「藍い帽子(Dark blue belet)」


 

目暮十三 著「自治体警察全集」より

 
前書き
黒いブーツ、竹色の制服、藍いベレー・・・夜の住宅街を歩く彼らの姿が、私の目に今でも焼き付かれている・・・。 

 
2010年代末期。
東京某地域にある町・米花町。別名「日本のヨハネスブルグ」、「東京の西成区」、「数十年前のニューヨーク」、「殺意の吹き溜まり」。
数々の異名で知られる都内一の最低治安地帯であり、年間200件以上の殺人と、400名以上の犠牲者を生む「死の町」として知られる。

「警察何してんだ。」「絶対死神が住み着いているだろ。」「終いにはゴーストタウンになる。」と毎日のように市民の怒りが町を駆け抜け、それはほぼ最終的に警察へと到達した。

頭を痛めた警視庁が最終手段として選んだ道。
それは、交番や所轄の警ら巡査、交通巡査や機動隊、捜査一課などから選りすぐった人員で構成、米花町内を主に徒歩で巡回し、町に鷹の目を光らせると共に、犯罪発生を抑止する特別部隊の設立だった。

部隊には当初、「米花町分遣隊」という仮称が与えられていたが、いつのまにか「J-PTU」に変わった。
「Patrol Tactical Unit」-「警ら戦術部隊」。
香港警察の機動部隊「PTU」を参考に作られており、設立時の指導も香港警察の警察官によって行われた。

只の巡回部隊ではなく、本来機動隊が任務とするデモや暴動、立てこもり事件等への対処も考慮されている。
J-PTUの設立自体、市街地の常時巡回を行わない機動隊の性質改良が目的であったとも噂されている。

部隊は当初、鋭い観察力と高い戦術能力、そして地域への密着を強みに、設立から約1年間、犯罪発生件数を低下させ、時には逃亡する容疑者や被疑者をチームプレーで確保するなど、成功を収めていた。
また、他の警察官とはまったくイメージの異なる、竹色の制服にベレー帽を被るというスタイルも大受けし、これまでの日本警察にいなかった新たな精鋭の姿として注目を浴びた。

だが、香港警察仕込みの厳しい訓練、市街地の常時巡回という一見すれば交番巡査と変わらない任務内容、こうしたことに、少なからず不満を抱く隊員もいた。それは、機動隊から引き抜かれた者の中に多かった。
機動隊時代の彼らは、国家・時事にも関わる重要任務を担っているという高い意識、プライドを持っていた。
それが突然、よそ者にしごかれた挙句、住宅街の防犯パトロ-ルなどをやらされることになったのだ。
平安京から大宰府に左遷された道真公のような気持ちになるのも無理はなかった。

そしてとうとう、それが暴発した。
数人の隊員が、香港警察から来日していた教官を惨殺するという事件が起こったのだ。
事件発生後まもなく、物証によって加害者が特定され、追い詰められた隊員らは銃器を持ち出し、捜査員に発砲。最後は警察署に立てこもりの末、1人が自殺。残りもJ-PTU要員を含む突入班によって射殺もしくは逮捕された。

この事件を機にJ-PTUへの評価は一転、世間より激しい論撃を受け、解散を余儀なくされた。
隊員らと親しくしていた町民、特に小学生や高校生、若者なども多く、惜しみ悲しむ声は少なくなかった。

また、J-PTUには規模拡大・装備強化計画があった。
これには、英軍SASのようなアサルトスーツ、ガスマスク、ボディアーマーに、MP5サブマシンガンを装備するという重武装化案まで含まれていた。
しかしこの案も、世論からの攻撃を激化させかねないという判断から、部隊解散と共に闇に葬られたという。
同じく重武装で任務に当たるが、大半の市民からの信頼を得ていた自衛隊という存在があったと言うのにだ。

これら世間から論撃への嫌悪と任務への誇りゆえに反発する隊員たちも当然多かった。
その傾向が特に強かった隊員7名により、再び立てこもり事件が発生する。
武装して脱走した彼らは機動隊に追われ、小学校に逃げ込み篭城。
生徒や職員を人質に取ったが、決して弱者に危害を加えることは無かった。

