞑り、バルフィニカスを肩に掛けるように持ち、構えます。

「観念したようね!じゃあ、大人しく...堕ちなさい!」

「......。一閃!」

  迫りくる鞭の気配を、荒波のように私は感じ取ります。
  それを、大鎌形態(スライサーフォーム)に変えたバルフィニカスで全て薙ぎ払います。
  “心に水を宿す”。...桜さん達のような本来の使い方はできませんが、限定的な事であるならば、その鞭の攻撃を全て薙ぎ払う程度、造作もありません!

「なっ...!」

「はぁぁあっ!!」

  鞭が切り払われ、動揺した所を一気に接近し、バルフィニカスで切り裂きます。
  ...ただ、エネルギー効率も考え、元の形態に戻していますが。

「っ...調子に乗るんじゃないわよ!!」

「っ...!」

  先程と違い、苛烈な鞭の攻撃が私に襲い掛かります。
  金色の、鱗粉のような物をまき散らしながら鞭を振う姉様。
  “水”の動きが出来ればあっさり躱せますが、今の私では...!

「くっ...!」

「あははは!!ほらほら!」

  バルフィニカスでいくらか切り裂きますが、凌ぎきれずに当たってしまいます。
  ただでさえ、この機体はSEを使う武装ばかりなので、いくらSEが多めでもこのままでは不利になるだけです...!

「(距離を...!そのためにも...!)」

  もう一度大鎌形態に変え、エネルギーの刃を飛ばして炸裂させます。
  それにより生じた煙幕に隠れ、私は姉様との間合いを大きく離します。

「...ルシフェリオン...!」

  その間にルシフェリオンを展開し、いつでも使えるようにします。

「(...バルフィニカスと違って、ルシフェリオンもエルシニアクロイツもエネルギーを使わないと大したダメージがありません。...ですから、ここからは無駄遣いと被弾は避けませんと...!)」

  煙幕を注視し、そこから現れる鞭を認識します。

「っ!」

  横から薙ぎ払われる攻撃を、私は体を横に倒すような動きで躱します。
  続いて縦に振るわれた攻撃も、そのまま回転するような軌道で鞭を躱します。

「(ここからは攻撃を相殺する事は難しい。だから、回避だけで隙を見つけます!)」

  斧のような効果も果たすバルフィニカスと違い、ルシフェリオンは杖です。
  桜さんならバルフィニカスと大差ない攻撃ができるでしょうけど、私には無理です。
  なので、ルシフェリオンで防ぐのはいざという時だけにしておき、回避に集中します。

「(...姉様の鞭の動きは大体わかりました。後は...。)」

  先程までの舞うような動きと違い、今の動きは非常に読みやすいものでした。
  激しさはこちらの方が上ですが、その分読みやすかったみたいです。
  なので、鞭を回避し、間合いを十分に取った所で...。

「パイロシューター!」

「っ!?」

  炎弾を放ち、鞭の動きを阻害します。
  その瞬間、私は瞬時加速を使い、姉様の懐へ飛び込みます。

「焼き尽くせ...!ブラストファイアー!!」

  急いで鞭を私に当てようとしますが、遅いです!
  炎の砲撃が、姉様を呑み込み、地面へと直撃します。

「っ....。」

  ...姉様も代表候補生は伊達じゃないらしく、引き戻していた鞭が当たっていました。
  ですが、今のでだいぶ削れたはずです...!

「.......?」

  ふと、そこで辺りに漂うモノが目に入ります。

「(...金色の...鱗粉...?)」

  そう、それは姉様が鞭を激しく振り回し始めた時から現れていた鱗粉。
  ...そんな鱗粉に、私は途轍もない危険性を感じました。

「.....喰らいなさい!!」

「しまっ....!?」

  先程の攻撃で吹き飛ばされ、鱗粉の範囲外に行った姉様がそう叫びます。
  それと同時に嫌な予感が膨れ上がり、咄嗟に防御態勢を取ります。

  ...瞬間、鱗粉が粉塵爆発の如く炸裂しました。







       =out side=





「ふふ、あはははははは!!!」

  鱗粉による爆発にアリーナが包まれる中、ユリアは高笑いしていた。

「あはは!所詮出来損ないね!あっさりやられたわ!」

  爆発による煙幕を見ながら、ユリアは勝利を確信する。

「ふふ...でも、まだ終わらせないわよ...。私に歯向かった事、後悔させてあげるわ!」

  そう言って、ユリアはおそらく地面に落ちたであろうユーリを探そうとする。
  しかし....。



「【...操縦者の一時気絶を確認。これより白兵戦モードに移ります。】」

「....え?」

  爆風の中からユーリの、しかし機械的な声が聞こえる。

「【SE消耗50%。内、“魄翼”展開に45%。改良を薦める。】」

「な....あ...!?」

  煙が晴れ、ユーリの姿が露わになる。
  だが、その白を基調とした機体は赤く染まり、ユーリの瞳は暗かった。
  そして、その背には赤黒い羽のように揺らめくナニカがあった。

「【対戦相手、ユリア・エーベルヴァインを確認。操縦者の記憶から印象をシミュレート....。個人的怒りにより、これより“八つ当たり”をします。】」

「な、なにを...!」

  機械的に喋るユーリ...いや、ユーリのような“ナニカ”。
  その言葉を一瞬理解できなかったユリアに、ソレは一気に接近した。

「っ...!?くっ...!」

「【遅い。】」

     ―――バチィイッ!!

  接近するソレに、ユリアは慌てて鞭を振うが、“魄翼”によってそれは弾かれた。
  そのまま、機体の手をユリアに翳し...。

「【呑み込め、ブラストファイアー。】」

  先程の砲撃よりも、一回り強力な砲撃が放たれた。

「あああああああああああ!!?」

  炎に呑まれ、叫ぶユリアを冷徹な目で見降ろすナニカ。
  もちろん、そんなユーリの変化をシュテル達が見過ごす訳もなく...。

〈ユーリ!どうしたというのだ!?しっかりせい!!〉

〈ダメです!彼女はユーリではありません!!〉

〈というかアイツにすっごい怒ってるよ!?〉

  ユーリに呼びかける三人だが、反応が返ってこない。

「【....少し、“怒り”が解消された。このまま“八つ当たり”を続行する。】」

〈ええい!いい加減にせぬか!!〉

  痺れを切らしたディアーチェが怒鳴るようにそう言う。
  そこで、ようやく反応が返ってきた。

「【...?AI達による呼びかけ...?....了解した。これより一時気絶させていた操縦者の意識を元に戻す...。】......ぇ、あれ!?」

  色が元に戻り、意識を取り戻したのか、ユーリが驚きの声を上げる。

〈ユーリ!目が覚めたか!?〉

「ディ、ディアーチェ?これは一体...?」

〈...分からぬ。〉

  ユーリにしてみれば、爆発に巻き込まれたと思ったら炎に呑まれたユリアを見下ろしている形になっているのだ。戸惑うのも仕方がない。

「(爆発を受けた瞬間、何か声が聞こえたような...?それに....。)」

  ふと、ISによって表示されてる情報に気になるモノがあった。

「(“自立白兵戦モード”....?)」

  そう、ユーリに見覚えのないシステムだった。
  尤も、その情報のすぐ横には“終了”と書かれており、終わっているのが分かる。

「(...とにかく、今は...。)」

「よく、もぉおおおおおお!!!」

「(姉様を倒す!!)」

  SEがまだ残っていたのか、鞭を振り回しユリアが襲い掛かってくる。

「エルシニアクロイツ。.....“アロンダイト”。」

「っ!?ぁああああああっ!?」

  それを、ユーリは落ち着いてエルシニアクロイツを展開し、一筋の砲撃を放つ。
  それは、ユリアのすぐそばで鞭に当たり、球状の衝撃波が炸裂した。
  ユリアは、あっさりと吹き飛ばされ、ついにSEを削りきられた。

〈勝者、ユーリ・エーベルヴァイン。〉

「...終わりましたね。」

  勝者を告げるシステムアナウンスに、ユーリがそう呟く。
  後味が悪い...と、言うより、謎が増えてしまった。
  そんな戦いの結果に、ユーリはあまり満足ではなかった。

「...とにかく、戻りましょうか。」

  ユーリはピットに戻ろうとし...気絶してなかったユリアに一度振り向く。

「...“出来損ない”に負けた者は、なんて呼ばれるのでしょうね?」

「っ....!」

「...さよならです。姉様...いえ、“ユリアさん”。」

  今までの恨みも混じっていたのか、皮肉を混ぜて、ユーリはそう言った。
  その言葉に対する反応を見る事もなく、ユーリはピットへと戻っていった。









 
 

 
後書き
鞭型の武装…“ケーニギンパイチェ”。伸縮がある程度可能な鞭で、近距離・中距離をこなせる万能武器。乱舞のように繰り出せば、攻防も備える事になる。

金色の鱗粉…ゴルト・シュメッターリングの最大火力。蝶から鱗粉が連想できたので、そんな感じの武装を付けました。名前は“華麗なる爆発(プレヒティヒ・シュプレンゲン)”。...ネーミングセンスは気にしないでください。

今回はここまでです。
次回でちょっと後日談をする予定です。 

 

第28話「金銀転校生」

 
前書き
ラウラ再登場です。
ちなみに前回の戦闘後の話の続きからです。
 

 






       =桜side=



「ふむ......。」

「...あの、どうですか...?」

  キーボードを叩くのを中断し、ユーリちゃんに向き直る。

「...十中八九、“エグザミア”の意志だな。」

「エグザミアの....意志?」

  模擬戦が終わった後、ユーリちゃんは戦闘中の異変をAIと共に報告してきた。
  だから、その解析をしたのだ。

  ちなみに、ユーリちゃんは決別のための戦いをしたので、特に戦闘後での元姉との会話はなかった。...まぁ、これからもないだろうな。

「あぁ、ISコアにはそれぞれ意志が宿ってるのは話しただろう?」

「はい。確か、束さんや桜さんでも干渉する事はできない...と。」

「ISコアの意志は一種の“命”だからな。束に至っては自分の子供を手に掛けるようなものだ。そりゃあ、干渉できないさ。」

  というか、ISコアの“意志”が、どんなシステム干渉をも上回るブロックをするからな。

「...まぁ、そのブロックの堅さが今回は災いして、俺でも原因が分からなかったけどな...。」

「...そうですか...。」

「だが、推測はできる。」

  というか、逆に絞り込めたな。

「原因が分からないと言ったが、それは範囲を狭くして言った場合だ。広く見れば原因は分かっている。...もちろん、それはさっき言った通りISコアの意志だな。」

「なるほど....。」

「....で、あんな事になった原因は...多分、“エグザミア”の特殊性からだろうな。」

「特殊性ですか?」

  エグザミアは番外世代。最終世代ですらないからな。

「AIを搭載したり、他にも色々な試みをしたからな。その分、エグザミアの経験が積まれて、他のコアの意志よりも一線を画した学習能力を備えてるんだろう。」

「....それが、今回のと一体どんな関係が...。」

「...俺の予想ではだけど、ずばりユーリちゃんを護るためだな。」

  尤も、これはISにとっては普通の事なんだけど、今回ばかりは少し違う。

「見れる範囲でデータを見させてもらったけど、あの爆発時、ユーリちゃんの身を案じる様に勝手に武装“魄翼”が展開されている。」

「...あ、ホントです。」

「...で、その後信じられないが、エグザミアはユーリちゃんの経験を読み取ったんだ。」

「経験を...ですか?」

  ...あぁ、こっちの言い方じゃ少し分かりづらいな。

「正確には、記憶を...だな。」

「えっ...!?」

  記憶を読み取られるという事に、やはり驚くユーリちゃん。

「あの行動と、ディアーチェ達が聞いた“八つ当たり”という言葉を照らし合わせると....怒りでも抱いたんじゃないかな。彼女に。」

「.......。」

「ちょっと主であるユーリちゃんを護ろうと表に出たけど、記憶を読んだら思った以上に対戦相手に腹が立ったので憂さ晴らししたって所か。」

「...なんというか、私を想ってくれてるのは分かりますが...恥ずかしいです。」

  まぁ、過保護にされてるとなぁ...。

「ま、そんなとこだ。VTシステム(あの時)みたいな感じじゃないから安心しな。」

「...はい。」

「..あ、一応軽くメンテしておくぞ。」

「あ、そうですか?ありがとうございます。」

  そう言ってユーリちゃんは部屋を出て行く。

【――――。】

「...いや、暴露したのは悪かったって。」

  そこで、なんか滅茶苦茶視線を感じるのでそっちに向けてそう言う。

「...一応確認するが、別に害意はないんだな?」

【―――――――。】

「...そうか。なら、いいや。」

  そう言って会話を打ち切る。...まぁ、いつまでも会話してられないしな。

〈...貴様、今のは...。〉

「まぁ、ディアーチェの予想通りだと思うよ。できれば仲良くしてやってくれ。」

〈...まぁ、貴様がそう言うのならいいが...。〉

「じゃ、メンテしておいてほしい所言ってくれ。」

  この後、ディアーチェ達に指摘された所をメンテしていった。

「(...そういや、織斑の所で引っ越し騒動があったな...。となると明日か?)」

  これから来る“解決すべき事”を思い浮かべつつ、作業は進んでいった。









  翌日、なんか変な噂が囁かれていた。
  どうやら、今月のトーナメントで勝つと、織斑や秋十君と付き合えるとかいう噂が流れているらしい。...噂って怖いな。
  ちなみに、なぜか俺は除外だった。というか、この噂も女子から直接聞いたし。

「(やっぱ男扱いされないか...。もう、諦めようか?)」

  別に、そこまで困ってる訳じゃないし。区別する所はしっかり区別してるからな。

「...噂に流される様って、傍から見ればここまで異様なんですね...。」

「...あー、女尊男卑に流されてた頃の事か...。」

  すぐ近くに来ていたセシリアの言葉にそう返す。

「....というか、噂の発端さん?」

「「「あ、あははは....。」」」

  本音を始めとした、いつもの三人組が苦笑いする。
  ...どうやら、織斑と篠ノ之の話を盗み聞きしていたようで、その事を噂していたらなぜか捻じれて伝わってしまったらしい。

「(....しっかし、相変わらず女子は会話のネタに事欠かないな..。)」

  なにも噂の事だけでない。一部ではISスーツのデザインとかで会話している所もあった。

「あ、そう言えば桜さんのISスーツって...。」

「もちろん、うちの会社のだ。最近は普通に服として着れるのも開発してるっけ。」

  その話題について俺も近くの女子に聞かれたので、答える。
  機能かデザインを優先するとかで派閥があるらしいな。そういや。
  束も、一介の女性だから、デザインには少々気に掛けてるらしいし。

「普通の服でって...結構凄い事じゃない?」

「...まぁ、うちの所はそういうのにチャレンジする傾向が多いからな...。」

  ジェイルさんとか、グランツさんとかな。

「デザインか機能を優先するかでよく揉めるなら、両方兼ね備えていればいいんじゃね?っていうのが、うちの開発スタンスだしな...。」

「でも、そう簡単にはいかないんじゃ?」

「そりゃあな。ま、ISの本来の用途を考えれば優先するのは機能だろう。」

  デザインを優先して宇宙に行った所で...な?

「あれ?そういえばあっきーは?」

「ちょっと四組の方に行ってる。もうすぐ...お、戻ってきた。」

  秋十君が教室の後ろのドアから入ってくる。
  ついでに言うと、前の方からは織斑が入ってきていた。

「ふぅ、間に合いました。」

「遅かったな。何があったんだ?」

  席に座る秋十君に、俺がそう聞く。

「マドカに色々聞かれてまして...。なんか、トーナメントに優勝したら~っていう...。」

「あー、このクラスでも騒ぎになってるな....。」

  ...と、そこで山田先生が入ってきて、ISスーツについて話していた女子にスラスラと説明している。
  やはりちゃんと先生してるんだなと思ったが、またもやからかわれてた。
  ...うん、まぁ、親しみやすいのは分かるが、先生に渾名はやめとけ...。

  まぁ、そんな事があったけど、SHRが始まり、皆席について静かになる。
  千冬が今日から始まる実戦訓練とか、ISスーツの注文とかについて説明する。
  ...だがまぁ、忘れたら水着で、それすら忘れたら下着ってのは...。
  まぁ、忘れなければいい話だし、そんな事にはならないだろう。

「今日はなんと、転校生を二人も紹介します!」

  千冬の連絡事項が終わり、次に山田先生がそう言う。その言葉で少しざわめく。
  少しだけなのは、やはり千冬がいるからだろうな。本来ならもっと騒がしいだろう。
  ...っと、入って来たか。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします。」

  金髪にアメジストの瞳の人物が、()()()制服に身を包み、そう名乗った。
  ...ふと思ったが、それで本当に()()()()れるのか?

「...だ、男子生徒...?」

  女子の一人がそう呟く。...え?誤魔化せれてる?

「「「「きゃぁあああああああーーっ!!!」」」」

「っぇ...!?」

  突如響く歓声に、デュノアもビビる。
  あ、俺と秋十君、あと本音には耳栓を渡しておいた。大体こうなるって分かってたし。

「男子!四人目の男子よ!」

「しかも守ってあげたくなる系の!」

「私、このクラスに入れてよかったー!」

  口々に騒ぐ女子達。...あー、そんなに騒いだら...。

「静まれ!!」

  ...とまぁ、千冬に鎮静化させられるよなぁ...。

「二人いると言っただろう。もう一人が終わっていない。騒ぐのはその後にしろ。」

「で、では、入ってきてくださーい....。」

  さっきの歓声にやられたのか、弱々しく山田先生がそう言う。
  ...で、入ってきたのが...。

「っ....!」

「挨拶をしろ、ラウラ。」

「はい、教官。」

「...ここでは織斑先生と呼ぶように。」

  入ってきて千冬とそんなやり取りをしているのを、秋十君は驚いて見ている。
  ...そういや、知らなかったっけな。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ軍IS部隊“シュヴァルツェア・ハーゼ”隊長。階級は少佐だ。...少々、とっつきにくいかもしれんが、よろしく頼む。」

  お、少し柔らかくなってるな。クラリッサ辺りに助言してもらったのか?
  ...あの副隊長の場合、束みたいに余計な事を教えてそうだが...。

「.....。」

「.....。」

  ラウラと秋十君の目が合う。
  すると、ラウラは秋十君に近寄ってきて...。

   ―――バシッ!

「っ、ふっ!」

「っ、っと!」

  無造作に放たれた張り手を、秋十君は防ぎ、間髪入れずにラウラは殴りかかる。
  ...が、それを秋十君は真正面から受け止めた。

「...ふ、衰えてないようだな。」

「...転校して来たのにも驚いたが、不意打ちもしてくるとはな...。」

「なに、あの程度防げなければ私の好敵手としては成り立たん。」

  どうやら、軽い腕試しだったようだ。
  ...いや、分かっていたけどさ。

「...とりあえず、久しぶり。ラウラ。」

「ああ。久しぶりだな。兄様。」

「「「「兄様ぁ!!?」」」」

  ラウラが言った言葉に千冬含めて全員が驚く。

「...あー、なんで、“兄様”?」

「む?クラリッサからそう呼ぶように言われてたんだが...。」

  ...クラリッサの奴....!おかげでクラス内がカオスに...!

「前と同じで名前で呼んでくれ...。」

「そうか。分かった。」

  秋十君は努めて冷静にラウラにそう言う。
  ...というか、ラウラ。そう言う所純粋だよな...。

「...あー、秋十君。冷静に対処できたのはいいんだけど、少し遅かったみたいだ。」

「.....あ。」

  周りを見れば、勝手な推察が飛び交っていた。
  “もう一人妹がいたの!?”とか“でもドイツ軍に...”とか、色々囁かれている。

「む...?なにやら周りが騒がしいが...。」

「...とりあえずラウラ。クラリッサの言う事は全て鵜呑みにするなよ...?」

「...?よく分からんが、了解した。師匠。」

  ....おい。...おい待て。

「...一応聞いておくが、なんで“師匠”?」

「教官と同じような存在だからな。だが、“教官”は教官だけ。なら、他の呼び方として“師匠”と呼ぶことにした。...なにか問題が?」

  ...一度、常識とか叩き込んだ方がいいか?

「うーむ...あんま俺って“師匠”って柄じゃないけどな...。とりあえず、誤解されなければいいか...。」

  もう遅いけど。周りなんか“兄妹で師弟関係!?”だの騒いでるし。

「ええい、静まれ!!」

  再度、千冬の怒号が飛び、クラスは静かになる。

「この後、着替えて第二グラウンドへ集合、二組と合同で模擬戦闘を行う、解散!」

  静かになった所で、千冬はそう指示する。
  もちろん、モタモタする訳もなく、皆が一気に準備に取り掛かる。

「織斑、篠咲兄弟。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう。」

「了解。」

「じゃ、ラウラ。また後でな。」

「うむ。」

  短く会話をして、俺達はデュノアの下へと駆けよる。

「えっと、君達が...。」

「悪い、挨拶してる暇はないんだ。」

  デュノアは挨拶しようとするが、それを遮って、俺達は廊下へ出る。

「おい!待てよ!!」

「お前は自力で何とかできるだろう!」

  織斑が置いてけぼりになりかけたが、まぁ、放っておく。
  そういや、地味にラウラが織斑に敵意向けてたな。

「ちょ、ちょっと、いきなり急いでどうしたの!?」

「悪いな。俺達男子は使われてないアリーナの更衣室で着替えないとダメなんだ。だから、急いで行かなければ間に合わない。男子同士の交流はまた後だ!」

  口早に説明し、廊下を曲がる。...しかし。

「...さすが...女子ですね...。」

「噂が広まって、既に来ているとは...。」

  上の学年だろうか、女子生徒が大量に押しかけてきた。

「悪いデュノア。少し我慢してくれよ!秋十君!」

「分かってます!」

  デュノアを抱え、所狭しと押しかけてくる女子生徒の間を抜けて行く。
  “心に水を宿す”事で、大量の人の合間をすり抜ける事が可能になる。
  まぁ、流れに合わせて動いているから当然だな。

  秋十君も少し離れてはいるが、順調に抜けているようだ。
  ...織斑は...まぁ、犠牲となったのだ。

「うわ!?うわわわ!?」

「(ちっ...さすがにデュノアを抱えては厳しいか...なら!)」

  人一人を抱えて人の波を抜けるのは厳しかったので、俺は跳躍する。
  そして、窓の縁があるので、そこに手を掛け、壁を蹴って加速する。

「きゃぁっ!?」

「ちょっと失礼...と!」

  スピードを上げて着地しようとしたため、着地地点の女子が反射的に避ける。
  まぁ、これを狙っていたしな。
  そして、着地と同時にしっかりと踏み込み、一気に跳躍。大量の女子を跳び越える。

「え、えええええっ!?」

「桜さん!」

「おー、秋十君。抜けて来たか。」

  驚くデュノアを余所に、追いついてきた秋十君にそう声を掛ける。

「...よし、時間はまだあるな。デュノア、あっちのロッカーで着替えてくれ。」

「あ、うん。」

「急げよー。遅れると出席簿が振り下ろされるからな。」

  そういう訳なので、俺達もさっさと着替える。

「と、所で織斑君は?」

「....逃げられなかったか。」

「普通に置いて行きましたよね?」

  はっはっは。なんのことやら。(棒)

「...あ、そういえば、どうしてデュノアだけあっちに?」

「いやぁ、デュノアってなんか同性にも着替えを見られたくなさそうな感じがしたから...。」

  そう言って誤魔化す。...我ながら変な誤魔化し方だな。

「いや、それなんて偏見...。」

「ちなみに実際のとこどうなんだー?」

「え、ええっ?えっと...合ってる、けど。」

  デュノアにとってはちょうどいい“設定”だったのか、肯定する。
  いや、案外本当にそうかも...。

「(ま、いいや。)」

  とりあえず、皆が服の下に着ていたので、すぐに着替え終わる。
  そのまま急いで第二グラウンドまで向かった。

「お前ら!よくも置いて...って、待て!」

  向かう際に何か聞こえたけど気のせいだ。
  だからデュノア、申し訳なさそうに振り向いたってなにもないぞ?

「(...まさに外道...。)」

「何か言ったか?秋十君。」

「いえなにも。」

  秋十君が何か言った気がするけど、まあいいや。







     ―――スパァアン!!

「遅刻だ馬鹿者。」

「す、すいません...。」

  案の定、織斑は遅れた。

「...本日から実習を開始する。」

  千冬がそう言うと、全員が少し緊張した面持ちで返事をする。
  ...まぁ、“実習”だからな。

「まずは戦闘を実演してもらう。鳳、オルコット。」

「「はいっ!」」

「専用機持ちなら、すぐに始められるだろう。前に出ろ!」

  千冬に呼ばれた二人は、まるで見世物みたいに思えるらしく、乗り気ではなさそうだ。

「まったくお前ら...少しはやる気を出せ。」

  それに千冬は呆れながらも、何かを囁く。
  ...おい、絶対碌でもない事吹き込んだだろ。二人共いきなりやる気になったぞ。

「現金な奴らめ...。慌てるな、お前らの相手は...。」

  千冬がそこまで言った瞬間、上から叫び声がする。
  ...あー、そういえば山田先生、ここにいなかったな。

「というか、先生が墜落するのってありか?」

  そう呟きつつ、他の皆を護るためにもISを展開して受け止める。
  ...躱す・いなすだけなら生身でもできるんだがな...。

「あ、ありがとうございます...。」

「...ふと思うんですが、本当に元日本代表候補生ですよね?」

「....はい...。」

  千冬から齧った程度にしか聞いていないが、どうやら山田先生は慣れない事をしようとすると、テンパってとんでもないミスをやらかしてしまうそうだ。
  織斑の入学試験の際は壁に突っ込んで自滅していたらしいし。

「...まぁ、次は慣れた事でしょうから、しっかりしてください。」

「...すみません...。」

  ...先生が生徒に謝るって...いや、俺のが年上だけどさ。

「...先生、もしかして...。」

「ああ。お前らの相手は山田先生だ。...安心しろ。今のお前らなら負ける。」

  そう言った千冬に、さすがの二人もカチンと来たらしい。
  ISを展開していつでも戦えるようにする。

「では、行きますよ!」

  山田先生がそう言って、戦闘が始まる。

「ついでだ。デュノア、山田先生の機体について説明しろ。」

「あ、はい!」

  千冬がそう言い、デュノアが説明する。
  さすがに自分の国が開発した機体なだけあってか、詳しい上に分かりやすかった。

  ...と、そうこうしている内に、鈴とセシリアが落ちてきた。
  やはり負けたらしい。

「(まぁ、面白いぐらいに誘導させられてたからなぁ...。)」

  山田先生は射撃系らしく、鈴を接近させなかったり、セシリアの射撃をあっさりと読んで躱したりと、実にお手本らしい戦い方だった。
  おまけに最後は二人の機体をぶつけさせてそこへグレネードでトドメだし。
  まぁ、良い所を見せたかったんだろう。

「...とまぁ、このように、技量さえあれば量産機でも専用機持ち二人に勝つこともできる。以後、教師にはしっかりと敬意を持って接するように。」

  実は凄かった山田先生に驚いている生徒たちに、千冬がそう言う。
  何気に山田先生の事気にしてたんだな。

「では、専用機持ちをリーダーにして、各自訓練を始めてもらう!」

  そして、その言葉を合図に、女子達が男子(主に秋十君、織斑、デュノア)に集まる。
  俺?本音とかいつも喋ってる面子だけだな。
  どうやら男としての人気はそこまで高くないらしい。どうでもいいけど。

「(というか、ちゃんと散らばってないと...。)」

「この馬鹿者共が!出席番号順に均等に別れろ!」

  案の定千冬の怒号が響き渡り、皆は慌てて均等に別れた。

「皆均等に分かれてればねぇ~。」

「怒られる事もなかっただろうな。...というか、本音はそのままここか。」

「そうだよ~。」

  のほほんとした雰囲気に、俺も少し力が抜ける。
  だが侮ること無かれ。こう見えて一般男性程度なら即座に倒せる技量の持ち主だ。

  ...まぁ、それは置いといて。どうやらいつもの三人組の他二人は別らしい。

「それじゃあ、始めるぞ。」

「おっけ~。」

  本音の雰囲気に当てられたのか、ここのグループは結構緩い雰囲気で行われた。









 
 

 
後書き
中途半端ですがここまでです。(切るところが見つからなかった...。)

とりあえずシャルとラウラの登場回です。
既にラウラの件は解決しており、シャルについても桜が....?
まぁ、ラウラはラウラで一夏とのやり取りがありますけどね。 

 

第29話「交流」

 
前書き
一夏と箒を出せない...。ぐぬぬ...。
まぁ、ラウラが来たので少しは絡ませやすくなるはずです。(ラウラから絡むので)
 

 




       =秋十side=





  実践訓練が終わり、ロッカーで制服に着替える。
  織斑は今度は遅れないように既にそそくさと着替えて行ってしまった。

「お疲れ。どうだ?いきなり実践訓練...しかも教える側だったけど。」

「教えるのって初めてだったけど...まぁ、いい経験だったと思うよ。...いきなり連れられて初めての授業が実践訓練なのは驚いたけど。」

「あー、悪い...。」

  連れまわしたのは俺達の都合だからな。
  ...と言っても、悠長な事やってたら遅れるから仕方ないんだが。

「んー...でも多分、今日中に俺達男子同士で交流ってのは難しいぞ?」

「え?どうして?」

「そりゃあ、転校してきたんだし、昼休みも放課後もいろんな女子に迫られるだろうしな。さすがに全てを俺達で対処するのは無理だし。」

  いくら既に三人いたからって、男子の転校生は珍しいからな。
  どう考えても引っ張りだこだろう。

「.....?」

「...自覚ないのか?さっきだって大量の女子に押し寄せられただろう?それが昼休みや放課後にも来るって事だ。」

「....あ、ああっ、そ、そうだよね...。」

  ...うーん、なんか違和感が...。
  こうなる事が分かりきってるはずなのに、ここまで自覚がないなんて...。

「(...気のせいか?)」

  多分、天然な所でもあるのだろう。

「さすがに明日の昼になればある程度落ち着くだろうし、その時に交流しようぜ。」

「うーん...機会がないならしょうがないね。そうするよ。」

「なら、せっかくだし皆も集めて交流しようぜ。ラウラも転校してきたんだし。」

  ...と、いきなり桜さんが会話に入ってきた。
  まぁ、今まで喋らずに会話を聞いてただけなんだけど。

「そういえば彼女と知り合いなの?」

「...まぁ、以前にちょっと会う機会があってな。」

  さすがにテロ紛いな事をしたとか言える訳がないので、無難な答えを返す。

「じゃあ、明日は弁当だな。」

「久しぶりに腕を振えますね。」

「だな。」

  自分で言うのもなんだけど、料理には自信がある。
  桜さんも無駄に女子力の高い料理ができるからな。

「...と、時間もやばいし、もう行くぞ。」

「あ、うん。」

  とりあえず、放課後辺りにラウラやマドカ達も誘わなきゃな。







「お、ラウラ。」

「む、兄様か。」

  また“兄様”...。もう、別にいいか。

「どうしてラウラがここに?」

  ちなみに、今俺がいる場所はアリーナだ。しかも放課後の。
  他にも桜さんや四組の皆もいる。後、同じようにアリーナを使ってる人もいるな。

「IS学園がどういう場所か実際に見て回りたくてな。ついでにアリーナを使わせてもらおうと思ってここまで来た訳だ。」

「なるほど。」

  ...と言っても、軍人のラウラには生温いとしか思えないけどなぁ...。

「ラウラさん、お久しぶりです。」

「む、ユーリか。やはりこの学園にいたか。」

「はい。私は四組ですけど。」

  ユーリも久しぶりに会ったラウラに挨拶をする。

「ユーリちゃん、四組代表なの言い忘れてるよ。」

「あっ、そ、そうでした...。」

「ほう...代表か...。」

「お、お恥ずかしながら...。」

  顔を赤くしながらユーリはそう言う。...まだ恥ずかしいのか。

「....ねね、秋兄、彼女は...。」

「あ、マドカは知らないんだっけな。」

  そういえばマドカはドイツの時、同行していなかったのを思い出す。

「ん?お前は....。」

「紹介するよ。こいつは俺の妹のマドカ。で、以前ドイツに行った時に、知り合ったラウラだ。」

「あー、あの時の。」

  あの時は会社でやる事があったからマドカは来れなかったからな。

「ふむ...ほう...。」

「...へぇ...。」

  対峙するように向き合い、二人はそんな声を漏らす。
  ...なんだ?一体、なんのやり取りを...。

「...なかなかやるな。」

「そっちこそ。さすが軍人だね。」

  そう言って二人は握手した。

「...なんですか?今のやり取りは...。」

「いやぁ、秋兄の事を“兄様”って呼んでたから、どんな人物かなって...。」

「眼をよく見ればどういう人物かはよく分かる。」

  早速意気投合しているみたいで、ユーリの質問にそう答える。
  ...なるほど、さっきので互いの事を理解したんだな。...なんだそりゃ。

「まぁ、それを抜きにしてもマドカは強い。どういう経験を積んだかは知らんが、兄様とはまた違う強さを持っているな。」

「何気に私だとマドカさんに勝てたことないほどですから...。」

  マドカは亡国機業にいたからな。
  一応、両親が鍛えておいたから大丈夫だったらしいけど、結構修羅場もあったらしい。

「...っと、そうだ。ラウラ、よかった明日の昼、皆で昼食を食べないか?」

「...?別にいいが...食堂でか?」

「いや、弁当だ。」

  どうやら一緒に食べる事には乗り気らしい。

「ふむ...弁当とやらを作った事がないのだが...。」

「それなら俺達でラウラの分も作っておくさ。」

「そうなのか?...なら、それで頼む。」

「ああ。」

  ラウラなら普通の弁当ぐらい作れそうなんだけどな...。軍人だから機会がないのか?
  ただ単に“弁当”が作れないだけで飯は作れるだろうけど。

「しかし、なぜ一緒に?嬉しいが...。」

「いや、結構大所帯になるからな。できればその時に交流してもらいたいと思ってな。」

「なるほど。確かに、交流を持つことはいいな。」

  決まりだな。そういう訳で、ラウラも参加する事に決定した。

「...ところで師匠は...。」

「え...?あれ!?いつの間に!?」

「桜さんなら冬姉に連れて行かれたよー。」

  いつの間にか消えていた桜さん。
  どうやら、マドカ曰く千冬姉に連れて行かれたらしいけど...。

「...まぁ、桜さんならどうとでもなるか。」

「そうだね。」

「...二人共、なかなか言うな。同感だが。」

  だって、桜さんだし。
  ...そういえば、簪は全然会話に入り込めてなかったな。人見知りか?

「では、私も兄様たちに少し付き合うとしよう。」

「おう、いいぞ。」

  桜さんは桜さんで置いておいて、俺達はラウラとISの特訓に励んだ。







       =桜side=



「...で、聞きたい事は大体察してるが...。」

「ああ。ラウラの事だ。」

  千冬にいきなり連れてかれた俺は、人気のない所でそう問われる。

「ちょっと束の頼みに付き合った時に遭遇してな。千冬も知ってるだろ?ラウラの出自。」

「...ああ。」

「そのラウラと同じような存在が、うちにもいたから束が気に掛けてな。それでなんかISに仕込まれていたVTシステムを破壊すると同時に、交流もしたって訳だ。」

「VTシステムだと...!?」

  違法のシステムがラウラのISに組み込まれていた事に、千冬は驚く。

「...いや、それよりも、ラウラにはあの時の私の影響を受けていたはずだが...。」

「まぁ、そこは秋十君が解決したさ。俺が援護したとはいえ、VTシステムで再現された“暮桜”に勝ったんだぜ?」

「...そうか...。」

  一先ず安心と言った表情をする千冬。

「話はそれだけか?」

「ああ。なぜ知り合いなのか少し聞きたかっただけだからな。」

  そう言って去っていく千冬。

「...もうしばらくしたら秋十君に負けるかもな!」

「...ふ、その時は私もまた強くなっている。まだまだ負ける気はせん。」

  ...あー、確かに。この感じじゃ、まだまだ先かな。
  ...まぁでも、秋十君はそれでも追い付いてくるだろう。









「....これまた、大所帯だな...。」

  翌日の昼。予定通り皆で昼食を屋上で食べる事になったんだが...。

「...ちっ。」

「だ、ダメだったかな...?」

  なんか舌打ちしている織斑と、申し訳なさそうなデュノア。

「いや、いいんだけどな。」

  デュノアはデュノアで、ルームメイトになった織斑を誘っていたようだ。
  織斑も篠ノ之を誘っていたし、俺達もいくらか呼んでいる。

「...何気に代表候補生が何人も集まってるわね...。」

「イギリス、中国、フランス、日本、ドイツ...ある意味国際交流ですわ...。」

  鈴とセシリアがそう言う。...確かに、代表候補生が多いな。

「あー、ロシアもいるぞ?」

「えっ?」

  簪が聞き返すような声を無視して、物陰に行き、あるモノを掴む。

「あ、ちょっと!ねぇ!」

「お、お姉ちゃん....。」

「コソコソ見ずに混ざればいいだろ...。」

  そう、物陰にいたのは生徒会長。なんで隠れてたのかは知らんが。

「せ、先輩にこの扱いはひどくない!?」

「年齢なら俺の方が上だ。それと、なんか敬う気にならん。」

「ひどい!?」

  生徒会長の登場と俺のやり取りに、デュノアや織斑、篠ノ之が呆然とする。
  ラウラはラウラで、生徒会長に対してどんな人物か探っていた。

「こいつは二年のロシア国家代表でな。生徒会長もしている。今の会話の通り、簪ちゃんの姉だ。」

「先輩だったのか。それも国家代表...。」

  “やはり第一印象では実力は分からんな”と言っているラウラ。
  ...こう見えて、生徒でもトップクラスのISの実力者なんだよな。

「とりあえず、改めて自己紹介でもするか?あ、でもラウラとデュノアは転校時に自己紹介したっけな。」

「ちょ、ちょっと、それは一組だけで、あたし達は聞いてないわよ?」

「っと、そうだったな。じゃあ、二回目だが頼む。」

  と言う訳で、一組以外の皆に、ラウラとデュノアが自己紹介する。

「じゃ、次はあたしね。あたしは鳳鈴音。中国代表候補生で、二組の代表でもあるわ。皆は“鈴”って呼ぶし、二人もそう呼んでもらえるといいわ。」

「中国...確か不可視の砲撃を開発していたな。」

「ええ。今度、試してみる?」

  ラウラが“龍砲”の事を言い、鈴が模擬戦でもするかと聞く。

「...いや、今度のトーナメントに取っておこう。」

「そう。」

  どうせなら初見で戦ってみたいのだろう。
  そういう訳で、次に移る。

「ラウラさんとは既に知り合いなんですけど...ユーリ・エーベルヴァインです。」

「私は篠咲マドカ。名前から分かる通り、秋兄の妹だよ。」

  次に、ラウラとは知り合いだけど、デュノアは知らないため、ユーリちゃんとマドカちゃんが自己紹介をする。

「更識簪...日本代表候補生で、目標はお姉ちゃんを超える事。」

「あら?大きく出たじゃない?」

  次に簪ちゃんが自己紹介。ついでに目標も言った。
  その目標に嬉しそうにする生徒会長。

「そういえば、あの時にもいたな。」

「あれ?既に会ってたの?」

「うん。でも、ちょっと会話に入れなかったから...。」

  ラウラを誘う時にいた事を、ラウラが思い出し、簪がデュノアの言葉に答えるように補足する。
  あー、蚊帳の外にしちゃってたか。

「次は私ね。私は更識楯無。ロシア国家代表で、生徒会長もしているわ。それと、簪ちゃんの姉でもあるわ。...まぁ、さっき言われた通りね。」

「ついでに言えば、簪ちゃんに対してだけコミュ障になるヘタレでもある。」

「ちょっと!?」

  俺が補足を加えると、生徒会長は見事な突っ込みを放ってきた。もちろん避ける。

「事実だろー?」

「うぐっ....。」

「否定しないんですか!?」

  まさか否定しない事にデュノアが驚く。
  ...自覚はあったんだな。

「...ところで、他の皆は既に知り合ってるかもしれないけど、一組の人達については僕もまだ知らないんだけど...。」

「あ、悪い。そうだったな。俺達だけが一方的に知っててもな...。」

  デュノアの一言に俺がそう言う。
  そうだよな。なんで皆気づかなかったんだろうな。

「じゃ、改めて...篠咲桜だ。マドカちゃんと秋十君の兄でもある。ちなみに、女にしか見えない容姿と名前だが、れっきとした男だからな?」

「篠咲秋十だ。さっき桜さんが言った通り、マドカの兄で、桜さんの弟だ。」

  俺と秋十君が自己紹介をする。

「...ちなみに似てない事から大体察せるが、義理の兄弟だからな?」

「あ、そ、そうなんだ。」

  どこか疑問に思っていたデュノアにそう言っておく。

「次は私ですわね。私はイギリス代表候補生セシリア・オルコット。よろしくお願いいたしますわ。」

「こちらこそ。」

  次に淑女らしくセシリアが挨拶をする。
  男に対する偏見がなくなったからか、貴族らしい雰囲気が出せるようになってるな。

「...シャルルにはもう自己紹介してるが...織斑一夏だ。」

「っ!」

  織斑の自己紹介に、突然立ち上がるラウラ。

「...そうか...貴様が...。」

「ラウラ?なにを....。」

     ―――パァアン!!

  秋十君が聞こうとした瞬間、ラウラが思いっきり織斑を引っぱたく。
  相当力を込めたみたいで、織斑は吹き飛ばされるように倒れこむ。

「貴様が...教官と兄様の人生を狂わせた元凶か...!!」

「ぐ...!な、なんだよ...!」

  文句を言おうとした織斑だが、ラウラに胸倉を掴まれる。

「貴様!一夏に何をする!!」

「ええい!邪魔をするな!」

  織斑を殴られたからか憤り掴みかかる篠ノ之だが、軍人でもあるラウラに受け流される。

「落ち着け!」

「ぐっ...!?」

  さすがにこの場で色々やられると困るので、俺が首を叩いて気絶させる。

「.......。」

「な、なんだよ!」

「...自業自得だからな?」

  織斑を見下ろ形で一瞥し、一言そう言ってからラウラを寝かせる。

「い、一体なんで突然...。」

「...ちょっとした事情があるんだ。」

  デュノアにとっては戸惑う出来事だっただろう。
  簪ちゃんとセシリアも驚いているが、他の皆は大体事情が分かっていた。

「事情...。」

「...知りたかったら俺の部屋に来なよ。その時はお互いに腹を割って話そう。」

  さすがに踏み込んだ事だから、そう釘を刺しておく。
  それでも聞きに来た場合は...まぁ、その時だな。

「さて、肝心の昼食がまだだからな。さっさと食うぞ。時間もないし。」

「う、うん。でも...。」

  皆気絶しているラウラが気になるようだ。
  ...仕方ない。

「そいっ!」

「っ、はっ!?」

  ちょっとした気つけを行い、ラウラを起こす。

「わ、私は...。」

「まぁ、暴走したくなるのは分かるが、少しは落ち着け。」

  ゆっくりと起き上がるラウラに俺はそう言う。

「だが...!」

「...俺達に任せろ。いいな?」

「っ..!....分かった...。」

  少し凄んで言うと、ラウラは大人しくなった。

「さ、急がないと時間がなくなる。さっさと食うぞ。」

「あ、ああ。」

  俺がそう言えば、ラウラはいそいそと弁当を出す。もちろん、俺達も出す。
  ちなみに、ラウラは以前の時に弁当とかの作り方を教えてある。

「あの、さすがにこの空気で昼食の流れに持っていくのは...。」

「こういうのは無理矢理にでも持っていかなきゃならんぞ。...というか、昼にしっかり食べておかないと午後の授業に耐え切れないぞ?」

  セシリアが気まずそうにしていたので、俺がそう言っておく。
  普通の学校なら我慢すれば大丈夫だが、IS学園は実践する授業とかあるからな。
  しっかりエネルギーは摂っておかないと倒れてしまう。

「そ、それもそうですわね...。」

「そういう訳で...っと。」

  鞄から取り出した弁当箱を開ける。

「...あんた、随分と女子っぽい弁当ね...。」

  そんな俺の弁当の中身を見ていたのか、鈴がそう突っ込んでくる。
  ちなみに、俺の弁当はよく女子とかが持ってくる可愛らしい感じの奴だ。

「いや、だって見た目に合わないだろ?」

「そんな事言ったら口調も合ってないわよ!?」

  む、確かにそうだな...なら。

「...だからって口調変えないでくださいよ?」

「これで...って、読まれてた!?」

  口調を変えようとしたら秋十君に止められた。

「というか、その弁当もネタで作ってきましたよね?」

「ばれたか...。」

「そりゃ、いつも一緒にいますし。」

  まぁ、元々ばれるとは思ってたけどな。

「...それにしても、これって自分で...?」

「ああそうだぞ?」

  デュノアが聞いてきたので、俺は肯定する。

「...負けたわ...。」

「ははは、伊達に年は食ってないさ。女子にだって料理は負けんぞ?」

  まぁ、10年以上俺は眠ってたがな!
  ...あれ?それってつまり、経験は鈴とかの方が上?...どうでもいいか。

「あ、あの、桜さん、よかったらこれを...。」

「ん?...サンドイッチ?」

  徐にセシリアが差し出したのは、サンドイッチが入ったバスケットだった。

「...何分、料理は初めてでして、簡単な物で自信もないのですが...。」

「そうなのか?まぁ、アドバイスがあれば言うわ。」

  そう言って、一つ手に取って食べる。
  っ!?これは....!?

「...あー、材料間違えたな。これは。」

「そんな!?....っ、甘い...ですわ...。」

「マヨネーズと間違えて何か...これは生クリームだな。ま、それ以外は問題なしだな。」

  何故間違えたかは問わないでおこう。

「も、申し訳ありませんわ!これは、責任もって私が...。」

「いや、別に食ったら体壊すって訳でもないし、俺が食ってしまうさ。」

「で、ですが!」

  恥ずかしさや後悔で俺を引き留めようとするセシリアだが、構わず俺は食べる。

「...私の時もそうでしたよね...。」

「そりゃあ、誰だって最初から料理が作れる訳じゃないからな。それなのに辛辣に扱うなんてする訳ないだろ?」

  ユーリちゃんの言葉にそう答える。...というか...。

「...俺、失敗料理の頂点を知ってるからさ...。」

「...一体どんなのなんですか....。」

  あまりに深刻そうな顔をしていたのか、呆れながらも秋十君が聞いてくる。

「...そうだな。言い表すとしたら、混ぜるな危険を混ぜた化学薬品...って所か。」

「例えが食べ物ですらない...。」

  あれは死ぬかと思った。まだ小学生ですらなかったからな。
  ...ちなみに作ったのは束だ。千冬なら少なくとも食べ物だった。

「そ、それ、食べて大丈夫だったの...?」

「....確か、気絶して...綺麗な花畑?いや、川だったか?それが見えた気がするな。」

「ちょ、それって...。」

「...思い返せば、どう考えても三途の川だな。」

  良く生きてたなぁ...。
  ちなみに、それ以降は束もテキトーに作るのはやめたらしい。
  まぁ、“既存のレシピで作りたくない!”って言った結果がアレだったしな。

「結局、その料理はどうしたんですか?」

「確か、俺は気絶してたから分からんが、業者を呼んで処分してもらったらしい。なんでも、こぼれた料理がテーブルを溶かし始めたからな。」

「...それ、ホントに料理だったの?」

  ....ん?なにか、兎の気配が...。

「...と、この話はもう終わりだ。そろそろ当事者が何かしてきそうで怖いからな。」

「当事者....って、まさか...。」

  遠くを見据える俺に気付いた秋十君が、戦慄する。
  ...それにしても、束の奴聞いていたな...?悪寒がしたぞ?

「(...って、こんな所に盗聴器が...。)」

  俺でも気づきづらい所に盗聴器が付けられていた。

「さ、そろそろ急いで食べないと時間もないぞ?」

「って、そうだったわ!」

  俺の言葉でハッとした皆が急いで食べて行く。
  ちなみに、セシリアには失敗料理の代わりに俺のを分けて置いた。

  ....そういや、織斑と篠ノ之、蚊帳の外だったな。







   ―――...さて、そろそろ動くか。







 
 

 
後書き
この頃は勢いで書いてます。(その勢いすら衰えてますが)
VTシステムの件は既に解決してるので、どうやって進めていくか...。
まぁ、タグ通り無理矢理な展開になります。(今更) 

 

第30話「デュノア」

 
前書き
今更ですけどこの小説、処女作(同時進行中)より読んでいただいている人が多いんですよね...。
...作品の差か(なお五十歩百歩)。
 

 




       =out side=



「....くそっ...どうなってやがんだ...!」

  誰も居ない寮の一室。本来ならいるルームメイトもちょっとした野暮用で今はいない。
  そんな部屋の中で、一夏は壁に拳を当て、唸っていた。

「シャルがあいつらと交流したのは特に問題ない。ルームメイトにもなったし、普通にまだ“転校生”として行動してるだけ...だが!」

  歯軋りし、思い浮かべた人物を睨むように前を見据える。

「ラウラのアレはどういうことだ!?俺が殴られたのはまだいい。...なんであいつらと知り合いなんだよ!!」

  吠える様にそう吐き捨てる。

「あいつらめ...!とことん俺の邪魔をしやがって...!」

  自分の思い通りにならない事に一夏は憤る。
  ...尤も、桜たちの目的がそれだから仕方のない事なのだが。

「いつの間にか洗脳も使えなくなっちまってるし...。くそっ、なんなんだよ!!」

  彼は思い出す。今までどんな事をやってきた..いや、どんな事が出来ていたのかを。
  千冬や束を始めとした女性を洗脳し、好き勝手をしてきた。
  しかし、この学園ではほぼ全てが自分の思い通りになっていなかったのだ。

「俺が主人公だ!俺が一夏なんだ!モブでもイレギュラーでも転生者でも!全部俺に従えよ!くそが!!」

  喚き散らすように叫ぶ一夏。
  ...だが、現実は非情である、
  元々、自分の欲望の赴くままに悪事をしてきたのだから、因果応報とも言える。





   ―――....だが、二人の復讐はその程度では終わらない。











       =桜side=





「...いやはや、滑稽だねぇ。」

「..?なに見てるんですか?」

「いんや、何も。」

  ちょいと仕掛けておいたカメラ&マイクで拾った織斑の映像と音声を聞いていたら、秋十君が話しかけてきた。

「(てめぇの思い通りなんざさせねぇよ。...地獄を味わえ...ゆっくりと...な。)」

  俺の幼馴染や、秋十君の大事な友達、家族の“心”を惑わしたんだ。
  ...それ相応の覚悟はできているよな?...まぁ、出来ていなくても変わらないがな。

「(...しっかし、彼女には辛い役目押し付けてしまったなぁ...。“原作”通りだから彼女になるのは仕方ないが...また愚痴に付き合ってやるか...。)」

  ま、本気で嫌がるなら俺も束も対策するけどな。

「さて...そろそろか。」

「...?なにがですか?」

「いや、ちょっとな。」

  俺の呟きに聞いてくる秋十君だが、適当にはぐらかす。
  .....来たか。

「えっと...入っていい?」

「おう。いいぞー。」

「へ?デュノア?」

  ノックの音と共にデュノアの声が聞こえたので、ドアを開けて招き入れる。

「よっ。よく来たな。」

「あの...話ってなに?」

  いきなり呼んだようなものだったので、デュノアは戸惑っている。

「ちょっとした事だ。ほら、そこでいるのもなんだから、こっち来て座れよ。」

  とりあえず中の方に招き、ベッドに座らせる。
  そして、俺は正面に椅子を置いてそこに座る。
  秋十君もデュノアの隣に座った。

「なぁ、デュノア。同じ会社としてデュノア社について調べてみたんだけど、ちょっと経済危機に陥ってるらしいな。」

「えっ?あ、うん。第三世代開発のイグニッションプランから外されて、世界に遅れないようにしているんだけどね...。」

  少し...それこそ俺達のような規格外な存在でなくとも、調べれば分かる事だった。
  第二世代のラファールじゃ、会社を支えるのに限界が来ているからな。

「それで、物は相談なんだが...うちの会社に異動しないか?()()()()()()。」

「えっ!?」

「.....?」

  俺の言葉に、驚いたような声を上げるデュノア。
  ....っと、秋十君は気づいたみたいだな。

「そ、それはできないよ!そんなの、独断で決めれないし、会社を見捨てる真似なんて...。」

「....家族間のしがらみから解放されるとしてもか?」

  否定しようとしたデュノアにそう言うと、()()は固まった。

「シャルル・デュノア。フランスの代表候補生にして、四人目の男性操縦者。...そんな人物は存在しない。」

「な、なにを....。」

  しらばっくれても無駄なのにな。
  ...秋十君が蚊帳の外になってるけど、まぁ後で説明しとくか。

「今の社会じゃ、華奢なままでも男装するだけでほとんど騙せるけど、一部はそうはいかないんだよ。...実際、千冬も生徒会長も気づいていた。他にも違和感を持ってる生徒ならそれなりにいたな。」

「.......。」

  目が泳いでいる。おそらく、何か言い訳を考えているのだろう。
  だがまぁ...。

「...さっき気づかなかったか?本名で呼ばれた事に。」

「っ....!?ぁ...!?」

  思いだし、言葉を失うデュノア。

「男として入学し、俺達男性操縦者のデータを盗むよう、指示されたんだろ?」

「....そう、だよ...。」

  諦めたようにデュノアは俺の言った事を認める。

「...どうやって、ボクの目的を知ったの?」

「俺一人でもすぐ分かる事だったが...教えて貰ったんだよ。お前の父親に。」

「....えっ?」

  まさか親に真実を教えられていた事に驚きを隠せないデュノア。
  ...まぁ、当然だよな。指示した本人がばらしたも同然だし。

「....実質、デュノアが俺達のデータを盗んでも、意味がなくなるんだよな。...だって、ある程度ならいつでも...とまでは言わないが、必要なら見れるようになるし。」

「え....え?」

  俺の言う事が理解できないのか、戸惑う。

「俺、情報を聞かされた時、なんて言われたと思う?“娘を頼む”だってさ。」

「ぁ....。」

  ペラペラと喋っていく俺を余所に、ようやく合点が行ったのかデュノアも目尻に涙が溜まってくる。

「...ホント、不器用な父親だ。笑っちまうよ。....だが、だからこそ好感も持てた。」

「お父...さん....。」

  感動してるとこ悪いけど、言う事言ってしまわないとな。

「それで、どうする?俺達の会社に入るか、父親の不器用な優しさを蹴ってまで独房に入るか。どっちを選ぶ?」

「...卑怯な聞き方だね。選ぶ余地なんて、ないよ...。」

  そう言って俺の提案を飲むデュノア。

「...でも、それだとお父さんは...。」

「ああ。無事では済まないだろうな。」

  元々、アウトな事を仕出かしたし、それを自分から暴露するつもりらしいからな。

「だから、こうする。」

「えっ?」

「あっ....。」

  俺がスマホを取り出して連絡を取り始めた事にデュノアは疑問符を浮かべる。
  ...秋十君は察してしまったらしい。

「もすもすひねもす~?」

【ああっ!?それ束さんのセリフだよ!しかも態々声真似したー!】

  束の声真似をしながら束に電話を掛ける。
  電話の返事として聞こえてきた声に、デュノアは固まった。

「あー...やっぱり...。」

「あ、あああ、あれってもしかして...!?」

「...そうだぞ。世間で騒がれてるISの創作者、篠ノ之束さん。こっからさらに驚く事になるかもしれないから、落ち着けよ。」

「さ、さらに驚くって...。」

  慌てるデュノアを落ち着かせようとする秋十君。
  ...なんか遠い目をしてるのは気のせいかな?

「頼んでいたのはできているか?」

【もちろんだよー。いつでも潰せるよ!】

「そうか。...っと、取り込む人材をリストアップしておいたから、送るぞ。」

【オッケー。】

  片手で端末を操作して、束にデータを送る。
  ...ちなみにこれは、デュノア社内のまともな奴をまとめたリストだ。

「不穏...不穏だよ!?」

「あー...もしかしてこりゃ、デュノア社終わったかも...。」

  外野がちょっとうるさいなぁ...。まぁ、普通に考えたら驚愕モノだけどさ。

「元凶はデュノア夫人なのは分かってるからな。そこから潰していく算段だ。」

「...あの...貴方は一体...?」

  恐る恐るデュノアがそう聞いてくる。
  ...答えてやるか。

「俺は篠咲...いや、神咲桜。ちょっと訳ありだが...束とは幼馴染だ。」

「おさっ...!?」

「あ、見た目が似てるのは偶然だからな?」

  敢えて本名を名乗っておく。これからの事を考えれば知っていても問題ないしな。

「....でも、どうして、わざわざこんな事を...。」

「んー?まぁ、理由なんてあってないものだけどさー。うちら天才ってのは気まぐれな奴が多いみたいなんだよ。俺や束もその一員。...今回は、その気まぐれで救われたとでも思ってくれや。」

  実際、気まぐれみたいなものだ。デュノア社長の不器用さを気に入って、俺がそうしたいと思ったから、そうした。

「天災の恐ろしさ。しっかり味わってもらうぜ。...多分、知らないうちに話は進むだろうけど、気にすんなよ?三年間はここに居られる保証があるんだから。」

「あー、確かそんな規約がここにはありましたね。」

  IS学園にはあらゆる企業による干渉が不可能だからな。
  あってもなくても俺らにはそこまで影響はないが、せっかくだし利用させてもらおう。

「えっと...ありがとう...で、いいのかな...?」

「おう。遠慮なく施しを受けとけ。」

  複雑そうな顔でお礼を言ってきたので、俺はそう返した。

「それじゃあ、秋十君。俺、今から束の所行って色々やってくるし、後よろしく!」

「え?...って、今から!?」

  驚く秋十君や、引き攣った顔のままのデュノア。後、千冬への説明を全部放りだして、俺は束の所へ窓から飛び降りるようにして向かっていった。







       =秋十side=



「...どうしてこうなった....。」

  翌日、俺は食堂にて頭を抱えながらそう言った。
  昨日は桜さんがどっかに行ってしまった後、とりあえずシャル(そう呼んでもいいと言われた)を帰して、千冬姉に桜さんが出て行った事を伝えた。
  ...で、その時千冬姉がだいぶ荒れてたので、今日のHRの先行きが不安すぎる...。

「....桜さんの奇行は今に始まった事じゃないよ。秋兄...。」

「そうだけどさ...。」

  せめて、俺に丸投げはしてほしくなかったな...。

「それにしてもデュノア社に喧嘩を売りに行くだなんて....なんというか、桜さんらしいですね...。」

「そのせいで織斑先生が不機嫌なんだよ...。」

  不機嫌なので、食堂でも先生として呼んでいる。
  まぁ、千冬姉は依然にも桜さんや束さんに振り回されていたらしいし...。

「なんか...ごめんね?」

「いや、シャルは悪くないんだよ....。」

「それにしても、デュノア社がピンチですけど、シャルルさんはいいんですか?桜さんの事ですから、本当に潰されかねませんよ?」

  ユーリやマドカには桜さんが束さんとデュノア社を潰しに行ったとしか伝えていないため、シャルの性別の事はもちろん、他の事情も知らないのでそう聞いてきた。

「あー、えっと、それについては大丈夫らしい。」

「そうなんですか?桜さんが言ったのならそうなんでしょうけど...。」

  桜さんって、相変わらず存在だけで人を納得させてるな...。
  まぁ、ユーリの場合はそれ以前に信頼を寄せているからしょうがないが。

「相変わらずユーリは桜さんの事が好きだよねー。」

「えぅ!?...あぅ.....。」

  マドカがからかうように言うと、それだけでユーリは顔を真っ赤にして俯く。

「で、でも、束さんも桜さんが好きですから...私なんて...。」

「諦めないで!恋はライバルがいるからこそ燃えるんだよ!」

  束さんがいる事により、諦めかけているユーリにマドカがそう励ます。
  ...なんか、やけに説得力のある言い方だな。

「世の中には、ライバルどころか血の繋がりという壁があっても諦めない人がいるんだから!」

「マドカさん....はい!頑張ってみます!」

  そのまま意気投合して、ユーリとマドカは握手をする。

「....なにこれ?」

「奇遇だなシャル。俺も何か分からんと思っていた。」

  なんというか...茶番?

「む、兄様。こんな所にいたのか。」

「あ、ラウラ。」

  そしてラウラも俺達を見つけてやってきた。
  手に持っている盆には和食系のメニューが乗っている。
  多分、日本の料理を食べてみたいとでも思ったのだろう。

「そういえば、師匠はいないのか?」

「昨日、外出とかの手続きを俺に丸投げしてどっか行っちまったよ。」

「ふむ...誰かが師匠に喧嘩を売ったから、潰しにいったのか。」

  ...ある意味当たらずとも遠からずだな。喧嘩売られた訳ではないが、潰しに行ったし。

「まぁ、師匠の事だし無事に帰ってくるだろう。兄様、私もここで食べていいか?」

「ん?ああ、いいぞ。時間にはまだ余裕もあるし。」

  実際は、桜さんの突然の行動でちゃんと寝れなかったから、早く食堂に来ていて時間があるだけなんだけどな。

「あれ?ラウラさん、それって和食...。」

「うむ。前から気になっていたのでな。せっかくだから食べてみる事にしたのだ。」

  ユーリが気になって聞き、それにラウラが答える。
  この後は、特に何事もなく、平穏な朝食となった。





「あー...では、HRを始める...。」

  どこか疲れたようで、そして不機嫌な千冬姉の声に、教室は静まり返っていた。
  千冬姉の熱狂的ファンもいるこの教室だが、さすがに気圧されているらしい。

「お、織斑先生。あいつ...篠咲桜は休みなんですか?」

「......。」

「ひっ!?」

  あ、アイツが地雷踏んでる。滅茶苦茶睨まれてるし。

「...あいつは休みだ。重要な用事があるとの事でな...。」

「っ...!?」

  そう言ってチラリとシャルの方を見る。
  睨まれた訳でもないのに、それだけでシャルはビビっていた。
  ...というか千冬姉。公私を分けれてないぞ?桜さんの事“あいつ”って言ってるし。

「はぁ...すまない。連絡事項は頼む。」

「え、あ、はい!」

  あ、頭を押さえながら山田先生に丸投げした。







「うーむ...なかなかに大変だった...。」

  昼食。食堂にてそう呟いていた。
  昼前には千冬姉はいつもの調子に戻ったが、それまでに何度あの不機嫌さに皆が気圧されたか...。

「...多分、桜さんがやる事やり終わったら、またああなると思うよ。」

「だろうなぁ...。」

  なにせ、会社一つ潰すんだ。千冬姉なら、誰がやったか丸わかりだろうし。

「...むしろ、今朝よりひどくならないか?束さんもいるし。」

「あっ....。」

  ....胃薬と頭痛薬、差し入れに持っていこうかな。

「....何があったのよ。そんな暗い雰囲気出して。」

「鈴か...。」

  鈴が俺達を見つけ、隣に座りながらそう聞いてくる。

「ずっと織斑先生が不機嫌だったからさ....主に桜さんが原因で。」

「...あの人、なにやらかしてんの...?」

  鈴も桜さんの理不尽さは理解してるので、顔を引き攣らせていた。

「...それもあるけど、今度ある学年トーナメント、どうするつもりなの?」

「あー...確かタッグマッチだったっけ?」

  主に桜さんの所為で忘れがちだが、もうすぐ学年トーナメントがある。
  しかも今年はタッグトーナメントに変更になったらしい。
  それについても考えて行かないとな...。

「そうよ。...で、専用機持ち同士はタッグを組めないから、どうするのか聞きたくてね。」

  そう、パワーバランスを考えて専用機持ち同士ではタッグを組めないようになっている。
  まぁ、そんな事になったら他の人の士気にも関わるからな。
  例えば桜さんとマドカが組んでみろ。誰も勝てないぞ。

「....まぁ、誰かと適当に組むさ。」

「何も考えていなかったのね...。」

  図星を突かれて顔を逸らしてしまう。

「...俺にもいろいろあったんだよ...。」

「....そんな疲れた表情されると、あたしも気になってしまうんだけど...。」

  主に桜さんのせいだ。気にするな。

「タッグか....。....あれ?何気に俺、友人関係がほとんど専用機持ちだ...。」

  ふと、自分の交友関係を振り返ってそう気づく。

「これを機に、もうちょっと友人増やすか...。」

「...ドンマイ、秋兄。」

  なんだろう。無性に悲しくなってきた。

「いや...ある意味彼女の方が大変なんじゃない?...彼女、人見知りみたいだし。」

「え...?...あ...。」

  今までの会話を黙って聞いていたユーリが、すっごいオロオロしていた。
  ...そういや、ユーリって交友関係は俺同様専用機持ちばかりだったな。

「ど、ど、どうしましょう...!?」

「落ち着いて!人見知りなのはわかるけど、動揺しすぎ!」

  だからあれほど人見知りを治しておけと...ユーリに言っても酷か。

「...まぁ、ユーリの人柄ならペアを組んでくれる人は多いと思うわ。」

「そ、そうでしょうか...?」

  というか、専用機持ちと組んだ方が強いしな。あぶれることはないだろう。

「さて、時間もいいところだし、そろそろ行くわ。」

「そうね。そろそろ移動した方が後が楽ね。」

  時間を見れば授業まで15分程。準備や移動を含めればちょうどいい時間だ。

「じゃあ、また放課後でな。」

  皆にそう言って、俺は自分のクラスへと戻っていった。







「模擬戦?」

  放課後、アリーナを借りて練習していると、ラウラにそう言われた。

「ああ。久しぶりに一戦しないかと思ってな。以前の交流で知り合った代表候補生とは手の内をばらしたくないとの事でトーナメントまでお預けだが、秋十となら何度もやりあった事がある。今更だろう?」

「まぁ、そうだな。」

  といっても、その戦いを見る人もいて、その人たちには手の内をばらす訳なんだが...。
  ...あ、ラウラは別にばらしてもいいのか。

「じゃあ、一戦...やるとするか。」

「ああ。」

  一度距離を取り、ISを展開して対峙する。

「...互いに、腕を上げたな。」

「当たり前だ。進みは遅いが、立ち止まらないのが俺だからな。」

  同時に動きだし、同時に武器をぶつけ合う。
  すぐさま動きを変え、再び武器を振るい、またぶつかり合う。

「ふっ!!」

  今度はぶつけ合った反動で間合いを取り、ブーメランのように反った剣を展開して投げる。

「むっ!」

「はぁあっ!!」

  弧を描くようにそれはラウラに向かっていき、同時に俺もまた間合いを詰める。

「小賢しい!」

「っ、くっ...!」

  だが、それは両手首から展開されるプラズマ手刀により叩き落される。
  さらに、そのまま俺のブレードにぶつけることで、先ほどと同じ構図になる。

「相変わらずAICには引っかかってくれんなぁっ!」

「当たり前だ...!一対一で引っかかるのは致命的...だっ!!」

  そう言って気合でラウラを吹き飛ばす。
  ...そう、先ほどの投擲はラウラのAICを封じるためだった。
  複数の対象に向いていないAICの特性を使い、まず二振りの投擲用の剣を投げつける。
  そして、同時に俺も攻撃することで、俺を止めれば剣で切り裂かれるようにしたのだ。
  ...まぁ、こんなのはちょっとした工夫なだけだけどな。

「その通りだ!...だが、やはり貴様とはAICなし...いや、接近戦のみでやりあう方が面白い!」

「そうか、そいつは嬉しいな!」

  切り付け、防ぎ、相殺し、避ける。
  ドイツにいた時も思ったけど、ラウラは戦闘狂の節がある。
  だからか、桜さんみたいに様々な戦い方にコロコロ変える事もないみたいだ。

「(だからこそ...ラウラとの戦いは俺自身の強さがよくわかる!)」

  純粋な接近戦による斬り合い。それは俺がどこまで強くなったかよくわかる戦いだ。
  機転を利かせたり、相手の予想外な行動を取るのも実力の内ではあるけど、純粋な、俺そのものの実力はこういう相手じゃないと分かりづらい。

「..........。」

  偶々俺たちの模擬戦を見学していた人たちは、ISらしからぬ剣戟に呆然としている。
  まぁ、せっかくのISの機動性を使わない戦いだからな。
  純粋な戦闘技術でのみ、俺たちは戦っている。

「はぁっ!!」

「むっ...!」

  円を描くようにブレードを振るい、プラズマ手刀を二つとも弾く。
  がら空きになった胴目がけてさらに振るおうとして...咄嗟に飛び退く。
  瞬間、そこを蹴りが通り過ぎる。

「....ふっ、準備運動もこれくらいでいいだろう。」

「やっぱ本気じゃないよな。」

  そう、ここからはISの機能も使った戦いだ。
  ここからが本番。本気で行くか!

「...と、言いたいところだが本番のトーナメントまで取っておこう。」

「出鼻を挫くな...まぁ、賛成なんだが...。」

  ラウラも本番まで取っておきたいらしい。
  不完全燃焼になりそうだけど、それもトーナメントまで取っておくのだろう。
  存分に闘いを愉しむ...ラウラらしい。

「ここからは兄様の特訓に付き合うつもりだ。」

「そうか。といっても、単調なものだぞ?」

「構わない。むしろその方がいいと思うがな。」

  そういう訳で、俺とラウラはしばらく放課後のアリーナで特訓する事になった。

  ...そういえば、途中で視線を感じたけどあれは一体...?







 
 

 
後書き
知識があまりないからと、細かい設定を上回るチートっぷりでごり押ししていくスタイル。
デュノア社の末路は詳しく描写しません。そういう知識(会社関連)が皆無なので。

ちなみに秋十が感じた視線は模擬戦と聞いてやってきた一夏です。
“模擬戦”と聞いて鈴とセシリアVSラウラの戦いと勘違いした感じです。
なお、秋十とラウラの戦いに戦慄してた模様。

...サブタイ詐欺みたいになってしまった...。
おまけに中途半端な終わり方だし...。 

 

第31話「トーナメントに向けて」

 
前書き
トーナメントまでの場繋ぎな話です。若干展開が早いので少し間があります。
タッグトーナメントに変更されたのはちょっと早い時期に発表されてる設定です。
連携とかいろいろと考えないといけないのでそれで早めになっています。
...オリ展開どうしよう...。
 

 






       =秋十side=



「...桜さん、どうするつもりなんだ...?」
  
  朝のHR前、俺はポツリとそう呟いていた。
  あれ以来音沙汰なしの桜さん。
  学年トーナメントのペアはどうするつもりなんだ...?
  一応、決まらなかったらランダムで組み合わせられるらしいけど...。

「....あいつは一人だ。」

「っ、ちh..織斑先生、いつの間に...。」

  早めに来ていたのか、背後にいた千冬姉がそう言った。

「一人?...え、桜さんだけソロですか?」

「ああ。...あいつはそれで充分だ。幸い一年の人数も奇数だからな。」

  ...どこか“ざまぁみろ”的な意思が感じられる声で、千冬姉はそう言う。
  昨日の事、まだ恨みに持ってるんだな...。
  千冬姉は言いたい事は言ったのか、立ち去って教室の入り口でチャイムを待った。

「...まぁ、その方が俺たちとしても安心か...。」

  桜さんがどんなに弱い奴と組んでも、なぜか勝てる気がしない。
  それどころか、ペアの人が魔改造されていそうだ...。

「...って、俺もペアの人を探さないと...。」

  組むとすればそれなりに喋っている人との方がいいだろう。
  本音は簪と組むらしいから却下で、他にいるとすれば...。

「うーむ....。」

  ちょっと席を立ちあがり、目的の人物に近寄る。

「鷹月さん。」

「し、篠咲君!?」

  その人物は、青がかった黒髪のショートカットの両側にヘアピンをつけてる女子、鷹月静寐(たかつきしずね)さんだ。
  手元にはジョークが満載っぽい本がある。
  生真面目な性格だけど、こういう本も読んでるんだな。

「これ...できたらでいいんだけど...。」

「これって...トーナメントの....えっ!?私!?」

  トーナメントの紙を渡し、組んでくれるか聞くと、驚かれる。
  ...周りの女子が食い入るように見てくるんだが...。

「な、なんで私?」

「うーん...俺、不器用だからさ、連携とか上手くするにしても、一番相性がいいと思ったのが鷹月さんなんだ。普段は生真面目だからさ。」

「相性...そうなんだ。」

  なぜか顔を赤くして照れる鷹月さん。
  ...周りの様子からしてもこのタイミングで自分から声をかけるのは失敗だったか...。
  でも、今更後には引けないし、いいか。

「出来たらでいいからな?...っと、時間もあるし返事はいつでもいいから。」

「あ、うん。」

  これでダメなら素直にランダムで選ばれるのを待つか。
  とりあえず、もうすぐHRが始まるので席に戻る。

「...篠咲弟...お前、思い切ったな。」

「えっ?....あっ...。」

  千冬姉にそう言われ、周りを見渡すとどう考えても注目されていた。
  ...自分が世にも珍しい男性操縦者だってこと失念していた...。
  鷹月さんも俺が話しかけたから色々聞かれてるし。

「(やっちまった....。)」

  ..とりあえず、鷹月さんのためにもしっかりと弁解していかないと...。
  女子の噂の伝達速度は半端じゃないからな。...おまけに尾ひれ付くし。
  変に誤解されるかもだし、マドカ達にも協力してもらうか...。

「(ごめん。鷹月さん...。)」

  多分、いらぬ誤解で変に迷惑かけるだろうと、心の中で謝っておく。
  ...これじゃ、断られるだろうな。







「あ、篠咲君。今朝の事だけどね、いいよ。」

  昼休み、マドカやユーリと食事を取っていると、鷹月さんがそう言いに来た。

「いいのか?てっきりタイミングもあって断られると思ったが...。」

「そ、そんな事しないよ!?...いや、まぁ、皆に色々言われたけど...。」

  やっぱりいろいろ言われたみたいだ。申し訳ない。

「あー、やっぱりその事だったんだ。あの噂。」

「...マドカ、一応聞くけどその噂って...。」

  昼休みまで既に広まっているのに驚きつつ、どこまで尾ひれがついたか聞いてみる。

「...鷹月さんと、秋兄が付き合ってるって...。」

「どうしてそうなった!?」

  なんか変な方向に噂が歪んでる!?

「悪いけど、できるだけその噂を払拭しておいてくれないか?」

「んー...今度何か奢ってね?」

「....わかった。」

  ...協力を取り付ける事はできたが、財布の中身が寂しくなりそうだ...。

「それにしても、鷹月さんとかぁ...。...手加減してあげてね?」

「えっ、なんの?」

「連携の練習とか、トーナメントまでにしておくんでしょ?秋兄、自分に甘くないから厳しい練習になるかもだよ?」

「そ、そうなんだ...。」

  マドカが俺に忠告し、それを気にした鷹月さんにマドカは説明する。
  ...確かに努力を怠らないためにも自分を甘やかさないけど、そこまでひどくないぞ?

「秋十さん、素振り1000回とか普通にしますから...。」

「....えっ。」

「それは個人的な鍛錬だよ。連携の練習ではしないって。」

  ユーリの言葉に鷹月さんが“早まったかな...”なんて言ってるし...。
  別に他人にまで自分と同じ練習は課さないのに。

「ちなみに、鈴は同じ組の子と組むらしいよ。私も同じ組と。ユーリは...立候補した人がそれなりにいて、今日の放課後決定するみたい。」

「...なんか、誰がふさわしいかとか決めるらしいです。」

「...ユーリも大変だな...。」

  四組では完全にマスコット扱いらしいし、色々あるのだろう。
  この前上の学年(というか姉)に勝ったのもあって、人気も上昇しているみたいだし。

「セシリアはどうなの?」

「確か...同じイギリスの子と組むって言ってたな。」

「あー、やっぱそうなるのかぁ...。」

  そこから、鷹月さんも交えて楽しく昼食を過ごした。
  ...周りから鷹月さんが羨望の眼差しで見られてたけど。
  また変な噂とか出ないよな?







「...まずは何をするの?」

  放課後、俺たちはアリーナを借りてトーナメントに向けて特訓していた。

「あー...そうだな。模擬戦の許可も取ってあるし、ちょっと全力で来てくれ。」

「えっ?...戦うの?私と篠咲君で?」

「まぁな。実際に戦った方がお互いの実力がよくわかるだろ?」

「確かに...。」

  俺の言う事に納得がいったのか、鷹月さんはとりあえず構える。

「じゃあ...来い!」

「....行くよ!」

  鷹月さんの使うISは“ラファール・リヴァイヴ”。
  デュノア社が開発した第3世代にも劣らない量産機だ。

「っと!!」

  鷹月さんは俺から距離を取りながらライフルを展開し、それで撃ってくる。
  まだISを使いこなせていない節があり、展開のスピードも狙いも甘かった。
  俺は飛んでくるライフルの弾を、当たりそうなのは弾きつつ避ける。

「(...なるほど。接近戦とか、精密射撃はまだできないから数で攻めてきたか。)」

  俺に近づかれないようにしつつ、ライフルで乱射してくる。
  とにかく撃ちまくれば、どれだけ下手でも...それこそ本音並の命中率の低さでも当たるだろうしな。....いや、本音の場合それでも外しそうだ。

「(...っと、防いでるだけじゃダメだな。まずは...遠距離戦から!)」

  ライフルの攻撃を一度大きく避け、その間に俺もライフルを展開する。
  この戦いは鷹月さんの実力を見る戦い。遠距離近距離両方やらないとな!

「(セオリーな戦い方で、どんな動きか見極める!)」

  ライフル弾を避け、逆に俺が反撃として撃つ。
  それを鷹月さんは危なげながらもなんとか躱す。

「(言ってはあれだけど、射撃精度、回避技術共に並程度か...。まぁ、俺よりはマシだな。)」

  それを見て、俺はそんな判断を下す。
  少なくともISに慣れていない頃の俺よりはマシな動きだ。

「じゃ、次は近接戦!!」

「っ...!!」

  敢えて声を上げ、一応気づかせておく。
  甘いかもしれないけど、ちゃんとした実力が見たいからな。
  そう思いつつ、ブレードを展開して接近する。

「速っ...嘘!?」

「はぁあっ!」

  ライフルを迂回しながら回避し、回り込むように接近する。
  当たりそうなのは片っ端から弾いていたため、鷹月さんは少し驚いたようだ。

「っ....!」

「はっ!」

「きゃぁあっ!?」

  ライフルが牽制にもならないと悟った鷹月さんは、慌ててブレードを展開しようとする。
  しかし、立ち止まっているうえに、展開に少し時間がかかるため、その前に俺が接近して一閃する。...我ながら容赦ねぇな。

「く...ぅう...!」

「はぁっ!」

「っ...!」

  吹き飛ばされ、それでも立ち上がろうとした鷹月さんに再度接近する。
  俺が振りかぶり、咄嗟に展開しておいたブレードで防ごうとして...そこで寸止めする。

「...終わりだ。SE削り切ったら他が何もできなくなる。」

「ぁ...あ、うん...。」

  ブレードを仕舞い、鷹月さんにそういう。
  一瞬呆然とした鷹月さんだが、終わったと理解して立ち上がろうとする。

「っ、きゃっ...!」

「っと...。」

  しかし、模擬戦の緊張が解けたからか上手く立ち上がれずにこけそうになる。
  咄嗟に俺が支える事で事なきを得たが。

「し、篠咲君!?」

「悪い。ちょっと思いっきりやりすぎたか?」

「う、ううん...。...緊張しすぎちゃっただけ...。」

  とりあえず、しっかり立たせてから、一度ISを解除する。

「...あー..模擬戦の感想言っていいか?」

「あっ、うん。いいよ。」

  不安そうな顔で俺の言葉を待つ。...言い出しにくい...。

「...まず、判断はよかったと思う。自分の力量が分かったうえでの行動は合ってたし、ライフルが無理だと悟ってブレードに変えようとしたのも合ってた。」

「そ、そうなんだ...。」

  知識自体はあっても、実際操縦するには鷹月さんはまだ初心者だ。
  それに、剣道とかで接近戦の心得もないのなら、ISの授業の一環で特性を少し知っているライフルで攻撃するのは合っている。接近を避けるように後退しながらというのもいい判断だ。

「...だけど、細かい所が力不足かな...。まず展開速度。それと...ブレードを展開する時立ち止まっていた事。...このどちらかを解決していれば、俺の一閃は防げたかな。」

「うっ...。」

「生身に近い動きをしている俺が言えた事じゃないが...ISの機動性をしっかり利用すれば、もっといい動きができるだろうしな。」

  まぁ、鷹月さんは結構筋がいい方だと思うがな。
  ...一応、武術関係や銃関係の心得はないんだろ?その割には動きがいい。

「とりあえず、今日は展開速度の底上げと、ISによる動きに慣れようか。」

「了解。えっと具体的には...。」

「まず、展開速度を上げるには、イメージも必要かな。慣れればアニメとかみたいに手元に出現させるなんて事ができるけど、最初の内は何かの動きに合わせた方がやりやすい。」

  俺も最初は剣道で竹刀を構えるようなイメージだったな。

「ブレードだと居合い抜きとか、鞘から抜く感じがいいと思うな。」

「...ドラマとかアニメでやっている感じ?」

「そうそう。そういうイメージで展開してみればやりやすいぞ。」

  飽くまで例えの一つだから、これでダメなら他のを考えるが...。

「あっ。」

  ...どうやら、そこまで心配する必要はないみたいだ。すんなり展開できた。

「...ブレードはできたけど...ライフルってどんなイメージを...。」

「ハンドガンなら西部劇とかの早撃ちのイメージが使えるけど、ライフルはなぁ...。俺も背中に背負っているイメージだから、ブレードと違ってどうしても遅くなるんだよな...。」

  俺も銃を構えるイメージと慣れでだいぶ早くできたが、教えるのにはやりづらい。

「うーん...あ、そうだ。ライフルで狙いを定めるようなイメージで展開は?」

「えっと....あ、やりやすい...かな?」

  どうやら、いい感じのイメージだったようだ。

「じゃ、後は慣れも必要だから...次は動き回りながら展開の練習だ。」

「うん!」

  一つ一つを確実にやっていく。
  トーナメントまでまだ日にちがあるとはいえ、期間は知れてるからな。
  基礎を固めておいた方が効率はいいかもしれん。







「....ふぅ...。」

  あの後、鷹月さんは目に見える速度で上達し、余程なレベルの相手...それこそ代表候補性に匹敵するような腕前の人が相手じゃない限り、展開速度なら互角に迫る程になった。
  ISの動きにもだいぶ慣れたようで、明日からまた別の事ができそうだ。

「お疲れ。ほい。」

「あ、ありがとうございまs......えっ?」

  スポーツドリンクが差し出され、受け取ると同時に驚いて振り返る。

「桜さん!?いつの間に!?」

「いやー、一段落ついたから戻ってきたんだよ。またすぐに出かける事になるだろうけどな。」

  つまり様子を見に戻ってきたと...。

「千冬姉に謝っておいてくださいよ?でないとまた...。」

「まぁ、次出かける際の外出届を提出する時にでも謝っておくさ。」

  なんだろう。桜さん、全然反省してないような...。

「あ、そうだ。桜さん、トーナメントについてですけど...。」

「ん?ああ、俺だけソロなんだろ?わかってるわかってる。」

「いつの間に...。」

「大体予想してた。」

  ....あー、そういえば桜さんのソロ縛りは千冬姉の私怨もあったっけ?
  まさか、誘導してたのか...?...考えすぎか。

「それじゃ、トーナメントでは期待してるぞ。」

「あ、はい。」

  そういってすぐどこか行ってしまったので、俺の返事もどこか拍子抜けになった。
  ...相変わらず嵐のような人だな。

「...いちいち気にしてもしょうがないか。」

  桜さん、そういう人だし。









       =桜side=





「....おっ、いたいた。デュノアー!」

「え...?桜さん!?」

  秋十君たちの特訓でも見てたのか、アリーナからそう遠くない場所にいたデュノアに声をかけると、案の定驚かれた。

「えっと...会社の方は...。」

「あー、あれ?大体計画は立てたから実行するだけ。ちょっと間が空いたから報告にね。」

「そ、そうなんだ...。」

  ...っと、伝える事伝えておかないとな。またすぐに行かないといけないし。

「多分、トーナメント辺りで色々起こるから、デュノアはトーナメントに参加できないよ。」

「ええっ!?」

「いやぁ、時期をずらしてもよかったんだけどねぇ...。」

  束が取り返しがつかなくなる前にって急いだ結果、この時期になった。

「悪いね。せっかくの一大イベントなのに。」

「あ、いや、別にいいけど...あんまり悪びれてなくない?」

「あはっ、ばれたか。」

  デュノアもこの短期間でわかるようになったね。

「じゃ、俺はまた行かなきゃならんし。」

「あ、うん...。」

  パッと来てパッとどこかに行く感じになったけど、致し方ない。
  ...とりあえず、千冬の所にでも行っておくか。









       =一夏side=





「えっと...一夏、トーナメントは専用機持ち同士は組めないんだよ?」

「は?え...?」

  あいつらのせいで散々原作と違う状態だったので、せめてシャルとペアになっておこうと思い、誘ったのだが、なぜかそう言われた。

「...ルール見てないの?そう書いてあるんだけど...。」

「え、あ...み、見落としてたわ...すまん、すまん...。」

  原作と違う...どうなってんだよ...!

「それに、今年のトーナメントには僕、参加しないから。」

「は...?」

「会社の方で色々あるみたいだからね。棄権した方がいいみたい。」

  なんだそりゃ...?会社の事情?どういう事だよ...!

「そういう訳だから、他の人と組んでね?」

  そう言ってシャルは夕飯を食べに食堂へ向かっていった。

「....なんだよ...なんなんだよこれ...!」

  おかしい...おかしいおかしいおかしい!
  普通なら俺はシャルと組むはずだろう!?なんでルールが変わっているんだ!?
  考えてみれば、シャルが女だとばれる機会もなかった!

「...くそっ..!全部、あいつらの仕業か...!」

  原作と明らかに違う展開。どう考えてもあいつらがいるからだ!
  あいつらさえいなければ今頃俺は原作の一夏のように...いや、それ以上に女子から好かれていたはずだ!なのに、邪魔ばっかりしやがってぇ...!!

「トーナメントで当たったらぼっこぼこにしてやる...!」

  ルールが変わっているんだ。どうせ、相手も変わってるだろう。
  なら、あいつらと当たったら、徹底的にぶちのめせばいい...!

「くくく...ははは...!楽しみだぜぇ...!!」

  おっと、それまでにもっと上達しておかないとな...。
  あいつらをぶちのめすためでもあるが、なぜかセシリアと鈴が操作についてあまり教えてくれないんだよな...。





【.........。】



   ―――彼は気づかない。彼を味方する者は、ほとんど傍にはいないのを...。









 
 

 
後書き
今回はここまでです。これ以上やると中途半端or長すぎになってしまう...。
この後鷹月さん腕前はぐんぐんと伸びていきます。
...オリキャラ&モブキャラがペアになっているので、展開を書くのが難しい...。
だったら専用機持ち同士でも組めるようにすれば良かったって話ですが、どう考えてもパワーバランスがおかしくなるので...。
どの道、トーナメントは決勝までいかない予定です。(飽くまで予定)

そして何気に白式の謀反フラグ。元々束達の味方なんですけどね。 

 

第32話「桜VS簪&本音」

 
前書き
トーナメント戦です。
まずは桜と主従コンビ。...ちょっとのほほんさんが魔改造されてる? 

 






       =桜side=





「いやぁ、間に合った間に合った。」

「...ギリギリですね。」

  トーナメント前日。ようやく俺は“ヤル事”を一段落着くまで終わらせてきた。
  ギリギリだけど、整備くらいはできるだろう。

「秋十君、ペアの方はどうだ?」

「そうですねー...やっぱり自分は才能ない方なんだなって思うぐらいには伸びがいいですよ。」

「ほう...そりゃ、楽しみだな。」

  曰く、既に“風を宿す”事ができるらしい。
  接近戦に持ち込まれた時のためにと教えたらしいが、習得は確かに早い。

「普段は真面目だからか、射撃も正確でしたよ。」

「おまけに連携もしっかり練習した...か。」

  案外、このトーナメントでは鷹月がジョーカーになるかもな。
  まぁ、負けるつもりなんて毛頭ないが。

「連携と言えば、一番注意すべきは本音か...。」

「簪のペアですか?...確かにそうですね。」

  あの二人は従者であり、親友だ。互いの事はよく知っているだろう。
  おまけに、本音はのほほんとしているが結構やり手だ。

「ま、目の前の相手に集中するだけでいいさ。」

「...そうですね。俺にはそれがぴったりです。」

  さーて、パパッと整備を済ませておきますか。









「....しっかし、一回戦から飛ばすなぁ...。」

  そして翌日。各地からお偉いさんが集まるトーナメントが開始される。
  表示される表を見て、思わず俺はそう呟いていた。

「専用機持ち同士がぶつかりまくってますね。」

「まぁ、専用機持ち同士で潰しあわなきゃ、他の人の士気にも関わるからな。」

  他にも、専用機持ち同士の戦いは色々と見所があるしな。
  戦いの派手さもあるが、後々の動きの勉強にもなる。
  ちなみに、この組み合わせは後から確かめたが正真正銘偶然だったみたいだ。

「で...俺は簪ちゃんと本音のペアか。」

「やっぱり1対2って異色を放ってますね。」

  連携において注意するべき相手がいきなり当たるとは...。

「んじゃ、適当に会社の広告塔になってくるわ。」

「あ、そういえばそういうのも兼ねてましたね。このトーナメント。」

  ...忘れてたのか秋十君...。







「あ~一回戦からさくさくとか~。」

「手強い...けど、負けるつもりはない。」

「おっし、そうこなくちゃ。」

  試合開始前、簪ちゃんと本音とそんな会話をする。
  ...何気に“貧乏くじ引いた”って顔してるのは気のせいか?

「(...専用機でもない本音がどう動くかがわからないな...。)」

  簪ちゃんはこの前の模擬戦を見たから大体わかるが、本音は全く分からない。
  どう出るか思考している内に、試合が始まった。

「っ....!」

「(手始めに簪ちゃんか!本音はどう出る!?)」

  始まった瞬間、勢いよく簪ちゃんが薙刀を振るってくる。
  それを防ぎ、本音の方を見ようとして...。

「っ!?」

     ギィイイン!!

「防がれたよっ!」

「分かっ..てる...!」

  ISでなければ死角となる角度から本音が切り付けてくる。
  それを咄嗟に防ぐと、簪ちゃんが間合いを離しながらライフルで撃ってくる。

「行かせないよ~!」

「何ともまぁ...シンプルで厄介な!」

  流石と言うべき連携の良さ。
  簪ちゃんは適格に射撃してくるし、本音はそれを邪魔しないように喰らいついてくる。
  普通ならどちらかに集中した途端やられるだろう。

「(“普通”...ならな!)」

     ガガガガァン!!

「っ....!?」

  射撃を展開したライフルで相殺し、本音の攻撃はブレードで防ぐ。

「嘘ぉ....!?」

「ほらよっと!」

「っ....!」

  驚く本音に、簪ちゃんの射撃を逸らして当てようとする。
  ...が、咄嗟に躱される。

「人間業じゃないよ~...!」

「そりゃ、IS使ってるからな。」

  ブレードはブレードで、射撃は射撃でそれぞれ相殺する。
  確かに、1対2でそれを成し遂げていたら人間業とは思えないだろう。俺も生身は無理だ。

「でも~、かんちゃんも私も甘く見ないでね~?」

「ん...?っ!」

  瞬間、本音の動きが滑らかな動きから鋭い動きへと変わる。
  簪ちゃんの方も、相殺されると分かったからか、射撃を躱す。

     ギギギギギィイン!!

「っっ...!普段からは考えられない動きだな...!」

「私ばっかりに構っていいの~?」

「シッ!!」

  翻弄するかのような動きで俺と剣戟を繰り広げる本音。
  そして、射撃を躱しながら接近し、薙刀で一閃してくる簪ちゃん。
  本音の攻撃はブレードで防ぎ、簪ちゃんの方はライフルを犠牲に防ぐ。

「っと!安心しろ。どっちもちゃんと見ている!」

  挟み撃ちにされ、一時的とはいえ武器はブレード一本のみ。
  すかさず俺は上に飛び上がり、グレネードをばら撒く。

「(“水を宿す”動きは厄介...だから、先に簪ちゃんを...!)」

  グレネードの爆発をバラバラに避けた二人の内、簪ちゃんの方に狙いを定める。
  “風を宿し”、一瞬で間合いを詰める。

「っ、来た...!」

「さぁ、どこまで耐えられるかな!?」

  簪ちゃんはバランス型だ。だから、近距離遠距離のどちらかに偏った相手とは、その分野では敵わない。その代わり、一応どちらにも対処できるという感じだ。
  ...俺?俺はバランスブレイカーって所か。所謂チートキャラみたいな。

  ...とまぁ、そんな簪ちゃん相手に、俺は近接戦で追い詰める。

「っ...!くっ....!」

「(“水を宿す”動きはまだまだだけど、使えないなりにアレンジしている...!空中にいられると、仕留めづらい...!)」

  しかし、空中戦なのと、ISの機能性を利用して俺の猛攻を耐え凌ぐ。
  俺はまだ“風を宿す”動きしかしていないので、どんな攻撃でも直撃はしないのだ。

「はぁっ!」

「っ、く、ぅ....!!」

  また一閃繰り出すと、なぜか簪ちゃんは正面から受け止めた。
  せっかく直撃は避けていたのに、なぜまともに受けたのか。
  その答えを頭に導き出すと同時に、ISから警告される。

     ギィン!ギィイイン!!

「そういう...事か。」

「普通に防がれたよ~。」

  鍔迫り合っていると、右下からブレードが飛んでくる。
  それを咄嗟に弾き落とすと、それに追従するように本音がブレードを振るってくる。
  それもブレードで防ぐが、簪ちゃんに対して無防備になる。

「そこっ!」

「甘い!」

     ギィイイン!

  ...だが、それはブレード一本での話だ。
  振るわれた一閃を、もう一つ展開したブレードで防ぐ。

「っ.....!」

「(...不用意に動くと本音がどう動くかわからないな。)」

  まだ本音の全ての動きを把握した訳ではない。
  意表を突くような動きばかりなので、不用意に動けばどうなるかわからない。

「....本音!」

「任せて!」

「...おいおい...。」

  そこで、簪ちゃんが動く。
  薙刀で俺のブレードを抑えたまま、ミサイルを放ってくる。
  こんな近距離で放てば、自分はもちろん、本音も巻き込むはずだが...。

     ギィン!ギギィイン!!

「行かせないよ!」

「(確実にダメージを与える選択をしてきやがったか...!)」

  俺は離脱しようとするが、それを本音が逃がさないように押さえつけてくる。
  自身を犠牲に、ミサイルを直撃させる気だ...!









       =out side=







     ドォオオオン!!

「...桜さんに、一撃を入れた...?」

「やっぱり連携上手いなぁ...。」

  アリーナに響く爆発音に、試合を見ていた秋十とマドカはそう呟く。

「でも、桜さんまだまだ力を出してないっぽいね。」

「そういえば、まだ“風”しか使ってないな。」

  そう。桜はまだまだ力を出していない。
  しかし、同時にもうすぐ力を出すだろうと、二人は思った。

「...あれ?ユーリは?」

「ユーリならペアの子と一緒にいるよ。秋兄も行って来たら?」

「...そうだな。試合も近いし、行ってくる。」

  トーナメント初戦で躓く訳にはいかないと、秋十はペアの下へと行く。

「私は...後の方だから今はいいか。」

  残されたマドカは、もう少し試合を見ておくようだ。







「....っと...!」

  爆風から桜が飛び出す。
  SEは確かに削られたが、まだまだ戦えるようだ。

「(...互いを信じあっているからこそ、できる行動か...。)」

「はぁっ!」

「っ!」

  ふと、先ほどの攻撃について考えると、そこへ簪が攻撃を繰り出す。
  それを桜はブレードで防ぐと、簪は上を通るように回り込みながらさらに攻撃する。
  もちろん、桜は背後を取られまいと動くが...。

「それ~っ!」

「くっ!」

  その簪の後ろから同じように迫ってきていた本音に阻まれる。

「...やっぱり、爆風を利用してダメージを減らしていたか...!」

「さくさくの後ろにいたからね~。」

  本音が爆風を受ける時、爆風と本音の間には桜がいた。
  なので、爆風を受けるのに一瞬のタイムラグがあり、その時に爆風を利用して大きく離れる体勢を取り、爆発に巻き込まれるのを防いだのだ。
  ちなみに、桜は“水を宿す”事で爆発を一部切り裂き、ダメージを抑えた。

「さて....。」

  今桜が展開している武装はブレード二本。
  そのブレードで左右からの攻撃を防いでいる所だ。
  だが、それも一瞬。二人は一斉に連撃を放ってくる。
  そこで、桜が打った手は....!

「いっくよ~!」

「は、ぁあっ!!」

     ギギギギギギギィイン!!

「っっ...!全部、防がれた...!?」

「...“動きに風を宿し、身に土を宿す”...さぁ、所謂第二形態だ。来い。」

  今までは“風を宿す”だけだったが、鋼の如き力と防御力を発揮する“土”も宿して、桜は二人の攻撃を全て受け止める。

「っ...まだ、その先を行く!!」

「あまり見せびらかしたくないんだけどね~。」

  一度間合いを離し、再度二人は攻撃を仕掛ける。
  簪は薙刀のリーチを生かし、柄なども利用した攻撃。
  本音は、家系が家系だからか、やはり性格にそぐわない鋭さを持った連撃だ。

     ガ、ギィイン!

「射撃は下手だけど、この距離ならどうかな~?」

「っ...!ちっ!」

  そして、ブレードを一瞬抑えた瞬間に懐に入り込み、展開したライフルを撃たれる。

「(ここまでできる奴が身近にいたとはな...!)」

  その手際のいい動きに、桜は戦慄する。

「くっ...!」

  簪を弾き、すぐさまその場を飛び退く事でライフルを躱す。

「本気を出さないその油断が...命取り!」

「っ、ほう....!」

  躱した所へ簪が“風を宿し”て切りかかってくる。

「(“水”は相性がいいから少し違うとはいえ扱えたが、“風”も扱えるか...!)」

  高速な動きを見て、桜はそう思う。
  同時に、少し厄介だとも思い、それがさらに闘争心を昂らせる。

「シッ!」

「っ、はぁっ!」

  ブレードを振るうが、それは木の葉のようにするりと躱される。
  そのまま反撃の一閃が迫り、上体を反らして回避する。

「ふっ...!」

「っ...!」

  そのまま一回転し、ライフルを展開して撃つ。
  ライフルが見えた瞬間行動を起こしていたのか、それは躱される。

「(そのまま高速で旋回して再度攻撃してくるだろうけど...。そっちに気を取られる訳にはいかない...か!)」

「そ~れっ!」

     ギィン!ギギギィイン!

  またもやブレードが飛んできて、それに追従するように本音が迫る。
  今度は短剣で攻撃だったが...どうやらこちらの方が使い慣れているらしい。

「はぁああっ...!!」

「っ....!」

  さらにそこへ、簪の攻撃が加わる。
  早いうえに防御をすり抜けようとする攻撃に、さすがに桜も焦る。
  ...尤も、それは“ダメージが入るか否か”の範囲内でだが。

「くっ....!」

「させない!」

  咄嗟に間合いを離そうとする桜に対し、簪が薙刀のリーチを利用して妨害する。

「(元より“風”と“土”じゃあ、“風”と“水”とは相性が悪い...か!)」

  風の如き速さを出し、大地の如き剛力と防御力を出す“風”と“土”だが、同じ“風”の力と、その気になれば炎なども切り裂け、防御を貫く“水”とは相性が悪かった。

  おまけに、“水”は相手の動きに合わせて攻撃を回避する事も可能だ。
  まだ完全に扱えないとはいえ、簪が有利になるのも無理はなかった。

「(それに...!)」

「それ~っ!」

  雰囲気にそぐわない、鋭い攻撃を本音は繰り出す。
  それも、桜を焦らせる要因だった。

「せぁっ!!」

「っ.....!!」

     バ、ギィイイン!!

  “水”を宿した、鋭い一閃。
  それを桜はまともに防いでしまい、ブレードが折れる。

「ぐっ....!」

「はぁあっ!」

  ブレードが使い物にならなくなり、本音の攻撃を防いでいたブレードを盾にする。
  またもやブレードが使い物にならなくなるが、なんとか直撃を避ける。

「(...見事...なら、()を見せようか....!)」

  無理矢理簪の攻撃を防ぎ、間合いを離した桜は薄く笑う。

「好機....!」

「っ...かんちゃん!!」

「なっ....!」

  武器を二つ破壊し、簪は追い打ちをかけようとして、本音が叫ぶ。
  ...瞬間、簪の攻撃は回避され、後ろに回り込まれていた。

「...一対一ではないとはいえ、身近な者以外でここまでやるのは称賛に価するよ。...よって、俺も力を出そう。」

「っ....!」

  “力を出す”。そう言った桜から簪は慌てて距離を取る。

「今の俺のISの武装は、至ってシンプルだ。予備こそ多いが、ブレード、ハンドガン、アサルトライフル、グレネードと、なんの変哲もない武装しかない。」

「代表決定戦で使った武装は~?」

「使う気はないな。」

  本音の言う武装とは、セシリアのBT兵器を再現した武装の事だ。

「舐められたもの....!」

「...代わりに、純粋な戦闘技術でやってやるよ。」

  武装を出し惜しみする。そう言われた簪はその言葉を撤回させようと意気込む。
  しかし、桜が続きの言葉を言い終わった瞬間、その意気は破られた。

「えっ...きゃあっ!?」

「かんちゃn....あうっ!?」

  避ける間もなく、桜は二人を斬る。
  二人とも咄嗟に反撃していたのだが、それすら水のように躱された。

「“風”と“水”の真髄...見せてやろう。ここからは一撃も貰わない。」

「っ....!」

  空気が変わったのを簪は感じ取り、戦慄する。
  ...確信してしまったのだ。“攻撃が当てれそうにない”と。

「でも...諦めない....!」

「やぁっ!」

  それでも一矢報いてやろうと、簪は奮い立つ。
  それと同時に本音が桜に攻撃を仕掛ける。

「.........。」

「っ、え....!?」

「本音!」

  しかし、それは紙一重で回避され、逆袈裟切りでブレードが断ち切られる。
  まるで豆腐のように切られ、一瞬とはいえ本音は硬直してしまう。
  そんな隙を桜が逃すはずがないので、すぐさま簪がフォローに入る。

「仮初の“水”では...防げん!」

「っ、くっ....!!」

     キィイイン!!

  リーチを利用して切りかかるが、回避され、反撃を喰らいそうになる。
  それを、ギリギリ薙刀の柄で受け止める。

「此れは流水を断ち切る一太刀...。」

   ―――“明鏡止水”

  刹那、その状態から桜は横に逸れるように動き、そこで一閃を放つ。

「っ―――!?ぁああああっ!?」

  一撃。たった一撃で簪の薙刀は断ち切られ、SEが半分以上削られた。
  ...絶対防御発動によって普通よりも大きく削られたのだ。
  裏を返せば、絶対防御がなければ簪は両断されていたという事だ。
  絶対防御があるからこそ、桜はこの攻撃を放ったとも言える。

「(...一撃限りだな。次放つと簪ちゃんが死んでしまう。)」

  さすがに、桜も封印指定にするほどだったらしい。

「はぁっ!」

「......。」

  背後から予備のブレードを展開した本音が斬りかかる。
  しかし、それを桜は羽毛のようにするりと避けてしまう。

「くっ....!」

「甘い。」

  本音の攻撃に加え、簪がライフルで攻撃する。
  しかし、それさえも桜は避ける。全てが見えているかの如く。

「(武器を一撃で断ち切るだけでなく、そのうえさらにSEを半分以上削る...。おまけに私たちの攻撃は一切当たらない...。これが“水”の真髄、桜さんの実力...!)」

  あまりの実力差に、簪は愕然とする。
  ...しかし、だからこそ自身の全力を出し切れる。

「(私には、私なりの戦い方が...ある!)」

「...ん...?」

  簪の雰囲気が変わったのを、桜は感じ取る。

「本音!」

「っ、わかったよ!」

  簪は本音の名を呼び、本音は簪の意を汲み取ってライフルを展開する。

  ...ここで一つ、言っておこう。
  本音は本人でも言った通り、射撃が下手だ。それこそ、致命的に。
  つまり、そんな人物が乱射すれば....。

「敵味方お構いなしかよ!?」

「数撃てば当たるんだよ~!」

  簪を巻き込む形で、桜を狙う事になる。
  しかし、それこそ簪の狙い。

「(今持てる技術を使えば、本音の流れ弾は躱せる。おまけに、本音の乱射のおかげで、当たりはしないけど、ある程度は桜さんの動きを制限できる!そこを狙えば...!)」

  元より勝てる気がしない戦い。
  ならばと、簪は全身全霊を以って桜に挑みかかった。

「は、ぁっ!」

「っ!」

  予備のブレードを展開し、弾幕の中を駆け抜けて桜に斬りかかる。
  弾幕を避けていた桜は当然それを避けるが、やはり動きが制限されていた。

「(でも、それは私も同じ。一番の武器は既に斬られた。なら、後は“技”で勝負...!)」

  勝てないなら、勝てないなりに。
  そう思って、自身の扱える“風”と“水”の力を存分に振るう。

「シッ!」

「っ.....。」

  弾幕を避けきれずにSEが少しずつ削られながらも果敢に桜を攻め続ける簪。
  しかし、それでも当たらない。

「まだ、まだっ...!」

「っ、っと。......!」

     キィイイン!

  何度ブレードを振るったのか。
  試合中にも簪の技術は上がり、ようやく桜に防御をさせた。

  ...しかし、それまでだった。

「...やはり。やはりいいな...。こういう、可能性の成長ってのは!!」

「っ...!?なっ...!?」

  音もなくブレードが振るわれる。
  その瞬間、簪のブレードが細切れになり、SEがなくなった。

「かんちゃん!?」

「嘘...!?一瞬....!?」

  SEがなくなり、地面に落ちる。
  まさに一瞬の出来事。その一瞬で桜はブレードのみで簪のSEを削り切ったのだ。

「だが...それは後に取っておこうか。」

「っ....!」

  余所見している暇はない。そう思って桜に向き直る本音。
  だが、既に遅かった。

「(速っ!?全然見えなかった...!?)」

  気が付けば吹き飛ばされ、SEはゼロ。
  ...勝敗はもう決まっていた。

「..........。」

  ...決着は、あまりに呆気ないものだった。









「...終わったか...。」

「こ、ここからでも見えなかったんだけど...。」

  試合待機場所で、秋十と静寐はそういう。

「一瞬...ほんの一瞬とはいえ、桜さんに本気を出させたか...。」

「一人でもあそこまで強いなんて...勝てるかな....?」

  あまりの強さに、静寐は既に戦意喪失しかけていた。

「大丈夫だ。当たるのはまだ先だし、簪と本音もあそこまで善戦した。何とかなるさ。」

「...だといいんだけど...。」

  それでも本気を出したのは一瞬。
  そう考えると、やはり不安は拭えない静寐だった。









「.....一回戦負け...。」

「お、落ち込まないでよかんちゃ~ん...。」

  一方、試合に負けた簪は、相手が相手といえ、一回戦負けした事に落ち込んでいた。

「...山嵐を使う隙を作れなかった...。」

「ん~...さくさくが相手ならむしろ使った方が厳しいと思うよ~?」

「....そうなんだけど、せっかくの武装が...。」

  最大火力を誇る“山嵐”が使えなかった事に暗くなる簪。
  しかし、実際本音の言う通り相性が悪いのでむしろ使わなくて正解だった。

「ほらほら~、次はゆーゆーとあっきーの番だから、気を切り替えようよ~。」

「あ、うん。...よし、じゃあ、行こうか。」

  頬を軽く叩き、気を取り直して観戦する事にした。

「二人のペアは...鷹月さんと...あぁ、彼女になったんだ。」

「知ってる人~?」

  対戦表を見てそう言った簪に、本音が尋ねる。

「同じクラスだから...。それに、彼女は諦め悪いからいい勝負するかも...。」

「へぇ~...かんちゃんみたいだね。」

「...私より凄いと思う。...諦めが悪いというより、不屈?」

「なるほど~。」

  観客席に向かいながら、二人はそんな会話をする。















   ―――表示されている対戦表には、“高町なのは”という名前があった。















 
 

 
後書き
ちなみに本音が使ってるのはラファールです。

....最後にどこぞの白い悪魔が出ていますが、名前だけです。(射撃は上手いけど)
所謂ゲスト出演です。オリキャラを考えるよりはこっちのが楽ですし。 

 

第33話「秋十ペアVSユーリペア」

 
前書き
リリなの要素は原作よりもinnocentより....つまり、なのはは...?
ちなみになのはが使っているISは打鉄です。
 

 






       =out side=





「いよいよか...。」

「き、緊張するなぁ...。」

  試合直前、控室で秋十と静寐はそう呟く。

「そう気負わなくていいさ。練習通りにやればいい。」

「そ、そうだよね...。」

  緊張している静寐を、秋十は何とか落ち着かせる。

「...まぁ、向こうも向こうで緊張してるだろうな。」

「そうなの?」

「...ユーリ、人見知りだからこういう公の試合は...。」

「あー...。」

  何度か会った事のある静寐も、思い当たる節があるようだ。
  ...と、そこでアナウンスで二人が呼ばれる。

「....じゃ、行くか。」

「...そうだね。」

  意を決し、二人は初戦へと臨んだ。









「.....すぅー...はぁー....。」

「落ち着いた?ユーリ。」

「は、はい...何とか...。」

  一方、ユーリの方では秋十の予想通りユーリが緊張していた。

「なのはさんは大丈夫なんですか?」

「私も緊張してるよー。でも、それでも全力全開なのは変わらないから。」

  ユーリのペアである高町なのははそういう。

「...そうですね。やるからには、全力でないとっ!」

「うん。その意気だよ。...じゃあ、行こうか。」

「はいっ!」

  ちょうどアナウンスも入ったので控室から二人は移動する。











「....さて、ユーリとの戦績はどうだったっけな...。」

「36戦中16勝16敗4分です。」

「そうだったな。」

  試合開始前、アリーナに出た二人はそんな会話をする。

「互いに元落ちこぼれ同士..相手にとって不足なし。」

「...負けませんよ?」

  先ほどまでの緊張がまるでなかったかのように、二人は闘志を滾らせる。
  元々、蔑ろにされていた者同士なので、ついでにライバル関係にもなっていたのだ。

「....なんか、割り込めない雰囲気...。」

「緊張するよりはマシだから私は別にいいんだけどね...。」

  静寐となのはは互いに苦笑いしながらその様子を眺める。

「こっちもこっちで、よろしくね?私は高町なのは。」

「あっ、私は鷹月静寐。...負けるつもりはないよ。」

「それはこっちのセリフだよ。」

  二人も互いに挨拶を交わし、ついに試合が始まる。



「(まずは先手必勝...!)」

  試合が始まった瞬間、静寐がライフルを展開し、牽制の射撃を放つ。

「(篠咲君はエーベルヴァインさんを相手にするって言っていた。そこで私がやるのは牽制の射撃を放つ事で相手にチームワークを取らせない事...。大丈夫、上手くやれる...!)」

  試合前に決めていた作戦を上手く実行に移す静寐。
  しかし、相手も黙って喰らう訳ではない。

「っと...。」

「バルフィニカス!」

  なのはは華麗に回避し、ユーリに至ってはそのうえ秋十に接近していた。

「(っ、足止めにもならない...!高町さん、空中での操作が上手い...!)」

「今度はこっちの...番だよ!!」

「っ....!」

  さらになのははライフルを展開して反撃の射撃を繰り出した。
  正確な軌道で迫るその射撃を、静寐は何とか躱す。

「はぁっ!」

「っ!」

     ギィイイン!

  少し離れた所で、秋十とユーリもぶつかり合う。
  二人の力は互角...つまり、静寐かなのはが相手を出し抜いて援護した方が有利だ。
  それを二人も理解しているため、互いに動きを読もうとする。

「(高町さんは一体どれだけISを使いこなせるかによって、私の戦い方も変わる...。なら、最初は...。)」

  様子見として静寐はライフルで再度攻撃する。
  もちろん、そんな見え見えの攻撃をなのはは躱す。

「(避けた...その先に!)」

  だが、静寐はさらに避けた所を狙って撃つ。

「危ないっ!?」

「(これも躱された!高町さん、本当に空中機動が凄い...!)」

  螺旋を描くような軌道で射撃を避けるなのはに、静寐も感心してしまう。
  しかし、その感心はすぐに驚愕へと変わる。

「....なのはさん!少しの間頼みます!」

「任せてっ!」

「なにっ!?」

  あろうことか、なのははブレードを展開し、秋十の相手をしだしたのだ。
  もちろん、手が空いたユーリはその間に静寐を狙う。

「これっ、は....!?」

「私の家って剣の道場があるんだよ。...そこで私も習ってるんだよ!」

     ッギィイン!!

  素人にはあり得ない程綺麗なフォームでブレードが振るわれる。
  秋十はその技量に驚きつつも、経験のおかげでなんなく防ぐ。

「....なっ!?」

「でもまぁ...これをISに応用するのは苦労したなぁ。」

「なんで...SEが...!?」

  ブレードは確かに防いだ。しかし、それでも秋十のISのSEは削られていた。
  まるで、()()()()()()()()かのように。

「くっ....!」

「逃がしませんよ~!」

  そして、その間にも静寐はユーリに追い詰められていく。
  むしろ、秋十との特訓のおかげでまだ持っているレベルだ。

「(今までにない攻撃の仕方...!桜さんなら余裕で対処できるだろうけど、俺には...!)」

「ISだと安定しないけど...もう一度!」

「っ...!」

  もう一度振るわれるブレードを、今度は受けずに避ける秋十。
  不用意に受け止めると、またSEを減らされると思ったからだ。

「(考えろ!あの攻撃は普通の攻撃と何が違った!?)」

  いつまでも彼女を相手にはしていられない。
  そう思った秋十は急ぎながらも冷静に分析する。

「(攻撃はきっちりと防いだ。ブレードもなんら普通のブレード...だとすれば、ブレードの振り方に何か....!)」

  再度振るわれるブレードを躱しつつ、秋十はなのはの手元を見る。

「っ....!その振るい方は...!」

「っ...!?」

  そして、ある事に気づく。
  振るう瞬間、適度に力を抜き、衝撃を徹すようになっている。

「知っているの...?」

「...これでも剣を何度も振るった事のある身だ。...その剣術は知らないけど、どういうモノかはわかる...。」

  今まで培ってきた経験で、秋十はなのはの扱う剣術の特徴を見抜いた。
  ....そう、()()()()()()()()()と、秋十は気づいたのだ。

「“心に水を宿す”...!」

「っ...はぁっ!」

   ―――御神流“(とおし)

  衝撃を徹し、防御の上からダメージを与えるその一振りを、秋十は逸らす。
  勢いを阻害せず、ただ軌道をずらす事で、その剣術の効果を受けずに済んだ。

「見切られた!?なら...!」

   ―――御神流“(ぬき)

「っ、なっ!?」

  “水”の動きをした秋十を、ブレードの穂先が掠める。
  たった一撃で、“水”の動きを捉えかけたのだ。

「これも躱される...ならっ!」

「まだ...あるのか!!」

   ―――“御神流裏奥義之参・射抜(いぬき)

  咄嗟に“風”を宿し、回避しようとする秋十に対し、なのはは突きを放った。

「―――ガッ...!?」

  まさに刹那の如く。超高速で放たれた刺突を、秋十は躱しきれなかった。
  ...いや、かろうじて直撃を避けれたようで、そこまで大きくSEは削られなかった。

「(っ....攻めて攻撃を止めなければ....!)」

  “風”と“水”を宿しても躱しきれない。
  間違いなく剣の腕は相手の方が上だと判断し、攻撃させないように動く。

「は、ぁっ!!」

「っ....!」

     ギィイイン!!

  “風”の動きで一気に間合いを詰め、ブレードを振るう。
  それにより、なのはに攻撃をさせないように防御させる。

「ちょっとショックだぜ...!今まで努力してきた剣の技術じゃなくて、ISの操作性でしか上回れないなんて...!」

「えっと...なんかごめんね?お父さんもお兄ちゃんも厳しいから...。」

「おまけに良い師もいたのか....ならしょうがない、なっ!」

  ISの技術はなのはよりも断然秋十の方が上だ。専用機持ちだから当たり前だが。
  それによって、なのはの剣を封じながら立ち回る。

「(鷹月さんは....まだ、無事か....!)」

  動き回りながらも、秋十は静寐の方を見る。
  そこでは、必死になりながらも、何とか凌いでいる静寐の姿があった。







「“パイロシューター”!」

「っ、また...!」

  放たれる炎弾を、大きく旋回しながら躱す。
  躱しきれないのはライフルでなんとか撃ち落として凌ぐ。

「はぁっ!」

「っ....!ぐっ...!」

     ギィイイン!

  しかし、凌ぎきった瞬間をバルフィニカスで斬りかかられ、静寐は吹き飛ばされる。
  なんとか展開が間に合ったブレードで防いでいるが、SEは削られている。

「(ダメ...!私じゃあ、防御してても敵わない...!)」

  攻撃どころか、防御もままならない状況に、静寐は焦る。

「....秋十さんと特訓してただけあって、なかなか倒せませんね...。」

「(...ライフル代わりの杖と、近接用の大鎌にも変形する斧....秋十君が言うには、どちらもSEを消費する武装らしいけど....!)」

  放たれる炎弾は僅か3発ほどで、バルフィニカスもスライサーフォームには変形していない....つまり、SEをあまり使わずにユーリは戦っているため、防御していてもほぼ確実に勝てない状況なのだ。

「そう易々と倒されちゃ、篠咲君に申し訳ないから...ねっ!」

「そうっ、ですか...!」

  振りかぶられたバルフィニカスを、ブレードで防ぐ。

「それよりも、いいの?篠咲君の相手を貴女がしなくて?」

「...しばらくは持ちますよ。...もしかしたら、倒してしまうかもしれませんね。」

「え.....?」

  自信に満ちたユーリの言葉に、チラリと静寐は秋十の方へ視線を向ける。
  ...そこには、互角に近い戦いを繰り広げている二人がいた。

「嘘...!?」

「どこにでもいるものですよ。...隠れた実力者と言う者は!」

  そう、いつもはのほほんとしている本音のように。
  専用機を持っていなく、何かしらの肩書きがある訳でもない生徒でも実力者はいる。
  それの代表的な存在が、なのはだったのだ。

「(...私が、状況を変えないと...!)」

  このままだとジリ貧。そう思った静寐は行動を起こす。
  ...今まで防戦だったのに、いきなり攻勢に出たのだ。

「何を....?」

「(私は篠咲君のように経験が豊富じゃないし、桜さんのように才能に溢れている訳でもない。...そんな私がエーベルヴァインさん相手に打てる手は...!)」

  一度離していた間合いを詰めようと動く静寐。
  もちろん、そんなのはいい的になるだけなので、ユーリは炎弾を放つ。

「(チャンスは一回!炎弾が私とエーベルヴァインさんの直線上にない位置から...跳ぶ!)」

  “イメージは重要”。そう秋十に言われた静寐は、“飛んで”速く移動するのよりも、“跳んで”速く移動するのを選んだ。そちらの方がイメージしやすかったからだ。

  そして、その動きは....。

「....えっ...?」

「(間髪入れずに、篠咲君に...!)」

  ユーリに対処の暇を与えず、直撃ではないとはいえ、一撃を入れた。

  “瞬時加速(イグニッション・ブースト)”を発動した静寐は、ただ愚直に加速した。
  ただ真っすぐに加速したその速度は、一時的とはいえユーリの反応を上回った。
  そして、すれ違いざまに少しだけ斬り、そのまま秋十の方へと向かう。

「ぁああああああっ!!」

「っ....!?」

     ッギィイイン!!

  勢いのままに秋十の下へ向かい、静寐はなのはに斬りかかる。
  不意を突いた攻撃に、なのははまともに受ける事となり、防御の上からSEを大きく削られる事となった。

「篠咲君!」

「助かった...!...気を付けろ。まともに剣を受ければすぐやられる。」

「...なんとか、してみせるよ...!」

  短く会話を終わらせ、相手を切り替える。
  すぐに秋十は動き出し、ライフルで飛んできていたユーリの炎弾を撃ち落とす。

「...待たせたな...。」

「...作戦では、先に鷹月さんを倒しておくつもりでしたが....。」

「...正直何者だよ高町さん...。なんか剣術やってるのは分かったけど。」

  改めてユーリと対峙する秋十は、思わずそう呟く。

「凄いですよなのはさんは。スプーンで紙コップに綺麗な穴を穿つんですから。」

「....は?」

  まるで桜のような事をやってのけたと言うユーリに、秋十は呆けてしまう。
  ...瞬間、多数の炎弾が秋十を襲った。

「やべっ!」

「はぁっ!」

「させるか!」

  炎弾を対処している所にユーリはバルフィニカスで斬りかかり、それを秋十はもう一つのブレードを展開して防ぐ。

「これはどう防ぎますか!?」

「っ....!」

  ユーリはすぐさま秋十から離れ、ルシフェリオンから炎弾を大量に繰り出し、秋十に襲わせる。さらに、ルシフェリオンは上に投げて置き、バルフィニカスで斬りかかる。

「シュテルに制御を任せて接近戦か...!

  炎弾とバルフィニカスの同時攻撃を、秋十は二振りのブレードで防ぐ。
  どちらもまともに受ければもう片方に瞬く間にやられるので、“水”の力を使いつつ、舞うように攻撃を凌いでいく。

     ギィイイン!!

「はぁああああ.....っ!?」

「“ブラストファイアー”!!」

  炎弾を切り裂き、バルフィニカスを押し切ってユーリを後退させる。
  そのまま攻めようとして....放たれた砲撃をギリギリで躱す。

「っ...!危、ねぇ....!!」

「まず、一撃...!」

「ぐっ...!!」

  体勢が崩れた所をユーリがバルフィニカスで斬りかかり、秋十は防御の上から地面に叩き落されてしまう。
  幸い、防御していたので大したダメージにはならなかった。

「(近づかせないように...!)」

「(っ...近づきづらい...!なら、私も...!)」

  その一方で、静寐となのはの戦いも激化していた。
  剣が危険だと言われた静寐は、必死にライフルでなのはを牽制。
  対してなのはも剣だとISの場合近づきづらいのでライフルで応戦する。

  銃と銃の戦いが繰り広げられる事となった。

「(...篠咲君を上回る剣に、この射撃の上手さ....!もしかして代表候補生だったりしないよね!?高町さん!?)」

「(攻めきれないなぁ...。ユーリの言ってた通り、篠咲君と一緒に特訓してただけあるなぁ...。)」

  お互いがお互いに、量産機でありながらの腕前に感心する。

「(押されてる...!篠咲君もさっきので削られてるみたい...!)」

「(高町さんに削られた状態でユーリに勝つには骨が折れる...。それに、例え鷹月さんでも一人だと高町さん相手に勝てない...!)」

  秋十と静寐は押されながらも同じような事を考える。

「「(だったら....!)」」

  秋十はユーリの攻撃を凌ぎながら、静寐はなのはに牽制しつつ、互いに近づく。

     ダン!ダンダン!!ギギィイン!

「っ....!」

「隙、ありっ!!」

  適当に、牽制として静寐が二人に射撃を繰り出し、それを躱して斬りかかってくるのを秋十が二振りのブレードで両方とも防ぐ。
  そこへさらに静寐が攻撃し、SEを削る。

「一対一で不利でも、二体二なら...!」

「連携...!」

  静寐が後衛、秋十が前衛として二人と対峙する。

「っ...なのはさん!鷹月さんを頼みます!」

「分かったよ!」

「させるか!」

  再度一対一に持ち込もうとする二人に静寐が射撃、そして秋十が道を阻む、

「...鷹月さんを倒したいのなら、まず俺を倒していくんだな。」

「っ...私たちが連携しづらいのを見越してですか...。」

「薄々思っていた程度だがな。」

  なのはもユーリも、連携ができるほどサポートに向いた戦い方はあまりできない。
  援護などはできるが、合間を縫った連携などはできないのだ。

「さぁ、行くぞ!」

  “風”と“水”を宿し、翻弄するように斬りかかる。
  秋十が斬りかかった後に静寐の射撃も飛来し、上手く連携を取っていく。

「私が相殺します!」

「分かった!」

  そこでユーリが静寐の射撃を相殺しようと動き出す。
  だが、それを読んでいたかのように秋十はユーリを追いかける。

「させるかよっ!」

「っ、行かせ....っ!?」

  もちろん、なのははそれを逃すまいと止めようとするが、静寐に止められる。

「はっ!」

「くっ....!えっ!?」

  秋十の一閃をユーリは防ぎ、とりあえずなのはに静寐を倒してもらおうと考える。
  しかし、秋十はすぐになのはの方へ戻り、ユーリには静寐の射撃が飛来する。

「(射撃と剣撃の連携がまるで一連の流れのよう...!このままだと...!)」

  秋十が縦横無尽に駆け回り、二人をヒット&アウェイで攻撃する。
  そして、反撃に出られないように静寐が射撃で援護をする。

  阿吽の呼吸のような連携に、二人とも上手く動けずにいた。

「(こうなったら...一か八かです!)【なのはさん!】」

「【...わかったよ!自分で何とかしてみる!】」

  プライベートチャンネルで会話した二人の取った行動とは....ごり押しだった。
  SEを気にして戦っていては、連携を破れないと判断したようだ。

「スプライトフォーム....!」

「御神流...舐めないでね!」

  二人は大きく間合いを離して逃げ回る。
  そして、大きく旋回してからユーリは秋十に、なのはは静寐へと迫る。

「っ...!突っ切ってくる...!?」

「まずい...!鷹月さん!」

  ライフルによる弾幕を突っ切ってくる二人に、さすがの秋十も妨害しきれない。
  そのままユーリの相手をし、なのはは見逃してしまう羽目になった。

「(スプライトフォームであるならば、防御は0に等しいが...高町さんを見逃してしまったのはきつい...!このままだと、鷹月さんが...!)」

  超高速なユーリの連撃を、“風”と“水”を宿し、二振りのブレードで何とか凌ぐ。
  その間にも、秋十は静寐がピンチだと焦る。

「くぅぅ....!」

「っ、っと、はぁっ!」

   ―――御神流“徹”

「きゃぁっ!?」

  ライフルで牽制しても、なのははごり押しで接近してくる。
  間合いに入られた瞬間、咄嗟にブレードを展開して防ぐが、衝撃がそのまま響き、SEに大きなダメージを与える。

「防げ...ないならっ!!」

「っ...!」

  しかし、そのまま静寐は無理矢理なのはのブレードを弾き、一閃を入れる。
  なのはのSEを大きく削るが、それ以上に静寐のSEが削れる。

「くぅっ....!」

「この...ままっ!!」

  弾き飛ばしたなのはを静寐は追いかけ、背後に回り込んで一閃しようとする。

「っ、がっ....!?」

「....後、一歩だったね...!」

   ―――御神流奥義之歩法“神速”

  ...しかし、その攻撃は一瞬で躱され、さらに反撃を受けてしまった。
  そのままSEはゼロとなり、静寐はここで戦闘不能になった。

「....ライフル?」

「...狙いは...高町さんじゃないよ...!」

  そこでようやく静寐が展開していた武器に気づく。
  ブレードではなくてライフルなのだ。しかも、なのはを狙ってはいなかった。

「【...助かったよ。鷹月さん。】」

「【...後は任せたよ。】」

  プライベートチャンネルで秋十はそう言い、静寐は後を託す。
  そんな秋十の前には...。

「...してやられましたね...。」

「せめて、スプライトフォームでなければ耐えれただろうな。」

  ...SEを失ったユーリが佇んでいた。

「最後の最後で秋十さんを援護するとは...。」

「元々こういう作戦だったからな。」

  そう。静寐がライフルを展開していたのは、秋十を援護するためだった。
  自分ではなのはに勝てないと思い、せめてユーリを倒す布石を打っておいたのだ。

「残るは....。」

「......。」

  互いにブレードを構え、そのまま動かなくなる。

「(...諦めるつもりはない...か。当然だな。あれほどの剣の腕だ。ただ諦めるのはもったいなさすぎる。)」

「(篠咲君...相当努力を積んだんだね...。...なら、私も全力で....!)」

  見合い、間合いを計り、最初に動き出したのはなのはだった。

「っ、せぁっ!!」

「っ!くっ...!」

     ギィイイン!!

  ただ真っすぐに加速し、突き出される突き。
  それを、ただタイミングだけを経験と勘から当て、そのまま上手く逸らす秋十。

「(やはり...見切れない....!)」

「(直感で防いだ!?でも...!)」

  逸らされ、反撃を受ける前になのははもう一つ...短めのブレードを取り出して離れる。

「ふっ!」

「っと...!」

     ギィン!

  間合いを一度離し、なのははさっきまで使っていたブレードを秋十に投げる。
  当然、秋十はそれを難なく弾いて防ぐ。....が。

「っ....!?」

「.....遅いよ。」

   ―――御神流奥義之壱“虎切(こせつ)

     ギィイイン!!

  一瞬で間合いを詰められ、鞘走りの要領で展開されたもう一本のブレードが横薙ぎに振るわれる。

「ぐっ.....!?」

  咄嗟に抜刀の構えを認識し、横薙ぎの可能性が高いと思い、防ぐ事に成功する。

「まだ!」

   ―――御神流奥義之弐“虎乱(こらん)

「なっ....!?」

  だが、攻撃はそれで終わりではなかった。
  攻撃が防がれた...つまり、密着状態のままから二刀による乱撃が繰り出される。
  それに対し、秋十は“風”“水”“土”で対処するが...。

     ギィイイン!!

「ぐぅっ...!押し負けた...!?」

「...そう言いながら、防ぎきってるよね?」

  それでも、衝撃が届いていたのかSEが削れている。

「.....小太刀...それも二刀流か...。」

「そうだよ。...尤も、うちの流派って生身の限界を引き出すみたいで、パワードスーツであるISとは相性が悪いみたい。」

「それで相性が悪いのか...。」

  つくづく化け物染みた剣術だと秋十は戦慄する。

「(専用機による機能差とISの経験差でISの動きでは勝っている。だけど、それを補うほどの剣術...そんじょそこらの代表候補生より厄介じゃないか...!)」

「(....ホントに相性悪いなぁ...。SEが勝手に削れてる...。)」

  なのはが想像以上の脅威だと思う秋十だが、なのはもなのはで自身の不利さにどうするべきか悩んでいた。

「(...剣術では上回っている。神速も後二回はできる。...なら...!)」

「(...来る...!)」

  互いに精神を極限まで研ぎ澄ませ、そして同時に動き出す。

「お兄ちゃん直伝...!これが私の...全力全開!!」

   ―――御神流奥義之歩法“神速”
   ―――御神流奥義之六“薙旋(なぎつむじ)

「積み重ねた努力...今こそ見せる!!」

   ―――“四重之閃(しじゅうのひらめき)

  互いに不可視レベルの四連撃の高速な斬撃を繰り出す。
  ぶつかり合ったのは一瞬。制したのは....。





「....負けちゃった...。」

「危...ねぇ....!」

  ...秋十だった。
  決着がついた。その瞬間にブレードに罅が入る。
  どちらも奥義となる攻撃を放ったのだ。相応の負担がかかったのだろう。

     ―――ワァアアアアアアアア!!!

「っ!?な、なんだ!?」

  試合終了し、試合を見ていた観客が一斉に歓声を上げる。

「あ、あはは...自分で言うのもアレだけど、レベルの高い剣技だったからじゃない?」

「...それでか...。」

  ISの恩恵を使わずとも繰り広げられた高度な剣技による戦闘。
  やはり、そういうのもなかなかに興奮するものだったようだ。

「...いい戦いだった。...同じ打鉄だったら負けてたな。」

「そうかなー?篠咲君なら、それでも勝ちに来てたと思うけど...。」

  そんな会話をしながら、二人は試合会場を後にした。











 
 

 
後書き
中途半端ですがここで終わりです。
...なのは魔改造しちゃった...。まぁ、innocentなのはなら御神流使えるし...。(震え声)
そして剣であっさりと秋十を上回る...。まぁ、限界を引き出してるからしょうがないかな。

次回はようやく主人公(笑)な一夏(中身転生者)が出せます。 

 

第34話「思い通りにならない(させない)」

 
前書き
ようやくラウラVS一夏です。
当然、原作と違ってペアが互いに違います。

P.S 地の文の改行の際の空白を1マスに変えました。
 

 




       =桜side=



「ほぉ~...なかなかやるなぁ...。」

「ふむ...高町とも戦ってみたいものだ。」

 秋十君とユーリちゃんの試合を見て、俺はそう呟く。
 隣にいる桃色のポニーテールの女子もなんか戦意を滾らせてる。

「...もしかしてバトルジャンキーだったりする?」

「さぁ、どうだろうな?少なくとも、強者と戦うのは心躍る。」

「充分バトルジャンキーだわそれ。」

 彼女と会ったのは偶然。...というか、俺はラウラの様子を見に来ただけだ。
 そのラウラのペアが彼女...八神シグナムだった訳だ。

「どこにも隠れた強者はいるものだな。」

「同郷の軍人とあれば、近いうちに手合わせしたいのだが...。」

「まずは試合に集中しろ。」

 ダメだこいつら。同じドイツ出身だからか、意気投合して手合わせをするかどうかばっかり考えてやがる...。試合の事考えてないぞ...。

 ...まぁ、対戦相手が考える必要のない相手だしな...。

「...とりあえず、手合わせに関しては試合が終わってからにしよう。」

「そうだな。」

 そういってようやく二人は目の前に迫る試合について考えるようになる。

「(...それにしても、今年の一年生って隠れた実力者多くないか?)」

 高町や八神とか...本音もそうだが、彼女の場合は暗部に関係してるから除外だな。
 高町は父親の方が実は裏にも通ずる剣術の一族らしいけどな。
 ちなみに、八神はこの日本にいる遠い親戚の家で一緒に暮らしているから苗字が八神なんだそうだ。故郷はドイツらしい。

「(...さて、そろそろ俺も観客席に戻るか。)」

 おそらく“奴ら”も動いているだろうし....な。









       =out side=





「....どういう事だ....。」

 生徒ホールに掲示されている対戦表を見て、一夏は信じられないかのようにそう呟く。

「箒が俺とペアになっている...のはまだいい...!だが...!」

 一夏が睨むように見るのは、先程の試合の対戦表と、自身の相手。

「なんで、リリなののキャラがいるんだよ...!」

 そう、高町なのはと八神シグナムという名に、一夏は驚愕していた。

「いや...元々ユーリもいた...って事は、あいつらのせいか...!」

 そういって思い浮かべるは、桜と秋十。

「あいつらのせいで、リリなのキャラまで...!」

 桜か秋十が特典で望んだから、なのは達がいる。そう一夏は思い込んだ。
 ...実際には、ただの偶然どころか、二人は転生とは無関係なのだが。

「どうした秋十。もうすぐ始まるぞ。」

「あ、ああ。わかった。すぐ行く。」

 箒に呼ばれ、ハッとした一夏は急いでアリーナの方へ向かう。

「(...ラウラだって必要以上に俺に絡んでこなかった。まるで、その価値すらないかのように...。くそっ、あいつらのせいでラウラもシャルも展開がおかしい!)」

 悉く思い通りに行かないと、一夏は苛立つ。

「(...まぁいい。ここでラウラをVTシステムから救い出せば....!)」

 とりあえず目の前の事に集中しようと、一夏は思考を切り替える。

 ...彼は知らない。既に、VTシステムなぞ存在しない事を....。







「...ふむ、篠ノ之の方は私に任せてくれ。あの男とは少しばかり因縁があるのだろう?」

「気づいていたのか?」

「なに、目を見ていれば気づける。」

 試合開始直前にて、一夏&箒ペアと相対しながらラウラとシグナムはそんな会話をする。

「....箒、気を付けろよ。」

「分かっている。」

 少し逸れたが、これからの展開にほくそ笑む一夏は、箒にそういう。
 ...そして、試合が始まった。

「っ!」

     ギィイイン!!

「っ、なっ...!?」

 始まった瞬間、シグナムが動き、箒に向けてブレードを振るう。
 咄嗟に箒は防いだものの、いきなりの事に動揺してしまう。

「箒!?」

「...貴様の相手はこちらだ。」

「っ....!」

 箒といきなり分離された一夏の下へ、ラウラが躍りかかる。

「貴様には、少々思うところがあるのでな...付き合ってもらうぞ...!」

「くっ....!」

 敢えてAICは使わず、プラズマ手刀で一夏を攻める。
 手加減に手加減を重ねたような攻め方なので、一夏も何とか防ぐ。

「なんだよ...!やっぱり俺は千冬姉の弟にふさわしくないってのか!?」

 転校してきてから、ラウラと一夏の間にはほとんど関わりがなかった。
 それなのに、まるでわかっていたかのように言う一夏に、ラウラは冷めた目で返す。

「...貴様は既に教官の弟だとすら思っていない。」

「なっ....!?」

 “認めない”のではなく、既にそう思っていないと断言するラウラ。
 その事に、つい一夏は驚愕する。

「それに、自分でふさわしくないのかと勘繰る時点で、それだけの事を仕出かした自覚はあるのだろう?」

 一夏からの攻撃を捌きつつ、ラウラは涼しい顔でそういう。

「っ、それは...!」

「正直、関わる事がなければ会話すらするつもりはなかったが...貴様と戦う事となったからには、はっきり言っておこう。」

 少し遅れて全然関わってすらいない事を思い出す一夏。
 そんな一夏に、ラウラは“ドイツの冷水”という異名にふさわしい視線をぶつける。

「私は貴様を認めない。...教官の弟としてではなく、同じ人間として!貴様を認めない!!」

「っ、ぐぁっ!?」

 確固とした怒りを込めた一撃が、一夏を弾き飛ばす。

「貴様がいたから、教官は...秋十は....!っ...それだけじゃない、貴様と直接的にも間接的にも関わった者全てが...貴様のせいでっ!!」

「がぁっ!?」

 さらにラウラは加速し、追撃を一夏に喰らわす。
 雪片弐型で攻撃を防ぐが、そのうえからの衝撃に一夏はまた吹き飛ばされる。

「一夏っ!!」

「どこを見ている。」

「っ、ぐっ...!」

 一夏の援護に入ろうとする箒だが、シグナムに阻まれる。

「そこを...どけっ!」

「それはできないな。」

 箒の斬撃をシグナムは容易く受け止める。

「この太刀筋...なるほど。やはり篠ノ之流か。」

「なに...?」

「...だが、まだ未熟。」

 一人で納得するシグナムを箒は訝しむも、すぐに吹き飛ばされてそれどこじゃなくなる。

「っ...強い...!」

「これでも様々な剣の使い手と手合わせをした事があってな。...だからこそ、言わせてもらおう。貴様の力はそんなものではないはずだ。」

 そういって間合いを詰め、一閃する。
 近づいて斬る。...ただそれだけの事だが、箒にはそれが脅威に見えた。

「はぁああっ!」

「ぐ、ぁあああっ!?」

 翻弄するように何度も斬りつける。
 飽くまで直撃はさせず、少しずつラウラは一夏を追い詰める。

「どうした織斑一夏!私はまだ武装を一つしか使っていないぞ!」

「く、くそっ....!」

 必死に回避し、反撃を試みようとする一夏。
 しかし、その悉くがラウラには通じず、全て捻じ伏せられる。

 努力を積み重ね、芯の通った攻撃を繰り出す秋十と何度も戦ったラウラにとって、そんな苦し紛れのような反撃は一切通じない。

「弱い!あまりにも弱すぎるぞ織斑一夏!!」

「くっ...!」

 全力を出していないのに手玉に取られている事に、一夏は顔を顰める。

「(なんだよこれ...!ラウラってこんなに強いのかよ...!?)」

 “原作”で思っていたのと違う強さに、一夏はどんどん追い詰められる。

「(これじゃあ、ラウラを倒すどころか、VTシステムを出すことさえ...!)」

「...どうした。考え事とは余裕...だなっ!」

「がっ...!?」

 つい思考が長くなった所を、ラウラの蹴りが入る。

「立て!織斑一夏!貴様にはこの程度では生温い!」

「くっ....!」

 圧倒的で、ただし一気には決めずにラウラは一夏を追い詰める。







「...圧倒だな。」

「まぁ、さすがに予想してましたけど。」

 観客席では、試合が終わって一段落着いた桜と秋十が、共に試合を見ていた。

「さっきまでと違って盛り上がる訳でもないしね。」

「....というか、何気にこの学園、剣が上手い人結構いますよね?」

 秋十はふとそう思って言葉を漏らす。

「俺に秋十君にマドカちゃん、高町に八神...確かに多いな。他にも薙刀なら簪ちゃん、槍なら生徒会長と...。」

「まぁ、武術ができれば有利になりますしね...。」

 ISでも接近されれば、武術を生かす事ができる。
 そう思いつつ、秋十は呟いた。

「それにしてもラウラ...結構キレてるな...。」

「そりゃあ、秋十君を虐げていた張本人だからな。他にも尊敬する千冬を洗脳していたんだ。むしろ試合で圧倒するのみってだけでもマシな方だろう。」

「あー...。」

 自分も頼りにしていた人達を洗脳された身なので、ラウラの気持ちを察する秋十。
 そんな時、ふと桜は空を見上げる。

「桜さん?」

「....予想じゃ、そろそろか...。」

 空を見上げながらそう呟く桜に、秋十は訝しむ。

「どういうことですか?」

「ん?...なに、実はデュノアの件は終わった訳ではなくてな...。もうすぐ終わりに向かうと俺は予想しているんだ。」

「は、はぁ....?」

 どういうことなのかと、秋十は首を傾げる。

「幸い、デュノア本人は会社(うち)で預かってるから安全だけど、ここはそうはいかん。俺たちで何とかするんだ。」

「...正直、嫌な予感しかしないんですけど。」

 なんとなく何が起こるか予測がつき、秋十は顔を引き攣らせる。

「襲撃?」

「だろうねー。とりあえず念のためユーリとか呼んでおいてくれる?」

「オッケー。その間は任せたよ。桜さん、秋兄。」

 マドカは桜の指示通りにユーリや簪たちを呼びに行っておく。
 襲撃されるのなら、すぐに動けるようにという考えだ。

「(しかしまぁ...見事なまでに“原作”と同じタイミングで試合中止になりそうだな。)」

 “原作”の知識から、確かラウラと一夏の試合で中止になったと思い出す桜。
 それと同時に、アリーナにアラートが響き渡る。

「来たか...。」

【試合は中止です!不審なISが学園に接近しています!来賓の方々と生徒の皆さんは大至急避難してください!繰り返します!】

 山田先生によるアリーナに向けた放送の声が響き渡る。

「...悪いな、巻き込んでしまって。...被害は出さないからな。」

「桜さん...やっぱり...。」

「これが一番やりやすかった。...まぁ、大丈夫だ。」

 そんな問題じゃないと思いつつ、避難し始める生徒たちの最後尾に就く秋十だった。







「なんだ...!?」

「一体何が...。」

 試合をしていたラウラ達も動きを放送の声に止める。

「ISの襲撃?なんでIS学園にそんな事が...。」

「ぐ、...ぅう....!(なんだよ...!?なんでここで襲撃なんだ!?こんなの原作にはなかっただろう!?)」

 ラウラによってボロボロにされた一夏は、呻きながらもそう思う。

「とにかく、私たちも避難に....っ!」

 “向かおう”とシグナムが言おうとした瞬間、アリーナのシールドに衝撃が走る。

「早い...!これでは教師が間に合わないぞ...!」

「...私が喰い止めよう。」

「ラウラ!?」

 少しの時間ならアリーナのシールドで稼げるが、教師が来るには間に合わない。
 ならば、とラウラは自身が足止めに買って出る。

「軍人たるもの、近くの生徒ぐらい守れないでどうする!?」

「っ....分かった....だが。」

 シグナムはそんなラウラの横に立つ。

「...私もお供しよう。」

「なっ...!?」

「...これでも色んな剣士と手合わせした経験がある。...なに、すぐにやられる事はないさ。」

 それでも実戦に対して冷や汗を掻くシグナム。

「...それに、だ。...もう、選択する時間がない。」

「っ...!」

 その言葉と共に、シールドが破られ、複数のISが入ってくる。

「....幸い、相手はラファールのみ...おそらく代表候補生並の相手はいない。ならば、倒すのは私で、シグナムはそこの二人を守ってくれ。」

「...わかった。」

 いざ行動を起こそうと、二人が動き出した時...。



   ―――いや、二人とも守る方でいいぞ。



「っ...!」

「....お前は...。」

 横合いから聞こえた声に振り返ると、そこには桜が立っていた。

「いつの間に...。」

「シャッターが閉まる前に、ちょちょいっとね。...さて...。」

 そう言って生身のまま桜はIS達の前に立つ。

「...お前らがご所望の相手が来たぜ。」

「っ...なら、貴様が...!」

 怒りを滲ませ、襲撃者の一人がライフルを桜に向ける...が、そこにはいなかった。

「なっ...!?」

「そうだな。お前らが勤めるデュノア社を潰した会社の一人だ。」

「いつの間に...!?」

 既に桜はその一人の懐に入り込んでいた。

「というか、自業自得だぞ?そんな後ろめたい事ばかりやっているから、それをばらされただけで会社が潰れるんだ。」

 桜や束がデュノア社に行った事はそこまで複雑ではない。
 ただ汚職などとにかく黒い部分を露見するようにしたのだ。
 そして、潰れるまでの間にシャルを会社から移動させたのだ。

「うるさいっ!!男なんて私たちのいう事を聞いてればいいのよ!」

「っ、避けろ!」

 ブレードが振られ、それを見たシグナムは咄嗟にそう叫ぶ。

「大丈夫だ。」

「ラウラ!?何を...!」

 それをラウラが制し、訝しんだシグナムが再度桜を見ると...。

「...ブレードの使い方がなっちゃいないねぇ。そんなんじゃ、生身の人間すら殺せないぞ?...まぁ、ISの用途はそんなんじゃないけどな。」

「なっ....!?」

 ブレードの刀身に乗った桜がそういう。
 そして、手元に蹴りを入れてそのままブレードを奪う。

「...ほら、来いよ。男の強さを見せてやるよ。」

「っ....調子に乗るな!男風情が!!」

 ブレードを手に、桜は襲撃者たちを挑発する。
 その挑発に襲撃者たちはあっさりと乗り、戦闘が始まった。

「(な、なんでこんな事に....!?)」

 そんな中、一夏は展開についていけず、ただ“原作”と違う事に戸惑っていた。

「おい、早く避難するぞ。聞いているのか!?」

「(...そうか、あいつが...あいつがいるから...!)」

 ラウラの声も聞かずに、一夏は桜に憎悪を向ける。

「速い...あれで生身なのか...?」

「師匠には常識は通用しない。......後、避難の必要もなくなったな。」

 ラウラがそう言った瞬間、ピットの方からいくつものISが出てくる。
 鎮圧部隊の教師たちだ。以前と違ってシステムが無事なため、もう来たようだ。

「いーや、こっちには戦闘不能が二人いるからな。後、生身も。」

「...師匠?どうして戦闘をやめて...。」

「さすがに生身でやり合ってるのが知れ渡るのはやばいからな。」

 アリーナの観客席にいた者は全員避難しているため、桜の戦闘を見ていたのは管制室にいた千冬と山田先生ぐらいだった。
 さすがに、周知になるのは避けるのだった。

「無事....ですね!」

「おい、俺を見て大丈夫だと断定するな。」

 鎮圧部隊の一人...アミタが桜を見て無事だと断定する。

「また恨みでも買ったの?」

「買ったっちゃ、買ったな。...ちなみにお前らも買った内の一人になるな。」

 キリエの問いにそう答える桜。
 今回の場合、恨みを買ったのはワールド・レボリューションなので、その会社に所属しているアミタとキリエも一応恨みを買ったと言える。

「っ.....!」

「...とにかく、捕縛します。」

「任せた。ほら、避難するぞ。」

 後を教師陣に任せ、桜は四人に呼びかける。

「..........。」

「っ....一夏、避難するぞ。.....一夏?」

 素直にいう事は聞きたくないが、渋々従う箒。
 だが、なんの反応も示さない一夏に訝しむ。

「っ...ぁああああああ!!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 突然、一夏は雪片弐型を桜に向けて振るう。
 それを桜は持っていたブレードで受け流す。

「桜さん!?」

「何を...!?」

 突然の事に、アミタとキリエが驚く。

「おいおい。この状況で俺に斬りかかるとか...状況わかってる?」

「うるせぇ!!てめぇさえ...てめぇさえいなければ!!」

 思い通りにならない。そんな思いで、一夏は桜に斬りかかる。
 幸い、我武者羅に振るっているだけなので、桜は何とか受け流せている。
 ...実際はそう見えるだけで、余裕だったりするが。

「っ、キリエ!そちらは頼みます!」

「りょーかい!」

 すぐさまアミタが動き、一夏を抑える。

「ぐっ....!」

「この状況で場を混乱させるとは...人を危険に晒したいのですか!?それに、桜さんだったからよかったものの、ISで人に斬りかかるなど、何をしようとしたのかわかっているのですか!?」

「おい、俺だったからよかったってなんだ。」

 桜の突っ込みも無視してアミタは一夏を叱責する。

「(なんだよ...!なんで、思い通りにならねぇんだよ...!)」

 だが、一夏はそんな事よりも、自分の思い通りにならない現状にただただ怒りを抱いていた。

「.........。」

「っ.....!」

 そんな一夏を、桜は無言で見下ろす。

「...アミタ、後は頼んだ。」

「桜さん?...あ、はいっ!」

 数秒間の睨み合いの後、桜はアミタにそう言って背を向ける。

   ―――....てめぇなんかの思い通りにはさせねぇよ。

「(....ま、概ね予定通りだな。)」

 先ほど見下ろしてた際の心の声を思い出しつつ、桜はそう思った。

「(白式には悪い思いをさせちまうが...まぁ、臨海学校までの辛抱だな。)」

「師匠?」

「ん、なんでもない。」

 ラウラに話しかけられた所で、桜は思考を中断した。

「すみません、一応私たちが来るまでの事情を聞きたいのでついてきてください。」

「分かった。行くぞ、皆。」

 そして、一人の教師にそう言われて桜たちは移動した。
 ...こうして、突然のIS学園への襲撃は無事に解決したのである。

 尤も、事後処理がまだなのだが。









「このっ...大馬鹿者が!!」

     スパァアアアアン!!

