DQ3 そして現実へ…~もう一人の転生者(別視点)


 

娘の秘密は父親似

どうやら私は転生した様だ……
前世の記憶を持ち、再度人生を歩む事が出来る……
しかもアレだ!
私の大好きなドラクエの世界に転生した様だ!
前世の人生が、それ程煌びやかな物では無かった為、私はこのチャンスを最大限に活用する!
…誤解の無い様に言っておくが、前世の人生が不幸の極みだった訳ではない。
面白味が無かっただけ………不満は無いが、満足も出来ない人生だった。

所謂ヲタク女だった私は、中小企業でOLをしていた。
ブスでは無かったと思うのだが、美人でも無かった私は、美の追究を早々に諦め、稼いだ給料はアニメやゲームに注ぎ込んだ!
社会人になって直ぐに一人暮らしを始めた私……
そんな私の部屋はご想像通りだ!
足の踏み場もないほどのヲタグッズ……
勿論、彼氏など居ない…
何時から居ないかって?
そりゃ産まれた時からさ!!

別に男に興味が無いわけでは無い。
同性愛に興味があるわけでも無い。
…誤解の無い様に言っておくが、同性愛を侮辱するつもりも、同性愛者を差別するつもりも微塵もない!
私は違うと言うだけ。

こんなヲタ女に惚れる男も居ないだろうが、私の趣味に合う男が居なかったのが原因だ!
…いや、正確には違うな…私好みの男は居たのだが、手を出せなかったのだ。
私の男の趣味は、ちと変わってる。
初恋は小学1年生の時…
地域の生徒達と、集団で登下校する班の班長だった6年生の男の子が、私の初恋相手だ。
笑顔がキュートなイケメン少年…
あの頃から少しも好みは変わってない…
そう、成人式を遙か昔に終了した私にとって、犯罪に値する12.3歳頃の男の子が、私のストライクゾーンなのだ!
手ぇ出せるわけ無いでしょ!!


まぁ、過ぎ去った人生を語るのは止そう……
新たに手に入れた、新たな人生を楽しむ事を考えよう。
今、私の置かれている状況を説明しよう。
私は生まれたての赤子で、母親に抱かれている。
驚いた事に、この母親が絶世の美人!
同性愛者じゃ無い私でも、この人となら………と、思ってしまうほどの美人!
豪奢な金髪に、美しい青い瞳。
そして、この人の旦那さんも超美形!
私のストライクゾーンを遙かに逸脱しているのだが、それでも彼になら………と、思い『今すぐ私の処女を奪って!』と叫んでしまったくらいだ!
まぁ実際は言葉になってなく、オギャーオギャーと叫んだだけなのだが。
黒く艶やかな髪を紫のターバンで覆い、吸い込まれる様な美しい瞳は、全ての生き物から愛されそうな程だ。

凄いのはそれだけじゃない。
周囲を見渡すと、調度品がどれもゴージャス!
かなりのリッチメンと予測したところ、私を抱く父親の元へメイドさんが現れて「陛下、おめでとうございます」って………陛下!?
リッチメンどころじゃ無いじゃん!
王様よ!オ・ウ・サ・マ!!
セレブじゃん!私、お姫様じゃん!
私が喜びを身体全体で表していると、うり二つの美少年と美少女が私に近付き満面の笑みで話しかけてきた。
「初めまして、こんにちは。僕が君のお兄ちゃんだよ」
「初めまして、私ポピー。貴女のお姉ちゃんよ、よろしくね」
ちょっと、お兄ちゃんって私のストライクゾーンど真ん中じゃん!
そんな美少年お兄ちゃんが、私を優しく抱き上げあやしてくれる。
もう欲望が止まらない私は、彼にキスをしたかったのだけど、赤子の身体は動かし難く彼の唇までは届かない!
これは何プレイ!?
私好みのイケメン少年が、私の事を優しく包んでいるのに、私は無いも出来ない!!
もどかしくてストレスが堪りそうだが、今は我慢しよう……
何れチャンスは訪れるさ!


遅くなったが、私の新たな家族を紹介しよう。
超美形お父様のリュカ…一国の王様です。
絶世の美女なお母様のビアンカ。
そして双子の美少年なお兄様がティミー。
美少女お姉様がポピー。
そして私の新たな名前はマリー…マリティア・エル・シ・グランバニア。
大国グランバニアのお姫様…
そう!
私はドラクエ5の世界へ転生してきました!!
前世の世界では大して活用出来なかったヲタ知識…
それをフルに活用して、最高に幸せな人生を歩んでみせる!
………そう心に誓い、スクスクと成長して行きましたが、成長するに従って色々と問題事が発覚して来ました。


まぁ、その問題事の大半はお父様が絡むのです…
まず、このイケメンなお父様の考えが読みづらい!
何考えてるのか全然分からないんです。
ある時、私を寝かし付けようと子守歌を歌ってくれました。
微笑ましいですよねぇ…ただ、選曲が『ギザギザハートの子守歌』でしたが…
確かにタイトルに子守歌って入ってるけど、赤子を寝かし付ける為に歌う様な曲じゃ無いでしょう!

その他にも、不意にギャグを言う時があるのですが、それがこの世界の人じゃ意味分からないギャグなのです!
多分、この人も私と同じ転生者です!
私、喋れたら突っ込んでました。
危険です!
この転生者である父に、娘の私も転生者である事がバレたら、娘の身体に憑依しているだけの他人と思われ、私のゴージャスな姫様ライフを妨害されかねません。
その辺に捨てられる事は無いでしょうが、どこか僻地の修道院とかに預けられ、一生を其処で過ごす事になるやも…
マズイ!!
この人にだけは悟られない様にしないと…

とは言え、この人チャラくて単純そうなので、大丈夫かもしれませんね。
私が前世の情報を見せなければ、バレる事は無さそうです。
しかもドラクエ5のエンディング後の世界の様ですし…
でも、気を付けはしないとね…
ついうっかりが怖いから。



 
 

 
後書き
さぁ…
始まりました別視点!
リュカの娘、マリーの視点で見る「そして現実へ…」
 

 

猫の毛皮を3.4枚被る

どーも、みんなのアイドル、ラブリー・プリティー・プリンセス・マリーちゃんです!
ご安心下さいませ、もう言いません!
長すぎて面倒ですから…


さて、現在私はブリッ子中です!
意味分かりませんよね。
簡単に説明すると、今後のバラ色人生計画の為に、親兄妹に溺愛される娘を演じようと思い、48人いるアイドル達も真っ青なぐらい、ブリッ子しております。
特にお父様には要注意です!!
同じ転生者として、隙を見せればバレてしまいますから、ちょー甘ったれな娘を演じようと思っております。

そんな訳で、概ね家族に愛されております。
特にお兄様の愛情は鬱陶しい……いえいえ、嬉しい限りです。
最初の頃は、何れペロンと食べちゃおうと思ってましたが、5歳の時に一緒にお風呂に入って私の射程外へと外れました。
もう立派な大人だったので、私の興味も失せました。
とは言え、根は真面目で良い人なので大好きではあります。

特にポピーお姉様にからかわれている時が一番好きです!
面白すぎます!!
エッチなネタでからかわれる時など最高です!
だから私もからかってみたくなり、エッチなネタで迫ってみました。
「お兄様!私、今日の気分は勝負の日なのですぅ!このパンツだったら、男の子を悩殺出来るでしょうか?ご感想を聞かせて下さい!」
と言って、スカートを捲し上げパンツを見せつける。
しかし、お兄様の反応は予想以上につまらない物でした!
「こら、マリー!女の子なのだから妄りにパンツを見せてはいけません!」
おいおい…つまんねーよ!顔を赤くして恥ずかしがらないのなら、何か面白い事を言って、場を和ませろよ!
真面目くさって説教すんな!
コイツ彼女出来そうに無いわね…
家柄目当て以外の女は、寄ってこなさそう…

その点お父様はさすがです!
お父様もその場に居たのですが…
「コラコラ、パンツを徐に見せてはダメダメだよ!」
此処までは普通です…意見が一致してお兄様も嬉しそうでしたが…
「パンツはね、チラっと見せるのがポイントなんだ!チラリズムだよ!」
出た!親娘の会話にあるまじき単語……チラリズムって……
「男は皆、パンツを見たがってるんだ!でも簡単に見えるパンツには興味が失せるんだ…だからこそ、チラリズムだよ!見えるか見えないか…ちょっと見えた!ってな感じに、男心を擽るんだ!」
お兄様、大激怒。
ポピーお姉様、大喜び!
想像を遙かに超えるお父様…
そんなお父様は私に歌を教えてくれます。
と言っても、私も知っている歌なのですが…知らないフリして教わります!
前世の世界での歌ですから、教わる前に歌えたらバレてしまいます。

そして違う意味で要注意なのがお母様…
私のブリッ子が効きません!
大半の人々は私の可愛さにメロメロなのに…
別に虐待されてる訳ではありませんよ!
とても優しいお母様です。
ただ依怙贔屓をしない公明正大な女性なんです。
お父様には愛人が複数居て、私には腹違いの姉妹が沢山居ます。
でもお母様はどの子にも公平で、悪い事したらキッチリ叱られます。

とっても常識人なのですが、お父様が絡むと常識が逸脱します。
以前、お父様とお母様のベットで一緒に寝かせてもらった事があるのですが、夜中にお父様がムラムラした様で、アレを始めたんです。(冷やし中華じゃありませんよ)
最初はお母様も『コラ、リュカ!マリーが居るのだから、今はダメよ!』って、拒否してたんですが、お父様が『遅かれ早かれ知る事なんだから、今の内に目の前で見学させても大丈夫だよ』って…………バカなの、この人!?
どっかおかしいですよ!
そして気付けばマジ本番になってる夫婦……
目の前でですよ…マジで!
気まずすぎて寝たふりを続けました…
だってそうでしょう…自分達の行為をレクチャーされても困ります…
あの男ならやりかねないし…
それに私には知識がありますから不要ですよ…実践経験はありませんけど…

翌朝、ポピーお姉様が話しかけてきました。
「どうだった、あの両親と一緒に寝て…」
ニヤニヤで話しかけて来るんですよ!
知ってやがりましたね…
だから言ってやりましたよ!
「とっても刺激的で、良い勉強になりましたわ!これで何時本番になっても大丈夫ですぅ!」
「あらあら…それは何よりね。でも、まだ見学し足りないのなら、私に言いなさい。喜んで披露しますわよ!」
………勝てませんわ。
もしかすると、私はポピーお姉様が一番好きかもしれません。

でも残念な事に、あと1年ほどでお嫁に行ってしまうのです…
友好国のラインハットの王子様の元へ…
解ってます…けして政略結婚では無い事を…
ラインハットの兄王陛下…ヘンリー様と、お父様は親友同士。
そしてあのヘタレ王子コリンズとポピーお姉様は、相思相愛…
イヤイヤ嫁ぐのでは無いのは解ってますけど、大好きなポピーお姉様が出て行ってしまうのは、とても悲しいです。

一度だけ聞いた事があるんです…
「ポピーお姉様は、コリンズ様の何処が好きなんですか?」
「そうね…確かにマリーの思う通り、アイツはヘタレよ!」
一言もそんな事を言ってないのに、バレましたわ…ポピーお姉様は心を読むのが得意です。
「でもね…あんなヘタレでも、自分の欲求には正直だったのよ!私いきなりキスを奪われたんだもの!」
何だとあの野郎、ポピーお姉様に無理矢理キスしたのか!?
お父様にチクって、ぶっ殺してもらいましょう!
「ちょっと、今乱暴な事考えてるでしょ………大丈夫よ、安心して。直ぐ後で100倍にして返してもらったから♥」
ポ、ポピーお姉様の笑顔が素敵に怖い…
「無理矢理キスされた時、そのまま押し倒してやりヤツの童貞を奪ってやったわ!」
はい。一応申しておきますが、私もお姉様もこの国のお姫様です。
忘れられたら困るので、もう一度言います…この国のお姫様なんですよ!

そんなポピーお姉様が、今度私に凄い物を教えてくれるそうです。
いったい何を教えてくれるのか…楽しみですぅ!



 

 

大は小を兼ねる

「マリー……これからアナタに魔法を教えてあげる!」
結婚式も1ヶ月後に迫り、主役として忙しいはずなのに、ポピーお姉様は私を連れ、砂漠の国『テルパドール』へとやって来た。
其処から更に東へ…魔法の絨毯に乗り、暫く行った所で初めてここへ来た目的を教えてくれた。
「まぁ…魔法ですの………それより、此処は何処ですか?」
「此処は砂漠よ!」
イラッとくる!
そんな事は解ってる…遭難してないかって聞いてんのに!!
「大丈夫、ちゃんと帰れるわよ!」
私、顔に出やすいのかしら?ポピーお姉様には直ぐに心を読まれます。

「それで、私に魔法を教えて頂ける様ですが、何故にこの様な砂漠まで赴いたのですか?」
「そりゃ~…広いからよ!しかも何もない!」
「………あの…もう少し具体的に…」
「つまり、マリーには『イオナズン』を教えてあげようと思ってるの!その為には、何もない広い場所が必要でしょ!?…此処なんかピッタリじゃない!」

どうしよう…何て言えば伝わるだろう…私の気持ち…
「あの…何故に『イオナズン』なんですか?『イオ』にして頂ければ、こんな所まで来る必要はありませんのに…」
「まぁ!?さすがマリーちゃんは賢いわね…でも、その考え方はお兄様寄りね!」
大いなる侮辱ですわ!
思考がお兄様寄りとは………

「それにマリー…考えてご覧なさい。もう、この世界には魔王の驚異は消え去ったのよ!つまり、今後私達の敵になりうる相手とは人間なのよ!」
え!?人間同士での争いに備える為に、私にイオナズンを教えるつもりなの!?
「あ、あの…お姉様…私、人殺しは…ちょっと…」
「安心なさい!私もアナタに人殺しをさせたい訳じゃ無いわ!…いい、想像してごらん…アナタが『イオ』を憶えた後で、アナタにケンカを売るゴロツキが現れるの。勿論、話し合いは通じないから、『イオ』を唱えて撃退するわよね!アナタも殺す気は無いから、撃退しても命は取らない…そうするとゴロツキ共は、何れ復讐をしに再度現れるのよ!しかも以前よりは少し強くなって…」
「はぁ…つまりはイオナズンで殺しちゃえって事ですの?」
「違うわよ!何故、連中は復讐しに現れたかを考えるの!」

「………何故…ですの?」
「それはね、アナタとの力量の差がそんなに無いからよ!だから『次こそは!』って、再度襲って来るの…」
「つまり力量の差を圧倒的にする為、イオナズンから憶えちゃえって事ですの?」
(パチン!)
「その通り!さすがお父さんの血を引く娘ね!賢いわぁ」
ポピーお姉様は、指を鳴らして私を褒める…
これは喜ぶべき場面かな?


それから私は小1時間ほど、ポピーお姉様と砂漠の真ん中で『イオナズン』の練習をした。
因みに私が発動させた『イオナズン』は、お姉様が青ざめるほどの威力で、砂漠に500メートルほどのクレーターを出現させてしまった。

「す、凄い………桁外れの魔力ね………いいマリー、もし(ゴロツキ)に襲われたら、先ずは何もない空間にイオナズンを唱えて、相手を脅しなさい。間違いなく怯んで逃げ出して行くから!そうすれば人を殺さず、戦いに勝利出来るわよ」
ふむ、なるほど…殺す為の魔法ではなく、脅す為の魔法か…
その為には威力が大きい方が迫力がありますねぇ…
流石はお姉様ですわ!考えてらっしゃるぅ!
「私もね…この考え方をお父さんから学んだのよ」
はぁ?あの男から学ぶ事があるの?

「お父さんて、直ぐ人をおちょくるクセがあるじゃない…だから乱闘に巻き込まれるのだけど、相手は本気で襲って来てるのに、お父さんって全然本気出さないじゃない!笑顔で相手の攻撃をかわすから…相手も思うのよね…『この男が本気を出したら、俺なんかは瞬殺じゃね?』って」
えぇ~あの人そんなに強いの?
何時もチャラついてて、強そうには見えないんだけど…まぁ、一応はドラクエ5の主人公だし…それなりには強いのかな?
「ふふふ…マリーは知らないのね…お父さんが本気を出して戦ったら、この世界で勝てる者は居ないわよ!私は何度か見た事がある…その恐ろしいまでの強さを…」

「で、でも…お兄様の方が強いですわよね!?だってお兄様は伝説の勇者様なんですよ!専用の武具で戦えば…」
「100%お父さんには勝てないわ!良くて引き分け…」
えぇ~!!勇者より強いって、どんなチートだ!
きっとみんな勘違いしてるに違いない…
要所要所で圧勝するから、世界最強伝説がでっち上げられたに違いないわ!
だって、あのアホが最強なわけ無いもの!!



さて、1ヶ月などアッと言う間に過ぎ、昨日ポピーお姉様もラインハットへ嫁いでしまった…
今生の別れでは無いし、何時でも会う事が出来るのだから、悲しくならないと思ってました。
しかし、してやられました…
式での『花嫁からの手紙』で号泣してしまいました。
流石はポピーお姉様です…人の心を揺さぶるのが上手い!
お姉様を奪ったヘタレ王子が憎くなり、泣きながらケーキ(一口サイズのカップケーキ)を投げ付けてしまいました…
結婚式の最中に、泣きながら主役にケーキを投げ付けるなんて、前代未聞です。

お母様に叱られそうになったんですが、お父様まで面白がってヘタレにケーキ(ホールごと)を投げ付けた為、私は怒られずに済みました。
因みにお父様は、お母様・ヘンリー陛下・ドリス様・お兄様・オジロン様・マーサお祖母様にこっぴどく叱られてました。
当たり前です!
やっぱあの男バカです…そう、思ってたんですが、ポピーお姉様がコッソリ教えてくれました。
「マリー…後でお父さんにお礼を言いなさいよ!ワザと騒動を起こして、代わりに叱られてくれたんだから!」
本当でしょうか?
私の身代わりにって!?
…にしては、やりすぎではないでしょうか!?
よく分かりません…
一応お父様にお礼は言ったんですけど…
「え?別に庇ってないよぉ…僕もケーキを投げようと思ってた所で、先を越されたからさぁ………娘の真似じゃつまらんと思い、インパクトを付けてみたんだよ!あはははは…ちょ~うける~!」
………この人が分かりません!!



 
 

 
後書き
きっとリュカさんの事だから、ゲラゲラ笑いながらケーキを投げたんだぜ。 

 

父を訪ねて数ページ

 
前書き
やっと本編とリンクします。
そしてマリーの不愉快度が飛躍的にアップ致しますのでご注意ください。(笑) 

 
ポピーお姉様が嫁いでから半年…
皆に溺愛されながら過ごしては居るのだが、やはり刺激が足りず面白味に欠ける日々だ。
折角ドラクエの世界へ転生したのに、冒険の旅は終わっており、刺激的な出来事が枯渇している。


私は日課のお父様へのブリッ子活動の為、お父様の執務室へと赴いた。
部屋に入ろうとした途端、中からお兄様の叫び声が聞こえてくる…
「と、父さんが本に吸い込まれた!!」
はぁ?何言ってんだ、あの坊やは!?
オ○ニーのやりすぎで頭がイカレたか?

私は事態を詳しく知ろうと思い、ドアに耳を当て中の様子を伺う………が、急にドアが開き私は勢い良く吹き飛ばされた。
私は強烈な痛みに、声も出せず蹲る。
「オ、オジロン閣下を…オジロン大臣閣下をお呼びして下さい!」
ドアを勢い良く開けたのは勿論お兄様…かなり焦っているらしく、ドアの影に隠れてしまった私には気付いていない様子です。


暫くしてオジロン様がやって来ました。
オジロン様はこの国の国務大臣です。
しかも先々代のパパス王の弟…つまりお父様の叔父さんなんですね!
オジロン様は執務室へ入ると、お兄様から状況を説明されてました…私も盗み聞きさせてもらいました。
そしてビックニュースをゲット!
なんとお父様が本に吸い込まれたそうです!……あれ、本当だ!?これ以外言いようが無い…イカレた訳では無いのですね。
オジロン様とお兄様との間で、今後の方針が決まったようです。
「この事は内密にせねば…」
「そうですね…特に母さんにはギリギリまで隠しておきましょう。知ったら一気に不機嫌になりますから…」

ふふふのふっ………
壁に耳あり、障子に目あり…私に聞かれてるとは知らずに、企んでいますのねぇ…
先程、吹き飛ばされた仕返しに、真っ先にお母様へチクらせて頂きますわ!



(バン!!)
乱暴にドアを叩き開け、お母様が入室する。
「リュカが本に吸い込まれたというのは本当!?」
私はしくじったかもしれない…不機嫌なお母様の声を聞き、少し反省する…
「情報が早いですね、母さん。誰が言い触らしたんですか?」
「マリーよ…」
ヤベッ!お兄様に怒られるかな?
少しでも怒りを中和させる為に、愛らしく接しよう!

私はお母様の後ろから、ヒョコっと顔を出しお兄様を可愛らしく見つめる。
「はぁ…マリーは誰から聞いたの?」
チョロいわね、この男。
コイツ何時か変な女に騙されるわよ!
「うん、あのね…私、お父様にご本を読んでもらおうと思って、この部屋の前に居たの。そうしたらお兄様が大声で叫んでいるのが聞こえてきたのよ。だからお兄様が原因よ」
そうよ!お前が原因よ!

「………母さんもマリーも他の人には言ってないですか?」
「はい!お兄様!」
「言う訳ないでしょ。それより私の事は陛下と呼びなさい!貴方、一介の兵士なのよ!貴方が身分隠して兵士になるって言ったんでしょ!自分でバラしてどうすんのよ!」
何か、ちょ~不機嫌ね…お母様…
「す、済みません。王妃陛下」
「お兄様怒られちゃったね。元気出して」
こうやって男は女に騙されるのね…
「マリーもお兄様と呼んではダメよ!コイツはただの下っ端兵士よ!」
ぷふー!!王子なのに下っ端だって!
「はいお母様。よろしくね、下っ端さん」
「さて、そんな事より…状況を詳しく説明して下さい」



「……と言う訳で、気付いた時には国王陛下は本に吸い込まれてました…」
何と!?
流石はファンタジー世界!
お兄様きっと、あの本を燃やしたいんだろうな…

「その本には、その後誰も手を付けて無いのね?」
「はい。吸い込まれたく無いですから…」
不機嫌お母様とビクビクお兄様で、話は進んで行く…
「あ!ちょっと…母さ……陛下!不用意に触っては危険です!」
「触らなきゃ調べられないでしょ!雁首並べて唸ってても、リュカは戻って来ないのよ!」
ペラペラとページを捲り本を調べるお母様…
「何これ!?殆ど白紙じゃない!」
「はい。国王陛下もその事に憤慨しておりました」
「で、リュカは勝手にタイトルを書き換えたのね…」
私もお母様の横から本を眺めてみる…其処にはお父様が書いた『そして現実へ…』の文字が…
お父様って意外と字が綺麗なんですよ。
字と見た目は本当に素敵です!

お母様は何度もタイトルと本文を読み繰り返す…
何か気になる事でも?
「母さん…失礼…王妃陛下。国王陛下はタイトルの続きページには何も書かれて無いと、憤慨してました…ですが、今この本には内容が書かれてます。中途半端ではありますが…」
「良い所に気付いたわね。さっきから見てるけど、少しずつ文字が増えているわ…この本!」
「え!?それって…」
「そうよ。今まさに物語が進行中なのよ。そして進行させているのが…リュカ…」
それは驚愕の事実である!
お父様は本に吸い込まれ、その本の中で物語を紡ぎ出している…
「読んでご覧なさい。登場した人物の描写を…」
「確かに…この口調もあの人らしい…」
このチャラさ…間違いなく、あのアホだ!

「でも…それなら心配する必要は無いのでは?この物語が完結すれば、戻って来ると思いますが…」
「貴方はこの物語の結末を知ってるの?」
えっと…当初のタイトルは『そして伝説へ…』だったわね………それってもしかしてドラクエ3!?
私は再度本文を読み返す…
其処には確かに『アリアハン』の文字が!?
間違いないわ!この世界ってドラクエ3よ!
いいなぁ~……私もラーミアに乗りた~い!!
「では救出しないと!」
オジロン様が声を震わせ叫ぶ!
「えぇ、そうね。異世界へ行く方法を探さないと…ティミー、貴方はこれから特使としてラインハットへ行きなさい」
「特使…?ラインハットへ?」
「どうせ国王不在は知れ渡るわ!だから正式に世界中へ通達します。こうしておけばグランバニアへ侵略しようとしている国に対しての、対抗措置を取りやすいでしょ」
「しかし…可能な限り秘匿した方が…」
そんなんだから国王代理にしかなれないのよ!
国王不在を隠し通せるわけ無いじゃない…
「オジロンの心配も分かるけど、何時知れ渡るか分からないと動きづらいのよ!バレないようにと制約がつきまとうから!」
「なるほど…」

「で、王妃陛下は私に何をさせたいのですか?」
「まずラインハットに知らせて軍事、政治両面で支援をしてもらいます。ラインハット以外に此処まで期待できる国はありません。それからポピーを連れてきて下さい」
まぁ!ポピーお姉様に会えるのね!
「………ポピーを~…混乱に拍車がかかりませんか?」
「貴方がルーラを使えればあの娘には頼りません!」
「………なるほど…ルーラ…ですか…」
「ポピーに接触したら、直ぐさまマーサ様をグランバニアにお連れして下さい。異世界への門を開くのにマーサ様のお力が必要になるかもしれません…」
マーサお祖母様を…と言う事は、ゲートを開く能力を当てにするわけね…
上手くいけば、私もあちらの世界へ行けるかも…
目が離せませんわ!可能な限り本の側にいて、ゲートが開いたら吸い込まれたフリをしましょう!私もこれで転生者らしく、ドラクエの世界を満喫出来ます。

「それと!…もう一つ重要な事があります」
「そ、それは?」
「この本の管理です!」
「………何故…それが重要なんですか?」
バカなのこのオッサン!?
あの男を葬れる絶好のチャンスじゃない!
その本を燃やすだけで、あの男はこの世界から消え去るのよ…
直ぐ気付きなさいよ!
「この本が燃やされたらリュカがどうなるのか分からないわ…」
「………なるほど…では、どのように管理しますか?」
「この部屋ごと管理します。私とスノウとピエールで指揮します。配下はモンスターのみで構成します。私達3人の許可が無い限り、オジロン…貴方でもこの部屋への入室は禁止します!よろしいですね!?」
うふふふふ………
もうワクワクが止まりませんね。
今の内から準備をしておかねば…
そうね…以前宝庫物庫で見つけた『エルフのお守り』と『命の石』、それと『賢者の石』を勝手に持ち出しちゃいましょう!
その3つがあれば、私は無事でしょうから…



 

 

これが私のスタートライン

「ポピーお姉様ー!」
私はお姉様の姿を見つけるや、勢い良くあの巨乳へダイブする。
「マリー!!会いたかったわぁ~!アナタに会えなくて寂しさのあまり、夜眠れなかったのぉ~…その所為で昼寝三昧よ!」
「まぁお姉様、奇遇ですぅ!でも私の方が症状が酷く、昼寝も出来ませんでしたので、夜寝てましたぁ!」
「こら、マリー!その女に話を合わせてはいけません。トラブルメーカーが伝染(うつ)る!」
お兄様は私を抱き上げ、ポピーお姉様から離れて行く。
伝染(うつ)るか!!
それよりアンタの変態シスコンオーラが伝染(うつ)る方が嫌だよ!

「お義母様……お呼び立てして申し訳ございません…リュカが………リュカが!!」
お兄様に抱かれた状態のまま、例の本が置いてある執務室へと私達は入って行く。
マーサお祖母様の姿を見るなり、泣きそうな表情でお祖母様に縋り付くお母様…
「ビアンカさん、落ち着いて…あの子の事ですから、きっと無事ですわ。そして必ずこちらの世界へ連れ戻しますよ」
お祖母様はお母様の頭を抱き締め、優しく撫で諭す…
お母様は毎日、不安と心配で押し潰されそうだったのだ!
変な表現だが、お母様はきっとお父様に再度プロポーズされたら、間髪を入れずにOKするだろう…それくらいお父様だけを愛しているのだ。
………あの男の何処にそんな魅力が?

マーサお祖母様は執務机に乗っている例の本を捲り、色々調べ始めた。
今朝、ストーリーを読んだときは、ロマリアの北にあるカザーブで1晩過ごしたところ…
あのアホは、新たに仲間になった巨乳女商人に手を出して、他の仲間に見つかった状況だった。
何であの男はもてるんだ?
アイツあっちの世界でやりたい放題じゃん!
例の本は、勇者アルル様をメインにした描写の為、お父様の事を細かくは描かないのだけれども、それでもある意味スペクタクルな状況なのが読み取れる。
もし私が夫の浮気…しかも半端じゃない浮気を知ったら、離婚を即決するだろう…
しかも今回は、例の本に閉じこめられてるので、本を燃やしてしまうだろう!
だがお母様の思考は随分違う。
お母様は、早くお父様の心を取り戻そうと躍起になってるのだ!
他の女には負けない…私が誰より1番的な感じ。
もう語尾に『だっちゃ』って付けるべきだと思う。
そして何とかデイン系を憶えてもらう………うん、完璧だ!
トラ縞のビキニをプレゼントしようかしら…

そんな妄想をしてる間に、お祖母様とポピーお姉様が物語を読み終えた様で、それぞれ違う反応を見せる。
お祖母様は頭を抱え…
「あの子は………なんて事を………トラブルを生まない様に生きられないのかしら!?」
あはははは………うける~!
お姉様は凄く嬉しそうに…
「やっぱりお父さんは流石ね!如何に環境が変わっても、自身を見失わないなんて…並の人じゃ出来ないわよ!」
何故だろう…言葉的には褒めてるのに、全然誉れ感が見あたらない…
これがお父様クオリティーなのかしら?



マーサお祖母様がお父様の救出に着手してから数週間が経過した…
1度ゲートが開き、魔界の町『ジャハンナ』に通じてしまったが、ゲートを直ぐ閉じ事なきを得た。
やはり別世界というのは勝手が違うらしく、お祖母様も困難を極めている。
お祖母様は優しい人なので、何だかんだ言っても息子が心配な様だ…
トイレと数日置きの風呂以外は、この部屋から出る事さえしていないで研究を続けている。

見かねたお兄様が思わず声をかける…
「マーサ様……どうかご無理をなさらないで下さい。焦る必要はございません。過去にこの国の国王不在が続いた年月を思えば、慌てる必要など何処にも無いのです…」
私もそう思う…
ヤツが居なくても国政は何とかなってるし、精神的トラブルが少なくて逆に良いんじゃないかと思うくらいだ。
ただ…お母様を始め、愛人連中や大半のメイドさん達が気落ちしており、泣きながら仕事をしているのだ…
まぁ、お母様が泣いてしまったのは最初だけで、今は気丈に振る舞っているけど…
「そうですよ、お義母様…物語を読む限り、リュカは無事の様ですし…」
「ティーミー…ビアンカさん…ありがとう。………でもね…物語を読むと、一刻も早くこちらの世界へ戻さねば…と思ってしまうのよ!」

お祖母様の言葉に皆が例の本に視線を向ける。
「……あの子…あの本の中で、好き放題やってるじゃない…私の息子があちらの世界に迷惑をかけていると思うと、ゆっくりなんて出来ませんよ…!」
ぷふー!!
意外とお祖母様ってお茶目さんじゃん!
あんなアホの事など、そんなに心配じゃ無いってさ!

「あぁ…そう言う意味ですか…父さんの事が心配って事じゃなく…あぁ…そう言う…」
「ちょっと、誤解しないでよティミー!私だってリュカの事は心配です。でも、それ以上に向こうの世界の女性達が心配なんです!」
「うふふふ…父さんの事だから、私達に弟妹が増えてるかもよ…」
あはははは、あり得るー!
「ポピー…冗談でも止めてくれ!その可能性は非常に高いんだから…」
ポピーお姉様楽しそう!
何だか私も楽しくなっちゃうわ!
「まぁ!?じゃぁ私に弟か妹が出来るんですのね!!とても楽しみですぅ!」
弟だったら、食べ頃になったらペロンといっちゃお!

「はぁ…居たら居たで面倒事を起こすのに、居なくなるともっと厄介な男よね…何で私は惚れちゃったんだろ…?」
お母様ってダメ男好きなのかしら?
「お母さん…いっその事、この機会にお父さんと別れちゃえば!お母さんの美貌なら、3人の子持ちバツイチでも引く手数多だと思うわよ」
「リュカ以外の男に、全く興味を持てないから困ってるんじゃないの!貴女だってコリンズ君以外の男性なんて眼中に無いでしょう!?」
「そんな事無いわよ…お父さんに口説かれたら、喜んで股を開くわよ」
う~ん…見てくれだけは良いからねぇ…私も股を開いちゃうかも!?
「この馬鹿女!マリーの前で下品な話をするな!」
ポピーお姉様を睨みながら、私を抱き上げるお兄様…
筋金入りのシスコンらしく、私を自分好みにしたいらしい…
土下座されてもお前には股を開いてやらん!
「…と…ともかく…一息入れましょう!お義母さま、お茶でも飲んでリフレッシュした方が良いですよ」
「ふぅ…そうですね…少し息抜きしまようか…」
う~ん…何時になったらドラクエ3の世界へ行けるのやら…


私達は執務室を片付け、メイドさんが用意してくれた紅茶とクッキーを食しながら、雑談に花を咲かせている。
其処へ無口モンスターのサーラが入って来て、お祖母様に何かを目で伝えている。
「私にお客様ですか?」
何故かお父様とお祖母様にはサーラの声が聞こえるらしく、会話が成立しているのだ。
「まぁ…リュリュが来たのですか!?一人で?」
「え、リュリュが!?」
リュリュ様とは、お父様とサンタローズに住むシスター・フレア様との間に生まれた女性で、私の腹違いのお姉様です。
お父様にそっくりな美女で、母親似の超巨乳!
そしてシスコンお兄様の片思いの女性です。
リュリュお姉様の名前を聞いただけで、ソワソワ浮つくお兄様が情けなくて…
「………」
「そう!?どうやって来たのかしら?まぁいいわ…お通しして下さい」
あ!忘れてた…そう言えばリュリュお姉様も、サーラの声が聞こえるんだった…


「マーサお祖母様、お邪魔します。…何か大変事になってる様ですね…」
「ふふふ…いらっしゃいリュリュ。本当、貴女のお父さんは厄介事を巻き起こすわね」
お兄様に落ち着きが無くて鬱陶しい…非常に苛つく!
「いったいどうやって此処まで来たのですか?…確かルラフェンという町に、特殊な魔法を憶えに行っていたと思ったのですが?」
「はい、ルラフェンで新たな魔法を憶えました。そしてサンタローズに帰ったら、サンチョさんがこの状況を教えてくれたんです…それなので早速、新たな魔法を使ってグランバニアまで来たんです!」
「え!?その魔法って…もしかしてルーラ!?」
良いなぁ…私もルーラを憶えたい!
「はい!私、ルーラを憶えました!!これで何時でもグランバニアに遊びに来れます!」
「私は生まれつきルーラ適正があったから自然と憶える事が出来たけど、普通の人は適正なんて無いから、凄い大変な思いをしないとルーラって憶えられないのよね!…前にお父さんから聞いた事があるわ!どんな事をしたの?」

「うん!お父さんが言ってたわ…『ものっそい大変だよ』って…本当に大変だった!もう2度とあんな思いはしたくない!思い出したく無いから聞かないで…」
リュリュお姉様が口元を押さえ、顔を顰める…
何だ!?ベネット爺さんのを、くわえさせられたか!?
いや…そんな事はリュリュお姉様の親衛隊モンスターズが許さないだろう…
いったい何があったのだろう?

「でも凄いな…ルーラを憶えるなんて!さすがリュリュだね!」
お兄様がリュリュお姉様をベタ褒めする…
本当にキモいんですけど!
「でもね…お父さんやポピーちゃんの様に、大勢を移動させる事は出来ないの…効果があるのは私一人にだけなの…才能無いのかなぁ…」
「そ、そんな事無いよ!リュリュは凄いよ!才能もあるし、努力するから凄いと思うよ!以前マーリンから聞いたんだ…ルーラは本来、使用者しか移転できない魔法だって!つまり、大勢を移転させる奴の方が異常なんだよ!リュリュは正常なんだよ!だから凄いんだよ!」
お兄様は必死にリュリュを慰める。
もう見てて哀れに思えてくる…
リュリュお姉様も、勿体ぶった態度してないで『キモい』って一言言ってやれば良いのに。

「ちょっと!その異常な奴って、アンタの父と双子の妹なんだけど!」
「ほら、異常だ!」
怒るポピーお姉様を無視して、リュリュお姉様だけを見つめ続けるお兄様…
お前こそ異常だろうが!
「あ、ありがとう…ティミー君…」
リュリュお姉様ですら引き気味じゃん。
「それでね、マーサお祖母様!実はもう一つ古代の魔法を教わって来たの…上手くすれば、その魔法が今回の事件で役に立つかも!」
「本当ですかリュリュ!?そ、それは何という魔法ですか!?」

「はい。その魔法は『パ・ル・プ・ン・テ』と言います!魔法を教えてくれたベネットさんが言うには、『何が起こるか分からない魔法』と言ってました…そして『太古の文献には、異世界から恐ろしい物を呼び寄せる事もあったらしい』とも言ってました!これって上手くすれば、お父さんを呼び戻せるかもしれないですよね!?」
何と!?こんな所でパルプンテ!?
「それは本当ですか!?では早速試してみましょう!仮にあの子を呼び戻せなくても、異世界への干渉を起こす事が出来るのなら、今後魔法を改造する事で、状況を打破できるかもしれません!」
チャンス到来か!?
別世界へのゲートが開いた時の為、ついうっかり吸い込まれる準備をせねば!


お祖母様は執務机に例の本を開いて置き準備を整える。
周囲には皆が事の次第を見つめている。
私はお兄様の隣でチャンスを伺っている…
皆が緊張した面持ちで見つめる中、リュリュお姉様が魔法を唱えた!
「パルプンテ」
………………………………………

「…何も…起きませんね?」
不発か!?そう思った次の瞬間!
例の本の上に黒い穴が広がり、近くにあった書類などを吸い込みだした!
「あ!星降る腕輪が!!」
ペーパーウェイト代わりの星降る腕輪が吸い込まれ、取り戻そうとしたお兄様が吸い込まれる!
このチャンスを逃すわけにはいかない!
「ちょ、ティミー!!」
「お兄様ー!!」

私はお母様と共に、お兄様を助けるフリをして一緒に本の中へと吸い込まれた!
やっと私のドラクエライフが始まる!
あぁ…憧れのドラゴンクエスト3!
こんなヲタ女冥利に尽きる事件は他にないわ!
隅から隅までエンジョイさせて頂きます!



 

 

ダーマ神殿とナンパ野郎、そしてブラック少女

バンザーイ、バンザーイ!!
はい。私は無事にドラクエ3の世界へ舞い降りました!
さぁ皆さんご一緒に!バンザーイ!バンザーイ!!

とは言え浮かれてばかりも居られません。
ご相伴に与ったとは言え、寄りによってこの男と一緒とは…
出来ればポピーお姉様と一緒が嬉しかったのに…
しかもお母様まで来ちゃいました。
今のお母様は不機嫌すぎて、結構扱いに困ります。
早いとこお父様と合流しないと…

さてさて、今私達が何処に居るかと言えば………何かでっかいお城みたいな建物の裏に、私達は落ちました。
此処は何処でしょうねぇ…
今朝、物語を読んだときは、ホビットのノルドさんとお話している所でしたから………
あの付近に、こんな建物あったっけ?
吸い込まれたときに、お兄様は藻掻いてたから、落ちた場所がお父様達からズレちゃったのかもしれませんね…
ったく……碌な事しねーな!


取り敢えず、目の前の建物を調べた結果、此処はダーマ神殿であることが判りました。
ダーマって事は、今朝の時点でバハラタにも着いてないお父様達より、物語の先のポイントへ来てしまったみたいですね…
即ち、此処で待っていればお父様の方から来てくれるわけですよ。

とは言え、そんな事が分かっているのは私だけ…
お母様とお兄様は、必死でお父様の行方を探すでしょう。
「お母様、お兄様、提案なんですが…」
「何、マリー?」
「はい。お父様がどの方角に居るかさえ分からない状況です…ですから、下手に移動しないで、此処ダーマ神殿で待つのはどうでしょう?幸い各地からの旅人さんが大勢おりますし、あれだけ目立つ存在の人ですし、情報が入ってくると思うんです。ある程度の事が分かるまで、此処で待ちましょうよ」
どうよ、この正論攻撃!
変態兄貴とヒステリックママとの旅なんて、遠慮したいからね!
お父様が来るのを待った方が得策よ!
「そうですよ母さん!マリーも居る事ですし、あまり動き回るのは危険かと…」

「………でも、リュカが此処に来るとは限らないじゃない!」
普段冷静なお母様が、お父様の近くまで来ていると思っただけで、落ち着きを無くしてる!親子ね…お兄様もリュリュお姉様が居ただけで、落ち着かなくなるもの。
「…では母さん、僕が近隣を調べてきます。ですから母さんとマリーは、此処で父さんの情報を集めて下さい」
あ、きったねー!自分一人だけこのヒステリーから逃げるつもりだ!
しかしお兄様について行く為の正論が見つけられなかった私は、お母様と共にダーマ神殿でお留守番をする事となりました。



ダーマで待つ事、早5日…
お父様の情報は一向に入らず、日々不機嫌さを増すお母様。
先程、4日ぶりにお兄様も帰ってきたんですが………
「…で、リュカの情報は何も無いのね!」
「は、はい…で、でも探索した塔で『悟りの書』という珍しい物を入手しましたよ!」
不機嫌なお母様は、ジト目でお兄様を見つめ重く言い放つ。
「その書物にリュカの居場所が書かれているの?」
「い、いえ………これには………」
お父様が居ないだけで、これ程まで情緒不安定になるなんて…
にしても、大人なら自分の感情を制御してほしいですね。
「はぁ………もういいわ!マリー行きましょう…今日も皆さんにリュカの事を尋ねますよ!」
お兄様はガックリ肩を落として立ち尽くしてる…
流石に可哀想………でも、それが似合ってるわぁ~………

さてさて、私はお母様と一緒に旅人さんへ尋ね人中。
先程ダーマ神殿に入ってきたばかりの若い男2人組に、ここら辺でお父様らしき人物を見かけなかったか質問です。
お母様は努めて笑顔で接近し、優しく可愛く話しかけます。
「あのー、お尋ねしたい事があるんですが…よろしいですか?」
男2人がお母様を見て驚いてます。

当然ですね!
絶世の美女ですから!
今までも、お母様に話しかけられた男共は、デレデレ状態で不必要な情報まで吐き出してましたから…
「お美しいお嬢さん…一体俺等に何用でしょうか?」
「どうやらお嬢さんはお困りの様子…私達でお役に立てるなら、喜んでお力になりますよ!」
イケメン指数75%の2人が、白い歯を光らせてお母様に近寄ってくる。
ぶっちゃけウザイ!

下心丸出しの、バカ丸出し!
唯一の救いはアソコを丸出しにしない事だけ…
お母様もそれが分かった様で、取り敢えずの質問で逃げ出しにかかる。
しかし男2人も諦めない。
これ程の美女を逃がすわけにはいかないと、自分たちの武勇伝を聞かせてくれる。
とっても嘘くさい武勇伝を…

「……ってわけで、俺達はロマリアの酒場で暴れる美少女2人を落ち着かせたわけよ!」
「そうそう!私達の魅力にメロメロだったよな!」
どうでもいい………早くあっちに行ってくんないかな!?
「あ、あの…もう十分ですから…色々な情報をありがとう…大変助かりましたわ」
「あぁ…待って待ってお嬢さん!こんなご時世だし、女性が一人で彷徨くには危険だぜ!俺達と一緒に行かないかい!?」
どうやらコイツ等は、頭だけでなく目も悪い様だ…『女性一人』じゃねーだろ!私と手を繋いでるのが見えないのか!?
「私達が貴女の事を守りますよ…昼も夜も何処ででも!」
イオナズンでぶっ飛ばしちゃおうかしら!?
鬱陶しい事この上ない!

お母様も辟易している様で「もう結構ですから」とか「私には必要ないですから」とか言って、逃げようとしているのだけど…
ともかく、しつっこいのよコイツ等!
言っとくけど、マジお母様とは釣り合わないから!
生半可な美形じゃ、お母様との釣り合いは取れないのよ!
お前等、鏡見た事あんのか!

等と、このバカ共に苛ついていると、当のお母様は既に臨界突破な様で、彼等の頭スレスレをかする様に魔法を唱えた。
唱えた魔法は『メラミ』ですが、怒りで魔法力を押さえきれなかった様で、見た目は『メラゾーマ』の威力です。
「いい加減にしなさい、この不男が!女を漁るのなら、余所でやれ!」

言うだけ言うと、お母様は踵を返し宿屋の方へと去って行く…ダーマの壁を盛大に焦がして…
私は途中までお母様について宿屋へ向かったのですが、情けなく尻餅をつく彼等の元へ戻り言いました。
「鏡見ろバーカ!お前等如きが、お母様と釣り合うはずが無いだろうが!」
と言って、失禁する奴等の股間に唾を吐き付けてやりました!
気分爽快ですぅ!



 

 

再会と再開

ナンパ野郎2人の元から立ち去る私は、急いでお母様の元へと戻る…
するとお母様が3人の神官に怒られてました。
「此処は神聖なるダーマ神殿ですぞ!」とか「騒動を起こさないで頂きたい!」とか…
まぁ当たり前でしょうね。
あんな所で、あんな威力の魔法を使えば…

しかし忘れては行けない事がある!
ヒステリックに怒る女性に対し、正論全開で説教をするのは、火に油を…いや、ニトログリセリンを注ぐ様な物なのだ!
「何が『神聖なるダーマ神殿』よ!そこで女をしつこくナンパする男こそが問題じゃない!私は被害者なのよ!あのバカ2人が、娘の目の前で口説いてくるから、仕方が無く追い払ったんじゃない!」
「し、しかし…あれ程の騒動を…」

「何より、アンタ達神殿側に問題があるんでしょ!!神聖な神殿の神聖さを維持する努力を怠ったから、私が仕方なく自分で解決したんでしょ!もっと早くに、アンタ達があのナンパ野郎を注意していれば、私がメラミを唱えなくても済んだんじゃない!」
怒り心頭のお母様の両手から、魔法力が漏れだして、薄っら炎に包まれる。
それを見た神官達は青ざめ、口々に自らの怠慢を反省し謝罪する。
そして大慌てで、遠巻きに見ているお偉い神官さん達の元へ逃げて行く。
お母様は彼等を目で追い、目が合ったお偉いさん達を睨み付ける。
睨まれたお偉いさん達は、威厳や対面をかなぐり捨て、逃げる様に奥へと引っ込んで行く!
あはははは、さいこ~!


さてさて、この世界へやって来て早1週間!
ナンパ野郎の一件以来、ダーマの人々の対応が優しく(脅えた風)になりました。
うん。居心地が良いですね。

しかしながら、お父様の情報が微塵も入ってこない為、お母様のイライラも天井知らずで、取っ付きにくいのが困りものです。
お兄様は、お父様を捜すフリして逃げようとするので、涙ながらに訴えました。
「お、お兄様ぁ…私をお母様と二人きりにしないで下さい…今、お母様が怖いんですぅ…」
私には避雷針が必要なのよ!
「分かったよマリー…僕も此処に残るから泣かないで」
そう言って私の避雷針(おにいさま)は、私の事をギュっと抱き締め頬擦りをする。
一瞬シスコン野郎に犯されるかと、身構えてしまいましたが、付近に他の人々の目があった為、私の処女は守られました。


ダーマでの生活も10日を迎え、誰に対しても笑顔を作れなくなってしまったお母様を宿屋へ残し、私とお兄様で情報を収集してます。
勿論、物陰に連れて行かれたら大声を出す用意はありますよ♥…まぁ、コイツはヘタレだから多分大丈夫だけどね。
そんな事を思いながら、見慣れてしまったダーマ神殿を見回っていると、2階の宿屋からお母様の叫び声が聞こえるではありませんか!
私とお兄様は慌てて宿屋のお母様の元へへ向かいます。
大勢の不細工な男共に、押し倒され犯され汚されたお母様を想像し、じんわり濡れてしまった私…

しかし勿論の事ながら、私の妄想は的はずれで、お母様は男の方に抱き付き熱烈なキスをしておりました。
「母さん、どうかしまし………うわっ!!」
お母様を心配し、慌てて声を掛けたお兄様が引くその光景…
「…ぷはっ…ティ、ティミー…それにマリーまで…どうして此処にいるの!?…っん!」
何と其処には、私のイケメンお父様が、お母様に無理矢理唇を奪われてるではありませんか!
「まぁ素敵!お父様とお母様がラブラブですわ!」
「ちょっと母さん!こんな公衆の面前で…それに父さんに状況を説明しなきゃならないんですから…」
放っておけば良いのに、体面を気にするお兄様は、お父様とお母様を引き離し取り繕う。
この二人がパコパコ始めたって、会話は出来るのだから、さっさと説明だけしちゃえば良いのに…


「え?なに!?ビアンカ…どういう事?…ちょ…ティミー…説明してよ!…あれ?マリー…?何で君まで居ちゃうの?」
お父様が混乱してます。
こんな姿はなかなかお目にかかれませんよ。

「…父さん…落ち着いて聞いて下さい…父さんは本に吸い込まれ、物語の中に居るのです!」
「あ゛!?何言ってんの?大丈夫、お前…?」
あはははは、私も最初聞いた時はそう思った!
「父さん…憶えてないんですか?本に吸い込まれた事を…」
「それは憶えてるよ!落書きしたら本のヤツが怒って、僕をこの世界に放り出したんだ!」
「そうです…そして父さんが行ってきたこれまでの冒険は、物語としてあの本の白紙のページを埋めているのです!」
お兄様が深刻ぶって説明をする…似合うわ!

「へー…じゃぁ、この物語の結末は?」
「…いえ、まだ物語は途中で…」
あ~…このチャラい口調を聞いてると、ホッとするわねぇ…
お母様なんか人目も憚らずお父様にベッタリです。
「相変わらず頭が固いなお前は!だから何時まで経っても右手が恋人なんだよ!」
なるほど…じゃぁ、あの右手には『リュリュ』って名前を付けてるわね。

「(イラッ)父さんこそ相変わらずですね!」
「いいかいティミー…此処は物語の世界ではない!僕等の住んでいた世界とは別ではあるが、此処も現実世界なんだよ。あの本に書き綴られているのは、いわば伝記の様なモノだ…しかも現在進行形で綴られる…」
「た、確かにそうですが…表現の違いでしょう!状況は変わりませんよ!」
「違うね!物語だったら、基本ハッピーエンドになるだろうが、現在進行形の伝記は何が起こるか分からないんだ!この先、死ぬ事だってあるかもしれない…スタンスが変わるんだよ!」

「くっ…で、では…尚のことこの世界から抜け出さないと!」
「うん。そうだね…で、君達はどうして此処に来ちゃったの?」
やっと飛ばされた経緯を話せるのか…
お兄様が此処までの流れを、懇切丁寧に語り出した。



「………と、言うわけで僕が吸い込まれ、助けようと手を差し伸べてくれた二人と共に、この世界へと放り出されました…」
「な!!こ、この馬鹿野郎!!」
(ドカッ!!)
流石にビックリ!
お父様が怒る所なんて初めてだ!
しかも息子に手を上げるなんて!!

「お前、助かりたい一心でビアンカを巻き込んだのか!?よりによってビアンカを!!」
「リュカ!許してあげて…ティミーは悪くないの!私が手を掴んだからいけないの…」
「お父様ー!お兄様を叱らないで下さい!不幸な事故なんですぅ!」
お父様に殴られて、口から血を流すお兄様を見ては流石に庇わざる負えない!
「お前にとってビアンカは只の母親なんだろうが、俺にとっては命より大切な存在なんだ!…それなのにこんな危険な世界に連れてきやがって!手を捕まれたとしても、振り払うぐらいしろよ!」
お父様の一人称が『僕』から『俺』に変わってる…
それ程お母様を愛してるって事なのね…

「…も、申し訳ありません…父さん…」
お父様の怒りを目の当たりにして、皆さん声も出せないで居る様子…
仕方ありません…お兄様を利用してしまった手前、助けないわけにもいかないでしょう…
「酷いですわ、お父様!!お母様の事は心配するのに、私がこの世界へ来てしまった事では怒らないんですのね!」

「あ、いや…違うって…マリーの事でも怒ってるよぉ…」
お父様は娘に甘々な人なのです。
「でも私の名前は出ませんでしたわ!」
「いや…それは咄嗟だったから…」
「お兄様も咄嗟の事でお母様と私の手を掴んでしまったんですわ…お父様と同じです!もう許してあげて下さい」

うふふ…どうですか、ブリッ子プンプン攻撃は!
言ってて苛つきますけど、我慢して下さい。
観念したお父様…お兄様に『ホイミ』を唱え苦笑い。。
「あ、ありがとうございます…でも、これくらいでしたら自分で治せますから…」
「僕が付けた傷だ…僕が治さないとね………娘に嫌われたくないし…」
貴方達は私の手の平の上で踊ってるのですよ!


「さて…ビアンカがこっちの世界に来ちゃったという事は…アルル、悪いんだけど…僕はこれ以上旅を続ける理由が無くなっちゃた…」
「はぁ~!?い、いったい何を言ってるんですか?旅をしながら元の世界へ戻る手立てを探すんでしょう!?」
何でよ!
これからやっと本格的にドラクエ世界を堪能出来るのに!

「うん。僕が元の世界へ帰りたかった理由はビアンカなんだよね。大好きなビアンカが、向こうの世界に居るから帰りたかったんだけど…こっちに来ちゃったからねぇ…帰る理由が無くなっちゃった!もう王様なんかやりたくないしぃ…ビアンカとこっちの世界で、イチャイチャ平和に暮らすのもありじゃね?」
ありじゃねぇーよ!
「ありじゃありません!仕事はどうするんですか!?現在、国は大変な事になってるんですよ!」

「じゃティミーがアルル達に付いて行って、元の世界に帰ればいいじゃんか!ついでに王位を継いでよ!そうすれば僕が帰らなければならない理由も無くなるし!うん。そうしよう!…頑張って、ティミー国王陛下♥」
「いい加減にして下さい、リュカ国王陛下!グランバニアの国民は、貴方の情けない息子の事より、貴方自身を望んでいるんですよ…たった数年で国力を倍にした貴方を…」
あれ?
お兄様…自覚あったんだ!?

「ちょ…ちょっと待ってよ!え!?何?国王…陛下?リュカさんが…?嘘…マジ…!?」
分かるわ~…信じられないもんね、この男が…なんて!
しかしこの子可愛いわね…お持ち帰りしたいわぁ…
「前に言ったじゃん…王様してた事…忘れちゃった?」

「た、確かに…言ってた…け、けどさ!」
「ウルフ君!悪いんだけど、後にしてくれないかな…確かに父さんは、いい加減で、チャランポランで、不真面目で、女誑しで、トラブルメーカーだけど…これでも立派な国王なんだ!嘘みたいだけど、国民の支持が極めて高いんだ!だから説得の邪魔をしないでくれ」
「ご、ごめんなさい…」
「いや、謝る事はないよ。…それに君達にも死活問題なのでは?…確かに父さんはトラブルを引き寄せるし、戦わず歌を歌い傍迷惑だけど、危険な旅路では生存率を上げる効果もあると思うんだ!」

「わぁ…息子の言葉から、父への尊敬の欠片も見つけられない…」
あるわけ無いじゃない!自覚しなさいよ!
「何を今更…大分前からでしょ」
「えぇぇぇ!マジッスかビアンカさん!気付かなかったなぁ…」
うん、バカだ…でも私好きだわぁ~…

「リュカさん!元の世界に帰らないのは構いませんけど、この世界を平和にする旅には来て下さい!まだ私はリュカさんから学びきってません!」
「え~…危険な事は嫌いなんですけど~」
「何だよ!リュカさんどうせ戦闘しないんだからいいじゃんか!」
え!?じゃぁ何の為に、この人を連れて行くの?
「どうせ戦闘しないんだから、行かなくてもいいじゃんか!」
「「「くっ!」」」

皆さんがお父様の事で難儀しております…
するとお母様が、私に目で訴えてきました。
…下手に逆らうと、後々怖いので従いますぅ。
「お父様…お父様とお母様が帰らないのならば、私もこの世界に残ります!…でもアレですよね…この世界ってどこもかしこも治安が不安定で、私みたいな幼い少女は攫われちゃうかもしれませんよね…攫われちゃったら、あーんな事や、こーんな事をされちゃうかも…平和な世界かぁ…まぁ私はお父様とお母様が居れば幸せですけどね!」
「マリーを出しに使うなんて…ズルイよ!」
私も、こんな事を言うのは本意じゃ無いんですけど…

「ふふふ…ごめんなさいリュカ。でも、勇者様が2人も居る旅なのだから、そんなに危険じゃ無いわよ…それにアルルちゃん達も強くなってきてるじゃない」
「………僕等の勇者様の装備が情けないんだけど…コイツ、グランバニアの剣しか装備してないよ!」
「仕方ないじゃないですか!僕はグランバニアの兵士なんだから!それにこの剣はザイル君が作ってくれた特注品ですよ!」
へー…特注品なんだ…何がどう特注なのかしら?
「そうよリュカ!ティミーはもう一人前なんだから…装備は関係ないわ!…それに私は帰りたいわ…お父さんが向こうの世界に居るのだから…」
「分かったよ!ビアンカにお願いされたら、断るわけにはいかないじゃんか!」
何よ!最初からお母様が説得すれば、万事解決だったのに…

そして、やっと互いの自己紹介が始まる…
あのウルフちゃん…
狙いを定めておかねば…
あぁ…楽しいドラクエライフになりそうですわ~!



 

 

みんな真面目に転職中…一部ラブラブ

ムカつく事に寝不足です。
こっちの世界へ来てからは、お母様と一緒に寝ていたのですが、昨晩からお兄様と一緒になりました。
別にお兄様と寝る事自体、問題は無いのです!
だってヘタレだから、私の事襲わないし…
今更、私の事襲うぐらいだったら、疾うの昔にリュリュお姉様を孕ませてたでしょうから…

問題は、私の両親の事なんですよ!
勿論、お父様とお母様は夫婦なのですから、夫婦な事をしても良いんですけど…
お母様、溜まってらしたのね…
安普請の宿屋では、防ぐ事が不可能なほどの激しさなのです!

騒音問題もですが、もっと最悪なのはお兄様のです!
優しいお兄様は、私の耳を手で塞いでくれるのですが、必然的に身体が密着されます。
その際に当たるんですよ…お兄様のが…あの騒音で、堅くなっちゃった…お兄様のが…
あぁ…5年前なら、落ち着かせるのを手伝ったのに…



「うるっさいんだよアンタ等!!」
翌朝、ダーマ神殿の食堂でイチャつく両親にぶつけた、お兄様の第一声です!
「神聖な神殿で、明け方まで盛(さか)りやがって!」
一目で分かるぐらい、お母様の機嫌が良いのです。
「しょうがないじゃん!夫婦なんだから…こうやって君は産まれたんだよ?」
「うっさいよ!久しぶりの再会だし、1.2時間くらいなら我慢もするさ!だが一晩中って何だよ!馬鹿なんじゃないのかアンタ達!」
「親に対して『アンタ』って…酷くないッスかビアンカ姉さん!?」
「そうねぇ…育て方間違えちゃったかしら…?」
いえ違います。
間違っているのは貴方達ですから!


皆さんが転職を行っている間、私はお兄様に手を握られアルル様達と共に、転職者達を眺めております。
お父様とお母様はと言いますれば…
少し離れた壁際に座り、イチャイチャ・ベタベタしておりますの!
離れていて何を言ってるのかは分かりませんが、私なりにお母様の台詞にアテレコしちゃいますと…『ダーリン、ウチ寂しかったっちゃ!』ってな感じかしら?

もし一般の平凡カップルが、イチャイチャ・エロエロしていたら、目障りでむかっ腹が立ちますが、あの二人に関しては全く腹が立ちません。
正直、本当にお似合いなんですよ!
絶世の美男・美女…素直に羨ましいと思います。

「これで俺は盗賊とはおさらばだ!真っ当に生きる第1歩だぜ!」
暫くすると、カンダタが転職を終わらせ戻ってきました。
「おめでとうカンダタ…でも、待たされた割には、あっけなく転職出来るんだね?」
そうなんですよ…神殿と言われたますけど、何だかお役所みたいな所なんですね。
「リュカの旦那は?…報告しておきたいんだが…」
図体に似合わず結構律儀なんですね…
「あっちでイチャついてる…」
カンダタの言葉を受け、指差す方向にはお父様とお母様が…
「お父様とお母様はラブラブなんですよぉ!素敵ですぅ!!」

「ティミーさんも大変ですね…」
「ありがとうアルル…それと僕の事はティミーで良いよ。『さん』付けはいらない。………しかしこの数ヶ月、父さんが迷惑をかけた様で…本当にごめんね…」
「い、いえ…」
お兄様とアルル様が揃って溜息…羨ましいの?それとも呆れているの?
「ビアンカさんて…何時もああなんなんですか?」
「………さすがに母さんはまともな人なんだけど…この数ヶ月、父さんと逢えなかったのが寂しかったんだろうね…その反動で………普段はまともなんだよ!父さんと違って!!」

そうこうしていると、もう一人が転職を終えて私達の元に…
「お待たせしました。無事、武闘家になる事が出来ました!皆さんのお役に立てるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします!」
「お疲れハツキ…期待してるわよ!」
ワザワザ僧侶から武闘家への転職です…
私がプレイしているのならば、そんな中途半端な事は認めませんけどね。

「しかし何で誰も注意しないんですかね?幾ら何でも神官が神殿内では慎む様言いそうですけど…」
お父様とお母様を見て、ハツキ様がむくれながら呟く。
この娘も、お父様に惚れてるのね…
「…みんな…怖いんだよ…」
「………怖い?何がです?」
「母さんの事が怖いんだよ…」
「はぁ?何言うてんの?ビアンカさんの何処が怖いねん」
エコナ様は知らないのよ…不機嫌だった時のお母様の事を…
「…あそこの壁を見てごらん…」
お兄様がお父様とお母様のイチャついている所と反対側の壁を指差す。
「何か…真っ黒に焦げてるなぁ…」
カンダタの疑問に、お兄様が申し訳なさそうに話す。
「あれ…母さんがやったんだ…」
「はぁ?どうしてビアンカさんは、ダーマ神殿を燃やそうとしたの!?」
「いや違うんだ…聞いてくれアルル!別にダーマ神殿を燃やそうとしたんじゃないんだ!この世界…まぁ、僕等からしたら異世界へ着いて早々に、母さんはナンパされたんだ…僕達はこのダーマ神殿の裏手に落ち、情報収集の為に色んな人々に話を聞いてたんだけど…母さんに寄ってくるのは、盛りの付いたオスばかりで…碌な情報を提供しないクセに、しつこく口説いてくるから…その…イラついたらしくて…メラミを…」

「メ、メラミでナンパ野郎を黒こげにしちゃったんですか!?」
「してないよ!誰も傷つけてないよ!誰も居ない壁に威嚇として放ったんだ!あの焦げ跡はその時のなんだ!」
「はぁ…そんな事が…それで皆さん、恐れてるんですか…」
「それにしても、メラミであんなでかい焦げ跡が出来るのか?メラゾーマじゃないのか?」
それだけお母様は凄いんです!
「メラゾーマだったら、この神殿は廃墟になってるよ…母さんの魔法力は桁違いなんだ…」
「お、怒ると怖いのは…夫婦そっくりなんですね…」
「ははははは………」
私…お父様が怒った所、見た事無いなぁ…想像出来ないし。

「なぁティミー、アルル……………ちょっとムラムラしてきたから、1時間程宿屋へ行ってくるよ!」
いきなりお父様が近付き、突飛な事を言い出した!
やっぱりバカだ、コイツ!
「はぁ!?何馬鹿な事を言い出すんです!もうちょっとでウルフ君も合流しますよ!」
「そうですよリュカさん!みんなが揃ったら、イシスに向けて出発するんですから…無意味に宿を取らないで下さい!」
「だからさ、ウルフが合流するまでの間で良いからさ…チャチャっと済ますから…」
チャチャっと済ますとか、そう言う問題じゃ無いだろうが!

「皆さんお待たせしました!賢者ウルフの誕生です!」
ほら、ウルフ様も戻って来ちゃったし…諦めなさいよね!
「なんだよぉ…空気読めよぉ…使えないなぁウルフは!もう一回並んでこいよ!」
ちょ、酷すぎ…ウルフ様、泣きそうになってるじゃないのよ!
………でも、そんな顔も可愛いわね、この子…
「ごめんねウルフ君。この男は常人とは違う思考回路で生きているから、気にしてはダメだ!…そんな事よりおめでとう!君なら偉大な賢者として、この世界を平和に導けるよ!」
「えぇ!ウルフには期待しているわよ!ハツキが武闘家になった今、回復面でもウルフは重要な存在になるんだから!」
「あ、ありがとう…ティミーさん…アルル…」
あぁ…チョー可愛いー!
チャンス造って喰べちゃお、この子!
うふふふふ………待ってなさい、おねーさんが大人にしてあげるから!



 

 

野望の一歩

取り敢えずダーマから外へ出ると、お母様が質問をする。
「さてアルルちゃん!さっきイシスへ行くって言ってたけど…イシスって砂漠の国よね?魔法の鍵を手に入れたのに、また砂漠になんか行くの?」
確か…あの国の女王様に手を出したバカが居たわよね…
それなのに行くの?

「あぁそっか…ビアンカさん達には説明がまだでしたね………」
アルル様は、うっかりしていたらしく懇切丁寧に、今後の予定を教えてくれた。



「………なるほど…この悪党の所為で、面倒事が増えた訳ね…」
「あ…姐さん、ひでぇッス!」
「でもアルル…マリーちゃんに砂漠はきつくないか!?」

う~ん…私も砂漠はやだなぁ…
テルパドールの砂漠もきつかったし…
「せやね!ウチ等の足でも2週間はかかるしね…」
「それなら大丈夫よ!ルーラで行けば良いのだから!」
そうよね!お父様がルーラを唱えれば良いのですからね。
「ビアンカさん、何言ってるんですか!?私達の中にルーラを使える人は居ませんし、それにルーラは術者しか移転できないんですよ!キメラの翼も同じです…イシスに言った事のないビアンカさん達には効果がありません!」
まぁ!?ゲームとはちょっと違うんですねぇ…

「あー…みんなごめんね。僕から謝るよ!実は父さんはルーラを使えるんだ!」
「何や…やっぱりリュカはんはルーラを使えたんか!まぁそうじゃないかとは思っとったけどな!ちょくちょく何処かへ行ってた様やし…」
あはははは、バレてやんの!
「いや…真の謝罪は別にある………父さんのルーラは、大人数を同時に移転できるんだ………しかも船ごと!」
皆さん怪訝な表情で、お兄様とお父様を見ていますぅ。

「は、ははははは…ティミーさん…大丈夫ですか?疲れている上に寝不足かもしれませんけど…大丈夫ですか?」
分かりますわウルフ様ぁ!
この男にそんな事が出来るわけありませんものねぇ…
「あはははは!やだなぁティミー!変な事言っちゃってぇ~!やっぱりもう一晩、ダーマに泊まって行こうよ!み~んな疲れてるんだよ!」
どんだけリビドー垂れ流してるんだ、この男は!
今は我慢しろよ…何時でも出来るんだから!

「父さん!どの様な意図で出し惜しみをしてたのかは分かりませんが、今後は止めて下さい!マリーも居るのですから、負担が少なくなる様、協力して下さい!」
お兄様ちょっとプンプンでお父様に詰め寄る。
「リュ、リュカさん…本当に…そんな事が出来るんですか!?私達全員をルーラで移転させる事が出来るんですか!?」
「ん~…まぁ…一応?」
『一応』の意味が分かんない!!
「な、何でそれを黙ってたんですか!!?リュカさんのルーラがあれば、私達の旅はもっと楽になってたんですよ!酷いじゃないですか!」
わぉ、アルル様凄くプンプン!
怒った顔が可愛いわね。

「アルルはこの旅での最終目的って何?」
お!?また適当にはぐらかすのか?
「何ですか今更!?魔王バラモス討伐です!」
「うん。そうだね…アルル達の旅の目的が、ただ世界中を巡る事だったら僕はルーラを使ってたさ!でも違うだろ…アルル達はバラモスを倒す為に旅をしてるんだ…楽をしたらダメだよ!」
「楽をしていたのは父さんだろ!」
私もお兄様の意見に賛成!

「相変わらずだなお前は…いいか良く聞け!僕にもお前にも、この世界を平和にする義務は無いんだ!世界を平和にする為、旅立ったのはアルル達なんだ!僕はバラモスと対峙する時までこの世界に居るとは限らない…アルル達には旅の…冒険の苦労を、身を以て体験して貰わなければならない!僕が手を貸すのは簡単だ。だが想像してみろ…アリアハンからずっと僕が全てを行っていたらどうなるか…戦闘はもちろん、移動は全てルーラで…きっとアルル達は成長しないだろう…アリアハンを出た頃と変わらないままバラモスと戦うんだ!もちろんバラモス戦も僕が戦えば良いのかもしれないが、果たしてその時点で僕はこの世界に居るのだろうか?」
まぁ、正論ね…本心かどうかは別として…
「もしバラモスに、僕を元の世界へ…いやぁ、元の世界じゃ無くてもいい…別の世界へ飛ばす能力があったらどうする!?アリアハンを出た頃と、何ら変わらないアルル達だけで魔王と戦わねばならなくなる!勝てると思うか?」

…この子達、そんなに弱いの?
でも安心なさい!
私が来たからには、敵なんて一発でぶっ飛ばしてあげるわ!
お姉様直伝の最強イオナズンで!
あぁ…早く戦闘にならないかしらぁ…

「…リュカ…貴方の言い分は分かったわ!でもこれからはルーラを使ってもらうわよ!マリーの為に…」
まぁ、お母様は優しいですわ!
私の為にお父様を説得してくださる。
「………分かった…ルーラは使うよ…でもビアンカもティミーも、アルル達の成長の妨げになる事はしないでほしい!この世界に平和をもたらすのは僕等じゃ無い、アルル達なんだから!」
「うん、分かった。みんなが危なくなるまで、手は出さないわ…」
あら…お父様は本当にこの子達の成長を考えていたようね…
ちょっと格好いいじゃないの!
お母様も惚れ直しちゃった様子です!
お父様に抱き付いてラブラブ♡


「さて…じゃぁルーラを使いますか!」
「でも…本当なんですか…?複数人を同時に移転させるなんて…」
「あぁウルフはしっかり見ておく事だ!偉大なる賢者に転職したんだから、ルーラを憶えた方が見栄えが良い!」
見栄えって…
ウルフ様は今のままで十分見栄えが良いわよ!
私が絶対食べるんだから!
この中で私の邪魔になりそうなのはアルル様だけね…
他はお父様に夢中だし…

「うん!是非とも憶えたいからね…ゆっくりお願いします!」
「じゃぁいくよぉー!……ルーラ」
私はお父様の声を聞きながら考える…
お父様の毒牙にアルル様を陥れれば、ウルフ様を狙いそうな者は居なくなると…
さてさて…どうした物かしら…



 

 

誰もが認めるトラブルメーカー

遙々来ましたイシスです!
やっぱ、ルーラってば便利だわぁ~…
「…す、すげぇ~…本当に複数人を同時に移転させちゃった…」
あらあらマイダーリンが可愛いお顔で呆けているわ♡
「やっぱり腹立つ…こんな便利な魔法を隠してたなんて…」
「まぁまぁアルル嬢ちゃん…旦那はみんなの事を思って隠してたんだから…」
「お!カンダタは良い事言うね!よし『リュー君ポイント』を1ポイントあげよう」
何じゃそれは?

「…何スか、それ?」
「うん。10000ポイント貯めたら、頭をナデナデしてあげる!」
「わぁ…心底どうでもいいッスね…」
「馬鹿な事言ってないで行くわよ!女王様に謁見しないと…」
「え゛!?今から…今日は遅いし宿屋へ行こうよ…」
どうしても一発やりたいみたいだな…
困った事に、お母様までその気だよ!
「まだ昼前ですよ!遅くはないでしょう!サッサと行きますよ!」
まぁ、最終的には強制連行よね!お兄様とアルル様って結構良いコンビじゃん!



「お父様ぁ…どっちを向いても砂ばかりですねー!」
私は謁見の間控え室の窓から外を眺め、それ以外言いようのない感想を述べる。
「そうだね、飽きるよね。誰か代理の人だけが此処で待ってても良いよね。僕、宿屋で待ってても良いと思うよね!夫婦仲良く頑張っても良いよね!」
かれこれ4時間は此処に居るだろう…
ウンザリしてくるのも分かる…が、ただお母様とエッチしたいだけの発言は、やめてもらいたいわね!

「お父様はお母様とラブラブですのねぇ!」
「そうなんだよ。お父さんはお母さんとラブラブでシッポリと楽しみたいんだよ!」
うん。やっぱバカだ!
普通、幼い娘にそんな事言わないもの!
世間一般の父親なら『シッポリ』とか、言わないもの!
「どっか空いてる部屋は無いかな…小一時間程、貸してくれないかなぁ…」
「お父様…そんな事言ってると、またお兄様とアルル様に怒られますわよ」
「あはははは、あの二人気付いたらタッグ組んでるよね!…何か示し合わせでもしたのかな?」
「きっと二人とも、同じ苦労を味わった被害者だからですわ♥」
「(クスッ!)苦労するのはこれからなのに…」
お父様は抱いていた私を下ろすと、爽やかに笑いながら恐ろしい事を言う…
そしてお兄様とアルル様の元へと歩み寄る。

「なぁ…飽きてきたんだけど…帰ろうよぉ!」
これまたストレートな気持ちを口にする…
「また馬鹿な事を…仕方ないじゃないですか!他の皆さんだって順番を待ってるんですから、大人しく待ちましょう!」
年下に大人な意見を言われてやんの!
「みんな僕達の順番を抜かしてるよ!順番待ってないよ!僕達、係の人に故意に除外されてるよ!」
え!本当!?
「え!?」
私は慌てて周囲を見渡し、謁見室への出入りを確認する。
そして、やはり同じようにアルル様達も人々の出入りを目で追っている。

「…くっ!…リュカさんの所為ですよ!お偉いさんを怒らせるから!意趣返しされてるんですよ!………我慢して待つしかないでしょう…」
ちょ、何でこの人は貴族とか王族とかを怒らせるのが上手いの!?
「え~!ちょっと文句言って来る!」
「「「「え!?」」」」


それはあっという間だった…
お父様は突然謁見の間へと歩き出し、勢い良くドアを蹴り開ける!
「たのもー!」
「げっ!!ちょ、ちょっとリュカさん!」
皆でお父様を止めようとしたのだが、結局間に合わずなだれ込む様に謁見の間へ入っていった!

「リュ、リュカ!?どうしました!?」
うぉ!アレがイシスの女王か…
確かに良い女だ…
「用があって、謁見の順番待ちをしてたんだけど…もう待ってらんない!昼前から待ってるんだよ!」
「リュカ…いくら貴方でも順番は守って下さい!待つのが嫌だからって…」
「順番守ってねぇーのはそっちだろ!何で僕達より後に来た人が、僕達より先に謁見してんだよ!」
お父様、ちょっとご立腹!?
大臣さん達をぶん殴っちゃわないかしら?
それはそれで楽しそう!
「え!?どういう事です?」



「………と言うわけで、明らかに作為的に順番を抜かされ続けてたんだ!」
「…真ですかイプルゴス!」
アイツか!?嫌がらせをしてるのは!
「い、いえ…その…こ、これは偶然…その…」
吃るなよ…認めている様なもんじゃん!
「小せぇ男だな!何だぁ~、レイチェルの事を狙ってたのか?そんで僕に嫉妬したか?」
相変わらずムカつく台詞が似合うわねぇ…

「だ、黙れ!貴様なんぞ認めんぞ!」
「ぶははははは!いいもんね~、認めてくれなくても!ば~か!」
「わ、私は…女王様が幼い頃より仕えてきたのだ!女王様がお幸せになれるのなら…そう思い日夜仕えてきたのだ!それなのに貴様の様な浮ついたろくでなしが、女王様を汚しおって!」
オッサンが泣くなよ…
つ~か泣かすなよ…
「イプルゴス…泣かないで…私は幸せよ。頼りになる家臣に囲まれて…素晴らしい国民に恵まれて…そしてリュカに出会えた………だから泣かないで…そしてリュカを許してあげて!」
女王様がお父様に抱き付き、自身の幸せをアピールする…
やっぱり顔が良いと得よねぇ…

おや?
お父様が珍しく固まってる?
何で?美女に抱き付かれて?いやいや…あり得ないから!
お母様も何か感じた様で、お父様の前に回り込み何やら表情を観察している。
「リュカ…?どうか…しましたか?」
女王様も気付いたご様子…

「………レイチェル…彼氏出来たのかな?」
「リュカが彼氏になってくれるなら、出来たと言えるけど…それ以外では…リュカ以外の男性に興味が持てなくなったしね」
仮に居たとしても『貴方に出会えて幸せなの!』的な事を、言った相手に言うとは思えないが…
「リュカ…もしかして…またなの…?」
またって何が?
夫婦だけの秘密のサイン?
「父さん…またですか………しかも、こっちの世界で…」
あれ!?
お兄様まで話に入れるの!?
一体何が起きたのよ!?
私も仲間に入れてよね!



 

 

砂の都の未来は明るい

「ちょっとリュカ!どうすんのよ!?」
何がよ!?何がどうして、どうなってんの?
私も仲間に入れてよ!
「ちょっと!リュカに馴れ馴れしいですけど、貴女は誰です!?」
女王様、嫉妬の炎メラメラって…けど今それどころじゃないでしょ!
話が見えてこないでしょ!

「あ~…どうしよう……何から説明すれば混乱が少ないだろうか…」
「女王様…色々込み入ったお話がございます故、後程で構いませんからお時間を頂けませんでしょうか?」
「…貴方は?」
「は、私の事も後ほど説明させて頂きます。今は勇者アルル一行の一員とご理解下さい」
うぉぉう!お兄様が珍しくしっかりしてる…
つまりは、慌てふためく事では無いのかしら?
「………分かりました…では別室で待っていて下さい…」
全く持って、何が起きているのか判らないのだけども、私達は別室へと案内される…
お母様が不機嫌気味なので、近寄らない様にしましょ…



此処は別室…
世界の終わりかと思うほどの重い空気…
苛ついているお母様が、指でテーブルを叩く音だけが響いてる。
皆がお父様だけを注視してるのですが、状況を聞く事も出来ないでいる。
私はこのチャンスを利用すべく、ウルフ様に寄り添い事態の行く末を観察しますわ。
マヂ、可愛いわぁ~!

(ガチャ!)
「大変お待たせしました!随分と込み入った話と言う事ですが…どうしました?皆さん暗いですね?」
女王様登場!
さてさて、一体何事なのか…私に分かる様に説明してほしいわね。
「お時間を戴きありがとうございます。まず最初に自己紹介をさせて頂きます…私はティミー。リュカとは血の繋がった息子でございます」
「まぁ!?随分と大きな息子さんが居るのね!?」
「で、でしょぉ…凄いイケメンだし、レイチェルの彼氏にどう?」
普通、息子に自分の中古を押し付ける?

「うふふふ…私は息子さんよりも、お父さんの方に気があるんですよ♡」
流石女王様…お母様ほどでは無いにしろ、美しく妖艶ですわね。
「じょ、女王様…続いてご紹介しますは、私の妹のマリーです。…そして此方が、私と妹の実母であるビアンカでございます」
お兄様が私をウルフ様から離し、女王様へと紹介する…
「…あら…私とは結婚できない事を、改めて分からせに来たのですか!?」
女王様は敵意向きだし!
「いや…今日来た理由は違うんだ!…アルル!ほら、お願いしなよ!!」
お父様がアルル様に話を押し付けたわ。
流石卑怯ねぇ…



「…なるほど…分かりました。アルルの為、私に出来る限りの事は致しましょう」
「いやぁ~、ヨカッタネ!無事カイケツダネ!!じゃぁ帰ろうかぁ!」
おいコラ!解決じゃねぇ~だろ!
あの意味不明なやり取りを、説明しろよ!
「まだでしょ!座んなさい!」
「そうよリュカ!先程は妙なやり取りをしてたでしょ!?それの説明を!」
正妻と愛人に挟まれ、困惑気なお父様…
自業自得って言葉を贈らせて頂きますわ!
「いやぁ…別に大したことではないから…説明する事も…」
「リュカ!女王様は知る権利があるのよ!」
お母様の厳しい口調…
観念したお父様は、大きく息を吐き話し始める。

「レイチェル…お願いだから落ち着いて聞いて欲しい」
女王様はお父様に見つめられながら、顔を赤らめ真剣に話を聞いている。
「…僕には特殊な特技があるんだ。…それはね…妊娠してる女性に触れると、その人の中にある新たなる生命の暖かみを感じる事が出来るんだ!」
…………………………
あぁ!そう言う事ね!!
連勝街道爆進中って事…あの種馬野郎は!

「はぁ…今一意味が分からないんですけど…本人が気付いてなくても、リュカには分かっちゃうって事?」
「う~ん…ま、そう言う事だ「あ!ま、まさか…リュカさん…」
お、アルル様が気付きました!
「アルル…」
「さ、最悪な男ね…」
アイコンタクトをする勇者二人…何よ、息が合ってるじゃない…ラブラブなの?

「え!え!?な、何?何なの!?…ねぇリュカ…もうちょっと分かりやすく説明してくれない?」
「うん。つまりねレイチェル…君のお腹には子供が居る。…やぁ、めでたいね!父親はさっきの大臣のオッサンって事で…」
お前の子供だよバ~カ!
しっかし最悪だなこの男…
女を孕ませておいて、責任を取らないつもりだろ…
しかもチャラけてやり過ごそうとしやがって!
よっしゃ!私が事の重大さを認識させてやる!

「きゃー!私に弟妹が出来るのですね!私がお姉様になるのですね!!」
どうよ!身勝手に生ませた子供を残して、元の世界に帰るつもり?
「そうよ、マリーちゃん!私、ママになるのよ!!リュカの子のママになるのよー!」
何この女…バカじゃないの?
何で喜んでいるのよ!
アンタの子供は、生まれながらにして父親を知らないのよ!
男が無責任な所為で!
私の手を取り、踊っている場合じゃないでしょうが!
ってか、私踊りたくないのよ!!
離しなさいよ~~~!!

「どうすんねんリュカはん!」
「え?どうするって?」
自覚無いかのしら?大問題なのに…
「リュカさんは元の世界に帰るんでしょ!それなのにこの世界で子供作ってどうするんですか!?」
どうやら愛人希望の二人も、苛ついているみたいね。
「………どうしよっかねぇ…困ったねぇ…」
(バン!!)
急にお兄様がテーブルを叩き、相変わらずの真面目口調で話し出した。
「女王様!父は貴女に話してない事があります!それは………」



「………と言うわけで、我々はこの世界の人間ではございません!父は…リュカは、元の世界に帰り、国王として国を統治せねばなりません!身勝手ではございますが、それを了承して頂きたい!」
ダメ親父の為に息子が頭を下げている…
そしてダメ親父はそれを見て「頭下げる事ないのに…」と、小声で呟いていた…
最悪な男!…でも、お母様に頭を押さえられ、一緒に頭を下げている。
「…なるほど…私と結婚して王位を継げないのは、こう言った理由だったのね…」
「違う!違う違う!!それは違うよレイチェル!」
何が違うつーのよ!
「結婚出来ないのは、僕には既にビアンカが居るからなんだ!国王だからでも、異世界人だからでもない!それに王位を継ぎたくないのは、本気で国王なんてやりたくないからなんだ!も、辞めたいんだけどさぁ…辞めさせてくれないんだよねぇ…」
懲りない男ねぇ…
女王様の手を握り、瞳を見つめて口説きに掛かってるじゃないの…
「うん。分かったわ…でも、可能な限りイシスに帰って来てね。その時はフリーパスで私の元に来て良いから!」
って、女王様も落とされるなよ!
責任取ってとか言えばいいのに。
「うん。そうするよ」

どうやら騒動は収まり、無責任男は無責任なまま、無罪放免らしい…
「不憫やな…父親の顔も知らんで育つなんて…」
私もそう思うけど、その立場になりたがっていた貴女が言う台詞じゃないわよ!
「じゃぁ…コイツあげる!」
そう言うお父様は、お兄様を女王様に突き出した。
「イケメンだし、真面目だし…まぁ、何かの役には立つんじゃね?…弟か妹か分からないけど、『パパ』って呼ばせちゃえよ!」
此処まで来ると清々しいわね…何なのこの男は!
(ブチ!!)
「おわ!あぶねぇ!!…当たったらどうすんだよ!ったく…真に受けんなよ!」
お兄様が流石にキレましたわ!
当たり前ですわよね…お古を押し付けられれば…
「あ、貴方って人はぁ………」
お兄様は本気でお父様を殺そうとしてるのかしら?
手を抜いてませんかねぇ…全然当たらないじゃないの!
つまらないわね…本気でやり合えば面白かったのにぃ!

「いい加減にしなさい!!」
あはははは!お母様に怒られてやんの!
大の男がじゃれ合っているからよ…

お母様のお説教は1時間以上続いた…
待たされる私達の身になってほしいわね…
まぁ、可愛いウルフちゃんを愛でてたので、それなりに幸せだったけど。



 

 

本領発揮

私達はポルトガで王様に謁見している。
私の知る限り、王様という存在の前では、恭しくしなければいけなはずなのに、この男の態度はどうだろう!?
「ねぇ、早く船くれよぉ~!」
この様な台詞を言うばかり!
アルル様が一生懸命カンダタ改心の噂を広めてもらえる様にお願いしてるのに、全く感心無さそうに侍女に手などを振っている。
娘の私の前でくらいは手本になる様な行動をするべきなのに…
子育て舐めてんのか!


「♪う~み~は広い~なぁ、でっけ~なぁ~♪」
この男………全く働こうとしない!
私の事を抱きながら、ただ歌っている!
アルル様達は船の扱いに不慣れな為、お母様とお兄様を中心に出港への準備を行っているのだが…
「旦那も手伝ったらどうですかい?元の世界じゃ、船を扱った事あるんでしょ!」
流石に我慢できなくなったのか、カンダタがお父様へと文句を言ってきた。
「無駄よカンダタ!リュカは船では何もしないと決めてるの!『船では優雅に過ごすのが僕流』って事らしいわよ!」
何じゃそりゃ!?舐めてんのか!?
つーかお母様も、それを認めてないで働く様言えば良いのに…
お母様が言えば一発だろうに…

「何なんだよそれ!………しかし人手が足りなすぎるぜ!」
「仕方ないでしょ!さすがにポルトガから、水夫を派遣して貰うわけにもいかないし…私達の旅は危険な物だから…」
アルル様は優しいなぁ…
本当はカンダタの噂を流してもらう為に、人員はお強請り出来なかったのよね…
「ほな、自腹で水夫を雇うしかないやん!」
「雇うったって…そんな金銭的余裕はありません!」
「せやったら、アルルが体で払ったらええやん!」
アンタのそのデカパイで払った方が良いんじゃないの?
「アンタ馬鹿じゃないの!アンタこそ体で払いなさいよ!その無駄にでかいオッパイで!」
あら、同じ事思ったのね…
にしても…忙しすぎて皆イライラしてる。
一人ノホホンと歌っている馬鹿が居る所為よね!

「お父様ぁ~…何時になったらお船は出発するのですかぁ~?」
お前も働けっつーの!
「うん。今アルル達が一生懸命出発の準備をしているから、もう少し待ってようね」
厄介な馬鹿ねコイツ!
何で私の嫌味が通じないのかしら!?


食料や水などの必要物資を買い出しに行っていたお兄様やハツキちゃん、そして私のプリティー・ウルフ様が戻って来ると、人員不足の問題を解決する為に話し合う事とに…
「やはりこれ程しっかりした船を、この人数で扱うのは無理だと思います」
「それは分かるけどティミー…私達に人を雇うお金はありません!」
「ティミーさんもアルルも落ち着いてよ!確かに俺達だけじゃ大変だけど、動かせない事はないと思うぜ!」

「違うのよウルフ君。ティミーが無理と言ってるのは、海上で戦闘になったときのことなのよ…船を操作しながら戦うのは、かなりの労力が必要なの!」
等々…
私の目の前で皆さんが真剣に話し合っている。
何故、私の目の前でかと言うと…私がお父様に抱っこされているからだ!
つまり、私の目の前に集まったのではなく、お父様の目の前に集まっただけなのですよ!
なのですが、当のお父様は話し合いに参加しょうようともせず、ボケ~っとアルル様達を眺めるだけ!
働かないのだから打開案ぐらい出せば良いのに…

「皆さん難しいお話をされてますねぇ…」
「そうだねぇ…僕等は邪魔をしない様にしとこうね!」
じゃねっての!
お前も参加しろよ!!
「父さんも少しは話し合いに参加して下さい!!」
ついにお兄様が怒りましたわ!おせぇっての!
「え゛!何で?何を僕に期待してんの?」
期待なんかしてねぇよ…何もしてないのがムカつくだけだよ!
「まぁまぁ…ティミー落ち着いて!旦那に何を言っても無駄なのは、ティミーが一番分かってる事だろ!?」

「……………カンダタには何か解決策があるんですか?」
「…正直あまりおすすめじゃねーが、一つだけ解決策がある…」
あらあら…お兄様の怒りにビビって、適当なデマカセをぶっこくつもりかしら?
「本当に!?それはどんな事なの?」
アルル様が食い付いた!
こんな筋肉ダルマの言う事なんか当てになるわけないと思うなぁ…
「あ、あぁ…此処ポルトガから南西に行くと『サマンオサ』と言う国があるんだが、その国の南の端に俺の知り合いの海賊のアジトがあるんだ…其処へ行って海賊共を味方に引き入れる………ってのはどうだろうか?」
「盗賊の次は、海賊かよ!どんだけ勇者様一行の名を、貶めれば気が済むんだ!?そんなクズはお前だけで十分だ!」
「何にもしねぇ旦那が文句言うなよ!船の扱いにかけちゃスペシャリストなんだぞ!ヤツらに船を任せれば、海上でモンスターに襲われても、俺達は戦闘に集中出来るだろ!」
まったくだ!
文句だけは言いやがって!
「確かに…方法としては良い提案ですが………海賊が私達に協力してくれますかね?」
「それは分からねぇ…直接交渉してみねーと………ただ、ヤツらは俺と違って義賊なんだ!弱者から金を巻き上げたりはしねぇ…何時も狙うのは悪党だけだ!」

「………他に…方法はないですし…取り敢えず海賊のアジトを目指しましょう!」
ふむふむ…いきなり海賊のアジトか…
確か彼処には『レッドオーブ』があったわよねぇ…
チャンスを作って、皆を誘導しないと…
二度手間はゴメンよ!
「ねぇリュカ…お願いがあるのぉ…」
お母様が急に私に近付くと、無理矢理私を押しのけてお父様に甘えだした。
ちょっと何!?
いきなり発情しちゃったワケ?
「海賊のアジトまでだけで良いから……………歌わないで♥」
はぁ?甘え方がよく分からん!
こう言っては何だが、私はお父様の歌が大好きだ!
正直上手いんですよ…聞き惚れます!
しかし何故歌がいけないのだろう?
と考えていたら、お父様はお母様を抱き上げ船室へ下りていってしまいました…
そして響くお母様の喘ぎ声…
いったい何なんだ!?



あれから半日…
童貞ボーイズには刺激が強すぎるBGMの中、どうにか準備を終えて出港する事が出来ました!
私はお母様の甘い移り香がするお父様に抱っこされ、甲板上を見渡してます。

「やっとポルトガから出港出来たね」
「ティミーのお陰です!私達だけだったら、何をして良いのかも分からなかったですから」
若い苦労人の男女二人が、出港出来た事で喜び、何だかとっても良い感じ!?
「ほぉら、見てごらんマリー!お兄ちゃんとアルルお姉ちゃんは、とってもお似合いな男女だよねぇ…やっとお兄ちゃんにも彼女が出来るのかな?」
うむ…私のウルフちゃんに近付く可能性のあるメスを遠ざける為、あの二人をくっつけちゃうのも良い考えね…
「私アルル様の事、大好きですぅ!是非お兄様の彼女になってほしいですわ♡」
「ちょっとリュカ、マリー!あの二人は貴方達と違って、ウブで真面目なんだから、そう言う事言って変に意識させちゃダメよ!見守って行くのが大事なんだからね!」
何を悠長な事を!
お兄様の新鮮なチェリーを食べ損なった今、ウルフちゃんの美味しいチェリーは何としても物にしなければならないのです!
もう2.3年もすれば鮮度が落ちちゃいますからね!


さてさて…
私の密かな野望を知ってか知らぬか(知らないだろう!)モンスターが襲来しました!
私の初めての戦闘です!
海での戦闘に不慣れなアルル様達に代わり、お母様とお兄様がメインで戦っております。
ポピーお姉様に教わったイオナズンで、大活躍をしちゃいましょう!
「大変ですぅ!アルル様達がピンチですわ!お父様、私達もお手伝い致しましょう!」
「いやいや…私達もって…マリーは戦う事なんか出来ないだろ?」
ふっふ~ん…出来るんだな、それが!
「そんな事ありませんですわ!私、ポピーお姉様に魔法を教わりましたから!」
その目に焼き付けておきなさい!
美少女天才魔法使いマリーちゃんの華麗なる活躍を!!
「イオナズン!」
「「「「え!?」」」」

どうよ!どうよどうよどうよ!!
瞬時に全滅!
ぜ~んぶ、私の活躍よ~!!
「げぇ!!」
?…何故か失礼な悲鳴を上げるお父様…
急に私を抱き上げると、手近な柱へしがみつき叫ぶ。
「みんなー!何かに捕まれ!津波に飲み込まれるぞー!!!」
私の視界はお父様の胸に遮られ真っ暗…
しかし私の身体には大量の海水が打ち寄せられ、お父様に抱かれていながらも揉みくちゃにされてるのが分かる!
一体何がどうしたの?

口の中が塩辛い…
何が起きたのか判らないのですが、お父様のお陰で私は無事なのです。
「お~い…みんな無事かー…?」
お父様が私を抱き抱えたまま、周囲を見渡し皆の無事を確認する。
どうやら船自体に損傷は無く、皆さんの無事だけが気掛かりな様です…

「私とティミーは無事よ!」
お母様がお兄様と共に姿を現す。
ただ純情なお兄様は、水に濡れてボディーラインが浮き出たお母様を見る事が出来ず、顔を背けてます。
母親なのだから気にする事無いのに…キモいわぁ…

「俺も何とか生きてるぞー!」
「私もです!」
舵を握っていたカンダタと、あまり見事ではないボディーラインのアルル様も現れ無事を告げました。

「俺は大丈夫だけど、ハツキが気を失ったままだ!」
どうやら私の水も滴るプリティーウルフちゃんも無事で、気絶したハツキさんを背負い現れました。
巨乳が背中に当たって嬉しそう…ムカつく…

「………あれ?エコナは?」
あら本当…もう一人の巨乳が見あたらないわ…
濡れた姿は、さぞかし色っぽいだろうに…どうしたのかしら?
「…マジで!?…エコナ、流されちゃった!?ヤベーじゃん!!」
え゛!?
あの巨乳ねーちゃん流されちゃったの!?
どうすんの?イエローオーブを手に入れるには、あのねーちゃんが必要なのに…
あのねーちゃんが町作って、クーデター起こされ、ボロボロに犯され、私がイエローオーブを手に入れる………そう言う流れでしょ?
ここでリタイアって…どうすんの?



 

 

次から気を付けよ!

やっべー!とんでもなく拙い事になっちゃった!
何が拙いかって…エコナ様が津波で攫われてしまった事……も、そうだが…それが私の所為になる事だ!
イエローオーブの足掛かりを失ったのは痛いが、それは何とでもなるだろうし、最悪は隠居したがってるお父様を生贄にするのも手段の一つだろう!

大体私は悪くないわよ!
ゲームじゃ皆、海上でイオナズンを打ちまくりじゃん!
今更『そんな事ダメですぅ~』とか言われても、私の所為じゃないわよ!
でも、そんな事言えないし…何とかこの場を取り繕わないと…

「ごめんなさいお父様…私…私………」
こう言う時は、幼気な少女の涙に限る!
「マリーちゃんの所為じゃないわ…私達がもっと強ければ、こんな事にはならなかったのよ…」
「アルルの言う通りだよマリー。マリーは悪くない!だって初めて使ったんだろ魔法を!?」
ふん!チョロいわね…でも、もう一息。
責任を他人に擦り付けねば…

「はい…ポピーお姉様がお嫁に行く前に、私に教えてくれたのです…グランバニアに居た頃は使う事が無かったので、今日初めて使いました…」
お姉様…悪く思わないでね。
貴女の普段の行いの素敵さを利用させてもらいます。
「そっか…じゃぁ憶えておきなさい…魔法は状況に合わせて使うのだと…」
ふふん…この親馬鹿も落ちたわね…
まぁ、お父様が愛娘に対して、声を荒げて叱るとは思えませんけどね!

「魔法は二次的効果も考えて使用する物なんだよ」
「二次的効果…?」
「そう…さっきのイオナズンで言えば、一次的効果が敵を吹き飛ばす事…二次的効果は大津波を引き起こした事だ!………もし此処が狭い洞窟内だったらどうなってたと思う?」

「………どうなってたんですか?」
「狭い洞窟内だったら、壁や天井を崩し僕等は生き埋めになっていたんだよ…」
う゛…ファンタジー世界なんだから、其処は不思議な力でオールクリアにしなさいよ!
迷惑な世界ね!
魔法を使いにくいわぁ…
「こ、怖いですぅ…私もう魔法を使えません…」
「違うよマリー!状況に応じて魔法を使い分ければ良いんだ!さっきの場合だったら、イオナズンじゃなくてイオラ…も、凄そうだな…イオ!そう、イオを使えば被害がなく、敵を倒す事が出来たんだ!威力の調整も必要な事なんだよ」

「そうよマリー!威力調整さえ出来れば、貴女の魔法の才能なら直ぐに大魔道士になれるわ!」
「で、でも…」
つ、使えたら使ってるわよ!
お姉様がイオナズンしか教えてくれなかったのよ!
「私…イオナズンしか教わらなかったんです…」

「あ、あの馬鹿女ぁ~!!!」
そ、そうよ!そのなのよ!!
お姉様が悪いのよ!
「ティミー落ち着け!ポピーも何か考えがあったのかもしれないだろ!?」
ううん…きっと面白半分だと思うのよ!
「あの女にそんな深慮があるとお思いですか!?」

「いやぁ~父親としては答えにくい質問だなぁ…」
「じゃぁ兄として答えてあげます!アイツにそんな深慮はありません!面白半分でイオナズンのみを教えたんです!…その所為でエコナさんは津波に攫われてしまったんです!」
そうなのよ!全部お姉様が悪いのよ!
お兄様…もっとお姉様に対し、憤慨なさって下さい!
そして私へ罪が及ばない様にして下さい!

「ティミーもみんなも落ち着いて!…波に攫われたとしても死んだわけではないわ!生きて…何処かに流れ着くかもしれないじゃない!希望は捨てちゃダメよ…世界を旅していれば、また再会する事だってあり得るわ!だから今は気持ちを切り替えて、次の目的地へと進みましょう!」
さ、流石はアルル様!
プラス思考で参りましょう!
確率はほぼ0に近いけど、そう思って気持ちを切り替えましょう!

まぁ…生きていたとしても無事とは限りませんけどね…
何処かに流れ着いても、アノ巨乳を見て男共が狼に変身するでしょうし、船に発見され引き上げられても、海の男が紳士であるとは限りませんからねぇ…
もし再開出来ても、ボロボロの使い古しね…きっと当分の間、主食は男のカルピスよ!



アルル様の言葉が響いたのか、皆さん悲しみの面持ちのまま操船を続けてます…
皆一言も喋らず黙々と…
『お前の所為だ』オーラが充満してて、息苦しいです!
ムカつきますね…もう1回泣いて見せて、私こそ被害者であると示しましょうか?

「そりゃ!」(ブチッ!)
「な、何やってんだアンタ!」
泣こうと準備した瞬間、お父様が急にカンダタに叱られました!
帆を張る為のロープを力任せに引っ張り、ロープが切れてしまった様です。
「いやぁ~…みんなが悲しそうだから、僕も手伝おうと思ってさ……よいしょぉ!!」
そう言いながら、床に落ちてある別のロープを力任せに引っ張り、マストの一部を折ってしまった。

「貴方は何もしないで下さい!!」
皆の声が綺麗にハモり、最年長者を叱り付ける!
お父様の馬鹿さ加減に感謝です!
お陰で私への嫌なオーラが無くなりました。
まぁ当然ですけどね…




さてさて、年下の少女に優しく接して、自分が善人である事を示そうとするアルル様の指示で、お父様のお守りを仰せつかり数日…
目的の海賊さんのアジトへと到着しました。

中はアレです!
むっさい男共で溢れかえってます。
ある種の有毒ガスが出てるみたいでヤです!
「うわぁ…俺、こう言う人達は苦手だなぁ…」
ウルフ様も毛嫌いしてますわ!
貴方は私の為に、何時までもプリティーで居て下さいね♡
「僕も苦手だなぁ…こう言う不潔そうな連中は!………何より臭いよ此処!」
うん。同意見ですけど、もう少し声を小さくしてほしいですわ!
ブサメン共が、皆睨んでるじゃないの!

その内の一人がカンダタを見つけ近付いてきます。
「おう!何処の貴族様が迷い込んだのかと思ったら、カンダタじゃねぇか!!聞いたぞ、おめぇ心入れ替えて、勇者様一行と共に世界を救う旅に出たんだってなぁ…がはははは!おめぇが正義の味方になれるわけねぇだろ!何勘違いしてんだぁ!?」
何!?何かコイツ、ムカつくんですけどぉ~!
「お前…口臭いから、こっち向いて笑うなよ!て言うか息するな!」

ナイス、お父様!そのまま其奴をぶっ飛ばしちゃえ!
そう思った瞬間、急にお兄様に抱き上げられ、部屋の隅まで連れ去られました!
一瞬『え!?犯される?』と思ったのですが、お母様も一緒だったので違うみたいです。
振り返ると、お父様を中心に大乱闘!
付き合いが長いお兄様とお母様は、咄嗟に気付き私を安全な場所に避難させた様です。
ゴメンねお兄様、犯されると勘違いしちゃって…そんな度胸は持ち合わせて無かったわよね。

「お前達いい加減にしな!!」
ビックリする程大きい声の女性が奥から現れ、皆さんを叱咤しました!
この人がお頭さんですね!
だって声意外に、態度も大きいし…
大きくないのはオッパイだけね!
残念ながらお父様の範疇外ね…
従順な雌犬になる所を見たかったのに…つまんね!

さてさて…
乱闘騒ぎも収まった事だし、私はレッドオーブを探しておかなければ…
『偶然見つけましたぁ~』的な事を言えば、必然的に私の物になるだろう。
私は忙しいのだ…
海賊(バカ)共の相手をしてなど居られないのよ!



 

 

悪人に人権無し!

私は海賊のアジトの外にいる。
空には満月が輝いており、松明が無くとも辛うじて視界を確保出来る。
私は記憶を頼りにアジトの横手に回り込み、注意深く付近を散策する。
すると其処には大きな岩が一つ…
「あった!」
思わず叫び、小躍りする私!


しかし良く考えたら、こんな大岩動かせないじゃん!
私、ピッチピチの7歳児よ!
しかもサイヤ人とかそう言うんじゃ無いから…
まさかお父様にお願いするわけにもいきません…『この岩を動かすと下に階段があり、地下にはレッドオーブがあるんですのよ』なんて言うわけにはいきませんからねぇ…

でも大丈夫!
身体は子供、頭脳はある程度大人な私には秘策がさるんですよ。
テコ入れの原理…もとい、テコの原理です。
支点・力点・作用点!
レッツ・物理の法則!



物理の勝利です。
即ち私の勝利です!
非力な7歳児が、自分の身体とほぼ同じの岩を退かし、その下に隠し階段を発見する!
そして地下は倉庫になっており、奪ったお宝が盛り沢山………のはずなんですが………
殆どカラ…
有ったのは目的のレッドオーブとルーズソックスだけ…
私ルーズソックスって大嫌いなのよね!

ちっ!
戦利品はレッドオーブだけかよ!
まぁいい…目当ての物は手に入れた…後は適当に『お外で拾いましたぁ♥』って可愛らしく言えば、これは私の物になるはず。
「マリーちゃ~ん!何処にいるのー!!」
あ!マイダーリンだわ♡
可愛いウルフちゃんが私を求めているわ!
行かなくちゃ!


「ウルフ様~、こっちですぅ!」
私は可愛らしくウルフちゃんの声のする方へ走る。
海賊のアジトの入口付近で困り顔の坊やを見つけ、走り寄り抱き付く!
「リュカさーん!ティミーさーん!マリーちゃんが見つかりましたー!!外へ出てきて下さーい!」
月明かり輝くロマンチックな海辺を、二人きりでまったり楽しもうと思ったのに、ソッコで家族を呼ばれました。

「マリー!!無事か!?何か変な事されてない?」
顔色を変えて私を抱き締めたのはお兄様…
ウルフ様に抱き付いていた私を、無理矢理抱き締める!
お前キショいんだよ!
シスコンも程々にしろよ。
「マリー、心配したんだよ!こんな獣だらけの所で、勝手な行動しちゃダメじゃないか!」
大人なお父様は、私の顔を覗き込み心から心配してくれてる様だ…
「お父様、お兄様…ごめんなさい………皆さん忙しそうだったから、一人で探検してましたの!」

私はシスコンお兄様に抱かれながら、ボコボコにされた海賊達が横たわる建物内へと入って行く。
そして海賊達が見守る中、レッドオーブを取り出して所有権を主張する!
「あのね…外の地下室で、こんな綺麗な物を見つけたんですよぉ!」
「わぁ、綺麗な宝玉だね!冒険をして見つけたんだから、それはマリーの物だね」
ナイスお父様!
その一言を待ってました!

「あ!!それは俺達がこの間手に入れたレットオーブじゃねぇーか!」
黙れ三下!
お前等悪党に人権は無いのだ!
ドラマタの美少女魔道士だって言ってたし!

「あ゛~!!?『俺達?』………この建物の外にあったのに、何でお前等の物なんだぁ?外に落ちてたのなら、誰の物でもないだろう!拾った者勝ちだ!」
「い、いや…落ちてたんじゃなくて…地下室にあったって言ったよね?それって「バギ」
(ドゴッ!!)
ちょ~素敵、お父様!
風だけのバギで見分けのつかない三下を吹き飛しましたわ!
「海賊さん達に質問!この宝玉は誰の物ですか?」
「「………そちらのお嬢さんの物です…」」
「はい。よろしい!」
うん、作戦通り!


取り敢えず戴く物は戴いたし、お腹がすきました。
次に戴くのは食べ物ですね!
私達は海賊達の食料庫から勝手食べ物を出して、食堂で遅い夕食を始めた。

其処に海賊(モブ)の一人が悲鳴に似た叫びをあげ私達の食事を邪魔する!
「あ、アンタ等…な、何勝手に食ってんだ!?」
ゴチャゴチャうるっさいわね!
「何だよぅ…飯ぐらい食ったって良いだろ!ケチくさい事言うなよぉ…」
「そ、そうじゃねぇーよ!食料庫の食い物、全部食いやがって…頭に『つまみを持って来い』って言われたんだよ!なのに何も残って無いじゃねぇーか!!」
知るかよバ~カ!

