英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇


 

プロローグ~放蕩皇子の最後の悪あがき~

七耀歴1206年、1月20日――――





エレボニア内戦終結から約1年半。



大陸最大の貿易都市クロスベル自治州を東の大国にして宿敵カルバード共和国と領有権争いをしていたエレボニア帝国であったが、約1年半前に起こった内戦にて戦力、国力共に大きく落とす事になった。



それは――――内戦の最中、四大名門の一角、”アルバレア公爵家”の当主が手柄欲しさに唯一貴族連合軍の魔の手から逃れていたエレボニア帝国の皇女――――アルフィン・ライゼ・アルノール皇女を拉致する為にアルフィン皇女が藁にも縋る思いで頼った14年前の”百日戦役”にて突如現れた異世界の大国―――メンフィル帝国によって占領、そしてメンフィル帝国領化した事でメンフィル帝国に帰属した元エレボニア貴族にして、エレボニア皇家とも縁があるユミルの領主――――”シュバルツァー男爵家”に匿われていたアルフィン皇女が匿われている”温泉郷ユミル”を猟兵達に襲撃させた。



この襲撃によってアルフィン皇女は貴族連合軍の関係者によって、貴族連合の”主宰”である”四大名門”の一つ―――”カイエン公爵家”の当主であるカイエン公爵の元へと連れていかれ、更に領民達を守る為に自ら剣を取って猟兵達を撃退しようとしていたシュバルツァー男爵は逃げ遅れた領民達を人質に取られて戦えなくなり、そして猟兵達の発砲を受けて重傷を負った。



重傷を負ったシュバルツァー男爵であったが、幸いにも応急手当が早かった事や急所を外れていた事、また翌日にユミル襲撃の報を知って事情を聞く為にシュバルツァー男爵の跡継ぎであり、メンフィルの次代の女帝、リフィア・イリーナ・マーシルン皇女の親衛隊に所属しているリィン・シュバルツァーやリィンの婚約者達、そして前メンフィル皇帝にして現メンフィル大使であるリウイ・マーシルンと共にユミルを訪問したリウイの側室の一人であり、異世界の宗教の一つ―――アーライナ教の”神格者”であるペテレーネ・セラとリィンの婚約者の一人にしてリィンに力を貸している古神―――”慈悲の大女神”アイドスの治療によって、事なきを得た。



そしてユミルが襲撃された理由を知ったメンフィル帝国はリベール王国の王都、グランセルに存在するエレボニア帝国の大使館を通してエレボニア帝国にユミル襲撃に対する謝罪や賠償を求めたが、貴族連合側はメンフィル帝国の要求に対して一切応えず、その結果メンフィル帝国はエレボニア帝国に宣戦布告し、内戦で混乱しているエレボニア帝国侵略を開始した。



新兵器、”機甲兵”によって正規軍を圧倒していた貴族連合軍であったが”ゼムリア大陸真の覇者”の異名を持つメンフィル帝国軍の前には為す術もなく殲滅され続け、僅か1週間でエレボニアの”五大都市”である”バリアハート”と”オルディス”に加えて貴族連合軍の旗艦であった”パンダグリュエル”が占領され、更に戦争勃発の元凶である現アルバレア公爵―――ヘルムート・アルバレア公爵夫妻、貴族連合軍の総参謀であり、アルバレア公爵家の跡継ぎでもあったルーファス・アルバレア、”領邦軍の英雄”の一人として称えられていた武人―――”黄金の羅刹”オーレリア・ルグィン将軍、カイエン公爵家の跡継ぎであったナーシェン・カイエンと結社”身喰らう(ウロボロス)”を始めとした貴族連合軍の”裏の協力者”の約半数が討ち取られるという大損害を受けた。



貴族連合軍が殲滅され、エレボニア帝国がメンフィル帝国に占領されるのも時間の問題かと思われていたが、エレボニア皇家である”アルノール皇家”に対して罪悪感を感じ続けているシュバルツァー男爵夫妻の為に両帝国の戦争を”和解”という形で終結させることを決意したリィンの戦争での活躍によって、エレボニア帝国は多くの領土をメンフィルに贈与する事や”帝国の至宝”と称えられていたアルフィン皇女をメンフィル帝国の関係者に嫁がせる等数々のメンフィル帝国が要求した条件を呑み、”和解”という形で終結した。



メンフィル・エレボニア戦争終結後、メンフィルが要求した和解条約によってリィンを始めとしたメンフィルが結成した少数精鋭部隊―――”特務部隊”がエレボニアの内戦に介入し、特務部隊と特務部隊の指揮下に入ったトールズ士官学院の学生達や正規軍、そして貴族連合軍から脱退した領邦軍がメンフィル・エレボニア戦争の最中にメンフィルが貴族連合軍から拉致したアルフィン皇女を旗印にした連合軍を結成し、貴族連合軍によって占領されている帝都ヘイムダルを奪還、更に幽閉されていたユーゲント皇帝達を救出、そして貴族連合軍の”主宰”であるカイエン公爵を討ち取った事でエレボニアの内戦は終結した。



内戦終結後、エレボニアにとって青天の霹靂の出来事が起こる。それは――――”クロスベル独立国”を建国したクロスベルの大統領、ディーター・クロイス政権に対して反旗を翻した”六銃士”達によってディーター・クロイス政権は瞬く間に倒れて”クロスベル帝国”が建国され、クロスベル帝国はメンフィル帝国と同盟を組んで東の大国、カルバード共和国を占領し、占領した領地をメンフィル帝国と分けて自国の領土と化し、更にメンフィル帝国との和解条約で贈与した元エレボニア帝国の領地の一部をメンフィル帝国が贈与された事だった。これらの出来事によってかつて領有権争いをしていたクロスベルに”下克上”をされてしまい、クロスベルはメンフィルに次ぐ名実ともに大陸最大の国家へと成長した。



内戦の最中に起こったメンフィル帝国との戦争による事実上の”大敗北”、クロスベルによる下克上、そしてメンフィル帝国に要求された和解条約の実行等によってエレボニア帝国は内戦以上の混乱の極みに陥りかけたが、内戦勃発直前に射殺されたと思われていたギリアス・オズボーン宰相がエレボニア帝国政府に復帰して指揮を取り、最小限の被害で混乱を治めた。



数ヵ月後、エレボニア帝国は大きく落とした国力を少しでも回復させる為に、ユミルを襲撃した張本人である”北の猟兵”達が所属している北方のノーザンブリア自治州に”北の猟兵”がエレボニア帝国が衰退する事になってしまったメンフィル帝国との戦争勃発の原因の一端を担っている事を理由に侵攻し、新たなエレボニア帝国領として併合した。



そして貴族連合軍の敗北とオズボーン宰相の復帰により、帝国政府による中央集権化が加速し、税制も統一されることで、貴族に統治されていた地方は混乱・弱体化し、またノーザンブリア自治州に侵攻、併合化した事でアルフィン皇女が当時ゼムリア大陸に一時的に降臨した”空の女神”エイドスの前で誓った条件を反故に近い行動を取った事からエレボニア帝国と七耀教会との関係が険悪化した事によって新たな問題も生まれつつあった。



そんな中―――かつて内戦で暗躍し、退けられ、リウイを始めとしたメンフィル帝国の精鋭部隊や諜報部隊によってトップである”盟主”や多くの”蛇の使徒”が暗殺され、更に”蛇の使徒”の一人にして”結社最強”の武人―――”鋼の聖女”アリアンロードの結社からの脱退、並びにメンフィルへの寝返りによってもはや崩壊したと思われていた結社”身喰らう(ウロボロス)”の残党や亡霊が、数多の猟兵団の動きに紛れるように、エレボニア帝国で密かに動き出そうとしていた。



エレボニア帝国に新たな動乱が起ころうとしている中、内戦終結後オズボーン宰相がエレボニア帝国全土を掌握し、大きく落とした国力を回復させる為の周辺地域への侵攻・領土拡大が推し進められる中、オズボーン宰相の政略によってヴァンダール家がアルノール皇家の守護職を解かれた事によって己の権限が弱体化されてしまった事を悟り、またトールズ士官学院の完全な軍事学校化を知ったオリヴァルト皇子は”最後の悪あがき”として”第Ⅱ分校”の設立を提唱し、更にオズボーン宰相に対抗すべく、エレボニア帝国内だけでなく、リベール、クロスベルとかつて自身が関わった”リベールの異変”や”影の国”事件時で培った人脈に自身への協力を働きかけ続け、最後に自身への協力者として必須である人物に協力してもらう為にその人物が所属しているメンフィル帝国の大使を務めているリウイを訪ねていた。



~リベール王国・ロレント市郊外・メンフィル大使館~



「―――お久りぶりです、リウイ陛下。メンフィル・エレボニア戦争が終結してからまだ2年も経っていないにも関わらず、元”敵国”であったエレボニア皇族の一員である私の訪問に応えて頂き、誠にありがとうございます。」

「……エレボニアが和解調印式で調印した”和解条約”を全て実行したのだから”俺自身”は今更ユミルの件を蒸し返すつもりはない。一体何の用でここに来た。」

会釈をしたオリヴァルト皇子の言葉に対して静かな表情で答えたリウイは真剣な表情になって問いかけた。

「……実は今日こちらを訪ねさせて頂いたのはリウイ陛下―――いえ、メンフィル帝国に協力して頂きたい事がありまして。」

「メンフィルに協力だと?その協力する相手はエレボニアか?それともお前自身か?」

オリヴァルト皇子の答えを聞いて眉を顰めたリウイは再度問いかけた。

「勿論私自身への協力です。実は―――――」

そしてオリヴァルト皇子はリウイにトールズ士官学院の分校である”第Ⅱ分校”を設立した事やその理由を説明した。



「―――なるほどな。それがお前の”最後の悪あがき”……か。しかしそうなる前に何故”鉄血宰相”を排除しなかった?”特務部隊”による活躍で”貴族派”に加えて”革新派”も一時的に衰退し、更に”鉄血宰相”自身内戦終結に何の貢献もしていない所か正規軍の指揮権を持っている”宰相”としての働きすらもしなかったのだから、それを理由に奴を帝国政府から完全に追放できる絶好の機会だったはずだ。」

「ハハ………やはりその件について聞かれると思いました。宰相殿を追放しなかった理由は二つあります。一つは私自身、内戦終結後に起こるエレボニアの混乱を鎮める為には宰相殿の協力も必要と思った私の甘さです………」

リウイの指摘に対してオリヴァルト皇子は疲れた表情で答えた。

「……その結果国内の混乱を最小限の被害で治める事はできたようだが、”北方戦役”やエレボニア内戦勃発、そしてメンフィル・エレボニア戦争勃発の原因の一端を”零の至宝”が担っている事を理由に、クロイス家が”零の至宝”を創る原因となった至宝を”空の女神”がクロイス家の先祖に授けた事を理由に、リベールのようにエレボニア帝国政府や皇家を庇う宣言を”空の女神”がする事を要請した事で”空の女神”の逆鱗に触れた挙句七耀教会との関係は険悪化したのだから、お前の言う通り、奴に頼る事は浅はかな考えだったようだな。」

「返す言葉もありません………まさか宰相殿がわざわざ私やミュラー君を訊ねて来てくれた”空の女神”達と面会した挙句、内戦やメンフィルとの戦争勃発の責任を”空の女神”にまで押し付けて、”空の女神”に帝国内で起こった混乱を鎮める為の宣言をするように要請―――いや、強要するというまさに言葉通り”神をも恐れぬ”行動をするとは、完全に想定外でした………」

「フッ、だがそんな”鉄血宰相”の”強要”もあのエステルの先祖である”空の女神”相手では何の意味もない―――いや、むしろ”逆効果”だったようだがな。」

「ハハ、それに関しては同感です。”空の女神”が宰相殿の自身に対する主張を否定した上、宰相殿自身がエレボニアが衰退する原因の一端を担っている事を真っ向から指摘し、更に”空の女神”である自身に協力を強要した事を理由に、自身に協力を強要した事を土下座で謝罪し、再び協力の強要や自身や周りの者達に対する暗躍をしない事を約束しなければ宰相殿―――いえ、”革新派”に所属している人達全員を”外法認定”かつゼムリア大陸歴史上初の”神敵認定”すると宰相殿を”脅迫”した上宰相殿に命中しないギリギリの距離で大技を放って部屋の大部分を破壊して、宰相殿をその場で土下座させて謝罪させ、約束させた事を聞いた時はさすがはあのエステル君の先祖だと思いましたし、胸がスッとしましたよ。」

不敵な笑みを浮かべたリウイの話を聞いてかつての出来事を思い出したオリヴァルト皇子は苦笑していた。

「……それで?もう一つの理由は……――――ユーゲント皇帝か。」

「ハハ、さすがリウイ陛下ですね。父上は私以上に宰相殿の協力が必要と判断し、宰相殿を復帰させたのです………――――最も”空の女神”の件も含めて、今では宰相殿を復帰させた事を後悔しているような節は見られますがね………」

リウイの問いかけに対して答えたオリヴァルト皇子は疲れた表情で溜息を吐いた。



「話を戻すが……メンフィルに協力して欲しい事とは一体なんだ?今まで聞いた話から推測すると”第Ⅱ分校”が関わっているようだが……」

「……遠回しな言い方はせず、直截に答えさせて頂きます。メンフィル・エレボニア戦争で生まれた英雄にしてエレボニアの内戦終結に大きく貢献したメンフィルとエレボニア、両帝国の英雄――――リィン・シュバルツァーを始めとしたメンフィル帝国に所属している方達に一時的で構いませんので”第Ⅱ分校”の”教官”を務めて欲しいのです。」

リウイに話の続きを促されたオリヴァルト皇子は決意の表情になって答えた。

「何?リィン・シュバルツァー達を”第Ⅱ分校”の”教官”にだと?理由はなんだ。」

「理由は……宰相殿に対抗する為にはかつての”Ⅶ組”―――いや、あの時以上のように”第三勢力”による”風”を吹かせる必要があるからです。ちなみにこちらを訊ねる前にリベールやクロスベルにいる私の知人達にも訊ねて理由を説明して協力を嘆願し、その嘆願に応えて頂きました。」

「リベールだけでなく、エレボニアにとっては新たなる”宿敵”となったクロスベルにまで協力の嘆願をするとはな……よく”鉄血宰相”による横槍が入らなかったな?」

オリヴァルト皇子の説明を聞いたリウイは興味ありげな表情で訊ねた。

「ミュラー君達――――”ヴァンダール家”がアルノール皇家の守護職を解かれた事で、もはや私は取るに足らない相手か、もしくは”放蕩皇子”の”最後の悪あがき”と判断して私を泳がせる為に敢えて横槍を入れなかったかもしれません。」

「…………ちなみにリベールとクロスベルの関係者は誰が”第Ⅱ分校”に関わる事になっている?」

「リベールからはティータ君が”第Ⅱ分校”の留学生として留学し、アガット君はティータ君を守る為かつ”ハーメルの惨劇”の真相を探る為にまだ残存している帝国の唯一のギルドの助っ人としてとして帝国入りする事になりましたし、クロスベルはギュランドロス皇帝が”戦術科Ⅷ組”の担当教官に、リィン君と同僚であった”あの”特務支援課のランディく―――いや、ランドルフ君がギュランドロス皇帝を補佐する”Ⅷ組”の副担当教官として一時的に就いてくれることになりました。」

「……おい。何故一国の皇帝が―――それもエレボニアに憎悪を抱かれている皇帝の一人が”第Ⅱ分校”の教官を務める事になったのだ?」

オリヴァルト皇子の話を聞いてあるとんでもない事実に気づいたリウイは表情を引き攣らせて指摘した。



「いや~、ヴァイス―――ヴァイスハイト皇帝にランドルフ君を”第Ⅱ分校”の教官として派遣する依頼の話をした際に同席していたギュランドロス皇帝が『”仮面の紳士ランドロス・サーキュリー”再臨の時が来たぜ!』と突然言い出して、担当教官を申し出てくれたんですよ。ちなみにランドルフ君は副担当教官です。」

「………意味がわからん………というかよくヴァイス達はそんな理由で皇帝自らが他国の士官学院の教官になるという前代未聞の出来事を許したな……」

苦笑しながら答えたオリヴァルト皇子の説明を聞いたリウイは頭を抱えて呟いた後疲れた表情で溜息を吐いて自身の疑問を口にした。

「ハハ、ヴァイス曰く『ギュランドロスの型破り過ぎる行動にまともに付き合う必要はないし、ギュランドロスのバカな行動は止めようとする方が時間の無駄だ』と言って投げやりな様子で賛成しましたし、ギュランドロス皇帝に元々仕えていた”三銃士”の人達も『またギュランドロス様の悪い癖が始まった』と苦笑いしていました……まあ、エルミナ皇妃だけは猛反対していましたけど、最後は折れてギュランドロス皇帝の説得を諦めました。」

「…………………それで?先程リィン・シュバルツァーを始めとしたメンフィル所属の者達を派遣して欲しいと言っていたが、後は誰を何の役割として派遣して欲しいのだ?」

オリヴァルト皇子の話を聞いて当時の光景を想像したリウイは表情を引き攣らせたがすぐに頭の片隅に追いやって話を戻した。

「―――こちらのリストに乗っている人物達にそれぞれの役割に就いて欲しいのです。」

そしてオリヴァルト皇子は一枚の紙をリウイに渡した。





”第Ⅱ分校特務科Ⅶ組”担当教官 リィン・シュバルツァー 





”第Ⅱ分校主計科Ⅸ組”担当教官 レン・ヘイワーズ・マーシルン





”第Ⅱ分校宿舎”管理人 アルフィン・シュバルツァー





”第Ⅱ分校校長” リアンヌ・ルーハンス・サンドロッド





「……………おい。リィン・シュバルツァーの件は一端置いておくとしても何だ、この人選は?お前はエレボニアに新たな混乱を巻き起こすつもりか?」

紙に書かれてある人物の名前や役職に目を通したリウイは頭痛を抑えるかのように片手で頭を抱えてオリヴァルト皇子に問いかけた。

「ハハ、今の宰相殿を相手にするには。常識では考えられない人達の協力が必要だと判断した事もそうですがギュランドロス皇帝が”第Ⅱ分校”に来る時点でリウイ陛下の指摘は”今更”だと思いましたので、開き直ってその人選にしました♪」

「ハア……………それにしても和解条約でリィンに降嫁した事でエレボニアから完全に退場したアルフィン皇女―――いや、アルフィン夫人まで関わらせようとするとは……まさか”鉄血宰相”を排除した後のエレボニアの政治にアルフィン夫人を関わらせる為の足掛かりにするつもりか?」

オリヴァルト皇子の答えを聞いて疲れた表情で溜息を吐いたリウイだったが、すぐに気を取り直して目を細めてオリヴァルト皇子に問いかけた。

「いやいや、家族を―――妹を政治利用すると言った愚かな事は一切考えていません。もし、そんな事をすれば私はアルフィンに嫌われる上、メンフィルに加えてリィン君達にも完全に敵対視されますしね。………”第Ⅱ分校”の件にアルフィンまで関わらせる理由は色々とありますが……一番の理由はセドリックを思いとどまらせる為です。」

「セドリック皇太子だと?…………そう言えば、退院後のセドリック皇太子はまるで別人のように随分と様変わりしたそうだな。」

オリヴァルト皇子の話を聞いて眉を顰めたリウイだったが、ある事を思い出して真剣な表情でオリヴァルト皇子を見つめた。

「…………はい。今のセドリック皇太子は昔の面影が全く見えない程逞しくなり、自信をみなぎらせているのです。」

「衰退したエレボニアの次代の皇帝として期待できる器へと成長した事はエレボニアとしても、心強いのではないか?―――いや、お前はセドリック皇太子の急変に危機感を抱いているのか。」

「ええ…………セドリックに一体何があって、あのように変貌したか未だにわかりませんが………今のセドリックは時折宰相殿と重なるように見える事があるんです。それにヴァイス達――――”クロスベル帝国”を敵対視しているような様子を見せる所か、1年半前の”和解条約”や内戦の件でアルフィンに対する皮肉な発言をした事もあるのです………」

リウイの推測にオリヴァルト皇子は辛そうな表情で頷いて答えた。



「…………………アルフィン夫人を再びエレボニアに関わらせようとするのは、セドリック皇太子にアルフィン夫人が自身と帝位継承争いする為に再びエレボニアに姿を現したと錯覚させてセドリック皇太子の野心や暴走を思いとどまらせる為か。」

オリヴァルト皇子の話を聞いて厳しい表情で考え込んでいたリウイはオリヴァルト皇子に問いかけた。

「はい。」

「………俺はセドリック皇太子を思いとどまらせる所か、むしろ逆にその事でセドリック皇太子が焦り、己の心に秘めていた野心をさらけ出して暴走する後押しになると思うがな。」

「それならそれでいいんです。後になればなるほど、”後戻りができない事”へと発展する可能性が高いでしょうから、そうなる前に対処すれば、セドリックがやり直せる機会が訪れる可能性を残せます。」

リウイの指摘に対してオリヴァルト皇子は決意の表情で答えた。

「……ほう?まさかセドリック皇太子を千尋の谷へと突き落とす事を考えているとは……正直驚いたぞ。」

オリヴァルト皇子の答えを聞いたリウイは興味ありげな表情でオリヴァルト皇子を見つめた。

「……正直な所、今でも迷っています。ですが、”その程度の覚悟”を持たないとエレボニアは滅びの道を歩んでしまう……私はそう思っているんです。」

「………………仮にセドリック皇太子の野心が暴走し、その暴走を未然に食い止めたとしても、セドリック皇太子は責任を取る為によくて帝位継承権剥奪。最悪は廃嫡や自害もありえる事はわかっているのか?」

「勿論わかっています。もしそうなった時でも最悪セドリックの命が失われる事は絶対に阻止するつもりです。」

「ユーゲント皇帝の跡継ぎはどうするつもりだ。もし唯一の帝位継承権を所有しているセドリック皇太子の帝位継承権が剥奪されるような事があれば、ユーゲント皇帝―――次代のエレボニア皇帝に即位できる者がいなくなる事態に陥る事はお前もわかっているはずだが?」

「その時は…………――――リィン君とアルフィンの間に産まれてきた子供を次代のエレボニアの皇帝にする事を父上や帝国政府に提案するつもりです。アルフィンは元々帝位継承権を所有していたのですから、アルフィンの子供ならば帝位継承権を所有する”資格”はあります。」

「…………二人の子供を次代のエレボニア皇帝に即位させる………それはどういう意味を示しているのか、理解して言っているのか?」

オリヴァルト皇子の説明を聞いたリウイは目を細めてオリヴァルト皇子に問いかけた。



「はい。リィン君とアルフィンの子供がエレボニア皇帝として即位した場合、エレボニアの民達がその事実を受け入れやすくする為の下準備……それがリィン君達を”第Ⅱ分校”に派遣してもらう為の私がメンフィルに提示する”対価”です。」

「……………………………確かトールズ士官学院の”本校”は2年で卒業だったな。分校も同じなのか?」

オリヴァルト皇子の答えを聞き、少しの間目を伏せて考え込んでいたリウイは目を見開いてオリヴァルト皇子に訊ねた。

「ええ、”第Ⅱ分校”も単位を落とさなければ2年で卒業する事になっています。」

「そうか……………――――2年だ。」

「え………」

突然答えたリウイの言葉の意味がわからなかったオリヴァルト皇子は呆けた声を出したが

「2年間だけ、皇子の望み通りリィン達を派遣してやる。その間に”鉄血宰相”やセドリック皇太子との決着をつけろ。」

「!!寛大なお心遣い、心より感謝致します……!必ずや陛下のご期待に応えますので、どうかリィン君達の派遣の件、よろしくお願いします……!」

やがてリウイが自分の要望に応える事に気づくと頭を下げて感謝の言葉を述べた。

「―――ただし、条件が二つある。その条件を呑めるなら、俺がリィン達の説得を必ずする事を確約してやる。」

「……ちなみにその条件とは?」

しかしリウイの口から出た答えを聞いたオリヴァルト皇子はすぐに真剣な表情になってリウイを見つめて続きを促した。



「一つ目の条件はリィン達の”補佐役”として、こちらが選定した人物達にも”第Ⅱ分校”に何らかの形で関われるように手配する事だ。なお、その人物達の”第Ⅱ分校”での役割はこちらが指定する。」

「そのくらいでしたら構わ―――いえ、むしろ私としてもありがたいので、是非お願いします。もう一つの条件とは何でしょうか?」

「もう一つの条件はエレボニア帝国の政府、軍関係者による”命令”に対して補佐役を含めたメンフィルから派遣された者達が拒否権を発動できる特権をユーゲント皇帝に認めさせておく事だ。」

「フッ、その点はご安心下さい。既にヴァイス達からもその条件が出され、父上を説得して認めさせましたし、その際にメンフィルも認めるように説得致しました―――――」

リウイが口にした条件の内容を知ったオリヴァルト皇子は安堵し、静かな笑みを浮かべて答えた。





3月31日――――





~メンフィル帝国領バリアハート市・バリアハート駅~



お待たせしました。ヘイムダル行き旅客列車が参ります。白線の内側までお下がり下さい。



「………来たか。」

数ヵ月後、バリアハートの駅構内で列車を待っていた真新しい教官の服装を纏ったリィンは放送を聞くと静かな表情で呟き

「確かレン皇女殿下達は先にリーヴス入りしているのでしたわね?」

「ええ。それよりもセレーネ、学院にいる間はレン皇女殿下達の事は”教官”や”分校長”と呼ぶように心がけた方がいいと思うわよ。」

「あ……そうでした。ご指摘、ありがとうございます、エリゼお姉様。」

女性用の真新しい教官服を身に纏ったセレーネはエリゼに指摘されるとエリゼに感謝の言葉を述べ

「ふふっ、”第Ⅱ分校”に入学した学院生達は”分校長”を含めたお兄様が集めた分校の関係者の面々を知れば、きっと驚くでしょうね♪」

「むしろ驚かない方がありえないかと。」

真新しいメイド服を身に纏っているアルフィンの言葉を聞いた真新しい学生服を身に纏っているアルティナはジト目で指摘し

「あの……アルフィンさん自身も驚かれる存在だと思われるのですが……」

「祖国の皇女が宿舎の管理人をするなんて、絶対に誰も信じられない出来事だものね……」

苦笑しながら指摘したセレーネの言葉に同意するかのようにエリゼは呆れた表情で呟いた。

「フフッ、今のわたくしは旦那様―――エレボニアとメンフィル、両帝国の英雄にして未来のクロイツェン統括領主であるリィンさ―――いえ、ロード=リィンの妻の一人ですわ♪」

「う”っ……頼むから俺を”英雄”とか”ロード”とか呼ぶのは勘弁してくれ、アルフィン……」

微笑みながら答えたアルフィンの言葉を聞いたリィンは唸り声を上げた後疲れた表情でアルフィンに指摘した。

「ふふっ、わたくしは事実を言っただけですわよ?――――これからの宿舎生活によるリィンさんを含めた皆さんへのお世話で迷惑をかけるかもしれないけど、よろしくね、エリゼ。」

「ええ、こちらこそよろしくね、アルフィン。」

「ハハ……さてと、行こう、みんな。”リーヴス”へ――――」

アルフィンとエリゼのやり取りを微笑ましく見守っていたリィンは到着した列車にエリゼ達に乗るように促し

「「「「はい!」」」」

リィンの言葉にエリゼ達は頷いた後列車に乗りこんだ。





こうして再びエレボニアの運命に関わる事になったリィン達を乗せた列車はエレボニアで新たなる”軌跡”を描く者達にとっての始まりとなる地に向かい、走り出した――――――
 

 

第1話

~近郊都市リーヴス~



「ここがリーヴスですか………」

「どことなくトリスタと似ている町だな……っと。あれがそうか。話に聞いていた通り、確かにまだ完成したばかりの施設みたいだな。」

駅から降りたセレーネは初めて見る光景を興味ありげな様子で見回し、リィンはかつて関わったある町を思い出した後町の奥に見える建物に気づいた。

「えっと……ヴァリマールさんは敷地の格納庫に運んでくれるとの事ですわよね?」

「ああ。」

「マスター。」

「ん?どうしたんだ、アルティナ。」

セレーネの言葉にリィンが頷いたその時アルティナがリィンに声をかけ、声をかけられたリィンはアルティナに視線を向けた。

「わたしは先に学院に向かいます。入学案内に書いてあった”生徒”の分校の入学式の集合時間が迫っておりますので。」

「兄様、私達も宿舎の方に向かいますのでお先に失礼します。」

「ああ、わかった。みんな、また後でな。」

アルティナとアルティナに続くように答えたエリゼの言葉にリィンは頷いた。

「ふふっ、今日から2年間、お互いに頑張りましょうね、旦那様♪」

「ムッ………」

「ア、アハハ………」

「えっと……せめて生徒達の前でその呼び方で俺を呼ぶのは止めてくれないか、アルフィン。何て言うか……公私混同しているように見えて生徒達に教官としての示しがつかないし。」

アルフィンのリィンに対する呼び方を聞いたエリゼがジト目になり、エリゼの様子を見たセレーネが苦笑している中リィンは困った表情でアルフィンに指摘した。

「ふふっ、そうですか?わたくしと旦那様の関係が”夫婦”である事は周知の事実なのですから、わたくしは別にわざわざ呼び方を変える必要はないと思っていますわ。」

「……まあ、確かに少なくてもエレボニアの人々にとってマスターはアルフィン様との関係の件も含めて”あらゆる意味で有名”ですから、マスター達の”夫婦”としての関係を生徒達が見てもあまり驚かないと。」

「ア、アルティナさん。」

「それでもエレボニアの人々は確実に驚くわよ……アルフィンは”元”エレボニアの皇女で、”帝国の至宝”の名で有名な事もあるけど、アルフィンはエレボニアがメンフィルと和解する為―――つまり政略結婚で”仕方なく”兄様に嫁いだ事になっているのだから……」

アルフィンの言葉に同意しているアルティナの様子にセレーネが冷や汗をかいている中、エリゼは疲れた表情で呟いた。

「うふふ、だったらいっそ”仕方なく”旦那様に嫁いだはずのわたくしが旦那様との仲がとても良好である事を見せる事で、わたくしの事を心配してくださったエレボニアの人々を安心させるべきかもしれませんわね♪」

「頼むから、プライベートはともかく俺との関係は生徒達の前や公の場では宿舎の管理人として振る舞ってくれ………」

からかいの表情で答えて腕を組んで豊満な胸を押し付けてきたアルフィンの言葉と行動にエリゼ達が冷や汗をかいて脱力している中リィンは疲れた表情で指摘した。



「ふふっ、愛する旦那様の頼みなのですから、仕方ありませんわね。―――それでは”リィンさん”、わたくし達は一端失礼いたしますわ。」

「ああ。――――ベルフェゴール、リザイラ。以前に打ち合わせた通りアルフィンとエリゼの護衛、よろしく頼む。」

「ええ、大船で乗った気でいていいわよ♪」

「ふふふ、まあ私達の出番がない事が一番いい事なのですけどね。」

アルフィンの言葉にリィンは頷いた後ベルフェゴールとリザイラを呼び、呼ばれた二人はそれぞれリィンの身体の中から出て来た後リィンの指示に頷いた後それぞれ魔術で自身の姿を消してアルティナとは別の方向へと向かって行くエリゼとアルフィンの後を追って行った。

「リィン君にセレーネちゃん……?」

「え………」

「まあ……!トワさん、お久しぶりですわね……!」

突然聞こえた聞き覚えのある声にリィンが呆けている中、自分達に声をかけた人物―――トワに気づいたセレーネは目を丸くした後女性に微笑んだ。

「あははっ!うん、二人とも本当に久しぶりだね……!はあ~っ………リィン君は雑誌とかで見てはいたけど大人っぽくなったねぇ!セレーネちゃんも、以前の時より更に大人っぽくなったように見えるよ!」

「フフッ、そうですか?お兄様と違って、わたくし自身は身体の成長はしていないのですが……」

「ハハ、セレーネの場合は精神的に成長しているって意味だと思うぞ。―――って、ちょっと待ってください!どうしてトワさんがそんな恰好で俺達の就職先の街にいるんですか!?」

トワの言葉に苦笑しているセレーネを微笑ましそうに見守りながら指摘したリィンだったがある事に気づくと困惑の表情でトワを見つめた。その後リィンとセレーネはトワと共に学院に向かいながら、トワからトワがリーヴスにいる事情等を説明してもらった。



「はあ……まさかトワさんが分校の教官に就職していたなんて……」

「本当に驚きましたわね……」

「ふふっ、ごめんね。わたしの方は知ってたけど。でも、二人の方だってある程度は聞いてると思ってたよ。」

それぞれ驚いている様子のリィンとセレーネに苦笑したトワは話を続けた。

「いえ、2ヵ月前に突然”分校”の臨時教官に就くようにプリネ皇女殿下達を通してリウイ陛下から指示が来まして……この2ヵ月間、プリネ皇女殿下達の補佐に教官としての心構え等を学ぶ事も加わりましたから、俺とセレーネは色々と忙しかったので……」

「一応レン皇女殿下―――いえ、レン教官もわたくし達のように分校の臨時教官として赴任する事だけは説明されていますわ。」

「そうだったんだ……ふふっ、2年間だけとはいえ、リィン君達とまた一緒に協力し合う事になるなんて、わたしにとっては嬉しいサプライズだったよ。」

「トワさん……――――遅くなりましたが、改めましてご卒業おめでとうございます。」

「ご卒業おめでとうございます、トワさん。」

「……二人ともありがとう。ふふっ、ちょっと嬉しいな。わたしも二人にとっての『先輩』になったのだから。」

一端立ち止まってリィンとセレーネの祝福の言葉に微笑んだトワは嬉しそうな表情で二人を見つめた。

「ハハ、そうですね。―――改めてよろしくお願いします、トワ先輩。」

「お兄様共々、頑張りましょうね、トワ先輩。」

「えへへ……うん!」

リィンとセレーネの言葉に嬉しそうな様子で頷いたトワはリィン達と共に再び歩き始めた。



「それで……先輩は一足先に赴任したんですよね?トールズ士官学院の”分校”………実際どういう状況なんですか?」

「うん………二人ともここの臨時教官を務める話が出た時に色々な事を言われたと思うんだけど。多分、思っている以上に難しくて大変な”職場”だと思う。」

「それは………」

「そうですか……話を聞いて覚悟はしていましたが。”同僚”の方々とは一通り?」

リィンの質問に答えたトワの答えを聞いたセレーネは不安そうな表情をし、リィンは静かな表情で呟いた後質問を続けた。

「うん、もう挨拶して二人が最後になるかな。これから紹介するけど……その、心を強く持っててね?」

「え、えっと……それはどういう意味でしょうか?」

「………なんだか胃がキリキリしてきそうなんですが。」

トワの忠告にセレーネは表情を引き攣らせ、リィンは疲れた表情で呟いた。

「だ、大丈夫、大丈夫!わたしだって同じ立場なんだから!それに”同僚”の中には二人の”知り合い”もいるから、大丈夫だよ!」

「へ……俺達の”知り合い”、ですか?」

「それはレン教官以外の方を示しているのでしょうか?」

トワの言葉にリィンが呆けている中セレーネは不思議そうな表情でトワに訊ねた。

「うん、会えばわかるよ。同じトールズの教官として……かつて一緒に戦った”特務部隊”の仲間として力を合わせて乗り越えて行こうね!」

「ふう………了解です。―――っと、あれが………」

学院の正門に到着したリィンはセレーネと共に学院を見上げた。



「……デザインは違っても同じ”有角の獅子紋”なんですね。」

「うん、わたしたちの新たな”職場”の正門………――――ようこそ、リィン君、セレーネちゃん。ここリーヴスに新たに発足する”トールズ士官学院・第Ⅱ分校”へ――――!」

セレーネの言葉に頷いたトワは振り返って笑顔でリィンとセレーネに歓迎の言葉をかけた。



~トールズ第Ⅱ分校・本校舎・軍略会議室~



「――――よく来たな。リィン・シュバルツァー君にセレーネ・L・アルフヘイム君。鉄道憲兵隊所属、ミハイル・アーヴィングだ。出向という形ではあるが、本分校の主任教官を務める予定だ。」

トワの案内によって会議室に通された二人を迎えた金髪の青年――――ミハイル・アーヴィング少佐は自己紹介をした。

「ハハッ、まさかこんな形で再会する事になるとはな。―――久しぶりだな、リィン、姫。」

「ランディ!?ああ、久しぶりだな……!」

「フフッ、トワさんが言っていたわたくし達の”知り合い”とはランディさんの事だったんですね。」

「うん。確かランドルフ教官はディーター元大統領の”資産凍結宣言”がされるまでいた二人の”職場”の同僚なんだよね?」

赤毛の青年――――ランディは苦笑しながらリィン達に声をかけ、声をかけられたリィンは驚き、セレーネは微笑み、セレーネの言葉に頷いたトワはリィンとセレーネに訊ねた。

「はい。だけどどうしてクロスベル帝国軍に所属しているランディがエレボニアの士官学院の教官に?」

「それに関してはお前達と同じ理由による”出向”だよ。……ま、最初そこのお嬢ちゃんまで、俺達の”同僚”である事を知った時はマジで驚いたがな。」

リィンの疑問に苦笑しながら答えたランディはセレーネやトワのように女性用の教官服を身に纏っている菫色の髪の娘―――レンに視線を向け

「うふふ、その言葉、そのままそっくりお返しするわ♪レンもランディお兄さんを見た時は驚いたわよ♪」

「よく言うぜ……俺と会った時も『久しぶりね、ランディお兄さん。これから2年間、”同僚”としてお互いによろしくね♪』って言って、全然驚いていなかったじゃねぇか………どうせ俺達の事も予め”英雄王”達から聞かされていたか、クロスベルの時みたいにハッキングで分校の情報を手に入れたんだろう?」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉に呆れた表情で呟いたランディは疲れた表情になってレンに訊ねた。

「クスクス、さすがランディお兄さん。ランディお兄さんの推測の”どちらか”は正解しているわよ♪」

(”どちらか”というか”どちらとも”と思うのですが………)

レンの答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セレーネは心の中で苦笑していた。



「ハハ………え、えっと……それよりもランディに聞きたい事があるんだが……」

「ん?何を聞きたいんだ?」

「その………何で”その人”まで、この場に――いや、俺達の”同僚”なんだ?……というか、”色々な意味”で”その人”がこの場にいて大丈夫なのか?」

リィンは困った表情でランディの隣にいる仮面を付け、赤い鎧を身に纏っている大柄な男性に視線を向け

「んー?まさか俺の事で訊ねているのか?俺とお前達とは”初対面”だぞ?」

「いや、会った回数はそれ程ありませんでしたけど、実際に会って話もしましたし、オルキスタワーの奪還の時は俺やロイド達と共に協力してオルキスタワーを奪還しましたよね!?」