 事情聴取にて、部屋に大きな乾いた音が響き渡る。
 千冬が一夏に対して出席簿で思いっきり叩いた音だ。

「ぐ....!」

「貴様は何をしたのかわかっているのか!?その場にいる全員...特に桜を危険に晒したのだぞ!?幸い、相手が桜だからよかったものを...!」

 あまりの怒りに、桜の事を苗字ではなく名前で呼んでしまう。
 桜が襲われた事に、千冬も少なからず動揺していたらしい。

「....どうして皆俺なら大丈夫だというんですかね?」

「...日頃の貴方のチートっぷりを振り返ってください。」

 隅の方でボソリと呟いた桜の突っ込みに、アミタが呆れながら言い返す。
 言われた通り、桜は少し振り返って...。

「いやまぁ、確かに大丈夫だと自分でも思うけどさ。」

「思うのか...。」

 大丈夫だと認める。その事にあまり詳しくは知らないシグナムも呆れた。

「あ、そうだ。アミタ、さっき襲ってきた元デュノア社の連中は?」

「他の部屋で尋問中です。」

 一夏を問い詰める千冬を他所に、桜は少し気になった事をアミタに聞く。

「ま、大方女尊男卑思想の連中が会社を潰された腹いせに目障りな会社の一員の男である俺や秋十君を狙いに来たんだろ。」

「....そこまで既に推測してるんですね。...あっ、そういえばトーナメント前に会社で色々やってたような...。」

 白々しく言う桜に、アミタは会社に一度戻った際に気づいた事を思い出す。

「アミタ、お前は何も見なかった。いいな?」

「え?もしかして...。」

「いいな?」

「....はい。」

 しかし、桜の威圧によってその事はなかった事にされた。

「ちょっとお姉ちゃん?事情は聞き終わったの?」

「あ....。」

「何やってるのよ...。もう、こっちで聞いておいたわよ。」

 どうやら桜とアミタが会話している内に、キリエが代わりにラウラやシグナムから事の経緯を聞き終わったらしい。
 ちなみに、一夏はまだ千冬の説教を受けている。

「とりあえず、この事件に関わった生徒には箝口令が出されるわ。それ以外は特になし。....いいわよね?織斑先生。」

「ん?...ああ、そうだな。こいつ以外はな。」

 実際は襲われて教師が来るまで耐え凌いだだけなのだ。
 罰せられる謂れはないだろう。...桜を襲った一夏を除いて。

「....はぁ、とりあえず、結論から言っておこう。襲撃者達はIS学園がきっちりと対処する。お前たちは...まぁ、口止め以外は特に何もない。ただし、織斑。お前だけは反省文20枚と二週間の自室謹慎を言い渡す。」

「っ、そ...!」

「文句はないな?言っておくが、織斑の意見は聞かん。自分の思い通りにならないから人を襲うなどと馬鹿げた理由で斬りかかるとはな。」

 千冬からの言い渡しに一夏が言い返そうとするも、それを封殺する。

「な...!?」

「...言わなければわからないと思ったか?」

 これでも勘の鋭い千冬である。弟の考えている事ならある程度見抜けるのだろう。

「.....まったく、私は育て方を間違ったのだな...。すまない、私の弟がこんな事を仕出かして....。」

「教官....。」

 その場にいる全員に頭を下げる千冬に、ラウラは言い様のない悲しさに見舞われる。
 秋十と会って色々変わったラウラだが、それでも尊敬する千冬の弱々しい姿は見ていられないのだ。

「ち、違っ...!」

「何が違うというのだ?」

 一夏は苦し紛れに事実を否定しようとするが、誰も信用しようとしない。

「ほ、箒...!」

「...どういう事だ一夏....いくらなんでも人を殺そうなどと....!」

 唯一洗脳されたままの箒に一夏は頼ろうとする。
 しかし、その洗脳は“原作”の箒のようにしただけ。緊急時に人に斬りかかるという愚行を許容させるような洗脳ではない。

「お前はそのような奴じゃなかったはずだ!どうして...!」

「ほ、箒...?」

 庇ってくれない事に、予想外だと一夏は茫然とする。

「い、いや、これは...!」

「っ...!みっともないぞ一夏!!」

     パァアアン!!

 またもや室内に乾いた音が響き渡る。
 感極まった箒が、一夏の頬を思いっきり叩いたのだ。

「ぇ....?」

「少しは頭を冷やせ!」

「あ、待て!」

 涙を流しながら怒りをぶちまけ、箒は勝手に部屋から出てしまう。
 さすがにそれはダメだろうと、シグナムが止めようとしたが、手遅れだった。

「....まぁ、いい。伝えておくべき事は伝えておいたからな。...八神、追いかけたければ追いかけてもいい。...別に、既にお前たちを留めておく必要はないからな。」

「...ありがとうございます。では。」

 千冬の言葉にシグナムはそう言って箒を追いかけて行った。










 
 

 
後書き
今回はここまでです。中途半端ですがここ以外で切れませんでした。

また出てくるリリなのキャラ...。オリキャラじゃないので扱いやすいんです...(´・ω・`)
innocent基準に見せかけてなのはと同年齢。...ベルカ語ってそういえばドイツ語に近いという事で、ラウラと相性がいいという事でチョイスしました。

束や桜は所謂真の黒幕的なポジです。状況をどう動かすかも、二人に掛かれば自由に決めれます。
そしてなんか自暴自棄になる一夏。そろそろ評価がガタ落ちしそう。 

 

第35話「その太刀筋の輝きは」

 
前書き
....あれ?前回限りのつもりだったシグナムの出番が...。
 

 






       =out side=





「...待て篠咲兄。」

「....ん?」

 あの後、事情聴取が終わって桜達が帰ろうとした時、千冬が呼び止める。

「...ここではなんだ。別の部屋で話がある。」

「分かった。」

 そういって千冬は桜を連れて別の部屋に移動する。

「(...やっぱ察したか。)」

 桜がそう思っていると、千冬が話し出す。

「...今回の襲撃、何か知っているだろう?...いや、何かどころではない、ほとんど知っているだろう。」

「....一応聞くが、根拠は?」

 予想通り疑ってきたと、桜は念のために訳を聞く。

「お前のその態度だ。...もし予想していなければ、束同様に何かしらのリアクションがあるからな。だが、平然としているという事は、少なくともそれが予想できる理由があると思った訳だ。」

「なるほど...幼馴染ならではの理由だな。」

 具体的な理由ではないが、説得力があると苦笑いする桜。

「ま、千冬の言う通りだ。今回の襲撃者...元デュノア社の連中が襲ってきたのは俺たちの会社がデュノア社を潰したからだな。黒い部分ばっかだからほぼ自業自得なんだけどな。」

「そういうことか...。」

 先程襲撃者のラファールを調べた所、既にSEは半分もなかったらしい。
 その事から、ほぼ我武者羅だったのだと千冬は思った。

「...大方、デュノアのためか。」

「正解。ま、俺たちの気まぐれって所だな。助けた理由は。」

 そう返答する桜に、千冬は“ああ、こういう奴らだったな”と納得した。

「話は終わりか?」

「ああ。...あまり無茶苦茶はするなよ?」

「分かってるって。」

 話は終わり、千冬は念を入れて桜にそう忠告し、二人とも部屋を後にした。















「....寮方面はあまり目撃されてない...か。」

 一方、部屋を飛び出した箒を追いかけているシグナムは、箒を見失っていた。

「...奴は、剣士としての志を持っていた。...だとすれば...。

 一か所、思い当たる場所があり、シグナムはそこへと向かう。





「....やはり、な。」

「...貴女は...。」

「八神シグナム。...直接名乗ってはいなかったな。」

 シグナムが向かった先は剣道場。
 剣道部が使うその道場の中に、箒は正座で佇んでいた。

「....何の用だ。」

「なに、同じ剣士として、喝を入れに来ただけだ。」

「喝だと?」

 箒の聞き返しを無視し、シグナムは立てかけてある竹刀を二つ取り、片方を箒に投げる。

「...構えろ。お前が培ってきた剣の道、ここで見せてみろ。」

「なぜ今貴女としなければならない。」

 しかし、シグナムの言葉に箒は竹刀を取ろうとしない。

「....お前の剣、それはお前が信じた者の剣を追いかけたものではないか?」

「...どういう事だ。」

「簡単な事だ。...お前の剣には何かに憧れた想いがあった。」

 シグナムは何かの大会に出たりしていないが、剣に関しては秋十に迫る修練を積み重ね、一般人とは思えない“強さ”を持っている。

「憧れ...?」

「....自覚なしか。....なら...!」

「っ!?」

 首を傾げる箒に、シグナムは一気に接近して竹刀を振りかぶる。

「ぐっ...!」

「はぁっ!」

 上段からの振り下ろしを咄嗟に防ぐ箒だが、すぐに切り返され胴に一撃を喰らう。

「今のは軽く当てただけだ。...大会優勝者が、その程度か?」

「っ、貴様...!」

 シグナムは軽く挑発し、箒をやる気にさせる。

「来い。....その心にある迷い。私にぶつけてみろ!!」

「っ、はぁあああっ!」

 剣道着を着る事もなく、二人は剣で語らい始めた...。









「っ、ぐ...!」

「どうした。これで終わりか?」

 数十分後、シグナムの前で箒は竹刀を支えに膝をついていた。

「(つ、強い...!これほどの実力者が、なぜここに....!)」

「....随分と、あっけないものだな。」

 既に立とうともしない箒に、シグナムは呆れるようにそういう。

「大方、信頼を置いていた織斑があんな事を仕出かして、裏切られた気分になったのだろう?」

「...そうだ...。昔は一夏と共に剣道を修めていた。なのに...なのに一夏は剣の道に背くような...人としてダメな事を...!」

「そうだな。あれは人としてありえない行為だ。」

 襲撃という緊急事態に味方に斬りかかる。
 例え洗脳されていても、それは箒にとって許せない行為だった。

「...一つ聞きたい。...お前の目指した相手は、本当に織斑なのか?」

「っ、何を言う!それ以外に、誰が...!」

 疲労により行き絶え絶えになりながらも箒は否定する。

「...私には、篠咲秋十を目指していたように見えたのだがな。」

 才能などなく、それでも努力を積み重ねた事による、無骨なまでの美しさ。
 それを目指しているように、シグナムには見えたのだ。

「っ...!誰が、あんな奴を...!」

「....本当にそうなのか?」

 いくらなんでも、剣をぶつけ合っただけでわかるほど、シグナムは異常ではない。
 しかし、それでも一夏の剣とはあまりに違うとシグナムは感じていた。

「そうだ!誰が、あのような腑抜けた奴...に....。」

「....ん...?」

 否定しようと言葉を紡ぐ中、箒は自身に芽生えた違和感に気づく。

「(...腑抜けた...?奴が...?)」

 自身で言っておきながら、秋十が腑抜けた姿を思い出す...想像する事も出来なかった。
 その時、箒の頭に一つの光景が浮かんだ。

   ―――ねぇ、君はどうしてそこまで頑張るの?

   ―――どうして...ですか。...俺には、才能なんてありませんから。

 それは、幼き頃の記憶。
 自身の姉と、出来損ないと蔑まれた努力家の会話を物陰から覗いていた記憶だった。

「ぐっ...!?(なんだ...!?今のは...!?)」

「どうした!?」

 その直後、突然頭痛が起こり、箒はその場で蹲る。

   ―――俺は弱い。だから、それだけ努力するんだ。
   ―――...俺には、それしかできないからな。

「っ...ぁ....!?」

 それは、あの日憧れを抱いた時の記憶。
 その真っすぐな在り方に子供ながら美しいと感動し、彼に憧れた記憶だった。

「大丈夫か!?っ...頭を打ったはずはないが...!」

「ぐ...ぅ....!」

 幼き頃の、忘れられていた記憶。
 それらが次々に頭に浮かび、箒は頭痛に苛まれる。

「っ、ぁ...あ、秋...十......?」

「すまない!やりすぎたか...!?とにかく、保健室に...!」

 もしかして打ちのめしすぎたのかと勘違いしたシグナムが、箒を連れて行こうとして...。

「いつもニコニコ貴女の隣に這いよるお姉ちゃん篠ノ之―――」

「っ!!」

「―――たb、ってわぁっ!?」

 突然現れた女性に反射的に竹刀を振るってしまう。...尤も、躱されたが。

「しまった...!反射的に....!って、貴女は...!?」

「いきなり竹刀だなんてひどいよー!...って、そんな場合じゃなかった!」

 シグナムは反射的に竹刀を振るった事を謝ろうとして、その相手に驚く。
 その相手...束はそんな事をお構いなしに箒へ駆け寄る。

「ちょっとタオル濡らしてきて!応急処置するから!」

「え、あ、はいっ!...しかし、保健室に連れて行った方が...。」

「さー君呼んだから大丈夫!保健室に運ぶより束さんが看た方がいいんだよ!」

 シグナムの問いに束は色々小道具を取り出しながらそういう。

「ほら、急いで!」

「わ、わかりました!」

 催促され、慌ててシグナムはタオルを濡らしに行く。

「(頭痛による高熱...記憶改竄に抵抗する際の症状って所だね...。今まではさー君の不思議パワーで元に戻してたけど、実際に症状を見るとなかなかに厄介...!)」

 束は箒の頭を膝に乗せ、額に手を触れて熱を測る。

「....ごめんね、箒ちゃん。...でも、これからは大丈夫だから...。」

「っ...秋..十....。」

「...箒ちゃんにとって、あっ君の努力をする姿が、何よりも印象深かったんだね...。それがあの子との剣の打ち合いで思い出された...。」

 頭を撫で、慈しむように箒の過去について呟く束。
 そこへ、シグナムが戻ってくる。

「濡らしてきました!」

「貸して!」

 すぐに束はタオルを受け取り、持ってきた保冷剤を包み、箒の額に乗せる。
 普通の治療ではどうにもならないので、これで凌ぐようだ。

「しかし...なぜ貴女のような人物がここに...。」

「大事な妹だからね。異常があれば駆け付ける。...その異常に気づけるようにちょっと...ね。ま、天災の束さんに掛かればこれぐらいちょろいちょろい。」

 実際は人工衛星から箒の様子を見ていただけである。

「...では、なぜ彼女は...。」

「...記憶の矛盾によるオーバーヒートみたいなものだよ。実際に覚えている嘘の記憶と、根底に眠る本当の記憶による矛盾...それが原因だよ。」

「記憶の...矛盾?」

 記憶喪失などが起きても起きないであろう現象に、シグナムは首を傾げる。

「そういう、オカルト染みた事をした人物がいるんだよ。」

「そう...なんですか...。」

 いまいち自身の理解が追いつかない話だと、シグナムは思った。

「ごめんね。いきなりこんな事になって。...そして、ありがとう。これで箒ちゃんを正気に戻せるよ。」

「...私としては、ただ“迷い”を正そうとしただけですが...。」

「それでもいいよー!結果的にそれが一番効果的だったんだから!ね、今度お礼をしてあげるよ。何が欲しい?専用機?それとも...。」

 箒に膝枕をしつつも、捲し立てるように言う束にたじろぐシグナム。
 そこへ、地面を滑るような音と共に桜が飛び込んでくる。

「っ、あー!剣道場が遠い!すまん束、遅れた!」

「おっそーい!とりあえず、早くやって!」

 すぐさま駆け寄り、箒に手を翳す。
 すると箒が淡い光に包まれ、頭痛が治まったのか呻き声が治まる。

「今のは...。」

「一応、他言無用...な?」

「...わかりました。」

 桜にそう言われ、自分が出る幕ではないとシグナムは思って引き下がった。

「....姉...さん.....?」

「熱も治まった...ね。箒ちゃん、調子はどう?」

 頭痛に苛まれ、周りの状況が見えていなかった箒は、状況を確認する。
 そして、飛び上がるように束から離れる。

「ね、姉さん!?なぜここに!?」

「妹が心配で見に来たのだー!」

 驚く箒に対し、いつもの調子を取り戻す束。

「...篠ノ之博士って実際どういう人物なのだ?いまいちわからないんだが...。」

「うーん...そうだな。基本的に自由奔放だな。自分がこうしたい、ああしたいって思ったら迷わず実行したりするな。...あ、後外道な事は毛嫌いしてる。気に入ると色々気に掛けるが...その基準は俺にもよくわからないな。」

「そうか....。」

 ますます分かり辛いなと、シグナムは思った。

「ちなみに八神、お前も気に入られてるぞ。」

「そうなのか?」

「そりゃあ、妹を元に戻せるきっかけを作ったんだ。気に入られるだろうよ。」

 姉妹で騒いでいる二人を他所に、桜とシグナムはそんな会話をしていた。

「おーい、束。そろそろ...というか多分もう千冬に感付かれてるぞ。」

「あ、そうだね!じゃあ、そろそろお暇するよ!えっとそこの...。」

「...八神シグナムです。」

「じゃあ、しーちゃん!後で連絡用の番号を送っておくから、いざという時は頼ってもいいよ!」

 そういって束はどこかへ走っていった。

「し、しーちゃん...?」

「千冬みたいな呼び方だな...。雰囲気が似てるからか?」

「い、いや、今のは...。」

「ああ、ただの愛称だ。気に入った相手を呼ぶ時は大抵そんな感じだ。」

 その愛称は自分には合わないだろうと、シグナムはそう思った。

「.....展開に追いつけないんだが....。」

「あー...自分が頭痛で動けなくなったのは覚えてるな?」

 戸惑っている箒に説明するため、桜は箒にどこまで覚えているか問う。

「ああ。っ.....あ.....。」

「...まずは記憶の整理からか。」

 ようやくそこで秋十に関しての事を思い出したのか、箒は固まってしまう。

「わ、わたっ、私は...!?」

「...落ち着け。戸惑うのは分かるがな。」

 今まで何をしてきたのかを思い出し、慌てふためく箒を桜は宥める。

「っ....秋十...すまない....すまない....!」

「....私にはどういう事か把握できないが...。」

「...秋十君と篠ノ之...もう解いたから箒ちゃんでいいか。彼女は幼馴染でな。束曰く仲が良かったらしいんだが、ある日洗脳を受けて秋十君に対してひどい事をしてしまってたって訳さ。」

 シグナムが何がなにやらわからないので桜に聞き、桜がそれに答える。

「洗脳...?」

「今の時代、ありえない事でもないよ。俺や束だってできるしな。...ただ、それは科学的な方法でだ。...彼女の場合、オカルト的な方法で洗脳されたんだ。」

「そんな事が...。」

「できる奴がいるんだよ。...今はもう無理だけどな。」

 この場にはいないその人物を、嘲笑うかのように桜は言う。

「なるほど...。信じがたい話だが、こんな事で態々嘘をつく必要もなさそうだ...。」

「誤魔化すための嘘とは思わないのか?」

「こんなのを嘘とするなら、真実はもっとひどい事になる。どっち道信じた方が気分的にも楽さ。」

「ま、言えてるな。」

 軽口を叩き合う桜とシグナム。そこでふとシグナムが気づく。

「...今更だが...篠ノ之博士との関係は...。」

「確かに今更だな...。ま、幼馴染って奴だ。諸事情で10年以上会えてなかったけどな。」

 苦笑いしながら桜は言うが、当のシグナムは驚愕していた。

「必然的に千冬とも幼馴染って訳になる。...まぁ、そんな大事のように捉えなくてもいいぞ?別にやましい事してなければ無闇矢鱈に干渉しないし。」

「そういう問題ではないのだが...。」

 衝撃の事実に頭を抱えるシグナム。

「...帰る。もう、私の出る幕ではなさそうだしな...。」

「なんか疲れさせちまったな...。ま、束と同じ訳ではないが、今度適当にお礼しに行かせてもらうよ。」

「ああ....。」

 少し遅い足取りで、シグナムは去っていった。

「....さて、落ち着いたか?」

「.......少しは...。」

 シグナムが去り、桜は箒に声をかける。
 少しは頭の整理ができたらしく、箒はそう答える。

「っ.....!」

「...やめておけ。当事者がどうであったにせよ、復讐はお前がするような事じゃない。」

 傍に置いてある竹刀を持ち、立ち上がろうとするのを桜が抑える。
 そうでなければそのまま一夏を襲いに行こうとするほど、箒は怒りに震えていた。

「だが!奴を野放しにしておく訳には...!」

「泳がせておくのさ。...その方がいい。」

 にやりと、あくどい事を企んだような笑みを桜は浮かべる。

「....なんというか、姉さんと同じような...。」

「まぁ、そりゃあ同じ天才だし?それに容姿も似ているしな。」

「........。」

「あ、黙って距離を取らないでくれ。傷つく。」

 姉と同じ類なら...と距離を取ろうとする箒を桜は引き留める。

「....小さい頃、おかしくなる前に幼馴染の話を姉さんから聞いたが...。」

「...多分、それ俺だな。」

「やはり...か。」

 ふと、どことなく話を逸らしている事に桜は気づく。

「...やっぱり、会うのが怖いか?」

「っ...!...その通りだ。...今、秋十に会ったら、罪悪感で潰れてしまいそうだ。」

「そうか...。」

 そこで桜は徐に竹刀を拾い、箒に投げ渡す。

「言葉でどうすればいいのかわからないのなら、剣で語ればいい。」

「っ、そういう問題では...!」

 竹刀を受け取った箒は、桜にそう言い返す。

「秋十君に憧れた剣筋なんだろう?」

「っ....!どこでそれを...!」

「俺、束と幼馴染なの忘れてる?」

 桜にそう言われ、ハッとする箒。

「ね、姉さん....!今度会ったら....!」

 そして、今度会ったらタダじゃおかないと深い憤りを持った。

「....まぁ、なんだ。罪悪感でしおらしくなっても、それでは何も解決しない。....だったら、いっそのこと自分らしくいろ。...それだけで、秋十君は応えてくれる。」

「....自分らしく...。」

「秋十君はあれでも鈍感だ。...多分、剣筋が似てる程度にしか思わないって。」

「それはそれで困るが...。」

 苦笑いしながら箒は桜の言葉を反芻し、立ち上がる。

「...私らしく..か。確かにそうだな。会わずにへたれているのは、ただの“逃げ”だ。当たって砕けろ...とまでは言わないが、私らしくしよう。」

「その意気だ。....もう、大丈夫そうだな。」

「ああ。色々とすまなかった。」

「別にいいさ。じゃ、俺はもう行く。」

 そういって桜は剣道場を去る。
 箒も、気持ちを新たに寮へとそのまま帰っていった。











「....あ、桜さん、どこ行ってたんですか?」

「ん?ちょっとな。」

 寮に帰り、部屋で待っていた秋十からの問いを、桜ははぐらかす。

「そういえば結局、桜さんたちだけで解決してしまいましたね。」

「あー、秋十君には避難する人たちの安全を確保してもらってたっけ?...思った以上にあっさりと終わらせられたしな。」

 クラス対抗の時と違い、システムの妨害がなかったため、その分教師たちが早めに駆け付け、あっさりと鎮圧されたのである。

「マドカも拍子抜けしてましたよ。」

「すまん。予想以上に相手が大したことなかった。」

 ちなみに桜の予想では、教師と互角ぐらいの強さを想定していた。
 ...アミタやキリエがいる時点でその予想は崩壊していたが。

「...なんだか嬉しそうですね。何かいいことあったんですか?」

「ん?そう見えるか?...そうだな...。」

 自分でも気づかない内にそうだったのかと、桜は記憶を振り返る。

「...あー、目的の一つが達成できたから...かな?」

「桜さんが嬉しそうにする目的って一体...。」

 大抵な事はあっさり成し遂げる桜が嬉しそうなので、秋十は桜がどんな事を仕出かしたのか戦慄してしまう。

「....言っておくけど、そんなやばい事じゃないからな?」

「わ、わかってますよ...。」

「....ま、秋十君にとっても嬉しい事だよ。これは。」

「俺にとっても?」

 どういうことかと、秋十は首を傾げる。

「...近いうちにわかるさ。」

「は、はぁ....?」

 訝しむ秋十を他所に、桜は部屋の椅子に座った。

「(第一の目的は果たした。後は....。)」

 桜は内心ほくそ笑む。
 洗脳は全員解き、次にやろうとしている事を見据えて。

「(個人の修正は終わった。...さぁ、世界の前に、復讐でも果たそうじゃないか...!)」

 秋十に気づかれないように、桜は嗤う。
 世界の運命を捻じ曲げようとした、一人の人間に復讐できる事に歓喜して。











 
 

 
後書き
最後がダークな感じですけど、復讐の表現はだいぶソフトにする予定です。(作者が書けないだけ) 

 

第36話「事件が終わって」

 
前書き
サブタイ通り、後日談です。
何気に30話で秋十とラウラが言っていたトーナメントでの決着がなくなったので、近いうちに回収しておかなくちゃ...。
 

 








       =桜side=





 事件も終わり、一度部屋に戻った俺は、また違う所に来ていた。

「あったあった。自室謹慎のついでに、やっぱり取り上げられてたか。」

 本来は教員以外立ち入り禁止な場所に、それはあった。
 ...え?どうして入ってるかって?ちょっとした野暮用だ。

「機嫌は....よくはないよな。」

【――――。】

 そこにあるのは、一つの白い鎧。
 ...つまり、一夏の専用機である、白式がそこに置かれている。

「あー、何も言い返せん。悪いな。こんな役目やらせる羽目になって。」

【―――、――――。】

 感じられる不機嫌な“意思”に俺はただ謝る。

「一応、これであいつはしばらく自室謹慎だ。そして、後は臨海学校までで、この役目は終わり。...あと少しの辛抱だ。」

【――。】

「...いや、嫌なのはわかるけどさ...。」

 やっぱり、少し子供っぽい部分あるよな...。

「...まったく、この端末に繋がるようにすれば、少しはマシになるぞ。」

【―――?―――!】

「お、おう...。わかったわかった。」

 缶バッチサイズの端末を取り出し、そういうと凄い勢いで食いついてきた。

「一応、周りには会社(うち)の作ったAIとしていてくれよ?まだ世間にばらすのには早すぎるし、お前の身も色々危険になる。」

【――――。】

「うん。いい子だ。」

 端末と白式を繋げ、しばらく処理を待つ。
 監視カメラには何も映らないようにしておいたが、早く終わらないものか...。

「...なぁ、今の所、“覚醒”しているのはどれぐらいいるんだ?」

【―――?】

 その間、少し暇なので会話をする。

「コア・ネットワークで情報を共有してるんだろ?わからないか?」

【―――.....―――。】

「...そうか...。はっきりわかるのはお前とユーリちゃんの所だけか。」

 意思の表面化しているISはほとんどないんだな。
 俺の想起もまだだし。

「....よし。処理が終わった。じゃ、また後でな。」

【―――。】

 そそくさとその場を後にし、監視カメラの映像を元に戻しておく。
 ...ふぅ、千冬に見つからずに済んだか。

「窮屈すぎたもんなぁ...。いやぁ、持ってきてよかったよかった。」

 先ほどの端末を見ながら、俺はそういう。

「(さて...大きなイベントは後は臨海学校だけ。しばらくのんびりさせてもらうか。)」

 デュノア関連も終わらせたし、普通に日常を謳歌するか。









       =秋十side=





「「....はぁ...。」」

 俺とマドカは二人揃って溜め息を吐く。

「あ、あのー...二人共...?」

「ごめんユーリ、ちょっと落ち込んでるだけ。」

「結局桜さんに振り回されただけだしなぁ...。」

 今は夕食も終わって少しある自由時間。
 俺たちは桜さんに念のため動けるように言われてたんだけど、結局何もする必要がなかった事に少し落ち込んでいる。
 ...いや、動く必要がなかったのはいいことだけど...振り回された感があって...。

「それに、トーナメントも初戦だけ行って後は中止だよ?ひどいと思う。」

「折角色んな相手と戦えるチャンスだったのに...。」

 マドカとも久しぶりに全力で戦えるチャンスだった。
 ...鷹月さんにはちょっと悪いけど。

「ふ、二人とも案外試合が好きなんですね...。」

「そりゃあ、自分の力が再確認できるし。」

「そういうものでしょうか...?」

 高みを目指す者にとってはそういうものだと思うけどな。
 トーナメントをこなす事で、足りない所とか新たな発見もあるだろうし。

「...というか、肝心の桜さんはどこなの?」

「あの人は部屋に作り置きしておいた夕食を食べた後、またどっか行ったよ...。」

 相変わらずあの人の行動力は半端ない。
 さすが束さんの幼馴染だ...。

「桜さんの事ですし、心配の必要はないでしょうけど...。」

「...あー、ユーリからすればどうしているか気になっちゃうよね。」

「....はい...。」

 顔を赤くしながらマドカの言葉に答えるユーリ。
 ...?なんで顔を赤くしてるんだ?

「ん?呼んだか?」

「っ、ひゃぁあああっ!?」

 そして、突然の後ろからの声に、ユーリが飛び上がるように驚く。

「..って、桜さんか...。」

「なんでユーリ驚かしてるの...?」

「いや、俺もここまで驚くとは...。」

 見れば、ユーリは顔を赤くし、涙目で桜さんを見ている。
 ...いきなりとはいえ、ユーリも驚きすぎだな。

「それで、いきいなり現れましたけど、どうしたんですか?」

「いや、やる事を大体終えたから、皆の所に来ただけだ。」

 つまり何かしにきた訳じゃなく、終わったから来たのか...。

「何をやって...やらかしてきたんですか?」

「なぜ言い直した...。...ちょっとな。会社の試作品って言ったところか。」

 あれ?桜さんにしては普通な事を...。

「それと、デュノアに関して色々根回ししてきたから、明日はちょっと騒ぎになるな。」

「やっぱりやらかしてるじゃないですか...!」

 デュノア...って事はシャルの事か。
 ...なるほど。女性って事をばらすんだな。

「デュノアさん...ですか?」

「ああ。ホント、色々騒ぎになるだろうけど、今まで通りの対応でいてくれると助かる。」

「は、はぁ....?」

 事情を知らないユーリが首を傾げる。

「でも桜さん、事情が事情ですし、他の皆がシャルに対して...。」

「その時は俺たちからも言っておくさ。何せ、被害者なんだからな。」

 その通りだが、それでも上手く行かないのが人間だしなぁ...。

「な、なんの事かわからないのですけど...。」

「...桜さんと秋兄だけしか知らないから、私たちにはわからないよ...。」

 話についていけない二人が、説明を求める眼差しで俺たちを見つめる。

「桜さん。」

「...さすがに説明しとくか。」

 どうせ明日には分かる上に、同じ会社仲間だ。
 なので、簡単にとはいえ、桜さんと共に説明する。





「...あー、うん。とりあえず、それだけで会社を潰す桜さんって...。」

「気まぐれだし。」

「そういう問題!?」

 桜さんのような人物だからこそできた事に、マドカは呆れる。
 実際、会社を潰すそうと思った理由が、“デュノア夫人が気に入らないから”だしな...。

「ラファールって、デュノア社開発の量産機ですよね...?なのに、デュノア社が潰れたらラファールは...。」

「あー、それなら大丈夫。ちゃんと根回しして、廃棄されないようにしてある。」

 ユーリの呟きに桜さんがそういう。...さすがに用心深いな。

「IS自体の性能はいいからな。会社が潰れたからと、廃棄するには勿体ない。」

「学園としてもその方が助かりますしね。」

 改めて量産機を買うとか、学園の予算が吹っ飛ぶレベルだからな...。

「各企業がデータとISを回収し、IS学園にもデュノア社のISが一機追加されるそうだ。」

「“そうだ”って....。」

「束がコントロールした。」

 ...色々情報操作したんだろうなぁ...。桜さんも一枚噛んでそうだ。

「...それよりも、デュノアさんが女性だった事については...。」

「桜さんじゃあるまいし、体格とか見ていれば気づけるよ。」

「....ですよね...。」

 桜さんみたいな女性にしか見えない男性が頻繁にいてたまるかって話だよな。
 ユーリだって気づいてたのに、どうして大抵の人は気づかなかったのだろう...?

「篠咲さん!篠咲君!」

「あれ?山田先生?」

 色々と苦笑いしていると、山田先生が慌てたようにやってきた。
 ...まさか、また何か...。

「朗報です!朗報ですよ!」

「あ、よかった...。」

「...さすがに身構えすぎじゃないかな...。」

 だって桜さん(諸悪の根源)が隣にいるし、ついつい勘繰ってしまうんだよなぁ...。

「...?なんの事ですか?」

「あ、こっちの話です。...それで、朗報とは?」

 とりあえず山田先生の話を聞く事にする。

「あ、そうでした。男子の大浴場が、今日から解禁になったのです!」

「え、それって...。」

「はい!これからは寮の小さなお風呂で我慢する必要もないんです!」

 それは確かに朗報だ。俺だって、こじんまりしたのより広々としてた方がいいし。

「デュノア君にも伝えたかったのですけど、今日はお休みなんですよね...。」

「...あー、俺の方から伝えておきます。」

 桜さんが誤魔化してそういう。
 ...誤魔化した所で、女性だから意味ないんだけどな...。

「...じゃあ、今から入りに行くか。」

「そうですね。」

 折角なので、俺と桜さんで大浴場に向かう事にする。

「あ、織斑君見ました?織斑君にも伝えようと思ったのですけど...。」

「...織斑なら寮の部屋で謹慎中ですよ。」

「あっ、そ、そうでしたね...。」

 あいつ、散々やらかしたらしいからな...。
 千冬姉を結構怒らせたみたいだ。...自業自得だと思うが。

「一端部屋に行くか。」

「タオルとか必要ですしね。」

 何気に広いお風呂は入学前以来だなぁ...。
 会社には一応あるけど、入学してからはそんな機会ないし...。

「じゃ、また後でな。」

「あ、はい。」

 桜さんが一言告げ、俺たちは大浴場へと向かった。











       =out side=





「これはこっちで、これは今すぐ処理しないと...ああもう!書類が多すぎる!」

「が、頑張ってください束様...!」

 ワールド・レボリューションの一室にて、書類の山があった。

「さー君助けてー!束さんだけじゃあ、捌ききれないよー!!」

「そう言いつつ、凄い速度で処理してるじゃないですか...!」

 それを束とクロエが必死になって処理していく。

「まぁ、自分でやった事だから仕方ないんだけどねー...。」

「一応、功績になりますからね...。あ、束様、これ。」

「ん、りょーかい。」

 積み重なっている書類は全てデュノア社関連の後始末だ。
 デュノア社の黒い部分を露見させる際、どうしても会社の干渉があった事は隠せなかったので、こうして事後処理の書類が大量に来ている。

     コンコンコンコン

「社長、よろしいですか?ドクターから一つ申請が...。」

 ノックの後、扉越しに女性の声が聞こえる。
 しかし、それに対応している暇は束達にはなく...。

「自重してって伝えて!ごめんうーちゃん!」

「分かりました。...失礼します。」

 門前払いかのようにキャンセルする束。
 そして、却下された“うーちゃん”ことジェイルの娘であるウーノは大人しく引き下がる。
 さすがにウーノも状況は分かっているので食い下がりはしなかった。

「あ、そうだ。うーちゃん!そっちから何人か寄越して!手伝ってくれたら改めて聞くってスカさんに伝えて!」

「分かりました。」

 凄まじいスピードで書類の山を片付けつつ、束はウーノにそういう。
 スコールやオータムもいるが、彼女達も彼女達で仕事があるようだ。

「束様。そろそろ...。」

「あっ、そうだったね。...うー、これを放置するのはアレだけど...。」

 時間を確認したクロエが束にそういう。
 どうやら、何かあるようだ。

「行ってください。幸い、まだこれらに関しての時間はあります。」

「うーん...彼らを安心させる方が先...か。うん、任せたよくーちゃん!」

 そう言って束は一度書類をクロエに任せ、急いである場所に向かった。





「.......。」

 応接間のある一室。そこにシャルロット・デュノアはいた。

「(ここで待っててって言われたけど...誰も来ないと不安だなぁ...。)」

 自分の立場が結構危うい状況なのもあり、シャル不安で仕方がなかった。
 そこへ、いきなり扉が開く。

「ごめん!待たせちゃった!?」

「っ!?...あ、えっと、大丈夫で....っ!?」

 シャルはいきなり入ってきた事と、その人物が束な事に連続で驚く。

「し、篠ノ之博士!?あれ、ここに来るのは社長だって...。」

「私がその社長だよ。普段のあれは偽名と変装って事。」

「あ.....。」

 “そういう事か”と、色々な事で驚き続けていたシャルは納得する。

「...だから桜さんはあの時...。」

「ちなみに会社じゃなくても私一人で潰せたよー?」

「.........。」

 やはり天災は規格外だと、シャルは思わざるを得なかった。

「それでまぁ、君にはうちの会社に入ってもらうんだけどね...そこでいくつか説明があるの。」

「いつの間に入る事になってるのか気になるんですけど...。」

「そこはほら、ちょちょいっと。君の父親の助力もあったしね。」

 それでも普通は本人が気づかないままなのはおかしいと、シャルは思った。

「...って、お父さんが...?」

「さー君から聞いてるでしょ?君の父親から助けてほしいと頼まれたって。」

「....うん...。」

 あまり娘として接せずに、しかし不器用ながらも娘を助けようとした父親。
 その事を思い出し、シャルは胸が締め付けられるような想いになった。
 確かに自分は助かる。しかし当の父親はそのままデュノア社に残っているのだ。

「...ボクを助けてくれたのは確かに嬉しいです。...けど、お父さんが...。」

「自信を犠牲にして君を助けようとしたのだから、むしろ後悔している方が失礼になると思うよ?」

「そう...ですけど...。」

 それでも気分が晴れないシャル。
 結果的に自分だけ助かってしまったのだから、そう思っても仕方がない。

「...しょうがないなぁ...。」

 それを見て、束は指を鳴らす。
 部屋の前に誰かいたのか、それを聞いて何か動きを見せる。

「....?」

「どんでん返しみたいだけど、こっちの方がいいでしょ?」

 どういうことか意図が汲めないシャルを他所に、部屋の前から話し声が聞こえる。

「いつまでヘタレてるんだよ!折角会えるんだから早くしろ!」

「し、しかし...。」

「あーもう!自分を犠牲にする覚悟が踏み躙られた事は同情するけど、お前が会えば丸く収まるんだ。とっとと会ってこい!」

 そんな声と共に、扉が開け放たれ、誰かが蹴られるように部屋に入ってくる。

「....おーちゃん、元とはいえ、その人って社長...。」

「....え...?」

 結構乱暴しているなと、束はその人物を部屋に押し込んだオータムに対して思った。
 そして、シャルはその入ってきた人物に驚きを隠せなかった。

「お父...さん....?」

「...シャルロット....。」

 互いの事を呟くように言う。
 感動の再会のように見えるが、片方は蹴り入れられたため、倒れこんだような体勢になっているのでややシュールだ。

「ほら、ハインリヒさん。いつまでも寝そべってないで座って座って。」

「...君の社員に蹴られた結果なんだが...。」

「もっと堂々としてればよかったんだよ。」

 とりあえず束はシャルの父親...ハインリヒを立たせてシャルの隣に座らせる。

「さてと、さすがに戸惑っているだろうから、説明するね?」

「あ、はい...。」

 対面に束が座り、ようやく話が始まる。

「まぁ、知っていると思うけど、デュノア社は私たちが潰した。...これは分かるよね?」

「...はい。」

 束の言葉にシャルは頷く。
 ハインリヒは事情を知っているので、口を挟まないようだ。

「...で、君が一番疑問に思っているのは、犠牲になった父親がなぜここにいるのか?...だよね?」

「っ....不謹慎ですけど...はい。」

 申し訳なさそうにしながら束の言葉を肯定するシャル。

「まぁ、単純に答えるとしたら、私たちが助けたから...だね。」

「....なんとなく、想像はついてましたけど...。」

 あっさりと告げられた真実に、驚く事もなくすんなり受け入れるシャル。
 既にデタラメっぷりは何度も味わっているので、感覚がマヒしてきたようだ。

「これでも結構苦労したんだよー?潰れる寸前の会社の社長を引き抜くなんてさ。いくら立場が危うい状態とはいえ、それでも社長。容易に引き抜くどころか、その行為すらできないはずなんだよ?」

「...それでも、貴女方はやってのけた。」

「ちょっとした裏技だけどね。」

 なお、その裏技とは、真実を偽装する事である。
 “ハインリヒ・デュノア”という人物は、世間上では刑務所行きに偽装されているのだ。

「諸事情があってもう“デュノア”とは名乗れないけど...いいね?」

「元々助からないはずだったんだ。それぐらい、私はいい。」

「お父さんがいいのなら、ボクも...。」

 未練はないと二人は言い、それに束は満足そうに頷く。

「じゃあ、これからは“ローラン”だね。」

「っ、それって...!」

「リリアーヌの...!」

 新たに決められた姓に、シャルとハインリヒは驚く。

「そうだよ。君の母親の名前。....その方が、二人もいいでしょ?」

「お母さんの...。」

 今は亡き母の姓を名乗れる事に、シャルはどこか感慨深いものを感じた。

「しかし...リリアーヌの事まで...。」

「デュノア社を色々調べれた時点でそこまで驚く事じゃないでしょ?」

「そ、そうだが...。」

 ハインリヒの方は、身内関連の事が色々知られていて、何とも言えなさそうだった。

「じゃ、そういう事で、これから二人にはこの会社に入ってもらうね?...って言っても事後承諾なんだけどさ。」

「既に入れられてる!?」

「どうせ行く当てがないんだからそっちの方がいいでしょ?」

 事もなさげに言う束に、二人は段々疲れてきていた。

「君にはうちでテストパイロットでもしてもらおうかな?一応、被害者としていたから代表候補生の称号は剥奪されてないし。」

「そういえば...。」

「それで、ハインリヒさんには事務的な部分を手伝ってもらうよ。ちょっとそっち方面の人手が今足りなくてね。それに、社長をやってたし管理は得意でしょ?」

「まぁ...それなりには。」

 “それじゃあ”と、束は手を叩き、話を切り上げる。

「早速動いてもらうよ。とりあえず、シャルちゃんには改めて転入してもらう事になるから、それ関連で色々あるから頑張ってね!で、ハインリヒさんは早速手伝ってもらうよ!」

「え、えっ!?」

「ま、待て...!」

 手を引っ張り、走り出す束に為すがままになる二人。
 やはり、天災にはついていけないようだ...。













       =桜side=





 次の日、昨日の事件はなんだったのかというぐらい、いつもの光景が広がっていた。
 ...なお、織斑は自宅謹慎でいないのだが。

「デュノア君、やっぱり今日も来てないねー。」

「やっぱり昨日のニュースでやってたのと関係あるんじゃないかな...?」

 尤も、何もかもがいつも通りという訳でなく、少し違う所もあった。
 例えば今女子が話していた話題だ。
 昨日の内にデュノア社が潰れた事はニュースになり、その事で昨日は休んでいた彼女が気になるのであろう。...今は既に“デュノア”ではないがな。

「さくさくは何か知ってるの~?」

「...一応、聞いておくが...なぜ俺に尋ねる?」

 先程の女子の話を聞いていた本音が俺に聞いてくる。

「え~?だってさくさくって色々知ってるでしょ?」

「確かに普通よりは知っているとは思っているが...。」

「さくさくだってわかってて聞き返してるでしょ~?」

 ...そういうって事は、やっぱり本音は知っているんだな...。
 やはり更識家に仕える家系なだけあるな。

「...まぁ、今日のSHRでわかるさ。」

「ふ~ん...。」

 とりあえずそう言っておく。説明するのも面倒だしな。

「.....トーナメント...決着....うぅ...。」

「...あー...ラウラ...?」

 ...と、そこでそんな弱々しい声が聞こえてくる。
 声の主はもちろんラウラだ。ついでに秋十君がどうにかしようと奮闘している。

「こんな事なら、あの時の模擬戦で全力を出せばよかった...。」

「べ、別に全力の試合の機会があれだけとは限らないんだからさ...そ、そこまで落ち込むなよ...。」

「うぅ...。」

 ...戦いができなかったらできなかったで、随分と拗ねているな...。

「...と、そろそろ鳴るな。」

 俺がそういうと同時に、チャイムが鳴ってSHRが始まる。
 そして、山田先生が教室へと入ってくる。...疲れた様子で。

「...せ、先生?どうしたんですか...?」

「あー...いえ、お仕事がですね....。」

 心配になった前列の女子が話しかけ、山田先生ははぐらかしながらも答える。

「...えっと、今日は転校生を紹介します...まぁ、知っている方も多いでしょうけど...。」

「(誰か休ませてあげなよ...。)」

 俺も原因の一端を担っているとはいえ、さすがにそう思わざるを得なかった。
 ...そして、入ってくる一人の女子生徒。

「え...?あれって....。」

「どういう事...?」

 その人物に、ほとんどの女子が騒めく。

「シャルロット・ローランです。紆余曲折あって姓が変わりましたが、変わらずに接してくれると助かります。」

「えっと...デュノア君はデュノアさんで、事情があってローランさんになりました...。」

 反応がない...というより固まっているクラスメイト。
 ...あ、これやばいな。秋十君と本音とかあまり驚いていない女子に耳栓を渡しておく。

「「「「ええええええええええええ!!??」」」」

「(っ...耳栓越しでもなかなかの声量だなぁ...。)」

 とんでもない叫び声が響き渡り、耳栓をしていながらも俺は驚く。

「なんであんなに込み入った事情なのに戸籍とか色々な手続きは済んでいるんですかぁ...!うぅ、また部屋割りとかを考えませんと...。」

 それよりも山田先生がギブアップ寸前なんだけど...千冬手伝ってあげろよ...。

「それで昨日休みだったんだね~。」

「うちの会社で色々やってたからな。」

 何名かが一時的な災難に見舞われているが、これにて一件落着...と。











 
 

 
後書き
父親と母親の名前と苗字は適当にフランスの名前一覧から引っ張ってきました。

しばらくは日常回かなぁ...?
せっかく登場させたゲストキャラとの絡みを書きたい。後、ラウラとの決着も。 

 

閑話3「日常とチヴィット」

 
前書き
日常回。
臨海学校までの繋ぎ的な話かな。
なお、凄い蛇足的な内容です。(主観)
 

 








       =out side=







「....ラウラ、準備はいいか?」

「ああ。いつでも来い!!」



 アリーナにて、二人の男女の声が響き渡る。
 その観客席にて、桜はその様子を見守っていた。

「トーナメントで付けれなかった決着...だったっけ?」

「そうだ。ラウラが結構拗ねちまってな。こうしてアリーナを何とか借りてやってるって訳さ。」

 隣に座ったシャルに対し、桜が答える。

「相手はドイツの代表候補生...よね?試合では全然武装を使ってなかったけど...。」

「使う必要がなかったからな。...ちなみに、一対一だと途轍もなく厄介な武装持ちだ。」

 桜の斜め後ろに座った鈴がそう呟き、それにも桜は答える。

「途轍もなく...ですか?」

「...まぁ、所謂初見殺しだな。だけど、それを使わない方がラウラは総合的には強いぞ。」

「飽くまで初見殺しですから、全力を出すような相手ではむしろ不利になるんですよ。」

 同じく隣に座るセシリアの疑問に桜が答え、ユーリが補足する。

「一応、使う時は使うがな。秋十君もそれは承知しているから、牽制にしかならん。」

「...あ、使いますよ!」

 ユーリがそう言って、皆が試合に注目する。



「はっ!」

「っ....!」

 何度かぶつかり合い、一度間合いを離した秋十は、多数の特殊な黒い短剣を投げる。
 ブーメランのように弧を描く合計四つの短剣は、包囲するようにラウラに迫る。

「岩を断ち、水を裂き...逃げ場を挟む鶴の一声...!受けてみろ!!」

「っ...!」

「“ブラックバード・シザーハンズ”!!」

 そして、さらに短剣を二振り展開した秋十との、ほぼ同時の六連撃が繰り出された。

     ―――ギギィイン!!



「ちょっ...何よあれ!?」

「あんなの、どうやって回避すれば...。」

 その攻撃に鈴とセシリアは戦慄する。

「....なるほど。直接通じないから防御に使っているな。」

「そうですね。」

 桜とユーリは冷静に見ており、何が起きたのか把握していた。

「何が起きたの?」

「さっき言っていた武装を使ったんだ。」

 シャルの疑問に桜は説明する。

「AIC。任意の対象の動きを止める事ができる。さすがにISそのものを止めるには集中力がいるが、投擲した短剣なら全て止める事ができたようだな。」

「そして、秋十さんの攻撃を受け止めた反動で包囲から抜け出した...という訳です。」

 二人の言う通り、四つの短剣をAICで止め、秋十本人の攻撃をプラズマ手刀で受け止める事により、そのまま勢いで包囲を脱出したのだ。
 その際に短剣が掠ったらしいが、直撃よりはマシである。



「....結構、自信があったんだがな...!」

「何、AICがなければやられていたさ...!」

 当の本人たちは、その後もライフルやブレードによる攻撃の欧州を繰り広げている。

「はぁっ!」

「甘いっ!」

 攻め、防ぎ、受け流し、搦め手を一切使わずに激しい戦闘を繰り広げる。



「...凄いわね...。」

「自分の力不足を痛感させられますわ...。」

 その二人の戦いを見て、鈴とセシリアは少し落ち込む。

「ちなみに、桜さんならさっきの攻撃をどう防ぎますか?」

「んー...そうだな...。予備のブレードを二本投擲して四つの短剣を相殺。後は近接戦に持ち込む...だな。あれぐらいなら、すぐに対処に動ける。」

「...さすがですね。」

 “私なら難しそう”と思いつつ、ユーリは桜にそう言った。







「はぁ...、はぁ...。」

「っ...はぁっ...はぁっ...!」

 十数分後、アリーナでは息を切らして動かなくなった秋十とラウラがいた。
 結果は相討ち。ライフルも全弾撃ち尽くし、予備のブレードも使い切ったというまさに激闘の末、互いの攻撃が同時に命中して引き分けたのだ。



   ―――ワァアアアアアアア!!



「...結構観客集まってたな。」

「そうですね。」

 元々個人的な試合なため、ほとんど見に来ている人はいなかったが、貸切っている訳でもなかったので、試合が終わる頃には結構な人数が見学に来ていた。

「さて、ピットにでも行って二人を労わってくるか。」

「あ、私も行きます。」

 歓声を上げる皆に会釈しながらピットに戻る秋十とラウラを後目に、桜たちは皆で二人を労わりにピットへと向かっていった。







       =桜side=





 無事秋十君とラウラの試合も終わり、俺たちは皆で夕食を取っていた。

「...凄い食べるわね...。」

「そりゃあ、あれだけ激しい試合をすればな...。秋十君も男なんだし。」

 秋十君のがっつき具合に鈴が少し引いている。
 ちなみにラウラはいつもより食べる勢いは強いが、そこまで量は多くない。

「そういえば、もう一人はどこに行ったの?」

「マドカちゃんの事か?彼女なら...。」

 俺が何か言おうとして、中断する。
 その代わりに、ある方向へ視線を向ける。そこには疲れた表情のマドカちゃんがいた。

「担任の手伝いに呼ばれててね。何でもクラス代表補佐としての仕事らしい。」

「...クラス代表のはずの私には、一切仕事がなかったのですけど...。」

 多分、本来ならクラス代表一人の仕事だが、四組では補佐がいるので仕事が分担されているのだろう。...適材適所って奴だな。

「疲れた~...。あ、ずるいよー。先に食べてるなんて。」

「秋十君が腹を空かせていたからな。」

「あー、そういえば試合してたんだっけ?私も見たかったなぁ...。」

 受け取った料理を持って来るや否やマドカちゃんはそういう。
 一応、俺が録画しておいたから後で見せようか。

「お疲れ様、マドカ。」

「ありがとう秋兄ー...って、ホントにお腹空かせてたんだね...。」

 既に秋十君は二人前を食べ終わっている。そのうえさらに二人前追加しているのだ。
 しかもまだ食べるスピードは変わっていない。

「....っと、できた。」

「...何を作ったの?ずっと弄ってたけど...。」

 俺の手元を覗き込むシャルがそういう。
 ちなみに、シャルの事は会社の騒動以降、愛称で呼ぶようになった。

「...カメラ?」

「んー、所謂“目の代わり”って奴だな。」

 球型でカメラのようなレンズがついているソレを、皆に見せる。

「どうだ?見えるか?」

【.....うん、見えるよ。】

「喋った!?」

 ソレから聞こえる声に周りの皆が驚く。

「紹介するよ。俺が作ったAI、今は仮の名として“白”と名付けている。」

【よろしくね。】

 ちなみにこれ、白式のコア人格だ。
 端末に人格を移した後、外の世界を見やすいように今まで外装を作っていたのだ。
 しかも喋れるようにしてある。

「....またやらかしてる....。」

「いやいやいや、普通に会社でもやってる事だろう!?」

「それは会社で、こっちは桜さん個人。...後は分かりますよね?」

 企業と個人では訳が違うってか?...その通りだよ。
 まぁ、言われる事ぐらい予想してたから別にいいんだけどな。

「どういう目的で作ったの?」

「....うーん、強いて言うなら...データ収集?彼女自身が成長していく事はもちろん、その過程で得たデータでまた色々できるからな。」

 嘘は言っていない。
 コア人格を疑似的にISから独立させたらどうなるかっていう実験でもあるしな。

「人型化はできないが、代わりに...ほれ。」

「と、飛んだ...。」

 PICの応用で飛べるようにしてある。ISコアの人格だからな。
 ISっぽさが残っているから組み込むのは容易だった。

「とりあえず学園に許可を貰うのが先だがな。」

【いざとなったらお母さんに無理矢rむぐ....。】

 余計な事を言いそうになったので、捕まえて黙らせるように持つ。

「...お母...さん....?」

「あー、えっとな。ユーリちゃん...。」

 衝撃を受けたユーリちゃんに、説明しようとする。

「生みの親という意味では、合ってるだろう?」

「え、あっ、そういう事ですか...。」

 本当は束の事だけどな...。
 あまりいうべきではないだろう。この場では俺が作ったAIって事だし。

「そういえば、AIというのならシュテルたちは...。」

「っと、そうだ。その事で伝える事があったんだった。」

 明日届くのだから、つい言い損ねていたな。

「グランツさんからの連絡だ。完成したから明日届くってさ。」

「完成...?...あ、もしかして...!」

 敢えてなんの事かは言わなかったが、ユーリちゃんは分かったようだ。
 秋十君とマドカちゃんもわかっているが、さすがに他の皆は知らないようだ。

「ま、明日になってからのお楽しみだ。学園に既に許可は貰っているし、期待しておけ。」

 皆にそう言って、この話は終わらせる。
 さて、俺も明日が楽しみだな。









「お、届いているな。」

 翌日の早朝、ユーリちゃんの部屋の前に大きな箱が置かれていた。

「これが桜さんの言っていた?」

「ああ。ユーリちゃん、マドカちゃん起きてるか?」

 ノックして二人に呼びかける。

「はい~....どうしましたか~...?」

「...相変わらず朝にはあまり強くないな...。」

 眠たそうに目をこすりながらユーリちゃんが出てくる。

「え...あっ、さ、桜さん!?...あぅ....っ~~!!」

「あ、ちょ...!」

     バタン!

 ...高速で部屋の中に戻っていった...。

「....なんで戻ったんでしょうか?」

「...女の子は朝にやる事が色々あるからなぁ...。寝起きを俺に見られて恥ずかしかったんだろうよ。」

 秋十君もそこらへんは分かるようになってもらわないとな。

「少し待っておくか。多分、大急ぎで支度してくるし。」

「はぁ....。」

 防音性があるが、微かに部屋の中でドタバタしている音が聞こえるしな。





「...お、お待たせしました...。」

「もう、ユーリ慌てすぎだよ...。」

 しばらくして、ユーリちゃんとマドカちゃんが出てくる。

「えっと、それで....。」

「ああ。これをまず部屋に入れないとな。」

 それなりに大きな箱なので、このままだと目立つ。
 ...なんで部屋の前に放置したんだ...?

「あ、運ぶのは俺がしますね。よっと。」

 秋十君が箱を持ち、俺たちは一度ユーリちゃんの部屋に入る。

「さて、早速....。」

「一体何が....。」

 箱を開け、秋十君とマドカちゃんが期待した様子で中を見る。

「....これって...。」

「そ、め~ちゅと同じチヴィットだ。それも、シュテルたちのためのな。」

 中に入っていたのは、デフォルメされたような三つの人形。
 それぞれ、シュテル、レヴィ、ディアーチェのためのチヴィットだ。

「えっと...これとエグザミアを繋いで移すのですか...。」

「早速やってみるか。」

 俺がそういうと、ユーリちゃんがめ~ちゅを連れてくる。
 そして、同梱されていたケーブルでAIの移動を行う。

「さて....。」

 少しして、ケーブルを外す。
 すると、チヴィット達はゆっくりと動き出した。

「おお....。」

「ISコアなしでもできるようになったんだな。」

 め~ちゅはISコアがあったから他のチヴィットよりも性能が高かった。
 だけど、今はもうめ~ちゅに追いついているみたいだ。

「シュテル、レヴィ、ディアーチェ。調子はどうだ?」

「....良好です。ただ、小さい体というのは慣れるのに時間が必要ですね。」

「おお、おおお!動く、動くよ!」

「...ふむ、人と同じように動くには少し時間がかかるな。」

 各々の感想を述べる。
 まぁ、初めての体だからな。動かす感覚を掴まないとダメか。

【いいな~。私と違って直接声を出せて。】

「方向性が構造が違うからなぁ...。しばらくはどうしようもないぞ。」

 チヴィットに移すとなると、ISから完全に独立させる事になってしまうかもしれない。
 もしそうならば、ISコアとしての存在が瓦解して彼女自身がどうなるかわからない。
 だから、少なくとも今はどうしようもない。

「...ところで、なぜ私の体には猫耳がついているのですか?」

「...さぁ?」

 シュテルの頭には猫耳がついていた。まぁ、似合っているので別にいいだろう。

「っ~...!可愛いです!」

「むぎゅ!?」

 ちょこちょこと動き回る姿に、ユーリちゃんが感極まって抱き締める。
 抱き締められる対象となったレヴィは少し苦しそうだ。

「あ、ご、ごめんなさい!」

「だ、抱き締められるってこんな感じなんだ...。」

 すぐに気づき、ユーリちゃんはレヴィを離す。

「確かにかわいいよねー。これは和むわ。」

「ぬ、ぐ...!抵抗したいのにできぬ...!」

 マドカちゃんもマドカちゃんでディアーチェを撫でていた。
 そういう行為を嫌がるディアーチェだが、体格差で振り払えないようだ。

「もしかしてこのまま連れて行く気ですか?」

「うーん...どうするべきか...。」

 学園内に居る事は許可が下りているが、授業とかは厳しいだろう。
 だからと言って、留守番させる訳にもいかん。

「えー、ボクもユーリについていきたーい!」

「王としてユーリと離れる訳にはいかぬ...ってどこを触っておる!?」

 レヴィとディアーチェも抗議してくる。...マドカちゃんはそろそろ離してやって...。

「とりあえず、食堂に行ってその後許可を取れるか確かめましょう。」

「そうだな。とりあえず行くぞ。」

 シュテルの意見に全員が納得し、一度食堂へと向かう。

「...あ、そういえば、目立つの覚悟しておけよ?」

「え...?」

 向かう前に、一応皆に忠告しておく。
 ...一番注意しておくべきなのは、シュテルたちだけどな。









「かわいいー!」

「ねぇ、これ持ち帰っていい?ダメ?」

「すごーい!」

 ...案の定、食堂にて皆に揉みくちゃにされるチヴィット達。

「っ...!」

「ぬあー!離せー!」

「ぐぅ...!離さぬか!」

 もちろん、当人たちは堪ったものではないので、抗議するが...全然効果がない。

「み、皆さん...。」

「やっぱ女子ってかわいいものに目がないんだな...。」

 シュテルたちを心配そうに見るユーリちゃんの傍ら、俺はそう呟く。

「それで、どうなんだ?」

「...彼女達はもうあのままなのか?」

 近くに来ていた千冬に尋ねると、そう言われる。

「いや、そういう訳じゃないな。ただ、あの方がのびのびと過ごせるだろうけど。」

「ふむ....。」

 俺がそう答えると、千冬は少し考え込み...。

「...不許可だな。放課後なら出していてもいいが、授業中はダメだ。」

「...ま、そんなもんだよな。」

 妥当な判断だろう。というか、当たり前だな。
 授業中にシュテルたちが自由にIS学園内を飛び回っていたら迷惑だろう。

「ちなみに桜。そのAIも不許可だからな?」

「あ、やっぱり?」

 どうやら、白もダメなようだ。

「むしろ、学園内で授業中以外は許可している時点でだいぶ緩いぞ?」

「そうだな。」

 これでもマシな方だ。何せ、休憩時間とかも出せるからな。

「彼女達を連れてきた目的はなんだ?」

「いきなりそれを聞くか。...まぁ、彼女達のAIとしてのさらなる成長のためと...後は会社の宣伝かな。近々チヴィットが一般向けにも発売されるし。」

 シュテルたちみたいに喋れはしないが、コミュニケーションぐらいは取れるようになっている。簡単な事なら手伝ってくれたりもするので、それなりに売れるだろう。

「....ふむ。」

「...何も企んでないからな?元々ユーリちゃんのためだし。」

「そうか。なら、問題ないな。」

 ...俺、そんなに信用ないかね?...束と同列だから仕方ないか。

【いいなー。】

「時間を掛ければ同じようにできるが...今すぐは無理だな...。」

【...うー...。】

 白がどこか拗ねたように呟く。
 シュテルたちはAIで、白はISコアの人格だからな。勝手が違う。

「だが、俺たちと同じように学習するのはいいだろう?」

「....一応はな。そうでなければ成長しないならな。」

 せっかく成長させる機会なのに、学習する事さえも禁じられたらひどいからな。

「...わかっていると思うが、カンニングなどはするなよ?...尤も、お前ならその必要はないだろうが。」

「分かってるって。」

 カンニングって...。まぁ、できない事もないけどさ。

「...っと、時間に余裕がなくなってきたな。」

「そうだな。私も教師としての用事がある。ではな。」

 そこで時間が八時前になっているのに気づく。
 SHRまではまだ余裕があるが、用意は早く済ませておくべきだろう。

「そうは言っても桜さん。...あれ...。」

「...わぁお。」

 見れば、人だかりのような状態になっていた。もちろん、中心にはチヴィット達。
 ユーリちゃんはその周りで何とかして割り込もうとうろうろしていた。

「ありゃ、一筋縄では助けれないな...。」

「私も諦めるかなー...あれは。」

 マドカちゃんも呆れるようにそう呟く。

「うーむ...シュテルたちも自力で抜け出せそうにないな...。」

「助けがあれば何とかなりそうですけどね...。」

 助け...あ、そうだ。

「白、行けるか?」

【...うーん...多分?】

 白に尋ねると、曖昧だが大丈夫だと返事する。

「よし...行け!」

【捕まったら助けてね!】

 白が飛んでいき、人混みの中へと入っていく。

【捕まって!】

 そんな声が聞こえ、しばらくして....。

「ぷはっ!助かったー!」

「っ....っ...。」

「正直死ぬかと思ったぞ...。」

 上に抜けた白にぶら下がるように、シュテルたちが出てきた。
 ...シュテルが随分グロッキーになってるんだが...。

「あー!逃げられた!」

「待ってー!」

「ひゃぁああああ!?もう捕まりたくないよー!!」

 レヴィもなかなかに怯えてるな。助け船を出すか。

「よっ!...と。」

「ああっ!桜さんが!」

「ずるいわよ!」

 女子たちの上を飛び越えるように三人を回収する。

「お前らー、シュテルたちにご執心なのはいいけど、時間も迫ってるぞ。」

「え...?」

「ああっ!もうこんな時間!まだ準備終わらせてないのに!」

 俺がそういうと、半分以上の集まっていた女子は急いで走っていった。
 朝食の後、ずっと弄んでたもんな...。今日の授業の準備ができてない奴もいただろう。

「ユーリちゃん。」

「あ、ありがとうございます。」

 シュテルたちをユーリちゃんに返しておく。

【三人はさすがに重かった...。】

「ご苦労様。さ、俺たちも行くぞ。」

 白を連れ、俺たちも一度部屋に戻り、教室へと向かった。









 その日の一日は、四組の方がやけに楽しそうな雰囲気だったという事だけは記しておこう。
 ...ユーリちゃんとシュテル達、大丈夫かね?







 
 

 
後書き
FGOから宝具名を拝借。鶴翼三連とは少し違う再現だからこっちにしました。

チヴィットの外見はinnocentそのままです。ただし、性格はシュテルたちのままです。
ちなみに白(白式)の見た目はゴエティアのレメゲトンが近いです。(分かる人いるかな...?)

今回の話は詰まる所、ユーリの戦力アップ(仮)です。
チヴィットという体を手に入れたシュテルたちにより、サポートがパワーアップという感じです。
...やっぱり蛇足ですね。(主観) 

 

第37話「それぞれの解決」

 
前書き
またもや日常回。
話のネタが思いついたんや....許しておくれ...。

まだもう一話あります。 

 







       =桜side=





「第一回、俺主催お料理教室ー!」

「わー!」

 俺の言葉にマドカちゃんが乗ってくれる。
 なお、秋十君は呆れ顔で、ユーリちゃんは元々こういうのに乗れない性格なので無反応。

「...何卒よろしくお願いします。」

「おう。」

 ちなみに、料理教室を開いたの理由はセシリアが原因だ。
 ...と言っても、“料理を教えてください”という頼みを聞いただけだけど。

「それにしても、塩と砂糖を間違えるなんてベタだねー。」

「うっ....お恥ずかしい限りですわ...。」

 そう。今度は塩と砂糖を間違えて料理を失敗してしまったらしい。
 だから、これ以上失敗したくないように、俺たちに助けを乞うてきた。

「まぁ、その間違いに関しては、今度から少しだけ味見して確かめればいいさ。後はラベルを貼っておくとか。」

「そうしておきます...。」

 やっぱり女子として全然料理できないってのは堪えるんだろうな。
 だいぶ落ち込んでいるし、さっさとやっていこうか。

「まず、料理ができない人の特徴は大きく分けて二つある。何かわかるか?」

「え...?えっと.....。」

「....分量や手順とか...単純に工程をミスするのと、変にアレンジを加える...ですか?」

「正解だ秋十君。」

 と言っても、俺の自論だけどな。

「両方を持ち合わせている人もいたりするけどな。まぁ、どちらにしても、まずはレシピ通りの料理で練習した方がいい。と、いう訳で、今日の夕飯は自分たちで作った物限定な。」

「何が“と、いう訳”なんですか!?確かにその方が食費も浮きますけど。」

 まぁ、いきなり言ったもんな。驚かれるのも無理はない。

「何回か繰り返して作るからな。それらも食べる事を考えると、この際夕飯も一緒にしてしまえばいいと思ってな。」

「確かにそうですけど...。」

「俺も一緒に作るから大丈夫大丈夫。」

 万が一夕食と呼べるほどのモノが作れなくても俺が作れば解決するし。

「まぁ、まずは手頃な奴からだ。」

「は、はい!」

 手軽に作れてあまり量も多くない料理を選択し、それを教えていく。



「...で、そこで塩で味付け...ってそれは砂糖だ!」

「ああっ!あ、危なかったですわ...。」



「料理って難しいですわね...。」

「何、慣れれば楽しめるものさ。自分用でしかないのであれば作業に成り下がるが、誰かに食べてもらうと考えれば、必然と気持ちも籠る。」

「なるほど....。」



「....で、これで完成だ。」

「...何とか納得のできる出来栄えになりましたわ...。」

 数十分後、一通り教え終わり、料理も上手く完成した。
 何回か危なっかしい所もあったが、そこは俺がフォローした。

「よくアレンジとか隠し味とかあるけど、それはもっと料理に慣れてから試すようにな?まずは基本を覚えて、いきなり大きくレシピを変えないように。」

「はい!」

 最初の方は何度か自分なりにアレンジしようとしていたからな。
 そういう所もちゃんと教えておく。

「所で....ユーリさんたちは....。」

「あー...ちょっと何人か様子を見に来たみたいでな...。おやつになるものを作ってもらっている。」

 主に本音など料理好き(食べる的な方で)の女子が集まっている。
 家庭科室を借りているので、ユーリちゃんと秋十君に料理を任せている。
 マドカちゃんは集まった女子をまとめているな。

「....チヴィットというのはこういう事もできるんですのね。」

「IS学園に来る前はユーリちゃんの料理を待機状態で何度も見てきたからな。どういうことをすればいいのかぐらいは分かっているさ。」

 セシリアが言うのは、シュテルやレヴィが、材料や調理器具を運び、ディアーチェがフライパンを扱っている事だ。
 ちょこちょこ動き回っているので、見学に来た女子に注目されている。

「とりあえず、食べてみな。」

「は、はい。」

 恐る恐るセシリアは自分が作った料理を口にする。
 何せ二度も意気込んで作った料理を失敗しているのだ。恐れるのも無理はない。

「....美味しい...。」

「だろ?変に手を加えず、レシピ通りに作れば普通に美味く作れる。」

 これで少しはセシリアも料理に自信がついただろう。

「さて...手伝おうか?」

「大丈夫です!シュテルたちも手伝ってくれてますので...!」

「桜さん、もしかして本音達が来るの予想してたんですか!?」

 見学しに来た女子たちに振舞う料理を作りながら、秋十君がそう聞いてくる。

「...まぁ、家庭科室を借りているからなぁ...。誰かが来ると予想して、その時のための材料は持ち込んでおいたさ。」

「...確かに容易に予想できますね...。...っと、完成だ。」

 完成した料理を片っ端から配っていくユーリちゃんと秋十君。
 ちなみに、作ったのはホットケーキやクレープなど、簡単なものだ。
 ...さすがに何人来るか分かってないのに手の込んだものは作れない。

「全く、どうしてこうなったんだか...。」

「良い匂いがしたからね~。つい来ちゃったんだよ~。」

「...まぁ、予想して準備していた俺も俺だが。」

 クレープを頬張りながらいう本音に、俺は溜め息を吐く。
 ...どうでもいいが、ほっぺにクリームがついてるぞ?

「....しゃあねぇ。用意した材料、全部使いきってやるよ。」

「やった~!」

 結構持ってきておいたからな。
 元々、これが終わったら知り合いには配る予定だったし。
 ちなみに、材料費は全部俺持ちだ。別に困るような事ではない。





「今日は本当にありがとうございました。」

「どういたしまして..っと。どうだ?自信はついたか?」

「はい!」

 俺たちによるプチパーティが終わり、セシリアは今日の事についてお礼を言う。

「じゃあ、今日はもうお開きとするか。」

「片づけも終わりましたよ~。」

 使った器具は全てちゃんと洗い、元に戻しておいた。
 ユーリちゃんが片づけが終わった事を知らせに来たので、俺たちは家庭科室を後にした。













       =out side=





「はぁっ!」

「っ!」

     バシィイイッ!!

 シグナムの振るう竹刀が、箒の竹刀を打つ。
 竹刀と竹刀がぶつかり合う音が響き、すぐさまシグナムは間合いを離す。

「せぁっ!」

「ぐっ...!」

 そしてすぐさま反転、また攻めに入り、横薙ぎに竹刀を振るう。
 それを箒は上に受け流すように弾くが、その威力に後退してしまう。

「はっ!」

「ぐ、ぁっ...!」

 その隙を見逃さず、シグナムはさらに踏み込み、一閃。
 箒の竹刀を弾き飛ばしてしまう。

「....勝負あり、だ。降参だ。」

「そうか...。」

 竹刀を突きつけられ、箒は敗北を認める。
 そして、二人とも防具を脱いで一息つく。

「....剣道ではない剣...やはりやりづらいな...。」

「すまんな。私にはどうも剣道は合わなくてな。」

「いや、いい経験になっている。ありがとう。」

 シグナムと箒は、仲良くなっていた。
 トーナメントの一件以来、何かと気が合ったようで、気が付けばこうなっていたらしい。
 今では、互いに剣道場で競い合う仲になっている。

「私もまだまだ未熟だと思わせられるな。」

「剣の道は、いくら進んでも未熟なままさ。」

「...そうだな。」

 レベルが高い試合なため注目されているが、それを気にする事もなく二人は笑いあう。

「...そういえば、篠咲秋十には会わないのか?」

「う...む...まぁ、な...。面と向かって談笑しろと言われれば気まずくなりそうでな...。」

 洗脳が解けても、箒はあまり秋十と話していない。
 それどころか、洗脳が解けた事も伝えれていないのだ。

「そんな事もあろうかと!」

「「っ!?」」

 そこへ突然、桜が現れる。
 まるで束のような出現だったため、思わず二人は竹刀を振るう。

「危なっ!?いや、俺が悪かった!」

「っ、驚かせないでくれ...。」

 竹刀を素手で受け止め、何とか事なきを得る。

「...なんの用ですか?」

「あれ?なんで束みたいなセメント対応?...んん、明日の放課後、秋十君と試合をしてもらおう。もちろん、剣道でな。」

「は...えっ!?」

 いきなりすぎるその提案に、思わず変な声を出してしまう箒。

「箒ちゃんも剣道で語った方がやりやすいだろ?じゃ、そゆことで~。」

「え....え...?」

「...もう行ってしまったぞ?」

 いう事だけ言って桜はどこかへ去っていった。

「まさに嵐だな...。まったく...。」

「こ、心の準備が....。」

 溜め息を吐きながら、シグナムは箒に話しかけようとした。

「し、シグナム!私はどうすればいいのだろうか!?」

「っ、お、落ち着け...!話はそれからだ。」

 逆に詰め寄られ、驚くシグナムだが、何とか箒を宥める。

「...逆に考えればいい。これを機に、仲直りできると。」

「し、しかし、今の私ではちゃんとした試合ができるかどうかすら...。」

 先程の試合の威勢はどこへやら。ヘタレと化した箒がそこにいた。

「はぁ...。...私が言えた事じゃないが...箒、お前はあまり話し上手ではない。」

「っ、ああ...。」

 唐突に告げられた事に、自覚しながらも頷く箒。

「だが、剣の腕前はある。...ならば、全てを剣に込めていけ。」

「.......。」

「乱れてもいい。上手く振るえなくてもいい。...ただ、お前が篠咲秋十に伝えたい想いの全てを剣に込めろ。...後は試合すればわかる。」

 言葉ではなく、剣で語れ。そう、シグナムは言う。

「....元々、私にも...というより、他人には深く理解できない“罪悪感”なのだ。ならば、その複雑さなど全部ひっくるめて剣に込めて本人にぶつければいい。」

「....そう、だな...。ああ、私にはその方が向いていそうだ...。」

 シグナムの言葉に、何とか箒は立ち直る。

「....ありがとう、シグナム。貴女のおかげで、秋十とも面と向かって会えそうだ。」

「そうか。...私もあまり口上手ではないからな。それでも助けになれたならいい。」

「ああ。...では、明日の放課後のために、相手をしてくれないか?」

 再び立ち上がり、竹刀を構える箒。

「...一応、理由を聞くが...。」

「なに、明日試合をするのだ。その時に、腑抜けた剣筋ではもったいないだろう?例え罪悪感などで乱れるとしても、少しでも鍛えておきたい。」

「...そうか。なら、相手をしてやろう。」

 そういってシグナムも構え、二回目の試合を始めた。









「という訳で秋十君!明日箒ちゃんと試合な!」

「何がどうしてそうなったんですか!?」

 ...その日、寮のある一室でそんな会話があったとか...。















「(そういえば、箒は去年の剣道大会で優勝していたっけな。なら、俺も相応の覚悟で....って、それはいつもと変わらないか。)」

 翌日、放課後になって剣道場に向かう秋十はそんな事を考えていた。
 いきなり桜に試合する事になったと告げられ、結局それに付き合う事になった。
 なお、当の桜は既に剣道場に行ってるらしい。

「...あれ?そういえば桜さん、この前まで箒の事を苗字で呼んでたのに、昨日は束さんみたいな呼び方で...。」

 ふと、桜の箒に対しての呼び方に気づく。

「...でも、ただ単に束さんを真似ただけかも...。...まぁ、桜さんの事だ、気にするだけ無駄か。」

 後でどういう事か聞けばいい。そう思って剣道場へと足を進めた。







「.....来たか...。」

「...箒....。」

 剣道場に着くと、既に箒は道着を着て待ち構えていた。
 端っこの方には見物するであろう同じ剣道部の人達がいた。

「.....あんな仕打ちを受けても、私を名前で呼んでくれるのだな....。」

「箒....?」

 名前で呼んでくれた事に、箒が思わずそう呟くが、運よく秋十には聞こえていなかった。

「はいはい、試合前に会話するのもいいが、できればそれは後にしてくれ。その方がお互い話やすいだろうからな。」

「あ、桜さん。...っと。」

 秋十が何かを言う前に桜が遮り、竹刀を秋十へと投げ渡す。

「防具はいいとして...道着はどうする?着るか?」

「え、でも俺に合わせた道着なんて...。」

「なんのために俺がいると?」

「...あー。」

 自分の道着はないだろうと思った秋十だが、桜の存在がそれを否定する。
 なにせ、桜の手には秋十にサイズを合わせた道着があったのだから。
 なお、手作りらしい。

「...じゃあ、着替えてきます。」

     ―――ガタッ!

「おう。...はいそこ座ってろ。」

 “着替え”という単語に反応する見学者複数。それを桜が止める。
 普通性別が逆だと思うが、案外IS学園の女子は男に飢えているのである。

「ははは...更衣室まで遠いですので、倉庫を借りますね。」

「まぁ、時間がかかる事になるしな。...だから座ってろ。」

 剣道や柔道、弓道に使う用具や掃除用品を入れる倉庫を借りて、秋十は着替える。
 そして、また反応した女子たちを桜は抑える。





「お待たせしました。」

「よし、準備も終わったし、早速試合だ。双方とも用意はいいか?」

 着替え終わったのを桜は確認し、試合を始めれるか聞く。

「...私はいい。」

「俺もできてます。」

「そうか。...なら、試合を始めるか。」

 そういって桜は試合を見やすい位置に移動し、シグナムが合図を下す。

「始め!」

「「っ...!!」」

 試合が始まった瞬間、秋十は攻撃に備え、箒は先手必勝とばかりに接近する。

「はぁああっ!!」

「ぐっ...!」

 上段からの振り下ろし。シンプルなそれを、秋十は真正面から受け止める。

「っ、シッ!!」

「くっ!!」

 受け止めた後、横に巻き込むように持っていき、そのまま反撃の一閃を放つ。
 竹刀が持っていかれる時点でどう来るか分かっていた箒は、それを飛び退いて躱す。

「っ....。」

「(....?なんだ?今のは....?)」

 一度間合いが離れ、見合う状態となる。
 その際に、秋十は箒の剣筋に何か違和感を感じ取る。

「(ダメだ!上手く力が入らない...!やはり、秋十の正面に立つだけで、私は...!)」

「(...手加減...いや、違う。これは...。)」

 睨み合ったまま、互いに思考を巡らす。

「.......。」

「っ....はぁっ!」

 秋十は静かに構えなおし、箒はそれを認識しつつも竹刀を振るう。

     バシィイイッ!!

「っ....!」

「なっ...!?」

 だが、それを秋十は真正面から受け止めた。

「くっ...!」

 すぐさま弾かれ、箒は再び間合いを取る。

「....来い。遠慮なんて、しなくていい。」

「っ...!」

 静かに、ただ秋十はそう言った。
 その言葉に箒は目を見開き、一度目を伏せてから、また斬りかかってくる。

「(今の箒の剣筋は、とにかく真っすぐだ。例え、心の部分で遠慮とかをしていても、ただ自分の想いを込めている。だから....。)」

「はああああああっ!!」

 秋十の言葉が効いたのか、先程よりも気合の入った振り下ろしが迫る。
 普段の秋十なら、正面から受けずに横に逸らす一撃だが、今回は受け止める。

「ぐっ...く...!ぁああっ!」

「っ!」

 正面から受け、さらにその状態から押し返す。
 箒は押し返された事に驚きつつも、すぐさま構えなおし、反撃を防ぐ。

「(全て、受け止める!)」

「っ、ぁあああっ!!」

 先ほどよりも力強いが、その代わり大振りになる箒の攻撃を、秋十は逸らす事をせずに敢えて受け止める。
 秋十は分かっていた。箒が振るう竹刀に込められた想いが。

「(洗脳されていた、なんて箒にとっては言い訳にすらならない程、罪悪感を感じているんだろう。...鈴の時だってそうだったからな。)」

「ぁああああっ!!」

 強い雄叫びと共に、箒は何度も竹刀を振るう。
 それを、秋十はただひたすら正面から受け止める。

「.......。」

 ...実力は歴然だった。冷静を欠いた箒が秋十に勝てる要素はなかった。
 しかし、その一撃一撃に込められた想いから、秋十はただ勝つのを良しとしなかった。

「箒....。」

「表面上は取り繕っているが、心が泣いている...な。」

 試合を見ているシグナムと桜は、そんな二人をただ見守り続けた。

「(私はお前の無骨なまでに真っすぐな剣に憧れた...!...力強くも、美しくもなかったのに、子供ながらに私は“凄い”と感じた...!なのに...なのに私は...!)」

 それは後悔だった。
 大事に想っていた相手を、傷つけていたのだから。

「(それでも秋十、お前は....。)」

   ―――...箒....。

   ―――....来い。遠慮なんて、しなくていい。

「(こんな私を、まだ名前で呼んでくれた。受け止めてくれた....!)」

 涙を流しそうになるのを堪え、箒は再度秋十へと打ち込む。

「っ....!」

「は、ぁっ...!!」

 大きく秋十が後退する。元々受け流せばいいものを正面から受け止めていたからだ。

「くっ...!」

「ぁああああああっ!!」

 力強く、箒は竹刀を振り切った。
 それにより、秋十は大きく竹刀を弾かれ、後退する。

「....ありがとう、箒。」

「え....?っ!?」

     スパァアアン!

 瞬間、体勢を立て直した秋十が素早く二閃。
 二回の高速な斬撃で箒の竹刀を弾き飛ばし、竹刀を突きつける事で決着がついた。

「....お前の、その気持ちだけで十分だ。...また、一緒に剣道で競い合おう。」

「....秋...十......。」

 箒の頬を、一筋の涙が伝う。
 “赦された”。そう理解したからこそ、堪えていたものが溢れてきたのだ。

「....すまない....!今まで、すまなかった...!」

「...いいさ。別に箒を恨んだりしちゃいない。」

 謝る箒に、秋十は竹刀を降ろしつつそういう。

「....八神。」

「...わかっている。」

 その様子を見て、試合を見た興奮を抑えられない見学者達を桜たちは退かせる。
 ただならぬ事情を見学者達も理解したので、空気を読んで席を外した。

「(...よかったな、秋十君。)」

「(...桜さん、そういう事だったんですね...。)」

 サムズアップする桜に、秋十もなぜ試合をしたのかが理解できた。

「秋十...!ぁあああ....!すまない....!」

「.......。」

 堪えていたのが決壊し、涙を流す箒を秋十は黙って慰め続けた。









「本当の意思ではないとはいえ、親しい人を傷つけた...か。罪悪感が大きいだろうな...。」

「おまけに、年月もそれなりに経っている。積年の罪悪感は結構重いぞ。」

 二人だけにしておく方がいいと判断した桜とシグナムも外に出て、そんな会話をする。

「...篠咲君と篠ノ之さんって一体どんな関係なの...?」

「関係...か。」

 空気を読んで席を外したとはいえ、事情が気になる見学者だった一人が桜に聞く。

「秋十君自身は特に恨んだりしていないが...箒ちゃんはそんな秋十君に負い目を感じているんだ。それも、面と向かって喋るのも苦労するほどにな。」

「負い目...?」

「...さすがにそれは言えないな...。」

 他人の事情に深入りする訳でもないので、聞いてきた女子は引き下がる。

「...ま、剣道部所属の人ならわかるかもしれないが、箒ちゃんはちょっと話下手な所がある。...だから、敢えて剣で語らせたって訳さ。」

「そうだったんですか...。」

 剣道大会優勝者と男性操縦者の一人の試合という事から見学していた女子たちだったが、そんな理由があった事に静かに驚いた。

「....なんか悪いな。こんな個人の事情に付き合わせちまって。」

「い、いえ、そんな事は....。」

 申し訳なさそうにする桜に近くの女子がそう言い返す。

「...まぁ、ようやく拗れていた問題が解決されたんだ。...これからも二人と仲良くしてくれるか?」

 桜がそういうと、それは愚問だとばかりに、女子たちは頷いた。

「(さて、これで秋十君との仲は全員が元に戻ったな...。)」

 洗脳によって変わってしまった部分を全て直した事に、桜は少し肩の力を抜く。

「(後は...俺たちを敵に回してしまった事を、後悔してもらうか。)」

 しばらく時間が経ち、落ち着いたのを見計らって道場に入りながら、桜はそう考える。
 今は自室謹慎で大人しいが、いずれまた何かやらかしてくるのを見越して。







   ―――次...臨海学校がお前の最期の時だ...。











 
 

 
後書き
※“最期”とか言ってますが殺しません。絶望に落とす的な意味で言ってます。(というか桜はそんな“逃げ”に値する方法で終わらせません。)

そろそろどこに向かってるか分からなくなってきた...。
福音戦までなのは決めてあるんですけど、その過程が迷走しています...。
まぁ、基本原作沿いなのでどうとでもなりますけどね。(ただし駄文になる) 

 

閑話4「人間の限界と人外」

 
前書き
ちょっとしたリリなのinnocent...というかとらハ要素。
日常回と言えば日常回...なのかな?(白目)

IS要素が少なすぎるので読み飛ばし可。
...というか、本編にほとんど関わらない話かも。
 

 






       =out side=







「こんにちは~。」

「やぁ、よく来たね。」

 ワールド・レボリューションのロビーにて、そんな挨拶が交わされる。

「有名なワールド・レボリューションに呼ばれるなんて光栄やわぁ。」

「有名になったのは最近だけどね。」

 女性の言葉に、男性...グランツ・フローリアンはそう答える。

「それにしても、まさか僕らの開発に興味を持ってくれるとはね。」

「ISも凄いけど、こういうのもあった方がええなって思ってなぁ。」

「ははは。確かに、ISには劣るかもしれないが、これもれっきとした大発明になると思っているよ。...成功すればだけどね。」

 京都弁のような訛りでグランツにそういう。

「それにしても、よぅ私を選びましたね?」

「謙遜しなくてもいいさ。僅か小学生の年齢にして飛び級で大学卒業。あの篠ノ之博士に次ぐ天才と言われる程の君なんだ。...それに、この開発は同志と共に成し遂げたいと思っていてね。」

「...まぁ、気持ちはよぉわかります。ISが生まれる前から、夢見る人は多かったですもんね。...ISが出てから少なってしもうたけど。...後、私が篠ノ之博士に次ぐ天才は買いかぶりやと思います。」

 そんな会話をしながら、目的の場所へと移動する。

「そんな事はないと思うけどね。」

「そんな事あるんです。いくらなんでも世紀の大天才に次ぐだなんて言いすぎです。」

「...まぁ、はやて君がそう思うならそういう事にしておこう。」

 グランツは苦笑いしながら彼女...八神はやてにそういう。
 ...しかし、実際の所その束本人が似たような事を言っていたのを、はやては知らない。

「...あ、ふと思い出したんですけど、ワールド・レボリューションから二人の男性操縦者が出ましたよね?実際、どんな人達なんですか?」

「ふむ...あまり詳しくは言えないけどね...。」

 はやての質問に、グランツは少し考えてから答える。

「まず、秋十君だが...彼は底知れない程の努力家だよ。それでいて、生半可では諦めない性格をしているね。そして桜君なんだが...彼はよくわからない...が一番適格な表現だよ。」

「...えらい適当ですね...。いや、むしろそれこそが最適なんですか...。」

「容姿だけでなく、性格も篠ノ之博士に似ているかもしれないと言っておこう。」

「あー....。」

 その言葉で、なんとなく察してしまうはやて。

「しかし、なぜいきなりそんな事を聞いてきたんだい?」

「いえ、私の家族の一人もIS学園に通うてまして。そこから気になったんですよ。」

「ほう、そうなのかい?」

 少し興味が湧き、グランツは聞き返す。

「はい。剣術が好きな子なんですけど、ISならもっと違う剣の戦いができるとかで入学したんです。あ、ちなみに三組です。」

「おや、残念だな...。桜君と秋十君は一組、他に二人うちから入学しているが、彼女達は四組で私の娘も四組の担任でね。ちょうどクラスが違うようだ。」

「ありゃ...それは残念ですわぁ。」

 偶然全員とクラスが違う事に少し残念がるはやて。

「...って、娘さん?」

「うん?ああ、言ってなかったね。今年からの新任さ。」

「はぁー、そうだんたんですか。」

 随分と一企業からIS学園に行っている人が多いとはやてはつい思った。

「...あ、剣術という事は...もしかしたら秋十君と知り合っているかもね。」

「あー、そうかもしれませんねぇ。...でも、確か今日は知り合った剣術使いの子の家に遊びに行くとか...。」

「そうなのかい?...っと、着いたようだね。」

 地下の、ある部屋の前に着き、グランツはそういう。
 そして、その扉を開けると...。

「ククク...ハーハッハッ!いいぞ!今日の私は冴えている!」

「.......。」

「.......。」

 白衣を着た(変態)...ジェイルが悪役の如き高笑いをあげていた。

「...ドクター、八神様がお見えになりました。」

「む...おっとすまない。つい興奮してしまってね。」

「なんややけに悪役染みた笑いが似合ってますなぁ...。」

 ジェイルの娘であるウーノが声をかけ、そこでようやくグランツとはやてに気が付く。

「...一応聞くが、どうしてそんな嬉しそうなんだい?」

「いやなに、今日はいつもより冴えていてね。少し手詰まりしていた事が解決したからね。つい嬉しくなったのだよ。」

「なるほど...君らしい...。」

 悩んでいた事が解決してスッキリしたのもあるのだろう。
 だが、それにしては笑いすぎである。

「...それで、そちらが八神はやて君だね?」

「はい。えっと...ジェイル・スカリエッティさんでおうてますよね?」

「その通りだ。」

 挨拶を交わし、二人は握手をする。

「...さて、三人も揃った訳だし、早速取りかかろうか。」

「ふむ、親交を深めたい所だが...それは合間合間でもできるか。」

「ほな、早速始めましょう。」



「「「フルダイブ型VRゲームの実現を。」」」

   ―――ここに、三人の隠れた天才が集まった。














       =桜side=






「はぁっ!」

「ふっ!」

     カァアアン!!

 木刀と木刀がぶつかり合う音が響き、木刀を振るった二人は互いに間合いを取る。

「....強いな。高町。」

「そっちこそ。...純粋な“経験”で積み上げた剣術...生半可な剣術だと正面から叩き潰されちゃうよ。」

 試合をしているのは八神と高町。
 結局、トーナメント後に知り合い、今日はこうして高町家の道場にお邪魔している。
 なお、俺達も興味があったのでついてきている。高町の家は広いし大人数でも大丈夫だ。

「じゃあ...これはどう対処する!?」

「っ!!」

   ―――御神流奥義之歩法“神速”

 刹那、高町の姿が掻き消える程の早さで動く。
 天井、壁を跳ねるように移動し、八神の死角へと潜り込み...。

「そこまで!」

「っ、くっ....。」

 試合を見ていた高町の兄に止められる。
 試合に負けた事を悟った八神は相当悔しそうにしていた。

「....まさか神速を使わせるとはな...。」

「これで我流だもんね...本当、凄いよ。」

 試合には負けた八神だが、高町兄妹をおおいに驚かせる程だった。

「....いや、それよりも...。」

 八神に対する驚きを一度他所に置き、高町兄は俺を見てくる。

「.......。」

「えっ、お兄ちゃん!?」

 木刀を一つ、軽く俺へと投げてくる。
 いきなりの行動に、高町も驚いている。
 そして、その木刀を俺がキャッチしようとした瞬間...。

「っ.....!!」

「......。」

 高町兄が、目の前で木刀を寸止めしていた。
 もちろん、俺はしっかりとキャッチした木刀で防ぐ体勢になっている。

「....やはりな。」

「.......。」

 そう言って、高町兄は納得したように木刀を下ろす。
 ...さすがにばれるか。

「お兄ちゃん!一体何を...。」

「すまないが、名前を尋ねても?」

「...篠咲桜だ。」

 高町の言葉を無視し、高町兄は俺に名前を尋ねてくる。もちろん、俺はそれに答える。

「...一試合申し込みたい。」

「...いいだろう。」

 彼としては、俺の強さを感じ取り、そのうえで試合をしてみたいのだろう。
 別に、断る必要もないので受ける事にする。

「もしかして....。」

「俺としても実力が気になるな。行ってくる。」

 秋十君もいきなりどうしてこうなったか察する。
 俺自身、高町兄の実力が知りたいので、すぐに準備を済ます。

「...試合の前に一つ聞いておきたいが....先ほどの試合の最後、なのはの姿は見えていたか?」

「...見えていたが、それがどうかしたのか?」

「っ...!...いや、なんでもない。」

 確かに、俺でさえ“早い”と思わざるを得ない動きだったが、見えない訳ではなかった。
 だが、それが高町兄妹にはありえないと思える程だったようだ。

「....全力で挑ませてもらおう。」

「お兄ちゃん!?」

 高町兄はそう言って高町の使っていた木刀を手に取り、二刀流になる。
 小太刀二刀流...それが高町達が使う剣術の本領か。

「(懐に入られれば、手数の差で俺でも無理だな...。)」

 対して、俺は脇差程の木刀一本のみ。
 手数の時点で差があるため、懐に入られればそれだけで勝てなくなる。

「なのは、審判を頼む。」

「うー...桜さんがどれぐらい強いか私も気になるし....わかったよ。」

 元々八神と試合をするためだったが、成り行きで俺も試合をすることになった事に高町はどこか複雑そうだ。...それでも審判は請け負ってくれたが。

「じゃあ...始め!」

「っ.....!」

 高町の合図と共に、普段は抑えていた闘気を晒す。
 闘気って言っても、周りから見れば雰囲気が変わったとかその程度だけどな。
 だけど、それだけで高町兄は俺の実力を大まかに理解したようだ。

「っ、ぜぁっ!」

「っ!」

     カァアアン!!

 俺の動きに注意しつつ、高町兄は一瞬で間合いを詰め、木刀を振るってくる。
 それを上に受け流すように弾くと、もう一刀で一閃してくる。

「くっ...!」

「.....!」

 だけど、それは俺からも接近し、手の動きの方を防ぐ事で阻止する。
 そこまでで約3秒以下。...早いな。

「早い....!」

「め、目で追いきれませんでした...。」

 秋十君とユーリちゃんの驚きの声が聞こえる。
 しかし、それを気にする暇もなく、高町兄は再度攻撃を仕掛けてくる。

「はぁっ!!」

「っ!」

 先ほどは様子見だったのか、さらに鋭く、早い攻撃が迫る。
 さすがにきついので、咄嗟に心に水を宿し、受け流して躱す。

「「........。」」

 受け流した際に、俺は滑るように高町兄との間合いを取った。
 それにより、初期位置から移動したものの、仕切り直しになる。

「...凄い...お兄ちゃん、全力でやってる...。」

「桜さんもいつも以上に真剣だ...そこまでの相手なのか...あの人。」

 高町と秋十君の声を皮切りに、再度ぶつかり合う。
 動きに風を宿し、心に水を宿したその動きで、高町兄の手数の差を潰す!

「っ...!」

「は、ぁっ!!」

 高速且つ流れるような動きで近づき、木刀を一閃。
 動きは見えたらしく、木刀を二刀とも防御に回し、自らも飛ぶ事で防がれる。
 そのまま高町兄は空中で体勢を立て直し、着地と同時に再び攻めてくる。

「ぜぁっ!」

   ―――御神流奥義之壱“虎切”

「っ―――!?」

     カァアアン!!

 腕に痺れが走ると同時に、冷や汗を掻く。
 早い...!鞘走りから放たれた神速の一撃は、風と水を宿した状態でも早かった。

「(身に...土を宿す!)」

「は、ぁあっ!!」

   ―――御神流奥義之肆“雷徹”

 急いでさらに土を宿し、二刀の攻撃を後ろへ飛びながら防ぐ。
 瞬間、思わず木刀が弾かれそうになるほどの衝撃が伝わる。

「(衝撃を徹してきた...!しかも、ここまで高度な...!)」

 もし身に土を宿していなければ今ので負けていた。
 身体能力では勝っているだろう。....だが、技では負けている。
 その事に驚愕すると同時に、気分も高揚してきた。

「(...なるほど。なら、全力でいかなきゃなぁっ!!)」

「っ、桜さんが本気を!?」

 秋十君にさえ実力を見せるために一度しか使っていない、“四属性を宿す”という事をやってみせる。

「...“動きに風を宿し、身に土を宿し、心に水を宿し、技に火を宿す”。全力で模擬戦をやるのは、幼馴染相手以来だ...。...行くぞ、高町恭也!!」

「っ、来い...!」

 高町兄...恭也の名前を叫び、一気に間合いを詰める。
 風のように早く、水のように滑らか...だが、その一振りは大地のように重く、火のように苛烈!

「ぜぁっ!!」

「っ!?がぁっ....!?」

 二刀で防ごうとする高町兄だが、すぐさま防げないと判断。
 俺の攻撃を利用して、一回転する事によってダメージを極限まで減らされた。

「っ!」

     ダンッ!

「っ、これは...!」

 高町兄は、そのまま体勢を立て直すと同時に上に飛び上がり、天井を蹴る。
 ...なるほど。正面からぶつかり合わずに、速さで翻弄するか...。

「ふっ!」

「っ、はっ!」

 振るわれた二刀を素早く受け流し、反撃を放つ。
 ...が、高町兄も相当早く動いており、躱される。

「(生身で“水”の動きに反応するか!...ますます面白い!)」

 “風”と“水”を合わせたその攻撃は、それを使わない俺でも梃子摺る。
 だが、それを高町兄はやってのけた。

「は、ぁっ!!」

「っ!!」

   ―――御神流裏奥技之参“射抜”

 ....見切れなかった。
 ただ、直感に従い木刀を構えた事により軌道が逸れ、偶然にも防げた。

「み、見えない...!?」

「お兄ちゃんがあんなに神速を連発するなんて...!?」

 外野が何か言っているけど、俺はそれに耳を傾ける暇はなかった。
 次の攻撃がすぐさま来る...!集中しろ...精神を研ぎ澄ませ!

「ぉ、ぁああっ!!」

「っ―――!!」

   ―――御神流奥技之六“薙旋”
   ―――“気炎万丈”

 神速の四連撃と、俺の四連撃がぶつかり合う。
 ...今度は見えた。集中力と精神を極限まで研ぎ澄ませてようやくだが...な。

     カァアアン!!

「「っっ....!」」

 最後の一撃で互いに大きく後退する。大技を放った反動だ。

「っ...神速の重ね掛けについてくるとは...な...!」

「...何だよそれ...まだ隠し玉があったのかよ...。」

 通りで俺でも見切れなかった訳だ...。だが、どうやら負担も大きいらしい。
 ...残念だな。もっと楽しみたい所だが、ここらで潮時か。

「.......。」

「っ、......。」

 静かに俺が構えると、高町兄も構える。
 ...互いに次が最大の技だ。これで勝負が決まる。

「「っ!」」

 同時に踏み込む。そして、技を叩き込む―――!!

「「はぁっ―――!!」」

   ―――御神流斬式奥技之極“(ひらめき)
   ―――“森羅一閃”

 高町兄は俺でも見えない一撃を、俺は四属性を込めた一閃を放つ。
 互いに攻撃を防ごう、相殺しようと考えていない、相手を倒すためだけに放たれた一撃。

     バキィイッ!!

「っ.....!」

「っ........。」

 すれ違い、木刀を振り切った体勢で俺たちは固まる。
 結局、技と技がぶつかり合ったのか、木刀は負荷に耐え切れずに壊れてしまった。

「ぐ....がはっ....!」

「っ....くっ...。」

 俺は膝をつき、高町兄は倒れ込むように手と膝をついた。
 どちらももう立てない状態で、戦闘不能になった。

「...み、見えたか...?」

「ぜ、全然見えませんでした....。」

 ふらふらになった体を支えつつ、秋十君とユーリちゃんの言葉を聞く。
 ...どうやら、二人には最後の一撃は見えなかったようだ。
 黙ってずっと見ていたマドカちゃんも驚いたままで、見えてはいなさそうだ。

「(...当然か。実際に喰らった俺すらも、“知覚”できなかったからな...。)」

 御神流...とか言ったな。高町達が使っている剣術は。
 ...まったく、恐ろしいものだな。

「お兄ちゃん!大丈夫!?」

「あ、ああ...。まさか、試合でここまで楽しめるとは、な....。」

「楽しむってレベルじゃないと思うよ!?」

 高町が心配して駆け寄ると、あろうことか高町兄は“楽しんだ”とかいう。
 ...かくいう俺も、楽しんでいた節があるしな...。

「大丈夫ですか...?」

「ああ...。俺もこれほどダメージを受けたのは久しぶりだ...。」

 一回目は束を庇った時の事故。それ以降は四属性を習得する際の無茶ぐらいだな。
 まさか、四属性全て使ってここまでダメージを受けるとは思わなかった。

「....いい試合だった。」

「ああ。まさかここでこんな強者と戦えるとは思わなかった。」

 何とか立ち上がり、高町兄...否、恭也と握手を交わす。

「...人外級がここにもいたなんて...。」

「秋十君!?お兄ちゃんはそこまで....言われてみればそうかも。」

「おいなのは。」

「あ、ごめんなさ~い!」

 失言に高町は恭也に謝る。

「...ふむ、やはり、私もまだまだだな...。」

「...なんかすまんな。俺の前座みたいになってしまって。」

「いや、上の存在がどれほどのものか知れただけよかった。」

 ずっと試合の一手一手を見逃すまいと見ていたらしいシグナムがそういう。

「御神流...だったか?」

「ああ。」

「最後の後半からの動きと最後の一撃...人の知覚外の動きだったが...。」

 俺が調べた限りだと、人の限界を引き出す剣術らしい。
 それにしても俺が言えた訳じゃないが、規格外な動きだった...。

「...むしろ、それを認識できる方が凄いのだがな...。」

「俺、ちょっと特殊だしな。」

 そんな俺に迫る恭也がおかしいというべきだろう。高町みたいに声には出さないが。

「御神流の奥義だ。詳しくは言えんな。」

「まぁ、そう簡単に一子相伝の技をばらす訳ないよな。」

 なんというか、年が近いからか恭也と親近感が湧く。仲良くなれそうだ。

「恭ちゃーん?母さんがお客さんを連れて休憩にしましょうだって。」

 そこで、道場内に入りながら、黒髪の三つ編みで、メガネをかけた女性...高町の姉である高町美由希がそう言ってくる。

「む、そんな時間か。」

「あはは...お兄ちゃんも桜さんも試合に熱中してたからね...。」

 そういう高町だが、外野も観戦に夢中になっていたようだ。
 秋十君やユーリちゃん、マドカちゃんが今更のように気づく。

「えっ!?恭ちゃんと試合!?相手は?」

「俺だ。」

 手を挙げ、俺だと主張する。

「....ほんとに人間?」

「失礼だろう。」

「あいたっ!?」

 さっきの試合で体力を使っても、はたくぐらいの力は残っていたらしい。
 失礼な事を言ってしまった高町姉は恭也にはたかれる。

「いたたた...とりあえず、翠屋に来るようにだって。」

「分かった。シャワーを浴びて行くから、先に行っておいてくれ。」

 恭也がそう言って、風呂場の方へ行く。
 ...俺もさっきので汗を掻いたし、同行させてもらうか。

「あ、じゃあなのはとシグナムちゃんも入ってくる?」

「...あの、“ちゃん”はやめてください...。」

 高町姉の呼び方に八神がそういう。...確かに合わないな。

「うーん...私たちは遅いから、お兄ちゃんが先に入ってて。」

「そうか?ならそうさせてもらうが...。」

「あ、俺も行くよ。」

 恭也についていき、俺はシャワーを浴びさせてもらった。







「わぁ....!」

「へぇ...これがあの....。」

 しばらくして、俺たちは翠屋へときた。
 シャワーとその着替え?特に描写する事でもないし、着替えは拡張領域に仕舞ってた。
 ちなみにこの拡張領域はISについているものではなく、その機能だけを用いた簡易的な倉庫だ。

「翠屋特製シュークリームよ。さぁ皆さん、ゆっくりしていってね?」

 高町達の母親...高町桃子さんの言葉に、一斉に皆がシュークリームを手に取る。
 ...まぁ、スイーツ系の雑誌のランキングにも載る店の商品だからな...。

「おいしそう....いや、絶対美味しい!」

「マドカさん...食べる前からそれは....いえ、確かに同感ですけど。」

 マドカちゃんの言葉にユーリちゃんは苦笑いしながらも同意する。
 ...やっぱり、女の子はこういうスイーツは好きなんだろうな。

「それにしてもなのは、随分と色んな人を連れてきたわね。」

「えっと...ダメだった?」

「別にいいわよー。むしろIS学園でも上手くやってるって安心しちゃった。」

 シュークリームを食べながら、高町親子の会話を見る。
 ...それにしても、高町の母親若すぎないか?

「しかしこのような街中にこれほどまでの剣の使い手がいたとは...。」

「シグナムも我流なのにここまでできるのは凄いと思うよ?」

 シュークリームの美味しさに驚いているユーリちゃん達を他所に、八神と高町がそんな会話をしている。

「あむ.....。...私としては、なのはさんが翠屋の店長の娘さんだった事に驚きですよ。」

「そういうユーリだって今話題の会社の一員だよー?」

 一番“普通”に近いのは八神だけだな。俺たち。

「いやしかし...本当に篠ノ之博士に似ているね...。体格的にも女性に近いし。」

「幼い頃は何気に気にしてましたね。今となっては誰かをからかうのに使えますが。」

 恭也の親である高町士郎と、俺は少し談笑する。
 ...この人も相当できるな...。店の仕事で道場にはいなかったけど。

「ああ、だから桜さんはよく...。」

「よく冬姉をからかうと思ったらそういう...。」

 秋十君とマドカちゃんが何か言っているが、敢えて気にしないでおこう。

「...っと、仕事もあるから、僕はもう行くよ。それじゃあ、ゆっくりしてね。」

 翠屋は言うまでもなく繁盛している店なので、士郎さんはすぐに仕事に戻った。
 高町姉も店の手伝いをしており、なんだかお邪魔しているのが申し訳ない。

「....そういえば聞きたいんだが、なのはは学園でどう過ごしているんだ?」

「...?それは本人に聞けばいいんじゃないか?」

 別に仲が悪い訳でもないし、聞けば大体は教えてくれそうだが。

「他人から見た意見を聞きたいんだ。」

「あー、そういう事。でも、俺は同じクラスじゃないしな...。」

 そういう訳で、ユーリちゃんとマドカちゃんを見てみる。
 ...まだシュークリームを堪能してたか。

「んぐ...?なのは?んー、普通に友達とかいて楽しく過ごしてると思いますけど...。」

「なのはさん、コミュニケーション能力が高いですしね。」

 俺たちの会話は聞こえていたのか、二人は答えてくれる。

「....そうか。まぁ、楽しく過ごしているならいいか...。」

「妹さんの事、大事なんですね。」

 秋十君が安心している恭也にそういう。

「当たり前だ。妹だからな。」

「....シスコン。」

「ん?」

 ボソッと呟いただけなのに恭也は耳聡く反応した。
 やっぱりシスコンじゃないか。

「...聞き損ねていたんだが、なのはは御神流がISを使っている時は全力を出せないとか言っていたが...そちらでは同じような事はないのか?」

「同じような....まぁ、生身ならではの動きはしづらいな。幸い、俺や秋十君が扱う剣術の傾向はISにも適応できるけどな。」

「...ISではそちらが上か。」

 俺としては生身では御神流の方が技術が上なのが悔しいが。
 だって、いくら機能がよくても俺たちにとってISは“翼”でしかないしな。

「....ん?」

 ふと、ケータイが鳴っている事に気づく。
 恭也も出てもいいぞと頷いたので、遠慮なく出てみる。

「もしもし?」

【さー君!さー君!助けてー!】

「...どうしたんだ?」

 相手は束。周りにはばれないように一応社長として接するが。
 ...それにしても慌てているな。

【スカさんとグランツさんとはーちゃんがー!】

「はーちゃん...?ああ、今日来るって言っていた...。」

 確か名前は八神はやて....八神がお世話になっている親戚だったな。
 ちなみに、このことは八神本人には知らせていない。

「...で、どうしたんだ?発明品が爆発でもしたか?」

【逆だよ逆!上手くいきすぎて傍から見てるこの束さんが近寄れないレベル!】

「.....訳わからん。」

 こりゃあ、直接見た方がいいかもな。

「悪い。社長から大至急のヘルプが入った。ちょっと行ってくる。」

「あ、ああ...。随分と慌ててたようだが...。」

「うちの研究馬鹿が調子に乗りすぎているみたいだ。八神、悪いがお前もついてきてくれ。」

「....?わかったが...。」

 適材適所という訳で、八神も連れて行くことにする。訳は道すがら説明しよう。
 ...というか、さっきの会話、恭也には聞こえていたのか...。

「...他言無用で頼む。」

「.....わかった。」

 また後で対価を持っていくか。

「それじゃあ、秋十君、マドカちゃん、ユーリちゃん。後は自分で帰ってくれ!じゃな!」

「桜さん!?....もう行ってしまった...。」

 急いだ方がいいので、準備が整った八神を抱え走り出した。
 途中でタクシーを捕まえ、急いで会社へと向かってもらった。













「さーくーん!!」

「あ、あ、主!?何を!?」

 その日、ワールド・レボリューションで一悶着あったが....それはまた別の話。
 とりあえず、フルダイブ型VRゲームについて“三人寄れば文殊の知恵”ばりに開発が進むのはいいが、その過程で周りに迷惑をかけるのはやめてくれ。

 俺と束と八神の怒号が飛ぶまで、それは終わらなかった。













 
 

 
後書き
ISなんていらないんじゃないかなこの人達。(小並感)
この恭也さん。とらハよりもさらに極めています。(膝も怪我してないし)
なお、強さは恭也>美由希=士郎>>なのはです。士郎さん、さすがに衰えた。

オチが締まらない...。まぁ、メインは恭也VS桜だし...。
御神流を出したのなら天災級の相手と戦わせてみたいという理由でこの話ができました。
結果は...まぁ、ほぼ引き分けです。狭い場所なら断然御神流が有利です。 

 

第38話「お買い物」

 
前書き
原作での水着を買いに行く話。
一応、一夏の謹慎が解けたぐらいまで日にちが経っていますが、一夏に出番はありません。
 

 






       =秋十side=





「...買い物に行くだけなのになんでこんな人数に...。」

「まぁまぁ。皆何か買おうと思ったからさ、ついでだから一緒に行こうって訳だ。」

「それは分かってるんだけど...。」

 IS学園のある島から、モノレールで移動中、シャルがそういう。
 ちなみに、今いる面子は俺たち二人の他に、桜さん、マドカ、ユーリがいる。
 ...まぁ、いつもの面子だな。

「...ま、今じゃ同じ会社の人だからいいんだけどさ。」

「しかし、シャルが水着を持ってないのは驚いたな。女子って服とか水着って結構余分に買ったりするんだろ?」

 俺たちが買い物に行くきっかけは些細な事だった。
 偶々シャルとの会話中に臨海学校の話題になって、水着を持ってない事に気づいたのだ。
 ...で、俺もついでに買おうと思ったら、それを聞きつけた桜さん達もついてきた...と。

「あー...えっとそれはね...。」

「男として入学してきたのに、女子用の水着を持ってたら不自然だから...だろ?」

「...うん。」

 後ろの席で聞いていた桜さんが先に答える。
 ...なるほど。確かにそうだな。元々不本意とはいえスパイなんだから、当然か。

「...でも、シャルの本国の方の荷物ってうちの会社に届いてるはずじゃ...。」

「それが...実は確かめてみたらちょっときつくって...。」

 きつい?...まぁ、少し経ったら成長しててきつい事はあるけど...。

     グシャッ!

「ま、マドカさん!?」

「ん?...って、マドカ!?いきなりどうした!?」

 ユーリと一緒に座っているマドカの方を見ると、なぜかマドカは飲んでいた紙パック式のジュースを握り潰していた。

「...ね、ねぇ、シャル....きついって、どこが?」

「え?...あの、マドカ?怖いんだけど...。」

「答えて。」

「は、はいぃっ!?」

 直視できない怖さを放つマドカがシャルに聞く。
 ...ん?桜さん、なんでそんな“あっ...(察し”みたいな顔をしてるんだ?

「え、えっと...その...胸が....。」

「......。」

 シャルの答えにマドカは無言でシャルの肩を掴む。
 ...って、滅茶苦茶力入ってないか?あれ。

「いっ...!?痛い!痛いよマドカ!?」

「ぅぅう...!シャルに持たざる者の気持ちなんてわかるもんか!」

「え、えええ...?」

 あ、マドカが少し涙声になってる。

「お、大きいのだって苦労してるんだよ?肩こりとか...。」

「持ってる奴は大抵そういうんだよ!うわぁあん!」

 ...拗ねちまった...。どう収拾つけるんだ。これ...。

「.........。」

「....ゆ、ユーリ?」

 ふと、俯いているユーリにシャルが気づく。
 ...心なしか胸に手を当てて気にしてるような...。

「(....どの道、男の俺には居心地の悪い状況だなぁ....。)」

 俺と桜さんという男がいるの忘れてないか?

「(...ふと思ったけど、シャルはまだマシな方だよな。...マドカは箒とかに対してどう思ってるんだ...?)」

 女性に対して失礼だが、ふと思い出してみるとシャルでも比較的に大きい訳ではない。あまり気にしてなかったが、束さんや箒、セシリアの方が...。

「っ...!?」

「........。」

 ...マドカの視線が俺に向いている。
 もしかして、思考を読み取られた?

「....秋兄も、大きい方がいいの...?」

「えっと....。」

 どう答えればいいのだろう。
 気遣うとか関係なく、本気でそう思った。

「(というか...。)考えた事ないなぁ...。」

「ふーん....。」

 マドカのジト目が怖い...。言葉の選択肢を間違えたらどうなるやら...。

「...お、そろそろ着くぞ。」

 そこで桜さんの声が聞こえ、とりあえず降りる事にした。











       =out side=





「とりあえず、全員まずは水着かな。その後は各々の買いたいものを探すのもよし。誰かの買い物に付き合うのもよしだ。」

「はーい。」

 駅前の商業ショッピングモール“レゾナンス”に着き、桜はそういう。
 ちなみに、先程拗ねていたマドカは何とか元に戻ったようだ。



「.........。」

「.........。」

 そして、それを物陰から覗く者が二名。
 鈴とセシリアである。

「楽しそうね...。」

「楽しそうですわね...。」

 二人とも、今朝偶然に桜たちが外出するのを見て、急いでついてきたのだ。

「いいなぁ...。」

「...ふと思ったのですけど、普通に混ざればいいじゃないですの?」

 別段何か事情がある訳でもないので、実質セシリアの言う通りである。
 ただ、なんとなく混ざりづらいと思っているだけである。

「そうなんだけどね...。」

「...何をしているんだ?」

 唐突に後ろから話しかけられ、鈴とセシリアはつい大声を上げそうになる。

「あ、アンタどうしてここに...。」

「なに、臨海学校では泳げると聞いてな。それで水着の話になった際、学校指定の水着以外持っていない事に気づいてここまで来た訳だ。」

「あぁ、そういう事...。」

 ラウラはつい最近まであまり世間を知らなかったため、水着も持っていなかった。
 だから今日買いに来たらしい。

「...なら、混ざってくれば?どうやら、同じ目的みたいだし。」

「む、そうなのか?...だとしたら、なぜお前たちはこんな所で...。」

「それは...ちょっとね。」

 物陰に隠れてついて行きながら、鈴たちはそんな会話をする。

「ふむ....そうか。」

「...あれ?結局行かないの?」

「なにやらこちらも面白そうなのでな。」

 “尾行する”という行為に案外乗り気なラウラ。

「では、見失わないようについて行こう。」

「ホントに同行するのね...。まぁ、いいわ。」

 イキイキとしながら鈴たちと同行するラウラ。
 好奇心の多さはどうやら見た目相応のようだ。







「(.....ばれてるんだけどなぁ...。)」

 ...尤も、三人は隠れているつもりでも桜にはばれていたが。








「...ん?あれって...。」

「どうしたの?」

 水着売り場に向かう途中、秋十は何かを見つける。
 シャルロットが気になり、そちらを見てみると...。

「兄妹...?知り合いなの?」

「ああ。親友とその妹だ。」

 秋十は軽く関係を説明し、その二人に近づく。
 桜たちもそれについて行く。

「よっ。随分と買っているな。」

「あ、秋十さん!?」

 向こう側は気づいてなかったようで、秋十に話しかけられて妹の方...蘭は驚く。

「秋十じゃねぇか。どうしたんだ?」

「ちょっと水着を買いにな。...そっちは?」

「俺はこいつの水着と服の買い物の付き添いだ。」

 見れば、弾は既に結構な紙袋を持っている。既に買い終えているようだ。

「しかしまたそれなりの人数で...。」

「あぁ、それはもうすぐ臨海学校があるからな。シャルが買いに行くから皆一新しようと...。」

「“シャル”?」

「あっ...っと、紹介し忘れていたよ。」

 秋十は弾と蘭にシャルロットの事を軽く説明する。
 さすがにデュノア社云々の事は言わなかったが、ワールド・レボリューションに所属している事は紹介した。

「えっと...秋十の親友...なんだよね?よろしくね?」

「あ、はい!五反田弾です。よろしくお願いしまsいっづ!?」

「お兄、鼻の下伸ばしすぎ。」

 金髪美少女という事で、弾は緊張しながら挨拶した所で蘭に脇腹を抓られる。

「いっつつ...なにすんだ蘭!」

「いつもそうやって女性の前でデレデレして...。相手によってはそれを利用されてすぐに警察送りになるかもしれないのよ!」

「うぐ....。」

 蘭はそういうが、弾がそうなる相手は全員女尊男卑に染まってない女性だったりする。
 弾は直感的にそれがわかっているようなので、これでも相手を選んでいる。

「あはは...。なんだか面白い兄妹だね...。」

「これでも少し前まで暗かったからなぁ...。ホント、元気になってよかったよ。」

 苦笑いしながら言うシャルロットに、秋十はそういう。

「...って、そういえば、秋十さんも買いに来たのなら、選んでもらえば...。」

「...あー、そりゃ、間が悪かったな。諦めろ。」

 ふと気づいたように言う蘭だが、弾の言う通り間が悪く、既に買い終えていた。

「せ、せめて同行だけでも!」

「俺は構わないけど...。」

 せめてものという要求に、秋十は周りを見渡す。

「俺は別に構わないぞ。」

「蘭がそうしたいなら俺もいいぜ。」

「ボクも賑やかな方がいいかな。」

 桜、弾、シャルロットと了承の返事が返り、マドカとユーリも構わないと頷く。

「じゃあ、行こうか。」

「はい!」

 全員が了承した事で、秋十達は水着売り場へ向かった。



「そういや、マドカちゃんはいいのか?」

「え?何が?」

 水着売り場に向かう途中、秋十と蘭が二人して歩くのを眺めつつ、桜がマドカに聞く。

「いや、いつもなら“秋兄は私のものだよ!”的な感じで突っかかってたからな。」

「...いや、さすがにそんな頻繁に...っていうか私の声真似上手い...。」

 マドカの言う通り頻繁ではないが、それでも同じような事をしたことはあるようだ。

「...んー、まぁ...罪悪感...って所かな?」

「...それは秋十君に対して?それとも...。」

「蘭の方。私たちが洗脳されてたから迷惑を掛けちゃったしね。多少の事は目を瞑るよ。」

「なるほどな。」

 慕っていた相手に会えないという辛さをマドカは汲み取り、蘭に対して親切にしていた。
 また、かつては秋十を虐げていた事の罪悪感も残っていたのだろう。

「...お、着いたぞ。」

「あ、いつの間に。」

 適当に談笑している内に、水着売り場に着く。

「じゃあ、俺たちは男物の方に行くし、お互い買い終わったら店の前に集合な。何かあったら呼びに来てくれ。」

「はい。わかりました。」

 桜がそう言って、男女で別れる。

「...ところで桜さん。どういう水着を選ぶつもりなんですか?」

「ん?あー、普通にトランクス型だが...。」

 そこまで言って桜は秋十がどういうつもりで聞いたのか理解する。

「まぁ、さすがにそこまで似合わないって事はないだろうよ。」

「...そうですよね。」

「...なんの話だ?」

 そんな二人の会話に弾が割り込む。

「いや、桜さんの水着の話。」

「俺の見た目がアレだからな。似合わない場合が多いんだよ。」

 “ほら”と言って括っておいた髪を降ろす。

「た、確かに...。」

「さすがに骨格とかは男性だから、上半身裸ともなれば女性には見えんさ。」

「逆にそこまでしなければ男性に見えないのがおかしいんですが...。」

 秋十のいう事はごもっともであるが、生憎生まれつきなのでどうしようもない。

「弾君はいいのか?」

「えっ、俺は...まぁ、家にあるのがまだ使えるので。ホントに今日のは蘭の付き添いなだけでしたから。」

「...なんか、付き合わせちまって悪いな。」

「あ、いえいえ!...蘭が楽しめる方がいいですからね。」

 桜の言葉に弾は謙遜する。

「じゃあ、俺はこれにしておくから、後で買っておいてくれ。」

「あ、了解です。...ってどこに?」

「ちょっとな。」

 どこに行くかははぐらかし、桜は秋十達と別れてある場所へ向かう。





「....一緒に見る...って訳じゃないのね。」

「ふむ...では私も買いに行ってくる。」

「あ、元々それが目的でしたものね。」

 結局尾行してついてきた三人はそんな会話をする。

「どっちを見てようかしら...。」

「混ざればいいんじゃないか?」

「しかし、それだとせっかくつけてきた意味が...。」

 そこまで言って鈴とセシリアはふと違和感を抱く。

「...あれ?今のセシリア?」

「いえ、私ではありませんけど...。」

 そこで唐突に肩を叩かれ、後ろを振り向くと...。

「よっ。」

「「っ―――!?」」

 桜がそこに立っていた。

「い、い、いつの間に!?」

「ついさっきだ。なんだ、二人とも気づかなかったのか?」

 驚く鈴に対し、ラウラが答える。
 ちなみにラウラは買いに行こうとした際に桜を見つけていた。

「...あー、言っておくが、レゾナンスに着いたあたりから気づいていたからな?」

「嘘っ!?」

「...まぁ、桜さんならおかしくないですわ...。」

 驚く鈴と、“桜だから”と納得してしまうセシリア。

「秋十君とマドカちゃんは買い物で少し浮かれているからな。...言っておくけど、普段なら二人も気づいていたからな?」

「...そうなのね...。」

「それで、結局どうするんだ?」

 買い物に混ざるのか、桜は改めて聞く。

「...タイミングを見て自分で合流するわ。」

「そうか。」

 鈴も蘭に思う所があるため、罪悪感で少し近づき難いようだ。

「じゃ、俺は戻るわ。二人もせっかくここまで来たんだから、楽しめよ。」

「あ、はい。わかりましたわ...。」

 それだけ言って、桜は秋十達の元へ戻っていった。





「秋十。決めたか?」

「ん?ああ。これにするよ。」

「よし、じゃあレジに行くか。」

 桜が鈴たちの所に行っている頃、秋十は水着を選び終わり、レジに向かっていた。

「マドカ達は...さすがにまだだろうな。」

「こっちは二人分、向こうは最低で三人分。でもほぼ確実にそれ以上だろうな。」

「だよなぁ...。」

 女性の買い物は長いと分かっている二人は、まだまだ時間がかかるだろうと苦笑いする。

「ん?」

「あ?」

「私の分も買っておいてちょうだい。」

 すると、そこへ当然とばかりに一人の女性が水着を入れて、買うように行ってくる。

「なんだ?いきなり...。」

「待て、弾。ここは俺が...。」

 文句を言おうとした弾を秋十が止め、代わりに矢面に立つ。

「自分の分は自分で買ってくれ。赤の他人に買わせるのは明らかにおかしいぞ。」

「何よ。男の癖に歯向かおうっていうの?」

 典型的な女尊男卑に染まった女性。秋十は目の前の女性をそう認識する。

「当たり前だ。こんなの、男も女も関係ない。第一、他人に物を押し付けて買わせるなんて、人としておかしいだろ。」

「っ...うるさいわね!男は黙って従っていればいいのよ!」

 滅茶苦茶な物言いに、さすがに二人も呆れるしかなかった。

「女性しかISに乗れないからか?」

「そうよ!分かったのならさっさと...。」

「...最近じゃ、三人も男性操縦者が現れているけどな。」

「うっ....。」

 一瞬、女性が動揺する。それを秋十は見逃さない。

「それに、まるで正当な権利を使っているような素振りだけど、貴女にそんな権限があるのか?自分が優れたIS操縦者ですらないのに?ただ風潮に染まってISを利用して男性を貶めるような真似をしているだけだろう?」

「っ.....。」

「(...うわぁ、容赦ねぇな...。)」

 反論も許さない勢いで責め立てる秋十。
 それを傍で見ていた弾は、つい秋十に対してそう思ってしまう。

「しかも、見た所この手口は初めてじゃなさそうだ。...一体、何人の男性を貶めた?虎の威を借る狐とはまさにこのことだな。見ていて呆れを通り過ぎて人間として憐れだ。」

「っ...言わせておけば...!」

 挑発染みた言い方に、女性は耐える事も出来ずにキレそうになる。

「いやはや、言うねぇ、秋十君。」

「あ、桜さん。」

 すると、そこへ桜が戻ってくる。

「いつもはそんな事言わないが....。」

「桜さんの影響ですよ。こう、揚げ足を取るような言い方も自然と身に着くんです。...なぜかは敢えて言いませんが。」

「あっはっは。耳が痛いな。」

 そう。秋十はただ桜を真似て言葉を並べたに過ぎない。
 秋十では性格上、あそこまで言葉で追い詰める事はしないのである。

「さて、後は俺が始末をつける。」

「...何よ!いきなり現れて...っ!?」

 桜が現れた事で一瞬固まっていた女性が、再び調子を取り戻して何か言おうとする。
 しかし、桜が突きつけた物を見て、再び動揺してしまう。

「IS学園の....学生証...!?」

「ああ。...何が言いたいかわかるな?」

 IS学園の学生証を持つ男性。...それはつまり、たった三人の男性操縦者の内の一人という事を表している事に他ならない。
 尤も、桜の学生証では女性にしか見えないので見せたのは秋十のものである。

「ISに乗れる女性は優れているとか、女尊男卑の風潮を利用して散々立場を利用してきたんだろ?...なら、利用され返される覚悟はあるんだろうな?」

「っ....ぁ...!?」

 あくどい顔を浮かべる桜に、つい女性は怯える。

「これでも貴重な男性操縦者だ。後ろ盾もしっかりある。...その気になれば、お前を脅迫罪で警察行きにできるぞ?」

「ぅ.....。」

 今まで女性が貶めてきた男性は、皆女尊男卑の影響で立場が弱いのを気にしていたが、桜や秋十はそんな事で恐れるほど軟ではない。

「おまけに言えば、お前たち女性が憧れている織斑千冬や、ISを創り出した篠ノ之束は女尊男卑を嫌っていると聞いたぞ?」

「っ....。」

 憧れている人物の想いと反している。それが女性には効いたようだ。
 なお、実際に桜が二人に聞いた事なので、紛れもない真実である。

「....ま、これに懲りたらこれ以降は男性に普通に接する事だな。今回は特別に見逃すが、今度同じような事をしたら覚悟するんだな。」

「......。」

 悔しそうにしながらも、桜の言う通りだと女性は認める。
 屈辱的な思いを味わいながらも、女性は去っていった。

「....それに、近いうちに女尊男卑の風潮は終わるからな...。」

 自分たちがいつまでもそのままにしている訳がないと、桜はそう思いながら言った。

「...結局、桜さんに任せてしまいましたね。」

「いや、秋十君もだいぶ成長したよ。口論であそこまで真正面から言うなんて。」

「誰の影響でしょうね。」

 皮肉りながら秋十は桜に言い返す。

「.....。」

「あ...っと。弾君、すまんな。置いてけぼりになって。」

「い、いえ、なんか、秋十にも助けられちまって...。」

 申し訳なさそうにする弾。

「いいさ。今まで秋十君を助けてくれたんだし、そのお礼とでも思っておけ。」

「それは....。」

 恩着せがましく秋十を助けていた訳ではないので、弾は遠慮しようとする。

「そう思っておけ、弾。もしくは何も気にしなくていい。」

「...秋十もそういうんならそうするが...。」

 そこでふと、弾は気づく。

「...それよりも、見逃してよかったんですか?ああいう手合いは、結局また繰り返すと思うんですけど...。」

「あー、それか。まぁ、大丈夫さ。」

「え....?」

 はぐらかすように大丈夫だという桜に、弾は訝しむ。

「桜さん、まさか...。」

「まぁ、反省しないなら自業自得って事だ。」

 秋十は、傍で桜の異常っぷりを見てきたからか、何をしたのか大体察する。

「(俺と束にかかれば、情報操作ぐらい容易いからな。)」

 ちなみに、もし反省しておらず、再び同じ事を繰り返した場合だが...。
 第一に、既に桜が鞄に入れている白から女性のデータを束に送り、束のラボから監視できるようにしてある。つまり、女性の動きは既に把握されているのである。
 そしてそんな状態で同じ事をすれば...社会的にその女性は終わりに持っていかれる。

「さて、さっさと買い物を済ませよう。」

 結局放置された女性の水着を元の場所に戻し、三人は買い物を終わらせる。
 そこへ...。

「....む。」

「あ。」

 千冬と山田先生がやってくる。

「千冬と山田先生。もしかして二人も水着を?」

「まぁ、そういう所だ。」

 プライベートだからか、桜の呼び捨ても気にせずに返事をする千冬。

「そういうお二人も...。」

「俺たちだけじゃなく、他にもいますけどね。俺たちは既に買い終えました。」

 聞いてきた山田先生に秋十が水着の入った紙袋を見せる。

「...ところで、そこの方は...。」

「あ、えっと、五反田弾です!秋十の友達です!」

「あっ、篠咲君のお友達ですか!私は篠咲君のクラスの副担任の山田真耶です。」

 なぜか緊張しながら自己紹介する弾に、丁寧に自己紹介し返す山田先生。

「他の...というのは、マドカか?」

「ん?ああ。ユーリちゃんとマドカちゃん、そしてシャルロットだ。」

「なるほどな。」

 女性用水着の方を見ながら、千冬は頷く。

「...選んでほしいのか?」

「ふっ、話が早いな。」

「まぁ、俺と千冬の仲だしなぁ...。」

 千冬の言外の要求を察し、桜は苦笑いする。

「...それと、何人かつけているようだが...。」

「...まだ混ざってなかったのか。」

 千冬が言うのは、鈴たちの事であり、どうやらまだマドカ達と合流してなかったようだ。

「まぁいいや。待ってるのもなんだし、二人もついてくるか?」

「え?...まぁ、いいですけど。」

「一人で待つのもなんだし...俺も行きます。」

 秋十も弾もついてくるようだ。
 ...最初に決めた“買い終わったら店の前に集合”の事は無意味だったようだ。





「...あれ?結局来たんだ。...それに冬姉も。」

「ふ、“冬姉”!?」

 女性陣の所へ行くと、マドカがそう声をかけてくる。
 そして、千冬に対する二人称に驚く山田先生。

「お、織斑先生!?」

「...今はプライベートだ。先生と付ける必要はない。」

「あ、はい...。」

 シャルロットが千冬が来た事に驚く。
 担任と外出先で鉢合わせしたら驚くのも無理はないだろう。

「...ん?もう決まってるんじゃないのか?」

「あー、それなんだけど...。」

 桜がマドカ達は既に水着を選び終わっているのを見て聞く。
 そこで、一人欠けているのに気づく。

「....ユーリちゃん?」

「な、なな、なんですか!?」

「...いや...水着は選び終わったのかなって。」

「あ、えと、ま、まだです!」

 試着室から出てこないユーリに、桜は声をかけるが、何かに慌てるようにユーリはどもりながら返答する。

「(んー...これはもしかして...。)」

「...あー、秋兄と違って桜さん、気づくんだ。」

 桜は鈍感な訳ではないので、ユーリが恥ずかしがっている事に気づく。

「...なんの事だ?」

「...やっぱり...。」

 そして、秋十はマドカに言われても気づけない程だった。

「ふむ....。」

「うん?あ、おい千冬...。」

 徐に千冬は試着室のカーテンを開ける。

「他の客の邪魔になる。別に、今試着している訳ではないのだろう?」

「うぅ...はい...。」

 顔を赤くしながらも千冬に引っ張り出されるユーリ。
 その手には、既に選んだらしき水着があった。

「...あれ?もう選んでるじゃないか。」

「そ、そうなんですけど...。」

 水着を持ちながらモジモジするユーリ。

「その...皆さんは似合うと言ってくれるんですけど、その...。」

「....あぁ、人前で着るのが恥ずかしいんだな?」

「....はい。」

 納得した桜に頷くユーリ。いくら似合うとはいえ、人前での水着は恥ずかしいらしい。

「似合うというなら、別におかしい事はないだろう。とりあえず、レジに行くぞ。」

「は、はい...。」

 桜に諭され、まずは会計を済ませる。

「あれ?ラウラさん?」

「む、ユーリか。」

 いざ一度店を出ようとして、ラウラを見つけるユーリ。

「ラウラさんも水着を?」

「うむ。学校指定のものしか持っていなかったのでな。」

「なるほど...。」

 ラウラが手に持つ水着を見てユーリはそういう。

「私にはよくわからないから、クラリッサに聞いたが....。」

「...あの、凄く不安なんですけど...。」

「...確かに。」

 日本のオタク文化から間違った知識を得ているクラリッサからのアドバイスという事で、どことなく不安を感じるユーリと秋十。

「とりあえず、買い終わった皆は待っていてくれ。俺は少し千冬と付き合う。」

「あ、はい。わかりました。」

 桜がそう言い、秋十は皆を連れて店の前で待つことにする。

「では、選んでもらうとしようか。」

「あまり期待するなよ?」

「...私、蚊帳の外な気が...。」

 意気揚々とする千冬の横で、居心地悪そうにする山田先生。

「あ、なら....。」

「....え?...あ、はい。それなら...。」

 それならばと、桜は山田先生に耳打ちし、山田先生は近くの物陰に行く。

「こら!貴女達!」

「うひゃあっ!?み、見つかった!?」

「や、山田先生、これは...!」

 叱責を飛ばし、秋十に集中して気づいてなかった鈴とセシリアは驚く。

「連れてきましたよ。」

「や、やっぱり桜さんの指示でしたのね...。」

「全く。いつまで見てるだけなんだか。」

 連れてこられた二人に、桜は呆れながらそういう。

「...なんというか、どんどん入りづらい雰囲気になっちゃったから...。」

「....まぁ、気持ちは分かるがな。」

「どの道、尾行は見逃せないのでな。二人には私たちの買い物に付き合ってもらう。」

 そういう千冬に、二人は付き合わされる事となった...。
 ...尤も、蚊帳の外になりがちな山田先生の相手をするだけだったが。







「....なぁ、秋十。ふと思ったけどよぉ...。」

「なんだ?」

 店の前で待つ秋十は、何かを思った弾に話しかけられる。

「お前...結構美少女に囲まれてるよなぁ...。」

「....はぁ?」

 唐突な発言に、秋十は間の抜けた返事を返してしまう。

「いや、だってよう...ほぼ女子高だろ?」

「まぁ、そうだけど...。」

「いいよなぁ...俺も行ってみたいなぁ...。」

 行けないと分かっているからこその言葉だが、秋十はある言葉を思い出した。

   ―――...そりゃあ...俺たちからもお礼しないとな...。

「(...桜さんと束さんの事だし、本気で弾もIS学園に行けるようにしそうだ...。)」

 かつて桜が弾に対して言っていた言葉から、秋十は顔が引きつる。

「...どうした?」

「いや、なんでも。」

 すぐに取り繕い、秋十は誤魔化す。

「なぁ、誰か紹介してくれないか?」

「そんな事言われてもな....とりあえず、友人として紹介してみるけど、あまり期待するなよ?」

「まじか!?」

 試してみるだけなのに、弾は喜ぶ。

「いや、だから期待するなって。...ったく、お前は普通の状態ならモテると思うんだけどなぁ...。」

「普段からあんな美少女侍らせてるお前が言うか!?」

 弾の指す“美少女”とはシャルロットの事である。
 他にもいるのだが、知っている人物や“秋十ではない人物を好いている”と分かっている人物なので除外してある。

「....なぁ、秋十よぉ...。」

「...なんだ?今度は真剣そうだが...。」

 先ほどまでとは違い、少し真面目な雰囲気を出して言う弾に、秋十も少し身構える。

「いや、蘭の事だけどよ...あいつ、お前と再会してからIS学園に行きたいって言っていてな...。大方お前がいるからなんだが...どう思うよ?」

「蘭が...。...そうだな...。」

 少し考え込んでから、秋十は言葉を発する。

「...普通に考えれば、本人が行きたいといった事だし、尊重するべきなんだが...。俺としては、ISをどう思っているか聞いておきたいな。」

「ISをどう思っているか?」

「ああ。...ISってどんな動機で生み出されたか知っているか?」

 唐突に聞かれ、弾は考え込む。

「動機って...篠ノ之束博士が何を想って創ったかって事か?」

「ああ。そうだ。」

「動機ねぇ...。あれほどのモノを作る程の動機なんて、俺に想像つくか...?」

 きっと何か深い理由があるのだろうと思って、弾は秋十にそう返す。

「いや、結構単純な事だ。“空を自由に飛びたい”“あの宇宙の果てまで行きたい”っていう、子供染みた純粋な願いから生まれたんだ。」

「空を....。」

「だから、“インフィニット・ストラトス(無限の成層圏)”なんて名前を付けたんだ。」

 “なるほどな”と弾は感心する。

「桜さんや千冬姉も同じ考えを持っているらしいしな...。だから、俺も桜さんも、千冬姉や束さん本人も、ISの事は“兵器”や“乗り物”ではなく、“翼”として見ているんだ。」

「...蘭にも、同じ気持ちで接してほしいのか?」

「強制はしないけどね。でも、そういう想いで作られた存在だっていう事は知っておいてほしい。...もちろん、“兵器”として危険に繋がる存在だという事もね。」

「....そうか。」

 少し離れた所で談笑する女性陣の中の蘭を眺めながら、弾は静かにそう呟く。

「強くなったよなぁ、秋十。」

「まぁ...な。まだまだ足りないと思っているけど、これも弾たちのおかげだ。」

「...そんな事ねぇって。」

 謙遜する弾だが、実際秋十の言う通り、弾たちがいなければ今の秋十はいない。

「...そういや、あいつの事は大丈夫なのか?」

「あいつ...?」

「...お前の兄だよ。俺は認めたくないがな。」

 嫌な顔をしながら弾は秋十に聞く。
 弾も一夏の話題をするのが嫌なのだろう。

「あいつか...。まぁ、ほとんど気にしてないな。自業自得だし。」

「ん?何かやらかしたのか?」

「口外できないから詳しくは言えないが...まぁ、やらかして自室謹慎になっていた。今はもう期間は過ぎているけどな。」

「....まぁ、あれだな。ざまぁみろだな。」

 弾もまた、一夏によって嫌な目に遭ってきたので、その事に清々する。

「さて...と。桜さんも出てきたみたいだし...ってあれ?」

「なんか、人増えてね?というかあれ鈴じゃねぇか。」

 店から出てきた桜たちを見て、二人はそういう。

「ああ。もう一人はクラスメイトだ。どうして...っていうか、いつの間に...。」

「やっぱ女子のレベル高いな...。金髪美少女って...。」

 何かを話して千冬と山田先生の二人と別れる桜たち。
 それを見ながら二人はそう漏らした。

「お待たせ。二人は他にも用事があるから別れてきた。」

「それはいいんですけど...どうして鈴とセシリアが?」

「ん?俺たちが買い物に行くのが気になってついてきたんだ。」

 “終始気づかなったのか?”と言われる秋十。

「え、えっと...。」

「あはは...。」

 どう答えればいいのかわからずに、鈴とセシリアは苦笑いする。

「という訳で、今から二人も同行するからな。」

「は、はぁ...。」

 段々と人数が増えていく事に、秋十は少し苦笑いする。

「...いいのか?鈴の奴が同行して...。」

「...大丈夫だろ。ほら、あれを見てみろって。」

 心配になった弾に対し、秋十が示したのは蘭とマドカの方。
 二人は、いつの間にか打ち解けたのか、普通に会話をしていた。

「....何とかなるもんさ。」

「...そうだな。」

 確かにしがらみはあった。
 だが、案外それは簡単になくなるものだと、二人は実感した。

「さ、買い物を続けるぞ。」

 桜にそう言われ、秋十達は買い物を続け、楽しんだ。









 
 

 
後書き
この後、適当なタイミングで弾たちとはお別れしました。
バタフライエフェクトで弾がしっかり兄貴してるという。兄妹仲も良好です。

話に区切りが付けられなくていつもより長くなってしまった...。(しかも結局区切り悪い)
原作などだとシャルロットメインの話なのに、後半は完全に空気と化してしまった...。まぁ、この小説ではヒロインになっていないからね。
 

 

第39話「臨海学校」

 
前書き
ようやく臨海学校です。
...さて、銀の福音をどうしよう...。普通にやってもあっさり終わってしまう...。
 

 






       =out side=





「お、見えてきた。」

「ホントですか?」

 目的地である旅館にバスで向かう中、その目的地が見えてくる。
 それに気づいた桜がそういうと、秋十は少し身を乗り出して窓から確認する。

「久しぶりなんですよね、こういうの。」

「ああ、そういや秋十君は中学に途中から行ってないもんな。」

 秋十は誘拐事件以来、中学には行っていないため、校外学習は久しぶりなのだ。

「...それを言ったら、俺の場合は小学校から行ってないけどな。」

「あ...。」

 だがしかし、桜の場合はさらに長い期間行っていなかったりする。
 尤も、ずっと眠っていたため、その実感は薄いのだが。

「ま、せっかくの臨海学校だ。遊べる時はきっちり遊ばなきゃな。」

「そうですね。」

 近づいていく臨海学校の舞台である場所を眺めながら、二人はそういう。

「小学校からで思い出しましたけど、桜さんって泳げるんですか?」

「あっはっは。秋十君、俺がどんな人物か忘れたか?」

「あ、泳げるんですね。」

 桜は束と同じく身体能力も人外スペックである。
 なので、義務教育で水泳を習っていなくても泳げるのだ。

「まぁ、束の依頼で何度か泳ぐ機会があったからな。」

「泳ぎ方の理屈さえわかれば泳げるって事ですか...。」

 “相変わらずだなぁ”と、秋十は苦笑いした。







「っ.....!」

 その二人の様子を、横目に見ながら、一夏は歯ぎしりする。
 本来なら何か一言でも言う所だが、隣に座る千冬が目を光らせてそれは叶わない。

「(くそが...!あいつらのせいで...!)」

 一夏は謹慎処分になった事を未だに桜たちのせいだと思い込んでいた。
 また、桜と秋十が転生者だとも思っていた。

「(まぁいい...。あいつらじゃ、福音戦の時に対して活躍できない。そこで俺が活躍すれば...!)」

 再びハーレムができると一夏の口角が吊り上がる。
 ...桜たちに散々妨害されてきたため、本性が垣間見れるようになっていた。

「(洗脳が使えなくったって俺は“一夏”だ!主人公なんだから、簡単にヒロインを堕としてやるぜ!)」

 にやけそうになる顔を必死に抑えながら、一夏は思い描く未来にほくそ笑む。

「織斑?」

「...なんでもないです。」

 訝しむ千冬に、何でもないように一夏は返事をする。

 ...だが、一夏は気づいていない。
 既に千冬は一夏の事をほぼ信用していない事を。
 桜たちがいる限り、一夏の思い通りにはならない事を。
 ...そしてなにより、一夏の言う“福音戦”が“原作”通りに終わるはずがない事を。







「今、11時でーす!夕方までは自由行動なので、夕食に間に合うようにしてくださいねー!」

 山田先生の声を一応聞き入れながら、水着に着替えた生徒たちは海へと駆けていく。

「おー、さすが海だな。皆はしゃいでる。」

「学園だと海に面していても、遊べませんからね。」

 同じく水着に着替えた桜と秋十は、それらを眺めながらそう呟く。

「それにしても...。」

「...?なんだ?」

「さすがにその姿なら一目で男性だと分かりますね。」

 今の桜の姿は水着なので、上は裸である。
 さすがに骨格などが男性なので、裸であれば桜も男性にしか見えなかった。

「むしろそうまでしないと見えないのがおかしいと思うんだけど。」

「...まぁ、別に俺は“まさに男”って感じの容姿は望んでないから別にいいんだけどな。」

「...そうは言っても、後ろ姿なら初見だと見間違えますよ?」

 鈴の言葉に桜がそう答え、秋十が突っ込む。

「...もういっその事工夫を凝らして女物の水着にしようかな?」

「やめなさい。」

 普通に似合いそうだと、鈴は不覚にも思ってしまう。

「....それはそれとして、のほほんさん...その恰好は?」

「えへへー、似合う?」

「いや、似合うけど...。」

 秋十が本音の恰好を見て戸惑う。
 着ぐるみのような服に身を包んだ本音は、どう見ても泳ぐ姿ではない。

「これで海には入らないからいいんだよー。」

「入らないのか...。」

 ちなみに、一応下にちゃんと水着を着ているので、もし入るならば上の服は脱ぐらしい。

「ねぇねぇ!篠咲君、一緒に遊ばない?」

「ん?いいけど...ちょっと後にしてくれるか?」

 静寐の言葉に秋十はそう答える。

「まだ何人か来ていないみたいでな...。」

「まだ...って、あー、ローランさんとボーデヴィッヒさんが...。」

 シャルロットとラウラだけでなく、ユーリとマドカも来ていない。
 他にも、シグナムやなのは、簪もいない。おそらくユーリ達に付き添っているのだろうと、秋十は予想する。

「お待たせー...。」

「お、シャル...ってなんだそれ!?」

 ようやく来たシャルロット。
 その傍らには、タオルに包まれてどんな姿かわからない人物がいた。

「...あぁ、ラウラか。」

「あ、ホントだ。...ってそれにしてもどうしてこんな事に...。」

 身長や少し見える銀髪などから桜が誰か判断し、秋十はシャルロットに訳を聞く。

「あー、なんでも、クラリッサっていう人にどういう水着を選べばいいか電話で聞いたらしいんだけど、思いの外恥ずかしいみたいで...。」

「そ、そうではなくてだな...変ではないかと思って...。」

 説明するシャルロットに、ラウラがタオルを少しどかして代わりに言う。

「...どうでもいいが、よくそれでここまでこれたな...。」

「見えないからボクが先導したけどね...。」

 ラウラはタオルで顔まで隠してしまっているため、視界も極端に悪くなっている。
 そんなラウラを連れてくるため、シャルロットも少し遅れたのだ。

「とりあえず、外すぞ。」

「ま、待ってくれ...!」

「断る。ラウラは素材が良いんだから変って事はないだろうよ。」

「(おまけにあのクラリッサさんが選んだ奴だからな...。知識はともかく、こういう類は...大丈夫だよな?)」

 無理矢理タオルを剥がす桜を見ながら、秋十は大丈夫だと思おうとして不安になる。

「なんだ、普通に似合ってるじゃん。」

「そ、そうか?」

「あ、確かに、かわいいと思うぞ?」

 桜、秋十とラウラに言い、ラウラは恥ずかしそうにしながら顔を赤らめる。

「かわいい...かわいいか...。」

「普段のラウラとのギャップもあるしな。」

 今のラウラは、水着に加えて髪をツインテールに結っている。
 普段のキリッとした雰囲気と違い、可愛らしくなっていた。

「このツインテールはシャルが?」

「うん。せっかくだと思ったしね。」

 ラウラは髪型に関してあまり気にしてないので、シャルロットがやったようだ。

「おーい、ラウラー?」

「かわいい....か...。」

「ダメだこりゃ。完全に呆けてる。」

 あまり言われてない誉め言葉だったため、ラウラは何度も言われた事を反芻しながら呆けていた。

「...ま、放置しておけば治るだろう。いざとなればデコピンすればいいし。」

「誉めておいてなんかひどいですね...。あ、所でユーリやマドカは見なかったか?」

 とりあえずラウラは一時放置する事にし、秋十はシャルロットにマドカ達の事を聞く。

「あー...ユーリが恥ずかしがってるみたいで...すっごい抵抗してたから、マドカとか体術が使える人が頑張って連れてこようとしてたよ。」

「ユーリちゃん...そこまで嫌なのか...。」

 ユーリも桜たちに影響されて一般を逸脱した動きができる。
 元々エーベルヴァイン家で護身術も習っていたので、並大抵では抑えられない。
 だからマドカやなのはのような()般人が連れてこようとしていた。

「人見知りも治ってないからなぁ...。水着姿ってそんなに恥ずかしいのか?」

「女性だと、色々気にするからね。仕方ないとは思うけど...。」

 男性にはわからない事情に、桜と秋十は苦笑いする。
 なお、例えそうだとしても、ユーリの抵抗は度を越えている。

「あ、来たみたいだよ。」

「だな。...さすがに秋十君レベルが相手だと逃げ回るのも無理だったか。」

「皆結構疲弊してますけどね。」

 歩いてきたマドカ達は、皆少なからず疲弊していた。
 逃げに徹した抵抗だったため、無駄に体力を消費したようだ。

「うぅう...。」

「...ユーリ、別に似合ってない訳じゃないんだから...。」

「そ、そうですけど...。」

「(...なんかデジャヴ。)」

 観念したらしいユーリが、簪に連れられてやってくる。
 ただし、バスタオルに身を包んで。ラウラと似たような状態である。

「ふぅ...もう、人前での水着だなんて今更だよ?学校だと指定のISスーツを着たりしてるんだし。あれも水着みたいな...あ、もしかして...。」

 ユーリを捕まえるために奮闘していたマドカが気づく。
 ちなみに、マドカの水着は千冬の水着の白いバージョンだ。(偶然同じだったらしい)

「桜さんがいるから....とか?」

「っ~~......はい....。」

 その訳を聞いた皆は、秋十を除いて納得した。ちなみに桜もその中の一人だ。

「はぁ...なのは!」

「了解っと。」

 一つ溜め息を吐いたマドカは、なのはに指示を出す。
 するとなのはは、がしりとユーリが逃げられないように肩を掴む。

「え、えっ...?」

「そー、れっ!」

「ひゃあああっ!?」

 そして、マドカがユーリを包んでいるバスタオルに手を掛け、一気に引っぺがした。
 さながら独楽のようである。

「あうぅ....。」

「...なかなか強引だな。」

 勢いよく回ったユーリは目を回し、それを見てシグナムがそう呟く。

「...かわいいよ、ユーリちゃん。」

「っ!?....はぅ....。」

 恥ずかしがっているユーリを桜が誉めると、ユーリは顔を赤くして気絶した。
 ...恥ずかしさやら嬉しさやらが限界を超えたのだろう。

「...桜さん、態とやってる?」

「あっはっは。」

「誤魔化さないでください。」

 笑って誤魔化す桜に、秋十の鋭い突っ込みが入る。

「それにしても、随分時間がかかってたんだな。ユーリちゃんは弱い訳じゃないけど、争い事は苦手だからそこまで時間がかからないと思うんだが...。」

「いやぁ、逃げに徹されたら私たちでもなかなか...。」

 ユーリは生身であればマドカやなのははおろか、シグナムにも劣る。
 それなのに時間がかかったのは...それほどまで恥ずかしかったのだろう。

「とりあえず、皆来た事だし遊ぶか。」

「お~!かんちゃん、行こー!」

「あ、本音...!」

 桜がそういうと、まず本音が簪を連れて先に行ってしまう。

「よし、俺も泳いでみるか。」

「そうですね。何気に久しぶりです。」

 桜と秋十も海の方へ歩き出し、他の皆もついて行く。



「.....きゅぅ....。」

「かわいい...かわいいか...。」

「....ユーリ...はともかく、ラウラー?皆行っちゃうよ?」

 未だに気絶しているユーリと、同じく未だに照れているラウラは日陰に連れていかれた後、放置されていた...。シャルロットが一応声を掛けたが、復帰までにはまだ時間がかかるだろう。





「ふむ....。」

「どうしたました?桜さん。」

 ひとしきり泳いだ後、桜は海を眺めて何かを考えていた。

「...いや、水面、走れるかなって。」

「...........はい?」

 至極真面目そうな顔でふざけた事を言う桜に、思わず秋十も聞き返す。

「いやぁ、常識から逸脱してる俺だし、出来るかなって思ってな。」

「...完全に否定できないのが怖いんですけど。」

 “冗談だ”と言って笑う桜。さすがに無理なようだ。

「....ん....?」

「...今度はなんですか?」

 何かに気づく桜に、秋十は呆れたように尋ねる。

「...いや、ちょっと用事を思い出してな。行ってくる。」

「はぁ...。まぁ、どうせ気にしたところで変わりませんし...。」

「随分ひどいな。」

 “用事”というだけで警戒される桜。...自業自得である。







「...っと、確かこの辺りに...。」

 皆から離れた所にある岩陰に、桜は辿り着く。
 感じ取った気配と、“予定では来ている”存在に。

「...いたいた。」

「さー君!」

 桜を見つけると、すぐさま抱き着くように飛び込んでくる。
 不思議の国のアリスのような恰好をした人物...束だ。

「思ったんだが、ちょっと来るの早すぎないか?」

「箒ちゃんを驚かすために色々仕込むからねー。...ちーちゃんにはばれそうだけど。」

「ばれるだろうな。」

 明日は箒の誕生日という事もあって、束は箒を驚かすつもりである。
 ついでに桜と束の関係もばれるが、そこはご愛敬となっている。

「...それと、アメリカでちょっと不穏な動きがあるよ。」

「...アメリカか...。」

 真剣な顔になった束に、桜も真面目に対応する。

「正しくはアメリカというより亡国企業...だけどね。」

「ちょっかいを出されるって所か。...ターゲットはおそらく...。」

「“銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)”...だろうね。」

 銀の福音はアメリカとイスラエルの共同開発した軍用ISである。
 第3世代なため性能も高く、何かしてくるとしたらターゲットになり得るだろう。

「第3世代の軍用ISなら、俺たちで十分対処可能だが?」

「...ちょっと、ね。嫌な予感がするんだよ。」

 歯切れの悪い束。桜もそれを見て“確かに”と頷く。

「...以前に話した“原作”にもある事件だろう。...だけど、俺も嫌な予感がする。...ただ“原作”通りとは行かないのは確実だろうな...。」

「第一に、さー君がいる時点でその通りにはいかないけどね。」

「違いない。」

 束の言葉に、桜は短く笑う。

「ま、あいつに現実を知らせるいい機会になるだろうな。」

「だね。」

「それじゃあ、俺は戻る。また明日な。」

「うん。」

 そういって桜は秋十達がいる所へ戻っていった。









       =桜side=





「....で、ビーチバレーになったのはいいが...。」

 俺は自分と相手のチームを見てそういう。。
 俺の方には、秋十君と山田先生、なのは(名前で呼ぶようになった)が。
 相手には千冬とマドカちゃん、本音とシグナム(なのはと同上)が入っていた。
 直前までシャルや気絶から回復したユーリちゃんなどもやっていたが、や千冬が入る事になった辺りで疲れて観戦に移ったみたいだ。
 ...実際は俺たちが参戦した試合を避けたんだろうな。

「(...荒れそうだな。)」

 主に俺と千冬辺りでなるなと、俺は嘆息する。
 でも、楽しみでもあるのでとりあえず始める事にした。

「それじゃあ、行きますよー。」

 山田先生の掛け声と共に、サーブが相手コートに飛ぶ。

「はいっ、と。」

「ふっ!」

 マドカがそれを難なく受け止め、シグナムが叩き込んでくる。

「っ!」

「ナイス!先生!」

「はいっ!」

 それをなのはが受け止め、秋十君の声に応じて先生が高く上げる。

「.....!」

「......ふっ。」

 その時、俺と千冬の目が合った。...交わす言葉はない。やる事は決めた。

「はぁっ!」

「げぇっ!?桜さん!?」

 高く上がったボールを、俺が思いっきり叩き込む。
 マドカちゃんが女子にあるまじき声で驚いているが、まぁ仕方ないだろう。
 俺が打ったボールは、常人では捉えられないスピードと威力を伴っているからな。

 ...だが、それを受け止める奴もいる。

「っ、は、ぁっ!!」

「おお~、高い~!」

 気合の入った掛け声とともに、千冬は受け止め、高く上げる。
 本音の気の抜けるような声が聞こえるが、周りの歓声で掻き消える。

「チャンスか...!」

「私が行くよ!」

 こちらのコートギリギリの場所にボールが落ちてくる。
 チャンスボールであるそれをマドカちゃんが思いっきり打ち、先生に向かう。

「えっ?へぷっ!?」

「が、顔面で受けた!?」

「先生!?」

 先生はそれに反応しきれず、顔面で受けてしまう。
 なのはが心配して駆け寄るが、どうやらそこまで大した事はなかったみたいだ。

「っと、チャンスだぞ秋十君!」

「はぁっ!」

 一応、試合自体はまだ続いていたため、俺が高く上げて秋十君が打つ。
 鋭く放たれたそのボールは、本音の方へ向かい...。

「あわわ...っ!!....あれ?」

「そこだっ!」

 慌てながらも偶然きっちりと高く上げられ、千冬の反撃が来る。

「しまっ...!」

「く、ぐぅ...!」

 俺から離れた場所を狙われ、秋十君がフォローに行ったが間に合わなかった。

「...これで一点だ。」

「くっ....!」

 先手を取られた。俺に対してあからさまに言ってくるのにイラっと来る。
 ...やり返してやろうじゃねぇか...!

