オズのジュリア=ジャム


 

第一幕その一

                 オズのジュリア=ジャム
                第一幕  甘い蜜
 神宝達五人はこの時は普通に彼等の世界にいました、恵梨香のクラスに集まってそのうえで五人でお話をしています。
 まずはナターシャがです、四人に言いました。
「蜂蜜をパンにかけたらね」
「うん、凄く美味しいね」
「とんでもない位にね」 
 ジョージとカルロスはナターシャに笑顔で応えました。
「それだけでパンがお菓子になるよ」
「蜂蜜をかけるだけでね」
「そうなのよね、蜂蜜はね」
 恵梨香も言います。
「少しだけで物凄く甘いから」
「あの甘さはもう別格だよ」 
 最後に神宝が言いました。
「僕も大好きだよ」
「それでだけれど」
 ナターシャは四人のそれぞれの言葉を聞いてあらためて言いました。
「オズの国の蜂蜜を味わってみない?」
「そういえばあそこの蜂蜜はね」
「あまり食べていなかったかな」
「他の甘いものを食べても」
「蜂蜜は」
 四人もナターシャに言われて気付きました、そしてです。
 それならとです、神宝が四人に提案しました。
「それなら今日の放課後かお昼休みに行かない?」
「オズの国に?」
「そうしようっていうんだ」
「うん、どちらにしろオズの国にどれだけいてもこちらでは殆ど時間が経っていないし」
 このこともあってというのです。
「思い立ったらってことでね」
「それじゃあだね」
「放課後にでも皆でオズの国に行く?」
「時間があったらお昼休みにでも」
「そうするのね」
「そうしようよ、オズの国は美味しいものが一杯あるけれど」 
 それでもというのでした。
「蜂蜜はまだじっくり味わっていないし」
「それならだね」
「今日早速またオズの国に行って」
「そのうえで蜂蜜を楽しむ」
「そうするのね」
「そうしようね、じゃあ放課後かお昼に時間があれば」
 まさにその時にとです、こうお話してです。
 五人はお昼休みは残念ながら時間がありませんでしたが放課後に早速大学の方に行ってそうしてでした。
 時計塔の最上階にある渦からオズの国に入りました、そうして出て来たのはエメラルドの都の真ん中にある宮殿の正門でした。 
 そこに出るとです、早速門番の兵隊さんに声をかけてもらいました。
「やあ、今回もだね」
「はい、お邪魔していいですか?」
 神宝が五人を代表して兵隊さんに応えました。
「これから」
「君達はこの国の名誉市民じゃない」
「だからですか」
「何時でも来ていいんだよ」 
 兵隊さんは五人に笑顔で言うのでした。
「だからね」
「今回もですね」
「そうだよ、楽しんで行ってね」
「それじゃあ」
「今から門を開けるから」
「そうしてですね」
「オズマ姫と会ってね」
 まずはというのです、そして兵隊さんは門を開けてくれて。
 五人を宮殿の中に入れてくれました、五人はもう自分のお家みたいな宮殿の中を進んでいってでした。オズマのお部屋まで行きますと。 

 

第一幕その二

 オズマはにこりと笑ってです、五人にこう言ってくれたのでした。
「お昼に来てくれるかしらって思ってたけれど」
「すいません、お昼は時間が取れなくて」
 神宝がオズマに申し訳なさそうに応えました。
「それで」
「仕方ないわね、けれどね」
「もう僕達がここに来た理由は」
「蜂蜜よね」
「はい、オズの国の蜂蜜をじっくりと味わいたくなりまして」
「そのことも見せてもらったわ」
 宮殿にある鏡からです。
「だから貴方達が来てくれるのを待っていたのよ」
「流石オズマ姫ですね」
「もうご存知なんて」
 ジョージもカルロスも言うのでした。
「僕達が蜂蜜を食べたいって」
「早速ご存知なんですね」
「じゃあ今からですね」
「蜂蜜を使ったお菓子を食べさせてくれるんですね」
 恵梨香とナターシャも言います。
「これから」
「そうしてくれるんですか」
「そうよ、私達もね」
 オズマはにこりと笑って五人に応えました。
「楽しませてもらうわ」
「その蜂蜜を使ったお菓子を」
「今からですね」
「丁度ティータイムだしね」
 そのお菓子を楽しむ時間だというのです。
「一緒に楽しみましょう」
「すいません、いつも」
「思い立ったらお願いばかりして」
「やっぱり図々しいですよね」
「今更言うのは何ですが」
「そうですよね」
「そういうことは気にしなくていいのよ」
 オズマの温厚な言葉は変わりません。
「だから皆で楽しみましょう」
「はい、それじゃあ」
「今から」
「宮殿に行きましょう」
 こうしてでした、皆は食堂に入ってそうしてでした。
 蜂蜜をたっぷりと使ったお菓子を食べることになりました、見ればオズマの他にドロリーとベッツイ、トロットがいてでした。
 ジュリア=ジャムもいます。オズマはジュリアにも言いました。
「こうして皆で食べるとね」
「余計にですよね」
「ええ、美味しいから」
「だから私もですね」
「そうよ、貴女は私の友達だから」
「侍女ですが」
「お仕事のことは関係ないわ」
 お友達であることについてはというのです。
「だからね」
「お食事やティータイムの時は」
「貴女がお仕事でない時はいつもでしょ」
「はい、同席させて頂いています」
 メイド服のままですがジュリアは食堂にいます。
「この通り」
「そうよ、じゃあね」
「私もですね」
「お菓子とお茶を楽しんでね」
「そうさせてもらいます」
 にこにことしてでした、ジュリアもお菓子を食べることになりました。蜂蜜をかけたマフィンやクッキー、蜂蜜をたっぷりと使ったケーキ等をです。 

 

第一幕その三

 皆で食べてます、ジョージはそのケーキを食べて目を輝かせて言いました。
「あっ、確かに」
「美味しいわ」
「こんな甘い蜂蜜ないよ」
 恵梨香もカルロスもそのケーキを食べて言います、そして三人で言うのでした。
「こんなに美味しいなんてね」
「想像以上だったわ」
「そうだね」
「蜂蜜をかけたlクッキーも素敵な味ね」 
 ナターシャはこちらを食べてにこりとしています、普段よりもそうした笑顔になっています。
「癖になりそうよ」
「いや、マフィンもいいよ」 
 神宝はそちらを食べています。
「素敵な甘さになっているよ」
「ええ、これがオズの国の蜂蜜なのよ」
 ドロシーも笑顔で言ってきました。
「素敵な甘さでしょ」
「外の世界の蜂蜜とは違いますね」
「そうなの、特別な甘さなの」
「只甘いだけじゃないのよね」
「そう、食べると凄く元気が出るのよね」
 ベッツイとトロットもお話します。
「外の世界の蜂蜜よりも栄養が沢山あって」
「体調が悪くなってもすぐに回復出来るわ」
「お薬でもあるんですね」
 神宝はベッツイとトロットのお話を聞いて頷きました。
「オズの国の蜂蜜は」
「外の世界でもそうでしょ」
 ドロシーはにこりと笑って神宝に言ってきました。
「蜂蜜はお薬にもなるわね」
「はい、実際に」
「それはオズの国も同じだけれど」
「体調が悪くなってもですね」
「オズの国では殆どないことだけれどね」 
 誰も死ぬことも自分が望まない限り歳を取ることもない国です、そして病気もない国なのですから。
「元気が出るのよ」
「そういえば」
「ええ、元気が出て来たでしょ」
「何でも出来そうです」
「どんな激しいスポーツも出来るわね」
「そんな気がします」 
 実際にとです、神宝も応えます。
「凄いですね」
「じゃあ食べた後はね」
「皆でスポーツですね」
「そうして楽しみましょう」
 是非にというのでした。
「どんなスポーツをするかも問題だけれど」
「そうね、激しいスポーツなら」
 それならとです、ここでオズマが言うことはといいますと。
「ラグビーかアメリカンフットボールか」
「女の子でラグビー?」
「アメリカンフットボール?」
 ベッツイとトロットは二人の言葉に首を傾げさせました。
「聞かないけれど」
「するの?」
「駄目かしら」
「ううん、ちょっとね」
「違うと思うわ」
 二人で首を傾げさせたままオズマに応えます。 

 

第一幕その四

「どうもね」
「女の子がするには」
「ちょっとね」
「合わないかもと思うわ」
「じゃあね」
 オズマも二人の言葉を受けて言いました。
「水泳はどうかしら」
「あっ、水泳ならね」
「身体全体を動かすしね」
「かなりカロリーも使って」
「いいわね」
「そうでしょ、じゃあ皆で水泳をしましょう」
 こう言うのでした。
「食べた後は」
「水泳ですか」
「あの、水着は」
 恵梨香とナターシャがオズマにこのことを尋ねました。
「私達持っていないですけれど」
「五人共」
「ちゃんと王宮にあるわよ」
 オズマは二人ににこりとして答えました。
「男の子様のもね」
「あっ、そうなんですか」
「僕達のもあるんですか」
 ジョージと神宝はオズマの今の言葉ににこりと笑って応えました。
「それじゃあですね」
「今から」
「ええ、楽しんでね」 
 こうしてでした、五人も一緒にでした。蜂蜜をたっぷりと使ったお菓子と蜂蜜を入れた紅茶を楽しんだ後はです。
 皆で王宮のプールに行きました、勿論皆更衣室で着替えましたが。
 オズマは緑の、ドロシーは青、トロットは黄色、ベッツイは赤のそれぞれの色の競泳水着を着ています。恵梨香はピンク、ナターシャは黒のやっぱり競泳水着です。
 男の子達は神宝は青、ジョージは赤、カルロスは黄色のそれぞれトランクスタイプの水着です。三人は順ん微体操の前にふと言いました。
「あれっ、ジュリアさんは?」
「おられないね」
「まだ着替え中なのかな」
「あの娘は後片付けをしているから」
 オズマが三人に答えました。
「だからね」
「それで、ですか」
「遅れるんですね」
「そうなんですね」
「そうよ、だから少し待ちましょう」
 オズマは微笑んで三人にお話しました。
「準備体操もね」
「皆が揃ってからですね」
「それから準備体操をしてですね」
「水泳ですね」
「そうしましょう、あの娘は仕事が速いからすぐに来るわ」
 遅れるにしてもというのです。
「待っていればすぐにね」
「来られるんですね」
「そうなんですね」
 恵梨香とナターシャもオズマに聞きました、見ればどの水着もとても奇麗です。
「じゃあ少し待って」
「皆で」
「準備体操をしましょう、スポーツの前はね」
 何といってもというのです。
「丹念に準備体操をしないとね」
「そう、身体によくないのよね」
 ドロシーがオズマに応えました。 

 

第一幕その五

「何といっても」
「そう、だからね」
「準備体操はしないとね」
「それからよ、いいわね」
「泳ぐのはね」
 こうしたお話をしているとすぐにジュリアが来ました、ジュリアは紫の競泳水着でしたがここでいつも通りドロシーの足元にいるトトが言いました。
「色はそれぞれのお国の色だね」
「ええ、私達の水着はね」
 ドロシーがそのトトに応えました。
「そうしてみたの」
「オズの国のそれぞれの色に」
「どうかしら」
「面白いと思うよ」
 トトはドロシーににこりとして答えました。
「それもね」
「ならいいわ」
「うん、そして神宝達はだね」
「五人がいつも着ている色よ」
「そうだよね」
「その色の水着を用意したのよ」
「嬉しいです」
 神宝は自分が着けている青い水着を見て笑顔になっています。
「僕青が好きですから」
「神宝はそうよね」
「はい、ですから」
「いつも青い服を着ていて」
「水着もこの色がいいです」
 青がというのです。
「本当に」
「そう思って用意してよかったわ」
「有り難うございます」
「じゃあ今からね」
「はい、準備体操をして」
「泳ぎましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆で円を作ってプールサイドでじっくりと準備体操をしてでした。それからプールに入って泳ぐのですが。
 ジュリアの水泳を見てです、神宝達はびっくりしました。
「うわ、速いね」
「ジュリアさん泳ぎ上手ね」
「どんな泳ぎ方も出来て」
「速くて」
「しかも幾らでも泳げて」
「ジュリアは王宮一の泳ぎ手なのよ」
 オズマが五人ににこりとしてお話します、オズマは五人と一緒に平泳ぎをしています。ドロシーはトロット、ベッツイと一緒に背泳ぎを楽しんでいます。
「そうしてね」
「実はね」
「そうなんですね」
「そう、もう泳ぐとなったら」
「ああしてですか」
「誰も勝てないのよ」
 王宮ではというのです、オズマは神宝にお話をしました。
「多分オズの国全体でもトップクラスじゃないかしら」
「そこまで凄いんですね」
「そうなの、実は毎朝泳いでるしね」
「このプールで、ですか」
「泳ぐのが好きで」
 そしてというのです。
「上手なのよ」
「そうなんですね」
「私達の誰もね」 
 それこそ王宮の誰もがというのです。 

 

第一幕その六

「水泳では勝てないわ」
「本当に速いですしね」
「物凄い速さですね」
「しかもどんな泳ぎ方も出来て」
「ターンも速くて」
 ジョージ、カルロス、ナターシャ、恵梨香の四人も言いました。
「選手の人みたいです」
「私達とは全然違いますね」
「まるで人魚です」
「そうも思えます」
「そうね、あの娘は人魚ね」
 オズマもこう言いました。
「お水の中じゃね」
「そういえばオズの国にも人魚はいますか?」
 神宝はオズマの言葉を受けてふと言いました。
「この国には」
「ええ、いるわよ」
 オズマは五人と一緒に泳ぎ続けながら神宝に答えました。
「人魚もね」
「そうなんですね」
「そうよ、海や川、湖にね」
「いるんですね」
「マンチキンの方には人魚の国もあるわよ」
「国もあるんですか」
「そうなの。そして人魚の国にはね」
 オズマはさらにお話しました。
「凄く奇麗な真珠があるのよ」
「真珠もですか」
「そう、人魚達の宝なのよ」
 それがあるというのです。
「一度見たら忘れられないから」
「そんなに奇麗なんですか」
「そうなの、これがね」
「そんなに奇麗なら」
 神宝は思うのでした。
「一度見てみたいですね」
「そう言うと思ったわ」
 オズマは神宝のその言葉ににこりと笑って応えました。
「じゃあマンチキンの国にね」
「行ってみればですね」
「いいわ」
「それじゃあ今度は」
 神宝は目を輝かせて言いました。
「マンチキンの国での冒険ですね」
「あっ、マンチキンなんだ」
「いいね、あの国に行くのも」
「あの国も楽しいのよね」
「凄くね」
「そうしたわいいわ」
 こう笑顔で言うのでした、オズマも。
「是非ね、ただね」
「ただ?」
「ただっていいますと?」
「人魚の国はマンチキンのかなり奥にあるのよ」
 その国はというのです。
「だから長い旅になることはね」
「わかっておいてですね」
「そのうえで、ですね」
「行ってきてね」
 こう言うのでした。
「そこは承知してね」
「はい、わかりました」
 五人で一度にオズマに答えました。
「冒険に出た時は」
「そのことは頭に入れておきます」
「長い旅になるんですね」
「人魚の国に行こうと思ったら」
「その時は」
「勿論貴方達五人だけで行くよりも」
 まだ子供の彼等だけで冒険に行くよりもというのです。 

 

第一幕その七

「他の誰かと一緒に行ってね」
「いつも通りですね」
「そうした方がいいですね」
「私達はオズの国のことなら隅から隅まで知ってるから」
 伊達にずっとこの国にいて数えきれないだけの冒険をしている訳ではないのです。
「だからね」
「その時はですね」
「どなたかと一緒ですね」
「そうして行かないと駄目ですね」
「いつも通りに」
「そうしてですね」
「そうしてね」
 絶対にと言うオズマでした。
「そこはしっかりとね、あと私は」
「オズマ姫はですか」
「今回もね」
 このことは残念そうに言うオズマでした。
「忙しくてなのよ」
「そうなんですか」
「また貴方達と一緒に行きたいけれど」
 それがというのです。
「残念ながらお仕事があって」
「だからですか」
「行けないんですね」
「そうなの」
 残念そうに言ったオズマでした。
「だから他の娘と一緒に行ってね」
「とはいってもね」
 今度はドロシーが五人に言いました。
「私達もなのよね」
「ドロシーさん達もですか?」
「今回は」
「そうなの、私達三人で臆病ライオンや腹ペコタイガー達と一緒にね」
「冒険に行かれますか」
「そうされるんですか」
「そうなの」
 こう五人にお話するのでした。
「カドリングの方までね」
「じゃあ行く方向も違いますね」
「人魚の国はマンチキンにあるっていいますし」
「それじゃあですね」
「ドロシーさん達ともですね」
「そうなの、じゃあ誰と一緒に行ってもらうか」
 ドロシーも考えました、そしてです。
 ドロシーは少し考えてです、ふとひらめいたお顔になってそのうえでオズマに言いました。
「ねえ、ジュリアはどうかしら」
「ジュリアに?」
「そう、一緒に行ってもらったら?」
「えっ、私ですか?」
 ジュリアはドロシーとオズマのやり取りに驚いて応えました。
「私が冒険に」
「いや、貴女も一緒に行くことあるじゃない」
 ドロシーはそのジュリアに応えました。
「冒険に」
「それはそうですが」
「オズマのお付きだから?」
「それでいつも行ってますが」
 しかしというのです。
「ですが」
「そういえばそうね、貴女の冒険はね」
「いつも姫様とご一緒にです」
 メイドとしてというのです。
「ですから率先してというのは」
「そういえばなかったわね」
「基本ここにいることが多いわよね」
「そうよね、ジュリアは」
 ベッツイとトロットもお話します。 

 

第一幕その八

「メイドさんだし」
「その方が多いわね」
 冒険に出るよりもというのです。
「王宮でお仕事をしていて」
「そうしてばかりだから」
「それなら余計にかしら」
 オズマは二人のやり取りも聞いてです、決定したお顔になりました。そのうえでジュリアに対して言うのでした。
「ジュリアは行くべきよ」
「今回の冒険は」
「そう、王宮にいるメイドさんは貴女だけじゃないし」
 ジュリア一人で何でも出来る様な小さな場所ではありません、この王宮には多くの可愛い女の子がメイドさん、つまり侍女として働いています。
「神宝達と一緒にね」
「今回はですか」
「冒険に行ってみたらどうかしら」
「そうですか、今回はですか」
「そう、勿論他の人達も一緒だけれどね」
 ジュリアだけでなくというのです。
「そうしたらどうかしら」
「姫様のお言葉なら」
 それならとです、ジュリアはオズマに礼儀正しく応えました。
「そうさせて頂きます」
「それじゃあね」
「さて、問題はね」 
 またドロシーが言ってきました。
「ジュリアと神宝達の他に誰が一緒に行くかだけれど」
「ええと、今この宮殿にいる人は」
 トロットがここで考えつつ述べました。
「モジャボロさんがおられるわね」
「そうね、キャプテンとハンクは私達と一緒に行くし」
 ベッツイも言います。
「冒険にね」
「ええ、トトもね」
「それに木挽の馬は今は王立大学に行って」
「臆病ライオンと腹ペコタイガーも私達と一緒に行くし」
「後はビリーナ?」
「あっ、ビリーナは残ってもらうわ」
 オズマが言いました。
「皆出るから相談役にね」
「王宮に残ってもらうのね」
「ボームさんと一緒にね」
「チクタクは」
「チクタクはエリカ、ガラスの猫、つぎはぎ娘と一緒にオジョのところに行ったじゃない」
 ベッツイが彼等についてお話しました。
「だからね」
「チクタク達もいないのね」
「そう、今回はね」
「それじゃあ冒険にはモジャボロさんだけ?」
「あの人だけになるかしら」
「よし、それじゃあここは」
 今度はオズマが閃きました、そして言うことはといいますと。
「かかしさんと木樵さん、あとジャックを呼びましょう」
「あっ、三人をなのね」
「そう、あの人達が一緒なら大丈夫でしょ」 
 オズマはドロシーに微笑んでお話をしました。
「何処に行っても」
「ええ、あの人達ならね」
「だからここはね」
「三人を呼んで」
「そう、一緒に行ってもらいましょう」
「それじゃあすぐに連絡しましょう」
「今からメールを送るわ」
 オズマは早速携帯電話を出しました、すぐに三人に対してメールを送りました。するとこれまたすぐにでした。 

 

第一幕その九

 オズマは笑顔で、です。ドロシー達に言いました。
「よかった、三人共ね」
「いいって言ってくれたのね」
「すぐに都に来るって言ってるわ」
「そう、それは何よりね」
「これで大丈夫よ」
 オズマの言葉は太鼓判を押したものでした。
「ジュリア達は無事に冒険に行けるわ」
「そして帰られるわね」
「そう、かかしさんの知恵と木樵さんの心にね」
「ジャックのユーモアがあれば」
「何も怖くないわ」
 それこそというのです。
「だから後はね」
「ええ、三人が来てから」
「出発すればいいわ、じゃあその時まではね」
「ここで、よね」
「遊びながら待っていればいいわ」
「そうなるわね、私達の出発もまだ先だし」
 ドロシーは自分達のこともお話しました。
「それならね」
「ええ、まだ王宮で楽しく遊びましょう」
 皆で一緒になったうえでお話するのでした。
「そうしましょう」
「それじゃあね」
「さて、色々遊べるけれど」
 オズマは上機嫌になっていました、どうするかを決められたので。
「明日は何をして遊ぼうかしら」
「それも問題ね」
「嬉しい悩みよ」
 ドロシーに明るく応えます、そしてでした。 
 次の日です、かかし達が来るのを待ちつつです。ジュリアは朝御飯を食べた後で神宝達を集めてこんなことをお話しました。
「皆マンチキンの国は行ったことがあるわね」
「はい、何度か」
「王立大学やジンジャー将軍のお家には」
「何度かお邪魔してますし」
「奥の方にも行ったことがあります」
「だからあの国のことは知ってるわね、けれどね」 
 それでもというのでした。
「人魚の国までは行ったことはないわね」
「そうした国があるのもはじめて聞きました」
 神宝が答えました、六人で同じテーブルを囲んでお話をしています。テーブルの真ん中にはそのマンチキンの地図が広げられています。
「オズの国に」
「人魚の人達もいるんですね」 
 ジョージはしみじみとした口調でした。
「オズの国には」
「そのこともはじめて知りましたし」
 カルロスも言います。
「昨日は驚きました」
「本当にここは不思議の国ですよね」 
 ナターシャの目はしみじみと考えるものでした。
「人魚の人達もいるなんて」
「そしてその人魚の人達がですね」
 最後に恵梨香が言いました。
「とても奇麗な真珠を持っているんですね」
「そうなの、私も見せてもらったけれど」 
 ジュリアもその真珠のお話をします。
「凄く奇麗だから」
「だからですね」
「見せてもらうとですね」
「それだけで幸せな気持ちになれるから」
 そこまでのものだからだというのです。
「楽しみにしていてね」
「わかりました」
「一体どれだけ奇麗か」
「楽しみにさせてもらいます」
「あと昨日蜂蜜のお菓子を楽しんだけれど」
 ジュリアは皆にこちらのお話もしました。 

 

第一幕その十

「こちらもあるのよ」
「ええと、甘いものっていいますと」 
 マンチキンで、です。神宝はこのことから考えて言いました。
「ジンジャー将軍のお家ですか?」
「いえ、将軍は蜂蜜は作ってないの」
「そうだったんですか」
「蜂蜜はまた別の人なの」
「それでその人のところにもですか」
「行くと思うわ」
 今回の冒険ではというのです。
「だから楽しみにしておいてね」
「蜂蜜のこともですね」
「その人が作る蜂蜜も美味しいから」
「それじゃあ」
「今回の冒険はね」 
 ここでこうも言ったジュリアでした。
「私にとってははじめてだから」
「オズマ姫と一緒に行かないですね」
「はじめての冒険なんですね」
「だから心配なことも多いの」
 どうしてもというのです。
「貴方達を無事に案内したり導いたり出来るか、けれどね」
「それでもですか」
「僕達と一緒にですね」
「行きたいわ、それに私だけじゃないし」 
 こうも行ったジュリアでした。
「かかしさん達も一緒だし」
「やっぱりそのことが心強いですよね」
「そうですよね」
「あの人達が一緒ですと」
「それだけで」
「とても心強いわ」
 実際にとです、ジュリアは五人に微笑んで答えました。
「あの人達はオズの国でも特に頼りになる人達の一人だから」
「モジャボロさんも一緒ですしね」
「今回の旅は十人ですね」
 数のお話にもなりました。
「合わせて」
「数も多めですし」
「そのことも安心出来ますね」
「ええ、冒険はやっぱり人の数も重要ね」
 このことはジュリアもわかっています。
「多いとね、何かあっても」
「そうですよね」
「助ける人がいてくれて」
「それで困った状況も救われますね」
「多ければそれだけ」
「人手にも考えも出るし」
 人が多ければというのです。
「有り難いわ、ましてあの人達だとね」
「余計にですよね」
「頼りになりますね」
「今回の冒険でも」
「そうよ、それとね」
 さらに言うジュリアでした。
「かかしさんと木樵さんはマンチキン出身よね」
「あっ、そうでしたね」
「ドロシーさんとお会いするまであの国にいたんですね」
「あの人達は」
「だから誰よりもあの国のことに詳しいわ」
 かかし、そして木樵はというのです。 

 

第一幕その十一

「だから色々と教えてもらえるわ」
「マンチキンのことも」
「私達がこれから行くあの国のことも」
「そうよ、それで人魚の国はね」
 テーブルの真ん中に開いて置いているその地図のマンチキンの部分を指さしつつです、ジュリアは五人にその国のことをさらにお話しました。
「ここにあるのよ」
「あっ、海の方ですね」
「やっぱり人魚だからそこにお国があるんですね」
「そうなんですね」
「そうよ、だから海に入るかも知れないから」
 だからだというのです。
「水着も持って行きましょう」
「水着もですか」
「そちらもですか」
「ええ、途中服の木から手に入れることも出来るけれど」
 オズの国にはそうした木もあって服を自由に手に入れることも出来るのです、その服の中には水着もあるのです。
「それでもね」
「昨日着た水着もですか」
「持って行くんですか」
「そうしましょう、それに私あの水着が好きなの」 
 ジュリアはくすりと笑ってこうも言いました。
「紫の競泳水着がね」
「あの水着似合ってましたよ」
 神宝は微笑んでジュリアに言いました。
「ジュリアさんに」
「有り難う、実はよくそう言ってもらってるから」
「だからですか」
「あの水着が好きなの」
「そうなんですね」
「そうなの、だからあの水着を持っていくわ」
 好きな水着だからこそというのです。
「そうするわ」
「そういえば水着も」
 ジョージはふと気付いた様になって言いました。
「色々あるね」
「競泳水着だけでなくね」
 カルロスもジョージに応えて言いました。
「ワンピースとか半ズボンみたいなのとかスカートがあるのとか」
「ビキニもあるわね」
 ナターシャはこの水着を思い出しました。
「二つに別れた」
「あの水着は着るのが恥ずかしいわ」 
 実際に恵梨香はお顔を赤くさせています、自分があの水着を着たらと想像してです。
「ちょっとね」
「私も姫様達もビキニは抵抗があるの」
 ジュリアはビキニについてはこう言いました。
「競泳水着はよくても」
「そちらはですね」
「大丈夫なんですね」
「そうなの、けれどね」
 それでもというのです。
「泳ぐのは好きよ」
「そのこと自体はですね」
「大丈夫なんですね」
「だから毎日泳いでいるし」
 王宮のプールで、です。
「楽しんでいるわ」
「それでオズの国でも指折りのスイマーなんですね」
「そうなられてるんですね」
「泳ぐのが好きで毎日していたら」
「それで、ですか」
「泳ぎ上手になったんですか」
「そうなの、だから海で泳ぐことになっても」
 その時もというのです。 

 

第一幕その十二

「楽しませてもらうわ」
「ううん、海ですか」
「オズの国の海も奇麗ですしね」
「その海で泳ぐと考えますと」
「それも楽しみですね」
「そうよね、じゃあね」
 それならというのでした。
「水着も持っていきましょう」
「はい、そうしましょう」
「そちらも」
「勿論旅道具も持って」
 折り畳み式のテントやテーブル掛け等をです。
「かかしさん達が来たらよ」
「その時にですね」
「出発ですね」
「そうしましょう、あとモジャボロさんにもお話しましょう」
 一緒に行くことになっているこの人にもというのです。
「そうしましょう」
「そういえばモジャボロさんは」
「王宮におられるのは聞いてますけれど」
「何処におられるんですか?」
「一体」
「実は昨日から図書館に入っていて」
 そしてというのです。
「お食事もあちらでだから」
「それでなんですか」
「今はですか」
「僕達もお会い出来ていないんですか」
「そうなんですね」
「ええ、けれど応急におられるから」 
 このことは間違いないからだというのです。
「安心してね」
「一緒に冒険に行けますね」
「そのことは大丈夫ですね」
「そうよ、だから安心してね」
 ジュリアは優しいお姉さんの笑顔で五人に言いました・
「あの人も一緒よ」
「それは何よりです」
「一緒に来てくれるのなら」
 五人もジュリアのお話を聞いて笑顔になりました。
「嬉しいです」
「モジャボロさんとご一緒ならそれだけで幸せになれますから」
「とても嬉しいです」
「ラブ=マグネットがなくても」
「あの人って普通に素晴らしい人で」
「一緒にいたくなりますよね」
「そう、あの人はいつもあの石を持ってるけれど」
 それでもというのです。
「あの石がなくてもなのよ」
「凄くいい人で」
「とても幸せな気持ちになれますね」
「一緒にいますと」
「それだけで」
「あの人は石はいらないかも知れないわ」
 ラブ=マグネット、それはというのです。
「私もそう思うわ」
「そうですよね」
「あの人位になりますと」
「あの石もいらないですね」
「そうも思いますね」
「そうよね、けれどあの石があると余計になのよ」
 普通にしていてもとても魅力的なモジャボロがというのです。
「魅力的になってね」
「もうこの世の誰もがですね」
「どんな生きものでもですね」
「引き寄せられてしまって」
「お友達になってしまいますね」
「それで多くの人を助けてきているから」 
 だからだというのです。
「あの人はいつもあの石を持っておられるのよ」
「それが人を助けることにもなるから」
「だからですか」
「そうよ」
 こう五人にお話するのでした。 

 

第一幕その十三

「あの人は石を持っているわ」
「そういうことですか」
「あの石は人助けですか」
「その為のものですか」
「そうなの、そしてあの人もいるから」
 ジュリアはまたお話しました。
「安心してね」
「わかりました、それじゃあ十人で」
「皆で行きましょう」
「マンチキンに」
「そうしましょう、それと」
 ここまでお話してあらためてです、ジュリアは皆に言うのでした。
「もうず十時ね」
「あっ、もうですか」
「十時ですか」
「お茶の時間ですか」
「ええ、そうよ」
 ティータイムだというのです
「だから皆ね」
「はい、今からですね」
「お茶とセットを出して」
「そうして食べるんですね」
「そうしましょう、お茶は何がいいかしら」
 ここでジュリアは考えましたがそのジュリアに神宝が言いました。
「中国茶にしませんか?」
「貴方のお国のお茶ね」
「それと桃饅頭や杏仁豆腐、ゴマ団子を出して」
 セットはこちらはどうかというのです。
「どうでしょうか」
「あっ、いいね」
「ゴマ団子好きだよ」
「その組み合わせならね」
「皆大好きよ」
 四人も言います、そしてジュリアもです。
 中国茶とそのセットにです、にこりとして応えました。
「私もそれでいいと思うわ」
「それじゃあ」
「今回のティーセットは中華よ」
 まさにそれだというのです。
「それでいきましょう」
「わかりました」
「そしてね」
 さらに言うジュリアでした。
「食べ終わったらね」
「はい、またですね」
「一緒にですね」
「冒険のことをお話していきましょう」
「皆で」
「そうしましょう、けれどね」 
 ここでにこりと笑ってです、ジュリアはこんなことも言いました。
「こうして冒険のことを考えるのって凄く楽しいわね」
「はい、そうなんですよ」
「このこと自体が凄く楽しいんですよ」
「一体どうした冒険にしようか」
「地図を見て考えるだけでも」
「そこからもう楽しめるんです」
「そうね、私ずっとこのことを知らなかったわ」
 ジュリアはというのです。
「冒険はついていくばかりだったから」
「だからですよね」
「ジュリアさんがリーダー的なポジションで行かれるいことはなかったから」
「それで、ですね」
「こうしたことははじめてなんですね」
「ええ、だから余計にね」
 にこにことしてです、ジュリアは言うのでした。
「楽しませてもらってるわ」
「それじゃあですね」
「このことも楽しんで、ですね」
「そして、ですね」
「冒険に行かれますね」
「皆で」
「そうしましょう、これであの人達が来たら」
 かかしと木樵、そしてジャックがというのです。
「出発よ」
「はい、その時までに予定を決めて」
「そうしてですね」
「かかしさん達が来られたら」
「早速ですね」
「マンチキンの国に出発ですね」
「そうしましょう」
 笑顔で言うジュリアでした、そうしてです。
 皆で中国茶、漢方薬も入ったそれを飲んでそうして中華のティーセットを食べました。そのうえでこの日は冒険の打ち合わせをするのでした。 

 

第二幕その一

                第二幕  冒険の出発
 モジャボロは朝にです、神宝達ににこにことして言いました。
「ジュリアからお話は聞いてるよ」
「はい、それじゃあですね」
「モジャボロさんもですね」
「僕でよかったらね」
 皆に直食前ににこにことして言うのでした。
「ご一緒させてもらうよ」
「宜しくお願いします」
「皆で人魚の国に行きましょう」
「かかしさん達が来てくれたら」
「是非ね、それとね」
 こうもです、モジャボロは皆にお話した。
「今日の朝御飯だけれど」
「はい、そのこともですね」
「楽しみですよね」
「うん、まずは朝御飯だからね」
 これを食べてからだというのです。
「何事もはじまるからね」
「そうですよね、やっぱり」
「食べられる人はたべないと」
「本当に何もはじまらないですね」
「一切合切」
「本当に何でも」
「そう、だから皆で食べようね」
 朝御飯をというのです。
「もうすぐはじまるそれをね」
「ええ、もうすぐですね」
「朝起きてお風呂も入りましたし」
「次は、ですね」
「朝御飯ですよね」
 皆でにこにことして言います、そしてでした。 
 その朝御飯の時となりました、今日の王宮の朝御飯は王宮の果樹園や畑で採れた林檎やオレンジ、グレープフルーツ、葡萄、メロン、無花果、バナナ、パイナップル、苺等の盛り合わせがまずありました。どれも奇麗な緑色です。
 そしてソーセージにハムに焼いたベーコン、ゆで卵とです。人参やセロリ、ジャガイモや玉葱が沢山入ったスープでした。それにトーストもあります。
 その沢山の朝御飯をです、ジュリアは凄い勢いで食べていきます。五人はそのジュリアを見て言うのでした。
「凄いね、ジュリアさん」
「物凄く食べるね」
「僕達よりずっとね」
「ソーセージもフルーツも」
「トーストもスープも」
「やっぱりあれだね」 
 ジョージはスープを飲んで言いました、緑の野菜達の色が鮮やかでそして味もかなりいいです。
「毎朝泳いでおられるから」
「あっ、ジュリアさん毎日泳いでるんだったね」
 カルロスもこのことをポもい出しました、トーストにバターを塗りつつ。
「だからだね」
「水泳はランニングと同じかそれ以上に身体を使うから」
 ナターシャもこのことを言いました、茹でたソーセージがとても美味しいです。
「それでお腹も空くのね」
「しかも朝起きてすぐに泳いだから」
 恵梨香はフルーツを食べています。
「余計によね」
「朝御飯の前に身体をよく動かすと」
 最後に神宝が飲みものとして出されている牛乳を飲みながら言いました。 

 

第二幕その二

「朝御飯が美味しいんですね」
「そうなの、私大抵朝早く起きてね」
 ジュリアは何でも沢山食べながら五人に答えました。
「まずは王宮のプールで一時間かけて五キロは泳ぐから」
「一時間で五キロですか」
「相当に速いんじゃ」
「水泳選手ですか?」
「それ位じゃないんですか?」
「それ位ですと」
「だからジュリアは王宮一のスイマーだから」
 オズマが驚く五人ににこりとしてお話しました、勿論オズマも美味しく食べています。
「それ位泳げるのよ」
「一時間で五キロですか」
「それだけ泳げるんですか」
「泳ぐ距離も時間も凄いですが」
「そこまでなんですね」
「そうよ、それだけ出来るの」
 水泳がというのです。
「そして泳いだ分だけね」
「召し上がられるんですね」
「そうなんですね」
「朝に沢山動いて沢山食べて」
 ジュリアはまた五人にお話しました。
「それで一日をはじめるの」
「朝早く起きられて」
「そして、ですね」
「そのうえでメイドのお仕事もされるんですね」
「一日をはじめられますか」
「朝早くからのお仕事の時はそれが終わってからね」
 お仕事がというのです。
「五キロ泳ぐの」
「やっぱり五キロですか」
「それだけ泳がれるんですか」
「朝早くのお仕事の時も」
「そして食べるの」
 泳いだ後でというのだ。
「とにかく泳いだ後の御飯が凄く美味しいから」
「美味しく食べるにはまず身体を動かすことだからね」
 モジャボロはフルーツの中にある大好物の林檎をにこにことして食べながらそのうえでジュリアに応えて五人に言いました・
「ジュリアは正しいよ」
「そうですよね」
「やっぱり美味しく食べるにはですよね」
「身体を動かすことですね」
「これが一番いいですね」
「そうだよ、だから冒険の時の御飯は美味しいんだ」
 これから皆で行くこちらの時もというのです。
「いつも身体を動かしているからね」
「歩いてですよね」
「そしてオズの国では色々ありますから」
「その分も身体を動かしますし」
「それで、ですね」
「冒険の時は御飯が美味しいんですね」
「外で食べる開放感もあるしね」
 モジャボロはこの要素もお話しました。
「だからいいんだよ」
「冒険の時の御飯は」
「そういうことですね」
「そうだよ、そろそろかかしさん達が来るだろうし」
 モジャボロは彼等のお話もしました。 

 

第二幕その三

「お昼は冒険の時に食べることになるかな」
「テーブル掛けはもう用意してあるから」
 ジュリアは食べながらこのこともです、皆にお話しました。
「だから安心してね」
「はい、冒険の時もですね」
「皆で楽しく食べられますね」
「それも楽しく」
「そうよ、オズの国はあちこちに果物が成る木があるけれど」
 中にはお弁当そのものが成る木さえあります、それで旅をする人は実は何も食べるものを持って行かなくても困らないのです。
「テーブル掛けがあるとね」
「何時でも好きなものを食べられますね」
「しかも沢山」
「だから持って行くんですよ」
「冒険の時は」
「そうよ、それは今回も同じよ」
 そうだというのです。
「ではいいわね」
「はい、今回の冒険でもですね」
「食事はテーブル掛けで楽しく」
「そうして食べますね」
「そうなるわ」
 笑顔で応えたジュリアでした、そしてです。
 皆で朝食を楽しく食べました、その朝御飯を食べ終えるとすぐにでした。待っていた人達が到着しました。
 かかしとブリキの木樵、それにカボチャ頭のジャックです。三人は神宝達のところに来て笑顔で言ってきました。
「お話は聞いたよ」
「三人で朝も夜も歩いてきたんだ」
「一緒に冒険したくて楽しみでね」
 それで食べる強雨も寝る必要もないことをオズの神々に感謝しつつそのうえでここまで来たというのです。
「じゃあ今からだね」
「いざ人魚の国へ」
「そうするんだね」
「はい、そうです」 
 神宝が三人に笑顔で応えました。
「宜しくお願いします」
「彼等がいると百人力だね」
 ふとです、魔法使いが出て来て言ってきました。
「何といっても」
「はい、ただ魔法使いさんは」
「ああ、僕も実は用事があるんだ」
 魔法使いは神宝に申し訳なさそうに答えました。
「カエルマン君達のところに呼ばれていてね」
「そちらに行かれるんですか」
「気球でね」
 これを使ってというのです。
「行くから」
「だからですか」
「そう、僕もね」
 今回の冒険はというのです。
「君達とは一緒に行けないんだ」
「そうですか」
「急に決まってね」
 カエルマンのところに行くことがというのです。
「だからね」
「それで、ですか」
「また機会があればね」
「はい、一緒にですね」
「冒険をしようね」
「宜しくお願いします」
「私達ももうすぐ出発するわ」
 ドロシーも言ってきました。 

 

第二幕その四

「だからね」
「はい、またですね」
「会いましょう」
「皆が王宮に戻って来た時に」
「宜しくね」
「では皆暫しのお別れをして」
 そしてとです、オズマが皆に言いました。
「それぞれの冒険に出ましょう」
「今から行ってきます」
 ジュリアはそのオズマににこにことして挨拶をしました。
「人魚の国まで」
「旅は王宮の鏡で見守っているから」
「はい、何かあればですね」
「任せてね」
「そのことも宜しくお願いします」
 こうお話してです、皆はそれぞれの冒険に向けて出発しました。ジュリア達は都のマンチキンへの門、東門からです。
 都を出てでした、マンチキンの国に向かって出発しました。そして緑の草原が左右にある黄色い煉瓦の道を歩きつつです。
 皆で楽しくお喋りをしていました、かかしは神宝達ににこにことして言いました。
「故郷に戻るからね」
「だからですね」
「楽しみなんですね」
「そのことも」
「そうなんだ、やっぱり僕の故郷はね」
 そこはといいますと。
「マンチキンだよ」
「それは僕もだよ」
 木樵もにこにことして言います。
「故郷はマンチキンだよ」
「そうですね、木樵さんも」
「マンチキンで生まれられてでしたね」
「ドロシーさんとお会いするまでおられたんですね」
「そうでしたね」
「冒険ではよく行くけれど」
 それでもというのです。
「実は最近は行ってなかったんだ」
「僕もなんだよね」
 かかしもそうだとお話します。
「これがね」
「そう、僕だよ」 
 ジャックも言います。
「僕はギリキン生まれだけれどね」
「ああ、三人共最近の冒険では確かにね」
 モジャボロも気付いて応えました。
「マンチキンには行っていないね」
「そうなんだ」
「それでそろそろ行けたらって思ってたんだ」
「そうね」
「それで丁度オズマからお誘いがあったから」
「まさに渡りに船だったよ」
「是非にって思ったよ」
 三人共だったというのです、まさに。
「だからここまでうきうきとして来たんだ」
「暫くぶりにマンチキンに行けるって」
「そう思ってね」
「どの国にも何度も行ってるけれどね」
 モジャボロはこれまでの冒険を思い出しつつ言いました。
「けれど最近行っていない国はね」
「どうしてもだよね」
「ついつい行きたくなるよね」
「どうしてもね」
「そうだよね、僕もそうだよ」
 モジャボロにしてもというのです。 

 

第二幕その五

「本当にね、ではね」
「今からだね」
「そのマンチキンに入るね」
「皆で」
「そうなるよ、さて人魚の国はね」
 モジャボロは目指すその国のこともお話しました。
「果たしてどうなっているかな」
「どうなってるか?」
「っていいますと」
「何かあったんですか?」
「人魚の国に」
「いや、特に聞いていないけれど」
 モジャボロは五人に答えました。
「僕があの国に前に行ったのは随分前だからね」
「それで、ですか」
「今はどうなっているか」
「そのことからですね」
「そう言われたんですね」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「だからこう行ったんだ」
「そうね、オズの国も変わっていってるから」
 ジュリアも言います、着ているのはいつもと同じメイド服です。
「だからね」
「あの国もね」
「今は変わってるかしら」
「前にお邪魔した時よりもね」
「そうね、人魚の女王もどうされているかしら」
 ジュリアはこの人のお話もしました。
「今は」
「お元気なのは間違いないけれどね」
「それでもね」
「うん、どうされているかまではね」
「わからないわね」
「そうだね、真珠を見せてもらうにしても」
 それでもというのです。
「あの人は今はどうされているのか」
「このこともね」
「気になるわね」
「そうだね」
「人魚の国は女王様が治めておられるんですね」
 神宝は二人のやり取りからこのことを尋ねました。
「そうなんですね」
「ええ、そうなの」
 ジュリアが神宝に答えました。
「あの国はね」
「そうなんですか」
「そして女の人が強い国なの」
「男の人よりもですか」
「女の人魚の人はマーメイド、男の人はマーマンといって」
「そしてですね」
「女の人が強い国なの」
 こう神宝にお話するのでした。
「そして国家元首は女王様なの」
「人魚姫は」
「ええ、いるわ」
「やっぱりそうですか」
「けれど消えたりはしないから」
 そうしたことはないというのです。 

 

第二幕その六

「喋られなくなったりね」
「あのお話は可哀想ですね」
 人魚姫のお話についてはです、ナターシャも知っていてです。悲しいお顔になって言うのでした。
「切なくて」
「幸せになれなかったから、人魚姫は」
 ドロシーも人魚姫について悲しく言います。
「むしろ幸せから遠ざかったばかりで」
「何かを得て何かを失ってばかりだよね」
 ジョージも言うのでした。
「脚の代わりに声とか」
「そして何も出来なくてね」
 カルロスも今は悲しいお顔になっています。
「最後は消えてしまうから」
「ああしたことがオズではないんだったら」
 神宝も他の皆と同じお顔です。
「凄くいいことだよ」
「悲しみは少ない方がいいわね」
 ジュリアも五人に応えました。
「オズの国では殆どないものだから」
「そうですね、この国ではですね」
「悲しいことはないですね」
「誰も死ななくて幸せになれるから」
「悲しみはないですね」
「こうした国ですね」
「うん、本当に幸せな国で」
 そしていうのです、モジャボロも。
「人魚姫みたいなことはないよ」
「僕は人魚姫のお話は知らないけれど」 
 ジャックはオズの国にいます、だから知っている筈がありません。このことは実は外の世界から来た魏五人とモジャボロ以外の人達は皆そうです。
「それでも幸せになれなかったんだ」
「そうなんだ」
「王子様と一緒になりたかったのに」
「なれなくてね」
「最後は消えてしまうの」
「泡となって」
 五人はジャックにお話しました。
「そうしたお話だから」
「本当に悲しいの」
「幸せを求めたのに得られなくて」
「そして消えてしまうから」
「こんな悲しいお話はないわ」
「聞いていて胸が痛くなるよ、そしてね」
 俯いて言うジャックでした。
「これが悲しいって気持ちなんだよね」
「オズの国では滅多に感じることはないけれど」
「とても辛い感情だよ」
 かかしも木樵も言います。
「本当にね」
「こうした感情は出来るだけ感じたくないね」
「そうだね、オズの国にいてよかったよ」
 しみじみとしてです、こう言ったモジャボロでした。
「この国の人魚の人達は声もなくさないし消えることもないから」
「だからだね」
「人魚姫はいないんだね」
「そうした悲しい人魚姫は」
「そのことが嬉しいよ」
 モジャボロにしてもというのです。
「僕にしても」
「ええ、というか脚が人間のものになるのは」
 ジュリアが言うにはです。
「この国では海草を食べればね」
「そうそう、すぐにだね」
 かかしがジュリアに応えました。 

 

