~異世界BETA大戦~ Muv-Luv Alternative Cross Over Aubird Force


 

プロローグ

 
前書き
初投稿なので、改行やら段落やら後で手直しするかも知れません。
見づらかったら、すみません。
2017.2.2一部修正しました。 

 
 ―――何もない暗闇の中、まるで宙に浮いているような感覚しかない。
手や足の感覚も、あるのかさえ良くわからない・・・・。
・・・俺眠ってる?あれ?今俺はどうなっているんだ??
そういえばタクシーに乗って、クライアント先へ急いでいたような・・・・間に合わないので急いで欲しいって運転手さんに無茶振りして・・・・そしてその直後ふと右を見たら大きなダンプが突っ込んできた!びっくりして「おわ――――っ!」と思ったら全身ふわっと浮いた感じになって・・・・あれ?その後どうしたんだっけ??・・・・・・。

どれくらい時間が経ったのかわからない・・・・・そしてそう思ったとき“この場所”は突然まばゆい光に包まれた―――――――それはたった一瞬の事だった。
でもなぜか頭の中にいろいろなイメージが流れてくる。
それはまるで映画のワンシーンを見ているような感覚を覚えた。
小さな女の子と一緒に公園で遊んでいた。そこに双子の姉妹が運転手つきの豪華な車でやってきてメイドらしきお姉さんにつれられてみんなで仲良く話をしている。
そしてまた場面は変わって学校、高校?の授業風景・・・次々と頭の中をイメージが駆け巡ってゆく。
なんだろう? 少しだけ覚えがあるような気がするけど、よくわからないな。
ん?そうか!3次元なのでピンと来なかったが、さっき公園にいたのは白銀武の幼馴染の鑑純夏だ。
双子姉妹は・・・・悠陽と冥夜か!俺はゲームの映像を思い出してたのか。
そして今度は靄のような中に入って外に出たと思ったら何かのコクピットらしきところにいる。
戦場の(アーケードゲーム)のような操縦ユニットを操って、モニター?違うな、眼に直接映ってる?網膜投影?で計器を確認しながら外にいる変な怪物と戦っている光景だ。
気持ち悪い怪物――――ちょっと待て、こいつ見たことがあるぞ?!・・・・・・・・BETAだ・・・・。
そうか、俺は今戦術機に乗ってるのか!しかし俺はなんでマヴラブの敵キャラなんか思い出しているのだろう?そりゃ一時期寝食忘れるくらいプレイしていたけど。でも映像もリアルな3次元なのが不可解だ。新製品?
こんなの見たこともないし、3次元のBETAはリアルすぎて2次元と比較出来ないくらい、とても・・・気持ち悪いです・・・・ほんと吐き気をもよおすような嫌悪感だな。
そんなことを考えてると、こんどは香月夕呼先生・・・かな?をはじめとしてマヴラブでなんとなく特徴に見覚えのある顔が次々と現れては消える。何せ実写版なんて見たことないけど、たぶん、合ってると思う。
しかし、まりもちゃんも良いけど夕呼先生・・・・とても美しい。

 そして最後にあの特徴的なアホ毛が――――純夏だ。
3次元のアホ毛ってほんとにアホっぽいな・・・・。
ん?他のキャラと違い、純夏だけはなぜかゆっくりとこちらに近づいてくる。
『アホっぽいとか大きなお世話だよ!(怒 』うええ?!やっべ、お怒りだ・・・。
「す、すみません・・・。」と思わず真面目に謝罪した。
『はぁ・・・・もういいよ、タケルちゃんで慣れてるから・・・・』純夏は盛大にため息をつきながら許してくれた。
「え?」そっか、純夏はタケルちゃんにさんざんからかわれていたっけか。

『そのかわりタケルちゃんを・・・・お願いします。』
「ん?お願い??」
『もう時間が無いから簡単に説明するけど、ダイスケさんの魂は私たちの世界を救える鍵のような役割を担う性質があるの』
「どゆこと?」
『因果律導体は知っているでしょ?似たようなものって思ってください』
「ほむ・・・・・・・・」難しい話になってきたな。文系の俺にはちとハードルが高いな。

・・・ちょっと待て?!今何気に重要なこと言ってなかったか?俺の魂?え?俺死んだの?
『落ち着いて聞いてね・・・・ダイスケさんの想像通り、ダイスケさんは死んでからここに来たみたい』
「なんですとぉぉぉぉぉ?!なんでそんなことがわかるんだ??ホントなの??いや嘘に決まってるって!そもそもこれは夢だしな、はははは・・・・。」もう俺の混乱はマッハを超えている。

『夢じゃないよ。これも現実。だけどまだ不確定の現実。ダイスケさんの魂が次の世界に転移して受肉したら、それは確定になるの。』いやいや納得出来ませんて。

「・・・・受肉ってことは生き返るって事?」俺はまだ自分が死んだなんて信じられない。
『ううん、生き返るんじゃなくって転生だよ?』うーん、それってまんまラノベのよくあるストーリー展開じゃない?やっぱ夢見てるんだな、俺・・・。

『だから、夢じゃないって!』むう、純夏め、容赦ないな・・・・ええと、頭ではなんとなくわかってるんだけど、感情が認めたくないんだよ・・・。

「それにしても不思議なんだけど、これが現実なら、なんで俺は物語のヒロインと話をしているわけ?それこそ空想上の産物でしょ?」
『えっとね、ダイスケさんがいた世界と私たちがいる世界は厳密にいうと並行世界じゃなくて、別宇宙の世界なのね。』
「よくわからん。別宇宙とか言われても、俺にとっちゃゲームのストーリーだもんな。」

『そう、ダイスケさんの世界では、私たちの世界はゲームのストーリーの中のフィクションという事になってるのだけど、それはダイスケさん以外にも転生や転移した人がいて、自分がそこにいたという記憶はないのだけど、何となく思いつきで自分のいた世界を題材に物語やストーリーを作っていたりするからなの。』

『あとほかにも時空のはざまから流れて出てしまった別世界の情報がダイスケさんのいた世界の人の頭の中に入り込んでしまって、それをもとに描かれた物語やストーリーもあるんだよ!でもそういうかたちをとっているのは、宇宙が違う事もあって物理的に交わらないように調整されているからなの。だけど、ダイスケさんの魂は記憶を持ったまま、その間をすり抜けることが出来るとても珍しい魂なんだよ?』

純夏が説明してくれたのって、何だっけ?多元宇宙論のことかな?でも調整って、神様みたいな存在が実在するって事??俺の魂ってそんな特別な存在なん?だったら元の世界に戻りたいんですけど!あれ?だけど魂だけって言ってたけど、俺の元いた世界のボディーはどうした?・・・あ、俺死んだんだっけ・・・。
『あ、時間が来ちゃった!お願い、タケルちゃんと一緒に・・・・・この世界から・・・・・助け・・・・・』
「え?え?」うおい!肝心なところが途切れ途切れで何言っているかわからんて!
そして純夏は目の前で淡くなって消えた。

 夢・・・?いや、やっぱリアルだったし、助けてくれって頼まれたし、俺は因果律導体みたいなものって言ってたから転生?転移?するってことか。おいおい、それにしてもマヴラブ?あんな死亡フラグ満載な世界になんか行きたくないぞ!絶対に嫌なのだが!・・・・。
死の8分だっけ?とても超えられる気がしないのですが・・・・・。思わず苦笑するな。
てか、いまさら気づいたけど、純夏は俺の名前知ってたな・・・・。
うん、そこは気にしたら負けか。

しかし、こんなことなら会社のデスクの上や引出の整理しておくんだったな。
いや、それよりも問題は・・・・・・・・・・・・・・・エロDVDだ。
たぶん親がおれの部屋を片付けに来るだろう。
そして、ベッドの下とチェストの引出の中から大量のエロDVDが・・・・・うーんなかなかに恥ずかしいシチュエーションだよ!!!
・・・・・・・・・まぁ、その辺考えるのはよそう。とりあえず落ち着け俺。

でも鑑純夏のお願いってなんだ?タケルちゃんってあのタケルちゃんだよな、やっぱ・・・・。

ん?・・・・なんだこの頭に入ってくるみたいなイメージ?!
宇宙空間で宇宙船らしき船同士が戦っている・・・・・・見たことない艦影だ。
レーザーやミサイルを撃ちあい、MSのような小型機を射出してドッグファイトを繰り広げている光景―――――。ガンダムじゃないよな。こんなロボット兵器見た記憶ないな・・・・・3次元だしMSみたいのがいるってことは某英雄伝説でもないし・・・・でもあれ乗ってみたい!・・・・。

そういえばさっき戦術機の操縦席乗ったときに思い出したけど、俺のライフワークともいうべき「戦場の風XⅡ」、この間の全国大会は惜しいところで負けたんだっけ?・・・・次があるかわからんが、覚悟しておけ!!・・・・と息巻いてみたものの、もう帰れないと思うとちょっとさみしいな・・・。
あれ?目の前が真っ白・・・・・なんかぼっとする・・・・・・・。
 
 

 
後書き
第2話はダイスケくんが・・・・・・・・。
2017.7.12こっそり一部修正しますた。 

 

覚醒

 
前書き
今回は早めの更新です。書き溜めがいっぱいあるわけではありませんので、ややカメ更新気味になるかも知れません。
11/7一部修正しました。 

 
・・・・・・知らない天井だ。いや、なぜか知ってる。あああ頭が割れる?!・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・一瞬とはいえ十分死ぬかと思うくらいの痛さだったな。
?!頭痛が消えたと思ったら次々と記憶が流入してきやがる?!しかし見たことが無い部屋のはずなのに周囲の物や状況がわかるとか・・・なんだこの感覚?!気持ちわるい・・・・。
ここは・・・オルフェーリアの艦内医務室?

えっと、オルキス統合宇宙軍 機動第1艦隊‐旗艦バーナントR級戦艦「オルフェーリア」‐
全長487m、乗員736名、亜光速核融合エンジン8基搭載、主兵装は3連装DLG45(45cmビーム砲)2基6門、RG35(35cmレールガン=電磁投射砲)8門、SSM70(艦対艦レーザーミサイル)発射口8基、CIWS(自立式近接防空レールガンシステム)24基、艦載機12機、ザガルート(AD兵器=アサルトドローン戦術大型ミサイル)6発。

流線型で戦闘機のような船体は白色基調にブルーのライン塗装が合わされている・・・・・。
知りたいと思うと勝手に記憶が降りてくる感じ?便利な世の中だね!でもこれ頭痛で死にそうだよ。
そんでここはエレミア星系・・・・というのか。
だがなぜか俺の名前は変わりない・・・漢字は存在しないようなので正確に同じとは言えないか。

ダイスケ・カミナガ 26歳 ん?ちょっと若くなってる・・・てへ。 所属:オルキス統合宇宙軍 機動第1艦隊 情報部主任  階級:少佐  認識番号: 1-1-12545523  出身:オルキス本星 ラグナールシティ

・・・・少佐ねぇ・・・・某赤い彗星の人を思い出すよ。
ま、戦場の風じゃ俺少将だけどな!あれ?ランクダウンしてるじゃねぇか。

エレミア星系は俺がいた宇宙やMuv-luv世界の宇宙とはまた違う次元にあるらしい。
そして今はエレミア歴1033年で、10年前のレジナン事件に始まるデュミナス王国・デトロワ連邦両国の2年にわたる惑星間紛争(デュミナス戦役)、そしてその2年後のラファリエス皇国の策謀によるエレミア戦役が5年前に終わり、フェール条約が締結、訪れた平和のもとエレミア星系各惑星は戦後復興に勤しんでいた。

終戦直後、激戦により各国のGDPは軒並み4~6割程度に落ち込み、デトロワ連邦・ラファリエス皇国の残存戦力は開戦前の20%程度、戦勝国であるオルキス・アマティス公国・デュミナス王国においても50%を少し超す程度という状況だそうだ。

継戦能力も乏しくなった為、どの政府も戦争継続派の勢いはなくなり、厭戦気分が増して戦意やお互いの対立心も著しく低下していた事もあり、終戦後の外交関係は好転、ついに2年前、内惑星連合のアマティス・オルキスが中核となりエレミア惑星同盟を提唱、様々な議論の末、デュミナス、ラファリエス、デトロワ、トノスを加え、今から1年前の1032年に発足した。

エレミア惑星同盟において各惑星政府は「自治政府」とされており、各惑星ごとの内政に関しては従来通りとなるが、惑星同盟については惑星同盟代表会議が設置され、各惑星政府は代表を選出、星系全体に関わる様々な事案は代表会議によって審議・議決される事となっている。

そうした経過を辿って、現在エレミア星系諸国は恒久平和への道を進んでいる―――はず。

「大丈夫かね?カミナガ少佐!しっかりしたまえ!」
いつのまにか寝ているベッドの脇に中年の将官と20代半ばくらいの女性士官が立っていた。
中年の将官は――カイン・ディー中将。
5年前に終わったエレミア戦役の英雄にして現オルキス統合宇宙軍 機動第1艦隊司令官であり、俺の直属の上官である。と俺に流入してきた記憶が言っている。

そして20代の女性士官は―――ユウナ・ホウジョウ中佐
この艦「オルフェーリア」の艦長であり、俺の?士官学校同期で同じ歳だが一応上官だってさ。
しかし二人ともなんでここにいるのかな?

「はぁ・・・えっと・・・・司令、どうされました?」
「意識が戻ったか!良かった!カミナガ少佐、君は任務中急に倒れてここに運ばれた。倒れてからはかれこれ6時間は経っているがね。」
うーん、おっさんに心配されてもなんだかなぁ、と思わなくもないけど、ディー中将は本当に嬉しそうだからまぁ良いか。
そしてユウナは見るからに目がうるうるしている・・・・今にも泣きそうだし。おいおいおい。これはアレかな・・・・いや、ちがうよね。痛い目見るからもう希望的観測はよそうよ。
前世・・・・33年で学んだじゃないか。

「そう・・・ですか。色々混乱しています。」そう、いろんな意味でね・・・。
「うむ、こちらもそうなのだが、覚えているかね?君はちょうど外宇宙から漂着してきたと思われる浮遊物の調査中に倒れたのだよ。何か未知のウィルスにでも感染したのかと検査は入念に行ったのだが、結局何も出てこなかったがね。それだけは良かったと言える。」

そうか、俺は外宇宙から流れてきた不審な浮遊物の調査に向かい、そいつから未知のエネルギー反応を感知したので回収しようとしたところで気を失った・・・・のだったか。
そういえば浮遊物どうしたんだろう?回収終わったのかな。

「司令、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」いちおう謝っておこう。
「いや、問題無いよ。君は私の大事な部下の一人だからね。情報戦は戦の要でもある。」
ほんと必要とされているのはありがたい事ですよ。おっと、
「そういえば、浮遊物はどうなったのでしょうか?」
「それは私から」ユウナが報告してくれるようだ。

「あれは回収してソードヒル(ガストーニュR級重巡洋艦)で曳航しながら内部の調査中よ。」
「詳しい経過報告は技術部から上がってくると思うけど、死にかけていた知性のある未確認生物が1体と夥しい数の未確認生物の遺骸が見つかったそうよ」
んー、死にかけていた“知性のある未確認生物”というのが気になるな。後で問い合わせてみよう。

そしてまたス―――っと記憶が流入する?!。
「う痛っ!?」・・・・・・・・・・・・・・・・おい?!!!!タケルちゃんいるのかよ!
なんと流れてきた記憶が言うには、白銀武が自分の直属の部下であり、同行して調査に向かっていたようだ。
「おい少佐、大丈夫かね?!」
「・・・・大丈夫です。すみません。ところで司令、シロガネ中尉(・・)はどうしているかご存知でしょうか?」
「うむ、シロガネ中尉も君と同じく意識を失っていたが、今はこの向かいの部屋で療養中だ。」
そうだったのか。
まったく何の冗談だよ・・・・『異世界転生、タケルちゃんと歩くエレミア星系の旅』ってか・・・・。 
 

 
後書き
この回ダイスケの最後のつぶやきって立派にタイトルになるんじゃないかと思ってしまいました。
次回はやっとタケルちゃんに会えるかも知れません。 

 

白銀武

 
前書き
お色気シーンのつもりで描いてますが、経験不足で表現下手です。
後で加筆修正すると思います。
そしてとうとうタケルちゃんの出番です。 

 
数分の雑談の後、ユウナを残してディーは艦橋に呼ばれた為退出していった。
そしてディーが部屋から出て機密扉が閉まった瞬間ユウナが近づいてくる「もう、ダイスケくん、心配したんだからね!」いや、近い近い近いって。

「ん?ああ、ごめんごめん。」とりあえずここはあやまるところなんだろうと思った。しかし同僚というか友人想いの良い娘だね~と思っているとユウナが突然――――「ごふっ!!」

俺はユウナのタックルのような抱き付き攻撃をまともに受けて押し倒されてしまった。どゆこと?!
あれ??え?え?どうしよう・・・・・いや、どうしよう・・・・。
まごうことなきDT歴33年の俺のとまどう心がオーバーフローしそうなのだが。いやまじで。

良くわからないけど・・・・・・うん、俺はいま試されてるのだ。そう、ここは平常心で・・・・。
だめだ・・・・やわらかな体の感触とフローラルないい匂いに意識が飛びかけている・・・・。
ぴこん!・・・・・お、おい愚息め、静まれって・・・・ああもう・・・・やばいやばい・・・・。

実に長く感じる数秒・・・・突然のハグから解放されるまで、俺はずっと意識をそらしながら耐え抜いたがそろそろ限界!
「えっと、ユウナさん・・・・・・・苦しいっす。」・・・・・・そう言うのがやっとだった。
「あ、ごめんね!でもほんとうに心配したんだからね。相変わらず真面目なんだから・・・・あまり無茶しないでね?」しかしまたまたユウナの顔が近いんですけど・・・・・ちょっと!

いやいや、仮にも上官だしね、同期(同級生)だから特別に心配したという事なのだろう、きっと。
何度か崩壊しかけたけど頑張った!GJ俺・・・よく我慢した。・・・・・・いや、我慢出来てないよね。
「じゃ、わたしはそろそろ艦橋にもどるね。ダイスケくんはドクターの言う事をちゃんと聞いてね?」
「う、うん、わかった!ちゃんと言う事聞くよ」なんか小学生っぽいな、俺。

ちょっと安心したのか、ユウナはニコニコと笑顔で退出していった。
いやでもかわいいな・・・・・でもあの笑顔にコロリされてる奴が星の数ほどいるのを俺の記憶は知っている。

まぁ天然のようだし上官の籠絡とかではなく、おもに部下の掌握に能力発揮されてるだけみたいなので良いけどね。え?いいの?
まぁ俺は騙されないけどね!・・・・・ほんと?・・・・頑張ります。

そして、もう大丈夫だというのに、あれから俺は丸一日も寝かされた。
ユウナは2時間おきくらいに様子見に来るし、一応お忍びで来たとは言っているけど、いいのかよ?・・・・心配し過ぎだよね、かわいい娘から心配されるのはうれしいけど、よく考えたらこれストーキングされてる?いや、きっと違うよね・・・・・・。


そして今、艦隊は演習宙域であるオルキスとアマティスの間の小惑星を1日前に発ち、オルキス本星に向かっているところらしい。

その間にいろいろと情報を整理してみた。
まず俺は・・・・

1、地球で死んだ後に、純夏と会った時空間を経由して、どうやらエレミア星系へ飛ばされた?
  理由とか方法は、俺がなんかの鍵だという事以外良くわからん。

2、飛ばされたエレミア星系では何故か自分の存在や地位までも担保されている。
  経験はないがちゃんと経歴と記憶がそろっている。

3、これが最大の疑問。白銀武が俺の部下であるという事!
  まぁたぶん俺とタケルちゃんの両方が何かの鍵になるんだろうな、きっと。
  このあたりまだわからんから要確認だね。

そして、ここへ飛ばされる時に見た夢?の中で純夏が言っていたよく聞き取れない言葉・・・・。
今さっきまた一瞬の耐え難い頭痛とともに流入した記憶とは別のイメージ―――によると、この世界はもうすぐBETAの侵略を受けるけど、地球と比べ隔絶した科学力を持つこの世界の軍事力はBETAを撃退できるらしい。

そうか、・・・・・どうやら俺たちはこの世界の軍を地球救援の為に連れて行くという役目のようだな。
まぁ、俺に起こった転生のことを考えると、そうなるように純夏が誘導するのか・・・・。
この分だと、彼も記憶の補完がおこなわれている可能性が高いので、状況をすりあわせておく必要があるな。
さて、ベッドでの寝たきり生活からは解放されたからそろそろ「タケルちゃん」に会いにでも行くか。


――――――いねぇし・・・・・・どこ行った?食堂・・・・いない。休憩ルーム・・・・いない。
あとは・・・・・・・・・そうか、一番行きそうなところを忘れていた!

そして長い廊下を抜けてエレベータに乗り訓練ルームへ行くと、何人かのパイロットがいた。
念のためシロガネ中尉を見かけなかったか訊いてみたところ、やはりここにいたようだ。

ふと奥の方に目をやると1台のシミュレーターが大きな音を立てて狂ったように稼働しているのが見える。
ぐるぐると目まぐるしく動いていて、近づいて脇にある管制モニターに目をやると一機がバグのような動きを繰り返して敵機をばったばったと倒している・・・・・・。

まぁ、あれだ。こんな変態的な三次元機動をやるパイロットは他にはいない。
やがてタイムオーバーとなり、やはり、というべきか降りて出てきたパイロットはタケルちゃんだった。
「やはりここにいたか」と声をかけると、タケルちゃんは「あれ?もう起きたんすか?聞いてくださいよ、これノーマルでもXAM-3搭載戦術機よりも更にパルジャーノンっぽい事が出来るから、ついつい熱が入っちゃって。」と熱っぽく返答してきた。

「相変わらずと言うべきか・・・」俺は苦笑していたが、すぐに当初の目的を思い出して、「たぶん、いろいろわかってると思うが、ちょっと打ち合わせしないか?」とタケルちゃんに訊いてみた。

「もちろん、純夏から全部聞いてますよ?」
「そうだと思ったよ、話が早くて助かる。・・・ちなみにお前何周目だ?」俺は気になっていた点を確認してみた。
「4周目・・・・だと思う。」なるほど、俺の知らないストーリーを2周ほどこなしてきたか。「何度もループして辛かったろう?」すると、「はい。だけど、今度は大丈夫だと信じてるから!・・・・それよりダイスケさん、お願いがあるんすけど、いいすか?」

「ん?俺ができることなら、な。」何だ?急にどうした。

そしてタケルちゃんはニヤリとしながら、「打ち合わせの前に、シミュレーターで模擬戦の相手してもらえませんか?」
あ?・・・・・・・・・・来たよ、脳筋め!!拳で分かり合おうってか?よろしいならば戦争、いや模擬戦だ!
 
 

 
後書き
脳筋は脳筋を呼ぶんですよね。 

 

考察

 
前書き
BETAを創造した宇宙人っていったいどんなやつらなんでしょうね。
今回は割と短めです。 

 
―――――そして俺はそれから1時間ほどタケルちゃんと対戦した。
確かにあの変態機動はやっかいだったが、「戦場の風XⅡ」で似たような機動で攻撃してくる敵軍プレイヤーが何人かいたので、対策済みだ。

なので1回目は割とあっさり撃破したが、だけど、そこはど変態タケルちゃん・・・。
きっちりとこちらの隙を突く攻撃を加えてくるので、タイムアウトまで3勝3分けという結果に終わった。まぁあれだ、殴り合って最後相打ちで二人とも倒れて笑いあう図みたいな・・・・青春だな。
ただ二人とも遊びたいだけだったというのはもちろん言いっこなしだ。

そしてシミュレーターから出ると黒山の人だかりだった・・・・。やべ、目立っちまったか。
バツが悪くなり、うつむいてさくっと退出しようとすると、知っている声が俺を呼び止めた。
「カミナガ少佐!」銀髪の美人がにこやかに近づいてきた。

―エミー・アントワープ中佐-  機動第1艦隊随伴艦載機部隊 第14空間機動師団を構成する3つの連隊のうちのひとつであるロアーヌ連隊の隊長だ。

オルキスを含むエレミア星系の軍隊の艦載機は2タイプあり、1つは航空機タイプ、もうひとつはスクワイエルSCWIER(全領域歩行式特殊車両 Space Conformable Walking In the Eccentric Roader)と呼ばれる、いわゆる人型戦闘ロボット兵器であった。

空間機動師団のメンバーは大体両方の操縦に精通しているが、各々得意機種があり彼女は生粋のスクワイエル乗りである。

アントワープはエレミア戦役の時、まだ20歳の新兵だったが、当時大佐であったカイン・ディー揮下の第86戦隊に配属され、以降エレミア戦役を終戦まで従軍し、生き残った数少ない古参の叩き上げ士官である。戦役後も軍に残り、引き続きカイン・ディーの元で軍務に勤しんでいる。

ちなみにこの人も俺と同じ歳(この世界の)である。
「ああ、アントワープ中佐、いらしたんですか?」なにげを装って問いかけに応えてみたけど、正直めんどうな人に捕まったよ・・・。

だって・・・・・・・・・・この女性(ひと)も筋金入りの脳筋なんだよ!
間違いなく模擬戦のお誘いに来たんだよ!見ててうずうずして止まらなくなったのだろうね、きっと。
俺らを見る彼女の眼は間違いなく獲物を見つけた猛獣みたいなんだもんな。

そして、俺たちはアントワープと6回戦したのちにやっと解放された。
俺とタケルちゃん交互に3戦づつ、アントワープはひとりで6回も連戦したというのに、最後は2連続で勝ちをもぎとっていった・・・・・。
なんというタフさだろうか、叩き上げってほんとにこわい・・・・・。

とても疲れたけど、俺たちは当初の目的である“打ち合わせ”を遂行すべく、士官用カフェテリアへ向かった。

席について開口一番タケルちゃんは「腹減ったんですけど。」こら、まじめにやれ。
まぁ若いから仕方ないか、と思ったので「何か食べながらでもいいぞ。でもさすがに合成サバミソ定食とかはないと思うけどな。それに俺は霞ではないので、あーんはしないぞ。」と言ってやった。

「あれはもともと純夏がやってたのを霞が真似したんすよ・・・・・・ってダイスケさんは、なんで霞を知ってるんですか?横浜基地にいたとか?」
「いや、俺はタケル達がいた世界の事はゲームを通じて知っているだけだぞ?」
「・・・・・・・・・・・え??ゲーム??」
「そうか、タケルはこの事を純夏から聞いてないんだな?」タケルちゃん、ほんとに知らないっぽいな。
仕方ない、説明してやるか。

―――――――俺がこの世界に来る前に時空のはざまで純夏に会った事、そして純夏と会話した内容をすべて話した。
そしてタケルちゃんからも、流れてきた謎の記憶の話や今までのループで起こった出来事、そして結末を聞いた。

2周目ではカシュガルハイヴで同期が全員戦死の中、霞と二人で帰還して元の世界にも戻れるはずだったが納得がいかず、並行世界へ移ってもう2周したそうだ。
4週目ではもうちょっとで全員生還だったところ、最後のあ号標的(重頭脳級)に全員串刺しにされてしまったとか・・・・・・・・。

なんか、せつないね。
俺もその結末はどうにかならないものかとずっと思っていたのだ。
よし、今度は全員助けような、タケルちゃん!

さて今のところで判明したことや各々に流入してきた記憶をすり合わせたところ、次の事が確定した。

まずは、BETAがエレミア星系に侵入して来るのは、同じ宇宙からではなく別宇宙から。
―――これはタケルちゃんに流入した記憶がそう言っているらしい。

次にBETAが侵入した後、時空に歪みが生じて、元々BETAがいた宇宙から巻き添えを食って他のものも流入して来ることがあるらしい。
―――これもタケルちゃんの記憶。
良くわからないけど、これは何かのフラグかな?他のものって具体的に何なのかはタケルちゃんもわからないらしいが。

あとは“死にかけていた知性のある未確認生物”はどうやら「あ号標的」だったらしい。
死にかけてはいたものの、例のごとく触手を出してきて暴れて無力化するのに骨が折れたみたいだけど・・・。
調査班の努力の甲斐あって、CPUを通じて何とか会話はできたらしい。

ただ、生物である証明をしろとしきりに言って来て、試しにエレミア星系での常識となっている学説を伝えたが、認められないと返され、逆に生物として認める根拠は何かと問いかけたところ、あり得ない内容で返されて担当した者たちは困惑するばかりだったらしい。

ちなみにBETAはケイソ系の生物のみを生物として認めるようにプログラミングされているらしい。
確か00ユニットってシリコンか何かで出来ていて、地球の常識では生命反応・生命根拠ともにゼロなので00ユニットと名付けられたんだっけ。
ケイ素ってシリコンとも言うんだよね、確か。

それにしてもケイソ以外生物として認めないプログラムとか、どこの偏屈宇宙人が考えたんだか。
てか、BETAってAIが劣化した出来損ないのロボットみたいなものなんだな。
そんなものを開発して放置しているような宇宙人はお仕置きするべき!今後はその点も考えよう。

まぁそんな宇宙人がいたとして、どこにいるかなんて今はわからないけど・・・・・。
 
 

 
後書き
BETAの考察は私見も交えました。 

 

明星作戦(オペレーション・ルシファー)前篇

 
前書き
さて、今度は舞台が変わって懐かしい地球となります。
この明星作戦のくだりは、ほとんどが創作です。
あれ?と思われる方がいらしたら、すみません。 

 
太陽系 「地球」1999年8月1日 北米防空総司令部(NORAD)

「コード911!BETA降着ユニット、SW344-EN554より周回軌道接近中!降着目標推定・・・・南米中心部付近!」
けたたましく警報が鳴る―――――――

基地要員が慌ただしく走りまわっている。
「進路至近の攻撃ステーションは?」
「N15からN18およびR3、R8、U6が攻撃準備中です!」
「現在わが軍と国連軍、日本帝国軍、そして大東亜連合軍がヨコハマハイヴを攻略準備中だ。そんな時に別の大陸とは言え、地上にやつらの降着を許したりしたら士気に影響するからな。準備急がせろ!」
「了解!」

月軌道から飛来したそれは、今もゆっくりと地球に向かって距離を詰めていた。
1973年に中国・新疆ウイグル自治区喀什(カシュガル)へBETA降着ユニットが着陸。
降着ユニットからあふれ出す圧倒的に幾何学的多数で人類をも捕食する恐るべき宇宙生物達(BETA=Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race 人類に敵対的な地球外起源種)に対して当初中国軍は自軍による陸と空からの攻撃により優位に戦闘を進めていた。

だが、その優位もBETAに光線属種(レーザー級)が出現した事により、空を飛ぶものは飛行機はもちろん、砲弾でさえもレーザー光線によって正確に撃ち落とされ、またたく間に劣勢に追いやられるのであった。

続いて翌年、北米カナダのアサバスカへも降着ユニットが着陸したが、米軍は核兵器の集中運用で撃破。それ以来定期的に地球へ向けて侵入しようとするそれを人類は、米国を中心として迎撃システムを確立させて、もう何度となく宇宙空間で迎撃する事に成功していた。

「該当ステーションすべて発射準備完了!」
米国戦略航空宇宙軍の制服に中尉の襟章を着けた女性オペレーターは慣れた手つきでパネルを操作し、落ち着いて報告を告げる。
「よし、全機攻撃開始!」
計7基の攻撃衛星より戦略核ミサイルが各5発発射され、まっすぐに降着ユニットへ向かっていく。
そして先行していた21発が立て続けに命中、大きな穴を空けた上に、降着ユニットは太陽の方向へ進路変更された。

「BETA降着ユニット、被弾し破損しつつ進路変更、予想進路は・・・・太陽です!」
「溶けて無くなればいいのだ宇宙生物め!」
同時に司令部のそこかしこからは迎撃に成功した歓声が上がる。

「残りの14発は月の方向へ向かっています。」
「そのまま月面のハイヴに命中すると最高なのだが。」
「・・・・閣下、残念ですが、月面にも光線種はいるでしょうし、ミサイルは全弾月の周回軌道をかすめて太陽系外周へ向かうという計算結果が出ました。」
「そうか、惜しいな。まぁ仕方がない。引き続き進路を監視せよ!警戒レベルを引き下げ、戦時待機へ変更。」
言い残すと司令官はほっとしたのか、そのまま退室した。

そして約5時間後、月軌道上で大規模な爆発光が確認された。米軍司令部では先の攻撃で軌道を逸れた残り14発の核ミサイルが、漂流していた隕石に命中したと予想・結論づけられ、マスコミにもそのままリークされた。

この翌日より不定期に時計や一般通信回線が止まるという奇妙な例が地球各地で少なからずあったが、正確な原因は判明せず、調査の結果、一時的に多量の放射線が太陽から放出されたか、またはBETAによる地球環境破壊の結果に起因する磁気異常が原因ではないかと報告されている。


――――そして1999年8月5日未明から、オルタネイティブ第4計画総責任者の香月夕呼博士の提唱による、甲22号目標(横浜ハイヴ)攻略作戦である明星作戦が発動され、日本帝国軍、極東国連軍、大東亜連合軍、米軍の合同軍による総攻撃が開始された。

この作戦は対BETA戦においてパレオロゴス作戦(ミンスクハイヴ攻略作戦‐突入したソ連軍ヴォールク連隊によるハイヴ内部の情報である、「ヴォールク・データ」の入手につながった)、スワラージ作戦(宇宙戦力を初めて大規模投入したボパールハイヴ攻略戦)に次ぐ大規模反攻作戦であり、横浜ハイヴの殲滅と本州奪還を主たる作戦目標としていた。

まずは国連太平洋艦隊の5隻の戦艦(アイオワ・ニュージャージー・ミズーリ・イリノイ・ケンタッキー)を中心とした第二艦隊と帝国連合艦隊第2・第3戦隊の5隻の戦艦(信濃・美濃・加賀・大和・武蔵)による太平洋側と日本海側からの艦砲交差射撃に始まる。

海に浮かぶその巨躯に備わる大口径砲が重低音と共に耳をつんざくような閃光と灼熱の咆哮を立て続けにあげる。

砲撃第一波は光線級の迎撃によって、7割が撃破されたが、撃破されたAL(アンチレーザー)弾による高濃度の重金属雲発生により光線級の照射が大幅に減衰された。

重金属雲発生による恩恵により、緒戦の地上戦において前線戦術機部隊の損耗は34%と大きなダメージではあったが(対BETA戦では損耗率80%以上も珍しくはない)、計画に致命的な遅れは無く、おおむね順調に進んでいた。

「作戦、第二段階!国連軌道爆撃艦隊による高高度爆撃の後、国連軍第3軌道降下兵団降下!」
国連軌道爆撃艦隊の成層圏からの高高度精密爆撃の後、射出された無数の再突入殻が大気圏を突入し、一斉に降下ルートを取る。
重金属雲を抜け、そこから光線級による迎撃に20%程が食われたが、再突入殻から戦術機が次々と離脱。
そして積載物が無くなったそれは地上にいるBETAに対してそのまま質量兵器として降りかかった。
潰される要撃級、吹き飛ばされる戦車級や小型種が続出してあたりには砂塵が立ち込め、まるで砂嵐のようであった。

だが、作戦を通じて地上のBETAの数もそれなりに減退して来ていることもあり、あちこちに大きなクレーターを作るほどの破壊力があった割に効果は限定的であった。
そして2割ほどの被撃墜機を除く、地上に降り立った10個大隊360機程のUNブルーのF-15ストライクイーグルとF-16ファイティングファルコンの部隊が周囲に残ったBETAを蹴散らし次々とハイヴの門へ向かう。

「タンゴリーダーより各機へ。我々はこれより横浜ハイヴへ突入する!当初の予定通り、所定のルートを突破したのち最深部への到達・調査が一次目標だ!いいか、訓練の成果を十分に発揮しろ!全機続け!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
時々、まばらに突っ込んでくる要撃級に突撃砲を食らわせ、無力化し、飛び掛かってくる戦車級も突撃砲で片づけながら、第3軌道降下兵団はどんどん下層へと進撃していった。

「やっと4層目にたどり着いたか。だがここまでは順調なようだな。」
「なんだか拍子抜けしますね。BETAはあらかた片付いたのでしょうか?」
直掩機の衛士が暢気な調子で訊ねる。
「油断するな!全周囲警戒を怠るなよ!」
隊長が引き締めにかかったが、BETAはまばらにしか襲ってこないので、部隊の全体に楽勝ムードが漂っていた。

そして2層程進んだ時に通信状態がやや悪くなってきたなと感じたその瞬間、うわずった副官の声が通信機に響くことになる。
「少佐、HQとの通信が途絶しました!」
「くっ・・・中継機器が破壊されたか・・・。さっさと目標達成せねば。」
部隊には一気に緊張感が走り、部隊の衛士たちは操縦桿を握る手に汗がにじんでくるのを感じる。

やがて、震動センサーがあり得ない方からの反応をキャッチする。
「少佐!壁の向こうに大規模な震動を感知しました!BETAと思われます!」
「この広間に横杭は無いからな。後方の警戒を厳にしろ!」

――――とその時、右側面の壁が突然崩れて、大量のBETAが湧き出してきた。
「クソッ伏兵か?!全機応戦しつつ左の壁面へ向かえ!」
「うわー!来るな――!!」「ひぁーっ剥がしてくれー!!」3機ほどのF-16が湧き出してきたBETAの至近にいた為、回避が間に合わず多数の戦車級に取りつかれ、手当り次第に装甲を齧られる。

そしてその3機は戦車級を振り切る為、手当り次第に突撃砲を乱射、4機ほどのF-4とF-16が避け損ねて被弾、機能低下または停止して落下する。

そしてその4機にも戦車級が群がる。
「やめろ、乱射するんじゃない!味方機に当たってるんだぞ!撃つのを止めるんだ!」
彼らの直属の中隊長機から必死の射撃制止命令が発せられるが、自らが捕食される寸前の状態でパニックを起こしている為、全く効果は無かった。

「ッ!もう間に合わん。・・・・・彼らを生きたままやつらに食わせたくなければ、情けをかけてやれ!」
少佐が非情ともとれる命令を発したが、間に合わない以上今取れる方策としては一番である。「「「「!!!!!」」」」各中隊長は一瞬苦渋の表情を浮かべた後、120㎜砲を戦車級に集られて悲鳴を上げながら齧られている3機のF-16へ撃ち込むように命令する。

――――命中とともに、集っていたBETAもろとも機体が爆散する。
「・・・・・・・・・・・・・・・」何人かの中隊長が呆然としている。
「貴官らは彼らを救ったのだ。何も罪に思う事はない!そして命令を下したのは私だ!いいな?では各機急げ!」指揮官である中佐がフォローを入れる。

そうして他の各機が突撃砲でBETAの接近を防ぎながら、進行方向左側の壁面へ向かう。
半数がたどり着いたところで、前方でも横杭が開き、BETAが湧き出してきた。

「!!前方左右からBETA群接近!推定数3万!・・・・・後方からも1万程来ます!」
「むう、全機空中へ一時退避!」
「あまり上昇すると危険です!側面のBETA群はハイヴの壁をよじ登って上からも降って来ています!」
「左翼偽装孔からもどんどん湧き出ています!現在の推定数旅団規模!」
「・・・・・やむを得ん!一時後退だ!後方のBETA群中央を集中攻撃して退路を確保しろ!」
部隊長は近づこうとする要撃級や戦車級を突撃砲で攻撃しなら叫ぶ。 
 

 
後書き
さて、この突入部隊はどうなるのか・・・・。 

 

明星作戦(オペレーション・ルシファー)後編

 
前書き
明星作戦編終わりです。
今回少々短めです、すみません。
10/14一部修正しました。(魚鱗の陣→紡錘陣形)
戦術機の戦闘で魚鱗の陣とかあまり使わなそうですよね。
最近戦国時代ものの小説を読んでいるので、つられてしまったようです。 

 
明星作戦 国連軍HQ―
国連軍司令官はハイヴへ突入した部隊からの連絡が遅々としていることに若干の焦燥感を感じていた。
そしてそこへ青い顔をした通信担当官からの報告を受ける。

「軌道降下兵団通信途絶しました!」
「通信中継器がやられたか?!急ぎ予備部隊から1個大隊を選出、通信機材を持たせて突入させろ!」
「ハッ!ん・・・・?お待ちください!・・・・米軍部隊が急きょ撤退を始めました!」
「何?!聞いておらんぞ!どういう事だ?!至急米軍司令部へ問い合わせろ!」