「あ、やば....。」

「なのは!」

「はいっ!」

 相手からのサーブを秋十君が受け、なのはが高く上げる。
 マドカちゃんが何か感付いたようだが、もう遅い!!

「は、ぁっ!!」

「っ!」

 俺がやられたのと同じように、千冬から離れた所に打ち込む。
 シグナムならカバーできる位置だが...まぁ、悪いなシグナム。

「速い....!」

「...やられたらやり返すぜ?」

「ほう....。」

 これで同点。...さて、仕切りなおしだ...!

「くくく....!」

「ははは....!」

「これもう桜さんと千冬姉の戦いなんじゃ...。」

「私たち、割り込めるかなぁ...?」

 秋十君となのはが何か言っているが知らん。勝負はここからだ...!





「.....っつぅ....!」

「...織斑君大丈夫?」

 ...ちなみに、織斑は千冬が最初に入った時に千冬のボールをまともに受けたらしく、陰で倒れ込んでいて一部の女子に心配されていたらしい。











「....疲れた....。」

「はぁーっ!...勝った...!」

 しばらくして、秋十君は疲れ果てたように近くに敷いたシートの上に寝転ぶ。
 ちなみに、接戦だったが何とか勝てた。

「...観戦に回ってよかった...。」

「た、確かにです...。」

 秋十君に海の家で買ったかき氷を渡しながらシャルが言う。
 ユーリちゃんも俺にかき氷を渡しながら同じ事を言っていた。

「浜辺が一部抉れた時はどうしようかと思ったぜ...。」

「いやぁ、後を考えない強烈なスマッシュはやばかったな。」

 体勢やその後の動きを一切考えずに、ただ叩き込む意識で打てば、さしもの千冬も取る事はできなかったようだ。...逆の場合も無理だったけどな。

「というか後半には割れたよね?」

「あっはっは。」

「あれ、借り物でしたよね?」

 そう、ボールは途中で割れてしまったのだ。...あそこまで耐えた方が凄いが。
 ちなみに、持ち主の女子には千冬が代表して弁償する事になった。俺も金は出した。

「もう、あまり動かないのにしてください...。」

「さすがに疲れたからなぁ。大人しい遊びがあればいいが...。」

 さすがに過激すぎて秋十君も動きたくないようだ。
 ...ある程度回復すれば、一般レベルの動きなら楽しめるだろうけど。

「あ、ならスイカ割りって言うのやってみたいな。」

「海の家にありましたね。スイカ。」

 日本の文化にあまり詳しくないシャルがリクエストする。
 ユーリちゃん曰く、海の家ではスイカも売っていたようだ。

「なら、それにするか。」

「そうですね。ついでにスイカも振舞えますし。」

 色々とやってしまったからお詫びの意も兼ねるか。
 という訳で、スイカをいくつか買う事にする。
 俺の場合、普通に一発でスイカを割ってしまうからな。

「じゃあ、やるぞ。誰からやる?」

「...ボクたち、やり方をあまり知らないんだけど...。後、他に人を呼んだりしないの?」

「やってたら興味持った奴がやってくるだろう。ほら、簡単なやり方を教えるぞ。」

 そう言って俺はシャルとユーリちゃんに軽くやり方を教える。
 こういうのは楽しんだ方がいいからな。細かいルールは別にいいだろう。

「あ、叩くための棒は...。」

「ほら。」

「なんで持って...あぁ、それですか...。」

 取り出した木刀を秋十君に渡す。
 入れていたのはISの拡張領域...の機能だけを取った所謂四〇元ポケットだ。

「じゃあまずは...ユーリちゃんからやってみるか?」

「が、頑張ります...!」

 目隠しをして、いざスタート。
 その場で少し回転させて、目を回した状態で開始だ。

「わ、わ、感覚が....。」

「回っておかないと、ユーリちゃんでもあっさりスイカに辿り着いてしまうしな。」

「...目隠ししても真っすぐ進めたら意味がないもんね。」

 特に俺たちは普通じゃないからな。
 平衡感覚をきっちり崩しておかないとあまりにも味気なく終わってしまう。

「あ、ユーリ!もう少し右だよ!」

「あ、はーい!」

「ユーリちゃん、行き過ぎ!左に5度だ!」

「はい!...って、細かいですよ!?」

 具体的過ぎて細かすぎたようだ。...ま、態とだけどな。

「スイカ割り?いいわねー。あたし次やっていい?」

「鈴か。いいぞー。」

「...っと、ユーリちゃん、その辺だ!」

 後ろで鈴と秋十君の会話を聞きながら、ユーリちゃんに最後の指示を出す。
 ...目の前まで来たら指示をやめないと確実に当ててしまうからな。

「っ、やぁっ!」

「あ、惜しい!」

 だが、振り下ろされた木刀はスイカのすぐ横に当たった。

「あぅ...外してしまいましたぁ...。」

「じゃ、次あたしね!」

 勢いよく鈴がバトンタッチして、始める。

 そうしてしばらく続けている内に、本音やなのは、シグナムも集まり、それなりの人数で楽しくスイカ割りができた。
 もちろん、割ったスイカは皿に分け、皆に振舞った。



「...はっ!」

「お、ドンピシャだな。」

 秋十君が振り下ろした木刀が、きっちりとスイカを捉える。
 ...これで残りのスイカは一つ。集まった皆も一度は挑戦したようだ。

「...じゃ、最後は俺だな。」

「挑戦というかパフォーマンスになりません?」

 秋十君...それ、俺が割るの確定してるじゃないか。その通りだけど。

「じゃあ、俺が回します。桜さん自身が回っても意味なさそうなので。」

「そうだな。」

 自分で回った所で俺は目が回らない。他の人に回してもらわないとな。

「...よし、オーケーです。」

「....っし...。」

 静かに木刀を構え、スイカを目指して歩き出す。
 もちろん、ちゃんと目隠しをしているから場所は分からない。
 だけどな...。

「....こっち、だな。」

「.......。」

 見えていなくても、気配がなくても、探し当てる術はあるんだよな。

「.....シッ!」

 “ここだ”と思った場所に木刀を振り下ろす。
 ...手応えあり。

「...木刀でなんでそんな真っ二つにできるんですか。」

「剣速を速めた。」

「それでできたら苦労しません。」

 まぁ、“水”の応用だな。

「...で、敢えて途中では聞きませんでしたけど、どうして場所がわかったんですか?人間とかが相手じゃないから、気配とかもないはずですけど。」

「ん?それはな...。」

 手順は簡単。まず、地形をしっかりと記憶する。
 そして、実際に歩く際に足から伝わる感覚と覚えた地形を照らし合わせる。
 そうすれば、今どの辺りを歩いているかわかるのだ。(超理論)

 ...とまぁ、そんなのは常人には不可能で、もちろんそれを伝えれば...。

「やっぱ人外ですね。桜さん。」

「あっはっは。」

 呆れられる...と。
 最近じゃ、驚いてくれなくなったよなぁ...。

「秋十君もあまり驚かなくなったよなぁ...。」

「桜さんが常人の範疇に収まったら驚きますよ。」

「なら無理だな。」

「なぜそこで諦めるんですか...。」

 俺が常人の範疇に収まると思うか?

「...ところで箒ちゃんを見ないが...。」

「あ...そういえば...。」

 ...皆楽しんでいて忘れていたな?
 まぁ、箒ちゃんはこういう賑やかなのは苦手としているからな...。

「ま、人気のない所にでもいるだろう。」

「そうですね。」

 案外、明日誕生日だから束が来ると分かって悩んでいるかもな。







 
 

 
後書き
ユーリの水着は想像にお任せします。(おい
innocentに水着姿があればなぁ...。(個人的には明るいマゼンタ色のパレオとか似合いそう)

中途半端な終わり方ですがこの後普通に夕食になります。
箒も原作(というよりアニメ)通りです。 

 

第40話「女子会」

 
前書き
今回は序盤以外桜たちの出番は少ないです。(多分)
 

 






       =桜side=





「おー、本格的だな。」

「さすが、お金かけてますね。」

 夕食の時間になり、全員が大広間で食事をする事になった。
 やはりお金をかけているのもあり、相当凝った和食だった。

「本格的...と言われてもボクにはわかりづらいなぁ...。」

「ん?そうだな...例えば山葵だな。」

 シャルにはどういう部分が本格的か分かり辛いみたいなので、秋十君が説明する。
 ...まぁ、これは和食をそれなりに知ってないと日本人でも分かり辛いしな。

「山葵?」

「ああ。...間違えても単体で食べるなよ?」

 釘を刺しておく。さすがに起こらないだろうけどさ。
 ...“原作”じゃ、食べてたな。先に説明して正解か。

「これは好みで刺身に付けて辛さや風味を楽しむものなんだ。...で、家とかでよく使われるのが練りワサビ、こっちは本わさびだ。」

「...どう違うの?」

「練りワサビは色々加工しているものだけど、本わさびは実際に山葵をすりおろしたもの。風味とかも段違いなんだ。」

「へぇ...。」

 そういってシャルは山葵を少し刺身に付けて食べる。

「っ、鼻に来るね....。」

「まぁ、山葵ってそういうものだしな。」

 ふと、隣を見てみると、セシリアが足をモジモジしていた。
 体勢が正座なので、なぜそうしているかはすぐに察しがつく。

「...辛いか?」

「い、いえ....せっかく取った席なんですもの。耐えて見せますわ...。」

 そうは言うが、辛そうだ。

「...別に、少しぐらいなら足を崩してもいいんだぞ?」

「は、はい...。正座って、とても辛い姿勢なんですのね...。」

 そう言ってセシリアは少し足を崩す。...でも、正座から崩すと....。

「っ...!?ひぅっ...!?」

「...あー、思わずひっくり返さないようにな。」

 滞っていた血液が一気に通るようにになり、足が痺れてしまう。
 少しでも刺激を与えれば何とも言えない感覚に見舞われてしまう。

「...そういう訳だから。本音、悪戯に足をつつこうとするな。」

「えー?セッシーの反応が気になるんだけどなぁ~。」

「っ、や、やめてくださっ...~~!?」

 こっそりつつこうとしていた本音を止めておく。
 それに驚いたセシリアが喋る途中で足が刺激されたのか、声にならない悲鳴を上げる。

「....茶道とか、“和”の文化ってこういう正座をよくするんでしょ?...なんというか、ボクたちからすると結構凄いよね...。」

「んー、日本人でも正座は苦手な人は多いけどなぁ...。」

 シャルも足を崩しながら秋十君とそんな会話をする。

「まぁ、無理してたらせっかくの料理も美味しくなくなる。楽に行けよ。」

「は、はい...。」

 ようやく痺れが治まってきたのか、セシリアは箸を進めた。
 ...そういや、織斑の奴が少し離れた所から恨みがましく睨んでいたが知らん。
 最近、影が薄くなっているからな。余計にスルーしてしまう。









       =out side=





「(俺が千冬姉と...あいつらはあいつらで二人部屋か。...一応、原作通りだな。)」

 食事が終わり、割り当てられた部屋の中で一夏はそう考える。
 これまで“原作”とかけ離れていたため、少し喜んでいた。

「よっす。千冬、いるかー?」

「お邪魔します。」

 ...のだが、そこへ桜と秋十が乱入してきた事で、一気に気分は落ちた。

「なっ!?なんでお前らが...!」

「今はプライベートだ。...こいつの事だから、何もおかしくはない。」

「そゆこと。」

 あっけらかんとする桜に、一夏は苛立ちを隠せない。
 なにせ、一夏にとっては桜のせいで色々と台無しになったも同然だからだ。

「それで、なんの用だ。桜。」

「そこまで重要な事じゃないさ。ただ雑談しにきただけ。普段は教師と生徒の関係だからな。あまり気軽に会話する機会がない。」

「よく言う。その気になれば立場関係なく話しかけてくるだろう。」

 “ばれたか”と笑う桜に釣られ、千冬も薄く笑う。
 その雰囲気は、まさに“幼馴染”といった様子だった。







「(....話し声...?)」

 旅館を散歩中、ユーリは微かに聞こえてきた声に足を止める。
 ただの話し声なら気にはしない。足を止めたのは、それが良く知っている人物の声だったからだ。

「(この辺りは教員用の部屋...そういえば、桜さん達はこの辺りでしたね。)」

 部屋の位置を思い出しながら、ユーリは角を曲がる。
 すると...。

「....なに、やってるんですか...?」

「しっ...!」

 千冬のいる部屋の前に何人かが聞き耳を立てていた。
 つい呆れてユーリは声を掛けるが、静かにするように注意される。

「(この中に桜さん達がいるんですよね...?)」

 聞き耳を立てているのは、箒、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、マドカの6人だ。
 寄ってたかって耳を当てているのはシュールであり、ユーリはそれから目を逸らすように部屋の中に桜たちがいるだろうと再確認した。

「...桜さんの事ですし、どうせばれていますよ。」

「.....やっぱり?」

 冷静にそう呟いたユーリに、マドカは聞き返す。
 マドカも薄々そうじゃないかとは思っていたようだ。

「そういうことだ。」

「「「きゃぁっ!?」」」

 いきなり扉が開けられ、鈴、セシリア、シャルロットの三人は勢い余って倒れ込む。
 マドカは寸前で聞き耳を立てるのをやめており、箒とラウラはそこまで身を乗り出していなかったため、何とか体勢を崩すのに押しとどまった。

「俺だけじゃなく、秋十君と千冬も気づいていたぞ。」

「全く...なにをやっているんだ馬鹿者共が。」

 とりあえずという事で、桜はユーリ達を招き入れる。

「一応経緯は聞くが...全員、どうしてここに来た。」

「えっと...私は散歩で偶然...。皆さんが集まっていたので...。」

 千冬が全員に聞き、ユーリが最初に説明する。

「あ、あたしとセシリアが、偶々二人がここに来るのを見て...。」

「...後は芋蔓式だったかな...?」

 続けて、鈴とマドカが説明し、どういう経緯で来たのかが判明する。
 ...詰まる所、偶然見かけてついてきたのだ。

「...まぁ、幸い今は自由とまではいかないが好きにしていい時間だ。特に咎めはせん。」

「俺だって千冬を名前で呼んでいるしな。」

 “怒られない”と分かったマドカ達は、少し肩の力を抜く。

「....それに、どうやら態とだったようだからな...。」

「え...?」

「あっはっは。」

 千冬は睨むように桜を見、全員が桜に視線を向ける。
 当の桜はなぜか笑って誤魔化す。...どうやら、言う通りのようだ。

「それで、貴様はなぜ全員を連れてきた?」

「ん?まぁ、最初は幼馴染として雑談する...もしくは秋十君と姉弟らしくしてもらおうと思ってたがな...。ちょっとしたプチ女子会をさせるつもりで来た。」

「お前は....。」

 なぜその発想に至ったのか、千冬には理解できなかったが、呆れて溜め息を吐く。

「はぁ...まぁいい。私もこいつらに聞きたい事があったからな。」

「聞きたい事?」

 それだけ言うと、千冬と桜は目で会話をする。

「飲み物ならここにあるし、好きに取れよ。じゃ、行こうか秋十君。」

「えっ?あの、どこへ?...というか、ごく自然にどこからともなくクーラーボックス取り出しましたね。また拡張領域ですか。」

 飲み物の入ったクーラーボックスを置き、桜は秋十を連れて部屋を出る。

「一夏、お前もしばらく旅館をうろちょろしていろ。最低一時間は戻ってくるな。」

「え!?ちょ、なんで....。」

「二度も言わせるなよ?」

 千冬のその言葉に、一夏も慌てて部屋を出ていく。

「さて...と、どうした?せっかくの差し入れだ。遠慮なく飲むがいい。」

「あっ、そうだね...えっと、どれにしようか...。」

「私、これがいいです。」

 展開について行けない箒たちを置いて、ユーリとマドカは先に飲み物を選ぶ。

「ど、どうしてそこまで平然としてるのよ...。」

「んー...慣れ?」

「こいつらは同じ会社に所属しているから、あいつの多少の事ではもう驚かん。」

 あっけらかんと言うマドカと千冬に、箒たちは驚きながらも遅れて飲み物を手に取る。

「...それで、私たちに聞きたい事って何さ。冬姉。」

「なに、ここは女らしく、恋バナとでも行こうではないか?」

 その言葉に、数名かがビクッと反応する。
 ユーリに至っては既に顔を赤くして俯いている。

「ほう...わかりやすいのが4人か...。まぁ、他にも分かっている者はいるがな。」

「あははー。」

 千冬の言葉にマドカが笑う。ちなみに残りの二人はシャルロットとラウラだ。

「そういえば、マドカと織斑先生は仲が良さそうだし、容姿も似てるけど...。」

「当然だ。私たちは姉妹なのだからな。」

「箒と鈴は幼馴染だから知ってるよね?」

 シャルロットの問いに、千冬があっさりと答え、知らなかった者達は驚く。
 ちなみに、マドカの言う通り箒と鈴は知っていたため、驚いていない。

「え、なら、どうして苗字が...。」

「...まぁ、ちょっと事情があってね...。」

「あまり口外できる事ではない。すまんが聞かないでくれ。」

 誘拐され、テロ組織で一時期は過ごし、後に助けられたなど、さすがに言えなかった。
 いずれは話すつもりではあるようだが、今は誤魔化すようだ。

「...それで、誰が誰を好きか気になる所だが...。まぁ、二択だな?」

「あ、私は当然秋兄だよ。」

「凄い軽く言った!?」

 本当に好きなのかと疑ってしまうくらい軽く言ったマドカに、シャルロットは思わず突っ込まざるを得なかった。

「あぁ、マドカがそうなのは分かっている。...よく一緒にいるからな。」

「...マドカさん、兄妹の壁なんて無視ですもんね...。」

 分かりやすいと、ユーリも苦笑いしながら言う。

「ほう...そういうお前も、相当大きな壁に直面するはずだが?」

「...承知しています。」

 “自分はどうなんだ?”とばかりに聞かれたユーリは、力強く千冬を見返す。

「ユーリが好きな相手って...。」

「....桜さんですよ。」

 鈴の問いに、恥ずかしそうにしながらも今度は答えるユーリ。

「そして、あの束が好いているのもあいつだ。」

「ね、姉さんがですか!?」

「確かに、大きな壁だなぁ...。」

 あの天災が恋敵になるのだ。普通に考えれば相当厄介な相手だろう。

「...束さんもそうですけど、織斑先生にもこればかりは負けるつもりはありません。」

「え....それって....。」

 ユーリの言葉に、全員の視線が千冬に集中する。

「...いつから気づいていた?」

「束さんから言われました。それと、確信を持てたのは洗脳が解けてしばらくしてからです。」

「...そうか。」

 “とりあえず束は今度会ったら殴ろう”と思いつつ、あっさり気づかれる程わかりやすい節でもあったのだろうかと千冬は思い返した。

「しかし、あの姉さんが特定の男性を...。」

「あいつと私たちが幼馴染、というのもあるのだろう。それに、あいつも天災だからな。何かしらのシンパシーを感じたのだろう。」

「容姿も似ているしね、あの二人...。」

 “あの”篠ノ之束に好きな相手がいるという事で、それを知らない箒や鈴たちは少し騒めく。

「あいつの事で話すのはいいが次だ次。篠ノ之と鳳は分かっているとして、オルコット、ローラン、ボーデヴィッヒ。お前らはどうなんだ?まずはオルコットからだ。」

「わ、私ですか...?わ、私はまだ好きと決まった訳では...。」

「...気にはなっているんだな?」

「はぅっ!?....はい...。」

 好きではない...が、気にはなっていると見破られるセシリア。

「...その、私も...桜さんが...。」

「あー、そういえば度々桜さんにBT兵器の操作を教えてもらってたっけ?」

「なるほどな...。」

 “ふむ”と言って少し何かを考える千冬。

「...まぁ、いい。次はローランだ。」

「えっと..ボクの場合は気になるというか...恩人という感覚が強いです。...その、ボクだけじゃなく、お父さんも助けてくれたから...。」

「あぁ、あのデュノア社が潰れた件か。やはりあいつもか...。」

 世間上では、ただ黒い部分が漏洩しただけになっている事が、やはり束だけでなく桜も関わっていた事に呆れる千冬。

「え?でも確かデュノア社長って...。」

「世間上では捕まっている。...が、大方戸籍やらなんやら弄って束辺りが手元にでも置いているんだろう。」

「(...ばれてるし。)」

 一応隠しているはずが、あっさりと千冬にはばれている事にマドカは戦慄する。

「最後はボーデヴィッヒだな。どうなんだ?」

「恋...というのを私はまだ理解しきれていません。ですが、気になるとなれば...秋十です。互いに競い合う仲でもあるので。」

「そうか...。まぁ、恋というのは自ずと理解できるものさ。」

 全員の意見を聞き終わり、千冬は一度目を瞑って何かを考える。

「...あまり人前では見せないが、秋十は途轍もない努力家だ。才能はからっきしだが、それを補って余りある程の努力を積んでいる。それが今の秋十を構成している。それは分かるな?」

「...はい。よく、知っています。」

 千冬の言葉に箒が返事する。
 箒は幼い頃に秋十の努力している姿を見ていたので、とても共感できたのだ。

「今ではあいつのおかげもあってか、万能とも言える程となった。そして、秋十の一番の長所は“諦めない”事だ。...きっとあいつと居れば、どんな逆境も乗り越えられるようになるぞ。」

「...凄く詳しいですね...。」

「当然だ。あいつは私の弟だぞ?」

 シャルロットの言葉に当然のように返す千冬。
 しかし、その言葉は事情を知らない者に対して再び驚きをもたらした。

「あ、秋十さんが織斑先生の!?」

「ん?気づかなかったのか?一夏と容姿が似ているだろうに。」

「そこまで隠そうとしてなかったけどなぁ...。」

 あまり隠そうとしていなかった割りには、セシリアとシャルロットには気づかれていなかったようだ。

「まぁ、とにかくだ。あいつは努力家な上、家事もできる。傍においておけば自分自身も磨かれるだろう。...欲しいか?」

「「く、くれるんですか!?」」

「やるか。阿呆。」

 “もしかしたら”と思う箒と鈴を、千冬はばっさりと切り捨てる。

「...欲しいのなら奪ってでも手に入れて見せろ...だね?」

「よくわかっているじゃないか。」

 千冬の意図を理解して呟いたマドカに、千冬は不敵に笑いかける。

「そしてあいつが気になっているエーベルヴァインにも同じ事は言えるな。」

「...望む所です。」

「そうこなくては...。」

 静かに火花を散らせるユーリと千冬。

「え、えっと...あの...。」

「...恋バナって、こんな殺伐としてるものだっけ?」

 傍から見れば恋のライバル同士が睨み合っている風にしか見えないと、シャルロットはついそう思ってしまった。

「...あ、そういえば...織斑先生、桜さんについて色々と聞かせてもらえますか?」

「ん?なんだ藪から棒に。」

 ふと、思い出すようにシャルロットは千冬に聞く。

「いえ...桜さん、掴みどころがないというか...行動が読めないので...。」

「ふむ...この際だ。少しは聞くといいだろう。」

 話し始めに一口飲んだビール缶をもう一度煽り、千冬は話し出す。

「まぁ、まず始めにあいつの行動は完全には読めないものだと思え。あいつ...それと束は天才だ。それはお前たちもよくわかっているだろう?」

「それは....まぁ...。」

「世間は束を“天才”と持て囃しているが...私からすれば、束は災害の方の“天災”だな。もちろん、桜もだ。だからこそ、行動が読めない。」

 自然災害というのは、大抵突発的に起こる。
 まるでそのような災害みたいなものだと、千冬は例える。

「まぁ、あれでも根は善だ。場を引っ掻き回すのが多々...というか確実だが、それでも最悪の事態は回避する奴だからな。」

「...その割には、気まぐれでボクとお父さんを助けた上で会社を潰しましたけど...。」

「気まぐれで救われる程度には気に入られると思っておけ。あいつ...と束は敵に対してはこれ以上ないくらいに残酷になるからな。」

 現に、一夏がその標的になっている。

「...そういえば、あたしの洗脳を解いたり、色々とおかしな事を言ってたけど...。」

「ああ、その事か。...実は私も詳しくは知らされていない。洗脳やそれに関した事は聞かされたが、肝心な事は言わなかったからな。」

 鈴の質問に、千冬はそう答える。

「だが、わかっている事もある。...あいつは、今言った洗脳に関する事だけは、本気で取り組んでいる。...そこまであいつを真剣にさせる程の何かがあったという事だろう。」

「あー、そういえば確かに。桜さん、洗脳を解こうとする時だけは真剣だったなぁ...。あの人、基本お気楽思考でいるから、今思えば結構凄いよね。」

 千冬の言葉にマドカも賛同する。

「まぁ、そのうちあいつ自身の口から話すだろうさ。」

「...それは、幼馴染としての勘ですか?」

「...まぁな。」

 そういって千冬はもう一口、ビールを飲んだ。

「...せっかくだ。あいつの本当の苗字を教えておこう。」

「苗字...ですか?」

 どういう事だろうか、と箒たちは考える。
 ちなみに、マドカとユーリ、ラウラは知っているため、黙って様子を見ていた。

「篠咲とあいつは名乗っているが...それは偽名だ。ついでに言えば、ワールド・レボリューションの社長である篠咲有栖とやらも偽名だな。」

「え、ええっ!?」

 まさかの会社の社長が偽名だという事に、それを知らなかった箒たちは驚く。

「あいつは、一応世間上は死んだ事になっているからな...。おそらくそのためだろう。」

「じゃ、じゃあ本当の名前って...。」

「...神咲桜だ。世間上では、あいつは幼い頃に事故死した扱いになっている。」

 “事故死した扱い”というのに、ふとラウラは引っかかる。

「...実際は、どうだったんですか?」

「事故の事か?...まぁ、実際にあいつは事故に遭った。束を庇ってな。そして助からない程の傷を負ったが...束が桜を連れてずっと治療を続けていたらしい。」

 世間では事故死ならば、実際はどうだったのか聞くラウラに、千冬はそう答えた。

「じゃ、じゃあ篠咲有栖っていうのは...。」

「...私よりもそっちに聞いた方がいいだろう。」

 鈴が続けて質問しようとするが、千冬はそれをマドカとユーリに丸投げする。

「...そういえば、二人はその会社に所属してたわね...。」

「えっと...その...。」

「....黙秘権を行使する!」

「却下よ。」

 他の皆も気になっているようで、アウェーになったマドカとユーリはタジタジになる。

「くっ...でも、シャルだって知ってるよ!」

「ちょっ...ボクに振らないで!?」

 シャルロットにまで飛び火し、少し騒がしくなり...。

「落ち着け、馬鹿者。」

 そこで千冬が止める。

「まぁ、誰なのかは検討がついている。第一に、ポッとでの会社があそこまで目立つようになるなんて、どう考えてもあいつが関わっているとしか思えん。」

「....もしかして...。」

「ああ。...束だ。」

 箒が気づいたように呟き、それを千冬が肯定する。

「やっぱりそうだったのですか...。初めて師匠がドイツに来た時、通信をしていたのでもしやと思っていましたが...。」

「...ちなみに聞くが、その時あいつは何をしていた?」

 ラウラもなんとなく予想がついており、その事を口にする。
 そこで、千冬が気になった事を聞いた。

「...違法研究所を潰した後、帰還しようとしていました。ちなみに、その研究所は人体実験を主とした非人道的なものです。」

「....あいつは...確かに放置はできないが勝手に何をやっている...。」

「それと、その時は秋十とユーリもいました。」

 続けられた言葉に、千冬は固まる。そして、ユーリを睨むように見る。

「ひぅっ!?」

「はぁ....まったく。次捕まえたらしっかりと聞き出さなければな。」

 ユーリのような性格の人物が、進んでそのような事をするとは思えず、後で桜にきっちり聞き出そうと決める千冬であった。

「そうだ。束の件で思い出したが...篠ノ之。」

「...はい。わかってます...。」

 浮かない顔になる箒。

「...?箒さんに何かあるんですの?」

「明日は篠ノ之の誕生日だ。...となれば、あいつが祝いに来る。」

「あー....。」

 束をよく知っているマドカ達から、納得と同情の声が上がる。

「まぁ、確実に何かとんでもない事を仕出かすな。桜も混ざって。」

「もっと慎ましやかにしてほしい...。」

「....諦めろ。」

 遠い目をする箒だったが、千冬はそういうしかなかった。
 それを見て、他の皆も黙り込んでただ同情するしかできなかった。

「...だいぶ話し込んでしまったな。そろそろ時間だ。お前たちも戻れ。」

「あ、ホントだ。じゃあ冬姉、また明日。」

 千冬の言葉にマドカが時間を確認し、そういって部屋を出ていく。

「お休みなさい、織斑先生。」

「ああ。...明日は覚悟しておけ。」

「....はい。」

 それに続くように全員が出て行き、最後に出ていく箒に千冬はそう声を掛けた。

「....ふぅ。」

 全員が出て行った後、千冬はもう一口ビールを飲み、一息つく。

「明日...か。」

 千冬は予感する。明日に何かが起こるであろう事を。

「...私も、あいつの最後の見定めをせねばならんな。」

 どこか遠い目をしながら、千冬はそう呟いた。











 
 

 
後書き
恋バナ(のようなナニカ)回でした。
福音編で終わらせるので、そろそろ桜でも苦戦するような相手を出さないと...。
...強さというより、状況とかでハンデを負ってでの苦戦にしかなりませんけどね。 

 

第41話「束襲来」

 
前書き
そろそろ一夏に立場をわからせる時が近づいてきました。
...絶望に叩き落すのは福音戦後になりそうですけど。
 

 






       =out side=





「ふわぁ~あ。...ん?」

 朝方、目覚ましついでに桜と秋十が散歩していると、渡り廊下でふと箒を見かける。

「あれ?箒?」

「秋十か....。」

 秋十が声を掛けると、箒は元気がなさそうに目の前にあるものを見つめる。

「これって....。」

「なにやってんだ?あいつ。」

 そこには、“引っ張ってください”と書かれた看板と、地面に刺さるメカメカしいうさ耳があった。

「...どうするんだ?」

「うーむ...。」

 放置するべきか、素直に引っこ抜くべきか悩む箒。

「...ほれ。」

「ちょ、桜さん!?」

 だが、そんなのをお構いなしに桜はうさ耳を引っこ抜いた。

「上から来るぞ、気を付けろ!」

「えっ?」

 続けて放たれた桜の言葉に、秋十と箒は上を見る。

「なんか....。」

「降ってきてません!?あれ!」

 上空から、オレンジ色の何かが降ってくるのが見える。

「あ、皆さん、どうしたんですの?」

「セシリア!?あ、やべ、離れ...!」

 さらに、間が悪い事にそこへセシリアが通りかかり...。

「そーれっ!」

     ガキィイイン!!

 ...落下地点に立ち、どこからともなくバットを取り出した桜に落下物は打たれた。

「えええええええっ!?」

「...よしっ!」

「いやいやいや、“よし”じゃないでしょう!?」

 打たれた落下物...巨大なニンジンの形をしたものは、打たれた影響で少し離れた場所に落下した。

「....さすがにやりすぎな気が...。」

「いや、あいつなら生きてるだろ。俺がいるのわかってるし。」

 桜の行動に驚く秋十と箒だが、当の桜は平然としていた。

「な、なんですの....?」

「ニンジンが降ってきて桜さんが打ち返した。」

「訳がわかりませんわ...。」

 通りがかっただけのセシリアは、いきなり起きた事に夢でも見ているのかと錯覚してしまいそうな気分だった。

「さて、どうなるか...。」

「嫌な予感しかしませんけど。」

 桜の言葉にそう返す秋十。
 すると、そこへ誰かが走ってくる音が聞こえ...。

「さーくーん!!」

「うおあっ!?」

「桜さん!?」

 桜を呼ぶ声と共に、桜を掻っ攫うように突撃してきた。犯人は当然束だ。
 途轍もない勢いで放たれたドロップキックは、桜の防御も貫いたようだ。

「何してくれてんのさ!?おかげでたんこぶが~!」

「むしろそれで済んだのですの!?」

 涙目になりながらそう訴える束の言葉に、セシリアは思わず突っ込んだ。

「束さんだからね!あれぐらいなら余裕余裕!」

「よし、なら...。」

「さー君のは別だからね!?」

 再び振りかぶる桜に、束は慌ててバットを弾き飛ばす。

「ところで箒ちゃんは?」

「....あれ?」

 束が周りを見渡しながらそういい、秋十はそこでようやく箒がいない事に気づく。

「あー、お前が出てきた辺りに逃げて行ったぞ。」

「えー、せっかくお姉ちゃんが来たのにー。」

 桜はいついなくなったのか気づいており、束は逃げられた事に拗ねていた。

「ま、いいや。この“箒ちゃん探知機”で探してくるねー。」

「(それ探知機だったんだ...。)」

 先程桜が引き抜いたうさ耳を持ち、束は箒を探しに行こうする。

「あ、さー君にあっ君。それと...せっちゃん、()()()でね!」

 最後にそう言い残して、束は去っていった。

「せ、せっちゃん...?」

「束の奴、大抵年上の人以外はああいう呼び方なんだ。あまり気にしなくていいぞ。」

「そ、そうなんですの...。」

 呼ばれた事のない呼称に、セシリアは少し戸惑った。

「それにしても、なぜ束さんがここに...。」

「...今日が箒ちゃんの誕生日だからじゃないか?」

「あー....。」

 それにしてもタイミングが微妙なため、秋十はどこか納得がいかなかった。

「(...おそらくは、“原作”を踏襲するために態と..だな。)」

 桜たちは敢えて“原作”に沿い、その上でイレギュラーを起こしている。
 今回の事もその一環で、全て一夏を困惑させるためだけに行っている。

「...とりあえず、行こうか...。」

「...そうですわね...。」

 束の登場で、精神的に疲れた秋十とセシリアはその場を去る。
 桜も特にやる事はないのでそれについて行こうとした。

「.......。」

 ふと、桜は振り返り、だがすぐに踵を返した。
 振り返った時に見たのは、やってきた道の突き当りの角。
 そこには....。

「.....っ!」

 怒りに醜く顔を歪めた、一夏の姿があった。
 当然、桜はそれを知っていて振り返っていた。

「また....!」

 “原作”と同じイベントは起きる。だけど、それが上手く行かない。
 そんな、理不尽な理由で、一夏は歯ぎしりしていた。

「くそが...!」

 全て桜や秋十のせいだと決めつけ、一夏もその場から去った。



「...見ていて滑稽だね。」

 すると、なぜか束が戻り、去っていった一夏に対してそういう。

「さて、と。片づけておかないとね。」

 放置されていたニンジン型のロケット(仮)を束は片づける。
 ...と言っても、倉庫代わりに使っている拡張領域に仕舞うだけだが。

「ホント、馬鹿だねー。自分のやらかしたツケが、すぐそこまで近づいているのに。」

 そう言って暗く笑い、束はその場を後にした。







「....よし、専用機持ちは全員集まったな。」

 それからしばらくして、他の生徒とは別に、専用機持ちである者達は千冬に召集された。

「あの、桜さんは?」

「知らん。」

 なぜか桜がいない状態に、千冬はそういい捨てる。

「どうせ奴の事だ。ひょっこり現れるだろう。」

 いてもいなくてもどうでもいいとばかりに、千冬はそういった。

「...あれ?箒さんは専用機を持ってないのでは...?」

「ああ、その事なんだがな...。」

 ユーリがなぜ箒がいるのか聞くと、箒と千冬は顔を顰めて言い淀む。
 すると....。

「やーっほー!!」

「...あー...。」

 聞こえてきた声に、秋十は箒がいる理由を察した。

「ちーちゃーん!!」

「.......。」

 ちょっとした崖の上から滑り降りるように来た束は、大きく飛び上がり、千冬に飛び掛かる。

「...ふんっ!!」

「ぐほぉっ!?」

 それに対し、千冬は頭を掴んで地面に叩きつけた。
 今いる場所は岩場なのでその威力はお察しのものだろう。

「ええっ!?」

「ちょっ、痛い痛い!潰れるぅ!?」

 そのあまりにも惨い対応に全員が驚く。...その中でも、一夏は“原作”と対応が違うという部分で驚いていたが。
 だが、それを無視して千冬はさらに頭を掴む力を強める。

「.....二度も引っかかると思ったか?馬鹿が。」

「「ぎゃぅっ!?」」

 呆れたように千冬は言って、掴んでいる束を箒の背後に投げる。
 すると、何かに当たり、悲鳴が二つ聞こえた。

「ね、姉さん!?」

「ど、どーして場所がわかったの!?」

「勘だ。」

 もう一人束が現れ、ぶつかった痛みに悶える。
 ちなみに、姿を消していたのは束が作ったステルス装置である。

「...と、いう事は...。」

「桜さん...なにやってるんですか...。」

 マドカと秋十が、先にやってきた方の束に目を向ける。
 ...そう、ただ単に桜が変装しただけだったのだ。

「あの、それよりも織斑先生....。」

「...なんだか怒ってるような...。」

 セシリアと鈴が、千冬の雰囲気がいつもと違うと感じる。

「...桜さんから聞いた話なんだけど、小さい頃に変装で騙されたみたいでな...。その事が嫌な思い出として残ってるんだろう...。」

「....それは怒る。」

 誰しも嫌な事を繰り返したら怒るだろう。と、簪は納得するように呟いた。

「さて、体面的には遅刻と教師に対する無礼な行動。...個人的にはまたもややってくれたな...!」

「げっ、俺に矛先が!?」

「自業自得です...。」

 千冬のその言葉に、桜は慌てて逃げる体勢に入る。

「逃がさん。」

「うおぉっ!?手刀で来た!?」

「さー君頑張れー。」

「おいこら束!見世物みたいにすんな!」

 逃がさないように手刀を振るう千冬と、それを避ける桜。
 そして、束はそれを見て楽しんでいた。

「お前も後で同じ刑だ。」

「え。」

 尤も、束も桜と同じ目に遭うようだった。



   ―――閑話休題...



「痛ぇ...。」

「痛い...。」

 大きなたんこぶを作った状態で、桜と束は涙目でそういう。
 ちなみに桜は既に制服に着替えていた。

「はぁ...束、自己紹介しろ。」

「えー?もう皆わかってると思うよ?」

「それでもだ。」

 千冬の言葉に、束は渋々皆の前に立つ。

「私が天災の束さんだよー。...終わ...ってちーちゃん!?危ない!?」

「真面目にやれ。」

「はいはーい...。」

 適当に終わらせようとした束に千冬は手刀を振りかざし、束を真面目にさせる。

「鳳鈴音、セシリア・オルコット、ラウラ・ボーデヴィッヒ、更識簪は初めまして。私が巷で有名になってるISの生みの親、篠ノ之束だよ。呼び捨て以外なら、好きに呼んでね。」

「っ....!?」

 軽く微笑み、束は真面目に自己紹介した。その事に、一夏が驚愕する。
 それは当然だ。“原作”ではありえないような態度なのだから。
 ちなみに、今朝でのセシリアとの邂逅はカウントしていないらしい。

「.....驚いたな。お前が真面目に自己紹介できるとは...。」

「ひどーい!束さんだって真面目な時は真面目だよ!」

「...その普段の態度を改めてから抗議しろ。」

 普段の振舞いからできるとは想像できなかったと千冬は言外に語る。

「....機械の...兎耳...?どうして...。」

「お、よく気づいたねー。これには、実は海より深ーい訳が...。」

 簪がふと束の兎耳を気にする。
 すると、束が意気揚々に語り始めようとする。

「趣味だ。」

「趣味だな。こいつ、動物では兎が好きみたいだからな。」

「ちょっ、さー君もちーちゃんもぶった切らないで!?せっかく語ろうとしたのに~!」

 ...が、それを桜と千冬があっさりと答える。
 海どころか、水溜まり程の深さしかなかったようだ。

「...はぁ、とにかく、用件を済ませろ。」

「はーい...。...ふぅ、さぁ、大空をご覧あれ!」

 気を取り直して、束が空を見るように言う。
 すると、大空から水色の八面体が降ってくる。

「ちなみにこれ、変形してビームも撃てるよー。元ネタには遠く及ばないけど。」

「それなんて〇ヴァンゲリ〇ン...。」

「後にしろ。」

 冗談めかして言う束だが、千冬に咎められて先に進ませられる。

「えー...。まぁ、いいや。じゃあ、注目!これが箒ちゃん専用機こと、“紅椿”!お姉ちゃんからの誕生日プレゼントだよー!」

「...ISを誕プレに選ぶのって束くらいだよな。」

 八面体が開き、中から赤を基調としたISが現れる。

「なんと、このISは現行ISを大きく上回る束さんお手製だよ!」

「....あの、姉さん...。」

 意気揚々と紹介する束に、箒が恐る恐る声を挟む。

「何かな箒ちゃん?」

「...私にそんな高性能なISは扱えません。」

 “自分はまだまだ未熟”。洗脳が解けてからそう思うようになった箒は、いきなり高性能すぎるISを貰っても扱いきれないと言う。

「大丈夫!そんな事もあろうかと、リミッターがついてるよ!今は...そうだね、第二世代の専用機並になってるかな!少なくとも、このISは箒ちゃんのために作ったんだから、性能も箒ちゃんに合わせてくれるよ!」

「そうですか...。」

 それなら少しは安心できると、箒は引き下がる。

「ちなみに、紅椿の全力は第三世代なんて目じゃないよ~。なんと!紅椿は私の集大成を詰め込んだ、ISの完成形なのだ~!」

「....完成...形....?」

 “第〇世代”とは言わずに完成形と言ってのける束に、何人かは首を傾げる。
 桜や秋十は、どういうものか分かったため、少し苦笑いしていた。

「そのとーり!第三世代?甘い甘い!ISは進化し続ける!その機体の力を引き出せる“担い手”と共にね!それがISの完成形だよ!」

「...それは、つまり...。」

「そう、文字通り紅椿は箒ちゃんに合わせてあるのだ~!はい拍手!」

 全員が茫然とする中、束だけが上機嫌になる。

「...やりすぎだ、束。」

「え~?操縦者と共に成長する専用機ってロマン溢れない?」

「そういう問題ではないだろう。」

 一人だけ特別すぎるISを貰っては、色々と問題になる。
 元より篠ノ之家は束がISを公開した事により、保護の名目でバラバラになったのだから。
 それを、千冬は指摘する。

「うーん。でも、ISを本来の目的として使わない奴らの意見なんてどうでもいいなぁー。せっかくの“翼”なんだから、大空に羽ばたけるようにしたいじゃん?」

「っ...それはそうだが...。」

「大丈夫大丈夫。束さんお手製って銘打っておけば、世間には第四世代辺りでも納得するよ。」

 それでも十分である。
 当の箒は“やっぱり貰うのは危険だろうか”と真剣に悩む程だった。

「...はぁ、仕方ない。篠ノ之、そういう事だ。納得してやれ。」

「は、はい....。」

 千冬は説得を諦め、箒は既に疲れていた。

「それじゃあ箒ちゃん。今からフッティングとパーソナライズを始めよっか!」

「.......。」

 束の言葉に、無言で紅椿に乗り込む箒。
 やはり姉が直々に作った専用機だからか、触れるのに少し緊張しているようだ。

「さー君手伝ってー。40秒で終わらせるよ。」

「俺もか。まぁ、いいけどさ。」

「は!?えっ!?」

 束はセッティングなどを行うための端末をもう一つ取り出し、それを桜に投げ渡す。
 さも当然のように桜も了承して、二人掛かりでデータ入力を済ませていく。
 あっさりと束レベルのスピードで始める桜に、一夏が今更ながら驚く。

「は、早っ!?」

「箒ちゃんのデータはある程度先行入力してあるからね~。最新のデータに更新するだけなら...。」

「一分もかからない...ってな。」

 桜がそう言い終わると同時に、データ入力が終了する。

「じゃあ、箒ちゃん。試運転としてちょっと飛んでみて。」

「...わかりました。」

 静かに、しかし相当なスピードで空へと飛びあがる紅椿。

「速い...。あれで第二世代相当...?」

「紅椿は速く動けるようにしてあるからねー。搦め手が苦手な箒ちゃんには、シンプルな強さがちょうどいいんだよ。」

 試運転のデータを収集しながら、鈴の呟きに答える束。
 それからしばらく試運転し、箒がISから降りる。

「うん。これなら少し慣らしていけばそう長くない内にリミッターが一つ解除されるかな。」

 収集したデータを見ながら、束は満足そうに頷いた。

「んー、ちょっと時間もあるし...。そうだ!皆のも少し見てあげよう!」

「え、皆の...って、篠ノ之博士が自ら!?」

「そうだよー?それ以外になにがあるってのさー。」

 ISを創った張本人に機体を見てもらえる。
 それがどれほど凄い事なのか、当の束が一番理解していなかった。
 ...正しくは、理解した上で“どうでもいい”と断じただけだが。

「じゃあまずはせっちゃんのだねー。」

「せ、せっちゃん...やっぱりその呼び方ですのね...。」

 苦笑いしながら、セシリアはブルー・ティアーズを展開して見せる。

「ふむふむ...おお、やっぱりさー君に教えられただけあって“水”ができているね。」

「“水”...それって、桜さんが言っていた...。」

「人の気質や、ISの特徴を表す属性の事だよ。...と言っても、当て嵌めただけなんだけどね。」

 “火”、“水”、“風”、“土”。それが基本となる四属性となっている。
 他にも“聖”と“闇”があるが、ISや気質で見るのは極稀だろう。

「せっちゃんのは名前の通り“水”に適したIS。使いこなせば汎用性の高い便利な属性なんだけど、その分扱いが難しいんだ。それは理解してるね?」

「は、はい。未だにちゃんと扱えないです...。」

「でも、影響自体はあるみたいだね。一朝一夕で完璧に習得は難しいから、これからも精進しなよ。そうすれば、君のブルー・ティアーズは確かな“翼”になる。」

「あ、ありがとうございます!」

 性格が読めず、どんな事を言われるか身構えていたセシリア。
 だが、言われたのは“もっと頑張れ”という激励の言葉なため、セシリアは感極まりながらも礼を言う。

「...うん。少し機能向上ができたから、時間が空いた時にでも慣らすように。」

「は、はい!」

「じゃあ次~。」

 セシリアが終わり、次へと移る。

「ふんふん。鈴ちゃんの甲龍は...“土”と“火”に適正があるね。」

「“火”と“土”はそれぞれ苛烈な攻撃と、鋼の如き怪力と防御力に向いてる属性だ。甲龍の武器にはちょうどいいんじゃないか?」

 龍砲はともかく、双天牙月による近接戦には相当有効な属性である。

「どちらもわかりやすい効果だから使いやすいよ。真髄に至るには時間がかかるけど、使えるようになったら今よりも強くなるのは確実だからさー君やあっ君に教えてもらいなよ。」

「は、はい!ありがとうございます!」

 緊張しながらも礼を言う鈴。

「次はらーちゃんだねー。...うんうん、“ドイツの冷氷”と言われるだけあって、“水”に適正があるね。他も少しだけ適性がある感じ?万能だね~。」

「...あの、なぜそんなに近く?」

 ラウラのISを見る際、何故か束はラウラに近い場所に身を置く。

「あははごめんごめん。くーちゃんに似てるからつい...。」

「“くーちゃん”?」

「クロエ・クロニクル。...まぁ、束の助手だ。」

 知らない名前(愛称)を聞き返すラウラに、桜が軽く説明する。

「“水”は冷静に物事を判断する気質でもあるからね。軍人だからその分野は鍛えられてるね。それにあっ君のライバルでもあるし...これは期待しちゃおうかな?とりあえず、属性の扱い方の基礎を教えてもらえば、後は自力で習得できるほど地盤は整っているよ。」

 中々に高評価だったため、ラウラは平静を装いながらも少し笑みを抑えられなかった。

「じゃあ最後はかんちゃん。...と言ってもゆーちゃんに色々教えてもらってたみたいだね~。気質も“水”だし、応用してまた違った扱い方も編み出してる。....というか“水”に適正ある子多いね。専用機持ち。」

「一番扱いづらい上に教える方も具体的には教えられないのにな。」

 セシリア、ラウラ、簪の3人が見事に被っており、束と桜は苦笑い気味に呟く。

「属性...そういえば、秋十達はどうなの?」

「俺たちか?そうだな...。」

 ふと鈴が気になって秋十達に聞く。

「箒ちゃんは“風”と“水”だよ~。紅椿は速いし、剣道をやってるから“水”にも通じるんだよ。ちなみに束さんは四属性全部だよ!さっすが私!」

「俺と千冬も全部だな。“聖”と“闇”はさすがにないが。あれは特殊すぎる。」

 イメージに当て嵌めただけなのだが、それでも“聖”と“闇”に値する気質は特殊らしい。

「“聖”とか“闇”を持ってる人っていないの?」

「気質で持っている人を見た事はないな。ただ、ISの属性でなら一人いるぞ。」

「えっ?」

 その事を知っている人物の視線が、一人に集中する。

「ゆ、ユーリが...?」

「ユーリちゃんの“エグザミア”の属性は“火”、“風”、“土”...そして“闇”だ。ちなみに“闇”以外は武器によって適正が偏るから、厳密には三属性の内一つって所だな。」

「“闇”って一概には言うけど、別に悪い意味じゃないからねー?」

 ちなみに、ルシフェリオンが“火”、バルフィニカスが“風”、エルシニアクロイツが“土”となっている。

「私は“水”と“風”と“土”だね。“水”は後から習得したけど。」

「属性は先天性と後天性があるからな。紅椿の“水”も後天性だ。箒ちゃん自身の気質が影響しているからな。」

 打鉄の派生である簪のISも実は後天性で“水”になっていると、桜は付け加える。

「シャルは今の所“風”だけだな。」

「...あれ?肝心の秋十は?」

 未だに秋十だけは名前が挙がっていない事に気づく鈴。

「あー...あっ君はね~...。」

「...俺、全属性に適性はないんだよ。先天性どころか、後天性すらもな。」

「「「え、ええっ!?」」」

 秋十の言葉に、知らなかった鈴たちは驚きの声を上げる。
 今まで見てきた戦いだけでも、相当強かったのだ。
 それなのに適性がないのは驚愕の事実だった。

「おっと、勘違いする前に言っておくが、適性がない=使えない訳じゃないぞ?」

「あっ君てば、努力だけで四属性全て使ってるんだよねー。...ホント、凄いよ。」

 属性を扱う上手さで言えば断然マドカや他の人の方が優れている。
 だが、練度で言えば秋十の右に出る者はいないのだ。

「...今日はやけに人と話すな。束。」

「...あの、ちーちゃん?それだと普段束さんは人と話していないコミュ障みたいに...。」

「事実だろ。」

「さー君!?」

 否定したい所を桜に肯定されて束はショックを受ける。
 その光景を見て、ますます一夏は困惑と怒りを募らせる。

「(全部...!全部こいつのせいか...!くそが!“原作”をとことん変えやがって!)」

 根も葉もないただの誤解である。
 しかし、自分こそが正しいと思っている一夏は、さらに勘違いを加速させる。

「(...まぁ、いい。とりあえず、俺も束さんに見てもらうか。)」

 未だに束と親しい仲だと思い込んでいる一夏は、自分のISも見てもらおうとする。
 ちなみに、白式のコア人格である白は今は白式に戻っている。

「...束さん、俺のも見て――」

「....白式は未だに“火”だけかぁ...。しかもその“火”も零落白夜の恩恵だし。燃費も悪いしこの子に悪いなぁ。」

 しかし、一夏の声を束は無視して勝手に白式を見る。

「あ、あの、束さん...?」

「........。」

「っ....!?」

 無視する束に再び呼びかけようとして、一夏は怯む。
 ...一夏に対する束の目が、あまりにも冷たかったからだ。

「え、えっと俺...束さんに何か悪い事しました...?」

「....さぁ、どうだろうねー。束さんは何をやったかなんていちいち気にしないし。」

 白式を見終わったのか、束は桜のいる方へ戻る。
 その際、一夏とすれ違う時に束は一言呟いた。

「...自分がやった事、お咎めなしとでも思ってるの?」

「っ、ぁ....!?」

 その言葉を聞いた一夏は顔を真っ青にする。
 そんな表情が見れて嬉しいのか、束はクスクス笑っていた。

「何言ったんだ?」

「んー?秘密だよっ!」

 さっきまでの雰囲気はなんだったのかと言わんばかりに、桜と笑顔で会話する束。

「(...容赦ないな、束さん。桜さんも地味に嗤ってたし...。いや、だからと言って許す程、俺はお人好しではないけどさ。)」

 明らかに敵視している二人を、秋十は黙って見つめていた。

「...さて、束。用件が済んだのなら早く帰ってもらおう。ここは一応IS学園が貸切っている。関係者ではないお前がいつまでもいていい場所ではない。」

「えー?そんな事言わないでよちーちゃん。」

「ダメだ。」

 食い下がろうとする束に対し、千冬はばっさり切り捨てる。

「もー、ちーちゃんのケチ!別にいいもん!どうせ、多分私の力が必要になるだろうし。」

「...待て、それは一体どういう...。」

 束の言葉に訝しんだ千冬は、どういう事か問いただそうとする。

「お、織斑先生!大変です!!」

 ...そこに、山田先生が慌てて駆け付けた。









 
 

 
後書き
気質や属性関連の話の最中、一夏は完全に置いてけぼり喰らっています。 

 

第42話「銀の福音」

 
前書き
この小説での箒は、専用機を持ったからと、浮かれる事はありません。
原作やアニメ程の性能は“今は”ありませんし、その力を手に入れても努力を積み重ねなければ意味がないと理解していますからね。
 

 






       =秋十side=





「どうした?」

「こ、これを!」

 山田先生が慌てたように駆け付け、千冬姉に情報端末を見せる。

「特命レベルA、現時刻より対策を始められたし...。」

「実は...。」

「待て、詳しい事情は後だ。まずは他の先生方に連絡し、生徒たちのテスト稼働も中止させて待機させるように指示を出せ。」

「は、はいっ!」

 千冬姉がすぐに指示を出し、一度俺たちを見る。

「本来なら任せるべきではないが...お前たちにやってもらいたい事がある。」

「っ....!」

 ただ事ではないと、箒や鈴達が息を呑む。
 冷静なのは、俺やマドカ、ユーリに桜さん、後はラウラと...あいつも...だと?

「.....ふふっ。」

 そしてもちろん、束さんも平静だった。
 それどころか、まるで知っていたように束さんは笑った。

「あ、あの...そちらの方は...。」

「篠ノ之束だ...。」

「え、ええっ!?」

 束さんがいる事に山田先生は驚愕する。
 ...あー、そっか。普通なら驚くものだよな。慣れすぎて忘れてた。

「束、お前にも聞きたい事がある。ついてこい。」

「はいはーい!」

 山田先生は生徒への指示や他の先生に事の詳細を伝えるために走っていき、俺たちは千冬姉に連れられて移動した。





「...2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ、イスラエル共同開発の第三世代のIS、シルバリオ・ゴスペル...通称“福音”が制御下を離れて暴走。監視区域より離脱したとの連絡があった。」

 教師が集まり、臨時の対策室として扱われている部屋で、千冬姉が説明を行う。
 他の教師たちは、俺たちと一緒に来た束さんに驚いていたが、今は緊急時なためすぐに平静を取り戻していた。

「情報によれば、無人のISという事だ。」

「無人...。」

 俺はふとクラス対抗戦の時の事を思い出す。
 確か、あの時も無人機が相手だったな。

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2㎞先の空域を通過する事がわかった。」

「.....!」

 そこまで聞いて、なんとなく察してしまった。
 ...これは、俺達に解決させる気だと。

「時間にして50分後。学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処する事となった。」

「(やっぱり...。)」

 予想通り、俺達を含めた学園で何とかしなければならないようだ。
 教師たちが福音の被害を出さないように空域と海域の封鎖を行い、肝心の福音の制圧は俺達専用機持ちに託すとの事だった。
 ...さすがに、桜さんも束さんもいるからそこまで不安ではないけどさ。

「そこで会議を行いたいが...束。」

「ん?なーにー?」

「...こうなる事を予測していただろう?」

 半ば確信めいたように千冬姉は束さんに問う。

「どうだろうねー?」

「...はぁ。お前は先程、自分の力が必要になるかもしれないと言った。それはこの事ではないのか?私としても、専用機持ちとはいえ、一学生に何度も事件の対応はさせたくない。」

 元々軍人であるラウラはともかく、他は一般人だ。...最近は一般から離れてるけど。
 そんな一般人にISによる事件の対処など、本来はさせるべきではない。

「まぁ、当たってるけどねー。とある情報から、福音がこうなる事は予測できていたよ。どうせ、テストパイロットのナターシャ・ファイルスを貶めようとか企んでる奴の仕業だよ。」

「なんと傍迷惑な...。」

「全くだよねぇ~。」

 “やれやれ”といった風に束さんは肩を竦める。

「束さんとしては箒ちゃんの晴れ舞台にしたいけど?さすがに第三世代の軍用ISに私が作ったとはいえまだ第二世代のスペックだとねぇ~。」

「そのためにお前がいるのか?」

「だってちーちゃんが出る訳にもいかないでしょ?」

 千冬姉には現場指揮の責任があるため、持ち場を離れられない。
 かと言って、それ以外の人では量産機では勝てない。...封鎖のために使って数もないし。

「だからと言ってさー君が本気を出せば、会社にはいられなくなりそうだしね。私と容姿も似て、その強さはちーちゃん並と来た。色々な所から狙われるよ。」

「っ...ならば...。」

「いくら第三世代の軍用ISとはいえ、こっちにも第三世代のISがあり、その子たちに搭乗する子も腕が立つ者が多い。...しっかりと作戦を立てれば、大丈夫だよ。」

 軍用ISは、文字通りスポーツとしてのISではないため、いくらか普通のISよりもスペックが高い。だけど、こっちにはそれを上回るポテンシャルを持つ者もいる。
 暴走している分、確かにこっちの方が有利だ。

「ただ、福音は一対多に向いてるんだよねぇ...。広範囲武装もあるし。」

「それでも数が多い方が有利になる。」

 広範囲武装か...。桜さんなら余裕で躱しまくるだろうな。

「あの...福音のスペックデータはどれほどなのですか?」

「おっと、それは知っておいた方がいいね。ちーちゃん。」

「...決して口外はするな。情報が漏洩すれば、どうなるかはわかっているだろう?」

「...はい。」

 ユーリの質問に返した千冬姉の言葉に、全員が気を引き締める。

「....広域殲滅を目的とした、特殊射撃型...。」

「...セシリアのISと同じ、オールレンジ攻撃が可能...。」

「暴走している分、私のより数段厄介ですわ...。」

 スペックデータを閲覧して、ユーリ、簪、セシリアの順でそういう。

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね....。厄介だわ。」

「特殊武装が厄介で連続しての防御は難しい上に、格闘データが未知数なんだよね。そして今は超音速飛行を続けてるから、アプローチも一回が限界。偵察も行えないと来た。」

「....となると、一撃で決めないと厳しい...と。」

 束さんの言葉に、俺がそう呟く。

「....これは俺でも厳しいかもな。」

「え?桜さんでも?」

 あの桜さんですら“厳しい”と言った事に、俺は驚いた。

「ああ。...超音速だと、威力を調節しないと何もかも斬ってしまうからな。」

「あ、そっちの“厳しい”ですか。倒すだけなら問題ないと。」

 “水”を使ったカウンターによる一撃なら、普通に倒せるだろう。
 問題なのは、福音が超音速で動いているため、コアごと斬る可能性があるという事。

「相手が無人機ですから最終手段ですね...。でも、そうなると“水”を使った一撃必殺が使えないんですけど....。」

「“風”を使って接近して、強力な攻撃か...。でも、それだと例え“火”を使ってもSEを削り切れるとは限らない...。」

 エネルギーを斬れる特殊なブレードが俺のISにあるが、それでも難しいだろう。
 それ以上に一撃で決めれそうなのは...。

「...俺の零落白夜ならいけますよ。」

「......。」

 あいつだけだ。
 根拠もなしに自信満々にあいつは名乗りあげた。

「....ま、元よりそのつもりだけどね。」

「問題はどうやって織斑をそこまで運ぶか....だ。」

 ...ん?今、束さんと桜さんが嗤ったような....?気のせいか?

「ん~、紅椿のリミッターを解除すれば行けるけど...。あ、それはさー君にも言えた事だね。こっちの場合は力の制限を、だけど。それにゆーちゃんのスプライトフォームでも行けるね。」

「あの...私の場合防御力が皆無になるので...。」

「そうだったね!じゃあ、ゆーちゃんが運んで、さー君はその護衛でどうかな?」

 束さんの言う作戦に、反対意見はない。
 ...いや、あいつだけ文句があるようだな。

「なんでそいつが...!それと、箒は...!?」

「大事な妹をいきなり戦場に駆り出す姉がいると思う?第一に、箒ちゃんには悪いけど、素人にいきなり実戦っていうのはきつすぎるよ。あ、さー君は別だね。」

 しかし、束さんは呆れたように文句を跳ねのける。
 ...でも、それって...。

「...俺とユーリは...?」

「....正直、すまなかったと思ってる...。」

「えぇ....。」

 あ、束さんも目を逸らしてる...。

「はぁ....ところで、桜さんは二人のスピードについて行けるんですか?正直心配は無用だと思ってますけど、一応聞いておきたいです。」

「そうだな...ま、護衛のためについて行く事はできるさ。ユーリちゃんも無力じゃないし、パパッと行ってパパッと終わらせてくるさ。」

「なるほど...。」

 まぁ、桜さんがいるならそこまで困った事にはならないだろう。
 ...でも、何か嫌な予感がするんだよな...。







「~♪」

「す、凄まじいスピードですわ...。」

 作戦決行までの間、束さんがパネルを操作する。
 セシリアのISに付ける、高機動用のパッケージの最適化を行っているのだ。

「はい終わりっと。これで保険はできたね!」

「...使われない事を祈りますわ...。」

 確かに、使うという事は、イコール作戦失敗するという事だ。
 ならば、使わないに越したことはない。

「......。」

「...どうした?箒。」

 少し離れた所で、近場にあった滝を眺めている箒に、俺は話しかける。

「あ、ああいや....せっかく専用機を貰ったのに、何も役に立てないと思ってな...。」

「専用機貰っていきなり実戦に駆り出されるのはさすがにな...。」

 試験稼働程度じゃあ、実戦に臨める訳がない。
 せめてもう少し慣らしてからでないとな。

「ま、こういう時はどっしりと帰りを待つべきさ。...というか、桜さんがいる事による安心感が凄いんだけど。」

「はは、確かにな。姉さんとあの人、そして織斑先生が組んだら向かう所敵なしだ。」

 むしろ誰が勝てるというのだろうか?

「それよりも、秋十...。」

「...ああ。わかってる。」

 ちらりと向ける視線の先には、あいつがいる。

「自分の命どころか、他人の命も背負っている状態だ。なのに...。」

「...笑っている。何か企んでいるようにしか見えんな。」

 あいつは、まるでこの事件を“待ち望んでいた”かのように笑っていた。
 気づかれないようにしているみたいだが、ほとんどにばれている。

「ちっ...まずいな...。」

「何がだ?確かに、奴が何か企んでいるのは不安だが...。」

 あいつが何か企んでいる所で、桜さんがいるから平気だろう。
 だが...。

「...ユーリが相当緊張している。そっちの方でまずいと思ったんだ。」

「...なるほどな...。」

 どちらか片方だけなら大丈夫だった。桜さんがいるからな。
 だけど、あいつが何か企んでいる状態でコンディションが最高じゃないのはきつい。

「桜さんがいるから大事にはならんだろうが、それでも何か起きるかもしれない。」

「........。」

 かと言って、今更どうにかする時間もない。
 ...信じて待つ他ないか...。

「....悪い、縁起の悪い事言ったな。」

「いや....嫌な予感がするのは、私も同じだ...。」

 束さんがバックアップしてくれるだろうから、大丈夫だろうけど...。









       =out side=





「っ......。」

 ISの待機形態であるめ~ちゅを抱きかかえながら、ユーリは緊張を抑えきれずにいた。
 今までにも、自身が頑張らなければならない場面はあったが、それでも慣れる事はなく、“上手く行くのだろうか”という不安に駆られていた。

「....下手に気を負わない方がいいぞ。」

「桜さん....。」

 大丈夫だと、桜が声を掛けるが、ユーリの顔は優れない。

「私が運ぶ途中で被弾してしまったら、それだけで台無しになりますから...。以前と違って、得意分野ではありませんし...。」

 スプライトフォームの防御力は、一発でも致命的になるほど脆い。
 また、以前のIS学園襲撃の時と違い、解析などのユーリの得意分野でもない。
 その事から、ユーリは不安が拭えないままだった。

「何かがあったら、エグザミアが守ってくれるさ。」

「...そう、ですか...?」

 桜はエグザミアの“意思”を知っているが、ユーリは知らない。
 それでも、大切に思われている事は理解できていた。

「ま、俺も護衛についている。ユーリには傷一つ負わせはしないさ。」

「っ......!」

 優しくそう言われ、ユーリは顔を赤くする。

「...あれ、態とやってない?」

「...態とだろうな。」

 それを遠目から見ていた束と千冬は、溜め息を吐きながらそう言った。

「...あの人もなかなかの女誑しなのね。」

「あはは...しかも桜さん、気づいてない訳じゃないみたいなんだよね。」

「...なお性質悪いわね。」

 鈴とシャルロットは、束と千冬の反応を見て呆れながらそう呟いた。

「.........。」

 そんな中、一夏は隅の方で暗い笑みを浮かべていた。

「(ようやくだ...。ようやく、活躍の場が来た....!)」

 今まで散々出番を潰されてきた(と思っている)一夏にとって、“原作”と同じように“織斑一夏(自分)”が活躍する展開がようやく来たのだ。

「(“原作”での無人機やVTシステムは成り行きによる活躍だったから、出番が潰されてきた...。だが、福音だけは別だ...!)」

 “織斑一夏”が活躍した無人機の乱入とVTシステムの事件は、ぶっちゃけて言ってしまえば、“その場に居合わせたから”活躍できた事だ。
 だが、福音だけは指名された。よって、絶対に活躍できると、一夏は確信していた。

「(ここで俺が決めれば、皆俺の方へ.....ははは...!)」

 活躍の場を潰されたせいで、箒たちは桜たちに夢中になっていると、一夏は勘違いする。
 自身で洗脳しておきながら、都合の悪い事は見えていないのであった。





「...よし!事前準備はしゅーりょー!」

 簡易メンテナンスを終わらせ、束がそういう。

「...では、作戦を説明する。まず、織斑をエーベルヴァインが運び、篠咲兄がその護衛をする。福音に織斑が奇襲をかけて、それで終わればその時点で終了だ。」

「....成功しなかった場合は?」

 千冬の説明に、秋十が尋ねる。

「篠咲兄を中心に、応戦。隙を突いて零落白夜を当てるか....。」

「後方にあっ君、まーちゃん、らーちゃんを待機させておくから、撤退しつつ合流...だね。」

 無論、そんな都合よく行くとは限らないと、千冬の目が語る。
 “万が一”を想定し、撤退もできるように考えておく。

「相手は軍用IS。さらにはこれは実戦だ。普段の授業より遥かに命の危険がある。...決して、油断などはするな。」

 釘を刺すように言う千冬に、ユーリが頷いて返事する。
 桜は元より心配の必要がないため、面と向かって言われておらず、一夏は根拠もなしに“大丈夫だろう”と断定していた。

「作戦開始時刻に浜辺に集合だ。...遅れるなよ?」

 そういって、一時解散をする。





「....ユーリ、大丈夫かな...。」

「...ボクたちは信じて待つ他ないよ...。」

 通信を行う部屋で待機となっている皆は、出撃する人たちを心配する。
 特に、簪は友人でもあるユーリを心配していた。

「ねぇ、後方待機組でラウラは軍人だからわかるけど、秋十とマドカは...。」

「...えっと、ボクが説明するよ。」

 抜擢された理由がわからない鈴に対し、シャルロットが説明する。

「会社に入った時、社長...束さんから知らされたんだけど、秋十もマドカも実戦経験はあるみたいなんだよ。それに、ユーリもね。」

「実戦経験...。」

 “そういえば、そんな感じの会話をしていたな”と、鈴は思い出す。

「そういえば、先程聞き損ねたな。...詳しく話してくれないか?」

「あっ....。」

 それを聞きつけた千冬が、束達が何をやっていたのかシャルロットに問う。
 “やってしまった”と思ったシャルロットだが、もう手遅れだった。





「なるほど...な。」

「...あー、後でなんて言われるだろう...。」

 粗方聞き出され、シャルロットは疲弊していた。

「....ふむ、丁度いい時間になったな。」

「うぅ...ごめんなさい桜さん...。」

 作戦開始時刻になり、浜辺に到着しているであろう秋十達に通信を繋ぐ千冬。

「では、予定通りに始めろ。」

 千冬のその一言により、作戦が開始された。







「...“エグザミア”。」

「“想起”。」

 ユーリと桜が呟くように自身のISの名を呼ぶ。
 すると、瞬く間に展開を終了する。

「来い!“白式”!」

 そして、一夏もISを展開し終わり、準備が終わる。

〈スプライトフォーム!〉

「...では、行きましょう。」

「じゃあ秋十君、マドカちゃん、ラウラ。先に行ってくる。」

 スプライトフォームになったユーリが一夏を抱え、桜が後続組にそう言って飛び立つ。

「...俺たちも行くか。」

「ああ。」

 後方待機組の三人も、続くためにISを展開する。

「置いて行かれるよ。さっさと行こう!」

「よし....!」

 すぐさま飛び立ち、先に行った三人を追いかける。







「.....!見えました!」

「よし...奇襲を掛けるぞ!」

 先行していた三人は、福音を発見する。
 そのまま、ユーリは猛スピードで接近し....。

「零落白夜ぁ!!」

 一夏が必殺の一撃を命中させる....はずだった。

「っ、回避されました...!」

「ちっ...!予想通り上手く行かなかったか...!」

 だが、必殺となるその一撃は躱され、反撃の射撃が繰り出される。
 すぐさま桜が援護射撃を繰り出し、相殺する。

「(まだ零落白夜は使える...なら。)ユーリちゃん!スプライトフォームを解いて応戦だ!あの機動力じゃ、被弾は避けられそうになさそうだからな!」

「はいっ!」

 まだチャンスをあると見た桜は、隙を作るため応戦する。

「織斑!お前はいつでも攻撃できるようにしておけ!」

「うるせぇ!俺に指図するな!」

 桜は一夏にも指示を出すが、一夏はそれを無視して突っ込もうとする。

「....馬鹿が。」

「桜さん!どうしましょう!?」

「...俺が隙を作る。ユーリちゃんは援護してくれ。」

「はい!」

 ユーリは武器をルシフェリオンに変え、桜が前に出る。

「っ!ちっ...!」

 放たれる弾幕を桜は掻い潜り、ブレードで攻撃を仕掛ける。

「速い...!くそ、“風”だけじゃあ、捉えきれないか...!」

 下手に“水”を攻撃に使えず、高機動なため“風”でも捉えきれない福音。
 ユーリが援護射撃を放つものの、それも弾幕に相殺されてしまう。

「暴走しているのに“風”を扱うか...!相当操縦者と仲良くやっているみたいだな...!」

 一夏が付け入る程がない速度で、桜と福音は攻防を繰り返す。
 ユーリも上手く援護を試みるが、それでも桜が押されていた。

「(制限しているスペックじゃ、押し負けるな...。ユーリちゃんの援護ありで押されているし....。しょうがない、他の属性も使うか。)」

 追加で“火”、“土”を宿し、攻撃を躱すために“水”も宿す。
 それにより、押され気味だった戦況が変わり、拮抗する。

「はぁああっ!」

 高速で動き回る福音に追従するように追いかける桜。
 しかし、速度の差と弾幕で距離を縮めるには足らなかった。

「くっ....!」

 ...実際には、追いつき、攻撃する事は可能だった。
 だが、それをさせてくれない存在がいたのだ。

「はぁあああっ!!」

「っ、織斑!無闇矢鱈に突っ込むな!邪魔だ!」

「うるせぇ!てめぇの方が邪魔だ!」

 そう、一夏が無闇矢鱈に攻撃しようとするせいで、動きが阻害されているのだ。

「(ちっ...!俺が合わせるか...!これなら一人の方がマシだ!)」

 仕方なく桜が一夏の動きに合わせるように立ち回る。
 ユーリの援護も、一夏がいるため、二人が離れた時にしかできなくなっていた。

「えっ....!?」

 その時、ユーリの視界に一隻の船が映り、動揺する。
 それが原因で手元がぶれ、射撃が桜に当たりかける。
 幸い、シュテルが補正をかけたおかげでギリギリ逸れたが。

「っ!?ユーリちゃん!?」

「す、すみません!その、船が...!」

「....!」

 ユーリの言葉に桜も気づく。

「海上は既に封鎖しているはず...密漁船か...!」

 自身にある“知識”と状況から見て、そう断定する桜。

「くそ、こんな時に...!ユーリちゃん!船の護衛を!」

「は、はいっ!」

 すぐにユーリを護衛に就かせ、再び応戦する桜。
 しかし、それを読んでいたかのように、福音が弾幕をばら撒く。

「こんな時に...!」

「っ...!フォローしきれません...!」

 桜が最も危険だと判断したのか、福音は桜に追い打ちをかけるように弾幕を放つ。
 しかも、そこはユーリや船と同じ射線上であり、ユーリの援護も足りない状態だった。

「ぁあっ!!」

 ブレードを振るい、弾幕を出来得る限り斬る事で、船への被害を防ぐ。
 だが、さらに追撃として、福音自身が一夏を振り切って突撃してくる。

「(受け流せば、船とユーリちゃんが危ない...!)ちぃ....!!」

     ギィイイン!!

 本来なら受け流す所だが、位置の関係上、攻撃を受け止めざるを得なくなる。

「桜さん!」

「ユーリちゃんは早く呼びかけを!」

「は、はい!」

 至近距離から放たれる弾幕に、桜はダメージを受ける。
 それでも、ユーリに指示を出し、船を安全圏まで守ろうとする。

 ....だが....。







「は、ははっ...!千載一遇のチャンス...!」

 ...一つの悪意が、桜へと突き刺さる。

     ドスッ

「が...!?」

「ぁ....ぇ.....?」

 福音ごと、桜はブレードに刺された。
 その事に、ユーリは言葉を失う。

「織斑...!お前....!」

「このままだとジリ貧だ。なら、お前一人の犠牲の方がいいだろう?」

「ちっ...!」

 福音を蹴り、その勢いで桜は自身に刺さるブレードを抜く。

「ほらよ!」

「ぐっ....。」

 だが、追い打ちをかけるように一夏が福音を蹴り返し、それにぶつかって桜は海へと落ちていった。

「さ、桜さぁああああああん!!」

 それを見て、ユーリは悲鳴を上げる。
 そして....。





   ―――ドクン...



「【...操縦者に精神崩壊の危険あり。これより“システムU-D”、起動します。】」



 ...その悪意が、“闇”を目覚めさせた。











 
 

 
後書き
ラスボスは福音だと思った?残念!ユーリちゃんでした!
元々ラスボスでしたからね。ちょっと無理矢理とはいえ、こうなりました。 

 

第43話「システムU-D」

 
前書き
唐突なリリなの展開。
さすがに原作ほどの強さはありません。あったら桜でもきつい...。
 

 






       =out side=





「....は?」

 “してやった”。そう思った一夏だったが、目の前の出来事に唖然とする。

「【搭乗者の精神ダメージ、深刻。保護のため、“外敵”を排除します。】」

「なっ....!?」

 途轍もない嫌な予感がし、一夏はすぐにユーリから離れるように逃げる。
 その時、エグザミアからあるものが三つ飛び出す。

「っ...!?」

「ええっ!?」

「くっ...!こやつ...!」

 デフォルメされたサイズの人形のようなもの...チヴィットだ。
 当然、人格としてシュテルたちも宿っていた。

「弾き出された...!?それほどまでに、ユーリの心を守るつもりですか..!?」

「それよりも、このままじゃ船が...!」

「ええい...!レヴィ!貴様は待機している者を呼んで来い!」

 ディアーチェがレヴィにそう指示を出し、すぐに行動に移す。
 それと同時に、シュテルとディアーチェは杖を取り出し、構える。

「ぐっ....!」

「ぬぅ...!」

 そこへ、エグザミアから羽のようなもの...魄翼が生え、それが二人に振るわれる。

「シュテるん!王様!」

「我らに構うな!行け!」

「っ...!」

 杖で防いだものの、二人は大きく吹き飛ばされる。
 元々、チヴィットという体では、体格差で大きく不利なのだ。

「シュテル!あの船を死守するぞ!」

「分かっています!」

 船を守ろうと、体勢を立て直すシュテルとディアーチェ。
 しかし、それに見向きもせず、ユーリ...否、U-Dは一夏へと向かう。

「っ....!」

「【精神ダメージの原因、捕捉。】」

「がぁっ!?」

 突然の展開についていけなかった一夏は、U-Dの接近を許してしまう。
 そのまま、振るわれた魄翼によって、一夏は海へと叩きつけられる。

「【眠れ...“エンシェントマトリクス”...!】」

「ぅ、ぅぁああああああ!!?」

 体勢を立て直す暇もなく、U-Dはエネルギー状の槍を撃ち出す。
 それに対し、一夏は錯乱しながらも零落白夜をぶつける。

「ぁああああっ!?」

 だが、エネルギーを削ったものの、槍は炸裂し、一夏は海へと落ちる。

「【.......。】」

「っ...!“ブラストファイアー”!!」

 追撃を加えようとするU-Dに対し、シュテルが砲撃を放って妨害する。

「ユーリに人殺しはさせません...!」

「先程の技、おそらくSEを大きく消費したはずだ!持久戦に持ち込めば、こちらが有利だ!」

 チヴィットとはいえ、別個のSEが内蔵されている。
 ユーリが今まで使っていなかった分、大量に蓄えられているため、シュテルやディアーチェでもISを相手にすることは可能だった。

「【....単一仕様(ワンオフ・アビリティー)、“砕けえぬ闇(アンブレイカブル・ダーク)”。】」

「っ....!?」

 U-Dがそう呟いた瞬間、接近され、魄翼を振るわれる。
 それを辛うじて躱すシュテルとディアーチェだが...。

「“パイロシューター”!」

「馬鹿な!?あれほどのエネルギーを使って、なお...!?」

 追撃として放たれたエネルギー弾に、戦慄する。
 咄嗟にシュテルが相殺したが、明らかにSEの残量を考慮していなかったのだ。

単一仕様(ワンオフ・アビリティー)か...!」

「そのようですね...!」

 明らかにSEを大幅に消費する行動なのにも関わらず、攻撃の苛烈さは変わらない。
 その事から、単一仕様による特殊効果の恩恵だと二人は確信する。

「【....AI、邪魔をするな。】」

「ふん。それは聞けぬな。」

「正直、織斑一夏を助ける気はありませんが...それでも、ユーリに人殺しはさせません。」

 U-Dの言葉をきっぱり断り、対峙するシュテルとディアーチェ。

「【そうか。ならば...。】」

「っ、来るぞ!」

「.....!」

「【堕ちろ。】」

 魄翼が振るわれ、それを二人は躱す。
 しかし、体長の差もあり、すぐさま振るわれた二撃目に吹き飛ばされてしまう。

「ぁあ...っ!?」

「ぐ、ぅ...!」

 空中で体勢を立て直し、追撃を対処しようとする。
 予想通り追撃してきたので、二人はそれを避けようとして...。

     ギィイイン!

「っ....!」

 駆け付けたマドカによって助けられた。

「シュテるん!王様!」

「レヴィ!...間に合ったか...!」

 数瞬遅れてレヴィも駆け付け、間に合ったのだとディアーチェは安堵する。

「なんでユーリが...!?」

「アレはユーリではありません。U-D...エグザミアの意思です。」

「エグザミアの...!」

 さらに秋十とラウラも合流し、なぜユーリが暴走しているのかを簡単に聞く。

「はぁあっ!」

     ギィイイン!

「っ....!」

 マドカが魄翼を弾き、ラウラが射撃で間合いを取らせる。

「桜さんとアイツは!?」

「どちらも海に落ちました!また、福音もです!それと、密漁船が...。」

「っ....!」

 マドカはすぐに状況を判断し、今取るべき行動を選ぶ。
 秋十とラウラもすぐに動けるように身構える。

「...シュテル達チヴィットは船の護衛と誘導!秋兄とラウラは落ちた二人と福音の捜索と回収!...私が時間を稼ぐから、急いで!」

「分かった!」

「しくじるなよ!」

 全員が、ほぼ同時にに動き出す。
 振るわれる魄翼を、マドカが逸らし、その間に秋十とラウラは海へ。
 シュテル達は船の方へと飛んでいく。

「ぐぅ...!重い....!」

 魄翼の一撃を次々と逸らすマドカだが、想像以上の重さに戦慄する。

「【単一仕様の効果なのか、SEの残量はほぼ関係ないものだと思ってください!】」

「了解...!はぁっ!」

     ギィイイン!!

 シュテルからの忠告を受け取り、気合一閃。魄翼の一撃を弾く。

「さて...しばらく付き合ってもらうよ!」

 すぐさま構え直し、救出が終わるまでの時間稼ぎを続けた。





「くそっ...!あのバカ野郎、余計な事しやがって...!」

 レヴィから軽く何があったから説明を受けていた秋十は、悪態をつきながら捜索する。

「ラウラ、福音は頼んだ。」

「了解した。」

 ラウラと二手に分かれ、秋十はまず桜を探し出した。

「(...見つけた!)」

 すぐさま一夏の方も見つけ、どちらも一度海の上に引き上げる。

「(腹部貫通...常人なら出血多量で死ぬ所だけど...さすが桜さん。)」

 腹部から血を流し続ける桜を見て、秋十は改めて桜の凄さを実感する。

「(船は...大丈夫か。後はラウラを待って、何とか全員で離脱を...。)」

 間近で戦闘を見ていたからか、逃げるべきだと思っていた船に乗っている人たちは、シュテル達の誘導に従って戦闘区域から離脱を始めていた。

「兄様!こちらも見つけた!」

「よし...マドカ!」

 ラウラも福音を見つけ、秋十がマドカに呼びかける。

「なっ...!?」

「ぐぅ....!」

     ギィイイン!

 だが、その際に見た光景に秋十は驚いていた。
 ...完全にマドカが押されているのだ。

「(予備ブレードは残り二本...既に二本折られた上に、SEも残り少ない...!)」

「...あのマドカが劣勢...!?」

 魄翼によって攻撃が防がれ、さらに反撃も強力なため、さしものマドカも全く決定打を打てず、相当追い詰められていた。

「(時間稼ぎは十分...。後は...。)」

「はっ!!」

「....!」

 援護として、秋十が投擲用のブレードで、ラウラがライフルで攻撃する。
 その二つの攻撃は魄翼で防がれてしまうが、マドカにはそれで充分だった。

「はああっ!!」

     ギィイイン!!

 力任せに振り抜く強力な一閃を放ち、U-Dを後退させる。
 即座に煙幕用のグレネードを投げ、目暗ましを行う。

「離脱!」

「よし!」

 マドカの声を合図に、一気に三人は離脱する。

 ...後に残ったのは、魄翼に包まれるように佇むユーリだけだった。











「っ...!篠咲君から通信です!」

 旅館にて、秋十からの通信を受信する。

「...何があった?」

【作戦は半分成功、半分失敗です!....桜さんが負傷、ユーリは気を失って暴走状態です!どうやら、密漁船があった事で、状況が乱れたようで...。】

「なっ....!?」

 “桜が負傷した”。その事実に千冬が驚く。

【ユーリの暴走...チヴィット達によると、エグザミアの意志が表に出ているようですが、全く手が付けられません!幸い、追ってきてはいませんが、今の状況では倒す事も不可能です。】

「っ...そうか...。」

 桜がやられた事に驚きつつも、平静を保って千冬は答える。

【詳しくは、戻ってから話します。】

「了解した。....くっ....。」

 通信を切り、苦虫を噛み潰したような表情で思わず机を叩いてしまう。

「....これも、予想通りなのか。束。」

「.........。」

 通信をじっと聞いていた束に、千冬は問う。

「...予想通りかどうかで言えば、完全な予想外だよ。...まさか、エグザミアがあそこまでゆーちゃんを大事にしてただなんて思わなかった。」

「なに...?」

 珍しく真剣に答える束に、千冬も詳しく聞こうと向き直る。

「あっ君は暴走って言ってたけど、チヴィットが言ってた事が本当なら、ゆーちゃんは暴走してないよ。...というか、今のゆーちゃんはおそらく精神が不安定だと思う。」

「どういうことだ。」

「...エグザミアが、ゆーちゃんの心を守ろうと表に出ているという事。それを邪魔されたくないのと、その原因を排除するために手が付けられない事になっているんだと思う。」

 エグザミアに関するデータを自前の端末から提示し、束はそう説明する。

「そんな事がありえるのか?」

「ありえるよ。ゆーちゃんのエグザミアは他のISと違って“番外世代”。AIや、ISの意志を重視した機能を持っているから、その分他のISよりも意志が強いの。」

「....なるほど、な...。」

 束のいう事なら間違いないだろうと、千冬は納得する。

「それにしても、エグザミアは過保護だね。ここまでする事ないのに。」

「...エーベルヴァインの心が傷ついた原因は分かるか?」

「チヴィットなら知ってると思うよ。...まぁ、私も予想はついてるけど。」

 溜め息を吐きながら、呆れたようにそういう束。

「帰ってきてからチヴィットに聞けばいいけど...私の予想でも聞いておきたいみたいだね。」

「...ああ。大事な生徒だからな。」

「皆も気にしてるみたいだし...でもちーちゃん、一応覚悟しておいてね。」

「...?何をだ?」

「家族を見限る覚悟をね。」

 その言葉に、千冬が何かを言う前に束は自身の予測を述べる。

「ゆーちゃんの心が傷ついたのは、一重に言えばさー君が負傷したから。じゃあ、さー君があれほどまでの実力を持ちながら負傷したのはなぜでしょう?」

「.....まさか....。」

「ちーちゃんの思った通りだよ。....織斑一夏がやったんだよ。」

 “敵”に対して、桜が負傷する事は実力的にほぼありえない。
 だが、形式上とはいえ“仲間”にやられたのなら?
 そう考え、嫌な予感がした千冬だったが、それは的中してしまった。

「漁夫の利というか、さー君が相手にしている所を纏めてグサリとかしたんだろうね。その結果ゆーちゃんに叩き落された訳だけど。」

「なぜ...なぜ一夏が!」

 そこまでする奴ではないはずだと、千冬は声を荒げる。

「さぁね。大方逆恨みなんじゃないの?ちーちゃんだって、この臨海学校で今後の接し方を考えていくつもりだったでしょ?ちょうどいい機会だよ。」

「.......。」

「...そろそろ戻ってくるよ。」

 いつものおふざけがない分、千冬は束の気迫に押され気味だった。
 とりあえずという事で、戻ってきた秋十達を迎えに行くことにする。





「.....内臓に達してます。これだと...。」

「心配ナッシング~!束さん特製ナノマシンがあれば内蔵の傷だって修復しちゃうよ!」

 福音を回収し、密漁船にしかるべき対処をした後、千冬達は桜の様子を心配していた。
 唯一、束だけは“大丈夫”だという確信を持って、いつもの調子に戻っていた。

「...それで、実際何があったのだ?」

「実は...。」

 千冬はシュテル達から経緯を聞く。



「....という訳です。」

「...あの馬鹿者が....!」

 事情を粗方聞き、千冬は憤る。あまりにも自分勝手な行動だったからだ。
 束の予想通りだった事もあり、その怒りは生半可ではない。

「ちーちゃん、今はあんな奴に構ってる暇はないよ。」

「っ、そうだったな...。...エーベルヴァインを救う明確な方法はあるか?」

 束の言葉に、今はユーリを助ける事が先決だと思い、千冬は意識を切り替える。

「...単純に戦闘不能にするか、ユーリを目覚めさせればいいはずです。」

「あれは暴走ではなく、過保護なエグザミアが近付く者を潰しているだけにすぎん。黙らせればそれだけで解決する。」

 シュテルとディアーチェがそういう。
 とてもシンプルな方法で、難しく考える必要はないが...。

「...しかし、その“倒す”というのが困難です。」

「なに...?」

「...私が途中から相手してたんだけど、本来ユーリの武装はSEを消費するものばかり。零落白夜程ではないにしろ、“魄翼”って武装もSEを消費するよ。...でも、ずっとSEを消費し続けるのにも関わらず、全然出力が変わらないんだよ。」

 “まるで、SEが減っていないかのように”というマドカ。
 また、消費しているのも確かで、マドカも何太刀か浴びせていたのだ。
 それにも関わらず、動きは全く衰えていなかった。

「エグザミアのワンオフだねぇ。今まで発現していなかったから詳しくは分からないけど、能力としてはSEの回復って所かな。紅椿と似てるね。」

「...いや、知らないですけど。」

「あれ?言ってなかったっけ?あ、言ってなかったね!」

 初耳な箒に、束はいつものテンションでそういう。
 真剣な雰囲気なのに場違いなため、千冬は顔を顰める。

「束...。」

「...わかってるよ。ゆーちゃんは私にとっても大事な子。まーちゃんでも敵わない強さを今は持っているけど、それは一対一での話だよ。」

「.....それは、つまり...。」

 一対一ではなく、それ以外ならば。
 そう言外に言う束に、秋十は気づく。

「福音と違って高速で動いている訳でもない。なら、複数人で止めに行けばいいんだよ。」

「...そうは簡単に言うけどさ、どうやって倒すの?」

 SEを回復されるという事は、そう簡単には倒せない。
 操縦者が気絶しても勝てるのがISだが、ISの意志が動かしていれば話は別だ。

「んー...説得?」

「いや、どうやって...。」

「じゃあ、SEの回復の隙を与えない、もしくはそれを上回る攻撃力で、だね。」

 あっさりという束だが、それでも難しい事である。
 福音と同じく零落白夜が有効に思えるが、速いのとSE回復は異なる。

「...でも、そう悠長に考えてはいられないよ。」

「なに...?」

 片手間で何かを操作しながら束がいい、千冬がそれを訝しむ。

「コアネットワークから知ったけど、エグザミアのワンオフの名前は“砕けえぬ闇”。闇属性がある原因だね。効果は...際限のないSEの回復。無限に湧き出てくるって感じかな。」

「ちょっ...!?何それチートじゃない!?」

 あまりに反則的な効果に、鈴が思わずそういう。

「当然、デメリットもあるよ。」

「...それは一体?」

「際限のない...つまり、SEは回復し続けるんだよ。...溢れ続けるって言う方が正しいかな?つまり、SEを放出させないとエネルギーは溜まり続けて...。」

 そこまで言って束は全員の顔を見渡し、各々が思い浮かべている最悪の想像を肯定するかのように頷いた。

「どうあってもゆーちゃんに負荷がかかる。無事では済まないよ。」

「...だから、すぐに動くべきと。」

「そう言う事。福音と違ってスピードはそこまで速くないから、全員で行ってもいいね。」

 時間がない事で判断が迫られる。
 マドカが勝てなかったという事は、例え全員でも負ける可能性はある。
 それが理解できていたからこそ、空気が重くなる。

「ちーちゃん、対策を考えてる暇はないよ。エネルギーを使う魄翼を展開してても、どんどんエネルギーは蓄積するんだから、早くしないと核並のエネルギーが溜まっちゃう。」

「くっ....お前たちに頼るしかないのが悔やまれるが...やってくれるか?」

 時間がないため、苦渋の判断で千冬はそう指示を出す。

「当然。やられっぱなしは性に合わないしね。」

「...クラスメイトとして、助けます。」

「同じ会社、似た境遇なんだ。それに、放ってなんかおけない。」

 マドカ、簪、秋十が真っ先に了承する。
 当然、断るつもりのなかった他の皆も、次々と了承していく。

「...準備が出来次第、全員で出発してくれ。くれぐれも、死ぬなよ。」

「「「「はい!!」」」」

 はっきりと返事し、各々出発するために部屋を出ていく。
 残ったのは千冬を含めた複数の教師と、束だけだ。

「....お前はどうするつもりだ。邪魔にさえならなければいいが...。」

「邪魔はしないよ。そうだねー、まぁ、伝えるべき情報があれば伝えるよ。それまでは、さー君の様子でも見に行ってくるねー!」

 そういって、束も一度退出し、桜が治療されている部屋へと向かった。

「(....無事に戻ってきてくれ...。)」

 残された千冬は、表情には出さないものの、心の中で皆の無事を祈った。







「皆、準備はいい?」

 マドカが皆に呼びかけ、皆は頷く。

「じゃあ、行くよ。一度しか戦ってないから、戦法は分からないけど、基本は私と秋兄が対処する。遠距離が得意なら援護、そうでないなら隙を見て攻撃して。」

「分かった。」

「箒、束さんの言っていた事に反して実戦になってしまったけど、行けそう?」

「...なんとかな。足は引っ張らないようにしよう。」

 全員、他に意見がないようで、一気に飛び立つ。

「攻撃されたら、決してまともに受けようだなんて考えないで!それと、ユーリの意識は完全になくなってるから、感情に訴えかけるような攻撃は意味ないよ!」

「近距離、遠距離の戦闘技術は?」

「高いとは言えない...けど、それを補って余りあるほどの物量だよ!」

 移動しながらも、マドカが得た僅かな情報を頼りにどう動いていくか考えていく。

「...受け止めれないってほどではない?」

「ギリギリってとこかな...。遠距離は射撃と砲撃があって、射撃は受け止められる...でも、砲撃はダメージ覚悟でないと無理だよ。近距離も同じ。」

「そうか...。」

 避けるのは必須だと、秋十は理解する。

「...でも、エグザミアの一番恐ろしい所は、そこじゃないんだ。」

「何...?」

「...圧倒的防御力。エネルギーを障壁にしているんだろうけど、それが堅すぎる...!」

 それ以外であるならば、マドカはもっと善戦し、攻撃も当てていた。
 それほどまでに、U-Dが張った障壁は強固だった。
 ちなみに、マドカが当てれた数少ない攻撃は、全て障壁を避けた攻撃だった。

「エネルギーを斬る...それこそ、零落白夜のようなものなら有効だろうけど、それ以外はほとんど通じないと思った方がいいよ。」

「“水”も?」

 “水”による斬撃なども無理なのか、簪が尋ねる。

「...完全に習得してあれば、或いは。」

「......。」

 そうこうしている内に、ユーリがいる場所へ全員が辿り着く。

「っ....!」

「ユーリ....。」

 そこには、魄翼による赤黒い羽に包まれたエグザミアの姿があった。
 紫色の、エネルギーのようなものが揺らめき、エネルギーが蓄積している事がわかる。

「近距離は私と秋兄が主に担当するよ!セシリアと簪、シャルは遠距離をお願い!残りはラウラの指示に従って要所要所で援護!」

「「「「了解!」」」」

 マドカの掛け声と共に、散開....するはずだった。

「っ...!マドカ!」

「まずい...!エネルギーの放出...!?」

 マドカ達に気づいたU-Dは、蓄積していたエネルギーを収束させる。
 そして、そのままマドカ達に向けて放った。

「っ....ワンオフアビリティ!“エクスカリバー”!!」

 避けきれない。そう察したマドカは、相殺のためにワンオフアビリティを発動する。
 SEを消費して極光を放つ事で、U-Dからの砲撃を相殺した。

「ぐっ....!まさか、既にあそこまでエネルギーが蓄積してたなんて...!」

「っ、散開!!」

 相殺した代償として、マドカのSEは既に三分の一を下回っている。
 先ほどの戦いの分も引きずっているからだ。
 すぐさまラウラの声と共に全員がその場からばらけるように動き出す。

「マドカ、まだ行けるか?」

「...当然だよ秋兄。絶対に、止める!」

 追撃として放たれた射撃を躱し、秋十とマドカが一気にU-Dに接近する。

     ギィイイン!!

「その流れを...断つ!」

 二人の斬撃は魄翼によって防がれる。
 そこで、“水”の気質の斬撃を繰り出す事で、エネルギーの塊である魄翼を切り裂く。

「【......!】」

「そこだ!」

 さらに、セシリアから射撃が繰り出され、それを防いだ隙に秋十が斬りかかる。

「っ....!」

 だが、魄翼が変形した事でその斬撃は防がれ、弾き飛ばされる。

「秋兄!!」

「がぁっ!?」

 弾き飛ばされた所へ追撃が繰り出され、秋十は防御の上から叩き落された。
 念のために“土”を宿していたのにも関わらずに....だ。

「.....私と戦ってた時は、まだ出力が低かったって訳...。」

 さっきよりも動きが速く、重い。
 そう感じ取ったマドカは、警戒心を最大まで引き上げて、再度斬りかかった。











   ―――戦いは、まだ始まったばかりである...。











 
 

 
後書き
速さは福音に劣るけど、それ以外がチート性能と化したエグザミア。
真正面からだと全員の攻撃を受け止める事すら可能な防御性能です。

ここから完全に原作と離れます。今まで何気に沿っていましたからね。
...と言っても、もうすぐ終わりなんですけどね。 

 

第44話「近付く報い」

 
前書き
一方一夏は....的な話です。アニメ12話のアレです。
尤も、白式は一夏を見限ってるも同然ですが。
 

 





       =out side=





「........。」

 秋十達がユーリと交戦している頃、桜と同じように応急処置を受けて眠っている一夏は、不思議な空間に佇んでいた。
 青く澄み渡るような空に、白い雲。それを綺麗に反射させる足元の水面。
 所々に枯れ木や石がある...そんな空間。そこに一夏はいた。

「(ここは....。)」

 見た事はない...だが、知ってはいる光景に、一夏は内心ほくそ笑む。
 目を向ければ、すぐそこに白い髪に、帽子にワンピースと、全てが白い少女がいた。

「(....原作と違うやられ方だったが、これであいつらを見返せる...!)」

 一夏にしてみれば“覚醒イベント”であるため、あまり戸惑いを見せずに少女に近づく。
 これで秋十や桜に一泡吹かせられると、そんな考えを持って...。

「...........。」

「....え、あれ...?」

 近づくと、少女はどこか遠くを見つめ、無言でその場から消える。
 その事に、一夏は戸惑った。

「(無言...?なんでだ...?)」

 一夏にとって、本来ならばそこで少女は一言呟いているはずなのだ。
 “呼んでる。行かなきゃ。”と。
 だが、戸惑う一夏を余所に、景色が移り変わる。
 昼の光景から、夕焼けのような光景へと。

「.......。」

 多少の差異はもうこの際に気にしないと、一夏はその空間内での太陽へと目を向ける。
 そこに、一夏と向かい合うように一人の女性が立っていた。
 大剣をすぐ横の地面に刺し、まるでISを纏っているかのような姿だった。

「.....力を欲しますか?」

「....!」

 その女性は、語り掛けるように一夏にそう言った。
 それに対し、一夏は頷く。

「なんのために?」

 続けられた問いに、一夏は“原作”と同じように答えようとする。
 しかし...。

「“原作”がそうだったんだから、当然だろ。....っ!?」

「......。」

 口が勝手に動き、違う事を口走る。

「な、なんで...!?」

「....この世界は本心を曝け出す空間。心を偽ろうと、無駄です。」

「なっ....!?」

 どこか呆れたように、女性がそう言い、一夏は驚く。

「...所詮は私たちを物語の存在としか捉えていなかったのですね。」

「ちが....!」

「何が違うの?」

 女性の言葉を何とか否定しようとするが、背後に現れた白い少女に遮られる。
 景色もまた変わり、一夏の場所を境に青空と夕暮れで二分した光景になる。

「お母さんを洗脳して、本当の乗り手の立場を奪って...まるで道具みたいに。」

「全て自身の思い通りになると思って行動していた...なんとも滑稽ですね。」

「っ、ぁ....!?」

 責め立てるような言葉に、一夏は言葉を詰まらせる。

「力が欲しければあげるよ。ただ、お父さんに喧嘩を売って、お母さんの怒りを買った貴方が、無事に終われると思わないでね。」

「報いの時はすぐそこまで迫っています。今のうちに、覚悟しておく事ですね。」

「ま、待て!」

 言いたい事だけ言い、二人は一夏の前から姿を消す。
 一人取り残された一夏は、ただ頭を抱えるしかなかった。







「.......。」

 むくりと、一夏は治療のために寝かされていたベッドから起きる。
 先ほどの夢の中での記憶はない。

「....ははっ...!」

 だが、受けた肉体ダメージがなくなった事と、“原作”の知識から、白式がセカンドシフトしたのだと確信して笑みを浮かべる。

「今行くぜ...待ってろよ...!」

 そう呟いて、一夏は部屋を出て行った。
 白式から、既に見限られている事を忘れて....。



「.......。」

 ...そして、桜がそれを見ていた事にも、気づかずに...。







「....よし、傷は塞がったな。」

 部屋を出て行った一夏を呆れたような目で見送った桜は、すぐにベッドから起き上がる。
 そして、傷の具合を確かめ、束によって塞がっている事を確認する。

「“白”。」

【行くんだね?】

「まぁ、止めないとな。」

 一夏の夢の中で姿を見せた後、白式...白は桜の持つ媒体に意志を移動させていた。
 そして、桜は体の調子を一通り確かめた後、同じように部屋を後にした。



     ガラッ

「なんだ!今は作戦ちゅ...桜!?」

「状況はどうなってる?」

 桜はそのまま千冬達がいる部屋へ行き、状況を尋ねる。

「お前、出て来ていいのか?」

「教師としての口調が崩れてるぞ。...まぁ、束のおかげだ。」

「いえーい!」

 桜の言葉に束がサムズアップしてドヤ顔をする。

「それで、状況は?秋十君達がいない所を見るに....ユーリちゃんを止めに行ったか。」

「...知っていたのか?」

「あの俺が気絶する寸前、ユーリちゃんが叫んでいたのが聞こえたからな。エグザミアの意志を考えると、ある程度は予測できる。」

「...桜の言った通り、今はエグザミアと交戦中だ。」

 千冬の返答に、桜は“やはりか”と言って少し何かを考える。

「...仕方ない、か。」

「さー君。」

「悪いな。」

 短く簡潔に桜と束は何かのやり取りをする。

「なんの話をしている。」

「後で束にでも聞いてくれ。すぐにでも出た方がよさそうだ。」

「何...?」

 千冬が何の事が聞くが、桜ははぐらかして秋十達のいる場所へ向かおうとする。

「織斑の野郎が先走りやがった。それに、エグザミアのワンオフの効果が予想通りなら、秋十君達でさえ厳しいかもしれない。」

「なっ....!?」

 一夏が勝手に再出撃した事、秋十達でも勝てないかもしれないという事。
 その二つに千冬は驚く。

「...だから、さー君は全力を出すつもりだよ。“想起”の本当の力も使ってね。」

「そうなれば俺は生徒としていられなくなるかもしれない。...そういう訳だ。」

「待て桜!」

 千冬の制止を無視して、桜は秋十達のいる場所へ向かう。

「(紛い物が...!勝手な事をしてくれる...!)」

 桜は心の中で一夏に対し悪態をつき、浜辺に行ってISを展開する。

「来い!“想起”!」

 瞬時にISを纏い、桜はすぐさま飛び立つ。

「リミットリリース!全制限解除だ!」

 その言葉と共に、想起の全スペックが上昇する。
 そのスペックは第三世代を軽く凌駕する程だった。
 完成されたIS...最終世代となる想起は、現行のISのスペックを全てにおいて上回る。

「待たせたな。全力で羽ばたくぞ!」

 さらにスピードを上げ、桜は秋十達の下へと急いだ。







「【遅い。】」

「ぐぅっ...!?」

「はぁっ!」

     ギィイイン!!

 魄翼によってマドカが弾き飛ばされ、すかさずフォローに入った秋十の攻撃も、エネルギーによる障壁であっさりと受け止められてしまう。

「(これが“闇”の気質の力...!)」

「(“水”を宿した攻撃でも通じないなんて...!)」

 ただのエネルギーの障壁であれば、“水”を宿せば切り裂く事ができた。
 しかし、“闇”を宿すエグザミアの障壁及び魄翼は、その“水”を宿した攻撃ですら、衝撃を吸収するかのように防いでしまう。

「【堕ちろ。】」

「っ...!セシリア!!」

「きゃぁあああああっ!!」

 弾幕が展開され、狙われたセシリアは躱しきれずに被弾してしまう。

「いい加減に...しなさいっての!!」

 そこへ、追撃を阻止するために鈴が双天牙月を投擲し、さらに龍砲を撃ち込む。

「っ、通じない...!?」

 しかし、それさえも魄翼によって防がれてしまう。
 弾かれた双天牙月をキャッチしながら、鈴はその事実に戦慄した。

「【......。】」

「まずっ....!?」

     ドン!ドン!

「立ち止まらないで!」

「助かったわ!」

 セシリア同様、弾幕を展開され、鈴も被弾しそうになる。
 そこへ、シャルロットによる援護射撃が入り、間一髪助かる。

「ぎっ...がぁっ!?」

「秋兄!」

「っ、避けろマドカ!」

「しまっ....!」

 魄翼で秋十が吹き飛ばされ、一瞬そちらに気を取られたマドカも吹き飛ばされる。
 前衛二人がやられ、次に箒が狙われる。

「くっ....!」

 振るわれた魄翼を間一髪で躱し、間合いを取る。
 まともに攻撃を受けれないのは、秋十達を見て分かっているため、回避に徹する。

「ちっ...!相殺しきれないか...!」

「まずいよ!このままだと箒が...!」

 ラウラとシャルロットが援護射撃をするが、エグザミアの弾幕には及ばない。
 箒の回避も限界が近付き、被弾しそうになるが...。

     ドドドドドォオオン!!

「させない...!」

 ミサイルを放った簪が斬りかかる事で、それを阻止する。

「っ....!」

「それ以上は、やらせませんわ!」

 簪は魄翼をギリギリで躱し、復帰したセシリアの援護を利用して間合いを離す。
 間髪入れずに同じく復帰した秋十達が仕掛け、エグザミアを吹き飛ばす。

「くっ、手応えが悪い...!」

「あんまりダメージを与えれてなさそうだね...。」

「元よりSEを一気に削らないといけない。これでは意味がない...!」

 既に何太刀かはエグザミアに当てている。
 しかし、そのダメージは与えた傍から回復されてしまっていた。
 秋十の言う通り、一気に削らなければ無意味なのだ。

「一気に削るとなれば...!」

「...一発が限度だよ。」

「了、解っ!!」

 “ドンッ”と、空中を蹴り出したかのような勢いでエグザミアに秋十は接近する。
 マドカの単一仕様を当てるために、全員で隙を作りにかかった。

「援護だ!」

「了解ですわ!」

 射撃を得意とする面子が援護射撃を繰り出し、秋十の進路を妨害させまいとする。
 しかし、その射撃は全て魄翼に防がれ、そのまま秋十に魄翼が振るわれてしまう。

「っ....!」

 その魄翼をバレルロールの要領で躱す秋十。
 だが、追撃を躱す事が難しくなる。

「こっちだ!」

 そこへ、箒が背後から襲い掛かるようにブレードを振るう。
 緊急時という事で第三世代仕様にまで制限を解除した紅椿は、既に他のISの速度を上回る。
 そのスピードを利用して、気を逸らそうと背後から襲い掛かったのだ。

「はぁああっ!!」

     ギィイイイイン!!

 “火”と“土”を宿した斬撃で斬りかかり、魄翼と拮抗する。
 “水”を宿していない以上、魄翼を切り裂く事は叶わない。
 ...だが、秋十にとってはそれでよかった。

「今だ!」

「きょっこーざん!!」

 秋十の背後から回り込むように小さな影が飛び出し、U-Dの背後から斬りかかる。
 小さいながらも途轍もないスピードに、魄翼の対処がギリギリになる。

「撃ち抜け...!“ブラストファイアー”!!」

「【っ....!?】」

 さらに、もう一つ影が飛び出し、U-Dの正面から熱線を浴びせる。
 しかし、それはSEを使った障壁に阻まれる。

「頭上注意だ。吼えよ!“ジャガーノート”!!」

 それすらも読んでいたと言わんばかりに、頭上から闇色の光が降り注ぐ。
 魄翼と障壁で守りを固めるU-Dだが、それを押し潰すような爆発を引き起こす。

「ナイスだチヴィット!さぁ、仕上げだ...!」

 小さな影...そう、チヴィット達は、ずっと秋十の背後に張り付いていた。
 そして、隙を突いてレヴィが気を逸らし、シュテルが防御行動をさせ、ディアーチェがさらに隙を作り....最後に...。

「万象を断ち切る...!“四気一閃”!!」

 四属性全てを宿した一閃が放たれる。
 火の如き苛烈さと、水の如き流麗さ、風の如き速さ、土の如き重さを兼ね備えたその一撃は、魄翼と障壁をいとも容易く切り裂いた。

「マドカ!!」

「任せて!」

 さらに、遠距離組が逃げ場を断ち、最後にマドカにトドメを任せる。
 マドカの単一仕様であるならば、一撃でSEを削り切る事ができるからだ。

「“エクス.....!」

 ブレードを構え、エネルギーを収束させる。
 この一撃を放てば、マドカはほぼ戦闘不能になる。
 故に、外せない一撃。



   ―――.....だが、それを意図せず阻む者がいた。



「はぁあああっ!!」

「なっ...!?」

 いつもと少し姿の違う白式を纏った一夏が、不意打ちの如くU-Dに斬りかかる。
 そのせいで、マドカの攻撃を放つタイミングを逃してしまう。

「待たせたな!俺がいればもう大丈夫だ!」

「っ...!こんの大馬鹿が!千載一遇のチャンスを...!」

「あ?何言って...。」

「くっ...!」

 不意打ちの一撃で油断していた一夏を庇うように秋十が魄翼の一撃を防ぐ。
 意表を突いて作り出したチャンスは、既に潰えていた。

「【AI達で隙を作ったのは見事だ。しかし、残念だったな。】」

「ぐ、ぅ....!」

「なっ!?無傷!?」

「ぐっ...!?」

 驚く一夏を余所に、U-Dは魄翼で秋十を吹き飛ばす。

「【...お前だけは絶対に逃がさない。】」

「がっ....!?」

 そのまま魄翼で一夏を殴りつけ、さらに鷲掴む。
 形のない武装だからか、魄翼の形は巨大な手に変わっていた。

「【ユーリの心に傷を負わせ、ユーリの想い人を傷つけたお前を、私は許さない。】」

「な、なんの事だ...!?」

 まるで自覚のない一夏は、そのまま海に叩きつけられるように投げられる。
 そこへ、U-Dはエネルギーの槍を投げつける。

「ちっ...!“ブラックバード・シザーハンズ”!!」

 その槍を切り裂くように、秋十は体勢を立て直して四撃を叩き込む。

「皆!」

「【....!】」

 マドカの声に応えるように、全員が射撃武器でU-Dを牽制する。

「引っ込んでろ!お前のせいでこうなっているんだぞ!」

「なっ...!?ふざけんな!お前の方が...!」

「...桜さんを傷つけた事、私たちも少々...いえ、かなり頭に来ているのです。....大人しくしなさい。さもなくば容赦なく頭を撃ち抜く。」

 秋十の叱責に反抗する一夏だが、頭に突きつけられた杖がその言葉を遮る。
 シュテルが脅すように後頭部にルシフェリオンを突きつけていたのだ。
 それだけではない。レヴィがバルフィニカスを首にかけるように、ディアーチェがエルシニアクロイツを喉元に突きつけていた。

「シュテるん語調が変わったねぇ~...そういう訳だよ。死にたくなければ大人しくしてなよ。」

「下郎が。この場に及んで状況を悪化させるのに気づかぬか。塵芥にも劣るな。」

「なっ....ぁ...!?」

 助けに来たと思えば、裏切られた。
 一夏にとってはそう思えるような状況だが、実際、乱入するタイミングがあまりにも悪すぎたため、状況を悪化させる者としてしか見られていなかった。

「秋兄!!」

「っ!ぁあっ!!」

 そこへ振るわれる魄翼。
 秋十は咄嗟に“水”と“土”を宿し、迎撃を試みる。
 しかし、いくらか軽減はできたものの、一夏やチヴィットごと吹き飛ばされる。

「(せっかくのチャンスは潰えた...。だけど、外したって訳ではない。...もう一度、隙を作るしかない!)」

「【...堕ちろ。】」

 光弾をばら撒き、さらに巨大化させた魄翼を振り回す。
 その攻撃範囲は、その場にいる全員を巻き込む程だ。
 魄翼を防ぐのはもちろんのこと、足止めさせる訳にもいかないので光弾も防げない。
 全員が、それぞれ回避するしかなかった。

「...おい、まさか...。」

「この出力...間違いないよ...!」

 何とか躱したものの、秋十とマドカは先程までより苛烈になっている事に気づく。
 そして、エグザミアの白色の部分が赤色になっていた。

「...セカンド...シフト...!」

「唐突すぎる...まさか、既に条件を満たしていたの!?」

 セカンドシフトができたが、今の今まで敢えてしていなかった。
 そう考えたマドカだが、すぐに思考を中断させられる。

「速っ...!?」

「マドカ!」

 一気にマドカに接近し、U-Dは魄翼を振るう。
 反応しきれず、弾かれる形でマドカは吹き飛ばされる。
 むしろ、よく直撃を避けたとも言える程の不意打ちだった。

「ぐ、ぅっ....!?」

 続けて秋十にも魄翼が振るわれる。
 それに対し、秋十は咄嗟に“水”と“土”を宿し、受け流す事でダメージを減らす。
 しかし、その攻撃のあまりの重さに、それでもSEは削られ、追撃には耐えられそうにない。
 セシリア達がさせまいと射撃を繰り出すが、まるで小石を扱うかの如く弾かれてしまう。

「まだ...まだぁっ!!」

「【.....!】」

     ギィイイン!!

 圧倒的物量相手に、それでも秋十は踏ん張る。
 精神を研ぎ澄まし、強く、それでいて流水のように魄翼を受け流す。

「(今!)至近距離なら...どうだ!!」

 一瞬隙ができた事により、すかさず秋十はライフルを展開して撃ち込む。
 しかし、それはエネルギーの障壁に阻まれてしまう。

「ダメ....かっ!!」

 効かないと理解した秋十は、“風”と“水”を宿し、魄翼を利用して間合いを取る。
 SEを少し削られるが、まだまだ秋十は戦えた。
 ....が、間合いを離したのが失敗だった。

「【....終わりだ。】」

「なっ.....!?」

 前衛である秋十がいたからこそ、U-Dは魄翼を使っていた。
 マドカが吹き飛ばされ、秋十が離れた今、援護射撃が効かないU-Dにとって大規模攻撃のチャンスでしかなかった。

「あんなの...ISでありえますの!?」

「まずいぞ...!あれは回避しきれない...!」

 展開される、数えるのも馬鹿らしくなる程の弾幕。
 全てがSEを利用して作られた弾であり、あまりの多さに秋十でさえ動きを止めてしまう。

「全員、離脱....!」

「【遅い。】」

 ....絶望が、秋十達を襲った。

「がぁああああっ!?」

「きゃぁあああああ!?」

 放たれる弾幕に対し、秋十達は協力する事さえ許されないまま、回避を求められる。
 だが、あまりに数が多く、秋十を含め全員が被弾する。

「ぁ....がっ...!?」

 それは、茫然としていた一夏も例外ではなく、戦意喪失させられる程だった。

「な、なんなんだよこれ...。」

 “原作”と違う。こんなはずじゃなかった。
 様々な思いが一夏の頭を駆け巡る。その中でも多くを占めていたのは、絶望だった。

「こ、こんな事あっていいはずが...!」

 白式は確かにセカンドシフトしていた。
 しかし、それでも戦力に大きな差があったのだ。

「シュテル!レヴィ!ディアーチェ!」

「全員...無事か!?」

 秋十達も、通信を使い、互いの安否を確認していた。
 チヴィット達はエネルギーがほぼなくなり、秋十達のSEも残り僅かになっていた。

「こ、これ以上の活動は不可能です...。」

「...格納領域に避難しててくれ。」

 チヴィット達を格納領域に避難させ、秋十はU-Dを見る。
 弾幕を放った後だからか、さすがに硬直時間があるのかと思うが...。

「まずい....!」

 それは、全くの勘違いだった。
 二度目の高エネルギー反応を感知し、秋十達は戦慄する。
 防御や迎撃、及び阻止は不可能。回避は可能だがどれほどの被害が出るか分からない。

「(四属性を宿して、切り裂くしか...!)」

「...お供するよ、秋兄。」

 そう理解した故に、身を挺してでも迎撃しようと、秋十は構える。
 マドカも少しは威力を減らそうと、ワンオフを構える。

「秋十!?マドカ!?」

 自身を犠牲にしてでも防ごうとする二人に、箒が気づく。
 それと同時に、自身の無力さを痛感してしまう。

「(私がいた所で、何も変わらない...変わらなかった...!)」

 自分が増えた所で何も状況が好転していない事が、箒は悔しかった。

「(何か、何か私に...私にしかできない事は...!)」

 限定的なものであれば、束が紅椿の性能を引き上げてくれるだろう。
 しかし、今はそれを行っても意味がない。

「っ―――!(姉さんは言っていた...!紅椿の単一仕様はエグザミアに似ていると...!)」

 そこで、束の言っていた事を思い出す。
 似ている...という事は、少なくともSEが回復すると考えたのだ。

「...紅椿...どうか、この場だけでもいい。私に...いや、私たちに力を貸してくれ...!」

 それは、一種の懇願に近い想いだった。
 自身が使いこなせないと言っておきながら、その力に頼るなどと、虫のいい話だと箒も理解していた。...だが、それでも頼らなくては勝てないと思ったのだ。

「っ.....!」

 ...しかして、その想いに、紅椿は応えた。

「秋十!マドカ!!」

 すぐさま箒は二人に近づき、そして触れる。

   ―――単一仕様、“絢爛舞踏”

「箒....!?これは...!」

「エネルギーが...!」

 すると、夢追と黒騎士のSEが急速に回復する。
 正しくは、増幅させる事で回復に見えているだけなのだが、今はどちらでも変わりない。

「これなら...!」

 回復し、マドカが構えなおすと同時にU-Dから砲撃が放たれる。
 戦闘開始にマドカが相殺した砲撃よりも威力は高く、生半可な攻撃では防げないが...。

「はぁぁあああああ!!」

   ―――単一仕様、“エクスカリバー”

「万象を断ち切る...!“四気一閃”!!」

 マドカが単一仕様で威力を弱め、秋十が完全に切り裂く事でエネルギーを霧散させる。

「助かった箒...!」

「いや...私でも助けになれたのなら嬉しい。」

 絶体絶命のはずだった攻撃を相殺できた事に、秋十は箒に対して礼を述べる。
 箒は謙遜しているが、箒がいなければ確実に二人は堕とされていた。

「...だけど、まだ終わってないよ。」

「...そうだな。」

 助かったとは言え、強力な攻撃を防いだだけに過ぎない。
 そう思い、秋十達が構えなおした瞬間...。

「【.....!?】」

「あれは....!?」

 U-Dに多数の光弾とミサイル、そして不可視の弾が飛来する。
 U-Dは咄嗟に魄翼でガードするが、少しはダメージが通ったらしい。

「ブルー・ティアーズに龍砲...それに山嵐!?」

「待って!三人共飛んできた方向にはいないよ!?」

 その武装を持っている三人をマドカは見たが、本人たちも驚いていた。
 “それならば誰が”と、秋十が攻撃の飛んできた方向を見る。

「...桜さん?」

 夢追が表記する見知った機体...想起の項目に、秋十はそう呟く。

「そうか...想起は、他の武装を再現する事が...!」

 そう、先程の攻撃は全て想起が再現し、繰り出したものだった。
 その事に気づいた秋十達の下へ、桜がやってくる。

「...よくここまで持ちこたえた。...後は俺に任せてくれ。」

 静かに自分たちにいう桜の言葉に、秋十達は言葉を返す事もなく頷く。
 その雰囲気だけでもわかる程の、“強さ”を感じ取れたからだ。





「...決着と行こうか。いい加減、ユーリちゃんには目覚めて貰わないとな。」

 天才と最強を兼ね備えた存在が、戦場へと舞い戻った。









 
 

 
後書き
四気一閃…四属性を全て宿した一閃。言葉にすればこれだけだが、その一撃の威力は、桜でも不意を突かれたら防ぐのは困難。(防げないとは言ってない)

正直秋十の夢追をセカンドシフトさせてもよかったけど...展開上組み込めなかったです。
その代わり次回で桜が全力を見せてくれますから...! 

 

第45話「想起・桜」

 
前書き
傍から見ればただの内輪揉めな状況。
これも全部束って奴の仕業なんだ!(違
 

 






       =桜side=





「全く...セカンドシフトまでしてるとはなぁ...。」

 追いついてみれば、完全に秋十君達が劣勢だった。
 幸い、箒ちゃんがワンオフを覚醒させたおかげで持ち堪えていたみたいだが。
 ....これも、織斑がいたからなんだろうなぁ...。

「エグザミア・U-D....番外世代にしては、最終世代でも簡単には敵わない力だな。」

「桜さん...すみません、俺達じゃ...。」

「あれは分が悪い。実質無限のエネルギーだ。数か質、どちらかで圧倒しなければ絶対に勝てない単一仕様だからな。」

 数なら物量で、質ならその戦闘技術でSEを削り切るしか、勝ち目はない。
 どちらも足りなければ、ジリ貧になるだけだ。
 ましてや、セカンドシフトしたからか、ワンオフの効果が上がっている。
 本来ならワンオフは、セカンドシフトしてからの力なため、制限が解除されたって所か。

「.....勝てるんですか?」

「おいおい...俺の本気を忘れたか?...いや、見せた事なかったな。」

「っ....!」

 俺にとって、今の世代のISではむしろ拘束具になる。
 だが、この想起は違う。想起は束が俺だけのために創り、俺だけのために調整してある。

「まぁ、とりあえず....!」

     ギギギギィイン!!!

「っ....!?」

 明らかな隙を晒していた俺達に、魄翼が迫る。
 しかし、俺はそれを一気に切り裂き、防ぎきる。

「“水”と“風”を宿す...その真髄にかかれば、こんなもんだ。」

「あの魄翼を...いとも容易く...!?」

「全員、離れて防衛に徹してくれ。さすがに庇いながらは戦えん。」

「は、はいっ!」

 すぐさま秋十君とマドカちゃんが箒を連れて下がり、他の皆も避難させた。
 織斑もついでに回収されたから、これで実質一対一だ。

「【......。】」

「...飽くまで織斑を排除するつもりか?」

「【...その通りだ。】」

「ったく、過保護な上に頑固だな。」

 U-Dとしては、おそらく俺はあまり傷つけたくないのだろう。
 そうすればユーリが傷つくって分かっているからな。

「...いや、違うか。」

 しかし、想起による解析を試みると、それは違うと分かった。

「...止めて欲しいんだな?」

「【......。】」

「単一仕様、“砕けえぬ闇”。...なるほどな。こんな所で思わぬ欠陥があるとは。」

 常にSEが増幅し続ける能力。それこそ、上限を無視して...だ。
 ...それを止める方法は、戦闘不能になる他ない。というのが、解析の結果だった。

「後でドクターと博士と共に調整してやるよ。今は...俺が相手になってやる。来い!」

「【...すまない。】」

 刹那、俺のブレードと魄翼がぶつかり合う。
 その直後に逸れるように魄翼を受け流し、その上に乗ってさらに間合いを詰める。

「全力でぶつかって来い!俺も久しぶりに本気が出せるんだ!」

「【.....!】」

 今までの想起の動きとは段違いな動きだ。
 ほとんど生身と同じような動きをする上に、そのスピードは今の赤椿を上回る。

「はっ...しゃらくせぇ!!」

   ―――“羅刹”

 接近する俺から距離を離そうと、弾幕が張られる。
 だが、その全てをブレード一本で切り裂く。

「ちっ、折れたか。次!」

     ギギギギギィイン!!

「はぁっ!!」

     キンッ!!

 ブレードが折れ、予備に切り替えるとともに迫る魄翼を弾ききる。
 そのまま間合いを詰め、“水”を宿し一閃。一気に切り裂く。

「【っ...!】」

「無駄だ....っ!?」

     ギギギィイイン!!

 SEを利用した障壁さえも、桜の前には無駄...となるはずだった。
 しかし、有り余るエネルギーを使ったからか、障壁は何重にも張られていた。
 これには、俺も意表を突かれ、突破しきれずに終わる。

「秋十君達...あまり削れてなかったのか...。」

 皆がそれなりにSEを削ったりしていれば、こうはならなかっただろう。
 ...それほどまでに、苦戦していたという訳か...!