第二幕その七

「なるからね」
「そうした海草を食べれば」
「声を失うこともなく」
「それで人魚の人達も海の上に上がられるから」
「何の問題もないよ」
「そうなのよね」
 このことをお話するのでした。
「そうしたお話になるなんてね」
「外の世界の人魚のお話は悲しいね」
 木樵はその優しい心で心の底から悲しんでいました。
「そうした海草がないなんて」
「本当にそうよね」
「全くだよ」
「声も失うなんて」
「どうして告白出来るのか」
「それじゃあ何にもならないわ」
 ジュリアはこうも言いました。
「本当にね」
「全くだよ」
「しかしです」 
 神宝がオズの国の人達に言いました。
「この国の人魚の人達がそうで何よりです」
「ええ、幸せじゃないと」
「このオズの国では」
「意味がないからね」
 ジュリアはこう神宝に答えました。
「やっぱり」
「オズの国にいるのなら」
「そんな悲しいお話はあってはならないわ」
「あのお話をはじめて読んだのは子供の時だったよ」
 モジャボロは悲しいお顔で言いました。
「いや、あの時は泣いたよ」
「そこまで悲しいお話だったんだね」
「うん」
 ジャックにも答えます。
「本当にね」
「そうだったんだね」
「だからね」
「オズの国の人魚の人達でそんなことはなくて」
「本当に嬉しいよ」
 そうだというのです。
「僕もね」
「モジャボロさんは笑顔が好きだしね」
「大好きだよ」
 ただ好きでなく、というのです。
「本当にね」
「だからだね」
「うん、皆幸せでないと」
 モジャボロにとってはです。
「僕は悲しいよ」
「それがモジャボロさんだね」
「そうなんだ」
「ええ、ただ最近ね」
 ここでジュリアはこんなことを言いました。
「人魚の国がどうなっているか」
「そのことは?」
「ちょっとわからないから」
「長い間行っていないからだね」
「悪い風にはなっていないと思うけれど」
「そこまではわからないから」
「何とも言えないところはあるわね」
 こうモジャボロにお話するのでした。
「女王さんもお元気だと思うけれど」
「そのことは間違いないにしても」
「ええ、具体的にはね」
「果たしてどうなのか」
「そこまでは言えないわ」
「じゃあそのことを確かめる為にも」
「ええ、人魚の国に行きましょう」
 その目で確かめる為にもです。 

 

第二幕その八

「そうしましょう」
「そうだね、行こうね」
「ええ、皆で」
「それで、ですよね」 
 ジョージがここで言うことはといいますと。
「途中蜂蜜もですね
「そうそう、蜂蜜もね」
 カルロスも言います。
「あれも食べないと」
「マンチキンにあるとても美味しい蜂蜜ね」
 ナターシャも楽しみにしている感じです。
「それも楽しむことも目的だから」
「そちらにも行って」
 恵梨香はナターシャに続きました。
「それからかしら、人魚の国は」
「蜂蜜は何処にあるんですか?」
 神宝はジュリアにそちらのことを聞きました。
「それで」
「マンチキンの国の森があるでしょ」
「あっ、ひょっとして」
 木樵はジュリアが森と言ったところではっとなりました。
「僕が昔仕事をしていた」
「そう、あそこなの」
「やっぱりそうなんだね」
「ええ、あそこに行ってね」
 そしてというのです。
「蜂蜜作りの人からね」
「蜂蜜を頂くんだね」
「そのとても美味しい蜂蜜をね」
 まさにというのです。
「そうなるわ」
「そうなんだね」
「木樵さんにとっては思い出深い場所よね」
「そうだね、今思うとね」
 とてもとです、木樵は懐かしんでいるお顔でジュリアに答えました。
「ドロシーにも出会えたね」
「そうよね、それじゃあね」
「あの森に入って」
「蜂蜜を食べましょう」
「さて、蜂蜜がある場所はいいとして」
 今度はかかしが言いました。
「問題は途中何があるかだね」
「オズの国だからですね」
「うん、何時何が起こるかわからない」
 まさにとです、かかしは神宝にお話しました。
「それがオズの国だからね」
「だからですね」
「そう、そしてその時は」
「かかしさん達がですか」
「何とかさせてもらうよ」
「かかしさんの知恵と木樵さんの力とジャックのユーモアだね」
 モジャボロは三人の能力をお話しました。
「これで解決出来ないものはないよ」
「そしてモジャボロさんの魅力もね」
 ジュリアは微笑んでモジャボロに言いました。
「そういったものがあるから」
「僕もなんだ」
「そう、貴方もいてくれているから」
 だからだというのです。
「何があっても大丈夫よ」
「では及ばずながらね」
「ええ、お願いね」
「その時はね」
 皆で黄色い煉瓦の道を進みつつ明るくお話をしています、途御飯を食べたりして夜はテントの中で休んで。 

 

第二幕その九

 都から離れた村に着きました、そこは。 
 緑の、エメラルドの都の村でした。お家も柵も何もかもが緑です。
 その緑の村に入るとです、牧場のところででした。
 一人の小さな男の子、緑の上着とズボンそれに靴の子が泣いていました。神宝はその子を見て言いました。
「あの子どうしたのかな」
「ううん、何かあったのは間違いないけれど」
「ちょっとわからないね」
「まずはあの子に聞いて」
「それから確かめないとね」
 四人が神宝に応えました。
「まずはね」
「それからになるね」
「一体どうしたのか」
「そのことを聞いてから」
 こうお話してでした、そのうえで。
 五人は男の子にどうしたのか尋ねました、ですが。
 男の子は泣くだけでお話が出来ません、するとです。
 かかしはすぐに閃いてです、こう言いました。
「ここはジャックに任せよう」
「僕に?」
「そう、泣いている子には何がいいお薬かな」
「それは笑いだね」
「そう、笑いだからね」
 だからというのです。
「ここは君のユーモアに期待したいけれど」
「うん、わかったよ」
 ジャックはかかしの提案に笑顔で応えました、そしてでした。
 男の子のところに来てです、にこにことしてでした。
 おどけた踊りやカボチャの頭をコミカルに動かしたりピエロの様な芸を見せました。そうしたものを見ていますと。
 自然とです、男の子はです。
 泣き止んででした、そのうえで。
 自然と笑顔になりました、ジャックは男の子が笑顔になったところで尋ねました。
「君はどうして泣いてたかな」
「うちの犬がいなくなったの」
「犬が?」
「うん、トニーがね」
 男の子は犬の名前もお話しました。
「いなくなったの」
「トニーは君のお家の犬かな」
「うん」
 そうだというのです。
「そうなの」
「それでトニーはどんな犬かな」
「緑の毛でね」
 エメラルドの都の犬らしくというのです。
「とても大きいの」
「どれ位かな」
「僕と同じ位だよ」
 小さな男の子と、というのです。
「大体ね」
「そう、君位だね」
「それで毛が長くて目が隠れているんだ」
「毛でだね」
「うん」 
 そうだというのです。
「そうした外見なんだ」
「わかったよ、名前はトニーでだね」
「大きくて毛が長くてね」
「緑色で目が隠れている」
「そうした犬なんだ」
「それじゃあ私達が探させてもらうわ」
 ジュリアは困っている男の子を助けることをすぐに決めてです、その上で男の子に対して微笑んで言いました。 

 

第二幕その十

「そうさせてもらうわ」
「トニーを探してくれるの?」
「オズの国では皆そうでしょ」
 法律で決まっていることですがそれ以前に誰もがすることです。
「困っている人は助ける」
「だからなんだ」
「ええ、そうさせてもらうわ」
 是非にというのです。
「私達がね」
「有り難う、じゃあ一緒に探してくれる?」
「それじゃあね」
「それと君の名前だけれど」
 ジャックは男の子のそれを尋ねました。
「何ていうのかな」
「ディックだよ」
「ディック君だね」
「うん、この牧場の子なんだ」
 見ればかなり広い牧場です、その中には沢山の羊達がいてとてのどかに草を食べたり寝ていたりしています。
「トニーと一緒に牧場の番をしていたけれど」
「そのトニーがいなくなってだね」
「困っていたんだ」
「そうだったんだね」
「牧場の何処を探してもいなくて」
「そこに僕達が来て」
「うん、お話が出来たんだ」
 そうだったというのです。
「今ね」
「よし、それじゃあ今から君のお友達を探し出してみせるよ」
 かかしは確かなお顔でディックに約束しました。
「これからね」
「それじゃあ」
「今から探そうね」
 こうしてでした、皆でディックの愛犬でありお友達でもあるトニーを探すことになりました。ですが探すにしてもです。
 ジャックは首を少し傾げさせてです、かかしに尋ねました。
「トニーの外見は聞いたけれど」
「目立つと言っていいね」
「うん、大きくて毛が長くて目が隠れている」
「それだけでかなり目立つよ」
 かかしも言います。
「それこそね」
「そうだよね」
「けれどね」
「けれどだよね」
「そう、ディックはこの村の子だけれど見付けられなかった」
 ずっとこの村にいるその子でもです。
「この村のことは隅から隅まで知っている筈なのに」
「そんな子が見付けられないなんて」
「ちょっとやそっとじ見付けられないかもね」
「けれど絶対に見付けないと」
「僕達はディックに約束をしたからね」
「約束は絶対に守らないと」
「その通りだよ」
 かかしもこう答えます。
「絶対に見付けるよ」
「具体的にはどうするの?」
「そう、ディックは村の隅から隅まで探したね」
 このことをです、かかしはまた言いました。
「そうしたね」
「そうしたよ」
 実際にとです、ディックも答えます。 

 

第二幕その十一

「牧場も飼育小屋の中も倉庫も村のあちこちもね」
「そうだね」
「全部探したよ」
「じゃあお家の中はどうかな」
「お家の?」
「そう、お家の中はどうかな」
「あっ、そういえば」
 言われてです、ディックもはっとなりました。
「お家の中は」
「探していないね」
「うん」
 ディックは目を瞬かせながらかかしに答えました。
「そこまでは」
「そう、じゃあわかるね」
「トニーはお家の中にいるんだ」
「じゃあお家の中を探してみよう」
「今から行って来るよ」
 そのお家の中にというのです、そしてです。
 実際にお家の中に入っていきました、牧場の傍にあるそのお家にです。そうしてお家から出て来た時にはです。
 ディックが言った通りの大きくて緑の長い毛を持っている目のところが毛で隠れた犬がディックと一緒に出てきました、そしてです。
 ディックはその犬を連れて皆のところに来て言いました。
「いたよ、トニー」
「やっぱりね」
 かかしはディックの言葉を受けて笑顔で応えました。
「犬はお家の中にいたね」
「まさかお家の中にいるなんて」
「いなくなった人、なくなったものはね」
「近くにいたりあったりするんだ」
「そうだよ、人は意外と手元や足元は見ないから」
 それでというのです。
「気付かないからね」
「だからなんだ」
「そうだよ、だから君の犬もね」
 そのトニーもというのです。
「近くにいたんだ」
「いや、実はお父さんとお母さんに呼ばれてね」
 トニーがお話してきました。
「お家の中でおやつを食べてそのまま寝ちゃったんだ」
「それならそう言ってくれたらよかったのに」 
 ディックは口を尖らせてトニーに言いました。
「探したんだよ」
「御免ね」
「というかおやつって」
「うん、ちょっと早かったけれどね」
「それ食べていたんだ」
「そうだよ」
「けれど見付かってよかったよ」
 ディックはこのことは心から喜んでいます。
「本当にね」
「かかしさんだからこそわかったことね」
 ジュリアはかかしを見てうんうんと頷いています。
「その知恵で」
「いや、村のあちこちを探してもって聞いてね」
「それでなのね」
「いないとなるとね」
「身近かもって思ったのね」
「聞くところ目立つ外見だし」
 実際にかなり目立つ外見でした、かかし達が見ても。
「本当にね」
「だからなのね」
「それで見付からないとなると」
「近くね」
「そこにいるかもって思ったんだ」
「そして実際にいたわね」
「本当に案外ね」
 これがというのです。 

 

第二幕その十二

「探している対象はね」
「近くにあったりするのね」
「ポケットに収めていても忘れているとか」
「あるから」
「そう、だからね」
「そこから考えてなの」
「そしてその通りだったね」
 かかしはにこりとして述べました。
「トニーはいたわね」
「そうだったね」
「有り難う、じゃあ皆にお礼をしたいんだけれど」
 ディックはにこにことして皆に言ってきました。
「いいかな」
「お礼というと」
「そう、おやつの時間だから」
 それでというのです。
「今から皆に食べて欲しいけれど」
「そうしてくれるの」
「うん、いいかな」
 こうジュリアにも言います。
「どうかな」
「是非そうして欲しいけれど」
 ディックだけでなくトニーも言ってきました。
「僕のせいで迷惑をかけたし」
「今日はチョコレートケーキなんだ」
 おやつはとです、ディックは皆にどうしたおやつなのかもお話しました。
「それをね」
「今からね」
「そう、食べてね」
「そこまで言ってくれるなら」
「うん、宜しくね」
 こうしてです、皆は牧場の一隅に座ってでした、ディックが持って来たそのチョコレートケーキを食べました。
 ケーキの色はエメラルドの都なので緑色です、そして味は。
「あっ、これは」
「美味しいね」
「うん、チョコレートの味がするね」
「それもとても甘くて」
「素敵な美味しさね」
 五人はそれぞれケーキを食べてにこりとなりました。
「しかもたっぷりあるし」
「沢山食べられるね」
「このこともいいね」
「美味しくて沢山あるなんて」
「最高ね」
「うちはいつもこうなんだ」
 ディックもにこにことしてケーキを食べつつ五人にお話しました。
「おやつも御飯もたっぷりなんだ」
「たっぷり食べないとだね」
「動けなくなって牧場のお仕事が出来ないからね」
 だからとです、ディックはモジャボロに答えました。
「お父さんとお母さんがそう言ってなんだ」
「それでなんだね」
「いつもこうなんだ」
 おやつはというのです。
「美味しいものをたっぷりなんだ」
「いいことだね」
「よく食べてよく働く」
「君のお家の決まりだね」
「そうだよ、ところで僕も皆のことは知ってるけれど」
 ディックもというのです。
「冒険なのかな」
「ええ、そうなの」
 ジュリアもケーキを食べています、そのうえでの返事でした。
「マンチキンの国まで行くの」
「ああ、マンチキンの」
「あそこに行くつもりなの」
「そうなんだね」
「そう、都からね」
「マンチキンの国は青だよね」
 ディックはその色のお話をしました。 

 

第二幕その十三

「そうだね」
「そうよ、あの国の色はね」
「そうだよね、この国は緑で」
「あの国の色は青よ」
「僕まだ他の国に行ったことがないから」
 エメラルドの都以外の国にはというのです。
「だから聞いているだけだけれど」
「それなら何時かね」
「他の国に行ってみたらだね」
「いいわ」
 ジュリアはディックにこりと笑って言いました。
「そうしたらね」
「うん、大きくなったらそうするよ」
「冒険もいいわよ」
 ジュリアはディックにこのこともお話しました。
「行くと楽しいし色々なことを知ることが出来るし」
「だからなんだ」
「そう、行くといいわ」
「じゃあマンチキンの国にも他の国にも行って」
「色々見ていくのよ」
「そうさせてもらうね」
 何時かはとです、ディックも笑顔で応えました。皆で食べていますが勿論かかしと木樵、ジャックは食べる必要がないので食べていません。一緒にいて楽しんでいるだけです。
 そしておやつを食べ終わるとでした。皆で。
 ディックとトニーに笑顔で別れました、そしてでした。
 村を出てさらに東に進みます、そうしつつです。木樵が皆に言いました。
「明日はね」
「はい、マンチキンの国ですね」
「あの国に入りますね」
「そうなりますね」
「そうなるよ」
 こう言うのでした。
「いよいよね」
「そうですね、本当に」
「明日はマンチキンですね」
「あの国に入りますね」
「うん、あの青さを見ると」
 本当にとです、また言った木樵でした。
「ついつい笑顔になってしまうよ」
「僕もだよ」
 かかしもお話に加わりました。
「あの国に入るとね」
「故郷に戻ってきた」
「だからね」
「そう思うからだよ」
 うきうきとしている感じが出ています。
「本当にね」
「僕も一緒だよ、それじゃあね」
「一緒にマンチキンに入って」
「楽しくね」
「冒険をしようね」
「何ていいますか」
 ここで神宝は自分の青い服を見てからこんなことを言いました。
「青っていいですよね」
「マンチキンの色だね」
「まさにその色だね」
「はい、僕は色では青が一番好きですから」
 だからというのです。
「マンチキンの国も好きですよ」
「そういえば貴方達はそれぞれ好きな色が分かれてるわね」
 ジュリアは神宝だけでなく他の子達も含めて述べました。
「そうよね」
「はい、僕は赤です」
 ジョージは今もこの色の服を着ています。
「カドリングの国の色ですね」
「そして僕はウィンキーですね」
 カルロスは黄色い服が大好きで他のものもそうです。 

 

第二幕その十四

「そうなりますね」
「私は黒だからオズの国の色にはない色だけれど」
 ナターシャの黒のゴスロリはオズの国でも変わりません。
「確かに私の色ね」
「私もナターシャと同じね、オズの国の色じゃないわ」
 最後に恵梨香は自分のピンクの服を見ました。
「それでもピンクが色になってるわね」
「そうでしょ、それぞれの色があるわね」
 ジュリアは五人も含めて言いました。
「それぞれで」
「そうなんですよね」 
 神宝がジュリアに応えました。
「それぞれの色があるんですよね、僕達は」
「オズの国に入る前からよね」
「はい、それぞれ好きな色がありまして」
「その色で服や持っているものを統一してるのね」
「大体そうです」
「それってオズの国向きよ」
 ジュリアはにこりと笑ってこう神宝にお話しました。
「一つの色がイメージカラーになるのも」
「そうなんですね」
「そうよ、そういえば私もね」
「ジュリアさんもですね」
「ピンクが多いわ」
 着ている服や持っているものはです。
「恵梨香と同じね」
「オズの国ではピンクの色の国はないけれど」
 ジャックが言ってきました。
「その人ではいるよね」
「例えばオズマ姫は白ね」
「そう、オズマの着る服はね」
 ジャックはジュリアに応えて述べました。
「白だよね」
「そうなのよね」
「その人それぞれの色はあるよね」
「それもまたオズの国よ」
「国それぞれ、人それぞれで色がある」
「それもまたね」
「僕の色は緑だね」
 モジャボロが着ている服は実際にこの色でした。
「この色が一番好きだしね」
「僕は青でね」
「僕は銀色だね」
 かかしと木樵は自分達の服や身体を見て確認しました。
「強いて言うのなら」
「そうなるね」
「僕はオレンジかな」
 ジャックは自分のカボチャの頭とオレンジのズボンから言いました。
「上着はダークパープルだけれどね」
「本当にそれぞれの色があるのがね」
 笑顔で、でした。ジュリアはこうも言いました。
「オズの国らしいわ」
「それで僕達もですね」
「ええ、オズの国らしいわ」
「じゃあ人魚の国の色は」
「海だからマリンブルーかしら」
 笑顔になってです、ジュリアは神宝に答えました。
「そうなるかしら」
「あの国はそうですか」
「ええ、海にいてあの人達の脚もそうした色が多いから」
「だからですね」
「マリンブルーかしらね」
 その色ではというのです、色のお話もしつつです。皆はエメラルドの都からマンチキンの国に入るのでした。 

 

第三幕その一

                 第三幕  青い国で
 草原の色が一気に変わりました、緑から青に。絨毯が代わる様に。そして木々の葉の色もそうなりました。
 神宝は色が変わったのを見てです、笑顔で言いました。
「マンチキンのl国ですね」
「ええ、今入ったわ」 
 ジュリアが神宝ににこりとして答えました。
「これでね」
「そうですよね」
「オズの国はこれでわかるわね」
「はい、色が変わって」
「どの国に入ったのか」
 まさにこのことがです。
「わかるのよ」
「もうすぐに」
「そしてこの国の海によ」
 そこにというのです。
「人魚の国があるのよ」
「もうずっと東ですね」
「東も東でね」
 まさにというのです。
「端にあるのよ」
「海ですから」
「オズの国は四方全て海に囲まれてるから」
「端になりますね」
「海にある国はね」
「それぞれの国のですね」
「そこにあるわ」
 まさにそこにというのです。
「人魚の国もね」
「わかりました、それじゃあ」
「もっと東に行くわよ」
 オズの東のマンチキンのさらにというのです。
「端までね」
「今回は長い旅になるね」
 ジャックは上機嫌で言いました。
「歩く距離が長いだけに」
「それまでにも色々あると思うけれど」
 かかしはマンチキンの青を見て故郷に帰ったと思ってです、そうしてあらためてにこにことして言ったのでした。
「皆で乗り越えて行こうね」
「僕達でね」
 木樵も言います。
「そうしていこうね」
「今度は何があるのかわからないけれど」 
 モジャボロも先のことを考えています。
「皆でやっていこうね」
「村でのことは無事に終わったけれど」 
 ジャックはディックのことを思い出していました、笑顔で別れた彼のことを。
「次もそうしていきたいね」
「ええ、皆でそうしていきましょう」
 ジュリアはジャックに笑顔で応えました。
「そうしていきましょう」
「そうだね、皆がいるからね」
「そうしていきましょう」
「さて、まずはね」
 モジャボロは青い世界を見回しつつ述べました。
「ジンジャー将軍のお家に行こうか」
「そうね、マンチキンの国に来たから」
 ジュリアもモジャボロに応えました。 

 

第三幕その二

「まずはね」
「そちらに挨拶に行こうね」
「あの人とも長いお付き合いだし」
「だからね」
 それ故にというのです。
「行きましょう」
「それじゃあね」
 そして実際にでした、皆でジンジャー将軍のお家にまで行きました。そのうえで挨拶をすると将軍はといいますと。
 ご主人と一緒にケーキの木の手入れをしていました、ですが将軍はジュリア達の挨拶を受けて笑顔で言いました。
「あら、今度の冒険はなの」
「ええ、マンチキンでだから」 
 それでというのです。
「挨拶に来させてもらったわ」
「そうなのね、それで何処に行くの?」
「人魚の国までだけれど」
「また随分と遠い国に行くわね」
 将軍はジュリアのお話を聞いて少し驚いた感じになって応えました。
「ここから随分あるわよ」
「ええ、それでもね」
「行くのね」
「そうするわ」
「そうなのね、ただね」
「ただ?」
「遠いからね」
 将軍はまたこのことを言うのでした。
「途中注意してね」
「ええ、旅道具は全部持っているから」
「それにかかしさんや木樵さんもいるし」
 将軍はかかし達も見て言いました。
「その顔触れならね」
「油断はしていないけれど」
「そうなのね、ただね」
「ただ?」
「冒険が長いとそれだけ何が起こるかわからないから」
「だからよね」
「そう、そこは注意してね」
 将軍はジュリアに親身になって言いました。
「いいわね」
「ええ、そこはね」
「貴女はしっかりしてるから大丈夫だと思うけれど」
 それでもというのです。
「注意してね」
「そうさせてもらうわ」
「さて、今はお仕事をしてるけれど」
 ここで将軍は笑顔になってこうも言いました。
「丁度お昼ね」
「だからっていうのね」
「そうよ、皆でお昼を食べない?」
 こう提案すえるのでした。
「これからね」
「いいの?」
「オズの国で遠慮は無用でしょ」
「そういうことね」
「そう、だからね」
 今からというのです。
「皆でお昼を食べましょう」
「奥さんが作ってくれた御飯は凄く美味しいからね」
 ご主人がにこにことして言ってきました。
「じゃあ今からね」
「さて、今日はビーフシチューにね」
 将軍はお昼のメニューのお話をしました。 

 

第三幕その三

「パン、チキンナゲットにポテトサラダとメロンよ」
「あっ、いいね」
 モジャボロはそのメニューを聞いて笑顔になりました。
「じゃあ今からね」
「ええ、お家に入って食べましょう」
「それじゃあね」
 モジャボロが応えてでした、そのうえで。
 皆でお家に入って将軍が作ったポテトサラダにチキンナゲットとビーフシチューにパンそしてデザートのメロンも食べてでした。
 食べられる人達は皆お腹一杯になりました、将軍は皆が食べ終わったところで笑顔で言うのでした。
「さて、お腹一杯になったからね」
「はい、これからの旅もですね」
「油断せずに進みながら」
「そうしてですね」
「行くのよ、貴方達もね」
 五人ににこりと笑って言うのでした。
「いいわね」
「はい、そうします」
「美味しいものをお腹一杯食べましたし」
「それじゃあ」
「やっぱり美味しいものをお腹一杯食べることがね」
 まさにこのことこそがというのです。
「大事なのよ」
「そうですよね」
「やっぱりそういうのを食べてこそですよね」
「冒険も出来ますね」
「そこからですよね」
「何といっても」
「そう、だから今からも行くのよ」
 暖かく送り出す言葉でした。
「これからね」
「そうさせてもらいます」
「是非」
 笑顔で応えた五人でした、そして将軍とご主人と笑顔で手を振り合ってまた会う時のことを楽しみにするのでした。
 そのうえで皆は先に先に進みますがティータイムを終えてさらに進んで五時位になるとです。道の真ん中にでした。
 大きな幹が転がっていました、ジュリアはそれを見て言いました。
「これはね」
「うん、近くの木が倒れたんだね」 
 木樵は道の左右を見ました、森は道のすぐ左右にあります。
「そうだね」
「そうね、じゃあ」
「うん、これをどけないとね」
 木樵はすぐに解決案を出しました。
「僕の斧でどけるよ」
「あっ、ちょっといい?」
 けれど、でした。ここでジュリアは斧を構えだした木樵に言いました。
「木を切ってどけるのはいいけれど」
「どうしたのかな」
「ええ、確かこの木のすぐ向こうは谷だったわね」
「あっ、そうだね」
 ジュリアは地図を取り出して現在地をチェックしましたが確かにそうでした。木樵も地図を見て頷きました。
「谷には橋がかけられているけれど」
「こうした場合はね」
「うん、トラブルは続くから」
「だからその橋が」
「落ちていたりするから」
「この木はただどけるのじゃなくて」
 それだけでなくというのだ。 

 

第三幕その四

「それ以外にもね」
「橋に使うとだね」
「いいんじゃないかしら」
 こう木樵に提案するのでした。
「そうしたらどうかしら」
「それは名案だよ、僕は木やブリキの細工は大得意だからね」 
 伊達にブリキの木樵ではありません、どちらの細工もオズの国一なのです。
「じゃあね」
「ええ、一応向こう側をチェックして」
「そうしてだね」
「どうするかを決めましょう」
「それじゃあね」
「よし、じゃあ僕を皆で上に放り投げてくれるかい?」
 かかしが皆に言ってきました。
「そして放り投げられた上から谷を見てね」
「どんな状況か確かめるのね」
「そうさせてもらうよ」
 かかしはジュリアにも答えました。
「だからね」
「わかったわ、それじゃあね」
「うん、皆でそうしてね」
 かかしの軽い身体をというのです、それで皆でかかしを胴上げするみたいに上に思いきり投げました、そしてです。
 かかしは上から木の向こうにある谷の状況をチェックしました、そうして着地してから皆に言いました。
「橋は落ちてたよ」
「やっぱりそうなのね」
「何があったか知らないけれど」
「じゃあ」
「うん、ここはね」
「この木を橋にすべきね」
 ジュリアは道を塞いでいるとても大きな倒れた木を見つつ言いました。
「そうすべきね」
「よし、じゃあ任せてね」
 木樵は斧を構えてでした、すぐにです。
 木を切ってです、かかしとジャック、モジャボロのアシスタントも受けてあっという間に頑丈な橋にしてしまってでした。その怪力で橋を担いで谷にかけてしまいました。
 そのうえで、です。皆で笑顔で言いました。
「これで大丈夫だね」
「うわ、端を作っちゃいましたね」
「あっという間に」
「それで担いでかけて」
「凄いですね」
「お力も」
「僕だから出来るんだ」 
 木樵は驚く五人ににこりと笑って答えました。
「僕は斧と手で木やブリキの細工なら何でも出来るからね」
「だから橋もですか」
「あっという間に出来たんですか」
「一時間も経っていないと思いますけれど」
「すぐにですね」
「出来たんですね」
「ただ出来ただけじゃないわ」
 今度はジュリアが五人にお話しました。
「木樵さんが作ったものはとてもしっかりしてるから」
「落ちたりしないんですね」
 ジョージがジュリアに応えました。
「そうなんですね」
「そういえば確かに頑丈そうですね」
 カルロスはその橋を見ています。
「何よりも」
「石の橋よりも頑丈そうね」
 ナターシャは橋の頑丈さを目でチェックしています。
「これなら」
「木樵さんにこんな技術があるなんて」
 恵梨香も言いました。 

 

第三幕その五

「かかしさん達もお手伝いしていたし」
「僕達もこうしたことは出来るんだ」
 ジャックが五人に答えました。
「木樵さんのお手伝いでね」
「流石に僕一人では無理だよ」
 木樵は斧を担いでお話しました。
「橋を一人で作ってかけることはね」
「皆で、ですね」
「皆がいるから出来るんですね」
「橋を作ってかけることも」
「そうなんですね」
「四人いてこそ」
「あくまで木樵さんがメインだけれど」
 ジュリアもあらためて五人にお話しました。
「この四人がいたらね」
「こうしたこともですね」
「出来るんですね」
「実はかかしさん達も手先が器用で力も強いの」
 それでというのです。
「こうしたことも出来るのよ」
「そうなんですね」
「橋を作れて持てる」
「そこまで出来るんですね」
「かかしさん達も」
「そうなんですね」
「流石にカリダ達には適わないけれどね」
 モジャボロは笑ってオズの国でかなり有名な猛獣の名前を出しました。
「これ位は出来るよ」
「こうして時々皆で橋を作っているんだ」
 ジャックもお話をしてくれました。
「今みたいにね」
「さて、これでいいね」
 木樵は自分達がかけた橋を見てにこにことしています。
「じゃあ橋を渡って」
「ええ、谷を越えましょう」
「ただこの橋は仮だから」
「オズマ姫にお話して」
「後で石のもっと頑丈な橋をかけようね」
「そうしましょう」
 こうしたこともお話してでした、そのうえで。
 皆は橋を渡ってさらに先に行ってです、そうしてこの日は橋を渡って暫く進んで晩御飯を食べて近くの湖で身体を奇麗にしてからテントで休みました。
 そしてです、朝起きるとすぐに御飯を食べて出発しますが。
 朝日を見つつです、ジャックが言いました。
「今日もいい天気だね」
「うん、冒険日和だね」
 モジャボロはジャックに笑顔で応えました。
「まさに」
「そうだよね」
「こうした朝に冒険をするとね」
「とても気分がいいよね」
「このまま人魚の国に行けたらいいね」
「途中蜂蜜も手に入れるんだよね」
「そうそう、それもあるからね」
 モジャボロはジャックに応えました。
「そちらも楽しみだよ」
「そうだよね」
「うん、ただ君は」
「かかしさんも木樵さんもだよ」
「何も食べる必要がないから」
「蜂蜜もだよ」
「口にしないね」
「うん、皆が舐めて笑顔になるのを見てね」
 そうしてというのです。 

 

第三幕その六

「楽しませてもらうよ」
「そうだよね」
「それが僕達の楽しみ方だから」
 食事やそうした時にです。
「楽しませてね」
「そうさせてもらうよ」
「そのことも待ってるんだ」
 ジャック達はというのです。
「今からね」
「そう言われると責任重大かな」
「いやいや、見せてもらうだけだから」
「そkまではなんだ」
「気にしなくていいよ」
 責任を感じるまではというのです。
「別にね」
「リラックスしてだね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「舐めるのを見せてね」
「じゃあいつも通りかな」
「そうだね」
 こうしたこともお話しました、そしてです。
 皆は谷を越えてさらに進んでいく中でお空にあるものを見ました、それは何かといいますと。
 凄く大きな生きものでした、それはムササビでしたが。
 そのムササビを見てです、ジュリアは目を瞬かせて言いました。
「あれっ、おかしいわね」
「おかしいっていいますと」
「ムササビは夜行性なのに」
「あっ、そういえばそうでしたね」
 神宝も言われてこのことを思い出しました。
「ムササビは夜行性でしたね」
「そうよ、今はお昼なのに」
「どうしてお昼に飛んでるんでしょうか」
「それが不思議ね」
「おおいムササビ君」
 モジャボロがムササビに尋ねました、その飛んでいる彼に。
「君はどうして飛んでるんだい?」
「あれっ、モジャボロさん?」
「そうだよ」
「かかしさん達もいるね」
 ムササビは下にいる皆も見ました。
「またどうしてここに」
「人魚の国まで向かっているんだ」
「ああ、そうなんだ」
「それで君はどうして今飛んでるんだい?」
 モジャボロは自分達の上を滑空するムササビにこうも尋ねました。
「君は夜行性だよね」
「うん、そうだよ」
「じゃあどうして今飛んでいるのかな」
「それはね」
 ここで、でした。ムササビは。
 皆の前に降りました、そして後ろ足で立ちつつ皆にお話しました。
「実は探しものをしていてね」
「探しもの?」
「うん、この辺りに凄く美味しい果物が実る木があるって聞いて」
「果物の?」
「最近寝る前に探しているんだ」
「そうだったんだ」
「うん、けれどね」
 ムササビは難しいお顔で言うのでした。
「その果物が何かわからないんだ」
「わからなくて探していたいんだ」
「そうなんだ」
「果物っていっても」
 ここでジュリアが言いました。 

 

第三幕その七

「色々あるから」
「そうなんだよね」
「具体的にどんな果物かわかっていないのね」
「どんな果物かな」
「この辺りの果物は」
 ジュリアは周りを見回しました、そのうえでムササビに言いました。
「ここは私も知っている場所よ」
「あっ、そうなんだ」
「この辺りは梨が実っているわ」
「梨?」
「そう、洋梨がね」
「じゃあ美味しい果物っていうのは」
「洋梨かしら」
 こうムササビに言うのでした。
「ここは他には桃も実るけれど」
「じゃあ桃なのかな」
「ううん、どうなのかしら」
「僕硫黄なしも桃も食べたよ」
 洋梨はジュリアに答えました。
「この辺りのね」
「そうだったの」
「美味しかったけれどそれなのかな」
「そうだったのかも知れないわね」
「うん、どうなのかな」
「けれどそれがわからなくてよね」
「寝る前だけれどね」
 それでもというのです。
「こうして飛んでその果物を探してるんだ」
「それで食べてなの」
「これかなって思ってね」
 この辺りの洋梨や桃をというのです。
「食べてるけれど」
「どうもなの」
「違うかなって思っているんだ」
「つまりそこまで美味しい果物を食べていないのね」
「うん」 
 その通りとです、ムササビはジュリアに答えました。
「実はそうなんだ」
「それじゃあ」
 今度は神宝が言いました。
「この辺りの洋梨とか桃食べてみる?」
「あっ、それいいね」
 ジョージは神宝のその提案に頷いて応えました。
「まずは食べてみてね」
「それで美味しいかどうか確かめるべきね」
 恵梨香も神宝の提案に賛成しました。
「実際に」
「食べてみないとわからないしね」
 カルロスは確かめるよりそちらを楽しみにしています。
「それじゃあ」
「この辺りの果物を摘み取って食べてみましょう」
 ナターシャは実際にどうするのかを言いました。
「これから皆でね」
「よし、じゃあ皆まずは何人かで一組になって解散しよう」
 かかしは右手の人差し指を立てて言いました。
「それで果物を摘み取って集めよう」
「そしてここに戻るんだね」
 木樵はかかしに集まる場所を聞きました」
「そうするんだね」
「うん、ここがいいね」
「じゃあムササビ君はここで待ってもらって」 
 ジャックはムササビを見て皆にお話しました。
「そして僕達はね」
「うん、ここで休みながら待ってるよ」
 ムササビは実際にそうすると答えました。
「それじゃあね」
「皆でこの辺りの果物を摘みましょう」
 こうしてでした、皆何人ずつで一組になってそうして道の左右の森の中に入りました。五人の子供達は一組になってジュリアとモジャボロ、そしてかかしと木樵とジャックの組になって。 

 

第三幕その八

 それぞれで探しました、そのうえで暫くしてムササビのところに戻りますと。 
 洋梨や桃以外にも色々な果物がありました、これにはジュリアも驚きました。
「こんなに色々あるなんて」
「あれっ、そうしたのも果物なんだ」
 ムササビは自分に出された果物達を見て目を丸くしました。この森で彼が見付けたものばかりでしたが。
「洋梨や桃だけじゃなくて」
「これ食べたことないの?」
 神宝はまずはライチを見せてムササビに尋ねました。
「ライチは」
「うん、見たことはあっても」
「食べるものとはなんだ」
「思っていなかったよ」
「じゃあこれも?」
 ジョージは柿を見せました。
「そうなんだ」
「何かなって思ってたよ」
「これもなの?」
 恵梨香はアケビを見せました。
「美味しいのに」
「何か気持ち悪いなって思って近寄らなかったんだ」
「どれも果物で食べられるから」
 カルロスはパッションフルーツを見せています。
「これだってそうだし」
「あの、これ凄く美味しいから」
 ナターシャは大好きなキーウィを見せています。
「キーウィも」
「というかこの辺りの果物の種類が増えてるわね」 
 ジュリアはこのことを知りました。
「前は洋梨や桃だけだったのに」
「うん、そうだね」
 かかしも頷きます。
「前はここまで多くなかったよ」
「ここも変わったってことだね」
 木樵の口調はしみじみとしたものでした。
「つまりは」
「オズの国も常に変わるから」
 ジャックもオズの国のこのことはよく知っています。
「それでだね」
「この辺りの果物の種類も増えたんだね」
 モジャボロは笑顔で果物達を見ています。
「そしてムササビ君はこういったものが食べられるのを知らなかったんだね」
「見ていても食べられるとはね」
 ムササビもその果物達を見て言いました。
「思ってもいなかったよ」
「全部食べられるから」
 ジュリアはムササビににこりと笑って告げました。
「どの果物もね」
「そして美味しいんだね」
「ええ、そうよ」
 実際にというのです。
「だから楽しんで」
「うん、それじゃあね」
 こうしてでした、ムササビは実際にそういった果物を食べてみました。そのうえで驚いてこう皆に言いました。
「どれも凄く美味しいよ」
「そうでしょ」
「アケビもキーウィもパッションフルーツも」
「そうよね」
「柿も、特にね」 
 ムササビが一番気に入った果物はといいますと。
「ライチがね」
「あっ、ライチがなんだ」
「一番美味しいよ」
 こう神宝に答えるのでした。 

 

第三幕その九

「本当にね」
「じゃあ君が探していた果物は」
「ライチだったみたいだね」
「そうなんだね」
「けれど他の果物もね」
 ライチ以外もというのです。
「美味しいよ」
「うん、柿とかもそうだよね」
「これはいいね」
「それじゃあこれからは」
「うん、どの果物も食べるよ」
「そうするんだね」
「特にライチをね」
 ライチの皮を前歯で破ってから中身を食べつつです、ムササビは神宝に答えました。
「そうするよ、そしてね」
「そして?」
「今日は寝るよ」
「その果物に出会えたからだね」
「自分の巣に戻ってね」
「それじゃあ今日からは」
「もうこうした時間には起きないよ」
 そうするというのです。
「本当は僕達ムササビはもう寝ている時間だしね」
「夜行性だからだね」
「朝更かしは止めるよ」
 夜更かしではなくこちらになるのです、夜行性ですから。
「ぐっすりと寝る様にするよ」
「睡眠不足はよくないから」
 ジュリアもそこは言うのでした。
「だからね」
「実は最近寝不足だったんだ」
 美味しい果物を寝るべき時間に探していてです。
「けれどもうね」
「それもよね」
「終わるから」
「それじゃあ」
「美味しい果物を一杯食べて」 
 勿論まずはライチです。
「そして毎日気持ちよく寝るよ」
「そうしてね」
「うん、そうするよ」
 ムササビはジュリアに笑顔で答えました、そしてでした。
 身体を広げて上に大きくジャンプをしてそのうえでお空に上がってです、皆に手を振って自分の巣の方に飛んで行きました。皆も手を振り返しました。
 その後でふとです、神宝は言いました。
「ムササビは木の上から飛ぶけれど」
「貴方達の世界ではそうなのね」
「この世界ではああしても飛べるんですね」
「そうよ」
「それは便利ですね」
 笑顔で頷いてです、神宝は応えました。
「ムササビさん達にとって」
「そうよね」
「それじゃあ忍者の人も」
「日本の?」
「忍者もああして空を飛べるんです」
 それが出来るというのです。
「風呂敷を両手に持って両足に縛ってバラシュートみたいにして」
「飛べるのね」
「ムササビの術っていいまして」
「そうそう、ドラマとかでそうするんだよね」
 ジョージは祖国アメリカのドラマで観た忍者を思い出しました。 

 

第三幕その十

「お空を飛ぶんだよね、その術で」
「あれ実際にしてたかわからないけれど」
 日本人の恵梨香の言葉です。
「漫画とかじゃそうして飛んでるわね」
「あの飛び方はまさにムササビね」
 ナターシャも忍者のことを思い出しました。
「じゃあオズの国では」
「空にジャンプして飛べるんだね」
 最後にカルロスが言いました。
「忍者の人なら」
「ううん、忍者ね」 
 ジュリアは五人のお話から首を傾げさせて述べました。
「オズの国にもいるわね」
「それじゃあ」
「そうして飛べるのかしら」
「凄いですね」
「やっぱりね、ただオズの国に最初は忍者はいなかったわ」
「何しろ同じ時代のアメリカの影響を受ける国だから」
 モジャボロはオズの国のこの特質からお話しました。
「だからね」
「アメリカに忍者が入って来たのは最近みたいだから」
 ジュリアはまた言いました。
「忍者はオズの国にもずっといなかったわ」
「面白いんですけれど、忍者って」
「面白くてもアメリカにいなかったから」
 ジュリアは神宝に答えました。
「だからね」
「それで、ですか」
「最近までいなかったのよ、オズの国には」
「わかりました」
「ただ忍者の人達って凄いよ」
 ジャックはにこにことしてです、その人達についてお話しました。
「神出鬼没で色々な術を使えて」
「あの格好良さは別格だね」
 木樵も忍者についてお話します。
「僕も好きだよ、忍者」
「ああした術ってどうして使えるのかってね」
 ジャックが思うのはこのことでした。
「不思議にさえ思うよ」
「あの術は魔法じゃないけれど」
 ジュリアは忍術について述べました。
「魔法と同じ位凄いわね」
「忍術はオズの国では禁止されていませんよね」
「ええ、ただ誰も使えるものではないでしょ」
「はい、あの術は」
 神宝も忍術についてはこう考えています。
「とても」
「だからオズマ姫グリンダさんみたいな人だけが使っていいものとはされていないの」
「誰でもですね」
「使っていいとはなっているわ」
「そうなんですね」
「けれど忍術は修行するだけでも大変でしょ」
「そのうえで忍術を身に着けるとなると」
 オズの国でもです、このことは。
「難しいから」
「それで、ですね」
「オズの国で忍者は少ないの」
「そういうことですか」
「そうなの、あと日系人の人が多いわね」
 忍者の人にはというのです。
「日本のものだけあって」
「やっぱりそうですか」
「というか忍者は日本からアメリカに入ったわね」
「はい」
 その通りだとです、神宝も答えます。 

 

第三幕その十一

「紛れもなく」
「そうよね」
「それが何か」
「貴方達の世界でもそうね」
「そうですが」
「他の国ではないわね」
 何故かこのことが妙に気になったジュリアでした。
「忍者の起源がどうとか」
「日本起源ですよ」
「そうね、何か変な感じもしたから」
「変な感じ?」
「ええ、そんな気もしたわ」
「そうですか」
「まあ気のせいね」
 ジュリアはこのことについてはこう考えることにしました、そのうえで。
 忍者についてのお話を終えてでした、そうしてまた歩きはじめました。マンチキンの国での旅は普通に穏やかに進んでいましたが。
 お昼になってです、皆で御飯を食べますが。
 この時のメニューのハヤシライスを食べつつです、ジュリアは言いました。
「カレーと比べて食べる機会がないけれど」
「それでもですね」
「美味しいですよね」
「このハヤシライスにしても」
「お肉も玉葱も沢山入っていて」
「ソースの味もよくて」
「そう、普通にね」
 そうだというのです。
「美味しいわ、だからこうして食べていても」
「満足出来ますね」
「カレーと同じ位」
「こちらはこちらで」
「満足出来ますね」
「そうですよね」
「ええ、じゃあこれを食べて」
 そしてというのでした。
「また出発よ」
「ううん、何杯でも食べられるね」
 モジャボロは実際にハヤシライスをおかわりしています、スプーンがどんどん動いていてそれがリズミカルでもあります。
「ハヤシライスも」
「これがカレーに比べて人気がないことはね」
「少し不思議だね」
「こんな美味しいのに」
「カレーが強過ぎるのかな」
 モジャボロはこう考えました。
「やっぱり」
「そうなるのかしら」
「実際にカレーは強いね」
「何ていうか」
 ジュリアも王宮でそのカレーをよく食べるので言います。
「もうね」
「別格位にだね」
「存在感があるわね」
「味にしても」
「そう、強くて」
「だからハヤシライスはね」
「こんなに美味しいのに」
 カレーと比べるとです。
「存在感が出せないのね」
「そうだと思うよ」
「何ていうか」
「相手が強過ぎるんだよ」 
 ハヤシライスの悲しいところはです。 

 

第三幕その十二

「カレーライスだからね」
「そうなるのね」
「というか今のアメリカではハヤシライスも食べられるんだね」
「そうみたいね」
 だからオズの国でも食べられるのです。
「カレーもそうで」
「アメリカのお料理も増えたよ」
「モジャボロさん達が来られた時よりも」
「遥かにね」
「そのこともあるわね」
「僕達が最初に来た時なんか」
 モジャボロはその時のことを思い出すのでした。
「こんなに色々なものを食べられなかったよ」
「うん、僕が見てもそうだね」
 かかしは食べていませんが皆が食べている時の笑顔を見て楽しんでいます、このことは木樵とジャックも同じです。
「オズの国のお料理は増えたね」
「そうだよね」
「ハヤシライスもそうだし」
 木樵も言います。
「他のお料理もね」
「中華料理とか和食とかね」
 ジャックは料理のジャンルからお話しました。
「色々食べられる様になったね」
「アメリカは移民の国ですからね」 
 そのアメリカ人のジョージの言葉です。
「このことが強く出ていますね」
「アメリカでもお寿司が食べられるから」
 日本人の恵梨香が言うことはといいますと。
「オズの国でもですね」
「カレーとかハヤシライスも」
 カルロスは今食べているものからお話しました。
「日本のお料理だからね」
「欧州にはないから」
 ナターシャも言います。
「日本に入ってそうなってアメリカにも渡ったのよ」
「それで僕達もこうして食べてるんだね」
 神宝はハヤシライスをおかわりしました。
「それも美味しく」
「アメリカは本当に色々なものが食べられる国で」
 神宝は考えるお顔になっています。
「オズの国もそうなんですね」
「そうなるわ、色々な人達もいるしね」
「アメリカがそうである様に」
「ええ、アフリカ系の人もアジア系の人もいるわね」
「国民の人達に」
「ヒスパニックの人達もね」
 本当に色々な人達がいます。
「沢山いるでしょ」
「そうした国なんですね」
「どんどん変わっていってるの」
 アメリカがそうなると共にです。
「オズの国もね」
「僕達もその変化の中にいるんですね」
「そうよ」
 まさにというのです。
「この国もね」
「変わらないってことはないんですね」
「全く変わらないものなんてこの世いはないわ」
 ジュリアは言い切りました。 