そして、まさにその時、米軍は対ハイヴ新型兵器を使用する為、ハイヴ周辺の部隊は即時退避するようにと広域通信から通告してきた。

「なんだと?!米軍から先ほどの返答はまだ無いのか?」
「・・・・広域通信の通告通り、直ちに全部隊を撤収させるようにと繰り返しています!」

「友軍が密集する地で新型兵器を使用するとは、米国は狂っているのか?!とにかく展開中の全軍へ緊急撤退命令を出せ!通信回復部隊の派遣は中止!両艦隊へ撤退への支援砲撃を要請!また、全ての砲撃手段を持つ部隊へも最大限支援砲撃の実施を指示しろ!」

慌てた各軍は即座に撤退命令を全軍に発令、各部隊からはCPへの問い合わせが殺到し、戦場は混乱の極みにあった。

―-とその時、ハイヴへ突入していた軌道降下兵団の残存部隊が次々とゲートから脱出して来る。
しかし残存部隊は70機程度しかおらず、損耗率は80%。ボパールハイヴ攻略戦よりも生還率は高かったが、ほぼ誤差の範囲であり、軌道降下兵団の損耗率の高さを更に証明する結果となった。

そして軌道降下兵団が脱出後、追うように続いてBETAの増援がどんどんと沸いて出てくる。
「軌道降下兵団残存機約70、ハイヴを脱出し撤退ルートに入ります!」
「そうか、残存機がいたのは不幸中の幸いだな。」司令官は少し安堵の表情を浮かべる。
「?!撤退する軌道降下兵団を追ってハイヴの入口から多数のBETAが出現!推定数じっ10万以上?!」
「ッ!!支援砲撃各部隊に軌道降下兵団が撤退している旨とその進路・座標を逐一連絡しろ!」

ハイヴ周辺―帝国本土防衛軍第8師団第68戦術機甲大隊第3中隊
帝国軍仕様の不知火が5機、周囲のBETAを攻撃しながら撤退行動に移ろうとしていた。
だが、BETAは斃れても斃れてもすぐに新手が殺到してきて退路を作ることが中々出来ないでいた。

「遠野中尉!敵の数が多すぎて退路を確保出来ません!」
「くっ、何としても退路を確保しないと。各員、もういちど10時方向へ攻撃を集中、空いたところへどんどん進出するんだ!」「「「「了解!」」」」

1機の不知火がひとしきり36mm突撃砲をBETAへ撃ち掛けて撃破、空いたところへ移動しようとしたその時、「うわ――――――?!」要撃級の前足鋏の攻撃を受けて損傷した。
そして、その反対側の前足鋏が管制ユニットを直撃しそうになった刹那―――――要撃級の頭部が爆ぜて倒れた。
僚機が120mm砲を要撃級の頭に命中させたのだ。

「入江少尉!大丈夫?」僚機が損傷した不知火に近づく戦車級を掃射殲滅しながら心配を口にして近づいてきた。
「笹川少尉、ありがとう!でもスラスターが1基やられたかも知れない。あと燃料タンクも。」
「それじゃ戦闘は難しいわね。」
「笹川少尉の言うとおりだな。中隊各員は入江機を中心に10時方向へ紡錘陣形にて撤退を再開!」二人のやり取りを聞いていた中隊長が命じる。

「遠野中尉!この機は他の機のスピードに付いていけませんので、私をおいて撤退してください!」入江機はスラスターをやられた事で大幅に出力が低下したうえ、燃料漏れによりあと10分で動作限界が迫っていた。
入江本人はそれに気づいており、足手まといにはなりたくない一心で先に行くよう促したのだった。
「馬鹿者!そんなことは許さんぞ!!貴様も一緒に帰るんだ!」他の隊員も皆同じようなことを口にして入江を説得しようとしている。

そうこうしているうちにBETAはどんどん殺到してくる。
だが、一瞬圧力が和らぐのを感じた遠野が不振に思い見回してみると、ちょっと離れた一角で国連軍の不知火が数機、BETAへ牽制攻撃を始めた。
「よし、今のうちだ!国連のやつらが引き付けているうちに脱出するぞ!」
「「「「「了解!」」」」」

ハイヴ周辺―とある国連軍戦術機特殊部隊
「デリング02から08、09へ、早く下がれ!撤退命令が出ているんだ!!急げ!間に合わんぞ!!」
「ですがまだあそこの彼らは抜けきっていません!誰かが掩護しないと彼らも撤退出来ません!!」
「馬鹿者!貴様も死ぬぞッ―――!」
「すみません、中尉!死なせたくないんです!俺たちの街で・・・もうこれ以上死なせたくないんだ―――――――――――――!!」

1機の国連軍仕様UNブルーの不知火が、退避命令が出ているにも関わらずその場に留まり、叫びを上げながら周囲のBETAへ手当り次第に36mm突撃砲をバラ撒いていた。

そしてその背中を守るように同じく国連軍仕様の不知火がもう1機、正面のBETAを攻撃していた。
広域通信には米軍による新兵器投入の警告と退避勧告、鳴りっぱなしの警報、そしてHQからの後退命令が出ている。

中隊長である中尉は、それでも踏みとどまっている部下の2機に近づき、引きずってでも連れて帰ろうとしたが、斃しても斃しても群がってくるBETAを前になかなか近づく事が出来なかった。
もう・・・・時間がない・・・・・・。
そして上空に2本の黒い軌跡が現れて、地上からの光線級によるレーザー攻撃を弾きながらハイヴの上へ落下していった。

そして――――――炸裂したG弾からは、どす暗い重力震を放つ黒い円球が広がっていき、溢れんばかりに地上へ湧き出していた大量のBETA、そして退避し遅れた(退避しなかった)戦術機、そこにあるすべてのものを飲み込んでいく・・・・・。

この時、帝国本土防衛軍第8師団第68戦術機甲大隊第3中隊と国連軍特殊部隊A-01連隊第7中隊は―――――KIAと認定・・・・・・・・・・。

他にも少なくない部隊が退避間に合わず、巻き添えを食ってしまった。

そして香月夕呼麾下の国連軍特殊部隊A-01連隊に残る戦力は後の“ヴァルキリーズ”第9中隊のみとなる。
その後、ハイヴ内部にて散発的な戦闘はあったものの、米軍によりH-22横浜ハイヴの占領が行われた。

G弾を使用した本作戦は結果的には横浜ハイヴのBETAを殲滅したうえ、占領に成功した初めての例となった。
だが、多国籍軍による作戦中であったにもかかわらず、米国による日本本土への無差別新兵器使用は、日本はもちろん、作戦に参加した大東亜連合の国々の戦力も損害を受けており、その後は米国に対する憎悪もしくは不信感を募らせる結果となった。
 
 

 
後書き
次回はエレミア星系に戻ります。
こんなつたない文章でおおくりしていますが、ブクマをして頂いている方々には感謝いたしております。
ありがとうございます。 

 

侵攻

 
前書き
不定期更新ですが、なるべく早くに投稿していく予定です。
今回からBETA対エレミア星系諸国軍の話になります。 

 
エレミア歴1033年6月7日‐恒星標準時16時35分 
オルキス領 惑星レーニア航宙管制ステーションOS-6

10φcm程にしか見えない惑星レーニアをバックに、この宙域を管制する航宙ステーションが遊弋している。
このステーションは、通常航行で往来する船や亜空間ゲートを使用する船の管制を行う、いわば灯台のような役目を持った施設である。
ここエレミア星系には全部で36の亜空間ゲートがあり、そのうちのひとつをこのレーニア星宙域にあるOS-6で管理している。

オペレーションルームでは、航路管理局の管制官が詰めており管理業務をおこなっていた。
――――――突如亜空間ゲートから物体が発現するアラートが鳴り、俄かに慌ただしくなる。

「ん?この時間にゲート通過の申請なんか出ていたか?」責任者が部下に尋ねる。
「いいえ、明日の0430(4時30分)標準時に第347警備戦隊が通過するまでは、先ほどのラファリエスの商船群で本日は最後のはずです」端末ですばやく記録を呼び出し、確認結果を報告した。

3Dレーダーモニターの亜空間ゲートを示す位置に有質量物質の発現を表す灰色の光点が点滅している。
だが、それはやがて赤い点滅に変わり不適切な物体の発現もしくは質量超過‐巨大な物体を示す緊急警報が発令される。
「!!モニターを見て下さい!この大きさ、隕石か小惑星のようなものでしょうか?」
上官がモニターを見ると、そこには普段通行している船や船団の大きさを遥かに超える大きさのひとつの光点がゲートから出ようとしていた。

「―――ッ!なんて馬鹿でかいものをゲートに通しやがったんだ!!」
「エレミア戦役で使われたデトロワのボルザック級超大戦艦かラファリエスのヴァルダーナ級要塞艦ぐらいですかね?」オペレーターの一人が、5年前の戦争で使用された巨大戦艦を想像して言った。だが良く見ると優にその数倍はある。「いや、そんなものじゃ効かない・・・・半径2000m以上はあるぞ」

その間にも別のオペレーターが端末を操作して軌道を解析していた。
「対象、ゲートアウトしました!質量1Eg(10の15乗)!?速度4.3キューブ、徐々に加速しています、進路は・・・・・・!このままですとレーニアの軌道に乗ってしまいます!!」
「これはまずいな、・・・・・・速やかに交通省と国防省へ報告しろ!」


エレミア歴1033年6月7日‐恒星標準時17時25分 
オルキス大統領府 大統領執務室‐

オルキス大統領 エルディン・ホールはいらだった表情を隠そうとせず、軍司令部からの3Dビジョンで、軍参謀部のレダーク准将より突如起こった想定外の状況報告を受けていた。

「うむ、それで現在もその小惑星らしきものはレーニアへ向かって来ているのかね?」
「はい、このまま推移しますとレーニアの重力圏まで8時間ほどで到達します。その後は30分程で地表へ巨大な隕石となって落下する事になるでしょう。」

「地表へ落下した場合に想定される被害の規模はどれくらいかね?」大統領は不安げな表情を隠さずに尋ねた。
「おそらく、ラーダリム大陸ぐらいの規模(地球で言うオーストラリア大陸とほぼ同等)が消失するでしょう。そしてもっと深刻なのは、その余波でレーニアは急速に温室効果が進み、過酷な環境へと激変すると予想される事です。」

「最早選択の余地はないな・・・。准将、速やかに小惑星の破壊、もしくは進路の変更対処を命ず。」
「はっ!大統領閣下。しかしながら小惑星の大きさを鑑みますに、通常兵器での破壊は難しいでしょう。ただし我が軍のIPBM(惑星間弾道ミサイル)はオルキス本星にしか配備されておらず、今からの発射ですと間に合いませんので、一番近距離にいる艦隊に迎撃命令を出します。
そしてその艦隊に配備されているAD兵器(アサルトドローン‐大威力で効果範囲の広い大型ミサイル兵器)使用を以て対処する事となります。」

「うむ、致し方あるまい。頼むぞ、准将。」
「はっ!それでは準備がありますので、これで失礼を致します。」

3Dビジョンの通信が終わると、大統領は窓の外‐空を見上げた。
もちろん肉眼で見える事はないが、大気圏のはるかその先の宇宙にあるという災厄をもたらす物体を想像し、何とも言えない不安感を感じていた。

その頃オルキス統合宇宙軍 機動第1艦隊は現在惑星レーニア軌道まで通常航行であと2時間という場所を進んでいた。
当初レーニアへ寄る予定はなかったのだが、先日回収した未確認物体と生物のサンプルをレーニアにある連邦総合研究センターへ預けることになったのである。

旗艦オルフェーリアの艦橋は、機能的なデザインを施された室内を後方の高所から見渡せる場所にある艦長席にユウナが着席し各担当オペレーターと頻りにやりとりを行っている。
俺の席はユウナ席の左。
そして、その後ろ一段上には司令官席がありディー中将が着席、その後方には主席幕僚将校が佇立していた。

そうこうしていると通信スタッフが報告に訪れて、ユウナへ記録クリスタルを渡す。
ユウナは一瞥すると「司令!国防省作戦本部より至急電が入っています!」とディーへ報告した。
「うむ、つないでくれ給え。」
ユウナが切り替え操作を行うとディーのデスクに3Dビジョンで1人の人物が映し出される。

「ディー中将閣下、総参謀本部のレダーク准将であります!」レダークは敬礼しながら名乗った。
「ご苦労様、レダーク准将。緊急という事だが?」
「はっ、さきほど恒星標準時16時35分にレーニアのゲートから直径2000m以上もある巨大な隕石のような物体がゲートアウトし、レーニアの軌道へ向かっています。」
「巨大な隕石・・・・?」艦橋にいた数人がつぶやく。

「このまま進行しますとレーニアへ落下します。かなり甚大な被害となるでしょう。」
「なるほど、本星からIPBMで破壊するとしてもこの距離ではゲートを使っても間に合わない・・・か。」
「はい、ですので一番至近距離にある閣下の機動第一艦隊へ迎撃命令が出ています。」
「そうか、了解した。本艦隊はこれより巨大な隕石物体の迎撃に向かう!」ディーは経緯について確認するとすぐに命令を発した。
続いて送られてくる隕石物体のデータを各スタッフがそれぞれのセクションに応じて情報精査を始める。
俺の端末にも詳報が送られてきたので、ざっと確認しよう。

「ところでレダーク准将、通常であれば総司令からの伝達のはずだが、ドレクソン元帥はお忙しいのかね?」ディーは通常とは違う手続き進行にやや疑問を感じ、レダークに確認した。
「ディー中将、状況説明を怠っており、真に申し訳ございません。実はこの通信の少しまえに他の惑星政府からも次々と巨大隕石接近の報告が多数寄せられまして、各国軍首脳部と情報交換を行っている次第でございます。」レダークは申し訳なさそうにディーへ状況報告をした。

「他の宙域にも出現したのかね?全部でいくつくらいなのかな?」
「このレーニア宙域のものを含めると35です。」
うーん、ゲートとほぼ同数・・・・・ってことはゲートのむこうに発信地があるという事だな。
いったい誰がこんな巨大な隕石を飛ばして来る?それでメリットがあるのは?むむむ・・・・。
だが聞く限り、すべての有人惑星に向けてるわけじゃないけど、今のところこんな事をしてメリットがありそうな国も無いしな。
しかも単なる偶然にしては、まずありえない確率なんだけどなー。

そんな事を考えているうちにディーとレダークの会話が終わる。
「うむ、よくわかった。准将、ありがとう!」
「はっ!それでは失礼します。」ディーの謝意にレダークは敬礼で応えながら通信を切った。

・・・・・あれ?!この巨大な隕石物体、どっかで見たことあるな?と思ったらこのあいだ回収したBETAの着陸ユニットの復元図ソックリだよ!・・・・・・・・あー、そういう事か!
「司令!意見具申、よろしいでしょうか?」これは是が非でもつぶさないと!
「カミナガ少佐、続けたまえ。」
「はっ!ありがとうございます。先日我々が探査および捕獲した小惑星状の未確認物体ですが、今回の巨大な隕石物体と関連があるのではないかと愚考いたします。」
「それはどういう事かね?」ディーは(自分でも思うけど、予備知識がなけりゃ一見突飛とも思える俺の意見に)訝しげに尋ねた。

「はっ、実は捕獲した小惑星状の未確認物体は破壊された跡が多くあり、元々の形は全く別の形状であったと推察されます。」ダイスケはモニターに先日捕獲した未確認物体の修復予想図を示した。
「うむ、確かに破壊の原因とみられる放射性物質の反応も出ていたな。」ディーは少し前に未確認物体は原子核爆発で破壊されたのではないかとする艦隊分析班の報告書を読んでいたみたいだ。

「ご覧のとおり、未確認小惑星の修復予想図と巨大な未確認隕石物体の形状はかなり酷似しています。さらに未確認隕石物体の構成物をサンプルとして回収・照合出来ればはっきりするかと思います。」

「そうだな・・・よし、先行して調査班を送ってサンプル回収を行う!情報部主任と直衛部隊は同行し、解析の補助と護衛につきたまえ。」
「はっ!了解!」

俺はすぐにタケルちゃんに出撃命令を伝え、ブリーフィングルームへ急ぐ。
今回は俺の隷下にある直衛部隊12機全機で出撃する。
 
 

 
後書き
BETAの着陸ユニットが大量に湧いてきました!
エレミア星系大混乱です。 

 

破壊

 
前書き
今回、本文短めなので後ろに背景・設定資料をUPしました。
11/17一部修正しました。 

 
エレミア歴1033年6月8日‐恒星標準時20時15分 
OS‐6~レーニア星中間宙域

調査班を乗せた探査艇と情報部直衛部隊が発進、先行して未確認隕石物体に取りつく。
そして外殻部を削り取り、回収し、調査艇内で分析に入る。

その間、情報部直衛部隊は付近の警戒にあたっていた。

暇だったのか、タケルちゃんが話しかけてきた。
「少佐、これってどこからどうみてもBETAの着陸ユニットだと思うんですけど、調査って必要なんです?」ちょっと呆れ気味だ。
「まぁ、そういうなって。何事にも手続きというものは必要なのだよ?」まだまだ若いなタケルちゃんは。
「それはわかりますけど、なんか歯がゆいんですよね。」タケルは割り切れない表情でそうつぶやいた。
そうしているうちに、「結果が出ました!これは先日の小惑星状未確認物体と同素材で構成されています。ほぼ99%同等です。」と調査班から報告が上がってきた。

まぁ結果はわかっていたけどね、さっきタケルちゃんに言ったように、軍隊も手続きって奴が重要なんだよね。
さて、司令に報告しないと。

オルフェーリア艦橋―
「司令、全艦配置に着きました!小惑星まで650宇宙キロ。対象の速度8.4キューブ、相対速度α200。ザガルート発射シーケンスに入ります。完了まで約3分!」
艦隊は、飛来してくる小惑星に向けて半包囲陣をとり、AD兵器の発射準備を進める。

「発射シーケンス完了次第待機せよ!」
「発射シーケンス完了!待機します。」

ディーは、ダイスケの報告と退避を待ってからすぐにAD兵器を発射出来るように待機命令を出した。
そこへ「司令、カミナガ中佐から通信が入っています!」通信スタッフから報告を受けたユウナがさらにディーへ報告する。
「つないでくれたまえ!」

すぐに司令席の3Dモニターが立ち上がり、敬礼しているダイスケの姿が映し出される。
「報告します。レーニアへ向かっている未確認隕石物体は先日の小惑星状未確認物体と同素材で構成されており、ほぼ99%の確率で同じものであるとの結果が出ました。」

「やはりそうか。これより攻撃体制へ移行するので調査班および情報部直衛部隊は速やかに撤収せよ。」
「はっ!了解しました!」ダイスケが敬礼したまま3Dモニターが消える。

「全艦隊へザガルート同時発射準備指示! 1斉射づつ効果を測定し、完全破壊に至るまで攻撃を継続する!」
「了解しました!全艦へ通達!速やかにトリガーをオルフェーリアへ委譲してください。」

ディーの命令を旗艦艦長であるユウナが艦隊全艦へ伝達、5分経過後、戦闘部門要員により艦隊全艦からのトリガー委譲が伝えられる。
そしてさらに5分後、「調査班および情報部直衛部隊、安全圏への離脱を確認しました!」哨戒担当士官からの報告が上がる。

「よし、全艦ザガルート斉射!!」ディーの命令一下、各艦の下部格納庫より大型ミサイルがいっせいに発射される。
全艦から発射されたザガルートはオルフェーリアからの軌道制御を受けて、全弾がほぼ半径200m以内の場所に次々と着弾、派手な爆発光を放った。
それは、惑星レーニアの地表からも観測できるくらいの明るさであった。
だが・・・・・まだ小惑星は半分程度が原型をとどめていたため、ディーは2斉射目の発射準備を命じる。

そして、2斉射目の準備完了したところで帰還したダイスケが艦橋に戻ってきた。
艦橋に帰るなり、ダイスケはユウナに状況を尋ねる。

「1斉射目では半分くらいしか破壊できていないわね。今ちょうど2斉射目の準備が完了したところよ。」
なるほど、あそこまでのデカ物だからなー、でもAD兵器って思ったより威力が低いのか。G弾の方が威力ありそうだな。でもあれは環境破壊とかハンパねぇから、こっちのがまだマシなのか。

そうしていると、全艦の発射シーケンスが終わり、トリガーが再び旗艦に委譲された。
そして「全艦、ザガルート再斉射!!」再び全艦艇より発射されたザガルートは残った小惑星の塊へと吸い込まれていく・・・。まばゆい光とともに目標の消滅が確認された。

「ふぅ、やっと破壊出来たか。よし、では総司令部へ今回の作戦推移と、先日捕獲した小惑星状未確認物体の関連性や未確認生物の件を合わせて報告するように。また、残留物回収の為の部隊を編制したまえ!」
そして10分後、残留物回収部隊は護衛部隊とともに艦隊随伴空母ラ・クルーゼから発進していった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
物語背景・資料
エレミア星系は地球の存在する宇宙とは違う次元の宇宙にある銀河系状の星雲内にあり、その位置は太陽系と似通っているが、もともと惑星などの天体の持つ質量に由来する重力バランスが極めて不安定であり、過去にいくつかの惑星が重力崩壊によって消滅している。
現在は安定しており、いくつかの惑星国家が存在する。

ラファリエス皇国
星系における人類発祥の地であり内惑星連合に所属していた。長年にわたった中央支配体制が崩壊した後、現在まで「君臨すれども統治せず」をモットーとした皇族の下の民主主義を基盤とした政治が行われている。エレミア戦役前には国粋主義が台頭し、歴史と伝統を持つラファリエスとしてかつての栄光を取り戻そうという声が高まり、その結果エレミア戦役を巻き起こしたが、現在は穏健派がとって代わっている。

アマティス公国
オルキス、ラファリエスとともに内惑星連合に所属していた。
デュミナスに開拓民を送り平和的に独立させた貿易国家であると共に、公王の発言力の強い、封建的側面を持つ全体主義国家である。過去、民族的対立からデトロワを仮想敵国としていて、レジナン事件からのデュミナス侵攻に対し表面上では中立としながらも一貫した反デトロワ政策を取っていた。
エレミア戦役終戦後、政策は転換され、融和政策へ転じた。

オルキス連邦
内惑星連合を構成する一国家であった。
親ラファリエス政策を取る国と民族としての自立を取る国の二つの国家から形成されている。内惑星連合の加盟後に複合企業体から提唱され、統一した軍が組織された経緯がある。かつて植民地であったが戦争に巻き込まれた末にいつの間にか独立した国家であり、他と比べ国としての歴史はまだ浅い。
人口が最も多く、総じて国力が高い為エレミア戦役後の復旧は星系中で一番早かった。

デトロワ連邦共和国
首都の置かれるデトロワ星とロドリグ星、2つの惑星から形成される大国である(デュミナス戦役前はトノス星も領星だったが、独立して連邦を脱退した)。本来は君主制国家であり、武力を背景とした強引な拡大政策により大国としての地位を手にいれ、その最盛期は星系内で人類が生活可能な惑星の6割を支配していたほどであった。しかし、多数の惑星統治による政変やイデオロギーの対立などが相次いだ結果、共和制に移行するに至った。しかし長年にわたる国内不安は払拭できなかった事と、エレミア戦役での消耗により、国の斜陽化は続いている。

デュミナス王国
アマティスの開拓者によって作られたデュミナス王国は星系内部でもっとも若い国家である。開拓の指導者であったギリアム=ファンケルハイン初代国王とする王政国家であったが、国策を貿易と定め、30年間で著しい発展を遂げた。その後、国家の基盤が築かれたとしてギリアムは政治からは身を引き、立憲君主制の民主的な国家となった。良くも悪くも若い国であり、リベラルな気質を持つ国家であるが、デュミナス戦役(解放戦争)でも見られたように国民の愛国心は総じて高い。

登場人物解説①

ダイスケ・カミナガ 
26歳 オルキス連邦統合軍 情報部 少佐
地球においては神永大輔、中堅出版社勤務の33歳独身サラリーマンであったが、乗っていたタクシーの事故で死亡(したらしい:純夏談)。
地球では、アーケードゲームを好んでプレイしており、人型戦闘ロボットの操縦などに高い特性あり。
転生した(させられた)エミリア星系で、白銀武と出会いBETA駆逐の為戦うことを心に誓う。
本人談、「だってあのヒロイン達の最後がどうしても納得いかないから!」とても軽い理由・・・。
身長はこちらでも180cmとやや高め、顏はとりあえず普通・・・・と本人は思っている。

タケル・シロガネ
18歳 オルキス連邦統合軍 情報部 中尉
言わずと知れたマブラヴ・マブラヴオルタネィティブシリーズの主人公。
ダイスケとは違う次元世界の地球で高校生をやっていた。
ある日並行世界の地球へ転移して、自分の世界では同級生だった女の子達と衛士訓練学校で同期となり、一度は挫折してしまうが、2度目のループでBETAに脳だけにされていた幼馴染の鑑純夏が00ユニットとして蘇ったのを喜んだのもつかの間、地球におけるBETAの総本山とも呼べるオリジナルハイヴH-1カシュガルハイヴへ少数特攻したが、激闘の末に攻略を遂げる。
だが、その際同期の彼女達と、純夏を失い、その結果に満足できずその後2回ループを重ねるも彼女たちを救うことが出来ず、今回はエレミア星系へ転移してきた。

ユウナ・ホウジョウ
26歳 オルキス連邦統合軍 機動第一艦隊 旗艦オルフェーリア 艦長 中佐
この世界におけるダイスケとは士官学校の同期生である。
親しい友人や部下へは並々ならぬ愛情や慈しみを持っている(慈母神的な姫気質?)
顔立ちはやや東洋系、ダイスケもそうだが、この日系っぽいファミリーネームはエレミア星系ではとても珍しいらしい。(これ何かのフラグ?)
キャラビジュアルイメージは、某絶園 はじまりの樹の姫宮の人っぽい感じです。

カイン・ディー
41歳 オルキス連邦統合軍 機動第一艦隊 司令官 中将
5年前終結したエレミア星系を2分した戦争である、エレミア戦役の英雄。
判断も早く、理路整然と冷静沈着な作戦指揮が特徴の叩き上げ将官である。
エレミア戦役の発端となったデュミナス戦役講和会議会場襲撃事件にて、乗艦のエルガウェインと数多くの乗員を失った事を未だに悔んでおり、ユウナと張り合うくらいに部下思いの司令官である。
キャラビジュアルイメージは、某紺碧な艦隊の司令官です。

オルキス連邦統合軍 メカニック解説①艦艇

バーナントR級戦艦 (旗艦専用艦)
全長487m、乗員736名、亜光速核融合エンジン8基搭載、主兵装 3連装DLG45(45cmビーム砲)2基6門、RG35(35cmレールガン=電磁投射砲)8門、SSM70(艦対艦・空レーザーミサイル)発射口8基、CIWS(自立式近接防空レールガンシステム)24基、艦載機12機、ザガルート(AD兵器=アサルトドローン戦術大型ミサイル)6発。

エルガウエインR級戦艦(主力戦艦)
全長450m、乗員695名、亜光速核融合エンジン8基搭載、主兵装 3連装OLG38(38cmビーム砲)2基6門、RG15(15cmレールガン)6門、SAMカディオ(艦対艦・空レーザーミサイル)発射口6基、CIWS 18基、艦載機18機、ザガルート4発

ソルデューヌⅢ級航宙母艦(空母)
全長460m、乗員1,156名、亜光速核融合エンジン6基搭載、主兵装 2連装OLG38 1基2門、RG15(15cmレールガン)2門、SAMカディオ発射口6基、CIWS 24基、艦載機40機

ガストーニュR級巡洋艦(重巡洋艦)
全長300m、乗員334名、亜光速核融合エンジン4基搭載、主兵装 3連装OLG38 1基3門、RG15 4門、SAMカディオ発射口6基、CIWS 12基、ザガルート2発

ガートバルⅡ級駆逐艦(駆逐艦)
全長180m、乗員152名、亜光速核融合エンジン2基搭載、主兵装 2連装OLG18 2基4門、RG12.5 4門、SAMカディオ発射口2基、CIWS 6基、ザガルートS2発
 
 

 
後書き
設定資料はまたその都度UPします。 

 

敵性生物

 
前書き
突然のBETAによる襲撃にエレミア星系は大混乱しています。
 

 
エレミア歴1033年6月12日‐恒星標準時21時56分  オルキス連邦統合軍司令本部

司令部要員が慌ただしく走り回り、通信要員は情報を矢継ぎ早にやり取りしている。
数日前、星系内へ総数35もの小惑星状物体が出現し、30近くは各星系政府軍により迎撃破壊されたが、IPBMや強力な宇宙艦隊による迎撃が間に合わなかった星へ向かったものが5つほどあり、有人惑星に降着してしまった。

当初隕石として地上へ激突して大惨事になると思われたが、予想だにしなかった事に、自ら意志があるように逆噴射を行い軟着陸を成功させた。
その星の人々は一時は安堵に胸をなでおろした。
だがそれもつかの間、しばらくすると、その中から未知なる異形の生物群が湧き出すように現れ住民を襲いまくり、各惑星軍地上部隊と交戦が始まった。

降着した惑星は全てデトロワとラファリエス領内で、特にデトロワは航空戦力の不足により、圧倒的な個体数の敵性生物に苦戦を強いられていた。
航空戦力の攻撃を免れて前進してきた敵性生物に地上兵が蹂躙され、捕食され、追いつめられているような戦線が一桁では足りない状況であった。

前線は悲惨さをこれ以上ないくらいに表現された阿鼻叫喚のまさに地獄である。
ここに至りアマティスやオルキスがデトロワへの援軍の準備を始め、オルキス連邦統合軍においても情報収集に余念がないところであった。

そんな中、参謀本部長のドレクソン大将以下将官4名と参謀長のレダーク准将が、先ほど帰還したカイン・ディー中将を迎える。
ディーは一同に敬礼、一同も答礼する。

「ディー中将、今回はご苦労だったね。」ドレクソン大将は親しげにディーに語りかける。
ドレクソンとディーはエレミア戦役以前からの付き合いであり、ディーは誰よりもドレクソンを敬愛していた。
ドレクソンにとってもディーは旧来の部下であり、一番信頼の置ける仲間でもある。
「いえ、兵達に比べればたいした事はありませんよ。」
「しかし、今回は戦闘ではなく事後処理で負傷者を出すという失態を犯してしまいました・・・。敵性生物が生きていたので、戦闘と言えばそうなのですがね。」と答える。
先の戦闘後の残骸回収時、生き残った宇宙を漂う未確認生物を捕獲する際に、暴れた敵性生物に負傷させられた者が8名に上ったのだった。

「真空空間でも生きられる生物とはな。ところでその未確認生物なのだが、目的を含めて何か情報は掴めたのかね?」ドレクソンは傍らにいるレダーク准将を見ながら尋ねた。
「は!レーニアの連邦総合研究センターにおいて捕獲した生物を調査中ですが、今のところ判明している事がいくつかあります。」
「ほお、こんなに早くにか?さすがは星系随一と謳っているだけはありますな。」ディーは感心した様子を隠さず表明する。
「うむ。レダーク准将、続けたまえ。」ドレクソンはディーの割り込みで中断していた報告の続きを促す。

「はい、まず1点目、あれらの生物は我々と同じ炭素系生物である、という事です。摂食・消化後の吸収器官などは見当たらなかったようですが、どうやら光合成のような形で何らかの生体維持エネルギーを摂取するらしいとの事です。
ただ、不思議なことにオルキス本星付近に出現した物体を迎撃した機動第二艦隊からの報告では金属を食べていた、とありましたし、デトロワやラファリエスからの連絡では、人類を含めあらゆるものを捕食するとの報告がありました。
この点も調査中ではありますが、それらは経口の後、消化まではおこなって、消化後は流動体として元素分別して体内に保存するようです。
その後どのように処理されるかはまだわかっていません。

2点目はまだ確証には至らず、時間をかけた観察・研究が必要との事ですが、どうやらあの生物はAIのようなサイボーグユニットではないかとの疑いがあるようです。行動パターンなどを観察すると、ある一定の目標に対して、誤差がほとんど無いくらい反応が同じだそうです。タイミング、反応速度共にです。」レダークの報告に一同が顔を見合わせる。

「人類を捕食するとは、まったく以て脅威だな!しかも人工物かも知れないというのか。そうなると問題はいったいどこの誰がそんな生物兵器を創ったのか?という事だな。」ドレクソンは当然の疑問を口にした。

「今、星系内でこんな事をして益のあるような政府や組織があるとは思えませんが・・・。」同席している地上軍司令官ライナス大将が思案しながら感想を述べる。

「実は、あの物体と同様のものと思われるものですが、今回の大量出現の前にひとつだけ先行して現れた物体がありまして・・・その中はやはり各所より同様の報告が上がっている未確認生物の死骸であふれていたのですが、一体だけ他の生物と形状が異なるものがいました。」
「確か報告書にも記載があったが、ケイソ系生物以外は生物として認めず排除するという会話をしてきた個体の事だね?」ディーの言葉に、あらかじめ報告書を閲覧していたドレクソンが同調する。

「そうです。悪い冗談としか思えませんが、情報部の見解では一つの可能性として、われわれ人類とは組成が異なる知的生命体の存在と、その侵略行為ではないかという説があります。」
ディーは、先のレーニア星域での破壊措置の後、ダイスケから報告された見解を披露した。

「うむ、可能性は全て否定するべきではないな。現実問題、今や多数のアレが現れて、星系内は大混乱の極みだ。今回の仕業が反社会組織などによるもので、むしろそれが狙いなら単なるテロだと思うが、果たしてそのメリットが思いつかんよ。むしろ、ディー中将の言うような仮説の方が腑に落ちるな。」ドレクソンは困惑の表情で腕組みをして考えていた。

ディーは「これも情報部の仮説ですが」と前置きして付け加える。
「今のところ小惑星はすべて亜空間ゲートから現れています。この星系における亜空間ゲートはすべて我々の監視下にあり、あのような巨大な物体をゲートに送り込もうすれば即座に発見されるでしょう。しかもあのような大きさの小惑星形状の推進体を極秘裏に作ろうとすると、おのずからそれが切り出せるような惑星は限られてきます。」
「ふむ、確かにディー中将の言うとおりだ」ライナス大将らも大きく頷く。

「実は我が軍とアマティス軍が手分けして今回の事件対象となりそうな小惑星がありそうな場所をしらみつぶしに探しておりますが、未だそのような痕跡は全く見つからないという報告が上がっています。7割程度しか探索は出来ていませんが、飛来した小惑星の数を考えますと、7割も探して1つも見つからないのは理に適っていませんし、見当もつきません。」レダークが困惑の表情で話す。

「実はこれも情報部の見解なのですが、常識的には全ての小惑星は星系内で亜空間ゲートを通って運ばれてきたと考えられていますが、微妙に違うのかも知れないと言っています。」
「それはどういう事かな?」ドレクソンはおもむろにディーに尋ねた。

「つまりこういう事です。亜空間ゲートを通ったのではなく、たまたまそこにゲートアウトしてしまった。つまり言い換えますと、星系内の亜空間回廊のどこかで別のワームホールとつながるホールが形成されている可能性があるのではないかと。確かに理論的には別の宇宙につながる確率はそんなに低いものではなかったかと私も記憶しております。」ディーの話を聞き、得心した様子の者もいれば、困惑の表情を浮かべるもの、様々であった。

その時突然、ドレクソンのリンクユニットに作戦室の副官から緊急通信が入った。
「・・・諸君、報告によるとデトロワ領とラファリエス領に降着した敵性生物が光学兵器を使用し始めたそうだ。」
「「「!?」」」一同は驚きの表情を隠せなかった。

「驚くべき事に敵は生体光学兵器を用いており、シールドを持たない地上部隊や、シールドの弱い航空機部隊が甚大な被害を受けて後退、シールド強度が高いとは言えないデトロワの艦船は密集した敵の集中砲火を受ければシールドが無効化される恐れがあるので、近づけない状況のようだ。
現にデネバ(強行偵察艦)やルモラン(護衛巡洋艦)が撃破されたらしい。
敵性生物には精度の高いレーダーシステムらしき器官が内蔵されているらしく、ミサイルなどの実体兵器は悉く撃墜されるそうだ。」

「・・・・なるほど、ミサイルが撃墜されるとなると、艦船や航空機よりもスクワイエルのような3次元機動の出来る高機動兵器の方が有効ではないかと思いますな。」

ドレクソンからもたらされる情報を頭の中で素早く整理しながら、ディーは戦役の経験者らしい提案を導き出した。
スクワイエルは前後左右へと自在に3次元立体機動をとりながら戦闘を行えるように設計されており、自動制御照準の光学兵器はもちろん実体弾兵器相手でも相当回避率が高い。
「さすがは、エレミア戦役を戦い抜いた指揮官だな。確かにそのような戦場はスクワイエルが最も活躍出来る場所のひとつだろうな。」
ドレクソンは大きく頷きながら、ディーに同意した。

「ではわが軍としては今後の敵性生物の攻略はスクワイエル部隊を中心に行うという方針でよろしいかな?」続けてドレクソンが方針を諮る。
「は!異議ありません!」全員が賛意を表明して、オルキス統合軍における方針が正式に決まった。

ディーは配下の第14機動師団のさらなる錬成についてあれこれ考え初めていたが、結局は専門家である師団長のライズマン准将と相談をするのが早いな、と考え直した。
さすがのディーもアントワープは苦手なのかも知れない・・・。
 
 

 
後書き
次回は、ちょっとびっくりな事が起きます。 

 

激戦のロドリグ星①

 
前書き
さて、エレミア星系の有人惑星に降着してしまったBETAを一掃する作戦が発動されました。 

 
エレミア歴1033年6月20日

デトロワ領ロドリグ星へも敵性生物が降着して約2週間程経っていたが、ロドリグ駐留デトロワ軍は本星からの兵員・物資輸送をあまり受けられず、戦線の維持はかなり困難なものであった。
その上敵性生物は降着した(ハイヴ)から湧き出して来て、他の場所にも拠点を作り始めたので、今や完全な排除は難しいものになっていた。

駐留デトロワ軍の司令本部は、再三援軍要請を行っていたが、ここへ来てようやくデトロワ本国が援軍を編制・進発した上でオルキスとアマティスへも援軍を要請、両国は即日に受託し、既に準備を終えていた両軍は直ちに進発した。

デトロワ本国の援軍1個艦隊は2日で到着したが、ロドリグ駐留軍、そしてオルキスやアマティスからの警告や情報を全て軽視して、到着するやいなや全軍による突撃を敢行、地上へのガロッグ7集中運用により敵ハイヴのうち2つは潰したが、光線級の激しい反撃に晒されて大打撃を蒙り、実に出撃した航空機型戦闘機種の60%、装甲やシールドの弱い小型艦艇を中心とした損害は30%以上に上った。

そして極めつけは重光線級の集中照射を受けたグーデフ級駆逐艦が慌てて進路変更をして、旗艦であるデーベルン級巡洋戦艦と衝突し爆散するという悲劇が起こり、総司令官が戦死したデトロワ軍は、次席の司令官により、出撃させる戦闘機種を全てスクワイエルへ変更の上、敵の浸透を防御する戦術へ変更して、オルキスとアマティスからの援軍を待つ事にした。


エレミア歴1033年6月26日‐恒星標準時10時32分  デトロワ領ロドリグ衛星軌道上

オルキスからの援軍は、その位置がアマティスより近いため、アマティス軍より2日ほど早く到着した。
亜空間ゲートが使用可能な状態であれば、5~6時間という指呼の距離であったが、問題の小惑星群がすべて亜空間ゲートより出現している状況を鑑み、ゲートは使用中止となっている為6日間という行程がかかった。

オルキスからの援軍は、機動第1艦隊、機動第6艦隊の2個艦隊で総司令官は先日昇進となったカイン・ディー大将となった。
機動第1艦隊の戦力は、6個戦隊、旗艦バーナントR級戦艦“オルフェーリア”以下、改エルガウェイン級戦艦12隻、ソルデューヌⅢ級航宙母艦12隻、ガストーニュR級重巡洋艦24隻、ガートヴァルⅡ級駆逐艦60隻、補給艦12隻、計121隻であった。
艦載機は480機、4個連隊+1個補給警護大隊+旗艦直衛(情報部)1個中隊で構成された1個機動師団である。