「残ってるだろ…此処に!」
「全部食いかけじゃねぇーか!んなモン持ってたら、殺されるだろーが!」
「じゃ、お前…アレだよ!『食べ物が無くなっちゃったので、僕のチ○コを摘んで下さい』って言えば良いじゃん!」
誰がそんな汚い物を摘むんだよ!
「お前バカなのか!?今すげぇーんだよ!頭達、酔っ払いまくってすげぇー状態なんだよ!あん中にお前の嫁さんも居るんだろ!何とかしろよ!」
え!?お母様も酒盛りしてるの?珍しいわねぇ…

そんな海賊(モブ)の悲鳴を無視し、食事を続けていると奥から海賊の女ボスが大声で此方に近付いてくる!
「くぉら~バチェット!つまみはまだなのか~!おせーぞテメ~…」
「す、すんません頭!こ、コイツ等が(バリンッ!)ぐはぁ…」
ナイスピッチング!
海賊(モブ)の頭に酒瓶がクリーンヒット!
その場に倒れ気絶しちゃった…

「つまみも碌に用意出来ないのかぁ!」
次に奥から現れたのは両手に酒瓶を携えた私のお母様だ…しかもセクシーな黒の下着姿で!
「な、なんて恰好をしてんだ…ちょ、服着てよぉ…」
や~ん♥
愛する妻の下着姿は、他人に見られたくないのねぇ~♥
慌ててお母様に自分のマントを羽織らせ、他者に見られない様にガードしちゃったわ。

「リュカさ~ん…私も優しく包んで下さ~い!」
裸のハツキ様が現れお父様に抱き付いた!
元とは言え僧侶だったんでしょ、アイツ!
酔っ払った上に、恥じらいもなく男に抱き付くって………使えるわね、ソレ!
「うわぁ!何で裸なの!?」
慌てふためくお父様って、なかなか拝めないわよね…貴重な瞬間ですわ!

「ねぇ~リュカぁ~…エッチしようよぉ~……私ぃ~準備万端なのぉ~!」
「あぁ~ん!私もリュカさんとした~い!」
「わ、分かった!分かったから…べ、別の部屋へ行こう!此処は拙いって!」
お酒の力で発情したメスが2人…
そんな2人を抱き上げ、お父様は奥の別室へと逃げ込んだ。
そしてお母様とハツキ様の喘ぎ声が響き出す!
「アタイ等も負けてらんないよ!」
その声に欲情したカンダタと女海賊も別室へと引き籠もる。


奥から淫らな女の喘ぎ声が響く中、お兄様とウルフ様は呆然としている。
「そ、そう言えばアルルはどうしたんだ!?」
不意にお兄様がアルル様の事を思い出し、アホな大人が痴態を晒している部屋とは違う部屋へと探しに行った。

どうせ飲んだくれてるだけなのだから、放っておけば良いのに…
それとも酔っているのを利用して、童貞を卒業するつもりか!?
いや…あり得ないか…相手がリュリュお姉様だったら、お兄様も理性を切り捨て本能で行動しちゃうかもしれないけど、あのペチャパイ姉ちゃんじゃ………
それにウルフ様も一緒に向かった事だし…3Pはしないだろう…きっと…
う~ん…男は皆、狼だし…ヤバイかな?


ウルフちゃんのチェリーが心配なので、私もお兄様の元へ行こうと思います…が、立ち上がり奥へと歩こうとしたら何かが私の足にぶつかり転んでしまいました。
「いった~い!!」
誰だ、床に物を置いたヤツは!
思わず私を転ばした物を睨み付ける……

しかし一瞬で私の表情は緩んでしまう!
私を転ばせた物は、まだ半分以上中身が残っているテキーラの瓶だった!
そう言えば、生まれ変わって早7年…
帰宅後にアニメDVDを観賞しながらの晩酌が日課だった私が、7年間もの禁酒に成功したのだ!

別に禁酒をしたかったわけではないのだが、飲むチャンスが訪れなかったのだ!
だってお父様、お酒飲まないんだもの!
晩酌中に甘える振りをしてペロリ舐める事も出来なかったのよ!
ふむ…お父様もお母様も立て込んでるし、ちょっぴりなら飲んでもバレないわよね!?
7年ぶりだし良いわよね?

よし!ゴチャゴチャうるさそうなお兄様が戻る前に、少しだけ味わってみましょう。
少しだけよ…身体は子供なんだし、ほんの少しだけ!
私は堅い決意の元、テキーラの酒瓶を両手で抱え飲み出した。
ちょっとだけだから!



 

 

百薬の長はトラブルを呼ぶ!

(ゴクッゴクッゴクッ…)
くっはぁ~…
結構、高級品じゃないのかしら、このお酒…
良い感じで身体が温まってきたわよぁ~!

(ゴクッゴクッゴクッ…)
ぷはぁ~!!
あれ?もう無い!?

おかしいわねぇ…半分以上残ってたはずなんだけど…こぼしたかしら?
周囲を見渡すと同じテキーラが2本、手付かずで転げてあるではないか!
これは良い子のマリーちゃんへの、神様からのプレゼントかな?
だとしたら断るわけにはいかないわ!
神様に失礼だもの!

私は立ち上がりプレゼントの元へと向かった…が、服が暑苦しくて上手く進めない!
あぁもう、邪魔!!
服を殆ど脱ぎ捨てたら、容易にプレゼントの元へと辿り着きました!
(ゴクッゴクッゴクッ…)
くぅ~!!


「げぇ!な、な、な…」
お!?
一人戻ってきたウルフ様が、私を見つめながらパニクってるわ?
そんな顔も可愛い~!
ちょっと待ってなさい、このプレゼントを飲み干したら、今度は坊やのリビドーを飲み干してあげる♥

「(ゴクッゴクッゴクッ…)ぷはぁ~!このお酒キクぅ~!!体がポカポカしてきましたぁ~!!」
「だ、誰だ!?子供に酒を飲ませたのは!!?」
大丈夫よこんなの…飲んだ内に入らないわ!
怒った顔も可愛い!

「ち、違う!!俺達は何もしてねぇー!あのこえー男の娘に近付くわけねーだろ!…その嬢ちゃんが勝手に飲み始めたんだ!」
だって神様からのプレゼントを断るわけにはいかないじゃない!?
「うわぁ…最悪じゃん!リュカさんやティミーさんにバレたら殺される…」
大丈夫!坊やは私が守ってあ・げ・る♥

だがウルフちゃんは私に服を着せようとし始めた。
「いやぁ~!!暑いのぉ~!」
何よ急に!?
暑苦しいから服は着たくないの!
ってか、まだ暑いのぉ!
後はパンツだけか………うん、脱いじゃえ!

「ぎゃー!!ダメ、ダメ、ダメー!!!それ以上脱がないでー!!こんな状況を見られたらマジでヤバイから!」
いやぁ~ん!チェリー君には刺激が強すぎ?
良いのよ、今夜のオカズにしちゃっても!
それとも私を喰べちゃうつもりかしら?
私を抱き上げ、空いてる部屋を探すウルフちゃん!
あらあら…そんなに慌てないの♥
じゃぁ私も邪魔なもう一枚を脱ぎ、準備しておかないとね!


やっと空き部屋を発見ね!
ウルフちゃんたら、直ぐさまベッドへ私を連れ込むなんて…やる気マンマンね!
私もドーンと受け入れちゃうわよん!

………あら?私が全てをさらけ出し、受け入れ態勢を整えるとウルフちゃんは固まっちゃった…
やり方が分からないのかしら?
いきなり踵を返し部屋を出て行こうとするウルフちゃん!
女に恥をかかせるなんて野暮な子ね!
私がリードしてあげるわよ、ウルフちゃ~ん!
私はベッドのスプリングを利用し、勢い良くウルフちゃんへダイビングキスをぶちかます!

しかし私の愛の勢いに負けたウルフちゃんは、勢い良く床に転がり気絶してしまう!
ちょっとちょっと!これからじゃないのよ!
本日のメインイベントは今から開始なのよ!
まぁいいか…勝手に喰べちゃえば。

私は慣れない手付きでウルフちゃんの服を脱がして行く…
それ程筋肉は付いてないが、細身でキュートなナイスボディー!
でもでも問題なのは、ウルフちゃんの息子さんなのよ!
子供の身体じゃ非力すぎて、パンツを脱がすのも一苦労…

やっとの思いで息子さんとご対面!
ニット帽を被った息子さんに挨拶したところで、疲労のピークに達しそのままウルフちゃんに被さる様に眠りについた。





気が付けば朝…
私はベッドで目を覚ました。
軽い頭痛と共に脱ぎ捨てたはずの服を纏い目が覚める…(でもノーパンです!)

苦労して脱がしたにも拘わらず、息子さんとご対面しただけで眠りについてしまった私…
何ってこったい!折角のチャンスを逃すなんて!!
でも私好みのニット帽プリンスを拝む事が出来たし、次のチャンスに期待しましょう!

部屋から出ると其処にはお父様とウルフ様が話してます。
「お父様、ウルフ様、おはようございますぅ」
「おはようマリー。昨晩はどうだったのかな?」
「やだぁ~お父様~!ちょっとだけ痛いですぅ」
いやぁ~…久々の飲酒だったんで、頭痛が辛いかな?
「がっつきやがってコノヤロー!少しは手加減しろよな!あはははは…」
おほほほほ…あんな可愛いニット帽を見ては、今後がっついてしまうに決まってますわ!
でも今は、久しぶりの二日酔いを早く覚ましたいわねぇ…


そう言えば、私パンツを何処で脱いだのかしら?
…確か、お父様が使っていた部屋だった様な…
私は直ぐ隣のお父様が使用していた部屋を開けてみる…
すると其処にはお母様とハツキ様がグッタリ寝ています!
全裸で体中に白濁な液体をこびり付け、大股おっ広げて!
相変わらずお父様のは激しいらしい…う~ん…凄い!
でも私のパンツは落ちてませんでした。
確かに此処で脱ぎ捨てたと思ったのだけど…


俯き神妙に思い悩むウルフ様を見ると、手には私のパンツが握られてますわ!
いや~ん!私の移り香がするセクシーおパンツを気に入ってしまったのね!
ウルフちゃんもやっぱり男の子ね…パニクって昨晩のチャンスを不意にしてしまったのを悔やんでるのかしら?
そうよねぇ~…例えロリコンじゃなくても、目の前で女の子が酔っ払い、犯せるチャンスを逃したんだもんねぇ…

よし!これはチャンスよ!
私はこのままウルフ様に対し、何時でもOKな女として迫れば、右手に飽きた狼さんは『ロリータボディーも味わっちゃお!』ってな感じになって、手近な洞窟を探検するに違いないわ!
そうと決まればガンガン行くわよ!
覚悟なさい、私の可愛いニット帽ちゃん!



私達は食堂に集まり、昨晩の食べ残しを朝食代わりに食してます。
ウルフ様に寄り添い、ちょっと大きさに難が残るが柔らかさはバッチリなオッパイを押し付け、食事を口へと運んであげます。

「……ねぇリュカ…私達…何があったの?」
其処にはお母様とハツキ様が、ゲロっとイキそうな表情でやって来ました。
見るからに二日酔いMAXですね…昨晩の記憶が無くなってます。
だらしないわねぇ…
私なんかちょっと頭痛がするくらいで、殆ど平気!
昨晩の甘く素敵な経験も、しっかり脳内HDに保存済みです!
「いやぁ…僕の口からは言えないなぁ…こんな大勢の前では…」
?…別に言えば良いのに…
『3P楽しんだんだよ』って…


「おぅ、おはようさん!……何だぁ、随分と暗いじゃないか!」
「声が大きい…」
う゛…でかい声出すな!
「何だぁ…二日酔いかぁ!情けないねぇ~…」
しょうがないだろ!
7年ぶりの飲酒だぞ…


女海賊はアルル様の正面に座り、真面目な表情で話し出した。
「アルル…昨日の話だけど………協力するには条件がある!」
「条件…ですか…?」
昨日の話し?…条件?…何だ?

「あぁ…と言ってもアンタにじゃない!カンダタに対してだ…」
じゃぁ何でアルル様に話すんだよ!?
「この冒険が終わり、世界が平和になったら…ア、アタイと…け、け、結婚してほしい!!」
何、この流れ?
昨晩行われていた酒盛りは、ねるとんパーティーだったの?

「ダ…ダメ…?やっぱりアタイじゃ…」
一向に返事をしないから不安そうになってるじゃん!
「そ、そうじゃねぇ…そう言うんじゃねぇーんだ!」
胸が小さいから興味ないって言うかな?流石に言わないか!

「俺は以前…ロマリアから逃げ出した時に、悪党から足を洗うと心に決めた…そんな時にお前から海賊に誘われ、答える事が出来なかった!かと言って『海賊を辞めて俺に付いて来い』とも言えない…お前には、お前を慕う手下が大勢居る…そいつ等まで路頭に迷わすわけにはいかない!………だからあの時は黙って姿を消したんだ………だが、お前の気持ちはよく分かった!だから俺からも条件を出す!」
「じょ、条件…?」
「あぁ…俺と結婚するのなら、海賊から足を洗う事だ!」
何だ…オッパイの事じゃないのか…

「海賊を…辞める…」
女海賊は何故悩んでるの?
好きだったら悩む必要無いじゃない!
「…どうした…やはり手下達の為に、海賊業を辞める訳にはいかないか?」

「頭ぁ~…俺達の事を気にする必要はねぇーですぜ!」
急に海賊(モブ)の一人が語り出す。
「俺等もそろそろ海賊から足を洗おうと考えてたんですよ!…なんせつい最近、海賊ってだけで俺等をボコボコにする親子が現れたもんで…もう嫌気が差したんでさぁ…」
当然よ!
悪党に人権はないんだからね!

「そうですわ!悪党に人権なんてありませんのよ!ね、お父様!」
「そうだね」
ほら、お父様はよく分かってらっしゃる!
「で、でも良いのかい…アンタ達、海賊辞めた後、食っていけるのかい!?」
「そ、それは………」
きっと大丈夫よ…野垂れ死んでも誰も悲しまないから!
心置きなく死ねば良いのよ!

「………こんなのはどうでしょう…」
お!?ウルフ様が何やら提案する様だ。
「俺達の旅が終わった後、俺達の船は海賊…イヤ違った、この人達に譲渡するのは………あの船を使って、海運業とかを行えば…」
また海賊を始めるんじゃないの?
ぶっ殺しちゃえば良いのよ!

「うん…良いんじゃない!旅が終われば、私達に船は不要ですもんね!」
ちっ!
此処で私が『死ねば良い』なんて言ったら、最低な女に見られちゃいますわ…
「素敵ですぅ!さすがウルフ様ぁ!!格好いいですぅ!」
うん。ナイスなアイデアを出したウルフ様に抱き付けたし、私の純真さもアピール出来たし、完璧な対応ですわね!
自分の強かさが怖いわぁ…


「カンダタ!アタイ…アタイ……っん!」
カンダタからの熱烈キッス!
良いなぁ…私もウルフ様にキスされたい!

「……その先は俺から言わせてもらう!…モニカ…俺と結婚してくれ!」
カンダタの言葉に海賊(モブ)達から歓声が沸き起こる…
うるさい…頭に響くだろが!
そんな『チーム二日酔い』を無視して、イチャイチャ・ブチュブチュする二人…

「…にしても、男の趣味が悪い女だ!」
うむ、同感!
やっぱりお父様とは気が合うわねぇ…
「あんだとこの野郎!ぶっ殺すぞコラ!!」
だから声デケェっての!頭に響く…

「あはははは!取り敢えずはおめでとうカンダタ。とっても手のかかりそうな奥さんだね!」
「旦那…ありがとう!でもまだ夫婦じゃねぇーよ!婚約しただけさ…結婚は世界が平和になってからさ!」
「気にする必要無いのに…僕なんかはプロポーズから2日後に結婚式を挙げたんだよ!周囲の人達が『お前は放っておくと浮気する!さっさと結婚しろ!』って言われてさ。…まぁ、あまり関係なかったけどね!」
あまり効果は無かったようね…
「笑い事じゃないだろ…それ!」
いやいや…笑い事でしょ!
笑うしかないじゃない…



 

 

海の魔物が強すぎて…

私達は、元盗賊のカンダタ情報で『ランシール』の情報を得ます。
ランシールって言えばアレです…勇気を試す『独りぼっち試練』です。
でも『最後の鍵』が無いと、中には入れないって事も発覚。
そして元海賊のモニカ情報で『最後の鍵』と『エジンベア』の事を知ります。
エジンベアに最後の鍵が有るんじゃね?って感じの情報…
間違ってますよね…
最後の鍵を手に入れる為の鍵…『乾きの壺』があるだけなのにね!
そんな事知ってるのは私だけです…何とか皆を誘導しないとね!
まぁ、バカ揃いだから簡単でしょう!

お父様が、
「何だそのいい加減な情報は!?」
と、例の如く文句だけを言います。
お前何もしないクセに偉そうだな!
「お父様…例え情報が間違ってても、新たな情報が見つかるかも知れませんですわ」
愛しの娘の一言で、親馬鹿男も納得!
始めっからゴチャゴチャ言うなっつーの!


さてさて、悪に染まった鼻つまみ共とは言え、流石は元海賊です…
船を操らせたら一級品です!
アルル様達も楽になったようです!

でもでも海には凶悪なモンスターが盛り沢山!
私達は、巨大なイカのモンスター『テンタクルス』3匹に襲われ、てんてこ舞い!
私もお手伝いして戦いたいのですが、イオナズンしか使えませんから、手を出すわけには参りません!
お母様とお兄様も、アルル様の成長の邪魔をしない為、もどかしそうですが手を出しません。
誰か1人でもくたばれば、考えが変わるかもしれません。

「メラミ」
お母様のメラミに比べたらハナクソみたいなメラミですが、ウルフ様が頑張って戦ってます。
何よりそのメラミでイカを1匹倒しました!
しかしまだ2匹います。
海に潜って魔法の威力を軽減させ攻撃を仕掛けてくる為、苦戦を強いられてますねぇ…
「くっ!厄介ねぇ…直接攻撃が届きにくいわ!」
ふぅ…勇者なのだから、しっかりしてほしいわねぇ…
何処の世界でも勇者って大したこと無いの?

ここで活躍するは、武闘家のハツキ様!
イカが海中から姿を現した瞬間を狙い、船から勢い良くジャンプしてイカの頭 (?)へと強烈な蹴りを食らわせる!
会心の一撃ですわ!蹴りの反動を使い、舞う様に甲板へと着地する…オッパイがブルンブルン揺れて美しい!
「ナイス、ハツキ!これであと1匹よ!」
アルル様がハツキ様を祝福する…そんな余裕はねぇだろが!
案の定隙を付いて残りの1匹が、船に乗りかかりアルル様の足を払った!
船事傾き皆バランスを崩す…
そしてイカが倒れてるアルル様に向かい襲いかかる!

『おぉ…勇者アルル…死んでしまうとは何事だ!』
そんな台詞が頭の中で思い浮かんだ時、お兄様が大声で叫んだ!
「ア、アルル!!…ライデイン!!」
お兄様が『ライデイン』でイカを倒した…結局我慢できずに手を出した。

そしてアルル様に近付き抱き起こす…何?良い感じじゃないの!何時の間にか出来ちゃったの?
「あ、ありがとう…ティミー…」
「あ、いや…その…危なかったから…つ、つい咄嗟に…」
互いに見つめ良い感じ…お兄様はリュリュお姉様の事を諦めたって事かしら?
まぁ、ヤれない女よりヤれる女のほうが良いわよね!
つまりアルル様は何時でもヤれそうなのかしら?
貞操を守る女性に見えたけど…意外ねぇ…

そんな二人をカンダタや水夫等が囃し立てる。
ぶっちゃけ不愉快である!
お兄様をからかって良いのは、私達家族だけ!
部外者やお前等の様なモブが、調子こいて囃し立てるんじゃねぇ!!
お父様も気に入らない様で、難しい顔で二人を見ている。
「あ、あの…リュカさん…どうしました…?」
何時も笑顔のお父様が、難しい顔してるからアルル様が不安に思っちゃったみたいです。

「………ティミー……次もお前が戦うのか?」
?………良く意味が分かりませんねぇ…
アルル様のピンチを助けたのが気に入らないの?
格好いいところは、全部自分が物にしたいの?
それともアルル様を狙っていたお父様は『俺の女に手を出すな!』って事かしら?
「アルル達の中に『ライデイン』を使える者は居るのか?」
居るわけ無いじゃん!
ライデインは勇者だけの魔法よ!

「確かに先程アルルは危険な状態だった…助けたくなるのは分かるよ。でも…アルルの成長の妨げにしか見えない!…ティミー…お前は『スクルト』が使えるのだから、さっきは防御力の強化だけで良かったんじゃないのかなぁ?お前が倒す必要は無かったんじゃないのかなぁ?」
つまりお父様が不機嫌なのは、アルル様の修業の邪魔をしたからなのね…
結構厳しいとこもあるのね…

「じゃ、じゃぁ私がライデインを憶えます!…私だって勇者です。私がライデインを憶えて、今後ティミーが前戦に出ない様にしますから!目の前で見せてもらったから直ぐに憶えてみせますよ!それで文句はないでしょ、リュカさん!」
あらあら、健気ねぇ…
どうやらアルル様もお兄様に惚れちゃった様子です。
二人して手を繋ぎ船首のほうへ行っちゃいました!
魔法の勉強をする振りして、イチャイチャ・エロエロ励むのですかね?……無いな…あの二人にはそれは無い!

「リュカさん…ちょっと言い過ぎじゃないですか…?咄嗟の事だったのだから…思わず攻撃呪文を唱えちゃったんだと思いますよ…」
優しいマイダーリンが、お兄様とアルル様を庇ってます。
「仲間を救ったのだから、父親として褒めてあげるべきでしょう!」
きっと父親としての自覚が足りないのよ!だってアホだもの!

「…救った…?確かに今は救ったよ…でも、未来はどうだろうか?何度も言うが、今急に僕等が元の世界へ戻ったら、君らはどうなる?さっきのイカが、また現れたら…今のウルフ達だけで倒せたのか?みんな無事で戦闘が終わったのか?」
100パー全滅ね!
「そ、それは………」
「ウルフだって偉そうな事言ってられないんだぞ!」
はぁ?ウルフ様は活躍したじゃん!メラミで1匹仕留めたじゃん!

「え!?お、俺が何ですか!?」
「さっきみたいな場面では、魔法が頼りなんだ!なのにメラミで1匹倒した程度…先程の戦闘で活躍したのは、ハツキ一人だ!己の身体能力を最大限に駆使して、華麗に舞い敵を倒した!それに引き替えウルフ…君はメラミを放っただけ…せめて3匹に大ダメージを与えられるベギラマくらいは唱えられないと…」
何言ってるのこのアホは!
他の連中が使役に立たないだけじゃない!
ウルフ様は悪くないわよ!!

「お、お父様!そうは言いますが、ウルフ様のメラミは凄かったですわ!1発でテンタクルスを倒したのですから!」
「マリー…お前に戦闘の何が分かる…?」
ぐっ………
確かに、ガチの戦闘は私の知らない事ばかりだけど…
「今、お前達には守る者がある!この船と、船を動かしてくれている水夫達だ!誰かを守りながら戦うという事は、非常に難しい事なんだ。負ければ自分だけでなく、守ろうとした者の命も失う事になる…『頑張りました』じゃ意味がないんだよ」
クソ!
アホ兄貴が余計な事するから、こっちにまでとばっちりが来た…
「マリーは魔法の威力が強すぎて、味方に被害を出しかねない…逆にウルフは威力が弱すぎて、味方を危険に晒してる…」

ムカつく…
やっぱりイオから憶えるべきだったのよ!
お姉様の所為で、こんなムカつく事態になりましたわ!
「じゃぁ、私とウルフ様で魔法の勉強を致します!そして私は威力調整を…ウルフ様は強力な魔法を…それぞれマスターしてみせますわ!!」
やってやろうじゃないの!
魔法で手加減が出来る様に、頑張ってやるわよ!
ついでにウルフちゃんとの仲も進展させてやるんだからね!
見てろアホ親父め!
思わず涙が出てきた私は、それを拭うとウルフ様の手を取り、船室へと引き上げる!

そして私の魔法勉強は始まった。
最初は腹立たしかっただけだけど、魔法の勉強は結構面白い。
何より可愛いウルフちゃんと二人きりなのが最高ですな!



 

 

ミニゲームは倉庫番

流石は元海賊です。
操船に関しては文句の付けようが無いです。
お陰でウルフちゃんとシッポリ魔法の勉強が出来ました。
次、戦闘になっても私とウルフちゃんの連携で、敵なんぞは瞬殺ですよ!




さてさて、私とウルフちゃんの進展度は置いといて、高貴なる国エジンベアに到着です。
国中至る所にセレブ感漂うこの国を、王族であるはずの私が居たたまれない気分で城を目指す…
前世の貧乏性が染みついてるのか?
7年お姫様をやっても、過去の汚れは落ちないのか?
何かが私の肌に合わない国…
私だけではない!
アルル様を始め、カンダタも当然居心地が悪そうだ。

「な、なぁ…俺達…浮いてないか?」
「はぁ?ちゃんと地面を歩いてるよ。浮かび上がってないよ」
何故お父様は堂々としていられるのだ!?
「そう言う事じゃねぇーよ!場違いじゃねぇかって言ってるんだよ!」
「?」

これが国王としての威厳なのか?
今まで感じた事無かったけど、やっぱりお父様は王様なのか?
いいや、そんな事があるはず無い!
奴隷まで経験した事のある男だぞ!
このハイソな雰囲気に平気なわけない!
ただのバカなんだ…きっとそうに違いない!

「…さっき思い出したんだけどよぉ…以前、俺の知り合いの商人が此処に行商に訪れたんだが…『田舎者は帰れ』って言われ、城に入れなかったみたいなんだ…」
「変な国!グランバニアじゃ誰でも入れるのにね!?」
そう!
グランバニアは平民色の強い国…
それは国王が王様らしくなく、身分の壁を感じさせないからだ!
「…それはそれで拙いでしょ!」
いいや、拙くない!
だって私、この国居心地悪いもの…



「止まれ!此処は由緒正しきエジンベア城!貴様等の様な田舎者が入って良い場所ではない!立ち去れ!!」
エジンベア城の城門に辿り着くと、いけ好かない門兵が高圧的な態度で私達を拒絶する。
マジぶっ殺したいんですけど、コイツ!

「い、田舎者………?」
お!?クソ門兵の言葉に反応したのはお母様…
先程までお父様とイチャイチャしていたのに、門兵の『田舎者』の言葉に表情を変えて行く…
「あ!拙いなぁ…」
そしてお母様の変化にいち早く気付いたのがお父様。
私の知らないお母様を、お父様は知っている様で何やら脅えている見たい…

「田舎者って私の事言ってるの!?」
どうやら『田舎者』はNGワードらしい…
「まぁまぁ!落ち着いてビアンカ……君の事じゃないよ!こんな絶世の美女を見て田舎者なんて言うヤツ居ないよ!……ね!?」
お父様は懸命にお母様を宥めようとしているが、お母様の怒りは頂点の様で両手に淡い炎を灯し、今にも辺りを焼き尽くしそうだ!

お母様の怒気を孕んだ魔法力が凄すぎて、周囲の温度が急激に上昇しているのに、先程まで横柄だった門兵は、真っ青な顔になりガクブル震えている。
「ビアンカ…ビアンカ!…落ち着こうよ…こんな所で彼を消し飛ばしても、何の解決にもならない!むしろ問題が増えるだけだ!だから落ち着いて!」
何時もと景色が違う…
アホな事を言うお父様を、お母様やみんなが正論で止めるのが我が家の日常なのに…

「ま、間違えちゃったぁ~!ぼ、僕…寝不足で寝てたみたい!…何か変な寝言、言っちゃいましたか?ご、ごめんねぇ~………あ、あは…あはは…あははははは……………」
その言い訳はムリがあるだろ!
ビビッてるのは分かるけど…
「そ、そうだよね!寝言だよね!大変な仕事だもんね…寝ちゃうよそりゃ…」
確かにキレたお母様は怖いし、下手に刺激しない方が得策ね。
幸い門兵も通してくれるみたいだし…





もの凄く重い雰囲気の中、私達は城内を歩いてる…
入口から離れ、誰も居ない場所へ来た途端、お父様が蹲り唸りだした!
「……くっ……うぅぅぅ………」
何だ!?淋病が何かか!?

「リュカさん、どうしました!!」
アルル様が心配になり声をかける………が、
「くっくっくっ………あはははははははは!!」
気が触れた様に笑い出すお父様…

「ふふふ………あはははは!」
そしてお母様までもが笑い出す…
………やられた!!
お父様はともかく、お母様までもがこの様な事をするなんて…
「この夫婦…最悪だ…」
お兄様がポツリと呟く…
嫌な夫婦だ。


暫く笑っていたお父様も落ち着き、一応事の次第を問いただす。
「お父様…お母様……先程のご立腹は、お芝居ですの?」
「うん。だってカンダタがさ、『田舎者は城に入れない』って言ったじゃん。しかも『俺達見た目が田舎者』とも言ったじゃん。門前払いを喰らう可能性があったからさ、ビアンカと相談したんだ!」
お父様はお母様を抱き寄せ、イチャつきながら悪びれる事もなく話す。
「そうなの!リュカがね、『田舎者』って言われたら、両手にメラを灯して怒って見せようって………どうだった、私の演技は?」
わぁ~…お母様もお茶目さんだったのね…
あの門兵…PTSDになってるんじゃないの?
「「酷い…」」
どうやらウルフ様も同じ様な事を考えてたみたい…
気が合うじゃない!



さて、気を取り直し探索を再開する。
私は皆さんを引き連れる様に、勝手に地下へと歩みを進める。
そこは、それ程広くない通路に大岩が3個…
少し奥の床には、かなりの重量がなければ反応しないスイッチが3つ…
ミニゲームの倉庫番だ!
「何だ此処は?」
おや?お父様はドラクエ3をやった事ないのかしら?
転生者なのに…いやいや、あり得ないわ。
アホすぎて忘れてるだけよ!

「お父様、きっとパズルですわよ!3個の岩に、3つのスイッチ!この岩の重みでスイッチを押すんですわ、きっと!」
私は皆を誘導すべく、この仕掛けの謎を解いてみせる。
勿論、前世の知識をフル活用!

「何そのめんどくせー仕掛け!?何処の馬鹿だよ、こんなの造ったヤツは!」
エニッ○スに言って下さい。
「そ、そうは言いますが…結構大変ですよ…この岩、重いですから!」
お兄様は一生懸命岩を押そうと努力する。
見かねてアルル様やカンダタも協力してますわ。
闇雲に押すんじゃないわよ!
順序が有るんだからね!

「…やれやれ………めんどくせーなぁ…」
相変わらず文句を言うお父様…
しかし今回は口だけでなく、身体も動かし協力してくれる…
手近な岩を両手で挟み、端から見ると軽々持ち上げ岩を運ぶ!

「「「え!?」」」
「何で異世界まで来て、奴隷時代を思い出さなければならないんだ!?」
お父様の掴んだ岩だけ、発泡スチロール製かと思う様な足取りで岩を運び、指定のスイッチの上へと下ろしてしまう。
私達は唖然と眺めるしか出来ない…
一人で全部運んでしまい、折角のミニゲームを台無しにする男…

「だからムカつくんだよ、あの人!こんだけ凄い人なのに、普段は何もしない…」
あの人本当に世界最強?
お兄様の囁きを聞き、自分の父に恐怖を感じる…



 

 

鍵を求めて東へ西へ

お父様1人の大活躍 (?)で、3つの岩を3つのスイッチの上に乗せ作動させる事が出来、更に奥へと続く隠し通路を出現させた。
私は奥に何があるのか分かっているのだが、最後の鍵があると思っている皆様方は、ワクワクしながら進んで行く。

「あれぇ?これが『最後の鍵』?壺じゃないのこれ!?」
お父様は置いてある壺を手に取り、中を覗き壺を振る。
「中にも鍵は入ってないよ」
「どういう事ですかねぇ…?」
ふぅ…さてさて、どうやって最後の鍵まで導こうかしら…
………確かあの壺って、元は『スー』って言う村の物だったわよね!

「お父様…エジンベアの王様に聞いてみましょう!この国に有る物なんですから、何か知っているかもしれませんですわ」
ってか、無理矢理城に入って、勝手に家捜しして、断りもなく物を持って行くのって拙くね?
常識的に言って、一度は王様に謁見しておかないとヤバくね?




私達は『スー』と言う村を目指し入り組んだ河を上流へと船で進んでいる。
エジンベアの王様は思っていたより気さくな人で、お父様の非礼な態度に気分を害すことなく、『乾きの壺』の元の持ち主の情報をくれました。
尤も、王様曰く「ふぉふぉふぉ…礼儀を知らぬ田舎者よ…」と笑ってたので、此方の事を見下してるだけかもしれませんけど…

船の事はモニカ様達に任せてあるので、私達が気にする必要は無いのですが、彼女等に任せられない事も起こります。
その1つが戦闘です。
またもや3匹の『テンタクルス』に襲われた私!
前回、このイカの所為でお父様に嫌味を言われたので、今日こそはあのアホを見返してやりますよ!
思わず身体が反応したお兄様を手で制し、アルル様がが『ライデイン』を唱えイカを1匹仕留めました!
次いでマイダーリンが『ベギラマ』で残り2匹に大ダメージを与えると、私の『イオ』でとどめを刺します。


どうですか!
やっぱり私は天才です!
この短期間で『イオ』を憶えたんですから。
ウルフちゃんが優しく教えてくれるから、とっても分かりやすかったわ!
あのアホも、私の才能に平伏す事でしょう…
と、思ったのですが!
「「「な!?」」」
お父様は、お母様とイチャ付くのに忙しくて、私の大活躍を見てなかった様なのです!
マジムカつく!
くっそー!!!
ぜって~認めさせてやる!
イオ系以外の魔法も、コンプリートしてやるんだからね!



何故かエジンベアより心が安らぐ村『スー』…
もう認めます…私、田舎者で良いです。
それでもスーの村民から見たら私達は都会人らしく、皆が興味津々で近付いてくる。
そんな超(スーパー)田舎者に囲まれたアルル様が、乾きの壺を掲げ質問する。
「あ、あの!『最後の鍵』についてご存じの方は居ますか!?もしくは、この『乾きの壺』の事でも良いです!」
まぁ…勝手に聞き込みをして、有力と思われる情報を入手してもらおう…
アルル様達とは別行動を取り、私は村内を探索する。
私はこの村でやりたい事があるのだ!


「私は喋る馬エド。お嬢さん何かご用ですか?」
私の目の前には白くキレイな馬が居る…
そして私に向け話しかけてるではないですか!
これよこれ!この子に会いたかったのよ!
馬が喋るのよ!

「こんにちは。私はマリー!どうしてアナタは喋れるの?」
「こんにちはマリー…どうして喋れるのかは私にも分かりません…」
う~ん…ご都合主義の産物かしら?
「私からも質問です。何故、アナタは私を見ても驚かないのですか?…初めて私を見た人は、大抵が驚くのですが…?」
ゲームでやって知っていたからです!とは言えません…なんて言いましょうか?

「目を見れば分かります…アナタは悪い子ではありません。だから驚く必要はないのですよ」
アニメとかで神秘的な少女が言いそうな事を言って、その場をはぐらかす。
「ふむ…私を評価してくれるのは嬉しいですが、アナタは嘘つきの様だ。分かりました、お答えしたくないのならもう聞きません。でも一言だけ言っておきます。偽りは何れ暴かれます…気を付けて」
何、この馬!?
馬のクセに私に説教したわ!!

ムカつく…不愉快ね!
私は踵を返しその場から離れようとした…
すると目の前に、私にとってもう一人の不愉快が立っており、私の事を見ていた様だ。
「お、お父様…何時から其処に?」
「ずっと居たよ…お前がみんなから勝手に離れていってしまったから…心配になってね」
クソ…やっぱりムカつく!
「む、娘を尾行するなんて、悪趣味ですわ!」
私は逃げる様にその場から走り出し、ウルフ様の元へと向かった…私の心の安らぎは、可愛いウルフちゃんだけよ…


皆さんの元に戻ると、丁度情報を仕入れたところらしく、酋長の家から出てきたところだった。
するとお兄様が辺りを見渡し、誰かを懸命に探している様子だ。
「マリー…父さんを見なかったかい?」
ちっ!
どいつもこいつも、あの不愉快親父の事を気にしやがって!
「さぁ…知りませんわ!」
勝手に探せよ!
私はウルフちゃんを見つけると近付き、彼の手を握る。


暫くして、お兄様とアルル様に連行される形で戻ってきたお父様…
アルル様曰く「村の女の子をナンパしてたのよ!」と…
落ち着きのない親父だ。
あの後直ぐに、女の子をナンパするなんて…
でもアルル様も分かってない!
そんな事をワザワザ報告する事無いのに…
「もう!私が居るでしょ!」
そう…そんな事をお母様が聞きつけたら、『私が誰より1番だっちゃ』的に、お父様とラブラブし始めるのに…

案の定船に戻った途端、船室へと引き籠もりパコパコ始める我が両親。
船内外に声が響き渡っている。
うむ…これを利用しない手はないな…
「ラブラブで羨ましいですぅ」
そう言ってウルフちゃんに抱き付く私。
良いのよウルフちゃん!
私は何時でも大丈夫!
押し倒されても受け入れてア・ゲ・ル!



 

 

双丘は無事だった!

船は何もない平原を目指し進んでいる。
何故何もない所を目指しているかと言うと、スーで町造りを行っているジジイの事を聞いたからだ!
行きたくねー…
エコナ様が居なくなったのに、あの場所へ行くのは気が引ける…
例の爺様が『商人がいれば町造りが出来たのに!!』なんて言い出したらどうする!?
何か私の所為で町造りが頓挫してるみたいじゃん!
大体ゲームじゃ、此の為だけに商人を登録して、例の爺様に進呈するんだからね!
ある意味、人身売買なんだから!



件の場所に到着すると、其処には小さな小屋が1軒あり、池を挟んで向かい側には建設中の建物がある、奇妙な場所に辿り着いた。
「以前来た時は、あの小屋が1つあるだけだったんだ」
モニカ様が小さな小屋を指差し説明してる。
すると、その小屋から1人の爺と1人の女が出てきました。
すげーでっかいオッパイを揺らして!

「あ!!も、もしかしてリュカはん!?やっぱりそうや!リュカはんや!!」
にゃんと!
『不幸な事故』により、津波に攫われてしまったエコナ様が元気にオッパイを揺らして近付いて来るではないですか!!
そして、勢いそのままでお父様に抱き付きキスをする!
うん。今夜もお母様は激しそう…

「…んっぷは!エ、エコナ…無事だったんだね!?」
「ご心配掛けて申し訳ない…でも、ウチはこの通り元気や!この近くの海岸に打ち上げられたのを、この爺さんに助けられ介抱してもろたんや!」
どうやら助けてくれたのが、枯れ果てた老人だった為、肉穴扱いはされなかった様だ。

「「エコナ!!」」
アルル様とハツキ様が泣きながら抱く。
「無事で…本当に良かった…!」
「ありがとうな…アルル、ハツキ……ウチはメッチャ元気やで!」
みんな喜んでいる…

このチャンスを逃してはいけない!
悄らしく泣いて見せて、私に罪が及ばない様に誘導せねば…
「あ…あのぅ…エコナ様………ごめんなさい…」
幼子が泣いて謝ってるのに、怒ったりしたらエコナ様は冷ややかな目で見られるだろう…
例え叱り心頭でも、大人としては笑って許すしかないのだ!
そして許してしまった以上、今後は誰からも責められる事はないはず!

「私の所為で…ごめんなさい!」
「マリーちゃん…気にする必要ないねんで!ウチは無事やったんやから…泣かんといて」
私を優しく抱き締めるエコナ様…
チョロい!
「それにウチ、感謝してるんやで!」
あ゛?何で?

「ウチな…此処で町を造るんや!あの爺さんに協力して、ウチが町を造るんや!……波に攫われてなかったら、こんなチャンスには巡り会えへんかったんやで!!」
勝手にイベントが進行しちゃった………ま、いいか。
「え!?どういう事?…この爺さん、エコナの旦那様?」
「何でやねん!何でこんな枯れ果てたEDと結婚せなあかんねん!!」
素敵な突っ込みだ!
「エ、エコナさん…落ち着いて!」
突っ込み担当はお兄様なのに、宥めるしか出来ないなんて…

「ワシ、エコナ、見つけた!海で…、ワシ、思った。エコナ、出来る!町、造る事、エコナ、出来る!!」
このスー族の喋り方って、片言で理解しづらいわぁ…

「………そう言うわけや。ウチ、この爺さんに助けられ話を聞いたんや…そんでチャンスやと思うたんよ!…せやからごめんなアルル!ウチ…これ以上は一緒に冒険出来んねん!此処に残って町を造るから……」
「気にしないでエコナ…貴女は自分の夢を見つけたのだから…それに向かって頑張って!」

あれ!?
でもそうすると、例のイベントが正常に発動した時、此処で町造りをせざるを得ない状況に追い落とした私が恨まれませんか?
やりすぎ商人に、町民達がクーデター!
そして投獄されて、彼女は全てを失う事に…
きっとゲームと違って、怒りが股間に集中した男達が、力任せにあの巨乳を味わっちゃうんだぜ!

ヤバイヤバイ!
きっとみんなこう思う…
『こんな場所に流れ着かなきゃ、酷い目に遭う事はなかった!→いやいや、津波に攫われなければ、こんな事にはならなかった!→つまり津波を起こした者の責任じゃん!』
ってな感じに、私がネチネチ責められる…
津波とかじゃなく、普通に此処に来てエコナ様が町造りを始めれば、私は何も関係なかったのに…
こうなったら、町造りに成功してもらうしか、私の平和は望めない!

「あ、あの…エコナ様…無理をされてはダメですよ!」
「どうしたん、マリーちゃん?ウチ、無理なんてしてへんよ」
「そうじゃないんです…町を造るって、大変な事だと思いますぅ。エコナ様は凄い人だから町造りの先頭に立って、活躍されると思いますぅ…」
「ありがと、マリーちゃん…」

「でも町を造るって、一人じゃ出来ません!町が大きくなればなるほど、大勢の人が協力し合い町を発展させて行くと思いますぅ!そんな時、無理をしてはダメですよ。漁ってはダメですよ。休む事も必要なんですから…」
「良い子やなマリーちゃんは!さすがリュカはんの娘やね。息子とは血が繋がっているか疑問やけど、マリーちゃんは間違いなくリュカはんの娘やね!」
違う違う!
良い子とか、そう言うのどうでもいいから!
焦らず地道にクーデターなどは起こさせない様に!!
ともかくそれが大事なんだからね!


何やらみんなが爆笑しているのだが、私の意識は未来のこの町に向いていた。
「ところエコナ…町の名前は?」
急にマイダーリンが問いかける。
「よくぞ聞いてくれた!『エコナバーグ』や!この町は『エコナバーグ』や!!世界中に広めておいてや!『エコナバーグ』の名を!」
「スピルバーグみたいな名前だな…」
そりゃ映画監督じゃん!
思わず口に出して突っ込みそうになったけど、何とか踏みとどまりました!

「何やそれ?」
当然、此方の人々は分かるわけもなく、虚しくギャグが滑ったみたいになっている。
「あぁ…気にしないでいいよ。言ってみただけだから…」
本当…バカなのね。
未だに転生前の世界と転生後の世界の区別が付かないなんて…



 

 

シルバーオーブへの第一歩

さてさて…
私達の船はエコナバーグを出港し、これよりグリンラッド海域を航行する事に。
グリンラッド…そう、つまり『船乗りの骨』を手に入れる為のイベントですよ!
シルバーオーブを手に入れる為には『ガイアの剣』を手に入れ、その為には『愛の思い出』を、そしてその為に『船乗りの骨』が必要に!
まぁ、更に言えば『変化の杖』が必要になるのですが、いきなり「変化の杖を手に入れましょう!」って言うワケにもいきませんから…
ので、取り敢えずグリンラッドの爺さんの所へ行き、変化の杖情報などを入手しませんと!


さて、その為にはどうするのかというと…
ゲームでは、海賊が船乗りの骨を持っていて幽霊船に出会した件がありました!
それにビビッた連中は、船乗りの骨をグリンラッドの爺さんが持つレッドオーブと交換するんですよね。
その話をアルル様達の前で話させましょう!


その方法ですが、1人の水夫(元海賊)を手懐けてあるので大丈夫!
どの様に手懐けたかと言うと…
そいつロリコンなんです!

普段から私を見つめる目が、尋常じゃないくらいヤバいんですよ!
だって常時私を見つめてて、パンチラとか拝めた途端ズボンのポケットに手を突っ込んで扱いてましたからねぇ…
だからそいつが1人の時を見計らい、コッソリ近付き目の前でパンツを脱いでプレゼントしました。
速攻で頬擦りをしてコキ始めましたよ!

そしてノーパンの私を押し倒そうとしてきたので言ってやりました。
「今すぐ私から離れないと、大声で泣き叫びお父様を呼び寄せますわよ♥」って…
私のパンツを握り締め、ノーパンの私を押し倒し泣き叫ばれている姿を見たら、お父様だけでなく皆さんがどう思うのか…

そして何より、以前アジトでお父様にボコボコにされて以来、水夫達はお父様が怖いみたいだ!
パンツ1枚で、1人の男の人生を握りました!
そいつを利用し、元海賊達を誘導します。


既に良い子は寝る様な時間に、私達は食堂で楽しくお喋りをしています。
アルル様にお母様、ウルフちゃんも私の側に居ます。
そして残りは元海賊の水夫達。
あのロリコン(良く考えたら名前知らない…ま、いいか!)は、上手い具合に幽霊船の話題を持ち出し、それが船乗りの骨の所為と続ける。
そしてグリンラッドの爺さんに船乗りの骨を渡し、代わりにレッドオーブを手に入れた事も語ってくれた。

「マリー…夜更かしが過ぎるぞ!早く寝なさい…」
其処へお父様が現れ、私の夜更かしを軽く叱る。
「ぷっ!!」
普段言った事の無い様な台詞だったのでお母様に笑われながら、私の側へと近付き腰を下ろす。

「ごめんなさい、お父様。水夫さん達に『幽霊船』のお話を聞いてましたの」
「幽霊船……そんな怖い話を聞いちゃうと、眠れ無くなっちゃうぞ!」
「大丈夫ですわ!ウルフ様が添い寝してくださりますから♡」
「え!?俺?」
あのロリコンに襲われない様に、守ってもらわないと…
「じゃぁ安心だね!」
因みに水夫達はお父様が近付くと、一斉に私から距離を取る。
ちょっとビビりすぎじゃないの?

「…で、幽霊船がどうしたの?」
さっき夜更かしを叱ったのに、水夫等が離れた途端夜更かしOKになるのかよ!
単に水夫等と仲良くしてたのが気に入らなかったのか…
まぁ正直、むさい男共に囲まれるのに辟易していたところだったし、今回は感謝ね。

「はい。何でも以前…『船乗りの骨』と言うアイテムを持っていたら、ロマリア沖で『幽霊船』に遭遇したそうです。是非、私も見てみたいですわ!ね、お父様ぁ♡」
「ふ~ん……じゃぁ、その内幽霊船に出会すかもしれないじゃん!」

「いえ、お父様…もう船乗りの骨は手元に無いそうですぅ………このレッドオーブと引き替えに交換してしまったそうなんですって…」
「誰と交換したの?物好きな変人も居たもんだ!」
よし!よくぞ聞いてくれた!

「はい!何と偶然なんですが、この海域の近くにある『グリンラッド』と呼ばれる極寒の地に住むお爺さんと、交換されたそうですのよ!是非、船乗りの骨を譲ってもらいたいですね!」
「…それは難しいなぁ……だって、そのレッドオーブは僕達に必要な物だろ!?確か……不死鳥…ラー油……だっけ?…それの復活に欠かせないんじゃ…」
「ラーミアですよ、リュカさん!」

「勿論、このオーブは手放しませんわ!…でも他の物と交換出来ないでしょうか?」
「他の物?……例えば?」
「う~ん…そうですねぇ……美女の脱ぎたてパンツとか!お父様は大好きでしょ!?」
少なくとも水夫の1人は、それで私の子分になったわよ!

「うん。その老人が僕と同じ思考回路の持ち主なら、パンツと交換してくれるだろうけど…きっとムリだと思うな!」
「…なぁリュカさん…親娘の会話として、今のは正しいのか?…父親として、『パンツと物々交換』なんて話題を出した娘を、叱るべきではないのかな?」
普通は無いわね!

何時もなら『マリーに下品な会話を持ちかけるな!』って、シスコン兄貴が出てくるのに…
どうしたんだろ?
部屋でシコってんのかな?
「ん?う~ん…そう言う方面の事で、僕が叱っても…説得力が無い!」
「あぁ……自覚はされてるんですね……少し安心しました…」

「ともかく近くに来たのですから、一度寄ってみましょうよ!」
「でも…その幽霊船と遭遇する事に意味はあるの?正直、無意味な事に時間を割いている余裕は無いのよ、私達!」
ちっ!うるせーねぇちゃんだな…
アンタの為にこの情報を引き出させたんだろうが!
必要なイベントなんだからね!

「む、無駄かどうかは分からないじゃないですか!死して尚、現世に現れるなんて相当の思いが込められてると思いますわ!もしかしたら、魔王討伐に何らかの影響があるかも知れないじゃないですか!」
「………そんな確証があるの?」
あるけど言えねぇんだよ!
「………ありませんですぅ…」

「じゃぁ「まぁまぁ、アルル!」
お父様が助け船を出してくれた!
流石は親馬鹿ね!
「バラモス討伐を急ぐ気持ちは解るけど、無駄かどうかは断言出来ないだろ!?後日に幽霊船を見つけておいて良かったって時が、来るかもしれないじゃん!」
「しかしリュカさん…」
尚も文句を言うアルル様を手で制す。

「アルルの言いたい事は分かる…僕が娘のお願いだから、幽霊船を探そうとしていると言いたいんだよね…」
アルル様は黙って頷く…私もそう思う!
「うん…それは否定しないよ。でも、僕の言っている事は間違っているかな?もし幽霊船にオーブがあったらどうする?後日その事に気付いても手遅れかもしれないよ…」
「………分かりました!グリンラッドへ寄りましょう!」
すっごい渋々承諾するアルル様。


「お父様ぁ…ありがとうございますぅ!」
まぁ、一応はお礼を言っておかないとね。
また何かあったら、利用させてもらうわけだし!

お父様は何時もの優しい笑顔のまま、私の耳元に顔を近付け囁いた。
「もうそろそろ、本当の事を話して欲しいな…」

え…!?
ど、どういう意味!?
も、もしかして…気付かれてる?
私が転生者である事を…!?

そ、そんなワケ無いわよね!
だってアホだもん、この人!
………じゃぁ『本当の事』って何?
分かんない…どうしよう…


ハッと気付くと、ウルフちゃんが怪訝そうな顔で私を見つめてる。
と、取り繕わなければ…
「幽霊船…楽しみですぅ!」
何とか笑顔を作りウルフちゃんへ抱き付いてみせる。
まだ私が転生者である事がバレたと決まったわけではない…
下手にボロを出さない様に注意せねば…



 

 

変身願望

ゲーム上で見た感じも寒そうなグリンラッド…
実際は寒そうどころか、『クソ寒い不毛の地』とお父様に言わしめる土地。
こんな所に住む奴の気が知れない!


さて…そんな気の知れない老人の住む小屋へと訪れた私達は、徐に話を切り出した。
「なぁ爺さん!それ、くれよ!」
お父様の直球勝負!
「何で見ず知らずのお前に、これをやらなければならないんだ!?」
当然の如く失敗。

「お爺様ぁ…私ぃ…幽霊船を見たいんですぅ!だから船乗りの骨をください!」
私が可愛らしくお強請り!
「ただではやれん!ある物と交換じゃ!」
やはり一方的に貰えそうには無い…
当然と言えば当然ですけどね。
やはり変化の杖と交換の様ですね…

「えー、めんどくさ~い!!」
ちょっと…詳細を聞きもしないで文句を言わないでよ!
ここからが交渉のしどころでしょうが!
「まぁ!物々交換ですのね!?では私の脱ぎたてパンツと交換でよろしいですか?」
まぁ流石に、相当なロリコンでも無い限り私のパンツで手を打つとは思いませんが、話題をパンツに誘導してお母様あたりの脱ぎだてパンツと交換ってところで落としたいですね!
「マリー!!そう言う下品な事は、言ってもやってもいけません!お姉ちゃんみたいな、最悪な女になっちゃいますよ!」

ちっ!
ウザ兄様が邪魔をする。
引っ込んでろつーの!
私を抱き上げ、パンツ譲渡を阻止する兄…
そんなに欲しいのか、私のパンツが!?

「その娘はバカなのか!?パンツなどいらんわ!何の役に立つ!?」
くそっ!
パンツへの誘導に失敗した…
このシスコンが邪魔するから!
「…役に…ですか?………寂しい夜のおかずでは?」
美少女の脱ぎたてパンツなど、それ以外に用途はあるまい!
移り香と妄想力を最大限に生かし、シコシコ自家発電に勤しむんだよ!

「「マリー!!」」
わぉ!
ウルフちゃんまでもがムキになってくれたわ!
脈ありね♥
つか、何時まで抱いてるつもりよ!
私はアンタのダッチワイフじゃないのよ!

何とかお兄様の腕から逃れ爺との交渉に戻る私。
「ワシが欲しいのはな『変化の杖』というアイテムじゃ!それとなら交換しても良いぞ」
あ~ぁ…やっぱりそう来るか…
めんどくせーなぁ………
サマンオサまでみんなを誘導しなきゃならないわぁ…
どうすれば良いかしら?
この爺が何か知ってないかしら?
「変化の杖ですかぁ…それは何処に行けば手に入りますか?」
ズバリじゃ無くても良いから、何かヒントになりそうな事でも言ってほしいわね。
「そんな事は知らん!自分で調べろ!」
役に立たない爺ね!
自分の欲しい物の事ぐらい、事細かに調べなさいよ!



「どうだった、船乗りの骨は貰えたかい?」
役立たず爺の元を去った私達は、船で留守番をしていたモニカ様に話しかけられた。
「ダメでしたわ…私のパンツとじゃ交換してくれませんでしたの!」
お前の部下は、私のパンツで大喜びだったのに…
「はぁ?パンツ?」
「モニカさん、気にしないでください」
またシスコン兄貴に抱き上げらる。
今回は口まで塞がれ鬱陶しい!
コイツ、私を抱き上げながらオッパイを鷲掴みなのよ!
ムッツリ野郎め!

「はぁ…何だかよく分からないけど………そう言えば、幽霊船の事で思い出した事があるんだよ」
キター!!
海賊情報、待ってました!
「んっぷはぁ!…なんですのそれは、モニカ様!?」
テメー、何時まで乙女の唇を触り続ける気だ!
「ん?あ、あぁ…詳細は端折るけど、昔エリックとオリビアという若い男女が恋をしていたんだ。でも、それを妬むヤツに邪魔されてエリックは奴隷へと落とされ、船で強制労働をさせられるんだ。そして、その船は嵐によって沈没する…その事を知ったオリビアは嘆き悲しみ身投げをするんだ…その船がお探しの幽霊船だって話さ!」

いいねぇ~!
ここで『エリック』と『オリビア』の固有名詞が出てきましたよ!
とは言え、この話題からサマンオサへと持って行くのは不可能でしょう…
ここは焦らず、幽霊船への印象を強める事に専念しましょう!
「まぁ…切ないお話ですわ………きっとエリック様の思いが、幽霊船という形になって、現世に現れたんではないでしょうか?…愛してらしたのですね…」
そう…『愛の思い出』よ!
それが必要なのよ!!
「さ、さぁね…アタイはそんなロマンチストじゃ無いから分からねーよ!」
あら?
モニカ様には乙女チックなお話は向いてませんか?
慌てて逃げちゃいましたわよ?
可愛い所もありますわねぇ…



 

 

死んじゃてるけど脅かす事が生き甲斐!

単調な船旅が続く…
景色は代わり映えせず、どちらを向いても水平線…
時折敵が現れては、私達が駆逐する…

………ぶっちゃけ飽きた!

何か刺激的な事件は起きないかしら…
例えば…『船内で巻き起こる密室殺人事件!』とか…
『マリー(私)を巡る2人の男性…恋に燃えるティミーとウルフは止まらない!甘く切ない三角関係の結末は如何に!?』とか…
はぁ…無いわよねぇ~…

…と、そんな妄想に浸っていると、モニカ船長が無駄に大声で到着を告げる。
「おい!目的の海域に着いたぞ!」
声、でけーなぁ…


一見すると何もない海域…
ただ海が広がるのみ。
しかしよく見ると、直ぐそこは浅瀬になっており、ゴツゴツとした岩肌が海中で揺らめいている。
「さて…此処がスーの酋長が言っていた場所だろう…で、乾きの壺はどう使うんだい?」
お父様が持つ乾きの壺を指差し、どうすれば良いのかを尋ねてくる。

「さぁ…『乾き』って言うくらいだから、あの浅瀬に放り投げれば良いんじゃね?海水吸い込んでくれるんじゃね?」
すげー適当!
でも大正解!
「リュカさん!!違っていたら大切な壺が海の底に沈んじゃうでしょ!」
言い方が悪い…もっと真剣に言えば、アルル様も認めてくれるだろうに…

「でも、お父様の意見は正しいと思いま~す!」
「だよね~!」
今回は私が誘導するまでもなく、お父様が答えを出してくれたし、私はただ賛成するのみね!
でもアルル様は気に入らないらしく、頭を押さえて首を振る。
「もっと、じっくり考えてから結論「えい!」
(バシャッ!)
だがお父様は、アルル様の言葉を待つことなく、ふ抜けた掛け声と共に乾きの壺を浅瀬へと投げ込んだ。

「「「「あぁぁぁぁ!!」」」」
全員大絶叫で驚いている!
「な、何勝手な事をしてるんですか!?」
お兄様などはお父様を怒鳴りつけると、慌てて海へ飛び込み乾きの壺を拾いに行く!
そんなに慌てなくても、浅瀬なのだから大丈夫だろうに…


お兄様の奮闘も虚しく、乾きの壺は周囲の海水を吸い込み、水位をみるみる下げて行く。
先刻まで海中に揺らいでた岩々が、今や目の前に聳えている!
勘違いしそうだが、けして海中の岩が隆起して海面に姿を現したのではない。
水位が下がり、私達の乗っている船が低い位置に下がったのだ!
そして壺を拾う為に飛び込んだお兄様は、元浅瀬に出来上がった祠への道で情けない恰好をして座り呆けている。

「お前、何やってんの?ずぶ濡れじゃん!濡れたくないから近寄らないでね」
お父様がお兄様に声をかける、口調は優しく…内容は酷いモノだ。
「お兄様、格好悪~い!浅瀬なんだし、海の底って言ってもたかがしれてますわ!結果を見てから行動しても、よろしかったのでは?結論を焦りすぎですぅ」
私は笑うしかない!
もっと辛辣な事を言おうと思ったが、流石に可哀想だろう…
「ティミー…風邪引かない様に身体をしっかり拭きなさいよ!」
お母様は優しくタオルを渡す。
本当は『もっとリュカを信じなさい!』とか言いたいのだろうけど…
哀れ過ぎて言えないよなぁ…
「ティミー…ごめんなさい……私が一人でリュカさんの提案に反対したばっかりに……ごめんなさい!」
アルル様…わざとかしら?
今、貴女が謝るのが、一番キくわよねぇ…
「ははははは………」
あ…壊れた。
ま、いいか!
今は最後の鍵の方が重要よね!

祠の中は水浸し。
当然よね!
長い年月を海中で過ごしたのだから。
内部を見渡すと、入口正面…部屋のほぼ中央に、最後の鍵が台座に奉られている。
「これが『最後の鍵』かぁ………」
お父様が徐に手に取り眺めていると奥から1体のガイコツが現れた!
こ、こんな所にモンスター出たっけ!?
私達は慌てて身構える。
「何か用ッスか?」
でもお父様は慌てることなく何時もの口調でガイコツへ話しかけた。
「………何で驚かないの!?」
うん。何で驚かないの?
私は驚いちゃったわよ!

「何でって…此処に入った時から、居るの見えてたし…」
え!?本当に!居るの知らなかったわ!
「いやいやいや!でも普通は驚くでしょ!?だってガイコツが動いたんだよ!?」
そ、そうよ!普通は驚くべきよ!
ってか何よあのガイコツ!
全然怖く無いじゃないの!

「う~ん…でも『腐った死体』とか、中身が空の『彷徨う鎧』とか、そんなのも居るし…ガイコツが動いたって…ねぇ?」
「ねぇ…って言われても……じゃぁさ、モンスターと思って見構えたりしないの?」
絶対この場合、私達の反応が正しいわよね!?
お父様が変なのよね!?
「モンスターってさ、敵意があるから……アンタには敵意が無いし…」
て、敵意って…確かにそのガイコツはちょっと可愛く見えてきちゃったけど…
「敵意って………何年前から此処で、みんなを驚かせるのを楽しみにしてたと思ってるんだよ!」
ごめんなさい…私の父が…ごめんなさい!

「ごめんねぇ。台無しにしちゃったみたいだね!次の機会に頑張ってよ!」
「次なんかねぇーよ!最後の鍵を持って行ったら、こんな所に来る奴なんか居るわけないだろ!」
「そっかー…ごめんねぇ~」
やだ、どうしよう!
このガイコツ連れて帰りたい!

「もういい…俺は役目を果たして、成仏するよ…」
「役目!?一体それは何ですか?」
ガイコツちゃんが『役目』と言うフレーズを言った為、アルル様が身構えた。
最後の鍵を守る番人かと思ったのかしら?
コイツにかぎってはあり得ない!
「え?あ、あぁ………ゴホン!では言うぞ!…その鍵は、世界に存在する全ての扉を開く事が出来る唯一の鍵!悪しき事に使わぬよう、心清き者が責任を持って所持する様心がけよ!」

「「「…………………………」」」
……だから何?
「…………………………あの…以上ですが……何か?」
「何だよ!?それだけなのかよ!それだけの為に、長い年月こんな所に居たのかよ!?」
要る!?コイツ要る?
別に存在しなくても良かったんじゃね?
「そ、それだけって……重要な事だろう!その鍵があれば、お城の宝庫物庫からだって盗めるんだぞ!悪い事に使おうと思えば、幾らでも悪い事が出来るんだ!」
た、確かにそうだけども…
「あー、悪い悪い!その通りだね…大丈夫!絶対そんな事には使わないし、使わせないよ!だから安心して成仏してよ」
「うむ…頼んだぞ…」
そしてガイコツちゃんは崩れ去る…本当にアレが役目だったのね…


ガイコツちゃんが消え去り、ちょっとヌルい空気が漂う中、お父様が神妙な声で語り出す。
「みんな…さっきのガイコツだけど………頭は悪そうだけど言っている事は重要だ!そこで、この鍵の管理の仕方について、今此処で決めたい!」
「管理…ですか?」
「そうだティミー…重要な事だ!この鍵があれば、色々な悪事が出来る…だから今後、鍵を所持する人間を決める事にする。その人以外が鍵に触れたら、誰であれ罰を与える!」
あの出来事の後なのに、随分と真面目な話をするじゃない!
お父様ったら、何か悪い物でも食べたのかしら?

「責任者には守ってもらう事がある!例え親しい人…親・兄弟・友人・知人…等、信頼出来る人の頼みでも、鍵を渡してはいけない!見せるのもダメ!」
「それじゃ、このパーティー内でも信じてはいけないって事ですか!?」
青いわねお兄様は!
最も疑うのは身内からなのよ!

「そうじゃない…僕は自分の仲間を信用している………でも、僕等に化けて近付かれたらどうする?お前は100%見抜く事が出来るのか?」
「………分かりません……」
勢い良く憤慨して見せたのだから、そのままの勢いで『分かります!』って言えばいいのに…
これだから何時まで経ってもチェリーなのよ!

「うん。だから最初からみんなを疑うんだ。…この件に関してだけだからね!」
「なるほど…それは納得しましたが、誰が責任者なんですか?父さんですか?」
「僕じゃ無いよ。アルルだよ」
偉そうな事を言ったのに、他人に擦り付けるのかよ!
相変わらずだな!

「……え!?私!?何で!?」
「だってこの世界の勇者じゃん!このパーティーのリーダーじゃん!」
お前は最年長者だろ!
「勇者って…ティミーだって勇者じゃないですか!しかも既に偉業を達成した…実績のある勇者じゃないですか!!それにリュカさんはその父親ですよ!しかも一国の王様の!責任者としてこれ以上ないじゃないですか!!」
「ティミーは…ダメだよ!コイツ直ぐ騙されるから…きっとリュリュに化けた魔族に、色仕掛けで騙されて鍵を盗まれるね!」
「ぐっ!…反論したいが…」
うん。100%騙されるわね。

「じゃぁリュカさんが年長者として、鍵の責任者になって下さいよ!」
「やだぁ!もし僕に鍵を託したら………僕は鍵を此処に置いて帰るね!他人に悪用されるくらいなら、自分も使えなくていい!此処に鍵を置き、水位を元に戻し、乾きの壺を叩き割る!永遠に海の底で燻ってもらうね!」
「な!こ、この鍵がないと今後の旅に支障が出るじゃないですか!どうするんですか!?」
「そんな事、僕には関係ないね!この世界の…アルルの世界の問題だろ!この世界を平和にしたいのはアルルだろ!?つまり、この鍵がどうしても必要なのはアルルだ!それなのに関係ない責任を押し付けるのは止めてくれ!」
最悪な我が儘ね!
言葉だけ聞いてると、最年長者とは思えないわ。

「ま、そんなわけで責任もって管理してくれ!」
この無責任男は、アルル様に責任を丸投げし、最後の鍵をスルッと彼女のブラの中へとしまい込む。
器用ね…谷間なんて無いのに、よく最後の鍵を滑り込ませられるわね!?
「ちょ、何でココに仕舞うんですか!?」
「………下の方が良かった?」
エロオヤジめ…



 

 

まさかの弟

突然ですが、私には兄姉が多数居ります。
ティミーお兄様とポピーお姉様だけではなく…2人とは違い、腹違いのお姉様が多数居ります。
つまり、お父様には愛人が多数居るんですよ、コレが!
私は別に構わないんですよ…
愛人が居ようが、余所で子供を拵えようが…知ったこっちゃありませんから!
そして、その中には言い訳のしようがないほど、父親にそっくりな子供も混じって居ります。
だから言い切れるのですが…
今、目の前に佇む少年は、間違いなくアルル様の弟です!




さてさて、此処までの経緯を簡単に説明しますと…
カンダタが盗賊情報を確認する為、手近な村への寄港を要請しました。
船長は快く了承。
そして、最果ての村と呼ばれるムオルへと訪れました。
村へ着くなり、心優しい村人(おせっかい)に連れられて、1軒の民家へと到着。
中から出てきたのは、小型版アルル様!
どうやら、どの世界でも勇者の父親という物は、こんなもんらしいです!

「まぁ!?アルル様にそっくりですわ!アルル様が幼い時は、こんな感じだったんでしょうね?」
取り敢えず話が進まないので、私が事態を進めようと感想を述べました。
「ポポタ…どうしたのです?お客様が来たのなら、ご挨拶………を………ポ、ポカパマズさん!!」
すると奥から女性が出てきて、小型版アルル様を『ポポタ』と呼び、此方に注目します。
そして叫ぶ!
「帰ってきてくれたんですね、ポカパマズさん!逢いたかったわ!」
本家アルル様に抱き付き泣き出す始末。
「え!えぇ!?えぇぇ!!?」
アルル様大混乱…
女性号泣…
その他困惑…
私ニヤニヤ。

「ポカパマズ~!立ち話も何だし、家に入れさせて貰おうよ!…おい、村人!案内ご苦労さま。お前はもういいから帰れ!」
だが混乱を恐れたお父様が、案内した村人を追い返しズカズカと室内へ上がり込む。
さてさて、この後どうなる事やら…
愛しのポカパマズさんは女だし、今夜は百合の世界ですかねぇ…?

「さて…僕はリュカ。お嬢さんのお名前はタリーナさんでいいですか?」
お嬢さんって…まぁ、結婚してるワケではなさそうだし、良いのかな?
「は、はい………ねぇ、ポカパマズさん…こちらの方々は?」
「あ、あの…私は「その前に聞きたいのですが…」
混乱から抜けきってないアルル様を黙らせ、お父様が話を進めて行く。
つまらんから、アルル様に喋らせろよ!
根が真面目だから、きっと発狂するぜ!

「こちらのポポタ君は、貴女とポカパマズの息子さんですか?」
聞くまでもねぇーだろ!
「…はい…ポカパマズさんが村を出て行った後で、妊娠に気付いたんです!だからポカパマズさんが驚くのもムリ無いですよね!うふふ…私ったら…ポカパマズさんに説明するの忘れてたわ……この子はポポタ…貴方と私の息子です」
女のアルル様に『アナタと私の息子ですぅ』って紹介してらぁ!
結構シュールだね。

「わ、私…ポカパマズじゃありません!」
「…え!?…何を言ってるの?だって…」
「お嬢さん…コイツはポカパマズじゃない!似ているのかも知れないが、ポカパマズではない!」
そう言いながらタリーナさんの手を掴みアルル様の胸を揉ませる!
やはり百合か!?今から百合か!?
「ちょ、リュカさ「ほら、この通り…小さいけど胸もある!」
「そ、そんな……」
「ち、小さいは余計です!」
真実なのだから仕方ない。
「ごめん…そんなに怒るなよぉ…服の上からじゃ判りづらいって言いたいだけだって!」
「あ、あの…ごめんなさい…私ったら…あの人が帰ってきたと思っちゃって…」
あ~あ…泣いちゃった。
女でも良いです!とか言って、百合かと思ったのに。

「タリーナさん、泣かないで。折角の美人が台無しだよ。貴女は笑顔の方がよく似合う!」
うん。家族の前で、他人の女を口説くのはどうかと思う…
いや、私は良いんですよ!慣れてますから…
でもポポタ君の前では…ねぇ…
「アンタは何考えてるんだ!?この状況で、人妻をナンパするなんて…場を弁えて下さいよ!」
「失礼な息子だな!ナンパなんてしてないよ!美人は笑顔が似合うんだ!だから笑顔になってほしいだけなの!」

「あ、あの…ケンカをなさらないで………そ、そうだわ!皆さんのお名前を教えて下さい!」
どうやら泣き止んではくれました。
お父様はコレを見越して場を弁えずに口説いたのでしょうか?
いやいや、偶然でしょう!
本能の赴くままに生きてるだけですね。

さて、落ち着いた所で自己紹介です。
お父様から順に、1人ずつ自己紹介をして行きます。



「………最後に私…名前はアルルよ。残念ながら貴女の夫ではありません!」
「そうですか………本当にごめんなさい…よく見ればポカパマズさんとは違いますね。…でも、何て言うか…雰囲気が似てるというか…貴女はポカパマズさんの知り合いでしょうか?」
親子ですよー!
知り合いどころの話じゃ無いですよー!
「…知り合いかと問われても…ポカパマズが誰だか判らないので…何とも言えませんが…詳しく教えて頂けますか?」
「そ、そうですね…か「ちょっとその前に!」
昼メロさながらの、ドロドロとしたアレを拝めると思ったのに、お父様がタリーナさんの言葉を遮った。
これからが面白いのに、横やりを入れるんじゃないわよ!
空気読みなさいよね…

「あの…何か?」
「うん。どうやら、さっきの村人Aが村中に言い触らした様だ!ポポタ君に『人違いでした』って、皆さんに伝えてきてもらってもよろしいかな?」
窓の外を見ると、野次馬根性の村人共がワラワラと集まっている。
お得意のバギで吹き飛ばしちゃえば良いのに…
「分かりました………ポポタ、皆さんに間違いだったと伝えてきてちょうだい」
「は~い、ママ!」
うむ…素直な良い子だ。
あと2.3年したら美味しそうになるだろう…
目を付けておこう!

「あ、ポポタ君。みんなに説明が終わったら、これで何か食べてきなさい」
にゃんと!?
お父様がお小遣いをあげました!?
私もらった事ないのよ!
何時も『お金は全部ビアンカが管理してるから』って言って、もらった事無いのに!
何か…ズルイ!



 

 

彼女の怒りは、彼氏が収める

首尾良くポポタ君は、モブ等を追い返す事に成功。
そのポポタ君も遊びに行ったのでアルルパパのお話に…
「……ポカパマズさんは、ポポタが産まれる前に村の外で私が見つけました。モンスターにやられ、傷だらけで倒れていた所を私が助けたのです…」
「確か『ポカパマズ』って『キチガイのカタワ』って意味だよな?何でそんな名前で呼んでるんだ?」

「…当時…ここら一体は、モンスターの影響以外で不幸に見舞われてました…」
「モンスターの影響以外?…それは異常気象とかで?」
人間とは無力な生き物なのだ…そして、その無力さを誰かの所為にしたがるのです。
きっとそれがアルルパパね!
「そんな時に村の外で見つかった彼の事を『ポカパマズ』………『キチガイのカタワ』と悪意を込めて呼んだ人が居たのです…しかし、回復したポカパマズさんは村の為に、壊れた家の修理を手伝ったり、枯れた井戸を更に掘り、水の確保を手伝ってくれたり…助けてくれた恩だと言って、村の為に尽力してくれたんです!」

「それで貴女は彼に惚れちゃったんですね?」
まぁ…頬を赤らめ俯いちゃった。
アルルパパはイケメンなのかしら?
ゲーム画面では分からないからなぁ………

「でも彼は出て行きました…重大な使命があると言って………村を出て行く前の晩に、私は彼と結ばれたんです…その時ポポタを授かりました」
記念に一発ってやつね!
「…なるほど…では彼について、もう少し詳しく教えてくれませんか?」
お!?
アルル様がポカさんの事を聞きたがってるぅ!
心配しなくても、その人は貴方のパパよ。

「わ、私の分かっている事は…彼の本当の名はオルテガ…アリアハン出身という事だけです…」
ほれキタ!
アリアハンのオルテガよ!
アルル様のパパなのだ!
これでいいのだぁー!

「あ、あのクソ親父!!世界を救う旅に出るとか言って、女遊びをしているだけじゃないの!!」
真面目っ娘アルル、大激怒!
「落ち着いてよアルル…」
「うるさい!どうせ男にとって、女なんて性欲処理の道具なんでしょ!アンタみたいに其処ら中で子供造ってる男に、落ち着けなんて言われたくない!アンタこそ1カ所に落ち着きなさいよ!」
この状況下で種馬男が声をかければ、火に油を注ぐ様な物…
プンプンって出て行ってしまいましたよ。


「リュカさん…良い判断ですね。ポポタ君を出て行かせた事…」
「…ありがとウルフ…経験者だからね…ティミーもキレてたからね…」
あら…そんな理由でポポタ君にお小遣いを渡してたの?
しかもそれに気付くなんて…私のウルフちゃんは賢いわぁ…

「ちょっと父さん!落ち着いてていいんですか!?アルルが村の外まで出て行っちゃいましたよ!追いかけなきゃ!」
そんなに気になるなら、自分で行けばいいのに。
ヒスってる女は扱いにくいのよ…近寄らない方が良いのよ!
「追いかけても良いが、さっきの見たろ!僕が行っても逆効果だよ………同じ気持ちを分かっている、お前が行ってこいよ!優しく宥めろよ。帰ってきて、いきなり斬りかかられたくないから」

「僕が行って効果ありますか?…殴られるだけでは?」
「じゃぁ殴られてこいよ!お前がサンドバックになって、怒りを吐き出させろよ!…アルルにだったら殴られても構わないだろ、お前!?」
そっちの趣味に目覚めちゃったりして…
「……ふう…相変わらず勝手だなぁ……」
諦めなさいよ…この男は、そう言う奴なのだから。


なんやかんやと文句を言いつつ、アルル様の後を追うお兄様。
「…行ったか。………惚れてる女の事なのだから、僕に言われなくても後を追ってほしいものだね!」
率先してそんな事が出来るのなら、リュリュお姉様は既にご懐妊でしたわ!
「お父様…お兄様にそう言う期待をされるのは酷ですわ。そんな事が出来ているのなら、今頃お父様には孫が複数存在しているはずですわ!」
グランバニアの未来が心配ねぇ…

「ところでリュカさんは、何時頃からティミーさんがアルルに惚れているって、気付いたんです?」
「…そう言うハツキは何時から?」
「私は…船を手に入れてからですね。仲良さそうに会話している二人を見て…」
あ、私もー!
船で良い雰囲気だったのよ。

「僕は…ダーマでかな」
ダ、ダーマで!?それはいくら何でも…
「幾ら何でもそれは嘘よ!ティミーとアルルちゃんが出会った場所じゃない!」
「うん。カンダタやハツキ・ウルフが転職をしている時、あの二人が仲良さげに会話してたんだ…ティミーって女の子と会話する時、僕の血が混じっている事を恐れて、1歩引いて対峙してたんだ。例外は母親と妹、あとリュリュ…まぁ彼女も妹なんだけど、それくらいかな。でも出会って1日のアルルとは、自然な形で会話してたんだ!………あの時思ったんだ…絶対この二人をくっつけようって!」
け、結構見てるのね!
侮ると痛い目に遭うかな?…無いか!



さてさて、タリーナさんに色々と此方の状況を説明し、アルルパパとポポタパパが同一人物である事を分かってもらい、話は纏まった。
そして辺りが暗くなってきた頃、お兄様とアルル様が揃って戻ってきました。

「只今戻りました…申し訳ありません、ご心配掛けて…」
「遅くなって済みません…」
1発ヤってきたのかしら?

「何だぁ?遅いと思ったら、イチャついてキスしてたのか!」
「な、何ですか…藪から棒に!!」
お兄様、動揺しすぎです!
キスぐらいなんですか!

「だってキスしてたんだろ?」
「な、何を根拠に!!」
「……お前、女装の趣味があるの?」
女装しても、ポピーお姉様が出来上がるだけでは?
「はぁ?無いですよ、そんなの!」

「じゃぁ、その口に付いた口紅は、アルルから転移した物だろ!」
慌てて口を押さえるお兄様。
「ティ、ティミー…私、口紅なんて付けてないよ…」
くだらない事に引っかかってんじゃないわよ!
「騙されやすい男だな!簡単に引っかかってやんの!…お前、自分の惚れた女が化粧してるかどうか知っておけよ!」
「くっ!以後、注意します!」
まだまだ役者が違うわね…

「アルル…僕の息子は、こう言う情けない息子なんだ。だからよろしくな!コイツなら100%君を幸せにする事が出来る…でも、こんな男だから自分を犠牲にして君を幸せにしようと暴走しかねない!そうならない様に、君が息子を幸せにしてやってくれ。そして二人揃って幸せになってほしい…」
うん。情けない男ではあるけれど、とても良い人であることは間違いないわ!
ただ…父親の血という時限爆弾が、何時発動するかが不安よねぇ…
その元凶が目でキスするようにと促している。
お兄様は他の人に助けを求める様に見回すが、助ける者など居りはしない…さっさとキスせい!

「「……………」」
何だかこっちまでこっ恥ずかしくなる様な、初々しいキスをする2人。
う~ん…ちょっと羨ましいかな…
あんなキスをウルフちゃんとしたいわぁ~…



 

 

チャンスとタイミング

さて…
昨日はタリーナさんのお持て成しで、楽しい時間を過ごせました。
偶には生き抜きも必要ですね。
何よりお兄様とアルル様が、付き合い始めたのも良い事ですし…

若い男女が付き合い始めたら、押さえきれないリビドーを垂れ流す様に、あっちこっちで栗の花臭を散布させると思ったのですが…
それを期待して、動きを目で追っているのに、超真面目に働くばかり…
若いのにEDなのかと思ってしまいます。

するとお父様が、
「つまらん、つまらん……人目も憚らずキャッキャッウフフとイチャ付けば良いのに…欲望を押し殺して仕事するなよ!」
と、父親とは思えないコメントを…
「お父様、お二人は欲望を押し殺してはいませんわ!根っから真面目すぎて、そう言う思考に到達しないのですわ!」
可哀想に思えたので、私なりにフォローを入れました。


さて…出港準備も整い、船が動き出すと…
アルル様達が一斉に私とお父様の回りへ集まります。
今後の進路を話し合うのだ。

「俺の仕入れた情報では、此処から南に『ジパング』と言う国がある。其処の女王が『パープルオーブ』を持ってるって話だ!」
「じょ、女王ですか…」
カンダタの情報を聞き、あからさまに嫌な顔をするアルル様。

「あの国はヤバイみたいだよ!『ヤマタノオロチ』って化け物が出て、生贄を与えないと国を襲うそうだ!そこで女王ヒミコは神のお告げを受け、定期的に少女を生贄に捧げているらしいよ…」
「何ぃ!美少女を生贄に捧げるだとぉ!!許せん、僕達がジパングを救わねば!!」
『少女』とは言ったが、『美少女』とは言ってないだろ!
「では、このまま南下しジパングへ…その後、ランシールへ赴くコースで良いですね!?」
カンダタの情報を聞き、纏めに入るアルル様…

ところがドッコイ、そうはいかないんだな!
例のロリ野郎に、もう一枚パンツをくれてやり、更にボーナスでスカートを撒くってその場で自家発電のネタになり、変化の杖の情報をカンダタに流すように仕向けた。
勿論、その情報は私が教えてやったのだけどね…

つまり、私からの情報を、ロリ野郎はカンダタに伝え、それを再度私へと伝えるシステム。
めんどくさいけど、しょうがないのです…
切っ掛けさえあれば、皆を導けますから!
「おっと、待ってくれ!もう一つ情報があるんだが…変化の杖についての…」
「まぁ、カンダタ様!本当ですか!?変化の杖は何処にあるのですか?」
うん。ロリ野郎は、報酬分は働いた様だ…

「あ、あぁ…変化の杖は『サマンオサ』の王様が持っているらしい…」
「サマンオサ…あの高い山脈に囲まれた国か………行けなくはないが、あの山脈越えは厳しいと思うよ!」
「そうですよねモニカさん!簡単に行けるのなら寄り道も良いけど、ムリして行く事は無いですよ!」
アルル様は寄り道をしたくないらしく、カンダタの情報に嫌な顔をしている。

「…いや、そうでも無いんだ………ジパングの直ぐ北にある祠に、サマンオサへ通じる旅の扉があるらしいんだ!…だから、ジパングの後にサマンオサへ行くのはどうだ?」
これも私が仕込んだ情報だ。
カンダタを凄い形相で睨むアルル様。
「では決定ですわね!ジパング・サマンオサ・ランシールの順番で世界を回りましょう!」
些か強引に、私が進路を決めてしまう。
「……………」
アルル様は、苦虫を噛み潰したような顔で黙っている。
ちょっと怖い…


取り敢えずだが今後の予定が決定し、お父様の前から皆が散開する。
本心では納得のいってないアルル様が、イライラしながら船室へと戻って行きます。
そして、それを追うお兄様の姿が…

「………アルル怒ってたねぇ…」
「そりゃ、無駄な寄り道をする事になっちゃえば、1秒でも早く平和を取り戻したいアルルにしてみれば、納得がいかないですよ」
お父様の呟きに、ウルフちゃんが的確な突っ込みを入れる。

「ふ~ん…でもさぁ…怒っている女の子を、2人きりの時に宥めるのって、最高に燃えるエッチのシチュエーションじゃね?」
あの2人に、そんなコテコテはないだろ…多分…
「いや、あの2人にそう言う事はあり得ないでしょう!」
「でも今頃、アルルの部屋で2人きりだぜ…そして苛つく彼女を宥めてるんだぜ…」

「………」
う~ん…全ての条件が揃えば…もしかしたら…
「今覗けば、二人のエッチが見れるよ!」
「もしかしたら…凄い事になってるかもしれませんね!」
勇者と呼ばれる2人がするプレイって、どんな事なんだろうか?
あ、やばい…ちょっと濡れてきた。

私はウルフちゃんに目で合図を送り、一緒にアルル様の船室までダッシュする!
船室の前に着くやドアを少しだけ開けて、中の様子を観察する事に…

「どう考えたって幽霊船なんか関係ないじゃない!…仮に、幽霊船にオーブがあったとしても、その情報を入手してからだって良いじゃない!!」
大分ご立腹のアルル様。
「ま、まぁまぁ…確かに父さんは身勝手だけど、その身勝手さで後日重要な手懸かりを得る事も多々あるんだ!」
そしてアルル様を宥めようと努力するお兄様。
何だかんだ言って、お父様の事は評価してんのね。

「はぁ………」
アルル様も諦めたのか、大きな溜息を吐いて俯いちゃった。
そんなアルル様を見つめ、そっと手を握りキスのタイミングを計るお兄様。
でも、なかなかタイミングが掴めず、行動に移せてない。
あぁ、もどかしいわね!
ブチュっといっちゃいなさいよ!
襲いかかり、無理矢理押し倒しなさいよ!!
男はみんな野獣でしょ!

(ガタッ)
あ、やべ!
思わず前のめりになり、ドアに足が当たっちゃった…
急にドアが開き、お兄様がこっちを睨んでる。
「な、何やってんだ!」
「あ!バレましたわ!!」

「ウルフ君…君まで…」
「いや…ち、違うんだ!!リュ、リュカさんがね…『今覗けば、二人のエッチが見れるよ!』って言うからさ!………つい………」
うん。言ってた!
嗾けたのはお父様よ!
私は悪くないもん!

「あ、あのクソ親父!!」
珍しく汚い言葉遣いで甲板へ駆け出すお兄様。
「行っちゃいましたわ…」
「よ、良かった~…殴られるかと思った!」
それは大丈夫!
変態的なシスコンだから、私が可愛く許しを請えば、ズリネタ提供しなくても許してくれるわ!

「ちょっと!ウルフ、マリーちゃん!私達まだ付き合い始めたばかりなんだからね!……邪魔…しないでよ…もう!」
でも、こっちの姉ちゃんには謝っておかないと、後が怖そうだ…
「ごめん、アルル…リュカさんに踊らされました…」
まぁ、次の機会に頑張ってよ。



 

 

故郷の味が恋しくて

はぁ……………
元故郷のはずなのに……………
私はこの国の人々に『ガイジン』と呼ばれ指を指されている………
なんかすげームカつく!

「変な国ね…『ガイジン』って何よ!?」
「ガイジンとは、異国の人という意味だよ」
私以上にプンプンなアルル様に、お父様が優しく接している…
でもアルル様の不機嫌は、お兄様とイチャイチャするのをお父様に邪魔されたからだと思うのよ。
「不愉快な人々ね………さっさと情報を集めオーブを手に入れて、こんな国からは出ましょうよ!」
う~ん…ヒスってる女は厄介ねぇ…


『ガイジン』と指を指されながらも、この国の情報を集めるアルル様達…
もどかしくて教えてやりたいわ!
ヒミコぶっ殺せばいいのよ!って…

「事態は深刻だな…」
ある程度情報を集めた所で、お父様が深刻そうに呟く…
「そうですね…皆、生きる気力を失い掛けてます…」
アルル様も、先程までの怒りを忘れ、悲しそうに同意した。
「良い女が全然いねーじゃん!全部生贄にしちゃうから、ババーとガキしか残ってない!つまんねーよ、この国!ほら見ろよウルフ…昔は美女でしたって人か、これから美女ですよって人しか居ないよ!…あぁ、お前はロリコンだからお宝満載か!」
「って、ロリコンじゃねーよ!!」
最悪!
深刻な理由はそう言う事!?
ウルフもロリコンじゃないって言い切らないでよね!
私に惚れなさいよ!

「ヤメロ!リュカさんもウルフも、いい加減にシロ!巫山戯てる場合じゃ無いでしょ!この国が滅びてしまうかもしれない一大事なんですよ!」
「ご、ごめんなさい…」
きっとウルフちゃんは被害者なのだから、謝る事は無いと思うけど…思わず謝ってしまう程、凄い迫力のアルル様だ。
「だから僕も事態は深刻だと思ってるよぉ」
お父様は何時も通り、悪びれることなくチャラけてる。
大物って事?
謎ね…
「アナタの深刻さはニュアンスが違ってます!」
先程とは違う事象で苛ついてるアルル様が、尚もお父様に食って掛かる。
無駄な事なのだから、止せばいいのに…


「…あ!美女の匂いがする!!」
突然お父様が突飛な事を言い出した!
お願いだから、これ以上アルル様を苛つかせるのは止めてもらいたい!
「はぁ…何言ってるんですか…さっき父さんが言ったんですよ、美女が居ないって…」
「こっちだ!」
通知票に『人の話は聞きましょう!』って書かれただろうお父様は、お兄様の話を全く聞かず、美女の匂いがする(お父様談)方へと走り出してしまった!
渋々…本当に渋々お父様の後について行く私達…

「何だ、アンタ等!?」
少し走ると、小さな小屋の前に到着した。
その前には門番 (?)が1人…
何だ此処?
「この中に居る」
「此処は漬け物を保存している地下保存庫だ!誰も居ない!!あっちへ行けよ!」
あぁ…地下へ通じる階段があるだけの小屋か…
道理で小さいわけだ。
「うるさい、退け!」
中へ入ろうとするお父様の邪魔をし、あっさり弾かれる門番…よわっ!


地下は意外に広々しており、幾つもの大きな瓶が並び糠漬け特有の強烈な匂いが充満している。
「うっ!何この匂い!?腐ってるんじゃないの!?」
西洋人 (?)のアルル様達には、この糠漬けの匂いは苦痛だろう…
元ジャパニーズの私には臭いと感じても、耐えられない程ではない…
「此処に居る!美人の匂いがする!」
…仮に、美女の匂いがしたとして、この中で嗅ぎ分けられるとは思えない。
「父さん………酷い悪臭しかしないじゃないですか……鼻と頭がおかしくなったんですか?」
きっと頭よ!
元からだったけど、この臭いで悪化した。

しかしお父様は、お兄様の侮辱を無視して、瓶の蓋を1つずつ開けて中を確認して行く。
お!美味しそうなリュウリ発見!
1本くらいなら許されるわよね…
「う~ん…美味しいですわ!!このキュウリ最高ですぅ」
やっぱ日本人にはコレよね!
あ~…渋い緑茶が飲みたい!

「こらマリー!そんな物食べちゃいけません!お腹壊しますよ!」
「大丈夫ですよお兄様。別に腐ってる訳じゃありませんから」
お前のくわえるよりはマシだろうが!
「お、居たよ!!」
どうやらお父様はお目当ての美女を見つけた様だ…
本当に居たのね!?
まぁいい…私はもう1本、キュウリを戴こうと思います。

私が一心不乱にキュウリを食べていると、瓶の中の美女が涙ながらに訴える…
「あ、あの…どうか見逃して下さい!……せめて一晩……あと一晩、故郷との別れの時間を私にください…」
白装束を纏った美女は、きっと生贄のヤヨイ姉ちゃんだろう!
しかしまぁ…お父様に見つけられたという事は、もう生贄にされる事は無くなるだろうて…
筋金入りのエロオヤジだし…
あ…でも、ヤマタノオロチに食べられなくても、お父様に喰べられちゃうか…
まぁいいや!
私はもう1本だけキュウリを戴こう…


「あの…何のこ「貴様ら!!見つけてしまったな!!」
アルル様が質問をしようとしたのだが、私達の後ろにある唯一の出口に、先程の門番が現れ、ヒステリックに大声を出し、プンプン怒っている。
何であんなに怒ってるのだろうか?
お父様に突き飛ばされたのがムカついたのか?
ヤヨイちゃんを泣かしたのが気に入らないのか?
キュウリを摘み食いしたのが拙かったのか…
うん。もう1本と思ったけど、もう止めておこう!

「えっと……何?どうしたの??」
「見られたからには、生きて返すわけにはいかない!ヤヨイは俺が守る!生贄になどさせはしない!」
うむ…どうやらヤヨイちゃんを泣かした事にお怒りの様だ。
私は関係ないわね!

「へー、君ヤヨイちゃんって言うんだ!可愛い名前だねぇ!」
「あ!は、はい………」
でたよ…エロオヤジのナンパが…
お母様が居るのだから、少しは控えてほしいわね…
せめて、直ぐ側に居ない時にしなさいよ!

「あらお父様!私の名前だって可愛いですわよ!」
「うん。可愛いよマリーも…でも一番可愛い名前はビアンカだけどね!」
よし!ナイスな発言!
私が夫婦の間を取り持ってあげたわ!
「まぁ、ラブラブですわね!」
お母様も満足そう!

「落ち着いて下さい…僕等はヤヨイさんを、生贄に捧げる為に此処へ来たわけではありません!むしろ助けようと思ってる!」
さてさて…
混乱の拡大したこの状況を、収めようと奮闘するのは我が兄です。

「ほ、本当か…?」
「何だよぅ…疑うなよ!美女を助けるのは、イケメンの義務だろ!美女の居ないジパング人大勢の命より、美女一人の命を救う…それがイケメンの義務だ!お前もそのつもりなんだろ!?その他大勢の命を犠牲にして、この美女の命を優先するんだろ?」
しかしながら、混乱を増大させようとするのが我が父なのです。
「そ、それは……お、俺はジパングの民の命を犠牲にするつもりなどは…」
「アナタは黙ってて下さい!話がややこしくなる……この男の言う事は無視してくれ。この男以外の僕等は、誰の命も犠牲にしない!このジパングを救う為に来たんだ!」
お兄様の、苦労は続くよ何処までも!



 

 

ぶっ飛ばしちゃえばいいんです

さて…
ある程度話は纏まり、それなりの情報を得る事が出来た。

愛しのヤヨイさんの為に、全てを…自分のみならず、ジパングの全てを犠牲にしようとした男の名はタケル…
一応はこの国の兵士らしく、その職権を行使して愛しの女を助けたらしい…

「貴方は勇気のある人だ!愛する人の為に、そこまで出来るとは…」
煽ててタケルを持ち上げるお兄様…
タケルは嬉しそうに照れてる。
「本当、勇気があるね!ジパング壊滅を物ともしないなんて!」
笑顔でどん底に突き落とすお父様…
タケルは絶望的にしょげる。
「黙れつってんだろ!!」
流石に乱暴な口調になっちゃったお兄様。
うん、見てて飽きない。

「…でも本当ですか!?あなた方はこの国を救いに来たと言うのは!?」
溺れる者は藁をも縋ると言うけれど、タケルの表情はまさにそんな感じです。
「私達は、バラモスを倒す為に旅をしてます。世界に平和を取り戻すのが、私の使命なのです!その為にはヤマタノオロチだって倒してみせますよ!」
安請け合いすると、後々後悔するわよ!
「で、では…ヒミコ様にお会い下さい!きっとヒミコ様もお喜びになります!………ただ…ヤヨイの事は…」
お!いきなしヒミコとご対面!?
何とか理由を造って、その場でぶっ殺したいですわね!
「大丈夫ですよ。ヤマタノオロチを倒すまで、内密にしておきますから」
そうとう嬉しいタケルは、ニコニコで私達をヒミコの元まで案内する。


「ヒミコ様、お知らせがございます!」
白粉を顔中に塗ったくり、麻呂眉な化粧と唇中心だけの口紅…
テレビなどで見る、ベタな平安貴族のお化粧女が、不愉快そうな表情で座っている…
両サイドには側近らしき2人の男が…
「何用じゃ、騒がしい!妾は忙しいのじゃ…」
あの奇抜な化粧の所為だけではなく、どことなく美人に見えない横柄な女。
うん、ぶっ殺しても心は痛まない!

「え!?これが女王なの?コイツが!?」
流石はお父様…速攻で無礼な台詞(ものいい)、痛み入ります。
「何じゃ、その無礼者は!?」
「も、申し訳ありません!しかしヒミコ様…彼等がヤマタノオロチを倒してくれる救世主なのです!どうかご容赦下さい!」

私がヒミコなら、こんな男に期待はしない…
皆がヒミコに頭を下げ、詫びを入れているが私はしない。
何故なら怒らせた張本人のお父様も頭を下げないから。
「ちょっとリュカさん!女王様の前ですよ!礼儀を守って下さい!」
この男にそんな物は無い!

「えぇ!やだよ………だってコイツ目が濁ってるじゃん!」
「まこと、無礼極まりない奴じゃ!こんなのがヤマタノオロチを倒せるわけ無かろう!下手にヤマタノオロチを刺激すると、このジパングを滅ぼしかねぬ!この様な奴等は無用じゃ、妙な事をするでないぞ!」
痛い所を付かれて、ムキになるヒミコ…
「ヒ、ヒミコ様…どうかお話だけでも…」
「くどい!さっさと出て行け!!」
「ちょっとリュカさん!謝って下さい!」
アルル様が、必死に状況の沈静化を図るけど…

「謝る必要無いって…だってコイツ、モンスターだよ!」
「「「「え!?」」」」
ちょ~ナイスお父様!!
これでぶっ殺す大義名分が立ちました!
世の中何でも先手必勝!
でもイオナズンだと、私までこの屋敷の下敷きになりかねないので、取り敢えずはジャブから。
「まぁ!では、この方がヤマタノオロチなのですね!?早速ぶっ飛ばしちゃいましょう、イオ!」
(ドゴーン!!!)

「ヒミコ様!!ご無事ですか、ヒミコさ…ま…!?…ヒ、ヒミコ様!?」
イエ~イ!
ちょ~スッキリ!
もう1発ぶっ飛ばそうと思ったけど、側近が近寄ってしまってダメでした…
「キサマら~………バレてしまっては仕方がない!ジパング諸共滅ぼしてくれようぞ!」
でも私のイオで出来た傷口が、蛇の鱗で覆われていたので皆さん驚いてます!
そして本性を現したヤマタノオロチが、側近2人を瞬殺し、私達に牙をむいてきました!
ヤバそうなので、お父様の後ろに隠れようと思います。

「わぉ、本当ですわ!お父様が仰った通り、女王ヒミコがヤマタノオロチでしたわ!」
お父様には大感謝です。
めんどくせーダンジョンに入ることなく、ヒミコの正体をヤマタノオロチだと確定出来たのですから!
「いや……モンスターだとは言ったけど…ヤマタノオロチだとは……」
それはどうでも良いのです!
結果オーライ…

さてさて…
済し崩し的にボス戦へと突入したアルル様等…
我が一家は、後方へ下がり戦闘に参加しようとしません。
『アルル様達の成長の為』との事ですが、なかなかのスパルタです。

とは言え、何もしないワケではありません。
お兄様がフバーハを唱え、炎の威力を軽減させたり、お父様は傷付いた方にベホイミで援護したりと、生殺し的に協力しております。


「と、父さん………目の前でアルル達が戦っているのに、後方で回復魔法を唱えるだけなんて……もどかしいですね…」
「アルル達ぃ~?……アルルの事だけだろ、お前には!」
まだ1発もヤってないのに、先だたれるのは辛いわね。
「ティミー、仲間を信じて状況を見守るのも、大切な事なのよ。アルルちゃんに魔法と剣術を教えてるんでしょ!?だったら彼女を信じて、平然としてなさい!貴方が後方で不安がってたら、前戦で戦っているアルルちゃん達に動揺が出るでしょ!」
お母様が優しくも厳しくお兄様を諭してる…
なるほど…
仲間を信じて見守る事も、メンタル面での援護になるのね…
勉強になる~!



 

 

傷付き疲れた男は、優しさに弱い

今のアルル様のパーティーは、勇者(アルル)戦士(カンダタ)武闘家(ハツキ)賢者(ウルフ)の構成だ。
ゲーマーとして言わせてもらえば、ひじょーにバランスが悪い!
何だ!戦士と武闘家が居るパーティーって!?

しかしこのパーティーには、卑怯なチート部隊が存在する。
後ろで援護する我が一家だ!
ぶっちゃけ援護してるのは、お父様とお兄様だけですけどね。
だがしかし、この援護は大きいだろう…
アルル様もウルフちゃんも、回復系や補助系魔法を使用しなくてもいいのだから。
4人全員で攻撃に専念する事が出来るのだ!

とは言え、随分と時間がかかるわねぇ…
私の先制イオじゃ、大してダメージを与える事は出来なかったわねぇ…
やっぱりイオナズンにしておけば良かったわ!



さてさて…
何とかヤマオロを倒したアルル様ご一行。
お父様の言う通り、もっと強くなってもらわないと後々が大変そうねぇ…
お父様とお兄様が、後ろで回復魔法を唱えて無ければ、全滅もあり得ただろう。
それが分かっているアルル様は、感極まってお兄様に抱き付きキスをした。
うらやましー!

「わぉ!お兄様達はラブラブですのね…私も負けてられませんわ!ウルフ様ー、私とイチャイチャラブラブしましょうよー!」
私は何の援護もしてないけど、感極まったウルフちゃんに抱き付いてきてほしいので、全力でアピールしてみせる!
だがウルフちゃんにその効果はなく、アルル様が恥ずかしそうにお兄様から離れただけだった…

だが私は見た!
その瞬間、お父様が素早くお兄様に耳打ちをするのを…
そして促される様にアルル様を抱き寄せキスするお兄様。
ちょっと!ウルフちゃんにも耳打ちしなさいよ!つかえないわねぇ…
もういいわよ、私から抱き付くから!
そう思いウルフちゃんの方へ歩み寄ると、ヤマオロが消滅した跡にパープルオーブが落ちていた!

「お父様…あれ…」
「こりゃ~パープルオーブだ…やっぱりジパングの女王、ヒミコが持ってたんだな。きっと本物のヒミコはヤマタノオロチに………」
私の言葉に反応したカンダタが、素早くオーブを拾う。
ちょっと、私が見つけたのよ!




まぁ取り敢えずはヤマオロも倒した事だし、目出度し目出度しって事で…
一緒 (?)にヒミコまで居なくなっちゃったけども、そんな事私の知った事じゃないし、残った人で何とかしてちょうだいよ!

翌日になりタケルに会いに行くと、無政府状態になりつつあるジパングを纏める為、結構忙しそうに残務処理を行っている。
折角助かったヤヨイちゃんとはイチャつけない模様…
「…さて、これからが大変ですね。女王様が居なくなっちゃいましたからね」
しかし、そんな状態でも勇者アルル様を邪険には出来ず、にこやかに対応してくれてます。

「仕方ありません…でも必ず、ジパングを再建させてみせます!その時は遊びに来て下さい」
「えぇ、必ず!」
何となく口約束っぽそうだけど、アルル様とタケルはしっかりと握手し、互いの今後の健闘をたたえ合う。

すると…
「あと、これを使って下さい」
タケルは自らの腰に下げてあった剣を、アルル様に渡す。
「これは『草薙の剣』です。結構由緒ある武器なんですよ!世界の平和の為に使って下さい。………この国に残る俺には無用ですから」
ゲームではヤマオロ(1回戦目)が落とすアイテムを、彼が差し出してきた。
タケルは政治家へ転身するらしく、武器は不要と言う事らしく、感謝の気持ちとしてアルル様に託すそうだ。

それを汲み取ったアルル様は、今まで使っていた『鋼の剣』を置いて行こうとしたのだが…
「あ、アルル!その『鋼の剣』はウルフに使わせてやってよ!」
と、いきなりお父様がウルフちゃんに渡す様指示。
「え!?俺に?…い、いや俺剣術は…」
勿論戸惑うウルフちゃん!

「使え!お前には今後、僕の娘を守ってもらわねばならないんだからな!魔法だけじゃ、接近されたらアウトだ…ある程度両立してもらわないと困る」
!?
あらビックリ!?
お父様は私の事を思って、ウルフちゃんに剣術を習わせたいらしい!
ちょっと、嬉しくて涙が出てきそうだわ!

とは言え、ウルフちゃんは無理矢理鋼の剣を渡されて、困り顔…
「それともナニ?お前はマリーを守る気が無いの?…好きか嫌いかじゃ無いぞ…最近お前はマリーの側に居る事が多い!そんな時に敵が現れても、お前はマリーを守らないつもりなのですか?」
そうよそうよ!
貴方は私の全てを守りなさいよ!

「わ、分かったよ…俺もマリーちゃんは守りたいし、剣を携帯します。…勿論リュカさんが剣術を教えてくれるんだよね!」
「えぇぇぇ…めんどくさ~い!!」
「アナタの発言は矛盾してませんか!?」
「あはははは、ジョークよジョーク!勿論、僕が教えますよ…未来の継息子の為に!何だったら、もう『パパ』って呼んでくれても良いよ」
「考えておきます、リュカさん!!」
うん。何かいい感じの流れになりつつある。


さて、早速その日からウルフちゃんの特訓は始まった。
宣言通り、お父様自らがウルフちゃんを扱き上げる。
…断っておくけど、お父様がウルフちゃんの○○○を扱き上げているワケじゃないわよ!
薔薇族じゃ無いからね!

話を戻すが…元来から魔道士ぼうやなウルフちゃんには、どんなに手加減してあっても剣術の鍛錬はハードらしく、1時間も経たないうちにグロッキー状態に…
「う~ん…先ずは体力を付けないとなぁ…そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうよ。ねぇマリー」
「そんな事ありませんわ!1回1回が濃ければ、大満足ですわよ!」
「マリー!!そう言う下品な事は言ってはいけません!」
「何が下品なのですか?私に分かる様に、事細かに説明して下さいませ、お兄様♥…何だったら、実践して見せて頂いてもよろしいですわよ、アルル様と共に!」

「う…ぐっ………お、お前…段々、ポピーに似てきたぞ…」
「まぁ、本当ですか!?何て素敵なんでしょう、私ポピーお姉様に似てきましたわ!」
こんなやり取りをして時間を稼ぐ私………結構健気?


それでも、休憩を挟みながら続ける事5時間…
夕方と呼ぶにはまだ早い時間帯に、剣術練習初日は終了を迎える。
殆どアンデットの様な足取りで、タケルが用意してくれた宿屋へと向かうウルフちゃん。

うん。上手くいけばこれはチャンスですねぇ!
鍛錬とはいえ、ボロボロになるまで励んだ男に、女は優しく介抱する…
狭い室内の布団の上には若い男女が…
男は恥ずかしい姿を晒した事へ赤面する…
女はそれを優しい笑顔で包み込む…
うん。かなりポイントを稼げますわね!

うふふふふ…明日の朝には、おはようのチューをしてくれる様になるかも!
そうと決まれば善は急げ!
洗面器に水を張り、タオルを何本か用意してウルフちゃんの部屋へとGO!

案の定、ウルフちゃんは布団の上で気絶するかの様に爆睡中!
そんな彼の顔に、濡らしたタオルで優しくタッチ!
当分は起きないと思うけど、此処は我慢で甲斐甲斐しく介抱を!
お目覚めの瞬間が楽しみだわぁ………


辺りは既に暗くなり、大人な雰囲気が漂ってきました。
遂に彼が目を覚まし、甲斐甲斐しい私とご対面の瞬間です!
私はタオルで顔を拭うのを止めず、最高級の笑顔で彼の目覚めを迎えてあげる。
「…あ!お目覚めになりました!?もっと寝ててもよろしいんですよ」

ウルフちゃんはこの状況にキョトンとしている…
しかし顔を赤らめ私を抱き締めると、徐にキスをしてきたではないですか!?
予想以上の効果に、仕組んだ私もビックリです!
とは言え、こんなチャンスを逃しちゃノンノン!
私もウルフちゃんの首に抱き付き、キスの味を堪能する。
何時までも…何時までもこうしていたいけど、彼は次のステップへと移行した…

ホント………ベタな仕込みだったが、効果は絶大ね…



 

 

女の又の力と書いて『努』

私の隣では、愛しいウルフちゃんが静かな寝息を立てて目を閉じている。
私は愛する彼の腕の中で、愛しさに包まれながら目を覚ます………どころじゃねーぞコラ!
めっちゃ痛い!

何処がって、○○○がだ!
もぅ、ごっさ痛い!
エロゲとかエロ漫とかだと、直ぐに気持ちが良くなるみたいに描かれてるが、あんなの嘘ッパチだ!

ほんと、ものごっつ痛い!
責任者呼んでこい!
ぶっ飛ばさないと気が済まないぞ!
もうアレだ…お父様流に言えば、ものっそい痛い!
快楽の末、絶頂(いっ)たワケではない!
激痛に耐えきれず、失神しただけだ!
自分一人だけスッキリして、スヤスヤ眠る男が憎い!