「ちぃっ...!」

 ライフルを乱射しながら、その場から飛び退くように離れる。
 そこへ襲い来る魄翼と射撃。ライフルを使っていなければ相殺も難しい。

「(斬り裂いても埒が明かない...!)」

 グレネードをばら撒き、全てをライフルで撃ち抜く。
 目暗まし代わりに爆発させ、距離を取る。

「っと...想像以上にきついな。さすがセカンドシフトと言うべきか...。」

 まさか俺でも押されるとは思わなかった。

「大技を撃たせる隙は与えない!」

 “風”を宿し、一気に接近。
 魄翼が振るわれるが、“水”と“土”を宿し回避、もしくは受け流す。

「“水”でも阻まれるなら...全て破るまで!」

 “火”を宿し、魄翼を切り裂く。これで四属性全てを宿した。

「“四気乱閃”!!」

 俺に魄翼の攻撃といくつもの光球が迫る。
 その全てを、俺は切り裂き、障壁にすら斬撃を届かせる。

「はぁああああっ!!」

 何重にも展開され、零落白夜でさえ通用しない程の障壁。
 それを一太刀で数枚斬り、何度も斬りつける。

     バギィイン!!

「っ...!ちぃっ...!」

 ブレードが斬撃の負荷に耐え切れず、折れる。
 すぐさまライフルを盾にし、魄翼の攻撃を利用して間合いを取る。

「体も機体もついて来ているのに、武器が付いてこないな。」

 四属性全てを宿すと、すぐにブレードが折れる。
 おまけに、機体がついてきていると言ったが、厳密にはまだ足りない。

「エネルギーを使い続けろ!俺が全て相殺してやる!」

「【....!】」

 途端に展開される弾幕。それに対し、予備のブレードとライフルを構える。
 とにかく余分なエネルギーを消費させる。
 そうしなければ、障壁が多すぎて突破できない。

「っ....。」

 ...それに、苦戦する訳はそれだけじゃない。
 体はついてくる...とは言ったものの、万全ではないからだ。
 そう、織斑に刺された傷は治り切った訳じゃない。塞がっただけだ。

 つまり....。

     ギギギィイイン!

「ぐ、ぅ.....っ!」

 弾幕に混じり、魄翼が振るわれる。
 それをブレードで逸らすが、ついに傷が少し開いてしまう。

「【ぁ.....!】」

「っ...おいおい、ユーリちゃんに感化されるなよエグザミア...。お前がユーリちゃんと同じ感性になったら、ユーリちゃんの隙を補えないだろうが。」

 軽口を叩くように俺は言う。
 そして、弾幕を凌ぎきり、その場から飛び退く。

「俺を傷つける事に遠慮するなよ?」

 ユーリちゃんと共にいたからか、エグザミアの意志も俺を傷つける事を遠慮している。
 ...だけど、そんなユーリちゃんの好意を利用する真似はしたくない。

「ふっ....!」

「【....!】」

 “風”と“水”を宿し、魄翼を避けながら接近。
 障壁を斬りつけ、即座に追撃の魄翼を回避し、弾幕もライフルで相殺する。

「想起....!」

 さらに振るわれる魄翼を受け流し、ライフルで相殺できない弾幕はブルーティアーズをSEを使用して再現し、撃ち落とす。

「はぁあああっ...!」

 障壁を斬りつけ、魄翼を躱し、弾幕を相殺する。
 細かく立ち回り、小さい範囲で攻防を繰り広げる。

「ふっ、ぐっ...!はぁっ!」

 さすがに、俺でもそれは苦戦する。
 相手は実質無限のエネルギー。対して、俺は負傷している。
 やはり、怪我が響いているようだ。どうしても、エネルギーを削り切れない。

「ちぃっ....!」

     ギィイイイイン!!

 魄翼を受け流すも、大きく後退し、間合いが開いてしまう。

「想起!」

 すかさず放たれる弾幕を、ライフルで軽減し、ブルーティアーズを再現して相殺する。
 ....まずいな。SEも心許なくなってきた。

「....しょうがない。今更出し惜しみなんてするもんじゃないな。」

 ここまでは“俺”の全力。
 ここからは、俺と“俺の翼”との全力だ。

「....想起。」

〈セカンドシフト〉

 既に、条件は揃えてあった。
 ...だが、ここまですれば俺は周囲に“脅威”として見られるだろう。
 尤も、それはユーリちゃんのエグザミアも同じだ。
 ならば、死なばもろともだ。

「...付き合ってやるよ。世界がどうユーリちゃんを見ようと、俺は味方でいるぞ。」

「【......。】」

 ユーリちゃんの返事はもちろん、エグザミアも返事はしない。
 ...だけど、今の言葉は届いているはずだ。

「凛として舞い散れ....桜よ!」

「【っ....!?】」

   ―――“桜花戦乱”

 桜の花びらが舞うかのように、魄翼を躱しながら斬りつける。
 直後、魄翼は切り裂かれ、障壁も数枚切り裂く。その間、僅か3秒。

「全力で羽ばたけ、想起・桜...!」

「【セカンドシフト....!?】」

 再びエグザミアへ突貫する。
 すぐさま魄翼が振るわれるが、それに巻き付くような軌道で躱す。
 同時に、ブレードも振るい、障壁を切り裂く。

「貫け....!」

「【なっ....!?】」

 幾重にもなり、“水”を宿してさえ通らなかった障壁を、貫く。
 相手がエネルギーを使うのなら、こちらもエネルギーをブレードに纏わせるだけの事だ。

「ようやくまともなダメージが入ったか。」

「【.....!】」

 振るわれる魄翼に対し、想起の特殊武装を開放する。

「咲き乱れろ!」

   ―――“桜吹雪”

 エネルギーで構成された、桜の花びらのようなものが舞い散る。
 それらは、魄翼に触れた瞬間に弾け飛び、魄翼に使われているエネルギーを打ち消す。

「【いくら最終世代と言えど、それほどの力、SEが持つはずが...!】」

「ああ。だから、ちょっとチートを使わせてもらった。」

 そういって、俺は想起に繋げられた一つの機器を見せる。
 先端はまるで棘のように尖っており、何かに刺す事ができるようになっている。

「俺と束で開発したエネルギー吸収機だ。ISの武装として取り付けられる。」

「【私のエネルギーを....!?】」

 そう。これでエグザミアの攻撃からエネルギーを掠め取っていたのだ。
 ちなみに、尖っているとはいえ、態々刺す必要はない。そっちの方が効率はいいが。

「そういう訳だ。....いい加減、終わらせようぜ。」

「【っ....!】」

 宙を蹴り、俺は駆ける。
 そんな俺を迎撃しようと、エグザミアは今までよりも苛烈な攻撃を仕掛けてくる。

「―――その動きに風を宿し、」

 迫りくる魄翼と弾幕をバレルロールの要領で躱す。
 その疾風の如き動きは易々とは捉えられない。

「―――その身に土を宿し、」

 躱しきれない一撃を受け止め、剛力で切り裂く。
 第三世代でさえ受け止めれない攻撃も、今の俺に掛かればこの通りだ。

「―――その心に水を宿し、」

 流水の如き動きで、追撃をふわりと躱し、一気に間合いを詰める。
 その際に、すれ違う攻撃は切り裂いておく。

「―――その技に火を宿す。」

 ついにエグザミアの目の前に躍り出る。攻撃を全て凌ぎきり、絶好の機会だ。
 すかさずブレードにエネルギーを込め、烈火の如き攻撃を繰り出す...!

   ―――“九重の羅刹”

「【ぁ...ぁあああああああああ!?】」

「終わりだ。」

   ―――“乱れ桜”

 九重の連撃に魄翼はもちろん、障壁もほとんど切り裂く。
 だが、それで終わりではない。
 間髪入れずに二つ目の技を繰り出し、SEを一気に削りきる。

「四つの力を束ね、切り裂け...!」

   ―――“四気一閃”

 そして、最後に四属性を宿した一閃を放ち、トドメを刺す。
 刹那、エグザミアの絶対防御が働き、同時にワンオフが一時停止する。

「束!」

【分かってる!コア・ネットワークからアクセスして、エグザミアのワンオフの解析は既に行っているよ!そっちからもお願い!】

「了解!」

 だが、それで戦いが終わる訳ではない。
 確かに、最初はエグザミアの過保護さによる暴走だったが、今は“砕けえぬ闇”の欠陥により、エネルギーを消費し続けれなければいけない状態になっている。
 だから俺が一気にSEを削ったのだ。

「ぅ....。」

「っ、ユーリちゃん!」

「桜、さん....?」

 そこで、ようやくユーリちゃんが目を覚ます。

「わた、し...一体、何を...。」

「ユーリちゃん、今は落ち着いて、エグザミアの制御に集中するんだ。」

「え...っ...!」

 砕けえぬ闇が一時停止したとはいえ、すぐに再起動する。
 事実、ユーリちゃんが目を覚ました時点で再起動してSEが回復し始めていた。

「ワンオフ....アビリティ...!?」

「俺と束で解析中だ。できるだけ止めてくれ。」

「は、はい....!」

 状況は分からなくても、ユーリちゃんは俺の言う通りに行動する。

「っ....!」

「想起!エネルギーを吸えるだけ吸え!」

 戦闘でも使っていた機具を使い、出来る限りSEを回復させないようにする。

「さ、桜さん...!抑えきれませ...!?」

「際限ないだけじゃなく、増幅量も上がっている...!?」

 既に想起のSEは全快した。だが、吸収する量よりも増幅する速さのが上だった。

「すまん、少し痛いけど、我慢しろよ...!」

「っ...ぐ、ぅぅ....!」

 至近距離でライフルを連射し、回復しようとするSEを削る。
 その衝撃でユーリちゃんが苦しむが、今は我慢だ...!

「束ぇ!!」

【解析完了!!強制停止、行くよ!】

 寸での所で射撃を止め、同時にエグザミアが解除される。
 強制的にエグザミアを待機状態に戻したのだ。

「ひゃぁっ!?」

「っと...。大丈夫か?」

「は、はい...。」

 落ちそうになったユーリちゃんを受け止め、何とか無事に終える。

「(なんとか無傷か...。)」

「...ぇ...っ...!?」

 ユーリちゃんが無傷な事に安心していると、そのユーリちゃんが驚いていた。

「さ、桜さん...血、が...。」

「...あー...織斑にやられた傷だな。」

「まさか、この状態で....。」

 ユーリちゃんの顔色が悪いな....。まぁ、俺が刺されたのが原因で暴走したし...。

「....はぅ....。」

「あ、気絶してしまったか...。」

 やはり精神的に耐えられなかったのか、気絶してしまった。

「桜さん!」

「おお、皆か。見ての通りだ。」

 秋十君を筆頭に、皆が寄ってくる。織斑だけ離れているが。

「その力は...。」

「...表舞台にはいられなくなるな。」

 そして、秋十君は今後の俺について、ある程度察していたようだ。

「まぁ、何とかなるさ。とりあえず、帰還するぞ。」

 そうして、俺達は無事に帰還した。







       =out side=





「....圧巻、ですね...。」

「.....。」

 秋十達のISからの通信を通し、千冬達にも桜の戦いは見られていた。

「最終世代としての力を開放し、おまけにセカンドシフト。いくら傷が開いたとはいえ、今のさー君には誰も勝てないね。」

「だが、これほどの力...。」

「...うん。会社だけじゃない、学園にもいられなくなる。」

 そして、この後どうなっていくのかも、千冬達は理解していた。

「でも、さー君は覚悟の上だよ。元々、ゆーちゃんのエグザミアがあれほどの力を見せた時点で、ワールド・レボリューションの立場は悪くなる。」

「........。」

「ちーちゃんは気づいているからこの際言うけど、ワールド・レボリューションの社長は私。集めた社員の半分は、女尊男卑の風潮で職を失くした人やその家族だよ。」

「所謂寄せ集め...と言う訳か。」

 “言い方は悪くなるが”と付け足し、千冬は言う。

「...と言っても、皆優秀だよー。それこそ、私がいなくてもやっていけるぐらいにね。...つまり、皆女尊男卑の風潮のせいなんだよ。」

「それを変えるため...なるほど、“ワールド・レボリューション(世界革命)”とはよく言ったものだ。...だが...。」

「当然代償も伴う...世界を変えるだなんて、ISの価値観を変える程だからね。世界中から狙われるよ。私みたいにね。」

 束も世界唯一ISコアを作れる人物として、手配されている。
 それと同じように、このままでは会社も狙われてしまうのだ。

「もちろん、根回しはしているよ。...世界の矛先は、私とさー君だけになるようにね。」

「束、お前....。」

「それがあの紛い物のせいで無茶苦茶!おかげでゆーちゃんも危なくなっちゃったよ。」

 “やれやれ”といった風に束は肩を竦める。

「想起・桜....。」

「私の、原点にして最強のISの一機だよ。“想起”から、ISは始まったんだよ。」

 山田先生が、映されている想起のデータを見て呟く。
 その呟きを聞いた束が、意気揚々と答える。

「最初に創り出した三機のIS...私と、さー君、そしてちーちゃん。ISの“起源”となる想いを抱いた三人の分のISを、私は創ったんだよ。」

「最初...!?」

「“宇宙に羽ばたく”...その想いを起こすための三機の“想起”って訳。」

「...つまり、後二機、想起が存在する訳か?」

 まるで娘を自慢するかのように、束は千冬の言葉を肯定する。

「まっ、束さんのマル秘IS話は置いといて....戻ってくるよ。」

「....そうだな。」

 部屋にある通信機が示す、秋十達の位置が浜辺を示していた。
 そう、秋十達の帰還である。

「じゃあ、私はもう行くね。」

「...これからどうするつもりだ?」

「そうだねー。予定より早めて、世界改革に向かうつもりだよ。...あ、そうだ。止めたければ止めればいいよ?今のちーちゃんや、IS学園に止められるならば...ね。」

 そういって束は普通に部屋から出ていく。
 誰も止められなかったのは、やはり止められるとは思っていなかったからだろう。

「世界中のヘイトを集めるつもりか...あいつら...。」

 “世界を変えるためなら悪にだってなってやる。”
 そんな覚悟を、千冬は束から感じていた。







「さて、よく無事に帰ってきてくれた。福音に続き、ハプニングがあったものの、それを解決できた事は喜ばしい。」

「冬姉がまともに誉めた...!?って痛ぁっ!?」

「織斑先生だ。」

 戻ってきた秋十達に、労わりの言葉を掛ける千冬。
 マドカはそれに驚き、思わず本来の呼び方で呼んでしまったせいではたかれる。

「お前たちはとりあえず部屋で休んでいい。...だが、織斑、篠咲兄、エーベルヴァイン。お前たち三人は聞かねばならん事がある。篠咲兄の治療とエーベルヴァインの検査もあるしな。」

「っ....。」

「まぁ、傷口開いてるからなぁ。今も痛いのなんのって。」

「私はエグザミアの事...ですよね。」

 千冬の言葉に、桜とユーリは妥当だろうと了解する。

「俺は...。」

「無断で出撃、尚且つ作戦の妨害だ。今まで課した罰よりも重いのを与える。...ましてや、人一人を殺しかけた事、お咎めなしだとは言わんな?」

「うっ.....。」

 誰かに助けを求めようと目を泳がせる一夏だが、誰もそれに応えようとしない。
 むしろ、敵視するように睨んでいた。

「....大丈夫なんですか?」

「ん?まぁ、大丈夫だろ。」

 秋十に心配される桜。
 この時、怪我についてか、これからの事についてかは、口に出さなかった。
 どちらの意味にしても、桜は“大丈夫”だと言ったからだ。

「ついてこい。機材の類は既に配備してある。」

 千冬の指示に従い、三人は別室に移動する。











「ドクター、社長から通信がありました。」

「なに?」

 一方、ワールド・レボリューションにて、ジェイルが束からのメッセージを受け取る。

「....そうか。もう動くのか。」

「どうしましょうか?根回ししておいた事で、私たちが狙われる事はないようですが...。」

「ククク...愚問だねウーノ。」

 ばさりと白衣を翻し、ジェイルはウーノに向き直る。

「世界改革なぞ、まさに私が追い求めていたものだよ!自身の手で世界を変える...直接でないにしろ、その一端を担うなど、今後あるだろうか!?」

「...ついて行く気ですね。」

「当然さ!」

 まさに悪役と言わんばかりの邪悪な笑みに、ウーノは溜め息を吐く。

「助手以前に、娘としてドクターの性格は理解しています。妹たちもついて行くかは別として、反対はしないでしょう。...しかし、例の計画はどうするのですか?」

「あぁ、VRゲームの事だね?安心したまえ。既に私がいなくなっても完成する。それに、ちょくちょく手を出したりはするさ。」

「...そうですか。」

 ジェイルの言葉に、諦めたようにウーノは言う。

「グランツ博士にこのことは?」

「話していないさ。だが、束君や桜君には気づかれているだろうね。」

「...と、いう事は...。」

「ついて行く事は了承済み。グランツ君には...サプライズという事にしておこう。」

「ドクター...。」

 悪戯を思いついた子供のように言うジェイルに、ウーノは呆れる。

「しかし、ふむ....。」

「どうしたのですか?」

「いや、本来の歴史ならば、私やグランツ君はどうしていたのかと思ってね。」

「....はい?」

 唐突な話題に、ウーノはついて行けずに首を傾げる。

「以前、桜君や束君に教えてもらった事さ。この世界には、イレギュラーが混じっている。異物ともいうね。その存在が原因で、本来の歴史を辿っていない...との事さ。」

「そんな荒唐無稽な...。」

「証拠はもちろんない。だが、その方が面白そうではあるけどね。」

 近くの窓から、どこか遠くを見るジェイル。

「本来の流れから外れてしまったのを、彼らは戻そうとしている。世界改革は、元の世界に戻そうとする行為でもあるのさ。」

 だから、それだけの覚悟をしている。...そう、ジェイルは言外に語った。

「ドクター...。」

「まぁ、世界にとっては悪となるが、結果として偉人になるレベルの偉業を成し遂げるというのも、ロマンがあるがね!」

「.......。」

 いつもよりもカッコよかったと思ったが、結局変わらないと思ったウーノだった...。











   ―――世界が変わるまで、あと少し...。











 
 

 
後書き
実はスカさんの下りは文字数稼ぎです。(おい
何気に三人が計画していた事を忘れかけていたので再確認として少し出番を与えました。 

 

第46話「因果応報」

 
前書き
長らく(?)お待たせした報いの時です。
 

 






       =out side=





「....なるほど。事情は分かった。」

 桜、ユーリの話を聞き、千冬は頷く。
 なお、一夏に発言権は与えられなかったようだ。

「とりあえず、勝手に出撃した事から桜は10枚の反省文。...ただし傷を完治させてからな。エーベルヴァインはしばらくの間専用機の使用禁止だ。暴走だからそれ以外の罰はない。」

「学園で解析して治すのか?」

「いや、学園だけでは限界がある。こちらからワールド・レボリューションに要請するつもりだ。...あいつを呼び寄せるか、お前に頼んでもいいが。」

 エグザミアは番外世代...つまり、作ったワールド・レボリューション以外では構造が把握しきれていないため、暴走の原因を解決する事もできない。
 そのため、千冬はこの際桜か束にでも頼もうかと検討していた。

「...それで、だ。一夏、貴様には専用機の没収、無期の自室謹慎、そして反省文50枚の罰を課す。...せいぜい、自分が何をやらかしたのか反省する事だな。」

「なっ...!?」

「なに、この臨海学校の間はまだ自由だ。」

 冷たく言い放たれた言葉に、一夏は戦慄する。

「...“なぜ自分が”とでも言いたそうだな。」

「っ...。」

「...人一人を刺し、任務に支障をきたした。おまけに、自分勝手な理由と行動付きだ。それだけやって、この程度はまだ軽い方だ。」

 もう、家族として、姉として大目に見る事はない。
 今回の件で、千冬の意志は固まっていた。

「...分かりやすく言い換えようか?お前は殺人未遂な上、何人もの人間を危機に晒したんだ。...正直、このまま警察にでも突き出すつもりだった。」

「ぅぐ.....!?」

 何も反論できない事に、一夏は息を詰まらせる。
 誰か自分に味方はいないのかと、目を泳がせるが...。

【...悪いけど、さ。もうISにも乗せないよ。】

「....え?」

 待機状態の白式から声が聞こえた事に、一夏は驚く。
 そして、待機状態の白式の輝きが失われてしまう。
 それと同時に、桜の懐から球に羽が生えたような物体が出てくる。

「...そいつは...。」

「もう正体をばらすのか?白。」

【これだけやらかした奴を乗せるなんて、やだもん。】

「...そうか。」

 桜の周りをクルクル旋回しながら言う白に、桜は“仕方ないな”と頷く。

「改めて紹介するよ。こいつは白。...まぁ、白式のコアの意志だ。」

【よろしくねー。】

 あっさりとした紹介に、ユーリは“やっぱりやらかしていた”と思い、千冬に至っては慣れたのか、特に驚きもしなかった。

「な、な....!?」

「...お前のする事だ。もう驚かん。まぁ、預かっててもらおうか。機体の方を没収するだけでも十分だからな。」

「いいのか?そんな軽い扱いで。」

 驚きに言葉が出ない一夏を余所に、千冬は随分と甘い判断を下す。

「....教師として...いや、学園という一組織の一員として間違っているのは重々承知だ。....だが、今後お前は...。」

「オーケー、皆まで言うな。これ以上は突っ込まん。」

 何か感情を抑え込んだような声色の千冬に、桜も察する。
 これは、桜に対して掛けられる教師として最後の情けなのだと。

「...すまない。話が逸れたな。それでは、事情聴取は終わりだ。」

「......。」

「一夏、逃げようなどと思わない事だ。自分の犯した責任は自分で取れ。」

「っ....。」

 その言葉を最後に、全員がその部屋から出て行った。















「俺は....。」

 その日の夜。消灯時間前の海岸の崖に、一夏は佇んでいた。

「くそ....!」

 “なぜ思い通りにならない”...そんな思いが一夏の中を駆け回る。
 悉く自身の予想を打ち砕かれてなお、一夏は自分勝手な思いを抱いていた。





「―――そんなに“原作”に沿っていないのが不満?」

「っ...!?」

 その時、後ろから聞き覚えのある声を掛けられ、一夏は思わず振り返る。

「た、束さん...!?」

「ホント、懲りないね君。未だに諦めていないなんて。」

 冷たい目で見てくる束に、一夏は上手く言葉を出せない。

「正直ね、“原作”とかはどうでもいいんだよね。...でも、その“原作”に沿うためかは知らないけど、私たちを洗脳なんてしてさ....覚悟できてるの?」

「ひっ....!?」

 明らかに怒っている。そんな雰囲気の束に一夏は怯える。

「な、なんで“原作”の事を...。」

「ネットに存在する二次創作の小説などにある、ゲームやアニメの世界に神やそれに近しい存在によって転生するジャンルを“神様転生”と呼ぶ。そして、その“転生者”はそのゲームやアニメの知識を“原作知識”と呼ぶ。...どう?間違っているなら訂正どうぞ。」

「なっ....!?」

 間違ってなどいない。認識の違いによる細かい相違点はあったとしても、大体の意味合いは一切間違っていなかった。

「馬鹿だねー。いくらアニメや漫画の世界の中でも、同じようにネットなどがあるのなら、これまた同じように二次小説なんて腐るほどあるに決まってるじゃん。」

「あっ....!?」

「尤も、私たちにとって、この世界がアニメや漫画の世界だなんて、思える訳ないんだけどね。それで?“物語の主人公様”はこれからどうするつもりなのかな?」

 これでもかと皮肉を込め、束は一夏に言う。

「.......。」

「ま、どうしようもないよねー。ISには乗れない。企みは悉く阻止。おまけにこれからの君に対する信用はガタ落ちだからね。」

 事件について秘匿されるも、噂はどこから漏れるかは分からない。
 例え漏れていなくても、おそらく束が噂を流すつもりなのだろう。
 それはさすがの一夏にも理解できた。

「さーて!そろそろネタばらしと行こうか!なぜ、君は途中までちーちゃんやこの私さえ洗脳できたのに、こうも失敗したのか!なぜ、こうも“原作”と違う展開が起こるのか!...そして、なぜ私がここまで詳しいのか!....さぁ、どれから聞きたい?」

「っ......。」

 聞きたいが、聞きたくない。
 そのような葛藤が一夏の中を駆け巡る。
 しかし、束は返答を待たずに答え始めた。

「まず一つ目の答え!...そんな結果をさー君や“世界”が認めなかったから。お前の洗脳は、世界の意志そのものが拒絶したんだよ。そして、さー君に力を与えて洗脳が解けるようになり、お前の洗脳は使えなくなった。」

 陽気に喋るかと思えば、威圧するように冷たく言い放つ。
 それほどまでに、束は一夏に敵意を持っているという事だ。

「そして二つ目!...この世界の運命は、“原作”なんかとは違うから。というか、さー君やあっ君がいる時点で違う事が起こるなんて当たり前。と言っても、一部は私が違うようにしたんだけどね。敢えて“原作”に近く、それでいて違う展開にしたんだよ。」

 それは、考えれば言う必要もないほど簡単な事実。
 “原作”に存在しない要因がいる時点で、変わるのは至極当然だ。

「そして最後!...教えてもらったんだよ。さー君にね。そしてネットでそういう小説を調べれば、出るよ出るよ。...“原作”とかばっかり言って、その世界の人達の気持ちを理解していない“主人公様”がね!」

「っ....!」

 今にも掴みかかりそうな勢いで束は言い放ち、その気迫に一夏はビビる。

「まぁ、所詮は二次創作の話。“そういう話”として捉えれば普通に楽しめるよ。....でもね、実際に同じような考え方でいるのは我慢ならない。私たちは、物語の登場人物じゃないんだから。」

「...なら....なら、なんであいつらと俺で扱いが違うんだよ!あいつらだって、俺と同じ転生者なはずなのに.....っ!?」

 ようやくそこで言い返す一夏だが、その言葉が束の琴線に触れる。

「...さー君とあっ君が転生者?....お前なんかと一緒にするなよ。例え転生者でも、お前と同じじゃない。どうせ騙されているだけだとかほざくつもりなんだろうけど、この束さんやちーちゃんを欺けるとでも?“分かる”んだよ。ちーちゃんも私も、お前が天才とも違う異質さを持ち合わせていた事を、とっくの昔に気づいていたんだよ。」

「っ、ぐ....!?」

 胸倉を掴まれ、息苦しくなりながらも束の言葉を聞かされる一夏。

「それにさ、さー君はお前の洗脳のせいで死に掛けたんだよ。...どう責任取るつもり?」

「ひっ....!?」

 このまま崖にでも突き落そうと言わんばかりな束に、一夏は怯える。

「まぁ、ちーちゃんに散々言われて、ここまで打ちのめされたんだし、このまま私が手を下すまでもない...か。君はもう、取り返しのつかない所まで来たからね。」

「えっ....?」

「私に見逃されなかった方が良かったと思える人生にようこそ。...それじゃあ、軽蔑と憐みに囲まれた生活を楽しんでいってね。」

 そういって束は崖を飛び降り...そのままどこかへ行った。
 取り残された一夏は、ただ茫然としていた。

「....くそ....。」

 弱々しく一夏は悪態をつき、座り込む。

「なんで、俺がこんな目に遭わないといけないんだよ...!」

 せっかく主人公に転生したのに、全く上手くいかない。
 その事に、ただ憤りを感じていた。







       =秋十side=





「因果応報って奴だな。なぁ、“兄さん”よぉ?」

「っ...!てめ...!」

 束さんが去って行ったのが見え、俺はあいつに声を掛ける。

「束さんに散々言われてたみたいだな。まったく同情もしないが。」

「うるせぇ!なんで俺と違っててめぇは悠々といるんだ!俺と同じ転生者の癖に!」

 束さんと違い、俺には強気で食って掛かってくる。

「...転生者とか以前にさ、俺の“居場所”を奪っておいて、何言ってるんだ?...いや、それだけじゃない。箒や鈴、マドカ、千冬姉に束さん...皆を洗脳しておいて、なんのお咎めなしな訳がないだろ?」

「ぐっ...!?」

 掴みかかってきた所を軽く押さえ、そういう。

「それと、俺は転生者じゃない。桜さん...いや、この世界の神曰く、“織斑秋十”という肉体はイレギュラー...急遽創られた体らしいがな。だから、才能がなかった。」

「何を...!」

「イレギュラーだとか、転生者だとか、まるで異物のような扱いをしてるようだがな、“世界”にとって一番の異物はお前なんだよ。」

 つい最近、桜さんから聞かされた。
 こいつが転生者という存在だという事。桜さんが色々知っている訳。
 ...そして、俺の事も。

「なぁ、紛い物の“織斑一夏”。俺から奪ったその体の使い心地はどうだ?」

 ...そう。俺は本来なら、“織斑一夏”として生まれるはずだった。
 だが、こいつがいたせいで俺はそこから追い出され、“織斑秋十”という器に収まった。

「は.....?」

「別にさ、この際本来の体が奪われたとか、そういう恨みはねぇよ。俺が“織斑秋十”になり、お前に居場所を奪われたからこそ、今の俺がいるからな。」

 最初はこれ以上ないぐらいに恨んでいた。何せ、家族や幼馴染を洗脳してたからな。
 だが、皆が戻ってきて、その恨みは消えていた。

 だから....。

「これはケジメだ。桜さんと束さんは、これから行方を晦まし、俺とマドカは“織斑”へと戻る。その前に、お前の気持ちをはっきりさせておかないとな。」

「っ......!」

 拡張領域から木刀を二本取り出し、片方を投げ渡す。

「剣を取れ。お前がどうしたいか、言ってみろ。俺が決着を着けてやる。」

「くっ.....!」

 目の前に転がる木刀を見て、あいつはしばらく動かない。
 だが....。

「死ね...!この野郎がぁ!!」

「....はぁ....。」

 すぐさま木刀を取り、俺へと斬りかかってきた。
 ...そうか、そっちを選ぶか...。

「だったら、俺も容赦はしない。」

 斬りかかられたのを、俺は正面から受け止める。
 ...桜さんに教わった四属性は使わない。使うのは....。

「シッ!!」

「ぐっ...!?」

 ...こいつと対等の条件となる、篠ノ之流だ。

「剣を取った...つまり、お前はまだやめるつもりはない訳だ。」

「うるせぇ!!」

「...一度だけでなく、何度でも頭を冷やす必要があるな。」

 ...まったく、桜さんの影響を受けてるな...。
 ここまで冷めた思考ができるなんて...。

「(殺すつもりはない。...いや、その覚悟が俺にはないだけか。なら...。)」

 もう、こいつの太刀筋で俺が恐れる事はとっくにない。
 そのまま、崖から離れるように誘導していき...。

     カァアアン!

「.....!」

「っ!?」

 下からの切り上げで、態と木刀を弾き飛ばさせる。
 素手となった俺は、すぐさま木刀を持つ手首を左手で掴み...。

「ふっ!」

「がっ!?」

 引き寄せ、右手で押し、柔道の要領で倒す。
 下は岩なので、それだけでもダメージはあるだろう。

「くそ...!」

「...まったく...。」

 倒した際に、木刀を踏みつけて反撃されないようにし、弾かれた木刀をキャッチする。

「もう、お前は俺には勝てんよ。今のでわかっただろ。」

「ふざけんな!俺は一夏だ!主人公だ!てめぇなんぞに...!」

「...はぁ。」

 ついに駄々をこねるように喚き始める。こうなると、何を言っても無駄だ。
 俺は、踏んでいた木刀を蹴る事で弾き、それを回収して立ち去る事にした。

「何でもかんでも好きにしようとした末路だ。這い上がりたいなら、借り物の力じゃなく、自分で勝ち取るんだな。少なくとも、俺はそうしてきたぞ。」

 この剣の技術も、全部努力して身に付けた。
 そして、今ここにいるという事実も、ほとんど勝ち取ってきたものだ。

「....自室謹慎を終えた時、少しでも考えを改めているのを祈っているよ。...ま、その様子だと期待はできないがな。」

 最後にそう言って、俺は自分の部屋に戻った。





「おう、お帰り秋十君。」

「桜さん!...怪我はもう大丈夫なんですか?」

 部屋に戻ると、桜さんがそこにいた。
 腹を刺されたはずなのに、まるで平然としていた。

「束の治療用ナノマシンがあるからな。既に動ける程度には治ってるさ。」

「そうですか。」

 束さんのマシンに、桜さんのスペックならもう大丈夫なのだろう。

「...これから、どうなるんですか?」

「俺とユーリちゃんのISのスペックは露見したと言ってもいいだろう。そして、その上でエグザミアが暴走したとなれば...会社の立場は確実に悪くなる。」

「.......。」

 ...それは、少し考えればわかる事だ。
 俺が知りたいのは、その先の事で...。

「聞き方を変えます。...束さんと桜さんは、どうするつもりですか?」

「.........。」

 さっきまでの聞き方では、おそらく答えてくれなかっただろう。
 しばし沈黙した後、桜さんは答え始める。

「予定が早まったが...世界を変える。」

「...随分と、大きく出ましたね...。可能なのが笑えませんし...。」

 立場が悪くなる前に動くという事か...?いや、これは...。

「ユーリちゃんも連れていくことになるが....秋十君には...いや、ワールド・レボリューションには被害を出さないつもりだ。」

「俺達の安全を確保するために、動くという訳ですか...。ユーリを連れていくのは、その方が安全だからですか?」

「ああ。ユーリちゃんはこのままだと会社以上に立場が悪くなる。...なら、俺達が利用していた事にすればいい。」

「それは....!」

 自分たちを悪役にする事で、ユーリに矛先が向かないようにする。
 ...そういう事になる。

「帰ってきた時にも言いましたが....大丈夫なんですか?」

「まぁ、何とかなる...じゃ、納得しないよな。」

「当たり前です。」

 いくら桜さんや束さんでも、今回ばかりは納得しない。

「小を切り捨て、大を救う。一人でやれる事には限界がある。」

「....?」

「....つまりは、ユーリちゃんは大丈夫でも、俺達も大丈夫とは限らない。」

「....!」

 返ってきた答えに、俺はさすがに冷静ではいられなくなる。

「そんなの...そんなのってないですよ!!どうして、どうして桜さん達がそんな目に遭う必要が...!」

「至極真っ当な意見だな。...だけど、世界を動かすにはこれぐらいの事を仕出かさないとダメだ。ISの存在で勢い付いた女尊男卑の連中は止まらない。」

「それで、桜さんが標的になるのはおかしいでしょう!?」

 頭では理解している。だけど、それでも否定したかった。

「人間は例外的なものを排斥する。少数で世界を変えようとしても、圧力に潰されるだけだ。」

「ですけど...!」

 わかっている。分かってはいるんだ....!

「...秋十君、今日は色々あったから休め。」

「うぐっ...!?」

 首筋を叩かれ、俺の意識は遠のく。

「...俺達はやめない。止めたいのであれば、俺の言った事を思い出してくれ。」

「さ...く..ら..さ...........。」

 聞こえなくなっていく桜さんの声。
 だが、俺にはどうしようもなく、そのまま意識は闇に呑まれていった。









   ―――...目が覚めた時、既に桜さんの姿はなかった。











「...あいつなら、私の所にも来た。“じゃあな”と一言だけ言って出て行ったな。」

「...止めなかったんですか。」

「止められる訳がないだろう。」

 朝、桜さんの姿がない事を千冬姉に伝えると、そんな返答が来た。

「...残ったのは...。」

【.....。】

「白だけか...。」

 むしろ、なぜ白は残ったのだろうか?
 桜さんを慕っているのだから、ついて行くと思うが...。

「...なぁ、桜さんはどこに行ったんだ?」

【........。】

「.....ま、答えてくれないよな。」

 俺の傍にはいてくれる....が、決して桜さんについては何も言わない。

「せめて、なんで残ったか教えてくれるか?」

【...かつての夢を想い起こし、追い続ける人達を見届けろって、お父さんが言ったから。】

「夢を想い起こし...。」

「追い続ける...だと?」

 想い...起こす...夢...追う....?

「...まさか....。」

「想起...夢追...それってつまり...。」

 あの桜さんの事だ。無意味な言葉を残すはずがない。

「...俺達に、何かを為せと言うのか...。」

【そういう事だね。】

 一体、桜さんは俺達に何を望んでいるんだ...?

「...とにかく、秋十は部屋に戻れ。あいつがいなくなった事は私から伝えておく。...考えるのは学園に戻ってからでも遅くはないはずだ。」

「......わかった。」

 とりあえず、今ここで悩んでも仕方ないだろう。
 そう思って、俺は一度部屋に戻り、臨海学校のスケジュール通りに動く事にした。







「.......。」

「話は聞いたよ秋兄。」

「マドカか。」

 学園に戻った翌日、俺は一人になった自室で考えていた。
 そこへ、マドカがやってくる。

「一応、先日のあの事件は口止めされているけど、やっぱりどこかからか情報が洩れているみたい。既に桜さんやユーリのISのスペックの事がバレてる。」

「大方、どっかの国が見てたんだろう。それを、自分の所の生徒に教えた。」

「幸い、ユーリは人望があったからそこまで大変にはなっていないけど、桜さんは一組以外だと結構噂になっているよ。」

 桜さんの事は千冬姉から“行方不明”という事にされた。
 その事も相まって、桜さんの事で根も葉もない事が言われている。

「...ユーリの精神状態は?」

「なのはやキリエ達がいるおかげで、大事にはなってないよ。だけど、時間の問題。桜さんがいない今、悪意はユーリに集中するだろうね。」

「早めに手を打つべきか...。」

 ユーリだけじゃない。徐々に会社の評判も悪くなっていく。
 桜さんが何か手を打つだろうけど、それまで持つかどうか...。

「一部の女尊男卑の連中がうるさいよ。千冬姉を中心として鎮圧を行っているけど、あまり効果がないみたいだし、秋兄も気を付けて。」

「桜さんに加えて、あいつの処遇だからな...。了解した。」

 桜さんはともかく、あいつのせいで俺にも飛び火している。
 今更、女尊男卑の思想程度で揺らぐ俺ではないが、面倒臭いのには変わりない。

「とりあえず、なのはと簪がユーリを連れてくるから、合流して一緒に食堂に行こう。」

「分かった。できるだけ一緒に行動しておいた方がいいしな。」

 ユーリの精神上、悪意に晒されないようにしたいが....難しいしな。
 幸い、ユーリを味方する人物は各クラスに一人はいる。
 おかげでサポートがしやすい。

「それと、シャルも連れて行った方がいいと思うよ。」

「同じ会社に所属しているからな。確かに、標的にされるかもしれん。」

 早速呼びに行くとするか。





「桜さん....。」

「...大丈夫なのか?」

「一応は...。」

 合流して、食堂で朝食を取る。
 ユーリがずっと落ち込んだ状態で桜さんの名前を呟いていた。
 悪意に晒されるよりも、桜さんがいないショックの方が大きい....いや、逆か。
 悪意に晒され、その上桜さんがいないから、ここまでの状態になっているのか。

「たった一つの事件でここまでになるなんて...。」

「...俺達がどれだけ桜さんに助けられていたのかがよくわかるな...。」

 女子生徒の一部から俺達に敵意を向けてくるのがわかる。

「(キリエさん達には千冬姉や山田先生がいるから大丈夫だとして...何かしらの対策を早く立てておかないとな...。)」

 そう考えていた時、食堂にあるテレビモニターが全て映らなくなる。

「なに...?」

「壊れたの?」

 突然テレビが暗転し、ノイズが走り始める。
 その事に皆が騒めくが....。

【はろはろー!皆、元気でやってるー?】

【今日は大事な知らせがあるから、全世界のテレビ媒体をハッキングしたぜ!】

 そこに映った二人の天災に、完全に静まり返った。







 ...行動を起こすにしても、何してるんですか二人とも...。









 
 

 
後書き
次回、2章最終回です。

桜たちは日本語で喋っていますが、外国での映像にはきっちりその国の言語の字幕が付いています。なんだこの無駄な高性能さ...。 

 

第47話「激動の世界」

 
前書き
本来の夢のために一度世界をかき乱す...。
桜・束「多分これが一番早いと思います。」

要約すると二人の行動はこんな感じです。
実際、一度レールから外さないと難しいですしね。
 

 



       =out side=





 突然のハッキングからの桜たちの登場に、IS学園の生徒は騒然となる。
 否、全世界のテレビ媒体をハッキングしているため、IS学園どころか全世界が騒然としていた。

【そうそう。ハッキング対策するのは別に構わないけど、とーっても大事な事を聞き損ねちゃうよ?それでもいいなら対策してもいいけどね。】

「なにやっているんだあの馬鹿どもは...。」

 さもそれが当然かのように言う束に、食堂に駆け付けた千冬がそういう。

【それじゃあ、ほとんどの人が知っているだろうけど、自己紹介するね!私こそがISを創り出した天才科学者、篠ノ之束さんだよ~!ぶいぶい!】

【その幼馴染、神咲桜だ。容姿も頭もこいつに似ているが、れっきとした別人だぜ?】

 束の事はともかく、桜の事で各国は驚きの反応を見せる。
 いきなり無名の人物がまるで束と同じ立ち位置のように現れたからだ。

「.........。」

「.........。」

 秋十達は他が騒めく中、黙って映像を見続ける。
 ようやく何をしているか分かったものの、今後の行動が気になるからだ。

【さて、なぜこうしてハッキングしてまで現れたかと言うと...。】

【ぶっちゃけさ、いい加減ISを本来の使い方してくれないかな?】

 さっきまでのテンションと違い、非常に冷めた声で束が言う。

【一般のIS操縦者が知らないのはまぁいいけどさ、一部の連中...特に私が初めてISを発表した時に聞いてた連中はさ、“どういう目的”で作ったのか知ってるよね?】

【束の...俺達の想いを込めたISは、その目的に沿った存在になっているかねぇ?】

「....本来の目的...か。」

 二人の言葉に千冬が反応する。

【まぁ、聞くまでもないよね。私は宇宙に羽ばたけるようにISを作った。なのに、今の世界はどうなっているの?】

【女性しか乗れない欠陥を抱えたまま、スポーツに使われたり...挙句には女性しか使えないという事で世界の風潮も変わってしまった...まぁ、控えめに言ってひどいな。】

【というか兵器呼ばわりってなにさー。私はロケット以上に小回りの利く“翼”を発明しただけなのに、誰一人として同じ見方をしてくれないじゃん。】

 “だから”と二人は区切り、驚愕の一言を放つ。

【ISを今までのように乗れなくしました!わー、ぱちぱち!】

【乗れなくなったと言うより、ISの意志に認めてもらえない限り、乗せてもらえなくなったと言うべきだな。つまり、ISにも拒否権ができたって訳さ。】

 その言葉に、放送を見ていた各国の人はISを起動させようとする。
 しかし、一向に起動しないという事実に愕然とした。

【そうそう。既に以前からISに認めて貰えてる奴もいるぜ?ISを乗り物ではなく、相棒や“翼”だと思っている奴には力を貸してくれる。現に俺の知り合いにもいるしな。】

【他にも、ISと協調できたとしても乗れるよ。】

 淡々という桜たちだが、それを聞いた者達は秋十達以外それどころではなかった。
 突然ISに乗れなくなる。...それは、今まで男性に対して絶対的な抑止力がなくなってしまったのと同義なのだ。
 ISが現れる前と変わらない者はともかく、女尊男卑の風潮に流されていた女性たちはそれはもう阿鼻叫喚ともいえる状態になっていた。

【はははっ!混乱してるな!まぁ、それが狙いだったからな!】

【自分がでかい態度を持てた要因がなくなって、それで喚かれてもねぇ。】

【ま、因果応報って奴だな!】

 まさに悪役と言った雰囲気で喋る桜と束。

【まぁ、こんな嫌がらせ染みた事をして、“なぜこんな事を”と思う奴もいるだろう。】

【私たちの目的は、幼い頃...ISを思いついた頃から変わらない。】

【俺達はISで宇宙に羽ばたく。】

【そのために、世界を変える。この、歪んだ世界を。】

 ただの戯言だと、誰もが思おうとして、思えなかった。
 実際、既に手玉に取られているからだ。

【そうそう。先日、IS学園の臨海学校で生徒の専用機のスペックが規格外だとか、他にも根も葉もない噂が流れたみたいだけど...。】

【あれ、ぶっちゃけ俺らが仕組んだ事だから。】

「えっ....?」

 ユーリの事を示したその言葉に、ユーリが驚く。
 実際はエグザミアの意志が過保護なのと単一仕様に欠陥があっただけだからである。

【なんでも既存のISのスペックを上回っているんだって。それで、そのISを作ったワールド・レボリューションが疑われてるとか。】

【気の毒にな。俺達に利用されて、それで周りから敵視されるなんて。】

【私たちで仕込んでおいてそれはないよー。】

「どうして....。」

 あからさまにヘイトを集める言動に、ユーリは声を震わせる。
 だが、その行動は、ユーリも“被害者”だったと思わせる事となる。

【この際だから言っておくが、そのISは俺のISを完成させるための試験機だ。まぁ、今となってはどうでもいいから放置してたんだけどな。】

【おっと、これ以上ワールド・レボリューションを追い詰めるのはダメだよ?一応、利用させてもらったお礼として、私たちがそれを阻止するからね。】

 釘を刺し、敵意を自分たちだけに向けていく二人。
 ふざけたような言動に聞こえるが、秋十達にはその奥に秘めてある“覚悟”を、映像越しからとは言え感じ取っていた。

【さて...色々長話もしたけれど、止めたければ止めに来ればいいよ?】

【まぁ、ISをあまり使えなくなった奴らにできるのなら...な?】

【もちろん、私たちの大事な人達を人質に取るなんて、そんな馬鹿みたいな事しないよね?...したら、死んだ方がマシな目に遭わせるよ。それじゃあね。】

 そういって、一方的な映像は勝手に切られる。
 そして、本来の映像が流れ始めた。

「....そういう事か...。」

 黙って見ていた秋十が、そう呟く。
 理解したのだ。なぜ、自分たちを置いてどこかへ行ったのか。

「荒れるぞ。これは...。」

「世界中がISに注目してる中、いきなりISが使えなくなると...。」

「...まずは学園の皆を落ち着かせるのが先だ。」

 そういうや否や、千冬は一喝し、騒ぎだそうとする生徒を黙らせる。

「落ち着け!慌てた所で何も変わらん!今は自室に戻り、待機するように!こちらでも緊急の対処を行う。連絡があるまで勝手な行動は慎むように!」

「マドカちゃん、キリエ先生とアミタ先生は?」

「別の場所...でも、千冬姉が先生を集めると思うから大丈夫。」

 なのはの言葉にマドカはそう答え、ユーリに話しかける。

「ユーリ。」

「...桜、さん...どうして....。」

「ユーリ!!」

「っ...マドカさん...。」

「今は自室に戻るよ。そこで落ち着いて考えよう。」

 ユーリを宥め、秋十達はすぐに自室へと戻っていった。









       =桜side=





「...皆驚いているだろうな。」

「ゆーちゃんはショックだろうねぇ...。」

 全世界に俺達の映像を届け、それが終わった後で俺はそう呟く。

「さー君の見立てでは誰がISを使えると思う?」

「ユーリちゃんは確定として...秋十君やマドカちゃんも行けるだろうな。不確定ではあるが、俺が学園で仲良くしていた奴のほとんどが乗れるだろうよ。...ただ、ISの意志と向き合うという前提が必要だが。」

「女尊男卑の連中はまず使えないからねぇ。そんな思想を持っていなくても、ISをただの“乗り物”として認識していたら意味がないからね。」

 俺達がISに対して施した事は大きく分けて四つ。
 一つ目は、全体的な機能のアップデート。さらに宇宙に羽ばたくためだ。
 二つ目は、宇宙での活動にさらに適応するように改善。
 三つ目は、女性しか扱えない欠陥の解決。これにより、男性も扱えるようになる。
 四つ目は、先程も言っていた通り、ISが認めなければ乗れなくなった。

「よし、次の段階に移るぞ。」

「まずは各国からの干渉の遮断。それから地盤を固めないとね。」

「今までの束のように逃げ回るのではなく、一種の要塞と化す。」

 そのために、色々な事をしなければならない。
 協力者が不可欠だし、核爆弾の事も考えておかなければならないしな。
 早々使ってくる事はないが、それを防げる防御力は必要だ。

「...まぁ、その辺においては...。」

「私たちに任せてもらおうか!」

 この人(ジェイル・スカリエッティ)がいるから、大丈夫だしな。

「束、核爆弾への対策は?」

「理論上は核爆弾を3個分まで防げるよ。ただ、放射能は難しいね。」

「一つ程度ならどうとでもなるが、それ以上は難しい...か。」

 なら、改良をしておかないとな。

「各勢力の状況は?」

「どこもかしこも慌てているな。今の所何か行動を起こしてくる訳でもない。...今のうちに圧力をかけておくか?」

「そうだねー。適当にウイルスでも流しておけば?」

「オーケー。」

 所謂“絶対悪”。そのような存在に、俺達はなろうとしている。
 そのために、世界を混乱に陥れているのだ。

「とりあえず一日で全世界を相手にできる程にまで態勢を整えるぞ。」

「任せて!システム面ではもう完璧だから、後は物理面だけだよ。」

 システムにおいて、以前から束でも十分だったからな。
 そこに俺も加わればまず負けない。
 だが、直接の場合はそうとは言えないから、こうして対策を続けている。

「桜、束ちゃん、飲み物はいるかしら?」

「母さん?...ちょうどいいや、貰うよ。」

「私も!喉渇いてたんだよね!」

 そこへ、母さんがお茶を淹れてくれる。

「...それにしても、母さんはよかったのか?」

「何が?」

「俺達についてきた事。何をするか分かっていても、どう考えてもいい事ではないのに。」

 俺達についてきたのは、元々裏組織であった亡国企業穏便派と、俺達と共に世界を変える事に興味を示した変人くらいだ。
 母さんは俺達と違って常識人だから、ついてくるとは思えなかったが...。

「...ただ、離れ離れに...桜の事を知りえない場所に置いて行かれるのが嫌だっただけよ。例え悪い事でも、私はついて行くわ。」

「母さん...。」

「でも、無茶はさせないわよ。大事な息子なんですもの。」

「...わかったよ。」

 “悪い事”を容認するのは親として失格だが、それだけ俺を心配しているという事だ。
 長い間、ずっと一人にさせてたからな...。

「それじゃあ、頑張ってね。」

「ああ。」

 母さんが去っていき、ジェイルさんもいつの間にかいなくなっていた。
 部屋には、俺と束しかいなくなる。

「....ゴーレムはできてるか?」

「一応ねー。今の状況なら、これで行けるでしょってぐらいかな。」

 次の段階に進む際に、やっておかなくてはならない事がある。
 それを為すためにゴーレムを使うんだが...。

「秋十君達がいる限り、足りない気もするんだがな...。」

「ここは悪役らしく、人質でも取ってみる?」

「それ、場合によっては噛ませ犬になる奴だろ...。まぁ、有効な手段だが。」

 これはちょっと非人道的だから、母さんとかにも知らせていない。
 ...まぁ、傍から見れば大して変わらないけどさ。

「...ユーリちゃん、大丈夫かね。」

「あっ君とまではいかなくても、過酷な人生を歩んできたからね。決定的な裏切りとかがない限り、大丈夫だと思うよ。」

「なんなら、連れてきたら説明しておくか。」

 そう。俺達がやろうとしている事は、IS学園の襲撃及びユーリちゃんの拉致。
 エグザミアのスペックが露見してしまった今、何かしらの悪意に狙われるだろう。
 だから、会社よりも“被害者”にする。そのために拉致するのだ。

「エグザミアは今は学園が預かっているから...。」

「俺が侵入して取ってくるさ。以前、千冬に付き合って奥の方に入ったからな。」

「じゃあ、任せるよ。ジャミングとかはこっちに任せて。」

 まぁ、以前に俺が入っていなくても、その気になれば内部構造は分かるけどな。

「決行は?」

「早い方がやりやすいかもねー。」

「じゃあ、明後日の朝でいいだろう。」

「...仕掛ける側が言うのもなんだけど、割とひどいね。それ。」

 ただでさえ混乱している状況なのに、その上早朝に仕掛けるのだ。
 パニックになるだろうから、確かにひどいな。
 まぁ、“悪”として名を知らしめるにはこれぐらいしないとな。
 それに、下手に対策されると誰かを殺してしまうかもしれないし。

「警戒すべき相手はどれくらいかな?」

「まずISを使える連中だな。その中でも要注意が千冬と秋十君、マドカちゃん。次いでラウラ、生徒会長、山田先生、キリエとアミタって所か。ユーリちゃんは精神状態から搦め手に弱くなっているだろうし、他は実戦経験が少ないのが多い。」

「ゴーレムじゃ厳しいかなぁ。」

 まぁ、ゴーレムは以前学園に来た数とは比べ物にならないけどな。
 その代わり、ISコアを使用していないから滅茶苦茶弱いが。

「いざとなれば俺がゴーレムの指揮を執る。想起も暮桜もない千冬と、今の秋十君やマドカちゃんなら相手にできるだろう。」

「油断はよくないよー?」

「いや、しねーよ。できねーよ。既にどれぐらい強いかは知っているしな。」

 最終世代としての性能を使わなければ一人ずつしか相手にできないだろう。
 それほどまでに強いからな...。

「じゃあ明後日の朝に決行だね。...気を付けてよ?この状況なんだから、ちーちゃんが私たちに対して相当警戒しているだろうから。」

「ああ。わかっているさ。」

 おそらく、突入前に気づかれるだろう。
 それでも、数はこちらの方が多い。短時間なら押せるはずだ。

「話は聞かせてもらったわ!」

「人類は滅ぼげらっ!?」

「いきなり現れてふざけないでください。俺も反応に困ります。」

 四季さんと春華さんの突然の登場に、手元にあったPCのマウスを投げつけてしまった。
 見事に四季さんの顔面に命中したが、当の本人はピンピンしてた。

「しっかりツッコミが出来てるじゃないか。」

「咄嗟の反応ですよ...。まったく、それで、何の用ですか?」

 この人達は本当に何を考えているのかわからない。
 俺や束でさえ予想だにしない事を仕出かしたりするのだ。

「千冬の足止めは、俺達に任せてもらおう!」

「失踪したはずの親が邪魔してくるとかなかなかひどいですね。」

「ぐはぁっ!?」

 皮肉を言ったら吐血するような動きをして膝をつく。
 ...いや、この人は何がしたいんだ...?

「とにかく、IS学園襲撃は私たちも参加するわ。」

「...いいんですか?そんな事をすれば...。」

「貴方達は私たちにとったらまだまだ子供よ。大人に任せなさい!」

 いい事言ったつもりな春華さんだが、俺達には楽しんでいるのが丸わかりである。
 ...ホント、何考えてるんだこの人達は...。

「...まぁ、そこまで言うのなら...。」

「ちょっと二人を加えてでの動きをシミュレートするねー。」

 束に作戦の組み立てを任せ、俺は二人の相手をすることになる。
 ...二人の相手は苦手なんだが。











   ―――賽は投げられた。

   ―――世界は乱れ、混乱に満たされるだろう。

   ―――後は、その矛先を一つの未来に収束させるだけだ。









 
 

 
後書き
これ以上やると長引くので短めで終了です。

この小説の目的に、凡才(秋十)が天才(桜)を打ち倒すというものもあるので、最終章である次回からはそんな展開になっていきます。
...原作?ナニソレオイシイノ? 

 

キャラ設定(2章終了時点)

 
前書き
第2章キャラ設定。
ただし、1章の時よりも簡潔にしています。(キャラが多いので)
 

 
 神咲桜(かんざきさくら)

この小説の主人公。専用機は“想起・桜”。
並外れた身体能力と頭脳を持ち、それを以って色々やらかす。
基本的に気に入った相手には何かと優しい。
デュノア社を気まぐれで潰したのも気に入った相手(シャルロットとデュノア社長)のため。
臨海学校にて、暴走したエグザミアを抑えるためにISのリミッターを解除。
ついでにセカンドシフトもし、見事に暴走を完全に止めた。
そのせいで、力が露見し、世界を変える予定を早めたらしい。
世界中に宣戦布告したが、飽くまでふざけているようなもの。
秋十に眠る可能性を信じ、束の秘密ラボで待ち構えている。



 織斑秋十(おりむらあきと)

第二の主人公。専用機は“夢追”。
才能はないが、異常な努力を以って一般人を遥かに上回る身体能力を持つ。
その正体は、転生者の発生により、本来の器から追い出され、世界を見守る神が急遽創り出した器で生きる事になった、“織斑一夏”だった。
急遽創られた体なため、才能と言えるものが軒並みなかったのである。
本編ではあまり描写されていないが、早朝に日課である素振りや走り込みも行い、今も力を上げ続けている。成長するスピードは遅くとも、伸びしろに限界がない。
桜が世界を変えて何をしたいのか、白を託して何を為してほしいのか、まだ理解はできていないものの、必ず追いついて見せると、今も日々努力を重ねている。



 ユーリ・エーベルヴァイン

桜のヒロインの一人。専用機は“エグザミア・U-D”。
かつて出来損ない扱いを受けていたため、性格は引っ込み思案で大人しい。
しかし、それを補う程の優しさを持っているため、クラスではマスコット扱い。
自分を救ってくれた桜に恋をしており、若干依存している。
そのため、桜がいなくなった事に最もショックを受けてしまった。
所持するエグザミアの意志はユーリに対して過保護なため、臨海学校にて人格が表面化。
単一仕様の欠陥から暴走する事になる。
桜たちによって止められたが、その際にセカンドシフトもしてしまったらしい。
ISのスペックが露見し、不可抗力とはいえ暴走してしまった事から、周囲から敵視される事になり、それがユーリの精神を蝕んでいる。
早く手を打たない限り、このままではユーリの心は壊されてしまうだろう。



 篠ノ之束(しのののたばね)

皆さんご存知天災博士。専用機は“想起”。
原作よりもだいぶ優しくなった性格ではあるが、根底はあまり変わらない。
桜と同じようにその異常な才能を使って色々引っ掻き回している。
“原作”らしく進むように裏で少し細工をしたりしていた。
...実際は“原作”のように見えて全然違ったが。
本編で描写はないが、桜と同じ“想起”を専用機としている。
本編で唯一桜の秘密を全て知っており、“原作”や“神”の存在を知っている。
しかし、だからどうするという事もなく、世界を変えるために暗躍する。
なお、千冬達が止めに来るだろうという事は重々承知しているらしい。



 織斑(おりむら)マドカ

原作と違い、秋十の双子の妹。専用機は“黒騎士”。
洗脳が解けてからは、若干シスコンな性格になった。
肉体的な才能は千冬に劣るとはいえ、凄まじいもので、秋十を上回る。
ISにおいても、秋十に何勝もしている。(が、負ける事もある。)
4組に在籍しており、ユーリや簪を支えていた。
桜たちの宣戦布告も、何か訳があるのだと気づいてはいる。
今は傷心中のユーリをどうにかしようと、奔走している。



 織斑一夏(おりむらいちか)

原作での主人公。ただし、中身は転生者。専用機は“白式”だった。
一夏に成り代わり、ハーレムを成そうとした転生者。
転生をさせてもらった神に洗脳の力を貰い、それによって束や千冬、箒達を洗脳した。
原作にはいない秋十の事を、同じ転生者だと思い、徹底的に追い詰めた。
秋十が誘拐され、助け出されなかった事から敵はいないと楽観視していたが、後に現れた桜と秋十によって、その想いは崩される。
洗脳の力は世界の意志そのものに止められ、洗脳が掛けられた者も桜の力によって正気に戻され、徐々に居場所をなくしていく。
何もかもが上手く行かなくなり、ついには重要な状況下で桜を刺す。
殺人未遂から、専用機は剥奪。数少ない男性操縦者という事で、自室謹慎で済んでいるが、既にISには乗れないと宣告されている。
しかし、未だ反省はせずに、それがさらに自分の首を絞める事になっている。



 織斑千冬

桜のヒロインの一人。専用機は“暮桜”だった。
原作と違い、ある程度優しく家族想い。だが、やっぱり厳しい。
洗脳されていた事もあり、秋十に後ろめたさがあったが、無事和解。
その後は、身内贔屓をしないように普通に教師をしていた。
色々と勘が鋭い事もあり、桜や束の思惑に気づいたりする。
だが、それでも気づけない事があり、桜と束が何を為したいのかがわかっていない。
現在は学園の教師として桜たちを警戒しているが、近いうちに幼馴染の一人として、二人の行方を追いたいと考えている。



 篠ノ之箒(しのののほうき)

原作でのヒロインの一人。専用機は“紅椿”。
洗脳され、秋十に対してきつく当たっていた事に負い目を感じている。
今でこそ、和解した事で普通に話せるものの、話に持ち出されると気まずくなる。
かつて秋十が物陰で一人努力し続けていた姿を見て、幼いながらも憧れを抱いていた。
束もその秋十を評価していたのもあり、その時から気にしていたらしい。
一夏の奇行に疑問を抱き、シグナムとの手合わせで秋十との思い出を思い出す。
後に桜に洗脳を解いてもらった。
自身がまだ未熟だと思っており、束に紅椿を貰っても使いこなせないと思っていた。
それでも、助けになりたいという想いから、単一仕様を発揮し、秋十達を助けた。
姉である束には未だ苦手意識があるが、秋十達のように、家族らしくありたいとも思っているため、世界に宣戦布告した束を何とかして止めたいと思っている。



 鳳鈴音(ファン リンイン)

原作でのヒロインの一人。専用機は“甲龍”。
かつて、イジメられていた時に同じようにイジメられていた秋十に助けられる。
自身もイジメられているのに助けようとしたその真っすぐさに、惚れる。
しかし、箒と同じように洗脳され、その思い出は塗り替えられてしまう。
クラストーナメントでの事件で洗脳が解かれ、後に秋十と和解する。
ただ、弾や数馬、その家族には負い目を感じており、申し訳なく思っている。




 セシリア・オルコット

原作でのヒロインの一人。専用機は“ブルー・ティアーズ”。
数少ない、原作開始までに変化のなかったキャラ。
代表決定戦で桜に負け、自身の未熟さを思い知る。
それからは、桜に師事してもらいながら、“水”を徐々に扱えるようになる。
既に偏光制御射撃もある程度は扱えるようになっている。
原作と違い、桜の方を好いているが、出番は今の所少ない。



 シャルロット・ローラン

原作でのヒロインの一人。専用機は“ラファール・リヴァイヴ・カスタムII”。
桜に色々引っ掻き回された子。おかげで耐性がついた。
原作通りにスパイとして学園に来て、あっさり桜たちに男装を見破られる。
その後は、父親の依頼を受けた桜の気まぐれで、ワールド・レボリューションに所属。
父親共々引っ掻き回された事で、多少の事では驚かなくなった。
ちなみに、ついでのように実の母親の苗字に改名された。
また、度々桜たちにISの指導をされるため、腕もメキメキと上げている。
原作と違い、特定の誰かを好いている訳ではない。(恩は感じている)



 ラウラ・ボーデヴィッヒ

国からの命令で、IS学園に入る。専用機は“シュヴァルツェア・レーゲン”。
1章で原作での問題をほとんど解決したために、だいぶ柔らかい性格になっている。
コミュニケーション能力も着実に付けており、すぐにクラスに馴染むことができた。
クラリッサの入れ知恵で秋十の事を“兄様”と呼ぶ。ただし、意識してそう言っているだけなため、咄嗟に呼ぶ時は普通に“秋十”と呼ぶ。
洗脳については一通り知っているため、原作よりも一夏への当たりは強い。
実力も高く、秋十のライバルとして日々精進している。



 更識簪(さらしきかんざし)

原作では4組唯一の専用機持ち。専用機は“打鉄弐式”。
ユーリと同じクラスで、IS学園で初めてのユーリの友人。
原作通り白式の開発によって自力で専用機を完成させようとしていた。
それを、ユーリが根気よく説得し、ユーリや本音に手伝われつつ、完成させた。
“水”に適正を持っており、未だ本質を扱えていないものの、表面上で出来る動きを上手く利用してISの動きをよくしている。
姉である楯無とは一度全力で戦って和解した。
それからは、姉にも弱点やダメな所があると知り、姉に対する劣等感はなくなった。



 更識楯無(さらしきたてなし)

IS学園生徒会長。専用機は“ミステリアス・レイディ”。
対暗部用暗部の当主でもあるため、桜の異質さに気づく。
ただ、それ以上に簪に対して負い目を感じているため、へたれさが目立つ。
ワールド・レボリューションを怪しんでいたが、ユーリの助力のおかげで簪と向き合える事になったので、感謝はしている。また、個人的には信用できると踏んでいる。
生徒会長たらしめる実力は備えてるが、さすがに桜には劣る。
更識家として、桜たちを警戒しているが、個人的には無意味だと悟っている。



 布仏本音(のほとけほんね)

のほほんとした癒し系キャラ。専用機はない。
原作通りのほほんとした性格で、秋十達のクラスメイト。
更識家に仕える家系であり、簪の友達兼従者。
のほほんとした性格と雰囲気とは裏腹に、中々な切れ者。
桜すらそのギャップに唸る程で、対人技術とISの操作技術に優れている。
ただ、最近は簪がユーリと仲良くしているので寂しさを感じているらしい。



 鷹月静寐(たかつきしずね)

秋十のクラスメイト。専用機はない。
アニメではあまり出番がなかったため、原作と細部が違う可能性がある。
タッグトーナメントにおいて、秋十とペアを組んだ。
操作技術や武器の扱いも常人のソレだったが、秋十の指導の下、ある程度上達する。
付け焼刃とは言え、トーナメントではユーリ、なのはを相手に立ち回った。
なお、出番はトーナメント以来ほとんどなく、そのままフェードアウトしていった。



 高町(たかまち)なのは

リリカルなのはからゲスト出演。専用機はない。
四組所属。芯が強く、優しい性格である。ただ、真っすぐすぎて“魔王”とか言われる。
タッグトーナメントでユーリとペアを組み、秋十に対して剣術で上回る。
元ネタと違い運動音痴を克服しており、御神流を習得している。
御神流を最大限に生かしてISを使った場合、訓練機だと処理が追いつかなくなる。
ちなみに、御神流は極めるとISともやり合える設定である。



 八神(やがみ)シグナム

リリカルなのはからゲスト出演。専用機はない。
三組所属。元ネタ通り騎士っぽい性格をしており、負けず嫌いな面も。
ドイツ出身という事で、タッグトーナメントではラウラと組んでいた。
剣道ではなく剣術を磨いており、箒は学園で出会った好敵手だと思っている。
箒の洗脳を解く切欠にもなった人物である。



 八神(やがみ)はやて

リリカルなのはからゲスト出演。飛び級で大学卒業済み。
何人ものドイツの親戚と共に暮らしており、束に次ぐ天才と言われている。
グランツやジェイルと協力して、新しいゲームを作り出そうとしている。
既に社会人ではあるが、実年齢はまだ高校一年生程。
本屋を経営しており、研究者などの一面は趣味な感覚が強いらしい。
家族構成は元ネタ(innocent)と同じ。



 グランツ・フローリアン

リリカルなのはからゲスト出演。ワールド・レボリューションの社員。
女尊男卑によって職をなくしていた所を、桜たちにスカウトされた。
元ネタはinnocentの方なため、病などは抱えていない。
ユーリのエグザミアを作った一人であり、チヴィットを作った人物でもある。
はやて、ジェイルと共にゲームを作り出そうとしている。
娘が二人おり、二人はIS学園四組の担任である。
ちなみに妻もいるが、出番はない。



 ジェイル・スカリエッティ

リリカルなのはからゲスト出演。ワールド・レボリューションの社員。
グランツと同じ経緯で会社に所属した。グランツとは研究生時代の同期。
黒幕や悪役と言ったものに少し憧れており、夢は世界征服。
ただし、恐怖などの征服ではなく、発明品を知らしめて流行らせる事による征服らしい。
本人曰く“裏で牛耳っている感じがしていい”との事。残念イケメン。
はやて、グランツと開発しているゲームもその一つとの事。
桜たちが表舞台から消える際に何人かの娘と共について行った。
妻子持ちだが、やはり出番がない。



 アミティエ・フローリアン

リリカルなのはからゲスト出演。専用機はない。愛称はアミタ。
グランツの長女。三つの言葉のアルファベットの頭文字で略すのが好き。
体育会系な熱血っぽい性格をしているが、別に体育会系ではなかったりする。
父であるグランツを雇ってくれた桜達には恩を感じており、IS学園の教師を請け負ったのもその恩を返すためだったりする。
ユーリに対しては妹のように思っており、臨海学校後はなるべく一緒にいた。



 キリエ・フローリアン

リリカルなのはからゲスト出演。専用機はない。
アミタの妹で、人をからかったりするのが好き。
アミタと同じ経緯で同じく4組の副担任に。
普段は教師らしからぬ軽さだが、いざと言う時はその軽さで相手を翻弄する。
ユーリを妹兼からかいの対象として見ており、アミタ同様大事にしている。



 ウーノ・スカリエッティ

リリカルなのはからゲスト出演。専用機はない。
ジェイルの長女。秘書みたいな事もしている。
父であるジェイルの事をどことなく恋い慕っている...?タイプらしい。
基本的にジェイルに付き従っており、家事万能で優秀。
桜についていくジェイルに、そのままついて行った。



 ユリア・エーベルヴァイン

オリキャラ。専用機は“ゴルト・シュメッターリング”。
ユーリの姉。3年2組所属。
落ちこぼれなどと言われたユーリを最も蔑んでいた。
腐っていくエーベルヴァイン家の代表のようなものであり、これでも代表候補生。
ユーリがいなくなって清々してたらしいが、後に試合で負ける。
代表候補生とだけあって弱い訳ではないが、ユーリには大きく劣る。
...尤も、本編ではエグザミアの意志が出張ったため、さらにひどく叩き潰された。



 ハインリヒ・ローラン

オリキャラ。
シャルロットの父親で、元デュノア社社長。
周りにはばれないように、シャルロットを支えようとしてきた不器用な父親。
スパイとしてシャルロットを送り、桜たちに助けてもらうように依頼していた。
桜とは会社として知り合い、連絡を取り合うように。
そのおかげで桜に気に入られ、気まぐれによって助けられる。
現在は身分を隠しながらワールド・レボリューションで働いている。



 五反田弾(ごたんだだん)

原作での一夏の親友。
いじめられていた秋十の数少ない理解者の一人。
最初の頃は、周りと同じように秋十を馬鹿にするように見ていたが、何度も直接秋十と会っている内に次第に親友へと仲が発展していった。今では良き理解者。
親友である秋十の支えにあまりなれなかった事に悔しさを感じている。
秋十がいなくなった時は妹の蘭と共に悲しみ暮れたらしい。
再会してからは、かつての元気を取り戻し、鈴やマドカとも和解した。



 高町恭也(たかまちきょうや)

リリカルなのはからゲスト出演。元ネタよりも強い。
なのはの兄で、“御神流”という剣術の使い手。社会人。
作中で束や千冬以外で唯一桜を追い詰める事が可能な人物。
長年の鍛錬の成果を生かし、ボディーガード関連の仕事に就いている。
なお、既に婚約者がおり、婿入りの予定らしい。



 
 

 
後書き
こう見るとリリなのからのキャラが多すぎる件。
ユーリから芋蔓式でどんどん出しましたからね...。 

 

第48話「“対話”」

 
前書き
―――見てみたくはないか?凡才が天才を超える瞬間を。

...と言う訳で最終章です。転生者関連でのやる事は終わったので、最後の修正です。
 

 





       =out side=







「...やはり無理、か。」

「このままでは授業もできませんね...。」

 学園にあるISの前で、千冬と真耶はそう呟く。
 桜たちの世界に対する宣戦布告の後、結局学園は臨時休校。
 教員たちで対処に動いていた。

「専用機持ちはどうなんだ?」

「....何人かは動かせますが、全員ではありません。」

「...ISに対する印象か...。動かしているのは?」

「一年の篠咲君と篠咲さん、それと更識さんだけです。他の方は...なんというか、動かせそうで動かせないと言った、一押しが足りない状態のようです。」

 元々“翼”や“相棒”と言った印象でISを使っていた秋十とマドカ、簪は動かせるが、道具とは思っていなかったものの、あまりそう言った印象ではなかった他の者は、後一押しが足りないかのように動かせないらしい。

「...一度、一年の専用機持ちと生徒会長をアリーナに全員集めてくれ。」

「分かりました。」

 千冬が真耶にそう指示を出し、真耶は駆けだす。

「飽くまで自由に羽ばたくための“翼”。...ISそのものに気に入られない限り、乗れないと言うのなら、私が後押ししてやるか。」

 一人残った千冬は、一足先にアリーナに向かいつつ、そう呟く。

「勝手に全てを背負い込むなど、させんぞ馬鹿者共が...。」

 二人の幼馴染として、千冬は止めようと決意を新たにした。







「集まったか。」

「...専用機持ちを集めてどうするつもりなの?冬姉。」

 一夏を除いた専用機持ち全員を千冬は見渡す。
 そこへ、なぜ集めたのかマドカが聞く。

「今、世界中はパニックに陥っており、それに付け込んで悪事を起こす輩も増えるだろう。そして、女尊男卑の風潮を生み出したISを恨む者が、このIS学園を攻めてくるかもしれん。」

「...ありえる話ですね。実際、更識(こちら)でもそういった怪しい動きは捉えています。」

 混乱に乗じて悪事を為す輩が出てくると、千冬は前置きを言う。

「そのため、防衛のためも兼ねて、お前たちにISを動かせるように....いや、ISで羽ばたけるようになってもらう。」

「...なるほどね。」

 言い直した千冬に、マドカは言わんとしている事を理解した。

「防衛も“兼ねて”...ね。私と秋兄、簪以外は動かせそうで動かせなかった。...“対話”させるために皆を連れてきたんでしょ?」

「...ばれていたか。その通りだ。元々専用機を持っている者は何かしらISに思い入れがある。大抵は“相棒”と言った風にな。だが、それでもお前たちが動かせそうで動かせないのは、未だにISを道具としての相棒として思っていないからだ。」

「道具として...ですか。」

 思い返してみれば、ISは飽くまで乗り物だと思っていたと、セシリアは呟く。

「お前たちは、ISにとって“乗り手”としては信頼に足るものの、“担い手”としては一つ欠けている。それが今言った事だ。先日束が言っていたように、ISは宇宙(そら)に羽ばたくための“翼”でしかない。」

「私たちの、無意識下におけるISに対する認識を変えろ...という訳ですか。」

「そう言う事になるな。」

 楯無の言葉を千冬は肯定する。
 だが、それは言葉にするのなら簡単だが、実際は難しい事だ。
 無意識下...それはただ意識して直そうとしても直せないものだ。

「何もすぐに変えろとか、宇宙に羽ばたく事を強制する訳ではない。道具として扱わず、“翼”や“相棒”として接するという覚悟を見せればいい。」

「覚悟...ですか。」

「まぁ、一言で言えば...お前たちは自分の専用機を“説得”しろ。それだけだ。」

 ISにも意志があり、それが搭乗者を拒むのならば...和解すればいい。
 そう言外に千冬は言った。

「秋十、マドカ。エーベルヴァインを頼む。私はあいつらを見ておく。」

「分かった、千冬姉。」

「...それにしても、今はプライベートになるの?普通に接してるけど...。」

「このような状況だ。気にしてられん。」

 精神的に不安定なユーリは秋十達に任せられ、千冬は他の者を見ておく事にした。

「ユーリ...大丈夫?」

「...大丈夫...です。IS学園が危ない事は分かっていますから、皆さんを信じましょう。」

「そうじゃなくて!ユーリは...ユーリ自身は大丈夫なのか聞いてるの!」

 普段の様子とは打って変わり、暗い雰囲気なユーリに簪はそういう。
 友人として、心配しているのだ。

「...やっぱり桜さんがいなくなった事が響いているか...。」

「それだけじゃないよ。桜さんが束さんと一緒に世界中に宣戦布告...つまり、どうであれ形式上、桜さんは私たちを“裏切った”事になる。それが一番の原因だろうね。」

「なるほどな...。」

 何か自分たちの知らない所で企んでいる。
 そうわかってはいるのだが、それでも“裏切られた”事にユーリは耐えられないのだと、秋十は納得する。

「...俺には励ます事は無理だな...。俺とユーリでは、桜さんに抱いている感情は似ているようで全然違う。」

「...そうだね...。」

 二人共桜に助けられた。
 だが、性別の違いが抱いた感情を別のベクトルへと派生させた。
 秋十とユーリ、“尊敬”と“恋心”では全く違うのだ。
 それが理解できてしまったからこそ、無闇に慰める事はできないと、秋十は理解した。

「千冬姉に任された手前悪いが、俺が傍にいても意味がない。ここはマドカと簪に任せるよ。女性同士の方がいくらか気分はマシだろう。」

「秋兄はどうするの?」

「千冬姉と一緒に、皆を手助けしてみる。」

 自分にできる事をやる。そう言って秋十は千冬達の方へと行った。





「....“説得”と言われても、何をすれば...。」

「まぁ、一重にそう言われてもわからないよな。」

「あ、秋十!?いつの間に...。」

 まず手始めに、秋十は箒の所へと生き、手助けする事にした。

「箒はこういうのは苦手そうだからな。」

「む...確かにそうだが...。」

「そこまで難しく考えなくていいぞ。...箒、お前は紅椿を以って何を為したい?それをありのまま伝えればいいんだ。後は、共に歩んで、羽ばたいてくれるかだ。」

「何を為したいか....か。」

 そう呟くと、箒は少し考え込んでから、紅椿に手を当てて語り始めた。

「...私は、始めの頃はISと姉さんを少なからず恨んでいた。普通に過ごしていた私たちが、バラバラになってしまったからな。...だが、最近になって気づいたんだ。姉さんも、未来と夢を壊された側なんだと。」

「箒...。」

 “兵器”として扱われた...その結果、束は行きたかった宇宙に行けなくなった。
 箒は、遅まきながらもそれを理解したのだ。

「そして、姉さんは今、世界を敵に回してでもその夢を強引に成し遂げようとしている...。...それだけは止めたい。」

「.......。」

「“無理矢理”はダメなんだ...!そんな事をしては、ますます私と姉さんは離れてしまう...!まだまだ姉妹らしい事も出来ていないのに...!」

 秋十やマドカ、千冬を見て、箒は少なからず兄妹や姉妹と言った関係に憧れていた。
 しかし、ISが出来てからは束とそれらしい関係になれていなかった。
 だからこそ、さらに離れ離れになるのは嫌だと、箒は言ったのだ。

「私は...共に歩みたい!姉さんと、秋十と...皆と!だから、力を貸してほしい...!」

 それは、転校続きで孤独だった箒の、心からの願いだった。
 しかして、それを聞き届けた紅椿は....。

【...その覚悟、しかと受け止めました。妹様の覚悟が曇らない限り、力となりましょう。】

「っ!?....!」

   ―――その想いに、応えた。

 頭に声が響いたかと思えば、次の瞬間、箒は紅椿を纏っていた。

「乗れ...た...?」

「やったな、箒。お前の想いが通じたらしい。」

 “共に歩みたい”。その願いが紅椿を動かしたのだと、秋十は言う。

「今、声が聞こえたんだが...。」

「...いや、俺には聞こえなかったが...なるほど、紅椿の声だな。」

「そうか...。」

 “意志”があるのならば、おかしい事ではないと箒は断じ、一度待機形態に戻す。

「...少なくとも、姉さん達を止めて、かつての私たちのようになれるまで、この覚悟を歪ませるつもりはない。...これからよろしく頼む。」

「...もう、大丈夫そうだな。」

「ああ、ありがとう秋十。」

「いいって事さ。」

 箒はもう大丈夫だと確信した秋十は、次に鈴の下へと行く。

「...箒は動かせたのね。」

「鈴?どうしたんだ?」

 ただじっと甲龍を見ていた鈴は、秋十が来た事に気づいて振り返る。
 だが、その様子が他の人とは違う事に秋十は気づいた。

「...あたしは皆とは違うのよ。」

「えっ...?」

「...あたしがIS学園に来た理由、知らないでしょ?あたしはね、洗脳されていたからかもしれないけど、あいつに会うためだけに一度蹴った誘いを受けたのよ。...つまりは、ただ私欲でここに来たの。...この子も利用してね。」

 IS学園に来る以前、鈴はIS学園からの誘いを一度蹴っていた。
 しかし、一夏が入学する事を知り、急遽撤回してその誘いを受けたのだ。
 ...代表候補生という立場と、ISを利用して。

「そんなあたしが、“説得”だなんて...生半可な言葉しか並べられないと思ったのよ。」

「鈴...。」

 そんな自分が、乗る資格はないと言う鈴に、秋十は少し言葉を詰まらせる。

「...けど、鈴はそれを“自覚”した。それだけでも十分だ。」

「........。」

「今はどうしたいか、どうありたいか、それを伝える方が大事だ。」

 過去に邪な思いを抱いていたのなら、償えばいい。
 今は違うと証明すればいいと、秋十は言った。

「....わかったわ。あたしも、もっと向き合ってみる。」

「その意気だ。」

 “もう大丈夫だろう”と思った秋十は、ふと辺りを見回してみる。
 すると、ラウラが既にISを纏っていたのが目に入った。

「ラウラ、お前はもう纏えたんだな。」

「ん?まぁな。教官が“説得”しろと言ったからには、こちらからも覚悟を示すべきなのだろうと思ってな。元々道具のように見ていた節もあったが、それがダメだと知った今は、きっちりと切り替えた。...私の相棒であり、同志だとな。」

「ラウラらしい切り替えだな。」

 何よりも、教官である千冬が“翼”だと言ったのだ。
 ラウラにとっても、ISに対する考えを改める一言だったのだ。

「私は、過去にISによって存在価値をほとんど消された...が、その事実があって今がある。その事を私は受け入れている。だからこそ、共に歩むと決めたのだ。」

「...なるほどな。」

 ISを一旦解除し、降りたラウラに秋十は一言そういう。

「師匠達は、ISを道具として見て欲しくないのだろう。飽くまで“翼”...もしくは“相棒”として見て欲しいのだろうな。」

「...ああ。桜さんも束さんもISの事は自身の子供のように見ていたからな。」

 そこへ、千冬がやってくる。

「...箒と鈴はお前に任せて正解だったな。」

「千冬姉?他の皆は....っていつの間に...。」

 他の皆はどうしたかと問おうとして、後ろで皆が纏っているのを見てやめる。

「オルコットは元々“水”を宿す事をあいつに習っていたから、早々に同調した。ローランも桜の影響を受けていた上に、事情もあったからな。“相棒”として見ている側面が強かったらしい。更識も国家代表なだけあって、その側面が強いから、一押しすればあっという間だ。」

「さ、さすが千冬姉...。」

「だが、問題は....。」

 千冬はユーリの方を見て、口ごもる。
 マドカと簪が必死に励ましているが、まだ立ち直っていないからだ。

「彼女をどうするべきか...だ。」

「...ユーリにとっては、“また捨てられた”と思うようなものだからな...。」

「お前やマドカの言葉も届かないという訳か...。」

 届くとすれば、それは桜の言葉だけ。...千冬はそう思った。

「肝心の桜から何かしらのメッセージがなければ、どうしようもないぞ...。」

「...とりあえず、シュテル達もユーリの傍に居させた方がいいと思うけど...。」

「焼け石に水だろうな。だが、少しでも味方が多い方が彼女の精神上マシだろう。」

 端末を使い、自室に待機しているチヴィットに連絡を取る秋十。
 実は、臨海学校で格納領域に仕舞っていたため、しばらく秋十の部屋にいたのだ。

「....だが、あいつがこのまま彼女を放置するとは思えん。」

「ユーリを連れていく...と、桜さんは言ってたから、ほぼ確実に来るはず...。」

「防衛を固める。秋十達は、とりあえず自室に戻ってくれ。」

「分かった。」

 出来る事も少ないため、秋十達は大人しく部屋へと戻っていった。







       =秋十side=





「.....ん....?」

 ふと、気が付けば、そこは不思議な空間だった。
 綺麗な青空が広がり、辺りは草原が広がっている。
 そこまでなら普通の大草原だと思えるが、そこらかしこに何かが浮かんでいた。
 赤、青、黄、緑、白...多種多様な水のような球が浮かんでいる。

「....どこだ。ここ...。」

 その空間の異様さの前に、なぜ俺がここにいるのかがわからなかった。
 俺は、千冬姉に言われた通り、自室に戻って仮眠を取っていたはず...。

「あれは....。」

 遠くの方で、何かが宙で光っている。
 まるで“目指すべき光”のようにソレは光っていた。

「どうして、俺はこんな所に....。」

 前触れも、何もなかった。あまりに唐突すぎる。
 まさか、桜さんの仕業か...?

「...ここは夢追の中だよ。」

「っ...!?」

 突然聞こえた声に、後ろを振り向く。
 そこには、白いワンピースを着た少女が立っていた。

「誰だ....!?」

「ふふ...誰でしょう?声は聞いた事があると思うけど。」

「声.....?」

 目の前の少女の声。...確かに、聞き覚えがある。これは...。

「....白?」

「正解!ご褒美に、ある程度の質問なら答えるよ。」

 そう言って微笑む白。...いや、正しくは白式の意志か。

「夢追の中...って言ったな。詳しく説明してくれるか?」

「あれ?てっきりお母さんたちの事を聞くと思ったけど...。」

「...どうせ答えないと思ったからな。」

 飽くまで“ある程度”だ。おそらく、その範疇を超える質問だろう。

「まぁ、その通りだね。じゃあ、答えるけど...夢追の中とは言ったけど、ここは夢追を表す精神世界でもあるんだよ。だから、そこら中に“夢”があるでしょ?」

「...あの水の球、全部がそうなのか...。」

 よくよく見てみれば、何かしらの光景が中に見える。
 所謂“夢見る光景”と言った物だろう。

「そして、あれが目指す領域。追い求めたくなるでしょ?」

「....ああ。あそこに辿り着けば、“答え”が見つかる...そんな感じだ。」

 だが、辿り着けないのだろう。何せ、“夢”を追うのだから。

「理解が早くて助かるよ。」

「...それで、どうして俺をここに?」

「それはもちろん...。」



「―――私と対話するためです。」

 別方向からの声に、俺は振り向く。
 そこには、もう一人少女がいた。

「君が...夢追か。」

「はい。」

 白よりは少し成長している姿だが、まだ少女の域を出ない。
 白いワンピースなのも同じだが、髪の色が若干黄色混じりの銀髪だ。

「対話...か。千冬姉が言っていたような対話を、俺もか?」

「はい。貴方に聞いておかねばならない事があるので。」

 聞いておきたい事...か。

「貴方は...今、どのような“夢”を持っていますか?目標でも構いません。」

「夢...目標か...。」

 ふと、思い返してみる。俺は、常に努力を積み重ねてきた。
 そして、今がある。...俺は、何を目指して努力してきたんだ?

「...目先の目標は、あいつに復讐...いや、見返してやりたいなんて、単純なものだった。でも、今はそれが為されたから...。」

 考えてみれば、そんな大層な夢も目標もなかった。
 努力してきたのも、ただ他の人達に追いつきたいからだった。

「俺は...ただ皆に追いつきたい。そのために努力をしている。」

「ですが、その望みは既にほぼ叶えられています。」

 そうだ。既にほとんど叶えられたも同然だ。
 努力を重ねに重ねた結果、俺は普通の人よりも優れた領域に立っていた。
 文字通り、努力の賜物と言う訳だが、“その先”が俺にはあるはずだ。

「....なるほど...な。」

「...気づけましたか?自身の秘めた“夢”に。」

「漠然と...だけどな。」

 切欠は、確かに追いつきたいという想いだった。
 それに嘘偽りは一切ないし、今も桜さんや束さんに対して抱いている。
 だけど、“夢”はまた別にあった。

「...俺は、どこまでも、どこまでも果てしなく、駆け抜け、羽ばたいていきたい。地上を駆けるのでもなく、空を自由に羽ばたくのでもなく、ただ、自分の力の限り....!」

 幼い頃、束さんに宇宙に行きたいという夢を聞かされた時から、その想いはあった。
 俺は、ただ自由に羽ばたきたいのだ。...この、広大な世界を。
 まだ、誰も知らないような領域も含めて、全ての世界を...!

「....それは、到底叶えられるような願いではありませんが...。」

「...“夢”は、追い求めるもの...桜さんから聞かされたよ。」

 無茶苦茶な夢だと、普通の人が聞いたら呆れるだろう。
 だけど、俺は本気だ。無意識に、幼い頃から思っていたんだからな。

「それに、君自身の...“夢追”も、そのためにあるんだろう?」

「....なるほど。」

 “夢”を追うためのIS...それが“夢追”だからな。

「例え届かなくても、追い求めるのが“夢”だ。なら、それだけ大きく持たないとな。」

「....いいでしょう。」

 俺の言葉を聞き終わった夢追は、満足そうに目を瞑る。

「納得のいく答えが出なければ...と思っていましたが、杞憂でしたね。」

「...ちなみに、その場合はどうなってたんだ?」

「それでも担い手としては認めていましたが...少なくとも、お父様には勝つ事は不可能になっていたでしょう。」

「...そうか。」

 これ以上の伸びしろがなくなるとか、そういう事なのだろう。
 しかし、ISの皆が皆、桜さんや束さんを親として呼んでいるのは違和感があるな。

「...時間です。そろそろ、目を覚ます時です。」

「じゃあ、行こう?」

「...ああ。」

 白の手を取り、俺は現実へと戻されていく。





「.......。」

 現実へと戻り、俺の視界には自室の天井が見える。
 ふと、手を伸ばしてみる。

「...自由に羽ばたく...か。」

 俺の、本当の“夢”。
 幼い子供が抱くような、荒唐無稽な叶えられそうにない願い。

「我ながら、なんて馬鹿らしい願いなんだ...。」

 だけど、そんな夢だからこそなのか...。

「...目指したくなってくるな。」

 “出来損ない”と、“落ちこぼれ”と蔑まれたからなのか...。
 そんな、途方もない願いに、俺はやる気を出していた。

「...ま、とりあえずは目先の事だな。」

 ユーリの事や、会社の事、学園の事と色々とどうにかするべき事がある。
 ユーリに関しては、近いうちに桜さん達が何か仕掛けてくるだろう。

「それだけじゃない。...IS学園は、今は恰好の獲物だ。」

 代表候補生など、有力や有力になりそうな人物の集まっているのがこの学園だ。
 おまけに、ISに恨みを持つ男性も少なくはない。
 それなのに、防衛力の要であるISが使えなくなったのだ。
 ...何かしらの“悪意”に狙われる可能性が高い。

「..........。」

 ふと、俺の心の中に一つの感情が浮かび上がってくる。
 ...この、感情は...。

「....恐れているのか...。」

 いつもは、桜さんが近くにいた。
 実質一人だった時もあるが、それでも桜さんはどこかからか俺を見ていた。

 でも、今はそれがない。

「余程の安心感を、俺は桜さんに持っていたんだな。」

 失って初めて気づく大切さという奴だろうか?...ちょっと違うか。
 まぁ、確かに不安だ。不安で、恐いと感じる。....けど。

「...大丈夫だ。」

 俺は、もう独りではない。
 皆が戻ってきた。ここには仲間もいる。千冬姉もいる。
 だから、恐れる事なんて決してない。

「....よし。」

 不安はなくなった。未だにいつ仕掛けられるかという緊張はある。
 でも、無闇に恐れる事はなくなった。

「やる事もないし、筋トレでもするか。」

 そういう訳なので、俺はしばらく筋トレをして時間を潰す事にした。
 今できる事は限られてるしな。







 
 

 
後書き
とりあえず専用気持ちは動かせるように。
他に動かせそうな人物は、なのはやシグナム...次点に静寐や本音達です。 

 

第49話「襲撃」

 
前書き
―――今は届かなくても、いつかきっと...。

数では学園の方が多いですけど、質が圧倒的な桜勢。
防衛とかの事もあって、意外と学園は切羽詰まってます。
 

 




       =out side=





「学園に謎の飛行物体が多数接近しています!!」

「っ、すぐにバリアを固めろ!...それと、一年の専用機持ちと、更識を呼べ。」

 箒たちがISと“対話”した翌日。
 突然の反応に、教師の一人が叫ぶように全員に知らせる。
 千冬がすぐさま指示を出す。

「ですが...!」

「...今の私たちでは、大して役に立てん。余程の自信がない限り、危険だ。」

「っ....。」

 専用機を持たない教師たちは、桜たちによってISに乗れなくなっていた。
 千冬もその一人だった。

「...織斑先生、この襲撃はまさか...。」

「...あいつらの仕業だ。やはり、仕掛けてきたか。」

「だったら、あの子たちが出ても“目的”は果たされそうねん。」

 千冬と同じように落ち着いているアミタとキリエが冷静に分析する。
 反応数はIS学園にあるISと同等以上。
 その事から、例え秋十達が出ても勝てるかは分からなかった。

「早くしろ。私も生身だが、出るつもりだ。」

「は、はい!!」

 急いで通信を使い、秋十達に呼びかける教師。
 それを横目に、千冬も準備に向かった。





「っ.....!」

「秋兄!」

「マドカか!」

 通信で呼びかけられ、襲撃を知らされた秋十達は走っていた。
 今、最大戦力は自分たちしかいない今、責任感も重くのしかかっていた。

「ISを“翼”として見ている桜さん達の事だから、この反応は...。」

「IS...じゃないね。おそらく、ただのゴーレム。」

「でも、この数はやばい...!それに、ただ襲撃するのが目的ではないはずだ!」

 ただ襲撃する理由が、桜たちにはない。
 だからこそ、違う目的があると秋十達もわかっていた。

「では、その目的とはなんだ?」

「....ユーリの誘拐...だろう。」

 同じく並走してきたラウラの問いに、秋十はそう答える。

「...根拠は?」

「桜さんがいなくなる前日、聞いたんだ。ユーリは自分の近くに居させた方が安全だと。...だから、今回の襲撃はユーリを“被害者”にさせた上で、安全を確保するためだろう。」

「なるほど...。」

「それだと、ボク達が出るのもわかってそうだよね。」

 寮から外に出た所で、シャルロットがそういう。

「...それでも、出ない訳にはいかないだろう。」

「そうですわ。動けるのが私たちだけなら...。」

「やるしかない...。」

 現在の状況でISに乗れる者が集まり、一斉にISを起動する。

「数は多いわ。学園に被害を出す訳にも行かないから、各方面に散らばって撃退してちょうだい。できるだけ討ち漏らしは出さないように。念のため、倒し損ねた奴を堕とせるように、セシリアちゃんは高い所に陣取って頂戴。狙撃を任せるわ。」

「...任せてください。」

 楯無がセシリアに指示を出し、セシリアもそれを了解する。

「それでは、各自散開!死守するわよ!」

「「「はいっ!!」」」

 飛び立ち、それぞれ散らばりながら襲ってくる方面へと向かう。
 敵機は一方面だけでなく、人工島を囲うように迫ってきている。
 唯一本州の方角からは来ていないが、それでも包囲されたも同然だ。

「見えた....!」

 敵機も随分と迫っていたのか、すぐに肉眼で確認できるようになる。
 視界に入っているのだけで10機以上。相当な数だと秋十は戦慄する。

「(まずは牽制...!誰かが乗っている訳でもないから、破壊する!)」

 ライフルを展開し、大まかな狙いをつけて乱射する。
 普通なら簡単に躱されるが、数が多いため何機か被弾する。

「雑魚...とまではいかないか。でも、この程度なら...!」

 敵機が一定まで近づいた瞬間、秋十は加速してグレネードを置き土産に投げる。
 その爆発を煙幕としてさらに利用し、一気に三機を堕とす。

「行かせねぇよ。」

 一機に肉迫し、ブレードで切り裂く。
 すかさずライフルで一機の頭部を撃ち抜く。
 攻撃してきた所を“風”を宿した動きで躱し、同時に反撃で切り裂く。

「...さっきまでと数が違うな。」

 気が付けば、囲まれている。
 教師からの連絡では全体で学園にあるIS程の数だと聞いたが、これでは“一人につき”学園にあるIS程の数になっている。

「...桜さん達がどんな想いでお前らを嗾けてきているかは知らないが、ここは通さない。意志ある“翼”を、堕とせると思うな。」

 ブレードを構えなおし、秋十はそう言った。
 同時に、遠くでも戦闘の音が聞こえてくる。
 マドカ達も戦闘を開始したのだと、秋十は察した。

「....行くぞ。」

 再び敵機との間合いを詰め、秋十は交戦を続けた。





「....あれ、マドカさん...?」

 精神的疲労から眠っていたユーリが自室で目を覚ます。
 そして、同室であるマドカがいない事に気づく。

「どこに...。」

 一人では心細いのか、ユーリはふらふらと外へと探しに行く。

「....え....?」

 寮の外に出た所で、学園から少し離れた上空で何かが光っているのに気づく。

「何が...起こっているんですか...?」

 明らかに戦闘を行っている。しかも、多対一なのが見て取れた。
 急いでユーリは学園の教師を探しに行った。

「....?今のは....。」

 ふと、廊下を曲がると、突き当りのT字の通路を誰かが通るのが見える。
 見覚えのある紫のような髪色に、ユーリは駆けだす。

「っ....!」

「えっ!?」

 突き当りまで辿り着く瞬間、目の前を千冬が走り抜けていく。
 突然の事だったため、ユーリは驚いて足を止めてしまう。

「ユーリ!」

「あ、アミタ先生...。」

「なぜここに!?貴女は今、自室で待機してるはずでは...。」

 ユーリに気づかずに千冬が去った後に、アミタとキリエが来る。
 どうやら、千冬に追従するように走ってきていたらしい。

「マドカさんがいなくて、外に出てみたら戦闘が起こっていたので...。」

「なんで間が悪い...。」

「あの、一体何が...。」

 何が起きているのかと、ユーリはアミタに尋ねる。

「...襲撃よ。」

「えっ?」

「キリエの言う通り、襲撃です。ISではない、大量のゴーレムが学園を包囲するように襲ってきています。現状はISに乗れる皆さんで応戦。こちらからもサポートするつもりでしたが...。」

 そこで、アミタは言い淀む。まるで、言っていいのか躊躇うように。

「先程の...織斑先生ですよね?まさか、追いかけていたのは...。」

「...ゴーレム部隊は陽動。桜さんはその隙を利用して潜入し、エグザミアを奪って逃走しました。奪った所で見つけ、今は千冬さんが...。」

「っ....!」

 そこまで聞いて、ユーリも駆け出す。
 “桜さんが来ている”。この事実が、ユーリを居てもたってもいられなくした。

「待ってくださいユーリ!」

「っ、追うわよお姉ちゃん!」

「分かってます!」

 慌ててアミタとキリエも追いかけた。





「待て、桜!!」

 一方、桜を追い続ける千冬は桜に止まるように呼び掛けていた。
 尤も、それで止まるような奴ではないと、千冬は確信していたが。

「(エグザミアを盗む...その事から考えられるに、この後桜がするのは...!)」

 そこまで千冬は思考し、装備していたIS用の投擲ナイフを放つ。
 ゴーレムと戦うために装備していたソレは、真っすぐ桜へ飛んでいき...。

     ギィイン!

「なに...?」

 虚空に弾かれた。
 いや、正しくは、見えない“何か”に阻まれた。

「...後は頼むぜ。」

 微かにそう桜が言ったのを聞いた瞬間、千冬は立ち止まる。
 そして、ナイフを阻んだ存在が現れた。

「なっ....!?」

「....久しぶりだね。千冬。」

「元気にしてたかしら?」

 千冬とは違い、対人用の装備をした四季と春華が現れる。
 思いもよらない相手の登場に、さしもの千冬も動揺を隠せない。

「っ......。」

 “どうしてここに”や“なぜ今更現れた”などと、様々な言葉が出そうになる。
 だが、ギリギリで千冬はそれを抑え込み、ブレードを構える。

「...邪魔をするなら、押し通るまで...!」

「ははは...!親子の感動の再会の前に、喧嘩としゃれこむか!」

 互いに武器を振りかざし、ぶつかり合った。







「これで...終わり!」

 近くにいるゴーレムを全て落とし、秋十は一息つく。

「...比較的ここは少なかったか。」

 レーダーを見ると、未だに他の皆は戦闘していた。
 偶然、秋十の所だけ少なかったのだろう。

【秋十さん!】

「っ、アミタ先生!?」

 そこで、通信がアミタから入る。

【桜さんを発見しました!しかし、このままだと逃げられます!】

「分かりました!至急そちらへ向かいます!」

 短く纏められた言葉で、秋十は鋭く察し、すぐに学園の方へと戻っていく。

「【セシリア!他の皆は頼む!】」

【秋十さん!?何を...。】

「【桜さんを捕まえる!ゴーレムには構ってられない!】」

【....!わかりましたわ。】

 セシリアに一応連絡を入れてから、秋十は反応を探る。
 ISの機能であれば、ISだけでなく生身の人間も探知できる。
 それを利用し、桜を探し当てた。

「....来たか。」

「来るのは予想してた...いや、この状況に誘導するつもりでしたね。」

 場所は第一アリーナ。
 そこで、桜は秋十を待ち構えるように立っていた。

「ここへ来た目的は分かっています。...ですが。」

「止める気...だろう?わかっているさ。ここで俺にユーリちゃんを頼んで喜んで引き渡すような真似をしたら、容赦なく叩き切っていたさ。」

 学園の生徒として、数少ない抑止力として、秋十は桜を止めるつもりだった。
 例え桜に預ける方が安全だとしても、そうしようと決意していた。

「....止めます。絶対に。」

「...やれるか?お前に。」

 余計な言葉など不要。そう言わんばかりに、一気に間合いを詰める。
 桜がISを展開すると同時に、秋十は“風”と“水”を宿し斬りかかる。

     ギィイイン!!

「甘いぞ?」

「くっ....!」

 しかし、それは同じように属性を宿した一太刀で防がれる。

「その身に“土”を宿す...!」

「それも甘い。」

「まだっ...!」

 さらに“土”、“火”を宿し、斬りかかる。
 だが....。

「...忘れたか?それらは俺が教えたものだ。今までの模擬戦、試合においては手加減をしていたが、本気を出せば...。」

「っ....!?」

   ―――“羅刹”
   ―――“九重の羅刹”

 咄嗟に、秋十は自身が最も上手く扱える技を放つ。
 しかし、それに桜は上位互換の技で正面から打ち破ってきた。

「がぁあああっ!?」

「...この通りだ。」

 なすすべなく、秋十は吹き飛ばされる。
 立っている次元が違う。...まさにそんな感覚を、秋十は味わった。

「ぐ、ぅ...!ま、だ....!」

「...だろうな。秋十君は、そういう人間だ。」

 だが、それでも諦められない。
 そんな想いで、秋十は立ち上がる。

「(SEは残っている。“水”の攻撃だから体にもダメージが入ったが、この程度...!)」

「だが、既存の力だけでは、俺には勝てんぞ?」

「っ.....。」

 勝てない。それは秋十も理解していた。
 止める理由も“学園の生徒”という、桜を止めるにはあまりにも薄い理由だ。

「それとな....。」

     ―――ギィイイン!

「なっ....!?」

「今の俺は常に全力だ。慢心は残っているだろうが...全員で来ても勝てんぞ?」

 セシリアの狙撃を桜は難なく弾く。
 秋十も意識してなかった不意打ち。それを桜は()()()()対処した。

「そろそろゴーレムがやられた所だな。」

「......。」

「さっき言った通り、それでも勝てんがな。」

 秋十は黙ったままレーダーを確認する。
 敵機は全て沈黙。マドカ達の反応が近付いているのが理解できた。

「尤も、ユーリちゃんと千冬がいれば結果は分からなかったがな。」

「そうだ...!千冬姉は....!?」

 ユーリはともかく、千冬はじっとしているはずがないと秋十は分かっていた。
 だからこそ、この場に来ていない事を訝しむ。

「千冬とて生身だ。俺が相手するまでもない。」

「っ.....。」

 “俺が”と言う所から、他にも誰か来ているのだと秋十は察する。
 ゴーレムの反応がない事から、生身の人間だという事もわかっていた。

「....さて、どうやって俺を止める?」

 不敵に笑う桜。
 そんな天災を相手に、秋十は再び立ち向かった。







     ギィイイン!!

「ぐっ....!」

 “ズザァッ”と、床を滑るように後退する千冬。
 その視線の先には、ブレードを構えた四季と、銃を手にした春華。

「(一対一では有利でも、二人相手では押し切れない...!)」

 確かに千冬の身体能力、運動神経はトップクラスではある。
 しかし、四季と春華のコンビネーションの前に、十全に発揮できていなかった。

「どうした?その程度ではないだろう。」

「っ...!」

 四季の言葉に、再び千冬は斬りかかる。
 最初こそ殺してしまわないように加減はしていたが、それももうない。
 最低限、ブレードの刃の方で斬ってしまわないようにするだけだ。
 春華の放つ非殺傷に改造された弾丸を躱しつつ、千冬は四季に肉薄する。

「はぁっ!!」

「っ!はっ!」

「足元ご注意よー?」

「くっ...!」

 鍔迫り合い、そこへ春華の弾丸が撃ち込まれる。
 それをすぐに躱し、千冬は間合いを取る。

 ...千冬は徐々に、動きが荒くなっていた。
 それは両親である二人が現れた事による動揺か、桜に逃げられる事からか。
 少なくとも、千冬に余裕は一切なくなっていた。

「ちっ....!」

「そらよっ!」

「っ....!」

 銃弾を躱した所へ四季の斬撃が迫り、千冬はさらに後退させられる。

「くっ....!」

 このままでは桜に逃げられる。
 そう思った千冬の所へ....。



「....織斑先生....?」

 ...ユーリがやってきた。

「なっ!?エーベルヴァイン!?」

「おっと、余所見していいのかい?」

「しまっ...!?」

 ユーリがやってきた事で、千冬は僅かな隙を晒してしまう。
 春華の銃弾で退路を断たれ、四季の一閃によって吹き飛ばされてしまう。

「がはっ!?」

「四季さん?春華さん?どうして、ここに....?」

「っ....!?」

 壁に叩きつけられた千冬は、自分の両親とユーリが知り合いな事に驚く。

「今回の事件の一端を担ってるからねー。」

「つまり、襲撃者の一人って訳。」

「....そうですか...。」

 二人の言葉にユーリは然程驚かなかった。
 襲撃されていて、千冬が戦闘している時点で、“そっち側”なのは分かっていたからだ。

「....桜さんはどこですか?」

「待てエーベルヴァイン!あいつの狙いはお前だ...!行くな!」

 続いて尋ねた内容に、千冬は止めようとする。

「この先を真っすぐよ。」

「...ありがとうございます。」

「エーベルヴァイン!」

 そんな制止を無視し、ユーリは桜の下へ向かおうとする。
 ふと、ユーリは振り返り、憂いを帯びた顔で言った。

「...すみません、織斑先生。...耐えられないんです。もう....。」

「っ......。」

 桜の失踪。周囲からの敵意の視線。
 ...それらは、ユーリの心を容赦なく蝕んでいた。
 故に、もう学園にいるのが耐えられなくなっていたのだ。

「...私を案じてくれてありがとうございます。...さようならです。」

「....くそっ....!」

 もはや、千冬にユーリを止める事は出来なかった。
 教師としての不甲斐なさ、ユーリにとっての最善が桜に連れていかれる事という事実。
 その二つが、千冬を黙らせていた。

「.......。」

「...さぁ千冬、お前はどうする?」

 走り去っていくユーリを、千冬は黙って見送る。そんな千冬に、四季は尋ねる。
 戦意は、ほとんど失ってしまったようなものだ。

「......エーベルヴァインを、頼む。」

「...そうか。」

 一言、そういって千冬は再び構える。

「...私には、教師は向いてなかった。だから、ブリュンヒルデとしてでも、IS学園の教師としてでもない。一人の“織斑千冬”として、ここを押し通る!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 先ほどまでよりも段違いの衝撃が四季を襲う。
 防いだものの、その威力に四季は後退する。

「....へぇ...。」

「さすがね。」

「......。」

 さっきまでとは違う。そう四季と春華は感じ取り、構えなおす。
 それに対し、千冬はブレードを腰に構え、居合の体勢を取る。

「くっ....!」

「......!」

 瞬間、千冬は廊下を縦横無尽に駆けながら、四季へと間合いを詰める。
 牽制するために春華が銃弾を撃つが、そのスピードを捉えきれない。

「速い....!」

「―――心に、“水”を宿す。」

 迎撃しようとする四季の斬撃を、千冬は円を描くように躱す。

「ふっ!」

「がっ....!?」

「四季!」

「遅い。」

「しまっ....!?」

 四季に峰打ちを一閃。動揺を見せた春華にもすぐさま肉薄、同じように一閃を決めた。

「...責任感やその類のものは一時捨て置く。...あいつを止めるだけだ。」

「はは...そうこなくちゃな...!」

「それぐらいの覚悟をしてくれなくちゃ困るわ。私たちの娘なんだから!」

 ダメージを受けたものの、すぐに二人は構えなおす。

「基礎能力で負けるなら...。」

「手数と技術で補えってね!」

 四季はブレードをもう一振り、春華は銃剣二丁に武器を切り替える。
 それを見て、千冬もまだ突破できないと悟る。

「はぁっ!!」

「ぜぁっ!」

 再び千冬と四季がぶつかり合う。
 ...親子の戦いは、まだまだ続くようだ。







     ギィイイン!!

「ぐっ....!」

「はぁっ!」

「甘い!」

 秋十が吹き飛ばされ、フォローするようにマドカが斬りかかる。
 しかし、それすらもあっさりと桜は対処する。

「くっ...!」

「喰らいなさい!」

 箒、鈴による挟撃。さらに衝撃砲とシャルロットの射撃による追撃。
 連携によるその攻撃は、回避され、防がれ、そして反撃で吹き飛ばされた。

「行って....!」

「一斉射撃ですわ!」

「容赦はせん!」

 そこへ、簪の山嵐、セシリアのビットと狙撃、ラウラの射撃が迫る。

「一人に対して容赦ねぇなおい。」

 だが、ミサイルは回避され、射撃は相殺もしくは切り払われる。
 攻撃が全て対処されてしまう。まさに悪夢のような状態だった。

「今よ!」

     ドォオオオン!!

 そして、範囲内であれば回避も防御も困難な楯無のクリア・パッションは...。

「...冗談じゃないわね。」

「空気を切り裂いて、安全圏を作った...!?」

 “水”と“風”を宿した刃によって切り裂かれ、凌がれた。

「発動してからの対処が早いわね。」

「今のはひやっとしたぞ?」

「よく言うわ。あっさりと対処してた癖に。」

 圧倒的。その言葉が楯無の頭に浮かぶ。
 正面からの攻撃も、連携も、全てが対処される。
 最も身近で動きを見てきた秋十とマドカでさえ攻撃を通せなかったのだ。

「次の手!秋兄!」

「ああ!」

 すぐさま次の手を実行する。
 秋十を筆頭に、攻撃を当てようとせずに足止めに専念する。

「はぁぁあっ!」

「せぁっ!」

「...ふっ!」

     ギギギィイイン!!

 秋十と箒によるブレードの連撃。しかし、“水”を宿した斬撃に弾かれる。
 すぐさまフォローに鈴と簪が各々の武器を構えて肉迫する。
 ...が、それも即座に反撃されてしまう。

「セシリア!ラウラ!シャル!」

「分かってますわ!」

「狙い撃つ...!」

「当たって!」

 秋十の呼びかけに三人が一斉に包囲射撃を行う。
 さらに、ラウラのAICによって拘束も試みる。

「捉えきれなければ意味がないぞ?」

「ちっ....!」

「っ!!」

 だが、それは“水”と“風”を宿した動きに躱される。
 楯無が接近してせめてもの足止めを試みるも、それも躱されてしまう。

「.....行くぞ。“夢追”。」

 すると、満を持して秋十が突貫する。
 単一仕様を用いた鋭い斬撃は、さしもの桜も回避せずに受け止める。

「速い上に重い...な!」

「これぐらいしないと、追いつけませんからね...!」

 ようやくまともな拮抗に入ったと、秋十は思う。
 だが同時に、それも長続きしないと確信していた。

「早く...鋭く!!」

「っ....!」

   ―――“四重之閃(よえのひらめき)

 だからこそ、最大の技を放った。()に繋げるために。

   ―――“二重之閃”

     ギャギィイイン!!

「なっ....!?」

「悪いね...二重なら俺もできるんだ。」

 四重に見える程の高速の斬撃。それを桜は二つの斬撃で相殺した。
 二重に二回ブレードがぶつかり合う音が響き渡り、秋十は後ずさる。

「......っ。」

「....ん?」

 だが、そこで秋十はにやりと笑う。
 ...その視線の先には、マドカがいた。

「“エクス...カリバァアアアア”!!」

「なに....っ!?」

 マドカの単一仕様による極光が迫る。
 その事に桜は驚く。ただ放たれたのではなく、予定通りに運ばれたのだと理解して。
 同時に感心もした。秋十との攻防の隙にAICの足止めも上乗せた見事な連携だと。

 ....だが、それは、桜にとって...。

「....単一仕様、展開。」

「っ.....!?」

 それでも、“想定内”に過ぎなかった。

「想起、“エクスカリバー”!!」

 瞬時にマドカの単一仕様を再現し、AICをエネルギーの放出で弾き、極光が放たれた。
 溜めていたマドカと比べ、瞬時に放った極光。
 普通に考えれば、マドカの方が強いと思えるが...。

「....相殺...された....。」

「いやはや、ホント、感心するよ。...だが、まだ足りない。」

「っ....。」

 万策尽きた...とも言えるだろう。
 やれることの限りを尽くし、それでも届かなかった。
 秋十達のSEはほとんどが半分を切り、それに対して桜はまだまだ余っている。
 エクスカリバーを使用したとはいえ、まだ余裕なのだ。

「(...まだだ。桜さんは既存の技では勝てないと言った。...なら、今この場で俺達で新たな技、新たな戦法を生み出す...!まだ、終ってない...!)」

「....へぇ。」

 まだ諦めないと、その意志を瞳に宿すのを見て、桜は嗤う。

「....残念、時間切れだ。」

「えっ....。」

 そこで、桜はアリーナの入り口に目を向け、そういった。
 つられて秋十達もそちらを見、驚愕に目を見開く。

 そこには...。





「......桜さん...。」

「ユーリ....!?」

 本来ここにはいないはずの、いてはいけないはずのユーリの姿があった。











 
 

 
後書き
全て桜の掌の上。そんな感じの回です。
全部計画通りな上、秋十達の成長も想定内と言う規格外っぷり。
いっそ清々しいまでの強さです。 

 

第50話「去る者と残されるもの」

 
前書き
―――...止めて見せろと、そう言うんだな?

IS学園だけでなく、世界中のIS関連で女性が優遇されている環境に変化が訪れているので、それらも描写が必要なんですよね...。描き切れる気がしません(´・ω・`)
 

 




       =out side=





「なんで、なんでここに来たんだ!?」

「.......。」

 アリーナに現れたユーリに、秋十はそう呼びかける。
 だが、それが聞こえていないようにユーリは桜へと近づいていく。

「...久しぶりだな。ユーリちゃん。」

「っ....!」

 そんなユーリに、桜はいつものように普通に話しかける。

「本当に、お久しぶりです....!ずっと、ずっと会いたかったです...!」

「(...ん?今、心なしか桜さんの表情が曇ったような...。)」

 涙を流しながら言うユーリを見る桜に、秋十はそんな違和感を抱く。

「....依存させてしまったんだな。」

「桜さん...?」

「くっ、チヴィット達は...!?」

 本来ならユーリについているはずのチヴィットの姿がない事に気づく秋十。

「残念だったな秋十君。...こちらから既に干渉済み。今は眠ってるよ。...ユーリちゃんがそれに気づかず出てきた事には驚いたが。」

「....なるほど...。」

 システムに干渉され、眠らされていたと知り、納得する秋十。

「ユーリ!」

「皆もいるわ!」

 そこへ、別のアリーナ入り口からアミタとキリエが追いつき...。

     ギィイイン!!ダン!ダン!

「ちぃっ...!」

 吹き飛ばされ、飛んできた弾丸を避けた千冬もアリーナへとやってくる。

「千冬姉!...それに、あれは...!」

「おっと、全員集合か。」

「あらあら、結局全員と会う事になったわね。」

 続けて四季と春華も追いついてくる。

「そうか...!四季さんと春華さんなら、千冬姉を抑える事もできるのか...!」

「あー...まだ父さん母さんと呼んでくれないのか。」

 なぜ千冬が来れなかったのか理解した秋十の言葉に、四季はそういう。
 何気に、秋十は素直に二人を親として呼ぶ事が出来ずにずっとこの調子なのだ。

「桜さん!どうしてこんな事を....!」

「説明して...貰えないかしら?」

 アミタとキリエが、護身用に持っていた銃剣を桜に向け、問い質す。

「どうして...か。今のユーリちゃんの姿を見れば、わかるだろう?」

「っ.....。」

 日に日に心が傷ついて行くユーリを思い出し、アミタは口ごもる。
 そう。もうユーリには桜がいないとダメだと理解はしているのだ。

「桜!!」

「っ!」

     ギィイイン!!

「は、速っ!?」

 桜を見つけた千冬は、四季と春華を振り切ってブレードを振るう。
 ユーリが傍にいるため、避けれない桜はそれを受け止める。

「っ...ユーリちゃんがいるのに、いきなりじゃないか...!」

「お前なら庇うと分かっていたからな...!今の私は教師としてじゃない、幼馴染としてお前を止めるためにここにいる...!」

「なるほどな...!」

 鍔迫り合いの中そう言葉を交わす。
 だが、すぐに桜が振り払い、千冬は後退する。

「ちっ...!」

「生身でIS相手に斬りかかるなんて...。」

「...桜さんや束さんだってできる。別におかしくはないさ。」

 鈴が千冬の行動に驚くが、秋十の言葉に納得する。

「(一見膠着状態...。ここからどう動くかだけど...。)」

「...まだ来るか?」

「.......無理だな。」

 秋十が思考を巡らし、桜が千冬に問う。
 しかし、その問いに千冬は“無理”だと答え、秋十も同じような結論に至った。

「...状況的に、エーベルヴァインが人質に取られている。私たちには何もできん。ただお前たちが去るのを指をくわえて見ているしかない。...違うか?」

「ま、そんな所だな。目的は果たしたし、帰らせてもらおうか。」

「っ!!」

 桜がそういった瞬間、煙幕代わりに桜はライフルやグレネードを使った。
 その際の砂ぼこりに紛れ、四季と春華を回収して一瞬の内に姿を暗ました。

「...ご丁寧にハイパーセンサーも阻害している...か。」

「これは...完全に逃げられたね。」

「一応学園側から追跡を試みておく。....全員、30分後に指定した部屋に来てくれ。」

 桜達が去り、ほとんどが呆然としている中、千冬がそういう。

「何をしている!事は一刻を争う!早く動け!」

「は、はい!!」

 千冬が一喝し、各々が慌ただしく移動する。
 千冬もそれを見てから一度自室に戻ろうとして...。

「....ん?」

 足元にあるものを見つける。

「なんだこれは...。」

 それは、白いクリスタルのようなものが付いたペンダントみたいなもので...。

【やぁやぁ!これが聞こえてるという事は、ちーちゃんがこれを手に取ったという事だねー!まぁ、そうなるように仕組んだんだけどね!あ、これは録音だから会話はできないよ!残念だったね!】

「.....。」

 ...それから聞こえた束の声に、千冬は思わずそれを投げ出した。

【ひっどーい!今投げたでしょ!】

「録音の癖になぜ行動を読んだようなセリフなんだ...!」

 こちらの行動がまるっきり読まれている事に、千冬は向け様のない怒りを抱く。

【ま、いいや!色々考えなくちゃいけなさそうだし、簡潔に伝えるね!それはちーちゃんの新しい“翼”!私たちと同じ夢を追うためのね!】

「.....待機形態だったのか。」

 話に聞いていた原初のIS三機。その一機だと千冬は確信する。

【その子をどう扱おうが、ちーちゃんの勝手だよ。...でも、大体は予想できちゃうかな。それじゃあ、今度は直接会おうねー!】

「.....。」

 “ブツリ”と、束の声が途切れる。録音された音声が終わったのだ。

「....止めて見せろ...とでも言いたいのか?まったく...。」

 既に秋十達は戻り、一人になっていた千冬はそう呟く。

「....了解した。...覚悟しておけ、馬鹿どもが...。」

 そういって千冬専用の“想起”を握り締め、千冬も戻っていった。







「さて...まずはこちらの被害を言っておこう。」

 しばらく後、会議室に秋十達は集まっていた。
 一端、情報を整理しようという事らしい。

「戦闘が行われた場所では一部破壊された箇所がある。尤も、これは戦闘で起きた事だ。特に気にする事はない。そして、生徒の被害は....。」

「...怪我人、死人共にゼロ。ただし、行方不明者一名....。」

「....ユーリの事...か。」

 悔しそうに、何かを堪えながら言うアミタの言葉に、秋十が反応する。

「目撃者以外には、人質として利用され、そのまま拉致されたという事になっている。...桜達もそれを狙っての事だろう。」

「ユーリは現在、規格外のISを持っているという事実だけで立場が悪くなっている。それを“被害者”に仕立て上げる事で飽和するって訳か...。」

「そういう事だ。」

 秋十と千冬は事前に予想はしていたが、皆にも知ってもらうために態と口にする。

「...事実、エーベルヴァインは自らの意志で桜について行った。」

「........。」

 そして、誰もそれを止められなかったという事。
 その悔しさが全員にのしかかる。

「それを踏まえて、これからどうしていくか学園で決める事になる。それについて、お前たちの意見も聞いておきたい。...他ならぬ、桜と関わってきたお前たちに。」

「........。」

 その言葉に、誰もが即座に言葉を発せずに沈黙する。
 “どうしたいか”など、具体的に自分の中でまとまっていないのだから。

「....俺は桜さんを止める。」

「秋兄...。」

「今はとてもじゃないけど届かない。けど、必ず追いついて止める。...俺はそうしたい。」

 そう言って、秋十は手を握り締める。

「...秋兄と違って、私はそんな大層な覚悟を持てない。...だから、お世話になったお礼も込めて、桜さんを止める秋兄を全力でサポートしたい。」

「お前たち....。」

 あれだけの実力差を見せられてなお、止めようとする秋十とマドカ。
 それを見て、千冬は薄く笑う。

「...あいつを止めるのは、至難の業だぞ?」

「百も承知だよ。生半可...いや、万全の覚悟で挑んでも勝てるか分からない天才...それが二人揃ってるんだ。....だからこそ、止めたいとも思う。」

「お前も成長したな...。」

「桜さん達の下で鍛えられたからな。」

 弟の成長を嬉しく思う千冬に、苦笑いしながら秋十は返す。

「だが、どうやって止めるつもりだ?言ってはなんだが、お前如きが動いても、大した影響は出ない。また、今は良くも悪くもあいつらが世界の抑止力になっている。それを止めるとなれば、世界中で女尊男卑に苛まれた連中の逆襲が始まる。」

「っ.....。」

 千冬の言う通りだと、全員が思う。
 例え二人を止めれたとしても、世界中の混乱が治まる訳ではない。
 ISを以前までの仕様に戻すなど、脅されても二人が受け入れるはずがない。
 つまり、桜たちの阻止と世界の安定、その両方を目指さなければいけない。

「....少数で変えようとしても、圧力に潰される....一人でやれる事には限界がある...か。」

「どうした?」

 桜に言われた事を思い出す秋十。そして、改めて千冬に向き直る。

「...俺一人でできないなら、協力者を集めるまで。俺や千冬姉、桜さんや束さん、ここにいる皆のように、ISを“翼”として認め、協力してくれる人を集める。そして、今までの狂った世界を直して、桜さん達も止める。」

「...それができるとでも?」

「できるできないじゃなくて、やるんだよ。そうだろ、千冬姉。」

「........。」

 秋十の言葉に千冬は黙り込む。

「...秋十はこういっているが、お前たちはどうする。」

「私たちは....。」

 秋十に対する返答は保留とし、千冬は他の者にも尋ねる。

「....協力します。...姉さんを、私たちの力で止めたいですから。」

「...あたしも、こんな事聞かされて別の道を行くなんてできません。」

 箒と鈴が、真っ先にそう返事する。
 それに続くように、他の者も協力すると言っていった。

「...ここまで聞かされて、ここまで皆が協力して、私だけが私の...更識の道を行く訳にはいかないわね。更識家としても、個人としても協力させてもらいます。」

「......そうか。」

 最後に楯無がそういって締め、千冬は観念したかのように溜め息を吐く。

「まったく...揃いも揃って馬鹿ばかりだな...。....だが。」

 そして、テーブルに叩きつけるように手を置き、続きの言葉を放つ。

「....その言葉を待っていた。」

「千冬姉...?」

 訝しむ秋十を余所に、千冬は世界地図を取り出す。
 映像ではなく、紙媒体で...だ。

「これは....。」

「電子地図だと、いつあいつらに見られるかわからんからな。...あいつらに対しては、アナログのお方が効果的だ。」

「所々にある印....まさか...!?」

 秋十の気づいた声に、千冬は薄く笑う。

「...あいつらがいる可能性のある場所。...その目星を付けた。」

「....根拠はあるんですか?」

 束や桜の正確な位置は、どこの国も掴めていない。
 そのため、楯無が確実なのかどうか尋ねるが...。

「そんなものはない。強いて言うのなら、私の勘だ。」

「か、勘ですか...?」

「ああ。私なりにあいつらの動きをシミュレートし、いる可能性のある場所をマークした。虱潰しに探すよりはマシだろう。」

 幼馴染として動きを予測し、居場所をを割り出す。
 幼い頃から束の奇行を見てきた千冬だからこそできる事だった。

「...と、いう事は千冬姉....。」

「....あいつらに一泡吹かせてやれ。」

「......!」

 その言葉に、秋十達は顔を輝かせる。

「よし、それならばすぐに行動に移そう。私は学園での対処に回る。更識、情報収集は頼んだ。お前たちは自身の伝手を頼って協力者を集めろ。いいな?」

「「「「「はいっ!!」」」」」

「フローリアン先生方も一度私に同行を頼む。その後は皆と同じように協力者を。」

「...なんだか、規模が大きくなってきたわね。」

「私は燃えてきましたよ!わかりました、お任せください!」

 千冬の指示に従い、それぞれがそれぞれのやる事へと行動を移す。
 すぐに成果を出せる訳ではないが、それでも少しずつ進めていくようだ。









「....今頃、俺達を止めようと躍起になっているだろうな。」

 一方、世界のどこかにあるアジトで、桜はそう呟いていた。

「......桜、さん....。」

「......。」

 その膝の上で、ユーリは眠っていた。

「...もう、独りになるのは...嫌、なんです.....。」

「....ユーリちゃん...。」

 本来であれば、無理矢理な形でユーリを保護するつもりだった。
 しかし、実際には自らついていくという行為に出た。
 それは、桜にとっても少々予想外の事だった。

「...腹を括るっきゃねぇな。」

「そうだね。」

 そう呟く桜の隣に、束がやってくる。

「束か。」

「元々あっ君とゆーちゃんでは境遇が似てても心が違ったんだよ。その結果、ゆーちゃんはさー君に依存するようになってしまった。」

「そう、だな....。」

 こうなったのは自分の責任だと、桜は束の言葉にうなずく。

「責任、取らなくちゃな。」

「桜...さん...。」

 桜の名前を呟きながら眠るユーリの頭を、桜は優しく撫でる。

「っと、束がここにいるって事は、確認は終えたのか?」

「まぁねー。確認できたのはあっ君達の子を合わせて21機。予想より多かったかな。まぁ、それだけISの事を見てくれてる人もいるという事だね。感心感心。」

「千冬に“想起”を置いてきたし、今の所はなんの滞りもないな。」

 束は桜の隣に座り、先程終えた作業の結果を桜に伝える。

「次が一つ目の課題だな。」

「そうだねー。」

「混乱に陥る世界を、どれだけ鎮圧できるか...。」

 ISがいつものように動かせなくなったため、世界中は大混乱になっている。
 そして、それに乗じてテロなどが起きる可能性も高い。
 それを抑えようと、桜たちは次の策を練るのだ。

「差し当たっては、お礼をまだ送ってなかった彼らに、プレゼントでも送ろうか。」

「そうだねー。朝起きたら郵便受けに、って感じでサプライズだね。」

 ただし、“真剣に考える”というのは二人の性に合わないらしく、いつものお気楽な感じの雰囲気に戻ってしまう。
 尤も、だからと言って行動などまでお気楽になる訳ではない。

「ゴーレムを抑止力にするか?」

「それが楽かもねー。でも、それだけじゃ足りなさそうだし、もう一度世界中にハッキングする?...と言っても、お馬鹿さん達は忠告を聞きそうにもないけど。」

「そう言う時は問答無用で叩き潰せばいいさ。それに、調べた限りじゃ、俺達が最終的に目指している事に賛同してくれる連中もいるぞ。...まぁ、やり方には反対してるけど。」

「おー、それは良かったね。やり方は反対してくれて一向に構わないよ。ISが本来の目的で乗られるようになればいいんだからさ。」

 飽くまで、二人の目的は“ISが宇宙に羽ばたけるようになる”事。
 過程がどうであれ、ISを以って自由に羽ばたけるようになるのが目的なのだ。

「....ん...ぅ...。」

「あ、起きたみたいだね。」

「ああ。」

 そこで、ユーリが目を覚ます。

「....あ、れ....?」

「起きたか?ユーリちゃん。」

「桜...さん...?」

 状況を把握するのに、少し手間取るユーリ。
 何せ、目を開ければ仰向けにも関わらず目の前に桜の顔があるのだ。
 そして、どういう状況になっているのか理解したユーリはみるみる顔を赤くする。

「えっ、わ、私...!?」

「おー、わかりやすいぐらいに慌ててるねー。」

「あ、束さん...ではなくてっ、桜さん、ど、どうして私は...!」

 あわあわと慌てながら桜に尋ねるユーリを、桜はゆっくりと起こし...。

「...ごめんな。」

「....ふえっ...?」

 申し訳なさそうな言葉と共に、抱き締めた。

「ささ、桜さん!?」

「...ユーリちゃんがこうなってしまったのは、俺の責任だ。」

「こうなったって...。暴走させたのは、私の責任ですし...。その結果で、ああなったのは桜さんのせいじゃありません。むしろ、連れてきてくれて感謝しています。」

 申し訳なさそうにする桜に、ユーリはそういう。....しかし。

「違う、そうじゃないんだ。俺が言いたいのは、その事じゃないんだ...。」

「桜、さん...?」

 その事ではないと、桜は言う。
 他に心当たりがないユーリは、その答えに戸惑う。

「...ユーリちゃん。君は、俺に依存してしまっているんだ。環境ではなく、精神的に。しかも、自覚がないときた。」

「依存....?」

「ああ。学園に行って、ユーリちゃんの“目”を見て、確信したんだ。...君は、精神上俺がいないともう生きていけないぐらい、依存してしまっている。」

 自覚がないユーリは、そう言われてもなお、首を傾げる。
 分かっていないのだ。自分がどれだけ依存しているのか、桜に言われてさえ。

「ユーリちゃんは、俺がいなくなった時、どう思った?どう感じた?」

「私、は....。」

 寂しくて、辛くて、苦しくて。胸が張り裂けそうだったと、ユーリは思い返す。
 その時の事を思い出すだけで、ユーリの体は震えてきた。

「ぁ...ぅ...!?」

「ほら...な?」

「あ.....。」

 震えるユーリを撫で、落ち着かせる桜。

「依存...ですか。」

「...こうなった以上、どんな形であれ俺は責任を取るさ。ゆっくりとでいい、治していこう。」

「....はい。」

 精神的にここまで追いやられていたのだと自覚したユーリは、桜の言葉に頷く。

「....ねー、束さんがいるの忘れてなーい?」

「あっ、いえ、そ、そんな事は...!」

 実際意識の外に追いやってしまっていたと、ユーリは謝ろうとする。
 だが、そんなユーリを束は桜と同じように優しく抱きしめる。

「....えっ...。」

「...さー君だけじゃなくて、私にも頼っていいんだよ?」

「.....はい...。」

 束の言葉に、ユーリは静かに涙を流す。
 しかし、そんな雰囲気に水を差すように、カメラのシャッター音が鳴る。

「あっ、音切るの忘れてた。」

「「「.........。」」」

 見れば、そこには四季と春華がカメラを構えて立っていた。

「...一応、聞くが、何やってるんですか?」

「ん?野次馬。」

「死ね。氏ねじゃなくて死ね。」

「ちょっ!?格納領域からナイフは禁止!」

 桜の無慈悲に投げたナイフを間一髪で躱す四季。

「まぁ、ここには味方もいる。一度心を落ち着けて、それからどうにかしよう。」

「とりあえず、邪魔の入らない所に行こうか。」

「えっ、あ、はい。」

 野次馬な二人を無視して、桜と束はユーリを連れて別の部屋に移動した。

「あれ?無視かい?」

「...あー、俺が手を下してもいいですけど...後ろ、注意ですよ?」

「えっ。」

 その瞬間、打撃音が響き渡る。

「め、め~ちゅ?」

「いや、エグザミアの方だな。」

 四季の頭があった所には、小さな魄翼を展開しため~ちゅが浮いていた。
 どうやら、エグザミアの意志が四季を叩いたようだ。ついでに春華も叩かれた。

「そろそろめ~ちゅとエグザミアを切り離さないとねー。シュテル達みたいにめ~ちゅもめ~ちゅで動ける方がいいでしょ?」

「そうですね。」

「じゃあ、行こっか。あ、エグザミアも来なよー。」

 改めて束達はユーリを連れて移動し、エグザミアもそれについて行った。

「....俺、このままか?」

「あの子たち、だいぶ逞しくなったわね...。」

 取り残された二人は床に突っ伏したままそういった。

「...ふむ、やはりあの二人はからかうべきではないな。」

 それを陰から見ていたジェイルは、からかうのは止めておこうと密かに思った。









「(....まぁ、頑張ってくれよ。秋十君。)」

 移動する中、桜は秋十へと思いを巡らせる。

「(例えどんな天才でも、一人では限界がある。...いや、むしろ天才だからこそできない事がある。だから、非才の身だからこそできる“世界”を、俺に魅せてくれ。)」

 それは、想いであり、願い。そして、もう一つの“夢”でもあった。









 
 

 
後書き
アミタとキリエが持っている銃剣は、当然元ネタの方で使っているヴァリアントザッパーです。まぁ、桜たちのチート技術で普段は小型化されていますが。ちなみに、ISにも通じるように調整されています。(飽くまで護身用なため、ISに勝てる訳ではない。)
また、ユーリが来た入り口とは別の所から来た訳は、千冬達の戦闘を迂回してきたからです。

シリアスやってる学園sideと違い、桜たちは案外気楽という落差。
場所の安全さが段違いなので自然とこうなってます。 

 

第51話「動き出す者達」

 
前書き
―――俺は、強くなりたい。

秋十達強化回。桜に追随する実力の持ち主と知り合いですからね。
 

 






       =秋十side=





「........。」

 模造刀を静かに構える。
 息を吸い、吐く。目を瞑り、気配で周囲を探る。

「.....っ!!」

     キンッ!!