「ギュランドロス司令―――いえ、ギュランドロス皇帝陛下ですわよね?」

男性の答えにリィンは疲れた表情で指摘し、セレーネは冷や汗をかいて苦笑しながら男性に問いかけた。

「惜しいッ!我が名はランドロス・サーキュリーだ!二つ名は”仮面の紳士”!よろしくな、”灰色の騎士”!」

「え、え~と………ギュランドロス皇帝へ、いえ、ランドロス教官、でしたか?二つ程伺いたい事があるのですが……」

男性――――ランドロスの答えにその場にいる多くの者達同様冷や汗をかいて表情を引き攣らせたリィンは困った表情でランドロスに問いかけた。

「おう、何でも聞いてくれ!」

「その………ランドロス教官の二つ名は本当にそれでいいんですか?」

「”仮面の紳士”か?ハハァッ、いいに決まってんだろ。」

「完全に貴方の本来の二つ名ではありませんけど、それでいいんですか?」

「かっこいいだろ!」

リィンの質問に対してランドロスは胸を張って自慢げに答え、ランドロスの答えを聞いたリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「そ、そうですか。では最後に………その、あえて分校に来た理由は聞きませんけど、顔は仮面で隠したからいいとして、服装くらいは変えようと思わなかったのですか?」

「何が言いたいのか良くわからんが、赤とこの鎧には深~いこだわりがあってだなぁ………」

「…………(メサイア、ギュランドロス皇帝陛下が何を考えているか、わかるか?)」

(も、申し訳ございません。私もギュランドロス陛下のお考えは全く理解できません―――というか、そもそも私自身、ギュランドロス陛下と会話をした事があるのはこの世界に来てからですので………ギュランドロス陛下のお考えを理解できるとすればそれこそユン・ガソルの”三銃士”であったルイーネ様達くらいかと。)

自分の質問に対して答えたランドロスの答えに冷や汗をかいたリィンはメサイアに念話で訊ね、訊ねられたメサイアは疲れた表情で答えた。

「その……ランドロス教官の服装だけ、わたくし達と違いますけど、よろしいのでしょうか?」

「……正直な所全くよろしくない事だが、分校の長である”分校長”も認めている以上、”仕方なく”認めている。」

「うふふ、だったらレンも分校長に他の服装にしてもいいか、お願いしようかしら♪この教官服のデザインも悪くはないけど、毎日同じ服っていうのはレディとしてどうかと思うし。トワお姉さんもそう思わない?」

「え、えっと…………」

セレーネの質問に答えたミハイル少佐の答えを聞いたレンに話を振られたトワはどういう答えを返せばいいかわからず、困った表情で言葉を濁していた。

「先輩を困らせるのは止めてください、レン皇女殿―――いえ、レン教官。………ランディ。俺がおかしいのか、ランドロス教官がおかしいのか、どっちなのかわからないから、何とかしてくれ。」

「無茶言うなよな………お前達より付き合いが長い俺だって、未だにこのオッサンの事は全くわかんねぇんだぞ………というかリア充皇帝やルイーネ姐さんどころか、”あの”エルミナ皇妃すらもこのオッサンの今回の無茶苦茶な行動を止める事を匙を投げたんだぞ!?あの連中ですら匙を投げたのに、俺が何とかできる訳がないだろうが!?」

疲れた表情をしたリィンに視線を向けたランディも疲れた表情で答えた後心の奥底から思っていた本音を口にした。

「え、えっと………ランディさんが出向してきた理由の一つはもしかして、ギュランドロス皇帝―――いえ、ランドロス教官の”お目付け役”ですか……?」

「ああ…………不本意ながら”一応”それも出向の理由の一つだ。ったく、こんな無茶苦茶の塊のオッサンを俺が制御できる訳がないっつーのに、エルミナ皇妃達も無茶言うぜ………」

苦笑しているセレーネの推測に頷いたランディは疲れた表情で溜息を吐いた。

「おいおいおいおい、何を暗くなっていやがる。何を勘ぐっているのか知らねぇが、俺は以前俺が惚れて力を貸した男の親友が色々と”訳あり”な学校を務めてガキ共を導く教師を探しているって聞いて興味を持ったから、山から下りてきたんだぜ。これからはあんた達の同僚として、全力で働くからよろしく頼む、なっ♪」

「ハ、ハア………?――――改めてよろしくお願いします、ミハイル少佐、レン教官、ランディ、ランドロス教官。」

「お兄様共々よろしくお願いします。」

ポンポンと馴れ馴れしく肩を叩いてきたランドロスの言葉に戸惑いながら答えたリィンは気を取り直してミハイル少佐達に言葉をかけ、セレーネもリィンに続くようにミハイル少佐達に言葉をかけた。

「ああ、こちらこそだ。内戦を終結させたあの”特務部隊”の総大将にして”灰色の騎士”の勇名――――共に働ける事を光栄に思う。だが、ここで求められるのは”騎神”を含めた英雄的行為ではない。教官としての適性と将来性、遠慮なく見極めさせてもらおう。」

「………肝に銘じます。(鉄道憲兵隊(T・M・P)………正規軍きってのエリート部隊。まさかその佐官クラスまで派遣されているとは思わなかったが………まあ、ランドロス教官の事と比べれば”今更”かもしれないな……)」

ミハイル少佐の言葉に頷いたリィンは心の中で苦笑していた。



「えっと……これで”教官”は全員揃いましたね。少佐、ランドルフ教官とレン教官、それにランドロス教官も改めてよろしくお願いします!」

「おう!」

「うふふ、よろしくね♪」

「ああ、君には遠慮なく期待させてもらうつもりだ。卒業時の鉄道憲兵隊の勧誘――――蹴ってくれた埋め合わせの意味でもな。」

「あ、あはは………ご存知だったんですか。」

「へえ、見た目と違ってずいぶんと優秀みたいだな。飛び級してるみたいだが17くらいは行ってるのかい?」

ミハイル少佐とトワのやり取りを見守っていたランディは興味ありげな様子でトワに訊ね

「……その……21歳になるんですけど。」

「え、マジで?てことは俺の3つ下か………」

トワの年齢を知ったランディは驚きの表情でトワを見つめた。



「教官が7名………学生数に対してちょうどいいくらいでしょうか。このメンバーで一通りのカリキュラムを?」

「ああ。学生数を考えればちょうどいいくらいだ。平時の座学に訓練、それ以外の細々とした業務も行ってもらう。………まあ、特別顧問や分校長にも一部手伝って頂くつもりだが。」

「特別顧問……?そんな人がいるんですか。」

「それに分校長も……どういった方々なんですか?」

「それは………」

「いや、なんつーか………分校長は俺やリィン、姫も会った事がある人物なんだけどな……まさかあんなとんでもない存在が俺達の”上司”になるなんて、世の中わからないもんだな。」

リィンとセレーネの疑問にミハイル少佐が答えを濁しているとランディが苦笑しながら答えた。

「へ………」

「わ、わたくし達やランディさんが会った事がある方……ですか?」

「あ、あはは……その、驚かないでね?実は分校長もリィン君達やランドルフ教官達と同じで”出向”という形で分校長に着任しているんだけど………その人はランドルフ教官も言っていたように、リィン君達とも面識のある方なんだけど―――――」

そしてそれぞれ困惑しているリィンとセレーネの様子を見たトワが苦笑しながら答えかけたその時扉が開いた。

「―――フフ、どうやら全員揃ったようですね。」

「………ッ………」

「っと、噂をすれば。」

「クスクス、分校長―――いえ、”聖女”の登場ね。」

「クク………」

扉が開かれた事によって姿を現したある人物を見たミハイル少佐は表情を引き締め、ランディは苦笑し、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべて白衣の老人と共に部屋に入って来た分校長である金髪の女性を見つめた。



「…………………へ。」

「ええっ!?あ、あの方は………!」

「え、えっと……お待ちしていました。」

(これはまた………”エレボニアにとっては”リィンに負けず劣らず有名な存在が来たわね………)

(え、ええ………リウイ陛下達は一体何をお考えになって、あの方を派遣されたのでしょうね?)

金髪の女性を見たリィンは一瞬石化したかのように固まった後呆けた声を出し、セレーネが驚いている中トワは姿勢を正して答え、その様子を剣やリィンの身体の中から見守っていたアイドスとメサイアは苦笑していた。

「フン………何を呆けた面をしている。―――――こうして顔を合わせて話すのは初めてか、リィン・シュバルツァー。私の自己紹介は必要か?」

「い、いえ………俺達も一応貴方の事は知っています。―――初めまして、シュミット博士。これからよろしくお願いします。」

「わたくしの方もよろしくお願いします、シュミット博士。」

白衣の老人――――シュミット博士の言葉にリィンは戸惑いながら答えた後会釈をし、セレーネも続くように会釈をした。

「――――特別顧問という肩書きだが私は自分の研究にしか興味はない。せいぜい役に立ってもらうぞ、シュバルツァー―――いや、”灰の起動者”。」

「え、え~と………」

「………ふう…………」

シュミット博士の言葉にリィンが困惑の表情をしている中ミハイル少佐は疲れた表情で溜息を吐き

(………50年前に導力器(オーブメント)を発明したエプスタイン博士の三高弟の一人………贋物って訳じゃないんだよな……?)

(あ、あはは……間違いないと思いますけど。)

「………なるほど、俺の分校への赴任にも貴方の件も含めて色々な思惑が絡んでいそうですね。まさか………貴女までいらっしゃるとは夢にも思いませんでしたが。」

「その………お久しぶりです、サンドロッド卿。」

ランディに小声で訊ねられたトワが苦笑している中リィンは疲れた表情で呟いた後表情を引き締めて金髪の女性を見つめ、セレーネは苦笑しながら女性に会釈をした。

「フフ………最後に会ったのはリウイ陛下達の視察の際ですから、半年ぶりになりますね、”灰色の騎士”に”聖竜の姫君”よ。改めてになりますが、晴れて教官となる貴方方全員に名乗らせて頂きます。かつて結社”身喰らう蛇”の”蛇の使徒”の第七柱―――”鋼”のアリアンロードであった者にして、今は”英雄王”と”聖皇妃”の守護者たる者。リアンヌ・ルーハンス・サンドロッド――――これより”トールズ第Ⅱ分校”の分校長を務めさせて頂きます。」

金髪の女性――――リアンヌ分校長はリィンとセレーネに微笑んだ後名乗り上げて宣言した。



「ハハ、最初俺が知った時も度肝を抜かれたぜ。鉄道憲兵隊の少佐殿も大変だなぁ?そこの無茶苦茶過ぎるオッサンに加えてあんなとんでもない存在まで見張らなくちゃならないんだからな。」

「フン…………―――分校長。そろそろ定刻ですがいかが致しますか?」

ランディの軽口に鼻を鳴らして流したミハイル少佐はリアンヌ分校長に訊ねた。

「ええ、始めるとしましょう。ハーシェル教官、雛鳥達をグラウンドへ。」

「は、はい。―――リィン君、セレーネちゃん、後でね。」

リアンヌ分校長の指示に頷いたトワは部屋から退出した。



「さーてと、どんなメンツが揃っていることやら。」

「クク、そしてどんな”才”を持っているのだろうなぁ?」

「クスクス、今から楽しみね♪」

「シュバルツァー、アルフヘイム。君達も遅れないように。」

ランディの軽口に続くようにランドロス教官は獰猛な笑みを浮かべ、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ミハイル少佐はリィンとセレーネに忠告をした後それぞれ部屋から退出した。

「えっと………?」

「皆さん、どちらに向かったのでしょうか……?」

「フフ……これより第Ⅱの新入生全員の入学式を兼ねた挨拶があります。」

ランディ達の行動にリィンとセレーネが戸惑っているとリアンヌ分校長がランディ達の行動の意図を説明をした。

「そ、そうだったんですか!?俺達は何も――――」

「フフ、貴方達には何も伝えず、日時だけを指定しましたので。他には、クラス分けと担当生徒との顔合わせもあります。”特務部隊”の”総大将”にして”灰色の騎士”の気骨、雛鳥達に示して差し上げなさい。」

リィンに自身の意見を伝えたリアンヌ分校長は部屋から退出した。

「そ、その………トワ先輩が仰っていたように、色々な意味で大変で難しい”職場”のようですわね?」

「ああ…………まあいい。一応、”これ”を付けておくか。行こう、セレーネ。」

「はい、お兄様。」

そして懐から眼鏡を取り出したリィンはセレーネと共にグラウンドへと向かった――――――


 

 

第2話

リィン達”教官”がグラウンドに姿を現す少し前、グラウンドに集合した生徒達はそれぞれ雑談や考え事等で時間を過ごしていたが姿を現したリィン達に気づくとリィン達に視線を向けた。



~トールズ第Ⅱ分校・グラウンド~



「あ、あの女性は………!?」

「……まさか………”槍の聖女”……………!?」

「さ、さすがにそれはありえないんじゃないかな?”槍の聖女”は遥か昔の人物だから、ただ似ているだけだと思うよ?そ、それよりもあの黒髪の人って確か………」

「ええっ……あの有名な……!?」

「ククッ………マジかよ。」

「ふふっ………予想外、ですね。」

「ふえええええっ!?ど、どうしてレンちゃんが………」

リィン達の登場に生徒達がそれぞれ驚いている中金茶髪の男子は不敵な笑みを浮かべ、ミント髪の女子は微笑み、金髪の娘は信じられない表情でリィン同様眼鏡をかけたレンを見つめ

「”灰色の騎士”………」

「えええええええええええっ!?な、何で”あの人”までここに……ていうか何でここにいるのよ~!?」

「………………理解不能です。」

蒼灰色の髪の男子は真剣な表情でリィンを見つめて呟き、ピンク髪の女子は驚きの声を上げてランドロスを見つめ、アルティナはジト目でランドロスを見つめながら呟いた。

(あれ、あの子って………)

(ハハッ、ま、リィンがいる時点でリィンの近くにいるような気はしていたけどな。)

生徒達の中にいるアルティナを見つけたトワは目を丸くし、ランディは苦笑していた。



「静粛に!許可なく囀るな!―――これよりトールズ士官学院、”第Ⅱ分校”の入学式を執り行う!略式の為式辞・答辞は省略!クラス分けを発表する!」

リィン達の登場で騒いでいる生徒達に注意して黙らせたミハイル少佐は宣言をした後、話を続けた。

「まずは”Ⅷ組・戦術科”!担当教官はランドロス・サーキュリー!副担当教官はランドルフ・オルランド!」

「ウッス。呼ばれたヤツは前に来てくれ。ゼシカ、ウェイン、シドニー、マヤ。それにアッシュ、フレディ、グスタフ、レオノーラの8名だ。」

(クク、俺達が担当になるとはお前達も運が良い連中だなあ?)

「……ハッ……」

ミハイル少佐の言葉に続くようにランディは一枚の紙が挟んであるバインダーを取り出して名前を読み上げ、読み上げられた生徒達がそれぞれ自分達の所に来ている中ランドロスは獰猛な笑みを浮かべて生徒達を見つめ、金茶髪の男子は鼻を鳴らした後ランディとランドロスの下へと向かった。



「次、”Ⅸ組・主計科”!担当教官はレン・H・マーシルン!副担当教官はトワ・ハーシェル!」

「えっと、名前だけ呼ぶね?サンディちゃん、カイリ君、ティータちゃん。ルイゼちゃん、タチアナちゃん、ヴァレリーちゃん、ミュゼちゃん、パブロ君、スターク君の9名かな。」

(クスクス、レンがティータの先生になるなんて、これも空の女神―――いえ、”ブライト家”の導きかしらね♪)

「……ふふっ………」

ランディに続くように自分達が担当する生徒の名前をトワが読み上げると名前を呼ばれた生徒達が自分達の所に向かっている中レンは小悪魔な笑みを浮かべてティータを見つめ、ミント髪の女子は意味ありげな笑みを浮かべた後トワ達の所へと向かった。

(Ⅷ組にⅨ組……”戦術科”に”主計科”か。すると残りは……)

(アルティナさんを含めた残りの3人の方達がわたくし達が担当する生徒ですわよね……)

それぞれの担当教官達の下へと生徒達が集合している中、リィンとセレーネはまだ呼ばれていない生徒達を見つめた。



「静粛に!これより本分校を預かる分校長からのお言葉がある!――――分校長、お願いします。」

「ええ。」

ミハイル少佐に視線を向けられたリアンヌ分校長は頷いた後一歩前に出た。

「―――我が名はリアンヌ・ルーハンス・サンドロッド。”第Ⅱ”の分校長となった者です。外国人もいるゆえ、我が名を知る者、知らぬ者はそれぞれでしょうが、一つだけ(しか)と言える事があります。――――貴方達も薄々気づいている通り、この第Ⅱ分校は”捨石”です。」

「ふえっ……?」

「フン………?」

リアンヌ分校長の言葉にトワは驚き、シュミット博士は僅かに眉を顰めた。

「本年度から皇太子を迎え、徹底改革される”トールズ本校”。そこで受け入れられない厄介者や曰く付きをまとめて使い潰す為の”捨石”――――それが貴方達であり、そして私を含めた教官陣も同じです。」

「………………」

「え、えっと…………?」

「おいおい……………」

「へえ?」

「クク…………」

リアンヌ分校長の断言を聞いたリィンは絶句し、セレーネは戸惑い、ランディは疲れた表情で溜息を吐き、レンは興味ありげな表情をし、ランドロスは不敵な笑みを浮かべた。

「ぶ、分校長!それはあまりに――――」

そして生徒達がザワザワとし始めたその時、ミハイル少佐はリアンヌ分校長を諫めようとした。

「―――ですが、常在戦場という言葉があります。平時で得難きその気風を学ぶには絶好の場所であるとも言えるでしょう。自らを高める覚悟なき者は今、この場で去りなさい。―――教練中に気を緩ませ、冥府へと旅立ちたくなければ、今すぐこの場から去るのが貴方達の為です。」

リアンヌ分校長の厳しい宣言に対して生徒達はそれぞれ誰一人動く事なく決意の表情でリアンヌ分校長を見つめた。

「その意気やよし。―――ようこそ”トールズ士官学院・第Ⅱ分校”へ。『若者よ、世の礎たれ――――』かのドライケルスの言葉をもって、貴方達を歓迎させて頂きます。」

その後入学式が終わり、それぞれのクラスが行動を始める為にグラウンドから離れている中リィン達とまだ呼ばれていない生徒達だけがその場に残った。



「………って、なんか気迫に呑みこまれちゃったけど………」

「ああ……結局のところ、僕達はどうすれば――――」

「………………」

ピンク髪の女子の言葉に蒼灰髪の男子は頷いた後戸惑いの表情をし、アルティナは落ち着いた様子でその場で待機し続けていた。

「………サンドロッド卿、いえ分校長。そろそろ”クラス分け”の続きを発表していただけませんか?」

「………!」

「へ………」

「フフ、いいでしょう。――――本分校の編成は、本校のⅠ~Ⅵ組に続く、Ⅶ~Ⅸ組の3クラスとなります。貴方達3名の所属は”Ⅶ組・特務科”――――担当教官はその者、リィン・シュバルツァーで副担当教官はその隣にいるセレーネ・L・アルフヘイムとなります。」

リィンの言葉にアルティナ以外の生徒達が顔色を変えたり呆けている中リアンヌ分校長はアルティナ達に説明をした。



その後リィン達はある施設へと向かった。



~アインヘル小要塞~



「わああっ……!送られた図面で見ましたけどこんなに大きいなんて……!」

「フンこの程度ではしゃぐな。伝えていた通り、お前には各種オペレーションをやらせる。ラッセルの名と技術、せいぜい示してみるがいい。」

「は、はい……っ!」

リィン達と共にある施設に到着した金髪の娘は興味ありげな様子で施設を見つめていたがシュミット博士の言葉を聞くと表情を引き締めて頷いた。

(”ラッセル”………?もしかしてあの方がツーヤお姉様のお話にあった……)

(列車で会った子……やっぱり第Ⅱの生徒だったか。ラッセル………どこかで聞いた事がある気もするが。それにしても――――)

セレーネと共に金髪の娘を見つめて心の中で考えていたリィンは自分達の生徒達となるアルティナ達を見回した。

((Ⅶ組・特務科)……偶然じゃないんだろうな。生徒数はたったの3名。しかもアルティナまでいるとは…………まあ、アルティナに関しては多分リウイ陛下達が俺達のサポートとして根回ししたんだろうな……)

「現在、戦術科と主計科はそれぞれ入学オリエンテーションを行っているが……Ⅶ組・特務科には入学時の実力テストとしてこの小要塞を攻略してもらう。」

リィンが考え込んでいるとミハイル少佐が今後の事をリィン達に伝えた。



「……………」

「こ、攻略………?」

「それに”実力テスト”、ですか……?」

「そもそもこの建物は一体………」

ミハイル少佐の言葉を聞いたリィンが真剣な表情でミハイル少佐を見つめている中ピンク髪の女子とセレーネは戸惑い、蒼灰髪の男子は困惑の表情でミハイル少佐に自身の疑問を訊ねた。

「アインヘル小要塞――――第Ⅱと合わせて建造させた実験用の特殊訓練施設だ。内部は導力機構による可変式で難易度設定も思いのまま―――敵性対象として、”魔獣など”も多数放たれている。」

「な……!?」

「ま、魔獣―――冗談でしょ!?」

シュミット博士の説明を聞いた蒼灰髪の男子は驚き、ピンク髪の女子は信じられない表情で声を上げた。

「………なるほど。”Ⅶ組”、そして”特務科”………思わせぶりなその名を実感させる入学オリエンテーションですか。新米教官達への実力テストを兼ねた。」

「という事はこのオリエンテーションは生徒達だけでなく教官であるわたくし達の”実力テスト”でもあるのですか。」

「フッ、話が早くて助かる。と言っても、かつて君達がいた”特務支援課”や”特務部隊”、そして君達にとっても縁深い旧Ⅶ組とは別物と思う事だ。教官である君達自身が率いることで目的を達成する特務小隊―――そう言った表現が妥当だろう。」

「なるほど……それで。」

ミハイル少佐の説明を聞いたリィンは納得した様子で呟いた。

「ちょ、ちょっと待ってください!黙ってついてきたら勝手なことをペラペラと……そんな事を……ううん、そんなクラスに所属するなんて一言も聞いていませんよ!?」

「適正と選抜の結果だ、クロフォード候補生。不満ならば荷物をまとめてクロスベルに帰国しても構わんが?」

「くっ……」

(クロスベルに帰国……という事は彼女はクロスベル帝国からの留学生か。)

ピンク髪の女子は不満を口にしたが淡々としたミハイル少佐の正論に反論が浮かばなく、唇を噛みしめ、その様子を見たリィンはピンク髪の女子の出身を察した。

「……納得はしていませんが状況は理解しました。それで、自分達はどうすれば?」

「ああ―――シュバルツァー教官以下5名は小要塞内部に入りしばし待機。」

そして蒼灰髪の男子の質問に答えたミハイル少佐は5種類のマスタークオーツをリィンに手渡し、説明を続けた。

「その間、各自情報交換と、シュバルツァー教官とアルフヘイム教官には候補生にARCUSⅡの指南をしてもらいたい。」

「―――了解しました。」

「わかりましたわ。」

ミハイル少佐の言葉にリィンとセレーネはそれぞれ頷いた。

「フン、これでようやく稼働テストができるか。グズグズするな、弟子候補!10分で準備してもらうぞ!

「は、はいっ!」

金髪の娘はシュミット博士の言葉に緊張した様子で頷いた後リィン達と共に小要塞の中へと入って行った。



「ったく、聞いてた以上にフザけた学校みたいだな。」

小要塞に入っていくリィン達の様子をミハイル少佐が見守っていると赤髪の男がミハイル少佐に近づいてきた。

「……本来ならば部外者には立ち入ってほしくないのだが。」

「ハッ、言われなくても余計なことをするつもりはねぇよ。あいつの入学を見届けたらとっとと行かせてもらうぜ。」

「結構――――皇族の紹介があるとはいえ勘違いはしないことだ。この後、”お仲間達”とエレボニア帝国内でどう動くかも含めてな。」

「ハッ……そいつはお前さんたち次第じゃねえのか?色んな思惑が絡み合っているとはいえこんな分校がポンとできちまう―――そんな状況を生み出してるのはどこのどいつだって話だろうが。」

ミハイル少佐の忠告に対して鼻を鳴らして流した赤毛の男は目を細めてミハイル少佐を睨み

「……フン、さすがは”A級”といったところか。」

対するミハイル少佐も鼻を鳴らして赤毛の男に睨み返した。



「機械仕掛けの訓練施設……博士ならではといった感じだな。―――で、まさかとは思うけど概要についても知らされているのか?」

小要塞の内部へと入って待機していたリィンは周囲を見回した後アルティナに訊ねた。

「―――詳しくは何も。地上は一辺50アージュの立方体、地下は拡張中という事くらいです。」

「あの……その事を知っている時点で、既に”知らされている”と言ってもおかしくないのですが……」

「へ………」

「………知り合いですか?」

アルティナの答えを聞いたセレーネが苦笑している中ピンク髪の女子は呆け、蒼灰髪の男子はリィンとセレーネに訊ねた。

「まあ、そうだな。まさか俺達が彼女が所属するクラスの担当教官になるとはさすがに想定外だったが。―――それはともかく。”準備”が整うまでの間、互いに自己紹介をしておこう。申し訳ないが、到着したしたばかりで君達二人の事は知らなくてね。俺は――――」

「………別にわざわざ名乗らなくても知っていますよ。”灰色の騎士”リィン・シュバルツァー。メンフィル帝国の軍人でありながらメンフィル・エレボニア戦争――――通称”七日戦役”の勃発に対して元祖国の皇族であったエレボニア皇家に罪悪感を抱いていた両親の為に戦争で大活躍をした事によって戦争勃発から僅か1週間で両帝国間の戦争を”和解”という形で終結させ、更には”七日戦役”後メンフィルが選抜した少数精鋭部隊とエレボニア皇家に協力していた学生達を率い、そして正規軍とエレボニア皇家側へと寝返らせた貴族連合軍の一部を纏め上げて”七日戦役”勃発の原因の一つでもあるエレボニア帝国の内戦を終結させた両帝国の若き英雄。そして”聖竜の姫君”セレーネ・L・アルフヘイム。あの”蒼黒の薔薇”の双子の妹にして、”七日戦役”、そしてエレボニアの内戦で”灰色の騎士”を支え、自身もそれぞれの戦争で活躍した竜族の姫君。どちらもエレボニアどころかクロスベル―――いえ、ゼムリア大陸全土でも知らない人はいないくらいの有名人じゃないですか。」

「え、え~と………」

「ア、アハハ…………」

自己紹介をしようとしたリィンだったが呆れた表情をしたピンク髪の女子に先に自分とセレーネの事を言われると困った表情をし、セレーネは苦笑していた。

「補足すると、”七日戦役”の和解条約によって”帝国の至宝”の片翼であるエレボニア帝国の皇女――――アルフィン・ライゼ・アルノール皇女殿下が内戦終結後”灰色の騎士”に嫁ぎ…………更には皇女殿下以外にも婚約者が8人存在して、その内の一人が”聖竜の姫君”だそうだ。」

「ええっ!?じゃあ、”灰色の騎士”って既婚者だったの!?ていうかエレボニアのお姫様と結婚していながら更に8人の婚約者がいるって………局長―――いえ、ヴァイスハイト皇帝陛下みたいなとんでもない”好色家”ですね………そう言えばロイド先輩もエリィ先輩を含めた”特務支援課”に所属していた女性達のほぼ全員どころか、”アルカンシェル”のリーシャ・マオとも付き合っていましたね……もしかして、ヴァイスハイト皇帝陛下の影響を受けたんですか?確かリィン教官も一時期ヴァイスハイト皇帝陛下も所属していた”特務支援課”に所属していましたよね?」

「その推測は少々間違っているかと。もしその推測が当たっているのならば、”特務支援課”に所属していた残りの男性―――ランドルフ教官とワジさんもリィン教官やロイドさんのように複数の女性を侍らせているかと。」

「アルティナさん………その言葉、ワジさんはともかく絶対にランディさんがいる前では言わないでくださいね………?」

蒼灰髪の男子の情報を聞いて驚いたピンク髪の女子はジト目でリィンを見つめ、ピンク髪の女子の意見に指摘したアルティナの言葉を聞いたセレーネは疲れた表情で指摘した。

「ハ、ハハ………(俺とロイドって、一体どういう風に見られているんだ……?)………いや、それにしても驚いた。英雄なんて過ぎた呼び名だが。それでも改めて名乗らせてくれ。リィン・シュバルツァー。シュバルツァー男―――いや、シュバルツァー公爵家の跡継ぎにしてメンフィル帝国領クロイツェン州統括領主補佐だ。様々な事情により、2年間ここ第Ⅱ分校の臨時教官として本日赴任した。武術・機甲兵教練などを担当、座学は歴史学を教える事になる。”Ⅶ組・特務科”の担当教官を務める事になるらしいからよろしく頼む。」

「ではわたくしも………―――”アルフヘイム子爵家”の当主にして、リィン・シュバルツァーの婚約者の一人のセレーネ・L・アルフヘイムと申します。メンフィル帝国領クロイツェン州統括領主秘書見習いです。お兄様と同じく本日より2年間ここ第Ⅱ分校の臨時教官として赴任しました。座学は音楽・芸術・調理技術を担当し、また保険医も兼ねていますわ。”Ⅶ組・特務科”の副担当教官を務める事になるとの事ですので、リィン教官―――お兄様共々よろしくお願いしますね。」

ピンク髪の女子達の言葉に冷や汗をかいて乾いた声で苦笑したリィンは気を取り直して自己紹介をし、セレーネもリィンに続くように自己紹介をした。



「―――次は、自分ですね。クルト・ヴァンダール。帝都ヘイムダルの出身です。シュバルツァー教官とアルフヘイム教官の事は一応、噂以外にも耳にしています。」

リィンとセレーネが自己紹介を終えると蒼灰髪の男子―――クルトが自己紹介をした。

「ヴァンダール………そうだったのか。すると、ゼクス将軍やミュラー中佐の……?」

クルトがある人物達の親類である事を察したリィンは目を丸くしてクルトを見つめた。

「ミュラーは自分の兄、ゼクスは叔父にあたります。まあ、髪の色も含めて全然似ていないでしょうが。」

「それは…………」

(そう言えばお二人とも黒髪でしたけど、クルトさんの髪の色は黒髪ではありませんわよね……?)

(ああ……それに容姿も全然似ていないような……)

クルトの言葉を聞いたリィンは答えを濁したがセレーネの小声の言葉に頷いてクルトを見つめた。

「――それはともかく、リィン教官のその眼鏡は伊達ですか?あまり似合っていないので外した方がいいと思いますよ。」

「うっ……」

「ア、アハハ………」

「ぷっ………あはは………!」

「まあ、それなりに需要はありそうですが。」

若干呆れた表情をしたクルトの指摘にリィンは唸り声を上げ、セレーネは苦笑し、ピンク髪の女子は思わず笑い声を上げ、アルティナは淡々とした様子で推測を口にした。



「………はあ、似合っていないのは自覚してるから勘弁してくれ。よろしく、クルト。―――それじゃあ続けて頼む。」

一方リィンは疲れた表情で溜息を吐いた後ピンク髪の女子に自己紹介を促した。

「あ……はい、わかりました。ユウナ・クロフォード。クロスベル帝国・クロスベル警察学校の出身です。……よろしくお願いします。」

「クロスベル出身……だからわたくし達やロイドさん達の事をご存知だったのですね。」

「まあ、”特務支援課”は俺達が来る前も元々有名だったそうだけど、局長―――いや、ヴァイスハイト皇帝陛下も所属した事によって更に知名度が上がっていたそうだからな。ちなみに警察学校というのは、”クロスベル軍警察学校”の事だよな?」

ピンク髪の女子―――ユウナの自己紹介を聞いたセレーネは目を丸くし、リィンは苦笑しながら答えた後ユウナに確認した。

「…………ええ。ヴァイスハイト皇帝陛下達――――”六銃士”や”六銃士派”の人達の活躍によって”自治州”だったクロスベルが”帝国”へと成りあがった影響で、名称等も変えられました。正式名称以外は使わない方がよかったですか?」

リィンの指摘に対して複雑そうな表情で答えたユウナはリィンに問い返した。

「いや……他意はない。悪い、無神経だったようだ。」

「……別に。あたしも言い過ぎました。」

「………?」

リィンに謝罪されたユウナもリィンに謝罪し、その様子をクルトは不思議そうに見守っていた。

「最後は私ですね。アルティナ・オライオン。1年半前の内戦時は貴族連合軍の所属でした。」

「な………」

「へ………」

「ア、アルティナさん!?」

(あっさり明かすのか……)

そしてアルティナが自己紹介を始めるとクルトは絶句し、ユウナは呆け、セレーネは驚き、リィンは呆れた表情をしていた。

「内戦の際に命じられたある任務の実行時、メンフィル帝国所属の人物達に妨害、並びに捕縛された事によって任務失敗。その後メンフィル帝国の捕虜の身でしたが、”七日戦役”で大活躍をしたリィン教官のご厚意によってメンフィル帝国から解放され、並びに私の身元引受人はリィン教官を含めた”シュバルツァー家”になり、メンフィル帝国から解放された後は”シュバルツァー家”の使用人として”シュバルツァー家”の方々をサポートし続けていました。今回の分校への入学はメンフィル帝国からの指示もありますが、私に”普通の子供として”学院生活を経験して欲しいというリィン教官達―――”シュバルツァー家”の心遣いも含まれています。どうかお気になさらず。」

アルティナの説明を聞いたリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「………聞き捨てならない事を聞いた気がするんだが。」

「貴族連合軍って、確か1年半前の内戦を起こした……って、それよりメンフィル帝国からの指示とかって、どういう事よ!?」

「失礼、秘匿情報でした。」

「ア、アルティナさん……」

(ハハ……相変わらずだな。)

我に返ったクルトは呆れた表情で呟き、信じられない表情をしたユウナの指摘に対してマイペースに答えたアルティナの様子にセレーネは冷や汗をかき、リィンは苦笑していた。



「お、お待たせしました!」

するとその時金髪の娘の声が要塞内に聞こえてきた。

「アインヘル訓練要塞、LV0セッティング完了です!”ARCUSⅡ”の準備がまだならお願いします!」

「これって、さっきの金髪の……」

「僕達と同じ新入生だったはずだが……」

「了解だ、少し待ってくれ!さて―――いきなりになるが、3人とも、これを持っているか?」

娘の声を聞いたユウナとクルトが戸惑っているとリィンが返事をし、そしてユウナ達を見回して自身が持っている戦術オーブメントを見せて訊ねた。

「ええ、それなら―――」

「送られてきたヤツね。まだ起動はしていないけど……」

リィンが見せた戦術オーブメントを見たユウナ達も戦術オーブメントを取り出した。

「戦術オーブメント―――皆さんもご存知のように、所持者と連動する事によって様々な機能を発揮する個人端末です。導力魔法(オーバルアーツ)が使えたり、身体能力が向上したりしますが……この最新端末”ARCUSⅡ”では更なる新機能が実装されています。」

「ARCUS(アークス)Ⅱ―――ENIGNA(エニグマ)とは違う、エレボニア帝国製の戦術オーブメントか……」

「正確には、クロスベル帝国ラインフォルト社とエプスタイン財団の共同開発ですね。いよいよ実戦配備ですか。」

「そ、そうなの?そう言えばラインフォルト製の新型戦術オーブメントがクロスベル軍や警察に配備される話を聞いた事があるけど……あの話ってこれの事だったんだ。」

「ああ、新機能についてはおいおい説明するとして――――3人とも、これを受け取ってくれ。それとこれはセレーネの分だ。」

「ありがとうございます、お兄様。」

リィンはセレーネ達にそれぞれ異なるマスタークオーツを渡した。



「これは……」

「エニグマにもあった……確か”マスタークオーツ”でしたっけ。」

「ああ、基本概念は同じはずだ。開いたスロット盤の中央に嵌められるからセットしてくれ。」

「……了解。」

「えっと、ここかな……?」

(さて、俺もつけておくか。)

その後リィン達はそれぞれのARCUSⅡにマスタークオーツをセットした。



「わわっ……」

「これが……」

「マスタークオーツが装着されることでARCUSⅡが所持者と同期した。これで身体能力も強化され、アーツも使えるようになった筈だ。」

マスタークオーツをセットした事によってARCUSⅡと同期した事で驚いているユウナとクルトにリィンが説明した。

「なるほど……」

「な、なんかエニグマとはけっこう仕様が違うような……」

「フン、準備はすんだか。」

リィンの説明を聞いた二人がそれぞれ納得したり、戸惑ったりしているとシュミット博士の声が要塞内に聞こえてきた。

「シュミット博士。ええ、いつでも行けます。」

「ならばとっとと始めるぞ。LV0のスタート地点はB1、地上に辿り着けばクリアとする。」

「は、博士……?その赤いレバーって……ダ、ダメですよ~!そんなのいきなり使ったら!」

「ええい、ラッセルの孫のくせに常識人ぶるんじゃない……!―――それでは見せてもらうぞ。”Ⅶ組・特務科”とやら。この試験区画を、基準点以上でクリアできるかどうかを――――!」

「みんな、足元に気を付けろ!」

要塞内に聞こえてくるシュミット博士と娘の会話を聞いてある事を察したリィンがユウナ達に警告をしたその時、リィン達が待機していた場所が突如傾いた!