 

第三幕その十三

「そうでしょ」
「はい、それは」
「何かを全く変わらないって言い切る人は何もわかっていない人よ」
「そうなるんですね」
「そうよ、人もものも国も変わるから」
「そういえば」
 ここで神宝が気付いたことはといいますと。
「木樵さん達も昔は橋を作れなかったですね」
「そうでしょ」
「変わったんですね、木樵さん達も」
「そうよ」
 まさにというのです。
「そうなったのよ」
「そうですか」
「そう、だからね」
「オズの国も変わって」
「これからもどんどん変わっていくのよ」
「そういうことですね」
「変わったから」
 ジュリアがここでにこりとして言うことはといいますと。
「テーブル掛けもあるのよ」
「僕達が冒険の時に使っている」
「食べものや飲みものなら何でも出せるあれですね」
「あのテーブル掛けもあるんですね」
「時代が変わったから」
「だからですね」
「そうよ、あのテーブル掛けもオズの国にはなかったわ」
 かつてのオズの国にはというのです。
「そこも変わったわ」
「そうなんですね」
「それも変わるってことですね」
「科学も魔法も変わっていって」
「アメリカが変わってオズの国も変わっていく」
「この国も」
「そうよ、じゃあ御飯の時はね」
 まさにその時はというのです。
「テーブル掛けでお料理を食べましょう」
「はい、それじゃあ」
「そうしましょう」
「そして美味しいものを出して」
「皆で食べましょう」
「その時は」
「是非ね」
 ジュリアは五人に言いました、そうして皆でなのでした。
 マンチキンの国を東に東に進んでいきます、人魚の国はまだまだ先ですが皆は陽気にその国に向かっていました。
 その中でかかしは町に入った時に左手にあった学校で野球をしているのを見て微笑んでこんなことを言いました。
「野球も変わったね」
「うん、僕達がはじめて観た時よりもね」
 木樵がそのかかしに応えました。
「随分とね」
「そうなったね」
「グローブは大きくなって」
「ユニフォームはスタイリッシュでカラフルになって」
「バットもよくなって」
「ボールもかなり飛ぶ様になったよ」
「確かかかしさん達がはじめて野球を観た頃は」
 何時だったかとです、ジョージが言いました。
「ドロシーさんとお会いする前で」
「ええと、もう野球がはじまった頃で」
 恵梨香も言います。
「日本にも伝わってきた」
「プロチームもなかったんじゃないかしら」
 ナターシャは腕を組んで考えるお顔になっています。 

 

第三幕その十四

「確か」
「そんな昔だよね」
 カルロスも聞いている野球の歴史から考えました。
「それこそ」
「ベースも四角だったりしてね」
「ショートもいなかったりして」
「随分と違っていたよ」
「本当にそんな時代だったよ」
 かかしと木樵は子供達にその頃の野球のことをお話しました。
「もう今とは違うから」
「それも全くね」
「マウンドも違っていたね」
「もうボールが飛ばなくてね」
「ホームランも少なかったんですよね」
 神宝が二人に聞いたのはこのことでした。
「そうですよね」
「そうそう、もうね」
「殆ど出なかったね」
「ドロシーが来て暫く経ってからかな」
「この国にね」 
 その頃位からだというのです。
「ホームランが増えたのは」
「それも急に増えたんだよね」
「もうびっくりする位にね」
「皆ボールを飛ばす様になったよ」
「ベーブ=ルースさんかららしいですから」
 神宝はこの偉大な野球選手の名前を出しました。
「ホームランが増えたのは」
「そちらの世界の野球選手だよね」
「野球の神様って呼ばれていた」
「とにかくホームランを打ちまくった」
「偉大な選手だったらしいね」
「はい、この人が出てです」
 そうしてというのです。
「僕達の世界ではホームランが増えて」
「オズの国でも増えた」
「そうなったんだね」
「あとアフリカ系の選手もですね」
 見ればグラウンドで投げているピッチャーもバッターも褐色のお肌の少年です、それぞれのユニフォームがよく似合っています。
「出て来て」
「最近ではアジア系の選手も増えたし」
「勿論ヒスパニックの選手もね」
「そうしたことも変わってきてますね」
「オズの国の野球も」
「そうなっているんだよ」 
 まさにというのです、オズの国も実際に変わっていっています。それは果物や野球にも出ているのでした。 

 

第四幕その一

                 第四幕  植物達のダンス
 一行はさらに東に進んでいきます、そんな中日が暮れるとテントを出してテーブル掛けから晩御飯を出して食べます。今日のメニューは飲茶でした。
 麺に海老やフカヒレの蒸し餃子ににら餅、焼売にお饅頭それに八宝菜や豚腹煮込みもあります。そうしたものを食べながらです。
 ジュリアはにこにことしてです、お茶も飲みつつ言いました。
「オズの国の中華街でもね」
「あっ、オズの国にも中華街ありますね」
「ええ、あるでしょ」
 こう神宝に答えました。
「都にもあるしね」
「そうですよね」
「大きな街には大抵あるわ」
 オズの国でもというのです。
「そしてそうした場所でもね」
「こうしてですね」
「食べられるし」
「今みたいにですね」
「テーブル掛けでも出せてね」
 そうしてというのです。
「食べられるのよ」
「それも美味しく」
「そうよ、中華料理の中では」
 ジュリアは海鮮麺を食べつつ言いました。
「これが一番好きかしら」
「飲茶がですか」
「そうかも知れないわ」 
 炒飯を食べる神宝に言うのでした。
「私はね」
「中華料理は他にもメニューの形がありまして」
「飲茶以外にもよね」
「これは大体広東の方ですね」
「確か君はそちらの生まれじゃないね」
「はい、ですから」
 神宝はモジャボロにも答えました。
「本場かといいますと」
「同じ中国でもだね」
「違います」
「そうだったね」
「北京や上海、四川でまたお料理が違いまして」
「確かこれは本来は四川料理だね」
 モジャボロは自分が食べている麻婆豆腐を見ながら神宝に尋ねました。
「そうだったね」
「はい、そちらのお料理です」
「僕の好物の一つだけれど」
「本当は飲茶には入らないですね」
 広東料理にはというのです。
「広東料理は海鮮ものが多いですから」
「ううん、僕は食べないけれど」
 かかしや木樵と一緒に皆が食べるのを見て楽しんでいるジャックがここで神宝に尋ねるのでした。
「確かに海鮮ものが多いね」
「フカヒレスープとかね」
 ジュリアはジョージが飲んでいるそれを見ています。
「あるしね」
「そうだよね」
「まさか鮫を食べるなんて」
 ジュリアはそれが信じられないといったお顔でした。
「想像もしなかったわ」
「これがまた美味しいんですよね」
 神宝はそのフカヒレスープに言及しました。
「本当に」
「そうなのよね、私そのスープも好きよ」
「お野菜も多くて」
 恵梨香は八宝菜を食べています。 

 

第四幕その二

「身体にもいいんですよね」
「特徴としては火を通してるよね」
 カルロスは回鍋肉を食べています。
「中華料理って」
「そうよね、生ものは殆どないわ」
 ナターシャはお饅頭をほくほくと食べています。
「お刺身とかは」
「あるにはあるみたいだけれど」
 ジョージは今度はピータンとお豆腐を食べています。
「少ないのは間違いないね」
「そう、それで火を通したお料理を楽しむのもね」
 ジュリアは海老蒸し餃子にお箸を移しています。
「中華料理の楽しみ方ね」
「お刺身もあるにはありますが」 
 神宝が言うにはです。
「確かに殆ど食べないですね」
「そうよね」
「冷えた御飯もです」
 こちらもというのです。
「食べませんし」
「最近までそうよね」
「最近食べる人も少し出てるみたいですけれど」
 それでもというのです。
「中国では食べないです」
「温かいものね」
「それを食べています」
「そして今の飲茶も」
「熱を通したのばかりで」
「それを楽しむものね」
「いや、お酒にも合うしね」
 大人のモジャボロはお酒も飲んでいます、桂花陳酒をごくごくと飲んでいます。
「中華料理って」
「あら、そうなの」
「そうだよ、これがね」 
 ジュリアにお酒で赤らんだお顔で答えました。
「実に合うんだ」
「そうなのね」
「うん、ただジュリアと神宝達は」
「子供だから」
「アルコールが入っているものは飲めないね」
「ええ、そうよ」
「それは仕方ないね、ただアルコールが入っていないお酒は飲めるから」
 オズの国にはそうしたものもあります。
「そちらはどうから」
「ノンアルコールのワインとか」
「それでも酔えるしね」
 アルコールが入っていなくてもです。
「どうかな」
「別にいいわ」
 ジュリアはそちらは断るのでした。
「林檎のジュースがあるから」
「だからなんだ」
「ええ、別にね」
「だといいけれどね」
 モジャボロはグラスの中に氷を入れた桂花陳酒も楽しみながら応えました。
「君がそう言うのなら」
「僕もですね」
「別にお酒はいいです」
「ジュースやお茶がありますか」
「そちらを楽しんでますので」
「ですから」
 五人もこう言ってお酒を飲まないのでした、そしてお茶やジュースを飲んでいます。そうして皆でお腹一杯食べてから近くの川で身体を奇麗にしてからテントの中で寝ました。 

 

第四幕その三

 そして次の日朝御飯を食べてからです。出発しましたが。
 ふと道の向こうから音楽が聴こえてきました、それでジャックが言いました。
「あれっ、この音楽は」
「ポップスだね」
 木樵もその曲を聞いて言いました。
「この曲は」
「うん、そうだよね」
「ダンスに合ったね、けれど」
「何か違うね」
「曲の感じがね」
「楽器を使っていても」
 それでもなのでした、聴いていますと。
「何かね」
「金属の感じがしないね」
「何処か柔らかいよ」
「これはどうしてかな」
「それをわかるには音楽が奏でられている場所に行くことだね」
 かかしが解決案を出しました。
「まずは」
「そうだね、知りたいならね」
「そうすべきだね」
 ジャックと木樵はかかしの言葉に頷きました。
「知りたいなら見る」
「それが一番だからね」
「どちらにしてもそちらに行くから」
 ジュリアも応えました。
「それじゃあね」
「うん、行こうね」
「このままね」
 ジャックと木樵はジュリアにも応えました、そのうえで。
 皆で音楽が聴こえる道の先に行きました、すると。
 そこにです、色々な草花達が生えていてでした。
 それぞれの茎や葉、お花等を使ってでした、様々な音楽を鳴らしています。その音がギターやベース、ドラム、サックス、シンセサイザーの音に似ているのです。
 その音楽を聴いてです、ジャックは納得しました。
「成程、金属と違った感じがしたのは」
「うん、植物だからだね」
 木樵も納得して頷きます。
「音の響きが違うんだね」
「そうだね」
「こうした音楽もいいね」
「そうだね」
「柔らかい感じがして」
「素敵だよ」
「何かね」
 かかしは何処かうきうきとした感じで皆に言いました。
「踊りたくならないかい?」
「うん、そうだね」
「こうした曲を聴いてるとね」
 ジャックと木樵はかかしに笑顔で応えました。
「自然とね」
「踊りたくなるよ」
「歌も歌ってね」
 モジャボロは右手の人差し指を立ててお話に入りました。
「そうしたくなるね」
「明るくてノリのいい曲だから」
 ジュリアも今にも踊りだしそうな感じです。
「そうなるわ」
「じゃあ今からだね」
「踊るの?」
「そうするのかい?」
「どうしようかしら」
「ここはそうすべきだよ」
 ジュリアが少し考えているとです、ここででした。 

 

第四幕その四

 何とミュージッカーが出てきました、相変わらず身体から始終音楽を出していてそうして陽気な感じで踊りながら歩いています。
「陽気にね」
「あっ、ミュージッカーさん」
「確かカドリングにおられたんじゃ?」
「それでどうしてマンチキンにいるの?」
「旅行中?」
「それでかしら」
「そうだよ、今は旅行中なんだ」
 ミュージッカーは神宝達五人に答えました。
「それで今はこの植物達の音楽を楽しんでいるんだ」
「君にこの国で会うとはね」
 モジャボロがミュージッカーに応えました。
「思わなかったけれどね」
「たまたまここでこの植物達に巡り合ってね」
「この国を旅行していてたね」
「それで今は音楽を楽しんでいるんだ」
「そうなんだね」
「うん、そしてね」
 ミュージッカーはさらにお話します。
「数日ここで歌って踊っているんだ」
「君自身の音楽と合わせて」
「そうしているんだ」
「成程ね」
「いや、これがね」
「これが?」
「とてもよくて留まっているんだ」
 そうして歌って踊っているというのです。
「こうしてね、満足したら他の場所に行くよ」
「君の旅行の目的地は何処かな」
「特に決めていないんだ」
「気分の赴くままにだね」
「旅行をしているんだ」
「では満足したらだね」
「カドリングに戻るよ」
 つまり彼のお家がある場所にというのです。
「そうするよ」
「そのこともわかったよ」
「ううん、とてもいい音楽だから」
 ジュリアがここでまた言いました。
「ミュージッカーさんの勧めもあるし」
「踊ったり歌ったりするんだね」
「ここはそうしようかしら」
 かかしに考えるお顔で答えました。
「皆で」
「じゃあ僕達もですね」
「皆で、ですね」
「ここで踊って歌うんですね」
「植物達の音楽に合わせて」
「そうするんですね」
「こうしたことがあるのもね」
 いきなりダンスパーティーになるのもというのです。
「オズの国の楽しみ方でしょ」
「その時に起こったことを楽しむ」
「それがオズの国ですね」
「オズの国の冒険ですね」
「だからですか」
「私達も」
「ええ、そうすることもいいかしら」
 ジュリアは段々前向きに考えだしていました。
「ここは」
「僕達はいいですよ」
「本当に明るくて楽しくていい曲ですから」
「踊ってみたくなりました」
「そして歌いたくもなりました」
「聴いていますと」
「そうね、ただ踊ることはいいにしても」
 それでもというのでした、ジュリアはここで。 

 

第四幕その五

「歌いたいにしても」
「歌詞がないね」
「リズムは聴いてるけれど」
 かかしにも応えました。
「歌詞はつぎはぎ娘が出せるけれど」
「今はつぎはぎ娘がいないからね」
「だからね」
「そちらはね」
「どうしようかしら」
 ジュリアが考えているとです、ミュージッカーがです。
 ジュリアの肩を指でちょんちょんと突いてです、あるものを出してきました。それは楽譜とそれに合わせた歌詞でした。
 楽譜は植物達が奏でている音楽と一緒でした、ジュリアはその楽譜と歌詞を見て言いました。
「貴方が作詞をしたの」
「そうだよ」
 まさにという返事でした。
「作詞も出来るんだよ」
「そうだったのね」
「ではどうかな」
「じゃあこの歌詞でね」
「今からだね」
「皆で歌おうかしら」
「何枚も持っているからね」
 ミュージッカーは歌詞が書かれた楽譜をさらに出しました。
「皆も読みながらね」
「歌うんですね」
「そして踊って」
「ダンスの振り付けは僕に合わせてね」
 こちらのお話もするのでした。
「いいね」
「ああ、ダンスもですか」
「そちらも考えてくれたんですか」
「そうだよ」
 ミュージッカーは五人に笑顔で答えました。
「こうしたことは得意だしね」
「流石ミュージッカーさんですね」
「こうしたことは得意なんですね」
「いつも音楽と一緒にいるだけに」
「それで、ですね」
「歌もダンスも考えられるんですね」
「そうだよ、では皆で歌って踊って楽しもう」
 ミュージッカーは笑顔で言いました。
「いいね」
「わかりました」
「それじゃあ今から皆でね」
 五人が応えてジュリアも言いました。
「歌とダンスを楽しみましょう」
「それじゃあね」
「これから皆で」
 ジャックと木樵が応えました、そしてです。
 皆で歌と踊りを楽しみました、それは長い時間でしたが。
 その後で、です。ジュリアは歌って踊って満足したうえでミュージッカーに言いました。
「まさかここでダンスパーティー出来るなんてね」
「思わなかったんだね」
「ええ、このままずっとね」
「人魚の国に行くって言ってたね」
「そうすると思っていて」
「ダンスパーティーは」
「あるなんて思わなかったわ」
 とてもというのです。
「本当にね」
「オズの国の旅だからね」
「何時何があるかわからない」
「そうだよ、何が起こるかね」
「そうよね、だから」
「こうしたこともあるんだよ」
 ダンスパーティーもというのです。 

 

第四幕その六

「そういうことだよ」
「言われてみればそうね」
 ジュリアも納得しました。
「それじゃあ」
「納得してくれたね」
「楽しんだ後でね」
 そのうえでというのです。
「そうなったわ、それでだけれど」
「それで?」
「貴方はこれからどうするの?」
 ジュリアはミュージッカーにあらためて尋ねました。
「一体」
「ひょっとして」
「特に予定はないみたいだし」
 旅の行く先はというのです。
「よかったら私達と」
「いやいや、何も決めていないから」
「決めていないから?」
「うん、ジュリアさん達と一緒に行くことはしないよ」
「あくまでなのね」
「そう、気の赴くままの旅を続けるよ」
 ミュージッカーはジュリアに歌う様に述べました。
「そうさせてもらうよ」
「それじゃあ」
「うん、またね」
「機会があったらね」
「会おうね」
「それじゃあ」
「僕はもう暫くここにいるよ」
 音楽を奏でる植物達のところにというのです。
「そして楽しんでいるよ」
「私達は東に行くから」
 人魚の国に向かってというのです。
「また縁があって会ったらね」
「うん、その時はね」
「宜しくね」
「こちらこそね」 
 お互いに笑顔でやり取りをしてでした、そのうえで。
 皆はミュージッカーとお別れの挨拶をしました、そうして笑顔で手を振り合って別れました。その別れの挨拶の後で。
 皆は再び歩きはじめました、音楽は次第に遠のいていき聴こえなくなりました。完全に聴こえなくなってからでした。 
 神宝はしみじみとしてです、こうしたことを言いました。
「まさかミュージッカーさんにお会いするなんて」
「思わなかったわね」
「はい、カドリングの人なので」
「人は縁で会うものだから」
「それで、ですね」
「会うものなのよ」
 思わないところで、というのです。
「そういうものなのよ」
「人と人は」
「そうなの」
 ジュリアはこう神宝にお話しました。
「私も正直ここでお会いするとは思わなかったわ」
「誰もが予想しなかったよ」
「全く以てね」
 かかしと木樵の動きはまだダンスのそれが残っています。
「あそこで彼に会うなんて」
「想像も出来なかったよ」
「けれど会ってお互いに楽しめる」
 ジャックの口調は歌っている感じです。
「それがオズの国なんだよね」
「うん、音楽も楽しめたし」
 モジャボロはとてもにこにことして満足しているのがわかります。 

 

第四幕その七

「よかったよ」
「いや、カドリングにいる人とマンチキンでお会いする」
 カルロスはサンバの動きです。
「人の出会いって奇妙な縁ですね」
「何時何処で誰と会えるかわからないのは」
 ナターシャは何処かバレエになっています。
「人ではわからないのね」
「神様が決めることなんだろうね」
 ジョージはラップの趣があります。
「そうしたことについては」
「そうよね、私達もオズの国に来ていることも」
 恵梨香の踊りは日舞です。
「かかしさん達と偶然だったし」
「あの偶然は偶然じゃなくて」
 神宝は京劇の踊りでかなり派手です。
「神様の力だったんだね」
「全ての出会いがそうよ」 
 ジュリアはミュージッカーとの出会い、五人がかかし達と出会ってオズの国に来たこと全てを含めてお話しました。
「まさに神様の配剤なのよ」
「そうしてですね」
「出会ってそうしてですね」
「楽しい時間を過ごす」
「そうしたものなんですね」
「そこから人生も変わったりして」
「そうよ、私にしても」
 他ならぬジュリア自身もというのです。
「これまで多くの出会いがあってだったから」
「僕もドロシーと会わなかったら」
「僕もだよ」
 かかしと木樵も言うのでした、少ししんみりとなって。
「果たしてどうなっていたか」
「わからないしね」
「あのままあの森の中で錆びていたままだったかもね」
「畑にいたままだったかも知れないよ」
「僕もドロシーと会わなかったら」
 モジャボロにしてもそうでした。
「オズの国に来ていたかな」
「僕もオズマがいなかったらだよ」
 ジャックも言いました。
「生まれていなかったかもね」
「皆がこうしてここにいるのは」
 ジュリアがあらためてです、歩きつつ言いました。
「神様がそうさせてくれたのよ」
「それぞれの出会いからだね」
「それでだね」
「そう思うわ、私が王宮に入って皆と一緒にいるのも」
 このこともというのです、かかしと木樵に応えての言葉です。
「出会いからだからね」
「どういう出会いだったんですか?」
「ええ、王宮のシェフの人に都の市場でお会いして」
「それでだったんですか」
「私のお家は市場で喫茶店をやってるけれど」
「そこにシェフの人が来られて」
「接客がいいって言われてね」
 そしてというのです。
「王宮の侍女に誘われたの」
「それで、ですか」
「王宮の侍女になったの」
「その出会いからですね」
「この出会いも偶然じゃなくて」
「やっぱりですね」
「ええ、神様の配剤だったのよ」
 それだというのです。 

 

第四幕その八

「そして王宮にいるから」
「人と人の出会いはですね」
「神様が動かしているのよ」
「オズの国でもですね」
「オズの国の神々がね」
「そうなんですね」
「全てがね」
 何といってもというのです。
「神様のされていることなのよ」
「結局人がわかること、出来ることは少ないんだ」
 かかしは右手の人差し指を立ててこの言葉を出しました、見ればもう皆歌や踊りからリズムは消えています。
「どんな賢い人、立派な人でもね」
「そうなんだよね、人間はね」 
 木樵も腕を組んで言うのでした。
「出来ることって少ないんだよね」
「誰でもね、だから出会いなんて」
 ジュリアのしみじみとした口調は変わりません。
「人ではわからないわ」
「偶然と思っていても」
「そう、それは神の御業よ」
 ジャックにもお話しました。
「まさにね」
「そういうことだね」
「そして私達もね」
「こうして一緒にいるんだね」
「そうなるわね、けれどね」
「けれど?」
「いえ、踊って歌っていたから」
 だからだというのでした。
「今日はいつも以上にお腹が空いてるわね」
「そうですね、確かに」
「いつも以上にです」
「お腹が空いてます」
「もうお腹ぺこぺこです」
「夜になったらもう」
 五人もこうジュリアに言います。
「今夜はお腹一杯食べたいですね」
「お腹に溜まるものを」
「そんな気分です」
「果たして何を食べるのか」
「それも問題ですよね」
「ええ、本当に何を食べようかしらね」
 笑顔で言うジュリアでした。
「一体」
「ううん、ふと思いついたけれど」
 ここでモジャボロが出したメニューはといいますと。
「ハンバーガーはどうかな」
「ハンバーガー?」
「あれを色々な種類を一杯出してね」
 そうしてというのです。
「食べたらどうかな」
「そうね、ハンバーガーならね」
 ジュリアはモジャボロの言葉に頷いて言いました。
「沢山食べられて」
「お腹に溜まるね」
「そうなるわね」
「それじゃあね」
「ええ、わかったわ」
 確かな顔になってです、ジュリアはモジャボロに答えました。
「夜はハンバーガーにするわ」
「そうしようね」
「そしてね」
「そして?」
「ハンバーガーだけじゃ足りないから」
 だからというのでした。 

 

第四幕その九

「お野菜がね」
「ハンバーガーがお野菜はあまり入っていないからね」
「そう、だからね」
 サラダやトマト、ピクルスを挟んでいますがメインではありません。
「お野菜のお料理も出しましょう」
「じゃあシチューはどうですか?」
 神宝がこのお料理を出しました。
「それは」
「シチューね」
「はい、シチューならお野菜も沢山入っていて」
「いいわね」
「そうですよね」
「ええ、じゃあね」
 ジュリアは笑顔で、でした。神宝に答えました。
「お野菜をたっぷり入れたシチューも出すわ」
「それじゃあ」
「そのうえで皆でね」
 夜になればというのです。
「食べましょう」
「わかりました」
「お腹一杯食べて身体も奇麗にして」
「今夜もですね」
「しっかりと寝ましょう」
「食べて寝て」
「明日も楽しく冒険をするのよ」
 こう言うのでした。
「いいわね」
「今夜もですね」
「ええ、ただ本当にお腹が空いたわね」
 ジュリアは少し苦笑いになってまた言うのでした。
「今日は」
「もうぺこぺこですよね」
「だからね」
 それでというのです。
「今日はね」
「沢山食べて」
「じっくりと寝るのよ」
「いつも通りですね」
「そうしましょう」 
 こうしたお話をしてです、夕方まで皆で進んでいるとふとでした、皆の目の前、煉瓦の道の横にでした。何と。
 温泉が見えました、恵梨香がその温泉を見て言いました。
「よかったらここで」
「今日はなのね」
「はい、お風呂にしませんか?」 
 こうジュリアに提案するのでした。
「どうでしょうか」
「いいわね」
 ジュリアも恵梨香に笑顔で応えました。
「それも」
「そうですよね」
「ええ、温泉はいいわよね」
 ジュリアはにこにことして言うのでした。
「身体が温まってね」
「気持ちもいいですし」
 入っていてというのです。
「だからね」
「ここで、ですね」
「入ってね」
 そしてというのです。
「気持ちよく奇麗になりましょう」
「身体が奇麗になれば」
 神宝も言いました。
「そのうえで芯から温まると」
「いいわね」
「はい、それじゃあ」
「夜になったらって思ってたけれど」
「いえ、もうですよ」
 ここで言ったのはジョージでした。 

 

第四幕その十

「夜ですよ」
「そういえばもう暗くなってきてるし」
 夕暮れも終わろうとしています、カルロスは赤から濃紫になろうとしているその中で言ったのでした。
「休むにも」
「いい時間ですね」 
 ナターシャもその夜になろうとしている中で言うのでした。
「じゃあ」
「そうね、少しだけ早いけれど」
「今からですね」
 神宝が応えました。
「お風呂に入って」
「いえ、食べてからでもいいわね」
「どちらでもですか」
「温泉で奇麗になるのは」
「どちらでもですね」
「いいわね、じゃあどちらを先にしようかしら」
 食べるのか温泉かをというのです。
「それが問題ね」
「そうだね、もうね」
 モジャボロが言いました。
「皆お腹ぺこぺこだから」
「食べる必要のある人達は」
「だからね」
 それでというのです。
「ここはね」
「食べる方がいいわね」
「僕はそう思うけれど」
「そうね」
 ジュリアはモジャボロのその言葉に頷きました。
「その方がいいわね」
「ゆっくりたっぷり食べてね」
「それからよね」
「お風呂に入ればいいよ」
 温泉にというのです。
「それでどうかな」
「そうね、何かこうお話している間にも」
 まさにとです、ジュリアは急に力が抜けていくのを感じました。
「お腹が空き過ぎてね」
「動けなくなりそうだね」
「皆はどうかしら」
 ジュリアは限界を感じつつ五人とモジャボロに聞きました。
「もう限界?」
「はい、実は」
「お風呂よりもって気分です」
「正直に言いまして」
「まずは御飯食べたいです」
「お腹一杯」
「僕なんかね」
 モジャボロに至っては困った笑顔になっています。
「一歩もだよ」
「そうなのね」
「動けなくなりそうだよ」
 そうした状況だというのです。
「このままね」
「それじゃあ」
「うん、食べたいね」
 お風呂よりもまずというのです。
「そうしたいよ」
「わかったわ、それじゃあね」
「うん、今からね」
「テーブル掛け出すわね」
「そしてだね」
「そうよ、ハンバーガーとシチューを出すわ」 
 先程お話をした通りにというのです。 

 

第四幕その十一

「それと飲みものもね」
「ハンバーガーといえば」
 神宝が言うにはです。
「やっぱりコーラかな」
「そちらにしたいのね」
「そう思いましたけれど」
「不思議とね」
 ジュリアもコーラについて言うのでした。
「あれはハンバーガーに合うのよね」
「そうですよね」
「本当に不思議な位」
「じゃあ僕もコーラがいいよ」
「僕もだよ」
「私もコーラにするわ」
「私もよ」
 ジョージ、カルロス、ナターシャ=恵梨香もコーラがいいと言うのでした、こうして飲みものも決まったのですが。
 ふとです、ジャックが皆でテーブル掛けを出して敷いてそこにメニューを出す中でこんなことを言いました。
「そういえばコーラってどうして作るのかな」
「ああ、そのことだね」
「ちょっとわからないけれど」
「あれはね」 
 神宝もそう言われると首を傾げさせるのでした。
「何か企業秘密らしくて」
「企業秘密?」
「そうらしくてね」
 それでというのです。
「よくわからないらしいよ」
「そうなんだ」
「僕達の世界ではそうなんだ」
「そうだったんだ」
「うん、そうだよ」
「じゃあオズの国では」
「オズの国ではね」
 ジュリアがかかしにお話しました。
「普通にコーラの実があってね」
「それからなんだ」
「実を絞って作るから」
「じゃあコーラの実もだね」
「食べられるわ」
 そちらもというのです。
「ちゃんとね」
「そうなんだ」
「コーラの実はコーラの味がするわよ」
「ふうん、それは面白いね」
「オズの世界のコーラはそうなの」
「外ですと」
 神宝は彼等の世界のことをお話するのでした。
「そうはいかないんですよね」
「どうして作られてるか不明なのね」
「はい、企業秘密で」
「コーラを作っている会社で」
「全然わからないんです」
「企業の人達だけが知ってるのね」
 ジュリアもその事情を納得しました。
「オズの国とは違うのね」
「むしろオズの国のコーラの方が」
「わかりやすいわね」
「そう思います」
 神宝はジュリアに答えました。 

 

第四幕その十二

「本当に僕達の世界のコーラはどうして作っているんでしょうか」
「あれ不思議だよね」
「オズの国位にね」
「どうして作ってるのかしら」
「そして誰が考えたのかしら」
 四人も考えますがわからないことでした、コーラのことは。
 そしてです、とえりあえずは皆でハンバーガーとシチューを食べてコーラを飲みました。そのコーラは確かに美味しくて。
 ジュリアも飲んで笑顔で言いました。
「美味しいわ」
「そうですね」
「オズの国のコーラも」
「こちらもですね」
「しっかりと美味しいですね」
「炭酸も効いていて」
「この炭酸もいいのよね」
 ジュリアは飲みながらまた言いました。
「本当に」
「ですよね」
「ハンバーガーとも合って」
「幾らでも飲めます」
「物凄くいいです」
「こちらも」
「ハンバーガーもね」
 モジャボロはハンバーガーを頬張りつつ言いました。
「いいね」
「はい、こちらも」
「どんどん食べられます」
「この調子だとすぐにお腹一杯になりますね」
「シチューもありますし」
「満足出来そうです」
「ハンバーガーはね」 
 モジャボロはハンバーガー自体のお話もしました。
「これでお腹にたまるんだよね」
「ボリュームがあるのよね」
 ジュリアがその理由を言いました。
「ハンバーグやスパム、ベーコンのお陰で」
「そう、だからね」
「食べるとね」
「ボリュームがあるんだよ」
 モジャボロは三段のハンバーガーを食べています、ハンバーグにスパム、そして厚く切って焼いたベーコンが挟まれています。
「この三段のハンバーガーなんて特にね」
「ええ、それは特によね」
「食べるとね」
「ボリュームがあってね」
「すぐにお腹一杯になるわ」
「これはいいね」
 モジャボロはにこにことさえしています、ハンバーガーを食べつつ。
「満足出来るよ」
「ええ、それでね」
「食べ終わったらね」
「後はね」
「お風呂だね」
「順番に入りましょう」
 ジュリアは温泉の方を見つつモジャボロにも五人にも言いました。
「男の子と女の子で」
「そうするんだね」
「ええ、私とナターシャと恵梨香で」
 女の子達はです。
「男の子はね」
「僕とジョージ、神宝、カルロスだね」
「お互いに別れてね」
「それがいいね」
「それじゃあ御飯の後は」
 ハンバーガーとシチュー、コーラのメニューのそれのおです。 

 

第四幕その十三

「それぞれ別れてね」
「入ってあったまって身体も奇麗にして」
「寝ましょう」
「そうしようね」
「ええ、順番は」
「さて、それが問題だけれど」
 モジャボロはジュリアの言葉を受けて考えだしました。
「どうしようかな」
「まあ大したことじゃないけれどね」
「順番は決めないと駄目だからね」
 かかしと木樵がこう言いました。
「一緒に入るのはちょっとね」
「よくないしね」
「お風呂は男の子と女の子別々にだよね」
 ジャックも言います。
「そうして入るべきだからね」
「水着を着て入ればいいけれど」 
 ジュリアは解決案も出しました。
「身体を奇麗にするから」
「全身をね」
「この場合は水着を着ない方がいいから」
 つまり裸になるからだというのです。
「別々に入った方がいいわ」
「うん、じゃあどうして決めようかな」
 モジャボロはあらためて言いました。
「ここは」
「じゃんけんとか?」
「くじ引きとか?」 
 ナターシャと恵梨香はそれぞれの選び方を述べました。
「そういうので決めたら?」
「そうよね」
「コインの表裏とかね」
「そういうのでもいいね」
「恨みっこなしってことで」
 ジョージと神宝、カルロスも言います。
「まあ何でもね」
「そういうので決めていいんじゃ」
「軽くね」
「まあ先に入る入らないなんて大したことじゃないし」
 モジャボロはまた言いました。
「どっちにしろ入るんだしね」
「そうなのよね」
 ジュリアは温かいシチューを食べつつ応えました。
「結局は」
「じゃあどうして決めようか」
「そうね、私ともじゃボロさんでじゃんけんなりくじ引きなりコイントスなりして」
「そうしてだね」
「決める?」
「それじゃあそうしようか」
 モジャボロはジュリアの提案に頷きました。
「これから」
「そうね、じゃあ」
「食べた後すぐに」
「そうしましょう」
「具体的には何をして決めるか」 
 今度はそうしたお話になりました。
「それはどうしようか」
「そのお話もあるわね」
「うん、どうしようかな」
「じゃんけんでいいかしら」
 ふと思ってです、ジュリアは答えました。
「それで」
「じゃんけんだね」
「ええ、結局決めることは決めるし」
「じゃあじゃんけんで」
「そうしましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 ジュリアとモジャボロの二人で、です。御飯の後でじゃんけんをしました。その結果女の子達が先に入ってです。この日も寝る人達はぐっすりと寝ました。 

 

第五幕その一

                 第五幕  大掃除
 皆でマンチキンの国を東に東に進んでいきます、その中で。
 一行は今度は少し大きい町に入りました、煉瓦の道の少し離れたところにです。
 青い城壁に囲まれて町があったのです、神宝はその町を見て言いました。
「もうすぐお昼ですよね」
「ええ、そろそろね」 
 ジュリアは懐から時計を取り出して時間をチェックしてから神宝に答えました。
「時間よ」
「それじゃあお昼は」
「あの町に入って」
「そうして食べませんか?」
「そうね、町に入って食べるのもね」
 それもとです、ジュリアは笑顔で応えました。
「いいから」
「それじゃあ」
「ええ、今からあの町に入ってあそこでお昼を食べましょう」
 こうしてです、皆はその町でお昼を食べることになりました。そして町の方に歩いていって門のところに行ってです。
 門番の人に挨拶をしてもらって入れてもらうとです。
 奇麗な整然とした青い壁と屋根のお店が並んでいました、そのお店を見回してです。
 かかしがにこりとしてです、こう言いました。
「奇麗に並んでいるね」
「うん、家々もお店もね」
「整然としてるよね」
 かかしに木樵とジャックが応えました。
「道も整っていてね」
「チェスのボードみたいになっていていいね」
「こうした町は整えやすいんだよね」
 かかしは町の区画を見て言うのでした。
 そしてジュリアもです、笑顔で言いました。
「事前に町の区画をして家やお店を立てていくと町は整えやすいのよね」
「オズマもよく言ってるね」
「ええ、町も村も事前の準備だってね」
「造る前にね」
「本当にその通りね」
 ジュリアはモジャボロに応えて言うのでした。
「何でもね」
「若し町の人が増えたら」
 恵梨香はここで言いました。
「どうするのかしら」
「城壁を一旦どけて広げる場所を区画してね」 
 ジュリアは恵梨香の疑問に答えました。
「また城壁で町を囲むの」
「そうして町を広げていきますよね」
 ナターシャはジュリアのその言葉に頷きました。
「昔の町の拡げ方ですね」
「町は城壁に囲まれていたからね」
 しみじみとです、ジョージは言いました。
「そうして拡げていっていくんだよね」
「城壁の外は町じゃないからね」
 カルロスはこの考えを言うのでした。
「城壁は一旦どけないと」
「うん、しっかりした区画をして奇麗な町のままにしたいならね」 
 最後に神宝が言いました。
「城壁をどける位はしないと」
「きちんとしたいのなら手間暇は惜しまないことよ」
 ジュリアは五人にお話しました、皆でその左右対称でかつチェスのボードみたいに道が縦と横に並んでいてその道に囲まれて家やお店が並んでいる町の中を歩きつつ。 

 

第五幕その二

「城壁をどける位はね」
「もう厭わないで」
「そうしてですね」
「きちんと区画をして」
「そうしてやっていかないといけないですね」
「奇麗なままでいたいなら」
「そうよ、整理整頓になるかしらね」
 この場合はというのです。
「そうしないとね」
「そうしたらこの町みたいにですね」
「奇麗になるんですね」
「奇麗なままでいられる」
「事前によく考えて区画をして」
「それで手間暇をかけることですね」
「そうよ、まあそうしたお話はこれ位にして」
 それで、というのでした。
「今からね」
「はい、お昼ですね」
「皆で食べましょう」
「何処かのお店に入って」
「そうしてですね」
「美味しいものを」
「ええ、さて今日は何を食べようかしら」
 ジュリアが町の中を見回してお店を探しているとです。
 ふとロシア料理のレストランを見付けて皆に言いました。
「あそこにしようかしら」
「ロシア料理だね」
「ええ、あそこはどうかしら」
 木樵に応えました。
「ふと目に入ったけれど」
「僕は食べる必要がないからこれといって言えないけれど」
 それでもとです、木樵はジュリアに答えました。
「皆が食べたいならね」
「それならなのね」
「それでいいんじゃないから」
「そういえば最近ロシア料理は食べていないんじゃ?」
 ジャックはこう言ってきました。
「僕が見た限りだけれど」
「そういえばそうね」
 ジュリアはジャックの言葉でこのことに気付きました。
「それじゃあ」
「うん、ナターシャも喜ぶだろうし」
 かかしはナターシャを見て言いました、小さなお友達の一人を。
「いいと思うよ」
「最近中華料理にアメリカ料理にで」
 ジュリアは言いました。
「それならね」
「丁度いいタイミングだね」
「今朝はお握りだったし」
 和食です、言うまでもなく。
「ハヤシライスとかも食べてるし」
「これも日本の食べものだね」
「今晩はシェラスコを食べるつもりだし」
 こちらはブラジル料理です。
「それなら」
「よし、じゃあお昼はロシア料理にしよう」
 モジャボロもジュリアに言いました。
「ナターシャのお国でね」
「ええ、そうしましょう」
 ジュリアはナターシャにお顔を向けて皆に答えました、見ればナターシャはジュリアの決断ににこりとなっていました。
「それじゃあね」
「よし、じゃあ僕達は一緒のテーブルにいてね」
「皆が食べる姿を見せてもらうよ」
「いつも通りね」
 かかしと木樵、ジャックはこう言ってでした。 

 

第五幕その三

 そのうえで皆でロシア料理のレストランに入ってでした、そうして。
 ジャガイモが沢山入った濃いサラダとビーフストロガノフにボルシチ、鱒のフライに黒パンとクッキーの様に固いケーキをデザートに頼んでです。ロシアンティーをジャムを舐めつつ飲みながらです。
 皆でロシア料理を楽しみました、その後で。
 町を散策して楽しんでいましたが町の北東の端のかなりの部分を占める建物の前で、でした。人々が困っていました。
「参ったね」
「全くだね」
「こんなことになるなんて」
「どうしたものかな」
「急にだからね」
「あれっ、どうしたのかしら」
 恵梨香は困っている人達を見てでした、まずは何かと思いました。
 それで、です。その人達のところに行って尋ねました。
「一体どうしたんですか?」
「うん、図書館がね」
「大変なことになっているんだ」
 皆その大きな建物を見つつジュリアに答えました。
「もうね」
「酷いことになっていて」
「図書館の中の本がね」
「本棚から出て滅茶苦茶になっているんだ」
 そうした状況だというのです。
「これをどうしようか」
「けれど床に落ちている本が多過ぎて」
「具体的にどうするか」
「どうして収めようかってね」
「考えているけれど」
「これがね」
 どうにもというお顔でジュリアにお話するのでした。
「あんまりにも酷い状況だから」
「もう何から手をつけたらいいかわからなくて」
「僕達図書館の書士だけじゃ人手がとても足りなくて」
「途方に暮れているんだ」
「でしたら」
 ジュリアはすぐに決断して書士の人達に答えました。
「私達がお手伝いさせてもらいます」
「片付けを手伝ってくれるんだ」
「そうしてくれるんだ」
「はい」
 是非にという返事でした。
「そうさせてもらいます」
「あっ、ジュリアさんじゃないか」
「ああ、そうだね」
 書士の人達はここでジュリアのお顔をよく見て気付きました。
「都の王宮の侍女さんの」
「今回は冒険でここまで来たのかな」
「かかしさんや木樵さんもいるね」
「ジャック君もモジャボロさんも」
「それとあの子達は」
「確かオズの国の名誉市民の」
「あの子達だね」
「五人の」
「はい、そうです」
 その五人が答えました。
「僕達外の世界から来ています」
「今回も冒険させてもらっています」
「ジュリアさん達と一緒に」
「そうさせてもらっています」
「今はこちらにいます」
「そうか、それで君達もかな」
 書士の人のうちの一人が五人に言いました。 

 

第五幕その四

「手伝ってくれるのかな」
「そうさせてもらっていいですか?」
「僕達も」
「お困りみたいですし」
「困っている人達は助けさせてもらう」
「そうするものですから」
「それじゃあ悪いけれどね」 
 それならというのです、そしてです。
 五人も図書館の本をなおすことに参加することになりました、そして皆で図書館の中に入るとその中はといいますと。
 とても広い図書館の中がです、もう滅茶苦茶になっていました。あちこちの本が床に落ちて床が見えなくなってさえいました。
 その惨状を見てです、かかしは首を傾げさせて言いました。
「どうしてこうなったのかな」
「はい、実はです」
「昨日の夜この町の下でとても大きなドラゴンが歩いていたらしくて」
「それでなんです」
「町全体が揺れたんですが」
「その結果です」
「図書館も揺れて」
 そうしてというのです。
「もうです」
「本が落ちまして」
「それで、です」
「こんな風になりました」
「地下のドラゴンがだね」
 かかしも事情がわかって言いました。
「この辺りにそんな大きなドラゴンがいたんだ」
「はい、物凄く大きくて」
「何でも野球場位の大きさがあるとか」
「青龍様程大きくはないですが」
「相当に大きくて」
「たまたま町の下に来てです」
 そうしてというのです。
「動いているだけで地鳴りがして」
「それで、なんです」
「町が大きく揺れて」
「図書館もこの有様です」
「町は平穏だったけれどね」
 木樵はとても奇麗な町のことを言いました。
「奇麗でね」
「朝早くからお昼前までです」
「町の人皆で頑張って奇麗にしました」
「あちこちのお家やお店のものが落ちましたが」
「それをです」
「皆で奇麗にしたんです」
 そうしたというのです。
「いや、本当に」
「大変でした」
「それで今度は図書館をって思いましたが」
「ここが特に酷くて」
「どうしようかとです」
「困り果てていまして」
「こんな有様で」
 書士の人達は実際に困り果てたお顔になっています、そして。
 木樵はふと気付いてです、書士の人達に聞きました。
「あの、町の他の場所は」
「図書館以外のですね」
「他のお家やお店はですね」
「そして施設は」
「そう、そうした場所はどうだったかな」
 こう聞いたのでした。 

 

第五幕その五

「一体」
「何とかです」
「他のお家やお店は何とかなりました」
「官公庁の方も」
「ここ以外の場所も」
「それじゃあここが最後なんだね」 
 図書館がだとです、木樵は納得して頷きました。
「それじゃあ皆で頑張って元に戻そう」
「はい、本は一冊一冊収める棚があります」
「それぞれの分野によって」
「そこを守って下さいね」
「ただ収めるだけでなく」
「わかたよ、ただ凄い荒れ様だから」
 木樵はあらためて言いました。
「書士の人達と僕達だけだと」
「かなり時間がかかりそうだね」 
 ジャックも言いました。
「ここは」
「そうね、私達は十人で」
 ジュリアはまずは自分達の数からお話しました。
「書士の人達は」
「十五人います」
「合わせて二十五人ですね」
「それだけですね」
「二十五人でこの図書館の本を全部収めるとなると」
 決められた本棚にそれぞれです。
「かなりの時間がかかるわね」
「ええと、図書館のフロアーは」
 神宝が書士の人達に尋ねました。
「ここだけですか?」
「いや、上は五階建てでね」
「地下は二階あるんだ」
「合わせて七階だよ」
「それだけあるよ」
「七階全部がこうだと」
 神宝も考える顔になりました。
「二十五人だと」
「とてもね」
 それこそとです、ジュリアも言いました。
「足りないわね、人手が」
「そうですよね」
「こんなに多いと」
 それこそというのです。
「大変だから」
「どうしましょうか」
「人手が足りないから」
 それで、と言うジュリアでした。
「そこを何とかするしかないわね」
「よし、じゃあね」 
 かかしがここでアイディアを出しました。
「町の皆にね」
「助っ人を頼もう」
 木樵も言いました。
「多分この図書館は明日皆が利用出来る様にしないといけないからね」
「僕達で今日中は無理だしね」
 ジャックが見てもそうです。
「それならね」
「やっぱりですか」
「人手が必要ですか」
「私達以上に」
「そうなりますか」
「僕もそう思うよ」
 ジャックも言うのでした。
「こんな状況が七階もだと」
「一階に何十人か必要でね」 
 かかしがさらに言いました。
「図書館をよく知っている書士の人が各階にいて」
「我々がですか」
「うん、それでどの本を何処に収めるか言いながらね」
 なおす人達にです。 

 

