IS《インフィニット・ストラトス》~鉄と血と華と~


 

プロローグ

 
前書き
はじめましての方ははじめまして、お久しぶりの方はお久しぶりです、白さんです。この度は新しい小説と共に心機一転、IS作品を書き始めました。相変わらずのガンダム好きな作者ではありますが、何卒お付き合いしていただければ幸いです。 

 
夜の空の下、鉄の匂いが香る風、砂埃を運ぶ風。少年は『何かに』背を預けながら何処か遠くを見ていた。

彼の側には何人もの死体が存在している。異様なその光景の中、少年はポケットの中から一粒のチョコレート
を取りだし口に運ぶ。


「終わったか」

「うん、終わったよ。今日はこれで終わり?」


気づけば少年の側に髭を蓄えた男が居た。


「帰るぞ、もうここには用はない」

「わかった」


まるで感情の籠っていないような声で少年は答え、背を預けていた何かがドックタグ状に姿を変えて彼の手に収まると、それをチョコレート入れていたポケットとは逆の方へと仕舞い男の後を追いかける。


「今日の相手はどうだった?」

「別に」

「別に、か……相変わらずだな、お前は……ふむ、そろそろお前って呼ぶのも味気ないな」


ポリポリと顎を掻き数秒悩むが、ふと空を見上げて


「そうだ、決めた……今日からお前は―――」





「ミーくん、起きて、ミーくーん」

「ん」


少年は思い瞼を上げると、視界一杯に女性の顔が入り込む。


「やーっと起きたねーミーくん」

「何、束?」


束と呼ばれた女性はニコーっと笑みを浮かべる。


「ようやくミーくんの『アレ』が完成したんだよ!」

「ああ、それじゃあ……」

「そ、これからミーくんにはあの場所に行ってもらうよ」


少年の側から束は離れると


「んじゃ、最終調整と、偽の戸籍とか色々作ってくるからミーくんは待っててね!」

「うん、お願い」


ダダッっと駆けていく束、残された少年は彼を照らすライトのある天井を見ながら


「ようやく、またお前と一緒に戦えるな……『バルバトス』」
 
 

 
後書き
第一話は近日更新いたします。 

 

第一話 彼の名は――

「此処が『IS学園』……か」


IS学園と呼ばれる学園の校門にて、少年がふうと声をあげて荷物を下ろす。


「……随分とでかいんだな」


後は迎えを待つだけ。ふと少年は数日前の事を脳裏に過らせる。








何処かの、アリーナのような施設にそれは居た。白く、頭部には黄色のアンテナと緑の双眼。無機質なそれは片手に身の丈はある鉄の塊を肩に携えてその時を待つ。


「……来たか」


振り向くと、手足に緑の装甲を見にまとい、バイザーを付けた女性が。

彼女が纏っているのは『インフィニット・ストラトス』。他の如何なる兵器を寄せ付けない絶対防御、経験を重ねる事で自己進化するコア……世界の軍事的事情を大きく覆した、兵器の頂点に立つマルチパワードスーツであり、まさに最高峰の兵器である……が。欠点の“女性しか扱えない”という点を除けばであるが。この特徴故に、女尊男卑の風潮が広まり世界のバランスも大きく変えることになってしまったのが現状だ。

だが、ここにいる存在もその特徴を覆してしまうのであるのだが。


「……」


緑のIS『ラファール・リヴァイヴ』を正面に捉え、深く腰を落とす白きIS。


「……」


女性は何もない所からアサルトライフルを取りだし白きISに向けて引き金を引く。


「ッ……」


前のめりになり、背、腰、脚にそれぞれあるバーニアを吹かし避けつつ移動する。照準を定め、幾ら撃とうとも白きISには当たらず接近を許してしまい


「ふっ」


懐に入りメイスを突き上げる。


「チッ、浅いか」


思わず舌を打つ。メイスはアサルトライフルを持つ腕に当たり、装甲は潰れたまらず女性は後ろへ下がろうとするが


「逃がすわけないだろ」


首を鷲掴みにし、地面に叩き伏せるとメイスを胴目掛け叩き付ける。何度も何度も、緑の破片が散らばり、女性が抵抗する様を見せなくても。

暫く叩き続けると、何処からか


「ミーくんストーップ!」


そんな声と共に白きISは動きを止め、回りの景色が様々な機械が並ぶ部屋へと変わっていく。さんざん叩きのめした女性の姿は無く、代わりにあるのはボロボロに大破した無人の機械人形だけだ。

ふとバタバタと足音を立てながら、こちらに来る束の姿が目に写り


「どうしたの、束?」

「どうしたもないよー!あーあ、折角の束さんのスペシャル訓練機がめちゃめちゃ」

「うん、あんまり強くなかったからもっと強いのお願い」


白きIS『バルバトス』は待機状態という形態になり、乗り手の姿が露になる。黒い髪に束より低い背の少年だ。


「ミーくんこれで何機め?」

「2機から先は数えてない」

「数えるの止めるの早すぎっ!?直すのは束さんなんだからもうちょいねー……」

「ごめん、でも束がこうして機体を用意してくれてるお陰で俺は訓練ができるんだ、頼れるのは束しかいないから」


その言葉に、彼女の頭についている機械のウサギ耳がピーンと張る。


「そう言われたら仕方ないなぁ~こうなったら束さんが人肌脱いで、ミーくんの為に頑張っちゃうからね!」

「うん、お願い」

「そういえばミーくん」

「?」


はいっと手渡されたのはIS学園入学許可書と書かれた書類だ。


「なにこれ?」

「書類だよ、書類、IS学園の」


ああ、と少年は呟き


「それで?俺は『どちら』として行けばいいの?」

「今回は『三日月・オーガス』で戸籍を作っといたから!」

「そっか」


待機状態のバルバトスをポケットに仕舞いこみ


「そっちの方が呼ばれ慣れてるからいいけどね」







入学式は2日後、少年こと三日月・オーガスは束からの指示で先に学園の寮で生活をすることになったのだ。


「寮か……美味しいもの食べれるといいな」


思い出すのは束が作り上げてきた料理というなの廃棄物、何故ISに関する技術力は天才なのに料理は壊滅的にダメなのかと考えたのだが、そもそも世界のバランスを変えたISを産み出したのは他でもない『篠ノ之 束』本人だからだ、ISに関して強いのは当然のこと。料理がからきしなのは、技術が全てISに傾いてるからだろうと三日月は結論付ける。


「……まだかな、迎え」







「三日月・オーガス、か……」


IS学園の職員室にて、その名前が書かれた書類を目を通す教師『織斑 千冬』はやや眉間に皺を寄せる。

入学式が2日後と迫った最中、先日昔からの友人、腐れ縁とも言える束から突然

“いきなりだけど、入学手続きしてほしい子がいるんだ!書類は送っておくから後はよろしく!会ったらきっとビックリするからその子について何か気になったら束さんに連絡ちょうだい!待ってるよ!”