この一件は、先の教官殺害・警察署立てこもり事件と合わせ、〈藍帽子=ダークブルーベレーの反乱〉と呼ばれたが、結局彼らも突入部隊により制圧されてしまう。

こうしてJ-PTUは、あっけなく歴史のかなたへと消え去ってしまった。
彼らが毎晩、ブーツを響かせていた米花町は今現在、再び殺人件数が増加傾向にある・・・。 
 

 
後書き
「第8章/所轄警察と安心の町、危険な町」
第13節「藍帽子よ、いづこへ/J-PTUの栄光と没落」 

 

7月21日夜-1

 
前書き
米花町の子供達にとって、その年の、その日も、夏休みへの期待が高まる日となるはずだった。
だが、彼らの心中に残されたのは、恐怖とも、悲しみとも違う、奇妙な思い出だった。
どこか、暖かささえも感じた奇妙な時間を彼らは送ったのである。
かつて、藍帽子を誇らしげにかぶり、町民に笑顔を送っていた者達と共に・・・。 

 
「・・・司令室より、各移動へ。
機動隊の車両を奪って逃走中の容疑者は、警ら戦術隊112分隊所属・栗戸東樹(くりど・とうき)、真久井拾雄(まくい・ひろお)両巡査部長、及び安藤醸三(あんどう・じょうぞう)、富良野半次(ふらの・はんじ)、三島遥(みしま・よう)、各巡査と判明。いづれも特殊作戦服を着用、拳銃を所持。充分に警戒されたし。
5名は14:15、晴洲大橋手前の封鎖を強行突破。現在、晴洲近辺に潜伏していると思われる。
発見しだい、確保・不可能な場合は制圧せよ。
繰り返す。発見しだい、確保・不可能な場合は制圧せよ。
いづれも特殊作戦服を着用、拳銃を所持・・・。」

高木「拳銃?それを言うなら"機関”拳銃。マシンガンでしょうが・・・。」
捜査一課・高木渉刑事はため息をつく。

佐藤「ただでさえ警察無線を傍受して、マスコミに売り込もうとする馬鹿が多いのよ。」
同じく捜査一課・佐藤美和子刑事が返す。

佐藤「警官隊の反乱。小学校への立てこもり。その時点で散々マスコミに叩かれている。その上、彼らがマシンガンまで装備していたなんて知れたら・・・。」





ここは晴洲にある某所。本来は新世代の大型水産市場として機能するはずが、土壌汚染や建設ミスなど、度重なる不良の発覚により使用計画は中止。
後には空っぽの施設だけが残された。
ここまで作ったことだし、警察の訓練施設にしてみないか?という案が出ていたが、現実化のめどは立っていない。


高木や佐藤、その仲間達は今、三人組に分かれてここを偵察していた。
胴体にはボディアーマー、そして手にはショットガン、或いはMP5サブマシンガンが握られていた。



厳しい訓練で身についた能力と、地道な徒歩巡回で米花町の平和を守ってきたにも関わらず、一部隊員による教官殺害事件を機に、解散へ追い込まれることになった〈米花町分遣特殊警ら戦術隊/J-PTU〉。

その解散に反発した隊員7人が、装備を持ち出し脱走。機動隊などに追われ、帝丹小学校に逃げ込み、篭城。
長いにらみ合いの末、追跡側は第六機動隊強襲隊・SATによる突入を決行した。
銃撃戦で、立てこもっていた隊員の1人が死亡、もう1人も確保されたが、残る5名は再び逃走した。しかも大胆な手段によって・・・。