機動第六艦隊は司令官アルハド・レックス中将座乗の旗艦バーナント級戦艦“ブールガル”以下、編成・艦艇数は第一艦隊と同じである。
余談だが、ディーの昇進に伴いダイスケも昇進して中佐となった。

オルキス艦隊はアマティス艦隊よりも早くに到着したが参謀本部より単独攻撃許可が出ていないため、ロドリグの衛星軌道上に待機をしていた。

到着後、デトロワからの攻撃要請がオルキス軍司令部へ矢のように届いたらしく、当初予定していたアマティス艦隊と足並みを揃えるのはやめて攻撃を決定、その旨が派遣艦隊へ伝えられた。
「つい先ほど統合軍司令部より作戦実施の許可が下された。」そういってディーは全艦隊へのソリヴィジョン回線を開く。

「諸君、カイン・ディーだ。残念だが、そろそろピクニックの時間は終わりだ!全艦へ通達!恒星標準時12:00を以てロドリグ大気圏内へ突入。作戦第一段階、ロドリグ首都ガザノヴァ付近の敵性生物を一掃、作戦第二段階は、やつらの“巣”を攻略する。大気圏突入後、機動師団各隊はオペレーションタブ(命令コード)6548を開封!所定の作戦行動に移るように。」命令一下、2個艦隊242隻の艦艇は臨戦待機から第一級戦闘配備へと移行する。

エレミア歴1033年8月12日‐恒星標準時12時32分  デトロワ領ロドリグ首都ガザノヴァ近郊

「死ね化け物―――――!!」
倒しても倒しても向かってくる赤色の気持ち悪い体躯の敵性生物(戦車級BETA)に向かって、装甲車の車載機銃を乱射しながら、デトロワ兵の軍曹は叫んでいた。

デトロワ連邦軍ロドリグ駐留第3地上警備師団は既にその40%の兵力を失い、通常であれば壊滅状態に陥っている。

そして彼らが今まで嫌というほど目撃した光景‐敵性生物に弾幕を突破されて装甲車ごと、あるいは直接に捕獲されて貪り食われる友軍兵士‐そしていつ彼らと同じ末路を辿る事になるかも知れないという恐怖を跳ね除けるのは古参の兵士でも容易な事ではなかった。

やがて弾倉が空になり、軍曹がリロードしているその時、ついに赤い姿、腹の真ん中に大きい口がある異形の怪物達(戦車級)が弾幕をかいくぐって、彼の搭乗している装甲車へ接近してきた。
その動きは素早く、あっという間に装甲車へ取りついた。

そして軍曹がいよいよ自決を覚悟の上でグレネードを起動して化け物を道連れにするしかないと思った時―――――――突然に敵性生物が次々と大口径の弾や光学兵器に射抜かれ、砕かれ、ミンチのようになって、崩れ去った。同時に轟音が鳴り響き、その上を人型の機動兵器が次々と飛来する。‐オルキス統合軍機動第1艦隊所属の第14空間機動師団432機のスクワイエル‐である。

彼は幸運にも助かった。そして周囲を見渡すとまばらになってはいるが、まだ生き残っている仲間達を見つけ、ほっと胸をなで下ろすと、今まで信じたことも無かった神に感謝を捧げた。

「ロアーヌ01よりロアーヌ全機へ!オペレーションタブ6548‐03を開封!指示通り中隊単位での連携を基本とします。いい?生体光学兵器が優先的な撃破目標よ!おチビとノッポの2種いるらしいけど、一匹たりとも逃さないようにね!位置は随時マーカーにプロットしてあるから、そこを目指して!奴らにたっぷりとランチを食べさせてあげて!ランディール中隊は私に随伴!それから、各支援砲撃中隊は後衛部隊の掩護の元、速やかに展開するようにね!」
ロアーヌ連隊の連隊長であるエミー・アントワープ中佐が移動中に彼女の部下たちへ指示を飛ばす。
「「「「「「「ラジャ―――!!!」」」」」」」

アントワープが所属する第14空間機動師団はロアーヌ、ビクスン、ファーデッド、ザカリスの4個連隊から成り、師団長は、アントワープと同じくエレミア戦役からの上官であるロドニー・ライズマン准将である。
師団の主力スクワイエル機は最新型のジグレータMk4。他国の多くの戦後改良型スクワイエル同様人型により近く再デザインされ、細身の流線型ラインが美しい機体であるが、他国のスクワイエルと比べるとやや華奢に見える。
しかしながら他国のスクワイエルよりもシールドの強度が特に高く、生存性能はかなり高い。オルキス軍は、エレミア戦役での激戦で多くの男性パイロットが戦死している事もあり、ここ数年は女性パイロットが圧倒的に多く、人型への改良と生存性能の向上はその為でもあると言うまことしやかな噂も一部にはある。
元より生存性能の大幅な向上を目指した結果ではあるので、これもあながち間違ってはいない。
だが、実際は人型への改修はあるひとつのイレギュラーな事象によるものであった事は軍高官はじめ一部の人間しか知らない。

一方、支援砲撃中隊は、重武装のロザイルMk3を使用している。
こちらは重武装ゆえに重厚で武骨にさえ見える逞しい機体である。
装甲もかなり厚いのだが、双発の核融合炉エンジンを搭載しているため、見た目に反して意外に機動性能が高い。

実はエレミア戦役でスクワイエル部隊の損害が大きかったオルキスとデュミナスは戦術や設計思想の転換により徹底した生存性能の向上を図っており、その結晶というべき共同開発による新型高機動制御CPUや重力制御ユニットを積載している為、大気圏内でもかなり機動性能が高く、この方面では他国の追従を許していない。

スクワイエルの武装は携行するライフル型武装と背面にセットされる固定型武装とがある。
オルキス軍のライフル型武装は中口径のグリック(実体弾型)もしくはLG25(光学兵器型)に小口径のズファ(実体弾型)が一体化している。
グリックやズファなどの実体弾は背面にセットされる固定武装ユニットから給弾される。
LG25も固定武装ユニットにエネルギーパックが内蔵をされている。

やがて前線にジグレータが展開、移動中にCPから得た情報と、おとりミサイルで光線級個体の位置を全て把握した彼らは、それらの掃討戦を開始した。
まずは、時速170kmで突っ込んでくる、突撃級をいなしつつすれ違い様に両端の敵に弾を浴びせ、次々と斃し、その死体を積み上げて後続の速度を鈍らせる。

続いて大きな爪をもつ要撃級は正面からグリックかLG-25ライフルで仕留めて、どんどん奥へ突っ込む。
途中で沸くように現れる腹に口のある戦車級や頭の大きい白くてのそのそした兵士級、大きな手のような頭部を持った闘士級はズファで掃射して殲滅、そして更に奥のその先には一際図体のでかい仮面をつけたような頭部と虫のような体型の合わさった要塞級が、光線級と重光線級をかばうようにその周囲に展開していた。

「!ローブ大隊とクルーズ大隊は生体光学兵器を防護している大きいの(要塞級)を撃破して!残りは邪魔になる敵だけを倒して突破!大小の生体光学兵器を殲滅!全機突入!」「「「「「「「ラジャー(了解)」」」」」」」命令一下、全機所定の戦闘機動へ移る。

要塞級を突破するのにトリッキーな制御が必要だったが、その抜けた先には、重光線級が50体ばかりと光線級が200体ほどいた。そして各機は司令制御AIから、それぞれに割り当てられた目標を潰すべくそれぞれの機首を巡らせた。

こちらが要塞級を背にしている為、敵はフレンドリファイアを恐れてか、レーザー照射をしてくるものはわずかであった。
こちらの味方が仲間と重なる射線軸から外れた場合のみ、容赦なく撃ってくる。各機はたくみに機を操り、1体づつ確実に仕留めて行った。

そして光線級種を9割以上あらかた片づけた頃、途中で救援後に同行していたデトロワ軍の旧式スクワイエル部隊バール中隊の中で調子に乗って高度を上げた機体がいた。
「バール08、高度をさげろ、狙撃されるぞ!!」バール中隊長が怒鳴って引き戻そうとした―――――――だが既に遅かった。
瞬く間に5本のレーザーがその機体に集中して浴びせられる。
回避行動を取るが、開けた空間であり回避機動では中々射線を外す事が出来なかった。
10秒はシールドで耐えた・・・・が、とうとうシールドを貫通され、コクピット部にごっそりと穴が開いてしまった。パイロットは即死・・・・灼熱により操縦ユニットと共に消滅していた。

主を失った機体はコントロールをも失い、敵の巣の入口方向へ落下する。
その時警報とともにアントワープ中佐のVR投影に、落下していく機体のステータス情報が表示されていた。
―――――――落下中のダインType:R 核融合炉および制御システム破損。臨界暴発まで3分?!―――
「ロアーヌおよびバール全機!一旦2次防衛ラインまで緊急退避!!バール08が暴発する!」
ロアーヌ連隊とバール中隊各機は急いで反転、次々と後退していく。

そして2分後―――――――轟音とともに黒い球体が現れ、周囲の敵性生物を吹き飛ばす。
退避した機体にも様々な破片が飛び散り、乾いた金属音がいくつも重なる。
強烈な電磁波により、一時的にレーダーが不能になり、周囲の索敵が効かず、しかも砂塵がごうごうと舞い、視界がほとんど無かった為、ロアーヌ隊はひとまず全周囲警戒の陣を張った。

やがて砂塵が切れ、レーダーも回復する。だが、至近距離の敵の真ん中に2機のスクワイエルらしき機体が取り残されているのが発見された。
その先にも何機か発見したが、そちらは他の連隊の担当空域であるため、それらは一旦思考の埒外にする。
ロアーヌ連隊とバール中隊は先ほどの爆発をもたらした被撃墜機以外は全機撤退に成功している。
―――ではいったいどこの機体だろう??

先ほどの爆発で故障したか、IFFを意図的に切っているデトロワ軍の機体なのだろうかと、アントワープはバール中隊の中隊長に確認することにした。
「バール隊にお聞きしますが、デトロワ軍でIFF非搭載もしくはOFFモードにしている機体や部隊はありますか?」
「・・・申し訳ありません、中佐。小官の知る限りではデトロワ軍の全部隊にエレミア規格のIFF起動運用命令が最優先通達されていますので、そのような事は無いと思われます。」
デトロワ軍の大尉が、少々納得しないというような口調で応じる。
「了解しました。あくまでも確認の為であり他意はありませんので、どうかご理解くださいね。」
他軍だし、いちおう気を遣っておきますか・・・。

しかし状況がわからない上に、忌々しくも何にもおいて救援しなくてはならない状況だ。

「ロアーヌ全機!これより敵陣に取り残されている2機のスクワイエル救出を最優先で行います。
救出後はかねての作戦通り、戦線を押し上げて巣の掃除に取り掛かるわよ!」「「「「「「「ラジャ―――!!!」」」」」」」
「バール隊は後退して自軍HQの指揮下へ戻って下さい!」
「了解しました!ここまでの掩護ありがとうございました!」

108機のジグレータが一斉に前進する。やがて、敵中に孤立した2機を発見する。周囲を囲む敵に向かってM-61bホバートⅡやグリックMk.3とはかなり異なった形状の機銃を乱射している。
よく見ると、今まで見たことが無い型だが戦後のスクワイエルの規格に近い人型形状のもので、ジグレータ並みに華奢な機体でもある。

照合をかけてもデータベースに全く記録が無い。
「全く記録に無い機体・・・デトロワの新型機?」
「ですが、隊長、あの機体見るからに動作緩慢で、とても新型機とは思えません。CPUか駆動系システムが故障でもしているのでしょうか?」副官のジーナ・ファリス大尉は訝しげに応える。
「あの爆発の圏内にいたからね、そうであってもおかしくはないわ」
「どちらにしても、あれは化け物ではなく、明らかに私達と同じ人類のものよ。周囲の敵を一掃してからあの所属未確認の2機を保護します。ロアーヌ全機突入!」「「「「「「「ラジャ―――!!!」」」」」」」
 
 

 
後書き
ロドリグはデトロワ連邦を構成する惑星の一つです。
デトロワには、もう一つ連邦を構成するトノスという大きな惑星がありましたが、デュミナス戦役の際にどさくさで独立されてしまい、今はロドリグ星が残るのみとなっています。 

 

激戦のロドリグ星②

 
前書き
なんとあの二人組が転移してきました。
G弾の爆発に巻き込まれましたが、実はこんなことになっています。 

 
エレミア歴1033年8月12日‐恒星標準時14時51分  2機の不知火

2機の不知火は背中合わせに出来るだけ死角を無くして周囲の敵に機銃を掃射している。
「いきなり暗くなって何も見えなくなったけど、一体なんだったんだ?アレ?」
「わかんねーよ!警告していた米軍の新型兵器かもな!でも相変わらずBETAのど真ん中にいる事だけは確かだ。」
二人は会話しながらも間断なく突撃砲で周囲のBETAへ劣化ウラン弾を叩き込んで屍体を積み重ねていた。

「―――ッ!36mm残弾200切った!」
「こっちも300無いよ!」
「デリング08よりCP!応答してくれ、繰り返す、デリング08よりCP!・・・・・・・・・」
「いよいよやばいな・・・・。HQも全く繋がらないし・・・・・碓氷中尉達も近くにいないみたいだ・・・・撤退命令無視した報いだな・・・・・先に言っとくぞ、慎二、今までありがとうな!」
「・・・・バーカ!孝之、そういうのは生き残って帰ってから、水月と遥に言え!」
「それが出来たら苦労しないって!くっ!弾切れだ。」そう言って孝之は弾切れの突撃砲を敵に投げつけ、背中にホールドしていた長刀を背中の担架からパージして右腕に構え、近づく要撃級の感覚器を斬りつける。程なくして僚機も弾切れとなり、同じく長刀を手に戦い続ける。

「だめだ!キリがねぇ、ハァハァッ・・・・」二人は戦闘開始より既に主観時間で2時間以上は戦い続けており、疲労困憊していた。
次から次へと沸いてくるかのように周囲を要撃級に囲まれ、切り払うのが精いっぱいであった。
段々隙だらけになっていき、そして一瞬の隙に、そのモース硬度15以上の爪がまさに振り下ろされようとした―――――――――その時、爆音がして目前の要撃級が爆発、そして周囲のBETAが次々と弾け、ひしゃげ、どんどん撃ち平らげられていく。
「やった!!援軍だ!!!助かったな、慎二!」
「ああ、どうやらそうみたいだな・・・・・・」二人はほっと胸をなで下ろす。

やがて周囲を囲むように機体が降りてくる。2機、4機、8機――――13機、一個中隊くらいだ。
警戒の為か、突撃砲のようなものをこちらに向けている。
「おいおい、同じ人類に向かって銃口なんか向けないでくれよ?」孝之がボヤいた。
だが―――「「?!」」「あれ?孝之、初めて見る機体だな。米軍の新型機かな?」
「いや、俺も見たことないなー。でもなんだか米軍の系統とはまた違うような気もする・・・。」

そして、遠い周波数から徐々にチューニングを合わせるように通信が入ってくる。
が、聞き取れない。「○×○は、ど%&▲た&※か?」「?え?」「何言っているのかわかんないよ。慎二、俺の機の通信機壊れているのかな?」「うん、こっちもまるっきりわかんないね。ん?・・・・・・いや、故障か??」
二人は、自分たちの置かれている状況がまったくつかめなかった。

エレミア歴1033年8月12日‐恒星標準時16時42分 アントワープ

「一体どうなっているの?彼らにはこちらの音声も映像も入ってないみたい?」
「よくわかりませんが、通信周波が極微弱ですし、様子が変ですね。通信機の故障でしょうか?」と中隊長のランディール中尉が応える。
続けて「一度艦船からスキャンをかけて、向こうの機体の通信機へハッキングを仕掛けてみてはいかがでしょうか?もしかしたらバックアップ機能があるかも知れませんし、そうすればデータ参照してソースを取り込む事によって、現状の周波数が特定出来るかも知れません。」

「このような状態になったのも経緯は不明だけど、そうね・・・・ランディール中尉の言うとおりね。ロアーヌ01よりCP(コマンドポスト~司令部指揮所)、応答してください」
「こちらCP、ロアーヌ01どうぞ」
「今私たちがコンタクトしている未確認機だけど、通信機へハッキングをかけて調べてみて!もしつながる周波数があるなら、こちらとつなげてください!」「こちらCP、ロアーヌ01へ、了解しました。」

そして、1分もしないうちに再びCPから通信が入る。
「・・・・・・・・・・・こちらCP、ロアーヌ01どうぞ」
「ロアーヌ01です」「未確認機の機体通信機へのハッキング、データの互換制御完了しました!」CPのオペレーターはハッキングして即座にCPUとデータベースを発見、ダウンロードして素早くソースを取り込んだ。「CP、了解!素早い対応に感謝します。」
「どういたしまして中佐、でも実は・・・・驚いたことに、あの機体のCPUはとても古めかしくジュニアスクール低学年の生徒が授業で作るものより簡単なものでした。」CPの将校は本当に信じられないといった感じで返事をした。

「まさか!まぁ今はいいでしょう。・・・・こちらはオルキス統合軍第14空間機動師団のアントワープ中佐です。貴官等の官姓名と所属を明らかにしてください。」アントワープはそんなバカな事があるはずが無いと考えながらも職務に忠実に誰何(すいか)を始める。

「おおー、慎二、何かわかんないけど通じるようになったな!」「バカ、孝之!オープン回線開いたまんまだぞ?」「え?!うあ!!」

軍人らしくない、たるんでる・・・アントワープの片眉がピクッと吊り上る。ひとつ大きな咳払いをしてから、ゆっくりと自分を落ち着かせるように大きく息を吐く「・・・・・・そちらの通信機能が回復したのはわかってもらえたようですが、先ほどからの当方の質問に答えてはもらえませんか?」
「あ、すみません、えっと・・・・・中佐殿!自分は国連太平洋方面第11軍練馬基地所属A-01連隊デリング中隊(第7中隊)の鳴海孝之少尉であります!」
「同じく平慎二少尉であります!」ソリヴィジョンに映った二人は揃って敬礼しながら応える。
「・・・・国連ですって?内惑星連合というならまだわかりますけど、そんな組織いつ出来たのですか?」アントワープは聞いた事のない組織名に混乱を覚えた。

「へ?あ、すみません、えっと第二次世界大戦が終わった1944年に出来たって習いました。??って内惑星連合って何ですか??あれ?中佐殿はEU連合軍なのかと思っていましたけど違うのですか??」
「第二次世界大戦?エレミア戦役ではなくて?1944年?それでは未来から来たことになるじゃないの?当方の暦では・・・・今はエレミア歴1033年ですよ。そして私達は貴官の言っているEU連合軍?などではありません。先ほども言ったようにオルキス統合軍です。」アントワープは頭を抱えた。
「エレミア歴??1033年?!・・・・・中佐殿、自分には何が何だか全くわかりません・・・・。」孝之がうなだれる。
「ナルミ少尉、それはこちらも同じ。貴官が狂言を行っていないのでしたら・・・ですけど。」ヤレヤレという表情でアントワープが応える。

オルフェーリア艦橋―ダイスケ

アントワープがデータベースに記録の無いスクワイエルっぽい人型兵器な何かを2機捕獲し、国連軍所属などと意味不明な言動をしている怪しいパイロットを2名保護したという連絡が入った。
思わずタケルちゃんと目が合って、彼も同じことを思ったみたいだ。
「いきなりフラグ立ったか?」勢いで思わず言ってしまった。
タケルちゃんも「たぶん、そうだと思うんですよね。」
よし、ここは司令にお願いしてパイロット達(衛士かな?)を情報部預かりにしてもらおう。
そしてディーに調査や尋問の必要があるので彼らを預かりたいということを説いたら、すぐにOKをもらえた。
さっそく通信を飛ばす―――――――
「アントワープ中佐、艦隊情報部のカミナガ中佐です。情報部要請で申し訳ありませんが、今中佐が尋問されている二人を至急オルフェーリアまで連行願いますか?」
「あ、カミナガ中佐!情報部要請ですって?・・・なるほど、連中は何か機密に抵触しているという事ですか?」
「それはまだこちらでヒアリングをしてみないと何とも言えません。もし手一杯でしたら、配下の中隊を迎えにやりますが?」隣に立っているタケルちゃんを見やりながら確認してみた。
「いや、その必要はありません。輸送隊随伴の警備中隊に護送させます。この状況では護衛に4個中隊は必要無さそうですからね。」
「了解しました!ご協力感謝いたします!」あざっす!
「ええ、貸しひとつね!この作戦が終わったらまた模擬戦、付き合ってくれればそれでいいわ!」アントワープは満面の笑みだ。うわー(汗
致し方あるまい・・・「了解しました!」

「あ、そうそうシロガネ中尉もね!」アントワープは俺の脇に立っているタケルちゃんにウインクしながらそう言って通信を切った。
「うげ、マジかよ・・・・・あの人のタフさハンパないんすよね。」タケルちゃんが、ウンザリの表情でそうつぶやいた。
「アントワープ中佐の実力は折り紙つきだからな。そして常に周囲の者たちの錬度も上げようと考えているのだろう。君たちも良い訓練になっているのではないかな?」ディーがニコニコしながら俺たちに話しかけてきた。
「・・・・そ、そうですね!」いちおうそう応えたけど、あれは単なる脳筋だけどな!楽しんでいるだけだって、絶対!いや、ほんとに。

ロドリグ地上―アントワープ

「ナルミ少尉!事情を調べる必要があるので、どちらにしても、一旦後方に下がってもらいます。その後機を降りて、精密検査、精神鑑定、取り調べという流れになると思います。貴官らが本当の事を包み隠さず話せばすぐに楽になりますからね。心配は無用です。軍務規定という事もありますが、状況からすると、やむを得ない判断だと思って従ってもらいます。」

「は、はい・・・・。」孝之は慎二へ秘匿回線をつなげる。「慎二どうする??」問われた慎二も焦燥しきった表情だったが、やがて腹を括ったらしく「って言ったって、もう囲まれてるし、逃げようもないから従うしかないんじゃないか?」「そうだな・・・・。」
「会話の邪魔をしてごめんなさいね、これは秘匿回線のつもりかと思いますけど、全て丸聞こえですよ。まぁ、指示に従ってもらえるようですので、手間が省けます。警備班ディーツ中隊!この2機をオルフェーリアへ護送してください!CPへは通達しておきます。」
アントワープは随伴している補給大隊の警備中隊へ指示をする。
「ディーツ01了解!」ディーツ中尉は短く返答して、部下へは2機の不知火の両肩を掴んで運ぶよう命じた。
それを見届けてから、「では、ロアーヌ連隊全機!続け!このまま戦線を押し上げてさっさとあの薄気味悪い生物を掃除するよ!」全周囲警戒しながら待機していた連隊全機に告げる。「「「「「ラジャー」」」」」
次々とジグレータMk.4が飛び立ち、編隊を組んでハイヴへ向かって行く。

そして――――――――孝之の不知火は両肩を掴まれて運ばれている最中、網膜投影越しに見える緑の森や山々を眺めていた。
「なぁ慎二、ここはいったいどこだ?こんな広い森や山なんて横浜周辺には無かったぞ?」
「あぁ、そうだな。ほんとうに訳がわからないよ。」二人そろって困惑してうなだれる。

「ヨコハマってどこの事だ?ここはロドリグ星の首都であるガザノヴァ近郊だよ。試みに訊くが、貴官らはどこの惑星出身だい?」護送している中隊の隊長であるディーツ中尉が尋ねる。
「ロドリグ星???はい、中尉殿、もちろん地球であります・・・・・って地球以外に有人惑星なんて無い・・・・・と思っていました。地球以外の惑星にはBETAがはびこっているって聞いてましたし・・・。中尉殿は地球人ではないのですか?」
「地球?どこの星系惑星の事かな?少なくともこのエレミア星系には存在しない名前だな。私はオルキス人だ。ディーバという辺境の街の出身だ。」
「ん―――――ますます混乱してきた・・・・。いつの間に俺たちは地球を飛び出しちまったんだ???」
「たぶん、あのどす黒い爆発だろうな。それしか考えられない。」慎二が神妙な顔つきで応える。

「そういえば貴官らは、“BETAがはびこっている”と言っていたが、それはもしかしてあの異形の怪物の事なのか?貴官らの軍ではそう呼んでいるのか?」
「はい、中尉殿。自分たちはあいつらと30年近く戦争をしています。その30年で地球人類の人口は50億人から10億人にまで減少し、地表の約60%を占領されてしまいました。」

一惑星に50億人もいたのか・・・エレミア星系の3分の1に匹敵するな。しかし30年で損耗率75%とはな・・・。その割合で行くとあと10年で地球星の住民は滅亡してしまう計算になるな。あの異形の生物どもは想像以上にやっかいだな・・・。
「ん?そろそろオルフェーリアが見えてくる頃だ。」
「!でかい!?しかも浮いている?!空中要塞??」孝之は驚いた。慎二はあんぐりと口を開けて呆けている。
「・・・・少尉、あれは要塞なんかではなく、BB(バトルシップ)だ。そもそも貴官らはこの星までどうやって来たのだ??」
「戦艦ですか?!すげー!再突入型駆逐艦よりかなりデカいですね。」
駆逐艦に乗って来た?再突入?いや、それよりもほんとうにコイツらは何者なのだろう?・・・・ディーツは、オルフェーリアを見てはしゃいでいる孝之を見て何とも言えない自分たちとは違う異質なものを感じていた。

そして機動第1艦隊旗艦オルフェーリアが眼前にせまる。
「よし!着艦するぞ。全機着艦体制に入れ!」そして12機のジクレータと2機の不知火はオルフェーリアの下部艦載機発進ポートへ入って行った。
 
 

 
後書き
さて連行された二人はどうなるのでしょう。 

 

激戦のロドリグ星③

 
前書き
更新遅くなりました、すみません。
私事ですが、色々とリアル仕事が忙しい今日この頃です。
言い訳してしまい申し訳ありません。
更新頻度やや落ちますが、引き続きお楽しみください。 

 
――――――――――ハイヴ入口付近―ロアーヌ連隊
「地上の敵はあらかた片付きましたね、ファリス大尉?」
「はい!ですがスキャンの結果、地中には未だ30万体以上の敵がうごめいています」
「・・・すでに40万体以上は斃したはずなのに・・・・どれだけ繁殖能力が高いのかしらね・・・」アントワープは視界に見える累々たるBETAの屍骸を冷ややかに眺めながらつぶやく。

そこへ司令部より作戦命令(オペレーション・タブ)がアントワープ機に届く。
その内容を一瞥して「ザカリス連隊のみ地上警戒に残り、補給・小休止の後、私たちとビクスン、ファーデッド(連隊)が突入します!18師団の3連隊も続くそうです。」と配下の部隊へ通達する。
「敵残数に対して6個連隊での制圧ですと、そんなに苦労はなさそうですが少々手こずりそうですね。」
それを聞いたファリスが素早く機内のシステムを操作、シミュレーションを組んで、AIがはじき出した数値を見ながらそれに応える。

「ま、仕方ないでしょう。だけど、悪いニュースばかりではありません。我々に先行してデトロワの重武装スクワイエルを前衛とした1個師団が突入するので、橋頭堡は確保してもらえるそうよ。」
「ところが隊長、データによると突入するデトロワ軍ですが、さきほどのバール隊のように初期ダインやゾフィエルなどの旧式スクワイエルの上、シールドもかなり弱いままでアップグレードされていない機体のようです。」ファリスはシュミレーション画面を消した後、リンクされた作戦情報を確認しながら応える。

「ちょっとまって・・・・・・あら本当ね。リンクデータでは確かに再編成した特別機動師団ってあるけれど、中心は重火器搭載の地上車輛みたい。この戦場へ到着した際にいくつかの地上部隊の救援をしたけれど、それらの残存戦力がかき集められているのかも知れませんね。」
「さすが人命軽視のデトロワ軍・・・といったところでしょうか。同情の念を禁じ得ません。」今度はランディールが、信じられないといった表情で頭を振りながらそう言った。

「我々はデトロワ軍が橋頭堡を築いた後に突入、デトロワ軍が戦線崩壊する前にすぐ掩護・前進出来るようにすること。そして彼らの火力が弱まる前に私達が前へ出て戦線を押し上げる事になるでしょう。全員覚悟をしておいて!」
「中佐、今さらですよ。」「皆とっくに覚悟は出来ています。」
「そう、ありがとう。今さらですけどみんなの命を預からせてもらいますね。」
そこへ艦隊司令部から全体リンク通信が入る―――――
「HQより展開中のオルキス全軍に告ぐ、侵入攻撃は5分後に開始される。わが軍はデトロワ軍第368特別機動師団の橋頭堡確保連絡を受けてから順次突入する。」

―いかにも間に合わせの部隊名・・・あの数相手に全滅しなければいいが― アントワープを始め、多くのオルキス軍パイロットは同じ感想を持っていた。
リンク通信は続いて―――――
「突入は第14機動師団からとする。なお艦隊からのスキャンによると敵の本拠地には横杭道(シャフト)がいくつも掘られてある事がわかっており、もたつくとデトロワ軍が接敵後に包囲殲滅される恐れもあるのでなるべく前線に急行せよ。第14機動師団はデトロワ軍の連絡後5分刻みで1個連隊づつ突入を開始の事。突入順序は各師団長に一任してあるので、オペレーションタブ6549-01を開封せよ。作戦開始3分前!」

アントワープはオペレーションタブを開いて思わず笑みがこぼれた。
「幸先いいですね。みんな!うちの連隊が先陣の栄誉を賜りました!フリージア、クルーズ、ローブ大隊の順で突入します!」
「「「「「「ラジャー!!!」」」」」」
「先行デトロワ軍作戦開始、予備砲撃を敢行しつつ前進中。・・・敵増援が(ゲート)へ上がって来ます。数およそ10万!」
「1/3が迎撃に上がって来たわね。デトロワのスクワイエルは120機程度だったかしら?ランディール中尉どう思う?」
「はい、データによるとダインRが84機、ゾフィエルⅡが43機です。短時間ではあまり深くは行けないかと。」
「そうですね。わたしはそう時間がかからずに彼らが包囲されて混乱するとみています。旧式スクワイエルの1個連隊強くらいではあの数の暴力に抗しきれると思えない。」
「まったく姿かたちもそうだけど生態すら考えただけでゾッとする敵ね。嫌悪感しか覚えないわ。」
「はい、全くです!」
そして、そうしているうちにアントワープ機のVR投影に青いシグナルが点滅する。
「さぁ、みんな出番よ!各員全力で敵を排除せよ!だけどデトロワ軍の救援も任務のうちですからね!フリージアからわたしの後に続いて!!」
「「「「「ラジャー!!!」」」」」
ロアーヌ連隊の機体が続々とハイヴの門へ突入していく。
するとA層の最深部付近でデトロワ軍が激しい戦闘を繰り広げている。
デトロワ軍は突入してからB層までは快進撃していたが、B層の最深部まで来るとC層方面やあらゆる横穴からBETAが湧き出してきて戦線は停滞した。
ロアーヌ連隊が到着した際も、対応しているデトロワ軍は半狂乱状態になりながらも必死に応戦していた。

そしてロアーヌ連隊機のレーダーに反応しているデトロワ軍スクワイエルの機数も当初の半数となっていた。
「これはひどいわね。フリージア大隊とローブ大隊は敵を押し返して!クルーズ大隊はデトロワ軍の支援と周辺警戒!」アントワープは即座に判断して配下の各大隊へそれぞれ指示をした。
すると、今まで押されかけていた戦線が次第に好転し、あっという間にC層入口まで押し返した。
「こちらはオルキス軍第14機動師団のロアーヌ連隊アントワープ中佐です。デトロワ軍第368特別機動師団の指揮官はどなたですか?」アントワープは攻略の打ち合わせをする為デトロワ軍の指揮官へ呼びかけた。
だが―――「小官は第368特別機動師団の指揮官代行グローヴィス少佐であります」
返事があった、がアントワープは違和感を覚え思わず質問をする。「少佐が師団を率いているのですか?」と問いかけると、グローヴィスが「司令官と副司令官は戦死しました。ですので残存士官のうち最高位である私が指揮を執っております。」と悲痛そうに俯いて返答してきた。
「そうなのですか・・・。大変なところ申し訳ないのですが、現在までの戦況をお聞きしても?」
「ええ、もちろんです。来援感謝いたします。お蔭で助かりました。」

グローヴィスの報告によると、デトロワ軍は当初敵の数も少なく、順調にB層最深部まで進んだがそこで待ち伏せに遭い、大量に沸いた敵にどんどん戻されて今に至るそうだ。
撤退戦時にスクワイエル部隊の半数と地上部隊の3分の2を失い、その際に司令官も副司令官も戦死したそうだ。

アントワープは、デトロワ軍はここに残るよう要請したが、グローヴィスは本国から厳命を受けており、必ず先頭にたって突入しなければならないと言って譲らず、仕方なくデトロワの残存スクワイエル部隊を同行させる事になった。
「では、侵攻再開!デトロワ軍とクルーズ大隊を前面にフリージア大隊がバックアップ、ローブ大隊は後方警戒しながら殿をお願いします。」アントワープの命令一下、各隊が動き出す。

連携のとれていないデトロワ軍部隊がやや遅れるが、クルーズ大隊が前方のBETAに対し圧倒的火力を行使しどんどん突き進む。そして最下層手前のC層最深部にて待ち伏せを受け、横穴からどんどん湧き出してくるBETAに手を焼き、進撃スピードが一時的にダウンした。
原因はもう一つあり、デトロワ軍機が横穴から突然現れたBETAによって混乱に陥り、その数をさらに減らすという事態が起こった。

アントワープは戦力再編の為、というより足手まといのデトロワ機を下げる為、援護すると称してデトロワ側の承諾を得て中衛のフリージア大隊の真ん中に配置したが、こういった作業を行ったことも時間がかかる一因となった。
そしてクルーズ大隊を先頭に群がるBETAを排除していき、どんどん下層へ迫り、D層の最深部へ到達すると残弾が1/3程度の水準にまで減っていた。
ここへ至るまで20万ほどのBETAを撃破したのだから、それはそうだろう。
今は奥にある大きな隔壁のようなものとそこから延びる直径20mくらいの管と球体が奥にある大きな広間の手前で後続のファーデット連隊とともに到着した補給隊からエネルギーや弾薬の補充を受けながら戦時携帯食(レーション)を摂りつつ2つの連隊長が打ち合わせを行っていた。

スキャンによると、あの隔壁のようなものの奥に強いエネルギー反応が一つとその周りに敵性生物が3~4万体が群がっている様子だった。
隔壁は頑丈で、スクワイエルのあらゆる兵器でもびくともしない。
ファーデット連隊長と話し合い、アントワープは艦隊司令部へ報告と指示を請うためにオルフェーリアへ連絡した。

「――――という事でして、どうしてもあの隔壁が抜けません」アントワープはディーに報告する。
「カミナガ中佐、何か良い案はないかね?」
あれは(ゲート)級BETAだよね。
オルタでは、カシュガルハイヴの最下層で、あ号標的のいる広間に通じる扉だったよな、確か。
タケルちゃんがこっち見て、知ってるよって顔してるし。
まぁ、俺も知識はあるからな。でもオリジナルハイヴの重頭脳級(固着型超大型頭脳種・あ号標的)ではなく、ヨコハマハイヴやエヴェンスクハイヴのようなハイヴの頭脳級(反応炉)しかいない場合でも門級がいたとは知らなかったな。
それともなんらかの影響でゲームとは状況が変わっている?

まぁ、これだけは間違いないのだけど―――「司令、今までの分析結果から推測すると、おそらくあれは最後の広間に通じる扉で、手前にある球体がカギになるはずです。」
「なるほど、それで頑丈なつくりをしているのだな。それで、どうしたらいいと思う?」
「ええ、おおよそ生物の活動のもとは微弱な電気パルス信号というのはご存知かと思いますが、あれもその摂理からは外れていないと思います。」
「なるほど、という事は感電させてやれば開くのかな?」司令はなかなか理解の早い人で助かるな。
「そうですね、おっしゃる通りです。絶縁体と思われる固い外殻からでは通電しないでしょうから、電極となるものを貫通させてから放電するとよいのではないでしょうか?」
「という事だ、アントワープ中佐、出来るかね?」
「はっ!了解致しました!」敬礼とともにアントワープの姿が3Dヴィジョンから消える。

――――そして20分後
「こちらロアーヌ01、HQ!恒星標準時18時36分、最下層にてエネルギー貯蔵施設らしきものを発見および確保!現在残敵掃討中です。」アントワープから通信が入る。
「HQ了解!周辺に警備中隊配置後、ザカリス連隊を交代増援として向かわせます。」
CPオペレータが作戦の状況を確認しつつ応答する。
「ロアーヌ01了解!ロアーヌ全機!あともう少しで帰還だけど最後まで気を抜かないように!気を抜いた子は死神に拉致されてしまいますからね!つまり死ぬという事よ。新兵は特に気をつけなさい!」
「「「「「ラジャー!!!」」」」」
 
 

 
後書き
次はやっとダイスケやタケルちゃんと地球人との邂逅です。 

 

激戦のロドリグ星④

 
前書き
更新遅くなりました。
さて、これにてオリ主関連でのロドリグの戦いはほぼ終了です。 

 
オルフェーリア艦内――――
「貴官らには、こちらの部屋で待機していてもらおう。中にはほかにも貴官らの仲間と思われる者達がいる。後ほど情報部士官の面会者があるのでそれまで皆でゆっくりと過ごしてくれたまえ。」
「はい、中尉殿、ありがとうございます!」孝之と慎二は2時間に及ぶ検査と取り調べののち、艦内の長い自動廊下の先にある部屋の扉の前に案内をされた。
護衛という名の監視兵を4人引き連れてだが。

促されるように扉を開けると、そこはPXの食堂らしき場所のようであったが、少し薄暗く、10人くらいの人影があるのが見えた。
「どうする慎二?」
「とりあえず行くしかないだろ?とにかく情報が欲しいしな。」
「そうだな」孝之も慎二の意見に同意して人が集まっている方へ近づいて行った――――?!