と捲し立てられるように言われ頭痛がしたのは別の話だ。再び書類に目を向けるが、どうもおかしい。顔写真が張っていないのだ。これではどんな人物が来るのかは分かったものではない、ただ千冬が束から聞いたのは今日指定の時間に、校門の前に来てほしいとのことだ。そこで束の言う人物が待っていると。彼女は時計を見るとそろそろ指定の時刻になりそうであった。


「……いくか、さてはてどのような奴が居ることやら」







校門に到着してから数分後、三日月は校門の脇にある壁によっかかりながらチョコレートを食べていた。束に言われた時間はもう少しの筈だが、と思った矢先に声がかかる。


「お前が束の言っていた奴か」


スーツを着た黒髪の女性が三日月の側に居た。荷物を手に取り、その女性の目の前に立ち


「そうだけど、あんたがここの先生?」

「ああ、そう……だ……」


女性は目を見開き


「そん、な……まさか……」


三日月の顔を見て驚き、体を震わす。


「三夏……なのか……?」

 

 

第二話 三日月・オーガス

千冬は目を疑う、そんな筈はと……何故彼が此処に居るのかと。


「あーえっと、敬語じゃないとダメだよね。三日月・オーガスです、宜しくお願いします」

「あ、ああ……」

「?」


首をかしげる三日月。千冬は彼と視線を合わせず何処か焦っているようであった。だが何とか持ち前の冷静さを取り戻し


「話は束からある程度聞いていたが……オーガス、お前は男だろう?何故束はお前をこの学園に……」

「俺がISを使えるからじゃないかな」

「!?」


再び千冬の表情が変わる。この少年は今何と言った?ISを使える?そんな筈はない、ISとは女性にしか扱えない絶対的な兵器。それを男である筈の三日月が使える筈が……しかし束が送り込んできた存在だ。可能性は高いとみる。


「……にわかに信じ固いが、わかった。これから寮へ案内しよう……それと言葉使いは改めてもらうぞ」

「あ」


しまったと言わんばかりに三日月は頭を掻く。


「何でだろうな、あんたとは初対面の筈なのにこう話してると……」

「何だ?」

「……ううん、何でもないや」

「そうか、では着いてこい」







「……」


三日月は学園内を案内され、寮へと連れてこられたのだが周囲からの視線が集まっている事に気づく。

あちらをみても女子、そちらをみても女子。IS学園とはIS関連の事を勉学するための学園、女子しか居ないのは当然。


「気になるか?」

「別に」

「そうか……着いたぞ」


部屋番号は1025、千冬が室内に入り三日月もその後を追う。


「へぇ」


三日月に与えられた部屋は中々に広く、そして綺麗な外観であった。下手なホテルの一室よりも良いのではないだろうか。


「ここがお前の部屋となる。私は少し席を外すが、お前は此処で休んでいろ。学生服に着替えるのを忘れるなよ」

「うん」


千冬はよしと呟き、三日月を残して部屋を後にする。


「……」


彼女は人気のない場所へと赴き携帯端末を取り出すと、何処かへ電話をしようとしていた。数秒間のコールの後……


『ハロハロ束さんだよー!やーやーちーちゃん!』


電話の向こうから聞こえてくる元気な声、どうやら相手は篠ノ之 束のようだ。


「束、今回電話をしたのは――」

『わかってる、わかってる!ミーくんこと、三日月・オーガスの事についてだね!』


ならば話は早い、千冬はそう呟くと彼女が言葉を放つ前に


『ちーちゃんの想像通り。彼は三年前に誘拐されたちーちゃんの弟……『織斑 三夏』だよ』







「……」


休んでいろと言われたものの、三日月はそこまで疲れていない。側にあった椅子に腰を掛け、ポケットに手を突っ込む。


「あれ?」


手を引き抜くとチョコレートの箱が顔を出す。しかし何度か振ってみたが中身が無いのか音が鳴らない。


「……買ってこなくちゃな」


学園と言うほどだ、購買はあるだろうと踏み三日月は立ち上がる。


「……そうだ」


ベッドの上にあるIS学園の制服が視界に入り着替えようと彼は徐に上着を脱いでいく。シャツを脱ぎ終わると、彼の背中には金属の端子のような物が縦に3列並んでいた。







「やはり、三夏だったのか……その前に何故あいつは私の事を覚えていない」

『そりゃ簡単、みーくんは記憶を無くしてるんだから』

「!?」


千冬は思わず言葉を失ってしまう。

三年前の世界一のIS操縦者を決める大会『モンドグロッゾ』の時、千冬も出場していた。彼女は世界でもトップクラスの操縦者、優勝は目前と思われていたが事件が起こった。二人の弟が何者かに誘拐されたのだ。

彼女は大会など投げ捨て、二人を死ぬもの狂いで探した、かけがえのない愛する家族だからだ。しかし現実は残酷。ドイツの協力の元、発見されたのは双子の兄である『織斑 一夏』だけだ……しかも、死体で。そして弟の三夏は行方が解らず、そのまま事件は最悪な形で終幕した……

千冬はまだ生きているだろう三夏を必死に捜索したが情報の一切無く途方に暮れあの日から三年前の月日が経った。そんな時、彼女の前に姿を現したのは三夏と瓜二つの少年、そして束から三夏本人だと。しかし……


「記憶がない……?」

『そーそー、三年前何があったかは知らないけど、束さんと再会したときには既に昔の記憶を失ってたんだよねー』

「……」


何時束と三夏が再会したのかを問い詰めようとしたが、その前に一つ気になる事があった。


「束、何故三夏はISを扱えると言ったのだ?開発者であるお前が三夏用に男でも扱えるISでも開発したか?」

『ううん、そんなもの作ってないよ。みーくんがISを扱える理由はただ一つ……『阿頼耶識』だよ』
 
 

 
後書き
ヴィダールまじイケメン。MAがメタルギアRAYしか見えない… 

 

第三話 忌むべきシステム

 
前書き
遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。ヘルニアで手術、絶賛入院している私でございます。みなさまもお体にはお気をつけて。 