第五幕その六

「そうしていくべきかな」
「我々がお話して」
「そのうえで、ですか」
「各階単位でなおしていく」
「そうしていくべきですか」
「これがいいんじゃないかな」
 かかしはこうお話しました。
「どうかな」
「そうですね、こんな状況が全階ですから」
「地上の五階と地下の二階全てが」
「しかもこの図書館は敷地面積も広いですし」
「その分蔵書も膨大ですからね」
「それならだよ」
 もう是非にというのです。
「人を集めてね」
「そうしてですね」
「一階一階ですね」
「私達が別れてですね」
「手分けしてなおしていく」
「そうすべきですね」
「それでは」
 書士の人達もです、ここまでお話を聞いてでした。
 頷き合ってです、こう言いました。
「わかりました」
「それでやらせてもらいます」
「人を集めて各階で手分けしてなおしていきましょう」
「そうしていきましょう」
「それじゃあまずは人に来てもらおう」
 木樵も再び言いました。
「これからね」
「問題は人がです」
「ここにいないことですね」
「我々以外は」
「そのことが問題ですが」
「うん、どうして集めるかだね」
 木樵も書士の人達と一緒に考えるのでした。
「具体的に」
「皆街の他の場所の片付けをやっと終えてです」
「お昼も食べてです」
「今はお昼寝の時間ですね」
「この街は午後はお昼寝をするんで」
「それでなんです」
「今は人手が」
「それは困ったね、お昼寝をしている人は起こしたら可哀想だね」 
 心優しい木樵にそうした人を起こそうなんて考えられる筈がありません、ですからこう言ったのです。
「やっぱり」
「はい、ですから」
「これをどうするかですよね」
「果たして」
「もう街の人達は寝ていますから」
「一体」
「いや、やり方はあるよ」 
 ここで言ったのはモジャボロでした。
「街の皆が寝ていてもね」
「人を集めることは出来る」
「そうなんですか」
「うん、僕のラブ=マグネットを使えばね」
 モジャボロの秘密兵器です、これを出せば誰もが彼を好きになってくれるという。
「街の皆が寝ていても来てくれてね」
「それで、ですか」
「皆が手伝ってくれる」
「そうしてくれるんですか」
「そうだよ、じゃあ早速出すから」
 そのラブ=マグネットをというのです。 

 

第五幕その七

「そうするからね」
「そしてですか」
「早速ですか」
「ラブ=マグネットを使われてですね」
「寝ている街の人達に来てもらって」
「そのうえで」
「うん、手伝ってもらおうね」
「それで来てくれた人達には後で事情をお話してお礼をして」
 ジュリアも言いました。
「それでいいかしら」
「そうだね、それでね」
「いいんじゃないかな」
「僕もそう思うよ」
 かかしと木樵、モジャボロはジュリアに応えました。そしてです。
 モジャボロは早速ラブ=マグネットを出してでした。それをかざすとです。
 街の人達が寝巻き姿で寝たまま靴を履いて図書館に来てくれました、ジュリア達は図書館の前に出てその街の人達を出迎えてでした。
 各階で書士の人達の言うまま動いてくれました、勿論ジュリア達もその中にいてせっせと働いてでした。
 夕方にはです、完全にでした。
「元に戻りました」
「本は全部元の棚に戻りました」
「そしてお掃除も出来ましたし」
「万々歳ですよ」
「あんなに大変な状況だったのに」
 神宝はすっかり奇麗になった図書館の中を見て驚いていました。
「もう元に戻ったなんて」
「何日かかるかって思ったのに」
 ジョージも驚きを隠せていません。
「夕方に終わるなんて」
「皆でやったからだね」 
 カルロスはそれが出来たのは何故かと言いました。
「それでだね」
「街の人達が総出でお手伝いしてくれたから」
 ナターシャの口調はしみじみとしたものでした。
「だからよね」
「そうよね、私達だけじゃとてもね」
 最後に恵梨香が言いました。
「夕方までには終わらなかったわ」
「本当に沢山の人達が手伝ってくれたから」
 ジュリアはすっかり奇麗になった図書館の中を見て笑顔になっています。
「こうして出来たのよね」
「そうだよ、すっかり奇麗になったね」
「大変な状況が元に戻ってね」
「お掃除も出来たし」
 かかしと木樵、ジャックもにこにことしています、疲れることがない三人は休憩をすることなくキビキビと動いていました。
「やっぱり人手があったからだね」
「こんなに早く出来たんだね」
「あんな有様だったけれど」
「人が少ないと無理なことでもね」
 モジャボロも言います。
「皆がいれば出来るんだよね」
「その通りね、それじゃあね」
 ジュリアはここでこう言いました。
「手伝ってくれた街の人達に事情をお話してね」
「そしてですね」
「ええ、皆でね」
 それこそというのです。
「お礼をしましょう」
「わかりました」
「さて、お礼だけれど」
 ジュリアは神宝にお話をしました。
「もう考えてあるの」
「どういったものですか?」
「もうすぐ夜でしょ」
 ジュリアはにこりとしてです、お日様を見ました。夕陽は今にも大地から姿を消してお月様が出てきそうです。 

 

第五幕その八

「だからね」
「それで、ですか」
「そう、御飯の時間だけれど」
「あっ、その御飯をですか」
「出しましょう」
「テーブル掛けで、ですね」
「テーブル掛けは何でも幾らでも出そうと思えば出せるから」
 そうした魔法の品だからだというのです。
「ここは沢山出してね」
「街の人達にですね」
「お礼をしましょう」
「そうされるんですか」
「そう、そして皆で美味しく食べられるものといえば」
 さらに考えて言うジュリアでした。
「バーベキューかしらね」
「あっ、バーベキューですか」
「あれなら皆で食べられますしね」
「楽しく賑やかに」
「それならですね」
「街の人達も喜んでくれますね」
 神宝達五人もバーベキューが好きなので笑顔で応えます。
「それじゃあ今からですね」
「テーブル掛けからバーベキューを出して」
「そうしてですね」
「街の人達に食べてもらうんですね」
「それで私達もですね」
「今晩の御飯は」
「そうよ、皆で食べるからね」 
 だからというのです。
「バーベキューよ」
「わかりました」
 五人で応えてです、そしてでした。
 ジュリアはテーブル掛けからとんでもない量の、本当に街の人達皆がお腹一杯食べられるだけの量のバーベキューを出しました。おやつの時間には起きていて事情を聞いてからまたお手伝いをしていた街の人達もです。
 そのバーベキューの量に驚いてです、ジュリアに言いました。
「こんなに沢山だなんて」
「お礼っていうけれど」
「これはまた凄いお礼だね」
「まさかこれ程までなんて」
「思いもしなかったわ」
「というかお礼もね」
 これ自体もというのです。
「別にいいし」
「街のことだからそうするのは当然よ」
「図書館はこの街の大事な場所の一つだし」
「そこを何とかするのは当然だよ」
「それでお手伝いもないし」
「起こして言ってくれてもよかったから」
 このことも問題なかったというのです。
「それでお礼なんて」
「それもこんなに美味しそうなバーベキューなんて」
「別にいいわよ」
「ここまでは」
「いえ、私達の気持ちですから」
 ジュリアは謙遜する街の人達ににこりと笑って答えます。
「是非です」
「食べて欲しい」
「そう言うんだ」
「この沢山の美味しそうなバーベキューを」
「今から」
「そうして下さいね」
 是非にというのです。 

 

第五幕その九

「これから」
「僕からも頼むよ」
「皆是非食べて」
「遠慮しなくていいからね」
「僕達も食べるしね」
 書士の人達も言います。
「折角手伝ってくれたんだから」
「それも寝ている時にね」
「そうしてもらったから」
「是非ね」
「そうしてね」
「そこまで言うのなら」
 街の人達は書士の人達に言われてでした、そのうえで。
 皆で、です。頷き合ってそうしてでした。
 ジュリア達の好意を受けることにしてバーベキューを食べることにしました、勿論ジュリア達も書士の人達も食べます。
 そのバーベキューを食べてです、ジュリアは言うのでした。
「こうしてパーティーにして食べるのも」
「はい、美味しいですね」
「それも凄く」
「歌や踊りも出てきましたし」
「いいですね」
「最高の気分ですね」 
 五人もジュリアと一緒に食べながら応えました。
「こうした時はバーベキューですね」
「皆で食べられますし」
「幾らでも食べられて」
「楽しくお喋りも出来て」
「気分よくいられますね」
「だからバーベキューにしたけれど」
 それでもというのです。
「これもいいわね」
「そうだね、しかもね」 
 モジャボロはビールも飲んでいます、大ジョッキでそれを飲みつつ言うのでした。
「お酒にも合うしね」
「ビールにもなのね」
「うん、この組み合わせもいいんだ」 
 バーベキューにビールもというのです。
「焼いたお肉やお野菜、ソーセージとかとね」
「ビールは合うのね」
「そうなんだ、だからね」
「モジャボロさんは今飲んでるのね」
「こうしてね」
 楽しくというのです。
「そうしているんだ」
「大人の楽しみ方ね」
「そうだよ」
 バーベキューのというのです。
「これもまたね」
「ビールなのね」
「君達もアルコールの入っていないものですかな」
 そうしたビールでというのです。
「楽しんだらどうかな」
「そうですね、僕達はです」
「サイダーやコーラがありますから」
「別に、ですね」
「ビールはいいです」
「そうした飲みものやジュースで」
 五人共お酒は遠慮するというのでした、そしてジュリアもです。
 マンチキン独特のとても濃い青の葡萄ジュースを飲みながらです、モジャボロに対して言うのでした。
「私もね」
「その葡萄のジュースがあるからだね」
「ええ、ビールはいいわ」
 アルコールの入っていないそれでもというのです。 

 

第五幕その十

「こちらでね」
「そうななんだ、じゃあね」
「ええ、貴方はビールでね」
「君達はそうしたものでね」
「お互いに楽しみましょう」
 飲みものはというのです。
「そうしましょう」
「それじゃあね」
「あとね」
 ジュリアはさらに言いました。
「デザートだけれど」
「それは何かな」
「アイスクリームを出すつもりよ」
 デザートはそれだというのです。
「最後に出すわね」
「ああ、アイスだね」
「こうした時はそれだと思ったから」
「そうだね、外で食べるアイスもね」
「いいでしょ」
「うん、確かにね」
「だからそれを出すわ」
 ジュリアはまた言いました。
「最後はね」
「僕もそれでいいと思うよ」
「それじゃあ」
「ええ、最後でね」 
 そうしたお話をしてでした、皆で。
 最後は実際にアイスクリームを食べてです、楽しい夜を終えました。そしてジュリア達は街の外を出てです。
 そこでテントを出したその中で寝ようとしましたがそこで初老の見事な口髭を生やした恰幅のいい青いスーツの男の人が言ってきました。この街の市長さんです。
「折角ですから」
「といいますと」
「はい、皆さんは今夜はです」
 市長さんはジュリアに言うのでした。
「街のホテルに泊まって頂けますか」
「ホテルにですか」
「図書館をちゃんとする様にして頂いてご馳走もしてくれました」
 だからだというのです。
「ですから」
「いえ、それは」
 今度はジュリアが謙遜して言うのでした。
「あくまで、です」
「当然のことだというのですか」
「はい」
 だからだというのです。
「あまりです」
「いえいえ、そう言われますが」
「違うというのですか」
「街の為にして頂いたので」
「今晩はですか」
「そうです、この街のホテルにお泊り下さい」
 是非にという口調での言葉でした。
「どうか」
「どうしようかしら」
「そうだね」
「これはね」
「ちょっと難しい問題かな」
 かかしと木樵、ジャックがそれぞれお話をしました。 

 

第五幕その十一

「お礼をしたけれど」
「そのお礼にお礼を返されるとね」
「どうしたものかってなるよね」
「僕達は手伝ってくれたお礼をしたからね」
「それがあのバーベキューでね」
「それで終わったと思ったんだけれど」
「ですから」
 ジュリアも市長さんにお話します。
「もう」
「いえいえ、違います」
「違うとは」
「はい、これは私の好意です」
 そうだというのです。
「ですから」
「だからですか」
「はい、そのホテルは私のホテルでして」
「市長さんの」
「そうです、私がこの街に来た人とお泊めする」
「そうしたホテルですか」
「先程のバーベキューとは別です」
 そこは保証するのでした。
「ですからご安心を」
「お礼やそういうのではなくて」
「私の純粋な好意です」
 それに基づくものだというのです。
「ただ単なる」
「そうですか」
「はい、ですから」
「そのホテルにですね」
「お泊り下さい、晩御飯はもう終わりましたが」
 それでもというのです。
「まだありますね」
「お風呂とですね」
「そうです、ホテルのお風呂は素晴らしいですよ」
 市長さんはジュリアににこりと笑ってお話しました。
「これ以上はないまでに」
「お風呂が」
「そして朝食も出ます」
 こちらのお話もするのでした。
「ですからどうでしょうか」
「ホテルにですね」
「はい、今晩は」
 こうお話するのでした。
「それでどうでしょうか」
「そうですね」
 ジュリアは市長さんのお言葉に少し考えるお顔になりました、そのうえで皆と少しお話をすることにしました。
「どうしようかしら」
「お礼じゃないっていうしね」
「ご好意ならね」
「それにこの街に来た人はっていうし」
「それならね」
 かかしと木樵、ジャック、モジャボロはそれぞれ答えました。
「いいんじゃないかな」
「そうした決まりっぽいしね」
「それにご好意を無下に断っても悪いし」
「折角だから」
「そうね、それじゃあ貴方達は」
 ジュリアは今度は五人に尋ねました。
「どう思うかしら」
「はい、僕達もです」
「いいんじゃないかなって」
「お礼にお礼はどうかって思いますけれど」
「折角のお誘いでしたら」
「それなら」
「わかったわ、貴方達もそう言うのなら」
 皆賛成だとなってでした、ジュリアは市長さんにあらためて応えました。 

 

第五幕その十二

「でしたら」
「はい、今夜はですね」
「お邪魔させてもらいます」
「お邪魔なぞとんでもないです」
 市長さんはジュリアに笑顔で言葉を返しました。
「この街に来て頂いた方ならですから」
「どなたもですか」
「はい、泊まって頂くので」
 こうしたことになっているというのです。
「ですから遠慮なく」
「ホテルにですね」
「泊まられてです」
 そしてというのです。
「ゆっくりとお休み下さい」
「それでは」
 ジュリアも頷いてでした、そうしてです。
 皆はホテルに案内してもらいました、そこは五人の世界では文句なしに最高級と言っていい位のものでした。 
 そのホテルで案内してもらったお部屋は。
「うわ、これは」
「凄いなんてものじゃないよ」
「王宮の中にいるみたい」
「エメラルドの都にね」
「色は青だけれど」
 緑の宮殿とは色こそ違うけれどです。
「同じ位凄いね」
「このお部屋で一泊なんだ」
「そうしていいんだ」
「お風呂も使っていいっていうし」
「朝御飯もなのね」
「ロイヤルスイートだね」
 ここでモジャボロが言いました。
「このお部屋は」
「最上階にありますし」
「そのレベルのお部屋ですか」
「こんなお部屋用意してもらったなんて」
「悪いですね」
「そこまでしてもらって」
「まあそれは市長さんの好意だね」
 ホテルの持ち主のその人のです。
「そこはね」
「凄いご好意ですね」
「こんなお部屋まで用意してもらって」
「悪い気がします」
「そこまで思ってしまいます」
「どうしても」
「まあそうしたことはあまり思わないでね」
 モジャボロは遠慮する五人に言いました。
「このご好意を受けて」
「今日はこのお部屋で皆で休みましょう」
 ジュリアもにこりと笑って五人に言いました。
「ゆっくりとね、そしてね」
「朝もですね」
「美味しい朝御飯を食べて」
「そのうえで街を出て」
「明日も元気よくですね」
「冒険よ、朝御飯は」
 ここでジュリアは部屋の机にあったホテルのスケジュールを確認しました、そこには朝御飯は日の出と共にと書いてありました。
「早いわ、日の出と共にだよ」
「随分早いね」
 モジャボロはジュリアの言葉を聞いて応えました。
「ここのホテルは」
「そうよね」
「それに起こしてもらえるし」
 モジャボロもスケジュールを見て言いました。
「いいホテルだね」
「そうね、じゃあね」
「うん、日の出と共に朝御飯を食べて」
「お風呂にも入って」
「そうして休もう」
「ええ、そうしましょう」
 二人でこうお話しました、そしてです。
 ジュリア達七人は天幕付きの羽毛ベッドの中でぐっすりと寝ました、かかしと木樵、ジャックは夜の間三人でソファーに座ってテレビを観たりお喋りをしたりチェスをして楽しみました。そしてオムレツやソーセージ、ハム、サラダやピクルス、色々なフルーツやヨーグルトがある朝食を食べてお風呂に入ってです。皆で気持ちよく市長さんに笑顔で有り難うと言って街を出て冒険を再開するのでした。 

 

第六幕その一

                 第六幕  マンチキンの蜂蜜
 皆でマンチキンの国を東に進む中で、でした。ジュリアは神宝達に言いました。
「最初の目的地に近付いてきたわよ」
「っていうと」
「そうよ、もうすぐ蜂蜜のところに行けるわ」
 こう神宝に答えました、左右にコバルトブルーの草原が広がっている黄色い煉瓦の道を一緒に歩いて進みながら。
「養蜂農家の人のお家がすぐだから」
「そうですか」
「ええ、ではね」
「養蜂農家の人のところに行ったら」
「その人に頼んでね」 
 そしてというのです。
「蜂蜜を食べさせてもらいましょう」
「蜂蜜を使ったお菓子も」
「そうよ、パンにも塗ってね」 
 ジュリアはにこにことして言います。
「そうして食べましょう」
「人魚の国に行く前にね」
 ジョージもにこにことなっています。
「蜂蜜をってなっていたけれど」
「いよいよだね」
 カルロスはとても楽しみにているのがオーラになって出ていました。
「どれだけ美味しいのかな」
「早く食べたいわね」
 恵梨香も期待がお顔に出ています。
「オズの国でも最高の蜂蜜を」
「オズの国の蜂蜜は本当に美味しいけれど」
 最後にナターシャが言いました。
「その中でも特にというから」
「本当に凄く美味しいからね」
 モジャボロは五人に笑顔でお話しました。
「皆楽しみにしていてね」
「それでだけれど」
 ここでかかしがモジャボロに言うことはといいますと。
「君はお髭に蜜は付かない様に気をつけないとね」
「そうだよね、ミルクの時もそうだけど」
 かかしも言います。
「モジャボロ君はお髭がとても長いからね」
「そうしたところに気をつけないといけないのは」
 ジャックは腕を組んで考える感じになっています。
「少し不便かな」
「いやいや、そうしたこともわかって生やしているからね」
 モジャボロはその見事なお髭を摩りつつ答えます、摩るその手の動きはとてもいとおしげな感じで皆も見ていてわかりました。
「別にね」
「いいんだね」
「そのことは」
「モジャボロさんにしても」
「そうだよ、本当にいいよ」
 別にというのです。
「付かない様にするしね」
「実際にだね」
「そうするからだね」
「うん、このお髭はこのままだよ」
 生やしていくというのです。
「剃ったりしないよ」
「お髭のないモジャボロさんって」
 神宝はそのお腹のところまである長くてしかも豊かなお髭を見ています、毎日洗ってブラシも入れているのでとても奇麗です。 

 

第六幕その二

「想像出来ないですが」
「そうだよね」
「お髭のないモジャボロさんってね」
「ちょっとね」
「想像出来ないわ」 
 ジョージ、カルロス、ナターシャ、恵梨香も言います。
「オズの国の人もお髭あったりなかったりね」
「するけれどね」
「モジャボロさんのお髭は立派だから」
「オズの国で一番かな」
「関帝様みたいだから」
 神宝はこんなことも言いました。
「モジャボロさんのお髭は」
「関羽さんのことね」
 ジュリアは神宝のお話からすぐにこの人の名前を出しました。
「関帝様っていうと」
「はい、中国でとても信仰されている神様でして」
「元は三国時代の英雄よね」
「とても強くて学問もあって義理堅い人だったんです」
「そうした人だから神様になったのよね」
「そうです、大柄で立派なお髭を持っています」
 それが関羽さんだというのです。
「モジャボロさんのお髭もそんな感じに思えました」
「このお髭は実際に僕の自慢だよ」
 モジャボロ自身こう言います。
「だからお洒落したい時は編んだりリボンを付けたりもしているんだ」
「そうもされているんですね」
「そうだよ、だから蜂蜜もね」 
 食べる時にというのです。
「付かない様に気をつけているよ」
「そうされているんですね」
「本当に自慢のお髭だからね」
 モジャボロはまた言いました。
「そのことは安心してね」
「わかりました」
「それじゃあね」
「はい、今からですね」
「養蜂農家さんのところに行こう」
 モジャボロは笑顔で行ってでした、ジュリアと一緒に皆をその農家の人のところに案内するのでした。そしてです。
 皆は近くにあった村に入りました、そしてです。
 その村のあるお家に行きました、すぐ傍にかなり大きな養蜂場がありました。
 それを見てです、神宝はすぐにわかりました。
「このお家がですね」
「ええ、そうよ」
 ジュリアはその神宝ににこりと笑って答えました。
「そのね」
「養蜂農家の人のお家ですね」
「そうなの、じゃあね」
「今からですね」
「お家にお邪魔をして」
 そしてというのです。
「そうしてね」
「お願いをしてですね」
「食べさせてもらいましょう」
 その蜂蜜をというのです。
「いいわね」
「わかりました」
「それではね」
「今からですね」
「お邪魔をするわ」
 その養蜂農家の人のお家にというのです、そして実際にでした。 

 

第六幕その三

 ジュリアは自分からお家、マンキチンの国にあるだけあって青いお家の青い扉を叩いてでした。そのうえで。
 出て来たアジア系の初老のマンチキンの服の男の人を呼び出しました、すると男の人はジュリアを見てすぐに言いました。
「あっ、ジュリアさん」
「トンホイさんお久し振りです」
「うん、こちらこそね」
 こう笑顔で言うのでした。
「元気そうで何よりだね」
「はい、トンホイさんも」
「トンホイさんっていうと」
 神宝はその名前から気付きました。
「中国系なのかな」
「そうだよ」
 その通りだとです、かかしが神宝に答えました。
「この人はね」
「やっぱりそうですか」
「お顔を見てもわかるよね」
「アジア系ですから」 
 黒い目と髪の毛に神宝や恵梨香と同じお肌の色で彫の浅い顔立ちです。見れば確かにアジア系の顔立ちです。
「わかります」
「そうだよね」
「アジア系の人もアフリカ系の人も沢山いてね」
 木樵も言うのでした。
「それに養蜂は中国では昔から行われていたね」
「はい、本当に昔から」
「だからね」
「養蜂農家の人もですか」
「中国系なんだよ」
「そういうことですか」
「これは全然意外じゃないね」 
 ジャックはにこにことしています。
「オズの国だからね」
「色々な人がいる国だから」
「最近はアラブ系の人もいるしね」
「そういえば褐色のお肌で彫のあるお顔の人も」
「いるね」
「はい、見ました」
 神宝もオズの国に何度も来ていてです。
「これまで」
「そういうことだからね」
「不思議じゃないですね」
「養蜂農家の人が中国系でもね」
「じゃあそのトンホイさんにお願いをして」
「蜂蜜をご馳走になろうね」
 モジャボロはトンホイさんとお話をしているジュリアを見つつお話をしました。
「これから」
「はい、楽しみです」
「何かいよいよって感じで」
「わくわくしてきたね」
 ジョージとカルロスはそんなお顔でジュリアとトンホイさんを見ています。
「最高に美味しい蜂蜜が食べられるから」
「今からね」
「どんな味なのかしら」
「どれだけ美味しいのかしら」
 ナターシャと恵梨香は女の子です、それで甘いものが大好きなので男の子達より期待しているのがおお顔に出ています。
「楽しみよね」
「本当にね」
「期待は裏切られないのがオズの国だよ」
 モジャボロはまた言いました。 

 

第六幕その四

「だからね」
「はい、期待させてもらいます」
「是非」
「実際に期待で胸が一杯ですし」
「ですから」
「そうだね、僕も期待しているからね」
 他ならぬモジャボロ自身もというのです。
「今は期待する気持ちを楽しんでいようね」
「皆さん、お話は聞きました」
 トンホイさんがジュリアとのお話が終わって皆にお顔を向けてきました。
「どうぞです」
「蜂蜜をですか」
「ご馳走になっていいんですね」
「遠慮なく」 
 これがトンホイさんのお返事でした。
「好きなだけ、お菓子も召し上がって下さい」
「それじゃあ」
「そうさせてもらいます」
「お言葉に甘えて」
「蜂蜜を」
「どうぞお入り下さい」
 温厚で穏やかな口調でのお言葉でした。
「お菓子は何時でも出せる様にしてあるので」
「蜂蜜自体もね」
 ジュリアも皆に笑顔で言ってきました。
「あるから」
「それじゃあ蜂蜜を舐めて」
「蜂蜜を使ったお菓子を食べて」
「そうしてですね」
「楽しませてくれるんですね」
「今から」
「そうよ、皆で食べましょう」
 是非にと言うのでした、そしてです。
 皆はトンホイさんのお家にお邪魔しました、するとです。
 お家の中は普通のマンチキンのお家でした、ですがテーブルの中に青いお菓子と青いとろりとした液が入っているガラスの瓶がありました。
 そのお菓子と瓶を手で指し示してです、ジュリアは神宝達に言いました。
「あれがね」
「はい、トンホイさんのお菓子ですね」
「トンホイさんの蜂蜜ですね」
「マンチキンの国ですから青いですが」
「蜂蜜ですよね」
「そうですよね」
「そうよ、この国では何でも青くなるからね」
 例え蜂蜜でもです。
「あの色だけれど」
「蜂蜜は蜂蜜ですね」
「そのことは紛れもなくですよね」
「だから蜂蜜の味がする」
「そうですよね」
「しっかりと」
「そして最高の蜂蜜よ」
 ただの蜂蜜だけでなく、というのです。
「本当にね」
「わしは蜂蜜ばかり作ってきたんだ」
 トンホイさんのお言葉です、見ればお腹が少し出ています。
「女房や子供達は田畑を耕していてね」
「トンホイさんは蜂蜜ですか」
「蜂蜜を作ってこられたんですね」
「それもずっと」
「それで、ですか」
「蜂蜜については」
「そう言ってもらってるんだ」
 オズの国一の養蜂農家だと、というのです。 

 

第六幕その五

「有り難いことにね、ではね」
「はい、頂きます」
「そうさせて頂きます」
 五人は笑顔で応えてでした、そのうえで。
 それぞれテーブルに着きました。食べる必要のないかかし達も同席していつも通り食べて楽しんでいる時の皆の笑顔を心の栄養にするのでした。
 実際にです、そのお菓子や蜂蜜を付けたパンやそれを入れたお茶を飲みますと。
「これは」
「もう何ていうか」
「普通の蜂蜜とは別格」
「とんでもなく美味しくて」
「嘘みたい」
 そこまで美味しいというのです。
「何ていうか」
「この味だと」
「目が覚めそう」
「とんでもなく甘くてそれでいてお口に入れたらすっきりして」
「普通の蜂蜜とは違う感じね」
「これがトンホイさんの蜂蜜なの」 
 ジュリアも食べてうっとりとなっています、そのお顔で五人に言うのです。
「素晴らしいでしょ」
「はい、本当に」
「こんな蜂蜜ははじめてです」
「幾らでも食べられそうです」
「魔法を使っているみたいですね」
「そんな美味しさですね」
「僕は魔法は使えないよ」
 魔法と聞いてです、トンホイさんは笑顔で否定しました。
「そうしたことは一切知らないよ」
「けれどこの蜂蜜の味は」
「何ていいますか」
「そんな感じがします」
「魔法を使っている様な」
「そうした美味しさです」
「そう言ってくれるんだ、だったらね」
 五人の言葉に笑顔になってです、トンホイさんは彼等にこうも言いました。
「どんどん食べて舐めてね」
「お菓子も蜂蜜も」
「そうしていいんですね」
「うん、蜂蜜はパンだけじゃなくてお菓子にも入れていいから」
 当然紅茶にも入れています、それも皆が。
「どんどんご馳走になってね」
「ですが」
 神宝はここで怪訝なお顔になって言ってきました。
「そんなに食べたら」
「蜂蜜もお菓子もだね」
「なくなりませんか?」
「安心していいよ」
「そのことはですか」
「そうだよ、沢山あるしいつも採れるからね」
 蜂蜜、それがというのです。
「だからね」
「いつも採れるんですか」
「そうだよ、決まった時にしか採れるという訳じゃないからね」
 このこともオズの国の特徴です、田畑の作物もどの季節で出来るかではなく種を蒔いて育てているとそれぞれの作物の実る期間で生えて食べられる様になるのです。 

 

第六幕その六

「いつも育てているからね」
「だからですね」
「蜂蜜がいつも採れるんですね」
「それも沢山」
「だからですか」
「私達も好きなだけ食べていいんですか」
「そうだよ、むしろ遠慮されるとね」
 オズの国の人らしいお言葉でした。
「僕は困るよ」
「オズの国では遠慮はしない」
 ジュリアも食べてにこにことしつつ言います。
「そうでしょ」
「はい、だからですね」
「好きなだけ食べて」
「そして満足することですね」
「蜂蜜も蜂蜜を使ったお菓子も食べて」
「そうして」
「そうよ、楽しんでね」
「いや、トンホイさんの蜂蜜を久し振りに味わっているけれど」
 勿論モジャボロも楽しんでいます、その見事なお髭に蜂蜜が付かない様にしつつ。
「いいね」
「そうさせてもらいます」
「是非」
 五人は笑顔で応えてでした、そうしてです。
 皆で蜂蜜とそれを使ったお菓子をお腹一杯食べました、そしてです。
 食べ終わった後で、です。トンホイさんに言われました。
「それで家族はね」
「はい、トンホイさんが蜂蜜を作っておられて」
「それで、ですよね」
「奥さんやお子さん達は田畑におられて」
「そこで、ですよね」
「そうなんだ、そちらで働いているんだ」
 田畑の方でというのです。
「僕は養蜂の方に専念していてね」
「そうしてですね」
「そのうえで、ですね」
「皆で楽しく働いてるんですね」
「手分けをして」
「そうなんだ、いやこれがね」
 にこにことして言うトンホイさんでした。
「実にいい家族で」
「奥さんもお子さん達も」
「実際にですね」
「それでトンホイさんは幸せなんですね」
「養蜂だけでなくそちらでも」
「何といっても家庭がいいとね」
 心から言うトンホイさんでした。
「最高の幸せだよ」
「うん、僕は家族はいないけれどね」
 木樵が応えました。
「皆で仲良くいられるとね」
「そうですね」
「こんなに幸せなことはないよ」
「家族は実は血縁でなくてもなれるからね」
 かかしは絆のお話をしました。
「僕達もそうした意味で家族だしね」
「そうしてですね」
「家族皆で楽しく過ごしているよ」
 毎日です、そうしているというのです。
「実際にね」
「僕達三人ウィンキーの国で暮らしてて」
 ジャックも言います。
「お家は離れているけれど」
「それでもですね」
「家族だね」
 そうなることをです、ジャックも言うのでした。そしてジュリアもです。
 お菓子も蜂蜜も楽しんだのでにこにことしつつこう言うのでした。 

 

第六幕その七

「私も王宮の皆にそう言ってもらって」
「それで、ですね」
「実家にはお父さんとお母さんもいて」
 実際の家族もいるというのです。
「王宮にも」
「オズマ姫やドロシーさん達とだね」
「いつも一緒にいてです」
「幸せなんだね」
「はい、とても」
 こうトンホイさんにお話するのでした。
「そうです」
「それは何よりだね」
「はい」
 実際にというのでした。
「家族もいてくれてです」
「ジュライさんも幸せだね」
「二つの家族があって」
「お家と王宮の」
「そうです」
 まさにという返事でした。
「家族が二つもありますので」
「余計に幸せだね」
「そうです」
「そう、家族は一つとは限らないんだよね」
 ジャックが陽気に言ってきました。
「これがね」
「そうなんだよね、それぞれのつながりが出来てね」
 木樵も言います。
「家族になっていくからね」
「僕達は最初は一人だったけれど」
 かかしも言うのでした。
「そこから結びついていて家族になったからね」
「だからジュリアもね」
 モジャボロは今は紅茶を飲みつつ言いました。
「結びつきが出来て」
「それでよね」
「二つの家族を持つ様になったんだよ」
「そうよね、やっぱり」
「そうだよ、それとね」
「それと?」
「ジュリアのお父さんとお母さんの好きなものは何かな」
 モジャボロはこのことも聞いてきました。
「それで」
「何でも好きよ」
「じゃあ蜂蜜をプレゼントしたらどうかな」
「この蜂蜜を」
「うん、どうかな」
 こうジュリアに提案するのでした。
「そうしたらどうかな」
「そうね、お父さんもお母さんも好きだし」
 その蜂蜜をというのです。
「それじゃあね」
「贈る?蜂蜜」
「そうするわ」
 このことも決めたジュリアでした、そしてです。
 ジュリアはトンホイさんにこうお願いしました。
「あの、よかったら」
「うん、いいよ」
 トンホイさんは快諾して応えました。
「それじゃあね」
「頂けますか」
「蜂蜜とお菓子でいいかな」
「私達が今食べている」
「それでどうかな」
「いいですね」
 ジュリアはトンホイさんの提案に笑顔で応えました。
「それじゃあ」
「うん、食べ終わったらあげるからね」
「有り難うございます」
「それじゃあね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 ジュリアはこの約束もしてでした、蜂蜜を使ったお菓子にそれを塗ったパンを食べて入れた紅茶も飲んででした。
 その後でトンホイさんからその蜂蜜が入った瓶とお菓子を入れたバスケットボックスをいただきました、ジュリアはその二つを受け取ってからトンホイさんに言いました。
「有り難うございます」
「お礼はいいよ、お父さんとお母さんにね」
「贈らせてもらいます」
「そうして楽しんでもらってね」
「わかりました」 
 笑顔でやり取りをしてでした、そのうえで。
 ジュリア達はトンホイさんと笑顔で手を振り合って再会の時を楽しみにしながら別れました、その後で。 

 

第六幕その八

 ジュリアは皆にです、こう言いました。
「じゃあ今からね」
「贈るんですね」 
 神宝がジュリアに尋ねました。
「蜂蜜とお菓子を」
「ええ、そうするわ」
「そうされますね」
「ただね」
「ただ?」
「今から贈る場所に行くから」
 そうするというのです。
「ちょっと寄り道するわ」
「贈る場所っていいますと」
 ジョージはそう聞いてこう言いました。
「郵便局とか運送の」
「そう、まさにね」
「そういえばですね」
 カルロスもそのお話を聞いて言うのでした。
「オズの国にも郵便や配達がありますね」
「そうよ、そこに行くから」
「そういえばオズの国にも」
 ナターシャはこれまでオズの国で見てきたもののうちの一つを思い出しました。
「ポストとかありましたね」
「そのポストに行くのよ」
「ポストのところに行けば」
 恵梨香も言います。
「そこからですか」
「そうよ」 
 まさにとです、ジュリアは五人にお話しました。
「オズの国は郵便と配達が一緒なのよ」
「ポストからですか」
「普通に送られるんですか」
「お手紙も荷物も」
「それが出来るんですね」
「そうなんですね」
「ええ、そうなの」
 ジュリアはにこりと笑ってです、こう言うのでした。
「だから今からね」
「ポストに行って」
「そこからですか」
「お家のご両親に送られるんですね」
「蜂蜜もお菓子も」
「そして食べてもらうんですね」
「そうなの、ポストは色々な場所にあるから」
 ものを送られるそこはというのです。
「この辺りのある場所も知ってるから」
「そこに行ってですね」
「今から」
「そうしてですか」
「蜂蜜とお菓子を送って」
「そしてですね」
「また行くんですね」
「冒険の再開よ」
 送ってからというのです、ジュリアはお菓子が入っているバスケットボックスに瓶も入れてそうして両手で大事そうに持ちつつ歩いています。
「いいわね」
「わかりました」
 五人はジュリアのその言葉に笑顔で応えました。
 そしてそのうえで、でした。一行はです。
 ポストのところに来ました、そのポストはといいますと。
 青いポストでした、五人はそのポストを見て言いました。
「マンチキンだから青い?」
「だからかな」
「黄色でも赤でもなくて」
「青いのね」
「そうなのね」
「うん、オズの国の郵便や配達はオズマが考えて作ったけれどね」
 かかしが言います。
「魔法を応用していてね」
「色はそれぞれの色のものなんだ」
 木樵も五人にお話します。
「それぞれの国のね」
「マンチキンのポストは青いよ」
 ここで言ったのはジャックでした。
「この通りね」
「カドリングのポストは赤くて」
 神宝はかかし達のお話を聞いて頷きました。
「ウィンキーだと黄色だね」
「そうだよ、勿論ギリキンは紫で都は緑だよ」
 モジャボロは笑って神宝にお話しました。 

 

第六幕その九

「このことも覚えておいてね」
「わかりました」
「オズの国ではポストもそれぞれの国の色なんだ」
 そうなっているというのです。
「そこが外の世界と違うんだ」
「それでね」
 ジュリアが五人に笑顔でお話しました。
「ポストのところに行くでしょ」
「はい」
「そうしてですね」
「ポストをどうにかすればですね」
「そのものを送ることが出来るんですね」
「送りたい場所に」
「そうなの、ポストをこうしてね」
 ジュリアはポストに触りました、するとです。ポストから言ってきました。
「どなたですか?」
「ジュリア=ジャムよ」
「ジュリアさんですか」
「そう、エメラルドの都のね」
「都のどちらにお住まいですか?」
 ポストはジュリアにさらに聞いてきました。
「一体」
「王宮に住み込みで働いているわ」
「そちらに御用ですか?」
「いえ、実家に送りたいの。実家はね」
 ここでジュリアはポストに実家の場所をお話しました。
「そこなの」
「そこに何を送られますか?」
「これよ」 
 ジュリアはポストの前に蜂蜜とお菓子が入ったバスケットボックス、両手に持っていたそれを差し出しました。
「これを送って欲しいの」
「そのバスケットボックスをですね」
「ええ、送ってくれるかしら」
「はい、今すぐに」
 ポストはジュリアに礼儀正しく答えました。
「送らせて頂きます」
「それじゃあお願いするわね」
「わかりました」
 ポストも答えました、するとです。
 お空からとても大きな鳥が来ました、足で象を掴めるまでに大きいです。とんでもない大きさです。そしてです。
 その鳥の背中に郵便配達の人がいました、青い配達員の制服です。その人が鳥から降りてジュリアに言ってきました。
「では今から」
「はい、お願いします」
 ジュリアは配達の人に笑顔で応えました。
「お話した場所まで」
「送らせてもらいます」
「それでは」
 配達員さんはジュリアの手からバスケットボックスを受け取りました、そしてです。
 鳥の背中に戻ってです、鳥はあっという間に飛び上がりそうしてです。
 お空に消えていきました、五人は一部始終を見て言いました。
「大きいですね」
「凄い鳥ですね」
「鷲みたいですけれど」
「鷲よりも凄く大きくて」
「見ていてびっくりしました」
「ロック鳥よ」 
 ジュリアは五人にその鳥のことをお話しました。
「あの鳥は」
「ああ、アラビアンナイトに出て来る」
「あの鳥ですか」
「あの鳥がオズの国にもいて」
「それで、ですか」
「郵便や配達に使われているんですね」
「そうなの、配達の人は五つの国にそれぞれ沢山の人が務めていてね」
 ジュリアはオズの国の郵便と配達のシステムのお話もしました。
「ポストでお話をするとなの」
「ああしてですか」
「所定の場所に送ってくれる」
「ロック鳥に乗ってですか」
「そうしてですね」
「そこまで届けてくれるんですね」
「そうよ、あれだけ大きな鳥だから」 
 それこそ足で象を掴める位の大きさなので。
「だからね」
「どんな大きさのものでもですね」
「運べるんですね」
「あの大きさですから」
「しかもお空も飛んで」
「そのうえで」
「そうよ、しかもロック鳥は飛ぶのが凄く速いから」
 ただ大きいだけでなくてというのです。 

 

第六幕その十

「あっという間に届くのよ」
「オズの国ならですか」
「それこそ何処にでもですか」
「すぐに届くんですか」
「どんなものでもですか」
「ただ何でも届けてくれるだけじゃなくて」
「だからとても便利なの」
「こんな便利な配達は外の世界にもないだろうね」
 モジャボロは笑顔で言いました。
「ロック鳥はオズの国の端から端まで一時間もかからずに飛ぶからね」
「一時間ですか!?」
「このオズの国を」
「端から端までですか」
「たった一時間で行くことが出来るんですか」
「大陸なのに」
「そこまで速いんだ」
 ロック鳥の飛ぶ速さはというのです。
「だからとても便利なんだ」
「オズマが考えたと言ったけれど」
 かかしもお話をしました。
「こんな凄いシステムをよく考えられたよ」
「いや、びっくりしました」
「まさかこんなシステムだなんて」
「ポストは魔法でお話出来るのはわかりますけれど」
「まさかロック鳥まで使うなんて」
「本当に凄いです」
「ロック鳥もこの国にいてね」
 オズの国にというのです。
「配達と運送に使ってもらったんだ」
「あの時は皆でどうしたものにしようかって思ったけれど」
 木樵はシステムを作ろうとした時のことを思い出していました。
「いや、こんないいものが出来るなんてね」
「オズマ姫のお考えがですね」
「こうしたものを作ったんですね」
「こんな凄い郵便と配達のシステムを」
「オズの国ならではのものをですね」
「作ったんですね」
「そうなんだ、あの時僕達もあれこれアイディアを出したけれど」
「オズマがふと言ったんだ」
 まさにとです、ジャコクも言いました。
「こうしたらって」
「それでなんだね」
「オズマ姫が出してくれたので」
「それで決まって」
「こうして動いている」
「魔法と生きものを使って」
「僕達は科学の車を使おうとかドラゴンとか考えていたんだ」
 ジャックは自分達の考えをお話しました。
「あれこれとね、けれど皆オズマの言葉を聞いて決めたんだ」
「それならってね」
 モジャボロのお顔は笑顔でした。
「こんないいものはないってね」
「オズの国らしいですし」
「不思議の国ならではで」
「しかもすぐに届きますし」
「何でも運べて」
「本当にこんなにいいものは他には」
「そして実際に効果的に動いているんだ」
 そのシステムがというのです。
「見ての通りね」
「もうちょっとしたら届いているわね」
 ジュリアはにこにことしていました。
「都のお父さんとお母さんのところに」
「今ロック鳥が飛んでいるんですね」
「そうよ」
 ジュリアは神宝に笑顔で答えました。
「現在進行形でね」
「そうですね」
「そしてね」
「あと少しで、ですね」
「届くわ」
「じゃあジュリアさんのお父さんとお母さんも」
 神宝はジュリアのご両親を想像しました。
「あと少しで」
「そう、もうすぐね」
「あの蜂蜜をお菓子を楽しめますね」
「そうなるわ」
「いいことですね」
「いや、確かにね」 
 ここでこうも言ったジュリアでした。 

 

第六幕その十一

「美味しいものはね」
「一人でなく、ですね」
「皆で食べてこそね」
「本当に美味しいですね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「お父さんとお母さんに送る様に言われて決めてね」
「よかったですね」
「本当にね」
 心から言うのでした。
「私今とても嬉しいわ」
「そうなんですね」
「さて、それじゃあ」
「はい、あらためてですね」
 ジョージは笑顔のジュリアに笑顔で応えました。
「冒険の再開ですね」
「人魚の国に向けて」
 カルロスも言います。
「行くんですね」
「蜂蜜もお菓子も楽しみましたし」
 ナターシャはその味を思い出してにこにことしています。
「あらためて」
「何か今回の旅は色々ありますけれど」
 恵梨香は冒険のことを振り返っています、オズの国では旅行と冒険は近いといいますか同じものなのです。
「面白いですね」
「ええ、じゃああらためて」 
 ジュリアは五人に言いました。
「冒険を再開しましょう」
「それじゃあ」
 五人はジュリアに応えてでした、そのうえで。
 皆で冒険を再開しました、冒険はこれまで通りです。
 とても楽しくて明るいものでした、夜まで歩いて。
 そして夜は晩御飯を食べてです、身体も奇麗にしてでした。テントで休みました。
 翌朝日の出と共に起きてち朝食と共に出発するとです、ふと。
 神宝は空を見上げてこんなことを言いました。
「このお空にロック鳥がいますか」
「お空に島がそれぞれあってね」
 またジュリアがお話します。
「そこからなの」
「連絡が来たらですか」
「ポストがそれなの」
「あのやり取りがですね」
「そう、連絡でね」
 それでというのです。
「あれからなの」
「ロック鳥で来てくれて」
「あっという間に届けてくれるの」
「ポストは通信機でもあるんですね」
「そうなの」
「そこは僕達の世界とは違いますね」
「魔法のポストなの」
 それだというのです。
「あれはね」
「そうですね」
「そう、そしてね」
「届けてくれるから」
「いいのよ」
 本当にというのです。
「あのポストはね」
「お空の島からやり取りをして」
「すぐに来てくれるしね」
「ううん、お空での冒険もありましたけれど」
 神宝はかつてポリクロームや魔法使いと飛行船で行ったその冒険のことを思い出していました。あの時のことを。
「オズの国のお空は凄くですね」
「独特でしょ」
「鳥もお魚も飛んでいて」
「お魚は泳いでいるのかしらね」
「そうなるかも知れないですね」
「私も行ったことがあるの」 
 ジュリアは微笑んでです、神宝だけでなく他の子達にも言いました。
「お空の冒険にね」
「オズの国のですね」
「飛行船に乗ってですか」
「そうしてですね」
「お空の冒険もされたんですね」
「そうされたんですか」
「オズマ姫と一緒にね」
 オズマの侍女として、というのです。 

 

第六幕その十二

「それで行ったけれど」
「それでオズの国のお空のこともご存知ですね」
「そうなんですね」
「あそこのことも」
「それで、ですか」
「鳥やお魚や島のこともご存知ですか」
「そうなの、オズのお空の島は結構多いのよ」
 お空を見上げても島は見えません、ですがそれでもというのです。
「これがね」
「そうなんですね」
「そういえばお城があって」
「それで、ですよね」
「島も結構あって」
「地上からは見えないですが」
「見えなくてもあるものはあるから」
 だからというのです。
「私も行って見てきて知ってるわ」
「あのお空は不思議だよ」100
 モジャボロもお空を見上げて言います。
「海みたいでもあるしね」
「お魚もいて」
「それで、ですよね」
「しかもお城もあって」
「島まであって」
「不思議なお空ですよね」
「だからね」
 それでというのです。
「僕もあのお空が好きだよ」
「あのお空にロック鳥も配達の人達もいるの」
 ジュリアはまたお話しました。
「あそこにね」
「そうなんですね」
「お空にですね」
「ロック鳥もいて」
「そして配達の人もですね」
「そうよ、オズの国のお空はね」
 それこそというのです。
「他の国のお空とは違うから」
「色々な鳥がいてお魚もいて」
「お城もあって島もあって」
「そして配達の人もいて」
「凄く色々なものがあるんですね」
「そうなのよ、私が嬉しいのは」
 ジュリアはこうも言いました。
「リョコウバトもいるから」
「あっ、リョコウバトはですね」
「もう外の世界にはいないですからね」
「あの鳥はもう」
「外の世界じゃいなくなって」
「オズの国にしかいないですから」
「そのリョコウバトもいてくれているから」
 それでというのです。
「凄く嬉しいの」
「あの鳩は物凄い数がいたんだけれどね」 
 モジャボロは残念そうに言いました。
「僕が子供の頃はまだいたんだよ」
「それが、ですよね」
「あっという間にですね」
「いなくなったんですね」
「外の世界では」
「そうなりましたよね」
「残念だよ」
 あれだけいたというのに、とです。モジャボロは五人に答えました。 