高木「まさか、SATに化けて逃亡するなんて。」

佐藤「哀ちゃんやコナン君はうすうす何かあるとは思っていたでしょうね・・・。」

立てこもった隊員たちは、いづれも私服姿。持っていたのもリボルバーが1挺ずつ。

この他に大きなトランクケースを持ち込んでいた。

実はこのトランクケースの中身こそ、彼らの最終兵器だった。


高木「トランクケースを持った5人は手ごろな場所に隠れ、中身・・・すなわち特殊部隊の服装と武装を身につけた。」


佐藤「そして残る二名がひきつけている間、SATに紛れ込んでまんまと脱出したわけね。」

脱走した隊員たちは、特殊部隊用のアサルトスーツ、ボディーアーマー、そしてMP5を持ち出していた。
これらはJ-PTUが試験的に導入していた装備品だったが、解散と共に機動隊に送り返される予定だった。


高木「だけど・・・それだけの装備を持っていながら、どうしてSATの突入時にそれで応戦しなかったんですかね。」

佐藤「最初は応戦するはずだった。でも・・・考えが変わったのよ。きっと・・・。」

佐藤は表情を崩さずに言葉を続ける。

佐藤「解散に反発して、脱走して小学校に立てこもり。その上・・・重武装で応戦なんかしたら、世論はどうなると思う?」

高木「・・・。」

佐藤「おそらく、J-PTUだけじゃないわ。他の特殊部隊・・・SATや自衛隊、海保のSSTまで、とばっちりを受けることになる。下手をすれば、日本の警察は普通の機動隊さえも満足に動かせなくなるわ。彼らは、自分達の仲間を、そこまで追い詰めたくなかった・・・。」

高木「だから人質・・・コナン君たちや先生達には、親切に接した。」

佐藤「突入が決定的になったと見るや、コナン君たちを体育館に避難させ、自分達は拳銃だけでSATに応戦した・・・。」

高木「・・・彼らは追い詰められ、道を誤ってでも、持ち続けた誇りだけは守ろうとしたんだ・・・。」

翔「だからどうだって言うんです。」

二人と一緒にいたもう1人が言い捨てた。

篠崎 (カケル)。彼は刑事ではなく、J-PTUの人間。それも112分隊・・・脱走した7人が所属していた隊の指揮官だった。
部下7人の追跡に加わること自体が異例だった。当然、部下への愛着・同情から逃走を幇助しかねないかという声はあったが、彼は公正平な警察官だった。
人間としての同情があっても、部下が起こした反乱を許したりはしない。

翔「それとも・・・それで情状酌量を得た連中が英雄として崇められ、世の中が警察や特殊部隊を理解してくれるとでも言うんですか?
・・・香港警察を参考に、日本の警察部隊を改良する。最初から無理があると気づけばよかった。それを俺達は・・・俺は・・・。」

高木「・・・。」

佐藤「・・・!」

佐藤は急に身構えた。

高木「どうしたんですか?」

佐藤「シッ・・・。」

高木「・・・。」

翔「・・・。」

三人とも神経を尖らせる・・・。

高木たちがいたのは、商店が立ち並ぶことになっていたと思われる場所だ。

佐藤と翔が、防護楯を手にした・・・と。

ドドドッダダダッ・・・。

佐藤「!今のは・・・。」

高木「・・・銃声ですか?」

翔「・・・。」


チキ・・・ガラガラガラ。

佐藤「!」



ダダッ!ダダッ!!バキューン!!! 

 

7月21日夜-2

ダダッ!ダダッ!!バキューン!!!

シャッターが上がり、何者かが発砲してきた。

カン!カンッ!(楯に銃弾が当たる音)ドッバーン!!

???「グワッ」

???「わぁぁぁぁぁっ!」

翔「連中じゃない。」

バーンバーン!!

襲ってきたのは私服の集団だった。

トカレフやソードオフショットガン、AK47などを所持していた。

翔「どこの悪ガキか知りませんが・・・。」

ダダッ!

チンピラ1「グガッ」

高木「脱走隊員の首を、取って・・・。」

ドバーン!!!


チンピラ2「グオゥッ」

チンピラ3「ノガァ!!」

佐藤「名前を上げたがっている馬鹿共もいるわけね!!」

ダダンッ!!!