昔、クラスの男子が言っていた事がある…
『死体と遺体の違いって何だ?………男はしたい!女はいたい!』
当時聞いていた時は、馬鹿な餓鬼共だと思い、心で唾を吐き付けてたけど、今だったら殺してる!
もう本当、冗談抜きで…



{不適切な表現が多々含まれましたので、省略させて頂きます}



私は○○○が痛くてどうしようもないのだが、取り敢えず起きて服を着る。
するとウルフちゃんも目を覚まし、よたよたしている私を見て心配そうに声をかけてくる。
「マリー…大丈夫?…その…俺、初めてだったから…加減が分からなくて………大丈夫?」
やぁ~ん♥
そんな子犬みたいに瞳を潤ませて見つめられたら…

「うん。痛いけど大丈夫よ。だって私ウルフ様の事が大好きだから♡」
って、言うしか出来ないじゃないのぉ~!
私は着かけの服をそのままに、ウルフちゃんの首へ腕を回しキスをする。
うん、まぁいいや。ウルフちゃんが可愛すぎるから許しちゃう!


取り敢えず許した物の○○○は痛い!
朝食を食べようと、皆さんが集まる食堂へと赴くのだが、どうにもぎこちない歩き方になってしまう…
がに股でよちよち歩く姿は情けない限りだ!
みんなにばれちゃうだろうなぁ…
からかわれたら恥ずかしいなぁ…

しかし予想に反して誰も何も言って来ない。
お父様も気付いてはいるのだろうが、気を使って言ってこない。
色恋事に精通している親というのは、こう言う時にありがたい!

しかし例外もいる!
無論それは兄だ!
私の不自然な歩き方を見て、血相を変えて近付き心配してくれている…
私の事を思ってくれているのはありがたいが、いい加減気付いてほしい…
だが、この男には無理な話だろう…
周りを見ると、哀れみの表情でこちらを見つめている…無論、その哀れみは私に対してでは無い!

「もう、お兄様はしつこいです!デリカシーがなさ過ぎます!」
耐えられなくなった私はヒステリックに叫び、その場から逃げ出した。
ともかくその場に居たくなかったので、元ヒミコの屋敷脇にある、林の中へと逃げ込んだのだ。


ともかくあの場に居るのが耐えられなくて、こんな所へ逃げてきたけど…
う~ん…逃げたら逃げたで戻りづらい…
まぁ、ほとぼりが冷めるまで此処で静かに座ってよう…
動き回ると○○○が痛むし…

「マリー…大丈夫?」
木の根元にもたれ、体育座りをして俯いていると、心配げにウルフちゃんが声をかけてきた。
わざわざ私を捜しに来たみたいだ。
もしかして私ってば愛されちゃった!?
いや~ん!坊やってば、お姉さんの魅力にメロメロ!?
こりゃヨダレが止まりませんね!

私はウルフちゃんの首に抱き付き、熱烈なキスを味わっている。
誰も居ない…多分、周りには誰も居ない林の中で、私はウルフちゃんの唇を味わい続ける。
「………っんは………マリー、ゴメンね。俺が守らなきゃいけないのに…ゴメンね」
ウルフちゃんは私を見つめながら何度も謝る。
「ううん、いいのよ。お兄様はああ言う人だから…分かってはいるから…諦めるしかないの!」

ウルフちゃんは、先程まで私が座っていた根元に座り、膝の上に私を座らせ抱っこする。
背中に彼の温もりを感じ、私は幸せを噛み締める。
こんなに愛されちゃうなんて…美少女は得よねぇ~!

「俺はもっと強くなるよ!剣術の腕前だけではなく、朴念仁の義兄から君を守れるくらいに!」
「うん。ありがとう…でも、お兄様は強敵よ!」
「大丈夫!俺の目標はマリーのお父さんだから!あのレベルに到達すれば、ティミーさんなんかは目じゃないでしょう!」
う~ん…あの域に達せられるのは、正直困りものね…



暫くの間、この世の幸せを堪能してからお父様達の元へと戻ったら、お母様にマジで泣き付くお父様の姿を目の当たりに!
「いったい…何が起きたのでしょうねぇ?」
あまりにも理解不能な状況に、思わず私は呟いた。
「さぁ…分かんない?」
勿論ウルフちゃんも分かるわけない。

おおまかに話を聞いて分かった事は、お父様でもお兄様の朴念仁ぷりには勝てないのだという事だった…
恐ろしい子…



 

 

初めての…

初めての夜から2日経ち、○○○の痛みもほぼなくなった今日、私はもう一つの初めてを経験する。
つっても、後ろの貫通式じゃないわよ!
そんな恥ずかしい事を想像していたエッチな子には、私のイオナズンを喰らわしちゃうゾ♥

ジパングを出港し、北の陸地にある祠から、初めて旅の扉を使用しサマンオサ地方へと移動した私達…
そう、旅の扉初体験!
すっごく変な感じー!


そして、そのままサマオンサの平原を王都目指して歩き続ける…
これまた初めてな事を体験する。
サンドイッチF○CK初体験?とか言ったヤツ、ぶっ殺す!

DQワールドのフィールドを歩く事が初めての私!
おもっきしイオナズンをぶっ放せると思ったのだが、マイダーリンが私を守る様に目の前で戦う為、邪魔で魔法が使えない。
ま、楽でいいか!

そう思ってたのだが、お父様が呟きやがった。
「レパートリーが無いから、上手く立ち回れないんだ…」
カチーンときたね!
取り敢えずイオ系をコンプしようと思ってたけど、そんな事言ってられないわ!
この親父の鼻を明かす為には、他の魔法も急いで憶えないと…
今夜からでもマイダーリンに教わらないと!


初野宿!
船旅では、各々に個室が与えられていたから問題なかったが、野宿となると勝手が違う。
出来ればお父様には内密に、魔法コンプを目指したい私は、皆さん(特に父)が居る前で、マイダーリンに教わるのはNGなのよ。
だからマイダーリンを連れて、人気のない物陰へ移動したのだが、やりたい盛りの坊やは勘違い君で、いきなりキスをしてくるとリビドー全開!
物覚えの良い若造は、初回戦よりテクニシャンで、私を快楽の渦へと引きずり込んだ。



はうぅー………!
最初だけなのですね…アレなのは…

そして夜が明ける。


全く勉強ナッシング!
違うのよ!
エッチしたいワケじゃないのよ!
でもウルフちゃんに可愛く迫られると、心もお股もフルオープン!
もう、いらっしゃ~い!的な新婚さん気分よ。

ヤバイのよ…
マジで恋する何秒前?
ウルフちゃんは可愛いだけじゃないのよね…
慣れないフィールドを歩いていると、私が疲れたなって感じてきた瞬間に、ソッと手を差し伸べて引いてくれるのよ!
そしてね、優しい笑顔で「大丈夫マリー。疲れたのなら休ませてもらう?」ってな感じで気遣ってくれちゃうプリティーダーリン!


そうこうしている間に、めんそ~れサマンオサ!
魔法の勉強ちっとも出来ず、荒れ果てた目的地へ只今到着。

「何だこの国………偽太后が幅をきかせていた頃のラインハットを思い出すなぁ…」
お父様が荒んだ城下町を眺め、誰にともなく呟いた。
ゲームだと、見た目では判らないラインハットの荒れっぷり…
それは此処サマンオサでも同じな様だ。
ゲームの感覚しかない私には、この荒みっぷりはドン引き要素!

「酷い国ですね…カンダタ、何か情報はあるの?」
「いや…何も聞いた事ねぇーな…モニカはどうだ?」
「アタイも何も聞いてないねぇ…この国は立地条件から、あんまりモンスターにも攻められなかったんだけど………疫病が蔓延してるって話も聞かないし…」
カンダタもモニカも共に情報を持って無い様子で、尋ねたアルル様は些かガッカリ。
どうやらサマンオサの状況を理解しているのは私だけの様だ…さて、どうやって皆さんに伝えるべか?

「おい、待てガキ!」
突然、お父様が1人の子供を掴まえて叫ぶ!
私達の間をすり抜ける様に走り去ろうとした子供は、酷く汚れていて強烈な悪臭を撒き散らしている…
そんな子供の襟首を素手で掴み、臭いが気にならないかの様に接するお父様…

「な、何だよ!!ちょっとぶつかっただけだろ、離せよ!」
まったくですわ…
そんな悪臭は早く離してもらいたいです。
「旦那…このボウズがどうしたんですか?小汚いし離してやりましょうよ!」
「ボウズじゃないよ、女の子だよ。それにこの子…僕の財布をスッたんだ!」

「「「え!?」」」
うそ~ん!
被害妄想じゃないの?
ってか、女の子なのソレ?
「ふ、ふざけんなよ!ぶつかっただけなのに因縁付けんなよ!」
そうよね…それに例えスられたとしても、どうせお金なんて持って無いのだから、別に良いじゃないの!私としては早くその悪臭を捨ててほしいわ…
「や、やめろ…このスケベ中年!!」
しかし私の願いも虚しく、お父様は少女 (?)の服の中に手を突っ込み、スられた(お父様曰く)財布を探してる。

よくもまぁ…あの悪臭の中に手を突っ込めるわね。
これで財布が無かったら、下手物好き男の悪質なセクハラよね!
「スケベ中年だと!?訂正しろ、僕はまだ中年じゃないぞ!………お、あった!」
へー……本当にスリだったのね。
つーか、スケベな事には否定しないんだ…

「あ!そ、それはアタシんだ…アンタのだと言う証拠は無いだろ!」
「ほぅ………じゃぁ中身を言ってみろ!」
「な、中身…は…お、お金だよ!何ゴールドかは忘れたけど…」
あらあら…随分と妥当なお答えね…
そう言っておけば嘘にはならないから、この後に幾らでも言い訳が出来るって寸法ね。

「ぶ~!残念でしたぁ!お金は1ゴールドも入ってません。中に入ってるのは、昨日ビアンカが着けていたブラとパンツです。淡いピンクのスケスケ下着ですぅ!」
はぁ!?
何で財布にそんな物が入ってるの?
スリ少女も驚いた様で、慌てて中身を確認する。

そして出てきた淡いピンクのスケスケ下着…
「わぁ~ぉ!お母様セクスィ~!」
お母様は、あんな物を履いて競争率の高いお父様を誘っているのね!
「リュ、リュカ…もういいでしょ…早くしまってよ………」
いや~ん!
お母様、顔を赤くして恥ずかしがってるぅ…ちょ~かわいい!

「ア、アンタ馬鹿なのか!?何で財布に下着入れてんだよ!」
「うん。被ろうかなと思ったんだけどね…流石にそれは…ねぇ!?だから財布にしまっといた」
この男…何言ってんの?
全然意味が分からないんだけど…
「は、早くしまってよ!」
耐えられなくなったお母様が、素早く下着を引ったくり、隠す様に自分の懐へとしまい込んだ。
「意味分かんないんだけど!何なのアンタ…」
スリ少女も私と同意見の様だ。



 

 

現実は重く悲惨だった!

お父様は悪臭スリ少女を摘んだまま、周囲の視線を気にして裏路地の人気のない場所へと移動した。
みんなでスリ少女を犯す為に、裏路地へと入ったのかと思い、ちょっとだけ期待に濡れてしまったのだが、お父様やカンダタはともかく、お兄様やマイダーリンがそんな事するワケもなく、またアルル様等が許すはずもなく、エロゲー的な事にはならなかった。
ただガラの悪い警備兵を避けただけみたいです。


「いい加減離せよオッサン!」
「オッサンじゃない!イケメンお兄さんだ!言ってみろ!」
あれ?そう言えばお父様って何歳?
見た目若いけど、結構なオッサンかしら?

「ふざけんな馬鹿!死ねオッサン!」
「むぅ…口の悪い娘だ!こうしてやる!」
スリ少女の暴言に気分を害したお父様が、徐に彼女を拷問し始めた…つっても擽りの刑だけどね。
「ぎゃははははは…や、やめろ…あははははは…」
「ほら、超イケメンお兄さんって言ってみろ!」
『お兄さん』だけではダメなのだろうか?
妙にイケメンに拘る我が父…やっぱアホだ!

「きゃはははは…うるさい…あははは…こ、このエロオヤジ…ひゃははははは…」
しっかし…良くもまぁあの悪臭少女を触れるよなぁ…
私は臭いに耐えられず、申し訳ないと思いつつもウルフちゃんのマントで鼻を押さえている。
それでも臭いは遮断出来ないが、多少は軽減されるので、何もしないよりはマシだ…

「あはははは…も、もうやめて……ちょ、超…イケメ…ン…お兄さん…」
「よし、よく言えました。僕はまだ若いんだからね!」
笑い疲れたスリ少女は、グッタリと壁にもたれ言いようのない色っぽさを醸し出している。
この悪臭が無ければ、此処にいるお父様以外の殿方はムラムラしてたに違いない!
カンダタあたりは押し倒してたかもね。


「さて………何だって君は、そんな恰好までしてスリをしてるんだい?」
「そんな恰好…?どういう事ですかリュカさん!?」
お父様の一言が気になったアルル様は、鼻と口をハンカチで押さえながら尋ねた。
浮浪児が薄汚れた恰好をしていてもおかしくはないだろう…なのに『そんな恰好までして…』と改めて聞くのはどういう事なのか?
アルル様だけでなく、私も気になる所ね。

「この娘、ワザと悪臭を服に擦り付けてスリをしてるんだ!多分この臭いは、腐ったネズミの死骸かな?」
「凄い…よくこの悪臭の根元が分かったね…」
擽りの刑でグッタリしていたスリ少女が、お父様の一言で驚き目を見張った。
「まぁね…顔と鼻と女運は良いんだ!」

「うぇ…何でワザワザそんな事なさるんですの?」
ただでさえ吐き気がする悪臭なのに、その元凶が腐ったネズミの死骸って…
もういいじゃない…
こんなヤツ放っておいて、この国の現状を調査しましょうよ。
もう悪臭に耐えられそうにないわ!

「………ふん!」
ほら…
この娘も何も言わないし…
「悪臭を纏う事で、スリへの注意を逸らすのが目的なんだ。こんな悪臭の人がぶつかって来たら、思わず突き放そうとするだろ!?自分の財布を確認するよりも、相手を突き飛ばす方が優先されるわけだよ」
はぁ、なるほど…
確かにこの臭いからは逃げたくなるわよ。

「……そんな事まで分かるんだ…凄いねアンタ…で、アタシをどうするんだい?詫びを入れさせる為に、此処で犯すかい!?…それとも犯罪者として、警備の兵に引き渡すのかい?…ふっ、警備兵に引き渡されても、死ぬまで犯されるだけだね………私の未来は決まったね………」
別にそんな事はしないわよ!
盗んだって言っても、お父様の財布だし…仮にお金が入っていたとしても微々たる物だろうし…何より実際に入っていたのは、お母様の使用済み下着だけだし…

「私達はそん「どうするかは君次第だ!何故スリを?」
「そ、そんな事…何だって関係ないだろ………さっさと犯すなり、殺すなり、好きにしなよ!」
うん。
浮浪児がスリをする理由なんてどうでもいい…
なのにお父様は少女の目を覗き込み、優しく問い続けてる。

「関係なくは無いよ…どうして君が、こんな事をしなければならないのか…それを知りたいんだ」
どうしてお父様は、この悪臭に耐えられるの?
スリ少女の顔に、自らの顔を近付けて瞳を真っ直ぐ見つめてる。
「何か力になれるかもしれない…だから、教えてほしい…何故スリをしてるのか…何故そうなってしまったのか…」

凄く優しく彼女へと接するお父様…
お父様は基本的にフェミニストなのだ。
言い換えればたたのエロオヤジ。
だが大抵の女はそれに騙され、心も股も広げてしまう。
入れ食いだろうな!
「うぇ~ん……ご、ごめんなさい……私………ごめんなさい!」
そしてこの少女も落ちた。
お父様に抱き付き泣き出した…


お父様に抱き付き泣く事約10分…
ただ黙って泣き止むのを待つお父様…
ただ黙って悪臭に耐える私達…

スリ少女は泣き止むと『私の名はフィービー』と自己紹介をし、お父様の手を引いて我々を導く。
私達も自己紹介をしたのだが、お父様の事以外には関心を示さず空気の様な扱いだった…
『その男に(うつつ)を抜かすと孕まされるぞ!』って教えてやろうかと思ったが、『ばっちこい!』と言われても面倒なので、取り敢えずこのままにしておく。
…また家族が増えるのかな?


導かれるままついて行くと、殆ど潰れてる屋敷に到着する。
入口とはとても言えない様な隙間から中に入り、地下室へと進む…
そこには目を背けたくなる様な状況が広がっていた。
30人程があまり広いとは言えない地下で身を寄せ合い蹲って居る…
殆どの者が年端もいかない子供で、今の私より年下ばかりだろう。
大人も居るが、状態は酷い…
両手足を切断されてる男・衰弱が激しく死にかけてる老人・右目や頬をえぐられている妊婦など…

「此処は………?」
お父様が乾いた声で問いかける。
「此処はアタシ達の唯一の住処だ。アタシ達は此処で寄り添い生きている…」
違う…それは分かっているのだ…お父様が聞きたいのは何故こうなったのかだ…
そう言おうとしたのだが声が出ない…
彼女もそれが分かっているのか、抑揚のない声で語り出す。
この国の荒れた現状…

リュカの問いにフィービーが抑揚無く答える。
そして教えてくれる…この国の状況を…彼女等の境遇を…
『特務警備隊』と呼ばれるクズ共の悪行…
そして、そのクズ共に何をされたのかを…

「…ねぇリュカ、あの娘を見てよ…」
フィービーが1人の少女を指差し囁く様に語る。
「彼女はリサ…この国でも有数の名家の生まれなんだけど…お父さんが税率に対して不平を言った次の日に、特務警備隊が家に押し寄せて、彼女の目の前でご両親と3つ年下の妹を殺したんだ…お母さんと妹は犯されて…勿論彼女も…」
指差した先には、一人の少女が虚ろな瞳で壁にもたれている。
年の頃なら14.5歳の少女は焦点は定まらない虚ろな目で壁にもたれている。

私は耳を塞ぎたくなった。
ゲームでは語られていないこの惨状に!
何も聞きたくなかった、ドラクエは楽しいゲームなのだから!
「此処に居る人で、奴等に何もされてない人はいない…私も道を歩いてただけで犯された…好きでもない男に無理矢理処女を奪われたんだ………」
だが彼女は語るのを止めなかった。
こんな事実、苦しいはずなのに…思い出したくないハズなのに…

そして顔を上げ、お父様を見据えながら言葉を続ける…
「リュカ…さっきアタシに言ったね…『何故スリをしてるのか…何故そうなってしまったのか…』と…」
ただ無言で頷くお父様。
「この国じゃ物乞いをしても誰も何もくれやしない!特務警備隊に見つかれば、またあの悪夢を見せられるだけ…だから盗むしか無いんだ!………そしてアタシしかそれが出来ない……見て、みんなを…」
しかし私は見る事が出来ない…辛くてみんなを見る事が出来ない…
私の心は憤りを感じ苦しくなる。
どうすればこの気持ちは収まるのだろうか?誰か教えて下さい…誰か助けて下さい!



 

 

罪とは人が作り出す物、だが人は罪からは生まれない

「………アルル、有り金を全部くれ!」
お父様が普段ではあり得ない程真面目な声で、アルル様にお金をせびる…
「カンダタ、一緒に来い!他のみんなは此処で怪我人の看病を…」
そしてアルル様からお金を受け取ると、カンダタを連れて出て行ってしまった。
幾ら何でも遊びに行った訳では無いだろうから、残された私達はお父様の指示通りに、怪我人や病人の看病をする事に…

お母様が荷物の中から薬や包帯を取り出し、怪我人達の看病を始める。
ハツキ様が怪我人に近付き、ベホイミで傷を癒す。
それを見たウルフ様もハツキ様に習い、憶えたてのベホイミで怪我人を癒す。
私は回復系魔法を使えないので、軽く濡らしたタオルで彼等の体を拭う事に…

何だか涙が出てくる…こんな事しか出来ないなんて…
ゲームでは、ただ戦って悪者を倒せば、世界が救われ皆が幸せになっていくのに…
これが現実なのか!?
こんなに苦しい物なのか!?
実際、身を持って体験すると分かる事がある…
ゲームでは深く語られていない部分がある事を…
現実として経験すると、こんなにも辛く苦しく悲しい事が起きているのだ。

お父様はどんな人生を送ってきたのだろう?
DQ5の主人公は、シリーズ中で最も悲惨な幼少期を過ごしているのに…
何であんなに明るく優しいのだろうか?
ゲームをプレイしていた時は感じる事は無かったが、目の前で父親を惨殺されたのだ…
10年間も鞭で打たれ奴隷として過ごしたのだ…
私は舐めていたのかもしれない…
所詮はゲームの世界だと、安易に考えていたのかもしれない…


私が涙を流しながら、浮浪児さん達の体を拭いていると、両手に大量の食料を抱えたお父様が戻ってきた。
「どうしたんだよ、それ!?」
フィービーが大量の食料に驚き質問する。
「買ってきた。ビアンカ、軽くで良いから料理してくれる?」
お父様は軽く答えると、お母様に指示を出し、そしてお母様もそれに従う。
そしてお父様は、調理しなくても良い食材でサンドイッチを作り、浮浪児さん達に配っていく。

「か、買ってきたって…何処で!?この国には碌に食料なんてないだろう!」
「僕はルーラを使えるからね!アリアハンに行ってきた。その後でロマリアとイシスにも…」
大した事ではないと言う様な口調で言い切ると、質問者のフィービーを手繰り寄せ、素早く服を脱がすと、即座に真新しい服に着替えさせるという凄ワザを見せつけてくれた。
何あの手際の良さ…
女の服、脱がし慣れてるわねぇ…

「ちょ……勝手にレディーを裸にして、今度は服を無理矢理着せるって………何なんだよアンタ!」
「うるさい、その服臭いんだよ!何時までも着てるなよ!」
あぁ…臭いは感じてたんだ…私てっきり…
「あ!それまだ使うんだよ!…アンタも言っただろ!その悪臭のお陰で、スリが成功するんだよ…それにその臭いで奴等も近付かないし…」
お父様が脱がした臭い服を、焚き火の中に放り投げるのを見て、文句を言うフィービー。

「もうスリをする必要は無い!もう脅えて暮らす必要は無い!…こんな国は僕が修正する!」
だが何時になく真面目な目をしたお父様が、力強い口調で彼女等を助ける事を宣言する!
そうよ!
こんな酷い状況のままで良い訳ないわ!


みんなに食べ物を手渡したお父様は、決意の篭もった表情で立ち上がると、この隠れ家から出て行く。
私達もお父様の後に続き、隠れ家から出てお城へと歩みを進める。
もう黙っている事何て出来ない…
何かをしなければ、頭がおかしくなりそうなのだ。




よほど怒り心頭な様で、スタコラサッサと私達を無視してお城を目指すお父様…
私はそのスピードに付いていず、1人だけ遅れてしまう。
見かねたウルフ様が私を抱っこしてくれたので、何とかお父様とはぐれずにすみました。
うん。ウルフ様格好いいッス!

「止まれ!これ以上は陛下の許しがある者のみが進入出来る。お前達の事は聞いていない!引き返して帰りなさい!」
少しだけ先にお城へ着いたお父様が、兵士さんに通せんぼされている。
よし、悪い兵隊さんはぶっ殺しちゃえば良いんです!
フィービー達に酷い事をした報いを受けるべきです!
「悪いけど通してほしい…この国の現状に文句を言いたいからね!」
そんなヌルい事を言ってないで、ともかくぶっ殺しちゃえばスッキリするんですよ!

「悪い事は言わん…命が惜しかったら、諦めるのだ。不平を言っても何も変わらんし、そんな事すれば後ろの女性達が酷い目に遭う…」
ほら。どうせ退かないのだから、お父様のバギクロスで細切れにしちゃえば良いのに…ってか、お父様がこちらに振り向き驚いている?
何故?
「早々にこの国から出て行くが良い…それがお前等の為だぞ!」

兵士さんの言葉を聞き、私達を連れその場から離れるお父様…
そして人目を避ける様にお城の物陰まで移動する。
何かしら?…あの兵士さんへ不意打ちでもかますのかしら?
私達の実力なら、そんなことしなくても瞬殺だと思うけど…

「お父様、あの兵士さんもぶっ飛ばしちゃいましょうよ!」
自分が弱いつもりでいるからって、私達まで同じだと思うのはやめてもらいたいわ!
「ダメだよマリー…彼は善人だ………彼もこの国の惨状を憂いでいるんだ。でも、彼には力がない…目を瞑り、自分を守るしか出来ない…そんな彼に罪はない」

「う~………じゃぁどうするんですか、お父様!折角此処まで来たのに!?」
う゛……じゃぁどうすんのよ!
い、いいじゃない…お城に勤めている奴等は、みんな悪いヤツ認定で!
………でも、悪い人じゃ無いって聞いちゃうと……
「まぁ……裏口でも探すよ………つーか、何でみんな付いてきてるの?これから王様と喧嘩しようとしてるんだよ!正気の沙汰じゃないんだよ!?」
今更かよ!
私達に気付いて無かったのかよ!

「父さんが正気の沙汰じゃないのは何時もの事でしょう!むしろ今回は普段よりまともだと思ってるのですが!?」
「そうよリュカ!珍しくまともな行動をしてるんだから、家族として…仲間として、それについて行くに決まってるじゃない!」
凄い事言われる父親ねぇ…
「うわぁ…お父様、家族に愛されてますぅ!普段の行いが良いと、こうも家族愛に満ち溢れるのですねぇ…」
「君達の言葉は、嫌味にしか聞こえないのですが!はぁ、まぁいい…付いて来るのならば、僕の指示には従ってもらうよ。勝手な行動は慎んでくれ!」
ダメと言われても行くもんね~!
「「「は~い」」」



 

 

満場一致のゲス野郎

私達はお城の周囲を回り、見張りの居ない裏口を発見する。
ソッとそこから進入すると、どうやら勝手口の様で台所に直結していた。
女中さん達が忙しそうに働いている横を通り抜け、ズンズンと城内を捜索する!

しかし私はある異変に気が付いた…
台所の女中さん達も、城内に居たメイドさん達も、美人が結構居たのだが、お父様が一言も口説こうとしないのだ!?
アイツ偽者じゃねーの?
大丈夫か!?

等と、くだらない事を考えている内に、諸悪の根元である王様がふんぞり返っている部屋へと到着する。
お父様が勢い良くドアを開けると、私達が一斉に雪崩れ込む!
そこには贅肉まみれのデブが、オッパイボヨンなねーちゃん等に囲まれて、酒や料理を浴びている。
見るだけで不愉快な光景に、私はイオナズンを唱えたくてウズウズしちゃってマス!

するとお父様が、とっても素敵な一言を…
「うわぁ…アイツも目が濁ってる!」
ジパングと同じ轍は踏まないゾ!
今度は一気にイオナズン♥
「まぁ!では、あの方もモンスターなのですね!?ぶっ飛ばしちゃいましょう!イオナ…ふがん!」
ところがドッコイ、お父様に口を塞がれて私の見せ場が吹っ飛んだ!
「コラコラコラ!こんな所で魔法を唱えたら、周りにいる女性達まで吹っ飛んじゃうだろ!今はまだダメ!」
あのオッパイボヨンなねーちゃん達も、悪人認定で吹き飛ばしちゃおうよ~…
もうストレス限界なんですけど~!!

「キサマら…何やつだ!?誰かある、曲者じゃ、こ奴等を牢に放り込め!」
すると王様、血相変えて警備を呼んじゃったわ…
お陰で兵士さん達に囲まれる私達。
「さぁ…無駄な抵抗はやめて、大人しく来てもらおうか!」
一番偉そうな兵士さんが、申し訳なさそうに私達を押さえ込もうとする…
私でも分かる…本意では無い様だ…
でも、捕まる訳にはいかぬと、アルル様達は剣に手をかける…が、それをお父様が手で制す。

お父様に止められれば、渋々ながらも従わざるを得ないのが、このパーティーの暗黙の了解です。
みんな黙って地下牢へ…
大部屋に纏めて閉じこめられ、兵士さん達はゾロゾロと持ち場へと戻って行っちゃった。
すると怒りを爆発させるのが、このパーティーの立前リーダー…
「リュカさん!何でさっきは止めたんですか!?」
私でも憶えている門番とのやり取りを忘れ、邪魔する奴等はぶっ殺せ的な勢いでお父様に怒鳴り散らす。

正直分からないでもない。
フィービー達の現状を見たら、どうしようもない憤りを感じてしまう…
私だって城ごとイオナズンで吹っ飛ばしたい気持ちなのだ。
「まぁ落ち着いて…悪の元凶は、あの国王に化けたモンスターだ!他の兵士等は人間だよ…フィービーの話では、国王に気に入られている者が特務警備隊になれるんだ。城で警備をしている連中は、殆どが奴等ではないだろう…こんな所で燻っていても、何の徳にもならないからね。きっと今頃は、城下の何処かで悪逆非道な行いに熱中しているはずさ!」

「…それは分かりました!でも、掴まっちゃったら意味ないじゃない!この後どうするのよ!」
ヒスったアルル様は厄介だ…
最後の鍵を持っている事さえ忘れている。
苛ついている私ですら、ちゃんと憶えているのに…
ともかく憂さ晴らしをしたいらしく、お父様に大声で当たり散らしている。
お父様に抱かれている私は、アルル様の強烈な大声に晒され、正直勘弁して欲しい気分ですわ。
お父様も説明すれば良いのに、適当にあしらうから余計怒りを増大させる。



「うっへっへっへっへっ………本当だ、良い女が居るじゃねぇか!」
暫くアルル様がお父様に突っかかっていると、入口から悪人面の兵士が一人、下品を絵に描いた様に近付いてくる。
「ん!?何だアンタ?牢屋の番兵には見えないが…」
気付いたお父様が、幸いとばかりにアルル様を手で制し、下品兵士へと視線を向ける。
「へへへへ…さっきまで居た下っ端番兵はもう居ねぇよ…特務警備隊の俺様が、今此処の番兵だ!そして明日には、お前等を拷問する拷問官にもなるし、懲罰を与える執行官でもある!」
キター!!!
待ってましたよ、悪者さん!
堪りに堪った鬱憤を、全て吐き出させてもらいますよぉ!

「拷問かぁ…やだなぁ…ねぇ、見逃してよ!」
あぁ…
何で我が父は、こんなに緊張感が無いのだろうか…?
ここは大暴れして、そのまま済し崩し的に偽者王をぶっ殺しちゃう流れでしょうに!
「馬鹿な事言ってんじゃねぇ!お前等の様なテロリストを野放しにするわけにはいかねぇんだよ!………と、言いたい所だが…その娘はお前の娘か?」

おや?
何だかとっても嫌な感じの視線で見つめる悪人兵士…
私を抱くお父様の手にも、一瞬だけ力が入った様子でした。
「…あぁ、僕の娘だ」
「へっへっへっ…俺様好みの良い女じゃねぇか…そいつを差し出せば、お前だけを逃がしてやっても良いぜ!」
世の中には意外とロリコンが大勢居るらしい…
美少女はこう言う時に辛いわねぇ…

「マリーを差し出す………!?」
!?
ビ、ビックリするくらい冷たい響きので発するお父様の声…
普段怒らない人程、怒った時が恐ろしいとは良く言われるが、まさにお父様がそうなのかもしれない…
声だけでなく、体全体から怒りを滲ませて私を抱き続けるお父様。
私に向けられた怒りでは無いのに、正直ちびりそうですわ!
「あぁそうだ!娘を差し出し、目の前で俺様に犯されるのを見学していけば、お前だけを逃がしてやるよ!」
ちょっとバカ男!
これ以上お父様を怒らせないでよ!!

「…俺が娘を差し出し、犯されるのを見学する……………良いだろう、ほら俺の娘を犯すが良い…約束…守れよ!」
ギャー!
絶対お父様は私の事を差し出さないのは分かっているけど、それでも泣きたくなる様なこの状況は何なんでしょうか!?
馬鹿な提案をしてきた、この愚か者を早く殺したいのは私だけでしょうか?

「な!?リュカさ…ふが!」
後ろでウルフちゃんが抗議の声を上げようとしている…
こんな状況だが、それが嬉しく感じる乙女な私♡
もてる女は辛いぜ!
って、馬鹿な事を考えている間に、悪たれ兵士は牢の中に入り私に近付いてきた!
も、もう十分に引き付けたのだから、早くぶっ殺しちゃってよぉぉぉぉぉ……………



 

 

世の中そんなに甘くない

イヤ~ン!!
超美少女魔道士マリーちゃんがピンチですぅ~!!
顔と頭と手癖と根性と性格と遺伝子と存在自体が最悪な男に、グッチャグチャのメッチャメチャにエッチィ事されてしまいますぅ~!!
だ~れ~か~、た~す~け~て~!!!………ってな事には勿論ならず、ヨダレ垂らして近付いてきたロリクズ野郎は、『あっ!』っちゅー間にやられちゃいました。

お父様は一瞬で私を左脇に抱えると、空いた右手をロリクズ野郎の鳩尾に押し当て、そのままの勢いで壁に押し付けちゃったのですよ!
「うげぇ!て、てめぇ…何しやが…ぐはぁ!」
尚も状況が分かっていないロリクズ野郎は、お父様に向けて文句タラタラ…
だからお父様も、ちょっとだけ力を入れてグイグイっと壁に押し付けちゃうの!
そしたら『ぐはぁ!』って感じで吐血フィーバー!
汚くて嫌なので、私はウルフちゃんの方へ避難します。

「黙れ!貴様の様な男に、俺の大事な娘を差し出すわけが無いだろうが!貴様の腐った目玉で、娘を見られるのさえおぞましいのに、汚い手が娘に触れる事など許せるか!!」
きゃー!
惚れてまうやろがー!
お父様、かっちょいいッスわぁ………
普段アレでも、いざとなったらキメられる男ってポイント高いよね。

しかしロリクズ野郎はまだ諦めず、慌てて腰の剣に手を伸ばすけども………そんな事をお父様が許すはずもなく、剣へ伸ばした腕を捕まれ、今度は床に顔から押し付けられ、腕を捻り上げられる。
ちょ~痛そー!!
私はニヤニヤが止まりませんです。
出来る事なら私自身がヤツの腕を捻りたいです!

「ぐぁ…き、貴様等…こんな事をして、ただで済むと思っているのか!」
「くっくっくっ………こんな事しなくても、ただでは済まないんだ…お前がさっき言ったんだ。明日には拷問されて、処刑されると…だったらお前に何をしても、これ以上酷い状況にはならないだろ!?従って数々の鬱憤を晴らす為に、お前を痛めつけてやる!覚悟しておけ…お前が今までにしてきた事が、全部お前に返って来るんだから!」
全くその通りだ。
ヤツの言い分を尊重すれば、今此処で何をしようとも明日には拷問が待っているのだから、これ以上酷い事になりようがないのだ!
とは言え…ちょっとばかりお父様が怖いですぅ…
この国の状況がストレスになっているのか、それとも私をイヤラシイ目で見た男に怒りを感じているのか…
後者だと嬉しいけど…

「ま、待ってくれ!お、俺が悪かった…だから…」
このロリクズ野郎にも、お父様の怒りが伝わったらしく、命乞いを始めた。
「み、見逃す…お前等全員見逃す!だから助けてくれよ…な!?頼むよ!」
「見逃す……?馬鹿か、お前は!?お前一人が、僕達を見逃してどうなる?明日には、お前の仲間が大挙して僕達を捜すだろう!それに、この城からすら逃げ出せるか分からんし…だから決定なんだよ!お前の事を痛めつけるのは!くっくっくっくっ………」

おや?
どうやらお父様はもう怒って無い様だ。
自分の事を『僕』って言ってる。
つー事は、このロリクズ野郎を脅す芝居に入ったってことね。
うん。娘がファザコンばかりなのも頷ける。

「だ、だったら良い事を知っている!この牢の奥に、緊急用の脱出用隠し通路があるんだ!俺も現物を確認した事は無いんだけど、間違いなく存在するんだよ!」
「いい加減諦めろ!そんな戯れ言を真に受けるわけ無いだろ!どうせ行った先には、お前の仲間が待機しているんだろ!くっくっくっ…そろそろ時間だぞ…存分に楽しむんだな!」

薄暗い牢屋に、お父様の陰湿な笑い声が木霊する…
コレってばお芝居よね!?
そろそろ私もフォローした方が良いかしら?
「お父様、私その人が本当の事を言っていると思います。きっとこの奥に隠し通路がありますわ!」
実際、あるしね!

「リュカ…私も其奴の言っている事は、本当だと思うわよ。それにもし嘘ならば、その時に其奴を殺せば良いのよ!焦る事は無いわ」
「そうですよ父さん。仮に隠し通路を抜けた先に、コイツの仲間が待機してたとしても、その時はコイツを盾にして戦えば良いんです!コイツは仲間に切り刻まれながら死ぬんです!」
お!珍しくお兄様までもが残酷な事を言ってのける…
「う~ん…そうだな!逃げられるチャンスがあるのかもしれないな!」


私達はこのゲスの言う事を信じたフリをして、牢屋の奥へと進んで行く。
その間もお父様は、このゲスの腕を捻り続けているわ♥
大分奥へと進んだ所で、2カ所の牢屋から人の気配を感じた。
中を覗くと、見るも無惨な状態の男女が………

「アルル…最後の鍵で…」
お父様が、怒りの篭もった声でアルル様に指示を出す。
男性の方は、長時間に渡り拷問されたらしく、体中から血を流している…
私にはとてもじゃないが見ている事が出来ない…
更に女性の方はあからさまにレイプされており、自身の血と白く濁った液体が体中に付着している…
私は今すぐにでも、このゲス野郎を殺してやりたい気持ちに襲われる。
しかし、今はともかく2人の治療が先決!
ウルフちゃんとハツキさんが、優しく2人にベホイミをかけている。
男性の方は、数カ所骨折している様なので、慎重に骨のズレを修正して回復させている。

ある程度回復した所で、2人の話を聞いてみた…
すると、2人は夫婦の様で、男性の方などは城に勤める兵士だったそうだ。
「何故、兵士の貴方が投獄されたのです?」
お兄様の疑問は尤もだけど、そんな事分かり切っている…
このゲス野郎のお友達共が、身勝手な理由でお2人を貶めたに違いない!

「それがよく分からないんです…町の者から聞いた『ラーの鏡』の情報を王様に伝えた所、急に激怒してテロリストにされました…妻まで捕らえて…」
おっと!どうやら私の読みは違った様だ。
重要情報を持っていたから、あのバケモノ王に投獄させられたみたい。

「ラーの鏡…それは何処にあるのか分かりますか?」
「えぇ…サマンオサから南東にある洞窟の奥に…」
『ラーの鏡』と言う単語に、お父様が笑顔になった。
「よし…それがあれば、あの王様がモンスターであると証明出来るぞ!ティミー、アルル…これで無実の人を傷つけずに、この国を救う事が出来るはず…ともかく、此処を脱出してラーの鏡を入手しよう!」

あれ…?
何だろうか…?
お父様が大丈夫って言うと、何だかとっても安心出来る!
まだラーの鏡を手に入れたワケじゃ無いのに…
ボストロールを倒せるワケでも無いのに…
お父様の言葉には安心感が篭もっている…
不思議だ?



 

 

痛いのは一瞬、辛いのは一生

隠し通路は確かにあった!
尤も、私は最初から知っていたけどね。
更に言えば、この先の牢屋には本物の王様が幽閉されているはず…
薄暗い通路に目を凝らして見ると…ほ~ら、牢屋が2つありますわよ!

先頭を歩くお父様(正確には、先頭を歩いているのはあのゲス野郎)が振り向き、みんなに目で合図をする。
アルル様が慌てて最後の鍵で牢屋を開け、中を確認すると…
「へ、陛下!?」
さっき助けた元兵士さんが、目の前の死に損ないを見て『陛下』と叫ぶ。
「陛下って…この国の?」
気持ちは分かる…
さっき程見た贅肉デブと、この骨皮筋エモンとでは似ても似つかない!
Before→Afterにも限度がある!

「やっぱり玉座に居るのは偽者か…だからラーの鏡の事を聞いて、恐れたんだな!ラーの鏡で正体を暴かれたくないから…」
よし!よくぞ言いました!
正体暴いてイオナズン♪何でもかんでもイオナズン♪
オラ、ワクワクしてきたゾ!
「ではではお父様!ラーの鏡を使って、アイツの化けの皮を剥がしちゃいましょう!そうしたら『イオナズン』でぶっ飛ばしちゃっても良いですか?」
「………あの偽者だけだよ…ぶっ飛ばしても良いのは」
「は~い!」
ちぇ~っ!ものっそい物足りないけど、言う事を聞きましょうか!

「…カンダタ済まないが、このオッサンを担いでくれ。とても自力で歩けそうにないからな!」
あれ?聞いてた?
その人、この国の国王様なのよ!
何で『オッサン』呼ばわりするの?
つか、良く考えたら…このオッサンも国王だったわね…
その死に損ない以上に、そうは見えないけども…


さて…
本物王を救出し、通路を奥へと進んで行くと…
何時の間にやら袋小路!
でもでもちゃんと出口はあって、天井に向けて階段が設置されている設計なのです。
薄暗いのでとっても見にくい不親切設計!

お父様が階段を登り、とっても重そうな鉄扉を力任せに押し開ける。
因みに、あのゲス野郎越しなので、さびた扉が軋む音と同時に骨の砕ける音が響いてる。
ついでに悲鳴もね♥
「ぎゃー!!いでででででで!!!!!痛ってば!!」

お父様はそんな悲鳴を一切気にせず、天井に水平に取り付けられた鉄扉を開けきった。
ゲス野郎の両腕と両肩は、見るも無惨に複雑骨折。
今日はお父様の素敵さに、ヌレヌレですわ!

「シュールだな…牢獄を抜けると其処は墓地!」
お父様は外へ出て呻くゲス野郎を捨てると、辺りを見回し呟いた。
「いて~よ~………」

「まさか墓地に続いているとは…」
誰もゲス野郎を心配する人は居ない…
良心的なアルル様ですら、シカトこいてるこの状況。
「くそー…いて~…」
それでも尚、このゲスの呻きは止まらず苛つきが募る我々。

「うるせぇ!今治してやるから黙ってろ!」
え!?
治しちゃうの?
「ベホマ」
お父様はゲス野郎のグニャグニャな腕を、あり得ない方向に曲げながらベホマで治療した。

つまり…この男の両腕は、一生使い物にならないのだ!
もし使える様に治そうとするのなら、今回くっついてしまった骨を、寸分違わずに同じ所を骨折させて、正しい位置に治してから治療しなければ両腕・両肩とも動かない…今の状態だと、神経や筋組織が連動しないからだ。

「ひでぇ………」
カンダタの呟きが聞こえてくる…
ヌルい事言いやがって!
このゲスは、フィービー達にもっと酷い事をしてきたんだ!
因果応報!

「酷くない!この男はマリーを犯そうとしたんだ!殺してやりたいけど、勘弁してやったんだ!命ある事を喜べ!」
はぅぅぅ………
お父様ってば、格好良すぎですぅ………
今、お父様にエッチさせろって言われたら、喜んで股を開いちゃうわね。
ゴメンねウルフちゃん…貴方の事も愛してますわよ。

「リュカさん、そいつどうするの?出来れば、フィービー達の元には連れて行きたくないんだけど…」
おや?
マイダーリンが、怖い顔してこのゲスを睨んでるわ…
もしかして、私に手を出そうとしたので、怒っちゃってますか?

「…ウルフはどうしたい?」
「…俺は……俺はコイツをこ「ウルフ様!」
私は嬉しくなってウルフちゃんに抱き付いた!
同時に、これ以上怖い顔をしてほしくなかったので、『私は貴方の虜です』って、オッパイを押し当ててアピールしちゃった♡
「ウルフ様にはそんな怖い顔は似合いませんわ!私は優しい顔のウルフ様が大好きですぅ!この(クズ)は、こんな腕では碌な人生を送れませんわ…だから放っておきましょうよ、ねっ!?」
私はウルフちゃんの瞳を見つめながら、可愛らしく小首を傾げて見せた。
「………う、うん…分かった…マリーがそう言うなら…」
うん。素直で良い子ね!

「と言うわけで、コイツは此処に捨てて行きましょう!………でも、フィービーさん達の秘密の隠れ家まで付けられたら厄介ですから……お・と・う・さ・ま♥」
私は可愛く笑顔でお父様にサムズアップしてお強請りする…そして笑顔を消すと同時に、親指を下へと向けて素敵な合図!

以心伝心とはこの事だ!
完璧に連動した私とお父様…
お父様は合図と同時に、ドラゴンの杖を勢い良く振り下ろし、蹲るゲス野郎の両足の骨をコナゴナに粉砕する!
(ゴキャ!)
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!」
静かな墓地に響き渡る汚い悲鳴。
ちょっとちょっと…
安眠妨害ですわよ!
此処には永い眠りについてらっしゃる方が、大勢居られるのですからね(笑)

等と、お馬鹿な事を考えていたら、マイダーリンがゲス野郎に近付き、折れた両足にベホイミを唱えましたわ。
私の愛しい彼は、心優しいのね!って思ったら…折れたままの状態での治療!
あ~ぁ…コイツ二度と歩けないわ!
まぁいっか!
そんな事より、一旦フィービーの元へ戻りましょう。
死にそうなオッサンの手当もしなければならないし…
一応王様だからねぇ…



 

 

私も戦力です!

私は今、サマンオサ南の洞窟を歩いている。
お父様を先頭に、お母様・ウルフちゃん・私・アルル様・そして殿をお兄様が努めるている。
ハツキさんとカンダタ・モニカはどうしたかと言うと…
不良兵士共が屯する町に、フィービー達だけを置いてくる訳にもいかない状況にしてしまった為、拠点防衛用にサマンオサへ置いてきたのである!
因みに私も置いてきぼりを喰らうところだったのだが、我が儘全快でついて来ちゃったのだ♥


「いやですー!私も一緒に洞窟へ行きますー!お父様達と一緒が良いですー!!」
「我が儘を言うんじゃありません!洞窟内は危険なのだから、此処で大人しく待っていなさい!」
「お父様!私だって、この国の事を憂いでる一人です!私だってフィービーさん達の為に、何かをお手伝いしたいと思ってます!こんな時の為に、魔法を手加減できるように頑張ったんです!私も…私も一緒に連れて行って下さい!」
………っと、こんな感じでお父様と小一時間の問答…
でもでも、普段は親馬鹿で私の願いを何でもきいてくれるお父様なのに、今回に限っては全然首を縦には振らない頑固者!

流石に見飽きてきたチーム留守番の3人 (カンダタ・モニカ・ハツキさん)が私の援護に回ってくれる。
最初から期待してない面子の援護…やっぱり効果はまるでなく、お父様の答えはダメダメの一点張り!
ついにはパーティーリーダーの登場で、オマケに付いてきたのはお兄様!
でもでも、効果はまったく無し!
ちっ…相変わらず役に立たねぇ…なんて事は微塵も思っておりません事ですわよ。オホホホホ…

しかしお兄様の機転で、お母様を味方に引き込むウルトラC!
お母様のエロエロパワーでお父様悩殺!…と思いきや、それでもOKしない意固地な男!
愛娘を危険に晒させないという心遣いは嬉しく感じますが、私一人は楽に守れる甲斐性は欲しいです!
更なる問答に1時間以上を費やしたところで、マイダーリンより格好いい一言が!
「リュカさん!マリーは俺が守る!だから一緒に連れて行って下さい!」

か、格好いい…
惚れたわよ…惚れてたけど、更に惚れたわよ…
だがしかし、この格好いい台詞を物ともしない男がココに…
(ゴツン!)
お父様の拳骨が、マイダーリンの後頭部にヒット!

「痛っ「ふざけんな!お前みたいなヒョロ男が、簡単に娘を守るなどと言うな!」
痛がるウルフちゃんの言葉すら遮り、お父様の怒号が辺りに響き渡る。
「でかい口は実力を伴ってから叩け!お前は魔法が使えなければ、何も出来ないじゃないか!剣術だって始めたばかり…そんな男が、危険極まりない洞窟内で、僕の大事な娘を守りきれるのか!?『頑張ったけどダメでした』じゃ、済まないんだぞ!」

うっ…
どうしよう…私ってば愛されている。
転生者として生まれた私は、お父様の娘のフリをしているただの女…
知らぬ事とはいえ、こんなにも愛されている事に感動してしまう。

いやいや…感動してばかりもいられない…
あのダンジョンには宝箱が豊富なのだ!
奥の方の宝箱さえ開けなければ、ミミックも出てこないハズだし、DQ知識の豊富な私が行かなければアイテムが無駄になる!

とは言え、お父様の正論攻撃は絶大で、まだまだ頼り無いウルフちゃんには反撃できないだろう………と思ったのだが、
「守る!…たとえリュカさんが敵だとしても、マリーは俺が守るんだ!」
と、勇まし格好いい台詞を叫ぶマイダーリン♡
「……………」
ついにはお父様も反論できず、渋々だったが同行を承認する事に。

そんなこんなで今こうなった!


珍しく歌わずに洞窟内を進むお父様。
どうやら本当に真面目な様子。
しかも現れる敵はほぼ瞬殺で…私は勿論、お兄様ですら活躍の場面が訪れない。
あの長時間の問答は何だったのか…こんだけ強いんだから、二つ返事で連れてきたって良いじゃない!
サマンオサに残れば、あの不良兵士共に見つかる可能性だってあるのだから、お父様と共に居た方が安全じゃん!
そんな事を考えていると、お父様がポツリと呟いた。
「僕は万能じゃ無いんだ…必ずみんなを守れるとは限らない…」
まるで私の心を読んだのかと思う呟き…
べ、別に私に対して言ったワケじゃないよね!?


暫く洞窟内を奥へ進むと…出ました!
私達を導く様に点在する宝箱…
調子こいて全部開けなければ危険は無いのです!
「まぁ!とれじゃー発見!!」
その事をよく分かっている私は、有無を言わさぬ早さで宝箱に近付き、勢い良く蓋を開ける。
「320ゴールド発見ですわ!」
幸先好調!小遣いゲット!
私は見つけたお金をアルル様には渡さずに、自分の懐へしまい込む!

「マリー!!勝手に宝箱を開けてはいけません!こんなあからさまに置いてある宝箱は、罠以外の何物でもありません!」
しかし、娘ラブなお父様には些か不評で、私を抱き上げ叱り付ける。
「で、でも…宝箱を見つけて、それを無視するのは、宝箱さんに失礼なのでは?」
我ながらふざけた言い訳だ…

「何を意味の分からない事を……ともかくダメな物はダメ!無理矢理付いてきたのだから、お父さんの言う事を聞きなさい!…ウルフ!しっかりマリーを見張っておけ!お前なら分かるだろ…ピラミッドで酷い目に遭った、お前ならば…」
そう言って私の身をマイダーリンへ託すと、お父様はまた先頭に立ち進み始める。
ウルフちゃんも私の右手をしっかり握り、宝箱へ近付かせない様に護衛してくれる。………邪魔ねぇ…


しょうがないので宝箱を見ない様に進む私…
すると少し脇道に逸れた場所に、直径60センチ程の穴が。
確かあの穴に飛び込むと、ラーの鏡が手に入るのよね…
素知らぬ顔で近付いて、ついうっかり的に落っこちれば、皆様を誘導できるのですが、今の私は囚われ姫。
ウルフちゃんが手を離してくれず、自由に動く事が出来ません。
適当な理由を付けて皆様を導きたくても、何にも浮かばない今日この頃…
あぁん!!もどかしいわぁ………



 

 

誘惑という果実は流血を好む

 
前書き
別視点も、二次ファンでは掲載していない範囲へと突入です。 

 
私は正解ルートを伝えられぬまま、宝箱の誘惑に耐え洞窟を奥へと進んで行く。
そして目的のラーの鏡が置いてある地下3階にやって来た…
青く美しい地底湖が大きく蔓延るフロア…あの地底湖に缶ビールを2.30分浸しておけば、最高に美味い状態になるだろうと思える水の冷たさ。
間違っても、ここで水泳教室は開いてほしくないですね!


「あれ、ラーの鏡だろ…どうやって取るの?」
そんな美味ビール製造湖の遙か沖を指差し、お父様が誰かに尋ねました。
持ってる知識をベラベラ喋りたいけども、『何でそんな事知ってんの?』って聞かれちゃったら答えられなくなっちゃうので、上手く皆さんを誘導しなければならないのがめんどいです!

「…確か、以前ラーの鏡を入手した時は…」
私がどうやって伝えるか悩んでいると、お父様が考えながら喋り出す。
「よしティミー!僕が元の世界でラーの鏡を手に入れた時は、ラーの鏡まで見えない床が通っていたんだ!だから、ここもきっとあると思う…さぁ、行け!」
暖かな春の陽気にそよぐ風の様な爽やかさで、お兄様の肩を叩き地底湖の沖の島を指差すお父様…

「イヤですよ!もし床が無かったらどうするんですか!この水温じゃ、15秒で身体が動かなくなりますよ!溺れるじゃないですか!」
「お前勇者だろ!勇気出せよ!」
いや…勇者とか関係ないし…
「こんな時だけ…父さんこそ1度は手に入れた事があるんですから、2度目にトライして下さいよ!」

「ヤダよ…濡れたくないもん!だからお前に押し付けるんだろ!」
言い切った!言い切りましたわよ、この人!
「相変わらず我が儘だなぁ!」
「ありがとう」
何でお礼を言うのよ!
「褒めてませんよ!」

あぁ…何だかほのぼのするやり取りねぇ…
「よし、じゃぁこうしよう!僕がお前を勢い良く島まで投げるから、ラーの鏡を取って来いよ!」
「帰りはどうするんですか!?」
「うん。ラーの鏡を投げろ…絶対キャッチするから!父さんを信じろよ!」
信じる、信じないじゃないし…
「じゃなくて…僕はどうやって戻ればいいのですか!?」
「あ……あぁ……そうね……どうしよっか?……戻りたい?…誰かに投げてもらえば!」
どうやら本気でそこまで考えて無かったみたい…ちょ~うける!
「誰に…僕一人で島まで行くのに、誰に投げてもらえばいいのですか!?」
「……………」
「……………」

ん!?………あらあら、もしかして私の出番かしらぁ?
ふふふ…私が居ないとダメなんだからぁ~♥
「お父様…あの島の天井を見て下さい!…穴が空いてますわ。あそこから下りる事は出来ませんか?」
私が島の上を指差し、穴の存在を指摘する。

「おぉ…本当だぁ…あそこら辺って…確かこの上のフロアに、落とし穴が空いてたよな…あそこから下りれば良いのか!!」
「流石マリーは賢いなぁ!」
寒中水泳や置いてきぼりを回避できたお兄様が、私の事を抱き上げて頬擦りしてきた。
やめろシスコンが!
ウチには愛するダーリンが居るんだっちゃ!
そんな感じで辟易していたら、ウルフちゃんが私の事をお兄様から奪い取ってくれました。
やばい…濡れてきた!


さて…俗に言う『二度手間』です。
何もせぬまま元来た道を戻る…
しかも厄介な事に、モンスターご一行様が前後から襲いかかって来ました。
お父様とお母様が居る前方に『ガイコツ剣士』が団体で…
お兄様とアルル様が控える後方には『キラーアーマー』・『ガメゴン』・『ベホマスライム』が連携して…

ぶっちゃけ敵ではありませんですことよ!
お父様はドラゴンの杖を一降りで、ガイコツ剣士を3体纏めて倒す荒技を…バラバラに砕けたガイコツ剣士がまだ生きてた場合は、お母様がメラでトドメを刺してます。
むしろ問題は後方のお兄様とアルル様です。
一瞬でトドメを刺さないから、ベホマスライムがモンスターを全快させてしまい、何時まで経っても戦闘が終わらないの…
まぁ…中央に居る私とウルフちゃんは平和で良いですけどね。
けどウルフちゃんは剣を抜き、何時でも戦闘できる状態にしてありますわ。
大丈夫なのに…ここ、そんなに強いモンスター居ないから。

さてさて、そろそろ戦闘も終わりそうな頃、私は足下の宝箱に意識を集中させています。
こんな通路の真ん中に、1個だけ宝箱が置いてある状況…
点在する宝箱の後を辿っていくと、ミミック入り宝箱フィーバーになるダンジョンなのがここだと記憶しております。
つーことは、こんな所にポツンと置いてある宝箱は、安全極まりない訳で、折角置いてあるのに開けないのは失礼な気がするので、私が代表して開けるべきなのかもしれない訳で……………

うん。開けよう!
「ぬいぐるみ」が入ってたら、ちょっと嬉しいなと思う反面、どうせゴールドなんだろうなと、諦めの入っている私がココに居る。
戦闘開始してからずっと私はこの場に居るのだが、足下の宝箱は独りでに動く気配はまるでない。
ミミックでない事を確信している私は、宝箱を力一杯開け放つ!

すると、鈍い光を放つ牙を携えたミミックが、突如私に襲いかかってきた!
完全に無警戒だった私には、とても避ける事は出来そうになく、事態を理解する事も叫び助けを呼ぶ事も出来ずミミックの餌食になろうとしている…
「マリー!!」
(ザシュ!)
私の体に衝撃が走り、私の顔に鮮血が吹きかかる…
だが私がミミックの鋭い牙を身に受けたワケではない…
瞬時に気付いたウルフちゃんが、私の事を力任せに突き飛ばし、私の代わりにミミックの牙をその身に受けたのだ。

「きゃー!!ウルフ様ー!!」
私は悲鳴を上げるしか出来なかった…
ミミックはウルフちゃんから離れ、彼の血を全身に浴び、嬉しそうに跳ね回っている…
私の悲鳴に気付いたお父様が、慌てて近寄りミミックを一撃で粉砕する。
そしてお父様はウルフちゃんを抱き上げて、ベホマで傷を治療する。
傷は完全に癒え、命を失う事は回避された…


その間、私は動けないでいた…
全てが一瞬の事で、理解できないでいた…
ただお父様の腕の中で一命を取り留めたウルフちゃんを見て、初めて涙が溢れてきたのだ。
「ごめんなさいウルフ様…私が…」
私はウルフちゃんに近寄り、ただ涙を流す事しか出来なかった。
そんな私にウルフちゃんは、弱々しく震える手で涙を拭って、そして弱々しく微笑むのだ。

(パンッ!)
だけど私はお父様にぶたれた!
生まれて初めてお父様にぶたれた!
「マリー!!お父さんは宝箱を開けるなと注意したんだぞ!」
しかも声を荒げて叱られたのだ…
「お父さんはね、いい加減に見えても冒険者としては経験を積んできてるんだ!そのお父さんが宝箱は危険だと言ったら、お前はそれを信じないと………お前は、この洞窟内で何が危険かを分かっているつもりなのだろうが、それは違うぞ!一番危険なのは慢心する事だ!『自分は賢いから大丈夫』『自分は守られてるから平気』…そう慢心する事こそがダンジョン内では危険なんだ!」
お父様の言葉が私の心に突き刺さる…

私はココがゲームの世界だと勘違いしていたのかもしれない…
確かにゲームが元となった世界ではあるが、今の私にとってはココは現実なのだ…
その事に最近は理解してきたのに…サマンオサの惨状を目の当たりにして、ゲームとは違う事を分かってきていたのに…

私は何一つ学んで無かった!
お父様はその事に気付いていたのかもしれない…
だから私がダンジョンに入る事を、あんなにも頑なに拒み続けたのかもしれない…
私の涙は止まらない。
全てが悲しくて、全てが辛くて…
ただ泣く事しか出来ないでいる。



 

 

人を好きになる事と、愛する事の違い

 
前書き
お久な更新。
皆さん大好き、マリーちゃんです! 

 
「リュ、リュカさん……これは…お、俺の…ミスです…マリー…を…叱らないで…く、下さい…」
ウルフちゃんは大量に出血をした為、喋る事すら大変な事なのに、私を胸に抱き寄せてお父様から庇ってくれる。
そして、そのままの体勢で気を失い、一瞬私の心胆を寒からしめた。

「………ったく………マリー、お前には勿体ないほどの男だな…」
「お、お父様…」
お父様の言葉が胸に突き刺さる…
「マリー…今後、お前が心を成長させなければ、お前等二人を認める事は出来ない…ウルフには、もっと素敵な女性が似合うはず。今のお前の様な娘ではなくな!…ウルフの事が本当に好きなのなら、自分自身を成長させろ…身体ではなく心を!…そんな人生を歩んできたお前には、些か難しい事だと覚悟しろ!」
そう…私にはウルフさんと対等に付き合う資格は無いのだ…
何を見てきても命の尊さに気付かず…ウルフさんを性的欲求の捌け口対象と見ていた私には、(ウルフ)に愛される資格は無いのかもしれない…

その事に気付かされ、私は初めてウルフさんの事を好きに…愛してしまっている事に気付いたのだ。
でも今のままの私では、愛される資格は無い。
私は変わらなければいけないのだ…心を成長させねばならないのだ。
だから…ウルフさんが目を覚ましたら、私の愛の気持ちを伝えよう。
心から愛してしまった、私の気持ちを伝えよう。
今回の件の、感謝の言葉も謝罪の言葉も、先ずは愛しさを告げてからだ!


気を失ったウルフさんをお兄様が抱き抱え、直ぐ近くの袋小路へと移動する私達。
そこにあった2つの宝箱を、お父様が瞬時に破壊して(2つともミミックだった)安全を確保する。
毛布などを敷き、そこにウルフさんを寝かせるとお父様は徐に告げる。
「みんなはここで待機しててよ…まだウルフは動く事が出来なさそうだし…安静にさせないとね。ラーの鏡は僕が取ってくる…その方が身動き取りやすいし」
そう言うとさっさと踵を返し、洞窟内へと姿を消した。

万が一敵が侵入してきた時の為、お兄様とアルル様が入口付近で待機する。
お母様は、ウルフさんとお兄様達の間で携行食の準備をしながらウルフさんの看病をしている。
私は…私はただウルフさんの手を握り、ウルフさんの顔を見つめ、早く回復する事を願うしか出来ない…
不安と、申し訳なさと、悲しみと、そして愛しさで側から離れる事が出来ないのだ。
何も出来ない…何もしてあげられないのに、怖くて側を離れる事が出来ないでいる!


暫くするとウルフさんが目を覚ました…
血の気のない真っ青な顔色で…
ホイミ系は万能ではない。
傷を癒す事しかできないホイミ系は、失った血液の補充をしてはくれない。
傷口を塞ぎ、それ以上の出血を防いでも、失った血は戻らないのだ。
ゲームではHPが1になっても、ベホマを唱えれば完全回復をするのに、現実だと死の危機からは脱する訳ではないのだ。

そんな死の淵を漂っているウルフさんに抱き付き、私は力の限り叫んでいた。
「私は…私はウルフさんを愛してます!だから…だから私を残して死なないでください!私の所為でごめんなさい!ウルフさんを危険に晒すつもりは無かったんです…こんな私の事を助けてくれてありがとうございます!私はウルフさんに対して、これからの人生を捧げ、今回の謝罪と感謝をしていきたいと思ってます。だから私を残して死なないでください!大好きなんです…愛してしまったんです!」
お父様に怒られても、お兄様に嫌われても…私は彼にだけは好かれたい!愛されたい!!その一心で叫び続けた!
でも…
「そんな謝罪も、そんな感謝も…今の君からは受け取れない…」
弱々しく静かな口調なのに、彼の声は頭に響き渡った。

やはり私は嫌われてしまったのだ…
そう思い絶望しかけた時…
「そんな『ウルフさん』とか『ウルフ様』とか…他人行儀に呼ばれる間柄の女性を助ける為、俺は自らの命を晒したのではない!恋人同士なら、敬称は不要でしょ?…ね、マリー!」
ズキュンときた!
間違いなく(ウルフ)は、(リュカ)の一番弟子だ!
だってもう…言葉に出来ない程、好きで好きで…愛おしくなってしまってるんだもの!

私は瞳を潤ませ何も言えず、ただウルフの顔を見つめている。
するとお母様が食べやすく一口サイズにしてくれた携行パンと、在り合わせの食材で作ったスープを私に手渡してくれる。
私はウルフの体を支える様に寄り添い、食事を手伝った。
そして私は小声で呟く…
「ウルフ…大好き…」




この袋小路に陣取り、お父様を見送ってから10時間程が経過した頃…
「ただいまぁ…あー、疲れたぁ!」
まるで遠距離通勤をしているサラリーマンのオッサンの様に、私のお父様は戻ってきた。
「お帰りなさいアナタ。食事にします?お風呂にします?それともワ・タ・シ!?」
すると示し合わせた様に、お母様もノッてきちゃいました!
横になっているウルフが苦しそうに大爆笑…も~、重体なんだから苦しめないでよ~!
きっとこのネタをお母様に仕込んだのはお父様ね!
だってこんなコントみたいなネタ、お母様が思い付くとは思えないもの!

「お!笑えるぐらいまでは回復したか!」
「はい、お陰様で……でも、もう勘弁して下さい。笑うと苦しいので…」
まったくよ…ウルフを苦しめるのは止めてよね!
「そうか…じゃぁ、後1日は此処で待機だな。ほれ、食べ物を買ってきたから…」
え、買ってきた!?
お父様は懐からレバーやほうれん草などの血になりやすい食料を取り出しお母様に託す。

「どうしたんです、これ?」
「え?だから買って来たんだって!」
うん。お兄様の疑問は当然です…だって、わざわざ一旦洞窟から出て買い物をして戻ってくるって…
でもお父様は、さも当たり前の様に答えて気にした様子は無い…
お母様も感覚が麻痺しているのか、気にすることなく託された食材を手早く調理し、ウルフに食べさせる為、私に手渡してきた。

そして、みんな揃って食事の時間に…
一家団欒な雰囲気で、食べる食事はやっぱり美味しい。
こんな状況だし大した料理では無いのに、それでも楽しく食べるご飯は美味しいのです。
私やっと気付きました…
お父様は楽しい雰囲気を作る名人なのですね。
私もこんな家庭を築きたいですぅ!



 
 

 
後書き
頑張ってマリーちゃんの方も完結させま~す。
…先は長いね。 

 

やらかした代償

サマンオサよ、私は戻ってきた!!
なんつってね。
アナベルの真似を心の中でやりつつ、私達はサマンオサ城の正門に辿り着いた。

ソコには某連邦が観艦式を行うみたいに、大勢の特務警備隊の面々が集まっており、牢屋から逃げ出した私達をお出迎えしようと股間を膨らませている。
「へっへっへっ………すげー良い女が居るじゃねぇか!」
内1人が、お母様を舐める様に眺め耳障りな言葉を発する。

「俺はあっちのお嬢ちゃんを頂くぜぇ!」
私に対しても同じ様な事を言ってくる厄介さんが存在!
あ゙~…ぶっ殺してー!

「いくぜぇ!」
アホ共の1人が勢い良く掛け声を上げ襲いかかってきた。
私もそれに合わせてイオナズンを唱えようと手を翳す………が、

「バギクロス」
お父様が唱えたバギクロスにより、特務警備隊全員が吹き飛ばされ、お城を囲むお堀の中にポチャリと着水。
殺傷力こそなくしてあったが、全員骨の2.3本は折れちゃっているに違いないでしょう。
『ざまぁ!』と言いたいところですが、私がぶっ飛ばしたかった!
もうサマンオサでは、ストレスが溜まりっぱなしです。







「お待たせ偽者!ムカつくお前をぶっ飛ばしに参上!」
さてさて…
私のストレス知ってか知らぬか、明るい口調で偽王の居る部屋へと雪崩れ込むお父様。
「ぬぅ…またキサマらか!誰か!こ奴等を…」
またも仕事熱心な警備兵を呼び寄せる偽者…
しかし今度は捕まる訳にはいかないので、お父様も素早くラーの鏡で偽者の正体を暴き出す。

「きゃー!!」
私の位置からは見えないのだが、どうやら鏡には『ボストロール』の姿が映ったのだろう…
オッパイボヨンなねーちゃんが、ラーの鏡を見て悲鳴を上げる。

直後、贅肉ブヨンな偽王が、もっとブヨンな醜いモンスターへ変わっていく。
「ぐぬぬぬぬ…おのれ…ワシの計画をぶち壊しおって!」
そして偽王に抱き付いていたハーレム女達は、血相を変えてボストロールから離れ逃げて行く…オッパイをボヨンボヨン揺らしながら。
皆さん美人で、殿方からすると絶景な気もするんですが、オッパイボヨン大好きっ子のお父様は見向きもしていない…

「キサマら…ぶち殺してく(ドガッ!)ぐはぁ!!」
それどころか、悪者らしく悪態を吐こうとしているボストロールの台詞を遮り、一足飛びで奴の顔面へ強烈な拳をめり込ませるお父様!
この人本当にお父様か?もしかして偽者…?

「舐めた事ぬかすな!」
お父様は倒れたボストロールの上でマウントポジションを取り、怒濤のパンチラッシュ!
ズルイですぅ!
私も堪りに堪ったストレスを、その不細工にぶつけたいのにぃ!!

「貴様の様なやり方が一番ムカつくんだ!自らが立ちはだかるのではなく、人々の悪しき心に揺さぶりを掛け、人同士で不幸を与え合う……あ゛~、胸糞悪い!」
「そうですわお父様!私もお手伝い致しますぅ!」
うん!まったくお父様の言う通りですわ!
その所為で私はサマンオサで、酷い目に遭いっぱなしなのです!
責任取れコノヤロー!
「イオナズン!!!!」



私はやっとストレス地獄から解放されました…
魔法を唱え終え、大きく息を吐き、晴れやかな気持ちで辺りを見渡す…

目の前には美しい青空が…
おや?
城内に居たはずなのに、青空って………?
音を立てて崩れる瓦礫…
も、もしかして…私のイオナズンでお城吹き飛ばしちゃった?

「や…やりすぎだよ、マリー…」
まだ血が足りないウルフが、更に顔を青くして私の行為にツッコミを入れる…
「ちょ…リュカは!?…もしかしてリュカまで吹き飛ばしたんじゃ無いでしょうね!」
え!?
う、嘘!?
ヤバイ…マジでヤバ過ぎるわよ!!
違うの…お父様を殺すつもりは…いやマジで!
ど、どうしよう…

「ぼ、僕は此処…」
お、お父様の声が!
僅かに残る瓦礫の中から、埃まみれのお父様が顔を出す。

よ、良かった~…
私は本心から胸を撫で下ろした。
そしてお父様とお母様に、こっぴどく叱られる事も覚悟した!
当然だ…1度は海でエコナさんを遭難させ…そして今度はお父様の命を吹き飛ばしかけ…
学ばない事夥しい…

「ちっ!」
しかし、お兄様が残念そうに舌打ちをする。
「…今お前『ちっ』つったろ!」
勿論それに反応するお父様。
「…いえ…『ホッ』の間違いでしょう。大切なお父さんが無事で、本当に良かったと思ってますから」
ニヤニヤしながら答えるお兄様。
珍しくボケとツッコミを逆転させる我が父兄。
「まったく……何でこんな息子に育ってしまったのか……?」
お母様やアルル様も大爆笑。
どうやら私はお兄様に救われたようです。
お兄様ありがとう。



 

 

探してまぁ~す!

「英雄リュカとその一行よ…此度の事、誠に感謝する!」
サマンオサの国中に、悪政を行っていたのは偽者モンスターで、その偽者を倒しちゃったと言う事が瞬時に広まった翌日…
通常時であれば、謁見の間としては使用しないであろう兵士達の食堂を、仮の謁見の間としているお城で、本物のサマンオサ王に謝意の言葉を述べられる。

「やめろ!『英雄』とか呼ぶな気色悪い!それに勘違いするなよ…別にお前の為にサマンオサを救ったわけでは無いからな!フィービー達を助けたかったんだ…王族というのは、皆が自分の事を全力で救うと勝手に信じていやがる!」
でも全力で不敬罪を犯すのは私のお父様…
だが、誰も不敬罪と唱える者は居ないし、青筋を立てて怒る家臣も存在しない。
ビックリな事に私のお父様は、この国では神様と並ぶ程の存在へとのし上がっているのだ。

「うむ、リュカ殿…それは重々承知している…だが、この国がリュカ殿のお陰で救われた事実に変わりなかろう?ワシはその事に感謝をしているのだ」
むぅ…ボストロールにトドメを刺したのは私なのに…でも、お城を半分フッ飛ばしちゃったのも私だから、あまり大声で自慢できない…
「う~ん…まぁ分かったけど…でも僕に感謝するよりも、虐げられてきた国民の為に、全力を尽くしてほしい!…城を壊しておいて言うのも何だけど…修理する金があるなら、国民に回してよ!」
ぐっ…お城を壊した事は話題にしないでほしい…

「あぁ、勿論そうするつもりじゃ!…とは言え、ワシからリュカ殿に、何かお礼をしたのだが…何かあるかな?」
うんうん…当然よね!
お城を壊したのは不可抗力なのだから…
それに本来の目的は『変化の杖』であって、この国の救済力には関係ないしね。

「えー!?別に無いなぁ…」
無くねぇーよ!
「お父様…」
ダメダメ…
杖がないとイベントが進まなくなる!!
私はお父様のマントを引っ張り、力の限り可愛く縋った。
「何、マリー?…お前、お城壊しといて何かお強請りするつもり?」
うぅ…一緒にフッ飛ばしかけた事を根に持っているのかしら…

「う゛…お、お父様はサマンオサに来た目的をお忘れですの!?」
普段だったら流石に遠慮しちゃいますけど、今回は退く訳にはまいりませんのよ!
「何じゃ?何かあるのなら言うてくれ!…城の事を気にしてるのは、お主等だけだぞ!」
違うわ…私は大して気にしてない!
「は~い!変化の杖をくださいな!」
「あぁ!そう言えば、そんな当初の目的もあったねぇ……この国酷すぎて、キレイに忘れてたよ!」
このヤロウ、忘れてただけかよ!
「い、言い返せんが酷い言われ様じゃのう…」
確かに…

「しかし困ったのぉ…」
「何だ!?『それはダメー!』とか言うのか、この野郎!?」
そうよ。
『ソレはダメー!』とか抜かしたら、ぶっ飛ばすわよ!
「いやいや…そんな事は言わんよ…譲れる物があるのなら、何だって譲りたい気持ちなんじゃから…」
「じゃぁ何だよぉ!」
そうよ、何よ!
「うむ…変化の杖はな…ワシの偽者が携帯しておったのだ…」
「………え?」
えっと………つまり?
「つまりな…城と一緒に吹っ飛んだと言う事じゃよ!………まぁマジックアイテムじゃし、壊れてはおらんと思うが…何処に吹っ飛んだのやら………?」
お父様以下、皆さんの視線が私に集中する…







晴れ渡る青空の下、お父様の美しい歌声が響き渡る。
曲目は『夢の中へ』…
“捜し物は何?”的な歌詞が特徴の歌だ。

はい。捜し物は『変化の杖』…
“見つけにくい物?”と聞かれれば…
はい。私の所為で見つけにくくなってしまいました!!
はい。“夢の中へ…”というか、現実逃避をしたい気持ちでいっぱいです!

「おい、歌ってねーで旦那も探すの手伝えよ!」
「そうだよ!アンタの娘が元凶だろ!」
カンダタさんとモニカさんが、汗だくになりながら歌っている最年長者にクレームを付ける。

「うぅ…ごめんなさい…私の所為で本当にごめんなさい…」
私は茂みなどを探しながら、マジ泣きで皆さんに謝罪する。
まだフラつくウルフを宿屋に残し、ハツキさんを看病に付けているので、『変化の杖』探しは7人で行っている…その内の2人から、探し始めて3時間でクレーム発生しました。

「ふざけんなコラー!僕の娘を泣かせるんじゃねー!謝れバカップル!」
いえ…謝罪の必要はございません。
お二人は一生懸命に探していただいております。
むしろ歌う事しかしていない貴方にこそ、文句を言っていただいても良いですから、探すのを手伝ってほしいです。

「あ~…見つかんね!もう諦めようよ」
探し始めて3時間で、同じ台詞を7回も言ってくる我が父…
「うぅ……私一人でさがしますぅ~…皆さんは宿屋に戻ってくつろいでいてください…」
こんな針のむしろ状態で捜し物をするくらいなら、何日かかろうとも一人きりで探した方が気分的に楽だ!

「マリー…私達は大丈夫だから、一緒に探しましょ。…ね、リュカも探してくれるでしょう?」
「モチロンサ!ビアンカに言われるまでもなく、可愛い娘の為ならばドンナコトデモ!」
最初の5分くらいだけ、真面目に探していたお父様が、お母様に言われ嘘くさい台詞で探すのを再開する…そして5分くらい経つと、また歌い始めるのだ。


それから直ぐに、お城の兵士(善良なる方々)や、フィービー達(今回お世話になった孤児達)が杖探しに加わってくれ、3日後に発見する事が出来た。
因みに見つけたのは鼻歌交じりのお父様です…



 
 

 
後書き
美味しい所は総取りの男…
ずるいよね。 

 

心からの愛

我が尊敬するお父様は、杖探し(鼻歌交じりで、フィービーや兵士の人とダベってた)をしながら、冒険に役立つ情報を聞き出していた様で、シルバーオーブは『ネクロゴンドの洞窟』を抜けた先の祠に有るというナイスな情報をゲットしてくれました。
そして更にクロゴンドは、高い山々に囲まれた場所にあり、10年ほど前まで唯一通行出来た道も、火山の影響で塞がり人の進入を拒み続ける土地と言う情報…
そして、ネクロゴンド地方へ進入出来る方法…サマンオサの勇者『サイモン』が、その方法を見つけたと言う事…
サイモンは旅の途中、敵の罠に掛かり、無実であるにも拘わらず『祠の牢獄』に投獄されて、命を落としたと言われている事までも聞き出していたのだ!
ありがたい事なのだが、真面目に杖探しを行っていなかった事実にはムカつきます♥



さてさてそんなワケで、私達は一旦ジパングの北にある祠へ戻り、停泊してあった船に乗り込み、ロマリアの東…アッサラームの北の海に浮かぶ『祠の牢獄』に向かって進行中です。
ウルフも3日程安静にしてたので体調も回復しましたし、私のお陰でシルバーオーブへの手懸かりもゲット出来、良い感じになってまいりました!

「ア・ル・ル・さ・ま♥…サマンオサ行きも無駄では無かったでしょう?シルバーオーブの情報を入手出来ましたのですわよ!」
ふっふっふっ…船乗りの骨入手反対派のアルル嬢ちゃんには、今回のお得情報入手が気に入らないかもしれませんねぇ…
さぁ…私に平伏すが良い!

「マリー…アルルを苛めるのは止めなよ…誰だって分からなかったんだから!」
「でもでもウルフ!アルル様は『無駄な事』って言ってたんですわよ!世の中に無駄な事なんて無いんです!『急がば回れ』って諺もあるんですから!」
あぁん!ウルフはどっちの味方なのよ!?

「分かったわよ!サマンオサへ行った事は無駄じゃ無かったわ!サマンオサの人々を救う事も出来たし……でも私が言いたいのは、幽霊船探しが無用だと言ってるの!」
まだ言うか小娘!
「いいえ、無用な事などありませんわ!幽霊船を探索すれば、また新たな情報などが入手出来るに違い有りません!」
「憶測じゃない!」
馬鹿め!私は知っているのだよ!
「断言しますわ!幽霊船を探索した後、私とアルル様は今と同じ様な会話をする事になりますわ!」
しかし『知っている』等とは言えず、無意味に口論だけが続いて行く。
ウルフもお兄様も、「まぁまぁ」とか「落ち着いて」とか言って宥めようとしてますわ。

ここは実は年上である私が一歩引いて、状況を落ち着かせましょうかねぇ…
「分か「アルル落ち着いてよ。今回は偶然良い方向へ進んだのだから、そんなに怒らなくても良いんじゃない?大人として、お子様の我が儘に付き合ってあげようよ!」
なぬ!?
おいチェリー坊主…今なんつったコラ!

「この「はぁ?『大人』だぁ~?……童貞と処女が何大人ぶってんだ!?」
私の文句を遮って、マイダーリンが額に青筋立てて反論してくれました。
「マリーの言う通りに進路を取れば、これまでもこれからも間違うことなくバラモスの下へと近付いていくんだよ!碌に情報収集も出来ない勇者様は、黙ってエキスパートに任せておきな!」
おぉ、すごい!
これは愛のなせる業なのかしら?

私とアルル様の口喧嘩だったのが、何時の間にやら互いの彼氏同士の喧嘩に発展しました。
頑張れーウルフ!
そんな童貞野郎に負けないで!
絶倫パワーを見せてやれー!


さてさて…
気が付けば小一時間程経過し、口論から取っ組み合いに移行しそうになった頃、船倉の方からお父様とお母様が寄り添って現れ、マイダーリン達の側に近付いてきました。

そして…
「止めろ馬鹿ガキ共が!」
と、2人の頭に勢い良く拳骨を落とし、喧嘩の仲裁を始めました。
「「いってぇ~!」」
見た目も痛そうで、思わず目を背けた所、お母様が私を船室へと誘い連れて行く。
はて…一体何用でしょうか?

離婚するので、私の親権をお母様が取得し、連れて逃げようとでもしているのかしら?
う~ん…
ウルフの事も気になるし、後にしてほしいのだけど…無理そうです。


お父様とお母様が使用する船室まで連れてこられ、何やら真面目な表情で私を見つめるお母様…
なんか説教が始まりそう…
年上のアルル様に対して、失礼な物言いをした事にお怒りなのかしら?
それとも彼氏の喧嘩を止めようともしない事へのご立腹かしら?

だがしかし、私の予想は裏切られた。
「リュカから…お父さんから聞いたわ。貴女…転生者なんでしょ!?」
「!?」
突然の事で私は言葉を失った。

お父さんから聞いた!?
つまりお父さんは私が転生者である事に気が付いている!?
そんな馬鹿な!
しかもその事をお母さんに話したという事は、自分も転生者である事を告げたと言うの?
あ、ありえないわ………

「マリー…私もお父さんも、貴女が転生者だからって今までの接し方を変えるつもりはないのよ。貴女の心が以前は別人だったとしても、今の貴女は私達の娘なのだから…」
ど、どうしよう…
お母さんは間違いなく私が転生者である事を理解している。
でも普通あり得なくない?
転生という事を理解するのも、その人物を実の娘と認めるのも…

「お…お母さんは、お父さんが転生者だと知っても何とも思わないんですか?」
「………正直言えば驚いたわよ。ついさっき初めて告白されて驚いたわ…」
「さっきって…今まで騙されてきたと思わないんですか!?」
「騙された?何を言ってるの…リュカが転生者であろうと、元々あの様な人物で在ろうと、結論は同じでしょう?私が愛した男とは、あのリュカなのよ…世界最強のトラブルメーカー、リュカって男なのよ」



 

 

愛するがこその告白

私とお母さんが甲板に戻った時、ウルフとお兄ちゃんはお父さんに正座させられ説教を受けている最中だった。
1時間にも満たない時間だが、お母さんに言われた事柄が頭から離れないでいる。

『お父さんが言っていたわ…“双方が同意の上で、互いに身体だけの関係を続ける事に反対はしない…でもウルフは間違いなくマリーを心から愛してる!マリーの事を身を犠牲にしてまで守った、ウルフの気持ちを裏切るようなことは絶対に許さない!”この意味が分かる?貴女の考え方一つで、彼の人生までも変わるのよ!』
『前世で貴女がどんな人生を送ってきたかは分からない…でも、今この時代を生きるのであれば、先人たる私達大人の云うことを聞きなさい』
『お父さんはね…幼い頃から想像を絶する苦労をしてきたのよ…あんな風に見えてもね。軽視して良い存在じゃないことを解りなさい』
『私達は貴女の親よ。貴女がどう思おうともね…』

前世での私は、何をやっても上手く行かない人間だった…
だからアニメやゲームに逃避し、その世界に入ることを心から望んだ。
そして今ココにいる。

DQ5の主人公の人生は、類を見ない程の悲運であることはよく知っている…
私では耐えられないだろう…でも(リュカ)は耐えたのだ。
なのに私はあの人を軽視していた…
(リュカ)のチャラさが原因…だけではない。
私が他者を見下していたのだろう。
こんな女だからサマンオサの洞窟ではウルフを危険な目に遭わせてしまったのだ。

それなのに…こんな私を娘だと言ってくれる人が居る。
『親』と言う言葉で、私を優しく包み込んでくれる人達が居る。
こんなに嬉しいことは他にない。
私もウルフと、あんな夫婦になりたい…

そう…
尊敬するお父さんとお母さんの様な夫婦に…
その為には、私が変わらなければならないのだ。
そしてその方法は………



長時間に及ぶお父さんの説教から解放されたウルフとお兄ちゃん。
正座地獄より脱し足が思い通りに動かないのだろう…
根性で立ち上がったお兄様は、フラつきながらアルルさんの方へと歩み寄り、平静を装っている…

しかしウルフの方は、立ち上がるだけの根性はなく、這いずりながら水夫等の邪魔にならない端へと行き、足の痺れが引くのを待とうとしている。
私は彼の側まで近付くと、倒れ込む彼の頭を膝枕し、かける言葉もなく見つめている。

「あ、ありがとうマリー……何か恥ずかしい所を見せちゃったね…」
恥ずかしそうに呟くウルフ…
彼は凄く可愛い。
「マリー…どうしたの?元気ないけど…俺、何かしちゃった?」
しかし思い悩む私に気付いた彼は、足の痺れもお構いなしで体勢を変え私の正面に座り込むと、心配そうに私に語りかけてくる。

「私ね………お母様に怒られちゃった………」
どう言って良いのか分からなかった…
「え!?さっきのアルルとの事で!?」
「ううん…違うの…ウルフ…貴方の事でなの…」
正確には違う…私の人生のことでなのだが…それにはウルフが大きく関わる。
もう私の人生に、彼の存在は必要不可欠なのだから!

「お、俺の事………!?」
「私ね…最初はウルフの事、好きじゃなかったの…」
そう…好きとか嫌いとか…そう言う感情は一切無かった…
「それは俺だって…嫌いじゃなかったってだけで、好きになったのはジパングでだし…」
「違うの!私のは違うの…そう言うのじゃなくて…もっと酷いの…」
気付けば私は泣いていた…
きっと彼を失いたくないからだろう…
本当のことを語ったら、彼は私から離れていってしまう…そんな恐怖からだろう。

「私にとって出会った頃のウルフは、性的欲求を満たす為だけの男の子だったの…」
最低な考え方だ…
「せ、性的…?」
「可愛らしい男の子…他の女に手を出される前に、私が童貞奪っちゃお!そんな邪な気持ちでウルフに近付き、誘惑し続けてたの!興味が無くなれば、違う男の子に乗り換えよう…そんな不埒な考えで…」
私にとっては、この世界に存在することも、現実逃避のお遊びだったのだ。
これが現実であることには目を瞑って…

「お父様には、それが最初から分かっていたの…それでお母様に怒られましたの…………ごめんなさいウルフ…こんな女、嫌いですよね…」
お父さんは凄い…
お母さんに嫌われるかもしれないのに、よく告白することが出来たと思う。
私は不安で死にそうだ。

「マリー…今でも俺の事は性的に好きなだけ?」
「違うの!!今は違うの!私、ウルフが大好き…ウルフの事を愛してるの!本当に…本当なの…信じて…」
思ってもない台詞だった。
私はウルフを愛してる…
自らを犠牲にしても私を守ってくれる彼のことが、今では何より愛しているのだ。

「じゃぁ、途中経過なんて関係ないよ。今、相思相愛なら俺は満足だ!これから二人の愛は何よりも強固な物だと証明して行こう…リュカさんとビアンカさんよりもラブラブな事を見せつけようよ!」
私はこの人に全てを捧げよう。
お父さんがお母さんに、自らの事を告げた様に私もウルフに全てを伝える。

「マリー…愛してるよ…」
溢れる涙をハンカチで拭いつつ、彼が私に愛を囁く。
私は親にだけでなく、彼にも愛されているのだ…
ウルフの首に抱き付き、泣きながら呟いた。
「私も愛してる…ウルフのことが大好き!」


その日の晩…船室で私はウルフに全てを語った。
転生者であること…
転生者とは何か…

彼は驚いていた。
でもこう言ってくれた…
「あまり関係ないよ。マリーはマリーだろ?俺の愛した女はマリーなのだから」



 

 

娘と父

私は彼に全てをさらけ出し、彼は私の全てを受け入れてくれた。
隣で気持ちよさそうに眠る彼の顔を覗き、心からの幸せを感じた私は、室内に散らばった衣類を手繰り寄せ着直すと、海風香甲板へと出て行く…


「コラコラ…子供が起きている様な時間じゃないぞ!」
そこには私のことを待っていてくれた人影は一人…
「知ってるんでしょ…私は子供じゃありません」
甘いココアを用意しておいてくれた父は、優しい笑顔でカップに注ぎ手渡してくれる。
「ありがとうお父さん………うん、暖かい…」
一口飲み、甘い香りの湯気を顎に当てて幸せを噛み締める。

「ふふふ…心はともかく、身体は子供なのだから睡眠は必要だよ……………つーかやりすぎだよ!身体は子供なんだからね!7歳児だよ!エッチは控えなさい…」
ゔ…や、やっぱり臭うかしら!?
「な、何よ急に…何を根拠に!?」
「臭うよ…さっきまで頑張ってたんだろ…分かるよ、臭いで!」
くっ…香水で拭ってくればよかったかしら?
あぁでも…中にいっぱい入ってるからなぁ…
「ちょ、セクハラよ!」
分かってても言わないでよ!
「違うよ…娘に対してだからセクハラじゃないよ」
「もう…ズルイ…」
すっと私を娘扱いして…



恥ずかしさからか暫く沈黙している。
何かを言わなければならないのに、何を言えば良いのか…

「ねぇお父さん…何時頃気が付いたの?」
本当はそんな事どうでもいいの…
感謝の言葉を言いたいのだけど、何だか恥ずかしくて…

「初めて出会ったその時からだよ」
初めて?………それって、
「…それは嘘よ!あり得ないもの!だって…」
だって初対面って私が生まれて時でしょ!?
私、何もミスしてないわよ!

「嘘じゃないよ…だってあの時『今すぐ私の処女を奪って!』って、いきなり僕に向けて叫んだでしょ!?」
「え゛!?お父さん…赤ん坊の言葉が分かるの!?」
言った…確かに言ったわ…でも、赤ん坊の泣き声みたいな物で、言葉にはなってなかったわよ!?
「いや…普通は分からない。リューラやリューノの時は、何言ってるのか分からなかった…でもマリーの言葉は分かったんだ!その後ティミーに向けて『きゃー超私好みの男の子!今すぐ喰べちゃいたい!』って言ってたし…」
何だその隠し能力は!?

「う、迂闊だったわ…お父さんにそんなチート能力があったなんて…ズルイ…」
「チート?」
「い、いえ…こっちの話です………では何で今まで気付かないフリをしていたの?」
そう…気付いているのなら、直接言ってくればいいのに!
「え?気付かないフリ!?…いやむしろ『気付いてるよ』ってアピールしてたじゃん!気付かなかった?」
はぁ?何時………………あ!

「………それって、子守歌に『ギザギザハートの子守歌』を歌ったり『ヤホーで検索する』って言ったりの事?」
「そうだよ!お前以外には通じないだろ?」
た、確かに…他の人が聞いても面白いとは思えないわよねぇ…
「た、単なる電波かと思ってたわ…」
「酷っ!」
酷くないわよ!
だってお父さんはそう言うキャラじゃん!


私もお父さんも暫く笑い続けていた。
そして笑いを納めると、
「そっか…私が勝手にバレない様努力しちゃったんだ…」
私は自分の愚かさを再認識する。
転生者=他人…だから知られてはいけない。ヒミツにしなければならない!
そんな考えを持っていたことに…

「転生者であろうと無かろうと、お前は僕の掛け替えのない娘なのだから、気にする事なかったのに…」
私の心を読んだかの様に、優しく抱き締めてくれるお父さん。
暖かくて感心する温もりが心地良い。

「でも教えて欲しい事が1つある…この世界はドラクエなのか?…てっきりエンディングを迎えたと思っていたのだが…まだ続くのかな?」
え!?何を言ってるのかしら?ドラクエを知らないの?うそ~ん…
「え?お父さん、ドラクエ3知らないの!?」
「3!?…あれ、おかしいな…僕はドラクエ5に転生したと思ってたんだが…?」

「うそ!?お父さんはアノ国民的超大作ゲーム『ドラゴンクエスト』をプレイした事ないの!?」
マジだ!?
この人はドラクエを知らないんだ!?
そんな日本人が居るんだ!?

「無い!兄貴や友達のプレイを横で見た事は数度あるけど……ゲーム画面見つめるより、女の子の瞳を見つめてた方が楽しいし!」
意味分からん!
ゲームと女の子の瞳を同系列で考えるって…意味分からん!!
「お父さんは転生前から、そんな性格だったのね…」
「当然!生まれ変わったって性格までは変わらないよぉ!」
確かにその通りだ。

「うふふ…お父さんらしい………じゃぁ、簡単に説明するわね。今居る世界は『ドラクエ3』の世界なの。で、お父さんが生まれた世界…つまりグランバニアがある世界は『ドラクエ5』ね!そしてドラクエ5は、私が生まれる前…ミルドラースを倒した所でエンディングしたのよ!」
「へー…何で『5』の後に『3』になったんだ?普通、逆じゃね?っか『4』は?」
確かにそうなんだけど…

「そんなの分からないわよ、私にだって!…本来、『3』にはお父さんも私も登場しないんだからね!イレギュラーなのよ…」
う~ん…でも『4』の世界も冒険してみたいわねぇ…
ウルフと一緒だったら楽しい旅になりそうだし。

「ふ~ん…」
私の説明には興味をそそられない様子で、相づちを打つ父…
妄想の内容など更に興味ないだろうなぁ…
「…興味ないみたいね、お父さん…」
「どっちかつーとね!…今、僕が興味を持ってるのは、我が子の色恋事だからねぇ…見てて面白い!」
我が子の…って、私のは順調よ!
数に含まないで欲しいわね。
「我が子の…って事は、私のも含まれるんでしょ?…面と向かって言わないでほしいわね…」

「ウルフの事好き?」
嬉しそうな瞳で私の顔を覗き込み、ストレートな質問をぶつけてくる。
「うん…私初めて人を好きになった!」
「幸せ?」
「すごく幸せ…人を好きになるって、凄いね!こんなに幸せな気持ちになれるんだ!」
この人に嘘は吐けない…

「良い男に巡り会えたな!心はお前の方がお姉さんなんだから…苛めるなよ」
楽しそうな表情で私達をからかうお父さん。
「その台詞、そっくり返しますぅ!お父さんこそ、お兄ちゃんみたいにからかわないでよ…」

「…約束は出来ない…だってティミーとウルフって、似てる所があるんだもん!」
「否定はしないけど、お兄ちゃんより女の扱いに慣れてるわよ」
「逆に困るなぁ…君達まだ若すぎるんだからね!お前7歳なんだよ、まだ!」
「うふふ…気を付けま~す!」
でも心はもう大人よ!


気付くと遠くの水平線から、白けた光が差し込んでくる…
夜が明ける時間だ。
「じゃぁ…私そろそろ戻ります。起きて隣に私が居ないと、ダーリンが寂しがるから」
他の姉妹みたいにファザコン扱いされても困りますし…
「ウルフに『昨晩はベットを抜け出して何処に行ってたの!?』って問いつめられたら『お兄ちゃんとエッチしてました♥』って言うんだぞ!」
何でだよ!(笑)
「あはははは、バ~カ!『お父さんに押し倒されたの!』って、泣きながら言うわよ」
そうか…父親って言うより、優しくて仲の良い近所のお兄さん的な感じがするから、他の姉妹は惚れてるのね…
やっと分かってきたわ。


私は笑い終わり船室へと移動する。
今日、初めて父のことを理解することが出来た。
だから告げなければならない…私の本当の気持ちを。
「お父さん!私のお父さんになってくれて、本当にありがとう!私、お父さんの事が大好きです!」
言っておいて恥ずかしくなる私…
どんな答えが返ってきても、恥ずかしすぎてまともにお父さんを見られないだろう…
だから慌てて船室へと駆け戻る。




自室へ入ると、ウルフがベッドの縁に腰掛け迎えてくれた。
「お帰り…お父さんへの挨拶は済んだみたいだね…言うまでもないけど、あの人は最高に良い父親だよ。…まぁ娘にとっては…だけどね!」

あぁ…私は今、最高に幸せです。



 

 

お兄ちゃん頑張って!

 
前書き
さぁ皆様お待ちかね。
本編では語られなかった、あのシーンが遂に解禁です! 

 
「アルルさん!昨日は生意気な事言ってごめんなさい!」
朝になり私は甲板へ出ると、昨日生意気なことを言って怒らせた女性(アルル)へ、心を込めて謝罪を現した。
心は年上だが、見た目は間違いなく年下の私が、このパーティーのリーダに向かって言った台詞は、誰の目から見ても無礼極まりない。
何より、共に旅する仲間に対して言う台詞ではなかったのだ!

「あ…う、うん…気にして無いわ…此方こそごめんね…」
突然のことで驚き、合わせた様に詫びてくるアルルさん。
「うふ、良かった!アルルさんに嫌われてなくて!アルルさんに嫌われたら、お兄ちゃんにまで嫌われちゃうもん!」
もう私はみんなに嫌われるのはイヤなのです。

好かれることの嬉しさ…嫌われることの辛さ…
それをこの数日学びました。
教えてくれたお父さんお母さん…そしてウルフには大感謝です!
そんな思いで彼の方へ視線を向けたのだが、お兄ちゃんに連れられ端の方へと去っていってしまいました。
鈍感お兄ちゃんでも、私の変化に何やら感付いたのかしら?



その日の晩…
私は今朝のことをウルフに尋ねてみた。
急に端に連れてかれ、一体何を言われてのか…
真面目なお兄ちゃんのことだから、『俺の妹に手をだしやがって』とか、『大切な妹を傷物にしたな!』とかはないと思うけど…
そう言うキャラじゃないし…だからこそ気になるぅ!

「あぁ…うん。(マリー)の感じが変わっててから、それが凄く気になったみたい」
「はぁ?お兄ちゃんが気にしてどうするのかしら?………まさか本当に彼ってシスコン?冗談半分で言ってはきたけど…マジで?」
引くわぁ~…ガチでシスコンだったら引くわぁ~……

「違うよ!俺と付き合い始めて、マリーの感じが変わってきたから、どうすればアルルとの仲を進められるのかを聞いてきたんだ…ほら、あの人は女心が全く解らないじゃん!だがら参考にしたかったんだよ…きっと」
年下に恋のアドバイスを請うてたの!?
言いたくないけど情けないわね。

「それで…ウルフはお兄ちゃんに何て言ったの?お父さん流だったら『取り敢えず押し倒せば?』って感じよね!」
「うん。その事も言ったけど、あの人には絶対ムリでしょ!だから『乳くらい揉め!』ってアドバイスした。それで怒られたら『アルルの胸が魅力的だったからつい…』とか『アルルの温もりを感じたかったんだ』って言い訳すればとアドバイスした。」

それって完璧にお父さんじゃん!
そんな器用なことがお兄ちゃんに出来るとは思えないけど………
でも、溜まりまくった男は狼って言うし…
「今頃、凄い事になってるかも!?」
こうしちゃいらんないわ!

「ちょっとウルフ!大至急見学に行くわよ…」
「え!?いや…でも…まずいよそれは…以前見学して邪魔しちゃったじゃん。今回も邪魔しちゃったら悪いしさぁ…」
「邪魔も何も、あの(ティミー)に成功させられると思ってるの!?100パー失敗よ!その時の為にフォローに向かわないと!乳揉んで、言い訳こいて、失敗して…二人が破局したら大変でしょ!」
万が一成功したら見学したいし…

「そ、そうか!フォローをしてあげないと大変だよね!?」
どうやらウルフも納得してくれたみたい(誘惑に負けたとも言う)で、慌てて二人でアルルさんの部屋へとかけだした。


そして何時ぞやの時と同じように、ドアの隙間から部屋の中を伺う私達…
どうやらタイミング良く、これから乳揉みにトライする瞬間だった!
さりげなく…とは言い難い動きでアルルさんに近付くお兄ちゃん。
「もっと自然な動きは出来ないのかよ…」
ウルフが溜息混じりで呟いた。

「きゃぁ!…ちょっと何!?ティミー…いきなり何するのよ!?」
ウルフの呟きに笑いを堪えている間に、遂に行動を起こした我が兄!
だがしかし、真面目な(アルル)は驚き憤慨する。
「『やだ~、もうえっちぃ~』とか言えよ!男は常にそんな事ばかり考えているのよ!」
今度の呟きは私だ。
彼氏と二人きりの密室なのだから、そんなハプニングは織り込み済みでいてほしい。

「あ!ご、ごめん!!そ、その…ア、アルルの…む、胸を…感じたかったんだ!!」
「「……………………」」
それじゃぁただのスケベ心だろ!

(バチ~ン!)
アルルさんの強烈な平手打ちが、お兄ちゃんの左頬へとヒットする。
「何考えてるの!?ティミーがそんなにスケベな男だとは思わなかったわ!!」
ほら…失敗したわ。
しかも言い訳の台詞すらまともに言えなかったからね…

私はウルフに目で合図を送り、慌てて室内へ雪崩れ込む。
「ごめんなさいアルルさん!私達がお兄ちゃんに、アルルさんの胸を揉む様に吹き込んだよ…だからお兄ちゃんを怒らないで」
「そうなんだアルル…何時まで経っても進展しない二人の関係がもどかしくて、俺がティミーさんに『女だってエッチなことが好きなんだ。でも自ら求めたら淫乱って言われるだろ?だから男から迫ってやるのが礼儀なんだよ!』って嘘吐いたんです!本当ごめんアルル」
私とウルフは、お兄ちゃんのフォローをするべく、交互に言い訳をぶっこいた。

「ちょ…また覗いてたの二人とも!?だ、大体余計なお世話よ!別に私達の仲がどう進展しようが、二人には関係ないでしょ!放っておいてよ!」
かなりご立腹のアルルさん。
まぁ当然だろう…

「いや…そう言う訳にはいかないよ。俺はアルルのこともティミーさんのことも尊敬しているんだ!その二人が付き合うことになって、俺は凄く嬉しかった…でも二人とも真面目すぎて、とてもじゃないが恋人同士とは言えない…いや、見えないから、何とかして仲良くなってもらいたかったんだ!余計なお世話なのは百も承知…それでも黙ってられなかったんだよ…俺は二人が好きだからさぁ」

すげー………
見た目は違うけど、今100% (ウルフ)(リュカ)だった…
あの人なら臆面もなく言い切る台詞…
それを咄嗟に披露する神経の図太さ…
彼の将来に期待と不安が入り交じる。

「そ、そんな…ウルフ…」
「あ、ありがとうウルフ君…」
ウルフの演説に感動したアルルさんとお兄ちゃん。
左頬に大きな紅葉の痕を浮かべた彼氏に、感涙しながら寄り添い見つめ合う二人。

何とか二人の仲は進展している様子だ…微速前進ではあるけれど。
この後、私達はアルルさんの部屋で語り合った。
男女の事柄や自分たちの事について…
とても有意義な時間だったと思う。
お兄ちゃんとお義姉ちゃんも、そうだといいけどなぁ…



 
 

 
後書き
翌日まで残る頬の跡…
相当な力だったに違いない。
流石勇者ですね。 

 

ジジイに杖渡す

昨晩の一騒動も過去となり、明けた朝は雨模様だった。
お兄ちゃんの左頬だけに騒動の証拠がクッキリ残り、私達に密かなる連帯感を与えてくれる。

ウルフと共に食堂へ赴くと、既にお兄ちゃんとアルルさんがそこに居て、仲良さそうに朝食を取っている。
昨晩のことを知らない者から見たら、あの二人がイチャイチャするなど珍しい…

私達より一瞬早く入ってきたお父さんが、不思議そうな表情で2人を眺めている。
左頬に紅葉跡があり、それでもイチャつくカップルは興味の的だ!
色事の達人ならばその辺は察してスルーしてくれるかもしれない…けど、

「あ~…ティミー君…その…何だ…それ、どうしたの?」
やはりダメだったか…
流石のお父さんでも、お兄ちゃんの頬の跡が気になって、思わず尋ねてしまってる。

「あ…いや…こ、これは…」
お兄ちゃんにはぐらかすスキルが在るとは思えず、私は慌ててフォローに入る。
「あー!!お、お兄ちゃん!アルルさん!ご、ご相談があるのですが!!今よろしいですか!?」
折角良い感じで進展した2人なのだから、妙にぎこちなくさせたくないです!

「な、何かなマリー」
「ま、まぁマリーちゃん!とっても急用みたいね!」
私の咄嗟の行動に、わざとらしさ大爆発で対応してくれるお二人…
「えっと~あの~…急用…ですわよねぇ…あのね……………あ、そうだ!『祠の牢獄』に行く前に、先にグリンラッドのお爺さんの元へ赴いてほしいんです!先に『変化の杖』と『船乗りの骨』を交換してもらい、何時でも幽霊船に遭遇できるようにスタンバっておきたいんです!」
そ、そうよ…このチャンスを利用して、船乗りの骨を先に入手しなければ!

その後も取り留めない会話を持続していたが、ウルフがお父様に拉致られて食堂の端の方でデコピンを受けている。
ウルフ…アナタの尊い犠牲は無駄にしないわ。


そしてお父さんは幾つかの食べ物を取ると、自室のお母さんの下へ帰っていった…
朝食を食べながらイチャつく予定らしい…

「ど、どうやら誤魔化せたかしら?」
私は彼に労いの言葉をかけた…が、
「ムリだね……俺の一言が原因なのも悟られたね!」
「あ、あのやり取りだけで!?」
いや…いくら何でもそこまで分かるもんかしら?

「マリー…君は自分のお父さんを侮りすぎだ!そう見せないだけで、リュカさんは凄い人なんだから!」
「ほんと、凄い人だよ…もう少し真面目に生きてくれれば最高の父親なんだけど…」
何だかんだ言ってお兄ちゃんもお父さんの凄さを認めているのね…

「ティミーさん、それは違う!考えてみて下さい…程良く真面目なリュカさんを…アルルは絶対にリュカさんに惚れますよ!ティミーさんに勝ち目はありませんよ!」
その通りだ!
そんなステキパパだったら、私もどうなっていたことか…
「ティミー…お父さんが不真面目で良かったわね♡」
あはははは…
不真面目で良かったなんて、どんな父親だよ!






数日経ち、私達は再びグリンラッドのじーさまに会いに来ました。
重要アイテムの『船乗りの骨』を入手する為に。
「じゃ~ん!お爺ちゃん、手に入れたわよ『変化の杖』を!」
「お…おぉぉぉぉ!何と本当に手に入れてくるとは……よ、良し!船乗りの骨と交換じゃ!」
見せびらかす様に杖をじーさんの鼻っ面へ突き付けると、大喜びしながら船乗りの骨を取り出した。
でも…交換しようとした瞬間、お父さんが変化の杖を私から取り上げ、この取引を妨害し始めた。

「な、何じゃ!?この骨との交換の約束じゃぞ!…いらんのか船乗りの骨…」
いや、要るし!絶対に必要だし!!
「爺さん…聞きたい事がある。この杖を使って何をするつもりだ?」
「何って…変化の杖じゃぞ!変化するんじゃよ!」
そうよ。他の用途が見つからないわ!

