ユーノに憑依しました


 

梱包されました

 いつまでも覚めない夢を見ていると思った。
 感覚はハッキリしてるのに視界だけがぼやけてハッキリしない。
 体が上手く動かせないから夢だと思っていた。
 寝惚けて頭が正常に働いてないだけだと思っていた。

 真っ暗な部屋の外で何人かが歩き回っている音がする。
 これで足だけ歩き回ってたら何かのホラーだよな。
 夢の中で寝なおして目を覚まそう。
 思い通りにならない夢なんてつまらない。

 足音が聞こえなくなるまで目を閉じようとしたが変化が生まれた。
 ガサガサと天井を擦る音がする。
 そう、まるで梱包された荷物を開けるような音が。

 天井がこじ開けられて光と冷たい空気が入ってくる。
 どうやら体温で部屋の空気が暖かくなっていたようだ。

 そして巨人と目が合った。

「捨て子か、とりあえず管理局に届けるかな」

 管理局と言う台詞からリリカルなのはの設定が入った夢だと思う。
 巨人の男は俺を抱き上げると歩き始めた。
 部屋は沢山の荷物がある倉庫でこの中の一つに俺が居たらしい。

 此処までハッキリ見る夢は初めてだな。


 そして俺はおしめを取り替えて貰うまで勘違いを続けていた。


「検査の結果だ、健康状態異常なし、リンカーコアも確認された、既に一般平均を超えてるな」
「まともに育てりゃ将来有望だったでしょうに、何で捨て子なんかにしたんでしょうね?」
「さてな、有能な魔導師の隠し子で、目立つと困るから捨てたんじゃないか?」
「もしくは家庭環境や金銭面とかですか?」
「どちらにしろ出産届けが無かったようだし、孤児扱いだな」
「届け先のスクライアにも心当たりが無いそうです」
「何で態々スクライアに送りつけたのかね? 近くの聖王教会でも良いんじゃないか?」
「何年か前に子供を捨てて行く親が多いから監視体制を強化したってニュースで言ってましたね」
「無責任な親ってのは結構多いもんだな」
「親としての自覚が無いのでしょう、そう言えばスクライアから引き取り手が無かったら預かるって話をしてましたね」
「管理局だと戦場行き確定だろうしな、スクライアも似たようなもんだが多少はマシか」
「親もそのつもりで荷物に詰めたんでしょうね」



 理解できないと思って適当な世間話で盛り上がってるな。
 しかしスクライアか、ユーノは居るのか? それとももう原作組みと合流したか?
 どちらにしろ放置してれば原作通りに進むのだ……俺の他に転生者が居なければ……。


 この後、俺はユーノと名付けられた。

 数年後に新暦を確認して他に同姓同名が居ない事と俺の容姿で確定した。

「俺がジュエルシード掘ってなのは育てんのかよッ!!!」

 確かにこの身体は物覚えが良いし記憶力も良い、だが数ヶ月そこらでなのははそれを軽く超すんだろ?
 追い越されるの確定で色々覚えたり手回ししたりしなきゃいけない事が山積みじゃねえか!!
 それにユーノは飛び級とか色々やっててジュエルシード発掘の責任者にまでなってた筈だ。

 面倒くさい! 死ぬほど面倒くさい!!

 けど放置してたら闇の書で地球滅亡確定じゃん、その上あいつランダム転送だから次の主が俺になる可能性だってある。
 トリプルブレイカー撃てそうな魔導師なんてあいつ等以外に知らねえ。
 未来からの二人組みはパラレルだから俺の世界に来る保証なんて無い。

 それだけじゃない、他に転生者が居たら更に厄介な事になる。

 ハーレム系転生者――ヒロイン連中に手を出しまくってジュエルシードや闇の書を都合良く乗り越えられるって舐めてたら終わる。
 ダーク系転生者――原作ぶち壊して悦に浸る自己中心的でもマイナス方面にぶっちぎってる超迷惑な連中。
 後は原作組みに意味の分からない説教したり撃墜したりする連中も凄い迷惑だ。

 二次創作で読んで楽しむ分には構わん、もっとやれと言いたい―だが、俺の命が関わってるなら話は別だッ!!
 神から貰ったチート能力(笑)と戦う事になる……もう放置して引き篭もってても良いかな?
 エミヤ系絶対居るよね? あとネギま系やとある系とか普通に居るんだろうな……ナルト系も忘れちゃいけないな。

 原作組みのトランスセクシャルとかも嫌だな、なのはやアリサが男か……舎弟にされそうで怖い。


 まあ、現実逃避はこれくらいにして……ユーノ・スクライア始めてみようと思います。 

 

レイジングハートを探しました

「レイハさんやーい、どこだーいっと」

 これで1008個目。
 俺が今採掘している場所は赤い玉のデバイスが大量破棄されている工場跡だ。
 遺跡じゃないのかよ!? と言う突っ込みもあるだろうが。
 進み過ぎて自滅した連中の遺跡なのだイメージ的には火事場泥棒とか空き巣だ。

 ヴィータとかの記憶って1000年以上前から在るらしいし。
 デバイスの歴史はベルカから数えるとかなり古い。
 デバイス工場での発掘なんて子供のやる事なのだ。

 型遅れの古いPCをジャンク目当てで買うなんてモンじゃない。
 価値の無いデバイスとも呼べないガラクタを発掘する事で練習させているのだ。

 生きてるデバイスを探すのは簡単だ、正常に魔力が通れば良い、ロスが酷い物は死んでいるのだ。


 そして俺は当たりを引いた。


 試しに魔力を通してみたが反応が無い、ロスしている訳じゃなくて吸われたまま帰ってこない。

「……ふう、やってやらぁ」

 リンカーコアの発動を高め大気に散らばる魔力をデバイスの一点に籠める。

「はああああああああああああッ!!」

 体に凄い負担がかかって筋肉が悲鳴をあげてるが俺は魔力を込め続ける。
 デバイスに亀裂が入って崩壊する寸前にそいつは目を覚ました。

《――》
「起きたか」
《――ここは?》
「お前が破棄された工場跡だ、自己修復を急げ」
《あなたは誰ですか? なぜ私を起こしました?》
「俺はユーノ・スクライア――ユーノが名前でスクライアってのは遺跡を発掘してる集団だ、お前は発掘の練習台として俺に起こされたんだよ」
《そうですか》
「お前暇だろ、俺と一緒に来い、死ぬ寸前までこき使ってやる」

 工具を片付けながらレイジングハートもどきも回収して置く。
 折角発掘したのだ手元に残して置きたい。
 暫く沈黙した後、レイジングハートは律儀に返事をした。

《私よりも進化したデバイスが沢山ある筈です、そちらを使われたらどうですか?》
「俺はお前が良い、他がどんなに便利でもお前が良い」
《あなたの魔力では私の真価を発揮できません、頂いた魔力も7割が無駄になってます》
「9割無駄だったら考えてたかもな」
《非効率的です》
「インテリジェントなら覚えておけ、効率だけがベストじゃない、信頼も大事だ」
《信頼?》
「そう、俺はお前を信頼する、一方的にな、お前を真に扱える主が現れたら遠慮なく譲ってやる、それまでお前は俺のモノだ」

 どうせレイジングハートはなのはのデバイスで、俺の物にはならないのだ。
 俺がユーノじゃなかったら原作になんて絶対関わらなかったのに。
 コレは単なる八つ当たりだ、ロールプレイング、単なるユーノという役を演じるだけだ。

《迷惑です》
「残念ながら俺はお前が大好きだ、全て諦めろ」
《最悪です》
「俺は最高だな――さて帰るか、集束魔法――ブレイカーなんて使ったから魔力も身体もボロボロだ」
《……この魔力はブレイカーを?》
「そうだよ、美味かったか?」
《死にたいのですか? 貴方の様な小さな子供が集束魔法なんて使ったら負荷が一生残ったりするんですよ?》
「お前の口からそう言う台詞が聞けるとは思わなかったな、心配してくれるのは嬉しいが本格的に使ったのはお前が初めてだ」
《いたずらに使わないと約束してくれますか?》
「約束は出来ないな、必要なら遠慮なく使うから、その時はよろしく頼むぞ」
《最悪です》
「俺は最高にハッピーだな……あぁ、最高にハッピーだとも!! お前は道連れだッ!! 俺の全財産を持って強化しまくってやるから覚悟しろ!!」

 整備に手を抜いて負けましたって言われたくないからな!

「さあ、行くぞ!! ……そういえば、まだお前の名前を聞いてなかったな? 名前は?」
《……レイジングハートです、マスター》
「よし、行くぞレイジングハート、地獄への片道切符だッ!!」
《――この子を正しい道へと導かなければ》
「何か言ったか?」
《いいえ、マスター》


 こうしてレイジングハートを手に入れた俺は早々に発掘を打ち切りデバイスショップへと向かった。


 ミッドのデバイス街でアキハバラと呼ばれる地帯に俺は来ていた。
 餅は餅屋、デバイスに命を掛けている職人にレイジングハートを丸投げするのだ。

《マスター、これから何をするのですか?》
「お前を可愛がってくれる人を紹介してやる、幸せ者だよお前は」
《どのような方なのですか?》
「会えば分かる」

 数分後、待ち合わせの相手がやってきた。

「ユーノ君、お久しぶりー、元気してた?」
「久しぶりだな、フェレットもどき」
「お久しぶり、ユーノ君」

 上からエイミィ、クロノ、マリエルの順番だ。
 未来知識って便利だよ、管理局の士官学校とかデバイスショップを調べてたら見かけたんで声を掛けた。
 愛想が無いだとかもっと子供っぽく笑った方が良いよと言われたので、フェレットになって愛嬌を振りまいたら大盛況でな。

 それ以来クロノからフェレットもどきと呼ばれるようになった。

「この子が見て欲しいデバイス?」
「ええ、発掘したてのホヤホヤなので、たっぷり可愛がってください資金はありますので使用者の負担は度外視で」
「ム、そう言うのは良くないですよユーノ君、デバイスは持ち主の魔力資質に合わせないと大怪我しちゃいますよ」
「メインで使うのは俺じゃないんです、集束と砲撃に耐えられるようなフレームにしてください」
「じゃあ、この子が前に言ってたブラスター用の?」
「探すのに苦労しましたよ、三徹目なので部品組んでる間は寝かせてください」
「あはは、無茶するねー、子供なんだから寝なきゃ背が伸びないよ、クロノ君みたいに」
「僕の事は余計だ!!」
「チビは嫌なので気をつけます」
「うむ、大変よろしい!」
「エイミィ!」

 いつもの夫婦漫才が終わった、ヤバイ、本格的に眠い。

「それじゃ、一度士官学校に戻ってデータ集めてからパーツ揃えなきゃね」
「仮眠室あります? そこで寝ときます」
「あるよー、夕方までぐっすり眠っときな、後はマリーと一緒にやってるからさ」
「よろしくお願いします」
「あ、そうだ、フェレットモードになっちゃいなよ、鞄に入れて連れてくからさ、ね」
「おー、それは名案、ではお言葉に甘えて」

 フェレットモードになった所で俺は力尽きて寝た。


 目が覚めるとどこかで嗅いだ事のある匂い、そして車で移動中か?
 ……あいつ等免許持ってたっけ? いや、これは……。

「……リンディさん?」
「あら、ユーノ君おはよう――って言ってもまだ夜だけど……丸一日寝てたみたいよ?」
「久々に二十四時間突破して寝たか……何処に行くんです?」

 後部座席から外を見るとミッドの市街地の様だがどこかで見た景色だな、何処に向かう景色だっけ?

「聖王教会よ、ミッドに居るならカリムさんから連れて来る様に言われてね」
「ああ、最終調整はとっくに終わってる筈なのに、今更何の用だか」
「最近顔出してないんでしょ? 私に会うのも久しぶりじゃない?」
「クロノ達とも久しぶりでしたよ、レイジングハートは?」
《此処に居ますよ》

 首にしっかり下がっていた。

「ふむ、調子はどうだ?」
《大変良好です》
「そうか、定期メンテナンスの説明があったら後で教えてくれ」
《了解しました》
「その子が前に言っていたデバイス?」
「ええ、俺の相棒です」
「そう、見つかったのね」
「おかげさまで、クロノ達はどうしました?」
「先に帰したわ、晩御飯は一緒にどう? あの子達も喜ぶわ」
「時間的に考えて遅くなりそうですからまた今度ですね、教会から直帰しますよメッセージは入れておきます」
「そう、残念ね」
「次の出航はいつですか?」
「今日帰ってきたばかりだから当分はお休み」
「そうですか、疲れてる所すみません」
「良いのよこれくらい、子供がそんな事気にしないの」
「お世話になります」
「ええ、もっと頼りにして頂戴」

 ちなみに、リンディさんとはクロノ達と出会ったその日に合流した。
 長旅から帰ってくるリンディさんに手作りでおいしい物を食べて貰おうというパーティーの買出しだったとかで。
 ちょいと荷物が多くなりすぎてリンディさんを呼ぶ事になり、そのままお呼ばれしたのだ。
 旦那さんの事は知ってたから態度に出たのか、年齢に見合わない落ち着きだったからバレたのか知らないが、色々看破された。
 そのまま一泊して次の日には聖王教会に強制連行、騎士カリムとご対面と言う流れになった。

 おかげさまで色々と発掘関係で呼び出される事が増えた。


「それじゃ、カリムさんによろしくね」
「はい、それではまた」

 聖王教会前でリンディさんと別れて騎士カリムの待つ施設へ向かうのだった。 

 

厄介事がやってきました

 厳重な警備がされている教会の施設、幾つかのボディーチェックを受けてその扉の前まで来た。

「ユーノ・スクライア参りました」
「はい、いらっしゃいユーノ」

 高そうな、いや実際に高価なんだろうけど、その机にちょこんと座る一人の女性。
 聖王教会の騎士カリム。

「今日はどのようなご用件で?」
「ユーノの言っていた聖王のゆりかごが見つかりました」

「は?」

「ですから、ゆりかごが見つかったんです」
「早くないですか? 確かに場所は予測しましたけど、こんなに早く見つかるなんて不味くないですか?」
「現在所有を聖王教会に移そうと色々調べてる所です」
「その辺りの法律や手続きは面倒臭そうなのでお任せします」

 現時点で評議会を敵に回すなんてとんでもない。

「手伝って頂けると助かります」
「俺はまだ生きなくちゃいけないので、ヤバイ裁判に顔を出す訳には行かないんです」
「でも、もうユーノ・スクライア名義で申請出してしまいましたし、諦めて下さい」

 おいおい、何て事してくれたんだこの人。

「それって、三脳から凄い勢いで指名手配掛かってない!?」
「ああ、そちらはもう終わりましたから大丈夫ですよ?」

「終わった?」
「はい、終わりました」
「何が?」
「???」

 可愛く首を傾げても意味わかんねえよ。

「いや、何が終わったんです?」
「――お亡くなりになりました」
「……は?」
「色々と調べて見たんですけど不正の山と言うか、多少の必要悪というよりは悪の親玉そのものだったのでご退場頂きました」
「いや、いやいやいや、管理局の体制を見直すとかそう言う布石とか未来は?」
「それは現在進行形なのでご心配なく」

 カリムがなにやら手元で操作するとモニターに電源が入り現在放送中と思われる番組が始まった。

【――我々は管理局地上本部としての……】

 レジアスのおっさんが演説していて番組テロップには地上本部の不正告発とか記者会見の文字が躍っていた。

「……――何コレ?」
「現在生放送中の地上本部不正に関する記者会見です」
「――スカリエッティは? ――ナンバーズはどうなるの?」
「しっかり逮捕してありますよ? 貴方のおかげですユーノ」
「……――いや、まだ生まれてない子が居るでしょ? ――その子達どうするの生まれないの!?」
「安心してください、12名までちゃんと揃えさせますから」
「どうやって!?」

『こう言う事だよ』

 その声と共にモニターが切り替わりスカリエッティの姿が映し出される。

『君がユーノ・スクライア君か、今回の勝者に敬意を』
「――おいちょっと待て!! 敬意も勝者も、戦った覚えもない奴に何を言ってるんだ?」
『いやいや――流石は私の計画に正面から挑もうという猛者だ……戦うまでも無い――私は敗北したのだよ』
「だから、まだ戦っちゃいないだろ、人の話を聞けよ!? 何が言いたいんだ!?」
「君の未来知識に関するレポートは見せて貰った――そのデバイスもね……私や娘達の事を偉く気に入ってくれているようだ」
「――……別に特別意識してる訳じゃない、ちょっと別世界の未来知識があっただけだ、この世界の事じゃない」

 この世界にはユーノ・スクライアではなく俺が居るのだ、未来なんてとっくに崩壊している。

「くっくっく、そう言う事で良いだろう――残りの娘達は必ず完成させよう。
 私から君へのプレゼントだ――元々タイプゼロのデータが手に入ったのは、君が未来知識を披露してくれたからだしね」
「――貰っても嬉しくないな、俺は戦闘機人の情報を流してお前を利用しようとしただけだ、それに本人達の意思もあるだろう」
「かまわんさ、好きにすると良い、君と話すのもこれが最後だろうし少し言わせてくれ、彼等から開放してくれてありがとう」
「……もう少し自由でいたかったとか、そう言うのは無いのか?」
「あそこに私の自由は無かった、そして娘達が完成したら私は極刑だ、それに従おう」

 ……極刑って、原作では軌道拘置所に放り込まれて一生大人しくしてる筈だろ? ――此処まで未来が変わるのか?
 スカリエッティの表情はどこか憑き物が落ちたような、狂喜が感じられなくなっていた。

「――二番は?」
「……自分の目で確かめたまえ」
「どういう意味だ!?」

 スカリエッティは何も答えずモニターから消えて電源も落ちた。

「先ほど、彼が極刑などと言っていましたが、管理局はそんな酷い所ではありませんので、安心して下さい」
「騎士カリム、二番はどうなった?」
「心配ですか?」
「死んでたら後味悪いだけだ」
「……入って来て下さい」

 カリムの声で入って来たのは二人、二番と五番だった。

「初めまして、ユーノ・スクライア、ナンバーズ二番、ドゥーエです」
「同じく、ナンバーズ五番、チンクだ」

 ドゥーエはアニメで見たよりも若い気がする。
 そしてチンクは小さい、今の俺よりも小さい、幼女そのものだな。
 こいつらが拘留されずに此処に居るって事は教会に協力を申し出たのか?