 
何気無く部屋から出た三日月だが、購買の場所等わかる筈がない。どうしたものかと悩んだ矢先


「ねぇ」

「はい?」


たまたま視界に入ったのは長い金髪にロールのかかった生徒だ。呼び止め振り向くと彼女は三日月を見て目元をひくっと動かし


「な、何故男が此処に!?」

「何処か菓子売ってるところ知らない?」


金髪の少女、『セシリア・オルコット』を無視しそう質問する三日月だが


「その前に私の質問に答えなさい!何故男が此処に居るのですか!?それにその制服!」


勢いよく指を指したのは三日月の制服だ。何処か可笑しいのだろうかと彼は首を傾げる。それから捲し立てるようにセシリアの言葉が続いたが、三日月は面倒くさくなりつつ


「……もういいよ、自分で探すから」

「ちょっ!まだ話は終わって――」


彼女を無視して歩き去っていく三日月であった。


「一体何なのですか!やはり男というのは――」







「阿頼耶識……だと……?」


千冬は知っている、その名称を……そしてその名称のなす意味を。


『ちーちゃんも知ってるよね、阿頼耶識システムの事は』

「……ああ。IS適正を持たせるために開発された……成長期の子供にしか施術できず、脊髄に直接特殊な金属端子を取り付ける……悪魔のようなシステムだ」

『流石の束さんも、あのシステムに関しては嫌悪感を覚えたよ』

「何れだけの子供達が犠牲になったか……既にシステムは凍結された筈、だが三夏に阿頼耶識が……」

『そうそう、びっくりだよね。しかもミーくん三回も施術されてたみたいだし』

「!?」


阿頼耶識は脊髄に埋め込まれる端子『ピアス』の数によってISの適正が変化する仕組みであるが、一度に受ける施術で身体と精神に掛かる負担は半端な物ではない。失敗すれば運が良くても再起不能、悪ければ死ぬ。そんな手術を三度も。とても千冬には想像もつかない、三夏は一体どれだけの苦痛を受けたのかと。


「……束、何故三夏を学園《ここ》へ寄越した」

『それはねーミーくんにはやってもらいたい事があるからだよ』

「やってもらいたいこと?……それは――」


何だ、そう言い切る前束が言葉を被せる。


『こればかりはちーちゃんには内緒♪それじゃそろそろ切るねーミーくんの事よろしく!』


ブツンと通話を切られ、胸にもやもやとした感覚が残ったままになった千冬。彼女は今後の事を考え始めるのであった。



「三夏……」


脳裏に過るのは自分の弟……しかし、いまの彼は三夏としてではなく“三日月・オーガス”として此処に居る。本当の事を言うべきか、お前は私の弟だと。しかしそんな都合よく記憶が戻る筈がない、今すぐにでも抱き締めて再会を喜びたい……それなのに。


「私はどうすれば良い……一夏、お前ならどう行動した……」


彼女の声が悲しくも誰の耳にも届かず、その場に響いた。



一方そのころ、千冬と話していた束はというと……



「阿頼耶式……阿頼耶式。ほんと嫌悪感を覚えるシステムだね、無理矢理男にISを使えるようにするなんてさ」


ラボにてコンソールの前で、何やら呟いている束。


「けどそのシステムのお陰でミーくんは力を手に入れた……皮肉なものだねー……」


ふぅと軽いため息を吐いて背もたれに寄りかかり、視線を前に向ける。束が見ているコンソールの画面には三日月のIS、バルバトスのデータが映されていた。


「ミーくんが無茶してバルバトスの“あれ”を外さないか心配だけど、まあ何とかなるよね!」







購買を探している三日月は現在、迷子であった。再びさてどうしたものか、と歩きながら考えていると


「きゃあ!」


何やら悲鳴が。声の方を向くと緑色の髪に眼鏡を駆けた女性が書類を落として慌てていた。三日月は自然と身体が動き


「大丈夫?」

「ふえ?」


しゃがみ、一緒に書類を拾い始め、一纏めにし女性に手渡す。


「ん」

「あ、ありがとうございます……えっと、貴方は……」

「俺は三日月・オーガス」

「……三日月・オーガス……あ!男子の新入生ですね!」

「うん」


こくりと頷く三日月。


「ねえ、あんた菓子とか売ってる所知らない?」

「えっと、購買ですか?よければ案内しますけど……」

「それじゃお願い」


心なしか三日月が笑みを浮かべているように見えた。すると女性は何かにはっと気づき、コホンと咳払い。


「それと、“あんた”ではありません。私は『山田真耶』れっきとしたIS学園の教師なんですよ」

「へぇ、先生だったんだ。えっと……ダヤマヤマだっけ」

「“やまだまや”です!」

「どっちでもいいや、それよりその購買に案内してほしいな」


変わった少年だと真耶はため息を吐き、仕方なく三日月を購買へと連れていくこと。道中会話が一切なく、真耶は非常に気まずい空気立ったのは別の話だ。

 

 

第四話 篠ノ乃 箒

あんたは俺を何処に連れてってくれるの?どんなものを見せてくれるの?


フッフー、それはね君が想像も出来ないような素晴らしい所、素敵なものだよ!まあどんなのかは行ってみてからのお楽しみ!だから……



――私についてきて







「……」


少年、三日月・オーガスは目を覚ます。見慣れない天井、記憶を辿り自分はIS学園の寮に居ることをおもいだした。


「んー……」


眠い目を擦り、枕の横にあるドックタグを手にする。


「おはよ、バルバトス」


相棒に向けてそう一言。近くに配置されたテーブル、その上に置かれた綺麗な布巾で待機形態のバルバトスを拭く。


「うん、綺麗になったな」


カーテンの隙間から差し込む朝陽によって、バルバトスは彼の言葉に反応するように光っているようにも見えた。







今日はIS学園の入学式、日本だけではなく各国からきた女子達が此処へと集まる。それぞれの思想、信念を持って。

場面は切り替わり、入学式を終えた1年1組。生徒達の雑談が聞こえるなか、三日月・オーガスはそこに居た。因みにだが、生徒達の雑談内容は彼の事についてのものとなっている。

それも当然、世間では突然発覚された“男でISを操れる存在”に度肝を抜かれ、メディアだけではなく国事態が慌てふためいている状況だ。そんなことも意にも介せず三日月はただボーっと席に座っている。