チンピ(ry「ノグォウッ!!」

チンp(ry「グェッ!」

チンピラ連中は次から次へと倒れていく。だが・・・。

翔「新手です。」

高木「向こうもだ。」

左右の奥からさらに大勢が走ってくるのが見えた。15匹はいる。

佐藤「やばい・・・。」



その時。


チンッ!カラカラカラ・・・。




翔「!目をつぶって!!耳ふさいで!!」



バーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!

チン(ry共「ワアアア$##”%%・%%@4%&*'+*>’$#”&*‘‘*$???!!」

ダダダッダダダッダダダッダダダッ!!!!

チン共「ドゥワアアアァァァァァァッ!!のごわぁぁぁぁっ!!ナァァァガ゙ァァァッ!!ウグオウォアァァァァギャァァァァァァァァァァァ・・・。」 

 

7月21日夜-3

高木「・・・閃・・・光弾・・・?」

佐藤「まさか・・・ハッ」

翔「・・・!」

煙の向こうから姿を見せたのは・・・。

佐藤「・・・S・・・D・・・U・・・?」

香港警察の特殊部隊、いや正確には、それに戦術を授けたイギリス軍の特殊部隊のような格好の二人組だった。

まず見えたのは、紅いレンズを光らせた顔・・・ガスマスクだった。

そしてタクティカルアーマー。青いアサルトスーツ、手にはMP5・・・。

高木「あれが・・・。」

翔「・・・俺やホーが考えていた強化装備・・・。」

翔も唖然としていたが、すぐに我に返った。

翔「おい!お前ら誰だ!?クリントか?ジョンか?パンチか?」

部下の通称を挙げていく。

翔「マックか?ミッシー・・・。」

佐藤「!危ない!!」

ガスマスクの1人が銃口をこちらに向けた・・・。


ダンダンッ!!!