「え―――」

「なっ……!?」

「バランスを取り戻して落下後の受け身を取れ!セレーネとアルティナは――――」

突然の出来事に驚いた二人が先に傾いた床によって下へと滑り落ちる中姿勢を低くして傾いた床に踏みとどまったリィンが下へと滑り落ちていく二人に指示をした後セレーネとアルティナにも指示をしようとしたが

「――――やあっ!」

「クラウ=ソラス。」

セレーネは一瞬で背中に魔力によって形成した光の翼を背中に生やして滞空し、アルティナは漆黒の傀儡―――クラウ=ソラスを呼び出し

「……心配無用か。」

二人の様子を見たリィンは苦笑しながら両腕で身体を支えながら下へと滑り、セレーネは光の翼を羽ばたかせ、アルティナはクラウ=ソラスの片腕に乗った状態で下へと向かった。



~B1~



「う、うーん……も、もう何なのよ一体……あの博士って人が話したらガコンて床が傾いて―――」

「……その……たしかユウナだったか。」

「え。」

目を覚ましたユウナが戸惑いながら今までの状況を思い返していたが下から聞こえてきた聞き覚えのある声に呆けた後下へと視線に向けた。

「……………」

「悪いけど、動けるなら自分でどいてもらえないか……?重さは大したことはないけど呼吸がしにくくてかなわない。」

「な、な、な、な………」

自分の状態――――自分の下にいるクルトの顔に胸を押し付けている状態に呆けたユウナだったが、我に変えるとすぐに顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。するとその時リィン達も到着し、二人の状態を目にした。

「こ、これは――――」

「え、えっと………」

「弾力性のある床……打撲の心配はなさそうです。しかしまた、リィン教官のような不埒な状況になっていますね。」

二人の状態を見たリィンが驚き、セレーネが困った表情をしている中クラウ=ソラスを消して着地したアルティナは淡々と答えた後二人へと視線を向けて呟き

「だから誤解を招くような事を言わないでくれ。」

アルティナの言葉を聞いたリィンは疲れた表情で指摘した。するとその時ユウナが起き上がり、ユウナが起き上がるとクルトも続くように起き上がってユウナと向かい合った。

「~~~~~~っ~~~~~~………」

「……事故というのはこの際、関係なさそうだ。弁解はしない。一発、張り飛ばしてくれ。」

顔を真っ赤にして身体を震わせているユウナに対して静かな表情で答えたクルトは覚悟を決めた表情になってユウナを見つめた。

「ふ、ふふ……殊勝な心がけじゃない……そんな風に冷静に言われるのもそれはそれで腹が立つけど……遠慮なく行かせてもらうわっ!」

クルトの言葉に対して口元をピクピクさせながら答えたユウナは片腕を思いっきり振り上げてクルトに平手打ちをした!



「……フンッ、これだからエレボニア帝国の男子っていうのは……!」

「別にエレボニア帝国どうこうは関係ない気もしますが。」

クルトに平手打ちをした後クルトに背中を向けて怒りの表情で呟いたユウナにアルティナはジト目で指摘し

「その……災難だったな?」

「えっと……治癒魔法は必要ですか?」

リィンとセレーネは苦笑しながら平手打ちをされた部分を片手で抑えているクルトに話しかけた。

「別に……無様な体勢で滑落したのも修行不足です。それに偶然とはいえ女子に無用な恥をかかせてしまった―――己の未熟さを痛感します。」

「そ、そうか……(随分しっかりしてるな。)―――4人とも、大きなダメージはないな?それではこれより、この小要塞の攻略を開始する。各自、武装を見せてくれ。」

クルトの答えを聞いたリィンはクルトに感心した後ユウナ達に確認し、そして宣言をした。



「って、こんな茶番に本気で付き合うんですか!?」

リィンの宣言を聞いて驚いたユウナはリィンに訊ねた。

「博士の事は人づてで聞いた事はあるが、茶番を仕掛ける性格じゃないと思う。あくまで本気で、俺達5名の実力を測ろうとしているんだろう。無事ここを抜けるためにも全員のスタイルを知っておきたい。」

「うぐっ……」

「わかりました。―――自分はこれです。」

リィンの正論にユウナが反論できず唸り声を上げるとクルトは納得した様子で頷き、そして自身の得物である双剣を取り出して軽く振るって構えた。

「……二刀流……?」

「淀みない剣捌きですね。」

「あら……?ミュラー中佐は大剣を扱っていましたが……」

「ヴァンダール流の双剣術……存在するのは知っていたが。」

クルトの戦闘スタイルにユウナが戸惑い、アルティナが静かな表情で評価している中セレーネはある人物を思い返して不思議そうな表情で首を傾げ、リィンは目を丸くしてクルトを見つめた。



「セレーネ教官が仰ったようにヴァンダール流は剛剣術の方が有名ですからね。ですが、あちらは持って生まれた体格と筋力を必要とする……こちらの方が自分は得意です。」

「……なるほど。ユウナ、君の方はどうだ?」

「っ………勝手に話を進められているみたいで面白くありませんけど……士官学校の新入生として一応、弁えているつもりです。」

リィンに話をふられたユウナは機械仕掛けのトンファーを取り出して構えた。

「それは……」

「あら?あの武装は確かロイドさんが扱っている……」

「トンファー型の警棒?」

「いや、それにしては複雑な機構をしているな……どういった武装なんだ?」

ユウナが見せた武装にそれぞれ興味ありげな表情をしている中リィンがユウナに詳細を訊ねた。

「ガンブレイカー――――クロスベル警備隊で開発された銃機構(ガンユニット)付きの特殊警棒です。モードを切り替えることで、中距離の範囲射撃になります。」

「そんな新武装が……」

「まさかクロスベル帝国軍がそのような武装が開発していたなんて……」

「もしかしてその武装の開発にはエルミナ大尉―――いや、エルミナ皇妃も関わっているのか?確かあの人は”軍師”―――”戦術家”であると同時に兵器や武装の開発にも携わっていると耳にした事があるが。」

「ええ、このガンブレイカーの開発にもエルミナ皇妃殿下が関わっていて、エルミナ皇妃殿下の考案のお陰で更なる機能―――導力の集束による導力エネルギー砲も追加されたと聞いています。」

ユウナの説明を聞いたアルティナとセレーネが驚いている中ある事に気づいたリィンはユウナに訊ね、リィンの質問にユウナは頷いて答えた。



「―――わかった、その武装の性能は実戦で確かめさせてもらおう。見たところ扱いにも慣れているみたいだからな。」

「と、当然です!警察学校で訓練しましたから!エレボニア帝国人が使う、昔ながらの剣なんかよりは役に立つはずです!」

リィンの言葉に肯定したユウナはクルトを睨み

(むっ……)

「フ、フン……」

ユウナの言葉に一瞬ムッとしたクルトは表情を顰め、ユウナはクルトから視線を逸らした。

「まあ、そのあたりもお互い実戦で確認するといいだろう。次は―――アルティナ。」

「はい。」

二人の様子に苦笑しながら指摘したリィンはアルティナに視線を向け、視線を向けられたアルティナは頷いた後一歩前に出た。



「って、何気にさっきから突っ込みたかったんですけど……こんな小さい子がどうして士官学校に入ってるんですか?」

「……僕も気になっていた。貴族連合軍に所属していたという話ですが、さすがに戦闘には参加させられなかったのでは?」

ユウナの疑問に同意したクルトは不思議そうな表情でアルティナを見つめた。

「……まあ、個人的には同感だよ。」

「懸念は無用です。私の身体年齢は14歳相当。小さい子というほどではないかと。」

クルトの言葉にリィンが苦笑している中アルティナは淡々とした様子で答えた。

「し、身体年齢……?って、十分小さいんじゃ―――」

「そして貴族連合軍に所属していた根拠たる”武装”もあります。」

ユウナが指摘しようとしたその時アルティナが先に答えて背後にクラウ=ソラスを現させた。

「――――――」

「な、な、な……」

「そ、そう言えばさっき、黒い影が一瞬見えたような……」

「クラウ=ソラス―――”戦術殻”という特殊兵装の最新鋭バージョンとなります。秘匿事項となるため詳細は説明できませんがそれなりの戦闘力はあるかと。」

クラウ=ソラスの登場に二人が驚いている中アルティナはクラウ=ソラスについて軽く説明した後クラウ=ソラスを消した。

「……えっと、貴族連合軍って事は元々エレボニア帝国に所属していたって事よね?エレボニア帝国ってあんなのが普通にあるわけ?」

「そんな訳ないだろう……僕だって初めて見た。(”槍の聖女”と非常に似た人物に”殲滅天使”、”紅き暴君”、”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”、それにこんな少女まで……第Ⅱ分校―――どういった場所なんだ?」

苦笑しているユウナに訊ねられたクルトは静かな表情でユウナの推測を否定する答えを口にした後リィンとセレーネ、アルティナを順番に見回して真剣な表情で考え込んだ。



「疑問は御尤もだがさっそく行動を開始しよう。―――ああ、ちなみに俺の武装はこれだ。」

「わたくしはこれです。」

「”八葉一刀流”の”太刀”に主に王宮剣術に使われる”細剣(レイピア)”………」

「……リィン教官のはアリオスさんが使っていたのと同じ武器ね。」

「ああ、騎士等が扱う通常の”剣”とは違う東方風の”剣”―――”刀”だ。はは、さすがに”風の剣聖”はクロスベルじゃとても有名な存在だから、”刀”も知っていたのか。」

「………色々ありましたけど、今でもファンは多いですし、慕っている人も多いですから。ヴァイスハイト皇帝陛下達―――”六銃士”によって世紀の大悪党扱いされて、今は拘置所にいるみたいですけど。」

リィンに話をふられたユウナは複雑そうな表情で答えた。

「あ………」

「ああ………そうみたいだな。―――よし、それじゃあ攻略を始めよう。」

ユウナの言葉を聞いてかつての出来事を思い出したセレーネは不安そうな表情をし、リィンは静かな表情で呟いて先へと進む扉に視線を向けた。

「現在B1、地上に出ればこの”実力テスト”も終了だ。実戦のコツ、アーツの使い方、ARCUSⅡの機能なども一通り説明していく。迅速に、確実に―――ただし無理はしないようにしっかりついてきてくれ。」

「怪我をすればすぐに治療しますので、遠慮なくいつでも申し出てください。」

「……わかりました。」

「……やるからには全力を尽くします。」

「それでは状況開始、ですね。」

そしてリィンの号令とセレーネの申し出を合図にユウナ達はそれぞれ決意の表情になって小要塞の攻略を開始した――――




 

 

第3話

~アインヘル小要塞~



「……みんな、止まれ。」

セレーネ達と共に先を進んでいたリィンは魔獣を見つけるとセレーネ達を制止した。

「ま、魔獣……!」

「……さっそく現れたか。」

リィンの警告を聞いて魔獣を確認したユウナは驚き、クルトは表情を引き締めた。

「ああもう、ホントに魔獣を放ってるなんて……!」

「というかそれ以前にシュミット博士はどのような手段で魔獣を捕縛してこの小要塞に放ったのでしょうね……」

「リィン教官、指示をお願いします。」

魔獣を確認したユウナが呆れ、セレーネが苦笑している中アルティナはリィンに指示を仰ぎ

「そうだな……まずは現時点での戦力を確かめておきたい。―――各自、戦闘準備を!」

アルティナの言葉に頷いたリィンは眼鏡を外して懐にしまった後号令をかけ、リィンの号令を合図にその場にいる全員はそれぞれの武装を構えた。

「ちょっ、ほんとにこの子も戦わせていいんですか!?」

「……?特に問題は感じませんが。」

「アハハ……まあ、普通に考えたらユウナさんの反応が当然なんですけどね……」

「大丈夫だ、俺とセレーネもサポートする。このまま仕掛ける……君達も気を引き締めてくれ!」

「っ……わかりました!」

「お手並み、拝見させてもらいます。」

そしてリィン達は魔獣との戦闘を開始した。



「ハァァァァ……クロスブレイク!!」

リィン達と共に戦闘を開始したユウナは電撃を流したトンファーによる一撃―――クロスブレイクで魔獣達を攻撃した。すると電撃が流れるトンファーの一撃を受けた事によって魔獣達は気絶し

「緋空斬!!」

「ブリューナク起動、照射。」

「――――!」

リィンは炎の斬撃波を、アルティナはクラウ=ソラスにレーザーを放つ指示をしてそれぞれ遠距離から追撃を叩き込み

「ヤアッ!」

「ハアッ!」

セレーネとクルトが止めの一撃を叩き込んで魔獣達を撃破した。



「敵性魔獣、撃破しました。」

「ふう……初戦としてはまずまずだな。」

「皆さん、怪我はありませんか?」

魔獣の撃破を確認したアルティナは静かな表情で呟き、リィンは安堵の溜息を吐き、セレーネはユウナ達に怪我の有無を訊ねた。

「……ええ、問題ありません。」

「って、あたしたちはともかく………えっと……アルティナ、だったわね。その、大丈夫……みたいね?」

「?何がでしょうか?」

ユウナの確認の言葉の意味がわからないアルティナは不思議そうな表情でユウナを見つめた後クラウ=ソラスをその場で消した。

「っ……はあ、滅茶苦茶ね。」

「”戦術殻”……こんなものが存在するとは。それに、彼女自身かなりの場数を踏んでいるみたいですね?」

「ああ、否定はしない。だがまあ、それでも君達より年下の女の子なのは確かだ。2人とも実戦は問題なさそうだし、上手くフォローしてやってくれ。」

クルトの推測にリィンは苦笑しながら答えた後アルティナのフォローを二人に頼んだ。

「い、言われなくても最初からそのつもりです。」

「……まあ、魔獣の手応えもそこまえは無そうだし大丈夫だろう。君のクロスベルの最新武装とやらもそのうち実力を見せてくれるだろうしね。」

(むっ……)

お互いに睨んでそっぽを向いたユウナとクルトの様子にリィン達は冷や汗をかき

「前途多難ですね。」

「あの………お二人のクラスメイトであるアルティナさんも他人事ではない事はわかっていますわよね?」

「ハア……とにかく先に進むとしよう。」

ジト目で呟いたアルティナにセレーネは表情を引き攣らせて指摘し、リィンは溜息を吐いた後気を取り直して先に進むように促した。その後先へと進んでいたリィン達は新たな魔獣を見つけた。



「昆虫系の魔獣か……固くて厄介そうね。」

「ええ、それになかなかすばしっこそうです。」

「―――ああいった魔獣はアーツか魔術で対処するのが無難だろうな。」

「はは、よくわかっているじゃないか。」

「それでは戦闘準備をした後、気を引き締めて挑みましょう。」

新たな魔獣を見て分析しているユウナとアルティナの話を聞いたクルトが対策を答え、クルトの答えにリィンは感心し、セレーネはユウナ達に声をかけ、そして戦闘準備を終えたリィン達は魔獣達に戦闘を仕掛けた。



「「アークス駆動――――」」

「「……………」」

「(へえ……?まさかユウナまで魔術を扱えるなんて、驚いたな。)――――下がれ!!」

戦闘開始時クルトとセレーネはアーツを発動させる為に戦術オーブメントを駆動させ、アルティナとユウナは魔術を放つ為にそれぞれ詠唱を開始し、アルティナ同様魔術の詠唱をしている様子のユウナを見て内心驚いていたリィンは仲間達の詠唱時間を稼ぐために魔獣達に太刀で孤を描く八葉一刀流の剣技の一つ―――弧月一閃でダメージを与えて魔獣の注意を自分へと惹きつけた。

「えいっ!アクアブリード!!」

「ハッ!エアストライク!!」

そしてオーブメントの駆動を終えたセレーネは水のエネルギーをぶつけるアーツを、クルトは風の刃を解き放つアーツを放ってそれぞれ魔獣達に攻撃を叩き込み

「漆黒の魔槍よ――――封印王の槍!!」

「大地の槍よ―――岩槍撃!!」

アルティナは魔術によって自身の頭上に発生した暗黒の槍を解き放ち、ユウナは魔術で魔獣の足元から岩の槍を発生させてそれぞれ追撃を叩き込んで止めを刺した。



「……2戦目も問題なく終わったな。それにしてもユウナまで魔術を扱えた事には驚いたよ。」

「一体どなたに魔術を教わったのですか?わたくし達―――メンフィル帝国の本国があるディル=リフィーナはともかく、元々魔術の存在があまり知られていなかったゼムリア大陸の方が魔術を習得する為にはわたくし達のような魔術の使い手に教わるしかないと思うのですが……」

魔獣の撃破を確認したリィンは感心した様子でユウナに声をかけ、セレーネは自身の疑問をユウナに訊ねた。

「警察学校のカリキュラムであたしを含めた警察学校に通っている人達はみんな、魔術習得のカリキュラムを受けさせられましたから、その時にエルファティシア先ぱ―――いえ、エルファティシア教官に教えて貰って、魔術を習得しました。」

「クロスベルの警察学校は異世界の魔術まで教えているのか………」

「まあ……エルファティシアさんが。」

「ハハ、元エルフ族の女王で、しかもエルフ族の中でも相当な魔術の使い手の彼女に魔術の指南をしてもらえるなんて、今のクロスベルの警察学校は凄く恵まれた環境なんだろうな。」

ユウナの説明を聞いたクルトが驚いている中セレーネは目を丸くし、リィンは苦笑していた。

「ユウナさんが先程放った魔術は岩の槍を発生させる魔術である事を考えるとユウナさんは地脈属性―――地属性の魔術に適性があるのでしょうか?」

「うん。エルファティシア教官の話によるとその人が扱える魔術の適性属性と戦術オーブメントの個体属性と関係しているらしいから、アークスの個体属性で”空属性”もあるあたしは空―――光の魔術である神聖魔術や治癒魔術にも適性があると思うよ?実際、エルファティシア教官からもエルファティシア教官の適性魔術でもある神聖魔術と治癒魔術、どちらの魔術もあたしなら習得できるって言われた事があるし。」

「まあ……という事はユウナさんは地属性に加えて、空属性の魔術や治癒の魔術まで扱えるのですか。」

アルティナの質問に答えたユウナの答えを聞いてある事に気づいたセレーネは目を丸くしてユウナが扱える魔術を推測を口にしたが

「いえ……お恥ずかしながら確かに神聖魔術や治癒魔術の適性はあるそうですけど、魔術師としての腕前はクロスベル帝国で5本の指に入ると言われているエルファティシア教官みたいにあたしには魔力はそんなにたくさんありませんし、魔術一つを完璧に扱いこなす事にも凄く手こずりましたから一番適性がある地脈属性の魔術をいくつか扱えるだけです。」

「ハハ、それでも十分凄いじゃないか。地脈属性魔術は攻撃だけでなく、支援や回復もあるから、あらゆる場面で役に立つぞ。」

謙遜している様子のユウナにリィンは高評価の指摘をし

「?その口ぶりですと、異世界の魔術もアーツのように属性によって、扱える種類も異なるのですか?」

リィンの話を聞いてある事が気になったクルトは不思議そうな表情でリィンに訊ねた。



「ああ。例えば俺は火炎属性―――火属性の魔術を扱えるけど、火属性の魔術の種類は攻撃しかないから、俺は攻撃魔術しか扱えないんだ。」

「ちなみにわたくしは魔術の種類で”攻撃”と”治癒”がある水と空属性の魔術を扱えますから、攻撃だけでなく、治癒の魔術も扱えますわ。」

「そうなんですか………そう言えば魔術で思い出したけど……アルティナも魔術を扱っていたけど、アルティナは誰に魔術を教えて貰ったの?」

「リィン教官―――次期”シュバルツァー公爵”の使用人を務める上でわたし自身の戦力の増強も必要と判断した所、私の判断を察していたリィン教官の婚約者の方々にして使い魔――――ベルフェゴール様達に指南してもらい、魔術を習得しました。」

(というか私はともかく、”魔神”のベルフェゴール様や”精霊女王”のリザイラ様、それに”古神”のアイドス様に魔術の指南をして貰えたアルティナさんの方が常識で考えれば凄く恵まれた環境で指南してもらった事は自覚しているのでしょうか……?)

(ふふっ、多分自分が凄く運が良くて恵まれている事はリィンが自分を引き取った件で自覚はしていると思うわよ。)

リィンとセレーネの話を聞いた後あるを思い出したユウナの質問に答えたアルティナの答えにユウナを含めたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンの身体の中や太刀から状況を見守っていたメサイアとアイドスは苦笑していた。

「こ、”婚約者にして使い魔”って、もしかしてルファディエル警視長やメヒーシャさん達みたいにリィン教官には契約している”異種族”がいて、しかもその人達まで婚約者なんですか!?」

「ハハ……まあ、そうなるな。今はオリエンテーションの最中だから紹介する時間はないが、いつか機会があったら紹介するよ。―――それよりも今は先に進もう。」

驚きの表情をしているユウナの問いかけにリィンは苦笑しながら答えた後先に進むように促した。その後先へと進みながら道の途中にいる魔獣達を撃破し続けたリィン達は一際大きい魔獣を見つけた。



「あれは………」

「あの魔獣……他のより一回り大きいけど。」

「大きさからして、手配魔獣クラスでしょうね。」

「現有戦力では若干手こずりそうですね。」

「ふう、まさかあんなものまで徘徊しているとはな……」

「……迂回して別ルートを探しますか?」

それぞれが新たな魔獣を警戒している中クルトはリィンに提案をした。

「いや―――ここは正面から仕掛けよう。」

「正面からって……ちょっと無謀すぎません?」

リィンの意外な答えにユウナは目を丸くしてリィンに問いかけた。

「そうとも限らないさ。こちらは5人―――今なら戦術リンクの連携も可能だ。ここまでの基本を押さえていれば必ずや撃破できるはずだ。」

「あ……」

「お兄様……」

「……いいでしょう。自分も異論はありません。」

「了解―――戦闘態勢に移行します。」

そして準備を整えたリィン達は魔獣に戦闘を仕掛けた。



「ハァァァァ……!斬ッ!!―――崩したぞ!」

「!?」

魔獣との戦闘を開始したクルトは先制攻撃代わりに双剣による乱舞攻撃―――レインスラッシュを魔獣に叩き込んだ。すると魔獣の態勢は崩れ

「頂き!」

態勢が崩れた事によってできた隙を逃さないかのようにクルトと戦術リンクを結んでいるユウナが自身の得物であるガンブレイカーの銃の部分を使って銃弾を連射して追撃を叩き込んだ。

「四の型――――紅葉切り!―――崩れた!」

「追撃します!」

二人の攻撃が終わるとリィンが刀を鞘に収めて疾走し、抜刀して魔獣に更なるダメージを与えると共に再び魔獣の態勢を崩し、魔獣の態勢が崩れるとリィンと戦術リンクを結んでいるアルティナがクラウ=ソラスに追撃を叩き込ませた。

「…………!」

「クッ……!」

「!」

魔獣は反撃に触手を周囲に振り回し、魔獣の近くにいたクルトは咄嗟に武器で防御して自分へのダメージを軽減し、リィンは後ろに跳躍して回避した。

「七色の光の矢よ――――プリズミックミサイル!!」

「!?」

魔獣の攻撃が終わると魔術の詠唱を終えたセレーネが両手から七色の光の矢を放ってダメージを与えた。すると魔獣はダメージの蓄積によって一時的に動けなくなる”ブレイク”状態になり

「やあっ!」

「えいっ!」

一時的に魔獣が動けなくなる様子を見たユウナとアルティナはそれぞれ左右から攻撃を仕掛けて魔獣に更なるダメージを与え

「遅い!」

「そこだっ!」

それぞれと戦術リンクを結んでいるクルトとリィンは二人の攻撃が終わると続くように追撃を叩き込み

「―――止めです!光よ、我が刃に力を―――――ホーリーインパクト!!」

そしてセレーネが力と魔力を細剣に溜め込んだ事によって光の魔力刃で伸長した細剣で薙ぎ払い攻撃を放つと、それが止めとなり、魔獣は動かなくなった。



「敵性魔獣の沈黙を確認。」

「はああ~……けっこう手こずったけど………」

(……思っていたほど大した相手じゃなかったか。)

魔獣の沈黙を確認したアルティナ達生徒3人はそれぞれ武装を収め、ユウナとクルトが魔獣に背を向けたその時何と魔獣の目に光が戻った。

「いけない―――!」

「―――まだだ、二人とも!」

魔獣の様子に逸早く気づいたセレーネとリィンが警告をしたその時、二人の警告を聞いたユウナとクルトが振り返ると魔獣は起き上がった。

「………え。」

「しまっ――――」

咄嗟の出来事にユウナとクルトは反応が遅れ

「クラウ=ソラス!!」

「光の盾よ――――!」

「ッ――――――うおおおっ!」

反応が遅れた二人をフォローする為にアルティナはクラウ=ソラスに指示を、セレーネはユウナとクルトの前に光の魔力によってできた簡易障壁を展開し、リィンは自身に眠る”鬼”の力を僅かに解放して魔獣に向かって突撃した。するとユウナとクルトの前にクラウ=ソラスが現れた後転移で自分ごと二人を移動させて魔獣から距離を取り、突撃したリィンは魔獣にダメージを与えて自分へと注意を惹きつけた後止めに大技を放った!

「明鏡止水――――我が太刀は生。見えた!――――うおおおおおっ!斬!!」

リィンは縦横無尽にかけながら魔獣に何度も斬撃を叩き込んだ後強烈な威力の回転斬りを放った。

「七ノ太刀――――落葉!!」

そしてリィンが太刀を鞘に収めた瞬間、鎌鼬が発生して魔獣に襲い掛かり、魔獣に止めを刺した!



「ぁ…………」

(今のは……?)

リィンが魔獣に止めを刺した様子を見守っていたユウナは呆け、クルトはリィンが見せた”力”の一端に不思議そうな表情をしていた。

「ふう………ユウナ、クルト……アルティナも大丈夫か?」

「皆さん、怪我はありませんか?」

「は、はい……」

「……なんとか。」

「こちらも損傷無し―――問題ありません。」

「そうか……アルティナとセレーネ、咄嗟によく動いてくれた。ユウナとクルトは、敵の目の前で武装を解いたのはまずかったな?敵の沈黙が完全に確認できるまで気を抜かない―――実戦での基本だ。」

「それと魔獣や人形兵器等は種類によっては沈黙と同時に自爆をするタイプもいますから、接近戦で止めを刺す時は気を付けてくださいね。」

生徒達に怪我がない事に安堵の溜息を吐いたリィンとセレーネはユウナとクルトに指摘をした。

「………はい。」

「……すみません、完全に油断していました。」

リィンとセレーネの指摘をユウナとクルトは素直に受け取り

「いや……偉そうには言ったが今のはどちらかといえば指導者である俺とセレーネのミスだな。やっぱり俺達も、教官としてはまだまだ未熟ってことだろう。」

「そうですわね………”教官”としてはわたくしとお兄様の二人がかりでも、”一人前”に届くかどうかですものね。」

注意をした二人はそれぞれ自分に対する反省の言葉を口にした。

「だが、それでも今は”俺達”が君達の教官だ。この実戦テストで、君達と同じく試される立場にある、な。だから君達も、君達自身の目で、俺達を見極めてくれ。本当に俺達が―――――”Ⅶ(きみたち)”の教官に相応しいのかどうかを。」

「わたくし達に対する意見や注意して欲しい事があれば、遠慮なく言ってくださいね。」

「…………あ………」

「それは………」

「………判断………?」

「このテストの終了後、君達が望むなら”転科”という選択肢も無い訳じゃない。その時は、俺とセレーネから直接分校長に掛け合うと約束する。――――そんなところでどうだ?」

「「「………………」」」

リィンの問いかけに生徒達3人はそれぞれ黙り込んだ。

「―――何を立ち止まっている?時間を無駄にするんじゃない。とっととテストを再開するがいい。」

「終点も近づいています―――気を付けて進んでくださいっ。」

するとその時シュミット博士の先を急かす声と娘の助言の声が聞こえてきた。

「ふふっ、少し長話をし過ぎたみたいですわね。」

「ああ。――探索を再開する。最後まで気を抜かずに行くとしよう。」

「了解しました。」

そしてリィンの号令を合図にアルティナはクルトとユウナと共に頷いた後リィンとセレーネと共に先へと進み

「………な、何よっ。わかったような事を言ってくれちゃって。それに……………”また”…………」

「また?」

リィン達の後ろ姿を見つめながら呟いたユウナの独り言の内容が気になったクルトは不思議そうな表情をしてユウナを見つめた。

「………なんでもない。でも……見極める、か。」

「ああ………どうやら少し思いあがっていたらしい。……こんなことじゃ、父や兄に顔向けできないな。」

「うん、あたしも………これじゃ何の為に一念発起してエレボニア帝国に来たんだか。―――とにかく行きましょ、クルト君!これ以上、あの人達にばかりいい格好はさせないんだから!」

「フッ、そうだね。彼女(アルティナ)にも後れをとれない。もう終点は近いみたいだが……行くとしよう!」

そしてそれぞれ自分に対する反省をしたユウナとクルトはリィン達の後を追って行った――――


 
 

 
後書き
今回の話で気づいたと思いますが、ユウナとアルティナはメンフィルorクロスベル……じゃなくてエウシュリーキャラ達によってブーストされているので魔術を習得済みです。ところで書いていて気づきましたがエウシュリーの地脈属性、しかも魔術の出番ってあんまりないですよね(汗)軌跡シリーズ同様エウシュリーシリーズもなぜか地属性は不遇の立場の気が(酷っ!) 

 

第4話

その後探索を続けたリィン達はようやく終点に到着した。



~アインヘル小要塞・終点~



「あ………」

リィン達と共に終点に到着したクルトは階段の先にある外の光が見える出入り口に気づき

「はあはあ……そ、外の光……?」

「地上階――――指定にあったテスト区画の終点なのでは?」

クルトに続くようにユウナとアルティナも出入り口に視線を向けた。

「ああ……そうみたいだな。」

「問題はこのまま、終点に迎えるかどうかですね。」

アルティナの問いかけにリィンは頷き、セレーネは苦笑していた。

「ああもう、ホントエレボニア人って……!学校にこんな訓練施設を作るなんてあり得なさすぎでしょう!?」

「ふう、エレボニア人で一括りにしないで欲しいんだが……――――G・シュミット。本当にあの高名な博士本人なんですよね?」

ユウナの文句に呆れた表情で溜息を吐いたクルトはある事を思い出してリィンに訊ね

「ああ………俺も話には聞いていたが。ただどうして第Ⅱ分校の顧問として来ているかは知らないが――――」

そしてクルトの質問にリィンが答えかけたその時、何かの気配をリィンは感じ取った。

「これは――――」

「センサーに警告。霊子反応を検出しました。」

「”やっぱり”、このまま終点には迎えませんか……」

「へ……」

「霊子反応……?」

リィンは真剣な表情で正面を見つめ、アルティナは報告し、セレーネは疲れた表情で溜息を吐き、ユウナとクルトはそれぞれ不思議そうな表情をした。

「み、皆さん、逃げてくださいっ!」

するとその時少女の警告が聞こえ、警告が聞こえると同時にリィン達の目の前に大型の甲冑の人形が現れた!



「…………!?」

「こ、これって………”機甲兵”!?」

巨大な甲冑の人形の登場にクルトとユウナは驚き

「いえ、これは――――」

「確かユミルの山道にも現れ、”煌魔城”でも徘徊していた……!」

「”魔煌兵”―――暗黒時代の魔導ゴーレムだ!シュミット博士!まさか、これも貴方が!?」

一方甲冑の人形に見覚えがあるアルティナはユウナの推測を否定し、セレーネは目を見開き、リィンは信じられない表情で声を上げた後自分達の様子を見守っているシュミット博士に問いかけた。

「―――内戦時に出現していた旧時代マシナリィを捕獲した。機甲兵よりも出力は劣るが自律行動できるのは悪くない。それの撃破をもって、今回のテストを終了とする。」

「くっ、本気か……!?」

「ちょっとマッド博士!いい加減にしなさいよね!?」

シュミット博士の説明を聞いたクルトは唇を噛みしめ、ユウナは文句を言った。

「(このメンバーじゃ分が悪いな。こうなったら――――)――――セレーネは”竜化”を!来い、”灰の騎神”―――――」

「わかりましたわ!ハァァァァァ………」

一方自分達と相手の戦力を即座に分析したリィンはセレーネに指示をした後2年前の内戦で手に入れた”騎神”――――”灰の騎神ヴァリマール”を呼ぼうとし、リィンの指示に頷いたセレーネが竜化をしようと力を溜め始めたが

「騎神の使用並びに竜化、そしてセレーネ・L・アルフヘイムを除いたお前に力を貸している異種族達の助力は禁止だ。LV0の難易度は騎神を含めた”人”とは比べものにならない”強力な存在”の介入を想定していない。その程度の相手に使ったら正確なテストにはならぬだろう。」

シュミット博士の指摘を聞いてリィンとセレーネはそれぞれの行動を中断した。

「シュバルツァー、せいぜいお前が”奥の手”を使うか――――」

「……………」

(奥の手……?)

シュミット博士の話を聞いたリィンが静かな表情で黙り込んでいる中シュミット博士の話が気になったクルトは不思議そうな表情でリィンを見つめた。

「―――まだ使っていない”ARCUSⅡ”の新機能を引き出してみせるがいい。」

「”ブレイブオーダー”モードを起動してください……!オリビエさん――――オリヴァルト皇子がリィン教官とセレーネ教官ならきっと使いこなせるって言ってました!」

シュミット博士と少女の話を聞いたリィンとセレーネは第Ⅱ分校に来る少し前に、バリアハートを訊ねてきたオリヴァルト皇子の話を思い出した。



――――私の頼みに応じてくれたことに改めて心からの感謝を、リィン君、セレーネ君。



お礼と言ってはなんだが、完成したばかりの”ARCUSⅡ”を”君達全員”に贈らせてもらうよ。



実は通信面でちょっとしたカスタムがされているんだが………他にも”ENIGMA・R(リメイク)”には搭載していない画期的な新機能があるから実戦で役立ててくれたまえ。



「あ………」

「そうか―――了解だ!防御陣――――”鉄心”!!」

オリヴァルト皇子の話を思い出したセレーネは呆けた声を出し、リィンは頷いた後戦術オーブメントを取り出してある機能を起動させた。するとオーブメントから光が放たれ、リィン達全員を包み込んだ。

「これは――――!?」

「な、何かがあの人から伝わってくる……!?」

「戦術リンク―――いえ、それとは別の………」

「これが新たな機能―――”ブレイブオーダー”ですか……!」

リィンが起動させた戦術オーブメントの新たな機能に生徒達がそれぞれ戸惑っている中予め説明を受けて知っていたセレーネは驚きの表情で呟いた。

「――――Ⅶ組総員、戦闘準備!”ブレイブオーダー”起動――――トールズ第Ⅱ分校、Ⅶ組特務科、全力で目標を撃破する!」

「おおっ!」

そしてリィンの号令を合図にユウナ達は巨大な甲冑の人形―――――”魔煌兵”ダイアウルフとの戦闘を開始した!



「……………」

「「!!」」

「くっ!?」

「キャッ!?」

「あうっ!?」

戦闘開始時敵は先制攻撃代わりにリィン達目がけて巨大な拳を振り下ろし、敵の行動に真っ先に気づいたリィンとセレーネは左右に跳躍して距離を取った。すると敵の拳が地面にぶつかった瞬間衝撃波が発生して、リィンとセレーネと違い、回避や防御行動に遅れたユウナ達にダメージを与えた。

「回復します――――アルジェムヒール!!」

「――――――!」

「二の型―――洸破斬!!」

「落ちよ、聖なる雷――――ライトニングプラズマ!!」

敵は巨体の為攻撃の威力も凄まじかったが、ユウナ達はリィンの”オーダー”によって防御能力が高められていた事で受けるダメージも軽減されていた為、耐える事ができ、敵の攻撃が終わるとアルティナは受けたダメージを回復する為にクラウ=ソラスに回復エネルギーを解き放させて自分達の傷を回復し、リィンとセレーネはそれぞれ発動が早い遠距離攻撃を敵に叩き込んで敵の注意を自分達へと惹きつけていた。

「ありがとう、アルティナ!えいっ!」

「ハアッ!」

アルティナとクラウ=ソラスのクラフトによって傷が回復したユウナとクルトはそれぞれ左右の足に武器を叩き込んでダメージを与えた。

「秘技―――裏疾風!斬!!崩したぞ!」

続けてリィンが鎌鼬を纏った電光石火の2連続攻撃で追撃して敵の態勢を崩し

「ブリューナク起動、照射。」

「―――――!」

リィンが作った隙を逃さないかのようにリィンと戦術リンクを結んでいたアルティナがクラウ=ソラスにレーザーを発射させて更なる追撃を叩き込んで敵のダメージを重ねた。一方次々とダメージを受けた敵は反撃をしようとしたが

「光の加護を―――――ホーリーミスト!!」

セレーネが発動した仲間全員を光を纏わせて一定時間戦場から姿を消す”ブレイブオーダー”――――ホーリーミストによってリィン達全員が戦場から姿を消した事によって攻撃対象がわからなくなった為、何もできなくなった。



「ハァァァァァ………受けろ、大地の一撃!!崩したわ!」

「!?」

セレーネのブレイブオーダーによって敵が自分達を認識していない事を利用したユウナはトンファーに地属性の魔力を溜め込んで強烈な一撃――――アースブレイクを敵に叩き込んだ。するとトンファーの打撃力に7属性の中で最も打撃力や衝撃力が強い大地の魔力が重ねられた事による一撃に加えて後方からの奇襲攻撃を受けた敵は怯むと共に態勢を崩し

「双波斬!!」

ユウナと戦術リンクを結んでいるクルトが双剣の片方の剣で斬り上げた後続けてもう片方の剣で斬り下ろしによる2連続攻撃を叩き込んで敵に対するダメージを重ねた。

「―――――――!!」

ダメージを重ねた事によって敵は咆哮を上げて”高揚”状態になって、反撃をしようとしたが姿を消すセレーネのブレイブオーダーがまだ続いていた事によって、反撃はできなかった。

「炎よ、焼き飛ばせ――――灼熱の大熱風!!」

「聖なる光よ、今ここに集いて炸裂せよ―――ホーリーバースト!!」

そこにリィンが発動した魔術による炎の竜巻とセレーネが発動した魔術による集束した光の爆裂が敵に襲い掛かり、”高揚”状態になっている事によって防御が無防備だった敵は大ダメージを受けた。

「―――行きます!トランスフォーム!!――――シンクロ完了。ゴー―――アルカディス・ギア!!よーい――――どん!」

するとその時アルティナは一瞬でクラウ=ソラスと一体化し、敵に突撃した!

「ブリューナク展開、照射。――――止めです。」

クラウ=ソラスと一体化したアルティナは敵に突撃しながら両肩についている砲口から集束エネルギーを敵に向けて放った後敵の頭上へと移動し

「ハァァァァァ………斬!!」

止めにブレードの部分である両腕を縦に回転させて敵に止めの一撃を叩き込んだ!

「――――――――!!??」

クラウ=ソラスと一体化し、強烈な連携攻撃を放つアルティナのSクラフト―――アルカディス・ギアによるダメージに耐えきれなくなった敵は咆哮を上げながら消滅した!