 

第六幕その十三

「そのことがね」
「オズの国は他の生きものもいるから」
 ジュリアは五人にさらにお話しました。
「外の世界ではいなくなった生きもの達もね」
「リョコウバト以外にもですね」
 リョコウバトはアメリカにいました、ですからアメリカ人のジョージはすぐに反応しました。
「いるんですね」
「じゃあオオナマケモノも?」
 ブラジル人のカルロスはこの生きものを脳裏に浮かべました。
「いるんですね」
「ステラーカイギュウもかしら」
 ナターシャはロシアの東の海にいた生きものを言葉に出しました。
「オズの海には」
「ニホンオオカミも?」
 恵梨香は日本人なのでこの生きものを思い出しました。
「いるのかしら」
「ヨウスコウカワイルカは」
 中国人の神宝はこの生きものを思いました。
「オズの国には」
「そうした生きもの達もいるよ」
 かかしが五人に答えました。
「全部ね」
「それはいいですね」
「オズの国だけにいる不思議な生きもの達だけじゃないんですね」
「そうした生きものもいるんですね」
「私達の世界ではいなくなっても」
「オズの国にはいますか」
「この国は不思議の国だから」
 木樵もこう言うのでした。
「皆いるよ」
「いない生きものはいないんじゃないかな」
 ジャックはこうまで言いました。
「ドードーもいるしね」
「あっ、あの鳥も」
「そうなんですね」
「じゃあその鳥もいて」
「他の生きものもですね」
「いるんですね」
「うん、それで僕が好きなのはね」
 特にというのです。
「オオウミガラスかな」
「ペンギンに似てるのよね」 
 ジュリアもオオウミガラスと聞いて言います。
「この生きものもいるわよ」
「とにかく沢山いるんですね」
「外の世界でいなくなっても」
「オズの国にはいるんですね」
「リョコウバトもそうで」
「他の生きもの達も」
「そのことも楽しんでね」
 そうした生きもの達に出会うこともというのです、そしてでした。 
 皆はそのお空を見た後でまた東に向かって歩いていきました、冒険の目的の一つを終えて次はそちらでした。 

 

第七幕その一

                第七幕  眠り草の草原
 蜂蜜を楽しんだ一行は意気揚々とさらに東に向かいました、その人魚の国までです。
 その途中にです、ジャックがこんなことを言いました。
「目的の一つが達成出来てよかったね」
「うん、とてもね」
 ジャックの横にいるモジャボロがにこにことして応えました。
「よかったよ」
「そうだよね」
「さて、次はね」
「人魚の国だね」
 かかしと木樵は次に行く場所に思いを馳せています、黄色い煉瓦の道を歩きつつ左右の青い草原を見回しながら。
「あの国に行って真珠を見せてもらって」
「また楽しもうね」
「そうね、何か蜂蜜までも色々あったけれど」
 ジュリアは今回の冒険でこれまで起こったことを振り返って言いました。
「次は人魚の国ね」
「オズの国の人魚さん達ですが」
 ジョージがふとこんなことを言いました。
「食べるのはお魚や海藻ですよね」
「海にいるとそうなるよね」
 カルロスも言います。
「やっぱり」
「貝や海老もあるし」
 恵梨香はこうしたものもお話に出しました。
「烏賊や蛸、雲丹もね」
「海の幸が中心ね」
 ナターシャは考えるお顔になっています。
「海にいるから必然的に」
「じゃあ海鮮麺とか海老餃子とかそんな感じで」
 神宝は中華料理を思うのでした、自分のお国のそれを。
「豪勢な感じですね」
「お刺身もある?」
「フライや天麩羅も?」
「あとお鍋ね」
「姿焼きもありそうね」
 ジョージ、カルロス、恵梨香、ナターシャの順に言いました。
「お塩を利かして」
「お醤油あるかしら」
「新鮮な魚介類をそうして食べるのかな」
「海藻とかもね」
「そうよ、人魚の人達のお食事はシーフード主体よ」
 ジュリアも五人にその通りだとお話します。
「海藻サラダやお刺身にムニエル、フライやお鍋もあって」
「やっぱりそうですか」
「そうよ、もう海の幸が凄く美味しいの」
 ジュリアは神宝に笑顔でお話しました。
「勿論海鮮麺や海老餃子もあるわ」
「やっぱりそうですよね」
「炒飯もね」
 中華料理の基本中の基本と言われているこのメニューもというのです。
「しっかりとね」
「海鮮炒飯ですね」
「そうよ」
「それは楽しみですね」
「神宝は海の幸も好きよね」
「はい、大好きです」 
 実際にとです、神宝はジュリアに答えました。
「海の幸はどれも」
「そうよね」
「ただ、僕は広東生まれじゃなくて」
 中国の南の方です、香港もこちらにあります。
「天津ですから」
「確か中国の北の方よね」
「はい、そちらです」
「天津は海の幸はそんなになのね」
「海に面していますけれど」
 それでもというのです。
「広東や上海と比べますと」
「違うのね」
「やっぱり広東の方がずっと美味しいです」
「そうなのね」
「中国で海の幸はそちらです」
「広東のものが一番美味しいのね」
「そうなんです、ただオズの国の海の幸は何処も美味しいですから」
 目を輝かせてです、神宝は言いました。 

 

第七幕その二

「楽しみですね」
「そうだよね、どんなのかな」
「人魚の国に行って食べたいね」
「早くね」
「そうしたいわ」
 ジョージ達四人も笑顔で言います。
「日本にいると海の幸をよく食べるけれど」
「オズの国のも美味しいからね」
「今すぐにも人魚の国に行ってそしてね」
「早く食べたいわね」 
 こうしたことを笑顔でお話していました、そしてです。
 五人は自然と足を速めましたがジュリアは五人ににこりと笑って声をかけました。
「焦る必要はないわよ」
「焦ってもですか」
「何にもならないですか」
「そうよ、歩いて行くことは変わりがないから」
 だからだというのです。
「今急いでも特に早くはならないわ」
「だから焦らずですか」
「落ち着いて、ですね」
「これまで通り行くんですね」
「人魚の国まで」
「そうするんですね」
「そうよ、ゆっくりと行きましょう」
 にこにことして言うジュリアでした。
「焦ってこけたら何にもならないわ」
「そうですね、それじゃあ」
「これまで通りの速さでいきます」
「焦っても仕方ないですしね、確かに」
「じゃあ歩く速さを戻して」
「普通に歩いていきます」
「そうしましょう、それでね」
 ジュリアは周りを見つつこうも言いました。
「お昼になればね」
「はい、その時はですね」
「御飯ですね」
「海の幸のお話をしたけれど」
 それでもというのです。
「そちらは人魚の国に来た時のお楽しみにして」
「それで、ですね」
「今はですね」
「そう、後に取っておいてね」
 その人魚の国に着いた時のです。
「今はお肉メインでいいかしら」
「それじゃあですね」
 神宝はお肉と聞いてこう言いました。
「豚バラ煮込みとか」
「あのお料理ね」
「あれはいいですよね」
「ええ、美味しいわね」
「豚肉がじっくりと煮られていてお醤油と生姜とかで味付けされていて」
「とろりとしていてね」
「物凄く美味しいんですよね」
 神宝はにこにことして言います。
「そういうのにするんですね」
「あとは鶏肉とかもね」
「家鴨どうですか?」
「家鴨ね」
「はい、家鴨料理も美味しいですから」
「そうね、家鴨もいいわね」
 ジュリアはこちらにも乗り気でした。
「卵にしても」
「ピータンですね」
「ええ、そちらもね」
「じゃあそういうのにしますか」
「そうしましょう」
「それじゃあ」
「しかし、中華料理は多彩だね」 
 ここでモジャボロが言いました。
「本当にね」
「ええ、そうよね」
 ジュリアはモジャボロにも頷いて応えました。 

 

第七幕その三

「何かとね」
「海の幸を使ったり豚肉も家鴨もあってね」
「味付けも色々で」
「面白いね」
「他べていて飽きないわ」
「全くだね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「いえ、豚肉のお料理は多いけれど」 
 ここでこんなことを言ったジュリアでした。
「牛肉は少なくないかしら」
「豚肉を使ったお料理と比べるとだね」
「そうじゃないかしら」
「そういえばそうだね」
「うん、確かにね」
 ジョージとカルロスもこのことに気付きました、二人のお話を聞いていて。
「中華料理ってそうだね」
「牛肉のお料理は豚肉程多くないね」
「羊や鶏肉とか使っていても」
「海の幸も何でも食材は使うけれど」 
 恵梨香とナターシャは女の子同士でお話します。
「それでもね」
「牛肉は思ったより少ないわね」
「農業で使っていたからね」 
 牛をとです、その中国人の神宝が皆に言いました。
「だからだよ」
「そうだね、食べたらもうそれで終わりだからね」 
 かかしもここで言います。
「折角田畑で頑張ってもらうのにね」
「はい、ですから他の家畜に比べて食べなかったんです」
 神宝はかかしにも答えました。
「牛は」
「オズの国でもそうだしね」
 木樵は遥か遠くに見えてきた牧場を見ていました、そこでは乳牛達がのどかに柵の中で過ごしています。
「田畑で働いてもらったりミルクを出してもらう牛はまず食べないよ」
「本当に食べたらそれで終わりだから」 
 ジャックも言いました。
「そういうことだね」
「馬もそうなのよね」 
 ジュリアはこの生きもののお話も出しました。
「田畑で使うわね」
「馬もあまり食べないです」
 神宝はジュリアにまた答えました。
「中国では」
「やっぱりそうよね」
「本当に豚肉主体です」
「そうよね」
「あと最近は乳製品を他べて牛乳も飲みますけれど」
「昔はなのね」
「殆どの人が口にしませんでした」
 そうしたものもというのです。
「遊牧民の人達だけでした」
「中国の殆どの人達は食べなかったのね」
「そうでした」
 実際にというのです。
「そちらもでした」
「そうなのね」
「本当にです」
 実にとです、また言った神宝でした。
「中国でも全然じゃないですけれど食べられないものもありますよ」
「そういうことね」
「確かに色々なものを食べますけれどね」
 このことは事実にしてもというのです。
「あまり食べないものもありますので」
「乳製品もそうなのね」
「そうでした、最近までは」
「牛乳も」
「そうです」
「美味しいのに」
「食べる習慣もなかったんです」
 牛乳や乳製品をというのです。
「長い間、ただ今は飲んで食べます」
「その牛乳や乳製品もなのね」
「今はそうなりました」
「食生活が変わったのね」
 中国でもというのです。 

 

第七幕その四

「そうなのね」
「はい、本当に」
「オズの国もそうで中国も同じね」
 ジュリアはしみじみとして言いました、そうしたお話をしつつ道を進んでいきます。そしてお昼御飯に豚バラ煮込みや北京ダッグを食べてでした。
 午後にまた出発しようとしたところでジュリアは地図を見ながら皆に言いました。
「皆これから困った場所に行くわよ」
「困った場所?」
「といいますと」
「ええ、眠り草が生えている場所があってね」
 それでというのです。
「その草を摘み取らないといけないの」
「あれっ、煉瓦のところにはないんですか?」
「この道の近くには」
「ないけれどその草のせいで近くの人達が傍を通って寝てしまうから」
 だからというのです。
「私達で摘み取ってね」
「皆が困らない様にする」
「そうするんですね」
「そうよ、皆が困らない様にすることが政治だから」
 ジュリアは五人にこうしたこともお話しました。
「だからね」
「あえて言ってですね」
「そして摘み取って、ですか」
「皆が困らない様にする」
「そうしておくんですね」
「そうよ、いいわね」
 五人にあらためて言うのでした。
「そうするわよ」
「うん、ただね」
 ここでモジャボロがジュリアに言いました、それも考えるお顔になって。
「それはいいとして」
「それでもよね」
「うん、問題はね」
「眠り草に近付いたらね」
「僕達は寝てしまうから」
「このことが問題ね」
「そう、そのことについてはどうするのかな」
「マスクをして、って考えてるけれど」
 ジュリアは摘み取る時にそれを付けてというのでした。
「どうかしら」
「マスクだね」
「眠り草で眠るのはその匂いとかのせいだから」
「お鼻やお口から吸わない様にしたらいいね」
「そうしたらって思ってるけれど」
「花粉と一緒だね」
 かかしが言ってきました。
「つまりは」
「ええ、そうよ」
「そうしたものを吸い込まない様にしたら」
「もう寝ないで済むわ」
「それじゃあだね」
「ええ、じゃあ皆でマスクをして」
 そうしてというのです。
「摘み取りましょう」
「ゴーグルもした方がいいね」
 かかしはまた言ってきました。
「それもね」
「目もなのね」
「花粉は目からも入るよね」
「ええ、確かに」
「だからね」
「摘み取る時はなのね」
「ゴーグルもしてね」
 そうしてというのです。
「目も守って」
「そうしてなのね」
「摘み取るべきだと思うよ」
「そうね、確かに花粉は目からも入るから」
 ジュリアもかかしのその言葉に頷きました。
「それじゃあ」
「ゴーグルもだね」
「付けましょう」
「僕達は心配無用だよ」
 今度は木樵がジュリアに言いました。
「そうしたことについてはね」
「貴方達は寝ることがないから」
「そうしたものはいらないよ」 
 マスクもゴーグルもというのです。 

 

第七幕その五

「一切ね」
「じゃあ私とモジャボロさんと神宝達五人ね」
「そうなるね」
「とにかくね」
「寝たら元も子もないから」
 そうなってしまってはというのです。
「対策はしっかりしないとね」
「そうだよ」
「ただ、三人がいてくれるから」
 ジュリアはそのかかしと木樵、ジャックを見て言いました。
「有り難いわ」
「僕達は絶対に寝ることがないからだね」
「ええ、そうよ」
 その通りとです、ジュリアはジャックににこりと笑って答えました。
「私達はガードが必要だけれどね」
「僕達は違うからね」
「何があっても動けるから」
「だから任せてね」
「頼りにさせてもらうわ」
「是非共ね」
「そういえばオズの国でかかしさん達のそうしたことが凄く大きいですね」
 神宝はジュリアからマスクとゴーグルを受け取りつつ思いました。
「とても」
「そうでしょ、食べなくて寝なくて休まなくていいから」
「はい、何があっても」
「だからその分ね」
「皆を助けてくれてますね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「私達はかかしさん達にどれだけ助けてもらったかわからないわ」
「これまでの多くの出来事で」
「本当にね」
「今回もそうですね」
 ジョージはかかし達をじっと見ています。
「僕達に若し何かあっても」
「そうだね、かかしさん達がいてくれたらって思ったら」
 カルロスも彼等を見ています、本当に頼れるといった目で。
「心強いよね」
「今回もそうなのよね」 
 ナターシャもそうした目でかかし達を見ています。
「いつもだけれど」
「私達もどれだけかかしさん達に助けてもらってるかしら」
 最後に恵梨香が言いました。
「寝なくていい、休まなくていいってことに」
「いやいや、こうした身体の仕組みだから」
「別にそんなに凄くはないよ」
 かかしも木樵も自分達のそうした活躍や身体の仕組みに特に驕ることはありません、このことはジャックも同じです。
「それでやるべきことをしているだけだし」
「褒められることでもないよ」
「別にね」
「何でもないよ」
「そう言われるところがかえって凄いです」
 神宝はそのかかし達に言いました。
「本当に」
「おやおや、そうなのかい?」
「そう言ってくれるんだ」
「はい、そうです」
 こう返すのでした。
「今回のことといい」
「ううん、別にね」
「僕達はそう思わないけれどね」
「僕達が思っているということで、それじゃあ」
「うん、今からね」
「その眠り草のところに行こうね」
 こうしてです、皆で眠り草のところに向かいました。そして草が生えているその場所に向かいながらです。
 ジュリアは五人とモジャボロに笑顔で言いました。
「じゃあそろそろね」
「マスクとゴーグルをだね」
「付けましょう」
 モジャボロに答えました。 

 

第七幕その六

「そうしましょう」
「それじゃあね」
「それでお仕事が終わった後は」 
 それからのこともです、ジュリアはお話しました。
「ちゃんと服や髪の毛は払っておきましょう」
「花粉と一緒だね」
「そう、草の粉で眠くなるから」
「だからだね」
「それは払っておきましょう」
 服や髪の毛に付いたそれをというのです。
「そうしましょう、それとね」
「それと?」
「このことは皆よ」
 さらに言うジュリアでした。
「かかしさん達もね」
「ああ、僕達は寝ることがなくてもね」
「それでも草の粉は付くからね」
「あの草のお花の粉がね」
「そう、だからよ」
 ジュリアはかかし達三人にもにこりと笑ってお話しました。
「ちゃんとね」
「わかったよ」 
 ジャックはジュリアに納得した声で答えました。
「それじゃあね」
「そうしてね」
「是非ね、それじゃあ今から」
「うん、行こうね」
「いよいよね」
 眠り草への対策を充分に用意して講じてでした、一行はその眠り草が生えている場所に向かいました。するとです。
 そこには結構な数の人と生きもの達がぐっすりと寝ていました、森の中の少し開けた草原の中に咲き誇っている菫に似た花達を囲む様にして。
 その花達を見てです、神宝はこう言いました。
「奇麗ですよね」
「そうよね」
 ジュリアは神宝のその言葉に頷きました。
「奇麗なことは奇麗なのよ」
「それでもですよね」
「ええ、問題はね」
「花粉で寝てしまうことですね」
「何といってもね」 
 このことだというのです。
「だから私達もここに来たし」
「そうですよね」
「じゃあいいわね」
「はい」 
 確かな顔で、です。神宝も他の四人の子供達もジュリアの言葉に頷きました。
「それじゃあ今から」
「摘み取るわよ」
 ジュリアは自分からでした、眠り草のところに行ってでした。そのうえで率先して草を抜いていきます。ここで、でした。 
 モジャボロはジュリアに続いた皆に対して自分もその中に入っているその中でこう言ったのでした。
「根元から抜かないとね」
「あっ、そうですよね」
「そうしないとまた生えますね」
「同じことになりますね」
「そうだよ、植物は何でもそうだけれど」
 モジャボロはこうお話するのでした。
「根元が残っているとね」
「また生えますね」
「そうなりますよね」
「だからですね」
「ちゃんと根元までですね」
「抜くんだよ、こうしてね」 
 実際にでした、モジャボロは。
 草を抜きました、草は生えている部分の付け根を掴んで抜くとあっさりと抜けました。モジャボロは抜いてから笑顔で言いました。
「うん、楽に抜けるね」
「あっ、そうですね」
「根元まですぐに抜けますね」
「何か思ったより楽ですね」
「簡単に抜けますね」
「草の数は多いですけれど」
「土が柔らかいのよ」
 どうして楽に抜けるのかです、ジュリアは五人にお話しました。 

 

第七幕その七

「だからよ」
「それで、ですね」
「草も簡単に抜けるんですね」
「それも根元まで」
「そうなんですね」
「そうよ、確かに草の数は多いわ」
 本当に咲き誇っています。
「けれど一本一本は楽に抜けるから」
「だからですね」
「慎重に抜いていってですね」
「全部抜くんですね」
「そうするんですね」
「そうしていきましょう、それとね」 
 ジュリアは五人にさらにお話しました。
「抜いた草は一つの場所にまとめておきましょう」
「一つの場所にですか」
「まとめておくんですか」
「そうするんですね」
「そうよ、そうしておきましょう」
 こう言うのでした。
「いいわね」
「一つの場所に集めてどうするのかな」
 ジャックがジュリアにその理由を聞きました。
「それで」
「ええ、集めて燃やすの」
「ああ、それで花粉の元をだね」
「絶つの」 
 だからだいうのです。
「そうするつもりなの」
「成程ね」
「こうすれば問題はないわね」
「うん、そうだね」
「じゃあいいわね」
「わかったよ、僕もね」
 見ればジャックも一つ一つ真面目に草を抜いています、十人共熱心に草を抜いていて怠けることはありません。
「集めるね」
「集める場所は少し離れたところで」
 ちょっとそうした場所を見てです、ジュリアは皆にお話しました。
「そこに一つにして」
「そうしてだね」
「全部抜いてからね」
「燃やすんだね」
「そうしましょう」
「じゃあ抜いて」
「ええ、それからよ」 
 こう言ってです、ジュリアは早速抜いた草をその離れた場所に置きました。他の皆もそこに置いていってです。
 するとです、あっという間にでした。抜かれた草達はそこに堆く積まれました。その草達を見ながらです、木樵はこんなことを言いました。
「競争しないかい?」
「競争?」
「競争っていいますと」
「誰が一番沢山抜けるのかをね」
 こう皆に言うのでした。
「競争しないかい?」
「あっ、一本一本ですね」
「抜いていってですね」
「誰が一番沢山抜けるかね」
「競争するんですね」
「そうするんですね」
「そうだよ、勿論根元まで抜いてね」 
 このことは忘れないというのです。
「そうしてだよ」
「一本残らず抜くんですね」
「この草達を」
「そうしたらどうかな、抜いた草のカウントは自分でして」
 そしてというのです。
「誰が一番沢山抜いたか競おうね」
「面白いですね」
「それじゃあそうしましょう」
「今からですね」
「そうして抜いて」
「そしてですね」
「そう、それからね」
 あらためて言う木樵でした。 

 

第七幕その八

「一番沢山抜いた人にはご褒美があるということでね」
「そうね、それじゃあそのご褒美はね」
 ジュリアは抜きながら木樵のその提案に笑顔で応えました。
「面白いものがいいわね」
「というと?」
「ええ、一番沢山抜いた人には私がお花の冠を作るから」
 近くに咲いている眠り草以外のお花達を見ての言葉です。
「それを頭に飾るということで」
「いいね、それは」
「ええ、それじゃあね」
「今からだね」
「皆で競争しましょう」
「はじめようね」
 木樵が笑顔で応えてでした、そのうえで。
 皆は草を抜く競争をしました、一本一本確実に抜きながら。そしてあっという間に一本残らず抜きましたが。
 優勝者はです、誰かといいますと。
「やっぱりですね」
「ジュリアさんが一番でしたね」
「だってもう動きが違いましたから」
「凄く速くて」
「手慣れていて」
「ジュリアはいつも王宮で草毟りをしているからね」
 かかしが言いました。
「だから慣れているんだね」
「そのせいかしら」
「うん、君が一番だったのもね」
「そういえば最初からですね」 
 神宝も言いました。
「ジュリアさん凄い勢いで抜いていましたね」
「やっぱり慣れていると違うよ」
 かかしはまた言いました。
「それだけね」
「私は特に急いでいなかったけれど」
「だからいつもしているからだよ」
「草毟りに慣れているっていうのね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「だからね」
「それでなのね」
「君がトップになったんだ」
「そうなのね」
「じゃあ全部抜いたし一つにまとめたし」
「後はね」
「燃やしてだね」
 その眠り草達をです。
「そうしてだね」
「ええ、後はね」
「冠を作るんだね」
「私が私の為に作るのね」
「それは嫌かな」
「ううん、自分の為に作ることは」
「抵抗があるとか?」
 かかしがジュリアに尋ねました。
「やっぱり」
「どうもね」
「そうしたことは別にね」
「気にしなくていいの?」
「そう思うよ」
 かかしはこうジュリアい言いました。
「別にね」
「それじゃあ」
「うん、今からね」
「眠り草を燃やしてね」
「それが完全に終わってから」
「花飾りを作るわ」
 その冠をというのです。
「そうするわね」
「そうしようね」
「そしてね」
 ジャックが言うことはといいますと。
「大事なことはね」
「大事なこと?」
「うん、燃やした後だよ」
「あっ、火を使うから」
「水でちゃんと消しておこうね」
「そうね、ちゃんとそうしておかないとね」
「火事の元だから」
「お水も用意しておこう」
「けれどお水は」 
 神宝達はお水と聞いて周りを見回しました、ですが。 

 

第七幕その九

 お池や川といったものはなくて、です。それで言うのでした。
「近くにないですね」
「そうしたものは」
「じゃあどうしますか?」
「お水は必要ですが」
「どうやって用意しますか?」
「それは簡単よ」
 ジュリアは首を傾げさせた五人に笑顔で答えました。
「テーブル掛けからバケツ一杯のお水を幾つか出せばいいのよ」
「あっ、飲み水として出すそれをですか」
「出してですね」
「そしてそのうえで、ですね」
「そのお水を使うんですね」
「それで消すんですね」
「そうすればいいのよ」
 こう五人に言うのでした。
「お水はお水だからね」
「成程、確かに」
「そうすれば問題ありませんね」
「いや、面白いやり方ですね」
「そうすれば本当にいいですね」
「こうした時は工夫よ」
 そちらに頭を使えばいいというのです。
「だから、いいわね」
「はい、わかりました」
「本当にこういうことも工夫ですね」
「工夫をすればですね」
「出来てきますね」
「そうよ、じゃあお水を出すから」
 こうしてです、実際にでした。
 ジュリアはテーブル掛けを出してそこから幾つものバケツに入れたお水を出してです。そうしてそのお水ででした。
 眠り草を燃やした火を消しました、そうして言いました。
「これで後はね」
「花飾りで、ですね」
「ジュリアさんご自身にご褒美ですね」
「草を全部摘み取ったから」
「ええ、それをするわ」
 今からというのです。
「そうするわ」
「わかりました」
「じゃあお花で飾って」
「そうしてですね」
「また出発ですね」
「そうするわ」
 こう五人に応えてでした、そのうえで。
 ジュリアは手早い動きでお花達を取ってそれを絡み合わせて花飾りを作りました。緑の茎や蔦を中心にしてです。
 白や赤、青、黄色に紫、橙に桃色の花達で飾られたその月桂冠の形の冠を被ってです。ジュリアは皆に尋ねました。
「似合ってるかしら」
「うん、とてもいいよ」
「よく似合ってるよ」
「可愛い感じだね」
「その頭が眩しく見えるよ」
 かかしと木樵、ジャックにモジャボロが言いました。
「暫くそのままでいたらどうかな」
「冠を被ったままね」
「冒険したらどうかな」
「悪くないと思うよ」
「そうかしら」
 ジュリアは四人の言葉に少し笑顔になって応えました。
「似合ってるのも意外だけれど」
「いえいえ、よく似合ってますよ」
「とても似合ってます」
「何か妖精みたいで」
「お花の妖精みたいです」
「いい感じですよ」
 今度は神宝達五人がジュリアに言いました。
「今回は冒険の間ずっと付けていてもいいんじゃ」
「妖精さんみたいですから」
「お花がとても似合っていて」
「どのお花もとても奇麗ですし」
「そのままでいいと思います」
「貴方達もそう言うのなら」
 それならと返したジュリアでした。
「それじゃあね」
「はい、そうされた方がいいです」
「ジュリアさんにとっても」
「今回の冒険はこのままいきましょう」
「これから最後まで」
「そうしましょう」
「それじゃあそうするわね」
 ジュリアは頷いてでした、そうしてです。 

 

第七幕その十

 花飾りを頭に飾ったままです、皆と一緒に森を後にしました。そうしてこれまでよりも意気揚々とした感じで言うのでした。
「何か不思議な気持ちよ」
「不思議ですか、やっぱり」
「そうよ、花飾りのお陰でね」
 神宝にその花飾りに手を当てつつ答えました。
「凄くね」
「嬉しいんですね」
「そうなの、こうしたこと自分でしたことははじめてだから」
「花飾りを作られてですか」
「自分で飾ったことはね」
「だからですか」
「いつもオズマ姫やドロシーにもらってね」
 そしてというのです。
「飾ってもらったことはあったし花飾りを作ってね」
「それを他の人に差し上げたことはですね」
「あったけれど」
 それでもというのです。
「自分で自分にははじめてだったわ」
「けれどですね」
「それがね」
「嬉しいんですね」
「自分で作って自分で飾ったりすることも」
 このこともというのでした。
「悪くないですね」
「じゃあこれからは」
「ええ、こうしてね」
「ご自身で、ですね」
「やってもみるわ」
「そうですか」
「さて、それじゃあ日が落ちるまで進んで」
 東、人魚の国までです。
「それからはね」
「晩御飯ですね」
「そうよ、今晩は何を食べようかしら」 
 ジュリアはここで腕を組んで考えてです、それから言いました。
「パスタどうかしら」
「スパゲティですか」
「それですか」
「ええ、オリーブオイルと大蒜を沢山使って」
 そしてというのです。
「チーズも用意して」
「チーズもあるとね」
 神宝に言いました。
「スパゲティは凄く美味しくなるでしょ」
「だからですね」
「そう、チーズも用意して」
「それで何のスパゲティですか?」
「トマトをかなり使ったミートソースよ」
 そのスパゲティというのです。
「パンも用意して。それとデザートはフルーツの盛り合わせで」
「いいですね」
「それと飲みものはミルクね」
 ジュリアはドリンクのことにも言及しました。
「それにしましょう」
「いいですね」
「やっぱりスパゲティ美味しいですよね」
「オリーブと大蒜もあれば余計に」
「それにチーズもあれば最高です」
「もう言うことはありません」
 五人も言います、そしてです。
 皆で十歳位そのスパゲティとミルク、それにデザートのフルーツの盛り合わせを食べるのでした。そうしてです。 
 食べている時にです、神宝はこんなことを言いました。
「麺類でもパスタとね」
「中国の麺とはよね」
「はい、また違いますよね」
 こうジュリアに言うのでした。
「何かと」
「そうよね」
「素材も同じ小麦なのに」
「またね」
「おうどんも小麦粉から作るけれど」
 恵梨香もフォークでスパゲティを食べながら言うのでした。
「パスタやラーメンとは全然違うのよね」
「マカロニやフェットチーネでもね」
 ジョージはこうしたパスタをお話に出しました。 

 

第七幕その十一

「スパゲティとはまた違うし」
「そうそう、パスタっていっても色々でね」
 カルロスは五人の中で一番勢いよく食べています。
「それぞれ味が違うんだよね」
「そうなのよね、それぞれでね」
 ナターシャも言うのでした。
「食べている感じが全然違うわ」
「そうなのよね、それでね」
 ジュリアも言うのでした。
「その違いを感じるのも楽しいよね」
「そうなんですよね」 
 神宝はジュリアに応えました、勿論食べながらです。
「スパゲティはスパゲティで」
「マカロニやフェットチーネもね」
「それぞれの違いがあって」
「同じパスタでもね」
「それぞれの味を楽しむのもいいですよね」
「本当に」
 こうそれぞれお話してでした。
 そうしてです、神宝は一皿食べてからもう一皿食べますがここでミルクではなく赤ワインを飲んでいるモジャボロに尋ねました。
「モジャボロさんはパスタの時はワインですね」
「うん、この組み合わせがね」
「一番なんですね」
「僕としてはね」
 実際にモジャボロはワインも楽しんでいます。
「やっぱりこれだね」
「パスタには赤ワインですね」
「うん、この組み合わせの美味しさを知ったら」
 それこそというのです。
「こんなにいいものはないよ」
「そうなんですね」
「もう病み付きになるよ」
 そこまでというのです。
「本当にね」
「そうなんですね」
「うん、君達もアルコールのないワインを飲みながらどうかな」
「ミルクもいいにしても」
「こちらも美味しいよ」
「そうなんですね」
「何かね」
 ジュリアがここで言うことはといいますと。
「大人人はパスタを食べる時はワインって人が多いのよね」
「実際にそうだね」
「ええ、美味しいのかしら」
「美味しいよ、気持ちよく酔えるしね」
「そうなのね」
「あとパスタの時は飲まないけれど」
 こうも言ったモジャボロでした。
「りんご酒もいいよ」
「シードルね」
「うん、このお酒も大好きなんだ」
「モジャボロさんは林檎大好きだから」
「そうだよ、このお酒も好きだよ」 
 ワインもいいですがというのです。
「こちらもね」
「そうなのね」
「そう、まあ何時でも飲めるからね」
 りんご酒もというのです。
「またね」
「ええ、じゃあ次の御飯の時にね」
「りんご酒ね」
「出してくれるかな」
「わかったわ、それじゃあね」
「それを出すわ」
「そうさせてくれたら嬉しいよ」
 こうしたことをお話するのでした、そしてです。
 皆でスパゲティを楽しむのでした、それはとてもいい時間でした。 

 

第八幕その一

                 第八幕  海が見えてきて
 マンチキンの国を東に東に進んでいくとです、少しずつですが。
 ジャックがです、こんなことを言いました。
「あれっ、何かね」
「どうしたんだい?」
「何かあったのかな」
「海の匂いがしてきたかな」 
 こうかかしと木樵にも言いました。
「そんな気がしてきたけれど」
「ううん、それは気が逸ってるからかな」
「気のせいかな」
「そう思ったけれどね」
 かかしはこうジャックに答えました。
「僕はね」
「ううん、そういえばね」
「そういえばって?」
「ジャックはここ暫く海には行ってなかったね」
「あっ、そうだね」
 ジャックも言われて気付きました。
「僕最近海に行ってなかったよ」
「そうだったね」
「冒険には結構出てるけれど」
「それでもだね」
「海には行ってなかったよ、それでかな」
 ジャック自身も言うのでした。
「早く海に行きたいのかな」
「久し振りにね」
「海はね、若し僕は錆止めをしていなかったら」
 木樵は笑って言いました。
「とても嫌な場所だったね」
「君はブリキだからね」
「うん、錆びるとね」
「動けなくなるしね」
「それに折角ピカピカなのにね」 
 その銀色に輝く身体のこともお話するのでした。
「赤く錆びたらね」
「嫌だね」
「そうだよ、だから錆止めをしたんだ」
 その身体全体をです。
「ステンレスだね」
「そうだね」
「だから海もね」
「その潮もだね」
「怖くはないよ、泳ぐことも出来るしね」 
 その海の中で、です。
「怖くはないよ」
「そうだね」
「身体の中もね」
 外だけでなく、というのです。
「ちゃんとしているからね」
「だから大丈夫だね」
「海もね」
 それが今の木樵なのです。
「勿論斧もね」
「そうですね、ブリキの身体ですと」
 どうしてもとです、神宝が言いました。
「普通は塩水は駄目ですね」
「特にね」
「そうですよね」
「だから僕もね」
「そこをちゃんとしたんですね」
「そうなんだ」
 実際にというのです。
「オズの国は今や大陸全体に及んでいてね」
「海にも行くことがあるから」
「そうしたんだ、だから僕も人魚の国に行けるよ」
 海の中にあるその国にです。
「笑顔でね」
「それは何よりですね、それじゃあ皆でね」
「行こうね」
「僕も海は怖くないよ」
 ジャックもそうでした。
「カボチャの頭は自由に交換出来るしね」
「何時でも出せるわよ」
 ジュリアがジャックに応えました。 

 

第八幕その二

「カボチャなら」
「テーブル掛けからだね」
「そうよ、だから安心してね」
「うん、何かジュリアのテーブル掛けの使い方はね」
「どうかしたの?」
「いや、色々使うね」
 お料理を出す以外にというのです。
「バケツからお水を出したりね」
「そうした使い方がなの」
「うん、上手だね」
「そうかしら」
「工夫してるね」
「いえ、何かね」
 ジュリアが言うにはです。
「閃くのよ」
「そうなんだ」
「ええ、何かね」
 こうジャックにお話しました。
「魔法の道具については」
「王宮に侍女として働いているせいかな」
 かかしはジュリアのそうした工夫上手なことにこのことから考えて指摘しました。
「だからかな」
「それでなの」
「うん、いつも働いていて道具を使ってるね」
「お掃除やら何やらでね」
「だからなの」
「そう、それでどういった道具をどう使うかいつも考えているね」
「そうして使っているわ」
 実際にとです、ジュリアも答えます。
「そうしているわ」
「それじゃあね」
「テーブル掛けを工夫して使うことも」
「慣れているんだ」
「そうなのね」
「そうだと思うよ」
「道具を使い慣れているから」
 テーブル掛け等が入っている鞄を見てです、ジュリアは言いました。
「私は色々工夫が出来るのかしら」
「きっとそうだよ」
「成程ね」
「しかも年齢も上だしね」
「ドロシー王女達と比べて」
「オズマより少し下位だね」
「オズマ姫とドロシー王女の間位かしら」
 ジュリアの年齢はです。
「私の年齢は」
「ベッツイやトロットはドロシーより下でね」
「だからなのね」
「年齢の分だけ経験も積んでいるから」
「工夫も出来るのね」
「こうしたことは年齢が生きるからね」
 だからこそというのです。
「ジュリアは工夫上手なんだよ」
「成程ね」
「そうだと思うよ。まあジャックの頭はね」
「そのことはよね」
「ジュリアがいれば大丈夫だよ」
 彼女がテーブル掛けからカボチャを出してくれるからです。
「だから大丈夫だよ」
「うん、頼むよ」
 ジャック自身も言います。
「その時はね」
「ええ、わかったわ」
 ジュリアも頷きます、そしてです。
 皆でさらに東に東に進みます、すると今度は。
 やけに大きな青い象が困ったお顔をしていました、モジャボロはその象を見て心配そうに言うのでした。
「何か困ってるね」
「はい、そうですね」
 ジョージがモジャボロに最初に応えました。
「あの象さんは」
「痛い様な感じですね」
 カルロスはそうして困っているのではと見ました、
「どうも」
「そうね、ぶつけたのかしら」
 ナターシャはその痛がっている感じから思いました。
「何処かに」
「それか身体の何処かが痛いのかしら」
 恵梨香も言いました。 

 

第八幕その三

「それで困っているのかしら」
「虫歯かな」 
 神宝はそれではと思いました。
「それで痛いのかな」
「オズの国では病気はないよ」
 モジャボロは神宝の言葉に突っ込みを入れました。
「虫歯もね」
「あっ、そうでしたね」
「うん、基本ね」
「しかも誰も死ななくて」
「そうした世界でしたね」
「そうだいよ、だから虫歯はね」
 その可能性はというのです。
「殆どないよ」
「そうですか」
「だから基本別の理由で困っていると思うよ」
「痛がっているんですね」
「そうだと思うよ」
「まずは聞いてみましょう」
 ジュリアが言ってきました。
「ご本象にね」
「ご本人じゃなくて」
「そう、象さんだからね」
 人ではないからです、生物学的に。
「聞いてみましょう」
「わかりました、それじゃあ」
「今からね」
 こうお話しました、そしてです。
 皆はその象のところに行きました、ジュリアが象に尋ねました。
「困ってるの?今」
「うん、実は痛むんだ」
「痛いのね」
「そうなんだ、足の裏がね」
「足のなの」
「右の前足がね」
 その裏がというのです。
「痛いんだ」
「それで困ってるのね」
「何かね」
 どうにもというのです。
「痛むんだ」
「見せてくれるかしら」
 ジュリアは象のお話を聞いてこう言いました。
「そうしてくれるかしら」
「見てくれるんだ」
「そうしたらどうして痛いのかわかるかも知れないし」
「それでどうにか出来るのかな」
「私達が出来ることならね」
 それならというのです。
「そうさせてもらうわ」
「悪いね」
「まだ何もしていないのに悪いなんてないわよ」
 ジュリアは象にくすりと笑って言葉を返しました。
「それに悪いということはね」
「ないのね」
「そう、ないのよ」 
 そうだというのです。
「だって困った時はお互い様でしょ」
「助け合うのがオズの国だね」
「そうでしょ、だからね」
「それでなんだね」
「悪く思うことはないから」
 ジュリアは象ににこりと笑って言いました。
「気にしないでね」
「それじゃあ」
「ええ、まずは見せてね」
「見てね」
 こうしてです、象はジュリア達に右の前足の裏を見せました。するとそこに象の分厚い足の裏の皮さえもです。 
 貫く様な鋭い木の破片が刺さっていました、ジュリアはその破片を見て言いました。 

 

第八幕その四

「木の破片が刺さってるわ」
「それでなんだ」
「ええ、ずっと痛かったのよ」
「そうだったんだね」
「それでだったのよ」
「ううん、僕の足の裏の皮はとても厚いのに」
 象自身もよくわかっていることです。
「通る様な木の破片があるんだ」
「これまではこうして刺さったことなかったのね」
「うん」
 実際にという返事でした。
「一度もね」
「そうだったんだ」
「確かにね」
 ここでかかしが象に言いました。
「君達象の皮はとても厚いからね」
「そうだよね」
「特に足の裏の皮はね」
「それこそ靴よりもね」
 人間達が履いているそれよりもです。
「暑いよ」
「ずっとだね」
「そうだよ、だからね」
「これまでだね」
「うん、こうしたことはなかったよ」
 一度もというのです。
「なかったよ」
「そうだったんだね」
「だからまさかね」
「木が刺さるとはだね」
「なかったから」
 だからというのです。
「正直驚いているよ」
「こうなったことがだね」
「どうして痛いかもわからなかったし」
 そもそもというのです。
「夢にも思わなかったよ」
「成程ね」
「じゃあこの木を」
「君自身では抜けないね」 
 それはとです、木樵は象の身体の構造から言いました。
「鼻を使っても」
「うん、足の裏には届いてもね」
「取ることはだね」
「ちょっと出来ないよ」
「そうだね」
「どうもね」
「それじゃあね」
 それならとです、木樵は象の言葉に応えました。そしてです。 
 木樵はその木の破片に手をやってでした、早速です。
 その破片を抜きました、象から見れば小さなものでしたが皆にとっては大きなものでした。それで、です。
 その象の足の裏の皮さえ貫いた木の破片を見てです、五人の子供達は驚きました。
「大きいね」
「まるでナイフだね」
「ナイフにしてもかなりの大きさなんじゃ」
「こんな木の破片が刺さっていたなんて」
「怖いわね」
「こんなのが僕の足の裏に刺さっていたんだね」
 象も見て言います。
「そうだったんだね、いやまさかね」
「本当に刺さるとはなのね」
「思わなかったよ」
 象はジュリアに答えました。
「本当にね」
「夢にもだね」
「うん、こんなことがあるなんて」
「ええと、確か君は」
「ジュリア。ジュリア=ジャムよ」
 にこりと笑ってです、ジュリアは象に治りました。
「エメラルドの都のね」
「王宮の侍女さんだよね」
「ええ、そうよ」
「かかしさん達はわかったよ」 
 かかしと木樵、ジャックにモジャボロはです。
「皆オズの国の有名人でよく冒険に出ているしね」
「ジュリアはだね」
「ジュリアさんも有名だけれど」
 ジャックに答えました。 

 

第八幕その五

「それでもね」
「私はあまり冒険に出ないから」
「うん、だからね」
 それでというのです。
「僕も名前は知ってたけれど」
「それでもよね」
「会ったことははじめてだよ」
 今この時がというのです。
「本当にね」
「そうなのね」
「後ね」
「後?」
「この子達はね」
 象は今度は五人を見ました、もう足の裏は痛くないのでこのことはすっきりとした感じになっています。
「確か最近話題の」
「うん、外の世界から来たんだ」
「それで時々オズの国に遊びに来てね」
「こうして冒険も楽しんでいるよ」
「オズの人達と一緒にね」
「今もそうよ」
「君達のことも聞いてるよ」
 象は五人にも言いました。
「よくね」
「そうなんだ」
「僕達のことも知っているんだ」
「かかしさん達だけじゃなくて」
「知っていてくれているのね」
「象さんも」
「そうだよ、君達も有名になってきているよ」
 このオズの国でというのです。
「それもかなりね」
「そうなんだね」
「意識していなかったけれど」
「そうだったんだね」
「私達も有名なの」
「象さんも知っていて」
「うん、知らない人はいないと思うよ」
 他の人達と同じくというのです。
「オズの国でね」
「そうね、この子達もね」
「ただ、僕が会うのははじめてだよ」
 五人にというのです。
「それはね」
「そういえばこの象さんとははじめてだね」
「うん、お会いするのはね」
「オズの国でも結構象さんとお会いしてるけれど」
「それでもね」
「多分この象さんとははじめてね」
 五人も言います。
「誰がどの象さんかわからないけれど」
「お肌の色でどの国の象さんかはわかるけれどね」
「どの象さんか具体的にはね」
「私達ではわからないわね」
「はっきりした特徴がないとね」
「僕はこの辺りで一番大きい象だよ」
 象は自分でこう言いました。
「実はね、それでもわからないかな」
「御免なさい、どうもね」
「ぱっと見ただけだとね」
「他の象さんも一緒じゃないと」
「ちょっとね」
「わからないわ」
「そうなんだね、まあ僕から見てもね」
 象もこう言います。
「君達はお肌の色以外ははっきりとはわからないね」
「僕と他の子達は違うってわかるよね」
 モジャボロは象に尋ねました。
「このことは」
「うん、モジャボロさんはトレードマークがあるからね」
「このお髭と髪型だね」
「それでね、あと服の違いはわかるよ」
 こちらについてはというのです。
「色と形でね」
「あっ、そういえば」
 ここでふとです、ジョージが気付いたお顔になって言いました。 

 

第八幕その六

「オズの国の生きものは皆色がはっきりわかったね」
「そうそう、トトやエリカも言ってたね」
 カルロスは彼等からお話しました。
「オズの国に来て色がわかるようになったって」
「哺乳類は人とお猿さん以外は色がわからないのよね」
 ナターシャは外の世界のことをお話しました。
「オズの国以外では」
「けれどオズの国は不思議の国だから」
 恵梨香はオズの国のことからお話しました。
「皆色がわかるのよね」
「だからこの象さんも色がわかるんだね」
 最後に神宝が言いまし。
「そういうことだね」
「外の世界のことはわからないけれど色はわかるよ」 
 その象の言葉です。
「かかしさんにしても木樵さんにしてもね」
「そうなんだね」
「うん、皆ね」
 それこそというのです。
「服の色はわかるよ」
「それに形もだね」
「君の服が青だってこともね」
 神宝の青い服を見ての指摘です、見れば神宝は青でジョージは赤、カルロスは黄色、ナターシャは黒、恵梨香はピンクといつもの色です。
「わかるよ」
「それで僕達のことはわかるんだ」
「お顔はよくわからなくてもね」
「男の子か女の子かもわからないのよね」
「あまりね」
 象はジュリアにも答えました。
「わからないよ」
「そうよね」
「種類が違うとわからないからね」
 かかしはしみじみとした口調で述べました。
「顔だけでなく性別も」
「そうだよ、君達もわからないよね」
「象の性別はだね」
「そうだよね」
「うん、そうだよ」
 その通りだとです、かかしは象に答えました。
「僕は人間の目になっているしね」
「人間に作られたからかな」
「多分ね、だから君達象の性別はね」
「ぱっと見ただけじゃわからないね」
「そうだよ」
「僕達も象の性別がわからなくて」
 木樵も言いました。
「象の方でも僕達の性別がわからない」
「種族が違うからね」
「そうなるね」
「僕は象の性別はわかるよ」
 自分達のこのことはというのです。
「同じ種族のそれはね」
「僕達にはわからなくてもだね」
「そうだよ、はっきりわかるよ」
 それこそというのです。
「僕達にはね」
「種族が違うとどうしてもだね」
「そういうことだよ」
「それで見方が違うのはどうしようもないね」
 ジャックはしきりに頷いて言いました。
「お互いに性別がわからなくても」
「そうなるね、けれど大体服とお肌の色でわかるから」
 誰が誰かはです。
「安心してね」
「そういうことね」
「うん、それとね」
「それと?」
「いや、木を抜いてもらったからね」
 だからとです、象は皆に言いました。
「お礼をさせてもらうよ」
「別にいいわよ」 
 ジュリアはにこりと笑ってです、象に応えました。
「そんなことは」
「当然だっていうのかな」
「だって困っている人を助けるのがオズの決まりでしょ」
「法律だっていうんだね」
「そうよ、当然のことをしただけだから」
 だからだというのです。 