?「うっ・・・。」

銃口を向けた一人がうずくまった。

佐藤「動かないで!!」

佐藤たちは各銃を二人に向ける・・・が。

?「うう・・・。」

ドサッ

高木「・・・へ?」

もう1人も急に倒れた。

佐藤「?」

三人は怪訝にとられながら近づいていく。


すると、ガスマスクの二人はMP5を床に置いた。佐藤たちの方へ滑らせる。
続いて、ホルスターの拳銃に手をかける。

佐藤たちは再びピリピリする・・・が、相手は拳銃も床に置き、さっきと同じく滑らせた。
佐藤たちはそれを更に後ろへと蹴り、近づく。


ガスマスクの二人は、かなり弱っているようだった。
佐藤に撃たれなかった方もどうしたことか、脇から血を流しているようだ。


佐藤「・・・手を・・・頭へ。」

冷静さをギリギリで保ちながら、声をかけると、二人は言うとおりにした。

高木と翔が近寄り、彼らの手に手錠をかけた。

続いて、アサルトスーツのフードを脱がせた。その次はガスマスクを・・・。

佐藤「・・・!」

二人のうち、佐藤に撃たれた方は女だった。

浅黒い肌、少し深めの顔つき、大き目の瞳に、濃い眉毛。全体的に美人といえた。

翔「ミッシー・・・。」

佐藤「・・・遥ちゃん・・・。」

佐藤が女に駆け寄った。

佐藤「遥ちゃん・・・私は・・・。」

遥「いいんです・・・。」

彼女・・・三島遥は申し訳なそうな顔を向けた。

遥「急所・・・外したじゃないですか・・・。」

佐藤「・・・。」




もう1人は男。
その昔、アメリカ映画でコルト・ダイヤモンドバックを握っていた何がしという俳優にどことなく似ていた。

顔色は彼の方が悪く、鼻や口からは血が流れていた。

翔「マック・・・おい、しっかりしろ。」

翔はマック・・・真久井拾雄に話しかけた。

拾雄「分隊長・・・高木刑事・・・。」

高木「検問で撃ち合った時に被弾したのか?それとも・・・。」

拾雄「こいつらにです。ふざけやがって・・・。」

真久井は死屍累々のチンピラたちに向かって唾を吐く。

拾雄「俺達の首とって、ム所かどっかで自慢する気でいやがったん・・・ゴフ。」

真久井は血を吐いた。

高木「おい!真久井!」

翔「マック!!おい、しっかりしろ!他の三人は?ジョンにパンチ、クリントは?」

拾雄「あ・・・あいつらは・・・ここに着いてから、別行動を・・・。」

翔「おい!」

拾雄「・・・分隊長・・・仲間たちを・・・許してください。そもそも、俺と・・・栗戸が馬鹿なこと考えて・・・申し訳ありま・・・グ・・・。」

翔「マック・・・マック!!!」

高木「真久井!!」

佐藤「・・・。」

遥「・・・。」




千葉「高木さん、佐藤さん。聞こえますか?」

無線から聞こえる声。同僚の千葉刑事だ。
同じく同僚の白鳥、それに、香港警察から来ていた女刑事ホーと共に、施設内を偵察していた。佐藤たちがいる場所とは反対側から入っているはずだ。

佐藤「千葉君。真久井と三島は発見した。二人とも、銃撃戦で負傷・・・真久井隊員は死んだわ。」

千葉「・・・。」

佐藤「私達より先に、町のチンピラと撃ち合っていた。それが致命傷に・・・。」

千葉「・・・こっちもですよ。銃やドスを持った連中の死体がゴロゴロ。やったのは安藤、富良野、それに栗戸の三人でしょう。」

翔「連中は?いたんですか?」

白鳥「安藤隊員と富良野隊員はね。」

白鳥刑事だ。

白鳥「富良野隊員は死んでいました。安藤隊員も重傷。栗戸隊員は行方不明。」

高木「・・・まさか、また・・・。」

小学校での逃げ口が思い出された。

翔「・・・ミッシー・・・。」

翔は遥をにらみつけた。

翔「栗戸1人を逃がすために、お前ら食い止めようとしたな。馬鹿が・・・。」

遥「・・・。」 

 

7月21日夜-4

約数分後。
負傷した三島と安藤、それに真久井と富良野の遺体がそれぞれ搬送された。

捜索隊の面々は、二台の救急車と二台の鑑識車を、苦い気持ちで見送った。

翔「・・・これで終わった。俺の仕事が・・・。」

高木「まだだろ。解散は八月だったはずだ。それに裁判がある。」

翔「でしたね・・・。」

翔は疲れ果てた様子だった。

彼が今まで抱いてきた自信、誇り。その一部がようやく現実化した町内巡回機動隊。

それが、わずか一年ちょっとの夢で終わってしまったのだ。

彼は、反乱を起こした隊員達と共に、身の置き場も行き先も見失ってしまった。

翔「それが終わったら・・・のんびりできればいいな・・・。」

翔はフラフラと覆面車‐オンボロのファミリアの方へ向かう。

ホー「兄さん。」

ホーも付いてくる。

彼女は翔の妹分だ。本当の兄妹のように深い愛情を持ち合っている。

佐藤「二人とも、乗り越えられるかしら。」

千葉「何ともいえませんね・・・。」

白鳥「ホーの方は大丈夫そうですよ。しかし篠崎警部補は・・・。」

高木「・・・。」

翔とホーはファミリアに乗車。エンジンをかけ、走り去っていった・・・。




(ナレーター・目暮十三)

「J-PTU」隊員らが引き起こした帝丹小学校立てこもり事件は結局、被疑者7名の内、3名死亡、3名逮捕、1名逃亡という苦い結末に終わった。
(なお、彼らや追跡班を襲撃したチンピラ連中は全員死亡していた。)

逃亡した1人、栗戸東樹の足取りに関しては、後日の調査でも、モーターボートから台湾籍の貨物船に乗り換えたところまでしか分からなかった。
おそらく台湾に渡ったのかもしれないが、今頃何をしているのかは誰にも分からなかった。


生き残った三名は、先に教官を殺害した2人(4人いたが、1人は自殺、もう1人も銃撃戦で死亡していた)と共に「統一被告団」とされた。
判決は、全員執行猶予付き懲役刑。
教官殺害組は15年だが、帝丹小に立てこもった隊員達は3年程度で済まされた。