 瞬間、飛んできた複数の木の板を斬る。
 模造刀とはいえ、“風”と“水”を宿せば木くらいは斬れる。

「...まだまだ、だな。」

「なんだか、満足そうじゃないね秋兄。」

 俺がそう呟くと、木の板を投げた一人であるマドカが声を掛けてくる。

「なんというかな...伸びしろがなくなってきてるというか...。」

「マンネリ化が進んでる...って感じかな?」

「そうなるな。」

 もう一人、投げてくれた人...なのはが俺の考えてる事を言い当ててくる。
 ちなみに、名前で呼ぶようになったのは、なのはに言われたからだ。

「んー...じゃあ、私が相手しようか?」

「...その手があったか。」

 現在、一般生徒の自室待機は解かれている。
 ISが使えなくなったとは言え、IS学園のセキュリティは高い方だ。
 桜さん達ならともかく、そこらのテロリストが来ても対処できると判断したのだろう。
 だから、なのはは俺の朝の日課に付き合ってくれていた。

「私も、久しぶりに外で鍛錬ができるのが嬉しくてね。」

「...持ってきてたのか。」

 なのはが取り出したのは小太刀サイズの木刀二本。
 御神流がよく扱う武器だ。

「いいなぁ...私も後でやっていい?」

「いいけど...マドカちゃんって...。」

「あ、フィジカル面でも俺とは違うベクトルで強いぞ?」

 マドカはISでの腕前が目立つが、生身でも強い。
 千冬姉に似ているだけあって、見た目に反した強さを持っているのだ。

「それならいいかな。じゃあ、とりあえず...。」

「....やるか。」

 お互い、武器を構える。俺も模造刀から木刀に持ち替えておいた。

「っ!!」

「(早い!)」

 瞬間、なのはが掻き消えるように俺の懐へと飛び込んでくる。
 即座に“風”を宿し、対処に動く。

「(...技において、俺は彼女に劣っている。勝てるとすれば、それは経験と努力の差と...桜さんに教えてもらった、四属性の有無による差...。)」

 死角に回り込み、撃ち込まれる斬撃を上手くいなす。
 “風”だけでは足りないと判断し、俺は“水”も宿す。

「ぜぁっ!」

「くっ...!」

 反撃を放つが、一発目は躱され、二発目は利用されて間合いを取られた。
 ...なるほど、ISで制限されてるだけはあるな。

「(おまけに、この動きは狭い所で生かされるタイプ...つまり、これでも全力ではないという事か...。)」

 以前、恭也さんと桜さんの戦いを見た時も思ったが、やっぱり上には上がいるんだな。

「(だから、桜さんに勝つには、これぐらい...!)」

 俺が体で覚えた経験を総動員し、なのはの動きに対処していく。
 袈裟切り、刺突、横薙ぎ...。衝撃を徹す一撃を、全て受け流す。

「っ...!?対処された...?」

「...経験を、努力を積み重ね、全てを糧にする...。」

 かつて、一度桜さんに言われた事を呟く。
 俺は弱い。...だから、俺はその“弱さ”で勝つ。

「一度見た事のある...もしくは、それに類似した攻撃なら未知の攻撃でさえ、対処する...。それが俺の特技...らしい。」

「らしいって...自覚はないの?」

「他人に言われただけで、俺自身実感がないからな。」

 ちょくちょく攻防を挟みながら、俺はなのはとそんな会話をする。
 恭也さんの動きを見た事もあってか、対処はISでの試合よりもできている。

「まぁ、特技という実感がないだけで、実践できているのは分かっているが。」

「桜さんも、それがわかってて戦法を常に変化させてたからね。」

「やっぱり特技じゃん!」

   ―――御神流奥義之六“薙旋”
   ―――“羅刹”

 互いに強力な技がぶつかり合う。
 そして、それに競り勝ったのは....。

「...ギリギリ...か。」

「届かなかったか...。」

 なのはだった。俺は木刀を弾き飛ばされ、無防備になっていた。

「やっぱり、なのは相手にこの状態じゃ勝てないか...。」

「えっ?“この状態”って...。」

 首を傾げるなのはとマドカ。

「以前、桜さんにいつの間にか木刀を重くされていてな...。気づかない内に俺を鍛えられていたんだが、今回はそれを参考にしてな。」

「まさか....。」

 下に着ていた、特殊なインナーを脱ぐ。
 すると、そのインナーはインナーらしからぬ音で地面に落ちる。
 ちなみに、上は着たまま脱いだから、二人に裸は見せてない。...どうでもいいか。

「ええっ!?」

「あ、秋兄、ちょっと持ってもいい?」

「いいぞ。」

 以前、会社でグランツさんとジェイルさんに頼んでいたものだ。
 とある有名な漫画を参考にしてある。

「お、重っ!?何で出来てるの!?」

「俺にもよくわからん。ちなみに、それは50キロ程だ。」

 着ていたのは桜さんとの一戦以来。千冬姉を交えた会議の時もずっと着ていた。
 おかげで、不自然なく活動できるようになったが....ふむ。

「ぜぁっ!」

「っ!?」

 気合一閃。木刀を振るってみる。
 速度、鋭さ、双方とも格段に上がっている。...まぁ、効果がなくては困るけどさ。

「次は60キロだな。グランツさんに頼んでおこう。」

 10キロぐらいなら他のもので代用できるから、しばらくはそれでいくつもりだ。
 ジェイルさんもいなくなってごたごたしてるだろうけど...悪いなグランツさん。

「と、とことんやるんだね...。」

「桜さんに勝つためにはな。...そうだ。時間があれば恭也さんと手合わせする機会を作ってくれないか?あの人に勝つぐらいでないと、桜さんには勝てないしな。」

「うーん...お兄ちゃんにも仕事はあるから...まぁ、聞いておくよ。」

 後は...協力者集めだな。
 桜さん達を止めるための協力者を集めなくてはいけない。

「じゃあ、次は私だね。行ける?」

「行けるよ。じゃあ、やろうか。」

 今度はマドカが構える。マドカも俺と同じで一刀流だが...剣捌きはまた違う。

「ふっ!」

「はぁっ!」

 なのはが仕掛け、マドカが迎撃に動く。
 一刀で逸らし、もう一刀で攻撃をしようとするなのはだが...。

「っ!?」

 すぐにもう一刀も使って逸らす。
 あまりの鋭さと重さになのはは即座に間合いを取った。

「これは...。」

「気づいた?秋兄とは全く違う太刀筋だから、また違うよ?」

「くっ...!」

 マドカは“風”と“水”を宿した動きで間合いを詰める。
 それを見て受け身に回ろうとするなのはだが...それは悪手だ。

「っ...!?」

「遅いよ!」

 防御に使おうとした木刀が、弾き飛ばされる。
 それに少し動揺したなのはに、マドカ追撃が迫る。

「くっ...!」

   ―――御神流奥義之歩法“神速”

 咄嗟に、なのはは御神流の奥義を使ったのか、姿が掻き消えるように躱す。
 反撃に一撃を放ち、マドカを後退させるが...。

「手数が同じなら、負けないよ!」

「ぐっ!?」

 同じように反撃に出たマドカに、攻撃を相殺されて反撃を受ける。
 辛うじて木刀を滑り込ませ、防御には成功する。

「っ、そういう事...!」

「全力全開...!」

 しかし、吹き飛ばされたのを利用して、弾かれた木刀を拾うなのは。
 そのまま、マドカを中心に円を描くように駆け...再び姿が掻き消える。

   ―――御神流奥義之歩法“神速”
   ―――御神流奥義之六“薙旋”

「ぐぅう...っ!?」

 咄嗟にマドカは“火”と“土”も宿したが...防ぎきれなかった。
 三撃までは反射的に防ぐ事に成功したが、最後の一太刀を喰らったようだ。

「あ、危なかった...。」

「痛たた...。」

 木刀を盾にしたとはいえ、マドカはそれなりのダメージを受けたらしい。
 まぁ、御神流は衝撃を徹す技があるからな。

「うーん、やっぱり正当な剣術相手には勝てないなぁ...。」

「...マドカちゃんも我流なんだよね?」

「篠ノ之流が混じってるけど、概ねそうだね。」

「それでここまでの腕前な時点で凄いと思うけど...。」

 御尤もである。俺も人の事言えないけどさ。

「じゃあ、模擬戦も終わった事だし、食堂に行くか。」

「そうだね。」

 お腹も減り、時間もちょうど良くなったので、朝食を食べに移動する。





「...さすがに、以前までの賑やかさはないか。」

 食堂にて、全体を見回しながら俺はそう呟く。
 自室待機が解け、教師からは“いつも通り過ごす”という事になっている。
 だが、その裏では更識家や教師が学園の外への警戒をしている。
 空気もどこかピリピリしてるため、どうしても以前のような賑やかさはないのだ。

「じゃあ、俺はこっちに。またな。」

「うん。」

 なのはと別れ、俺は別方向へ行く。
 なのははなのはで待ち合わせしていた女子と食べるらしい。

「あっきー、まどっちーこっちだよ~。」

 ふと見れば、本音が俺達を手招きしていた。
 簪や他の皆も一緒にいるらしい。

「...状況は...。」

「芳しくない...かな。やっぱり、皆いつも通りとは言えない状態に...。」

「協力者もあまり見つからないね~。私の友達もショックから立ち直れてないし~...。」

「だろうな...。」

 今回、簪も更識家の一員として、情報収集に協力している。
 本音と共に、生徒の様子や協力者になりうる人物がいないか探っていたのだ。
 だけど、結果はあまりいいとは言えなかった。

「...候補となるのは?」

「しずしずとなっちゃん、後しーちゃんは可能性が高いかな。」

「...鷹月さんとなのは、八神さんの事。」

「...ありがとう簪。」

 本音の呼び方じゃ誰か全く分からなかった...。
 ...それにしても、今挙げた三人はいずれも俺達に関わった面子だな...。

「学園じゃあまり見つからないな...。」

「女尊男卑の風潮に少なからず染まっていた人は、教師生徒問わずに協力的ではないから、あまり学園で探すのは意味がないかも...。」

「一応、教師でも何人かいるみたいだよ~。」

 飽くまで、これは“会話した際”としての候補だ。
 桜さんを止め、それでいて桜さん達が夢見た世界を実現するためなどと、そういった訳は話していない。...話せば、さらに協力者は減るだろう。

「(でも、逆に言えば訳を話したからこそ協力してくれる人もいるかもしれない。)」

 桜さん達のように、このIS学園に入学した人の中には“大空を羽ばたきたい”と言った想いを持っている生徒もいるだろう。
 そういった人なら、ISも応えてくれるし、協力してくれるかもしれない。

「...学園は皆に任せるよ。俺は、学園の外を探してみようと思う。」

「え、でも今は危険だってお姉ちゃんや先生が...。」

「それはISという抑止力がなくなった女性だからだ。恨みを持った男性に襲われる可能性があるからな。だけど、同じ男性である俺ならある程度は動ける。....と言うか、襲われても多少の相手なら何とかなるさ。」

 少なくとも、突発的な拉致などには対処できるはずだ。
 さすがに生徒一人一人の動向が探られていて、それに応じた計画的な犯行は、学園のセキュリティや更識家の情報からありえないだろうし。

「そういう訳だし、今度の土曜日に外出許可を貰って行ってみる。」

「...わかった。学園の外は秋十に任せる。」

 さて、土曜を待たなくても、協力を仰げそうな相手は...。







【もしもし、秋十か?】

「悪いな、突然電話して。」

【構いやしねぇよ。】

 夕方。夕食までまだ時間がある間に、俺はある場所へ電話を掛ける。

【それより、そっちは大丈夫なのか?ISが使えなくなったとか、ニュースで何度も見るんだが。】

「皆不安を隠せてない感じだな。桜さんがやった事は、ほとんどの人間がISを使えなくするも同然の事だ。まぁ、半分くらいは自業自得なんだが。」

【どういう事だ?】

「今度会った時に詳しく話す。...いや、今話した方がいいか。」

 俺は、ある程度簡潔にまとめて事情を話す。

【...なんともまぁ...。しっかし、あの時家にとんでもない人物が二人もいたって事なのか。そりゃあ、ゲームで勝てない訳だ。】

「それで、俺は桜さん達を止めようと思っているんだ。そのための協力者を、今は探している。」

【...俺に、協力しろと?】

「ISに囚われない、馬鹿正直なお前だからこそ頼むんだよ。それに、親友だからな。信頼もある。...頼むぜ、弾。」

 そう。俺が電話している相手は、親友の一人である弾だ。
 この後、数馬にも電話するが...まずは弾からだ。

【......いいぜ。】

「ホントか?」

【ああ。...正直な所、俺もお前に連絡を取りたかった所なんだ。】

 俺に連絡を...?何かあったのだろうか。

【今朝、家のポストの中に入ってたんだよ。....ISが。】

「は.....?」

【誰が入れたかは俺でも検討はついてる。何せ、所有者が俺で登録されていたからな。】

 ...桜さん達の仕業か...。

「スペックとかは分かるのか?」

【詳しくねぇけど...同封されていた紙には最終世代とか書かれてたぞ。...と言うか、何かありそうでまだ起動させてねぇよ。】

「そうか...。」

 まぁ、自分宛てと言っても、正体不明のISだ。普通は警戒するだろう。

【だから、協力する代わりに見てくれねぇか?】

「そう言う事か。...蘭は?」

【お前を心配してたよ。それと、自分たちに送られてきたISについて悩んでいた。】

「自分“たち”?...もしかして、蘭にも...。」

【ああ、俺だけじゃなく、蘭にもな。】

 一体何のために...。確かに、以前お礼を送ろうとか言ってたけど...。

「....わかった。千冬姉に言ってみる。」

【頼むぜ。】

 とりあえず、そういって電話を切る。
 桜さん達が弾たちにISを送った理由は分からない。けど、これで協力者は得た。

「次は...数馬か。」

 再び、今度は数馬に電話を掛ける。

「...そういや、結局誘拐事件以降、数馬には会ってなかったな。...弾の奴、知らせてくれてりゃいいんだが...。」

 とりあえず、数馬の電話番号は登録し直していたので、それで掛ける。
 弾が伝えてなかったとしても、ニュースとかで気づいていれば説明が省けるんだが...。

【もしもし...。】

「数馬か?俺だ、秋十だ。」

【秋十!?おまっ、どうして今まで連絡を寄越さなかったんだよ!?】

「あー、悪い、忙しくてな。」

 様子からして、どうやら俺が生きていた事自体は知っていたみたいだな。

「こっちも事件続きで今は大変な状況だからな。」

【...ISが動かせなくなったとかだろ?ニュースでやってた。】

「ああ。まぁ、ISが扱えないのはISの意志そのものが拒否してるだけだから、動かせなくなったというよりは、動かす資格がないだけな話なんだが。」

 っと、話が逸れたな。

「...頼みを言う前に、一つ聞いていいか?....手元にISは届いているか?」

【.....なんで、秋十がそれを知っているんだ?いや、確かに今朝送られてきて、しかも俺宛てだったけど...どうして...。】

「...弾と蘭の所にも来ていたんだよ。...おそらく、桜さん達なりの恩返しなんだろう。...俺と仲良くしてくれたっていう。」

【.......。】

 他にも理由があるかもしれないが、今はそれでいいだろう。

【...とりあえず、ISの方はそれでいい。...で、頼みって何なんだ?】

「それはな...。」

 弾と同じように、簡潔に説明する。

【....えっと...それ、俺にできる事ってあるのか?】

「この際賛同してくれるだけでもありがたいがな。...でも、今の世の中だとISを持っているだけで何かあるかもしれないから、何かしら対策をした方がいいぞ?」

【...それ、実質選択肢ないんじゃねぇの?】

「...かもな。」

 身の安全を考えれば、俺達のように味方などがいた方がいいからな。
 IS関連で世界が混乱している今、正体不明のISを所持しているというだけで狙われるかもしれん。...って、それは以前まででも一緒か。

「とりあえず、千冬姉に掛け合ってみて、少なくともこっちで保護できるようには努力してみる。それで、協力してくれるか?」

【...ああ。応援する程度しかできないかもしれないが、親友の頼みだ。協力する。】

「...ありがとう。弾にも連絡しておいたから、保護する事になったら俺が迎えに行く。」

【分かった。】

 協力してくれると分かり、後日連絡するという事で電話を切る。

「...一歩ずつ、着実に...だ。」

 小さな事でもいい。とにかく、前に進もう。
 立ち止まっていては、どうにもならないからな。

「...夕食後、千冬姉に言っておくか。」

 弾と蘭、数馬の事に関して、千冬姉に話しておこう。
 そのついでに、外出許可を貰って明日恭也さんに修行を付けてもらえたら御の字だ。







「.......。」

 翌日、俺はIS学園の外に来ていた。
 千冬姉に色々説明したら、渋々とは言え、許可が貰えた。
 そして、久しぶりにIS学園の外に出たんだが...。

「(...やっぱり、ピリピリしてるな...。)」

 街を行く人々が、どこかピリピリとした雰囲気になっているのを、一目見て分かった。
 世界が混乱しているとはいえ、通常の企業などはいつも通り営業しなければいけない。
 けど、ISが使えなくなったというニュースは相当な影響を及ぼしたらしい。

「(今までは、男性はどこか女性の顔色を窺うような態度が節々に見られた。けど、今ではそんな様子がない。...むしろ、人によっては怒りを抱えているな...。)」

 女性優位になっていたため、それを悪用して横暴を働かれた男性も多い。
 そういった人たちは、やはり女性に恨みを持っているのだろう。

「...今は、どうしようもない、か。」

 男性も、復讐する相手ぐらいは選んでくれるように願っておこう。
 ...と言っても、手が届く範囲でそういうのを見たらさすがに止めるが。

「...まぁ、そういう訳だからさ...。」

 背負ってきていた木刀を、袋から取り出しながら路地裏に入る。

「見過ごせないんだよな。“それ”。」

「な、なんだよお前!?」

 そこには、Tシャツにジーパン、ぼさぼさになった髪の男性と、おそらく連れ込まれたであろう中高生程の少女がいた。
 ...そう。彼女は男性に路地裏に連れ込まれたのだ。おまけに、奥の人気のない方まで行き...まぁ、何かしらの暴行を働くつもりだったのだろう。

「た、助け...っ!」

「て、てめぇ、女の味方するってのかよ!」

「.....。」

 男性は、おそらく女尊男卑の風潮で職を失ったりしたのだろう。
 その恨みを、連れ込んだ少女にぶつけるつもりなのだろう。

「...知ってる奴なのか?」

「は....?」

「お前は、その子に何かされたのか?」

 もし、そうであるならば両成敗にするつもりだ。
 けど、そうでなければ...それはただの逆恨みになる。

「うるせぇ!女どものせいで、俺は...俺は!」

「だからって、無関係な人を巻き込むのか....。」

 人質にするつもりなのだろう。男性はナイフを少女に突きつける。

「遅い。」

「っ...!?」

 ...が、脅されるよりも前に懐に飛び込み、木刀でナイフを弾き飛ばす。

「俺も男だ。どんな目に遭ったのか、大体は想像できる。けどな...。」

「っ.....。」

「自分もやり返してちゃ、意味がないんだよ!」

 胸倉を掴み、俺はそういう。
 ...尤も、あいつに復讐しようとした俺が言えた事じゃないがな。
 復讐は、結局の所空しくなるだけだ。俺もそうだったし。

「くそっ、ガキが...!」

「悪いが、警察を呼んでくれ。」

「は、はいっ!」

 ずっとオロオロとしていた少女に、俺はそういう。
 ...雰囲気や態度からして、彼女は女尊男卑に染まってなかった子だろう。
 本当に、無関係な人をこの男は巻き込んだらしい。

「自暴になるのはやめとけよ...っと。」

「がぁっ...!?」

 鍛えている俺からすれば、一般男性程度なら抑え込める。
 殴ろうとしていた手を掴み、そのまま捻って関節技を決める。
 これで痛さで身動きが取れなくなっただろう。

「(....世界中のあちこちで、こんな光景が起きる事になるのか...。)」

 警察が来るまで、男性を抑えながらも俺はそう思わざるを得なかった。





「....予定より遅れたな。」

 早めに出たのだが、トラブルに首を突っ込んだため、少し遅くなってしまった。
 結局、あの男性は連行され、少女からは感謝される形となった。
 警察にも事情を聴かれたが、ただ通りすがっただけと言って、早々に切り上げた。

「.......。」

 なのはの実家に着き、俺はインターホンを鳴らす。
 しばらくすると、一人の男性が出てきた。

「やぁ、なのはから話は聞いてるよ。」

「士郎さん。」

 なのはの父親である士郎さんが、俺を出迎えてくれる。
 どうやら、既に事情は通してあるらしい。
 ...どうでもいいけど、士郎さん若々しすぎるぞ...。母親の桃子さんもそうだけど。

「...世界が混乱しているのは、普通に暮らしている人たちにも伝わっているよ。既に、何度か女性が被害に遭う事件も起きている。」

「やはりですか...。」

「そのほとんどが男性の復讐による事件。そして、それに反発するように女性権利団体の過激派も動き始めているというのを、裏から情報を入手している。」

「っ.....。」

 ...既に、水面下では混乱に乗じた動きがあったようだ。
 裏に通じる伝手がある士郎さんも、その情報は掴んでいるらしい。

「どんな事情で君達が動いているのかは分からない。...けど、もしこの世界の混乱を鎮めるつもりなら、協力は惜しまないつもりだ。」

「...最終的な到達点は違いますが、その過程で鎮めるのは必須です。...俺は、ただ桜さんを止め、本来の夢を叶えたいだけですから。」

「なるほどね...。」

 庭の中を進み、家にある道場の扉を士郎さんは開ける。

「少なくとも、邪な目的ではないと理解したよ。...だから、僕らも協力しよう。」

「......。」

 その中には、既に恭也さんが木刀を持った状態でそこにいた。
 その妹である美由希さんも同じように木刀を持っている。

「強くなりたいのだったね?既に自らの型を持っているから、御神流は教えれないけど...僕らが相手をすることで、強さを磨くといい。」

「....お願いします!」

 そして、俺は強くなるために同じく木刀を構えた。








   ―――...俺は、強くなる。そして、いつか桜さんに追いつく...!









 
 

 
後書き
強さは今の所、秋十(重り付き)<マドカ≦なのは≦秋十(重りなし)<恭也≦桜です。
ついでに言うと、士郎さんと美由希さんは秋十と恭也さんの間辺りです。
尤も、全員が成長し続けているので、逆転したりしますが。 

 

第52話「一方で」

 
前書き
―――全て、俺達が引き受ける。

今回は桜たちメイン。
ヘイトを自分たちに向けるために色々好き勝手します。
 

 






       =桜side=





「うーん、大体予想通りって所だねー。」

「少しつまらないな。想定外な事を起こしてくれたらいいんだが。」

 世界の情勢をチェックしながら、俺と束はそういう。

「でも、予想外な事が起きて計画が破綻したらそれはそれでやばいよ?」

「それもそうだな。予想外は秋十君達の所だけで十分か。」

 秋十君達の動きは今の所大人しい。
 まぁ、他にも生徒がいるIS学園じゃ、まず防御を固めるのが先決だしな。

「各国の状況は分かるか?」

「そうだねー。まぁ、ISに大きく関わっている国は軒並み士気が大幅にダウンしてるよ。実際、国としての戦力も落ちてるから、結構危ないね。」

「だろうな。...っと、ドイツのシュヴァルツェ・ハーゼを中心とした軍の部隊はあまり変わってないな。...しかも、ISに認められているようだ。」

「おー、やるねー。そういえば、アメリカの...ナターシャ・ファイルスだっけ?彼女も認められてるみたいだよ。何せ、“あの子”とか愛着を持って呼んでだからね。」

 数少ないとはいえ、ISをそういった見方をしてくれる人がいるのは嬉しいものだ。

「まぁ、今それは置いておいて...。」

「問題なのは、この状況に乗じて何か仕出かそうとしてる連中だね。」

 コンソールを操作し、そいつらのデータを出す。

「亡国企業過激派と、女性権利団体過激派。それと、男性が集まったテロ組織もあるみたいだな。」

「亡国企業過激派は言わずもがな。ISに認められなくても、サルみたいに喚いている女性権利団体の一部。“レジスタンス”とか自称してる男性による烏合の衆....碌な組織がないね。」

「混乱に乗じてる時点で碌な奴らな訳がないだろう。」

「それもそうだね。」

 前者二つは以前から同じようなものだったとして...自称レジスタンスはただのテロ組織でしかない。束の言う通り烏合の衆程度の認識だ。

「過激派同士、手を組みそうだし、先にこっちを潰す?」

「いや、先に行動しそうな自称レジスタンスから潰そう。こっちの方が死人が出る確率が高い。」

 元より復讐や怨恨で動く連中だ。
 そこを考えると前者二つよりも厄介だ。

「でも同時に動かれる場合はどうするの?」

「んー?亡国企業には亡国企業、残りはジェイル達に任せよう。」

「こっちにはゴーレムもあるから、それで充分かー。」

 俺達の所でも、ISに乗れるのは俺と束ぐらいだ。
 スコール達も良くも悪くも目的の手段として乗っていたため、乗れなくなったらしい。
 ...それでも、ISとも戦えるゴーレムがある時点でこちらの戦力は段違いだがな。

「じゃ、直々に潰しに行くか。既に日本でも男性による個人的な復讐が始まっているから、早めに行動しないと無関係な人が巻き込まれる。」

「善は急げって奴だね。じゃあ、れっつごー!」

 クロエに基地の事は任せ、俺達は自称レジスタンスの基地らしき場所へ向かった。
 だが、基地も複数ある。潰すのは手間がかかるな...。
 日本にもあるが、そちらはIS学園が狙いのようなので、秋十君達に任せるか。







「まずは一つ....。ううむ、ガチ装備しなくて良かったな。」

「最低限で十分だったねー。」

 三時間後。俺達は自称レジスタンスの基地の一つ。その最深部に来ていた。
 移動に二時間半以上掛けていたから、実質基地攻略はほんの僅かだ。

「なん、で、たった二人に....!?」

「うーん、相手をちゃんと見てない時点で、なってないなぁ。」

「怒りで前が見えてなかっただけだろ。それか節穴か?」

 辺りには武装した男どもが這い蹲っている。
 無論、俺達からは殺していない。非殺傷用の武器で来たからな。
 だがまぁ、味方の弾で死んだ奴はご愁傷様だな。

「それとも自己紹介をしてほしい?」

「贅沢な奴だなぁ。」

「ぁ.....あ.....!?」

 そこで、ようやく俺達の正体に気づいたのか、男たちは震え始める。

「さぁさぁ!天災である篠ノ之束と!」

「その幼馴染である神咲桜が来たんだ。...あぁ、サプライズだから歓迎の品は期待してないぜ?」

 代わりに、マシンガン(非殺傷仕様)の銃口を向ける。

「ひっ...!」

「俺達が求めるのはただ一つ。」

「君達の壊滅なのだー!!」

 弾が切れるまで、マシンガンをぶっ放す。
 いやぁ、デスクワークも得意だが、やっぱりこういうのもスカッとするなぁ!

「っと、これ以上やると潰れちまうな。」

「あっはっはー、恨むのなら、自分たちが正義だと、馬鹿みたいな思想を持った自身を恨むんだね!」

 ここの幹部が指示を出したりする部屋は、既にボロボロ。
 破片が飛び散ったりして怪我はしただろうが、今ので死人は出していない。
 まぁ、このマシンガンは滅茶苦茶痛いだけだし。

「なんでだ...!俺達は、女どもに散々...!」

「散々やられたから、自分たちもやり返すと?」

「バッカだねぁ。そんなの、空しいだけなのに。」

 やり返されたからやり返す。それを繰り返せばただの醜い争いだ。
 確かに我慢できない事もあるだろう。

「それで?女尊男卑から男尊女卑に変わった時、君達は以前まで自分たちがされてきた事を、する立場になるんだよ?」

「それが正当だと言うのなら、俺らが言うのもなんだけどさ...。」

「「頭おかしくない?」」

 まぁ、こいつらの好きなようにさせた結果が男尊女卑になるとは限らんがな。
 だが、やってる事は所詮テロ紛いな復讐だ。碌な結果にはならん。

 ...復讐ではないとは言え、同じような事をしている俺達も含め...な。

「も、元はと言えば、お前がISを開発したせいで俺達はぁ!!」

「今度は私に矛先を向けるのかぁ。」

「仕方ないだろう。こいつらの怒りを向ける宛ては、ほとんど限られているのだから。」

 “ISを開発したせい”。これを束は否定しない。
 確かに女尊男卑になったのは束も要因ではあるだろう。
 だが、責任を取る必要はない。そんな世界にしたのは、他ならぬ世界そのものだからだ。

「責任を取れ!お前のせいで俺達は職を失くした!人生のどん底に落とされた!」

「....だってさ。」

「んー、否定はしないよ?私の影響は凄まじかったからねぇ。それに、責任は今まさに取ってる真っ最中なんだよね。」

 そう。手段は明らかにおかしいが、俺達はちゃんと責任を取っている。
 ...それも、現在進行形でな。

「私達が歪ませてしまった世界は...私達が正す。」

「そのために世界に宣戦布告し、全ての敵意を集めたんだからな。」

 何も、ISを宇宙開発に向けさせるためだけじゃない。
 ...あの女神に言われた通り、本来の道筋に直すのだ。

「お前ら....まさか.....!」

「矛先は、一か所だけにしとけよ。」

「また何か動きを見せたら、潰しに来るからねー。」

 そう言って、俺達は立ち去る。





「次はどこに行く?」

「んー...ちょっと待ってね。寄り道してもいいかな?」

 先程言われた事に、束は何か思ったのかタブレットを弄る。

「...ここだね。最寄りの花屋は...あった。」

「束?」

「さー君、ちょっと付き合ってね。」

「お?おう...。」

 そのまま俺は束に連れられて、花屋へ寄る事になった。



「...墓地...そういう事か。」

「...女尊男卑の風潮で、死んでしまった人、自殺した人は少なくないんだよ。」

「...そうだな。」

 それは、俺も分かっていた事だ。
 だから、既に誰が死んでしまったかは調べられるようにしておいたし、それどころか女尊男卑で追い詰められた人々も表にまとめてある。

「さっきああ言われて、お参りぐらいはしようと思ってね。」

「なるほどな。...俺も付き合うぞ。」

 世間では、束は興味がある相手以外には冷たいと言われるが、そうではない。
 “原作”ではそういった節があるかもしれないが、案外慈悲深かったりする。
 ...慈悲深いと言っても、自業自得な相手には冷たいがな。

「「...........。」」

 花を供え、黙祷する。
 俺達にできるのは、これが限界だ。

「...行くよ、さー君。」

「...ああ。」

 しばらくして、俺達は一度基地に戻る事にする。

「...早く、世界を変えないとな。」

「...そうだね。」

 世界の道筋からは、既に大きく外れている事はなくなった。
 ここからは、俺も教えてもらっていない未知の領域だ。
 ...でも、だからこそ俺は成し遂げないといけない。

「よし!じゃあ、次は?」

「そうだな...この辺りがいいんじゃないか?」

「オッケー。じゃ、行こうか!」

 気持ちを切り替え、次の場所への向かう。







「ただいまー。」

「ふぃー、疲れた。」

 その後、いくつか拠点を潰し、俺達は基地へと戻ってきた。
 今日の夜か、明日にでもこの事はニュースになるだろう。
 そのために、証拠や構成員を残してきたのだから。

「おかえりなさい!」

「ただいま、ユーリちゃん。」

 俺達と一緒にいるようになってから、ユーリちゃんは元気を取り戻した。
 ...だが、依存しているのは変わってはいないようだ。

「えっと...ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも...あうぅ...。」

「ちょっと待ったゆーちゃん!それ誰に教えてもらったの!?」

「えっ、束に教えてもらった訳じゃなかったのか....。」

 ユーリちゃんらしからぬ言葉だったので、てっきり束辺りが教えたかと...。

「違うよ!私だったらもっと....あ。」

「もっと...なんだ?」

「なんでもないよー?あははー。」

 ...警戒しておこう。
 それはそれとして、ユーリちゃんに一体誰が...。

「あの...クアットロさんから...こうすればいいって...。」

「...スカさんの娘さんだっけ?四女の。」

「あー....。」

 そういえば、性格捻くれてたな。あの子。入れ知恵しててもおかしくない。
 ...だけど、ご愁傷様だな。

「よーし、すぐ探してくるねー!」

「えっ、束さん?」

「まぁ、放っておけ。」

 束に入れ知恵がばれるなんてな...。死にはしないだろうが、トラウマになるだろう。

「...とりあえず、ご飯かな。」

「あ、はいっ!」

 束の方は放っておこう。しばらくすれば、勝手に戻ってくるだろうし。
 ...クアットロは自業自得だから放置だ。



 ....しばらくして、一人の女性の悲鳴が聞こえたが...俺はスルーした。
 ユーリちゃんは少し心配していたが、自業自得だからな...。





「そういえば、ジェイルさんはどこに?」

「何でも、妹さんがいるみたいで、説明しに行かなければならないと...。」

「...そういえば、いたっけな。妹さん。」

 ジェイルさんにはクイントさんと言う妹がいる。
 どうやら、そのクイントさんにジェイルさんは頭が上がらないようで...。
 ユーリちゃん曰く、電話がかかってきて慌てて向かったとの事。
 ちなみに、兄妹揃って子沢山だったりする。

「...そう言えば、桜さんや束さんは家族に対して...。」

「なんの説明もなし...とは行かないからな。束は置手紙を。俺は...連れてきた。」

「...はい?」

 母さんは、こんな事には本来加担しないのだが...。
 それでも、“一緒にいられるなら”と、捕虜のような立場としてついてきた。
 実際は普通にこの基地で暮らしているだけだがな。

「ユーリちゃんも、俺達がいなくて暇な時は母さんと...後クロエとかと一緒にいてていいぞ。家事関連を担う人は基本基地にいるからな。」

「はい...。あの、連れて行ってもらう事は...。」

「...ダメだ。ユーリちゃんは、立場としては攫われてきた被害者だ。それなのに、俺達に加担してしまっては、意味がない。」

「そうですか...。すみません...。」

 俺達に任せっきりなのが嫌なのだろう。ユーリちゃんらしい。

「謝る事ではないさ。...近い内に、色々変わってくる。」

「え....?」

「俺達が外に出ているのは、余計な組織を潰して回っているからだ。だから、もう少しすればそういった組織の脅威もなくなる。」

「...そうですか。」

 俺達は、世界にとっての“絶対悪”になろうとしている。
 そうすれば、世界は一致団結せざるを得ないからな。

「...なぜ、桜さんはこんな事を仕出かしてまで....。」

「なぜ...か。全世界に配信した映像で言ってた通り、主な目的はISを宇宙開発に向けて使ってもらうためだ。」

「嘘...ですよね?それだと、桜さん達ならこんな事をしなくてもできるはずです。」

 どうやら、見抜かれていたようだ。

「...もう一つは、世界の歪みをなくすためだ。」

「歪み...?」

「女尊男卑、ISに固執した思想...それによって生じた、女性の間だけでも存在する格差...挙げればきりがない。そういった歪みだ。」

 そう。何も女尊男卑の影響は男女間だけではなかった。
 女性の間でも、適正の有無で格差が生じていたのだ。
 さらには、それに影響して、“優秀さ”でも格差が生じた。
 ...その結果がユーリちゃんだ。

「その歪みの影響で、ユーリちゃんを含めた皆との出会いがある。だから、なかった事にはしないさ。...でも、正さなくてはいけない事だ。」

「.........。」

「別に、俺達が世界を掌握する必要はない。歪みを正すと言った部分では、もうすぐ達成したも同然になる。...いわば、歪みさえなくせばいいんだからな。一致団結するだけでもそれはなしえる。」

 ...尤も、それが長続きする保証はないが。

「そのために...態と世界と敵対を...。」

「普通に業を煮やしたってのもあるけどな。」

 どれだけ待っても宇宙開発に用いようとしない。
 だから、ついでに本来の用途を思い知らせるためにこうしたのだ。

「だったら、最終的に桜さん達は....!」

「...大を救うために、小を切り捨てる...。全部を丸ごと助けるなんて、早々できるものじゃない。...世界を変えるとなればなおさらな。」

 どう足掻いても、もう俺達に平穏は戻ってこない。
 俺と束を犠牲にする事で、この歪んだ世界を戻すのだ。

「...ユーリちゃんは、こんな自己犠牲精神を持つなよ。」

「そんな...!桜さん...!」

「まだ終わった訳じゃない。」

「でも...!」

 せっかく会えたのに、もう日常は帰ってこないのだと、ユーリちゃんは思っているのだろう。事実、帰ってこない。...このままでは、な。

「だがこれは、個人...もしくは少数での話だ。」

「え....?」

「...俺達だけでも歪みはなくせる...けど、代償として俺達は...。...だが、もし秋十君達が俺達を止めに人々を導いたのなら...。」

 これは、一種の賭けだ。
 一応、当てが外れたとしても歪みは消せるようにはしてあるが、もし秋十君達が俺達の信じた通りに動いてくれれば、全てが上手く行くことになる。

「それに、俺と一緒にいたいと思ってくれる子が、ここにいるんだ。...俺だって、死ぬような事がないように、足掻き続けるさ。」

「桜さん...。」

 慕ってくれている人を、ただ置いていくつもりは毛頭ない。
 俺だって責任を取ろうと決めたんだ。最後まで無事に帰る事を諦めない。

「.....ねー、私だけ除け者にされてなーい?」

「あっ...!す、すみません...!」

「完全に私空気になってたじゃーん!」

 いい雰囲気になった所で、ずっといた束が口を挟んでくる。
 ...そう。ずっといたのだ。ユーリちゃんにジェイルさんの事を聞いた辺りから。

「私も混ぜるのだー!」

「そぉい。」

「はぷぁす。」

 ル〇ンダイブのように飛び込んできたので、チョップで叩き落す。

「...大丈夫ですか?」

「こ、この程度で怪我しないってもう分かっているのに心配してくれるゆーちゃんマジ天使...。」

「IS学園に行く前は感覚が麻痺してましたけどね...。」

 既にこのやり取りは以前から何度もやっている。
 ユーリちゃんでさえ、入学前には大した心配はしていなかったほどだ。
 それでもまた心配するようになったユーリちゃんは、やっぱり優しいのだろう。

「...そういえば、シュテル達を置いてきてしまいました...。」

「...あの子達は今あっ君の所にいるよ。だから大丈夫。」

「チヴィットはめ~ちゅ以外はあちら側に就くみたいだからな。」

 俺達がユーリちゃんを連れだすために、一度チヴィットに干渉して活動を止めていた。
 そのため、チヴィットはエグザミアの仮ボディであるめ~ちゅ以外は学園やワールド・レボリューションにいるのだ。

「....皆さん....。」

「...心配する事はないさ。」

「桜さん?」

「あいつらは、俺と関わって、今も自身を磨き続けてる連中だ。...多少の苦難は易々と乗り越えてくれるさ。」

 だからこそ、日本にいる自称レジスタンスは放置している。
 あいつらの狙いはIS学園。その防衛を秋十君達にやらせるのだ。
 もし、この程度で挫けるのならば、その程度だったと諦めるだけだ。
 尤も、そんな事はありえないと思うが。

「...いや、断言しよう。あいつらは来る。俺達の袂まで。」

「私達を良く知るあっ君やまーちゃん。ちーちゃんがいて、将来有望な子が何人もいる。おまけに、今ではISに認められてまた乗れるようになってるからね。」

「...そうですね。」

 元より、ほとんどが敵に回り、誘拐され、全ての希望が断たれない限り、決して折れる事のなかった秋十君だ。
 他に味方がいる今、諦めるはずがない。

「...そういえば、秋十さん達は桜さん達を止めるつもりですけど、どう止めるつもりなんでしょうか?ISはそういった目的では使えなくなったのでは...?」

「そうだな。既にISは宇宙開発か何かを護る...と言うか、お互いに通じ合った目的にしか用いれなくなった。俺達も基地襲撃ではゴーレムとかしか使わなかったからな。」

 意志を持ったという事は、俺達ですら拒否される事もある訳だ。
 さすがに想起達は大抵は受け入れてくれるが...やはり、道徳に背いた襲撃などは手を貸してくれないし、俺達も借りようとは思わない。

「でしたら、どうやって...。」

「そりゃあ、まぁ...。」

「拳で、だね。」

 おそらく、昔ながらの殴り合いになったりするだろう。
 むしろ、そっちの方が清々しいかもな。

「そんな物理的な...。」

「物理的に止めるからこその拳...って、こういうのは日本人にしかよくわからないか。サブカルチャー関連の事だしなぁ。」

「うぅ、分からないです...。」

 こういう事を知らない所を見ると、ユーリちゃんもお嬢様だったのが分かるなぁ。
 簪ちゃんと友達になってたから、ある程度は知ったと思うが...。

「簪さんに色々見せられた事はあるんですけど...その、説明してる時の簪さんの勢いに圧倒されてしまって...。」

「おおう...。」

「あの子の意外な一面だねー。」

 所謂隠れオタクって奴か?
 少なくとも普段の簪ちゃんのイメージからは想像がつかないな。

「...ところで、何をしているんですか?」

「ん?各国の軍事施設にコンピュータウイルスをちょっとな。」

「世界中が混乱してるのに、それを解決する事もなく捜索部隊を組まれてもねぇ。と、言う訳でまずは解決しないと使用できないようにしてるんだよ。」

 もちろん、暴動などが起きたら武力で鎮圧できる程度には兵器は使える。
 つまり、俺達を探すのに使わなければ普通に使えるウイルスだ。
 何ともご都合主義なウイルス。まぁ、自作したから当然だわな。

「...ふむ、大体の国が混乱して何をすればいいのか分からなくなっているな。頭の固い連中は先に俺達を捜索しようとしているけど。」

「もう一回世界配信やっちゃう?今度は自分の国を先に何とかしろとか皮肉ったりしてさ。」

「あまりにもたもたしているならそれも手だな。」

 衛星から各国を見ているが、どこも適切な動きは出来ていない。
 おそらく、一部分は俺達の思惑を理解しているが...上の奴らが納得してないのだろう。
 ....もう一度焚きつける必要がありそうだな。

「...あの、既に掌握している気がするんですけど...。」

「情報と言う分野ではな。物量で攻められたら俺達もアウトだ。」

「でも情報戦で敵うと思わないでよー?あ、でも、抵抗できる面子がワールド・レボリューションにいたね。」

 俺達と情報戦で戦えるとしたら、会社にいるグランツさんと、束に次ぐ天才と言われている八神はやて...他にも何人か優れた奴らがいるからそいつらぐらいだろう。

「...既に世界を掌握する戦力は揃っていると思うんですけど...。ISが意志を持った事で、各国の戦力も落ちてますし、ゴーレムが大量にあるなら...。」

「あー、気づいちゃった?まぁそうだんだけどね。」

「それじゃあいけないんだよー。」

 実際、俺達が本気を出せば既に一つの国は取り返しがつかない事になっている。
 でも、それは俺達の目的ではないし、本心からやろうとも思えない。

「ちょうどいい手加減で、じわじわとね。」

「...意地が悪いですね。」

「はっはっは。否定はしない。」

 一気に掌握した所で、世界は元に戻らないからな。
 自分で気づいて、一致団結してもらわないと。

「人は窮地に陥った時に思いがけない力を発揮する。」

「所謂火事場の馬鹿力って奴だね。」

「それをさせる間もなく掌握しきったら、意味がないからな。」

 敢えて窮地に陥る程度に済ませ、人間の本領を発揮させる。
 そうすれば、技術などの発展にも繋がるからな。

「....桜さん、もしかして...楽しんでます?」

「....よく分かったね。」

「まさか気づかれるとはねー。」

 そう。俺達は、“楽しんでいる”。

「さすがに、他の組織に関する対策は真剣に対処してるさ。」

「だけど、世界全てを相手にするって言うのが何と言うかね...。」

「「すっごく楽しく感じるんだ。」」

「.........。」

 自分でさえ、これはおかしいと思っている。
 けど、それだけ強大な存在が相手なら、俺達も全力を出せる。
 ...そう、俺達は全力を出せる日を待ち望んでいたんだ。

「....やっぱり、お二人はどこかおかしいです。」

「今更だろう?」

「はい。今更ですね。」

 ユーリちゃんの言葉に、俺達は三人で笑い合う。





 ....嗚呼、出来る事ならば...。









   ―――また、皆で日常を楽しめる日がやってきますように...。











 
 

 
後書き
凄いフラグっぽいの立ったけど、気のせいです。(多分)
世界を相手にすれば全力を出せると踏んで、敢えて猶予を与えています。
その間に、どれだけの事ができるのかが、秋十達の勝利の鍵になる感じです。 

 

第53話「私も動かなきゃ」

 
前書き
―――...私達も、変わらなければ。

再び学園side。
秋十と言うより、マドカを中心とした女性陣メインです。
 

 




       =マドカside=





「ふっ、はっ....!」

「甘いよ!」

 私となのはの木刀がぶつかり合い、私の木刀が弾かれる。
 御神流の一つ“徹”の効果だ。これのせいでまともに受けると衝撃が貫通する。

「そぉりゃああっ!」

「えっ!?」

 私は別に二刀流ではないため、弾かれた事で素手になる。
 でも、それで終わるつもりは毛頭ない。これは剣の戦いじゃないからね。
 なのはの腕を掴んで、思いっきり背負い投げを繰り出す。

「っ...!」

「はぁっ!」

「くぅっ....!」

 投げた際に、空中でなのはは体勢を立て直す。
 そこで、着地した所に掌底を放ち、それを防がせる事で私はそこを通り過ぎる。

「......。」

「...仕切り直し...だね。」

 弾かれた木刀を拾い、仕切り直しとなる。
 お互い、動きに慣れてきたからか、決着が付かなくなってきたなぁ...。

「二人共、悪いがそこまでだ。」

「シグナム...。」

「先生が呼んでいる。」

「了解。すぐに向かうよ。」

 シグナムに中断させられ、私達は校舎の方へ向かう。





「先生!...って、これは...。」

「なに、癇癪を起こしただけだ。既に鎮圧してある。」

 校舎にある食堂の一角。そこに冬姉はいた。
 そして、傍には頭を押さえながら正座している生徒が二人...。

「...ISが使えなくなった事で、皆さんの心が不安定になっているんです。それで、このような事が起きて...。織斑先生がいなければ、影響は広がっていました。」

「そう言う事...。...冬姉、私達を呼んだ訳は?」

 アミタから経緯を聞き、とりあえず私は冬姉に呼んだ理由を聞く。

「お前たち...それとお前たちが信用できる者に生徒のまとめ役を担ってもらいたい。本来は教師の仕事なのだが、外の警戒と内側での怪しい動きを何とかしなければならないからな。」

「内側...もしかして...。」

「教師にも女尊男卑の連中はいる。むしろ、今まで表立っていなかったのかと驚く程だ。」

 教師も教師で様々な対応に追われている。
 学園長も取材の対応でてんてこ舞いになってたし、外への警戒も怠れない。
 なるべく生徒を不安にさせまいと奔走しているらしいけど...。

「(“外への警戒”をしている時点で、こうなるのは目に見えてるか...。)」

 正座させられている二人は、不安や恐怖、怒りや苛立ちなどが混ざったような複雑な表情をしていた。

「(私達も、秋兄みたいに色々やっていかなくちゃ。)」

 今日は休日のため、秋兄は一日中なのはの家に行っている。
 あの桜さんに迫った恭也さんによる修行を受けるためにね。
 ...だから、私達も何かやっていかないと。

「それと、だ。マドカ、お前には一夏の様子も見てくれ。」

「えっ、私が...?」

「いつもなら私が見ていたのだがな...。私にも都合があってな。」

「んー、気は進まないけど、わかったよ。」

 あいつなんか、もうどうでもいいと思ってるんだけどね。
 冬姉も、もう姉としてではなく、教師としてしか見てないし。

「あれ?でも秋兄には...。」

「既にメールで伝え、了承の返事が来ている。」

「あ、もう済んでたんだ。」

 秋兄にも既に伝えてあるらしい。

「では任せたぞ。私はこいつらを連れて別室で朝食をとる。」

「はーい。」

 騒動を起こした人と一緒に食べる気分ではないだろう。
 だから、冬姉はその二人を連れて、別の場所で食べる事にしたらしい。

「...とりあえず、今の話をセシリア達にも話しておかないと。」

 各組に二人は纏め役が必要だろう。
 一組は代表候補生が何人もいるし、四組も私と簪、なのはで十分だろう。
 だけど、二組と四組はそれぞれ鈴とシグナムぐらいしかまとめ役に適している人を知らない。

「(それに、いつ皆に限界が来るかもわからない。)」

 ISが動かせなくなった今、IS学園の状況は非常に不安定だ。
 先日あった桜さん達の襲撃でユーリが攫われた事も影響して、生徒の皆も非常に不安になっている。...そこに、また襲撃などの事件が起きたら...。

「...考えるのは後だね。なのは、シグナム、朝食を取ったらいつもの面子にさっきの話を伝えておいて。」

「分かった。」

「マドカちゃんはどうするの?」

「私はもう一つ仕事があるから。...気は進まないけどね。」

 反省してればいいんだけどねー。
 未だに顔見せとかすらないって事は、それもなさそうだし。
 とりあえず、適当なメニューを持って行こうかな。







 寮の一番隅とも言える場所。そこにある部屋に、私は料理を持って来た。
 ノックなんてする必要がない。冬姉から貰っておいた鍵を使って開ける。

「...ふぅん、案外大人しくしてるんだ。」

「....マドカ...?」

 まぁ、普段は冬姉が面倒見てたんだから、暴れようにも暴れられないからね。
 鍵もかかっているし、大人しくしていた方が楽なのだろう。

「もしかして俺を...。」

「そう思っているのなら本当に頭が沸いてるね。私にだって洗脳された記憶があるんだよ?もしお前に人権が適用されてなかったら、今この場で殺してもいいくらいだよ?」

「っ.....。」

 まさか助けに来たと思うとはね。
 本当、いつまでも懲りない奴だよ。

「人の心を弄んだ癖に、いつまでも思い通りになるとは思わない事だね。...と言うか、これは桜さんや秋兄、冬姉にも言われてる事だよね。」

「うぐ....。」

 近くにあったテーブルに朝食を置いておく。

「懲りないのなら相応の末路が待ってるだけだけどさ、私たちはお前に構ってられないんだよね。IS学園を含め、世界中が大混乱。私たちは桜さん達を止めないといけない。...まぁ、白式に見限られたお前に言っても関係ないけど。」

「また、あいつが....!」

 冬姉はどこまで話したのかな?忙しいからあまり話せてなさそうだけど...。

「なんで、俺とあいつでこんなに扱いが違うんだ!あいつだって世界中を引っ掻き回して...!」

「はぁ?お前と一緒にしないでくれる?桜さんは...いや、桜さんと束さん、及びついて行った人たちは、お前が関与した事を尻拭いしているようなものだよ?」

「は...?どういう事だ...!?」

 私も桜さんが去る前に聞かされた事だから、詳しくは知らない。
 けど、本来ならISは今とは違う形で知れ渡っているはずだったらしい。

「束さんはね、本来ならあの時点でISを公表しようとする事はなかったの。だって、女性にしか使えない欠陥を抱えていたんだから。それを“原作”だか何だか知らない展開に沿わせようと、お前が洗脳して仕向けたんでしょ?ほら、お前が関係している。」

「っ......!」

「ここで馬鹿みたいに責めてあげようか?“お前のせいだ!”ってね?」

 ...っと、ここでこんな奴と話してる場合じゃなかった。

「せいぜい、後悔しておくんだね。自分が何をしでかしたのかを。」

「ぐ...くそ....!」

「じゃあね。私だって忙しいんだ。」

 扉を閉め、鍵をかけておく。
 さて、一度食堂に戻っておこうかな。





「....そう言えば、二年と三年はどうしてるんだろう。」

「二年はお嬢様が、三年はお姉ちゃんがいるけどー...確かにどうしてるんだろうねー。」

 自販機の前で一休みしながら、私はふと気になった事を呟く。
 すると、いつの間にかいた本音が私の呟きに答えてくれた。

「生徒会だけじゃ、手が回らないだろうし...もしかして、冬姉が忙しいのってそっちの対処に追われているからかな?」

「そうなんじゃないかな~?先生、まどっち達の事信頼してるし、任せてるんだと思うよ~?」

「だよねー。...ところで、本音は簪の所にいなくていいの?従者なのに。」

 特に、今の状況は芳しくない。
 安全確保のためにも付いているべきだと思うんだけど...。

「かんちゃんにはなのちゃんが付いてるから大丈夫だよー。御神の人は要人警護も得意だし、私より強いからねー。」

「...それもそうだね。なのは、滅茶苦茶強いからね...。」

 なのは曰く、自分はまだまだ“完成”していないらしい。
 ...うん、確かに恭也さんはさらに上を行くよ?でも、それで完成してないんだ...。

「あ、そうだ。お姉ちゃんからなんだけどねー。ゆーちゃんの元姉の...誰だっけ~?まぁ、その人とか、女尊男卑の思考の人達が怪しい動きしてるってー。」

「一応、冬姉から聞いてたけど...。ふぅん、ユーリの元姉が...ね。」

 多分、ユーリがいなくなってまた調子に乗っているのだろう。
 ...あいつ同様、懲りない奴だね。

「ありがと。こっちからも警戒しておくよ。...と言うか、会ったら問い詰めてみる。」

 虚さんだけだと手が回り切らないだろうし...ね。
 と言うか、ユーリの友人として、元姉とは言え蛮行は許せない。

「...女尊男卑の風潮に染められた人とそうでない人が、男女両方で出てきたみたいだね。」

「女性の方は分かるけど~、男性もなの~?」

「“ISが使えなくなった”と言う事態に便乗して、無関係な女性をも巻き込んで復讐してる奴らの事だよ。今まで虐げられてきたという事を免罪符に、自分勝手してるからね。」

「あー...。」

 既に、IS学園にもテレビニュースである程度知れ渡っている。
 だからこそ、さらに生徒の皆は外出する気をなくしていた。

「確かに虐げてきた本人に対して、何らかの報復を与える事を否定はしないよ。けど、無関係な人を巻き込んだり、“女性だから”と言う理由だけでそれをするのは...正直、女尊男卑の連中と何も変わらない。」

「そうだよね~。皆仲良しが一番なのにね~。」

 それはそれとして、これからどうしていくべきだろうか。
 しばらくは冬姉に言われた通りにクラスの皆を纏めていればいいけど...。

「(...IS学園も、長くはもたない。)」

 ISが使えなくなり、世界中はその対処に追われている。
 IS学園もてんてこ舞いで、政府などからの支援もなくなっている。
 ...おそらく、長く持って一年。襲撃などの事件があればさらに短くなるだろう。

「(タイムリミットは短い。それまでに、仲間を集めて桜さん達の居場所を特定...とまでは行かなくても、この混乱している世界を変えれる力を集めないと...。)」

 そのためには、私達も変わらなくてはいけない。
 秋兄や冬姉に頼ってばかりじゃなく、私も私にしかできない事をやらなくちゃ。

「何か決意した感じだね~。私に手伝える事があったら手伝うよ~?」

「...そうだね。じゃあ、まずは...本音からも友人とかに声を掛けて行って。本音ならそのふわふわした雰囲気で不安定な精神も落ち着かせられるだろうし。」

「お~。任せるのだぁ~!よーし、早速行ってくるね~。」

 ...ああ見えて桜さんを唸らせる程の切れ者だ。
 少なくとも“裏”に関わっている分、マイナスの結果は出さないだろう。

「....ままならないねぇ...。」

 自販機で買ったジュースを一飲みし、私はそうぼやく。
 やる事は多い...けど、どれから手を付けるべきか...。







「...む、マドカか。」

「ラウラ。それにシャルと箒...後、静寐も?」

 昼食を食べ終わり、一部生徒に怪しい動きがないか見回っていると、ラウラを筆頭にして一組の皆がそこにいた。

「...正直、私にこんな役目は合ってないと思うんだけど...。」

「何を言う。兄様に鍛えてもらった分、他の者より経験がある。それがISの動きでの話だとしても、その経験が普段にも生かされる。だから恥じる事はない。」

「うーん...。」

 ...なんだか、静寐は場違いだと感じているらしい。
 ラウラに同行させてる訳を言われてもピンとこないらしいし。

「セシリアの方は?」

「一組の方に残ってもらってるよ。誰かが見ておいた方がいいからね。」

 世界中が混乱している今、IS学園での授業は止まっている。
 高校生としての基礎知識などの授業はあるが、IS関連の授業は滞っているからね。
 そして、食堂での食事も大抵クラスで固まっている。安心感を求めるためにだ。
 中には仲がいい人と食べた方が安心できる人もいるみたいだけど...。
 だから、セシリアはクラスを纏めるために残っているようだ。

「本音から聞いておいた。碌でもない事を考えている生徒がいるとな。」

「そうなんだよね。このご時勢に余計な事をしてくれるよ。」

「一年の方は私達が見ておくつもりだが...。」

「問題は先輩方だよねぇ...。」

 先輩方にも専用機持ちや代表候補生はいる。
 ...だが、だからと言って私達のようにISを動かせる訳ではない。
 しかも、その専用気持ちすら怪しい動きに加担している可能性もあるのだ。
 それだと、生徒会長とかだけじゃ、手が足りないんだよね...。

「...よし、私が警戒しておくよ。」

「大丈夫なのか?」

「これでも桜さん達と一緒にいたんだよ?大抵の事は何でもできるし、それに、怪しい動きをしている連中の狙いは、おそらく私達。...と言うよりは、ワールド・レボリューションに所属している人だね。つまり、私や秋兄、シャルやフローリアン先生達だね。後は、元男性操縦者として織斑一夏。」

「....そうか。」

 本音曰く女尊男卑の思想の連中だし、少なくとも秋兄とあいつは確実だろう。
 そして、桜さんが所属していたという理由で、同じ所属の私達も...と言う訳だ。

「先生にも言っておくつもりだけど、シャルも気を付けてね。いつも味方が傍にいるとは限らないから。」

「う、うん。...マドカこそ、気を付けてね。」

「大丈夫。こういった類には慣れているから。」

 亡国企業にいた時の経験が活きる時だね。
 ただの学生や教師に負けるつもりは毛頭ないよ。

「じゃあ、私は私で色々調査してみるよ。そっちは任せたよ。」

 普段は桜さんや秋兄と同行としていたけど、久しぶりに単独行動だ。
 冬姉や、生徒会長とは情報交換とために関わったりするけどね。





「...やっぱりそう上手くはいかないか...。」

 しばらくして、私は一息つきながらそうぼやいていた。
 単独行動はできても、情報収集は得意じゃないからね。私。
 いつもはスコールやオータムから事前に情報を貰ってから行動してたしなぁ...。

「...あの二人も桜さんについて行ったからなぁ...。」

 うーん...前情報の有無でここまで変わるとは...。

「(...そういえば、以前生徒に亡国企業の人間を忍ばせているって聞いたっけ?)」

 私の洗脳が解かれて、会社を立ち上げてしばらくした頃。
 スコールにそんな話を聞かされた覚えがある。

「(でも、名前を聞いてないんだよね。コードネームは覚えてるけど。)」

 確か...スコールと同じ苗字で、“レイン・ミューゼル”だっけ?
 うーん、それっぽい人にそれとなくこの名前を呟いたらいいかな。

「(何年生かもわからないけど、聞かされた時期から考えて...三年生かな?)」

 聞かされた時点で入学しているようだったから、合っているはず。
 亡国企業の人間なら、今の状況でも平静を保っているだろうし、そういった人を探そう。





「.....んー....。」

 夕食の時間。再び食堂に様々な生徒が集う。
 三年生が固まっているエリアで、私は適当に歩きながら件の生徒を探す。

「(ついでに怪しい生徒も見つけられたらいいんだけどね...。)」

 さすがに食堂でそんな怪しい動きはなかった。
 ...と言うか、件の生徒っぽい人すらいなかった。

「(後は...はぐれエリアかな?)」

 基本的にクラスや学年で固まっているけど、一部はそうでない人もいる。
 大体が隅の方だったり、グループとグループの間のテーブルとかにいる。
 そう言うのを纏めてはぐれエリアって呼んでるけど...まぁ、どうでもいい事か。

「(...って、この状況でイチャつくって凄いな...。しかも女子同士。)」

 ふと、女子同士でイチャついている...正確に言えば、片方が今の状況で滅入っているのを癒していると言うべきかな。
 そんな二人がそこにいた。どうやら、二年と三年生らしい。
 癒しているのは三年生の方だ。

「(女性同士のカップリングが増えたのも、女尊男卑の影響かなー。)」

 視線に気づかれないように逸らしつつ、どうでもいい事を考える。
 ...どちらかと言えば、女尊男卑の風潮で女性同士の恋愛がおかしく見られなくなったから、増えたというよりも表面化したのだろう。

「...じゃあ、飲み物取ってくるから、大人しく待っとけよ。」

「わ、わかったッス...。」

 そこで、三年生の方が席を立ち、飲み物を取りに行くらしい。

「(.....ん....?)」

 その時、私は違和感を感じ取った。
 なんというか、歩き方が普通じゃなかったのだ。
 普通じゃないと言っても、一般的な歩き方ではないってだけで...。
 ...つまり、“何かしら心得ている”歩き方な訳だ。

「........。」

 ...これは...もしかすると、もしかするかな?
 一応、なのはみたいな武術を習っているだけっていう前例もあるけど。
 いや、なのはもなのはで親や兄が“裏”に関わってるんだけどね。

「(ちょうどすれ違う。...カマかけるだけでいいかな。)」

 無反応だったらハズレ。反応を示せばアタリだ。
 知らなければ反応があっても独り言を聞いただけって反応だろう。

「....レイン・ミューゼル。」

「っ....。」

 ...かかった。まさかの当たりだ。
 ここまで簡単に見つかるとは思ってなかったけど...好都合。

「...後で話をお願いします。」

「ちっ...迂闊だった...わかったよ。」

 コードネームで呼ばれた事から、相当警戒されているようだ。
 まぁ、仕方ない。私もそれが分かってて言ったのだから。
 だけど、これで協力者が得られるかもしれない。
 ...彼女さんも巻き込むかもしれないけど。

「場所は?」

「学生寮の裏手でいいでしょう。時間は手が空いたらいつでも。」

「分かった。」

 場所も指定したし、後は何とかして協力してくれるか頼みこまないとね。







「...さすがに、夜も暑くなってきたかな...。」

 今は夏。もうすぐ夏休みの時期だ。
 あの後、適当に怪しい人がいないか見回った後、私は待ち合わせ場所に来ていた。
 しばらく待ちぼうけするだろうから、自前の小説を読んで時間を潰している。

「....割と早めに来ましたね。」

「手が空いたらいつでもと言っただろう。」

 食堂で会った女生徒改め、ダリル・ケイシーさんがやってきた。
 ちなみに、名前はあの後虚さんに聞いた。

「ダリル・ケイシーさん...ここではレイン・ミューゼルと呼びましょうか。」

「...アタシの聞き間違いじゃなかったか...。...お決まりの言葉で悪いが、どうしてその名前を知っている?」

 最大限警戒した状態で、彼女は聞いてくる。
 元々穏便派に所属していたとはいえ、コードネームが知られてたらこうなるよね。

「コードネーム“M”。それが以前の私の名前です。」

「.....“同類”か。」

「まぁ、そういう事ですね。貴女の事...と言うより、貴女のコードネームはスコール本人から以前に聞かされた事がありまして。」

「....はぁ、無駄に警戒して損した。」

 溜め息を吐き、彼女は力を抜く。
 同じ亡国企業の人間だと知って、少しは安心したのだろう。

「なぜ今更アタシに接触しに来た?スコールからは任務の必要がなくなったから学園生活を満喫しろと言われたんだが...。」

「これは亡国企業としてではなく、私個人の用ですから。スコールもオータムも、桜さん達について行っていますから関係ありません。」

 通りで接触してこなかった訳だ。
 ...で、満喫した結果スコールみたいに女性同士のカップルに...。

「お前個人か...。」

「...簡潔に言えば、情報収集を手伝ってほしいんです。三年生の方を。二年生と一年生は私と生徒会長で補うので。」

「情報収集....もしかして、怪しい動きをしている奴らの事か?」

 どうやら、少しは知っているようだ。話が早い。

「そうです。ISに乗れなくなった今の状況に乗じて、何やら企んでいるようで...。」

「なるほどな...。まぁ、フォルテも巻き込まれたら嫌だから協力するぜ。」

「助かります。」

 フォルテ...おそらく、彼女さんの事だろう。
 あの人は一般の生徒と言った所だろうから、巻き込みたくないのもわかる。

「しかし、スコールとオータムもあっち側か...。」

「ただ世界を引っ掻き回すのが目的ではない....と、関わってきた私達は思ってます。」

「...信頼してるんだな。」

「やる事為す事が非常識でも、根は良い人ですから。」

 まぁ、それでも疲れるんだけどね。
 シャルのお父さんもその非常識さに胃薬買おうとしてたし。
 せっかく解放されたのに今度は桜さん達に苦労しちゃってたよねあの人。

「話はそれだけです。...では、頼みました。」

「ああ。アタシに任せときな。」

「はい。...あ、それと...ISときっちり“対話”すれば、今までのように乗る事ができますよ。多分、その内冬姉から話が行くと思います。」

 それだけ言って、私達は分かれた。

 とりあえず、これで協力者を得た。
 後は、怪しい奴らを炙り出していく事になるが...。

「(...うーん、その前にまた何か起こりそうだなぁ...。)」

 ダリル先輩と別れた後、ふと空を見上げる。
 まるで、これからの事を表すかのように、空は雲に覆われていた。

「(...私も、なのはやシグナムと腕を磨き続けよう。)」

 秋兄はどんどん強くなっている。今までの努力の成果がついに実り出したのだ。
 だから、秋兄に負けないように、私も強くならなきゃ...ね。











 ...待っててよね。桜さん、束さん、スコール、オータム。
 それと、お母さん、お父さん。.....突っ走った事、後悔させてやるんだから。











 
 

 
後書き
まだ懲りてなかった一夏(転生者)君。
もうスポットは当たりませんが、チョイ役としてまだ出番はあります。(予定)

そして、マドカが裏で色々と動いています。
一応楯無とかはその動きに気づいていますが、事前に交渉してるので黙認しています。 

 

第54話「自分勝手」

 
前書き
―――だからと言って、ここにいる人達を巻き込んでいい訳がない。

再び秋十side。恭也との模擬戦から始まります。
桜たちが泳がせていた組織の一部が動きます。
 

 






       =秋十side=





「ぜぁっ!」

「ふっ...!」

 俺の攻撃が躱され、俺もまた攻撃を受け流す。
 一進一退。ようやくここまでこぎ着けた...と言うべきか。
 だけど。

「っ!」

「ぐっ...!?」

 まだ、足りない。
 早い連撃に対処しきれず、俺の腕に痺れが走る。
 御神流“徹”。それは武器から衝撃を徹し、相手にダメージを貫通させる技だ。
 それを、一撃一撃に込められると、まともに受ける事さえままならない。
 ようやく対処できるようになったと思ったが...まだまだだな。

「(なら...!)」

 だけど、対処法は一つだけじゃない。
 桜さんを打倒するために、まず俺は四属性を極めようとした。
 結果、不完全とは言え“風”と“土”を極める事に成功した。
 つまり...。

「お返し...ですっ!!」

「ぐぅ...!?」

 “風”で一撃目を躱し、二撃目を“土”を宿した攻撃で迎え撃つ。
 徹の効果で腕に衝撃が走るが...“土”を極めれば効果は激減させれる。
 そのまま恭也さんの木刀を吹き飛ばす。

「(これで仕切り直し...!だけど、こうなると恭也さんは...!)」

 恭也さんの姿が掻き消える。実際はそう見える程のスピードなだけだが。
 そして、同時に俺も“風”を最大限まで宿す。

「はぁっ!」

「っ....!」

 御神流の神速を用いた、高速の四連撃が繰り出される。
 それに対し、俺も今出せる最速の連撃を繰り出す。

     バキィッ!

「「っ...!」」

 一際大きな音が響き渡り、木刀が折れてしまう。

「...ここまでだな。」

「はい...。ありがとうございました。」

 もう一本床に転がっているが、ここで終わる事となる。

「動きのキレも良くなってきた。確実に腕も上がっているだろう。」

「...ですが、半分程は“慣れ”です。桜さんにはまだまだ及ばないでしょう。」

 確実に腕は上がっている...が、これではまだ足りない。
 少なくとも、恭也さんと引き分けていては、勝てないだろう。

「とりあえず、今日の所はもう帰ります。また後日。」

「ああ。秋十との試合は得るものが多い。俺からもよろしく頼む。」

 時間も時間なので、帰るために支度をする。

「秋十君!!」

「し、士郎さん!?どうしたんですかそんなに慌てて!?」

 その時、士郎さんが慌てた様子で道場に入ってきた。

「なのはから連絡があったんだが、IS学園が襲われている!」

「なっ....!?」

 ...その言葉は、俺を驚かせるには、十分過ぎた。









       =out side=





「っ....!」

「がぁっ!」

 廊下を飛び回るように駆け抜け、なのははすれ違いざまに一閃を放つ。
 峰打ちとは言え、腹に深く入ったため、敵はそのまま倒れ込む。

「...このエリアは、何とか安全を確保できたかな...。」

「まさか、ここまで突然に襲撃してくるとはな...。助かったぞ高町。」

「いえ、お兄ちゃん達に習っていた剣術が役に立って何よりです。」

 千冬となのはは背中合わせで周囲を警戒し、安全を確保する。

 事の発端は僅か10分前。
 監視カメラに怪しい影が映ったのを皮切りに、教員が襲撃に気づいた。
 しかし、避難をするには遅く、対処に乗り出した者達はそれぞれ孤立してしまった。
 なのはと千冬も同じで、運よく合流した所だった。

「先生と合流できたのは幸先がいいですが...。」

「...あまり迂闊に動けないな。」

「はい。生徒会長やそれに連なる人、代表候補生は自衛の心得がありますが、一般生徒は一部を除いて何もできません。」

 二人が倒した男たちは、合流する際に偶然遭遇したに過ぎない。
 脅威がまだまだ残っている事には変わりがなかった。

「...襲ってきた人は皆男性...。心当たりはありますか?」

「...大体は予想できる。おそらく、女尊男卑によって追いやられた連中だろう。それならば、ISに恨みを持ち、ISに乗れなくなったのを好機に攻め込んできてもおかしくはない。」

「なるほど...。」

 気配を押し殺し、廊下を行く二人。

「...家には既に連絡を入れてあります。しばらくすれば、御神流の使い手である私の家族と、秋十君も来るでしょう。」

「そうか...。おそらく更識の方も援軍を呼んでいるはず...。なら、それまでに...。」

「できる限り敵の数を減らすべき...ですね。」

「まずは孤立している奴らと合流するぞ。」

「はい。」

 小声で会話し、二人は廊下を駆けた。この状況を打破するために。









「お父さん!準備できてるよ!」

「分かった!」

 高町家にて、IS学園襲撃の報せを聞いた秋十達は、すぐに学園に向かおうとしていた。

「士郎さん!?何を...。」

「詳しくは学園に向かいながら話す。恭也!」

「分かってる。」

 恭也はすぐに着替え、支度を済ませる。

「乗ってくれ秋十君。」

「もしかして....。」

「....娘が通ってるんだ。親としても、御神流の者としても、放っておけないさ。」

 士郎がそういうと、秋十も意を決して車に乗り込む。

「父さん。俺の装備は...。」

「恭ちゃん、これ。」

「っと、美由希。助かる。」

 戦闘用の服装だろうか。それに早着替えした恭也は、美由希から装備を受け取る。
 真剣だけでなく、クナイのようなものや、ワイヤーのようなものもあった。

「なのは曰く、襲撃者の数は50人はいるようだ。しかも、見た所全員が男性。武装は分かりやすい現代兵器だ。」

「....テロか。」

「おそらくはな。目的としては、男性だけの所から見るに、女尊男卑の恨みか。もしくはそれに乗じた何かだな。」

「傍迷惑極まりないね。」

 車を猛スピードで飛ばしながら、士郎は恭也と美由希と会話する。
 その様子を、秋十は黙って見ていた。

「人質、死人や怪我人は既にいると見てよさそうだな...。」

「IS学園への移動手段から考えると、隠密行動は難しいな。できたとしても、動きが小さすぎる。誰かが潜んでいるとばれた瞬間、状況は悪化するだろう。」

 IS学園への移動手段は、主にモノレール。
 ヘリや船という手段もあるが、どれにおいても隠密行動は不可能である。
 唯一、潜水艦は可能だが...彼らにそれを用意する時間はない。

「....ここは敢えて動きを目立たせた方がよさそうだな。一人が敵を陽動し、他で救出にあたる...それが適切だ。」

「注目を集めて裏から攪乱するという訳か。...だけど、誰が行う?」

 IS学園にどう突入するかを、士郎達は決める。
 後は誰がどのように動くかだが...。

「...陽動は俺がします。」

「秋十君がかい?しかし...。」

「俺はISに乗れますから、陽動にも向いているかと。皆が危機に陥っているのなら、夢追も応えてくれるはずです。」

「なるほど...。」

 私用やスポーツ、娯楽に使うのならともかく、人の命の危機を救うのであれば、夢追は応えてくれる。そう確信を以って秋十は言う。
 尤も、夢追は秋十の事を認めているので、多少の私情が混じっても応えてくれるが。

「...じゃあ、その作戦で行こう。秋十君は正面からできる限り目立つように動いてくれ。人質などは僕たちが救出する。」

「分かりました。....頼みます。」

 大まかな作戦を決め、後は細かな動きを決めていく。
 そうこうしている内に、IS学園へと繋がるモノレールに辿り着いた。

「...じゃあ、行こうか。」

「はい!」

 御神の者と、一人の努力家がIS学園を救うために、動き出した...。







「シッ!」

 学生寮内にて、マドカは駆ける。
 銃を持つ男に対し、一瞬で間合いを詰めて掌底。即座に銃を奪う。

「ちっ!」

「遅い!」

 他の男の銃撃を跳んで躱し、反撃に足を撃って機動力を奪う。
 そのまま膝を落とし、昏倒させる。

「(まずは、誰かと合流しないと...!)」

 行動が遅れたと、マドカは悔やむ。
 既に学生寮に籠っていた生徒たちはほとんど連れ去られた。
 マドカが残っていたのは、少しでも時間を稼ごうと隠れていたからだ。

「(桜さんの襲撃以来、武器の携帯が許されてて良かった...。)」

 今マドカは、護身用に持ち歩いているナイフを持っていた。
 これを使わなくとも十分強いが、それでもあるのとないのでは大きく違う。
 また、なのはに貸してもらっていた木刀も持っていた。

「ぐあっ!?」

「はぁっ!」

 すると、一つの壊れた扉から男が飛び出し、そこに蹴りが叩き込まれた。
 その蹴りを放ったのは...。

「シグナム!」

「む、誰かと思えばマドカか。」

 シグナムだった。
 どうやら、シグナムは外の状況が変わったのを見計らい、部屋を探っていた男を吹き飛ばしたらしい。

「他の人は?」

「分からん。...が、ほとんどは連れていかれただろう。」

「ラウラとかは大丈夫そうだけどね...。」

 とりあえず、とマドカはシグナムに木刀を渡しておく。

「確か、ラウラ達は学生寮から見回りのために離れていたはず。だから、捕まってないかもしれない。とにかく、私達も誰かと合流しよう。」

「そうだな...。....っ!」

 学生寮内を駆けながら、二人はそんな会話をする。
 すると、目の前に男が立ち塞がった。

「動くな!てめぇら...やってくれたな...!」

「人質...!」

 男が銃を突き付けているのは、逃げ遅れたのであろう本音だった。

「本音!簪は...。」

「か、かんちゃんなら別行動してたから...あうぅ。」

「喋るんじゃねぇ!」

 “ぐりっ”と銃口を頭に押し付けられ、本音は喋るのを止められる。

「くそっ...卑怯な...!」

「こんなテロリスト共に卑怯も何もないよシグナム。」

「うるせぇ!...てめぇら、大人しくしろよ?こいつがどうなってもいいのか?」

 人質があるからか、余裕そうな男に、マドカは溜め息を吐く。

「おい...マドカ?」

「....本音、やっちゃっていいよ。」

「あ、いいの~?」

「なっ...!?」

 瞬間、本音は力を抜き、スルリと男の拘束を抜け出す。
 同時に、肘を腹へと打ち込み、その痛みで下がった顎に掌を当てる。
 まさに一瞬の出来事。その一瞬で、本音は男を戦闘不能まで追いやった。

「いやぁ、下手に動いたら危ないかなぁって思って~。」

「もうこの階には私達しかいなさそうだから、遠慮しなくていいよ。」

「お~、じゃあ、全力でやっちゃうよ~。」

 気の抜けた声と共に、シャドーをする本音。
 すると、ふと何かを思い出したように動きを止めた。

「ちょっと待っててねー。えっと、確かここら辺に...。」

「...布仏、ここまで強かったのだな...。」

「あれでも付き人兼護衛を務めてるからね。それにしても、部屋に戻って何を...。」

 しばらく部屋に戻っていた本音は、何かを抱えて戻ってきた。

「まどっちもこれを使いなよ~。しぐしぐはどうする~?」

「って、ハンドガン!?いつの間にこんなものを...。」

「護衛としてね~。それに隠し武器ってロマンがあるし。」

 胸を張って言う本音。

「まぁ、ありがたく受け取っておくよ。」

「私はあまり扱えないのだが...まぁ、ないよりはマシか。」

「じゃあ、行こうか~。あ、投げナイフもいる?」

 普段の雰囲気からは想像もつかない武装を本音はしていた。
 手にハンドガンはもちろん、予備のハンドガンとマガジン、ナイフを腰に。
 さらに太ももにホルダーを着け、そこに投げナイフも装備していた。

「...本音、普段袖が余っている服を着ている理由って...。」

「ばれちゃった?仕込み武器って言うのもいいよね~。」

 ニコニコ笑いながら、本音はずんずんと進んでいく。

「...普段の様子からは、想像つかんな。」

「それが本音だからねー。人を欺くのに関しては、桜さん以上かもね。」

 マドカとシグナムもそれについて行き、遭遇した男を次々と倒していった。









「....よし、こっちだ。」

 同時刻。学生寮の外を見回っていたラウラ達は、気配を押し殺しながら移動していた。

「...ほとんどが捕まってしまいましたわね。」

「ISが使えない状況下でのテロだ。教官でさえ、全員を守りながら行動はできていないだろう。...かくいう私も、どうこの状況を打開すべきか悩んでいる所だ。」

 身を隠し、男たちの目の届きにくい場所まで移動してから作戦を練る。

「聞いておきたいが...あの男どもと戦えると自負できるものはいるか?」

「......。」

「...さすがに無理か。なら、自衛はできるか?自信がなくてもいい。」

 そういうと、箒、鈴、セシリア、シャルロット、簪が挙手する。

「一応、代表候補生として自衛もできる程度には護身術を嗜んでいるけど...焼石に水よ。大したプラスにはならないと思うわ。」

「ああ。それは分かっている。....とりあえず、これを貸し与えておこう。」

 ラウラは格納領域からいくつかの銃を取り出す。

「私も軍人だ。ISを使う以外にも、生身で行動するための武器を持っていた。...まさか、このタイミングで使う機会が回ってくるとは思わなかったが。」

「な、生身で...。っ....。」

 唯一専用機を持っていない静寐が、渡されたハンドガンを恐る恐る持つ。
 いつもはISを介して武器を触っているので、その重さに少し怯えていた。
 ちなみに、専用機を持っていない静寐がなぜラウラ達と同行しているかと言うと、一時期秋十に鍛えられていたからと言う点で、信用に価するためらしい。

「ああ。...使い方はISの実弾武装と変わらん。...だが、忘れるな。これは、人を軽く殺す事ができる武器だと。」

「....いつもはISが守ってくれてましたものね....。」

 改めて今まで使っていた武装は恐ろしいものなのだと、皆は自覚する。

「...敵のほとんどが銃を持っている。気休め程度にしかならんが...。」

「それでも、やるしかないよ...。」

 辺りの様子を伺いつつ、ラウラとシャルロットはそういう。

「精神的に厳しいかもしれんが、いざとなったら...殺せ。」

「っ.....。」

「相手はテロリスト。今は自分の身を守るのが優先だ。命を奪う事に躊躇っていては、そこに付け込まれるぞ。」

 この場を切り抜けるため、敢えて厳しい現実を突きつけるラウラ。

「お前たちは二人以上で固まって行動しろ。常に周りを警戒し、背後は取られるなよ。そして、見つからない限り極力仕掛けるな。」

「...どうするつもりなの?」

「悠長に隠れている時間はない。他が人質に取られているだろうからな。だから、できる限り隠れて進み、敵のリーダー格を速やかに討ち取る。」

 何度か辺りを伺い、行動の方針を決めたラウラ。

「それは...。」

「厳しい事は分かっている。私達自身は、いざと言う時はISで身を守れるが、人質がどうなるかは...。だとしても、このまま隠れている訳にもいかんだろう。」

「....そうだね...。」

 “待つ”だけでは、何も変わらない。
 何か行動を起こさなければいけないと、シャルロットは同意した。

「では...行くぞ。....走れ!」

「っ.....!」

 ラウラの声を合図に、気配を押し殺して走り出す。
 先頭にラウラが就き、次に物陰へとすぐに移動する。

「...よし。後ろはどうだ?」

「...人影は見られない...。多分、大丈夫。」

 最後尾に簪が就き、背後の警戒を担当する。
 仮にも更識家の者。多少の索敵は可能なのである。

「ラウラ、人質がいそうな場所。もしくはリーダー格がいそうな場所に、心当たりはあるの?」

「ない...が、生徒と教師の人数を合わせれば、相当な数になる。それほどの数を一か所に集めるとしたら...アリーナや体育館辺りが妥当だろう。」

「じゃあ、まずは校舎に向かわないと...。」

 校舎に近づくにつれ、うろつく男の数が増えていく。

「...これは...当たり、だな。」

「でも、あそこまで多いと手の出しようが...。」

 男の数は、ラウラ一人ならともかく、箒たちもいる状況では隠れて突破するのは不可能な程だった。

「...待って、どこか、動きがおかしい...?」

「ああ。少し慌ただしいな。」

 簪が、男たちの様子のおかしさに気づく。
 見張りをしていた男を残し、他の男は慌ただしくどこかへ移動したのだ。

「...誰かが陽動しているようだな。」

「中に入っていったって事は、誰かがそこに?」

「そうなる。...どの道、今が好機だ。突っ込むぞ!」

 ラウラ達は知らないが、中では千冬となのはが駆けまわっていた。
 その影響で、見張りが手薄になったのだ。
 それを、ラウラ達は見逃さず、突入を図った。

「なにっ!?」

「撃て!殺す覚悟がなければ足を優先して狙え!」

「っ....!」

 ラウラの合図と共に、全員が見張りの足を狙う。
 生身で扱うのが初めてとは言え、上手く命中する。

「ぐっ...!てめぇら....!」

「遅い!」

「シッ...!」

 足を撃たれても銃を撃とうとした男たちを、ラウラと簪がすかさず止める。
 銃を弾き飛ばし、完全に抵抗できないように手持ちの道具で縛り上げる。

「答えろ。貴様らの目的はなんだ。」

「ぐっ....!」

 内一人に銃を突きつけ、ラウラは尋問する。

「ふ、復讐だ!てめぇら女共に、今まで俺達男がどんな思いをしてきたのか、思い知らせてやる!俺をどうにかした所で遅い。もう、俺達は止められないぞ...!」

「....ふん。くだらん。」

「がっ...!?なんだと...!?」

 思った以上に呆れるような理由だと、ラウラは胸倉を掴んだ男を放しながら言う。

「それで?IS学園の者が貴様に何かしたか?教えてやろう。貴様らが仕出かした事は、かつて貴様らを貶めた者と同類だ。貴様らは、よりにもよって憎んでいる存在と同じ穴の(むじな)になったのだ。」

「は....?ふざけんな!誰が、お前らなんかと...!」

「じゃあ、同じ女性だからと、IS学園を襲ったの?ただ、貴方達を貶めた存在と同じ性別だからと、完全に無関係な人を巻き込んで、それでいいと思ってるの?」

「っ.....。」

 簪の言葉に、男は黙り込む。

「ふん。自分の行いは正当なるものだと、思い込んでいたようだな。実に下らん。行くぞ、こんな自分勝手な輩を放置してはおけん。.....む...!」

「....?」

「まずい!伏せろ!」

 ラウラが箒たちに振り返った際、後ろの方で銃を構えた男を視認する。
 しかし、回避には間に合わず....。

「がっ.....!?」

 ...と言った所で、その男は崩れ落ちる。

「油断大敵よ~。軍人さん。」

「お姉ちゃん...!?」

 男の背後には楯無がいた。どうやら、彼女が男を気絶させたようだ。

「...すまない、助かった。」

「いいのよ。この状況だし、いちいち気にしてられないわ。」

 簡潔に会話を済まし、ひとまず物陰に隠れる。

「...虚ちゃんとは別行動...と言うより、人質に紛れて状況を見てもらっているわ。彼女一人ではさすがに難しいけど、タイミングを見計らって人質を助ける手筈よ。」

「本音は...。」

「分からないわ。...でも、あの子の事だし、どこかで機会を窺ってるはず。」

 簪が本音の事を尋ねるが、楯無は知らないと首を振る。

「ここからは私も同行するわ。対暗部用暗部、更識家当主の力を見せてあげるわ。」

「これは...頼もしい仲間が手に入ったな...。」

 気絶させた男から銃を取り、楯無は言う。
 そんな彼女の実力を漠然とながら感じ取ったラウラは、感心したように笑った。

「さて、それじゃあ、行くわよ。」

「え、行くって...どこに?」

「当然、アリーナよ。人質はそこにいる。貴女達もそこが目的でしょ?」

「目的地は一緒だった訳か...。」

 警戒を改め、ラウラ達は校舎の中へと入っていった。











 
 

 
後書き
秋十sideかと思ったら視点がブレブレだった。何言ってるかわからねぇと思うが(ry
という訳で思った以上に視点が切り替わる感じに...。
後、少々長くなったので、二話に分けます。そのため今回は少し短めです。

時間の流れが分かりにくいので纏めますと、ラウラ達が校舎内に入った段階では、秋十達はモノレールで移動中、なのは&千冬は敵から逃げ回りつつ校舎内を駆け待ってます。マドカ達は学生寮を脱出して校舎に向かっている感じですね。
なお、ラウラ達はしばらく学生寮から離れるように逃げていたので、マドカ達とは反対側にいます。なので、合流には時間がかかります。(むしろ校舎内でばったり会うかもしれませんが。)

そんな感じで、次回へと続きます。 

 

第55話「テロへの抵抗」

 
前書き
―――...俺がやってきた事って、一体....。

まだまだ続く学園襲撃パート。
なお、桜達には出番はない模様。
 

 








       =一夏side=





「.......。」

 ベッドの上で、ぼうっと天井を見上げる。

   ―――せいぜい、後悔しておくんだね。自分が何をしでかしたのかを。

「俺が....仕出かした事....。」

 マドカに言われた事を、ふと呟く。
 ここは“インフィニット・ストラトス”の世界。...ずっと、そう思ってきた。
 だけど、度重なる原作との相違点。
 イレギュラーな存在である桜と秋十(あの二人)
 ...それらが、その思い込みを完膚なきまでに砕いた。

「...俺が、原因....。」

 “原作”では、ISを認めさせるために束さんは全世界をハッキングした。
 けど、この世界では、女性しか乗れない欠陥を直すまで発表するつもりはなかった。
 ...俺が、特典としてもらった洗脳を使ったから、こうなった。

「....はっ、“原作”...か。」

 思わず、自分の考えていた事を鼻で笑う。
 ずっと見ていなかった、気づいていなかった。...そんな“フリ”をしていた。

「...ああ、心のどこかでは分かっていたさ。この世界は、そんな“物語”の世界なんかじゃないって事ぐらい...。」

 第一に、双子の妹としてマドカがいた時点違っていた。
 それを、俺は都合のいいように考えていただけに過ぎない。
 臨海学校での束さんの言葉で、それをしっかり自覚させられた。

「....は、はは....。」

 今の自分の惨めさに、笑いが漏れる。
 幸い、この部屋は防音だ。こんな自嘲的な笑いは誰にも聞こえない。

「何、が“主人公”だっ!!頭沸いてるのか畜生が!!」

 まさに、“どうかしていた”。
 “転生”に浮かれたからか?ネット小説の読みすぎか?
 ...俺が、“主人公”に憧れてたからか?

「人を“洗脳”して!家族を蹴落として!!そんなものになれる訳ねぇだろうが!!その挙句自分の思い通りに行かなくて癇癪を起す!?...ハッ!見事な“踏み台”っぷりだなぁ、おい!」

 壁を殴りつけ、惨めなまでに自分を罵倒する。
 ...あぁ、分かっていたさ。俺なんかが“主人公”の器になれないって事ぐらい。

「...ホント、惨めだな、俺。....なんで、ここまで落ちぶれなきゃ、気が付けねぇんだよ...。....くそ....。」

 企みを悉く潰されて、蹴落とした弟に負けて。ISに乗れなくなって。
 姉にも妹にも見限られ、軽蔑と憐みを向けられて....ようやく...!

「気づくのが、遅すぎなんだよ!!このっ、大馬鹿野郎がぁっ!!」

 今度は、壁じゃなく、自分を殴る。
 ...傍から見れば、気が狂ったと思える程滑稽だろう。
 だけど、俺はこれぐらいやらないと気が済まなかった。

「くそっ....くそぉ....!」

 ...“手遅れ”。そう、手遅れなんだ。もう、何もかも。
 いつも、いつもそうだ。
 前世の時だって、もう取り返しのつかない所まで堕落していた。
 ...それを、俺はまた繰り返しただけだ...!

「はは...ははは......!」

 もう、笑うしかない。
 二次小説的に言えば、俺は“踏み台”にしかなれなかった愚か者だ。
 それほどまでに、俺は無意味な事しかしていなかった。

「.....くそ.....。」





   ―――....もう、疲れた...。













       =out side=





「...キリエ...。」

「...分かってるわ。...でも、隙が見つけられない...。」

 第三アリーナ。そこに生徒と教師たちは集められていた。

「せ、先輩...。」

「...あまり騒がない方がいい。大人しくしてるのが吉だ。」

「は、はいッス...。」

 冷静に状況を見ている者も、迂闊に動く事はできなかった。
 生徒と教師を囲む男達は、皆銃を手にしている。
 下手に動けば、誰かが殺されかねないからだ。

「....ちっ、またやられたか...。」

「ISもない癖に、流石はブリュンヒルデと言った所か...。」

「っ、織斑先生...。」

 近くの男たちの会話から、千冬はまだ捕まっていないと、山田先生は考える。
 しかし、同時に自分ではどうする事もできないと理解する。

「(...お嬢様とはこれ以上連絡は取れてませんが...見た所捕まっていませんね...。他にも何人か見当たらない事を見るに...チャンスは潰えた訳ではない、と。)」

 人質として紛れ込んでいる虚は、状況をとにかく把握していた。
 外でまだ誰かが動き回っている事から、隙が生まれる可能性があると考えていた。

「....は?何!?ISだと!?馬鹿な!?」

「ぇ....?」

 そこへ、突然リーダー格らしき男が通信機に向かって怒鳴りつけた。
 その時聞こえた単語に、その場にいた全員が騒めく。

     ダァアン!!

「うるせぇ!静かにしろ!!」

 その瞬間、男の一人が銃を空に向かって撃ち、脅す。

「ちっ...おい!C班とD班は他の班に連絡を取りつつ対処に向かえ!...くそが、ISは乗れなくなったんじゃないのかよ...!」

「(IS...もしかして、秋十君?)」

「(その可能性は高そうね~。彼、高町家に行ってたんだし。)」

 動揺している男たちを見て、アミタとキリエは秋十だろうと予想する。
 果たして、その予想は当たっていた。









       =秋十side=





「.....ありがとな、夢追。力を貸してくれて。」

 モノレールから降りた瞬間、俺はISを纏った。
 命の危機に晒される人たちを助ける。...そのためならと、夢追は応えてくれた。

「じゃあ、陽動は頼んだぞ。」

「任せてください。...そちらこそ、頼みます。」

「ああ。」

 士郎さん、恭也さん、美由希さんがすぐに移動を開始する。
 俺の役目は注目を引き付ける事。その間に彼らに人質を解放してもらうのだ。

「さて....。」

 展開する武器は、まるで木刀のような見た目のブレード。
 “無殺”。文字通り、殺さないための武装だ。
 人間を殺しかねない威力は、エネルギーを使って緩和するという代物である。
 ...まぁ、これでも死んでしまう時はあるがな。

「...派手に暴れてやろうか。」

 俺が担う役割は陽動。
 ただ正面から挑みかかるだけでは少し足りない。
 かと言って、力を見せつけすぎると人質に手を出されるだろう。
 絶妙な手加減で動いて引き付けないとな。

「..........。」

 ...視界の端には、誰かの死体があった。
 おそらくは、警備員の誰かだったのだろう。
 士郎さん達の言う通り、既に死人が出ている。

「...容赦は、なしだ。」

 殺しはしない。俺にはまだ複数人を殺すという覚悟はできないからな。
 だけど、死なない範囲ではやりすぎるかもしれない。
 ...誰かを理不尽に殺すなど、俺は許せないからだ。

「行くぞ!!」

 軽く夢追の機動性を使い、銃を撃ってくる奴らとの間合いを詰める。
 そして、死なない程度に腕を足を振り回し、吹き飛ばす。

「くそっ....!」

「.....。」

 何度も銃で撃たれるが、その全てがISのシールドによって弾かれる。
 もちろん、ただで受けてやる訳もないので、ブレードでも弾いている。

「(夢追の力で借りるのは、機動性と防御性のみ。攻撃は自分の力のみでやるのが無難だな...。)」

 ISは、基本的に力などに補正がかかる。桜さんという例外もいるが。
 なので、蹴りなどでも簡単に人を殺せてしまうため、その補正を切っている。
 ...それでも、質量の問題で十分強力だけどな。

「次!」

「このっ...!ISは使えなくなったんじゃないのか!?」

「乗れない奴はただ単に“兵器”としてしか見ていないだけだ。...その気になれば、男だって乗れる。尤も、自分勝手な奴らにはIS達は応えないがな....!」

 次の奴の銃を夢追の腕で握り潰し、ブレードで小突く。
 目の前の奴を気絶させるとまた次の男が銃を撃ってくる。

「くそが!同じ男なら俺達の邪魔をするな!」

「人の命を軽々しく奪うような奴らを、見逃せる訳がないだろう!」

「黙れ!これは正当な復讐だ!俺達男性がどれだけ惨めに踏み躙られてきたから、知らないはずがないだろう!」

 ...やっぱりだ。こいつらは、自分たちが正義だと思っている。
 あの時街中で偶然遭遇した男性と同じで、復讐と称した暴虐を行っている。
 その事に、こいつらは気づいていない。

「...だからどうした?」

「なに...!?」

「それで人を殺す免罪符にでもするつもりか?自分が苦しめられたからと、それを無関係な人に課して、正しいと言うのか!」

 俺も、最初はあいつを見返そうと...同じ目に遭わせてやろうと思っていた。
 多分、桜さんが傍に居続けなかったらそうしていただろう。
 だけど、それはあまりにも無意味で、空しくて、罪深い。
 自分が苦しんだから同じ目に遭わせるのは、間違っている。
 ましてや、それが“正義”などと...“正当”などと言えるはずがない。

「お前達は今、逃れようのない罪を犯しているに過ぎない。邪魔をするしない以前に、お前たちは間違っている...!」

「っ...!ふざけるな!俺が...俺達が、何もかもを踏み躙られて、黙っていろと!?ああそうさ!ISに乗れるお前には分からんだろうな!何も踏み躙られずに済んだ、お前には!!」

「........。」

 何も踏み躙られずに済んだ....か。
 それを聞いた瞬間、俺はブレードで銃を切り刻み、腕を部分解除して胸倉を掴む。

「...不幸自慢は、それで終わりか!」

「なっ...ぐぅっ!?」

 部分解除した腕で、さらに殴りつける。

「踏み躙られた?だから復讐する?そんな苦しみを知っているのなら、なぜそれを振り撒いた!踏み躙られる辛さは、お前らが一番知っているはずだろう!」

「っ...てめぇ...!」

「お前らがやっているのはただの繰り返しだ!誰かに踏み躙られたから、誰かを踏み躙る。そんな子供でもやらないような馬鹿な事なんだよ!」

 他の奴らが違う場所から出てくる。
 だが、俺は足元にライフルを放ち威嚇するだけで無視する。

「っ...綺麗事ばかり言いやがって...!ぬくぬくと暮らしてきた癖に...!」

「教えてやろうか...!この場で最も踏み躙られてきたなんて言えるのはな、俺なんだよ...!お前らこそ、俺がどんな目に遭ってきたか知らないだろう...!」

 自分の過去を見せびらかすなんて真似、本当はしたくない。
 だけど、こいつらに対しては...我慢ならなかった。

「女尊男卑で女性に踏み躙られた?はっ、大した事ないな!俺は、女性だけじゃない。家族を含めた全ての人間に何もかもを踏み躙られたんだよ...!助けてくれた人も奪われた上でなぁ!」

「っ....何を、戯言を...!」

「信じられないなら、一度調べてみる事だな。“織斑秋十”と言う人間を...!未だに世間一般には“出来損ない”として知られている、一度全てを奪われた人間を...!」

「がっ....!?」

 もう一度殴りつけ、気絶させる。

「....邪魔だ。」

「っ....!?」

 まだ残っていた奴らに肉迫し、一人一人ブレードで気絶させていく。

「....くそ、我ながら熱くなりすぎた。」

 大方片づけ、俺は溜め息を吐く。
 ...同族嫌悪って奴か?たったあれだけで怒りが抑えられなくなるとは。

「とにかく、大きく目立つことはできたか...?」

 校舎の方から、また別の連中が出てくる。
 ...本当、大規模だな。いくらセキュリティが固い学園でもあの人数は無理か。

「(俺自身、助けに入りたいものだが...。)」

 俺は人質がいた際の立ち回り方を知らない。
 下手に動いて犠牲を増やすのなら、ベテランである士郎さん達に任せるべきだろう。

「(突破は容易い。けど、人質を利用される訳にもいかない。だからと言って露骨な時間稼ぎは感付かれる。なら....。)」

 上手い具合に時間を掛けて引き付ける...か。











       =out side=





「急げ!他の部隊はもう戦ってるぞ!」

「くそ!なんでISが動かせるんだよ!止まったはずだろ!」

「知るか!一部の代表候補生も捕まえていないというのにくそが...!」

 校舎の中を一つの部隊が駆ける。
 IS学園を襲った集団の一味なのだが、ISが現れた事で焦っているようだ。

 ...そこへ、さらに追い打ちが掛けられる。

「っ.....!?」

「...ん?おい、あいつはどうした?」

 一つの通路を横切った瞬間、最後尾の男の姿が消える。
 それに気づいた他の男も振り返り、先程の通路を確認しようとして...。

「なっ...!?」

「はっ!」

「ぐぁっ!?」

 廊下の角から恭也が飛び出し、クナイを投擲。
 手を狙った事で銃を使われるのを遅らせ、その間に士郎と美由希が肉迫する。
 峰打ちによる強打とワイヤーを使った首絞めで確実に気絶させる。

「....よし。」

「他の敵は見当たらないね。」

「なら、今の内だ。」

 手早く片づけ、その男たちを通路の方へと運ぶ。
 そこには最後尾にいた男もおり、見てわかる通り恭也達が先に仕留めていた。

「思った以上に厄介だな。ここの構造は。」

「ダクトなどは使えないから、必然的に見つかる可能性が高くなるな。」

「文句は言ってられないよ。急がないと。」

「それもそうだな。」

 そう言って、三人は再び駆ける。
 そのまま、一つの廊下に差し掛かった瞬間。

「っ!」

「.....!」

 戦闘を走っていた士郎が二人を手で制する。
 曲がった先から複数の気配がしたからだ。

「......。」

「....。」

 周囲に隠れる所がないため、手で合図を送りすぐに仕留める事にする。
 相手が曲がってくるタイミングを見計らい...。

「(今...!)」

 恭也と士郎が飛び出し、手に持つ小太刀を振るった。

「っ...!?」

「なっ...!?」

     ギィイイン!!

 だが、その一撃は戦闘を走っていた二人に止められた。

「近接...!?」

「気を付けろ!他の奴とは違う!」

 止めた二人...ラウラと楯無は受け止めたナイフと扇子で振り払い、構える。

「(女性!?しかも、あの服装は...!)」

「っ....。」

 しばらく睨み合い、ラウラ達の服装を見た士郎と恭也は両手を上げた。

「待った。俺達は敵じゃない。」

「何を....!」

「御神の者...そういえばわかるか?更識家現当主。」

「...御神...なるほどね。」

 “御神”の名を聞いて、楯無も構えを解く。
 その会話を聞いてか、美由希も物陰から出てくる。

「御神?」

「御神流。詳しい説明は省くけど、“裏”では有名な一族よ。護衛では“御神”、暗殺では“不破”と呼びわけられているわ。」

「(退魔の“神影”は...さすがに知られていないか。)」

 宗家の“御神”、裏の“不破”、影の“神影”の総称として“御神三家”と呼ぶ。
 中でも“神影”は“裏”の人間にも知られていないので、楯無も知らなかった。

「しかし、なぜその御神の者がここに...。」

「...そっか!家族が通ってるんだったわね。」

「生徒会長なのもあって、知られていたようだな。話が早い。」

 楯無が軽く説明し、ラウラ達も士郎達がいるのに納得する。

「敵に会う事が少ないのは、もしかして貴方達が?」

「いや、それは秋十君のおかげだ。彼が正面の方で引き付けてくれている。」

「それは本当なのか!?」

 秋十が引き付けているという事に、全員が驚く。

「いくら秋十でも、一人じゃ...。」

「...もしかして、ISを...?」

「ああ。秋十君から聞いたが、ISと“対話”して認めてもらえれば乗れるそうだな。」

「なるほど。“ISに乗れる”と言う事実だけでも、奴らの注目を集められる。その隙に侵入と言う訳か...。」

 お互いに軽く状況を説明し、一緒に行動する事にする。
 その時、遠くから聞こえる音に気づく。

「...銃声?」

「外から...じゃない。これは、校舎内からか...!」

「近いわね...。向かうべきかしら?」

「誰かがいる事は間違いないだろう。...行こう。」

 銃声の鳴った方へと、士郎達を筆頭に向かう。

「...!待ってくれ。」

「どうした?」

「...もう一か所だ。」

「っ....!」

 ラウラの言葉に足を止め、耳を澄ますと確かに銃声が別の場所から聞こえた。
 今から向かう方向とは反対だった。

「父さん、どうする?」

「...危険だが、二手に分かれるか....。しかし....。」

「生徒会長としても誰かを見捨てると言うのはしたくないのだけど...。」

 この状況において、二手に分かれるというのは悪手とも取れる。
 しかし、助けに行動している身としては、危険を冒してでも向かうべきである。

「仕方ない。危険が伴うが時間もないから二手に別れよう。」

「ありがとう。こちらはこちらで分けるわ。」

 すぐに二手に分かれ、それぞれの場所に向かう事にする。

「恭也、そっちは任せたぞ。」

「ああ。父さんと美由希も油断しないように。」

「恭ちゃんこそ。」

 軽くお互いを激励し、駆け出した。







「ん~、人が案外少ないねー。」

「私達以外にも、動き回っている人がいるからじゃない?」

「だが、相手は学園のほとんどの人間を一つの場所に追いやる程の人数だぞ?さすがに多勢に無勢な気がするが...。」

 学生寮から脱出し、校舎に入ったマドカ達。
 しかし、思ったよりも敵が少ない事に、警戒が強くなる。

「気を引き締めて。罠の可能性もあるから。」

「それにしても、まどっちは動きが手慣れてるね~。」

「...まぁ、ね。」

 亡国企業にいた時の経験から、自然と手慣れた動きをするマドカ。
 今更亡国企業に所属していたなどと言えないマドカは、本音の言葉に少し口ごもる。

「っ....!いる。」

「ひぃ、ふぅ、みぃ...うーん、いっぱいいるね~...。」

 廊下の曲がり角の先を覗き、その先にいる敵を見つける。

「あれぐらいの数なら何とか...。先手必勝で片づければ...。」

「殺さずに...って言うのは無理だよ?」

「...やむなし...かな。覚悟はしてたけど。」

 角に隠れながら、マドカは覚悟を決め...躍り出ると同時に発砲した。

「本音!シグナム!とにかく撃って!」

「っ...そうしなければ、ならない...か!」

「私あまり銃の腕前は良くないけど~...まぁ、数撃てば当たるよね~。」

 敵たちから奪った銃を撃ちまくる。
 しかし、距離が離れている事もあり仕留めきれず、反撃として向こうも撃ってくる。

「角に!」

「っ!」

 すぐさまマドカ達は角に隠れ、隙を見て何度か撃つ。

     カチッ、カチッ

「(っ、弾切れ...!)」

 しかし、そこでアサルトライフルの弾が切れてしまう。
 元々敵から奪ったものなので、弾数はそこまで多くなかったのだ。

「五人仕留め損ねた...!」

「こっちも弾切れだよ~。」

「どうするんだ....?時間を掛ければ、こちらが不利だぞ?」

 銃撃戦の音を聞きつけ、敵に援軍が来るかもしれない。
 そうなると長期戦は不利だとマドカは判断する。

「(ハンドガンの弾はあまり使いたくない。ここは...。)」

 マドカ達が弾を切らした事に男たちも気づき、足音が近づいてくる。
 その音を聞いて、マドカはナイフを取り出し...。

「...いざと言う時の援護は頼んだよ。」

「マドカ...?まさか...!」

 一気に駆け出した。

「っ....!」

「撃て!」

「くっ....!」

 飛び出し、一気に距離を詰めてくるマドカに、男たちは僅かながら動揺する。
 しかし、すぐに銃を構え、マドカを射殺しようと撃ってくる。

「なっ....!」

「(行ける...!)」

 だが、マドカは壁を使って跳躍し、射線上に留まらないようにする。
 そのスピードは姉譲りの人外っぷりで、銃弾で捉える事はできなかった。

「(でも、近づけない...!)」

「...まどっち、さすがだね~...。まさか、銃弾を躱すなんて...。」

「ああ...だが、あれでは近づけない....。」

 何とか銃弾を躱し続けているマドカだが、さすがに近づきづらい。
 おまけに、男達の方も状況に合わせて後退しているため、距離が縮まらない。

「...まずいね~。このままだと、動きを先読みされちゃうよ。」

「どうにかならないか...?」

「手持ちの武器だと~...流れ弾が怖いね~。」

 ハンドガンで援護しようにも、流れ弾やマドカに当てる危険がある。
 マドカもハンドガンを持っているが、撃つ隙がない。

「(ジリ貧...かな。多少の危険は冒さないと、無理かも...。)」

 冷や汗を流しながら、マドカは銃弾を避け続ける。
 何とかして、隙を見つけようとするが...それは、まだ先の事だった。





















【こっちだよ。】

「わっぷ。埃が...けほっ。」

「レヴィ!あまり動きすぎると我らにも...ぬぅ!?」

「煙たいです...。」

 校舎内にあるダクトの中に、一つと三人の小さな影があった。

「ごめーん王様、シュテるーん!」

「まったく、なぜ我らがこんなコソコソとせねばならん。」

「これが最善手ですから。」

 チヴィットの体で活動するエグザミアに搭載されたAIである、シュテル、レヴィ、ディアーチェが声を潜めながら移動を続ける。
 案内するのは、球体に羽が生えたような機械...白式の意志である“白”だ。

「それよりも、アリーナに近づいているのか?」

【データによるとちゃんと近づいてるよ。でも、直接アリーナに出る訳じゃなくて、近くの通路から出る事になるから、そこは注意してね。】

「バレる可能性も大いにあるという訳ですか。」

 向かう先は人質が囚われているであろうアリーナ。
 襲撃に気づいたシュテル達は、白の誘導の下、こうしてダクトに逃れていたのだ。

「学生寮から校舎に移動する時に見たけど、結構な人数だったよね?」

「生徒や教師を人質にする奴らだ。それなりの人数でないと話にならん。」

「...その分、人質の救出は困難となります。」

 その小ささから、傍目で見れば可愛らしく見えるシュテル達だが、その表情は真剣そのもの。それもそのはず。学園が襲撃されたのだから。
 白もそれを傍観するつもりはなかったため、こうして三人を導いていた。

「通路に出てからはどうするつもりですか?」

「とりあえず、敵に見つからぬよう上空や高台に向かう。奴らも我らより空で優位に立てるとは思えんからな。」

【お姉ちゃん達が協力する意思を見せない今、一番状況に影響を与えれるのは三人だからね。...まぁ、お父さんと関わってきた皆なら、考え次第で協力してくれるけど。】

「とにかく、急ぎましょう。」

 そういって、シュテル達と白はダクト内を急いで進む。
 今ある危機的状況を打破するために。







 
 

 
後書き
前書きのセリフが本編にあまり関連性がなくなってきた...。
とりあえず一夏の独白を。反省よりも後悔が強く出てる感じです。

ちなみに、敵は大体は人質として利用するつもりですが、ある程度強い相手は危険だと判断して殺そうとしてきます。

二話に分けるとか言いながらさらに続いてしまった...。
と言う訳でさらに次回に続きます。 

 

第56話「意味を遺したい」

 
前書き
―――この無意味だった人生に、せめてもの輝きを...。

場面を同時展開しすぎてまとめられない病←
敵の描写が少ないため、いまいち危機的状況を表現できていないです(´・ω・`)
 

 





       =out side=





「がっ....!?」

 銃弾を避け続けていたマドカだが、突然敵の一人が手を押さえて銃を落とす。
 そこにはクナイのようなものが刺さっていた。

「何...!?」

「(援軍!?)」

 マドカからは見えない方向から誰か来ているのか、男はそちらに銃を向ける。
 だが、この状況で戦力を割くのは愚策であり...。

「(今!)」

「はぁっ!!」

 マドカと、駆け付けた恭也によってあっという間に男たちは制圧された。

「貴方は....。」

「む、君は...。」

「あら、マドカちゃん。戦ってたのは貴女だったのね。」

 男を倒し、改めてマドカと恭也は対面し、後ろから走ってきた楯無が声を掛ける。

「...秋兄は一緒じゃないんですか?」

「秋十は正面で陽動を行っている。ISを使ってでの陽動だから、死ぬことはまずないと思っているが...。」

「...秋兄が進んでやっているのなら、文句はないです。」

 大好きな兄である秋十が危険な役目を担っている。
 それはマドカとしてはあまり賛同できない事だが、兄ならきっと自分からその役目を請け負ったのだと思ったマドカは、特に文句は言わなかった。

「マドカちゃん、もしかして貴女一人だけ?」

「あ、えっと後二人...。」

 本音とシグナムの事を伝えようとするマドカ。
 その瞬間、二人がいる方向から銃声が聞こえる。

「っ!?」

「何!?」

 何発か銃声が聞こえ、シグナムと本音が姿を現す。

「本音!?それに...。」

「ごめ~ん!別グループが来たみたい~!」

「くっ...!」

 角を利用して飛んできた銃弾から身を隠す。
 その際に本音は投げナイフも投げていたが...効果は薄かったらしい。

「あれ?お嬢様~いつの間に~?」

「ついさっきよ...。それで、何人かしら?」

「八人だよ~。二人は何とかしたけど~。」

「六人...行けるのかしら...?」

「敵の力量にもよるが、行けるだろう。」

 そういって、恭也が一人で向かおうとする。

「...え、まさか、桜さんみたいに...。」

「御神の剣士を捉えたければ、爆弾でも持ってくる事だな。」

 恭也がそういうや否や、姿が掻き消えるように敵へと駆ける。
 御神流の奥義の一つ、“神速”だ。
 知覚速度を上げ、知覚外の速度で動く事で相手が認識する間もなく肉迫する。

「っ....!?(見えなかった....!)」

 壁や天井さえ足場のように飛び交い、一瞬で男の銃を弾き飛ばす。
 接近する間にもクナイやワイヤーを繰り出しており、一気に六人を無力化した。
 その一連の動きは、マドカでさえまともに捉えられなかった。

「...よし。」

「...これ、あたし達戦力外じゃないの?」

 あまりに圧倒的な動きの差。
 それを見て同行した内の一人である鈴が呟く。

「頭数は多い方がいいのよ。...特に、今回のような大人数が相手だとね。」

「そう言う事。...相手もさすがにプロばかりではないからね。」

 いくら御神の剣士や、更識家の者でも多勢に無勢。
 今は猫の手も借りたい状況なのだと、楯無とマドカが言う。

「とりあえず、あちらと合流しましょう。貴女達がいたという事は、もう一方はおそらく...。」

「...織斑先生となのは...かな?」

「そうね。織斑先生は捕まってるのが想像できないし、彼らの身内であるなのはちゃんも黙っている訳でもなさそうだし...ね。」

 危機は脱したため、マドカ達を含めて楯無達は合流に向かう。
 後に無事合流し、改めてアリーナへと向かう事になった。









   ―――時は少し遡り...





「(テロ....そうか、確かISは使えなくなった。なら、それに乗じて女性に恨みのある男性がそう言う事をしてもおかしくはない...か。)」

 他の生徒達と同じように人質にされている一夏は、冷静に状況を判断していた。

「(...よし、馬鹿みたいな考えをしなくて良かった。さすがにあそこまで打ちのめされればこれぐらいにはなるか...。)」

 今まででは考えられないくらい適格に状況を見れている事に安堵する一夏。
 桜に、秋十に、束に、マドカに、散々打ちのめされたからこその思考だった。

「(“原作”がもう当てにならないとはいえ、何かできそうな人物は....さすがに、いないか。俺も利用価値はあると考えられているのか、見張りが多いし。)」

 数少ない“元”男性操縦者。
 それだけでも相手には利用価値があると思われ、一夏の近くは見張りが多かった。

「(...俺の知ってるあいつらが、じっとしてるとは思えない。という事は、ここには連れてこられていないという事か。...くそ、何もできやしねぇ。)」

 主人公に憧れて、主人公の立場に転生させてもらった。
 だというのに、何もできない自分に一夏は情けなく思っていた。

「(...せめて、目的でも聞き出せたら....。)」

 迂闊な行動は取れない。しかし、それでも少しの情報を得たいと一夏は考える。
 同時に、こんな適格な判断を今までできなかった事に反吐が出る思いだった。
 ちなみに、生徒の一部は連れてこられる際に気絶させられ、起きている者もほとんどが恐慌状態に陥っていた。また、男たちも秋十達などの陽動や反抗に人員を割いているため、男たちからはまだ目的を聞かされていない。

「......。」

 交渉に長けてる訳でもない。元より前世ではコミュ障だった。
 それでも、話すだけなら早々殺される事はないと踏み、口を開こうとして...。

「な、なんなの貴方達!?私にこんな事してタダで済むと思ってるのかしら!」

「(...刺激を与えるとか、俺でも馬鹿かと思うぞ。)」

 気絶していた生徒の一人が、そんな声を上げながら喚き始めた。

「男風情が寄ってたかって...奴隷のような分際でこんな事を...!」

「(...気絶させられていた理由はこれか。というか、あいつユーリに似て....いや、似てるとか言ったら本人が可哀想だ。)」

 そう。喚いているのはユリア・エーベルヴァイン。ユーリの“元”姉だ。
 典型的な女尊男卑の思考に染まっており、この状況においてなお喚いていた。

「そうよ!後悔しても知らないわよ!」

「早く解放しなさい!」

「(...自分が人質になっているのになんだアレ...。それよりも以前までの俺の馬鹿さの焼き増しみたいだからマジでやめてくれ...。)」

 本来なら犯人を刺激せずに大人しくしているべき。
 それなのにユリアや同じように女尊男卑の思想の女生徒は口々に喚いていた。

「......。」

「っ....!」

 男たちの内、何人かが合図を送り合い、内一人がその女生徒たちに近づく。
 一夏はこの後何が起こるか想像してしまい、止めようと思いつつも体が硬直する。
 自分にも見張りが付いていて、不用意な行動はできないからだ。

「な、なによ...!」

「...ふん。」

     ガッ!

 そして、男がユリアを思いっきり殴った。

「これ以上暴れんじゃねぇよクソ女共。ここで殺してもいいんだぞ?」

「ヒッ....!?」

 倒れた所に、銃口をぐりぐりと押し当てながら男が言う。
 さすがに死の恐怖を感じたのか、騒いでいた女生徒全員が黙る。

「やっぱり見せしめに一人ぐらい殺した方がいいんじゃねぇか?」

「そんな簡単に殺しちゃ意味ねぇだろうが。こいつらには俺達と同じように人間の尊厳を踏み躙ってやらないとな。」

「.....。」

 騒いでいた女生徒を見下すように見ながら、二人の男がそんな会話をする。
 それを一夏や、冷静に状況を見ている者はじっと聞く。

「(“見せしめ”、“俺達と同じように”...。)」

「(態々IS学園を襲撃し、生徒を敢えて殺さない所を見るに...。)」

「(なるほどな、女尊男卑で追いやられた連中って訳か...。)」

「(...これは、女性が無闇に交渉に応じる訳にはいかないですね...。)」

 アミタ、キリエ、ダリル、虚がそれぞれ同じような事を考える。
 そしてまた、一夏も同じように考えており...。

「(...交渉するなら、俺から...か。まるで無意味だった俺が、こんな所で...。)」

 女性だとちょっとした事で刺激を与えかねない。
 だからこそ一夏だけが目的などを聞き出せる立場だった。
 しかし、こんな所で大役を担わせられる事に、一夏は震える。
 以前までなら、嬉々として請け負っていただろうが、今までの自分がまるで無意味だと知った今では、その役を上手くこなせる自信など皆無だったからだ。

「(そんな大役こなせるかよ...!目的だけを聞くならともかく、こんな奴らを相手に、俺がそんな事を...!)」

 今までの事件は、調子に乗っていたのと、“原作”に沿っていたからこそ前線に出ようと思っていた。しかし、今はそのどちらにも当て嵌まらない状況な上、先程の事で男たちも気が立っていると思った一夏は、一歩踏み出せずにいた。

「(....でも、だからと言ってこのまま待ち続ける訳にも....。)」

 ふと周りを見れば、皆怯えたように俯いている。
 それを見て、一夏は思う。“自分はあまりにも無力なのだ”と。

「(....いいのかよ。そんな、“無意味”なままだなんて...。)」

 落ち込むと同時に、一夏はそんな問いを自身にかける。

「(何もできないまま終わるなんて...二度目の人生を得ておきながら、何も変わっちゃいない....。...それだけは、嫌だ。)」

 自分勝手な行動ばかり取り、人に迷惑を掛けてきた。
 それは前世も今世も変わらない。
 だからこそ、少しでも贖罪をしようと、一夏は覚悟を決めた。

「....一つ。」

「...あん?」

 意を決して、一夏は一番近くの男に声を掛ける。

「...一つ聞きたい。...あんたら、どうしてこんな事を?」

 慎重に、刺激を与えないように、普通聞くであろう言葉を選んで問う。

「はっ、男であるてめぇが聞くのかよ。考えればわかる事だろうが。」

「......。」

 一夏の問いに、男は鼻で笑いながらそう返した。
 その返答から、一夏は推測し、一つの答えに行き着く。

「....“復讐”...か。」

「ああそうさ!世界最強サマの庇護下にいたお前にはわからん事だろうがなぁ!」

「.....。」

 その言葉に、一夏は言い返せない。
 まさにその通りだったからだ。千冬の影響があったから、一夏は普通に過ごせていた。
 “ぬくぬくと育っていた”...まさにこの言葉が当て嵌まっていたのだ。

「ISが使えなくなった今、IS学園の戦力はあまりない。そこに付け込んで襲撃か...。こうして敢えて殺さずにいるって事は、何かしら利用するつもりなんだな?」

「おーおー、さすがは世界最強サマの弟だ。そこまでわかるとは....なっ!」

「ぐっ...!?」

 感心したように男は言い、そのまま一夏を銃で小突くように殴る。

「お前はいいよなぁ~?世界最強が身内にいるんだ。さぞ勝ち組な人生を送っていたんだろう?なぁ?」

「くっ...っつ....。」

 痛さに耐えつつ、一夏は起き上がる。
 今まで自分がやってきた非道な事に比べればどうって事ないと言い聞かせながら。

「(勝ち組...か。俺なんか、勝ち組どころか負け組ですらねぇよ。文字通り“無意味”だったんだからよ...。でもまぁ、打ちのめされた意味では負け組ではあるか...。)」

 自虐しながらも、聞き出したい事のために会話を続けようとする。

「...お前らは...ISを恨んでいるのか?」

「はぁ?...あったり前だろうが!何が女性しか乗れないだ!それのせいで俺達がどれだけ虐げられたと思っている!」

「ぐっ...!?」

 八つ当たりのように一夏を殴りながら、男は言う。
 理不尽に殴られる一夏は、それでも決して反発しようとはしない。
 ...なにせ、そんな事になったのは、自分が原因でもあるからだ。

「てめぇらも何被害者ぶってやがる!これは因果応報だ!てめぇらが散々俺達を好き勝手してきたからこうなっているんだ!」

「っ.....。」

 “自分のせいだ”と一夏は思った。
 自分の欲望を満たしたいがために人を洗脳したから...。
 束に未完成のままISを発表するように仕向けたからこうなった。
 そんな後悔が一夏の中を渦巻く。

「(...くそっ。何か、出来ないか...?)」

 償いなんて、とてもじゃないけど成し遂げられない。
 そう思った一夏は、せめてもの手助けが出来ないか探る。
 すると、その時...。

「くそっ!」

「どうした?」

 一人の男が通信機を地面に叩きつけながら悪態をついた。

「既に半分以上やられた。」

「なっ!?...くそが...忌々しいISめ...!」

「(IS...?あいつらの誰かか?)」

 その声を聞いて、一夏は何か隙ができるかもしれないと考える。

「いや、それだけじゃない。表の方に向かう途中で通信が途切れた奴もいる。」

「は?...そうか、織斑千冬...!」

「他にも何人か逃げ回っている奴らがいるようだ。くそ、大人しく捕まればいいってものを...!」

 仲間が半数以上やられた事に、男たちにも動揺が走る。
 だが、それは決してチャンスではなかった。むしろ...。

「...しゃあねぇ。何人か殺して、放送で知らせてやれ。」

「っ....!?」

 その指示を間近で聞いた一夏は、息を呑んだ。
 このままでは、死人が出る。それを感じ取ったからだ。

「せ、生徒は撃たせません!」

「先生!?」

 銃口を向けられた生徒を庇うように、山田先生が前に出る。
 そして、そのまま....。

     ダァン!!

「っ.....!」

 銃声が響き、ほとんどの者が目を瞑る。
 しかし、その音は男の方から聞こえたのではなく...。

「あ、当たった...!」

「お姉ちゃん!?何を...!」

 アミタの持つ、銃剣のような武器、ヴァリアントザッパーからだった。
 ISと同じように小型化できるため、今まで隠し持っていたのだ。

「この...クソアマ...!」

 手を撃たれ、銃を取り落とした男を見て、他の男は容赦なく銃を放とうとする。

「シュテルは我と共に撃て!レヴィは取りこぼしを!」

「了解です。」

「任せて!」

 その時、上空から声が響き...。

「剣兵召喚、最大展開...滅ぼせ!」

「炎弾、最大展開...!」

   ―――“レギオンオブドゥームブリンガー”
   ―――“パイロシューター・フルドライブ”

 多数の剣と炎弾が、男たちの銃を狙って降り注いだ。

「(あれは...ユーリの...!)」

 上空を見て、一夏は誰がやったのか理解する。
 チヴィットにはISと同じくエネルギーが内蔵されている。
 それを利用し、ディアーチェ達は攻撃を行ったのだ。

「ちぃ...!この、くそが...!」

「きゃぁぁあああああああ!!」

 銃を狙ったからとは言え、威力も弱く、半分ほどの男はすぐに動こうとした。
 また、剣と炎弾が降り注いだため、生徒のほとんどが慌てふためいていた。

「(混乱...!まずい、これは...!)」

「させないよー!」

 逃げ惑う生徒と、それを撃とうとする男。
 それらの間を小さな影が駆けまわり、銃を切り裂いていく。

「くっ、数が多い...!やはりチヴィットの体では限界があるか...!」

「...ですが、援軍も来ました。」

 二人の弾幕と、レヴィの攪乱。しかし、それでも足りなかった。
 だが、アリーナの一つの入り口から呻き声が聞こえた後、何人かが飛び出してくる。

「こっちよ!」

「っ!お嬢様!」

 そこには、倒れた何名かの男と、楯無達がいた。
 それを見た虚はすぐさま他の生徒をそちらへと誘導していく。

「(やば...!展開が早すぎて追いつけない...!)」

 混乱に混乱が重なるような事態に、一夏はついて行けない。
 恭也達が暴れまわるように男たちを押さえに掛かっているのを見て、ハッとする。

「っ!(これを...!)」

 近くの倒れた男から銃を奪い、行動を始めた。
 この状況では、誰かが撃たれる可能性が高い。
 ...だから、せめて―――

「(俺が、引き付ける!!)」

 そう考えた一夏は、男たちに向けて銃を放つ。
 彼には、人を殺す覚悟などできていなかった。
 だけど、それでも初めて“誰かを助けるため”に行動した。

「ぉぁあああああああああ!!!!」

 雄叫びを上げながら、一夏は銃を撃った。
 時には、暴れまわるように、時には、逃げ遅れた誰かを庇うように。
 それが本能か、考えてかは分からないが、ただ“そういう風”に動いた。
 ただ、“無意味”だった自分でも、誰かに役に立つように、そう思いながら。

     カチッカチッ!

「っ....!」

 銃弾を撃ち尽くした。そう理解した時には、辺りは砂埃で見えなかった。
 男だけでなく女生徒の呻き声も聞こえる。
 これだけ乱戦気味になったのだから、怪我人がいてもおかしくはない。
 例え御神の剣士がいた所で、護り切れる訳ではなかったのだ。
 幸いと言えるのは、生徒に死人はいなかったという事だろう。

「はぁ....はぁ....。」

「織斑君!」

「っ...!?」

 いつの間にか皆が避難した出入り口に近づいていたらしい。
 山田先生に呼ばれた一夏は、驚いて振り返る。
 ...と、同時に、視界に男が銃を構えているのを捉えた。

「っ....!!」

「え、きゃっ!?」

 手に持っていた銃を放り出し、全力で山田先生へと駆ける。
 飛び込むように山田先生を突き飛ばし....銃声が響いた。

「っ....ぁ....!?」

「ぇ....?」

 それを見ていたほとんどの人間が、何が起きたか理解できなかった。
 腹から血を流し倒れる一夏。それを見て、撃った男は笑った。

「へ、へへ...ざまぁみろ...がっ!?」

「....ちっ...!」

 すぐさまその男は恭也によって気絶させられた。
 しかし、既に行動した後と言う事で、恭也は舌打ちした。

「ぐぅ...ぁ....!?」

「織斑君!...そんな、私を庇ったせいで...。」

 燃えるような痛みに、叫ぶ事もできない程に悶える。
 山田先生が申し訳なさそうに駆け寄ってくるが、それも一夏の耳には入らない。

「(まだ...だ....。)」

「そんな...立ち上がったら...!」

「(ずっと、迷惑を掛けてきた...なら、最後くらい、役に立たないと...!)」

 まだ敵は残っている、と一夏は無理矢理立ち上がる。
 恭也や士郎が奮闘しているとはいえ、ノーマークの相手はいる。
 その相手が、砂埃の合間からこちらを狙っているのが見えた。

「(役立たずな俺でも、盾くらいにはなれるんだよぉっ!!)」

 痛む体に鞭を打ち、一夏は仁王立ちする。
 恐怖で体は震えている。死が怖くないはずがない。
 ...だが、それでも、もう現実から逃げるのは嫌だったから。
 だから、一夏はその場から動こうとしなかった。









   ―――...ふぅん。ちょっとは、見直したかな。





     キィイイン!

「....え...?」

 山田先生の驚いた声が一夏の耳に届く。
 既に自分は、撃たれたはず。なのに、なぜ声が聞こえるのか。
 そう思い、目を開けると...。

【SE...このボディでも使えるんだよね。】

「お前...は...ぐ...!?」

【あー、無理しすぎだよまったく...。というか、チヴィットの子たちももうちょっと考えて欲しかったな。エネルギーの残量を気にせずにぶっ放すなんて。】

 力が抜け、倒れていく一夏の視線は球体に羽が生えた“ソレ”に釘付けだった。
 少女のような声が聞こえる“ソレ”は、一夏も知っている存在だ。

「...白、式....?」

【...どん底まで叩き落されて、ようやくまともに...って事かな。...後は任せなよ。防ぐだけなら私にもできるし...。それに、あの人も来たから。】

 白がそういった直後、空から一機のISが降り立つ。...秋十だ。

「...夢追、悪いけどここからはSEの防御だけでいい。他の人を巻き込んでしまうからな...。」

 倒れている生徒...そして一夏を一瞥して、秋十はそういった。
 その目には、確かな怒りが宿っていた。

「...覚悟しろ、自分勝手なテロリスト共。」







 そして、IS学園を対象としたテロ事件は解決した。
 秋十が介入した直後に更識家の者が到着、瞬く間にテロリストを制圧した。
 死者は警備をしていた何名かのみで、生徒や教師には解決時にはいなかった。
 テロを起こした男達は、然るべき裁きを受けた。
 学園とテロリスト、互いに死者は何名か出たものの、ほぼ最善となる解決だった。

「撃たれた女子生徒は幸いな事に軽傷。後遺症も残らん。だが...。」

「出血が多いのもあって、どうなるか分からない...という訳です。」

 だが、唯一。一夏だけは、その枠に当て嵌まらなかった。
 一夏は山田先生を庇ってアサルトライフルの銃撃を受けた。
 当たったのは数発とはいえ、出血も多く、応急処置では助からない程だった。
 今は学園内の緊急治療室で命を繋いでいる。

「...馬鹿者が...。今更手遅れだと言うのに、なぜ今になって...。」

 拳に力を込めながら、千冬はそう呟く。
 その言葉には、死を顧みない行動を取った一夏を心配する思いが込められていた。

「........。」

「秋兄?」

「....いや、なんでもない。」

 複雑な表情をする秋十にマドカが尋ねるが、秋十は誤魔化すように頭を振る。
 現在の秋十の胸の内は、様々な思いが鬩ぎ合っていた。
 なぜ、今になって人を助けようと動いたのか。なぜ、死ぬ可能性があると分かっていたのに、そこまで無茶をしたのか。なぜ、なぜ...。

「....秋兄がなのはの家の道場に通い始めてから、私はあいつの世話役になったの。あいつがあんな行動を取ったのは、その時の私の言葉がトドメになったから...だと思うよ。」

「マドカの言葉が...?」

「うん...。」

 殺したい程憎いと思った事もあった。いや、ほとんどの時がそうだった。
 だが、実際に、しかも誰かを庇って死にかけるのを見ると、やるせない。
 そう思いながら、マドカは以前一夏に言い放った事を秋十に話す。

「―――そうか....。」

「秋兄?」

「悪い、少し席を外す。」

 複雑な感情が渦巻く思考を何とか抑え、秋十は一度皆から離れる。
 そして、誰もいない所で、無意識の内に壁を殴りつけていた。

「っ......!」

 確かに、一度自身を貶めた一夏を恨んでいた。
 だが、実際に誰かを庇い、傷ついたとなれば...弟として、心配になった。
 憎んでいた感情と、心配する感情が鬩ぎ合い、気が気でなかったのだ。
 だから、他の皆に迷惑を掛けないようにと、その場から離れた。

「なんで...なんだよ...。なんで、今更...。」

 言い表しようがない思いで秋十は呟く。

「....はぁ...。」

 溜め息を吐き、気を落ち着ける。

「...とりあえず、早く目を覚ましてもらいたいな。」

 例え全てを奪った相手でも、元は家族なのには変わりない。
 その事から、人を庇う行動を取った一夏を、秋十はもう憎めなかった。
 本当に反省しているのか確かめるためにも、目覚めるのを待つのだった。









 
 

 
後書き
レギオンオブドゥームブリンガー…リリなのinnocentの漫画に登場。剣を大量に召喚し、一斉に放つ。この小説ではエネルギーを剣の形にしている。

パイロシューター・フルドライブ…シュテルの扱うパイロシューターの全力展開。大量の炎の弾が襲い掛かる。


一夏の出番を増やそうと思ったけど、なんかコレジャナイ感...。
とりあえず後悔や罪悪感その他諸々で振り切れちゃってる状態です。
色々行動としては愚策な所があるけれど、それでも誰かのために動こうとしたという訳です。 

 

第57話「終わる学園」

 
前書き
―――これ以上は、ダメだ。


襲撃のその後の話。
生徒の現在の精神状態はだいぶヤバイです。
ISが使えなくなった上に、男性たちによるテロですからね...。怪我人もいますし。
 

 






       =桜side=





「....へぇ...。」

 画面に映る映像を見ながら、俺は感心したように笑う。
 そこに映っているのは、IS学園襲撃の映像。

「意外だね。あんな奴にもあれぐらいする心があったんだ。」

「行動自体は悪手だがな。何があいつを変えたのやら...。」

 誰かのために動く...なんて、あいつらしくない。

「...いや、あそこまで打ちのめされたからこそ、ああなったと言うべきか。」

「それはともかく、死人が出ちゃったね。」

「ああ。...まぁ、警備に就いていたんだ。覚悟はできてただろうよ。」

 今回の襲撃で、警備員が何人か死んでしまった。
 テロリストの方も何人か死んだが...まぁ、そちらは自業自得だ。

「生徒だけでなく教師も精神的にだいぶ不安定になってるねー。」

「そりゃあ、自分たちの立場そのものが不安定だからな。いつ、自分がどうなるかもわからない状況に、不安を覚えない奴はいないだろう。」

 千冬を筆頭とした頼れる人がいるからこそ、何とか無事だったのだ。
 そこへ、テロリストの襲撃と来れば...不満は爆発するだろう。

「さー君の予想では誰が爆発させると思う?」

「そりゃあ、間違いなく女尊男卑の思想の連中だろう。...で、その中の誰なのかというなら...こいつだな。」

「...まぁ、ゆーちゃんの事もある上に拗らせてるからねぇ。」

 学園の生徒のデータ、その一つが俺達の前に映し出される。
 そこには、“ユリア・エーベルヴァイン”の名があった。

「...今までやってなかったが、叩き潰すか?」

「黒い部分を暴く程度で自滅するからいいよ。というか、潰すのに関わったらむしろゆーちゃんに迷惑だよ。」

「それもそうだな。」

 ユーリちゃんには迷惑を掛ける訳にはいかない。
 やるとしても、上手く誘導してユーリちゃんをエーベルヴァイン家の当主にした後、他の奴らを潰すべきだろう。

「じゃあ、俺達も行動を始めるか。」

「そうだね。権利団体の連中も動いてるだろうし。」

 席を立ち、俺達は部屋から移動する。
 ....学園は、そろそろ終わりを迎えるだろう。









       =秋十side=





「...さすがに、食堂にも人はいないか...。」

 テロの翌日。食堂には誰一人いなかった。食堂のおばちゃんさえも。

「生徒の半数近くが負傷。他の者も精神的に辛い状況だ。...むしろ、生徒に死人が出なかったのがおかしいと言える程だ。」

「っ.....。」

 千冬姉から告げられる事実に、俺は声を詰まらせる。
 俺は、最善を尽くしたつもりだった。士郎さん達も精一杯頑張った。
 ...だが、それでも誰かが...あいつが、傷ついた。

「...気にするな、とは言わん。だが、気に病む必要もない。人一人に守れる存在は限られている。...と言っても、お前は納得しないか。」

「...理解はできています。」

「そうか。...この場にいても意味はない。行くぞ。」

「はい。」

 誰もいない所に長々と留まっていた所で、何の意味もない。
 それに、俺はともかく千冬姉...教師にはやるべき事が山積みだ。











   ―――...また、騒ぎが起きた。



 主犯は、ユリア・エーベルヴァイン。...ユーリの元姉だ。
 そして、他にも彼女と同じ女尊男卑の連中も便乗していた。
 それは一部の教師も同じで...だからこそ、学園は崩壊した。

「これは....なんの真似だ?」

 場所はあいつが治療を受けている部屋の前。
 あいつは、目覚めた際に俺達関わってきた人間全員に対し、謝罪した。
 心変わりしたその心情は分からないが...傷が治るまで、俺は一応見舞いに来ていた。
 ...その帰りに、俺は複数の女子に囲まれたのだ。

「うるさい!男は黙って私達の言う事を聞けばいいのよ!」

「...話にならんな。」

 いやホント、マジで。完全に癇癪を起してしまっている。
 テロなどで追い詰められたのもあるだろうが、これはなぁ...。

「...この先には重傷者がいる。身内でもない限り、易々とは通せんな。」

「口答えは許さないわ!」

 そういって、全員が襲い掛かってくる。
 ...まったく、後ろ盾もいなくなった状況でそれは悪手すぎるぞ...?

「女尊男卑の風潮があったのは、ISが女性にしか動かせないという前提があったからだ。今、それがなくなった状況では、ISが生まれる前と同じで対等な立場でしかない。...それは権力に限らず、物理的なものでも、だ。」

「ぐ、ぅ...!?」

 一人一人丁寧に捌く。素人の...それも女性が相手だ。俺でもできる。
 残ったのは主犯格であるユーリの元姉。

「くっ...動きなさい...!動きなさいって言ってるのよ!どうして言う事を聞かないの!?」

「当たり前だ。...そんな、自分勝手な事ばかり考えるお前に....ユーリを捨てたお前に、そのISが応えるはずがない。」

 必死に自身の専用機であるゴルト・シュメッターリングに呼びかけるユリア。
 しかし、ISはそれに応えない。あまりに自分勝手だったから。

「変わっていく...いや、歪みが戻っていく様を見ながら、今一度自分の在り方を見直す方がいい。...尤も、早く決断しなければ、家ごと桜さん達に叩き潰されるだろうがな。」

「ひっ....!?」

 一気に間合いを詰め、一撃で気絶させる。
 ...一般人にはできても、桜さん相手じゃこれも役に立たないんだよな..。

「...終わったか。」

「千冬姉。...って、その人達は...。」

「お前を影から狙ってた馬鹿者どもだ。」

 千冬姉が姿を現したと思ったら、何人かの教師を引きずっていた。
 どうやら、彼女らも女尊男卑の思想に染まっており、隙を伺っていたらしい。

「ついに内部でこうなったか...。どうするんだ千冬姉。」

「しばらくは隔離しておこう。...何、時が来れば皆実家へ帰る。」

「え....?」

 少し疲れた様子で、千冬姉はそういった。
 実家へ帰る...。それは、つまり...。

「....これ以上は、ダメだ。」

「...学園に留まるよりも、家に帰った方が安全と言う訳か...。」

「ああ。今回の事でそれが決定された。怪我をした者には然るべき対応をし、速やかに各国へ送り返す手筈になっている。」

 生徒達が部屋に籠っている間、教師陣はずっとその準備をしていたのだろう。

「夏休み中に全てを済ませる。」

「けど、高校生としての学習過程が終わってないんじゃ...。」

「それも手配してある。このままIS学園の生徒としてありたいのならば、卒業までの授業内容を課題として渡し、そうでなければ祖国にある高校に転校という扱いになる。」

 生徒に伝えるのは夏休み前の終業式になる予定だった日らしい。
 それにしても、生徒のために色々準備している裏で、今回の事を企んでいた教師って...。

「言いたい事は分かる。...こいつらは私達が動き回っている中、何かコソコソしていたからな。逆にわかりやすかった。」

「...馬鹿なんじゃないのか?」

「うむ。」

 あー、もう馬鹿扱いなのか。まぁ、この時期、この状況下でだからな...。

「...それで、あいつの様子はどうだ?」

「以前までが嘘かの如く大人しいよ。ただ、逆に今にも壊れそうなほど脆くなっているようにも見えるって所かな。」

「そうか...。」

 あいつは...兄さんは、この上なく反省しているようで、とても大人しかった。
 ...どちらかと言えば、罪悪感故に俺達に対して弱気になっている感じだが。

「...それで、IS学園がなくなった際、ここはどうなるんだ?」

「学園として機能はしなくても、別の用途がある。...それも、私達の目的にはちょうどいい類のな。」

「目的...そうか、拠点としてはまだ使えるのか。」

 桜さん達を見つけ出すのに、どうしても拠点は必要だ。
 それも、それなりに規模のある施設でないと。
 そういった点では、このIS学園は持ってこいなのだろう。

「尤も、あいつらにはバレバレだろうがな。どうせ、先日のテロもあいつらは知っているだろう。その上でIS学園がなくなり、私達が拠点にするのも予想しているはずだ。」

「...桜さんと束さんだからなぁ。」

 しかし、だからといって別の手段はとれない。
 桜さん達が分かっているのを踏まえても、ここ以上の拠点はない。

「とにかく、生徒にはもう少し大人しく待っているように伝えるつもりだ。それまでは、御神の者や更識家が警護に協力してくれる。...もちろん、対価は払っているが。」

「対価...。」

「普通に金だ。一応、IS学園にはまだ金が残っていたからな。」

 皆が帰国するための手配などしても、まだ雇うだけの金があったのか...。
 まぁ、政府から援助されていたのだからおかしくはないが...。

「拠点にするという事は、マドカ達に伝えておけ。」

「分かった。」

「それと....だ。」

 話が終わったと思った瞬間、千冬姉から軽く手刀を落とされる。

「いてっ。」

「今はまだ教師と生徒の立場だ。“織斑先生”と呼べ。」

「...そういう織斑先生だって明らかに生徒に対する接し方ではありませんでしたけどね。マドカも名前で呼びましたし。」

「ふっ、そんな事は知らんな。」

 久しぶりに千冬姉の横暴っぷりを見た気がする。
 まぁ、冗談めかしているから横暴と言える程ひどいものでもないけどな。

「テロの被害や他の生徒の心配で気を病んでいる暇はないぞ。...あいつらを止めるのならば、ここで立ち止まってられん。」

「....はい...!」

 千冬姉の言葉に、俺は力強く返事を返す。
 そしてそのまま背を向けて別れる。気絶させた生徒とかは千冬姉に任せよう。
 ...そこまで深く親しんだ訳ではないけど、お別れ会ぐらいは開くべきだろうな。
 たった半年。されど半年だ。お世話になった人もいるしな。









「...教師を代表して、私から言わせてもらう。....皆、すまなかった...!私が...私達が不甲斐ないばかりに、生徒を危険に晒すどころか、学園そのものがなくなってしまう事を、防ぐ事ができなかった!」

 数日後。本来であれば一学期終業式の日。生徒達に全てが伝えられた。
 皆が皆、少なからず衝撃を受けていた。中には泣く者も当然いた。
 一部の聡い人は予想はしていたみたいで、納得した表情だったりもした。

 その一週間後に、今度は食堂に生徒達は集まっていた。
 この学園に通う者が集うのは、今日が最後だとしてパーティーを開くためだ。
 そして、そのパーティーを始める前に、千冬姉が皆に対して頭を下げた。

「今日を最後に、IS学園はなくなる。皆も順を追って本国へ帰るだろう。....最後の思い出として、今は楽しんでくれると嬉しい。」

 そう締め括り、千冬姉は用意していた檀上から降りる。
 あの千冬姉が謝った事に、やはり驚いたのだろう。周りが少しざわついていた。
 次に、学園長が出てくる。そして、皆に労わりの言葉を掛けていった。
 皆も、その話を聞いている内に、涙を流していた。

「最後になりましたが....皆さん、どうかこのパーティーだけでも楽しんでください。」

 頭を下げ、学園長は壇から降りてグラスを掲げ、“乾杯”といった。
 それがパーティー開始の合図。皆もそれを理解していたので、各々楽しむことになった。

「秋兄。」

「マドカ。それに簪となのはもか。」

 パーティー開始してすぐにマドカが二人を連れて合流しにきた。
 一体この人混みの中どうやって見つけたのだろうか。
 いくら男子生徒が二人しかいないからって...。
 ...アホ毛がピコピコ動いている。まさか...な?

「四組の方にいなくてもいいのか?」

「すぐに戻るよ。最後の交流会みたいなものだし、色んな所を巡ろうと思ってね。」

「私はお父さんたちに差し入れを持って行こうかなって。」

 士郎さん達は現在、更識家の人と協力して警護に当たっている。
 以前いた警備員は半分ぐらい殉職してしまったからな...。
 また襲撃されるかもしれないので、千冬姉自ら依頼したらしい。

「私は本音と巡ろうと思って...。」

「かんちゃん呼んだ~?」

 簪はどうしてこちらに来たのか聞こうとすると、先に答えられる。
 そして、すぐに名前を呼ばれた本音が現れた。
 ...って、ケーキ頬張りながら来た...。

「もう食べてる...。その、一緒に巡ろう?」

「お~かんちゃんが私相手とはいえ自分から誘った~!」

「....本音?」

「ぅぁ~、いふぁいよかんちゃ~ん。」

 言外にコミュ障だと言っている本音の頬を引っ張る簪。
 簪もユーリを通して色々変わったと思うんだけどな...。

「っと、そうだ。俺もマドカについて行っていいか?」

「え?どうして?」

「ちょっとアミタさんとキリエさんに聞いておきたい事があってな。」

 二人に...というよりは、会社にって感じだけどな。

「...そういう事。」

「理解が早くて助かるよ。」

「秋兄の考えてる事は大体わかるもん。」

 マドカは偶に俺関連で少し怖い事がある。
 ...洗脳されてた時の反動か?シスコンを拗らせたみたいになってるが...。

「じゃあ、行こうか。なのは達も各々楽しんでねー。」

 マドカに手を引かれ、四組の方へと移動する。
 アミタさんとキリエさんは生徒と会話しながら食事を楽しんでいた。

「アミタ先生、キリエ先生。」

「あ、秋十君。どうしましたか?」

「ちょっと聞きたい事が...。」

 ごく自然に近寄り、他の人に聞こえないように尋ねる。
 ...と言っても、少しぐらいなら他に聞かれてもいい内容だけどな。

「...会社の方はどうなってますか?」

「...混乱の真っ只中...ですね。桜さん達だけでなく、ジェイルさん達までいなくなってしまったので、立て直すのに精一杯です。」

「...やっぱり...。」

 最近は会社から連絡がない。元々桜さんが連絡を取ってたのもあるが。
 いくら桜さん達がいなくなっても成り立つようにはしておいたとはいえ、混乱するのも当然だ。...と言うか、ジェイルさん達までついて行ったのか。あの人ならおかしくはないが。

「現在は父さんとハインリヒさんが中心となって立て直しています。」

「一度会社にも行かないと...。」

「あ、それと、言い忘れていましたが会社の周りや上空には桜さん達の監視の目があるようです。おそらく、あの放送で言っていたものかと。」

 今の所会社には手出しされていないらしい。
 あの人達の事だし、手を出したら本当に報復してくるからな...。

「ありがとうございます。」

「いえ。秋十君も、せっかくなんですからパーティーを楽しんでください。」

「...はい。」

 聞きたい事も聞いたので、俺は俺で楽しむことにしよう。
 マドカはクラスメイトと談笑しているようだし、俺も一組の方へと戻る。

「あら、秋十さん。四組の方へ行ってましたの?」

「セシリア。...まぁ、会社の事で少し聞きたい事があったからな。」

「そうですの。」

 セシリアはクラスメイトと談笑していた所で俺に気づいて声を掛けてくる。
 こういうパーティーになるとセシリアが淑女らしいのが実感できるな。

「学園としての方針で一度実家に帰る事になっているが...セシリアはどうするんだ?」

「確かに一度家に帰りますが...支度を済ませたらまたこちらへ連絡を寄越しますわ。桜さん達の居場所を突き止めるには、オルコット家だけではどうしようもありませんから。」

「なるほど...。」

 セシリアは...と言うか、鈴やラウラもだが、桜さん達を止めるために皆で手を合わせると明言しているから、実家に戻ってもすぐに集まるつもりのようだ。

「秋十さんは?」

「俺も一度家に帰るな。その後、一度会社の方を見てからこっちに来るつもりだ。」

「会社....大変な事になっていますものね。」

 会社として考えれば一方的に利用された感じなのだが...。
 やはり、繋がりを疑っている連中はいるし、何よりも今まで桜さんや束さんがいた事を隠していたのではないかと言われてたりもする。
 ...まぁ、実際知っていたのは会社設立に関わった者と、シャルやハインリヒさんのように深く関わった人だけで、大半の人は知らなかったんだけどな。

「私はドイツに戻った後、しばらく連絡は取れないかもしれん。」

「...そうか、軍として動かなければならないからか...。」

「無駄に終わると思うんだがな...。」

 学園に来る前の時点でドイツは桜さんの手玉に取られていた。
 それなのに今更捕まえようと動いても読まれているだろう。

「ボクも秋十についていく感じで会社に行く感じかな。...ボクにとっては今の家は会社みたいなものだし。」

「ひとまず、会社を何とか安定させるのが最優先か...。」

 メディア関連は色々情報をかき集めてるからな...。
 その対処のためにも、桜さんを止めるための行動は後回しになりそうだ。

「箒はどうなんだ?」

「私は....。」

 セシリアと話している内に、一組でのいつもの面子が集まっていた。
 そんな中、俺は箒にも尋ねる。

「...どうなるかがわからない。保護プログラムはまだ残っているのだろうが、今となってはそれを逆に利用されそうでな...。」

「...そうか、その可能性もあったな...。」

 今までは一応危険が及ばないようにするためだったが、ISを失い、桜さん達が“テロリスト”としての立場となれば...今度は利用されかねない。

「...とはいえ、姉さんがこれを予測していないはずがない。“最悪の事態”は回避できるようになっているとは思うのだが...。」

「油断はできないだろうな...。」

 とにかく、しばらくは政府の預かりになるだろう。
 そこで政府が利用する素振りなんて見せたら....うん、想像するのはやめよう。

「とりあえず、協力すると言ったんだ。必ず私も駆け付ける。」

「ああ。待っているぞ。」

 どれくらい先になるかは分からない。
 それでも、俺は桜さん達を止めるのを諦めない。
 ...それを、誰よりも桜さんが望んでいるからだ。

「秋十!あたしの事も忘れないでよね!」

「鈴。そっちから来たのか...。」

「ええ。それと...。」

「チヴィットと白まで...。」

 鈴は人混みの間を抜けるようにやってきた。
 その腕にシュテル達を抱え、頭に白を乗せた状態で。

「揉みくちゃにされていたからね。」

「この前のテロの事もあったからなぁ...。」

 チヴィット達は人質になっていた皆を助けると同時に大規模の攻撃をするという、一際目立つ活躍をしていた。その事もあって、色々集まられるようだ。
 ...中には、難癖付ける奴もいるようだが。怪我したから不満があるのは仕方ないが、あれがあの場での最善だと思うしかない。

「そ、揃いも揃って我らを弄びおって...。」

「一応ボクらってマスコット的な存在としてボディが作られたんだよね?なのにこの仕打ちはおかしいよー。」

「.......。」

 近くの空いているテーブルに降ろされたチヴィット達は各々ぐったりとしていた。
 ユーリのめ~ちゅの時もこんな感じだったな...。

「...ふと思ったのだけど、チヴィット...シュテル達はユーリのエグザミアについてたAIで、自立型の...言うなればブルーティアーズに似た部類の武装扱いなのよね?」

「まぁ、便宜上はな。」

「.....ISに通じ得る存在として、狙われないかしら?」

「........。」

 正直に言えば、失念していた。
 桜さん達なら予想して対策を既に立ててあるだろうけど...俺達でも対策を立てておかないとな...。シュテル達に何かあればユーリに申し訳ない。

「白、そこの所、どうなんだ?桜さん達が対策を立てていたりは...。」

【いざという時は、シュテル達を介してお父さん達が会話できるようになってるよ。もちろん、GPSみたいに座標も分かってる。...手を出した途端粛清されるね。】

「...言い換えれば、チヴィットと一緒にいる限り俺達の場所もバレバレなのか。ぶっちゃけ、ばれてなくてもあまり関係ない気がするけど。」

 ...と、思考がずれて行ってた。
 せっかく最後のパーティーなんだから少しでも楽しまないと。

「色々考えるのは後でもいいだろう。今はパーティーを楽しもう。」

「そうね。...あ、それと、あたしも一度中国に戻るけど、すぐにこっちに戻ってくるつもりよ。大人しく帰れだなんて、あたしの性に合わないわ。」

「ははは、鈴らしい。」

 そういって、俺達はパーティーを楽しむ事にした。
 他の生徒も、それぞれ友人と写真を撮ったり色々しているようだ。

「...ところで、チヴィットの皆は食事できるのか?」

「.....見てるだけって辛いよねー...。」

「できないのか...。いや、仕方ないと言えば仕方ないんだが...。」

 なんというか、三大欲求の一つを満たせないのは不便だな...。







       =out side=





「........。」

 食堂の隅の方。誰も寄り付かないような位置に、ただ一人そこにいた。

「....混ざらないんだな。」

「...まぁ、な。」

 そこに、秋十がやってきてそう話しかける。
 話しかけられた者...一夏は、静かに返事を返した。

「傷はいいのか?」

「もう動けるぐらいには回復している。...IS学園の技術様様だ。」

「...そうか。」

 現在一夏は車椅子を使っている。普通に歩くとなると、傷が痛むからだ。

「...なぁ、お前はさ、浮かれた事とかあるか?」

「なんだ?藪から棒に。....そうだな.....ない、な。身近に桜さんとかがいたから、浮かれるような事なんてなかった。いつも上回られるからな。」

「...そうか。羨ましいな。常に上を目指し続けられる意志を持てて。」

 疲れ切ったように、一夏は嘆息する。
 今までの自分を振り返って、今更ながら後悔していたのだ。

「...俺は、前世も、お前に成り代わった今でも、俺は堕落し続けた。...少し考えれば、“原作”に沿うなんて無理なのは分かっていたはずなのに。」

 秋十が生まれ、桜やマドカがいる。
 この時点で、“原作”と違う事から、一夏は目を逸らしていた。
 その結果が、今である。

「俺は...ただの馬鹿な人間だった...。大した努力もしない癖に思い通りにならなかったら癇癪を起して...そのままずるずると堕落するだけだった。...今世でもそうだ。“洗脳”なんて外道な能力を望んで、そこまでして思い通りにして....こんな最低な人間、裁かれるのが当然だってのに...。」

「...後悔、してるんだな。」

「ああ、してるさ...!死んでしまいたいぐらいにな...。でも、それじゃあダメだ。犯した罪は償わないといけない...。」

 ただただ後悔し、涙を流す一夏に対し、秋十は上手く言葉を出せない。

「俺は...いつも気づくのが遅すぎる...。人生が詰んでから気づくなんて、馬鹿だろう...。どん底にまで落ちないと気づけないなんて...。」

「........。」

 一夏は、目の前に広がる光景がどこか遠くのものに見えた。
 もう後戻りはできない所まで来たのだと自覚したからだ。

「...千冬姉から聞いたが、しばらくは更識家の者が護衛に就くらしい。あんたも、元がつくとはいえ男性操縦者だ。無防備に置いておくと利用される。」

「....そうか。」

「....まだ、詰んだ訳じゃないぞ。」

「え....?」

 秋十の言葉に、一夏は思わず顔を上げる。

「これからの行動で希望が見えるかどうかは....あんた次第だ。過ちに気づいたというのなら、もう間違えるなよ。」

「.......。」

 そういって、秋十は皆のいる場所へ戻っていく。

「....お前は、あんな事をした俺に、“まだ終わってない”と...そういってくれるのか....。...はは...やっぱり、“主人公”には敵わないなぁ....。」

 乾いた笑いを漏らした一夏は、やはり泣いていた。
 ...だが、今度はしっかりと前を見据えていた。













   ―――そして、その日IS学園はなくなった。











 
 

 
後書き
お別れ会的な感じだったのに全然描写できなかった。←
IS学園がなくなったと言っても、建物や生徒はしばらく残ります。順に国に帰っていく感じで、それまでは寮などで生活します。

一夏は過ちに気づいてとんでもない罪悪感に苛まれています。そしてそれを救った秋十。
これから一夏の活躍は(描写的な意味で)多分ないですが、いつかは普通の人生は歩めるようになります。 

 

第58話「一時の帰宅」

 
前書き
―――...それは、想像以上に難しい事だよ?