そこに山田真耶が教室内へとやってきて、クラスは静まり個々の席へと戻っていく。


「入学おめでとう、私はこの1組副担任の山田真耶です、皆さんよろしく」


彼女は生徒からの反応が来ることを期待したが、返ってきたのはまさかの一名のみ。


「うん、よろしく」


何気なく三日月がそう言うと生徒からの視線が一気に彼に集中する。他の生徒から挨拶が返ってこなかったのが少し寂しかったが、三日月が返してきてくれたのが嬉しく


「ふふっ、まさかオーガス君が1組に居るなんて」

「俺もあんたが担任になると思ってなかった、でも知らない顔よりはいいから安心したよ」


思ったことを口にするのが彼の良いところでも悪いところでもある。今回は良い方向へ傾いたようだ。真耶は笑顔のまま


「それでは皆さんにはそれぞれ自己紹介をしてもらいますね。ええっと……」


そこから各生徒の自己紹介が始まっていく。


「次は……あ!オーガス君の番ですね!」

「俺?」

「はい!」

「んじゃあ――」


徐に立ち上がると再び集まる視線、そしてその中に一つだけ何処か違う雰囲気の視線が混じっていたことに三日月は気づくが、気にせず


「俺は三日月・オーガス、好きなものは甘いもの。嫌いなものは……魚かな。まあよろしく」


そのまま座る三日月。すると


「随分と簡単過ぎる自己紹介だ、まあいいが」


声がする方を向くと、教室の扉の前に腕を組んだ千冬が此方を見ていた。


「織斑先生、会議は終わったんですか?」

「ああ、山田先生。クラスの挨拶を押し付けてしまってすまないな」

「副担任としてこれくらいはしないと」


やや胸を張る真耶。二人の会話が終わると女子生徒が喜びの声……悲鳴に近いものが上がり、千冬は呆れてたとの事だ。

SHRが終わり、三日月は席を離れ窓際に向かう。


「ねえ」

「な、なんだ!」


彼が話しかけてたのは長い黒髪をポニーテールにした生徒だ。


「さっきからずっと俺のこと見てたけど、何か用?」

「い、いや……用という用は……えっと……ちょっと場所を移さないか?」

「うん、いいよ」


彼女の後についていく事にした三日月。


「誰、あの娘?」

「えっと確か……」


教室を出ていった後にそう生徒から声が上がるが、ただ一人反応が違う生徒が。


「三日月……オーガス、まさか同じクラスとは思いませんでしたわ……これは少し立場を解らせてあげなればなりませんね」






「それで、何?」


屋上に連れてこられて早々の一言。


「お前……“三夏”……なんだろう?」

「は?」


彼女は恐る恐るそう質問すると首を傾ける三日月。


「私の事は覚えてないか……無理もない、最後にあったのは少学四年生だしな……それよりもだ!無事なら何故連絡をくれなかった……お前が誘拐されたと……あいつが死んだとニュースで見たとき、私は……私は……」


身体を震わせ悲しむ彼女には残酷だが、三日月が返した言葉は……


「さっきから何言ってんのあんた。“三夏”とか“誘拐”とか」

「な!?お、お前は『織斑三夏』だろう!?千冬さんの弟の!そして私の……『篠ノ之箒』の幼馴染みの……」

「篠ノ乃?箒?……なんか聞いたことあるような……」


んーと考えて、彼の頭に小さく豆電球が灯る。


「そっか、あんた記憶無くなる前の俺と知り合いだったんだ」


その言葉に、箒は驚きの色に染まる。


「何時から記憶無いか解んないんだけど昔の記憶が消えててさ。あ、そろそろ時間だ。あんたも早く戻った方がいいよ」


じゃ、と去っていく三日月の背中を、箒は見届けることしか出来ない。だが幾つか解った、彼……三日月・オーガスは間違いなく織斑三夏、そして今の彼は記憶を無くし三日月・オーガスと名乗り此処に居る。

何故かなど考えても無駄であろう、今自分ができるのは一つだけ、あの時居られなかった分、彼の側に居ることだ。


「三夏……」
 
 

 
後書き
新OPの新しいバルバトスの形態、気になります。 

 

第五話 今を生きる者

「あ」

「む……」


授業が終わり放課後、三日月が寮の自室前までやってくると見慣れた顔と鉢合わせする。


「なんだ、同じ部屋なんだ」

「あ、ああ……」


相手は箒だ。三日月はそのまま部屋へと、彼の後に箒も入る。


「奥のベッド、俺が使ってるけどいいよね」

「構わない」


教科書等が入った鞄を備え付けのテーブルの上に放り投げ、制服の上を椅子に掛けてベッドに寝転がる。


「その……」


何やら箒は口ごもるが、何を言いたいかは理解できた三日月。


「呼びやすい呼び方でいいよ」

「うむ……なら……ミカと呼ばせてもらう」

「うん、前にそう呼ばれたこともあるからそれでいいや」


呼び方は決まった、次に箒は


「ミカ。シャワーの時間を決めたいんだが」

「ああ、そっちに合わせるよ」


会話が終わった、数分の沈黙が訪れる。


「なあ、ミカ」

「なに?」

「……聞きたくないのか?昔の自分の事を」

「……」


彼は身体をおこし天井を見上げる。


「気になるかと言えば気になるけど、いいや。どんなに昔の事を覚えていなくても、今を精一杯生きていけばそれで良いって考えてるから」

「そうか……もし聞きたくなったら何時でも聞いてくれ」

「うん、ありがとう」


僅かにだが、三日月が笑ったような気がした。するとあっと何かを思い出したかのように三日月が立ち上がり


「そうだった、箒ってさ束の妹だよね」

「そうだが……何故そこで姉さんの名が……」


束、その名前が出てきた時、箒の表情が曇ったが気にせず三日月は側に近づき


「ん」


ポケットから取り出されたのは金と銀の鈴がついた赤い紐、それを箒に手渡す。


「何だこれは?」

「IS」

「……は!?」


突拍子もなく言われた事に箒は一瞬反応が遅れた。


「束が渡せってさ、そいつをどう使うかどうかは箒次第だよ」


そう言い残し、ベッドに再び寝転がりに行く三日月。

何故束がこれを渡してきたのか……理解に苦しむ箒は、自分の手の中にある待機形態のISを見つめ


「私の……IS」


そう呟いたのであった。







数日後


「クラス代表?」


授業にも関わらず、聞きなれない言葉に思わず三日月がそう口走る。


「そうだ、再来週にISによるクラス対抗戦を行う。それの代表、つまりクラス代表をこのクラスから選抜しなければならない」


千冬からの説明はこうだ、クラス代表者とはそのままの意味であり、先程千冬が言った対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席等を行う。所謂クラス長のようなものだ。


「クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測る。現在は大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで。誰か立候補はあるか?推薦でも構わん」


話を一通り聞いた後の三日月は一つの言葉が頭に浮かぶ。

めんどくさい

そういうのは自分には合わないだろうと彼は考えたがそうは問屋がおろさない。


「はい!折角なんでオーガス君を推薦します!」

「……は?」

「私も!オーガス君に一票!」

「……」


まさかの他者からの推薦、恐らく男だからという安直なものであろう。小さくめんどくさ……と言うつもりであったが


「他に居ないか?居ないのであればオーガスで決めるぞ?」

「いや、俺は――」

「納得いきませんわ!!」


机を叩く音と共に怒声が。


「お前は……オルコットか、理由を聞こう」

「男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!実力から行けば遅れた私がクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で―――」