「彼女達は貴方の秘書として働いて貰います」
「ちょっと待て、色々待て!! 秘書って何だ!?」
「秘書は秘書です、ユーノのサポートですよ」
「俺に何やらせる気だよ!?」

 ナンバーズの二人を使わなきゃいけない依頼って何だよ!!

「実はジュエルシードの件なのですが……」
「……何かトラブルか?」
「大変申し訳ないのですが、情報を漏らしていた方が居て、現在ジュエルシードと共に行方不明です」

「……は? 何で?」
「直前まで同行した者の話ですと……未来知識を持つ少年が欲しがる奇跡の石だと勘違いしている節があったそうで」

 何それ?

「……うわー、うわー、何処かの取引現場で魔力暴走して次元震引き起こすビジョンしか浮かばないわー」
「平行してレリックの発掘もお願いしますね、放置して良い物ではありませんし」

 レリックもか……まあ当然だよな。

「……ヴィヴィオは?」
「大丈夫です、確保してあります……ですが不完全です、フェイトさんの情報が必要になりそうです」
「足りなきゃエリオの分もか」
「ええ」

 最悪の場合は聖王の遺伝子情報をばら撒いて成功例や失敗例を色々試す事になる。

「ジュエルシードを持って逃げた奴の足取りは掴めてるのか?」
「ユーノが紹介してくれた可愛い義弟が追ってくれてます」
「スカリエッティのアジトもアイツにやらせたのか」
「ノリノリでしたよ――恩が返せるって」
「茶菓子で手を打ったって言ったのにな……」
「頑張って下さいね――後ろの二人の分もまだ残ってますから」

 振り返ると微笑むドゥーエと顔を真っ赤にしたチンクが目を逸らした。

「とりあえず、地球に行って来ますジュエルシードの情報が漏れてるなら海鳴の事も漏れてそうだし」
「大切なんですね」
「俺のせいで滅ぼされたくないだけです」
「はい、そう言う事にして置きましょう」

 微笑むカリムの顔が何時にも増してムカつく……もういい。

「ドゥーエ、チンク、行くぞ、お仕事の時間だ」
「はい、よろしくお願いしますマスター」
「世話になる」

 とりあえず海鳴市へ……面倒くさい。 

 

海鳴にやってきました

 地球、海鳴市、作中ではリンディさんが住む予定のマンションまで来たのだが、今は管理局名義であいつらが使ってる。

「おー、ユーノ久しぶりだな」
「お久しぶり、ロッテ」

 管理局の教導隊を指揮した事もある――猫を素体にした使い魔――リーゼロッテ。

「後ろの二人は……例の戦闘機人か?」
「ああ、ドゥーエとチンクだ――よろしくな、二人とも、こちらはリーゼロッテ、管理局最強の一人、インファイターだ」
「おいおいユーノ、昔の話で持ち上げるなよ、照れるじゃないか」

 ……色々あって複雑な心境だとは思うが――目が笑ってないぞ、ロッテ。

「よろしくお願いします、後で手合わせしてもよろしいですか?」
「私もお願いしたい」
「おーけー、おーけー、手が空いたらね、先にジュエルシードを密輸した連中が海鳴に潜んでないか調べてからな」

 気分が乗らないのか、上手く先送りにしたな。

「八神家はどうなってる?」
「今の所は反応なし――近付いたら直ぐ分かるようになってるから、安心して」
「んじゃ、直接会ってくるから、みんなは待機よろしく」
「了解しましたマスター」

 認識阻害と光彩魔法を使って姿を消してから八神家へ。

『はやて、今大丈夫?』
『え? ユーノ……くん、こっちに来てたん?』
『うん、さっき着いた所、で、厄介事なんだけど窓開けて貰える?』
『わかった、今開けるから、まっててな』

 はやてが部屋の窓を開けたので、靴を脱いでお邪魔する。
 玄関から入らない理由? 八神の両親に会いたくないだけだよ。

「ふー、やっと寛げる」
「それで、厄介事って何? また闇の書関係?」
「聖王教会の下っ端が裏切ったらしくてな、ジュエルシード抱えて逃走中だと」

 はやては頭を押さえて厄介事を噛み締めていた。

「それでユーノ君が此処に居るって事は、潜伏先は海鳴って事?」
「そうと決まった訳じゃないけどね、ジュエルシードの事がバレてるなら此処も危ないだろうと思ってね」
「……暫く図書館には行けないか」

 聖王教会に提出したレポートは、はやても目を通してある。
 ぶっちゃけ原作知識に関しては殆ど伝えてある。

「ロッサが追ってるらしいから、その内見つかるだろうけどさ」
「ヴェロッサくんだっけ? レアスキルは『無限の猟犬』だったかしら?」
「そう、もう一つは『思考捜査』だな、俺の記憶から色々引き出して貰ったよ」
「わたしの記憶は覗かせないからね」
「お前の場合は記憶を覗いたらとんでもないトラップが仕掛けられてそうだからな、警告はしとく」
「よろしい…………また暫くはこっちに居るの?」
「ああ、こいつも見つかったしね」

 胸元からレイジングハートを出して見せる。

「見つかったんだ」
「ちょいと苦労はしたけどな」
「渡すタイミングはどうするの?」
「そろそろ士郎さんが入院する時期だろうし――それで恩を売るよ」
「士郎さんには説明したんじゃなかったの?」
「それでも――君が何とかしてるれるんだろう? だってさ」
「完全に当てにされてるわね」
「なのはの精神構造を突き詰めて行くと必要なイベントではあるのだが……」
「アレだけ悩んで話す事にしたのに、随分と微妙な結果ね」
「お前だってその類だろうに」
「言えてるわ」

 未来知識+α色々あったさ。

「……何で俺の周りには変わり者ばかり集まるかな」
「貴方が一番変わってるけどね、ユーノ君」
「へいへい、どうせ俺は変人だよ……闇の書の中はどうなってる?」
「特に問題は無いわね、毎日騒がしいくらいよ」
「コレが才能の違いって奴なのかねえ」
「元からある才能に――わたしの知識と貴方の知識の応用で此処まで来れたんだから、防御プログラムは相変わらずだけど」
「トリプルブレーカーが必要なければ、なのはも放置できたのになぁ」
「未来から来るって言う二人もまだ会えてないし、頑張りなさいよ」
「気が向いたらなー」
「向かなくてもやりなさい」

 全部はやてに押し付けて無限書庫にでも篭りたいんだがな。

「そーいえば、お前の出番減ったぞ」
「どういう意味かしら?」
「カリムが評議会の連中潰して――スカリエッティとナンバーズを保護下に置いた、ヴィヴィオも確保済みだが構成要素が足りないそうだ」
「色々突っ込みたい事があるけど、六課はどうなってるの?」
「何か別の形で再現だろうな……たぶん、レリックが捜索対象になって表向き通りになるんだろ」
「ゆりかごを飛ばすつもり?」
「悪用するつもりなら痛い目にあって貰わないとな」
「……まだ隠し玉があるって言うの?」
「さて? もう何が隠し玉になるかわからんからな」

 はやてに伝えてない部分は有る事には有るのだが……あくまで一例だしな。

「あ、お母さんが呼んでるわ」
「此処までだな――あのマンションの六階に居るから念話くらいなら余裕で届くぞ」
「悲鳴っぽく演じればいいんだっけ?」
「そうそう、無意識に念話使いましたーみたいな」
「あと関西弁でしょ、聞く人が聞いたら即バレるわよ?」
「どうせ会って話せばバレるんだから、最初の内ぐらいは引っかけとかないと」
「まあどうでも良いけどね、ところで表に可愛いお迎えが着てるわよ?」
「? 迎え?」

 窓から下を見るとなのはがこっちを見上げていた。

「アレは無意識にやってんのかな?」
「あの子、予知夢ぐらいは見れるんでしょ? 結界を素通りして知覚する事が出来た筈よ」
「……今日起こる事を夢に見てたってか」
「浮気は出来ないわねー」
「ノーコメントで――それじゃ行くよ、またな」
「ええ、またね」

 はやての部屋から出て、なのはの後ろに回り込んでから認識阻害を解く。

「なのは、何してるんだ?」
「あ、ユーノ君、ユーノ君に会えそうな気がしたから――此処に来れば会えるかなって」
「今日はこっちに遊びに来たけど、いつもは遠い所に住んでるんだから探しても無駄だぞ」
「でも会えたから……遊びに行こう?」
「もう少しでお昼だろ、家まで送ってってやるから遊ぶなら飯を食ってからな」
「うん、今日は翠屋でご飯を食べなさいってお母さんが言ってたから、ユーノ君も連れて来なさいって」
「何故俺が来る事がバレてるんだ?」
「わたしが今日ユーノ君が来るんだよって言ったら、連れて来なさいって」
「その根拠のない確信は何処から来るんだ?」
「ユーノ君、難しい言葉ばっかりでよくわからいよ」
「……とりあえず、翠屋だったな」
「うん」

 なのはから差し出された手を繋いで翠屋に向かう、終始なのはが上機嫌だったが士郎さんの入院で――ああなるのか。

「いらっしゃいませ、あら、なのは、ユーノ君もいらっしゃい」
「お母さん、ユーノ君見つけたよ」
「そう、なのはは凄いね」

 しゃがんでなのはの頭を撫でながら微笑む桃子さん……まあ、良い絵だな。

「二人ともお子様ランチで良い?」
「うん、お手伝いするね」
「それとユーノ君、店内は禁煙となっておりますがよろしいでしょうか?」
「構わないが――この年でタバコが吸えるか、それに俺はタバコを吸わない……飯の味が落ちるしな」
「はい、畏まりました、奥の席でごゆっくりどうぞ」

 ニコニコと厨房に入っていく桃子さんを見て思う、絶対俺の反応を見て楽しんでやがるな。

 まあ、子供が背伸びして大人の言葉を使ってるように見えなくもない……が、子供の真似をして過ごすのは嫌だ。

「ユーノ君、ちょっと待っててね」

 なのはが厨房の方に入ったまま時間が過ぎていった。
 暫くすると料理を持った桃子さんと少し元気を無くしたなのはがやってきた。

「お待たせしました、お子様ランチです」

 一皿目は普通だったが二皿目が少し焦げて形が怪しいのだが、普通の料理が入った皿は俺に、焦げた料理が入った皿は――なのはに配られた。

「なのは、皿変えようか」
「え、でもコレ焦げちゃってるよ?」
「そっちを食いたい」
「お母さんの料理美味しいよ、ユーノ君はお母さんの料理を食べて」
「俺はそっちが良い」
「でも、お母さんが自分で食べないと料理が美味しくならないって」
「じゃあ、半分こだ」
「半分こ?」
「その皿を二人で食べて、こっちの皿も二人で食べる、食べ比べも出来て料理がもっと美味くなるぞ」
「本当? もっと料理美味しくなる?」
「うん、だから一緒に食べよう、な?」
「うん」

 半分こさせる事には成功した訳だが、やはり焦げた部分を食べたなのはの表情は歪んでいた。 

 

無難な一日を過ごしました

 昼飯を食い終わった後、なのは目が虚ろになり舟を漕ぎ始めた。

「眠いのか?」
「……うん」
「奥の部屋でお昼寝する?」
「俺が家に連れて行きますよ、そのまま寝かせて下さい」
「大丈夫?」
「ええ、問題ないです」
「――それじゃあ、お願いね、冷蔵庫にシュークリーム入れてあるから、おやつに食べてね」
「はい、いただきます」

 なのはが夢の世界に飛び立ち――客足が途切れた所で高町家へ転移する、玄関で着地して靴を脱いだ後は魔法で揃えてお邪魔する。
 魔法で適当に布団を探して、なのはを寝かせた所で問題が起きた。。

 ――なのはが俺の袖を掴んで離さない。

 何時の間に握っていたのだろうか? 取り合えず、結界を開いて袖を離そうとしたが――なのはの腕には魔力が籠められていて結界でも隔離できない。
 真逆こんな単純な方法で結界隔離を破るとは――コレだから感覚で魔法使ってる奴は怖いな。
 俺は手を離すのを諦めて魔法で毛布を手繰り寄せ、なのはと一緒に寝る事にした。


 ………………寝てる途中で誰かが動いた様な気配がする――。

 目を覚ますと既になのはは起きていて、おやつの準備をしていた。

「おはよう」
「おはよう、ユーノ君、顔と手を洗ってきて、おやつにしよう」
「ああ」

 涎でも垂らしながら寝たかな? まあ、顔洗うか。

「はい、ユーノ君の分」
「大量だな」
「昨日お母さんと一緒に作ったからいっぱいあるんだよ」
「こっちはキャラメルミルクか」
「うん、お母さんに習ったんだよ」
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」

 形が不揃いだったり皮の厚さが薄かったりする物もあったが美味しくいただけた。

「ごちそうさまでしたー、おいしかった?」
「ああ、さて、片付けますか」
「ユーノ君は座ってて、私がやるから」
「それじゃ、お言葉に甘えて」

 それからなのはとおままごとをして遊んでると電話が鳴った。

「ちょっと出てくるね」
「ああ」


 わたしが電話を取ると相手はアリサちゃんだった。

『そっちにユーノ来てるわね? はやてから聞いたのよ』
「うん、来てるよ」
『今からすずかを連れて行くから待ってなさい、絶対帰しちゃ駄目よ!!』

 電話が切れた。
 アリサちゃんとすずかちゃんが来るんだ、はやてちゃんも来るのかな?