国連軍の強化装備を身に着けた後ろ姿が4人と日本帝国軍の強化装備を着てこちらを向いている人が5人、向かい合って座っていた。
そしてその時、帝国軍の一人が少し驚いたようにこちらを向いた。
それは中尉の襟章をつけた自分たちより少しだけ年上に見える女性帝国軍衛士だった。
「貴官らも連行されたのか?」
「そうなんですよ「鳴海少尉!」いきなりこんな――?!」
「平少尉も、生きていたか!」
その声は、まぎれもなく鳴海たちの中隊副長の碓氷円花中尉の声だった。
「「碓氷中尉?!」」二人はとても驚いて思わず叫んでしまう。
見ると、その隣には良く見知った同じ中隊の同僚たち――中川悠、高山蓉子、辻村彩矢の姿もある。

「中川、高山、辻村の3人がどうしても貴様らを連れて帰ると言って引き返したのだがな、あの黒い爆発のあと、視界も悪くレーダーも効かなくなった上に貴様らの姿が見えなくなってしまった。ほんとうに心配したぞ?」
「「はい!すみませんでした!」」孝之と慎二は深々と頭を垂れて謝罪した。
「まぁいい、こうして無事に合流できたのだからな」
碓氷のあとに中川が続く「そうですね、でも、もうあんな無茶なことは絶対に許さないからね!」
そして高山は「中川少尉の言うとおり!今度は跳躍ユニットを狙撃して身動き出来ないようにするからね!」
辻村が高山を宥めるように「た、高山少尉、そんな事したら機体に引火するかも知れませんよ?」
「?!・・・それもそうね。じゃ、せめて羽交い絞めにしてあげるわ!」
「「ほ、ほんとうにすみませんでした!!」」二人は怖くなって再度深々と頭を垂れる。

「そろそろ私たちも会話に混ぜてもらっても良いですか?」帝国軍の中尉が苦笑しながら会話に入ってくる。
碓氷がすぐに姿勢を正して「失礼をしました。この二人はわが中隊の鳴海孝之少尉と平慎二少尉です。先ほども言いましたが部隊名は機密となっておりますので国連軍練馬基地所属中隊とのみお知らせすることでご容赦下さい。」と答える。
彼らの所属部隊は国連軍の特殊部隊である。軍機に抵触するためみだりに情報を出すことが出来ない。
「・・・了解しました。では改めて、鳴海少尉と平少尉、我々は帝国本土防衛軍第8師団第68戦術機甲大隊第3中隊の所属で、私は遠野優理中尉だ。あとは左から順に、一ノ宮志乃少尉、笹川麻里亜少尉、松山佳代子少尉、築山亮子少尉だ。宜しく頼む。」
「はっ!よろしくお願いします!」

孝之と慎二はようやく自分たちの知る世界の人間に会えてホッとするのであった。
碓氷や遠野の話によると、皆同じようにあの黒い爆発の後、やはりBETAに囲まれていたところをこの艦の指揮下にある強力な戦術機らしい部隊に救出され、ここへ連行されたという。

「感動の再開はここまでにして、皆そろそろ食事にしないか?どうやらここはPXのように自分で食事を選んで食べることが出来るらしいぞ。」遠野が尋問を担当した下士官から案内された情報で皆に提案する。
「そうね、腹が減ってはいくさは出来ないわね。皆でカウンターへ行きましょう。」と碓氷が同意して皆に促す。

それは地球のPXよりもかなり料理が豊富に並んでいる、ビュッフェ形式になっていた。
合成食で慣れている彼らにとって、見た目恐らく自然の素材で作られているであろう料理はどれも美味しそうに見えた。
皆ひとしきりトレーに山のような料理を乗せて席に戻ってくる。
肉をあぶって串にさしてあるものや、肉をクリームで煮てあるもの、野菜をトマトソースのようなもので煮込んでいるもの、どう見てもポテトフライのようなものなど物資の不足した地球では、もはや米国やオーストラリア・南米など、BETAの侵攻を全く受けていない、自国に穀倉地帯や畑を多く保持している国以外では滅多にお目にかかることの出来ない品々ばかりであった。
そして皆席につくなりスプーンで一口「「「「「「「「「おいしい(うまい)!!」」」」」」」」」むさぼるように食べた。

やがて、彼らが食事を終え、歓談をしているときに、俺とタケルちゃんはそこに向かった。
「楽しい雰囲気のところすまない。私はオルキス統合軍機動第一艦隊情報部のカミナガ中佐です。今は色々と混乱しているでしょうし、ひと段落したら貴官らの今後について大事な話をしたいと思います。その前に何か質問はありますか?」
「では、我々は現在どういった状況下にあるのでしょうか?」最初に皆を代表して遠野がダイスケに質問をする。これは皆が疑問に思っている事だ。
皆同じことを思ったようで、遠野の質問に対する俺の答えをじっと待っている。

すると「へぇ~、帝国軍の衛士と国連軍の衛士が歓談しているのって、シュールだし、すごく平和でいいなあ。」
俺の後ろにいたタケルちゃんが、この状況下で信じられない言葉を口にしてしまった。
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
「貴官は今、何と言われましたか???」
碓氷中尉はたまらず聞き返す。
「え?いやだって、帝国軍の人達って国連軍や米軍を毛嫌いしているじゃないですか?」
「「「「「「「!!」」」」」」」
「タケル、おまえは・・・・」
俺は頭を抱えてしまった。
「あ、やべ!今の全部なしで!」

「あのう・・・・・・つかぬ事をお聞きしますが、貴官は我々の事を良くご存じのようですね?」
他の面子も剣呑な雰囲気を隠さずこちらを警戒して立ち上がっている。
遠野中尉がシロガネを問いただしたのは、仕方のない事であった。

彼女たちは、自分たちを知る者がいない世界にいるという異常事態に大きな不安を抱いていたからだ。
それなのにあっさりと自分たちの背景を知っているような口ぶりの人間が現れたのだ。
「それは、これからきちんと説明しよう。ああ、それから、これは私の部下のシロガネ中尉です。」
「シロガネ タケルです。よろしくおね・・・・って、その部隊章?!あなたたちはA-01連隊なのですか?!」
「なっ?!なぜそれを???」
碓氷たちは驚愕した。
それはそうだ。A-01の部隊名は秘匿対象であり、トップシークレットに属する。
対外的にはおろか国連軍内部でも知る者はわずかだ。
それを、わけのわからない異星?の軍人が知っているというのが本当に信じられない事であった。
「タケル・・・・頼むから俺が話す前にやらかさないでくれ・・・」
俺は、ほんとうに嫌そうに、シロガネ中尉に向かって言った。
「はぁ・・・・すみません、中佐。」
タケルちゃんはあまり反省してなさそうな態度で応えている。

「では皆さんに説明をしよう。」それから俺は、純夏の事や俺の転生、タケルちゃんのループや転移の話はぼかしながら、このエレミア星系の事、BETAが急に現れて来て現在掃討作戦を行っていて順調に推移している事、そしてタケルちゃんはもともと彼らのいた世界の並行世界から飛ばされてきたため、地球の状況を良く知っているという事、そして俺はタケルちゃんから事情を聞いていてBETAを滅ぼす事を心に決めている事、などを話した。

もっとも一番食いついてきたのは、タケルちゃんがA-01をなぜ知っていたかだった。
それは正直にA-01最後の生き残りとなった第9中隊にタケルちゃんが配属された為と答えた。
ただ、時間の流れに問題があり、彼らにとっては未来から来たことになり、一見すると矛盾があるように思われたが、そこは同じ時間軸の流れではなく、多少ズレていて並行世界の方がやや進んでいたからでは?という答えで納得してもらった。
碓氷以下のA-01の衛士たちは、第9中隊のメンバーを知りたがったので、答えていたらとんでも無い事実が判明した。

「シロガネ中尉、あなたが第9中隊にいたときに在籍していたのメンバーを教えてはもらえないだろうか?」と碓氷が遠慮がちに言ってきた。
「ダイ―――カミナガ中佐、よろしいでしょうか?」よしよし、タケルちゃんもさすがにわかってきたか。
俺が許可すると、「えっと、中隊長は伊隅みちる大尉、メンバーは速瀬水月中尉、宗像美冴中尉、あとは少尉で風間祷子、涼宮茜、柏木晴子、榊千鶴、御剣冥夜、彩峰慧、珠瀬壬姫、鎧衣美琴、そして自分です。」タケルちゃんが感慨深い表情で答える。
「ちょっと待って下さい!速瀬水月?それもしかしたら自分の同期なんですが?」びっくりした表情で孝之が叫ぶ。慎二も同様の表情だ。
「?もしかして涼宮遥中尉もご存じですか?」タケルちゃんは、速瀬水月と涼宮遥が同期の上仲が良かった事を思い出し、そう聞いてみた。
「もちろん!遥も自分の同期です!」孝之は気になっていた自分の同期の娘たちの名前が聞けてとても嬉しい思いとともに、彼女たちが自分たちがいなくなった後に同じ部隊に所属していたことに驚いた。
すぐにでも地球に帰りたい思いでいっぱいになった。

ここで、遠野は気になっている事を質問した。「我々は地球へ帰れるのでしょうか?」
それなんだよねー。たぶん俺の勘が間違っていなければだけど―――「君たちは、我々とBETAが戦っているど真ん中に転移して来たんだ。その原因はまだわかっていない。だが、ひとつわかっている事は、エレミア星系にBETAの降着ユニットが現れたのは我々が星系内の時間短縮移動に使用している亜空間ゲートからなのだが、その中に向こうとつながっているワームホールが存在しているはずなんだ。」

「・・・・きっとそうですね。でも太陽系とつながっているとは限らないのではないですか?」碓氷はさすがに香月夕呼配下だけあって賢いな。
「ああ、実はそれなのだが現在君たちがここにいるという事は、ワームホールのチャンネルは、向こうの太陽系である確率が高いと考えている。」
「なるほど・・・・でも確証を得るまでではないのでしょう?」
「実はこちらで降着してしまったBETAの殲滅作戦が終わったら、無人偵察艦を送ろうかと思っているんだ。そうすればはっきりとするだろう」
「そうですね。早く判明することを願います」碓氷は縋るような目でダイスケを見つめる。」

さて、話を変えないとな。
俺はタケルちゃんに目配せして、予め相談して決めた事をタケルちゃんの口から伝えさせた。
「話は変わって皆さんはこちらのスクワイエルえっと―――戦術機みたいなものですが、興味はありますか?」
「もちろんです!どう見ても不知火よりも性能が段違いで高いと思われるし、色々知りたい、乗ってみたい!」遠野がすぐに食いつく。
他のメンバーも皆目がキラキラしているところを見ると同じ意見らしい。
「偵察艦派遣を決めて、派遣結果が出るまでかなり時間が空きますし、それまでにスクワイエルの操縦をマスターしてみませんか?」タケルちゃんの提案は、即答で受けいれられた。

「実は、BETAの侵攻を抑えるためにわが軍でワームホールの向こう側へ逆侵攻して奴らが侵攻してくる源を叩き潰そうと思っているのですが、皆さんには向こうへ行った際の取り成しとパスファインダーをお願いしたいと思っているのですが如何ですか?」さりげなく訊いてみた。
「救援を受けた身としては、是非そうさせて頂きたいです!」すかさず碓氷が答える。
「では、後程シロガネ中尉の指示に従ってください」
「了解しました!」全員が応答してくれた。
うーん、これ全員俺の配下フラグかね・・・。 
 

 
後書き
さて、次はスクワイエルの話が中心となりそうです。 

 

登場人物解説②

 
前書き
中々更新できず申し訳ありません。
登場人物が増えて来たので、ちょっと解説を入れます。 

 
登場人物解説②

オルキス連邦統合軍

エミー・アントワープ 
26歳 オルキス連邦統合軍 機動第1艦隊随伴艦載機部隊 第14空間機動師団
ロアーヌ連隊 隊長 中佐
エレミア戦役時、20歳の新兵だった。
当時大佐であったカイン・ディー揮下の第86戦隊に配属後、以降エレミア戦役を終戦まで従軍。
最後まで無傷で生き残った数少ない古参の叩き上げ士官である。
戦役後も軍に残り、引き続きカイン・ディーの元で軍務に勤しんでいる。
見かけは理知的なお嬢様だが、まごうことなき脳筋である。
キャラビジュアルイメージは、某輪廻でデ・メトリオの王女様っぽい感じです。

ジーナ・ファリス
25歳 オルキス連邦統合軍 機動第1艦隊随伴艦載機部隊 第14空間機動師団
ロアーヌ連隊 副官 大尉
4年前、士官学校を卒業後すぐにアントワープの元に配属されてから、アントワープ一筋。
実はアントワープと反対で、活発そうな印象だが慎重で思慮深い。
キャラビジュアルイメージは、異世界へ行った自衛隊のお話で帝国の某姫殿下騎士団麾下、短髪の白薔薇隊隊長さんなイメージです。

クルト・ランディール
30歳 オルキス連邦統合軍 機動第1艦隊随伴艦載機部隊 第14空間機動師団
ロアーヌ連隊 ランディール中隊 隊長 中尉
何故かアントワープが先陣に立つ際にいつも随伴を求められる中隊の隊長。
実は、その実力は折り紙付でデュミナス紛争の頃から戦場を体験している実力派。
元々はデトロワ軍人だったがエレミア戦役後にオルキスへ移民し、てっとり早く国籍を得る為に軍に入隊したが、アントワープにその腕を認められて転任、今に至る。
アントワープを敬愛している。
キャラビジュアルイメージは、某銀河ヒーロー伝説の帝国から同盟へ亡命した上級大将さんの副官です。

アンドレア・ドレクソン
61歳 オルキス連邦統合軍 参謀本部長 大将
エレミア戦役のかなり前よりカイン・ディーの上司であり、お互いに信頼できる間柄である。
昔、空間陸戦隊大隊長だった30代の頃、デトロワと領土を2分していた資源惑星で国境紛争が起きた。
その際、部隊を率いて出動したが待ち伏せに遭い部隊は壊滅寸前にも関わらず、たった一人で敵一個中隊以上を壊滅して逆勝利を掴んだ為、デトロワ軍から「悪鬼(オーガ)」と呼ばれていた。

アラン・レダーク
52歳 オルキス連邦統合軍 参謀 准将
情報畑出身の文官タイプの軍人。
事務方としてドレクソンを日夜支えている。

ブルーノ・ライナス
59歳 オルキス連邦統合軍 地上軍 司令 大将
元々は軍官僚の出身なので、どちらかというと頭脳派・・・のはず。
脳筋ではない。
文官なのに脳筋派揃いの地上軍をきっちりまとめているところはそれだけのカリスマがあると思われる。

アルハド・レックス
44歳 オルキス連邦統合軍 機動第6艦隊 司令官 中将
エレミア紛争時はコガ大将麾下の第28戦隊司令官だった。
ラファリエス軍との激戦を潜り抜け、カイン・ディー同様、戦後に艦隊司令となる。

地球人①

国連軍A-01連隊 第7中隊のうち

鳴海孝之少尉
白銀武が所属したヴァルキリーズ(国連軍A-01連隊 第9中隊)の速瀬水月、涼宮遥の同級生。
タケルが経験した世界では既に横浜ハイヴ攻略戦の際にG弾の爆発に巻き込まれ、MIA扱いとなっていた。
感傷的なところもあるが、それはBETAとの戦いがあまりに熾烈であった為かも。
本来は能天気で優柔不断なお調子者である。

平慎二少尉
状況は鳴海孝之と全く同様。
孝之とは違い、現実主義的なところもあり慎重だがとても親友想いである。

オルキス連邦統合軍 メカニック解説②スクワイエル

ジグレータMk4
全長20m 核融合炉エンジン搭載
武装:グリック(実体弾)+ズファ(ロケット弾)、LG25(レーザー)+ズファ(ロケット弾)、M-61ホバート(実体弾機銃)、AAMオルム2(空対空ミサイル)
   ASMドラン20(空対艦ミサイル)、ライコット(実体弾)などから選択装着。

ロザイルMk3
全長25m 核融合炉エンジン2基搭載
武装:LG25+ズファ(ロケット弾)、GU-75ロウム(レールガン)、ASMドラン20(空対艦ミサイル)、タフィッド(榴弾)
 
 

 
後書き
まだまだたくさんいるのに、中途半端ですみません。
あと、おじさん達のCVイメージは端折ってもいいですよね?
30過ぎたらおじさんですが、ランディールさんはアントワープのお気に入りなので特別・・・。 

 

戦闘のあいま

 
前書き
更新遅くなりました。
今回は、ロドリグ戦が終わってから移動中のお話です。
ダイスケ君はお一人様上級者なのです・・・・きっと。
※12/7一部文章のおかしいところを修正しました。 

 
エレミア歴1033年8月21日

8月15日にはアマティス軍艦隊が到着し、オルキス軍第6機動艦隊と共同で残っていたBETAハイヴ2か所を2日で攻略、これによりロドリグ星に降着したBETAは全て排除された。
また、デトロワ軍はロドリグの至近ゲートであるOS-2の付近にAD兵器(ガロック7)搭載艦を含む監視艦隊を配置し、再度の降着ユニット襲来に備えている。

アマティス軍は自領の無人資源惑星に降着したBETA排除のため、作戦終了後早々に引き揚げていった。
その後俺たちはゆっくりとガザノヴァ観光でも出来るかとワクワクしていたが、艦内待機命令が出て外出できずガッカリしているとオルキス軍もやはり自領の無人資源惑星に降着したBETA排除の為、8月19日には第1艦隊と第6艦隊をそれぞれ別の惑星へ向けて発進してしまった。

実はロドリグの名物料理にロドリグ豚のやわらか煮込みシチューというのがあって、それがまた脂こってりでほろほろの肉なのに後味さっぱりのクリームシチューだそうで、それがどうしても食べてみたかったのだよ・・・。
まぁ、また来れるよね、たぶん・・・・。あれ?

オルフェーリア艦内 14:00ブリーフィングルーム
機動師団が保護した碓氷や遠野以下地球人11人の件では、ちょっとしたごたごたはあったものの何とかタケルちゃんのうっかりは誤魔化す事が出来て、今は全員が真剣なまなざしでスクワイエルの操縦座学を受けていた。
講師は―――なぜかアントワープだが。

「さて、ここまでの説明で不明点はありますか?」一通りの説明を終えてテキストを閉じたアントワープが一同を見回すように尋ねる。
すげ、先生みたいだ・・・・いや、先生だけど。
「質問、よろしいでしょうか?」さっそく遠野中尉が手を挙げる。
真面目な優等生タイプに見えたけど、やっぱり見た目そのままだね。
「遠野・・・中尉でしたか?どうぞ。」
「はい、ありがとうございます。先日私たちが救出された際にスクワイエルとBETAとの戦闘を少し見させてもらい、どうやったらあんなに高機動が出来るのかと思っていましたが、どうやらOSの能力に雲泥の差があるという事はわかりました。そして躯体構造や素材も我々のものとは全く違う発想や進んだ技術であることも。」地球人類よりも数段進んだ科学力を持つ人類との邂逅を最高の僥倖だと感じ、嬉しそうな表情を浮かべながら遠野は地球の技術では及びもつかないエレミア星系の技術について言及した。

「ええ、情報部や技術部があなた方の乗機を解析・調査した結果を聞きましたが、そのようですね。侮辱するつもりは毛頭ありませんし誤解して欲しくはないのですが、実はこちらではあの程度の人型機動躯体は材料さえあればジュニアハイスクールの生徒でも出来てしまうのです。OS以外の戦闘用システムは別ですが。」アントワープは少し申し訳無さそうに言う。
「そうですか。中学生にも出来てしまうなんて・・・。」みんな技術力のかなりの差に愕然としている。
「まぁ、さすがに兵装までは出来ませんからね。」場の雰囲気を戻そうとしたのだろうが、それは当然だろうアントワープ・・・・。
でも材料さえあれば作れる奴はきっといるだろうな、いや絶対いると思う。
考えるのはよそう。
一同ひきつったように苦笑いを浮かべる・・・・。

「それで、遠野中尉の質問は何でしたか?」そこでアントワープが思い出したように問い直す。
「あ、そうでした。申し訳ありません!OSの制御が格段に違うのはわかったのですが、実際の操縦はどのようにするのか知りたいです。私たちの乗っていた戦術機は間接思考制御プログラムによる操縦補助のシステムがありますが、それに相当するようなものがあるのか、とかです。」
「なるほど、それでしたらスクワイエルのOSはB-T-Link Systemを搭載していて、操縦者の脳波と直接つながっています。これはあなたがたの乗機に搭載されていたという間接思考制御プログラムを間接ではなくメインにしてしまったイメージでしょうか。これにより、直接操縦者の思考をOSが読み込み、制御AIとの演算結果を受けてスクワイエルが機動します。」
「・・・・・すべてが想像以上でした。ありがとうございます!」遠野の目はクリスマスプレゼントをもらう子供のようにキラキラしていた。
早く乗ってみたいんだろうな。

「さて、他に質問が無ければ、小休止の後実習に入ります。まずはシュミレーターでの訓練からですね。」
アントワープの言葉に皆が期待いっぱいのまなざしで彼女を見つめる。
さて、俺はここらで退散して後はタケルちゃんにバトンタッチ・・・・・って、あいついねえし・・・・逃げたか。
まぁ手本だなんだかんだとアントワープと模擬戦になりそうだから、そりゃ逃げるか。
じゃ、俺も逃げ「最初にカミナガ中佐と私が模擬戦を行うので、その機動を含め操作を良く見ておくようにね。」うえ―――――!!???結局逃げれんかったよ・・・・・・・。がっくり。

―――――そして3時間後
俺はぐったりとして自室のベッドに横たわっていた。
あ――――疲れた。
最初だけっていったやん。なのに要所要所で模擬戦入れる必要ないやん。しかも最後にもう一度おさらいで見ておけとか、そのおさらいで熱くなって3回戦するとか・・・・・もう寝る・・・・・。

・・・・・・・・・・・ピピーピピーピピー・・・・・・ハァ、まったく空気呼んでくれない人がいるみたいだ。
俺は寝ようとしていたのに呼び出し音で起こされ、ちょっとムスッとしながらソリヴィジョンの端末に触れた。
『あれ?ダイスケ君、休んでいた?』呼び出しの主は怪訝そうにこちらを見ているユウナだった。
「いや、大丈夫だよ、訓練に付き合ってたらちょっと疲れたので休んでいただけさ。」そう言うしかないじゃん、ぷんすか。
まぁユウナも仕事だし、仕方ないよね、うん。

『そう、ならいいわ。ディー司令からの通達よ。“2100に作戦会議室へ集合せよ。”以上よ。』
「了解した。内容は何か聞いてる?」いったいなんだろう?資源惑星の件かな。
『わたしも詳しいことは聞いてないの。たぶん資源惑星奪還作戦だと思うけど、他にも何かありそうなのよ。』女の勘か?まぁユウナの勘は良く当たるみたいだけど。
それにしても何も聞いてないのか。
まぁ、とりあえず行ってみればいいか。
「わかった。じゃ、2100に。」そう言って俺は端末に触れてソリビジョン通話を切った。
さて、そうしたら寝てもいられないか。
風呂入ってさっぱりしたら飯でも食ってくるかな。

士官食堂は割と空いていた・・・・・・・皆、夕食食べるの早いな。
夜腹減らないのかな?まいっか。
俺は本日の定食メニューから“オルキスビーフのソテーとモテトサラダ”を選んだ。
ビュッフェするまで腹は減ってないからね。

それにしても、モテトって・・・・・なんで一字違いなんだろう?どう見てもポテトだけど??
モテトの名称の件は何か良くわからんけど、俺はオルキスビーフが好きなので良く食べている。
というか単なる肉食派?というか体を使う仕事をしていると肉が欲しくなるのですよ、きっと。
オルキスビーフは程よく脂がのっていてなおかつ筋がほとんどなくやわらかくて美味しいのだ。
あっちの地球で食べたA5クラスのビーフよりおいしい気がするのですよ。
アマティスのビーフも食べたけどあれは筋張っていて固くて食べられたものじゃなかったな。
良く煮込む料理ならアリだと思うけど、さすがにステーキやソテーは無理だろうね。

あと、他に俺の好きな料理はこっちの俺の故郷とされているラグナール名物の“グリア”。
これはバターで炒めたライスにホワイトソースや鳥肉・リグル(ズッキーニもどき?)・ジャイアントキノコなどが載せてあり、チーズをかけて焼き上げたものだ・・・・・それチキンドリアじゃん?
しかもまた一字違い(グリア→ドリア)。

そしてデザートは“プルン”。
いやどう見てもプリンなんだが?最初見たとき、飲んでたお茶吹き出しそうになったよ。
確かにぷるんぷるんだけど、まさかそれで“プルン”じゃないよね?よね?
まぁそんな感じで今日はひっそりと一人で夕食を楽しみました。

右向こうのテーブルでは恋仲らしい士官の男と下士官の女性がにこやかに会話している。
左向こうのテーブルでは恋仲らしい士官の男女が口論をしている。
痴情のもつれというやつか・・・・大変そうだな。
あ、仲直りしたのか、手なんか握り合っちゃって・・・・・・・・・怒ったり笑ったり忙しいな。
やっぱ一人は静かでいい・・・・・・・・・・だが決して負け惜しみではない。もう一度言っとくが決して負け惜しみではない。
さて、一旦部屋に帰ろう・・・・・・・・・決して寂しかった訳ではない。
 
 

 
後書き
・・・・・ぷるんぷるんなプルン、って失笑ものですよね。
つまらんダジャレすみません。 

 

作戦会議

 
前書き
自分より一回りも年上の部下がいたとして、相手にもよると思いますが、ある程度の敬意を持って接するのって中々難しい事なのでしょうか。
常に効率・スピードを求められる職種ほど難しいのかも知れないですけどねー。
本当は、みんな笑顔で平和が一番!ですけどね。 

 
8月21日 21:00 オルフェーリア作戦会議室

俺が部屋へ入ると既に主要メンバーは揃っていた。
ユウナやタケルちゃんも着席している。
俺は空いてる席を探し、真ん中列の一番端の席に着席した。
視線を移すと前方の大きなモニターには資源惑星ラガールの地表図が映し出されている。
元々この星にいた資源採掘作業関係者3万人はBETAのハイヴが降着する少し前に全員が退避に成功した。
これは偶々至近の宙域で訓練航海中だった輸送艦隊が駆けつけて、そのほとんどの人員収容を行った為、迅速な避難が可能だったのだ。

そしてその地表図の中で赤い光点が4つほどあり、それはBETAのハイヴであった。
―――この短期間で3つもハイヴ増やすとは・・・・・。
しかもこの無人惑星のオリジナルハイヴはフェイズ4まで成長しているし・・・・・。
ほんとうにゴキブリよりも始末におえないな・・・・・。
「諸君、夜遅くに申し訳ない。ラガールへはあと4日で着くのだが、私は明日から3日間ほど留守にしなければならなくなったので急遽、事前作戦会議を開くことにしたのだ。」ディーは申し訳なさそうに俺たちに釈明している。
ま、仕事だし、別に気にしてませんよ。

「それでは早速だが、参謀チームで策定した作戦案を提示するので、諸君には忌憚のない意見を披露してもらい、修正点の洗い出しも行えればと思う。」あれ??ディー司令はああ言ってるけど、普通は参謀達が作った作戦案を司令部と参謀で検討・修正したものをブリーフィングで部隊に伝達、作戦開始の流れなんだと思うけどな・・・・これは参謀達頼りにならないって言ってるようなもんだよ。
彼らもプライドつぶされてるなきっと、かわいそうに・・・・?!って俺めっちゃ睨まれてるんだけど?!
いやいや俺のせいじゃないし・・・・。
―――ディーの隣に座っている2人の参謀将校は、明らかにダイスケをキッと睨んでいた。
憎しみの視線だけで人を殺せるなら、ダイスケは3回くらい死んでるかもしれないくらいに・・・・。

・・・あーあ、もう・・・せめて作戦案策定の時呼んでくれれば良かったのに・・・・面倒事が増えるとかお断りだよ全く・・・。
てゆうか、オリジナルハイヴ最初につぶしてから各個撃破の一択しかないと思うけどな、全く・・・。
「現在策定されている作戦案では4つの敵拠点のうち1か所づつを保有戦力全力でつぶしていくという作戦もしくは第14機動師団を連隊毎に分けて3か所同時に攻略し、残った最後のひとつを合流した全戦力で攻略する作戦の2つが提示されている。」ディーが、現在策定している作戦案を披露してくれたが・・・・。
あれ???・・・・・あっそっか!オリジナルハイヴがその星全てのBETAの司令塔だという事を皆知らないんだっけか!
タケルちゃんを見るとやはり気づいたみたいでうなずいている。
ユウナも何故かニッコリうなずいている・・・・・・なぜ??なんか知ってる??・・・・・いやいやあれは単なる愛想笑いだな、きっと・・・・・紛らわしいな、まぁかわいいからいいけど、うん・・・。
・・・そうすると、オリジナルハイヴの事をそれとなく示唆してやらないといけないんだけど・・・・・どうするかな?・・。
とりあえず携帯端末で・・・・ロドリグの戦闘詳報は・・・・・っとこれだ!
えっと、ハイヴの攻略情報と・・・BETAの活動記録と・・・んむー、時系列になってないから説得力にかけるなぁ、こうと知ってたら整理してから臨んだのに・・・・ピロン!ん?ユウナからメールだ。
・・・・・・・・おお!時系列でまとめられてるBETAの活動記録だ!これなら説得できるな・・・・ってなんで??ピロン!“貸しひとつね!今度の休暇に、わたしの話を聞くこと!”・・・・・・い、イエスマム・・・。
ユウナさんおそろしや・・・・なんで俺の求めるものがわかったんだろう??
ユウナを見るとにっこりと“ふぁいと!”のポーズをとっていらっしゃる・・・。
とても助かったのだけど、今度いろいろと問いたださないとな・・・・・。

「カミナガ中佐、情報部で何か追加情報があるかな?」おおう、いきなり振ってきたよ。
さて、ユウナにも手伝ってもらったし、サクッとやっちゃいますか。
「はい、まずはこちらをご覧ください」俺はさっき端末で検索したハイヴの攻略情報とユウナに送ってもらったBETAの時系列になっている活動記録をモニターの操作端末に送信して映し出した。
「これはロドリグでの敵の拠点攻略の推移と敵性生物の活動記録ですが、敵性生物がある時間を境に撤退行動あるいは活動鈍化しているのがわかります。」
ロドリグ戦でオルキス軍が攻略したのはオリジナルハイヴではなく、通常のハイヴだったので、頭脳級(コア)を破壊した時点では他のハイヴへと撤退しようとしたが、後半アマティス軍が最後に残ったオリジナルハイヴを攻略した際、重頭脳級を仕留めたときから全てのBETAが新たな命令を受けられなくなって活動鈍化したので、俺はそれを説明した。
そして「つまり、その惑星に最初に降着した拠点のボスが全体の司令を司っていると考えられるので、まずはこのオリジナルの降着拠点を潰してから、他の拠点を潰すとやりやすいのではないかと考えます。」
――――と締めくくった。
「なるほど、そういう事なら最初にオリジナル降着拠点を全力かつ迅速につぶしてから他の拠点を1個連隊づつで攻略するのが良さそうだ。」
ディー司令がさっさとまとめてしまった。
この会議の意味あったのか?・・・・・・・最初から俺が作戦の策定に参加するべきだったんじゃ・・・・?

「いえ司令、これはたまたまロドリグではこうなっただけ、とは考えられませんか?私はカミナガ中佐の見解には浅慮しか感じられず、検討の価値があるように思いません。」あー、来た来た・・・・すっごい形相で俺を睨みながらとか、あからさまだなぁ・・・・。
俺あの参謀部のおっさんに何かした覚えないんだけどな・・・・。
「司令!よろしいでしょうか?」ん?ユウナ?
「もちろんだホウジョウ中佐」司令ニコニコしてるな・・・。
「ラファリエス領でも掃討作戦が行われたはずですが、そちらから情報提供を受けて参照すれば真偽の確認が可能なのではないでしょうか?」なるほど、さすがだね。
さっそくラファリエス軍へ問い合わせが行われ、即座に戦闘詳報が送られてきた。
まぁ、参照する必要もなく全く同じ結果が出た。
・・・・・・・・・参謀部のおっさん、不貞腐れちゃってるな。
まぁ仕方ない・・・・・これは苦笑いするしかないな・・・・・。

ピロン!ん?ユウナからまたメールだ・・・・“あのセコイネン中佐は確か46歳。ダイスケ君と私は26歳。軍歴の長さが20年は違うのに同じ中佐なのだから、ね。”んーなるほど、やっかみって奴か。
それにしてもあのおっさん、セコイネンっていうんだ?それだけに、せこいねん・・・・・なんでやねん・・・・・げふんげふん・・・・やってもうた。
「さて、それでは作戦内容が固まったので、これにて解散。」全員起立して敬礼、司令が退出してそのすぐ後をセコイネンがそそくさとついていく。
「ありがとう、助かったよ。」俺はさっそくユウナに礼を言った。
「いいのよ!・・・・そのかわり約束だからね?」ユウナは満面の笑みだった・・・・・なんかこわい。
さて、気を取り直して、というか今日は本当に疲れたので早く寝ようっと!

翌日朝、士官食堂でケローグ(ええと、お察しのとおりコーンフレークのようなものの事です)とスクランブルエッグにカリカリベーコン、ミルクにオレンジジュースと、まるでシティホテルの朝食のようなメニューを堪能した後、アントワープに頼まれた演習管制官をする為にブリッジへと向かった。

今日から地球人組はラガールに着くまでにスクワイエルの操縦習熟訓練を行う事になっている。
アントワープは既にブリッジにいて何やら忙しく指示を飛ばしていた。
モニター越しに「レッドチーム、リーダーはウスイ中尉、ブルーチーム、リーダーはトーノ中尉です。」
「「了解しました」」碓氷と遠野が同時に応答している。
「ブルーチームは一人少ないので、私の部隊のうちランディール中隊から一人参加させます。シーモア軍曹、頼みますね。」
「は!お任せください。フリージア連隊の名に恥じぬよう奮闘いたします!」気持ちいいくらいの直立不動の敬礼だ・・・・・本当に心からランディールを、そしてアントワープを慕ってるんだろうな。
そういえば、帝国軍はG弾の爆発に巻き込まれたときには僚機がもう1機いたんだったな。
入江少尉って言ったかな?彼の機体(激震)はちょっと離れた場所で無残な状態で見つかったんだっけ。
検証ではBETAにやられたのではなく、爆発で破壊されたようなので、最悪の死に方ではなかったのがせめてもの救いだったな・・・。

「よし、では始めます。まずは無重力環境下での操縦感覚を掴むために、左舷方向から2周し、その後反転、右舷方向から2周してください。その次は天頂方向へ20宇宙キロ進んだ後、反転して戻ってください。」
アントワープの命令一下、12機のジクレータMk4は一斉に所定のコースを突き進む。
――――全行程30分ほどで戻ってきたのだが、皆感覚は掴んだみたいだ。
特にA-01の連中は馴染むの早い気がするな。
いや、帝国軍の連中も精鋭らしくかなり習熟度高いのだが(特に遠野中尉なんかは)、連携という面も含めると今のところA-01の方に軍配が挙がるかな。

「よし、それではお待ちかねのフラッグ戦(チーム模擬戦)といきましょうか!・・・・・現在艦隊は
オルフェーリアを中心にちょうど二つに分かれています。」
アントワープがモニターを示すと進行方向を上方とした艦隊の俯瞰図が表示されるが、それはちょうど二つに分かれていた。
「天頂方向から見て右翼がブルー部隊の陣地、反対側の左翼がレッドの陣地とします。」
アントワープの説明に合わせてモニター上で右側の艦艇の表示色がブルーに変わり、左側の艦艇の表示色がレッドに変わった。
「それぞれの陣地の最深部にいるエルガウェインR級(戦艦)が本拠地となり、そこに到達して艦橋にロックオンした方が勝ちとなります。ブルー側はガムス、レッド側はジェイコフですね。」
モニター上ではそれぞれの一番奥に位置する艦が点滅している。

「何か質問はありますか?」
――――「禁則事項はあるのでしょうか?」遠野が早速に質問をした。
「そうですね、模擬モードになっているので兵装は無効になっているし、操縦ミスで艦艇に接触しそうになっても制御AIが防いでくれるので、特に注意点はありませんが・・・・あ、そうそう、そういう兵装の用意はありませんが、格闘戦は禁止します!損傷する可能性がありますからね。」
そうして模擬戦の幕は切って落とされた。
 
 

 
後書き
巷はなにやらクリスマスムード一色のようですが、中止のお知らせは届いていないのでしょうか・・・?
さて、次回は「模擬戦」どうぞお楽しみに! 

 

模擬戦

 
前書き
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
毎度更新が遅くて申し訳ありません。
年末は諸々と公私ともに多忙でした・・・・。 

 

「私と中川少尉は中央から進撃、鳴海少尉と平少尉は右方向から迂回して目標へ向かえ!高山少尉と辻村少尉は拠点防衛と中央隊の援護を。」碓氷が国連A-01のメンバーへ矢継ぎ早に支持を飛ばす。
「「「「「了解!」」」」」
「中川少尉、帝国軍の衛士たちの錬度、どう思う?」碓氷がモニターチェックを行いながら中川へ問いかけた。
「そうですね、事前に聞いていた情報では、斯衛軍とともに京都防衛戦にも参加して生き残った実力のある部隊ですし、実際にかなり錬度が高いのではないかと思います。」少し首を傾げて考えるポーズをとった後に中川はそう答えた。
「その根拠は具体的にどの辺を見てそう思った?」碓氷はまるで教官のように問いかけている。
中川もそれとなく、そういう雰囲気を悟ったのか、座学の時のように理路整然と言葉を選び、答える。
「はい、中尉、まず一つ目はこちらに転移する前に彼らを少し遠くに目撃して見ていたのですが、BETAに包囲されていた際も連携良く対処していましたし、鳴海少尉たちの援護で空けたわずかな隙をベストなタイミングで絶妙にお互いをカバーをし合って離脱していました。」
「確かにな。それは私も見ていたが見事な連携だったと思う。だが1機だけ動きが良くない機があったのでその連携も少し乱れていたようだがな。」碓氷もその点は遠くから確認していた。
「はい、確か入江少尉という方の機体がスラスターと燃料タンクが損傷を受けていた為、と聞いています。」
「食堂の歓談で情報交換した際に聞かされた、あの破壊された激震の衛士か・・・・。」碓氷の脳裏には、オルキス軍の偵察チームがもたらした、入江機の残骸の映像がフラッシュバックした。
だが、損傷のほとんどなかった入江機の管制ユニットには遺体は残っておらず、血痕すら認められず、まるで衛士だけが忽然と姿を消したかの印象だったのだ・・・・・。
それはさておき――――碓氷は邪念をとりはらうかのように軽く頭を振った。
「はい。そして二つ目は外周を巡ったウォーミングアップの時の連携です。我々も留意はしていたのですが、彼らは常に死角をなくしてお互いをカバーし合える位置取りとそれを維持したまま移動を完遂していました。」―――――中川は良く見ている。
実は指揮官候補として中川を育てるつもりの碓氷であったが、自分の判断が間違っていなかった事にほっとすると共に、いつ何があるかわからないこの状況下、一刻も早く育て上げなければ!と心に誓うのであった。

遠野は外視カメラに映る艦隊の艦艇群とその先にいるはずの国連軍部隊のスクワイエルの動きを考えていた。
模擬モードでの索敵範囲は500mほどなので、現在彼らの姿をとらえる事は出来ない。
・・・・・シュミレーターでの戦闘や外周機動を見る限り、彼らは固定エレメントでの連携が中心となっていると遠野は感じている。
対して遠野たち帝国本土防衛軍のメンバーは、物量で押してくるBETAに対してはエレメントという概念はあるものの、どちらかというと中隊ごとに運用を行い、可能な限り火力を上げて対処するという方策が取られていた。
まさに個々の戦技を生かす戦術と集団の特長を生かした戦術の違いである。
恐らく彼らはエレメントごとに分散させて拠点防衛本隊と陽動を別個に運用してくるだろう。
それならば・・・・・。
遠野が取った策はこれだった。
「シーモア軍曹、拠点の防衛をお願いできますか?」
「はい、中尉殿、了解であります!」シーモアは快諾した。
彼にとっても急参加の中隊での連携を求められるより単独での行動許可が出たことは嬉しい限りであった。
「お任せください。拠点を守り切って見せますよ!」
遠野の中隊所属ではないので連携はやや難しいものの、シーモアのスクワイエル操縦技量は間違いなく遠野たちよりも遥かに上等である為、彼単独に拠点防衛を任せて残りの部隊全軍での進撃を選んだ。
「ただし、接敵の場合は1機増援するので、なるべく持ちこたえる方向で頼む。」遠野は作戦上の追加点を指示した。
「了解!」シーモアは不敵な笑みを浮かべながら応える。
「よし、それでは全機、フォ-メーション・アローヘッド・ワン(楔壱型)で突入するぞ!」
「「「「了解!」」」」

「さて、始まりましたね。カミナガ中佐はどのように予想しますか?」レーダーモニターをチェックしながらアントワープが何気に訊ねてきた。
・・・・えっと、どっちに賭けるとかじゃないよね・・・・?
「そうですね、模擬戦で見た限りですが碓氷中尉の部隊はエレメント重視のようなので物量で押されたら不利でしょうが、ある程度持ちこたえて別働隊をうまく使えば拠点撃破出来るでしょう・・・実際にそれを狙っているふしがありますね。ただし、シーモア軍曹の防御を突破出来れば・・・・ですが。」とりあえず見た感じこんなところかな。
彼らの腕ではシーモア軍曹を倒すのはかなり難しいだろうな。

「やはりそう見えますか・・・・さすがですねカミナガ中佐!実はもっと新兵に近い立場の者を当てようかと思ったのですが、それでは彼らも勉強にはなりませんから・・・・ね。」アントワープはちょっと意地悪そうな表情でモニターを見ている・・・・・あ?!今軽く口角上がったよね?微笑ってるよね?コワイヨー!・・・・・・・・。
でも本気で賭けようとかじゃなくて良かったよ・・・。
「ところでブルーチームについてはどう思いますか?」アントワープは先ほどの表情をあらためて俺の方を見て言った。

「ええと、遠野中尉の部隊は部隊単位での行動に重きを置いているようですね。突破力はあると思いますが、臨機応変な細かい対応がやや難しいのではないかと感じます。たとえば模擬戦の時もそうでしたが思わぬ方向や手段で攻撃された時に結果的に細かい指示を与える事は出来ますが、決断までに少々時間がかかっているので、敵の動きを見てリアルタイムで手を打つのが苦手な印象があります。恐らく判断材料になる部下の行動限界や対応能力の把握と配慮がやや甘いからなのかも知れませんね。」遠野中尉はやや、型にはまりすぎて杓子定規なところがあるので、応用力がイマイチな気がするしね。
真面目なんだけど、堅物?って感じかな。

「なるほど、私はトーノ中尉は色々と求めすぎて、やや優柔不断な傾向にあるのかと思っていましたが、確かに判断の前提となる戦力把握能力に難があるとすれば、それも納得出来ますね!」うん、アントワープ先生の仰ることもそう間違いではない気がするけどね・・・・・だけど、それなら遠野中尉は指揮官失格だよね?