「はあはあ……た、倒せた………」

「………っ………はあはあ………」

「………体力低下。小休止します。」

敵の消滅を確認したユウナ達生徒3人は安堵や疲労によって地面に跪いたりを息を切らせたりし

「何とか全員無事で終えましたわね。」

「…………………」

まだまだ余力があるセレーネとリィンはそれぞれ武器を収めて生徒達に視線を向けた。

「お、お疲れ様でした!テストは全て終了です!―――博士、いくらなんでも無茶苦茶ですよ~!」

「フン、想定よりもかなり早いか。次は難度を2~3段階上げるとして………」

「ぁうぅっ……聞いてくださいよ~っ!?」

小要塞内に聞こえてきた少女とシュミット博士の会話を聞いていたリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて呆れた表情をしていた。



「………滅茶苦茶すぎだろう。」

「次って、また同じことをやらせようってわけ……?」

「可能性は高そうですね。しかも会話の内容からして、今回のテストの難易度より更に難易度が上がっている可能性大です。」

「――――いずれにせよ、”実力テスト”は終了だ。」

「皆さん、お疲れ様でした。」

「………ぁ…………」

「………すみません。」

「………ありがとうございます。」

それぞれ疲労している様子のユウナ達にセレーネと共に労いの言葉をかけたリィンはユウナとクルトに、セレーネはアルティナに手を差し出して立ち上がらせた。

「3人とも、よく頑張った。ARCUSⅡの新モード、”ブレイブオーダー”も成功―――上出来といっていいだろう。それぞれ課題はあるだろうが一つ一つクリアしていけばいい。”Ⅶ組・特務科”――――人数の少なさといい、今回のテストといい、不審に思うのも当然かもしれない。教官として所か一人の大人としてまだまだ未熟でロクに概要を知らない俺達が教官を務めるのも不安だろう。先程言ったように、希望があれば他のクラスへの転科を掛け合う事も約束する。だから―――最後は君達自身に決めて欲しい。自分の考え、やりたい事、なりたい将来、今考えられる限りの”自分自身”の全てと向き合った上で今回のテストという手応えを通じて”Ⅶ組”に所属するかどうかを。多分それが、”Ⅶ組”に所属する最大の”決め手”となるだろうから。」

「どうかわたくし達に遠慮せず、ハッキリと自分の”意志”を口にしてください。」

「「「……………」」」

リィンとセレーネの説明を聞いたユウナ達生徒達はそれぞれ黙って考え込み、やがて最初にユウナが口を開いた。



「――――ユウナ・クロフォード。”Ⅶ組・特務科”に参加します。」

「え――――」

「………ぁ…………」

ユウナの答えを聞いたクルトとアルティナはそれぞれ呆けた様子でユウナを見つめた。

「勘違いしないでください。入りたいからじゃありません。あたしはクロスベルから様々な複雑な経緯でこの学校に来ました。エレボニアの事は、あまり好きじゃありません。」

「みたいだな。」

「……だけど、今回のテストで貴方達の指示やアドバイスは適切でした。さっきの化物だって、お二人がいなければ撃破できなかったでしょう。はっきり言って悔しいですし、警察学校で学んだ事を活かせなかったのも不本意です。―――だから結果を出すまでは、実力を示せるまでは”Ⅶ組”にいます。”灰色の騎士”に”聖竜の姫君”――――メンフィル、エレボニアの両帝国の英雄にしてあの”特務支援課”の一員でもあり、クロスベルの英雄でもあった貴方達に一人前として認められるくらいになるまでは。」

「ユウナさん……」

(……滅茶苦茶だろう……)

(……論理的整合性はありそうですが。)

ユウナの決意を知ったセレーネは目を丸くし、クルトは呆れ、アルティナは納得した様子でユウナを見つめていた。



「ふう……その英雄というのは正直止めて貰いたいんだが。わかった、君の意志を尊重する。”Ⅶ組”へようこそ―――ユウナ。」

「――――はい!」

「クルト・ヴァンダール・自分も”Ⅶ組”に参加します。ただし―――積極的な理由はありません。」

そしてリィンの言葉にユウナが力強く頷くとクルトも続くように”Ⅶ組”への参加の申し出を口にした。

「え……」

「それは……」

「この第Ⅱ分校が、自分のクラスをここに定めたのなら異存はありません。強いて言うなら、今回のように実戦の機会が多いのは助かります。受け継いだ剣を錆び付かせてしまったら家族への面目も立ちませんから。」

「受け継いだ剣……」

「ヴァンダール流ですか。」

クルトの説明を聞いたユウナは呆けた表情をし、アルティナは静かな表情で呟いた。

「それと、折角なので”八葉”とあの兄が”剣士として間違いなく双界最強”と称した人物が修めている剣技―――”飛燕”の一端には触れさせてもらおうかと。――――”飛燕”の使い手の方はまだ実際にこの目にしていないので何とも言えませんが、”八葉”の方は正直聞いていたほどでは無かったというのが本音ですが。」

「え、え~と……」

(って、生意気すぎでしょ……!?)

(人のことは全く言えないと思いますが。)

(というか”飛燕剣”の一端に触れたいという事は、クルトさんはアイドス様の事もご存知なのでしょうね……)

(まあ、彼はお姉様やセリカとも親交があるミュラーの弟なのだから、私の存在や”飛燕剣”の事を知っていてもおかしくないわよ。)

クルトのリィンへの評価にセレーネは困った表情をし、呆れているユウナにアルティナはジト目で指摘し、冷や汗をかいて呟いたメサイアの念話にアイドスは苦笑しながら答えた。



「はは……君達と同じくいまだ修行中の身というだけさ。―――了解した、クルト。”Ⅶ組”への参加を歓迎する。」

「………はい。」

「……後はアルティナさん、貴女だけですよ。」

リィンの言葉にクルトが頷いた後リィン達はアルティナに注目し、セレーネがアルティナに答えを促した。

「………?何故わたしにも確認を?その必要はありません。任務内容には準じて――――」

セレーネの問いかけに不思議そうな表情で首を傾げたアルティナは答えを口にしようとしたが

「そうじゃない、アルティナ。君自身の意志でどうしたいか決めるんだ。」

「???」

「………………」

(……意味がわからないのか?)

リィンの答えを制されて指摘され、リィンの指摘に不思議そうな表情で首を傾げている様子のアルティナをユウナは目を丸くして見守り、クルトは戸惑いの表情で見守っていた。



「―――さっきも言った通り、自分自身の意志を示さない限り参加を認めるつもりはない。決めたのが分校長だろうと、たとえリウイ陛下やメンフィル帝国政府だろうとその一線だけは譲らないつもりだ。」

「それにアルティナさんもご自身で仰ったでしょう?分校への入学はお兄様達―――シュバルツァー家がアルティナさんに”普通の子供として”学院生活を経験して欲しいという心遣いも含まれている事を。それなのに、誰かの意図に従ってこのクラスに参加する事はお兄様達は望んでいないと思いますわよ?」

「そうだな……誰かに決められてこのクラスに参加する事は俺達もそうだが、父さん達もきっと望んでいない。……何でもいい。君自身の”根拠”を示してくれ。」

「私自身の”根拠”………」

リィンとセレーネに指摘されたアルティナは考え込んだ。

「ちょ、ちょっと……!何を意地悪しているんですか!?事情は知らないけどよくわかってない子に―――」

アルティナの様子を見たユウナはアルティナを庇う為にリィンとセレーネに文句を言いかけたその時

「……”根拠””は思いつきません。ですが――――メンフィルの捕虜の身であった私を教官のご厚意によって教官達―――シュバルツァー家に引き取られてからこの1年半、内戦を含めて貴方達の事をサポートさせてもらいました。この分校で所属するのなら『リィン教官のクラス』であるのが”適切”であると考えます。それと1年半前内戦終結の為に、”特務部隊”であった私達と協力関係であったトールズ士官学院”Ⅶ組”――――その名前の響きに少しばかり興味もあります。……それでは不十分でしょうか?」

アルティナも自身の答えを出して、リィンとセレーネに確認した。

「あ………」

「……………」

「―――今はそれで十分だ。よろしく頼む、アルティナ。」

「改めてよろしくお願いしますわね、アルティナさん。」

「はい。」

そしてユウナとクルトが見守っている中リィンとセレーネはそれぞれアルティナをⅦ組の一員と受け入れる事を決め、二人の言葉にアルティナは頷いた。

「ふ、ふん……勿体ぶっちゃって。」

「ふう………波乱含みだな。」

「――――それでは、この場をもって”Ⅶ組・特務科”の発足を宣言する。お互い”新米”同士、教官と生徒というだけでなく―――”仲間”として共に汗をかき、切磋琢磨していこう!」

そしてリィンは力強い宣言をその場で口にしてユウナ達を見回した。



「リィン君………」

「うふふ、まさに”青春”をしているわね、リィンお兄さんったら♪」

一方リィン達の様子を地上へと続く出入り口から見守っていたトワは微笑み、レンは小悪魔な笑みを浮かべ

「へえ……どうなってるか気になって来てみりゃあ。」

「クク……さすがは”特務支援課”と”旧Ⅶ組”に深く関わっていただけはあるな。」

ランディとランドロスは興味ありげな様子でリィンを見つめていた。

「……勝手なことを。一教官に生徒の所属を決定できる権限などないというのに。」

「フフ、転科の願いがあれば私は認めるつもりではありましたが。」

一方リィンの行動にミハイル少佐が呆れている一方リアンヌ分校長は意外な答えを口にした。

「分校長、お言葉ですが――――」

「つり合いが取れれば問題はないでしょう。彼らは己で”決めた”のですから。Ⅷ組、Ⅸ組共に出だしは順調、”捨石”にしては上出来の船出です。―――――近日中に動きがあります。激動の時代に翻弄され、儚く散らせたくなければその”時”が来るまでに雛鳥たちを鍛え続けなさい。」

そしてミハイル少佐の注意を制したリアンヌ分校長はその場にいる教官達に忠告し

「も、勿論です……!」

「―――ま、生徒が死なないようにするのも”教官”の務めだものね。」

「おうよ!クク、どんな風に雛鳥達を成長させるか、今から楽しみだぜ!」

「……イエス、マム。」

「やれやれ―――大変な所に来ちまったなぁ。」

リアンヌ分校長の忠告にその場にいる教官達はそれぞれの答えを口にした。



~アインヘル小要塞・外~



「ったく、ラッセルの爺さん以上にマッドすぎるだろうが……留学についてもそうだが、あんなジジイに弟子入りしちまって本当に良かったのか?」

その後小要塞から去っていくシュミット博士を金髪の少女と共に見守っていた赤毛の男は呆れた表情で溜息を吐いた後金髪の少女に訊ねた。

「あはは……でもでも、やっぱり凄いヒトです……!同じ新入生の子達とも仲良くやっていけそうですし……レンちゃんもいますし……―――それに、エレボニアに入れないお姉ちゃんたちの”代理”もちゃんと務めたいですから……!」

「やれやれ、いつの間にかデカくなったっつーか……もう”チビスケ”とは呼べねぇな。」

金髪の少女の話を聞いた赤毛の男は苦笑した後少女の頭を優しくなでた。

「あ………えへへ……」

「”連中”は確実に動き始めてる。帝国政府も、それ以外の勢力もな。スチャラカ皇子のツテで遠距離通信のラインは確保できた。何かあったら駆けつける。遠慮なく連絡しろ―――ティータ。」

「はいっ……!アガットさんも気を付けてあんまり無茶しないでください!」

そして赤毛の男―――アガットの言葉に金髪の少女―――ティータは力強い頷いた。

「――――うふふ、なるほどね。貴方がエレボニア入りした”一番の理由”は”やっぱり”ティータを守る為だったのね。」

「レ、レンちゃん……!」

「なっ、テメェ、何でここにいやがる……!?」

するとその時レンが眼鏡を外して二人に近づき、近づいてきたレンに気づいたティータは驚き、アガットは信じられない表情でレンに訊ねた。



「”何でここにいやがる”とはご挨拶ね~。レンは第Ⅱ分校の”教官”―――”先生”の一人なんだから、この分校のどこにいても当然でしょう?」

「フン…………おい、一つ聞きたい事がある。何でテメェ―――いや、メンフィルやクロスベルの連中はあのスチャラカ皇子の頼みに応じてこの学校の教師として派遣されてきた?幾ら知り合いの頼みだからと言って、皇族の連中どころか1年半前の戦争で生まれた”英雄”まで引っ張り出して1年半前の戦争や内戦の件でそれぞれ国家間の関係が微妙な状態になっているエレボニアにわざわざ入り込むなんて、どう考えてもありえねぇだろう。まさかとは思うが、1年半前テメェの国の”灰色の騎士”の活躍で中途半端になったエレボニアとの因縁の”ケリ”をつける為か……?」

からかいの表情で答えたレンの様子にアガットは鼻を鳴らした後目を細めてレンに問いかけ

「へえ?」

「ア、アガットさん……レンちゃん………」

アガットの問いかけにレンが興味ありげな表情をしている中ティータは心配そうな表情で二人を見比べていた。

「………うふふ、”A級”への昇格祝いに良い事を教えてあげる。1年半前の件で大きく衰退したエレボニアが”衰退した原因”に対する復讐とかを考えていなかったら、レン達は”何もするつもりはない”わよ。――――最も逆に言えば、”何かするつもりなら”、レン達も”相応の対応をする”という意味にもなるけどねぇ?―――――”主計科”のみんなも既にオリエンテーションが終わっているから、ティータも早く戻って合流してね。」

「………チッ………”やっぱり”か。」

「レンちゃん…………」

そしてレンは意味ありげな笑みを浮かべて答えた後その場から去り、その様子を見守っていたアガットは舌打ちをした後厳しい表情をし、ティータは複雑そうな表情でレンの後ろ姿を見守っていた―――――




 
 

 
後書き
閃Ⅲ篇は次の話と序章終了時のリィン達のステータスを更新した後閃Ⅲ篇は一旦ストップして焔の軌跡の続きの更新に戻ろうと思っていますので焔の軌跡の続きをお待ちしている人達はもう少々お待ちください 

 

外伝~改変された最後の運命の始まり~

~リーヴス~



「は~……疲れたぁ~。入学早々からこんなに疲れるなんて思わなかったわ……」

オリエンテーション後に行われたHR(ホームルーム)が終わり、新入生達がそれぞれ下校していく中、クルトやアルティナと共に校門を出て下校を始めたユウナは疲れた表情で溜息を吐き

「………あのような”オリエンテーション”があったのですから、誰でも疲れて当然かと。」

「……宿舎に戻った後は宿舎に届いている僕達の荷物をそれぞれの部屋に自分で運んで整理し、更に夕食も自分でとらなければならない事を考えると少し憂鬱になるな。」

ユウナの言葉にアルティナは頷き、クルトは困った表情で呟いた。

「う”っ………それを考えたら更に疲れるから考えないようにしていたのに、言わないでよ~。」

「………まあ、少なくても荷物を部屋に運ぶ事と今日の夕食の準備の心配は必要ありませんから、ユウナさんが想像しているような体力の低下はないかと。」

クルトの言葉を聞いて肩を落とした様子のユウナにアルティナは指摘し

「へ……それって、どういう事??」

「それについては宿舎に行けばすぐにわかるかと。」

自分の言葉に不思議そうな表情で首を傾げているユウナにアルティナは静かな表情で答えた。そして宿舎に辿り着いたユウナ達新入生達は宿舎に入ると、驚愕の人物達がユウナ達を迎えた。



~宿舎~



「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます♪そして、お帰りなさい♪」

「―――ご入学おめでとうございます、そしてお疲れ様です、トールズ第Ⅱ分校の新入生の皆様。」

「へ…………」

「な――――――」

ユウナ達が宿舎に入るとそれぞれメイド服を身に纏ったアルフィンとエリゼがユウナ達に労いやお祝いの言葉を述べた後恭しく頭を下げ、アルフィンとエリゼを見たユウナは呆けた声を出し、クルトは絶句してアルフィンを見つめた。

「ええっ!?あの方って確か……!」

「ア、アルフィン皇女殿下……!?」

「ど、どうして皇女殿下が宿舎に……―――い、いえ、その格好は一体……?」

「あれ?確か皇女殿下って、1年半前のメンフィル帝国との戦争の”和解条約”で”灰色の騎士”に嫁いだんじゃ……?」

「ククッ……最後の最後で、こんなサプライズがあるとはな。」

「ふふっ……まさか1日で2回も想定外の出来事が起こるなんて。」

「ふえ~……それじゃあ、あの人がオリビエさんの妹さんなんだ………」

アルフィンの正体を知っている生徒達がそれぞれ驚いたり混乱している中金茶髪の男子は不敵な笑みを浮かべ、ミント髪の女子は微笑み、興味ありげな表情で、ティータは呆けた表情でアルフィンとエリゼを見つめていた。

「ふふっ……―――初めまして。元エレボニア帝国の皇女にして1年半前の内戦を終結へと導き、そして内戦の間に起こった異世界の大国メンフィル帝国との戦争を”和解”へと導いて頂いたエレボニアとメンフィル、両帝国の英雄――――”灰色の騎士”リィン・シュバルツァーの伴侶の一人として嫁いだアルフィン・シュバルツァーと申します。此の度様々な事情によりこの第Ⅱ分校専用の宿舎の”管理人”を務める事になりました。以後お見知りおきお願い致しますわ。」

「―――同じく此の度トールズ第Ⅱ分校専用宿舎の”管理人補佐”を務める事になったリィン・シュバルツァーの妹、エリゼ・シュバルツァーと申します。以後お見知りおきを。」

アルフィンとエリゼはそれぞれ上品な仕草で自己紹介をし

「あ、ちなみにエリゼは旦那様――――リィンさんの婚約者の一人ですから、幾らエリゼが魅力的な女性だからと言って、エリゼに想いを寄せてしまったら妹と結婚する程とても妹を大切にしておられるエレボニアの英雄でもある”灰色の騎士”の逆鱗に触れる事になりますから、男性生徒の方々はエリゼに想いを寄せる事は絶対に止めた方がいいですわよ♪」

「アルフィン、貴女ね………」

アルフィンはからかいの表情で忠告し、アルフィンの忠告にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エリゼはジト目でアルフィンを見つめた。



「ア、アルフィン皇女殿下と”灰色の騎士”の妹が宿舎の管理人……!?」

「一体どういう経緯があって、こんなとんでもない事に………」

「そ、それに”灰色の騎士”―――リィン教官に皇女殿下以外にも多くの婚約者が存在している話は耳にした事がありますが………」

「妹とまで婚約って、”灰色の騎士”って筋金入りのシスコンやったんや!?」

「というかそれ以前に”近親婚”って、できないんじゃなかったのか……?」

「ハハッ!教官のメンツといい、宿舎の管理人のメンツといい、中々面白い学生生活になりそうだね!」

「な、な、な……っ!アルティナ、今の二人の話って、本当なの!?」

我に返った生徒達が驚いたり混乱している中緑の髪をポニーテールにしている女子生徒は豪快に笑い、ユウナは口をパクパクさせた後、事情を一番知っていると思われるアルティナに訊ねた。

「……?どの事を訊ねているのでしょうか?」

「全部よ!あの二人のメイドさん?がリィン教官の奥さんでしかも元エレボニアのお姫様だとか、教官の妹で婚約者だとか、しかもその二人が宿舎の管理人を務める事とかも!」

「はい。全てお二人が仰っている通りです。」

「なるほど………だから先程僕達が夕食の準備や荷物を部屋に運ぶ必要がないような事を言っていたのか…………待てよ?という事は僕達は皇女殿下に夕食の準備をさせてしまった挙句、僕達の代わりに荷物を部屋に運ばせてしまったというとんでもない不敬を犯してしまったんじゃ………!?」

ユウナの質問にアルティナが肯定するとクルトは納得した様子で呟いたがすぐにある事に気づくと表情を青褪めさせて声を上げ

「あら?ふふっ、お久しぶりですわね、クルトさん。」

「………お久しぶりです。皇女殿下も変わらずご健勝そうで何よりです。1年半前メンフィル帝国との和解条約によってエレボニア帝国から去っても、更に麗しくなられましたね。」

するとその時クルトの声に気づいたアルフィンはクルトに近づいて声をかけ、声をかけられたクルトは恭しく会釈をして答えた。



「ふふっ、ありがとうございます。それにしてもクルトさんが第Ⅱ分校に入学していらしていたなんて………分校に来た理由はやはり、ご実家の件も関係しているのでしょうね。」

「………………」

(…………?)

複雑そうな表情で呟いたアルフィンの言葉に対して何も返さず複雑そうな表情で黙り込んでいるクルトの様子に気づいたユウナは不思議そうな表情で首を傾げ

「……アルフィン。」

「あっと……―――失礼しました。………リィンさんに降嫁した事でエレボニア皇族の地位を放棄してメンフィル帝国の貴族であるシュバルツァー家の一員となったわたくしに今の帝国政府やアルノール皇家の決定に意見をする”権利”はございませんが………それでもアルノール皇家を代表して、謝罪させて下さい。ヴァンダール家の方々にまでかつてのシュバルツァー家にした仕打ちのように今まで受けた恩を仇で返してしまい、本当に申し訳ございませんでした。」

複雑そうな表情をしたエリゼに声をかけられたアルフィンはクルトに謝罪し

「そんな……どうか、頭をお上げ下さい!父上達も既に納得している話ですし、ましてや滅亡の危機に陥っていたエレボニアを救うためにエレボニアの命運を握っていたメンフィル帝国の要求に従い、シュバルツァー家に自ら降嫁なされた皇女殿下が僕達に謝罪する必要はございません!むしろ、肝心な時に皇女殿下をお守りする事ができず、”七日戦役”終結後もお傍でお守りする事ができず皇女殿下にお辛い立場を取らせ続けさせてしまった僕達が皇女殿下に謝罪するべき立場です!」

アルフィンに謝罪されたクルトは慌ててアルフィンに自分に謝罪する必要はない事を伝えた。

「……寛大なお心遣い、ありがとうございます。―――――皆さんもわたくしの事はどうか、皇女ではなく宿舎の管理人として接してくださいね。今のわたくしはエレボニア皇女ではなく、皆さんが通っている分校の教官を務めているリィンさんの新妻ですので♪」

「…………………」

「リィン教官と結婚してから既に1年半も経過しているのですから、ご自分の事を”新妻”と言うのは違うような気がするのですが。」

アルフィンは周囲を見回して自分を皇女扱いする必要はない事を伝えた後ウインクをし、アルフィンの発言にその場にいる全員が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エリゼと共にジト目でアルフィンを見つめているアルティナがアルフィンに指摘した。

「リィン教官と結婚して既に1年半も経っているって………失礼を承知で訊ねるけどアルフィン皇女って、今何歳なの?見た感じあたし達と同い年くらいに見えるけど………」

アルティナの話を聞いてある疑問が出て来たユウナは困惑の表情でアルフィンに訊ね

「フフッ、今年で17歳になりますわ。」

「17って事はあたしと同い年じゃない!しかも1年半前に結婚したって事は………15歳か16歳で結婚した事になるわよ!?」

「正確に言えば15歳です。アルフィン様がリィン教官に降嫁した時期はエレボニアの内戦終結から1ヵ月後ですので。」

「あれ~?でも、七耀教会が定めている結婚の最低年齢は16歳からだったと記憶していますけど、どうしてアルフィン皇女殿下は15歳で結婚できたのか不思議ですね~?」

「ル、ルイゼちゃん……気にする所がズレていない?」

アルフィンの年齢を知って驚いているユウナにアルティナは冷静な様子で指摘し、首を傾げて呟いた眼鏡の女子生徒に赤茶色の髪の女子生徒が冷や汗をかいて指摘した。

「まあまあ♪という事は皇女殿下は15歳でリィン教官によって”大人の女性”にして頂けたのですわね♪」

「ちょ、ちょっと、ミュゼ!?」

「お、”大人の女性”って、もしかして……」

「もしかしなくてもそういう事やろ!?”夫婦”になったら”そういう事”は当然するんやろうからな。しかもリィン教官には皇女殿下や皇女殿下とも互角のスタイル抜群で美人の妹さんも含めて他にも婚約者がいるって話やろ!?く~、羨ましすぎやろ!」

「ブッ!?君!幾ら降嫁されたとはいえ皇女殿下に対してそんな事を口にするなんて、さすがに不敬じゃないか!?」

「……まさに、”英雄色を好む”、ね。」

ミント髪の女子生徒の言葉を聞いた黒髪の女子生徒が顔を赤らめて慌ててている中男子生徒達は騒ぎ出し、生徒達の会話を聞いていた銀髪の女子生徒は呆れた表情で呟いた。



「え………どうして貴女が…………」

一方自分にとって聞き覚えがあるミント髪の女子の声を聞いてミント髪の女子を見たアルフィンは呆けた表情でミント髪の女子の見つめ

「ふふっ、お久しぶりですわね、皇女殿下。皇女殿下がまだ女学院に通っていた頃に可愛がって頂いた後輩の一人―――――”ミュゼ・イーグレット”を憶えて頂けているでしょうか?」

「”ミュゼ・イーグレット”…………?」

「あら……という事は貴女は以前”アストライア女学院”に通っていたのね。」

ミント髪の女子―――――ミュゼの自己紹介を聞いたアルフィンが不思議そうな表情でミュゼを見つめている中蒼髪の女子生徒は目を丸くしてミュゼに声をかけ

「?どうしたの、アルフィン。」

「いえ…………(彼女については後で説明しますわ。)………ええ、勿論貴女の事も憶えているわ、”ミュゼ”。改めてよろしくね。」

エリゼに声をかけられて我に返ったアルフィンは小声でエリゼにある事を伝えた後静かな表情でミュゼを見つめた。

「あ、あの、皇女殿下が宿舎の管理人という事はもしかして、今後の食事は皇女殿下自らが作ってくださるのですか……!?」

「ええ、これでもリィンさんの”妻”としての経験もありますから、当然料理も嗜んでいますわ。ただ、皆さんのお口にあうかどうかわかりませんが………」

「そ、そんな……!皇女殿下自らの手で御作りになった料理を口にできるなんて、夢のような出来事ですよ……!」

「………ハッ。」

「ふふっ………初めまして。アリア先輩よりアリア先輩愛しの従兄であられるリィン教官のお話と共にアリア先輩にとって姉君同然の存在であられる貴女の事も伺っております、エリゼ・シュバルツァーさ―――いえ、エリゼ卿♪アリア先輩噂の兄妹であられるお二人と同じ日に出会えるなんて、これも女神(エイドス)のお導きかもしれませんわね♪」

「!そう………”あの娘”も”アストライア女学院”に通っていたのですか。(兄様の件で自分達から私達との縁を切っておきながら、そんな事を口にしていたなんて、まさかあの”縁談”は実家だけでなく、あの娘の”意志”も含まれていてあの娘はまず外堀を埋めて”実家が貴族として存続する為に組まれた兄様との縁談”を成功させる為にそのような噂を広めているのかしら?)」

そして生徒達がアルフィンに声をかけたりそれぞれ騒いでいる中金茶髪の男子は鼻を鳴らしてその場から離れ、ミュゼはエリゼに近づいて上品な仕草で会釈をした後意味ありげな笑みを浮かべ、ミュゼの話を聞いたエリゼは一瞬表情を硬くした後すぐに静かな表情でなって答え、心の中である人物の行動の真意について考え込んでいた。



その後ベルフェゴールとリザイラが現れて更に生徒達を驚かせたり、混乱させたりし……そこにタイミング悪く仕事を終えてセレーネ達と一緒に宿舎に戻って来たリィンは生徒達に質問攻めにされたり、一部の男子生徒達に嫉妬の目で睨まれたりと就任早々散々な目に遭った。



~同時刻・”緋の帝都”ヘイムダル・バルヘイム宮・宰相専用執務室~



「―――なるほど。本校に続いて第Ⅱもか。」

一方その頃エレボニア帝国の宰相――――”鉄血宰相”ギリアス・オズボーンは”鉄血の子供達(アイアンブリード)”から報告を受けていた。

「………はい。初日は滞りなく終了したそうです。”Ⅷ組戦術科”、”Ⅸ組主計科”に加え、”Ⅶ組特務科”も無事発足しました。」

オズボーン宰相の言葉に端末の画面に写っている水色髪の女性将校――――”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の一人にして”鉄道憲兵隊”に所属している”氷の乙女(アイスメイデン)”クレア・リーヴェルト少佐は報告を続けた。

「やれやれ、聖女が分校長になった事もそうだが天使と暴君が教官に加わった事自体も頭の痛い話だってのに、まさか内戦が終結してからメンフィルの加護の下一度もこっちの”要請(オーダー)”に応えず平和を満喫し続けていた”奴さん”まで教官に加わっちまうなんてなぁ。しかも、”ラッセル家”の才女も入るとか、”捨石”とは思えない充実過ぎるメンツだろ。ま、戦力が充実するんならそれはそれで使いようがあるけどな。」

クレア少佐の話に続くように端末の画面に写っている赤毛の青年―――――”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の一人にして”情報局”に所属し、外交書記官も兼ねている”かかし(スケアクロウ)”レクター・アランドール少佐は苦笑していたがすぐに気を取り直して静かな表情で呟いた。

「レクターさん……」

レクター少佐の発言にクレア少佐は複雑そうな表情を浮かべた。

「―――いずれにせよ、この春を持って全てが動き始めることとなる。ノーザンブリアを陥とした事で蛇の残党どもの潜む茂みは全て焼き払った。亡き主の”計画”を奪い返すためいよいよ直接動き始めるはずだ。ならば、翼と剣をもがれた皇子の最後の悪あがきたる”第Ⅱ分校”―――ルーファスを殺した事を始めとした我が計画の想定外な事ばかりを犯し続けた”我が愚かな息子”共々、せいぜい踊ってもらうとしよう。」

「閣下……」

「ったく……ホント、いい性格してるぜ。」

そして不敵な笑みを浮かべて呟いたオズボーン宰相の発言を聞いたクレア少佐は複雑そうな表情をし、レクター少佐は呆れた表情で呟いた。



~宿舎・リィンの部屋~



リィンに割り当てられた宿舎の部屋で、リィンがどこかに出かけている事で部屋に誰もいない中机に置かれてある”ARCUSⅡ”が人の手を借りずに自ら起動した。

「よし――――繋がったか。」

「わあっ……やったね!」

「ふふ、まさかこんな形で皆さんと話せるなんて。」

「うん、皇子殿下には感謝してもしきれないな。」

「フフ、本当に私達まで皆さんの”輪”に入れてもらってよかったのでしょうか?私達は”Ⅶ組”ではないのですが………」

「アハハ、そんな細かいことは誰も気にしていないよ。あの内戦は僕達と君達は”一蓮托生”の関係だったんだから、僕達にとっては君達も大切な”仲間”だよ。」

「ま、そう言う事だ。第一、俺達を”輪”に外したら仕事の関係で頻繁に会っているお前はともかく、中々愛しの婚約者であるリィンに会えないアリサあたりが絶対”リィン達を外すなんて、不公平です!”とか文句を言うと思っていたから、あの皇子も俺達を”輪”に入れたんじゃねぇのか?」

「うふふ、私もフォルデ様の推測が当たっている事に一票入れますわ♪」

「ちょっ、フォルデさん!こんな時にシャロンもからかわないでよ!?」

勝手に起動した”ARCUSⅡ”からはリィンにとって聞き覚えのある人物達の声が次々と聞こえてきた。

「アハハ………リィンとエリゼちゃん、セレーネとレン皇女殿下、エヴリーヌとアルティナにセシリア将軍閣下と……ガイウスは繋がらないか。」

「んー、距離的な問題か繋がりにくい場所にいるのかな?けど、確かアーちゃんやリィン達って、今日から”リーヴス”にいると思うから繋がると思うんだけど。」

「セシリア将軍とエヴリーヌは今は”本国”にいますから、その関係で繋がらないと思いますよ。」

「まあ、”世界”自体が異なりますから、それで繋がった方が凄いですものね……」

「ふふっ、そうね。レンやリィンさん達は多分”仕事”が終わって自室に一端戻った後お風呂か食事をしているのではないでしょうか?」

「時間帯を考えれば、その可能性の方が高いだろうな。少なくても繋がりにくい場所にいるという可能性はありえないしな。」

「フッ、まあ今後はいくらでも機会があるだろう。」

「そうね………これでやっと”約束”も果たせるわけだし。」

「まったくもう……嬉しそうにしちゃって。」

それぞれの人物の声を聞いていた他の声は苦笑していた。

「ふふ、仕方ありませんわ。再会の季節でしょうから。」

「ええ―――春、ふたたびね。」

そしてある人物の声の言葉に他の人物の声が同意した。



こうして…………”零の至宝”によって改変された周辺諸国を巻き込んだエレボニアの”最後の運命”が始まりを告げた―――――――






 
 

 
後書き
今回の話を読んでお気づきと思いますが、閃Ⅲでの本来のエリゼの代役?になるキャラとして新たなるオリジナルキャラが閃Ⅲ篇で登場します。エリゼの代役も用意されているので、当然アルフィンの代役も用意されています。オリジナルキャラであるその二人は一体誰に攻略されてしまうんでしょうね~(遠い目)そして今回の話で閃Ⅱ篇で増える事になるリィンのハーレムメンバーもわかったかとw(というか元々バレバレだったでしょうが)ちなみに現在の私の閃Ⅲの進行状況は4章のアルゼイドの師弟コンビを倒したところです!オーダーとブレイクがチート過ぎてアリアンロード達の時もそうだけど、アルゼイド師弟コンビもあんまり苦戦しませんでしたwwサラもそうですけど、ミリアムのオーダーがチート過ぎるwwダメージ90%カットってwwアリアンロード達のダメージを3桁で、しかも200にすら届いていないのを見てマジで噴きましたww碧でオーダーかブレイク、どちらかがあったら、アリアンロードやシグムントとかも絶対もう少し楽に倒せたでしょうね(遠い目) 

 

設定1

<灰色の騎士> リィン・シュバルツァー





原作(閃Ⅲ)と違い、最初から”神気合一”が使用可能並びに閃Ⅱのクラフトも使用可能





LV300

HP33000

CP3000

ATK4600(ラクスアイドス装備時44000)

DEF10700

ATS2850(ラクスアイドス装備時23400)

ADF12300

SPD180

DEX80

AGL75

MOV16









装備





武器 利剣『鳳凰』・真(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって創られた”鳳凰”の力が宿る名刀。使い手と共に鍛え上げられている。リィン専用。ATK2400、ATS250、AGL20%上昇、攻撃時30%で大火傷攻撃)

   ラクスアイドス(神剣アイドスの最終形態。その一振りはいかなる結界をも貫き、敵に”死”という名の”慈悲”を与え、平和を乱す邪悪なる存在を魂ごと消し飛ばす。リィン専用。ATK40000、ATS20000、クリティカル率50%、大火傷100%、即死30%攻撃。クラフト、”アイドス召喚”が使用できる。不死系、悪魔系、幽霊系、霧系、魔神系の敵に威力3倍、絶対防壁貫通。『アイドス召喚』以外の召喚時の消費CPを四分の一にし、召喚中の負担も四分の一にする)

防具 ラクスアイドスR(”慈悲の大女神”アイドスの結界。リィン専用。DEF8000、ADF10000、全属性攻撃を75%軽減、全能力減少&遅延無効化、25%で受けた攻撃を無効化する)

靴  ディバーゴルティア改(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって創られた金の光輪を生む奇跡の防護靴。DEF270、MOV+6、SPD+8、DEX30%上昇)

アクセサリー エリゼの絆(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって強化されたリィンの妹、エリゼの思いが込められたお守り。リィン専用。全パラメーター10%上昇、10%で受けた攻撃を無効化、全状態異常無効化)

       フォースリング(空の女神エイドスより結婚祝い品として送られた古の魔力が宿る指輪。ATK25%上昇。一人出番が廻るごとにCPが6%回復、敵撃破時にCP30%回復、戦闘中2度ピンチになればCPMAX回復。アーツ『メルティライズ(範囲、効果は零・碧版)』を駆動&EP無しで放てる。)







スキル





エリゼが大好き バトルメンバーに『エリゼ』がいると、全パラメーターが15%上昇

ベルフェゴールが大好き バトルメンバーに『ベルフェゴール』がいると、全パラメーターが15%上昇

メサイアが大好き バトルメンバーに『メサイア』がいると、全パラメーターが15%上昇

リザイラが大好き バトルメンバーに『リザイラ』がいると、全パラメーターが15%上昇

セレーネが大好き バトルメンバーに『セレーネ』がいると、全パラメーターが15%上昇

アイドスが大好き バトルメンバーに『アイドス』がいると、全パラメーターが15%上昇

兄妹の絆 バトルメンバーに『エリゼ』がいるとATK&SPDが8%上昇、エリゼとのコンビクラフトの威力が1,5倍になる

軍の絆 バトルメンバーに『ステラ、フォルデ、セシリア』の誰かがいると、ATK&SPD4%上昇、なお2人以上いると人数に応じて効果が倍増する

主従の絆 バトルメンバーにメンフィル皇家或いはメンフィル軍の将がいる場合、全パラメーターが3%上昇、なお2人以上いると人数に応じて効果が倍増する

支援課の絆Ω バトルメンバーに『特務支援課のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が3倍になるかつ全パラメーター5%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる

聖水竜女王の絆 バトルメンバーに『セレーネ』がいると、互いのATS&SPDが15%上昇、セレーネとのコンビクラフトの威力が1,5倍になる

努力家Ⅳ 取得経験値40%上昇

先手Ⅳ 戦闘開始時20%で先制攻撃

連続攻撃Ⅴ 発動すれば物理攻撃後CP消費せず、同じ物理攻撃手段を放つ。20%で発動

連携 味方のすぐ後に攻撃すれば、1,5倍

カウンターⅣ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。20%で発動

見切りⅤ 発動すると敵の攻撃を完全(魔法攻撃やSクラフトを含める)回避。30%で発動

決死 HPが30%以降減るとATK、DEF20%上昇かつ5%ずつHPが減るごとにATK、DEF5%上昇

慈悲神の防壁 慈悲の大女神アイドスによる援護結界。5ターンずつにどんな攻撃でも1回だけ防げる絶対防壁と3ターンの間行動後HP30%自動回復する結界が自動的にリィンに付与される。条件、神剣アイドスを装備している事

慈悲神の防護 慈悲の大女神アイドスによる援護結界。リィンを含めたバトルメンバー全員、全状態異常&全パラメーター減少無効 条件、神剣アイドスを装備している事

慈悲神の愛 何度も愛し合った事によって強化された慈悲の大女神アイドスによる愛の加護。クラフト『神気合一』の持続ターンを30ターンに伸ばす。5ターンずつに1度だけ必中、クリティカル100%、ATK&ATS3倍、即死&バニッシュ50%&ブレイク確定の効果が付与される

達人の技力Ⅳ 物理系のクラフトを使った際、消費CPが40%減少。Sクラフトを使っても40%残る

猟兵殺し 敵が猟兵系の場合、威力30%上昇

Ⅶ組の絆Ω バトルメンバーに『”Ⅶ組”もしくは”特務部隊”のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が3倍になるかつ全パラメーター5%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる

アリサが大好き バトルメンバーに『アリサ』がいると、全パラメーターが15%上昇

ステラが大好き バトルメンバーに『ステラ』がいると、全パラメーターが15%上昇

アルフィンが大好き バトルメンバーに『アルフィン』がいると、全パラメーターが15%上昇

夫婦の絆 『リィン』、『アルフィン』の移動範囲内にお互いがいて、片方が攻撃した時、片方が自動的に連携して攻撃する。アルフィンとのコンビクラフトの威力が2倍になる

特務科の絆Ⅰ バトルメンバーに『特務科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,1倍になるかつ全パラメーター1,1%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる





クラフト(原作以外)





連続火弾 50 単体 敵一人に炎の弾丸を連続で放つ。火属性威力Dの火傷15%の2回攻撃、崩し無効、ブレイクD(威力はATSに反映)

灼熱の大熱風 200 大円 炎の竜巻を発生させる火の魔術。火属性威力B+&火傷30%、崩し無効、ブレイクC(威力はATSに反映)

轟焔爆炎閃 180 中型直線(貫通) 集束した炎を閃光として解き放つ。火属性威力A+&火傷60%攻撃、崩し無効、ブレイクB(威力はATSに反映)

極・紅蓮切り 中円 40 炎を纏った紅葉切り。火属性威力B+&火傷50%攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクC+(威力はATK、ATSの合計値に反映)

ベルフェゴール召喚 最大HP10%、最大CP30% 自分 パーティーキャラ、ベルフェゴールを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大HPが5%、最大CPが15%下がる、任意でベルフェゴールを自分の元に戻せる

麒麟功 80 自分 体内の気を瞬時に練り上げる東方の気功。5ターンの間、ATK&SPD60%上昇、”剣閃”状態(神気合一時に使うと効果は2倍)

真・裏紅蓮剣 110 大型直線(貫通) 炎を纏った裏疾風。火属性威力SS×2&火傷90%攻撃、崩し発生率+35%、ブレイクA(威力はATK、ATSの合計値に反映)

リザイラ召喚 最大CPの40% 自分 パーティーキャラ、リザイラを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPが20%下がる、任意でリザイラを自分の元に戻せる。

極・大雪斬 70 単体 静かなる気を纏わせた剣で斬りおとす剣技。威力S+&混乱、凍結90%攻撃、崩し発生率+50%、ブレイクA+

極・光輪斬 90 中円 遠くの敵集団を切り刻む刀気の輪を繰り出す剣技。威力A&アーツ、駆動妨害攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクC+

極・洸破斬 140  中型直線(貫通) 神速の抜刀から放たれる鋭い衝撃波。威力S&即死75%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクB

メサイア召喚 最大CPの20% パーティーキャラ、メサイアを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPが10%下がる、任意でメサイアを自分の元に戻せる。

アイドス召喚 最大CPの80%  自分 パーティーキャラ、アイドスを召喚する。ただし、『神剣アイドス』が所持品にないと、召喚できない。ただし召喚した主は召喚している間はCPの最大値が30%下がる。任意でアイドスを戻せる。

真・蒼龍炎波 150 大型直線(貫通) 闘気で発生した蒼き炎を竜と化させて敵に解き放つ。威力SS&火傷100%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクA+





Sクラフト(原作以外)





真・桜花残月 単体 残像も残らぬ神速の剣技。跡には血飛沫が月華を描くのみ。空属性威力4S+&ブレイクS+

真・鳳凰烈波 大円 達人直伝の鳳凰の如き剣気を纏った圧倒的な突撃技。威力6S&火傷、気絶100%攻撃&ブレイクSS

真・風神烈波 特大円 数々の激戦を得て習得した風神の如き剣気を纏った、圧倒的な超高速居合い攻撃。威力5S+&ブレイクS

終ノ太刀・緋凰 全体 無明を切り裂く緋き鳳凰を戦場に解き放つ『終ノ太刀・暁』の上位奥義。威力8S+&劫炎100%攻撃&ブレイクSS







クラフト(神気合一状態時、原作以外)





滅・裏疾風 120 特大直線(貫通) 裏疾風を強化した剣技。威力SS×2&封技100%攻撃、崩し発生率+40%、ブレイクA+

滅・裏紅蓮剣 200 特大直線(貫通) 炎を纏った裏疾風。火属性威力SS+×2&火傷100%攻撃、崩し発生率+45%、ブレイクS(威力はATK、ATSの合計値に反映)

滅・大雪斬 90 中円 静かなる気を纏わせた剣で斬りおとし、周囲に鎌鼬を巻き起こす。威力SS&混乱、凍結100%攻撃、崩し発生率+100%、ブレイクS

滅・光輪斬 110 大円 遠くの敵集団を切り刻む刀気の輪を繰り出す。威力A+&アーツ、駆動妨害攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクB

滅・洸破斬 140  中型直線(貫通) 神速の抜刀から放たれる鋭い衝撃波。威力S&即死60%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクB+

滅・蒼龍炎波 200 特大直線(貫通) 闘気で発生した蒼き炎を竜と化させて敵に解き放つ。威力SSS&劫炎100%攻撃、崩し発生率+30%、ブレイクS





Sクラフト(神気合一状態時、原作以外)





滅・桜花残月 中円 残像も残らぬ神速の剣技。跡には血飛沫が月華を描くのみ。空属性威力5S&ブレイクSS

滅・鳳凰烈波 特大円 達人直伝の鳳凰の如き剣気を纏った圧倒的な突撃技。威力6S+&劫炎、気絶100%攻撃&ブレイクSS+

滅・風神烈波 特大円 数々の激戦を得て習得した風神の如き剣気を纏った、圧倒的な超高速居合い攻撃。威力6S&ブレイクS+

劫ノ太刀・絶凰 全体 無明を切り裂く緋き鳳凰を戦場に解き放つ『終ノ太刀・暁』の上位奥義。威力9S&劫炎100%攻撃&ブレイクSS+









コンビクラフト





クルーアル・ブラストⅡ 最大CPの30% 特大円・地点指定 睡魔女王と共に連携攻撃を叩き込んだ後睡魔女王の愛がこもった魔力の太刀を共に振り下ろす協力奥義。威力8S+&ブレイクSS。条件、バトルメンバーにベルフェゴールがいるかつ、双方の最大CPが30%ある事(リィンのATK、ベルフェゴールのATSの合計値が反映される)

真・比翼鳳凰撃 500 大円 呼吸を合わせ、鳳凰の闘気を纏って同時に一点突破を仕掛ける連携突撃技。威力7S+&ブレイクS+。条件、バトルメンバーにエリゼがいるかつ、双方のCPが500以上ある事

イフリート・キャリバーⅡ 最大CPの30% 大円 聖魔の力をその身に宿し皇女と共に業火の剣と断罪の剣を叩き込み、最後は裁きの剣と共に叩き込む協力奥義。威力7S&大火傷200%攻撃、ブレイクA。条件、バトルメンバーにメサイアがいるかつ、双方の最大CPが30%ある事(リィンのATK、メサイアのATSの合計値が反映される)

ブレイブクロスⅡ 100 特大円 異なる立場の英雄達の技が交差する協力奥義。威力6S+&封技、火傷、気絶100%攻撃、ブレイク確定。条件、バトルメンバーにロイドがいるかつ双方のCPが100以上ある事

真・風塵封縛殺 100 大円 真空の結界に閉じ込めた後剣技とアーツによる真空の刃で切り刻む協力奥義。威力5S&バランスダウン100%&SPD、MOV50%減少、ブレイクA+。条件、バトルメンバーにエリィがいるかつ、双方の最大CPが30%ある事(リィンのATK、エリィのATSの合計値が反映される)

Ωソード 100 大円 結界で敵の動きを封じてから太刀による斬撃で一刀両断する。威力5S+&DEF50%減少攻撃、ブレイクS+。条件、バトルメンバーにティオがいるかつ、双方の最大CPが30%ある事(リィンのATK、ティオのATSの合計値が反映される)

真・龍凰絶炎衝 100 大円 炎竜と鳳凰による炎で敵陣を焼き尽くす協力奥義。威力6S+&100%攻撃、ブレイクSS。条件、バトルメンバーにランディがいるかつ双方のCPが100以上ある事

ストームインパクトⅡ 100 大円・地点指定 銃火器と剣技の連携攻撃の後に同時に放たれる大地をも揺るがす協力奥義。威力5S+&気絶、封技100%攻撃、ブレイクSS+。条件、バトルメンバーにノエルがいるかつ双方のCPが100以上ある事

ファイナリティ・ゼストⅡ 100 特大円 拳と剣の衝撃波乱れ撃ちをする協力奥義。威力5S&絶対遅延攻撃、ブレイクS+。条件、バトルメンバーにワジがいるかつ双方のCPが100以上ある事

真・龍虎滅牙斬 最大CPの30% 特大円 精霊王女の力で浄化の扉を開いて邪悪なる者達を切り裂く協力奥義。威力6S+&ブレイクA、幽霊系、悪魔系、不死者系、魔神系の敵には2倍ダメージ&3ターン全パラメーター50%減少攻撃。条件、バトルメンバーにリザイラがいるかつ、双方の最大CPが30%ある事(リィンのATK、リザイラのATSの合計値が反映される)

真・神葬星条破 最大CPの70% 全体 星女神の神力を溜め込んだ太刀を地面に叩きつけ、戦場全体に星女神の神力を解放する協力神技。威力10S&絶対防壁貫通攻撃、ブレイクSS+(リィンのATK、アイドスのATSの合計値に反映)条件、バトルメンバーにアイドスがいるかつリィンのCPが最大CPの70%以上、アイドスが6000以上ある事

真・天光神雷空裂衝 最大CPの50% 特大円 術者の魔力によって巨大化した雷光の太刀を広範囲に叩きつけ、大爆発を起こす協力技。威力5S+&封技、気絶200%攻撃、ブレイクS+(リィンのATK、セレーネのATSの合計値が反映)。条件、バトルメンバーにセレーネがいるかつ、双方のCPが最大の50%以上ある事 

フレイムブラストⅡ 100 特大円 全て焼き尽くす蒼き業火のエネルギーを叩きこむ協力奥義。威力5S&火傷100%攻撃、ブレイクB。条件、バトルメンバーにアリサがいるかつ、双方のCPが100以上ある事。(リィンのATK、アリサのATSの合計値が反映される)

ハリケーンブラストⅡ 150 特大円・地点指定 剣技と銃火器による嵐の協力奥義。威力5S+&DEF50%減少攻撃、ブレイクA。条件、バトルメンバーにステラがいるかつ、双方のCPが150以上ある事

インフェルノドライブⅡ 600 特大円 アルノール家の魔力によって発生した全てを焼き尽くす紅き炎を宿した太刀で斬る紅き奥義。威力5S+&3ターン劫炎100%攻撃、ブレイクA(リィンのATK、アルフィンのATSの合計値が反映される)。条件、バトルメンバーにアルフィンがいるかつ、双方のCPが600以上ある事





アルティメットクラフト





飛葉双覇剣 最大CPの80% 中円 アイドスと共に放つ八葉一刀流と飛燕剣による剣撃の嵐。威力9S&絶対防壁貫通&絶対ブレイク攻撃。条件、バトルメンバーにアイドスがいるかつリィンが”神気合一”状態になっている事かつ、双方のCPが80%以上ある事







<聖竜の姫君> セレーネ・アルフヘイム・ルクセンベール(属性・聖水竜……水・空属性の攻撃を無効化、火属性攻撃以外の属性攻撃を10%減少させる)





LV260

HP26700

CP6200

ATK3650

DEF2230

ATS4650

ADF3210

SPD160

DEX55

AGL42

MOV14











装備





武器 聖剣アーリアル・改(至高の工匠―――”匠神”ウィルによって創られた至誠の光を宿す聖剣。ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって更なる強化が施されている。セレーネ専用。ATK&ATS2000、クリティカル率25%、悪魔系、幽霊系、霧系、不死系に2倍ダメージ)

防具 セイントドレス・改(至高の工匠―――”匠神”ウィルによって創られた聖なる力の加護が宿りしドレス。ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって更なる強化が施されている。セレーネ専用。DEF1600、ADF1800、スキル『反射Ⅲ』が追加)

靴  アルジェムスター改(ユイドラ工匠セティ達の手によって創られた銀の閃光を放つ奇跡の防護靴。DEF260、MOV+6、SPD+8、AGL15%上昇)

アクセサリー アルフヘイムのティアラ+(至高の工匠―――”匠神”ウィルとその子供達であるディオン3姉妹によって強化されたアルフヘイム王女の証であるティアラ。災厄から所有者を守る護身の魔法がかけられてある。セレーネ、ツーヤ専用。全状態異常&能力減少無効、全パラメーター8%上昇、8ターンごとに絶対防壁が一枚付与される)

       ヲロチリング(空の女神エイドスより結婚祝い品として送られた古の魔力が宿る指輪。攻撃時50%の確率で全ての攻撃手段の威力が1,5倍になり、さらに猛毒50%の効果が付与される。アーツ『テンペストロア』を駆動&EP無しで放てる。)







ARCUS版オーブメント(水・空・空属性)並びはエマです





アタックランク 斬A突S射S







リンクアビリティのタイプはエマ





オーダー



ホーリーミスト BP3 特殊(8カウント/ステルス)HP30%回復





スキル





リィンが大好き バトルメンバーに『リィン』がいると、全パラメーターが15%上昇

血縁の絆 バトルメンバーに『ツーヤ』がいるとATK&DEFが9%上昇

支援課の絆Ω バトルメンバーに『特務支援課のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が3倍になるかつ全パラメーター5%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる

聖水竜女王の絆 バトルメンバーに『リィン』がいると、互いのATS&SPDが15%上昇、リィンとのコンビクラフトの威力が1,5倍になる

努力家Ⅳ 取得経験値40%増加

連携 味方のすぐ後に攻撃すれば、1,5倍

魔力再生Ⅴ 行動終了後にCPが1000回復する

見切りⅣ 発動すると敵の攻撃を完全回避。25%で発動

連続攻撃Ⅳ 発動すれば物理攻撃後CP消費せず、同じ物理攻撃手段を放つ。16%で発動

女王の器 スキルの効果が2倍になる

慈愛の心 治癒系の魔術、アーツを使うと効果が1,5倍になる

聖水竜女王の防護 全状態異常&能力減少、遅延、バニッシュ、ブレイク無効化

聖水竜女王の魔力 魔法系、ドラゴンブレス系のクラフトを使った際、消費CPが25%減少。Sクラフトを使ってもCPが25%残る。水、光系の魔法系、ドラゴンブレスの威力が1,5倍になる

達人の技力Ⅲ 物理系のクラフトを使った際、消費CPが30%減少。Sクラフトを使っても30%残る

Ⅶ組の絆Ω バトルメンバーに『”Ⅶ組”もしくは”特務部隊”のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が3倍になるかつ全パラメーター5%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる

特務科の絆Ⅰ バトルメンバーに『特務科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,1倍になるかつ全パラメーター1,1%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる









クラフト







エンチャントライト 50 自分 5ターンの間、自分の物理攻撃を『空属性』にする。攻撃した際、20%で攻撃した相手の能力上昇効果を打ち消す。空属性物理攻撃クラフトの威力を2倍にする

ホーリーラッシュⅢ 40 単体 光の魔力を纏った剣で斬り上げから薙ぎ払いへと連携攻撃する剣技。威力Bの空属性2回攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクC+(ATK、ATSの合計値に反映)

キュア・プラムスⅢ 80 大円 範囲内の味方の傷を癒しの光で治癒する聖水竜魔法。自分にかけることも可能。HP70%回復

ライトニングプラズマⅢ 100 大円 聖なる雷を複数敵に落とす聖水竜魔法。空属性威力B+&封技、気絶70%攻撃、崩し無効、ブレイクB(威力はATSに反映)

アイスアラウンドⅢ 80 中円 氷の魔力を纏った全身を回転させて足払いをして攻撃する。水属性威力A&遅延&凍結60%攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクB+(ATK、ATSの合計値に反映)

ハリケーンブリザード 300 特殊 自らを中心とした特大円攻撃のラファガブリザードの最上位竜魔法。水属性威力S&凍結&混乱&封技50%、崩し無効、ブレイクA(威力はATSに反映)

オーディナリーシェイプⅢ 90 大円 浄化の光で状態異常を治療する聖水竜魔法。全状態異常&能力減少回復

スパイラルピアスⅢ 90 単体 敵に詰め寄って捻りを加えた突きを放って防御を崩す移動剣技。威力SS&アーツ、駆動妨害&即死50%&DEF50%減少攻撃、崩し発生率+50%、ブレイクS+

ホーリーインパクトⅢ 100 特大円 力を溜め込んで光の魔力と共に薙ぎ払う剣技。空属性威力S&気絶、封技60%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクS(ATK、ATSの合計値に反映)

エヴォークフェザーⅢ 180 単体 慈悲の光で倒れた仲間を復活させる聖水竜魔法。HP&CP75%回復、戦闘不能者も復活

プリズミックミサイルⅢ 600 大円・地点指定 七色の光の矢を敵に放つ聖水竜魔法。空属性威力A%&封技、封魔、毒、混乱、凍結、石化、即死30%攻撃、ブレイクA+(威力はATSに反映)

S(サーペント)リ・カルナシオンⅢ 700 大円・地点指定 凄まじい水流を吹きあげて範囲内の敵を攻撃する水竜の中でも限られた者しか使えない上位水竜魔法。水属性威力SSS+&絶対遅延、崩し無効、ブレイクS(威力はATSに反映)

サンダーストライクⅢ 700 大型直線(貫通) 右腕に溜め込んだ聖なる雷を解き放つ聖水竜魔法。空属性威力SS&封技100%攻撃、崩し無効、ブレイクA(威力はATSに反映)

真・氷金剛破砕撃 (ダイヤモンドアイスバースト)1500 特大直線(貫通) 一時的に竜化して、氷のドラゴンブレスで敵を攻撃する。水属性威力4S&凍結90%、崩し無効、ブレイクSS(威力はATKとATSの合計値に反映)

真・超電磁砲(レールガン) 1000 大型直線(貫通) 両手に圧縮して溜め込んだ極太の雷光を解き放つ上位竜魔法。空属性威力SSS&封技100%攻撃、崩し無効、ブレイクSS+(威力はATSに反映)

ミストスクリーンⅡ 300 中円 霧の力で味方を一時的に隠す水竜魔法。自分を含めた効果範囲の味方を2ターンステルス状態。

ホーリーバーストⅡ 1500 大円・地点指定 光の魔力を集束し、爆裂させる聖水竜魔法。空属性威力5S、崩し無効、ブレイクS(ATSに反映)





Sクラフト





ヴァーテクス・ローズⅢ 単体 鋭い剣撃によって敵をバラのように散らす。威力7S、ブレイクS

マジェスティ・ゲイトⅢ 特大円 異界の門から光の奔流を導き、敵をのみこむ最上位聖水竜魔法。威力5S、ブレイクA+(ATSに反映)

ライフディスチャージⅢ 全体 癒しの力を込めた水球を破裂させて味方には慈悲を、敵には制裁を与える最上位聖水竜魔法。水属性威力SSS+&自分を含めた味方全体のHP全回復、戦闘不能者も復活、5ターンの間ADF50%上昇、ブレイクB

真・女王惑星轟雷爆撃(クイーンプラネットサンダースパーク ) 特大直線(貫通) 一時的に竜化して、雷光のドラゴンブレスで敵を攻撃する聖水竜女王のドラゴンブレス。威力9S+&封技100%攻撃、ブレイクSS+。条件、CPが最大の75%以上ある事。(威力はATKとATSの合計値に反映)











コンビクラフト





真・天光神雷空裂衝 最大CPの50% 特大円 術者の魔力によって巨大化した雷光の太刀を広範囲に叩きつけ、大爆発を起こす協力技。威力5S+&封技、気絶200%攻撃、ブレイクS+(リィンのATK、セレーネのATSの合計値が反映)。条件、バトルメンバーにリィンがいるかつ、双方のCPが最大の50%以上ある事 

アクエリアススフィアⅡ 最大CPの50% 全体 異空間より清浄な水の津波を呼び寄せる協力魔術。威力7S+&DEF100%減少攻撃、ブレイクS(威力は双方のATSの合計値が反映される)。条件、バトルメンバーにツーヤがいるかつ双方のCPが最大CPの50%以上ある事







アルティメットクラフト





アルフクラスト MAX 全体 ツーヤと共に上空へと跳躍し、同時に竜化した後水と雷光を合体させた超越したエネルギーを上空から放つ竜姫の姉妹の最終奥義。威力50S+&絶対防壁貫通、ブレイクSSS+(ATK、ATSの合計値が反映される)使用条件、ツーヤがバトルメンバーにいるかつ双方のCPがMAX





”騎神戦”時EXアーツ





サンダーストライク EP200 雷撃を纏わせた強烈な突き。威力S+&1ターン封技100%、3ターン状態異常『バランスダウン』、属性有効率無視

アクアマター EP、威力は原作と同じ











<殲滅天使> レン・ヘイワーズ・マーシルン





LV350

HP24600

CP8600

ATK7740

DEF2820

ATS8650

ADF3920

SPD145

MOV12





装備





武器 暗黒太陽神の魔鎌(至高の工匠―――”匠神”ウィルとさまざまな分野での才がある者達によって創られた暗黒の太陽神ヴァスタールの加護が宿る大鎌。ATK&ATS4200。攻撃時、60%で攻撃した敵が即死する。ATK&ATS減少無効。暗黒魔術、時属性アーツの威力が3倍になる)

防具 闇王女の戦衣(至高の工匠―――”匠神”ウィルとさまざまな分野での才がある者達によって創られた魔界の王女の戦衣。レン専用。DEF1500、ADF2000。物理を含めた全属性攻撃30%軽減。)

靴  闇王女の戦靴(至高の工匠―――”匠神”ウィルとさまざまな分野での才がある者達によって創られた魔界の王女の戦衣。レン専用。DEF360、MOV+7、SPD&AGL7%上昇。封技、封魔防止、MOV&SPD減少無効)

アクセサリー ブラックリボンΩ(至高の工匠―――”匠神”ウィルとさまざまな分野での才がある者達によって強化されたリボン。レン専用。MOV以外の全パラメーター20%上昇、全状態異常無効。)

       魔力再生の指輪(一人廻るごとにCP、EPがMAXの5%回復)







スキル





家族の絆 バトルメンバーに『リウイorペテレーネ』がいれば、レンのATK&SPDが5%上昇。また、両方ともいると上昇も2倍になる。

姉妹の絆 バトルメンバーに『エヴリーヌorプリネorセオビット』がいればATK&DEFが7%上昇。また、2人以上いると、人数に比例して倍増する

殲滅の絆 バトルメンバーに『エヴリーヌ、セオビット』がいればレンの全パラメーター10%上昇。ただし、2人が揃っていないと上昇しない。

幼き絆  バトルメンバーに『ティータ』がいるとレンのATK&DEFが5%上昇。

人形兵器使い 『パテル=マテル』を召喚し、使役できる

戦闘の心構えⅤ 戦闘開始時、HP&CPが10%回復

即死攻撃Ⅶ 物理攻撃に常に即死35%攻撃の効果が付く。

即死反撃Ⅶ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら25%の即死反撃する。35%で発動。

急所狙いⅥ クリティカル率が常に30%上昇

天賦の才 全クラフト、Sクラフトの威力が1,5倍になるかつ消費CPが10%減少する

天使殺し 敵が天使系の場合、威力30%上昇

Gの共鳴 バトルメンバーに『ティオ』がいる場合、レンのアーツ、魔法系クラフトの威力が1,5倍になる。

覚醒せし碧の叡智 聖典に載りし悪魔達の一部の魔術や呪術を習得、さらに魔族、闇陣営の神官や司祭、魔導師が使う技、魔術を受けたり見た際、自分の技として習得できる

主計科の絆Ⅰ バトルメンバーに『主計科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,1倍になるかつ全パラメーター1,1%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる











ARCUS版オーブメント(時・幻・時属性)並びはエマです





アタックランク 斬SS剛A







リンクアビリティのタイプはエマ







オーダー





クロノスガーデン BP2 魔法(12カウント/駆動時間0&消費EP50%減少)2ターン、ATS&ADF50%上昇、EP30%回復

アタナシアン・キティ BP3 スピード(8カウント/硬直時間0,2倍)2ターン、ダメージ&ブレイクダメージ300%







クラフト





ブラッドサークルⅣ 30 大円・地点指定 より広範囲の敵を巻き込み大鎌を振り回す。確率30%で即死、崩し発生率+15%、ブレイクC

カラミティスロウⅣ 25 中型直線(貫通) 遠心力を込め、攻撃力を増した大鎌の放擲。即死30%&DEF50%減少攻撃 、崩し発生率+20%、ブレイクB

炎叉龍の轟炎 1500 大円 溶岩の竜を形成し、敵を焼き尽くす。火属性威力A+%&火傷60%攻撃、崩し無効、ブレイクB(威力はATSに反映)

氷垢螺の氷針雨 1400 全体 氷垢螺の吹雪と共に針状の氷を戦場に降り注がせる。水属性威力A&凍結75%、崩し発生率+25%、ブレイクA(威力はATSに反映)

真・豪破岩槍撃 1200 中円 敵の真下から大量の岩の槍を出現させて貫く。地属性威力A+&DEF50%減少攻撃、崩し発生率+35%、ブレイクS(威力はATSに反映)

二つ回廊の轟雷 2000 大円  空間を歪ませて凄まじい電撃の爆発を起こす。風属性威力S&封技70%攻撃、崩し無効、ブレイクS+((威力はATSに反映)

加速・広範囲 100 全体 風の魔力で自分を含めた味方全員のSPDを30%上昇させ、更に自分以外の味方全体を加速させる

滅・聖の十字架 1500 特大円・地点指定 光の十字架で邪を焼き払う。空属性威力A+、崩し無効、ブレイクA+(威力はATSに反映)

防護の光盾 80 単体 味方一人のDEF&ADF25%を上昇させる神聖魔術

ティルワンの死磔 2000 全体 闇世界の中枢である死磔領域に閉じ込める。時属性威力SS&即死、混乱、暗闇25%攻撃、崩し無効、ブレイクSS(威力はATSに反映)

闇の息吹Ⅳ 300 単体 闇の治癒魔術。味方一人のHPを75%回復する。

滅・死線 1300 特殊 ”死線”の上位魔術。指定した横4列に指先から高熱度の光を放つ純粋魔術。無属性威力SSS、崩し発生率+30%、ブレイクS+(威力はATSに反映)

虚構の鎌撃 200 特殊 指定した横2列の敵のアーツ&駆動妨害するルクセンベールの血を引く者から受け継いだ技の一つ

玄武の鎌撃 300 特殊 指定した横5列の敵を攻撃するルクセンベールの血を引く者から受け継いだ技の一つ。威力S、崩し発生率+40%、ブレイクA

魔術・転移 150 自分 ユイドラに住む死神より教わり、習得した魔術。バトルフィールドで指定した所に転移する。

滅・断命の大鎌 900 中円 ユイドラに住む死神より教わった生物の命を刈り取り、刈り取った命を吸い取る処刑技。威力SS&即死100%&吸収100%攻撃、崩し発生率+45%、ブレイクC

パテル=マテル召喚 0 サポートキャラ、パテル=マテル(HP45000。気絶10%の物理攻撃、バスターキャノン(中型直線貫通130%攻撃)、ギガントプレス(300%攻撃&即死20%)、リバイバルビーム(味方単体のHPを50%回復&戦闘不能回復)、ダブルバスターキャノン(特大直線貫通800%攻撃&暗闇30%)、ダブルクラッシャーパンチ(中型直線貫通200%攻撃)、パトリオットフィールド(自分に物理攻撃の絶対防壁&魔法反射の結界×3)。Sクラフトはαライアットスター(大円1500%攻撃)とダブルオメガバスターキャノン(特大直線貫通6000%攻撃))を召喚して戦闘に参加させる。任意でパテル=マテルを撤退させられる。

真・羅刹刃 450 単体 大鎌を振り回して連続攻撃する。威力C+×5回、崩し有効、ブレイクC

真・旋風大魔刃 600 特殊 自分を中心とした中円に闘気を込めた大鎌を振り回し、衝撃波を発生させる。威力A&後退攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクB

パワフルスイングⅡ 100 単体 力を溜めて解き放たれる大鎌の一撃。威力S+&バランスダウン、DEF50%減少攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクA

グラビティスフィアⅡ 300 小円 魔力によって発生した重力で敵を引き寄せる。威力A&引き寄せ効果、崩し無効、ブレイクC+

極・魔眼 50 中円 威力、効果範囲はヨシュアの『極・魔眼』と同じ、崩し無効、ブレイクB

極・邪眼 200 中円 睨んだ相手を石化させる恐るべき睨み。威力B+&石化100%攻撃、崩し無効、ブレイクB

真・大海床 150 全体 異空間より無属性の津波を召喚する。無属性威力B+後退&DEF50%減少攻撃。使用時、1ターンの溜めが必要、崩し無効、ブレイクA

ダークミラージュ 40 自分 ”D∴G教団”司祭に伝わりし秘術の一つ。次に自分の出番が回るまで自らの姿を消し、次の攻撃を必ずクリティカルにする。ステルス1ターン

マインドクラッシュⅡ 80 小円 ”D∴G教団”司祭に伝わりし秘術の一つ。足元から冥界の叫びを召喚する。威力A&即死40%攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクB+(威力はATSに反映)

冥界波Ⅱ 全体 300 冥界より衝撃波を召喚する聖典に載りし悪魔達が使う魔術。威力A+&睡眠、封魔100%攻撃。使用時、1ターンの溜めが必要、崩し無効、ブレイクC+(威力はATSに反映)

雷招メ・ベルデⅡ 200 直線(貫通) 大鎌に魔の雷を宿らし、敵に放つ魔術。時属性威力B&封技80%攻撃、崩し無効、ブレイクB(威力はATSに反映)

獄槍スンラスーアⅡ 500 大円 冥界より召喚せし槍で敵を貫く冥界の魔術。威力S+&バランスダウン60%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクA(威力はATSに反映)

吸聖クブリエⅡ 1800 単体 敵の体力を根こそぎ奪い、命をも奪う恐ろしき呪術。威力SS&HP吸収100%&即死100%攻撃、崩し無効、ブレイクC。使用時、1ターンの溜めが必要(威力はATSに反映)

神槍イナンナⅡ 1000 中円 敵の防御を貫く神槍を解き放つ”空の虚神”の秘術の一つ。空属性威力S+&DEF50%減少攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクS。使用時、1ターンの溜めが必要(威力はATSに反映)

滅界ノウアバ 1400 小円 敵を現界から追放する”空の虚神”の秘術の一つ。10ターンの間バニッシュ100%。使用時、1ターンの溜めが必要

覚醒Ⅱ 0 自分 内に秘めたる”グノーシス”の力を解放し、15ターンの間魔人化(デモナイズ)状態になる。魔人化した際、髪は銀髪、瞳は紅になり、属性が”魔神”並びに”心眼”、”剣閃”状態も付与され、全パラメーター(HP、CPも含める)が2倍になり、駆動時間が必要な魔族特有のクラフトを駆動時間無しで放てる。更にアーツの駆動時間が半分になる。なお効果が切れると1ターンの間、HP、CPを除いた全パラメーター90%減少状態になる。重ねて使用する事は可能だが3回目で回復不可能な混乱状態になる







Sクラフト





レ・ラナンデスΩ 大円 敵陣を駆け抜け、すれ違う命を摘み取る殲滅天使の処刑技。威力4S+&即死100%、ブレイクA

虹の(ゲートオブレインボー)Ⅲ 特大円 レンが開発したレンだけができるオリジナル魔術。威力5S、ブレイクB(威力はATSに反映)

クリミナルシックルⅢ 単体 かつて戦った敵の技を見て、自分なりに改良して習得した技。威6S、ブレイクSS+

カラミティスフィアⅢ 全体 ”D∴G教団”司祭に伝わりし秘術の一つ。異空間より災厄の宝珠を召喚する。威力SSS+&封魔100%攻撃、ブレイクC(威力はATSに反映)

魔槍アシュターⅢ 全体 冥界より全てを破壊する魔槍を召喚する冥界の大魔術。威力4S、ブレイクS(威力はATSに反映)

爆輝アダンテⅢ 全体 空の裁きの光で敵対する者達全てを滅する”空の虚神”の大魔術。空属性威力7S、ブレイクB+(威力はATSに反映)

殲滅の鎌(ルイン・シックル)Ⅲ 大円 殲滅天使の力を最大限に発揮する究極奥義。威力10S+、ブレイクSSS(威力はATKとATSの合計値に反映)







コンビクラフト





デュアル・ザ・サンⅡ 最大CPの50% 全体 ティオと共に放つコンビクラフト。”魔”の力を手に入れた者達が協力して異空間より魔界を照らす暗黒の太陽を召喚する。威力8S+&大火傷100%攻撃、ブレイクA(威力は双方のATSの合計値が反映される)。条件、バトルメンバーにティオがいるかつ双方のCPが最大CPの50%以上ある事







ルインクラフト







ルイン・ハウリングΩ 4000 特大円 自分達に仇名す者達を殺す事だけに専念した技にして残酷、無邪気な性格にして、美しくそして可憐な容姿を持つ最凶の姉妹達の絆。威力12S+、ブレイク確定。条件、エヴリーヌ、セオビットがバトルメンバーにいるかつレンを含めた3人のCPが4000以上ある事。









アルティメットクラフト







ブルーアース 最大CPの99% 全体 ティオと共に放つコンビクラフト。”真なる叡智(グノーシス)”によって互いの感応力を共鳴させた者達が協力して双方に秘められる真の力を全て発揮させ共鳴し、次々と連携して放つ究極の真なる叡智の魔道。威力40S+%&自分達を含めた味方全員のHPMAX回復。戦闘不能者も復活、ブレイク4S+(威力は双方のATSの合計値が反映される)。条件、バトルメンバーにティオがいるかつ双方のCPが最大CPの99%以上あり、双方ともクラフト『覚醒』を使用状態











<赤き死神> ランドルフ・オルランド(ランディ)





LV330

HP53200

CP2800

ATK6540

DEF5670

ATS2340

ADF2210

SPD180

MOV14







装備







武器 バルディッシュ・A(アサルト)改(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって生み出された死神の斧槍。ランディ専用。使い手と共に鍛え上げられている。ATK2500、RNG+2、クリティカル率30%上昇、即死30%攻撃)

   メルカルトⅡ(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって強化、改造されて生まれ変わり”狂戦士”から”戦神”の異名へと変えたベルゼルガー。ランディ専用。使い手と共に鍛え上げられている。ATK2600、RNG+4、クリティカル率20%上昇、一人出番が廻るごとにHP5%回復、不死系、幽霊系、霧系、悪魔系の敵に命中100%&威力2倍) 

防具 ワイルドフルコートΩ(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって創られた野性の意思が宿るコート。ランディ専用。DEF1300、ADF150、ATK&SPD10%上昇、攻撃を受けた際、ダメージ値の10%CP回復)

靴  ディバーゴルティア改(ユイドラ工匠ディオン姉妹の手によって創られた金の光輪を生む奇跡の防護靴。DEF270、MOV+6、SPD+8、DEX30%上昇)

アクセサリー 戦神の腕輪(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって強化、改造された腕輪。ランディ専用。全パラメーター10%上昇、アーツ以外の全ての攻撃手段の威力が1,6倍になるかつ攻撃時即死15%の付与効果が付く)

       闘神の腕輪(カーリアンから貰った腕輪。カーリアンorランディ専用。全パラメーター15%上昇、全状態異常&全能力減少無効、物理攻撃のクラフト、Sクラフトの威力が全て2倍になる。一人廻るごとにCPが10%回復する。)







ARCUS版オーブメント(火・時・火属性)並びはラウラです





アタックランク スタンハルバード装備時 斬S剛SS

        ブレードライフル装備時 斬S突S射S剛S





リンクアビリティのタイプはラウラ









オーダー



ベルセルク BP3 必殺(10カウント/必殺率30%、ブレイクダメージ200%)2ターンの間ATK&SPD50%上昇、CP40%回復





スキル





支援課の絆Ω バトルメンバーに『特務支援課のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が3倍になるかつ全パラメーター5%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる

キーアが好き バトルメンバーに『キーア』がいると、全パラメーターが5%上昇

カウンターⅥ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。30%で発動

貫通Ⅴ 25%でDEF無視攻撃

急所狙いⅤ クリティカル率が常に25%上昇

連携 味方のすぐ後に攻撃すれば、1,5倍

戦闘指揮 戦闘中、自分を含めた味方全員のDEX、AGLを10%上昇させる

人類殺し 敵が人間系の場合、威力30%上昇

即死攻撃Ⅳ 物理攻撃に常に即死20%攻撃の効果が付く

即死反撃Ⅳ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら25%の即死反撃する。20%で発動

決死 HPが30%以降減るとATK、DEF20%上昇かつ5%ずつHPが減るごとにATK、DEF5%上昇

達人の技力Ⅴ 物理攻撃系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少、Sクラフトを使っても50%残る

赤き死神 戦闘開始時、常にATK&SPD25%、DEX&AGL30%上昇状態

戦術科の絆Ⅰ バトルメンバーに『戦術科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,1倍になるかつ全パラメーター1,1%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる













クラフト(原作以外)





ブレードライフル装備 0 自分 武器をブレードライフルに持ち替える。ただし、スタンハルバードを使うクラフトは使用できない

エルンスト召喚 最大CPの12% 自分 パーティキャラ、エルンストを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPが12%下がる、任意でエルンストを自分の元に戻せる。

極・大切斬 60 中円 跳躍して強力な一撃を叩き込む。威力S&気絶70%&DEF50%減少攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクB+

ヒートスマッシュⅢ 70 小円 炎の魔力を纏った渾身の一撃。火属性威力A+&火傷50%&遅延攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクA+(威力はATK、ATSの合計値に反映)

デスクライ 130 自分 闘気と引き換えに爆発的に筋力と身体能力を一時的に上昇させる戦場の死神の咆哮。5ターンの間、ATK&SPD50%上昇、”剣閃”状態

パラライボム 35 大円・地点指定 ユイドラ工匠、ディオン3姉妹によって創られた強力な麻痺ガスが込められた閃光爆弾を放つ。威力C+&封技、暗闇100%攻撃、崩し無効、ブレイクD

パワーブレイクⅢ 100 小円 強烈な一撃で敵の装甲を貫くと同時に麻痺させる。威力S+&DEF50%減少&封技50%攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクSS

テンペストレイジⅡ 70 特殊 全身に闘気を纏って自分を中心とした中円にスタンハルバードで薙ぎ払う。威力S&後退攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクA+