 

第八幕その七

「いいわ」
「いや、そういう訳にはいかないよ」
 こう返した象でした。
「お礼をするのもオズの国の決まりじゃない」
「それでなのね」
「うん、お礼にね」
 それでというのです。
「美味しい果物が沢山実る森を案内させてもらうよ」
「果物ね」
「うん、バナナもメロンもマンゴーも実るね」
「南国の果物ね」
「色々な果物がいつも沢山実っている森なんだ」
 にこにことしてです、象はジュリアにお話します。
「そこに案内させてもらうよ」
「それがお礼なのね」
「僕のね、それにね」  
 さらにお話する象でした。
「その近くに温泉もあるからね」
「温泉もなの」
「そこも楽しんだらどうかな」
「温泉ね」
 温泉と聞いてです、ジュリアはその目を輝かせました。
「それはいいわね」
「あっ、ジュリアさん温泉好きなんだ」
「お風呂自体が好きよ」
 温泉に限らずです、ジュリアのその目はにこにことしています。
「水泳と一緒に毎日楽しんでるわ」
「それじゃあ丁度いいかな」
「そちらもね」
「じゃあついて来て」
 象はジュリア達に穏やかな声で言いました。
「今から案内させてもらうよ」
「ええ、それじゃあね」
 ジュリアが皆を代表してにこりとして応えてです。
 象は皆をその森に案内しました、ここで象はお別れをして森の中に向かいました。森の中で心ゆくまで果物を食べると言ってです。
 皆は森の入口の方でバナナやメロン、マンゴーやパパイアといった南国の果物を食べました。そのうえで。
 温泉にも入りました、皆水着を着て入りましたがジュリアはその中で天国に行った様な顔でこんなことを言いました。
「いやあ、いいわね」
「いいお湯ですね」
「そうね」
 ジュリアは神宝に笑顔で応えました。
「ここの温泉も」
「はい、じゃあ後で身体も洗って奇麗にして」
「それからも入ってね」
 そしてというのです。
「楽しみましょう」
「温泉を」
「しかもこの温泉には水風呂もあるから」
 ジュリアはその水風呂の方にお顔を向けて言うのでした。
「あそこで身体を冷やしてね」
「またお湯に入るんですね」
「そうしましょう」
「あったまって冷やしてまたですね」
「あったまるのよ」
 そうしようというのです。
「お風呂はこうして楽しむのもいいのよ」
「あったまって冷やしてですか」
「またあったまるのもね。こうすればね」
 ジュリアはさらにお話しました。
「身体の疲れも取れるっていうわ」
「うん、そうだよ」 
 その通りだとです、モジャボロも答えます。その外では森の時と同じくかかしと木樵、ジャックが三人でお喋りを楽しんでいます。
「もう身体が疲れていてもね」
「すっかり取れるのね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「そうして入るといいんだよ」
「あったまって冷やしてあったまって」
「そうすればね、サウナもね」
 こちらのお風呂もというのです。 

 

第八幕その八

「あったまって冷やすね」
「ええ、水風呂でね」
「汗をかいて冷やしてまた汗をかくね」
「そうして身体の悪いものを出すっていうわね」
「それがいいんだ、オズの国でも汗をかくとね」
 それがというのです。
「凄くいいからね」
「サウナもなのね」
「冷やすといいんだ」
 水風呂に入ってです。
「冷やしてまた汗をかくんだ」
「そして湯舟でもなのね」
「そうしてもいいんだ、だから皆もね」
「お風呂に入ってあったまって」
「あったまったら水風呂に入ろうね」
 そして一旦身体を冷やそうというのです。
「そうしようね」
「わかったわ、私前からそうして入っていたけれど」
「疲れが取れるとはだね」
「知らなかったから」
「肩や腰、膝にもいいよ」
 そうした場所にもというのです。
「だからそうして入ろうね」
「ええ、今もね」
「そして疲れを取ってね」
「また旅を続けるのね」
「そうしましょう」
 二人でお話してでした、そのうえで。
 他の皆と一緒にお湯であったまって水風呂に入って一旦そのあったまった身体を冷やしてでした。またお湯に入りました。
 そして身体も洗って奇麗にしてでした。
 皆は温泉をすっかり楽しんでから冒険に戻りました、そうして晩御飯の時にです。
 神宝は晩御飯のハンバーガーを食べながらです、ジュリアに言いました。
「何かすっかりです」
「疲れが取れたかしら」
「疲れが取れたというよりは」
 むしろというのです。
「元気が溢れ出るみたいな」
「身体中から?」
「そんな感じです」
「そういえばそうだね」
「何かあの温泉に入ってからね」
「これまで以上に元気になったわ」
「そうよね」
 ジョージ達四人もこう言います。
「疲れが取れたどころか」
「むしろよね」
「元気になって」
「もう何でも出来る感じだよ」
「そういえばオズの国のお風呂はです」
 神宝はまた言いました、皆と一緒にハンバーガーを食べながら。ハンバーガーの他にはアメリカンドッグもあります。
「入ると凄く疲れが取れますね」
「外の世界のお風呂よりもなのね」
「そう思います、それであの温泉は」
「疲れが取れるだけじゃなくて」
「はい、元気が出ました」
「そうなのね」
「幾らでも歩けそうです」
 そこまで元気になったというのです。
「本当に」
「そこまでなのね、けれど私もね」
「ジュリアさんもですね」
「元気になったわ」
 そうだったというのです。
「何かまだまだ歩けそうよ」
「今日は」
「そうよ、ただね」
「ただ?」
「今日は食べ終わったらね」
 それでというのです。 

 

第八幕その九

「もう寝ましょう」
「もっと進まずに」
「ええ、寝ましょう」
「夜だからですか」
「夜は歩かない方がいいでしょ」
「寝る時間だからですね」
「夜はしっかり寝ないとね」
 そうしないと、というのです。
「幾ら元気でもね」
「駄目なんですね」
「その時の疲れが後で出るからね」 
 例えその時は元気でもです。
「だからね」
「じっくりと休んで、ですね」
「そうよ、また朝にね」
「歩くんですね」
「そうしましょう」
「夜は休むべきですか」
「そうよ」
 こう神宝に言うのでした。
「これは絶対によ」
「夜は休む」
「寝ないといけないの」
 このことは強く言うジュリアでした。
「寝ないといけない体質の人はね」
「休まないといけないんですね」
「そうしないとかえってよくないの」
「後で疲れが来るから」
「沢山歩きたいなら沢山寝ることよ」
 夜にというのです。
「そして沢山食べることよ」
「そのこともですね」
「忘れないでね、じゃあ今夜もね」
「沢山寝て」
「朝に出発しましょう」
 お日様が出ると、というのです。
「そうしましょう」
「わかりました」
 神宝はジュリアの言葉に素直に頷きました。
「じゃあ今夜も」
「よく寝てね」
「そうします」
「テントに入ってね」
「うん、食べて歯を磨いたら寝ようね」
 ジョージとカルロスもお話しました。
「そうしようね」
「今夜もね」
「そしてお日様が出たら」
「また出発ね」
 ナターシャと恵梨香は女の子同士でお話します。
「いつも通りね」
「そうなるわね」
「それがいいね、やっぱり夜は寝ないと駄目だよ」
 モジャボロはハンバーガーと一緒に出されているマッシュポテトを楽しく食べています、見れば他には野菜スティックもあります。
「一日中歩いてもかえって疲れるからね」
「うん、休める人は休まないとね」
「本当によくないからね」
「夜は寝ようね」
 かかしと木樵、ジャックといった休まなくてもいい人達も言ってきました。
「じっくりとね」
「それで充分休んでね」
「また出発するべきだよ」
「そうよね、だから今夜もね」
 ジュリアはかかし達三人にもお話しました。
「楽しく寝るのよ」
「楽しくだね」
「寝るのならそうしないとね」
「それも気持ちよくだね」
「そうよ、寝て休んで」
 ジュリアはまた言いました、その野菜スティックにバーニャパウダーをたっぷりと付けてそうして食べています。 

 

第八幕その十

「朝の日の出前に起きてね」
「そしてだね」
「朝御飯を食べて」
「日の出と共に出発だね」
「そうするわ、とにかく今夜はね」
 この時間はというのです。
「休みましょう」
「幾ら元気でも夜は休むべきですね」
「そう、要するにね」
 ジュリアはまた神宝に答えました。
「飲むとぐっすりと寝られるミルクも出すわ」
「ミルクですか」
「このミルクを飲めばね」
 それこそというのです。
「本当に日の出までね」
「ぐっすりと寝られるんですね」
「そうよ、だから今夜も寝ましょうね」
 こうお話してでした、そのうえで実際にです。
 皆最後はデザートのアイスクリームだけでなくミルクも飲んでです、そうしてゆっくりと休んでそれからでした。
 お日様が出る前に起きてでした、それから。
 朝御飯を食べます、その時に五人は言いました。
「ううん、やっぱり寝ると」
「違うね」
「身体の調子が凄くいいよ」
「昨夜はずっと歩けそうだったけれど」
「やっぱり休んでよかったわね」
「そうでしょ、若し昨日の夜休まないで歩いていたらね」
 どうなっていたかとです、ジュリアは五人にお話しました。
「今時疲れきっていてね」
「動けなくなっていましたか」
「それで今日はですね」
「まともに動けなくなっていた」
「そうなっていたんですね」
「今頃は」
「そうなっていたわ、それじゃあ一緒でしょ」
 夜動けてもお日様が出ている時間動けないとです。
「むしろ四時半から七時まで動けないとね」
「夜の間ずっと歩いてもですね」
「その方が歩いている時間が少なくて」
「かえってよくないですね」
「それに夜道は周りがわからなくてどうしても歩くのが遅くなりますから」
「だから歩く距離も短くなりますね」
「そうよ、だからね」
 それでというのです。
「夜はじっくりと休むべきなのよ」
「そうだね、本当に夜は休まないとね」
 モジャボロは朝御飯のピロシキを食べつつジュリアの言葉に頷きます。
「かえってよくないよ」
「そして朝とお昼に動くの」
 ジュリアはモジャボロにもお話しました。
「そうしたらいいの」
「そうだね」
「だから昨日は元気だったけれどね」
 温泉に入ってです。
「あえてそうしたのよ」
「休んだんだね」
「そうよ、けれどね」
「けれど?」
「昨日は予想以上にね」
 ジュリアは起きたての自分の調子を見て言いました。
「よく寝られたわ」
「そうだね、僕もね」
「よく寝られたのね」
「ぐっすりとね、あのミルクを飲んだせいだね」
 モジャボロはジュリアににこりと笑ってジュリアに尋ねました。
「そうだね」
「ええ、あのミルク予想以上に効いたわ」
「人をじっくり寝かせてくれるんだね」
「そうしたミルクよ」
「あのミルクあんなに効いたかな」
「ううん、温泉で汗をかいてその分水分を吸収していて」
「ミルクの栄養もだね」
 モジャボロはさらに聞きました、ジュリアに。
「そうしてかな」
「そうだったのかしらね」
「そうかもね、けれどね」
「よく寝られたからよね」
「よかったよ」 
 このこと自体はというのです。 

 

第八幕その十一

「とてもね」
「そうね、それじゃあね」
「今日も元気に歩いていこうね」
「そうしましょう、そろそろね」
「ううん、かなり近付いてきたね」
「人魚の国にね」
 目指すその国にというのです。
「オズの国の海にある」
「そうだね、いよいよだね」
「今回の冒険はかなりの距離があったけれど」
 何しろオズの国の端にある海に向かうのです、真ん中のエメラルドの都から。
「それでもね」
「歩いていってね」
「ようやくね」
「辿り着くのがあと少しになってきたわ」
「そうね、それじゃあ」
「うん、行こうね」
「今日もね」
 人魚の国に向かってです。
「そうしていきましょう」
「そうだね、人魚の国に行ったら」 
 目指すその国にです。
「真珠を見せてもらおうね」
「そうしましょう」
 ジュリアも応えました。
「是非ね」
「そういえばオズの国は」
 ここで神宝が言うことはといいますと。
「ずっと海がなかったですね」
「ええ、昔はもっと狭かったからね」
「そうでしたね」
「この大陸の中央にあってね」
 オズの国はかつてはそうでした。
「そして死の砂漠に囲まれていてね」
「周りの国々はその外にあって」
「今は周りの国々もオズの国になくて」
「別の国々だったのよ」
 オズの国とはです。
「同じ不思議の国でもね」
「それが死の砂漠が大陸の岸に行って」
「大陸全てがオズの国になったのよ」
「周りの国々もですよね」
 ジョージはそうした国々のお話をしました。
「オズの国に入ったんですね」
「そうよ、リンキティンク王の国もそうよね」
「あっ、そうでしたね」
 カルロスはかつて行ったリンキティンク王の国を思い出しました、オズマと一緒に行って楽しく遊んだあの国のことを。
「あの国も昔はオズの国の外にありましたね」
「そうでしょ、そして海もね」
 大陸自体を囲んでいるこの場所もです。
「オズの国に面している様になったのよ」
「そして海の国々もですね」
 今度はナターシャが言ってきました。
「オズの国に入ったんですね」
「そうよ、人魚の国もね」
 ジュリアはナターシャにもお話しました。
「オズの国に入ったのよ」
「大陸と海の国が全部オズの国に入ったんですね」 
 最後に恵梨香が言いました。
「海もまた」
「そうなの、だから今はオズの国も海に面しているのよ」
 そうなったというのです。
「領海でもあるわね」
「そしてその海にね」
 まさにとです、モジャボロが五人に言いました。
「僕達は今から行くんだよ」
「そうなりますね」
「じゃあ今からですね」
「オズの国の海に行きますね」
「そうなりますね」
「今から」
「そうだよ、じゃあ行こうね」
 是非にと言ってです、そしてでした。
 一行はさらに東に進むのでした、マンチキンの国の黄色い煉瓦の道を歩いていって。旅の道は確実に海に近付いていました。 

 

第九幕その一

                 第九幕  マンチキンの碧い海
 ジャックはお空を見上げてです、その高くて青いお空を見上げ言いました。
「何か飛んで来そうだね」
「ロック鳥かな」
「それともポリクロームかな」 
 かかしと木樵がそのジャックに尋ねました。
「お空から飛んで来るとなると」
「お空にいる誰かかな」
「ううん、鳥さんかも知れないけれど」
 こうも言ったジャックでした。
「他の誰かかもね」
「オズの国のお空は色々なものが飛んでるから」
 ジュリアも言ってきました。
「鳥さんだけでなくお魚さんもね」
「そうなんだよね、オズの国のお空は」
「そう、不思議の国のお空だからね」
「色々なものが飛んでるよね」
「いつもね」
「島もあるしね」 
 空に浮かぶ島です。
「そこにお城があったり精霊さん達のお屋敷があったり」
「色々と賑やかなのよね」
「そのお空からね」
「何か飛んできそうなの」
「そうも思ったよ」
「じゃあ何が飛んで来るのかしら」
 飛んで来るとしたらです。
「一体」
「ううん、何だろうね」
「お魚さんの可能性もあるわね」
「そうだよね」
「とにかく何でもありそうね」
「オズの国だからね」
 こんなお話をしていました、するとです。
 神宝はそのお空を見てです、こう言いました。
「あれっ、ドラゴンかな」
「えっ、ドラゴンいるの?」
「何処に?」
「見えないわよ」
「別にね」
 他の四人はこう言いました、まずは。
 ですがお空をじっくりと見るとです。確かにです。
 西洋のドラゴンが一匹お空を飛んでいます、ですがどうしてよく見えないかといいますと。
「ブルードラゴンだね」
「青いドラゴンだね」
「だからよく見えなかったのね」
「青いドラゴンが青いお空に飛んでるから」
「僕も最初気付かなかったよ」 
 最初に見付けた神宝にしてもというのです。
「何かいるって思ってね」
「ブルードラゴンや青龍は確かに見付けにくいね」
 モジャボロもこう言います。
「お空を飛んでいたら」
「そうですよね」
「うん、身体が青いからね」
「青いお空にいますと」
「どうしてもね」
「そうなのよね、私も今わかったわ」
 ジュリアもそのブルードラゴンを見て言います。
「ドラゴンが飛んでいるわね」
「オズの国はドラゴンもいますからね」
「ええ、色々なドラゴンがね」
「そうですよね」
「ブルードラゴン以外にもクォックスがいてね」
 緑の大きなドラゴンです。
「機械のドラゴンや背中が座席になっているドラゴンに」
「青龍もですね」
「そう、東洋の龍もいるわよ」
 オズの国にはというのです。
「青龍以外にもね」
「今のオズの国はそうですよね」
「そうよ、あとドラゴンを色で言うと」
 この場合はどうなるかといいますと。
「ブルー以外にはレッド、グリーン、ブラック、ホワイト、イエロー、パープル、グレー、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、カッパー、ブラスといるのよ」
「多いですね」
「首が幾つもあるドラゴンもいるし」
 オズの国にはこうしたドラゴンもいるというのです。 

 

第九幕その二

「ヒドラとかね」
「あっ、ヒドラも」
「いるわよ、あとドラゴンは色で吐く息が違うのよ」
 この違いもあるというのです。
「レッドは炎でグリーンは塩素ガスでね。住んでいる地域も違うのよ」
「色々違うんですね」
「ドラゴンって一口に言ってもね」
 そうだというのです。
「また違うのよ」
「ドラゴンといっても多いんですね」
「種類はね」
「種類はですか」
「でも個体数は少ないの」
 ドラゴンのそれはというのです。
「それ自体はね」
「そういえば見ることが少ないですね」
 神宝もこのことに気付きました。
「オズの国でもドラゴンは」
「そうでしょ」
「数自体は少ないんですね」
「そうなの、私も久し振りに見たわ」
 そのドラゴンをというのです。
「運がいいかも知れないわね」
「数の少ないドラゴンを見られたから」
「だからよ」
「ドラゴンはオズの国でも少ないんですね」
 ジョージはこのことについて言いました。
「そうなんですね」
「まあドラゴンってそうだよね」 
 カルロスはドラゴンの数が少ないことに納得していました。
「産む卵も少ないみたいだし」
「それに住んでいる地域も限られてるみたいだし」 
 ナターシャはジュリアが言ったこのことから言いました。
「地下とかね」
「あっ、地下にいることが多いわね」
 恵梨香は自分達の冒険ではなくドロシー達の冒険のことからお話しました。
「そういえば」
「そうした場所にいて個体数も少ないからよ」
 ジュリアは四人にもお話しました。
「ドラゴンにはあまり会えないの」
「だから会ったり見られたらね」
 モジャボロが言うことはといいますと。
「運がいいと言えるよ」
「見られただけで、ですか」
「運がいいんですね」
「そうした生きものなんですね」
「オズの国でもドラゴンは少ないから」
「だからですか」
「そうだよ、いや本当にね」
 実際にとです、モジャボロが五人にお話しました。
「これは幸先いいかもね」
「そうよね、無事に人魚の国に着けるかしら」
 笑顔で、です。ジュリアはモジャボロに応えました。
「これは」
「そうだね、そうなればね」
「嬉しいわね」
「もうかなり進んでるけれどね」
「まだ何があるかわからないから」
 何時何があるかわからないのも冒険です、特にオズの国は何時何が起こるのか全くわからないのです。
 だからです、ジュリアもこう言ったのです。
「このまま行くことが出来ればね」
「いいよね」
「そうよね」
 こうしたお話をしつつ先に先に進んでいきます、そして。
 ふとです、ここでなのでした。
 煉瓦の道の左手の森の方にでした、かかしはある生きものを見て微笑みました。
「あっ、いい生きものがいたよ」
「あれっ、シマウマ?」
「シマウマじゃない?」
「一見するとシマウマに見えたけれど」
「違う?」
「前はシマウマだけれど」
 見れば後ろは茶色いです、そんな不思議なシマウマです。
 そのシマウマに見える不思議な生きものを見てです、五人共首を傾げさせました。 

 

第九幕その三

「あの生きものは」
「一体何?」
「シマウマに見えるけれど違うよね」
「オズの国の生きもの?」
「ひょっとして」
「あれはクァッガだよ」
 かかしは五人にこのことをお話しました。
「もう外の世界にはいないそうだよ」
「僕達の世界にはですか」
「もういないんですか」
「それでオズの国にいるんですか」
「そうした生きものですか」
「あの生きものは」
「そうだよ、オズの国にはああした生きものもいるんだ」
 実際にというのです。
「他にもそうした生きものが一杯いるんだ」
「リョコウバトもそうだね」
 木樵は五人がかつてオズの国のお空で見たこの鳥のことをお話に出しました。
「あの鳥も外の世界にはもういないね」
「はい、もう」
「あの鳥もいないですね」
「かつては凄くいたそうですか」
「今はいないです」
「私達もお話に聞くだけです」
「けれどオズの国にはいるんだ」
 木樵は優しい顔で五人にお話しました。
「そうした外の世界にはもういない生きもの達がね」
「あの森は確かそうした生きものが特に多いのよ」 
 ジュリアは五人にこのことをお話しました。
「マンチキンの国でもね」
「中に入ってみるかい?」
 モジャボロは五人に笑顔で誘いをかけました。
「そうする?」
「クァッガを見るんですね」
「今からそうするんですね」
「これから」
「そして他の生きもの達もですか」
「今から」
「そうしないかい?」
 こう誘いをかけます、そしてです。
 五人はモジャボロのお誘いから五人でお話しました。
「行く?」
「うん、そうする?」
「外の世界ではもう見られない生きものばかりだし」
「あのクァッガももっと見たいし」
「だったらね」
 それならとです、五人でお話してでした。五人で是非にと答えました。
「宜しくお願いします」
「うん、じゃあ行こうね」
「皆びっくりするわよ」
 ジュリアは五人ににこりと笑ってお話しました。
「見たことのない生きものばかりだからね」
「じゃあ是非」
「今からあの森に入って」
「そうして」
「見ましょう」 
 笑顔で応えてでした、そのうえで。
 五人は皆と一緒に森に入りました、するとそのクァッガもいてリョコウバトもいてでした。その他にもでした。
 地面をよちよちと歩く太った曲がった嘴の鳥もいました、神宝はその鳥を見てそのうえでこう言ったのでした。
「これはドードー鳥かな」
「うん、そうだよ」
 ジャックが答えました。
「僕も知ってるよ」
「この鳥もね」
「もう外の世界にはだね」
「いないんだ」
 そうなってしまったとです、神宝はジャックにお話しました。
「残念だけれど」
「そうなんだね」
「けれどこの目で見られるなんて」
 生きているドードー鳥をです。
「不思議な気分だよ」
「嬉しいんじゃなくて?」
「そんな気持ちだよ」
 実にというのです。
「本当にね」
「そうなんだね」
「あのライオンは」
 ジョージは身体の前の部分のかなりが鬣に覆われているライオンを見ました、このライオンも五人共見たことがありません。 

 

第九幕その四

「何かな」
「バーバリーライオンだよ」
 かかしがジョージに答えました。
「外の世界じゃアフリカの北の方にいたらしいね」
「アフリカのですか」
「うん、そうらしいよ」
「あの青い鹿は」
 カルロスはすらりとした身体の青い毛の鹿を見ました。
「あれは」
「ブルーバックスだよ」
 カルロスに答えたのは木樵でした。
「外の世界じゃアフリカにいたそうだね」
「あの生きものもアフリカにいたんですか」
「そう聞いてるよ」
「あれっ、あれは牛かしら」
 ナターシャは牛によく似た大きな角を持つ生きものを見付けました。
「似てるわね」
「オーロックスだね」
 ジャックがです、ナターシャにお話しました。
「ムシノスケ教授からあの生きものが牛になったと聞いてるよ」
「だから牛に似てるのね」
「そうみたいだよ」
「あれは確か」
 恵梨香が見付けた生きものは一匹の大きな鳥でした、駝鳥みたいな形をしています。
「モア?」
「そうだよ」
 モジャボロが恵梨香に答えました。
「あれはね」
「そうですよね」
「オズの国では森にもいるんだ」
「何か」
 ここで、です。神宝は森の中にです。
 オオナマケモノやオオアルマジロを見付けました。オオツノシカやマンモス、サーベルタイガーまでいました。
 そうした生きもの達を見てです、神宝もびっくりしました。
「こんなに沢山いるなんて」
「思わなかった?」
「はい」
 実際にとです、神宝はジュリアに答えました。
「凄い森ですね」
「海もそうよ」
「海でもですか」
「外の世界ではいなくなった生きものもね」
「いますか」
「そうよ、人魚の国の近くにね」
「いるんですか」
 神宝は目を輝かせてです、ジュリアに尋ねました。
「海のそうした生きるものが」
「近くの河にもね」
「河にも」
「そうよ」
 まさにというのです。
「オズの国の他の河にもね」
「あの、それじゃあ」
「それじゃあ?」
「ヨウスコウカワイルカもですか」
 神宝は期待する目でジュリアに尋ねました。
「いるんですか」
「あっ、神宝のお国にいたイルカね」
「はい、あのイルカは」
「ええ、いるわよ」
 ジュリアの返事は一言でした。
「あの国の近くの大きな河にね」
「いるんですか」
「神宝はそのイルカを見たいのね」
「残念ですがもういなくなったんです」
 神宝のお国の中国ではです。
「ですから余計に」
「じゃあその時にね」
「はい、見ていいんですね」
「そうしましょう」 
 笑顔で、でした。ジュリアは神宝に言いました。そしてです。
 五人は森の中でさらにでした、外の世界ではいなくなった生きもの達を見ていました。そうした生きもの達の方でも皆のところに来ます。 

 

第九幕その五

 その彼等に囲まれてです、五人は笑顔でお話しました。
「いいよね」
「そうだよね、見たことのない生きもの達に囲まれてね」
「とても幸せな気分だよ」
「こんなことオズの国だけよね」
「外の世界じゃ絶対にないわ」
 五人でお話します、そして。
 ここで、です。ジュリアは五人にこうも言いました。
「これもまたオズの国だから」
「外の世界では有り得ないことが起こる」
「そうした国だから」
 それでというのです。
「こうしたこともあるのよ」
「そうなんですね」
「素敵でしょ」
「はい」
 神宝は目を輝かせてです、ジュリアに答えました。
「本当に」
「そうでしょ、だからね」
「今この時をね」
「楽しめばいいですか」
「そうしてね」
「そうしていいんですね」
「オズの国だから」
 ジュリアはにこりと笑ってです、神宝にお話しました。
「そうしてね」
「わかりました、それじゃあ」
「そうしてね、後ね」
「後?」
「オズの国にしかいない生きものもいるでしょ」
 ジュリアはこうした生きもののお話もするのでした。
「そうでしょ」
「あっ、ドラゴンもロック鳥も」
「言われてみれば」
「ガルーダもそうで」
「カバキリンもよね」
「他にも沢山いるわね」
「そうよ、そうした生きものと出会うこともね」
 そちらもというのです。
「楽しんでね」
「はい、わかりました」
「そうさせてもらいます」
「そちらの生きものと会った時も」
「今みたいに楽しませてもらいます」
「そうさせてもらいます」
「是非ね、オズの国だから」
 またこうしたことを言ったジュリアでした。
「楽しんでね」
「そうさせてもらいます」
「夢みたいな気分ですから」
「外の世界では絶対に出会えない生きもの達と出会えて」
「それで一緒にいられますから」
「そうさせてもらいます」
 五人も笑顔で答えます、そしてクァッガやドードー鳥達との触れ合いを心から楽しむのでした。その後で、でした。 
 森の中でお食事にするのですがここでモジャボロがジュリアに言いました。
「今日は何を食べるのかな」
「お昼御飯ね」
「うん、何にするのかな」
「そうね、お弁当がいいかしら」
「お弁当なんだ」
「今日はね」
 こうモジャボロに言うのでした。
「森の中で楽しく皆で食べるのなら」
「それならだね」
「これが一番いいと思って」
 お弁当がというのです。
「それぞれね」
「それじゃあ」
「ええ、今からね」
「出すんだね」
「そうするわ」
 こう言ってでした、テーブル掛けからです。 

 

第九幕その六

 お弁当を出しました、サンドイッチやコールドチキン、無花果や林檎といったフルーツに果物ジュースのお弁当です。そのお弁当を食べてです。
 そのうえで、です。ジュリアは生きもの達を見て思うのでした。
「こうした生きもの達を観てるとね」
「どうしたのかな」
「ええ、外の世界にはもういないって聞いてね」
 こうかかしにお話するのでした、勿論かかしと木樵、ジャックは食べていません。何しろ食べる必要が全くないからです。
「信じられないわ」
「そうだね、僕もね」
「オズの国にいるとよね」
「信じられないね」
 外の世界にはもういないことがです。
「ドードー鳥もクァッガもね」
「そうよね」
「こうしてこの目で見ているとね」
「本当にね」
「僕やドロシーがオズの国に入った頃はね」
 モジャボロは二重世紀初頭のアメリカ人として言いました。
「もうリョコウバトはいなくなろうとしていたんだ」
「そうだったの」
「それで僕がオズの国に入った頃位にかな」
「リョコウバトはなのね」
「いなくなったみたいだよ」
 大体その頃にというのです。
「もういなくなろうとしていてね」
「いなくなったのね」
「何十億羽もいたのにね」
 それがというのです。
「一羽もいなくなったんだ」
「それは凄いわね」
「何十億羽もいてもね」
「いなくなったりするのね」
「生きものはね」
 そうなってしまうというのです。
「おかしなことをすればね」
「それだけ気をつけないといけないのね」
「外の世界ではね」
「そうなのね」
「そういえばドードー鳥はね」
 木樵はこの丸々として愛嬌のある鳥を見ています。
「飛べないし卵を地上に産んで動きも遅くて」
「すぐに捕まえられるわね」
「そうだね」
 木樵はジュリアにも答えました。
「この鳥はね」
「私達の方に自然に来るし」
「そうだね」
「オズの国のドードー鳥だけかも知れないけれど」
 それでもというのです。
「この習性と動きじゃね」
「簡単に捕まるね」
「そうよね」
「あとオオツノシカやサーベルタイガーは」
 ジャックはこうした生きもの達を見て思うのでした。
「角や牙がかえって邪魔かな」
「あっ、特にオオツノシカはね」
「狭い森の中だと特にね」
「邪魔かも知れないわね」
「そうだよね」
「そう思うと住む場所も大事なのね」
「外の世界ではね」
 お伽の世界ではないこの国ではです。
「そうみたいだね」
「そのこともあるのね」
「何か色々な理由があるんですね」
 神宝もバーバリーライオンやブルーバックを見ています、外の世界ではいなくなってしまった彼等をです。
「生きものが」
「そうだね、そうしたことに気をつけないと」
 ジョージの口調はしんみりとしたものになっていました。
「他の生きものもいなくなってしまうわね」
「そうしたことを考えてこそかな」
 カルロスも考えるお顔になっています。
「人間の文明かな」
「そうだと思うわ、私も」
 ナターシャはマンモスを見ています、この生きものは外の世界にまだいるという噂がありますが。
「何かを気をつけないとね」
「どんな生きものもすぐにいなくなるわね」
 最後に恵梨香が言いました。
「リョコウバトみたいに」
「お空でリョコウバトを見てびっくりしたよ」
 ジョージは今のアメリカ人として言いました。 

 

第九幕その七

「オズの国にはまだいるんだってね」
「それわかるよ」
 カルロスはジョージのその言葉に同意して頷きました。
「オオナマケモノとかオオアルマジロを今見て余計にね」
「この国は本当に凄い国よね」
 クールなナターシャも驚きを隠せないでいます。
「外の世界ではいなくなった生きものまでいるんだから」
「ドラゴンやロック鳥だけでなくね」
 恵梨香はこうした生きものについても思うのでした。
「そうした生きもの達までいるんだから」
「ヨウスコウカワイルカまでいるみたいだし」
 神宝は自分のお国の生きものもことをここでも思いました。
「本当に凄い国だよね」
「外の世界から見れば。ただね」 
 ジュリアは五人の言葉を聞きつつ言いました。
「五人共お弁当他べていないわよ」
「あっ、すいません」
「ついつい生きもの達を見てて」
 五人はジュリアの指摘を受けてこのことに気付きました。
「それで」
「忘れてました」
「食べることも忘れないでね」
 ジュリアは五人ににこりと笑って言いました。
「いいわね」
「はい、そうします」
「折角のお昼ですしね」
「忘れずちゃんと食べます」
「そうします」
「サンドイッチもコールドチキンも」
「そうしてね。何といってもね」
 それこそというのです。
「お昼だからね」
「食べないと駄目ですよね」
「そこからですよね」
「そうよ、食べてこそね」
 まさにと言うジュリアでした。
「何もかもがはじまるから」
「しかも美味しいしね」
 モジャボロはもう食べています、サンドイッチやコールドチキンを。
「楽しめるよ」
「そうですね、それじゃあ」
 神宝がモジャボロに応えました。
「頂きます」
「是非ね」
「そうさせてもらいます」
「そしてね」
 モジャボロは神宝だけでなく他の子達にも言いました。
「ここの生きものも皆も食べてるしね」
「あっ、そうですね」
「皆そうしていますね」
「草や果物を食べて」
「そうしていますね」
「だから僕達もだよ」
 是非にというのです。
「食べないとね」
「そういうことですね」
「是非共ですね」
「そうだよ、他べてまた冒険を続けようね」
 モジャボロ自ら率先して食べて言うのでした。そして皆でお弁当のサンドイッチを他べてからでした。
 外の世界ではいなくなった生きもの達と別れを告げてそうしてです、森を後にして冒険を再開しました。
 黄色い煉瓦の道に戻ってそこを歩きつつです。かかしはこんなことを言いました。
「この国のよさがまた一つわかったかな」
「うん、そうだね」
 木樵はかかしのその言葉に同意して頷きました。
「外の世界ではいなくなった生きものがいることについてね」
「それがどれだけ素晴らしいことかね」
「わかってはいたけれど」
「再認識したね」
「そういうことだね」
「うん、とてもいいことだね」
「不思議の国ならではだね」
 まさにオズの国がそうした国だからだというのです。
「こうしたこともあってね」
「大切なものが残されているんだね」
「海にもね」
 ジュリアはそちらのお話もしました。 

 

第九幕その八

「そうした生きものがいてね」
「うん、河にはヨウスコウカワイルカがいてね」
「海にはステラーカイギュウやオオウミガラスがいるわ」
「そうだよね」 
 モジャボロはジュリアに応えました。
「海にもいるね」
「昔の鯨だったかしら」
「細長い鯨だね」
「あの鯨もいるしね」
「そうだね」
「海もなんですね」 
 神宝はジュリアとモジャボロのやり取りを聞いて二人のお話に入りました。
「そうした生きものがいるんですね」
「そうよ、ちゃんとね」
 海にもとです、ジュリアは神宝に答えました。
「いるのよ」
「ステラーカイギュウっていいますと」
「知ってるかしら」
「確かジュゴンとかマナティーの仲間で」
「そうよ、それでとても大きいの」
「そうした生きものですよね」
「この生きものも外の世界ではもういなくなったと聞いているわ」
 そのステラーカイギュウもというのです。
「そう聞いてるわ、けれどね」
「それでもですね」
「オズの国にはいるのよ」
「この不思議の国には」
「そう、いるのよ」
「そうですか」
「会いたくなったわね」
 ジュリアは神宝の表情が明るくなったのを見てまた聞きました。
「そうね」
「はい、そうした生きものも」
「そうね、それじゃね」
「次はですね」
「河と海よ」
「河口でヨウスコウカワイルカを見て」
「海の中でね」
 そこでもというのです。
「人魚の国に行くし」
「そこで、ですね」
「ステラーカイギュウやオオウミガラスに会いましょう」
「そして昔の鯨にもですね」
「ゼウグロドン、バシロサウルスともいうわ」
 その昔の鯨さんはというのです。
「今の鯨と大きさは同じ位だけれど」
「形が違うんですね」
「細長いの」
 今の鯨と比べてというのです。
「そうした外見なの」
「そうした鯨もいるんですね」
「オズの国は今もね」
「細長い鯨ですか」
「海のイルカよりもね」
「河のイルカはずんぐりしてますからね」
 海のイルカよりもです、神宝はこのことも知っています。
「それで海のイルカはスマートで」
「鰐に近いかしら」
 昔の鯨、ゼウグロドン達の外見はというのです。
「むしろね」
「鰐ですか」
「足が鰭で後ろは今の鯨と同じよ」
「大きな鰭ですね」
「そうなっているの」
「そうした外見ですか」
「そうなの」
 ジュリアは神宝にお話しました。
「ゼウグロドンはね」
「どんな外見か見たくなりました」
「そうね、それじゃあこれからね」
「海にですね」
「行きましょう」
 これまで通りというのです。
「そうしましょう」
「わかりました」
「それと今日もね」
 ジュリアは前を見つつこうも言いました。 

 

第九幕その九

「三時になったらね」
「ティータイムですね」
「それは忘れたらいけないわね」
「そうですよね」
「やっぱり三時はね」
 この時間にはというのです。
「お茶を飲まないとね」
「お菓子も食べて」
「そう、ティーセットだからね」 
 お茶と一緒にというのです。
「食べないとね」
「いけないですね」
「おやつでね」
「おやつは忘れたら駄目ですよね」
「忘れたらお腹が空くでしょ」
「はい」
 確かにとです、神宝も答えます。
「ずっと歩いていますと」
「そうよね、だからね」
「三時になったらですね」
「ティータイムよ」
 その時にというのです。
「皆で楽しみましょう」
「今日もですね」
「今日は神宝のお国のティータイムはどうかしら」
「中国の」
「そう、飲茶をね」
「されるんですね」
「中国のお茶を飲んで」
 そしてというのです。
「桃饅頭や杏仁豆腐を食べましょう」
「いいですね」
「マンゴープリンもね」
 このお菓子もというのです。
「食べましょう」
「わかりました」
「三時になったよ」
「その時まで歩いて」
「皆で楽しみましょう」
 中国のティーセット、飲茶をというのです。
「そうしましょう」
「わかりました」
「それとね」
 さらに言うジュリアでした。
「何か私も少しずつね」
「あっ、わかってきた?」
「ええ、海に近付いてきたってね」
 ジュリアは今度はジャックに応えました。
「わかってきたわ」
「そうだよね」
「何か感覚としてね」
「感じるよね」
「少しずつでもね」
「海に近付いてきているよね」
「そうなってきているわね」
 確かにというのです。
「そうなってきているわね」
「そうだよね」
「楽しみだわ」
 実際にです、ジュリアは目をきらきらと輝かせています、海が見られるという期待でそうなっていることは明らかです。
「本当にいよいよね」
「思えばね」
 ここで言ったのはモジャボロでした。
「エメラルドの都にいるとね」
「どうしてもね」
「うん、オズの国の真ん中にあるとね」
 つまり大陸の中央です。
「海とは縁が遠くなるからね」
「私は王宮で働いているから」
「余計にだね」
「海に行く機会がないから」
 だからだというのです。
「本当にね」
「こうした時はだね」
「楽しみよ」
 実際にというのです。 

 

第九幕その十

「本当にね」
「そうだよね」
「だからね」
「今からだね」
「笑顔で行くわ」 
 そうするというのです。
「海が見られることを楽しみにして」
「そして実際に見てだね」
「余計にだね」
「楽しむと思うわ」
 そうなるというのです、流石にスキップまではしていませんがジュリアは本当に楽しそうにしています。
 そしてです、皆に言いました。
「確かもうすぐで海が見られるから」
「だからだね」
「ええ、このまま進みましょう」
「三時までだね」
「そうよ」
 かかしの手を取らんばかりの上機嫌さでの言葉でした。
「歩いてね」
「このまま行けば」
 木樵も言いました。
「三時には海が見られる場所に行けるかな」
「そうであって欲しいわね」
「三時だね」
「そうよ、三時はね」
「海を観ながらだね」
「ティータイムよ」
 飲茶だというのです。
「そうなるわ」
「そうなんだね」
「そう、だからね」
「三時まで歩いて」
「海を観ながらよ」
「ティータイムだね」
「そうしましょう、ただ急ぐ必要はないわ」
 焦らない、ジュリアはこうも言ったのでした。
「別にね」
「あれっ、急がないんだ」
「三時までに海が見られる場所には行かないんだ」
「そう、別にね」
 特にというのです。
「急ぐこともないわ」
「焦らず一歩ずつだね」
「進んでいくんだね」
「そうしましょう」
 かかしと木樵にお話しました。
「だって進んでいけば絶対に海は見られるから」
「そうだね、そこで焦らないことがね」
 ジャックはまた言いました。
「ジュリアだね」
「絶対に焦らない様にしてるの」
「そうだよね」
「だって焦ったらね」 
 それこそというのです。
「かえって失敗するでしょ」
「物事にね」
「だからね」
「ジュリアは焦らないんだね」
「そう気をつけているの」
 普段からというのです。
「いつもね」
「そこがらしいね、けれどね」
「けれど?」
「いつも焦らないで慎重だからだね」
 そうしているからというのです。
「ジュリアはお仕事が出来るんだね」
「そうだっていうのね」
「だって焦ったら周りが見えなくなるよね」
「ええ、そうなるからよ」
 だからこそというのです。
「私も焦らない様にしているの」
「周りが見えないとそこから来るものにどうも出来ないからね」
「だから失敗するでしょ」
「うん、そうだね」
「お父さんとお母さんに言われてきたの」
「失敗するから焦るな」
「ちゃんとしたいならね」
 お仕事を上手にしたいならです。 

 

第九幕その十一

「もうね」
「最初からだね」
「焦らない様にしなさいって言われてきたの」
「尚且つ慎重にだね」
「そう言われていたから」
 だからだとです、ジュリアはジャックにお話しました。
「今もそうしているの」
「こうした時もだね」
「そうなの」
「いいことだよ」
 モジャボロはジュリアのその心掛けに笑顔で応えました。
「それはね」
「お仕事が上手に出来るから」
「だからね、ジュリアらしいね」
「けれどその割にはね」
「ジュリアさんお仕事早いよね」
「そうよね」
 ですが五人はその焦らないジュリアについてこうお話しました。
「むしろね」
「どうもね」
「お仕事早くて」
「次から次にテキパキって感じで」
「焦らず慎重にっていうけれど」
 本人はそう言っているけれど、というのです。
「早いよね」
「それもかなりで」
「何でもかんでも」
「オズの国で一番のメイドさんって言われてるし」
「焦っていないっていっても」
「それはずっとこのお仕事をしているからよ」 
 ジュリアは五人にこう答えました。
「だからよ」
「お仕事が早いんですか」
「そうなんですか」
「そうよ、お仕事は慣れたらね」
 そうなればというのです。
「自然に早くなるのよ」
「そうなんですか」
「メイドのお仕事もですか」
「そうしたものなんですね」
「魔法使いさんがオズの主だった時に言われたの」
 ドロシーが来る前です、ジュリアはこの時から王宮の侍女として仕えているのです。
「お仕事は身体で覚えるものだってね」
「何度もやってですか」
「そうしてですか」
「そう、慣れるまで何度も同じことをやる」
 それこそというのです。
「そして早く覚えろとか言ったり怒ったりはね」
「魔法使いさんはされなかったんですね」
「あの人はそうだったんですね」
「確かに本当のお姿は出していなかったけれど」
 大きなお顔や天使や火の玉を出したりなったりしてです。
「それでもね」
「急かしたり怒ったりはですか」
「あの人はしなかったんですか」
「そうだったんですね」
「あの人はそうしたところは今と変わっていないわ」
 オズの主だった時はです。
「何とか威厳を保とうとしていたけれど」
「それは違っていてもですね」
「やっぱり人を怒る人じゃなかったんですね」
「急かしたりすることもなかったんですね」
「だから私もね」
 ジュリアにしてもというのです。
「決してね」
「怒られたり急かされたりですね」
「そうしたことがなくて」
「お仕事に慣れるまで待ってもらったんですか」
「そうだったんですか」
「そうよ、あの時もあの人はそうした人でね」
 魔法使いはというのです。
「私も楽しくお仕事が出来てね」
「お仕事を覚えられたんですか」
「そうだったんですか」
「そうよ、よかったわ」
 そうしてお仕事を覚えられてというのです。
「本当に、それでお仕事を覚えたからよ」
「早いんですね」
「お仕事をすることは」
「覚えてさらにしていけばね」
 そのお仕事をいうのです。 

 

第九幕その十二

「余計にいいのよ」
「そうなんですね」
「お仕事はやればやる程ですか」
「早くなるんですか」
「そのやることが」
「そうよ、だから私は出来るんじゃなくてね」
 お仕事がです。
「数多くやっているだけよ」
「それだけですか」
「そうだったんですか」
「そう、別に凄くはないのよ」
 ジュリアは五人ににこにことしてお話していきます。
「誰でもやっていけば出来る様になるのよ」
「自然にですか」
「ジュリアさんみたいに早く出来る様になる」
「そうなんですね」
「そうよ、誰でもね」
 それこそというのです。
「だから皆もどんなお仕事もよ」
「やっていけばですね」
「何度も何度も」
「そうしていけば」
「何時かは慣れて身体で覚えてね」
 そうなってというのです。
「早く出来る様になるわ」
「最初は中々出来なくてもね」
 モジャボロも笑顔でお話します。
「やっていれば出来る様になるよ」
「最初は駄目でもですか」
「それでもですか」
「そうだよ、誰でも最初は出来ないものだよ」
 それこそというのです。
「けれどね」
「やっていけばですね」
「出来る様になるんですね」
「そうだよ、だから失敗なんて気にしないでね」
 最初のそういったことはです。
「どんどんやっていけばいいんだよ」
「そうすれば出来る様になる」
「お仕事も他のことも」
「何でも」
「そして焦らず慎重にしていけばいいんだ」
 この要素もです、モジャボロは五人にお話しました。
「ジュリアみたいにね」
「そういうことですね」
「慣れればですね」
「経験を積んでいけば」
「そして焦らず慎重にいけば」
「ジュリアさんみたいに出来るんですね」
「君達もね」
 こうジュリアに言うのでした、そしてです。
 五人はそのジュリア達と一緒に海を目指して進んで行きます、すると遂にでした。まだ彼方の方にありますが。
 青い海が見えてきました、ジュリアはその海を見て言いました。
「海よ」
「はい、海ですね」
「オズの国の海ですね」
「あれが」
「そうよ、遂に見えてきたわね」
 ジュリアは五人に満面の笑顔で言いました。
「あそこによ」
「人魚の国があるんですね」
「あの中に」
「そうよ」
 まさにというのです。
「それじゃあいいわね」
「はい、あの海にですね」
「これから行くんですね」
「そうよ、行きましょう」
 ジュリアは一歩前に出ました、そしてです。 
 そのオズの国の海に向かうのでした、ようやく見えてきたその海に。 

 