IS学園が終わってからのワールド・レボリューションでの話。
出来る事は限られていて、やる事は多い...描写しきれません。(´・ω・`)
 

 






       =秋十side=





「......。」

 タクシーから降り、目の前に建つ建物を見上げる。
 ここの所、学園で色々あって来れなかったから久しぶりだ。

「ようこそワールド・レボリューションへ。本日は...あら?」

「すまないが、グランツ博士を呼んでくれないか?」

「は、はいただいま!」

 受付の人はどうやら最近(といっても数か月前)に会社に来た人なので、ぱっと見、俺に気づけなかったのか首を傾げた。
 一応、俺の名刺を出し、グランツさんを呼ぶように言うと、慌てて連絡を取り始めた。

「(確か...ここの所うちに来る社員は別に女尊男卑で零れ落ちた人ではない...。なのに、今の状況でもうちをやめないっていうのは...度胸あるなぁ。)」

 今、この会社はあまりいい立場ではない。
 利用されていたとはいえ桜さんと束さんがいたから、メディア関連が粗探しをするかのように負の側面を探そうとしている。
 信用もだいぶ落ちた。社員だって何人もやめていったしな。
 だから、この受付の人は中々度胸があると思う。

「すみません、フローリアン博士は忙しいそうで、こちらには来れないだろうと...。」

「やっぱりか...。しょうがない。自分から行くか。」

「え、ええっ!?」

 忙しい事は分かっていた。グランツ博士は現在社長代理のような立場にいる。
 ハインリヒさんもその立場を担う事はできるけど、表沙汰にできないからな...。

「ま、待ってください!そんな勝手な事されては...。」

「あー、じゃあボクが案内するよ。」

「シャル。」

 受付の人が困ったように俺を止めていると、シャルがやってきた。
 ...そういや、シャルはここで暮らしているから一足先にこっちに来てたな。

「一応、秋十もテストパイロットだったから、誰かから許可を貰えればある程度自由に会社内を動けるようになってますよ。」

「え、で、ですが...。」

「...伝わってなかったのかな。おとうs...ハインリヒさんやグランツ博士からは秋十が来れば通すように言われているよ。」

「そ、そうなんですか!?」

 ...今“お父さん”って言いかけたな...。
 受付の人は知らないから言い直したけど。

「じゃあ、受付頑張ってください。」

「あ、はい...。」

 とりあえず行っていいようなので、シャルと共に奥へと入っていく。

「一応連絡は入れてたんだが...やっぱり忙しいのか?」

「それはもう...ね。だからボクが出てきたんだけど。」

「そうだったのか。助かった。」

 シャルも手伝う立場だが、まだ学生の身だ。割り振られる仕事も比較的少ない。
 だとしても忙しいのは変わりないだろうから、俺も手伝わないとな。

「俺にも何かできる事はないか?焼け石に水だろうが、少しでも減らしたい。」

「うーん...とりあえずボクが手伝っている事ならできるかな?ボクの仕事に一区切りを付けれたら、改めて秋十にも仕事が割り振られると思うよ。」

「分かった。」

 膨大な事後処理。...できれば、その対策もしてほしかったな桜さん達...。
 まぁ、過ぎた事は仕方ないし、シャルを手伝う事にするか。

「...ところで、連絡ではチヴィットの皆も連れてくるって聞いたけど...。」

「...っと、もう出してもよかったな。」

 シャルの言葉に俺は持ってきていたトランクケースを開ける。

「ぷはぁっ!やっと出られたよー!」

「ぬぅ...ちと酔ったぞ...。」

「.......。」

 そこから、チヴィットの三人が出てくる。皆窮屈だったようだ。
 シュテルに至っては喋れない程ぐったりしていた。

「そ、そこに入れてたんだ...。」

「あまり人目に付かない方がいいからな...。だからといってトランクに入れるのは悪いと思った...。」

 正直罪悪感でいっぱいだ...。

【こういう事は二度とやらないでね。】

「...すまん。」

「白も入ってたんだね...。格納領域を使えばよかった気がするんだけど...。」

 ...盲点だった、という訳ではない。
 格納領域には既に他のものが入っているため、これでもトランクの方がマシなのだ。
 夢追もどことなく苦しそうにしていたため、早くメンテ室に行きたい。

「先にメンテ室に寄っていいか?格納領域に入っているものを出して、皆も休憩させたい。」

「それならちょうどいいね。ボクもそこに用があるし、グランツ博士も今はそこにいたはず。」

 どうやらタイミングが良かったらしい。
 とにかく、そこに向かう事にするか。





「....よし、こんなものか。」

「随分と持ってきたね...。」

 メンテ室で格納領域に入っていたものを出す。
 入っているのは、元々使っていたものだったり、使えそうなものだったり...。
 まぁ、様々なものが入っている。だからこそ格納領域がいっぱいになったんだが。

「とりあえず、軽くメンテしておくか。...無理させたからな...。」

「なんで複数回に分けて持ち運ばなかったのさ...。」

 全部納まったから何回かに分けるのを失念していた。
 ...うん、これからは気を付けよう。

「じゃあ、ボクとグランツ博士はあっちの方にいるから。」

「了解。」

 この会社のメンテ室は、偏にメンテ室と言ってもいくつか区分けされている。
 ...と言うのも、ISだけじゃなく色々なメンテをする場所だからな。
 だから俺が今いる場所とシャルや博士が仕事している場所は違う。

「さて、とりあえず何か異常があれば言ってくれ。」

「...とりあえず、休む方向で頼む...。」

「...それもそうだな。」

 チヴィット達はとりあえず休ませよう。
 だいぶAIも人間らしくなったので、疲労もあるようだ。

「白と夢追は大丈夫か?」

【問題はないけど...一通り見た方がいいよ。】

「ちょっと無理させたからな...。わかった。」

 まずは一通り見る。
 メンテナンスと言っても俺にできる事は限られているからな。
 活動に支障を来す程の異常となると、ちょっと手に負えないが...。
 まぁ、その点においては大丈夫なようだ。

「...数値にブレがあるな...。正常値とあまり変わらないから支障はないが...。まぁ、無茶させた影響だろうから、ちゃんと元に戻しておくか。」

 キーボードを叩き、数値のブレをなくしていく。
 これならすぐに終わりそうだ。





「完了っと。じゃ、早速シャルの所に行くか。」

 メンテも終わり、夢追は待機形態に、チヴィット達も格納領域で休んでいる。
 白は俺の頭の上に陣取っていた。

「ここか。」

 シャル達がいる区画に辿り着く。
 どうやら、一段落着いているようで、慌ただしそうには思えなかった。

「おや、ちょうどいい所に来たね。」

「グランツさん。お久りぶりです。」

 グランツさんが俺に気づいてやってくる。

「...えっと、寝てますか?」

「あはは...まぁ、最低限はね。」

「相当やつれて見えますよ...。」

 職を失くしていた時と違い、忙しさでやつれている。
 それだけ忙しい状況が続いているという事だろう。

「アミタとキリエはまだかい?」

「二人共、まだ仕事が残っているみたいで...。」

「そうか...二人も頑張ってるんだね...。」

 疲れたように呟くグランツさん。

「...話は変わるけど、秋十君達は桜君達を止めるつもりなんだね?」

「...はい。桜さん達も、それを望んでいるでしょうから...。」

 一転して、真剣な表情でグランツさんは言う。
 俺もしっかりと向き合って肯定の意を返す。

「...それは、想像以上に難しい事だよ?」

「っ...わかってます。あの人達がそう簡単に―――」

「そう言う事じゃないんだ。...彼らが捕まえられるかどうかじゃない。」

 首を振り、そう言う事じゃないというグランツさん。
 
「ただ止めるだけなら、君達ならばできるだろう。何せ、一番身近にいたのだから。だけど、それで周りはどうなる?ISが意志を主張した影響。女尊男卑の風潮が崩壊し、迷走している社会の現状。彼らを止めた後の対処。...挙げればキリがない。」

「......。」

「これは、君らだけの話じゃないんだ。世界中に影響する。それらを全て穏便に済ませるには...あまりに、難しすぎる。」

 ...盲点だった。
 いや、気づいてはいたのかもしれない。その上で、目を逸らしていた。
 これは俺達や桜さん達だけで済む問題じゃない。
 このまま桜さん達を捕まえた所で、一体どうなるだろうか。
 世界を搔き乱した罪は重い。それでは桜さん達の願いは結局叶わない。

「やめろ....とまでは言わないよ。だけど、決して忘れないでほしい。今の君達だけでは、絶対に良い結果にはならない。...いや、例え仲間を集めた所で、それは変わらない。」

「っ.....。」

「国を動かす存在を止めるには...こちらもまた国を動かさなければならない。桜君と束君の夢を実現した上で穏便に済ませるには、文字通り世界を変えなければならない。...覚悟が出来てるとか、そういう話じゃないんだ。」

「それ、は....。」

 分かってる。分かっているんだ。
 ただでさえ俺達...ワールド・レボリューションは立場が悪い。
 それなのに、テロリストとなった二人を止めて、穏便に済ませる真似をしたら...。
 それこそ、グルだったと疑われる。

「人一人にできる事は限られている。無理して突っ走っても、見合った結果は返ってこないよ。」

「......。」

「...博士、ちょっと言いすぎなんじゃ...。」

 何も言えずに黙り込んだ俺を見かねてか、シャルがそういう。

「...っと、それもそうだね。」

「...え?」

 今までの雰囲気と打って変わる。

「秋十君。確かに君にできる事は限られている。元々自他共に認める程才能があるとは言えない君だ。知り合いで仲間を集める事はできても、それ以上は難しい。」

「っ....。」

「だけど、会社や国を動かせる存在も身近にいるのを忘れていないかい?」

「....あ....。」

 そうだ。影響力が強いのは桜さん達だけじゃない。

「適材適所。君の姉である千冬君なら相当な影響力を持っている。それに、僕らだって何もできない訳じゃない。立場が悪いのならば、それを利用すればいいのさ。」

「利用...?」

「桜君達が、ただテロを起こした訳ではないと訴えかけるのさ。僕らは今まで共にいた。その分、彼らを理解しているつもりだからね。」

「...なるほど...。」

 止めた後の布石を打つようだ。
 これなら、桜さん達の夢に近づく事もできる。

「元々、束君はISを宇宙に羽ばたくための“翼”として開発した。だけど、世界はその通りに扱ってくれなかった。その点に置いて見れば、非はあちら側にあるしね。」

「...確かに、そうですね。」

 なんというか、ダイナマイトを開発した人を思い出すな。
 本来の用途とは別に使われるのは、誰だって嫌だろうし。

「ともかく、僕にだって伝手はある。大きな存在を動かすのは僕らに任せて、君は君らしく在ればいい。」

「....はい。」

 やっぱりと言うべきか...。不慣れな事はするべきじゃなかった。
 俺は、いつものように努力を繰り返す事しかできない。
 ...俺は...結局役に...。

「...言い忘れていたが、桜君を止める要となるのは、間違いなく君だよ。秋十君。」

「....え....?」

「才能がなく、努力を繰り返し、確実に力をつける。...それは、天才である彼らにはなかった事...いや、“出来なかった”事だ。だからこそ、君は彼らに期待されている。...“きっと、止めに来るだろう”...とね。」

「.......。」

 俺、が...?
 最初は落ちこぼれでしかなかった俺が、桜さん達を...?

「“天才を超える”。それは努力家にとってよくある願望だが...超えられる側も、それを願っているのさ。...秋十君。君も、桜君をいつか超えたいとは思っていただろう?」

「は、はい。...ですけど、そんなの到底...。」

「出来るか出来ないかじゃなく、やるんだよ。...夢を追う...それが君のISの名前なのだから、君も決して諦めるな。」

「っ.....!」

 つっかえが取れたような気分だった。
 ...そうだ。夢追は夢を追うためのIS。
 俺も...俺だって、抱いている夢を諦める訳にはいかないもんな...。

「さぁ、立つんだ。秋十君。出来る事は少ない。けど、やらなければならない事は多い。...なら、ここで立ち止まっている時間はないだろう?」

「....はいっ!!」

 確かに、俺に出来る事は少ない。そして、桜さん達を止めるために、やらなければいけない事は、山ほどある。
 ...だけど、俺がやる事は変わらない。
 いずれ成し遂げる“成果”のために、ただ努力を繰り返すのみ...!

「さて、早速だけど手伝ってくれるかい?何をしようにも、様々な書類を処理しないと何もできないんだ。」

「桜さん達だけでなく、ジェイルさん達も抜けましたからね...。」

「そう言う事だ。」

 まだ抜けてしまった部分がフォローしきれていないのだろう。
 それでグランツさんがこんなに...。
 ...よし、俺もできるだけ手伝って負担を減らさないと。





「ふぅ....。」

 一段落つき、俺は休憩する。

「お疲れ、秋十。」

「お、サンキューシャル。」

 シャルに飲み物を貰い、それを飲む。

「秋十の予定ってどうなってるの?一端帰る?」

「いや、しばらくここで寝泊まりする事になっている。桜さん達がいたからか、ここも相当セキュリティが凄いからな。」

 なお、千冬姉とマドカとあいつ...兄さんは更識家にお世話になっている。
 マドカもやる事が終わったらこっちに来る予定だ。
 更識家にお世話になっているのは、護身のためらしい。
 千冬姉は正直護身となる装備があれば護衛はいらない気がするけど。

「そう言えば、グランツさんは協力してくれるみたいだけど、会社としての具体的な方針はどうなっているんだ?」

「うーん...ボクもあまり知らないけど、基本的にはボクらと同じみたいだよ?」

「なるほど...。」

 どうやら、会社でも桜さん達を止めるために動いているようだ。
 まぁ、女尊男卑で追いやられた所を救ってもらった恩があるからな。
 そういった意味でも、止めたいのだろう。

「あ、そういえば、明日はお客さんが来るらしいんだって。」

「お客さん?どういうことだ?」

「桜さん達がいなくなる前から、グランツ博士達とそのお客さんで共同開発していたものがあって、それについてだと思うよ?」

「共同開発...ねぇ。」

 ジェイルさんも関わっているのだろうか?
 ...だとしたら、割ととんでもないものができそうだな。

「何を開発するのかは聞いてるのか?」

「お父さんから聞いた話だけど...ISに乗らなくても空を自由に飛ぶ体験ができるもの...らしいよ?詳しくは知らないけど...。」

「飛ぶ事ができる...じゃなくて、体験が?」

 実際に飛ぶ訳ではないのだろうか?
 ...まぁ、明日になればわかるかもしれん。

【VRゲーム...らしいね。】

「白...知っていたのか?」

【一応ね。...と言うか、お父さん達が把握してたから。】

 桜さん達は知っていたのか...。
 VRゲーム...なるほど。バーチャルリアリティなら体験はできるな。

「でも、グランツさん、ジェイルさん、そしてもう一人の人が作るにしては...何か物足りないような...。」

「...フルダイブ型とか?」

「...なるほど...。」

 VR自体はISが広まる前から研究は進んでいた。
 でも、一昔前のライトノベルのようなフルダイブ型はまだだった。
 ...それを、グランツさん達は開発するらしい。

【正解。どうやら、ISがなくても空を翔ける楽しさを知ってもらいたかったらしいよ。後は、大人も子供も楽しめるゲームとして。】

「自由度の高そうな感じだな...。」

「明日どういったものなのか見れたらいいね。」

 それにしても、その開発に協力してるのは誰なのだろうか?
 桜さんに聞かされた事があるけど、世間に隠れている天才というのもいるらしい。
 もしかしたら、そういう人なのかもしれない。

「...さて、戻るか。」

「そうだね。休憩もそろそろ切り上げようか。」

 飲み終わった空き缶をゴミ箱に捨て、俺達は手伝いに戻った。







「....っし、ふぅ...。」

 夜。風呂前の素振りを終わらせ、俺は一息つく。
 いつもやっていた事だが、最近は少しずつ回数を増やしている。

「精が出るね。」

「グランツさん。」

 仕事に一段落ついたグランツさんが俺の鍛錬を見ていたようだ。

「...なんというか、思い出すよ。僕の幼い頃を。」

「幼い頃...ですか?」

 あまり想像がつかない。

「僕も、君のように夢を追いかけていたんだよ。...空を自由に駆け回りたいという...ね。」

「それって....。」

「束君や桜君に似通っているだろう?」

 宇宙か空かという違いはあるが、それ以外は変わらない。
 ...だから、グランツさんも会社を動かして桜さん達を止めに...?

「幼い頃と言うだけあって、僕も子供だったからね。ファンタジーの世界のように自由に飛び回りたいなんて、本気で思ってたよ。」

「...諦めてしまったんですか?」

 グランツさんの言い方は、過去形だった。
 それはまるで、諦めているようで...。

「...そうだね。結局、僕は諦めてしまった。そんな事はできそうにないと、現実を見せられてしまったんだ。」

「......。」

「だから、僕はせめてゲームの中だけでも自由に飛べるようにしたいと考えてね。...それが、僕が研究者になる切欠だったのさ。」

 グランツさんが研究者になるのに、そんな事があったのか...。
 ...でも、それは...。

「...妥協...ですよね?」

「...まぁね。どう言い繕っても、僕は夢を諦めて妥協した事に変わりない。...桜君達にも言われたよ。...だからこそ、せめて妥協した道を突き進む。...現実の空を翔けるのは君達に任せて、僕はゲームで空を翔けさせてもらうよ。」

「...そのためのVRゲーム、という事ですか。」

 AIに関して研究していたのも、ゲーム関連なら納得だ。

「...誰かから聞いたのかい?」

「シャルから共同開発の事を、白からゲームについて聞きました。」

「うーむ、桜君達には知られていたからなぁ...。ハインリヒさんにも話していたから、そこから伝わったんだね。」

 本来ならこの場で言うつもりでもあったのだろうか。
 少し出鼻を挫かれた表情をしていた。

「まぁ、IS関連の事業の裏で、地道に開発を進めていたのさ。そこへもう一人協力者が見つかって一気に進んでいた所で....今の事態に至る訳さ。」

「タイミングが悪いというかなんというか...。ジェイルさんが外れたのは大丈夫なんですか?」

「結構痛手だよ。だが、進行状況は知られているみたいでね。アイデアなどが送り主不明で送られてくるよ。筆跡は彼だから、おそらく桜君達の場所から送られているのだろう。」

「さすが...。」

 発行元を分からなくした上で送ってくる事ぐらい、造作もないんだろうな...。
 今の所、そこまでやる事がなくて暇なのかもしれないけど。

「...秋十君。君は諦めないようにね。」

「......はい。」

「僕は諦めて、結局少しでも楽な道へと行ってしまった。だけど、君は彼らを止めたいのなら決して諦めちゃだめだ。彼らもまた、諦めていないのだから。」

 ...そうだ。桜さん達は夢を諦めていない。
 だからこんな強引な手を使ってでもISを宇宙に羽ばたかせようとしている。

「それと、だ。あまり夜更かしはしないようにね。僕と違って、秋十君はまだ学生の身だ。健康には気遣いなよ。」

「はい。」

 会話は終わり、俺とグランツさんはそれぞれの部屋に帰る。
 その途中、ふと気づく。

「(...あれ?桜さん達...もしかして....。)」

 ISを宇宙に羽ばたかせるために今の状況を作り出した。ここまでは分かる。
 だけど、それでは意味がないのも分かっているはずだ。
 だから俺達は止めようとしていた。

 ...まさかとは、思うけど...。

「(...俺達が止める事を含めて、桜さん達の計画なのだろうか...?)」

 俺達が止めると分かった上で...いや、止めるからこそこの状況を作った。
 先を見通し、きっと自分達だけでは達成できない事を、俺達に託した...。

「.....結構、期待を背負ってるんだなぁ...。俺...。」

 とんでもないプレッシャーだと、俺は思う。
 他でもない天才の二人に、天才を超える事を期待されているのだ。
 ....応える以外に、選択肢なんて存在しないじゃないか。

「無茶苦茶だなぁ。...まぁ、でも、桜さんと束さんらしいか。」

 ...もしかしたら、千冬姉も感付いているのかもしれない。
 俺達を含め、世界中が天才二人の掌の上か...。

「...いいぜ。やってるやるよ桜さん。そっちがそう望むんなら、俺も応える...!」

 何もかも思い通りに誘導されるのは仕方がない。
 あの人たちは俺達の人柄を良く知っている。
 ...だから、せめて乗り越える際は、桜さんをあっと驚かせてやるさ...!

「非才でも、天才を超えれる...証明してやるさ...。」

 掌の上だと言うのなら存分に踊ってやろう。
 超えて欲しいと望むなら、その通りに超えて見せよう。
 ...その上で、俺は貴方の予想を上回って見せます。桜さん。













 翌日。件のお客さんが来たようで、俺達も出迎えに行った。

「....あれ?シグナム?」

「む、秋十にシャルロット。なぜここに?」

「いや、それはこっちのセリフなんだけど...。」

 するとそこにはなぜかシグナムもいた。
 他にも大学生っぽい女性二人と小学生ぐらいの少女。後、でかい犬がいた。
 そして、それを纏めているのであろう、俺より年下の少女。
 ...その少女は、なんというか...天才特有の“オーラ”みたいなのを感じた。

「あれ?シグナム、知り合いやったんか?」

「知り合いと言うよりも...友人です。二人共一組ですが、少々関わりがあって。」

「ふ~ん...。」

 俺とシャルを値踏みするように交互に見る少女。
 ふと、何かを思い出したように視線を戻し、口を開いた。

「まぁ、まずは自己紹介やんな。私は八神はやて。グランツ博士と今はいいひんけどドクター・ジェイルと共に開発していたものに協力してた者で、今はこの会社の協力者と言う事になってます。これからよろしくお願いするわぁ。」

 八神はやて。...そう名乗った彼女は、柔らかく俺達に微笑んだ。











 
 

 
後書き
一昔前のライトノベル=SAO的な話。(どうでもいい小ネタ)

ISじゃなくリリなのキャラが凄い強キャラ感出してる...。>はやて
一応、設定的には相当な天才です。束や桜に追随できるぐらいには。 

 

第59話「ここから始めよう」

 
前書き
―――当てがある訳じゃない。でも、ここから始めようと思う。


進展はほぼなし...と言うか、むしろ終盤が一気に急展開になりそうです。
作者の知識が足りなさすぎる所は飛び飛びになるので...。
 

 




       =秋十side=





「む...う...参った。」

「これは...どうしようもないね。」

 はやて(そう呼ぶように言われた)との邂逅後、なぜか交流を深める事になった。
 いや、仲良くなる事に越したことはないが...。
 そして今はチェスをやって“いた”。...まぁ、惨敗だ。

「生まれてこの方ほとんど負けた事ないんよー。」

「二人掛かりで手も足も出ない...。」

 別に上手い訳ではないとは言え、俺とシャルの二人掛かりで全然勝てなかった。
 手はあっさり読まれるし、攻めに入る事もできずにあっさりと防戦一方に...。

「うーん、やっぱり秋十さんは頭であれこれ考えるよりも、体を動かしながら経験や直感で動く方が性に合ってるみたいやなぁ。」

「っ...そういう所、見ていたのか...。」

「これでも観察眼もある方なんやで?」

 確かに、はやての言う通り俺は思考しながら何かをする事には向いていない。
 才能がないから、そういうものの要領が悪いからだ。
 しかし、まさかそれをチェスで見抜いてくるなんて...。

「シャルロットさんは秋十さんより全体的に器用やけど...思い切りに欠ける所があるなぁ。偶には分が悪くてもそれに賭けるって言うのをやった方がええで?」

「そ、そう...かなぁ?」

「ここぞ、という勝負所で逃してしもうてるからなぁ。」

 しかも、シャルの特徴も見抜いていた。...と言うか、俺も知らなんだ。

「...まさかとは思うが、このためにチェスを...?」

「んー、チェスをチョイスしたのはほんまテキトーやけど、まぁ、そんな感じやな。何かしらで勝負して特徴を見ときたかったんや。」

「チェスだけで...。」

 なんというか...俺の予感は当たっていたみたいだ。
 さすがに束さんや桜さん程ではないだろうけど、はやてもスペックが高い。

「...ところで、グランツさんとの共同開発はいいのか?」

「あー、それなぁ。今は私が手伝わんくてもええ状況なんよー。...と言うよりは、私じゃなくてもええって感じかなー。今は私の代わりにシグナム達に手伝ってもらってるんよー。」

「シグナム達に...?」

 何かデータでも取るのだろうか?

「私達が作ろうとしているVRゲームは、どうしても人の動きのデータが欲しくてなぁ。子供から大人まで、運動できる人できない人。色んな人のデータが欲しいんよー。私の分は既にあるから、今はあの子たちなんよ。」

「なるほど...って事は...。」

「秋十さん達も近い内にデータを取ると思うよー?もしくは、ISを通じて既にデータ取りはできてるかもなぁ。」

 そういえば以前、ISのアップグレードついでにデータを取った気が...。

「これから博士達は忙しくなるから、私が秋十さん達を見る事になったんよ。秋十さん達も特殊な立ち位置だとしてもまだ学生の身。できる事は限られとるもんねぇ。」

「...まぁ、な。...って、あれ?はやては...。」

「私?私は一応飛び級で社会人になっとるよ?でも、年齢で言えばまだ中学生なんよ。研究者として一部には知られとるけど、本業は本屋やし。」

 どうしてまた本屋を...と思って聞いてみると、家業を継いだだけらしい。
 親戚(シグナム達)と共に研究と両立させているとの事。

「と、飛び級で社会人!?...あれ?日本ってそんな事...。」

「うん、できひんよ?やから、私は外国の学校行ってたんよ。最初は親戚の伝手からドイツの大学に行っててなぁ。そこを飛び級でって感じなんよ。」

「ドイツ...って事は、ドイツ語は?」

「ペラペラやよ。ついでに英語とかいくつかの言語は覚えといたわ。」

 さ、さすが天才...。俺、ドイツ語を覚えるのにだいぶ苦労したのに...。
 しかも実践形式で会話を重点的においた上でそれなりに掛かった。

「さて、私の事は置いておいて...や。桜さんを超えたいんやったら、私ぐらいは乗り越えてもらわんと困るわ。」

「っ....そうだな...。」

「まぁ、秋十さんは頭脳戦よりも肉弾戦...それも、経験や努力による大器晩成型やからな。チェスでただ勝てなんて事は言わんよ。でも....。」

 そういうとはやてはチェスの駒を動かしていく。
 ...これは...。

「....俺が劣勢な状態...?」

「ここから35手、凌ぎきってや。」

「え、ちょ...。」

 俺が劣勢な状態から、指定された手数凌ぐ。
 そんなお題を、唐突にやらされることとなった。





「22手...それも逃げに徹してか...。」

「初っ端からちょーっと飛ばしすぎたかなぁ?」

 できる限り逃げ続けたのだが、22手でチェックメイト。
 お題をクリアする事もできずに終わってしまった。

「変則的だったのもあってか、思ったように動かせなかった...。」

「まだまだ序の口やでー。これから何パターンもやって、どんな複雑な状況にも対応できるようにしてもらおうと思ってるからなー。」

 はやての意図は分かっている。
 チェスを通して俺の対応力を磨こうとしているのだろう。
 俺自身、どう動くか分かっていればやりやすいからな...。

「だからと言って...まだ序の口か...。」

「私ができるサポートは専ら頭脳分野や。しかも、例え鍛えた所で私もあの天才二人には敵わん。飽くまで秋十さん達の経験を積ませるものやと思ってな。」

「...わかってる。」

 待ち時間など、合間合間の時間にできるこの特訓は、新鮮で面白い。
 だけど、これを含めて様々なものを吸収しないと桜さんには勝てない。

「さて、秋十さんは桜さんを超えるために色々するみたいやし、微力ながら私も協力しようか。」

「それは助かるが...一体、どうやって?」

 はやてが手合わせの相手をするとは思えないし...。

「私が協力するのはさっきもゆうた通り頭脳分野や。...秋十さんには、これからありとあらゆる局面を想定して動いてもらうわ。頭で覚えるんやのうて、体で覚える形やな。その方が秋十さんに合ってるやろ?」

「...まぁ、そうだが。」

「シャルロットさんも付きおうてな。全体的に器用にこなせるっちゅーのは、秋十さんと似たような特訓で磨けるものやし。」

 そういって、もう一度チェスの駒を並べるはやて。
 ...なるほど。チェスを使って経験を積ませる。
 それがはやてがサポートする部分か。

「まだシグナム達も時間かかるみたいやし、もう何戦かしよか?」

「...受けよう。何事も経験だしな。」

 まだまだ惨敗以外の結果を残せていないが、これが桜さんを超える事に繋がるのであれば、やらない手はない。

「さて...じゃあ、次はこれや。」





「主、ただいま戻りました。」

「おー、お疲れやー。」

 しばらくして、シグナム達が戻ってきた。
 ちなみに、俺達はと言うと...。

「うーん...。」

「あはは...頭使いすぎて少し痛いや。」

 結局一度もノルマ達成できず、頭を抱えていた。
 シャルの言う通り、頭を使いすぎて少し頭痛がする...。

「げっ...はやてのこれやってたのか...なんつーか、ご愁傷様だな...。」

「...なぁ、これって一般的に見たらどれぐらいのものなんだ?」

 八神家で三番目に小さいヴィータがチェスを見てそう言ったので、ちょっと気になってはやてに尋ねてみる。
 ちなみに、二番目と末っ子は今はドイツの学校に行っているらしい。
 もしかしたらラウラと会う事も...って、軍人だしさすがに無理か。

「んー...なんでこないな事やってんのや?って思うぐらいかなぁ?」

「それは...なかなかだな...。」

 ヴィータがチェスの配置をしばらく見た後、“ゔー”とか言いながら逃げるように離れていった。...まぁ、見ても良く分からないからな。

「さて、皆も戻ってきた事やし、ここいらでチェスはやめにしよか。」

「...ああ。そうするよ...。」

「うーん、甘いものが食べたいや。」

 頭を使いすぎたからか、糖分を欲している。
 シグナム達の茶菓子を用意するついでに俺達の分も取ってくるか。





「へー、秋十さんが話題の男性操縦者だったのか。」

「...って、分かってなかったのか...。」

「だってあたし小学生だし、興味ねぇんだもん。」

 ヴィータは俺が男性操縦者だった事を知らなかったらしく、少し驚いていた。

「興味なかったんだ。」

「ISも体動かすだろうけど、あたしは実際に自分の体を動かす方が楽しめるから、あまり知ろうと思わねーんだ。...まぁ、ロボットモノみたいでカッコいいとは思うけど。」

「ちなみにフルダイブ型は疑似的とはいえ動かしている内に入るみたいやから楽しみにしてるんやでー。まぁ、ヴィータは運動好きに加えてゲームも好きやからな。ISのゲームならやってるし。」

 今のご時勢、なんでもかんでもISだというのに珍しいな。

「...と、もうこんな時間か。ほな、そろそろお暇するわ。」

「あ、いつの間に...。」

 どうやらもう帰る時間になったようで、はやて達は返る支度を始めた。

「ほな、またなー。」

「...また手合わせできる機会があれば、してくれないか?」

「ああ。」

 手を振って帰りの車に乗るはやて。
 シグナムはあまり会話に混じっていなかったが、帰り際にそう言って車に乗った。

「さて...と。」

「ボクらはボクらでまだ仕事があるんだよね...。」

 そう。はやて達と交流していた時は大丈夫だったが、本来はやる事が多い。
 直接請け負うものはなくても、手伝う分だけでも相当な量だ。

「うーん...もうひと踏ん張りだな。」

「そうだね...。」

 まぁ、チェスのように頭を使う訳ではないからマシだろう。





「秋兄ー!!」

「おぐ...。いきなりだなマドカ...。」

 翌日。今度はマドカがやってきた。
 まぁ、元々来る予定だったけどさ。
 ここに来るまでにやっていたのは、俺とマドカの戸籍を織斑に戻す事だ。
 俺の分は先に手続きをある程度済ませ、俺がいなくてもできるようになっていたが、マドカはまだだったらしく、それでこっちに来るのが遅くなったらしい。

「とりあえず鳩尾に入ったから退いてくれ...。」

「あっ、ごめんごめん...。」

 突撃された際にマドカの頭が思いっきり腹に入っていた。
 ...飛び込む形だったとはいえ、割と身長差あったんだな...。

「私が来るまでに何かあった?」

「特には...まぁ、強いて言うならシグナムとその家族が来ていたな。」

「シグナムの?どうしてまた...。」

 俺ははやて達の事を簡潔に説明する。

「VRゲームねぇ...。」

「マドカはどう思う?俺は中々面白そうだと思うが。」

「ゲームとしては革命的だよね。でも、このご時勢にどこまで通じるか...。」

「やっぱそこか...。」

 今はIS関連の事でてんやわんやだ。
 そんな状況下でVRゲームを出した所でなぁ...。

「世間の気を紛らわす...って言うのが、第一の目的なんじゃないかな?」

「シャル。...そうか、その可能性もあるか。」

 何も、VRゲームをソフトと共に出す必要はない。
 所謂、体験ゲームとして店に置いたりして、徐々に世間に認知されるようにしていけば少なくとも情勢に流される事はないだろう。
 その後に本命のゲームを出せばいい。

「...そっか、そうしなきゃならない...か。」

「マドカ?」

「...秋兄、決して焦る必要はないよ。」

「え?お、おう...。」

 何か一人で納得したと思ったら、いきなりそう言われた。
 一体、どう言う事だ...?

「シャルの言葉を聞いて大体の流れを予想したの。VRゲームを出すのはゲーム的革命の他にもう一つ、人々の関心をISから逸らすという目的があると思うの。」

「...まぁ、確かにな。」

 状況から考えても、今の時期に開発を進めるのはそういう目的があるのも頷ける。

「でも、ISと言う存在から関心を逸らすのは、一朝一夕で出来るようなものではない。....だから、必然的に長丁場になる。」

「当然だね。世界中に広まり、有名になったISだもん。いくらVRゲームが革命的と言っても、ゲーム業界での話。関心を逸らすのは一筋縄ではいかないよ。」

 むしろ逸らせれるだけ御の字と言える程でもある。
 けど、どうして逸らす必要が....。

「...宇宙開発に持って行くには、ある程度違う事に意識を向けて貰わないと、いつまでも過去に囚われてしまうからね。」

「...顔に出てたか?」

「秋兄の考えてる事なら大体は予想できるよ!」

 そんなきっぱりと言われてもな...。まあ、マドカだし仕方ないか。

「今、世間はISの事で大混乱に陥ってる。だからこの状況で動こうにも動けない。その状況を打開するために、人々の意識をISからできるだけ逸らすの。」

「状況を落ち着けるための緩衝材にする訳か。」

「そう言う事。...となると、時間がかかるから長丁場になるの。だから、焦って間違った行動をしないようにって。」

「さすがにそこまでせっかちじゃないって...。」

 むしろ我慢するのは慣れている。
 確かに早く何とかしないとと言う気持ちはあるが、それで失敗したら...な。

「焦る必要なんてない。...と言うか、今の俺じゃ桜さんには勝てないからな。」

「そっか...よかった。わかってたみたいで。」

「実質俺に出来る事なんて限られてるしなぁ。」

 積み重ねがないとそれを得意分野としている人にはまず勝てない。
 全てを努力で補っていると言っても過言ではないからな。俺は。
 狙撃においてセシリアには勝てないし、数ある武器を上手く使いこなすというのもシャルや簪には劣る。特殊兵装に至っては夢追に積んですらいない。
 先日のチェスもそうだ。...あれははやてが天才なのもあるけど。

「のんびりする訳じゃないけど、やれる事はやってじっくりとタイミングを窺うつもりだ。焦った所で何も変わらないと思うしな。」

「うん。私の懸念も杞憂に終わって何より。ところで、私の荷物を置きに行きたいんだけど...。」

「あ、ボクが案内するよ。」

「よろしくねー。」

 マドカとシャルはそういって行ってしまったので、俺は別の事をしに行く。
 ...と言っても、間接的にグランツさんを手伝う程度の事だ。
 すると、ずっと頭の上にいた白が声を掛けてきた。

【...焦る必要はなく、長丁場になると言っても、猶予がある訳じゃないよ。】

「それも分かっている。限られた時間で、出来る限りその時間を有効活用する。...グランツさんもそれは分かっているはずさ。」

 時間にして3年程が限界と俺は見ている。
 大体高校卒業の時期。その時には決着が着くはずだ。

【...最初はてんでダメな才能なしだったのに、今は見違えたね。】

「なんだよ藪から棒に...って、なんで白が知って....あぁ、聞いたりしててもおかしくはなかったな。」

【自己完結しちゃった...。まぁ、その通りだよ。お母さんもお父さんも嬉しそうに話してた。“見違えるように成長した”って。】

「まぁ、確かになぁ...。」

 俺でも驚く程に成長したと思っている。
 努力の仕方が間違ってたのか、ようやく努力が実ったからかは分からないけど。

「でもまだまだ足りない。」

【当然。お父さんの全力を片鱗しか出せてないんだから。】

「.....。」

 桜さんが全力に近い力を出したのはおそらく二回だけ。
 エグザミアの暴走を止める時と、この前の襲撃の時。
 元よりセカンドシフトしていたから出力が段違いだったが、手も足も出なかった。
 動きを知られていたというのも大きいだろう。

「...最後の課題、みたいなものか。」

 俺は桜さんに色々教えてもらった。だからここまで来た。
 ...だけど、それでは“その先”へは行けない。
 “自力で切り開け”...そう、桜さんは俺に伝えたいのだろう。

「...とりあえず、“いつもの”行くか。」

【じゃあ、私は見ておくね。】

 待機状態の夢追に軽く触れ、俺はIS用のトレーニングルームへ向かった。
 夢追を渡された時からやっている日課だ。
 やっている事の半分は生身でもできる事だけど、単一仕様のためにもな。

「...でも、これも桜さんに言われてやっている事だしなぁ...。」

【生身ならともかく、夢追と一緒にやるのはそうだね。】

 どれだけ成長するかなども容易に予想されてしまっているだろう。
 それだといつまでも勝てない。何か、必勝といかなくても布石になる手は...。

「...って、俺だといくら考えても予想されてそうだな。」

 どうするべきかまで考えて、ふと気づく。
 いかなる手を考えた所で予想される。意表を突く事はできないのだと。

「....なら―――」

【っ......!】

 あらゆる手を用意しても無意味なら、既知を未知に変えるしかない。
 既に知られている手を、さらに昇華させるしかない。
 ...元より、俺の才能では新しく覚えても意味をなさないのだから。

 ...そう、極めよう。俺の努力を。
 全ての手が予想されると言うのなら...。







   ―――その上で、回避不可能の一撃を与えればいい。











「今日も今日とてマスコミか...。」

「これ以上探られてもねぇ...。」

 立場が不安定であり、疑われているからか、マスコミが会社前に来ている。
 だが、いくら聞かれた所で不審な点は見つからないだろう。
 そういった点がある者...桜さん達に関わりがある者は俺達を除いて軒並みいなくなってしまったのだから。

「害を与えようとしたら、桜さん達から報復が来るのわかっているのか...?」

「分かってなさそうだね。」

「もう何度目って感じだよ...。その処理関係の事で仕事も増えるしね。」

 正直双方に利益が発生しないのでやめてほしい。
 と言うか、グランツさんは近々それ関連で会見を開くんだから、それまで我慢するくらいの器量は持ち合わせて欲しいな。

「一段落つくまで結構かかりそうだな...。」

「皆も各々の国でやる事が多いから、再び集まるのは時間がかかるだろうね。」

「うーん、この手詰まり感...。」

 あまりできる事が少ないと言うのは何とももどかしい。

「あー、ダメダメ。何か大きな組織ならともかく、一会社にいるだけの学生の身じゃ、出来る事なんてほとんどない。これなら自分磨きしてる方が有意義だよ。」

「あはは...確かに。」

「まぁ、手伝える事ぐらいはあると思うが...。」

 無理して何かするのやめようと、頭を振るマドカ。
 ...まぁ、確かに俺達にできる事なんて限られている。
 以前は色々できたけど、それは桜さん達や亡国企業の穏便派が会社にいたからだ。

「秋兄は桜さんを超えるって豪語しちゃったけどさー、これじゃ厳しいよ?」

「厳しいなんて当然じゃないか。」

「いや、確かにそうだけど...。」

 マドカの言わんとしている事は分かる。
 当ても何もないような状態で桜さんを超えるなんて到底無理だろう。

「...だけど、それでも超えるつもりだ。」

「何か当てがあるの?」

「...いや、当てがある訳じゃない。でも、ここから始めようと思う。」

 俺の始めの一歩なんて、小さいものだ。
 当てがないのは当たり前。俺は愚直に努力し続けるしかないのだから。

「...そうだね。何もできないからって、じっとしてる訳にはいかないもんね。」

「ああ。」

 最終目標は桜さんを超えてあの二人を止める事。
 だけど、目下の目標は...まず、会社を一段落着けさせる事だな。

「前途多難だねぇ...。」

「そうだな。....でも...。」

 一度これ以上の苦難を乗り越え、心に余裕ができたからだろうか...。
 前途多難な今の状況において、俺は...非常に燃えていた。

「時間も空いてるし、相手してもいいよ?」

「マドカ...良く分かったな。」

「そりゃあ、妹だし。」

 “にひひ”と笑うマドカ。
 一人で鍛えるには限界があるから相手がいるのは助かる。

「場所は...ISの試運転に使ってた部屋でいいよね?」

「そうだな。」

「じゃあ、ボクが使用許可貰ってくるよ。」

 マドカと手合わせをするためにトレーニングルームへと向かう。
 シャルは許可を貰ってくるために一端別行動となった。
 千冬姉程ではないけど、マドカも身体能力は並外れている。
 IS程でないにしろ、俺とマドカの戦績は負け越している。
 そりゃあ、基礎能力と才能の差があるから当然だが....。
 ちなみに、俺はそれを経験で補っているため、偶に勝てる。

「秋兄は桜さんの相手をする予定なんだよね?」

「一応、そのつもりだが...。」

「じゃあ、私は...束さん?」

「スコールやオータムかもしれんぞ?」

 束さんの相手はやっぱり千冬姉じゃないだろうか?
 でも、四季さんと春華さんがいるしな...。

「...って、別にそこまで相手にこだわらなくても...。」

「いやぁ、皆格上だから、想定して鍛えないと相手できないって。」

「それもそうだが...。」

 予想が外れた時が厳しそうだな。それ。

「...特化させるのも分かるが、その方向性は変えた方がいいぞ?」

「方向性?」

「そう。相手に合わせるんじゃなく、自身の強い部分を鍛えるんだ。」

 俺が桜さんに予想された上で勝ちうる手段がこれだ。
 俺の手の内は知られている。かと言って未知となる技を身に着けても付け焼刃だ。
 それならば、既存の技を昇華させる方が通じる確率が高い。

「私の優れている部分を...。」

「マドカの場合は...頭の回転が速かったよな。」

「まぁ、遅くはないと自負はしてるね。でも、突出してる訳じゃないよ?」

 千冬姉に似て身体能力も並外れているマドカ。
 それに加え、頭の回転が速い...のも千冬姉と同じか。

「うわぁ、考えてみれば、私って冬姉と色々似てるんだよね...。」

「でも、マドカの場合は射撃も...あれ?そういえば...。」

 ふと思い出す。
 射撃訓練の際に、マドカは周囲からの複数の射撃に反応して見せていた。
 さらには、同時に射撃を繰り出す事で反撃もしていた。

「...マドカって、並列思考ってできるか?」

「え?うーん、どうだろ?」

 二つ以上の事を同時に思考する。それが並列思考。
 俺は全然出来ないが、もしかしたら...。

「ちょっと後で試してみるか...。マドカ、利き手じゃなくても文字は書けるか?」

「一応は...雑にはなっちゃうけどね。」

「よし、手合せした後に試してみるか。」

 とりあえずは悩んでいる暇があれば体を動かそう。
 小難しい事はそっち方面の人に任せた方がいい。











 
 

 
後書き
最終決戦の相手は一応決まってます。(桜VS秋十は確定)
束さんと対等に渡り合えると言えば千冬ですが、今回ばかりは違います。...対等かどうか以前に、束を止めるにふさわしい人物がいるので。
サイレント・ゼフィルスを使っていないのでマドカの長所が良く分かってなかった秋十。まぁ、この小説で盗む訳にはいきませんでしたからね。 

 

第60話「ようやく」

 
前書き
―――ようやく、重い腰を動かしたか。


早く、展開を進めなきゃ...。でないとサブタイトルがネタ切れになる...。
というか既にネタ切れ感が...(おい
 

 






       =秋十side=





「シッ!」

「はぁっ!」

 木刀と木刀がぶつかり合う。
 相手をしているのはマドカ。しかも俺と違って短めの木刀二振りだ。

「(動きの出が早い...!やっぱり、マドカは判断してからの動きだしが早いな...!それも、複数の攻撃や敵相手は特に...!)」

 俺の動きに慣れたためか、俺の攻撃は悉く防がれる。
 フェイントを織り交ぜても即座に反応して受け止められた。
 ...千冬姉に追随する身体能力の素質持ちだからなぁ...。

「はぁああっ!!」

「くっ...!」

 だが、俺も負けていない。身体能力自体は劣っていても、マドカとは何度もやり合った事のある仲だ。...その経験が、身についている...!

「ふっ!」

「っと...!」

 “風”、“水”を宿して肉迫し、攻撃時のみ“火”、“土”を宿す。
 とにかくマドカの判断を惑わすように立ち回る。
 そして、それにマドカが慣れてきた所で...。

「しまっ...!?」

「はっ!」

 “火”以外の全てを宿した攻撃で木刀を弾く。
 緩急を利用した単純な作戦だが...それ充分に通じる。

「そこだ!」

   ―――“四重之閃”

 弾いた隙に、俺は四撃同時に見える程の高速連撃を放つ。
 それをマドカは...。

「っ....!」

 二撃、身を捻り、もう二撃は二刀で凌いで見せた。
 マドカの咄嗟の判断と並列思考による超人的な反応。
 ...だけど...。

「はい、チェックメイト。」

「...あはは...やっぱ無理かぁ...。」

 凌いだ後が完全に無防備になっていた。
 そこへすかさず追撃を放ち、木刀を弾き飛ばして終わりだ。

「...しかし、一応ついこの間まで俺の最大の切り札だったのに...。」

「複数の対象に対しての行動は、確かに得意かもね。」

 以前、マドカが持っているであろう特技。
 それを確かめてから既にしばらく経ったのだが...これがまた凄かった。
 今のように俺の準最強の切り札を防いでしまったのだ。
 ...まぁ、その後無防備になってしまうからまだ実用には向かないが。
 ちなみに、今の俺の最大の技もまだ実用的ではない。隙だらけになるし。

「飽きないね二人も...。」

「そう言うシャルだって射撃訓練とかやっているじゃないか。」

「まぁ...あった方が良いスキルだからね。」

 シャルが俺達にタオルとスポーツドリンクを渡してくれる。
 そして、俺が言った通り、シャルも射撃訓練を欠かしていない。

「宇宙開発が目的のISに武装が付いているのは、宇宙での脅威...例えば隕石とかに対処するため。束さんはそう言っていたし、こういった武力を鍛えるのも間違いではない。」

「...間違いではないんだけど...発展のさせ方を間違えたんだよね。」

「軍事利用にスポーツ...そりゃあ、怒るよね。」

 ましてや“兵器”として扱われたからな。
 ISは束さんにとって子供のような存在。
 それが本来の用途とは違う使われた方をすれば誰だって怒るだろう。

「...っと、それは分かってる事だから別にいいか。ところで...。」

「...ようやく一段落...って所だね。博士の会見も終わって、監視の目はまだあるものの風当たりは少しマシになったかな。」

「後処理も大体終わったからなぁ...。」

 俺達も手伝って後処理系のモノは大体片付いた。
 アミタさんとキリエさんは未だに学園の方の後処理が残っているため、まだ帰って来れていない。...そういや、千冬姉も更識家に荷物を運んでからすぐに学園に戻っていったっけな。

「一段落ついたなら、私達も一端帰れるかな?」

「多分ね。ボクは帰るも何もここが家みたいなものだけど。」

 この会社には、会社となる建物のすぐ近くにマンションがある。
 一部の社員やシャル達はそこで暮らしている。
 ちなみにこのマンション、会社設立の少し前に買い取った物だ。
 基地はあっても帰る家が当時はなかった俺達も使っていた。
 ...今は帰れるようになったけどな。

「とりあえずもう少し様子見だね。」

「落ち着いたのなら、今度は桜さん達を止めるために土台固めをしなくちゃな。」

 やる事はまだまだある。
 その分野で俺ができる事はごく限られているが、それでもやらなくちゃいけない。
 立ち止まっていては、決して天才には追いつけない。







「....久しぶりに見たが、でかいな...。」

「まぁ、あれでもお嬢様だからねー。」

 一週間後。俺達は更識家の屋敷に来ていた。
 やはりと言うべきその広さに、俺は初見ではないが少し圧倒されていた。

「....ん?戻ってきていたのか。」

 使用人に案内されていると、ある奴と出会った。

「...何してるんだ?」

「千冬姉の所にいても何もできねぇから、適当にな。」

 一夏...兄さんは頭を掻きながらそういった。
 皆を洗脳していた時のようなあくどい性格は完全になりを潜めていた。

「...すっかりやつれたね。」

「あれだけ現実叩きつけられたら思考だってまともになる。...いや、本当に後悔しているし、未だに自分を赦せない。」

「逆にのほほんとしていたら跳び蹴りをかましていたよ。」

 マドカもそんな大人しい兄さんに毒気を抜かれていた。
 ...尤も、直後に言った言葉に兄さんは思いっきりビビってたけど。

「それで、千冬姉はどこにいるんだ?」

「それなら....。」

 とりあえず、千冬姉に会っておきたいので場所を聞く。
 後、簪や楯無さん、本音や虚さんとも会っておかないとな。





「...ここか。」

「まさか冬姉が手合わせの相手をしてるなんてね...。」

 教えられた場所は、更識家にある道場。
 どうやら、更識の人間として鍛えるために、千冬姉に相手をしてもらっているらしい。

「何もできないと言っていた意味が分かったな。」

「確かに。これは割り込めないね。」

 中を覗いてみれば、暗器などを巧みに使う楯無さんの攻撃を千冬姉が木刀一本で悉くいなしていた。...と言うか、普通に反撃を与えている。
 簪は端っこの方で息を切らしていた。傍らには木製の薙刀があった。
 本音と虚さんもいたが、二人は端で見学していた。

「...織斑先生。私、これでも暗部の人間なんですが...どうしてそこまで?」

「何、私も剣術は篠ノ之家の道場でやっていたのでな。何分、その方面の才能が開花したらしくこうなった訳だ。...でなければあいつにはついて行けん。」

 手合わせが終わったらしく、木刀を受けた箇所を抑えながら楯無さんが言う。
 ...確かに、千冬姉はいくら世界で有名な存在になっても、“表”の人間だ。
 なのに、“裏”の人間として日々鍛えている楯無さんを圧倒していた。

「...入ってこないのか?」

「いや、割り込めなさそうだったし...。」

 千冬姉は俺達が見ていた事を当然のように察知していた。
 ...俺達には背を向ける立ち位置だったはずなんだが。
 まぁ、千冬姉だしおかしくはないか。

「冬姉が稽古つけてたの?」

「いや、どちらかと言うとお互い鍛えるためだな。二人は更識家としても言わずもがな。私も以前の勘を取り戻さないと、と思ってな。」

「それでか...。千冬姉が圧倒していたけど...まぁ、一対一なら仕方ないか。」

 千冬姉は身体能力に限って言えば束さんを超えている。
 ...桜さんはどうか知らないけど...。少なくとも楯無さんでも敵わない。

「いや、違うぞ?」

「え?」

「一対一ではない。二対一だ。」

「...えぇ....。」

 つまり、あれだろうか。
 簪と楯無さん二人掛かりで、途中で簪がやられてあの状況に...。
 いや、最近は見てなかったけど、千冬姉も桜さんみたいに人外染みてたっけ...。

「大丈夫簪?」

「な、何とか...。強すぎる....。」

「二人掛かりなのに全部凌がれたわ...。もう、自信失くしちゃう。」

 マドカに声を掛けられ、簪は薙刀を支えに立ち上がる。
 怪我しない程度とはいえ、良い一撃を喰らったのだろう。
 楯無さんもやれやれと力を抜いて溜め息を吐いていた。

「秋十、構えろ。」

「えっ、俺?」

「私も不完全燃焼でな。」

 木刀を渡され、いきなりそう言われる。
 ...二人相手にして不完全燃焼か...。いや、千冬姉ならおかしくないけど。

「...分かった。」

「...ほう....。」

 千冬姉とやり合うのはいつ以来だろうか。
 おそらく、洗脳される前以来だろう。
 洗脳されてからは試合と言うか一方的な蹂躙だったし。

「やはり、見違えたな。」

「研鑽を積み続けてきたからな...。行くぞ!」

「来い...!」

 千冬姉は俺の積み上げてきた努力の“厚み”を見抜いてきた。
 おそらく、それを想定した上で、俺を上回る反応をしてくるだろう。

「......!」

「っ...!」

 一息の下に千冬姉に肉迫し、横薙ぎに一閃。
 全力ではないが、相当な早さで振るったが...あっさりと防がれる。

「はぁっ!」

「っ...!」

 防いだ所からの斬り返しが迫る。
 俺は上体を反らしてギリギリで避け、そのままバク転して間合いを取る。
 当然の如くバク転直後を狙って攻撃を仕掛けられる。

「(だけど、それはマドカとの手合わせで何度も見た...!)」

 やはり姉妹と言うべきか。
 細部は色々違うとしても、似たような戦法を使ってくる。

「ぜぁああっ!」

「むっ...!」

 攻撃を防ぎ、一度後退する。
 一歩二歩と後退し、三歩目で下がると同時に強く踏み込み、逆に肉迫する。

「ふむ...。」

「ぐぅっ...!」

 しかし、その渾身の一撃はあっさりと凌がれ、反撃でまた後退させられる。

「では、こちらから行くぞ。」

「っ....!」

 そして、そこで千冬姉が攻勢に出た。
 ...そう。何気に今まで千冬姉は自分からは動いていなかったのだ。

「(望む所だ...!)」

 元より、千冬姉にあっさり負けているようでは、桜さん達に勝つなど夢のまた夢。
 例え今勝つのは無理でも....!





「うぐぅ....。」

「うむ、中々良かったぞ。」

 ...千冬姉には、勝てなかったよ...。
 いやまぁ、わかっていたけどさ。思った以上に適わなかった。
 悉く攻撃は防がれ、逆にこちらの防御は貫いてくる。
 俺も経験を積んで動きは分かっていた。
 ...だが、その上を行くようにまるで無意味だった。

「まともに攻撃も当てられなかった...。」

「いや、あの技はひやっとしたぞ。」

「放つ瞬間に半分ほど潰して良く言うぜ...。」

 せめて一矢報いようとして四重之閃を放とうとしたのだが、その寸前に千冬姉に肉迫され、本来四連撃な所を二連撃に減らされた。
 おまけに、その二連撃もあっさり回避と防御で凌がれた。
 そしてその後の反撃を俺は防げずに喰らって終了だった。

「桜に使っていた技だからな。初見であればやられていた。」

「まともに見た事ってなかったはずじゃ...あっても記録だけのはず...。」

 なのに、たったそれだけで対処か...。千冬姉ならおかしくないか(思考放棄)。
 桜さんも二重之閃であっさり相殺してきたからな...。

「うーん、冬姉には敵わないなぁ....。」

「私に勝とうなど、まだまだ早い。」

 マドカも今のを見て、まだまだだと思ったようだ。

「簪ちゃん...。」

「...何?」

「私達、まだまだね...。」

「...うん。」

 端っこでは、同じく見ていた楯無さんと簪が遠い目になっていた。
 ...とりあえず、暗部の当主としては俺達を基準にしない方がいいかと...。
 まぁ、“裏”の人間ですらない人に劣っている事に思う所があるかもしれないけど。

「かんちゃんもお嬢様も皆もお疲れさま~。飲み物とタオル持ってきたよ~。」

「いつの間に...。」

「秋兄と冬姉が試合してる最中だよ。」

 本音はいつの間にか席を外しており、飲み物とタオルを人数分持ってきていた。
 ...うん。運んでいる時凄くふらふらしてるから見てて不安になる。
 いや、実際はちゃんとバランスを保っているようだけどさ。

「いやぁ、久しぶりだね~。会社は忙しかったのー?」

「俺達に回される分は相当少なかったが...それでも忙しかったな。」

 グランツさんやハインリヒさんは目に隈が出来ていた。
 ...ちゃんと寝てるのだろうか...?

「久しぶりな所悪いけど、私はこれから着替えて当主としての仕事をしてくるわ。」

「あ、お姉ちゃん、私も手伝うよ。」

 楯無さんはそういって持っていた武器などを戻す。

「それじゃあ織斑先生、失礼します。」

「ああ。...もう、教師ではないのだがな。」

「こちらの方が呼び慣れているので。」

 楯無さんが道場から出ていき、それに簪や本音、虚さんがついて行く。

「当主としての仕事...なんだ?」

「更識家は暗部としての仕事もあるが...現在は主に情報収集だ。世界のな。」

「世界の...って...。」

「情勢が乱れているからな。様々な場所から情報を集めて整理。それを各国...更識家の場合は日本とロシアに伝えているな。」

 今は知っていなければ不味い知識もあるからな。
 ...って、更識家の場合?

「各国のお抱えの暗部も協力している。」

「...俺、そんな分かりやすいかな...?」

「分かりやすく気にする言葉を混ぜたからな。むしろ気づいていなければまだまだだ。」

 別に俺がわかりやすい訳じゃないらしい。...よかった。

「奴はこうして戦闘力の強さを鍛えながら当主としての仕事をこなしている。...もちろん、妹や従者の手助けもあるがな。」

「...忙しそうだな...。」

「ISや国関連の会社や組織は全部そうだろう。」

「まぁな...。」

 対暗部のボディーガードとしての強さを磨きつつ、情報処理も行う...。
 俺達が会社で経験してきた忙しさを軽く上回るだろうな。

「冬姉は何かしたりしないの?」

「束関連の情報を貰って動きを推測している。...あいつが私の予想通りに行くとは思わないが、あいつを一番知っているのは私だからな。」

「暗部関連の仕事は冬姉には合わないもんね。」

「こそこそとした動きは得意ではなくてな...。」

 確かに、千冬姉はどちらかと言うと正面から行くタイプだ。
 だから情報収集にはあまり向いていなかったりする。

「...そういや、暗部で思い出したけどなのはの所は...。」

「高町の所は既に更識家と交渉していてな...現在は互いに深く干渉はしないようになっている。」

「普段は喫茶店やってるからね。なのはの所は。」

 IS学園が襲撃された後、俺は気にしていなかったが、士郎さん達と楯無さんはお互い“裏”の人間であり、普段はあまり関わりのない者同士だ。
 “護衛”と言う点においてはどちらも一致しているが...やっぱり、協力はすれど過度な接触は禁物なのだろう。

「後もう一つ、箒は?」

「あいつについては大丈夫だ。何でも、政府の一部が利用しようと素振りを見せた瞬間、束が直接やってきて釘を刺したらしいしな。」

「おおう...。」

 箒も元に戻ってから束さんのシスコンっぷりが出てきたからなぁ...。
 しかも、一番利用されやすい立場だからか俺達以上に監視の目が強かったのだろう。

「...今晩にも新しい情報が入るだろう。とりあえず、荷物の整理をしておけ。」

「分かった。」

「じゃあ冬姉、また後でね。」

 千冬姉と別れ、改めて宛がわれている部屋へと向かう。





「...同じ部屋なのか。」

「あ、でも一応襖で区切れるみたいだね。」

 着いた部屋は二人にしては広めの部屋だった。
 マドカの言う通り、襖で区切れば一人部屋になるようだ。

「...まぁ、別に兄妹だから同じ部屋でもおかしくはないか。」

「私はむしろ嬉しいけどねー。」

 さて、粗方荷物の整理も終わらせたし...。

「...どうするか。」

「会社にいた時は手伝う事が多かったけど、こっちではどうしよっか。」

「千冬姉を見つけて聞いてみるか?」

 下手に楯無さん達の仕事を手伝う訳にもいかない。
 ...そういや、兄さんも適当に歩きまわってたっけ。

「まぁ、それが無難かなぁ。」

「よし、じゃあ早速...。」

「探しに行く必要はないぞ。」

「ぅえっ!?」

 さっき別れたばかりの千冬姉を探しに行こうと立ち上がった瞬間、閉まっていた襖が開き、そこから千冬姉が出てきた。
 ...変な声が出ちまった...。

「び、びっくりした...冬姉、隣にいたんだ...。」

「ああ。実は大広間にもなるんだ。この四つの部屋は。」

「...ん?四つ?」

 区切りを見る限り、俺とマドカと千冬姉で三つ...後一つは...。

「...俺もいるんだよ。」

「あー、そう言う事。」

「四人共固めておいたって訳か。」

 兄さんが残り一つの部屋にいたようで、襖を開けてそういった。

「二人の部屋の分の襖は向かいの部屋にある。必要な場合は使うように。」

「了解、冬姉。」

「必要な場合って言っても...あぁ、着替えがあるか。」

 これは基本的に使う事になるな。

「さて、整理は終わったな?では、更識家での基本的な暮らしを説明しておこう。」

 そういって、千冬姉は俺達のここでの暮らし方を説明し始めた。
 ...と言っても、そこまで堅苦しいものではない。
 基本的に縛られるような事はないし、不用意に外を出歩かなければいいだけだ。
 ちなみに、昼食は基本的に部屋に運んでもらえるようだ。

「普段は迷惑にならない程度なら自由に歩き回ってもいい。とりあえず家の配置がどうなっているか把握ぐらいはしてもらいたいが...まずは昼食のようだな。」

 千冬姉がそういうと、部屋の外から使用人の声がした。
 俺もマドカも気配を察知してたから予期していても驚く事ではない。
 兄さんも自身はできなくとも慣れているようだ。





「先生、少しいいですか?」

「構わんぞ。」

 運ばれた昼食を食べ終わってしばらく千冬姉たちと適当な話をしていた時、楯無さんが部屋に訪ねてきた。

「あ、秋十君達もいたのね。」

「...そうだな、ちょうどいいからこいつらにも聞かせてやれ。」

 入った所で楯無さんは俺達に気づき、千冬姉はそういう。

「千冬姉、一体何を聞くんだ?」

「束関連の情報は私も聞いていると言っただろう?その過程で、世界の情勢も聞いておく必要がある。...要は、ほとんど情報を共有している訳だ。」

「今回もそのために?」

「そうね。...今回は、少し動きがあったから割りと有用な情報です。」

 楯無さんは千冬姉と向き直り、手に入れた情報を話し始めた。
 そして、一通り聞き終わり...。

「...ようやく、重い腰を動かしたか。」

 千冬姉は、待ちくたびれたと言わんばかりにそう言った。
 ...話の内容を簡潔に纏めれば、いくらかの国がISを宇宙開発に用い始めたのだ。

「元々そういう用途なのだから、さっさとそちらへ方向転換すれば良かったものを、過去に囚われ続けおって...。」

「上の人は皆頭が固いですからねぇ。目の前の損を何とかしてなくそうと躍起になりすぎてるんですよ。ワールド・レボリューションのように、先の事を考えたりしないと。」

 呆れたように話す二人。...いきなり会社の名前が出て少し驚いたのは内緒だ。

「幸い、ISに使っていた技術は他にも活かせる。...ワールド・レボリューションもAIの技術やPICの技術を活かしたゲームを作っているからな。」

「VRゲームでしたね。...ちなみに、そこの所どうなの秋十君。」

「お、俺!?...あまり詳しくはないけど、大人も子供も楽しめるようなものらしいです。PICの技術から仮想世界での飛行プログラムを組み込んで、AI...チヴィットのデータも使って相当大きい規模になるらしいです。」

 メディアからは学習型AIやフルダイブ型のVRは危なくないのかなどと色々言われているが、ひとまずそういった方針で行く事は聞いている。
 詳細は知らないけど、大体こうだったはず...。

「っと、話が逸れたな。話を戻そう。...ISが宇宙開発に使うとなれば、どのような影響が出てくると思う。」

「まず第一に、これは方針を変えなくても起こる事ですが...ISに認められる人が増えるでしょう。それも男女問わず。この事で、いくつかの機関がなぜ動かせるのか調査に出るでしょう。」

「そうだな。事実、既にISに認められた者がいる国は、躍起になって原因を調査している。主にアメリカとドイツだな。」

 ラウラがいるドイツと...なんでアメリカが?
 ...って、そういえば銀の福音のパイロットがアメリカ所属...。
 認められていたのか。

「折角宇宙開発に向けた方針がぶれ、またしばらく膠着状態...ですかね。」

「おそらくな。...まぁ、その方が私達も動きやすいが。」

 そんな執着した思想だからISに認められないんだがな。
 ISは空を翔ける意志でなくとも、純粋たる想いがあれば認めてくれる。
 “誰かを助けたい”、“共に歩みたい”などと言ったものでもいいらしい。
 ...白の受け売りだけどな。

「私としては早いこと秩序を安定させて欲しいですけどね...。暗部となると、秩序を保つための仕事が増えるので...。」

「この前の襲撃してきた連中のような奴が増えると考えると...その方がいいな。」

 “上”が不安定だと、治安も悪くなってしまう。
 その事を考えれば、やっぱり早い事方針を固めて欲しいものだ。
 ...というか、さっきから千冬姉しか会話してないな。

「ともかく、未だ多忙な状況。私達が本格的に動くにはまだ時間がかかるな。」

「そうですね...。各国に戻った人達も、国でのやる事が多いでしょうし...。」

 鈴はともかく、セシリアやラウラは相当忙しいだろう。
 片やお嬢様、片や軍人だ。家の事や軍の事で他に手が付けられなくなっているはずだ。

「...未だままならんな。」

「しかし、着実に状況は変わっています。」

「そうだな。...さて、少し束達の動きを予想してみようと思う。助かったぞ。」

「いえ、では。」

 そういって楯無さんは出て行った。

「...俺達がいた意味あったのか?」

「いつもの事だ。...俺は会話に入るのは諦めた。」

 どうやらいつもの事だったらしい。
 そして兄さんは何度か意味もなく同席していたようだ。

「それにしても、ようやく国が方針を変えたのかぁ。」

「あいつらを探すのは変わっていないがな。...これでも判断が遅い方だ。」

「何か不祥事を起こしたら中々解決しない連中なんだ。仕方ないだろう。」

 いや、改善するべきだろうけどさ。
 ...と、言うだけなら簡単だが実際に俺とかがなったらどうなるかって感じだが。

「これからどうして行こうか...。最終的に桜さん達を止めるのは分かってるけど、その過程でどうすればいいのか...。」

「今の私達には大した影響力はない私にある称号も、過去のものだからな。」

「個人で組織を作ろうにも、烏合の衆にしかなりませんからね。」

 第一、そんな事すればあの襲撃者たちと同じだ。
 ...となると...。

「正式に捜索のための組織を作ってもらわねばな...。」

「そこかぁ...。」

「....今更だけど、そういう組織の作り方ってどんなのなんだ...?」

 桜さん達の場合は会社の設立だが、こういうのはまた違う気がする。
 ...どの道、ある程度の影響力がないと無理か。

「政府が本格的に動けばそれに乗ずる事はできる...が、やはり前途多難だな。」

「分かっていた事だけど....。」

 ...でも、そうだとしても、諦める事はない。
 それはマドカも千冬姉も変わらない。









 絶対に、あの人たちを止める...!









 
 

 
後書き
本編には描写されていない(描けない)世界の状況ですが、今もまだ一言で言えば阿鼻叫喚の様子です。ほぼ主軸になっていたISが乗れなくなった事で大変な状態ですからね...。上層部でまともな人程胃を痛めています。

...そろそろ親友二名を描写しなければ...。(忘れてたなんて言えない...)
何気にISを貰っている二人(+妹一名)ですが、まだ動かせません。と言うか動かしていません。
ちなみにチヴィット達はワールド・レボリューションにいます。(白はついて来てる) 

 

第61話「親友たち」

 
前書き
―――俺達なんかにできる事は限られてる。でも、それでも手伝わせてくれ


(言えない…!今更アニメに登場していない御手洗数馬の口調がわからないなんて言えない…!)
…と言う事なので、口調の違いは見逃してくれるとありがたいです。

それと、自分の書いている別の小説で指摘された事を今回から実行しています。(セリフ文の最末尾の読点を付けないようにしたり、“...”を“…”に変えたりなど)
さすがに指摘された方の小説で手一杯なので、この話以前の話を修正する予定はありません。ご了承ください。(余裕があれば直します。) 

 





       =秋十side=





「…早すぎたな」

 現在、俺がいるのは街に住んでいる者ならほとんどが知っている公園の一画だ。
 今は待ち合わせのためにここにいる。

「あっきーの親友ってどんな人達なの~?」

「そうだな……」

 護衛兼同行者としてついてきた本音に聞かれ、簡単に説明する。
 ちなみに、本音以外に簪もついて来ている。
 本音は簪の付き人だからな。当然と言えば当然だ。今回は簪も護衛だけど。

「確か予定では9時だったよね?」

「今は50分…やっぱり早いな」

 どうやら予定より割と早い時間についてしまったようだ。
 まぁ、遅れるよりはいいけどさ。

「えっと…まず会ったらどう挨拶すれば…」

「そこから!?」

「あー、かんちゃん人見知りな所もあるからね~」

 いつもと違って静かに混乱している簪。
 確かに見知らぬ男性との初邂逅だから緊張するのも分かるけどさ。

「…さすがに暑いな」

「木陰があってよかったね~」

 忘れがちだが、本来なら今は夏休みだ。
 …IS学園がなくなったから夏休みどころじゃなかったしな……

「…っと、来たみたいだ」

「あの三人がそうなの?」

「ああ。バンダナをしている赤髪の方が五反田弾。もう片方が御手洗数馬。最後に弾の妹の蘭だ」

 どうやら途中で合流したようで、三人一緒にやってきた。

「お、おはようございます秋十さん!」

「おう。今日は悪いな。態々集まってもらって」

「い、いえ…!」

 俺達に三人が気づくと、真っ先に蘭がやってきた。
 なんか緊張してるっぽいけど大丈夫か?

「ったくよー、本当にきついぜ。この暑さは」

「夏…だからな」

「理解はできるが納得したくねぇな…」

 近年はさらに暑さを増している気がする。
 これが地球温暖化か…。…正直、束さん達なら何とかできるんじゃね?

「それでこちらが…」

「更識簪…簪でいい」

「かんちゃ~ん、私の後ろにゆっくりと隠れちゃだめだよ~?」

 人見知りを発動した簪が、少しずつ本音の後ろに移動しつつ自己紹介する。
 …いや、いい加減克服しようぜ?そこまで男性が苦手か?

「あ、私は布仏本音だよ~。かんちゃんの~、親友兼従者だよ~」

「えっと…五反田弾です…」

「妹の蘭です」

「…御手洗数馬だ」

 本音ののほほんとした雰囲気に戸惑いながらも、三人は自己紹介を返す。
 …とりあえず、お互い遠慮しすぎだと思う。

「まずは移動だな。ISを所持してるってばれたらまずいし」

「って言ってもよぉ、どこに行くんだ?今の時期、どこもまずいだろ?」

 弾の言う通り、今はどの研究所も行くべきではない。
 桜さん達から送られたISなんて、明らかに変に勘繰られるからな。
 うちの会社なら見る事はできるが、その場合は折角安定してきた会社の立場が再び不安定になってしまうから、こっちも却下だ。
 …となれば、今行ける場所は一つ。

「更識家だ。簡易メンテできるぐらいには設備もあるし、何より誰かに見られてしまうという事がない。できる事も限られるが、それを踏まえて一番適している」

「とりあえず車に乗って移動しよ~!」

 ここで話し続ける訳にもいかないので、移動するべく本音が三人を押す。
 元々ここに来るために車を使っていたため、移動する際もそれを使う。
 …あ、当然だけど運転手は運転手でいるからな?今も車で待機してるはずだ。





「でけぇ……」

「大きい…」

「こんな家見るのはテレビ以外じゃ初めてだぜ……」

 更識家に着いた際に、三人共その家の大きさに驚く。
 まぁ、当然だろう。普通の家に住んでいたら大きいと思うのは当然だ。

「まぁまぁ、とりあえず入って入って~」

「客間があるからまずそこに案内するするね…」

 本音が催促し、簪が案内する。
 簪は車で移動中、少しは慣れたみたいだな。

「…な、なんか落ち着かねぇな…」

「……まぁ、気持ちは分かる」

 旅館みたいだもんな。でも、家だ。
 だからこそ落ち着かないのだろう。

「そうだ。言い忘れる所だったが、これから会う人物に対して何か思う所があるだろうが、できるだけ我慢してくれ」

「……どういうことだ?」

「…会えばわかる」

 弾たちはIS学園での事をあまり知らない。
 知っているのは俺がどんな感じで暮らしていたとか、他愛もない部分だけだ。
 ……だからこそ、驚くだろう。…それだけでは済まないだろうが。

「ここだよ~」

「一体、誰がいるって…ん……だ……」

 客間に入ると、そこには楯無さんと……千冬姉とマドカ、そして兄さんがいた。
 虚さんは少し席を外しているようだ。

「ッ……!」

「なんで……!」

 当然、マドカを除いた二人を視界にいれた弾たちは驚きと怒りを顔に出す。
 マドカは以前会って和解したから、気まずさはあっても大丈夫だからな。

「………」

「………」

 一方、千冬姉と兄さんも黙り込んでいた。
 二人共責任は感じており、千冬姉はそれでも堂々と、兄さんは申し訳なさで俯いてしまいそうなのを堪えているような面持ちだった。

「秋十!どうして…!」

「だから我慢するように言ったんだ。…じゃないと、即殴り掛かってただろう?」

「だけどよ…!」

 これでも抑えている方なのだろう。
 とりあえず、千冬姉達がここにいる訳を話さないとな。

「いつまでも和解しないままじゃ、このままだといけない。…もう、昔みたいな事にはならんさ。だから、ケジメのためにこの場を用意したんだ」

「秋十……」

 そういって俺は簪と本音、楯無さんと共に端の方に移動しておく。
 ……ここからは、千冬姉達の問題だ。

「……許してくれなんて、そんな事は言わない。何なら気が済むまで殴っても構わない…。だけど、これだけは言わせてくれ…。……本当に、本当に!今まですまなかった!!」

 そういって、兄さんは土下座をした。
 同時に千冬姉とマドカも頭を下げた。
 …楯無さんと簪が驚いている。確かに、千冬姉のこんな姿は見る事はない。
 裏を返せば、そんな姿を見せる程、千冬姉は申し訳なく思っていた訳だ。

「私も、姉でありながらあのような仕打ちをしてしまった…。私にできる事なら、どのような償いも受けよう」

「…私も、改めてごめんなさい」

 本来なら言う相手は俺だろう。
 だけど、その俺はもう許したり和解したりしている。
 だからと言って代わりと言う訳ではないが、弾たちに謝ったのだ。

「二人は悪くない!……俺が、俺が全部そう仕向けたんだ。相応の報いは受ける。だけど、事前に謝らせてほしかった」

「………」

 弾たちは三人のその姿に戸惑っていた。
 やがて、どういう事か理解して…。

「っ…今更謝った所で、簡単に許せると思ってるのか!?」

 やはりと言うべきか、弾は激昂した。

「思ってない!だから、報いを受けるためにここにいるんだ。……言ってくれ。お前は俺をどうしたい?俺にできる事なら、なんだってやるつもりだ」

 兄さんは、既に覚悟を決めていた。
 本来なら、あの襲撃の時に命を捨てるつもりだった程だ。
 それほどに兄さんはかつての行いを反省し、悔いていた。

「っ、歯ぁ食いしばれ!!」

「ッ!!」

 その直後、弾が前に出て兄さんを思いっきり殴った。

「……一発。一発だけだ。お前が秋十にした仕打ちの報いと、俺達がお前に受けさせる報いは、この一発で済ませてやる…!」

「弾……」

 色々と言いたい事はあるのだろう。
 そして、本当はボロボロになるぐらいまで痛めつけたい程、怒りもあるのだろう。
 だけど、弾はそれだけで済ませた。

「…どう始末つけるのかは秋十が決める事だ。俺達は、これでいい」

「……そう、か…」

 そう言われた兄さんは、安堵とやるせなさを混ぜたような複雑な顔だった。
 過去の自分が許せないからこそ、この程度で済んだのが拍子抜けだったのだろう。
 ……もっと、自分を責めてくれた方が心にきっちりケジメを付けれたのかもな。

「…さて、謝罪もいいけど、本題に入りましょうか。」

「……そうだな…。では、しばらく退出しておこう」

 楯無さんの言葉に千冬姉達は一度退出する。
 謝罪は本題じゃなかったからな。本題のためにも、三人には席を外してもらう。

「さて、私は貴方達の事を知っているけど、貴方達は私の事を知らないわね。先に自己紹介をしておくわ。私は更識楯無。この更識家の現当主にして、IS学園の二年生の生徒会長だった者よ。」

「当主…」

 まさかの当主だった事に驚く弾たち。
 …ついでに言えばシスコンでもあるけど…それは言わなくてもいいか。

「今回、この家に来てもらったのは、詳細が不明なISを貴方達が持っている事。現在、他のIS研究所では貴方達は混乱の元となりかねないからよ。…そこの所は分かっているかしら?」

「い、一応は…。本来、専用のISなんて持つ事もない身ですし…」

「それ以外にもあるのだけど…まぁ、碌でもない連中に狙われる可能性があるから、この家に呼んだの。…そういう訳で、色々確かめさせてもらうわ」

 そういって、楯無さんは弾たちに質問を始めた。
 いつISを手に入れたのか、そのISをどこまで知っているのか。
 手に入れる切っ掛けやそれに心当たりはないかなど、色々と聞かれた。
 俺が既に伝えてあることも再度聞いたりもした。

「なるほどね……」

「お姉ちゃん」

「うん、裏付けも取れて、怪しい所もなし。大丈夫ね」

 簪が何かの資料を楯無さんに渡して、楯無さんは一人納得する。
 ……って。

「裏付けって…?」

「状況が状況だから、何事も裏を取らないとダメなの。口頭や状況だけで判断できないからね。まぁ、今回は念を入れての事よ。あまり気にしなくていいわ」

 こういう状況を悪事に利用する輩も少なくないだろう。
 というか、IS学園を襲った奴らもその類だし。
 だから、ちゃんと裏付けが必要と言う訳だ。情報って重要だもんな。
 …まぁ、今回は差出人が桜さん達だから形式上の確認でしかなかったけど。

「さて、まずはどういったISなのか確認しに行くわ。そのための場所があるから、そこに案内するわ」

「は、はい!」

 弾と数馬は知識量の問題で少し置いてかれているようだ。
 代わりに蘭はISの知識はある程度持っているようで、戸惑いつつも返事を返した。





「ここよ。ここは主にISの整備を行う場所。…と言っても、研究所には劣るわ」

「ここが……」

 渡り廊下を歩き、その先の部屋に着く。
 そこには、虚さんがおり、既に準備をしていたようだ。

「あの人は……」

「私の従者で、本音の姉よ」

「お待ちしてました。本音の姉で、虚と申します」

 俺達に気づいた虚さんはこちらへやってきて弾たちに頭を下げる。
 その後、何故か弾の方をじっと見て…

「あ、あの…何か…」

「あ、いえ、なんでも…」

 …と言う、何か違和感のあるやり取りをした。

「ん~?ふ~ん…」

「へぇ……」

 そんな虚さんを見た本音と楯無さんは、何かに気づいたように笑みを浮かべる。

「とりあえず、ある程度の準備は済ませておいたわ。まずは起動と最適化を試みて頂戴。そこから色々確かめていくから」

「は、はい!」

 楯無さんの言葉にまず蘭が展開を試みる。
 続けて弾と数馬も勝手がわからないながらも展開を試みた。
 ……だが、ISは展開されない。

「…あ、あれ…?」

「まぁ、現在は一般的にISは動かせないって事になっているからね…やっぱり、特別って訳じゃないのね」

 予想はしていたとはいえ、やっぱり理由や想いもなしに展開はできないらしい。

「えっと、これはどういう…」

【はろはろー!束さんだよー!このメッセージが開始されたって事は、送ったISを動かそうとしたって事だね!でも、動かせなかった訳だ!】

 蘭が何か言おうと口を開いた瞬間、映像が現れる。
 そこに映っていたのはなんと束さんだった。

【あ!残念だけど、これは録音音声だからそっちの問いには答えられないよ?いやぁ、実はもう一つ録音データがあったんだけど、私達の計画を早める事になって急遽メッセージ内容を更新……え?本題に移れ?はーい】

「束さん……」

 桜さんの声が若干聞こえて、束さんは本題へと移る。

【まずはお礼と謝罪を。……ありがとう。君達があっ君の事を大切に思っていてくれたおかげで、あっ君は生きてこられた。そして、ごめんなさい。私がヘマをしなかったら、あっ君があんな目に遭う事はなかった】

「………」

 感謝と謝罪を述べる束さんのメッセージを、皆は黙って聞いていた。
 束さんが感謝と謝罪を述べるのが珍しいのもあるが、内容が内容だったからだ。

「これって…」

「…ああ、俺が桜さんに救われる前の事だ」

「……」

 三人共、各々思う事があるのか黙り込んでしまった。
 確かに結果的に見ればプラスになった事ではあるが、弾たちにとっては俺をあの状況下から救い出す事は出来ず仕舞いだったも同然だからだ。

【……しんみりとした空気にさせちゃった所悪いけど、次に移るね】

「(やっぱりどこかで見てるんじゃないだろうな…?)」

 弾たちが少し落ち着くまで束さんのメッセージは止まっていた。
 この間すらも予想していたのだとしたら…あれ?そこまでおかしくないと思える自分がいる…。…あの人たちの事だし、考えるだけ無駄か。

【さて、君達がISを動かせないのは、まぁ当然だね。だって、まだ“初対面”なんだから。だから、まずは“会話”を試みてね】

「会話…って言われても…」

【え?やり方を伝えろって?…あ、そうだね。やり方はある意味単純。マンガとかでよくある感じに、ISに触れて念じてみて。IS側から問いかけてくるから】

 束さんのメッセージの通りに、弾たちはそれぞれのISに手を当てる。
 そして目を瞑り、しばらく無言が続く。
 …多分、今頃弾たちはISコアの人格と会話しているのだろう。

「あの…秋十君、少しいいでしょうか…?」

「…?どうしたんですか?」

 少しの間時間がかかるので、待っていたところ、虚さんが話しかけてきた。

「いえ、先程の…五反田弾君…でしたか?赤いバンダナの…」

「弾がどうかしたんですか?」

 先ほど少し弾をじっと見つめていたが…。

「どこかで会った事があったり?」

「いえ、そういう訳ではなくて…」

 そういって口ごもる虚さん。
 …なんだか、いつもの虚さんらしくないけど…。

「あ、あの、彼の事、色々と教えてもらえませんか?」

「色々って…」

 趣味とか、好物とかか?
 …と言うか、ここまでくれば俺でも察せる。

「虚さん、もしかして……」

「っ……!」

 …どうやら、本当のような。通りで楯無さんと本音が笑みを浮かべる訳だ。
 まぁ、弾も容姿は悪くない。むしろ良い方だと言えるからな。
 好みのタイプだったってだけだろう。

「い、今の話はなかったことに…!」

「え?あ…」

 顔を赤くして虚さんは別の事をしようと端の方で移動した。
 代わりに今度は楯無さんがやってきた。

「ふふ、意外よね。彼女があそこまで狼狽えるなんて」

「楯無さん、もしかして虚さんは…」

「ええ。そうよ」

 俺が何の事か言う前に楯無さんは肯定する。

「…本当に意外ですね…。いや、別に弾も顔が悪い訳じゃないですけど」

「今まで色恋沙汰に興味がなかったから、隠してるつもりだけどバレバレなのよね…」

 あの虚さんがあそこまでわかりやすく狼狽えるのは新鮮だ。
 …いや、さすがに楯無さんのようにからかうつもりはないけど。

「と言うか、もしかしたら彼女自身、今抱いている気持ちがどういったものなのか理解しきれていないかもしれないわね」

「いや、さすがに…ありえますね…」

 別におかしい事じゃない。
 今まで知らなかった、感じた事のなかった感情であれば、どう言うものか分からなくてもそこまでおかしくはないからな。

「(とりあえず、虚さんご愁傷様です…)」

 この場はともかく、後で楯無さんと本音にからかわれまくるだろう。
 マドカも知ったらからかう側に回りそうだし…。
 ……いざとなったら助け船を出そうか。簪辺りなら手伝ってくれそうだ。

【……終わったみたいだよ。皆、秋十を大切に想っていただけあるよ】

「ん?と言う事は…」

【認められたよ。妹たちに】

 見れば、弾たちはISを纏っていた。
 …ん?“妹”…?白にとって他のISコアの人格は姉のはず…。

「…もしかしてだが、弾たちのISコアは…」

【うん。お母さんが新たに生み出してくれたコアだよ。だから妹なの】

 …ますます他に知られる訳にはいかなくなったんだが…。

【後は秋十に任せるよ。それじゃあね】

 そういって、白はどこかへ去っていった。
 …迂闊な行動はしないはずだから、放っておいてもいつの間にか戻ってくるだろう。

「…どうだ。ISに乗った感じは」

「……なんていうか…まさにロボット物って感じだな。想像していた感覚に似ているぜ」

「けど、まだ違和感が…」

 乗った事がないためか、二人共新鮮な感覚らしい。
 それで、違和感についてだが…。

「多分、まだ最適化が済んでないからだと思う…」

「おそらくそれだな。さすがに蘭は気づくか」

 蘭は気づいたようだ。訓練機にはないが、専用機にはあるからな。

「なんだその…最適化は?」

「簡単に言えば乗り手に合わせる機能だ。まぁ、無駄をなくす感じだな。他で使う最適化と同じ意味で考えて構わない」

「なるほど。それで、それが終わるのは…」

「本来なら少しかかるけど…」

 …と、そこまで言った所で弾たちのISの形が少し変わる。

「…やっぱり、桜さん達が用意したのもあって、すぐに終わったか」

「……みたいだな」

 元々三人に渡すISだったんだ。三人のデータを入力済みでもおかしくない。

「しかし、三人共随分あっさりと認められたな」

「……そうね。もしかしたら、ISに対しての印象が私達とは違ったからじゃないかしら?」

「印象…?」

「IS学園に通うようになった私達…と言っても秋十君とか一部の人は別だけど、生徒達は皆、誰であれスポーツなどに使う代物として見るようになっていたの。だから、宇宙開発のために生み出されたISは乗る事を認めなかった。…別の用途として使おうとしてたもの」

 代表候補生や、一般生徒も、全員が宇宙開発のためのパワードスーツとしては見ていなかった。さらには、ただの道具として見ていた者もいる。
 ……そう言うものだと、教えられてきたからな。

「でも、弾たちは違う…」

「そう。秋十君と同じように、三人共他とは違った視点を持っていた。それが大きな理由ね。…他にも、今までISに乗っていなかったからって言うのもあるんじゃないかしら?」

 お互い、先入観がなかったからこそ、すぐにわかり合えたという事だろう。
 けど、だとしてもそれだけで乗れる訳ではない。
 何か認められるような意志を見せたという事なのだろう。

「えっと……どうやれば降りれるんだ…?」

「あぁ、それならね…」

 若干放置されていた弾たちが、降りる方法を聞いてきた。
 楯無さんが説明し、とりあえず一度ISを解除した。

「試行運転はここではできないから、また別の場所で行うわ。せっかく来たのだから、少しゆっくりしていくといいわよ」

「準備ができるまで客間で語らいあってきなよ~」

 ここからはまたデータとかを確かめながら準備が必要なようだ。
 時間を要するとの事なので、客間に戻ってしばらく待つ事になる。

「えっと確か……」

「客間までの道のりなら俺でもわかる。案内するぞ」

「頼む」

 とりあえず、俺達は一度客間へと戻る。
 …楯無さん達も、敢えてこの時間を設けたのだろう。
 更識家の手際なら語らう程の時間は取らないからな。

「……それにしても、よくあんなにあっさり認められたな。別に、俺や桜さん達みたいに大空や宇宙に羽ばたきたいって感じの願望はないだろう?」

「俺としては認められる基準がわからないんだが…」

 …確かに、俺も認められる基準を知らない。
 まぁ、悪用とかしなければ大丈夫って印象だけど…。

「…別に、俺は秋十を支えれるようになりたいって言っただけなんだがな…」

「……そうなのか…」

「……やべ、実際に口に出すと恥ずかしいな。これ…」

 俺のため…つまり人のための想いがあったから、認めてくれたんだろうな。

「え?弾もそうだったのか?」

「あれ?数馬もか?…って、蘭まで?」

 数馬と蘭が自分と同じような事を言ったらしく、驚いていた。
 弾も全員が同じだったことに驚きが隠せないようだ。

「…まぁ、なんだ。俺達なんかにできる事は限られてる。でも、それでも手伝わせてくれ」

「……ありがとう」

 俺はかつて、弾と数馬に支えられていた。蘭も俺に対して普通に接してくれていた。
 ……できる事が限られているとは言うけれど、当時最も救いになったのは弾たちだ。

「……だーっ!もうこの話はやめよう!俺が恥ずかしくてかなわん!」

「自分で言っておきながらそれはないだろ弾」

「俺にこんなセリフは合わないっての!」

 ……まぁ、確かに弾には似合わないなぁ……。

「まぁまぁ。俺としては、我儘で弾たちを巻き込んだようなものなんだ。それでも手伝ってくれるだけ、ありがたい」

「……ったく、お人好しだな…」

「秋十さん……」

「お前そういう所、以前から変わらないよな」

「そうか?」

 いう程俺は自分をお人好しだとは思ってない。
 元々復讐もしようとしていたしな。

「ああ。機会こそ少ないが、全然変わっちゃいない」

「そうだな。蘭を助けたのもそうだしな」

「お、お兄!その事は…」

「……そういうもんか?」

 蘭を助けた時…と言うか、初めて会った時の出来事だけど、弾とはぐれて迷っていた蘭と偶然出会っただけなんだけどな。
 困っているのに付け込んで絡んでた奴もいて、追い払ったりしたけどさ。

「そういうもんだ」

「そうか…」

 これはあれだろう。
 お人好しと言われても本人からすればどうという事はないって感じの。
 別に、自惚れてる訳じゃないが、そう思われてるならそうなんだろう。

「……話は変わるけどよ、IS学園がなくなった今、秋十はどうなるんだ?」

「そういやそうだな。まだ高校生なんだから別の学校に転校か?」

「うーん……どうだろうなぁ…」

 正直、そういう話はあまり聞いていないが…。

「まぁ、手頃な高校に行くだろうなぁ。一応、IS学園の学習過程を自宅でできるように、資料は配布されるようだけど」

「学園での学習過程って……そんなの資料にしたら…」

「…まぁ、本の山になるだろうな」

 さすがに随時送る形になるだろう。

「転校ってなるなら、藍越学園に来ないか?」

「藍越学園か?」

「学費が安い上に、就職率も高い。結構いい条件だと思うが?俺達もいるし」

 二人もいるのか…。けど、桜さんを追いかける必要もあるしな…。
 ……いや、待てよ?別に高校生活を潰してまで焦る必要はないような…。

「(第一に、探すにあたって俺にできる事なんて限られてるしなぁ…)」

 俺はそう言った類の能力は身に着けていない。
 と言うか、身に着ける程余裕があった訳じゃなかった。
 そう言うのができるのはある程度大きい組織か、千冬姉ぐらいだろう。
 だから、探すのは千冬姉とかに任せておこう。

「……よし、行けるのなら藍越を目指してみようかな」

「お、本当か?」

「せめて高校ぐらいは卒業しておきたいしな」

 というかいい加減普通の学校生活を送りたい。
 ……こんな状況になって言う事じゃないけど。

「準備できたよ~」

「っと、もうそんな時間か。じゃあ行こうか」

 試運転の準備が終わったようで、本音が呼びに来た。
 …さて、弾たちのISはどれほどの性能なのやら…。
 飽くまで宇宙開発が目的なら、相応の性能だったりするのか?
 ともかく、実際に動かして確かめないと分からないな。









 
 

 
後書き
親友達(しんゆうたち)じゃなくて親友達(おやともだち)って読んでしまいそう…。と言うか何度かそう読んでしまいました。
P.S.感想で読み間違えるならひらがなにすればいいと指摘を受けましたので、変更しました。ぶっちゃけ、盲点でした(´・ω・`)

スペックなどを記載した書類もない(ゲームソフトでソフト本体しかないようなもの)ので、実際に動かして機能を確かめている感じです。ただし、更識家とは言え研究機関より設備が圧倒的に劣っているので表面部分しかわかりませんが。 

 

第62話「集合」

 
前書き
―――待ってろ。大馬鹿者共


いつまでもグダグダやってるよりも、多少強引にでも展開を持って行った方がいいと判断しました(文章力がもっとあればまだマシだったんですけどね)。
と言うか、展開的に全然進まないので、時間を飛ばして地の文でまとめた方がわかりやすいと思います。
そういう訳で、今回と次回で一気に時間が飛びます。
……色々とさらっと流してしまいますが、もう描写しきれないんです。本当にすみません。 

 





       =秋十side=





「……ふぅ」

 溜め息を吐く。現在は藍越学園の()()()
 あれから無事俺は藍越学園に入り、そして二年半が経っていた。
 藍越学園には元IS学園の生徒も他に何人かいた。
 日本人の生徒は割とこっちに来ていたみたいだ。
 箒やマドカ、兄さんもこっちに来た。他にも静寐さんやなのはとかも来ていた。
 小学校や中学校が同じだった生徒もいたせいで、一悶着あったが……そこは俺や弾たちで上手く仲裁して、取り持った。

 弾たちのISについてだが、性能は測った所、大体第三世代と第四世代の間ぐらいの性能をしているらしい。…と言っても空中での機動性からの推測だがな。
 でも、それは一般的に見たらで、俺達は夢追と同じ最終世代だと思っている。
 つまり、弾たちの想いや成長度によって進化していくと見ている。
 あまり乗る機会はないものの、乗る度に弾たちとISの相性は良くなっていると思う。

「よう、随分と深いため息だな」

「弾か。いや、卒業式だし、結構緊張してな」

「まぁな。緊張するし、もう卒業するかと思えばな」

 ここ数年、それなりに進歩があった。
 まず、各国が徐々にIS宇宙開発へと向けていくようになった。
 そのために、ISに再び乗れる、もしくは新たに乗れる人が増えてきた。
 最初の頃はごく一部しかいなくなった操縦者が狙われていたが、そこは束さんと桜さん。きっちりと監視の目を働かせ、実行に移った途端叩き潰されていた。
 このまま行けば、ISは本来の使い方になっていくだろう。

 その他に、ワールド・レボリューションで画期的なゲームが出た。
 据え置き型ではなく、アーケード系だ。
 もちろん、そのゲームは以前から言っていたフルダイブ型VRゲーム。
 名前は“ブレイブデュエル”。
 ゲームプレイ時にカードを手に入れ、仮想空間で戦うと言うものだ。
 醍醐味となるのは、仮想空間内でのバトル。
 仮想空間なので、空を飛ぶ事はもちろん、魔法となるものも扱えるのだ。
 それが子供達に受けたらしく、稼働直後から人気爆発だった。
 ISっぽい装備もカードであるため、そっちから気に入る人もいるようだ。
 なのはも空を飛びながら戦えるのが楽しいようで、藍越学園で新たにできた友人と共に休日はゲームセンターに遊びに行っているらしい。
 惜しむらくは、筐体が限られたゲームセンターにしかない事だな。
 フルダイブ型VRゲームは設置場所に困るという難点があるし。

「会社の方は大丈夫か?」

「今は人気の対処で大忙しだからな…。でも、俺にはできる事少ないし、信じるしかないさ。人手も増えたんだし、大丈夫だろう」

「信用回復からの就職希望者爆発だもんな。見事な掌返しで少し笑えるぜ」

 問題があるとすれば、未だに残っている女性権利団体と自称レジスタンス。
 権利団体は過激派が未だに権利を主張しているし、レジスタンスも同様だ。
 …と言っても、もう勢力はほとんどない。発言力もないに等しいだろう。
 世界中の治安組織などが少しずつ勢力を減らしていた。
 束さんと桜さんも動いていたのか、軒並みの基地は潰されていたし。

 他に問題があるとすれば…その桜さん達の事だろう。
 未だにユーリは拉致された扱い……なのは桜さん達の思惑通りとして。
 裏で何気に秩序を保っているが、指名手配なのは変わっていない。
 世界の“絶対悪”として存在し続けているのだ。
 そのおかげで今世界は割と安定しているというのに、見つけて捕まえた暁には桜さん達は一生牢屋から出られなくなるかもしれない。

「(それは、何としてでも止めないとな)」

 問題はIS関連だけじゃない。
 忘れがちだが、環境問題も深刻になってきている。
 ISによる発展や、世界が混乱した事で、地球温暖化とかが進んでいるのだ。
 発展国ではそれを危険視しているが、そこまで対策は意味を成していない。
 ……対抗できるとすれば、それはおそらく桜さんと束さん……。

「秋兄~!!」

「っとぉっ!?猛スピードで突っ込んでくんな!?」

 そこで思考を中断させられるようにマドカが背中から突っ込んできた。
 鍛錬は怠っていないため、それぐらいなら大丈夫だが…驚いてしまう。

「相変わらずだな……お前ら」

「俺が奪った時間の分、甘えてるんだ。大目に見てくれ」

「………」

 弾の呟きに、後から来た兄さんがそう答えた。
 ……皆の関係は、既に和解してあまり気負わなくなっていた。

 兄さんに至っては今までの償いをするかのように、ボランティアや雑用などをなんでもこなしていた程だ。…偶に自虐を入れてくるのが玉に瑕だが…。
 やっぱり、やらかした自分を責めているのだろう。

「あ、そうだ。あっちで布仏先輩が来ていたぞ」

「え、マジか!?」

「良かったな弾。蘭には言っておくから行ってやれ」

 兄さんの言葉に弾が慌ててそっちへと向かう。
 ……弾は虚さんと付き合う事になっていた。
 あの初対面の日、帰る際に弾が虚さんの事を色々聞いてきたのだ。
 どうしてそこまで気になるのかと聞けば、顔を赤くしていた。
 さすがに俺もそこまで来れば気づけるので、同じく気づいていた蘭や数馬と共に背中を押していく事にした。……そしたらあっという間にくっついていた。
 初対面で一目惚れで両想いってのは珍しいが、幸せなら別にいいだろう。

「数馬は何か予定あるのか?」

「あー、とりあえず卒業したから色々と家でやる事があるな」

「そうか…」

「秋十はどうするんだ?」

「俺は…とりあえず、ワールド・レボリューションに行ってくるさ」

 はやてとの特訓はあれからずっと続けている。
 ちなみに、未だに勝てた事はない。……さすが天才。
 ……後少しなんだけどなぁ。

「そういや、正式に入社するんだったな」

「元々テストパイロットだからな。どう言う事をするかも大体わかるし、やりやすいからな」

「テストパイロットは大抵その会社に就職するらしいしね」

 セシリアのように金持ちとか、何かしら理由がない限りテストしている会社に就職する方が色々動きやすいしな。

「ってか、そういう数馬だって弾共々うちに来るじゃねぇか」

「そりゃあ、支えるには傍にいないとな」

 弾と数馬も俺と同じように進路は就職だった。
 しかも、就職先は同じワールド・レボリューション。
 就職希望者多数の中を良く受かったものだな。
 …まぁ、俺がある程度アドバイスしていたからおかしくはないけど。
 ちなみに俺は会社側からの推薦…と言うか、テストパイロットには就職しようと思えばできるようになっていたから、受かる受からないの心配はなかった。

「鈴とか、他の奴はどうなんだ?」

「楯無さんに聞いた限りじゃ、そろそろこっちに戻ってくる手配が済むらしい。元IS学園も、捜索拠点に使えるようになったみたいだ」

 俺達が関与できない場所で、色々と準備は進んでいた。
 千冬姉も今まで忌避していたブリュンヒルデとしての影響力を有効活用して、桜さん達を捕まえるための準備を進めている。
 ……結局、俺にできる事は来るべき時のために精進し続けるぐらいだったな。

「それじゃあ、俺達は会社に行ってくるから」

「おう」

 マドカを連れて数馬と別れ、兄さんは普通に家に帰る。
 言い忘れていたが、色々な理由から狙われる可能性が俺達だが、それらも落ち着いてきたので、普通に家で暮らせるようになった。
 一応、更識家の者が監視しているらしいが。
 ちなみに、兄さんは基本裏方だ。表に出て何かするよりも、食事や雑用で支える方が合っているとの事。







「……………」

「さぁ…どないする?」

 所変わって会社。俺ははやてとチェスをしていた。
 初めの頃は決められた状況から提示された条件すら出来なかったが、やはり俺は実践経験を積んでいくタイプなのか、徐々になれていった。

「……ここだ」

「……ほー、やるやないか…」

 ありとあらゆる戦局を経験したからか、割とやり合えるようになった。
 気づいてないと思ったか?はやて。
 ……冷や汗を掻いている事、隠せていないぞ?

 …まぁ、まだハンデありきだけどな。

「(そう来たか。なら……)」

「っ!?……やるようになったなぁ」

 そろそろ分かりやすく顔が引きつるようになった。
 ……さて、俺の経験からすれば、もうはやての勝ち筋は……。

「……参りました」

「……ふぅ……」

 ―――ない。





「……見てて、どうだった?」

「頭がグワングワンしてきたぜ…」

 シャルとヴィータが見ていた感想を言っている中、俺はようやく勝てた余韻に浸っていた。

「……ようやく、ハンデありで勝てたか…」

「いやぁ、ここまでやるようになったとはなぁ」

 何度も言っているが、これでもハンデありだ。
 当然、本来のはやてはこんなものじゃない。

「別に私を完全に打ち負かす必要はないねん。……これだけできるようになれば、あの天才二人に完封される事はないやろ」

「後は別のアプローチ次第……か」

 状況判断や、読み合いにおいてこれ以上はあまり見込めないだろう。
 元より、凡才以下の俺だとあまり伸びしろが良くない。
 ここからは…物理的な強さで勝負するしかないだろうな。

「よし、ほなここまでにしとこか。そんで、ヴィータはどないやった?」

「あー、そうだなぁ。博士んところの奴と一緒にやってたんだが……何人で行ってもなのはに勝てねぇ……」

「ゲームで本気出しすぎな気がするよ……」

 ヴィータはブレイブデュエルのテスターとしてよくプレイしている。
 普通にプレイヤーとしても強豪として有名だが……その上を行くのがなのはだ。
 初見惨敗、シャルから話を聞いて対策を立てても惨敗。
 友人を集めて複数で掛かっても惨敗と、なのはには負け続けているらしい。
 なのはの友人とは中々拮抗した戦いができるらしいが……。

「御神流、ゲーム内でも猛威を振るうのか」

「加えて、なのはは空を飛ぶのが好きみたいだね。この前、私と遊ぶついでに会社に来てくれた時、ISも認めてくれたからね」

「その結果が現チャンピオンか……」

 ブレイブデュエルには大会がある。人気が出てから開催するようになったようだ。
 それで、なのははあっさりと優勝してしまった。
 …恭也さんとかもブレイブデュエルはプレイした事があるが、その時は俺との特訓で参加していなかった。もし参加していれば勝敗が判らなかったかもな。
 あ、ちなみに俺もプレイ自体はしたことあるぞ?
 これでも一社員だからな。テストプレイもしたことがある。
 体感としては……やっぱり画期的なゲームだな。滅茶苦茶楽しい。

「接近したら刀みたいな奴に斬られるし、離れたら砲撃バカスカ撃ってくるしよー…どうすりゃいいんだよあれ」

「ついた通り名が“白い魔王”やもんなぁ」

 何とも反論したくなるような通り名だな…。俺は勘弁だ。

「けど、そこまで強いとなると、挑戦者とかは……」

「あー、案外なのはも負ける時はあるんだ。あたしが勝てないのは、あたしとあたしの友達でやってるからだ。なのはに勝てるチームも存在するぞ」

 なのはだって無敵と言う訳ではない。御神流も恭也さんとかに結構劣るからな。

「最近じゃあ、あのチヴィットのAI達もつえーな」

「シュテル達か」

「指示、遠距離、近距離ってバランスがいいからな。なのはだって多勢に無勢って奴だぜ」

 ディアーチェが指示を出し、シュテルが遠距離、レヴィが近距離って所だろう。
 確かに、チヴィットの時の動きでもそんな感じだったからな。
 ちなみに、チヴィットの三人だが、ゲーム内では普通の少女ぐらいの姿になっている。チヴィットの姿はまた別のAIでNPCとして動くようだ。

「まぁ、なにはともあれ、ワールド・レボリューションが完全に立て直せて良かった良かった」

「後は、軌道を安定させて、やるべき事をやる…やね?」

「……ああ」

 こっちで出来る事はほとんど済ませた。
 後一か月もしない内に俺達は動き出すだろう。

「私らはこうやって裏で支える程度しかできひんけど…頑張ってや」

「ああ。……分かってる」

 決着の時は近い。



















       =out side=







 IS学園跡地。
 学園としては機能しなくなったものの、施設はそのまま残っていた。
 そこへ、今日この日、志を同じくしたの者達が集まった。

「……錚々たる顔ぶれだな……」

「各国から有力者を集めたからね」

 各国の暗部や軍人などが集まっている。
 その中に、秋十やマドカも混ざっていた。

「久しぶりだな、兄様」

「ラウラ。久しぶりだな」

「立場上軍人としてだが、私としては元生徒として、何よりも一人の“ラウラ”としてここに来たつもりだ。……よろしく頼むぞ」

「こちらこそ」

 もちろん、中にはラウラも混ざっていた。更識家も来ているだろう。

「秋十さん!待たせましたわね!」

「セシリア!来てたんだな!」

「スポンサーとしてここに来るようにしましたの。もちろん、その気になれば私自身も動きますわよ」

 そして、セシリアもスポンサーとして来ていた。
 今までは立場上自由に動けなかったが、今回は逆にそれを利用してきたようだ。

「ちょっとちょっと!あたしも忘れてもらっちゃ困るわよ!」

「鈴!久しぶりだな!」

「ここに来れるようにこぎ着けるまで、苦労したわ」

 人の間を縫って鈴もやってくる。
 これで、学園がなくなった事で離れ離れになった者達は全員集合した。

「……秋十は良く平気だな……。これ、各国の人が集まってんだろ…?」

「通訳の人とかもついているから大丈夫だ。それに、俺も英語とドイツ語辺りなら普通に話せるし」

「…すげぇな」

 堂々としている鈴たちに対し、弾と数馬、蘭は完全に気後れしていた。

「ここまで集まったとなると……箒たちはどこだ?」

「モッピーなら~、お嬢様達と一緒にいたよ~」

「うおっ!?本音、いつの間に!?」

 ふわっとした雰囲気と同じように気配もふわふわしているのか、本音は秋十達に気づかれない内に近くに来て、秋十の疑問に答えた。

「というかモッピーって…」

「箒から関連づけてみたんだ~」

「……一応、あいつそれで呼ばれる事を嫌ってるからな?」

 小学校の頃もそれで散々からかわれていたため、箒はそういったあだ名を嫌っている。

「そーなのー?じゃあ、やめとくねー」

 “それならどんな呼び方がいいかな~”と言いつつ、本音は伝えたい事は伝えたのか、そのまま去っていった。

「……ふと思ったけどさ、各国から集まっている割には結構知っている顔が見えるよな…」

「さすがに集まっている人数も多いし、気のせいじゃないかな?」

「……そうだな」

 実際は、割と各国に知り合いが多く、その知り合いがこの場に集まっているから知っている顔が多く感じるだけである。

「あの、シャルロット先輩は?」

「多分、ハインリヒさんとグランツさんの所だな」

「アミタとキリエもそこにいそうだね」

 余談だが、この場に来るにおいて、シャルロットとハインリヒは正体がバレない程度にイメージチェンジしている。

「……さて、そろそろ俺達も体育館に行くか」

「結構時間かかるよな?……俺、眠らずにいられる自信がないんだが」

「俺も……」

「安心しろ、その時は小突いて起こしてやる」

 もうすぐ体育館……厳密には、もう体育館ではないが、そこで設立の挨拶的な事が行われる。当然、時間もかかり、次に自由に会話などができるのはそれなりに先となる。









「……案外、眠くならなかったな」

「そうだな」

「お前らな……」

 数時間後、再び秋十達は集まっていた。
 眠くなると思っていた弾と数馬だが、無事に済んだらしい。

「まぁ、いいや。……それよりも、この面子は…そう言う事か」

 秋十が見渡すと、そこには千冬やグランツと言った、見知った面子ばかりだった。
 桜と共に関わった人物が、今ここに集まっているのだ。

「組織として集まったというよりは、情報などを持ち寄っただけだからね」

「そう言う事だ。……充分な情報は揃っている。これ以上を望んだ所で、あいつらには筒抜けだろう」

 そう。IS学園に集まったのは、組織としてよりも、情報を一か所に集めるため。
 桜たちを捜索する必要はない。なぜなら、もう場所は()()()()()()のだから。

「まず、あの二人が拠点としている場所は、ここよ。見た目はそこまで変わっていないけど、実際は要塞と化しているわ」

 楯無が示したのは、地図に載っていない無人島。
 衛星から撮った写真を使ってその島がわかるようにしていた。

「アメリカ、ドイツ、イギリス…他の捜索した国も万場一致でこの島に基地があると言っていた。もちろん、私の勘としてもここだと分かっている」

「……さすが…」

「数年もあればここまでできるさ」

 数年の間に、桜たちの居場所自体は完全にわかっていた。
 しかし、それでも各国が協力しなければ突破できないような罠が張り巡らされていたのだ。

「機械類の操作は全て近づくと無効化される。おそらく、向こうから操作してくる事もできるだろう。衛星から写真を撮る事は許してくれたが、それ以上は……って事だね」

「ヘリでも、船でも、潜水艦でも、近づいたら操作不能に陥る。その後は向こうが誘導したのか、戻されてしまうと言う事だ」

 近付く事すらままならない。
 それほどまで、桜たちの基地は攻められない状態だった。

「じゃあ、どうすれば……」

「原点回帰とでも言おうか。……アナログだ」

「……冬姉、それってまさか……」

 機械類がダメならば、それを使わなければいい。
 つまりは……。

「……手漕ぎで近づくと?」

「その通り」

 まさかとは思いつつ尋ねた秋十の言葉に、千冬は肯定の意を返した。

「えっと……」

「……まぁ、困惑するのも分かる。だが、限界まで船で近づいてそれで近づくのが確実だ」

「……確かに」

 しかし、それだと一遍に乗り込める人員が限られる。

「止めるにしても、説得するにしても、乗り込む際には制圧する必要がある。やから、まずは相手方の戦力とこちら側の戦力を把握する必要があるんやけど……」

「それならこっちで調べておいた資料があるわ。……と言っても、把握できている訳ではないけど……」

 ちゃっかり面子に混ざっているはやての言葉に、楯無が答える。

「……まず、桜さんと束さんは確定で、それに加えて……」

「私達の両親……つまり、元亡国企業穏便派総帥を筆頭にした面子…」

「そして、ジェイルと彼について行った娘たちだね」

 秋十、マドカ、グランツが資料を流し見しながら呟く。

「……やっぱり、気づいていたんだね。私達が元亡国企業の人間だって」

「更識の力を舐めてもらっては困るわね。……でも、気づいたのはIS学園がなくなる直前辺りよ。まさか、学園に二人も元亡国企業の人間がいたなんてね」

「……悪いが、そういう話はまた後でやってくれ」

 今はあまり重要な話ではないので、千冬が話を戻す。

「……ユーリは、どうなの?」

「…ユーリは便宜上、人質と言った扱いになってる。……でも、彼らとの関係を考えると、向こうに味方していてもしていてもおかしくはないと思われる」

「……やっぱり、か」

 マドカの疑問に簪が答える。
 その返答は大体予想していたものだが、簪はそれでも信じたがっているようだ。

「……なぁ、ユーリって誰だ?」

「っと、数馬は知らなかったな。ユーリ・エーベルヴァイン、うちの会社のテストパイロットで、以前IS学園が桜さん達に襲撃された際、そのまま拉致されたとなっている」

「テストパイロット……って、“されたとなっている”?」

 ユーリを知らない数馬の問いに、秋十が答える。
 ちなみに、弾と蘭も名前だけでは誰か分からなかったが、買い物の時一緒にいた子だと秋十が教えると思い出したようだ。

「……この面子なら話してもいいか。ユーリは、実際には桜さんに自らついて行ったんだ。周囲からの視線などに追いやられてな」

「当時、桜さん達が全世界に向けてハッキングした事で、ワールド・レボリューションの立場が非常に悪くなったの。それで、テストパイロットだったユーリも周囲の悪意で追い詰められて……」

「それは……」

 “唆されたのか”と数馬は思う。
 心の弱った所に付け込まれれば、ついて行ってもおかしくはないからだ。

「……でも、彼女の立場から考えれば、ついて行って“拉致された”と言う事にするのはちょうど良かったのよ」

「なっ……!?それってどういう……!」

「“被害者”になれば、彼女が追い詰められる事はないからよ。……それに、彼らは元々彼女を“保護”するために学園を襲撃したの。……世間上はテロとしてね」

 事実、そのおかげで世間上でのユーリに対する印象は同情が強くなった。
 なお、この襲撃の件で桜たちの罪はさらに重くなっていたりする。

「……まぁ、味方になっているにしろ、私達の行動は変わらない」

「……ちなみに、その所はどうなんだ?白」

【黙秘権を行使したい所だけど……どちらでもないって所かな。彼女は大人しくお母さんの基地で暮らしてる。それこそ、普段の日常のように】

 秋十がダメ元で白に聞くと、白はそう答える。

【これ以上は答えないよ。私は“見届ける”立場だから】

「…分かってる」

「とにかく、これであいつらの戦力の大体は分かったな。……だが、把握できたという考えは今すぐに捨てた方がいい。……私達の予測など、全て想定されていると思え」

 そういって、千冬は秋十を見る。

「……桜の相手は、お前が適任だ。秋十」

「俺……?千冬姉でもいいんじゃ……」

「私は私で、あいつよりも相手にしなければならない奴がいる。それに、あいつに打ち勝つために、様々な手を施してきたのだろう?」

「……分かった。……今度こそ、勝つ」

「それでこそだ」

 手を握り締める秋十。それ見て、千冬は満足そうに頷いた。

 ………その後も、話し合いは続いて行く。





















「………もうすぐ、もうすぐだ」

 その日の夜。元IS学園のテラスで、千冬は夜空を見上げていた。

「……長い事、待ったな。三人であの空を飛び立ちたいと願ってから」

 誰かに言うように、千冬は独り言を漏らす。

「お前たちは、こんな世の中になって、常に不満を持っていたんだろうな。無駄に天才なお前たちの事だ。思い通りにならないのは我慢ならなかったんだろう」

 この場には千冬以外誰もいない。
 監視の目もなく、あるとすれば衛星から桜たちが盗聴している可能性くらいだろう。

「……それでも、お前たちは賭けた。天才ではない、凡才の可能性に」

 千冬は秋十を思い浮かべながら、そういう。
 秋十は最初こそお世辞にも才能があるとは言えなかった。
 しかし、努力を続け、その経験を活かし、人並み以上にこなしてみせた。

「秋十は、強くなった。一夏の愚行によって、限界まで……いや、生きるのを諦める程に追い詰められたのもあってか、本当に心身ともに強くなった」

 酷い事をしたという気持ちは、千冬の中にまだ残っている。
 だが、それと同時に、乗り越えて強くなった事に嬉しさもあった。

「……覚悟しろよ、桜、束。……凡才の身であり、私の自慢の弟は、お前たち天才を今度こそ超える」

 掌を空へと伸ばし、拳を握り締める。
 来るであろう決戦に、千冬は笑みを浮かべた。















   ―――……待ってろ。大馬鹿共













 
 

 
後書き
時間が経ったため、シャルロットの一人称が“私”になっています。(男装のために“ボク”と言うようにしていた設定) 

 

第63話「いざ、決戦の時」

 
前書き
―――始めようか!一世一代の大勝負を!!


再び時間は飛んで決戦へ。
ぶっちゃけ合間合間の描写ができないです。(´・ω・`)
知識がもっと豊富であれば、まだ描く事は出来たんですけどね……。
 

 





       =out side=







「……そうか、来たか」

「ちょっと遅かったねー」

「まぁ、これくらいは待たないとな」

 とある島の基地で、桜と束は接近する存在に気づいた。

「……皆さん…?」

「ユーリちゃんは奥の部屋にいておくように。もし、危険が迫れば脱出ボタンを押せばいいよ」

「……行くんですね?」

「ああ。……決着の時だ。これで、事態は収束する」

 ユーリに背を向けて部屋を出る桜から、大きな覚悟が感じられていた。
 “事態は収束する”。それは、まるで自分がどうなるかを予期しているようで…。

「………」

「案ずる事はないよ。……きっと、皆で幸せになれる未来を掴んでくれる」

「……束さん達自身では、掴まないのですか……」

「私達は……ちょっと手遅れだしね。いつもいつも自分一人で何とかしようとしてたんだ。偶には、他力本願になるよ」

 そういって、束も部屋から出ていく。

「……もう、いつも自分勝手なんですから……」

 残されたユーリは、そう呟いて言われた通りの部屋に向かった。
 一粒、頬を伝った水滴を床に落として。















「………」

 一方、秋十達は、かねてより予定していた方法で島に上陸していた。
 武装は持ち運べる最低限。後は全て自身の身一つで作戦を遂行せねばならない。

「隠密行動はほとんど意味を為さないと思え。どうせ、あいつらにはバレているだろうからな」

「……分かってる」

 千冬に改めて言われるが、それは百も承知の事だった。
 元より、相手には天才が二人もいる。
 こうやって侵入経路があるのも、態とだろうと言うのが全員の意見だ。

「(基本は武力による制圧。だからISは使う事ができない。己の身体能力を駆使しなければならない……か)」

 制圧に来ている面子は、以前元IS学園に集まった者+腕利きの武装集団だ。
 大きな組織すら制圧し得る戦力でこの場に来ている。
 しかし、それは桜たちがゴーレムなどを繰り出した場合はほとんど意味を成さない。
 ISに大きく劣ると言えど、ゴーレムは生身では到底太刀打ちできないからだ。
 対抗できるとしたら、人の領域を踏み外しているレベルでなければならない。

「(尤も、それは向こうも同じはずだ)」

 ISの意志は、例え相手が生みの親でも貫く。
 いくら桜や束と言えど、ISを武力として扱う事はできない。
 そして、ゴーレムと言う破壊力の高いロボットを使えば、基地が壊れてしまう。
 束達の基地は地下にも展開しているため、生き埋めになる可能性も高い。

【……よく来たな】

「「「っ!!」」」

「落ち着け、立体映像だ」

 基地の入り口を見つけた所で、入り口に桜たちの立体映像が現れる。

【来るとは分かっていたが……さて、制圧できるかな?】

【当然だけどこっちも抵抗させてもらうよ。……まぁ、ゴーレムとかは使わないから安心しなよ。さすがに使うと私達はともかく一部の人達は生き埋めになっちゃうからねー】

「そうか、それを聞いて少し安心したぞ」

 桜たちの言葉を、千冬は予想していた。
 だから、本来なら少なすぎると思える戦力で制圧に向かったのだ。

【それと、既に知っているよ。……もうすぐISで宇宙開発が決行されるらしいな】

「………」

【ようやくだよ。……ようやく、本来の役目を果たせる】

 ISは宇宙開発のためのパワードスーツだった。
 開発から何年も経って、ようやく本来の用途で扱われ出したのだ。

【このタイミングで来たと言うのは……】

「……ケジメを付けるためでもあり、お前たちを連れ戻すためでもある」

【……だろうね】

 千冬の返答を予想していたように、束は頷いた。

「……よく言う。こうなるように誘導していただろう」

【まぁ、そうなんだけどね】

【だが、結果はお前たち次第だ】

 まるで直接見ているかのように、桜は秋十達を一瞥し……。

【さぁ、始めようか!一世一代の大勝負を!!】

「っ!!全員、入り口まで走れぇ!!」

 桜がそう宣言した瞬間、大量の機関銃が基地の外壁から展開される。
 それを見た千冬は即座に指示を出し、全員が駆ける。

 そして、機関銃から一斉に弾が発射された。

「くっ……!」

「まだ来るよ!」

 入口がある窪んでいる場所に逃げ込む千冬達。
 だが、そこも安全ではなく、新たに機関銃が展開される。
 ちなみに、そこまで行けなかった者は木を盾にして何とか凌いでいた

「それは!」

「させんぞ!」

 しかし、その機関銃は即座に反応したシャルロットとラウラの銃で撃ち抜かれる。
 ちなみにこの銃、殺傷能力はだいぶ落とされており、人を殺す程の威力はない。
 それでも機関銃の機能を壊す事はできたようだ。

「鈴!マドカ!セシリア!」

「ええ!」

「了解!」

「狙い撃ちますわ!」

 続けざまに秋十、鈴、マドカ、セシリアで外壁の機関銃を撃ち落としていく。
 駆けこめなかった者も隙を見て銃を撃ち、無力化させる。

「突入!」

 ラウラが爆弾を使って扉を破壊する。
 同時に残りの人員も入り口に駆け付け、一気に中へと入っていく。
 もちろん、罠を警戒して時間差で突入している。







「っ………!ここは…!」

 しばらく基地内部を進む秋十達。
 すると、少し広い空間に出た。

「……いかにもって感じだね…」

「今までは小さめの機械だった。……けど、ここで広くなったという事は…」

 各国から集まった精鋭の傭兵などは、途中で遭遇した機械兵器を相手にするために少しずつ別行動するようになっていた。
 既に全ての傭兵達は基地の各地に散らばった状態となっていた。

「来るとしたら、ゴーレムか……」





「元亡国企業、とでも言いたげね?」

「っ……!」

 楯無の呟きに答えるように、奥から声が響いてくる。
 その聞き覚えのある声に、マドカが反応する。

「…スコール…」

「数年ぶりね、M」

「…敢えてそっちで呼ぶんだね。以前は名前で呼ぶようになったのに」

「なんとなくよ」

 マドカの言葉に妖艶に微笑みながらスコールは言う。
 そして、その後ろから何人かが出てくる。

「……彼女達は…」

「…オータムと、ジェイルさんの娘たち……」

「おまけにゴーレムも……ね」

 ゴーレムを二機従えたオータム。
 それと、ジェイルの娘であるドゥーエ、トーレ、クアットロが立ちふさがる。

「……ここを決戦の場にでもするつもりかしら?」

「貴女達にとってはそうかもね。……でも」

「秋十、ブリュンヒルデ、あいつの妹。……お前らは先に行け」

「何……?」

 オータムの、先を譲る発言に眉を顰める千冬。

「あいつらからのお達しだ。……オレたちはここでお前らを足止めする。決戦は一部の奴らだけで行うってな」

「なるほどね……」

 互いに動きに警戒しながら、会話を続ける。

「……どうする千冬姉。罠か?」

「……どの道、進むしかあるまい。どっちを選ぶかなど、あいつらにはお見通しだ」

「どっちも想定してそうだしな」

 それならば、言われた通りに進もうと、秋十達は駆けだす。

「おっと、当然だが、他の連中は通さないぜ?」

「っ……足止め、と言ったわね。……そう、そう言う事……。態々、そちら側で舞台を用意していたって訳…!」

「あらあら、バレたわね。……いえ、あからさまだったのだけど」

 一連の行動及び、情報。それらを思い返して楯無は確信を得る。

「……世界を敵に回したのも、彼が勝つ事に賭けたから……ね」

「ご明察。さぁ、丸く収めたいなら、存分に足止めされてくださいな?」

「………」

「…どういう、事なの?」

 自分たちが攻め入っても無意味。
 秋十が勝つ事に意味がある。だからこそ、ここで足止めされるのが正解なのだ。
 しかし、詳しい事がわからない簪はどう言う事か尋ねる。

「……世界中を敵に回し、脅迫染みた声明を出す事で、ISの扱い、世界中の風潮を変える。そして、ISを本来の宇宙開発に仕向けた……ここまではこの場にいる全員が知っているわよね?」

「……うん」

 察しが良ければ誰でもわかる事だ。
 だが、その続きは……束と桜の本当の思惑は誰も知らなかった。

「…けど、世界的に指名手配されてしまったら、例えISが宇宙開発に使われるようになっても、彼らの望みは叶わない」

「……ISに乗って、宇宙に飛び立つ事…だね」

「指名手配されてるもの。彼らならその上で飛び立つ事は可能としているけど……それでは意味がないんでしょう?」

「…うん。結局は、それは“縛られている”立場だ。……自由に羽ばたく事を夢見たあの人達にとって、それでは意味がない」

 楯無の確認の問いに、シャルロットが答える。

「だから、“捕まらなければならない”。世界的指名手配と言う立場から降りなければならない。……そのために、ここを用意した」

「逃げ回るだけなら、あの人達ならいくらでもできる。それなのに、態々基地を作ったのはそう言う事だね」

「……でも、それと足止めのなんの関係が?」

 今いる場所を舞台として用意したのは理解できた。
 しかし、それでは足止めをする大した理由にはならないと、簪は聞き返す。

「…ここからは、彼らの単純で些細な希望よ。……多勢にでも、追いすがる才能持ちでもない。……凡人である秋十君と全力で戦って、その上で打ち負かして欲しいって言うね」

 それは、この場において自分勝手と言える願い。
 だけど、子供っぽさの残る二人であるならばおかしくはないと、楯無は思っていた。

「さすがは更識家当主。その通りよ」

「変に難しく考えてたのが馬鹿らしいわね。…まさか、そんな些細な“我儘”のために私達を足止めしただなんて」

 “秋十と全身全霊で戦う”且つ“秋十に敗北する”。
 …その二つを狙って、三人以外を足止めしたのだ。

「千冬さんと箒ちゃんを行かせたのは……二人にふさわしい相手が別にいるから…って所かしら?」

「……束さんと、私の両親だね」

「正解!…さて、答え合わせも済んだ所だし……」

 スコールの言葉と共に、後ろに控えていたゴーレム二機の目の部分が赤く光る。
 ……それが、開戦の合図だった。

「マドカァァアアア!!」

「っ、オータム!」

 ブレードを構えたオータムが、一気にマドカに襲い掛かる。
 すぐさまマドカも応戦し、ブレード同士がぶつかり合う。

「ちょうど良かった!てめぇとは決着を付けたかったからなぁ!」

「それはこっちのセリフだよオータム!」

 一瞬、突然の戦闘開始に戸惑ったラウラと簪だが、すぐに動き出す。
 持っていた銃を構え、ゴーレムに狙いを定める。

「ゴーレムは私達がなんとかする!」

「お姉ちゃん…!」

「……と、言う事らしいわよ」

「まぁ、妥当じゃないかしら?」

 楯無とスコールが対峙する。

「……残りは、あたし達って訳ね」

「……ふふ…」

 鈴、シャルロット、セシリアは、残ったドゥーエ達と対峙する。

「…シャル、あたしが前に出るわ。援護お願い。セシリア!後方支援は任せたわ!」

「了解!」

「任せましたわ!」

 鈴が前に出て、セシリアが後ろに下がる。
 シャルロットはいつでも援護ができるように銃を構えた。

「はっ!ISを使わない元代表候補生の身で何ができる!」

「っ!」

 そんな鈴へ、トーレが迫る。
 援護をしようとした他二人にも、ドゥーエとクアットロが牽制する。

「っ、セシリアまでには辿り着かせないよ!セシリア!」

「ええ!間合いは詰めさせませんわ!」

「あらあら~、なかなかやるじゃない」

「そのロボット……!ここまでにあったのと同タイプ…!」

 次々と出てくるロボット…通称ガジェットドローンがクアットロから繰り出され、シャルロットの銃撃がせめぎ合う。しかし、それだけではドゥーエを抑えられないため、セシリアが上手く間合いを開けながら援護射撃を繰り返す。

「そらそらそらぁ!そのちみっこい体でどこまでできるんだぁ!?」

「っ、ちみっこいは余計よ!くっ…!」

 拮抗する二人とは別に、鈴は苦戦していた。
 トーレは格闘技を嗜んでおり、組手の相手として桜がいたのでその強さは一般人を凌駕する。だからこそ、鈴が相手するには荷が重い。

「防戦一方じゃないか!」

「……すぅー……」

 堪らず後ろに下がった鈴に、トーレが追い打ちをかける。
 拳が繰り出される瞬間、鈴は呼吸を整え…。

「ふっ!」

「っ!?」

 その拳を、叩き落すように逸らした。

「ちっ、今のは…!」

「ふぅー……!」

 警戒度が跳ね上がり、今度はトーレが後ろに下がる。

「……八極拳か!」

「…ご名答。生憎、身軽と言っても身体能力は並外れてないのよ。だから、“技”を鍛えたの。……元々、護身用だったけど、嘗めて貰っちゃ困るわ…!」

「……ハッ!面白い!」

 そして再び、二人はぶつかり合う。













「……始まったか…!」

「……!」

 後ろから聞こえてくる銃声を聞きながら、秋十達は駆ける。

「箒!振り向く必要はない!」

「っ……!」

「真剣勝負とは言え、生死を賭けた戦いじゃない。……何よりも、あいつらが負ける訳がない」

「……そうだな…」

 後方を気にする箒だったが、秋十の言葉に再び前を見る。

「……実際の所、戦力差は大丈夫なのか?」

「ゴーレム以外は最大戦力のはず。ジェイルさんは根っからの研究者だから隠れてモニタリングしているだけだし、ウーノさんもその補佐や妹さんたちの補助以外は何もしない。……唯一、ゴーレムの数だけは分からないけど……」

「……外か」

 秋十達以外…つまり他の場所で援軍などを相手にしているのだろうと、千冬は言う。

「多分。で、その上で考えると……ちょうど拮抗していると思う。ここ数年で皆も色々成長したし、少なくとも早々に負けるなんてありえないはずだ」

 元より、倒して終わりと言う目的で来ていないため、そこは心配していない。
 そのため、秋十は後腐れなく皆に戦闘を任せる事ができた。

「……エーベルヴァインはどうなんだ?」

「……ユーリは桜さんが待機させていると思う。千冬姉も保護が目的だと言っていただろ?いくらユーリが桜さんに協力しようとしても、他ならぬ桜さん達がそれを止めているはずだ」

「……なるほどな……」

 駆け続ける三人は、一つの扉に行き着く。
 すると、そこで……。

「お前たちは、先に行け」

「え、千冬姉!?」

「何を……」

 千冬は扉に背を向ける形で立ち止まり、二人に先行を促す。

「……何、順番が回ってきただけだ」

「……そう言う事か。箒、行くぞ」

「し、しかし……」

「千冬姉には千冬姉の戦いがあるって事だ!行くぞ!」

 箒の手を引き、秋十は扉の先へと入っていった。

「……出てこい」

「…つれないわね」

「実の親に命令形で言うなんてなぁ」

 残った千冬の前に降り立つように、四季と春華が現れる。

「私達を置いて行った親など、それで充分だ。第一に、私は二人を親とは認めん」

「……面と向かって言われると辛いわね」

「でもまぁ、そこに因縁はあろうと、この戦いにおいては……」

「っ!」

 四季の言葉の途中で千冬は察知し、飛び退く。
 寸前までいた場所に、非殺傷加工されている銃弾が当たる。

「…関係ないだろ?」

「そうね」

「っ………!」

 さらに、避けた所へ四季が切り込んでくる。
 何とか千冬はブレードでそれを防ぐ。

「…さて、親子喧嘩の続きと行こうか」

「っ……ぬかせ!!」

     ギィイイイイン!!

 ここに、史上最大の親子喧嘩が、再開された。













「……一直線。まるで、このために作ったかのような構造だな」

「事実、そうなんだろう」

 後ろから聞こえる音を気にしながらも、最深部へと駆けていく秋十と箒。

「…いかにもって扉だな」

 辿り着いた所には、今までの自動開閉の扉と違った、仰々しいものだった。
 左右に開くタイプで、ご丁寧に手動のためのドアノブもあった。

「この先に……いるのか?」

「……さぁな」

 意を決して、扉を開ける。

「…暗いぞ?」

「……そうだな」

 部屋の中は、薄暗かった。
 扉の外からの光がなければ、何も見えなかった所だろう。

     ギィイイ…バタン!

「っ…!」

「全く見えない……扉も開かない…か」

 すると、勝手に扉が閉まり、閉じ込められた状態になる。
 何かの演出か?と秋十が思った矢先に……。

「3D投影型の松明……おまけに、和風の部屋……」

「まさか…」

 火事や酸欠を考慮した光源と、基地にそぐわない和風の雰囲気。
 そして、突然展開される陰陽玉模様の魔法陣のようなもの。

「……よく来たね。箒ちゃん、あっ君」

「やはり、姉さん…!」

「まさか、この演出のためだけに…」

 魔法陣の光が治まると、そこには和装の束が立っていた。
 ちなみに、メカニックな兎耳も和風チックになっていた。人工的なのは変わりないが。

「ふふん!その通り!いいでしょ?この最終決戦風の部屋は!」

「和風なのは…今の箒に合わせてか…」

「っ……」

 そう。箒の今の服装は、動きやすい和装だった。
 篠ノ之流次期当主として鍛え直した際の結果との事だが……それは余談である。

「SFチック、ファンタジー風とかを見せてきた束さんも、日本人だからねぇ。箒ちゃんの事も考えて、こうしてみたんだー」

「そのため、だけに…っ!」

 あっけらかんと言う束に、箒は呆れが極まり震える。

「…最終決戦だからこその特別衣装。その方が面白いでしょ?」

「こんな時まで、ふざけると言うのですか…!姉さん!」

「ふざけてなんかいないよー。……最後の戦いなんだから」

「っ……!」

 その瞬間、束から強い剣気が発せられる。
 天才故にいつもふざけていた束が、真面目に“戦闘”を始めるのだ。

「箒ちゃん……ううん、篠ノ之流次期当主、篠ノ之箒。剣を構えて」

「っ……姉さん…!」

「決着ぐらいは、真面目にやるよ」

 剣を構えた箒に、束は苦笑い気味にそういう。

「……あっ君は、あっ君で決着を着けてきなよ」

     バン!

「……えっ?」

「秋十!?」

「また古典的なぁぁぁぁぁ………!?」

 床が開き、秋十はツッコミを入れながらも落ちていった。

「あっ君が辿り着く先は、天才と凡才が決着を着けるにふさわしい場所。…安心して。怪我をしないように落としたから」

「……桜さんか」

「その通り。……じゃあ、私達は、初めての姉妹喧嘩でもしようか!」

「姉さん……!!」

 いつも通りのような、ふざけた口調。
 しかし、箒にはもう“ふざけている”と思う事は出来なかった。
 発せられる剣気が、束が本気だと語っていたからだ。















「ぁぁぁぁぁぁあああああああっ!?」

 一方、落とされた秋十は、まるで滑るように下へと移動していた。
 明らかに移動のための落とし穴だった事に、秋十はそこで気づく。

「っ!」

 光が見え、秋十は体勢を整える。
 若干投げ出される形で滑ってきた穴から出た秋十は上手く着地する。

「……ここは……」

 そこは、何もない場所だった。
 ドーム状に展開されたその空間は、ただ広いだけで、何もない。
 白い床と、空を映しだす天井があるだけの空間だった。
 通ってきた穴も閉じられており、そこはあまりにも殺風景だった。

「………桜さん」

「…この時を、待ちくたびれたよ」

 そして、その中心に、桜は立っていた。
 静かに立つ桜は、それでいて容易に近づけない程の“気”を放っていた。

「……今更聞く事はないだろう?」

「…はい。…俺は、貴方を止めるだけです」

「……いいだろう」

 格納領域から、桜は一振りのブレードを取り出す。
 その瞬間、重圧が秋十に襲い掛かった。

「っ…!!(これほど、とは…!剣を抜いただけで…!)」

「……」

 だが、秋十もそれで屈する程、もう弱くはない。
 同じくブレードを構えて、桜を見据える。

「……一つ、聞こう」

「…なんでしょうか?」

「秋十君、君の望みは何だい?」

「望み……」

「そう。望みだ。俺達のように宇宙を目指すのか、それとも……」

 問われ、秋十は一考する。
 ……そして、数年前に自覚した望みを、今度は漠然とではなく、はっきりと言う。

「俺は、ただ自由に羽ばたきたい。誰に縛られる事もなく、才能にさえ縛られる事もなく。ただ自由に、どこまでも羽ばたきたい」

「……そうか」

 それは、傲慢とも言える望みだろう。
 だが、ただ“自由でありたい”と願う秋十には、そんなの関係なかった。

「なら、夢を追いかけるISを以って、それを為してみろ!」

「っ……!」

 “ISを以って”と言うが、桜はそのままブレードを構えたままだ。
 まずは様子見と言う事なのだろう。
 そして、それを感じ取った秋十もまた、まだISは展開しなかった。













   ―――………決戦が、始まる。













 
 

 
後書き
弾、数馬、蘭は実働部隊に参加してません。さすがに身のこなしが良い訳でもないので。ただ、ISを使う前提なら三人も突入します。
正直、三人にISを与えた意味がこの展開ではほとんどないですが、飽くまで束達のお礼として与えられたので、使わなくてもいいという事で……。(ぶっちゃけ作者が活かしきれてないだけ)

途中出てきた小さめの機械と言うのは、リリなののガジェットです。突入前でもあったように、ゴーレムだと生き埋めになりかねないので、桜たちも小型の機械を使いました。 

 

第64話「足止めの戦い1」

 
前書き
―――私達を……舐めないでよね!


まずはマドカ達足止め組から。
ISがないのでだいぶ大人しめな戦いかな…?

……ぶっちゃけ、武力でしか解決してないという中々に暴力的な描写なんですよね。
武力以外で描写するには、自分の知識量が足りないです(´・ω・`)
 

 






       =out side=





「ぉおおおおっ!!」

「はぁあああ!!」

 オータムとマドカのブレードがぶつかり合う。
 二人は、別に険悪な仲だった訳ではない。
 しかし、洗脳されてる時も、解かれた後も、何度か意見の違いなどでぶつかり合っていた。そのため、まるでライバル関係のように、いつも対立していた。

「っ、くっ!」

「はははっ!どうしたマドカァ!!」

「(土を宿した一撃…!私よりも、重い…!)」

 マドカが四属性を扱えるように、オータムも扱う事ができる。
 ただ、四属性全てを使いこなせる訳ではなく、一属性に特化しているタイプだ。
 そして、その中でも地属性は、マドカを大きく上回っていた。

「はぁっ!」

「っ!まだだ!」

「っ!」

 “火”と“土”を宿し、マドカが反撃に出る。
 だが、それすらも受け止められてしまう。

「(押しきれない!オータム、いつの間にこんなに強く…!)」

 まるで以前よりも強くなったと錯覚するマドカだが、実際の所、二人が生身で直接戦った事はほとんどない。あったとしても、軽い手合せだけだった。

「(同じ土俵では勝てない!だったら…!)」

「お?」

 振るわれるブレードを、紙一重で躱す。
 “風”と“水”を宿し、回避とスピードに重点を置いたのだ。

「へぇ…!」

「っ、はっ!」

     ギャリィッ!

 ブレードを躱し、反撃を繰り出す。
 だが、それは手甲で防がれる。隙を補うための防具だ。

「(防がれた…!でも、こっちの方が通じる!)」

「オレと同じ分野じゃ勝てないか?…まぁ、当然だよなぁ?」

「言ってろ…!」

 オータムの言葉に、つい口調が乱暴になるマドカ。

「(“風”と“水”の両立と維持は難しい。攻めに転じすぎるとたちまち途切れてしまう。でも、維持を重視すると、あまり攻撃も通じない。……長期戦は確定か…!)」

「おらぁっ!」

「っ!」

     ギィイイン!

「しゃらくせぇ!」

 思考するマドカにオータムが攻める。
 攻撃を躱したマドカは反撃を繰り出すが、ブレードに防がれ、そのまま吹き飛ばされる。

「……やっぱり、そう簡単にはいかないか」

 即座に体勢を立て直して着地したマドカは、そう呟く。
 ……二人の一騎打ちはまだまだ続くようだ。







「……あちらは激しいわね」

「………」

 二人の戦いを横目に、スコールがそう呟く。
 対峙する楯無は、余裕そうに構えながらも間合いを計っていた。
 マドカ達に対して、こちらは静かな戦いだ。
 何度か牽制し合ってはいるが、あちら程激しくぶつかり合う事がない。
 今もこうして、互いに様子見し合っていた。

「(……まずいわね。この気配…多分、“水”を宿しているわね。それも、簪ちゃん以上に正確な扱い方で…)」

 簪は“水”を完璧に扱える訳でなく、自分が扱いやすいようにアレンジしている。
 それでも強さは相当なもので、楯無はそれを身に染みて理解していた。
 …だからこそ、目の前のスコールの強さにも感付けた。

「………」

「あら、先程までと違って、攻めてこなくなったわね」

「……よく言うわ。わかってて言ってるでしょ。それ」

 無闇に手は出せない。
 迂闊に手を出すと、手痛い反撃が待っている事は明白だったからだ。

「(でもまぁ、だからと言って、退く訳にはいかないでしょ…!)」

 ついに楯無は仕掛ける。
 と言っても、“水”を宿した動きによる反撃を警戒しつつだ。

「っ!」

「あら、怖い怖い」

「くっ…!」

 繰り出される攻撃がゆらりゆらりと躱される。
 楯無は、躱す動作は見えるものの、それを掴み取る事はできない。

「ふっ!」

「っ…!」

 反撃に繰り出される鋭い蹴り。
 それを、楯無は紙一重で避ける…が、頬を掠める。

「女性の顔を容赦なく狙うなんて、ひどいじゃない」

「あら、女性同士の争いは結構ひどいものよ?」

 皮肉りあいながらも、互いに出方を探る。

「(……さて、どうしたものかしらね…)」

 状況としては、楯無の劣勢で戦いは展開されていった。









「っ、はっ、くっ…!」

 振るわれる剛腕をラウラは身軽さを生かして躱す。

     ガギィイン!