部隊の影の創設者と言われる篠崎翔警部補は、この裁判からまもなくして、警視庁を辞職。妹分のホーと共に香港に渡った。
今では彼女夫婦やその子供達と共に、平和に暮らしているという・・・。

〈了〉 

 

〈J-PTU〉関連年表

2016年10月17日。
〈警視庁地域部・米花町分遣隊〉(仮)案。原案完成。検討開始。


同年11月29日。
部隊名〈警視庁地域部・米花町分遣特殊警ら戦術隊〉英名〈Patrol Tactical Unit〉に変更。
俗称の「J-PTU」もこのころから使われ始める。


2017年4月20日。
指導教育のため、香港警察機動部隊(本家PTU)より張光祖警司、刑事情報科より陳何蓮督察来日。
候補隊員訓練開始。


同年6月1日
〈警視庁地域部・米花町分遣特殊警ら戦術隊〉設立。活動開始。


同年11月7日
米花町で発生したマンション殺人事件において、マンション内に隠れていた容疑者を確保
(ただし、後に犯人とは別人と判明)。


同年11月12日
米花町の別のマンションにて強盗犯を発見。追跡の末、確保に成功する。


2018年5月15日。
米花町の犯罪発生件数、発生率共に、前年同時季の半分以下に下がっていることが判明。


同年5月31日
張光祖警司、殺害される。
犯人は、同警司と日常の任務に対し、不満を抱いていた隊員4名。


翌6月1日
張光祖警司を殺害した隊員ら、捜査員に向け拳銃を発砲し、逃亡。
米花警察署に逃げ込み、立てこもるも、隊員1名が自殺。

その後、突入班との交戦で隊員1名が死亡。残る2名も逮捕される。



同年7月20日。
警視庁通達第30X号をもち〈警視庁地域部・米花町分遣特殊警ら戦術隊〉解散決定。
同日。反発した隊員7名が銃器などを持ち出し、脱走。


翌7月21日
町内を捜索中の第六機動隊が、逃走中の戦術隊員7名を発見。
銃撃戦の末、隊員らは帝丹小学校に逃げ込み、籠城。
警視庁側は突入作戦を決行、隊員1名確保、1名を射殺するも、5名は逃走。

同日深夜。捜査一課佐藤美和子、高木渉、他警察官6名が、銃撃戦で負傷した隊員4名を発見・確保するも、2名は出血過多などにより死亡。

残る1名はなおも行方知れず。


同年8月1日
米花町内の夏祭り警備任務を最後に、〈警視庁地域部・米花町分遣特殊警ら戦術隊〉解散。


同年8月7日
〈張光祖警司殺害事件〉第一回公判開廷。



同年11月07日
〈藍帽子反乱事件・生存者統一被告団〉全員執行猶予付有罪確定。裁判結審。

篠崎翔警部補辞職。


同年11月12日
警視庁、「J-PTU」をめぐる一連の騒動の終結宣言を出す。
陳何蓮督察、夫と共に香港へ帰国。篠崎翔も同行。 

 

〈特筆する人物〉

・張光祖(チュン・コンヅァオ)
香港警察機動部隊(本家PTU)の教官で、階級は警司。かつては精鋭特殊部隊SDUの副指揮官も努めていた。
訓練・任務・戦術の基礎指導等を行い、「J-PTU」の設立と良性質維持に貢献する。
町民との交流も多く、日本への理解も深い人物であったが、不満を持った隊員らに殺害される。

・垂葉良介(たれば・りょうすけ)
「J-PTU」大隊長。階級は警視。長野県出身で、過去にも長野県警から警視庁等への出向経験がある。
一時退職し、警視庁に入庁。地域課や白バイ隊、機動隊などで指揮官を務めた後、「J-PTU」の統括指揮官に任命された。
ミリタリーやプラモデル、クルマ関係などに明るく、プライベートでは親しい隊員も多かったという。
部隊解散後は長野に戻り、妻子と素朴に暮らしているらしい。ちなみに、愛車はスバル・ヴィヴィオRS。