第十幕その一

                 第十幕  人魚の国
 一行は海につながっている河のところまで来ました、するとその中にです。
 大きなお魚みたいな生きものが見えました、神宝はそのお魚を見てすぐに言いました。
「カワイルカだよ」
「ああ、これがだね」
「ヨウスコウカワイルカなのね」
「そうだよ」
 皆に目を輝かせて答えます。
「まさにね」
「まさか本当にいるなんてね」 
 カルロスもそのイルカを見て言いました。
「ピンク色じゃないからアマゾンカワイルカだってわかるよ」
「そういえば河のイルカって結構多いよね」
 ジョージはこのことを指摘しました。
「アマゾンだけでなくガンジス河やアルゼンチンのラプラタ河にもいるし」
「大きな河にいるのよね」
 ナターシャもこのことは知っています。
「アザラシも大きな湖にいたりするわよ」
「バイカルアザラシ?」
 恵梨香はナターシャに尋ねました。
「確かそのアザラシよね」
「そのアザラシはここにもいるよ」 
 木樵が五人に言って河の向こう岸の方を指差すとです、実際に褐色の毛並みの丸々とした身体のアザラシ達がそこにいました。
「あそこにね」
「あれがバイカルアザラシだよ」
 かかしも言います。
「オズの国にはあのアザラシもいるんだ」
「あのアザラシは外の世界にもいます」
 神宝がかかし達にお話しました。
「ロシアのバイカル湖に」
「そしてオズの国にもいるんだね」
 ジャックも言いました。
「この国にもね」
「象さん達と一緒ですか」
「そう、外の世界にいる生きものもいるんだ」
 オズの国にはとです、ジャックはこう神宝にお話しました。
「オズの国はね」
「つまり色々な生きものがいる国ですね」
「そういうことだよ」
「外の世界にいる生きものがいてもういなくなった生きものもいて」
「オズの国にしかいない生きものもいてね」
「何でもいるってことだね」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「オズの国はね」
「成程、そうしたことなんだ」
「不思議の国ならではだね」 
 あらゆる生きもの達がいることはです。
「僕は外の世界はそんなに知らないけれど」
「そうした世界ということで」
「覚えておいてね」
「うん、わかったよ」
 実際にとです、神宝はジャックに答えました。そのうえで河の水面近くを泳いでいるヨウスコウカワイルカからバイカルアザラシを見てです。
 傍の海辺を見ました、するとそこには黒と白の羽毛を持っていて二本足で立って歩いているペンギンみたいな鳥がいました。
 その鳥を見てです、神宝だけでなく五人全員でその鳥を見て言いました。
「ペンギンだね」
「うん、そうだね」
「オズの国にもいるんだね」
「南極にしかいないんじゃなくて」
「オズの国では暖かい場所にもいるのね」
「あれはペンギンじゃないわよ」
 ジュリアが笑顔で、です。五人にここでこう言いました。
「あの鳥はね」
「えっ、違うんですか?」
「ペンギンじゃないんですか?」
「じゃああの鳥何なんですか?」
「ペンギンじゃないとしたら」
「何なんですか?」
「オオウミガラスよ」
 五人ににこりと笑ってこの名前を出しました。
「あの鳥はね」
「オオウミガラスっていいますと」
 神宝はその鳥の名前を聞いてジュリアに言いました。 

 

第十幕その二

「確か欧州の北の方にいて今はもういない」
「そう、あのオオウミガラスよ」
「オズの国にはオオウミガラスもいるんですね」
「ペンギンだけでなくね」
「そうなのよ」
「ドードー鳥やモアやリョコウバトだけじゃなくて」
「あの鳥もいるのよ」
 オオウミガラスもというのです。
「そうなのよ」
「そうですか」
「人懐っこい鳥だから」
「近くに寄ってもですか」
「何もないわよ」
「それじゃあ今から」
「どちらにしてもこれから海に入るわよ」 
 このこともです、ジュリアはお話しました。
「人魚の国に入るから」
「そうでしたね、それじゃあ」
「今からオオウミガラスのところに行きましょう」
「わかりました」
 神宝が頷いて他の子達も続いてでした、皆でオオウミガラス達のいる岸辺に行きました。するとジュリアの言った通りにです。
 オオウミガラス達が寄ってきました、五人はその彼等を見て思わず笑顔になりました。
「可愛いね」
「そうだよね」
「人懐っこくて愛嬌があって」
「見ていて和むわ」
「落ち着く感じよ」
「そうだよね、こうした人懐っこさもいいんだよね」
 モジャボロはオオウミガラス達の頭を撫でつつ五人にお話しました。
「オオウミガラス達はね」
「ですね、ペンギンに似てますけれど」
「歩き方も外見も」
「雰囲気も」
「ですがペンギンとまた違った愛嬌がありますね」
「可愛さも」
「そうだよね、本当にね」
 さらに言うモジャボロでした。
「オオウミガラスにはオオウミガラスのよさがあるね」
「そうですね、いい鳥ですね」
「マスコットみたいな感じがするね」
「本当に」
「それとね」 
 ここでモジャボロは五人にさらに言いました。
「ここにはもう一種類いい生きものがいるよ」
「いい生きもの?」
「といいますと」
「海を見て」
 モジャボロはこう言って海の方を指差しました、するとです。
 十程ぷかぷかと大きな転覆した船みたいなものが浮かんでいました、五人はその浮かんでいるものを見てまずは首を傾げさせました。
「あれ何かな」
「転覆した大きなボートみたいだね」
「けれど見た目ボートじゃないね」
「じゃあ何かしら」
「出ている部分はお肌みたいだけれど」
「あれはカイギュウでね」
 ここでモジャボロは海にいる生きものが何であるかを言いました。
「ステラーカイギュウだよ」
「あれがですか」
「大きなボートが転覆して浮かんでるみたいですけれど」
「あれがステラーカイギュウですか」
「首も何も見えないですが」
「そうなんですね」
「そうだよ」
 モジャボロは五人ににこりとしたお話しました。
「あれがね」
「見ておいてね」
 ジュリアも五人に言います。
「確かに浮かんでいるけれど」
「これから何かが起こる」
「そうなんですね」
「そうよ」
 まさにというのです。
「そうなるからね」
「それじゃあ」
 神宝はジュリアの言葉を聞いて彼女に応えました。 

 

第十幕その三

「今から何かが起こるんですね」
「絶対にね」
 ジュリアが神宝に約束するとです、そこででした。 
 ステラーカイギュウ達は一匹ずつです、お顔をあげました。するとマナティーやジュゴンのそのお顔がでした。
 海面の上に出て来て呼吸をしました、五人はそれを見て目を瞠りました。
「あっ、ジュゴンやマナティーと同じで」
「そうしたお顔だね」
「大きいけれどね」
「ただ浮かんでるだけじゃないのね」
「ああして呼吸もするのね」
「そうよ、ステラーカイギュウはああして海面に身体を少しだけ出して浮かんでいてね」
 ジュリアはまた五人にお話しました。
「それで時々ああして呼吸して海に生えている昆布とかを食べているのよ」
「海面の近くで」
「そうして暮らしているの」
「そうなんですか」
「それでお水は河口に言って淡水を飲むの」
 そちらのお水をというのです。
「そうして静かに暮らしているの」
「あんなに大きいのね」
「そう、静かにね」
「大人しいんですね」
「凄くね、私達が寄ってね」
「オオウミガラスと一緒で」
 オオウミガラスは今も皆の近くにいます、そうしてジャックと一緒に楽しくワルツを踊っています。そのワルツも可愛いです。
「何もしないの」
「そうですか」
「本当に凄く大人しくてしかもね」
 それでというのです。
「仲間が困っていたらね」
「その時はですか」
「助けようと集まるの」
「仲間思いでもあるんですね」
「心優しいのよ」
 そうした生きものだというのです。
「凄くね」
「そうなんですか」
「だからね」
 さらにお話したジュリアでした。
「この生きものもこうしてオズの海に来れば見られるから」
「また海に来たら」
「見て楽しんでね」
「わかりました」
 神宝はジュリアのその言葉に頷きました、そしてです。 
 ジュリアは皆にあるものを差し出しました、それは何かといいますと。
「水着ですね」
「それに着替えてですか」
「今から海に入るんですか」
「そうしましょう」 
 こう五人に言ってです、ジュリアはモジャボロにも言いました。
「モジャボロさんもね」
「水着に着替えてだね」
「一緒に行きましょう」
「そうだね、ただね」
「ただ?」
「お水の中に行くから」
 つまり海の中にです、モジャボロはジュリアにお話しました。
「そのことはどうしようか」
「それが問題ね」
「けれどその問題も解決出来ているね」
「お口の中で舐めているとお水の中でも呼吸出来るキャンデーがあるわ」
「それを持ってきたんだね」
「これを舐めていればね」
 そうすればというのです。
「普通にね」
「海の中でもだね」
「呼吸が出来るわ」
 そうだというのです。
「だから安心して」
「それじゃあね」
「ええ、皆それぞれの場所で水着に着替えて」
「僕とジャックはどうすればいいのかな」
 かかしは明るくです、ここでジュリアに尋ねました。
「それで」
「ええ、かかしさんとジャックはね」
 ジュリアはそのかかしにも答えました。 

 

第十幕その四

「あらゆる水気を弾く防水スプレーでね」
「服を濡れないようにしてだね」
「そうして入ればね」
「大丈夫だね」
「そうよ」
「僕達はお水でも大丈夫だけれど」
 それでもとです、かかしはこう言うのでした。
「服がお水を吸ってね」
「重くなるからよね」
「それが問題なんだ」
 それでジュリアにも言ったのです。
「だからジュリアに聞いたけれど」
「そうよね」
「けれどそれで大丈夫だね」
「そうよ、お水を吸わないでそれで楽に動けるからね」
 お水を吸うとどうしても動きが重くなるのです、かかしは特に服だけでなくその中にある藁までお水を吸って余計にです。
「だからね」
「それで、よね」
「出来る限りお水を吸わない方がいいからね」
「それじゃあね」
「うん、その防水スプレーを身体にも服にもかけさせてもらうよ」
「僕は服と頭にね」
 ジャックも言ってきました。
「身体は木だから大丈夫だからね」
「僕はいらないよ」
 木樵はこうジュリアに言いました。
「全身ブリキでしかも錆止めはしてあるから」
「だからよね」
「そう、普通にね」 
 それこそというのです。
「何もしなくていいよ」
「そうよね」
「だから僕に気遣いは無用だよ」
 そうだというのです、見れば神宝達はモジャボロと一緒に着替えに物陰に行っています。ナターシャと恵梨香はジュリアと一緒に着替える為に彼女を待っています。
「そういうことでね」
「わかったわ、じゃあね」
「うん、じゃあジュリアもね」
「水着に着替えて来るわ」
「服はどうするのかな」
「念じれば幾らでも小さくな鞄に入れるわ」
 そうした魔法の道具も持っているというのです。
「そこには幾らでもものが入るから」
「その鞄も持って来たからだね」
「ここで使うわ」
「とはいってもその鞄は」
「ええ、私が最初から持っている鞄よ」
 まさにその鞄だというのです、今ジュリアが実際に持っている。
「これに入れるわ」
「わかったよ、それじゃあね」
「今からね」
 こう言ってでした、そのうえで。
 ジュリアはナターシャと恵梨香を連れて水着に着替えに行きました、ナターシャは黒の、恵梨香とジュリアはピンクの競泳水着でした。ナターシャはその二人を見て言ったのでした。
「二人共ピンクなのね」
「私ピンクが好きだから」
「私もよ」
「恵梨香だけでなくジュリアさんも」
 ジュリアを見ての言葉です。
「そうなんですね」
「ええ、王宮のプールでもそうだったでしょ」
「その水着着ておられましたね」
「それでここにも持って来たの」
「そうだったんですね」
「じゃあ今からね」
 ジュリアは皆に声をかけました。
「海に入るわよ」
「そうしようね」
 男用の水着に着替えているモジャボロが応えました、この人は緑、神宝は青、ジョージは赤、カルロスは黄色のそれぞれトランクスタイプの水着を着ています。
「今からね、そしてお水の中に入るから」
「準備体操ね」
「それはしておかないとね」
「ええ、あとキャンデーを渡すわ」
 お水の中で舐めると呼吸が出来るそれもというのです。 

 

第十幕その五

「皆にね」
「それじゃあね」
「準備体操の後でね」
「海に入りましょう」
 人魚の国があるそこにというのです。
「それからね」
「じゃあね」
 こうお話してでした、皆で準備体操をしてです。海に入りました。勿論キャンデーも忘れません。
 キャンデーを舐めつつ海の中に潜りますと。
「あっ、何ともないや」
「普通に海の中でも息が出来るね」
「それに海の中なのに普通にものが見えるし」
「音も聞こえるわ」
「泳ぐのも楽ね」
「このキャンデーは魔法使いさんが作った魔法のキャンデーなの」
 ジュリアが驚く五人にお話します。
「それで舐めると海の中でも普通に動けたりする様になるの」
「見えて聞こえて」
「それで動くことも出来るんですね」
「普通のお水の中にいる時と違って」
「楽に動けるんですね」
「陸地にいるみたいに」
「そうよ、凄いキャンデーでしょ」
 五人ににこりとしてお話します。
「このキャンデーは」
「はい、本当に」 
 驚きを隠せないお顔で、です。神宝が答えました。
「素晴らしい魔法ですね」
「このキャンデーもね」
「本当にそう思います」
「そしてこのキャンデーを舐めながらね」
「人魚の国に行くんですね」
「そうよ」 
 そうするというのです。
「これからね」
「わかりました、それじゃあ」
「案内するわね」
「海の中でもですね」
「そうよ、行きましょう」
「それじゃあ」
「うわ、珊瑚がとても奇麗だよ」
 ジョージは海の中に見える赤い珊瑚達を見て目を輝かせました。
「海の宝石だね」
「それに海面からカイギュウさん達が前足を振って行ってらっしゃいってしてくれているよ」
 カルロスは自分達が入った方にまだいるステラーカイギュウ達を見ています。
「オオウミガラス達もね」
「お魚も沢山いるし」
 ナターシャは海の中にいる沢山の彼等を見ています、本当に色々な種類のお魚がいて楽しく泳いでいます。
「賑やかな海ね」
「ええ、海の底には蛸やイソギンチャクもいて」
 恵梨香はそちらを見ています。
「賑やかよね」
「これがオズの海なんだ」
 モジャボロが海の中を見回してはしゃいでいる五人に言ってきました。
「奇麗で賑やかだね」
「はい、本当に」
「素晴らしい海ですね」
「自然が豊かで色々な生きものや種族がいて」
 それでというのです。
「賑やかな海なんだ」
「人魚もいるしね」
 かかしは今から行く国の人達のことをお話しました。
「それに魚人の人達もいるんだよ」
「あれっ、人魚じゃなくてですか」
「魚人って人達もいるんですか」
「そうなんですね」
「そうだよ、人魚は身体の下がお魚だけれどね」
 それがというのです。
「魚人は頭がお魚で身体中に鱗が生えているんだ」
「ええと、それじゃあ半魚人ですか?」
「そんな感じですか?」
「半魚人みたいな人達ですか」
「そうなんですか?」
「魚人の人達は」
「ううん、まあそんなところかな」
 かかしも五人にこう答えました、かかしにしてもジャックや木樵達も皆と一緒に快適に海の中を進んでいます。
「彼等はね」
「人魚の人達と仲がいいんだ」
 木樵は魚人達に対してこう五人にお話しました。 

 

第十幕その六

「いつも一緒にいて楽しくやってるよ」
「へえ、そうなんですね」
「同じ海の種族同士で、ですか」
「仲良くしているんですか」
「そうだよ、とてもね」
 実際にというのです。
「他の海の種族とも仲がいいけれど彼等は特にだよ」
「同じお魚だからですか?」
「お魚と人が合わさった姿だから」
「だからですか」
「そうだよ、海の種族も多いけれどね」
 オズの国にはです。
「彼等は特に仲がいいね」
「オズの国は海も平和で仲がいいけれど」
 ジャックも五人にお話してきます。
「あの人達は本当にいつもだよ」
「仲がいい」
「そうなのね」
「そうだよ、今も一緒かな」
 これから人魚の国に行きますがそこでもというのです。
「あの人達は」
「そうかも知れないわね」
 ジュリアはジャックの言葉を聞いてこう返しました。
「本当に仲がいい人達だから」
「そうだよね」
「ええ、若し一緒だったら」
「その時は魚人の人達ともだね」
「仲良く遊びましょう」
「そうしようね」
「ただ、いつもはドロシー王女達がいってるから」 
 ここでくすりと笑って言うジュリアでした。
「私がお邪魔したらね」
「驚くかな、皆」
「誰?とか言われるかしら」
「あっ、それはないよ」 
 ジュリアのlくすりとした言葉にです、ジャックは笑って返しました。
「ジュリアも有名人だから」
「オズの国で」
「うん、エメラルドの都の侍女さんとしてね」
「有名なのね、私も」
「だからね」 
 人魚の国に行ってもです。
「皆ジュリアを知ってるよ」
「だといいけれど」
「僕達はもう何度も行ってるし」
 ジャック達はそうだというのです。
「お互いに顔見知りだしね」
「大丈夫ね」
「うん、よく考えたらジュリアも人魚の国に行ったことがあるから」
「あちらも私の顔も知ってるわね」
「そうだよ、安心していいよ」
「そのことについては」
「充分にね、それじゃあね」
 ジャックはジュリアの横に泳いで来て言ってきました。
「人魚の国に行こうね」
「そうしましょう」
 にこりと笑ってです、ジュリアは皆を人魚の国に案内しました。それはもうそこに行ったことがある人の動きでした。
 そして人魚の国に着くとです、海の底に珊瑚や海草に囲まれて海の底の岩を細工して造られて貝殻や珊瑚、真珠で飾られたお家が並んでいる国がありました。
 その国の珊瑚で奇麗に造られた正門のところに来てです、ジュリアは五人にお話しました。
「ここが人魚の国よ」
「そうなんですね」
「この国が人魚の国なんですね」
「遂に来たんですね」
「そうよ、じゃあ今からお邪魔しましょう」
 にこりと笑ってです、ジュリアは五人にこうも言いました。
「そうしましょう」
「わかりました」
「じゃあ今からですね」
「お邪魔して」
「そうして」
「ええ、真珠を見せてもらいましょう」
 五人にお話してからです、ジュリアは門を護っている三又の鉾を持っている男の人魚の人達に声をかけました。頭には見事な兜があって逞しい上半身と青い魚の下半身を持っています。 

 

第十幕その七

 その人達にです、ジュリアは声をかけたのです。
「あの、お邪魔していいかしら」
「あっ、ジュリアさんじゃないか」
「かかしさん達もいるね」
 その人魚の男の人達、門番の人達はジュリアにすぐに応えました。
「暫く振りだね」
「元気そうだね」
「ええ、この通りね。それでね」 
 ジュリアは人魚の門番の人達にさらにお話しました。
「実は今日は女王さんにお願いしたくて来たの」
「我が女王様に」
「そうなんだね」
「そう、この子達にもね」
 神宝達を指し示してさらにお話しました。
「あの真珠を見せてあげたくて」
「女王様がお持ちの真珠を」
「あの特別に奇麗な真珠をだね」
「そう、それでお邪魔したいけれど」
「その子達はオズの名誉市民の子達かな」
「最近噂になっている」
 門番の人達は五人も見て言いました。
「外の世界から来たという」
「その子達だね」
「オズマ暇ともドロシーともお友達っていう」
「その五人の子達だね」
「そうよ、この子達がね」
 まさにというのです。
「オズの国の名誉市民の子達を」
「おお、何時か来てくれるかなって思ってたけれど」
「遂に我が国にも来てくれたか」
「オズの国のあちこちを冒険しているっていうけれど」
「来てくれたんだね」
「そうよ、来てくれたのよ」
 まさにというのです。
「それでね」
「今からだね」
「この国にお邪魔したいんだね」
「そして女王様にお会いして」
「それでこの子達にあの真珠を見せてあげたいんだね」
「そうなの、じゃあね」
 今からというのです。
「お国に入れてあげるかしら」
「勿論、ジュリアさん達ならフリーパスだけれど」
「その子達もそうだよ」
「最近話題のオズの国の名誉市民だからね」
「是非ね」
 入って欲しいというのです、そしてです。 
 門番の人達は五人を含めた皆を笑顔で人魚の国に入れてくれました、人魚の国の中では老若男女の人魚の人達がです。
 泳いで国の中を行き来していて真珠や珊瑚を細工したものや海草にお魚、そして貝類や蛸や烏賊を売っています。海のイルカに乗って移動している人達もいます。
 その人達を見てです、神宝は言いました。
「何か人魚の国って」
「不思議かしら」
「はい、何か陸地の生活とです」
「大きな違いはないでしょ」
「ですから」
 それでとです、皆と一緒に人魚の国の大通りを泳いで進みながらジュリアに答えるのでした。
「不思議です」
「人魚も国があってね」
「こうしてですね」
「生活してるのよ、お魚や海草の養殖もしてね」
「食べてるんですね」
「そうもしてるのよ、あと海の中だけれどね」
 それでもというのです。
「火も使えるのよ」
「魔法で出した火ですか?」
 ジョージはすぐにその火が何かを言いました。
「それですか?」
「そうよ、魔法で出した魔法の火を使ってね」
 ジュリアも実際にそうだとお話しました。
「お料理をしたりしているのよ」
「だからフライや天麩羅もですね」
 カルロスはそうしたお料理のことも言いました。
「食べられるんですね」
「衣もオズの国特製の海水にはふやけない小麦粉や油を使っているから」
 それでというのです。 

 

第十幕その八

「ふやけないで食べられるのよ」
「だから今回の旅では海の幸は控えていこうとですね」 
 ナターシャはジュリアに言われたことを思い出していました。
「お話して実際にそうしていたんですね」
「そうよ、ここで一杯色々なものを食べられるからね」
 まさにそれ故にというのです。
「あえて出さなかったの」
「そして今からですね」
 恵梨香はお店で売られている活きのいい蛸を見ています。
「その海の幸達もですね」
「食べられるわよ」
「勿論たこ焼きもあるからね」
 モジャボロも蛸を見て言います。
「楽しみにしていてね」
「はい、たこ焼き美味しいですよね」
「日本に来てから食べましたけれど」
「あんな食べ方もあるんですね」
「オズの国にもたこ焼きはあってね」
 そしてというのです。
「この国でも食べられるんだ」
「あれも美味しいのよね」
「そうだよね」
 モジャボロはジュリアともお話をしました。
「シンプルだけれどね」
「それだけに味わい深いのよ」
「味が深いっていうか」
 ここでモジャボロが言ったことはといいますと。
「独特なね」
「面白い味よね」
「本当にね」
「癖になる味よね」
「蛸はずっとね」
 それこそとです、モジャボロが言ったことはといいますと。
「食べられるなんて思っていなかったよ」
「そうよね」
「アメリカじゃ食べなかったからね」
「ずっとね」
 それこそというのです。
「お肉は食べてもね」
「海の幸も食べても」
「蛸まではね」
「そうそう、日系人の人が来るまではね」
 アメリカにです。
「蛸を食べることもね」
「なかったから」
「とてもだったよ」
「烏賊にしても食べるなんて想像さえしていなかったわ」
「全く以てね」
「けれど食べてみたら美味しくて」
 そして、です。
「特にたこ焼きはね」
「面白くて独特の味で」
「幾らでも食べられて」
「癖になるね」
「本当にね」
 実際にというのです、そしてです。
 ジュリアはにこにことしてそうしてこう言ったのでした。
「まずは女王さんにお会いして」
「そしてですね」
「そうよ、もうお昼だから」
 それだからというのです。
「皆で食べましょう」
「はい、それじゃあ」
「まずは王宮にね」
 大路を進んでいくとです、その先に一際大きな建物がありました。白い岩で造られていてでした。そのうえで。
 珊瑚や海の様々な宝石に真珠、奇麗な貝殻達でみらびやかに飾られた宮殿が見えてきました。左右対称の形でベルサイユ宮殿みたいな宮殿ですが。
 五人はその宮殿を観てです、思わず目を瞠りました。
「凄いね」
「うん、とんでもなく奇麗だよ」
「海にこんな奇麗な宮殿があるなんて」
「やっぱりオズの国は違うわ」
「海にまでこんな宮殿があるのね」
「そうよ、それがオズの国なのよ」
 ジュリアも五人にお話します。 

 

第十幕その九

「海もこうしてね」
「不思議なものがあるんですね」
「そして奇麗なものが」
「それがあるんですね」
「そうなの、そしてあの宮殿にね」
 その見事な宮殿にというのです。
「人魚の女王さんがいるのよ」
「じゃあ今からですね」
「あの宮殿に行って」
「そうしてですね」
「そう、お会いしましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆で宮殿に入りました、宮殿の中も珊瑚や貝殻、真珠で飾られていてとてもみらびやかです。そしてです。
 その宮殿の中に入るとです、若くて奇麗なプラチナブロンドの長い髪の毛を持っている人魚の人が来てジュリア達に声をかけてきました。
「ようこそ、海の女王の宮殿に」
「ええ、お話は聞いているかしら」
「はい、門番の人達から」
 人魚の美人さんはジュリアに笑顔で答えました。
「既に」
「そう、それじゃあ」
「今から女王陛下のところに案内します」
「宜しくね」
「ではどうぞ」
 こう言ってくれてでした、そのうえで。
 美人さんはその内装もみらびやかな宮殿の中を進んでいきます。宮殿の中の珊瑚や貝殻もとても奇麗なものばかりで。
 五人共観ながらうっとりとしていました、そして。
 女王の間に案内してもらいました、すると虹色に輝く大きな貝殻の上にです。エメラルドグリーンの豊かな髪と海の色の瞳を持った艶やかなまでに奇麗なお顔の人魚の人がいました。その左右には見事な男女の人達が並んでいます。
 そしてその奇麗な人がです、こう言ってきました。
「既に来られたことのある方もはじめての方もようこそ」
「お久し振りです」
 ジュリアはその人に恭しく一礼をして他の皆も続きました。
「この度はお邪魔した」
「堅苦しい挨拶は抜きで」
 その人はジュリア達に優しい笑顔で言ってきました。
「そうしたことはせずにすぐに仲良くが人魚ですから」
「だから」
「砕けていきましょう」
「それでは」
「普段の口調でお願いします」
 こうジュリアに言ってです、貝殻の上に座っている人魚の人はあらためて名乗りました。
「私がこの国の女王です」
「貴女がですね」
「人魚の国の女王様ですね」
「はい」
 女王は五人ににこりと笑って答えました。
「そうです、そして貴方達がですね」
「はい、外の世界からお邪魔してです」
「よく冒険をさせてもらっています」
「オズの国の皆さんに案内してもらって」
「そうしています」
「そうですね、ではですね」
 女王は五人にあらためて言ってきました。
「この国に来てくれたのは」
「実はです」
 神宝が五人を代表して女王に言いました。
「この国にだけあるとても奇麗な真珠を見せて頂きたくて」
「だからですか」
「ここまで来ました」
「エメラルドの都からですね」
「そうです」
 神宝は出発してきた場所についても答えました。
「歩いて泳いできました」
「よく遠い場所から来られました、それではです」
「それでは?」
「後でお見せしますが」
 それでもというのです。 

 

第十幕その十

「まずはお昼ですから」
「そうです、お昼ですから」
 ジュリアも言ってきました。
「実はお話しようと思っていました」
「お食事にしようとですね」
「そう思っていましたけれど」
「はい、いいお考えです」
 女王はジュリアにもにこりと笑って応えました。
「それではです」
「これからですね」
「お食事にしましょう」
「それじゃあ」
「夫にも来てもらいます」
 女王は優雅な笑顔でこうも言いました。
「そして皆で食べましょう」
「お昼をですね」
「実は夫は今はお客人とお話をしています」
「お客人とですか」
「はい、人魚の王として魚人の王とです」
「あっ、そういえば」
 ここで神宝は先程かかし達から聞いたお話を思い出しました。
「人魚の人達は魚人の人達とですね」
「そうです、同じ海の種族の中でもです」
「特に仲がいいんですよね」
「親密に交流をしています」
 そうだというのです。
「そして今もです」
「いや、いいですね」
「若しかして魚人の人達にもお会い出来るかって思ってましたけれど」
「お会い出来るんですね」
「あの人達とも」
 ジョージとカルロス、ナターシャと恵梨香もそのお話に上機嫌になります。
「じゃあ今からですね」
「人魚の王様や魚人の人達ともですね」
「一緒にお昼を食べるんですね」
「そうするんですね」
「そうです、では食事の間へどうぞ」
 王宮のそこにというのです。
「そこで食べましょう」
「わかりました」
「それじゃあ今から宜しくお願いします」
「人魚の国のお食事頂きます」
 五人も他の皆も宮殿の食事の間に案内されました、そしてです。そこで若々しくて精悍な顔立ちの青い髪と緑の目の人魚の人とです、赤く輝く鱗と鯛の頭を持つ人の身体の立派な服を着た人が一行の前に並んで出て来ました、その若い人魚の人のところに寄り添ってです。女王は五人ににこりと笑って言ってきました。
「夫でこの国の王です」
「そう、私がね」
 その人自身も五人にお話しました。
「この国の王だよ」
「そうなんですね」
「貴方がこの国の王様ですか」
「人魚の国の」
「そうだよ、そして妻がね」
 王様は女王を抱き寄せてさらにお話しました、女王は少し気恥かしそうに王様に身体をそっと寄せて笑顔になりました。
「この国の女王になったんだ」
「そうだったんですね」
「女王様は王様に嫁がれてですか」
「女王様になられたんですか」
「親戚同士だったんだ」
 最初はそうだったというのです。
「僕は前の王様の息子で妻は公爵家の長女だったんだけれど」
「その公爵家がですか」
「人魚の王家のご親戚だったんですか」
「そうだよ、僕から数えて三代前の王様の末っ子さんのお家でね」
「それで、ですか」
「ご親戚同士だったんですか」
「あまりにも奇麗だったんでね」
 王様は女王様を抱き締めたままにこにことしてお話していきます。
「それで僕から是非にって言ってね」
「奥さんになってもらってですか」
「女王様になってもらったんですね」
「そうだよ、本当によかったよ」
「王様はとても積極的で」
 女王様は王様に抱き締められてご自身の身体を寄り添わせながら気恥かしそうにです、五人にお話します。 

 

第十幕その十一

「私もそれならとなりまして」
「プロポーズを受けてですか」
「嫁がれたんですか」
「そうなんです、もう本当に積極的で」
 何かおのろけになっていますがさらに言うのでした。
「私も本当に」
「いいねえ、こういうのってね」
 魚人の王様がここで言いました。
「私も妻とは恋愛結婚でね」
「魚人の王様もですか」
「そうなんですね」
「そうだよ、幸い子宝にも恵まれてね」
 こう五人にお話するのでした。
「二十人いるんだ」
「うわ、それは多いですね」
「五十人ですか」
「それだけおられるんですか」
「うん、ちなみに私達魚人や人魚は卵を産まないよ」
 魚人の王様は皆にこのこともお話しました。
「君達と同じで赤ちゃんを産むんだよ」
「あれっ、お魚でもですか」
「卵を産まないんですか」
「赤ちゃんを産むんですか」
「そうだよ、卵胎生といってね」
 そうした体質だというのです。
「それでね」
「卵じゃなくてですか」
「赤ちゃんをそのまま産むんですか」
「身体の中で卵を産むけれど」
 それでもというのです。
「身体の中で孵化するんだ」
「それでその赤ちゃんを産むんですね」
「身体の中で孵化させて」
「そうしてですか」
「そうだよ、海では鮫とかがそうだね」
 このとても怖いお魚もというのです。
「あのお魚はいつも泳いでいないといけないけれどね」
「そうして赤ちゃんを産んで、ですか」
「泳ぎながら」
「そうするからですか」
「そうだよ、そして僕達もなんだ」
 魚人も人魚もというのです。
「そうした身体の仕組みなんだ」
「卵胎生ですか」
「そのまま赤ちゃんを産むんですね」
「そうした体質ですね」
「私達は人間と魚の二つの特性を持っていってね」
 そのこともあってというのです。
「こうしたことも出来るんだ」
「そうですか、わかりました」
「そうして赤ちゃんを産むことも」
「よくわかりました」
 五人は魚人の王様の言葉に頷きました、そのうえで今度は人魚の人達もご馳走を食べるのでした。この時も皆で。 

 

第十一幕その一

                 第十一幕  海の世界
 ジュリア達は人魚の宮殿の食事の間で彼等のご馳走を楽しむのでした、そのメニューはといいますと。
「うわ、凄いですね」
「そうでしょ」
 ジュリアはお料理を目の前にして目をきらきらと輝かせているジュリアに応えました。
「これが人魚の食事よ」
「そうなんですね」
「お刺身に天麩羅にムニエルにフライに」
 ナターシャは鮪や平目、鮭のお刺身やカルパッチョに鱚や烏賊、蛸の天麩羅に鱈のムニエルや鯵のフライを見て言います。
「豪勢だね」
「海草のサラダもいいね」
 カルロスは和布や昆布のそれを見ています。
「こちらも」
「そうだね、陸からのお野菜もあってね」
 ジョージはそこにあるレタスやトマトに注目しています。
「美味しそうだね」
「たこ焼きもあって」 
 神宝は先程話題にあがっていたそれを美味しそうに見て言いました。
「これはいいね」
「陸のお野菜は岸辺近くの領地で栽培しているんだ」
 人魚の王様が五人にお話しました。
「僕達は陸地にも領地を持っているからね」
「あっ、そうなんですか」
「陸地にも領地があるんですか」
「そうなんですね」
「実は魔法で下半身を人間のものに出来るしね」
 それでというのです。
「短い時間なら」
「そうした魔法は使うことを許されてるんです」
 女王様もにこりと笑ってお話します。
「私達人魚は」
「それで、ですか」
「そうして丘の畑でお野菜を耕しているんですか」
「そうもしているんですか」
「お米や麦も作っています」
 穀物もというのです。
「それでリゾットやパスタも作っていまして」
「じゃあ海鮮炒飯や海鮮麺も」
 神宝は目を輝かせて女王様に尋ねました。
「そうしたお料理もですか」
「食べていますよ」
「それはいいですね」
「それも美味しく」
「尚いいですね」
「他には海老蒸し餃子やフカヒレ餃子も」
「海の幸を使った中華料理って最高なんですよね」 
 こうも言った神宝でした。
「それもあるなんて凄くいいです」
「おや、君はかなり中華料理が好きなんだね」
 魚人の王様は神宝の言葉と輝く目を見て言いました。
「そうみたいだけれど」
「はい、中国人なんで」
「だからなんだね」
「中華料理が好きです」
 お国のそれがというのです。
「本当に」
「それじゃあ夕食はそれを食べようか」
「海の幸を使った中華料理ですか」
「今は和洋折衷だけれどね」 
 お刺身に天麩羅、カルパッチョやムニエルにフライにサラダとです。
「そちらも食べよう」
「楽しみにしています」
「確か魚人さん達も丘に領土があるわよね」
 ジュリアは魚人の王様に尋ねました、皆いただきますをしてそのうえでその海のご馳走を食べはじめています。
「そうよね」
「うん、そしてね」
「そこでお野菜や穀物を作っているわね」
「そうしているよ」
「そうなのね」
「お酒も造っているよ」
 そちらもというのです。
「これがまた美味しいんだよね」
「あら、お酒も飲んでるの」
「大好きだよ」
 魚人の王様はジュリアににこりと笑って答えました。 

 

第十一幕その二

「よく飲んでいるよ」
「そうなのね」
「そういえば海のものだとね」
 ここでモジャボロが言いました、お刺身をとても美味しそうに食べています。
「お酒は出来ないね」
「そうなんだよね」
「それで丘でだね」
「そう、我々は多少なら海から出ても普通に動けるしね」
 魚人の人達はというのです。
「そうしたことも出来るからね」
「それでだね」
「人魚の人達と違って魔法を使わずにそのまま海からあがって」 
 そうしてというのです。
「栽培をしているんだ」
「田畑でだね」
「そしてお酒も造っているんだ」
「ビールやワインをだね」
「他のお酒もだよ」
「成程ね」
「人魚の人達も造っているよ」
 お酒をというのです。
「ジュースもね」
「最近オレンジジュースが気に入っていてね」
 人魚の王様はそのオレンジジュース、パックの中にあるそれをストローを使って飲んでいます。海の中なので外に出ると混ざるからです。
「楽しんでいるよ」
「人魚の王様もですか」
「そうされてるんですか」
「そうだよ、勿論お酒もね」
 そちらもというのです。
「楽しんでいるよ」
「そちらはどういったお酒を飲んでるのかな」
 かかしが尋ねてきました、食べないのですがいつもの様に木樵やジャックと一緒に皆が食べて飲んでいるその笑顔を見て楽しんでいるのです。
「ワインかな」
「ビールだね」
「そちらのお酒をだね」
「よく飲んでいるよ」
「そうしているんだね」
「うん、海の中だとストローで飲んで」
 そしてというのです。
「丘の上ではそのままコップで飲んでいるよ」
「主人も魚人の王様と一緒でお酒が好きなんです」
 人魚の女王様はにこりとしてこのこともお話しました。
「それでよく飲んでいます」
「そうなんだね」
「魚人の王様とお会いした時もよく」
「ははは、酒盛りを楽しんでいるよ」
 その人魚の王様のお言葉です。
「いつもね」
「それは何よりだね、楽しく過ごすのならね」
 それならとです、木樵が言いました。
「それに越したことはないね」
「そうだよね」
「僕もそう思うよ」
 木樵は笑顔で人魚の王様に言いました。
「本当にね」
「全くだね」
「何か人魚さんや魚人さんの世界もね」
 ジャックが言うことはといいますと。
「僕達の世界と同じところがあるね」
「そうですね、確かに」
 女王様が答えました。
「違うところもあれば」
「同じところもだよね」
「ありますね」
「そうだよね」
「種族が違っても同じ人間だから」
 ジュリアはこう言いました、鱈のムニエルをとても楽しく味わいながら。
「同じ部分も多いわね」
「違うところがありましても」
「重なるわね」
「そうよね」
「ええ、そういうことなのね」
 ジュリアはあらためて言いました。 

 

第十一幕その三

「同じ人間なら」
「違うことがあっても同じことが多い」
「そうよね」
「そうですね、人間ですよね」
 ここで神宝が言いました。
「皆さん」
「そうよ、人間は何かっていうと」
 それはとです、ジュリアは神宝にもお話しました。
「心で、でしょ」
「そうなるものですね」
「種族が違っていてもね」
 人間でも人魚でも魚人でもです。
「心が人間だから」
「それで、ですね」
「人間になるのよ」
 そうだというのです。
「そして人間の文明はね」
「はい、似ていきますね」
 今度はジョージがジュリアに応えました。
「違う部分があっても」
「そうよ、オズの国でも一緒でね」
「違う部分があっても」
 カルロスはフライをとても美味しそうに食べています、見れば五人とジュリアにモジャボロは今もお口の中にキャンデーがあります。
「それでもですね」
「同じ部分も多いの」
 ジュリアはカルロスにも言いました。
「体型も同じ様なものだから」
「海の中でもですね」
 ナターシャの口調はしみじみとしていました。
「そうなるんですね」
「そうよ、人魚の人も手があるし」
 それにというのです。
「魔法で足も変えられるしね」
「そうなると、ですね」
 最後に恵梨香が言ってきました。
「同じ部分も多くなるんですね」
「そういうことよ」
「種族が違ってもですか」
「同じ人間ならですね」
「同じ部分も多くなる」
「住む場所が違ってもですか」 
「そうなるんですね」
 五人もこのことを知りました、種族が違っていて住んでいる場所も違っていても同じ人間であるならです。
 そしてです、ジュリアはこうも言いました。
「かかしさんも木樵さんもジャックも人間でしょ」
「はい、オズの国なら」
「そうですよね」
「オズの国の名士で」
「誰もが知っていて愛している」
「そうでしょ、皆人間の心がある人間よ」
 かかし達もというのです。
「もっと言えばオズマ姫も妖精でしょ」
「あっ、そうでした」
「オズマ姫って妖精でしたね」
「種族としてはそうでしたね」
「あの人も」
「そう、種族が違うだけで」
 本当にそれだけだというのです。
「あの方も人間なのよ」
「飴やパンの身体の人もいるしね」
 魚人の王様が笑って言ってきました。
「狐人もいればガーゴイルもいるし」
「オズの国の種族には」
「そうした人達も」
「けれど同じ人間だね、それなら似てくるさ」
 こう笑って言うのでした。
「オズの国はそうした国なんだよ」
「外の世界はどうか知らないけれど」
 また言うジュリアでした。
「オズの国はそうした世界ってことでね」
「理解してですね」
「そうして楽しむべきですね」
「そういうことですね」
「そうだよ、それでね」
 魚人の王様は皆にさらにお話しました。 

 

第十一幕その四

「君達はオズの国の海の世界に来たのははじめてだね」
「はい、海は観たことはありましたけれど」
「リンキティンク王の国で」
「ですが海の中に入ったことはありません」
「今がはじめてです」
「それならね」
 笑顔で言うのでした。
「女王の真珠を見るのもいいけれど」
「その前に我が国を観て回ったらどうかな」
 人魚の王様も五人に言ってきました。
「そうしたらどうかな」
「人魚の国をですか」
「真珠を観る前に」
「そうしていいんですか」
「うん、いいよ」
 こう勧めるのでした。
「そうしたらどうかな」
「そうね、いいと思うわ」
 ジュリアもにこりと笑って五人に言いました。
「そうしたらね」
「それじゃあ」
「そうさせてもらいます」
 五人はジュリアに答えてでした、まずは海の祥のご馳走を堪能しました。そしてその後で、です。
 一行は人魚の兵士の人に案内されて人魚の国を巡りました、岩や海草の外に出るとお魚を養殖していたり海藻を繁殖させている場所がありました。
 その場所を観てです、五人は言いました。
「海の牧場かな」
「それで畑?」
「ここは」
「そうした場所かしら」
「そうだよ」 
 人魚の兵隊さんは笑顔で、です。五人にお話しました。
「ここはね」
「そうなんですね」
「ここはそうした場所ですか」
「海の牧場や畑ですか」
「そうだよ、色々なお魚を養殖してね」
 そしてというのです。
「そのうえでね」
「海草もですね」
「和布や昆布も養殖して」
「それで食べているんですか」
「そうもしているんですか」
「そうだよ、そしてね」
 兵隊さんは蛸壺を見つつ皆にさらにお話しました。
「丘の上で穀物やお野菜、果物も作っているからね」
「そうしてですか」
「食べているんですね」
「そちらも」
「陸の人達と交易もしてね」
 そうもしてというのです。
「そちらでも穀物を手に入れているしね」
「ううん、面白いですね」
「これがオズの海の国ですか」
「お魚も養殖していて」
「海草もでか」
「そしてね」
 ここで、でした。兵隊さんは五人に蛸壺を見せました。ご自身が手に取ってそのうえで。
「こうしたものもあるよ」
「あっ、蛸壺ですか」
「蛸壺でも蛸を養殖しているんですか」
「そうしているんですね」
「うん、最近人魚の国では蛸も人気でね」
 こちらの生きものもというのです。
「こうして養殖しているんだ」
「蛸いいわね」 
 ジュリアはにこにことして言いました。
「たこ焼きは最高でお刺身にしても天麩羅にしても唐揚げにしてもよくて」
「パエリアに入れても美味しくて」
「アヒージョにしてもいいですね」
「色々食べ方ありますよね」
「烏賊も美味しいですけれど蛸も美味しいですね」
「そうですよね」
「ええ、あの美味しさをずっと知らなかったのよ」
 ジュリアはこのことは残念そうに言いました。 

 

第十一幕その五

「私達は」
「オズの国ではですね」
「オズの国は同じ時代のアメリカが反映されるので」
「アメリカでは長い間蛸を食べなかったので」
「だからですね」
「オズの国もそうだったんですか」
「ええ、というか海の幸の美味しさはね」
 それはといいますと。
「アメリカは日本や中国から来た人に教えてもらったのよ」
「そうですよね」
 神宝がジュリアに応えました。
「アメリカはずっとお肉ばかりでしたね」
「牛肉や豚肉や鶏肉ですね」
「あと羊ね」
 そうしたお肉は食べていましたが。
「海の幸はね」
「日本や我が国の人が来るまでは」
「知らなかったのよ、あまりね」
「そうだったんですね」
「たこ焼きなんてね」
 それこそというのです。
「日本、しかも関西からの人が来てからよ」
「オズの国でも食べられる様になったんですね」
「そうよ、有り難いことにね」
「そう思うとアメリカに色々な人が来ることは」
「有り難いことよ」
 ジュリアはにこりとして神宝にお話しました。
「本当に」
「そうですよね」
「私もそう思うわ」
「オズの国も多彩になるから」
「本当にね」
「うん、オズの国も変わったよ」 
 かかしは昔からオズの国にいる人の一人としてオズの国をずっと見てきているのでよく知っています。
「ドロシーとはじめて会った頃からね」
「相当にね」 
 本当にとです、木樵も言います。
「変わったね」
「あの頃のオズの国とね」
「何もかもが変わったよ」
「全くだね」
「オズの国の人種もだからね」 
 ジャックも言うのでした。
「アフリカ系やアジア系、ヒスパニックの人が増えたよ」
「そうそう、この子達も来てね」
 モジャボロは国籍も人種も様々な五人を見てかかし達に応えました。
「多彩になったね」
「昔と比べれば」
「相当に変わったね」
「何かと」
「全くだよ、携帯電話やテレビもあるしね」
 今のオズの国はというのです。
「コンピューターもね」
「科学も進歩してね」
「そうしてね」
「そうしたものもあるね」
「そう思うと変わったわね」
 ジュリアはしみじみとして言いました。
「オズの国も」
「うん、僕達が入った頃と比べてね」 
「そうよね」
「いい具合にね」
「科学と魔法が合わさってね」
「文字通りのお伽の国としてね」
「いい風に変わったわ」
 ジュリアはモジャボロに笑顔で言いました。
「そうなったわ」
「全くだね」
「ええ、それとね」
「それと?」
「こうして人魚や魚人の人達も加わって」
 オズの国にです。
「大陸全体がオズの国になってね」
「そう、死の砂漠が大陸沿岸に移ってね」
「周辺にあった国々がオズの国に入って」
 人魚や魚人の国等海の国々もです。 

 