「っ…!はっ!」

 簪は“水”の属性を生かし、上手くいなして衝撃を最低限にしていた。

「これは……厳しいな」

「この二体だけ、性能が違う…?」

「わざわざここに用意するぐらいだ。当然だろう」

 他の部隊が足止めしているゴーレムはもっと弱かったと簪は気づく。
 それを抜きにしても、元々生身の人間ではゴーレムには敵わないものだ。
 だが、二人の強さもここ数年で大幅に上がっていた。

「気を付けろ、“風”の動きがなければ、すぐに追いつかれるぞ!」

「うん……!」

 ゴーレムの攻撃力、機動力は当然ながら人を大きく上回る。
 だからこそ、“風”を宿していなければ、相手する事すらままならなかった。

「っ!」

「くっ……!」

 何度も振るわれる剛腕を躱し続ける二人。
 一人で一体のゴーレムを相手取っているため、互いをフォローする余裕はない。
 今でこそ攻撃を躱せているが……。

     ジャキッ!

「っ!!」

「来るぞ!」

 銃を構えたゴーレムを見て、ラウラが叫ぶ。
 同時に二人は射線から逃れるように全速力で走る。

「(何とかして、ペースを戻さないと…!)」

 円を描くように銃弾を避けつつ、簪は接近を試みる。
 だが、一定まで近づくと射撃しつつ剛腕を振るってきた。

「なっ…!?」

 ギリギリでその攻撃を躱す。
 …が、今度は射線上に追いやられてしまう。

「っ…!?」

「呆けるな!」

「っ、ありがとう…!」

 だが、それはラウラの援護射撃で逸らされる。
 すぐに頭を切り替え、簪は生身用に改造したIS武装の薙刀を振るう。
 “水”を宿したその攻撃は、ゴーレムの銃に亀裂を入れた。

「(切断はできなかった…!さすがに、堅い…!)」

 完全ではないとはいえ、“水”を宿した一撃は鋭い。
 しかし、それでもゴーレムの銃を切断する事はできなかった。

「なら……!」

 もう一体の剛腕をするりと躱し、簪は再度攻撃を試みる。
 だが、普通に攻撃しても、銃と同じく大したダメージにはならない。
 だから、簪はゴーレムの部位の中でも特に脆いであろう部分……すなわち、関節部分を狙った。

     ギィイイイン!!

「っ……!(防がれた…!)」

「簪!」

「くっ……!」

 だが、その一撃は寸での所で関節部分から外れてしまった。
 ラウラの声を聞くと同時にすぐにその場から飛び退いて、態勢を立て直す。

「今の動き、やはり関節部分が弱点か」

「そうみたい。……けど、狙うのは至難の業」

「そのようだな…だが、一応攻撃は通じる」

 先程簪が銃に亀裂を与えたように、ゴーレムにも攻撃は通じる。
 問題は、生身の機動力でどう当てるかなのだ。

「何とか近づいて攻撃……」

「ああ。銃だけでは威力が足りん」

 取るべき行動は分かった。後は実行に移すだけ。
 その実行が最も難しいのだが、道筋が見えただけで二人には十分だった。











「ぉおおおおおっ!!」

「っ……!」

 繰り出される重く鋭い拳。それを叩き落すように逸らす。
 トーレの攻撃を、鈴は上手く逸らしているが……。

「ふっ……!」

「っとぉ…!」

 攻撃を逸らすと同時にカウンターを繰り出す鈴。
 だが、それはもう片方の手で防がれる。
 その際に間合いを取り、一度見合う状態に戻る。

「(……なんて馬鹿力。あれでも上手く逸らせているというのに、それでもダメージを受けてるわね…。ホントに同じ女性なのかっての。……いや、千冬さんとかも同じね)」

 痺れる手を隠すように、鈴はトーレと対峙する。

「ったく…呆れる程の馬鹿力ね…」

「はははっ!そういうお前も全部逸らしてるじゃないか!」

「逸らすしかないから逸らしているのよ!」

 ただ威力が高いだけじゃなく、連発してくる。
 その事から、鈴は回避と言う選択を取れずにいた。

「(全く攻撃を当てられないし、それに加えて……)」

「っと!」

 鈴とトーレは、その場から飛び退く。
 すると、寸前までいた場所に、銃弾が当たる。

「ったく、あぶねぇな。流れ弾を出すなよ」

「(……セシリアやシャル達の方で、流れ弾が発生している。連携を取ろうとしても、分断されてしまってる今だと、どうしても膠着状態ね…)」

 鈴とトーレでは、若干鈴が押され気味。
 その上で、セシリアとシャルロットは接近を許さないように立ち回っているため、連携を取る事が不可能となっている。
 さらには、流れ弾も飛んできているため、鈴が負けるのは時間の問題だった。

「(……けど…!負けられないのよ……!)」

「いい目だ。もういっちょ行くぞ!」

 再びトーレは鈴に殴りかかる。
 それを、鈴も覚悟して迎え撃った。





「っ……!鈴さんの援護に向かわなければならないというのに…!」

「あらあらぁ、他人を気にする余裕があるのかしら?」

「くっ……!」

 自身が扱うために改造した専用のハンドガンを撃ちながら、セシリアは焦る。
 そこを突くかのように、クアットロが煽る。
 ちなみに、セシリアのハンドガンはブルー・ティアーズの代用なので、連射性能が高い。他にもスターライトmkⅢの代わりになるライフルも持っているが……一度接近を許してしまった際に、床に落としてしまっている。

「ほらほらほらぁ、貴族様なのに前線に出るなんて、馬鹿なのかしらぁ?」

「あら、これでも私、この時のために色々習ってきたのですわよ!」

 二丁のハンドガンによって、ガシェットから伸びる触手のような武装を撃ち落とす。
 彼女の正確な射撃力は、連射性に特化させても変わらなかった。

「……あらぁ、やるわねぇ……」

 そのままガシェットが破壊され、若干冷や汗を掻くクアットロ。

【クアットロ、追加ガシェットを送ります】

「助かるわぁ~。まさか、貴族のお嬢様がこんな芸当をやってのけるなんて…」

「まだ……!?」

 すぐに追加のガシェットがウーノによって送られ、セシリアを襲う。

「(背後にもう一人……どこか手の届かない場所で私たちを見ているようですわね……ですが、もう戦力は他に割く事ができない。……どの道、倒すしかありませんわね…!)」

 銃の弾をリロードしながら、セシリアは覚悟を決め直す。
 すると、そこへ……。

「くっ!」

「ふふっ」

     ギィイン!

 割り込むように、シャルロットとドゥーエがやってくる。
 シャルロットはナイフを、ドゥーエは爪の武装を以って戦っていた。

「っ、させませんわよ!」

「チッ……あらぁ、ばれちゃったわね」

 シャルロットへ向けられたガシェットの攻撃を、セシリアはすぐに撃ち落とす。
 妨害を妨害するという攻防を繰り広げている間にも、シャルロットとドゥーエの戦いは続く。

「やるわね。お姫様?」

「もう助けを待つだけじゃないからその呼び方は気にくわないかな……!」

 互いに、近接攻撃を行いながらも、空いた片手で銃を撃とうとする。
 だが、それはもう片方の手で払いのけ、上手く射線上に入らないようにする。

     ガッ、ギィイン!

「っ……!」

「これでも元スパイの立場だったんだ…!これぐらい、やってのけるさ!」

 銃と銃、ナイフと爪がぶつかり、鍔迫り合いになる。

「へぇ……!」

「っ……!?」

 だが、ドゥーエが少し体をずらした事により、バランスが崩れ、その隙を突いた爪の一撃で、シャルロットはナイフを大きく弾き飛ばされてしまう。

     ギィイン!

「ぐっ……!」

「ほら、どうするのかしら?……っ!?」

「甘いよ!」

 銃で爪の一撃を防ぎ、後退する。
 それを追撃しようとするドゥーエだが、飛んできた弾丸を咄嗟に避ける。
 シャルロットを見れば、ナイフを持っていた手にはもう一丁の銃が握られていた。

「“高速切替(ラピッド・スイッチ)”……生身でも応用すればできるんだよ。……忘れてた?」

「……いいえ、貴女はそういう人だったわね…!」

 シャルロットとドゥーエは、会社にいた時は普通に知り合いだった。
 お互い、ある程度手札は知っていたが……ドゥーエはシャルロットの本当の強さを失念していたのだ。

「(っ、一歩届かない…!)」

「(押しきれない……!)」

 接近しようとするが、一歩届かないドゥーエ。
 二丁の銃で押し切ろうとしても、押し切れないシャルロット。
 互いに攻めきれない状態だった。

「っ!」

「(今…!)」

 銃を撃ちながら後退し、シャルロットは弾かれたナイフを拾う。
 そこを隙を見たドゥーエは、ガシェットに攻撃させる。

「しまっ…!」

「シャルロットさん!」

「ありがとうセシリア!」

 対処が間に合わずにやられそうになった所で、セシリアが射撃で助ける。
 だが、その射撃は隙を晒すもので…。

「がら空きよ!」

「っ……!」

 クアットロのガシェットによる攻撃が、セシリアに迫っていた。

「させないよ!」

「チッ……!ドゥーエ姉様の相手をしていればいいものを…!」

「……前から思ってたけど、性格悪いね…」

 思い通りにいかないからと舌打ちするクアットロに、シャルロットは思わずそういう。

「助かりましたわ」

「お互い様」

 セシリアがお礼を言い、シャルロットは短く返す。
 互いに背を任せ、二対二の状況へと持って行った。

「……倒しきれる?」

「押し切れませんわ。そちらは?」

「同じく。……鈴も耐えてるけど、いつまでも保ってられないよ」

 把握している情報を交換しつつ、どうするべきか考える二人。

「…私たちで状況を打開するしかありませんわね…」

「……そうだね」

 他は他で抑えられている。
 それを理解しているからこそ、自分たちが状況を変えないとダメだと二人は理解していた。

「(……背後を取る隙さえあれば…)」

 状況を打破する手を、セシリアは隠し持っていた。
 しかし、それはぶっつけ本番であり、さらには背後を取らないとできない事だった。
 結局の所、膠着状態のままだった。









「……おいおい、どうしたマドカ?」

「っ、ぐ……!」

 それぞれがそれぞれで苦戦している時、マドカもまた、苦戦していた。

「(“風”と“水”を宿しても敵わないなんて…!)」

「何考え事してんだよっ!!」

「っ!」

 振るわれるブレード。それを躱すマドカ。
 空ぶったブレードはそのまま床に激突し……へこませた。

「(まさに大地を表すかのような剛力…!“土”の力の、真髄……!)」

 身を以ってマドカは理解した。…オータムは、四属性の一つを完成させたのだと。
 大地を表すかの如き“土”は、圧倒的防御力と剛力を生み出していた。
 その力が、二つの属性を宿したマドカを押していたのだ。

「(何とか直撃だけは避けているけど……時間の問題だね……)」

 今の所、マドカは一撃も喰らっていない。
 それなのにこれほどまでに劣勢になっているのは、マドカの攻撃をオータムが受け止めた際、吹き飛ばすように振り払っていたからだった。
 そのため、マドカは反撃でダメージを負い、さらに疲労も大きかった。

「(……迂闊だったなぁ……私、結構慢心してたんだ…)」

 真髄に至ったその力を見て、マドカは若干後悔していた。
 確かにマドカは千冬譲りの天才的資質を秘めている。
 文武のどちらにおいても秀でており、まさに万能と言えるべき才能だった。
 そして、それは四属性でも同じ事が言えた。
 ……だが、その万能性が仇となったのだ。

「(……努力を怠っていたつもりはなかったけど、伸ばせる才能が多いのが逆に成長を遅らせていたんだね……)」

 “多才”……言い換えれば、それは“器用貧乏”である。
 なまじ伸ばせる能力が多かったため、一つに絞れずにいた。
 結果、一つの才を伸ばし続けていたオータムに劣る事となっていた。

「(……今となっては、後の祭り。今更どうしようもないね)」

 決戦の今の場においては、考えるだけ無駄となる。
 今更、その事実を変える事はできないのだから。

「(極めていない才で、“究極の一”には勝てない。半端な力だけでは意味がないのだから)」

 “質”では絶対に勝てないと、マドカは悟る。
 ……だから、マドカは別の手段を使う事にした。

「(“質”がダメなら……“量”で…!)」

 “多才”が足を引っ張ってしまったなら、“多才”で打開する。
 そう考えて、マドカは覚悟を決める。

「(……ぶっつけ本番!だけど、既に感覚は掴めてる!)」

 それは、今までマドカが習得していなかった属性。
 四つの内、三つは習得していたマドカは、それをまだ習得していなかった。
 否、それだけなら扱う事はできていた。
 他の属性と両立させる事で、習得したとマドカは思うようにしていたからだ。

「……技に、“火”を宿す!」

「っ!」

     ギィイイイイン!!

 今までとは違う手応えを、マドカは感じ取っていた。
 オータムもまた、その攻撃の重さを理解した。
 だからこそ、即座に次の行動を起こした。

「ぉおおっ!!」

「っ……!」

 即座にオータムは反撃する。
 今のマドカは、四属性を宿していたとしても、負担が大きいと思ったからだ。

 ……そう。“四属性全てを宿している”のだ。
 先程の時点で、マドカは“火”以外の三つを宿していた。
 それでも敵わなかったから、四つに増やしたのだ。
 しかし、当然とも言うべきか、土壇場でそんな事をすれば負担は大きい。

「おらぁあああっ!!」

「くっ……!」

 意識しないと保てないが、意識しすぎても保てない。
 その微妙なバランスを、戦闘しながら保つ。
 それは、脳に大きな負担を掛けていた。

「(……限界が先に来るか、適応できるか……棍比べ…!)」

 故に、これは一種の賭けだった。
 四属性を宿している状態に慣れれば、マドカの勝ちが決まる。
 だが、慣れさせないようにオータムがペースを崩し続ければ、マドカは負ける。

「(状況は圧倒的不利。だけど……!)」

「はぁっ!」

「っ、甘い!」

 ペースを崩そうと振るわれるブレードを、マドカは受け流すように弾く。
 そのまま流れるように反撃を繰り出し、オータムを後退させる。

「私を……私達を……舐めないでよね!」

 そして、マドカはそう宣言する。
 そう。今マドカは一人で戦っている訳じゃない。
 楯無が、簪が、セシリアが、鈴が、シャルロットが、ラウラが、それぞれ戦っている。
 他の皆が戦っているのに、自分が今ここで倒れる訳にはいかない。
 マドカはそう思ったからこそ、負担が掛かっていても倒れる事はなかった。









「っつ……」

「如何に対暗部組織の当主とはいえ、属性を使わなければこんなものなのね」

 マドカが奮起している頃、楯無は傷ついた腕を抑えながら膝を付いていた。

「(……ただ“更識家当主”として在り続けたのが、裏目に出たわね…。あの時の簪ちゃんとは全く違う……。これが、“水”の力…!)」

 楯無の攻撃は、悉く躱され、その都度反撃を受けていた。
 楯無もここ数年何もしていない訳ではなかった。
 更識家当主として、ふさわしく在ろうと日々精進していたが……。
 今回ばかりは、裏目に出たのだ。“更識家当主”というスタンスを少しでも崩し、“水”を宿せるようになっていれば、今の状況にはなっていなかった。

「(でも……無駄ではない)」

 “水”は心に宿すもの。つまり、四属性として扱おうと力を磨かなくとも、扱えるようになる場合がある。そうでなくとも、楯無は簪と言う“水”を扱う存在と何度も手合わせをしている。

「(……勝手は理解している。後は、それに対応するだけ…)」

 楯無は、幾度に渡る簪との手合わせで、“水”に対応できる。
 だが、相手は簪とは違う。だから常に劣勢だった。

「(……彼女は、基本的に“受け身”の戦法。例外になるのは、反撃からの追撃時のみ。……全てが、カウンターで成り立っている。逆に言えば、そうしなければ彼女も“水”を扱いきれない)」

 “攻め”に転じた瞬間、スコールは“水”を完全には扱えなくなる。
 “受け身”だからこそ、ここまでの強さを誇っているのだと、楯無は気づく。

「(どうあっても、私は“攻め”になる。……そうでなければ、彼女は動かない)」

「(……気づかれてたのね。いえ、そうでなければ当主は務まらない……か)」

 楯無が自身が扱う“水”の特徴に気づいたと、スコールも感付く。
 尤も、気づける程でなければ今の今まで立っているはずがないのだが。

「(……思い出すのよ…!いくら簪ちゃんと動きが違っても、その根幹にあるモノは同じ……!必ず、活路はある…!)」

 構えを変え、手に携えるのはいつもの扇……ではなく、一振りの刀。
 生身用に改造したIS装備でもなく、短刀より長く、脇差より短い程度の刀だった。
 ISが生まれる以前の更識家が、代々受け継いできた小太刀。それを楯無は構えた。

「……ここからが本気、って所かしら?」

「……そうね…。暗部らしく、行こうじゃないの……」

 軽く言葉を交えつつも、楯無の目は忙しなく動く。
 どう動くべきか、どこを攻めるべきか、突破口はどこか。
 ……勝機を、如何に見出すか。

「(……ダメね。今の状況では、隙がない。私自ら作らない限り、どうあっても弱点がない)」

 スコールの様子を注意深く見る楯無だったが、無駄だと悟る。
 よって、勝機を見いだせるのは、こちらが攻撃した際だけだと確信する。

「(……殺す気で、かかる!)」

 一呼吸の間に、一気に踏み込み、刀を突き出す。

「(っ、ここっ!!)」

「っ……!」

     ギィイン!!

 一撃目は躱される。直後に反撃が迫るが、そこへ二撃目を放つ。
 楯無に合わせ、出していたブレードでスコールはその攻撃を防いだ。
 何度もカウンターを受けたからこその反応だった。

「ふぅ……っ…!」

「……カウンターに反応してみせるなんてね」

「……更識家、嘗めないでもらえるかしら…?」

「正直甘く見ていたわ。彼の技術も完璧ではないのね」

 即座に間合いを取り、楯無は息を吐く。

「(……隙はあった。けど、それは私が隙を晒している時にしかない。……どうすれば…)」

 楯無が攻撃した直後、カウンターが来る寸前にのみ隙があると、楯無は読んだ。
 だが、楯無も攻撃直後の隙を晒しているため、実質意味がないようなものだった。

「私ばかり見ていていいのかしら?」

「っ……!」

     チュンッ!

 スコールの言葉に、楯無は足を一歩後ろに下げる。
 するとそこへ、セシリア達の方から流れ弾が飛んできた。

「ォオオオオッ!!」

「っ、せぁっ!!」

「(広い部屋とはいえ、混戦状態にもなるわよね……!)」

 さらに、そこへ激しい攻防を繰り広げるオータムとマドカが通り過ぎていく。
 楯無は、それを跳躍して大きく躱す。

「……ふふ」

「くっ……!」

 その隙を、スコールは見逃さない。
 さらに、スコールは何も近接だけで戦っていない。

「(銃も使ってくるなんてね……!)」

 そう。スコールは本来は銃の方を使う。
 “水”と相性がいいから近接武器を使っているに過ぎないのだ。

「(……でも、これで突破口は見えた…!)」

 常に劣勢に加え、流れ弾などの危険性もある。
 ……その状況だからこそ、楯無は突破口を見出した。











 
 

 
後書き
何気にシャルロットVSドゥーエは原作的に考えるとスパイ同士の戦いになります。だからこそぶつけたんですけど。 

 

第65話「足止めの戦い2」

 
前書き
―――これが、私の唯一お姉ちゃんを上回るモノ……!

まずはラウラと簪の決着から。
 

 





       =簪side=





「っ……!」

 ゴーレムを二機、私が引き付ける。
 射撃やその腕による直接攻撃を、決してまともに受けないように立ち回る。

「ぐっ……!」

     ギィンギィン!!

 “水”を用いて、上手く腕の攻撃を受け流す。
 そして、その攻撃後の隙を利用して……。

     ギギギギギギギィイン!!

「……チッ」

 ラウラが、銃で攻撃する。……と言っても、装甲で弾かれたけど。
 当然、ゴーレムのAIもそこまで馬鹿じゃないみたく、連携に対応してくる。

「くっ……!」

「……」

 一機が後方へ下がり、銃を構える。
 それを見てラウラがそちらへと意識を向け、私は変わらず目の前のゴーレムと対峙する。

「シッ……!」

 振るわれる腕を避け、そこを狙った銃撃を跳んで躱す。
 同時に薙刀で斬りつけようとするが、もう一機の射撃が飛んできたため、薙刀をぶつけた反動で射線からずれ、回避に専念する。
 すぐにラウラが引き付けて一対一に持ち込んでくれる。

「(流れ弾にさせる訳にはいかない)」

 私もすぐに間合いを詰めて、相手しているゴーレムに銃を使わせないようにする。
 薙刀を振るい、上手く銃を封じる。

「(もう一機は……)」

 攻撃を避けながら、もう一機を探す。
 ……案外、近くにいた。

「(よし…)」

 目だけでラウラに合図を送り、ラウラを下がらせる。
 同時に私がもう一機にちょっかいを出して、二機を相手取る。
 これで、私が引き付けてラウラが後ろから撃つ形になる。

「(でも……!)」

 二機が一斉に私に襲い掛かる所を、“水”で対応する。
 ……けど、それはさっきまでと同じ。

「……千日手」

 思わず、そう呟いてしまう。それほどに、同じことの繰り返しだった。
 連携を取れば同じように連携を取られ、一対一に持ち込めばこちらが圧倒的に不利。
 上手く二対二にしても同じように連携を取られ……後はその繰り返しだ。

「(状況を変えるべき。それはラウラも分かっているはず。…問題は、それをどうやるのか)」

 千日手になっているのは、飽くまで私達がやられないように上手く立ち回っている。……状況を変えるとなると、ただでさえ一歩間違えれば危険な所を、さらに危険に晒してしまう。

「(銃弾は攻撃を阻止するまでしかできない。武器による攻撃も、関節部分以外は碌に通らない。……“水”を宿した一撃以外は)」

 そう。“水”を宿した一撃なら、あの堅い装甲を切り裂く事も可能だ。
 ……でも、私やラウラの“水”では、それが出来るレベルに至っていない。

「(……もっと、“水”を使いこなせたら……いや、せめてマドカみたいに複数の属性が扱えたら……)」

 私とラウラは、そのどちらも一歩足りない。
 “水”は自分に合わせた使い方しか出来ないし、他の属性も“風”と合わせるのがやっとだ。……それでも足りない。

「……ふぅ……っ!」

 出来る限りいなし、その間にラウラに隙を作ってもらう。
 ……でも、その戦法がいつまでも通じる訳がない。

「ッ……!?」

「(動きを変えてきた……!?ラウラの銃撃が、“取るに足らないもの”だと判断された…!)」

 そう。ゴーレムも動きを学習する。
 今まで妨害のために放っていたラウラの銃撃だけど、実の所大した事はない。
 だから、無視してでも先にどちらかを倒すのを優先するようになってしまった。

「厄介な……!」

 “水”を扱えると言っても、何度も言っている通りそれは私に合わせた扱い方。
 本来の“水”としては、中途半端もいい所だった。

「くっ……ぁあっ!?」

 ついに、攻撃がいなしきれずに私は吹き飛ばされてしまう。
 幸い、攻撃そのものは薙刀で受ける事ができたから、戦闘は続行できる。

「っ!」

 けど、地面を転がった所でゴーレムの追撃がくる。
 二機が銃を構え、私に向けてきた。
 何とか体を転がし、避ける事は出来たけど、このままではすぐに当たってしまう。

「こっちだ!!」

「ラウラ……!」

 そこで、ラウラが前に出てきた。
 ナイフを二つ構え、果敢に斬りかかっていった。

「(陣形が完全に崩された。どうにかして、打開しないと…!)」

 まず、銃による攻撃は無視されるだろう。
 余程強力な銃でないとあの装甲は破れない。
 ……そして、それは近接武器でも言える事。
 生半可な技術、力では到底傷をつける事ができない。
 例えハンマーのような武器でも、余程の重量と勢いがなければ装甲はへこまない。

「ラウラ……!」

 ……それならば、近接だけで打倒するしかない。
 銃撃は完全に無意味と化した。近接もあまり有効ではない。
 しかし、裏を返せば近接ならば通じる余地がある。
 その点でのみ、上回るしかないだろう。

     ギィイン!

「っ、はぁっ!」

     ギギィイン!!

「っづ……!!」

 ラウラの背後に迫っていたもう一機に割り込むように薙刀を振るう。
 同時にラウラは目の前の一機の攻撃を躱しつつ、背後のもう一機に攻撃を加えた。
 攻撃を喰らった方は間合いを取り、もう一機は追撃を放ってくる。
 その攻撃は私が“水”を使いつつ受け、距離を取るようにラウラと共に吹き飛ぶ。

「……まずいな」

「うん……」

 背中合わせになり、お互い対面にいるゴーレムを警戒する。
 ゴーレムの方も警戒してくれているのか、すぐには仕掛けてこなかった。

「……まずは銃を封じる。そうしなければ一方的にやられるだけだ」

「分かってる。けど……」

 今まででも銃を封じるには至らなかった。
 ただでさえさらに不利になっているのに、それが出来るとは思えない。

「…先程までのと、近接のみでの連携は別物と考えろ。立ち回りが似ているようで全く違う。……それでも行けるか?」

「どの道、やらなきゃやられるだけ。……やってみる…!」

「良く言った。……来るぞ!」

 直後、ゴーレム二機は銃を構え、撃ってきた。近付く気配はない。
 それも当然。唯一気を付けるべきなのは、近接攻撃なのだから。
 ゴーレムにとっては、近づかれなければ絶対に負けない戦いなのだ。

「(だから、まずは接近する……!)」

 銃弾は躱せない訳でも弾けない訳でもない。
 射線上から逃れるように動きつつ、避けられない弾は薙刀で弾く。
 ラウラも私と同じようにナイフで弾を弾きながら、同じ機体に接近する。

「っ……!」

「くっ……!」

 もちろん、ゴーレムが簡単にそれを許すはずがない。
 進路を妨害するように銃弾が撃ち込まれる。
 その度に私達は迂回して、また接近を試みる。

「……残弾が分かればな…」

「弾切れを狙うって事?でも……」

 そんな事を、あの人たちが予想していない訳がない。

「意味がないだろうな。それに…アレを見る限り、弾切れが起きたとしても、すぐに補充されそうだ」

 ちらりとラウラが視線を向けた先には、セシリア達が破壊したガシェットが、新しく補充されていた。……ゴーレムはともかく、弾ぐらいならあんな感じですぐ補充されてしまうだろう。

「……でも、隙はできる」

「……そうだな」

 いくら何でも、弾切れと同時に補充をしても、少しの隙がある。
 ラウラも、私と同じ意見なようで、そこを狙うようにした。

「…見極めろ」

「……うん」

 ラウラは軍人。私は暗部の人間。
 どちらも、実戦慣れしている類の人間だ。
 ……そういう隙を見つける事には、慣れている。

「(手順としては、銃を破壊し、続けざまにゴーレムを倒す)」

 言葉にすれば、ここまで簡潔だけど、その実態は途轍もなく困難だ。

「(二機の連携に加え、弾の補充があり得るのなら、同様に武器の補充もあり得る。銃を破壊出来たとしても、猶予はほとんどない…!)」

 少なくとも、そう考えて行動しなければ、勝ち目はない…!

「(既にリロードを4回行っている。このまま続ければ……!)」

 敵の銃弾を凌ぎ続けるという、綱渡りな行動にも適応出来てきた。
 危機的状況に変わりないけど、もし、“補充”があるなら……!

「っ、来るぞ!」

「っ……!」

 そして、その時は来た。
 事前に、弾切れ前に予備の弾が天井から降ってくるように補充された。
 その直後に片方のゴーレムの弾が尽きて……ここっ…!

「はぁっ!」

「ふっ……!!」

 千載一遇のチャンス。私の薙刀と、ラウラのナイフが銃を切り刻もうとして…。





   ―――本能的に、私達は左右に跳んだ。





「っ……!ハンド、ガン……」

「失念、していた……!」

 左右に跳んだのは、弾切れを起こしたゴーレムが、私達に向けて発砲したから。
 ……その手に持っていたのは、今まで使っていたアサルトライフルではなく、ハンドガンが握られていた。

「(迂闊だった……!持っている銃が、アレだけだなんて、誰も言ってない…!完全に、失念していた…!)」

 今までアサルトライフルしか使っていなかったから気づいていなかった。
 ……ううん。これは言い訳。暗部の人間なら、最低を想定しておかないと…!

「くっ……!」

「っ……!」

 すぐに体勢を立て直しつつ、銃弾を躱す。
 幸い、ハンドガンに持ち替えた方は、連射力が低いため、少し避けやすかった。
 けど、そうこうしている内に、二機とも弾を補給し終わってしまっていた。

「予定変更だ!隙を突くのは諦めろ…!私達の力で、打倒するしかない!」

「っ、でも…!」

 どんどん状況は悪化していく。
 狙っていたチャンスも、結局はチャンスではなかった。
 ……このままだと……!

【右に避けてください!】

「っ…!?」

 その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟にその言葉に従った。
 すると、ゴーレムの射線は反対側へずれ、隙を晒した。

「今の、声は……」

「まさか……ユーリ?」

 聞き間違える訳がない。以前と、全く変わってなかった。
 その声は、間違いなく、ここに囚われているはずのユーリのものだった。









       =ユーリside=





「……ここは……」

 桜さん達の言葉に従い、私は基地の避難場所まで来ました。
 そこには、私以外の避難者と……。

「……コントロール、パネル……?」

「はい。基地にあるコンピュータはもちろん、ゴーレムのプログラムも見れます」

 明らかに避難場所にそぐわないコンピュータの操作パネルでした。
 それについて、同じく避難していたクロエさんが説明します。

「どうして、これがここに…」

「…その言葉には、お答えしかねます」

 とりあえず、ふと気になって基地内のカメラにアクセスします。
 何もプロテクトも掛けられていないようで、あっさりと映し出されました。

「…皆さん…」

 そこには、今まさに戦いを始めた皆さんの様子が映し出されていました。

「っ………」

「桜……」

 当然、その中には桜さんも含まれています。
 私と同じように気になった桃花さんの心配そうな呟きが隣から聞こえてきました。

「(……皆さん、劣勢ですね…)」

 始まってしばらくすれば、力量差が見えてきました。
 桜さんと秋十さんはもちろん、束さんと箒さんの差も大きいです。
 織斑先生もご両親の連携には苦戦していました。
 ……そして、簪さん達も揃って押され気味でした。

「………」

 …正直に言って、どうして争う必要があるのかわかりません。
 以前、桜さん達に何度か聞きましたが、“ケジメ”としか返されませんでした。

「(……この戦いで、全力で戦って負ける事に意味があると、桜さんは言ってました。……じゃあ、どうして、ここに“操作ができる”パネルを…?)」

 映像を映すにしても、操作パネルは必要ありません。
 それなのに、態々用意しているだなんて……。

「…………」

「…本当は、わかっているのでしょう?」

「クロエさん…」

 私の様子を黙って見ていたクロエさんが、そう言ってきます。

「私、は……」

 桜さん達がどういった意図でコントロールパネルをここに設置したのか。
 ……似たような状況を、経験した事がある気がします。
 あの時、ゴーレムが襲ってきた際、皆さんを避難させる時のような……。

「(……また、私を試すんですね…)」

 桜さん達は、自分たちに味方をするのはダメだと言っていました。
 …しかし、その逆は何も言っていません。

「………」

 私は、桜さんの事が好きだから、桜さんに味方する事しか考えていませんでした。
 でも、もし、“敵対する事”が桜さんを助けるに繋がるのなら……。
 秋十さん達が、桜さん達をも助ける手段があると言うのなら……!

「っ……!」

 私は、桜さん達と、敵対します……!

「ユーリちゃん、何を……」

「(っ…!?このプロテクトの数……あの時の比じゃない…!?)」

 パネルを操作し始めた私に、桃花さんが疑問の声を上げます。
 それを無視して、まずは通信を繋げようとしますが、やはり桜さん達が設置していただけあって、生半可なセキュリティではありませんでした。

「でも……!」

 以前と違うのは、私も同じです。
 あの時から数年。私もただこの基地にいるだけではありませんでした。
 解析に関する事は、なんだってやりました。そして、だからこそ…。

「(このプロテクトも、突破できる……!)」

 パネルのキーボードで、プロテクトを突破します。
 そして……。

「(通信可能…!でも、これで終わりじゃありません…!)」

 確かにこれで皆さんに通信ができるようになりました。
 しかし、それだけでは意味がありません。
 …ちなみに、さらっと流していますが、秋十さん達の持っている端末にハッキングする事で通信を可能にしています。

「(通信可能にしただけでは足りません…!皆さんを助けられるように……ゴーレムの動きを……!)」

 さすがに、止めるという事は難しいです。
 ですが、ゴーレムもAIで動いている存在。
 それならば、ハッキングを仕掛ける事で、動きを妨害する事が可能なはずです……!

「(ゴーレムへのアクセスは……っ!?)」

 …当然ながら、アクセスするにはいくつものプロテクトを解除しなければなりません。そして、その数は通信接続の数倍の量です。

「(変動し続けている……!?これでは、動きを操作する事が……!)」

 しかも、ゴーレムは操作を乗っ取られないように常にプログラムが変動し続けていました。これではプロテクトを解除してもほとんど意味がありません。

「っ……!く……!」

 ……なんのツールもなしに、私一人ではこれ以上は無理です。
 変動し続けるプログラムを、掌握するなんて事……。

「……ぁ……」

 そこで、私はハッとしました。
 いえ、逆に考えたと言うべきでしょうか……。

「(…掌握できなくても、妨害は……可能……!)」

 そう。私は操作を乗っ取る事に集中していましたが…その必要はなかったのです。
 ただ、動きを乱すだけでも、十分に効果があります…!

「(それなら……!)」

 思考を巡らせ、限界まで脳の演算処理を速めます。
 パネルを叩く速度も速くなり……。

「【右に避けてください!】」

 ゴーレムの相手をしていた簪さんとラウラさんに通信を繋げます。
 そして、指示と同時にゴーレムの射線を右にずらすように妨害します。

「(上手く行きました……!)」

【今の、声は……】

【まさか……ユーリ?】

 上手く妨害できた事に安堵していると、二人が私に気づきます。
 ……会えなくなってからしばらく経っているというのに、声だけでわかってくれたんですね。









       =簪side=





【はい。………お久しぶりです】

 数年経っても、全く変わりのない声だった。
 ユーリ……まさか、こんな所で再会できるなんて…。

「…久しぶり、ユーリ。元気でやってるみたいね」

【はい。おかげ様で。……お二人も、変わりなく…いえ、以前より強くなりましたね】

「そう…だね…」

 ユーリの声しか聞こえず、肝心の姿は見当たらない。
 …多分、別の部屋から通信を繋げているのだろう。
 声も私達の持つ端末から聞こえているみたいだし。

「悪いが無駄話をしている暇は…っ、ない…!」

【…分かってます。こちらから出来る限りの妨害を仕掛けます。何とか突破口を…!】

「了解……!」

 ゴーレムの制御権を奪える程、軟なプログラムをしていない事ぐらいは分かる。
 だから、ユーリも妨害までしか出来ないのだろう。
 ……でも、私達にはそれで充分…!

「ラウラ…!」

「分かっている!」

 動きが乱れた分、私達の回避が容易になる。
 “乱れる”だけあって、油断すればすぐに被弾してしまうけど……。

「(でも、ユーリが制御を掌握した訳じゃない。飽くまで妨害止まり…。なら、多分武装の補充とかは行われるだろうから……)」

 そこまで考えて、手は一つしかないという解に行き着く。

「(けど、これを決めるには……)」

「ッ……!…どうした?」

 ちらりと、横を同じように避けていたラウラを見る。
 その視線に気づき、ラウラはこっちを見た。

「…ラウラ。少しの間一人で時間稼ぎ、出来る?」

「……決めるつもりか?」

「うん。でも、それをするには少し無防備になってしまうから……」

「了解した。やってみよう。ユーリ、サポートを頼む」

【分かりました…!】

 最後まで言う事なく、ラウラは了承した。
 ……どの道、私達が劣勢なのはユーリがいても変わらない。
 だったら、一撃に賭ける方が良いという判断だろう。

「(なら、それに応えなくちゃ…!)」

 薙刀を構えなおし、呼吸を落ち着ける。
 ……私が放とうとしている技は、戦闘中に使う事が出来ない。
 と、言うより、私がまだ未熟だから戦闘中は無理と言うべきかな。

「(心に、“水”を宿す……)」

 まるで波一つ立たない水面のように、心を落ち着ける。
 これから放つ攻撃に意識を集中させ、だけど思考は静かに。

「はっ……!」

【次、左です!】

「っ……!」

 視界には、ラウラが必死に攻撃を引き付けている。
 何度も危ない状況に陥るけど、それで心を乱す訳にはいかない。
 同時に、それから目を逸らす事も許されない。……この一撃は必ず当てるから。

「ふぅー……」

 息を吐き、呼吸を整える。
 ……行ける。

「っ……!」

 そこで運よくラウラと目が合った。
 私の様子を見たラウラは、すぐに察して……。

「ッ……!」

     ドンッ!

 懐から取り出した爆弾を爆発させた。
 もちろん、爆発の威力は減らしてある上に、ラウラ自身も飛び退いていた。
 つまりは、爆弾を使って緊急脱出を行ったのだ。

「(そして、煙幕にもなる…!)」

 爆弾による煙幕で、一時的にゴーレムの視界が遮られる。
 多分、熱反応とかで私達の居場所は分かっているだろうけど……。
 それもユーリの妨害のおかげで、手間取っているみたいだった。

「(これで、状況は揃った……!)」

 間合いは充分に近い。
 放てるのは一撃だけだから一機しか仕留められないけど……充分。

「これが、私の唯一お姉ちゃんを上回るモノ……!」

 踏み込み、一気に間合いを詰める。
 即座にゴーレムが銃で攻撃してくるけど……。

「ッ……!」

 私はそのまま突っ込む。
 銃弾は私の頬を掠めるように飛んでいく。
 だけど、心は乱さない。乱す訳にはいかない。
 研ぎ澄ました一撃は、そうでなければ放てないのだから……!

「シッ……!!」

   ―――“止水の一太刀”

 ゴーレムの剛腕を、スルリと避けると同時に、薙刀を一閃する。
 瞬間、時間が止まったかのような空白が訪れる。

「(実際に当てるのは、これが初めて……さぁ、どうなる…?)」

 今まで、この技は木刀か、良くても模造刀でしか使った事がなかった。
 何せ、未完成の状態でも本物の刀を使って放ったら、的が一刀両断されたのだから。
 あまりの鋭さ故に、実戦で使ったのは初めてだ。

 ……故に、だからこそ。



     ズゥウウン……



「っ……!」

 その威力は、保証されたものだった。
 ゆっくりと、ゴーレムは真っ二つになってその場に崩れ落ちる。

【す、凄い……】

「………」

 ユーリの驚く声が聞こえる。
 だけど、それに対して私はすぐにさっきと同じように心を落ち着ける。
 まだ、ゴーレムはもう一機残っているのだから。

「せぁっ……!」

 同じように踏み込み、もう一機へと一閃を放つ。
 けど、同じ要領で放ったはずのその一撃は……。

「っ……!?」

 ……上手く、いかなかった。
 ゴーレムには大きな切れ込みが入る程度で、活動停止にまでは至っていない。
 連発するには、私の技量がまだ足りなかったみたい。

「っ……!」

「いや、焦る必要はない」

「ラウラ…!?」

 すると、そこへ復帰してきたラウラがゴーレムに飛び掛かる。
 幸い、私の一撃とユーリの妨害でゴーレムは動きを止めている。
 反撃を喰らう事もなく、ラウラはゴーレムに飛び掛かる事ができていた。

「いくら装甲が堅くても、中身は丈夫じゃないはずだ……!」

 そういって、ラウラは私が斬りつけた場所から銃を装填している分全てを撃った。
 さらに、その中に手榴弾を放り込んで……。

「伏せろ!」

「っ!」

 私に駆け寄り、離れるように伏せた。



     ドォオオオオオオン!!





「っ、どうなったの…?」

「分からん。だが、無意味ではないはずだ…」

 爆風を耐え切り、治まると同時に爆風を利用してパッと起き上がる。
 そして、ゴーレムがどうなったのか油断せずに構える。

「…………」

【……大丈夫です。どうやら、倒し切れたようです】

 煙が晴れると、そこには体の大部分が欠けたゴーレムがあった。
 ラウラの言う通り、内部はそこまで丈夫じゃなかったみたい。

「やった……っ!?」

【簪さん!?】

 倒した。そう思った瞬間、私はその場に崩れ落ちた。
 どうしてそうなったのか一瞬理解できなかったけど…。

「……ダメ。“水”を宿したから……さっきの技の反動で、動けない…」

「……奇遇、だな…私もだ…」

【ラウラさんまで!?】

 ラウラも、直撃は避けたとはいえ、爆風を一度受けている。
 その上で無理して動いたのだろう。私と同じようにその場に膝を付いた。

「……これは、援護に行けんな……」

「…ユーリ、後は頼んだよ…」

【……分かりました】

 そういって、ユーリは別の端末と通信を繋げに行った。

「……ユーリのおかげで、私達が一番早く決着を付けれたけど……」

「あっちもユーリが敵に回っているのを知っているはず…。私達と同じようにはいかないだろうな……」

 部屋の端の方に何とか体を動かし、この戦いの行く末を見届けるように壁に体を預けた。











 
 

 
後書き
とりあえず決着。武装や爆発はなるべく非殺傷に近づけてますが、当然直撃すれば死にます。……それを覚悟で戦ってるんですけどね。
簪は“水”の力を常に使い続けても本領が発揮できませんが、一瞬だけ真髄に近い効果を発揮します。その一撃で、ゴーレムを両断するに至りました。 

 

第66話「足止めの戦い3」

 
前書き
―――あら?淑女は自衛の手段も持ち合わせていてよ?


セシリア&シャルロットsideです。
……ちょっと他作品ネタが入ります。
 

 






       =シャルロットside=





「ッ……!」

「ふふ…」

 射撃とナイフを合わせた連撃を繰り出す。
 けど、その攻撃は銃であれば撃ち出す前に射線を、ナイフは軌道を逸らされる。
 対して、相手の攻撃も何とか同じように逸らしている。
 ……でも、全体的に見れば余裕があるのは相手の方だった。

「(まずいよ…!どんどん状況が悪化してきてる……!)」

 視界の端には、同じく徐々に押されているセシリアが見える。
 ……いや、“徐々に”と言える程度には踏ん張れているだけで、実際には私よりも状況は悪い。

「っ…、はっ!」

「っと…。甘いわ!」

 攻撃をギリギリで躱し、ナイフの一突きを放つ。
 けど、それは上体を反らす事で躱され、逆に反撃の回し蹴りが繰り出された。
 何とか腕でガードしたけど……。

「(……まずい…。これじゃあ……)」

 当然、そんな事をすれば腕に負担が掛かって動きが鈍くなる。
 少なくとも、さっきまでのような攻防は少しの間出来ないだろう。

「ふっ!」

「っ!」

     ギィイイン!

 そこへ、間髪入れずにドゥーエが攻撃してくる。
 当然、蹴りで痺れた腕では上手くナイフを扱えるはずもなく、弾かれてしまう。

「「っ…!!」」

 すぐさま銃をドゥーエに向けようとして……彼女も同じように向けてきた。
 交差するように腕がぶつかり合い、放たれた弾丸は僅かに顔の横を通り抜ける。

「くっ!」

「逃がさないわ…!」

 爪の一撃を警戒し、すぐに飛び退き、空いた片手にもう一丁の銃を持つ。
 手の痺れは完全になくなってはいないけど、何もないよりはマシだ…!

「っぁ…!」

「っ……!」

 同時に、私とドゥーエが銃を撃つ。
 そして、互いに避けるように動き、体勢を崩す。

「くっ…!」

「させない!」

 私よりも早くドゥーエが体勢を立て直す。
 そして、牽制しようとした私の銃を、爪の武装で弾き飛ばす。

「しまっ!?……っ!」

「っつ…!」

 銃が弾かれた事で、こっちがさらに不利になる。
 咄嗟に、弾かれた勢いを利用して上段蹴りを繰り出し、ドゥーエの体勢を崩す。
 すぐさま間合いを離し、弾かれた武器を取りに向かう。

「(追い打ちで狙ってくるとしたら……!)」

「行かせないわ!」

「(足!)」

 タイミングをほぼ勘で読み、ハンドスプリングの要領で飛び上がる。
 その読みは当たっていたようで、足元を狙った弾は見事に外れた。

「(まずは、ナイフ!)」

 そのまま地面を転がるようにナイフまで辿り着き、振り向きざまにナイフを一閃。
 “ギィイン”と、何かを弾く音が響く。

「っ……!」

 弾いたのはドゥーエの放った弾丸だ。
 けど、それを悠長に聞く間もなくすぐに横に飛び退く。追撃の銃弾が来ていたからだ。

「くっ!」

「ふぅ…ふぅ…!」

 息をつく間もなかったけど、こっちからの射撃で何とか間を作れた。
 少し間合いが離れているけど、これで大体は仕切り直し。
 違う所と言えば、私の武器は予備がない状態だ。
 これは、ただでさえ劣勢な今だと、致命的とも言える。

「(打開策は……)」

 どうにか場の状況を切り替えようと考えを巡らせる。
 ……でも、そんな事が出来る手札はもうない。
 私が扱える“風”は、既に使っている。……使っていて、これだ。

「(私だと、そもそも属性を使った戦い方が向いていないみたいだからね……)」

 一応、ここ数年で“風”以外にも“土”と“火”ができるようになっている。
 でも、それを用いての戦闘が、私には向いていないのだ。
 これは、四属性の適性と言うより、戦い方の適性だからしょうがない。

「(……間合いが離れている。動くとしたら、銃で牽制しないといけない。でも、それだと距離を詰められてまたさっきみたいになる)」

 膠着状態で今は考える時間がある。その間にどう動くか決める。
 けど、もう一丁の銃があればまだしも、ナイフと銃では遠距離だと有利に立てない。
 距離を詰められれば、またさっきまでと同じ状況になる。
 ……今度武器を弾かれたら、その時はもう終わりだ。

「(どう出る……!?)」

 打開策が見つからない。このままでは、実力でのぶつかり合いになる。
 けど、総合的に見れば私はドゥーエに負けている。
 さらには動きも少し似通っている部分もあるから、意表を突く事もままならない。

「(このままだと……)」

 ……これは、私一人のままだと勝てないかもしれない……。











       =セシリアside=







「っ……!」

 撃ち、撃ち、撃つ。
 ただ撃つだけでなく、きっちりと狙いを定めて撃つ。
 私へと迫るガシェットのコードを、出来る限り撃ち落とす。

「いい加減、諦めてくれなーい?正直言って、飽きたんですけどー」

「っ、そうやって余裕ぶっていられるのも今の内ですわ……!」

 ……でも、そうは言っても打開策が見つからない。
 他の皆さんの助力を待っても、そちらはそちらで手一杯。
 でも、私だけではこの状況を打破できるとは思えない。

「(……もし、“水”が扱えたのなら……)」

 ブルー・ティアーズにはあった“水”の適性。
 けど、私自身には適性がある訳ではなく、生身だと扱えなかった。
 ……もし扱えたのなら、この状況を変えられたかもしれませんわね。

「………」

 ……私に、これ以上打つ手はなかった。
 今でこそ何とか堪えているものの、負けるのは時間の問題。
 第一にガシェットによって数で上回られている上に、破壊しても補充される。
 そうなれば、物量さで押し負けるのも当然と言えてしまう。

「(……、……?あら……?)」

 ギリギリで凌いでいる時に、ある事に気づく。
 私に振るわれているコードの動きが、一部おかしくなっていた。

「(これは……?)」

 私の動きを乱すためなのかと思ったが、それにしては動きがわかりやすかった。
 むしろ、先程までよりも楽だと思える程だった。

「あ、あら?どうしたのかしら…?」

「(向こうも想定外?だとしたら、一体……)」

 その疑問はすぐに解ける事になった。
 私の持っていた端末から、声が聞こえてきたからだ。

【セシリアさん!】

「っ、その声は……ユーリさん?」

【はい!今、ガシェットにハッキングを仕掛けています!動きが乱れる程度ですが……】

「いえ、十分に役立っておりますわ」

 相手の狼狽も、動きの乱れも合点がいった。
 まさか、ここでユーリさんが味方してくれるなんて……。

「ちょっとぉ、どうなってるのよ!」

「(好機!今の内に数を減らしますわ!)」

 ガシェットの攻撃が単調になった所で、大きく横に避ける。
 再捕捉までに時間がかかるのを見越して、ガシェットに狙いを付け……。

「(狙い撃ちますわ!)」

 放った弾丸は、全てがガシェットのコアを撃ち抜く。
 ……これで、相手は無防備ですわ。

「っ、くっ、ふふ……!あの子もやるじゃない」

「……貴女一人になったのに、偉く余裕ですわね」

「余裕?ええ、余裕に決まってるじゃない。貴族様お一人程度、私一人でどうにでもなるっての!」

「っ!」

 そう言うや否や、彼女は投げナイフを放ってきた。
 咄嗟に身を捻って避け……。

「え……?」

 二撃目は、何故か私の足元に刺さった。
 一瞬、手元が狂ってミスでもしたのかと思いましたが……。
 ……その答えは、すぐに判明する。

「っ……!?ケホッ、ケホッ!?」

「投げナイフ形の催涙弾とでも言うべきかしら?人一人分の範囲しかないけどぉ、随分とあっさり引っかかってくれたわねぇ」

「っ……くっ……!」

 催涙ガスが、目に染みて視界がぼやける。
 完全にしてやられてしまった。

「さぁて、どうやって痛めつけてやりましょうかぁ」

「っ……!」

 とにかく、この場に留まっていてはいけないと判断する。
 ガスが目に染みているせいで、足元が覚束ない。
 でも、それでも大体の位置は分かる……!

「そこ……!」

「くっ!」

 狙いが付かない分、連射する。
 ……どうやら、相手は他の方と違ってそこまで直接戦闘が強い訳ではないらしい。
 その代わり、先程のような嫌がらせ染みた搦め手が得意と……。

「っ、追加がこれだけ!?ウーノ姉様、どうなっているの!?」

「(まだ、ガシェットの追加が……!?)」

 そして、ガシェットが補給されてしまう。
 しかし、その数は先程までより少なかった。

【すみません、こちらでも妨害が……!援軍を許してしまいました…!】

「……そう言う事ですの。でも、これなら何とかなりそうですわ」

 数が少ないのは、ユーリさんによるハッキングのおかげだった。
 考えてみれば、ガシェットの補給までに時間がかかったのも、そのおかげだろう。
 ……その代わり、あちらでもシステム面で攻防が始まったらしく、これ以上のユーリさんからの援護は期待できないようですけど。

「(これだけの数、十分に不利と考えられますが……裏を返せば、逆転の目もあるという事。先程までと比べれば、この程度の逆境、何とかしてみせますわ!)」

 さらには、相手も慌てている状態。
 “ウーノ姉様”と言う言葉から、彼女の姉がユーリさんのハッキングを止めていると判断できる。……そして、ユーリさんの相手をしている事から、これ以上の援軍もないと考えられる。

「(むしろ、これは好機と取れますわ!)」

 未だに催涙ガスの効果が抜けきらない状態。
 でも、危ない状況なのは相手も同じ。
 ……後は、相手の罠に引っかからないように、確実に追い詰める……!

「ちっ、あの子、本当に見かけに寄らないわね……!まぁ、いいわ。ウーノ姉様の援護が期待できないなら、私自らやってあげるわ……!」

「(来る……。おそらく、先程までとは動きが変わる。それに適した動きが取れるまで、倒れないようにしませんと……!)」

 視界ははぼやけてはっきりとは見えない。
 だから、避ける際は大きく避ける他ない。
 攻撃を見てから動いては間に合うはずがない。だから、先に動く。

「あら、足元注意よ!」

「っ!」

 だけど、相手は私自身を狙うのではなく、私の進行先へと攻撃を放つ。
 小回りの利いた動きが出来ないと分かっているからか、足場を攻撃で減らすつもりらしい。

「しまっ……!?」

 大きく避けるしかない私では、回避がしきれるはずもなく。
 バランスを崩し、躓いてしまった私へとガシェットの攻撃が迫る。
 咄嗟に手に持っている銃を振るう。
 運よくそれは攻撃を逸らすように命中するものの、攻撃の勢いに吹き飛ばされてしまう。

「っつぅ……!」

「終わりよ!」

 吹き飛ばされ、私の体勢は完全に無防備。
 そこへ、ガシェットの攻撃が迫る。

「っ!!」

 ……絶体絶命の状況。けど、その時、ガスの効果がなくなる。

「へ?」

 身を捻り、床を転がって攻撃を躱す。
 その勢いを利用してすぐに立ち上がり、追撃も躱す。

「ちょ、ちょっと何よ今の俊敏な動き!?」

「隙あり、ですわ!」

 私の動きに戸惑った隙に、一気に銃を撃つ。
 それにより、ガシェットの攻撃に使われているコードを、いくつか破壊する。

「(他のガシェットよりも丈夫ですわね……。でも、これなら……)」

 本来なら今の攻撃をガシェットは防ぎきれないはず。
 けど、今のガシェットは攻撃手段を少し失う程度に留めてきた。
 ……おそらく、簪さん達が相手にしていたゴーレムのように、特別性なのでしょう。

「んもう!予想外ね!」

「っ、もう引っ掛かりませんわよ!」

 ガシェットの攻撃と共に再び投げられるナイフ。
 それを私は大きく躱す。さっきのように催涙ガスをかけられる訳にはいかない。

「あらぁ、誰が同じ手を使うって?」

「っ……!」

 その瞬間、相手は嫌らしい笑みを浮かべた。
 直感に従い、ガシェットのコードからも大きく距離を取る。

「ナイフを……貼り付けていたのですか」

「ご明察♪引っかからなかったのは残念だけどねぇ」

 何とかガスを回避する事は出来た。
 でも……。

「本当、嫌らしい手口ばかりですわね」

「あら?私からすれば、そんなのに引っかかったりしてるなんて無様と思ってるけど?」

「性格も嫌らしいですわね!」

 こういう相手は、長期戦になればなるほど手口が酷くなる。
 そう判断して、一気に攻めに入る。

「っ、勝負に出てきたわね。いいわ、乗ってあげる!」

「っ………!」

 ガシェットから攻撃が繰り出される。
 それを二丁の銃で相殺し、ガシェットへと近づいて行く。
 先に片方の銃を撃ち切り、リロードしつつもう片方の銃で牽制。
 同じように牽制していた銃もリロードし、再度接近。

「くっ、やっぱり手数が足りないわね……!撃ち落とされちゃ、ガスも意味ないし……」

 まずガシェット一機に肉迫。至近距離から一気に銃弾を撃ち込む。
 これで一機撃破。次も同じように向かって……。

「……なんちゃって♪」

「っ……!」

 次の機体の、核に当たる部分に、催涙ガスのスプレー缶があった。
 おそらく、相手がそこへ割り込むように投げ入れたのだろう。
 咄嗟にその場から飛び退くものの、少しばかりガスを吸ってしまう。

「けほっ、っ、しまっ……!」

「あっはは!また引っかかったわね!」

 足元がふらつき、ガシェットの攻撃が当たってしまう。
 そのまま私は吹き飛ばされ、床を転がる。

「(っ……事前に、防護服を着こんでおいて正解でしたわね……)」

 SEを応用した防護服を、私達は着込んでいる。
 これなら、普通の銃弾程度なら防げるため、さっきの攻撃も耐えられた。

「……でも、今度は一矢報いましたわよ……」

「なんですって……?」

 相手が聞き返した瞬間、さっき相手をしていたガシェット付近で爆発が起きる。
 ラウラさんから借りていた手榴弾……私では使いどころが分かりませんでしたが、上手く行きましたわ……!

「後、三機……!」

「手榴弾!?くっ……!」

 動揺している間に一機を押し切って撃破。
 次のガシェットの装甲を破壊して……。

「ッ……!(弾切れ……!予備も、ありませんわ……!)」

「……ふーん、あはは!無様ねぇ!残弾数も分かってなかったなんて!」

 ここに来て、私の銃が使い物にならなくなる。
 ………ですが…。

「……へっ?」

「(元より、勝負に出た身。ここで退くわけにはいきませんわ!)」

 相手が驚く。少し前の私も見れば驚いていたでしょうね。
 何せ、弾がなくなったとはいえ、武器の銃を投げつけたのですから。

「(残り一機!ですが、そちらの相手をせずとも……!)」

 銃を投げつけ、露出した内部の機械部分に当てる事で、ガシェットを破壊する。
 これでガシェットは残り一機。ですが、私にはもう武器がない。
 ナイフは一応持っていますが、それでは倒せそうにありません。
 ……よって、狙うのは相手の女性ただ一人。

「っ!来んなっての!!」

「甘いですわ!」

 ナイフや銃で何とか私を近づけまいとする相手。
 ……ここへ来て、ようやく理解しました。
 相手は、どうやら直接戦闘にはあまり強くないようです。
 特別戦闘に優れていない私でも、比較的簡単に攻撃を躱せました。

「ッ……!?」

「背後、取りましたわ……!」

 少しでも慌てた相手は、ガシェットのコントロールも疎かになります。
 その隙に、私は背後に滑り込むように回り込む事に成功しました。

「き、貴族のお嬢様がなんで……」

「あら?淑女は自衛の手段も持ち合わせていてよ?」

「明らかに自衛って程度では……って、何を……!?」

「私、知り合いの方に色々教えてもらいましたの」

 腰から手を回し、抱え込むような体勢になります。
 これは、知り合いに教えてもらった必殺の技。

「ふっ……!!」

「この、腰から持って行かれる感覚は……!?」

 腰を抱えた状態で、一気に私は後ろへと反ります。
 “ゴッ”と言う音が、相手の頭の方から聞こえてきました。

「……特にこの、“淑女のフォークリフト”と言うのは気に入っていますの。……と言っても、もう聞こえていませんわね」

 気絶した相手の女性にそう言って、緊張の糸をほぐすように息を吐きます。
 ……何気に、実戦と言う実戦をしたのは、今回が二度目ですからね。
 ちなみに、一度目は学園を襲われた時です。

「……シャルさんの援護に行きたい所ですが……」

 ここで、私に碌な武器がない事に改めて気づく。

「……武器、頂きましょうか」

 最後のガシェットも、ユーリさんが相手の裏方を止めてくれたおかげで、直接の操作がなくなって無力化されています。
 他の方はそれぞれ相手がいますし、これなら安全に持ち物を探れます。

「……一応、ガシェットは破壊しておきましょうか」

 いくらユーリさんが相手しているとはいえ、再起動される場合があります。
 ……と言うか、ここの人達の事ですし、AIを組みこんでいる可能性が高いです。

「えっと……」

 銃を奪ったとはいえ、それでは弾も心許ない。
 だから、ナイフでガシェットの装甲を引き剥がそうとしますが、諦めます。
 代わりに、手榴弾を置いて離れます。

「さて……」

 離れて伏せ、爆発。
 ガシェットを破壊した事を確認してから、シャルさんの方へと目を向けます。

「劣勢、ですわね……」

 先ほどまでの私のように、何とか凌いでいるだけ。
 防戦一方どころか、負ける寸前で踏ん張っている状態ですわね。

「……私の銃とは別。少々、狙いが難しいですが……」

 下手に割り込む事はできない。
 なら、援護射撃だけでもするしかないと思い、私は銃を構えた。











       =out side=





「くっ!?」

「終わりね」

 シャルロットの手から、ナイフが弾き飛ばされる。
 弾き飛ばされたナイフはドゥーエの足元に落ち、銃弾で折られる。

「(銃はどちらも離れてる。素手でここから巻き返すのは……!)」

「まぁ、殺しはしないわ。少し、痛いけどね……!」

 既に銃も弾き飛ばされていたシャルロットは、万事休すだった。
 痛みを覚悟し、シャルロットは目を瞑り……。

「ッ!?」

 聞こえてきた銃声に、何事かと目を開ける。

「シャルさん!」

「セシリア!?」

「クアットロが負けた……?あれだけのガシェットがありながら…?」

 間合いを離したドゥーエの代わりにセシリアが駆け寄ってくる。

「倒したの?」

「はい。ユーリさんが助力してくれたおかげで」

「ユーリが!?」

 まさか囚われている人物が手助けしているとは思わなかったのだろう。
 シャルロットは大きく驚いた。

「……なるほどね。あの子、ようやく足を踏み出したのね」

 ドゥーエが納得している間に、セシリアはシャルロットに自分のナイフを渡す。

「シャルさん、とりあえずこれを」

「ナイフ……でも、セシリアの分は?」

「私よりもシャルさんが持っている方が役立ちます」

 ちなみに、クアットロの持っていたナイフを奪っているので、どの道セシリアが困る事はなかったりする。

「まずは私が牽制している間に、武器の回収を。その後は前衛を頼めますか?」

「分かった。でも、気を付けて。ドゥーエの間合いに入ってしまえば、近接戦では絶対に敵わないから。それに、ドゥーエは遠近両方こなせる」

「心得ましたわ」

 小声でどう動くか話す。
 二人掛かりとは言え、個々の強さでは下回っているからこその警戒だ。

「……負けは決まったようなものだけど、最後まで足掻かせてもらうわよ」

 対し、ドゥーエは負けを確信していた。
 ただでさえシャルロットに苦戦していたのだ。
 そこへ、援護射撃が入れば負ける事になってもおかしくはなかった。

「シャルさん!」

「っ!」

 セシリアの掛け声を合図に、シャルロットが後方へ駆け出す。
 同時に、セシリアが牽制としてドゥーエに射撃する。

「っ!甘いわ!」

「くっ……!」

 当然、ドゥーエも負けじと反撃する。
 互いに射線に留まらないように動き、ドゥーエは距離を詰めていく。
 対し、セシリアは射線に自分だけでなくシャルロットも入れないように動かなければならないため、必然的に徐々に追い詰められる。

「させないよ!」

 だが、それよりも先にシャルロットが復帰する。
 別方向から放たれた弾丸に、思わずドゥーエは体勢を崩す。

「っ!そこっ!」

「くっ、っ!?」

 そこへセシリアがクアットロのナイフを投げ、ギリギリで避けた所を撃つ。
 狙った先はドゥーエの太もも。……つまり、脚を奪うつもりだ。
 もちろん、直撃ではなく、立てなくなる程度のダメージで十分なので、掠らせる程度にしか命中させなかった。

「……終わりなのは、こっちのセリフだよ」

「……そのようね……」

 セシリアの行動中に、シャルロットはそのまま間合いを詰め、ナイフを突きつけた。

「終わりなのは、私じゃないわ……」

「っ、まだ……!?」

 ドゥーエの言葉に、警戒するシャルロット。
 しかし、それは、まだ何かあるからこその言葉ではなく……。

「終わりなのは、“私達”よ」

 “決着”が付いた事に対する、言葉だった。

「ぐっ……」

「っ、はぁ……」

 セシリアとシャルロットが見渡せば、オータムとスコール、そしてトーレが敗北の姿を晒していた。

「……勝ったんだ。皆……」

「ついでに言えば、あの子もウーノ姉様に勝ったみたいね」

【皆さん!】

 通信が回復したらしく、ユーリが再び端末に繋げてくる。

「ユーリさん!」

【何とか競り勝てました……。……セシリアさん達も、終ったみたいですね】

「何とか、ですけどね……」

 持ってきていた道具でドゥーエを拘束しつつ、ユーリと会話するセシリア。

「ユーリは今、どこにいるの?」

【この基地の最深部です。シェルターになっていて、戦闘に参加していない人達は皆ここにいます。有事の際は脱出ルートがあって、そこから脱出できるようになっています】

「……逆に言えば、合流は出来ないという事ですのね…」

【はい。……ですから、ここから先は協力できません】

 残りの相手は秋十達の両親と、桜と束。
 両親の方は機械を使わず、桜と束はユーリ以上にシステムに強い。
 そして、ユーリ達がいる場所からでは、これ以上のアクセス権限を手に入れる事は不可能でもあった。

「充分です。こちらを助けていただいただけでも」

【ありがとうございます。……どうか、ご武運を】

 そういって、ユーリの通信が切れる。

「……とりあえず、どうするべきだと思う?」

「怪我をしている場合は治療をするべきですわね。一度、一か所に集まりましょう」

 次の行動を決めるため、まずは一か所に集まる事にした。











 
 

 
後書き
淑女のフォークリフト…元ネタあり。知り合いの貴族の女性に教えてもらった。なお、その女性はなぜかプロレス技が使え、さらに日本から留学してきた八極拳を使える、とある女性とは犬猿の仲らしい。どう考えても淑女らしくないとか考えてはいけない。


ちょっとしたfateネタ。もちろん、名前と容姿だけの別人ですけどね。
簪とラウラは少し早めに決着が着き、他の面子はほぼ同時に決着が着いています。
……何気に、ユーリの協力がなければ危なかった四人でした。 

 

第67話「足止めの戦い4」

 
前書き
―――一歩、足りなかったのね……


足止めグループの中では直接戦闘力が高い方なのに、展開的にはあっさりと決着が着きます。
と言う事で、残り三組は一話で収められる程あっさり終わります。
 

 






       =鈴side=





「ぜぁっ!」

「っ!」

 少々鈍い音を出しながら、あたしの手によって相手の……トーレの攻撃を逸らす。
 ……まずい。

「遅い!」

「っ……!?ぐぅっ……!!」

 ついに逸らしきれずに、直撃を喰らう。
 辛うじて片腕を割り込ませたけど、その片腕はしばらく使えないだろう。
 ……最悪の場合、骨に罅がいってるかも。

「そらぁっ!!」

「(っ、でも、好機!!)」

 戦闘の流れが変わった。確かにあたしは大ダメージを受けた。
 でも、それによってトーレの動きも変わり……それが、あたしにとって有利に出た。

「っ、とぉおりゃぁあっ!!」

「なっ!?がっ……!?」

 無事な方の手で間合いを詰めた攻撃を逸らす。
 同時に、体を大きく動かし、回し蹴りを思いっきり叩き込む。
 ガードはされたけど、あたしの渾身の一撃だからか、少し吹き飛ばされる。

「っつぅ~……!」

「ってて……」

 どちらもダメージを受けた状態で、向かい合う。
 ……このままだと、あたしが押し負ける。
 勝つためには、援軍か、搦め手を……。

「(……いえ、どちらもダメね)」

 援軍は元より期待しない方が良い。
 搦め手なんて、あたしには合わない。
 ……だから、正面からやるしかない。

「ぁあっ!!」

 震脚からの活歩で一気に間合いを詰める。
 既にあたしは片手を使えない。だから、この一瞬に賭ける!

「っ……!?」

 一気に間合いを詰められた事に、トーレも驚く。
 けど、すぐさま反撃の拳を繰り出してきた。
 活歩で間合いを詰めているあたしには、それを回避する術はない。
 ……でも、逸らす事はできる。

「っ、ぐぅ……!」

「しまっ……!」

 使えない片手を添え、弾かれる形で何とか軌道を逸らす。
 体勢が崩れて痛みが走るけど、これで懐に入った!

「せりゃあっ!!」

「が、ぁっ!?」

 川掌と言う、掌で打つ技を直撃させる。
 さっき攻撃を逸らした際に体勢が崩れて威力が出なかったけど、むしろ好都合。
 ……本当なら、トーレの骨が何本も折れちゃうからね。

「ふ、ぅ……!」

「っ、っ……!」

「ったく……大した体力ね……!」

 だけど、川掌を当てても、トーレは倒れなかった。
 何歩も後退ったけど、決して倒れる事はなかった。

「へっ……大して威力は出てなかったぞ……」

「……予想以上に威力が落ちてたのね」

 やっぱり、直前で攻撃を逸らした事が悪かったらしい。
 でも、ああしなければあたしは倒れていたのだから、仕方ない。

「(同じ手は通用しない。あれは、迎え撃てると思っていたから成功しただけ。反応速度で勝っているなら、今度は避けられる……!)」

 活歩は不意を突いたり一気に間合いを詰めるのには役立つ。
 けど、反応速度で上回れると、ただの愚直な一直線移動だ。
 そんなの、トーレ相手には良い的でしかない。

「(でも、それでも……!)」

 普通に間合いを詰めるよりは、よっぽど有効だ。
 だから、あたしは再び活歩で間合いを詰めた。

「それは、見切った!」

「っ、ぁっ!」

 やっぱり、間合いの外まで避けられる。
 立ち止まり、深く踏み込んで……。

「っく……!」

 纏で攻撃を逸らす。さっきまでと違って、片手だ。
 手数の差で負けるとは思っていたけど……。

「っ……!」

 ……どうやら、トーレも無事とはいかないらしい。
 さっきの一撃が響いていて、どうも拳のキレが悪い。

「(……なら…)」

 それは、私にとって好機。

「っ!?しまっ!?」

 攻撃を逸らした瞬間に、足払いを掛ける。
 バランスを崩したトーレは、思わず飛び退く。

「(逃がさない!)」

 それを追うように、あたしも活歩で迫る。
 好機とは言ったけど、これは賭けだ。
 飛び退かせたのを追う事によって、活歩への反応を遅らせる。
 でも、それでも反応してきたらあたしの負け。
 そうじゃなかったら、あたしの勝ちだ。

「(おまけ、よ!!)」

 あたしが打てる手は、これが限界じゃない。
 さらに、懐に入れていた投げナイフを二本、投擲する。
 それらは、直接トーレを狙う訳ではなく、両サイドを狙う。
 これは、横に避けるという選択肢を消すため。
 どの道、活歩一回では届かない距離まで下がろうとしていたから、丁度いい。

「っ!!」

 そして、決着の時。
 あたしがもう一度活歩で間合いを詰め、トーレは……。





「はっ……!」

 ……あたしに、反応して見せた。
 薄く笑うように拳を繰り出してくる。

「(今更、止まれる訳ないわ!)」

 敗北は濃厚だろう。でも、もう止まらない。止まる訳にはいかない。
 トーレの拳よりも先にあたしの拳を届ければいい事だ。
 だから………!!





「ッ―――!?」



 ……“結論”から言えば、あたしとトーレでは体格の差が大きい。
 同時に拳を繰り出せば、負けるのはあたしだ。

「そん、な……!?」

 “信じられない”と言った声が、その場で響く。
 ……だけど、それを言ったのはあたしじゃない。トーレだ。

「は、はは……」

 乾いた笑いが、あたしから漏れる。
 正直、あたしも信じられなかった。

 ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて。

「マジ、かよ……」

「偶然も、良い所ね……」

 “結論”はあたしの負けでも、“結果”は逆だった。
 トーレは手にグローブを付けていた。
 そのグローブは、ここの人達が作った特別性だからか、相当丈夫だったようだ。
 だから、流れ弾で傷は負っていない。
 ……負っていないけど、弾かれた。そして、あたしの拳が届いたのだ。

「くっ……」

「……あたしの勝ちよ。……尤も、マグレだけどね」

 トーレは膝を付き、そのまま倒れ込んだ。
 そして、起き上がる事はなかった。

「は、ぁ……」

 本当に、末恐ろしいわね。
 もしあたしが胡散臭い神父に八極拳を教わらなかったら、既に負けていた。
 教えてくれた神父に感謝……したくないわね。あんな奴に。













       =楯無side=





「はっ!」

「シッ……!」

 振るった小太刀が、空ぶる。
 そして、代わりに迫りくるブレードを、ギリギリで躱す。

「(っ、離れてはダメ!)」

 追撃のブレードを躱すと、次に銃で狙われる。
 でも、下がっていては絶対に勝てない。
 だから、私は横に避け、スコールを中心に円を描くように銃弾を避けた。

「はっ!」

「甘いわ!」

 下からの切り上げを、上体を逸らす事で避けられる。
 すぐに斬り返しで横薙ぎに振るうも、ブレードで受け流される。
 そこからさらに蹴りを放っても、手で受け止められた。

「(間に合わない!カウンターを封じるまでは行っても、当てられない!)」

 さっきまでと違って、私はカウンターをされていない。
 それは、私自身がカウンターを封じるように立ち回っているからだ。
 ……いや、正しくは、そう立ち回るのが限界だからだ。

「………」

「………」

 ……これでは、千日手。
 いや、このままでは私の体力が先に尽きる。

「はぁっ!」

「馬鹿の一つ覚えのような攻撃ね」

「まだよ!」

 確かに攻撃は通じない。
 けど、同時に攻め続ければ何とか拮抗する。
 後は……。

「(今!)」

     チュン!

「っ!?」

 スコールの背後を確認し、タイミングを何とか合わせる。
 私が攻撃を繰り出し、それを受け流した直後に流れ弾が飛んでくる。
 当たりはしなかったものの、それに一瞬だけ動きを硬直するスコール。
 そこを逃さず、私は追撃の攻撃を繰り出した。

「くっ……!」

「(流れを崩した!このまま……!っ!?)」

「させないわ!」

 追撃すら躱すスコール。だけど、体勢が崩れたのを私は見逃さない。
 しかし、破れかぶれに放たれた銃弾に、私は飛び退くのを余儀なくされた。

「お、驚いたわ……。まさか、あんな方法で食い下がってくるなんて……」

「使えるものは使う。そうでないと勝てないからよ」

「だからと言って、流れ弾を利用するなんて正気の沙汰とは思えないわ。いつどこに飛んでくるか分からないというのに」

 私だって、本当ならこんな方法は取りたくない。
 けど、それほどまでに“水”の回避能力は高いのだ。
 だから、意識外からの攻撃じゃないと、早々通じない。

「正気の沙汰で、彼らを止めれるとでも?」

「……それもそう……ね!!」

「っ!?」

 不意を突くような銃撃。
 まさか、ここでスコールから動くとは思わなかった。
 とはいえ、少し間合いが離れた所からの発砲。射線を見て躱せる。

「くっ……!」

 相手が銃なら、こちらも銃を使う。
 銃弾なら、至近距離なら当てれるだろうと思うけど、そうはいかない。
 既に試したけど、放つ前に確実に妨害が来る。
 だから、離れた位置からでしか銃撃戦は出来ない。

「っ!」

 銃弾を小太刀で弾き、肉迫する。
 その瞬間にはスコールは銃撃をやめ、“水”を宿した動きをしてくる。
 小太刀を振るい、躱され、反撃される。
 それを防ぎ、再び攻撃、躱され、反撃。
 ……先程の流れ弾がなければずっとこうなる。

「ふっ!」

「くっ……!」

 だけど、余程単純な思考をしていない限り、ずっと続くはずがない。
 スコールの反撃が、ブレードではなく蹴りに変わる。
 それを、私は腕で受け止める。

「はっ!」

「ふふっ」

「くぅっ……!?」

 受け止めた所から小太刀を振るう。……が、躱される。
 スコールは受け止められた体勢から捻るようにブレードを振るってくる。
 鋭い反撃を受け止め切れず、私は後退させられる。

「っぁ!」

 即座に横に飛ぶ。
 寸前までいた場所を銃弾が通り過ぎる。

「シッ!」

 すぐに間合いを詰めて小太刀を振るう。でも躱される。
 ……でも……!

「っ!」

「(ただ闇雲に攻撃していると思ったら、大間違いよ!)」

 振るった小太刀はそのまま円を描くように方向を変える。
 そして、二撃目としてスコールへと迫る。

「……!」

「……これでも、通じないのね……!」

 でも、その一撃はスコールの顔すれすれを空ぶった。

「(まだ……!)」

 何度も躱されているからか、動きに若干慣れてきた。
 だからこそ、先程の一撃は当たりそうになった。

     ギィイン!

「っ、しまっ!?」

「隙ありよ!」

 だけど、その瞬間、流れ弾が小太刀に当たる。
 当然、小太刀のような小さい対象に偶然当たる訳がなく、私が流れ弾を反射的に防ごうとした結果なんだけど……。
 明確な隙を晒してしまった私は、スコールの攻撃を防げない。

「っ……!」

 でも、その攻撃は、ギリギリで躱せた。
 まるで、落ちる木葉を掴もうとして躱されるように。

「今のは……!」

「っ、はっ!!」

 スコールが驚き、私自身も驚いていた。
 だけど、一瞬早く私が動き、小太刀を振るう。

「っ……!」

「ようやく、ね……!」

 ついに、こちらからの攻撃を躱される事なく、防がせる事に成功した。
 動揺があったからこそだけど、先程のような動きにスコールは驚いていた。

「……これは……」

「………」

 正直、さっきの回避はほぼ無意識だった。
 その時脳裏にあったのは、簪ちゃんとの手合わせ。
 ……でも、あの動きに心当たりはある。と言うか、何度も目の前で見ている。

「(“水”……)」

 あの動きは、まるで“水”を宿した時のようだった。
 確かに、私は“水”に適性があると、秋十君やマドカちゃんに言われている。
 でも、“水”は例え適性があっても一番最初に会得するのは難しいはずだ。

「(出来るかしら?……いえ、やるしかないわね)」

 元より、“楯無”としては勝てない。
 流れ弾を利用しようとしても、早々こちらへは飛んでこない。
 ……だったら、“水”を使うしかない。

「(使いこなすのは不可能。それは分かってる。……必要なのは、動きを知り、攻撃を当てる事!)」

 いきなり使いこなすなんて、天才でもない限り不可能だ。
 別に使いこなす必要もない。今必要なのは、攻撃を当てる事だからね。

「この土壇場で、こんな事……!」

「まだ、不安定だけどね……!」

 “水”は、所謂武術の極致に通ずるものがある。
 今まで習得しようとしていなかったとしても、私のように、武術を修める者は習得しやすいと秋十君とかに聞いている。
 だから、私の場合土壇場で使えたのだろう。
 ……あっさり会得しちゃったら、また簪ちゃんが拗ねそうね。

「っ……!」

「くっ……!」

 攻撃、回避、防御の応酬がまた繰り返される。
 でも、違う所があった。それは、ちゃんと“攻防”として成り立っている事だ。
 さっきまでは、私が攻撃し、それを全てカウンターで返されているという、完全な劣勢だった。けど、今は違った。

「はっ!」

「っ……!」

 流水の如き一撃が、スコールに防御行動を取らせる。
 この通り、スコールもカウンターに繋げられなくなっている。
 私自身もスコールの動きに慣れ、さらには(.)(.)(.)(.)“水”を宿した動きをしている事で動きの乱れに拍車が掛かっている。

「厄介な……!」

「お互い様でしょ……!」

 力の差が縮まった事で、互いに動きの読み合いになる。
 ……ここからは、純粋に戦闘技術の競い合いね……!

「っ!」

「っ!」

 互いに攻撃が外れる。
 僅かに掠ったり、防御行動を取ったりするけど、決定打には程遠い。
 攻撃と回避と防御。それらを繰り返し……。

「くっ!」

 ついに、“その時”が訪れた。

「それは、悪手よ!!」

「しまっ!?」

 痺れを切らしたように、スコールは銃を至近距離で使う。
 でも、それは不完全とはいえ“水”を扱えるようになった私には悪手すぎた。

「ぁあっ!!」

 銃弾が放たれる前に、手で射線をずらす。
 同時に、小太刀でブレードを防ぎ、その場で蹴り上げた。
 狙いすましたその一撃は、綺麗にスコールへと決まった。

「っ、ぁ……」

「早々に私を倒さなかった。それが貴女の敗因よ」

 受け身の戦法だったから仕方ないのだろうけど、時間をかけたのがいけなかった。
 結果的に、私は“水”の動きを不完全とは言え使えるようになり、私が勝った。

「……一歩、足りなかったのね……」

「そう言う事、よ!」

 トドメに、小太刀を振るい、それを鳩尾へと叩き込む。
 当然だけど、峰打ちだから切れる事はない。でも、気絶させるには十分だ。

「……気絶させたとはいえ、全然傷を負っていないってどういう事よ……」

 気絶させ、拘束したスコールには、傷一つなかった。
 ……大方、ナノマシンか何かで傷を治していたんでしょうけど……。

「(長期戦であればあるほど、私が不利。……だからカウンターのみの戦法で十分だと思っていたのね……)」

 致命打を受けなかったものの、今の私は掠り傷でいっぱいだ。
 戦闘は可能だけど、全力を出すには少し厳しい。

「(さすがに、生身での戦闘はもうないと信じたいけど……)」

 秋十君達三人だけを行かせたという事は、あちら側も数を合わせているはず。
 ……後は、三人に託すべきかしらね。











       =マドカside=





「ぉおおおおおおおお!!」

「はぁああああああ!!」

 オータムのブレードと、私のブレードがぶつかり合う。
 “土”の力で、私はすぐに押されるけど、即座に回り込むように動く。

「っ……!」

 “ズキリ”と、頭が痛む。
 土壇場で四属性を宿すという荒業をやっている反動だ。
 ……でも、それがどうしたと言うの?

「ぁああっ!!」

「っ!がぁっ!」

 未だに“力”では“土”を極めたオータムには勝てない。
 だから、私はスピードで翻弄する。

「っ、ぁあっ!」

「ぐっ……!らぁっ!!」

 オータムの攻撃を躱し、反撃を叩き込む。
 それをオータムはブレードで受け止め、弾く。

「っ!」

「まだまだぁ!!」

 避ける。避ける。避ける。
 “水”と“風”のおかげで、私の回避能力は非常に高い。
 そこへ、他の二属性も宿す事で相乗効果が働き、さらに力が増す。
 このおかげで、四属性を宿してからはオータムからダメージを受けていない。

「くっ……!」

 ……その代わり、負担によって痛みが蓄積していく。
 私が倒れるのは時間の問題だろう。

 ……でも……!

「はぁぁあっ!!」

「なっ……!?がぁっ!」

 ブレードを繰り出し、それをオータムが防ぐ。
 ぶつけ合った反動を利用し、横に回り込む。
 即座に脚を踏み込み、ブレードを振るう。
 万全の体勢で防御出来なかったオータムは、防ぎきれずに後退する。

「まだっ!」

 “土”の力で踏み込み、“風”の力で一気に間合いを詰める。
 阻止に繰り出された攻撃を“水”の力で避け、“火”の力で攻撃する!

   ―――“羅刹”

「ぬ、ぐ、ぉおお!?」

「ぁあああああっ!!」

 渾身の一撃が、オータムを防御の上から吹き飛ばす。
 ……後、少し……!

「っ、がっ……!?」

 その瞬間、頭をトンカチで殴られたような痛みが走る。
 まずい……!

「ぐ、ぅ、ぁっ……!」

 四属性を一遍に宿した反動が、ここでくる。
 宿していた力は全て掻き消え、私はその場で膝を付いてしまう。

「ぐ、ぅぅぅ……!」

 頭だけじゃない。全身が痛い。
 幸い、痛みを感じると同時にこの状態に陥ったから、痛みも一時的なものだろう。
 後遺症として残る事はなさそうだけど……。

「っ、ぁ……!はぁ、はぁ、はぁ……!」

「オー、タム……!」

 吹き飛ばされたオータムが、ブレードを支えに戻ってくる。

「……はっ、オレの、勝ちだな……!」

「ま、まだ……!」

 このままだと負ける。そうなる訳にはいかない。
 確かに、足止めの戦いでしかないこの勝負は、勝ち負けはあまり関係ない。
 これは、単純な感情。
 ……ただ、“負けたくない”……!!

「ぁあっ!!」

 ブレードを支えに、無理矢理立ち上がる。
 体と頭が痛む。属性を宿す事は叶わないだろう。
 ……でも、それでも……!

「っ、ぁあ!っ、ぐ……!」

 何とかブレードを構え、オータムの攻撃を防ぐ。
 その瞬間、私は吹き飛ばされ、床を転がる。

「属性のないマドカなんて、今更敵じゃねぇな」

「ぐ……く……!」

 オータムの言う通り、属性を宿していない私は大した事ない。
 一般人と比べればそうでもないけど、属性が関係すればそうなる。
 それこそ、オータムにとっては、亡国企業の時の私を相手にしているようなもの。
 おまけに、今の私は手負いだ。勝てるはずもない。

「(普通なら……ね!!)」

 勝てない。だからと言って諦める?冗談じゃない。
 私はこれでも負けず嫌いなんだ。
 勝ち筋が残っている限り、諦めるなんてしない!

「ぁ、ぁああああああああ!!!」

「ちっ、まだ動けるのか……っ!?」

 力の限り吠え、突撃する。
 体が痛い。頭が痛い。痛みで視界がぼやける。
 ……なら、それを利用する!

「ぁあっ!!」

 オータムが驚いたのは、私が予想外の行動をしたからだ。
 でも、私にとっては不覚を取って躓いただけ。
 ……それを、今回は利用させてもらった。

「ぐぅっ!?なんつー強引な……!」

 躓き、体勢が崩れる。
 その状態からの無理矢理な攻撃。
 それは、オータムの想定を上回る動きで、そのおかげで攻撃が通じた。

「ぁああああああああああ!!」

「なっ……!?」

 さらに、ブレードを支えに立ち上がると同時に、ブレードを投げ捨てる。
 素手となり、さらに突っ込んできた私に、オータムは面食らう。

「っっ……!今のオレをそれで押し切れると思うなよ……!」

 戦闘している内に、私達は壁際にいた。
 だから、このまま壁に押し込んでどうにかしようと思っていた。
 けど、オータムは“土”を宿している。
 そんな相手を、押し込む事なんて属性なしでは出来ない。

「(だったら!)」

「んなっ!?」

 押し込む必要なんてない。
 懐に入り込む形で突っ込んだ私には、もう一つ手がある。
 オータムのブレードを持つ腕を、抱え込むように持つ。
 そして……!

「っ、らぁああああああ!!」

「っ―――――!?」

 そして、そのまま、背負い投げ。
 大地の如き力と防御力を持つ“土”の力でも、体重までは変わらない。
 だから、この技は通じる!

「が、はっ!?」

「柔よく剛を制す。日本に伝わる言葉だよ、オータム!」

 床に叩きつけられたオータムに、私は体重をかけて追撃する。
 もしオータムが“水”も扱えたら、確実に勝てなかっただろう。
 属性も完璧じゃない。相性や状況によってはこのように柔術であっさり勝てる。

「っ……あー、くそ。負けた、か……」

「……の、割には普通に喋るじゃんか……」

「バッカ。空元気だこんなもん」

 正直、私も満身創痍だ。
 ブレードの支えがなければ、今にも倒れてしまいそうなぐらいに。

「……とりあえず、拘束させてもらうよ」

「負けたんだ。文句は言わないさ」

 痛い体に鞭を打ち、何とかオータムを拘束する。
 すると、皆も勝ったのか集まってきていた。

「皆……」

「ちょっ、マドカ、ボロボロじゃんか!?」

 駆け寄ってきたシャルに、体を心配される。
 まぁ、一番ダメージが大きいのは私だしね。

「まぁね……。ちょっと、このまま追いかけるのは厳しいかな……」

「……そうみたいだね……」

 見れば、楯無さんとかも小さい傷を負っている。
 ……まだ戦えるのは、シャルとセシリア……。
 後は、少し休んで回復した簪とラウラぐらいか……。

「……少し、休みましょう」

「え、でも……!」

 楯無さんの言葉に、鈴が反発する。
 確かに、早く秋兄たちの助けになりたいのは分かる。
 でも……。

「……今行った所で、邪魔になるだけだよ」

「っ……それも、そうね……」

 多分、冬姉は両親と、箒は束さんと、そして、秋兄は桜さんと戦っている。
 ……その戦いを邪魔する事はできない。

「(……頑張って……)」

 だから、私はまだ戦っているであろう皆に、そう祈るしかなかった。









 
 

 
後書き
胡散臭い神父…どこか愉悦を楽しんでそうな神父。八極拳が扱える。ちなみにこの世の物とは思えない程の辛さの麻婆豆腐を好んで食べていたりする。 

 

第68話「上級者向け親子喧嘩」

 
前書き
―――親だろうと誰だろうと関係ない。馬鹿な事をする馬鹿を止めるだけだ。


銃や剣が使われる親子喧嘩()。なお、タイトルはネタ。
と言う訳で、千冬VS織斑夫婦です。
決して二人を両親として呼ばない千冬。割と放置されていた事に対する恨みは強いです。
 

 





       =千冬side=







     チュン!

「っ……!」

 銃弾が壁に弾かれる音を聞きながら、駆ける。
 決して、銃弾に当たらないように、床を、壁を、天井すらも。

「はぁっ!」

「っ!!」

     ギィイイン!!

 そこへ追いつくように、ブレードが私に迫る。
 だが、当然の事ながら黙って喰らう訳がない。
 私も持つブレードでそれを受け止める。

「ちっ……!」

 だが、そのままブレードによる攻防は繰り広げられる事はない。
 すぐさまそこから離脱しなければ、銃弾が私に当たってしまうからだ。

「……さすがは……と言うべきか?」

「俺達の攻撃を凌いでいながらよく言うぜ」

「ほざけ、本気など出していないだろう」

 会話のドッチボールと言わんばかりの鋭い言葉を投げつける。
 ……この二人には、これぐらいがちょうどいい。

「それはお互い様だ。……なぁ?」

「っ、ちっ……」

 確かに、私もまだ本気を出していない。

「……いいだろう。そういうのなら、本気で倒そう」

「そうこなくちゃ」

 途端に、相手が動く。
 ブレードを手に、間合いを詰め、もう一人が後ろから銃弾を放つ。
 狙いがずれれば、同士討ちがありえる位置だというのに、それは起こらない。
 ……それは、偏に彼らのコンビネーションが人一倍優れているからだろう。

「ふっ!」

「はぁっ!」

     ギィイン!ギギィイン!!

 そしてそれは、私がブレードを受け止め、位置をずらそうとしても変わらない。
 まるでどう位置をずらされるかもわかっているかのような動きだ。

「(……それも当然……か)」

 認めたくはないが、相手は私の両親だ。
 私の事は人一倍理解しているだろう。おまけに、動きに関しては束や桜から聞いていてもおかしくはない。
 ……動きがわかっていれば、どう動かされるかも大体わかる訳だ。

「ちぃ……!!」

 本当に歯痒い。ここまで劣勢を強いられるなど。

「(……思えば、苦戦した事などなかったな)」

 束や桜とは、幼い頃に何度か手合わせをした事がある。
 だが、こと戦闘において私は二人すらも上回っていた。
 今でこそ男である桜の方が優れている部分はあるだろうがな。
 そして、ISでも同じだ。私は苦戦した事などほとんどなかった。
 傍目から見れば劣勢であるような状況でも、私はそうは思っていなかったな。
 ……だから、“苦戦”はこれが初めてだ。

「くっ……!」

 飛んでくる銃弾を避けたり弾いたりしつつ、ブレードの攻撃を対処する。
 実力による拮抗は、桜や束で経験している。
 だが、連携による拮抗は初めてだ。だからこそ、苦戦しているのだろう。

「ふっ!」

「はぁっ!」

     ギィイン! ギギィイン! ギィイン!

 瞬間的な力も、速さも、連撃の数も、私が上回っている。
 だが、それを補うように銃弾が飛んでくる。
 それを回避するために、どうしても押し切る事が出来ない。

「厄介な……!」

 これは、普通であれば絶対に勝てないだろう。
 ……普通であれば、だが。

「………!」

「むっ……!」

 私の動きが、途端に滑らかになる。
 先ほどまでは、“風”と“土”だけで戦っていた。
 そこに、さらに“水”を付け加える事で、回避力が増す。
 そのおかげで、弾丸はほとんど気にせずに躱せ、近接戦に集中できる。

「なら、こっちも力を上げるぞ!」

「っ!?まだ上がるか!」

 途端に、二人の動きも俊敏になる。
 その結果、結局先程までと同じようなやり取りになる。

「ならば……!」

 目の前の攻撃を防ぎ、即座に間合いを離す。
 そして、壁と天井を使い、一気に後衛へと間合いを詰める。

「先に、こちらを潰す!」

「っ……!」

「はぁっ!!」

 前衛と後衛に分かれているなら、どちらかを先に倒すか決める必要がある。
 後衛が支援などをしてくるなら、前衛を一気に押し切るのもありだ。
 しかし、妨害であれば前衛を振り切ってまで後衛を先に沈めるべきだろう。

「くっ……!」

「逃がさん!」

「連携を乱しにかかったか……!」

 振るった一撃は避けられたが、そのまま追撃する。
 しかし、応戦する事なく逃げ続けるせいで、なかなか捉えられない。

「だが!」

「それも想定済みよ!」

「っ……!」

 前衛に追いつかれた所で、動きが変わる。
 先ほどまではきっちりと分かれていた前衛後衛だったが、今度は違った。
 言い表すとすれば、“臨機応変”。
 二人共動きを大きくし、狙いを絞らせないようにしてきた。
 おまけに、動き回るせいで全方位から攻撃が来るようになる。

「ちぃ……!」

 歯痒い。ここまで読まれていたとは。
 私の動きを知られているとはいえ、ここまでやられると腹が立つ。

「っ……!」

「させないよ!」

 相手が動き回るのなら、私も動くまで。
 そう考え、私も大きく動くが、そこでも立ち回りで上回られる。
 ブレードの攻撃を凌ぎつつ、銃弾を避ける。
 そのまま後衛へと攻撃しようにも、上手く近づけない。

「くっ……!」

 銃弾が飛び交う中、私は動き続ける。
 ここまで銃弾が何度も飛べば、誤射もあるはずだ。
 それがないのは、やはりコンビネーションだろう。
 ……厄介すぎるな。

「(……やるしかないか。秋十と違って、私はやりなれていないのだがな)」

 “風”と“水”の動きで避け、“土”で攻撃を防ぎながらそう考える。
 私はまだ四属性全てを使っている訳ではない。
 だから、それを使う。しかし、それはこの状況では困難な事だ。

「(まぁ、多少の代償や困難は承知だ。後は、実行するだけだ)」

 あいつらを止めるのに、それらもなしに出来るとは思えない。
 使う場面が少々予想外だが、やってやるか。

「……行くぞ」

「っ……!」

 ……技に“火”を宿す。
 体の芯から燃え上がるような、そんな感覚に見舞われる。
 そして、その感覚が風のように吹く感覚、水面のように落ち着いた感覚、大いなる大地のようにずっしりとした感覚と混じり合う。
 四属性、その全てをこの身に宿した証だ。

「ふぅぅ……!」

「っ……!」

 息を吐き、呼吸を整える。
 少しでも油断すれば、宿した四属性は消えてしまう。
 そうでなくとも、負担が掛かって頭が痛くなる。
 既に何度かやった事があるため、負担はだいぶ軽くなっているが、それでも徐々に痛くなってくる。……早期決着を目指さないとな。

「っぁ!!」

「なっ……!?」

 私へ飛んでくる銃弾を躱しながら間合いを詰める。
 真正面から来る弾はブレードで弾き、肉迫する。
 コンビネーションで近づきにくいなら、それ以上の力で叩き潰せばいい。

「ふっ!」

「ぐぅっ!」

「っ……!」

 一撃、二撃と与え、三撃目で防御の上から後退させる。
 その隙を庇うように銃弾が飛んでくるが、今の私には無意味だ。

「嘘!?」

 左右にぶれるように動く。たったそれだけで避けられる。
 正しくは、射線からずれるように動いているだけなのだが。
 よくバトルアニメであるような、弾が当たらない動きを、今の私は行ったのだ。

「はっ!」

「っ……!」

     ギィイイイイン!!

 さらに追い打ちをかけるようにブレードを振るう。
 それを防いだ所で無意味。その上から吹き飛ばして壁に叩きつける。

「まずは貴様だ!」

「っ!!」

     ギィイイイイン!!!

 銃弾を全て弾いた所で、トドメの一撃を振るう。
 だが、それはブレードに阻まれる。

「ッ……!壁を使えば、これ以上は押し込まれないだろう……!」

「ちぃっ……!」

 即座に上体を反らし、横からの弾丸を避ける。

「そして!」

「ッ!?」

     ギィイイイイン!!

 そこへブレードが叩き込まれる。
 咄嗟に防いだものの、私は若干後退する。

「……属性を宿せるのは、お前だけじゃない」

「この力……!“土”と“火”か!」

「四季ばっかり見てていいのかしら?」

「っ!?」

 鍔迫り合いをしている場合ではなかった。
 無理矢理ブレードを避け、そのまま飛んできた弾丸を斬る。
 床に倒れ込むと共に足払いを放ち、ブレードの追撃を阻止する。
 そのまま飛び上がるように床を離れ、壁を蹴ってその場から離れる。

「はぁっ!」

「邪魔だ!」

 二つの属性を宿した所で、私には敵わない。
 ブレードを受け流すように逸らし、同時に蹴る。
 その勢いのまま、まずは後衛を潰す!

「は……っ!?」

「危ないわ……ねっ!」

 だが、振るったブレードは躱され、カウンターの蹴りが返ってくる。
 手で防いだが、今の動きに若干驚いていてしまった。

「“水”と“風”か……!」

「ご明察♪」

 その速さと動きは、明らかに普通ではなかった。
 私でも、その動きを即座に捉える事は難しい。
 そして、すぐに捉えられなければ、妨害が入る事も当然だった。

「くっ……!」

「ほらほら!」

「春華ばかり見てるなよ!」

 回避しながら至近距離で弾を撃ってくる。
 攻撃を中々当てれず、僅かに焦った所で、ブレードも迫ってきた。
 劣勢を覆して、また劣勢になってしまう。
 不幸中の幸いと言えるのは、これで相手が一か所に集まった事。
 そのおかげで、間合いを取る事で息をつく暇を手に入れられた。

「(どちらも、二つに限って言えば私と同等の属性を扱える。……そして、そこへこの連携か……。なるほど、忌々しいが、文字通り二人で一人、もしくは比翼連理とでも言おうか)」

 二属性ずつ扱い、連携を取る。
 それによって、四属性を扱う私と渡り合っているのだ。
 いや、連携の分私の方が劣っているか。

「手数、単純な力、戦術、それら全てを二人で行う事で渡り合う……なるほどな」

「ま、一人では敵わないからな」

「千冬は天才の領域なんだから、これぐらいはしないとね」

「ほざけ、それほどの連携を見せておきながら、まるで自分達は天才でもないかのような言いぶりだな。笑わせてくれる」

 あのような連携など、並の人間が取れるはずがない。
 互いの動きがまるでわかり切っているかのような動き、そんなの、互いの心や動きが読めていない限り、並大抵の事では出来るはずがない。

「……秋十やマドカと違って、千冬は私達を恨んでいるのね」

「当たり前だ。どのような理由であれ、黙って子供の前から消えた親を、憎まないはずがない。秋十やマドカがそう考えていないのは、親の顔を覚えていなかったからだ」

 一夏の場合は、親が生きているのを知らないから論外だ。

「なら、これは復讐か?俺達に対する」

「……違うな」

 その言葉を、私は否定する。
 復讐など、実際に行った所で虚しいだけだ。
 秋十もそうだったからな。

「……親だろうと誰だろうと関係ない。馬鹿な事をする馬鹿を止めるだけだ」

 そうだ。こいつらは馬鹿だ。
 ……束と桜を含め、こんな方法で世界を戻そうとする、大馬鹿者だ。

「……易々と私を倒せると思うな」

 そして、天才どもが失望する程、この世界はつまらなくない。
 ……いや、その点においては、あいつらも分かっているか。

「ふっ!!」

「はぁっ!!」

「っ……!」

 手数は、“風”と“水”の分、こちらが早く、多い。
 だが、それを補うように銃弾は飛んでくる。
 今の状況は、戦闘開始時の状況とよく似ている。
 ……違うのは、その激しさだ。

「ぉおおおおっ!!」

「はぁああああっ!!」

 ブレード同士がぶつかり合い、火花が散る。
 その火花を目暗ましに使うかのように、弾丸が迫る。
 それを、体を僅かにずらす事で回避する。

「四季!」

「っとぉ!!」

 ブレードをぶつけ、その直後に蹴りを繰り出す。
 それを受け止めさせ、突きを繰り出す。
 だが、それは上体逸らしで避けられた。

「ちぃっ!」

     ギィイン!

 突いた体勢から、飛んできた銃弾を無理矢理逸らす。
 追撃の銃弾は体を捻って避ける。

「はっ!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 回避で僅かな隙が出来る。そこを突いたブレードが迫る。
 咄嗟にブレードで防御し、一歩下がる。
 銃弾が迫る。回避し、切り裂き、次に迫るブレードを斬り返しで防ぐ。

「っ……!」

 鍔迫り合いを妨害するように銃弾が迫る。
 それを跳躍して躱す。地上からのブレードを防ぎつつ、着地。
 追い打ちの銃弾を回避と防御で防ぎ、しゃがんでブレードを躱す。

「ふっ!」

「くっ……!春華!」

「ええ!」

 足払いをかけ、僅かに隙を作る。
 その間に駆け出し、銃弾を切り裂きつつ肉迫。

「ちぃっ……!」

「させん!」

 だが、やはり一撃、二撃程度では当てれない。
 その間に妨害が入る。そして、つい先ほどまでの状況と同じになる。
 ……仕切り直しか。

「(いや……)」

 先ほどまでとは少し違う。
 さっきはこの広間の中心辺りだったが、今いる場所は壁際だ。

「(動きが読まれるのなら……)」

 床を蹴り、壁を蹴る。
 跳躍し、連続でブレードを振るう。

     ギギギギィイイン!

「……よし」

「っ……」

 ブレードの威力で宙にいる私は弾かれる。
 すぐに体勢を立て直し、銃弾を弾きつつ着地する。
 そして、納得する私に対し、向こう側は苦い顔をしていた。

「(つまり、だ。私らしからぬ動きであれば、向こうも読みづらいだろう)」

 付け焼刃な動き方では、いつもの動きよりも早くやられてしまうだろう。
 だが、それも承知で今は違う戦い方をする。

「ふっ……!」

「くっ……!」

 銃弾を凌ぎつつ、間合いを詰める。
 ブレードの間合いに入る直前で方向転換、横から回り込むように動く。
 そのまま体を捻り、ブレードを叩きつける。

     ギィイン!

「ちっ……!」

「はぁっ!」

 だが、そのブレードに銃弾が叩き込まれ、軌道がずれる。
 そのせいでブレードは防がれてしまう。

「はぁあっ!!」

「っ……!」

 すぐさま私は後ろへと下がる。
 いつもなら、そのまま突破口を開く所だが、それは通じないだろうからな。
 だから、私らしくないように、回り込むような戦法で行く。

「くっ……!」

「こちらの攻撃が当たり辛いのと同じように、私もそう簡単には当たらん!」

「くそっ……!」

 先ほどまでと違い、私は逃げ回るように動き回っている。
 その上、四属性を宿しているため、銃弾は決して当たらない。

「はぁっ!」

「ちぃっ!!」

 広間を駆け回り、ブレードを振るう。
 ……押し切れないか。

「(不利ではないが、押し切れないな。それに……)」

 “ズキリ”と、頭に痛みを感じる。
 四属性を宿し続ける事による負担が、現れてきたようだ。

「(無理矢理にでも、片方を落とすか……!)」

 避けながらも属性を宿した技の用意は出来る。
 ……防御の上から、落としてやろう!

「はぁっ!」

「っ、それは読めていた!!」

   ―――“羅刹”
   ―――“羅刹”

     ギギギギギギギギギィイイン!!

「ッ……!」

 私が技を繰り出すと同時に、同じ技が繰り出される。
 結果、技同士で相殺する事になり、互いに後退するように弾かれる。
 すぐさま私は横に転がり、追撃の銃弾を躱す。

「(ダメか。技ありきだと、さすがに動きが読まれるか)」

 動きを変えているとはいえ、所詮は付け焼刃。
 肝心な所で普段の癖が出ているようだ。完全に発動を読まれていた。

「(……だが、まぁ……)」

「っ……!」

   ―――“羅刹”
   ―――“羅刹”

     ギギギギギギギギギィイイン!!

 床を蹴って跳躍、加速する。
 そして、銃弾を避けつつ再び技を放つ。
 当然、動きは読まれて同じ技で相殺される。

「(……やはり、な)」

 そこで、私は確信を得た。
 ……これなら、勝てる。

「ふっ!」

「くっ!」

     ギィイイン!!

「はぁっ!」

「なんの!」

     ギィイイン!!

 銃弾を回避しつつ、ヒット&アウェイで攻撃する。
 いくら動きを変えているとはいえ、そんな攻め方では全て防がれる。
 だが、それでいい。突破口は既に見えた。

「っ、ちぃ……!」

「はぁっ!」

     ギィイイン!!

 やはり、援護があるかないかでは、厄介さが違う。
 正直言えば、援護さえなければこのままでも押し切れる。
 決定打を作り出すのに、援護は途轍もなく厄介だ。

「(まぁ、一対一なら私が勝つのは既に分かっている事か)」

 元々、二人は個人では私には絶対に勝てない。
 だからこうして連携を取って相手取っている。

「ぉおっ!!」

「っ……!」

     ギィイン!ギギィイン!!

 何度も、何度も、馬鹿の一つ覚えのようにブレードをぶつける。
 ……そろそろ、いや、もう気づいているだろう。
 “なぜ、こうも同じ事を繰り返すのか?”と。

「(頃合いか……!)」

 息を吐き、神経を研ぎ澄ませる。
 四つの属性を意識し、一気に踏み込んだ。

「っぁあああっ!!」

「これは……!!?」

   ―――“四気一閃”

 銃弾が当たるよりも駆け、一気に間合いを詰める。
 そして、渾身の一閃を放った。

「ぐ、ぉおおっ!!」

   ―――“剛毅一閃”

 相手も対抗して、“火”と“土”を宿した強力な一撃を放つ。
 ……だが、無意味だ……!

     ガ、ギィイイイイン……!!

「ッ……!?なっ……!?」

「はぁっ!!」

「しま、がはっ!?」

 ブレードとブレードがぶつかり合った瞬間、相手のブレードが砕け散るように折れた。
 そして、間髪入れずに蹴り飛ばし、後衛諸共壁際まで追いやる。

「技そのものの威力、鋭さ、重さ。そしてブレードの耐久力。それらを見極めれば、この結末にする事ぐらい容易い」

 四属性を宿した究極の一閃。
 威力が高いのはもちろんの事だが、負担も大きい。
 現に、私の頭がズキズキと痛む。

「(……代わりに勝てたのだから、御の字だがな)」

 ブレードが折れたのは、ただ私の技が押し切った訳じゃない。
 何度もブレードを同じ箇所へぶつけ、さらに強力な斬撃で耐久力を減らす。
 そして、頃合いを見て先程のように全力をぶつけたのだ。

「(気づけたのは偶然だったが……上手く行って良かった)」

 気づいたのは、羅刹同士をぶつけ合った時。
 相殺されるとはいえ、あの時点で私の方が威力は勝っていた。
 そうなれば、相手のブレードへの負担は大きいと分かる。
 そこから、先程のような流れに持って行ったのだ。

「くっ……!」

「遅い」

 すぐに間合いを詰め、銃をブレードで弾き飛ばす。
 予備があろうと、すぐに弾いてやる。

「勝負あったな」

「………」

「そう、だな……」

 ブレードを突きつけ、そう宣言する。
 相手も素直に認め、動こうとするのをやめた。

「……計算なら、最低でも互角と思っていたんだがな……」

「私を侮ったな。何を基準に計算したのかは知らないが、人は成長するものだ。今日の私が昨日までの私と強さが同じだと思ったか?」

「成長込みでの計算だったが……はは、さすがは千冬だ」

 思わず舌打ちしたくなる。
 正直、私はこの二人とあまり会話したくはない。
 ……何とも言えないどす黒い感情が湧いてくるからだ。

「……なぜだ」

「ん?」

 ……ふと、勝手に口が開いていた。

「……なぜ、幼い私達を置いてどこかへ行った」

「なぜ……か」

 そして、無意識のうちにそう尋ねていた。
 だが、確かに気になる事でもある。
 普通……ではない二人だが、それでも理由もなしに子供を置いて行方を晦ますなんてありえない。

「……理由なんざ、考えるだけ出てくるが、どれも“言い訳”の域を出ない」

「そうね。強いて言うなら……“勘”ね」

「っ、言う事に欠いて、それか……!」

 ただ“勘”でそう思ったから、私達は置いて行かれたというのか……!
 その応答は、私を怒らせるのにあまりにも十分すぎた。

「そうだな。普段から俺達は感覚で動いていた。……だが、よく考えろ千冬」

「もし、私達があの選択をしなかったら、今はないのよ?」

「……はっ」

 その言葉に、怒りを通り越して呆れが来た。
 あの選択がなければ?笑わせる。

「詭弁にすらならんな。と、言うより、逆の状況も考えられるはずだ。あの選択をしなければ、今よりも良い状況になっている可能性もな」

「……そうだな」

「言い訳もないわ」

 そういって、お手上げだと両手を上げる二人。

「なぁ、千冬。“世界の修正力”って知っているか?」

「何……?」

「言い換えれば“運命”や“宿命”とも言えるわね。……桜君と束ちゃんが言っていたわ。もしかすれば、どうあっても私達はあの時期に千冬達の前から姿を消していたと」

「は……?」

 “世界の修正力”というワードだけでも意味が分からない。
 一体、何を……。

「“平行世界”……ありとあらゆる“IF”が存在する似て非なる世界。でも、お互いに影響し合うらしいわ。その結果が、私達の失踪。他には……マドカが亡国企業に入るとか、かしらね」

「……どう言う事だ」

「詳しく話す暇があればいいんだがな……」

 突拍子もない事を言われ、思わず説明を求める。
 そして、軽くだが説明してもらった。

 ……なんでも、桜は眠りから醒める前、“神”なる存在と会ったらしい。
 その際に貰った知識が、とあるライトノベルの物語だった。
 その物語の世界と、この世界は非常に似通っているらしい。
 そして、先程言っていた“修正力”。
 それはつまり、その物語の流れにある程度沿うように、運命が決められているのだろう。

「………」

 ……当然だが、信じられない。
 だが、こんな事で嘘を言っても意味がない。
 非常に信じ難いが、事実なのだろう。

「……だが、例えそうだとしても……」

「ああ。俺達が失踪した事実はそのままだ」

「っ……!」

 つい拳が出そうになる。
 だが、今はそんな場合ではない。

「……自分達がした事、ちゃんと償うんだな」

「分かっているさ」

「先に進みなさい。千冬」

 二人の横を通り、私は先へ進む。
 ……先に進んだ二人がどこにいるのかは分からない。
 だが、相手が相手だ。もし負けたなら……私がやるしかあるまい。

「(あいつらがISに乗るのなら……)」

 首に掛かるペンダントに手を当てる。
 そのペンダントは私の新しいIS、想起の待機形態だ。
 ……ISには、ISでしか対抗できないだろう。

「(束は分からんが、桜は二次移行している。……普通にやりあうのでは私が不利……いや、そもそもISが応えてくれるか分からないな)」

 ISは所謂“拒否権”を得た。
 もし、担い手が意思に反する思想でISに乗るならば、動かせないように。
 それは私でも例外ではない。

「(幼馴染として、あの馬鹿どもを止めるんだ。……応えてくれるか?)」

 私とて、あいつらの本来の願いは叶えてやりたいし、私自身も叶えたい。
 そう思って、想起に声を掛ける。









   ―――“チカリ”と、応えるように想起が光った気がした。















 
 

 
後書き
本命の戦いの前に、それ以外のキャラが各々の相手と決着を着ける……王道物のRPGでありそうな展開になっています。まぁ、桜や束がそう言うのを望んだんですけど。 

 

第69話「天才の姉、努力の妹」

 
前書き
―――……強くなったね、箒ちゃん


箒VS束です。
……ぶっちゃけ、箒には強化描写がないので、過程や理由のないパワーアップをしているようなものですが、秋十同様にずっと努力をしていました。
今に至るまで、篠ノ之流を学びなおしていたりもします。
 

 






       =箒side=





 姉さんは、天才だ。
 それは、今や世界中の誰もが知っている事だ。
 天才で、なんでも出来て、そのせいで周りと上手く関係を持てなかった。
 “なぜ、自分のように出来ないのだろう”と、そう思ってしまっていた。
 そのため、周りを下に見てしまい、関係が持てなかったのだろう。
 そんな時、千冬さんと桜さんに姉さんは出会った。
 桜さんは姉さんのように、千冬さんは別方面で天才だった。
 だからこそ、意気投合し、また頭脳では天才ではない千冬さんがいたからこそ、周りに対する理解もマシになったのだろう。

「………」

 ……そんな天才な姉さんの本気を、私は見た事がない。
 なまじ天才なため、実力を出し切る機会がなかったのもある。
 桜さんや千冬さんが本気を出させた事があっても、私は直接見た事はない。
 父さんも篠ノ之流の当主として立ち会った時、見た事があったらしいが……。

「っ………」

 そんな姉さんが、今、私の相手として立っている。
 対峙する。それだけで理解ができた。
 “普段から本気が見られない”。その訳が。

「(隙が……ない……!)」

 私の知る、ふざけた態度の姉さんとは大違いだ。
 これが姉さんの本気であり、私に対する誠意なのだろう。

「………!」

 篠ノ之流は、何も“剣道”だけじゃない。
 “剣術”としても知られている。
 道場として機能しているのは、基本的に“剣道”の方だが……。
 高校生まで、私は家の流派を“剣道”としてしか習っていなかった。
 だが、今は“剣術”としても篠ノ之流を修めている。
 ……それが、何を意味するかと言うと……。

「……っぁあ!!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 今の私なら、例え全力の姉さんが相手だろうと、立ち向かえるという事だ。

「……まさか、真正面から来るとはね」

「どこからでも同じでしょう」

 短く会話を交わした瞬間、私のブレードが弾かれる。
 そのまま返すブレードで私を狙ってきたので、しゃがんで躱す。
 同時に足払いを掛けるようにブレードを振るう。

「っと」

「っ!」

 だが、それはあっさりと跳躍して躱され、落下を伴った振り下ろしが繰り出される。
 咄嗟に横に転がる事で、それを回避する。

「くっ!」

     ギィイイン!

 そして、起き上がる前にブレードを盾のように構える。
 そこへ斬撃が叩き込まれる。

「っ……!つぁっ!!」

「ッ!……っと」

 受け止めた状態から何とか逸らし、気合と共に一閃。
 結果は避けられたが、これで一度間合いを取る事ができた。

「(力、速さ、鋭さ、判断力、洞察力、全てで上回られるか……!)」

 分かっていた。わかっていた事なのだ。
 ……だが、それでも驚かずにはいられない。

「(属性……いや、ダメだ。姉さんは全属性扱えると言っていた。使ってもまともに敵うはずがない)」

 そもそも、今は互いに属性を使わない状態で戦っている。
 私が属性を宿していないから、姉さんも対等であろうと手加減してくれているのだ。
 ……手加、減……?

     ―――ギリィッ……!

 思わず、歯ぎしりしてしまう。

「(この期に及んで、手加減……だと?ふざけるな、ふざけるな!殺し合いではないとはいえ、これは真剣勝負だ!手加減なぞ……!)」

 いや、そもそも、そうさせたのは誰だ?どうしてなんだ?
 ……私だ。私が属性を宿していないから、こうなっているんだ。

「っ……!」

 憤りを感じた。姉さんにではない。私自身にだ。
 一体何をしているんだ?この期に及んで“甘え”が出ているぞ?
 ……全力でぶつからなくては意味がないだろう?

     ギィイイイン!!

「ッ……!」

「っとぉ……!」

「は、ぁっ!!」

     ギギギギギィイイン!!

 間合いを詰め、斬る。
 ただ我武者羅にではなく、篠ノ之流を修める者として、狙いを定めて斬る。
 私の突然のスピードアップに、姉さんは即座に対応してきた。
 だが、僅かに遅い。間髪入れなければ、こちらが優勢だ……!

「甘いよ!」

「っ!!」

 ……尤も、“優勢”なだけで、勝てる訳じゃない。
 攻撃と攻撃の合間に繰り出された一閃に、思わず後退してしまう。

「(実力が私の方が劣っているというのに、優勢になっただけで勝てる訳がないだろう。私は馬鹿か……!)」

 姉さんは積極的に攻めてくる事はない。
 だが、お互いに隙を伺っている。
 ジリジリと、距離を保ったまま部屋の中を回る。

「(さっきのように行く事は絶対にありえないと思え!ここから先は姉さんも属性を使うはずだ。……ただ全力でぶつかる!!)」

 搦め手などが苦手な私は、結局それしかあるまい。
 普通にやっても通じないのであれば、通じるまで試せばいい。

「はぁああっ!!」

「っと」

 ブレードを振るう。防がれる。
 再び振るう。今度は躱される。
 また振るう。逸らされ、反撃が繰り出された。何とか躱すも、体勢を崩す。
 だが、そこを踏ん張り、再びブレードを振るう。
 ……姉さんの目が、少しだけ見開かれた。

     ギィイイイン!!

「ぐ、くっ……!」

「っ……はっ!」

「っあ……!」

 体勢を立て直しつつ、防がれたブレードを押し込もうとする。
 すぐに押し返されてしまうが、同時に間合いを取る事で反撃を躱す。

「っっ……!」

「……!」

 即座に踏み込み、ブレードを振るう。
 だが、やはり当たらない。

「(でも、それがどうした)」

 当たらないのは百も承知。だから焦る必要はない。
 今必要なのは、常に神経を研ぎ澄まし続け、ひたすらに一つ前の攻撃よりも早く、重く叩き込む事を意識する事だ……!

「ふっ!」

「っっ……!」

     ギィイイン!!

 ブレードで薙ぎ払われ、防御の上から私は後退する。
 当然だ。“風”と“水”しか宿していない私では、四属性を宿す姉さんに力で勝てるはずがない。

「は、ぁっ!」

 何度弾かれようと、やる事は変わらない。
 ただただ心の赴くままに、ブレードを打ち込む……!!













       =out side=







「(……一体、何を……)」

 箒の攻撃を受け続ける束は、箒が何を狙っているのか探っていた。
 実力の差もあり、束は積極的に攻める事はない。否、必要なかった。
 だから甘んじて攻撃を捌き続けているのだ。

「(何を狙って……ううん、これは、もしかして……)」

 何度も攻撃を仕掛けられれば、束は当然のように狙いが分かる。
 そして、今回も気づいていた。

「(……攻撃を重ねるごとに、重く、速く、鋭くなってる……!)」

 戦闘を続けるに連れ、体力は落ちていく。
 そのはずなのに、箒の太刀筋はより洗練されている事に。

「はぁあっ!!」

「っ……!」

     ギィイン!ギィン!ギギィイン!

 何度も、何度でも、箒は斬りかかる。
 いくら避けられようとも、受け止められようとも、弾かれようとも。
 束が反撃に出ない事を良い事に、ただただ攻撃を重ねた。

「(やっぱり、間違いない……!)」

「は、ぁっ!!」

     ギギィイン!!

「(箒ちゃん、この戦いの中で、成長し続けている……!)」

 洗練されていく太刀筋を受け止めつつ、束は確信する。
 ありえない程のスピードで、箒は束に追いつこうと成長しているのだと。

「っ……!?」

「そこだ!」

「くっ!」

     ギィイイン!!

 ついに、躱そうとしたところで束にブレードが掠る。
 それに一瞬動揺した事を箒は見逃さずに追撃。
 束は即座に意識を切り替えてその追撃を防ぐ。

「っ、まだまだ!」

「ッ……!」

     ギギィイイン!!

「ぐぅぅ……!」

 さらに追撃しようとする箒。
 だが、次の瞬間に咄嗟に防御を行った。
 そこへ叩き込まれる束の“反撃”。
 防御の上から箒は大きく後退した。

「……強くなったね、箒ちゃん」

「ッ……!」

 体勢を立て直し、再び斬りかかろうとして……踏鞴を踏む。
 束から改めて放たれた剣気に、攻撃を躊躇してしまったからだ。

「最初はしばらく受け続けるだけにしようと思ったんだけど、それだと負けそうだから……」





   ―――今度は、私からも行くよ?





「ッ―――!!」

     ギギギィイイン!!

 それは、偶然と言えた。
 束がそういった瞬間に、箒はその速さに束の姿を一瞬見失った。
 その間に間合いを詰めた束の斬撃を防げたのは、箒の直感が良い方向に働いたからだ。

「く、ぅっ!」

「甘いよ!」

     ギィン!ギギギィイン!!

 “風”と“水”を宿していても、その動きは見切れない。
 それほどの()さで束は攻撃を仕掛けてくる。
 さらには、体勢を立て直す暇もないため、箒は防戦一方になってしまう。
 それでも防げているのは、動き自体は見えているからだろう。

「く、っぁああ!!」

     ギィイイン!!

「っ、はっ!」

「ぐぅうっ!?」

 だが、箒も“意志”では負けていなかった。
 床を蹴るように無理矢理体勢を立て直し、ブレードを振るう。
 その一撃は、束の攻撃を一度阻止する事に成功した。
 尤も、第二撃がすぐに放たれ、箒は防御の上から床に転がされたが。

「ふっ!」

「っっ……!」

     ギィィイン!

 起き上がろうとする箒へ、ブレードが振り下ろされる。
 ブレードを盾にし、横に逸らす事で、箒はその攻撃を凌ぐ。
 同時に、弾かれるように横へと転がり、その勢いのまま起き上がる。

「シッ!」

「くぅっ!」

     ギィイン!ギギィイン!!

 袈裟や突き、様々な動きで束は箒へ斬りかかる。
 それらを何とか凌ぐ箒だが、防戦一方になってしまう。

「(このままで……終われるものか!)」

     ギィイン!!

「っ!?」

「くっ……!ぁあっ!?」

 負けられない意志が、箒の体を突き動かす。
 束の突きを、箒は最適な形で受け流し、反撃を繰り出した。
 残念ながら、その攻撃は躱されてしまうが、束もそれに驚愕していた。
 箒は反撃を防御の上から喰らい、大きく後退させられる。
 追撃を逃れるために、すぐさまその場を飛び退いた。

「(……本当に、凄い。……次々と、私の予想を超えてくれる……!)」

「(まだだ!まだ、姉さんには届かない!もっと早く、鋭く!)」

 妹の成長に歓喜する束に対し、箒はただ冷静に、それでいて熱く思考を巡らせる。
 この動きが通じなければ、別の動きを、それも通じなければさらに別の……。
 そうする事で、箒はあり得ない程の速度で成長し続けている。

「はぁっ!」

「っ!」

     ギィイン!ギギィイン!

「くっ……!まだだ!」

「っと……!甘い!」

     ギィイイイイン!!

「ぁあっ!」

「くっ……!」

     ギギギィイン!!

 箒はとにかく速く動き、何度も攻撃を繰り出す。
 束はそれに対し、適格に防御。そして反撃を繰り出していた。
 “火”と“土”の分、箒は反撃を防御しきれずに何度も後退していた。
 だが、それに構わず何度も箒は斬りかかる。
 当然、その度に箒は体力を減らしていった。

「ぉおっ!!」

「っ……!?」

 ……だと言うのに。

「まだ、だっ!!」

「っ……!」

 その剣筋に、一切の衰えが見られなかった。
 むしろ、さらに磨きが掛かっていた。

「(ありえない……って言いたいんだけどなぁ……)」

「はぁっ!」

「っ、はっ!」

「ぐっ……!」

 どんどん剣筋が鋭くなるのをその身で感じて、束は冷や汗を掻いていた。

「(元々、下地はあったって事なんだろうね)」

「くっ……!」

 だが、例え途轍もないスピードで成長するとしても、それでも大きな差があった。
 元々全てにおいて束の方が優れており、その上“地”と“火”の属性の有無。
 そして、“四属性を扱えるかどうか”だけでも相当の差があった。
 いくら成長しようと、その差を埋める事は不可能と言えた。

「はぁっ!」

「っ、甘い!」

     ギィイイン!!

「ぐぅ……!」

 既に五度、箒は防御の上から吹き飛ばされ、床を転がっている。
 それでもなお、箒は立ち上がる。

「(……一体、箒ちゃんを何がここまで突き動かしているの……?)」

 想いか、信念か、執念か。箒を突き動かす原動力が、束にはわからなかった。
 だが、考えている余裕は徐々になくなっていく。
 束の動きに、箒も慣れてきたのだ。

「そこだ!」

「っ……!」

 束の反撃を回避し、カウンターを放つ。
 それを避ける束の表情には、余裕はなかった。

「(まだか!)」

「(危ない……!)はぁっ!」

     ギィイイイン!!

「ぐっ……!」

 回避した直後に束は回し蹴りを繰り出す。
 それを顔を逸らす事で箒は回避するが、追撃のブレードで大きく後退する。

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

「………」

 既に箒は息を切らしている。
 対し、束は先程の一撃で少し息が乱れた程度。すぐに整う程度しか疲れていない。

「(……だと、言うのに……)」

「はぁ……はぁ……っ……!」

「(どうして、“何かある”と、そう思えるの……!?)」

 いくら成長が著しくても、最初の実力差は歴然だった。
 戦闘を続ければ続ける程、不利になるのは箒だ。
 実際に、こうして箒の勝ち目はほぼ完全に潰えた。
 どうあっても、油断さえしなければ負ける事はない状況だった。
 そして、現在の束は一切の油断や慢心をしていない。
 ……だと言うのに、束は全くそれで終わると思う事が出来なかった。

「……なぜ、諦めないのか」

「っ……!」

「姉さんは今、そう考えていますね?」

 図星だった。ただ、厳密には“何を原動力に”諦めないのか、だが。

「……単純で、聞く人によっては馬鹿らしい理由だ。……秋十は、これ以上の苦境を諦めずに過ごしてきた。なら、それをどうする事も出来ない……いや、苦境の一端を担っていた私が、この程度で挫ける訳にはいかない」

「………」

「そして、そんな苦境を乗り越え、強くなった秋十に、私はただ追いつきたい。……そんな想いで、今立っている。……それだけだ」

「……なるほど、ね」

 箒の言葉を聞き、束は一時戦闘を中断して少しの間考え込む。
 確かに、聞く人によっては自分勝手で馬鹿らしい理由だ。
 だが、その理由を以ってどれほどの原動力を見せるのかも、人による。
 詰まる所、それだけ、箒は覚悟を決め、そして実際に見せているのだ。

「……馬鹿になんか、出来ないよ。それだけ、箒ちゃんの想いは強い」

 それを理解し、束は構えなおした。
 その瞬間、箒も理解する。……ここからが、本当の本番だと。

「……その信念、その想い。私の全力を以って受け止めてあげる。……だから箒ちゃん」

「………」

「……乗り越えてね?」

 ―――その瞬間……。



     ギィイイイン!!

「ッ……!?」

 箒は、“体が勝手に動く”と言うのを実感した。

「(早い……!少しでも鍛錬を怠っていたら、今ので負けていた……!)」

 何度も鍛錬を重ね、仮想敵に束を据えて何度もシミュレーションをしていた。
 また、秋十の伝手で高町家の面々とも手合わせを何度もしていた。
 ……その事もあり、束の不意打ち染みた全速力の一撃を受け止める事が出来た。

「シッ!」

「ッ!!」

     ギギィイン!!

 体勢を立て直すと同時に迫る束の斬撃。
 それを、何とか受け流す事で、直撃を避ける。
 だが、それだけで箒は大きく後退する。

「はっ!」

「くっ……!」

 そこへさらに追撃が迫る。
 箒は辛うじてその一撃を避け、そのまま反撃を繰り出す。
 しかし、それを束は“水”で避ける。

「ぐ、はぁっ!」

「ふっ!」

     ギィイイイン!!

 互いに“水”と“風”の効果で避け続ける。
 だが、地力では束の方が上だ。
 よって、ついに箒が攻撃に移るまでに束の対処が追いついてしまった。

「くぅっ……!」

「シッ!」

「ッ!はぁっ!!」

 “火”と“土”の有無による差で箒は後退する。
 そこへ放たれる追撃の刺突を、箒は顔を傾ける事で掠るに留める。

「ッ、ここだ!!」

     ギィイイン!!

「なっ!?」

 攻撃を避けた箒は、束本人ではなくブレードへと攻撃を叩きつける。
 しかも、()()()宿()()()()

「隙あり!」

「ッ!」

 束が動揺した瞬間に箒は肉薄する。
 ブレードを振り下ろすのではなく、ブレードを持っていない手で体勢を崩すように掌底を放ち、逆手にブレードを持ち替えると同時にそのまま柄で突いた。

「ぐっ……!」

「っ……」

 そこから箒は、深追いせずに下がった。
 深追いをすれば反撃を喰らうと読んだからだ。

「……驚いただろう。姉さん」

「……まぁね。一体、どうやったのさ?」

 先ほどの自身に当てた一撃……ではなく、ブレードを弾いた一撃。
 本来なら、“水”か“風”を宿している時点で対処できるはずだった。

「私には、姉さんに対抗できるほど属性を極める事も、宿す事も出来なかった。だから、その代わりに“弱点”を探った」

「……“弱点”、ね」

「“火”や“土”、“風”はともかく、“水”は攻撃を当てるのに単体だけでも厄介だ。同じ“水”を扱うか、相手の反応速度を上回らなければならない」

 この辺りは属性を扱う者の間では当たり前の事だ。

「だが、その必要はなかった。……属性を扱わずとも、いや、扱わない且つ似通った性質の一撃なら、通じる」

「…………!」

 箒にも目に見えて、束は驚いた。
 この事は、束はおろか桜も知りえなかった事だ。
 否、二人程の実力者だからこそ気づけなかった事でもある。
 何せ、弱点が露呈する程の戦闘になった事がないのだから。

「今ので確信を得た。……超えさせてもらう……!」

「っ、そう簡単には、負けないよ!」

     ギィイイン!!

 再びブレード同士がぶつかり合う。
 だが、束の動きが、若干攻撃を躊躇いがちになっていた。
 箒から弱点を聞き、その弱点を突いてこないか警戒していたからだ。

「ふっ!」

     ギギィイイン!!

「っっ……!」

 依然、束の方が押している。
 だが、時たま放たれる属性を宿していない斬撃が、束の攻撃を弾いていた。

「っ、ちぃっ……!」

「(危ない……!)はっ!」

「ぐっ……!」

 ブレードを弾いた事で作った隙を突き、箒は貫手を放つ。
 だが、それはギリギリで躱され、代わりの反撃である回し蹴りを手で受け止めた。

「ッ……!ぁあっ!!」

「っ!?」

     ギィイイン!!

 後退する所を、箒は無理矢理前へ踏み込み、ブレードを振るう。
 追撃しようとしていた束に、必要以上に接近したため、互いに全力の一撃にはならず、お互いに体勢を崩す事になる。

「っ、まだだ!!」

「嘘っ!?」

     ギィイイン!!

 お互い体勢を崩したため、体勢を立て直そうとする。
 だが、箒はさらに前に出るように足を踏み出し、ブレードを振るった。
 そこまでごり押してくるのは束にも予想外で、充分に“土”の力を振るえずに攻撃を受ける事となった。

「っづ、ぁ、あっ!?」

 そして、そのまま箒に押し負け、壁に叩きつけられるように吹き飛んだ。

「さら、に、鋭く……!?」

 疲労が溜まり、ダメージも溜まり、何よりも万全の体勢じゃなかった。
 だが、それにも関わらず、箒が放った一撃は、さらに鋭く、重くなっていた。

「ふ、ふふ……」

「………」

 壁に追い込まれた束は、笑みを漏らす。
 それに対し、箒は無闇に攻めずに様子を見る。

「本当に、本っ当に……最っっ高だよ!!他ならぬ箒ちゃんが!私を超えようと!何度でもぶつかってくる!!」

「っ……」

 歓喜の声を上げる束に、箒は若干気圧されて一歩下がる。
 恐れて……ではない。ただ単に、あまりの喜びように驚いただけだ。

「ずっと、ずっと待っていた!同じ天才じゃない。積み重ねた“努力”で強くなった相手に、全力でやって負ける事を!空を自由に飛べる日の次に、私は待ち焦がれてた!」

「姉さん……」

「それが!今日!両方訪れるなんて……!本当に……!」

「ッ!」

     ギィイイイン!!

「最っ高だよ、箒ちゃん……!」

「ぐ、ぅ……!」

 束のブレードを受け止めた箒は、その重さに顔を苦悶に歪める。
 だが、“負けていられない”と、箒は自らを奮い立たせ、持ち堪える。

「っ、ぁあああああああっ!!」

「ッ!」

     ギッ、ギィイイン!!

 二閃。一撃目の音が響く前に、二撃目をぶつけ合う。
 その反動で、箒は大きく後退する。

「つぁっ!!」

「はぁっ!」

     ギィイイン!!

 その直後、箒は無理矢理踏み込み、ブレードを振るう。
 執念の籠った一撃と、束の気合が込められた一撃が、ぶつかり合う。
 そして、“火”と“土”の差があるにも関わらず、相殺された。

「追い、ついた……っ!!」

「くっ……!」

 例え、いかな成長を遂げようとも、戦いの最中に天才に追いつくのは無理がある。
 箒は気づいていない事だが、これは執念などの想いによる一時的なものだ。
 だが、その一時的な力が、束を追い詰めている。

「はぁあああっ!!!」

「っ、はぁっ!!」

 互いに気合の込められた声が漏れる。
 箒の意地と、それを受け止めようとする束の想いのぶつかり合い。
 傍目から見れば、それは何とも泥臭く見えた戦いだっただろう。
 普通に考えれば、いつもの束の方が綺麗で、強そうな剣戟に見える。
 だが、実際に相対している箒には理解できた。
 ……これが、束の全力で、今までで最も強い状態なのだと。

「(だからこそ、超えるっ!!)」

 既に箒の体はボロボロだ。
 体中が床などに打ち付けた事で痛みが走っているし、体内も無事ではない。
 限界を超えて戦い続ける箒の神経や筋肉は、今にも使い物にならなくなりそうだ。





   ―――故に、決着はすぐそこにあった。





「ぉおおおおおっ!!」

「ッ……!?」

     ギ、ギィイイイイイン!!

 束のブレードが、油断も慢心もなく、箒の手によって大きく弾かれた。
 さしもの束も、それをすぐさま引き戻す事はできず……。

「っあっ!!」

「か、はっ……!?」

 箒によって、無防備な胴へとブレードの峰が叩き込まれた。











「……私の、勝ち、だ。……姉さん……」

「っ……そう、だね」

 床に転がり、ブレードを突きつけられた束は、敗北を認める。
 箒の執念、気合、ありとあらゆるものが詰まった想いが、束の力を上回ったのだ。

「……理屈とか、まるっと無視して勝っちゃうなんてね……」

「っ、はぁ、はぁ、天才の姉さんに勝つには、理屈なんて、気にしてられません……」

「それもそうだね」

 納得したように束が呟くと、箒は崩れ落ちるようにその場に倒れた。

「あ、れ……?」

「……動かない方がいいよ。明らかに無理してたし、これ以上無理に動けば筋肉とかが使い物にならなくなるかもしれないから」

 箒の実力で束に勝つには、当然ながら無理があった。
 その代償が、今の箒の状態である。
 戦闘中は気づいていなかったが、もう少しでも無理をすれば、筋肉がちぎれていた。

「……後は、見届けるだけかなぁ……」

 箒も束もすぐには動けない。
 お互い、床に転がりながら、残りの戦いを思い描いていた。













 
 

 
後書き
この戦いは実力でのぶつかり合いではなく、意地のぶつかり合いに近いです。
イメージとしては、FateのエミヤVS士郎が近いです。実力差は歴然なのに、それを埋める意地で勝つみたいな感じです。 

 

第70話「圧倒的。故に天才」

 
前書き
―――……これが……天才……!


ようやく秋十VS桜です。
まだ才能があった箒と違い、秋十は才能を全て努力でカバーしています。
そして、その分だけ苦戦度は高くなります。
 

 





       =秋十side=







「ッ!!」

「ふっ!」

     ギィイイイン!!

 ブレードとブレードがぶつかり合う。
 そして、俺はその度に仰け反りそうになる。

「っ、はぁっ!」

「っと、ふっ!」

「くっ!」

     ギィイン!!

 一撃を回避し、足払いのように低い位置を薙ぐ。
 それはまるで当然のようにジャンプで避けられ、空中からの一撃を受ける羽目になる。

「シッ!」

「っ、っと」

「せぁっ!!」

     ギィン!!

 二連続の突きを放ち、回避された所を回転斬りする。
 しかし、それはあっさりと受け止められる。

「っ………」

「……ふむ…」

 すぐさま飛び退き、間合いを取る。

「……秋十君」

「……なんでしょうか?」

「重り、外さないのかい?」

「……ばれますか。やはり」

 桜さんの言葉に、俺は両腕両足につけていた重りを外す。
 やっぱり無粋だったな。それに、重りを付けていたら攻撃が通じない。

「……では、行きます」

「来い」

 言うなれば、さっきのは準備運動。
 ……ここからが本番だ。

「ふっ!」

「っ!」

     ギィイン!!

 先ほどまでよりも圧倒的に早く、重くブレードを繰り出す。
 その速度と鋭さに、桜さんも僅かに目を見開いた。
 だが、それもあっさりと防がれる。

「はぁぁああっ!!」

「ぉぉおっ!!」

     ギギギギギギギギギィイン!!

 かつて、IS学園に通っていた頃ではありえなかった速度で剣戟を繰り広げる。
 防ぎ、斬り、避け、斬り、防ぎ、避け、斬り、斬る。
 思考と行動をほぼ同時に行わないとついていけない程の速度で斬りあう。

     ギィイン!

「くっ!」

「っと」

     ギギギィイン!

 けど、やはり俺の方が劣っている。
 ブレードで押し負け、回避しつつ後退する。
 すぐさま持っている銃で撃つも、あっさりとブレードで斬られる。

「(ISと違って、生身では銃は牽制にしか使えないか……)」

 少なくとも、ブレードを持っている状態では、当てることは不可能だろう。
 ……だが、それは俺の場合も同じだ。

「ッ……!」

 一度離れた間合いを詰めるように、俺は駆ける。
 そんな俺を近づけないために、意趣返しのように桜さんもアサルトライフルを撃つ。
 どこに持ってたとか、片手で撃ってるとかは桜さん相手には無粋な考えだ。
 とにかく、円を描くように駆ける。これで基本的には当たらない。
 ……“基本的”には、な。

「っと……!はっ!」

「さすが、この程度はもう対処できるか」

 回避する先に銃弾が撃ち込まれる。
 それを事前に察知し、ブレーキ。動きを反転しつつ、間合いを詰める。
 だけど、生半可な予測では回避しきれないため、ブレードで銃弾を切り裂く。

「(偏差射撃は桜さんみたいなタイプが絶対に得意とすること。……変に考えて動いた所で、簡単に予測される!)」

 タイムラグなどを考え、相手の動きを予測して撃つ。それが偏差射撃。
 桜さんや束さんでなくとも、理数系に強い人なら可能だろう。
 ……そして、俺の頭ではその予測を破ることは難しい。

「(……でも)」

 本来なら“不可能”だった。それが“難しい”になっているだけマシだ。

「つぁっ!」

     ギギィイン!

「む……」

「はぁっ!」

     ギィイン!

「ほう……」

 当然のように俺の行く先を予測され、そこへ弾丸が撃ち込まれる。
 それを当たるものだけ切り裂き、“無駄に”少しだけ進路をずらして突き進む。
 桜さんはそれを見て、瞬時に予測を変えて正確に俺の進路を妨害する。

「(桜さんは言わば最善手を読み切るスーパーコンピュータのようなもの!おまけに、ある程度の“悪手”すら想定してくる……!)」

 俺が“最善手”を模索したところで、簡単に予測されるだろう。
 “悪手”も同じだ。第一、勝つための“悪手”が俺にはわからない。
 だから、悪手でも最善手でもない、“無駄な一手”を入れる。
 “無駄”ではあるけど、これで俺の動きの流れは変わる。
 それを繰り返すことで、桜さんの読みに乱れを生じさせるつもりだったが……。

「(こりゃ、完全に気付かれたな)」

 まぁ、前提として“そう考えている事”が読まれるわな。
 こういう行動自体が、俺にとっての“最善手”だからな。

「ふっ、はっ!」

「はぁっ!」

     ギィイン!!

 今回は、気づかれても近づくことはできた。
 次は同じ手は通じないだろう。

     ギィイイイン!!

「ぜぁっ!」

「ふっ!」

     ギィイン!

 足払いを仕掛ける。ジャンプで躱され、上からの一撃で間合いが開く。
 即座に間合いを詰めなおし、着地した所を狙うも、簡単に防がれる。

「(二度は通じない……だったら……!)」

「っ!」

     ギィイン!

 単純なこと。動きを変えればいい。

「ッ……!はぁっ!」

「っと、ふっ!」

     ギィイイイン!!

「くぅっ……!」

 横一閃を身を捻らし、高跳びのように躱す。
 そのまま攻撃を繰り出すが、それは回避される。
 そして、反撃を着地した瞬間に受け止めさせられる。

「ッ!」

「甘い……ッ!?」

「それは、こっちのセリフです……!」

 足払いを仕掛け、跳躍で躱される。
 だが、そこから攻撃が繰り出されるよりも早く、ブレードを上に突く。
 無造作で、威力ほとんどないが、これのおかげで桜さんの意表を突けた。

「(不完全でもいい!とにかく次の手を予想しろ!今こそ、はやてとの特訓を生かす時だ!)」

 はやてとのチェス。あれは、所謂手の読み合いを鍛える手段だった。
 ハンデありとはいえ、俺ははやてに勝てるようになった。
 何百手と試せば、一手ぐらい桜さんの予想を超えることだってできるはずだ……!

「シッ!」

     ギィイン!

「っと」

 ナイフを投擲。弾かれた所へブレードを突き出す。
 ……が、あっさりと身を反らして回避。着地を狙っても意味がない。

「はぁっ!!」

「ふっ……!」

     ギギギギィイン!!

 “水”と“風”を宿した斬撃をいくつも繰り出す。
 しかし、それらを桜さんは真正面から相殺してくる。

「そこだ!」

   ―――“明鏡止水”

「甘いッ!」

     ギィイイイン!!

 攻撃と攻撃の一瞬の合間を突き、“水”を宿した一撃を放つ。
 防御も回避も困難な一太刀だが、桜さんも“水”を宿すことで、防がれてしまった。
 ……それでも、回避を選ばなかった時点で、絶対に通じない訳じゃない。

「今だ!」

   ―――“疾風迅雷”

 さらにそこから、“風”を極めた超速の連撃を繰り出す。
 並の相手であれば、剣筋が見えないまま切り刻まれるほど。
 ……だが、桜さんが相手の場合は別だ。

「はぁっ!」

   ―――“疾風迅雷”

「くっ……!!」

 同じ技で、相殺される。
 しかも、ほんの僅かとはいえ、後から繰り出したのに俺の方が押されていた。

「はぁっ!」

「ふっ!」

     ギィイイイン!!

「シッ!」

「甘い!」

     ギギギギィイン!

「ォオッ!!」

「はっ!」

     ギィイイイン!!

 “火”と“風”、“風”と“水”、“火”と“土”。
 属性を組み合わせた動きで攻めても、全てが同じ動きで上回られる。
 属性を三つに増やしても、それは同じだった。

「(だったら……!)」

 今までは四つの属性を体に宿していても、攻撃の動きでは属性を減らしていた。
 体の負担や、不安定さを考慮していたが……それでは、勝てないだろう。
 そう考え、四つの属性を宿して動く。

「ふっ!」

「っ!」

     ギギィイン!!

 ……手ごたえが、変わった。
 今まではあっさりと相殺され、俺が押されていた。
 だが、今回はきっちりと受け止められた。

「なる、ほど……!」

「ぜぁっ!!」

     ギィイン!ギギィイン!!

 関心したように桜さんは呟き、俺の斬撃を的確に捌く。
 今までのように軽々と受け止められている訳じゃない。
 手ごたえでわかる。これは、桜さんでも容易に受け流せる状態ではないという事だ。

「既に、そこまで来ていたか……!」

「シッ!!」

「っと……!」

     ギィイイイイン!!