クリムゾンクライ 0 自分 体力と引き換えに”闘神”の血を呼び起こす咆哮で一時的に身体能力を爆発的に上昇させる赤き咆哮。使用時最大HPの65%減少、5ターンの間、ATK&DEF&SPD100%上昇、”剣閃”&”心眼”状態全状態異常&全能力減少無効化、CP50%回復

ハーケンセイバーⅡ 450 中円 闘気と魔力による円輪状の衝撃波を解き放つ。威力SS&バランスダウン70%攻撃、崩し発生率+30%、ブレイクA+(威力はATK、ATSの合計値に反映)





Sクラフト(原作以外)





ダークゲイルⅢ 中円 暗黒の炎を纏った渾身の薙ぎ払い攻撃。威力は4S+&劫炎100%攻撃、ブレイクS(威力はATK、ATSの合計値に反映)

クリムゾンセイバーⅡ 大円 闘気と魔力によって発生させた灼熱の炎を纏わせた斬撃を解き放つ赤き死神の一振り。威力6S&大火傷100%攻撃(威力はATK、ATSの合計値に反映)









ブレードライフル装備時クラフト





スタンハルバード装備 0 自分 武器をスタンハルバードに持ち替える。ただし、ブレードライフルを使うクラフトは使用できない

スナイプラッシュⅢ 45 単体 狙いを定めた部分に銃弾を集中攻撃させる。威力S&SPD、MOV50%減少&アーツ、駆動妨害攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクB

ファイアドレイクⅢ 75 特大円・地点指定 無数の弾丸を放って、広範囲を攻撃する。威力S&気絶40%攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクA+

ブラッディクロスⅢ 120 中円 銃撃を放った後で刃の部分で敵に襲い掛かる赤き技。威力S+&HP100%吸収攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクS

ゼロ・ラピッドⅢ 130 単体 零距離で弾丸を連射する。威力SS+&気絶100%&DEF50%減少&遅延攻撃、崩し発生率+30%、ブレイクSS

ブラッディストームⅢ 150 中型直線(貫通移動攻撃) デスストームの原型である蹂躙技。威力S&即死、混乱80%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクA

ブラッディパニッシャーⅢ 200 大円 強襲で体制を崩した敵を闘気の刃で突き上げる赤き技。威力SS+&DEF50%減少&バランスダウン75%攻撃、崩し発生率+50%、ブレイクS+





Sクラフト





メルカルト 特大円 大型ライフルで戦場を蹂躙する赤き極技。威力7S+、ブレイク確定







コンビクラフト(原作以外)





ブラッディカオスⅡ 300 中円 エルンストと共に放つ協力技。怒涛の連続攻撃を行い、戦場に死の咆哮を上げさせる紅き混沌技。威力4S+、ブレイクS+(ランディのATK、エルンストのATK、ATSの合計値が反映される)。条件、バトルメンバーにエルンストがいるかつランディがスタンハルバードを装備し、双方のCPが300ある事

クリムゾンパレードⅡ 700 大円 エルンストと共に放つ死神達の紅き狂宴。威力6S、ブレイクSS(ランディのATK、エルンストのATK、ATSの合計値が反映される)。条件、バトルメンバーにエルンストがいるかつランディがブレードライフルを装備し、双方のCPが700ある事

真・龍凰絶炎衝 100 大円 炎竜と鳳凰による炎で敵陣を焼き尽くす協力奥義。威力6S+&100%攻撃、ブレイクSS。条件、バトルメンバーにリィンがいるかつ双方のCPが100以上ある事









チームクラフト





ゼロ・ブレイカーⅡ 最大CPの80% 特大円 怒涛の勢いで連携攻撃を次々と放ち、それぞれの最大奥義を同時に放つ特務支援課の最大連携技。威力20S+、ブレイク確定。使用条件、バトルメンバーにトンファーを装備したロイド、銃を装備したエリィ、エレシュキガルを装備したティオがいるかつ、ランディの装備がブレードライフル&それぞれのCPが最大の80%ある事









<仮面の紳士> ランドロス・サーキュリー







LV550

HP125000

CP8000

ATK12400

DEF8200

ATS1700

ADF1640

SPD195

MOV14







装備







武器 真聖剣ザオラー・改(所有者の心に迷いが無ければ威力が増す聖剣。使い手と共に鍛え上げられている。ギュランドロス専用。ATK5250、RNG+2。クリティカル率40%。一人出番回るごとに所有者のHP&CPを10%回復させる。不死系、幽霊系、霧系、悪魔系の敵に命中100%&威力2倍。)

防具 暴王の戦鎧(ギュランドロス専用に創られた遥か昔メルキア帝国との戦いにより滅びた国ユン・ガソル王国の技術が集められた紅き鎧。DEF3000、ADF500。物理を除いた全属性攻撃を10%軽減、物理攻撃は30%軽減)

靴  暴王の戦靴(ギュランドロス専用に創られた遥か昔メルキア帝国との戦いにより滅びた国ユン・ガソル王国の技術が集められた鎧。DEF250、MOV+9、SPD8%上昇)

アクセサリー ユーロヴァスガン・改(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって強化、改造されたユン・ガソル国王専用の紋章。ユン・ガソル国王しか装備する事が許されない。全状態異常無効化、ATK&DEF50%上昇、全ての物理攻撃手段にブレイク200%付与、Sクラフトの威力を2倍にする) 

       ヴァルフケーニール(ヴァイスより功績を称えられて贈られた記念品。ギュランドロス専用。全パラメーター10%上昇、全ての物理攻撃手段に気絶10%の効果が付与される)





ARCUS版オーブメント(火・地・火属性)並びはミリアムです


アタックランク 斬SS剛SS



リンクアビリティのタイプはアンゼリカ





オーダー



暴王陣『劫火』 BP4 攻撃(12カウント/ダメージ&ブレイクダメージ500%)2ターンの間ATK&SPD50%上昇、CP80%回復

暴王陣『覇道』 BP5 必殺(12カウント/クリティカル確定)2ターンの間『剣閃』状態、加速





スキル





ルイーネが大好き バトルメンバーに『ルイーネ』がいると、全パラメーターが15%上昇

夫婦の絆 『ギュランドロスorランドロス』、『ルイーネ』の移動範囲内にお互いがいて、片方が攻撃した時、片方が自動的に連携して攻撃する。また、『ルイーネ』が物理攻撃を受けると20%で『ギュランドロス』がルイーネに『治癒の水』を使い、ダメージの半分を回復する。なお、この時に使う『治癒の水』は消費されない

主従の絆 バトルメンバーに『ルイーネ、エルミナ、パティルナ、』の誰かがいるとが全パラメーターが7%上昇、なお2人以上いると人数に応じて効果は倍増される

闘争心 バトルメンバーに『ヴァイス』がいるとギュランドロスのATK&SPDが20%上昇

戦友の絆 バトルメンバーに『ベル、ナフカ、リューン、リセル、リ・アネス、クライス、ラクリール、エア・シアル、アルフィミア、メイメイ』の誰かがいると全パラメーター2%上昇。2人以上いるときは人数に比例して効果も倍増する

暴王の器 スキルの効果が2倍になるかつバトルメンバー全員のATK&SPDを40%上昇させ、このスキルを持つ者がバトルに参加していると仲間全員の攻撃手段の威力を2倍になり、常にクリティカル率が20%上昇する

戦闘指揮 戦闘中、自分を含めた味方全員のDEX、AGLを10%上昇させる 

暴虐の布陣 ギュランドロスorランドロスがバトルメンバーにいると仲間全員のATK、ATSが30%増加する代わりにDEF、ADFが30%低下する。

貫通Ⅶ 35%でDEF無視攻撃

カウンターⅨ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。45%で発動

急所狙いⅧ クリティカル率が常に40%上昇

悪魔殺し 敵が悪魔系の場合、威力30%上昇

決死 HPが30%以降減るとATK、DEF20%上昇かつ5%ずつHPが減るごとにATK、DEF5%上昇

達人の技力Ⅴ クラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使っても、50%CPが残る

六銃士の絆 バトルメンバーに『ルイーネ、エルミナ、パティルナ、ヴァイス、アル』が揃っている場合、6人全員の全パラメーターが20%上昇、全ての攻撃手段の威力が1,5倍になり、さらに一人が攻撃すると残りの5人の移動、攻撃範囲内に攻撃した相手がいると移動、攻撃できる者達全員で追撃する。なお、6人全員揃っていないと発動しない

ゼムリアの三皇 バトルメンバーに『リウイ、ヴァイス』の双方がいれば、3人全員のATK、SPD、DEX、AGLが50%上昇、攻撃手段の威力が3倍になる。なお、3人全員揃っていないと発動しない

戦術科の絆Ⅰ バトルメンバーに『戦術科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,1倍になるかつ全パラメーター1,1%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる







クラフト





絶招・気合い斬り 110 単体 気合いを込めた一撃で敵を怯ませる。威力SS&アーツ&駆動妨害&気絶100%攻撃、崩し発生率+40%、ブレイクB

覇王の号令 100 全体 自分を含めた味方を鼓舞する号令。STR、SPD、AGL、DEXが50%上昇

絶招・豪薙ぎ払い 300 特殊 自分を中心とした大円を攻撃する。威力S+&バランスダウン100%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクA

絶招・豪炎斬 300 中円 闘気によって発生した炎で豪快にぶった斬る。火属性威力S+&劫炎100%攻撃、崩し発生率+30%、ブレイクA+

絶招・延髄砕き 250 単体 装甲すらも破壊する素手の攻撃。威力S+&封技100%&DEF50%減少攻撃、崩し発生率+50%、ブレイクS

絶招・天震撃 400 中円 大剣を叩き付けて強烈な衝撃波を発生させ、敵を怯ませる。威力SSS&アーツ、駆動妨害&絶対遅延攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクS+

絶招・玄武の滅燐撃 1200 大円 大地をも割るほどの闘気を纏った武器を叩き付けて衝撃波を発生させて広範囲の敵を攻撃する。威力4S+、崩し発生率+60%、ブレイクSSS+







Sクラフト





絶招・豪震撃 大円 膨大な闘気を纏った大剣を地面に叩きつけ、大地を砕き、天に届くほどの衝撃波を発生させる奥義。威力15S+、ブレイク確定









コンビクラフト





絶招・暴魔の協撃 2000 大円 ルイーネと共に放つ協力技。暴君と暴君の妻である謀略の魔女が共に放つ協力技。威力10S+、ブレイク4S+。条件、バトルメンバーにルイーネがいるかつ双方のCPが2000以上ある事

絶招・双覇の挟撃 4000 中円 ヴァイスと共に放つ協力技。覇王と暴王による猛攻。威力20S+、ブレイク確定。条件、バトルメンバーにヴァイスがいるかつ双方のCPが4000以上ある事





キングクラフト





覇王の剣嶺 最大CPの70% 特大円 リウイ、ヴァイスと共に放つ時代を変える者達が協力して放つ覇王達の協撃。威力50S+、ブレイク確定。条件、バトルメンバーにリウイとヴァイスがいるかつ、それぞれのCPが最大の70%以上ある事







<槍の聖女> リアンヌ・ルーハンス・サンドロット(属性・神格)





LV770

HP165000

CP18000

ATK21300

DEF18400

ATS17800

ADF12100

SPD400

DEX125

AGL80

MOV16













装備





武器 トゥルー・ロンギヌス(”槍の聖女”が長年使い続けている”黄昏の聖槍”の異名を持つ外の”理”によって創られたランス。リアンヌ専用。ATK13000、ATS2400、RNG+3。クリティカル率30%。不死系、悪魔系、幽霊系、霧系、魔神系の敵、”負”の気を纏った人間に威力3倍、全物理攻撃系のクラフト、Sクラフトの威力が1,3倍になる。)

   軍剣ルクノゥ・セウ(”影の国”の件が終了した直後、リアンヌの近くに落ちていた至高の工匠―――”匠神”ウィルとさまざまな分野での才がある者達によって創られた戦の神マーズテリアの総本山にあると言われる軍神の真なる神剣。リアンヌ専用。ATK14000、ATS7500。クリティカル率20%、”光剣”系の威力を2倍にする。一人出番が廻るごとにHP&CP10%回復、不死系、悪魔系、幽霊系、霧系、魔神系の敵、”負”の気を纏った人間に威力3倍。絶対防壁貫通効果)

防具 神鎧マーズテリア・改(”影の国”の件が終了した直後、リアンヌの近くに落ちていた至高の工匠―――”匠神”ウィルとさまざまな分野での才がある者達によって強化された鎧。リアンヌ専用。DEF&ADF8000。全状態異常無効。戦闘中常に全パラメーター20%上昇状態)

靴  神靴マーズテリア・改(”影の国”の件が終了した直後、リアンヌの近くに落ちていた至高の工匠―――”匠神”ウィルとさまざまな分野での才がある者達によって強化された靴。リアンヌ専用。DEF600、MOV+12。SPD&AGL20%上昇)

アクセサリー ユーロルーハンス(”影の国”の件が終了した直後、リアンヌの近くに落ちていたルーハンス家当主の証である首飾り。リアンヌ、ミント専用、全パラメーター15%上昇、能力減少無効化、取得経験値10%上昇)

       鋼の紋章(”鋼の聖女”が持っていた紋章。リアンヌ専用。全パラメーター20%上昇、一人廻るごとにCPが最大の20%回復)









ARCUS版オーブメント(幻・空・空属性)並びはユーシスです











アタックランク 槍装備時 突SS射SS剛SS フィールドでの攻撃モーションは目にも止まらぬ連続突き

        剣装備時 斬SS突SS剛SS フィールドでの攻撃モーションは突き→薙ぎ払い→斬りの連携







リンクアビリティのタイプはロイド







オーダー



武神陣 BP5 攻撃(12カウント/ダメージ&ブレイクダメージ250%、硬直時間0,3倍)2ターンの間ATK&SPD50%上昇、『剣閃』状態、CP100%回復、加速

軍神陣 BP5 特殊(8カウント/絶対防壁、クリティカル確定)2ターンの間、全パラメータ50%上昇、HP&CP40%回復















スキル





リウイが大好き バトルメンバーに『リウイ』がいると、全パラメーターが15%上昇

主従の絆 バトルメンバーに『リウイ、イリーナ』のどちらかいるとが全パラメーターが7%上昇。2人ともいる場合は効果は倍増される

戦友の絆 バトルメンバーに『カーリアン、ペテレーネ、ファーミシルス、セシル』の誰かがいると全パラメーター2%上昇。2人以上いるときは人数に比例して効果も倍増する

家族の絆 バトルメンバーに『リフィア』がいれば、ATK&ATS&SPDが5%上昇

師弟の絆 バトルメンバーに『レーヴェ、デュバリィ、エンネア、アイネス』の誰かがいると、リアンヌの全パラメーターが3%上昇。2人以上いるときは人数に比例して効果も倍増する

聖騎士の心 リアンヌの移動範囲内でパーティー内の誰かのHPが30%以下になり攻撃を受けそうになった場合、自動移動して庇って代わりにダメージを受ける。なお、味方HPが10%以下なら100%で発動

真なる守りの心 バトルメンバーに『リウイ、イリーナ』がいると、リアンヌの全パラメーターが8%上昇かつ、移動範囲内でリウイもしくはイリーナが攻撃されると70%で2人のどちらかの前に移動して、代わりにダメージを受ける。なお、2人同時の場合はランダムで庇う。さらに2人共いるとパラメーター上昇も2倍になる。

努力家Ⅴ 取得経験値が50%上昇

戦闘指揮 戦闘中、自分を含めた味方全員のDEX、AGLを10%上昇させる

カウンターⅩ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。50%で発動

リベンジャー カウンター発動時の攻撃威力が1,5倍になる

連続攻撃Ⅹ 発動すれば物理攻撃後CP消費せず、同じ物理攻撃手段を放つ。40%で発動

悪魔殺し 敵が悪魔系の場合、威力30%上昇

霊体殺し 敵が幽霊、霧系の場合、威力30%上昇

不死殺し 敵がゾンビ系の場合、威力30%上昇

魔神殺し 敵が魔神系の場合、威力30%上昇

達人の技力Ⅴ 物理系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使っても、50%CPが残る

決死 HPが30%以降減るとATK、DEF20%上昇かつ5%ずつHPが減るごとにATK、DEF5%上昇

孤高    自分以外のバトルメンバーが戦闘不能状態の時のみAGLが70%上昇

第Ⅱ分校の絆Ⅰ バトルメンバーに『第Ⅱ分校のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,1倍になるかつ全パラメーター1,1%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる





クラフト(槍装備時)





剣装備 0 自分 武器を剣に持ち替える。なお、剣装備時は槍装備時のクラフトが使えない。なお、魔術は扱える

セイントアウラ 800 自分 聖気と闘志を爆発させ、一時的に全ての能力を大幅に上昇させる。5ターン、全パラメーター60%上昇、HP&CP50%回復

シュトルムランツァーⅡ 400 中型直線(貫通) 武器を構えて指定した場所まで突進する移動攻撃。威力SSS&封技100&&攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクA

防護の光陣 500 全体 5ターンの間味方のDEF、ADFを30%上昇

アルティウムセイバーⅡ 1000 特殊 自分を中心とした大円にすざましい闘気を込めた一撃を放つ。威力4S&気絶100%攻撃、崩し発生率+35%、ブレイクS+

贖罪の聖炎 2000 全体 罪を贖う為に生命を奪い取る厳格な炎。空属性威力5S、崩し無効、ブレイクB(威力はATSに反映)

アングリアハンマーⅡ  800 全体 空より呼び寄せた神の雷を戦場に駆け巡らせる。威力SS&5ターンの間封技、封魔80%攻撃、ブレイクC+(威力はATSに反映)

ホーリーガード 1000 自分 膨大な”聖気”によってさまざまな加護を自分に付与する。絶対防壁×1&5ターンHP自動回復効果付与

アルティウムラッシュⅡ 3300 中円 一軍をも退かざるを得ない闘気を纏った怒涛の連続突きで敵を圧倒する。威力5S&5ターンの間バランスダウン100%攻撃、崩し発生率+90%、ブレイクSSS+

天界光 2500 単体 あらゆる穢れを消滅させる究極神聖魔術。空属性威力6S+&1ターンバニッシュ100%攻撃。幽霊系、不死系の敵に2倍ダメージ、崩し無効、ブレイクA+(威力はATSに反映)







Sクラフト





エクスピアシオンΩ 特大直線(貫通)”贖罪”の名を持つ究極神聖魔術 空属性威力20S+、ブレイクSSS(威力はATSに反映される)

聖技・グランドクロスΩ 全体 範囲内の敵達を闘気と聖気による竜巻で閉じ込めた後、聖なる十字架を刻み込む聖技。威力16S+&3ターンの間DEF、ADF100%減少&絶対防壁貫通、ブレイク確定







クラフト(剣装備時)





槍装備 0 自分 武器を槍に持ち替える。なお、槍装備時は剣装備のクラフトが使えない。なお、魔術は扱える

セイントアウラ 800 自分 聖気と闘志を爆発させ、一時的に全ての能力を大幅に上昇させる。5ターン、全パラメーター60%上昇、HP&CP50%回復

ギガブラッシュ 100 中型直線(貫通) 剣を震って衝撃波を発生させて、敵にぶつける。威力A+&DEF50%減少攻撃、崩し有効、ブレイクB

光剣 100 自分 剣に『聖光』を纏わせる。しばらくの間、自分の物理攻撃を『空属性』にする。攻撃した際、相手が悪魔、不死、霊体系なら2倍&命中100%

極・突光剣 500 大型直線(貫通) 空属性威力S+&アーツ、駆動妨害%ADF50%減少、崩し発生率+30%、ブレイクA。クラフト『光剣』を使っている場合、威力が2倍になる。

極・聖光円舞 450 特殊 自分を中心とした大円に聖光を纏った斬撃を放つ。空属性威力SS&ATS50%減少、崩し発生率+50%、ブレイクB。クラフト『光剣』を使っている場合、威力が2倍になる。

極・神極聖光剣 2000 単体 最上位の神聖魔法を武器に纏わせて繰り返して斬撃を放つ。空属性威力4S+×2&バランスダウン80%、ATK、DEF50%減少、崩し発生率+85%、ブレイクSSS+。クラフト『光剣』を使っている場合、威力が2倍になる

シュトルムランツァーⅡ 400 中型直線(貫通) 武器を構えて指定した場所まで突進する移動攻撃。威力SSS&封技100&&攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクA

防護の光陣 500 全体 5ターンの間味方のDEF、ADFを30%上昇

アルティウムセイバーⅡ 1000 特殊 自分を中心とした大円にすざましい闘気を込めた一撃を放つ。威力4S&気絶100%攻撃、崩し発生率+35%、ブレイクS+

贖罪の聖炎 2000 全体 罪を贖う為に生命を奪い取る厳格な炎。空属性威力5S、崩し無効、ブレイクB(威力はATSに反映)

アングリアハンマーⅡ  800 全体 空より呼び寄せた神の雷を戦場に駆け巡らせる。威力SS&5ターンの間封技、封魔80%攻撃、ブレイクC+(威力はATSに反映)

ホーリーガード 1000 自分 膨大な”聖気”によってさまざまな加護を自分に付与する。絶対防壁×1&5ターンHP自動回復効果付与

アルティウムラッシュⅡ 3300 中円 一軍をも退かざるを得ない闘気を纏った怒涛の連続突きで敵を圧倒する。威力5S&5ターンの間バランスダウン100%攻撃、崩し発生率+90%、ブレイクSSS+

天界光 2500 単体 あらゆる穢れを消滅させる究極神聖魔術。空属性威力6S+&1ターンバニッシュ100%攻撃。幽霊系、不死系の敵に2倍ダメージ、崩し無効、ブレイクA+(威力はATSに反映)







Sクラフト





エクスピアシオンΩ 特大直線(貫通)”贖罪”の名を持つ究極神聖魔術 空属性威力20S+、ブレイクSSS(威力はATSに反映される)

絶招・神極聖乱舞 大円 最上位の神聖魔術を武器に纏わせて華麗に舞う。空属性威力13S+&3ターンの間ATK、ADF100%減少&絶対防壁貫通、ブレイク確定(ATK、ATSの合計値が反映される)。クラフト『光剣』を使っている場合、威力が2倍になる。


 
 

 
後書き
リィンを含めた教官陣が化物過ぎるww特にオーダーがチートな性能だらけですww書いていて気づきましたけど、原作のキャラ達のオーダーでもとんでもない性能なのに、エウシュリーキャラ達にオーダーが追加されたらどんな化物性能になるんでしょうね(汗)特にリウイやセリカ、アイドスやフェミリンスのオーダーとか今回のエウシュリーキャラ陣営の更に上を行くんでしょうねぇ(遠い目)なお、生徒達やエリゼ&アルフィン、ベルフェゴール達のステータスは1章、もしくは2章終了時にそれぞれ出す予定です。 

 

第5話

4月15日――――



~宿舎~



「―――うん、これでよしっと。」

第Ⅱ分校入学から2週間――――徐々に生活に慣れ始めていたユウナは登校前に鏡で髪の状態を自分が納得するまで直して頷いた。

「はあ………一緒に登校しようと思ったのに、起きたらいないし……」

同室のアルティナがいない事に溜息を吐いたユウナは気を取り直して自分が作っている机に飾っている家族全員が写った写真に近づいて写真を見つめた。

「お父さん、お母さん、ケンにナナも。行ってきます。―――今日も頑張ってくるね。………ああもう!エレボニア人には負けないんだから!」

日課である家族の写真に挨拶をしたユウナはふとかつての出来事――――クロスベル市内で窮地だった自分と妹達を助け、手を差し出したリィンとその後ろにいるセレーネ達を思い出した後すぐに我に返って自身に喝を入れた。



「ハアッ!セイッ!ハァァァァァッ――――斬!!ふう………」

一方その頃宿舎にある鍛錬場で日課である朝の鍛錬を終えたクルトはタオルで汗をふいた。

「―――キレは悪くない。あとは実戦あるのみか。……そう言えば呼吸がほとんど乱れていなかったな。」

自身の評価をしたクルトはオリエンテーションの時のリィンを思い出した。

「”八葉一刀流”―――流石だけど、父上達に比べたら聞いていた程じゃなさそうだ。……所詮は”騎神”と”異種族”頼みの英雄というだけか。後は”飛燕剣”の方だが……兄上達の話では”実戦”にならなければ、”主”達は呼ばないと聞くが……だったら、例え訓練とはいえ”実戦技術”の授業で鍛錬相手として呼んでくれないだろうか。」

リィンに対する評価や今後の事を考えたクルトは上着を着た後鍛錬場を出た。すると上から降りてきたユウナと鉢合わせをした。



「「あ…………」」

鉢合わせをした二人は一瞬呆けたがそれぞれ互いに近づいた。

「「おはよう、その――――」」

更に二人は同時に同じ事を言いかけたが、すぐに中断し、互いに気まずい表情をしていたがやがてクルトが先に口を開いた。

「――おはよう、ユウナ。君も登校か?」

「う、うん。クルト君も型稽古は終わり?毎日毎日、精が出るね。」

「まあ、幼い頃からの日課だから慣れっこではあるんだが……」

「「…………」」

二人の会話は続かず、お互い黙り込んだが今度はユウナが口を開いた。



「―――ああもう!あの時はゴメンなさい!」

「え………」

ユウナに突然謝罪されたクルトは何の事かわからず呆けた声を出した。

「その、平手打ちのこと!どう考えても不可抗力なのに、一方的にやっちゃって……!その後も態度悪かったし、大人気なさすぎっていうか……」

「君は………」

ユウナの話を聞いたクルトは目を丸くして黙り込んだがやがて口を開いた。

「それを言うならお互い様さ。―――しかし、あれから2週間、ずっとそれを言おうとしてたのか?エレボニア人嫌いの君にしては律儀というか、殊勝というか。」

「べ、別にエレボニア人の事は嫌いじゃないってば……!国は国、人は人だし、自分が間違っているんだったら、ちゃんと謝らなきゃって思って……毎日、熱心に稽古をしてるのにあんな言い方もしちゃったし。」

「ああ………」

気まずそうな様子で答えたユウナの話を聞いたクルトはオリエンテーションの時のユウナの発言を思い出した。



エレボニア人が使う、昔ながらの剣なんかよりは役に立つ筈です!



「別に気にしてないさ。稽古自体は単なる日課だしね。――――それいしてもクロスベル人っていうのはみんな君みたいな感じなのかい?」

「へ……あたしみたいって?」

クルトの問いかけの意味がわからないユウナは不思議そうな表情で問い返した。

「別に悪い意味じゃないけど。前向きで正義感が強くて人が良さそう(チョロそう)な感じってことさ。 」

「って、君ねぇ!?」

そしてクルトの自分に対する印象を知ったユウナはジト目でクルトを睨んだ。

「だから悪い意味じゃないって言ってるじゃないか。」

ユウナに睨まれたクルトは苦笑をした後手を差し出し

「同じクラスの仲間が信用できそうなのは助かるよ。信頼できるかは別にしてね。」

「む~っ……ホント可愛くないわねえ。ふふっ、でもまあ、改めてよろしくってことで。」

ユウナも手を差し出し、二人は仲直りの握手をした。



「―――お二人とも、おはようございます。」

するとその時タイミング良くアルティナが二人に近づいてきた。

「ア、アルティナ……!?どうして――――とっくに登校したんじゃ!?」

「早朝、定時連絡があってユウナさんを起こさないよう自習室を使用していました。もしかして、部屋を出る時、起こしてしまいましたか?」

「う、ううん。グッスリ寝てたけど……―――ってだから、定時連絡って何より、定時連絡って!」

アルティナの問いかけに戸惑いの表情で答えたユウナだったがすぐに我に返って声を上げて指摘した。

「失礼、秘匿事項でした。」

「……まあ、そろそろ時間だ。同じクラスだし、たまには一緒に登校するとしようか?」

アルティナのマイペースさに脱力したクルトは気を取り直して登校に誘った。

「構いませんが、わたしはお邪魔なのでは?先程の様子から察するに関係性が進展したようですし。」

「か、関係性って……別にしてないってば!」

(しかし独特な言い回しの多い子だな……)

その後3人は宿舎を出て第Ⅱ分校への登校を始めた。



~リーヴス~



「ふう、でもリーヴスって雰囲気もあって良い街よね~。のんびりとしながらセンスのいい店も多そうだし。」

「ああ……田舎過ぎず、都会過ぎない街というか。帝都からそう遠くないから程よい距離感なのかもしれない。」

「以前は、とある貴族の領地だったそうですね。その貴族が手放した後、別荘地が造成されたものの、諸般の事情で頓挫――――その跡地が第Ⅱ分校に利用されたとか。」

「さ、さすが詳しいわね。」

「なるほど、それで都合よくあの規模の分校を造れたのか……」

アルティナの情報にそれぞれ冷や汗をかいたユウナは若干感心している中クルトは納得した様子で呟いた。そして3人は再び歩き始めた。

「そう言えば……アルフィンさんとエリゼさんだっけ?二人は元お姫様と大貴族のお嬢様なのに、料理を始めとした家事全般を普通にできるなんて、正直意外で驚いたわよね~。あたし、てっきりお姫様や貴族のお嬢様は料理みたいな家事全般はみんなメイドさんとか執事さんとかに任せてできないって思っていたもの。」

「幾ら何でもそれは偏見じゃないか……?確かにそう言う貴族の家庭もあるが、貴族の家庭によっては平民の家庭のように令嬢や夫人がその家の家事をしている事もある。実際、僕の家も貴族だが、家事は母上が担当しているしな。」

ユウナの話を聞いたクルトは呆れた表情で指摘をした後説明をし

「そうなんだ……けど確かリィン教官やエリゼさんの実家―――”シュバルツァー家”って、貴族の中でも一番爵位が高い”公爵家”よね?それなのに、シュバルツァー家の令嬢のエリゼさんもそうだけど、元お姫様のアルフィンさんもリィン教官に嫁いで普通の一般家庭の奥さんみたいに家事全般をしている事自体も、結構驚きだと思うけど。」

「それは………」

「というかユウナさんが貴族の”爵位”の事を知っていたなんて、驚きました。」

ユウナの指摘を聞いたクルトが困った表情で答えを濁している中アルティナは目を丸くして指摘した。

「むっ、失礼ね………アルティナも知っての通り、クロスベルが”帝国”に成りあがる前に”六銃士”の人達がメンフィル帝国から1年半前の戦争でエレボニアから贈与してもらう取引をしていて、その取引によってエレボニアの領地の一部がクロスベル帝国に併合されたから、警察学校で貴族についてもある程度は教えられたわよ。それよりも話を戻すけど、どうして”シュバルツァー家”って”公爵家”なのに、家事全般をアルフィンさん達がしているの?」

「まずエリゼ様に関してですが、エリゼ様は元々リフィア皇女殿下の”専属侍女長”ですから、料理を始めとした家事全般は得意である事は当然かと。」

「へ……”リフィア皇女殿下”って、もしかしてメンフィル帝国の跡継ぎのリフィア皇女の事?」

「……そう言えば兄上から聞いた事がある。シュバルツァー家のご息女―――エリゼさんは若干15歳で、リフィア皇女殿下の”専属侍女長”という大任を任されている話を。それを考えるとアルティナの言う通りエリゼさんが家事全般が得意である事はむしろ当然だな………エリゼさんは皇族―――それも、大国の皇帝の跡継ぎの身の回りのお世話をする筆頭である”専属侍女長”なのだから、特に料理の腕前に関しては宮廷料理人もしくは最高級レストランのシェフクラスだと思うし。」

アルティナの説明を聞いたユウナが不思議そうな表情で首を傾げている中クルトは納得した様子で呟いた。



「15歳でそんなとんでもない存在になっていたって、エリゼさんって実は滅茶苦茶凄い人だったんだ………という事はアルフィンさんも料理を始めとした家事全般ができるのも、もしかしてエリゼさんから教えてもらったから?」

「それもありますがそもそも、”現時点のシュバルツァー家”は貴族の爵位の中でも最下位の”男爵家”ですから、使用人はわたし以外は存在せず、基本的に家事全般は教官達の母親であり、現シュバルツァー家当主であるテオ様の妻であられるルシア様が担当していて、ユミルの屋敷にいる時のエリゼ様やアルフィン様はわたし同様ルシア様の家事を手伝っているのです。」

「へ………”現時点のシュバルツァー家は男爵家”って、どういう事??確かリィン教官、自己紹介の時に”シュバルツァー公爵家”って言っていたわよね?」

自分の推測に対する答えを口にしたアルティナの答えを聞いて新たな疑問が出て来たユウナはアルティナに訊ねた。

「はい。そこに補足する形になりますが、テオ様はシュバルツァー家が”公爵家”になれた理由は教官達の功績なので、跡継ぎであるリィン教官がシュバルツァー家の当主になった時に昇進させて欲しいという希望があった為、”シュバルツァー家が公爵家に昇進する事が確定していますから”、テオ様を始めとしたシュバルツァー家の方々からシュバルツァー家の跡継ぎとして認められているリィン教官が”シュバルツァー公爵家の跡継ぎ”と名乗る事自体には特におかしな点はありません。」

「そんな事情があったのか……」

「何だか微妙にややこしい話ね………それで結局今のシュバルツァー家は”男爵家”だから、家事を担当するメイドさんや執事さんみたいな人はアルティナしかいないから、教官のお母さんや教官の奥さんになったアルフィンさんが家事を担当しているの?」

アルティナの話を聞いたクルトが驚いている中ジト目で呟いたユウナは気を取り直してアルティナに確認した。



「はい。わたしもルシア様達のサポートをさせてもらっています。……ただ、わたしは”シュバルツァー家”の方々をサポートする為に教官達に引き取られたのに一般的に言う”子供のお手伝い”のような簡単な事しかさせてもらえないのが、少々不満です。」

「いや、実際アルティナはその”子供”でしょ。………けど意外よね。確かアルフィンさんって、エレボニア帝国がメンフィル帝国に戦争を止めてもらう為に政略結婚として、リィン教官と無理矢理結婚させられたんでしょう?その割にはリィン教官の婚約者のエリゼさんやセレーネ教官、ベルフェゴールさんやリザイラさんとも凄い仲良しだし、リィン教官との関係に関しては初対面のあたし達ですらわかるくらい、その………リィン教官との夫婦関係が本望であるみたいにリィン教官に対してラブラブだし、リィン教官もアルフィンさんみたいに露骨じゃないけど、アルフィンさんがとても大切で大好きな事は伝わってくるし。」

ジト目になったアルティナの発言にクルトと共に冷や汗をかいて脱力したユウナは疲れた表情で指摘した後アルフィンがリィンやエリゼと接する時の様子を思い出しなが疑問を口にした。

「それに関しては僕も少し気になっている。メンフィル帝国との戦争が勃発した理由を考えれば、皇女殿下が教官に対して罪悪感を抱いても、それが恋愛に発展するなんて普通に考えたらありえないだろうし。」

「へ……エレボニア帝国とメンフィル帝国の戦争が勃発した理由でアルフィンさんがリィン教官に罪悪感があるってどういう事?」

「君も知っての通り、1年半前エレボニア帝国が内戦の最中メンフィル帝国に戦争を仕掛けられた理由はリィン教官とエリゼさんの故郷であり、メンフィル帝国領の一つ―――”ユミル”が貴族連合軍と深く関わり合いがあった”とある大貴族”が雇った猟兵達に襲撃された事だが………その”とある大貴族”が猟兵達にわざわざ他国であるユミルを襲撃させた理由は、当時貴族連合軍の魔の手を逃れてユミルに身を隠していた皇女殿下を捕える事だったんだ。そしてその襲撃の際にユミルにある建物等が一部放火されたり破壊され、領主である教官達の父君であられるシュバルツァー卿は領民達を守る為に猟兵達と戦って、重傷を負ったとの事だ。」

「そ、そうだったの!?じゃあクルト君がアルフィンさんがリィン教官に対して罪悪感を感じているような事を言っていたけど、もしかしてその件が理由で……?」

「―――はい。実際アルフィン様はユミルとテオ様の件でリィン教官に対して罪悪感を感じていたとの事です。……まあ、教官達はユミルやテオ様の件はアルフィン様のせいではないと仰って、アルフィン様が自分達に対して罪悪感を抱く必要はないという事をアルフィン様に伝えていたとの事ですが。」

クルトの話を聞いたユウナの言葉にアルティナは静かな表情で頷いて説明を補足した。

「へ……何でアルティナがそんな詳しい事を知っている――――って、アルティナはシュバルツァー家のメイドさん?のようなものだから、知っていて当然よね。」

「………まあ、”メイド”も”使用人”の一種ですから間違ってはいないかと。ちなみにユミルが襲撃された時、当時貴族連合軍に所属していたわたしがクルトさんが仰っていた”とある大貴族”とは”別の大貴族”の指示によって、ユミル襲撃の混乱に紛れてアルフィン様を誘拐してその人物の下へと送り届け、その後アルフィン様の誘拐を指示した人物とは別の貴族連合軍に所属していた人物の指示によって、故郷の襲撃を知って帰郷したエリゼ様を誘拐する為にユミル近郊に潜んでいましたが、イレギュラーな事態が起こり、急遽誘拐目標をエリゼ様からエリゼ様の母親であるルシア様に変更され、誘拐を実行しようとしましたが、わたしの存在に気づいていたメンフィル帝国大使――――”英雄王”リウイ・マーシルン前皇帝陛下が護衛兼伏兵を待機させていた為、誘拐を実行したわたしはその伏兵達に敗北し、捕縛された為メンフィル帝国の捕虜となりました。」

そしてユウナの疑問に淡々とした様子で答えたアルティナの答えを聞いた二人はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「……所々、聞き捨てならない事を聞いてしまったのだが。」

「っていうか、メンフィル帝国の大使―――”英雄王”って確かメンフィル帝国の前皇帝でしょう?何でそんなとんでもない人がエリゼさん達と一緒にユミルに行ったのか意味不明なんだけど……というか、よくそんな事があったのに、エリゼさんやアルフィンさんはアルティナと仲良くしているわよね?」

我に返ったクルトは疲れた表情で呟き、クルト同様疲れた表情で呟いたユウナはアルティナと親しく話している様子のエリゼやアルフィンの様子を思い出しながら不思議そうな表情で首を傾げた。



「………まあ、お二人の心が寛大である事やルシア様の件に関しては”未遂”ですんだ事も理由の一部と思われますが、”七日戦役”の和解条約締結後発足された”特務部隊”にリィン教官達に引き取られたわたしも所属して教官やエリゼ様達と一緒に行動をし続けた事によって親しい関係を築く事ができましたので。」