「おかえり」
「ただいま、アリサちゃんとすずかちゃんが来るんだって、はやてちゃんも来るのかな?」
「そっか、んじゃ帰るかな、お邪魔しちゃ悪いし」
「あ、アリサちゃんが絶対に帰すなって」
「あいつにまで読まれる俺の行動パターンって!?」
「アリサちゃん鋭いから」
「あいつなら超能力を持ってても俺は驚かない」
「ユーノ君が言うと本当に持ってそうだね」
「今度スプーン曲げでもさせてみるか」
「アリサちゃんなら出来そう」

 アリサが来ていきなり、すずかが新作ゲーム買ってるからすずかの家に直行よ、などと言うので書置きを残してすずかの家に。

「アンタこっちに来たんなら連絡の一つくらい入れなさいよ」
「習い事で忙しいと思ってな」
「アンタの為だったらいくらでも空けてやるわよ」
「俺も忙しい身なんだ、許してくれ」
「なのはとはしっかり遊んでたじゃない、来た時は連絡入れなさいって言ってるのよ!」
「わかったよ、次からは連絡を入れる」
「最初っからそう言いなさいよ」

 相変わらずアリサは元気だ、弄られてるのを理解しているらしくニコニコ笑ってやがる。

「まあまあ、アリサちゃん、ユーノ君も内緒にするつもりだった訳じゃないんだから」
「すずかは甘いっ! そんなんじゃコイツあちこっちで浮気するんだから!!」
「何処でそんな言葉覚えて来るんだお前は」
「うるさい! 今日はすずかの家に泊まりなさい、あたしも泊まるわ!」
「でも今日が日曜日だよ? 明日月曜日だし私は良いけどアリサちゃん大変じゃない?」
「大丈夫よ、コイツいつもフラっと居なくなるじゃない、捕まえられる時に捕まえて無いと駄目なの」

 アリサの意思は硬そうだ。
 こっちに来る前にお泊りセットを持ち出す辺り、かなり本気だな。
 何故こうなってるかと言うと、前回海鳴に来た時にとある事件が起きた。
 それのせいでなのは、アリサ、すずか、はやての四人が一堂に会する事になり俺の存在もバレた。

 原作開始前に海鳴に来た理由? 地球の魔力に慣れる為だよ、原作開始みたいに弱体化してたまるか。
 まあ、俺がユーノを乗っ取ったせいか知らないが原作にない事件がいくつか起きていた。
 事件を起こした犯人を捕まえてロッサの魔法で調べてみたい所だが、どんなスキルを持ってるか分からない奴の前にロッサを出すのは危険だ。

 深入りしようとした瞬間に自殺とか自爆とかされたらトラウマ物だしな。

「ちょっと、聞いてるの?」
「ああ、すまん何も聞いてなかった」
「アンタの番よ、今日こそ勝って見せるから相手しなさい」
「お手柔らかに」

 この身体は実に良い、パズルゲームや落ちゲーと呼ばれるゲーム全般で軽く全面クリアできるからな。
 あと憑依する前にやった昔のゲームが何故か新発売として売り出されたり、初期バグとやり込んだ経験で大抵勝てる。
 誰かがこっちの世界に持ち込んでるのか、それとも何処かで繋がってるのか、まあ実害が無い分には放置だ。

 そんな犯人探ししてるくらいならジュエルシードや闇の書に労力を回せと言いたい。

「何で勝てないのよ! 昨日の夜発売された新作なのよ!? アンタ開発者に知り合いでも居るの!?」
「どのゲームでも言えるが、アリサが新しいゲームやった時のパターンを覚えちゃったからな」
「え?」
「何か仕掛けてくる時は呼吸が深くなるし、疲れてる時は唸り出すし、何も聞こえてない時は視野が狭くなってミスする、まるで猫みたいだよな」

 顔を真っ赤にしたアリサが部屋から出て行ってしまった。
 次の対戦相手を待っていたが、すずかもなのはも触ろうとしない。

「どうした?」
「私達の事もそんなに見てるの?」
「あはは」

 振り返るとすずかが顔を真っ赤にして、なのはが少し赤い顔で笑っていた。

「対戦台で相手が見えないならともかく、同じ部屋でゲームしてて気付かない方が難しいと思うぞ?」
「げ、ゲームは止めて他のにしようか、ビデオでも見る?」
「何か新しいのある? 映画とかあるかな?」
「ああ、それならお前らにプレゼントがあるからアリサを呼び戻してくれ」
「プレゼント?」

 戻ってきたアリサを交えてプレゼントの説明をする。

「まずは、なのはには赤い宝石レイジングハート、アリサには青い宝石ブルームーン、すずかには緑の宝石ネフライト、それぞれ首から下げられるようにしてある」
「アンタが渡すからにはただの宝石じゃないんでしょ?」
「うむ、建物の四階から飛び降りても壊れるのは地面だけ、車とか自転車があったらそっちが潰れるな」
「何それ? 魔法なの?」
「アリサの言うとおり、コレは魔法の杖だ、デバイスって呼ばれる物だけどな」
「……デバイス、魔法の杖」

 三人とも自分に手渡されたデバイスを見て興味心身だ。

「手で暗くすれば光が宿ってるのが分かると思うが、それが魔力、無くなってる時は怪我するから注意しろよ」
「これどうやって溜めるの? なのはのが一番光ってるけど?」
「デバイスの周りにある魔力を適当に吸ってるだけだからな、アリサとすずかは無理だが、なのはから光を分けて貰う事ができるぞ」

 俺の説明に二人の目の色が変わる。

「なのは!」
「なのはちゃん!」
「ええっ!?」
「やりすぎるとなのはがぶっ倒れるから程々にな、アリサには俺が分けてやる、貸してくれ」

 アリサのデバイスが強い輝きを放つ。

「わあ……あれ? 直ぐに消えちゃった」
「怪我をしない為のお守りだからな、コレにかけた魔法は全部守る力に変わってしまう……ライト機能付けようか?」
「え?」
「携帯のライトぐらいならコイツでも真似事が出来るぞ、トランシーバーの変わりもな」
「何か魔法って言うよりは……」
「急に未来の科学技術になったような?」

 ちょっとアリサはガッカリで、すずかは困り顔だ。

「魔法も科学と融合する時代みたいだな」
「でも箒に乗って空を飛んだりしてみたいよね」
「やってやれない事も無いが、魔力が切れた瞬間にジェットコースターより怖い思いをして地面に叩きつけられるぞ?」

 想像したのか三人の表情が硬くなる。

「落ちない魔法は無いの?」
「飛べば落ちるもんだぞ……アリサ達が飛べそうな空間を作ろうと思えば作れるが――かなり狭いな」
「飛べるの!?」
「自由自在とは行かないが紙飛行機よりは飛べるぞ?」
「充分よ!! 飛ぶわよ――今直ぐに!!」

 あー、完全に興奮状態だな――――このアリサは止められそうもない。 

 

フライトしました

 アリサに急かされながらも、バリアジャケットもどきを水着に設定して海鳴市の沖合いに転移した。
 バリアジャケットの設定方法? 俺がデバイスを握ってスクール水着(白)にしましたが何か?
 変身中はすずかとなのはに後ろから目隠しをするように言って、何やら悲鳴が聞こえたけど全力でスルー。
 胸にはひらがなで名前を設定した、それと水着になってるのに寒く無いと好評だったな。
 儀式魔法の応用で魔法陣の上に魔力を集めるタイプを三つ、それぞれ一メートル、五メートル、七メートルの高さまで上昇できるようにした。


「デバイスが魔力を吸ってる状態なら更に三メートルくらい上に飛べるが、そのあと墜落するんで気を付けろ」
「魔法陣の上なら大丈夫なのよね?」
「ああ、なのはにしがみ付いて遠くまで行くなよ? 長く飛べるだろうが、なのはが目を回したら墜落するぞ」
「少しなら良いのよね?」
「上に飛ぶなよ? 洒落にならん速度で落ちるからな?」

 それから三人はムササビのように両手両足を広げながら自由に飛んでいた。
 飛ぶと言っても高い所から飛ばした紙飛行機のように上から下へとゆっくり下降しているだけだがな。

「ユーノ君も一緒に遊ぼう!」
「空間制御で忙しいからお前らだけで楽しんでろ、俺まで遊んだら飛べなくなる」
「……そっか、今度一緒に飛ぼうね」
「なのはー、何やってるのー?」
「何でもないよー、今行くねー、じゃあ、約束だよユーノ君」

 なのはがアリサ達の所に戻っていく、思えばこの時点で気付くべきだった。
 三人とも一時間もすれば慣れてきたらしく、高い所まで飛んで墜落する遊びにシフトした。

「あはははははは!!」
「キャー!!」
「やー!!」

 俺はと言うと儀式魔法を少しでも長く維持させる為に、如何にして手を抜くかと色々試してみた。
 普通に結界隔離だと魔力を消費するだけで長時間は持たせられない。
 周りから魔力を適度に吸い上げ噴水のように巡回させる。

 認識阻害を掛けていないと海上自衛隊の人達に遭難者と間違われて大変な事になるから欠かせないし。
 潮の流れを無理やり遮ると微妙に魔力を持って行かれるので気が付けば三人が流されてたりする。
 魔法陣の位置を微妙に調節しつつ、デバイスのリミッターを少しずつ解除して安全性を考慮した出力まで開放する。

 他にも最適になるように色々弄ってたが気が付くと色々おかしな事が起きていた。
 さっきから魔法陣に負担が少ない、そして何かおかしいと持った時にはもう遅かった。
 三人の姿がフッと消えた。

「フェイクシルエット!?」

 魔法陣を消して辺りを見回すが三人の姿が何処にも無い。
 日が落ちて辺りが暗くなっている、遭難でもしてたら探すのに一苦労だ。

『レイジングハート』
『《はい》』
『今何処だ?』
『《雲の上です》』
『何故そんな所にいる?』
『《夕焼けを見に行こうと言う話になってこうなりました》』
『フェイクシルエットはお願いでもされたか?』
『《はい》』
『帰りたくても帰れないとか、俺に怒られるから帰れない状態だったら呼べ』
『《現在後者の方です》』
『……わかった、迎えに行く』

 レイジングハートの座標を割り出して転移する。
 アリサとすずかがなのはと手を繋いで空中を漂っていた。

「夕焼けは楽しめたか?」
「ユーノ君……」
「違うの、あたしがなのはにお願いして」
「別に怒っちゃいないよ、仲間外れにされた事の方がショックだ」
「ユーノ、ごめん」
「とりあえず部屋に戻ろう、水は乾かすけど風呂に入らないと髪の毛が酷い事になるぞ」

 すずかの部屋に戻ると三人は床に正座してデバイスをそれぞれ膝の前に置いた。
 ……何で俺が説教を始める雰囲気になってるんだよ?
 別にデバイスを取り上げるつもりは無いのだが、三人の反省の表れと言うのなら下手な事を言うべきではいな。

 ――――レイジングハートには俺が知った全ての魔法理論を詰め込んである。

 レイジングハートが『行ける』と思ったら今、この瞬間にブラスター3のエクセリオンバスターやスターライトブレイカーが撃てるように設定したのは俺自身だ。
 高町なのはの魔力ランクは最初っからユーノを超えているのだ足元にも及ばない。
 その俺が誰に何を説教しようと言うのだ? 俺がこれからやる事は説教なんかじゃない。

 全力全開で『さじを投げる』のだ、『もうお前らが何をやっても俺は責任取らないから』ってな。

「……ユーノ怒ってる?」
「さっきも言ったが怒っちゃいない、こうなるだろうなと可能性は充分に考えられた」
「あたしが夕焼けをもっと上から見たいって言ったから、なのはがレイジングハートにお願いして抜け出したの」
「……俺に言っても反対すると思ったか?」
「……うん、上に行くなって、あたし達が魔法陣から離れたら怒ると思って」
「言ってくれればもっと安全な方法で上まで昇れたし、本当に危険ならレイジングハートも言う事を聞かなかった筈だ」

 俺にバレない様にってレイジングハートにお願いすれば、レイジングハートはマスターであるなのはの言う事を聞く、分かり切っていた事だ。

「デバイスは何でも出来る訳じゃない、レイジングハートでも出来ない事がある、デバイスが動かなくなる事だってあるんだ」
「でも、レイジングハートが大丈夫だってデバイスも強くしてくれて……」

 ブルームーンとネフライトの設定値を見てみると、確かに弄られていた、なのはが高速で飛べる事を前提とした数値に。
 なのはの魔力を消費し続けてバリアジャケットの強化と維持、飛行操作で発生する魔力消費も格段に上げられてる。

「確かに強力にはなってる、だけどコレだと単体で起動したら五秒で魔力が切れる、なのはが居ない所ではただの宝石だ」
「でも、なのはと一緒ならまた空を飛んだりして良いんでしょ?」
「なのはと居ればな、それでな、なのは、飛んでる最中に二人の魔力が切れたらどっちを先に助ける? 一人は死ぬぞ?」
「……え?」

 何を言われたのか分からないか、事故が起きるまで考えが回るはずないもんな。

「なのはの魔力が届かなくなった瞬間、二人とも墜落するぞ? この設定だと浮遊制御の魔法が発動しない。
 落ちるスピードが速くて片方にしか手が届かないだろうな、助けられるのは一人だけ。 さあ、どっちを助ける?」
「……そんな事」
「決められる訳ないよな、でも二人が怪我したらなのはのせいだ、俺がデバイスを弱く設定してたのは俺一人で三人とも助けられるようにする為だ」
《その問いは前提が間違っています、マスターなら二人とも助けられます》
「確かに、なのはの魔力は凄い、飛ぶだけなら俺はもう追い付けないだろう、絶対になのはが勝つ」

 アリサとすずかの飛行とバリアジャケットを補って短時間で雲の上まで飛んで見せたのだ、俺には真似出来ない。

「だから、俺はもうお前達が落ちても助けられない、怪我をしないようにな。 そのデバイスを使ってする事が良い事か悪い事かは自分達で考えろ」
「ユーノ君!!」
「どうした、なのは?」
「……また遊びに来るよね? これでお別れじゃないよね?」

 何か言い方が不味かったか? 三人とも泣きそうなんだが。
 夕焼けを見に行く事がそんなに悪い事か? 魔法を使って悪い事をしたと思ったからお別れだと思ってるのか?

「大丈夫だ、今日はちゃんと泊まって行くし、また遊びに来る、この程度で嫌いになったりしないよ」
「――――本当?」
「嘘を吐いてどうする? 何だ? またお前らだけで遊ぶのか? 俺は一人だけ仲間外れか?」
「そんな事ないよ! ユーノ君も一緒だよ!」
「ああ、わかったわかった、それじゃ、なのはを家まで送ってくるから二人は風呂にでも入ってろ」

 なのはと一緒に転移して高町家まで戻ってきた。

「……今度一緒に空を飛んでくれる?」
「さっき約束したばかりだろ? 忘れたのか?」
「そうじゃなくて……」
「みんなで謝ったろ? アレはアレでお終い。 レイジングハートに沢山魔法を教えてあるから覚えるといい」
「……うん」
「なのは」
「……?」
「相手に笑って欲しい時は、自分も笑顔じゃないと誰も笑ってくれないぞ? な?」

 なのはに笑って見せると、やっとなのはが笑顔になった。

「――――うん!」
「微笑ましい光景ですね、マスター」

 高町家の玄関からドゥーエが出てきた。

「……お客さん? マスター?」
「なのは、こっちは俺の家族、ドゥーエだ」
「はじめまして、高町なのはです、なのはって呼んでください」
「ドゥーエと言います、マスターをよろしくね、なのはちゃん」
「はい」

 ドゥーエがなのはの頭を撫でて微笑んでいる……こういう絵もあるんだな。

「今度翠屋で働く事になったから、翠屋にも来てね」
「はい」
「なのは、そろそろ戻らないといけないし、早く風呂に入った方が良いぞ」
「うん、またねユーノ君」

 高町家を離れてドゥーエと一緒に一度拠点へ戻る、今日の捜査報告を確認する為だ。
 部屋にはドゥーエ、チンク、ロッテ、そして俺がテーブルを囲んだ。

「高町家訪問は事情説明と謝罪か?」
「はい、聖王教会からの要請です、私は翠屋での護衛に回ります」
「俺は護衛対象の所に戻ってデバイスの使用説明だな、付け焼刃にもならないが」
「それと、追加報告があります」
「何だ?」
「家族が増えます」
「は?」

 リビングから明かりが消えて和室にスポットライトが輝き、子供が一人――――幼女の背中が映し出された。

「お待たせしました~、クアットロちゃん、満を持して登場です!!」

 振り返るクアットロと共に大量の紙吹雪とクラッカーの炸裂音、うむ、アホだコイツ。
 ――――ナンバーズ四番、クアットロ、こいつの特殊能力はハッキング等、センサーの目を誤魔化したり敵を多く見せる幻惑が使えたりする。
 まぁ、そのせいで、五番、チンクよりも稼動が遅くなり、四番なのに五番の妹と言う――――ちょっと変な姉妹になっている。


「ワー、パチパチパチパチ(棒」
「もう! ノリが悪いですマスター、このクアットロ、マスターの為だったら世界経済くらいいくらでも麻痺させて見せますわ」

 腰をくねらせながら悶えるクアットロちゃん、幼女がやると病気にしか見えんから止めろ。

「麻痺させたり破壊したりするのは簡単だろ、遊ぶのは良いが洒落にならん事はするなよ?」
「は~い、節度を持って遊びたいと思いまーす」

 右手を上げて宣言するクアットロちゃん、可愛いがまったく信用できないのはデフォルトか?