――――そして模擬戦は中間地点でのレッド・ブルー両チーム接敵による幕開けであった。
「築山少尉、右だ!牽制しろ!笹川少尉は後方警戒!」レッドチームの碓氷機と中川機の襲撃に対し、遠野は矢継ぎ早に指示を出す。
次の瞬間、築山機のライフルから模擬用低出力レーザーが照射され、近づいて射撃しようとした中川機が回避に移り、離脱する。
『チッ、外したわ。勘がいいのね・・・・でもこの次は必ず落とす!』築山はひとり呟きながら中川機を目で追う。
「築山少尉、その調子、だけど深追いは禁物だ!」放っておくと中川機を追撃しそうな態勢であったために、遠野が釘をさす。
「了解!」築山はやや残念感があったものの、遠野の指示に素直に従った。

『むぅ、まるで光線級に狙われた時みたいで落ち着かない・・・・でも今なら避けられる。』
中川は築山の攻撃を躱す事に成功したが、光線級に照射された時のような焦りを感じた。
だが、すぐに地球の戦術機よりかなりの高機動を誇るスクワイエルに搭乗していた事を思い出し、気を落ち着かせる。

―――そしてその頃、ブルーチームの拠点に孝之と慎二が到着する。
「慎二!敵の拠点ってあのでっかい戦艦のブリッジだよな?」孝之が望遠モードのマルチモニターを通して映るエルガウェインR級戦艦を見ながら慎二に問いかけた。
「ああ、確か“ガムス”だっけ?」慎二が応える。
「ようし!いただきだ!」孝之はそう叫んで攻撃態勢にうつる。
「おい待てって!待ち伏せがあったらどうするんだよ!」慎二が慌てて孝之を止めようとしたその時、レーザーが照射されて孝之機が被撃墜モードになる。
「うおあ!マジか?」慎二は自機にも照射されてきたレーザーを避けながら叫んだ。

『よし!1機撃墜!あとは1on1、負けませんよ、少尉殿。』シーモアは艦橋の裏に隠れて待ち伏せをしていたところ、鳴海・平の両機が接近、鳴海機が割と無警戒で突っ込んで来たため楽に撃破した。
さすがに平機は油断せずすぐに回避行動に移った為、初撃では落とすことが出来なかった。

『くっ孝之、油断しやがって・・・。』慎二はシーモア機を狙って照射を続けるが、回避行動が巧みで当てることが出来ずに翻弄されていた。
慎二も必死に回避する。
『何とか遮蔽物をうまく使って当てられないかな・・・・。』ガムスの艦体を見ながら遮蔽出来そうな箇所を探す。
そうこうしているうちに2機はOLG砲塔の陰に隠れながら撃ち合いを始める。
このままではこう着状態になるのだが、なぜかシーモアも動かない。
よし、それなら一か八か吶喊してみるか!と慎二がそう思った次の瞬間、被撃墜モードとなる。

模擬戦の結果―――ブルーチーム(帝国軍チーム)の勝利となった。
自軍拠点へ来援した笹川機に平機が撃墜された後、ほどなくして高山機が遠山機によって被撃墜、笹川が本隊へ合流してから5-3の状況で押し、松山機に辻村機が撃破された直後に一ノ宮機によってレッドチームの拠点が落とされた。

そして模擬モード解除後、全機が一旦オルフェーリアへと帰投する。 
 

 
後書き
今回は作戦上シーモア無双とはいきませんでしたが、あの面子で実際の1onなら彼は間違いなくTOPの腕前です。 

 

傭兵中隊発足 (+ 登場人物紹介 地球人②)

 
前書き
毎度更新が遅くて申し訳ありません。
最近プロットの描きなおしをしたりしているので、一度書いたものをまた書き直したり、と少々効率の悪い事が続いています。
きちんと続けていきますのでお許しください。 

 
模擬戦に参加した11人の地球人たちとシーモア軍曹は帰投後ブリーフィングルームで待機していた。
俺とアントワープ、そしてタケルちゃんが部屋に入ると、彼らは一斉に起立し一糸乱れぬきれいな敬礼をして迎えてくれた。
カッコイイな、本当の軍隊みたいだな・・・・いや、彼女たちは本物の軍人だけどね?まぁ俺は・・・エセ軍人だよ?あ、でもタケルちゃんは一応軍人か。アントワープは生粋だし。

そして俺たちも敬礼で返礼する。
立たせておくのもなんだし、「ご苦労、全員着席してくれ。」と皆に座ってもらった。
国連軍組はいちおう負けたわけだけど、特に悔しいという表情は見せていなかった。
帰投の途中で色々話したのだろうか、お互いに研鑽し合うのって良いけど青春っぽくてすごく眩しいね。
・・・・・俺、おっさんみたいだね・・・・・まぁ中身おっさんですけど・・・・。
「さて、スクワイエル実機での戦闘はどうでしたか?」アントワープがさっそく皆に感想を訊いている。
「シュミレーターでの操作と違い、思ったより動けなかったように思いますが、その機動においては今まで私たちが乗っていた戦術機とは天地の差があり、これなら楽にBETAを叩けると確信しました!」笹川が興奮冷めやらぬ表情でそう言った。
「思ったより動けなかったのは、我々が今まで乗っていた戦術機とはOSや躯体性能がまるで違うし、その滑らかすぎる動きに戸惑いがあったからだと思う。」遠山が即座に反省点を述べる。
「そうですね、脳波や視点の動き、カメラやレーダーの情報を瞬時に処理して先読みしてくる武器選択システムなんかは慣れると手放せないでしょうね。」碓氷が遠山の意見に賛同し、スクワイエルのB-T-Link Systemを絶賛する。

「気に入ってもらえたようで何よりです。私から見て初搭乗という現時点でも貴官たちは熟練兵士と同等程度の腕前なので、訓練を重ねればかなり期待できると思いますよ。」アントワープから個人技量については及第点が出たようだ。
皆一様に嬉しそうな表情を浮かべてガッツポーズなんかをとっている。
だけど・・・・「リーダーのお二人の部下統率と指揮能力も高めであると評価します・・・・・しかしながら、そもそもの作戦の立案については少々稚拙と言わざるを得ません。まぁトーヤマ中尉の作戦の方が柔軟性に欠けるもののやや及第点に近いです。だから勝利したのだと思いますが。」アントワープにそう言い切られて、遠山・碓氷の両中尉の表情に影が差す。

「具体的にどのあたりが失点対象なのか、ご教示いただけないでしょうか?」碓氷が声を振り絞って尋ねる。
「あなたがたは、お互いに真逆の作戦立案をしていた事に気づきましたか?」
「真逆?!」アントワープの問いに二人そろって声を上げた。
「トーヤマ中尉は拠点の抑えにシーモア軍曹を残して、後は密集隊形で進撃する事を選びました。あと拠点攻撃に備えてササガワ少尉を遊撃のポジションへ置いたのは悪い判断ではありません。あなたは運用単位をなるべく部隊全体・数で押し切ろうとする傾向がありますね?」
「はい、仰る通りです!我々は数で押してくるBETAに対抗するにはなるべく部隊単位で密集しての火力集中運用が効果的であると教わっています。」アントワープの問いに遠山は澱みなく答える。
「まぁ知性の低いあの魔物ども相手ならばそれが最善なのでしょうね。ただ対人戦ではもう少し違った流れになることもあるので、もう少し工夫が必要かも知れませんね。」遠山は真剣な表情で聞き入っている。

「対してウスイ中尉はエレメント単位での運用が得意のようですね?」
「はい、私たちの部隊は大規模での運用はほとんどなく、常に最小単位での攪乱・浸透戦術を用いる事が多いので、連携を考えるとどうしてもそこが基本になってしまいます。」アントワープの問いに碓氷はやや元気なく答える。
「兵力は集中してこそ破壊力や突破力が生まれるのであって、分散しては各個撃破の対象になる、というのはわかりますね?」
「はい!それはもちろん・・・・。」
「今回はお互いが逆の特性を持った部隊同士での戦いでしたが、実際にはケースに応じてそれを使い分ける事が出来るようになるのが熟達した部隊と言えるでしょうね。」

アントワープの総括に皆が傾注している。
ほんと先生役適任だよね、それなのに脳筋なのがアレだけど。
すると・・・「カミナガ中佐!」おわっっ?!急にアントワープに声をかけられた。
え?テレパシー?・・・・じゃないよね?
焦ってそんなことを考えているとニッコリと「何か捕捉はありますか?」・・・・なんだ、びっくりするじゃないか・・・。
「えっと・・・・所属が違う部隊なので、戦術ドクトリンがそれぞれに違っているのだろうけど、貴官達をひとつの中隊にしたら中々のドリームチームが出来るのではないかと思いましたね。」うぇ、何にも考えていなかったので、なんとなく“こうだったら面白い?”と思っている事を軽く口にしてしまったよ。
今思えば、言いだしっぺは責任取らされるというケース、非常に多いんだよね・・・・。
口が滑ったな・・・・・傷口を広げる前にこれ以上はもう何も言うまい。
「なるほど・・・・・それはおもしろいですね!」おい?!アントワープさん?
「政治的な諸々は別として、司令に意見具申してみましょう。」本気なの?!・・・・・まぁこれで言いだしっぺは俺じゃなくなるからまぁいか。
待てよ?彼らは無事に地球に送り返さなきゃならないだろうに、オルキス軍に編入するとかは高度な政治判断になるんじゃないか?
「アントワープ中佐?最初に言った私が言うのもいまさらで申し訳ないのですが、彼らの身分は現在わが軍に保護されている他国軍人という位置なので、それは少々まずいかも知れませんよ?」・・・・とりあえず言ったからね!

「・・・・・そうですね・・・・・では傭兵扱いで行けるのではないでしょうか。」え?!そういう事でいいのか?いや、本人達からの志願ならまだ良いのかもしれないけど・・・・・。

そして、その後アントワープから意見具申、地球の衛士たちの志願という事もあり、おおっぴらではないが正式に中隊が発足する事になってしまった・・・。あれ?
そして、あろうことかアントワープは自身の連隊に編入するのではなく、俺の情報部預かりとすることを提案してきた・・・。
ケツをこっちに持たせやがって・・・・・まぁでもやっぱりそうなったか。

・・・・・・・・・・・・そして俺は一時的に元からあったタケルちゃんの中隊と合わせて2個中隊を指揮下に置く事になった。
ちなみに傭兵として彼らの階級は「臨時」が付くが基本的にはそのままという事になった。
まぁ、オルキス統合軍の中では将校が多い中隊って事になるけど・・・。
これは、マヴラブ世界の軍では戦術機を操縦するのは少尉以上と決まっているが、エレミア星系の軍では普通に二等兵の操縦士もいるという違いがあるためだ。

しかし、教導が大変だよ・・・・・あ、タケルちゃんに任せよう!それがいい。
・・・・なにやら遠くでタケルちゃんがくしゃみをしているようだが、気のせいだろう。
中隊長は、俺が兼任して小隊長を遠野・碓氷の両臨時中尉をあてたが、基本的にはタケルちゃんがサポートしてくれることになっている。
それにしても見事に女性ばっかだなぁ・・・・・・。
タケルちゃんの中隊も12人のうち10人が女性だし、24人のうち男性は・・・・5人か・・・・肩身狭っ・・・・・・。
まぁ女性の社会進出はこの世界だけじゃないからね。
特にエレミア星系は前の大戦で男性の戦死者がかなり多かったから、必然的に女性の比率が高くなっただけという・・・・。
あ、マヴラブ世界も同じようなものだっけ?だから彼らも女性ばっかりなのか。
色々気にしながら指揮していかないとなぁ・・・・・童貞だけど・・・・・。
タケルちゃんの場合は恋愛原子核のせいなんだろうけど、ね。

最初俺は士官食堂でいつものように一人で静かに夕食をとっていたのだ。
今日のメニューは、オルキスチキンのクリームシチューとトマットチーズサラダ・・・・なぜ小さい“ッ”を入れたのかはわからないけど、正真正銘のトマトだった。
それとバケットパン。
バケットパンは、外側はカリカリ中はしっとりと、ここの料理班はホント良い腕しているよ!
感動に震えながらお替り自由のそれをぜいたくに頬張っていたんだ。

だがしかし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしてこうなった?!
俺の周りの席には地球組の中隊全員が勢揃い。
いやいや、ご飯時くらいは各個人別個にゆっくりしていいんだよ?というか、そうさせてくだちい・・・。
「中佐の故郷はどんなところなのですか?」「ご兄弟はいらっしゃるのですか?」「好きな食べ物は何ですか?」とまぁ、中学生の女の子の質問みたいだよ、中には「スクワイエルの携行火器ではどれが一番得意ですか?」などという脳筋確定な奴もいるが・・・・高山とか高山とか高山が・・・・。
そんなこともあり、夕食を済ました後、とても疲れた俺は寄り道をせずまっすぐと自室へ戻り、疲れた体をぐったりとベッドへ投げ出して・・・・・あとは記憶が無い・・・・・。


登場人物紹介 地球人②

碓氷円花 中尉
第7中隊(デリング中隊)中隊長。
部下想いであり、その人格が中隊の皆に影響を与え、団結心を育てている。
第9中隊の伊隅みちるとは割と仲が良かったらしい。

中川悠 少尉
団結心ゆえか、G弾落下の際も最後まで孝之と慎二を連れ戻そうとする。
割と優等生タイプであり、訓練生時代は小隊長を務めていただけあり、リーダーシップも取れる。

高山蓉子 少尉
勝負事やBETA戦になると感情が高ぶり、思いもかけない能力が発揮される事がある。
ただ、思いが強すぎて暴走する傾向も多々ある。

辻村彩矢 少尉
いつも暴走しそうになる高山の抑え役。
何事もなく平和で毎日を乗り越えたいと、割と真面目に思っている。

帝国本土防衛軍第8師団 第68戦術機甲大隊 第3中隊

遠野優理 中尉
生真面目な性格のようで、命令には絶対服従。
しかし、非常時にはきちんと独自の解釈で切り抜けられるだけの才覚あり。
杓子定規で融通が利かない部分がある。

一ノ宮志乃 少尉
戦場での観察・情報統制能力はピカ一。
瞬時に情報処理を行い、的確な攻撃を行う。

笹川麻里亜 少尉
常に突撃前衛を任されており、操縦技量・メンタル共にかなり強い。
ただ、そういった面とは裏腹に女性的な細やかな気配りや振る舞いが出来る。

松山佳代子 少尉
常に冷静、段取りや効率を重んじる自他ともに認める効率厨。
口うるさく求める事が多いが、彼女にとっていちいち理由のあることであり、大概無駄になることはないので皆静かに従う。

築山亮子 少尉
射撃の腕前は中隊随一であり、かなり自信を持っている。
(タケルちゃんの同期生の珠瀬壬姫よりは若干劣るが)
普段は無表情で口数が少ないので、何を考えているのかわからないところがある。

入江剛 少尉
仲間思いでやや自己犠牲の傾向が強い。
自分の機が手負いになった際も同僚には自分を見捨てて逃げるよう進言もした。
G弾の炸裂の際、他のメンバーと共にロドリグ星に飛ばされた筈だが、元から損傷していた彼の機は見るも無残な姿で発見された。 
 

 
後書き
着々と戦闘準備完了となっていきます。
さて次はやっと資源惑星に到着するようです。 

 

資源惑星ラガール①

 
前書き
大変お待たせいたしました!
やっと資源惑星ラガールに到着ですが、なにやら色々な意味できな臭いようです。 

 
「弾切れだ!エネルギーパックをくれ!!」崖をよじ登ってこようとする戦車級BETAをレーザー機関銃で掃射していた兵士が後ろにいる仲間へ叫ぶ。
声をかけられた女性兵士は、物資が納められている金属ケースから弾倉型のエネルギーパックを素早く取り出し、叫んだ兵士に渡した。
「エネルギーパックはもう残り少ないわよ?13人のフル連射であと約2回分ね!」女性兵士がエネルギーパックを渡しながら大声で注意を促す。
「マジかよ?!・・・もうダメなのか!!通信設備はまだ直らないんだろう?・・・・・。」今弾倉を交換した兵士の反対側で機関銃掃射をしている別の兵士が真っ青な顔で掃射しながらそう言った。
「軌道上に艦が来れば何とか届くんだけど、それ以上通信を飛ばすには部品が足らないわ・・・・・取りに行こうにもこの状況じゃ無理・・・基地もかなり破壊されているみたいだし、どのみちダメだと思う・・・。」女性兵士の答えに一同は軽く顔を見合わせる。

「クソっ!詰んだな・・・・・。」隊長である中尉が腕を組んで虚空を見つめながらつぶやく。
「すみません、逃げ遅れた私たちのために・・・・・。」兵士たちの真ん中で守られるような位置にいた3人の技術者っぽい服装の男のうちリーダー各の男が謝罪する。
「いえ、本国からの優先命令ですので、気にしないでください、軍人である我々の責務です・・・・・それよりもこんな情勢なので・・・・・大変心苦しいのですが、いざという時の覚悟だけはしておいて下さい。」中尉はリーダー格の男に対して申し訳なさそうにそう答える。

なぜオルキス領の資源惑星にラファリエスの技術者である彼らがいたのか。
彼らは身分を偽り、民間エンジニアとして資源採掘に従事するという口実で入国してきたのだった。
実は最近このラガールでクロノタイトという未知の物質が発見されたという情報がラファリエスの情報部に入った。
ただし、情報は錯そうしており(実際はオルキス側が意図的にやっている事だったが)、現存する金属を大幅に補強するものといった内容、またはエネルギーの代替になるといった内容や、はたまたワームホール形成に作用する物質である、等いったいどれが正しい情報なのか、情報部もはかりかねた。
そして、それらを確認して可能なら少量でも持ち出す事を目的にこの3人の技術者はラファリエスから派遣されていた。
だが、現物を手に入れこれから解析を行う、というタイミングでBETA降着の可能性が高いという警報が出されてラガール全星に避難命令が発令されて近辺にいたオルキス軍が救助に来た。
当初は彼らもオルキス軍に従って輸送艦でラガール星を離れようと考えたのだが、避難のため居留民や労働者達を誘導しているオルキス軍がしっかりと身分照会しているのを確認した彼らは、非正規で潜入した自分たちは100%引っかかると確信して、別の手段で離脱すべく小型船などを探しにかかっていた。
だが、ほとんどの動力船は輸送船に回収され、残されたのは故障して部品交換が必要なものばかりだった為、単独での脱出はあきらめて専用秘匿通信で軍へ連絡をした。

やがて救援の2個中隊強の兵士が哨戒艇で迎えに来るが、運悪く迎えの兵士が来援する3時間前にBETAの降着ユニットが会合地点のかなり至近に着陸していた為、哨戒艇は迫りくるBETAの前に着陸しなくてはならず、突撃級BETAの体当たりを受けた哨戒艇は大破してしまい、兵士たちは応戦しながら鉱山となっている山の頂上付近にある監視所兼コントロールルームへ逃げ込んだのだった。
しかしコントロールルームへ到達できたのは当初の半数弱の兵士だけであった。

―――――それから1時間半ほど、残存13名の兵士たちは近づいてくるBETAを掃射しては蹴散らしてを続け、そうしてついにエネルギーパックを2回取り替えて最後の弾倉となった。
「・・・マズイな、本気で脱出を考えないと・・・・。」隊長がそうつぶやいた時―――――
「?!ノイズ?・・・・・いや、呼びかけに応答がありました!!」通信機器を操作し続けていた女性兵士が中尉に向かって叫ぶ。
「軍艦か?民間船か?確認するんだ!」
「今やっています!・・・・・・・・つながりました!・・・・・?!オルキス軍の軍艦のようです。」女性兵士が応える。
「チッ!よりにもよってオルキス軍か・・・・・いや仕方あるまい、背に腹は代えられん・・・つないでくれ!」隊長が気まずそうにしながら、女性兵士に命じると応戦をしている兵士が皆、ちらとモニターに目線だけを移す。
『こちらはオルキス統合軍機動第1艦隊旗艦オルフェーリア、艦長のホウジョウ中佐です。貴官らの所属を尋ねてもよろしいか?』
「ハッ!ホウジョウ中佐殿!こちらはラファリエス皇国軍第6陸戦師団所属の第34捜索大隊ジュール中尉であります。」
『ラファリエス軍・・・ですか?・・・・あなたがたは、なぜラガールへ?』ユウナは全員が避難したと報告があったラガールに人間が残留している事に驚いたが、それがオルキス人ではなくラファリエス人であった事に、もっと驚いた。
「はい、中佐殿。実はわが軍にラガールからの避難船に乗り遅れたラファリエスの技術者がいるという連絡がありまして、一番近い位置にいた我々が哨戒艇で捜索に来たのです。」
ジュール中尉はそう答えたが、ユウナはひとつ疑問が残り首をかしげたまま質問を続ける。
「そうですか・・・・ですが、ラファリエスからはそのような連絡はわが政府に入っていないようですが?」
「・・・・・はい、中佐殿、緊急の事でしたし・・・・司令部も混乱しているのかと思われます(とりあえず出まかせを言ったが、後は司令部に任せるしかないな・・・・)。」
『どちらにしても貴官らを救助しますので、座標の申告と脱出準備をしてください。10分後にそちらの周囲に掃討攻撃をかけてからVTA(垂直離着陸輸送機)を回します。』
「ハッ!了解致しました。」そしてモニターはシャットダウンする。
「さて・・・・・救援を取り付けたのはいいが、クロノタイトのサンプルをどうやって持ち込むか?」ジュール中尉は腕を組んで崖をよじ登ってくるBETAを掃射している部下の兵士たちを見回しながら、考える。

――――オルフェーリア艦内
「来ました!ラファリエス軍の位置座標です。」
「よし、それでは当初の作戦通り第14機動師団はまずラファリエス軍周辺の敵排除、そしてラガールタウンに一番近い敵拠点を全力制圧、その後はラガールに一番早くに降着した敵拠点の制圧だ。」オペレーターの報告に続き、ディー司令が待機中の機動師団へ作戦指示を飛ばす。
「カミナガ中佐、君は部隊を率いて救出したラファリエス軍の護衛についてほしい。可能なら彼らが何故ラガールにいるのか、本当の事をそれとなく探ってくれ給え。」
「了解しました!」確かに、俺もラファリエス軍の将校が言っている事はすごく怪しい気がするよ。
「情報部、A中隊B中隊出動だ!」
「「「了解!!」」」遠野中尉と碓井中尉は特に張り切ってるな。
彼女たちのスクワイエルでの初出撃が戦闘ではなく護衛任務というのもちょうどよかったな・・・でも恐らく機動師団の制圧戦闘終了後は情報取得任務でハイヴへ向かわなくてはならないだろうな。
その時にはBETAの残党と戦闘になるかも知れないけど、最初からあの数の敵と戦うよりは少数の残敵掃討の方がいいだろうし。

ブリッジを後にしようとしたら、ユウナと目が合った・・・ん?何か言いたそうだな。
こういうときはいつも何故かありがたいアドバイスがあるし、とりあえず聞いておくかな。
「何か伝えたい事がありそうだけど?艦長さん?」ちょっと茶化しつつ訊いてみた。
「全くもう・・・・それはいいけど、ダイスケ君クロノタイトって知ってる?」
「クロノタイト?なんだっけ?」あれ?どっかで聞いた気がするけど思い出せないな・・・。
「えっとね、つい最近だけどラガールで発見された謎物質のことだよ?」
「あー!わかった・・・・エネルギーになるかも知れないし、素材になるかも知れない、とかいうやつだっけ?」確かそんなふれこみだったような(俺の記憶がそう言っている)。
「うん、そうそれなんだけどね、アマティスもラファリエスもすっごく興味を持ってるみたいで、エミリア惑星同盟のオルキス代表部にずっと情報開示の要求が寄せられているんだって。」
「ああ、それは聞いたことがあるな。」というか、俺に流入した記憶がそういっているんだけど・・・。
ん?なんか気づいた気がする。「もしかして、奴らそれを狙って潜入してた可能性があるって事か?」
「うん、たぶんそうだと思う・・・・でね、彼らがクロノタイトのサンプルを持ってたりしたら持ち出しを阻止して欲しいんだ。」ユウナはお願いのポーズで俺を見上げる・・・・正直眼福であります。
「わかった!惑星同盟を組んでいるとはいえ、他国に情報が漏れるのはマズイし、何より俺は情報部の将校だからね。」まぁプライドもかかっているのですよ。
問題は、彼らもバカではないだろうから、しっかりと隠蔽して来るそれをどうやって見つけるか、だな。
本国の情報部に特性とかを問い合わせしておくか。
だけど、ラファリエスって前の戦争の時から、ほんとに色々とやらかすよな。
エレミア戦役ってラファリエスが画策してアマティスとオルキスをデトロワと戦わせて弱り切ったところで宣戦布告してくるという悪党っぷりだったみたいだし。
さて、ではその悪党どもの顔でも見に行くかな。 
 

 
後書き
先日、巷ではなにやらチョコレート配布のイベントらしきものが行われていましたね。まぁお菓子業界も需要を作り出すのが大変なのでしょうね(ともっともらしい事を言いつつ遠い目・・・・なんかしてませんよ?)。 

 

資源惑星ラガール②

 
前書き
毎度更新遅くなり、すみません。
次回は少し早くなると思います! 

 
ジュールたちは窓外に舞い飛ぶスクワイエルを横目に見ながら脱出の準備を粛々と行っていた。
大気圏外から飛来したオルキス軍のスクワイエルは崖をよじ登るBETAを次々と肉塊に変えていった為、もはやジュール達は応戦の必要がなくなったのだ。
「クロノタイトはどうしますか?」ジュールたちと同じように脱出準備を行っていた技術者のリーダー格の男がジュールに尋ねた。
「そうですね・・・・・・・・。」ジュールは腕組みをして考えた。
オルキス側は当然クロノタイトを知っているし、重要な資源であるからにはその流出について神経をとがらせており、その探知方法もあるはずだ。
何らかの隠蔽処置をしたところですぐにバレるであろう事は一目瞭然である。
ミニシャトルで打ち上げて後日あらためて回収する、など色々考えてみたが、モノがモノだけに発見されたら国際問題にまで発展する事が容易に想像できた為、ここは安全マージンをとってこれまでの分析データのみを持ち帰る事にした。

「ただその辺において行くわけにもいきませんから、下層階から地上へ抜ける非常通路へでも廃棄しましよう。暴発の危険はないのでしょう?」ジュールは自分たちを収容しに屋上へ降り立つVTAのスキャナー(探知機)に反応しないであろう距離の場所へクロノタイトの入った容器を投棄する事にした。
非常通路は螺旋階段になっており、真ん中から最下層(地上)へ一直線に投棄出来るはずだ。
「ええ、起爆剤がなければ特に問題ないはずです。」技術者のリーダーが応える。
そして、部下の技術者へ非常通路の上から廃棄して来るように言った。
部下の技術者は頷くと、クロノタイトが格納されている金属製のバトンくらいの大きさの円筒を持って、兵士たちが脱出準備で走り回る中、部屋の一番奥にある最初にここへ来るときに使った非常通路の扉を開けてその中へ入った。
するとその次の瞬間・・・・・中途半端に少しだけ開いていた扉の向こうから短い叫び声とともに夥しい血が飛び散ってきた。
全員の注目を浴びながら、赤い大きな手が扉の隙間から差し込まれてきて、扉を開けた―――――。
それは腹に大きな口のある戦車級BETAだった。
ゆっくりと部屋を見回すそいつの口の周りにはべっとりと血が滴っており、たった今、クロノタイトを廃棄に行った技術者が捕食されたのは一目瞭然であった。
「全員、退避―――――!!」あまりにも急であり、ジュール中尉はそう命令するので精いっぱい、自分も逃げるのがやっとだった。
だが、彼も軍人であり、1体、2体と侵入してきて3体目が顔を出したときはもう覚悟を決めていた。
ジュールは撤退の為、部下が床に投げ捨てた残エネルギーわずかなレーザー機関銃を拾って構える。
1体を打倒して、2体目を倒そうと引き金を絞ったとき――――カチンと乾いた音がした。
「むぅ・・・・・・。」エネルギーが切れた・・・・・・・・・。

その時!非常通路の天井が外から突き抜かれて、まばゆい光の奔流が地上へ向かって一直線に伸びて、あたりはもうもうたる白煙に包まれた。
それは一瞬の事であったが、光と白煙が収まると非常通路のあったあたりが赤く焼けていて、BETAの姿はもうどこにも見えなかった。
そして轟音とともに穴の開いた天井からスクワイエルの姿が見えた。
『ジュール中尉はいるか?』拡声器を通じて問いかけがあった。
「私がジュールです!」
『私はオルキス軍中佐のカミナガだ。今から、そちらの屋上にVTAが着地するので、負傷者から順に搭乗して欲しい。』
「はっ!了解しました!」ふぅ、やっとお出ましか。
一時は間に合わないかと思ったが、まさに絶体絶命だったな・・・・・。
それにしてもクロノタイトは間一髪だったな。
あの技術者は可哀想だったが、これで何とか任務は達成できそうだ・・・せめて冥福だけでも祈ろう・・・。
崖の下をのぞくとオルキス軍のスクワイエルの一個中隊くらいが執拗にBETAを攻撃し、まるでそこにいるすべてをせん滅しようとしているかに見えた。

大気圏内へ降下した第14機動師団は全連隊がラガールシティから北極方面へ800kmほど離れているラガールにおけるオリジナルハイヴへ向かっていた。
ダイスケの率いる情報部部隊が先行してラファリエス軍の立て籠もっているラガールシティ郊外の鉱山地区へ到着し、周囲のBETAを駆逐している様子は、ときおり入ってくるかれらの通信で何となく把握出来ていた。
『高山少尉!敵の足止めが出来れば良いのだぞ?殲滅の必要はないんだぞ!』
『中佐、BETAは生かしておいてはいけないのです!このぉー!死ねBETAぁぁ!!』
『そうだ!消えてなくなれ――――!!』
『貴官も落ち着け!築山少尉!!』
・・・地球からの傭兵組がBETA憎しで大暴れしている様子もダダ漏れであったが・・・・。
「うん・・・・ファリス大尉、わが連隊は通信チャンネルを変えようか・・・・。」アントワープは苦笑しながらそう言った。
「は・・・はい・・・・・ロアーヌ連隊、これより通信バンドは7-7-4だ。」言われたファリスも苦笑しながらすぐに手を動かし命令に従う。

144機4つの集団は次第にオリジナルハイヴ至近距離へと入って行った。
そして第14機動師団は当初の作戦通り全力でオリジナルハイヴを落とし、その後近い順に2番目、3番目、を落とし、最後にラガールシティから一番近いハイヴを落としたが、オリジナルハイヴは30分ほど、他のハイヴは軒並み20分程度とかなり迅速な攻略だった。
だが、今回のBETAハイヴの攻略はこれまでとは少し違う事も起きていた。
第14師団がオリジナルハイヴを攻略する直前にハイヴから宇宙へ向けて極低短波の通信と思われる超光速波が発信された。
通信の内容は解析中だが、なんらかの言語情報が含まれていると見られている。
そして、もうひとつ、このオリジナルハイヴの中に隠し部屋のようなものがあり、そこにはクロノタイトを圧縮したと思われるエネルギー貯蔵庫とクロノタイトと組成が似ている未知の物質エネルギー貯蔵庫が発見された。
ダイスケとタケルは、この未知の物質エネルギーには心当たりがあった・・・・“G元素”。
なるほど、G元素は重力物質だったと記憶しているが、クロノタイトも同様の性質を持つエネルギー元素。
BETAはクロノタイトの組成に気づいて、G元素と合わせて収集をしていたようだ。
ダイスケは次のオリジナルハイヴ攻略戦があれば、随伴を申請して、原作でも語られていなかった、“なぜBETAはG元素を収集しようとするのか”を “あ号標的”に尋問したいと思った。
 
 

 
後書き
だんだんとBETAの真相に迫りたいとおもいます。 

 

資源惑星ラガール③

 
前書き
BETAってほんと謎生物ですよね。
まぁ、『千と千尋の神隠し』の「すすわたり」や『となりのトトロ』の「まっくろくろすけ」なんかも、かなりな謎生物なんですけどね! 

 
第14機動師団は4時間後にはほぼラガール全星を制圧した。
6時間後にはオルキス本星からこちらへ向かっている陸戦師団と工兵師団が到着して、機動師団と地上警戒任務を交代、工兵師団が施設の復旧作業を行う予定である。
ダイスケ達情報部直属部隊はラファリエス軍一行を乗せたVTAと共に旗艦オルフェーリアへ帰投していた。
VTA搭乗の際、ラファリエス人たちの乗船検査を行ったが、懸念されていたクロノタイトの持ち込みというような事はなかった。
ダイスケは、単なる思い過ごしか、と思いつつも警戒心が全く引かないジュール中尉に何となく不信感をおぼえているのだった。
うーん、間違いなく何かやらかしそうな顔してるんだけどな。
まぁ顔で決めつけちゃいけないんだけどね。

それにしても、ラガールのオリジナルハイヴでG元素が見つかったという事は、他の惑星で制圧されたハイヴにも貯蔵されているはずで、各政府も解析に躍起になっているだろうな。
解析が出来ればエネルギー源としてはクロノタイトとほぼ同等だという事がすぐわかるし、どこの政府も持っているとなれば、あまり秘匿価値がなくなっている気もするね。
あ、G元素の精製過程はまだ未解明だっけか・・・。
なら、大した量は確保出来てないのか。
でも何となくの予想だと、何らかの手段で有機物や無機物を含む炭素系の物質を合成して生成している気がするんだけどね。
じゃなければ人類を含む炭素系の生物をも捕食している意味も不明だしな・・・。
そういえば、BETAってG元素を収集する為の作業ユニットじゃないか?って見解も二次小説だったか掲示板かで見たな。
確かにその可能性はあるだろうし、ま、単に戦闘ユニットも兼ねているだけって可能性もあるしな。
そもそも戦闘という概念が無い種族が作ったのなら、ああいうふうになるのか・・・な?
でもあれだけの運動能力を持った疑似生命を作り出す奴らの設計する戦闘ユニットなんて存在したとしても絶対に出会いたくないな・・・嫌な予感しかしないぞ・・・。

そんな事を考えながら決済書類を片付け、やるべき事を終え、ふと時計を見ると既に18時をまわっている・・・・・さて、腹減ったし夕飯でも食べに行くかな。
たまにはタケルちゃん誘っていこうかと思い、連絡を取ると応諾がかえってきたので、士官食堂へ向かった。
さぁ、今日は何を食べようか、と考えながら食堂へ入った。
とりあえずいつも通りまずはおすすめを訊くのが一番だろうと思い、「今日のおすすめは何だろう?」と入口受付をしている輜重課の女性下士官に話しかけた。
「中佐殿、いらっしゃませ!本日のおすすめはオルキスビーフのモレンソテーですね。」女性下士官はとてもいい笑顔で答えてくれた。
それにしても、レモン=モレン・・・・・・・レとモを入れ替えただけというネーミング・・・・・。
まぁ俺のいた日本でいうところの佐世保名物レモンステーキみたいなものだろうか。
タケルちゃんたちの日本の九州は1998年にBETAが上陸してきた際に壊滅させられているから、たぶん彼らはそんなもの知らないだろうな・・・・。
それにしてもBETAの北九州上陸に始まる西日本侵攻ではBETAに3600万人も喰われたんだよな・・・・。
あいつらどんな食欲していやがるのか・・・・・、あ、そうかあの勢いで中国人やインド人や大陸中央部の民族数十億人みんな喰っちまいやがったんだっけか。
みんなG元素にされて宇宙の果てのBETAの飼い主のところに送られたのか・・・・。
ほんとうにろくでもない害獣どもめ・・・・。

「えっと、その・・・中佐殿?」女性下士官が怪訝そうに俺の顔をのぞいている。
「ああ、すまない、ちょっと考え事をしてしまった・・・。」俺はバツが悪くなって恥ずかしかったが、とりあえず謝ることにした。
「いえ、それで中佐殿は本日何を召し上がりますか?」そうだ、それを決めていなかった!
とりあえず、おすすめで間違いなさそうだな。
「では、オルキスビーフのモレンソテーにしてくれ。トマットサラダもつけて欲しいな。」
「ライスとブレッドどちらにしますか?」そうか、米とパン選べるんだった!
日本人なら米だよね!・・・今は日本人じゃないけど・・・だが俺は迷わずライス大盛りを注文した。
「了解しました!」女性士官はなかなか良い笑顔で応えながら端末にオーダーを入力してくれた。
さて、ではこの世界において俺が知る中で最も緑茶に近いアマティス茶でも一緒に飲むかな。

ちょうど席についた時、向こうからタケルちゃんが料理を持ってこちらに歩いて来た。
「すんません、お待たせしました?」相変わらず敬語なのかそうでないのか微妙な言葉づかいだが、一応気を使ってくれているようだ。
「いや、今着席したとこだよ・・・ん?タケルの持ってきた定食っぽいやつ?!おま、それはまさか!・・・・・・」そう、どっからどうみてもアレなんです。
「え?ああ、これバーサのソイスープ煮定食だけど、まんまサバ味噌定食なんですよ!」タケルちゃんは嬉しそうに定食の匂いを堪能しながら教えてくれた・・・バーサ・・・サバ・・・ソイスープ・・・味噌・・・。
「・・・おまえはどれだけサバ味噌定食好きなんだよ?・・・・。」こいつはほんとうにブレない奴だ。
Muv-luvの食堂シーンの描写ではかなりの確率でサバ味噌定食食べているからな・・・。
「いやだって、ダイスケさん合成サバ味噌定食食べた事ないでしょ?」
「ああ、確かに食べたことないな・・・・どんな味なのかわからんけど興味はある。」実際どんなものなんだろうって思うんだよね。
「普通に天然もの食べてる人からしたら、あれはほんとにヒドイから!パサパサ感ハンパないし!」タケルちゃんが珍しく必死に説得にかかってるから、多分本当に酷いんだろうな・・・・。
「横浜基地のPXは京塚曹長が料理スキルかなり高かったおかげでまだそれなりに食えたけど、他の基地のPXだとほんと食えたたものじゃなかったっすよ・・・・。」うーむ・・・タケルちゃんはこう言うけど、あの京塚のおばさんの味付けとなるとやっぱり興味あるから、向こうの世界に行ったら必ず食べてみようっと!・・・でもほんとに行けるのかな?・・・まぁタケルちゃんいるし純夏がそう言ってるようなので大丈夫だろ、きっと。

そんなこんなでタケルちゃんとは、終始あっちの話やBETAの話で盛り上がってしまった。
ちなみに戦闘用BETAの存在については、俺と同意見で、今存在するBETA種のうち要撃級や突撃級が戦闘BETAに相当すると思いたい!・・・・と言っているし、俺も激しく同意だ。
なんかフラグ立ててる予感がしないでもないが、早く忘れるようにしよう・・・・うんそれがいい。

そしてもうひとつ俺もタケルちゃんも違和感を感じている事が一つあった。
それは、「そういえばダイスケさん、こっちに来ているBETAって繁殖するのマジ早くないっすか?」とタケルちゃんが切り出すが、そう、それなんだ!
「そうなんだよな・・・ロドリグでは2週間足らずでハイヴを5つも作りやがったし、ラガールでも同じくらいで4つも作っているしな。」そう、あきらかに繁殖能力が上がっているんだよね。
これは二人とも明確な解は出ないけど、もしかしたら地球や太陽系よりもこのエレミア星系の惑星の組成元素の方が、よりG元素生成に適しているのかも知れない、という何となくぼやっとした予想を持つに至っている・・・・やっかいだな。

これ、BETAの本部なのか、中継基地なのかが知ったら降着ユニットを大量に送り込んで来るんじゃなかろうか・・・。
そういえばラガールのあ号標的が最後に通信波を宇宙に飛ばしてたらしいし、これ絶対に場所割れとかしてるっぽいな・・・・一応司令を通じて政府に警告発しておこうかな。
おっと、気が付くと22時になっていた・・・そこでタケルちゃんとは別れて俺は自室へ向かった。
 
 

 
後書き
レモンステーキ、さっぱりして美味しいですよね!最初に食べたのは今から10年近く前ですけど、東京の水道橋の●ランス亭さんで、美味しさにハマって以来一時期、1週間に1回以上は必ず食べてた記憶があります・・・。 

 

告白

 
前書き
告白って聞くとドキドキしませんか?
甘酸っぱいというか、青春というか・・・おっさんの戯言ですね、すみません。
本文の告白とは意味が違います。
どちらかというと、カミングアウト・・・でしょうか。 

 
部屋に戻るとユウナが入口ドアの前で待っていた。
・・・ん?どうしたんだ??
ユウナの横顔は少しだけ憂鬱そうな表情をしていたが、俺の姿を見るとすぐにいつもの笑顔が戻った。
そして「ダイスケ君!ちょっとだけお話してもいいかな?」と唐突にそんな事を訊いてくる。
さていったいなんだろう?・・・すごく気になるけど立ち話もなんだし、とりあえず俺の自室に入ってもらう事にした。
「さぁどうぞ艦長殿!」俺は恭しく自室へ導いた。
「もう、ダイスケくんからかってるでしょ?」ユウナのほっぺがぷくっと膨れてる・・・眼福。
おっと、そんな事考えちゃいけないな!