「そう言えば、君は1年半前の内戦終結に最も貢献したメンフィル帝国の精鋭部隊―――”特務部隊”にも所属していたとの事だったな。……という事は、皇女殿下と教官達の関係が良好になった理由は君と教官達のように内戦終結の為に教官達と皇女殿下が一緒に行動し続けた事によって、お互い親近感が出た事によるお陰なのか?」

「はい、恐らくそれが一番の理由かと。」

「へ~………まあ、理由はどうあれ、政略結婚がお互い両想いによる結婚になった事は結果的にはよかったんじゃないの?」

クルトの推測にアルティナは頷き、興味ありげな様子で聞いていたユウナは自身の意見を口にした。

「……そうだな。今の皇女殿下の状況を知れば、皇女殿下のその後を気にしていた父上達も安心するだろうな。」

「そうですね。リィン教官達の良好な関係を考えると教官達が避妊処置を行っていなければアルフィン様もそうですが、エリゼ様達もとっくにリィン教官の子供を妊娠、出産してもおかしくないかと。」

ユウナに続くようにクルトと共に頷いたアルティナだったが、その後に口にしたとんでもない発言に二人は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「に、にににに、”妊娠”に”出産”、それに”避妊処置”って事はやっぱりアルフィンさんとリィン教官――――ううん、アルフィンさん”達”ってリィン教官と”そういう事”も既にしていたの……!?」

我に返って顔を真っ赤にして混乱している様子のユウナはアルティナに訊ね

「”そういう事”………?ああ、一般的に見れば不埒過ぎる行為であり、夫婦もしくは恋人の関係になれば当然の行為――――”生殖行為”もしくは”性行為”と呼ばれる行為の事ですか。」

「わー!わー!お、女の子がこんな朝っぱらから、そんな事を口にしちゃダメよ!」

ユウナの遠回しな言い方の意味が一瞬理解できなかったアルティナだったがすぐに納得した表情になって呟き、アルティナの言葉にクルトと共に冷や汗をかいたユウナは顔を真っ赤にした状態で声を上げた後指摘した。

「ユウナさんから話を振ってきたのに、何故わたしにそんな事を指摘するのか、理解不能です。」

「というかそれ以前に、内心察してはいても知り合い―――それもこれから顔を合わせて授業をしてもらう教官達が既に”そんな関係”の間柄である事を知ってしまうなんて気まずくなるだけだから、正直口にはして欲しくなかったのだが……」

ユウナの指摘に理解できていない様子のアルティナにクルトは困った表情で指摘し

「はあ。ですが、お二人に限らず第Ⅱ分校の皆さんもリィン教官達が”そんな関係”である事は”察して”いたのでは?アルフィン様がリィン教官の妻で、エリゼ様達はリィン教官の婚約者である事は既に本人達も明言されていたのですし。」

「それは………」

「それはそれ!これはこれよ!というか何でアルティナは教官達が”そういう事”をしている事まで知っているのよ……まさかとは思うけど、教官達が”そういう事”をしている場面を見た事があるのじゃないでしょうね?」

アルティナの指摘に返す事ができないクルトが言葉を濁している中ユウナは反論した後、ジト目でアルティナに訊ねた。



「教官達が”そう言った行為”をしている時は大概ベルフェゴール様達が魔術による防音結界を展開していると、以前のアルフィン様達―――女性達だけの”がーるずとーく”という話し合いで教えて貰った事があり、その後教官もしくはアルフィン様達の私室に結界が展開されている様子を何度か見た事がありますから、その時に教官達が”そう言った行為”をしている事は察しました。それと極稀ですが、教官達が休暇等でユミル郊外である山中で行楽等をしている最中に、わたし達の隙をついてその場から離れたリィン教官とアルフィン様達の誰かが”そう言った行為”をしている所を実際に見た事がありますので。……勿論、その際はクラウ=ソラスのステルスモードを使って、即座にその場から離脱しましたが。」

ユウナの疑問に答えたアルティナはかつての事を思い出してジト目になり

「わー!わー!この話はもうおしまい!……魔術をそんな事に利用している所か、外で”する”なんて、やっぱりあの女好き局長の下にいたから影響を受けたのかしら?もしそうだったら、考えたくはないけどロイド先輩もリィン教官のように局長の女好きかつエッチな事が大好きな影響を受けているのかな……?ううん、さすがにあんなに真面目なロイド先輩が局長みたいになるなんて、それはありえないわ!」

「ふう………リィン教官に降嫁なされた皇女殿下のその後については父上達共々気にはなっていたが、知りたくもない皇女殿下達の家族内の事情まで知ってしまうなんて、皇女殿下に対して申し訳がないな……」

一方アルティナの話を聞いてクルトと共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたユウナは我に返った後顔を真っ赤にして声を上げて無理矢理話を終わらせてジト目になって小声でブツブツと呟き、クルトは疲れた表情で溜息を吐いた後困った表情で呟いた。

「そう言えばベルフェゴールさん達の件で思い出したけど、教官の他の”婚約者”の人達って、一体どういう人達なのでしょうね……?確かリィン教官にはエリゼさん達を含めて婚約者が8人いるって、話でしょう?今わかっている教官の婚約者はエリゼさんにセレーネ教官、ベルフェゴールさんにリザイラさんだから……後4人いる事になるし。」

「?後四人の内の一人に関してはユウナさんもご存知だと思うのですが。その人物は現クロスベル皇帝の一人―――ヴァイスハイト・ツェリンダー皇帝の養女にして、クロスベル皇女であるメサイア様なのですから。」

ユウナの疑問を聞いたアルティナは不思議そうな表情でユウナに指摘した。

「あ……そう言えば局長……じゃなくてヴァイスハイト皇帝陛下に即位前から養子がいて、その養子がメンフィル帝国との関係強化にメンフィル帝国の関係者と婚約している話は聞いた事があるけど、その相手ってリィン教官の事だったんだ。」

アルティナの指摘を聞いてある事を思い出したユウナは目を丸くして呟いた。

「はい。メサイア様はアルフィン様達の護衛を担当しているベルフェゴール様やリザイラ様と違い、今もリィン教官の”使い魔”の一人としてリィン教官の身体と同化して状況を見守っていますから、教官が必要と感じた時はメサイア様を召喚すると思います。」

「ええっ!?それじゃあ、メサイア王女はメヒーシャさん達みたいに”主”である教官と”契約”していて、今も教官と一緒にいるんだ……」

「(……そして”飛燕剣”の使い手であるという、兄上の話にあった人物の妹に当たる”女神”も教官の”太刀”と同化して常に共にいると兄上から聞いた事があるが………そう言えば教官は”太刀”を2本腰に刺していて、オリエンテーションの時は1本しか使っていなかったな……という事は使っていないもう1本の”太刀”に件の”女神”が……?)しかし……話を聞いていて気づいたがリィン教官の伴侶となる人物は、偶然とは思えないくらい高貴な方が多いな。」

アルティナの説明にユウナが驚いている中、クルトはある事を思い出して考え込んだ後気を取り直して自身の意見を口にした。



「た、確かに………エレボニアとクロスベルの皇女と結婚、もしくは婚約している上、将来”公爵家”になる事が決まっている教官の妹のエリゼさんやリィン教官と同じ貴族で、しかも当主のセレーネ教官とも婚約しているし……」

「そこに補足する形になりますが………エレボニア、レミフェリアのそれぞれの上流階級からリィン教官の縁談の話も相手方の方から提案されているとの事です。」

「ええっ!?ただでさえ、今でもリィン教官は結婚している上たくさんの婚約者がいるのに、まだ増えるかもしれないの………!?というか何で相手の家は教官は既に結婚している上、たくさんの婚約者がいるとわかっているのに、縁談を持ってくるのかしら……?」

クルトの推測に冷や汗をかいて同意していたユウナだったがアルティナから更なる話を聞くと再び驚き、そして困惑の表情を浮かべた。

「まあ、リィン教官はアルフィン皇女殿下を含めて、メンフィル、エレボニア、クロスベルの三帝国の皇族に連なる人物達と結婚、もしくは婚約している事で三帝国の皇族との縁戚関係になる事が確定しているからな。上流階級の者達からすれば、リィン教官と縁を結びたい相手だろう。しかも教官には多くの婚約者がいるから、その中に自分の娘も入れて貰える可能性もあると考えているのだろう。」

「そうですね。実際、教官は縁談を持ってくる相手方からはヴァイスハイト皇帝のように”好色家”として見られているようですし。……まあ、教官はその風聞を知った時頭を抱えて『何で、そんな風に見られてしまうんだ……誤解だ!』と叫んでいましたが。」

クルトの話に同意したアルティナは以前聞いた事があるリィンの心の叫びを口にし、それを聞いた二人は冷や汗をかいた。

「誤解もなにも、実際ヴァイスハイト皇帝陛下みたいにたくさんの女の人を侍らせてハーレムを築いているんだから、そんな風に見られて当たり前じゃない………そう言えば、さっきクルト君はリィン教官は”三帝国の皇族と連なる人物と結婚、もしくは婚約している”って、言っていたけどリィン教官が婚約者しているメンフィル帝国のお姫様って、どんな人なの?」

「何だ、知らなかったのか?メンフィル帝国の皇族に連なる人物はセレーネ教官だぞ。」

「ええっ!?セ、セレーネ教官が!?でも確かセレーネ教官って、自己紹介の時”アルフヘイム子爵家の当主”って言っていたわよね?しかも名前にもレン教官みたいにメンフィル皇家のファミリーネームである”マーシルン”もないし。」

クルトの口から語られた驚愕の事実に驚いたユウナは困惑の表情で指摘した。

「セレーネ教官の双子の姉である”蒼黒の薔薇”―――ツーヤ・A・ルクセンベール様はメンフィル皇家の分家の養子縁組を組んでいるのです。その為、ツーヤ様の妹であるセレーネ教官もツーヤ様と養子縁組を組んだメンフィル皇家の分家の養子にしてもらったとの事です。」

「そ、そうだったんだ………ねえねえ、アルティナ。上流階級の人達がリィン教官に縁談を提案しているって言っていたけど、もしかしてその中にはあたしでも知っているような凄い身分の人とかもいるの?」

セレーネの意外な出自を知って目を丸くしたユウナは興味本位でアルティナに訊ねた。

「そうですね…………”セイランド家”でしたら、ユウナさんも知っているのでは?」

「へ………”セイランド”って、もしかしてウルスラ病院に外科医の一人として務めているセイランド先生の事!?」

アルティナの問いかけを聞いてある人物に心当たりがあるユウナは驚きの表情でアルティナに確認した。



「はい。正確に言えば、ユウナさんが言っている人物の”姪”に当たる人物である”ルーシー・セイランド”という人物との縁談が提案されたとの事ですが。」

「驚いたな……”セイランド家”といえば、”レミフェリア公国”を代表する医療機器メーカーの一つ―――”セイランド社”の創始者の一族で、大公家とも連なる一族のはずだ。という事はひょっとしたらその縁談はレミフェリア公国の大公家の”意志”も関わっているかもしれないな………」

「大公家って、レミフェリア公国のトップの大公の一族の事でしょう?セイランド先生がそんな凄い家の出身だったなんて、知らなかったわ…………っていうか、何気にリィン教官との縁談相手になったその人も皇族の関係者って事じゃない。結婚しても、皇族関係者の女性との縁談の話が来るって、リィン教官の女性運って一体どうなっているのよ………」

アルティナの説明を聞いたクルトは目を丸くした後考え込み、ユウナは信じられない表情で呟いた後疲れた表情で溜息を吐いた。

「ユウナさんの意見には同意します。リィン教官に提案されている新たな縁談の中にはエレボニア帝国の皇女もいますし。」

「へ………”新たな縁談の中にはエレボニア帝国の皇女もいる”って事は、エレボニア帝国にはアルフィンさんの他にもお姫様がいるの?」

「ああ。リーゼロッテ皇女殿下という方で、元々ユーゲント皇帝陛下の正妃であられるプリシラ皇妃殿下の実家の子女として育った方なのだが、1年半前のメンフィル帝国との和解条約の件でアルフィン皇女殿下が降嫁された事で、エレボニアの民達からすれば”帝国の至宝”の片翼として民達にとても慕われていて、内戦終結に最も貢献したアルフィン皇女殿下がメンフィル帝国との和解の為に自ら責任を取ってエレボニア帝国から去った風に見られていて、それが理由で内戦やメンフィル帝国との戦争の件もあってエレボニア帝国全体が暗い雰囲気に陥りかけたんだが………その雰囲気をなくすために、明るい話題として、既に両親を亡くされていて皇妃殿下のご両親であられる祖父母の元で育っていたリーゼロッテ皇女殿下が選ばれて、アルノール皇家と養子縁組を組まれる事になったんだ。今では”新たな帝国の至宝”という呼び名で、民達の人気もアルフィン皇女殿下に劣らないと言われている程、民達に慕われている方だ。」

「そうなんだ………あれ?でも、エレボニア帝国の皇家って、既にアルフィンさんがリィン教官と結婚しているからリィン教官達との縁は十分あるわよね?なのに、何でリィン教官に新たな縁談を提案しているのよ?」

「………まあ、あくまで僕の推測だが教官との縁談はアルフィン皇女殿下の件同様”政略結婚”で、しかもエレボニア帝国政府の意向が関わっていると思う。エレボニア帝国は14年前の”百日戦役”、そして1年半前の”七日戦役”でメンフィル帝国との”力の差”を嫌という程、思い知らされたからな。しかも1年半前の戦争の件で国家間の関係は微妙な状況の上、メンフィル帝国はメンフィル帝国同様国家間の関係が微妙な状況になっているクロスベル帝国との関係は良好だから、1年半前連合を組んでカルバード共和国を滅ぼしたように、再び連合を組んでエレボニア帝国を滅ぼされない為に組まれた縁談かもしれないな。アルフィン皇女殿下とリィン教官の政略結婚はメンフィル帝国の要求で、あくまで1年半前の戦争の”和解条約”の一つとして組まれていただけだから、万が一メンフィル帝国との何らかの国際問題が発生して再びメンフィル帝国に戦争を仕掛けられた場合、アルフィン皇女殿下を理由に和解、もしくは戦争を止めてもらう事は恐らく不可能だと思われるしな。(しかし、リィン教官とリーゼロッテ皇女殿下の縁談の話があがっているなんて………まさかとは思うがその為に、陛下はリーゼロッテ皇女殿下を養子に取られたのか……?)」

ユウナの疑問に対する答えを推測で答えたクルトは真剣な表情で考え込み

「な、何それ………その為に養子にした人までリィン教官と政略結婚させようとするなんて、あたしには全然理解できない世界だわ。…………それにしても話は変わるけど、エレボニアの士官学校がこんなにハードとは思わなかったわ。訓練や実習は仕方ないけど、数学とか歴史とか芸術の授業まで……範囲とかレベルも普通の高等学校以上じゃない?」

一方ユウナはジト目で呟いた後話題の内容を変えた。

「文武両道はエレボニアの伝統だからね。……特にトールズは大帝ゆかりの伝統的な名門だ。たとえ分校であっても、その精神は変わらないんだろう。」

「むしろ今年からは本校の方が大きく変わっているようですが。」

「それは……」

「?よくわからないけど、気合を入れるしかないわね。他のクラスに後れを取らないようあたしたちも頑張りましょ!」

アルティナの言葉にクルトが言葉を濁している中、クルトの様子を不思議に思ったユウナは自分達への喝を入れた。

「……まあ、やるからにはね。といっても、授業の大半がⅧ組かⅨ組と合同ではあるけど。」

「別々なのはHRくらいですね。」

「うーん、そうなのよね。人数を考えると当然だろうけど、それじゃあⅦ組って――――」

「ハッーーーー選抜エリートが仲良く登校かよ。」

そしてユウナが疑問を口に仕掛けたその時、クルトとは別の男子の声が聞こえてきた。声に気づいたユウナ達が視線を向けると、そこには金茶髪の男子生徒がいた。



「あなたは―――」

「えっと、たしかⅧ組・戦術家の………」

「……おはよう。僕達に何か用件か?」

「クク……いや、別に?ただ、噂の英雄のクラスってのはどんなモンなのか興味があってなァ。Ⅶ組・特務科―――さぞ充実した毎日なんじゃねえか?」

クルトの問いかけに対して金茶髪の男子生徒――――アッシュ・カーバイドは不敵な笑みを浮かべて皮肉を交えた答えを口にした。

「………………」

「悪いが、入ったばかりで毎日大変なのはそちらと同じさ。」

「そうね、”あの人達”のクラスだからって今の所カリキュラムは同じなんだし。第一、それを言ったら貴方のクラスも、主計科のクラスもそうじゃない。Ⅸ組・主計科にはリィン教官達同様1年半前の内戦終結に大きく貢献した”特務部隊”の所属で、しかもリィン教官の次に有名でもある”参謀”だったレン教官がいるし、貴方のクラス―――Ⅷ組・戦術家に関してはクロスベル帝国にとっては英雄の”特務支援課”のランディ先輩と、え~と………名前は伏せておくけど、ランディ先輩よりも、もっと有名な”クロスベルの英雄”もいるじゃない。」

「だったらどうして、わざわざ別に少人数のクラスなんざ作ったんだ?明らかに歳がおかしい上噂の英雄と深く関わり合いがあるガキもいるし、毛並みの良すぎるお坊ちゃんもいる。曰く付きの場所から来たジャジャ馬の”留学生”もいるしなァ。おっと、この国からすればあの場所の出身者を”留学生”と呼ぶのは色々と思う所はあるかもしれないなァ。」

「………っ………」

「無用な挑発はやめて欲しいんだが。言いたい事があるならいつでも鍛錬場に付き合うが?」

アッシュの皮肉に対してユウナは唇を噛みしめてアッシュを睨み、クルトは呆れた表情で溜息を吐いた後表情を引き締めてアッシュを見つめた。



「クク、いいねぇ。思った以上にやりそうだ。だが生憎、用があるのは――――」

「うふふ、仲がよろしいですね♪」

そしてクルトの言葉に対してアッシュが不敵な笑みを浮かべて答えかけたその時、その場にはいない新たな女子生徒の声が聞こえてきた。

「あ……」

「たしかⅨ組・主計科の。」

「……ふん?」

声に気づいたユウナ達が振り向くとミュゼがユウナ達に近づいて立ち止まり、そして上品な仕草でスカートをつまみげて会釈をした。

「ふふ、おはようございます。気持ちのいい朝ですね。ですが、のんびりしていると予冷が鳴ってしまいますよ?」

「……確かに。」

「……そっちはまだ絡んでくるつもり?」

ミュゼの指摘にクルトが納得している中ユウナはジト目でアッシュを睨んで問いかけた。



「クク……別に絡んじゃいねぇって。そんじゃあな。2限と4限で会おうぜ。」

「ふふ、ごきげんよう。1限、3限、4限でよろしくお願いします。」

ユウナの問いかけに答えたアッシュはその場から去って分校へと向かい、ミュゼも続くように分校へと向かった。

「はあ……何なのよ、あの金髪男は!いかにも不良って感じだし、あんなのが士官候補生なわけ!?」

「露骨に僕達”Ⅶ組”に含みがありそうだったが……(いや……僕達というより―――)」

ユウナの疑問に答えたクルトが考え込んだその時、予冷が聞こえてきた。

「って、ヤバ……!」

「急がないとHRに遅れそうです。」

「ああ、行こう……!」

予冷を聞いたユウナ達は急いで分校へと向かった。



「ふう………ようやく2週間ですか。」

「ふふっ、どのクラスの子も頑張ってついてきてくれてるね。トールズ本校以上のスパルタだから大変だとは思うけど。」

一方ユウナ達の様子を見守りながら出勤していたリィンがふと呟いた言葉に対してトワは苦笑しながら答えた。

「ええ……加えて本校には無かった”教練”と”カリキュラム”もある。第Ⅱ分校――――プリネ皇女殿下達からある程度の予想は聞いていましたが、政府側の狙いが少しずつ見えてきましたよ。」

「うん……でも、この分校の意義はそれだけじゃないと思うんだ。トールズの伝統を受け継いだ”あの日”もあるんだしね。」

「”あの日”……ああ……アリサ達から聞いた事がある”あの日”ですか。”部活”の件も含めて放課後、伝えるつもりです。」

「うん、よろしくね。―――それじゃあ”リィン教官”、今日も頑張っていきましょう!」

「ええ――――”トワ教官”も!」

そして二人もユウナ達を追うように、分校へと向かった――――――






 
 

 
後書き
今回の話でアルティナがリィン達の家庭内事情まで暴露しちゃいましたwwしかも、新たなリィンのハーレムの一員になる可能性があるキャラ達のネタバレまで(ぇ) 

 

第一章 再会~第二の白亜~ 第6話

 
前書き
今年最後の更新です。  

 
~第Ⅱ分校~



1限目、数学―――



「―――これが公式となる。弾道計算などにも役立つので応用問題を通じて身につけるように。」

数学を担当しているミハイル少佐は難しい公式を黒板に書き、冷静な様子で説明をした。



2限目、政経倫理―――



「これがGDP―――国内総生産っていう概念だね。ちなみにエレボニア帝国の去年のGDPなんだけど、前年度と比較して0.4割減少に……」

政経倫理を担当しているトワは可能な限り生徒達にわかりやすく説明をしていた。



3限目、野外訓練――――



「今日のメニューは”歩く”だ。といっても甘くはないぜ?武装した状態での姿勢を保った一糸乱れぬ行軍………終わった後わざわざセレーネ教官を呼んで治癒術をかけてもらわないと、歩く事すらできないくらい戦術科の連中もヘバってたからな。」

「”歩く”だなんてチマチマとつまんないねぇ。どうせ限界までヘバらせる事は一緒なんだから、”走る”から入ればいいんじゃないかい?何だったら、体力がつきても”走れる”ようにあたいが手伝ってやるよ?」

野外訓練の授業ではランディが説明をしていたが、その様子をランディの身体の中からつまらなさそうに見守っていた歪魔―――エルンストがランディの傍に現れた後自身の周囲に無数の短剣を具現化させ、更に両手に膨大な魔力を集束し、エルンストの発言や行動を見た瞬間今までの授業で度々エルンストの乱入によって散々な目に遭ってきた事を思い出した生徒達全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせるか表情を青褪めさせ

「授業中は勝手に出てくんなって、いつも言っているだろ、エルンスト!つーか、戦術科の連中が歩く事もできないくらいヘバって、姫をわざわざ呼ぶ羽目になった一番の原因は本気で”殺る”つもりで連中を追い回したお前のせいだろうが!?」

「クク、その代わりあたいもちゃんと加減していたから、誰も傷一つついていなかっただろう?それに体力をつけるのは”命の危険”を感じるのが一番いいって、あんたもわかっているだろう?人に限らず生物ってのは”命の危険”を感じれば”本能”で限界を出して、そこから更に”覚醒”するんだからね。それに立ち上がる事もできないくらいぶっ倒れれば、男連中にとっては嬉しい展開になるんじゃないのかい?」

「ハア?何だそりゃ。意味がわかんないぜ……」

エルンストの話の最後の意味がわからなかったランディは疲れた表情で溜息を吐いたが

「戦術科の連中のようにぶっ倒れればどうせ、あの育ちのいい竜の女を呼ぶんだろう?あの女は見た目は女の中でも相当いい上巨乳だし、更に性格もあたいとは正反対だから、例え他人(リィン)の女とわかっていても、そんな女が自分の傍に来て心配そうな顔や優しそうな顔で手当てしてくれる事は男としては嬉しいんじゃないのかい?現に戦術科の男連中の一部もあの女に治療されている最中、鼻を伸ばしていたじゃないか。何だったら、あの女にセシルが着ているような看護師の服を着てもらって、手当てさせたらどうだい?間違いなくここにいる男連中の大半は喜ぶか、更にやる気を出すと思うよ。」

「言われてみればセレーネ教官って凄い美人の上、スタイルも抜群だし、性格も凄くいい人だものね。そんなセレーネ教官にナース服を着て看病してもらったら、少なくても男連中は嬉しいでしょうね。」

「……なるほど。要するに不埒な理由ですか。」

「いや、僕が男だからと言って、セレーネ教官の手当に喜ぶ男子達と一緒にしないで欲しいんだが……」

エルンストの推測や提案を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた後女子生徒達は冷たい視線で男子生徒達を見つめ、女子生徒達の視線に対して男子生徒達は慌てたり、否定したりし始めている中それぞれジト目で見つめてきたユウナとアルティナの言葉に対してクルトは疲れた表情で反論し

「あー、確かに姫だったら、ナース服も似合うだろうなぁ……しかもスタイルもあのセシルさんに迫る程だから、下手すりゃセシルさんと同格になるかも―――じゃなくって!姫にコスプレをさせて手当させた事をリア充シスコン剣士(リィン)の耳に入れば、俺が後でリア充シスコン剣士(リィン)に酷い目に遭わされるだろうが!?弟貴族(ロイド)と違って、兄貴族(リィン)(エリゼちゃん)やエリゼちゃんと同じ妹系キャラも兼ねている姫の事になると性格が豹変してマジで見境がなくなる事はお前も知っているだろうが!?」

一方ランディはエルンストの意見に一瞬同意しかけたがすぐに我に返って、疲れた表情で指摘した。

「クク………――――という訳で”大蛮族”の長であったこのあたいがあんた達みたいな生まれたばかりの雛鳥の為に直々に鍛えあげてやるんだから、ありがたく思いなよ?」

「ハア……ったく、何で俺の周りの女は”こんな連中”ばっかり集まるんだよ……どうせ集まるんだったら、ルファディエル姐さんやベルフェゴール姐さんみたいな美人かつスタイル抜群で、凶暴な性格じゃないお姉様が集まって欲しいぜ……(まさかとは思うが、これもキー坊の”因果操作”によるものじゃねぇよな……?)」

そして不敵な笑みを浮かべて自分達を見回したエルンストの笑みと言葉に生徒達全員は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせたり、表情を青褪めさせて身体を震わせ、その様子を見ていたランディは疲れた表情で肩を落とした。その後途中まではランディの授業通り順調に進んでいたが、授業の後半になるとエルンストが宣言通り乱入し、その様子を見ていたランディは諦めた表情で肩を落とした後ARCUSⅡを使ってセレーネを呼び出し、セレーネが来る頃にはエルンストによって、散々な目に遭わされた事でほとんどの生徒達が立ち上がる気力すらもなく、グラウンドに倒れていた。なお、訓練が終わっても立ち上がる気力はあった上、隙をついて反撃までして来た”一部の生徒達”―――ユウナ達”特務科”の生徒達全員とミュゼ、そしてティータはエルンストに目をつけられ、以後の授業でもエルンストが乱入した際、他の生徒達より酷い目に遭う事になるとは、その時のユウナ達は想像もしていなかった。



4限目、帝国史――――



「―――これが”獅子戦役”だ。帝国史における最大のターニングポイント……この後が”近代”とも言われている。この内戦がどんな背景で起きて激化したのかを紐解いていこう。」

「……………」

(結構わかりやすいわね……)

「ふむ……(そういう観点もあるのか。)」

帝国史を担当しているリィンの授業をアルティナは聞きながら、ひたすら黒板に書いてある事をノートに書き、リィンの授業のわかりやすさにユウナとクルトはそれぞれ感心したり、納得し

「………ふむふむ。(勉強になるなぁ……)」

「ハッ………」

「ふふっ……(やっぱり素敵、ですね。)」

ティータは黒板に書いてある事をノートに書きながらリィンの授業を聞くことに集中し、アッシュは興味なさげな様子で窓の外を見つめ、ミュゼは興味ありげな様子でリィンを見つめていた。



5限目、魔術――――



「今日は魔術の”威力”について教えるわ。最初の授業でも説明したように魔術は”アーツ”とも共通する点が多いわ。その共通点の一つとして魔術の”段階”もアーツと同じで、下位から最上位まであって、威力もそれぞれの段階に相応した威力よ。まあ、口で説明するより実際に見た方がわかりやすいでしょうから………―――ユウナとアルティナは前に出てちょうだい。」

「は、はい!」

「―――了解しました。」

魔術の使い手でもあるリィン達が教官として派遣された事で、分校のみに特別に組まれた授業―――”魔術”を担当しているレンはグラウンドで軽く説明をした後魔術の実演をする為に生徒達の中で既に魔術を使えるユウナとアルティナを呼び、呼ばれたユウナは緊張した様子で、アルティナは冷静な様子で前に出た。

「まずユウナは適当な場所に攻撃系の下位魔術を放ってね。」

「はい。大地の槍よ―――岩槍撃!!」

レンの指示に頷いたユウナは魔術を発動して誰もいない場所の地面から岩の槍を発生させ、それを見た生徒達は驚いた声をあげたり、興味ありげな様子で術者であるユウナを見つめたりしていた。

「今のが下位魔術よ。実際に見てわかったと思うけど見た目や派手さ、威力とかも下位アーツと大して変わらないわ。次にアルティナ、中位魔術―――それも超広範囲に効果がある攻撃魔術をお願い。ただし、魔術を放つ場所は効果範囲をちゃんと考えて放ってね。」

「了解しました。――――闇に包まれよ――――ティルワンの闇界!!」

ユウナに続くようにアルティナはグラウンドのほぼ全てを漆黒の闇で覆う魔術を発動し、その様子を見ていた生徒達は再び驚きの声をあげたり、興味ありげな様子で術者であるアルティナを見つめたりしていた。

「今のが中位魔術よ。魔術の場合、中位になると超広範囲―――”自身が認識している戦場全体”に効果がある魔術もあるわ。この点がアーツと異なる点だから、注意しておいてね。で、最後に上位魔術はレンが実演してあげるわ。―――――狭間の雷よ、炸裂し、我が仇名す敵を灰燼と化せ――――二つ回廊の轟雷!!」

そして最後にレンが魔術を発動すると雷撃が混じり、周囲が震える程の轟音を立て、更に地揺れを起こす程の爆発が何度も起こり、魔術が終わると生徒達の大半は口をパクパクさせたり、表情を引き攣らせたりしていた。

「今のが上位魔術よ。上位魔術―――特に攻撃系魔術の大半は見た目も派手で、広範囲かつ高威力よ。ただし、上位魔術になってくると”魔術の適性が高い事”――――みんなにわかりやすく説明すれば魔導杖(オーバルスタッフ)並びにその系統の武装に適性のある人達、もしくは戦術オーブメントの連結が最低でも5連結以上ある人達になる為習得できる人達も限られてくるから、覚えておいてね。で、最上位魔術だけど……最上位魔術の使い手は上位魔術の使い手よりも更に絞られる事になる上、どれも威力や範囲も余りにも凄まじいから実演は省かせてもらうわ。第一もし、最上位魔術をこんな所で放っちゃったら、できたばかりのグラウンドに大きな(クレーター)がいくつもできて、後片付けが大変になっちゃうしね♪」

「この状況で最上位魔術を発動した場合、下手をすればいくつかの(クレーター)ができるどころか、”このグラウンド自体が巨大な(クレーター)と化する”可能性もありえると思うのですが。」

「ア、アハハ………」

レンは上位魔術の実演と説明をした後に最上位魔術の事や実演を行わない理由等を説明した後小悪魔な笑みを浮かべ、レンの説明を聞いた生徒達全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中最上位魔術を実際に見た事があるアルティナはジト目で指摘し、アルティナ同様最上位魔術を実際に見た事が何度もあるティータはアルティナの言っている事も強ち間違っていない事に気づいていた為冷や汗をかいて苦笑し、他の生徒達はアルティナの指摘に再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「あの……ちなみにレン教官はその、”最上位魔術”を使う事ができるのですか……?」

「いえ、レンも”最上位魔術”はまだ習得できていないわ。でも、その代わり”大魔術”は習得しているわ。ちなみに”大魔術”というのは―――――」

我に返った後質問をして来た女子生徒―――タチアナの質問に対して苦笑しながら答えたレンは講義を続けた。



6限目、実戦技術――――



「今日のメニューは3人1組のチームでの”バトルロイヤル”だ。ルールは簡単、制限時間以内に”この場にいる全チーム”と戦って生き残ったチームが勝者だ。正面から戦ってもよし、戦っている最中に背後から襲うもよし等”戦い方は自由”だから、お前達の好きにしな。ちなみに最後まで生き残ったチームは纏めてこの俺が相手にしてやるから、光栄に思えよぉ?それと、この俺の目の前で手を抜くようなふざけた事をするバカ共はいないと思うが手を抜いて戦ったりしたバカ共はその時点でこの俺が直々に相手になるから、くれぐれも手を抜くんじゃねぇぞ?」

実戦技術を担当しているランドロスは授業内容を説明した後獰猛な笑みを浮かべて生徒達を見まわし、ランドロスの獰猛な笑みと発言に生徒達全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「せっかく生き残っても、最後はランドロス教官と戦わなきゃいけないなんて、理不尽過ぎよ……しかも、教官と戦う事を見越して、生き残りのチームを少しでも増やす為にお互いに手加減をする事もできないし。」

「いや………ランドロス教官は”戦い方は自由”と言っていたから、チーム同士組むことについては、大丈夫なんじゃないか?」

疲れた表情で肩を落としたユウナにクルトは自身の推測を口にし

「あ……っ!」

「確かにランドロス教官の口ぶりからすると、チーム同士組むことについては反則ではないように聞こえますね。」

クルトの指摘にユウナは声を上げ、アルティナは納得した様子で呟き

「ああ、ランドロス教官も”好きにしな”と言っていたから、恐らく大丈夫だろう。(かの”六銃士”の一人に挑めるなんて、滅多にない機会だ。絶対に生き残り、挑ませてもらう……!)」

アルティナに続くように答えたクルトは真剣な表情でランドロスを見つめた。



HR―――



「―――本日はここまで。けっこう疲れただろう?」

「………かなり。」

「大変なのは最初から覚悟はしていましたが………」

「……あたしたちが慣れて来た所ですかさずハードルを上げてません?特にランディ先輩とか、ランドロス教官とか。」

リィンの労いの言葉に対してアルティナとクルトは静かな表情で答え、ユウナはジト目でリィンとセレーネを見つめ

「ア、アハハ……ランディさんの場合は主に授業に乱入するエルンストさんが原因だと思いますけど、結局ランディさんも止めないでそのまま授業を続行させていますものね……」

「はは………ランディ達に限らず、俺達も結果的にそうなっているかもしれないな。ただ、この分校に課せられたカリキュラムは多岐に渡る。今後も、ハードな毎日が続くことは覚悟した方がいいだろうな。」

ユウナの指摘に対してセレーネと共に苦笑していたリィンは気を取り直して説明を続けた。



「ううっ、座学がこんなに多くなければ………」

「………体力消費が想定以上です。」

「やれやれ……―――ですが明日は『自由行動日』なんですよね?」

ユウナとアルティナの泣き言や文句に若干呆れていたクルトは気を取り直してリィンとセレーネに訊ねた。

「ああ、丁度これから説明しょうと思ってたが……」

「それって、入学案内にも書かれていた言葉よね?」

「いわゆる”休日”のようですが違いがあるのですか?」

「『自由行動日』というのはトールズ士官学院におえる”授業がない自由日”の事です。自由時間を利用して自習や訓練、趣味に当てても構いませんし、申請をすれば外出許可も出ますから帝都あたりに遊びに出ても構いません。」

「へえ……!思った以上に自由なんですね。エレボニアの士官学校なんてお堅そうだから制限付きの休養日かと思ったけど。」

「別にそれでも十分と思いますが……」

セレーネの説明を聞いて目を丸くしているユウナにアルティナは静かな表情で指摘した。



「まあ、それがトールズのトールズたる所以(ゆえん)だな。―――ただし、基本的に自由だが明日だけは1つ条件がある。『部活動』を決めてもらおう。」

「へ………」

「『部活動』……ですか?」

「……設立されたばかりですし部活はないと思っていましたが。」

リィンの説明を聞いたユウナとアルティナは目を丸くし、クルトは戸惑いの表情をした。

「分校長からのお達しでね。”トールズ”を名乗る以上、部活に所属するのは必須だそうだ。2名以上集めたら、どんな部活でも申請を許可して、道具や機材も揃えてくれるらしい。ちなみに参加しない生徒は強制的に”生徒会”を作らせて分校長を含めた教官達の補佐をさせると言ってたな。」

「ア、アハハ……特にレン教官は、もし本当に”生徒会”ができたら、『都合のいい使い走りができるわね』とも言っていましたよ。」

リィンとセレーネの話を聞いたユウナ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「……さすがにそれは抵抗がありますね。」

「ていうか、あの博士といい、ランドロス教官といい、この分校は無茶苦茶な教官が多すぎよ……!」

「実質、強制ですか……明日中に決めろという事ですね。」

我に返ったアルティナとユウナはそれぞれ反論し、クルトは疲れた表情で呟いた。



「ああ、今日の放課後からでもさっそく検討してみるといい。教官陣も相談に乗る。遠慮なく声をかけてくれ。」

「わたくし達に相談し辛かったらアルフィンさんに相談してもいいと思いますわよ。アルフィンさんも、1年半前までは皆さんと同じ”学生”の身でもあったのですから、学生である皆さんの視点で一緒に考えてくれると思いますわ。」

「ちなみにアルフィンとエリゼにも部活の件は前もって説明し、君達の相談に乗る許可も取れているから、二人にも遠慮なく相談してくれて構わない。」

「っ………」

「ふう、了解です……というか、僕からすれば皇女殿下達に相談する方が、教官達に相談するよりも遠慮してしまうのですが……」

「むしろ指定してくれると助かるのですが……」

リィンとセレーネの話に生徒達はそれぞれ困惑や疲れた表情を浮かべていた。



「―――それと最後に週明けの”カリキュラム”だが。」

「……!」

「……そう言えばそれがありましたね。」

「”機甲兵教練”ですか。」

そしてリィンが口にしたある言葉を聞いた生徒達はそれぞれ表情を引き締めた。

「ああ、既にハンガーに練習機も到着している。戦術科生徒と合同で基本操縦を学んでもらうからそのつもりでいてくれ。その後は、週末に実施される『特別カリキュラム』についても発表される見込みだ。」