・栗戸東樹(くりど・とうき)
「J-PTU」112分隊(第一中隊-第一小隊-第二分隊)第二班長。巡査部長。
「ミリポリ・クリント」の異名を持つ射撃の名人。
それだけでなく、交番時代の巡回経験も豊富で、リーダーシップも持ち合わせる頼れる人物の1人だった。
帝丹小立てこもり事件の後、仲間や部下達が追っ手を食い止める中、国外逃亡を図る。

・富良野半次(ふらの・はんじ)
112分隊第二班員。巡査。安藤とは白バイ隊時代からの仲。破天荒でおちゃらけだが、正義感は強く、不平を言うことはあっても警官の仕事を好いていた。
栗戸や安東と行動を共にし、帝丹小から脱出するも、晴洲で襲ってきたチンピラに心臓を撃ち抜かれ死亡。

・安藤醸三(あんどう・じょうぞう)
112分隊第二班員。巡査。富良野とは白バイ隊時代からの旧友。
性格は正反対で優等生的だが、名コンビを組んでいた。
栗戸と行動を共にし、最後は彼を逃がすための"食い止め役"となった。

・真久井拾雄(まくい・ひろお)
112分隊第二班員。巡査部長。栗戸とは同期の華。市民への接し方は、栗戸以上に丁寧だった。
栗戸と共に"反乱"に加わり、帝丹小に篭城後、脱出するが、晴洲で襲ってきたチンピラとの銃撃戦で銃弾を喰らい、出血過多で死亡する。

・三島遥(みしま・よう)
112分隊第二班員。巡査。"反乱"に加わったメンバーでは唯一の女性隊員。
佐藤美和子刑事や陳何蓮督察とは仲がよかった。
最後は栗戸を逃がすための"食い止め役"となり、佐藤達に逮捕された。

・松田鉄(まつだ・てつ)
・最中松雄(もなか・まつお)
112分隊第二班員。いづれも巡査。
松田はミニ四駆好きで、大隊長とウマが合う部分も多かった。最中は誰でも公平に接する人柄の持ち主。
帝丹小に立てこもった7名のうち、栗戸たちを逃がす"食い止め役"を引き受けた。
最中はSATとの撃ち合いで死亡。松田は、栗戸たちの脱出を確認後、瀕死の最中の勧めで投降・逮捕された。

・董田忠衛(とうだ・ちゅうえ)
元112分隊第一班長。
元は機動隊員だったが、身勝手な行いが多く、上司からも部下からも信頼の無い存在だった。
加えて女癖、および男癖が悪く、部下や他部署の女性警官に隙あらばちょかいをかけていた。
町の見回りという警察官の原点からたたきなおすべく「J-PTU」に送られるも、その意図などクソ喰らえ状態。
張光祖警司主導の厳しい訓練には反発、巡回任務では町民に当り散らす。篠崎警部補とも折り合いが悪く、次第に隊内で孤立。
ついには張警司を殺害し、その罪を篠崎警部補になすりつけようとするも、"某少年"の仲間達によって露呈。ヤケクソとなり、部下3人と共に警察署に篭城するも、突入部隊に加わっていた篠崎警部補に射殺される。
第一班はその後、解散まで篠崎警部補が班長を兼任する形になった。

・篠崎翔(しのざき・かける)
「J-PTU」112分隊隊長兼第一班長。警部補。
実は「J-PTU」を含む「香港警察モデル化計画」の真の立案者(正確には、警官だった母親から受け継いだ)。
部隊の詳細企画原案は、彼と兄妹分とも言える陳何蓮督察と二人でほぼ完成させたと噂される。
町民や部下への接し方もそこそこ柔和だったが、「J-PTU」の任務や存在意義に異を唱える隊員や部外者に対しては、ことごとく冷たく当たり、結果的に張光祖警司の死の遠因を作ってしまったという。
部隊解散後は依願辞職。陳督察と共に香港に渡り、彼女やその夫、子供達と共に暮らしているという。