「じゃああんたがなればいいじゃん」

「!?」


三日月は彼女を見向きもせず、言葉を並べる。


「俺は良いよ、そのクラスなんとかって奴になるの。興味ないし柄じゃないし、なりたいんだったらなればいい」


冷めた物言いの三日月、一方の千冬は腕を組み


「ふむ……だがな、オーガス。私は自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。そしてここで自薦してきたオルコットが居る。そこでだ、オルコットが口だけではないか、お前がどれだけの実力を秘めているか見てみたい」

「ふーん……んじゃ何?戦えば良いの?」


口角を上げる千冬は頷く。


「そうだ、今日一週間後の月曜。放課後……第三アリーナにて代表を決める勝負してもらう。勝っても負けても恨みっこ無しだ。それで良いだろう?オルコット」


突然話を振られるセシリア。


「え、ええ!それで構いませんわ!勝つのは私であるのは確実ですが!」

「やれっていうならやるけど。所でさ、勝負ってどうすればいいの?どっちかが死ねばいいの?」


クラスは静寂に包まれた、千冬ですら彼の発言に戸惑う。だが我に返り、冷静に言葉を放つ。


「生死に関わる事などしない、勝負の内容はどちらかのシールドエネルギーが0になったら終わりだ、馬鹿な事を言うな」

「そ、わかった」


そうして決まる異様な空気になってしまった代表戦、果たしてどう事が転ぶのかは誰も知るよしもない……。

 
 

 
後書き
あたらしいバルバトスの形態、化け物染みて個人的に好みな姿であります。

少しテンプレ的な動きにはなりますが御了承ください。 

 

第六話 バルバトス

クラス代表決定戦当日、第三アリーナのピットにいつも通りチョコを食う三日月、側には箒が居る。


「まさかお前にも専用機があるとはな」


首から下げられているバルバトスを眺めながらに箒は言う。専用機は国の代表操縦者および代表候補生や企業に所属する人間に与えられるISであるが、三日月どの例にも属さない立ち位置に居る。


「オルコットはあれでも代表候補生、生半可では勝てんぞ。勝算はあるのか?」

「さあ」

「さあってお前……」


でもと付けたし


「やるからには勝つよ」

「……そうか」


チラリと箒は彼の背中に目線が行く。今の彼の格好は袖が長いタイプのISスーツ、そして背中部がむき出しの為、三つ並んだ端子が見える状況だ。それについて触れようとした矢先


『オーガス、時間だ』


そう千冬からアナウンスで告げられ


「そっか、じゃいこうか、バルバトス」


呼応するように展開されるバルバトス。


「行ってくる」

「ああ」


三日月はピットの出口に視線を移し


「三日月・オーガス、バルバトス、出るよ」







アリーナへ飛び立った三日月は、青いISを纏うセシリアと対峙する。


「逃げずに来ましたのね」

「逃げる理由が無いだろ」


背部のパックからメイスを右手で抜き、三日月は尚も言葉を続けるセシリアに耳を傾ける。


「貴方に最後のチャンスをあげますわ」

「?」

「いくら貴方が専用機をもってしても、私が一方的な勝利を得るのは自明の理。今ここで謝ると言うのなら、許してあげないこともなくってよ」

「別に謝る理由も無いよ、ごちゃごちゃ言ってないで始めよう」


何処まで嘗めた態度を、とセシリアを顔をしかめ


「ならこうしましょう、私が勝ったら今までの非礼を、地に伏せながら詫びてもらいましょう!」

「俺が勝ったらどうするの?」

「ふん、貴方が勝ったら考えてさしあげますわ」

「あっそ、じゃあさっさと終わらせようか」


スラスターにそれぞれ火を灯し三日月とバルバトスは飛翔する。それと同時にセシリアも手にした銃、スターライトmk-Ⅲを構え


「さあ、踊りなさい。私、セシリア・オルコットと『ブルー・ティアーズ』の奏でる円舞曲(ワルツ)で!」


放たれる青いレーザーは三日月にまっすぐ向かう。それを身体を傾けることで回避しセシリア目掛けスラスターを更に吹かす。


「よく初見でかわしましたわね、これならどうです!」


引き金を何度か引き、レーザーを放つが一向にあたる気配は無い。気づけば既に三日月はメイスの間合いに入った。右手に持つメイスをそのまま左に薙ぐ。


「単調でしてよ!」


後方に飛ぶ事でメイスはかわされ、空振りに終わる……と思ったのもつかの間、薙いだ時の遠心力を生かし三日月はその場で回りセシリアを正面に捉えた瞬間


「当たれ」


何とメイスを勢い良く投擲する。


「きゃぁ!」


メイスはそのままブルーティアーズの非固定ユニットに直撃し、彼女はよろけすぐ三日月に視線を戻そうとするが


「居ない……!!」


センサーが反応を示したのは自分よりも上の位置。セシリアに当たり、上空へと弾かれたメイスを三日月はキャッチ。


「よっ」


下方にいるセシリアにメイスを振り下ろすが寸前の所で避けられ思わず舌を打つ。





「すごいですね、オーガス君。候補生にあそこまで戦えるなんて」

「ああ……」


彼の戦いをみて、彼女は違うことを考えていた。

三日月は“戦い慣れしすぎている”

千冬が真っ先に思ったのがこれだ。三日月は自身のIS、バルバトスの性能を良く理解している。スラスターの加速度、運動性能、武装の扱い方。どれも昨日やそこらで会得できるものではない。

それに初撃のレーザーの回避、普通であれば何発かレーザーの軌道を見ることで、回避等を行うもの。しかし三日月は“さも当然のように”最初のレーザーを回避した。


「(三夏があの手の武装に耐性があるのか、それとも……)」


阿頼耶識の為せる技か。

阿頼耶識とは本来、ナノマシンによる身体能力の向上を目的とした人間兵器を製造する計画のためのシステムであり、それがIS発表と同時に男女問わずにIS適正を得られる為の、ナノマシンを介して操縦者の脳神経と機体のコンピュータを直結させることで、脳内に空間認識を司る器官を疑似的に形成する為のものに変更された。あの反応は阿頼耶識によるものであろうと推測する。