中に入ってユウナをソファに座らせると俺は冷蔵庫から果実水を取り出して、ユウナに勧めた。
「ありがとう!」ユウナはのどが渇いていたのか、もらった果実水をすぐに飲み干してしまった。
「それで、俺に話って?」とりあえずどんな話なのか早く知りたかったので、ユウナに促した。
「ダイスケくん、何か隠し事してるでしょ?」え?え?え?なんで急に??
「いやいやエロ本とか全然持ってませんよ?ええ。えっちい映像とかもストックないし!」俺は不覚にも何で急にそんな事を訊かれたのかわからずプチパニックに陥った・・・・。
「やだ、そんな事じゃなくてね!ていうか、ダイスケ君・・・・やっぱりそういうの持ってるの?・・・・あ、男の子だものね!それはそうだよね!」
「いやいや、ほんと持ってないから!ほんとだから!」ちょ、待ておま!何この展開?!

「ふふふ・・・ダイスケ君、はぐらかさないで!別にえっちい本とか映像見てても許してあげるから、でも今はそのことじゃないよ。」
「おお、許してくれるのか・・・って俺ホントに持ってないから!!・・・ってそのことじゃなかったらどんな事かな?」図らずも俺がえっちいものを持っているという前提になってしまったが、いったい何を訊きたいのかわからなかったので、ユウナに訊き返した。
「私が言ってもいいけど・・・出来ればダイスケ君・・・自分から話して欲しいかな。ヒントはね、柏が丘南小学校。」あれ?!え?!なになに?!俺の行ってた小学校・・・まさか・・・いや、ありえない?
そんなバカな!俺の中身が地球人だと知ってるのタケルちゃんしかいないはずだが・・・・。
でも小学校・・・北条ゆうな?そんな子いたかな?あれ?いやいやいや・・・まさか小鳥遊優奈?!

・・・そう、俺はたった今、完全に記憶の彼方に消え去っていた一人の幼馴染の女の子を思い出した。
俺の一家が住んでいた団地の同じ階に住んでいたその子は、親同士が仲が良かった事もあり、良くお互いの家を行き来していて、しょっちゅう、というか3歳頃からほぼ毎日一緒に遊んでいた。
まぁ、子供同士では良くある事、『わたし大きくなったら、だいすけくんのお嫁さんになってあげる!』みたいな事もあったのは微笑ましい記憶だな・・・。
俺も子供ながらに人付き合いが悪くて、小学校に上がっても友達と呼べる存在は一人もおらず、近くにはいつも通り、ただ一人幼馴染の優奈がいるだけだった。

・・・だが、そんな日々は唐突に終わりを告げた。
優奈の父親が転勤で中東のK共和国へ海外赴任となり、一家全員でついていくことになったのだ。
彼女の一家が旅立つその日、俺はショックやら面白くないやら、色々不快な感情がないまぜになっていて家に閉じこもってしまい、とうとう最後の言葉を交わす事もなく別れてしまった・・・。
だって、それが永遠の別れになるなんて、思いもつかなかったし、何事も考える余裕が全くなかったんだよ?

・・・そう、彼女の一家はその後着いた先の国でしばらくは平穏無事にすごしていたみたいだけど、半年後に突然勃発した隣国S首長国との戦争に巻き込まれて、行方不明になってしまったんだ・・・。
完全な奇襲攻撃だったらしく、多くの在留日本人が犠牲になったそうだ。
優奈の家族は死体も見つかってないし、死亡も確認されていないので、行方不明とされているが、多分殺されたのだと、俺も俺の両親もそう思って諦めていた。

当時のニュースを大人になってからも見る機会があったけど、他にも犠牲になった外国人はいたらしいが、犠牲になった外国人で突出して多かったのは日本人だったらしい。
K共和国の在留外国人の中で一番多かったのはアメリカ人だったのに、かの優秀な情報機関のおかげで半日前に攻撃を察知して、ほとんどの在留米国人を力技で引き揚げたらしい。
他の欧州の国なんかも同じくらいのタイミングに情報機関が察知して、在留自国人を引き上げたので損害は軽微だったそうだ。

まぁ、その頃の日本は海外で活動できるような情報機関を持っておらず、状況を把握したのはその隣国S首長国軍が既にK共和国首都を包囲、総攻撃を開始した頃、そして各国で報道の第一報が入った後にやっとという致命的な平和ボケだった。
しかも、現地の外交要員たちはそれでも日本は今回中立国なのだから、攻撃されるはずがない、話し合えば余裕をもって避難が出来ると考えて在留日本人には家を出ないように言っていたが、首都陥落後彼らの希望的観測に反して日本人はことごとく捕縛され、運の悪い者はその場で射殺または斬首、かろうじて運の良かった者でもその後殺害の様子をカメラに収めて放送する為だけに生かされ、ほんの少し寿命を延ばすだけという結果であった。

罪のない自国民が次々に殺害される様子を報道で見た当時の日本人は皆最初は驚愕と恐怖をおぼえ、その次にこの理不尽に対する抑えきれない怒りの衝動を生じさせた。
それまでは、日本の敗戦で幕を閉じた第二次世界大戦以前の軍部独裁と他国侵略に対する反省と言う名目で、日本に領土的野心を持つ隣国C人民国に同調する野党が中心となって反戦活動を激化させて、戦後再編された国土防衛隊という準軍事組織の弱体化推進や日本独自の情報機関の設立などを邪魔をしてきたのだが、怒れる国民に対して全く支持を得られず影響力も小さくなり、間もなく情報機関設立や国土防衛隊の国土防衛軍への改編と能力向上そして紛争発生地域への派兵と自国民保護の法案が即座に可決されることになった・・・。

そしてその3年後国連決議を受けた米国を中心とする多国籍軍によるK共和国解放作戦とそれに続くS首長国逆侵攻作戦に日本は多数の派兵を行い、自国民の仇討とばかりに先端兵器を駆使した容赦ない攻撃で快進撃を行い、瞬く間にS首長国は攻略された。

結果、各地に散らばった元政府軍がテロリストと結託してあちこちでゲリラ戦を仕掛けてくるという泥沼にはまり、俺がこっちに来る頃は、増派で一気にカタをつけるか、撤退するかで米国との調整や国内の世論も大割れに割れて混乱してたな。
これを見ると日本人って長期戦に向いてない!って思ったな。

・・・ああ、話がだいぶそれてしまった!
てゆうか、ユウナ、いや優奈が急にびっくりするようなカミングアウトをするから思わず現実逃避しちゃったよ!
うーん、やっぱりそういう事なんだよね?いったい何があったのか優奈に訊かないとな。
でもその前に・・・「久しぶり?かな優奈。」俺は自然と涙がこぼれてしまった・・・。
「やっぱり?!うん、大輔くん、こっちじゃずっと会ってたけど久しぶり、なんだよね。」優奈も大粒の涙をこぼしながら震える声でそう言ってくれた。
お互い涙して見つめあう二人。

そして果実水を飲み干したグラスの中の氷が溶けてカランっという音が部屋の中に響いていた・・・。
 
 

 
後書き
ええ、初期にフラグを立てたような気がしましたので、回収に参りました次第です・・・。
転生者3人目・・・だと?(タケルちゃんは転移だし、ダイスケは憑依かも知れないですが)
2017.7.13コッソリと一部修正しました。 

 

異世界へ憑依

 
前書き
こんにちは!
世の中から人類同士の戦争や武力紛争がなくなって欲しいな、と割と本気で思ってるのですが、人類の歴史は戦争の歴史と言われているくらいだから・・・難しいのでしょうね。
闘技場みたいなところで勝敗決めれば一般市民の被害が無くて良いのに、とお花畑な事を夢想する春先です。 

 
優奈の一家はS首長国の総攻撃が始まる少し前にK共和国の首都郊外までは避難できたが、あともう少しで抜けられるというところで避難民の群れに阻まれて立ち往生したそうだ。
・・・そして間もなくS首長国軍の砲爆撃が開始されて近くの空き家へ避難したのだが、その時急にあたりに閃光が走ったかと思えば、次の瞬間は暗い空間にふわふわと浮かんでいるような感覚に変わったそうだ。
「その感覚・・・俺もこっちに来るとき経験したよ。」ほぼ同じ状況だな、きっと。
「ねぇ、という事は大輔くんも・・・あっちでは死んじゃったの?」優奈はすごい悲しそうな顔で俺の顔を見てるけど、俺だって優奈が死んだんだ、と思ったらほんとうに悲しいよ・・・・。
「うん、タクシーに乗ってたら真横からダンプが突っ込んで来て・・・・その後は覚えてないから、死んだはず。実はさ、俺向こうでは・・・32歳だったんだ。」言いたくないなぁって思ってたけどどこかでバレる気がするから正直に言っちゃった。
「え?!じゃぁずいぶん年上なんだね。お兄さんって呼んだ方がいいかしら?」優奈はいたずらそうな微笑を向けてきた。
「それはやめてくれ・・・・あれ?優奈は何歳の頃からこっちにいるの?」年上かどうかはこれで決まるだろうさ。
「えっと、前の世界を思い出したのはこっちで3歳の時だよ?大輔君は違うの?」
「フフフ・・・・という事は、向こうの歳を合わせると優奈の歳って俺と同じじゃないか?」
「え?えっと、9歳プラス気づいてから23年だから・・・・・32だ・・・・。」
ほらほら俺に死角はなかった!うんうんまぁ32歳ならこの母性感はうなずけるな。
「優奈、アラサーって言葉知ってる?」
「なに?それ?」・・・・神様、女の子が首を傾げるしぐさってどうして可愛いのでしょうか?
でも「アラウンドサーティ、30歳前後の人って意味だよ。」容赦ないなぁ俺・・・。
「・・・ぶー!!大輔君デリカシーに欠ける!!」優奈はその意味に気づき、頬を膨らませてむくれた。
「あ、ごめんごめん。何だかんだで、俺と優奈の実年齢は一緒だと思ったらちょっとうれしかったんだよ!」
「なんか誤魔化しにもなってない気がするけど・・・仕方ないから許すよ。大輔君だからね・・・。」
んー、やっぱ俺ってデリカシー無いだろうし、コミュ障だし、そう言われても仕方ないのか・・・。
「でも、大輔君が覚醒した時期は、たぶんだけどね、最初に浮遊していた小惑星・・・降着ユニットだっけ?その調査の時に気を失って目覚めた後の大輔君がその前の大輔君と全然雰囲気変わってたから、そのあたりでしょ?」
「・・・ビンゴだよ!すげーな優奈!」て言うか、そんなにわかりやすかったのか・・・?
あれ?でも俺の意識が入り込む前のこの俺の意識ってどうしたんだろう?まさか俺の意識が取って代わっちゃったから・・・まさか死んだとか・・・じゃないよね?・・・・それ以前の記憶もちゃんと残ってるから、元のダイスケに重ねられただけ?だったらいいのだけど・・・。
それを今考えても仕方無いか・・・次に純夏に会った時に訊いてみよう。
「うん、なんかね、それまでの大輔君はなんかちょっとスカした感じっていうか、仕事は出来るけど薄っぺらな感じ?だったのだけど、あの時からは懐かしい大輔君の感じがしたんだよ?だから本当にそうなのか確認したくて二人きりでお話しする機会を探してたんだ。」なるほど!それで俺はストーキングを受けた訳ですね!・・・まぁでも美人のストーキングなら歓迎・・・はしないまでも、そこまで嫌な感じはしないのかな・・・。

窓外を見ると遠くに流星群が見えたので優奈に教えた。
「わぁ綺麗だね!・・・・・・・・あ、でも今までこんなこと思わなかったけど、向こうの人たちから私たちはあの輝く星か流星になった、とか言われてるんだろうなぁって思うとちょっとしんみりしちゃうね・・・。」
「うん、そうだね・・・・優奈は悲しい?向こうに帰りたい?」
「ううん、不思議だけど、そうは思わないんだ。」
「そっか・・・優奈はもう心の整理というか踏ん切りをつけているんだね・・・23年もこっちを経験したらそれくらいにはなるか。」
「そうかも知れないね・・・大輔くんは向こうに帰りたい?」ちょっと不安げな表情で優奈はそう訊いてきた。
「うーん、そうだなぁ・・・・・あまりそう思わないかなぁ。」不思議と未練とかは無いんだよな・・・。
優奈がこちらに来た時の経緯も訊いてみたが、彼女は純夏とは会っておらず、なぜこちらの体に憑依したのかもわからないそうだ。
その辺は俺やタケルちゃんとは違うみたいだ。

今のところ、どこまで話して良いか判断がつかなかったのでタケルちゃんの詳細はまだ伏せてある。
ただ、碓氷中尉や遠野中尉達と同郷らしいという事だけは艦隊上層部にはカミングアウトしていたので、その程度しか情報は無いと思うけど、いずれはタケルちゃんの同意をもらって詳細を教えようと思う。
そうしないと、うまく連携が取れないことだって出てくるかも知れないしね。
てゆうか、タケルちゃんの戸籍とかってどうなってるんだろう?
さすがに正規のものじゃないと軍にはいられないだろうから、たぶん大丈夫なんだろうけど・・・これも今度訊いてみよう。

そうそう、これを訊かないと!「そういえばさ、ラガール攻略前の作戦会議の時にさ、なんで俺が思ってる事わかったの?」いまだに不思議なんだよなー。
「ああ、それね・・・・なんて言うかわかっちゃうのよ。」
「いや、それ答えになってないし・・・。」
「ごめんね・・・でも説明がつかないんだけど、大輔君が困ってる事があるとね、頭に浮かんでくるの。」
「ひょっとして超能力みたいな?心が読めるとかなの?」やべぇ優奈さんが社霞(やしろかすみ)化してる?
「ううん、全部わかるわけじゃないけど、大輔君が特に困ってる時だけみたい。」
「ふぅん・・・まぁ正直すごく助かってるから、俺は有難いと思ってるけどね!」
「だったら良かった!これからも助けてあげるからね!」
「うん、ありがとう!」でもほんとに全部読んでないよね?えっちい事考えた時とか心読んでないよね?よね?・・・・・・・・。
「ふふふ・・・。」なぜ笑う?!・・・・・・・・・。

翌朝、微妙に疑惑を残してくれた優奈と遅くまで話し込んだせいで寝不足だったが、眠い目をこすりながら朝食をとった。
ちなみに今日はベイクケーキというパンケーキそのものにクリームとイチゴジャムの付け合せ、フルーツの盛り合わせ、ヨグールという想像通りのヨーグルト、ミルク・・・なぜかとても女子力高そうなメニューになってしまった。
朝食を終えて情報部ルームへ行きラガールでの戦闘詳報を再精査しながらタケルちゃんに戸籍の話を聞いてみたら、俺と同じラグナールシティ出身という事になっているらしい・・・。
でも、あのカミングアウトはどうなっちゃうんだろう・・・・。
と、あれこれ考えてるうちにオルキス本星からの交代部隊が到着したという連絡が入り、艦隊はオルキス本星へ向けて帰投する事になった。
交代部隊とともに工兵部隊も到着したので、ラガールの施設は徐々に再建されることになるだろう。

一応これでオルキス領内へ侵入してきたBETAは全て駆除された。
それにしても、繁殖力の向上の件といい色々と厄介な事になっているようだ。
俺は俺でこれからは少し手が空くので、ゲートのワームホール内にあると推察される外宇宙との接続ポイントの特定と調査を始めようと思う。
俺の考え(半分は勘だけど)では、ワームホールはMuv-luv世界の太陽系につながっている気がしている。
そうじゃないと最初に迷い込んできた降着ユニットが核攻撃と思われる痕跡を残しているのは不可解だからだ。
俺の予想では、月から射出された降着ユニットが監視衛星に捉えられて、米軍の戦闘衛星から発射された核ミサイルの迎撃を受けたのではないかと思っている。
まぁわからないのは、その際にどうやってワームホールが開いたか?なんだけどね。
ものすごいエネルギーを発生させて空間を歪ませるとか?・・・・でも核爆発くらいでワームホールが開く訳ないしな・・・ん~そういえば核とG元素って合わせて爆発させるとすごいエネルギーになりそうだな・・・・そういえばG元素って重力エネルギーだしな。
よし、今度実験してみよう!

「そういえばダイスケさん、碓氷中尉達が乗ってた不知火や激震なんですけど、側だけ残して魔改造したらすごく面白そうなんですけど、許可もらえませんか?」タケルちゃんが急に戦術機を改造したがって来た。
ん~、でもな・・・「タケル・・・それはオルキス政府をはじめ、日本帝国政府や国連に許可取らないとさすがにマズイだろう・・・別に鹵獲した訳じゃないしな。」
「そっか・・・・そうですよね・・・・。」タケルはちょっとうなだれた。
「そういえばタケルはXAM-3の開発とかに関わって戦術機の機能向上に積極的だったよな?」
「そうですね・・・そうした方が生存確率が格段に上がるんで、やらない手はないって思ったからっすよ?」そっか・・・タケルちゃんなりに考えてるんだな。
考えてみればスクワイエルをそのまま供与した方が早いんだろうけど、無理な科学技術の進歩は人類のパワーバランスを崩す可能性があるから避けるべきだろうしね。
「まぁ、地球に行ったらその辺も交渉議題の一つにしてもらおうな。」
「はい!是非お願いします!!」タケルちゃんは嬉しそうに返事をしてくれた。
そうこうしているうちに艦隊は出航して一路オルキス本星へ向かう。 
 

 
後書き
優奈さんが霞みたいになってきていますが、べつに大輔に「あーん」とかはしない予定です。
あれは純夏の脳をリーディングしたからで、タケルちゃんの特権だと私は思っていますので。。。 

 

閑話  勇者タケシ異世界冒険譚(入江剛少尉の大冒険)

 
前書き
ロドリグ攻略作戦の時にエレミア星系へ転移して来た日本帝国軍の中で唯一の行方不明者である入江剛少尉のその後です。
ちゃんと生きていたようです! 

 
――――――っ!!あれ??
どす黒い爆発が起こって激震もろとも吹き飛んだかと思ったのに・・・・・。
「何でこんな森の中にいるんだろう??」あまりにも変化した周囲の光景に入江は思わずあたりを見回す。
すると、急に目の前が光りはじめやがてその光が人の形になる。
「え??なにこれ??」彼は少し怖くなって後ずさってしまうが、その眼はしっかりと目の前の現象を見極めようと凝視する。
『・・・イリエタケシさん・・・。』光が収まり始めた時に人の姿の光がそう話しかけてきた。
「え??あ、はい?」な、なんで僕の名前を知ってるんだ??知り合いなの??
『いいえ、知り合いではありませんでしたよ?私はあなたの事を今しがた知ったばかりです。』光が入江の考えた事に対してそう答えると、徐々に光が薄れていき、そこにはうっすらと光をまとった綺麗という表現ではとても言い尽くせそうにないほどの絶世以上と言っていいほどの美女が現れた。
「僕の考えている事を読んでるのか??」入江は腰を抜かしそうになるほどびっくりした。
『そうですね、驚かせてしまいましたか?それでしたらごめんなさい・・・。』
「い、いえ!・・・・ちょっとびっくりしただけなんです・・・・こちらこそすみません。」入江は混乱の極地にいた。

そして今目の前で起こっている事のすべてが信じられない・・・・というよりも今見えているものやコトすべてが死後の世界なのでは?と思った。
すると『この世界はあなたの思うような死後の世界ではありません。実際に存在する世界ですよ。』
「そうなんですか?・・・あ、ええと僕と一緒にいた他の仲間の姿が見当たらないのですが、ご存じありませんか?」
『あなたはこことは自然の摂理や法則の少し異なる世界から飛ばされてきたみたいですね?・・・・その時にあなたのお仲間さん達は別の場所に飛ばされたのでは無いでしょうか。』
「別の場所?・・・ですか。」依然として入江は状況がうまくつかめず、困惑してしまう。
『何らかの力が働いていくつかの別世界の扉が開き、あなたはその一つに、そしてお仲間たちは別の扉に吸い込まれた、と言えばわかるでしょうか?』女性は丁寧に噛み砕いて説明をしてくれたようだ。

入江もやっと理解が追いついたが、それと同時にここはどこなのか?そして今目の前にいるこの女性は何者なのか?疑問がわいてくる。
『ここはテルラという世界です。そして私はこの世界を見守る者です。』女性は優雅にそしてにこやかにそう言い切った。
「ええと、ここはテルラ星という星で、あなたは・・・・世界を見守る者?・・・・もしかして神様?なのですか?」
『私は自ら名乗る名前を持ちませんが、ありがたいことに人々からは“メリルの神”と呼ばれ、信仰を受けていますね。』
「やっぱり神様・・・・なんですね?・・・・それで、その神様はなぜ私に会いに来てくださったのですか?」入江は質問しながら、神様ってほんとにいたんだ?!とちょっと感動したのだった。
『こちらの時間で今から2時間ほど前に急にあなたのイメージが浮かんできました・・・きっと何かの(えにし)が生まれるのだろうと思い、待っていたところ、ものすごく力強いオーラが生まれるのを感じてこちらに来てみたら、あなたがいたのです。』
入江はオーラが何かはわからないけど、神様っていうくらいだから、超能力みたいなものがあるんだろうなぁ、と感心した。
『オーラというのは、人が発する魔力の大きさや強さを表す現象です。そして、あなたを感じたのは魔力感知というスキルのうちのひとつですよ。』
だが、「魔力??スキル??全然わかんないです・・・・。」入江は理解できずぽかーんとしてしまった。

メリル神が丁寧に説明してくれたにもかかわらず、Muv-luv世界の地球には魔力は存在しなかったし、早くからBETAの侵略を受けた影響で娯楽を発達させる余裕がなく、ラノベのような剣と魔法の世界の物語などもほとんど存在しなかったので、予備知識など皆無であった入江にとって、魔力やスキルという単語はちんぷんかんぷんだった・・・・。
その後、メリル神は時間をかけて魔力やスキルの概念などを更に基本からひも解くように丁寧に説明した。
このテルラの世界は、地球と違い魔素が存在する為、魔法を使う事が出来る世界である事、そしてこの世界の生物は、人間種、亜人種、魔人種の知的生物のほか魔物が存在する事。
亜人とは、エルフ族、ドワーフ族の事であり、魔人とはいわゆる魔族の事である。
エルフは精霊魔法をはじめとした魔法全般に通じており魔道具の作成を得意とし、ドワーフは鍛冶などの武器防具の作成が得意な種族と説明された。
入江は知る由もないが、これらは大輔や優奈のいた地球ではラノベやゲームなどでおなじみの背景設定である。
そして、魔族は他の種族に比べて身体能力や魔力が高めであることや、魔物の中には知性が高い個体も存在するが、総じて知性は低く攻撃的であるという特性があるというところも変わりがなかった。

また、個人の能力のレベルも地球とは違い、スキルで可視化が出来、脳内変換でわかりやすく数値化されるのだそうだ。
そしてメリルの神が言うには入江は異世界から来た為か、総じて能力が高いという。
この世界の最強の戦士でも力のステータスパラメーターは99が限界だそうだが、入江は既に200を少し超えているらしい。
それは力だけでなく体力や、魔力、そして敏捷性なども同様という。
『不定期に生まれる邪悪なるものがこの世界を破壊しようとするのですが、そのたびに時を同じくしてこの世界の住人の中から英雄が現れ、その命と引き換えにそれを阻止します。しかし数百年毎にあなたのような存在が迷い込み、圧倒的な力を持つ“勇者”として邪悪なるものを退けて、この地を平穏に導く事があるのですが、あなたはその中でも特に能力が高いです。』
何故かはわからないが、神様がそう言うのだから本当にそうなんだろうな、と入江は素直にそう思う。
あれ?でもそうすると僕もその邪悪なるものと戦う事になるのだろうか・・・・。
『ええ、実は本来その必要はなかったのですが、今から数年前に現れた邪悪なるものは今までの個体よりもはるかに強く、この世界の英雄はなすすべもなく敗れました。そしてその直後にあなたと同じく異世界から来た勇者が戦ったのですが、結果は相討ち・・・・というよりも邪悪なるものに致命的な被害を与えましたが、その時に勇者は戦死しました・・・。』メリル神は悲愴な表情でうつむいてしまった。
「ええ?!その・・・勇者でも止めを刺せなかったのだから、自分でも無理なのではありませんか??」
『・・・いいえ、今のあなたは既に、何か月もの修行の後にレベルアップした先代勇者達よりもはるかに強いのです・・・ですから、おそらく勝てるでしょう。』
入江は正義を成すことについての疑義は全くなかった。
だが、今の彼にとって一番の気にかかる問題は、元の世界へ帰れるか、もしくは同僚たちが飛ばされたという別世界へ渡ることが出来るのか・・・・であった。
『それについては、今は出来ない、としか申し上げられませんが、邪悪なるものを討つとわずかに空間に歪みが生じます。ただ、今までの邪悪なるものの歪みでは人一人がやっと入るような空間の歪みがほんの数分現れる程度ですが、今回の邪悪なるものは強大ですので、その歪みの力も相当なものだと思います。実は過去にその歪みに勇者が入って行って元の世界に帰還できた人もいますので、そこに望みがあるかと思います。』
「そうなんですね・・・・では僕が戦ってその邪悪なるものを倒さないことには話が始まらないと?」
『はい。ただ空間の歪みについては100%元の世界へ帰れるという保証はなく、あくまでも可能性がある、とだけお伝えしておきます。』
「わかりました!とにかく可能性があるのなら、今の状況ではそれに賭けない手はありませんから、そうします!」
『ありがとう、タケシさん!そうしたらまずはこの収納バッグをお渡ししておきます。このバッグは無限に収納が出来る空間魔法の応用で作られています。とりあえず必要最低限の装備、そしてポーションやお金を入れておきますので活用してください。』
「はい、ありがとうございます。」無限に収納出来るってむちゃくちゃなパフォーマンスだなぁ・・・・後で色々確認しなくちゃ。
『あと、この世界での生活についてですが、普通タケシさんのように力のある方の場合は冒険者ギルドというところに所属をして色々な依頼を受けてその報酬で生活しています。』
「冒険者ギルド?ですか。」入江は聞きなれない単語だったので、念のために確認の復唱をした。
『ええ、生活や魔物の事など、もう少し詳しい事は街にあるギルドで聞いて確認するとよいでしょう。』
「わかりました!では早速街に向かってみます・・・・ってどっちに行ったらいいかわかりません・・・。」
そんな困惑するタケシの事を予想していたかのようにメリル神は次の事を教えてくれた。
まず、ワールドマップと念じると目の前には自分のいる位置からある程度の距離までの地図が表示される事(それを見た入江はなんだか網膜投影を見ているような感じになった)と、メリル神とはいつでも連絡が取れて、その方法はただ跪いて祈りを捧げるだけで呼び出せるという事。
そして先代の勇者により深手を負った邪悪なるものは、あと半年かからずに復活してくると予想されているのでそれまでに装備を揃え、同時にスキルを上げる必要がある事。

『それではタケシさん、いえ勇者タケシよ、また会いましょう。』メリル神は気さくに手を振りながら光の粒となって消えていく・・・・。
「勇者ねぇ・・・さてまずは最寄の街へ向かうとしますか!」入江はいつまでもくよくよ考えても仕方がないと思いなおす事にした。
こうして勇者タケシ(入江剛)の異世界冒険の旅が始まったのだった。
 
 

 
後書き
ハイテクの異世界へ転移出来ず、剣と魔法の異世界へ転移してしまうなんて・・・・さてどっちが良いのでしょう。 

 

タケルと純夏

 
前書き
前回は、ちょっと冒険してしまいすみませんでした。
どうしても系統の全く違う異世界も描きたかったもので・・・。
剣と魔法の世界で成長した入江君がマヴラブ世界に帰還して活躍するのか?・・・は未定です。
需要ありそうでしたら閑話として続けようかと思います。 

 
エレミア歴1033年8月28日
オルキス連邦首都 ブリトニア
「暑いなー。」そう、ここオルキスの首都ブリトニアの季節は現在夏真っ盛りであり、とても暑い。
ブリトニアの夏の昼間平均気温は35℃であり、雨もほとんど降らないというどちらかというと乾燥帯な気候なので湿度は高くないが、いかんせん気温が高すぎるのだ。
機動第一艦隊は今から2時間前にオルキス連邦本星首都ブリトニアの軍用宇宙港に帰還して、保安要員と保守要員を残して全員下船して、帰還報告のためそれぞれの司令部へ向かった。
情報部の司令部は宇宙港に比較的近い場所にあるので、俺は麾下の部隊全員を連れて司令部に向かう途中の通路をぞろぞろと歩いている。

「ブリトニアは久々っすね!・・・・たぶん。」タケルちゃんが自信なさげにそう言っているが、実は俺も記憶ではあるのだけど、なんだかフィルターがかかっているというか、自分自身の体験じゃなくて、なんとなく植えつけられた記憶というか、ちょっと気持ち悪い感じがしている。
タケルちゃんもおそらく同じ気持ちなのだろうなと思う。

「中佐殿!すごい近代的なビルだらけですね!こちらの文明は我々の地球よりはるかに進んでいるというのが良くわかります!」遠山中尉が興奮しながらビル群を見上げている。
「空の青さも地球と同じ・・・もしかしたら地球人はこちらの世界に移住してしまう方が良いのでは?とまで思ってしまいます・・・。」碓氷中尉が意図せずにオルタネイティヴ5のバビロン作戦と同じような考えを示してきたな。
ああ、でもさすがにオルタネイティヴ4を進めている香月博士直属A-01の部隊長がその方向に言及したらマズいよね・・・。
ハッとしてタケルちゃんを見たら、やはり悔しい思いがあったのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

俺はそっとタケルちゃんに近づき小声で「今回は絶対に純夏を助けるぞ。こちらのバイオニクスはかなり進んでいて、身体の欠損なんてすぐに治す事が出来る。DNA解析で無事な時の状態で復活させる事が可能だしね。極端な話、脳さえ無事なら戦死する事も出来ない世界だからな。」と励ました。
「確かにそうですね。でも純夏は本当に脳だけにされたんですけどね・・・・。」あー、励ますつもりが辛い事思い出させるだけになってしまったか・・・・すまん、タケルちゃん。

司令部に到着して最初に情報部長のザンデール中将に帰任の報告と、遠山・碓氷達の正式な辞令の交付まで終えた。
ここでタケルちゃんが大尉に昇進、そして地球人組の階級は“臨時”が取れて正式な階級になった。
そしてタケルちゃんを含め彼らには1週間の休暇辞令が下りた。
タケルちゃんや遠山たちにしてみれば、早く地球へ帰還できる道程を見つけたいだろうし、気も逸るだろうけど、ここは英気を養うと思って耐えて欲しいと思う。
ただ、休暇と言ってもシュミレーター使用を含む自主訓練は制限されていない、と言ったら彼らはほぼ毎日頑張るつもりでメニューの組み立てを始めた・・・・ワーカーホリックという言葉が頭をよぎったが、彼らは次の戦闘でも万全を尽くせるように頑張る!という意気込みらしいので、それを揶揄するような考えはダメだな・・・・みんな、すまん。

まぁ俺は佐官なので休暇は下りず、勤務に勤しまなければならないのだけど。
実は、帰還報告の際に情報部長から、俺の麾下にもう1個中隊を加えて大隊編成にすると聞かされた。
エレミア星系全体を驚愕させた敵性生物(BETA)の発生源を探り、その根拠地を叩く計画が進行中だそうで、その索敵攻撃部隊に機動第一艦隊や俺の部隊も含まれるので、そのための増強であると。
攻撃部隊は各国混成艦隊になり、オルキス、アマティス、デュミナスの艦隊が主力の編成となるらしい。
確かにデトロワとラファリエスは戦力がまだ十分に回復していないので、正規艦隊の参加は無理だろうな。
分艦隊規模での参加はあるらしいけどね。
ただ、肝心なのはやつらがどこを経由してやってきたか?だけど、どちらにしてもまずはワームホールの探索からだな。
無人探索船を複数用意して送り込むことになったから、後は細かく観測チェックしていくだけか。
さて、そろそろ報告書を仕上げて今日は早めに帰ろう。



オルキス連邦軍ブリトニア基地内官舎――――タケル自室

『なんだか知らないうちに昇格とかして、気が付いたら大尉になってるとか・・・・伊隅大尉に知られたら怒られそうだな・・・。
あ、そっかこの時間軸だとまだ俺に出会ってないからそれは無いのか・・・。
伊隅大尉に追いつくなんて考えた事もなかったな・・・。』
タケルはA-01に所属していた頃を思い出し、あの頃の自分の無知・無経験な姿などを考えると良くここまでになったものだなぁ・・・などと考えていた。
『地球につながるゲートはダイスケさんが見つけてくれるとは思うけど、どの辺につながっているんだろう?いきなり地球の軌道上に現れたりしたら向こうの政府はみんな大騒ぎだろうしなぁ。まぁ、今はわからないことは考えなくてもいいか!』

『月の軌道上・・・・だよ。』タケルの心のつぶやきに応えるように女の子の声がした。
タケルはその声に聞き覚えがあった。
絶対に忘れるわけが無い・・・・当然の事・・・・それは彼の愛してやまない女性(ひと)の声だから。
「?!純夏??純夏だろ?どこにいるんだ?」タケルは咄嗟に叫び、周りを見回した。
すると部屋の隅に光の珠がどんどん集まってきて、人の形になる。
「タケルちゃん!元気そうだね!」その人の形の光は純夏だった。
「純夏!・・・ごめんな、まだそっちにいけないんだ・・・もうちょっと待っててくれ!絶対に助けに行くからな!」純夏の姿を見るなりタケルちゃんは謝罪の言葉を純夏に向けた。
「ううん、私は大丈夫だよ?こうしてタケルちゃんの姿を見る事も出来てるし、霞ちゃんが毎日会いに来てくれているから!」純夏はタケルの謝罪を必要無い事だと優しく応えた。
「そっか、霞が来ているのか・・・という事はもう横浜ハイヴが攻略されて横浜基地も稼働しているって事か。」
「そうだよ?そういえばそっちに地球から何人か迷い込んだと思うけど、タケルちゃん見守ってあげてね?」
「ああ、彼らなら俺と同じ部隊に配属されたから、言われなくても見守るよ!任せてくれ!」
「うん、特に鳴海さんと平さんは、何周かしたタケルちゃんなら知ってると思うけど、速瀬さんと涼宮さん・・・お姉さんの方のね、彼女達の同期生なの。」
「ああ、俺も本人達から聞いたけど、その時二人の事や最後を思い出して泣きそうになったんだ。」
「急に泣き出したら、変な人と思われるね!あはは。」
「純夏のくせに!・・・・ははは!」

純夏とタケルは楽しそうに会話を続ける。
だが、今まさにこの時においても純夏は脳髄のみにされたままODL漬けになっているはずで、それを思いタケルは何度も泣きそうになった。
タケルはこれまで何周も同じ体験をしてきて、何度も彼らを救おうと努力したが、それもむなしく、必ず彼女たちはBETAとの戦闘で命を落とす展開となっている。
それはまるで逃れられない運命のようにまとわりついているかに思えた。
しかし、今回は今までと全く違う経緯で圧倒的なエレミア星系の科学力で必ず救えると考え直し、泣くのを堪えた。

「純夏・・・俺、純夏を必ず救って見せる。そして伊隅大尉や速瀬中尉、涼宮中尉達も必ず救う!今度こそ、絶対だ!」タケルは新たにした決意を純夏に伝えるのだった。
「うん。あ、タケルちゃんにひとつ伝えておきたい事があるんだ。」純夏が急にあらたまって切り出してきた。
「何?なんか良くないこと?」タケルは恐る恐る純夏に尋ねる。
「ううん、いくつかあってね、私今BETAからも情報が流れてくるんだけど、私みたいに脳だけにされてる人が他にもたくさんいるんだ。」純夏が驚愕の事実を告げてきた。
「マジか?!他の人たちはどこのハイヴに捕まってるんだ?」
「うんとね、地図みたいなものはイメージが流れてくるんだけど、私世界地理とか不得意だったじゃない?だから良くわからないの・・・ごめんね。タケルちゃんがこっちに来たらイメージを伝えて誘導する事が出来ると思うんだけど、今は距離がありすぎて無理みたい。でもみんなも助けてあげて欲しいんだ!タケルちゃん、お願いできる?」
「ああ、もちろんだ!純夏を助けてみんなも助ける!」タケルは語気を荒げて純夏に皆の救助を誓う。

「もうひとつはね、BETAは地球にいる種類が全てではないみたいなの。」
「母艦級や重頭脳級なら知ってるけど、その他にも種類があるのか?」何周かしているタケルは桜花作戦時に確認された新たなBETA種を知っているが、その事を純夏が知らない可能性があると思って確認してみた。
「えっとね、宇宙空間を飛ぶものとか、大きな宇宙船みたいなのとかがあるみたい。」
「マジか?!飛ぶ種類の奴がいるのか・・・・それ地球の方に現れたらヤバいな!」
「ううん、今のところは大丈夫みたい。来るのにもう少し時間がかかるみたいだよ?でもあと3ヶ月で太陽系に到達するみたい。」
「どっちにしてもあんまり時間が無いじゃんか!」
「あのねタケルちゃん、ダイスケさんには向こうとつながっている場所をそれとなく伝えるようにするから、あまり時間がかからずに出発できるようになると思うよ?」純夏はとても重要な事をさらっと言ってのけた・・・・。
純夏・・・・ぱねぇな、まるで水晶玉覗いている魔女みたいだな・・・まぁ老婆じゃないけど。
「あれ?タケルちゃん今失礼な事考えなかった??」うわ、思考が純夏に読まれてるのか?!
やべ、「じゃ、とにかく俺は地球人組を鍛えつつ出発できる準備を整えておけばいいんだよな?」タケルは慌てて話題を変えた。
「もぉ、ごまかされた・・・・まぁいいけど・・・うん、そうだね、彼女達は元々運命の灯が弱いから気を付けてあげてね。」

「運命の灯?なんだそれ??」タケルは初めて聞く単語の意味がわからず、思わず純夏に訊く。
「ええと、彼女たちはほんとうだったら既に亡くなっているはずの人たちなのね。だけど、ダイスケさんやタケルちゃんがこの世界、エレミア星系に来て出会った事で時空の理にちょっとだけエラーが出たの。それでね、アメリカが横浜ハイヴを攻撃した時に使った爆弾が時空を歪ませた時に一瞬裂け目が出来て、こっちに飛ばされたんだ。」
「ああ、アメリカが横浜ハイヴ攻略の時に純夏が言ってた爆弾、五次元効果爆弾―G弾って言うんだけど、それを使った影響でその後の横浜一帯がずっと重力異常の発生する場所になっちまったんだよ。」
「うん、さっきも言ったんだけど、彼女たちはほんとうならそこで終わる運命だったんだけど、タケルちゃんがエレミア星系にいたから、そこに細い縁が出来て本当に低い確率だったんだけど、消滅しないで飛ばされたんだよ。」純夏の説明にタケルは納得した・・・だが。

「そうだったのか!・・・?じゃ俺はなんでこっちに飛ばされたんだ?」良く考えるとタケルもこっちに来ているのが不自然だという事に気が付いた・・・今さらなのだが。
「タケルちゃんはね、また2001年にループさせられる為に魂が移動していたんだけど、もうそこから外してあげたいと思って、力を振り絞って魂を掴んだら出来ちゃったんだよ。それでね、良くわからない存在に取り返されそうになったから、振り切って力いっぱい放り投げたら、そこがエレミア星系だったの。」
「そうか・・・だから今回はループしないでエレミア星系に来たのか!って力いっぱい放り投げるとかどんだけぞんざいなんだよ?」ひどい扱いを受けたタケルはジト目で純夏を非難する。
「うふふ、ごめんね?あの時は必死だったから・・・でもおかげでループから抜けられたでしょ?」純夏はドヤ顔で胸を張ってタケルを見下ろす。
「ぐぬぬ、純夏のくせに、エラそうに!・・・・・でもほんと助かったよ、ありがとうな。」
「エヘヘ、それほどでもないよ。」純夏は照れて少し赤くなっている。
「あ、そろそろ時間だから、わたし消えるね?あまり長時間こうしていると向こうに戻れなくなっちゃうから。」
「ああ、そうなのか。わかった!純夏、ありがとうな!また会えるよな?」
「うん、またこうやって来るからね!じゃね、ばいばい。」
そうして周囲がスーッと暗くなっていく・・・・。
 
 

 
後書き
さていよいよ反撃の狼煙があがるのでしょうか。
デュミナスは今回、結構な戦力を送り込んで来るみたいですよ。 

 

亜空間の向こう

 
前書き
こんにちは!
もう少し早くUPしたかったのですが、艦隊編成に手間取って思ったよりも時間がかかってしまいました・・・すみません。
それぞれの艦艇スペックは追々UPいたします! 