「先に僕のドラゴンの杖で、屍に変化させるぞ!変化して何するのかって聞いてるの!…悪用されると困るのだが…」
ちょっと…そんなに怒らないでよ…怖い…
「悪用ぅ?変化する事しか出来んのに、どう悪用するんじゃ!?」
「どうもこうも、他人に化けて悪事を働く事は出来るだろ!」

「安心せい!ワシはグリンラッドから出る気は無い!時折やって来る者を驚かしたいだけじゃ!」
じーさんと睨み合うお父さん…
サマンオサの悲劇が相当心に残っているのね…
でもそれがないと先に進めないんだけど………

「お、お父さん…お爺さんの事を信じましょうよ…この人は悪い人じゃ無いですよ!」
「そ、そうですよリュカさん!マリーの言う通り、この爺さんなら大丈夫だよ!万が一変化の杖を悪用されても、俺達にはラーの鏡があるじゃんか!」
私もウルフも、口を揃えてじーさんの安全性を力説する。

「……………」
お父さんは目を瞑り、少しだけ考えると私の手を取り、
「マリー…ちょっと……………あ、他のみんなは待ってて!」
小屋の外へと連れ出した。


ハンパなく寒いんですけど…
早く室内へ戻りましょうっよ~…
「なぁマリー…」
「な、なんですかぁ?寒いので手短にお願いしますぅ~…」
「あの船乗りの骨って何に使うアイテムなの?絶対に必要なの?」

「えっと…船乗りの骨がないと、幽霊船が見つけられないんです。そうすると幽霊船内に在る『愛の思いで』ってアイテムが手に入らなくなり…『愛の思いで』がないと『ガイアの剣』が手に入らず…最終的には『シルバーオーブ』が入手不可になるんです!だから絶対に杖と交換しなければならないんですよ!」
何を心配しているのかは分からないけど交換は必須なんだから、早く暖かい室内に入って交換を済ませちゃいましょうよぉ~

「う~ん…そう言うことか…」
お父さんは暫く考えると、寒そうに体中を擦りながら、みんなが待つ室内へと騒がしく戻って行く…
「さみー!外、ものっそい寒いよ!バカじゃないの!?」
そんな馬鹿みたいな事に付き合わされた私って…

「おい爺さん!数ヶ月間の物々レンタルって言うのはどうだ!?」
「…何じゃ、物々レンタルってのは?」
物々交換とは違うの?

「爺さん…悪く思わないでほしいのだが、やっぱりこの杖を他人に託すわけにはいかない!この杖の所為で、大勢の弱者が虐げられるのを目撃してしまったからね…」
「何と失礼なヤツじゃ!ワシは悪用しないと言って居るだろうに!」
大丈夫だって…こんなジジイに大したことは出来ないって!

「勘違いしないでくれ…爺さんの事は疑ってない!むしろ、その後の事が心配なんだ!」
「「「その後?」」」
その後って何だ!?

「失礼な言い様だが、爺さん…アンタはもうそれ程長生き出来ないだろう…しかも家族も居なさそうだし…」
まぁ…保って10年ってとこか?
「全く持って失礼だが、その通りじゃ!それが何じゃ!?」
「爺さんが死んだ後、この杖はどうなる?誰の物になる?」
「……………」

誰の物って………誰の物!?
そのまま忘れ去られ、風化しちゃうんじゃないの?
で、でも確かに…
また悪者の手に渡ったら大変なことになるわねぇ…

「う…ぐ…で、では船乗りの骨は諦めるのじゃな!?」
いや、それは出来ない!
絶対に必要なんだから!!

「いや、だから物々レンタルを提案したい!…つまり、爺さんの『船乗りの骨』と、僕等の『変化の杖』を、期間限定で交換しようって事!」
あぁ!なるほどねぇ…
用が済んだら取り戻せば良いのね!
わ~お、頭良い!

「……………なるほど。確かに、ワシの死後はどうなるか………じゃが、もしワシが断ったらどうする?おヌシ等にはこの骨が必要なんじゃろ?」
「いや…正直言うと、今の段階では大して必要じゃない!だから今は諦めるだけだ………だがもし、僕等の旅に必要な物になれば、アンタを殺してでも手に入れるつもりだ!本当はそんな事はしたくないけどね…やむを得なくなれば、アンタ一人の命は犠牲にする!」

流石は国王…交渉上手ねぇ…
“今”は必要じゃないってのがミソね!
じーさんは今すぐにでも杖が欲しい訳だし、ここで断ったら杖が遠退く。
老い先短い身としては、断り切れないわよねぇ…

「…分かった…物々レンタルに応じよう…それが一番、ワシにとって得なようじゃ」
凄いわぁ…ちゃんと先のことも考えているなんて…
ホントに惚れそうだわ。
ウルフが側に居なかったらヤバかったかもしれない…



 

 

エコナは今…

お父さん曰く「僕が得た確かな情報によると、幽霊船はロマリア沖を彷徨っているそうだ!だから行こう!」

私から聞き出した情報を皆に伝え、強引に行き先を設定する我が父。
「と、父さん…ロマリア沖であれば、ルーラを使って頂きたいのですが…」
そのくせルーラを使用しようとしない我が儘っぷり!
「そんなにお前はアルルを強くしたくないの?」
そしてその言い訳が、言われた方にはむかっ腹が立つ口調の台詞!

更には…
「この近くに、僕の愛人が町を作ってるんだよ!ちょっと寄って行こ!」
と、『ただ単に愛人に会いたいだけだろ!』ってツッコミすら無駄に思えるあの性格が羨ましい…





マジ凄い…
数ヶ月前まで何もない場所だったのに、ここには町が出来上がっている。
勿論まだ途中なのだが、でも既に立派な町だ。

「す、凄いですねぇ…この短期間で、此処まで町を作り上げるなんて…」
ハツキさんが感心しながら溜息を吐いている…
これをあの巨乳ちゃんが行ったと思うと………

呆然と造りかけの町並みを観察していると、何時の間にやらエコナさんの屋敷前に辿り着いていた。
しかし私達より先に変な爺さんが居り、門番と押し問答している…

「ちょっと、ご老人相手に何してるんですか!?」
う~ん…この場合どっちが悪いのか判らないけど、取り敢えず老人に加勢するのが常識人よね…
「その老人がエコナ様の邪魔をするから、我々は仕事として追い返しているだけです!」
あら、老人悪者?
「ち、違う!ワシ、エコナと、話したい。それなのに、邪魔、言われる。エコナに、会わせない!」
って、よく見たらこの老人、この場所で町造りを始めたタイロン老人じゃん!
エコナさんの命の恩人よ…

「おい!僕等もエコナに会いたいんだ!」
「ふざけるな!エコナ様はお忙しいんだ…アポイントメントのない者を通すわけにはいかない!」
アポ無しじゃ会えないって…偉くなったもんね~…
うん。とっても悪い兆し♥

(ドカ!)
「最後通告だ!今すぐ快く通さなければ、貰っている給料じゃ割に合わないほどの痛い目に遭わせるぞ…」
わぉ凄い!
お父さんが門番を脅す為、素手で壁を破壊しましたわ…
それを見た門番は、
「ど、どうぞ…」
って、腰抜かして通してくれた。
あはははは、ダッセー!



「お父さん格好いい!娘が皆ファザコンになるのが分かるわぁ~!」
私は思わずお父さんに近付き、褒め称えながら抱き付こうとした…が、
「いってぇ~!!素手でやるんじゃなかったぁ~!」
と、右手を押さえ蹲ってしまった…

「いてぇ~…ベホイミ…ベホイミィ!」
う~ん…こっちはちょっと格好悪い…
「わぁ~…ゴメン…やっぱ、格好悪~い」
未だに掴めないキャラねぇ…



人様のお屋敷ではあるのだが、元仲間のお家と言うことで遠慮がない私達…もとい、私のお父さん。
ズカズカと屋敷内を探索し、会議室の様な部屋へ勝手に入って行く…
「リュ、リュカはん!?どうしたん、急に!?」
勿論驚くエコナさん。
「エコナの事が恋しくなって会いに来ちゃった!」
きっと嘘なんだけど、妻と子供等の前で言う嘘ではない!
躊躇することなく愛人(エコナ)を抱き寄せキスをする。

「うふふ…流石はリュカはんや。嘘でも嬉しいわぁ…女心を良う解ってるやん!」
「でしょ!女心だったら任せてよ!」
うん。嘘であることは否定しない…

「エコナ、ワシ、話しある!」
そんな父に呆然としていると、タイロンさんが突然何かを訴えだした。
「ちっ!………あ、あんな爺さん…悪いんやけどウチ忙しいねん!…リュカはん達にも申し訳あらへんけど、今大事な打合せ中なんや…少し別室で待っててくれる?」
今舌打ちした!
完全に関係が悪化しているじゃん…

「…少しくらいなら構わないけど、僕お腹空いたから何か食べ物をくれる?」
「あ…え、ええで!直ぐに用意させるわ!…しかし相変わらず遠慮が無いなぁ、リュカはんは!」
「まぁね!本当はエコナを喰べに来たんだけど、忙しそうだから…」
「ははは…ま、また今度な…」
重傷ね…
お前を喰べたいって言ったのに、それをやんわり断ったわ。
リュカラブ♡のエコナさんが…



私達は屋敷のメイドさんに案内されて、別室でエコナさんを待つことになった…
お父さんの要望通り、大量のお食事を振る舞われ…
でも、とても食べる気になれない。
何とか“エコナさん破滅”イベントは回避しなければならない…私の所為で彼女が不幸になるのは避けなければ。

「余裕が無さそうだな…エコナ…」
不意に呟いたお父さん。
「そりゃ大切な打合せ中に勝手に押しかけ、部下の目の前でキスしたり口説いたりされれば、誰だって取り繕う為余裕が無くなりますよ!」
相変わらずお兄ちゃんは解ってない…

「お前は何も分かって無いな、ティミー…」
「な、何がですか!?」
「はぁ…説明すんのもめんどいから、少し黙っててくれ…」
流石のお父さんも疲れた様だ…

「なぁ爺さん…何があったんだ?」
お兄ちゃんへの説明を回避し、事態の把握の為タイロンさんへ直接尋ねるお父さん。
そしてタイロンさんから語られた、エコナさんの評判…
さ、最悪だぁ………


「はぁ~………そんな事だろうと思ったよ……エコナは視野が狭い!町を大きくする事しか見てない………焦る事無いのになぁ…」
いやいや…まったりこいてる場合じゃないわよ!
何とか助けてあげないと…



「お待たせリュカはん!…けど、あまり時間は無いねん!仕事が溜まっててな………で、急にどないしたん?」
お父さんが一言も喋らなくなって数十分…
やっとエコナさんが私達の前に姿を現した。

「うん…これと言った用事があるわけでも無いんだけど、この近くを通りかかったからさ…様子を見ておこうかなと思って……忙しい所ゴメンね」
珍しく手探りで会話を続けるお父さん。
その間もエコナさんはタイロンさんとは目を合わせない…

「気にしてくれてありがとうな!ウチがお相手出来へんけど、町の様子を見て行ってや!特産物のないこの町を有名にする為、娯楽施設を仰山建てるつもりやねんけど、その1発目の劇場が半月前にオープンしたんや!是非楽しんで行ってや!」
大した用事が無いと聞くや、早々に立ち去ろうとするエコナさん。
町造りに口出しされることを嫌がっているのが手に取る様に分かる。

「エコナ待って!…話したい事があるんだが…」
「………忙しいんで手短に…」
大好きだった人から話しかけられているのに、心底嫌そうな顔をする…責任とは人をここまで変えるのか!?

「…爺さんから聞いたよ。町民を働かせ過ぎてるって!」
「た、確かに…町全体が忙し過ぎやけど、ちゃんと給料は払ってるで!労働に見合う金額を!」
「エコナ…金を払えば何をやっても許されるわけじゃない!人間には休息が必要なんだ…金が有ったって使う時間が無ければ意味がない!」
そうだ…機械の部品じゃないんだから、休ませることも必要よ!

「そ、そないな事は分かってる!でも、今は重要な時なんや!今を乗り越えれば必ず余裕が出来る!…その時までの辛抱や!」
出た!
経営者の言いそうな台詞…『今を乗り越えなきゃ…』その“今”って何時までの事だよ!

「…確かにエコナの言う通り、今を乗り切れば余裕が出来るのかもしれない…でも、その『今』って何時まで続くんだ?…町民達は我慢できなくなっているんだよ」
「そな事言うても仕方ないやん!町を大きくして、この町に住む人々の暮らしを豊かにしたい!その為には、今頑張らなあかんねん!文句を言う連中は、先が見えて無いねん!ウチには責任がある!」
またまた出た!
“みんなの為”的な!

「エコナは町を大きくすると言う意味を勘違いしてるぞ!今エコナが行っているのは、ただ町の規模を大きくしているだけで、町の質を考慮していない!其処に住む人々の心も一緒に成長させなければ、遠くない未来にこの町は崩壊する!」
「な………!!ウ、ウチの苦労も知らんくせに偉そうな事言うな!ウチは忙しいんや!さっさと出て行け!」
図星ズッボシで叫んじゃうエコナちゃん。

「あ!?あ~あ………行っちゃった…」
「行っちゃったじゃないですよ!エコナさんが怒るのもムリ無いです……そりゃエコナさんに不満が集まっているのは分かります!…けど頑張っている人に、あんな言い方は酷いと思いますよ。エコナさんの苦労も汲んであげないと…」
はぁ?このやり取りを見てまだ分かってない男が居る…って、私のお兄ちゃんじゃん!

「それは違うわ、お兄ちゃん!エコナさんの努力が間違っているから、お父さんはエコナさんに注意を促したのよ!」
「努力が間違ってる…?そ、それはどういう…」
解らないの?
町の人達の為って言っておいて、その町の人達を苦しめているのは誰よ!

「町を育てるという事と、町の規模を大きくするという事とは、大きく異なるんだ…町の規模を大きくするだけなら、金さえかければ誰にでも出来る。建物を建てて、商店を誘致して、人々を呼び込めば自ずと町は大きくなるだろう…今、エコナがやっている様にね」
そう…ゲームの世界では金さえあれば町なんて簡単に造れちゃう。

「町を育てるという事は、其処に住む人々と共に育たなくては意味がない!住民が必要としている物を造り、その為に住民が自らの意志で努力する…そうでなければ本当に住み易い町は出来上がらないんだ!町民が望まぬ物の為に、休む間も与えられず働く…果たして出来上がった施設を、町民達は好きになるだろうか?」
う~ん…流石強制労働を10年間やらされ続けてきた人ね…言葉に重みが在るわ。

「………だとしても、エコナさんは頑張っています!他人に丸投げして、一人サボっている何処かの国王とは違います!其処は評価するべきでしょう…父さんも、町民の皆さんも!」
まだ言うか!?
もうお父さんへの対抗心から言ってるとしか思えないわ!

(パシン!!)
「ティミー!貴方はリュカの事をそんな目で見ていたの!?」
思わず怒鳴ろうかと思ったら、先にお母さんが行動に出てしまった。
お兄ちゃんに平手打ちをかまし、泣きながらお父さんを庇う。

「か、母さん…!?」
「ビアンカ、落ち着いて…ともかく座って…」
きっと初めてお母さんに叩かれたんだと思う…
お兄ちゃん、凄く呆然としている。

「ティミー…憶えているかい?何時だったか、子供達全員でクッキーを作ってくれた時の事を?」
そんなお兄ちゃんに気を使ってるのか、凄く優しい口調で語りかけるお父さん。
「…はい、憶えてます…」

「ふふ…じゃぁその時お前は、リュリュのクッキーをどのくらい食べてあげたんだ?」
リュリュお姉ちゃんのクッキー…
私も一口…いや、一欠片食しましたが、思い出すだけで吐き気が蘇る。
アレは食べたことある者にしか分からない地獄…

「………父さんの5倍は食べました」
そんなに食ったの!?
恋の力ってすげー!
「凄いな…あのクッキーをそんなに………じゃぁ次の質問だが、あのクッキーがポピーの作品だったら、お前は僕の5倍もの量を食べたかい?」
「いえ、ポピーの手作りだったら絶対に食べません!アイツに其処までしてやる義理はありませんから!」
どんだけ嫌いなんだよ…双子の妹だろ…もうちょっと好きになってあげなよ………まぁ気持ちは解るけど。

「…お前…双子の妹なんだから、もう少し優しくしてやれよ………まぁいい…つまり、そう言う事だよ」
「はぁ?何がですか!?」
「エコナは町が大きくなる事を楽しんでるんだ!寝る間も惜しんで働いて、町が大きくなる事で喜びを得てるんだ。不味くても大好きなリュリュの笑顔を見たいが為に、お前がクッキーを食べ続けるのと同じ理由さ!…だが住民達は違う!町が大きくなる事よりも休息を欲しがっている…」
なるほど…

「自らする必要のない苦労を勝手にして、それを認め敬えなんて都合(ムシ)が良すぎでしょ!他のみんなは休みを望んでいるのだから!そう思わない、お兄ちゃん?」
凄く解りやすい説明だったわ。

「エコナちゃんは実質この町の長よ!この町を牛耳っているのは彼女なのよ!上に立つ者は、常に皆の心に留意してなければならないの…民が何を望んでいるのかを把握し、そしてそれに応える様努力する。それが町長であり国王なのよティミー!貴方は知らないでしょうけど、貴方のお父さんはそれを実行しているわよ!」
お母さん…まだちょっと怒ってる…口調がキツイもん。

「リュカは常々城を抜け出し、市井の生活を観察してるのよ。そして民に気さくに話しかけ、国民の生活状況を把握し、何を求めているのかを理解しようと勤めてる!その結果、大臣や官僚達が推進する政策は遅らせてるけど、国民が望む政策は優先的に推し進めているのよ!貴方にはそれがサボっている様に見えてたの!?お母さんは悲しいわ…」
えー!?
それは知らなかったわぁ…
そんな事してたんだ?へー…スゲー…

「お母さん、お兄ちゃんを責めちゃダメよ!結果的に国民の思いを理解する事が出来ただけであって、最初はサボってただけなんでしょうから!ね、お父さん!」
絶対そうよ。
最初から狙ってやってないわよ!
「まぁ…結果的にはそうなるかなぁ…」

「ほら!お兄ちゃんは最初の頃の行動だけを見て、サボっている物と思い込んじゃってるのよ!オジロンさんが常日頃から『あのボンクラまたサボって遊びに行きおった!』と、嘆いてるのを目の当たりにしているのも原因かしら?」
だって私だってサボっていると思ってたもん。



「なぁ旦那…今此処で悩んでいても、あのネェちゃんが頑なになってるん、じゃどうしようもないだろう…ともかく今は気分を変えて、劇場にでも行ってみないか!?あのネェちゃんが躍起になって誘致したみたいだし…どんな物か見学しようぜ!」
ちょっと気まずい雰囲気に耐えられなくなったカンダタ。
「良いアイデアねカンダタさん!私も見てみたいし、劇場へ行きましょうよ!」
同じくハツキさんもカンダタの提案に乗っかる形で劇場見学に誘った。

「良いねぇ!みんなでパーッとやりますか!」
うん。やっぱりお父さんは明るい口調の方がいい!
落ち込みムードは我が家の家風に似合わないわよ!
さぁ、話も纏まった事だし、エコナバーグ劇場へレッツらゴー!

……………あら、そう言えば劇場って何かあったわよね!?



 

 

剛田武か、お前は!?

さて…
途中タイロンさんと別れ、発展途中の町を散策すること10分。
待望の『エコナバーグ劇場』へと辿り着く。
中にはいると無表情の受付嬢が、言葉だけ快く迎え入れてくれる。
「いらっしゃいませ!本日は超美形デュオ『カノーツ&エイカー』の歌謡ショウを行っております。存分にお楽しみ下さい!」
カノーツ&エイカーって誰?


更に入ると、そこにはステージがあり、既に2人組の男性が下手くそな歌を恥ずかし気も無く披露していた。
どうやら見た目重視のユニットらしく、80年代アイドルグループを彷彿させる。
しかしながらファン層は真逆で、無駄に広い客席の一番前に陣取っているおばさん連中が彼等の唯一のファンだろう。
人気無さ過ぎて、客席の何処に座ろうか迷っちゃう。
空席だらけなんだもん!

まぁ近くで見ればそれなりに楽しめるのかもしれないという訳で、取り敢えず最前列へ向かう私達。
近付いて見て分かったのだが、『超美形』とのキャッチフレーズも嘘っぱちの様子。
“まぁ美形?”って感じね………って、どっかで見たことある2人ねぇ?

何処でだったかしら…
私は一生懸命記憶の遺跡を発掘する。
サマンオサ…では居なかったわ…
ジパング…だったら目立つわよねぇ…
エジンベア…には入れないわよこんな田舎者!
じゃぁ…どこ?

そしてダーマが私の脳裏に蘇った!
思わずお母さんと顔を見合わせる。
そして、
「「「「あー!!何時ぞやのナンパ男!!」」」」
お母さんと共に叫んだ声は、何故だかアルルさんとハツキさんとも重なり合い、美しくないステレオ効果を醸し出した。

「な、何!?ビアンカ達のお知り合い?」
突然の大絶叫に唖然とする周囲…
ステージ上の2人も、かぶりつきで見ていたおばさん方も、私達を睨んで黙っちゃている。

「「ロマリアで、「「ダーマで、ナンパしてきた勘違いバカよ!」」」」
でもそんな事を気にしないのがリュカファミリー!
「何が『超美形デュオ』よ!大して美形じゃないじゃない!歌も下手だし!」
“ステキな思いでありがとう”とばかりに、彼等の評価をする私。
お母さん達も同意の様子。

「ちょっと!私達の『カノーツ&エイカー』ちゃんが、美形じゃないってどういう事よ!」
“私達の”って何だ!?
と言ってやりたいのだが、あまりの形相に怖くて言えない…
このお人の顔、何かに似てる…あぁ、人面蝶だ!モンスターの人面蝶だよ!
そう言ったら怒るだろうなぁ…

「美形じゃないわよ!この人の方が遙かに美形だし、歌だって超上手いのよ!」
私が『人面蝶に似てますね♥』って言おうか迷っていると、お母さんがお父さんを付きだし勝ち誇った様に言い放つ!

「くっ………た、確かに良い男だけど…う、歌は聴いてみないと分からないじゃないのよ!言うだけなら何とでも言えるわ!歌ってみなさいよ!」
「望む所よ!リュカ、アナタの歌声を披露してあげてよ!私、貴方の歌を聴きたいの♡」
ほっほっほっ、戦闘中(もしくはフィールド移動中)以外に歌うお父さんの歌は最高なんだからね!
傍迷惑というマイナス要因がなくなったその人の歌声は最高なんだからね!

流石に事態が飲み込まないお父さん…でもお母さんにオッパイ押し付けられ強請られれば直ぐ落ちる。
元々ノリの良い性格だし、歌い出したら止まらない!
飾りの様に置いてあったピアノまで使い、弾き語りで披露する私のイケメンパパ!
何でも有りな格好良さに、本気で惚れそうなんです~!
ごめんねウルフー…私のパパ格好良すぎー!!

気が付けば、人面蝶の仲間達もお父さんに惚れ惚れで、さっきの2人組のことなど遙か彼方に忘れ去っている。
ステージから下りるお父さんにまとわりつき、鱗粉を撒き散らしていますわ!
ちょ~不愉快!

しかし、私のお母さんがそんな勝手を許す訳なく、人面蝶を掻き分けてお父様に近付くと、
「流石、私の旦那様!最高のステージだったわよ!」
と、熱烈な口吻を披露する。
う~ん…見習わないとね。


「ピアノを弾けたの?…何でもアリなのね…か、格好いい…」
あまりにも格好良すぎなので、思わず言ってしまった台詞…
でも私の彼には嫉妬の火種!
「ズルイよリュカさんは!美人の奥さんに愛人も何人か居るのだから、マリーの心まで持って行くのは止めてよ!」
と嬉しいことを言ってくれる、可愛いボーヤよ。
う~ん、もう!
大丈夫よ…私は貴方の虜ですぅー!



さて…いつの間にかステージに誰も居なくなった劇場…
居る意味が全くないので、出て行こうと思います。
何より人面蝶ズがウザイのよ!

「客として来たのに、歌って帰るってどういう事?」
「リュカ…格好良かったわ♡」
「ええ!凄く素敵でした♡」
あぁ…今夜は激しそうだぁ…

「お楽しみ頂きありがとうございます。本日の『カノーツ&エイカー 歌謡ショウ』の観賞料は50000ゴールドです。お支払いをお願いします」
出たぁぁぁぁ!
無表情の受付嬢…
全く楽しんでないのに、法外な金額請求!

「な!?か、金取るなら最初に言ってよね!何処にも何も書いて無いじゃない!」
アルルさん大激怒!
そりゃそうだ…前もって言えっての!

「書いて無くても決まりです。ショウを観たら、料金を払うのが当然でしょう!お支払い頂けないのであれば、此方としても実力行使に出ざるを得ませんが…」
すげー言い訳。
かなりの回数、同じ台詞を言ったんだな…
噛むことなくスラスラ言えてるもん。
もうこれはイオナズンでお仕置きね!
月に変わってお仕置きよ!って感じね♥

「あはははははは!払ってやろうよアルル。ただ見は良くない!正当な言い分だ!」
しかし、思いもよらない発言パパ!
「そちらの紳士様はご理解しておいでの様で…」
「リュ、リュカさん!?」
え、何!?何で払わにゃならないの?

「そう…ただ見はダメだ!僕も先程、ステージで歌を披露したんだよね…」
「は…はぁ…」
あぁ…そう言うこと…
「まぁ、3曲だけだから、オマケしても良いよ。…500000000ゴールドに!」
「ご、5億!!!?」
アレ?
何でだろう…さっき受付嬢が提示した金額が安く思えるよ?

「払えよ!あのチンケなショウに50000払ってやるから、僕の『超イケメン歌手 リュー君オンステージ』に500000000ゴールド!払わないと実力行使に出るぞ!」
「な、何をふざけた事を…勝手に歌っただけでしょう!」
「『ショウを観たら、料金を払うのが当然でしょう!』って事だよね。払えよコラ!」
わぁ凄い…ジャイアンが居るー!
何この子?
どんだけ身勝手なの?
何でボッタクリを行っている側が可哀想に思えるの?

「オ、オーナー!オーナー!!」
うん。対応としては正しいけど、オーナーにどうにか出来る相手じゃないわ…
地獄の帝王クラスを2.3人呼ばないと………
居る?知り合いに地獄の帝王が居る?

「おやおや…どうしましたか?トラブルのようですねぇ…」
見るからに小悪党…
一人じゃ町も歩けないのだろう…
貧相な出で立ちに、ゴツイ大男を4人も引き連れ現れた。
「そ、その…此方のお客様が…」


「非常識な…そんな子供の理屈が通じると思ってるのですか!?」
うん。私もそう思う。
身内の言うことだけど、私もそう思う。

「ゴチャゴチャうるせーな!さっさと実力行使に出れば良いだろ!」
しかもめんどくさくなったらしく、力業での解決を優先させた。
お父さんは体中に傷がある…だからそれを隠す様にマントを羽織っている。
初めてお父さんのことを見ると、細面であまり強そうには思えない。

4人の大男もそう思ったのだろう…
1人が凄い勢いでお父さんに突進してくる…が、軽く平手打ちしただけで劇場の外にまで吹っ飛ばされてしまった。
でも解ってない残り3人は、勝てると思い込んで一斉に襲いかかってきた。

「イオ」
ポピーお姉ちゃんに教わった、戦わずに相手の戦意をなくすワザ…
誰も居ない壁に向かい魔法を唱えて脅しをかける。
「お!マリー…手加減が上手くなったね!」
「日々精進してますから!それにこんな所でイオナズンを唱えたら、私まで怪我しちゃうし!」
そうよ…私はイオナズンだって唱えられる。
アンタ達に勝てる相手じゃないのよ!

「おいコラ!さっさと払え!今すぐ払え!全額揃えて払え!」
真っ青になり固まる小男。
流石に相手が悪いことに気が付いたのか、ぎこちないながらも笑顔を作り直し、揉み手摺り手で卑屈になる。
「た、大変申し訳ございませんでした。確かにお客様方に対しては、料金のご説明をしてませんでした。これは当方のミスでございます。従って今回は無料という事で…」

「え!?良いの?50000ゴールド払わなくて良いの?」
まぁ当然ね…
「はい!」
「アルル、良かったね…無料だってさ!」
お父さん満面の笑み…小男、安堵の笑み。

「じゃぁ、僕の歌を聴いた料金を払え!500000000ゴールドだ、払え!!」
えぇぇぇ!?
だって50000払わなくて良くなったのに!?

「な、何を…当方は譲歩したではないですか!」
「それはそっちの勝手だろ!?こっちは請求を止める気は無い!払え!」
いや、そうだけど……でも酷くない?

「ぐっ…しょ、少々お待ち下さい」
困った小男、部下に合図し助っ人を呼びに行かせた。
でもね、誰が来たってムリよ…
地獄の帝王クラスを2.3人呼ばないと………
居る?知り合いに地獄の帝王が居る?




「一体何事や!急にウチを呼び付けて…」
しかしながらやって来たのはエコナ嬢。
流石に地獄の帝王に知己はなく、この町の最高権力者を呼ぶに終わる。
愛人に色仕掛けで迫られて、コロッと落ちる様ならグランバニアはお終いよ。

「お忙しいところ申し訳ございません!実はこの方達がとんでもない言い掛かりを付ける故、エコナ様のお力を頼らせてもらう次第です」
先に言い掛かりを付けたのはそっちじゃん!
「………何があったんや………?」
うわぁ…凄く嫌そうな感じのエコナさん…
私達に関わり合いたくないんだろうなぁ…

と、その間にも状況説明を受けている。
「な!?5億ゴールド!何考えてるんやリュカはんは!」
うん。私も思う。
身内だけど私もそう思う。

「だって…僕はステージに上がって歌を披露したんだよ!そっちのお嬢さんが言ってた!『ショウを観たら、料金を払うのが当然!』って…」
ジャイアニズムってこう言う事よね!
「そ、それはプロが正式にステージで歌を披露したからや!リュカはんはプロとちゃうやん!」
「僕プロだよ」
言い切ったぁー!
言い切りましたわよこの男。

「ふざけんなや!リュカはんの何処がプロやねん!」
「じゃぁ、アイツ等の何処がプロなんだよ!?この劇場で下手くそな歌を披露した、あの2人はどの辺がプロなんですか?」
おっと結構な正論…あのレベルでプロって…80年代の日本くらいよ許すのは!
「そ、それは…」
何も言えなくなってやんの!

「言った者勝ちじゃん!『私はプロですよ~!』って!」
「で、でも…金取るなんて知らんかったんや…後から言うなんてズルイやん!」
おいおい…後出しジャンケンそっちが先行。
「後から言って来たのはそっちだろが!帰り際になって『観賞料50000ゴールドです』って、先に吹っ掛けてきたのはそっちだ!」
「ご、50000ゴールド!?」
何この驚き様?
まさか知らなかったの?

「何だ…知らなかったのか…きっと今までボッタクってたんだよコイツ!」
えー…だってこの町の責任者でしょー?
この劇場を町民の反対を押し切って誘致したんでしょー!?
内情を知らないのって拙くない?
「何考えてんや…あの二人の出演料は1ステージで2000ゴールドやで!」
「すげ…客1人でお釣りがくるじゃん!…儲けは全部、其奴のポッケの中か?」

「し、しかし…エコナ様は私に一任してくれたではないですか!?」
一任って…任せすぎ!
「そりゃ劇場経営は任せたけど、50000ゴールドは非常識やろ!お客が来なくなるやん!」
実際に客は居なかったもんね…ガラガラだったし…

「何を甘い事を…どうせ直ぐにこの町は寂れるのです…今の内に取れるだけ取っておかねば…」
あら?
小男開き直ったわねぇ…
「………消えろ!お前はクビや!今すぐこの町から消えろ!」
「ふん!喜んで出て行きますよ…沈みかけた船に居着くほど酔狂では無いのでね…」
お前が言うな!
船底に穴を空けるネズミが!

「おい、待て!」
立ち去ろうとする小男共を呼び止めるお父さん。
もういいじゃん…そいつ等見ているだけで気分悪いんだけど…
「お前…声からしてムカつく!もう喋るな!!」
そう言うと小男の下顎を掴み、力任せに握り潰す!
「きゃがっっっがが!!」
ステキな悲鳴に濡らしてしまう私…

「ベホマ」
しかし次の瞬間、お父さんはベホマを唱え治療してしまう。
でも顎の語りは酷く歪。
「よし!これでお前のムカつく台詞を、二度と聞かずに済むね。………次は誰かな?」
私のパパはステキパパ!
爽やかな笑顔で残りの取り巻き共を見渡すパパ。

慌てて逃げ出すボッタクリ一味。
うん。気分爽快ですぅ!


「リュカはん…ありがとう。お陰で助かったわぁ…あんな最低な野郎だったなんて…」
「何甘い事ぬかしてんだバカ女が!」
うぉ!?
いきなり怒鳴られビックリ仰天!
「リュ、リュカはん…」

「エコナ…君は町造りを甘く見てないか!?ただ施設を建て、責任者を据えて任せれば良いと考えてないか!?」
確かに…何も把握して無さ過ぎだったわね。
「責任者を指名するのならば、能力と人となりを考慮に入れなければいけないんだ!」
「そないな事言うても、あないな人間とは思わなかったんや!」
誰だってそうだ!

「僕は人選ミスを責めてるのではない…エコナも人間なのだから、ミスをするだろうし、奴も本音を隠してエコナに接触して来たのだろうから、見抜く事は容易ではないだろう…だからこそ、任命した後も注意深く状況を把握する事が必要なんだ!君は任せっきりで、劇場の事を何も知らないのだろう!スパイを仕立て、客として劇場に向かわせれば、このボッタクリは直ぐに発覚したに違いない…」
ムリよ…今のエコナさんには、そんな人望無いもの。

「そ、そんな事言うたって…ウチかて忙しいのや…アレもコレも一片に出来へん!」
出た“忙しいからー”とかいう言い訳!
「だったら町造りを一時停止させ、時間を作れば良いだろ!まともに機能しない施設を作って、町を成長させてる気か!?笑わせるな!町も人も、少しずつ成長するものなんだ…焦ったって膿が広がるだけだ!さっきのオーナーみたいな膿が…」
エコナさん泣いちゃった…

お父さんに怒られるとは思ってなかったのね…
でも甘いわよ。
私のお父さんはね、叱る時はキッチリ叱る人なの。
だからこそ尊敬出来るんだよ。

「良く聞きなさい…人が居るから、町や国が必要になるんだ。逆はあり得ない…極論すれば、町や国が無くても人は生きて行ける…でも町や国は人無しでは存在できない!何故だか分かるかいマリー?」
うぉ!?い、いきなり話を振らないでよ…
「え、え~とですね…町や国は、人々が生き易い環境を整える為にだけ存在してるから…です!」
って事よね?
「その通り!其処に住む人々を犠牲にして町を大きくしても、規模が大きくなるだけで質は低下する!」
あー焦った…お父さんが真面目モードの時は気ー抜けないわね…

「エコナ、憶えてるかい?ロマリアで王位を断った時の僕等の会話を…」
「憶えてる…『権力には責任が付いて来るんだよ!権力が大きければ大きい程、責任も大きくなる』って言うてた」
へー、そんな格好いいこと言ったんだ!

「そう…町の長として、君は好き勝手に施設を建設させる事が出来る…でもそれには責任が付き纏うんだ!より良く町を成長させる責任が!君はそれを果たしてない………この町を見回ったけど、診療所が少なすぎる…商業施設や娯楽施設などの金儲けがし易い施設は多いけど、町民の為の福祉施設が極端に少ないよ!」

「それは…何れ作ろうと思うとったんや…今は手っ取り早く資金を稼がなあかんと思って…」
何れって何時よ!?
必要な物、先に造らないでそうするのよ!?
「君は本当にこの町を成長させたいの?…それとも、ただ権力を振りかざしたかっただけ?」
お父さんはエコナさんの顔を覗き込み、優しい口調で問いただす。

「ウチはこの町を、世界中に名を轟かせる町にしたいんや!世界最高のエコナバーグにしたいんや!」
「だったら町民とよく話し合い、町民の意見も尊重し、互いに理解し合いながら協力するべきだと思わないかい?」
うん。その意志があるのなら、きっとみんなも解ってくれる…
エコナさんは凄い人だし、町の人達と協力出来れば、世界最高の町を造れると思うわ。


お父さんはまだ涙の止まらないエコナさんの手を取り、早足で劇場を後にする。
「ど、何処に行くんや!?」
「決まってるだろ…君が町造りを決意したスタート位置に行くんだ…再スタートの為にね」
それって…何処?

そう思っていたら直ぐに目的地に着いた。
「此処は?」
タイロンさんが入っていった小さな道具屋…
エコナさんはタイロンさんが此処に住んでいることすら知らないんだわ…

「さ…此処が君の再スタートラインだ!ここから先は自身の力で進みなさい。この家の人が君を見捨てずに、最後まで協力してくれるから…」
そうお父さんに言われ、恐る恐るドアをノックする。
(コンコン)


もう私達の出番はお終いみたい…
そそくさと船まで戻り、次の目的地を目指します。
エコナバーグが立派になるのを願いつつ…



 

 

はぢめてのでぇと

 
前書き
乙女チックルネッサンス!

…えっと…………
乙女チックなマリーを書きました。 

 
船を手に入れポルトガを出港してから既に半年…
エジンベア以来、大きな港に寄港しなかった事もあり、幽霊船探しを行う前に物資の補給と水夫等の休息の為、ロマリア港へ停泊することとなった私達。
当然の事だが、私とウルフにも休暇が与えられることになる。
正直言って今日が私の誕生日なのでとっても嬉しいです!

でもお父さん達は気付いてないみたい…
全然話題に上がらなかったし…
まぁ…寂しいけどしょうがないよね…
今は冒険の途中で忙しいワケだし…

しかーし!
個人的に楽しむのは問題なかろうて!
彼氏を誘ってロマリアの町をデートだぜ!





うふふふふ…
私は今、大好きな彼氏とデートをしている。
仲良く手を繋いでデートを堪能しております!
ホント言うと腕を組んでイチャつきたいけど、身長差がありすぎて私がウルフの腕にぶら下がってるだけになっちゃうのよ…
でもいいの!
だって初めてのデートだもん!
2人きりで初めてのデートだもん!


別に何処に行く訳でもなく…ただ手を繋いでロマリアの町並みを散歩する私達。
きっと知らない人は仲の良い兄妹にしか見えないんだろうなぁ…
ところがドッコイ、ズコバコしまくりのカップルよ!
見えないだろー…私が既に処女ではないなんて…見えないだろう!

「あ、マリー!あっちに雑貨屋があるよ。ちょっと見ていこうよ」
「うん♡」
どうやらウルフは何かを探している様で、結構色んなお店に入っては、置いてある商品を真剣に物色している。
私が“何を探してるの?”って聞いても、“ううん…いい物があればなってだけだよ”って答えをはぐらかすの…

一体何を探してるのかしらねぇ?
お父さんへの日頃の感謝を込めて、仕返しグッズでも探してるのかしら?
逆バイアグラ的な薬とか…
面白そうだし、言ってくれれば協力するのに…

ウルフに連れられて入った雑貨屋さん…
ぶっちゃけウルフには似合わない店内。
可愛いテントウ虫のブローチや、モンシロチョウのカチューシャ…
ピンク地に真っ赤なイチゴのカーテンとか…彼が少女趣味だったら頷ける品揃えの物ばかり。

あ、それとも私に気を使ってるの?
でも言ったわよね!?
私は転生者で、もう少女とか呼ばれる年齢を逸脱しちゃってるって…
見た目に騙されないでね。

「あ、コレいいなぁ…可愛いよね!?」
本当に少女趣味なのかしら?
カワセミをあしらった小さな髪留めを手に取り、瞳を輝かせて私に問うてくる。
「え!?あ、うん…いいんじゃない?」
「うん。いいよね!…すみません、これをください」

困惑しながら返した私の答え…どういう風に受け取ったのかは判らないが、嬉しそうに店員を呼び購入をするウルフ…
やだな…あんな可愛い髪留めをする彼氏って…
なんか私より少女らしい。


ファンシーなお店を出ると丁度お昼ご飯時…
何だか遠くで『シーフードピザ』って単語が聞こえてきたので、港方面に戻りピザ屋を探す。
程なく海沿いのオープンテラスのピザ屋を発見。
ファンシーな彼氏と共に空いている席へと座り、シーフードピザを注文する。

オーシャンビューなこの席は最高で、本日の晴天と相俟って海が美しすぎるんです!
誰も祝ってくれないけど、自分の誕生日に満足していると、ウルフが先程購入した髪留めを取り出し私に見せてくる。
「はいマリー…」
可愛い髪留めが相当嬉しいらしく、頻りに私に自慢する…
無碍にするのも可哀想だし…
「うん…凄く可愛いね」
と、笑顔で答えてあげる大人な私。

「うん。可愛いよ…可愛いマリーが付けたら、もっと可愛いと思うよ。…はい、誕生日おめでとう」
「……………」
おや?
今、何と、仰いましたのでしょうか?

「あの~…今、誕生日って言った?」
「うん、言ったよ…今日はマリーの誕生日だろ?」
「ど、どうして知ってるの?」
「リュカさんに聞いたんだ…きっと今晩は船内でパーティーをしてくれるハズだよ。だってその為にムリしてロマリアへ寄港したんだからね!」
あ、ヤバイ…嬉しすぎて涙が出てきた…

「本当はさ…エコナバーグで何か買うつもりだったんだけど、買い物する時間が全然無かったじゃん!だからモニカさんに無理言って、ロマリアまで急がせたんだ…」
何だこの男!?
何で私を泣かすのが上手いんだ!?
涙が溢れすぎて、全然髪留めが見えないじゃんか!

私の方が精神は年上なのよ!!
なのに何で私が泣かされてんの!?
「あ、あいあとう…」
もう泣きながらなので、何を言ってるのか自分でも判らないわよ!
すると彼は優しく髪留めを付けてくれた…
ダメ…もうムリ…
この人以外、男が見えないわ!







思いっきり泣きまくり、シーフードピザを平らげて、心とお腹を満足させた私達は、再度町中へ繰り出した。
正直言ってデートの続きってより、人目を逃れる物陰がないかを探してるんですけどね!
何の為に?って…オイオイ!
聞くなよ…野暮だなぁ…

そうして気が付けばロマリア城の前に辿り着く私達…
お城から出てくるお父さん達と鉢合わせ。
「あれ?何でお城から出てきたの?お父さん達だけ、お城でお持て成しされてたの?」
そう気軽に入って良い物じゃないでしょうに…
「そうなのよマリーちゃん!貴女のお父さんは、この国の王様に気に入られてるから、特別料理をご馳走になってたのよ!」
うわぁ、マジだ!?
お前等だけ良い物食いやがって…

「ズルイ!私もご馳走食べたかったのにぃ!………何、食べたの?」
こっちは誕生日なんだぞ!
「聞いて驚けマリー!僕だけのスペシャル料理『シーフードピザ、魚介類抜き』だ!」
アレ…気が合うなぁと思ったけど“魚介類抜き”?

「……………………具は?」
「シーフード…つまり魚介類だ!」
「………抜き…でしょ?」
「抜きだ!」
何だそりゃ!?
ビザ生地にトマトソースとチーズだけじゃね?
ちょ~うける~!

「何でお父さんは、そんな嫌がらせをされてるの?」
どんだけ嫌われてるんだよ!
「うん。僕が要望したんだ!………嫌がらせのつもりで」
はぁ?意味分からん…相変わらず意味分からん!
「へ~…でも嫌がらせを受けてるのは、お父さんよね!?」
「うん。満面の笑みで、具無しピザを振る舞われたよ!ちょ~うける~!」
うん。ちょ~うける~!


私達は大爆笑しながら停泊中の船に帰って行く。
そして船内の食堂では、見事な誕生日パーティーを催してもらいました!
あー…今日は最高の1日です!



 

 

コント“襲われるぅ~”

楽しい時間というのは素早く去って行くもの…
最高に楽しいお誕生日会も終わり、次の目的である『愛の思いで』を手に入れる為、私達は幽霊船を目指してます。

ロマリア港を出港して3日…
私達の前方に薄気味悪い船影が見えてきました。
やっべ…ちょっと怖いかも…
思わずウルフに抱き付いてしまう…

すると彼は私を左手で抱き寄せ、そのまま乳を揉み出した。
え、こんな時に!?
思わずジト目で見上げると、爽やかな笑顔でウィンクし、サムズアップで答えてくれた。
あぁ、ワザとか…チャラけて落ち着かせてくれたのか…
本当にお父さんに似てきたなぁ…


「めんどくせー!僕はお船を守る係に徹するよ!」
流石は私のお父さん…気の抜ける声でサボタージュ宣言!
「アナタの娘さんの我が儘に付き合うのですよ!しかもアナタまで推奨したではないですか!!責任を取って下さい!」
そんな事は許さないのが女勇者のアルルさん。
半ば強引に幽霊船へと乗り移る。


「そう言えばビアンカは、もうお化けは怖くないの?」
あぁ…そう言えば幼い頃のお母さんは、そう言う設定だったなぁ…
「………何時の話をしてるのよ!」
「ついこの間…猫さんパンツを見ちゃった時」
何だパンツ見たって?どんなシチュエーション?
「もう!………まだ怖いから手を繋いでてね♡」
つか、薄暗い幽霊船内でイチャつかれるとガチでイラつくんですけど!?
お前等帰れよ!って言いたくなる…

しかし此処はダンジョンなのだ…
幽霊の人もチラホラ居るが、モンスターの人もガッツリ居る!
明確な理由を提示出来ないまま、私が幽霊船まで導いた手前、戦闘を手抜きするワケにもいかず、私とウルフは一生懸命戦っている。

暫く戦闘をこなし幽霊の人に話しかけてみると…
「多分、僕はもう君には会えない…誰かオリビアに伝えて欲しい…愛していると…この船底に隠した思い出のペンダントと共に…誰か伝えてくれ…僕とオリビアの愛の思い出を…」
と、ブツブツ独り言を言う暗い男に出会しました。

うん。間違いなくコイツが『エリック』だ。
つーことは間違いなく何処かに『愛の思い出』があるはずね。
「お父さん…私達の探す物は、エリックさんとオリビアさんの『愛の思い出』よ!きっと何処かに、奴隷達の寝床があるはず…其処に行きましょう!」
言うが早いかさっさと歩き出す私。
勿論ついてきてくれるのはウルフ…
私を守る様に付き従ってくれる。
今夜は寝かさないわよ♥


船内を探索する事数10分…
何だか小汚い部屋を発見しました。
多分…きっと…ここが奴隷の人達の寝床だと思う…

それ程広くない室内を探し回り、床の隙間にペンダントの様な物を発見しました。
「やった!!これよこれ!これが『愛の思い出』よ!これでオリビアのヒスも収まるはずよ!」
よっしゃぁー!
これさえあれば『オリビアの岬』も大丈夫!

「…なぁマリー…『オリビアのヒス』って何?」
少しばかりはしゃぎすぎたのか、お兄ちゃんが疑問を投げかけてきた…
う~ん…マズッたかしら?

「…あ!………っと…え~とぉ…や、やだぁ~、お兄様のえっちぃ!!」
ちょっと強引に話を終わらせる。
だって“ゲームでやったから!”って言える訳無いじゃん!
「え!?あ…ご、ごめん!そんなつもりじゃ………」
うん。上手く誤魔化せるとは思ってなかったよ。
逆にビックリッス!


「きゃー!ダレかタスケてー!!」
そして私の誤魔化しに追い打ちをかける様に、どことなくわざとらしい悲鳴が部屋の外から聞こえてくる。
取り敢えず悲鳴の聞こえてくる方へと向かう私達。

其処にはフードを頭に被り女の子っぽい恰好をしたミニデーモンと、襲いかかるフリをする腐った死体が2体…
何やってんだ?

「なぁティミー…アレ、何やってるんだと思う?」
「さぁ…僕には分かりませんが…父さんの方が詳しいのでは?モンスターや女の子の事なら得意分野でしょう!」
満場一致で何をやっているのか分からない…
私達は呆然と眺めているだけ。

「襲われるぅ~!タスケて~!」
何だ、お遊戯会か?
それともコントか?
タイトルは『襲われるぅ~』って感じ?

「ねぇリュカさん…どうすれば良いんでしょうか?歴戦の冒険者として、良い対処法があるのでは?」
「………放っとかね、こんな奴等!?」
うん、それが良いと思うわ。
でもコントを中断し、ミニデーモンが私達に近付き怒鳴り出す。
「ちょっと、助けなさいよ!か弱い女の子が、凶悪なモンスターに襲われてるんだからね!」

女の子?
口調はそうだけど…そうは見えないなぁ…
どうしたいの?

「お前もモンスターだろが!見逃してやるから、あっち行って友達と遊んでろ!」
流石お父さん…モンスターの扱いに慣れてるわぁ~
「さ、流石は勇者一行だな!俺様の完璧な作戦を見破るとは…」
えぇ~…あのコントのどの辺が作戦だったの?

「どうしようティミー…お前突っ込み得意だろ!突っ込んでやれよ!」
「嫌ですよ僕だって!こんなバカに関わりたくない!」
そうよねぇ…関わり合いたくないわよねぇ…

「えぇい、バレてしまっては仕方ない!お前達、やっておしまい!!」
お!演目が変わったぞ…コント『やられキャラ3人集』
“お仕置きだべさぁ~”って感じで腐った死体にメラを唱える。
ほぼ同時にウルフもメラミで腐った死体に攻撃をする。

「げ!?………瞬殺?」
いくら何でも瞬殺されるとは思っていなかったらしく、予想外の展開にブルってるミニデーモン。
ちょっと可愛いかも…

「リュカさん…どうしますか、コイツ」
そんな私の気持ちを解ってなのか、ウルフが意地悪く処遇を確認する。
「どうしよっか…?」

「ち、違うんッスよ!僕、本当は良い子なんです!でもさっきの奴等に脅されて、仕方なく協力させられてたんですよぉ!」
すげーなコイツ…今度は被害者面してるよ。
「でもさっき『俺様の完璧な作戦』って言ってたじゃん。お前がリーダーだろ?」
リュカは屈み、ミニデーモンと目線を合わせ語りかける。
「そ、そう言えって言われたんですぅ…許してくださいぃ…」

「………なるほど………でも、そうなると凄いな…あの腐った死体の作戦は!もう少しで引っかかるほどの高等戦術だったよね!いやぁ~天才だね!」
急にお父さんはミニデーモンの作戦を褒めだした…本気かしら?
「そうだろ、そうだろ!やっぱ俺様超天才!まぁ俺様ぐらいになると、あんな作戦を立案するのは朝飯前っつ~の?いやぁ~…自分の才能が怖い!なぁ~んつって!!わはっはっはっはっ!」

(ゴツン!)
「やっぱお前がリーダーじゃん!何、か弱いフリこいてんだ!」
何だ…この為か…
「あいた~!!………は!?ひ、卑怯だぞ…誘導尋問なんて!」
「誘導してねーよ、バ~カ!」

「まぁまぁリュカ…面白い子じゃない。連れて行きましょうよ!」
それこそ本気か?
「俺様は、高貴なる魔族だぞ!気安く触んじゃねー、ババアー!!」

(ゴス!!)
「っぐはぁぁぁ!!!」
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿だとは…
お母さんにババアなんて…考えただけでも恐ろしい。

「次言ったら、その羽を毟り取るぞ!!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!!もう言いません!許して下さい、美しいお姉様!」
あはははは、ちょ~おもしろーい!
ちょっと気に入っちゃった!

済し崩し的に連れて行くこととなったミニデーモン。
名前が長いのでミニモンって呼ぼうと思うけど、もっと他に名前があるのかな?
「私マリー。アナタの後頭部に、拳骨を落とした夫婦の娘よ!アナタのお名前は?」
私は極めて可愛らしくミニモン(仮)に話しかけてみる。
「ふん!下等な人間が、気安く俺様に話しかけるな!」
(ゴズ!!)

うん。予想の斜め下を行くお答えに、思わず手が出る8歳児。
「アナタのお名前は???」
再度笑顔で尋ねます。

「いたたたた…お前等親子は………ふん、俺様を呼ぶ時は『高等魔族のミニデーモン様』と呼べ!」
やっぱりミニモンだ!
「うん、分かった。ミニモンね!よろしくミニモン」

「ちょ、聞いてた!?高等魔族ミ「なげーんだよ!ミニモンで決定なんだよ!!」
なおもしつこく名前を名乗るミニモン…
有無を言わさず圧倒する私…うん、お父さんとお母さんの娘だね!

「調子に乗るなよ!」
それでも諦めないミニモンは、拳を握り締め私に詰め寄ってきた。
でもね…愛しの彼が私を守ってくれるの~♥
「俺の彼女に手を出すんじゃねぇ!」

「ふざけんな!そんなペチャパイブスに手を出すかボケェ!」
(ゴス!!)
「ぐはぁぁぁ………同じ所をポカポカ殴りやがって!」
ナイスウルフ!
ペチャは許してもブスは許せん!
「次言ったら、その舌引っこ抜くぞこの野郎!」
そうよ、オッパイはこれから大きくなるんだからね!


こんな私達のやり取りを見て、離れた所でお兄ちゃんとアルルさんがイチャイチャ・ラブってる。
「何だ…お前等男同士でイチャつくゲイかと思ったら、こっちの野郎は牝だったか…胸が無いから男かと思ったぜ!」
(ゴスン!)(ドガッ!)
「だはぁぁぁぁ………!」
う~ん…黙っていれば良いのに…懲りない馬鹿ねぇ…

「お前、余計な一言が多くて友達居ないだろ」
お父さんがミニモンを抱き上げ、ベホイミで優しく治療してあげている。
「ふん!友達など要らん!俺様は高貴なる魔族だぞ…」
まだ言ってるし…
「ふふふ…じゃぁ僕が友達になってやるから、もう少し仲良くしようぜ…お前の実力じゃ、僕の仲間には勝てないのだから、面と向かって悪口を言わない事!良いね?」
ホント…お父さんって優しいわよね。

「くっそー………何時か見てろ。必ず…復讐して…やるからな………」
気付けばお父さんに抱っこされ、寝入っちゃてるミニモン。
「もうちょっと口の悪さを押さえられれば、面白い奴なのにね!」
うん。それに可愛い。

「お前とウルフで、今の内から予行練習をしておけよ。寝顔は可愛いだろ?」
はぁ?
連れて行くって言い出したのはアナタの嫁よ!
こっちに押し付けないでよ!

「ちょ…何で俺達なの!?優先順位的にはアルルとティミーさんが先だろ!?」
本当はそうだけど…まだムリっぽいし…
「いや、この二人は…其処まで達してないし…もっと手前で止まってるし!きっとお前等の方が先だと思うし!」
それを言われちゃうとねぇ…
むくれてるアルルさんとは対照的に、何を言われているのか解ってないお兄ちゃん…
はぁ…我慢するか…



 

 

レアアイテムあるよ

またまたグリンラッドへと訪れた私達。
途中エコナバーグによって、ちょっと後味悪い思いをしたけど大丈夫!
お父さんがステキに解決してくれました。

そんで、変化の杖悪用を気にかけるお父さんは、早足でジーさんの小屋へと向かってます。
それともアホみたいに寒くて急いでるのかな?
寒いの苦手みたいだし…


(コンコン)
ノックと共に小屋へと入るお父さん…
返事を待とうよ!

「いらっしゃ~い!待ってたの~!!もう私の○○○は濡れ濡れで準備OKよ!」
入っていきなり衝撃映像!
マッパのお母さんが大股おっぴろげでお出迎え!?

(ゴスッ!!)
「ふざけんなクソ爺!何、ビアンカの姿で勝手に売春してやがるんだ!!」
ハンパ無いスピードでお母さん(偽者)を殴るお父さん。
どうやらジジイが杖で変身していたみたいです…

「ち、違う…誤解だ!ワシは売春などしとらん!ただ、来る人みんなを驚かしていただけだって!ワシだって男に犯されるのは嫌だからな!」
威張って言うことか!?
「知るかボケェ!ビアンカの姿でやるんじゃねぇ!」
そうだ!私の自慢のお母さんを汚すな!
「だってしょうがないだろ…ワシの知る限りで一番の美女なんだから!…ほれ、そっちの兄ちゃんなんかは、刺激が強すぎた様で鼻血出しとるぞ!」
振り向くとお兄ちゃんが鼻から大量に出血している…
マジかよ…実の母親で興奮するなよ…

「お、お前…母親の裸で興奮するなよ!」
「ち、違いますよ…急だったから…違いますからね!」
その言い訳、合ってる?
「何と!?そんなに大きな息子が居るんか!?この体…そうは見えんのぉ…」
まぁ…10年程石になってて、歳とってないからねぇ…

「てめぇ~…さっさと服着るか、その変化を解け!人の嫁汚しやがって、ぶっ殺すぞコノヤロー!!」
つか、よく殺さなかったなぁ…と思うくらい怒っているお父さん。
テーブルクロスを投げ付け、お母さんの裸を隠す様仕向ける。

ジジイも変化を解き、股間を隠しながら着替えの側まで歩いて行く…でも着替える時は丸見え!
嫌な物見た…



「さて…もうレンタル期間終了か…惜しいのぉ」
着替え終わり名残惜しそうに杖を眺めるジジイ。
「うるさい!さっさと杖を返せバカ!碌な事に使わない!!これなら、何処ぞの国王に化けて国政を壟断した奴の方がまだマシだ!」
すげー基準だな。
妻の裸を不特定多数に晒されて頭にきてるのは解るけど、国政壟断の方がマシって言い過ぎっしょ!

「のう、期間を延長してはくれんかいな!?別のアイテムを進呈するぞ!」
相当気に入ってる様で、他のアイテムで口説こうと試みてる。
「これはな『理力の杖』と言ってな、力の弱い魔法使い系用の武器なんだ。装備した者の魔法力を攻撃力に変え、敵に大打撃を与える杖なんだぞ!どうだ?コレと交換で…」

「要らん!魔法使い系が接近戦を行っている時点で、そのパーティーは終わりだ!魔法使いは、直接攻撃の届かない所から、魔法で攻撃をすれば良いんだ!」
だろうな…
ビアンカラブなこの男に、あんな事見せてしまっては、並のアイテムじゃ心動かないと思う。
理力の杖如きじゃ………ねぇ!?

「…では、コレならどうだろう?」
諦めの悪いジジイは、更に何かを取り出し口説き続ける。
「これはな『消え去り草』と言って、なんとコレを食すと姿が消せるんだ!どうだ、凄いだろう!」
「姿消して何だつーんだバ~カ!何の役にも立たんじゃないか!」
えー…結構役に立つと思うけど…エッチな使い方関係で………ねぇ?

「分かっとらんのぉ…姿を消せば、女湯や女子更衣室に入って観賞しまくりじゃぞ!」
「バカかお前は!?見るだけで何が楽しいんだ!!触って味わって、初めて楽しいんだろが!大体、見るだけだったら直接お願いすれば良いじゃないか!」
まぁ確かに…

「バカはお前だ!お願いしたって見せてくれるわけないだろ!」
お願いするんじゃなく、誘惑するんだよ…この男はね。
「そんな事無いもんね!10人中7.8人は、お願いすればベッドイン出来るもんね!」
「そんなのリュカさんだけだろ…」
ウルフの鋭いツッコミ炸裂。

「ぐ…で、では、これなら!」
今度は何だ?…砂時計みたいな物を取り出したわよ………あれ?まさか…
「これは『時の砂』と言って「まぁ!!時の砂ですか!?」
えー!!DQ3で時の砂が登場すんの!?
すっげー欲しー!

「お父さん!時の砂って凄いアイテムなのよ!時間を少しだけ戻す事が出来るの!」
「よく知ってるのぉ…その通り、コレを使用すると5分だけ戻す事が出来るんじゃ!」
当然よジーさん!
そんなレアアイテム是非ゲットしたいもの!

「5分戻したからって何だっての!?まだ姿を消せた方が役立つじゃねぇーか!」
「お父さん…聞いて下さい。今後私達の前に、幾多の強敵が現れると思われます!そんな強敵等はどの様な戦い方をするのか分かってません。それなのに、行き当たりばったりで戦い、即死する様な攻撃をされたらどうします!?でも、この時の砂があれば大丈夫!私達の誰かが死んでしまっても、死ぬ前までに時間を戻せば、敵の攻撃に対し対処法を見いだせるのですよ!これって凄い事よ!」
どうよ、私の説明で欲しくなったでしょ!
ウルフ達も頻りに頷いてるわ。

「マリー…お父さんはガッカリだよ…人生にも戦闘にもやり直しなんて無い!だからこそ、その一度に全力を尽くすんだ…その繰り返しで、人は強くなる!でもやり直せると思った時点で、敵を見くびり戦闘を軽視するんだ!そんな戦い方をしたって、人は強くはならない…ここはゲームじゃ無いんだぞ!戦って敵を倒せば、それだけで強くなるワケじゃない!如何に戦い敵を倒したか…それが強さへの要素になるんだ!」
でもお父さんは溜息混じりで否定した…

流石は隠れ苦労人…言うことの重みが違うわぁ…
「さ、流石父さんは凄い!常に心して戦う…人生に楽な道は無いのですね」
「そうだよねティミーさん!それにやり直せたとしても、俺は仲間が死ぬ姿などは見たくないし…」
ウルフとお兄ちゃんもお父さんの意見に同意してしまいました。
確かにそうかもしれないわね………


「くっそ~…これだけは出したくなかったが…致し方ない!」
もう殆ど失敗に終わった変化の杖ゲットチャンス…だが諦めないジジイ!
「コレでどうだ!」
満を持して取り出したアイテムに、
「こ、これは…!」
お父さんが響きを上げた!

それは何と、バニーガールのコスチュームだった。
ウサ耳バンド・網タイツ&ガーターベルト・ウサギの尻尾・バニースーツ…
「どうじゃ!バニーガールセット(BGS)じゃぞ!おヌシの嫁ならお似合いだろう!ふっふっふっ…どうだ、欲しいじゃろ!」
「くぅ………そ、それはぁ………い、要らん!そ、そんな物要らん!!」
断腸の思いで断るお父さん……えぇ、そんなに悩んじゃうの?

「くぅぅぅ!コレでもダメか!…おヌシの意志は相当な物じゃな!」
そんな大層な物じゃ無いだろう?
「な、何でソレに一番食い付いてるのよ!一番どうでも良いでしょ!」
アルルさんも私と同意見らしく、男2人のやり取りに呆れ叫ぶ。

「いや、アルル!俺はリュカさんの気持ちがよく分かる!」
分かんのかい!?
「その衣装をビアンカさんが纏ったら、どれほど素敵な物か…リュカさんは凄い!自分の欲望を捨ててまでも、この変化の杖を悪用させないんだから!」
「男って奴は…」
ウルフの言葉を聞き、頭を押さえながらお兄ちゃんの事を見るアルルさん…正直私もジト目でウルフを見た。

「ぼ、僕は違う!僕はあの衣装に魅力を感じてないよ!」
まだ鼻血が止まってないお兄ちゃん…説得力がない…男って奴は…
「そりゃティミーさんの彼女はアルルだからですよ!BGSは胸の大きな人じゃないと魅力的に見えない!ビアンカさん向きだ!」
(ゴスッ!)
うわ、痛そう…アルルさんの拳骨がウルフの脳天を直撃する。

「余計なお世話よ!アンタの彼女も似た様なもんじゃない!」
彼氏に揉まれているから、ちょっとは大きく成長してきたんですけど…
「ぐはぁぁぁ……………マ、マリーは違う…」
「何がよ!?」
「マリーには未来がある。まだ8歳になったばかりだぞ!アルルの半分だぞ!!ビアンカさんの娘だぞ!!」
おぅ、流石はマイダーリン!
これからに期待って事よね♡

「ほれ見ろ…この衣装は貴重だろ!どうだ…あと1年間の期間延長と交換では?…あぁ何だったら、これらのアイテムを全部やる!物々レンタルじゃなくていい!あと1年間の変化の杖使用延長で、これらのアイテムを全部やるから…な!たのむよぉ~」
すげー有利な条件じゃん。
杖を1年貸すだけで、さっき出したアイテムを全部貰えるなんて!

「爺さん…アンタが悪い…僕をこんなに頑なにさせたのは、アンタの所為なんだ。アンタがビアンカの裸を他人に晒さなければ、僕もBGSに飛び付いてた!」
だがお父さんはOKしなかった…
それ程までにお母さんの裸を他の男に見せたことが許せないのね…

………そこまで愛しているのなら、浮気しなければ良いのに!



 

 

ピピルマピピルマプリリンパ?…いえ、テクマクマヤコンです。

多数のレアアイテムの魅力を振り払い、私達は変化の杖を持って船へと戻った。
ちょっとだけ杖で遊んで見たかったけど、お父さんが手放さずお兄ちゃんをからかう事が出来ません。

しかしその日の夜…
夕食も済ませ食堂でダベってると、アルルさんがお父さんに近付き話しかけてきた。
「リュカさん…お願いがあります」
「……何?…ティミーじゃ物足りないから、僕に今晩の相手を頼むとか?」

(ビュン!)
私じゃ真っ二つになる様なスピードで、お父さんの頭の上に剣を振り下ろす勇者様。
何であんな言い方しか出来ないんだろう?
とは言え、いとも容易くアルルさんの剣を摘むのは流石だ。

「違うに決まってるでしょ!」
「分かってて言ってるんだから、こう言う危ない事はしないでよ!」
確かに…もうそろそろ、その男の性格を理解して欲しい。

「その…変化の杖を使わせて下さい…」
「………何に使うの?」
「知りたい事があるんです…今ここで、リュカさんの前で使用しますから…」
知りたい事…何かしら?

「……………まぁ、アルルなら変な事には使わないだろうし…」
「ありがとう!」
え、良いの!?お願いすれば使わせてくれるの!?
アルルさんはお父さんから杖を受け取り、そのまま私の側にやって来る。
な、何かしら…?

「ねぇマリーちゃん…この杖を使ってリュリュさんに変化して見せてよ」
「え!?な、何を急に!?」
はぁ?何なの?

「だって知りたいじゃない!自分の彼氏の初恋の相手が、どんな容姿なのかを…それにきっとティミーはまだ惚れてるし…」
はい。100パー未練タラタラ!
「ア、アルル!僕は「いいの!アナタの所為ではないの…私が覚悟を決めたいだけなんだから!」
言い訳をしようとするお兄ちゃんを手で制し、真っ直ぐ私を見つめ杖を差し出すアルルさん。

「本当にいいの?きっと後悔するわよ…リュリュお姉ちゃんは、凄く美人なのよ!」
「私は…戦う相手を知っておきたいの!スライムなのか…ベホマスライムなのか…分からないとこっちのスタンスも決まらないでしょ!」
笑ってられるのも今の内…一部分がキングスライム級よ!

「じゃ、使うわよ…アルルさん、諦めないでね!少なくとも、リュリュお姉ちゃんは兄ちゃんに恋愛感情は0だから!」
真剣な眼差しで頷くアルルさん…うん、可愛いわ。

私は杖を掲げ、リュリュお姉ちゃんを想像し意識を杖に集中する。
一瞬だけ淡い光に包まれ、視界が少しだけ高くなった。
それと同時に食堂内で響きが広がる。
皆が私を見て驚き唸ってる。


「す、すげぇ…美人…」
第一声は私の彼氏からだった………イラッとくる!
「どう?…勝てる?…言っておくけど、魔王より手強いわよリュリュお姉ちゃんは!」
この女に惚れないのは、父親ぐらいなもんね!
でもウルフの台詞にイラッとくる!

「か、勝てないかもしれない…」
いいえ…“かもしれない”じゃなく、絶対勝てない!
ガチで後悔するアルルさんに追い打ち攻撃。
ウルフにイラッときた八つ当たりじゃないわよ。

「アルル!勝ち負けなんて関係ない!…確かに僕はリュリュが好きだ。でも、アルルの方がもっと大好きなんだ!それにリュリュは妹なんだ…どんなに好きになっても、これ以上はどうにもならない…だから…アルルが気にする必要は無いんだよ」
うん。フォローになってないフォローにイラッとくる。

「つまりお兄ちゃんは、ヤれない女よりも、ヤれる可能性のある女に鞍替えしたって事かしら?」
「何でそう言う下品な言い方するんだ!」
別にウルフの第一声にイラッときた八つ当たりじゃないからね!
「だって、お兄ちゃんの父親の娘よ!こうなっちゃうでしょう…」
「はぁ…父親にだけは似てほしく無かったのに…」
でも見た目が父親に似てるコノねーちゃんにベタ惚れだろが!
………違う、八つ当たりじゃないんだってば!

「でかい………」
お兄ちゃんと口喧嘩をしていると、不意に乳を揉んでくるアルルさん。
この乳、確かにすげ~…

「そうよぉ~!ちょっと歩くだけで、ブルンブルン揺れるのよ!男はみんな、これに釘付け!」
私もこうなりたいなぁ…
「アルル…そんなに気にする事はないよ。ティミーはアルルにベタ惚れだから!」
お父さんが見かねてフォローに入った。

「で、でも…コレですよ!コレに惚れてたのに、簡単に私に鞍替え出来るんですか!?」
うん。今は私の乳なんだから、無造作に引っ張ったりしないでほしい。
「一応は僕の娘なんだからさ…コレって言わないでよ………アルル、良く聞いて。この船の船長…モニカの彼氏はカンダタだ。モニカはあの不男に惚れている!僕達大勢の前でプロポーズしたんだから、相当なモノだと思う。でもモニカは、カンダタの見た目に惚れたんじゃ無いと思うよ…もしそうだとしたら、かなり趣味の悪さだね!」
うん。その通りだと思うけど、酷い良い様ね。

「で、でも…」
だがやはり納得出来ないのが女心ってヤツ…
「アルルちゃん…ウルフ君を見てご覧なさい」
遂にお母さん登場…でも何でウルフを?

「ウ、ウルフが何ですか?」
「ウルフ君は間違いなくロリコンじゃ無いわ!何故なら私の胸元やスカートの中を意識している事がよくあるから…私の思い違いじゃ無いわよ。私は昔からそう言う目で見られてきたのだから間違いないわ!」
そうよ、ウルフがロリコンだったら、もっと楽にチェリーを奪えたんだからね!
今は少しでも早く、ウルフ好みの女に成長しないとならないんだからね!!

「そんなウルフ君が、まだ8歳の少女に恋をした!どう考えても見た目に惚れたワケでは無いでしょう。彼はマリーの内面に惚れ込んだのよ!」
ゔ…内面がドス黒かったので、面と向かって言われるとキツイ…
「内面に…」
「そうよ…勿論リュリュの内面も素晴らしい娘だけど、ティミーの心を掴んだのは貴女の内面なのよ…自信を持って!」

「はい…」
“はい”と言ったが、あんま納得してないアルルさん。
何…今日で破局なの?

「それにアルルちゃん!あまり私の息子を侮辱しないでもらいたいわね!」
「侮辱!?わ、私は別に…」
「貴女は私の息子が、見た目重視で女の子に惚れると思ってるでしょ!…現に、リュリュの姿を見て『勝てない』って言い切ったわ!」
いや事実だし…

「そ、そんなつもりで言ったのでは…」
「分かってるわよ…アルルちゃんが…いえ、皆さんがティミーの事をどう思っているのかは!」
「「「え!?」」」
何だ?お母さんのご立腹がこっちにまで飛び火したか?

「皆さん、こう思ってるのでしょう…極度のシスコンで巨乳フェチ!それが私の息子、ティミーだと!」
だってそうじゃん…シスコンじゃ無いけど、巨乳フェチじゃん!
ポピーお姉ちゃんに乳押し付けられると、嬉し恥ずかしでお顔真っ赤っかだぞ。

「マリー…」
「は~い」
いきなり呼ばれて正直ビビッた。
でも直ぐに理解出来たので、再度杖を翳して集中する。

さっき程肩こりに悩まされなくはなったけど、それでもまだ重力を多分に感じるオッパイ・ボーン!
そう…今度はポピーお姉ちゃんに変身するマリーちゃん。

「こ、これがポピーさん…!?」
説明せずとも誰だか判る美女…お兄ちゃんとそっくりな双子の美少女ポピーお姉ちゃんです!
マイダーリンが溜息がちに呟く…

「ポピーもリュリュと同い年の、ティミーの妹よ!でもティミーが大嫌いな女…」
「こ、こんな美女に囲まれて生きてきたのか!?ずりーなぁ…」
くっそ~ぅ…ぜってーもっと美女になってやる!ウルフの視線が他の女に行かないくらい!!

「全部妹だよ!」
「そ!この娘も妹………シスコン男が放っとくわけないわ!でもティミーはポピーに惚れてない!むしろ………」
うん、むしろ嫌ってる。性格の不一致ね…

「つまり…私が思っていたティミー像は間違っていた…と?」
「そうよ!ティミーがシスコンに見えたのは、初恋がリュリュだから…でも、初恋時には妹だとは知らなかった。それと…優しい子だから、マリーに対して甘く接した所為ね!マリーをリュカ色に染めないようにと努力してたから…」
「手遅れでしたけど…」
ちょ、冗談言わないでよ!
流石にあそこまでは………ねぇ?

「ふふふ……アルルちゃん、ティミーはね…全くと言って良いほど父親に似てないわ。でもね、たった1つだけそっくりな所があるの…何だと思う?」
「………性別……とか言わないですよね…?」
「それ、面白いわね!面白いけどハズレよ…リュカとそっくりな所は、見た目で人を判断しないとこよ!」
「つまり私の不安は杞憂って事ですね!?」
杞憂と言うか…こんな事を思い悩むくらいなら、さっさとヤっちゃえばいいのよ!

まだ不安が残るアルルさんに近付き、
「そうだよアルル…僕はアルルが大好きなんだから!」
と言って徐にキスするお兄ちゃん!
驚きです!こんなテクニックを持ってるなんて…

皆さんもビックリな様で、変化の杖の在処を目で探してます。
私は高らかと杖を掲げ、皆さんに大胆な行動をしたのが本物のお兄ちゃんである事を教えます。
「ど、どうやらティミーね…リュカが化けてたワケじゃ無いみたいね…」
一生懸命お兄ちゃんのフォローをしたお母さんにまで、そんな事を言わせてしまう朴念仁なお兄ちゃんが凄いと思います。



 
 

 
後書き
息子さんの『リュカ遺伝子』が開花し始めたのはここら辺からかな? 

 

永久に添い遂げる

「何で此処は『オリビアの岬』って言うの?…どっかで聞いた事ある名前なんだけど?何処で知り合った女性だったかなぁ…『オリビア』って?」
今更になってこれから通過する地名に疑問を抱くお父さん…

「お父さん…忘れちゃったの!?モニカさんと幽霊船のエリックさんの話を!」
地図を見て、地名に知り合いとの記憶を結びつけようとしてもムリがあると思う。
「あぁそうか!幽霊船で聞いた名前だったか!…何処でナンパした女性だったか考えちゃったよぉ!」
「何で女性の事を思い出すのに、ナンパの記憶を手繰るんですか!?」
流石は良いツッコミ!
「流石リュカさん!常人とは思考回路が違いますね!」
「いや~…そんなに褒めるなよ!」
だがボケも鋭すぎる!


そんな感じでヌル~く過ごしていたら、突如悲しげな歌が聞こえ、船が逆送し始めた。
やはりゲームと違い、いきなりの逆送に前のめりに転ぶ私達。
ウルフが身を呈してクッションになってくれたので、怪我はしなかったがちょっとムカつく。

「な、何なんだ!?…今の現象は何なんだよ!!」
船の逆送が止まり、カンダタが頭から血を流しながら吠える。
どうやらスッ転んで怪我したらしい。
周囲を見渡すと水夫等も数人怪我してる。

だけどお父さんは無傷。
お母さんを抱き抱え、怪我の有無を確認している。
お父さんは転ばなかったみたい…すごい足腰ね!

「な、なぁ、旦那…今の何なんだ!?何であんな事になるんだ?」
そんな事お父さんに聞いても分かる訳ないじゃん!
無傷である事を確認したのに、一応ベホマをお母さんにかけてるお父さん。

「知らん!」
と不機嫌に言いながら私にもベホマをかけてくれたわ♡
う~ん…流石ナイスガイ!

「モ、モニカ…お前は何か知ってるか?」
「さ、さぁ…ただ、もしかすると以前話した幽霊船の…関連かも…」
そうよ、その通り!
どうやってその答えに導こうかしら?

「此処は…オリビアの岬って名前だろ…オリビアは此処で自殺をしたのかも…」
「その通りですわモニカさん!此処は間違いなくオリビアさんが自殺した場所です!だからその呪いで先程の様な現象が起こったのですわ!」
ナ~イス!これで幽霊船のエリックが持っていた愛の思い出と繋がったわ!

「何でオリビアは僕等に呪いをかけるんだ?関係ねぇーだろ!」
「いえいえ…私達に呪いをかけたのではなく、この海域を通る船に対し呪いをかけてるんですよ」
「何で!?」
何かお父さんが凄く不機嫌…お母さんが怪我しそうになった事が、かなりご立腹みたい。

「愛した男性を、船の事故で喪った悲しみから、船全てを呪っているのでしょう…」
そう…切ない純愛物語。
「八つ当たりじゃねぇーか!イタい女だな!」
「お、お父さん………」
まぁそうとも言うけど…

「しかしコレじゃ先に進めないぞ!この先に『祠の牢獄』があるというのに…」
ところがドッコイ大丈夫なんだなコレが!
「モニカさん!その点は大丈夫です…ですから、もう1度船をオリビアの岬へ進めて下さい!」
私は愛の思い出を握り締めながら、モニカさんに再度岬への通過を進言する。

船は進み岬を抜ける直前、またも悲しげな歌が聞こえ、海流に乱れが生じる。
皆さん逆送に備えて踏ん張ってます…
でも大丈夫。
「オリビアさ~ん!エリックさんからの愛のメッセージを届けに来ました!この『愛の思い出』を受け取って下さい!!」
私は愛の思い出を天高く掲げ、オリビアに語りかける!

すると、周囲に響いていた悲しげな歌が止み、私の目の前に男と女の幽霊らしき人物が現れ見つめ合っている。
『ああ、エリック!私の愛しき人…貴方をずっと待ってたわ…』
『オリビア…僕のオリビア!もう君を離さない!』
『エリック!』『オリビア!』
あぁん…これで恋する2人は永久に結ばれたのね…


ウットリ夢気分から醒めると、当たりは静けさを取り戻しており、船は岬を通過していた。
「よ、良かったですね…愛し合う2人が一緒になれて…」
何かマジでシラけた空気なので、気を使う私…

「勝手だなぁ…散々迷惑かけておいて、詫びの一言もなく消えていったよアイツ等!」
「父さん…幽霊相手に無茶言わないで下さいよ…」
違うだろ…死して尚愛し合う2人の幸せを祝おうよ!
「ま、まぁ…これで先に進めるわけだし…良いじゃないですか!?」
う~ん…2人の幸せを祝っているのは私だけの様子…アルルさんも話題を変えようとしますわ。


「それにしても………何でマリーは、この『オリビアの岬』に呪いが掛かっている事を知ってたんだ?そうじゃなきゃ『愛の思い出』を探しに、ワザワザ幽霊船まで行かなかっただろう!何故だい?」
ギャース!
鈍感お兄ちゃんがその事に気付いた!?
“前世の記憶♡”って言えばこれ以上突っ込まれない?…ムリよね!

何て言い訳しよう…
「え…え~とですねぇ…コレはですねぇ…その~…」
全然思い付かない…
た、たすけてパパぁ~

「はぁ…ヤレヤレだな…」
困り果ててしまいお父さんに目で助けを乞うと、溜息混じりだが援護してくれそうです。
「何ですか!?何なんですか、その呆れる様な溜息は!?」
お兄ちゃんは不満そうだけどね。

「ティミー、よく聞け!情報というのは、何気ない雑談の中にも含まれているんだ!マリーは数々の情報を選別し、今回の事件解決の結論に至ったんだ!」
ほう!?一体どんな雑談に?
「ど、どんな情報があったと言うんですか!?」

「以前、モニカが幽霊船の逸話を話してくれたろ…そこには『エリック』と『オリビア』の名前も出てきたはずだ。そして地図を見れば、『オリビアの岬』と記載があり、幽霊船では、現世に名残を残して彷徨うエリックの幽霊が…後はちょっと推理すれば、自ずと答えが導き出せる!」
そうかなぁ?
ムリ無いかしら…それ?

「し、しかし…マリーは、モニカさんから幽霊船の逸話を聞く前から、幽霊船探しを望んでましたよ!矛盾しませんか?」
そうなのよ…そこがネックになってるの…
「その考え方は愚かだ!最初は単なる偶然だっただけだろう…ただ幽霊船を見てみたいだけだったのが、何時しか重要な手懸かりになっていただけだよ…だからこそ、幽霊船探しの重要性を、みんなに詳しく説明出来なかったんだ。後から重要性を説いても、ただの興味本位に正当性を持たせているようにしか見えないからね」
まぢですごい…
何なの…この人の口の巧さは…
よくそんだけ嘘を思い付くわねぇ…

はぁ~………でも助けられたわ!



 

 

エゴイズム

さて、祠の牢獄ッスよ!
ジメジメ暗くてヤな感じッスよ!
さっさと用事済ませて帰りたいッスよ!!

「私の亡骸の側を調べよ!」
突然どこからともなく現れた幽霊が、意味深な事を言ってくる…けど、
「きゃぁ!!」
突然出現した幽霊に驚くお母さん。
ギュって感じでお父さんに抱き付いた!

「うわぁ~い、ビアンカちょ~可愛い!大好きビアンカー!」
うん。あり得ないよね。
こんなジメジメジトジトな牢獄で、嫁を押し倒す父親って…
“ムラムラ”って感情が一番沸き起こらない場所じゃね?

「コラー!お前何やってんだ!?ここは牢獄だぞ!そう言う店じゃないんだぞ!」
「そうですよ父さん!この幽霊さんの言う通りです…場を弁えてくださいよ!」
「リュカさんの普段の不真面目には目を瞑ってきてるんですよ、私達……絶対ふざけちゃ行けない場面で、不真面目になるのは止めてくださいよ!それくらいお願いしますよ!」
「アルルの言う通りだぜ旦那…今はマズイだろ!?」
嫁とイチャついただけで、ボロクソに言われる男…
日頃の行いって大事よね!

「ところで貴方は誰ですか?」
お父さんの奇行に突っ込むのが手一杯で、誰も突然現れた幽霊の事を疑問に思わなかった…
なのでお父さんに突っ込みを入れなかったハツキさんが代表して、幽霊さんへ質問する。
お父さんの奇行に流されない人って、このパーティーには必要なのね…

「おぉ失礼しました…私はサイモン。サマンオサからバラモスを討伐しようと出立した者です。まぁ今は死んでしまいましたけどね!(笑)」
「あはははは、死んだらバラモス倒せないじゃん!」
「わっはっはっはっ、まさにその通り!」
何故かフィーリングが合うのか、お父さんとサイモンさんが共に笑い合っている…笑ってる場合じゃ無いからね!?

「お嬢さん…先程は驚かして失礼しました。久しぶりに美人を見てしまい、ちょっと張り切っちゃいました…」
「い、いえ…それは大丈夫ですが…それよりお嬢さんって呼ばないでください!私これでも人妻ですよ!」
今、そんなん関係無いじゃん!
幽霊にそんなこと自慢しなくてもいいじゃん!?

「なんと!?貴女は人妻でしたか!お美しくてお若いから判りませんでした…」
何だコイツ…
人妻をナンパし始めたぞ。
つーかさっき“そう言う店”って言ったよね…常連か?そう言う店の常連さんか!?

「良いだろ!僕の奥さんなんだゾ!羨ましいだろう!」
「………………ちっ!あぁ、あっちに俺の死体があるから、側調べてみ!良いもん見つかるから…」
急におざなりな態度で目的物の在処を言うサイモンさん。
美女が人妻な上、側には旦那も居るという状況にテンションだだ落ち!

相手するのがめんどくさくなった私達は、言われるがままサイモンさんの死体の側を調べ、『ガイアの剣』をゲットする。
「あぁ…それがあればネクロゴンドに乗り込めるから…後は勝手に頑張って!」
そう言って消えた…

「うん。こっちの世界の幽霊は、何だかみんな勝手だなぁ……幽霊船のエリックも、勝手に独り言呟いてただけだし…さっきのオリビアなんか、八つ当たりで妨害してくるし…今のは何だ!?ビアンカがフリーじゃないと判った途端、態度変えてきやがった!」
お母さんの事を抱き締めながら、サイモンさんに怒るお父さん…もしかして、お母さんを目の前でナンパされた事にご立腹?
だとしたら可愛いとこあるわよねぇ…

「………まぁ…何れにしても…ぶ、無事に『ガイアの剣』を手に入れたんですし…早速ネクロゴンドへ向かいましょう!」
「そ、そうだね…これでバラモスに大分近付いたね。地図で見る限り、アッサラームの町が一番近いし、お父さんのルーラで直ぐ向かいましょう」
真面目カップルのごく当たり前な意見…

「そうやって手を抜くのは良くない!時間をかける事で、人は強くなるのだよ」
でもルーラを使える唯一の男の意見はコレ!
えぇ!?ここから船で向かったら、最短でも2.3ヶ月かかるわよ!
なのにルーラを使わない気!?

「いや…ちょっと待ってくださいお父さん。え、何?ルーラを使っては頂けないのでしょうか?」
「そりゃそうだろ!君達は世界を救う旅をしているんだ…楽をして達成出来る事柄じゃないんだぞ!若いうちの苦労は買ってでもしろ…安易に楽をしてはいけないよ」
何故だろう…何故こんな状況下で、あんな正論らしい言い方が出来るんだろう?

「リュカさん!こうしている間にも、バラモスの影響で人々が不幸になっているんですよ!少しでも早く討伐しなければならないのに、何を暢気な事を言ってるんですか!?」
「早くバラモスのところへ行ったって、倒せなかったら意味ないだろう。一回でも多く実戦をこなして、確実に実力を付けていった方が間違いない!」

「私達は十分強くなってきてます!みんなで戦えば間違いなく勝てますよ!」
「みんなで~?僕は戦わないゾ!僕の事を戦力に入れて計算してるんじゃないの?」
当たり前だ!
この中で最強の人物じゃん!
つーか戦わないって宣言するなよ…

「父さん…何を言ってるんですか!?世界中の力無き人々が困ってるんですよ…見て見ぬふりなんて出来ませんよ!」
「何を言ってんの?って言いたいのは僕だよ。僕達の国…グランバニアは、急に国王不在になって困ってるんだよ!そのグランバニアを助けてくれる人って、こっちの世界にいらっしゃいますか?『異世界の事何って知らねーよ!』って言われるだけでしょ!僕達の世界に影響を及ぼさないこの世界なんて、どうなったって知らねーよ!(パパス)が愛したグランバニアの幸せだけで手一杯だつーの!」

「はぁ!?僕等はこの世界に来ちゃってるんですよ!もしかしたら帰れないかもしれないんですよ!!その世界が平和でなきゃ困るでしょう!?」
「困んねーよ!僕の周囲が、僕の生きている間だけ平和であれば、僕はそれで大満足だ!宣言するけど僕はエゴイストだ!自分の事しか考えてないから!」
はい…それは解ってましたけども…ここまでとは…

ここから私達の口論は泥沼化していった…
流石に飽きたお母さんが、お父さんに色仕掛けで責めるまで4時間…
ルーラを使ってアッサラームへ着いた時には黄昏が目に染みる時間でした。
お母さん…もっと早く行動してください。



 

 

魅惑の夜は終わらない?

船を使うよりは遥に早いが、ルーラなのに4時間も時を費やした私達…
“さぁネクロゴンドへ出発だー!”って気分にはとてもなれません。
今夜はこの町で英気を養いましょう。さっき無駄に疲れたから…


とっとと宿を取り、荷物を置いて食事に向かおうとロビーでみんなを待っている…が、お父さんを始めお兄ちゃんもウルフもカンダタさえも現れない。
何故か集まっているのは女性陣だけ…

不思議に思っていると、フードを目深に被ったミニモンが現れ、私達女性陣にお父さん達の行動を報告してきた。
「おい、野郎共は揃ってパフパフ屋へ向かったぞ!この町の歓楽街にあるイヤラシイ店に出陣したぜ!いいのかよ?」

良いわけねーだろ!
私達はミニモンをひっ掴むと凄い勢いで歓楽街を探索する。
そして程なく、一件のいかがわしい店に入ろうとしている知人男性等の姿を発見した!

「ちょっとリュカ、何やってんのよ!」
「あれ!?どうしたのビアンカ…何でここに?」
ウルフとカンダタは、私達に見つかった事で驚き脅えているのだが、リーダー格のお父さんと何故だかお兄ちゃんが驚くことなくキョトンとしている。

「何でじゃないわよお父さん!ウルフには私が居るのだから、変な所に連れて行かないでよ!」
「え…変な所?……父さん…この店は食事をする所ではないのですか?」
「ん?…うん。喰べる所だよ!」
どうやらお兄ちゃんは何も知らされず連れてこられた様だ。…まぁそうだろうなぁ。

「ウ、ウルフ!そりゃ私のオッパイじゃ不満だろうけど、絶対に大きく成長するから…もう少し待っててよ!!」
私は繁華街のど真ん中で、涙ながらに訴える。
「え、オッパイ!?と、父さ「違うんだマリー!」
何も知らないお兄ちゃんが疑問を投げ付けようとするが、慌てたウルフに遮られる。

「俺はマリーが居るから問題ないけど、リュカさんがティミーさんの為にって言うから、みんなでここに来たんだよ!」
「ちょっとリュカさん!私の彼氏を変な所に連れてこないでよ!」
ウルフの言い訳を聞いたアルルさんが、首謀者に向かって怒りをぶつける。

「ねぇ父さん…この店って一体何ですか?」
不穏な空気を流石に感じたお兄ちゃんは、キツめの口調でお父さんに問いただす。
「ティミー…このお店はね…」
するとお母さんがお父さんの側まで近付き、服の上からだが夫の頭を自分の胸の谷間に埋め、激しく包容してみせる。

「こう言う事を行うお店よ!」
両親の行動を見て、目をまん丸にして驚くお兄ちゃん。
なお、2人の行動を見て小声で『良いなぁ~…』と言った彼氏に苛つく私。

「な…ちょ、父さん!そんなヤラシイ所に僕を連れて来たんですか!?何考えてるんだアンタは!?」
やっと状況が理解出来、怒り出すお兄ちゃん。
でも果たして、私達が現れなかったら気付いた時点で中止したのだろうか?

「んぷはっ…だ、だってさぁ……アルルじゃ出来ないから、ティミーに経験させたかったんだ!父親として男の楽しみを体験させたかったんだ!」
お母さんの胸から顔を解放させ、悪びれることなく本音を語るお父さんは凄い…どっかおかしいけど凄い!

「わ、私じゃ出来ないって…よ、余計なお世話よ!胸の事は言わないでよ!!」
(バリバリバリ…ドーン!!)
貧乳を指摘されたアルルさんが、大激怒の末放った魔法は『ギガデイン』だった…

「うわぁ、危ね!!………当たったらどうすんだよ!?」
でも驚異的な素早さで避けるお父さん…貴方は人間ですか?
「当たりなさいよ!当たるのが礼儀でしょ!!」
どうやら新しい礼儀作法が出来たらしい。

「ヤダよ…女の子が怒って放つ電撃に当たるのは『諸星あ○る』くらいなもんだ!」
お、上手い事言う……いや違う!
それで笑うのは私ぐらいなもんだから!
みんなには解らないから!

「何を意味の分からない事を…」
ほら…他には誰も笑ってない。
まぁこの状況が笑えないのかもしれないけど…


お父さんと女性陣の口論は止まらない。
周囲のお店の店員さん達も、甚だ迷惑そうに私達を見続ける…
そんなタイミングでヤツは行動に出た!

悟られない様にお父さんの側へ近付いたミニモン…
一瞬の隙を付いてお父さんの腰に差してあった『変化の杖』を盗み逃げ出したのだ!
突然の出来事に一瞬誰も動けなかった程…

我に返り慌ててミニモンを追いかける私達。
先頭を走るお父さんが一件の民家を指差し、
「アイツあの家に入ってった!」
と言って無断進入する。

幸か不幸か住人が不在だった民家は薄暗く、慎重に室内を捜索する事に…
幾つかの部屋をチェックした後、とある部屋の隅で蹲るミニモンを発見する。
近付き捕まえようとすると…
「ニャー」
と猫真似するミニモン…

「お前…何やってんの?」
誰もが不思議に思うヤツの行動。
そしてミニモンが言った台詞は、
「?………げ!化け損ねた!!」

うん。馬鹿だとは思っていたけど、これ程までとは驚きだ。
お父さんの拳骨が後頭部に落ち、今回の一件の落ちもついた。





なお、その日の夜…
頑張ってウルフにパフパフしてあげました。
全然足りなかったけど…



 

 

ピンチの後にチャンスあり?

今、私とウルフの前に『ガメゴンロード』というモンスターが立ちはだかっている。
バラモス城に程近いこのネクロゴンドの洞窟には、今まで戦ってきたモンスターとは桁違いに強い敵が蔓延っている。

このガメゴンロードもその1匹で、戦闘開始早々にマホカンタを唱えてしまった為、私もウルフも魔法攻撃が行えないのだ。
同年代の男の子と比べればウルフの剣の腕前は高い評価を得るが、冒険者としてはまだまだ…
堅い甲羅で覆われたガメゴンロード相手では、然したるダメージを与える事は出来やしない。

私なんかは論外で、物理攻撃など出来るはずもなく、グランバニアから勝手に持ち出した『賢者の石』で、傷付いた身体を回復するしか出来る事がない。
アルルさんやハツキさん…力だけはあるカンダタに援護を頼みたいのだが、他の人達もそれぞれ敵の相手をしていて、私達を助ける余裕などありはしない…

はい。すっげーピンチです!
敵の後方にいる『フロストギズモ』が、要所要所でヒャダルコを唱え私達全員を苦しめるのが本気でムカつく!
お父さんやお兄ちゃんが控えていなければ、泣き叫びながら逃げ惑っていたに違いない。

因みに、アルルさんは『トロル』と、ハツキさん・カンダタは『地獄の騎士』と戦っている。
時折横目で戦況を確認するが、どちらも私達と同じように思わしくない。
つか、()よ誰か助けろや!


「であー!」
私の祈りが通じたのか…
それとも彼女(アルル)が心配になったのか…
どっちだか分からないけどお兄ちゃんが参戦し、“あっ!”ちゅー間に敵を全滅させてしまう。

助かった~…
流石は天空の勇者だね。
ウルフじゃ全く歯が立ったガメゴンロードを一撃で倒しちゃったよ。
そして直ぐさまアルルさんが苦戦していたトロルを切り捨て、地獄の騎士とフロストギズモへはギガデイン!

滅び行く敵に背中を向けて、私達の方へと戻ってくる姿はニヒルでカッチョイイ!
仲間のピンチを救う正義の味方。
それは私のお兄ちゃんだ!

「うわー…流石は天空の勇者様…つえ~…」
だがしかし…感情の篭もらない口調で、お兄ちゃんの激闘を称えるのは、何にもしなかったお父さん。
何だか、ちょっぴり、殺意が………

「分かってます!コレではアルル達の為にならないと言うのでしょう!しかし此処のモンスターは強すぎるんです!今のアルル達には荷が重すぎる…」
まぁ!?
あんな状況になっても、そんな事を考えて手を出さなかったのですかい?
冗談じゃねーよ、こっちは死ぬかと思ったんだぞ!!
本当は文句の一つも言ってやりたいのだが、先程までの戦闘が激しく、息が乱れて喋れません。

「うん…そうだねぇ…今のアルル達には、此処のモンスターは強すぎるよね。…あと数ヶ月は時間をかけて、特訓をすれば良かったね」
数ヶ月って…そんな暇があるわけ……あ!
そう言う事か…お父さんは『祠の牢獄』から『アッサラーム』に、ルーラで移動した事を問題視しているんだ。

時間をかけて船でアッサラームへ向かえば、その間にも戦闘で実戦訓練を行う事が出来たのだと言いたいのだろう。
“急がば回れ”の悪いお手本みたいな団体だな…

私もお兄ちゃんも…ウルフやカンダタですら、俯き黙ってしまうお父さんの言葉。
(ドン!)
「ティミー…よ、余計な事を…しないで…よ…あ、あんな敵…私…たち…だけで…大丈夫なのに…」
しかしアルルさんだけは、お兄ちゃんの胸を力一杯押し、息を切らしながら手出しした事に不平を言う。

勿論それは、ルーラ使用を特に要望していたお兄ちゃんを庇う為の強がりであるのだが…
その姿は健気だ。
私も見習おう!




小一時間の休憩後、再度奥へと進行する私達…
きっと私の今までの行いの悪さが呼び込むんだろう。
またもや先程と同じモンスターが現れ、私達に襲いかかってきた!
ごめんなさい神様…もう良い子になるから、マジで見逃して!

「ハツキさんはトロルの相手を、カンダタさんはガメゴンロードを牽制して、アルルとウルフ君は地獄の騎士を全力で倒して!マリーは後方から魔法で援護…ガメゴンロード以外に、メラを唱え続ける様に!」
大して信じていない神様に、心から祈りを押し付けていると、突然お兄ちゃんが大声で指示を出してきた。

慌てた私は兎に角メラを連発する。
神様への祈りが届いたのか、はたまた私が天才なのか…初っぱなにフロストギズモへ命中させる事が出来、アッサリ消滅させる事が出来た。

あのねちっこいヒャダルコを取り除いた事により、ウルフ達は断然有利に戦闘を進める事が出来る!
しかもお兄ちゃんの指示が的確で、瞬く間に敵は駆逐されてしまった。
う~ん…普段は頼り無く見えるけど、やっぱりお兄ちゃんってば凄い!

「どうですか父さん!アルル達は十分強いんですよ!敵の特性を把握して、それにあった戦い方をすれば、十分やっていけます!」
んー…どうだろう?
今回の功績はお兄ちゃんにあって、アルルさん達には何もないと思う。
完璧に適材適所を見極め、瞬時に対応する事の出来る天空の勇者様が凄いのであって、やっぱりアルルさんではまだまだ………

お父さんにもそれは解っているのだろう…
アルルさんを擁護するお兄ちゃんを抱き締め、ただ黙って頭を撫でるだけだった…


それから暫くはお兄ちゃんが指示を出して戦闘を行っていたが、コツを掴んだらしくアルルさんも指示を出し始め、気付いたらアルルさん指揮の下、私達は戦闘を行っていた。
「どうですか父さん!…アルル達は十分に強いですよ。戦い慣れた弱い敵とばかり戦うのも良いですが、新たな敵と戦い成長を促す事も必要です!」
もの凄く嬉しそうにアルルさんの事を自慢するお兄ちゃん。

「良い彼女を捕まえたな…」
ちょっとニガワラで2人を見据えるお父さん。
どういう意味に捉えたのか分からないが、誇らしげにアルルさんの肩を抱き寄せるお兄ちゃん。
結構ラブラブっす!

「絶対、どっかのバカ女に騙されると思ってたのになぁ…」
イチャつく2人には聞こえないお父さんの呟き…
私は盛大に頷き同意した!
ある意味リュリュお姉ちゃんのお陰ね…彼女が居なかったら、他の女に目が行っていたもん!



 

 

相も変わらず一方的

戦闘面では問題も無くなりつつあり、少しずつだがダンジョンを奥へと進む私達。
余裕が出来てくると別の物に意識が行っちゃうのが私の悪い癖…
完璧に暗記しているDQ3の知識が、この先に『稲妻の剣』がある事を思い出させる。

サマンオサでの事があるから、勝手に開けようとすればブン殴られる恐れがある…
ではどうするのか…
うん。素直にお父さんにお願いしよう!

「お父さん…この洞窟に、結構強力な剣があるんですよ。宝箱を開けたいのですが…許可してもらえます?」
幸いな事に側にいたのはお母さんだけ。
父親に甘える幼気な少女のフリをして、ガチで甘える私って可愛いよね?

「…またモンスターかもしれないだろ!サマンオサで懲りなかったの?」
お父さんも小声で返答してくれます。
「その件につきましては十分に反省してます!ですが、この洞窟の宝箱にはトラップはありません!100%安全に、強力な武器を入手出来るんですよ」
「それはゲーム内での事だろ…此処でも同じとは限らないだろ…」
う~ん…やはり、あの一件は尾を引くね。
しかし諦めるわけにはイカンぜよ!

「いいえ!基本設定に違いはありません!この洞窟内では宝箱は安全です!お父さんは、冒険者としてスペシャリストかもしれませんが、DQ3の知識で私はスペシャリストです!」
ネクロゴンドの洞窟には、人食い箱もミミックも存在しません!
つまり、めちゃんこ凄いアイテムが手にはいる事はあっても、M((マジで))M((ムカツク))トラップに引っかかる恐れはないのですわよ!


自信に満ちた私の言葉に、お父さんも立ち止まり考え、目の前の宝箱を見つめています。
「………よし!おいカンダタ…ちょっとその宝箱を開けてみろ!」
よっしゃ!珍しくお父さんを説得出来ました。
でも何故だかカンダタに宝箱を託し、自身は2.3歩後ずさる。

「はぁ!?何で俺なんだよ!モンスターかもしれないだろ!!」
「うん。だからさ…危ないだろ!」
「俺ならいいのかよ!」
「うん」
う~ん…お父さんらしいわ。

「父さん…いくら何でも酷すぎですよ!カンダタさんだって、僕等の大切な仲間ですよ!…それに、急にどうしたんですか?普段なら宝箱は危険だから開けるなって言うのに!」
「だって…あの宝箱に、凄そうな物が入ってる気がするんだもん!…そんな匂いがする」
えぇ~?もうちょっとマシな理由を考えてよ!

「匂いって…そう言う不確かな情報で、危険な事をさせるのはどうかと思いますが!」
「大丈夫…多分危険じゃない!僕を信じろ…な、カンダタ!」
そうよ100%安全よ!

「父さん!いい加減に「分かりました…私が開けます!」
お父さんのいい加減な態度に腹を立てるお兄ちゃん…
しかしアルルさんはお兄ちゃんの文句を遮って、お父さんの意見を信用する。

「え!?き、危険だよアルル!匂いがするとか、そう言うレベルなんだよ!」
「大丈夫よティミー…リュカさんが開けろと言うからには、危険では無いのよ。そして中身も凄い物なのよ…きっと」
うん。自分は後退ったのに、危険じゃない匂いがするって、信じられるワケないわよねぇ!
私は知っているから驚かないけど、アルルさんはどうして信じられるの?

「うん。パパを信じるいい義娘(むすめ)だ!」
お兄ちゃんがお父さんを睨み付けてますぅ…
「だったら…僕が開けるよ!アルルを危険に晒すわけにはいかないよ!」
「そ、そんな…ダメよ!この世界を救うのは私の役目…その為に成すべき事は私がやるの!それが勇者アルルよ!」
「そんなの関係ない!僕には君を守る事が役目だ。その為にはやるべき事をやる!」

………凄いわね。
宝箱を開けるかどうかで、ここまでイチャつけるのね。
見習った方がいいかしら?

「…それじゃぁ、一緒に開けましょうティミー」
「…うん、そうだね。それだったら、モンスターが出てきても怖くない!」
やっぱムリ!
見てて苛つくわ。
「…何だかイライラする空気が漂ってきますわ!1発ぶん殴っちゃって下さいお父さん!」
「まぁまぁ…良いじゃないか、このくらい。宝箱1つでイチャイチャ出来るなんて、凄い事だよ!もっと見ていようよ」

「う、うるさいわね!今、開けるわよ…私達の事は放っておいてよ!」
どうやらお二人は、自分たちの世界に入り込みすぎて、私達の事を忘れていた様だ。
アルルさんは顔を真っ赤にして、悪態を吐きながら宝箱へと歩いて行く…お兄ちゃんとお手々繋いで!

そしてお二人はゆっくりと宝箱を開ける…
中には私が睨んだ通り『稲妻の剣』が入っており、取り出したアルルさんが凛々しく構えてみる。
「まぁ!?その剣は『稲妻の剣』ですわ!ダーマに居た時に、旅の人から教えて頂きましたわ!」
自分でも感じるくらいワザとらしいアイテム説明…

「へー…強そうな剣だねぇ………よし!それはアルルが使うんだ!そんで、アルルが使ってた『草薙の剣』はウルフが使え!」
しかしながらお父さんの一方的なアイテム配分で、私への追求は有耶無耶な感じになっちゃった。
「ちょっとリュカさん…俺は良いですけど、そんだけゴツイ剣なんですから、戦士のカンダタが装備した方が良くないですか?」
「うん。そうだねウルフ…その方が効率的に見えるよね!」
「じゃぁ…」

「でも、その剣は格好良すぎる!カンダタには似合わないよ…それに宝箱を開けたのはアルルだからね。アルルが装備するのが自然だ!」
今更だけど…すげーよね、この(ひと)
なんでこうも身勝手な理論が展開出来るの?

「何て酷い理由…では、リュカさんの指示通りカンダタが宝箱を開けていたら!?」
「その時はカンダタが装備すれば良いんだよ…でも、カンダタは開けなかった!ビビって開けられなかったんだ!格好悪~い!…そんな奴に、そんな格好いい剣は似合わない!お前には、その『バトルアックス』が似合ってる」
あのね…ワザとらしく口を手でかくし“プププッ”って感じで笑いながら喋るのよ。
ムカつくわよね♥

「そ、そんな一方的な!」
「いやアルル…良いんだ。旦那の言う事は事実だ!俺はビビって開けられなかった…その剣は勇者のアルルに似合ってると思うぜ!」
多分アルルさんは心底ムカついたんだと思う…
でもカンダタが大人しく従っちゃったから………

「カンダタ…」
「それに俺は剣を振り回すのは似合わない…斧をぶん回してる方がお似合いさ!」
「じゃぁ…斧系の強力な武器を見つけたら…」
「あぁ、そん時は誰にも譲らねぇ!例えビビって宝箱を開けられなくてもな!」
「ふふふ…分かったわ、その時はカンダタに譲ります」
やっぱりお父さんって凄い。
リーダーとしての資質に欠けるアルルさんを、立派なリーダーへと押し上げてるんだもの…
お兄ちゃんもアルルさんも、その事に気付いてるのかしら?

「ほら、丸く収まったよ」
でも…私が深読みしすぎかと思う様な台詞を言うのは止めてもらいたい。
お兄ちゃんなんかは殺しそうな勢いで睨んでるわよ。
「どうしようマリーさん…僕、息子に睨まれてますよぉ!」
「大丈夫よお父さん。娘は全員がお父さんの味方ですから!」
全員ってのは言い過ぎかしら?
フレイはファザコンではなさそうだったし…



 

 

ストロングなストマック

「あれがバラモス城………まだ距離があるのに、凄い威圧感ね…」
ネクロゴンドの洞窟を抜け、遠くに聳える重厚な城を見つめアルルさんが呟く。
大きく毒気を漂わす湖に囲まれ、禍々しい邪気を発するバラモス城。
中間管理職のクセに偉そうな佇まいだ!

「大丈夫…君なら勝てる、絶対に!だから今は、シルバーオーブの事を考えよう」
未だ手の届かぬ強敵に、多少なりともビクつく女勇者(アルル)に優しい声で励ましを入れるお兄ちゃん。
ソッと肩を抱き寄せ、場違いな空気を溢れ出す。

う~ん…意外と女の扱いに慣れてきたみたい。
流石は息子さんですね…サラブレットだわよ!
そんな私の思考が気になったのか、チラリと此方を見て照れくさそうな顔をする。

だから私はサムズアップで受け入れた。
“遺伝子の所為なのだから気にする事はないのだよ”って!
私の心が伝わったのか、お兄ちゃんも後ろ手にサムズアップで返答する。
うん。良い感じ♡


私達はバラモス城を囲う大きな湖を迂回する様に北上する。
そこには小さな祠があり、荒れ果てた内部には1人の幽霊が佇んでいる。
「貴方はここの守護者ですか?」
牢獄の祠の時とは違い幽霊は既に現れていた為、お母さんも驚く事はなく普通に会話を持ちかける。

いきなり現れたサイモン幽霊に驚いたお母さんが可愛かったので、もう一度見る事を少しだけ期待していたのだが、平然とした態度に残念感を持つ私…
だから変わりに私がウルフに抱き付いた。

「きゃあユウレイこわいー!」
「え?……あぁ…うん…そうだね…」
だけどウルフの反応は私の期待と違ってたわ…

「違うー!あの男の弟子だったら、この場は“押し倒す”べきでしょう!」
「あぁそうか!…いやぁ、あまりにもマリーの演技がわざとらしくて…萎えちゃったよ」
だって本当は怖くないんだもん…

周囲を見渡すと、皆呆れた様子で私達を無視する。
そしてサクサクとシルバーオーブを手に入れ、祠を出て行っちゃった。
まさかお父さんにまで無視されるとは思わなかったわ!