「ところで、お前ら飯はどうした? 俺は外に行くが――――誰か作れる奴居るのか?」
「レーションなら大量に持ってきてありますわ」
「…………もう厄介事から開放されてるんだから、有り余る才能を料理とか趣味に全力で使えよ」
「例えば?」


 …………コレってクアットロの方向性を決める大事な発言になるんじゃないだろうな? まぁ、そんな訳無いか。


「――――そうだな、理想の女性像になる為にカロリー計算を考えた料理を練習するとか、自分に合ったファッションセンスを磨くとか」
「それって完全にプライベートな話ですわ、そんな時間まで口出しするんですの?」
「まぁ、食事をレーションだけで済ましてる奴を知ってはいるが、仕事も料理も出来る女ってのは評価高いぞ?」
「料理をすれば、マスターはクアットロちゃんを見てくれます?」
「……見て欲しくて何かをするのは間違いではないが、出来れば楽しい事、面白い事、美味しかった事、つらかった事、失敗した事、相手に知って欲しいって気持ちが大切じゃないか?」
「――――マスター、クアットロちゃん感激しました、そこまでクアットロちゃんの事を考えてくれてるだなんて、理解しました! 今クアットロちゃんの全てをお見せします!!」

 瞬時にクアットロの服が消えて、全身肌色のまま俺に飛び掛って抱き締めてきた。

「落ち着け! 何故そうなる!? 何で好感度MAXなんだよお前!?」
「ああ、マスターの温もりを全身で感じられてクアットロちゃん幸せです!!」


 空腹の犬が餌に集る様に、俺の肌をベタベタと触り捲くっている。


「絶対おかしいって!! ドゥーエ、チンク、止めてくれ、ロッテもぉおぉお!!」
「本人が嫌がってないし良いのでは?」
「俺が困ってんだよ!?」
「ドゥーエお姉さまはクアットロちゃんの味方です!」

「チンク!」
「不束な妹だがよろしく頼む」
「チンクちゃんは理解のある姉です」

「ロッテぇえぇ!!」
「盛りのついた猫は放って置くのが一番だよ、うん」
「ロッテの言うとおり、効果抜群ですわ」
「お前の入れ知恵か!! ロッテぇえええぇええぇ!!」

 取り合えず、クアットロをバインドで縛り上げて風呂に入る事にした。
 しかし、クアットロの演算能力を甘く見ていた俺に、バインドを瞬時に解除したクアットロが風呂場に突撃――――第二ラウンドとなった。 

 

デバイスの説明をしました

 風呂場でクアットロを物理的に締め落としてドゥーエに任せた後、俺はすずかの部屋に再び転移した。


「待たせたな」
「ううん、今お風呂から上がった所だし、晩御飯も今からだから一緒に食べない?」
「ああ、頂こう、今日は飯を作る気になれなくてな」

「やっぱり怒ってる?」
「いや違う、ついさっき色々あったんだ、色々な」
「知らない女の子の匂いがするのはそう言う事?」

 背筋に寒気を感じてすずかを見ると、キョトンとした顔で俺を見つめていた。

「風呂に入って来たんだが、そんなに匂うか?」
「うん、なのはちゃんとアリサちゃん、はやてちゃんに桃子さん、わたしと
 後は知らない人の匂いが三人くらいであと一人は誰だろう? 何処かで嗅いだ事のある匂いなんだけど?」

 おいおい、リーゼロッテの匂いじゃねえのかそれ?

「鼻が良いんだな、12時間以内に会った人物当てまくってるぞ」
「ユーノ君と会った日は感覚が鋭くなるんだけど、今日はずっと続いてるみたい」
「酷くなったりしたらちゃんと言えよ? いくつか試すから」
「そんなに酷い物でもないから」
「ならいいけどさ」

「それじゃ、行こうか、アリサちゃんが待ってるし」
「ああ、腹を空かせたアリサは手に負えなさそうだ」
「そんな事ばっかり言ってるとアリサちゃん怒っちゃうよ?」
「構って欲しくて尻尾を振りまくってるアリサしか思い浮かばん」
「ユーノ君酷いよ~」

「すずかにはアリサの尻尾が見えないのか?」
「……す、少しだけ」
「お前も同罪じゃねえか」
「違うよー」
「こらー、二人でいちゃついてないでさっさと来なさい! 忍さんも待ってるんだからー」
「へーい」

 すずかの両親、忍さんと一緒に食べた料理は美味かった……何とかしないとな。

 夕食も終わって再びすずかの部屋へ、本題のデバイスの説明に入る。

「システムを弄って魔力残量がカウントダウンされるようにした、00カウントまで表示されて魔力切れだ」
「今のカウントは64? で合ってるのよね?」
「ああ、キーワードをいくつか設定したから色々試してみると良い、『足を早く』とか『守って』とか大抵の言葉は実行できるぞ」

「『空を飛びたい』とか?」
「うむ、さっきも言ったが、やれて真上に三メートルだ、『壁を走る』とか『水を歩く』とかも『消える』が発動するから、魔力消費も馬鹿でかい」
「そうだよね、空を飛んだり水の上を走ったりしてるの見られたら大変だよ」

「デバイスを通しての会話も『音を消して』が発動するから通信中は口元を押さえとけよ?」
「キーワードの声も周りには聞こえてないの?」
「口が動いてるのだけは分かるな、あと『開けて』で大抵のロックを解除できるからな、蛇口捻ったり錆びた鍵穴から金庫まで」

「……それ、警察に捕まるんじゃないの?」
「自分で判断しろって言っただろ、『閉めて』ならドアが開かなくなるし、壁もある程度強化されるから少しは持つぞ」
「やっぱり出来ない事が一番魔力使うんだね」

「常時消費系が弱点だな『足を早く』はまだ停まれば消費を抑えられるが『サーチャー』とかはギリギリだろうな」
「サーチャー?」
「『向こうが見たい』って所だな、チョイとやるからデバイスを握って目を閉じてくれ」

 アリサとすずかが大人しく目を閉じる……悪戯したいが真面目に行こうか。

「目は閉じとけよ、慣れてないうちに開くと混乱するからな」
「あ、凄い、目を閉じてるのに部屋が見える」
「ちょっとぼやけてる感じがするわね」
「アリサの方は微調整するか、こんなんでどうだ?」
「グッド、丁度良いわ」

「んじゃ、そっちで動かせるようにするからな、俺に繋いであるから魔力の心配はするな」
「すごーい、ラジコンに乗ってるみたい」
「ぶん回すと目が回ったり気分が悪くなるから気をつけろよ?」
「りょうかーい」

 サーチャーが部屋の中や廊下、外にでたり屋根の上に行ったり来たりしている。

「あ、今目を開くとこんな感じなんだ、アリサちゃん目を開けると面白いよ」
「おー、ちょっと変な感じするけどすずかの背中が良く見えるわ」
「コレいくつ?」
「2」
「コレは?」
「4、へー、何かゲームやってるみたい」

「使い方は色々だな、何個もサーチャーを使いながら走ったり飛んだり、やっぱり見えない所を見るのに便利だよ」
「今のでどれくらい魔力使ったの?」
「二人で約6000カウントかな?」
「6000!? たったアレだけの時間で!?」
「ずっと映像を送ってるし、動かす為に魔力繋いでるし、他にも色々と魔力食ってるな」

「わたし達のデバイスって何処まで溜められるの?」
「満タンで大体300カウントって所だな、お前達だけでやるなら写真一枚撮って観るくらいで魔力切れだろ」
「空飛ぶよりも損してるじゃない!?」

「何も無い所に魔力を放り込んで映像を持って帰るんだぞ? デバイスから離れたら消費するのは当たり前だろ」
「じゃあ、一番長持ちする使い方って?」
「『足を早く』だな、次が『力を強く』だ、押したり持ち上げたりしている間だけ消費するし」

「だったらバリアジャケットは?」
「本物だったら億とか兆の世界だからなあ、俺が設定してるのは着ている服が丈夫になる程度だし」
「……なのはなら出来るの?」
「俺よりも強いからな、さて説明を続けるぞ、此処にロープと鎖がある」

 ジャラリと鎖が鳴る。

「何処から出してるのよ!?」
「魔法で空間を弄ってるんだよ、布団だって出せるぞ?」

 寝袋に毛布、敷布団、枕に湯たんぽ……等々。

「出さなくていい、もう出さなくて良いから!!」
「ああ、ユーノ君の匂いが……」
「……さて、話を戻すが、アリサ両手を出せ」
「はい」
「ロープと鎖を巻くぞ、コレで『外す』『解く』『開ける』のどれかで良いんだが、こうするとな」

 俺はアリサの腕に巻いたロープと鎖を握り締めると魔力を籠めて融合、円にして外れなくした。

「開ける事も解く事も出来なくなった時は『壊す』とか『切る』でなんとかなる」
「『壊す』」

 アリサの声に反応して鎖とロープが弾ける。

「『壊す』は結構魔力食うから『切る』で節約する事も出来るな、後は『ずらす』ってのもある」

 鎖の一つに魔力を籠めて手品の様に一個だけ引き抜く。

「マジで『種の仕掛けもございません』ってか、コレは魔力が桁違いだから止めといた方が良いがな」
「『ずらす』って言うのやらせて」
「ほい、魔力繋いだぞ」
「よし!」

 アリサとすずかが鎖をプチプチと千切ってバラバラにしていく。
 今度は鎖を元に戻したりして遊んでる。

「遊んでる所で悪いがコイツを見てくれ」

 一本の角材を取り出して二人に見せる。

「コレに鎖を『ずらす』もしくは『入れる』」

 角材に鎖が吸い込まれて、バキンっと音を立てて角材が折れて中に鎖が見えた。

「コレを人にやったらどうなるか分かるか?」
「危ないよ!?」
「死んじゃうんじゃないの!?」

「もちろん、頭の中とか心臓にやったら死ぬな、気を付けろよ?」
「気を付けろって、危なくて使えないじゃない!?」
「時と場合を考えて使えば問題ない、やったらどうなるか? って考えるのは大事だぞ?」
「思ってたよりも危ない事ばっかりだね」
「まあ、基本は『丈夫な服』と『足を早く』ぐらいで『力を強く』と『消える』で問題無いと思うけどな」

「傷を治したりは出来ないのかな?」
「出来ない事はないけど、結構魔力食うぞ? それに爪が剥けても元通りになる訳じゃないし、血が出なくなるだけだな」
「どれくらい魔力を使うの?」
「あの時の傷で一つや二つ治したら魔力切れだな、治すよりなのはを呼んだ方が良いぞ?」

 前にちょいとした事件があった、そして色々あった、そりゃあもう色々な。

「ねえ、このデバイスくれるのって、あの時のせい?」
「……そうだな、大正解」
「……そっか……ありがとうね」
「わたしからも、ありがとう」
「……さて、明日は月曜日だろさっさと寝ちまえ」

 散らばった木片やら鎖を魔法空間に突っ込む。
 うむ、綺麗に片付いた。

「一緒に寝てくれるんだよね?」
「……空き部屋があったよな?」
「アンタの為に泊まりに着たんだから、真ん中に寝なさい、すずかと半分こよ」

 袖を引っ張られる……しかたないか。

「へいへい、お姫様、煮るなり焼くなり好きにして下さい」

 魔法空間から毛布を取り出して真ん中に寝る、何やらすずかが危ない発言をしていたような気がするが何も聞こえなかった。 聞こえなかったんだ。 

 

捜索開始しました

 早朝、何か俺の上に乗っかってる。
 アリサかすずかか? だが二人とも俺の左右にいるし。
 毛布を捲ってみると全裸のクアットロが居た。

『おい!』

 ゴスっ!! 良い感じにチョップがクアットロの頭にめり込んだ。

『あう、おはようございます、マスター』
『おはようじゃねえよ』
『昨日はお楽しみでしたね?』

 ゴスっ!! 二発目のチョップがヒットした。

『あう、暴力反対です、クアットロちゃん泣いちゃいます』
『何で此処に居るんだよ、不法侵入だぞ!』
『チンクちゃんと一緒に寝てたんですけど……マスターが恋しくて』
『我慢しろ』
『そんな、殺生です、お傍に置いてください』

『時と場所を考えろって言ってるんだ』
『時と場所と簡単エロ?』
『変な聞き取り方するな、耳まで腐ったか!!』
『クアットロちゃんは生まれたてです、どこも腐ってません、全部マスターが食べてください』
『ロッテから聞いた事は全て忘れろ! そして服を着ろ、出かけるぞ』
『朝からデートだなんて感激です、夜なんて待てません、さあ、愛し合いましょう!!』

 ゴスっ!!

『人様の家のベッドで何やらかす気だ!!』
『それはナニを』

 ゴスっ!!

『意味が分かってても分かって無くても二度と使うな!』
『マスター、クアットロちゃんお馬鹿になっちゃいます、もう止めて下さいぃ』
『さっさと着替えて買い出しに行くぞ』
『はいぃ』

 クアットロと二人で食材を買い揃えて拠点に戻る。
 高町家からなのはの魔力を感じたが、とりあえず放置しておく。
 拠点ではロッテがソファーに寝ていた。
 ベッドが来るの今日だっけ? 悪い事したなぁ。

 食器から見て昨日は出前にしたのか。
 冷蔵庫を見ても使えそうな食材は無いというか、水と酒ばっかじゃねえか。
 リーゼアリアも本局勤めだからココも拠点のひとつに過ぎないんだろうけどさ……。
 まあ良いや、一週間はこっちに残るし食材も消費できるだろ。

『マスター、お手伝いする事ありますか?』
『今日は食器を並べてくれるだけで良いよ』
『はいな』

 買って来た食材で朝食を作り残りはラップして冷蔵庫に放り込む。

『んじゃ、食うか、いただきます』
『いただきます』

 箸の使い方が分からないのか、クアットロがおろおろしている。

『箸の使い方はこうだ』
『――解りました』

 早速器用に使い始めた、この辺りは流石と言うべきか。

「あー、お帰りユーノ」

 ソファーからロッテが起きた。

「ただいま、ソファーに寝かせちまって悪かったな」
「いや、いいよコレくらい、酒臭い奴が一緒に寝たら迷惑だろ」
「俺は気にしないがチンク達は気にするかもな」
「まあ、ベッドが届いたらゆっくり寝かせて貰うよ」

「了解、朝食作ったが食うか?」
「今は食欲が無いから止めとく」
「そうか、冷蔵庫にも入れてあるから後で食べてくれ」
「あいあい、頂くよ、さて、シャワーでも浴びてすっきりするかね、一緒に入るかい?」
「遠慮しておく」

「そうかい、私は何時でも良いからね」
「はいはい」
「クアットロちゃんは今直ぐにでもッ」

 ゴスっ!

「飯は大人しく食え」
「YES,マスター」
「おはようございます、マスター」
「ああ、おはよう」

 目を擦りながら現れたのはチンクだ。
 大きなシャツをパジャマ代わりにしてるせいで肩まで見えてる。

「服とか日用品も買いに行かないとな」
「いえ、バリアジャケットを着れば良いだけですから」
「何処かで聞いた台詞だな、とりあえず、朝飯を作ったから食え」
「はい、いただきます」
「箸使えるか?」

 チンクに向けて箸を開いたり閉じたりして見せる。

「……覚えました、大丈夫です」
「姉妹揃って流石だな」
「いえ、コレくらいなら問題なく」
「おはよございます、マスター」
「おはよう、ドゥーエ、朝からその格好は刺激的だな、目のやり場に困る」

 シャツ一枚でうろつくなよ。

「マスターにでしたら問題ありません、脱ぎましょうか?」
「止めてくれ、マジで」
「遠慮しなくても良いんですよ?」

 後頭部と肩に胸を押し当ててくる。

「子供相手に変な事しないでくれ」
「都合の良い時だけ子供なんですね」
「腕に力を込めるな、さっさと飯を食え冷めたら不味くなる」
「はい、マスターの言うとおりに」
「クアットロちゃん負けませんわ!!」

 キッ、とクアットロがドゥーエの胸を睨んでるが触れないで置こう。

 朝食も終わり、昨日割り出したデータに目を通しておく。

「こっちがあたしが調べた海鳴で潜伏できそうな場所と、こっちがクアットロが絞った捜索図」
「結構絞られてるな、どう言う基準でやったんだ?」
「此処の通りと此処の通りはカメラが設置してあって逃走前まで映像を遡りましたが、それらしき人物も車両も無し、車両照会からも当たってみましたけど殆ど白でしたわ」
「……あと数日もすれば海鳴の人脈全部覚えられるんじゃないか?」
「それくらい余裕ですわ、もっと褒めてください、マスター」

 クアットロのスペックを考えるといつまでも海鳴に置いとく訳には行かないな、レリックの捜索もあるし……どうするかな。

「……ところで、コイツを見てくれ、どう思う?」

 以前サーチャーで記録したデータを表示する。

「コレは?」
「前回海鳴に来た時にテロ騒動をやらかした馬鹿どもだ」
「……あら~、あらあら、チンクちゃんコイツ覚えてます?」
「ああ、前に見た事がある、私達を馬鹿にしていた」

「マスター、今この方はどちらに?」
「仕事が出来ない程度に潰して、こっちの収容所にいる筈だが……魔法関係者なら甘かったな」
「あら? コイツ大通りでドライブなんかしてますね?」
「収容所の方は?」
「結構なお金が支払われて仮釈放されてますわ」
「テロで仮釈放ってどうなってるんだ?」

「お得意様は管理世界でも大きな会社やってるみたいですね、聖王教会にご報告かしら」
「ドゥーエ、高町家から護衛始めてくれ」
「わかりました」
「保育園どうするかな、あいつ等バラバラだから暫く休ませた方が良いか?」
「マスター、奴等の拠点判りましたわ」
「おー、早いな、どこだ?」
「このレジャーランドの系列でこの施設ですわ、サーチャーを向かわせましたけど対策されてます」
「真っ黒か」
「ええ、それと衛星軌道上からの過去データを漁ってみたらこんなものも」

 数台のトラックに聖王教会のバッグとレリックが収められた箱が四つ。

「運び込んでるな」 
「ガジェットの部品らしき物も確認できますわ、ドクターの研究を押さえてるみたい」
「……不味いな、現状で投入できる戦力が一人しか居ない」
「聖王教会からのお返事を待って作戦会議ですわね」
「あまり頼りたくはないんだがな」
「……あのマスター、クアットロちゃんにご褒美は貰えますか?」

 こちらを見つめるクアットロに、全力で尻尾を振っている犬が見える。

「……何が欲しい?」
「マスターの熱い口づけを!!」
「……口づけは無理だがスキンシップはたっぷりしてやろう、着いて来い、では作戦会議はこれまで、聖王教会からの返事待ちだ」
「キャー、クアットロちゃんはこれから大人の階段昇っちゃいます~」

 クアットロと手を繋いで部屋に入った後、後ろ手に鍵を閉める。

「あの、マスター……」
「ベッドに座ってくれ」
「……はい」
「こうしてゆっくり話すのは初めてだな」
「……はい」
「ご褒美だけどな、今はコレで勘弁してくれ」

 クアットロを胸に抱きしめてそのままベッドに押し倒した。

「次の予定が入るまでずっとこうしてよう……嫌か?」
「……いえ、このままが良いです……ずっとこのまま……」
「……クアットロ?」
「……」

 暫くすると寝息が聞こえてきた。
 俺も寝るか、朝っぱらからクアットロに起こされたせいで微妙に眠いしな。
 次の予定なんて夕方ぐらいまで来ない方が良い、グッスリ眠りたい。
 魔法で毛布を取り出してクアットロと二人、夢の世界へ繰り出した。 

 

彼女達が目覚めました

 ユーノにデバイスを貰ってから次の日、保育園であたしは一人で人気のない場所に隠れていた。
 あたしは子供が嫌いだから……いつからそうだったのかはもう忘れた、自分勝手に大声で騒いだり静かにできない。
 そう言う子達を見てると、どうしようもなくイラつく。


[今カウントいくつ?]