・陳何蓮(チャン・ホーリン)
香港警察刑事情報科より来日していた女性警官。階級は督察。
厳密には「J-PTU」ではなく、捜査一課SIT部隊の指導に赴任していた。
また、夫は香港を始め、各国の警察装備(当然銃器以外)の中古売買を営んでおり、彼女の赴任に合わせ、日本でも商売をしていた。

篠崎翔警部補と幼少時から仲がよく、「翔哥(カケル兄ちゃん)」「阿何(ホーちゃん)」と呼び合う関係。
「J-PTU」解散後しばらくして、彼女もSITへの指導期間を終え、夫や篠崎と共に香港へ帰国。
その後は二児の母となっているらしい。なお、一人目は来日中に妊娠していたという噂もある。
 
 

 
後書き
・・・本当のあとがきは次のページからです。 

 

あとがき

 
前書き
一気に書いた分ゆえか、長くなりました。ご了承ください。 

 
初めまして皆さん。
こちらに登録後の第一作「藍い帽子」を読んで下さり、大変ありがとう・・・って、読んでいる人なんかいませんよね。分かっていますって・・・。


-アニメファンの皆様からたびたび上がる「コナンの世界治安悪すぎ」。
確かに、これだけ殺人が発生して、そのたびに部外者(子供、高校生etc・・・)に犯人捜させるぐらいなら、それ以前に発生を抑止する対策ぐらい講じなきゃ駄目だろうとは思います。
現実的に考えればです。

そう思っていた時、押井守監督の「ケルベロス・サーガ」と呼ばれるシリーズを知るに至りました。
凶悪犯罪への対処という、まっとうな警察的信念のもとで戦ったにも関わらず、世間から放逐された重武装警官隊。

その設定を読んでいた時、ふと、何を血迷ったか「コナン」の世界にもそんな警察組織が登場したら面白いんじゃないかと思いつきました。

度重なる殺人。そのたびに部外者に犯人探しをさせてしまう警察。当然それをよしとしていたら、警察イラネ論が頻発する。
その前に、張子だろうか建前だろうか、手は打っていたとしても不自然さはありません。
現実的に(ry

香港警察がモデルなのは、単純に私が大好きだから・・・だけではありません。

現実世界では、日本の警察機動隊は、市街地を徒歩でトコトコ歩いてパトロールしたりしません。
召集されるのは立てこもり事件、イベント警備などの重要なときだけ。
一方、香港警察の機動隊「PTU」は、デモ対処や要所警備、事件対応などに加え、普段は市街地を徒歩巡回しています。
それでいて、英軍から伝授した戦術を持つ「準軍事警察隊」です。

そして、「PTU」のトレードマーク「藍帽子‐ダークブルーベレー」。
警察でベレー帽が採用されていない日本からすれば、それだけでも新鮮と思うに不足はありません。
そして竹色の制服、足には戦術ブーツ、腰には4インチ銃身のS&W.M10リボルバー(ヘビーバレル)。
そのすべてが、日本にない雰囲気を放ちます。

押井氏の「ケルベロス・サーガ」に登場する「首都警特機隊」の「プロテクト・ギア」は、ミリタリーファンから人気の高いナチス・ドイツの装備が参考になっているので、それになぞらえて香港PTUの装備を日本に伝えた設定にしました。

また、現実の警察機動隊は、催涙弾を使う戦術を採用していますが、これは実は、英領時代に香港警察が暴徒鎮圧作戦で使った戦術を真似たのだそうです。

これでも、日本の警察が香港警察を参考にすることは現実味がないと言えるでしょうか?


-そんなわけで、自分の趣味と、人様の傑作の設定をつぎはぎして作られた架空警察隊「J-PTU」。
今後気が向いて、ネタがまとまって活字にできそうなときにでも、彼らが関わったほかの事件も書いてみようと思っています。

もちろん、時期未定ですが・・・。 
 

 
後書き
そんなわけで、改めまして、よろしくお願いします。