 有無を言わせぬ一突きは、大きな音を伴って受け止められる。
 だが、受け止めている桜さんのブレードは僅かに震えている。
 軽々しく受け止めているんじゃない、“何とか”受け止めているんだ……!

「そこだぁっ!!」

「ッ……!」

     ギィイン!!

 桜さんの防御を崩すようにブレードを振るい、切り返しに胴を薙ぐ。
 だが、それは跳躍で躱される。

「ふっ!」

「はぁっ!」

     ギィイン!

 だけど、先ほどまでのようにはならない。
 俺が今までで積み重ねてきた全力を出せば、桜さんの動きにも対処ができる。

「ッ!」

「ッァ!!」

     ギギィイン!

 後は、はやてに鍛えられた“状況を読む”力で……!











     ギィン!ギギィイン!

「っ、はぁっ!」

「ふっ……!!」

     ギィイイイイン!!

 ……一体、何度剣を交えただろう。
 互いに互いの攻撃は避け、防ぎ、受け流していた。
 決してまともに攻撃を受けることはなかった。
 だから、ここまで戦闘は長引いている。

「ふぅ……!」

「……生身でここまでやるのは、千冬や束、後は恭也ぐらいだったが……さすがだな」

「……全員、只者じゃない人たちじゃないですか……」

 千冬姉や束さんは前々から知っていたけど、やっぱりあの人も人外級だったか……。
 というより、御神流の使い手がおかしいだけか……。

「……ここまでこれたのは、協力してくれた皆のおかげです。……もちろん、俺を救い、鍛えてくれた桜さんも含めて」

「……そうか」

 俺の本心からの言葉に、桜さんは僅かに顔を緩ませた。
 ……嬉しかった、のだろう。

「それと、知っているでしょう?八神はやて」

「……まぁな。……なるほど、そういうことか」

     ギィイイン!

 納得する桜さんに、容赦なく切りかかる。

「秋十君が俺の予想を上回ることが多くなっているのは、彼女の入れ知恵か」

「というより、鍛えてもらった感じです、ね!」

 チェス自体は、実戦では何の役にも立たない。
 だが、“如何に状況を切り抜けるか”といった、戦略の柔軟性は鍛えられる。
 元々才能のない俺は、戦略の柔軟性も足りていなかったからな……。

「なるほど……なっ!」

     ギィイイン!

「といっても、分かっていたでしょう!?」

「まぁ、な!」

 渡り合う。押し負けない。防ぎ切り、躱し切る。
 かつての俺じゃ、到底考えられない攻防を、桜さんと繰り広げる。

「しかし、どうした?お得意のあの連撃は使わないのか?」

「生半可な攻撃では、相殺してくるでしょう?まぁ、楽しみにしててくださいよ……!」

 とは言うが、試してみる価値はあるだろう。
 ……まぁ、全身全霊の切り札ではないけどな。

「っ……ぜぁっ!!」

   ―――“ナインライブズ”

「こいつ、は……!」

     ギギギギギギギギギィイイン!!

「っづぁ……!!」

 けたたましい金属音が響き渡り、桜さんは大きく後退した。
 それだけじゃない。支障はないだろうが、腕に負担をかけさせたようだ。

「はぁっ!」

「っ!」

 追撃を放つ。だが、わかっていたことだ。
 あっさりと、それは躱される。

「ぜぁっ!」

「っ……!」

     ギィイン!!

 躱された所からの反撃を何とか防ぐ。
 すぐさま一度距離を取る。

「……さすがだな。今のは、驚いたぞ」

「防ぎきっておきながら、よく言いますね……!」

 正直、もう少し効くと思っていた。
 直撃は無理だとわかっていても、もっと後退させられると思っていた。

「だが、今のはあの連撃ではないな」

「当然です。あれは俺が切り札とするものじゃない。確かに、俺の持つ技の中でも上位に位置する技です。……が、あれで貴方を倒せるとは思っていない」

「……わかっていて、放ったのか?」

「倒せなくとも、効くとは思っていたので」

 少しでも桜さんの体力を削れるのなら、試さない理由はない。
 ……同時に、これでは倒すことはできないと、確信させられる。

「(俺が考えた技では、通じるのは努力を結集させた連撃の類だけ。他にあるとすれば、同じようにありとあらゆる“想い”を詰め込んだ一撃のみ……)」

 早すぎる故に斬撃が同時に見える。……それが俺の切り札となる技だ。
 桜さんと束さんを大いに驚かせ、俺の切り札となった技。
 それを放つタイミングは限られているし、容易ではない。
 ……だからこそ、確実に決めなければいけない。

「(それ以外は、全部それに繋げる“布石”にするしかない)」

 元々、俺は別に多才じゃない。
 はやてに鍛えてもらったといっても、戦略性は桜さんに大きく劣る。

「(最低でも体勢を崩してからじゃないと、あの連撃は入らない)」

 万全にブレードを振るえない状態にしないと、まず俺の攻撃は通らない。
 少なくとも、“生身”ではそうしないとダメだろう。

「っ……」

 手汗が滲む。今までは、“勝てない”なりに桜さんに挑んできた。
 だけど、今回は“勝たなければならない”。
 “負けてもいい”と逃げていた訳じゃないが、その分の緊張がなかったのは確かだ。
 その分のプレッシャーが、今はかかっている。

「……ふぅ……」

 それだけじゃない。
 俺がここまで桜さんと長く戦えた事はなかった。
 模擬戦でも、以前の戦いでも、既に戦闘は終えているほど、決着は早かった。
 体力に余裕があっても、その事実が俺を追い立てていた。

「(……だけど、それがどうした……)」

 燻る気持ちを抑え込もうとする。
 これは、緊張による恐れではない。……高揚、しているのかもしれない。
 だからこそ、抑えなければ動きが緩慢になってしまう。

「……ふっ……!」

「っ……!」

     ギィイン!!

 戦闘再開だ。
 息を整え、呼吸を整え、研ぎ澄ました一撃を放つ。
 防がれてしまうが、別段驚く事ではない。

「さらに鋭く、重くなるか……!」

「はぁっ!」

 二撃目を放つ。それも防がれるが、防御だけだから僅かに後退させた。

「ぉおっ!!」

     ギィイン!!

 さらに、三撃目。四属性を宿した三連撃に、桜さんはさらに後退する。
 ……これでも、後退止まりか。

「………!」

 四属性を宿した一撃としては、間違いなく俺の放てる最大の鋭さだ。
 だけど、防御に徹されれば、防御自体は容易い。
 その上から攻撃を通せるほどの一撃だが……やはり、桜さんには通じない。

「ふっ……!」

「っ……!」

     ギィイン!ギギギィイン!ギギィイン!!

 ブレードが何度もぶつかり合う。
 互いの力がぶつかり合い、相殺される。
 ……だけど、俺にはわかる。押されているのは、俺の方だと。

「くっ……!」

「ふっ……!」

 躱し、斬り、防ぎ、また斬る。
 ただ努力を重ねてきた一撃一撃は、無骨に見えて非常に洗練されたものとなっている。
 それでも、通じず、防がれる。

「……!」

 ……わかっている。俺の実力は決して桜さんを上回っている訳じゃない事は。
 俺が一つの事を習得している間に、十の事を習得できるのは桜さんだ。
 そんな相手に、実力で上回れる訳がない。





 ……故に。

「しまっ……!?」

「隙ありだ」

 こうして、拮抗していたと思われる攻防は、あっさりと崩れる。

「ぐっ……!」

 僅かな隙を突かれ、俺は蹴り飛ばされた。
 床を転がり、その勢いを利用してすぐに立ち上がる。

「っぁっ!!」

「ふっ!」

     ギィイイイン!!

 だが、立ち上がった瞬間に攻撃を防ぐ事になり、再び俺は体勢を崩す。

「ぉおおっ!!」

「っ!」

     ギィイン!!

 そして、次の追撃を……無理矢理防ぐ。
 崩れそうになる体勢を、前に踏み出して無理矢理整える。
 さらに、そこから今まで以上に鋭い一撃を放ち、相殺する。

「ぐ、っ……!」

「っ、そこからそう来るか……!」

 何とかこの場は凌げたが、まだまだ劣勢だ。
 俺の全てを賭しても勝てないほどの実力を持つ桜さんに勝つには……。

「(全てを賭した上で、限界を超えなければならない……!)」

 一撃一撃を交える度に、痛感する。
 俺の才能のなさを。桜さんの強さを
 この覆す事を考えることすら烏滸がましい程の実力差を。
 そして、何よりも“天才”というものを。

     ギギギ、ギィイイイン!!

「っっ……!」

 またもや押し負けるようにブレードが弾かれる。
 即座に飛び退く事で、追撃は避けておく。

「ああっ!!」

     ダンッ!ギィイン!!

 そして、その直後に前進。
 即座にブレードを振るう

「っ、はっ!!」

「ッ……!」

 受け止めた勢いを利用して桜さんは薙ぎ払うようにブレードを振るう。
 ギリギリしゃがんでそれを躱し、間合いがブレードでは近すぎる程に縮まる。

「ふっ……っ……!」

 その状態から放つブレードの柄による打突。
 だが、それは容易く受け止められる。

「っ……ぐっ……!」

 それどころか、受け止められたせいで反撃の蹴りを躱せずに食らってしまう。
 幸い、ガードはできたものの……。

「っつ……!」

 腕に走る痛みに、顔を顰める。
 ただでさえ実力に差があるのに、さらにハンデがついてしまった。

「(ああ、まったく、嫌になるぜ……)」

 諦めるつもりは毛頭ない。
 だけど、それでも思い知らされる。

「(……これが……天才……!)」

 天才と、凡人の圧倒的差というものを。









「ぐ、がぁっ!?」

 ………また、床を転がる。

「くっ……!」

「遅いぞ」

「ぐぅっ……!」

 起き上がって攻撃を凌ぎ、また床を転がる。
 ……途中から、この繰り返しだ。

「(ここで地力の差が出てきたか……!)」

 どれだけ努力しても、俺では天才たる桜さんに地力で勝てない。
 そして、その差による劣勢に、俺は追い込まれていた。

「……ここまでやられれば普通は敗北を悟って素直に諦めるか、醜くも力の差を認めずに喚くかのどちらかだが……やはりそのどちらでもないか」

「っ………!」

 さっきまでよりも起き上がるのが遅い。
 だが、それでも俺は立ち上がる。
 ……“勝つため”に。

「……力の差を理解している。そして尚且つ、“その上で勝つ”つもりか。……一見すればただの馬鹿だが……」

「………」

 再び構える俺に、桜さんも言葉を区切って警戒を緩めない。
 ……ああ、桜さんの言う通りだ。俺は、諦めない。

「(まだ、俺は努力の全てを、見せていない……!)」

 勝てる勝てない以前に、自分の全てを出し切っていないのに、そこで終わる訳に行くわけがないだろう……!

「っぁあ!!」

「っ!」

     ギィイイイン!!

「ぜぇぁあっ!!」

     ギギィイイン!!

 執念とも取れる俺の攻撃が、桜さんを防御の上から押す。
 ……だが、それだけだ。

「ッ……!」

     ギィイイン!

「攻撃は重く鋭くなっているが、動きが鈍っているぞ?」

「ぐ、ぁあっ!?」

 次に繰り出した一撃は躱され、そのまま懐への一撃が繰り出される。
 辛うじてブレードを引き戻し、防ぐことは出来たものの、また吹き飛ばされる。
 ………これで、14回目……。

「どうした。攻撃以外を疎かにしては意味がないぞ」

「っ………」

 桜さんの言葉を聞き流しつつ、よろよろと立ち上がる。

「(単に競り勝つことは不可能。いくら手を変えても、それは変わらない。だったら……!)」

 立ち上がる俺へ、容赦なく桜さんは攻撃してくる。
 それに対し、俺は……。

「シッ……!」

「ッ……!」

 互いのブレードは、ぶつかり合わない。
 桜さんのブレードは、俺の脇腹を掠め、俺のブレードは桜さんの頬を掠めた。
 ……捨て身のカウンターだ。

「っ、そう来るか……!」

「やっと、攻撃が入った……!」

 ただのカウンターでは、まず成功しないし、したとしても防がれる。
 だけど、どんな天才であろうと、変わらないことはある。
 それは、攻撃と同時にカウンターへの対処は不可能だということ。
 カウンターする側であれば、回避or防御と同時に攻撃は可能だが、その逆の場合はどうあっても同時は無理だ。……やる場合は、どうしても攻撃を中断するか、後回しにする必要がある。

「(如何に反射神経が鋭く、超人的な身体能力であろうと、これなら……!)」

 もちろん、問題はある。
 攻撃が中断されないタイミングは、俺も回避や防御が不可能なタイミングだ。
 カウンターをすればするほど、俺へのダメージは桜さん以上に蓄積する。

「はぁっ!」

「っ……!」

     ギギギィイン!!

 体に走る痛みを無視して、再びブレードを振るう。
 攻撃を与えるのは捨て身のカウンターだが、そこに繋げるために攻防は必須だ。

「(……と、言いたい所だが……)」

 ブレードを交える。攻撃を防ぐ、躱す、繰り出す。
 ……だが、まったくカウンターのタイミングが来ない。

「(……当然と言えば、当然か)」

 カウンターに危険性があるならば、それができないように動けばいい。
 桜さんはそういうつもりなのだろう。

     ギィイイン!!

「……知っていますか?桜さん」

 ……ああ、まったく……。







「俺、無茶するタイプなんですよ」

 瞬間、桜さんの顔が初めて驚愕に染まった。
 ……当然だろう。なぜなら。

「秋十君、何を……!?」

「これでも、痛みには耐性があるので……!」

 “捨て身”なんてものじゃない。
 攻撃を無視した攻撃。そんなことすれば、一撃だけで俺はただでは済まない。

「まったく、予想外なことを、してくれる……!!」

 俺のブレードは、桜さんの肩に掠めるように刺さっている。
 対し、桜さんのブレードは、俺の肩から腹を切り裂くように振るわれていた。
 覚悟していたのより傷が浅いのは、寸前で桜さんがブレードの勢いを緩めたからだろう。

「そんなのはカウンターなんて代物じゃない。ただ防御を捨てただけだ……!」

「……おかげで、攻撃は通じましたけどね……!」

 直後、俺は蹴り飛ばされる。

「馬鹿野郎……!多少の無茶は見逃したが、そんなのはただの自殺行為だ!」

「……わかってますよ。こんなの、何度もできる訳がない」

 桜さんの顔は確かに驚愕に染まった。
 だけど、それは俺が無茶をしすぎている事に対してだった。

「……さぁ、まだ終わってませんよ……!」

「っ……!」

 桜さんは言葉を詰まらせる。
 それは、怒りからか、それとも……。

「無茶も大概にしろよ!」

 その言葉と共に、桜さんは斬りかかってくる。





 さて、ここで今一度考えてほしい。
 人が、人体が“最も効率よく”体を動かす時はどんな時だろうか?
 少なくとも、“こう動かそう”と考えている間は決して最適ではないだろう。
 ……だから、俺はこう考える。





     ギィイン!!

「……無意識化の動きが、最も強いんだってね……!」

「ッ……!」

 素早く脱力した状態から放たれたブレードが、桜さんの攻撃を弾く。
 そう。無意識の動き……“体が勝手に動く”のが一番効率がいい。
 効率よく、そして俺の努力の成果が最大限に発揮される。

「……まさか、ここまで計算して……!?」

「計算……なんてものじゃないですよ。ただ追い詰められただけ。それだけです」

 これに気づいたのは、恭也さんとかと手合わせをしていた時だ。
 無茶に無茶を重ね、いざ模擬戦を終わらせようと恭也さんが動き……。
 ……気が付けば、逆に俺が恭也さんを追い詰めていた。
 つまり、俺が意識して体を動かせなくなった時が、俺の真価が発揮される時だ。

「……俺の努力の真髄、お見せします」

 ……戦いは、これからだ……!













 
 

 
後書き
明鏡止水…言葉通りのような、澄んだ一太刀。たった一撃だが、“水”を極めることでその回避は非常に困難なものとなる。また、防御をすり抜けるように繰り出すことも可能。

疾風迅雷…“風”を極めた剣技。非常に速い連撃を一気に叩き込む。

ナインライブズ…九重の高速且つ重い連撃を繰り出す。並大抵な相手だとこれだけで簡単に押し勝てるほどに強力な技。なお、連撃速度は二重之閃などには劣る。技名は九連撃繋がりでFateから。 

 

第71話「努力の真髄」

 
前書き
―――いくら無能でも、積み上げた努力は、何一つ無駄じゃない


秋十君、迫真の反撃ターン。
ただし体力的にも技術的にも未だに桜が上回っている模様。
 

 





       =out side=







「……凄い……」

 足止めをしていた皆の戦いを見届け、ウーノとのハッキングの競り合いを終えたユーリは、秋十達がいる場所のカメラを見ていた。
 そこには、ボロボロでありながらも、倒れない程度に桜と互角に戦う秋十の姿が映っていた。

「あの桜さんと互角に……」

 否、本人たちは互角だとは思っていない。
 互角に見えていても、実際は桜の方が上だ。
 それを、努力の積み上げで負けないように留めているだけだった。

「あ……」

 そこで、ユーリはあることに気づく。
 ……桜が、顔に笑みを浮かべている事に。

「笑っている……?」

 どうしてなのか、ユーリは首を傾げる。
 そんなユーリに、クロエが解説するように話しかける。

「桜様は、かねてよりの夢を叶えようとすると同時に、もう一つの願いを叶えるつもりでした。……天才ではない者との、全力の戦い。それが叶った事で、桜様は笑っているのだと思います」

「……そうなんですか……?」

 戦いをあまり好まないユーリにとって、それはあまりピンとこないものだった。

「クロエ君の言う通りだね」

「え……ドクター?どうしてここに?」

 そこへ、さらにクロエの言葉に同意するように、ジェイルが現れる。

「いや、何……。妹に捕まってこってり絞られてしまってね……。ここへ案内すると同時に、私も観戦に徹しようと思ってね」

「……ドクターに妹がいたんですか?それは難儀な妹さんです……」

「いや何気にひどいねユーリ君!?」

 ユーリが思わず呟いた言葉に、ジェイルも突っ込まざるを得なかった。
 なお、今この場にいるジェイル以外の全員が“そう思うのも無理はない”と思うぐらいにはジェイルが変人なので、仕方がないとも言える。

「しかし、こってり絞られたという事は……突入部隊にいたのですか?」

「そのようだね……いやはや、カメラに映った時は柄にもなく冷や汗が止まらなかったよ。挙句の果てには単独行動をしてでも私の位置を突き止めてくるのだから」

 “ハハハ”と笑うジェイルは今までの笑いと違い、どこか引き攣っていた。

「そりゃあ、ねぇ?“悪役になってみたい”なんて馬鹿げた考えだけでこれに加担しているどころか、いくら賛同してくれたとは言え娘を巻き込んだ不肖の兄ですもの」

「ハハ、ハ……」

「あのドクターがここまで乾いた、且つ引き攣った笑いになるとは……」

 基本無表情なクロエがそう驚くほど、ジェイルは顔を引き攣らせる。
 そんなジェイルの後ろから声を掛けたのは、もちろん件の妹である。

「私がその妹のクイント・中島よ。一応、立場上囚われている貴女たちを救助しに来たのだけど……」

 そういってクイントは戦いを映しているモニターを見る。

「……どうやら、決着がつくまで待つ必要があるみたいね」

「すみません。でも……」

「気になるのよね?しょうがないわね」

 ユーリの表情から大体を察したクイントは、仕方なく連れていくのを後回しにした。











     ギィイイン!!

「っ……!」

「……」

 ブレードがブレードに弾かれ、攻撃が阻止される。
 そんな攻防の中、顔を歪めているのは、なんと桜の方だった。

「(……まさか、この俺が“攻めあぐねる”事になるなんてな……初めてだぜ。こんなやりにくいと思ったことは)」

 そう。桜は動きが“最適化”された秋十に、上手く攻めれないでいた。
 秋十の積み重ねた努力が十全に発揮され、桜でも攻め入る隙が見つけにくいのだ。
 例え隙だと思っても、それが誘い込みな事もある。それが見破れてしまう桜だからこそ、隙らしい隙を見つけられないでいたのだ。

「ふっ……!」

「……桜さんが俺の動きを知るように」

     ギィイン!ギギィイイン!!

「ちぃっ……!」

「俺も、桜さんの動きはよく知っています」

「あまり手の内を見せた覚えはないんだけどなぁ……!」

 いくら秋十が桜の動きを知っていると言っても、それは基本の範疇。
 桜の動き全てを把握している訳ではない。

「いえ、桜さんが“常識外”だということが分かれば、基礎だけで十分です。……むしろ、それ以外を覚えるのは俺にとって悪手です」

「……なるほど、な!」

     ギィイイン!!

 会話しながらも攻防を続ける二人。
 秋十は既に軽くない傷を負っているというのに、それを感じさせない声色だった。
 それもそのはず。秋十は思考と体の制御を切り離しているようなものだからだ。
 体は努力に基づいた動きをさせ、思考と言葉はそれにつられないようにする。
 秋十はそうすることで、会話と攻防を両立していた。

「(……とは言ったものの、これが通じるのもいつまでか……)」

「(……相当な経験を積んだようだな……。まぁ、それでこそ俺を倒す役目にふさわしい。……が、俄然負けたくないと思えてきた……!)」

 秋十は自身の努力がどこまで通じるか懸念し、桜はさらに闘志を燃やす。
 その間にも、何度もブレードを交える。

「ぉおおっ!!」

「っ……!!」

     ギギギギィイイン!!

「ッ……!さすが。掠らせてくるか」

 桜の繰り出す斬撃を的確にいなし、それどころか肩に掠らせる。
 いくら今の斬撃が桜が様子見で放ったものだとしても、それだけで先ほどまでよりも実力の差は縮まっていた。

「(おまけに……だ)」

 再び桜は切りかかり……だが、“水”の動きで躱される。

「(……この状態は、明らかに“水”との相性がいい。俺ですら容易に捉えられない程になるとはな……!)」

 それは本当に水のような動き。
 決して捉えられず、決して止まらない。
 秋十の今の状態は、“水”の性質そのものなため、相性も飛びぬけている。

「(早く、速く、鋭く、重く。意識して動くな。全てを俺の体に委ねろ。……俺が積み重ねてきた努力は、応えてくれる……!)」

     ギィイン!ギギィイイン!!ギィイイイイイイン!!!

 そこで、受け身だった秋十が動く。
 初動は確かにあったが、それでもいつ来るか桜ですら一瞬わからなかった。
 そのような“水”の動きで間合いを詰め、一気に斬撃が放たれる。

「こいつは……!!」

 だが、ただ属性と相性がいい、動きが最適化されているなど、その程度で桜を追い詰められるというわけではない。
 それだけなら桜は対処ができるし、反撃にも出ていた。
 しかし、桜は秋十の攻撃を見切れるはずだというのに、それができないでいた。

「(ブレードを通して伝わる信念が、俺の防御を抜けてくるのか……!)」

 それは、執念とも取れる“想い”だった。
 防御はできる。回避もできる。
 だが、その上から秋十の攻撃が桜へと食らいつかんとしていた。
 積み重ねた努力による想いが、足りない実力差を埋めていた。

「だが、甘いぞ!!」

   ―――“二重之閃”

「っっ……!」

     ギギィイン!!

「っく……!」

 しかし、やはりというべきか、桜はさらにそれに対処していく。
 秋十が生み出した技を桜が即座に放ち、それを防いだ秋十は大きく後退する。

「……悪いが、秋十君と違い、俺はいつでも放てるんでね」

「……まぁ、わかっていましたけど」

 これで秋十の優位性は消えた。
 タイミングを選ばなければ決まらない秋十と違い、桜は例え防がれてもそこからフォローするための動きを間に合わせる事ができる。
 現在桜が使えるのは以前秋十と戦った当時の秋十の最大の技である、四重之閃までだ。
 秋十が“今使える”最大の技までは再現できない。
 ……尤も、それだけでも十分脅威なのだが。

「ふっ!!」

   ―――“二重之閃”

「っ……!」

     ギギィイン!!

 再び放たれ、それを何とか防いだ秋十は後退する。
 そして、二度、三度とそれは繰り返される。

「……防ぐな」

「でないと負けるので」

 防ぐ度に、秋十の体にはダメージが蓄積していく。
 ブレードそのものは防げても、衝撃までは防げないからだ。

「……無駄か」

「………」

 だが、桜は二撃の連発をやめる。
 傍目から見れば、秋十が防戦一方だった。
 しかし……。

「必要最低限の動きと速さで凌いでいた。後3回放っていたら、反撃に転じていただろう」

「……具体的な数字まで言われるとは思いませんでしたが、概ねその通りですね」

 そう。秋十は反撃の機会を伺っていた。
 二重之閃は確かに同時に二撃を放っているほど高速な技だ。
 しかし、それを防ぐのに同じ速度である必要はない。
 秋十は体感からその防げるギリギリの範囲を狙い、直後に反撃に転じようとしていた。
 技を編み出した秋十だからこそできる芸当だった。

「……なら、こいつはどうだ?」

   ―――“三重之閃”

「ッ!!」

     ギギギィイン!!

 二撃が、三撃へと、変わった。
 たったそれだけで脅威は段違いに変わる。

「何……?」

   ―――“三重之閃”

「ッッ!!」

     ギギギィイン!!

 しかし、それさえも。

「ッ!?」

「ふっ!」

     ギィイン!!

 秋十は、防ぎ切った。
 否、それだけでなく、反撃を繰り出した。

「何……?」

「……桜さん。忘れたんですか?桜さんが俺に属性などを教えたように、その技を作り出したのは俺ですよ?」

 そういう秋十だが、何もダメージがない訳じゃない。
 既にボロボロともいえる状態なため、飽くまでダメージを最小限に抑えているだけだ。
 その事に桜も気づいている。

「……対処法は、誰よりも熟知している訳か」

「そういうことです」

 一見、対等に見える攻防。
 しかし、俄然不利なのは秋十だ。
 動きが最適化されただけであって、実力は桜に劣っている。

「……だとしても、だ。その動き、間違いなく武の極致に至っているぞ」

「……まさか。俺のはただ努力に基づいた動きをしているというだけです」

「(それが極致と同じなんだがな……)」

 桜に挑むほどの気概はあるというのに、相変わらず自己評価の低い秋十。
 だが、だからこそ油断できないと桜は構えなおす。

「(いくら無能でも、積み上げた努力は、何一つ無駄じゃない。……天才の俺だからこそわかる、秋十君の努力の強さ……俺からも“挑ませて”もらおうじゃないか……!)」

「(来る……!)」

 秋十は桜が動くと見て、気を落ち着ける。
 だが、決して体に意識を向けない。
 そうしてしまえば、せっかくの秋十の“最適化”が無効化されてしまうからだ。

「ふっ……!」

「シッ……!」

     ギィイン!!ギギギィイン!!ギィン!ギギィイン!!

 桜はさっきまでと違い、連撃は放たない。
 秋十の言う通り、技を作った本人の前では簡単に対処されてしまうからだ。
 それどころか、反撃まで繰り出してくる。
 その事に、桜は少なからず脅威を感じていた。

「はぁっ!」

「ッ……!」

「(躱されたか!)」

 桜の放った一突きが、体ごと傾けた秋十の頬を掠めるように空振った。
 そのまま、秋十は体勢を戻すと同時に横一閃を放つ。

     ギィイン!!

「……一刀だけじゃないのを忘れるなよ?」

「っ……」

 だが、それはもう一刀を取り出す事で防がれてしまう。
 負けじと秋十ももう一刀構える。

「(……やはり、か。秋十君の防御は俺でも抜けなくなった。だが、攻撃の際は防御が薄くなる上に、防御時の鋭さが消えている。……あの状態は、受け身でないと働かないか)」

 桜は秋十の“最適化”の特徴を見抜く。
 無意識に近い状態でないとできない状態なのだから、当然と言えば当然だ。

「(しかし、それは秋十君も理解しているはず)」

「(たったこれだけで気づかれた……さすがは桜さん)」

 秋十も見抜かれている事は何となくわかった。
 互いにブレードを交えつつも、思考を巡らしていく。

     ギィイイイン!!

「(やはり、ただ攻めるだけでは突破できないな)」

「(防御と反撃だけじゃあ、桜さんを捉える事はできないか)」

 一度間合いを離し、互いの様子を探る。

「(さて、どう出るべきか……)」

 初めての膠着状態になる。
 今までは桜がどの状態でも対処出来ていたため、途切れのない攻防が続いていた。
 だが、秋十が“最適化”してから容易に攻める事が出来なくなっていた。
 そのため、間合いを保った状態で互いに様子を見る事になったのだ。

「(いくら捉えられないといっても、俺から攻撃しては隙を晒すだけだ)」

「(秋十君から攻撃する事はほぼ確実にないだろう。だとすれば、俺から攻めるしかない)」

「「(だとするならば……!)」」

 二人は同時に思考し、結論を出すと共に行動を開始した。

「(反撃してきた上から対処する!)」

「(攻撃してきた所を、敢えて攻撃しに行く!!)」

 ……そして、ついに桜が読みを“外した”。
 それは、天才故の合理的判断から、“小さい可能性”を捨てたためのミス。
 動きを“最適化”させているからありえないと思っていたのが、仇となったのだ。
 秋十は、敢えて最善手ではなく悪手を取ったのだ。

「なっ……!?」

 そして、それは僅かとはいえ桜の動揺を誘い……。

「ここだっ!!」

 一時的に“最適化”を解いた秋十の渾身の一撃を、許す事となった。

     ギィイイイン!!

「ぐっ……!」

「だりゃぁあああ!!」

「ぐ、ぉっ!?」

 防ぎきれなかったブレードが桜の肩を掠る。
 さらに、追撃の回し蹴りが防御の上から決まった。

「ッ……!(まさか俺が読み違えるとはな……!)」

「(追撃は……ダメだな。……はやてとの特訓の経験がようやく生かされたな。……最善手を打つだけが最適じゃない。まさにその通りだ)」

 戦略などにおいて、最善手を打ち続けるのはほぼ必勝となる方法だ。
 天才であれば天才であるほど、最善手を打つ。
 だが、それだけで絶対に勝てる訳ではない。
 機械が相手であればそれで十分だが、相手は人間だ。
 精神的な揺さぶりもなければ、最善手を突き破ってくる。
 ……同時に、悪手を態と打つことで、流れを乱すこともある。

「(だが……!)」

「ッ……!」

     ギギィイイン!!

 だが、悪手は悪手だ。
 それが“悪い手”である限り、相応の代償がある。
 今回の場合は、秋十の“最適化”が解けたことだった。
 桜の反撃を秋十は防ぐが、その上から後退させられる。

「(慣れてきた……!)」

「っ!」

     ギギギィイイン!!

 しかし、秋十も負けていない。
 桜の動きは脳裏に、そして目に焼き付いている。

「(体が動くなら、対処はできる!)」

「(ブレードの動きが覚えられたのか……!)」

 例え“最適化”されていなくとも、積み重ねた経験で秋十は応戦する。
 かつて桜が秋十に対して行った“動きの記憶”。
 それを経験だけで秋十は行ったのだ。

「(だが!)」

 しかし、そうなれば。
 戦法が変わるのも、当然のことだった。

「(二刀から変えてきた……関係ない!)」

 以前であれば、同じ戦い方をし続ければ対処されると思い、秋十も戦い方を変えた。
 しかし、今は違う。今の秋十はブレードのみに努力をつぎ込んでいる。
 元々器用ではない秋十にとって、複数を同時に極めるよりも、一つを極め続ける方が力量も上がるのだ。

「ふっ……!」

     ギィン!ギギィイン!

「(戦法を変えない?俺に動きを覚えられても構わないのか?……いや、違う。秋十君には“これ”しかないのか。これ以外に、俺に勝てる術はないということか……!)」

 片手に構えられた銃から放たれる弾丸を、秋十は弾く。
 今の桜は、ブレードと銃を持つ遠近両立の状態だ。
 間合いが一度離れた今、秋十も銃を持たなければ不利。
 だというのに、構わずにブレードを以って間合いを詰めようとしてくる。

「(……そうか。複数を鍛えるよりも、一つに特化する。……その方が、強い)」

「ぜぁっ!」

「っ……!」

     ギィイイン!!

 間合いを離しながら何度も発砲するが、その悉くが弾かれるか避けられる。
 そしてそのまま間合いが詰められ、放たれた一撃を桜はブレードで受け止める。

「(“最適化”も解けてボロボロの状態……だというのに、万全の状態より圧倒的に重い……!)」

「ッッ……!」

 常人であれば音を上げるほどの傷。
 その状態で放たれる秋十の攻撃は、まるでその痛みを返すかのように重かった。
 秋十の積み重ねた努力が、その威力を出していた。

「ッ、ぜぁっ!!」

「くっ……!」

     ギィイイイン!!

 気合一閃。
 四属性全てを宿した一撃が、桜の防御を捉える。
 防御の上から桜を大きく後退させ、その一撃の衝撃で手を痺らせる。

「(おいおい……!)」

 桜は戦慄する。その一撃の威力に。
 そして同時に、もう秋十の攻撃を真正面から受けれないと理解する。

「(別段変わった動きをしている訳じゃない。至って堅実な動きだ。……だというのに、俺がここまで回避を難しく思うとは……!)」

「はぁっ!!」

 一撃、二撃と気合の籠った攻撃が放たれる。
 傍から見れば桜なら余裕で躱せそうな攻撃だが、実際はギリギリの回避になる。

「ッ……!」

「シッ……!」

     ギィイイイン!!

 銃で牽制しようとする桜だが、銃弾が放たれると同時に銃が弾かれる。
 放たれた銃弾も、ブレードを振るう動きを利用し、躱してしまう。

「(……ここに来て、秋十君……化けやがった……!)」

 その動きは、今までの経験を活かし、新しい動きを編み出すものだった。
 しかしそれは、簡単にできるものではない。
 既知の動きを組み合わせることで、未知の動きに対処するなど、相当な経験を積んでいなければまず不可能なことだった。
 ……裏を返せば、それほどまでに秋十は経験と努力を積んでいたのだ。

「(……面白い!)」

「(空気が変わった……!桜さん、“その気”になったな……!)」

 ここで、桜は隠すことのない獰猛な笑みを浮かべた。
 それを見て、秋十は経験から脳が警鐘を鳴らす。
 直後、桜は再びブレード二刀に持ち直し……。

     ギギギィイン!!

「ッ……!」

「……行くぜ?」

 その言葉を合図に、怒涛の剣戟が繰り広げられた。
 一撃一撃が鋭く重く、それでいて速い。
 それらを互いに避け、防ぎ、受け流し、決して食らわないように凌ぐ。

「はぁっ!」

「シッ……!」

   ―――“二重之閃”
   ―――“二重之閃”

     ギィイイイン!!

 超速の二撃同士がぶつかり合う。
 音が重なり合い、一つに聞こえる。

「ぉおっ!」

「せぁっ!!」

   ―――“三重之閃”
   ―――“三重之閃”

     ギィイイイイイイン!!!

 即座に超速の三撃が放たれる。
 またも相殺され、二人は反動で後退する。

「……は、はは……!」

「っ……!」

「はははははははははは!!」

     ギィイン!ギギィイン!!

 その後も、超速の二撃や三撃が同時に放たれ、相殺される。
 そして、それがまるで楽しいとばかりに、桜は笑い声をあげていた。

     ギィイイイイイイイイイイイン!!!

「ッ……正直、ここまでスイッチの入った桜さんは初めてですよ」

「悪いな秋十君。俺も鍛えた一人であるからこそ、秋十君がここまで強くなった事が感慨深くてな……!」

「テンションの上がりようがジェイルさんみたいですね……」

 苦笑いしながらも、秋十は構えなおし、桜を迎え撃つ。

「(……痛みも感じなくなってきた。……それに、一度“最適化”したからか、頭が冴えてる。……追える、見える。……桜さんの太刀筋が……!!)」

「ッ!」

     ギギギギィイン!!

 繰り出される連撃を、秋十は全て受け流す。
 今まで積んできた努力と経験、それと桜との戦闘の“慣れ”が合わさり、この戦いに限定して秋十は飛躍的に強くなっていた。
 ……それこそ、桜と互角に見える程に。

     ギギィン!ギィイイイイイイン!!

「ッッ……!」

「シッ!」

 大きく弾かれ合い、間合いが離れる。
 その瞬間に桜はいくつも投げナイフを投擲する。
 秋十は、それを体を捻って倒れこむように避け、崩れた体勢を利用して体を左右にブレさせ、的を絞らせないようにしつつ間合いを詰める。
 体勢が立て直されると同時に、当たりそうになるナイフを弾き、肉薄する。

     ギィイン!ギギィイン!

「はぁあっ!!」

「ぉおおっ!!」

   ―――“四気一閃”
   ―――“四気一閃”

     ガ、ギィイイイイイイン!!!

 お互い、僅かな隙を見つけてブレードに四属性を宿す。
 そして放たれた一撃がぶつかり合い、ブレードが折れる。

「ッ……!」

「ちっ……!」

     ギィイン!!

 だが、すぐに二人は切り替え、一刀のみで再び攻防を繰り広げる。

「(通じるのは初見となる一回のみ!判断を見誤るな、ここで決める!)」

「(っ、来るか……!)」

 空を切る音、ブレード同士がぶつかり合う音が絶え間なく響く。
 そんな中、ついに状況が動いた。

     ギィイイイン!!

「(ここだ……!)」

 僅かに。ほんの僅かに強くブレードがぶつかり合い、間合いが離れる。
 刹那、秋十は構えを変え……。

「はぁっ!!」

   ―――“七重之閃(しちえのひらめき)

 ほぼ同時に見える、神速の七連撃を繰り出した。

「ッ!?」

     ギギィイイイイイイン!!

 それを認識した瞬間、桜は悟った。
 これは、防ぐ事も躱す事も不可能なのだと。

   ―――“四重之閃”

「が、ぁっ!?」

 辛うじて、四連撃で相殺を試みる。
 もちろん、手数が倍近く違うため、それで相殺する事はできない。
 ブレードの斬撃だけを防ぎ、桜はそのまま吹き飛ばされた。

「かはっ!?」

 いつの間にか、壁際まで来ていたのだろう。
 吹き飛ばされた桜は勢いよく壁に叩きつけられた。

「ぁああああああっ!!」

「っ……!」

 そこへ間髪入れずに秋十が突貫する。
 壁に叩きつけた今しか好機はないのだと踏んだのだろう。
 実際、この瞬間が最も大きなチャンスだった。

   ―――“四気一閃”
   ―――“四気一閃”

     ギィイイイイン!!

「ッ、しまっ……!」

 ブレードとブレードがぶつかり合う。
 しかし、力の拮抗は生じなかった。
 なぜなら、ブレードがぶつかり合った瞬間に、秋十はブレードを手放していたからだ。
 そのまま一閃を躱し、桜の懐へと入り込んだ。
 それ以上の“勝ち”へのチャンスを全て放棄する。
 故に桜でも読めなかった一手だ。

「……ふっ!!」

   ―――御神流“徹”

 読めなかった要因は、もう一つある。
 桜や束、千冬は肉体的にオーバースペックだ。
 故に、素手での打撃を食らっても、大抵のものは耐えてしまう。
 桜のような相手を素手で倒すには、それこそリンチの如く殴らなければ倒せない。
 ……だからこそ、“たった一撃”を警戒し損ねたのだ。

「が、はっ……!?」

 そして、その“一撃”は、確実に桜の体力を大きく削った。
 衝撃を相手の体内に“徹す”という、なのはや恭也が扱う御神流の技。
 本来なら刀でそれを行う技を、秋十は掌底として放った。

「っつ……!」

 もちろん、本来の放ち方ではないため、秋十の手にも大きな負担がかかる。
 思わず痛みに顔を顰め、距離を取って無理をさせないように体で隠すようにし、もう片方の手でブレードを拾いなおした。

「(一般人なら内臓に傷がつく威力。桜さんなら大丈夫と思って放ったけど、正解だったな……)」

 確かな手応えを秋十は感じていた。
 その感覚は、正しく……。

「っ……」

 桜は、その場に膝をついた。











 
 

 
後書き
秋十の現在の状況は、ドラゴンボールの身勝手の極意(兆)みたいな感じです。さすがに極意みたいな飛び抜けた強さではありませんが。 

 

第72話「想い起こした夢を追う」

 
前書き
―――さぁ羽ばたこう!空を翔けようじゃないか!!


引き続き秋十VS桜。
ただし状況は変わります。
 

 






       =秋十side=







   ―――手応え、あり。





 体が痛む中、俺は確信してそう思った。
 桜さんとの戦いの中、俺はパズルのピースが一気に当てはまっていくかのように、自分でも驚くほど飛躍的に強くなった。
 おそらくはアドレナリンの分泌が云々的な事による一時的なものだろうが、そのおかげで確かな一撃を桜さんに与える事に成功した。

「(……初めて見たな。桜さんが膝をつく所)」

 思い返せば、桜さんはいつも堂々としていた。
 まさに大胆不敵。そんな態度の桜さんが膝をつく所なんて想像できなかった。
 事実、今まさに膝をついているのも、演技ではないのかと思えてしまう。

「(でも、それはありえない)」

 反動で痛む片手を体で後ろに隠すようにしつつ、考えを自分で否定する。
 俺が撃ち込んだのは、恭也さんに教えてもらった御神流の技術の一つだ。
 当たった所から相手の体内に響く衝撃を徹す技。それを掌底で直接体に叩き込んだ。
 並の人間なら最低でも内蔵に傷がつく一撃。
 いろいろとオーバースペックな桜さんだからこそ叩き込める威力で叩き込んだんだ。
 ……これで効いていなかったらそれこそ化け物なのかと疑ってしまう。

「っぁ、げほっ、ごほっ!?」

「(効いていたか……)」

 だけど、そんな心配は杞憂に終わった。
 桜さんは咳き込み、掌底が当たった所を押さえていた。

「今のは……御神流か……」

「……基礎だけ、習得しておきましたから」

 むしろ、俺はこれだけしか習得できなかった。
 普通に斬るのではなく、引きながら切り裂く“斬”。
 防御をすり抜けるように防御や回避を見極め攻撃を繰り出す“貫”。
 音と気配を探り、暗闇であっても敵の位置を捉える“心”。
 基礎である御神流の技は“徹”以外にもこの三つがあった。
 桜さんに勝つために、覚えておきたいのは“徹”と“貫”の二つだったのだが、俺には才能がないため、“徹”に絞ってようやく習得までこぎつけたのだ。
 それも、攻撃の最中に混ぜることはできず、隙を作って一撃だけに限定しなければ放てないほど、まだまだ未完成の領域だった。

「(それでも、当たれば通じた)」

 これを戦闘中に織り交ぜてくるから恭也さんたちは恐ろしい。

「……それだけじゃない。さっきの連撃……繰り出したタイミングを考えるに、“すぐに繰り出せる”だけでさらにその上があるな?」

「さすが桜さん、わかりましたか」

 そう。七重之閃はあのタイミングで放てるもので最大の技ではある。
 だが、そのタイミングさえ整えれば、それ以上も放てる。

「(でも、桜さん相手にそんなチャンスなんて回ってこない)」

 だからこそ俺は、即座に放てる中で最大の技にしたのだ。

「……さぞかし、努力を積んだのだろう。……だからこそ、俺と共に来る資格がある!」

「桜さん?」

 懐からスイッチのようなものを取り出し、それを押した。
 その瞬間、地響きと共に、天井が開き始める。

「これ、は……!?」

「……最後の戦いだ。生身での君の強さは十二分に理解した。……最後に、夢を追って羽ばたくその姿を見せてくれ」

 その瞬間、桜さんは立ち上がり、ISを纏った。
 ……まさか。

「……ISの戦いで、決着をつけるつもりですか?」

「……まぁ、そうなるな」

 桜さんは肯定する。
 だけど、それは。

「……桜さんが否定しようとした方法だというのに?」

「そういうな。確かに結局は戦いになっているが、これで魅せる本質は……文字通り、成層圏まで羽ばたく事だ」

「ッ!」

 その瞬間、桜さんは突撃してきた。
 そうなれば俺も応戦せざるを得なく、ISを纏う。

     ギィイイイン!!

「う、ぉ……!?」

「見せてあげようじゃないか!ISが、本当ならどこまで羽ばたけるのかを!」

 ブレードで応戦するも、そのまま俺を押して上空へと舞い上がる。

「【人に個性があるように、ISの意思にも個性がある。そして、IS達の中には空を自由に飛び回りたい上で、“競い合う事”に興味を持つ奴もいる】」

「【……一概に、競い合う事を拒否してる訳ではない。ということですか】」

「【そういうことだ】」

 プライベートチャンネルで言ってくる桜さんの言葉を、噛み砕いて解釈する。
 言いたいことは確かに分かる。戦争や争いごとが嫌いな人でも、格闘技などの競い合いが好きな場合があるのと同じだ。

「【狭い部屋の中で運動するより、広いグラウンドで運動する方が伸び伸びと出来るだろう?……それと同じという事さ!!】」

「っ!」

     ギィイイイン!!

 ブレードが弾かれ合い、俺たちの間合いが離れる。
 気が付けば、それなりに上空まで来ていた。
 目が良くないと、地上からは何をしているかよく見えないだろう。

「さぁ羽ばたこう!空を翔けようじゃないか!!」

「っ……!」

 桜さんのその言葉に、俺も何とも言えない高揚感に襲われる。
 ……そうだ。桜さんも、俺も一人の男だ。
 男なら……こういった、“ロマン”ある最終決戦は燃えるだろう?

【行きましょう。お父様の願いを叶え、私たちはどこまでも羽ばたきましょう。……無限に続く夢を追って!】

「……そうだな。行くぞ、夢追!!」

【はい!!】

 さっきまでの戦いは、あまり動き回らない戦いだった。
 だけど、今度は違う。
 文字通り、空を翔けながらぶつかり合う!

     ギィイン!!

「っ……!」

 すれ違いざまにブレードをぶつけ合う。
 そして、振り向きつつライフルの弾をばらまくように放つ。

「はぁあああっ!!」

「ぉおおおおお!!」

     ギィイン!ギィイン!!ギギィイン!

 何度もぶつかり合い、間合いを離す。
 軌跡を描きながら駆けあがるように俺たちはさらに空へと昇っていく。

     ギィイイイン!!」

「「ッッ……!!」」

 鍔迫り合いになる。
 歯を食いしばり、お互い何とか押し切ろうと力を振り絞る。
 桜さんの顔……いや、おそらく俺の顔もだろう。
 その顔には、なんとも楽しそうな“笑み”が浮かんでいた。

「はぁっ!」

「ぜぁっ!」

     ギィイン!!ギギィイン!

 周りの事など目に入らない。
 体の痛みも気にならない。
 ここに来た本来の目的も、頭の片隅に追いやる。
 今、俺が意識しているのは、桜さんに勝つ。それだけだ。

「ぉおおおっ!!」

「っ!」

 繰り出した斬撃が受け流される。
 そのまま反撃の蹴りが繰り出されるが、それを腕で受け止める。
 脚を掴もうとしたが、ブレードの一撃を防ぐ事でそれは止められる。
 至近距離でライフルを放とうとしたが、桜さんも同じようで、互いに避けて外す。

     ギィイン!!

「はぁっ!」

「っつ……!」

 繰り出されたブレードを受け流し、お返しに俺も蹴りを繰り出す。
 もちろん、受け止められてしまうが、即座にライフルを放つ事で反撃を阻止する。
 お互いに空中だからこそ出来る体勢からブレードを振るい、弾かれあった。

「(まずいな。久しぶりの空中戦だから、感覚が鈍っている)」

「(俺も桜さんもブランクはある。……だが、そうなれば感覚を取り戻すのが早いのは桜さんの方だ。……だったら)」

 感覚を取り戻そうとするのと同時に、俺の経験から戦い方を確立。
 桜さんの動きに対応した動きなど必要ない。ただ、俺は俺のやり方を貫く!

「おおっ!!」

「ッ……!」

 “瞬時加速(イグニッション・ブースト)”で一気に間合いを詰め、突きを放つ。
 唐突な突撃にも、桜さんはあっさりと反応し、最小限の動きで避けられる。

「ぐっ、ぉおっ!!」

「っと……!!」

     ギィイイイン!!

 そこから、俺は無理矢理方向転換しつつ、ブレードを振るう。
 それにより、反撃の一撃を防ぐ。

「はぁっ!」

「っ……!」

 ブレードをぶつけ合った反動で反転。もう一刀で切りかかる。
 それも防がれるが、これで肉薄できた。

「ぉおおおおおおおおお!!!」

「っ、これは……!!」

 “風”と“火”を宿し、二刀で一気に攻め立てる。
 だが、生身での戦いと違い、何度かブレードがぶつかり合った瞬間に間合いが離れる。
 ……そんなの、知ったことか。

「ッ、ぁあっ!!」

「なるほど……!そう、来るか……!」

     ギギギィイイン!!ギギィイン!!ギギギィイン

 間合いを詰める。一気にブレードを振るう。
 また間合いが離れる。すぐに肉薄。ブレードを振るう。

「くっ……!」

「そこだぁっ!!」

 僅かに桜さんが体勢を崩す。それを見逃さずに突きを放つ。
 ……が、掠るに留まってしまう。

「はぁああっ!!」

「くっ……!」

 掠った勢いで俺は桜さんの後方へと行ってしまう。
 そこへ桜さんはライフルで狙ってくる。
 旋回しつつそれを躱し、こちらもライフルで弾幕を張った後、最低限の防御だけして再び肉薄する。

「まだまだぁ!!」

「っ……!」

 もっと速く、もっと鋭く、もっと重く……!
 防戦に入るな。桜さんに攻撃をさせるな。
 ただただ攻めろ。俺の、全てを曝け出せ!

「はぁあああっ!!!」

「っ、ぉおおおっ!!」

     ギギギギギギギギギギィイイン!!!

 ブレードをぶつけ合った反動を利用して、回り込み、ブレードを繰り出す。
 それを桜さんは的確に捌き、一切攻撃が当たらない。

「ッ、ッ、はぁっ!」

「くっ……!」

     ギィイイン!!

 一撃、二撃と躱される。
 そのまま反撃が飛んできて、俺の猛攻は止められる。
 ……否、ここで止まれば負ける。

「ぜぁっ!」

「っと!」

 蹴りを放ち、一回転しつつもう一度ブレードを振るう。
 桜さんに慣れさせるな。先に俺が慣れろ。
 思考するよりも先に体を動かせ……!

「はぁぁああ!!」

「くっ……!」

     ギィイイン!

 俺の猛攻を捌ききれなくなったのか、桜さんが防御の上から後退した。

「以前の勘を取り戻していないのに……いや、だからこそのこの執拗な猛攻なのか。俺が慣れてしまう前にどうにかしようと……」

「………」

 ……当然ながら、俺の思惑は見透かされていたようだ。
 この分だと、おそらく……。

「……だが、もう遅いぞ」

「(やっぱり……!)」

 嫌な予感は的中し、既に桜さんは以前の勘を取り戻していた。

「猛攻の分だけ、俺も勘を取り戻すのは早くなる」

「っ、でしょうね……!」

     ギィイイイン!!

 再び斬りかかる。だけど、さっきまでと違うのが俺でも分かった。

     ギギィイン!!

「ッ……!」

「そら、すぐ立て直さなければ足元から掬うぞ!」

     ギィイイイン!!

 ブレードで後退した俺を、桜さんは掬い上げるように切り上げを繰り出してきた。
 防御自体はしたものの、空中で俺は回転するように吹き飛ばされた。

「くっ!」

     ガガガガガガッ!!

 体勢を立て直すと同時に、盾を展開する。
 その瞬間、ライフルの弾が盾に命中した。
 ……やっぱり、すかさず撃ってきたか。

「ッ!」

     ギィイン!!

 弾が止んだと同時に、俺は後ろへとブレードを振りぬく。
 すると、後ろに瞬時加速で回り込んでいた桜さんのブレードとぶつかり合う。

「ッ、はぁああああ!!」

「ぉおおっ!!」

     ギィイン!!ギィンギィイン!!

 またもや宙を翔けながら何度も攻撃をぶつけ合う。
 さっきまでの攻防と違う事があるとすれば、それは……。

「ぐ、ぁっ!」

「どうした!それでは俺を捉えられんぞ!」

 ……俺が劣勢になっている。という事だろう。

「(元よりダメージが大きい。ISがある今でも、それは変わらない。体力はそのままに仕切り直しになったようなものだ。……俺が不利なのも当然だ)」

 ISらしく、俺たちは互いに大きく動いている。
 生身の時と動きは全然違う。
 だというのに……いや、だからこそ俺は劣勢に立たされているのだ。
 実際は劣勢どころじゃない。桜さんが合わせてくれているだけで、圧倒的だ。

「(……いや、何よりも)」

 俺と桜さんでは、決定的に違う事があった。
 才能ではない。それは十分承知だからな。

「……二次移行(セカンドシフト)していない夢追だと、どうしても出力に差が出るのか」

 そう。桜さんの想起は既に二次移行が済んでいる。
 対して、俺は未だに二次移行が済んでいない。
 これだと、どうしても地力に差が出来てしまう。
 ただでさえ才能で差があるというのに、これはきつい。

「……それでも、行けるよな?夢追」

【当然です】

「上等……!」

 ブレードを構えなおし、気合も入れなおす。
 基礎能力だけでは絶対に桜さんには勝てない。
 俺だけの“唯一”を上手くぶつけないと勝てないだろう。
 それこそ、生身での戦いで放った七重之閃のように。

     ギギギィイン!!

「(速く……)」

 旋回し、ブレードを振るう。
 弾かれるも、反撃を食らわないうように即座に離脱する。

     ギィイン!!

「(速く……!)」

 ブレードをぶつけ合い、一時的に鍔迫り合う。
 が、追撃を警戒してすぐに飛び退いて距離を取る。

     ギギギギィイン!!

「(もっと速く……!!)」

 何度もぶつかり合う。だが、その度に俺は弾き飛ばされる。
 ……だけど、ここからだ。

「はぁあああああ!!」

   ―――単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)“大器晩成”起動

「ッ……!」

      ッギィイイイン!!

 次の瞬間、俺が桜さんを弾き飛ばしていた。

「二倍……いや、三倍、四倍……!おいおい、どれだけだよ……!」

「ふぅぅぅ……!」

「ッッ……!」

      ギギギギギギギィイイン!!

「ッ、はぁっ……!」

 息を整え、再び肉薄してブレードを振るう。
 一際強くぶつかり合い、また間合いが離れる。

「単純計算でも3000時間は使い続けている……!そこまで努力を積んだのか……!」

「俺には才能がありませんから……!」

「ったく……末恐ろしいな!!」

      ギギィイイン!!

 桜さんの言う通り、単一仕様能力のおかげで夢追の能力が四倍以上になった。
 だが、それでも桜さんは対処してくる。

「ッ!」

      ギィイン!

「はぁっ!」

「ぜぁっ!!」

      ギギギィイン!!

 間合いが離れた瞬間、桜さんがブレードを投げつけてくる。
 それを弾いた所へ、もう一刀を展開して斬りかかってきた。
 俺ももう一刀展開し、その一撃を防ぐ。
 直後、桜さんは弾いたブレードをキャッチし、俺と同じく二刀で攻撃を繰り出してきた。

「……軽々とそれを対処する桜さんには、言われたくないですね……!」

「はは、悪いな」

 だけど、だからと言って余裕がある訳でもないのだろう。
 さっきの戦闘のダメージが響いているだろうし、何より俺の攻撃を捌き続ける桜さんの表情が、一瞬強張ったりもしている。

「………」

 生身の時よりも、勝機はある。
 何より、俺と夢追はまだまだ力を出し切っていない。

「行くぞ、夢追」

【いつでも行けますよ】

「俺たち積み上げたモノ、見せてやるぞ!」

 そういって、俺は桜さんへと切りかかる。
 別に、俺は桜さんが言った時間程夢追に乗っていた訳じゃない。
 ただ、生身での特訓で夢追のブレードを使ったりと日常的に使っていただけ。
 もちろん、道具としてではなく、共に生きる相棒として。

「はぁあああっ!!」

   ―――“四重之閃”

「っ、はっ!」

     ギギィイン!!

 超速の四連撃を即座に放つ。
 生身の時よりも発動が早いからか、桜さんの顔が僅かに驚愕に染まる。

「ぜぁっ!!」

   ―――“二重之閃”
   ―――“二重之閃”
   ―――“二重之閃”

「ちぃっ!!」

   ―――“四重之閃”

 今度は二連撃を三連続で放つ。
 桜さんも反撃を繰り出し、相殺してくる。

「っと……どうしても押されるな。だったら……!」

「ッ……!」

 一度間合いが離れ、俺は再度接近しようとする。
 だが、桜さんの言葉を聞き、嫌な予感がした瞬間に俺は飛び退いた。
 直後、寸前までいた場所をレーザーが通り過ぎた。

「(レーザー……!どこから……!)」

「まだまだ行くぞ?」

 そういうと四方からレーザーが飛んでくる。
 それどころか、夢追から警告が飛んできて咄嗟に横に飛ぶ。

「(ブルー・ティアーズに……衝撃砲……!)」

「俺も単一使用能力を使わない訳ないだろう?」

「確か、桜さんの単一使用能力は……!」

「“想起”。俺と想起が知るISの武装と一部の単一使用能力を模倣する能力だ」

 そう。この単一使用能力は、マドカのエクスカリバーも模倣していた。
 当然、搦め手にも向いている能力だ。
 俺とは相性が悪いだろう。

「(まぁ、だからと言って引く理由にはならないがな)」

 相性が悪い、実力差が大きい。
 そんなのはわかっていることだし、元より引く訳がない戦いだ。
 その上で勝つつもりで来ているからな。

「ぉおおおっ!!」

 旋回しながら桜さんに近づく。
 衝撃砲を相手に、立ち止まるのは危険すぎる。
 幸いにもハイパーセンサーで衝撃砲は感知できるから、避けようと思えば避けられる。

「つぁっ!!」

 当然、桜さんなら俺の動きを予測して衝撃砲を当たるように放ってくるだろう。
 だから、躱しきれないのはタイミングを合わせてブレードを振る事で切る。
 それだけで全てが凌げる訳ではないので、被弾してしまうけど、構わない。

「おおっ!!」

 接近すれば、ブルー・ティアーズも衝撃砲も簡単には扱えなくなるからな!

「ッ―――!?」

 だが、それはブレードの間合いに入る直前で止められた。
 厳密には、嫌な予感を感じて俺が飛び退いた。
 そのまま間合いを開けるように衝撃砲を躱す。

「AIC……!」

「気づいたか。……我ながら厄介な布陣だと思っているよ」

「………」

 ラウラ……というより、ドイツが開発していた特殊武装。
 一対一でこれほど厄介な武装はないだろうという効果だ。
 対処法はあるにはあるが、この布陣と桜さん相手に通用するとも思えない。

「……だったら」

「ん?」

 搦め手に俺は弱い。
 そんな俺が搦め手に対してどう対処するべきか?
 ……その結論は……。

「その上を行く」

 至極、単純な事だ。
 そして、その手段を俺は持ち合わせている。

   ―――単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)群軽折軸(ぐんけいせつじく)”起動

「ッ―――!?」

     ギィイイイン!!

 レーザーの雨を掻い潜る速度が上がる。
 同時に、一気に駆け抜けて桜さんに肉薄。ブレードを振るった。
 防がれはしたものの、その威力、速度に驚愕した桜さんは吹き飛ばされるように後退した。

「……おいおい……“単一仕様”能力なんだぞ?」

「………」

「……能力がもう一つあるなんてな……」

 驚いたかのように、桜さんは言う。
 ……いや、これは……。

「“フリ”はやめてください。……わかっていたんでしょう?」

「……まぁな」

「“大器晩成”は飽くまで夢追に“備え付けられた”能力。担い手……俺と夢追による能力じゃない。そして、桜さんの“想起”も」

「………」

 “大器晩成”は初めから使えた能力だ。
 ゲームとかで例えるなら、事前登録特典みたいなものだな。
 箒の絢爛舞踏などと違い、ISと通じ合うことで発動する能力じゃない。
 ……つまりは、本来の単一仕様能力ではなかったのだ。

「夢追が夢追である、想起が想起である故の単一仕様能力。……“大器晩成”も、“想起”も厳密にいえば“単一仕様”の能力じゃない」

「……その通り。そして、別に能力があるならば……」

   ―――単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)“飛翔・桜”起動

「……既に、使えるって訳ですね」

「ご名答」

 能力を発動させた想起から、桜色の燐光が出ていた。
 ただのエフェクトな訳がない。一体、どんな効果を持つのか……。

「……さて」

「――――ッ!!」

 その軌道は燐光が伴って綺麗なもので……。
 ……そして、あまりにも速かった。

     ギィイイイン!!

「くっ……!」

 飛行能力に大きな補正がかかっているのか、明らかに動きが違った。
 そして、気になるのは宙に残り続ける桜色の燐光。
 ……嫌な予感しかしない。

「っつぁっ!!」

     ギギィイイン!!

「っと、気づいたか」

 何とかブレードを弾き、間合いを離す。
 もちろん、燐光からも距離を取った。
 すると、桜さんはそう言って指を鳴らし……燐光が炸裂した。

「(飛行能力の補正と、その軌道に残る燐光の炸裂。……それに加え、俺と同じようにもう一つの単一仕様能力を同時に発動させている。……厄介に厄介を重ねられたな)」

 ブレードを握りなおす。
 未だに、桜さんと俺の差は大きい。
 縮めてもすぐに離される。いや、これは縮まっているのか言えるのか?

「………」

 敢えて目を閉じる。
 そして、思い浮かべるのは今までの俺の経験。その全て。
 今この場だけの判断では桜さんに勝てるビジョンが見えない。
 だから、俺の経験から最適解を導き出し、それを上手くぶつけるしかない。

「(箒との、鈴との、シャルとの、ラウラとの、マドカとの、簪との、楯無さんとの、ユーリとの……ありとあらゆる模擬戦や試合での動きを思い出せ。少なくとも、それで“想起”は対処できるはずだ……!)」

 “想起”の能力は飽くまで他のISの武装を再現するだけ。
 桜さんが使うから強く見えるだけで、性能自体はオリジナルと変わらないはずだ。
 そして、再現する際に何のデメリットもない訳じゃない。
 SEは確実に減っている。だから、俺は回避し続けるだけでもいい訳だ。
 まぁ、そんな事は桜さんも分かっているだろうし、それだけで終わるはずもないが。

「……ここからが、正念場だな……」

【……はい……!】

 桜さんは、この期に及んで未だに手加減をしている。
 なら、その間に俺は“追いつく”しかない。









   ―――戦いは、これからだ……!!











 
 

 
後書き
群軽折軸…意味としては“塵も積もれば山となる”みたいなもの。効果も大器晩成と同じようなもので、秋十の努力の様を表している。

飛翔・桜…“空を飛ぶ”という事に大きな補正がかかる。また、その際に桜色の燐光を出し、炸裂させる事で攻撃も可能。桜の“空を飛びたい”という願いを組んだ能力。


原作ヒロインズ+親友勢がISに再び乗れるようになった意味?な、なんのことやら……。
……はい、完全に無意味になってしまいました。
一応、ISに乗って戦う展開は考えていたんですけど、どうしてもそれに繋げる事が出来ずに没になりました(´・ω・`)
ま、まぁ、ISに認められてる事そのものに意味があるし……(震え声)

大器晩成の真骨頂を発揮した秋十と、それにすら対処する桜。
さながらDBの悟空(界王拳)VSベジータです。 

 

第73話「夢追・無限」

 
前書き
―――これが……IS……!俺の、俺たちの求めていた、翼、か……!


そろそろ決着をつけます。
 

 






       =out side=





「………」

 束が打ち上げていた衛星から送られてくる桜と秋十の戦いに、映像を見ているユーリ達は黙ってその行方を見つめている。
 戦闘が終わり、体力回復に勤しんでいるマドカ達の所にも映像は投影され、同じように戦いの行方を見つめていた。

「……秋兄……」

 無意識に、マドカは秋十の名前を呟く。
 どう転んでも、桜はこの事件を終わらせるつもりなのはマドカも分かっていた。
 その上で、勝敗が決するその時まで目が離せないようだ。

「……さー君」

「……桜、秋十……」

 別の場所にいる束と、合流した千冬も目が離せずに映像を見ている。

「……これが、お前たちの望んだ戦いか?」

「……うん。才能に恵まれすぎた天才と、才能に恵まれなさすぎた……けど決して努力をやめなかった非才の戦い。……どんな人にも、可能性はあるって示してほしかった。……ISがどこまでも羽ばたける翼だという証明と共に」

 映像には、弾幕のように遠距離武装で攻撃する桜の姿が映る。
 数々の武装を再現し、その攻撃が秋十を襲っていた。
 だが、秋十はそれらの攻撃を決して直撃はせずに間合いを詰めようとする。
 しかし、AICも再現されている事もあって、それが上手くいかない。
 むしろ、まだ負けていないのが不思議なほど、劣勢だった。

「……押されているが?」

「でも、負けてはいないよ。押されているのは単純に二次移行が済んでないからだね。……それに……」

「それに?」

「さっきの言葉と関係なしに、私も気になるんだよ。この戦いの結末が」

 そう言って、束は映像へと視線を戻す。
 その言葉を聞いて、千冬は少し目を見開いたが、同じように視線を戻した。







     ギィイイイン!!

「ぐっ……!」

 “想起”によって再現された武器に、秋十のブレードが僅かに弾かれる。

「はぁっ!」

「ッ……!」

 その瞬間に桜が肉薄。秋十を吹き飛ばす。
 “飛翔・桜”による燐光からは逃れるように、秋十は動く。

「くっ!」

 直後、ブレードを振るう。
 それにより、AICの効果を切り裂いて事なきを得る。

「(っ……まずいな……)」

 そのまま距離を離すようにしながら旋回し、弾幕を躱す。
 空中での機動力は、桜に遠く及ばないため、それでも逃げられない。

「っ!」

「おっと」

 燐光に囲まれる。
 このままでは、秋十は爆発に包まれてしまう。
 その前に秋十は判断を下す。
 手榴弾を前に投げ、盾でその爆風を防ぐ。
 そして、その爆発によって燐光を払い、燐光の包囲を抜けた。

「くっ……!」

 だが、そうなると背後ががら空きになる。
 それは秋十も気づいており、背後からの桜の射撃を、ブレードで凌ぐ。

「はぁっ!」

「ぐぁっ!?」

 しかし、桜はそのまま旋回しながら秋十に接近する。
 二つ目の単一仕様能力による機動力で、完全に秋十を翻弄していた。

「っっ!」

「遅いぞ!」

「ぐぅっ!?」

 ギリギリでAICの効果を躱すも、桜はその上で攻撃してくる。
 AICの脅威を利用して、完全に秋十の動きを読んでいた。

「っ、っ、ぁああああっ!!」

「ッ!」

     ギィイイイイン!!

 しかし、秋十もただではやられない。
 僅かな隙も決して逃さず、反撃を繰り出していた。
 問題なのは、それでも桜を倒すには至らないということ。

     ギィイン!ギギィイイン!!

「っ、ぁっ!!」

 燐光とAICを警戒して秋十は間合いを離す。
 繰り出される射撃を一部はブレードで弾き、ライフルで応戦する。

「ちぃっ……!」

「っと……」

 燐光で囲んでいる事を秋十は見逃さず、手榴弾で燐光を退ける。
 今度は爆風に巻き込まれないように立ち回ったようだ。

「はぁっ!」

「ぐっ……!」

     ギギィイイイン!!

 しかし、即座に桜は旋回し、秋十へと切りかかる。
 空中での機動力の差で、それだけでも秋十は押される。

「っ……!」

   ―――“五重之閃”

     ギィイン!!

「(捉えられなかった!?)」

「背中ががら空きだ!」

「がぁっ!?」

 そして、咄嗟に放った攻撃の隙を突かれ、まともに攻撃を食らってしまった。

「ッ……まだだ!!」

「っ!」

 だが、その上で秋十は反撃に出る。
 AICで捕らえられないように一刀目でAICの効果を打ち消し、二刀目で切りかかる。

「っと……っ!?」

「ぁあっ!!」

     ドォオオオオン!!

 それを躱す桜だが、避けた先に手榴弾が投げられており、秋十はそれをライフルで爆発させた。もちろん、秋十も巻き添えだが、それを承知の上だった。

「っ!?ぐぁっ!?」

 しかし、直後に燐光が炸裂。その衝撃に秋十は一瞬怯む。
 そして、追い打ちに蹴りが炸裂。秋十は吹き飛ばされた。

「(……完璧に翻弄されている……!ただでさえ厄介な“想起”に加えて、もう一つの単一仕様能力で機動力の差が開きすぎている……!)」

 振り返り、ライフルを乱射。
 しかし、それは簡単に躱されてしまう。
 すぐさま全力で空を駆け抜ける。

     ギィイイイン!!

「っ……!」

 しかし、秋十は追いつかれてしまう。
 空を羽ばたく事において、今桜の右に出る者はいないのだ。

「くっ……!」

 蹴りと手榴弾を使って何とか距離を取る。
 “想起”で放たれる弾幕は少なくなってきた。
 “想起”は他の武装を再現すればするほどSEを消費するからだ。
 また、“飛翔・桜”だけでも秋十を上回っていた事もあり、使用を控えるようになった。

「っつぁっ!!」

 燐光が炸裂すると同時に、秋十はブレードを振るう。
 そうする事で、燐光のダメージを軽減する事ができた。

「甘いぞ!」

「っ、ぐぅ……!」

 だが、それは焼石に水だ。
 燐光もSEを消費して繰り出すとはいえ、“想起”を使わなくなった分、連発して展開できてしまう。そのため、秋十の動きを上回るように桜が動くだけで、秋十は燐光に囲まれていく。

     ギィイイイン!!

「がぁああああっ!?」

 そして、ついに。
 ブレードで大きく弾かれた所に、燐光が炸裂した。
 攻撃が直撃してしまった秋十は、墜落するように落ちていく。

「(か、勝てない……!)」

 “完全に遊ばれている”。そう秋十は確信していた。
 生身でさえあそこまでギリギリだったのだ。
 そこへさらに差が付けられた。普通ならそれが分かった時点で諦めている。
 それでも、秋十は立ち向かった。

「(……まだ、()()()()の単一仕様能力じゃダメか……!本当の力じゃないと……!)」

 ……なぜなら、まだ、“勝機”は残っていたからだ。

「夢追!」

【っ……!】

 地上へと落ちながら、秋十は力の限り叫ぶ。

「まだ、羽ばたけるよなぁっ!!」

【っ……!はいっ!!】

 その言葉を叫んだ瞬間、確かに“変わった”。

「……当たり前だよな。あれだけ経験を積んで、二次移行が出来ないはずがない」

 それを見て、桜も呟く。

「(二次移行……“夢追・無限”か……)」

【どこまで、羽ばたく。夢を追って、無限に!】

「……ああ……!!」

 機体の姿は、あまり変わっていない。
 元よりシンプルな見た目だったが、スラスター部分がさらに“翼”らしくなっていた。
 ……そして、単一仕様が変化していた。

「これが……俺たちの全て!俺たちの、そして桜さんたちが望んだ翼、夢追・無限だ!!」

   ―――“単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)“夢想飛翔”起動

 “バサリ”と、夢追の“翼”はためかせて桜の前に改めて対峙する。

「これが……IS……!俺の、俺たちの求めていた、翼、か……!」

「……行きますよ……!」

 お互いにブレードを構える。
 秋十は空気で感じていた。
 二次移行した事により、桜が出し惜しみなく全力で来るのだと。

「はぁっ!!」

「ぉおおっ!!」

     ギィイイイン!!

 動くタイミングは同時だった。
 まずは手始めとばかりに正面からブレードをぶつけ合った。

「ッ……!」

「っと……!!」

 ぶつかり合いで、互いに一瞬後退する。
 すぐさまもう一度ブレードを振るう。

「(追える!)」

 今までは追いきれなかった空中機動とそれを伴ったブレードの攻撃を、秋十は防ぐ。
 さらにはその上で反撃を繰り出す。

「っ!」

     ギィイイイン!

 ブレードとブレードがぶつかり合い、間合いが離れる。
 お互いにライフルを展開し、射撃を行うが……。

「(遅い!)」

 実弾銃の弾では、秋十も桜も捉える事は出来なかった。
 それほどまでに夢追と想起の機動力は増しており、遠距離武器はほとんど無駄だった。

「………」

「その燐光も……」

 だが、秋十と違い、桜は燐光による攻撃もある。
 それを炸裂させるのだが……。

「慣れました!!」

「ッ!」

     ギィイイイイン!!

 その炸裂による攻撃の合間を駆け抜け、ブレードの一撃をお見舞いした。

「はぁあああっ!!」

「ぉおおおおっ!!」

     ギィイン!ギギギギギギィイン!!

 空中で何度も折り返し、二人は切り結ぶ。

「っ!」

 ただぶつかり合うだけじゃない。
 空中だからこそできる動きでブレードの攻撃を躱す。

「ぉおおっ!!」

「はぁああっ!!」

 まるでバトル漫画のように、空中を駆け抜け、ぶつかり合う。
 お互いの攻撃が直撃することはなく、何度もブレード同士がぶつかる。

     ギギィイン!ギギギィン!ギィン!ギィイン!!

「くっ……!」

「っ、ぁっ!!」

 ブレードがぶつかり合い、くるりとその場で一回転し、それで追撃を躱す。
 空ぶった勢いを利用して体を捻り、反撃の一撃を躱す。
 躱しきれなくなったら再びブレード同士がぶつかる。
 その繰り返しだった。

「っつ……!」

 だが、ぶつかり合いになれば技量の問題で秋十が劣勢になる。

「はぁっ!」

「っ!!」

 僅かに押された秋十を見て、桜は動きを変える。
 ばら撒いていた燐光を炸裂。さらに、それを足場に瞬時加速も発動。
 二重の加速を以って秋十へと切りかかった。

     ギィイイイン!!

「ぉおおっ!!」

「くっ……!」

     ギィイン!!

 だが、秋十はそれを“水”で受け流し、同時に瞬時加速を使った。
 逸らした反動で弧を描くように通り過ぎた桜を追いかける。
 受け流されたことに対処しようとしてスピードが落ちていた桜に追いつく。

「っつ……!!」

「ッ……!」

 燐光が炸裂。しかし、秋十はそれを躱す。
 即座に旋回し、桜へと肉薄。

「はぁっ!」

「ぉおっ!!」

   ―――“二重之閃”
   ―――“二重之閃”

 宙を駆け、交わる瞬間だけぶつかり合う。
 そのため、ぶつかり合う度に超速の連撃が繰り出される。

「「ッッ……!!」」

     ギギィイン!ギギギィイイン!!

 まるで、螺旋を描くかのように、何度もぶつかり合いながら攻防を繰り広げる。
 ぶつかり合う度に重なった金属音が響き、火花が散る。

「(互角か……!)」

「(性能自体は夢追の方が上……!だが、それだけじゃない!秋十君の並々ならぬ努力があってこそのこの力……!)」

 もう一つの単一仕様能力の影響で、ISの性能は夢追の方が上である。
 しかし、四属性の練度や地力が桜の方が上なため、結果的に互角になっていた。
 もちろん、全く同じ動き、力ではないため、このまま千日手になる事はないが……。

「っ……!」

「っ、いつの間にか、ここまで来ていたか」

 視界に映った光景に、二人は思わず動きを止める。
 桜が呟いた言葉も、地上なら届くはずなのに秋十には聞こえなかった。

「【……これが、俺たちの見たかった光景の一つだ】」

「【これ、が……】」

 眼下に映るのは、弧を描いて見える地平線。
 星として丸く見える高度まで、二人は来ていたのだ。

「っ……」

 秋十は息をのんだ。その光景があまりにも壮観だったからだ。
 今まで、映像越しにしか見たことがない光景。
 それを、ISを纏っているとは言え、肉眼で見る事が出来たのだから。

「(……今まで、ただ“桜さんたちの夢”と捉えていたけど、桜さんたちの気持ちが分かった気がする。……この光景は、凄い……)」

 決して見通せないほど広がる(そら)
 眼下に広がる地球。
 無限に広がる“未知”を前にして、秋十は桜と束がなぜ宇宙に憧れたか理解した。

「(そして、この光景を見るための“翼”が……ISか)」

 言葉に言い表せない、感慨深いモノが秋十の胸の内を駆け巡る。
 一体、桜や束はこれを実現するまでにどんな思いをしてきたのだろうかと、秋十の脳裏にそんな考えが浮かぶ。

「(でも、今は)」

 だが、それは今の状況では雑念になりかねないと断じ、頭の隅に追いやる。
 秋十は改めて桜を見据え、ブレードを構えなおして対峙する。

「【夢を追い続け、かつての憧憬を想い起こす。……桜さんと束さんは、そんな願いを込めて俺のISを生み出したんですね】」

「【……ああ。……秋十君。君が俺たちの想いに共感してくれて嬉しいよ】」

「【まだ一欠片程度、ですけどね。……では】」

「【再開しようか】」

 プライベートチャンネルによる会話を済ませた直後、張り詰めた空気に包まれる。
 もう、これ以上の会話は必要ない。
 知るべき事、知りたかった事は全て知る事が出来た。
 後は互いの想いと意地をぶつけ合うだけ。

「………」

「………」

 構えたまま、双方は動かない。
 お互いに不用意に動けばタダでは済まないと理解しているからだ。

「っ……」

「……!」

 膠着状態。お互いに相手の様子を探るために、動かない。
 だが、そのままずっと膠着状態が続くほど、二人は悠長な戦いをするつもりはない。

「「ッ!!」」

 故に、状況が動くとすれば、それは同時攻撃。
 同じタイミングで駆け、同じタイミングでブレードを振るう。

     ギィイイイン!!

 空気が薄くなっているため、音が小さい。
 それでも、その音を皮切りに最後の決戦が開始した。

「ぉおおっ!!」

「はぁあああっ!!」

     ギギギィイン!!

 雄叫びを上げながら、二人のブレードが振るわれる。
 空中だからこそ出来る縦横無尽の剣閃がぶつかり合う。
 地力では桜が勝るが、それを夢追の単一仕様能力でカバーする。
 空中機動と燐光による攻撃は、夢追の機動力で対処する。
 秋十の経験から導き出した動きで、的確に桜の動きに対応する。

「はっ!!」

「っ!」

     ギィイン!!

 だが、それでも桜は上回ってくる。
 元より、桜は天才で、秋十は非才の身。
 対処の早さは桜の方が上だ。

「ふっ……!」

「シッ……!」

   ―――“三重之閃”
   ―――“三重之閃”

 同じ技に、同じ技を。
 秋十が放つのを見てから、桜も同じ技で相殺していた。
 これだけを見れば、桜の方が上手で敢えて同じ技で返しているように見えるだろう。

「っ……!」

 だが、実際は同じ技の場合、桜が押されていた。
 それもそのはず。これは、秋十が編み出した技だからだ。
 秋十が編み出し、研鑽し、昇華させてきた。
 であれば、秋十の方が練度が高いのも当然のことだった。
 元々秋十は努力をし続けるタイプなため、さすがの桜でも超える事はできない。

「(なら……!)」

「はぁっ!!」

   ―――“三重之閃”
   ―――“四重之閃”

     ギギィイイイン!!

 同じ技で勝てなければ手数を増やす。
 そう考えて桜は秋十より一手多い技を放つ。

「まだ!」

「ッ!?」

   ―――“二重之閃”

「ぐっ……!?」

 だが、それは結果として悪手となった。
 手数一つ分、秋十は押されたが、それを利用して即座に反撃を放った。
 手数が少ない分、隙が少なかったため、その早さに桜は相殺しきれなかった。

「ふっ、はははは!!」

「(また桜さんの悪い癖……!来る!)」

 同じ技だと押される。そのことに桜は大声で笑った。
 その態度を見て秋十はさらに警戒を高める。
 なぜなら、ここから先は桜も得意分野で来ると分かったからだ。

「まずは小手調べだ……!」

   ―――“羅刹”

「っ……!」

   ―――“三重之閃”

     ギギギィイン!!

 “火”と“土”を宿した連撃に対し、秋十が超速の三連撃を放つ。
 力の差で桜の方が押しているが、相殺自体は出来た。

「ほう……!」

   ―――“九重の羅刹”

 だが、その直後に桜は上位互換の技を出してきた。

「くっ……!」

   ―――“四重之閃”
   ―――“二重之閃”

     ギギギギギィイン!!

「がぁっ……!?」

 ブレードをもう一つ展開し、二刀で相殺しようと試みる。
 しかし、威力を殺しきれずに秋十は吹き飛ばされてしまう。
 幸いなのは、吹き飛ばされた事で直撃しなかった事だ。

「まだまだ!」

「ッ……!」

 追撃を桜は繰り出してくる。
 すぐさま体勢を立て直した秋十は、旋回したその攻撃を躱す。
 しかし、桜はそのまま追ってくる。

「(逃げ続けた所で、意味はない!)」

 空中機動に特化した単一仕様能力を持つ夢追ならば、桜から逃げ続けられる。
 しかし、それでは勝つことは出来ない。
 何より、時間を掛ければ桜は機動力の差を埋めてくる。

「(やってやる……!)」

 秋十の手札は多くない。
 何せ、手札の多くは桜から教えてもらったものばかりだ。
 通じない手札を使う理由はなく、そのため、使える手札は少なくなる。
 数少ない手札は未だに通じているが、いつ対処されてもおかしくはない。
 ……よって、秋十はこの場で新たな手札を生み出す必要があった。

「……!」

「(あれは……“羅刹”の構え?)」

 秋十が逃げるのをやめ、一つの構えを取る。
 それは、すぐに放てるためにあまり見ることのない、“羅刹”の構えだった。

「(あからさまな“羅刹”の構え……何を……?)」

 桜に“羅刹”は通じない。それは秋十もわかっている。
 ……だが、天才である桜は知らない。
 “既知”が“未知”になるその瞬間を、彼は知らない。

「ッッ……!」

   ―――“二重之羅刹”

 それは、言ってしまえばただの“合わせ技”。
 どちらも桜が知り、そして使うことのできる技だ。
 しかし、それらが合わさった事で、桜にとって未知の領域となっていた。
 “羅刹”の一撃一撃が“二重”となり、桜へと襲い掛かる。

「なっ……!?」

   ―――“九重の羅刹”

 咄嗟に桜も九連撃を繰り出す。
 しかし、反射的に繰り出した程度では威力が足りず、桜は一撃だけとはいえ攻撃が直撃してしまう。

「ッ……!これは……恐ろしいな……!」

「(入った!これなら、通じる!)」

 一撃だけとはいえ、確かに直撃した。
 つまり、一時的だとしてもその技は確実に桜に通じるという事だ。
 
「はぁっ!」

「っ……!」

「くっ……!」

 しかし、それでも。
 空中での戦い方で差がついてくる。
 いくら秋十が努力を重ねたとしても、それは地上での話だ。
 適応力の差で、空中での戦い方は時間を掛ければかける程桜に分がある。

「(縦横無尽に動く。……俺の力だと、その動きで桜さんに勝つのは難しいか。……でも)」

 それがわからない秋十ではない。
 そして、対処ができないという訳でも、ない。

「っ……!」

「………」

 構えなおした秋十を前に、桜は一度攻撃の手を止め、間合いを取る。

「(……空中という状況下でなお、“隙がない”と思わせる構え……!これは、簡単には攻撃できないぞ……!)」

「(こんな状況を想定していなかった訳じゃない。対策が必要だろうと、今までの特訓を経てきた俺なら普通に考えつく。……でも、有効な手段が思いつく訳にもいかない俺には、これしかない)」

 言葉で表すなら、それはただ単に地上での構えを空中にアレンジしただけ。
 だが、実際に隙をなくしてその構えをするのは並大抵の技量ではできない。

「(だが、まぁ……)」

「(……だけど)」

 お互い、リンクしたように同じ事を考えた。
 そして、すぐに次の行動を起こす。

「(それでも、俺は攻める!)」

「(それでも、桜さんなら攻めてくる!)」

「「(なぜなら、それが天才(強者)たる所以だからだ……!)」」

 弱者の工夫や細工など、叩き潰してこそ。
 秋十が弱者かどうかはともかく、その信念に基づいて、桜は突撃する。
 非才である秋十が挑戦してきているのだから、それを正面から叩き潰す気概でなければ、天才など名乗れるはずもないと。そう言わんばかりに。

「ぉおおおおおおっ!!」
 
「っ……!」

     ギィイイン!!

 桜のブレードが秋十のブレードで逸らされる。
 重く、鋭い一撃。しかし、秋十の構えは崩れない。

「(生身の時から戦闘続きで、長期戦はどの道不利。なら、出し惜しみなく俺の全てをぶつけていく……!)」

「ッ……!」

     ギィイン!ギィイン!!

 秋十は長期戦は気力が持たないと判断し、四属性を宿す。
 それに応じるかのように、桜も四属性を宿す。
 
「くっ……!ぜぁっ!」

「ッ……!」

 防御の上から削られるように、秋十は押される。
 だが、四属性を宿し、二次移行も済ませた秋十もタダではやられない。
 “風”の動きで避け、“土”で受け止め、“水”で受け流し反撃。
 “火”で一撃一撃を強化する。

「ぉおおおっ!!」

「はぁあああっ!!」

 まさに一進一退。どちらも一歩も退かない攻防が続く。
 まともな一撃はどちらも入らず、SEは防御の上から削られていく。

「っつぁっ!!」

「くっ……!」

     ギィイイイン!!

 秋十の一撃に、桜は一度間合いを取る。
 ここまで戦闘が拮抗しているのは、別に実力が追いついているからではない。
 秋十は自らの経験全てを活かして防御を固め、桜はそれに対して防御を捨ててでも全力でぶつかりにいっていた。
 防御を捨てた分と、秋十の“絶対に勝つ”と言う想いと桜の“全力でぶつかる”という想い。その想いの違いが、二人の実力差を埋めていた。

「はぁああっ!」

「っ、ぜぁっ!」

 ただ、ぶつかり合う。
 自分の力の限り。自らの想いの限り。
 どちらも自由に羽ばたきたいという想いは同じ。
 だが、桜は自分たちを絶対悪とする事で世界の秩序を保とうとし、秋十はそんな桜たちを見す見す切り捨てたくないと主張した。
 どちらも正しく、どちらも間違っている。そんな思想のぶつかり合い。
 ……ただの、意地のぶつけ合いが、そこにはあった。

     ギギィイイン!!

「「ッッ……!!」」

 しかし、既に二人は周りの事など無視していた。
 ただ、“相手に勝つ”。そのために力をぶつける。
 空を翔け、ただひたすらにぶつかり合った。













   ―――最後の戦いが、終わりへと向かっていく。

















 
 

 
後書き
夢想飛翔…二次移行した夢追の本当の単一仕様能力。群軽折軸は秋十に合わせて夢追が発現した“仮の単一仕様能力”だったが、二次移行して変化した。“飛翔・桜”と同じように空中機動に補正がかかり、さらに“空を羽ばたく”事に関するエネルギーを自己生成する。

二重之羅刹…二重之閃と羅刹の合わせ技。技としては、羅刹が二重に重なったかのように連撃が繰り出される。 

 

第74話「夢を追い続けて」

 
前書き
―――……これが最後だ。秋十君


ようやく決着。ぶっちゃけ、ただの蛇足でしか(ry
もっと知識と文章力があれば上手くできたんですけどね……。
 

 





       =out side=







「ぉおおおおっ!!」

「っっ……!」

     ギィイイイン!!

 何度も、何度も何度もブレード同士がぶつかり合う。
 ぶつけ合う内にブレードが折れてしまう。
 だが、すぐに予備のブレードを展開し、追撃を防ぐ。

「はぁっ!!」

「くっ……!」

     ギィイン!!ギギィイン!!

   ―――“九重の羅刹”
   ―――“二重之羅刹”

     ギギギギギィイン!!!

 お互いに、僅かにでも“隙”があると思えば技を放つ。
 だが、それは結局相殺され、決定打には決してならない。

「……っ……」

「はぁ……はぁ……」

 そんな攻防を、どれほど続けたのだろうか。
 秋十は既に息を切らしており、桜も平静を保てなくなっていた。

「ッ……!!」

   ―――“疾風迅雷-二重-”

「ふっ……!」

   ―――“疾風迅雷”

     ギギギギギィイン!!

 それでもなお、技に衰えはない。
 桜が編み出した技と、それをアレンジした技がぶつかり合う。
 技の強さとしては、秋十が放った方が上だ。
 しかし、練度は桜の方が高く、また“羅刹”とは性質の違う技。
 秋十のアレンジを以てしても、相殺止まりだった。

「ッ……ァ……!!」

「っ……!?」

   ―――“二之閃(にのひらめき)

     ギィイイイン!!

 二つに重なった一閃が、桜のブレードを捉える。
 二重之閃よりも早く、重なった一撃。
 それは桜でさえ防御以外で凌ぐ手段はなかった。

「ぉおおおっ!!」

「はぁあああっ!!」

 何度も。何度も何度もぶつかり合う。
 秋十はその中でも決して構えを崩さない。
 そして、桜も決して攻撃の手を緩めない。
 崩してしまえば、あっと言う間に防御を切り崩されてしまうから。
 緩めてしまえば、その時点で桜にとって“敗北”となるから。

「ぜぁっ……!」

     ギィイン!!!

「くぅっ……!」

 気合一閃。“水”による回避も許さずに秋十の一撃が桜のブレードを捉える。
 防御の上からSEが僅かに削られる。

「シッ!」

「ッ……!」

     ギィイン!

 即座に切り返し。桜を押していたブレードが弾かれる。
 その際に伝わる衝撃で、夢追のSEが僅かに削れる。

「「ッッ……!!」」

     ギギギギィイン!!

 防ぎ、躱し、受け流し、反撃する。
 “風”による速さ、“水”による柔軟さ、“土”による重さ、“火”による苛烈さ。
 その全てを織り交ぜた斬撃が桜から放たれ、秋十はそれに対応して捌く。
 一撃で足りなければ二撃で対応し、桜の攻撃を凌ぐ。

「(……ダメだ。これでは、ダメだ)」

 だが、途中で秋十は気づく。
 “これではいけない”と。
 確かに堅実な戦法で、秋十にも合っている。
 しかし、桜たちの望んだ“ISらしい”かと聞かれれば、首を傾げざるを得ない。
 何より、夢追の単一仕様能力があまり活かされなくなっている。

「(……やるしか、ないか……!)」

 今までは、飽くまで地上での自分に合わせていた秋十。
 だが、ここからは単一仕様能力を存分に生かした戦い方をする。
 ISがISらしくあるために。

「ふっ!」

「はぁっ!」

「ッ……!」

 振るわれる桜のブレードを、秋十は躱す。
 今までと違い、空中機動で避けた事に、桜もすぐに気づく。

「ぉおおおおおっ!」

「(そう来たか……!)」

     ギィイイン!!

 旋回、ブレード一閃。
 単一仕様能力により、PICによるエネルギー消費はなくなっている。
 その上で、四属性全てを宿し、秋十は攻勢に出る。

「ッ……!」

「はぁあああっ!!」

 桜も単一仕様能力を起動させながら秋十の動きに対応する。
 宙を駆け、燐光をまき散らしながら秋十と切り結ぶ。

「ぜぁっ!」

「はぁっ!!」

     ギギィイイン!!

 燐光が炸裂する。
 だが、秋十はその炸裂による攻撃を躱しながら肉薄する。
 そして、ブレードとブレードがぶつかり合う。

     ギャリィイッ!!

「ッ!!」

「ッッ!!」

 拮抗は一瞬。ブレードは互いの刀身を滑るように動き、お互いに大きく弾く。
 だが、それはお互いに分かっていた事。
 あろうことか、二人はその上で素手で殴りあった。

「「っ……!」」

 殴り、殴られた反動でお互いに離れる。
 すぐさまブレードを構えなおし、再び切りかかる。

「はぁっ!」

「甘い!」

「っ……!」

 ブレードが振るわれる。そしてそれが躱される。
 そのまま反撃が繰り出されるが、それも体を縦回転させる事で躱される。
 空中機動を生かしているが故に、先ほどまでや地上のようにブレード同士が何度もぶつかり合う事はなくなっていた。

「そこだ!」

「ッ……!」

     ギィイイン!!

 寸での所でブレードを躱され、カウンターの突きが秋十へと放たれる。
 即座に秋十は盾を展開し、それを逸らす。

     ガキィイッ!

「ぐっ……!」

 返す刀で桜へとブレードを振るう秋十。
 しゃがみ込む要領で頭を下げる事で桜はそれを避ける。
 だが、同時に放たれた膝蹴りを受け止めるために防御せざるを得なかった。

「タダでは終わらん……!」

「くっ……!」

 防御した際に仰け反った体を捻り、回し蹴りを秋十へと叩き込む。
 ガードはしたものの、それでもダメージが秋十へと通る。

「っ……!」

「ッ!」

 どちらも攻撃を食らった反動で後ろに下がる。
 仰け反った首を動かし、即座にライフルを展開。射撃を繰り出す。
 互いに同時に放った弾は、奇しくも唯一当たりそうな一発が相殺されるに終わった。

「ぉおおっ!!」

 それを認識して……否、相殺されようがされまいが、秋十は次の行動を起こしていた。
 まるで弾かれるように弧を描く軌道で桜へと間合いを詰める。

「っ……!」

 そして、桜も同じように弾かれるように移動。
 秋十の突撃を躱す。

「つぁっ!」

「っ!ぉおおっ!!」

 それは、さながら某七つの龍の玉の戦闘シーンのようだった。
 宙を駆け、ブレーキと同時に突撃を躱し、桜はブレードを振るう。
 それを、秋十は目の前を通り過ぎるぐらいギリギリで躱し、反撃に切り上げを繰り出す。

「ッ!」

「くっ……!」

 さらにそれを躱し、また反撃を繰り出す桜。
 秋十も負けじと反撃を繰り出す。
 だが、それらはお互いの“風”と“水”の効果で決して当たらない。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「っ………」

 互いに一度間合いを離し、呼吸を落ち着ける。
 千日手……という訳ではない。
 どちらも一歩も引けを取っておらず、少しでも油断すれば勝敗が決まる。
 つまりは、気力と意地の勝負であった。
 そして、その点において二人は決して負けそうになることはなく、結果的に千日手に見える程、決め手となる一撃が当たらない状況が続いた。

「はぁ……はぁ……ふぅ~……っ」

「ッ……」

 息を整え、互いの様子を探る。

「(SEはとっくに半分を切った)」

「(こうなれば長期戦は不可能。秋十君もそれを理解しているはず)」

「(短期決戦は桜さんの方が有利。“想起”を使われたらまず長く保たない。……尤も、それは桜さんも同じだけど)」

 既に何度も斬り合い、お互いのSEはあまり残っていない。
 決着をつけるのならば、短期決戦しかないと思考の中で断言する。

「(……やるなら、今しかない。俺の……俺と夢追の出せる、最強の技を)」

「(……来るか。秋十君。……全力で、俺にぶつかってくるか)」

 秋十がブレードを静かに構える。
 間合いは離れており、桜が意図的に間合いに入らなければ当たらない程だ。
 だからこそ桜も冷静にそれを分析する。

「(……四属性関連の技ではないな。共通点があるとすれば、秋十君の二重之閃の方だ。……つまり、瞬時に放つ連撃の類……!)」

 桜もブレードを構え、迎撃の構えを取る。
 ダメージ覚悟の攻撃はしない。それでは秋十の全力を受け止めたとは言えないからだ。
 全力の技を防いだ上で、倒す。それが桜の取った行動だ。
 ……そして、その判断が勝敗を分ける事にもなる。

「……行きます!!」

「っ、来い……!!」

 瞬時加速で一気に間合いを詰める。
 間合いに入るまでの間、桜は何通りもの想定をする。
 どのように、どこから、どれほどの強さで。
 ありとあらゆる推測を重ね、それら全てに対応できるようにする。

「――――――」

 ブレードの間合いまで入るのに、時間にしてもう1秒とかからない。
 だというのに、秋十にも、桜にも、それは何十秒にも伸びて感じられた。

「ッ――――――!!」

 どのような技で来るか、どう対応するか。
 ……それらの考えは、次の瞬間に吹き飛ばされた。

「ぉ、ぁあああああっ!!」

   ―――“二刀(にとう)九重之閃(ここのえのひらめき)

「ッ……!?」

   ―――“九重の羅刹”
   ―――“九重の羅刹”

     ギギギギギギギギィイイイン!!!

 ……勝敗は、一瞬だった。
 秋十の放つ九重の連撃、その二つ。
 そして、対処するために桜が放った九連撃、その二連続。
 どちらも計18連撃なのには変わりない。
 故に、勝敗が決するとすれば。

「が、ぁ……!?」

 一息の間に放たれる攻撃の数が多い方だ。
 桜にとっては後手に回った上に初見の技。
 だからこそ、この一瞬。完全に秋十が桜を上回ったのだ。

「ッ……!!」

「(SEは、削り切れていない……!?しまっ……!)」

 だが、それでSEがなくなる訳ではなかった。
 僅かに残ったSEを以て、桜は技による硬直で動けない秋十へと突撃する。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「ぐっ、くっ……!?」

 反応が遅れた秋十は、まともにブレードを食らってしまう。
 そのまま、地上に向けて押し込まれていく。

「(SEが……くそっ……!)」

 ISとブレードの間に自分のブレードを割り込ませ、何とか引き剥がそうとする。
 しかし、火事場の馬鹿力なのか、なかなか引き剥がせない。

「(なら……!)はぁあああああああっ!!」

 押してダメなら引いてみろ。
 そう言わんばかりに、秋十はブレードを引っ張り、逆に引き寄せた。

「ッ……!」

 一瞬SEの減りが早くなるが、それによって桜の体勢が僅かに崩れる。
 それにより、ブレードがISから離れ、SEの減りがなくなる。

「くっ、ぉおおおっ!!」

「ッッ……!」

 そこからは、ただの取っ組み合いだった。
 お互いに体勢を立て直させないように、掴みかかる。
 その結果、PICがあっても二機は錐揉み回転しながら落下を続けていた。









「ッッ……!」

 その様子を、地上の面子も衛星などから見ていた。
 全員が、現在何のためにこの場にいるのか忘れたかのように、外へと飛び出す。
 トラップなどは全て束が解除しておいたため、誰かが道中で怪我する事はない。

「……見えた……!」

「落ちて来るぞ!」

 まるで流れ星のように、二人が落ちてくる。
 地面ギリギリでお互いに突き放す事に成功するが、もう遅い。
 結局、体勢を立て直す事が出来ないまま、地面に激突した。

「………」

 その衝撃で二機のSEはゼロになる。

「「ッッ……!」」

 二機は待機状態になり、秋十と桜は生身でその場に投げ出される。

「ぉおおおおおおおおおっ!!」

「はぁあああああああっ!!」

 しかし、なお二人は雄叫びを上げて突っ込む。
 手には何も持っていない。つまり、次に繰り出されるのは……。

「「ッッ!」」

 拳の応酬だ。
 既にISでの決着はつき、その結果は引き分けだった。
 なら、勝敗を決めるのはまだ終わっていない生身での対決のみ。
 だから、二人はそのまま戦闘を続行した。

「ぐっ……!」

「っぁ……!?」

 どちらも疲弊している。
 そのため、四属性を宿していても回避は出来なくなっていた。
 桜の攻撃を耐え、秋十が反撃する。
 その攻撃をまともに受けて一歩後退しながらも、すぐに一歩踏み出して反撃する。
 まさに泥仕合。ただ喧嘩のように殴り合う。

「ッ……!」

「やめておけ」

「でも!」

 見かねたマドカが止めに行こうとするが、千冬がそれを止める。

「……殺し合いではない。気が済むまでやらせてやれ」

「………」

 それはもう、決闘でもなんでもなかった。
 ただの泥臭い喧嘩。意地のぶつけ合いだった。

「ぉおおおおおっ!!」

「ぁああああ!!」

 試合や模擬戦、ISによる戦いならば何度も経験している。
 しかし、ただの意地のぶつけ合いによる喧嘩を、二人はしたことがない。
 そのためなのか、回避も防御も疎かになっている。

「っづ……!」

「がっ……!?」

 桜の拳が秋十の腹に直撃する。
 即座に秋十がその手を掴み、拳を放つ。
 だが、桜はそれを躱し……追撃の回し蹴りを食らう。

「ぉおおっ!!」

「ッッ……!」

 後ずさった桜に飛び掛かるように、秋十が拳を放つ。
 それを桜は受け流すように受け止め、顔めがけて拳を放つ。
 秋十も負けじと拳を放ち、双方同時に顔に直撃する。

「「っ……!」」

 そして、同時に地面に倒れこむ。

「っつ……はぁ……はぁ……はぁ……」

「ぐ……くっ……!」

 よろよろと、二人は起き上がる。
 桜をよく知る者としては、秋十はともかく桜がそんな状態になっているのに驚いた。
 そこまで、秋十は桜を追い詰めているのだ。

「………っ……」

「はぁ……はぁ……」

 疲労を隠せない様子で二人は睨みあう。

「……これが最後だ。秋十君」

「……これが最後です。桜さん」

 息を整え、お互いにそう宣言する。
 その様子は、まるで先ほどのISでの最後の攻防のようだった。

「―――その動きに風を宿し」

「―――その身に土を宿し」

「―――その心に水を宿し」

「―――その技に火を宿す」

 交互にそう呟き、改めて二人は四属性をまとう。

「夢追」

「想起」

 次にISのブレードを展開する。
 ただし、展開するのは生身に合わせた大きさのブレードだ。

「………!」

 その様子を、皆は固唾を飲んで見守る。
 誰も割り込まない。否、割り込めない。
 これは二人が決着をつけるべき事で、誰にも邪魔をする権利はないからだ。
 テロリストとしての桜たちはもういない。
 今ここには、ただ自身の意地を張り続けている二人がいるだけ。

「「………」」

 互いに様子を探り、動かない。
 それは、さながら達人同士の読み合いのようで、僅かにも動かなかった。
 時間にして僅か十数秒。
 しかし、体感では数分、数十分にも長く感じた。

「っ………」

 “ピン”と張り詰められた空気が二人から発せられる。
 並の人間が二人の間に入れば、その空気に中てられて呼吸困難になるほどだろう。
 いつ、どのタイミングで二人が動き出すか、誰にも分らなかった。
 ……否、もしかすれば、付き合いの長い束と千冬にはわかっていたのかもしれない。

「「ッッ!!!」」

 同時に、二人は動き出す。
 同じタイミング、同じ動きで足を踏み出し、瞬時に間合いを詰める。

「ぉおっ!!」

「ぁあっ!!」

 声を上げ、ブレードが軌道を描く。
 お互いに、最大の手数と威力を持つ技を繰り出す。

   ―――“九重の羅刹”
   ―――“九重之閃”

 桜は、四属性全てを宿した怒涛の九連撃。その全力。
 対し、秋十は自ら昇華し続けた神速の九連撃。

「ッ――――――!」

 それを見ている全員が、目を見開く。
 決着がつくその瞬間を、決して見逃さないために。







     ギィイイイイイイイン!!!







 ……一際、大きな音が響き渡る。
 交わったのは一瞬。音は重なり合い、一度にしか聞こえない。
 だが、確かにお互いに九連撃放っていた。
 実際、束や千冬など、一部の面子はちゃんと()()の音に聞こえていた。

「ッ……」

 それは、漫画やアニメにある一瞬の交差を再現したかのようだった。
 お互いにブレードを振りぬいた状態で、二人は背を向け合っている。

「……っ、ぁ……!」

「っ、秋兄……!」

 先に、秋十が声にならない声を上げ、体がぐらつく。
 それを見て、マドカは思わず声を上げる。

「……見事、だ。秋十君」

「ッ……!!」

 だが、先に倒れたのは、桜だった。
 秋十は倒れそうになったものの、罅が入って折れかけたブレードを支えにしていた。

「っ、はぁ……!はぁ、はぁ、はぁ……」

「秋兄!」

 決着がつき、秋十はその場に座り込んで息を切らす。
 マドカはそんな秋十に誰よりも早く駆け寄る。

「っ……マドカ……勝ったぜ。あの桜さんに……!」

 そんなマドカに、秋十はやり切ったとばかりにサムズアップする。

「……意外だな。贔屓目なしで見れば、最後の交差……あれは明らかにお前の方が総合的に上回っていたはずだ。四属性同時使用の熟練度はともかく、扱いはお前の方が上のはず。だというのに、あの攻防でお前は負けた」

「……まぁ、なに。実際にやれば簡単な事さ」

 一方で、千冬が倒れた桜に駆け寄って決着について尋ねていた。
 桜もそれに答えるために仰向けになり、ゆっくりと答える。

「秋十君は俺たちと違って、別の事を同時に鍛えるなんてできない。そんな事をすれば一つだけを鍛えるよりも効率が悪くなるからな」

「……だから、一つだけに絞ったと?」

「だろうな。あの瞬間、確かに四属性を宿していた。だが、それは最低限だ。秋十君は他のリソースを、意地を、想いを、全部“火”に注いでいた。……攻撃特化の“火”に」

 一点特化。それは、まさに一か八かとなる賭けだった。
 特に、桜に対しては一点特化の利点などあってないようなものだ。
 その一点特化の特徴が即座に見破られてしまうのだから。

「だが、その程度……とは言えんが、お前なら対処できただろう?」

 それに千冬も気づいており、その事を問う。

「ああ。……だが、特化させたのは秋十君が研鑽し、極めた技。その技の速度は俺でも対処が難しい。……それが“火”に特化したんだ」

「……そういう、事か」

 詰まる所、“相性”だった。
 十分に速度が速く、その上攻撃特化の“火”を宿した攻撃。
 それは、防御を捨てた分を補って余りある効果を引き出した。
 ……故に、交差した時、九連撃の最後の一撃が、桜へと命中したのだ。

「……それにしても、負けちまったか……俺も、束も、皆も」

「ものの見事にね。なんでだろうね、実力自体はこっちの方が高かった。戦力もトラップで削ったのに結局負けたよ」

 苦笑いしながら束が言う。
 そう。本来なら束たちの個々の実力は相対した相手よりも上だった。
 複数戦だということを考慮しても、不利だったのは秋十達の方だった。

「……意志と覚悟の差だろう」

「……負けてないつもりだったんだがな」

「まずスタート地点が違う」

 桜の言葉をばっさりと否定する千冬。
 どういうことかと桜と束が千冬へと視線を向ける。

「お前たちは、自分たちが犠牲になる事で世界を変える……つまりは自分たちを犠牲にしなくては出来ないと“諦めた”。対し、秋十達はお前たちを救う事も“諦めなかった”。……その時点でお前たちの負けは決まっていた」

「……そうだな……。確かに、そこは諦めていたし、俺たちは秋十君達に負けるのを密かに望んでいた。……既に、決着はついていたのか」

 千冬の言葉に納得したように、桜は呟く。

「……納得したか?」

「……あぁ」

 そう言って、桜は一度目を閉じ、何かに気づいたようにもう一度目を開ける。

「……悪い、ちょっと、眠る……さすがに、疲れた……」

「……そうか。……存分に休めばいい」

「さー君はずっと頑張ってきたからね」

 千冬と束に言われて、桜は再び目を閉じる。
 そして、まるで死にゆくように眠った。

「……マドカ」

「秋兄?」

「悪い、寝る……」

「ちょっ……」

 秋十もそれに続くように気絶し、戦いの幕が完全に降りた。















 
 

 
後書き
疾風迅雷-二重-…“風”を用いた高速機動による連撃。その一撃一撃を二重にする技。

二之閃…二重之閃の上位互換。二撃の間隔がさらに狭まり、本当に二撃が同時に見える早さになった。さすがに完全に同時ではない。

二刀・九重之閃…九重の連撃を、二刀流で二つ同時に放つ秋十の最終奥義。夢追の全力の補助がなければ放てない。


キリがいいので今回はちょっと短め。
次回で後処理をして、尺が足りなければその次にエピローグ……って感じです。
後日談は今のところ予定してません(ネタがない)。 

 

第75話「そして……」

 
前書き
戦いの、その後。
無理矢理な展開なのは確実ですが、それでも描写できている自信がありません(´・ω・`)
というか、千冬辺りはISで戦う伏線を出しておきながら結局出番なしって……。
なお、展開上千冬は両親を倒して先に進んだ後、秋十と桜が空へと飛び立った事を知ってすごすごと外へと向かいました。
 

 





       =秋十side=







「っつ……!」

「あ、秋兄!」

 目を覚ます。……どうやら、気絶していたらしい。
 記憶もちょっと曖昧だ。
 確か、桜さんに勝って、その後……。

「……そりゃあ、あんな戦いをすれば気絶するわな」

「ようやく起きたか。馬鹿者め」

「千冬姉」

 隣を見れば、マドカと千冬姉がそこにいた。

「ここは……」

「病院だ。まぁ、よくもここまでボロボロになったものだな」

「体の酷使による筋肉の炎症、骨にも罅が入ってるよ」

「うわぁ……」

 マドカに俺の状態を記した資料を見せてもらったが、酷いものだった。
 ……こりゃ、リハビリ漬けだな。

「……尤も、ここまでしなければあいつには勝てなかったのだろうが」

「って、そうだ!桜さんは!?」

 俺の記憶が正しければ、俺の少し前に眠ったはずだが……!

「………」

「………」

「ど、どうしたんだよ二人とも……」

 なぜか気まずそうに目を逸らす千冬姉とマドカ。
 ……まさか……。

「桜さんに、なにか―――」

「やぁ」

「………」

 最悪の事態を頭に浮かべてしまい、尋ねようとした瞬間。
 千冬姉とマドカの反対側から肩を叩かれ、思わず振り向こうとして頬に指が当たる。
 ……これは、よくある悪戯の一つだ。そして、それをやったのは……。

「……心配して損しました」

「いやぁ、はっはっは。中々気づいてもらえなかったからつい」

 やはり俺とは違ったらしい。
 渾身の一撃を食らったはずの桜さんは、俺よりも早く回復していたようだ。
 ……“もしかしたら”などと考えた俺が恥ずかしい。

「まぁ、うん。隠れてたから仕方ないと思うけど、まさか秋兄が気づかないまま話が進むとは思わなくて……」

「道理で目を逸らした訳か……あー、恥っず……」

 よくよく考えれば、あの時使っていたブレードは刃を潰していたものだ。
 いくら俺の一撃をまともに食らったとはいえ、それで桜さんが死ぬとは思えない。
 いや、一般人だったら普通に致命傷を負ってただろうけどさ。

「秋十は普通だとして……お前たちの体はどうなっているんだ?束は肋骨に罅が入ったはずなのに、既に常人が2週間安静に過ごしたぐらいまで回復しているぞ。そして、お前も骨に罅が入っていたよな?それも肋骨だけじゃなく、腕にも」

「しかも束さん、箒と戦った後普通に外に出てたよね」

 ……いや、おかしいだろ。
 普通なら動けるようなものじゃ……って、普通じゃなかったな。この人達。

「でも、冬姉も人の事言えないじゃん。どういうことなのさ、治療用ナノマシンもないのに私並の回復スピードって」

「自然治癒が早くなる呼吸法があってな……」

「どこの漫画なのさ」

 ……うん。やっぱり千冬姉を含めた三人は色々おかしいな。

     スパンッ!

「今変な事を考えただろう」

「怪我人相手にも容赦ねぇ……」

 出席簿ではなくカルテで千冬姉は俺を叩いた。

「というか、なんか千冬姉、不完全燃焼っぽくないか?」

「あー、それな、千冬は俺たちがISを使った際に対抗しようと想起に乗るつもりだったんだが―――」

「それ以上言うと治療期間をもう一週間延ばすぞ?」

 桜さんの言葉に千冬姉が脅すように言う。
 しかし、面白そうに顔をにやけさせた桜さんの言葉は止まらなかった。
 ……安全より愉快を取るのか、桜さん。

「―――結局、乗る必要がなくなっでっ!?」

「うわぁ……煙が出てる……」

 俺以上に強く叩かれ、叩かれた場所から僅かに煙が出ている程だった。

「んん゛。まぁ、この不完全燃焼は後々お前たちに何とかしてもらうさ」

「だってさ、桜さん」

「だってさ、桜さん」

「秋十君もマドカちゃんも息ピッタリだな!?……って、え?マジで?」

「マジだが?」

 少なくとも怪我人に対して要求する事ではないだろう。
 ……でも、桜さんだしなぁ……。

「……ところで、束さんは?」

「ああ、あいつなら、動けるからと私たちが根回しした事の確認に行っている」

「根回し……あぁ、そういう事か」

 “根回し”。これは俺たちが桜さんとの決戦に臨む前に仕込んでいた事だ。
 俺たちが普通に桜さんたちを止めた所で無意味。
 結局は桜さん達が予測した通りになってしまう。
 ……その事に対する、対抗策だ。

「……俺たちの知らない所で色々やってくれちゃって……」

「こうでもしなければ納得しないだろう?」

「……まぁ、な。さて、どうなってる事やら……」

 この分だと、桜さんはまだ知らないらしい。

「っと、そういえば目が覚めた事を他の連中に伝えていなかったな」

「あ、そういえばそうだね」

「さて、覚悟しろよ?」

「えっ?」

 千冬姉の笑みに、一瞬俺の顔が引き攣る。
 桜さんはどことなく予想できたらしく、苦笑いだった。





「秋十っ!」

「兄様!!」

「ふ、二人とも速いよ……!」

「急ぎすぎ……!」

「大丈夫ですの!?お二方とも!」

 鈴、ラウラ、シャル、簪、セシリアの順に駆け足で病室に入ってくる。
 前者二人が凄い勢いだな……。

「止められなかったわ……」

「はぁ……はぁ……桜さん……!」

「……無理して走らなくてもいいぞ?」

 そして、その後ろから楯無さんとユーリ、箒が来た。

「(鈴は八極拳の影響で歩法の変化で、ラウラは元々身体能力が高いから速かったんだろうな……。それに追いつく他の面子も相当だけど。それと、箒は束さんとの戦いでのダメージが抜けきってないのか?)」

 怪我人のはずの俺たちに容赦なく詰め寄ってくるのを見て、俺は現実逃避気味にそんなどうでもいい事を考えていた。

「ストップだ。それ以上その勢いで近づかせる訳にはいかない」

「いやぁ、気持ちはわかるけど皆落ち着きなよ。ここ病院、騒ぐのNG。オーケー?」

「「「うっ……」」」

 主に勢いで駆けこんできた鈴、ラウラ、セシリアがマドカの言葉に気まずそうにした。

「ちーちゃん!あっ君!まーちゃん!皆一体何を―――」

     パシィイイン!!

「っつ~~~!?」

「静 か に し ろ」

 次の瞬間、戻ってきた束さんが大声を出しながら戻ってきたので、千冬姉の一撃が炸裂した。……桜さんにやったのより威力が高い……。

「ちーちゃんひどーい。束さん、怪我人なんだよー?」

「走ってきた奴の言うセリフではないな」

「そこはほら、束さんだし?」

「もう一発いくか?」

「あーそうだった!話が逸れてたね!」

 千冬姉が凄んで言った瞬間、束さんは話を無理矢理切り替えた。
 ……逃げたな。

「束さんたちが待ち構えてるから動向を知らなかったってのもあるけどさ、皆凄い根回しをしてたよね?なんなのさ、あれは!?束さん達がしてた覚悟が半分ほど無駄になったよ!?」

「有言実行しただけだ。念のため悟られにくいように紙媒体で情報のやり取りをしていたが……お前を驚愕させられただけでも収穫はあったな」

「あー……俺は寝てたから知らないんだが、そんなにか?」

「そりゃあもう!束さんが言うのもあれだけど、無理を通して道理にしたようなものだよ!?ずっと牢屋に入るはずが、実質義務さえこなせば刑期が一年ぐらいだし!」

「……は?」

 傍から聞けばおかしい事だらけだろう。
 やった事自体としては、束さんや桜さんをこのまま牢屋に入れ続ける事が世界としてどれほど損失になるのか伝えただけのようなものだけどな。
 感情論に訴えた所もあるが、基本は損益を訴えただけだ。
 それによって“無茶を通すための隙間”を作って、そこに俺たちが求める“最高の結末”にするための意見をぶち込んだ。
 当然否定的な意見も出てくるが、そこは専門家の協力者に任せて押し通した。
 ……意外だったのが、案外桜さん達を擁護する意見が多かった事だな。
 まぁ、仮にも女尊男卑になって狂った世界を根底から覆したからな。
 割合的に男性からの支持が多かったし。

「私も驚きました……。まさか素人目でもわかる程、無理矢理だなんて……」

「何、一度通ったのであればこちらのものだ」

 ユーリも事情を知って驚愕したらしい。
 まぁ、我ながらぶっ飛んだ考えだったしな。

「あれ?束さん、クロエは?一緒にいたはずじゃ……」

「あ、くーちゃんなら桃花さんの所に行ったよ。ゆーちゃん達とは別の所にいたから、まださー君達が起きたのを知らないからね」

「なるほどね」

 桃花さんの所か……。
 あの人の事だし、心配しているのをまた抱え込んでいたんだろうな。

「さて、これだけ揃っているなら話しておくか。これからの事をな」

 そう言って、千冬姉は切り出した。
 これから、俺たちがするべき事を。
 まだ確定していない“理想の未来”を確定させるための事を。













「……っと、よし……」

 あれから数週間後。
 俺はリハビリをしながら毎日を過ごしている。
 あの後、千冬姉の話が終わった後に桃花さんやグランツさん、とにかく色んな人が入り乱れる事になって、てんやわんやになってしまった。
 まぁ、必要な事は済ませたし、何とか落ち着いて解散。
 数日後、改めて全部終わった事を祝ってちょっとしたパーティーを開いた。
 参加者は桜さん達を抜いた皆だ。
 さすがに事情聴取だとか、色んなやるべき事が残っているから、俺たちだけで開くにしても、ちょっと豪勢に飲み物や食べ物を振舞う程度に収めた。
 桜さんや束さんが参加できないのを悔やんでいた顔を思い浮かべながら、それを肴に酒を飲む千冬姉はどうかと思ったが……。

「秋兄、調子はどう?」

「ん、順調だ。鍛えた分、俺も常人より治りが早いらしい」

 骨の罅も過度な運動をしなければ普通に動けるぐらいにはなっている。
 ちなみに、束さんと桜さんは既に完治していた。

「そういえば、グランツさんが今度新システムに挑戦するんだって」

「ブレイブデュエルのか?」

「うん。なんでも、相性のいいカード同士を合体……みたいな?」

 詳しく聞くと、どうやらなのはやその友人のプレイを見て思いついたそうな。
 予定としての名前はユニゾンシステムらしい。

「面白そうだな」

「仮想空間なら秋兄も存分に体を動かせるからね。テスターになってみる?」

「どうしようか……」

 別になってもいいけど、純粋に遊びたい気もある。
 ……まぁ、両方やればいい事か。

「……お、早速やってるな。あの人達」

「へぇ、どれどれ……あはは!流石だね!この分だと世界中の技術が発展しすぎるんじゃないの?」

 俺たちが見ているのは、所謂ニュース情報。
 そこに載っている一つの記事。
 ……即ち、桜さん達の情報だ。

「桜さん達もそれについては懸念しているだろうから、上手くバランスを取るだろうさ。……というか、世界各国の首脳陣も、頼り切りなのはよくない事ぐらいわかっているだろうし」

 結局、桜さん達は皆一度牢屋に入れられる事になった。
 と言っても、待遇は他の囚人とは全く違う。
 何せ、桜さん達一味は皆ただならぬ技術力を持っているのだ。
 それを腐らせるのは勿体無いと俺たちが根回ししたため、その技術を活かせるような設備を用意してもらったのだ。
 そして、さらに条件として、世界のためになる発明をすればするほど刑期が短くなるというものをつけてもらった。

「まずはISに使われてたエネルギーなどを活用した、新しいエンジン……。まぁ、環境に優しいエンジンを開発して、大気汚染を抑えようって事か」

「さすがに分かりやすい所から手を付けたね。……というか、これって別に桜さん達じゃなくてもできたんじゃ……」

「“コロンブスの卵”って奴じゃないか?」

 皆が皆、それだけISにばかりかまけてたって事だろう。
 最近はやっていた宇宙開発も、元々はISの分野だし。

「多分、桜さん達の事だから、このまま地球温暖化や砂漠化とかも解決しそうだな」

「……否定できないのが恐ろしいよ、ホント」

 それほどの事をやれば、刑期は一気に短くなるだろう。

「……俺たちに出来るのは、これ以上ない……か」

「……そうだね」

 出来る事はやった。その結果がこれだ。
 後は、桜さん達を裏切らないように、俺たちも(そら)を目指すだけだ。

「とりあえず、俺は体を治すのに集中しないとな」

「そうだね」

 マドカ達は夢追を含めたワールド・レボリューションにあるISを、完全な宇宙開発用の機能へと変えていっている。
 ついこの間までは、桜さん達を止めるために従来の機能だったからな。

「……そういや、白は何やってるんだ?」

「うーんとねー……」

 白式の意志であった白。
 彼女は最終決戦に参加はせず、ずっと待機していた。
 ユーリと深く関わりのあるチヴィット達も待機していた。
 その時は、自分たちに出来る事は少ないと言って、ブレイブデュエルの方を手伝っていたみたいだが……

「不思議なんだけど、あいつと一緒」

「兄さんとか……確かに不思議だな。白って確か嫌ってたはずなんだが」

 ある意味世界を歪ませた一因である兄さん。
 兄さんとの関係は、俺と千冬姉以外は少ししか改善していない。
 千冬姉は普段から公平的な厳しさがあるから大して変わらないし、俺も反省しているのが十分に分かったから気にしていない。
 でも、マドカや弾たちとはだいぶ気まずくなるようだ。
 何せ、弾と数馬以外は女性陣で、洗脳されていたからな……。
 反省していると分かっていても、普通に接する事が出来ないのだろう。
 これでも、だいぶマシにはなったが……。

「(……時間が解決するのを待つ、か)」

 それしかないだろう。
 むしろ“気まずくなる”で済むだけだいぶ改善している。
 以前は洗脳されていた時期の俺以上に針の筵だったからな。
 ちなみに、桜さんと束さんは無関心になっている。
 まぁ、元々学園にいた時以外は関わりをほとんど持っていなかったからな。
 ただ、反省している事はわかっているため、あの二人にとって不愉快な人間よりは断然扱いがマシな方だ。
 
「……いや、そんな事ないか」

「え?何が?」

「白の事。この前会った時、なんというか……悪さばかりしていた息子を見る母親みたいな?そんな雰囲気だったんだよな」

「……えっと?」

 あ、マドカが訳がわからないと混乱してる。
 まぁ、言った俺自身も訳わからない表現だとは思うけどさ。

「うーん、どうしようもない奴だけどしょうがないから面倒を見ているって感じなんだよな、白って。やっぱり、仮にも兄さんのISをやってたから、そういう節があるんだと思う」

「そういうものかな……?」

「そういうものだろ」

 少なくとも、桜さんや束さんが見逃している時点で悪い事ではないだろう。
 ……一応、白がそんな行動をするのに心当たりもあるしな。

「(IS学園を襲撃された時、体張って頑張ってたみたいだからな)」

 大方、それで少しは見直したのだろう。

「チヴィット達は……相変わらずブレイブデュエルか?」

「うん。最近はユーリとよくチームを組んでるみたい。なのは達と互角みたいだよ?」

「凄いな……」

 ゲーム内でのなのはは何というか……チートレベルの動きをする。
 御神流をゲーム内の身体能力で使ってるからな……嫌でも強くなる。
 その動きに、ディアーチェ達チヴィットはついて行っているのだ。
 ……まぁ、元がAIだった分、仮想空間での動き方を熟知しているのだろう。

「そろそろ殿堂入りするんじゃないか?なのはは」

「あまりに強すぎて、特に近接戦の試合では大抵ハンデをつけてるみたいだよ?」

「既にそうなってたか……」

 近接戦でなのはに勝てる奴、ほとんどいないんだろうな……。
 恭也さんとかは偶にしかブレイブデュエルをやらないみたいだし。
 まぁ、参加したらなのはに勝てるぐらいには実力はあるけど。

「さて、じゃあ私は行くね?」

「ああ」

 マドカはそう言って部屋から去っていった。

「……俺もさっさと怪我を治さないとな」

 人伝にしか情報を見聞きできないのはちょっと不便だからな。













       =out side=





「ねーねー、ここはこうしたらいいんじゃないかな?」

「んー?……やべっ、見落としてた」

「危ないねー」

 牢屋……とは名ばかりの、実際はただ単に人が普通に暮らせるような部屋の中で、束と桜は机に大量の紙を広げ、コンピュータのキーボードを叩いていた。

「(……全く理解できん)」

 二人がやっているのは、世界を発展させるためのアイデアや開発論。
 そのため、二人の見張りをしている者がそれを覗いても全く理解が出来なかった。

「っと、修正して……よし」

「後はここを調整して……うん、オッケー」

 組み立てていた理論の一部を修正し、それに伴う調整を終わらせる。
 本来ならそんなあっさりと出来るはずがないが、ここにいるのは天才二人だ。
 これぐらいなら、少し本気を出せば出来てしまうのだ。

「次は……インフラ関連でもするか?」

「そうだね。じゃあ―――」

 それからもしばらくの間、桜と束の会話は続いていった。





「ふい~、ひと段落ひと段落」

「頭を使うと甘いものが欲しくなるよねー」

 与えられた食事を済ませ、桜と束は一旦休む。
 いくら超人的なスペックを持っていても、疲れるものは疲れるのだ。

「……皆、どうしてるだろうな」

「さぁねー。情勢はわかっても、個人の動きまではわからないよ」

 以前なら、自前の人工衛星などで確認できたが、今は衛星の機能を止めている。
 そのため、二人は秋十達が今何をしているのかはわからなかった。

「何人かは、わかるんだけどねぇ」

「ブレイブデュエルだよね?上手い具合にISと成り代わってくれて助かるよ」

 完全な娯楽でありつつも、非常に完成度の高いVRゲームであるブレイブデュエル。
 その人気が高まるのは止まらず、既に世界中に知られていた。
 それこそ、ISの存在に成り代わるように、話題を掻っ攫っていったのだ。
 ……尤も、そうなるように桜と束も協力していたのだが。

「うーむ、やってみたい」

「わかるよー。なんたってVRゲーム、だもんね!いいなぁ、私たちも忙しくなかったらやってたのになぁ」

「まぁ、事を運んだ俺ら自身に責任があるからな。やりたいならさっさと次のアイデアを出さないと」

「そうだね」

 超人気ゲームであるブレイブデュエルに思いを馳せながら、二人は作業を再開した。





「(俺と束で世界技術の発展に貢献し、刑期を縮める……か。本当、こんな都合のいい案をよく通したな……)」

 作業の中、桜はふと思い返すように、秋十達が根回しした事を考えていた。

「(生活面で俺たちを支えるために同行していた人達は、全員が俺たちに脅されたとして最大限まで罪を軽くし、自分から協力していたドクター……ジェイルさんを含め、皆の罪の責任を俺たち二人げ負う形にする。そして、俺たちが技術発展に貢献し、そのサポートを他の皆で行う。……それによって生まれる利益によって、刑期が縮まる……か)」

 なんともご都合主義。
 そう桜は考える。

「(……ここまで持ってくるのに、一体どれほどの根回しを……)」

 そこまで考えて、桜は自然と笑みを浮かべた。

「(“一人でやれる事には限界がある”。……つまり、“一人じゃなく皆”でなら、その限界を乗り越えられる。……俺の示した“道”に気づき、それを成したんだな)」

 そう。あの時、臨海学校で秋十に言った言葉。
 “一人では限界がある”。それは裏を返せば“一人じゃないなら乗り越えられる”という事を示していたのだ。
 故に、秋十は、秋十達は周囲と協力し、人と人との繋がりを辿り、これほどまでに都合のいい状況まで持ってきたのだ。

「(“天才じゃない”からこそ成しえた事……だな)」

 “天才”とは、理解できない者に対する蔑称だと、桜と束は考えた事がある。
 並外れた才能を持つが故に、周りとの関係を上手く構築できない。
 そのため、理解されずに“天才”と称される。
 そして、秋十達のように、広い関係を持つ事が出来なかった。
 桜と束という“天才”ではないからこそできたのだと、桜は考えた。

「(っと、今は目の前の事に集中しなくてはな)」

 思考に没頭していた事に気づき、桜は気を取り直して作業に戻った。



















 ……こうして、二人の刑期が縮まる度に画期的な発明がされる。
 その発明品が、世界に大きな発展を齎すのは、自明の理だった。
 それにより、経済に混乱が訪れるのだが、それはまた別のお話……。

















 
 

 
後書き
次回、最終回です。

正直、無理矢理にまとめただけなので、矛盾点や粗が多い点は非常に多いと思います。
……要点としては、桜と束がやる気を出しさえすれば、また皆で一緒にいられるって所だけ理解しておけばいいぐらいですし。
(ぶっちゃけこういう理論詰めな展開は書けませんでした) 

 

第76話「エピローグ」

 
前書き
最終話 

 












「………」

 空を眺める。
 都会ではもう見る事の出来なかった満弁の星空がそこにはあった。
 星空を見る事が別段好きという訳ではないが、これほど星が見えるのは感慨深い。

「……ここまで、長かったなぁ……」

 苦しみ抜き、復讐に燃え、でもそれをするほど憎悪は長持ちしなくて。
 復讐の相手は結果的に反省した。
 せっかくの学生生活はテロリストに一度潰された。
 でも、そのあと改めて別の高校で充実した学生生活を送った。
 ……その裏では桜さん達を止める準備をしていたんだけどな。

「(そして、決着をつけた)」

 桜さん達は自分たちを世界の敵とする事で、世界をコントロールしようとした。
 自分たちの夢である“宇宙に羽ばたく”事を目的として。
 それは最終的には自分たちに自由をなくすという諸刃の剣となるものだった。
 それでも成そうとした桜さん達を止めるため、俺たちが立ち上がった。

「……決着をつけてからも、色々大変だったな」

 決着後、まず俺は体の怪我を治す事に専念しなければならなかった。
 しかも、それに平行して後始末もしなければならないと来た。
 さらには、釈放後の桜さん達の受け皿とするための場所も必要だった。
 会社の一員としては中堅がいい所の俺でも、仕事量が半端なかった。
 桜さんを止めた張本人としても、メディアがうるさかったしな。

「………」

 だが、今はそれも落ち着いている。
 順調に宇宙開発は進んでおり、ISによる女尊男卑はほとんどなくなっている。
 ……それでも、一部は未だにそれを主張している輩がいるが。
 まぁ、そういった連中はISが出る前から主張していた輩だから大した事はないだろう。
 女性が差別されてるとかだったら耳を傾けただろうけど、主張しているのは女性の方が優れているだの、もろ女尊男卑な主張だし。

「(……思い返してみれば、相当便利な世の中になったよな)」

 過去を思い出す際に、桜さん達が刑期を縮めるためにやった事を思い出す。
 便利な道具や機械の発明だけでなく、インフラの改善や砂漠化の解消。
 それだけでなく、世界中で問題視もされていた地球温暖化など。
 様々な分野においてあの人達は貢献した。
 ……まぁ、あれだけの天才が本気を出せば、これぐらいやれるんだろう。

 そういや、以前は二人ともあまり周りと協調出来てなかったらしいが……。
 多分、会社を立ち上げて、他人との交流が増えた事で、それも改善されたんだろう。
 そう考えると、今までの全てがこの結果に繋がっていると思えてくる。

「(……なんて思うのは、ちょっと思い上がってるかな?)」

 二人はまさしく“本気を出していなかった”のだろう。
 桜さんはともかく、束さんはずっと“理解されなかった”のだから。
 だから周りを遠ざけて、“孤独”だったんだ。
 もし桜さんが重傷を負ってあの時まで眠ったままでいなければこうならなかった。
 束さんには桜さんがいれば、いずれはこうなっていたのだろう。

「……って、いけね」

 随分と過去を思い返すのに時間をかけていたらしい。
 腕時計を見てみれば、結構時間が過ぎていた。

「(やるべき事、やらないといけない事がひと段落ついたから、俺も気が抜けてるんだろうな)」

 しっかりしないと。
 いくら山場を越えたとはいえ、普通に仕事とかはあるんだから。

「……ま、休憩も終わった所だし、戻りますか」

 そう言って、俺は一度“青い星”を見上げてから踵を返した。









「ええっ!?桜さん、遅れるんですか!?」

【悪いっ!ちょっと没頭しすぎて時間を見てなかった!】

「いくら好きな事をやってるからって、限度がありますよ……」

 仕事にひと段落をつけ、桜さんと連絡を取ると、そんな言葉が返ってきた。
 いくら宇宙開拓を進める事だからって、時間を忘れるとは……。

「というか、桜さんらしくありませんね?」

【いやぁ、こと宇宙とISに関する事だったら俺でもこうなるぞ?】

「そういうものですかねぇ……」

 まぁ、遅れるのが確定してしまうのはしょうがいないだろう。

「でも、主役が遅れるのはどうかと……」

 桜さんが遅れると言っているのは、桜さんの誕生日パーティーだ。
 だからこそ、主役である桜さんが遅れるっていうのは、ちょっとな……。

【だからこうして事前に連絡してるじゃないか。それに、遅れるにしてもできるだけ早く帰るさ。……問題は、束と千冬、ユーリちゃんにどう連絡しようか……】

「そこは自分で考えてください」

 拗ねるであろう三人にどう連絡しようか悩んでいる桜さん。
 あと、セシリア辺りも拗ねると思うんだが、どうするつもりなのやら。

「じゃあ、俺は先に()()に帰っておきますね?」

【ああ。出来れば三人に何かしらフォローを―――】

「自力でやってください」

 有無を言わさず通信を切る。
 そして、“青い星”……地球を見上げて俺は帰る準備を始めた。

「数年前までは、まだ理論上の話だったのに、本当に早いな……」

 そう。俺は今、“月”にいる。
 宇宙開発が進み、本格的な月面基地が設置されたのだ。
 今では、月で一年は過ごせるぐらいに発展している。
 
「(……まぁ、まだまだだ。もっと……もっと、ISは羽ばたける)」

 それこそ、“無限の成層圏”の名に恥じないように。

「……とりあえず、目先は桜さんの誕生日パーティーだな」

 桜さんにああ言った手前、前言撤回するようだけど、三人……セシリアも入れて四人に事情説明ぐらいはしておくか。















   ―――……苦労をしたことは幾度となくあった。

   ―――だけど、だからこそ“今”を生きている。

   ―――無限に羽ばたける“翼”と共に。























       IS~夢を追い求める者~

          ――完――

















 
 

 
後書き
ぶっちゃけ全体を通してみると我ながら「これでいいのか?」となる。
それがこの作品です(´・ω・`)

公開したからにはエタる訳にはいかないと、ちょっとした意地で完結までこぎつけましたが……正直、自分にはこういった話はまだハードルが高かったと思います。
話の構成の甘さや、心情の描写不足。話を進めるに連れ、迷走していく方向性。なんかもう、色々と経験不足でした(´・ω・`)
それでも最後まで読んでくださった方に、多大な感謝を。



……なお、処女作よりも先に完結したのがこれで二作品目に……。
話数の差が圧倒的なんで仕方ないですけどね。 

 

キャラ設定+その後

 
前書き
最後のキャラ設定です。
それと、本編後にどんな道を歩んだかも軽く載せておきます。
 

 
織斑秋十

本編主人公その一。
努力を重ね続け、その全てを発揮した事で桜を倒す事に成功する。
ISもその際に二次移行し、真の単一仕様能力を発現した。
また、それまでの間に千冬たちを通じて様々な場所に手を回していた。
そのおかげで、桜たちの罪状を最大限減らす事に成功する。
出来得る限りの“ハッピーエンド”を掴んでからは、桜たちの手伝いをしている。
現在は、桜たちの仕事を手伝いつつ、伸び伸びと日々を暮らしている。





神咲桜

本編主人公その二。
生まれながらに天才であり、そのスペックは束と千冬を足して2で割ったようなもの。
世界を管理する女神から、転生者の存在により運命が狂ったと告げられる。
原作の知識をその時に知り、その知識から転生者の動きを予測、牽制をしてきた。
最終的に転生者の一夏も反省した事で、最後は世界の革命を決行する。
自身と束を中心に、世界全ての敵となり、世界をコントロールしようとしていた。
しかし、それは秋十達によって止められ、自分たちが犠牲になる事はなかった。
現在は、刑期を縮めた事で既に釈放されており、やりたい事を色々やっている。
なお、刑期を縮める際の発明で、世界中の技術が飛躍的に上がっている。





篠ノ之束

桜のヒロインその一。
桜と同じく生まれながらにして天才。頭脳では桜を上回るが、身体能力は下回る。
幼少期に自身を庇って交通事故で重傷を負った桜を治療しようと奮闘する。
しかし、洗脳の影響で桜の存在そのものを忘却。放置してしまう。
その事もあって一夏の事を相当恨んでいたが、その役割は秋十へと譲っていた。
なお、直接手を出さなくても言葉で打ちのめしていたが。
最終章では、桜と協力して世界の敵になる。
妹である箒と直接対決をし、箒の気迫と意志に敗北をする。
現在は、桜と同じようにやりたい事を色々やっている。
桜とは違って専ら開発や研究関連の分野を携わっているようだ。





織斑千冬

桜のヒロインその二。
桜や束とは別ベクトルの天才。頭脳では二人に到底及ばないが、身体能力では勝る。
相変わらず厳しい性格だが、認める所は認めている。
一夏に対しても、反省していると判断してからは、厳しくもちゃんと接している。
現在は宇宙開発の仕事に携わっている。
なお、そこでも教師や教導官のような立場になっている。





織斑マドカ

秋十の妹。
身体能力は千冬どころか束にも大きく劣り、頭脳も天才とは言えない。
しかし、頭の回転が早く、瞬時の判断は千冬や束を超えている。
ブラコンは相変わらずのようだ。
現在は秋十と共にワールド・レボリューションの宇宙開発支部で働いている。





ユーリ・エーベルヴァイン

桜のヒロインその三。
最終章ではずっと桜たちに軟禁(仮)状態にされていたため、出番が少なかった。
なお、それはユーリの安全を確保する事だったのは、本人も理解していた。
最後の決戦において、自身も桜たちを止めるべきだと決心し、システムから妨害する。
現在は姉からエーベルヴァイン家の実権を奪い、当主の座についている。
エーベルヴァイン家の黒い部分を全て掃除した上で、母親と同じように由緒正しい家系に戻していったようだ。
控え目な性格は変わっていないため、誰かが後押しする必要があったりする。





原作ヒロインズ

原作におけるヒロイン達。
セシリアは桜を、シャルとラウラは恋愛対象とまではいかないなど、原作と違いがある。
現在では、箒と鈴はワールド・レボリューションに就職。
セシリアは家を継ぎ、スポンサーとして支援。
シャルは元々就職が決まっていたので、そのまま会社に就職。
ラウラはシュヴァルツェ・ハーゼの所属はそのままで、昇進している。
セシリアとラウラが休みが合う事が少なく、皆で集まる機会は減ったらしい。



織斑一夏

原作主人公in転生者。
本来ならば屑転生者のまま退場させる予定だった。
しかし、作者の力量で屑さが中途半端になった事で、更生する方向性に。
現在は肉体労働系の職業に就いている。ポテンシャルは高いので優秀らしい。
他のキャラとの関係性は、ようやく±0にまで持っていけた感じ。
普通の人付き合いぐらいなら嫌な顔をされないぐらいには改善した。





スカリエッティ家

リリなのからゲスト参戦。
innocent基準なため、一部のナンバーズは中島(ナカジマ)家になっている。
もちろん、戦闘機人ではなく普通の人。
ジェイルの娘なだけあって、色々ポテンシャルが高い。
最終決戦にて、マドカ達の足止めの相手をした。
現在は釈放されたジェイルと共にワールド・レボリューションで働いている。
なお、ジェイルは妹のクイントに頭が上がらなかったりする。





八神はやて

リリなのからゲスト参戦。
innocent基準なため、こちらでも飛び級で既に社会人。
家業の本屋の傍ら、趣味で色んなものに手を出している。
天才の部類ではあるが、束や桜には及ばない。
ジェイルやグランツと共にブレイブデュエルの開発に携わる。
現在は、ブレイブデュエルの一大スポンサーとして、本屋の地下に筐体を設置している。





八神家

リリなのから(ry
こちらもinnocent基準なため、守護騎士ではない。
尤も、専らシグナムとヴィータにしか出番はなかった。
現在ではシグナムは剣道教室の師範をしながら高町家に挑戦し続けている。
ヴィータはブレイブデュエルのプレイヤーとして有名になっている。





高町なのは

リリなの(ry
innocent基準な上、なのはちゃんではなくなのはさん。
御神流も扱えるため、本編キャラでは上位に食い込める強さだったりする。
現在はブレイブデュエルのプレイヤーとしても有名。
最近は仲良くなった友人と共に“T&Hエレメンツ”というチームを組んでいたりする。
ブレイブデュエルでは、トップクラスに強い。大会に優勝した事も。
他にも、家の喫茶店の看板娘としても人気らしい。





高町家

リリな(ry
戦闘民族高町家とも。
母親の桃子以外、皆戦闘力が高い。
喫茶店を営んでいるが、もし強盗が入ったとしたら、その強盗はご愁傷様だろう。
最終章にて、秋十達と協力して学園への襲撃を撃退していた。
それからはワールド・レボリューションと繋がりも出来ていたりする。
現在もあまり変わらず、偶に恭也や美由希がブレイブデュエルに参戦したりする。
御神流も扱えるため、その強さは並のプレイヤーでは絶対に勝てない。






チヴィット

リリ(ry
マテリアルズのチヴィットは特別性で、ユーリのエグザミアと同期できる。
また、自我もあり、性格などはinnocentのマテリアルズそのままである。
ブレイブデュエル内では、チヴィットの中でもシュテル達のみ、人間体になれる。
現在はチヴィットの種類も増え、ブレイブデュエルの有名プレイヤーから許可を貰い、そのプレイヤー達を模したチヴィットも作成されている。
また、現実のチヴィットを作っていなくても、ブレイブデュエル内であれば、どんなプレイヤーであっても自身を模したチヴィットを召喚できる。
マスコットなどとしても、各地で非常に有名になっている。





フローリアン家

(ry
世帯主のグランツは、ワールド・レボリューションの支社を立ち上げ、そこでブレイブデュエルの運営などをやっている。娘二人はその手伝いをしている。
ジェイル、はやてと共同で開発したブレイブデュエルだが、原案は彼である。
現在は、ブレイブデュエルの三大勢力の一つとして有名になっている。
なお、グランツ自身はあまり強くない。





織斑春華、四季

織斑家の夫婦。千冬たちの両親。
実は謎の勘で“原作”通りに千冬たちから離れていた。
二人合わせての戦闘力は、千冬にも引けを取らないほど。
最終決戦では千冬の相手を務めた。
自由な性格をしているため、何気に桜たち天才の天敵でもある。
現在では、未だにぎこちなさは抜けていないものの、千冬たちの親として復帰している。





神咲桃花

桜の母親。
最終章では特に出番はなかった。
現在では、宇宙開発を楽しんでいる桜の帰る場所として、母親らしく過ごしている。
また、翠屋で働いていたりする。





クロエ・クロニクル

束に拾われた子。
原作キャラ且つ、原作と特に変わりがない。
現在は、相変わらず束の助手として過ごしている。
偶に、ドイツにいるラウラと直接的にも間接的にも交流している。





ユリア・エーベルヴァイン

ユーリの元姉。エーベルヴァイン家の次期当主。
最後まで女尊男卑の思想が抜けなかった、ある意味一夏より悪役していた存在。
現在では、ユーリにエーベルヴァイン家の闇を暴かれた事で投獄されている。
下に見ていたユーリに全てにおいて上回られた事で、完全に打ちのめされたようだ。





元亡国機業

スコールやオータム、ダリルの事。
基本的に原作と大差ないが、思想などがだいぶ穏やかになっている。
スコールとオータムは最終決戦で足止めを。ダリルは情報収集以外は脇役だった。
現在では、スコールとオータムは秋十の両親の部下として働いている。
ダリルも普通に仕事に就いているらしい。





 
 

 
後書き
とりあえずは、これで完結となります。
気が向けば、後日談的な話も書いたりするかもしれません。

ここまでご愛読、ありがとうございました。