 すずかからデバイスに届いたメールを見てカウントを確認すると72。


[72よ、どうかした?]
[減っちゃったの、今カウント8でもうすぐ魔力ゼロだよ]
[空でも飛んだの?]
[違うの、朝起きた時は43はあったんだよ、それが保育園に着いたら半分になってて]


 もう一度カウントを確認すると77……増えてる?


[今確認したら77になってた]
[ええ!? こっちはもう4だよ!?]
[壊れてるかもしれないから、帰ったらユーノに見て貰ったら?]
[うん、そうするね]


 お昼過ぎ、またすずかからメールが届いた……魔力切れてなかったんだ。


[28まで回復したよー、何でだろう?]
[わたしのは68まで減っちゃった、全然魔法使ってないのに]
[15、いきなり減っちゃった!?]
[何やったのよ!?]
[わかんないよ、どんどん減ってる、また連絡するね]


 ……どうなってんの?
 デバイスのカウントを眺めながら歩いてるとカウントが回復していく。
 72,73,74。
 ふと辺りが暗くなり日陰に入った。
 74のまま止まったカウント。
 ……太陽の光を当ててみた。
 80.90,100,120,160。
 増えすぎでしょッ!?


[太陽の光よ、凄い勢いで魔力充電してる]
[やっぱりそうなんだ、ネフライトは太陽に当てると魔力無くなっちゃう]
[減るの?]
[日陰とか暗い部屋だと回復するみたい]


 ……コレって日が沈んだらどうなるの?
 次の日まで魔力が回復しないとか?
 あれ? 140.120.105!? 減ってる!?
 な、何で!? 太陽の光に当ててるのに!?
 一体何が……あ? 視界の片隅にある物が映った。


「……月、昼でも出るんだ」


 服の中に隠すとカウントが止まった。


[月の光に当てたら魔力が減ったわ、デバイスの名前、ブルームーンってそう言う意味かしら?]
[わたしの方は減るだけだよ]
[家に帰ったら合流しましょ]
[今日はわたしがアリサちゃんの家に行くね]
[うん、待ってる]


 鮫島が迎えに来て家に帰る、昨日は昼から居なかったからウチで飼ってる犬達からの歓迎が激しい。


「今日は一緒に居てあげられるからね」


 さて、すずかを迎える準備をしなくては。


[今から向かうね、なのはちゃんとはやてちゃんも一緒だけど良い?]
[OK,OK]


 暫くするとノエルさんの車で三人がやってきた。


「いらっしゃーい」
「「「おじゃましまーす」」」
「みんなは先に上がっててな、わたしは車椅子のタイヤ拭いてから上がらないといけないから」
「いいよ、みんなで拭いちゃお、今拭く物を持って来るね」
「……ごめんな」
「こう言う時は、ありがとうって言うのよ」
「うん、ありがとな」


 はやての車椅子を拭いた後は部屋に直行。


「これがみんなの貰ったデバイス?」
「そう、なのはのがレイジングハート、すずかのがネフライト、あたしのがブルームーン」
「ネフライトは太陽の光に当てると魔力が抜けちゃうの」
「あたしのは太陽の光に当てると魔力が溜まるんだけど、さっき月の光だと思うんだけど、それで魔力が抜けそうになったわ」
「へー、普通のデバイスじゃ考えられない事ね」
「そうなの? レイジングハートはそんな事ないんだけど?」
「そりゃあ、なのははリンカーコアを持ってるからでしょ、二人とは違い過ぎるわよ」
「何が違うって言うの? リンカーコアって何の事?」
「……そこから説明か、ユーノ君ちゃんと教えてないのね……良いわ、ちゃんと説明してあげる、レイジングハート、手伝ってくれる?」

《了解》


 はやてがレイジングハートにお願いするとあたしの部屋が青空に変わった。
 下に見えるのは海鳴?


「これ、サーチャーを使ってるの?」
「半分は正解かな、なのはの魔力を利用して作った夢みたいな物ね」


 気が付けば、はやてがメガネを掛けてる説明好きなのかしら?


「説明を始めるわよ、リンカーコアって言うのは魔力を生み出す物で親子だからって同じ物を持っている訳じゃないの」
「それって親は持ってるのに子供は持って無いって事?」
「そう、生まれた時に決まっちゃうの、親がどんなに巨大な魔力を持っていても子供まで巨大とは限らないわ」
「なのはちゃんがリンカーコアを持ってるって事は、桃子さんは魔法使いなの?」
「さあ? どうかしら? ユーノ君が言うには違うらしいけど、リンカーコアを叩き起こせるかもしれないけど、怖いからやらないそうよ」
「危険なの!? なのはは大丈夫だった!?」
「うん、大丈夫だよリンカーコア暖かいし」

「話を戻すわよ、普通デバイスって言うのはリンカーコアから生まれる魔力を上手く扱えるようにサポートする道具なの、
だから太陽の光に当てたりして魔力を貯めるなんて、効率が悪くてやる意味なんて無いんだけど」

「効率が悪いって、普通はそんな事しないの? なのはちゃんみたいにリンカーコアを持ってない人はどうしてるの?」
「リンカーコアを持ってない人達はデバイスなんて持ったりしないそうよ、凄いお金掛かるんだから」
「え!? 高いのコレ!?」
「安いのもあるでしょうけど、感覚的には銃みたいなものよ、魔法使いのお巡りさんはみんな持ってるみたいだけど」


 銃って、そんなに危ない物だったのこれ!?


「ちょっと脱線したけど、ユーノ君の話だと三人に渡したデバイスは向こうでも最新式の技術らしいから、豪邸の二件や三件買えるんじゃないかしら?」
「……どうしよう!? 返さなきゃ!?」
「落ち着きなさい、もう貰っちゃったんだから返さなくていいわよ、ユーノ君も返却は受け付けないだろうし、すずか専用に調整してある筈だから他の人には使いない筈よ」
「うう、でも……」
「要らないなら壊すしかないわよ? 他の人に渡したら危険なんだから」
「……壊すくらいなら持ってた方が良いかな」
「そうしなさい、元々あんな事がまたあっても乗り越えられるように貰ったんでしょ?」
「……うん」

「さて、難しい話はコレくらいにして、ちょっと遊びましょうか」
「遊ぶって?」
「折角の仮想空間なんだから少しくらい遊ばなきゃ損でしょ、わたしとなのはでチームに分かれて対戦しましょう」
「え? でも、飛んだ事はあるけど攻撃魔法なんて習ってないよ!?」
「なのははレイジングハートから習ってるでしょ?」
「うん……まだ練習中だけど」
「なら充分ね、なのははアリサを、わたしはすずかを守りながら戦うわ」
「それって、あたしとすずかが上手く逃げなきゃいけないって事!?」
「そうよ、直線と誘導弾があるから、当たらないように気をつけてね」


 はやてが人差し指をあたしとなのはに向けると黒いテニスボールの様な物が三つ現れた。


「本気でやら無いと痛い目見るわよ?」


 はやてから撃ち出されたテニスボールがあたしとなのはの顔を掠って飛んで行った。


「ええーっ!? 早いよー!?」
「ちょっと!? 洒落になんないわよ!?」
「ほらほら、早く逃げるなり攻撃するなりしないと、当てちゃうわよ?」
「はやてちゃん、手加減してあげてー」
「誘導弾にも気を付けてねー?」

「キャー、どこ攻撃してるのよーっ!!」
「あはっはは、次はもっと派手なの行くわよー!」
「やめてー!?」
「なのはっ!! アンタも攻撃しなさい!! やり返せっ!」
「えー!? はやてちゃん早くて狙えないよー!?」
「すずかを狙いなさいよ!! すずかに当たれば勝ちなんだから!」

「え、でも」
「うひゃああ、早く撃ちなさい!」
「う、うん」


 レイジングハートが輝きだして杖の形になった。


「何それ!? かっこいい!!」
「なのはちゃん、すごーい」
「すずか、じっとしてなさい」

「ディバイン」
《バスター》


 桃色の魔力がすずかに向かって放たれた!!


「ほいっと」
「ば、バリアー!? ちょっと!? ズルイわよ!?」


 はやての手に現れた真っ白い壁がなのはの攻撃を止めていた。


「直ぐ終わったら面白くないでしょ? もうちょっと踊ってね? ほい」


 はやてが左手を一振りすると黒いテニスボールが十個以上振ってきた!?


「れ、レイジングハートお願い!!」
《イエス、マスター》


 桃色のバリアーが黒いボールを弾いて行く。


「……よし、あたしも本気で行くわよ、『消える』」


 コレではやての後ろに回り込めば……あれ!?
 すずかもはやてもあたしを見てる? え? ひょっとして、見えてる?


「うん、良く見えてるわよ?」
「何で!?」
「消えたのは本体の方で夢の中じゃ消えないわよ?」
「ええ!? それじゃ戦えないじゃない!?」

「この空間設定したのわたしだし、四人でそこまでやったらなのはの魔力が無くなっちゃうわ」
「そ、それじゃ、最初から何時でも攻撃を当てられたの?」
「そうね、でもこう言うのは頭の切り替えが大事なのよ、いざと言う時ボーっとしてたらやられちゃうわよ? そうならない様に試してみただけよ」

「……うう、ユーノよ!! ユーノを呼んで!! アイツの魔力繋げて徹底的に戦うんだから!!」
「駄目よ、暇なら向こうから遊びに来るだろうけど、ユーノ君も忙しいからね」
「じゃあ、ゲーム!! ゲームで勝負よ!! コテンパンにしてやるんだから!!!」
「はいはい、がんばりましょーか」
「手加減したら許さないんだからね!!」


 結局あたしははやてに10連敗した……ユーノ!! 早く遊びに着なさい!! アンタと一緒にはやてをケチョンケチョンにしてやるわ!! 

 

ちょいと前の夢を見ました

 ガツン!! ガツン!! ガツン!! ガツン!! ガツン!!
 俺は今、バールの様な物を使い金属製のカバーを破壊している。
 ガツン!! やっと金属製のカバーにめり込んだ。
 中を抉じ開けて出て来たのは蒼く透き通った宝石、だが水銀の様に常温でも液状化してる。
 肺に吸い込まないようにして容器に移した後、また次の金属カバーを剥がしに掛かる。


「青と緑のデバイスもどきばっかりだな」


 俺が何をやっているかと言うと、墓場荒しではなく発掘のお仕事だ。
 遺跡調査が終わり、重要性が低いと判断された遺跡は資源を回収して一般に公開される。
 その資源を回収する段階のアルバイトとして俺はデバイスの工場跡を漁っているのだ。


「レイジングハートが見つからない」


 そう、この頃の俺はユーノ・スクライアとしてレイジングハートを手に入れなければならなかった。
 魔力資質が高いから遺跡調査にも重宝されるけどさ、そろそろ見つかっても良いんじゃないの? レイハさん。


「先に地球に行って魔力慣らした方が良いかなぁ」


 最近どうもスランプ気味だ、それなりに高価なロストロギアを見つけて何割かは入って来たので懐は暖かいのだが。


「ミッドに行って渡航許可を貰ってくるか、ついでに地上本部や本局の見学でもするかな」


 本来なら俺にはそんな事してる時間なんか無い筈なのだが……もうデバイスの発掘は嫌なんだよ。
 スクライアの連中にミッドに行きたい、管理外世界に行ってゆっくりしたい、と言ったらアッサリ許可してくれた……子供の一人旅だぞ? 大丈夫かこいつら?
 まあ、そう言う訳で、金になりそうな発掘品の中から個人的に拝借した物を含めてミッドに向かう事にした。


………………
…………
……



「此処が機動六課の建設予定地か……――――どう見てもマリンスポーツビーチだろ」


 水上オートバイや水上スキー、丸太のような浮きを引っ張る船にパラシュートに椅子をつけた奴とかが稼動していた。
 でっかい三輪車が海の上に浮いてる。


「あと十年ちょっとで本局か聖王教会に此処が買い取られるんだな」


 まぁ、俺の保身の為に此処は潰れて貰おうか。それもこれも地球に行って闇の書を何とかしないとな……面倒臭い。


「さて、気を取り直して士官学校でも探してみるかね」


………………
…………
……


 管理局の地上本部から少し離れた所にその施設はあった。


「将来管理局に勤めてみたいんですけど、見学できますか?」


 受付のお姉さんに営業スマイルと魔導師登録を提示すると、あっけなく見学許可が下りた。
 ……けど、この事態は想定してなかった。振り返ると小さいのに良い体格をした人が居た


「君一人? お父さんとお母さんは?」
「……今日は俺一人で見学だよ、綺麗なおねーさん」


 ――――何で士官学校にクイントさんが居るんだよッ!? あんた陸の人間だろ!?