外へ出て祠から距離を取ると、皆自然にお父さんの側に集まる。
当初から帰りはルーラで帰ると決めていた。
船もモニカさんに指揮されアッサラームへ引き返している。

バラモスのお膝元なだけあり、ネクロゴンドはモンスターが強力だ。
そんな土地に船を接舷させたまま、主力が留守になるのは大変危険!
帰りはルーラってのはお父さんから言い出したくらいなのだから…

よくよく考えるとお父さんって、凄くみんなの事を考えてるわよね。
そうは見えない様に振る舞ってるけど…
恥ずかしがり屋さんなのかな………違うかぁ。

「リュカさん。ちょっとルーラを使うのは待ってくれますか?」
なぬ!?
何を仰ってらっしゃっておりまするの?
ウルフが一人、ルーラ使用を止めにはいる。
ルーラで帰ろうよぉ!

「何で?もう一回洞窟を逆送するの?僕は別に構わないけど…みんなは大丈夫?」
大丈夫じゃない!
疲れ切っちゃって、しんどいフェスティバル。

「違うよ!俺さ、今ルーラの勉強をしてるんだ!だから1度試してみたくって…」
あぁ…お勉強の成果を確認したいのね。
「ほう!ウルフもルーラを使える様になったか…便利だよねルーラって!」

「いや、まだだから!勉強してきたので試したいって言ってるじゃんか!」
出来ると決めつけるお父さん。
失敗するかもしれないので、ムキになって否定するウルフ。

「大丈夫だよウルフなら!バビュ~ンとルーラを使えるよ」
「そうよ!ウルフならルーラぐらい簡単に唱えられるわ!」
うん。凄く頑張って勉強してたもんね。
ウルフなら絶対に成功させるわよ!

私はウルフに抱き付き信頼を露わにする。
そんな彼は恥ずかしそうに赤面すると、そのまま目を閉じて目的地をイメージする。
そして力ある言葉を発する…『ルーラ』と!


私の体はウルフに抱き付いたまま、彼と共に重力に反する…
そして淡い光に包まれたまま、空を高速で移動する。
体中に重力の束縛が戻ると、そこはアッサラームの目の前だった。

「や、やった!成功した!やりましたよリュカさ…ん?」
目を開け、ルーラ成功を確認し、師匠に報告しようと振り返る…が、そこには誰も居ない。
私は知っている…術者のウルフと、抱き付いていた私しか移転できなかったことを…

身近な存在過ぎて気付かなかったが、お父さんもポピーお姉ちゃんも凄い人なのだ。
二人とも船ごと大人数をルーラで運ぶ事が出来る。
決してウルフが非力なのではない…先人が偉大すぎるのだ!
非常に迷惑な話だ…


暫くするとお父さん達がルーラで現れる。
「お前…マリーと2人きりでイチャ付きたい為だけにルーラを習得したんじゃね?」
到着早々呆れ口調でお父さんがウルフに呟く。
もう…ルーラ自体は成功なのだから、それを褒めてくれてもいいじゃないのよ!

「え!?………えぇ、まぁ…それ以外に用途はありませんから(笑)」
だがしかし、私の彼は私の父の弟子に相応しい受け答えをする。
「だよねー!僕もコレのお陰で、遠く離れた愛人の元へと楽に行ける!(笑)」
でも、まだ師匠を追い抜く事は出来ない様だ…
愛妻の前で爆笑しながら答える姿は流石としか言えない。

「彼女と2人きりになる為の魔法が…いいなぁ…僕もルーラを憶えたいのですが!?」
え!?今の…誰の台詞?
「え!?…本気で仰ってますティミー君?」
大爆笑していたお父さんが唖然と問いかける。

「今の環境は僕にとって難易度が高いんです。あなた達の様なデリカシーの欠片もない人達と常に行動を共にしていると、恥ずかしがり屋の僕はアルルとの親密度を上げる事が出来ない!…そこら辺を解ってもらいたいですねぇ…」
はぁ~…成長したとは思っていたが、ここまでとは…
ポストリュカの座は簡単に譲らないって事かしら?



さて、アッサラームの町へ入り、私達は宿屋へと…
モニカさん達と合流し、近くの食堂で夕食をする事に…

「しかし真面目な話しティミー…お前がルーラを憶えるには、かなりの苦労が必要になるぞ!僕等の住んでいる世界では、ルーラは失われた魔法だ…先ずは魔法特性を付けないと、ルーラを理解しても使用出来ない!僕等の世界で生まれつきルーラの魔法特性を持っていたのは、ポピーだけなんだ…ズルイよね」
食堂の席に着き注文をした料理が一通り揃うと、お父さんが徐に先程のお兄ちゃんの冗談(だと思われる発言)を話題にする。

「まぁポピーは性格はアレですけど、魔法の才能は素晴らしいですからね…性格は最悪なアレですけど!」
ぷっ…
ホントお兄ちゃんはポピーお姉ちゃんの事となるとキツイわよね(笑)
お母さんと顔を見合わせて料理を吹き出してしまった。
「「汚いな…2人とも」」
あれ、珍しくハモったわよ。

「では、父さんはどうやって魔法特性を得たのですか?…そう言えばリュリュも、ルーラを憶える事が出来たそうですよ」
「本当に!?…そうかぁ…ベネット爺さんの所へ行ったのか…可哀想に」
あぁ…そう言えば私達がこっちの世界に来る直前に、そんな話をしてたわね…でも『可哀想』ってどういう事よ?

「確か…ルラフェン…ですよね!ベネットさんが居るのは。…一体そこで何をするんですか?リュリュも喋りたく無かったようですし…まさか変な事をされたのでは…?」
彼女の前で他の女の心配をするのはどうかしら?…妹とはいえ、惚れてる女の心配って…

「変な事は無い!そんな変な事する奴の所に、大切な娘を行かせたいするものか!そんな事する奴なら、とっくの昔に僕がぶっ殺してる!」
そりゃそうよ、だってお父さんも体験した事でしょうから…
………でも、ルラムーン草を採取して、大鍋で混ぜ合わせてドッカン!で、終わりじゃなかったかしら?
ゲームではそうよね。

「じゃぁ、何されるんですの!?私もルーラを憶えたいので、是非とも教えて欲しいですわ」
あんな便利な魔法は私も憶えたいもの…
勿体ぶってないで教えてよ!

「うん…リュリュの料理を食べた事あるよね…?」
「「はい」」
「僕はアレを食べきる事が出来る…まぁ、不味いけど泡ふいて倒れる程じゃない…僕にとってはね」
きっとどこかおかしいんだと思う…アレを食べきれるなんて…

「アレを食べきれるお父さんは、凄いと言うより何処かがおかしいですわ!」
「あははははは…でもね、ルーラの特性を得る為に飲む薬は、僕ですら気絶する不味さなんだよ!…それでも耐えられるかい?」
「「……………」」
え~…………あれ以上なの!?

「わ、私はムリですぅ…アレですらムリですから!」
ないわぁ…あれ以上はないわぁ~…
「ティミーはどうだい?」

「………あれ以上ですか…正直考えちゃいますね…」
「まぁ、お前にはもう関係かもしれないが、ルーラの薬を飲んだ事があれば、リュリュの料理は苦痛じゃ無くなる。…勿論、不味い事に代わりはないが…」
思い出しただけで食欲がなくなる…

「なるほど…それであのクッキーを平らげる事が出来たのですね…」
お兄ちゃんも感心してはいるが、食事の手が止まる…
他の皆さんも、話の内容から想像出来たのだろう。
誰も食べ物を口へと運ばなくなった…ただ一人を除いて。

勿論それは私のお父さんです。
強靱な胃袋と、強靱な神経の持ち主…
少しだけ羨ましいわ…



 

 

非常識な男とその家族…はい私達の事です!

やって来ましたランシール!
あれです、独りぼっち試練の巻…
大丈夫かしら…アルルさんって、あんまり強いってイメージがないのよねぇ…

「此処で試練を受けるのかぁ………」
大きな神殿の前で呟くのはお父さん。
「やだなぁ…僕、試練とか試験とかテストとかって嫌いなんだよねぇ…」
カンダタとモニカさんの情報を聞き、真っ先に文句を言い出したお父さん。

「………だからって、此処で眺めていても意味ないでしょ!ホラ…入りますよリュカさん!」
嫌がるお父さんを無理矢理神殿内へ入れ、アルルさんが反論する。
でもね、ここでの試練はアルルさんだけの試練だから。


「よくぞ参られた旅の方。此処は勇者の持つ勇気を試す試練の場…この扉を抜け『地球のへそ』と呼ばれる洞窟に1人で赴き、真の勇者として勇気を証明してもらいたい」
内部は無駄に広く天井が高い。
その無駄スペースに響き渡る神官の声。

「え、1人で!?…な、何故1人で行かなければならないのですか!?」
仲良くみんなで試練を受けるつもりだったお兄ちゃんは、アルルさんが一人で行かねばならないと聞き、動揺を隠せない。

「先程も言いましたが、勇気を試す試練です。1人でやりぬける勇気があるかを、神は見定めたいのです」
「うわぁ!出たよ…『神様が言うから1人で行け』ってか!」
う~ん…気持ちは解るけど、本当にムカツク言い方ね。
神官ちょっと青筋立ててる。

「………何と言われようと、神が決めた試練です!1人で行く勇気のない者に、世界が救えるとは思えません!勇気が無いのなら、この試練を受けるのはお止しなさい!」
「何だ?お前の言う神ってのは、バラモス贔屓なのか!?世界を救う為にバラモスを討伐する勇者の妨げにしかならない事をやる神!バラモス様ラブじゃねーか!」
あぁ!言われてみればそうね……でも、この世界の神様ってルビスちゃんでしょ?
今は囚われの身よねぇ?

「な!か、神を冒涜する事は許しませんよ!取り消しなさい!」
「ぶさけんなバーカ!冒涜してんのはお前だ!お前が『簡単にバラモスを倒しちゃダメって、神様が言ってたんですぅー』って言ってるようなもんだ!」
凄いなぁ~この人…他人を怒らせるのが抜群に上手い!
神官は今にも殴りかかりそうだわ。

「止めてください!」
お父さんと神官の素敵な雰囲気に、アルルさんが大声で終止符を打つ…でも、『私の為に2人が争わないで♥』とか言ったらイオナズンぶちかます!

「私は勇者です!この試練を受け、完遂して見せます!私は勇者アルルですから!」
やっぱり真面目っ子…お父さんと神官の間に割り込み、互いを落ち着かせてる。
ポピーお姉ちゃんなら言うだろうなぁ…

「き、危険だよ!1人で洞窟に入るなんて…そんな…もしアルルに何か遭ったら…」
過保護ねぇ…
アルルさんの両肩を掴み、涙目で心配するお兄ちゃん。
まぁ気持ちは解る…アルルさん弱いもんね。

「ティミー…大丈夫よ!私だってこの旅で強くなってるんですから!…勇者として、1人でブルーオーブを手に入れないとダメなの…この世界の勇者の私がやらなきゃダメなの!」
己を分かってないのか、責任感が強いからなのか…ちょっと分からないけど、一人で戦いに挑む覚悟のアルルさん。
死なれちゃうのは困るわね。

「アルルさん。コレ…持って行ってください」
私はグランバニアから勝手に持ち出したアイテムを差し出した。
「…これは?」
「はい。私がグランバニアから勝手に持ち出した貴重なアイテム『賢者の石』と『エルフのお守り』です…」
アルルさんはアイテムを受け取り、不思議そうに眺めてる。

「『賢者の石』は…ネクロゴンドでも使いましたけど、ベホマラーの効果があるアイテムで、こっちの『エルフのお守り』は敵の補助系魔法を効きにくくしてくれるんです!」
すっげーアイテムなんだゾ!
無くすなよ!

「ありがとうマリーちゃん!大事に使うね」
アルルさんは嬉しそうにアイテムをしまうと、笑顔で私にお礼を言ってきた。
「いえいえ…プレゼントするワケではございません!必ず返してください…此処でお帰りを待ってますから…絶対に返してくださいよ!」
アンタその内そんな物必要ないくらいの防具を手に入れるんだから、絶対に返せよ!パクるんじゃねーぞ!
「うん…きっと戻ってくるね!マリーちゃんにコレを返しに戻ってくるから!」



さて…
完全武装(現状で望める最高基準)で一人『地球のへそ』へと赴くアルルさん。
お兄ちゃんは彼女が出て行った扉を、何時までもジッと見つめている。
振られたら自殺しそうね…

「よし!アルルが戻ってくるまで時間があるけど、快く迎えたいからビアンカやウルフ達は此処で待機ね!」
お父さんだけがマイペースに行動している。
言われるまでもなく私達はここで待つつもりだけど…お父さんはどうすんの?

「…旦那はどうするんですか?」
「うん。僕は暇潰しに町へナンパにでも行ってくる!」
はぁ!?何を言っとるんだこの男は!?

「ティミーは一緒に来るだろ…何時だったか『ミルドちゃん』を口説き落とした時みたいにさ!」
お兄ちゃんが行くわけないだろ!
そんな事を言ってるとブチ切れ………『ミルドちゃん』?

「ティミーさんがリュカさんなんかとナンパに行くわけないでしょう!」
「いやウルフ君!落ち込んでいてもどうにもならないし、僕は父さんとナンパに行くよ!みんなはアルルを待ってあげててくれ」
なるほど…ミルドラースを落とした時の様に、一緒にアルルさんを助けようって事ね!

「ちょ…ティ、ティミーさん!!本気ですか!?」
お父さんと共に神殿を出て行くお兄ちゃん。
そんな彼を止めようと、ウルフが慌てて近付こうとする…
しかし私とお母さんに阻まれ、敢えなく2人を見送る事に…
ウルフは顔に憤りを纏って私を見つめている。
ごめんね…後で説明するから。



お父さんとお兄ちゃんが出て行ってから半日が経過した。
神殿側から軽食を戴いたが、それ以外は飲まず食わずで待ち続けている。
マジ腹減った!

「あっれぇ~!まだアルルは帰ってこないの?」
私達の沈黙と空腹を妨害するのは、無駄に明るい声で帰還したお父さんだ。
体中から女物の香水の匂いを漂わせ、待ち疲れた私達を鼻で笑う。

「リュカさん…今まで何してたんですか!?」
この状況に苛ついているウルフが、無駄と知りつつもキツイ口調でお父さんを咎めている。
「何って…ナンパだよ。あれ、言わなかったけ?」
うそ~ん…!?

「お父さん…本当にナンパをしてたの?」
お願い嘘だと言ってください。
私だけではない…お母さんですら冷たい瞳で睨んでる。

「い、いや~…その~…だ、だってそう言って出て行ったでしょ!最初っから伝えておいたじゃんか!何で今更そんな目で睨むの!?」
だって意味深な事を言って出て行ったじゃん!
アルルさんを助ける算段があると思うじゃん!

「貴方と一緒に出て行かれた方は、どうしましたか?…一緒に行動をしていたのではないのですか?」
私達全員でお父さんを睨み付けていると、神官が気になる事を質問してきた。
…そう言えばお兄ちゃんの姿がないわ?

「はぁ!?お前バカなの?僕達ナンパしに出かけたんだよ!目当ての女の子が居れば、別行動するに決まってるだろ!…それとも何か、3Pでも期待しちゃったのかな?神官のクセにイヤラシいなぁ…」
この場の誰もが神官の意見がまともだと思っているのだが、どういうワケか一番まともじゃない男の意見が正論に変わって行く……何でだ!?

「な、何と無礼かつ下品な物言い!私はただ、もう1人の行方が気になっただけだ!」
「知らねぇーよそんな事!僕はこの町に好みの女が居なかったから、アリアハンの愛人の元に行ってたんだ!アイツ…方向音痴のクセに『美女の匂いがする!』って、どっかに行っちゃたんだもん…」
そんな事するのはアンタだけだ!
でも…つー事は、どうにかアルルさんを助けに地球のへそに言ったのね。

「何と破廉恥な連中だ…」
ふん!お父さんに対しては否定しないけど、お兄ちゃんは違うもんね!
「今頃ティミーの奴、薄暗い場所で美女と一緒に良い汗かいてるんじゃね?自慢の愛剣を振り回してさ!あはははは…」
そんな事してねーよ!“真面目人間ギャートルズ”だぞ!




する事もなく、ただ時間だけが経過する…
辺りは暗闇に覆われ、日めくりカレンダーを1枚捲った頃、地球のへそへと通じる扉からアルルさんが姿を現した………彼氏を伴い。

「お帰りなさい、試練は………!!」
神官が事務的な口調で成果を確認しようとしたが、アルルさんに続いて現れたお兄ちゃんを見て絶句する。
…まぁ…当然よね。

勿論驚いているのは神官だけじゃない。
ウルフやカンダタは固まっている…
私とお母さんも納得はしているが、どうしてなのかが分からず微妙な気分。

「よう!どうだった?ブルーオーブは手に入った?」
原因を作ったお父さんは、空気を読まず気さくに話しかけてる。
「えぇ、バッチリ!」
アルルさんも場の雰囲気を無視して、明るく答える。
染まってきたわ…

「そっちの色男はどうだ?良い女をナンパ出来たのか?」
「ええ!美女の匂いを辿ったら、彼女に出会いました。最高に良い女です!」
うん。話の辻褄が合致する…
困ったわ…このパーティーの理性とも言える2人が、事もあろうに非常識星人寄りに染まってきた。
ゾーマの下まで辿り着けるかしら…

「じゃ、万事OKって事ね。…待ちくたびれて疲れたよ!宿屋に帰ろうぜ!」
「父さん…1つ困った事が…」
「どうした?」
「僕の度し難い方向音痴は、治らない物ですかねぇ?」
「う~ん…一晩寝れば治るんじゃね?」
「じゃぁ安心だ」
お父さんとお兄ちゃんが意味不明な会話を続けながら出て行こうと出口に向かう…

「ちょっと待ちなさい!!」
だが、そうは問屋が卸さないのが神官。
一人で行うはずの試練を二人で行った疑いに、猛然と立ち向かう勇気ある神官さん…
一般的な男(貴賎を問わず)であれば問題ない…尤も一般的な男に、こんな非常識な事は出来ないが…
だが今回は相手が悪い。
痛い目(心身ともに)を見ないうちに諦めるべきだ。

「こ…この試練は、勇者が1人で行う事に意味があるのです!にも関わらず、何故アナタは一緒に洞窟へ赴いていたのですか!?」
怒りのあまり甲高い声で詰め寄る神官。

「私は1人で試練をやり遂げました」
「僕は美女の匂いを求め彷徨った末に、直ぐそこで彼女と出会いました」
スゲー…言い切ったわ…もう殆どお父さんじゃん…
「何の問題も無いじゃん!」
そして神官の神経を更に逆撫でするのが本家!

「な、何を言っているのですか!貴方の息子さん…ティミーさんでしたね。ティミーさんは、地球のへそへと通じている、この扉から戻って来たのですよ!高く険しい絶壁に囲まれた、洞窟の方から帰って来たのですよ!」
「それが?…コイツ、すげー方向音痴なんだよね!きっと迷いに迷って、洞窟の方へ行っちゃったんだよ!」
そう言えば『らんま1/2』って漫画にも、そんな芸当をやってのける方向音痴が居たわね…
よし、今日からお兄ちゃんは“良牙”よ!

「迷った!?迷って行けるような所ではないのです!何かイカサマをしたに決まってます!そ、そんな勇気…私は認めませんよ!」
別にアンタに認められる必要ないし…
耳まで真っ赤に染め上げ怒りを露わにする神官を眺め、心の底からそう思う。

「黙れクズ!!『私は認めない』だと?この試練は、神が与えた試練だろ!お前の許可など必要ではない!それとも何か?お前が神なのか?」
いや、ホント、マジ…
お漏らししそうになる程ビックリな大声で激怒するお父さん!
この人を怒らせるなよ…マジで怖いんだから。

「わ、私は…」
耳まで真っ赤だった神官だが、今では死体より青ざめている。
「神が与えた試練なら、神が彼女の勇気を審査する!お前はただの門番だろ…偉そうに俺の子供達を批評するな!」
あ、ヤバイ…お父さんの一人称が“俺”になってる…
下手な事を言うのは止そう…



お父さんの怒りに触れ、震え上がってる神官をシカトし、私達は神殿から外へ出る。
怒ってるお父さんが怖くて誰も何も言わない中、ウルフが解明したい疑問をお兄ちゃんへと投げかける。

「ティミーさん…どんな方向音痴になれば、この絶壁を超えられるんですか?」
「何…父さんに勢い良く放り投げてもらえば簡単さ!」
大したこと無い様にサラッととんでもない事を言うお兄ちゃん。
絶壁と建物の境で他より低くなっている箇所指さし、戯けた様に説明する。

「よ、良く無事でしたね…着地はどうしたんですか?」
遺伝子のお陰で無駄に丈夫?
「壁の向こうは砂漠地帯でね…スクルトを重ねがけしてダメージを軽減した。…尤も、丁度モンスターの一団の上に落ちたから、ものっそい痛かったけどね」
“ものっそい”って…まるでお父さんじゃんか!

「どうしよう…リュカさんとティミーさんの区別が付かなくなってきた!」
「ちょ、ウルフ君…大変失礼な物言いだよ!」
あはははは、これでグランバニアは安泰ね!
「うん。流石は我が息子!」
お父さんはお兄ちゃんの肩を抱き、嬉しそうに笑っている。
非常識極まりないけど、本当に良い父親よね。



 

 

世の中、怒らせてはいけない相手が居る。

真夜中と言っていい時間に、私達はランシールの宿屋へと入って行く。
この町に来て直ぐに部屋を確保しておいたので、根本的には問題ないのだが、それでも宿屋側は嫌な顔をして迎えてくれた。

本来なら“お互い様”って事で、無視して部屋に直行すればいいのだが、空気を止まない男が一言…
『うわ、愛想悪っ!』
誰の言葉かは言わないけどね………


みんな漏れなくお疲れモードだったので、無駄話をすることなく割り当てられた部屋へと入って行く集団。
そんな中、一番疲れているはずであろう二人が、イチャつく事を憚らず1つの部屋へと入って行くのを見逃さない私。

その部屋の隣を使用している私は、連れ込んだ彼氏(ウルフ)に事情を説明し、共に聞き耳を立て隣室の音声を収集する。
最初は何やら会話をしていたが、それ程経過しないうちに喘ぎ声へと変化していく…

このチャンスを逃すわけには行かぬと、慌ててウルフと共に廊下へ出て、隣の部屋の扉を少しだけ開け、中の状況を観察する私達。
多少は薄暗いのだろうと想像するも、予想は裏切られ煌々明るい中お二人は事に励んでいた。
優しく重なる唇は、次第に激しく互いを求め、二人の両手は、お互いの身体を撫で回し合い、そして………

室内の様子に熱中していると、後ろに人の気配を感じ慌てて振り向いた。
そこにはお父さんが腕を組んで睨み付けている…
「な、何…?」
もうちょっとでお兄ちゃんは自分の○○○をアルルさんの○○○へねじ込む瞬間だったのに、見学を邪魔するお父さんにイラッとくる私。

「『何?』じゃない…部屋に戻れ馬鹿者が!」
あれ?
もしかして怒ってる?
どして?

「ティミーとアルルの恋路の邪魔をするんじゃない!覗かれていると知ったら、あの二人の関係が進まなくなるだろが!」
どうやらお父さんは、お兄ちゃんとアルルさんが初めてする事に感付いた様で、覗いてる私達を咎めに来たみたい。
宿屋側の空気は読めないクセに、息子カップルの微妙な変化には目聡いわね…

「あ、あのねお父さん…私達、参考の為に見学させてもらってるのよ…だ、だがら…」
「お前等の方が何十歩も先を行っているんだ…見学の必要は無い!部屋に戻って腰振ってろバカ!」
私もお父さんも声を潜めて喋っているが、どうにも迫力に違いがありすぎて、言い訳が思い浮かばない。

「言っておくが俺の部屋はここの真下だ…お前等の行動は直ぐに分かるからな!」
私もウルフも何も言えず、ただ黙って部屋に引き返すだけだった…
すんげー怖かったよー!
だって娘に対してマジ切れしてんだもん…一人称が“俺”になってんだもん!!(涙)

隣室からは甘い喘ぎ声が…
私は愛する彼氏と部屋で二人きり…
しかもベッドの上で抱き合っている。

本来ならリビドーだだ漏れの獣と化すはずなのに、先程の恐怖が拭えずにガタガタブルブル抱き合って震えていた。
くっそー…今度はばれない様に注意しないと…






私とウルフは、隣から聞こえてくる喘ぎ声と、お父さんへの恐怖で一睡も出来ず、宿屋に併設されてる食堂で、遅めの朝食を食べている…
つっても殆ど食欲が湧かないので、目の前の料理をフォークで突いてるだけ。

因みに私の隣室のカップルは、明け方に第2ラウンドへ突入した為、まだ食堂へは姿を見せてこない。
普段は真面目一直線なのに…

昨晩の出来事(私とウルフが覗こうとして、お父さんの不興を買った事)は皆さん承知の様で、誰も触れようとはしてこない。
だが何処にでも空気の読めないヤツは居るもの…

「流石は旦那の息子!地球のへそって洞窟を探検しただけでは物足りず、今度はアルルのへその下の洞窟を探検した様だな!アルルも青い宝玉1個じゃ満足出来ず、ティミーの宝玉にまで手を出したぜ!」
同室のモニカさんより遥に送れて現れたカンダタは、不愉快な笑顔で勇者カップルの事を話題に持ち出した。

かなり丈夫そうなマグカップ(食堂の物)でコーヒーを飲んでいたお父さん…
カンダタの台詞を聞くなり、無表情にマグカップを握り潰し、凄まじい怒気を周囲に撒き散らす。

吐きそうな程のプレッシャ-に、私は黙って俯くのみ…
ただ時間が経過するのを待っている。
誰でもいい…救世主は居ないのか!?

「ア、アルルは1日中…1人で洞窟を探検してたんだ!寝坊もするよ!ティ、ティミーさんだって、アルルが心配で、1日中町中を彷徨ってたんだもん…い、今はゆっくり眠らせておこうよ…そ、そんな事より、オーブも後1個だね!」
メシアは私の彼だった!

あからさまな立前を強調しながら、昨晩の事件に触れない様に、皆の意識を誘導している。
筋肉馬鹿(カンダタ)にも理解出来たらしく、大人しく黙って俯いてくれた…もしかしたらお父さんの怒気に脅えているだけかもしれないけど。




「すみません…寝坊してしまいました…」
永遠に思われる短い時間を、極度の緊張に身を晒し堪え忍んでいると、遂に待望のご子息が登場してくれた!

「何…気にするなよ。昨日の試練は大変だったのだから、もっとゆっくりしてても良かったんだよ」
数秒前までの怒気が嘘の様に無くなり、何時もの優しく爽やかなお父さんの声が食堂内に浸透する…
すると其処彼処から安堵の溜息が聞こえてきた。(無関係の一般客からも…)

「そんなワケにもいかないわ…後1つのオーブの事も話し合わなければならないし…」
お兄ちゃんの直ぐ後ろに控えていたアルルさんが、何時もの優等生ぶりを披露しながら空いてる席へ彼氏と揃って着席する。

「うん、そうだね…それに皆さん、食事をせずに待っていてくれたみたいだし」
負けじとお兄ちゃんも優等生らしい台詞を吐く…
でもね違うのよ。
アナタ達を待ってて食事をしてないワケじゃありません。
アナナ達の関係を大事に思ってるお父さんの怒気の為に、食欲という欲求を全て吹き飛ばされてしまい食べる事が出来なかったんだよ。
その事実をぶっちゃけたいけど、お父さんが怖くて出来ませんのですわ。


「さて…残りはイエローオーブだけだけど、カンダタに何か情報はある?」
皆が自分等を待っていたのだと勘違い中のアルルさんは、自身も食事には手を付けずに今後の目的地を情報通に尋ね出る。

「悪いなアルル…俺の元にも、イエローオーブの情報は入って来ないんだ…」
「アタイの所にも、イエローオーブの情報は無いねぇ…」
そう言えば、最近兄カップルの行く末が気になりすぎて、情報を植え付けるのを忘れておりましたわ。
さて…どうすんべ。

「あれぇ~…そう言えば、マリーは何処かでイエローオーブの話を聞いたって言ってなかったっけ?」
皆さんとは別の意味で途方に暮れる私に、お父さんが“ワザと?”と思える様な胡散臭い口調で、DQ3情報を引き出させようと話題を振ってくる。

「え!?な…えぇ!?………あ…その…え~と…そ、そう言えば、何処でだったか忘れましたけど、以前聞きましたわ…と、思いますわ…多分…」
何だよいきなり!?
なんも考えてねーよ!

時間さえあれば、ルーラを憶えたウルフと共に、大きめの町に出向いて情報収集を行ってくるって言い訳ぶっこいて、デートしてエッチしてキャッキャウフフになれるのに、そんな無茶振りされたって何も言えるわけねーだろ!

「マリーちゃん…それは本当なの?」
うわぁ~ん…メッチャ羨望の眼差しで見詰めてはる!
“知らねーよ!”なんて言えませ~ん!!

「あ…え、えぇ!た、確か…イ、イエローオーブは…人の手から人の手へと、移り渡っているらしいんです…ですから…え~と………そう!エコナさんの町に行って、情報を集めましょうよ!」
何だこの強引な言い訳は!?

時間を貰って一旦船に戻れば、船で待機しているロリ水夫を使って情報をそれとなく伝える事だって出来るのに…何なんだこの強引な言い訳は!?
私をこんなピンチに追い込んだ父が憎い…

「確かにそうだな!エコナさんの町なら、出来たばかりで世界中から人が集まりそうだよね!」
「なるほど…そうね!エコナの所なら、大勢の人が集まるだろうし、情報も大量にあるかもしれないわね!」
根本が素直なお二人は、私の苦しい言い訳を鵜呑みにし、次なる目的地を確定してくれる。

ありがとうお兄ちゃん…そしてお義姉ちゃん。
アナタ達は間違いなく勇者でありまする!
私を救った救世主でありまする!!




次の目的地も決まり、ともかく船に戻って出港の準備をする私達。
私も可能な限り手伝いをしております。父とは違うんだからね!
尤も、あの男に手を出されると、余計に時間がかかっちゃうんだけど…


素人(シロート)に出来る事は終わり、後は玄人(プロ)に任せられる状況までいき、時間が出来た私達。
するとアルルさんがお兄ちゃんを伴い(と言うより、手を引かれて無理矢理連行されてくる)、何もしてない男の下へとやって来た。

「あのリュカさん…お話があります!」
何やら決意が表情に宿るアルルさん…お兄ちゃんの方は何だか分かってない様子。
「何?…孫が出来たとかの報告じゃないよね!?」

誰がどう見ても超真面目な話をしようとしているアルルさんに対し、そんな事を言えば“真面目に聞いて下さい!”と激怒すると思われるのに、軽口を叩くお父さん…凄いを通り越して馬鹿なんだと思う。

「…似たような物ですが、ちょっと違います。………私達…結婚します!」
だけど私達を驚かせたのはアルルさんだ。
怒るどころか、いきなりのカミングアウトに、一同唖然とする。

「……………」
流石のお父さんも普段の軽口も言えず、一瞬思考が停止した様子。
「へ、へー…お、おめでと…」

ようやく絞り出した言葉が何とも間抜けで、この状況が極端に突飛であった事を伺える。
そして何より、結婚報告に驚き作業が停止していた水夫達が、我に返って動き出し互いにぶつかり合っている事からも、私のお義姉ちゃんの報告が飛躍的すぎた事を物語っている。

「あ、あのねアルルちゃん…そこまでの経緯を、私達に解るように説明してもらいたいんだけど…」
私とお兄ちゃんの母親も、状況に困ってしまい説明を求めている。

「…はい。私は昨晩、お2人の息子さんへ処女を捧げました!凄く素敵な一夜でした!」
それ…言わなくても皆さんご存じですわよ…
「あぁそう…ワザワザご丁寧にどうも…」
こんな状況でも軽口を叩けるお父さん…見習った方が良いかしら?

「私とそう言う関係になったからには、責任を取ってもらいたいと思ってます!」
“責任”その言葉を聞き、困惑していたお兄ちゃんも表情を改める。
真面目な子だから、ヤリ逃げなんてするとは思えない…ワザワザ報告する意味が分からない…
やっぱり思考回路が違うのかしら?

「あ、うん。…誤解の無いように言うけど、僕等は2人の結婚に反対はしないよ…むしろエッチする前から、2人は結婚する以外の道は存在しなかったからね!」
当然だ…
二人は100%結婚するものだと皆が思っていた。
今更ヤっちゃったくらいで報告する必要があるの?

「それで…その事に伴ったお話なんですが…」
何だ…それだけじゃないのか?
お兄ちゃんと抱き合いながら話を続けるアルルさん。
「私は、異世界より訪れた彼と結婚します。リュカさん達が元の世界へ帰れるようになった時、彼の事はどうするつもりでしたか?」

あ!
そうか…私はアルルさんをグランバニアへと連れ帰るものだと勝手に考えていたけど、こっち等の世界には家族が居て、現状では異世界行きを確定する事は出来ないんだったわ…
アレフガルドでゾーマを倒すと、二度とアリアハンへは戻る事が出来ないというのは、今の段階で私しか知らない事…勿論説明だって出来ないし、愛し合うお二人にとっては悩み所よね…

「その事はお前等2人に一任するよ。ティミーがこの世界に残っても良いし、アルルが僕等の世界へ来るのも良いし…お互いが納得し、アルル…君のご家族が納得する結論で行動しなさい。僕もビアンカも、お前達が共に同じ世界で暮らす事を、阻害するつもりは微塵もないよ」
しかし、どうやらお父さんとお母さんの間では結論が出ていた様だ。
愛し合う二人に任せるという、粋な結論が…


「あの…リュカさん…俺は…どうすれば…?」
忘れていたが私達も同じ様な境遇だった…
絶対にお姫様生活を捨てたくない私は、此方…と言うより、アレフガルドに残る事など論外で、強引にでもウルフは連れ帰る予定でありまする。

「…お前はグランバニアへ強制連行だよ!決定だからね!」
うん。自分に関わる事象でなければ呆れ果てるパパの台詞…
でも今回は感謝に絶えません!

「な!?…何で俺は、2人で相談して決めろとかの選択肢が残されて無いんだよ!」
別に(ウルフ)もグランバニア行きが嫌なワケでは無いと思う…ただ、勝手に決められ、強制される事に反発して居るんだと私は思う…
でもちょっと悲しいわ…

「じゃぁ、2人で相談してみろ!たいして今の状況と変わらないぞ」
「ウルフ…私はグランバニアへ帰りたいの!リッチなお姫様ライフを、手放したくないの!勿論ウルフとも別れたくないから、私の事が好きだったら、一緒にグランバニアへ行きましょ!お願い」
私達にも選択権が与えられ、話し合う余地が出来たのだが、そんな余地は宇宙(そら)の彼方に放り投げ、瞳を潤ませながらウルフにグランバニア行きを嘆願する。

「な!…お前に選択権は残されて無いだろ!?」
「う゛…何かズルイ…」
ズルくない…全然ズルくないわ!
だって愛してるんだもん…貴方(ウルフ)の事も、グランバニアの生活も…

「そう言うな…何だったら、お前に王位を譲っても良いんだよ。どうする?」
どうしてこんなに王位に執着がないんだろ?
今すぐにでも譲りたそうな口調で、彼をグランバニアへ誘ってる。

「えぇぇぇぇ…話を聞いてると、リュカさんの国は王様が一番身分が低そうだしなぁ…」
「うん。間違いなく低いね!でも貴族イジメという、楽しい遊戯(あそび)もあるよ」
そんな事を出来るのはお父さんやポピーお姉ちゃんだけよ…

「はぁ…じゃぁ王位の件はともかく…俺は努力してリュカさんの義息になりますよ…何かこの世で一番大変な立場じゃない?俺の胃、持つかなぁ…」
「ウルフ君。君なら大丈夫だよ!僕より適任だ!それに、もう1人のトラブルメーカー…ポピーはグランバニアに居ない!僕よりも、遙かに楽な環境だ!」
フォローになってるのか分からないけど、嬉しそうに話すお兄ちゃんを見て、私も嬉しくなる。
だって大好きな人と共にリッチな生活を続けられるんだもん!





さてさて…
お兄ちゃんとお義姉ちゃんの未来はまだ分からないけど、私達にはやらねばならない事がある。

準備も整いエコナバーグへと出港する私達…
作業中の水夫を除けば、多くの者が暇を持て余し出した。
すると学ばぬ馬鹿が行動に出るのだ…

カンダタを主犯に、幾人かの水夫がお兄ちゃんに近付いて楽しげに囃し立てる。
結婚宣言に至る行為について、『どうだった?』・『締まりは?』・『中で出したのか?』等…
ウブで、朴念仁で、恥ずかしがり屋で、真面目っ子なお兄ちゃんには拷問の様な問い掛けをする馬鹿者達。

お父さんの様に風だけのバギを唱える事が出来たのなら、間違いなく全員を吹き飛ばしていたであろう苛立ちを憶える私。
しかし挿入シーンを見学しようとした愛娘を、殺しそうな勢いで睨み付けたマイパパが許すわけもなく、あのでかい筋肉ダルマなカンダタを片手で持ち上げ、水平線の彼方まで投げ飛ばしてしまった!

勿論共犯達も同罪で、船を中心に四方八方へ飛んで行く水夫達。
でも哀れに思いません…
自業自得です。
私の大切なお兄ちゃんを苛めるのだから。



 
 

 
後書き
色んな意味で素敵な一家だと私は思う…
私はね! 

 

歌は世に連れ世は歌に連れ

「何か凄い有名人ですね…乗っ取ろうと思えば、容易く乗っ取れますよリュカさん!」
以前この町の窮地を救った立役者は町長に並ぶ程の有名ぶりで、町行く人々から感謝の声をかけられ、エコナさんの屋敷(庁舎の様なもの)にも顔パスで入る事が出来る。

そんな師匠に弟子がからかいながら尊敬の念を現している。
「何でそんな面倒な事を…町なんて乗っ取ったら、自由に遊べなくなるじゃんか!」
子供みたいな言い訳で大人の事情を使えるお父さん…
だからウルフは尊敬してるんだろうなぁ…


屋敷内を彷徨くとオフィスの様な部屋があり、そこではエコナ町長と部下の人達がお仕事をしておりました。
「リュカはん!まさかこんなに早く来るとは…耳が早いなぁ…」
「は?耳が早いって?」
“手”の間違いでは?

エコナ町長は仕事の手を止め、お父さんに抱き付き意味不明な事を仰った。
因みにお兄ちゃんは「手が早いの間違いでは?」と言っちゃったけど、シカトこかれて話が進む。

「また惚けて!ウチが流した噂を耳にしたんやろ。ウチがイエローオーブを手に入れた、ちゅー噂を聞きつけたんやろ!せやから此処に来たんやろうに!」
しかもラッキーな事に、既にイエローオーブを入手済みで、その事と勘違いしていたみたいですわ。

「あ、あのね…違「そうなんだ!」
真面目っ子アルルさんの言葉を遮り、勘違いに乗っかってポイントを稼ぐは私のお父様…
「エコナがオーブを手に入れたと聞きつけ、ダッシュで此処まで飛んできたんだよ!」
「やっぱりー!ホンマ情報仕入れるのが早いわぁ~………ウチが噂を流し始めたんは、一昨日からなんや。流石リュカはんやね!」

「当然!何時もエコナの事を考えてたからね!エコナバーグの事には常に耳を傾けてたんだよ!」
「嬉しいわぁ~…だからリュカはん大好きや!」
もう私は何も言わない…

「(ゴホン!)エコナ様…仕事が滞ってますので、それくらいに…」
でも、それどころじゃない秘書さんは、遠慮がちにお二人の奇行を止めにはいる。
「あ…せやね………ゴメンなぁリュカはん。今夜はこの屋敷に泊まってや!その時にオーブは渡すから…それまで町でも観光しててや」
「うん。そうするよ…あの劇場がどうなってるのか気になるし」
「何処か気になる事があったら、遠慮無く言ってや!リュカはんの厳しい評価は、えらい為になるんやから!」





「よくもまぁ、いけしゃあしゃあと嘘が吐けますね!」
「別にいいじゃん!誰も困らないんだし…」
真面目っ子お義姉ちゃん、パパへと突っかかるの図。
でもパパへこたれない!
「でも………」

「それにエコナも喜んでたじゃん!それとも…『お前の事も、この町の事も全然気になどしていなかったが、情報が必要になり思い出したので此処へ来た!』って、言った方が良かった?」
「………もう!意地が悪いですねリュカさんは!」
昨日今日娘になったお嬢ちゃんには、その男を倒すのはまだまだムリだろう…





1ステージ2000ゴールドの歌手に、客一組50000ゴールド支払い、歌を披露した客には500000000ゴールド支払う必要が発生する劇場…それがエコナバーグ劇場!
今はこのシステム、なくなったのかな?

「随分と雰囲気が変わりましたね…」
【ちびっ子喉自慢大会】と書かれた看板と、私ぐらいのお子様達が一生懸命歌っているステージを見て、ハツキさんが呟いた。
【入場無料・飛び入り参加大歓迎】と書かれた看板もあり、以前の酒場を大きくした様なイメージはなくなっている。
「どうやら酒も置いてない様だね」
お酒が嫌いなお父さんは満足そうに見渡している。

「ようこそいらっしゃいましたリュカ様!どうぞご堪能していって下さい」
すると突然現れた愛想の良いオッサンに、馴れ馴れしく歓迎され戸惑う私達。
「あ…う、うん…そうする…」
あのお父さんが引いている…

「その節は大変失礼を致しました。リュカ様がエコナ様の大切なお人だとは知らなかった物で…ご無礼をお許し下さい」
どの節?
コイツ誰よ!?

「…お前、誰?」
私と違って遠慮がないお父さんは、気にすることなく失礼な言葉を吐き付ける。
「えぇ!!お忘れですか?私…以前はエコナ様の屋敷前で門番を務めておりました…お忘れですか?リュカ様が王様である事を知らずに、無礼な態度を取ってしまった門番を!」
全然記憶にねー…
「……………あぁ…そう言えば居たなぁ…忘れるも何も、記憶に残らねーよ!」
ここの新しい支配人のようだが、お父さんには覚えがある様だ…少しだけ。

「で、でも大盛況ですね、この劇場は!お子さん達の歌も凄く上手いし…支配人さんは良い手腕の持ち主の様だ!」
「ありがとうございます!折角出来上がった劇場ですからね…町民の活力になる様な使い方をと思いまして。それにこの町から未来のスーパースターが誕生するかもしれませんからね!」
ションボリ支配人のフォローをするのはお兄ちゃん。
支配人も嬉しそうに劇場の事を語ってる。

「そう言えばリュカ様は、大変歌がお上手と聞きます。やはり娘様も、お父様に似てお上手なのでしょうね…どうですか、飛び入り参加大歓迎ですので、御参加されてみては?」
「わ、私!?」
権力者に媚びを売りたい支配人…
突然のご指名に戸惑う私…
「いいじゃん!参加しちゃえば?」
人事の様に軽い口調のお父さん…
う~ん…ちょっと楽しそうねぇ…

「え~…でも~…こんなに可愛い私が参加したら、ファンがいっぱい出来ちゃうかも~!そのファンがイケメンだったりしたら、私困っちゃ~う!ウルフとどっちを選べば良いのか…私迷っちゃ~う!」
でも安易にOKしないのが良い女の条件。
勿体ぶって焦らしつつ、彼氏にヤキモチ焼かせちゃう!

「大丈夫!俺以上のイケメンなんてリュカさんくらいだ!迷う事はないさ!」
おっと~…随分と言う様になったもんだ。
でもナンバー1と言わない所がまだ甘い!

「それで………お嬢様、どういたしますか?」
う~ん…やっぱり権力者の娘として媚び諂われるのは気分がよい。
何の影響力もない小娘(わたし)に、恭しくする大人(しはいにん)を見て虚栄心急上昇!

「お父さん…私、お父さんの伴奏で歌いたいなぁ」
更なる満足度を味わう為に、私はお父さんへお願いをする。
「え、僕の伴奏で?………構わないけども、何を歌うのか分からないと…」
この町で知らない者は居ないお父さんと一緒に出れば、審査員達も気を使って私を優勝させるに違いない…

「大丈夫!きっと知ってますわ。私が誰より1番だっちゃ的な歌ですから!」
ちょっと乗り気なお父さんに、最後の一押し。
「あぁ…OK、それなら大丈夫!」
これで私の優勝は決まったも同然ね!




あと2人で私の出番…
ステージ横の待機所で、私は出番待ちをしている。
1人前の女の子は、極度の緊張で震えちゃっておりますよ。(笑)
こんな状態じゃまともに歌えないわね。

「お嬢ちゃん…もう少し、肩の力を抜いた方が良い。その方が可愛いよ」
こんな幼女も射程範囲内なのかと思う様に話しかけるお父さん…
「で、でも…し、失敗したら…」
どうせ私の優勝は決まってるのだから、放っておけばいいじゃない。

「失敗したって良いじゃないか!人間誰しもミスはある。でもね…失敗を味方に付ける事が出来るのは、誰にでも出来る事じゃない!」
「失敗を味方に…?」
「うん。歌ってる最中に間違えたら『テヘ♡』って感じで笑ってみせる。そうすれば、誰もミスったことは気にしないよ…むしろ『可愛い』って好印象になるね!だから、失敗したってどうってことないって気持ちで挑んでみなさい。自分の実力を出し切れるから」

格好いい大人の男性に的確なアドバイスをされ、身体の震えがなくなった女の子…
出番が回ってきてステージに上がり歌を披露する。
めちゃくちゃ上手い…
ヤバイ…実力じゃ勝てないわ…

「むぅ…結構なライバルじゃないですか!あのまま自滅を待てば良かったのに、アドバイスしてどうするんですか!」
「まぁまぁ…他者の自滅で勝つよりも、自身の実力で勝利する事が重要だよ!お父さんはマリーの為に、彼女の実力を引き出したんだ!」
勝てるわけねーべ!

「そんな事言って…お父さんの好みの女の子だったんですか?」
ま、まぁいい…どうせ今回は出来レース…
お父さんと一緒にステージに上がれば、否応なく私を優勝させるしかなくなるだろう…
「う~ん…10年後に口説こうかな?」
ホント…疲れる父親よね…



「お兄さん、ありがとうございます!!」
実力を出し切った先程の子が、お父さんの下へ来るなり抱き付いてお礼を述べてきた。
「別にお礼を言われる事ではないよ。…それに、お礼してくれるのなら、10年後にでもベッドの中「お父さん、行きますよ!」
まだ何も知らない少女に、非常識な事を言おうとする父…
私は慌てて遮りました。

ステージに上がり劇場内を見渡すと、客の数がハンパじゃなくなってる!
広い客席には立ち見客まで集まって…
さっきまではこんなに居なかったのに!?

あ、ステージ前には“人面蝶ズ”も居る。
あの支配人、町中に触れ回ったな!
優勝は決まってるけど、ちょっぴり緊張して来ちゃった…

「どうもこんにちは。私はマリー…今日は支配人さんの特別な計らいで、ピアノが上手いお父さんに演奏してもらって歌いたいと思います。歌う曲は、私のお母さんの心情を現している歌です。頑張りますので聞いて下さい!」
ここでヘタレるワケにはいきません!

私はお父さんに目で合図を送ると、『ラムのラ○ソング』を元気よく歌い出す。
コミカルな歌詞と、私の愛らしい振り付けに、観客は大盛り上がり!
うん。大丈夫…お父さんの威光があるのだから、絶対に優勝しておりますわ!



 
 

 
後書き
大分心の成長はしましたが、俗物感は抜けきらないマリーです。
でも人間らしい(特に小者)と思うので、私は大好きです。 

 

愛の結晶

優勝出来なかった…
何故だか私は優勝出来なかった!
お父さんの威光を利用して、審査員達に圧力をかければ、問題なく楽に優勝すると思ってたのに…

結局優勝したのは、私の前に歌った少女だった。
お父さんにアドバイスされ、力の限りを発揮出来た女の子が優勝しやがった…
むぅ…アドバイスさえしなければ、威光を吹き飛ばす程の実力は出せなかったのに…

お父さんの威光があてにならないのなら、もう実力で上手くなるしかないじゃない…
………練習しよ…またこんな大会があった時に優勝出来るよう、頑張ろ!





「可愛さで言えば、マリーがダントツでしたから!」
ガッツリ落ち込んでいる私を励ます為か、ウルフが“歌唱力”以外のポイントで褒めてくる。
「分かったわよ!しつこいわねぇ…」
優勝発表が終わり、エコナ町長のお屋敷で食事を振る舞われる現在まで、何度となく同じ事を言い続けてくるウルフに、アルルさんもキレ気味に言ってくる。

私としては“歌唱力”を評価されたい…
この両親の娘ならば、可愛さが水準以上になるのは当然で、実力は微塵も含まれない。
『歌が上手いね!』ってチヤホヤされたいよ~!!

「でも、今回は喉自慢大会だからねぇ…歌唱力が物を言う大会だ!ミスコンじゃないんだよ」
「そんなこと関係ない!マリーが1番だった!」
もう止めて…
惨めな気持ちになってくる…

「ウルフ君………最近君は義父に似てきたぞ………もしかして、実は血が繋がっているのか?」
暴走気味のウルフに、お兄ちゃんが突っ込みを入れるけど…
「実の息子が、実の息子らしくないから、俺がそれを補完してるんです!ちょっとは責任を感じて下さいよ!」
止まりそうにない暴走狼。

「まぁまぁ…今度参加する時は、ウチから多少手心を加えるようにと言うとくから…」
「「そんな事はダメ!」」
ちょっとエコナさんの一言に期待を寄せた瞬間、夫婦揃って拒絶する私のご両親…
まさか…今回ワザと優勝させなかったんじゃないだろうな!?

「実力が伴わない評価は、自分も他人も不幸にする!」
「そうよ!今回の評価は、マリーの実力に見合った物だったわ!」
ぐっ…た、確かにそうだけど、両親に面と向かって言われると、傷口が広がる感じに落とされる。

「リュ、リュカはん等って…結構厳しい親なんやねぇ…」
た、確かにそうね…
一見すると子供(特に娘)に甘い印象を受けるけど、王族である事を秘匿させ一般の子供達と共に学校へ通わせる態度は、身分に拘る人間ではない様だ。
そして子供達を身分に拘らない人間に育てようとしている。

「努力せずに得た地位では、向上心を持ち得ない。一生懸命に頑張って優勝したアルエットちゃんは、今後も歌の練習を続けるだろう。来年の彼女は、今日よりも歌が上手くなっている!」
ゔっ…おもっきしそのつもりだった私…

「それは分かるけど…自分の子には、苦労させたくないやんか!?」
そうよ!苦労はしたくないですわよ!
「無用な苦労ならば、親として全力で取り去ろうとは思うけど…するべき苦労は与えるべきだよ。大して上手くもないのに、周りから『歌が上手い』と持て囃される娘を、僕は見たくない!下手な歌に酔いしれている娘なんて………」
確かに…そんな滑稽な姿を晒したくはない…
うん。やっぱり実力で頑張ろう!


「はぁ…やっぱ、リュカはんの生き方は勉強になるわぁ~…」
私が密かに決意を固めると、エコナさんがテーブルの上にイエローオーブをドンと置く。
「エコナ…これって…」
アルルさんは期待を込めて確認する。

「せや…アルル達がお探しの『イエローオーブ』や!結構な値はしたけど受け取ってや」
「ありがとうエコナ!これでバラモス城へ行く事が出来るわ!」
イエ~イ!
一時はどうなるかと思ったが、概ねハッピーな状態でイエローオーブを入手出来た。

「でな…別に交換条件ってわけやないんやけども…リュカはんにお願いがあるんや…」
お?“結構な値がした”って言ったけど、それと同価のお願いをするのかな?
「何…?面倒な事言われるくらいなら、イエローオーブは要らないよ!」
でも流石はお父さんです。
愛人からの…私達の為に色々してくれた愛人からのお願いなのに、内容を聞く前から顔を顰めて拒絶の体勢。

「ちゃうねん!交換条件やない!オーブはもうアルル等の物やねん…如何なる理由でも、返してもらうつもりは無いねん!」
「じゃ、何?」
破格の申し出だが、お願いされる事に拒絶気味のお父さんは態度を変えはしない。

「先日な…イシスの女王自ら、この町を視察に来たんや。その時な…自慢されたんや…女王様の娘を…『見て見て!私とリュカの、可愛い娘よ!』って」
へー…遂に生まれたんだ…私の新たな家族が…
「………ウチ、めっちゃ羨ましくて!だからウチにもリュカはんとの子供が欲しいねん!」
「「「「…………………………」」」」
えっと…それって…えっと…………

「う~ん………まぁいいけど………早速、今晩頑張ってみる?」
いやいやいや…そんな軽い口調でOKする様な事柄じゃないでしょう!
「ちょ…父さん!そんな非道徳的な事を簡単に了承しないで下さい!」
お兄ちゃんの意見は最もだ!

「何?簡単じゃ無ければ良いの?難しく考えた結果なら良いの?」
だが思考回路の違う男には効果がない!
「そ、そう言う意味では…」

「それに、もう慣れろよ!お前、腹違いの妹が何人居ると思ってるの!?」
それは結果論だし…
今回は着手前の事だし…
「か、母さんからも何か言って下さいよ!」
そ、そうよ!奥さんが一番出しゃばるべき事でしょう!

「………」
私もお兄ちゃんも期待を込めてお母さんを見詰める…お母さんもジト目でお父さんを睨んでますわ。
「大丈夫だよビアンカ…エコナが終わったら、直ぐに君の番だから!足腰立たなくなるまで頑張っちゃおうね!」

だがやっぱり思考回路の違う男には効果なく、チャラくウィンクして返事する。
私もお兄ちゃんも“そうじゃねーよ!”って心で突っ込みを入れたのだが、お母さんの心を的確に読み切ったのはお父さんだった様で、足腰立たなくなる事への期待でトリップしちゃっておりました…

あぁ…ダメだ…
この夫婦には常識が通用しないのだ…
「ちょ…」
更に言い縋ろうとするお兄ちゃんの服を引っ張り、口だけ動かして伝える…
『もう諦めて』と…



 
 

 
後書き
まだ俗物感があるマリー…
人間らしくて私は好きです。 

 

アホの子ラーミア、大空を行く!

一言で言うと肌寒い土地、レイアムランド。
希望としては海岸沿いに祠を建ててほしかったのだが、意外と内陸に建設されてる…
さみー思いをしながら、船から下りてトボトボ目的地を目指す勇者様ご一行。

卵(生き物?)があるのだから、もっと暖かい土地で奉ればいいのに…
何だってこんな寒い場所なのですか?
勿論こんな不満は口には出さず、黙って従う健気な私。



どうにかこうにか到着すると、一秒でも早く寒さから逃げたかった様で、お父さんが素早く室内へと入って行く。
私もそれに続き、ホッと一息心を落ち着かせる。

「うひゃぁ~…でっけー卵だな!目玉焼き何人分だろうか?」
「私はスクランブルエッグが好きですぅ!」
入って目に止まるのは大きな卵…
寒さから逃れ、余裕の出来た私とお父さんは、神聖なる不死鳥に対し無礼極まりない発言で心を和ます。

「「ようこそいらっしゃいました勇者様」」
大きな卵の存在感が強すぎて、手前の美少女双子に意識が行かなかった私達…
「うぉ、双子だよ!ザ・ピーナッツ!!」
美少女をスルーしてしまった事への恥ずかしさからか、古い話題で場を和まそうと試みるお父さん。

「お父さん、古い…もしかして、そのころ全盛期?」
「ちょ、失礼な娘だなぁ!知識として知っているだけだよ!だって昭和の名曲を数多く歌ってるじゃん!溜息が出る様な…」
確かに名曲揃いよね!
「まぁ…『恋のバカンス』ね!」

「じゃぁ、マナ・カナって言えば合格点?」
「う~ん…まぁいいでしょ!ギリセーフで…」
オスギとピーコって言わないだけマシね。

「「あの…話を進めても宜しいでしょうか?」」
私達の意味不明会話に困惑し、恐る恐る話しかける双子ちゃん。
「あ?あぁ…ごめんごめん!双子が珍しくて、つい…」
そうよねぇ~…双子って珍しいわよね………あれ?そう言えば身近にも双子が居た様な………気のせいか?

「「私達は待ち続けてきました。世界を救う勇者様が、各地よりオーブを集め訪れる事を!」」
はわぁ…素晴らしい程の同調ぶり…
「うわぁ~…ユニゾン…」
この二人ならイスラフェルを倒すのは容易だっただろうに…

「「さぁ勇者様…6つのオーブを6つの台へと奉って下さい」」
「あ、はい!」
双子ちゃんの美しいユニゾンに見とれていたアルルさん…
急に話を振られ、慌てて従っている。


「「私達、この日をどんなに待ち望んだでしょう!さぁ祈りましょう!時は来たれり…今こそ目覚める時!大空はお前の物…舞い上がれ空高く!!」」
双子ちゃんの言葉に反応するかの様に、卵が大きく振動しヒビが表面に走る。

そして遂には卵は割れ、中から白く美しい鳥が羽ばたき、祠の外へと出て行った。
「「伝説の不死鳥ラーミアは蘇りました。ラーミアは神のしもべ…心正しき者だけが、その背に乗る事を許されるのです。さぁラーミアが外で、あなた達を待っています」」
そのままどっかに行っちゃってたら笑えるよね。


「うわぁー!でっかい鳥ー!!ちょ~可愛い!」
お父さんて大きいのが好きよね…
愛人も全て巨乳だし…

「君のお名前は?………そう、ラミーアって言うの!う~ん可愛い!!ねぇねぇビアンカー!この子可愛いよぉ!連れて行こうよぉ!!」
大きな鳥に抱き付き、撫で回して愛撫するお父さん…
ラーミアも心地よいらしく、目を細めで擦り寄っている。

「あの…リュカさん…ラー「ちょっとリュカ!そんな大きな子を飼う余裕はありません!食費が凄そうじゃないのよ!」
え!?
何を言ってらっしゃいますのお母様…

私達はラーミアを…目の前の大鳥を連れて行く為に、危険な思いをしてまでオーブを集めたのですよ。
『家じゃペットは飼えません!』的な口調で断っちゃダメですわよ!

「え~……こんなに可愛いのにぃ~!」
「ダメよ!プックルを始め、他にも色々居るでしょ!」
居るけど…用途が違うからね!
それとも食費の心配ですか?確かにこの大きさ…大量に食べそうねぇ…

「変化の杖で人間に化ければ、食費はかからなくなるかもね」
私は馬鹿なやり取りをする両親に、呆れ半部分で馬鹿な提案をしてみる。
採用なんてされる期待などなく、『馬鹿か、そう言う事じゃない!』って言ってきたら、『そっちこそそう言う事じゃねーだろ!』って言い返すつもりでした。

「なるほど!マリーちゃんナイスアイデア!」
でもお父さんは指パッチンで私を褒め、変化の杖をラーミアに託し話しかける。
「人間の姿を想像して、この杖を振ってごらん」
ラーミアもクェーと一鳴きすると、杖を加え豪快に振り回しお父さんの指示に従っちゃう…

「はわぁ!?ホントだ、ラーミア人間になったよ!リュカ、ラーミア人間になれたよ!」
どんな想像をしたのか、4.5歳の幼女に化けるラーミアちゃん…
「うわ…本当になれたよ…流石ファンタジー…」
そんな幼女に抱き付かれ、一番ビックリしてるのはお父さん…

「あ~ぁ…リュカ、責任取りなさいよ!」
責任?…この場合の責任とは?
「リュカ!ラーミア、リュカ好き!ラーミア、リュカの為頑張る!」
大好き!?
もしかしてやっちゃったの?

エルフ・ホビット・異世界人…そして不死鳥。
リュカ・愛人列伝に新たなる種族が…
その名も不死鳥ラーミア!
いきなり抱き付き、撫で回した事に絶大な効果があった様で、ラーミアはお父さんにゾッコンだ!

「…では、ラーミアの事はリュカさんに一任する事にします。異存はありますか?」
「「「「「……………」」」」」
シラケた瞳でラーミアを押し付けるアルルさん。
そして誰も異論を唱えない。

首に幼女をぶら下げて、途方に暮れるお父さん…
大人のナイスバディー美女に変身させて、子作りを楽しむのかしら?
今後のお父さんに期待よね。




「さて…それではお空の旅へと参りましょうか!」
色々準備(特にメンタル面)を済ませた私達(特にお父さん)は、ラーミアに変身を解かせ大鳥に戻すと、順次背中に乗り込んだ。

でもお父さん以外を乗せるのが嫌なラーミアは、あからさまに不機嫌そうな表情をする。
鳥のクセに生意気ね!
きっと人間の姿だったら舌打ちしてるわよ。

「そう言えば、マナ・カナは今後どうするの?」
勝手に双子を“マナ・カナ”と呼び、今後の彼女等を心配するフェミニストパパ。
「「マナ・カナではありません!私達はスフェルとスフェアです!」」
名前、あったんだ…そりゃそうか!

「あ…うん、どっちがどっちだか分からないけど……ともかくどうすんの?此処に残って、処女を守り通すの?」
「何でそう言う聞き方しか出来ないんだ!?」
それは私達のパパだもの…お兄ちゃんにも私にも、同じ血が流れてるのだもの!

「「………分かりません。私達は、ラーミアの卵を守る事を使命として生きてきました…その使命から解放されて、どうすれば良いのか………」」
何だろう…如何なる質問にもユニゾンで答えられる様に、日夜練習していたのだろうか?
常に同じ動きをする気持ち悪い双子だ!

あ!思い出したわ…そう言えば私のお兄ちゃんとお姉ちゃんも双子じゃん!
全然揃ってないから忘れてたわ!
似てるのは面だけだもんね。

「じゃぁさ…新しく出来た町を紹介するから、そこで暮らしてみない?」
フェミニスト心が言わせるのかしら…それとも何時でも口説ける様に、ルーラで行き来可能な場所に住まわせたいだけなのかしら?

「「しかし…私達は、今までこの地で暮らしてきました…都会で暮らす知恵など持ち合わせておりません…そこで暮らす方々に、ご迷惑をお掛けする事になるかも………」」
「あはははは、大丈夫だよ!出来たての町だから、どっちを向いても余所者だらけ♡ 奇抜な双子が現れても、誰も気にしないと思うよ。それに町長は、僕にとって大事な人なんだ…サポートしてあげてよ。出来る事だけで良いからさ」
う~ん…分からないわ…
何時もこんな感じで女性に接してるし…

お父さんの口説き文句が効いたらしく、双子ちゃんもラーミアに乗り込みお父さんに擦り寄っている。
「よし、行こう!」
お父さんの掛け声一つで、一気に天空まで舞い上がるラーミア…

あまりの勢いに、落ちるかと思う事が幾度も…
ラーミアの“リュカ以外振り落とす”感がヒシヒシと伝わってくる空の旅だ。
よし…可能な限りラーミアと仲良くしよう!
嫌われない様に仲良くしよう。



風圧に晒される空の旅は快適とは言えず、飛ばされない様にしがみつくのがやっとの状況…
でもお父さんだけがテンション高く、気持ちよさそうに『浪漫飛行』を歌い出してます。
そして気付けば歌に酔いしれており、立ち上がって熱唱しております!

言うまでもない事ですが、強烈な風圧に身を晒されれば、否応なく吹き飛ばされるのが自然の摂理…
非常識なお父さんとて例外ではないのですよ。

「リュカさん!」
当然の様に飛ばされ落下するお父さんを気遣い、アルルさんが大声で呼びかける。
「大丈夫だよ…ルーラを使って、一足先にエコナバーグへ向かうから…」
だけど息子を始め、その他の方々は心配など微塵もしておらず(双子ちゃんですら、風圧に耐える事で精一杯)、冷静な答えで気にしない様促す。

だが、そんな事関係ないのはラーミアで、大好きな殿方を救うべく急旋回&急降下で助けに向かう健気な少女!
普通に乗ってるだけでも風圧に負けそうなのに、そんな事をされたのなら皆が泣き叫ぶ大空の旅。

ジェットコースターって良いよね…
だって幾重にも安全装置が付いてるんだもの…
この乗り物の安全装置って何?

「あははは、絶叫マシンは堪能出来た?」
器用にラーミアの上へ舞い戻ってきたお父さんが、無責任極まりない口調で嘯いた。
「ふざけんなクソ親父!テメーぶっ殺すぞコノヤロー!」
嫌だ…もうこのオッサン嫌だ!




「エコナー!また来たよー!!」
妻と愛人以外から、“殺してやる”感を出しまくられても全く気にしない男が、明るい口調でこの町の長に挨拶をする。

「リュ、リュカはん…出立してから10日しか経ってないんに、もう戻って来たんか?」
ガッツリ仕事中のエコナ町長…結構迷惑そうな表情だ。
でも、そんな事も気にしない男は、町長を抱き寄せると耳元で呟く様にお願い事を言う。

「あのね…エコナにお願いがあって来たの」
「な、何?お願いって…?」
忽ちウットリトリップのエコナさん…
麻薬より危険だ!

「あの双子を雇ってほしいんだ!」
ホテルの一室で、男が女に甘える為に、首筋や耳たぶへキスをするのは理解出来る…
でもオフィスに乗り込んで、部下の人達の前で行う行為ではないと私は思うけど…世間一般ではどうなんですかね?

「あ…べ、別に構へんけど…あの二人は…ん…何が…出来るんや…?」
色っぽい声を出しながら、それでも素質を確認するのは流石だ。
「さぁ…何が出来るのかは知らないなぁ…でも、真面目で良い子達みたいだから、僕の子のベビーシッターになってもらおうかと思ってね!」

「え!?マジかリュカはん!ウチ妊娠したんか!?」
愛人の腹部をさすりながら、妻の目の前で言うおめでたい話。
うん。何度も言うがおめでたい話なので、誰も怒ったりはしない…
トリップ状態から一気に覚めたエコナさんも、嬉しそうだし…
でも一般常識に照らし合わせると何かがおかしいよね!?

誰も何も言わないから大人しくしてますけど、どうにも釈然としないこの状況。
「と言うわけで、あの双子の事をお願いしたいんだ…長い時間、人里離れた僻地で暮らしていたから、些か常識外れな事もあるかもしれないけど、僕の相手をするよりは楽だと思うからよろしくね」
「何だ、自覚はしていたのですね父さん」
サクサクと話は進んで行くけど、釈然としませんですわ。





「そっか…無事ラーミアを復活させたんね!」
色々と言いたい事もある状況だが、これまでの経緯を簡単に説明し終えアルルさん達もマッタリくつろぐ。
「ほな、もう船は要らんやろ?水夫共々この町で雇うてもエエで!」

「本当に!?それは助かるわエコナ!正直、退職金を出す事が出来るわけじゃないし、船を譲った所で、その後の事が心配だったのよ…」
「良かったねアルル…彼等の第2の人生が守られて」
おぉ…やっとあのロリコンからおさらば出来るのか…
利用はさせて貰ったけど、正直キモかったから嬉しいわ。

「あんなバカ共の事など気にする事ないのに…船を与えたってまた海賊に戻るだけかもしんないし、スマキにして海に放り投げればいいんだよ」
身持ちは分かるけど、それは拙いだろうて…
「馬鹿な事言わないでよ!彼等にはとても助けられたのよ!今後彼等が正しい人生を進める様にしなければ…」

「そうですよ!いくら父さんが彼等を嫌っているからって、それは酷すぎでしょう!」
真面目カップルじゃなくたってクレーム付けるぞ。
「ヘイヘイ…ラブラブ勇者様はお優しい事で…」
まぁ勿論冗談だったのだろうから、他の誰も何も言わないのだろうけど…

「ほな決まりやね!…んで、今はどの辺を航海してんの?」
「「「……………」」」
ん?…今、どの辺を航海している…って?
「……どうしたんや?」

「………に………れた…」
「え、何!?」
誰も何も言えない中、アルルさんが代表して何かを呟くが、あまりにも声が小さすぎてエコナさんが聞き返してしまう。

「レ、レイアムランドに忘れてきたの!!」
驚愕の事実に私達も驚いた!
誰一人として気付いた者は居らず、レイアムランドの海岸に置き去りにしておりました。
ごめんねカンダタ・モニカさん!

「ぷふー!!何、アルル達はカンダタの事を忘れてたの?あはははは、ちょ~うける~!」
「な、なによ!リュカさんだって忘れてたんじゃないですか!」
「僕は憶えてたよ。でも、もうアイツ等必要ないし、あそこに捨ててきても良くね?って思ったから!」
お前…美少女双子の事は気にしてたクセに、お世話になった水夫さん達には敬意無しかよ!


皆さん船を忘れてきた事に混乱していると、
「じゃぁサクッと僕が行って来るよ。ラーミア、行こう!」
と言って、お父さんがラーミアと一緒に出て行こうとする。
常人の思考回路で考えれば、その方法が一番手っ取り早く妥当なのだが…

「そんなのダメよ!」
何故かお母さんが反対する。
「え、何で?」
まったく何でだ?一番良い提案だと思われるけど…

「ラーミアと2人きりなんて絶対ダメ!エルフ・ホビット…そして異世界人。この上、鳥との間にも子供を作る気!?」
………お母さんは真面目な顔で突飛な危険性を指摘する。
普通に考えれば鼻で笑ってシカトなのだが…お父さんの事だし………

お兄ちゃんも『あり得る…』と言い、ウルフからは『節操が無いから…』とか言われ、誰も弁護はしてくれない。
だけどお父さんは上手で、
「今更…もう1人増えたって問題なくね?」
って鼻で笑うのです……何でお前が鼻で笑う側なんだよ!?



さて…
紆余曲折はありましたが、折衷案としてお母さんが一緒にお父さん・ラーミアと共にレイアムランドへカンダタ達を迎えに行く事になりました。
その間、私達は時間を持て余します…
そこで気を利かせてくれたのは出来る女エコナ町長!

「アルル、これが今のエコナバーグで用意出来る、最高の装備や。好きな物を持って行っ
てや」
世界各所から珍しく素晴らしい装備品を集め、私達へプレゼントして頂けるみたいです。
思わず“キリンが逆立ちしたピアス”って口ずさんじゃいました。
あの歌、この部分しか憶えられないのよね…

みんなそれぞれ、自分の戦闘スタイルに合ったアイテムを手に取り、エコナさんへお礼を言う。
ハツキさんはフットワークを活かす為『闇の衣』お選び、ウルフは『ゾンビキラー』『ドラゴンローブ』『水鏡の盾』で剣術面を強化する。

勇者アルルさんが選んだのは『ドラゴンメイル』と『ドラゴンシールド』だ。
やはりどちらかというと前衛派なんですね。
私も良さ気な物を見つけてしまい、可愛くエコナさんにお強請りしちゃいます。

「エコナさん。私はこれを貰っても良いですか?」
「それは『細波の杖』やね…エエよ、マリーちゃんが使ってや」
細波の杖…何故だか攻撃魔法しか使えない私には結構貴重な防御アイテム。
この杖を使うと、私でもマホカンタを自分に張ることが出来ちゃうのだ!



素敵なアイテム入手でホクホクな私…
大きな鏡の前で“魔女っ子美少女マリーちゃん”を演じている。
後はマスコットキャラ的な可愛いのが居れば完璧ね。

ミニモンは見た目はともかく、性格と口が悪いからボツね…つー事は、新参入のラーミアを使うしかないわね…
それと決め科白ね。
何が良いかしら…“月に変わってお仕置…”イヤイヤ………
丸パクリは拙い。

では“月に一度はアレが来る!”……………って意味分かんない!
しかもまだ来てないし…
つーか“月”が関係ないのだから、取り入れちゃダメか?



「ラーミアもー!!ビアンカばっかりズルイー!!」
私が鏡の前で悦に浸っていると、お父さん達が帰ってきたらしく大声のラーミアに驚かされる。
お父さんの首にぶら下がり、幼女は何やら我が儘を言っている…
ダメだ…アホの子っぽくてマスコットに使えない…

「何があったの?」
一緒に入ってきたカンダタに事の次第を尋ねるアルルさん。
「さぁ…俺にもよく分からねーんだ…」
だがカンダタ達にも分からない様で、一緒になって首を傾げる。
使えねーヤツだ!

「次、ラーミアの番~!」
「いや、だから…ラーミアはダメだって…」
珍しいことにお父さんが困り顔で幼女を宥めてる。
お母さんも口を出せずにあらぬ場所を見詰めてる。

「あの…一体何がダメなんですか!?」
勇気を出して効いたのは、勇気の塊である勇者アルル。
「「………」」
だけども夫婦揃って黙秘権使用。

「ラーミア、リュカのお願いきいたの!なのにリュカ、ラーミアのお願いきかないの!」
しかし情報は別の所から漏れるもの…
アホの子が自らの権利を主張するかの様に秘密を暴露っちゃう!

「ラーミアちゃん…どういう事か詳しく説明してくれる?」
普段はお父さんの奇行に困らされる側のアルルさん…
今回は逆襲の機会だと思ったのか、優しい口調で幼女から情報を引き出そうと試みる。

「あ、ちょっと…」
阻みたいのはお父さん。
このままにすれば、気にはなっても有耶無耶に出来るので、アルルさんを止めようと手を伸ばす。

「一方的にラーミアちゃんへ言う事をきかせて、自分は何もしないなんて酷すぎですよ!ジャッジは僕等が行いますので、先ずは状況確認させてもらいますから!」
ところがドッコイ、普段の奇行の被害者は他にも居り、お兄ちゃんがアルルさんとタッグを組んで原因究明に乗り出した。

「あのね…リュカ、ラーミアに言ったの!『ビアンカと2人きりだから、もっとゆっくり飛んで』って!だからラーミア、ゆっくり飛んだ!」
私達と一緒の時もその一言を言ってよ!
何だったの、あの絶叫マシーンは!?

「そしたらリュカとビアンカ、ラーミアの上で交尾を始めたの!」
「「「「え!?」」」」
突然の危険ワードに声が出ない私達…幼い姿の女の子から『交尾』等とは聞きたくなかった…

「だから次はラーミアの番なの!ラーミアもリュカと交尾するの!!でもリュカ、ラーミアのお願いきかないの!!」
「「「…………………………」」」
どうしよう…どうフォローすれば良いのだろう?
お父さんが有耶無耶にしたかったわけが分かりました…

「おう、我が息子!ジャッジしろよ…状況が判ったんだろ!早くジャッジしてみろよ!」
事態を有耶無耶に出来ない事への怒りか…余計なことに口出しした息子への怒りか…
些か厳しい口調で叱咤するお父さん。

お兄ちゃんもアルルさんも普段の父に対し、意趣返し的意味合いで踏み込んだトラブルだ。
今更ながら己の安易さを呪っているのだろう…
私はどうするべきかな?
お兄ちゃん達を助けながらラーミアの好意を勝ち取る…うん。それで行こう!

「ラーミアちゃん…アナタはお父さんと交尾出来ないのよ。何故ならアナタは人間の事を解って無いから…」
私は出来る限り優しい口調で少女に語りかける。
見た目もそうだが、実際にこの子は幼いのだ。

「ラーミア、人間の事が解ってないのか?」
実際に幼いと分かっていても、この子の思考には辟易する…まさに“アホの子”だ!
「そうよ…先ず『交尾』って言葉は使わないし、1度ダメって言われたのに、しつこく迫るのもダメなの!」
「そうかぁー…人間は『交尾』って言わないかー!じゃぁ何て言う?」
え!?何て言うって…そ、それはちょっと…

「そう言う事は自分で調べる物なのよ。人に聞いたのでは、本当の意味で人間の事を解った事にならないの。もっと人間の事を理解して、そうしてからお父さんにお願いしてみてね♥」
「うん。ラーミア頑張る!マリー、ありがと!」
ふー…何とか凌いだ…最終的にはアホ父に押し付ける事が出来そうだし…まぁ及第点よね。



「ありがとうマリー。助かったよ…」
事態が収拾しラーミアを別室へ追いやった後、お兄ちゃんがお礼を言ってきた。
「良いのよお兄ちゃん。何時も助けて貰っているお返しだから」
ホント…このところ父親には苦労させられっぱなしだからねぇ…

「何だよ…ジャッジ出来ないなら、しゃしゃり出るなよ!」
事態を大きくされて文句を言うお父さん…
「普段の行いが悪いから、こう言う時にこう言う目に遭うのよ!もっと自重する様に心がけてよ!」
私は普段の鬱憤を晴らすべく言ってやりましたわよ!でも…

「自重する僕など、最早 (リュカ)では無い!そんな常識的なパパが欲しいなら、どっか余所の家の子になりなさい!我が家のパパはこれがスタンダードです!」
何でだろう…何でこんなに自分に自信があるの?
そして、それを認めるお母さんにも腹が立つ!

「しかし…空の上でヤるとはなぁ…何考えてるんや!?」
暫く家族間で睨み合いが続いた…
それに耐えられなくなったエコナさんが、思わず口を出し事態を動かそうと試みる。

「はぁ…まったくです!父さんの非常識さには、言葉もありませんよ!」
「そうは言うけどねティミー…大空で大好きなビアンカと『交尾』するのは、新鮮で燃えるシチュエーションだったよ!お前も試してみれば?」
だからってラーミアの上では…ねぇ?

「そうよね…やっぱりマンネリって良くない物ね!…でもティミーとアルルちゃんには、まだ訪れてないでしょう。今はまだ、普通のでも新鮮なのよ!」
何でこの夫婦には常識が通用しないのかな?
何でこの夫婦には羞恥心ってのが存在しないのかな?

見た目だけでなく性格面でも似ていない夫婦なのに、“似た者夫婦”って言葉がよく似合う夫婦も珍しい…
腹は立つけど羨ましい限りだわ…

私もそんな夫婦になりたい…そう言う思いでウルフを見ると、懸命にメモを取る彼氏の姿が目に映る。
アレを真似しようと考えてるのかな?
えー…空の上ではちょっと…
でも…少しは興味あるなぁ…

彼が“どうしても”って言うのなら、私………♥



 
 

 
後書き
マリーが鏡の前で悦に浸るシーン…
書いてて凄く楽しかった!
そんなワケで決め科白募集。
公然と使えるのでお願いします。 

 

身内が神の様に崇められる

私達は今サマンオサに来てます。
お父さんがね『最終決戦の前に、お世話になった人達へ挨拶に行こう!』って珍しくまともなことを言ったの…
だからエコナバーグを真っ直ぐ南下したサマンオサに来てます。

でもね、本音はね『ラーミアで乗り付けたら、みんな驚くんじゃね?』って事みたいなのよ。
だからね、私も言ったの…
『それ、いいわね!』って…

でも私だけじゃないのよ…
お兄ちゃん以外、みんなが同じ様なことを言ったのよ。
毒されてるわよね…







「やっぱ城下はこうでなきゃね!」
まだ完全に復興出来てはいないのだが、それでも結構な賑わいを取り戻しているサマンオサの城下町。
大鳥(ラーミア)を見て人々は驚きながらも興味心から私達の方へ集まってくる。

ラーミアを幼女に変え、自慢気に城下を闊歩する…
すると、
「あ!リュカ様だ!!」
と、お父さんを指差し大声で感激する少年が一人。

その少年の声を切っ掛けにお父さんの周りに人集りが………
集まった人々皆が口々に感謝を述べている。
どうやらこの国を救ったのがお父さんであることを知っている様子だ。
何で?

「な、何でこんなに有名なの?」
群がる人々に困惑しながら、ここまで有名になっていることを疑問に思う我が父…
私も疑問に思っているが、巻き込まれたくないので距離をとって見学することに…

或る美術店の店先で、この事態をどう切り抜けるのか楽しんでいると、お店に飾ってある絵に視線が行く。
何処かで見たことある人物が、醜い化け物相手に勇ましく戦っている絵だ…

「お父さん…こんな絵が…」
ヤバイ…笑いそうだ…でもここで笑ったらお父さんにぶっ飛ばされる…きっと…
「な、何じゃこりゃ!?」
どうにか人集りを掻き分け、この素晴らしい絵(笑)の前に辿り着くと、混乱した表情でその素晴らしい絵(笑)を見詰めるお父さん。

ぷふっー!!ダメだ…我慢出来ない!
だってこの絵のモチーフは、この国を救ったお父さんなんだもん!
しかもこんなシーン無かったし(大笑)

「こんなシーン知らないぞ…」
その他にも展示されている自分がモチーフの絵を見詰め、愕然とした声で叫ぶマイパパ。
神々しく後光が差しているパパが、貧しく飢えた人々に食料を配布する絵(笑)
神々しく後光が差しているパパが、大勢の悪そうな兵士達と戦っている絵(笑)

その全てに『フィービー』とサインが記載されている。
フィービーって、あのフィービー?

私は神々しく後光が差していないお父さんに、これらの絵の作者がスリをしようとしてお父さんに捕まった少女のことであると伝えようとしたのだが、おもっきし怒り心頭状態だった為、余計なことはしない方が身の為だと悟りました。

神々しく後光が差していないお父さんは、神様を見るかの様に恭しくする店主に『ちょっとこの2枚の絵を借りるぞ!』と、半分怒鳴りながら伝える。
だが店主は『そんな借りるなんて…どうぞ、お好きな物をお持ち下さいませ。リュカ様にでしたら、店ごとお譲り致しますから』と、お布施の様に店を貢ごうと言い出す始末。
どうしよう…何この状況…どうしてこんなに面白いの!?

因みにお父さんの捨て台詞は…
『うるせー!返すってんだろ!』
だった…









「コラ、テメー!何だこの仕打ちは!?」
王様の居る会議室に乗り込むなり、怒りを爆発させる神々しく後光が差していないお父さん。

本音はともかく立前としては、お世話になった方達にご挨拶をする為の訪問だったのに、無礼全開で挨拶もしない我が父を咎める者は居なさそう。
だってパパはこの国では神様なんだもん!(笑)

「リュ、リュカ殿…!?ど、どうしたのですかな?」
ほら…この国で一番偉い王様が、この無礼を咎めることなく敬語を使ってる…
「どうしたじゃねー!何だこの絵は!?僕の事をバカにしてんのか?」
世間一般では馬鹿にするどころか、ありがたい物として崇めているんだと思いますけど…違うの?

「おぉ…良く描かれた絵だろ!ワシも何枚か持ってるが、どれも気に入っているぞ!」
「何が『お気に入り』だ!このモチーフは僕だろ!バカにしているとしか思えないぞ!作者を呼べコノヤロー!説教してやる!!」


何故この国の英雄が怒っているのか分からない様子の王様達。
「…リュ、リュカ殿…何をそんなに怒っているのだ?」
と心から不思議そうに問いかける。

しかし
「作者が来てから話す!」
の一点張りで、彼等の困惑は深まるばかり。
やはりお父さんは世間一般の人々には理解出来ないのだろう。






待つ事15分…
「あ、リュカ!私の事を呼んだって本当!?私もリュカに逢いたかったから、すごく嬉しいわ!」
思った通り私達の知っている少女が現れた。

「お、お前がこの絵を描いたのか?」
「そうよ!私のリュカに対する思いを、絵に表現してみたの。結構良く描けてるでしょ。サマンオサでは人気があるのよ」
流石に知り合いの少女が現れ、尻窄みになるかと思ったのだが…

「ふざけんな、バカにしてるとしか思えないぞ!」
態度を変えないお父さんは凄いのだろう。
「な、何で怒ってるの…?わ、私は…リュカの事を尊敬して描いたのよ!?バカになんてしてないわ!」
でも尊敬の念から描いたのがこれらの絵なのだろう…
急に怒鳴られて涙目になってしまうフィービー。

「………分かった…説明するから座りなさい」
ちょっとバツが悪そうに声を整えて、彼女を椅子に座らせる。
竜頭蛇尾ってこう言うのを言うんだろうなぁ…

「あのねフィービー…君が僕の事を尊敬してくれるのは嬉しいんだけど、この絵の僕はまるで神様みたいに描かれてるよ!止めてくんない!?」
先程までの怒りに任せた勢いはなく、優しい口調で宥める様に話すお父さん。

「何で?リュカは私にとって英雄よ!この国の救世主よ!神と言っても良いくらいよ」
もう妄信的に崇めてる…いっそこの地で布教活動を始めちゃってもよくね?
お布施いっぱい集めて、金ぴかの宮殿作って、新しい宗教団体を作っちゃってよくね?
名前は…“光の教団”なんつって(笑)

「それは違うよ…僕は人だ!なんの力も持ってない平凡な人間なんだ!」
「そんな事無いわ!リュカは私達を…この国を救ってくれたじゃない!力無き者に出来る事では無いわ!」
「はぁ…違う違う…違うよ!もし僕が神ならば、この国があんな酷い状況になる前に何とかしたんだ…そこのバカ王が変化の杖を奪われ、王位をも奪われた時に現れて、あのバケモノを倒したんだ!そうすれば力無き弱者が虐げられ、フィービー…君の様な()を不幸にする事も無かったんだ!」
そうよね…もし本当に神様が居るのなら、一大事になる前に手を打ってるハズよね。

「僕を神として人々に知らしめる事は酷い侮辱なんだ…いい加減不幸の極みで現れて、怒りに任せてバケモノを倒し、復興を手伝わずに帰って行く…そんなの神じゃ無い!そんなの英雄じゃ無い!…でも人ではある。自分の手の届く範囲でしか物事を解決出来ない凡庸な人間だ!」
私もそう思う…

確かにお父さんは凄い人だ。
尊敬出来る部分もある…
でも尊敬出来ない部分も大いにあるのだ!
何処の世界に其処彼処で子作りする神様が居るだろうか?

「でも…リュカが居たから…リュカがこの国に来てくれたから、私達は今生きている…それは事実よ」
その事実とお父さんが神であることはイコールじゃない。

「神とは…誰にも出来ない事をやってのける存在だ!僕のやった事は、僕じゃなくても出来る事…バケモノと戦う力さえあれば、誰が行っても良かったんだ。ただ偶然…本当に偶然僕がこの国へ訪れ、あの惨状を目の当たりにし、怒りを滾らせたからこうなっているだけなんだ」
人間として行動した結果、大勢の人々を救うことが出来ただけ…

「……………」
彼女は俯き黙ってる。
きっと納得出来ないのだろう…でも言いたいことは理解出来たのだ。

「はぁ……」
そんなフィービーを見て大きく溜息を吐くお父さん…
「僕はね…目の前で父親を殺されたんだ………」
そして自身の生い立ちを語り出す。



「………だから僕は神など信じない。もし神が居るのなら、此処まで酷い事をされたのは何故だ?せめてビアンカを攫うのを防いでくれても良いじゃないか!8年間も石になる事を防いでも良いじゃないか!だが実際は何もしてくれなかった…何故なら、神など存在しないから!」
ゲームでプレイしたので知ってはいたが、実際体験談を聞くとやりきれない思いに押し潰されそうになる。

「フィービー…僕の事を描くなとは言わない。でも描くのであれば、僕を人として描いて欲しい。僕は多少人より戦えるだけであって、神でも英雄でも勇者でも無い…直ぐに感情に流され、善悪を見失い、利己的な事しか考えない臆病な人間だ。正義の心に動かされてこの国を救ったのではない…弱者を虐げるクズ共に、同じくらいの苦痛を与えてやりたいと思う邪悪な心から戦ったんだ!結果が同じなだけで、この絵の様な人物など存在しなかったんだよ…何故なら僕は人だから…ただの人なんだからね」

フィービーは泣いていた…
尊敬する人のことを理解出来ず、結果として侮辱してしまった事に。
だけど彼女の所為ではないだろう…

「よし!ワシからお触れを出すとしよう。『リュカはこの国の英雄であって、神ではない!必要以上に神聖視する事はリュカに対する侮辱であり、本人の望むところではない!救国の英雄に対する無礼は、国家に対する不敬である』と…どうかね?」
全ての話を聞き、王様が突然提案する。

「う~ん…『英雄』と言うのが嫌だが…まぁしょうがないか」
お父さん程、自身を大物に仕立てるのを嫌う人は居ないだろう。
一般的に人は、他者から崇め尊敬される事を望むものだ。
だからこそフィービーは神聖視した絵を描いたのだろうから…






さて…
面白事件が一段落し、本来の目的である“ご挨拶”を行うお父さん達。
先程まで怒ったり困ったりしてたお父様だけど、カンダタをパシリに使うなど、何時ものお父さんに戻ったご様子。

因みに幼女ラーミアが私に小声で尋ねてきた。
「カンダタは下っ端か?」
「ええそうよ、アイツは下っ端よ」
「ミニモンよりもか?」
「ん~…ミニモンよりかは上ね。ちょっとだけ…」
「ふざけんな!俺様は高と(ゴン!)たはぁ~!!」
「そうか…ミニモンが一番下っ端か!」

私に後頭部を殴られ蹲るミニモンには目もくれず、パーティー内の序列を噛み締める幼女…
出来るだけ優しく接している私は彼女(ラーミア)の中では上の方だろう。
結構色々頼られて悪い気はしない。
このまま行けば、私にも気を使って空中でスピードを落としてくれるはずだ…



だけど所詮はアホの子だ…
次なる目的地ポルトガへ大鳥に乗って移動するが、我々を振り落とさんばかりのスピードに、必死でしがみつく。

「リュカさんが言わないと、ゆっくり飛んでくれないんじゃ、俺達にはこの上では出来ないよ…」
どうやらウルフも例の計画を実現したいみたいで、アホの子のアホさ加減に脱帽気味。
私としては残念な様な、一安心な様な…微妙に複雑乙女心だ。

つか、早急にアホの子を手懐けないと…



 

 

ツッコミとボケでは、ボケの方が強い…様な気がする。

「折角譲って頂いた船ですが我々には不要となり、仲間の水夫等に託しエコナバーグを中心に使用させる事になりました。陛下のお心遣いを蔑ろにしてしまい、申し訳ございません」
アホの子の嫌がらせスピードに耐え、やって参りましたポルトガ。

パパ・アホの子・魔物の3名以外は恭しく頭を垂れ、貰った船を手放すことに詫びを入れる。
私…パパが恭しくしている場面って見たこと無いなぁ…
あるの、そんなシーン?

「よいよい…船はお前達に譲ったのだから、その後どの様に利用するかは、お前達の自由だ」
そりゃそうよ。
黒胡椒と物々交換なんだから…

「とは言え…何故に手放す事になったのか…それは聞きたいのぉ…」
王様はニヤつきながらワケを聞いてくる。
この顔…本当は知ってるわね!

「はい、陛下!それは…「それはこの子だ!」
でも根が真面目なアルルさんは、律儀に本当の理由を告げようとする…しかし根が不真面目なお父さんに阻まれ、戸惑っちゃってますよ。

「オッス!ラーミアだよ」
幼女を目の前に見せつけ、教え込んだ挨拶をさせる。
「…オッス、ポルトガ王だよ!………で、この少女が何だと?」
ポルトガ王もノリがいい…

「うん。実はね…驚いちゃう事に、この子ね………船酔いが激しいんだ!だから『船、もいらなーい!』という事になった」
「何と、それは驚きだな!」
何だこの意味の分からんやり取りは!?

「何だその理由は!!そんな訳無いじゃないですか!真面目にやって下さいよ父さん!」
皆が思い、でもめんどくさくて言わない事なのだが、真面目なお兄ちゃんは鋭いツッコミとして繰り出す。

「ほぉ~…流石はリュカの息子だ。見事なツッコミ!相変わらずお前の周囲には、良い突っ込み役が居るのぉ…羨ましい」
「当然です!僕の息子ですよ!この子はプロのツッコミニストですからね!」
お、新しい肩書き追加!
パパの子 兼 天空の勇者 兼 王子様 兼 真面目っ子 兼 アルルさんの彼氏 兼 プロのツッコミニスト…
忘れた肩書きは無いわよね?

「何と、プロだったのか!?道理で………」
道理で何だよ!
育ってきた環境の所為だよ!『セロリ』だよ!

「何で納得してるんですか!?つかツッコミニストって何だよ!」
ここにもツッコミニスト発見!
ん~…ウルフはセミプロってとこかしら?

「うむうむ…リュカの息子程では無いが、これまた良いツッコミだ!」
「良いだろう!コイツも僕の義息子(むすこ)になるんだぜ!僕の娘を喰べちゃったからね(笑)」
間違っちゃないが、言い方を変えろ!

「何と…お前の娘と…う~む…リュカの娘とは、そちらのお嬢さんの事だろ?」
「は、はい。娘のマリーです!」
きゅ、急に話を振るなよ…

「そうか…ウルフと言ったな…お前は幼女趣向者だったのだな!?変態君め!」
言い返せないからカチンとくる!
「な…ち、違「違うよ。ウルフは変態じゃないよ!」
でもお父さんが否定してくれた。
流石はマイパパ!

「コイツはねエロガキだから、バインバインの美女が大好きなんだよ!」
うむ…事実だろう。
お母さんに視線が向いてる時があり、甚だ不愉快な時がある。

「ほう…その割には、手を出したのが年端もいかぬ幼女というのは、些か説明が必要なのでは?」
先行投資だと思えよ。
「うん。それはね僕の娘…マリーは着痩せをするんだよ!今は服を着ているので、小さく見えるけど、脱いだら絶品だぜ!…見る?」

“見る?”と来やがった!
「見せねーよ、バ~カ!!」
脱いだってツルペタだよ!
ちょっぴりポッチが出てきただけで、まだまだツルペタだよ!!

「わっはっはっはっはっ!面白いのぉ…お前等と会話していると、最高に楽しいぞ!何せ相変わらず余の部下は、ツッコミ下手だからなぁ………」
「なるほど…相変わらず使えねーんだ!ったく、何の為に今の地位にいるのやら?」
もうツッコミニスト育成学校でも造れよ!







今日はロマリアの日です。
近所のスーパーのセールの日ではありません。
ロマリアの王様に挨拶に来たって事です。

例の面子だけが頭を下げない中、誰も気にすることなく話が進んで行く。
…ちょっと違うな。
誰も気にしないのではなく、気にはしてるが誰も何も言えないのだ。

「…そうか、遂にバラモスと戦うのだな。我らは何もしてやる事が出来ぬが、皆の無事を祈らせてもらうぞ」
「そのお言葉だけで十分でございます。必ずやバラモスを倒し、世界に平和を取り戻します!」
本当にアルルさんは真面目だ。
こんな状況でも節度を守ってる…まぁ、常識人としては当然なのだろうけど。

「十分じゃねーよ…部下の1人くらい、派遣しても良いじゃん!…祈るだけかよ」
そして常識人では無い男が、またしても常識では無いことを言い出す。
「な、何言ってるんですか父さん!僕等の旅は危険極まりないんですよ!下手したら命を落としかねないんですよ!!」
もう一人の常識人が慌てて父親を叱り付ける。
大丈夫なのに…王様、笑ってるよ…怒ってないよ…

「んだよ…本当の事だろ。危険極まりないのに、まだまだ若い(アルル)達が挑んで、歴戦のロマリア兵が祈るだけなんだぜ!……それともロマリア兵ってば弱いのかな?まぁ見た目弱そうだもんな!(大笑)」
まぁ考えてみればそうね。
でも大声で言う事じゃないのでは?
ロマリア兵の皆さんが青筋立ててご立腹ですわよ…

「隊長…あんな事言われてますよ!?良いんですか?ここは歴戦のロマリア兵である近衛騎士隊長が出張ってみては?…近衛騎士隊の事なら大丈夫です!副隊長の私めが、隊長代理を全うして見せますから。何だったらそのまま隊長になっても良いですよ!」
おや…ご立腹じゃない例外がお一人。

「な…そ、それは…」
一体どんな精神なのか、この状況に乗っかり上司を小馬鹿にし始めた。
ご立腹から一転、ブルってる上司を見て大笑いする副隊長さん。
どこにでも居るのね…こんなヤツ。

「おいおい…近衛がそんなんで大丈夫なのか?ロマリアって結構大国だと思ってたんだけどなぁ…」
「いくらリュカ殿でも、今の言葉は許せませんね!今、此処に居る近衛兵達は、我が国でも有数な貴族様達ですぞ!だからこうして陛下のお側で、権力だけを振り回しているんです!貴族の家柄に生まれなければ、兵士にすらなれないヘタレ共です!…ね、隊長!そう言えば隊長は侯爵様でしたね(笑)」
どっちもすげ~…
ロマリア人じゃないからこそ馬鹿に出来るお父さんと、ロマリア人だからこそ馬鹿に出来る副隊長さん。
兵士の皆さん、小刻みに震えてます(笑)

「つまり…アホたれ貴族が実力のある平民達を危険な前戦に追いやり、自分たちは後方で安全に我が儘に威張り散らしているって事?」
「その通りですリュカ殿!…しかし悪い事ばかりではありませんよ…前線に出るという事は、私の様に平民出身でも、功績を立てて出世する事が出来るのですから!」
物は言いようね…

「その割には、お前は副隊長なんだ…ロマリア王は人を見る目があると思っていたが、存外大したことは無いの?」
「私が隊長になれないのは、平民の下には就きたくないと言う、素晴らしい意見をお持ちの貴族様方がいらっしゃるからですよ。陛下は素晴らしいお方です!勘違いなさらずに…」
ここまでの会話で、笑っているのは3人。
パパと副隊長さんはOKとしても、何故に王様も?

「ふ~ん…貴族が随分と力を持ってるんだねぇ…そう遠くない未来に、この国は潰れるね!」
止まらない侮辱…
我慢出来ない兵士達…

遂に1名を除く兵士達が襲いかかってきた!
顔を真っ赤に染め上げ、勢い良く剣を抜き放ち、凄い勢いで迫り来る!
「バギマ」



彼等の名誉の為に私は何も語らないでおく…
ただ一つ言えるのは、唯一襲いかかって来なかった副隊長さんが、お父さんに特別料理を振る舞って、頭をひっぱだかれました。

アイツ面白い!







さて、日付も変わり本日は新しい家族に対面する日です。
多くは説明しませんが、新しく家族が増えました。
イシスって国に、新しい家族が増えました。
異世界なんだけどね………


「お父さん、赤ちゃんに会うの楽しみだね!私の妹、可愛いといいなぁ」
お母さんの機嫌がちょっと悪いけど、こんな美味しいイベントをスルー出来ない私は、煽る様に話しかける。
でも主役のパパは無表情…

お城に入って暫く進むと、通せんぼする様に3人の男が立っている。
一体誰でしょうか?
「あっ!あの3人組は確か…アン・ポン・タンだ!」

どうやらお父さんの知り合い(馬鹿にして良い相手)の様で、凄い名前で呼んでいる。
「ち、違う!我らは…「トン・チン・カンよ、お父さん!」
これまた面白イベントだ…私も一口乗らせていただきます。

「それは『サリーちゃん』に出てくる三つ子だろ!?」
「似た様なもんでしょ」
流石マイパパ…良いツッコミです。

「違うと言ってるだろ!」
静かな城内に響く3人の声。
ジョークも分からんとは…

「だって名前なんて知らないもん!」
「じゃぁ何で『アン・ポン・タン』とか言うんだよ…」
流石はプロ。
冴え渡るツッコミ…私など足下にも及びません。

「わ、私はエドガー!」「我はアラン!」「俺は…「もういいよ!退いて!」
凄い!
あのタイミングで話を遮断するとは!?
気にはなるけど、逆につまらなかったらムカつくので、これはこれで良い。




「お父さん…最後の1人の名前って何だろうね?やっぱりあの流れからだと『ポー』かな?」
エドガー・アラン・ポー…まさかねぇ?

「知らね!あそこで『三波春○でございます!』なんて言われたら腹立つから、聞きたくなかった!」
「ぷふ~っ!ちょ~うける~!!それサイコー、あははははは!」
まさか“レッ○ゴー三匹”でくるとは思ってなかったわ!
やっぱスゲー…お父さんはスゲー!



さてさて、程良いお笑いムードに浸ったとこで、女王の執務室へ到着。
女王様は机で書類を決裁中です。
「レイチェル…お邪魔するよ~」

「あ、リュカ!!」
だけどお父さんの姿を見た途端、書類を投げ捨てて抱き付く女王…
いいのそれで?

「リュカ、見て見て!私頑張ってアナタの子を産んだのよ!」
女王様はお父さんをベビーベッドの側まで連れて行くと、自慢気に赤ん坊を紹介する。
「うわぁ~!可愛い女の子だ!名前はもう決まってるの?」

「本当はね、リュカの名前に因むつもりだったんだけど…大臣達が全員反対しちゃって…だから私の名前に近くしたの。その子の名前は『レティシア』よ…私とリュカの子レティシア」
そりゃそうだ…子育てどころか、籍も入れない男の名前など、周囲の者が認めないだろう。

「レティシアか…僕とレイチェルの子だし、将来はきっと美人になるね!」
「母親みたいに、変な男に引っかからなければ良いね…」
ちょうど良いタイミングだと思い、お母さんの不機嫌さを増す様なことを言う私。
う~ん…修羅場でゴー!

「あらマリーちゃん!私は変な男になんか引っかかって無いわよ!むしろ最高の男性に出会えたと思ってるわよ!」
しかしお脳の配線が何処かおかしい女王様は、私の言葉を全否定する。

「そうよね女王様!私もリュカに出会えて最高ですもん!」
しかも目的のお母さんまでもが同意し、修羅場が遠ざかって行く!?
「そうですよねビアンカさん!やっぱりリュカは最高の男性ですよね!…良いなぁビアンカさんは結婚出来て…羨ましい!」
どうなってるんだこの女共は!?

私が少数派なのか?
まぁいいさ…
マイノリティー…上等よ!



私はその日の晩にベッドで彼氏に断言する。
「私は浮気を許すつもりはないわよ…」



 
 

 
後書き
『魔女っ子美少女 マイノリティー・マリー』
「多数を憎んで、少数愛す!愛と美貌と偏見の魔道士、マイノリティー・マリー参上!」
登場の科白はこれでよし!

「生まれ変わって反省してね♥」
例の決め科白…こんな感じでどう?

ストーリーは、
悪の大集団“マジョリティ・ヒーローズ”は、多数決で世界を征服する為、民主制国家の選挙に立候補する。
しかし“少数こそ我が使命”と思い込んでいる、愛と美貌と偏見の魔道士マイノリティー・マリーが、武断的方法でマジョリティ・ヒーローズを駆逐するお話。

私は書かないけど、皆さんの心の中で仕上げてください。 

 

打倒 中間管理職!

敵が強い…
中間管理職の居城のクセに、敵の強さがハンパない!
それともこのパーティーが弱いのか?

少し離れた場所でアルルさんが『ライオンヘッド』と戦っている。
その隣ではハツキさんが大きなオッパイを揺らしながら『エビルマージ』と戦っている。
さっさとそっちを片付けて、此方の加勢をお願いしたい…

なんせこっちは『動く石像』が2体も相手なのだ!
カンダタとモニカさんが頑張って攻撃してるけど、ちょっと苦戦気味…
私とウルフも魔法援護してますけど、やっぱり強いのですわ、ここの敵は…




なんとか戦いを終え、お父さん達の下へ戻ると、ラーミアとミニモンが喧嘩をしている。
こっちは疲れてるのだから止めてもらいたい…
戦闘してないのだから年長者として喧嘩を止めろよ。

「今度は何の騒ぎを起こしてるんですリュカさん!?」
アルルさんも同じ気持ちなのだろうか、ジト目でお父さんを睨み付ける。
「何で僕を睨むの?どう見たって僕は関わってないよね?」
「ラーミアの事はリュカさんに一任してあるんですから、全責任はリュカさんにあります」
そうだそうだ!

「2人とも喧嘩は止めなさい…」
皆に睨まれ“やれやれ”と言った表情で苦笑いすると、ラーミアを抱き上げ喧嘩を止めるお父さん。
もっと早く行え!

「ラーミア悪くない!ミニモン、ラーミアをバカにした…それが悪い!」
そりゃ怒るわ…アホの子を馬鹿にしたらダメだよ…アホなんだから。
「あぁそうだよ!全部俺が悪いんだよ!…くそー、お前等全員死んじまえ!」
そう叫ぶと、ミニモンは泣きながらあらぬ方向へと逃げ出してしまう。
「あ、こら!勝手に行動するんじゃない!」

普段ミニモンは、幼いラーミアに気を使ってか、結構我慢しているところがある。
にもかかわらず、アホの子に一方的に悪者にされ、心が折れたのかもしれない。
ラーミアを甘やかしすぎたのかなぁ…子育てって難しい…


私達は急いでミニモンを追いかけます。
すると奥からミニモンの悲鳴が…

ガチ慌てて駆け付けると、3体もの『動く石像』に囲まれ震え上がっているミニモンを発見する。
流石に拙いと思った瞬間、カンダタが驚異的なスピードで動く石像に襲いかかり、ミニモンを救出しようと試みる。

しかしカンダタのバトルアックスは敢えなく砕け、動く石像を少し押し戻しただけだった。
するとカンダタはミニモンに覆い被さり、自らの身体を盾にして守り庇う。
私達も慌てて2人を助けようと身構えるが、突風の様に現れたお父さんが動く石像全てを破壊し、彼等を救出した。

やっぱかっけーわ、この(ひと)
何事もなく身形を整えると、さりげない仕草でカンダタ・ミニモンを立たせ笑顔で語りかける…
「ミニモン…勝手な行動をしてはダメだ!もうお前は、僕等の仲間なんだから、他のモンスターには攻撃されるんだぞ!」
コツンと頭を軽く叩くと、優しく抱き上げ頭を撫でる。

「………ごめんなさい」
恐怖…そして安堵なのだろう。
お父さんの胸に顔を埋め、声を出さずに泣いている。

お父さんはカンダタに目でお礼をし、素直に感謝を表した。
カンダタも予想外だったのだろう…
凄く照れくさそうだ。


だが、そんな照れくさそうな男の向こうに、大事そうに置いてある宝箱を発見する。
袋小路に置いてある三連宝箱…アレだ!
「でもカンダタの武器が無くなっちゃったね」

「そうだな…ま、しょうがねぇさ!体は丈夫だし、みんなの盾代わりにはなれるだろうから、気にすんなよ!」
お前の心配などしとらんわ!
“武器が必要だね!”って事だよ!

「で、でも…」
「大丈夫だって…拳でだって戦えるんだしよ!」
斧が必要だろ…斧が!
えぇい、もどかしい!

「見て!あそこに宝箱があるわ!お父さん、あの宝箱は危険ですかね!?」
パパなら分かるわよね、この意味が。
「ん!?………あぁ!アレね…うん…凄いアイテムの臭いがするね!うん!」
そうよ!流石パパ!

「またですか…父さん、そんなに凄いアイテムが入ってるのなら、アナタが開けてくれればいいじゃないですか!このパーティー内で、最強のリュカ様が開けて下さいよ!」
「え!?ヤダよ…モンスターだったら怖いじゃん!」
ちょっと…大丈夫よ!私を信じなさいよ!!

「ちょ…安全なんでしょ!?そう言いましたよね?」
「そんな事は言ってない!凄いアイテムの臭いがすると言ったんだ!安全とは一言も言ってない!」
うん。確かに言ってない。でも安全だって言え!