第十一幕その六

「広くなったわね」
「死の砂漠だった場所は農耕地とかになって」
「人も移住して」
「いい感じになったね」
「そうよね」
「そのせいで、ですね」
 人魚の兵隊さんも言ってきました。
「私もこうしてジュリアさん達と一緒にいるんですよね」
「そうなるわね」
「はい、オズの国に入ったお陰で」
「そうよね」
「この世のあらゆるものは変わっていっていて」
 神宝が言ってきました。
「オズの国もどんどん変わっていっていますね」
「うん、ドロシーさんが最初に来た時なんかは」
 ジョージは本で読んだその頃のオズの時代について思いました。
「今よりずっと素朴だよね」
「そうだね、今思うと」
 カルロスはジョージのその指摘に頷きました。
「あの時もかなり不思議な国だったけれど」
「どんどん不思議な人達が参加して」 
 ナターシャはそうした人達を思い出しました。
「不思議なものも出て来て」
「オズの国はどんどん賑やかで素晴らしい国になっていってるわね」
 恵梨香の口調はしみじみとしています。
「こうして人魚の人達ともお会い出来て」
「そうだよね、僕も君達と出会えたことはね」 
 兵隊さんは五人にも言いました。
「オズの国が変わっていったからだよ」
「それで人魚の国もオズの国に入って」
「そしてですね」
「その中で暮らしているから」
「そうなれたからですね」
「その通りだよ、昔はオズの国の存在はね」
 それ自体もというのです。
「知らなかったしね」
「それが、ですね」
「人魚の国も加わったんですね」
「オズの国を知って」
「うん、使者にドロシーさんが来てね」
 兵隊さんはこうしたお話もしてきました。
「オズの国に入って皆で仲良く過ごさないかってね」
「あっ、ドロシーさんがですか」
「あの人が最初にこの国に来られたんですか」
「そうだったんですか」
「そうだったんだ、トトを連れてね」
 彼も一緒だったというのです。
「それでオズの国に入ったらどんな楽しいことがあるかってね」
「お話してくれて」
「そして、ですね」
「オズの国に入って楽しく過ごそうってですね」
「お話してくれてですね」
「入ったんだ」
 まさにこの国にというのです。
「そうしたんだよ」
「それで魚人の人達もですね」
「一緒に入ったんですね」
「オズの国に」
「あちらにはベッツイさんが行って、他の海の種族にはトロットさん達が行ってね」
 そうしてというのです。
「オズの国の周りにあった海の種族は全部オズの国に加わったんだ」
「そうなったんですね」
「そしてオズの国は海にも広がったんですか」
「うん、今じゃ本当にね」
 兵隊さんはにこにことしてです、五人にさらにお話しました。
「楽しく過ごしているよ」
「オズの国の中で」
「そうされているんですね」
「そうだよ、それで女王様はね」
 この人はといいますと。
「君達みたいにお邪魔してくれた人に真珠を見せてくれるからね
「その虹色の真珠ですね」
「それをですね」
「見せてくれるんですね」
「そうしてくれるんですね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。 

 

第十一幕その七

「楽しみにしておいてね」
「わかりました」
 五人は笑顔で、です。兵隊さんに応えました。
「そうさせてもらいます」
「その時が来たら」
「是非共」
「見せてもらって」
「楽しませてもらいます」
「そうしておいてね」
「あとね」
 ここでジュリアは五人にこんなことをお話してきました。
「オズの国の海は平和だからね」
「オズの国だからですね」
「だからですね」
「そうよ、冒険も安心して出来るわよ」
 それもというのです。
「勿論キャンデーとか海の中でも移動出来る方法が必要だけれどね」
「それじゃあですね」
 神宝がジュリアに言ってきました。
「潜水艦とかで移動して」
「ええ、その方法もあるわよ」
「やっぱりそうですか」
「オズの国には潜水艦もあるわね」
「はい、そうでしたね」
「最新型のものもあるし」
 それでというのです。
「それで海の中をね」
「自由にですね」
「行き来も出来るから」
 だからだというのです。
「潜水艦を使う方法もあるわ」
「それも面白そうですね」
「潜水艦を使っての冒険もいいよ」
 かかしもそれを勧めます。
「海の中を隅から隅まで見られてね」
「そこにいる沢山の種族や生きものも見られるよ」
 木樵はここで上を見上げました、海面がきらきらと見えています。
「潜水艦の中からね」
「それもまた楽しんだよね」 
 ジャックもにこにことしてお話します。
「だから機会があればね」
「そうした冒険もしてみましょう」
 ジュリアはまた五人に言いました。
「そうしましょう」
「そうですね、また海の中に行く時があれば」
「その時はお願いします」
「そうさせて下さい」
「潜水艦での移動をお願いします」
「それじゃあね」
「あっ、皆見るんだ」
 ここで兵隊さんがまた声をあげました。
「多分皆が見たことがない生きものが来たよ」
「見たことのない?」
「といいますと」
「ほら、彼だよ」
 何とです、皆の上にでした。
 細長い形の大きな鯨が来ました、縦に身体を動かして泳いでいます。
「ゼウグロドンだよ」
「ああ、あれがゼウグロドンですか」
「昔の鯨ですか」
「オズの国にいるって聞いてましたけれど」
「あれが昔の鯨ですか」
「うん、ザトウクジラやマッコウクジラと違ってね」
 そうした鯨とは、というのです。
「ああした形なんだ」
「何か恐竜に似てますね」
「海にいた恐竜に」
「それに鰐とも」
「鰭ですけれど」
「うん、鰐は海にもいるけれどね」
 兵隊さんは鰐のお話もしました。
「確かに鰐に似てるね」
「お顔の感じが」
「どうも」
「ゼウグロドンは肉食だしね」
 そうした鯨だというのです。 

 

第十一幕その八

「マッコウクジラに近いかな」
「そうですよね」
「マッコウクジラも肉食ですね」
「大きさもそんな感じで」
「近いかも知れないですね」
「外見は全然違うけれどね」
 それでもというのです。
「近いと言えば近いかも知れないね」
「そうですよね」
「まさかああした鯨も見られるなんて」
「凄くよかったです」
「オオウミガラスやステラーカイギュウも見られましたし」
「ゼウグロドンも見られて」
「今回の冒険も満足しています」
「まだ満足するのは早いわよ」
 ジュリアは口々に言う五人に笑顔で言いました。
「真珠を見ていないでしょ」
「あっ、そうでした」
「そちらがまだでした」
「真珠がありました」
「そちらが」
「そうでしょ、だからね」
 それでというのです。
「満足するのは早いわよ」
「そうですよね」
「真珠がまだありましたね」
「じゃあ真珠を見てですね」
「それで満足をするんですね」
「そうしてね」
 是非にというのです、そしてです。
 そうしたお話をしつつゼウグロドンを見ていました、見れば上には養殖をしているお魚以外にもです。色々なお魚が泳いでいて。
 鯨達もいました、ザトウクジラやミンククジラ、ナガスクジラにマッコウクジラも来てです。
 様々な種類のイルカ達も来てです、シャチまで来ました。そうした鯨の仲間を見て神宝はしみじみとして言いました。
「いや、鯨も多いね」
「そうだよね」
「イルカやシャチも鯨の仲間で」
「こうして見るとね」
「鯨も多いのね」
 四人も神宝と一緒に言います。
「海にはね」
「こうして一杯いるのね」
「そしてオズの国にもいて」
「海で楽しく過ごしているんだね」
「そうだね、こんなに一度に鯨を見られて」 
 それでとです、また言った神宝でした。
「よかったよ、ヨウスコウカワイルカも見られて」
「神宝はあのカワイルカが好きね」
「はい、中国じゃ本当に大事にされていたんです」
「大事にされていてもなのね」
「いなくなったんで」
 このことは残念なお顔で、です。神宝はジュリアに答えました。
「悲しく思っていまして」
「それでオズの国で見られたからなのね」
「とても嬉しいです」
「ジョージのリョコウバトと一緒ね」
「そう思います」
 神宝はジョージを見つつジュリアに答えました、ジョージも無言で頷いています。
「いなくなった生きものですからね」
「そうよね」
「そうした生きものがいるにもね」
 本当にとです、かかしが皆にお話しました。
「オズの国だからね」
「この国では彼等との出会いも楽しんでね」
 木樵は皆に笑顔で言ってくれました。
「是非共ね」
「本当に色々な生きものがいるんだよね」 
 ジャックも笑顔です、とはいってもこの人はカボチャ頭の表情をいつもそうしたものにしているのですが。
「オズの国にしかいない生きものも含めてね」
「ドラゴンもロック鳥もいてね」
 モジャボロも言います。
「そうなんだよね」
「僕達も海から出られて」
 兵隊さんは養殖場のお魚達が生き生きと泳いでいるのを見て目を細めさせています、とても大きな網の中で。 

 

第十一幕その九

「お空にも行けるんだよ」
「あっ、魔法で足を人間のものにして」
「そうしてですね」
「気球とかに乗れば」
「そうしたことも出来ますね」
「そうだよ、そうしたこともね」 
 実際にというのです。
「出来るんだよ」
「そうなんですね」
「人魚もお空に行けるんですね」
「オズの国では」
「そうしたことも出来るんですね」
「そうだよ、そうしたこともね」
 本当にというのです。
「出来るのがオズの国なんだよ」
「不思議の国だから」
「だからですね」
「そうしたことも出来る」
「海からお空に行くことも」
「そうしたことまで」
「僕達も最初はそんなことが出来るなんてね」
 それこそというのです。
「思っていなかったよ」
「普通はそうですよね」
「そんなことが出来るなんてですよね」
「思わないですよね」
「海の中にいるのにお空に出るとか」
「とても」
「そう、想像もしてなかったよ」
 そうだったというのです、人魚の人達にしても。
「それが出来る様になったから」
「だからですね」
「それが出来る様になって」
「人魚の人達も嬉しいんですね」
「僕も行ったことがあるよ」
 そのお空にです。
「陸から上がって気球でね」
「あれを使ってですか」
「そうしてですか」
「そうだったんだ」
 まさにといいうのです。
「面白かったよ」
「そうですよね、海の中からお空の上に行くことも」
「普通はないですから」
「オズの国ならではで」
「それが出来たんですか」
「夢みたいだけれど現実だから」
 兵隊さんはそう思っていたのです。
「それが出来たんだからね」
「本当にそう思いますよね」
「夢みたいだって」
「けれどそれが現実だって」
「実際に体験出来て」
「本当にね、それとね」
 さらにお話する兵隊さんでした。
「魚人や他の種族の人も出来るからね」
「そうした人達もですね」
「海にいる他の種族の人達もですね」
「お空に出られる」
「そうなんですね」
「そうだよ、天使の人達とも会ったよ」
 彼等とも、というのです。
「そして精霊の人達ともね」
「ポリクロームともかしら」
 ジュリアは精霊と聞いて彼女のことを尋ねました。
「会ったかしら」
「虹の妖精の?」
「あのいつもひらひら踊っているね」
「うん、実は虹の妖精の雲まで行ったんだ」
「あっ、それでなのね」
「彼女とも会ったよ」
 そのポリクロームともというのです。
「そうしたよ」
「それは何よりね」
「オズの国のお空はお魚もいるしね」
 そして沢山泳いでいます。
「海に似ているところもあってよかったよ」
「オズの国のお空って凄いですよね」
 神宝もあのお空のことを思い出しています。 

 

第十一幕その十

「お魚がいて妖精さんや天使さんがいて沢山の鳥がいて」
「そうだよね」
「本当に不思議です」
「お空に行ってとても楽しかったよ」
 兵隊さんはこうも言いました。
「また行きたいね」
「そうですね」
「うん、またね」
「機会があれば」
「そうしたいよ」
 是非にといいます、そうしたお話をしてです。
 皆で人魚の国のお外を見回りました、そしてティータイムとなりましたが兵隊さんは皆をある場所に案内してくれました。その場所はといいますと。
 養殖場の近くの洞窟ですがそこに入るとです、兵隊さんはその入口にあった赤いボタンを押しました。すると。
 洞窟の入口を右から左に岩が動いて塞いでしまいました、それから今度は赤いボタンの隣にあった青いボタンを押しますと。
 今度は上から下にです、海水がゴポゴポと降りてです。そうして海水がなくなりました。そうしてなのでした。
 兵隊さんは皆にです、笑顔で言いました。
「ティータイムはここで」
「あっ、ここならお水がないので」
「お茶も飲めますね」
「ええ、陸にいる時と同じくね」 
 ジュリアは兵隊さんに答えました。
「出来るわ」
「そう思いまして」 
 見れば兵隊さんは人間の足になっています、下半身には黒い海パンを穿いています。
「それで、です」
「気を利かしてくれたのね」
「そうなるでしょうか」
「有り難う、それじゃあね」
「今からですね」
「お茶を飲むわ」
 ティータイムを楽しむというのです。
「そうさせてもらうわ」
「それでは」
「ええ、そしてね」
「そのうえで、ですね」
「兵隊さんもどうかしら」
 ジュリアは兵隊さんに笑顔でお誘いをかけました。
「今から」
「私もですか」
「ティータイムは皆で楽しむものでしょ」
「だからですか」
「ええ、どうかしら」
「ご一緒して宜しいのですか」
「そうよ」
 ジュリアは笑顔のままでした。
「だからね」
「そこまで言われるのでしたら」
「皆でね」
「ティータイムを」
「楽しみましょう」
 こうしてでした、皆でです。
 ティータイムとなりました、テーブル掛けから出されたのはロイヤルミルクティーにマシュマロとケーキ、干しフルーツをそれぞれ三段に分けているティーセットでした。
 そのティーセットを一口ずつお口に入れてです、兵隊さんは言いました。
「これは」
「どうかしら」
「はい、とても美味しいです」 
 これが兵隊さんの感想でした。
「とても」
「そうなのね」
「素敵な味ですね」
 ミルクティーを飲みながらの言葉です。
「陸での食事もいいとです」
「思うのね」
「陸地で食べることも多いですが」
 人魚の人達もというのです。
「こちらもですね」
「ティーセットもなのね」
「いいですね」
 実際にというのです。
「本当に」
「それは何よりね」
「どれも甘いですし」
 兵隊さんはマシュマロも食べています、柔らかいその中にはチョコレートがしっかりと入っています。 

 

第十一幕その十一

「それも素敵な感じで」
「素敵なのね」
「はい、甘さが」
「適度な甘さということかしら」
「極端な甘ったるさではないですね」
 こう言うのでした。
「私の好みです」
「あら、そうだったの」
「はい、甘過ぎるとどうも」
 兵隊さんにしてみればというのです。
「苦手なんです」
「個人的な趣味としては」
「そうなんです」
「それじゃあ今日のセットは」
「丁度いいですね」
 兵隊さんにとってというのです。
「いや本当に」
「それは何よりね」
「甘いものは好きですが」
 それでもというのです。
「極端に甘いと」
「駄目だから」
「これ位がいいんです」
「これ位の甘さのものをなのね」
「はい、ですから」
 それでというのです。
「このティーセットは素敵ですね」
「そうなのね、じゃあね」
 ジュリアは兵隊さんの言葉を受けてさらに言いました。
「どんどん食べてね」
「このティーセットをですか」
「幾らでも出せるから」
「そのテーブル掛けから」
「ええ、だからね」
 それでというのです。
「好きなだけ食べてね」
「そうしていいのですか」
「オズの国では遠慮はいけないことでしょ」
「はい、そう言われますと」
「だからよ」
 このこともあってというのです。
「遠慮は無用よ」
「それでは」
 兵隊さんも応えてでした、そしてです。
 兵隊さんはティーセットを堪能しました、兵隊さんにとって程よい甘さのそれを。そのティータイムの後もです。
 人魚の国を案内してもらいましたがここで五人がこんなことを言いました。
「オズの国の人魚は喋ることが出来ますね」
「楽に人間の足にもなれて」
「それからも喋ることが出来ますね」
「それも出来るんですね」
「そうなんですね」
「うん、普通にね」
 兵隊さんは五人に気さくに答えました。
「出来るよ」
「そうなんですね」
「人間の足になっても喋られるんですね」
「喋れなくなる呪いとかなくて」
ごく普通にですね」
「そうなれるんですね」
「ごく普通にね」
「だから人魚姫とは違うの」
 ジュリアが五人に笑顔でお話しました。
「そうしたことはないの」
「人魚の身体が完全に人間のものになっても」
「それでもですね」
「喋ることが出来るんですね」
「最初から喋ることが出来て」
「それが出来るんですね」
「そうよ、貴方達の世界の物語とは違うの」
 人魚姫とは、というのです。 

 

第十一幕その十二

「そこはわかっておいてね」
「わかりました」
「本当にそこは違うんですね」
「オズの国の人魚は人魚姫じゃないんですね」
「オズの国の人魚ですね」
「そうなんですね」
「そういうことよ、だから悲しいことはないから」
 人魚姫の様にです。
「安心してね」
「はい」
 五人はジュリアに笑顔で応えました、そしてです。
 皆で仲良く人魚の国を見て回りました、そのうえで街に帰った時にです。門のところに海月達が泳いできましたが。
「刺さないみたいだね」
「そうだね」
 かかしと木樵はただふわふわと浮かんでいるだけの海月を見てお話をしました。
「特にね」
「そうしたことはないね」
「ただ浮かんでいてね」
「こちらに何かをしてくることはないね」
「海月は攻撃してこないですよ」 
 兵隊さんもお話します。
「特にオズの国の海月は平和でして」
「だから余計になんだね」
「触っても何もしません」
 ジャックの質問にも答えます、実際に触ると触手のうちの一本を挙げてそうして挨拶をしてきました。
「この通りです」
「挨拶もしてきてだね」
「海の快い友達です」
「ついつい海月はね」
 モジャボロが言うにはです。
「刺してくるから注意が必要だけれど」
「オズの国ではそれもないので」
「安心出来るんだね」
「はい」
 その通りだというのです。
「ですから安心して下さい」
「それじゃあね」
「とにかくです」 
 また言った兵隊さんでした。
「海月にも安心して下さい」
「海のお友達だね」
「そう思って下さい」 
 こうお話してです、そのうえで。
 皆は海月の歓迎も受けて街に戻りました、そうして夕食を食べてそれからも楽しい時間を過ごして寝るのでした。 

 

第十二幕その一

                 第十二幕 虹色の真珠
 神宝は起きて朝御飯を食べてから四人に言いました。
「いよいよかな」
「ええ、今日みたいね」
 恵梨香が神宝に応えました、五人は今は朝御飯の後で一緒にいてそうしてお顔を見合わせてお話をしているのです。
「真珠を観せてもらえるのね」
「あの噂の真珠をね」
「虹色の真珠ね」
 ナターシャは期待している目で言いました。
「ここまで来た目的がいよいよね」
「果たされるんだね」
 カルロスもいよいよという目です。
「そうなんだね」
「どんな真珠かな」
 ジョージも期待しているのが目に出ています。
「一体ね」
「それを今日観せてもらえたら」
 神宝はまた言いました。
「今回の冒険の目的が果たされるね」
「そうよね、これでね」
「今回の冒険も色々あったけれど」
「そして人魚の国まで来たけれど」
「その目的が遂にね」
「果たされるんだね、そしてね」
 さらに言う神宝でした。
「またオズの国から僕達の世界に帰るね」
「そしてまたあちらの世界で楽しんで」
「そのうえでこの国も戻ってね」
「次の冒険だね」
「その時にまた楽しむね」
「それもまた楽しみだよ」 
 次の冒険の時もというのです。
「何か僕達もすっかりオズの国の市民になったね」
「そうよね」
「もうすっかりね」
「これまで何度もオズの国に来て」
「そうして冒険をしていて」
「そうしていてね」
 まさにというのです。
「そうなったね」
「そうよね」 
 ジュリアがここで五人のところに来て言ってきました。
「貴方達もすっかりね」
「オズの国の住人ですね」
「そうなりましたね」
「もうすっかりですよね」
「何度も来て冒険をして」
「オズの国の皆さんと知り合って」
「ええ、そうなったわ」
 実際にというのです。
「いいことだと思うわ」
「そうですよね」
「オズの国にすっかり入ることが出来て」
「それで楽しめていて」
「幸せです」
「いつも楽しく過ごしています」
「自分達が合う場所を自由に行き来出来ることはね」 
 そのこと自体がというのです。
「幸せなことなのよ」
「だから僕達も幸せですね」
「そう思っていいわ」 
 実際にとです、ジュリアは神宝に答えました。
「これからもね」
「はい、今日はですね」
「女王様が真珠を見せてくれるわ」
「そうですよね」
「楽しみにしていてね」
 笑顔で言ったジュリアでした。
「このことをね」
「本当にいよいよですね」
「これまで長い冒険だったけれど」
 それでもというのです。
「その冒険の目的がね」
「果たされますね」
「そうなるわ」
「そう思いますと」
「今から楽しみでしょ」
「はい、目的を達成しますと」
 それでとです、神宝はジュリアにさらにお話しました。 

 

第十二幕その二

「やり遂げたって思いますので」
「いいわよね」
「それでエメラルドの都に帰ったらですね」
「一つの冒険の終わりよ」
「そしてまた、ですね」
「新しい冒険の時まで休んで」
 そしてというのです。
「そのうえでね」
「また、ですね」
「新しい冒険に出て」
「そうします」 
 神宝も約束します、そしてです。
 かかし達もお部屋に来ました、そのうえで神宝達に言ってきました。
「今から女王さんのところに行くよ」
「女王さんが真珠を観せてくれるよ」
「今からだからね」
「女王の間に行こうね」 
 木樵とジャック、そしてモジャボロも言って来ました。
「今から行ってね」
「そしてね」
「観て楽しもうね」
「これからね」
「わかりました」
 神宝が五人を代表してかかし達に答えました。
「そうさせてもらいます」
「とても奇麗な真珠だからね」
 木樵は神宝達ににこにことしてお話しました。
「普通の真珠よりも遥かに」
「聞いている通りの」
「いや、多分ね」
「多分?」
「聞いている以上にね」
「奇麗なんですね」
「そうだよ」
 実際にというのです。
「凄いからね」
「百聞は一見に然ずというけれど」
 かかしが再び言ってきました。
「あの真珠もそうだよ」
「そこまで奇麗ですか」
「そうなんだ」
「僕達も楽しみにしているよ」
 ジャックはこうも言いました。
「また観られると思っていてね」
「そうしてですね」
「うきうきしているんだ」
「それが今からだからね」 
 モジャボロも言ってきました。
「僕も気持ちがはしゃいでいるよ」
「私もよ、ではね」
 ジュリアも言ってきました。
「今から行きましょう」
「わかりました」
「ではこれからですね」
「女王様のところに行って」
「そしてですね」
「真珠を観せてもらいましょう」
 五人もジュリアに応えてでした、そのうえで。
 皆で女王様のところに行きました、そこには王様と魚人の王様それに人魚の国の要人の人達が揃っていました。
 そして女王様が女王の座であるみらびやかに輝くしゃこ貝から皆に優雅で気品のある微笑みで言ってきました。
「それでは今から」
「はい、真珠ですね」
「あれを観せてくれるんですね」
「はい」
 その通りという返事でした。
「では今から」
「わかりました」
「それでは今からお願いします」
「それでは」
 女王様はにこりと笑ってです、そのうえで。
 鈴を出して鳴らすとです、人魚の侍女の人がです。
 カートを前に出してきました、そのカートの上にです。 
 とても大きな、人間の頭程の大きさがあって絶えず虹色に輝いている真珠がありました。その真珠の輝きといったら。
 お部屋全体を輝かしていて眩しい位です、それを観てでした。神宝達五人は息を飲んでそのうえで言いました。 

 

第十二幕その三

「真珠だけでなくお部屋全体が輝いて」
「凄く奇麗・・・・・・」
「ただ真珠だけが輝くんじゃないんだ」
「お部屋まで照らすのね」
「しかも隅から隅まで」
「そうです、これがです」
 女王様も笑顔でお話します。
「私の秘蔵の真珠です」
「ここまでのものとは」
「想像もしてなかったです」
「本当に奇麗ですね」
「みらびやかで」
「虹色に輝く太陽みたいですね」
「そうですね、この真珠を観ますと」
 女王様はにこりとしたままこうも言いました。
「私も幸せな気持ちになります」
「女王様ご自身もですな」
「そうした気持ちになりますか」
「そうなんですね」
「この真珠を観ていますと」
「そうなるんですね」
「はい」
 その通りというのです。
「とてもです」
「誰もがね」 
 ジュリアがここで言ってきました。
「そうなると思うわ」
「ここまで奇麗だから」
「その奇麗なものを観られたから」
「だからですね」
「そうよ、人は奇麗なものを観るとね」
 まさにそれだけでというのです。
「幸せな気持ちになれるわね」
「そしてそれが綺麗なら奇麗なだけね」
 王様もにこりと笑ってです、皆に言ってきました。
「観ると幸せな気持ちになれるんだ」
「それが人間ですね」
「人間の感性なんだね」
「そう、だから僕もね」
 王様ご自身もというのです。
「今とても幸せだよ」
「そうなんですね」
「王様ご自身もですね」
「とても幸せですか」
「そうだよ」
「僕もだよ」
 今度は魚人の王様がにこにことして言ってきました。
「本当にね」
「幸せですか」
「そうなんですか」
「今はとてもですか」
「そうだよ、いつもね」
 こうも言った魚人の王様でした。
「人魚の国に来たらね」
「こうしてですか」
「この真珠を観せてもらってですか」
「幸せになられてるんですね」
「魚人の王様も」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「本当にね、いつも人魚の国にお邪魔したら」
「こうしてだよね」
「観せてもらってるんだよね」
 魚人の王様は親友である人魚の王様に笑顔で応えました。
「本当に」
「有り難いよ」
 心から言う魚人の王様でした。
「本当にね」
「全くだね」
「それとね」
 魚人の王様はさらに言いました。
「この真珠を観ると不思議なことがあるんだよね」
「君がいつも言っていることだね」
「観せてもらった夜はとてもいい夢を見るんだ」
 そうなるというのです。
「絶対にね」
「そうなんだね」
「そう、本当に不思議なことにね」
「僕は別に」
「私もです」
 人魚の王様と女王様は魚人の王様のお話を聞いて言いました。 

 

第十二幕その四

「この真珠を観てもいい夢を見るかというと」
「そうでもないよね」
「はい、そうしたことはです」
「特にないね」
 そうだというのです。
「僕達はね」
「そうですね」
「ううん、そうしたお話はね」
 眠ることのないかかしは王様達のお話を聞いて首を傾げさせて言いました。
「僕達はね」
「うん、僕達は寝ることがないからね」
「わからないよ」
 木樵とジャックも言います。
「夢のことはね」
「どういったものかはね」
「それは仕方がないね」
 モジャボロは三人の言葉に応えて言いました。
「君達はそうした体質だから」
「うん、どうしてもね」
「寝ることがないと夢も見ないから」
「それはどうしようもないよね」
「うん、ただ僕もね」
 モジャボロは魚人の王様を見つつさらにお話しました。
「この真珠を観るとね」
「モジャボロさんもだね」
「そう、素晴らしい夢を見るよ」
 そうだというのです。
「その夜ね」
「私もよ」
 ジュリアも言ってきました。
「この真珠を観たらね」
「その夜はだよね」
「とてもいい夢を見られるわ」
「そうだよね」
「必ずね」
「ううん、そうなのかな」
「私達は特にです」
 人魚の王様と女王様はジュリア達に微妙なお顔になって答えました。
「ないよ」
「そうしたことはです」
「僕達どうなるのかな」
「いい夢を見られるのかな」
「どうなのかな」
「真珠を観せてもらったけれど」
「一体」
 五人は皆のお話を聞いてどうなるのかしらと思いました。
「果たして」
「今夜わかることにしても」
「どうなるのかな」
「夜になればわからない?」
「結局」
「我々もそのことは」
「王様と女王様と同じで」
 人魚の要人の人達が言うにはです。
「特にこれといって」
「そうした夢は見ませんが」
「この真珠を観せてもらっても」
「特にです」
「果たしてどちらなのかな」
 神宝はこのことがわからなくなりました。
「一体」
「今夜になればわかるにしても」
「気になるよね」
 ジョージとカルロスが言いました。
「そのことは」
「夜までずっと気になるよ」
「気になって仕方ないわ」
「本当にそうよね」
 ナターシャと恵梨香も同じでした。
「私達は果たしてどんな夢を見るのか」
「一体ね」
「そうよね、私もよ」
 ジュリアも五人と同じ考えでした。
「気になって仕方がないわ」
「そうですよね」
「ジュリアさんもですよね」
「そのことは気になりますよね」
「一体どうなるのか」
「夜まで」
「これまでは何とも思わなかったけれど」
 それがというのです、魚人の王様のお話を聞いてから。 

 

第十二幕その五

「そうなったわ」
「そうですよね、お話を聞きますと」
「自然とそうなりますよね」
「これまでは何とも思っていなかったですが」
「一度聞きますと」
「そうなりますね」
「そう見たり聞いたりしたら時にはね」
 その時はというのです。
「もう自然とね」
「そうなるますよね」
「人間としては」
「一体どうなるのか」
「本当に」
「そうよね、じゃあ夜までどうなるか」
 ここで、です。ジュリアはどうなるのか心配になるよりはと発想を変えました。その変えた発想はといいますと。
「楽しみに待ちましょう」
「それがいいね」
 モジャボロはジュリアのその考えに頷きました。
「どうなるのか不安に思うよりもね」
「期待するのね」
「その方がいいよ」
 起こることについてです。
「むしろね」
「そうね、言われてみれば」
「その方がずっといいわね」
「ええ、それじゃあね」
「今夜のことはね」
「期待してそうして」
「待っていようね」
 こうジュリアに言いました、そして五人もです。
 今夜どんな夢を見るのかをです、五人でお話しました。
「じゃあ今夜だね」
「うん、どんな夢を見るのかね」
「楽しみにしていようね」
「どんな素敵な夢かしら」
「期待しながらよね」
「そうだよ、待つのならね」
 モジャボロは五人にも笑顔でお話しました。
「楽しみにしてだよ」
「そうしてですね」
「待っていて」
「そしてうきうきしながらですね」
「夜を待てばいいですね」
「そうしていれば」
「そうだよ、じゃあお昼はね」
 これからはといいますと。
「何を食べるのかを考えようか」
「うん、それならね」 
 ここで王様が皆に笑顔で言ってきました。
「こちらでご馳走を用意するからね」
「それをですね」
「うん、食べてね」
 そうして欲しいというのです。
「是非ね」
「わかりました」
 ジュリアは王様に笑顔で応えました、そしてです。 
 皆はお昼を食べてそうしてでした、食べ終わった後で人魚の国を後にすることになりました。そして王様に言われました。
「ではまたね」
「はい、お邪魔させてもらいます」
 ジュリアが王様に笑顔で応えました。
「こちらの国に」
「そうさせてもらいます」
「また真珠を見て下さいね」
 女王様はにこりと笑って言ってきました。
「いらした時は」
「はい、そちらも是非」
「あとね」
 魚人の王様も言ってきました。 

 

第十二幕その六

「こちらの国にも来てね」
「魚人の国にですね」
「うん、来てね」
 こう言ってお誘いをかけるのでした。
「是非ね」
「はい、魚人のお国にも」
「うちも楽しい国だからね」
「そうですよね」
「うん、また機会があればね」
「行かせてもらいます」
「待っているよ」
 笑顔でお話してでした、そしてです。
 皆で笑顔でお別れをしてでした、ジュリア達は海から出て岸辺で元の服に着替えました。そうしてなのでした。
 帰りの道につきましたがここで神宝は言いました。
「いや、今回の旅はね」
「ええ、行きは終わってね」
「これから帰りですね」
「都に帰るまでが冒険よ」
 ジュリアは神宝に笑顔でこうも言いました。
「だからね」
「まだ冒険ですね」
「そうよ、まだ楽しめるわよ」
「そうですね」
「歩いていきましょうね」
 エメラルドの都までの長い道をというのです。
「そうしていきましょう」
「わかりました」
 こうお話してでした、皆は先に進みます。そうしつつ神宝はまた言いました。
「夢を見たらね」
「今夜だね」
 ジョージが神宝に応えました。
「見る夢のことだね」
「さて、どんな夢を見るのかな」
 カルロスの目は輝いています。
「今夜は」
「そうよね、楽しみよね」
 ナターシャもうきうきしている感じです。
「どんな夢なのか」
「というかね」
 ここで言ったのは恵梨香でした。
「確かに楽しみにする方がずっといいわね」
「そうだよね、何が起きるのか不安に感じるんじゃなくて」
 モジャボロもここで五人に言いました、勿論皆元のそれぞれの服装に戻っています。
「楽しみにしている方がいいよ」
「しかも今回はいい夢を見られるのよ」
 ジュリアがまた言ってきました。
「だったらね」
「不安に思うんじゃなくて」
「楽しみにしているべきですね」
「そうですよね」
「何が起こるのか」
「楽しみにしていくべきですね」
「そうよ、そうしていきましょう」
 笑顔で言ってでした、そうしてです。
 皆はさらに進んで夜になってです、晩御飯の後でその睡眠に入りますが。
 ここで、です。かかしはこんなことを言いました。
「さて、僕達は夢を見ないけれど」
「皆がどんな夢を見るかをね」
 木樵がかかしに応えました。
「それをお話してくれるのをね」
「楽しみにしていようね」
「そうだよね、夢のお話を聞くのもね」
 ジャックも言います。
「楽しみだね」
「じゃあ僕達は翌朝のことを楽しみにしながら」
 そうしつつというのです。
「朝を待とうね」
「そうだね、それがいいね」
「僕達はね」
「そういえばです」
 神宝はここでかかし達に尋ねました、見ればもう寝巻きの青いパジャマとナイトキャップを身に着けています。ジョージは赤、カルロスは黄色、ナターシャは黒、恵梨香はピンクのそれぞれの色のパジャマとナイトキャップです。ジュリアは今は緑でモジャボロは派手な柄のものです。 

 

第十二幕その七

「皆さん寝ることも食べることもです」
「する必要がないよ」
 かかしが答えました。
「全くね」
「そうですよね、ですが」
「それでもだね」
「皆が食べて寝る時の笑顔をですね」
「楽しんでいるよ」
「そうですよね」
「僕等の栄養は笑顔なんだ」
 木樵はにこりと笑ってお話しました。
「皆のね」
「食べて寝る必要がないけれど」
「そうだよ」
「それが栄養なんですね」
「僕達はね」
 オズの国の食べる必要がない人達はです」
「本当に一切食べることも寝ることもないけれど。
「笑顔が栄養ですか」
「皆の笑顔を見ているとね」
 ジャックも言います。
「僕達はそれだけで元気が出るんだよ」
「だから僕達はいつも食事の席にいるんだ」
「皆の笑顔を見られるからね」
「そうしているんだよ」
「そうなんですね」
 神宝も納得しました。
「それじゃあ」
「朝聞かせてね」
「一体どんな夢だったか」
「是非ね」
「そうさせてもらうね」
 こう言ってでした、そのうえで。
 皆はテントの中に入って寝ました、かかし達は朝までお互いにトーキングで盛り上がっていましたがその朝にでした。
 皆がそれぞれ日の出と共に外に出て来るとすぐに尋ねました。
「それでどうだったのかな」
「どんな夢だったのかな」
「聞かせてくれるかな」
「うん、まずは僕からでいいかな」 
 最初のモジャボロが言ってきました。
「一番の年長者ということで」
「ええ、どうぞ」
 ジュリアが笑顔でモジャボロに応えました。
「お願いするわ」
「うん、それじゃあね」
「そして次は」
「ジュリアさんがお願いします」
 神宝がジュリアに言いました。
「二番目の年長なので」
「だからなのね」
「はい、そうして下さい。僕達はじゃんけんで決めます」
「そうするのね」
「そうしますので」 
 だからだというのです、こうお話してでした。
 五人はじゃんけんをはじめてモジャボロがかかし達にお話しました。
「僕は林檎の森で皆と楽しくお喋りをしていたんだ」
「君の大好物の林檎に囲まれて」
「そうしてだね」
「大好きな皆とだね」
「うん、どれも楽しいお話でね」
 そのお喋り自体もというのです。
「森の色々な生きもの達も来てね」
「皆で、でだね」
「彼等も含めてだね」
「お喋りをしていたんだね」
「そうだったんだ」
 実際にというのです。
「いや、本当に楽しい夢だったよ」
「うん、モジャボロ君らしいね」
「そうした夢だね」
「満足しているのもわかるよ」
「最高の夢だよ」
 モジャボロにとってです、そしてです。
 次はジュリアでした、ジュリアの夢はといいますと。
「私は王宮にいてね」
「エメラルドの都のだね」
「ジュリアが勤めている」
「そこでだね」
「ええ、朝起きて泳いで朝御飯を頂いてお仕事をして」
 そしてというのです。 

 

第十二幕その八

「ティータイムにお昼御飯を入れて晩御飯を食べて」
「あれっ、いつも通り?」
「そうだよね」
「それじゃあ」
「お風呂に入って自分のお部屋で寝るの」
 そうなっているというのです。
「そうした夢だったわ」
「つまりいつもの暮らしがなんだ」
「ジュリアにとってはいい」
「最高なんだね」
「そうみたい、本当に楽しい夢だったわ」
 日常のそれがというのです。
「とてもね」
「成程ね」
「ジュリアは毎日が楽しくて仕方がないんだ」
「王宮での暮らしが」
「そうなの、皆も一緒にいるから」
 オズマやドロシー達がというのです。
「だから毎日が楽しくて仕方がないの」
「それで夢にも見て」
「とても楽しい」
「そういうことだね」
「そうみたいね」
 笑顔でお話するジュリアでした、そうだったと。
 そして次は五人ですがまずはジョージがでした。
 笑顔で、です。こう言いました。
「僕はオズの国で馬に乗っていました」
「へえ、馬になんだ」
「馬に乗っていてなんだ」
「そうしてなんだ」
「はい、カウボーイをしていました」
 そうだったというのです。
「牧場にいて皆とも一緒で」
「ああ、ジョージは牧場が好きなんだね」
「それにカウボーイが」
「だからなんだ」
「実は将来牧場やりたいんです」
 実際にとです、ジョージはかかし達にお話しました。
「シカゴにいますけれど」
「あちらの世界ではだね」
「その街にいて」
「それでなんだね」
「はい、けれどオズの国ででした」
 その牧場はというのです。
「それで牛や羊達にも囲まれてとても広い牧場でした」
「それでそこにいて」
「そうしてなんだね」
「皆と一緒だったんだね」
「オズの国の皆さんと」
 そうだったというのです、ジョージの夢は。それがとても楽しかったというのです。
 次はナターシャでしたが彼女の夢はといいますと。
「暑い国のビーチに皆と一緒にいました」
「暑い国?」
「そこにいたんだ」
「そうだったんだね」
「はい、外の世界で言うとキューバみたいな」
 そうした感じだったというのです。
「暑くて素敵な国のビーツでトロビカルドリンクを飲んで」
「ああ、フルーツのだね」
「それでストローで飲む」
「ああしたジュースだよね」
「皆で泳いだりビーチバレーをして楽しんでいました」
 それがナターシャの夢だったというのです。
「凄く素敵な夢でした」
「ナターシャは南国が好きなんだね」
「それでだね」
「そうした夢を見たんだね」
「ロシアは寒いですから」
 ナターシャは自分のお国のことを少し悲しそうにお話しました。
「ですから暑い国に憧れてるんです」
「そのことからなんだ」
「ナターシャは暑い国にいたいんだね」
「だからそうした夢を見たんだね」
「そう思います」
 自分で言います、ナターシャはそうでした。
 次はカルロスですが彼の場合は。
「グラウンドで皆とサッカーをしていていました」
「カルロスの大好きなだね」
「サッカーをしていたんだね」
「皆で」
「そうでした、とても白熱した試合でして」
 そのサッカーの試合はというのです。 

 

第十二幕その九

「凄く楽しかったです」
「皆といいサッカーの試合が出来て」
「それでなんだね」
「楽しかったんだね」
「皆でサッカーが出来ていい試合だったら」
 それならというのです。
「これ以上いいことはないです」
「カルロスの最高の夢だね」
「そういうことだね」
「そうした状況が」
「はい、あんないい夢はなかったです」
 実際にというのです。
「また見たいですね」
「うん、わかったよ」
「カルロスの夢のこともね」
「そのこともね」
 三人は笑顔で夢のことをお話するカルロスに笑顔で応えました、そしてそのうえで今度は誰かといいますと。
 恵梨香でした、恵梨香の夢はといいますと。
「皆でお花見をしていました」
「お花見?」
「それをしていたんだ」
「そうだったんだ」
「はい」
 そうだったというのです。
「色々なお花が咲き誇る場所で」
「恵梨香はお花が好きだからだね」
「だからだね」
「お花を見ていたんだね」
「そうだったんだね」
「桜も梅も菊もありまして」
 そしてというのです。
「菖蒲も菫も百合も薔薇も皐月もありまして」
「いいねえ」
「それはまた奇麗だね」
「色々なお花があって」
「色も色々で」
 ただ色々なお花が咲き誇っていただけではなく、というのです。
「赤や紅、ピンクに白に青、紫、黄色にと」
「何か見ていて楽しそうだね」
「特にお花が好きな恵梨香にとってはね」
「最高の夢だったんだね」
「そうでした」
 実際にというのです。
「最高の夢でした」
「それはよかったね」
「恵梨香も満足出来たんだね」
「その夢で」
「そうでした、本当によかったです」
 こうかかし達にお話しました、にこりとして。
 そして最後は神宝でしたが。
「レストランにいました」
「中華料理のかな」
「神宝のお国の中国の」
「それのかな」
「そうでした、とても広くて大きくて席も一杯あるお店で」
 中華料理の、というのです。
「皆で色々な中華料理をどんどん食べていました」
「神宝らしくだね」
「食べることが大好きだから」
「それでだね」
「そうでした、どんどん食べてお茶を飲んで」
 神宝はお茶も大好きです、そのお茶をというのです。
「とても素敵な時間でした」
「しかも皆で」
「皆と一緒に食べてだね」
「楽しかったんだね」
「そうでした、そのお料理もとても美味しくて」
 どんどん出て来るそれもというのです。
「飽きずに食べられました」
「いいね、そうした夢も」
「明るく楽しくて」
「いい感じだったんだね」
「そうでした、本当に」
 神宝もにこりとしてお話しました、そうした夢のお話もしてでした、皆でエメラルドの都に戻ってでした。オズマ達から帰ってきたのを歓迎してもらいましたが。
 ここで、です。ふとでした。五人はこんなことを言いました。
「楽しい夢を見られたけれど」
「あの真珠を見てね」
「けれど人魚の人達は見ないっていうし」
「あの真珠を観ても」
「それはどうしてかしら」
 五人はこのことについて思ったのです。 

 

第十二幕その十

「どうしてあの人達は見なかったの?」
「私達は見たのに」
「あの人達も夢は見る筈なのに」
「どうしてなのかな」
「あの人達は見ていないのかな」
「それは多分ね」
 ジュリアがいぶかしむ五人にお話しました。
「いつもだからよ」
「いつも?」
「いつもっていいますと」
「どういうことですか?」
「ええ、あの人達はいつも見ているの」
 こう五人に言うのでした。
「楽しい夢をね」
「そうなんですか」
「いつも楽しい夢を見てですか」
「いつもそうですから」
「楽しいと感じていない」
「そうなんですね」
「いつもなら思わないでしょ」
 楽しいこともというのです。
「夢も」
「そうですね、いつも楽しいのが普通なら」
「もうそれが全然普通になってですね」
「当たり前になっていて」
「楽しいと思わなくなるんですね」
「そう、あの人達は毎日真珠を見ているのよ」
 女王様が持っているあの真珠をというのです。
「だったらね」
「毎日楽しい夢を見て」
「そうしてですね」
「それが普通になっていて」
「もう特に思うことはない」
「普通だって思って」
「そういうことなのよ、けれど魚人の王様や私達はね」
 毎日見ている人魚の人達以外はといいますと。
「毎日見ていないから普通じゃなくて」
「それで、ですね」
「楽しいと感じる」
「そういうことですね」
「いつもじゃないから」
「そう、あの真珠を観たら最高に楽しい夢を見られるけれど」
 それでもというのです。
「その最高がいつもだと最高に思わないのよ」
「オズの国でもですか」
「それが最高だとですね」
「最高に思わないんですね」
「ええ、オズの国は楽しいことばかりだけれど」
 ジュリアはオズの国のその特質についてもお話しました。
「楽しいにもレベルがあるでしょ」
「はい、凄く楽しいこともあればです」
「最高に楽しいことも普通に楽しいこともあります」
「それにその人それぞれの好みもあって」
「色々違いますね」
「あの真珠はその人にとって最高に楽しい夢を見せてくれるから」
 見ればその夜にです。
「だからこれ以上はない最高だから」
「それが普通になって」
「どうも思わなくなっているんですね」
「人魚の人達は」
「そうだったのよ、夢もね」
 それもというのです。
「その人にとっていつも最高だとそれは最高に楽しくはならないの」
「普通になってしまうんですね」
「ううん、そういうことですか」
「最高の楽しさも毎日なら」
「普通ですか」
「そういうことね、けれど毎日が最高でそれが普通になっているなら」
 夢もというのです。
「それはそれでいいことよね」
「いつもそうならですね」
「素晴らしい夢を見られることが普通なら」
「それならですね」
「ええ、素晴らしいことが普通ならね」
 それならというのです。
「これ以上はないまでに幸せなことでしょ」
「ですよね、確かに」
「そうなりますね」
「それではね」
 ここまでお話してでした、ジュリアは五人ににこりとして言いました。
「貴方達はこれからどうするの?」
「これから?」
「これからっていいますと」
「ええ、貴方達の世界に帰るまでね」
 それまでというのです。 

 

第十二幕その十一

「どうするの?」
「ええと、そう言われますと」
「もう少しお邪魔させてもらうつもりですけれど」
「特に考えていません」
「これといって」
「別にです」
 五人は特に考えていなかったので実際にこう答えました。
「本当にです」
「これといって何もなんです」
「何をしようかっていいますと」
「バチカン本当にです」
 考えていないというのです、その五人の言葉を聞いてでした。ジュリアはにこりと笑って五人にこう言いました。
「それじゃあ王宮の中を歩いてみましょう」
「王宮のですか」
「この中を」
「ええ、かかしさん達もまだおられるしね」
 今はドロシー達と楽しくお喋りをしています。
「だからよかったらの人達もお誘いして」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「皆で王宮の中を歩いていきましょう」
 こう提案するのでした。
「隅から隅までね」
「この王宮物凄く広いですからね」
 神宝はジュリアの提案を聞いて言いました。
「地下もあって」
「そうだよね、塔もあってね」
 ジョージも言います。
「お部屋も多くてね」
「よくいてもね」
 それでもとです、カルロスも考えるお顔で言うのでした。
「隅から隅まで見て回ったことはないね」
「お庭もかなりの広さだし」
 ナターシャはお庭のお話をしました。
「あそこも回るのならもうかなりね」
「こんな広い宮殿はお外の世界にはないんじゃないかしら」
 恵梨香が思う限りはです。
「ベルサイユ宮殿とかより広いんじゃないかしら」
「その宮殿を回っていきましょう」
 また言ったジュリアでした。
「隅から隅までね」
「わかりました」
「それじゃあこれからですね」
「この王宮を隅から隅までですえん」
「見て回るんですね」
「それも皆で」
「そうしましょう、私はここにずっとお勤めしているから知っているけれど」
 まさに隅から隅まで、です。
「貴方達は違うわよね」
「はい、実は」
「おおよそ位しか知らないです」
「とにかく広いので」
「それで」
「だったら余計によ、よくここに来ているのだし」
 このこともあってというのです。
「見て回りましょう」
「わかりました」
「じゃあ今からお願いします」
「かかしさんと木樵さんもお誘いして」
「ジャックさんも」
「そうしましょうね、これも冒険よ」
 王宮の中を見回ることもというのです。
「では楽しんでいきましょう」
「そうしましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆で今度は王宮の中を見回るのでした、隅から隅まで歩いて回るとそれこそもうたっぷり時間がかかるその中を楽しんで。


オズのジュリア=ジャム   完


                         2017・3・11