「あら? 君いくつ?」
「黙秘します」
「今直ぐ補導しようか?」
「……これから見学するんで補導は勘弁して下さい」


 魔導師登録をみせて勘弁して貰う。


「ふーん、スクライアの子かあ……よし、おねーさんが案内してあげる」
「……クロノ・ハラオウン、此処に居ますか?」
「……ハラオウン君知り合いかな?」
「いえ、管理局で働くなら将来嫌な上司になりそうなので偵察に」
「あはは、いーねそれ、いいよー、一緒に見に行こうか」


 俺から差し出した手をクイントさんはニッコリ笑って繋いでくれた。


「――――血を、遺伝子情報を誰かに渡した事あります?」


 クイントさんが足を止めて俺の前にしゃがんだ。


「……――――何でそんな事聞くの?」
「研究所でそっくりな子供を二人見た」
「……どこの研究所で見たの?」
「転移魔法を失敗した時に変な施設に飛んだ、魔法が使えなかったから、どこか判らないくわしい場所を知りたい」


 真っ赤な嘘だがな。


「……毎年健康診断は欠かしてないし私の遺伝子情報は調べれば判ると思う」
「少なくとも一定量のサンプルは必要になると思う、そこから割り出せない?」
「……確かめてみる価値はありそうね」

「嘘だと思わないの?」
「嘘だったら嘘で良かったねって笑ってやるわよ……その子、見たんでしょ?」
「……戦闘機人計画、アンチマギリングフィールドに気を付けて、特にレジアス・ゲイズって人には」

「……OK,お手柄よ、ユーノ君、それでかなり絞り込めるわ」
「……俺はレジアスの裏に居る人間に見つかりたくないので、お願いできますか?」
「うん、わかったわ、さて、クロノ君だっけ? 見に行こうか」
「はい」


 クイントさんが俺を肩車してローラーで走り始めた。


「ウイングロードだっけ? それも研究されてた」
「……――――そう、……ねえ、その子達どんな感じだった?」
「……そうだね、笑えば可愛いと思うよ……あんな研究施設じゃなければ」
「……――――飛ぼっか」


 ウイングロードが発生してその上を高速で走り始める。遠くの空に大きな衛星らしき星が見える。


「空を走るの好きなんだ……嫌な事忘れたりする時はこれが一番!!」
「リクエスト――――――カットバックドロップターン」
「おー、激しいのがお好き?」
「本職のを見てみたい」
「良いわ、見せてあげる――――しっかり掴まってて、舌を噛まないでよ?」


 ウイングロードが変化して捲り上がり、頂点で消失した。クイントさんと一緒に空中に投げ出される。


「これが、カットバックドロップターン」


 そのまま空中で回転して急降下、ウイングロードが再び発生して高速で着地する。
 うん、面白い視界だった。


「どうだった?」
「うん、生まれてから最高の体験だったよ」
「あはは、それはなにより……ってあら?」


 気が付くと地上に居た士官学校の生徒全員がこちらを見上げていた。


「あはは、ちょっと目立ち過ぎちゃったかな?」
「……早く降りましょうか」


 深く考えてなかったが、この中に転生者が居たら不味過ぎるだろ。
 この後、校長室に連行されたクイントさんを放置して、俺はクロノを発見する事に成功した。


「アレがクロ介か……小さいな」


 俺のストレートな呟きが聞こえたのか、遠くに居たクロノが周りを気にした。
 後ろの方でサポートしてるのがエイミィか……若いと言うよりは小さいな。
 一緒にデバイスのチェックをしてるのがマリエルだな、まだ試行錯誤の最中か。

 さてさて、見学もコレくらいにして渡航許可でも取りに行くかね。
 外に出る前に士官学校の中をぶらりと歩き回ってみたが、喧嘩を吹っかけてくるような転生者は居なかった。


「……居ないのか、それとも、この程度じゃ釣られないのか……まあ、どっちでも良いか、無害なら放置、放置」


 渡航手続きのカウンターで受付のお姉さんから旅の注意事項を受け、手続き終了までに時間が掛かるので街に出る事にした。
 デバイスの部品でも見に行くか? 本局の見学でも良いけど……時間掛かりそうだしデバイスだな。

………………
…………
……


 何故かデバイス街と呼ばれる所にアキハバラって地帯があるらしい。
 日本の文化が混ざってるとは聞いたが……何かの間違いでリインフォース・ツヴァイみたいな萌えデバイスだらけになったら怖い物があるな。

 ……数百単位で棚に陳列されるリイン、某ドールショップを思い出すな……そこに居た超迷惑な客も。
 ……いや、思い出すのはよそう、あの時の店員さんは可愛そうだった、うん何も出来なかった俺を許してくれ。

 一人どうでも良い記憶に浸っていると、前に三人組が見えた。クロノ、エイミィ、マリエルの三人だ。


「ほら、クロノ君、ファイトファイト、その程度じゃ荷物もちなんて出来ないよー」
「無茶を言うな! もう両手が塞がってるんだ、その上まだ何か買おうって言うのか!?」
「そりゃーねー、まあ、がんばりなよクロノ君」


 見事な荷物持ちだぞ、クロノ。



「それにしても、クロノ君が買い物に付き合って欲しいって言うなんて、珍しい事もあるもんだね」
「別に難しい事を頼む訳じゃない、母さんが今日帰ってくるから……少し労いたいだけだ」
「うんうん、クロノ君はお母さん大好きだもんね」
「っ……だから、そんなんじゃないって言ってるだろ!!」

「はいはい、感謝感謝、お母さんに感謝しないとね~」
「エイミィ!!」
「先輩、あんまりからかっちゃ悪いですよ」

「いいのいいの、クロノ君はコレくらいが丁度いいんだよ、最近難しい顔して変な事ばっかり考えてるんだから」
「クロノの『別に』は特別だからなー」
「そうそうって、あれ? 君誰?」


 さり気無く混ざったつもりだったが、早速バレた、まあ、当然か。


「俺? 俺はユーノ・スクライア、そこに居るマリエルさんがデバイスの腕が良いと聞いてね、どうだい? 資金を出すから俺のデバイスを弄ってみない?」
「……ねえ君? ユーノ君だっけ? お姉さん達をからかったら駄目だよ?」
「ふむ、コレとコレとコレあげる、後はコレが俺の魔導師登録で軍資金がコレだけ」


 今現在所持している発掘したレアパーツ全部渡して、レイジングハート改造用資金を見せる。


「コレだけやって俺の意思が伝わらないなら諦めるよ?」


 地球滅亡確定、やったね、俺は自由の身だ!!


「……先輩コレって古代ベルカのデバイスですよ、保存状態も良いし、メンテしたら充分使えますよ!?」
「この話を受けてくれないなら俺には無用の長物だし、あげる」
「スクライアって遺跡発掘の集団だったよね? 君はお使い? 何で一人なの?」
「まだ発掘してないんだけどフルメンテして欲しいデバイスがある、信用できる技術者に扱って欲しいだけさ、ブラスターシステムとかな」


 俺の出したキーワードに三人の顔付きが変わる。


「……君、どこでその話し聞いたの?」
「さて、どこだろう? 俺の依頼は今度持って来るデバイスをブラスターで収束砲を撃っても耐えられる様にして貰いたい」
「ブラスターでブレイカーを!? そんなの一流の魔導師でも無理だよ!? 一体何に使うの!?」


 小さく手招きして耳を寄せるようにジェスチャーする。


「――――数年後に復活する闇の書退治だ」
「お前ッ!! 一体何が目的だッ!! 一体何を知っているッ!! 何故僕達に近づいたッ!! 全部話すんだ!!」


 キレたクロノに襟を掴まれて宙吊りにされる……回りに注目されてるぞクロ介。


「クロノ君、落ち着いて!! マリー、場所を移すよ!」
「はい!!」


 少し離れた公園に拉致られた。さてさて、どう転ぶかな? 失敗して全部終わると楽なんだけどな。 

 

カレラに協力を取り付けました

「さあ、全部話せ!!」
「そう思うならまずは襟から手を離せ、未来の艦長殿」
「逃げようなんて考えるなよ? お前の事は今エイミィが調べてる」
「クロノ君、魔導師登録も本物、この子本人だよ、お金もちゃんと支払い元から裏が取れてる」
「アレを相手にするんだ、自分の命に値段は付けられない、その金額が俺の本気だ」

「アレの主を知っているのか?」
「知っている、それで依頼は受けるのか? 受けないのか? 聞けば戻れんぞ?」
「コイツ!」
「クロノ君!!」

「受けないのなら俺自身が切り札のデバイスを弄らせて貰う、もちろんブラスターどころかブレイカーを撃つのが精々だ、世界一つ、闇に呑まれるのを眺めると良い」
「……良いだろう、話を受ける」


 ……急に落ち着いた? 冷静になったと言うよりは、表に怒りを出さなくなったな。


「マリエルさん本人の口から聞きたいな」
「わかりました」
「マリー!? 良いの――――クロノ君の事知ってるの!?」

「……知ってますよ、有名な事件でしたから、だからこの依頼受けます」
「よろしい、では全額受け取ってくれ、パーツも好きに使ってくれ、次に持って来るデバイスに全力で取り組んでくれれば良い」
「……でもブラスターシステムには出力の問題があってまだ改善されてないんです、その点はどうにもする事ができません」

「構わんよ、足りない分はカートリッジシステムで補えば良い」
「カートリッジシステム!? ベルカのアレですか!? アレは制御が難しくてブラスターとの相性だって問題点がいくつ出るか判らないんですよ!?」

「今直ぐ完成させろと言っている訳ではない、復活まで数年ある、それまでに最低でも収束砲を撃てるようにして貰いたい」
「魔導師への負担だって倍になりますよ? それこそ命そのものを削る負荷がかかります」

「構わんからヤレ、第一使うのは俺じゃない、俺と同い年の女の子だ、誰かの為だと言ったら喜んで命を捨てるだろう」
「……君、本気で言ってるの?」
「もちろんだ、俺と同い年にしてAAAクラスの女の子だ、俺が用意できる最高の人材だ、彼女で駄目なら世界が一つ消えるくらい、いや、世界が終わっても仕方ない」

「……話を戻せ、アレの主は誰だ?」
「とある世界で普通に女の子をやってるよ、アレの存在も魔法の存在も知らずリンカーコアから魔力を吸われ続けて下半身が麻痺している、いずれ心臓に達して闇に飲まれるだろう」

「……救う方法はあるのか?」
「ある、その切り札の一つが収束砲を扱える女の子と依頼したデバイスだ、他にも必要なものが沢山ある、人材も条件も、山ほどな」
「どうやってアレを止めるつもりだ?」
「ブレイカーを扱える者を最低でも三人、本体を摘出してアルカンシェルで完全消滅……それが確実にアレを止める方法だ」

「……勝率は?」
「ゼロではない、それだけで充分だ……そして今アレの主をお前の師匠二匹が監視している、少女ごと凍結封印する為にな」
「……」
「……クロノ君?」
「……大丈夫だ、自分がどうしようもなく子供だと言う事を思い知らされただけだ」

「解っていると思うが、一時的な感情で行動を起こしてくれるなよ? 少女ごと失踪されたら探しようがないからな」
「解っている……お前はこれからどうするつもりだ?」
「数日中に様子を見に渡航する、向こうの魔力にも慣れなきゃいけないしな」

「……僕も連れて行けないか?」
「……現状では無理だ、お前の師匠を何とかしないと計画が破綻する」
「……そうか」


 クロノの表情に影が差す……その痛々しい表情にエイミィが何とかしようと気分を切り替えていた。


「ねえ、クロノ君、依頼を受けたんだからこの子はもう私達の仲間だよね? 歓迎会をしようよ、リンディ提督にも会わせよう? この子には味方が必要だよ?」
「……そうだな……あの人が関わってるなら、母さんの力が必要になる……」
「……荷物持とうか?」


 お呼ばれするのに手ぶらと言うのもな。


「あー、いいよいいよ、お客様は招待されるのがお仕事なんだから……ちょっと待っててね」


 エイミィが何処かへ連絡してから暫く経つと、赤いテスタロッサに乗ったリンディさんが到着した。


「ただいま、クロノ、お久しぶりねエイミィ、元気にしてた? あらマリエルも一緒だったの?」
「おかえり、母さん」
「お久しぶりです」
「ご無沙汰してます」
「……初めまして、今日三人と友達になったユーノ・スクライアです」


 魔導師登録をリンディさんに見せる。


「あら、スクライアの? こんな小さい歳で魔導師なんて、将来有望ね」
「クロノの部下になると、物凄くコキ使われそうなので管理局入りを考えてる所です」
「あらあら、どうしましょう? クロノ、優しくしてあげなくちゃ駄目よ? 貴方がお兄さんなんだから」

「年上なのは確かだが――――納得が行かない!」
「えーと、立ち話もなんですし、さっさと荷物乗せちゃいましょう? 今日の料理は楽しみにしてて下さいよー、張り切っちゃいますから」


 エイミィが車に荷物を詰め込んでいく。


「俺助手席が良いです」
「そう?」
「あの中に割り込む勇気なんて、とてもとても」
「確かに両手に花ね、頑張りなさいクロノ」

「母さんッ!! ……覚えてろよ!!」
「悪い、俺の頭の中は楽しい事でいっぱいなんだ、覚えてられない」
「はーい、クロノ君、後部座席詰めるからもっと寄って来て」
「……わかった」


 暫くミッドの市街地を走ってると一軒の家に着いた。
 一階建てだが庭が広く、綺麗に模様まで手入れしてある……芝生の刈り方がプロ過ぎるし業者を雇ってるなこれ。


「はい、到着よ、遠慮なくゆっくりしていってね」
「お邪魔します」


 手荷物をいくつか持ってリンディさんの後に続く。


「お手伝い偉いわね」
「コレくらいは当然です」
「……そう」


 ……何だろうな? 何か違和感を感じる。


 エイミィ達が台所に篭ってる間、リンディさんと二人っきりになった。


「おばさんと少し大人のお話しをしましょうか?」
「貴女がおばさんだと定義すると、倍生きていると思われる人が凄い事になるので止めて下さい」
「あら、そこに反応するの?」
「精神年齢なら貴女の何個か下ですよ俺」

「……魔導師登録は本物だった筈だけど?」
「別の世界の記憶があるんです、この世界は十年先までならいくつか言い当てられます、本当に少しの事だけなら」
「証明できるかしら?」

「明日の天気を言ったとしても、明日になるまで判らないでしょう? 貴女の孫の名前とか」
「……そうね、そうだわ……。 でも何か分かり易い物は無いかしら?」
「明日の朝、太陽が昇るだろうとか、誰でも知ってる当たり前な事を言っても意味無いんじゃないですか?」

「ブラスターシステムについて知っていたそうね? 一体どこから聞いたのかしら?」
「……何処だって良いでしょう? 十数年後ジェイル・スカリエッティによって地上本部が襲撃されると言って誰が信じます?」
「ジェイル・スカリエッティと言ったら次元犯罪者の? 予言にしたって具体的過ぎじゃないかしら?」
「予言、予言ね、騎士カリムのレアスキルがどんな物かなんて価値あります? アレって……どうしました?」

「ユーノ・スクライア君」
「はい?」
「明日は私とデートしましょうか?」

「身長とか色々な物が足りないと思いますけど?」
「行き先は聖王教会よ?」
「……へー、騎士カリムに会えます?」

「もちろんよ、今日の宿はどうしてるのかしら? ウチに泊まって朝から聖王教会へ行きましょうか?」
「良いですよ、ロッサの魔法でも使いますか?」
「……ロッサ?」
「アレ? 騎士カリムに義弟さん居ないんですか? クロノの友達だった筈ですけど?」

「クロノのお友達にロッサって呼ばれてる子が居るけど、聖王教会とは何の関係もなかった筈よ?」
「……今のは忘れて下さい」
「クロノ、ヴェロッサ君に連絡入れて、明日聖王教会に行きましょう」
「了解」


 その後、料理が出来てご馳走になった……リンディさんは楽しく食事をしていた、クロノは言うまでもなく不貞腐れていたが。


 翌日、聖王教会、騎士カリムが待機している部屋まで何度も身分証明や持ち物チェックが行われやっと通された。


「初めまして、私が騎士カリムです」
「……リンディさん、この人は寝惚けてるんですか?」


 騎士カリムと名乗ったその少女はショートヘアー、と言うかシスターシャッハだろこの子。


「何か問題でも?」
「さっさと騎士カリムを出して欲しいのですが? シスターシャッハ?」
「……何処かで、お会いしましたか?」
「いいえ、初対面ですよ、お会いするのはコレが初めてです」
「……騎士カリムにどのようなご用件ですか?」


 シャッハの眼つきが更に厳しくなった……そりゃあ、こんな不振人物、リンディさんの紹介じゃなかったら近づけたくもないだろう。


「話が伝わってませんかね? 未来知識を売りに来たから高額で買い取ってくれって話ですよ、コレがその全てです収めて下さい」


 一枚のデータチップを取り出してシャッハに投げる。
 この時渡した未来知識が『ユーノ・レポート』などと名付けられて数々の事件を大量生産して行く訳だが、当時の俺は多少の悪用くらい構わんと軽く見ていた。


「検証に質問、何でもどうぞ、時間いっぱい待たせてもらいますから」
「……拝見させて頂きます、暫くお待ちください」


 シャッハが退室した後、部屋には俺とリンディさん、クロノとロッサが残った。


「……あの、そろそろ僕が何故此処に居るのか説明して欲しいのですが?」
「ああ、ヴェロッサさん、呼び辛いんでロッサと呼んでも良いですか?」
「ええ、どうぞ」

「どうも、簡単な話ですよ、俺が数十年先までの未来知識を一部持っていて、そこにロッサの名前があった、それだけです」
「僕の名前が、ですか」
「何なら見ますか? まずは自分の名前で調べてみれば良いと思いますよ?」

「……何処でそれを……と言うのは、おかしな事になるんでしょうか?」
「視りゃ早いからな、クロノ、念の為に準備しておいてくれ、俺の頭に何か制限が掛けられてるかもしれないしな」
「……話を聞く限り、ロッサが『思考捜査』のレアスキルを持っている、で間違いないんだな?」
「ご名答、ロッサの反応がおかしかったら直ぐに引っぺがしてくれ」


 ロッサが俺の頭に『思考捜査』をかけて数十分、変な拒絶反応もなく、俺はリラックスして少しでも簡単に覗ける様に心掛けた。


「……終わりましたよ、『ユーノ先生』」
「ふむ、何か分かったか?」
「……貴方の未来知識は大変危険です、貴方はそれをまったく理解していない事が恐ろしい」

「そうかい、俺はその気になれば何時でも投げ捨てられるからな、それで? 俺には何故ロッサが騎士カリムの義弟なんてやってるか知らないんだが?」
「……それは僕にも分かりません、今の僕には『家』もありますし『家族』も健在です……事件か事故でこれから失う可能性が高いですね」
「もしくは、俺が居る事で未来が分岐したって事だろうな」


 コンコンコンコン、お仕事的なドアノックが部屋に響き、シャッハと騎士カリムが入って来た。


「初めまして、私が聖王教会 教会騎士団 騎士 カリム・グラシアです」
「ユーノ・スクライアです、興味はお持ちいただけましたか?」
「ええ、大変興味深いレポートでした、何をお望みでしょうか?」

「ギル・グレアムとの闇の書に関する共同戦線の後ろ盾、ジュエルシード発掘にレイジングハート発掘の協力と言った所でしょうか、できればナカジマ姉妹の救出もお願いしたいんですけど?」

「……良いでしょう、お金だけ欲しいと言うのならお帰り願った所なのですが、この騎士カリム全面的に協力させて頂きます」
「おー、話が上手く行き過ぎて怖いね」
「これから『物凄く』忙しくなるので、覚悟してくださいね?」


 ニコニコと微笑を向けてくるカリム……地獄への道連れを見つけた様な笑顔だ。


「さて、早速ですがヴァロッサ・アコースさん?」
「はい?」
「貴方の『家』の事でご相談があります、長くなりますので今日の所は解散と言う事でよろしいでしょうか?」
「ええ、連絡先はレポートに書いてあるので何時でも呼んで下さい」

 ……早速ロッサ『家』の事かよ、どんな不幸か知らないが幸多からん事を。 

 

それを始めの一歩にしました

 後日、聖王教会に呼び出された俺はシャッハと一緒に作戦会議室の一つに足を踏み入れた。

 中には複数の人間が居た、それも管理局の陸と海の人間、その中にはリンディさんやクロノ、ギル・グレアムにリーゼ姉妹、騎士ゼストにクイントさんも居る。
 シャッハに誘導されるままカリムの隣の席に座った所でカリムが会議開催の宣言をした。


「主役が揃った所で会議を始めたいと思います、今回皆さんにお集まりいただいたのは、地上本部の裏で勧められている戦闘機人計画についてです」


 ナカジマ姉妹についてか……なら何故? グレアムさんが陸の事件に呼ばれるんだ?