「さて、此処までは良い流れだ。だが、ここからどうだろうな」


モニターの向こう、いよいよ余裕が見られなくなったセシリアの表情みてそう呟く千冬。





「もう!何なのですか!貴方は!」


こんな筈ではなかった、自分の脳内で行われたシュミレートであれば既に決着はつき、華々しい勝利を手にしていた。

しかし現実はどうだ?対戦相手の三日月は自分の攻撃を悉くかわし、更に一撃を加えてきた。悠長にやっている暇はない、此処は一気に決めるのが得策。そう踏んだセシリアは


「お行きなさい!!」


その言葉と同時に四つのユニットがブルーティアーズから切り離される。それはまるで意思をもったように宙を飛び、三日月の周囲に展開され


「もう手加減はしませんわ……!」


四方に位置するユニットからレーザーが放たれるが、既に回避行動に移っていた三日月。


「へぇ、こんなものもあるんだ」


“BT兵器”に驚いたような声を上げる三日月だが回避は尚も続いている。


「ここまでかわすとは!それにしても――」


何て動きだ、まるで生身の人間のような。ISでここまでの動きが出来るものか?彼女は更に表情を強張らせる。対する三日月が考えていること、先程のセシリアの言葉を借りるならば“単調”だ。


「うん、こいつの動きわかってきた」


一見不規則に動いているBT兵器だが、ある一定の行動パターンに基づいている。三日月は無意識にそれを見つけ回避をしているのだ。


「けど……こんなの動かせるなんて、あんた凄いな」


いきなりの発言にセシリアは顔を赤くする。


「な、なんですの!戦闘中に、馬鹿にしているんですか!?」

「してないよ、これを動かせるほどの力は俺には無い。俺には――」


ぐりんと方向をセシリアに変え


「こういうことしか出来ない」


真っ直ぐに進む三日月。BT兵器を彼の周囲に操作しそれぞれレーザーを撃つ。


「!?」


セシリアは目の前の光景に唖然とした。三日月の右方から迫るレーザーを、バルバトスの右肩部装甲を、次に左方から襲い来る青い閃光を左腕部装甲を。肩、腕の装甲をそれぞれパージすることで盾とし、避ける必要を無くすことで接近してきたのだ。


「(こんな……こんな戦法が……!)」


パージ戦術に目を奪われたセシリアは我に返った時にはメイスを振りかぶった三日月の姿が。


「(げ、迎撃を!)」


咄嗟にスターライトmk-Ⅲで迎え撃とうとしたが間に合う筈もない。バルバトスのメイスはそのまま彼女に振り下ろされた。
 
 

 
後書き
イオク様週ごとにやらかしてますね……レクスの動いているところ早く見たい作者でございます。 

 

第七話 重なる掌

試合終了、勝者は三日月となりクラス代表決定戦は幕を閉じた。


「はぁ、疲れた」

「戻ってきて早々の一言がそれか。まあよくやった、想像してたよりも良いものを見れたぞ」


織斑先生が普通に褒めた!?と真耶が驚くと脇腹を千冬に小突かれうずくまる。


「酷いです、織斑先生……」

「ふん……おい、オーガス何処にいく」

「まだ何してもらうか言ってないから言いに行ってくる」

「は?ちょっとま――」


彼女の制止を聞かず、三日月はピットから居なくなってしまった。


「何なんだ……心当たりあるか?」


そう箒に問いかけるが、首を横に振り


「あいつの考えはあまり読めませんよ、昔からそうでしたから……」

「そう、だな……そうだ篠ノ之、少し話がある、付き合え」

「え?は、はい……」







「負ける……とは思いませんでしたわ」


誰もいない更衣室に、負けたことにより、火が鎮火したかのように冷静になったセシリアが独り言を呟く。自分よりも格下だと、一方的に勝てるとそう考えていた。

そんな考えを容易く、文字通り叩き潰した男……三日月・オーガスの事に言われた言葉を思い出す。


――こんなの動かせるなんて、あんた凄いな


なんてことのない言葉だが、彼女の心に強く印象が残っていた。出来て当然、適正があるのだから。そう考えられて来たことにより、今までIS技術に関してそう言葉を送られたことはない。

三日月のあの言葉は本心からくるものだと感じられる。上部ではない、本当にすごいと思ったからそう口から出てきた。自分は彼を見下し、罵倒し続けたが……


「凄いのは貴方ですわ……あんな戦法、普通に思い付くものですか」

「そう?普通に思い付いたけど」

「!?」


跳ね上がるように立ち上がるセシリア。声を掛けられるまで三日月の存在に気づかなかったようだ。


「此処に居たんだ、ちょっと探した」

「……何の御用で?私を笑いに来たのですか?」


違う、本当はそう言いたいんじゃない。今彼に言いたいのは、こんな自分を褒めてくれた事の感謝とその斬新な戦法を賞賛。素直に慣れないセシリアは自分の性格を呪った。


「いや、そうじゃないけど。ほら、俺が勝った時の事、言ってなかったじゃん」

「あ……」


そんなことを戦う前に言っていたような気がする。


「な、何が御目当てでしょうか?も、もしかして……」


男に偏見を持つセシリアはよからぬ想像に傾くが


「あんた頭いいから勉強できるんでしょ?」

「へ?」


その想像とは全く違ったものであった。


「だから、勉強できるんでしょ、あんた」

「えーと……まあ勉学に関してはある程度自信は御座いますが……」

「なら俺に勉強教えてくれないかな?」


予想していなかった提案にきょとんと彼女は目を丸くする。


「そんな事でよろしいんですか?」

「うん」


縦に三日月は首を振る。


「けど、どうして……」

「俺、頭悪いからさ、やれることなんてたかが知れてる。だから少しでも勉強すればきっと今よりやれることが多くなって、先に進める」


自分の右手を眺めてそのまま握る。


「俺はもっと強くならなくちゃいけないんだ。だからあんたの力を貸してほしい、ダメかな?」


真っ直ぐ、彼女の瞳を見つめながら三日月は言う。セシリアはこの時、何故自分が負けたのか少し理解できた。自分は常に下を見つけて見下すだけだった。この男違う、何時も上を見ている、目指すべき強さの為に貪欲に、向上心の差だ。