「こ、この野郎…危険かも知れない宝箱を開けさせようと言うのか!」
だから安全なんだってば!
「ティミー…大丈夫だ!あの宝箱は安全で凄いアイテムが入ってる!」
めっちゃんこ怒ってるお兄ちゃんに、カンダタは優しく言うと宝箱へ近付いて行く。

「カ、カンダタさん!危ないですって…そんな確信は無いんですよ!」
あるのよ…言えないだけであるんだって!
「自分の父親を信じろよ!お前の親父は信頼出来る凄い人だぜ。そんな人が宝箱を開けろと促すのなら、大丈夫って事だよ」
「し、しかし…」

腹を据えたカンダタに、不安げな声で呟くお兄ちゃん。
だがカンダタはそれを無視して宝箱を開け放つ。
そして中に入ってたのはゴツイ斧…

「それは『魔神の斧』ですわ!以前に図鑑で見た事がありますぅ!」
「魔神の斧…」
図鑑など見たこと無いが、取り敢えずは説明を付け足しておく。
「うん。カンダタにお似合いの武器だね!丁度良かったじゃん…武器が無くなったところだったし!」
『臭いがする』など、勝手なことを言っていたお父さんが、最後は綺麗に纏めて終わらせた…
ずるい!!



中間管理職(バラモス)の邸宅で半日以上スパーキングした為、1人以外お疲れモード。
丁度良い袋小路だし、ここで一家団欒タイムとしけ込みます。
お母さんが食事の容易をし、お父さんが子供達をからかい団欒する…

「父さん…本当は安全だと確信してたんですよね!?」
「確信は無い!何事も結果を見なきゃ分からないじゃん!?でも大丈夫なんじゃないかなぁ~…とは思ってたよ」
こう言う時こそ嘘でも『当然だよ』って言えば良いのに…

お兄ちゃんは頭を押さえ首を振ってる。
本当は信じたいんだと思う…尊敬したいんだと思う…
でも、それをさせないのが私達のお父さん。

「父さん…」
お兄ちゃんも黙ってシカトすれば楽なのに、何かを言おうと言葉を探す。
「ティミーこれで良いんだ!」
だが、今日は何となくダンディーなカンダタが、お兄ちゃんを諭す様に言葉を遮った。

「俺は戦力外になっていた…武器を無くした俺には何も期待出来ないだろ!だから盾として使われても良いと本気で思ったんだ…此処まで来て一旦町へ戻る事は出来ない。俺の事など使い捨ての盾と思い先に進むべきだと!」
「「そんな事出来る訳無い!」」
イチャラブ真面目バカップルが声を揃えて反論する。

「フッ…ありがとう2人とも。そうなんだ…お前もアルルも優しいから、俺の事を使い捨てにはしないだろう!そうなると武器のない俺はトコトン役立たずだ…町に戻れば、バラモス討伐を遅らせる役立たず…強行すれば、戦力にならない上、守らなければならない役立たず…だが偶然なのか必然なのか、直ぐ側に宝箱が!しかも旦那が中身は凄いアイテムだと言い切った!」
しみじみ語るカンダタ…
ガツガツ食事をする幼女…コイツうざい!

「俺はアルル達と共にバラモスを倒し世界を平和にすると誓った。だったら宝箱は俺が責任もって開けなければならないんだ!何故なら、このままでは役立たず…そんな役立たずからの脱却に尽力せねば、俺は何時まで経っても役立たずのままだから!」
何だかんだ言っても(おとこ)ね…モニカさんが惚れたのも頷けるわ。

「でも今の俺は違うぜ!勇者一行の仲間として活躍してやるからな!」
「カンダタさんは最初からずっと活躍してましたよ!役立たずじゃ無い!」
…なんか良いわね、こう言うの。

「そうだよ、カンダタは役立たずなんかじゃ無いよ。身を呈してミニモンを守ってくれたお前は重要な戦力だよ」
うん。私達は良い家族だ!
仲間という素晴らしい家族なのだ!

ミニモンもそれが分かったのだろう…
お父さんに抱き上げられ、幸せそうに膝の上で落ち着く。
しかし…

突然、口の周りに食べ物を付けたアホの子が、お父さんの膝に座るミニモンを突き飛ばし、自らが膝の上に君臨する。
「痛ー!な、何しやがる、このアホウドリ!!」
「ミニモン生意気!リュカに抱っこされて生意気!リュカに抱っこされるのはラーミアなの!」

大爆笑する一同…
苦笑いのお父さん…
ラーミア…どうでもいいけど口の周りを拭け!







翌朝…
新たに手に入れた強力な武器で、大幅に戦力アップしたカンダタの勢いに乗って爆進する私達。
そして遂に中間管理職の居る部屋の前まで辿り着いた。

「ま、間違いなく…この向こうにバラモスが居るわ…」
強烈な妖気が漏れ出す部屋…
緊張気味に呟くアルルさん…

どうしよう…私まで緊張して来ちゃった…
堪らずギュッとウルフの手を握る。
彼が側に居るのだから怖くない…そう自分に言い聞かせ。

すると彼は私にだけ聞こえる声で囁いてきた。
「やばい………昨晩はシてないから溜まっててムラムラして来ちゃった………みんなバラモスに集中してるし、人気のない場所にしけ込んでヌかない?」

…………………………
お兄ちゃんやアルルさんに聞かれたら、大激怒しそうな台詞を言う私の彼…
思わず周りを警戒する私。

アルルさんはお兄ちゃんと寄り添い、2人だけの世界に酔いしれている。
取り敢えずセーフの様だ…
安全を確認できたところで、すかさずウルフを睨む!

だが彼は優しい笑顔で微笑むばかり。
…もう、緊張が無くなっちゃったわ!
そんな所も師匠に似てきたわね!



「魔王バラモス!お前の悪行もこれまでよ!アリアハンの勇者アルル…お前を成敗しに参上!」
私と彼のイチャイチャを余所に、勢い良く乗り込む勇者カップル。
恐怖心を取り去る最高の薬はイチャラブだ!

「遂に此処まで来たかアルルよ…この魔王バラモス様に逆らおうなど、身の程をわきまえぬ者達じゃな」
だけど、そんなイチャラブを吹き飛ばしそうな低い声で、侵入者を威嚇するのは中間管理職(バラモス)
「此処に来た事を悔やむが良い!再び生き返らぬ様に、そなたらのハラワタを喰らい尽くしてくれるわっ!!」

すんごい威圧感に漏らしそうになった瞬間…
「何かアレ可愛いね…アレだアレ、動物の『(バク)』みたい!何か凄んでるけど、それがちょ~かわいい!」
「「「……………」」」
あの威圧感を一気に吹き飛ばしてくれるお父さんの一言。

「な…ば、(バク)…だと…!?」
い、言われてみれば…そう見えなくも…ないかな?
「ちょっとリュカ…もうダメよ!これ以上は飼えないからね!」
お、お母さんまで!?
「か…飼う…?ワ、ワシを!?」

「お父さん…お母さん…みんな真面目に戦おうとしてるんだから、ダメだよ…邪魔をしちゃ」
やばい楽しい!
自分より強いと分かっている相手を馬鹿にするのって楽しい!

「お、おのれバカにしおって!!き、キサマら全員、滅ぼしてくれるわ!!」
「それ、さっき聞いた!」
ボキャブラリーが乏しいのよ。
だって(バク)だもん!(笑)

しかし怒った(バク)は猛然と攻撃を仕掛けてきた!
だが狙いはお父さん…
馬鹿にした人間を躍起になって狙ってる。

しかし全然当たりはしない。
素人が見ても分かる…実力が違いすぎるのだ。
何だあの男は?

思わず戦うのを忘れてしまった私達…
少し間を置いてアルルさんが思い出す…そして慌てて攻撃を開始するのだ。
それでも(バク)はお父さんだけを攻撃する。
余程頭にきたのだろう。

「おのれ…チョコマカと動きおって!」
だがヤツも馬鹿じゃない。
広範囲魔法を唱え纏めて吹き飛ばすつもりのようだ。

いち早く気が付いたお母さんが速攻でマホカンタを唱える。
私も細波の杖でマホカンタを作り出し、ウルフにマホカンタを唱える様目で合図する。
数瞬遅れたが、(バク)のイオナズンより前にマホカンタを張る事が出来た。

「イオナズン!」
強烈な爆発が周囲を吹き飛ばす。
マホカンタを張った私達は問題なく無事だった…

しかしマホカンタを張ってない方々は無事ではすまない……ハズなのに、軽やかなステップでアルルさんやハツキさん・モニカさん・ラーミア・ミニモンを爆心地から救い出すお父さん!

被害にあったのはお兄ちゃんとカンダタだけ。
しかもお兄ちゃんは掠り傷程度だし…
大被害はカンダタだけだし…
そのカンダタも、直ぐ様お兄ちゃんに回復してもらってるし…

中間管理職(バラモス)中間管理職(バラモス)で、跳ね返ってきたイオナズンで満身創痍。
ちょっと中間管理職(バラモス)が哀れに感じてきたわ…

トドメにゃ背後からアルルさんにグサリとやられ、
「ぐはぁぁぁ………!!」
と叫んで崩れ落ちた。

「終わりよ、魔王バラモス!」
「ぐぅ………お、おのれ…アルル……ワ、ワシは諦めぬぞ………」
そうね…ホネホネになって復活するわよね…しぶとい。




「…や、やったの…?私達…バラモスを倒したの?」
禍々しい妖気が少し緩み、アルルさんが呆然と呟く。
「あぁ…そうだよアルル、君はバラモスを倒したんだ!おめでとう勇者アルル。遂に悲願を達成したんだよ!」
お兄ちゃんはここぞとばかりにイチャつき、熱いキスでポイントを稼ぐ。

カンダタもモニカさんと共に抱き合い喜び叫んでる。
勿論ウルフもハツキさん達と共に喜んでおります…
しかし私は喜べない。
ヤツが中間管理職であることを知っているから…

「あ、あの…リュカさんは何故嬉しそうじゃ無いんですか?」
何故か喜んでいないお父さんへ、一緒になって喜びたいハツキさんが問いかける。
きっとお父さんも気付いてるのだろう。
これが中間地点である事に…



 

 

一つの章が終わり、次なる章が始まる…その中間。

『世界を平和にしてきます!!』な~んつってアルルさんは祖国(くに)を出たに違いない…
悪徳企業の社長は、実は下っ端課長クラスと知りガッツリ落ち込んで凱旋する勇者様。

世界中から邪気が消えてないことをお父さんに指摘され、半狂乱で八つ当たりする彼女は見てられなかった…
お兄ちゃんに宥められ落ち着きを取り戻すも、確認の為に世界中を視察している時など、彼氏に依存しまくり。

少し元気が出たのは、竜の女王様から『光の玉』を受け取り『アレフガルド』の『大魔王ゾーマ』の情報を聞いてからだ。
意外にメンタルが弱いですなぁ~…


「勇者アルル、只今戻りました…」
その弱メンタル勇者は、アリアハンの王様に報告しています。
最初は満面の笑顔で迎えてくれた王様も、説明を聞いて暗い表情に…

「な、なるほど…魔王バラモスの上に大魔王ゾーマが………して、そのゾーマが居るというアレフガルドへは、どの様に行くのか分かっておるのか?」
「はい…ネクロゴンドにある『ギアガの大穴』より、闇の世界『アレフガルド』へ行けると竜の女王様は仰っておられました。更には、我が父オルテガも…その穴に落ちたという事です」


なお、竜の女王様にオルテガさんの事を聞かされた時、アルル様が言った言葉は、
『女王様…そのお子さんは…誰の子ですか?』
だった。

言っておくが竜の女王様は、完全に竜だ!
アホの子みたいにヒューマンフォームしてない。
でも問うてしまう娘さん。

言ってやろうかと思いました。
“名前は『ポポタ君』でいいんじゃない?”ってさ!
…でもきっと殺されてたかもね。


「アリアハン王よ…祝賀パーティーは一時延期だのぉ!」
私が面白思い出に浸っていると、奥の方からゾロゾロと現れる一団…
「ロ、ロマリア国王陛下!?」
アルルさんだけじゃない、私達も大いに驚くその面子。

ロマリア王とラングストンっていう近衛兵…
ポルトガ王と名前を知らない側近…
イシスの女王レイチェルと娘のレティシアちゃん…
更にサマンオサ王も貧相な側近を伴い現れた。

「こ、これは…陛下、一体…」
「驚いちゃったアルル?私達ね、もうすぐアルル達がバラモスを倒して凱旋してくると思ったから、みんなでお祝いしてあげようと、数日前からアリアハンに来ていたのよ」
なるほど…大人なご挨拶でタイミングを知った奴等は、世界を救った英雄等との繋がりを保とうと、戻って来るであろうアリアハンで待機してたんだ!

「あぁ…だからか!」
「な、何が『だから』なんですかリュカさん!?」
お父さんも何かを納得した様で、弱メンタルなアルルさんを脅かす様な声を上げる。

「いや…僕はアリアハンの王様に会うのは初めてなのに、頭を下げなくても誰も怒らなかったから…変だなぁ~とは思ってたんだよ。レイチェル達が言っておいたんだね?」
「そうじゃよ。お前相手に目くじらを立てると、時間と体力の無駄だと忠告しておいたのだ!わっはっはっはっ!」
私にとってはこの姿が普段通りだけど…よくよく考えたら凄いわね。

「リュカ殿は、人柄はアレですが無駄に強いので、下手に刺激すると我が近衛騎士隊と同じ運命になりますって説明したら、アリアハン国王陛下以外の融通の利かなそうな側近さん達も分かってくれました!」
この(ラングストン)面白いわぁ…嫌味成分を含まないと喋れないのかしら?

「そう言うワケでな…リュカ殿達の偉業を、皆で祝おうと思っておったのだが…世界の平和はまだ先の様じゃの」
中間結果で勇者様優勢って事で、祝賀会を行っても良くね?

(ゴゴゴゴゴ…ドカーン!!)
ちょっぴり祝賀会に気を取られてると、突如室内に雷鳴が轟き、数人の兵士が消え去った!
こ、これは例のアレですね!?

「な、何事!?」
アルルさん達は驚き周囲を見渡す…すると再度雷鳴が轟いた。
「ふん!」
その瞬間お父さんは驚異的なスピードで王様達を安全な場所へと避難させる。
そして誰も居なくなった玉座に雷撃は落ち、周辺を真っ黒に焦がしてしまった。
「い、一体…!?」

〈わははははは!喜びの一時に驚かせた様だな。我が名はゾーマ。闇の世界を支配する者。このワシが居る限り、やがてこの世界も闇に閉ざされるだろう。さあ、苦しみ悩むが良い!そなたらの苦しみは、ワシの喜び。命ある者全てを我が生贄とし、絶望で世界を覆い尽くしてやろう!…我が名はゾーマ。全てを滅ぼす者。そなたらが我が生贄となる日を楽しみにしておるぞ!わははははははは………〉

「い、今のが大魔王ゾーマ………?」
「「「「「……………」」」」」
声だけの登場って…シャイなのかしら?

「アイツ…あんまり強そうじゃ無かったね!」
ごっついシャイBoyの想像をしてると、お父さんがまた違った感想を言ってくる。
「何言ってるんですか!この場に居ないのに、強力な落雷を発生させ、兵士数名を消し去ったじゃないですか!!」
まったくその通りだ!
どう見ればこの状態を作ったヤツが弱そうに感じるんだ!?

「でも…不意打ちだったじゃん。(笑)…しかも2発目は空振りだし!その事に気付いて無い様子だったよ!…きっと1発目も当てずっぽうだったんだよ!(大笑)」
………なるほど、言われてみればそんな気もしないでも…
ものは考えようね…

「そ、そうですよ!お父さんの言う通りですよ!もし大魔王ゾーマが、そんなに凄いヤツならば、真っ先に勇者アルルを狙うはずです!でも結果はモブが数名お亡くなりになっただけ…きっと大したこと無いのよアイツ!こうやって恐怖心を植え付けて、精神的に優位に立とうとしてるだけよ!」
ここで暗い顔をしてもモチベーションが下がる一方だし、空元気でも出した方が良いよね。

「そ、そうじゃよ!リュカ殿や勇者アルル殿が居るのだ…必ずやバラモスと同様に倒してくれようぞ!」
リュカ教の狂信者であるサマンオサ王が希望的観測でものを言う。

「そうよ。リュカは英雄なのよ!我が国でも…異世界でも…そしてこの世界の各所でも!絶望なんてしてられませんわ!直ぐに世界を平和にしてくれるのだから。私達は、自国の平和維持に尽力しましょう!」
抱いてる娘さんの父親の虜も同意する。

「うん。世界はまだ平和になってないし、祝賀会はまた今度と言う事で…今日は一旦家に帰り、一休みをしようよ。アレフガルドへ行くのは、後日にしてさ!」
“英雄”と呼ばれ顔を顰めるお父さんは、この場から逃げる為立ち去ろうと画策する。

「リュカよ、ちょっと待ちなさい!」
しかし、そうは問屋が卸さぬとロマリア王が英雄殿を呼び止めた。
「あ゛?あんだよ…もう帰らせろよ!」
相手の身分に拘わらず、この態度は大人としてどうなのだろうか?
心底嫌そうな声で返事するお父さん。

「そ、そう嫌そうな顔をするなよ…」
「『嫌そう』じゃなく、嫌なんだよ!どうせ面倒事だろ、僕を呼び付ける時は、大抵そうなんだ!………で、何?」
大人の悪い見本だ。

「ま、まぁ…面倒事ではあるのだが…先日、お前が近衛騎士隊を打ちのめしてくれた所為で、綱紀粛正を行う事が出来たんじゃ!本来は、副隊長だったラングストンに、時間をかけて行わせる予定だったのだが、思いの外早く終わったので、我が国からも達人を派遣しようと思うてな」
ロマリア王様は近衛副隊長のラングストンを付き出し、自慢気に語る。

「ほれ…我が国の近衛騎士副隊長を派遣するぞ!この男はお前程ではないが、かなりの達人じゃ!有望な戦力になるはず…」
近衛副隊長のングストン…
お父さんと対等に張り合える厄介な性格の持ち主…

彼はお父さんの前で美しいまでの敬礼をする。
対するお父さんは、さっきよりも酷い顰め面で答える。
「やっぱ面倒事じゃん!部下を一新出来たから、扱いづらいコイツを追い出したくなったんだろ?それを僕等に押し付けるんだろ!…それともアレか!綱紀粛正が早く終わってしまって、楽しみを奪われた腹いせか!?」
面と向かって“扱いづらい厄介者”と言われるラングストン…

「流石リュカ殿は聡明ですね!正にその通りでございます。ではでは、これからよろしくお願いします…って事で!」
でも分かってないのか…感じないのか、判断付かないが嬉しそうに我がパーティーに合流する…

うん。これは面白くなってきたわ。
でも“ラングストン”って長いわよね…
よし、私は彼を“ラン君”と呼ぼう!



 
 

 
後書き
今思えば、この人事はティミーにとっての不幸の始まりだった… 

 

俗物に大物の心は解らない…私も以前は解らなかった。

「う゛~!…会いづらいわ…」
城を出てから唸り続けのアルルさん…
新加入メンバーのラン君が不思議そうに見詰める中、私達はアリアハンの城下町をアルルさん宅へ移動する。

「平気だよアルル…お母さんだって久しぶりにアルルに会えて喜ぶと思うよ」
世界を平和に出来なくとも、可愛い娘の顔を見れば喜んでくれる…と慰めるはお兄ちゃん。
私もそう思うわ。
きっと世界平和よりも喜んで迎え入れてくれるはず!

「分かった!アルルはママさんにティミーを紹介するのが恥ずかしいんだろ!大丈夫、僕の息子は誰に紹介しても恥ずかしくない!」
冗談(バカ)言うな!私のお兄ちゃんは格好いいお兄ちゃんだ!お前の息子だけど、まともなんだゾ!
「違うわよバ~カ!紹介して恥ずかしいのは、彼氏の父親の方よ!他は胸張って自慢出来るわよ!」
「「「「「あはははははは!」」」」」
良く言ったお義姉ちゃん!

でも本当に困ってるのはオルテガさんの事なんだろうなぁ…
生きているかもしれないなんて…曖昧な情報でぬか喜びさせたくないもんなぁ…
どうするんだろう?

「アルル…それ程自慢出来る彼氏と共にアレフガルドに赴くのだから、本当の事を話した方がお母さんの為だし、君の為でもあると思うよ」
それが良いのかもしれないわね…お父さんの言う通りかも…

「そうだぜアルル。俺達の目的は2つ!勇者オルテガ様を見つけ、共に大魔王ゾーマを倒す事だ!その為に俺達はアレフガルドへと旅立つんだから」
「ウルフ…アンタ、頼もしくなったわねぇ」
まったくです。ウルフは良い(おとこ)になりました。
見詰めるだけでヌレヌレになります。


寄り添い歩く色男を押し倒したい衝動に駆られつつ、辿り着くはアルルさんのご実家。
「お母さん…ただいまぁ…」
「まぁ、アルル!お帰りなさい!!遂にバラモスを倒してきたのね…お母さん、アルルなら大丈夫だと信じていたわ!」

こんだけ大勢がゾロゾロと訪れたのだ…
戸を開ける前から家主等は気付いていたのだろう。
待ち構えてたかの様に扉が開き、アルルさんを喜び迎え入れる。

「うんうん…流石はワシの孫じゃ!」
アルルさんを優しく抱き締める美女と、それを嬉しそうに見詰める老人。
「あ…あの…あ、あのね…ま、まだ…その…」
そして気まずそうな勇者様。
とっても暖かな感じがします。

「初めまして、僕リュカです!貴女はアルルのお姉さんですか?お近付きの印に、今夜ベッドの相席しませんか?」
そんなホッコリ感をぶち壊すマイパピー。
アルルさんを押し退けて、美女の手を取りナンパする。

「コ、コラー!!何、人の母親をナンパしてんだ!ぶっ殺すぞテメー!!」
素早い動作で剣を抜き放ち、お父さんを真っ二つにする勢いで振り下ろすアルルさん。
「え!?お姉さんじゃないの?…はぁ、やっぱりアルルのパパさんは、女の趣味が良いなぁ………な、ウルフ!お前もそう思うだろ!?」
優雅な動作で迫り来る剣を左手の人差し指と中指で摘み、緊張感無く感嘆の溜息を吐くパパ。

「えぇ、本当ですね!何処の世界でも、勇者の母親は若くて美しい人なんですね!」
話を振られて、彼女(わたし)の目の前で他の女を褒めるウルフ。
しかもこの台詞には、影の実力者マイマミーへのゴマスリも含まれてる荒技。

「ちょ、リュカ…私達の義理の息子は、将来有望よ!…どうしよう、楽しみになってきたわ」
いや、どうだろうか…
このまま行くと第二のリュカが出来上がるだけなのでは?

「あ~あ、可哀想に…」
「な、何よリュカ!」
「アイツに将来は無いな…明日にでもマリーのイオナズンでお別れだ…」
「「「「「……………」」」」」
お父さんの悲しそうな口調に、一同息を呑み私を見詰める…

リュカ・チルドレンとしてセンスを試されてるわ。
「………」
私はジト目でウルフを睨み、両手にメラをほんのり灯す。

「ち、ち、ち、違うんだマリー!!コレはアレでその何だ…えーと…」
すんごい慌てるウルフが滑稽!
やばいわ…これ面白い。

「………ぷっ…ふふふ…あははははは!」
我慢出来なくなり笑ってしまいました。
「あはははは、冗談よウルフ!私はコノ父親を見て育ったのよ…その程度で怒る程、自分に自身が無い訳じゃないわよ!」
そうよ…浮気出来ないくらい魅力的になってやるんだから!
他の女に目が行かないくらい、迫り続けてやるんだから!!


「アルル…随分と楽しそうなお友達方ね。紹介してくれないの?」
人様のお宅でファミリー・コントを炸裂させてると、狼狽える様子もなくアルルさんのママさんが楽しそうに問いかけてきた。

「おっと、申し遅れましたお母さん。僕は此処アリアハンから、娘さんと共に旅を続けてきたリュカと申します。以後お見知りおきを」
スマートな動作でアルルママさんの手を取ると、スカした調子で甲にキスをするお父さん。

「まぁ…紳士的にどうも。私はアルルの母親…アメリアと申します。娘が大変お世話になっりました」
そんな行為に動じることなく、笑顔で挨拶する結構なツワモノなアメリアさん。

さて、そんな感じに始まった自己紹介…



みんなワザとお兄ちゃんを最後に持ってきたみたい。

「あ、あの…初めまして、僕はリュカの息子のティミーです…む、娘さんと…アルルさんと正式に付き合ってます!よろしくお願いします!!」
緊張のあまり、先程からツッコミをしてないお兄ちゃん。
プロとしての意地を見せて欲しいわぁ~…

「な、何じゃと…ア、アルルと付き合う?」
お兄ちゃんの挨拶に反応したのはアルルさんのお祖父ちゃん。
大事な孫娘を汚されて怒っちゃった?

「何だ爺さん…知らんのか?『付き合う』ってのは、男と女がエッチな事をする仲と言う事だよ!」
「エ、エッチな事だとぉ!!!?」
優しいお父さんは丁寧に説明してくれる。

「何だ…それも知らないのか…エッチな事とは、男女が裸になってベッドの上…とは限らないが、○○○を○○○に○○○して…「そんな事分かっておるわボケ!」
だろうな…んな事は分かってるんだ。
生々しい事を言われブチ切れるお爺ちゃん…血圧が心配だわ♥

「ア、ア、アルル!!お前はバラモス討伐の旅に出ると言っておきながら、男遊びをしていたのか!?」
あの程度で“男遊び”って言うんじゃ、お父さんのは“何遊び”なの?

「な、何言ってんのよ!男遊びなんかしてないわよ!ティミーとは愛し合っているの!真剣なお付き合いよ…彼とは結婚するんだからね!」
いっそ嘘でも『子供だってお腹の中に居るんだからね!』って言えば良いのに…
きっとお爺ちゃん、天昇しちゃうゾ♥

「け、結婚だとー!!?ゆ、許さんぞ!こんな出会い頭に人妻を口説く様な、アホ男の息子となど!!」
ちょっとー…お父さんとお兄ちゃんを同類化しないでよ!

「ふ、ふざけないでよ!父親がそこら中で子供を造るアホ男だからって、その息子が同じ様な男になるとは限らないでしょ!彼は真面目で優しく格好いい男性なの!」
どうしよう…2人とも、私達のお父さんを侮辱しまくりなのに、誰も反論しないよ。
あぁ!しないんじゃなくて、出来ないのか!
つか、本人は楽しそうに眺めてるし…

「な~に~!!そこら中で子供を造っているのかその男は!?そ、そんな節操のない男の息子などダメじゃ!アルル…お前の器量と名声を持ってすれば、もっと良い男が直ぐに見つかるわい。既に貴族の名家の数家から、ワシのとこに打診が来ておるくらいじゃからな!」
…興醒めね。

勇者としての名声を利用し、高貴な血筋の一員になるのがこの爺さんに目的か…
そう言う理由でお兄ちゃんを否定されるのは、最高に腹が立つわ!
イオナズンでフッ飛ばしちゃおうかしら!?

「ふざけんなクソ爺!テメー俺の息子が、アホたれ貴族共以下と言うのか!?」
むかっ腹立ててたらお父さんに先を越された。
「ア、アホたれ貴族じゃと…!?」
だけど俗物ジジイには、意味を理解する事が出来ない。

「あぁアホたれだ!世界が滅亡するかもしれない程の危機に、貴族として名を馳せる者共は誰一人立ち上がらず、若い女の子が平和の為に旅だつのに共に旅立とうともせず、平和が訪れたと思った途端、自家に箔を付ける為に勇者の名声に群がるハイエナ共がアホたれでなく何だと言うんだ!?」

「う、ぐっ…そ、それは…」
お父さんの説明で、ようやく意味を理解したジジイ。
今更ながら狼狽える。

「翻って、俺の息子はアルルへの愛を行動で示した。常に行動を共にし、危険があれば身を呈して彼女を守り、例え神に逆らおうともアルルの身だけを一番に思う。貴族の坊や達と比べ、どっちがアルルの事を幸せに出来るのか…言うまでもないだろうがボケ!」

「ぐっ…しかし…」
先程まで虚け者と馬鹿にしていたのだろう…
そんな虚け者からの正論攻撃に反撃出来ず、ひたすら目が泳いでる。

「か、彼等の先祖は…い、偉業を成し遂げた立派な方々じゃ…そんな立派な者の末裔と比べたら…」
怯んではいるが今更発言を取り消せず、苦し紛れの“ご先祖様凄いぞ!”攻撃。
本気で効果があると思っているのなら、今すぐ土に帰した方が良いだろう。

「お爺ちゃん、何を言ってるのよ!それじゃぁ先祖が立派だったら、子孫も同じ価値があるとでも!?」
「そ、そうじゃ!親が愚かなら、息子も愚か!親が偉大なら子も偉大なんじゃ!!」
この爺、最悪だ。

「最低ね………それじゃ言わせてもらうけど、お爺ちゃんはお祖母ちゃんの他に女が居たの?お父さん以外の子供を、余所で造ったりしたの?」
「な、何じゃいきなり…ワシはそんな節操ない事などせん!死んだ婆さん一筋じゃ!」
へっへーん!お前の息子は余所で子供作ってんぞ!

「じゃぁ何でアンタの息子は、余所で子供を造ってんのよ!ムオルって村に私そっくりの弟が居たわよ!その子の母親にも確認したんだからね…アリアハンのオルテガとの間に生まれた子だって!」
どうだ参ったから!
因みにマイパパのお父さんは、余所では励んでない品行方正ダンディーだぞ!
遺伝子は関係ないんだ馬鹿野郎!

「な……何じゃと……!?」
「お祖母ちゃんへの想いを一途に突き通した男の息子は、世界を救うと旅立ちながら、各所で愛人を作り子孫繁栄を頑張っておりますわよ!…親が偉大だと息子も偉大ねぇ!」
エクセレント!
素晴らしいですわよお義姉ちゃん!よくぞジジイを黙らせた。


お父さんの恐ろしさを感じ取り、自分の発言力の弱さを痛感し、進退に困るご老人…
「………若いの…貴様は、本気でワシの孫娘を愛しておるのか?数居る恋人の1人とかでは無いのだろうな?」
マジ激怒のお父さんには勝てないと悟り、立場の弱いお兄ちゃんへ矛先を変えるジジイ。
姑息な方法でお兄ちゃんを問いつめる。

「本気です!僕はアルルが大好きなんです!…それに僕には他の恋人などは居りません。僕は父の女癖の悪さが大嫌いでした。僕の中にも女癖の悪い男の血が混じっていると思い、女性との間に距離をおいて生きてきました。その為、女性の事…女心と言う物を、理解出来ずにいました」
だけど真っ向から愛を語るお兄ちゃん…

「彼は僕の義弟です。見ての通り僕よりも年下ですが、僕なんかより遙かに女性の扱いに長けてます。恥ずかしい話ですが、僕は何度も彼に恋愛のアドバイスを請いました。年下で、義理の弟になる彼にです…そんな僕に、恋人が複数居るとお思いですか?好意を持たれてたかすら分からない男に、愛人が居ると思うのですか!?」
う~ん…カッコイイを通り越して恥ずかしいです。

「そうか………」
ジジイは一言そう言うと…
「若いの…ワシの大切な孫娘を幸せにしてくれ。この子には幼い頃から苦労をさせ続けたのだ…勇者の娘になどに生まれてしまったからのぉ………」
物わかりの良い大人な演技をして、2人の交際を認めてあげた…
上から目線の恩着せがましい言い方で。

「は、はい!!」
交際(結婚)を認めてもらう事が最優先なお兄ちゃんは、嬉しそうに返事をしてアルルさんと見つめ合う。
ジジイはそれを嫌な顔で見ている。

「お爺ちゃん…彼はね、こう見えても勇者様なのよ。…此処とは別の世界の魔王を倒した、偉大なる勇者様なんだから!私達、そう言う意味でも凄く共感出来る間柄なのよ」
そんなジジイの表情に気付いたアルルさんは、懸命に彼氏を擁護する。

「そ、そうじゃったのか…道理で好青年なわけじゃ…」
そしてそれを聞いた途端、手の平をちゃぶ台の様にひっくり返し、好意的な態度でお兄ちゃんに接しだした。
マジでムカツク…殺したい…

「それにね、彼は元の国へ戻れば王じ…ムグッ!」
気をよくしたアルルさんは、更にお兄ちゃんが王子である事を告げようとするが…
「そんな事より爺!お前、僕の息子に詫び入れろ!そこら辺のアホ貴族以下と言った事に詫び入れろ、コラ!」
怒りの収まらないお父さんに口を塞がれ遮られる。

「うぐっ…す、すまんかった…少しばかり調子に乗っていた様じゃった…」
パパの恐怖再発。
マジ狼狽えのジジイ…いい気味だ!

「それが詫びの入れ方か!?指詰めろコノヤロー!」
「ゆ、指!?つ、詰めるってどういう事じゃ?」
極道の掟?
ヤバ…パパの前世はそっち系!?

「お、お爺さん…父の言う事は気にしないで良いですから」
お兄ちゃんは慌ててお父さんをジジイから遠ざける。
折角認められたのに、台無しにされると思ったのだろうか?

尚も暴れるお父さんを、アルルさんと一緒に外へ追い出す。
ちょっぴりお父さんに加勢したいわぁ…
あのジジイ、ムカつくんだもん!

「お、お爺ちゃん…あの人は、ああ見えても息子思いなの。外で頭を冷やせば元に戻ると思うから、もう喧嘩をしないでね。この場に居る全員でかかっても、彼一人には勝てないから…怒らせないでね!」
暴れる義父を彼氏に任せ、祖父へのケアへ回るアルルさん。
ジジイもお父さんの怒りが怖いのだろう…
素直に頷いてます。



 

 

大好物はシスター?………いいえ、美女全てです!

ともかくも怒りを静めたお父さん。
でもジジイはビビって静かになった。
良し!

「…でもごめんなさいお母さん」
アルルママが出してくれたケーキとお茶を飲みながら、雑談していると突然アルルさんが謝りだした。
「何を謝る事があるの?」
ダーリンの親父が騒いだから?

「お父さんが余所で子供を造ったなんて…あんな状況で伝えるべきでは無かったのに…ごめんなさい」
そうねぇ…
世間一般ではタブーな事柄だもんねぇ…

「やっぱり余所で浮気しちゃったんだ。…うふふ、良いのよアルル。多分そうじゃないかと思っていたから」
どうやらここでも私はマイノリティーだ。

「た、多分って…お母さんはお父さんが浮気をする事が分かってたの!?」
「うん。だって…初めて出会った時のあの人の言葉は…『美しいお嬢さん、今夜俺のベッドに空きがあるので、ご一緒に夢の園へと出かけませんか?』だったし!」
あれ?
ついさっき聞いたぞ、その台詞。

「はぁ!?」
「ど、どっかで聞いた事ある様な台詞だなぁ…」
呆れるアルルさんと、白けた目で師匠を見るウルフ。

「『夢の園』か…うん、良い表現だ!今度使おう!」
「父さん!!」
どうやらアルルパパもマイパパと同類のご様子。
お兄ちゃんは苦労が絶えないわね。

「ぐっ………頭が痛くなってきた…あのクソオヤジ…」
「あらあらアルル…言葉が悪いですよ!それに、そのクソオヤジの成分から生まれてきたんですからね!」
真面目っ子は不真面目っ男を罵るが、その不真面目っ男にゾッコンラヴなママさんは、プクッと頬を膨らませ怒ってみせる。
もうそこそこなお歳のハズだが、それを感じさせないラブリーママ。

「う、羨ましいですねぇ…リュカ殿もオルテガ殿も、英雄と呼ばれる御仁には美女が寄ってくるようですね!」
「こらラングストン!アルルパパは知らんが、僕は英雄じゃないぞ!勝手に奉り上げるな!」
「いえいえ…『英雄色を好む』って言いますから、リュカ殿は間違いなく英雄です!」
あはははは、英雄要素はそこかい!

「でもティミー…私にも分かってきたわ。ロクデナシの血が混じっているという事が、どれほどに恐ろしい事かって…」
「はぁ…強く生きようねアルル…」
マヂでお似合いカップルね…

「大変だなぁ2人とも。ま、頑張ってね!」
苦労の原因の99%はアンタなのに、どうして他人事の様に話せるの?
「何で他人事なんですか!?アナタの所為で僕は苦労してるんですよ!自覚を持って下さい!」

「知らないよぉそんな事…世の中に美人が多いのが悪いんだ!僕は自分の心に従って生きているんだよ」
どんな理屈だよ!
「いけしゃあしゃあと言いやがってコノヤロー!」
「あれ?最近ティミー君てば反抗期?パパに対して乱暴な言葉が多いけど…?」
おいおい…ここまで出来の良い息子は居ないだろう…

「お父さん…自覚してなかったんですのね…大分以前から、お父さんの女癖の悪さには反抗的でしたわよ、お兄ちゃんは…」
「女癖って…みんな良い女ばかりだよ!」
「そ、そう言う意味じゃなくてね…」
女の善し悪しじゃなくて、女に手を出すという善し悪しだ!

「そうだよマリー!リュカさんの女の趣味は最高だ!アリアハンに戻って、久しぶりに孤児院へ挨拶しに行ったけど、シスター・ミカエルはやっぱり美人だ!彼女の娘さんも、両親の血を引いてるから、将来絶対美人になるね!」
なぬ!?ウルフがお父さんの肩を持った!?

「へー…お前、何時の間にミカエルさんに会ったの?美人だよねぇ~……………あれ?今、娘って言った?何それ??」
え、またですか!?

「ま、まさか…ウ、ウルフ君、その娘さんて…」
「さぁ…ハッキリとは言いませんでしたが、愛した男性は1人だけみたいでしたし…俺の知る限りでは、シスター・ミカエルは複数の男性とお付き合いできるような性格ではないですからねぇ…」
ほぼ決定じゃん!
しかも、また妹かよ!

「やべ~…1年以上前の事だから油断していた。そっか…こっちの世界で3人目か…」
何でお前は冷静なんだよ!
「ウ、ウルフ君…頼むから嘘だと言ってくれ…頼むから、これ以上腹違いの妹が増えた等と言わないでくれ!」
情報提供者に懇願するお兄ちゃん…よくグレないわよね?

「リュカさん…ティミーさんがあんな事言ってますが…当事者としてはどうなんですか?」
当事者意識が無いから聞くだけ無駄じゃないの?
「あれ!?その言い方からするとお前…嘘吐いただろ!本当はミカエルさんに会ってないだろ!」
え!?

「ちっ…本当はリュカさんを困らせたかったんだけど、必要以上にティミーさんが慌てちゃったよ…ゴメンねティミーさん」
何と此度の家族増加騒動はマイダーリンの狂言だった!

「う、嘘だったんだな!な、何でそんな嘘を吐くんだよ!?」
半泣きで憤慨するお兄ちゃん。
「俺の憧れていた女性を、いとも簡単に寝取った男に復讐をしたかったんだ!けど、張本人はさほど取り乱さなかったし………上手く復讐出来ないもんだなぁ…」
しょうもない理由での狂言に、被害者お兄ちゃんもグッタリ。



「しかし流石はリュカ殿ですな…一挙手一投足において、他人を巻き込む天性の素質!学びたい物ですなぁ…」
新たな娘騒動も一段落し、お父さんを尊敬する様に馬鹿にするラン君。
…それとも馬鹿にする様に尊敬してるのかしら?

「安心なさいラングストン君…貴方はその素質を持ち合わせているわよ。リュカに嫌がらせを出来るのは、貴方ぐらいなもんよ!」
そうよね~…具無しピザは最高だったもん!

「おぉ、ビアンカ様!お褒め頂き恐縮の極み!」
1ミクロンも褒めてねーよ!
脳みそ腐ってるのか?

(ゴツン!)
「ビアンカに褒められたからって、いい気になるなよ!言っておくが僕の奥さんなんだからな!お前に気があるワケじゃないんだぞバ~カ!」
褒められてねぇって言うのに、ヤキモチを妬くお父さん…
「ほ、褒めてないわよ……」
お母さんの呟きは虚空に消える…


「しかし、そうなりますと気になりますねぇ…もしかしたら、嘘から出た誠という事に………」
そうよね…
会いに行ったって事が嘘なのだから、出来てないとは限らない…

「やっぱりラン君も気になっちゃう?私も弟妹が増えているのか気になっちゃって…確かめに行く?」
私とラン君が互いに頷き立ち上がる。

そして当事者のお父さんと、寝取られ被害者ウルフを連れて、早々に教会を目指して歩き出す。
気が付けばお母さんもハツキさんも、カンダタ・モニカさんまでもがついてくる始末。
あぁ、勿論ラーミアも…






ゾロゾロと・大人数で・押し寄せて・会ってみようぜ・浮気相手に
うん。良い短歌(うた)が出来た!
でもお母さんが怖いので心の中でしか読みません。

孤児院と併設されている教会にやって来た私達。
直ぐさま孤児院の庭の方へ顔を覗かせると…居るわ居るわ、子供達の集団が!
私より遥に年下の子供もいれば、もう喰べ頃(パパ流)な子供もごちゃ混ぜ状態で居りますわ!

「あ、リュカさん!」
子供達と一緒に遊んでいた1人のシスターが、お父さんに気が付き駆け寄ってきた。
綺麗な金髪に青い瞳、そして褐色の肌…
オッパイ・ボヨンボヨンでお父さんに抱き付き頬擦りをする。

「や、やぁミカエルさん。相変わらず美人だね…」
うん、美人だ。
腹違いのお姉ちゃんのお母さんみたいに美人で巨乳でシスターだ!
しかも人目も憚らず抱き付く緩さ…

「シ、シスター・ミカエル…た、ただいま!」
少し恥ずかしそうに挨拶をするウルフ。
でもシスターには1人の男しか見えてない様子…
お父さんを見詰めウットリしている。
流石の私も、こんな扱いのウルフにジェラシーを感じない。(むしろ泣けてくる…)

「あ、あの…みんなが見てるよ…」
凡そ1年会えなかった愛しの男性に、久しぶりに会う事が出来た乙女の気持ちは暴走特急。
「それでは誰も居ない所へ…」
そう言う意味では無いのだけれど、止まる事のない欲望という名の恋心。

「はぢめましてシスター…私はビアンカ。リュカの妻です!」
私のママは臨戦態勢。この時既に臨戦態勢。負けてなるかと臨戦態勢。
修羅場だ、修羅場だ、シュラシュシュシュ♪

きたわぁ~…遂にこの男に天誅を喰らわす瞬間が…
認めたくないけどお父さんはイケメンだ。
こんなイケメンを手放す事は出来ないだろう…どちらも!
………となれば、起こりうる事は1つ!



 
 

 
後書き
“修羅場だ、修羅場だ、シュラシュシュシュ”って、サンドウィッチマンのネタにあったので使わせてもらいました。

ところで私はガチでシスターという存在に会った事がありません。
実在するのですか?
コスプレじゃなくてだよ! 

 

彼氏を操るのは彼女の役目…失敗は許されない!

つまらん…
まったくもってつまらん…
旦那ゾッコンラブな妻と、その妻が居ないのを好機と浮気しまくった時の愛人が遭遇した時、起こりうる事はアレしか無いだろうに…

なのに結果はどうだ!?
「リュカの妻です!」
と言うお母さんの先制攻撃に、
「あ、どうも始めまして…ミカエルと申します。リュカさんからお話は聞いてましたが、本当にお美しいのですね(ニッコリ)」
って受け流すシスター・ミカエル。

え、どういう事!?
お父さん、浮気相手にお母さんの自慢をしてんの?
馬鹿なの?アホなの?どこかおかしいの?

何で修羅場にならないのよ!?
ここは修羅場ってパパ困っちゃ~う!ってパターンでしょう?
なのに何で教会でマッタリお茶をゴチになってるの?

私の目の前では、お母さんを筆頭にシスター・ミカエルとハツキさんとが、楽しそうに1人の男の話をしている。
誰の話かって!?
この3人とヤった(パパ)の事だよ!

「ウルフもハツキも随分と立派になって…リュカさんに色々教わったみたいね。素晴らしい事ですわ!」
「そうなんだシスター!俺、リュカさんの弟子として頑張ってんだよ!」
憧れてた女性に褒められて、瞳を輝かせながら同調する私の彼氏。

まずい…まずいですわ!
このままだとウルフの心が離れてしまう!
“昔憧れてた女”効果がこれほどまでとは!?

もう修羅場などどうでもいい…
ウルフの心を繋ぎ止めなければ!
ダーリンに捨てられるわけにはいかないのよ!

私はデレデレとシスター・ミカエルに見とれるウルフに近付き、腕にまとわりついてみせる。
だがウルフの視線はシスター・ミカエルにロックオン…
まとわりつく私の頭を軽く撫でただけでした。





その後も終始和やかな雰囲気で終わった教会でのお茶会…
お父さんに子供が出来たのかを確認するのが目的だった(結局居なかった)のに、私の危機感を煽るだけで終わった愛人見学会…

私は今後、どうすれば良いのだろうか?
ウルフを逃したら、ショタコンの私には永遠に彼氏など出来るわけもなく…
私としてもウルフ以外の男とは絶対に嫌…と、言う気持ちになっているのも事実だし…
折角美少女に生まれ変わったのに、独り身で終わらせたくない!

問題なのはウルフが良い男という事だ…
不細工であれば、そうそう余所見もしないだろう。
折角手に入れた美少女を手放すわけにもいかないだろうから!

だがウルフは格好いい!
顔もそうだが、師事している男の影響で内面の格好良さも無視出来ない!
厄介だ…気を抜くわけにいかない。

私がちょっとした癇癪から、
『ウルフ大嫌い!』
とか言って心を離れさせてみれば…
これ幸いと他の女共が群がってくるやもしれない…

そうなったら喰べ放題(むそう)状態!
(ウルフ)の師匠を見れば分かる…
妻が側に居なければ、いとも簡単に愛人を多数作る男だ。
『彼女に振られちゃったのぉ~…可哀想な俺を慰めてぇ~!!』
等という台詞と共に、群がる女共の渦へと落ちて行くかもしれない…

ダメよ!
ウルフは私の彼氏なのよ!
彼をより良く導くのは私の使命なのよ!!
冗談でも“嫌い”とは言えない。

………なるほど、だからお母さんは浮気が出来ないんだ!
他の男がカスに見えるのも事実だが、夫を野放しにすると自分の危機に繋がるんだわ!
くっ…同じ立場に陥って、初めて分かる母の偉大さ…

人目など憚ってる余裕など無い…
隙あらばイチャイチャと迫らないと気が気でないわ!
今夜から実行ね。
男の第2の命令中枢を刺激して、私の虜にしておかないと!

しかし、そうなるとこのロリータ体型が邪魔よね!
バストアップなど、今の内から分かっている限りの努力をしないと…
食事にも気を付けよう。

お母さんもポピーお姉ちゃんも、ボン・キュ・ボンのパーフェクトボディだ。
同じ血筋の私だって、そうなる可能性がある!
でも努力を怠ったらどうなるかは分からない…

うん。慢心は禁物ね。
ウルフの為に…
そして私自身の幸せの為に…
絶世の美女になって、ウルフの目が他の女に向かない様に見張らなければ!



 

 

暗い世界での明るい一団

真っ暗な世界アレフガルドに存在する唯一の王国ラダトーム…
人々は松明の明かりを頼りに営みを行っている………つか、シャレにならないくらい真っ暗ワールド!
月の明かりは疎か、星の光も存在しない漆黒の空。
松明が無ければ1センチ先も見えないのには驚きですよ!

そんな過酷な土地にでも、逞しく生活している人々は居る。
ここラダトームも、そんな人々の為の重要な町だ。
「まぁ…随分と活気のある町ですねぇ…お天道様が無いだけで、思ったより平和なのかもしれないですね」

物怖じしない…と言えば聞こえは良いが、何処か常人とは違った感性で生きている女性…それがアルルさんのママさんであるアメリアさんだ。
女は何時まで経っても恋する乙女…そんな感じで愛する旦那を追っかけて、私達と共にこんな所まで来てしまったツワモノ。

最初は皆がアメリアさんも同行する事を拒否ったが、『え!?別にいいじゃん。美人が増えるのは歓迎だよ!』と、無責任極まりないパピィの発言で連れてくる事になってしまった。

勿論、戦闘には不参加。
その代わり野営等での家事全般を任せる事に…
お父さんが全責任を持って彼女を守るのが娘カップルの命令だ。

あんな美女を託したら、また家族が増えるだけでは?と思ったのだが、“他人(ひと)(おんな)には手を出さない”と公言しているだけあって見向きもしなかったよ。
意外と意志が強いんだなぁ~と思いました。





さてさて、ラダトームの宿屋にチェックインし、アルルさん達は情報収集の為町を散策する事に…
残された私達…私・ウルフ・ミニモン・アホの子・アメリアさんはお留守番です。

何故この面子がお留守番かというと…
アメリアさんは冒険慣れをしてないので、情報収集など出来るはずもなく…
ミニモンはモンスターなので目立たせたくないし…
アホの子などは鳥目で思う様に動けないという始末だ。

ゲームと違い、ラーミアをアレフガルドへ連れて来れたので、ゾーマの城までひとっ飛びだと思ってたら、とんだ落とし穴ですよ!
何だ鳥目って!?とことんアホの子だな!
外を出歩く時はお父さんに抱っこされてるんだぞ!
そうしないと何処にも動けないみたいだ………使えん!

なお、お留守番を言い渡されたラーミアは、『自分も行く』と喚き散らしたのだが、『じゃぁお前は、表の世界へ帰れ!我が儘言う奴はいらん!』とお父さんにガチで叱られ、大泣きしながら従ったのだ。

だから私達は今、宿屋に併設された食堂で、ラーミアをあやしている所だ。
「そんなに泣くなよ…留守番も大切なんだぞ。リュカ達が戻ってくる所を守らなきゃならないんだから…リュカに信用されてなきゃ出来ないんだぞ!」
可愛いフード付きのパーカーを着たミニモンが、妹をあやす様に優しくラーミアを宥める。

「そうよラーミアちゃん。ミニモンちゃんの言う通り…リュカ君は信用してるからラーミアちゃんをお留守番させたのよ。ほら泣かないで…笑って…ね!」
流石はお母さん経験ありのアメリアさんだ。
幼女をあやすのが上手ですね…

「でも…リュカ、ラーミアに『いらん!』って言った!ラーミア、こっちじゃ暗くて飛べない…役に立たないから、リュカ要らないって言った!」
違う違う違う!
お父さんは役立たずに対して要らないとは言わないわ!
そんな愚かな発言をする男じゃ無いわよ!

「違うよラーミア。リュカさんは、我が儘を言うラーミアに怒ったんだよ。我が儘を言わず、良い子にしていれば、リュカさんはラーミアの事が大好きなんだよ」
……ムカつく。
自分の彼氏が、他の女に優しくしているのを見ると…ムカつく!

ざけんじゃねーよアホ鳥が!
私のお父さんを侮辱した上、彼氏に優しくされるなんて…
何様のつもりだオマエ!

ぶっちゃけやってられない気分で、アメリアさん達がラーミアをあやしているのを見学している私。
一人、幼女を慰める事無く冷ややかな目で見詰めている………と、
「ほら、マリーお姉ちゃんがお歌を歌ってくれるって!ラーミアちゃんも一緒に歌いましょう?」
と、勝手に巻き込まれた。

何なの脈略もなく歌えって…
冗談じゃないわよ、私はお父さんと違って滅多やたらに歌う輩じゃないのよ!
大体何でアホのこの為に歌わにゃならんのだ!?

「よかったねラーミア!マリーはとっても歌が上手なんだよ。しかも可愛いんだ!一緒に歌って、ラーミアもマリーみたいに可愛くなれば、リュカさんも今後は一緒に連れて行ってくれるよ!…さぁ、一緒に歌お!」
ちょ、ちょっとちょっと…
何なのよウルフまで…
貴方にそんな事言われたら悪い気はしないじゃないの♡

「よ~し…それじゃぁ歌っちゃおっかなぁ!」
私はラーミアが首から下げてる変化の杖をもぎ取ると、食堂内の椅子やテーブルを雑然と退かし、簡易的なステージを形成させる。
そして、その中央に立って徐に歌い出した。

曲目は『ラブ・ラブ・ミンキーモモ』
小山○美さんの様にプリティー・セクシーに歌いきる。
気が付けば周囲に観客が多数…

調子に乗ってきた私は、更にもう1曲披露する事に…
曲目はまたもやミンキーモモから『ミンキーステッキ・ドリミンパ』だ!
因みにどちらの曲でも、所々で変身しながら歌う。
客の心を鷲掴み!

まずい…すんごい楽しいわ…
どうにも止まらなくなったので、まだまだ続ける事に…
『見知らぬ国のトリッパー』『ラブリードリーム』『おしゃれめさるな』『だいすきシンバ』と魔法の妖精ペルシャを制覇すると、次は…
『デリケートに好きして 』『パジャマのままで 』と魔法の天使クリィミーマミで攻め込んだ!

う~ん、変身は楽しいし、人前で歌うのも気持ちいい!
おっと、魔法変身少女物と言えば忘れてならないのが『魔法使いサリーのうた』だった!
これを歌ったら次は………



魔法のスターマジカルエミの『不思議色ハピネス』『あなただけ Dreaming』…
魔法のアイドルパステルユーミの『金のリボンでRockして』『フリージアの少年』…
魔法のステージファンシーララの『La La La 〜くちびるに願いをこめて〜』『しあわせな き・ぶ・ん』と連続して歌いきり、そろそろアダルティーに責めようと思い、キューティーハニーの『キューティーハニー』を歌う。

すると突然客席から乱入者が一人…
ギターを手に現れたマイパピーだ!
「わ~お!お父さんお帰りなさい!…皆さ~ん、ご紹介します。この人は私のお父さんでーす!どうやらギターで伴奏してくれるみたーい!…あれ?お父さんギター弾けるの?」

「任しとけ!女の子にもてそうな事柄は、大体こなせるように練習したから!学生時代を思い出すぜ!」
すげーな、流石はお父さん…
女に持てる事を前提に習い事等をするんだ…
だが言うだけあると思う…本当に格好いいのよ!

あぁ…本当に歌うって楽しい!
…そう言えば何で歌う事になったんだっけ?
………ま、いいか!



 
 

 
後書き
短編として『始まりはこの日から…』を同時掲載しました。
リュカという男がリュカという男になるまでを書きましたので、そちらもお楽しみください。 

 

怒っちゃイヤ!

お父さんがお兄ちゃんに土下座してます。
こんな光景は滅多に遭遇出来ないゾ!
ケータイを持ってたらソッコで写メ()ってアドレス全員に送信なのに…

一体何が起きたのかと言うと…


大食堂で楽しく歌って踊って食べて飲んで………
騒ぎに騒いで辺りを見渡すと真面目っ子カップルだけが居ないのでした。
みんな各々楽しみ食事も済ませたので、不真面目集団に入れない2人の為に、『料理を取り分けて部屋まで持って行ってあげよう』って、お父さんが珍しく気の利いた提案をしてきたの。

私はね『でもお父さん…必要ないんじゃないの?きっと大騒ぎに加われない2人は、部屋に戻ってイチャついてるはずよ!下手にお邪魔しない方が良くない?』って言ったのよ!
だって私だったらパコパコ励んでるはずだから、逆に迷惑な行為だなと思ったから…

でもね『あの2人にそれは無いだろう!まだそんなに遅い時間じゃ無いし…きっとお腹をすかせて、僕達不真面目人間の愚痴を言ってるよ!黙って叱られてあげよ!』って言う事を聞かないの。
ま、確かにお父さんの言い分にも一理あると思うから、それ以上は反対しなかったんだけど…

アルルさんの部屋を勢い良く開けたら、何とビックリ!?
お二人は結合中でしたのですわよ!
イチャついてるとは思いましたが、まさかはめ込んでるとは思いませんでした。

お兄様の逞しい“エクスかりボー”が、お義姉様のまだ使い込まれてないキレイな“まんホール”に出し入れされる様は絶景でありました。
写メどころか、ムービーで撮影したかったです。
勿論アドレス全員に送信!


まぁ…そんな訳で、
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!ワザとじゃ無いんです。今回は本当にワザとじゃ無いんだよ!君達は本当に真面目な子だから、こんな早い時間からエッチをするなんて考えても無かったんだ…本当にごめんなさい!」
と、大切な息子カップルに対し必死で土下座って詫びってるパピィです。
因みに現在は服を着て、ベッドに並んで腰掛けてるお二人です。

「も、もういいです…私達も、2人きりで話してたら、何だか盛り上がってきちゃったから…その…と、ともかく忘れてください!それでいいですから!」
顔を真っ赤にして先程の事を忘れる様に言うアルルさん。
あんな絶景を忘れられる訳ないだろ!

「でもアルル…そんに恥ずかしがる事じゃないのよ。私とお父さんが同じ事をしたから、貴女も生まれてきたんだから…もっと自信持ちなさい、とってもキレイだったわよ」
うん。アルルママの言う通り、とってもキレイだった!
パックリとくわえ込む姿はキレイだった!

「ア、アメリアさん!もういいでしょう…忘れましょう!キレイとか美しいとか、そう言う事じゃ無いんですから…人に見せる事ではないのですから!」
でも前世では、人が観賞する用のビデオとかDVDとかが、飛ぶ様に売れてましたわ!
さっきのシーンもバカ売れ間違いなしだと思います。




さて…
早急に話題を変えたいお父さんは、今日仕入れた情報をみんなに伝える為、場を仕切って事を進める。
アルルさんも早く終わらせて、先程の続きを再開したいらしく、そそくさとオルテガの情報を皆さん(つーかアメリアさん)に教えてます。



「………っと言う訳で、ごめんなさいお母さん…この町にもお父さんの不貞の証が存在します…」
聞けば聞く程、オルテガ殿は私のパパにクリソツね。

「コラ!生まれてきた子には罪はありませんよ!それにオルテガの事を愛してしまった女性(ひと)も悪くはないのですから、そんな言い方は失礼ですよ!」
流石はオルテガの様な男を愛した女は違う…
人が出来ているというか…何処かのネジが緩いというか…

「ふふふ…魅力的な男を愛してしまうと大変よねアメリアさん!私にも解りますよ…1人でフラつかせるワケにいかないですわね!」
あ、いけね…私のママも同類だったわ!
「えぇ…まったくですわ!うふふ…」
似た者同士“うふふ”とか笑ってるけど、笑い事じゃないからね。



「さて…あの人が完全に生きていると分かった事だし、あとは今どこに居るのかを探らないとね!何か分かっているの?」
夫ラブラブ妻は直ぐにでも会いたいのだろう…
“今どこに”を羨望する。

「そう言えば『誰にも真似の出来ない方法で、ゾーマの所へ乗り込む』って事でしたよ!?今はともかく、何れはゾーマの元に行くのだから、我らも目指すべきでしょう…」
新加入ラン君も会議に参加…
でも“誰にも真似の出来ない方法”ってどんなのだろう?
『ジェット・ストリーム・アタック』かな?…でも『ガイア』と『マッシュ』が居ないとダメよねぇ…

「で…どうやって行けばいいの…そこには?」
私達は正攻法よ!
「「「「……………」」」」
あら、皆無言?
“雨と太陽が合わさる時、虹の橋が出来る!”って台詞を、誰も仕入れてないのかしら?

ふう、しょうがないわね…
みんなのアイドル・マリーちゃんが、優しく導いて差し上げますわ!
「なぁに…情報収集しに行ったのに、誰もゾーマの所まで行く方法を聞き出さなかったの?も~う…しょうがないわねぇ~…ちゃんと私が集めておいたわよ、情報を!」

いきなりしゃしゃり出た私に対し、あからさまに嫌そうな顔をするお父さんが気に入らない…
「い、何時の間に!?流石はマリーだね…ただ歌ってただけじゃないんだ!?」
そうなのよお兄ちゃん。
前世でバッチリ情報収集を済ませたのよ!

「当然です!この超天才美少女魔道士マリーちゃんにが居れば、無駄なく・そつなく・ぬかりなく大魔王まで一直線よ!お~ほっほっほっほっ!」
おほほほほ、マリー様とお呼び!


「…で、その情報は?」
「ノ、ノリが悪いわねお父さん…(汗)」
どうにも今回はノリが悪いお父さん…
あまり勿体ぶってお父さんを怒らせるのもアレなので、素直にお話ししようと思います。

「誰が言ったか憶えてないが、誰かが言ってたこの台詞!『雨と太陽が合わさる時、虹の橋が出来る!』ってね!ちょ~意味深じゃない!?更に更にぃ♪ こ~んな事も聞いちゃいました。『ラダトーム城に【太陽の石】ってアイテムがあるらしい』ってね!コレって~、コレってぇ~……もしかしちゃわない?もしかして、もしかしちゃったりだったりしちゃって!!」
私はノリノリでリズミカルに情報を告げる…

「……では、明日は城に行って『太陽の石』を探す事にしよう!」
えぇ~!?
一人テンション・アゲアゲで馬鹿みたいじゃない!
もっと一緒に楽しみましょうよ!

「じゃぁ、疲れたし…マリー達も大騒ぎして疲れただろうから、今日はお開きにして休もう!」
さっさと立ち上がると部屋のドアを開け、皆さんを追い出しにかかるお父さん。

相当先程の艶事遭遇を気にしているらしく、お二人を早く二人きりにしたいみたいだ。
そんなに気にする事無いのに…
きっと性懲りもなく再開するのが落ちよ。

だってお兄ちゃんはまだビンビンだし、アルルさんもヌレヌレで何時でも受け入れOK状態なのよ。
だからベッドに腰掛けたまま、立ち上がる事が出来ないんだよ。
むしろここはもっと焦らして、凄い事にしちゃった方が面白そうじゃん!

でも怒らすと怖いし…
ともかくは部屋を出て行こうと思います。
他の皆さんも同じみたい。

「アルル、ティミー、交尾ガンバレよ!」
でもね、流石はアホの子ですわよ…
的確な一言で、その場の空気を凍り付かせた。

「バカ!人間は『交尾』って言わないって言ったろ!」
「むぅ!ミニモン生意気!ラーミアをバカにするな!…お前は何て言うのか知っているのか!?」
う~ん…状況が状況でなかったら、大爆笑してるのだけど…
今回は…ねぇ…

「本当にお前はバカだな!人間のはセッ(ゴスン!)くはぁ~!!」
ギリギリ言っちゃう所でお父さんの拳骨落下よ!
ちょっと…危なかったんじゃない?

「お!?何だミニモン?『セッ』何だ?続きはな(ゴン!)ぎゃ!」
こっちにも落ちた!
こりゃ、泣き愚図るわね…
めんどくさいからアメリアさんに任せよう。

「お前等いい加減にしろよ!(怒)…今日はもうお開きなの!部屋に戻って寝ろ!良い子も、悪い子も、明日の朝まで部屋から出るな!」
盛大に泣き愚図るアホの子と、気絶するミニモンを抱えお父さんは去って行く。

他の皆さんも疲れた感じで自室へと…
私とウルフの部屋は階が違うので、階段を下りるフリをして踊り場で待機!
皆の気配が無くなった所で、音を立てない様に舞い戻る。

アルルさんの部屋の扉を少しだけ開けて中を覗く…
すると私の読み通り、中のお二人は激しくキスをしながら、互いに服を脱がし合っていた!
「何よ…結構脱がし慣れてるじゃないの!真面目なフリしてムッツリなんだから!」

「まったくだ…2人のキスは、結構激しかったぞ!…ティミーさん、さっきはずっと座っていたけど、ビンビンで立ち上がれなかったんだゼ!」
「アルルさんだってそうよ!立ち上がったら雫が滴り落ちてきたはずよ!だって臭いをプンプンさせてたもん!」
私もウルフも興奮しながら、大好きなお兄ちゃんカップルのエッチを堪能する………が、

(ゴツン!)(ゴツン!)
「ぐ(んぐっ!)」「ぎゃ(もが!)」
いきなり脳天に激しい衝撃が響き、同時に口を何者かに塞がれた!

慌てて周りを見渡すと、すんごい怒っているお父さんと、私の口を塞ぐお母さん…そしてウルフの口を塞ぐハツキさんが居りましたのですわ!
まっずい………バレたのね!?

「んがもががむが!」「ふがもがむ!」
私もウルフも懸命に言い訳をしてるのだが、口を塞がれていては言葉が発せず、怒りの形相のまま顎で合図を送るお父さんに連れられて、両親の部屋にご招待されました…


これって“代わりに俺達のを見せてやる!”ってんじゃないわよねぇ…
きっとお説教よねぇ…
「お前等性懲りもなく…」

いや~ん!
やっぱりお説教じゃ~ん!
い、いいじゃん見たって…あの二人はそれぐらいじゃ別れないわよ!

実際、ハメハメ状態をバッチリ見られたって、みんなが居なくなればソッコでハメ始めたわよ!
今の二人は色ボケモードなんだから、ちょっとやそっとじゃ別れないってば!!
普段真面目な奴等のこそ、豹変した姿ってのを見たいじゃのサ!

「ち、違うのよお父さん!!コレはアレよ…その…ゆ、勇者カップルが、どんなプレイをするのか気になっちゃって!!べ、勉強になればなぁ~…と、思っちゃって!!」
「そ、そうですよリュカさん!そ、それに俺は2人の恋のアドバイスをしましたからね…どの様に成長したのかを、確認したくって…えっと…ねぇ!?」
私もウルフも必死で言い訳をするのだが効果の程は全くなく、めちゃんこお説教をされちゃいました………夜通し!

お父さん…息子を愛し過ぎよ…たった一人の息子だからかしら?
そっか…そうよね!
何時もお兄ちゃんをからかってたのは、大好きだからなのね…

うん…もう二度と覗かない!
だって凄い怒られるんだもん!!(大泣)



 

 

寝不足は美容の敵!

眠い…
明け方まで説教って…怒り過ぎとちゃいまっか?
そりゃ覗こうとした事については、猛反省をしておりますよ。
なのに寝ているとこを蹴り起こし、朝食もそこそこでお出かけって…

ラダトームの王様の前で傅いてますけど、今にも眠りそうだからね!
何時もの様にお父さんとアルルさんとが、“恭しくしろ”とか口論してますけど、もうどうでも良く感じてますから!

帰って寝たいです。
流石に今日ばかりは、ウルフが求めてきてもぶっ飛ばします。
だって眠りたいんだもん!




「しかし…『太陽の石』とな…?聞いた事無いのぉ………誰が聞き覚えのある者は!?」
お?どうやら半分寝ていた様で、話が随分進んでいた。
「「「……………」」」
しかも『太陽の石』の存在は知られてないみたい…

「ふ~む…やっぱり知らんのぉ…知っておればオルテガに授けておるよ!」
どうしよう…私の情報がガセネタっぽくなっちゃた…
アルルさん達に疑問の目で見られる中、縋る様にお父さんを見詰める私。

「きっとお前等が知らないだけで、この城のどっかにあんだよ。勝手に探させてもらうから、お城のみんなには通達しておいてね!」
私の不安を読み取ってくれたお父さんが、私の頭を撫でながら無礼すぎる言葉で王様達に家宅捜索の許可を取る。
しかも返事を待たずに踵を返し、家宅捜索開始しちゃった…



困った…マジで困った!
♪迷子の迷子の『太陽の石』、アナタは現在(ありか)は何処ですか?♪
♪家臣に聞いても分からない、家捜ししても見つからない!♪

う~ん…ノンビリ『迷子の子猫ちゃん』の替え歌を歌ってる場合じゃなくなってきた。
本当に見つからん!
確か何処かに隠し部屋があったんだよなぁ…

「なぁ、リュカさん…この城には無いんじゃないの?」
「そんな事ないもん!絶対にあるわよ!私がガセネタを掴む訳ないじゃない!!」
ちょっと、よりによって何でウルフが一番に疑うのよ!
私の事を信じてないの!?

「でも、誰も存在自体を知らないのよ!一体誰から聞き出した情報なの?それが分かれば、その人に確認して、在処を知っている人へ辿れるかもしれないわ」
誰からって…前世の記憶って言ったら信じてくれる?…絶対にムリね!
転生者である事を話したウルフですら、私の事を疑ってるのだから…

「誰から聞いたのか憶えてない…昨日、馬鹿騒ぎしている途中で仕入れた情報だから、誰から聞いたのか憶えてない!」
私は半ベソで苦しい言い訳をする。

「大丈夫、きっと見つかるよ。諦めずに探そうよ!」
そんな私の頭を優しく撫で、お父さんが味方をしてくれた。
「お父さん大好き!!」
ワザとウルフの目の前でお父さんに抱き付く。
私を疑った罰である!



しかしながら見つからない隠し部屋…
「…父さん…今日の所は一旦宿屋へ引き上げましょう。もう日も傾いてきましたし、お城に迷惑でしょうから…」

「一旦中止って言ってもよぉ…隅々まで探して見つからなかったんだ…明日は何処を探せばいいのやら…」
お兄ちゃんも捜索中止の方向で発言したのだろうけど、カンダタがその点をハッキリさせようとする発言をする。

「あ゛!?だったらもう一回隅々まで探せばいいだろが!グチャグチャ文句を言うのなら、元盗賊の特技か何かで、探し出せばいいだろ!相変わらず役に立たない木偶の坊だ!」
そうだ木偶の坊め!
口だけじゃなく役に立て馬鹿!

「ぐっ…オ、オレは盗賊って言っても、一人で活動するタイプじゃねーんだ。盗賊団を率いて活動するタイプでな…そう言う特技は持ち合わせて無いんだよ!悪かったな、木偶の坊で!」
「え!?本当にそう言う特技ってあるの?嫌がらせで言っただけなんだけど………それがあれば『太陽の石』探せね?」

そうだ!レミラーマがあるじゃない!!
「そうですよお父さん!確か『レミラーマ』って魔法があったハズ!それがあれば…「だから、オレは使えないぞ!」
私の喜びの言葉を遮り、カンダタは拒絶する。

「ぐっ…この役立たずの木偶の坊め!」
「はいはい…何度も同じ台詞を言うなよ…」
もう何よ!ここにあるのは間違いないのに、場所が分からずウルフにまで疑われるなんて!

「そうだよカンダタ!バコタのアホなら『レミラーマ』を使えるんじゃないかい?アイツは一匹狼タイプだろ………アイツに手伝わせようぜ」
バコタ?
それって盗賊バコタ?

アリアハンで捕らえられてるんじゃなかったけ?
私だけではなく、お父さんもお母さんもウルフまでもが不思議そうな顔をした為、モニカさんは慌ててバコタの説明をする。



どうやらアリアハンで捕らえられてたバコタは脱獄をし、運良く(悪く?)アレフガルドに落っこちた様で、こっちでも捕まっているらしい。
原作ではカンダタが捕らえられていたはずだけど、その代わりなのかしら?

「な、何だよ旦那…何か問題でもあるのか?」
私が因果関係を考えていると、カンダタがお父さんへ疑問をぶつける。
どうやら納得していない顔をしてたのだろう。

「問題…?あるだろ…そいつは罪人として投獄されてるのだぞ!勝手に牢から出す訳にはいかない!それに………」
そうね…罪人が素直に協力するとは思えないし、協力すると言ってきても信用して良いのか疑問が残る…

「それに…何だった言うんだい?」
罪人としてアッサリ改心したモニカさんとカンダタには、その辺が今一理解出来ないのだろうか?
歯切れの悪いお父さんに苛ついてますわ。

「…いや…何でもない。………協力させるなら王様に許可を貰った方が良いよ」
お父さんも説明が面倒になったのだろう…
結局何も言わず王様の所へ踵を返す…ただ、何かを考えてはいるみたいです。



「…それは流石に無理な願いじゃ!」
お父さんに任せると事がややこしくなると踏んだアルルさんが、恭しく囚われのバコタ解放を嘆願するが、案の定アッサリ断られ取り付く島もない。

「あ、あの陛下…これは世界を平和にする事への一環です!どうかその点をご理解頂きたいのです!」
しかし当然ながらアルルさんは諦めない。
しつこく王様にお願いするけど…

「もう良いじゃんアルル…コイツ等は世界が滅ぼされても、盗人一人を逃がす方が嫌なんだよ!物事の大小が見えてない愚か者共なんだ!救う価値無いね…」
業を煮やしたお父さんが余計な口を挟んできた。

「ぬぅ…そ、そこまで言うのなら、万が一逃がし再度盗みを行ったら、その分の被害を全額支払って貰うぞ!それで良ければ罪人の解放を許可しよう!」
売り言葉に買い言葉って言うんだろうなぁ…

それにしても無茶苦茶な提案で妥協を促す王様。
つーかそんな提案に乗る奴が居るものか!
『ふざけんな馬鹿!そんなリスクを背負えるか!』って話は流れちゃうだろう…まぁ、それが王様の狙いなんだろうけどね。

「うん。それで良いよ」
なぬ!?今なんつった?
『良いよ』って聞こえちゃったけど…まさかねぇ?

って呆然とお父さんを見詰めてると、本人はスタスタ出て行っちゃったよ!
え?えぇ!?マジッスか!?
リスク大きくねぇ?それでも大丈夫なの?ねぇお父さん!!



 
 

 
後書き
2012年最後の更新です。
今年は色々とございました。
とあるサイトの閉鎖に伴い、暁様へのお引っ越し…
ムリくりではありますが、DQ3の完結。

私個人も彼女に振られ、腹いせに石鹸の国へ通い始めました。

年の瀬最後に下ネタはどうかと言う読者様もいらっしゃるとは思いますが、しかしながらコレが私…あちゃでございます!
来年もこんな感じで邁進して行きますので、どうぞお見捨て無き様よろしくお願い致します。 

 

忍者ハッタリ君、只今参上!

 
前書き
新年明けましておめでとうございます。
年明け一発目のサブタイトルがコレってどういう事!?とお思いでしょうが、『だから良し!』と言う気持ちで掲載致しました。

♪山を飛びー谷底へー…♪
♪僕等の町へやっと来たー!♪
♪ハッタリ君がやっと来た!♪

昔、こんな歌を『ドランクドラゴン』がネタで歌ってた。


さて、それでは新年一発目のマリーちゃんをお楽しみください。 

 
「リュカさん、何を考えてるんですか!!?もし逃がしでもしたら、私達は大魔王討伐所じゃ無くなるんですよ!」
「そ、そうよリュカ!今からでも間に合うから、王様に謝って取り消して貰いましょう!」
「ごめんなさいお父さん…私が変な情報を得た為に…今回は無茶が過ぎるわ!冷静になって次の手を考えましょうよ…ね!」

事の発端は私の情報だ…
流石に今回は分が悪すぎる!
私は元より、お母さんもアルルさんも必死で説得する。

「大丈夫、大丈夫!」
何がどう大丈夫なのか…何時もと変わらぬ軽い口調のまま、城を出てズンズン城下を進んで行くお父さん。
お願いだから思い止まって!


バコタの捕らえられている留置場へ赴く途中、お父さんはペットショップへ立ち寄ると、大型犬用の首輪を購入する。
一体何に使うのか?

「お、おい…まさか、それで…」
いや、あり得ないだろう…犬じゃないんだから、そんな物外せるし…
仮に外せなくても、首輪だけじゃ勝手に逃げる事も出来るし…

「なぁ旦那…その首輪…まさかアイツに…?」
「そうだよ。これを首に付けて、逃げられなくするの」
どうしよう…まさか本気だとは…

「そ、そんな物を首に付けたって、逃げようと思えば簡単に逃げられるだろ!」
「勿論これだけじゃないよ。鎖も付けるよ」
鎖なんか買ってないじゃない!

「く、鎖って…そんな物付けたって、首輪を外せば意味無いじゃない!そ、それに…鎖なんて何処にあるのよ!」
私と同じ疑問を持つアルルさんが、大きな声で疑問を投げ付ける。

「うるせーな…簡単に外せない様にするさ!それに鎖は必ずしも目に見えるとは限らないんだよ!」
しかしお父さんは、めんどくさそうに答えると、
「あ、そうだ…アルル、光の玉を使いたいんだ…貸して!」
自分勝手に光の玉をアルルさんから受け取り、スタスタ留置場へと行っちゃった。



はぁ~…留置所に着いてしまった。
考えたくはないが、本当はすっごい馬鹿なのか?
お父さんは時折格好いいだけで、正体は馬鹿男なのか?

以前はともかく、今はお父さんの事が大好きな私には、今回のお父さんの奇行は理解に苦しむ。
それとも何かトリッキーな作戦でもあるのだろうか?
うん。それを信じるしか道はないわね…うん。

「ん…何だ~?今日は随分と大人数での面会だなぁ………あ、テメーはあの時の!!」
細身の不男がお父さんを見て驚いている。
どうやらお父さんとは知り合いのご様子。

「?………何だ?…僕の事を知ってるの?」
あれ?お知り合いじゃないの?
「な……テメ~…忘れたとは言わせないぞ!」
でも不男の方はお父さんを知っている…
彼女でも寝取られたのか?

「忘れるも何も…お前の事など知らん!」
言い切った…本当に記憶にないんだわ!
「な、何だと…キサマ~…「そんな事より!」
プルプル震えて怒る不男の言葉を遮り、自分の流れに持って行くお父さん。

「お前…『レミラーマ』って魔法使えるのか?」
「あ゛?使えるがそれが何だ!?」
ふむ…取り敢えずは役に立つのかもしれないわね…でも、使えない方が今回は良かったのかも…

「よし。じゃぁ手伝え!ラダトーム城に『太陽の石』ってアイテムがあるらしいんだが、何処にあるのか分からない。お前、探し出せ!」
何が凄いって、人に頼み事をする態度じゃないのよ。

「おま…そ、それが人に物を頼む態度かよ!………そのアイテムは、価値があるのか?」
「ない!金銭的な価値はない!でも僕等には重要なアイテムだ!だから探し出せ!」
あまりこう言う小悪党に“僕等には重要なアイテム”と言うのはどうかと…ほら、ヤツの顔がニヤけてる!

「ふ~ん…まぁ…協力してやらない事も無いが………その前にオレ様を此処から出す事が条件だな!それから…そっちの金髪美人とヤらせろ!それから………まぁ、他の条件は追々だな(笑)」
あ……………この馬鹿、地雷踏んだ…

よりによってお母さんとヤらせろって言っちゃった!
もうお父さんの頭の中には、世界を平和にする事など微塵もないかもしれない…
コイツぶっ殺す事しか、考えられなくなってるかもしれないわ。

「ぎゃはははは!いいんだぜ、協力しなくてもよー!」
お父さんの激しい怒気に気付かない不男(ばか)は、優位に立てたと思い込み馬鹿笑いを響かせる。
しかしお父さんは、凍り付く様な目で見据えたまま、
「アルル…最後の鍵で牢を開けて…」
と、不男の解放を指示した。

普段だったら絶対に牢屋を開けないアルルさんだが、今回はお父さんが怖すぎて問答する事も出来ず、素直に牢を開けてしまう。
これはアルルさんの所為ではない!
アルルさんは何も悪くはない!
だってお父さんが怖すぎるんだもん!!

「へっへっへっ…じゃぁ早速金髪ちゃんを…「バギマ!」
(ドゴッ!!)
「ぐはぁ!」

イヤらしい手付きでお母さんに近付こうとした不男は、不意に唱えたお父さんのバギマ(風だけ)に吹っ飛ばされた!
バギだって相当な威力のハズなのに、今回バギマでお仕置きをするお父さん…
きっと死んだ方がマシ級に痛いのだろう。

「ティミー、ヤツの右腕と右足を押さえ付けろ!…ラングストンは左腕と左足だ!」
お父さんが怒った時の怖さを知っているお兄ちゃんは、余計に怒らせない様に機敏に動き指示に従う。
しかし、お父さんが怒った時の怖さを知らないラン君も、既に怖さの一端を実感した様で、何時もの軽口を叩かずに、大人しく指示に従っている…正しい判断だ!

「テ、テメー…こんな事してただで済むと思っているのか!?オレが協力しねーと、そのナントカってアイテムが見つけられないんだろ!」
分かってないのはお前だ!
お父さんにとって世界の…しかもこっちの世界の平和など、実際どうでもいいのだ。

それよりもキサマが先程イヤらしい事をしようとした、愛しの奥方の方が大切なのだ!
あぁ…もうお父さんには『太陽の石』などどうでもいいのだろう…
これからムカツク不男に、拷問をするのかもしれない…

「うるせー…舌を引っこ抜かれたくなかったら、黙ってろ!」
ほら…有無を言わせる気もないらしい。
しかしお父さんは、不男の側に近付くと買ってきた首輪を取り付け鷲掴み、聞いた事のない言葉で呟き始めた。

「¢ÅΨαПя¥@」
何語かしら?
適当にビビらせてるだけかしら?

「お、おい…な、何やってんだ…おい!(涙)」
まぁ…ビビらせるだけであれば、概ね成功だわね!
不男半泣き状態よ。

「おい!!何なんだよ!!何か熱いぞコレ!?」
お兄ちゃんとラン君に押さえ付けられながらも、恐怖から藻掻く不男は見苦しい。
でも気持ちは解る…だって何やらお父さんの魔法で、首輪付近が光ってるんだもん。

「メガンテ」
え、今何と!?
メ、メガンテ…“目がテン”じゃなくて?


先程の“メガンテ”で作業は終了したらしく、不男から少し離れ冷たく見据えるお父さん。
そして少しだけ間を置いてさっき程の作業を語り出す…
「おい…今お前が首に巻いている物は『メガンテの首輪』という…正しい手順で外さないと、首輪から半径50センチは大爆発する…気を付けろ」
『メガンテの首輪』って、グランバニアに来た奴隷商人が使っていたアイテム?

「まず最初に唱えた呪文だが、あれはこの光の玉のパワーを、その首輪に纏わせる呪文だ。そして次の呪文は言うまでもない『メガンテ』だ!自爆魔法として知られてる『メガンテ』を、光の玉のパワーで包んで首輪に閉じこめた!」
光の玉のパワーを………ってなぁ~んだ…ハッタリか!

「いいか…その首輪にループする様に光の玉のパワーを纏わせてある。無理に外そうとすれば、纏ってある光の玉のパワーに穴が空き、そこから『メガンテ』発動する仕掛けになっている。また光の玉のパワーが届く範囲は、約300メートルだ!従って僕の持つ光の玉から300メートル以上離れると、『メガンテ』を押さえ付けるパワーが消えて、その首輪は爆発する…僕からは離れない方が懸命だぞ」

上手い事を考えるわね。
コレなら外さないと逃げられないし、外し方も分からないから結局逃げられない!
……でも、流石にハッタリが過ぎるんじゃないかしら?

「は…ははは…そ、そんなの…ハ、ハッタリだ…と、取ったって…爆発なんか…」
ほら、今のところは半信半疑。
「そう思うなら外せ!ハッタリだと思うのなら、今すぐ外せ!これ以後の話をするのは、それからだ…何時までもその首輪の真偽について話したくない。さっさと結論を出す為に外せ!それでハッタリかどうかは結論が出る!」

そうきたか!
流石、大国グランバニアの国王陛下!
疑われても強気に出て、自ら外す様に嗾ける…相手がザコ級の小心者だから効果があるけど、自棄を起こされたらアウトよね。

「お、おい…いいのかよ…こんな物付けたままじゃ…オ、オレは協力しないぜ…は、外せよ!コレ外したら手伝ってやるからよ!!」
う~ん…コイツのは効果絶大か!
強気に出ようと努力はしてるが、腰が引け引けで情けない。

「何か勘違いしてないか?お前に命令を出す権利はない!お前に出来る事は、僕達に協力して『太陽の石』を探すか………死ぬかだ!…ソレを付けたままじゃ協力しないと言うのなら…そのまま死ね!」
かっちょい~………
『死ね!』とか平気で言えるって、相当な覚悟だと思う…『殺す!』て言うより覚悟がいるんじゃないかしら?

不男も外させる為に何かを言おうとするが、お父さんはヤツが発言する前に踵を返し、この場を立ち去ろうとする。
「お、おい!!ど、何処に行くんだよ!?」
うん。決定打かもね。
だって不男、涙目状態ア~ンド声裏返りだもん。

「協力しない奴に構っている程、僕等は暇じゃないんだ!『太陽の石』を探しに、再度ラダトーム城へ赴く…じゃぁな!」
お父さんは不男に背を向けたまま、冷たい口調で言い捨てる。

「ちょ、ちょ、ちょっと、待って…待ってよ!」
不男は少しでもお父さんに近付こうと鉄格子に体を押し付けて距離を縮める。
「ラダトーム城って…此処から2キロは離れてるぞ!コ、コレが爆発しちゃうじゃねーかよ!どっか行くんなら、コレを外せよ!爆発しちゃうよ(泣)」

「さっきも言ったが、協力し『太陽の石』を探すのに尽力すれば、ソレを外してやる…お前に残されている道は、協力して生き残るか、協力せず死ぬかだ!」
まずい…リュリュお姉ちゃんが変態的なのがよく分かる。
だって私、濡れてるもん!

「と、父さん…先程からあまりにも非人道的すぎです!…どうか(バコタ)から首輪を外して、今回の事はなかった事にしましょう…『メガンテの首輪』は酷すぎます!父さんだって、あの奴隷商人が『メガンテの首輪』を付けた奴隷を連れてきた時は、怒り心頭だったじゃないですか!あんな人間のクズになり果てるのは止めてください…」
お!?このパーティーの良心であるお兄ちゃんが、遂に動き出した。

お父さんと口論しても負けると分かっていても、良い子ちゃんには黙ってられない。
だからお兄ちゃんは素敵なのだ!
何で私の血縁(かぞく)は良い男揃いなんだ!?

「奴はビアンカとヤらせろと言ったんだ!僕の愛する妻と………お前は我慢出来るのか!?アルルとヤらせろと言われても…そのシーンを想像してしまっても!?」
そうよね…核爆弾級の地雷だもんね。
踏んだアイツが馬鹿なのよ!

「…ぐっ!た、確かに…そんな想像をしてしまっては…」
なぬ!?
まさかまさかの大逆転?
色ボケ状態のお兄ちゃんには、想像するだけで怒りが込み上げちゃうの?

「な、な、何だよ!オレは言っただけだろ…想像したお前等が悪いんだろ!!」
「……………」
言う事自体に問題があるとは考えない不男…
そんなヤツを睨んで目を閉じ天を仰ぐお兄ちゃん。

いやいや…そんな、まさかでしょ?
お兄ちゃんまでもがお父さんと同じ思考回路に達しちゃったら、このパーティーはどうなっちゃうの?

「こんな奴、放っておきましょう!世界を救おうとする我々に協力するでもなく…自らの欲望のみに生きる男など…生かしておく価値はない!」
あ~ぁ……
アナキン・スカイウォーカーがダークサイドに落ちたのと同じ事が起きた。
シスの暗黒卿は強かった…

憎しみを込めて不男を睨むと、お父さんと一緒に出て行こうとするお兄ちゃん。
ルーク・スカイウォーカーが居ない状況で、この二人を説得(たお)す人物など此処には居ない…
もう一人の良心も諦めて出て行こうとする。
まぁ、どうせハッタリなのだから、出て行ったって問題はないんだけどね。

「待って!!わ、悪かった…オ、オレが悪かったって!協力する…全面的に協力しちゃう!だ、だから…お願い助けて…し、死にたくない…オレ、まだ死にたくないんだ!」
しかし、ハッタリである事など知る由もない不男は、涙ながらに協力を誓う。

それを聞いたお父さんとお兄ちゃんは不男の側まで引き返し、腕を後ろに組んで威圧する様に問いかける。
「僕達に協力するのか?…言っておくが1度でも逆らったら、例えお前の功績で『太陽の石』を入手出来ても、その首輪は外さないぞ…ちゃんと理解しているのか?」
理解はしてるだろうな…だからこその命乞いなのだから。

不男は大きく頷き「分かった」「逆らわない」と連呼した。
それを聞いた瞬間、私達に背中を見せているお父さんとお兄ちゃんの右手が、グッとサムズアップ状態になる。
私は唖然とした…お父さんはハッタリの為冷酷に振る舞っていたが、お兄ちゃんまでもが同じ考えの下芝居をしていたなんて…

う~ん………恐ろしい子!



 
 

 
後書き
2013年もこんな調子で頑張ります。
皆様、よろしくお願い致します。 

 

私は哀れな人質です。

私の首筋には料理用のナイフが当てられており、首輪をした不男に囚われております。
何故にこうなったのでしょうか?
ちょっと振り返ってみましょう…



半泣き不男と共にラダトーム城を家捜しする私達は、家臣達の嫌味に耐え(若干1名だけ毒舌返答)ながら便利魔法『レミラーマ』で、隠し部屋を探します。
ゲームではキッチン付近に隠し部屋があったと記憶していたので、重点的に探してもらおうと思い『きっと薄暗くて探しにくい、こう言った壁際にアイテムが隠されてるんですよ!レミラーマがあれば探し出せますわ…きっと』と発言。

その際に、人々が常用する部分と逆の場所である薄暗い部分へ出張り、皆にアピールしました。
どうやらそれが失敗の元でした…
突如不男が、テーブルに置いてあった料理用のナイフを手にし、私を抱き上げ人質にしたのです!

「おっと…動くなよ。いい加減キサマ等に顎で扱き使われるのは飽きてきたぜ!この娘の命が惜しかったら、オレの首輪を外しな!そうしたら娘は離してやるし、太陽の石も探してやるよ…へっへっへっ、お偉いさん方を怒らしちまったから、アイテムを見つけないと立場がないんだろ?もうオレを殺せねーよなぁ?」

ハッキリ言います…本当に怖いです!!
だって誰も助けられない状態ですよ!
ウルフに目を向けても、剣に手を当ててはいるが身動きが取れないでいます!

もう本当に怖くて泣きそうになってますけど、辛うじて泣くのを堪えていると…
「お、おい!!?う、動くなって言ったろ!!つ、つ、次動いたら…「お前を殺すぞ!」
空気を読まないのか、お父さんが一歩踏みだし恫喝し始めました。

ちょっとヤメテよ!
私、死にたくないの!!
不男も声が裏返るほど動揺してるわよ!
手元が滑ってナイフが首を切り裂いちゃったらどうすんのよ!?

「俺の娘に傷一つでも付けてみろ…その空っぽな頭を握り潰してやるぞ!」
まっず~い!
空気を読んでないどころか、お怒りモードで我忘れちゃっておりますわ!

「お、おい…オレを殺せるのか…?こ、殺したら…レ、レミラーマが使えず…ア、アイテムを探せないだろ…?そ、そ、それでもいいのかよ!こ、この首輪を外せば、手伝ってやるって言ってんだぜ!?」
「もう憶えた!お前に何度も見せてもらったから、レミラーマを憶えた!だからさっさとマリーを離し、ナイフを捨てろ!さもないと殺すぞ…」

あぁ…もうダメだ…
言うに事欠いてそんなハッタリをかますとは…
折角幸せになれたのに、私の人生はもうお終いなのね…

「はぁ?憶えたぁ!?盗賊のみが憶えられるレミラーマを、テメーが憶えたって?あはははは、とんだハッタリ野郎だな!どうやらこの首輪もハッタリなんだろう…その確信が持てなかったから脅えてたけど…もうアイテム探しを手伝ってやる必要はなさそうだなぁ!!わははははは!」

不男に全てのハッタリがバレてしまいましたわ…
ウルフ…私…貴方と別れたくないよぉ………
永遠(ずっと)一緒に居たかったよぉ………

「レミラーマ!」
突如お父さんが左手を翳し、アイテム探知の魔法を唱える。
するとお父さんの左手から眩い光が発し、キッチン内の薄暗い壁に向かって集まって行く!

「ほう………どうやらお前ではなく、俺が先に太陽の石を見つけ出した様だ…コレでお前は用済み…生かしておく価値は無くなった!………もうお前が持っている延命理由は1つ………俺の娘を無傷で解放する事…それだけだ!」

何なのこの男…
一番ハッタリっぽい言葉が、一番真実を語っているなんて…
でも私が人質として、命の危機に晒されている事実は変わらない。

「コレが最後だ…俺の、娘を、さっさと、離せ!」
しかし、そんな事実を無視する様に、お父さんは更なる一歩を踏み込んで不男を脅し続ける。
そんな男の恫喝にガクガクブルブル震える不男…

不男の気持ちも解らないでもない…
『メガンテの首輪』がハッタリであるだろうと薄々は感付いていたのだろうが、確証がなく思い切る事が出来なかったのだ。
しかし、奴が使う『レミラーマ』を見て『憶えた』等とハッタリを言うお父さんを見て、言う事の全てがハッタリだと確信した不男は、内心でガッツポーズをしたのだろう。

時間にして数十秒だが、全てを手に入れた気分になったに違いない。
しかし、それこそが幻だったのだ!
一番ハッタリじみた言葉を、真実にしてしまう男が此処にいた。
三日天下どころか数秒天下という哀れな結末。

不男は力無くナイフを落とすと、私を抱えていた腕からも力が抜けて行く。
私は慌てて不男から離れ、自身の安全を確保する。
ウルフは私の安全が確認出来た途端、凄い跳躍で不男に鉄拳をめり込ませました!
格好いいッス!…マヂで格好いいッスよ!!
今夜は赤玉が出るまで寝かさない!

「マ、マリー!!大丈夫か!?け、怪我は無い?大丈夫なの?」
「大丈夫…うん、大丈夫だよ」
私はウルフに抱き締められ、安堵からか涙が零れてきた。

「な、なぁ旦那…許してやってくれないか?コイツもアンタが相手だったから、あんな事をしちまったんだ…アンタは強すぎるから…」
ゔ~…ぶっ殺してほしいのに、カンダタのアホがヤツを庇ってる!

お父さんは冷たい瞳で不男とカンダタを睨むけど…
「お前がしっかり押さえ付けておけ!ちょっとでも暴れたら、お前事バギクロスで細切れにするぞ!」
と、カンダタの嘆願を受け入れる。

そして私の身を案じて顔面蒼白になっているお母さんへ近付くと、優しく抱き締め涙を受け止める。
私もまた、ウルフの胸に抱き付き泣きはらした。
本当に怖かった…





さて…
お父さん達に不男の始末を任せた私とウルフ…それとアメリアさん・ミニモン・ラーミア達は、先に宿屋へと戻り各自の部屋で休息を取る。
と言っても、私とウルフはファイト一発だ!

ファイト二発目に移行しようと思った所で、お父さん達が帰ってきたらしく、食事の誘いでドアをノックされた。
昨晩のお兄ちゃんとアルルさんくらいビンビン・ヌレヌレでしたが、行かぬワケにもまいりません。


イチャイチャしながら食堂へ行くと、お兄ちゃん・アルルさん・カンダタ・モニカさんが戻ってきてませんでした。
本当は帰って来るのを待つのが礼儀なのでしょうが、さっさと食事を終わらせて、先程の続きを再開させたい私達は、『お父さん…先に食べてはダメかしら?』と、立前で確認を取り返事を待たずに食べ始めた。

そんな私を怒るでもなく、お父さんも食事を始めてしまいました。
そして暫くすると、お兄ちゃん達も戻ってきたみたいで、疲れ切った表情で近付いてきます。
「お帰り…悪いけどお腹空いちゃったから先に食べてるよ。ティミー達の分も頼んであるから、遠慮無く食べてよ」
豪快に食事を掻き込みながら、爽やかな笑顔と共に軽い口調で謝るお父さん。

“ドン!”と大型犬用の首輪をテーブルに置くと、溜息を一つ吐いて、
「ったく…ハッタリならハッタリだと、あの場で教えてくれても良いじゃないですか!」
と、不男の首輪が爆発しなかった事を報告してくれるお兄ちゃん。

良く意味が分かりませんね?
ハッタリなのは分かり切っていた事でしょうに?
何が不満なんでしょうかねぇ?

チラリとお母さんを見ると、
「リュカはね、バコタにハッタリだと教えず、最後までハッタリを貫き通して留置場に置いてきたのよ。首輪を外さず離れて行く私達に、泣きながら懇願するバコタを眺め、悦に浸りながら…♥」
と、コッソリ教えてくれました。

あぁ、だからお兄ちゃん達は、ハッタリなのかを確認する為見届けて来たのか!
やっと彼等だけ帰りが遅かった理由が分かったわ。
あんな不男、放っておけばいいのに!

「(ニヤリ)アイツ…どうだった?」
お父さんは嬉しそうに不男の反応を確認する。
「…首輪が爆発しないと確認すると、凄い勢いで外し床に叩き付けてました。悔しそうでしたよ…」
よしっ!いいね、い~いね!!

私は勿論、ウルフも盛大にガッツポーズで喜びを表す。
そんな私達に呆れながら、カンダタが今回の出来事に不平を言い出した。
「しかし…アイツを騙すのなら、俺達にも全容を教えてくれても良かったんじゃねーの?何で俺達にまで秘密にしたんだよ!」
仲間はずれが気に入らないのか、口を尖らせて拗ねるカンダタ…お前がソレをやっても可愛くねぇよ。

「ダメだね!特にお前には事前に知らせられない…」
「な、何でだよ!俺が裏切るとでも思ったのか!?」
コイツは自分の事を分かってないな…

「そうじゃない…僕はお前の事を信用している。だがお前は嘘が下手だ!事前に知らせていたら、お前は奴を見る度にニヤケてただろう…話では、お前と奴は以前仲間だったそうじゃないか。お前の性格から、昔の仲間が不遇な目に遭っているのに、ニヤケて居る事は不自然なんだ。お前が一際奴を気遣っているからこそ、奴はあの首輪をハッタリだとは断言出来なかったんだ。お前の事を信用してない訳では無いが、今回はその長所が仇となる事例だったんだよ…」

「な、なるほど…でも、ティミーには知らせて、俺達には知らせてくれないのはズルイなぁ…」
違うわよ…今回の事はお兄ちゃんの独断で、お父さんに話を合わせたんですぅ!

「それは僕にも計算違いだった。まさかあそこでティミーが気付き、僕に話を合わせてくるとは…お陰で時間短縮出来たよ!いや~…柔軟な思考が出来る様になったもんだ!愛する者が出来ると、人はこうも変わるものなんだねぇ…」
お父さんはお兄ちゃんの変化に感心しながら、格好良くグラスを掲げ称えてる。

お兄ちゃんも爽やかにサムズアップで答えました。
格好いいんだな、この二人!



 

 

勇者の父の成すべき事とは…

「陛下…昨日はご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。お陰をもちまして、無事『太陽の石』を見つける事が出来ました」
昨日、城内を騒がせまくった私達は、揃って王様の前でお詫び中です。

「まぁ馬鹿な大臣共には、逐一嫌味を言われ続けたけどね!王様のお陰…って、全然役に立って無いけどね!大臣等を押さえ付ける事も出来てないんだからね!!」
訂正致します…“揃って”ではなく、一部を除いてお詫び中でした。

「す、済まなかったなぁリュカ…ワシ等もこの城にそんな物があるとは知らなかったから…」
王様、気まずそうに謝っちゃったよ。

「王様…それは違うよ!僕は『太陽の石』の存在を知らなかった事には怒ってないんだ。『自分たちの知らない事は世の中に無い!』とばかりにふんぞり返っている輩に腹が立っているだけなんだ!更に言えば、そう言う奴等に限って安全な場所で何もせず、危険な場所へ赴き努力している者に対し、文句だけは言ってくる輩なんだ!文句を言う前に、お前が何とかしろって言いたいね!」
うん。お父さんのクレームは止まる事を知らない。
家臣等も何も言えず黙り込む。

「…リュカ…おヌシは随分と良識を持っている様だ…どうだ、我が娘…ローリア姫と結婚し、この国を治める気はないか?」
「「「「へ、陛下!!」」」」
しかし、王様の突飛な発言に、家臣等も大声を上げる。

そりゃそうだ、国の一大事だろうに…
能力や人柄のよく分からない男に、王位を譲ろうなどと言われれば、誰だって大声を上げる。
国を統べる者が、そんな安易に後継者を決めてはいけないと思います。

「黙れ!ワシの決断に異を唱える者は許さん!リュカの様な者こそ、国を背負って立つ者に相応しいのだ!キサマらの様に、世界を救おうとする者の邪魔にしかならぬ事をする輩とは違うのだ!」
でも王様は意固地になっちゃった。

お姫様を呼び、お父さんの紹介してます。
尤も昨日の家捜し中に、お姫様の部屋も探しまくったので、その時にご挨拶は済ませてますけどね。

「どうじゃリュカよ…ワシが言うのもなんだが、なかなかの器量だろうて………おヌシの答えを聞きたいのぉ」
確かに可愛いです。
でもきっと『王位はいらん!娘と一発ヤらせろ!』的な事を言うんじゃねーの?

「お前バカなの?」
おっと…予想とは少し違った第一声。
ストレートすぎる暴言に、誰もが言葉を失ってます。

「な…何と言ったのだ?」
世間一般では、王位を譲られるなど大変な栄誉であり、心から羨望する事なのだ。
しかしこの男には世間の常識が通用しない。
そんな事を知らない王様の台詞は至極当然だ。

「はぁ~………バカなのか………分かった、説明してやるから黙って聞け!」
グランバニアという国がこの世界に存在せず、ラダトーム王家等にお父さんが国王である事を認められていない状況で、この態度は大問題なのだ。
だって今のお父さんは一般人だからね。
にも拘わらず、何なのこの態度のデカさは!?

「僕はお姫さんとは結婚しない!理由は3つある…」
右手を翳し人差し指・中指・薬指を見せつけ、優しい口調で語り出す。
「先ず、僕は既に結婚している。この絶世の美女が奥さんだ!」
左手でお母さんを抱き寄せ自慢げに見せつける。

「もう子供も居るし、別れる気は無い!それが1つ目の理由だ。次の理由は………僕は王様になりたくない!王様とか、町長とか、人の上に立つと自由が無くなる。僕には権力や富よりも、自由に生きる事こそが重要なんだ!」
私も以前は女王とかになりたいと持ってたけど、お父さんの生き方を見てリーダーにならない方が幸せなんだと知った。
お姫様でいる方が楽で良い!

「3つ目の理由は………僕は他人(ひと)の女に興味がない!」
他人(ひと)の女?
誰の女なのよ!?

お姫様の頭を撫でながら、優しい微笑みで見詰めるお父さん。
「好きな(ひと)が居るんでしょ?」
と問いかけられ、戸惑いながらも顔を赤くして頷いた。

さてさて、驚いちゃったのは王様よ。
好いた男が居る事にビックリしながらも、父親として嬉しいのだろう。
表情に困りながらお姫様を見詰め続ける。

大円団で終わると思われたお家騒動…
しかし、マイパピィがソレを許すはずがない!
無用な一言で混乱を招き込んだ。

「お腹の子は、その彼との子だよね?」
「「「……………」」」
うん。みんな一斉に黙っちゃった。

『お腹の子』って何?
え?お姫様ご懐妊中なの!?
何なのその爆弾発言は!?

「ロ、ロ-リア!!あ、あ、相手は誰だ!?一体何処の馬の骨なんだ!?」
多分一瞬だったのだろうけど、永遠に感じる静寂を、王様が金切り声で打ち破り、私達の時間が動き出した。

相当混乱してるんだろう…
我を忘れてお姫様の両腕を掴み揺すっている。
「い、痛いです、お父様!や、止めてください…」
お姫様は脅えて半泣きだわ。可哀想に…

(ドカ!)
「落ち着けオッサン!」
唯一冷静なお父さんが、王様の尻を蹴飛ばして王様の奇行を止める。
そしてお姫様を優しく抱き寄せ、王様から守る様に立ち塞がる。

私の記憶では、この混乱を発生させたのはお父さんだと思う。
なのに何で偉そうなの?
尻餅を付いた王様…目をパチクリさせながらお父さんを見上げてますわ。

「相手が誰とか…どんな人物とか…そんな事どうでもいいだろ!今大事なのは、お姫さんに子供が出来、オッサンがお爺ちゃんになると言う事実だ!目出度い事だぞ…新しい命が誕生するなんて事は」
娘の男の事は気になるに決まっている…ましてや、既に種を仕込み済みであれば尚更。

「いいわけねーだろ!ワシの孫なんだぞ…このラダトームを継ぐ跡取りなんだぞ!父親が何処ぞの愚か者だったりしたら、一大事ではないか!」
王様も言葉を選ぶ余裕がなくなってるわね…

「おいおい…さっき何処ぞの男に娘と結婚しろと言った人物とは思えない台詞だな!何を基準に跡取りを選んでいるんだキサマは!?」
そりゃ誰だか判らない相手と、多少なりとも人となりを理解出来た相手とでは状況が異なる!

「お、お前は素晴らしい見識を持っている男だから、ワシの後を継ぐのに相応しいと思ったのだ!だ、だがローリアのお腹の子の父親の事は知らん…諸手で喜べるワケ無いだろ!」
「つまりキサマの娘は、人格に信用がおけないという事だな!?」
何でそうなる!?

「な、何だと!?許さんぞ…ローリアは清楚で可憐で心優しい娘だ。常に正しい判断を行える人格の持ち主だ!取り消せ…今すぐ取り消さねば、極刑に処すぞ!」
うん。お姫様の事を詳しくは知らないけど、馬鹿貴族の令嬢共よりはマシな様に感じたぞ!

「ふざけんな…取り消すのはキサマの方だ!僕はお姫さんの人格を疑ってなどいない…お姫さんが認めた相手(おとこ)に疑問を持ち、半狂乱で喚いているキサマこそが、彼女の人格や判断力を軽視いているんだ!」
すげー言い分…

「そ、それは………」
でも実際に半狂乱でお姫様を揺すってた王様は、お父さんの言い分に反論出来ない。
「それに僕はキサマが嫌いだ!娘の結婚相手を勝手に決める様な親…そんな奴は大嫌いなんだよ!………無理矢理結婚相手を押し付けて、実はもうお腹に子供が居ますって知るや発狂する親…最悪だね!」

「し、しかし…リュカよ、お前の見識は素晴らしい物がある。その様な人物はそうは居まい…娘と結婚させて取り込もうとするのは、至極当然であろう」
う~ん…グランバニアを見ると、お父さんの政治力は素晴らしいのだろうけど…
近くで眺めていると、あまり国王には向いてない様に見えるが…

「随分と評価して貰ってるが、お前等に僕の何が分かってるんだ?」
「…………」
冷たい口調でお父さんに言い捨てられ、何も言えなくなる王様。

「僕は…妻の他にも愛人が沢山居る!それに伴って子供も沢山居る!しかも表の世界じゃどっかの女王様を孕ませて、責任取って無いからね!(笑)………ローリアちゃんを妊娠させた男と何処が違うと言うのだ?それなのにお姫さんが選んだ男ではなく、僕の方が夫には相応しいと決めつけるのか!?」

「そ、それは…し、しかしリュカの事を何も知らなかったんだ…仕方ない事だろう!」
「ローリアちゃんが選んだ男の事など、僕以上に知らないだろうが!それなのに全否定してたじゃないか!」
確かに…
見もしないで全否定って酷いわね。

「……………」
「…王様。今はともかく、新しい命の誕生を喜ぼうよ…可愛い娘さんが、きっと可愛い孫を生んでくれるんだからさ…『父親が誰か』とかは、どうでもいいじゃないか!」
何だ何だ?

いきなり口調が変わったぞ。
まるで直ぐさま話を終わらせようとしてるわ。
オイオイ…まさかお姫様に手を出したんじゃないだろうな!?

思わずお母さんと目が合ってしまう私。
ソレを見たアルルさんが思わず口を出す。
「…もしかして父親ってリュカさんですか?」

「バカ言うな!出会ったのは昨日が初めてだぞ………種撒く時間などあるものか!例え僕が種を撒いたとしても、昨日の今日で芽が出る訳ないだろ!」
確かに…じゃぁ誰がヤちゃったのよ!?

「流石はその道の達人…一言一言に説得力がありますねぇ…きっとお姫様のお相手にも、説得力の篭もった台詞が言えるのでしょうね!…リュカ殿と同等に…」
あら、ラン君はお姫様の相手が誰だか分かったのかしら?
そんな感じの口調よね。

「僕と同等?フッフッフッ…残念ながら僕の方が子供は多い!愛人の数も圧勝してるだろう…」
自慢になんねーよ……………ってか、お父さんはお姫様の彼氏が誰だか分かってるの?

「………リュカよ…おヌシは、ローリアの相手を知っているのか?」
「………あ、しまった!(汗)」
昨日初めて会った相手の恋人を、何でお父さんもラン君も知ってるの?

みんなお互いに顔を見合わせ、お姫様の相手が誰なのかを考えてますわ。
コッソリ答えを教えて頂けないかしら?
すっごい気になっちゃうぅ!