「クイントさんのDNA情報を元に事件を辿った所、アコース家から大量の資金が投入されている事が分かりました、本局グレアムさんからの情報提供に感謝いたします」


 ……ロッサの実家が資金提供ね、不幸の一端はコレか……裏付けをグレアムさんが取ってくれたと。


「……ロッサはどうしてる? 彼はこれからどうなる?」
「ロッサはグラシア家が引き取ります、無関係だったとはいえ彼には辛い決断でしたから……暫く時間を与えてあげて下さい」


 ……地球行った時の土産に翠屋のケーキとシュークリームでも持って行ってやるか。


「話を続けます、ロッサの捜索で違法施設の場所が判明しました、騎士ゼストの部隊と聖王教会騎士団で包囲した後、突入します」


 モニターにはとある研究施設の見取り図が詳細まで表示されていた。
 スバルとギンガが居る部屋がアレか……ん? 周辺の部屋に何やら特徴的な形をした壁があるな?


「目標の部屋にアンチマギリングフィールド発生装置らしき物があるんだが? 間違いないか?」
「はい、ロッサのレアスキル『無限の猟犬』でも潜入するのはギリギリでした、フィールド状況下で戦えない騎士と魔導師は近付かない様にして下さい」
「対抗策があるんだが参戦しても構わないかな?」

「……護衛にリーゼロッテさんとリーゼアリアさん、クイントさんを加えますが、よろしいですか?」
「わかりました、グレアムさんの護衛はどうするんです?」
「私はいざと言う時のバックアップだ、二人を任せたよ」
「……お預かりします」


 こうして、俺は突入部隊の救出班として参加する事になった。
 ゼストさんは研究員を押さえる強襲班、クロノもそっちだ。
 俺達はそれぞれのチームに分かれて作戦会議となった。


「それじゃ、救出班の作戦会議を始めたいと思います、リーゼさん達お二人は百戦錬磨の兵ですから具体案をお願いします」
「アタシ達の事は呼び捨てで良いよ、二人を同時に呼ぶ時はリーゼでね、作戦については前と後ろからの挟み撃ちに気を付ける位で部屋までは問題ないね」

「私達二人は使い魔だからフィールドの中だとかなり不利になる、護衛は部屋の前までだね」
「クイントさんも部屋の前で待機でかまいませんね?」
「そうね、ただでさえ室内だし、ウイングロードも使えないとなればフィールド内には入れない、行き帰りの足は任せて」

「では、クイントさんとロッテが先頭で突入、アリアと俺が後方への注意とサポートに回ります、部屋に着いて目標を救出後、速やかに離脱します、質問はありますか?」
「アンタのフィールド対策はどれくらい有効なんだい? 場合によっては作戦を中断して離脱するよ?」

「濃度にもよりますが通常でも数時間は軽く持ちます、移動できないのが欠点ですが、今回の作戦では問題なく使用できます、ご心配なく」
「わかったよ、お手並み拝見と行こうじゃないか」


 俺達が転移して現場に着くと研究施設の包囲は完了していて、北側から強襲班が攻撃を始めていた。


「救出班より包囲班に通達、南から『壁を抜く』引き続き足止めよろしく」
「壁抜きって、アンタ何するつもりだ!?」
「昔らか言うじゃないですか、道は自分で開く物で、壁は撃ち抜く物だと『デバイス:デビルテイル』起動」


 俺の左手に蒼い手甲と頭には八枚の羽が特徴的なインディアンハットが装備された。


「それがアンタのデバイス?」
「そう、危ないから鎮圧するまで離れてて、一番から八番まで起動……」


 八枚の羽形デバイスがそれぞれカートリッジをロードしながら雷を発生させながら魔法陣を描く。


「――――――収束砲てえぇえぇ!!」


 巨大な収束砲が緑色の光を撒き散らしながら研究施設の壁をぶち抜き、中腹まで巨大な穴を開けた。
 八枚の羽から空になったカートリッジがバラバラと零れ落ちる。


「……な、何なんだい!? そのとんでもないデバイスは!?」
「管理局の魔法技術だと十年先まで無理だったんだけど、探してたデバイスが『もどき』しか出なくてさ、捨てるのもなんだし再利用してるだけ」

「もどきって、アンタの探してるデバイスはどれだけ化物なんだ!?」
「今の一撃を放つのにカートリッジ八発ぐらい使ってたよね? 魔力のロスが酷すぎるんじゃないかしら?」

「……まあ、アリアから視たらそうなるよな、チャージが最速な分、無駄に魔力消費するし……何より、ロマンデバイスだからなコレ」
「ロマンデバイス? 物好きが趣味で持つ無駄に派手な効果だけを生むアレかい? それにしちゃ実用性高過ぎでしょ!?」

「超効率的な魔力馬鹿を、俺の師匠として崇めてるからだと思う」
「……アンタが誰の真似をしてるか良く解ったわ、レポートは見せて貰ったよ、アンタも物好きだね、アタシには考えられないよ」
「褒め言葉として受け止めとく……あちらさんの混乱は収まったようだ、反撃来るから離れてて、跳ね返すから」


 俺は変身魔法を使って大人の姿まで成長し、抜いた穴に向かって歩き始める。
 穴の向こうから実弾や魔法弾が雨アラレと降って来る、それを展開した八枚の羽が雷を発生させて実弾を受け止め、魔力弾は強制的に霧散させる。


「……魔力弾の威力から見て、Bクラス以下ばっかりだな、AAぐらいは居ると思ったんだが、さてお返しだ『マジックカウンター』」


 敵弾を散らしていた羽が霧散した魔力を収束をし巨大な魔法弾を作り上げた。
 仕組みとしては劣化版スターライトブレイカーと言ったところだな。
 次々と敵弾を吸収してデカくなる魔力弾に敵は撃つのを止めて壁に隠れた。


「さて……コレが直射砲だと誰が言った?」


 発射された特大魔力弾が穴に潜り込んだ所でピタリと止まった、最初っから誘導弾だよ。


「爆散」


 大量の十字手裏剣に変形した魔力弾が室内で炸裂した。


「――――無茶苦茶だ!? 敵の魔力弾吸収したり、誘導弾の形をワザワザ十字型に変えるなんて無駄過ぎにも程がある!!
 アレだけの魔力量込められるなら普通に撃って着弾させた方が効率的でしょうが!?」
「ロマンデバイスに何を言ってるんだか」

「実戦で使うなって言ってるのッ!! もっと真面目にやらんかッ!! それに何だその姿は!? 何で大人なんだよ!?」
「いくら敵とは言え子供の姿を撃たせる訳にはいかないでしょ? 管理局の評判も悪くなりそうだし」

「うッ!? で、でもな、さっきから収束を連続で使い過ぎだぞ、本体は子供なんだから後遺症が残ったりしたら大変なんだぞ」
「心配ありがとう、このデバイスは魔力を倍でロスする変わりに負荷もデバイスの方で処理してるから、俺にはほぼ無害だよ」

「その技術を管理局に売ったらかなり儲かるんじゃないか?」
「このデバイスもどきが管理局で再現できるなら是非ともやって貰いたい物だね……製造技術消失してるっぽいし」
「……それ、ロストロギアじゃないだろうね?」
「組み換えはしたけど、ちゃんとデバイスの範疇です、所持許可もちゃんと局から下りてますよ」


 俺の魔導師登録とデバイス所持のデータを表示する。


「それよりも、此処からは室内ですから砲撃も限定されます、下手に壊してエネルギーの高い所に直撃したらどんな目に合うか、ロッテとクイントさんの出番ですよ、前衛はよろしくお願いします、後方は気にしないで下さい、遠慮なくぶっ放せますから」

「……アンタが後方をやりたがる理由はソレかい」
「前衛を女性に任せる最低野郎だと思いました? その通りですから認識は変えなくても良いですよ?」


 そう、数年後には、なのはにフェイトにはやてと、俺なんか鼻で笑える最強がポコポコ出て来るのだ……あ、何か鬱になってきた。

 それから後方は俺とアリアで殲滅しつつ、十字路に篭って撃って来る敵には十字手裏剣を放り込んで無力化した後、クイントさんとアリアが突入する。
 そろそろ例の部屋なんだが、さてさて、どんな敵が居るのかな?


「ユーノ、あの扉で最後だ、アタシ達は此処で待機して退路を確保する、頑張って来なよ」
「了解、既にカートリッジが五分の一になってるが気にしない方向で」
「おい!? 大丈夫か!? まだ十分チョイしか経過してないんだぞ!? 帰りはどうするんだ!?」

「大丈夫ですよ、最終戦を乗り切るには充分です、帰ったらパーティーでもしましょうか、あの子達も含めて盛大にお祝いだ」
「それは良いわね、準備は任せて、ロッテも手伝ってよね」


 リーゼ姉妹に見送られて、最後の扉を強制解除して中を見ると、一人の男がスバルを抱えてロングナイフを首に近づけていた。


「そこまでだ、妙な真似をするんじゃねえ、管理局の犬っころ、コイツの首が身体からオサラバするぞ」


 ギンガは男の足元で泣きながらスバルを見上げている――――蹴られたか。
 男の特徴はかなり筋肉質だが……山賊のボスって称号が一番ピッタリだ。


「まさかこんなガキ二人の為に大部隊で突入してくるとはよ、そのとんでもねえデバイスをこのガキに渡せ」


 突入する所を見ていたのか――――当然と言えば当然か。
 俺は近付いてきたギンガに『デビルテイル』を解除して渡す。


「要求は呑んだ、その子を離せ」
「馬鹿だろお前? 此処から抜け出すまでコイツ等は人質だ、まずはお前から死ねッ! 化物がッ!」


 男が放った魔力弾を正面から貰い、俺は吹き飛ばされた。


「回復されると面倒だからな、アンチマギリングフィールドを起動させて貰うぜ」


 部屋にフィールドが展開されると、俺の身体から変身魔法が強制解除されて子供の姿に戻った。


「――――ガキだと!? アレだけ好き勝手やってた魔導師がただのガキ!? ははっは、管理局ってのはそこまで屑かよ」
「いや、いやああああ」
「うるせえぇ、此処から出るぞ!!」


 男がロングナイフを鞘に戻してギンガを掴もうとした瞬間、その腕にギンガの抱いていた羽根型のデバイスが突き刺さった。


「うおおおおおぉおおお!? 馬鹿なッ!? デバイスが起動しただと、クソッ!? 抜けねえッ!! 離しやがれッ!!」


 激痛に耐えられなくなった男がスバルを床に落とた。


「あーあ、好き勝手やりやがって、手甲が駄目になっちまったじゃねーか」


 頭から血が垂れて来る、手甲が破損して破片でも当たったか。


「てめえ!? 生きてやがったか!? 何だこのデバイスは!? 何で魔力が消えねえ!?」
「丁寧に説明するとでも思ってんのか? そのままくたばれよ、糞野郎」


 デビルテイルから雷が発生して、そのまま男の意識を刈り取った。

 男が気絶してもアンチマギリングフィールドが解除されない……傷が治せないじゃないか。
 デビルテイルもピクリとも反応しない、カートリッジを使いきったか。


「二人とも大丈夫か? 何処か怪我してないか?」
「うん」
「だいじょうぶ」


 ……俺の血を見て、お前の方が大丈夫か? と言う顔は止めてくれ。


「あーあ、完全にイカレちまってるな」


 デビルテイルのカートリッジシステムは全損寸前。羽の方はカートリッジが空だがまだ使えるな。


「コレ、貰っとくか? お守りだ」
「おまもり?」
「そう、コレがお前達を守ってくれる、そう言うおまじないだ」


 デビルテイルの羽をギンガとスバルに一枚ずつ渡す、一時的にマスター登録もしたから、流れ弾の一発二発ぐらいは止められるだろう。


「さて、此処から出ようか、あったかいご飯とお母さんがまってるぞ」
「……おかあさん?」


 男の襟首を掴んで無理やり筋力強化で男を引き摺る、フィールドがなければ楽だったのに……男も擦り傷だらけになるから良しとするか。


「目標を保護、これより撤収します」
「了解、ユーノ一人をこっちに、もう一人はクイントに渡して、アリア、ユーノの怪我を見て」
「大丈夫ですよ、これくらい」

「ほら、動かないで良く見せて……傷口は綺麗ね――――はい、おしまい、暫くすれば傷も目立たなくなるわ」
「ありがとうございます」
「良いのよ、これくらいしか役に立てそうにないし、さて、行きましょうか」


 アリアが俺に胸を押し付けて手を回すと、そのまま抱き上げられた。


「え? 何ですか?」
「脳震盪がまだ残ってるでしょ? 無理したり魔力を練ったりしないで絶対安静ね」


 ニコリと微笑むが、顔が近い、顔が近いぞ、アリアの目が何か――――その眼に引き付けられ……。


 あ、コレって魔眼――――――




 ……目を覚ますと、病院のベッドに固定されていた。


「……何この状況?」
「おー、起きたかユーノ、ネボスケだな」
「ロッテ、此処は何処? この状況は何?」


 ベッドの傍に居たと思われるロッテが平常運転だった。


「此処は管理局の集中治療室さ、ユーノに何かあったら大変だからな、暫くは検査入院だ」
「今直ぐ帰ってからやらなきゃいけない事が山ほどあるんだが?」
「ん~? レイジングハートの発掘か~?」
「解ってんなら今すぐ拘束を解いてくれ」
「いや~、それは駄目だね、アンタの化物デバイス、調べさせて貰ったが、とんでもない代物だったね、他にいくつあるんだい?」

「いくつと言われてもな、廃品を適当に組み直しただけだから、あの程度ならいくらでも作れる」
「誰かに売ったりしてないだろうね?」
「俺専用に設定してやっと数字を叩き出せるんだ、誰かに渡したとしても無駄が多過ぎて扱えないだろうな」
「そうかいそうかい、それを聞いて少し安心した」
「で、これ外してくれ、ベッドから降りられないじゃないか」


 ロッテは俺の胸に手を置くと、ニコッと笑って見せた……目が笑ってない、縦になってるぞ。


「アンタが師匠と仰ぐあの子がアレだからね、デバイスから掛かる負荷を徹底的に検証したんだよ」
「……壊れた部品から検証しても意味無いだろ?」
「いやいや、アンタが正常使用したデータが残ってるから、そこから割り出したのさ、収束に関してはほぼ完璧に負荷が軽減されてる、本当に凄いよ」

「……暇潰しに色々と試してみただけだ」
「……だが、デバイスを八枚、いや手甲まで含めたら九機のデバイスを同時起動させた時の負荷は何だい!? 収束を軽減した意味が全然無いじゃないかッ!?」

「……まあ、そこらへんは試行錯誤の積み重ねだな、今日より明日って奴だ」
「負荷が抜けるまで退院は無しだ、もちろん入院中にデバイスを作る事も許可しない、これを破れば二度とデバイスを所持させないからな!!」

「……わかりました、せめて安静先は選ばせて欲しい」
「一応聞くが何処だい?」
「海鳴」


 ゴスッ!!