セシリアはこくりと頷き


「私で……良ければ」

「そっか、良い答えが聞けてよかった」

「あと……」


彼女は深々と頭を下げる。


「今までごめんなさい、貴方にずっと酷いことを言って……」

「別に気にしてないよ……えっと、何だっけ」


まさか此処まで来て自分の名前を覚えられてないと思ってなかったが、セシリアは自然と笑み


「セシリア・オルコットですわ、三日月さん……もっと早く貴方という殿方に出会っていればあんな風に言わなかったかも知れませんわね……」


右手を差し出すセシリア。


「あの、握手を……しませんか?これから一緒に励むという意味でも貴方とは良い関係でいたいので……」


頬を赤く染めてセシリアはちょっと三日月から視線を反らす。


「うん、よろしく。セシリア」

「はい!」


固く握手を交わす二人であった。







夕暮れ時、箒と三日月が寮へ帰宅している最中だ。


「腹へった」

「お前は何時もそれだな、だが確かに腹がへった」


そう言えば、と箒は三日月の方を向き


「オルコットに勝ったからお前がクラス代表だな」

「あ」


いきなり立ち止まり口を開けたまま


「まさか……忘れてたのか?」

「うん、けどめんどうだな、そう言うの。箒、代わらない?」

「やらん、男だったら潔く受け入れろ」

「柄じゃ無いと思うんだけどな」


再び三日月は歩き出すと、次に箒が足を止め


「大変なら、わ、私が支えてやる……だからその……頑張れ」


もじもじと箒は顔を赤らめる。


「……箒がそう言うなら頑張ってみようかな」

「ああ……!」


笑顔になり彼の横に並ぶ。


「……」

「……」

「……何?」


ジーと三日月の事を見ていた箒。彼は視線だけそちらに向けて言う。


「もし……もしなのだが、記憶が戻ったらどうする?」

「記憶が?」


彼はんーと考えたが


「どうもしないかな、戻ったら戻ったでラッキーだけど、記憶が戻ることで今の三日月(おれ)が居なくなるのは少し寂しいかな」



何処か悲しげに言う三日月に、箒は返す言葉がなく


「……そうか」


そう言うしかなかった……


 

 

第八話 止められない


三日月がクラス代表となった次の日授業、グラウンドでは本格的なISの実習が始まろうとしていた。


「これより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。そうだな、手本として……オルコット、オーガス、前へ出ろ」

「はい!」


セシリアは元気よく返事をしたのだが、三日月は


「え、なんで」

「なんで、ではない。お前も専用機持ちだろう、クラスの為に手本になれ」

「……まあいいけど」


渋々立ち上がると同時に、その流れでバルバトスを展開しながらセシリアの横に立つのを確認すると


「よし、飛べ!」


千冬の合図と共にバルバトスとブルーティアーズは上空へと行く。スラスターを一定の出力で維持し空中を飛び回る三日月とその側でやや遅れて飛ぶセシリア。


「やはり三日月さんのバルバトスは凄いですわね、ブルーティアーズが遅れを取るなんて」

「ありがと、そう言って貰えるとこいつも喜ぶ」

「ふふっ、愛着を持っていますのね、バルバトスに」

「付き合いながいからね。そうだ、放課後暇?」

「え?ええ、特に予定は御座いませんが……」


フルフェイスの為よくわからないが、三日月は視線をセシリアに向けて


「じゃあさ、勉強付き合ってよ。前の授業わかんないところあったからさ」

「そ、それは二人きりでですか?」

「二人だと嫌かな」


彼の言葉に首を横に振るセシリア。


「いえ!寧ろ好都合というか、望むところといいますか……」

「?」

『オーガス、オルコット、急降下と完全停止をやってみせろ』


インカムを通して二人に千冬から指示が来る。


「ではお先に、三日月さん」


セシリアは一礼した後に下方に進行を変え加速、地面との距離が迫るとバーニアを吹かしピタッと停止する。地表から約6cm、千冬はまあまあだなと頷き


『オーガス、お前も早く降りてこい』

「俺そういう細かい動作苦手なんだけど」

『つべこべ言わずに来い』

「……」


不満そうであるが、言われたからには仕方ないと言わんばかりに三日月は地面目掛け体勢を変え、スラスターの勢い強める。


「……あ」


地面が目前と迫ってから気づいた。

これ止められないや

と。地表と最早目と鼻の先まで来た三日月は、あろうことか右手を振りかぶり


「よっ」


地面を思いきりぶん殴り身体をバウンドさせ空中で一回転、砂埃を巻き上げて四点着地で地上へとたどり着いた。


「ふぅ、あぶね」

「馬鹿者、殴って勢いを殺して着地する奴が何処にいる。おまけにグラウンドに穴まで空けて」


千冬が呆れたように三日月に言い放つ。


「ミカ!大丈夫か!」

「三日月さん!」


砂埃が晴れると箒、セシリアが彼の元に駆け寄ってくる。彼はゆっくりと立ち、バルバトスを待機状態にさせながら


「俺は平気」

「よかった……」

「心配しましたわ……」


箒とセシリアがそれぞれ言うと顔を見合わせる。


「オルコット、何故お前がミカを心配する」

「あら、私が三日月さんを心配してはダメなのですか?篠ノ之さん?」

「……そもそもミカに態度を変えすぎだ、猫かぶりめ」

「嫌ですわ、私は本当に三日月さんの事を心配しているだけなのに」

「ぐぬぬ……」


にらみ合う二人。三日月はそんな彼女達を放っておき千冬の側に近づく。


「あれどうするの」

「……止めるしかないだろう」


セシリアと箒のケンカは千冬からの出席簿制裁という形で場は収まったという。







時間は過ぎ放課後、三日月が代表になったということで軽いパーティーが開かれ、彼は終始何かを食べていたのは別の話だ。そしてそれは終え、自室に戻る三日月と箒……と


「……オルコットが何故私達に付いてくる」


笑顔で三日月の横にいるセシリアだ。


「三日月さんに勉強を教えてくれと頼まれましたの、だからこうして付いてきてるのですわ。本当は二人きりが良かったのですが……」


最後の方が良く聞き取れなかったが、箒は本当か!と三日月に向く。


「うん、前に頼んだんだ」

「な、なら私に頼れば良いだろう!」

「箒、頭良いの?」

「そ、それなりにはな!」


それなりってなんだよ、と三日月は呟く。何だかんだあって部屋にたどり着いた三日月達。先に三日月、その後に箒、セシリアの順に部屋へと入る。


「ここが三日月さんのお部屋……」

「私の部屋でもあるがな」

「……」


一言余計だと言わんばかりに箒を睨むセシリア、そんな彼女達を尻目に三日月は鞄をベッドに投げ捨てると


「……あ、シャンプーって残ってたっけ」


思い出したかのように三日月は言う。


「む、そういえばきれてたな……」

「まだ購買やってるだろうし買ってくる、セシリアは適当に寛いでて」

「はい!」


直ぐ戻ると言い残し三日月はシャンプーを購入するために部屋を後にする。残された箒とセシリア、暫しの間無言の時間が続き


「所で篠ノ之さん?お尋ねしたいことがあるのですが」


静寂を破ったのはセシリアだ。箒は彼女の方に向き


「何だ」

「前々から思っていたのですが、三日月さんと篠ノ之さんはどのようなご関係で?」

「何故そのようなことを聞く」

「三日月さんと篠ノ之さん、他の方々と違い何処か親しげだったので」


箒は俯いた後、直ぐに顔をあげ


「……幼馴染みだ、一応な」


“一応”その単語に何処か引っ掛かりを覚えるセシリアは


「何か事情があるようですね」

「……ああ、私ではどうしようもない事情がな」







「買えて良かった」


購買からの帰り、何時も使っているシャンプーが最後の一つだった為ラッキーだった、と三日月は少し気分良く歩いていた。


「あ!」

「?」


何処からか声が耳に入り、そちらを向くとツインテールに両肩を露出した制服を着た女子が。三日月は不思議そうに彼女を見ているとこちらに向かって走ってきて


「久しぶり、三夏!」


ぎゅっと彼に抱きついてきた。


「……は?」

 
 