 
エレミア歴1033年8月30日

―――オルキス連邦軍ブリトニア基地シミュレータールーム

「くっ・・・・勝てませんね・・・・。」遠野はうなだれるようにつぶやいた。
「そうですね、もうこれで12連敗でしょうか・・・・。」碓氷が悔しげにそのつぶやきに応える。
この日地球人組は朝から、タケルの中隊との対戦合同訓練を行っていた。
だが、彼女達の中隊はまだスクワイエルに慣れ始めたばかりという彼女達自身の認識であり、片や精鋭と目されているうえ、既に何年も訓練や実戦を経験してきたタケルの中隊には歯が立たなかった。
それでも何度か2~3機中破というスコアを上げているところは、平均的なスクワイエル部隊に比べても実は割と良い結果ではあるのだが、タケルの中隊やアントワープの連隊の選抜メンバーとしか訓練していない彼女達は今自分たちがどのくらいの位置にいるのか、皆目見当もつかなかった。

客観的に見ても、いかんせん相手が格上過ぎるという本来なら無理ゲーなのだが、本人達はもう少し習熟すればいい線まで行けるはず、というあきらめない心だけは持って粘っていた。
そのあたりを何となく感じ取ったタケルは「うん、だいぶいいところまで上がって来たな!次はそうだな・・・・。」と言いつつ隣のシミュレーター区画にいる他の部隊へと目を向けた。
「隣の連中と交流戦でもやってみるか?」とタケルは遠野と碓氷に問いかける。
二人とも今の一般的な実力がどのくらいか知りたいという点で思っている事は同じだったようで、「「是非!!お願いします!」」二人は思わず声を揃えてしまい、お互いにびっくりして見つめあう。

彼女達の意思を確認したタケルは隣の区画で訓練していたザカリス連隊所属の中隊と話をつけ、B中隊(地球人組)との交流戦を段取る。
「それではよろしく頼むぞ?」タケルがザカリス連隊の中隊長にそう告げると中隊長は少しにやけながら「ハッ!了解しました大尉殿、ところでどのくらいの手加減が必要でしょうか?」
ザカリス連隊の兵達は、エレミア星系よりもだいぶ文明レベルが劣ると噂されている異文明の惑星人たちに負けるはずもないとタカをくくっており、胸を貸してやる程度の思いしかなかった。
しかし、タケルの返事は「いや、全力で来ていいぞ?」・・・タケルの答えは彼らの斜め上を行っていた。
「ハッ?!本当によろしいのですか?そんなことをしたら数分で終わってしまい、訓練にもなりませんよ?」ザカリス連隊の中尉が言う事は新人ばかりの中隊相手であれば正しい判断であると言える。
「いや、がっかりはさせないと思うぞ、ほんとに全力でOKだ。」それでもタケルは問題ないと言うので、ザカリスの中尉は引き下がった。

そして交流戦が始まる。
当初はザカリスの中隊が教科書通りの小気味の良い連携で地球人組を圧迫しているかに見えた。
だが、地球人組は追い詰められているように見せかけて退却しつつザカリスの中隊をうまく誘い込み、翻弄してついに反包囲してしまった。
その後は割と一方的な戦いとなり、反包囲の空いているところから後退しようと向かうとそこは既にクロスファイアポイントとなっており、次々に狙撃され、気が付いた時には隊長機含め3機を残すのみとなってしまう。
ザカリスの中隊メンバーにとってはまさに青天の霹靂であった。
なにしろまさか自分たちが狩られる側にまわるなどみじんにも思っていなかったからだ。
そして数分して、最後、中隊長機が撃破され交流戦は終了した。
そこでやっとザカリスのメンバー達は、地球人たちが自分たちよりも巧みにスクワイエルを乗りこなしている一流のパイロット揃いだと認識を改める事となった。

だが、彼らはなぜ地球人たちがこのような短期間にスクワイエルの操縦を完璧にマスターしたばかりか、個々の駆け引きにおいても優れているのか不思議に思ったのだった。
だが、それはとても簡単なこと―――地球人組の中隊はことあるごとにロアーヌ連隊(アントワープの連隊)の選抜中隊やらA中隊(タケルの中隊)との長時間訓練をやっている為、知らず知らずのうちにそこいらの部隊よりは格段に強くなっているのだった。
実は、ロアーヌ連隊はオルキス連邦軍では最精鋭連隊との呼び声が高い部隊であり、また、タケルの機動第一艦隊情報部A中隊も中隊単位では全部隊中最も強い中隊ではないかと言われているくらいの部隊である。
そんな部隊を相手に毎日何度も訓練を続けていれば今回の結果は割と予想されていたものである。
だが当の地球人組は、いつも勝つことが出来ず自分たちの力量がまるで上がっていないように感じていたので、今回の完勝にはかなり驚いたのだった。
俺はタケルちゃんから受け取った報告書を確認しつつ、彼女たちのスキルがかなり向上してきた事に嬉しさを感じていた。
まぁ、自分の部下たちの技量が上がるという事は総合火力も上がり、みんなの生存確率も上がるし、良い事ずくめだからね。

―――その頃、ブリトニアの情報司令部では無人探査船による亜空間ゲート内探索のモニタリングが行われており、そのうちの1隻が亜空間内にある亀裂をひとつ発見。
情報司令官がさらに調査を進めさせた結果、その亀裂の先には別の星系と思われる空間が発見される。
オペレーターが慎重に操作し、無人探査船をその亀裂へ向かわせたところ、クレーターだらけの星の軌道近くの空間へ出た。
この星のそのすぐ近くには大気が存在する可住惑星と思われる星があり、この星はその惑星の衛星と思われた。
まず最初にその衛星の表面を探査したところ、少なくとも12か所の敵性生物の(ハイヴ)が確認される。
そのいずれもかなりの大きさにのぼり、先日エレミア星系に侵略してきた敵性生物のどの巣よりも巨大なものであった。
司令官はここが敵性生物の本拠地かとあたりをつけ、続けて探査船を近くにある惑星へと向かわせる。
向かう途中で惑星全体を遠距離スキャンで大まかに確認したところ、見た目はエレミア星系にある有人惑星と同じく青い海と緑の大地もある・・・だが一番大きな大陸のほとんどがやや赤茶けていて荒野の部分がかなり多いように見える。
すると、惑星の軌道上に明らかな人工物・・・通信中継用のビット衛星のようなものを発見、微弱な電波も流れているのを確認した。
スキャンしたが、遥か昔にエレミア星系でも使われていた鉱物由来の精錬金属中心に作られており、内部に6基ほどのロケットないしミサイルのような形状のものを格納している。
更に惑星軌道へと向かいそこから地上の詳細スキャンを開始する。
途中、艦載のランチのような小舟艇が接近してきたが、速度を上げるとついてこられずやがて諦めて去っていく。

そして惑星を2周ほどしてデータをまとめたところ、おおまかではあるが次の事が判明した。
この惑星は有人惑星であり、各所に都市のようなものが見られ、推定人口は5~10億人程度。
この人類の領域外に敵性生物の巣が存在しており、その数26に及ぶ。
そしてその後、次々と探査船が別の亜空間ゲート内で同じような亀裂を発見し、その向こうを同じようにくまなく調査したが、すべての船が同じ衛星付近の空間にゲートアウトした。

後は探査船から送られて来た複数データを精査する事になるが、この件においてダイスケはデータの分析を命じられる。
だがダイスケはこの映像を見てすぐにわかってしまった。
転生前に何度か映像や写真で見た光景・・・・。
探査船が亜空間を出た場所は「月」の周回軌道上で、探査船が調査した有人惑星は「地球」である事を・・・。
ビット衛星のようなものは、おそらく米軍の戦闘衛星で小舟艇と思われているものは再突入型駆逐艦か何かだという事もすぐに察しがついた。
映像で見る地球の姿は久しぶりに見たような気がして、しばらくの間ぼぉっとしてしまったが、ここに映っているのは自分がいた地球ではなく、部下の地球人組のメンバーがいた地球なのだという事をすぐに思い出して、地球人組を呼び、その映像を確認させて言質を記録させた。

このエレミア星系以外での可住・有人惑星の発見に星系各地ではけっこうな騒ぎとなり、政府においてすぐに対策検討会議が組まれ、エレミア同盟諸国の代表が集まり、討議に入った。
ここで地球人組の確認証言もあり、この惑星は「地球」、衛星は「月」と確認されて、今回直接の敵性生物策源地を「月」と断定し、まずは優先的にこの衛星「月」の敵性生物を一掃、続いて有人惑星地球の統合機関という国際連合へ連絡を取り、要請があれば地球にはびこる敵性生物の一掃を行う事となった。
その後はさらなる策源地を探索・撃滅する為、太陽系の外周へ向かって敵性生物の一掃を行うという方針が固まる。
かねてからの反撃計画に則り各国において遠征艦隊の編成が即座に行われる。
元から予定されていた事もあり、通常よりもかなりの速さで各国の艦隊編成が発表された。

アマティス公国遠征軍

司令官 ケネス・ヘイワード中将(第一艦隊旗艦ダヤン座乗)

派遣艦隊 第一艦隊 艦艇総数115隻 随伴艦載機390機

第一艦隊 旗艦ダヤン(ダグレントR級戦艦)、戦艦4(ダグレントR級)
     航空戦艦10(グレイジャス級)、巡洋艦40(ビッズワール級重巡20、
     レオターク級軽巡20)、駆逐艦40(コンスロート級)補給艦10 


オルキス連邦遠征軍

総司令官 カイン・ディー大将(機動第一艦隊旗艦オルフェーリア座乗)

派遣艦隊 機動第一艦隊、第五航空打撃艦隊 艦艇総数188隻 随伴艦載機936機

機動第一艦隊 旗艦オルフェーリア(バーナントR級戦艦)、戦艦12(エルガウェイン
       R級)、巡洋艦24(ガストーニュR級)、駆逐艦60(ガートヴァルⅡ級)、
       航宙母艦13(ソルデューヌⅢ級)、補給艦12

第五航空打撃艦隊 旗艦カレル(ソルデューヌⅢ改級)、航宙母艦11(ソルデューヌⅢ級)
         巡洋艦12(ガストーニュR級)、駆逐艦36(ガートヴァルⅡ級)、
         補給艦6


デユミナス王国遠征軍

司令官 ナディア・スカール上級中将(第二艦隊旗艦エクセディア座乗)

派遣艦隊 第二艦隊、第四艦隊 艦艇総数200隻 随伴艦載機864機

第二艦隊 旗艦エクセディア(オルテウス改級戦艦)、戦艦11(オルテウス級5隻、
     アレギウス改級6隻)巡洋艦24(コーバックⅡ級)、駆逐艦40
     (テレダイン改級)、航空母艦12(アムレード改級)補給艦12

第四艦隊 旗艦グレーブス(オルテウス級戦艦)、戦艦11(オルテウス級3隻、
     アレギウス改級8隻)、巡洋艦24(ブレナント改級12隻、
     コーバックⅡ級12隻)、駆逐艦40、航空母艦12(アムレード改級4隻、
     レオニダス級8隻)、補給艦12


ラファリエス皇国遠征軍

司令官 ヘンリク・オルセン准将(旗艦エイリーク座乗)

派遣艦隊 第11戦隊 艦艇総数24隻 随伴艦載機72機

第11戦隊 旗艦エイリーク(シルグノーム級)、戦艦3(サンカリ級)、
     巡洋艦8(スカウカル級)、駆逐艦10(イスルギン級)、補給艦2


デトロワ連邦遠征軍

司令官 ケマル・スービク少将(旗艦エピカテ座乗)

派遣艦隊 第8任務艦隊 艦艇総数60隻 随伴艦載機216機

第8任務艦隊 旗艦エピカテ(改ドレニム級)、戦艦5(改アルディア級)、
      巡洋艦12(ゼークトル級)、駆逐艦30(グーデフ級)、
      航空母艦6(イェルムン級)補給艦6

以上が各国の派遣艦隊の編成表だ。
俺は最初にこの編成表を見た時、なんだかラファリエスのやる気が感じられない気がしたが、エレミア戦役後は各国の監視が厳しくて思うように軍の再編成が進まなかったらしいから、こんなものなのだろうと思う事にした。

そしてこの混成艦隊の総司令官はディー大将になった。
今のオルキスの各国に対しての影響度の高さもあるけど、今回の艦隊司令官の中では最も上級職だし、一番経験豊富という評価からそうなったらしい。

ちなみにアマティス艦隊の司令官のケネス・ヘイワード中将はエレミア戦役時に大佐だったディー大将の部隊とともにラファリエス艦隊と戦った当時のニック・ヘイワード中将(現在は大将)の甥らしい。
そして、この遠征部隊はエレミア星系内の惑星周回軌道のちょうど中間地点にある亜空間ゲート(OS-11)のゲート近くに集合となる。

いよいよ地球へ帰還できるのだから地球人組は特に待ち遠しいだろうけど、まぁ俺も楽しみだ。
タケルちゃんは、これで純夏を助けられる道筋がつくと思って張り切ってるんじゃないかな?
出撃は2日後・・・・・なにげに時間が無い!色々と準備しなくちゃ。 
 

 
後書き
さて、とうとうエレミア星系の人達に地球が発見されました。
かれらが到着するまでにタケルちゃんの「救いたい人々」は無事でいられるのでしょうか?

※5/18デュミナス第二艦隊の旗艦の名前を間違えていたので修正しました。 

 

太陽系へ

 
前書き
毎度更新遅くなりまして申し訳ありません。
さてエレミア同盟遠征艦隊はBETAの根拠地を潰すべく亜空間ゲート内の亀裂に向かいます。 

 
9月1日、エレミア同盟遠征部隊がOS-11に終結した。

一旦、各国遠征艦隊の司令官や部隊長クラスが総旗艦となるオルフェーリアのカンファレンスルーム(会議室)へ集まり、作戦基本方針の確認、指揮序列、各艦隊戦力の総括評価などを行った。
俺も一応艦隊情報部長だし、優奈は総旗艦の艦長と旗艦戦隊司令も兼ねているので、同じく出席している。

「大輔くん、私たちのいた世界じゃないけど、同じ地球に行けるんだよね。」優奈がちょっとだけ嬉しそうにそう言ってきた。
「うん、そうだね。でもこの世界の地球はこっちにも攻めてきたBETAに半分以上占領されていて、このままだとあと数年で滅ぶ計算なんだって。」喜んでいる優奈には悪いと思ったが、一応事実だから伝えておいてあげた方がいいと思った。
「そう・・・なんか複雑だね・・・・日本は残ってるのかな?大陸からは海で隔てられているから大丈夫だよね?」
ああ、そうか優奈は碓氷中尉や遠野中尉達とはあまり会話してないのか・・・。
あれ?そろそろ会議終わりそうだな・・・まぁ決まっている事の再確認だけだし、特に荒れる要素もないし、こんなものか・・・おっと、優奈の質問っと。
「俺の知っている限りではBETAは海を越えるし、一度九州から横浜あたりまでは占領されて、3,600万人くらいが犠牲になったらしい。でもこの間の偵察艦の映像見る限りでは、東京や仙台は破壊されていないように見えたから、まだ大丈夫じゃないかな。」
「そんなに犠牲者が・・・私たちが着くまで何とか保って欲しいけど・・・。」俺もそう思うけど・・・すべてはタイミングだろうな。
でもたぶんその辺は純夏がちゃんと調整してそうだけどね。

そして、そうしているうちに作戦会議は終わってしまった・・・俺たちは何もせず、ほぼ聞いてもいなかったけど、スムーズに終わったな。
さて、各国遠征艦隊の司令官たちが自艦隊へ帰還次第、いよいよOS-11へ突入し例の時空の裂け目へ入って月の軌道上へと向かう事になる。

俺たちが会議室を後にして食堂へ向かおうとした時、「カミナガ中佐!」不意に後ろから声をかけられた。
振り返ると、あれは・・・・たしかデュミナス軍の制服だったかな?女性の軍人が二人ほどの随員を従えてこちらに歩いてくるのが見えた。
随員が二人いるとか結構階級が高めの軍人なんだろうなぁと思っていたら、襟章が目についたんだけど、あれ記憶が確かなら中将・・・・だったっけ?
「呼び止めて済まない、私はデュミナス軍のスカール。一応デュミナス軍の司令をやっています。」
大物だった?!俺たちは慌てて敬礼をし直した。
「貴官は地球星から来たという傭兵の指揮官と聞きましたが、間違いはないですか?」スカールは俺たちに答礼しつつそう訊ねてきた。
「ハッ!そうでありますが、彼らが何か?」う~ん、いったい彼女達に何用なのかが気になる・・・。
「いえ、特に大したことではありません、これから向かう太陽系?でしたか、そこの住人に向こうの話を聞いておこうと思っていましてね。上官である貴官に許可をもらいに来ました。」
なんだ、そういう事だったのか・・・・警戒して損したな。

そういえば、このスカール中将はエレミア戦役でディー司令と共に戦った事があるって言ってたっけ?
「ハッ!そういう事でしたら問題ありません!何でしたら彼らをすぐに呼びましょうか?」
「それは助かります。それでは士官食堂に移動してそこで話を聞かせてもらえますか?」
「了解しました!」そして俺は彼らに連絡を取って士官食堂へ来るように言った。
遠山中尉は地球の、自分たちの故郷の事に興味を持ってくれたと素直に思い快諾だったが、碓氷中尉は、開口一番「何が目的なのでしょう?」ときた。
さすが香月夕呼直属の部隊長、謀略戦をも経験してきたのか、一筋縄ではいかないな。
俺の感想として、彼女には恐らく他意はないであろう事と、過去の戦争でディー提督と共に敵と戦った仲であり、提督も信頼をしている人物である事を伝えると、素直に引き下がったけど。

「そういえばスカール提督はディー司令と共にエレミア戦役で戦った事があるとお聞きしました。」先ほど俺が思った事を優奈が聞いてくれた・・・やっぱり心の中読まれてない??
「そうですね、ディー提督の第86戦隊と私の第7分艦隊とでデトロワ包囲下のデュミナス本星の軌道上、そして大気圏内で連携してデトロワ軍と戦いました。」
そういえばスカール中将って何歳なんだろう?見た感じ俺らとあまり変わらないくらいに見えるけど、エレミア戦役の時に既に准将だったというから・・・少なくとも30代半ば?・・・見えないなぁ。
「ディー提督の指揮は大胆に見えますが、実は細かいところにかなり気を配っておられる。ただ強気で雑で癖の強い私とでも良く統制のとれた連携を組んでいて、とても勉強になりましたよ。」
やだ、なんかこの人からも脳筋臭がする・・・・・後ろの副官らしき人達も苦笑いしてるし・・・。
太陽系のBETAを一掃して帰還するまではずっと一緒だからな・・・・とりあえず愛想笑いしておこう。
そうこうしているうちに士官食堂に着き、スカールと地球人組を引き合わせて1時間ほどのインタビュータイムを終え、スカール達は自艦へ戻っていった。

そして遠征艦隊はアマティス艦隊を先頭に、デトロワ、デュミナス、ラファリエス、オルキスの順にOS-11へ順に進入していく。
やがてオルフェーリアも亜空間へ入り、俺は左舷側の観測ルームからその珍しい光景をずっと見ていた。
チューブのような空間で、中は何とも言えない色彩・・・赤とピンクとオレンジがあわさったような淡い光の壁に包まれて艦が高速で移動するような感覚をおぼえる。
窓外を良く見ると途中、船の残骸だろうデブリが数多く漂っているのが見えた・・・たぶん今回の騒ぎが始まったころから行方不明になっている民間船やパトロール艇の残骸と思われる。
あの様子だと、エレミア星系へ向かうBETAの降着ユニットと衝突したのかも知れないな。
乗っていたであろう乗員や乗客へそっと黙とうを捧げる。

それから10分ほど経った頃、左舷の前方に他とは違い、黒い亀裂が見えてきた。
良く見ると、その亀裂に向かって艦艇が次々と突入しているのが見える。
その時、艦内放送がかかり、艦長(優奈)から、間もなく亜空間の亀裂へ突入する事、そしてその向こうが太陽系と呼ばれるエレミア星系人にとっては未知の星系である為、第三戦闘配置が告げられた。
それにより、索敵範囲の拡張と艦隊随伴機動師団への直掩待機が命じられる。
5分後、艦は黒い亀裂に突入、周囲は真っ暗で艦のシルエットに沿った閃光灯の明かりだけが灯って見える。

10分くらいすると、前方に星空が展開し始め、亀裂を抜けたと確信できた。
そして・・・・・目の前にはあのクレーターでボコボコになった月!その向こうには青く輝く地球!!
はぁ~帰ってきた!という思いがちょっと湧き出てきた。
いつの間にか、地球人組が俺の周りに集まってきていて、地球を見るなり涙する者や満面の笑みを浮かべる者、真剣なまなざしで見つめる者、様々だった。
彼らは俺なんかよりももっと嬉しいだろうな。
ここから見る地球は向こうの世界のTV映像などで見た記憶のある、月から眺める地球の映像とほぼ一緒で、青い海と白い雲、茶色と緑の陸地と鮮やかに見える。

そして竿後に到着したオルキス艦隊を加えて月の軌道上に各国遠征艦隊が整列する。
ここからは見えないが、天頂方向からこちらを見たら、さぞ圧巻なんだろう。
さてここから俺の部隊は忙しくなる。
まずは偵察ドローンの射出と月面に展開している12か所に及ぶBETAハイヴの状況確認から。
それから敵の戦力評価とオリジナルハイヴと推定されるハイヴを特定っと。
月面に展開しているハイヴの明確な情報はゲームでもなかったから、決め手はないけど、実はちょっとだけヒントはあるんだよね。
“サクロボスコ事件”これはマヴラブのプレーヤーなら皆知っていると思うけど、月面で人類がBETAと最初に遭遇したのがサクロボスコクレーターなんだよね。
という事はその周辺にオリジナルハイヴがあるだろうとは簡単に予想がつく事だ。
俺はマヴラブをプレイした時に、サクロボスコっていったいどこら辺なのかを調べていたので、その場所はすぐにわかった。

――――――――かくして、オリジナルハイヴは特定された。
今回の遠征艦隊におけるBETAハイヴ駆除作戦の骨子はあらかた決まっている。
それは資源惑星ラガールで試みられたオリジナルハイヴを潰してからの各個撃破作戦だ。
エレミア星系での駆除作戦全般を比較検討した結果、オリジナルハイヴを潰すと他のハイヴの対応が極端に鈍くなるという結果が出ている。
まぁこれはマヴラブオルタでも言われていた事だが、指揮系統の最上位にあるオリジナルハイヴの重頭脳級を潰して新たな命令を与えないようにすれば他のハイヴは攻撃を受けても単調な迎撃行動しかとれないという性質を利用して戦局を楽に進めるというやり方だ。
ただちに各ハイヴへの攻撃態勢が組まれ、最も重要なオリジナルハイヴを潰す役割は遠征艦隊の中でも一番ハイヴ攻撃の経験があるオルキス軍の第14機動師団に任された。
そして攻撃開始は3時間後と決まった。 
 

 
後書き
とうとう太陽系へ進出してきたエレミア同盟の遠征艦隊。
がんばって太陽系からBETAを一掃して欲しいものです。 

 

兆し

 
前書き
すみません、毎度の事ですが、大変間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
今回はプロットで悩むところがあって筆が進んでいませんでした。 

 

モニターがパァッと明るくなる。
遅れて衝撃波がピリピリと外装甲に届いている感触をおぼえる・・・そしてレーダー表示からはまたも僚機が1機消失した。
「くっそ、これじゃ嬲り殺しだ!いかんせん数が違い過ぎる・・・・。」
デトロワ軍の辺境警備艦隊に所属するニルセン曹長は圧倒的不利な戦況を見て思わずつぶやく。
広域レーダーに目をやると味方スクワイエルを示す青い輝点が8つに対し、敵を示す輝点は・・・・約800・・・。
味方スクワイエルは全機新型強襲タイプのディオールⅡなのだが・・・。
敵にはシールドが無く、当たれば一撃で落とせるのに割とすばしっこくて中々ロックオンしない。
そのうえ、ミサイル兵器は8割くらい敵のレーザー兵器によって、ことごとく撃ち落される為、光学兵器(レーザー)と実体弾(レールガン等)で対抗しているので効率も悪い。
これでも既に200~300は撃破したが、数の暴力の前にどんどん押され、当初12機いた彼の中隊も4機撃破され、残されたメンバーも段々と気力や体力が消耗して効率が落ちてきている。
彼らの母艦であるオスメイア(デネヴァ型)やルモラン型は偵察艦や警護艦なので長射程兵器を持たず、シールド強度はお世辞にも高いとは言えないレベルなので近づかれたら蹂躙される可能性があり、この敵を接近させるわけにはいかない・・・。
更には敵の背後にどでかい小惑星ともいうべき物体のような船?・・・・やつらの母艦らしい・・・が控えている。

「1個中隊で3個師団相当数相手に足止めとか、無茶すぎる!・・・・本部には1時間も前に報告したはずなのに、増援はまだ来ないのか?」ニルセン曹長が思わず叫ぶ――――がその時、突如ニルセン曹長たちの背後、彼らと彼らの母艦の間の空間にひずみが現れ、そこから次々とデトロワ軍正規艦隊の艦艇がワープアウトしてきた。

『オスメイアより各機へ、防衛艦隊が到着した!彼らが戦線を押し上げるので全機一旦帰投せよ!』
母艦であるオスメイアのCPからの指令を聞きながら、ワープアウトしてきたイェルムン級空母がモルギウⅢやゾフィエルⅡを次々と吐き出すように発信させているのを見て、ニルセンはやっと落ち着きを取り戻す事が出来た。
「さて、やっとのこと、旗艦から指示が飛んできたので、帰るとするか・・・・。」
ニルセンは旗艦への自動帰投プログラムを起動させると、シガーバー(電子タバコのようなもの)を点火して煙をくゆらせる。

――――エレミア星系の最も外周に位置するデトロワ領の小惑星リグルスは鉱物資源の埋蔵量が多く、多量に採掘できる為、主にその施設や関連企業の従業員とその家族などが居住しており、軍の守備隊も駐留している。
惑星上に建設されたリグルスシティーとその衛星都市すべてを合わせると、それなりの人口―1億5000万人ほどが生活している立派な有人惑星と言える。
ただ、未だテラフォーミングがされていないため、都市以外は居住には適さず、都市の外では常にLSS-ライフサポートスーツ(宇宙服)を着用しての活動が必要な星であった。
直径も太陽系でいうところの月よりもやや大きい程度だが、重力調整に手間や莫大な費用がかかる事もあり、テラフォーミングや大規模な移民計画などはあるが、中々進んでいないのが現状だ。

そもそもデトロワ本星はそのほとんどを氷と海に覆われている惑星であり、首都も海中にあるという珍しい水系惑星国家なのだが、密閉された各都市の中は常に新鮮な空気と水が供給されており、人々はあまり不自由を感じてはいなかった。
そのため、リグルスにいるデトロワ人たちもそんな生活には慣れっこではあるようだ。
緑や自然を感じたければ、同じデトロワ領である緑豊かなトノスやロドリグへ行けばいいじゃない?と皆考えていたのだろう。
ただデュミナス戦役の前まではトノスもデトロワ領であったが、独立してしまい今ではロドリグだけとなってしまったが。

リグルス駐留のデトロワ軍は駐留軍総司令部を頂点に3つの部隊があった。

一つ目は惑星防衛艦隊―デトロワ軍第2任務艦隊(艦艇数60隻余、随伴艦載機216機)
二つ目は辺境警備艦隊―デトロワ軍第3警備艦隊分艦隊(艦艇数50隻、随伴艦載機100機)
三つ目はリグルス地上軍―デトロワ軍第2野戦軍(陸戦6個師団、機動2個師団、航空機600機、スクワイエル648機、戦闘車両8,000台)

小惑星を防衛する戦力としてはやや過剰に思えるが、トノスを失い工業生産力をこれ以上落とせない事、星系の最外周であり国境としての備えが必要な事、そして何より1億5000万人の市民という人的資源保護の為、特に戦力が割かれている。
工業生産力がかなり高かったトノスはかつてデトロワの兵器廠と呼ばれ人口も35億人いた。
それに比べ、ロドリグは農業や畜産、漁業などの第一次産業が盛んであり人口は10億人、緑は多いが工業生産力がリグルスよりもだいぶ低い為、十分な守備隊の配置が無く、先のBETA侵攻の際には陸上兵力含め戦力不足に陥ったという経緯がある。
デュミナス戦役とそれに続くエレミア戦役で失ったデトロワ連邦の国力と戦力はあまりに大きく、その回復には少なくとも15年以上かかると言われている。
ここへ来て外宇宙からの未知の敵の侵略に対抗する為に、かなりのリソースを割かれ国力復興に大きな痛手を強いられているのだった。

母艦へ戻ったニルセン曹長は、戦況を確認するため格納庫からまっすぐに艦橋(ブリッジ)へと向かった。
途中、艦で面倒を見ている猫が窓の桟にうずくまって外を眺めているのを横目で見て、癒された想いを抱きながら艦橋の扉を開けて中に入る。
猫はニルセンの後ろ姿をチラッと見ると大きなあくびをして、また窓の外へ顔を向けた。
防衛艦隊である第2任務艦隊が戦場に到着してから30分ほどが経っていたが、それまでに敵の艦載機はあらかた撃破されて、艦隊は残った母艦に攻撃を加えつつ包囲しているところだった。
敵艦の砲台は既に沈黙しているらしく目立った反撃はしてこないのだが、攻撃はとても効いているようには見えない。

「どうやら、攻撃しても岩の塊のような艦体構造なので誘爆しないようだな。」モニターを見ていた艦長が誰に言うともなくつぶやいた。
そうなのだ、まるでただの大きな岩の塊に攻撃をしているかのように、周りは少しづつ削れていくのだが、中々破砕する事が出来ないのだ。
そうしているうちに全艦艇に後退命令が出た。
通常攻撃では削りきれないと判断してAD兵器を使う事にしたのだろう。
敵の砲台が生きていれば迎撃されて失敗するかも知れないが、反撃手段が無い今ならほぼ確実だ。
10分後、防衛艦隊の艦艇からガロッグ7が放たれ、鮮やかな白い軌跡を残して収束しつつ敵艦へ突っ込んでいった。
ガロック7が着弾した敵艦は、まばゆいばかりの閃光を上げて大爆発を起こし、大小の岩塊となって後方へと飛散していく。

デトロワ軍の艦艇では皆歓声を上げ、あるものはガッツポーズ、またあるものは隣の兵士と抱き合い喜んだ。
推移をモニタリングしていたオスメイアの艦橋からも大きな歓声が上がり、皆口々に喜びを伝えあった。
そして、猫はというと、ゆっくりとのびをしながら艦橋へと歩き始めた・・・皆が喜んでいる様子には全く興味がないというようなそぶりだった。
だが突然途中で立ち止まり、ふっと何もない窓外の宇宙空間を見て、フシャーと威嚇を始めた。
通りかかった女性士官は、猫は皆がうるさく騒いでいるので、怒っているのだろうと思い、微笑ましい表情を向けながらその場を去っていったのだが、その数日後に女性士官を含む彼らは同じような敵の攻撃が同時多発的にエレミア星系各所で起こっていた事を知る・・・。エスパー猫?・・・・。

公転軌道から言えばデトロワ領が一番外周にあたるのだが、すべての惑星が一列になっているわけではないので、別の方向から侵入してきた敵は別の惑星領へと侵入するものあり、結果的にデトロワ領へは2か所から、デュミナス領へは3か所から、ラファリエス領へは2か所からと合計6方向からの侵入があった。
いずれも撃退して、損害は軽微であったが(軽微とはいえ1000人単位の戦死者は出ている)、ラファリエス軍は情報が錯そうした為に初動がかなり遅れてパトロール部隊を3つ潰されるという比較的大きな損害を受けた。

そして今回の敵は以前のように無防備な降着ユニットで移動して来たのではなく、砲台型生物(超重光線級クラスの上半身)と飛行型生物(新種:エイのようなフォルムに光線級の上半身が合体している)を積載し、明確に武装準備をして侵攻をかけてきた。
この一連の事象はエレミア星系全域の人類に驚きと恐怖をもたらし、軍の増強、敵の策源地の捜索と撃滅を急ぐ声が大きくなっていったのである。
 
 

 
後書き
唐突に猫が出てきましたが、今のところ深い意味は持っていません。 

 

月面ハイヴ攻略戦①

 
前書き
いつもながら不定期ですみません。
今回はデュミナス軍にスポットが当たります。 

 
スカール司令が戻られてから5時間後、出撃命令が下り準備完了発進待機に入った。
私の所属する中隊は先行突入大隊の指揮下にあるので、真っ先に発進する事になる。
この間の“ファーストコンタクト”(デュミナスでは異星起源種BETAとの初戦をこう呼んでいる)の時はまだ訓練生だったから後方待機だったけど、正式配属された今は先輩達の足を引っ張らないように、気を付けなきゃ・・・。

デュミナス軍遠征艦隊の第四艦隊に所属するミリーア・ベステル准尉は、逸る気持ちを何とか落ち着けようとゆっくりと目をつぶり、深呼吸をした。
彼女は王国軍士官学校を卒業したばかりの新任士官だった為、着任時は准尉スタートであったが、当然のことながら軍歴上無経験なので部下はおらず、中隊長であるマーカス中尉の直属の部下という扱いだった。
多くの士官学校出の新任士官は普通、ナメられるのを警戒して下士官以下の兵士たちとは壁を作ってしまうのだが、彼女は本来の前向き・社交的かつ生真面目な性格の為、外聞を気にせず本来なら自分よりも階級が下である歴戦の軍曹や伍長に積極的に教えを請うていたので、中隊のメンバーはかなり好意的に見られていた。

「おい、ベステル准尉、あまり力み過ぎると腹痛起こすぞ?まぁ何かの拍子で屁なんかぶっかました日にゃ、思いっきり笑ってやるから安心しろ!」マーカス中尉がミリーアの緊張をほぐそうといつもの冗談を言ってくる(まんまセクハラなのだが)。
「ち、中尉!何を言っているんですか?!私はお、おならなんか・・・・・。」中隊一同爆笑の中、ミリーアは真っ赤な顔で必死に否定するのだった。
「准尉どの、お尻は俺たちがバッチリ守りますからね!安心してぶっかまして下さいよ!むしろご褒美ですからね?」先任軍曹のマテウスがニャニヤしながら更に畳み掛けてまたまた中隊一同は大爆笑する。
「もう!・・・・軍曹まで・・・・。」とは言ったものの、ミリーアは皆が自分の緊張をほぐそうとしてくれているのが良くわかっているし、それだけ自分にも分け隔てなく良くしてくれる中隊のメンバーに心では感謝をしていた。
もう一度愛機であるR2シグナスⅢの兵装システムをチェック・・・OK、シールドの動作チェック・・・OK、エンジンチェック・・・OK、スクワイエルの各システムを再確認して、深呼吸をした。

デュミナス軍遠征第四艦隊のスクワイエルは指揮官機がR1タウロスV、主力はR2シグナスⅢ、火力支援機がR1DガングートⅢである。
いずれも初期型がデュミナス戦役当時に就役しているが、既に第4世代相当となっている。
なお第1世代とは、10年前のデュミナス戦役時に活躍した初期型の総称である。
指揮官機であるタウロスは充実の通信設備をはじめ、極めて汎用性の高い機体だ。
そして主力のシグナスは当初特殊任務に適応性が高い機体であったが、第4世代相当となり、特殊任務もこなせる高機動スクワイエルとして大幅改良されている。
また火力支援型のガングートは当初より重装型として設計されており、主に支援攻撃を担当する機体である。

ちなみにエレミア星系における他の惑星軍における最新の第4世代相当の機体は、オルキスではジグレータMk4とロザイルMk3、アマティスではゼッツァーS4、デトロワではディオールⅡ、ラファリエスではギーンベルンDが該当する。

「さて中隊各員、気持ち悪い宇宙生物退治の時間だ。だが決して無理はするなよ?普段の行いが悪い俺たちは死んでもエデン(天国)に行けるかもわからない。だったらせいぜい足掻き倒してヘルラス(地獄)の鬼どもを悔しがらせてやろうじゃないか?」
「「「「イエッサー!」」」」
そしてその時、
『CPよりマーカス中隊、進路確認、発進どうぞ!』
「マーカス01了解!・・・よし、中隊出るぞ!」
アムレード改級航空母艦エクバトールの艦載機発進口からは次から次へとタウロスVやシグナスⅢ、ガングートⅢが飛び立つ。
そして艦の左右でそれぞれ中隊ごとに編隊を組み次第、月面へと向かっていく。

デュミナス軍の攻略担当区域はオルキス軍が担当しているオリジナルハイヴ周辺から北極方向に隣接した5つのハイヴだ。
遠征軍の機甲師団2個師団をそれぞれ1個師団毎で一か所づつ順に攻略にあたり、最後の一つは2つの師団から戦力抽出し、共同で当たる事になっている。
マーカス中隊を含むデュミナス軍部隊が月の周回軌道付近に達した際に、オリジナルハイヴを単独で潰したというオルキス軍のスクワイエル連隊とすれ違った。
気分が高揚しているのか、一部の部隊は大騒ぎをしながら帰投していった。

「あれは、何なのでしょう?・・・・・。」
お互い友好的に挨拶を交わして通り過ぎて行ったが、生真面目なミリーアはオルキス軍はよほど軍規が緩んでいると感じたようだった。
「ん?確かあっちに見える青い星、地球?だっかな、そこから来たというオルキス軍の傭兵部隊だったと思うが?」
「・・・・ずいぶんとハイテンションと思いましたが、正規軍じゃないなら仕方無いですね。」ミリーアが嫌悪感たっぷりに答える。
おや?さすがにマーカスは他軍との間に争いの種を作るのはマズイと考え、「まぁ敵の本拠地を攻略したんだから、そりゃ気分も高揚するだろうな。」とミリーアに言い聞かせるように言った。
「そういえば中尉どの、敵は本拠地を潰されると動きが鈍く単調になり、攻略しやすくなるというのは本当なのでしょうか?」・・・・だがミリーアは話題をかえてしまい、華麗にスルーされてしまった・・・。
「ああ・・・・・正確には本拠地に総司令官のような奴がいて、そいつを無力化したら、だな。」
一瞬やれやれという表情をしてマーカスが答える。
「・・・・それなら彼らの功績でもあるのですね?では彼らに感謝する事にします!」ミリーアは先ほどの嫌悪感の表情とはうってかわってにこやかになった。
天性の前向きさが前面に出て来て考えを変えたようだ。
「さすが准尉どの!懐が深いですな!」さっそくマテウスがミリーアを持ち上げる。
ホッとしたのはマーカスだけではなかったようだ。
まったくウチの姫様は・・・・と思いながら、マーカスはやれやれと言わんばかりに首を振る。
最早中隊全員でお守りをしているようなものである。