 ロッテの拳が俺の頭に落とされた。


「アンタ地球の魔力と相性悪いんだろ!? 負荷が抜けるまで絶対に地球には行かせないからなッ!!」


 ……こうして、事件は収束して、俺の入院は確定した……闇の書復活まで後何日ぐらいだ? 考えるの面倒くせ。 

 

入院しました

 ユーノです、入院中です、ユーノです……。


「はい、ユーノ、あーん」
「……あーん」


 しゃりしゃりしゃりしゃりしゃり……ごくっと。


「ごちそうさま」
「うんうん、沢山食べて元気になりな」


 リーゼ・アリアが仕事の合間を見つけては病室に遊びに来るようになった。
 入院してからはナカジマ家が襲来したり、騎士カリムがシャッハを連れて訪れたり、リンディさんとクロノ、エイミィ、マリエルの四人が遊びに来たりと、
 騒がしい日々が続いている。


 ……マリエルにデバイスのデータが渡ったらしく、『デバイス技術者ディスってんのか?』ぐらいの勢いでお説教された。
 『デビルテイル』はまともな負荷軽減が出来るようになるまでマリエルが預かる事になった……俺のロマンデバイス……。

 スバルとギンガに渡した羽根だが、二人のデバイスとして登録されて大事にしてくれているらしい。
 普段は髪飾りとして利用して、デバイスとして使用する時はカートリッジが最低三発必要だとかで、緊急時以外使用禁止となった、
 まだカートリッジの負荷でかいからな、子供の身体には負担がキツイだろうし。

 それと、二人してクイントさんにシューティングアーツを習い始めたそうだ、『弱い自分は嫌だ、助けられるよりも助ける人になりたい』だってさ。
 病室に来る度にクイントさんが二人が可愛かっただとか、俺に二人の兄になれだとか、ナカジマ家に引き摺り込もうとしている。
 全力でNOと言いたい、闇の書を放置して遊んでられる程俺の人生は明るくない……いっその事レポートを見せて諦めて貰おうか?


「まーた難しい顔をしてるなユーノ、今度は何を考えてるんだい?」
「……早く海鳴に行きたいなーって」
「……またそれかい、どんだけ海鳴大好きなんだよ?」

「……この前の作戦で三人一緒だったけどさ、はやての事どうしてたの?」
「気になるかい? あの子、また入院したからさ、病院側に手を回してある」
「病院側って……こっちの事情を知ってるのか?」
「まさか、聖王教会からの派遣だよ、夜天の書として考えれば当然の処置だとさ」


 ……聖王教会としての得か。


「……闇の書をバラした事、恨んでる?」
「……んー、最初は計画を台無しにしてくれた奴って憎かったけどね、アンタのレポート読んで、救われるって解って……終われるんだって」


 ポロポロと涙を零してロッテが泣いてしまった……その込上げる感情を俺は共感してやれない。


「何でユーノまで泣いてるんだ?」
「……もらい泣きだ、お前が悲しい話するから」
「……助けてくれるんだろ? この悲しみを一緒に終わらせてくれるんだろ?」

「……気が向いたらな」
「……まーた、そうやって誤魔化す」
「コホン、宜しいでしょうか?」


 声がした所を見ると、入り口に騎士カリムが資料を持って立っていた。
 ロッテが素早く散らかってるテーブルの上を片付ける。


「いらっしゃい、騎士カリム、今日はどのようなご用件で?」
「良いニュースと悪いニュース、どちらがお好みですか? まあ、貴方にとってはどちらも良いニュースでしょうけど」

「んじゃ、悪いニュースから」
「ナカジマ家に引き取られた二人の戦闘機人、そのデータが何者かにコピーされ持ち出されました」
「へー、流石脳ミソ、仕事が速い」

「私にとっては感心できる事ではありません、身内から裏切り者が出たんですよ?」
「ロッサに追わせてないの?」
「もちろん追わせてます……それでも掴まるのはスケープゴートでしょうけど」


 ……世の中そんなに甘くないってか。


「貴方にとっては良いニュースだったでしょう?」
「まあ、おかげさまでナンバーズが製作されるだろうからな」
「……さて、良いニュースに行きましょうか」
「ふむ」

「ジュエルシードが眠っている世界の特定に成功しました」
「……マジ?」
「大マジです、入院生活も大変だったでしょう? 早速行って貰いましょうか……今から」


 ……今、何て言ったこの人?


「いやいや、レイジングハートも発掘してないのに、ジュエルシード掘れる訳無いやん?」
「安心して下さい、聖王教会が全力でバックアップします、それに海鳴に落ちるまで危険性が確認されなかったのでしょう? 発掘するだけなら問題ない筈です」

「それでも護身用のデバイスとか装備を用意しないとだな」
「デバイスのデータは見せて頂きました、貴方は既にデバイス無しでAランクに届いてますよね? それも総合Aではなくて陸戦と空戦、それぞれAランク相当の実力です」


 ……今度デバイスにデータの自動消去機能でも付けるかな。


「それでもデバイスが無いのは論外でしょ?」
「往生際が悪いですね、聖王教会からの特別直行便に乗せてやるから、さっさと行けと言ってます」
「俺、発掘のアルバイトしかした事ないもん、ロストロギア発掘する技術も権利も立場も全然揃ってないもん」

「言ったでしょう? 全力でバックアップすると、と言うか、もうしてるんです、貴方が現場責任者で申請してあります、頑張って来て下さい」
「……レイジングハート探しに行かなきゃ、うん、悪い夢だよコレ」

「シャッハ」
「はい」
「発掘が終わるまで現場責任者の『護衛』をお願いしますね」
「はい、全力で『護衛』します」


 ……シャッハ・ヌエラ、この人は陸戦AAAだった筈、現時点で逃走可能か試してみたい所だが……たぶん無理だ。



 観念した俺は強制連行されて空港から出て遺跡がある島に着いた訳だが、
 ……何時まで経っても迎えが来ないし、連絡も着かないので直接待ち合わせのホテルに向かう事になった。


「あの、騎士ユーノ」
「俺は騎士になった覚えはないが、何だ? シスターシャッハ?」
「遺跡の発掘でしたよね?」
「ああ、遺跡の発掘だとも」


 俺達が今居るのはクレーターになった古代都市、その遺跡だ。
 きっと上空から見れば綺麗なミルキークラウンが見れるだろう。


「此処の何処が遺跡なんですか? 私には立派な観光地にしか見えないのですが?」
「……シスターシャッハ、君が遺跡と言う言葉の響きに何を想像したか知らないし、過去に聖王教会の仕事でどんな遺跡に行ったかは知らない
 だが、もっと現実を見るべきだ」

「現実と言われましても、何故そこら中に人が居て露天があって、ケーキとか街の模型とかお土産が売られてるんですか!?」
「安全性が確保されていて、多少なりとも美術的価値があるなら、地元の観光協会が黙ってる筈ないだろ?」

「それを一般的には観光地って言いますよね?」
「……認識の違いだな、卵が先かなんて話は後にして、さっさと現地協力者の所まで案内してくれ」
「……分かりました」


 シャッハのデバイスから場所を調べて、ナビゲーションに従って進んで行くと、巨大な観光ホテルが見えてきた。
 ……ミッドとか都会ならともかく、ジュエルシードが眠ってるような古代遺跡都市に建てるにはデカ過ぎないか?


「あのホテルが待ち合わせの場所ですね」
「……なあ、シャッハ」
「? 何ですか?」
「権利書関係の再確認と、此処から聖王教会までホットラインは何時でも繋げるか?」

「……何か気付いた事でも?」
「いや、いくら観光に向いてるからって、あそこまで巨大なホテルの建設許可が良く出たな、と思って」
「……調べさせて見ましょう」


 シャッハが通信を始めたが……さて、どうなる事やら。


 ホテルに着いて受付に色々と聞いて見たが、約束の人物は此処に居ないらしい。
 このホテルには系列店も無く、他に泊まれる場所も無い。


「シャッハさんや、急に話が胡散臭くなっていませんか?」
「……現地協力者の方にも相変わらずです、連絡が取れません」
「……聖王教会の騎士達を呼んで、遺跡周辺の立ち入りを禁止した方が良さそうですね」


 聖王教会相手に喧嘩を売るアホが居るとは思えんが、現状はかなりヤバイな。
 コレもジュエルシードの情報を教会に渡したせいか、スクライアだけで発掘してればこう言う事にはならなかった筈だ。


「おや、貴女はもしかして聖王教会のシスターではないですか?」
「はい、その通りですが、どちら様でしょうか?」


 小太りの男、『称号:成金』って所だな、金ぴかのスーツに指輪だらけの手、タバコ臭いし近付きたくないな。


「私はこのホテルのオーナーです、ジュエルシードのお話でしたら私が詳しい話を知っています、最上階のオフィスまで来て下さい」
「失礼ですが、私達はこちらで現地協力者と会う約束をしていますので」
「いえいえ、私が現地協力者に依頼して貴女達をお呼びしたんですよ、シスターユーノ・スクライアさん」


 俺は女じゃねえッ! こいつ、協力者を拉致した張本人かッ!! しかも間違った情報を引き出してやがる。


『シャッハ、この怪しさ大爆発の成金を、今此処で捻り潰して良いかな?』
『何の証拠も無く取り押さえる訳には行きません、此処は話に乗ってみると言うのは?』
『シャッハは女性だから解らんだろうが、コイツ少女趣味だぞ、さっきからシャッハを見る目がヤバイ』

『嫌な視線は先ほどから感じては居るのですが、少女趣味とは何ですか?』
『……具体的には少女の唇を奪ったり、全身に唾液を塗り込んだり、更に酷い事をしたり』


 ……シャッハを中心にフロアの空気が、と言うか魔力と殺気を押さえてくれ!?
 うわ、成金がシャッハを見つめる度にシャッハからダイヤモンドダストがッ!?


「……分かりました、最上階のオフィスですね、伺います」
「それではご案内しましょう、その子はここで待ってて貰いましょうか」
「この子もお仕事できているので、一緒にお話をお聞きします」
「……そうですか、ではどうぞ」


 最上階に着くとそこはオフィスと言うよりは、成金自慢のフロアだった。
 無駄に高そうで、何が描かれてるか解らない絵や美術品の山。
 金ってのは有る所には有るもんだね。


「さあ、こちらに」


 成金が開いたドアの向こうには、ライトアップされた無色の水晶玉がセットされていた。
 近付いて確認してみたが、魔力の欠片も感じられない。美術品としての価値ぐらいしかないな。


「どうです、美しいでしょう? この私のジュエルシードを貴女が買い取って頂けませんか?」
「……どう言う事でしょうか? 私達はジュエルシードを発掘しに来たんです、売買の話に着いては既に決着している筈ですが?」
「いえいえ、こう言う事ですよ」


 成金を中心に魔法陣が展開された――アンチマギリングフィールド!?
 ……コイツ、AAAクラスの魔導師だったのか、この距離で魔力をまったく感知できないとは……魔力遮断系のアイテムを所持してるな。

 くそったれッ! バリアジャケットの装備を――


 ――パンッ!! 


 短い炸裂音と閃光、気が付けば俺は床に倒れて、背中と腹が燃えるように熱い、胸から込上げる大量の血を吐いた。
 成金の手には硝煙を上げる銃……フィールドを張った上での物理攻撃、理に適ってるな、大抵の魔導師はコレで即死だ。


「お子様には退場願おうか、此処からは大人の時間だ」
「貴方ッ!! 何て事をッ!! ……デバイスが起動しない!?」
「アンチマギリングフィールドと言えばご存知でしょう? 魔力の結合を阻害するフィールドです、デバイスの起動どころか魔力を練る事すらできませんよ」


 そう、フィールド内でのデバイス起動は難しい……だが、既に起動してあるデバイスなら話は別だ。


「……やってくれたなぁ、この糞成金がッ!!」


 腹に穴の開いた身体を無理やり魔力で強化して立ち上がる。


「馬鹿なッ!? 何故生きてる!? クソっ!!」


 銃の閃光と炸裂音が何度も響き渡るが俺にダメージは無い。
 緑色の魔力光で組み上げたシールドが全てを防いでいた。


「シールドだと!? 何故フィールド内で魔法が発動している!? 馬鹿な!? そんな馬鹿な事ある訳が……」
「カートリッジロード」


 『デビルテイル』の予備機、緑色の手甲が十二発のカートリッジを吐き出す。


「フィールドカウンター、ドライブ」 


 手甲が巨大な蜘蛛に変形して、足を大きく広げ、成金を蹴り飛ばした、そして俺とシャッハの上でテントの様に跨った。


「この結界の中ならデバイスの起動も魔力も練れる、回復魔法もオートで発動するから死ぬ事はない……出血が酷いや、後はよろしく」
「はい、後は任せてくださいッ!」


 シャッハのデバイスが起動したのを確認して、俺は意識を手放した。



 目を覚ますと一人の男が俺の顔を覗き込んでいた。
 ……この匂いとベッド、また入院生活か。


「おはようございます、『ユーノ先生』」
「……ロッサか、大丈夫なのか?」
「……大丈夫、とは言い難いのですが、ユーノ先生が大変な時に落ち込んでも居られないので」

「……そっか、アレからどうなった?」
「ジュエルシードは全て回収しましたよ、現地協力者も監禁されてましたが無事救出しました」


 ロッサの猟犬ならジュエルシードの発掘も監禁された人間の捜索も簡単だな、そして顔も見た事の無い現地協力者、乙。


「シャッハは?」
「無事ですよ、協会の仕事は暫く休ませました、ユーノ先生が起きるまで傍に居る、と聞かなくて」
「……まったく、自分の時間ぐらい自分の好きに使えば良いだろうに」

「……あまり女性の扱いが過ぎると、後ろから刺されますよ?」
「……その時は受け入れるさ、気付いてやれなくてゴメンってな」
「刺される前に何とかして下さいよ」

「無茶言うな、気付かないから刺されるんだろうが」
「もっと回りに目を向けて下さい」
「何を言わせたいか知らんが、俺は俺の為に生きる、周りを見ている暇なんて無い」
「……相当重症のようですね」


 起きたばっかりで頭が回ってないのだ、あまり難しい事を言わんでくれ。
 その時、壁を透過して黄色い魔力光が侵入してきた。


「騎士ユーノ、目を覚ましましたか!?」
「おー、この通りだ、しかし、シスターシャッハ、俺は騎士になった覚えはないし、入ってくるなら透過を使わず、ドアからノックして入って来い」

「……失礼しました……身体は大丈夫ですか?」
「本調子とまでは行かないがな」
「さて、僕はお邪魔みたいだし退散するよ」
「ああ、ロッサ無茶すんなよ?」
「……ユーノ先生に言われたくありませんね、それでは、また」


 ロッサの退出後、シャッハと二人になったが何も喋って来ない。


「何か食うか?」
「……いえ、今回の事は、申し訳ありませんでした」
「シャッハが謝る事なんて何一つ無いと思うんだが?」
「頭に血が上って態々敵の罠に掛かるなど……あそこは一度引いて、応援を待つべきでした」

「いや、頭に血を上げたの俺のせいだし、あそこで捕まえてなければ逃走してたろ、あの成金」
「……確かに、行方を眩ませて後でジュエルシードも回収して売り捌くつもりだったようです、何故あそこで私達の前に出てきたのか分かりません」

「……自分の性癖で自爆しやがったな」
「……どういう意味ですか?」
「……聖王教会のシスターで少女、ってのに悪戯してみたかったんだろ……後先考えられない程な」

「……凄く、複雑です」
「まあ、ある意味お手柄と言う事で」
「全然嬉しくありませんッ!」


 あーあ、完全に凹んでしまった。


「それじゃあ、シャッハ、今度お詫びとして、デートに付き合ってくれ」
「で、デートですか!?」
「ああ、テーブルマナーがちょっと不安でな、見てくれると嬉しいな」
「……わかりました、何処に出しても恥ずかしくない騎士として指導して見せます!!」


 ……何か要らない火まで付けてしまったような気がするが、まあ、元気になるならそれで良いだろ。
 一息ついたところで、遠くから廊下を走る音が近付いて来た――病院内は静かにしろよ。


「ユーノーっ!! あんた、またとんでもない負荷の掛かるデバイス勝手に使ったなーッ!!」
「ユーノ君っ!! こんなロストロギアみたいなパーツをデバイスとして申請しちゃ駄目ですよッ!!」


 ロッテとマリエルが部屋に乱入してきた……起きたばっかりなんだ、勘弁してくれ……。