「ああ、そうか!!だからお姫様はアルルの事を意識してたのね!」
たったこれだけのヒントで、答えに辿り着いたお方がもう一人…
アメリアさんが驚いた声で叫んでます。

ん?『だからお姫様はアルルの事を意識してたのね』って、どういう事?
アルルさんを意識しちゃった………って、もしかして…
えぇぇぇ…
アルルパパも、私のパパと同類なの!?



 

 

ラブ&ピース

 
前書き
私の住んでる近くに、サブタイトルと同じ名前の石鹸の国があるけど、全くの無関係だよ。 

 
『太陽の石』も手に入れた…
オルテガさんのヤンチャ情報もゲットした…
もうラダトームには用が無いのだが、何故だか私達は未だにこの地に滞在している。

ラダトームの宿屋でチェックアウトもせずに、無駄に時間を過ごしている。
隣の部屋からは、お兄ちゃんとアルルさんの甘ったるい喘ぎ声が聞こえてくる。
『どうしようか?』と、彼氏(ウルフ)に目で相談したら、『我々も頑張ろう!』って結論に達したので、急いでパンツを脱ぎ捨てた。

きっとお父さん達も同じ事してるだろうし、時間を有意義に使わなきゃ損である!
だって、まだ昼にもなってないのに、真面目カップルが率先してヤりだしちゃったら、それに従うしかないでしょ!?

あいつら急にイチャイチャ始めやがって、先を急ごうとする我々を無視して、宿屋へしけ込むんだから…
あのお父さんが唖然としてたわよ。






さて…ほぼ一日を愛を育む最終行為に費やし、翌朝は()よら出立です。
分かっている事ですが、勇者カップルがイチャイチャ鬱陶しい。
手を繋いで移動するどころか、アルルさんの腰を抱き寄せて、常に密着状態で動くお兄ちゃん…
もっと若い内から、そう言うのに馴れていれば此処まで溺れなかったのだろうに…

お父さんはお父さんで、何時もの様に大声で歌いながら、真っ暗なフィールドを歩いて行く。
松明の明かりは灯す範囲が狭くて、敵の接近が分からない。
でも敵からは松明の明かりが目印になり襲いやすいのだ。
だから、せめて歌うのを止めてもらいたいのだけど…止める訳ないのよね…だって、私のパパだもの。

「本当に暗いわね…これじゃ敵の接近に気付かない恐れがあるわ…」
イチャラブしてても真面目成分は失われてはおらず、勇者カップルが危機感を露わに語り出した…チラッと歌う男を睨んで。

「危険だね…松明を増やした方が良くない?」
「うん…でも、照らせる範囲が限られているから、あまり意味があるとは…」
「そうか…やっぱり警戒しながら進むしかないんだね」

「じゃぁさ…進む先にメラを飛ばして、燃やしていけば明るく安全に行けんじゃね?」
面白そうな方法だけど、危険じゃないのかしら?
「また馬鹿な事を…この先に何があるか分からないのに、めったやたらにメラを使ったら、大惨事になるかもしれないじゃないですか!」
やっぱり息子に怒られた…

「そうですよ!それに、そんな無意味に魔法を使って、いざ戦闘になったら魔法力が尽きました…って事になったら大変でしょ!」
「ちょっと言ってみただけなんだから、そんなに怒らなくてもいいだろ!」
うん。状況打破の提案をした者に対して酷いと思う。
ダメ出しするにしても提案の良い点を褒め、それで却下するのがリーダーの資質だと思う。
あんな言い方じゃ、その内誰も提案しなくなる。

「でも…魔法で何とかするって考えは良いと思います!」
しょうがないから、大人な私が話し合いの動かし方を見せますよ。
「ま、魔法って…メラは危ないわよ!下手すると森林火災とかの原因になるかもしれないし…」
本当…頭が固いわね。

「ちっちっちっ…私が言ってるのは魔法でって事よ!何もメラ限定じゃ無いわ!」
右手人差し指を立て、左右に振りながら更に否定する私。
「つまりどういう意味なの!?勿体ぶってないで、早く説明してよね!」
私の言い方の所為か…それとも態度の所為なのか…苛つきながらアルルさんが結論を急ぎます。

「んも~…アルルお義姉ちゃんはお忘れですかぁ?つい最近、光る魔法を目撃した事を!」
「それはレミラーマの事か?」
流石はお父さんです。

「そう!そうよ、それそれ!!だって結構光輝いてたでしょ!?アレを上手く改造できれば、松明無しでも良い感じになるんじゃない?」
私は指パッチンをしてお父さんを褒める。
うん。お父さんとの会話はスムーズで楽しい。

「う~ん…レミラーマか…改造して光だけを発する様に…う~ん…」
魔法の改造提案を聞き、本気で考え始めるお父さん。
私は無茶な事を言ってはいない。
だって実際にDQ1には『レミーラ』って言う周囲を照らす魔法が存在するんだから。

だが、そんな事を知らないお兄ちゃん達は『また馬鹿な事を…』等と言いながら、呆れた表情で前進を開始する。
癪に障るから、お父さんにソッと耳打ちをする…
「お父さん…『レミーラ』って魔法が、本当にドラクエには存在しますのよ。だから『レミラーマ』の改造は絶対に出来ます!」

この瞬間から、私とお父さん…そしてお母さんとウルフ…更には、お父さんに引っ付いているアホの子の5名での、魔法改造チームが始動する。
お父さんの口癖…『やる前から諦めるのは馬鹿者!』を実践してやる。




私達が真剣に討議と実験を行っている間、お兄ちゃん達はもっと真剣に戦闘しております。
本来なら私もウルフも戦闘に参加しているのですが今回はガン無視で、時折此方を見てお兄ちゃんが舌打ち致します。
魔法担当の2人が居ないのは相当にキツイらしく、ハツキさんまでもが舌打ちをしました。

きっと直接文句を言わないのは、お父さんが本気で取り組んでいるからだと思います。
成功すれば万々歳、失敗してもその間歌わなくなるので大助かり。
それに文句を言ったら言ったで、その倍以上の反撃を被るだろうし、ムカツクだろうけど放っておくしかないのだと感じてるのでしょう。


周囲が常に真っ暗なので、時間の経過が分からないのですが、ラダトームを出てかなりの時間が経ってるのは確か!
今更ながら疲れた様で、野営の準備を始める一行。

その際、パーティーリーダーの愚痴が聞こえてきます。
「戦闘に参加しない奴は、それ以外の事に全力を出しなさいよ!口ばっかりで使えないわねぇ…」
相変わらず小うるせぇー女だ!

「まぁまぁ…父さんは、ああ見えても独自にバギを改造させた人だ。もしかしたら成功させるかもしれないよ…それに考え続けてくれれば、常時歌う事が少なくなる!放っておこうよ」
流石お父さんの息子歴が長いだけはある…プラス思考が重要よ!



「よし、これなら大丈夫だろう!」
粗雑な食事を素早く終わらせ、魔法改造に没頭していたが、遂にお父さんが声を上げた。
皆が(魔法改造チーム以外)眠る体勢に入っている中、周囲の見張りと銘打って少し離れてイチャつくバカップルも、お父さんの声に驚き近付いてくる。

「まさかリュカさん…レミラーマを改造できたの!?」
我がチームの活動に、最も舌打ちをしていたアルルさんが、期待を込めた表情で尋ねてくる…現金な女だ!

「モチ!イケメンに不可能は無いのだ!」
「相変わらず理屈の分からない事を…」
おいおい…私達のパパに向かって何て言いぐさだ。

「で…本当に周囲を照らす事が出来るんですか?」
一向に進まない話を進める事が出来るのは、マイパパに流されない愛人ハツキさんだけ!
『さっさとその魔法を見せろ!』と言わんばかりに、魔法の使用を促す。

「うん。最初は、レミラーマで発生する光を保たせるのに苦労したけど、魔法力自体を輝かせる事で、何とか解決でけた!」
私もウルフも…勿論お母さんも、改造に知恵やアイデアを出し苦労した。
でも一番努力したのはお父さんで、何度も魔法を唱えて実験したのだ。

「レミーラ!」
もっと色々能書きを垂れたいのだろうが、めんどくさくもなったのだろう。
ハツキさんに促されるまま『レミーラ』を唱える。

直径15センチ程の光の玉が、お父さんの頭上で光り輝き、そのままフワフワと6.7メートル程浮かび上がる。
言っておくが、すんごく眩しい!
この魔法はダイレクトに魔法力の強さを反映する魔法だ。

魔法力が弱ければ光の強さも弱く、逆に強い魔法力の人…例えばお父さんのレミーラは、
遮蔽物のない平原を300メートルくらいの範囲で明るくする。
「お、思ってたより明るいですね…」
アンタのパパは、それだけ凄いって事だよティミー君!

「うん。魔法力の強弱で明るさも変化するし、発光は魔法力が続く限り持続するよ。こうしている間も僕の魔法力は、この光に吸われているんだ」
「え!?じゃぁ結構魔法力が必要なんですか?」

「いや、小一時間この状態で発光させ続けても、バギ1発分も消費しないよ。それに同時に他の魔法も使用できるんだ!この光は、最初に呪文を唱えるだけで、後は放っておいて大丈夫なんだ。術者の僕が移動すると、その後を追尾するし…術者の魔法力が尽きるか、術者自ら止めるまで延々と光り続ける!」

ホント…この人の才能には感服します。
“魔法を改造する”言葉で言えば簡単だが、実際に行うのは至難なのだ。
魔法の特性を理解して、理論的に改造を施す…
最高に自慢の父親です!

「へー…随分と便利な魔法ね。ところで…さっき『レミーラ』って唱えてたわよね!何で?」
あまりの眩しさに下を向きながら喋るアルルさん。
余計な事を気にしなくて良いのに…
私は転生者である事を広めたくないんだけど…

「うん。マリーが命名した!『レミラーマじゃ紛らわしいわよね!考えるのもめんどくさいしレミーラで良いわよね!』って………そんな事よりカンダタとモニカも、この魔法を憶えろよ!元盗賊や元海賊だったら憶えられるんじゃねーの?お前等、戦闘で魔法を使わないんだから、いざという時に魔法力が尽きても問題ないだろ!?」

流石お父さん。
上手く適当な事を言って誤魔化した上、話題をすり替えちゃったわ。
もう皆さんの意識はカンダタ・モニカさんに向かってます!

「え!?…でも、俺…魔法なんて使えないし…」
「良いじゃないかカンダタ、やってみようよ!出来るかどうかは分からないんだしさ…」
「そうだぞカンダタ。行動する前に諦めるのは愚か者だ!やるだけやって、頑張るだけ頑張って、それでも出来なかったら諦めれば良いじゃないか!僕が教えるから、一緒に頑張ってみようよ」

珍しくカンダタに優しくするお父さん。
もう皆さん、完全に『レミーラ』の由来は頭から無くなってますね。
つくづくお父さんって凄いと思います!



さて…
話題を変える為にカンダタへ魔法習得を進めたのかと思ってましたが、どうやら本気だった様で、根気強く馬鹿(カンダタ)に魔法を教えているお父さん。

「このくらいも出来ないのかい!?アンタの頭はどうなってるんだい!?」
先に習得出来た彼女(モニカ)さんに罵声を浴びせられながら、半泣きで頑張るカンダタ…
恋人同士なのだから、もっと優しい言葉をかければ良いのに…

むしろお父さんが、
「気にするなよカンダタ。誰にだって得手不得手があるんだ…継続は力なりって言葉もあるし、諦めなければ何れ物に出来るよ!」
と優しく励ましてますわ。

結局カンダタは『レミーラ』習得に20日かかりました。
思わずウルフに言いましたよ…
「私だったら、こんなに物覚えの悪い生徒には、3日で愛想を尽かすのに…お父さんてば我慢強いのね…学校の先生に向いてるかも」
前世は学校の先生だったのかな?



 

 

みんなそれぞれ頑張りました

揉みくちゃ…
ドムドーラの人々に囲まれ、揉みくちゃにされる私達。
言っておきますけどエッチな事されてるワケじゃありませんわよ!

単にお父さんのレミーラが珍しくて、皆さんが集まって来ちゃってるだけ。
アレフガルドの光源は、松明がメインなのです。
そんな中、煌々とレミーラの明かりを見れば、人々は有り難がって集まるのです。

「うわぁ…鬱陶しいなぁ………おいカンダタ!お前とモニカは、町民の方々にレミーラの魔法をレクチャーしてやれよ!魔法が得意な奴数人に教えてやれば、何れこの町全体に広まるはずだから、そんなに時間はかからないと思う………じゃ、ガンバレよ!」

出ました、お父さんの得意技『丸投げ』ですよ!
この時の為にカンダタとモニカさんにレミーラを教えておいたかの様に、全てを任せて人集りから逃げて行く男。
流石というか…最早身勝手さが神の領域です!

でも、私も見習いたいと思います。
だって本当にウザイんだもん!
コイツ等ワラワラと鬱陶しいんですよ!

ウルフに目で合図を送る…
(ウルフ)も感じている様で、私を見て軽く頷くと、二人して身を屈め人々の足下を擦り抜ける様に逃げて行く。
うん。久しぶりのデートですぅ♥





何時まで経っても暗いですけど、正真正銘の夜です。
一部屋にみんなで集まって、今後の方針会議です。
因みに私とウルフは張り切りすぎて、ちょっぴり放心状態。

「カンダタ・モニカ、お疲れ様。この町の人々も、貴方達のお陰で暮らし易くなるわね!」
レミーラ教室は好評だったみたいね。
うん。良い事をしたと思うわ。

「あぁそうだな。やっぱり魔法の才能がある奴は凄いぜ!半日でマスターしちまうんだから…」
お前は憶えるのが遅すぎだろう。
20日は無いわぁ~…

「……で、アンタ等も色々手を尽くしたんだろ?アタイ等だけに苦労させておいて、本当に○○○やってただけだったら許さないよ!」
ドキッ!
デートしてエッチして、心地良い疲労感で放心状態の私達は、何と言い訳をすれば良いでしょうね?

「え?…いやぁ~…頑張ったんだけど…」
「ふん!頑張って何も無しかい!?」
「う~ん…結果が分かるまで、時間がかかるよ!一生懸命子作りに励んだけどね…」
「「「……………」」」

すげー…
言い訳どころか、認めた上にベクトルの違う努力を示してきたよ!
一生懸命言い訳を考えた自分が馬鹿みたいだ。

「え!?ヤ、ヤダ…そ、そう言う意味じゃないわよリュカ!」
「そ、そうですよ!私達、そんなに頑張ってませんし…何時もの半分だったし…」
何をヤっていたかなど皆既に存じているのに、わざわざ言葉にされると恥ずかしいのだろうか、顔を赤くして言葉の意味を説明するお母さん。
ハツキさんなど思わず余計な事まで暴露してるし。

「そ、そう言う意味じゃねーよ!何か今後の旅に役立つ情報等を仕入れたかって聞いてんだ!」
「あぁ!そう言う意味かぁ…」
どうすればこんな性格になれるのか…
私に子供が産まれたら、性格形成には注意しよう。

「うん。それだったら町外れの牧場でレミラーマを唱えたら、こんな物を拾いました」
お父さんは懐から綺麗な鉱物を取り出し、エッチだけをしていたワケでない事を見せつける。
う~ん…私達には何もないわねぇ…

「え~とね…町の人にコレを見せたら『オリハルコンじゃないか!?凄く貴重で、凄く堅い鉱物だ!遙か北の村…マイラで、オリハルコンを加工する事の出来る鍛冶屋が居る。これだけの量があれば、結構凄い武器を作ってもらえるぜ!』って、言ってたよ」
マイラの情報まで仕入れていたか!

「ではでは…マイラに行って、偉大なる勇者様専用の格好いい武器作ってもらいましょう!」
まぁ、どうせ笛を探す為にマイラへは行かねばならないのだし、『王者の剣』を作る為にも行った方が良いわよね。

「いや…僕はいらないよ。アルルにだけ最強の武器を作ってあげてよ」
「はぁ?私はそのつもりで言ったんですが…お兄様は何を勘違いしてるんですか?」
お前んじゃねーよ!
お兄ちゃんには『天空の剣』があるでしょうに!………此処には無いけどね。

「私は『偉大な勇者様』と言ったんです!『偉大な』ですよ!…最近、女遊びを憶えたからって、一端の英雄気取りですか?英雄の条件とは、色を好む事なんですよ…つまり、お父さんみたいな節操無しの事なんですよ!分かってますぅ? (ニヤニヤ)」
最近パパっぽくなってきたからって、勘違いしちゃいけねぇ~よ。

「お、女遊びなんかしてないよ!僕はアルル一筋なんだから…それに、それだったらアルルだって英雄の条件を満たして無いじゃないか!」
まだまだ青いわねぇ…

「アラ、お兄ちゃんは知らないんですか!?アルルお姉さんの…ゲフンゲフン、何でもありません事ですわよ…オホホホホ!」
「な!?ちょ、ちょっとマリーちゃん!勝手なデマを流さないでよね!私はティミー一筋よ…他の男となんて…その…あ、遊んでは…いないわ…よ…」

あ~…面白い。
ポピーお姉ちゃんが、お兄ちゃんをからかってたワケがよく分かる。
真面目な奴ってからかうと面白いんだよね!



あんまりおちょくり過ぎるのも可哀想だし、そろそろ真面目に会議を進めましょう。
「さて…私達は『メルキド』という町の情報を仕入れました」
私は『虹の橋』へ導く為の道筋をチラリと臭わせる。

「まぁ、地図にも載っているけど…ここより東にあるメルキドの町には、ゾーマの島へ渡る方法を知っている人が居るらしいのです。コレは行くべきでしょ!」
勿論この情報は前世でのゲーム情報なのだが、ゾーマの城への行き方と言われれば、無視も出来ないだろう。
しかもこれで、私達だけが何もしてない事が誤魔化せます。

「地図で見る限り、結構な距離がある町よね…道は険しい山道になってるみたいだし…しっかりと準備をしてから出立になるわね!」
おや?
アルルさんが会議を纏め終わらせようとしてますわ。
何をそんなに急いでるのかしら?

「これからの事を考えているところ申し訳ありませんが、アルル殿には何も情報は無いのですか?リュカ殿・ビアンカ殿・ハツキ殿はオリハルコンとマイラの情報を…マリー殿・ウルフ殿はメルキドの情報を…私はカンダタ殿とモニカ殿と共に、町の皆様方に魔法(レミーラ)をお教えする手伝いをしておりました。アメリア殿とラーミア・ミニモンはともかく、勇者と呼ばれるお二人だけ、何の情報も無いというのは…ねぇ!?」

的確な意見だが、ラン君が言うと本当に嫌な感じに聞こえるのは何故だろうか?
……やっぱりニヤケながら言うからかな?

「わ、私達は…「許してやれよラング!」
もう一人、ニヤケながら嫌な言い方をする男が此処にいました。
「ヤリたい盛りの若い男女が、2人きりになったらどうなるかくらい分かるだろ!世界平和より…旅の情報より…腰振り合ってたいんだよ!許してやろうよ…大人として…な!」
大人として息子をからかうのはどうなのかと………?

「な!?ちょ、ちょっと…「コレは失礼しました!」
可哀想に…お兄ちゃんとアルルさんは、何も言わせてもらえない。
「私とした事が…お二人は愛し合われておりましたね!なのに『情報は何もないのか!?』等と…非常識極まりない言葉、お許しください!『疲れた!』とか言って、昼にもなってない時間から宿屋に篭もる様なご両人ですものね…今日も大分頑張った事でしょう!いやぁ~申し訳ございません!」
心にも無い事をいけしゃあしゃあと言い切るラン君。

「い、いや…」「あ、あの…」
「世界全体の未来より、自分たちの未来の事で頭がいっぱいなんだ!」
「そうですよね…重要情報を得るよりも、可愛い子供さんを得る事に大忙しですよね!」

「そうさ!少し待ってれば僕は『お爺ちゃん』になるんだぜ!いいだろ~………でも『お爺ちゃん』って呼んだらぶっ飛ばすけどね!」
「羨ましいですねぇ…私なんか、自分のお相手を見つけるのに苦労してますから…どうでしょう、お孫さんが出来る訳ですし、奥さんくれませんか?」
「意味分からん!何で孫が出来ると、奥さんを手放さなければならないんだよ!?」

お父さんとラン君が楽しそうに会話する。
この二人が楽しそうに会話すると、その余波で誰かが不幸になる。
それも最大級の不幸に…

「い、いい加減にしてください!」
「そうですよ!僕達だって色々情報を集め回ったんです!」
あ、流石にキレた!

「情報を集め回ったぁ~?………本当かよ!?」
ほ、ホントかよ……?
だとしたらマジて何もしてないのは私達だけッスか?

「(ムカッ!)本当ですよ!ただ、大した情報が無かったから言わないだけです!」
「そうよ!エッチしかしてない様な言い方するの止めてください!私もティミーも、町中を歩き回ったんです!」
わ、私とウルフだって町中を歩いたわよ!
………デートしてただけだけどね。

「でも、お二人ともエッチはしたんですよね?」
「したよ!時間が有り余ってたからエッチしたよ…わりーかよ!父さんだってしたんだろ!?」
悪くないよ!だってエッチは気持ちいいもん!

「うん。でも有力情報も集めたよ」
「ぐっ…だ、だから…碌な情報が無かったのよ!」
私のは前世の記憶よ!

「では、どんな情報があったのですか?お二人が得た情報を教えてください。有益かどうかは皆で判断しましょうよ。そんなに急いで会議を終わらせる必要はないでしょう!」
「お!ラングは良い事言うねぇ…よし、お前等の得た情報を出しなさい。子供の作り方以外の情報を披露しなさい!」
私は“子供の作り方”の方を実技で見せて頂きたいですわ!

「わ、分かりましたよ…本当に大した情報はないんですよ!………えっと、武器屋のご夫婦に赤ちゃんが生まれるらしく、旦那さんが名前を一生懸命考えていて、買い物が出来ませんでした…」
本当にどうでもいい情報ね…確か『ユキノフ』だったけ?

「あと…あ、そうだ!町外れに居たエルフが、マイラの温泉の南に、『妖精の笛』と呼ばれるアイテムが埋まっているって言ってたわ…だから何なの?って感じだけど、何れマイラに行くのなら、ちょっと探してみます?」
お、それは重要な情報じゃん!

「あぁ…それと、井戸の中に人が居て、もうすぐ水が枯れるって嘆いてましたね…」
「えっと…それに………」





「………と、こんなところです」
『妖精の笛』以外の情報はマジでクズね。

「本当に碌な情報が無いですね…」
いえ『妖精の笛』の情報は重要よ。
「うん…マイラの情報は重要そうだね。行った時に探してみよう!温泉の南…だったよね?」
お、流石お父さん。
………でも何でその情報が重要だって分かったのかしら?

「え!?本気で言ってます?…笛が埋まっているってだけですよ…」
「本気だよ…もしかしたら凄いアイテムかもしれないだろ。取り敢えずは見つけてから考えよう」
「「は、はぁ………?」」
アイテムがあるってだけで判断してるの?

「何が重要で何が不要かなんて、誰にも分からないのだから、手に入れた情報はともかく出し切ろうよ…最近のお前等はエッチの事しか頭にないだろ!?今だって早く終わらせて部屋にしけ込みたいと考えてるだろ!?」
「「ゔ…」」
ゔ…私も言い返せないわ…

「ティミーはいいよ…お前はこの世界の人間じゃないんだ。この世界がどうなろうと関係ないからね!…でもアルルはダメだろ!?君は世界を平和にする為に自ら旅立ったんだよ…彼氏とイチャつくのは構わないけど、使命をおろそかにしちゃダメだよ。自らの旅路を有意義な物にする為、手を抜いてはダメだよ!表の世界での幽霊船の事もあるんだ…無意味な事柄に思えても、実はアルルの旅に必要不可欠だったろ!?収集して仕入れた情報は、みんなの共有にしないとね」

つまり私はエッチがメインで良いわけね。
チラリとウルフを見ると同じ事を考えてたのか、ホッとした表情をする。
勇者じゃなくて良かった!

「あ!ご、誤解するなよ…僕は2人が仲良くする事を注意しているワケじゃないからね!エッチ…大いに結構!本当に早く、孫の顔を見せてほしいよ!…ただ、やる事やってから、ヤる事ヤろうって意味だからね!」
「「はい………」」

「父さんの仰る通り、僕はアルルの事が好きすぎて、少しばかり浮かれてました…もっと自重する様心がけます…」
「私も…初心を忘れてました。ありがとうございますリュカさん…大事な事を気付かせて貰いました」
確かに最近のバカップルぶりには目に余る物があるわね。

でも………
“お(リュカ)が偉そうに言える事じゃないだろ!!”
って言いたい!
でも折角キレイに纏まってるのだし、空気を読む事が出来る私は、ソッと胸にしまい込みますわ。

だって“仲良き事は美しき事かな!”だし!



 
 

 
後書き
出来れば1月中に完結させたいなぁ…
次話はメルキドだし、どうにかなるかな?
マリーちゃんが完結したら、次は待望のDQ4だ! 

 

やる気、元気、メルキど?

“はぁ~…何れ此処に『ゴーレム』が門番をする様になるのね!”と、一人感慨深くメルキド唯一の入口を潜る私。
小高い壁に囲まれた安全な町の中へ入ると、そこには怠惰な人々の溜まり場だった。

「何だ、このやる気の無い町は!?」
ザッとだが町並みを見回った私達は、お父さんの嫌悪の篭もった言葉に反論出来ない。
大魔王の存在により未来に希望を持てなくなった人々が、働く事もせずにただ生きている………そんな町が、このメルキドだ!

「確かに不愉快な根性の持ち主が多い町ですね!」
結構気が短い女…真面目っ娘アルルさんも、この状況にご立腹模様。
お父さんと同意見になるなんて珍しいわ。
天変地異の前触れで、明日にでも日が昇るんじゃないの?

「こんな町、さっさと滅んでしまえばいいんだ!」
「ちょ、父さん…流石にそれは言い過ぎでは?…それ程までに大魔王の存在が大きすぎるのですよ」
私も言い過ぎだと思う…それにしてもお父さんって、やる気のない人間や最初から諦める人間が大嫌いよね。

「ドムドーラを思い出してみろ!大魔王の影響に脅えるという点では同じなのに、あんなにも前向きに生きている!…しかもあの町は、もう少しで水が干上がってしまいそうなんだぞ!それなのに僕達が辿り着くや、レミーラの魔法を憶えようと努力した!井戸が枯れ、大魔王に滅ぼされるだけの運命であれば、人工の光を作り出す必要なんてない…でも彼等は生きる事を諦めてないんだ!……それに比べてここの連中は……」

確かにその通りね…
でも皮肉よね。
未来への希望を捨ててないドムドーラが滅びて、既に生きる気力も失っているメルキドが生き残るなんて…

「わ、分かりましたよ…そんなに怒らないでくださいよ…情報を仕入れたら、さっさとこの町から出ましょう…」
最早八つ当たり以外の何物でもないのだが、お父さんに責められて困り切るお兄ちゃん。

「じゃぁ…早く探さないと…ゾーマの島へと渡「オルテガ様!!」…え!?」
同じく嫌悪しているアルルさんが、目的を済ませようと話を纏めかけたのだが、突如現れた女性の一言に遮られる。

「オルテガ様ー!お会いしたかったです!!」
「あ、いや…私は…むぐっ!」
しかも、アルル様へ駆け寄ると徐に唇を奪う女性。
図らずも百合のお時間だ!(わぉ!)

「あ、良いなぁ…」
男から見れば、突如女にキスされるのは羨ましいのだろうけど、女の私から見れば、女にキスされて“良いな”と言われるのは不愉快です。
されてるアルルさんは、もっと不愉快でしょうね。

「ん~…ぶはっ!…い、いきなり何すんのよ!!!」
ほら…ヒステリック・アルルが大激怒!
あの()ーちゃん本当に気が短いんだから。

「…あら?…オルテガ様…背が縮んだ?」
「ち、縮む訳ないでしょ!別人よバ~カ!」
「え…べ、別人…!?う、うそ…」

うん。見るからに頭の揺るそうな女が、極めて揺るそうな台詞で自分を現している。
あんな女に唇を奪われたアルルさんに同情を禁じ得ない。
私なら即イオナズンだ!

「良く見ろバカ!女よ…私は女なのよ!少しだけど化粧だってしてるでしょ!コレでも最近は少しは女っぽくなってきたって言われてるのよ!ぶっ殺すわよアンタ!」
出会った頃のアルルさんはボーイッシュだったけど、最近の彼女は色っぽくなってきた。
胸以外は女にしか見えない…って事は、オルテガさんって“オネエ”系?

「じゃ、じゃぁ…オルテガ様は…?」
「知るかバカ!こっちだってあのクソオヤジを探してんのよ!ホント不愉快な町ね!」
この町が不愉快なのは認めるが、この馬鹿女が理由の大部分を占めるのはどうだろうか?

「お、落ち着いてよアルル…この人も悪気があった訳じゃ…むぐっ!?」
真面目な彼氏が宥めようと試みるが、口直しをするかの様に唇を奪うアルルさん。
有無を言わせず吸い付きボンバー。

「………んぷはっ…な、何ですか?いきなり…」
嬉し恥ずかしビックリな彼氏は、取り敢えず自由を確保すると理由を尋ねる。
聞かなきゃならないのが、まだ残る青さだね。

「そんな事聞くなよな…消毒だよ!…アルル的に清めなんだよ!」
「しょ、消毒!?清め?」
消毒とか、清めとか…みんな酷い言い様だな。

「そうよ!私はあのバカ女に、唇を汚されたの!貴方の唇で浄化して!」
本人が目の前に居るのだから、言葉を選ぶべきだと私は思う。
でもコレがリュカ家のスタンダードなんだろうね。

「お嬢さんの唇は、僕が浄化しましょうか?」
この状況でナンパするのは私のパパです。
「い、いえ…私は大丈夫ですから…」
「じゃぁ私が…ん…」
あえなく玉砕…かと思いきや、奥さんに唇を奪われてマッタリ感100%



暫しの時間、イチャイチャ・ブチュブチュして居りましたが、これでは一向に話が進まないと感じ、さりげなく互いの自己紹介を促す私。
いきなりキス女はフィリさんと言い、アルルパパの残したヤンチャ記録のお一人です。

「………そんな…オルテガ様では無いどころか、奥さんと娘さんなんですか!?あんなに激しく愛し合ったのに…」
「は、激しくって…ふさけんじゃないわよ!アンタとは………」
おや、何やら言葉を濁したぞ?

「…リュ、リュカさん…ちょっと確認してほしい事があるんですが…いいですか?」
マイパパとコソコソ密談してます。
浮気現場?なワケ無いわよね。

「うん。確認してみるね…」
どうやら何かを依頼したらしく、快諾するお父さん…
そして徐にフィリさんのお腹を触りましたわ。

「ちょ、何ですかいきなり!」
これこそ浮気の現場よね!?
何なの一体?

「うん…大丈夫だよ。誰も居ない!」
「ふぅ~…ここでもかと思っちゃいましたよ…ありがとうございますリュカさん」
………あぁ!
アルルパパの成果確認だったのね。

「ちょっと、何なのよ!説明しなさいよね!」
「うるさいわね、アンタは黙ってなさいよ!」
言い方が酷い…相当先程の事を気にしてるのね…

「申し訳ございませんでした。アルルは…彼女は貴方のお腹の中に、オルテガの子が宿ってないかを確認しただけなのです…」
彼女と父親の無礼を詫びるのは、出来の良い彼氏兼息子です。

「はぁ?良く見なさいよ!私が子供を産んだババアに見えるの!?まだピッチピッチなんだからね!」
「「な…こ、子供を産んだババア!?」」
この馬鹿女…言葉を選べ!

「ふざけんな小娘!私なんか3人も出産したのに、このプロポーションを意地してんのよ!」
そうよ、私のお母さんは美しく可愛く素敵なんだからね!
その遺伝子を私は受け継いでるんだからね!!

「私だってアルルを産む以前の体型を、頑張って維持してきたんですよ!」
そうだそうだ!
きっと三十路を過ぎ去ってるはずなのに、そんな風には全然見えないんだぞ!

「ご、ごめんなさい…と、ともかく…ここでは何だから、私の家で続きを…」
流石に事態を理解したのか、たじろぎながら謝り、町中での騒動を回避しようと自家に招こうとするフィリさん。
お父さんとお兄ちゃんが、ご立腹三人娘を宥めつつ、フィリさんの案内に従いついて行く。



先程アルルさん達が騒いだ場所から少し離れた所に、メルキドでは一般的な集合住宅が存在し、そこの一室がフィリさんの(ねぐら)だ。
なぜ“(ねぐら)”と言う表現をするのかと言うと……汚いのだ!

入室と同時にお父さんの顔が激しく歪む程、室内は喧噪としているのだ!
“メルキドでは一般的”と表したが、所謂『低所得層用住宅』の事であり、要約すると『貧乏人が住む汚く見窄らしい住まい』の事である。

私としては前世で暮らしていたボロアパートと大差ない状況に、それ程戸惑いはしないのだが、綺麗好きのお父さんはドン引き状態。
先程まで“隙あらば口説く”スタンスが一転、終始軽蔑視しておりますよ。

「あ、あの…機嫌を直して貰えませんか?これじゃ話も出来ないのですか…」
お父さんが嫌悪から口を開こうとしないので、渋々ながらお兄ちゃんがマイパーティーの女神3人を宥めるべく口を開く…

「………ティミー……分かってるの?私はババアって言われたのよ!子供を産んだ女はババアって!」
「そうよティミー君…私もビアンカさんも、競争率の高い夫の為に、日夜努力して美貌を維持しているのに、ババアって言われたんですよ。許せると思いますか!?」

お兄ちゃんも地雷原である事は分かっていたのだろう…
でも話を進展させる為に、自らを犠牲にして飛び込んだのだ。
だが結果は案の定…
女性問題の達人に目で助けを求めても、嫌悪状態で顰めっ面をするばかり。

「俺だったら出産をした女性を前にして『ババア』なんて言えないね!きっとフィリさんもそうだと思いますよ。お二人とも若くて美しいから、子持ちだとは思えなかったんですよ!若くて美しすぎるから、間違えて口から暴言が出てきちゃったんですよ!」

お兄ちゃんを助けたのは出来る弟子ウルフ。
『お前…何が狙いだ!?』と胡散臭く感じる台詞をスラスラと言い、戸惑う義兄を救出する。
やっぱりこの男から目を離せない…絶対に浮気するぞ!

「良い子ねぇ~ウルフ君は!」
ウルフの言葉に気をよくしたお母さんは、彼の頭を抱き締め、パフパフしながら撫でまくる。
キサマ…それが狙いか!?

「本当…貴方は若いのに、女心を解っているわ!」
次いでアメリアさんも同じようにウルフの頭を抱き抱え、パフパフのご褒美を行い褒め称える。
当のウルフは嬉しそうだ………ムカツク!

「さて…お姉さん!オルテガさんとはお知り合いのようですが、何処へ行ったのかご存じありませんか?」
これ以上ウルフを誘惑されては敵わないので、美女二人のパフパフ攻撃から引っ張り寄せ、話題を元に戻そうと試みる。

「いえ…今どこに居るのかは………でも以前この町に来た時に、魔の島へ渡る方法を探しているって言ってたの!その時は収穫無しだったけど…私がその後で情報を集めたのよ!この町の南端に住んでいるジイさんが知っているらしいの!オルテガ様にその事を伝えたいのよね…何処に居るのかしら?」

逆に居所を尋ねられた。
知らねーから聞いてるのに、尋ね返すなよ!
「やはりオルテガさんは『魔の島』へ渡る正しい方法を入手して居らず、強引な方法で『魔の島』への上陸を決行する様ね…つまり、己の肉体への負担を顧みず、泳いで魔の島へ行くつもりよ!」
もうしょうがないから私が導いてあげますよ。

「…すげーなアルルパパは!」
「き、危険よ!止めないと!!」
「そうよ…早く止めないとオルテガが!!」
オルテガさんの娘と妻が血相を変えて心配するが…

「いや…止めようにも、今現在何処にいるのか分からない事には…それに既に手遅れかもしれないし………今僕等に出来る事は、少しでも早く魔の島へ行く方法を入手する事だよ!」
冷静に状況を判断し結論を下すお父さん。格好いいです。

「な、何言ってるんですか!?このアレフガルドの海を見た事ないんですか!?太陽がないから真っ暗で、方向感覚も無くなり、水温は極寒と言っていいレベル…尚かつ、魔の島近海では常に波が荒れており、泳いで渡る事など不可能なんです!」
だが馬鹿女が無駄に騒ぎ立てる。

「いや…魔の島に渡るだけなら、不可能ではない!問題なのは上陸した後なんだ!」
「じょ、上陸した後って…どういう事ですか?」
父親の事が心配で声も出ないアルルさんの代わりに、お兄ちゃんが問題点を尋ねてきます。

「うん。僕もラダトームに居た時に魔の島方面の海域を見たよ………暗くて方向感覚が無くなるって事だけど、目的地のゾーマの城に多少の明かりが見えるからね…方向感覚はなくならないだろう…」

「し、しかし…水温はどうします?とても泳ぎ切れないと思いますが!?」
「オルテガはメラを使えるんじゃね?」
「え、えぇ…確か使えましたけど…」

「じゃぁ大丈夫だよ!メラを体中に纏わせれば、ギリギリ泳ぎ切る事が出来るはず…」
「メ、メラを纏わすって…どういう?」
「エジンベアでビアンカが見せたろ。両手にメラの炎を纏わして、生意気な門兵を脅かしたじゃん!…アレを体全体で行えばいいんだよ!」

陸上で行った場合、下手をすると丸焦げなのだが、水中であれば即座に消火され大事には至らない。
ただし…すんげー魔法力を消費するだろう!
たかがメラでも、常に放出している状態なのだから。

「で、でも…上手くいくでしょうか?」
「そんなの分からないよ!でもオルテガは、その方法で渡る事を決意したんだと思うよ」
「なるほど………では、父さんの意見ではオルテガさんは既に魔の島へと渡っていると?」

「いや…それは分からない。泳ぐにしたって可能な限り最短距離にしたいはずだから、場所の選定中だと思うね…ただ、泳ぎ出す前に僕等がオルテガを見つける事は時間的にムリだと思う!それよりも彼が泳ぎ切る事を信じて、僕等は正しい魔の島への渡り方を探しだそう!」
お兄ちゃんの導きで、お父さんの冷静な状況判断を披露する事が出来、青ざめてるアルルさんもアメリアさんも発狂することなく聞き終える事が出来た。

「では父さん…『問題なのは上陸後』と言ってましたが、それはどういう事なのでしょうか?」
「うん。今言った方法で魔の島へ渡ると、体力・魔法力共に著しく低下した状態で、敵本拠地の強烈な敵達と戦わなきゃならないんだ…勿論、敵に見つからない様に何処かで体力回復を図るとは思うけども、完全回復は出来ないだろうから…これはとっても危険だよ!」

オルテガさんが危険である事に代わりはなく、早急に合流し共に行動する事が望ましい。
原作では、すんでの所で失われる命…
そんな事は回避しなければ、私やお父さんがこの世界に来た意味がない!

「あの…可能な限り急いで魔の島へ急行して下さい!そしてオルテガ様を助けて下さい!!…これは以前、私の部屋に泊まった時に忘れていったオルテガ様の盾です!その時は忘れ物だと思い、次に来た時に持ち帰るのだと思ってましたが…そちらの方の仰る事が正しければ、(これ)はワザと置いていったのだと思います。泳いで渡るのに、この盾は邪魔ですから………だ、だから貴女達にお渡しします!この盾は『勇者の盾』と言うそうです…オルテガ様がラダトームの北にある洞窟で見つけたそうです」

私が密かなる決意を胸に秘めてると、部屋の奥(そちらも大変散らかっている)から、フィリさんが一つの大きな盾を持ってきてアルルさんに手渡した。
「あ、ありがとう…必ず父(オルテガ)を無事に連れ帰ります!」

アルルさんの戦う姿は、女の私が見ても格好いいと思う事がよくあるが、勇者の盾を装備した彼女は更に凛々しく格好いい存在になる。
私は直接見た事無いけど、天空の武具を装備したお兄ちゃんも、一層格好良く見えるのかな?



 

 

無駄な労力は控えよう

♪だっこ、抱っこ、お姫様抱っこ!♪
♪私はマリー、お姫様♪
♪だからウルフにされてます、お姫様抱っこ!♪

私はルンルン気分で勝手な歌を作り歌ってます。
だってマイダーリンがお姫様抱っこしてくれるんだもん!
もう嬉しすぎて力加減が出来ず、戦闘になると地形を大幅に変えちゃってますぅ♥

状況が理解出来ない良い子達には説明が必要かしら?
んも~う、しょうがないわねぇ~。
あのね…

メルキドの馬鹿女(フィリ)の情報に従い、あの町に住むジジイに魔の島へ渡る方法を聞き、精霊の祠の場所を教えてもらったから、今そこに向かってるの。
でもね、途中に広大な毒の沼地が広がってて、トラマナを使って移動してたのだけど、背の低い私には沼地移動が困難だったの。
だから優しいマイダーリンが、私をお姫様抱っこ状態で移動なの♥


「歩きにくいなぁ…魔法で何とかなんない?」
「我が儘言わないでよ!毒の沼地でダメージを負わないだけでもマシでしょ!」
相変わらずの文句の多いお父さんに、無視すれば良いのにアルルさんが一々突っかかる。

「魔法を改造するのが得意なのだから、文句があるならお父さんが何とかしてくださいよ」
「えぇ~勝手だなぁ………ウルフに抱っこされながら移動している子は、ちゃんと自分の足で歩いている真面目な人に文句言わないでよ」
文句じゃなく提案よ!

でも……
「えへへへへ…良いでしょ♡」
ウルフの首に抱き付き自慢しちゃいます!






アレフガルドの最も南に隠れる様に存在する『精霊の祠』…
やっとの事私達は到着する。
私個人は、もっと時間が掛かっても良かったけどね。

「あ~…やっと着いた………何だってこんな辺鄙な所に住んでんだよ!?馬鹿なんじゃないの?」
建物内に入ると、エルフの人が笑顔でお出迎えをしようとしていたのだが、早々にお父さんの愚痴が炸裂。
笑顔が凍り付き固まってます。

「リュ、リュカさん!失礼ですよ…」
大丈夫よアルルさん…
間違いなくワザとですから。絶対にエルフの人には気付いてましたから!

「ん?…あ、あぁ………君ここの人?」
「は、はい…ここで暮らしております」
「んじゃ…君がルビス?」

「……………いえ…私はアスカリー…この世界の創造主、精霊神ルビス様に代わり、ここをお守りしているエルフです!」
もう既にブチ切れ寸前のエルフ…名前をアスカリーさんは、敬愛するルビスの事を呼び捨てにされたのが気に入らないみたいで、“様”に力を込めて対応する。

「じゃ、ルビスは?…僕達『魔の島』に渡る方法を探してるんだよね!ルビスが協力してくれるって聞いたんだ…何処行っちゃったの?」
でも一切気にしないのが私のパパよ。

「ぐっ!…ル、ルビス様は…ゾーマの手により、とある塔に封印されてしまいました…」
彼女にとって状況は最悪なのだろう…
ここで無意味な口論を行わない様に、ひたすら無礼男に耐え話を進める。

「そ、それではルビス様の事を救わないと!」
「アスカリーさん…ルビス様が何処に囚われているのかご存じでしょうか?」
そして出張ってきたのが我がパーティーの良心、お兄ちゃんとアルルさんです。

お父さんの無礼をかき消す様に丁寧な口調でアスカリーさんに対応します。
「お、お願いしても宜しいですか!?…ルビス様はアレフガルドの北にある、『マイラ』と言う村の直ぐ西の塔に、石化されて封印されております」
アスカリーさんも気をよくしたのか、無遠慮に厄介事を押し付けてきます。

「え~………この世界を作った神様とか名乗っているクセに、封印されちゃったのぉ?ホームでアウェイの奴に負ける様な神様なんかに、何が出来るの?そんなん放っておいて、先にゾーさんを倒しちゃわない?」
う~ん…流石にフォローしきれない。

「いい加減にしなさい!ルビス様は偉大なるお方なのです!…黙って聞いていれば、先程から無礼な事ばかり…弁えなさい!」
とうとう我慢出来ずキレた。
まぁよく我慢した方だと思う。

「知らねーよ!僕の世界の神様じゃないし………そう言えば僕の世界の神様とか言われている奴も、情けない奴だったなぁ………どの世界でも、神様とか崇められている奴は、ダッせーんだな!(笑)」
お父さんは基本、神様っていう存在が嫌いなんだと思う。

「だ、黙りなさい!お、お前の世界の神などとルビス様を一緒にするな!お美しく、聡明で、お優しい方なんだぞ!」
真っ赤な顔で大激怒。
教えてあげたい…それは無駄な労力なのだと。

「え、美人なの!?どんくらい美人?アスカリーちゃんくらい?」
ほら…気にしないどころか、どうでもいい方向に話を持って行かれちゃってるし…
「わ、私など足下にも及ばない!世界…この世界だけでなく、お前の世界を併せてもナンバー1だ!」
アスカリーさんも怒りで冷静な判断を下せず、お父さんの作った流れに流されてるよ。

「違うね…世界ナンバー1は、僕の奥さんのビアンカだね!」
もうどうでもいいじゃない…
早く話を進めましょうよ…


でも、この無駄な口論は暫く続き、ルビス本人が揃ってから結論を出すという方向で何とか落ち着いた。
どうせルビスを救出するって結論に達するのだから、お父さんも余計な一言を言わなければいいのに…



 

 

間違った温泉の利用法

精霊の祠在住のエルフ…アスカリーさんに『雨雲の杖』と船を頂き、漆黒の海を航海する正義の勇者一行。
暗黒世界で煌々と光を放つ私達は、モンスター達には格好の標的で、戦闘回数はハンパないです!

したがって皆様お疲れモード。
やっと辿り着いたマイラで、
「温泉だ!色々やる事はあるだろうけど、今は温泉でリフレッシュしよう!」
と、お父さんの不真面目提案に、誰も反対することなく従います。





うん。やっぱり温泉は気持ちいいです。
お爺ちゃん(ビアンカ方)の住んでる村にも、温泉があり何度か利用した事がありますが、身体が若返っても温泉の素晴らしさは変わりません。

しかも残念(パパ的に)な事に、この温泉は混浴じゃありません。
きっと今頃あっちの男湯で、女湯を覗こうと試みて息子に叱られてるんだと思います。
あぁ…無念で項垂れるお父さんの表情が目に浮かぶ!

「…マ、マリーちゃん…最近、随分と胸が大きくなってきたんじゃない?」
湯船に浸かりマッタリ考え事をしてると、アルルさんがちょっと悔しそうに話しかけてきます。
そうなのです…大分膨らんでまいりましたわ。

「羨ましいですか?でも、しょうがない事です…だって私のお母さんは、そちらの巨乳美女ですからね!遺伝子からして違いますよ」
「何よ…私のお母さんだって結構胸が大きいわよ!」

「ですから…遺伝子の違い プラス 女性ホルモンをビンビンに振りまかせる、彼氏の存在も影響が大きいんですよ。齢一桁からビンビンですから!」
「「「えろガキが!」」」
アルルさん・モニカさん・ハツキさんがハモって罵声(ばせ)ってきます。


(メキメキメキ……ドスン!!)
私達がガールズトークに花を咲かせてると、突如男湯との境界の壁が崩れ、数人の男が女湯に雪崩れ込んできた。

「「「「「…………………………」」」」」
誰も何も言えません…
何が起きたのか理解出来ません…

「や、やぁビアンカ。今日もキレイだね…」
お父さんはスックと立ち上がると、何事もなかった様に挨拶をし、そのまま女湯の湯船に浸かり落ち着きます。(唖然と固まるお母さんとハツキさんの間に座り…)

「えっと…マリーもキレイだよ」
「あ…うん。僕はアルルが大好きだ!大きさなんか関係ないからね」
「お、おう、モニカ…今夜も頑張るぞ!」
「皆さん良いですね…決まったお相手が居て」

その他の男共もそれなりに挨拶をすると、しれっと湯船に浸かりマッタリする。
ど、どうすればいいの?
別に知った仲だし大声で悲鳴を上げるのも…
でも、此処は女湯なのよね?何で男が入ってるの?

えっと…えっと…どうしよう?







「随分と質の良いオリハルコンだ!…数日時間をくれ、そうしたら最高の剣を作り上げよう!」
マイラにある道具屋の主人が、お父さんから手渡されたオリハルコンを職人の顔で眺め、力強く武器製造を約束する。

今、私達一行…特に男性陣はこの(マイラ)で有名だ。
そりゃそうだろう…自分の妻・愛人・恋人の裸を覗く為に、温泉の壁を破壊したのだ。
頼めば見せてくれる相手だろうに!

「数日か…まぁよろしく頼むよ。世界を救おうとしている、勇者アルルの武器だから…最高のを頼むよ!」
「任せろ!……それよりも、(ウチ)の壁を壊さんでくれよ…隣に美女が居ても!」

此処でもだ…
職人顔の道具屋主人の言葉に、信頼を置いたお父さんが念を押す様にお願いすると、一般人の顔に戻った道具屋主人は、嫌味っぽく先日の事を笑い話として持ち出す。

私達女性陣もどうする事も出来ず、男性陣と共に静かに女湯に浸かり固まっているところを、大きな音を聞きつけた温泉の管理人が現れて、大騒ぎをしたのだ。
その時のお父さんの台詞を、今でもしっかり憶えてる。

『うっせぇな!何だよいきなり入ってきて…大声出すなよな!』
何故だろう…
常識的に騒いでいる方が、非常識に見えてしまうのは?

勿論、凄く怒られましたよ。
お父さん以外は反省して俯きっぱなしでした。
お父さんも態度に見せないだけならまだ助かったのに、『ギャーギャーうるせーな!』って言っちゃうから…

ブチ切れる管理人に慌てて謝ったのはアルルさん。
パーティーリーダーだし、仲間のしでかした事には責任があるのでしょうね。
ひたすら頭を下げ『ごめんなさい!私達で修理をしておきますので、どうかご勘弁ください!』と、必死でした。

一応、この世界を救おうとしてる勇者として名が通っていたので、その彼女の深い陳謝に管理人も怒りを引っ込めてくれ、私達で修理する事で折り合いが付きました。
ただ…私達と言っても、女性陣は修理を手伝いませんけどね。

だって私は壊してないもの!
言ってくれれば、ウルフにならいくらでもお見せする裸を見る為に、彼等が勝手に壊した物を何で私が直さねばならないのか!?
この意見は女性陣共通で、男性陣だけで壁を直す様に決定される。

真面目なお兄ちゃんは、その決定に文句を言わず黙々と直し始めたのだが…
案の定、とある1名が文句を垂れる。
サボらないようにと男性陣を見張ってると、その1名のぼやきが聞こえてくるのだ。


『ふざけんなよ…安普請のクセに直せとか偉そうだよな!』
『何言ってんのよお父さん!?普通、大の大人の男が大人数で壁にもたれ掛かるとは思わないでしょう!強度なんてそんなもんよ』

『はぁ?男湯と女湯を隔てておいて、誰も覗かないと考える神経がどうかしてるね!覗かれたくないのなら、最初(はな)っから混浴にしておけば問題ないんだよ!ワザワザ男女を分け隔てたって事は、覗くスリルを味わってくれって意味だろうに!』

何でそう言う思考に達するのか解らない…
これ以上の会話は無意味だろう…
永遠に交わる事のない主義主張だ!


そんな事があった為、マイラ中の人々が私達の事を知っている。
そして漏れなく言ってくるのが先程の道具屋主人の台詞と同じ言葉だ。
(ウチ)の壁を壊さんでくれよ…隣に美女が居ても!』って感じの。

最初の内は、お兄ちゃんは元よりラン君ですら何も言えず俯き黙って居たのだが…
「あはははは、大丈夫だよ!そんな絶世の美女は身内にしか居ない!壁壊す程価値のある女なんか、ここには居ないよ!(笑)」
と、最大の首謀者が反省することなく、自身の妻(愛人)自慢へと変換させる為、残りの男共もそれに味を占めたのだ。

言い返された村人は苦笑い…
全然反省してないんだなって、納得しちゃってますよ。
でも…自慢される彼女としては悪い気はしない。




「さて…そう言えば、温泉の南に笛が埋まってるって話だったよね?探してみようか!」
色々と騒動があった為、すっかり忘れてたその情報。
お父さんのお陰で思い出す事が出来ました…ってか、騒動の原因はお父さんじゃん!

「そうですね…アスカリーさんの話では、それがルビス様の封印を解く『妖精の笛』のはずですからね」
今朝から営業を再開させた温泉の裏手を進みながら、探すべきであろう場所を眺めお父さんに話しかけるアルルさん。

「う~ん…どこら辺でしょうか?」
「さぁ?全部掘り返してみればティミー。泥だらけになって笛を見つけて、アルルに向かって『ワイルドだろ~?』とか言ってみれば面白いよ」
「相変わらず貴方の言っている事の意味が分かりません!」

思わず吹き出しそうになった私…
笑ってしまえばまた面倒な質問をされそうなので、グッと笑いを堪え歯を食いしばります。
でもこれ以上馬鹿話を続けさせるわけにも行かないので…
「何も全部掘り返さなくても、レミラーマを使っていただければ早いのでは?」

「あぁ…流石マリーは賢いなぁ。じゃぁ父さん、お願いします」
「何…最近パパを顎で使う様になってきた?」
「えぇ…ワイルドだろ!」

「………言い方が違うから減点!(笑)………レミラーマ」
良いわね私の家族!
格好いいし面白いし…
ジャニ○ズなんて目じゃないんじゃないの?

素敵家族に見とれていると、魔法の光で示された場所を掘り返し、泥まみれの笛を見つけ出すお父さん。
「本当にあんなどうでも良さそうな情報が、貴重なアイテムへ導くなんて……」
私も前世情報がなかったら、アルルさんと同じ事を言ってたでしょうね。

「でも泥だらけだな…こんな笛は吹きたくないよね………ちょっと洗ってくる!」
基本、楽器系統は好きなのだろうか?
もう自分が演奏する気マンマンで笛を洗いに行くお父さん…

「ちょっとリュカさん!な、何をやってるんですか!!?」
だが、その行動が大問題だ!
温泉修復作業時に勝手に作ったのだろう…裏から出入り出来る様、垣根に細工を解かされた場所から、温泉内へと入って行くパパ…

「何って…笛を洗ってますが…何か?」
「な、何か?って…何、自然な動きで女湯に入ってるんですか!?」
そう…入浴客が居るにも拘わらず、器用に垣根を開閉させて女湯へと入っていちゃうのですよ。

「何時の間にこんな所に出入り口を作ったんですか!?い、いやそれより、何で女湯で洗ってるんですか!男湯に行けばいいでしょ!」
「あはははは。男湯には女性客は居ないよ。女湯に入らなきゃねぇ………ワイルドだろぅ!」

「あぁ…ああ言うのか!」
「ちょっとティミー!そんな事を感心してないで、貴方からもリュカさんに言ってやってよ!」
「ん…うん。と、父さん…笛を洗うの、手伝いましょうか?」
「………是非!」

「『是非』じゃねー!お前等、女湯から出て行け!!」
今日からは『お父さんに似てきた!』と言われても、怒ったり落ち込んだりする事を禁止しようと思います。
だって完全に行動が同じなんだもん!

「「ワイルドだろぅ!」」
「いいから出て行け!」
揃ってアルルさんに尻を蹴り上げられながら、渋々女湯から出て行くお父さんとお兄ちゃん。

「流石は実の息子さんだなぁ…俺なんかまだまだだよ」
ウ、ウルフぅ~…
貴方はいいのよ…アレを目指さなくても。



 

 

神様って何が偉いの?

「くそ…何なのよこのドラゴンって生き物は!?堅くてなかなか倒せないじゃないのよ!………こんな事なら、オリハルコンの武器が出来上がってから来れば良かったわ!」
今私の目の前では、アルルさんが『ドラゴン』と『ラゴンヌ』を相手に苦戦をしております。

そして装備してる武器の弱さに嘆いておりますわ。
「おいおいティミー…最近お前の彼女は我が儘じゃね?大丈夫ですか」
元から小うるさかったですけど、敵が強くなるに連れうるささの度合いが増えておりますね。

『王者の剣』の完成を待たずに出立を決めたのは彼女なのです。
一番文句を言ってはいけない人物でしょうに…
お父さんはアルルさんに聞こえる様に、ワザと大声でお兄ちゃんを叱ります。
直接言われているお兄ちゃんは苦笑いをするしかないですね。


でも、反論をしてくれない彼氏にご不満なアルルさん…
どうにか敵を倒し此方へ戻って来る時、お兄ちゃんへ不満をぶちまけようと顔に出ておりますよ。

しかし、大きく息を吸い込み、文句を言おうとしたその瞬間…
お兄ちゃんはビシッと左手をアルルさんに翳し文句を遮ると、視線を通路の奥へと向けて皆さんの注意をそちらへと向かわせる。

そう…通路の奥からは、新たな敵『ドラゴン』が3匹、臨戦態勢で此方へ身構えております。
アルルさん達“戦闘要員”が慌てて身構え戦おうとしますが、お父さんとお兄ちゃんが自ら前衛へ出張り、ドラゴンの相手をするみたいです!

勝負は一瞬でした…
ドラゴンA(仮)がブレスを吹くと、お父さんがバギマでそれを逸らし、その隙にお兄ちゃんがドラゴンB(仮)に斬りかかります。

お兄ちゃんの武器は、グランバニアでは一般的な剣で、現在アルルさんが装備中の『稲妻の剣』等より程度は低く、価値も低いのです。
しかし、そんなナマクラ剣で攻撃をしたにも拘わらず、ドラゴンB(仮)の首は一刀両断!

更に驚きなのは、お兄ちゃんの強さにビックリしている間に、お父さんは残り2匹のドラゴンを瞬殺していた事なのです!
マヂ何時の間に!?って感じです。

涼しい顔で私達の元へ戻ってくるイケメン2人…
そしてお兄ちゃんは自分の剣をアルルさんに見せつけ…
「アルル…僕の使用する剣は、グランバニアでは一般的な鉱石を使っている代物だ。刀鍛冶が知り合いで、腕の良い人物だけど、剣自体に特別な力は宿っていない。鋼の剣よりマシくらいな代物だ。それでも努力して己を鍛えれば、君が苦戦したドラゴンですら、容易く一刀両断する事が出来るんだ。武器の善し悪しで強くなろうとしてはいけない…強くなりたければ己の意志を強くするんだ!………大丈夫、君なら出来るから焦らないで」

かっけ~…
剣を納めアルルさんに口づけをして後方へ引っ込むお兄ちゃん…
やっぱり遺伝子って重要なのかもしれません。




きっと宿屋に戻ったら激しいだろうと思われるバカップルに我慢しながら先へ進むと、神々しい鎧が飾ってある場所に到着。
こ、これは!?

「光の鎧発見ですわ!」
嬉しさのあまり思わず叫ぶおちゃめな私…
でも皆さんがキョトンとしちゃってますの!

「あ…いや…その…ほら、アルルさんが装備する『勇者の盾』と同じ紋章がありますわ!きっと代々ラダトームに伝わってきた鎧ですわよ!アルルさんに装備が許される『光の鎧』ですわよ!!」

ラダトームに奉られてあった武具の情報を誰も仕入れておらず、私も臭わす事を忘れてた為、皆さん胡散臭そうに私を見てます。
助けて“私の中に眠るリュカの遺伝子”よ!今こそ開花し皆を丸め込む時よ!!

「じゃ…この鎧はアルルが装備するって事で決定ね。………ほら、手伝ってあげるから全裸になって!」
「な、何で鎧を装備するのに全裸になる必要があるんですか!?それに手伝わなくったって結構です!イヤラシイ!」

はぁ~…
今回もお父さんに助けられましたわ…
“此処はゲームの世界なんだ”などとは皆さんに言えませんからねぇ…

「どうしたんですかティミーさん!?アルルの装備が強化されたのに、残念そうな顔をして?」
私がちょっぴり自己嫌悪に浸ってると、ウルフが目聡く何かに気付きお兄ちゃんに話しかけます。

「え!?ぜ、全然…ざ、残念ではないよ!うん。アルルに似合ってて素敵だなと思うよ!」
何やら図星を突かれた様で、戸惑うお兄ちゃん…
ただ私としては、『光の鎧』はごっつすぎてアルルさんには似合わないと思います。

「ウルフ…お前もまだまだだなぁ…いらん言葉が多いよ」
お父さんはお兄ちゃんの心理を読み切ってるらしく、余計な一言を言う弟子を戒めます。
「ただでさえ露出度の低い恰好のアルルなのに、その鎧を着るとパンチラすら拝めなくなるだろ。そりゃ彼氏(おとこ)としてはガッカリMAXだよ!そのぐらい理解してやれよ」

そ、そう言う理由!?
男ってやっぱりみんなそうなの!?




強敵揃いのダンジョン内でイチャつくカップルを無視しながら、やって参りました最上階!
此処には石にされたルビスが奉られてるハズです。
そう…この世界を創造した精霊神ルビス様の石像か!

「こ、これがルビス様ですかね?」
ウルフがルビスの美しさ(ミニスカートの奥)に見とれながら、誰にともなく尋ねるのだが…
普段、一番最初に『知らね!』とか感想を言うお父さんを始め、我が一族が揃って困り顔をしている為、彼の質問に答える者は居ない。

「ど、どうしたのティミー…変な顔をして?」
「…あぁ…うん…あの…」
うん…何というのかな…?

「どっかで見た事あるよね?」
「そ、そうねリュカ…な、何だか身近な気がするわね…」
そう、それ!お父さんとお母さんの会話こそ、今の私達の言いたい事よ!
似てるのよね!

「よ、予想外でしたわねお父さん…どうしますか、美女ではあるのだし、封印を解いたら口説きますか?ベッドに連れ込みますか?家族を増やしますか!?」
精霊の祠でアスカリーさんから“ルビス様は絶世の美女”と聞いてるお父さんは、絶対に口説き落とす気マンマンで此処にいるはず…いや、此処に来たはずでした。

「………ともかく…封印を解かないとね」
私の質問には答えず、妖精の笛を吹き封印を解くお父さん。
…っつか、曲目が『コンドルは飛んで行く』ってどういう事よ!?

笛を吹き終わると、淡い光が石像を包み込み、色艶を取り戻させる。
完全に石化から解放された美女が、私達の前で瞳を開けニッコリと微笑む。
「あ、貴女がルビス様ですね…わ、私はアルル!表の世界より、大魔王ゾーマを倒すべくアリアハンより参りました。どうかお力添えをお願い致します!」

「よくぞ私の封印を解いてくれました。アリアハンの勇者アルル…私はルビ「やっぱり母さんじゃんか!」
アルルさんの恭しい挨拶…それに神々しく答えるルビス(と思われる女性)…
どちらの空気もぶっ壊すお父さんの声。

「は?…あの…私は…」
困惑するのはルビス(と思われる女性)。
「何だよ…母さんもこっちの世界に来てたんだ。しかも何…石になったりしちゃって?来て早々、ゾーさんに封印されちゃったの?ダッせー!」
完全にマーサお祖母ちゃんだと決めつけ話を進めるお父さん。

「い、いえ…私は貴方の母では…」
目の前のルビス(と思われる女性)は、お父さんの言ってる事が間違ってると言いたいのだが…
「あれぇ?何だか少し若返った?…石化すると若返るのかな?僕もビアンカも10年近く石になってたから、今でも若々しいし!」
完全に無視し話させない。

「あ、あのね…私は貴方の母ではありません」
だろうな!
「あはははは、何言ってるんだよ母さん!?僕が母さんを見間違える訳ないだろ。………あれぇ、でも母さん…オッパイが萎んだかな?アルルとそれほど変わらない…それとも歳か?寄る年波には勝てないか!?」

「な…し、失礼な!!私はそんなに高齢では………ない……………ハズ…………」
お、面白い…マヂで笑えるわ。
多分間違いなく、この女性はルビスで女神なのだろうけど、しがない人間の男一人に振り回されている。
この女神(ルビス)が情けないのか…この(リュカ)が凄いのか…

「あぁそうだ母さん!唯一の男孫に彼女が出来ました!」
「あの…父さん…マーサ様じゃない様な気が…「可愛い孫が幸せになったんだ…喜んであげてよ母さん!」
きっと…いえ、100%マーサお祖母ちゃんでは無い事が解っているのだろうけど、それでもマーサお祖母ちゃんとして話を進めるお父さん。
お兄ちゃんの台詞を遮って喋る。

「だからちげーって、お前のお袋じゃねぇーつってんだろ!そんなババアじゃねぇよバカ!いい加減に気が付けよ!」
ぷふっー!!
私は思わず吹き出した。慌てて後ろを向き、笑った所を見せない様にはしたけれど、我慢出来ずに吹き出しちゃった。

だってだって…
この世界の女神様が、創造主様が…『だからちげーって』とか叫ぶんだもん!
絶妙なタイミングで、最高のツッコミをするんだもん!
おひねり投げようかしら?

「私は、この世界を創造した精霊神ルビスよ!いい加減お前のお袋と間違えるのを止めろバカヤロー!」
うわぁ…
流石に引くわぁ………
自身の偉大さを自慢する奴って………

「心の狭い女だな…」
そんなブチ切れ女神に対し、クスクスと笑いながら侮辱するお父さん。
これで互いの立場が決定したわね。

「こ、心が狭いとは…神に対して何という言いぐさ!少しは弁えたらどうですか!?」
「弁えるのはお前だろバカ女!」
ほら…お父さんが怒鳴りましたわ。

「………!」
逆に怒られて戸惑うルビス…
さっきまでご立腹で怒鳴ってたのに…

「一体どれだけの人間に迷惑をかけていると思っているんだ!?…それを考えたら、僕がちょっとくらいアンタをバカにしたって、金切り声を上げるべきではないだろうに!それが何だ?この世界を創造したのなんのって偉そうに…お前この世界を造った後に、外敵からの侵略に対し何ら対策を講じてないじゃないか!しかもアッサリ封印されて手も足も出なくなってるし…」

「そ、それは…し、仕方ないじゃない…不意を突かれて、どうしようも出来なかったんだもの…」
神様がする言い訳じゃないわね。
相手が大人しくないと強気に出れない女神様って…どうなの?

「そんな程度の奴が、『自分は神だ。皆崇めろ!』と偉そうにするなと言っているんだ!僕がアンタをどう呼ぼうと、サラッと受け流す寛大さを見せてみろってんだ!何より僕は、最大の被害者なんだぞ…アンタとあのヒゲメガネに、無理矢理連れてこられた被害者なんだからな!」
何!?この騒動の原因は、この馬鹿女神とウチの馬鹿竜神の所為なの!?

「ヒゲメガネ?…誰ですかそれは?私が助けを求めたのはマスタードラゴンですよ。ヒゲメガネ…(ひと)違いでは?」
「え!?マスタードラゴン様が今回の件に関わってるんですか?」
お兄ちゃんにもお母さんにも寝耳に水みたい。

「え?…貴方も異世界から訪れた方ですか?おかしいわね…マスタードラゴンは、最も頼りになる男を1人差し向けると言っていたのに…」
「僕を追って自力で来たんだよ」

「そ、そんな…不可能です!本来、この世界と貴方達の世界とは繋がっておらず、人間の力だけで行き来する事は出来ないんです!我ら神々が力を合わせて、初めて可能になる事象なのです!」

「ふざけんなバカ!そうやって神は人間より上だと思っているから、今回みたいにダッセー結果に陥るんだ!この世界の混乱は全てお前の驕りによるものだ!人間は大切な人の為なら、持てる実力以上の結果を出す事が出来るんだ…創造主のクセに何も知らないんだな!」

まったくだ…
神様とか言われ、人々から無条件で特別扱いをされてるから、人々を見下す結果になるんだわ!
私も気を付けよう…お姫様とか言われて持て囃されてると、周りの見えない馬鹿女になってしまいますわ。

「どうやら貴方の言う通りです…私は奢っていたのですね。リュカ…と申しましたね…ありがとうございますリュカ。私の心を覚ましてくれて…」
まぁ流石は神様ね…自らの非を認め素直に陳謝しますわ。

「マスタードラゴンが貴方を送ってくれた理由(わけ)が解りました。貴方の様な偉大な人物こそが、世界を救い人々に希望の光をもたらすのです」
うん。とってもキレイに纏まって良い感じです。

「知らねーよそんなこと!」
「………は!?」
だけど、そんな事はさせぬとばかりにお父さんが怒り出します。
何ででしょうね…折角キレイに纏まったのに?

「さっきも言ったが、こっちは被害者だぞ!僕にだって生活があり、仕事だってあるんだ…なのに無理矢理こっちに来させられて、勝手に大冒険に巻き込まされて…何が『世界を救い人々に希望の光をもたらす』だ!僕はこれでも一国の王なんだぞ…現役の王様なんだぞ!なのに王様拉致ってどうすんだよ!僕の国はどうなってると思うんだよ!大混乱してたらどうする?誰がそれを償うんだ!?人的・物的被害を誰が補填するんだ!?」

「ほ、補填!?そ、そんな…私は…」
「あぁ、そうだったな…アンタは石にされてただけで、なぁ~んにも悪くはないのですよねー!」
ちょっとルビスさんに同情してしまいそうな言い方です。

「そ、そんな言い方って…い、いえ…申し訳ございませんでした!私が不甲斐ないばかりに、異世界のリュカさんにまでご迷惑をお掛けして…私に出来る事があれば、可能な限り貴国の損害補填に尽力します!………とは言え、マスタードラゴンがこちらの世界で力を使えない様に、私は貴方の世界では無力です。その事だけはご容赦ください」

「…可能な限り…ねぇ………じゃあさ、口添えしてよ」
「口添え…?」
何を企んでいるのでしょうね♥

「うん。帰ったらヒゲメガネに『天空城よこせ!』って言うから、お前は峰不○子みたいに『プサ~ン♥』ってオッパイ押し付けてお強請(ねだり)りしろ!」
「だ、誰ですかその峰○二子って?………そ、それに私は貴方達の世界に行けないので、オッパイ押し付けるのは………」

言うに事欠いて『天空城よこせ!』ってか!?
つーか「『プサン』と『ルパン』じゃ『ン』しか合ってないじゃない…」
しかし私の呟きは届かなかった…

「あーもー使えねーな!お前一体何出来るんだよ!?」
だんだん神様に見えなくなってくるルビス…“お前”って言われてるよ。
お父さんの前では哀れにしか映らない。

「な、何と言われましても…そ、そうですね…今の私は長時間封印されていた影響で力を殆ど失っております。しかし世界を覆う大魔王の力が消え去れば、現状の私にでもマスタードラゴンと連絡を取る事が出来るでしょう…そ、その時に最大級口添えをする………と言う事でどうでしょうか?」

仕事で失敗をやらかし、上司に叱られているOLにしか見えない…
神様なんだから、胸の前で手をモジモジさせて、相手の顔色を伺うな!
可愛らしく見えるのが苛立たしい。

「リュカ殿…もう許してあげましょうよ。ルビス様だって反省しておりますし、口添えのお約束は得たのですから…」
ラン君がルビスちゃんの可愛い仕草に落ちた。
男って奴は…相手がちょっと可愛ければ、何でも許しちまいやがる!

「そうだぜ旦那!あんまし女神様を苛めちゃ可哀想だ…それに旦那のお袋さんに似てるんだろ?親孝行だと思って許してやれって」
「そうですよリュカさん!美女を泣かすのは良くないって言ってたじゃないですか…もうルビス様泣きそうですよ」
何という事でしょう…カンダタはともかく、ウルフまでもがルビスの男受けを狙った仕草にやられてしまいましたわ!

「父さん…みんなもそう言っているんだし、僕もこの世界へ来た事を恨んでません…この辺で許してあげてくださいよ」
お、お兄ちゃんまで…
おい、お前の婆さんにクリソツな女の色香に騙されるんじゃない!

「あ゙…何だお前等………ふぅ…まぁいいか」
どうやらお父さんは飽きたらしく、ルビスを責めるのをやめちゃった…
こっちは全然よくないのに!

「あ、ありがとうリュカ…ありがとうございます皆さん!」
これまた可愛く上目遣いでお礼を言うブリッ子女神。
くっそ~…顔赤くしてデレついてるんじゃないわよ!



「勇者アルル…これは『聖なる守り』です。これを『聖なる祠』へ持って行き、『太陽の石』と『雨雲の杖』と共に神官に見せれば、魔の島へ渡る為に必要なアイテム『虹の雫』へと換えてくれるでしょう」

男共一人一人(お父さんは除く)に、目を見詰めながらお礼を言い終わると、重要アイテムである『聖なる守り』を取り出し、勇者アルルさんへと手渡すルビス。
『虹の雫』の情報と共に、ゾーマへの道筋を示す。

「あ、ありがとうございます…これがあれば魔の島へ行く事が出来るのですね!?ありがとうございますルビス様!」
良く考えたら、この女の尻ぬぐいの為に冒険しているワケなのだから、こっちが礼を言う必要ってないわよね。

「勇者アルルよ…礼には及びません。どうか大魔王ゾーマを倒し、世界に平和を取り戻してください…私の望みはそれだけです。貴女達なら出来ると信じております。どうか気を付けて………」

何で何時まで経っても上から目線で物を言うんだコイツは!?
自分の役目は終わりと言わんばかりに、魔法でこの場を去ろうとする…
おいおい…そんな勝手な事が許されると思ってんのか!?

「おい、ちょっと待て!」
ほら…私の大好きなパパは、そんな身勝手を許しはしません。
女を誑かしても、女に誑かされないのが私のパパよ!

「………ま、まだ何かあるのですかリュカ?」
「え、何お前…今、ルーラでどっかに行こうとした?1人でどっかに行こうとしましたか?」
しましたね。間違いなくどっか行こうとしましたね!

「え、えぇ…聖なる守りも渡したし、今の私に出来る事はありませんし…聖なる祠へ帰ろうかと…そ、それが何か?」
“それが何か?”じゃねーよ。
何お前一人、楽をしようとしてんだ?

「あ゙、何言ってんだお前…ふざけんな!僕等はこれから危険な敵陣へ乗り込むんだぞ!それなのにお前は安全な場所でのんびり過ごすのか!?」
私のお父さんはなぁ、他人(ひと)に面倒事を丸投げにしても、されるのは大嫌いなんだぞ!

「きゃぁ!」
ルビスはお父さんの怒りに気圧され、奉られていた台座から後ろへ落っこちる。
そしてミニスカから真っ白なおパンツをさらけ出す。

「あ、白だ…」
「え?………きゃぁ!!」
図らずも堪能出来てしまった純白パンツに、思わず反応するマイダーリン。
やっぱり男って、煌びやかな物よりシンプルな白の方が好きなのかな?

(ポカリ!)
「あいた!」
「馬鹿者…見えたとしても見えてない様に振る舞え!」
女の扱いはこの(リュカ)に聞け…そんなキャッチフレーズが頭に過ぎる。

ウルフの要らん一言をキッチリ叱るお父さん。
「す、すんませんでした!」
ウルフも師匠からの説教を実直に受け止め、体育会系の様なノリで詫びましたわ。

「怒鳴ってすまなかった…それと訂正する。母さんに似ていると言ったが全然似てない。僕の母さんはたった1人で魔王の魔力を押さえ付けてたんだ…味方の居ない魔界で1人…安全な所に隠れることなく…自分の命を削ってまで魔王の力を押さえ込んだんだ!」

そしてジェントルメン・リュカは、しなやかな動きでルビスに近付くと、手を差し伸べ優しく抱き起こし、尊敬出来る母マーサの事を語る。
そう…偉大なる聖母マーサ様の事を。

「リュ、リュカ……しかし先程も申しましたが、私は力を失っており皆さんと共に戦う事など出来ないんです…どうかそれを判ってください」
…ルビスちゃん泣いちゃった。

「ハァ~…」
だがお父さんは怯まない。
大きな溜息を一つ付くと、疲れた様な表情でルビスを見詰める。
泣けば許されるなんて思うなよ!

「戦うだけが全てではないだろう…敵を攻撃する事が出来なくても、後方から回復魔法や補助魔法での援護で戦闘に参加したり、移動中に荷物持ちとしてアルル達の負担を減らす事だって出来るだろ!」

「に、荷物持ち…ですか…!?」
何だ?
そんな雑用はイヤか!?
“私は女神様なのよ!”ってか!?

「そうだよ!『アナタになら出来ます!』とか言って、面倒事を丸投げしないで『少しでも負担を減らせる様お手伝いします!』ってパーティーに参加しようとする心意気がほしいね!」
「…………………………」
今度は無言か。

「それとも人間は神の為に全てを犠牲にするのは当然…しかし神は人間如きに何一つ犠牲になど出来ない………と思ってるの?それが本音?」
「そ、そんな事思っていません!!」
それを行動で示せっての!

「じゃぁ…人間の為に、自身が傷付く事も顧みず、勇者アルルのパーティーに参加して、大魔王討伐に協力しようよ………それこそが長きに渡り大魔王に苦しめられてきた人々に対し、無力な神として報いる術だと僕は思うよ」

勝負ありね。
これでルビスは断る事が出来ないわ。
ここで拒否れば、それは人間を軽視している証明よ。

「わ、分かりました…私も皆さんと一緒に大魔王討伐に同行します…しかし大魔王の暗黒の力が消え失せるまで、私は神としての力を使う事が出来ません。腕力もなく魔法力も一般人よりかは上程度です。どうかその事を忘れないでください」

「あ、あのルビス様…ご無理をなさらない方が………丸投げだなんて思っているのはリュカさんだけですから…」
アルルさんの気持ちも解る…
神様と一緒に冒険なんて、気を使ってしょうがないわよね。
もっと気楽に行きたいわよね!

「いいえアルル…リュカの言う事は最もです!私はこの世界を造りましたが、外敵からの侵害を防ぐ手立てを何も講じませんでした。私の考えの甘さから、この世界に住む全ての者に、多大なるご迷惑をかけてしまった事…その責任を取らねばなりません。その為に少しでも出来る事があれば、自ら進んで行わなければならないんです。…本来リュカに言われるまでもなく、私は皆様と共に旅立たなければならなかったのに…お恥ずかしい限りです」

神様を手玉に取る男…それはリュカ。
私の尊敬するお父様にして、大国グランバニアの偉大なる国王陛下。
絶対に面倒事を押し付ける要員を増やしたかっただけなのだろうに…

それが解ってる私達には、
「「「「「はぁ~………」」」」」
と、溜息しか出てこない。



 

 

勝者と強者の違い

マイラで一休憩をし、聖なる祠へ寄って虹の雫を手に入れ、ルビスの導きに従いリムルダール西端に赴く…前に、アレフガルド5つ目の都市『リムルダール』で最後の休息です。
魔の島へ渡ったら、休憩出来る町など無いので、この町が最後の休息場です。

何時も通り気軽に町へ入ろうとしたのですが、警戒心の強い警備兵が1人居て、私達を受け入れてくれません。
“何なんだこの馬鹿は?”と、皆の心が一つに…

まともに相手するのがめんどくさくなったお父さんが、警備兵を無視する様に小馬鹿にする。
この警備兵は正真正銘の馬鹿な為、口喧嘩でお父さんには勝つ事が出来ず、最早半ベソ状態に…
そんな時、心惹かれる輝きが目に止まる。

それはハツキさんの腕に装備されている『黄金の爪』だ。
お父さんに馬鹿にされた腹いせも加わり、弱い女(この警備兵の言い分)が装備するより、強い自分(この警備兵の言い分)が装備する方が有効であると、『黄金の爪』の譲渡を強要してきた。

そして気付けばハツキさんと警備兵(ナールと言うらしい)との、『黄金の爪』を賭けたタイマンバトルが勃発する。
お父さんはハツキさんに落ち着くようにと言って、決闘を止めさせようとするが、全く聞く耳を持たないので渋々立会人を行う。

「はぁ…じゃぁ、2人のタイマン勝負ね。武器又はアイテムの使用は不可。魔法の使用も不可。それと相手を殺すのも絶対駄目だからね!あと勝負は僕の見える所で行う事…見えなくなった方は負けね」

そう言い3歩下がって右手を上げる。
そして「それでは………始め!」
との掛け声と共に勢い良く右手を下げ開始を宣言する。

私は元来格闘技系には精通していない…が、それでもハツキさんの方が馬鹿(ナール)よりも強い事が分かる。
馬鹿(ナール)の攻撃は掠りもせず、その都度ハツキさんのカウンターが炸裂するのだ。

だがこの馬鹿は異様に打たれ強い。
自身の強さへの勘違い的な自惚れは、この打たれ強さからきているのだろう。
最初の一撃で決すると思われたのだが、予想外に長期戦へと縺れ込む。

それでも私はハツキさんの勝利を疑いはしなかった。
しかし勝負事とは分からない物で、ハツキさんから仕掛けた際に攻撃が外れてしまい、今までとは逆に強烈なカウンターを喰らってしまう。

そのまま崩れ落ちるハツキさん…
立会人(お父さん)へ近付き黄金の爪を要求する馬鹿(ナール)
お父さんは黙って黄金の爪を渡すと、ハツキさんを抱き抱え介抱します。


「私…負けちゃったの?」
「………」
少し経ってハツキさんが意識を取り戻し尋ねる…しかし、私達は何も言えない。

「私、負けちゃったんだ……あんな奴に負けたんだ…」
自身の武器だった黄金の爪を装備し喜ぶ馬鹿(ナール)を見て、現実を痛感するハツキさん。
お父さんに抱き付き声を殺して泣き出した。

「ハツキ…元気出して…まだハツキには星降る腕輪があるじゃないか。ほら…腕を出してごらん」
取り決めをし、勝負して負けたのだ…最早覆る事は無い。
だからだろう、お父さんは殊更優しい声でハツキさんを励まします。

「おい!何だ、その『星降る腕輪』ってのは?それも特殊なアイテムか?そんな弱い(やつ)が持つより、そいつに勝った強い俺様が持った方が有効的だ!それも貰おうか」
コイツ、イオナズンで吹き飛ばしてやろうか!?
空気を読まない馬鹿(ナール)は、お父さんの言葉を聞き星降る腕輪にまで興味を持ってしまった。

「あ゙ぁ?…何だキサマ…何調子こいてんだコノヤロー!」
ふん、ざまー!
アンタは私のお父さんを完全に怒らせてしまったのよ!
死ぬ程後悔しなさい!

「当然だろうが…強い者が強い装備を纏うのは、自然界の摂理だ!おら、それを渡せよ!」
本当に空気の読めない馬鹿ね!
相手の強さも読めないのだから、空気ぐらいは読める様になりなさいよ!

「ふざけんな馬鹿!これは俺の所有物だ。ハツキに貸してあっただけで、元々は俺の物だ!…そんなにこれが欲しいなら、俺を倒してから所有権を主張しろ馬鹿!」
ほら見なさい、お父さんの一人称が『俺』になってるでしょ!
マジ切れしてんのよ!さっさと謝っちゃいなさいよ!

「お前はさっきの勝負を見てなかったのか?俺様の実力は十分解っただろう!?それなのに俺様に勝負を挑「うるせーな!俺はお前なんぞどうでもいいんだよ…お前こそこの腕輪が欲しいんだろ?俺と勝負()るのか勝負()らないのか…ハッキリしろ馬鹿!」

「けっ!面白いじゃネーか…やってやるよ!お前もさっきの女同様に瞬殺してやんよ!」
「瞬殺?…お前言葉の意味を知らないのか?15分もかかってハツキを倒したじゃねーか。そう言うのは瞬殺とは言わないんだ馬鹿!」
「う、うるせー!そんなことどうだっていいんだ…人の事を馬鹿馬鹿言いやがって!馬鹿って言うお前が馬鹿なんだよ!」

あぁ…事態が泥沼化して行く…
これでこの男の命は終わりを迎える…
こんな所で、どうでもいい馬鹿を殺せば、警備兵等が黙ってないだろう。

「はぁ~…喜べ馬鹿。お前は僕が出会った馬鹿の中で、最高に馬鹿だった奴を抜き、ナンバー1に躍り出たぞ!キング・オブ・馬鹿」
まったくだ…馬鹿の中の馬鹿。
他の追随を許さない馬鹿。

「よ~し…そんなキングにサービスしてやろう!」
そんな馬鹿に対し、極めて明るい口調で話しかけ、星降る腕輪を投げ渡す。
一体何を?

「それは星降る腕輪…装着した者の素早さを大幅に増幅するマジックアイテムだ。僕と戦うにあたり、それの装着を許可しよう!…さらに黄金の爪も装備して良いぞ」
そこまで言うとドラゴンの杖を地面に突き刺し、反対側のドラゴンの頭部分を右手で包む様に握ると、馬鹿(ナール)に空いた左手を向けて言い続ける。

「更にハンデだ。僕はこの杖から右手を離さないし、杖は地面から離れない様に戦ってやる…もし杖が地面から離れたら僕の負けで良い。どうだ…優しいだろ?」
ちょっと馬鹿にしすぎじゃないかしら?
いくら馬鹿だと言っても、ハツキさんとの戦いを見る限り、コイツの打たれ強さには注意すべきだと思います。

「くそっ、ふざけやがって……だ、だったら俺様もサービスしてやるよ!」
「そうか。じゃぁルールとして、お前は僕が『100』数える内に攻撃を仕掛けなければ負け…攻撃さえ仕掛ければカウントはリセットされ、また『100』の内に攻撃すればいい!僕はこの場から動けないのだから、このくらいは当然だよな?ダラダラと戦いを長引かせても意味ないもんな!?」

「どうやらお前はどうしても負けたい様だな!?いいぜ…その条件で相手してやんよ!」
この馬鹿(ナール)にとって唯一の弱点(と言うより、圧倒的に欠落している点)だった素早さをアイテムで補えた事で、身の程知らずに拍車がかかり不愉快さがパワーアップする。

「ご託はいい…さっさとかかってこい…」
右手が杖を通して地面に固定されている為、左手で馬鹿(ナール)を挑発的に手招きするお父さん。
その姿は『ドゥエイン・ダグラス・ジョンソン(ザ・ロック)』の様だ。

「テメーの自信に満ち溢れた鼻っ柱、ポッキリとへし折ってやるぜ!」
馬鹿にされ続けた怒りと、ドーピングによるパワーアップからの自信とが相俟って、殊更大言を吐き左右にステップを踏む馬鹿(ナール)
そしてお父さんの視界の隅に移動すると、一足飛びで死角からドラゴンの杖を目指し突進する!

(ヒュッ!)(ドゴッ!!)
だが…お父さんは先程まで馬鹿(ナール)が居た空間を睨みながら、後ろへ大きな蹴りを出し、突進してきた馬鹿(ナール)を吹き飛ばした。
かなり強烈な蹴りだったのだろう…血を吐きながら10メートル程吹き飛び動かなくなる。

「1.2.3.4.…………………」
お父さんは決め合ったルールに則り、ゆっくりとカウントを開始する…その間、吹っ飛んだ馬鹿(ナール)には目も向けない。

「55.56.57.58.…………………」
お父さんのカウントはゆっくりだが進む…
だがピクリともしない馬鹿(ナール)の生死が気になったお兄ちゃんが、奴の側へ近付き死んでないかを確かめる。
その結果、息がある事を確認すると、不愉快な男が情けなく気絶する姿にガッツポーズで喜びを表す。

「97.98.99.………………100!」
ただでさえゆっくりなカウントだったのに、『100』を更にゆっくり叫び馬鹿(ナール)の負けをアピールするお父さん…
そして気絶する馬鹿(ナール)の事を、最後まで見ることなく黙ってリムルダールの町へと入っていった。

私達もそれに続く…
一番近くにいたお兄ちゃんが、2つのアイテムを馬鹿(ナール)から回収して…








「私……もっと強くなりたいです……私……あんな馬鹿には負けないと思ってました……でも…私の実力じゃ…………」
リムルダールの宿屋に部屋を取り、各自荷物を割り当てられた部屋に置いて併設する食堂へ集合する私達。
注文した料理がくるまで沈黙が続く中、涙声のハツキさんが悔しそうに静寂を打ち破った。

「リュカさん!私もっと強くなりたいんです!だから私を鍛えてくれませんか!?…女として見てくれなくていいです……私…リュカさんの愛人をやめます……だから…お願いします…一人の武闘家として、私を鍛えてください!」

『愛人を辞める』…これは相当の覚悟なのだろう。
大勢居るこの(リュカ)の愛人に、『強さ(もしくはその人の得になる事)を求める為、この(リュカ)を諦められるか?』と聞いても、答えは100%で『NO!』だろう。

だがハツキさんは、お父さんの事より強さを求める事を優先させようとしている。
並々ならぬ決意だろう…
さて…愛人を1人失う男の反応はどうだろうか?

「………ハツキ………君は弱くないよ。思っている程、弱い存在ではないよ。ただ……」
『ただ…』なんだろうか?
基本お父さんは、他人の自由を奪おうとはしない。

つまり、愛人であろうがその人の自由意志を尊重するのだ。
今回も『愛人を失いたくない!』と、ハツキさんを縛り付ける事などはしないだろう。
だからこそ気になる…『ただ…』の続きが。

「『強いから勝つ』のではなく『勝ったから強いと思われる』事なんだ…」
「「「「……………」」」」
意味が分からん!?

「あ、あの父さん…『勝つ』と言う事は『強い』と言う事でしょ?…仰っている意味がちょっと………」
私もお兄ちゃんと同じ意見だ。
『弱い』奴が『勝つ』事など出来ないだろうに?

「違うよ…弱くたって勝つ時もあれば、強くたって負ける時もある!今日のハツキみたいに、格下の相手に負ける事だってあるさ」
「か、格下…ですか…でも…負けちゃいましたよ、私…どうしてですか?」

え、あの馬鹿(ナール)がハツキさんより格下なの!?
確かに打たれ強さはハンパなかったけど…
最後のラッキーキックが炸裂しなければ、終始押してたのはハツキさんだったわね。

「うん。バラモスとの戦いを思い出してごらん。……勝つ事が出来たけど、あの時のみんなはバラモスより強いと思えてる?あの時に戻って、もう一回バラモスと一人ずつで戦ったら、勝てると思ってる?」
1人ずつではムリね。

「いいえ…あの時勝つ事が出来たのは、リュカさんがバラモスの攻撃を一手に引き付けてくれたお陰だと思ってます。例え今の私達の実力でも、1対1では勝てるとは思いません」
そう…認めたくないけど、あの時はお父さんがバラモスの注意を一手に引き受けてくれたから、私達が心おきなく攻撃に専念出来たのよ。

「うん。素直でよろしい…頭ナデナデしてあげよう」
素直な答えを出したアルルさんの頭をナデナデするお父さん。
しかし彼氏(お兄ちゃん)は、自分の彼女(お義姉ちゃん)が嬉しそうに女誑し(お父さん)に頭を撫でられる様を見て、嫉妬メラメラになる。

「だ、だとしても…僕等は仲間なんですから、1対1で戦う事を前提にする必要は無いじゃないですか!」
自分の目の前を横切る女誑し(お父さん)の腕を払い除け、自分の彼女(お義姉ちゃん)の頭を抱き締めながら反抗的な台詞を吐き捨てた。(可愛いわね♡)

「だからそれが『強いから勝つ』と言う事では無いって言ってんの!」
う~ん…今一言ってる意味が分からない。
「あぁ…そう言う事ですか!だからあんな戦い方をして見せたのですね!?」
だがラン君には理解できたようで、珍しく本気で尊敬の眼差しを向けている。

「え!?あの相手を馬鹿にした戦い方に、意味があったんですか?」
「無意味にあんな事をする訳ないだろ………説明してやっから、イチャつくのをヤメロ!」
あの戦い方に意味があった事に、みんなが驚いた!
そして珍しく真面目に説明してくれるらしく、彼氏に頭を抱かれたままマッタリこいてる2人を注意する。

「「………はい」」
渋々離れる勇者カップル…真面目に話そうと思っているお父さんは苛ついてる。
でもねお父さん…貴方は常日頃からこんな感じなのよ。



「いいかい…僕はあの馬鹿(ナール)を初めから見下し貶してた。それは怒らせ、冷静な判断を下せない様にする為なんだ」
「冷静な判断…」
「うん。冷静に状況…戦況と言うべきかな…戦況を見る事が出来ると、戦い方の選択肢が増えるんだよ。でも頭に血が上ってると視野が狭くなって、戦いの手数も減るんだ」
「でも父さんだったら、あの男相手にそんな事をしなくても勝てるでしょう!?」

「う~ん………どうだろうね?勝てたかもしれないけど、今回は戦い方を見せようと思ってたから…」
「ティミー殿。リュカ殿は如何なる時も必勝を目指すという事を仰ってるんですよ!『リュカ殿ならば…』という事は言わず、続きを聞きましょう!」
どうやら今のラン君は武人モードの模様…
話の腰を折るお兄ちゃんに対し声を荒げて文句を言う。

「す、すみません……」
「うん…ラングの言う通り、常に必勝を心掛けなければ危険だよ。僕は幼い頃、ゲマに負けた所為で父を目の前で殺されたんだ…『もっとちゃんと戦っていれば負けなかった』なんて言い訳は出来ない!」
優しいお父さんは、お兄ちゃんの頭を撫でながら反省している息子を諭します。

「さて…相手の手数を減らした所で次だ…次は減った手数を更に限定する為、あえて不利な状況を作ってみせる。今回は杖を地面に刺し、これが地面から離れたら負け…って感じに」
「何故それが相手の手数を限定する方法なのですか?」
「それはねハツキ…今回、この杖が僕の弱点になっていたからだよ」

全然分からん!?
何で弱点があると、相手の手数が限定されるのだろうか?
危険なだけではないのだろうか?

「つまりねマリー…相手の弱点が分かっていれば、そこを重点的に攻撃するだろ?だから相手の手数が減るんだよ。弱点である杖を攻撃すると分かっていれば、カウンターを取るのは簡単だろ」
「あぁ!!」
なるほど…そりゃ簡単に勝利したいもんね!

「でもリュカさん…何処を攻撃する分かっても、攻撃の仕方が分からなければ対応のしようが無いのでは?」
彼氏の温もりトリップから復活したアルルさんが疑問を投げかける。
流石は勇者と呼ばれるだけはある…私はそんな点に気付かなかったわ。

「ふふ…だからこそ僕はアイツに星降る腕輪を渡したんだ。腕輪を装着すれば分かるが、このアイテムの能力は凄い…一度使ったら、是が非でも手に入れたくなるだろう。となれば相手の弱点を徹底的に突き、完全に勝利を物にしようと考えるだろう…更に言えば、急激に素早さが上がり強くなった様な気になっていれば、その素早さを駆使して僕の死角から素早く突進してくると予想が出来る。そして予想通りに弱点目掛け、死角から突っ込んで来たのが、あの馬鹿(ナール)の結末だ」

凄い…
お父さんは相手の攻撃方法や箇所を限定させてから戦いに挑んだのね!
しかも、それが自身(相手にとって)の意志であるかの様に錯覚させて…

「で、では父さんは…さっきの戦いで実力を出すどころか、何時も以上に実力を落として戦ったのですか?」
「う~ん…そうだね…あの馬鹿の姿が視界より消えてから、自分の死角に足を突き出しただけだからね………アイツが勝手に突っ込んで自滅しただけだよ!(笑)」

格好いい…
食事がテーブルに運ばれてくる中、食堂内の全ての人がお父さんの話に聞き入っている。
それ程この人は凄いのだと、今更ながら感じております。

誰もが静かにお父さんの偉大さを噛み締めていると、
「すげー!!!」
と、騒がしい男が1人現れた。

彼は…………………………



 
 

 
後書き
このペースでいけば、遅くとも2月中旬には完結出来そうだよね。
うん。頑張るよボク! 

 

ジンクスを作ろう

台無しだった…
昨晩はお父さんの為になる戦術心理学講座で素晴らしい時を過ごしていたのに、意識を回復させた馬鹿(ナール)が現れて台無しにしやがった!

終始上から目線の弟子入り志願で、流石のお父さんも辟易状態。
最後はホラ吹いて大冒険に旅立たせましたわ。
永遠に目的を達成出来ない大冒険へ…


翌朝、出立する私達(主にお父さん)に対し、町民達の惜しむ声を聞きながら旅立ちます。
あの馬鹿(ナール)は、どんだけ嫌われてたのよ…
中途半端に強い馬鹿は厄介よね!

そして4日目…
遂に私達はリムルダール西の突端に辿り着く。
魔の島はもう目前だ。

「ルビス様…ここでよろしいのですか?」
「ええ、この場で虹の雫を天に掲げ、心より祈りを捧げれば虹の橋が架かり、魔の島へと渡る事が出来るでしょう」

アルルさんがルビスちゃんに確認する様に問いかける。
創造主が居るパーティーというのは、何かと便利だな。
何処で何をすれば良いのかを教えて貰える。

そしてアルルさんはルビスちゃんの言われるがまま、虹の雫を掲げてお祈りをする。
………でも、神様(ルビス)が此処にいるのに、誰に祈ってるのだろうか?
やっぱり、現在神様のお家に一人で住んでるアスカリーちゃんかな?

等と、お馬鹿な事を考えていると、突如目の前に大きな橋が現れる!
遥、魔の島まで通じる虹の橋…
別に虹色をしているワケでは無いのだけども、橋になる直前は虹だったので、便宜上そう呼ぼうと思う。



「虹が橋になるなんてメルヘンチックで良いわねリュカ♡」
うん。お母さんも同じ事を考えてくれたわ。
「うん、そうだね。愛し合う者同士で渡ると幸せになれるってジンクスを勝手に作っちゃおう!」
良いジンクスだと思います。夫婦のお邪魔をしちゃ悪いから、一歩後ろを歩く私。

「父さん…これから敵の本拠地に赴く橋なのだから、そんなジンクス駄目でしょ!?」
「あら!?お兄様ちゃんはロマンがありませんですわ!男女に立ちはだかる困難…それに立ち向かう為、愛の絆を強くする!そう言う橋ですわ!」
そうよ…ロマンが大事ですわ。

「なるほど…じゃぁ僕はアルルと共に渡らないと………あれ?どうしたのアルル…渡らないの?」
そんなワケで私はウルフと一緒に渡りたいなぁ………って、あれ?

アルルさんだけでなく、ウルフやハツキさん、カンダタ・モニカさん達までもが呆然と立ち尽くしてますわ?
どういう事でしょうかね?

「わ、渡るわよ!………はぁ~…やっぱりティミーもリュカ一族なのね…」
問われて気付き、慌てて渡り出すその他の皆さん…
一体何を怒ってるのですか?

「な、何でそんな失礼な事を言うの?」
「だって…普通、虹で橋が出来上がったら驚いて直ぐに行動出来ないでしょ!……でもティミーはこう言う不思議な現象に慣れていて、驚きもしないじゃない!リュカ一族の血筋よね…」
いや…ファンタジー世界で不思議も何も無いでしょう…

「えぇ!!?そんな…だって…別に…ねぇ?」
拗ねる彼女に困り切るお兄ちゃん…目でお父さんに助けを求める。
因みに私もチラリとウルフを見たが、呆れているだけで概ね大丈夫そうでした。

「何だ…もう破局したのか!?早いだろうなぁ~…とは思っていたが、これ程までとは…まぁいいんじゃねティミー。グランバニアに戻れば、王子様なお前は引く手数多だ!前向きに行こうよ(笑)」
あはははは、ひでー!

「は、破局なんてしてないわよ!私はティミーと一緒に感動を分かち合いたかっただけなの!ティミーを手放す訳ないでしょ!」
「…何だ…遂に息子の好色時代到来かと思ったのに…残念だなぁ。身に覚えある無しに拘わらず、多数の女性とその子供に囲まれて、家督相続問題で大混乱するティミーの姿を見たかったのになぁ………」
どんな未来予想図だよ!?

「変な願望持たないでください!例えアルルにフラれても、父さんの様に手当たり次第に子孫繁栄する事などありませんから!同系列で考えないでください!」
そうよね、お兄ちゃんに限ってそれはないわ。
むしろ私の彼氏の方が心配なのよねぇ…

「あらあら…リュカ君の家庭には大混乱の兆し有り?」
「そうよ。どっちかつーとお父さんにこそ訪れそうなシチュエーションでしょ!」
私は自分の彼氏が心配ではあるが、悪い見本を見せる意味でお父さんを矢面に立たせる。

「え?僕には訪れないよぉ~…だって欲しい人に家督はあげちゃうもん!先着順で欲しいと言った人にあげちゃうからね(笑)………マリー、要る?」
「いらな~い…お姫様という立場の方が気楽でいい」
そんなめんどくさい地位は要らんがな!

「父さんの統治は完璧すぎるんです!跡を継いだら混乱を起こしそうで、怖くて継げませんよ」
「リュカはそんなに民に慕われる国王なのですか?」
まだお父さんの事を知らないルビスちゃんは、一連の会話を信じられない思いで聞いていたのだろう。じっくり噛み締めれば、とっても失礼なお言葉だ。

「そうなんですよルビス様♡ リュカが統治を初めて10年も経過(たっ)てないのに、国力は5倍以上に、人口はそれ以上に増大し、周辺諸国を圧倒的に追い越したんですよ!」
お母さんの夫自慢は止まらない。
下手に会話に参加するとめんどくさい事になるので、放っておくのが一番妥当だ。





長い魔の島へ通じる虹の橋を、ほぼお母さんの夫自慢話で聞きながら渡りきる…
すると突如『ヒドラ』現れて襲いかかってきた!
100%を超える勢いで油断していた私達は、ただ驚くばかり!

そんな私達を救ったのは、夫婦ラブラブで先頭を歩いていた旦那さん…我らのお父さんだ!
3つの鎌首擡げたヒドラが、勢い良く炎を吐こうとした瞬間、凄い勢いでヒドラを攻撃して滅ぼしちゃいました。

やっぱつえ~…
やっぱすげ~……
もう最後のダンジョンなんだし、若者の育成なんて事言わず、お父さんが敵を全部駆逐してくれれば助かるのに。

「あ…こ、これからは気を引き締めて行こう!もうここは魔の島で、何時何処から攻撃されるとも限らない。…つーわけで、僕は最後尾を守らせてもらいますぅ~」
やっぱりだ…最後まで戦う気が無いんだな!?

「ちょっとリュカさん!こんなに強い敵が蔓延ってるのだから、リュカさんが先頭で活躍してくださいよ!」
「そうですよ父さん!今まではアルル達の成長を促す為に、あえて戦闘への参加をしなかったのでしょうが、大魔王を倒せばその必要は無くなります。今まで迷惑かけた分、これ以後は先頭で活躍してくださいよ!」

そうだそうだ!
一番強い奴が働くべきだろう!
楽するんじゃねーよ。

「どうかなぁ~…魔王バラモスを倒したら大魔王ゾーマの存在を知る事になった…まだ上が居て、超大魔王ゾラモスとか真大魔王バーマとか要るんじゃね?それからでも良くね?」
ゾラモス・バーマって………何だこの男の屁理屈っぷりは?

「そんな存在居りませんわ!大魔王ゾーマを倒したら、この世界は平和になります!」
ゾーマを倒したらエンディングなんだよ!
最後くらい真面目に冒険してくれよ!

「イヤだ!先頭なんて危険で疲れるじゃんか!実質僕には関係のない事なのだから、僕がそんな思いをしなきゃならない理由は無い!」
「何言ってるんですか!?ゾーマを倒さないとグランバニアに帰れないんですよ…それじゃ父さんはともかく、母さんが悲しむでしょう!」
そうだ!私はグランバニアに帰りたいゾ!

「う…ぐっ……卑怯な……」
「卑怯じゃありませんよ。ご自身でどう思っているのかは知りませんが、実力は間違いなくズバ抜けているのですから、最後くらいは皆に協力してくださいよ」
リムルダールで強さについて語ったじゃんか…アンタ本当に強いんだよ。

「なるほど…最後くらい……うん。そうだね、最後くらいは僕も戦闘に参加するよ!」
「ほ、本当ですか父さん!?あぁ…良かった…これで戦闘が楽になる!」
凄い、珍しくお兄ちゃんが勝ちましたわ!

「うん。最後の大魔王戦だけは僕も戦うけど、それまでは後方で待機させてもらうよ」
「「「「「え?」」」」」
最後って…ゾーマまでは何もしないつもりなの?

ちょ…ふざけんなよ!
私達は慌ててクレームを付けようとしたのだが…
「おいおい…そんな事より敵さん登場だゾ!醜い贅肉まみれのモンスターが現れたゾ!」

お父さんに指摘され振り向くと、そこには『トロルキング』が3匹攻撃態勢で此方を睨んでおります!
致し方なく私達も臨戦態勢に…

結局、お父さんは戦闘に参加する事はありませんでした。
でも、みんなの心に一つの決意が…
“絶対、大魔王戦は奴に押し付けよう!”



 

 

プライド

今私達は『ドラゴン』と『マントゴーア』と言う2匹のモンスターと戦っている。
2匹のウチ1匹は、ルビスの塔で戦ったドラゴンであり、お兄ちゃんは簡単に倒していた(お父さんに至っては倒すシーンすら拝めなかった)が、やっぱつえーモンはつえー!

マントゴーアに至っては、マホカンタを使いやがるから私は戦力外になっちゃうし…
良く考えたら、お父さんとお兄ちゃんが非常識に強いのであって、アレをスタンダードに物事を捉える事自体が間違っているのだ。
私達は常識の範囲内で達人クラスだと思う!

マヂしんどかったが、敵を倒し先へ進む。
本当に手伝わないお父さんに殺意を憶える今日この頃だ。
お兄ちゃんくらいは手伝ってくれても良さそうじゃない?




暫く進むとトラップルームへ到着。
何処にも説明書などは無いが、この部屋を進むと出入り口を塞がれ、ずらっと並ぶ巨大な石像が『大魔神』になり不意を突いて攻撃してくるお部屋だ。

お父さんを始め誰もがこの異様な空間に進む事を躊躇していると、何やら上の空なアルルさんが気にすることなく進んで行きます。
おい、このねーちゃん何考えてんだ?

(ガラガラガラ…ガシャン!)
案の定、背後の入口に丈夫そうな鉄格子が下りてきて、先にある出口にも同じ様な鉄格子がかかってます。
どうすんだよ、罠を作動させやがって!

「ど、どうしよう…閉じこめられてしまったわ!?」
しかも一番取り乱してるし…
大丈夫なのか、リーダーがこの状態で?

こうなると迂闊に石像へは近付けない。
誰も言わないが、誰もが石像の危険性に気が付いている様子。
警戒して一歩も動く事が出来ない。
だけどお父さんだけは別ッス!
スタスタと1体の石像へと近付くと、ドラゴンの杖で勢い良く石像を殴りつける!

(ドガ!)(グワァァッァァ!!)
私は分かっていた事だが、石像は『大魔神』であり、壊した途端くたばった。
でも凄いよね。不意を突いたと言っても、大魔神を一撃で倒しちゃうんだから。
もっと戦えよ!!

さて…残りの石像群も一斉に大魔神になり、襲いかかってきます。
『もっと強くなりたい!』と、サイヤ人みたいな事を言ってるハツキさんと、根っからの戦士であるラン君は即座に対応出来たご様子。
一撃とはいかないが、最も近くにいた大魔神をそれぞれ1体ずつ相手してます。

お次に反応したのはマイダーリン♥
カンダタ・モニカさんに拳を振り下ろそうとしている1体に向かって、勢い良くイオラを放ち手助けをします。
流石ですぅ!

おっと、私も見とれているワケにもいきませんね。
非戦闘員であるアメリアさんやルビスちゃんに攻撃を仕掛ける不届き者を、威力を押さえたメラミで焼き滅ぼしますわ。
本当はイオナズンでド派手に吹き飛ばしたいのだけど、建物内だし側にはアメリアさんとルビスちゃんも居るから、自重を致します。


「ぐはぁ!」
何やら苦悶の悲鳴が聞こえたので、声のする方を見ると…
何とお兄ちゃんが大魔神の1体に吹き飛ばされてます!

どうやらビックリ仰天で動けなかったアルルさんを助ける為、自らの身を盾に彼女を守ったようです!
あの(アマ)、何ボケッとしてやがりますか!?
リーダーで勇者だったら、しっかりして欲しいですね!