 
後書き
感想等お待ちしております。 

 

第九話 来訪者

「ねえ、まだ?」

「あとちょっと待っててね~」


休日、三日月は束のラボにて阿頼耶織システムとバルバトスのメンテナンスに来ていた。上半身裸の彼の背中にある端子には物々しい器具が取り付けられており、束はコンソールを打ちふむふむと時おり呟く。


「ナノマシンの状態良好、うん!システムは正常だよ!」


器具が取り外された三日月は肩を擦る。


「毎回このメンテナンス苦手なんだよな」

「そんなこと言わないの、何かあったら大変だよ?」

「んー……」

「あとはバルバトスの調製してくるから待っててね~」


そう言い残し束は別の場所へと移動した。


「……むぐっ」


ラボに残った三日月はポケットからチョコを取りだし口に放り込む。


「阿頼耶織のメンテナンスは終わりましたか?」


不意に声を掛けられると、両目を閉じた銀髪の少女が入り口に居た。少女は三日月のそばに近寄り、手にしていた上着を彼へと手渡す。


「ん、終わった。良好だってさ」

「それはなによりです」


少女、『クロエ・クロニクル』は優しく笑みを浮かべる。


「……何?」


チョコを頬張る三日月をじっと見つめていたクロエに首を傾げて問う。


「いえ、ただこうして見ていたいだけです」

「相変わらず変わってるね、クロは」


クロと愛称で呼ばれている彼女はうっすらと瞼を上げると、僅かに金色の瞳が覗く。


「ええ、変わっています……そして三日月様も」

「かもね」

「だからこそ、“惹かれ”合うのかもしれません」


一部を強調するクロエだが、三日月は聞いておらず


「あー今日夜帰らないとな。セシリアにまた勉強教えてもら――なんか言った?」

「……何でもありません」


何故クロエが不機嫌になったのかわからないままの三日月であった。







「二組のクラス代表が変更になったって知ってる?」

「知らない」


朝、教室で唐突に言われた事に三日月は机に頭を乗せながら答える。彼は昨晩、脳をフル回転させながらセシリアとの勉強に挑んだ。その結果、想像してたよりも疲れたため、翌日にも響きこうして机に突っ伏しながら話を聞いている。


「そっか、知らないかー何でも中国からの転校生らしいよ」

「へぇ」

「あ、これはオーガス君は興味ない感じかな?」

「誰がなろうと関係ないし、興味な――」

「ちょっとは興味持ちなさいよ!」


大きな声にクラスが静まり返る。それと同時に皆の視線が扉元に集まり


「よくも昨日は出鼻挫いてくれたわね、三夏!」

「???」

「オーガス君知り合い?」

「……誰だっけ?」


思わずずっこけるツインテールの少女


「あ・ん・たねぇ~!昨日名前いったでしょ!」

「……ああ、ファーファーリンリンだっけ」

「『凰鈴音』よ!そんな楽しそうな名前じゃ――」


スパンッ!!とそんな彼女の頭に炸裂する打撃音。


「いっつ~何すんのよ!?」

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

「げっ!ち、千冬さん……!?」


げっ、と言われたからか明らか不機嫌そうな目で千冬は鈴音に睨みを利かせ


「ほう、まるで怪物をみたかのような反応だな」

「す、すみません、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、邪魔だ」

「すみません……」


二度謝った鈴音は三日月を指さし


「またあとで来るからね! 逃げないでよ!」


脱兎の如く去っていく鈴音。


「……何だったのですか、彼女は」

「さあ」

「……」


黙って三日月を見る箒は大体察しがついた。凰鈴音、彼女もまた自分と同じく三日月……いや、織斑三夏を知る者だと。だが今の三日月は彼女を“覚えていない”、また二人が顔を合わせればトラブルは避けられないだろう。三日月の事を説明せねば、そう箒は決めた。







同時刻、屋上にてこの時間帯にいるはずの無い人影がいた。


「とりあえず潜り込むことは出来たよ」


どうやら生徒が一人、端末で誰かと話しているようだ。


「こうも容易いとはね、IS学園も“存外”間抜けなのかな?……ああ、後は時を待つよ。それじゃあ、宜しく」


通話を切り端末を仕舞うと、左胸付近につけられた8本脚の軍馬が描かれたエンブレムに触れ


「上手くやるさ、なあ――――」







休み時間、箒は二組の教室へ赴いていた。


「すまない、凰鈴音はいるか?」

「何?」


偶々近くにいた為、箒の言葉に直ぐに反応してもらえた。


「あんた誰?」

「一組の篠ノ之 箒だ。少し話があるのだが」

「話?」


腕を組み少しの間悩み始めたが


「早めに終わらせてよね」

「ああ」




「んで?話ってなによ」


屋上に着き早々に鈴音がそう問いかける。


「ミカの事についてだ」

「!?」


表情を変える鈴音。


「SHR前の言葉を聞くかぎり、お前とミカは知り合いだと思うのだが」

「……そうよ、あいつとあたしは……幼馴染みよ」


箒の想像していた通りだ。鈴音はムスっとし


「久しぶりに再会出来たってのに、あいつの第一声何だと思う?“あんた誰”よ……会えるの楽しみにしてたあたしがバカみたいじゃない……それに、一夏だって……もう……」


不機嫌な顔から暗い表情へ変わり俯いてしまう。今の彼女には酷かもしれないが、事実を伝えればならない、箒は意を決し


「実はだな、凰……ミカは―――」

「あ、此処に居た」


箒と鈴音は扉の方を向くと三日月が。


「そろそろ次の授業始まるよ」

「三夏!」

「ん、リンリンもいたんだ」

「鈴音よ!!」


箒の想像通り、食って掛かる鈴音。


「あんた本当に思い出せないの、あたしのこと……」

「うん、覚えて――」

「思い出してよ、一夏とあたし、三人で遊んだこと!」


その言葉に三日月はピタリと固まる。


「一……夏?イ……チ……カ…?」

「っ!!ミカ!」


三日月は頭を抑える右目をぎゅっと瞑ると、血が眼から流れ頬を伝う。


「誰だっけ……そいつ……わかん……ない……や……けど、なん……で、わからな……い……だっけ……ぐっ……」


彼は力なくその場に倒れ


「ミカ!!」

「三日月ぃ!!」


少女達の悲鳴がその場に響いた。