3分ほどで月面に近づくと、平たい板石のようなものを重ね合わせているような形状の明らかな自然構造物ではないものが見えてきた。
その周囲には、大きな鋏がついたカニっぽい怪物や、大古のラファリエスに存在したと言われる頭に鎧を被ったような形状の大型爬虫類っぽい怪物や、そのまわりにわさわさと赤くて小さい生物が大量に動き回っているのが見える。
「うう・・・・ちょっと気持ち悪い光景ですね・・・・。」ミリーアが思わず声を上げる。
「全くだ。科学の片りんも感じる事が出来ない、あんな形状の生物がエレミア星系にも侵入して来たとは信じられん・・・・まずはあれを掃除だな。」マーカスは嫌そうな表情を浮かべながらモニターに映るBETAを見てそう言った。
その総数は30万を超える・・・。

「それが一番ですが、ありゃあ相当な数いますぜ?我々は師団規模とはいえ、あれを相手にしたら敵の巣を攻略するにもエネルギーが保つかは微妙ですな。」マテウスはマーカスに同意しつつも敵の数が多すぎる事が気がかりのようだった。
「ちょっと待て、今CPから指示が入っている・・・・・。」マーカスがマテウス達の話をさえぎる。
15秒ほどの沈黙ののちに再びマーカスが口を開いた。
「中隊各機!この星にいる敵性生物は生体レーザーを装備している種類はいないそうだ。そこで今から2分後に予備爆撃を行う。各自CPから送られてくる座標をロック、使用兵器はズファを選択しろ。」
「「「「イエッサー!」」」」

ジャスト2分後、各自CPから割り当てられた座標に向けて榴弾であるズファが発射される。
1個師団432機からそれぞれ6発ずつ合計2,592発のズファが放たれ白い軌跡を残し、まっすぐに地上へ向かっていく。
そして上空5Kmほどで炸裂し、子弾をそれぞれ100発ずつまき散らし、地上にうごめくBETAへ降り注いで大爆発を巻き起こす。
直撃を免れたBETAも爆風や破片でかなり倒したが真空の環境下で炎は発生しないので、思ったよりは撃破数が少なかったようだ。

「CPから再攻撃の命令だ!もう一斉射する!リロード完了後30秒で発射!」1回目の斉射で半数ほどを撃破したが、まだ相当数残っているため、もう一度攻撃をする事を司令部は決めたようだ。
そして各機からズファが再斉射され、先ほどと同じく爆発と破片の旋風が地上を駆け巡った。
この2回目の攻撃によりBETAをほぼ殲滅、部隊は次々とハイヴの入口へ殺到し、中隊単位の浸透戦へ移行した。

マーカス中隊は突入の順番がちょうど部隊の半ばくらいだったのだが、ハイヴに残るBETAは数において未だその猛威を奮っており、進軍中にたびたび横穴から飛び出して襲ってくる。
突入前のスキャンによる総数は60万を超えていた。
その時は、ひとつのハイヴに総数100万ほどの敵がひしめいているのに改めて驚きをおぼえた中隊一同であった。

「くっ!ちょこまかとお出でなさることで!」マテウスがS-4ライコット(固定ライフル)をぶっ放し、横穴から迫ってきた要撃級BETAの胴体を粉砕した。
「全機、ベステル機を基準に方円隊形を取れ!」マーカスは今の傘型陣形では前方の敵には有効だが、左右上下自在に現れる敵が両端の機を捉える可能性が増した為、陣形の変更を命じる。
途中、損傷した機を僚機2機が護衛しながら後送するのに何度かすれ違い、不意に襲ってくるBETAを撃退し、かなりの深層まで来た、と思った時急に敵がこちらをも顧みず一目散に外に向かいだした。
と同時にCPからの連絡で、先行したいくつかの部隊が深層の核らしきものを発見して破壊した事が告知された。
そしてその後は掃討戦へ移行し、退散しようとする敵を一方的に撃破する「作業」が始まる。
 
 

 
後書き
戦闘シーンってほんとうに描写が難しいです。
毎度下手くそですみません・・・。 

 

月面ハイヴ攻略戦②

 
前書き
今回もデュミナス軍部隊の活躍です。
はしゃいでいた一件を除いてもベステルは何故かオルキス軍をあまり好きではないようですね。 

 
スクワイエル携行マシンガンであるM-61ホバートの引き金を引く。
ブォ――――ンと震動音のような音がして実体弾がまばゆい光球となって無慈悲に前方をふさぐ要撃級BETAや戦車級BETAを次々と動かない肉塊へと変えていく。
もうどれくらい引き金を引いて、どのくらいの敵を斃したか、ベステルは100から先を数えるのをやめてしまっていた。

だが、当初よりはより楽に敵を斃す事が出来ているのいささか緊張感も解けかかってきていた。
最初のハイヴでは初戦でBETAと対峙するのも初めてであった為、動きが予測できず手こずったが、既に搭載AIにもパターンが蓄積記憶され、警報も早くなったし、中隊のメンバーも経験を積んでAIの警報を待たずに出現予測や出現時の攻撃パターン予測も容易に行う事が出来るようになった反面、割と動きが単純なBETA相手では作業に近い感覚で肉塊の製造に勤しんでいたのだ。

今攻略しているハイヴが異星物のこの星における最後の拠点であり、もうすぐ終わるという思いが油断を生むには十分な理由ではあった。
最下層と思われる層まであと少しというところで、先行していた部隊がだいぶ混乱している様子の通信が次々と入ってきた。
『ディーク伍長!左へ回り込んだぞ!回避しろ!!』『うわ、あ――――!』『コイツいったい何なんだ?!』『ヤザク9、11!サンダー機を早く後送しろ!!』
「何だ?だいぶ混乱してるな。」マーカスが通信とレーダー画面を見て、先行部隊のあまりの混乱ぶりに困惑しながらそう言った。

「1機後送されてきました。道を空けますか中尉殿?」マテウスが2機のシグナスに抱えられるように後送されてくるガングートを確認して、マーカスに意見具申する。
「ああ、そうだな軍曹。中隊各機!聞いてのとおりだ。後送されてくる味方機に道を空けるんだ。」
中隊の面々はマーカスの命令を受けて、後退する3機に進路を空ける。

「君らはヤザク中隊か?」ふいにマーカスは後退する3機に話しかけた。
「はい、そうであります中尉殿!」3機のうちシグナスに搭乗している若い育ちの良さそうな伍長がマーカスの問いかけに答えた。
「先ほどから通信が聞こえていたので気になったのだが、いったいなぜ君らは混乱していたのかな?」マーカスは先行部隊の先ほどの混乱ぶりが気になったので聞いてみた。
こうしている今でも混乱して態勢をうまく立て直せないまま戦闘を継続している模様が通信を通じてわかるくらいだった。
「はい、中尉殿。実は急に今までと違う個体の敵が現れたのです・・・。」
「今までと違う敵?エレミア星系にいた生体レーザーを撃ってくる種類じゃないの?」ベステルが会話に割り込んでくる。
「いいえ、准尉殿!生体レーザーを使う目玉の化け物ではなく、明らかに人型に似た個体でして、飛ぶことはありませんが、腕が剣のような武器になっている上に、とにかく動きが素早いのです。」
良く見ると曳航されているガングートは何か鋭利なものでスラスターを貫かれて飛行不可となってしまったようだった。
今まで見た個体は太古の大型爬虫類(突撃級)や巨大な鋏虫(要撃級)、そして出来損ないの上半身だけ人型にやや近いもの(戦車級)だったが、なぜ急に人型が現れたのか・・・・。
「そうか、ありがとう!気を付けて帰投してくれ!」マーカスが礼を言うと伍長たちは敬礼して後退していった。

「よし、では中隊前進する!先ほど聞いた通り敵の個体は今まで出会った奴よりも進化しているらしい。気を抜かずに行くぞ!」
「「「「イエッサー!!」」」」
マーカス中隊は方円隊形を継続、ところどころ現れるBETAを次々に斃しながら前進する。
「中尉殿、噂の人型はまだ現れませんね?」マテウスが待ちきれないかのように訊ねてくる。
友軍の通信を聞く限り、依然として最深部で戦っている部隊は大混乱している状況のようだった。
「中尉どの、先ほどのガングートはなぜシールドを破られてスラスターを破壊されたのでしょう?」ベステルがふいに先ほどのガングートがやられた状況に疑問をなげかける。
「そういえば、その通りだな。何かシールドを突き抜けるような兵器を出してきたか・・・何にしろ背後を取られないように留意するように!」
「「「「イエッサー」」」」

もう少し進むと、少し遠くに友軍と黒い何かが多数入り乱れて交戦しているのが見えた。
黒い何かは恐らく先ほどの伍長が言っていた“新種”なのだろう。
確かに今までのBETAに比べると格段に素早く、銃の特性を理解しているかのように銃口を向けると素早く回避運動を行う。
むやみやたらな発砲ではIFFやシールドがあるとはいえ、流れ弾による同士討ちの危険もあり(実際に見ていると他部隊ではシールドに阻まれたものの何発かフレンドリファイアが起きていた)、それを避けるためにマーカスはあえて発砲を最低限に抑える事を指示する事にした。

そして「最深部にいる友軍機に告げる!こちらマーカス中隊だ・・・これより戦闘に加わる!」マーカス中隊は乱戦を避けて進行方向左側から突入し、次々とターゲットへと迫っていく。
「こちらヤザクだ!ありがたい!助かる・・・・向こうにいるロズマンやウェーネル中隊も苦戦しているんだ。しかも各隊1個小隊欠けているからな。気をつけてくれ、油断するとやつらシールドをかいぐぐって直接攻撃を当ててきやがる!」ヤザク中隊の隊長がやや疲れた顔で応対する。
そしてマーカス以下12機が戦場へ突っ込むが、最初はスピードの速い敵に翻弄され、他の中隊がどれほど苦労していたのかを思い知る事になった。

弾は中々敵にあたらず、今までの効率と比べると与撃率は10分の1以下であった。
そしてそのうちにとうとう中隊の1機に敵の剣腕が突き刺さらんとする。
だがそれはシールドによって一瞬阻まれたのだが、片腕がシールドの力場に捕まっているところにもう片方の剣腕をぴったりと這わせて緩んだ力場の隙間から剣腕を差し込んできた。
幸いパイロットがすぐに気づいて回避した為、胴体部をかすっただけにとどまったが、回避していなければコクピットをやられていただろう。
「なるほど、ヤザク中尉が言っているのはこれの事か!」マーカス達は敵の巧みな攻撃法を垣間見ることが出来たが、依然として素早いスピードに翻弄されていた。

それからしばらく効率が悪い攻撃を続けていると・・・・「中尉どの!あいつらの反応って単調な気がします!ただひたすらに銃口のぴったり中心を基準に面積の狭い方へ避けてから銃口を向けてきた機の背後や脇へ高速移動して物理攻撃を差し込もうとするだけです!」注意深く敵を観察しながら味方機へ迫る敵に牽制攻撃を行っていたベステルがBETAの動きのパターンに気づく。
マーカスはどう攻略するか慎重に観察し、一瞬考えた・・・・そして対策は決まった。
「よし、中隊各機!バヨネット展開!射撃で牽制しながら物理攻撃で行くぞ!小隊単位で当たれ!」
バヨネットとは、いわゆる銃剣の事でありデユミナス軍のスクワイエルにとってはM-61ホバートの銃身先端部分に付属している物理攻撃装備である。
デュミナス軍スクワイエルのバヨネットは他に比べえるとやや幅広で普段は儀礼程度にしか使わないようなお飾り的な装備であるが、一応スクワイエルのシールドが無い状態であれば、装甲の合金を貫通するくらいの強度や鋭さがある。

2機のシグナスが銃撃で敵を追い立て、もう1機のシグナスが敵新種BETAに肉薄して次々とバヨネットで止めを刺す。
この戦法が有効と見るや、他の部隊機もそれに倣い小隊単位で敵を追い詰め始めた。
そしてマーカス中隊が到着してからおよそ20分くらいで最後のBETAがバヨネットの露と消える。
たったの20分だが、中隊メンバー達は2時間くらい戦っていたくらいの疲労と消耗を感じた・・・。
他に残っていた個体が掃討され、最後に深奥の巣核破壊で戦闘終了がCPより宣言された。

「ふぃー、今回はだいぶ手こずりましたねぇ・・・。」マテウスが困った顔をしてまるで悪夢にうなされた後のように頭を振っている。
「どうやらオルキスの情報部が新種の調査に来るそうだ。」CPと戦闘詳報などのやり取りをしていたマーカスがマテウスに答える。
「まさか、最初の突入時にすれ違った、あの浮かれていた部隊・・・ではないですよね?」
「そんな事はわからんよ?それよりも准尉?貴様は相当にあの部隊が許せなかったみたいだな・・・だがあれは友軍だからな?」少しの嫌悪感が顔に出ていたベステルをマーカスは宥めようとする。
「はい!もちろんわかっています!中尉どの」と言うものの、マーカスはベステルの目が笑っていない事に気づくが、さすがにつっかかって行くような事はしないだろうと思いたかった。
いや、その時は思い込んだ・・・・・。
 
 

 
後書き
またもやBETAの新種が登場してしまいました。
人型なのは何を模倣したのでしょう・・・・・・・?
次回はそのあたりも明かされるのでしょうか・・・。 

 

月面オリジナルハイヴ攻防戦

 
前書き
大変お待たせしました。
いつもながら不定期更新申し訳ありません。
にも関わらずお読みくださりありがとうございます! 

 
時は第一次攻撃隊発進時-オリジナルハイヴ攻略時に遡る。
『師団傾注!これよりわが第14機動師団は月面のオリジナルハイヴ攻略に向かう!スキャンの結果によるとターゲットには、あの気持ち悪いクソ生物どもはおよそ100万匹いるらしい。』オルキス軍第14機動師団のライズマン准将の訓示だ。
『連中は所詮劣化AI以下の性能だ・・・だが決して侮るなよ?頭が悪いとはいえ数はごまんといるから、ちょっとミスしただけで飲み込まれるからな・・・・よし、では行って来い!ボーイズ共!!』
『『ラジャー!!』』各指揮官機から気合の入った応答が返ってくる。

師団長の訓示が終わると共に師団各隊が一斉に攻撃隊形に移る。
『ロアーヌ連隊!わが隊はビクスンとファーデット連隊が周囲の敵を攻撃している隙に入口から侵入、ザカリス連隊と連携して最下層の最終ターゲット-重頭脳級-を捕獲ないし殲滅する事を目標とします。』
『『ラジャー!!』』
『そして今回は情報部大隊が随伴しますから、くれぐれも彼らに格好悪いところは見せないように。』
『『ラジャー!!』』
『それではカミナガ中佐、よろしくお願いしますね。』
『ええ、アントワープ中佐、こちらこそよろしくお願いします。』
『それでは・・・ロワーヌ連隊、出撃!』
『『ラジャー!!』』
『情報部大隊、続け!』
『『了解!!』』
増強された情報部大隊は、3個中隊からなり、A中隊 中隊長兼大隊副長 タケル・シロガネ大尉、 
B中隊 中隊長 マドカ・ウスイ中尉、C中隊 中隊長 ユリ・トーノ中尉 となっている。
B中隊とC中隊にはそれぞれ、地球人組の部下が組み込まれており、残りは転属してきたオルキス軍正規兵パイロットが配属されている。

月面オリジナルハイヴ・・・・それはエレミア星系で見たハイヴの数倍以上の威容を誇る巨大なモニュメントであった。
ダイスケとタケルの感想では、地球上のオリジナルハイヴであるカシュガルハイヴの桜花作戦時(2001年)のフェイズ6を遥かに超える大きさである。
仮にフェイズ10というものがあったとしても、それをも凌駕しているのではないかというくらいの大きさだった。
スキャンによるとオリジナルハイヴ周辺の敵の個体数は200万を越しており、エレミア星系に展開していたハイヴに比べると10倍の数である。
作戦は、まず範囲兵器でハイヴ周辺の敵を一掃してから内部へ侵入、攻略後に残った敵が一斉に他のハイヴへ撤退して周辺ハイヴの個体数が増えるのを防ぐべく、なるべく間引きをしながら最深部を目指すというシンプルな作戦である。

まずはビクスンとファーデットが先行して周辺の敵を蹴散らし、掃討をかける。
いずれもロザイルMk.3が全面に出てクラスター爆弾型のミサイル兵器、ドラン20改をぶっ放す。
何百もの曳光を輝かせてドラン20改は敵の頭上で次々と炸裂、その度に何十という敵を道連れに地上に大輪の花を咲かす。
波状攻撃を仕掛け、およそ20分後、地上にうごめいていた敵の7割がたが殲滅された頃合いで、ザカリスとロワーヌが突入に移る。
『ロアーヌおよび情報部大隊全機、露払いはザカリスがやってくれるそうよ。わが隊はザカリス突入の5分後に侵入します。それまでは周囲の敵殲滅を手伝いましょう!』
『『ラジャー!!』』
『・・・・とはいうものの、ビクスンとファーデットは中々良い仕事をしてるみたいで、おこぼれもほんどいないなぁ・・・。』ダイスケが隊内通信でつぶやくと、
『はい、さきほども要撃級を2体発見したと思ったら、次の瞬間には爆散していました・・・。』碓氷がそう返す。
『まぁ突入したら、そんな事も言ってられないさ。すぐにお腹いっぱいになると思うぞ。』タケルがおどけたように返すと隊内には自然と笑いがこぼれた。
『白銀大尉の言うとおりだな・・・それではもう一度突入前の点検もしておけ。突入の隊形に変更はなく、先鋒はA中隊、中央は私とともにC中隊、殿はB中隊だ。』
『了解!!』

「いいな、中佐と一緒なんて・・・。」B中隊の高山がそうぼやく。
『・・・・中佐は私が守るから心配いらない・・・・私がついているから、高山はいらない子・・・』高山のぼやきは、隊内通信でもかすかに聞こえるか聞こえないか微妙なところだったのに、築山が反応してしまった。
『なんですって?!築山なんて人の陰から狙撃するのが得意なだけじゃない?そんなんで中佐を守れるとでも思ってるわけ?』挑発された高山が築山に食ってかかる。
『ちょっと!あななたたち作戦前に仲間割れとかやめなさいよね!!』B中隊の中川が止めに入るが、2人は相変わらず言い合いを続ける。
『築山少尉、いい加減にしなさい!』『高山、もうやめろ!』B、C中隊長それぞれが注意するが、まだ止まらなかった・・・・。
「まったく、仕方のない奴らだな・・・。ん?秘匿通信?」ダイスケはちょっと困惑しながらどうするか迷っていたが、そこにタケルから秘匿通信が入る。
「ダイスケさん、あ、中佐殿!意見具申よろしいでしょうか?」タケルは最初普段通りのような接し方で来たが、すぐに訂正してキリッと軍人らしい対応に切り替えた。
「うん、言いたい事はわかっているよ・・・これから雷落とすよ。」ダイスケはタケルがそろそろ彼らにビシッと言い聞かせなければならないタイミングである事を告げてきたのだろうと思い、そう答えた。
だが、タケルは「いえ、自分が喝入れてもいいすか?」という事だった。
タケルが言うには、こういうときは隊長ではなくて、そのすぐ下の副長クラスや、先任将校や下士官がビシッと絞めるのが良いらしい。
確かに士官学校でそんな感じの事を習った気(疑似記憶だけど・・・)がしないでもない・・・。
タケルも成長してるんだな・・・まぁ何周かしているから軍人が板についた感じなのかな。
タケルに任せた結果・・・・当事者2人と止める事の出来なかった両中隊長の4人を作戦終了後、特別メニューでしごきあげるという罰が言い渡される。
その後タケルはダイスケに「女性から奪い合いの対象になるとか、ダイスケさん罪作りっすね。」と言われた・・・・・・不本意だ・・・・恋愛原子核と言われているお前にそれを言われるとか、全く持って予想外だわ!!・・・・・・・。
よし、地球へ行ったら例の5人娘がいるだろうから、香月女史に頼んでタケルに色んな関わりを持たせて、同じ事を言ってやるからな!・・・・。
『ロワーヌおよび情報部大隊、これより敵ハイヴへ侵入する!』
『『ラジャー!!』』
『先陣はフリージア大隊とクルーズ大隊、中央は情報部大隊、殿はローブ大隊の順に突入!私はフリージアと共に行きます。距離が離れた場合、ローブ大隊はカミナガ中佐の指示に従うように!』
『『了解!!』』
144機のジクレータMk.4とロザイルMk3がハイヴの入口に殺到、次々と侵入していく――――。

『クルーズ06右だ!右上方!』『フリージア21、シールド値下がってるぞ!チェックしろ!』
ザカリス連隊が露払いをしたとはいえ、ハイヴの中には100万体近くの敵が存在していた為、ロワーヌ連隊の突入の際もかなりの数のBETAがあちらこちらから襲ってきた為、彼らは少し混乱気味であった。
だがそんな中でも『BETAぁぁぁぁ!!!このぉぉぉぉ!』『一匹残らず殲滅する・・・・。』『動くなぁ!!』
と威勢の良い・・・というより半ば猛り狂ったという表現が正しいように思える部隊もいる・・・・情報部大隊・・・。
『情報部各員、カミナガだ。今から気合入れ過ぎると重頭脳級のとこにたどり着く前に燃え尽きてしまうぞ?少しセーブしろ!』やれやれ・・・・どうしてこうウチの・・・というか地球人組はBETAを見るとバーサク状態になるかな?・・・。
まぁ、これまでBETAに散々仲間を殺されたという恨みが骨髄までしみているんだろうけど、見てる周りも結構つらいところだなぁ・・・。
地球に帰ったら彼らは原隊復帰させられる事になるだろうから、今のうちなんだけどね・・・。
でもここまでそんなに長い間じゃないけど一緒にやってきたから、ちょっと寂しい気もするな・・・・何か手を考えておこうかな・・・。

途中、ザカリス連隊の機が戦っている脇を抜け、どんどん深層へ向かう。
そして、ザカリスの先鋒も追い越して少し行った先、開けた場所に出た・・・そこには巨大な“(ゲート)級”が鎮座しており、周辺には数えきれないほどの黒っぽいBETAがうごめいていて、まるであのGの大群を見ているかのようだった。
『気持ち悪いわね・・・・・カミナガ中佐、あの巨大なボールとパイプ、奥の入口っぽいのって、ロドリグで見たやつの数倍大きいんですけど、あれと同じものだと思いますか?』アントワープはうごめくBETAに対して嫌悪感をあらわにしながら、そう尋ねた。
『ええ、そうですね。規模は大きいですが間違いなく“(ゲート)級”でしょうね。』
うん、間違いようがないほど形は一緒だよ・・・この間のロドリグの時はゲームの時にそうしていたからという理由で破壊したけど、あの手前の玉は案外やさしく撫で続けたら電気が走って痙攣してゲートが開いたりして・・・・・はぁ、何考えてるんだ俺?BETAのハイヴにエロい事を考えるのやめよう。
でも、重頭脳級ってどうみてもテ○ムポみたいだしな・・・・あー、だからやめろ俺・・・。

『・・・・・・・・・か?カミナガ中佐?』しまった、変な事考えてぼーっとしてた・・・。
『あ、すみません、別の事を考えていました。』うう・・・・・咄嗟なので適切な言い訳も浮かばない。
『そうですか?戦闘中なのに、らしくないですね?具合でも悪いのですか?』
アントワープ中佐、心配してくれてるな・・・脳筋なのに優しい女性だ・・・。
『いえ、実はゲート級の攻略なんですが、ひとつ試してみたいのですが、いいですか?』思いついたからとりあえず試してみたくなるのが男の性ってやつかな・・・・決して邪な考えからではない!うむ。
『それは構いませんが、その前に周囲にうごめいてる邪魔者を排除しますね。』
『ええ、お願いします。』確かに周りのBETAは多すぎて邪魔でしかないな。

『ロワーヌ各隊、これより広間でうごめく敵排除を行う。各隊所属重装ロザイル前へ!』アントワープの命令一下、各大隊に所属している各中隊2機の重層型ロザイルMk.3が前へ出てくる。
『ロザイル各機はタフィッドを装填、まずは3斉射を行い、効果判定次第で追加斉射を行う!』

タフィッドは元々デトロワ軍やラファリエス軍が使っていた榴弾兵器だが、エレミア戦役後にオルキスの軍需企業がライセンスを買い取り、改良型をリリースしてオルキス軍へ卸している。

ロザイル各機は発射ポッドへタフィッドを装填し、砲口を地上でうごめくBETAへ向ける。
『よし、全機斉射!!』アントワープの号令とともに18機のロザイルからタフィッドが放たれる。
地上で炸裂する榴弾は、周辺でうごめくBETAを一瞬にして動かぬ肉片へと変えていく・・・。
3斉射が終わったが、未だ半数は生きている為、追加で3斉射が命じられる。

タフィッド斉射が全て終わり、生きているBETAは当初の1割にも満たない数まで減少していた。
『予定通り削れましたね。では、ロワーヌ各隊、手前の大きなボール周辺を制圧、確保します!フリージアおよびクルーズ、突撃!蹂躙せよ!!ローブは後方警戒、ボール周辺制圧後は情報部大隊へ任せます!』
アントワープの命令一下、ゲート周辺のBETAは瞬く間に壊滅した――――。
 
 

 
後書き
夏も終わってしまいましたね。
変な天気の夏でしたが、ビアガーデンとか大丈夫だったのでしょうか。 

 

重頭脳級攻略

 
前書き
いつもながら、もたもたしていまして申し訳ありません。
最近何かとやらねばならない事が重なっておりまして・・・・。 

 
アントワープの命令一下、周辺のBETAは瞬く間に壊滅し、その機を見たダイスケはすかさず、「情報部大隊、続け!!」と配下部隊へ命令、部隊は手前のボール周辺へ向かい、これを制圧する。
「中佐、破壊しないのでしたら具体的にはどうするんですか?」前回、ロドリグの際にはボールは完膚無きまでに破壊してゲートをこじ開けたのだが、今回は違う方法を試すというダイスケに、タケルが疑問を投げかける。
「まぁ、見ててくれ。」といいながら、ダイスケ機はボールを撫で始める。
その場にいる全員の頭の中は「???」だったが、撫でているうちに少し赤みを帯びて膨張を始めた。
もう少し撫でていると急に地響きがして、ボールが少し縮んで中に入っていく。
そうすると奥の丸扉が全開になった・・・・・。
『・・・・・いったいどういう事ですか?・・・・・。』アントワープの他、ほとんどの兵士たちは状況が飲み込めずぽかーんとしていた。
なにしろ作戦前のブリーフィングでは、“ボールは破壊して電流を流さないとゲートは開かない”とされていたからだ。
「いや、破壊してから電流流したときは、ゲートが中途半端にしか開かなかったので、おかしいなぁと思って正規に開ける手段を考えていたら、この方法を思いついたんですよ。」
『ただ撫でただけ?ですか?』アントワープが皆を代表して尋ねる。
「いえ、表面をまんべんなく撫でながら放電していましたよ。この間は破壊したので中途半端にしか通電せず、そのため扉も半端にしか開かなかったのだと思います。」
『なるほど、最初に通電というワードが提供されていたのに、私たちも気づけませんでしたね・・・さすがです!』
「いえ、先に言いましたが、今回は確証がなかったので試してみたら当たったというだけですから・・・それよりも?」ま、思いつきだったんだけどね。さぁ早く先へ進まないといけないので、アントワープを急かしたけど、わかってくれたかな?
『ええ、そうですね!・・・・これより敵本拠へ突入します!ローブ大隊は引き続きこのエリアの警戒、後方支援を!フリージア大隊が先導!クルーズ大隊、情報部大隊は続いて下さい!』アントワープが部隊へ突入命令を下すと、配下の各大隊は指示通りに動き始める。
だが、先行したフリージア大隊は突入してすぐに何か強力な敵個体に出会ったようで、かなり混乱をしていた。

「重頭脳級か?いや、今までいくつかのサンプルがあるのだから、今さら混乱するはずもないよな・・・。」
「こんだけ規模の大きいハイヴですから、重頭脳級も触手の数が多いとか巨大だとか、何かイレギュラーな事が起きているんじゃないですか?」ダイスケの疑問に、タケルが想像で応えた。

とにかく現状把握しない事には対処も出来ないので、ダイスケは最初にフリージア大隊とともに突入したアントワープに確認をとろう。
「アントワープ中佐!現状はどうなっていますか?」
『ああ、カミナガ中佐、すまない・・・今までのデータにない新種らしき個体がいてかなり手こずっています!』アントワープがかなりテンパった様子で伝えてきた。
「新種・・・ですか?どのような個体か伺っても?」ここに来て新種とか、何だいったい?
『明らかに人型に近い形状で、とにかくすばしっこいのです・・・・そのうえシールドを破って攻撃する方法をあみだしているようで、3機ほどスラスターをやられました。』まじか?!かなりやっかいな奴だな・・・・でも今回はわざわざ最初にオリジナルハイヴを攻撃したのだから、学習して対処してくる時間なんておおよそ無いはずだ。
このくらい育ったフェイズのハイヴって学習能力がとんでもなく高いって事なのかな。

「シロガネ大尉、どう思う?」とりあえずタケルちゃんの意見を聞いてみよう。
『今まで見たことない個体です・・・でも何となく強化外骨格に似ている気がするんですよね・・・。』
『そう言われてみればそう見えます!』すかさず遠野が同意する。
『これは想像ですが、私が思うに機械化歩兵装甲ハーディマンを参考にモデリングしているように見えます・・・・。』
「ハーディマン?」碓氷中尉の言っているそれ聞いたことある気がするけど、なんだっけ?
『ハーディマンというのは、地球の中の一国、アメリカという国が今から30年ほど前に開発して、この月面へ持ち込んで侵入してきたBETAとの戦闘に使用していた歩兵用の装甲装備です。』
そっか、確か1970年代に月面で戦った際に米軍が機械化歩兵装甲を使用していて、BETAがそれを鹵獲していたなら、人類の軍との戦いに利用する為にその形状を真似たBETAを製造した可能性はかなり高いように思う。
だが、当時作られたは良いが、月面の人類兵力が撤退したために活躍の場が無くなり、大量生産の必要がなくなったので数も限られ、この部屋の守護を司るようになったんだろうな、きっと。

そんなことよりも対応策を考えないと・・・・。
この速さだと一機毎での対応は下策かな・・・・2機単位での対応がベストか。
「アント『部隊傾注!各機ペアで対応せよ!お互いをカバーし合えば対応力は増します!』・・・・」
『『『ラジャー!!!』』』
『カミナガ中佐?献策しようとしてくれていましたね?感謝します!』アントワープはまるで分っていたかのように笑顔でそう言った。
「いえ、出過ぎた真似を、すみません。」この女性(ひと)には敵わないな・・・。
『そんな事はありません。でもさすがですね!情報部なんてもったいない、機甲師団へ転属して欲しいくらいですよ?良ければ検討してくださいね!』アントワープは今度はウィンクしながらそう言った。
右のモニター見るとタケルが笑いをこらえているのが見える・・・・ちくしょうめ・・・。
『あ、シロガネ大尉も大歓迎なので前向きに検討してくださいね?』
『うえ?えあ、は、はい・・・。』ハハハ、急に話をふられたタケルが焦ってる・・・・ひとの事笑ってるからだな。
それにしても戦闘中でしかも強敵が現れたというのにこの余裕感・・・・。
さすがはオルキス軍最強部隊・・・というところなのかな。

そして、アントワープの命令一下、2機一組のロッテ隊形のジグレータは次第に人型BETAを圧倒し始め、どんどん与撃墜数を上げていく。

そして数分後、最後の1体は隙を見てすぐ近くにいたジグレータに攻撃を加えようとしたところを周囲の機体から集中砲撃を受け、ハチの巣にされて沈んだ・・・・。
さて、残るは重頭脳級1体―――――こいつがまたやっかいなのだが・・・・。
数機で近づくが、通常の個体よりはるかに大きく、かつ触手の数も倍くらいあるようで、破壊切断しても次から次へと触手を繰り出してくる。

と、ここでオルキス派遣軍司令部のオーダーにより情報部が用意してきた通信機材を使用して、重頭脳級との会話を試みることにする。
実は、エレミア星系へ侵入してきたBETAの重頭脳級が放ったと思われる通信波や、一時鹵獲した重頭脳級(危険なのでデータをとった後、速やかに処分された)などから得たデータをもとに翻訳が出来るようになった。
今回はそれを活用して重頭脳級を尋問する事になっている。
ただし、尋問と言っても軽い会話?確認の後、強制的にデータを抜き取るだけなのだが。

「応答せよ。我らは知的生命体であるヒト種。汝は誰の命にて我らと敵対するのか問う。」
『ガッガッピーーーー・・・・・・・・・チテキセイメイタイ・・・・ショウメイセヨ・・・・・セイメイタイ・・・・・ユウキカゴウブツ・・・・ケイソ・・・・ショウメイセヨ・・・・タンソ・・・・ムキブツ・・・・・セイメイタイ・・・・デハナイ・・・・・。』
チッ、まぁこれはわかっていた結果だけど、よほど自己中な珪素系クソ宇宙人が自分たちだけが唯一無二の生命体と信じてAIにインプットしている状態だよな・・・。
「我々の認める生命体とは有機化合物は炭素である。珪素は無機物。生物では無い。」
『ショウメイセヨ・・・・・ケイソハユウキカゴウブツ・・・・・・ジョウイソンザイニヨリミトメラレテイル。』
「上位存在の見解は誤りである。我々の認める生命体の主な構成要素は炭素である。」
『ミトメラレナイ・・・・セイメイタイのオモナコウセイヨウソハケイソデアル。』
・・・・・もうだめだこの、ポンコツAIめ・・・あとは強制的にデータを吸い上げるだけだな。

「シロガネ大尉、やってくれ。」
『ラジャー!』タケルは返事するやいなや、背面に装備していた大きい注射器のような形状の物体を重頭脳級の中枢部にぶっ刺した。
そして側面のスイッチを押すと、重頭脳級から半透明の液体がどんどんすいとられていく。
この液体―――ODLは、構成している分子ひとつひとつがマイクロチップのような記憶媒体となっており、主に重頭脳級から各BETAへの指令や、各BETAからの報告などのやり取りをしている記録が逐一記録されている事が、エレミア星系で鹵獲した頭脳級のODLから判明していた。
エレミア星系では、重頭脳級は全て完膚なきまでに破壊していたので、彼らの上位存在もしくは母星などの情報を得ることが出来なかった為、今回の遠征ではODLを入手する事も情報部の優先任務のひとつとなっていた。
まずは彼らの習性、目的、そして本拠地、一体どこから現れて来たのか、誰がどのような目的で方々へクソ迷惑なこいつらを放っているのか、徹底的に調べて報復攻撃を行い、これ以上の犠牲が発生するのを止めさせなければならないのだ。
巨大な注射器、4本ほどで吸い取った頃、やっと全身の体液が枯渇したのか、重頭脳級の反応が消失した――――活動停止したと思われる。

『よし、本作戦は今時を以て終了とする。ファリス大尉、HQおよびザカリスへ任務完了の報告と帰還する旨の連絡をしてください。』アントワープは相変わらずキリッとした表情で指令を飛ばす。
『では各隊全機、これより各母艦へ帰投!突入時と逆の陣形で退出します。残敵掃討しつつ進んでください。』連隊および情報部大隊は陣形を組み直し、速やかに退出に入る。
途中、外へ向かっていたBETAの集団にいくつか出会ったが、戦意は全くなくひたすら出口へ向けて移動していた。
連隊は命令通りそれらを掃討殲滅しながら出口を目指した。
ハイヴの出入り口を出ると、外は既に戦闘は終わっており、ビクスンとファーデット両連隊はほとんど
帰投した後だった。
一面BETAの死骸だらけ・・・・細菌やバクテリアの存在しない真空空間である月面では放っておくと乾燥だけして干からびた物体となって月面上に残り続けるだろうと思われる。
いずれは地球人類が再進出してきて基地なり都市なりを建設するのだろうが、その時彼らがこれを見て何と思うのだろう・・・・・。

帰投中、大隊のメンバー、特に地球人組は、初めてのBETAハイヴ攻略、しかもオリジナルハイヴを攻略したとあって、これ以上無いほどの高揚感と嬉しさで大はしゃぎだった。
途中、他のハイヴ攻略に向かったデュミナス軍のスクワイエル部隊とすれ違ったが、正直ちょっと恥ずかしかったな・・・・。
彼らのはしゃぎっぷりは帰艦後も続いていた・・・・・まぁ、今まで例外なく知人友人含めた相当数の仲間をBETAに殺された(喰われた)ような状況だろうし、そんな敵に対して一矢報いるどころか殲滅できたのだから、よっぽど嬉しかったのだろうな・・・・。
そんな中、オリジナルハイヴ以外のハイヴで俺たちが最後に重頭脳級の部屋で戦った人型のBETAが現れて部隊を混乱に陥れているという情報が入ったのだ。
既に一戦して状況が良くわかっているという事と、なぜオリジナルハイヴ以外で人型BETAが現れたのか、などの調査も併せて行う為に我々情報部大隊に司令部から出撃命令が下った。
直掩と護衛にアントワープがロワーヌ連隊からフリージア大隊を引き連れて来てくれる事になった。

そして、忙しく再出撃の準備をしていると、そこに優奈が見送りに来てくれた。
「大輔くん、気をつけてね?」
「ああ、大丈夫だよ!」心配してくれてるみたいだけど、なんの不安要素も無かったので、元気にそう答えたよ。
「なんかね、情報によるとデュミナス軍の中にオルキス人の事をあまり良く思って無い人もいるようななの。」え?なんですか?唐突なその情報。
「少し前にデュミナスの士官と打ち合わせの後に軽い雑談をしたの。でね、エレミア戦役の時、デュミナスはデトロワ軍に包囲されていたのは知ってると思うけど、その時ディー司令が率いてた第86戦隊が、作戦でデトロワの包囲を破ってデュミナスの軌道まで接近してデュミナス軍と連絡を取って包囲しているデトロワ軍の背後にいる連合軍と連携出来るようにした事があったの。」
「ああ、その話は戦史に載ってるので、読んだことがある。」というか、俺の記憶がそう言っているんだけど・・・・。
「それでね、その時デュミナスの大気圏内でも戦闘があったみたいなのだけど、撃破されたデトロワの軍艦が何隻かデュミナスの地上に墜落してその巻き添えになった市民がけっこういて、その遺族がオルキス軍、特にディー司令とその麾下部隊に反感を持っているみたい。」
「うーん、もちろん同情はするけど、それは不可抗力だし、逆恨みみたいなものだよなぁ・・・・。」
「そうなんだけど、やっぱり自分の家族が死んでしまったら、その原因を作った人に対して恨みの一つは持ってしまうのも仕方が無いと思う・・・・。」優奈は悲しげに俯いてそう言った。
そういえば優奈は、あっちの世界では戦争に巻き込まれて死んだんだよな・・・・・・。
「そうだね・・・・もしそういう人がいたとしたら、ちょっと気を付けて対処するよ。」
「そうね・・・・これから合流するデュミナス軍部隊に実際そういう人がいるみたいだから、気をつけてね!“ミリーア・ベステル准尉”というらしいわ。」なんだ、そうか、優奈はそれを伝える為に来てくれたのか・・・・。
「わかった!優奈ありがとう!」俺は優奈に礼を言ってから、スクワイエルの搭乗口へ向かった・・・・まぁ優奈の話を聞いて、またやっかい事が・・・・と思ったのは仕方ないよね? 
 

 
後書き
もうちょっとで月面ハイヴ攻略が終わってとうとう地球人類へのコンタクトを行います。
特に脈絡はないですが、スタートレックのファーストコンタクト という映画を思い出してしまいました。