「ティ、ティミー!!……こんのぉ~!!」
彼氏が吹っ飛ばされて、やっと我に返った勇者様…
怒りに任せて大魔神を一刀両断!!
すげ…剣のお陰?彼女の実力?

「大丈夫ティミー!?」
1体を倒したところで慌てて彼氏の下へ走り出すアルルさん…
おい!(怒)
彼氏が心配なのは分かるが、まだ終わってないのだから、そっちの心配をしていただきたいわね!

「だ、大丈夫…僕は大丈夫だから、アルルはみんなを助けてあげて」
お兄ちゃんに言われる前に、リーダーとしてパーティー全体の心配をしなさいよ!
何時までも色ボケしてんじゃないわよ!!




戦闘が終わり、皆さんお兄ちゃんの側に集まります。
「大丈夫ですかティミーさん?まともに大魔神の攻撃を受けてましたが…」
お父さんの元愛人…ハツキさんが、汗をかき色っぽい状態でお兄ちゃんを心配して身体を触ってきます。

「だ、大丈夫です!ホント、大丈夫ですから…」
アルルさん以外の女には、まだ馴れないのか恥ずかしそうに距離を置く…
恥ずかしさで顔は赤いが、まだまだ青い様だ。

「ただ…剣が折れてしまいました…ごめんなさい…戦力ダウンです」
謝る事なんか無いのに…
私もみんなも、お兄ちゃんが無事だっただけで大満足なんだから。

「そんな…戦力なんてどうでもいいの!貴方が無事だっただけで…」
“お前の所為だ!”とアルルさんに言ってやろうかと思いましたが、泣きながらお兄ちゃんに抱き付く姿を見たら言えませんでした…

だって、大魔神の攻撃を受けた箇所が痛むらしく、力強くアルルさんに抱き付かれ、苦悶の表情を浮かべるお兄ちゃんが面白いんだもん。
男のプライドなのか、声を押し殺し我慢するお兄ちゃん。涙目だよ(笑)

「アルル…何を悩んでいるのかは分からないけど、ここは敵の本拠地だ。常に集中して身構えていないと、取り返しのつかない事が起きるかもしれない。もし話せる悩みだったら、今すぐでも相談に乗るし、そうでなくても僕は何時も君の側にいる!だから今は大魔王討伐に集中しよう。大丈夫…君は強いんだ。その剣のお陰だけでなく、勇者アルルは強いんだ!自信を持って突き進もう!」
何とか体裁を取り繕って、アルルさんに語りかける…

でもどうやら本当に何かを悩んでいたらしく、心配してくれたお兄ちゃんに再度抱き付くアルルさん。
感極まって泣き出しましたわ。
したがって力加減が出来ません…

(ぽきゃ)
小さいが何かが折れる音が聞こえました…
これって一体………?

「あ…肋骨折れたな…」
ですよねぇ~…
自分の世界に浸っちゃってるアルルさんには聞こえてないのかもね。

お兄ちゃん、凄く苦しそうですわ。
う~ん…笑えるぅ(大笑)






さてさて…
骨を折っちゃった所為によりホイミで直す事が出来なくなったお兄ちゃん。
息するだけで痛いのだろうけど、それを見せない男気に感心します。

更に不幸が訪れますの…
回転床トラップにより、5度も落下しております我がパーティー。
落ちる度に格好良く着地しますけど、アレって凄く痛いんでしょうね。ご愁傷様(笑)

「あ゙~もー!ムカつくんだよコレ!!」
遂に我慢出来なくなったお父さんが、ドラゴンの杖を使って回転床をぶっ壊します。
おいおい…エニックスが一生懸命考えたトラップなのだから、力業で解決するなよ…

「力業かよ…開発者が可哀想だ…」
無意識で呟いてしまった様で「マリー『開発者』って?」と、お兄ちゃんに聞かれました。
「ん、何の事?」と、惚けたけど………大丈夫かな?








「うわ~…綺麗な所ですね…」
地底湖に到着。
天井部分に大量の光苔が敷き詰められている様で、湖面をキラキラ輝かせます。

「しかし大魔王の居城という事を忘れてはいけません!禍々しい気は、そこら中に蔓延しております」
アメリアさんのマッタリした口調が気に入らないのか、ルビスちゃんが厳しい口調で注意を促します。
荷物持ちすらしないお前が偉そうに言うな!!

「…遠くで誰かが戦闘している音が聞こえる…」
非戦闘員2人の口論を遮る様にお父さんが発言します。
この完璧超人は何かを察知したご様子です。

「「「「……………」」」」
だけど何も聞こえません。
女の口論を遮っただけかしら?

「…何も聞こ「本当だ!モンスターの雄叫び…男性の息づかい…剣を振るう金属音…」
小うるさい女…アルルさんが、何も聞こえない事に文句を言おうとした途端、お兄ちゃんがお父さんの発言に沿う様に、聞こえてくる(らしい)物音を解説します。

それでも凡人ズの私達には聞こえてきません。
でもお兄ちゃんの意見という事で、アルルさんは文句を言いません。
マイパパの言う事は疑って、彼氏の言う事は100%信用するらしい…

「も、もしかして…オルテガさんかな…?」
「そ、そんな…お父さんは1人でこんな強力な敵が蔓延るダンジョンで戦っている!?無茶よ…は、早く助けなくっちゃ!」
簡単な方程式を使いお兄ちゃんにより導き出された答えで、血相を変える勇者アルル。
無警戒&無鉄砲に走り出す!

「あ!1人じゃ危険だよ…待ってアルル!」
そしてアルルさんが危機になれば黙ってないのがお兄ちゃん。
痛いであろう胸を気にも留めず追いかけて行っちゃいました…

私達も大急ぎで追いかけますわ!
でも………あの二人………ものっそい早いの!
お、追いつけません…
オルテガさんを助けたいのに!!



 
 

 
後書き
出るぞオルテガ!
次回、ダンディー勇者オルテガ大暴れの巻! 

 

勇者のパパ

 
前書き
「おれはオルテガさまだ」

♪俺はオルテガ~! ダンディー勇者!!♪♪天下無敵のいい男ー!♪
♪戦士・賢者目はじゃないよ 剣も魔法どんとこい ♪
♪ナンパもうまいぜまかしとけ ♪

「なんだよなんだよ魔王倒しにいってこいなんて
そりゃないよクソジジイ(アリアハン王)」

♪俺はオルテガ~! ダンディー勇者!!世界一の人気者 ♪
♪不敬・浮気目じゃないよ♪♪ 気は優しくて力持ち ♪
♪顔もスタイルも抜群さ ♪

「うっせえうっせえ バコタ・ナ―ル
俺が自惚れてるだって? そんな事言うとおまえら
ギ~ッタンギッタンだぞ~ぃ」

♪俺はオルテガ~ダンディー勇者!!♪♪ 世界一のイケメン ♪
♪ゾーマもバラモス目じゃないよ♪ 手下なんかいなくったって ♪
♪愛人の数は負けないぜ♪



以前Nameless様がくれた『勇者オルテガ』の歌。
ジャイアンの歌のリズムで歌ってね。 

 
私がアメリアさん達と共に現場に着いた時は、戦闘は終了しキングヒドラ(だと思われる)を倒した後だった。
みんな足 ()え~よ!
こっちは身体が小さい分、歩幅も狭いんだから気を使ってくれよ!

肩で息をしながら周りを見渡すと、体躯のガッチリしたダンディーメンが1人…
カンダタの様に筋肉ダルマではなく、細身ながら無駄な筋肉がない、素人目にも強そうなイケメン。
私のお父さんはワザと身体を隠しているが、見た感じ同じ様な体付きだ。

しかもどことなくアルルさんと同じ雰囲気を醸し出している。
うん。間違いなくこの人が勇者オルテガだろう!
良かった…救う事が出来ましたわ!

しかし不思議な事が…
「やぁ。僕はリュカ…君の命を救った少年の父親だ!そしてこっちが妻のビアンカ。わざわざ紹介する意味解るよね」
「了解した!」

多分…きっと…初対面だと思うのだが、マイパピーとアルルパピーが古くからの親友かの様に会話をしている。
一言で10の事柄を伝えあえる間柄の様な…
大方予想はしていたが、これ程までに同類種とは思わなんだ。


「げ、アメリア……な、何でここに居るんですか?」
「アナター!!」
ダンディー勇者、奥方様の出現に大慌て。

奥方様は気にすることなく夫を押し倒し吸い付いてます。
あれ?これもマイマミーと同行動では?
あの手の男の妻は、この手の女じゃないと結婚出来ないのかな?

「うわぁ…変だなぁ…自分の両親で見慣れているのに、彼女の両親だと直視出来ない…」
自分の両親の場合は馴れてしまった事もあるからね…
アメリアさん+オルテガさんのは新鮮ですからねぇ…

「何だ?『彼女』だぁ!?おい、どういう事だ、説明しろ…アメリア…何でここに居るんだ?ともかく説明してよ!!」
何だ…まだ『アンタの娘の処女を喰っちゃいました(テヘ)』って言ってなかったのか?



困惑するオルテガさんを無視して、私達は各々自己紹介を行います。尤もその際に、現状までの報告を織り交ぜましてけどね…
勿論、大本命のお兄ちゃんを大取りに据えて…
本人は嫌がってましたけども、皆さんの心が相談もせずに一致した為、頑張ってもらいます。

「改めまして…始めまして、僕はティミー。父のリュカと同様、異世界より参りました天空の勇者です。娘さんのアルルとは、真剣にお付き合いをさせてもらっております…世界の平和を取り戻したら、僕はアルルと結婚するつもりです!」

緊張してるのかしら?
無意味に自分が勇者である事を強調してますわ。
彼女の父親に、ちょっとでも良く見せたいって事?

「何が天空の勇者だ…他人様(おれ)の娘を誑かしやがって…そんな(ヤロー)に大切な娘はやれん!」
何だと!?
予想外の返答に、思わずむかっ腹が立つ!

「そ、そんな…お父さん酷い!私はティミーの事を愛してるのよ!」
そうよ、お二人はズコバコやりまくりなのよ!!
それに私のお兄ちゃんはとっても素敵なんだからね!!

大切なお彼氏(ひと)を侮辱されたアルルさん…
私と同じ気持ちになりながら、お兄ちゃんに抱き付きます。
でも…強く抱き締めすぎなのだろう…
骨折中(肋骨)のお兄ちゃんは、彼女パパへの反論をせず苦しがってます。

「あ、うん。愛し合ってるのは解ってるから、ティミー君に抱き付くのを控えなさい。お前、気付いてないけど…ティミー君は怪我しているから…抱き付かれると痛そうだから!」
ほぅ…流石は勇者様…一目で状況を理解したわ。

「え!怪我してるってホント?」
「う、うん…さっき大魔神の攻撃を受けた時に、肋骨を…ちょっと…」
間違ってないけど、正しくもない。
正確には“大魔神の攻撃を受けヒビが入り、その後 彼女(おまえ)に抱き締められた時”だ!

「ご、ごめんなさい…私…全然気付かなくって…大丈夫…?」
当たり前だ…
気付いてやったのなら、とんでもないS女に認定する所だよ。

「う、ううん…僕こそみんなに気付かれない様に黙ってたから…気にしないで…大丈夫だから!」
私のお兄ちゃんは優しいなぁ…
これまた間違いではないけど、正しくもないのよね…
だって正しくは“みんなに気付かれない様”ではなく“アルルさんに気付かれない様”だもの!

「はっ!…と、と言う風に私達は愛し合っているんです!」
イチャラブムードに突入しそうになったが、パパの存在を思いだし慌ててアピる。
「お父さんが何と言おうが、私はティミーと結婚します!反対したらぶっ殺すわよ!」
うん。気持ちは分かるけども、彼氏紹介シーンにはそぐわない台詞が飛び出た。

「うん。大丈夫…別に反対はしないから。良さそうな青年じゃないか!」
「………え?…でもさっき…」
そうだよ、さっき怒ってたじゃん!!

「うん。娘が生まれた時から、彼氏を連れてきたら絶対1回は拒絶してやろう…『お前に娘はやらん!』って台詞、言ってやろうって思ってたから………いや~、言いたかったんだ、この台詞!」
すげー理由で1回拒否ったな!?

「うわぁ!(笑) ちょ~解るぅ~!僕も娘が彼氏を連れてきた時に、言っちゃったもん!でもね、あまりその話題を引っ張ると面倒な事になるから、早々に認めた方が無難だよオルテガっち」
「でしょでしょ!娘を授かったからには言いたいよね、この台詞は!気が合うじゃんリュカちん」

コイツ等、古くからの知り合いか!?
何でお父さんとオルテガさんは、愛称で呼び合ってるんだ?
やっぱり同じ思考回路の持ち主同士は、呼び惹かれ合うのか?

所謂ニュータイプ同士の共鳴ってやつか?
こ、こんなニュータイプ嫌だ!
ニュータイプが皆こんな奴等だけでガ○ダム作品を作ったら………

怖いよ!



 
 

 
後書き
1月中に完結させるのはムリでしたねぇ…
やっぱり移転作業で1ヶ月費やしてしまったのが痛いですね。 

 

相手を滅ぼす事の意味

「♪ゾー(マ)さん、ゾー(マ)さん、お~鼻が長いのね、で~もね、○○○は、短いのよ~♪」
オルテガさんと合流した付近の袋小路で、一晩をマッタリ過ごしリフレッシュした私達は、お父さんのふざけた歌と共に最深部を突き進みます。
………にしても、酷い歌だ!

「え、リュカちん?…ゾーマの○○○を見た事あんの?」
「ある訳無いじゃんそんな物!でも性格が悪そうだから…きっと短くて被ってて早いよ!しかも未使用だと思うね僕は…」

「なるほど…でも、もしかしたら俺等みたいなイケメン好きかもしれないぞ…しかも受け!だから未使用な粗品(ソチン)でも問題なかったのかも………俺等、行かないほうが良くね?」

どういう思考回路だ!?
おかしいな…私でも分かるくらい邪悪な気配が充満してるのに、奴等は全然気にする様子がない…
大魔王との戦いはまだ先かな?

「リュカさん、オルテガさん…大魔王ゾーマが美女かもしれないという選択肢は無いのですか?」
この雰囲気に飲まれた私の彼氏が、楽しそうに馬鹿な事を言い出した。
ソンなワケねーだろ!

「何言ってんだよウルフ…声だけなら以前に聞いた事があるだろ!野太い濁声のオッサンボイスだったじゃん!」
「でも声だけですよ…姿は見た事無いのですから、選択肢を減らすのはどうかと…」
何だ選択肢って…?

「そうだぜリュカちん!大魔王…と名乗っている程の奴だ。声だけは迫力を付けておいて、実際は美少女かもしれないぞ!ワザとボイスチェンジさせてるのかもしれないぞ!!」
どんな世界に、美少女がラスボスの冒険ファンタジーがあるんだよ!?

「う~む…言われてみればそんな気が……………こうしちゃいられない!早く美少女ゾーマちゃんに逢わないと!…さぁみんな、スピードアップだ!」
「おー!」

そして変な結論に達した勇者の父親は、真っ暗な中を急いで進んでいく…
まぁ、あの二人ならそこら辺のザコ(ラストダンジョンのモンスターでも、あの二人にかかれば小者(ザコ)だ!)に負けるはずないし、私達の為に露払いをしてくれれば助かる。
いっそのことゾーマも倒しちゃえばいいのに!




「あれ?父さん…お義父さん…どうしたんですか、そんな所に佇んで。美少女ゾーマちゃんは居なかったんですか?」
暗闇を前に呆然と立ち尽くす2人を見て、嫌味っぽく何もしていない事を指摘する息子(むすこ)義息(ムスコ)

「いやね…真っ暗で進めなくなっちゃてさ…ゾーマちゃんは恥ずかしがり屋なのかな?」
「…そうかもしれないですね」
きっと『絶対違うよ馬鹿!』って言いたいんだろうけど、言ったら面倒な事になると思い言わないんだろうと思う。
正しい判断だ。

「リュカ殿…ここはレミーラで明るくしてみてはどうですか?」
「おう、なるほど!流石ラング…気が利くねぇ!では早速、レミーラ!」
だがラン君は騒動好き…
面倒事を巻き起こさせようとアドバイスが炸裂する。

「どれどれ…美少女はどこかなぁ?」
お父さんはレミラーマで照らされた空間に目を凝らし、美少女を捜してます。
一体何処までが本気なんだろうか?

「ほう…随分と面白い魔法を使う者が居る…」
「…………あれ?………美少女ゾーマちゃんは何処だ?」
多分…コイツだと思う。

「び、美少………ゴホン、何を訳の分からん事を言っている…ワシはゾーマ…大魔王ゾーマ様だ!」
身内の誰もがツッコむ事を諦めた事柄に、新参者の大魔王はツッコミを入れる。
疲れるだけなのに……

「キサマらはワシを討伐する為に、ここまで来たつもりだろうが…それは違う!ここはキサマらが生贄として奉られる祭壇。素晴らしい生贄として、悲痛な叫びをあげてもらうおぞ!!」

ゾーマも気付いたのだろう。
まともに相手してはいけないのだと…
早口でお決まりの科白を言い切ると、手下を2体差し向け消えてった。

「ぐぅあぅぁあぁ…ゔぁ………」
巨大なホネホネ…
きっとバラモスゾンビだろう。

「兄者…今少しの辛抱ですぞ!憎き勇者共に復讐してやるのです!」
もう1匹は色違いのバラモス。
多分バラモスブロスだと思う。
………でも、ホネホネに向かって“兄者”って言ってたね。兄弟なんだ(驚)

「あれ?お前の事…どっかで見たことがあるような…誰だっけ?」
誰って…
魔王バラモスを忘れちゃったの?

「え!?何リュカちん…あんな奴の事知ってんの…趣味悪!ナンパするなら可愛い()を選ぼうよ…」
「しねーよ、あんなブスをナンパなんて!そうじゃなくて、何処かで見た記憶があんの!美女の事じゃ無いから、今一思いだせ無いんだよ…」

「ふ、ふざけるな!俺様はキサマらに倒された魔王バラモスの弟、バラモスブロス様だ!」
何で見覚えある奴の事を思い出すのに、ナンパの思い出をプレイバックさせるんだ!?
この二人…一緒にいると危険だ!
ツッコミだけで日が暮れるゾ!

「バラモスブスぅ~?わざわざ言わなくても『ブス』なのは判ってるって」
「おいおいリュカちん…今コイツ、お前に押し倒された…って言ったぞ!力ずくは良くないな…しかも趣味が悪い!」
「だから違うって!あんなブスを押し倒「うるさ~い!!」

あぁ…バラモスブロスが可哀想に思えてきた…
リュカテガ(リュカとオルテガのユニット名)に翻弄されてる。
奴等に対し怒っちゃ負けよ。

「いい加減にしやがれ!俺様の名は『バラモスブロス』だ!バラモスブスじゃな~い!…それから押し倒されたんじゃ無い…倒され殺されたんだよ!!そして兄者は、こんな姿になってしまったんだ!」

「え?…じゃ、そいつ…ネクロゴンドで倒した『バラモス』なの!?あの魔王バラモスの成れの果てなんだ!…あはははは、ちょ~うけるぅ~!前より弱そうになってんじゃん」
お父さんの侮辱は止まらない…むしろヒートアップしてるわ。

「ようリュカちん。以前の姿って、こっちのブスと同じなんだろ?だとしたらどっちも弱そうだぜ!こんな弱そうな『ブス』と『骨』しか部下が居ないなんて、ゾーマも大したことはないんだな!?」
そして侮辱はゾーマへと広がる…

「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!!!」
ブチ切れたバラモスブロスが襲いかかってくる…
けども、ホネホネの方がそれを押さえ付ける。

「ぐぁあうぁ…!」
「な、何故止める兄者!?」
「ぐぁ…れ、冷静さ…う…失う…と……ま、負け…………ぅ…ぅ……や、奴等…それ…狙…い………」

どうやら本当に元バラモスだった様だ。
以前お父さんに翻弄され、まともな反撃も出来ずに死んでいった奴だからこそ、あの挑発をまともに相手しないのだろう。
う~ん…少しはパワーアップもしてるかもね。

「何だ…骨だけでスカスカだから脳みそもスカかと思ったら、前の事は憶えてんのね…」
尚もお父さんは挑発を試みるが、バラモス兄弟は二人とも冷静さを取り戻したらしく、ブチ切れて襲いかかっては来ない。

「では兄者、同時に行きますぞ!」
それどころか、落ち着いて先制攻撃をしてきました。
それも連携しながら、私達を2派に分断して…

バラモスブロスが私・ウルフ・カンダタ・モニカさんに攻撃を仕掛ます。
戦闘で有効な魔法を使えないカンダタ・モニカさんに、手痛い一撃を喰らわします。
私とウルフはお二人の回復に………

横目でバラモスゾンビを確認すると、アルルさん・ハツキさん・ラン君を激しく攻撃してます。
此方の援護は出来そうにないですね…
つーかお父さんとオルテガさんはどうしたの!?

慌てて目で二人を捜すと、非戦闘員を庇いつつ後方でマッタリ観戦中です!
お、お前等…何もしない気だな!?
あ!お兄ちゃんまで後方観戦してやがる!…まぁお兄ちゃんは怪我人だから仕方ないか。



ヤバイッス!
結構ピンチッス!!
ブロスの奴、結構強いッス!!!

私もウルフも攻撃魔法を使う隙がありません。
絶え間なくカンダタ・モニカさんに攻撃を仕掛けるから、ウルフも絶え間なく回復及び補助魔法を使って援護中です。
私もお二人を巻き込めないので、賢者の石で回復作業に専念です。

チラリとアルルさん達を見ましたが、彼方も苦戦中の様で救援は期待出来ないでしょうし、後方観戦隊の手助けは無い物と思っていた方が無難です。
使えねーな!

時折メラを唱えてブロスを攻撃しますが、流石に威力が弱すぎて吹き飛ばされます。
かといってメラミを唱え、カンダタ・モニカさんに当たり消し去るわけにもいかないですからね…
“大は小を兼ねる”と言いますが、アレは間違いですね。魔法力が大きい事でこれ程不便を被るとは思いませんでした!



2.30分苦しい思いをしていると、突如強烈な閃光と共に『ドドーン!!』と炸裂音が鳴り響く!
振り向くとバラモスゾンビに巨大な雷撃が突き刺さっていた。
そして、その前には手を取り合っているお兄ちゃんとアルルさんの姿が…

「あ、兄者ぁぁぁ!!」
崩れ落ちるバラモスゾンビを目の当たりにして、悲鳴を上げるブロスが…
こんなチャンスを逃してはならない!

私のメラゾーマとウルフのベギラゴンが同時に炸裂する!
更に魔法の炎が消え去らないうちに、カンダタ・モニカさんが連続で攻撃を喰らわす。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

トドメだった…
これ程の連撃を喰らっては、ブロスとてひとたまりもない。
苦労したが勝つ事が出来たのだ。

だがまだ息のあるブロスは、既に事切れたバラモスゾンビへと手を伸ばし、兄の死を悲しむ。
誰でも家族が目の前で死ねば辛いのだ…
敵とか味方とか…人間・魔族も関係ない。
戦って相手を殺せば、誰かが悲しむ事になる…

ゲームでは気付く事のない事だ…
何だか悲しくなってきた…
もう息をしていないバラモス兄弟を見て、私はどうして良いのか分からなくなっている。

でも私にはウルフが居る。
悲しむ私を見て、彼は優しくキスして告げる。
「さぁ…今は仲間の心配を…」

そうだよね。
悲しむのは後で良いよね。
それに私には優しい彼が寄り添ってくれるんだもんね…悲しんじゃダメだよ。



 
 

 
後書き
アホな歌から始まり、ちょっぴりしんみりムードで終わる今話…
途中経過は………まぁ、どうでもいいよね! 

 

最終決戦くらい、真面目に頑張ろうよ…

「大丈夫ですかティミーさん!?」
何やら大技を行った若い勇者カップルに近付き、心配気に確認する気が利く男・ウルフ。
自慢じゃ無いが私の彼氏よ!

「あ…ああ、僕は何ともないよ…でもアルルが怪我を…すまないがウルフ君。ベホマで回復してもらえないか?」
良く見ると至る所から出血しているお二人…
本当に大丈夫なの!?

「ティミーさんが治してあげた方が良いのでは?」
でも気が利く(ウルフ)は、彼女の治療は彼氏が行うべきでは?と遠慮してみせる。
治療と言いつつエッチな事も出来るしね。

「出来ればそうしたいよ。アルルは僕が守るんだから…でも、もう魔法力がないんだ…本来ならもっと大勢で唱えるミナデインを、2人で使用したから魔法力が底を尽きたんだ…」
さっきの爆音はミナデインだったの…
バラモスゾンビにしてみれば、たまったもんじゃないわね…DQ3には存在しない魔法でやられては…

「そ、そんなムリをして…アルルは大丈夫?」
「ま…魔法力を一気に使いすぎて…つ、疲れた…」
ウルフのベホイミを受けながら、座り込み呟くアルルさん…
多分、術者のお兄ちゃんの方が疲労は大きいのだろうけど、プライドからなのか平然としたフリをしている。

「おいおい…中ボス如きに全力出し切るなよ………まだ一番厄介なのが残ってるんだぜ!どうすんの…勇者2人がその様で?」
イラッとする…
最も何もしていない人が、最も尤もな意見を言ってくる。

「すみません父さん……でも、あの兄弟は強敵でしたよ。僕等も全力を出さないと、とてもじゃないが倒せなかったですよ」
「全力って…お前等だけだろ…全力だったのは?全力ウサギですかお前達は?」
『全力ウサギ』!?…マジックペンでキリリと眉毛を描くぞ!

「ウサギ?……今一意味が解りませんが、僕等だけではないですよ全力だったのは!ウルフ君もマリーもいっぱいいっぱいで、もう魔法力が尽きかけていますから!」
ドラゴンの杖でグリグリ突かれながらお兄ちゃんが話を此方へ振ってくる。

「え!?べ、別に私は(モガ!)「そうなんですよ!俺もマリーもへとへとです!」
私は戦闘の大半を賢者の石使用で費やしたので、魔法力は勿論・体力面でもオールグリーンなのだが、出来る男ウルフが私の口を手で塞ぎお兄ちゃんに話を合わせる。
一体…?

「はぁ!?何だお前等…ふざけてるのか?ここまで来たのにゾーマ討伐を諦めるのか?」
「諦めませんよ…でも約束しましたよね。『最後くらいは僕も戦闘に参加するよ!』って言いましたよねリュカさんは!?」
なるほど…丸投げへの第一歩って事ですね(ニヤリ)

「う………い、言った…言ったよ…でも………ねぇ…」
お父さんも気付いたのか、アルルさんの発言にタジタジする…
他の人達を見渡しても『ゾーマとの戦いはタイマンでやれ!』と言う感じで誰も援護しない。

「ず、ずるい!何で僕一人で戦わなきゃならないんだ!?」
「今まで碌に戦わなかったからです!」
元愛人に突き放される。

「ハ、ハツキぃ~…そんな事言わずに一緒にがんばろ!?」
「ムリで~す!私、リュカさんの愛人を辞めてから、体力が落ちたみたいで、もうへとへとで~す!」
ぷっ…つまり、床運動で体力アップしていたのね(笑)

「カ、カンダタはまだ戦えるだろ!?お前嘘吐くとぶっ飛ばすぞ!」
「いやぁ~戦いたいのは山々なんだけどよぉ…さっきの戦闘で骨をやられちまって…だからムリッス!」
空気の読めるカンダタは私達側に着く。正しい判断だ!

「テメー…後で憶えてろ!………ラングは平気だろ!?」
「いえ。私も先程の戦闘時、アルル殿とティミー殿が放った雷撃の影響が出てまして、体中が痺れております!諦めやがって、大人しく一人で戦ってきてください!」
直訳すると『最後はお前が戦うって約束なのだから、諦めて行け!』って事。

「くっそ~………ビ、ビアンカ~……みんなが苛めるよぉ~!」
「よしよし可哀想に…でもね、偶にはみんなの為に一人で戦ってきなさい!私は早くグランバニアへ帰りたいのだから、アナタが最後はキメて来なさい!いいわね!!」
お母さんに泣き付くも、優しく突き放され助けてくれない。

「くっ…嫁も敵か!………オ、オルテガっち!一緒に戦ってくれるよね!?だってオルテガっちはゾーマを倒す為に、一人でここまで来たんだろ?だったら………」
知り合って間もない大親友に援護を依頼するも…

「すまんなリュカちん。俺もお前の戦いぶりを見てみたいんだ!一人の戦士として…」
「な………何で僕が……戦士じゃないし……普通、王様ってこう言う事しなくていい役職だよね?…何で僕が………」
普通の王様だったらそうだけど、お父さんは普通じゃないからねぇ…

「諦めてください…僕だって王子だけど、前線で戦ってますよ!」
「お前は自ら戦いに身を投じてるじゃんか!」
あはははは…
確かにそうだわ…でもいい加減納得して欲しいわね!

「うっさいオッサンね!いい加減に諦めなさいよ…ゾーマちゃんが奥で待ってるわよ…さっさと行け!」
「オッサンじゃない!イケメンお兄…つか、マリーはお父さんと呼べ!もしくはパパ!」
何でツッコむ所がそこなのよ!?

「一人で行ってゾーマを倒してきたら元の呼び方に戻したげる……ほれ行けって!!」
あ~…本当に面白い家族よね。
私の言葉+お母さんに押される+皆さんからの冷たくも暖かい瞳を受け、渋々ゾーマの方へと歩いて行く。

お父さんの真上にあるレミーラの光玉が、哀愁漂う一人の男の背中を照らし続ける。
その男は、屈強なる戦士で、偉大なる国王で、悲劇の主人公で、そして私達のお父さんだ。
見てて飽きない私達のリーダーだ!



 
 

 
後書き
本当は前話とセットで1話だったのですが、前話はしんみりムードで終わらせようと思い、2話に分けました。
リュカのツッコミ所が好きです。

次話は遂に最終決戦です。
正面から正々堂々と戦う、とっても卑怯な戦闘です。 

 

強すぎると言う事は、卑怯な事である!と思った。

 
前書き
遂にあのイジメの様な正々堂々とした戦いが始まる。
彼の名誉の為に言っておきます。
ゾーマさんは強いですから!
本当は本当に強いですから!! 

 
私達の遥前に、お父さんの姿がポツンと見える。
自ら作り出したレミーラの魔法で、暗闇でもハッキリ見えている。
そして、その魔法(レミーラ)の光は、お父さんと共に奥へと移動し、世界を混沌へと誘う大魔王を浮かび上がらせる。

「はぁ~………何で僕がこんな事を………はぁ~…」
そんな大魔王ゾーマと戦おうとしている男が、情けない口調でぼやき出す。
何時までもグジグジ鬱陶しいわね!腹据えなさいよ!!

「やぁ、こんにちは。絶世のイケメン・リュカ君だよ」
私達とは大分距離があるのに、ハッキリ聞こえる明るい声で自己紹介をするお父さん。
状況分かってるのかしら?

「遂に来たか……しかも仲間に見捨てられるとは……哀れよのぅ…」
「ホント…酷いよね!『一緒に戦え!』って言われるのなら解るけど、『一人で戦え!』って意味解んないよ!」
ゾーマはあからさまにお父さんを馬鹿にしているのだが、当の本人は全然気にすることなく、愚痴を吐き出し同情を誘う。

「ふっふっふっ…しかし、どちらでも結果は同じであろう…キサマらは全員この場でワシの生贄になるのだから!」
勿論ゾーマからの同情は得られない…
代わりに邪悪なオーラを浴びせられている。

「ねぇねぇ…もう一回聞くけど…本当に君は美少女じゃないの?その姿は仮初めで、真の姿は美少女大魔王ゾーマちゃん!って事にはならないの?」
だけど舐めちゃならねーのが私達のお父さんだ。
あの強烈なオーラを存在しないかの様に自分のペースに持ち込む。

「な、何なんだ先程から『美少女』『美少女』と…この姿がワシの真の姿で、変化などせんわ!大体どこからそんな話が出てきたんだ!?」
「どっからって………あれ、どこからだっけ?」

いい加減呆れているゾーマ…
情報源など本気で気にしているわけでは無いのだろうが、思わず口から出てしまった言葉だ。
だがお父さんは情報源を思い出そうと、此方を見詰め答えを欲しがる。

目が合ったオルテガさんが、ジェスチャーでウルフの事を指差すと…
「あぁ!そうだよ………ウルフが最初に『ゾーマちゃんは美少女!』って言い出したんだ!何だよアイツ…ガセネタ掴ませやがって…」
と、ウルフを指差し憤慨する。

「アイツだよ、アイツ!アイツが僕に嘘情報を掴ませたんだ!いい迷惑だよなお互い…これは被害者友の会を創るべきじゃね?僕達でガセネタ掴ませたあのガキを訴えようよ!」
本当に何を考えてるのか分からないわ…
ゾーマの服の端っこを掴んで、ウルフを何度も指差しながら被害者意識を共有しようと試みている。

「ふ、ふざけるなキサマ!」
勿論ゾーマはお父さんに激怒する………が、
「そうだ、ふざけるな!僕達は訴えを取り下げないゾ!覚悟しろよ」
と、ゾーマの怒りが自分に向かっている事に気付かず、ウルフに対して憤慨し続ける。

「こ…この馬鹿が………マヒャド!!」
「うわぁ、あぶねー!………何すんだよいきなり!?『美少女大魔王ゾーマちゃん』疑惑を創り出したのは僕の所為じゃないって言ったろ!僕達被害者同士じゃないか…なのにいきなりマヒャドって……何なのサ!」
何であの距離で魔法を避けられるんだろう?

「こ、この距離で避けるとは………」
「そりゃ避けるよ。何なのお前!?」
違う!避けた事が驚きなのではなく、避けれた事にビックリなのだ!

「キサマ…ここには何しに来たんだ!?」
いい加減話が咬み合わない事に苛ついたゾーマ…
あり得ない事に聞いちゃったよ。

「何って…………………………あぁ…そう言えば戦いに来たんだ…話が合いそうだったから忘れてた(笑)」
………嘘だと言って。
ゾーマをコケにする為のお芝居だと言って。

「……………」
あぁ…大魔王様にまで呆れられてますわ。
見下す事もアホらしく思えてるのでしょうね。

しかし、突如ゾーマは凍える吹雪で攻撃を仕掛けてきた!
きっともう終わりにしたかったんだと思います…
でも…

「ちょ…危な…ヤメロって!」
と軽い口調でお父さんはこれも避けきり、逆に攻撃する。
“ドゴッ!”と大きな音と共に、ドラゴンの杖で吹き飛ばされるゾーマ。

「お前…いきなりは卑怯だろ!」
吹き飛ばされ蹲るゾーマに対し、闘志0の口調で怒るお父さん。
ゾーマはお父さんより二回りは大きいのだが、軽く吹き飛ばすなんて凄いと思う。

「やるではないか…ワシを吹き飛ばすとは…しかし如何に強かろうと、ワシの前では全てが無意味!」
格好悪く吹き飛ばされたクセに、偉そうな態度のまま先程までの位置に戻り大口を叩く大魔王様。

だが言うだけの事はある…
お父さんの攻撃を受けた箇所が、見る見る回復して行く。
これが闇の衣の効果か!?

「クックックッ…ワシは不死身…この闇の衣がある限り、ワシに幾らダメージを与えても、即座に再生して行くのだ!さぁ、絶望せよ!それこそワシの喜び!」
光の玉を使わなきゃ!
私は目でルビスちゃんに訴える。

「リュカ…竜の女王から戴いた『光の玉』を使うのです!それでゾーマの闇の衣は無力化出来ます!」
そうよ、永遠に回復し続けるなんて卑怯じゃん!
私達はウルトラアイテムで応戦よ。

「何…『光の玉』って?僕の股間の双玉(そうぎょく)とは違うの?」
「「「……………」」」
や、やばい…
考えたくないけど、やっぱりあの人は馬鹿なのかもしれない…

「ち…ちげーよバーカ!アンタ、ラダトームでバコタを騙す為にアルルから受け取っただろ!アレだよ!『無くした』とか言うんじゃねーゾ!」
あぁ…何時も品行方正なお兄ちゃんが、口汚い言葉で父親を罵っている。
ヤメテ、そんなお兄ちゃんは見たくない!

「あぁ…あの玉っころか!アレだったら重要なアイテムだと思ったから、リムルダールの宿屋に預けてきたよ。宿屋の主人に『ちょ~大事な物だから、大切にしまっておいてね♥』って…大事な物を無くす訳無いじゃん(笑)」

「「「あ…預けてきた~!?」」」
私達は全員で絶叫する!
爽やかスマイルでサムズアップする男に心底驚愕をし…
ルビスちゃんなんか気を失っちゃったよ!

「テメーふざけんなー!」「バカヤロー、責任取れ!」「お前もう死ね!」
ダメだ…この男、本当にダメだ!
皆の罵声を止める事など出来やしない。

「リュ、リュカ…どうするの…一体どうすんのよ!」
みんなの罵声を受け、腹を抱えて大笑いするお父さん…
流石のお母さんも怒鳴り出す。倒れたルビスちゃんを抱き起こしながら…

「あはははは…ビアンカの怒った顔も可愛くてステキー!」
だが、まったく堪えないお父さんはどうなってるの?
愛しの妻が怒鳴ってるのに、投げキッスで答える。



「ジョーク、ジョークよ!ほれ…この通り『光の玉』は持ってきてます!」
存分に笑った後、懐から光の玉を取り出し戯けるお父さん。
「みんなスゲー顔で怒るんだもん…ちょ~うける~!!」

笑えねーよ!
全員ガックリ脱力する。
それを見てニコニコしているお父さん…殴りたい。

「ほう…これがワシの闇の衣を無力化させる光の玉か…」
無駄なコントが終わったところで、ゾーマがお父さんの手から光の玉を掠め取る!
げっ…あのオッサン、何で無警戒なのよ!?

「ちょっと…それは大事な物だから返してよ!」
ゾーマの光の玉を奪われ一瞬キョトンとしていたお父さん…
距離を取るゾーマに右手を差し出し“返せ”とせがむ。

「キサマは馬鹿なのか?」
「よく言われるけど何で?」
何でって…本当に馬鹿なのか!?

「…何でじゃねーよ!このアイテムが何に使われるのか解ってるのか!?」
「あれ?…お前もしかしてルビスの説明を聞いてなかったの?それを使うと闇の衣が消えるんだよ。凄いだろ!…じゃ、返して」

「………か、返すワケねーだろ!これを使われたら、ワシは弱くなるんだ…そんな物をこれから戦う相手に渡すワケねーだろ!」
そりゃそうだ!何で返してもらえると思ってるんだろうか?

「あはははは…弱くなるって…たいして変わらないよ。お前、闇の衣があったって弱いじゃん!傷口が回復するってだけで、お前は弱いじゃん!むしろ苦痛が長引くだけだよ?光の玉を使ってサクッと死んだ方が良くね?」

「………くっくっくっ…はっはっはっ…随分と愚かな人間も居たものだ…己の実力も判らぬとはな。よくここまで来れたものだ!」
あぁ………どうすれば良いのよ!?
光の玉無しじゃ勝てるわけないのに!?

「ふん…大人しく光の玉を返していれば、真の苦痛を味わずに済んだのに………」
しかし、ただ一人だけ勝てると確信している男が、真面目な口調で大魔王を恫喝する。
いくらなんでもそのハッタリはないでしょう………

「いい加減にしろ!キサマ如きか弱き人間が、闇の大魔王ゾーマ様に勝てるワケが無いのだ!手始めにキサマを一瞬で塵に変え、残りの者共もあの世へ送ってやるわ!」
言い終わるや、怒りのゾーマはお父さん目掛けてマヒャドを唱えてきた!

だがお父さんは、人間離れしたスピードでゾーマの鳩尾にカウンターキックを炸裂させる。
でも無駄でしょうに…
ダメージを喰らった側から回復して行くんだもん…

「ぐぅ……やるではないか…だが無駄な事…闇の衣がある限「その中途半端な回復を後悔しろ!」
蹴り事態は効いている為、苦痛で顔を歪ませ蹲るゾーマ。
そんな大魔王が何とか絞り出した台詞を遮って、正義の味方らしからぬ台詞を吐くパパ。

「なまじ回復するが為に、僕のもう一つの姿を見る事になる…苦痛の中、後悔と共に死んで行くがいい!」
あの人何言ってるの!?
ドラゴンの杖を掲げ、大魔王よりも大魔王っぽい科白を口にするリュカ陛下。
だいたいもう一つの姿って何よ!?

誰もが同じ事を思っていたに違いない…お父さんの無意味なハッタリに呆れていたに違いない。
しかし今回も我々は裏切られる。
ハッタリ大王に裏切られる!

掲げてたドラゴンの杖が輝きだし、一瞬でお父さんを包み込むと、次の瞬間には巨大なドラゴンが出現していた。
濃紺色の美しいドラゴンが。

「な…何だ…これは…!?」
流石にゾーマも絶句する…勿論、私達も声を出す事が出来ない。
お父さんより二回りも大きいゾーマ…それを遥に凌駕する大きさのドラゴンの出現…

「これからお前の苦痛の時間が始まる…光の玉を返さなかった事を永遠に後悔せよ!」
ドラゴンからはお父さんの声が聞こえる。
ま、まさか………

「と、父さんなんですか!?それは父さんなのですか!?」
「あぁそうだ。これがドラゴンの杖の本当の能力…」
そ、そう言えばドラゴンの杖って『ドラゴラム』の効果があったわ!

「すげぇ………あの杖には『ドラゴラム』の力があったんだ…」
弟子のウルフが感激して叫び出す。
そのウルフから聞いたのだが、実際のドラゴラムは術者の能力を何十倍にもする効果があるらしい。

「…ふ…ふふふ…ははははは!なるほど…ドラゴラムか…しかしそんな物はワシの前では無意味だ!」
トリックのネタが分かったゾーマは、高笑いをしながら『凍てつく波動』を打ち放つ。
この『凍てつく波動』を喰らってしまうと、魔法の効果が消し飛んでしまうのだ。

「それがどうした!」
「ぐはぁ!!」
だがお父さん竜は、その巨体からは想像も出来ないスピードで凍てつく波動を躱し、逆に巨大な爪で反撃をする。

「ぐわぁぁぁ………」
先程も言いましたが、ドラゴラムは術者の能力を何十倍に引き上げるのだ。
本来は力の弱い魔法使いが憶える魔法の為、能力を何十倍に引き上げても、これ程まで驚異的に現実離れをする事はない。

しかしお父さんは元から強いのだ…
「……辛くなったら、何時でもいいから自ら光の玉を使えよ」
腹部から半分に千切られ、それでも回復して行くゾーマを見下ろし、恐ろしい程冷酷な声で己の未来を決める様に勧めるお父さん竜。

「お、おのれ~………キサマなぞ、ワシの凍てつく波動さえあたれば…」
再生を終え直ぐさま凍てつく波動を放つゾーマ。
だけどもアッサリ避けられ灼熱の炎を浴びる。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ゾーマを包む炎も、肉体を焼ききってしまえば鎮火するのだろうが、焼かれながらも再生する為、苦痛が長い時間続くのだ。

しかもその間お父さん竜は攻撃をしない。
ゾーマの苦しむ様をただ見下ろしている。
これではどっちが大魔王なのか分からない…

光の玉を使わずに、一対一で正々堂々と正面から戦っているのに、何で凄く卑怯に見えるのだろうか?
大魔王の力を弱め、大人数で一人を攻撃する方が、まともに見えるのは何故だろうか?
哀れな大魔王に安らかな死を………










「ぐはぁ………」
最終決戦という名の拷問が続く…
何度かお父さんに“嬲らずトドメを刺してあげて”と懇願したのだが、プライドの高い大魔王ゾーマが“見くびるな人間が!こんな攻撃はなんでもないわ!!”と虚勢を張った為、可哀想な時間が過ぎていった。

凍える吹雪を吐いたり…凍てつく波動を試みたり…ダメ元でマヒャドを唱えたり…
勿論、私の頭よりも大きい拳を振り回し、物理的な攻撃を仕掛けたりもしてるのですが…
お父さん竜には全く効果なく、その都度逆撃を被るのはゾーマさんです。

即座に回復するのだとしても痛いものは痛いのだろう。
攻撃を受ける度に精神的ダメージが蓄積して行く。
それを回復する衣の持ち合わせはない。

そして遂にゾーマさんがキレた!
今しがた受けたダメージをオートで回復しながらヨロヨロと立ち上がり、懐から光の玉を取り出し掲げ叫ぶ。
「光の玉よ…闇の衣を消し去りたまえ…」

誰もが目を疑うその行為。
光の玉を掲げたゾーマの身体から、闇の衣が消え去って行く。
そう…自ら無限回復を捨てたのだ!

「………お前………何やってんの?」
「うるさい…もう、嬲られるのはたくさんだ………」
お父さん竜が馬鹿にする様な口調で呟くと、吐き捨てる様に怒鳴るゾーマさん。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ…………………」
そして突如此方に向かって突進してきた!
ぶっちゃけマッタリしていた私達はビックリ仰天!!

何も出来ず固まっていると…
「リュカちんと戦っていたのだから、いきなりこっちに来んじゃねーよ!」
と、ダンディー勇者オルテガさんが剣を抜き放ち嘯く。

「まったくです…折角楽してたのに…」
私の格好いいお兄ちゃんも、ニヒルに呟くとオルテガさんと共に、突進してくる大魔王ゾーマを切り捨てる!
めちゃんこ格好いいッス!




結局ゾーマを倒したのは、オルテガさんとお兄ちゃんだ。
「僕は約束通り、ゾーマと戦っていたよ。そっちに向かったのは僕の所為じゃ無いからね。つか、戦闘しないからって気を抜きすぎだったんだよ!もっと緊張感を維持しなきゃ…ねぇ、オルテガっち!」

しかし最終決戦を行っていたお父さんは、人間の姿に戻り勝手な主張で自身の正しさを主張する。
その言い方が、何時もの緊張感に欠ける口調なのでむかっ腹が立つ。
きっと私だけではないだろう…

「な、何が『僕の所為じゃ無い』よ!さっさとトドメを刺してれば、こんな事にはなったんでしょ!」
ほら…小うるささ代表のアルルさんが怒ってるもん。
まぁ、そんな事を気にするお父さんではないけどね。

「しょうがないじゃんか…ダメージを与えても回復しちゃうんだよ!精神的に追い詰めるしかないじゃん!そこんとこ解ってないなぁ…」
「あんだけ圧倒的な強さだったんだから、その気になればトドメの一つくらい刺せたでしょ!」

私もアルルさんの意見に賛成だ…
けど、ゾーマが突進してきた時に何も出来なかった勇者(アルル)さんには何も言えない気がする。
口に出して言うと、またややこしくなるから黙ってるけどね。



 

 

アレフガルドの夜明けばい!

小うるさいアルルさんの文句は止まらず、一方的にお父さんを非難する。
お父さんはお父さんで全然気にしてないから、更にアルルさんを怒らせる。
悪循環ですねぇ~…

彼氏とご両親が宥めた後も、一人ブツブツ呟いてます。
何でこんなに小うるさいんだろう?
もっと広い心が欲しいですね。



「と、ところで………遂に大魔王ゾーマを倒しましたね!」
この嫌な空気に胃が痛くなったのだろう…
ルビスちゃんが話題を変える為、引きつった笑顔で出来る限り明るい口調に努め喜んでいる。

「そ、そう言えばそうよね…リュカさんの所為でその事にも気付かなかったわ!」
しつけーな…
「アルルは何でも僕の所為にするなぁ…」
まったく…いい加減にしてほしいわ!

「リュカ…これで私達もグランバニアへ帰れるわね」
「そうだね…ビアンカまで巻き込んじゃって本当にゴメンね。絶対ビアンカだけは危険な目に遭わせたくなかったのに…あのヒゲメガネめ!」

いい加減アルルさんを怒らせるのを止めてもらいたいお母さんが、グランバニアへ帰れる事を喜んでるフリをして、お父さんの意識を自分へと向ける。
腕に抱き付きオッパイを押し付けての行動だった為、大成功でした。

「あ、あの…ともかくはラダトームに帰りましょう。皆さんを送り返すのはその後でもよろしいですよね?」
ヒゲメガネに引き続き、自分も怒られると思ったのか、ビビリながらラダトーム行きを提案するルビスちゃん。

「勿論大丈夫だよ。つか、ラダトームではオルテガっちの楽しい一悶着があるはずだから、それを見ないで帰るつもりは毛頭無いよ!」
嫁とイチャつく事で忙しく、ルビスちゃんへの怒りは発生せず、代わりにオルテガさんへの面白感情が優先された。

「ふっ…世界を救った勇者様に対し『娘を孕ませたから責任取れ!』とか言う奴は居ない!だってルビスちゃんが助けてくれるもん!ラルスのアホが何を言ってきたって、世界を救った英雄に対しては何も出来ないもん!」

義理の息子が立てた作戦を、胸を張って自慢するオルテガさん。
「このオッサンは…」「懲りない男だ…」と、罵声が飛び交うパーティー内。
成功しますかね?






「うわ、眩しい!!」
ルビスちゃんの魔法により一瞬でラダトームの側まで移転した私達。
お空には眩しい太陽が輝いている。

「えぇ…本当に眩しいですねリュカ。太陽とはこんなにも眩しい物なのですね」
アレフガルドに太陽が戻り、自身のパワーも少しずつ回復している彼女は、平和な世界を喜びつつ笑顔を振りまいている。

「ちょっとティミー!何でアナタが顔を赤くするの!?」
男受けする女神(おんな)の笑顔に顔を赤くするお兄ちゃん。
彼女の嫉妬に晒され困っている……でも、よく思い出せ。
私達の祖母(ばぁ)さんにクリソツなんだゾ!

「アルル…それくらいは許してやれ!笑顔見て顔を赤くしている程度では絶対に浮気はせん!逆に笑顔で見つめ返す様になったら手遅れだ。もう既に愛人の2人は居るぞ!」
いや、だから…祖母(ばぁ)さんにクリソツなんだってば!

「お父さんとティミーを一緒にしないでよ!私の彼氏は愛人なんか作らないわよ!そんなアホな事する男じゃないの!」
お前…実父と義父を完全否定してるゾ!
折角全てが終わり平和になったのに、何をそんなに苛ついてるもだろう?

「アルル…お義父さんにそう言う言い方をするもんじゃないよ。折角10年ぶりに会えたのだから、もっと素直になった方がいいよ」
「だ、だって………折角再会出来たのに…全然甘えさせてくれないんだもん………」
………ファザコンが此処にも居た!

まさかのファザコン・アルルに、ちょっと引きますわ。
でも…よく分かったわね、お兄ちゃんは…
彼女(アルル)さんの事なら何でもお見通しなの?

「おいおい…彼氏が居るのだから、俺になんか甘えるなよ。大好きな彼氏とベッタリシッポリ○○○○○○してろよ」
ダンディー・オルテガが、ちょっと嬉しそうに照れ隠しをする。
良いわね…この雰囲気。平和って素敵ね。




「さて…何時までも此処でこうしている訳にもいきません。そろそろラダトームに行きませんか?」
ルビスちゃんが遠慮がちに帰る事を促す。
流石にこのマッタリ空気は壊したくなかったのだろう…

「その事なんだけどさぁ…別にラダトームに行く必要って無くね?お天道様が出てきたのを見れば、大魔王は倒された事なんて一目瞭然じゃん!わざわざ報告する必要も義務もないよ…このままルビスちゃんのお力で、俺等をアリアハンへ送ってくれないかな?」

「あ、あの………その………出来ません…………」
オルテガさんの悪あがきを、申し訳なさそうに断るルビスちゃん。
私は知っていたけど、もうアリアハンには帰れないのよね。

「あ゙…何でさ!?」
「あの…それが…」
ちょいキレ気味のオルテガさん…ルビスちゃんは身を縮めて言い辛そう。

「どうやら…ゾーマを倒した事により…アリアハンのある世界と、アレフガルドとの接点が失われ…い、行き来が出来なくなったようです……………」
「「「…………………えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!?」」」

「ちょ、待て!まさか僕等もグランバニアへ帰れなくなったって事は無いよな!?」
「そ、それは安心してください。リュカ達の世界にはマスタードラゴンという神が存在し、彼と連絡を取る事で双方向からゲートを繋げる事が出来ます。従って帰還は可能です」

当然よね!
無理矢理連れてきといて“帰れ無くなっちゃいました(テヘ)”なんて許されないわよね!
そんな事したら、お父さんが次の大魔王になっちゃいますよね。

「ルビス様…何とかならないのですか?アリアハンにはお爺ちゃんを残してきたんです。家族揃って無事を伝えないと………」
いいんじゃね、あんな俗物は放っておいても?

「ごめんなさい…私だけの力ではどうにも…た、魂だけなら送れるんですけど…」
「魂だけ?ねぇルビス…それって『転生』ってヤツか?」
なるほど…つまり私とお父さんは、元居た世界の神(っぽい奴)に魂だけ追い出されたのね。

「そうです転生と呼ばれてますね…よくご存じですね!?」
「あぁ…うん。経験者だから!」
「え?父さん、経験者って…」

………って、オイ!
こんなところでカミングアウトすんのかよ!?
一生の秘密にしないのかよ!

「ん?…うん。僕は転生者だ!以前は別の世界で違う人生を送っていたけど、どういうワケだか分からんけど、パパスとマーサの息子…リュカとして生まれ変わったんだ。だから見た目より人生経験豊富です!」

「か、母さんはご存じだったんですか!?」
「知っていたわよ…でもそれが何?リュカはリュカでしょ。どんな人生を送っても、貴方の父親に変わりはないでしょ!?」
うん。その通りだ!
転生者だろうが、お父さんはお父さんだ。

「あはははは…これで分かったろティミー。僕は大した人間じゃないんだ…グランバニアの治世も、前世の記憶をフル活用しているだけ!僕が自ら発案したワケじゃないんだよ」
いや…それでもお父さんは凄い人だと思います。
面倒なトラブルメーカーだけどね。

「前世では『周囲に迷惑をかけてはいけない』と教わらなかったんですか?」
あははははは。
きっと教わってきたのだろうけど、今の自分の行為が迷惑行為だと思ってないんだよ。
非常識人だから!



 
 

 
後書き
よ~し、頑張って明日も更新するゾー!
何時もの様に0:00だからね。
みんな期待しててね! 

 

凱旋→パレード→お家騒動→脅し→そして祝賀会…何、この順序?

よく考えたら、偉業を為し得たんだよね…私達って!
ラダトームの町に入って初めてその事に気が付きました。
すんごいの人が…ワラワラ群がってきやがって…

こっちはさっさとお城へ行って、アルルパパのラブラブトラブルを見学したいのに。
ちっとも進めやしないわ!
随分と時間が経過してから近衛隊が迎えに来て、やっと進める様になりました。

両サイドに人垣が出来、まるで一大パレードみたいで楽しかったです。
…にしても、近衛隊の登場が遅すぎませんか!?
町中の人が入口付近に集まってしまってるのに、行動が遅いと思います!


なんとかお城に辿り着いても…
今度はメイド共が群がってきます!
お前等仕事しろよ!

でも全員がオルテガさんに集まる為、お父さんとウルフが羨ましそうに指をくわえて眺めてるんですよ。
きっと…いえ、100%全員喰っちゃい済みなのだから、羨ましがるんじゃないつーの!
特にウルフ!!貴方には私が居るでしょ!!


まぁ、そんなこんなで辿り着きました王様のとこへ。
なお、アルルさんがボロボロなのです。
他の皆はそれ程では無いのですけど、アルルさんだけがボロボロのヨレヨレなのです。

何故かというとね…
ハイエナの様に群がるメイド群から、愛しのダーリンを奪還する為、アメリアさんがとった行動が、母娘(おやこ)フォーメーションなのです。

具体的に言うと、“協力”への同意を得ていないにも拘わらず、ママさんが娘さんを盾にして、メイド群へ突撃突破してダーリン奪取するという、画期的かつ斬新で開いた口が塞がらない作戦を実行したからなんですね。

ダーリン奪取した際は、硫黄島占領時に旗を立てた兵隊さん達の様に、独占物である事を誇示するディープで濃厚でアダルティーな“ちゅー”を披露するアメリアさん。
因みに、今作戦の参謀長はマイママです。


「よくぞ戻った勇者アルルとその一行…そして勇者オルテガよ!」
先程の“旦那奪還大作戦(DDD)”に思いを馳せていると、嬉しそうなラダトーム王が話しかけてきた。
まぁ、世界も平和になり、太陽を拝む事が出来たのだから“ゴキゲン”でしょうね。

尤も…王様ゴキゲン状態には、もっと別な理由が存在すると私は思います…つーか、此処にいる全員が思っておりますよ。
だって王様も隣に、ニコニコのお姫様が立ってますからね。

えぇ、アレです!
もてる男は辛いヤツです!
さてさて…どんなウルトラCを決めてくれるのか…すんっごく楽しみですぅ♥

「よ、よう…大魔王を倒して…も、戻って来たぜ!」
あははははは、大魔王の前でも不貞不貞しかったオルテガさんが、小太りのオッサンを前に緊張してますわ!
前世だったら、絶対動画撮影するのになぁ…

「オルテガ様…ご無事で何よりですぅ!」
きっとお姫様的には本心から言ってるんだろうけど、このタイミングって最高に最低だよね。
オルテガさんの表情が引きつりまくりよ。

因みに、我がパーティー内の面子を見回すと、概ねオルテガさんを哀れむ目で見ております。
私とお父さんとラン君だけが、心底嬉しそうに…しかも王家の人々とは別の意味で嬉しそうに眺めておりますわ。

「あ~…うん…き、聞いたよ…その…お、お腹の子供の事…」
「はい!私、オルテガ様の子供を授かりました!私…嬉しくって…」
どストレートに言っちゃいやがったよ。
オルテガさんは少しでも言葉を濁そうとしてるのに、お姫様って天然?

「そ、その事で…大切なお話があるんだよね!うん…あるんだよ!!」
「皆まで言うなオルテガ…王位継承者の父親になるのだ…我が王家の一員として迎えようぞ!」
キター!家督相続問題ですよ。

「お、王家の一員!?ば、バカ言うな…俺は平民だ!王族になる気も貴族になる気もサラサラ無い!何より俺には妻がいる。心の底から愛しているアメリアがいるんだ!子供の父親にはなるが、夫にはなれない………申し訳ないローリア…」

「ふ、ふざけるな!ワシの娘を孕ませておいて、その責任を取らないと言うのか!?」
「そ、そうなりまス…」
「そんな事が許されると思っているのか!?」
うん。父親としての意見では、そうなるわね。

「……し、知るか!さっきも言ったろ…俺は既に結婚してんの!ほら、愛しの妻…アメリアだ!」
でもオルテガさんは逆ギレる!
娘を持つ父親として、どうなのよその態度は?

「俺は彼女と結婚してて、娘もいる!そんな2人を守りたいから、単身大魔王討伐に旅立ったんだよ!もう差し違えるつもりで挑んだワケ…だから生きて還るつもりは無かったんだ…」
奥さんと娘さんを抱き締め、切実に訴える姿はちょっと心を動かす…

「娘が仲間を引き連れて俺を追ってきてくれなければ、間違いなくゾーマの城で死んでいただろう…そんな俺に責任を取るつもりなどある訳ねーだろ!死ぬ前に美女達と、やりまくってただけなんだから!」
だけど、本音を暴露っちゃったら全てが台無しだよ。
まぁ私としては面白いから良いけどね。

「私からもお願いします。勇者オルテガは決死の覚悟で挑んだのです…ですから、その覚悟の為のやむを得ない事だったと思って、諦めては頂けませんか?」
王家のお家騒動に口を挟むのはルビスちゃん。
お兄ちゃんの立てた作戦では、精霊神ルビス様の威光を笠に着て、ヤリ逃げを正当化させる予定なのだ…果たして上手く行きますかな?

「な、何だお前は!?関係ない者が口出しするでない!」
「わ、私はルビス…この世界を創造した精霊神ルビスです!」
う~ん…身分をひけらかす女神様…本人もイヤイヤなんだろうけど、観ていて気分の良いもんじゃないわ。

「ル、ルビス……? せ、精霊神ルビス…様!?」
お、皆さん動揺してますわ。
そりゃそうか…この世界の創造主にして全知全能の女神様なワケだし…
“全知全能”?…コイツがぁ~(笑)

「ほ、本当にルビス様ですか!?本物の精霊神ルビス様で在られますか!?」
「はい。大魔王ゾーマの力で石像に封印されておりましたが、アルルの活躍により救出されました。それ以後は彼女等と共に、大魔王ゾーマを討伐する旅へ赴いておりました」

「ルビス様…申し訳ございません、いくらルビス様の命令でも、これだけは認める訳には参りません!事は国家の威信に関わる事…跡取りの親が夫婦でないなどと…あってはならない事なのです!」
王様を始め、家臣の人々も恭しく頭を垂れる…
しかし気持ちは変わらない様で、お姫様と結婚する事を取り消さない王様。

「はい残念ティミー君!お前の作戦は失敗した様だよ」
そうね…これ以上話し合いを行っても平行線でしょうし…お兄ちゃんが立案した作戦は大失敗って事よね。

「くっ…では父さんならどうするんですか!?」
ニヤニヤしながらダメ出しをするお父さんに、悔しながら代案を提示させるお兄ちゃん。
きっと初めから代わりの作戦があるのだろうと私は思いますよ。

「僕?…そんなの簡単。プランBに移行するだけだよ!」
ほらね…
でも、“プランB”って何かしらね?

「「「プランB?」」」
お兄ちゃんとオルテガさんとルビスちゃんが、キレイに声を揃えて聞き返す。
「また適当な事を…」
でもお兄ちゃんは悔しさから、反抗的な台詞を…

「そう…きっと上手く行かないと思ってたから、僕なりの解決方法を考えておいたんだ!」
きっと上手く行かないなんて、酷いわよね…お兄ちゃんが彼女の父親の為に、一生懸命考えた作戦なのに。
でも私も上手く行かないと思ってたわ。

「いくらリュカの頼みでも、この件に関しては口出しはさせん!余計な事を言うでないぞ!」
あ、この王様(ばか)…お父さんに力押しは効かないのに…
余計厄介な事になるって分からないのかしらね?

「あ゙…口出しぃ~?………ビアンカ、マリー…」
一気に不機嫌な顔と口調になったお父さん…
私とお母さんに目と指で合図を送る。

事前に何も聞いてはいないが、大体予想はつく…
お父さんの指が、王様の右側の人の居ない所を指す。
だから私は、威力を落としたイオラを、その方向に向かって放ちます。

壁に大きな穴を開け、風通しを良くしました。
お母さんの方を見ると、私とは逆の壁に掛けられていた絵やカーテン類を、ご自慢のメラミで灰にします。
あ、一応断っておきますけど、死傷者は0ですよ。

「一つ聞く…ラダトーム国王、お前は僕の親友であるオルテガの敵か?」
この状態を見せられて『敵』と言うヤツが居れば、そいつは絶対に大馬鹿だ。
ナールだったら言うかもしれないわね。

「自らの命も省みず、世界の危機を救う為、単身旅立ったオルテガに対し、責任問題を持ち出して、彼の自由意志を奪うのであれば、キサマは僕の敵と見なす!」
ドラゴンの杖で王様の顔をグリグリしながら脅す、この素敵紳士は私のお父さんです!

「ま、まぁ待て………べ、別にオルテガの自由意志を奪うつもりなどない…ただ、娘を孕ませたのだから、責任を取って…ぐは!」
ダメよ王様…脅しモード(やくざモードとも言う)の時のお父さんに正論を言っても、余計怖い目に遭うだけなのよ。
胸ぐらを掴まれ、軽々と持ち上げられる王様…可哀想に(笑)

「理解して無いようだから教えてやる。キサマらが国家の威信と総力をかけても倒せなかった大魔王を倒したのは、今此処にいる僕等なんだぞ!キサマら国家より強い僕等が、何故キサマらに従わねばならないんだ?キサマら全員を殺して、僕等で新たなる国家を創り上げたっていいんだぞ!精霊神ルビスは僕等の味方だし、敵対するキサマらなんぞ物の数ではないのだから…」

嘘ね!
お父さんがそんなめんどくさい事を進んでやるとは思えないわ。
まぁ…連中には分からないだろうけどね。

「わ、分かった!ワシ等はお前等の敵ではない!ほ、本当だ…信じてくれ!!」
「ほう………言っておくが、中立も敵と見なすぞ…」
王様必死(笑)
2メートル程持ち上げられた状態で、半ベソかいて命乞いしてるわ。

「み、味方だとも!オルテガを始め、お前等皆ラダトーム王家とは味方だ!」
言質取ったね!
家臣の皆さんも、一斉に頷き敵対心が無い事をアピってます。

「う、生まれ来るワシの孫の父親として、ラダトームで暮らしてくれれば文句はない!そ、そうだろローリア!?」
「はい、お父様!私はオルテガ様がお側に居て下されば、他に何も望みません!」
よし、一件落着よね!

「どうよ…納得させたゼ!ワイルドだろ~」
王様を投げ捨て、私とお母さんの肩を抱きながら皆さんの下に戻るお父さん…うん、ワイルドですぅ!

「何が『プランB』ですか…脅しただけじゃないですか!」
「プランBの『B』は『暴力に訴える!』の『B』だ!」
おぉ…偽り無いじゃん!

「………か、母さんもマリーも、あんまり父さんの馬鹿な行動に付き合わないでくださいよ!」
「あらティミー…馬鹿だけど正しいわよ」
「そうよお兄ちゃん!極めつけの馬鹿だけど、お父さんは正しいのよ!」

非常識な父親と、それに同調する母妹(かぞく)にガックリと項垂れるお兄ちゃん…でも、
「…ふふ…ふふふ…あはははは!」
同じ気持ちのお兄ちゃんは、我慢出来ずに笑い出す。

そしてリュカ菌に毒された私達は、みんなして笑い出します。
まぁ、ルビスちゃんだけは苦笑いだけどね。
それでも王家の人々及び家臣等には、恐ろしい存在として映るでしょうね。

「あ、あのー…世界が平和になった事だし…国を挙げての祝賀会を催そうかと…思ってるんだけど…どう?」
少し脅えながら王様が宴を提案してきた。
本当はお姫様の婚約パーティーとして用意していたのだろうけどね。

「祝賀会ぃ~………」
でもお父さんは不機嫌な声で渋り出す。
何でよ!?

「う、宴を提案して不機嫌になられたのは初めてだ!」
「だって…大丈夫なの?飲み物に睡眠薬を入れたりとか…嫁を攫ったりとか…そう言うのしない?」
どんだけトラウマよ!?



 
 

 
後書き
さぁ、あとちょっとで完結です!
バレンタインデーまでには完結させるよ!
出来なかったら………メンゴ! 

 

進路指導のお時間です。

みんなハジけて大騒ぎ!
やっぱ偉業を成し遂げた後はこうでなくっちゃね。

最初はラダトーム王立音楽隊(仮)が優雅に…時には雄々しく、壮大な音楽を奏でていたのですが、音楽と聞いてマイパピーが黙ってるワケないのです。
ラダトーム王立音楽隊(仮)の演奏を遮る様にステージに上がると、ギター片手に歌い出しました。

銀○の主題歌を良く歌うDOESの歌です。
最初の『修羅』は○魂で流れていたので知ってましたが、他3曲は知りませんでした。
お父さんが、分かるわけないのに曲説明をしなかったら、DOESの歌だと分かりませんでしたから。

でも、凄くノリの良い曲だったので私もステージに上がり踊り出しました。
そうしたらお父さんが『リクエストはある?』って聞いてきたので、『残酷な天使のテーゼ』を要求。

お父さんの格好いいギター伴奏で、私は大熱唱です!
気持ち良くなってきたので、直ぐさま『ゲキテイ!』を歌い出しましたが、お父さんはサ○ラ大戦を知らない様で伴奏出来ませんでした。ちょっとガッカリ…

でもでも、その後に歌った『愛をとりもどせ!!』・『CAT'S EYE』は知っていたみたいで、バッチリ伴奏してくれました。
『愛をとりもどせ!!』はハモってくれたんですよ。ちょ~格好いい!!

因みにラダトーム王立音楽隊(仮)の皆さんですが…流石はプロです。
知らない(知るわけがない)曲でありながら、なんとなくのリズムで合わせてきましたからね!
凄いッスね。

いや~…歌って本当に良い物ですね!
歌い疲れたし喉も渇いたから、まだお父さんが歌ってはいましたがステージから下りて飲み物を探します。

一番最初に目に止まった飲み物が、赤く美しいワインだったので手を伸ばすと…
「ダメー!!マリーはお酒を飲んじゃ絶対にダメだから!!」
と、ウルフにものっそい怒られました。

何をそんなに…?
身体は子供だけど、中身はコ○ン君以上に大人なのよ。
それにこの身体で飲んだ事もあるし…
ウルフもそれは知ってるハズなのに…どうしたんだろう?


しょうがないので甘いメロンジュースを片手に会場を眺める私…
ステージ側のウルフに“お酒じゃないよ”と、軽く掲げてアピール。
彼も安心した顔でサムズアップ…その瞬間、お父さんがウルフをステージへと引きずり上げました!

私の彼は、私の父に掴まり、大勢が見守るステージ上で歌を披露しております。
こっちの世界で流行っている歌らしく、緊張しながらもお父さんと共に歌っております。
でも…お父さんは何時の間に憶えたのだろう?

とっても面白光景だったので、お兄ちゃん達と一緒に見物しようと思いましたが、会場内の何処にも見あたりません。
勿論ですがアルルさんも見あたりませんです。

“はは~ん…何処かでズコバコ励んでるな!?”と思い、彼女のパパママにチクってやろうと、オルテガさん・アメリアさんを探します。
しかし、このお二人も見あたりません!

コイツ等もか…何奴もこいつも盛りやがって!
私も盛りたいけど彼氏が囚われの身な為、断念です。
お母さんも禁欲しているワケだし、少しぐらいは我慢しないとね!


さて…禁欲生活数時間の私の目に、精霊神ルビス様のお姿が映りました。
何やらハツキさんとお話をしているみたいで真剣そうです。
でも私が近付くとお話が終わったみたいで、ハツキさんが離れて行きます。

ハツキさんにどうしたら巨乳になれるのかを尋ねようかと思いましたが、元愛人のステージにかぶりつき始めた為、止めました。
今、何を聞いても上の空だと思いますし…

代わりに…禁欲生活を続け、身も心も清らかになったと思い(こみ)、女神様へ近付きお話ししようと思います。
押しに弱そうだから、上手い事やれば何か良い物をゲット出来るかもしれません。

「ルビス様…ハツキさんとは何をお話ししていたのですか?」
本心を言えば、心底どうでもいい事なのですが、話の切っ掛けとして利用しようと思います。

「気になりますか?」
いいえ!
「ハツキさんは今後の事を考えておりましたよ…」
今後…?

進路指導中だったって事か?
ハツキさんは今後どうするんだろう?
つーか私はどうしようか?

グランバニアへウルフと共に帰る…
きっと…いえ、間違いなく幸せな生活が待ってるでしょう。
でも…もっと冒険もしたいなぁ………

うん。
ウルフと一緒に、安全かつ楽しい冒険!
あ、そうだ!ルビスちゃんに頼んで、DQ1かDQ2の世界にご招待してもらいましょう!

「ねぇルビス様。私ね…また冒険をしてみたいの!特にウルフと一緒に、広い世界を旅してみたいの!ルビス様も、今は力が回復しきって無いだろうから、我慢しますけど…力が完全に戻ったら、今回のご褒美代わりに、私達を冒険の世界に招待してくれませんか?」

「あら…貴女も自身を鍛えたいとお思いですか?」
“貴女も”ってどういう事だ?
「分かりました。少し時間が掛かりますが、必ず素晴らしい冒険の旅に貴女達をご招待致します!」

何だかよく分からない一言もあったが、ルビスちゃんに確約を取り付けたゼ!
う~ん…どんな世界だろうなぁ…?
DQ1はちと狭いから、DQ2だと嬉しいなぁ…

「完全に力が回復しないと行えないので、数年は待ってくださいね。その代わり、必ずお約束は守りますから!」
数年か…うん、丁度良いわよね。
私ももう少し訓練して、力加減を憶えたり、戦い方のレパートリーを増やしたりしたいもんね。

あぁ…でも楽しみだなぁ…
よ~し楽しくなってきたし、また歌っちゃおっと!



 
 

 
後書き
さて問題です。

何故ウルフは、マリーがワインを取ろうとした事に、怒ったのでしょうか? 

 

永久の別れと楽しかった思い出

大宴会の翌朝…
その日はハツキさんの重大発表から始まった。
「リュカさん…皆さん…一緒に世界中を冒険出来て楽しかったです。でも、今日でお別れです!アルル…世界の平和を手に入れたのだから、次は貴女の幸せを手に入れる番よ!」

どういう事なのか…?
決意に染まった表情で、私達と今生の別れを宣言します。
何で!?ハツキさんは、此処アレフガルドに残るかグランバニアに来るのだろうから、全員とのお別れじゃないよね!?

「ハツキ…どういう事なの!?」
「アルル…私ね、ルビス様にお願いしたの。『もっと強くなりたいから、別の世界へ送ってください』って!だからアレフガルドに残る事も、リュカさん達と一緒に異世界(グランバニア)へ行く事もないのよ」
つ、強くなりたいって…

「ウルフ…頑張ってリュカさんの義息(ムスコ)になりなさいよ!世界一大変な役職に…」
ハツキさんは弟の様な存在のウルフを抱き締め、別れの悲しさに涙する…
強くなる為に別の世界へ行く必要ってあるの!?

「ハ、ハツキ…どうして…一緒にグランバニアへ「言ったでしょ。私はもっと強くなる為に、新たな世界で修業するのよ!」
普段は子供扱いするハツキさんを鬱陶しがってたウルフだが、血の繋がりが無いとは言え姉との永遠の別れに、抱き付いて泣き出してしまう。

「ルビス様…私はもういいですよ。これ以上いても別れが辛くなりますし…」
だがハツキさんの決意は揺るぎない物で、暫くウルフを抱き締めると、一転して彼を遠ざけルビスちゃんに実行を願い入れる。

「ハツキ…新たな世界でも頑張れよ!自ら選んだ人生なんだから、自身に負けるんじゃないぞ!」
『黄金の爪』と『星降る腕輪』をハツキさんから返却され流石に驚いていたが、彼女の自由意志を尊重させるべく、お父さんは笑顔で送り出す。

「リュ、リュカさん!何でそんな簡単に納得出来るんですか!?強くなるって言ったって、別の世界に行かなくたってリュカさんが鍛えてやればいいだけでしょう!」
違うよウルフ…お父さんも本当は一緒に居たいんだと思う。
それでも彼女の自由意志を束縛する事の方が、お父さんには嫌なんだよ。

「ウルフ…自分の都合ばかりを言うな!ハツキだって色々考えた結果、この答えを出したんだぞ!寂しい気持ちはよく分かるが、ここは笑顔で送り出してやろうよ…」
「………うぅぅぅ……ハツキー!!!」

折角のイケメンなのに、顔を大きく歪ませて泣くウルフ…
再度ハツキさんに抱き付き、彼女を困らせる。
本心を言えば私も別れたくないけど、グランバニア行きを強制したら、彼女は心が不幸になると思う為、抱き付くウルフを離れさせ笑顔で語りかける。

「さぁウルフ…笑顔でお別れを言おうよ…」
彼も分かってはいるんだ…でも心が別れを嫌がってるんだと思う。
「…うん…」と、か細く答えると、泣きながらハツキさんと距離を取った。

「ふふ…ウルフは良い彼女を見つけたわね。でもリュカさんみたいないい男に早くならないとダメよ。大人で頼れるいい男にね!」
彼女も泣きながら自身の決意を優先させるべく、ルビスちゃんへと向き直り実行を急かす。

「ではハツキ…今までに経験してきた事は貴重な体験です。それを忘れず、新たなる世界でも頑張ってくださいね!」
ルビスちゃんも空気読んでほしいわね!ハツキさんは声を出すと泣き出してしまうんだと思うわ…だって無言で頷くだけなんだもん。

それでも我慢しきれなかったのだろう…
ルビスちゃんが唱えた魔法の光に包まれて、顔を歪めて号泣するハツキさんが目に焼き付いた。
私は彼女の泣き顔を忘れない…だからウルフと永遠を共にするんだ!











「さて…後は僕等だね…」
「そうですね…それで、何方が此処に残られるのですか?」
少し…いえ、大分しんみりした雰囲気になっていたラダトームの宿屋の大食堂…
その雰囲気を払拭させるべく、お父さんが明るい口調で語りかけ、ルビスちゃんもそれに合わせて喋り出す。

「そ、その事ですけど父さん…僕とアルルは共にグランバニアへ行く事になりました…」
「え!?何言ってんの?折角家族が一緒になれたのに、何でアルルをグランバニアへ連れ去ろうとするの?」
あぁ…そっか。この二人は、どちらで生きるのかを選択制になってたんだっけ。
私は勝手にグランバニアへ一緒に帰るもんだと思ってたわ。

「昨晩…オルテガさんを交えて話し合った結論です!僕とアルルは此方に残るよりグランバニアへ行ったほうが良いと、結論を出しました!」
何で?王子様の地位の方が良いって事?

「……………」「……………」
お父さんはオルテガさんを厳しい顔で睨んでいたが、暫くすると無言で頷き、
「そうか…オルテガっちの考えは解った…そう言う事なら僕は大歓迎だよ」

私には分かりません?今度ゆっくりと聞いてみたいと思います。
お父さんが教えてくれなくても、お兄ちゃんは教えてくれるでしょう。
きっと何か重要な理由があるのでしょうね。





「さて…ラングはどうすんの?ロマリアに帰れなくなっちゃったけども…どうせお偉いさんに嫌われてるんでしょ?僕達と一緒にグランバニアへ来る?本心はイヤだけど一応誘っとくよ」
私が別の事を考えてると、話はサクサク進んだみたいで、残りのメンバーの進路設定に話は移る。

「お心遣い痛み入ります。しかし本心を聞いてしまっては………是が非でもグランバニアへ行かねばならないでしょうね!これからもよろしくお願い致します!」
「………」
良いわね。ラン君もグランバニアへ来るなんて…楽しくなりそうじゃん!

「めんどくせぇ奴等がみんなグランバニアへ集まって行く…やっぱりこっちに残ろうかなぁ…」
凄く酷い言い様だけど、誰も反論出来ないお兄ちゃんの一言。
オルテガパパに助けを求めるけど、“シッシッ”ってされ見放されてる(笑)

「あはははは、諦めろティミー!帰ったらお前は王子として国民に発表してやる…ラングはお前の部下にしてやるから、喜んでプリンスライフを堪能しろよ!」
「げぇー!」
あぁ…大分お父さん色に染まって胃薬の使用量も減ったのに…これでまた増えるわね。

「よろしくお願いしますティミー殿下!私の経験上、私の上司になった方々は、80%の確率で過労と胃潰瘍になっておりますので、そこんところ留意くださいませ!」
残りの20%が気になるわ。
どんな精神の持ち主だったのかしら?

「おいカンダタ。大笑いしている場合じゃねーぞ!お前は絶対に連れて帰らないからな!」
他人事の様に馬鹿笑いしているカンダタに、お父さんが厳しい一言で先制パンチ。
カンダタはお父さんの事が苦手だろうから、言われなくてもグランバニアへは来ないだろうと思う。

「な…べ、別に俺はこっちに残るつもりだけど、そんな言い方ねーだろ!」
でも言い方が気に入らなかったのね…
まるでグランバニアへ行きたい様な台詞になっちゃってるわ。

「すまんすまん…つい感情が表に出ちゃったみたい。でもお前を連れて行かないのには理由があるんだよ」
大事な息子をからかう馬鹿だから…ってワケじゃなさそうだ。
馬鹿(カンダタ)を宥めながら語る話に興味津々!

「僕の世界にも『大盗賊カンダタ』ってのが居たんだ。もっとも、もう死んじゃってるけどね(笑)」
「何でそこで笑うんだよ!?」
「うん。だって殺したのは僕だし(大笑) ちょ~うけるよね~!」
どういう神経をしてるんだ!?本人を目の前に、殺した事を爆笑するって…

「ぜ、全然笑えねーよ!俺とは他人だと判っているけど、いい気分じゃねーよ!それに殺す事は無かったんじゃねーのか?アンタ何時もやりすぎなんだよ!」
「え~…だってぇ~…あの馬鹿、僕の家族を殺すって言ったんだよ!そんな事を言われたら、生かしとくワケにはいかないでしょう!?」
あ、それはカンダタが悪い…お父さんは家族の事が大好きだから。

「う…わ、分かったよ…た、確かにそっちのカンダタは、地雷踏んだよ……でもさぁ、そっちのカンダタが死んでいるのなら、俺が行っても問題なくね?」
そういやそうだ…是非とも来て欲しいとは思わないが、断固拒絶する理由も無い。

「そう言う訳にもいかないよ」
やっぱ“息子を馬鹿にする”からか?
何度殺さずに、命を助けてやったか分からないからか?

「僕の世界のカンダタはね、世界各地で悪行の限りをやり尽くしたんだ。『カンダタ』って名前だけで、人々は忌避する存在なんだよ。『死んだカンダタとは別人ですよー』って言っても、みんな憎しみを拭う事は出来ないんだよ…」

「確かにそうかもしれねーな………でもよ、それだったらこっちの世界でも同じだろ!?でも各国の王様に頼んで、改心した事を広めてもらえたから、大きな問題も起きなかったんだぜ!旦那はグランバニアの王様なんだろ!?世界中に『カンダタは良いヤツ』って広めてくれれば、俺もそっちで暮らし易くなるんじゃねぇの?」

「えぇ~…ヤだよ、めんどくせー!何で僕がお前の為に、各国の代表等にお願いしなきゃならないんだよ?『その代わりに…』とか言って、めんどくさい事を押し付けられたらどうすんだよ!?お前、外交折衝をなめんなよ…くだらねー事でも、後々言ってくるんだぞ!」

「わ、悪かったよ…そんなに怒るなよ…どうせそっちに行く気は無いのだから、別にムリしなくてもいいって…」
だったら、そんなにしつこく食い下がらなければ良いのに…
お父さん、ちょっとイライラよ。



さて…後はミニモンとアホの子だけね…
ぶっちゃけ私としてはどちらも置いていきたいけど、モンスターが普通に人間と生活出来る環境ってグランバニアぐらいなもんでしょ。

ミニモンを連れて行くって事は、アホの子も連れて行かないと愚図りそうだし…
邪魔よねぇ……
本人も雰囲気を察知したらしく、『ラーミア、リュカと一緒に行くゾ!リュカと逢えないのはイヤ!まだセッ○○してないんだゾ!』って叫ぶし…
将来、アホの子から私の妹が生まれたりして(笑)





「これで永久の別れだなリュカちん…」
「ああ、アルルの事は任せてくれ。僕の自慢の息子が絶対に幸せにするから…」
短い間だったが、古くからの親友の様なリュカテガが、ガッチリと握手を交わし互いの別れを惜しみ合う。

息子(オレ)(むすめ)に手を出すなよ!(笑)」
「…………………………」
実の娘になら絶対に手を出さないが、血の繋がりがなければどうだろうか?

「な、何で黙るんだよリュカちん!」
「あははははジョークだよ、ジョーク!大丈夫、僕は他人(ひと)の女には手を出さない。勿論知らなければ手を出しちゃうけどね!(笑)」

果たして本当に冗談なのだろうか?
私はお兄ちゃんと顔を見合わせ、将来の不安を想像する。
尤もお兄ちゃんは真剣な表情で…私は半笑いでだけどね!


「ではリュカ…もうよろしいですか?彼方の世界で、マスタードラゴンが準備を整え待ってます」
「おう、そうだったね!あのヒゲメガネに会って、今回の落とし前をキッチリ付けさせないとね!」
う~ん…お父さん楽しそうだわ。

ルビスちゃんが呪文を唱え準備をしている間も、私達は互いに別れを惜しみ合う。
「それじゃぁアメリアさん…旦那さんを放しちゃダメよ!」
「うん…ビアンカさんも愛人なんかに負けないで!」

「おいウルフ…尻に敷かれないよう気を付けろよ!」
「流石はカンダタ!経験者の言葉は重みが違うぜ!」

「モニカさん。そいつが悪さしないように、キッチリ手綱を握っていてよ!」
「マリーこそ…あの男の弟子を彼氏にするのだから、気を抜くんじゃないよ!」

光が私達を包み、視界が消え去るその瞬間まで…
一緒に冒険をし、楽しい時間を共有した仲間と…
大好きな異世界の家族との思い出を胸に刻みながら…

もう…二度と会えない大切な人々の事を惜しんで。



 
 

 
後書き
明日も0:00に更新するよ。 

 

グランバニアよ、私は帰ってきた!

「「「お父さん!」」」「「「リュカ!」」」「「リュー君!」」
私達を包む光が消え、視力が戻り焦点を合わせると、喧しい女共がお父さん目掛けて駆け寄ってきた!

そんな中、他の女共を押し退けて、自分一人だけ抱き付く美少女が1人…
リュリュお姉ちゃんである!
変態的だとは思っていたが、この一年ちょっとで強引性も身に着けましたね。

「ずっる~い!リュリュちゃん卑怯すぎー!」
頭の揺るそうな口調なのはスノウ。
「そうよ!お母さんを差し置いて何て事を…親不孝でしょ!」
口調も頭脳も一般だが、実は何処かおかしいシスター・フレア。

「うるさーい!私は女王様なのよ…私が最優先なの!」
あぁ…この騒がしさ…私は帰ってきたんだわ。
………って“女王”と言いましたか?

「お兄ちゃん会いたかったわ!私、お兄ちゃんが居なくて寂しかったの♥」
どういう事なのか聞こうと思ったら、大好きなポピーお姉ちゃんが現れて、お兄ちゃんにご挨拶ですぅ♥

「夜、一緒に寝てくれるお兄ちゃんが居なくて、身体が疼いちゃってるの……だ・か・ら・お願い!!」
巨乳を押し付けて、ありもしない禁断愛を彼女(アルル)さんに見せつけます。

以前の青虫童貞野郎だったら、『バ、バカ!そ、そんな事…し、した事ないだろ!!(汗)』って疑わしい行動を取っただろうけど…
別世界の大冒険で、お兄ちゃんは成長したのです!

「僕もだポピー!!」
「え!?」
お兄ちゃんは人目を憚ることなく、ポピーお姉ちゃんを抱き寄せ、愛おしそうに頬擦りをかまします。

「会えなくなって初めてお前の愛しさに気が付いた!もうお前を離さないぞ…あんなヘタレとは別れて、僕の下へ戻ってこい!僕がお前を幸せにしてやるから」
しかも近親相姦発言で妹を離婚させようと目論みます。

「お、お前誰だー!!!」
焦るのは先に仕掛けたポピーお姉ちゃん…
帰還組以外、全員唖然と固まる中、大声を上げお兄ちゃんを突き飛ばし、ドリスさんの後ろへ逃げ隠れます。

「誰って…お前の大好きなお兄ちゃんだよ。さぁ…おいで…抱き締めてあげるから」
「ふざけんなー!そんな女の扱いに慣れた兄など私には居ない!あ、あの青臭いティミーを返せー!!」
なおも近寄りポピーお姉ちゃんを抱き締めようとするお兄ちゃん…まさかポピーお姉ちゃんがお兄ちゃんから逃げる日が来るとは…

「何か酷い事言われた。アイツから持ち出した話題なのに…どうしようかアルル?」
「イケメンのお兄ちゃんが帰ってきて、激しく照れちゃってるのよ。可愛い義妹(いもうと)が出来て私も嬉しいわ」
代わりにアルルさんが抱き締められ、まったりイチャつく兄カップル。

「くそーお前だな!私の大好きな青臭いお兄ちゃんを変えたのは!?」
マジで慌ててたけども、即座に冷静さを取り戻すポピーお姉ちゃん…
流石ですね。

「ふふ…どうやらステキな(ひと)みたいね。…でも予想外ね」
「え!?な、何が予想外なの?」
きっとオッパイの事だと思う。

「うん。ティミーは巨乳好きだと思ってたから…平均値以下よねソレ!」
ほらね…お兄ちゃんは、みんなに“巨乳好き”と思われていたから、アルルさんのソレを見て驚きを隠せないでしょう。

「ちょ…放っといてよ!」
「ポピー…お前は勘違いをしている。僕は父さんと違って、一部分だけにこだわりを持ってはいない!惚れたリュリュが巨乳に育っただけで、元々大きさなど気にしてはいない!お前の新しい義姉は、可愛くて優しくて素晴らしい女性(ひと)だぞ!」

「アラそうだったの…でもそれじゃ物足りなくなるでしょ?そうしたら何時でも言ってね。私のオッパイを貸してあげるから!」
どうやら、まだ分かってないポピーお姉ちゃん…
自らの巨乳を見せつけ、お兄ちゃんをからかおうと試みる。

「ありがとう…では早速」
「ぎゃー!!お、お前何考えてんだ!?」
「え?だって何時でも貸すって……」
お兄ちゃんは目の前に差し出された巨乳を鷲掴み、ポピーお姉ちゃんに悲鳴を上げさせる。

「ふざけんな馬鹿!お前の乳じゃないわぁー!!マイダーリン専用だボケェ~!!」
ポピーお姉ちゃんにも恥じらいの心があったのね。
やっぱり一応は女の子だったのね!

「はいはい…だったら無闇に乳を差し出すな!もう少し女の子らしく振る舞いなさい…」
初めてこの双子が“兄と妹”なのだと思えました。
今まで立場が逆だったからなぁ………

「くそぅムカツク!童貞を脱しただけで、こうも変化するとは…面白くない!」
「ポピーお姉ちゃん…そんだけ女の存在は偉大って事よ。彼女(アルル)の所為でお兄ちゃんが変化したんだからね!」
ふふふ…私達はこの冒険を通して、大幅に成長してきたのですよポピーお姉ちゃま♡

「ほ~ぅ…随分と言うようになったわねぇ…少女から女になって、貴女も随分と成長したみたいじゃないの。その()貴女(マリー)彼氏(ペット)ね!?」
「ペ、ペットじゃないわよ!」
ちょ、ペットじゃないってば!

「あはははは…まぁ似たようなもんですよ。初めましてお義姉さん、俺はウルフと言います。マリーの彼氏ではありますが、お義姉さんのバター犬にならなりますけどどうでしょう?」
うわっ…やっちゃったよ、この子…お父さんの次に喧嘩(トラブル)を売ってはいけない相手に、爽やかスマイルで売っちゃったよ…私フォロー出来ないからね!

「あ~ら…随分と面白い事を言うワンちゃんね。じゃぁ早速ペロペロしてもらおうかしら……ほら、跪いて顔を突っ込みなさいよ!」
こうなっては意地を通してペロペロし、ポピーお姉ちゃんにボコボコにされるか、プライドを捨て平謝りをし、一生ポピーお姉ちゃんに顎で扱き使われるか…選ぶのはウルフだ。

「ご、ごめんなさい…調子こいてました、ごめんなさい…もう言いませんから許してください…」
正しい判断だと思う。
きっとお兄ちゃんがやり込めたのを見て、軽い気持ちで発した台詞なんだと思う…
でもダメよ…この(ひと)は怖いんだから。

「ほらほら、もういいだろ?その辺で許してやれよポピー。そんな事よりも現状を教えて欲しいのだが?」
哀れな弟子に見かねたお父さんが、助け船を出した。
あのまま続いてたら、裸ひん剥かれ笑い者にされるまでポピーお姉ちゃんは許さなかったと思う。

そんな事を考えていると、ポピーお姉ちゃんやリュリュお姉ちゃん達が、私達の居なかったグランバニアをどの様に維持してきたのかを説明された。
まさかリュリュお姉ちゃんが女王様をやるとは………大胆ね!




「………なるほど、大まかには現状を把握出来た」
「ま、まぁ…そう言う訳で、概ね平和を維持してきましたよ。よかったですね~…で、では私はこの辺で「待てヒゲメガネ!」

確かに…大きな問題は起きてないし、概ね平和な状況であるみたいだから、“一件落着”と言っても良いのだけれど…
勝手に拉致った事をお父さんが許すはずない。

「お前…何しれっと帰ろうとしてんの?」
「な、何がですか!?も、もう私は必要ないでしょう!貴国の問題も解決したのですから…」
きっとポピーお姉ちゃんに酷い目に遭わされてきたのだろう…
神様なのに、心底逃げ出したい気持ちが滲み出ている。

「お前ねぇ…僕を拉致った事への償いはどうすんの?」
「そ、それは償ったではないですか!?蒸気機関に代わる新たな動力源の技術提供をする事によって!…ポ、ポピーさん…貴女からも言ってくださいよ。私は役目を果たしたって!」
神様なのに、人間の女性に助けを求めるヒゲメガネ。

「…はぁ………分かったわよ。そう言う約束だったしね………あのねお父さん、今回「ダメだよ。あんな技術を提供されても意味がない!」
だがしかし、簡単に許さないお父さん。
一体何がダメなのでしょうか?

「むしろ余計な事をしてくれたんだよプサン!」
「ど、どういう意味です?」
便利で素晴らしいと思うのですが…何がいけないの?

「いいかい…代理として任されたリュリュやポピーは、必死で現状維持を試みるから天空人の技術提供を強く要望するのは当然だ。でもね…僕のプランでは、末端への輸送手段は講じるつもりは無かったんだよ!」

「で、でもお父さん…各所で配送待ちの荷物が溢れて、結構な被害が発生してたんですよ!?特に食料品は直ぐに腐敗してしまうので、国家レベルの問題でした!」
そうよ…国家プロジェクトとして、輸送流通のシステムを構築した事に問題は無いはずよ。

「うん、そうだね。問題は解決しないといけないよね。でもね、それに神様の力を借りてはダメなんだよ。…つかプサンも断れよ!使い方次第で危険な技術の提供に反対しろよ!セーフティーを付けたからって安心出来る代物じゃねーんだぞ!」

スゲー…
普段は何でも丸投げにするのに、国家の事となるとちゃんと考えて色々行ってるんだ…
でも、どうすれば良かったのかしらね?

「じゃぁお父さんはどうするつもりだったの?私も色々考えたけど、他に解決方法が思い当たらなかったのよ!」
メインブレインを務めたポピーお姉ちゃんが、困惑しながらお父さんの真意を尋ねる。

「末端への移動手段を考えるのではなく、その場での保存手段を考えれば良かったんだよ。確かに民は少しでも早い流通手段を求めてくるだろうけど、全てを王国家で行う必要はないんだ」
「ど、どういう事ですか?リュカは国民が求める事を無視するつもりだったんですか?」

「これだから『神』とか呼ばれている連中は馬鹿なんだよ!」
「ぐっ…」
「国という物を造るのには、リーダとなる国王と、その下で働く国民との連携が必要不可欠なんだ。つまり、国王だけが頑張って国造りを行っても、国民にその意思が芽生えなければ、何れ国は崩壊する…だから、ある程度の道は築いても、その先は国民に任せる事も必要なんだ」

つまりは民営化ね。
競争相手を作る事で、事業に失敗すれば倒産するという危機感を植え付け、各企業間で切磋琢磨する状態を作りたかったのね。

「全てを国営化したって国は衰退して行く…半分以上を民営化する事で、国民同士が切磋琢磨して成長して行くんだ。国家はそのサポートを行うだけで、全てを我が物にしてはいけない。…何でソレが解んねーんだこの馬鹿神(プサン)は!?」

「し、しかし…ポピーさんに頼まれて…その…」
「ふざけるなよ…俺の(ポピー)に罪を被せるのか!?お前が神として、人間の事を深く理解していれば今回の件は防げたんだろうが!お前は人間の事を知らなすぎる…人間を知らず、身勝手な振る舞いをするのが神というのならば、お前は正に神様だ!」
あ~あ…ポピーお姉ちゃんに罪を着せようとしたから、お父さんの怒りを買っちゃった。

「うっ…も、申し訳ありません…で、では今回の技術は返却という事でよろ「このバ~カ!出来る訳ねーだろ、そんな事!」
そうよ!
あんな便利グッズを手放せるわけないじゃん!

「人間って言うのは、一度でも便利な事に馴染んでしまうと、過去の不便には戻る事が出来ないんだよ!もう国内で出回っているんだろ!?」
「はい…大至急で配備しましたから…」
みんなお父さんの怒りは怖いのだろう…
何時もは説教する側のオジロンさんも、直立不動で即答大臣。

「だったら回収できるわけねーだろが!そんなことしたら暴動が起きかねないぞ!解ってて言ってるのか馬鹿(ヒゲメガネ)!」
「で、では…どうすれば…」

「今更技術は返せない…だから未来において戦争利用などを防止するよう、今の内から子供達に教育して行かねばなるまい………義務教育がこういう風に役立つとはねぇ…流石は日本だ!」
私と違ってお父さんは、前世で色々考えて生きてたんだ…

「日本…?それは何ですかリュカ?」
「ん!…あぁ、お前は気にするな!それよりも、今回の賠償を払ってもらうぞ!」
「え!?技術を提供した上に賠償を迫るんですか?」

「当たり前だ馬鹿!余計な事をしたんだから、それが賠償になる訳ねーだろ!」
「わ、私はどうすれば…」
「うん。お前……新たに国を造って国王になれ!」

「……………はぁ!?」
まったく『はぁ!?』だ。
何を言ってるのでしょうか?国を造れって…どういう意味でしょうか?

「あぁ別に『国王』じゃなくてもいい…『神王』でも『皇帝』でもなんでもいい!ともかく天空城を地上に降ろし、領土を確保して国家を立ち上げろ!そしてそれを統治すれば、もう少し人間の事が解ってくる…国王を勝手に拉致る事の重大さも!」

国を統治する事の大変さを身を持って味あわせようって事かしら?
でも世界を統べる神様に、一国家を統治させても意味がないのでは?
あれ…でも神様って、一体私達に何をしてくれてるのかしら?

「そ、そんな事出来る訳ないでしょう!私は神として世界を統べなければならないのですよ…なのに、一国家だけに限定して統べるなんて…」
「何言ってんだお前…大昔に『世界は平和になったから、神の力を封印して普通のオジサンになりたい!』とか言って、世界を統治する事を放棄したのはお前だろ!その所為でミルドラースが台頭し、光の教団なるインチキ宗教が世界を混乱させたんだぞ!」

「で、ですが…「それにそうすれば、今回のように神の力を求められても、人間の力で解決する方法を提示する事が出来たんだ!」
確かにその通りだ。
人間と同じ目線じゃないから、助けを求められても余計な事をしてしまうんだ。

「もしくは天空城をよこせ!」
「な、何でそうなるんですか!?」
急に発生する無意味で無関係な要求。だがしかし…

「天空城をセントベレス山の麓に下ろし、リュリュに女王になってもらう!グランバニアと強い繋がりを持ち、国交を互いに支援し合って発展を促す存在になってもらう。天空城を渡したくないのなら、その役目をお前がやれ!グランバニアは国家として新たなる国に支援を惜しまない!共に未来を築いて行こうぜ!」
ちゃんと考えての発言に誰もが驚きます。

「か、簡単に言いますが…大変な事なんですよ…」
「そんなのは言われるまでもない!でもお前がやる気を出すのなら、直ぐにでもラインハットとテルパドールに使者を派遣し、共に支え合っていくよう要請する。どちらも即答でOKしてくれるだろう。あぁついでにルドマンにも商業面で協力を依頼しよう!」
お父さんはヒゲメガネに手を差し伸べながら、優しい口調で協力を約束する。

「後はお前が決めろ…天空城はセントベレス山の麓に下ろす事は決定事項だ。そこを統治するのがお前等天空人か、僕の手の者なのかはお前が決めろ!…それでも神として、国の統治など出来ないと言うのなら、天空城を捨ててこの世界から消えろ!力を封印して人間世界に浸るような神など、この世界には要らない!僕等の世界から出て行け!」
「……………」

お父さんの持論なのだろう…
“人の世界に神は要らない”人として成長をしていく事に意味があり、神が超人的な力で手を貸し、成長を阻害する事などあってはならないのだと、常に考えているのだろう。

「私に…国を統べる事が出来ると思いますか?」
「一つの国家も統べれないで、この世界全体を統べようとするのは止めてもらいたい…滑って痛い目を見る前にね」

お父さんのギャグが面白かったのではない…
でも、プサンは笑いながらお父さんと握手を交わす。
この世界に、新たな国家が生まれた瞬間だった。



 
 

 
後書き
次話は最終話です。
マリーちゃんの決意にご注目。 

 

私達の故郷・私達の生き方

お父さんの楽しいお遊びタイムは終了を迎える。
一年半以上…そんな長時間を、(しがらみ)を忘れ遊び耽ったのだ。
これからは真面目に王様をしなくてはならないだろう!

本人もその事は理解しているのだろう…
大臣達にテキパキと指示を出し、表情も風来坊から国王陛下へと変化していた。
働くパパはどんなパパでも格好いい!………でも、おちゃらけるパパも大好きです!


「じゃぁティミー…悪いけど国王の代理として…いや王子として各地に赴き、新国家の誕生と支援の要請を伝えてきてよ。ポピーには悪いけど、旦那の所に帰るのはもう少し待ってもらい、テルパドールとサラボナ…最後にラインハットへルーラでティミーを連れて行ってやってよ」
「「はい」」

早速、お兄ちゃんに王子としての仕事が訪れました。
ポピーお姉ちゃんも久しぶりにお父さんに頼られて嬉しそうです。
大幅な成長をした今のお兄ちゃんと、ポピーお姉ちゃんが手を組んだら、向かう所敵なしに違いないと思います。

「それとリュリュとウルフも一緒に行け!お前等もルーラが使えるようになったのだから、この機会に行ける範囲を広げる事!それと自分だけじゃなく、大人数を移転出来るように修業する事!」
「はい」「分かりました」

早速ウルフを鍛え上げるべく、リュリュお姉ちゃんと共に世界を巡らせようと考えるお父さん。
私もウルフと一緒にお出かけしたいけど、お仕事であるのなら我が儘我言えませんよね…
以前の私だったら、ブリッ子しながら我が儘言ってたけど、今の私は成長しました…本音は一緒に行きたいけどね!

「おいラング…お前も行けよ!お前は既にティミー殿下の部下なのだから、可能な限り付き従えよ!」
「無論そのつもりです」
ティミー殿下の部下であるラン君は、同行を許可されました!

ずる~い!
何でアイツは付いて行けるのよ!?
私だってウルフと一緒に、世界中を巡りたいのにぃ!

ラン君の同行を羨ましく眺めて(睨んで)いると、アルルさんと目が合いました。
彼女もダーリンと一緒にイチャりたい様で、ラン君の同行を不満に思っているご様子…
となれば結論は一つ!
アルルさんと頷き合い、勝手にウルフ達の輪の中へ紛れ込む私達。

「………じゃぁついでだ…山奥の村にでも寄って、お爺ちゃんに彼氏彼女の報告をしてこいよ。温泉にでも浸かってさ…」
話の解る上司…もとい、お父さんは寛大で、私達の同行も認め、山奥の村行きまで勧めてくれました。

「本当に王様なんだなぁ…あの姿を見るまでは信じられなかったけど…」
ウルフがお父さんの王様ぶりを見て、驚ききったコメントを呟く。
気持ちは解るけど、私のお父さんなのだから見くびらないでほしいわね。

「ちょっとウルフ君!私のお父さんは凄いんだからね。見くびっているとマリーちゃんの彼氏でも許さないわよ!」
でた…一級品のファザコン娘が!

両頬膨らませ、可愛い仕草で怒りを表すリュリュお姉ちゃん。
並の女がやったらムカつくだけだが、彼女がやると抱き締めたくなるのは何故だろう?
魔性の女はこれだから怖い。

「う、美しい…」
誰かが私の後ろで呟いた。
慌てて振り向き、誰かを確認すると………

「ラ、ラングストンさん………?」
そうです…一瞬お兄ちゃんかと思いましたが、声が全く違います。
正直驚きすぎて愛称で呼べませんでした。

「はっ!…そ、そうですぞウルフ殿!リュカ殿は…い、いやリュカ陛下は素晴らしいお人ですゾ!侮辱するなど私が許しませんゾ!!」
人を食って掛かる事に長けているラン君が、アッサリ飲み込まれてしまう程リュリュお姉ちゃんの魔力(天然物)は強力なのです!

「「「「「一番気を付けるのはお前だろ!」」」」」
みんなで仲良くツッコみました。
まぁ、リュリュお姉ちゃんは除外されましたけどね。





「そう言えば父さん…」
グランバニア王太子一同が出かけようとした瞬間、リーダーのティミー殿下が急に何かを思いだし、国王陛下に問いかけました。

「新しい国は何という名前なのですか?名前も分からないのに各国へ支援要請は出来ませんよ」
………そっか、名無しの国じゃ不便よね!
う~ん………何が良いのかな?
『マスタードラゴンと愉快な下々王国』なんてどう?

「プサン…お前の国なのだから、そっちで考えろよ!」
あ、『ヒゲメガネ同好国』は?
いや、それとも『トロッコランド』ってのはどうよ!?

「無理矢理建国させといてそれはないでしょう!リュカのセンスを披露してくださいよ!」
私も色々考えてあげてるのだが、中々良いのが浮かばず…また、建国する王と建国させる王にも、思い浮かぶ事が無く、名前付け段階で頓挫の危機です。

「あの…私…この世界に故郷が欲しいので『アリアハン』って言うのはダメですか?」
打開案を提示したのは、異世界よりやって来た元勇者アルルさんです。
郷愁から提示した『アリアハン』を掲げ、名付ける事に向いてない二人を説得する。

「いいんじゃないですかソレで…」
「プサンがいいって言うのならソレでいこう!」
だが、名より実を優先する二人には、心底どうでもよい事だったみたいで、軽い返事で決定されてしまった。いいのかそんなんで?







こうして私達の世界に新たな国家『アリアハン』が誕生しました。
自ら推し薦めた建国騒動の為、お父さんは珍しく真面目にサポートをしており、政務に追われちゃってます。

その所為か、お兄ちゃんと共に各国を巡ってきたウルフを、強引に国王主席秘書官へと登用し、政務を手伝わせております。
折角イチャラブなプリンセスライフを堪能しようと思ってたのに…

でも、それで良かったのかもしれません!
何故なら、ウルフが暇を持て余したら一大事になりそうだからなのであります!
ヤツ………マヂで師匠に似てきたがったよ!

偶に仕事をしている様子を見に行くと、所構わずメイドをナンパしてやがりますのよ!
しかも口調がお父さんソックリなんです。
危険です…私の彼氏が危険です…愛人やら子供やらを其処彼処で量産しそうな気配がします。

ダメです!絶対にダメなんです!!
阻止せねばなりませんよね!?
どうすれば良いのでしょうかね!?

私も浮気をしてやりましょか?
……………いやダメだ!そんな事をしても効果があるとは思えない…『じゃぁ俺も負けてられない!』とか言って張り合ってきそうだ。

お父さんだったらそうする様な気がする…
それに私の趣味が偏っているから、ウルフが嫉妬する様な浮気が出来るとは思えない…
どん詰まりじゃん、私!

やはり正攻法しか無いのか…
最近、結構な勢いで成長している私だ…そして私が成長するという事は、お母さんの遺伝子をフル活用するという事であり、自分で言うのもアレだが…凄い事になってるよ!

脱幼児体型!祝セクシー美女!!
そうさ!常に際どい服を着る様にし、(ウルフ)のリビドーをガンガン刺激しまくって、私以外に目が向かない様に仕向けるしか方法はないのだと考えます!

仕事で疲れていようがお構いなしに迫り、常に欲求を吐き出させ、欲望を枯渇させておかねば、(ウルフ)は他の女に目を向けてしまう!
(ウルフ)は私だけを見ていれば良いのです!

頑張ります!私、頑張っちゃいます!!
負けませんから…他の女には、絶対に負けませんから!!
だって………ウルフの事が大好きだから!!


 
 

 
後書き
DQ3(別視点)もこれで完結です。

私の予定通り、彼女を成長させる事が出来、大満足であります。
予想外だったのが、ウルフの成長が凄かった事ですね。
あれ程までヤバイ感じに成長するとは………恐ろしい子!