「……………」

「特別カリキュラム……前から気になってたけど。」

「今、この場で内容を聞くだけ無駄なんでしょうね。」

「申し訳ありませんが教官陣もまだ詳細は知らされていません。」

「まあ、英気を養う意味でも明日は大いに羽を伸ばしてくれ。――――HRは以上だ。アルティナ、号令を頼む。」

「はい。起立――――礼。」

その後HRを終えたリィンとセレーネは教官室へと向かった。



~本校舎1F・教官室~



「さて―――明日は”自由行動日”だが。我々教官陣も、基本的には自由にせよと分校長のお達しだ。ただし、午後の3時からブリーフィングに参加して欲しい。」

「ブリーフィング、ですか?」

「また軍隊っぽい用語が飛び出してきたな。」

「うふふ、ここは”士官学院”なんだから、”士官学院の関係者も一応軍の関係者”にもなるのだから、別におかしな事ではないわよ。」

ミハイル少佐の説明にリィンは不思議そうな表情をし、疲れた表情で呟いたランディにレンは小悪魔な笑みを浮かべて指摘し

「それって、もしかして―――」

「俺達教官陣にも未だ秘匿している、『特別カリキュラム』についてだろう?」

ブリーフィングの内容を悟っていたトワとランドロスはミハイル少佐に視線を向けた。



「ああ、来週末に行われる『特別カリキュラム』についての概要と目的を説明する。」

「……なるほど。」

「勿体ぶるねぇ。どうやら機甲兵訓練以上に大掛かりな話っぽいが。」

「教官陣全員が参加という事は、もしかして全校生徒が参加するカリキュラムなのですか?」

ミハイル少佐の答えを聞いたリィンとランディは疲れた表情で呟き、ある事に気づいたセレーネはミハイル少佐に質問をした。

「ああ、Ⅶ組からⅨ組まで教官陣を含めて例外はない。明日午後3時、本校舎の軍略会議室に集合して欲しい。――――連絡事項は以上だ。」

そしてリィン達教官陣への連絡事項を終えたミハイル少佐は部屋から退出した。



「ったく、さすがは天下の鉄道憲兵隊っつーか。聞いてる限り、ロクでもない話しか思い浮かばないんだが。」

「う、うーん……」

「うふふ、何せこの分校が作られた”理由”を考えるとねぇ?」

「ま、何せ厄介者を纏めて『捨石』にする為に作られたからな。」

「レ、レン教官。それにランドロス教官も。」

ミハイル少佐が出て行った後呟いたランディの推測を聞いたトワは困った表情で答えを濁し、意味ありげな笑みを浮かべたレンとランドロスの言葉にセレーネは冷や汗をかいた。

「……同感です。あの小要塞といい、機甲兵といい、貨物路線の引き込みといい―――この分校の設備はただの『捨石』というには充実しすぎている気がします。」

「うん……そうだね。本校も大改修されたそうだけど、それと同じくらいのお(ミラ)が掛かっていそうっていうか……問題はどこからその予算が出てるかだよね。」

リィンの推測に同意したトワは自身の疑問を口にした。



「んで、それに見合う”何”を第Ⅱに求めてるかってことだな。あー、ヤダヤダ。キナ臭い事はルファディエル姐さんやリア充皇帝共のお陰で十分味わってお腹一杯だってのに、外国にまで来て関わる羽目になるなんて勘弁して欲しいぜ。しかも今回の職場仲間の中にもルファディエル姐さんと互角のキナ臭い事担当もいるし、巻き込まれる前にとっとと戦線を離脱したくなってくるぜ。」

「あら、そう言っている割には、”特務支援課”にいた頃はルファディエルお姉さんのお腹が真っ黒な事に巻き込まれても、ランディお兄さんは最後までついて行ったじゃない。」

ランディの発言を聞いたレンは小悪魔な笑みを浮かべて指摘し

「ルファディエル姐さんの場合はあくまで俺達の”敵”を嵌める為に暗躍していただけで、敵も味方も躊躇いなく利用する所か、自分の掌の上で踊るように仕向けるどこぞの”参謀のお姫様”とは違うっつーの。」

「クク、随分とおっかない”参謀”だな。その”どこぞの参謀のお姫様”とやらの顔を見てみたいぜ。」

「え、えっと………冗談で言っているんですよね?」

「ハア………」

レンの指摘に対して疲れた表情で反論したランディの言葉を聞いたリィンとセレーネ、トワは冷や汗をかいて表情を引き攣らせてレンに視線を向け、不敵な笑みを浮かべて呟いたランドロスの言葉を聞いたセレーネは冷や汗をかいて問いかけ、リィンは疲れた表情で溜息を吐いた。

「え、えっと……その、わたしたちにはお止めはできませんけど……」

一方ランディの言葉を真に受けていたトワは心配そうな表情でランディに視線を向け

「冗談だよ、冗談。いきなり放り出したりしないって。なんだかんだ言って、戦術科の連中もシゴき甲斐がある奴等ばっかりだしな。そんじゃ、お先に。せいぜいガキどもの相談にお互い乗ってやるとしようぜ。」

「俺も先に上がるぜ。ま、俺も戦術科のガキどもに関わらず他のクラスのガキどもの相談にも乗るから、ガキどもの事で何か聞きたい事があったら俺にも相談してくれ。その代わり、俺も相談させてもらうぜ?」

ランディは苦笑しながらトワの心配が無用である事を説明した後席から立ち上がり、ランドロスも続くように席から立ちあがった。

「ああ、了解だ。」

「ふふ、わかりましたわ。」

「お疲れ様でしたー。」

「うふふ、お疲れ様♪」

そしてランディとランドロスは先に部屋から退室した。



「……二人とも、話してみると気さくだし、生徒の面倒見もいいみたいだね。」

「ええ、ランディと長い事一緒に仕事をしていた俺もランディは教官としては打って付けの人材だと思います。」

「初対面で、様々な理由で支援課に所属する事になったわたくし達にも、早く支援課に馴染めるように、気さくな態度で面倒を見てくれましたものね。」

「うふふ、それにランドロスおじさんは何といっても、”とある大国”の軍の師団の中でも”最強”と謳われていた”某師団”をボロ負けさせた”とある自治州の警備隊”を育て上げた人物達の関係者だから、ランドロスおじさんも教官として打って付けの人材でしょうね♪」

二人が退出した後呟いたトワの意見にリィンとセレーネが頷いた後に答えたレンの答えを聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「レン教官……さすがにその発言はエレボニア帝国の士官学院の教官として、危ない発言だと思いますわよ……?」

「ハハ………――――とりあえず今日は、生徒達の様子を見て帰ります。いきなり部活をやれっていうのもハードルが高いでしょうからね。」

「……うん、そうだね。繰り返しになるけど……お互い、力を合わせて頑張ろうね!」

その後教官室から退室したリィンは校舎の見回りをしながら生徒達の相談に乗り、そして下校時間になると宿舎に戻る為に校門へと向かった。


 
 

 
後書き
今回の話で気づいたと思いますが、原作と違い、強化されるのは特務科メンバーではなく分校生徒達全員です!え?何でⅦ組以外の生徒達も強化するかだって?だって、エルンスト乱入による地獄の特訓や実戦の系統の授業ではギュランドロスとレンがいる上、まだ本格的に参加はしていませんが、いずれ生徒達の特訓にリアンヌも指導する予定も入っているんですよ?なので、分校生徒達もギュランドロス達の指導によって強制的(汗)に強化される事になりますから下手したら原作より超強化されたクロスベル警備隊のように最終的に分校生徒達だけで本校生徒達全員相手(本校側に機甲兵あり、分校側には機甲兵なし)やハーキュリーズすらも蹂躙できる強さの化物軍団になるかもしれません(ぇ)しかもその中には既に3rd篇や閃Ⅱ篇で強化された事でレベルは軽く100は超えているティータやアルティナもいる訳ですから……ひょっとしたらティータもオーバルギアなしでアガットを超える強さになるかもしれませんし、アルティナは単独で鉄血の子供達(アイアンブリード)チームと互角かそれ以上の強さになるかもしれません(オイッ!)それとランディのルファディエルはレンと違うというランディの発言を聞いた人達の中にはこう思った人もいるかもしれません……ぶっちゃけ腹黒さで言えばルファディエルの方がレンより上の可能性が高い!……とww………それでは皆さん、よいお年を。 

 

第7話

 
前書き
あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!  

 
~第Ⅱ分校~



(そろそろ下校時間か………一通りの生徒とも話したし、そろそろ宿舎に戻るか。)

校門まで来たリィンが宿舎に向かおうと校門から出ようとしたその時

「あっれぇえ~~~っ!シュバルツァー教官じゃないッスかァ。」

わざとらしく声を上げてリィンを呼び止める男子の声が聞こえ、声に気づいたリィンが振り向くとアッシュがリィンに近づいてきた。

「君は―――(たしか戦術科の……)」

「お勤めゴクローさまーッス。――――アッシュ・カーバイド。Ⅷ組・戦術科のの生徒ッス。なんか、生徒達にマメに声をかけてましたけど、さすがに熱心ッスねぇ~?人気絶頂の若き英雄―――”灰色の騎士”サマは。」

リィンに近づいたアッシュは名乗った後不敵な笑みを浮かべてリィンに対する皮肉を交えた指摘をした。

「………あくまで就任したばかりの新米教官だからな。ランドロス教官とランディの報告で聞いたよ。なかなかの身体能力らしいな?授業や教練で教える事も多いだろうし、改めてよろしくだ、アッシュ。」

「ハッ……そりゃどうも。ところで、前々からアンタに聞きたかったことがあるんスけど。―――デカい灰色のオモチャ乗り回して、”異世界の皇族の犬”として働くっつーのはそんなに気持ちいいんスかね?」

「……これまでマーシルン皇家の”要請(オーダー)”に応じてヴァリマールを使っての活動をした事があるのは4、5回程度だったから、そんなに頻繁にヴァリマールを乗り回してはいないはずなんだがな………――――それと、アッシュも知っての通り俺はメンフィル帝国の”貴族”で、元”メンフィル帝国軍人”だ。”軍人”や”貴族”が”祖国の皇族”の命令に従うのは当然の事だ。メンフィル帝国軍からは既に退役した身だが……俺がメンフィル帝国の貴族である事は変わらない。”皇族の犬”はさすがに言い過ぎだと思うが貴族が仕え、支えるべき存在である祖国の皇族の為に働く事はそんなにおかしな事か?」

アッシュの毒舌や皮肉を交えた問いかけに対して静かな表情で答えたリィンは困った表情でアッシュに問い返した。

「へえ?いや~、さすが元祖国の皇族に対して罪悪感を持っていた両親の為だけに、元祖国の兵士を容赦なく殺しまくった上大貴族の当主達やその関係者達まで殺して、元祖国と今の祖国の間で起こった”戦争”どころか、元祖国の内戦まで短期間で終わらせて今の祖国どころか元祖国のお偉い連中にまで感謝された英雄サマの言うだけはあって説得力もあるッスねぇ~。まあ、実際そのお陰でその英雄サマは今の祖国からは”褒美”として、将来大貴族の当主になれる事にしてもらった上、1年半前の戦争で今の祖国が元の祖国から奪った”帝国の至宝”とか呼ばれて元祖国では大人気だった元祖国の皇女サマまで与えられた事によってその皇女サマを英雄サマのハーレムに加える事ができて、いつでも自分の好きな時にその皇女サマともヤレるッスもんねぇ~。しかもその皇女サマも、戦争や内戦の件で英雄サマに感謝していて、英雄サマにヤラレる事も本望のような態度を取っているッスもんねぇ~?」

「……っ……」

(この方は一体……?)

(どうやらリィンに対して、何か思う所があるように感じるけど……)

そしてアッシュの更なる毒舌や皮肉の指摘に対してリィンが息を呑んで気まずそうな表情をし、その様子を見守っていたメサイアは戸惑いの表情をし、アイドスは静かな表情でアッシュの事を推測した。



「ふふっ、失礼します。」

するとその時ミュゼが二人に声をかけて近づいてきた。

「あ……(確か彼女は主計科――――それもアルフィンの話にあったユーディット皇妃殿下の……)」

ミュゼの登場に一瞬呆けたリィンはすぐに我に返るとミュゼの事を知っていたアルフィンから教えられたミュゼの情報を思い出し

「チッ……朝に続いてかよ。」

一方アッシュは舌打ちをしてつまらなそうな表情をした。

「Ⅷ組のアッシュさんにリィン教官でしたか。ふふっ、楽しそうなお話で盛り上がっているみたいですね?」

「ハッ……そんじゃあ俺はここで。―――週明けの機甲兵教練、楽しみにさせてもらうぜ?」

ミュゼに問いかけられたアッシュは鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべてリィンを見つめた後下校し始めた。

(機甲兵教練……?)

「あら、ひょっとしてお邪魔たっだとか……?」

アッシュの言葉が気になり、下校していくアッシュの背中を見つめながら考え込んでいるリィンにミュゼには問いかけた。



「いや、そんな事はないさ。えっと、君は主計科の――――」

「Ⅸ組・主計科所属、ミュゼ・イーグレットと申します。すでに授業で何度かお世話になっていますが……ご存知でいらっしゃいますか?」

ミュゼは名乗った後微笑みを浮かべてリィンに訊ねた。

「ああ、ちゃんと覚えているよ。トワ教官やレン教官からも話を聞いている。なかなか―――いや、かなり成績優秀らしいな?何せあのレン教官が君の事を『育て上げれば、レンと同格になれる器がある』と言っていたくらいだからな。」

「ふふっ、私程度の成績で優秀だなんて恥ずかしいです。それにレン教官と同格になれるだなんて、恐れ多いですわ。多分レン教官のお世辞の意味も含めた過剰評価だと思いますわよ。実は私も、リィン教官の噂を色々と伺っていまして………お近づきになれたら嬉しいなってずっと思ってたんです。」

「そうか……そういう噂は話半分くらいに受け取って欲しいんだが。」

(ベルフェゴールやリザイラがいて彼女の反応を見たら、また面白がるでしょうね……)

(ア、アハハ………というか少なくても教官と生徒が結ばれるのは冗談抜きで色々と不味い気がするのですが……)

頬を僅かに赤らめたミュゼの言葉に対してリィンは苦笑しながら答え、その様子を見守っていたアイドスとメサイアは苦笑していた。

「……?ああ、”灰色の騎士”とかそういう噂ではなくって。”前の”Ⅶ組の皆さんの事や従妹さん、新皇女殿下方面の噂です♪」

「え……!?」

そしてミュゼのある言葉に驚いたリィンがミュゼを見つめたその時

「クスクス……ごきげんよう、リィン教官。若輩者ではありますがよろしくお願いしますね?」

ミュゼは意味ありげな笑みを浮かべて会釈をした後下校を始めた。

(………戦術科のアッシュ・カーバイドに主計科のミュゼ・イーグレットか。Ⅶ組や他の生徒達も含めてみんな一筋縄じゃ行かなさそうだな。)

ミュゼが下校して行く様子を見守りながらリィンはアッシュやミュゼを含めた生徒達を思い浮かべて苦笑した後下校を始めた。



その後宿舎に戻ったリィンは夕食を取って次の授業に向けての準備をした後宿舎を一通り回り、風呂に入浴した後明日に備えて休む為に自室に戻った。



~宿舎・リィンの自室~



リィンが部屋に入ると着信音が聞こえてきた。

「この着信音は……?(聞いた事のない音だな。)」

着信音に気づいたリィンはARCUSⅡを取り出して通信をしようとしたが、普段の画面とは異なる為首を傾げた。

「?(この色は……通信着信じゃないみたいだ。ということは、導力ネット経由でファイルでも送られてきたのか?)」

初めて見る画面の色に首を傾げながら操作をすると新たな画面へと変わった。

「……ん?なんだ、この画面は―――ROUND・OF・SEVEN(ラウンド・オブ・セブン)……”Ⅶ組の輪”……?」

「―――もしもし、リィン。ちゃんと繋がってるかな?」

新たな画面にリィンが首を傾げているとARCUSⅡから聞き覚えのある青年の声が聞こえてきた。

「そ、その声は……」

「あはは、よかった。ちゃんと繋がったみたいだ。ちょっと待ってて。今、画像を出すから。」

声にリィンが驚いていると画面には旧Ⅶ組の生徒の一人―――エリオット・クレイグが写った。



「エリオット―――!」

「リィン、久しぶり。先月通信で話して以来かな?顔を見るのは半年ぶりくらいだけど。」

「ああ、そのくらいか……―――じゃなくて!どうしたんだ、この映像は!?」

「ふふっ、タネを明かすとオリヴァルト殿下の計らいでね。リィンもARCUSⅡを殿下から贈られたでしょ?それに特別なアプリ?っていうのが入ってて、その機能を使ってるんだって。」

「そんな機能が……俺の顔もそっちに映ってるのか?」

エリオットの話を聞いた驚いたリィンはエリオットに確認した。

「うん、バッチリだよ。ひょっとしてまた背が伸びた?あ、そう言えば誕生日も近かったんじゃなかったっけ?」

「ああ、来月だが……ははっ……………」

「ふふっ…………」

その後リィンは久しぶりに話すかつての仲間との会話を懐かしみながら過ごした後、明日に備えて休み始めた。



4月16日、自由行動日――――



翌日、ブリーフィングの時間までリィンは町や分校を見回りながら生徒達の相談に乗ったり、町の人々に挨拶をしたりと、色々な事をして過ごしている内にブリーフィングの時間も近くなった為、分校の軍略会議室に向かい、ブリーフィングの時間が来るまで待ち始めているとミハイル、トワ、レン、ランディ、ランドロス、セレーネに加え、リアンヌ分校長も集まり―――定刻通り、午後3時にブリーフィングが始まるのだった。



PM3:10―――



~第Ⅱ分校・軍略会議室~



「………………」

「えっと………?」

「もう時間は過ぎてますけど始めないんスか?」

定刻が過ぎてもミハイル少佐はブリーフィングを始めず黙り込み、その様子にトワは戸惑い、ランディはリアンヌ分校長に視線を向けて訊ねた。

「うふふ、”始めたくても始められない”のじゃないかしら?―――特に”特別カリキュラム”関連で。」

「え……それはどういう事なのでしょうか?」

意味ありげな笑みを浮かべてランディの疑問に対して答えたレンの推測を聞いたセレーネは不思議そうな表情でレンに訊ね

「レン達教官陣も、”特別カリキュラム”の事について何も知らされていないのよ?普段の授業の為にレン達がそれぞれ準備をするように、”特別カリキュラム”の為にも当然”準備”が必要のはずよ。なのに、その”準備”すらもできないようにレン達にも”特別カリキュラム”について知らされていない事を考えると、その”理由”について大体予想できるでしょう?」

「何らかの理由があって俺達にも黙っているか、分校長自身も”特別カリキュラム”について知らされていないかのどちらかという事か。」

「それは………」

「!……………(さすがは1年半前の内戦で自身が描いた結果へと導き、通商会議でも宰相閣下と共和国の大統領相手に互角以上に渡り合った”殲滅天使”か……それに”紅き暴君”も、豪快な性格とは裏腹に鋭い部分もあるな………)」

レンの推測に続くように不敵な笑みを浮かべて呟いたランドロスの推測を聞いたリィンは真剣な表情をし、レンとランドロスの推測が当たっている事に驚いたミハイル少佐は真剣な表情でレンとランドロスを見つめた。



「―――フフ、さすがですね。お二人の推測通り、”特別カリキュラム”について私ですら詳細も知りません。――――そちらの主任教官殿とこれからくる連絡役以外、になりますが。」

「………お待たせして申し訳ありません。」

「連絡役……ですか?」

「という事は鉄道憲兵隊の方か――――」

リアンヌ分校長に視線を向けられたミハイル少佐は静かな表情で謝罪し、二人の会話を聞いて新たに疑問が出て来たセレーネは不思議そうな表情で首を傾げている中、察しがついていたトワが推測を答えかけたその時

「悪ぃ、待たせちまったか~?」

扉の外から青年の声が聞こえてきた。

「「え………」」

「この声――――」

「………まさか………!」

聞き覚えのある声にトワやセレーネは呆け、ランディは表情を引き締め、リィンは驚きの表情で声を上げて扉へと視線を向けると扉が開かれ、レクター少佐と1年半前の内戦で共に戦った旧Ⅶ組の一人にして”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の一人でもあるミリアム・オライオンが現れた。



「レクター少佐……!そ、それに――――」

「ニシシ………」

「ミリアムさん……!?」

「久しぶり―、リィン、セレーネ!」

自分達の登場にセレーネと共に驚いているリィンにミリアムは無邪気な笑顔を浮かべてリィンにタックルをした。

「うぐっ、いきなりタックルは…………って、はは………」

「ふふ………」

「えへへ……いやー、無理言ってレクターについてきてよかったよ!また来週から任務でさー。いつ会えるかわからなかったから。久しぶり、リィン、セレーネ。ていうかすっごく背が伸びたねー!?セレーネはおっぱいがまた、大きくなったんじゃないの?」

リィンにタックルをしたミリアムは無邪気な笑顔を浮かべてリィンを見つめた後セレーネに近づいてセレーネの豊満な胸をもんだ。

「キャッ……!?もう……1年半前の時点でわたくしは既に”成竜”なのですから、あれから身体的な成長がある訳ありませんわよ。わたくしやツーヤお姉様、それにミントさんは”成竜”になれば、後は老いる時が来るまでずっと”成竜”になった時の姿のままなのですから……」

「はは……俺は5リジュくらい伸びたよ。ミリアムは変わらないな。元気そうでなにより――――」

ミリアムに胸を揉まれたセレーネは声を上げた後両手で胸を隠して頬を赤らめて答え、その様子を苦笑しながら見守っていたリィンは懐かしそうな表情でミリアムに声をかけたがすぐに再会を喜んでいる場ではない事に気づいた。

「へえ……って事はそいつがお前達が1年半前の内戦で共に戦ったって言う士官学院の仲間の一人か。」

「あはは………ミリアムちゃん、久しぶりだね!」

リィン達の様子を見守っていたランディは興味ありげな様子でミリアムを見つめ、トワは懐かしそうな表情でミリアムに声をかけた。



「やれやれ。久しぶりだ、シュバルツァー―――いや、ロード=リィンと呼ぶべきか?ここで会うのは本来想定外だが。ったく、1年半前の内戦終結以来あれ程俺達どころか”エレボニアに関わる事自体”も徹底的に避けていた癖に、こんな形でエレボニアに再び深く関わるなんて、一体何を考えているんだ?」

一方レクター少佐は若干呆れた後苦笑しながらリィンに問いかけた。

「……何の事かサッパリですね。それと俺の事は以前通りの呼び方で構いません。――――ですが、お久しぶりです。ユーゲント皇帝陛下にアルフィンと一緒に招待された今年の年始のパーティー以来ですね。」

「ああ、そうなるな。ハーシェル女史も久しぶりだ。さぞ憲兵少佐さん相手に窮屈な思いをしてるんじゃねえか?」

「あはは……そ、それほどでも。」

「当てこすりは止めてもらおうか、アランドール少佐。」

レクター少佐に冗談交じりの言葉をかけられたトワが苦笑している中ミハイル少佐はレクター少佐を睨んで指摘した。

「アルフヘイム嬢も―――おっと、アルフヘイム子爵閣下と呼ぶべきでしたか?」

「ふふっ、わたくしの事もお兄様同様以前の呼び方や口調で構いませんわ。」

「そりゃどうも。―――レン皇女殿下もご機嫌麗しゅう。正直貴女がこの分校に来たのはシュバルツァー以上に想定外でした。シュバルツァー達の件も含めて貴国―――いや、”英雄王”は一体何を考えているのやら。」

「クスクス、レン達の派遣にパパが関わっている事は否定しないけど………誰かを驚かせるのはレンの”専売特許”でもあるから、レンがこの分校に来ることもそんなにおかしな事ではないわよ♪」

レクター少佐の指摘に対してレンは小悪魔な笑みを浮かべて答え、レンの答えにその場にいる多くの者達は冷や汗をかいた。



「やれやれ……”お茶会”の主催者の貴女が言うと冗談になっていませんね。それと――――アンタともお久しぶりか、オルランド。」

一方レンの答えに苦笑したレクター少佐はランディに視線を向けて声をかけた。

「ああ、1年半前のクロスベル帝国建国以来になるな、”かかし(スケアクロウ)”。」

「そうなるな。………それにしても、クロスベルにとっての念願の”自由”を手に入れる所かエレボニアを超える大国へと成りあがってその件でエレボニアとクロスベルは今も微妙な関係なのに、わざわざ自分からその微妙な関係になっているエレボニアに入り込むなんて、さすがは一課ですら手が出せなかった”競売会(オークション)”にも入り込んだ支援課の一員と言うべきか?」

「ま、否定はしねぇよ。だが、それに関してはお互い様なんじゃねぇのか?アンタはクロスベルがまだ自治州だった頃、アンタの親玉と一緒にマフィアやスパイ、テロリストの温床になっていたクロスベルに乗り込んでその”競売会(オークション)”の関係者と密会をしていたそうだからな。」

「言われてみればそうだから、反論できねぇな。――――それと”仮面の紳士”殿、だったか。何でそんなバレバレな格好をして、顔だけ仮面で隠しているのか訳がわからねぇが……まさかとは思うが本気でそれで、正体を隠せると思っていないよな?」

ランディの指摘に対して苦笑しながら同意したレクター少佐は真剣な表情でランドロスを見つめ、やがて呆れた表情でランドロスに問いかけた。

「何が言いたいのか良くわからないが、俺は”仮面の紳士”ランドロス・サーキュリー!以前俺が惚れて力を貸した男の親友が教師を探している話を聞いて、再び山から降りてきて、”捨石”扱いされているガキ共がこの先全員生き残れるように、しごいてやっているとても懐が広~い教師だぜ?」

そしてランドロスの答えにその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「あ~……リア充皇帝達の話だと、どこかで士官学院の教官をしている”某元自治州の元警備隊司令”の型破り過ぎる行動にまともに付き合う必要はないし、バカな行動は止めようとする方が時間の無駄だとの事だぜ。ちなみにリア充皇帝達の話だとその男の二つ名の中には”バカ王”って二つ名もあって、リア充皇帝もそうだが仲間達の一部もその男の事を割と”バカ”呼ばわりしていたとの事だ。」

「なるほどな……狙ってやっているのか、無意識でやっているのかはわからねぇが、やっている事が規格外かつそのやっている事に対しての考えや行動の意味すらも全くわからねぇからある意味情報局(おれたち)にとって”天敵”になる一番性質の悪いタイプだな………………で………………」

疲れた表情を浮かべたランディの説明を聞いたレクター少佐は納得した様子で溜息を吐いた後真剣な表情でリアンヌ分校長を見つめた。



「フフ、どうしましたか?”鉄血”の懐刀殿。私の事は気にせず、幾らでも久闊を叙して構いません。」

「………いえ、お初にお目にかかります。エレボニア帝国軍情報局・特務少佐、レクター・アランドールであります。―――お見知りおきのほどを。」

リアンヌ分校長の言葉に対して静かな表情で答えたレクター少佐は恭しく一礼をした。

「噂の”子供達”に(まみ)えるのは1年半前かつての部下を見逃して貰う代わりに、マーシルン教官が要求した”代償”によって”煌魔城”での戦いで共闘したそちらの”白兎”を除けば、貴方が最初になりますね。フフ、私―――いえ、”私達”がここに赴任した”流れ”を考えるとその”流れ”には間接的に貴方も関わっていたでしょうから、それを考えると初めてにはならないかもしれませんね?」

「………っ………」

「うふふ、さすがは”聖女”ね。」

「ハハ、過大なお言葉、汗顔の至りであります。」

リアンヌ分校長の問いかけを聞いたミハイル少佐は息を呑み、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、レクター少佐は口元に笑みを浮かべてはいたが目は笑っていない状態で謙遜した答えを返した。



(あ、相変わらずこわいな~、”鋼の聖女”は………というか前々から聞こうと思っていたけど、何で”結社”の”蛇の使徒”だった”鋼の聖女”がいきなりメンフィルに寝返って、”英雄王”と”聖皇妃”の専属護衛になったの?)

(ア、アハハ……その件には色々と複雑な事情がありまして、説明する機会ができた時に、説明致しますわ。)

(やりあってるレクター少佐もさすがの面の皮の厚さだが………)

(ううっ………心臓に悪いなぁ。)

(うふふ、多分”特別カリキュラム”の事でブリーフィングをする為にこういう事が頻繁にあると思うから、今の内に慣れておいた方がいいわよ♪)

(ほう?クク、同じ”鉄血”の”子供”の”乙女”と比べると随分と肝の据わった男だぜ。)

(あー……そう言えば以前の”合同演習”の件でアンタとルイーネ姐さんが”氷の乙女(アイスメイデン)”をビビらせて追い返した話があったな。まあ、あの面の皮が厚い男だったら、アンタやリア充皇帝もそうだが、ルファディエル姐さんやルイーネ姐さんともまともにやりあえるだろうな……)

一方レクター少佐とリアンヌ分校長のやり取りを見守っていたミリアムは冷や汗をかいてセレーネに小声で訊ね、訊ねられたセレーネは苦笑しながら答えを誤魔化し、リィンは苦笑しながらレクター少佐とリアンヌ分校長を見比べ、居心地の悪そうな様子を見せているトワにレンはからかいの表情で指摘し、興味ありげな様子でレクター少佐を見つめて呟いたランドロスの小声の言葉を聞いたランディは苦笑していた。

「―――まあいいでしょう。そろそろ本題に入って下さい。奇しくもここに、鉄道憲兵隊と情報局の少佐殿達がいる――――さて―――どのような興味深い話をしてくれるのですか?」

そしてリアンヌ分校長の言葉を合図に”特別カリキュラム”についてのブリーフィングが始まった――――




 
 

 
後書き
今回の話を読んでお気づきと思いますがアルフィンが閃Ⅲ篇開始の時点で既にリィンの妻の状態なので、当然ミュゼの正体とかもリィン達に教えていますのでリィンもミュゼの正体を知っています(汗)そして何気に今回のリアンヌの発言で灰の軌跡の閃Ⅱ篇のネタバレが(冷や汗)それとランディのレクターならヴァイス達とまともに渡り合えるという発言を聞いてこう思った人もいるかもしれません……ヴァイス達はレクターごときじゃはりあえる相手じゃない!クレアの二の舞いになるのがオチで、ルファ姉やルイーネに挑むのはもっと無謀だ!……と。まともにはりあえるとしたらルーファスやオズボーンでしょうね……とは言ってもルーファスは閃Ⅲ開始時点で既にこの世から退場させられていますし、オズボーンも通商会議でヴァイス達に思いっきり嵌められましたから、事実上ヴァイス達とまともに張り合う事すら厳しいでしょうねww 

 

第8話



~第Ⅱ分校・軍略会議室~



「………………」

「こ、これって…………」

「………なるほど………」

「ハッ………予想の斜め上かよ。―――いや斜め下か。」

「クク、中々”捨て駒”の使い方ってものをわかっているじゃねぇか?」

「あら、奇遇ね。レンも同感よ。―――まあ、レンならもっと効率のいい使い方をするけどね♪」

「レン教官が言うと冗談になりませんわよ……―――ではなくて、どうしてお二人ともそんな平気でいられるのですか……?」

「…………―――立案はどちらの組織ですか?ミハイル主任、アランドール少佐?」

リィン達教官陣やミリアムが”特別カリキュラム”の内容が書かれてある計画書を読んで様々な反応を見せている中目を伏せて黙り込んでいたリアンヌ分校長は目を見開いてレクター少佐とミハイル少佐に問いかけた。



「………情報局ですがTMPも協力しています。」

「まあ、はっきり言ってしまえばギリアス・オズボーン宰相閣下の意向を受けてのものですね。」

「で、ですがこの計画書は無茶苦茶すぎます!『帝国西側で、不穏な動きアリ。不審な抗争を行う複数の猟兵団、そして”結社・身喰らう蛇”の残党―――新設されしトールズ第Ⅱ分校をもって各地で対処に当たるべし』…………!入学したばかりの生徒達を場合によっては”実戦”に投入する―――こんなの完全に”生贄の(スケープゴート)”じゃないですか!?」

ミハイル少佐とレクター少佐の答えを聞いたトワは机を叩いて立ち上がって悲痛そうな表情で計画書のある部分を読んだ後反論した。

「……先輩………」

「まあ、そうだな。」

「内戦では”旧Ⅶ組”のアリサさん達を含めたトールズ士官学院―――”本校”の生徒達も”実戦”に投入しましたけど………」

「ま、あの時は”和解条約”の件もあって”実戦”に参加するのは”従軍義務”が発生した人達を除けば、生徒達の自由意志だったから、あの時と比べると状況は全然違うわよ。」

「第一ガキ共の訓練はまだ始めたばかりだ。―――正直、大半の今のガキ共の腕前じゃあ猟兵どころか人形兵器の撃退も厳しいだろうな。」

トワの反論を聞いたリィンが心配そうな表情でトワを見つめている中、ランディは頷き、複雑そうな表情をしたセレーネの言葉に続くようにレンとランドロスはそれぞれ静かな表情で答えた。



「――――だが、これも”第Ⅱ分校”の設立が認められた条件の一つだ。知っての通り、エレボニア帝国は現在、1年半前に建国された新興の大国”クロスベル帝国”と深刻寸前なレベルでの緊張関係にある。国境付近での小競り合いは絶えず、つい先日もノルド高原で大規模な軍勢が睨みあったばかりだ。」

「ノルドで……!?」

「そ、そうだったんですか………」

「ガイウスさんや”ノルドの民”の人達はご無事でしょうか……?」

ミハイル少佐の説明を聞いたリィンやトワは驚き、セレーネは心配そうな表情をし

「………………」

「……そもそも、その緊張関係が何で起きてんのかって話だけどな。エレボニアは”碧の大樹”の件から1ヵ月後にリベールが提唱した『西ゼムリア同盟』に調印したお陰でメンフィルから1年半前のメンフィルとの戦争で奪われた領地の一部を返還してもらった事もそうだが、クロスベルからもメンフィルから贈与されたエレボニアの領地の一部を返還してもらう代わりに、クロスベルの独立並びに建国を正式に認めたはずなんだけどな。」

「うふふ、それも調印した人物はこの計画書を考えた”鉄血宰相”よねぇ?」

ランドロスは何も語らず黙り込み、ランディとレンは意味ありげな笑みを浮かべてレクター少佐を見つめた。



「やれやれ、それを言われると弱いんだよな………ま、ぶっちゃけ現状、情報局もTMPも大忙しでね。ノーザンブリアに帝国の東側全域で諜報戦を繰り広げてる最中ってわけだ。」

「んー、そうなんだよね。ボクもこの後、エレボニア領のクロイツェン州でそっちの対処をするつもりだし。」

「そうだったのか……」

「って、喋っていいのかよ!?」

「まあ、ミリアムさんは元々こういう方ですので……」

「―――結果として起きているのが帝国西側での警戒レベルの低下だ。そこに”付け込まれる”可能性を我々は危惧している。」

ミハイル少佐の説明を聞いたリィン達はそれぞれ血相を変えた。

「あ………」

「……それが先程の計画書に繋がるわけですか。」

我に返ったトワは呆けた声を出し、リィンは真剣な表情で呟いた。



「1年半前の帝国の内戦と、ノーザンブリアでの北方戦役―――クロスベル動乱や、リベールの異変でも暗躍していたが同じく1年半前のメンフィル・クロスベル連合によるカルバード侵攻の混乱に紛れたメンフィルの精鋭部隊や暗殺部隊によって”盟主”を含めた大半の最高幹部クラスが暗殺された事で、事実上崩壊したと思われていた謎の結社”身喰らう蛇”の残党。時にそれと連動し、時に対立もする、戦争のプロたる10近い猟兵団……情報局の分析じゃ、既に帝国本土でそれぞれが動き始めてる可能性が高い。―――必要なんだよ。それなりの”抑止力ってのが。」

「……無論、我々とて戦闘が起きることが確実な地に生徒達を送り込むわけではない。あくまで体裁は”演習”――――万が一のため機甲兵などの最新装備なども用意した訳だ。更には―――第Ⅱ分校専用となる演習用の装甲列車も完成した。」

「ほう?」

「演習用の装甲列車……!?」

「そこまですんのかよ!?」

「さすがに太っ腹すぎない!?」

「そ、そうですわよね……?学生の為だけに列車―――それも普通の列車ではなく”装甲列車”まで用意したのですから。」

レクター少佐の後に説明したミハイル少佐の説明を聞いたランドロスは興味ありげな表情をし、リィンやランディ、ミリアムは驚きの声を上げ、セレーネは戸惑いの表情で呟いた。

「ま、そのあたりは別の意向と予算によるモンでな。更には1年半前の内戦と”七日戦役”で目覚ましい活躍をしたメンフィルの英雄―――”灰色の騎士”や”聖竜の姫君”に”殲滅天使”、クロスベルきっての戦術家や英雄、”紅い翼”を率いた才媛までもいるし、おまけに”灰色の騎士”には1年半前の内戦で単騎で貴族連合軍の部隊を殲滅した事がある”ブレイサーオブブレイサー”の”六異将”のような正真正銘”化物”レベルの異種族達もいる。生徒達が生き延びられるよう、せいぜい頑張ってくれってことだ。」

「っ………」

「つまりは最初からわたくし達の力もアテにされているのですか……」

「ロクでもねぇな……」

「うふふ、それに今挙げた目的以外にもあからさまな”狙い”も見え隠れしているわね。」

「クク、だがこの俺達をその”狙い”でどうにかできると本気で考えていたら、その考えた奴は随分とおめでたい頭をしているなぁ?」

「………………」

(まさかリィン様どころか私達までアテにしているなんて……)

(それ程までに今のエレボニアには戦力が足りないのか……もしくは、これを機会にエレボニアの一部の勢力にとってリィンを含めた目障りな私達もその”敵対勢力”との戦いによる戦力の減少も狙っているかもしれないわね。)

(あっははは!どうやらクロスベルにいた頃と比べるとより一層”戦争”が楽しめそうだね!ま、戦争を楽しむついでにガキ共は守ってやるから安心しな!)

教官陣がそれぞれの反応をしている中ブリーフィングを見守っていたメサイアは驚き、アイドスは静かな表情で推測し、エルンストは凶悪な笑みを浮かべていた。



「―――話はわかりました。見えざる脅威に備えた実戦をも想定する地方演習―――『常在戦場』『世の礎たれ』というドライケルスの二つの理念の体現とも言えます。」

「あ………」

「……それは………」

「ハハ、”生き証人”のアンタが言うと真実味があるねぇ。」

「うふふ、なんせその二つの理念を考えた人とも実際に接した事があるものねぇ?」

リアンヌ分校長の言葉を聞いたトワは呆け、リィンは複雑そうな表情をし、苦笑しているランディに続くようにレンは小悪魔な笑みを浮かべた。

「第Ⅱ分校、しかと了承しました。――――それでは話して頂きましょう、最初の演習地の場所と日程を。」

「………承知しました。」

リアンヌ分校長の言葉に頷いたミハイル少佐はリモコンを操作した。すると部屋に備え付けてあった大型のディスプレイが起動し、エレボニアの地図が映った。

「実習地は”南部サザ―ラント州、第二都アルトリザス”近辺となります。日程は4月21日、金曜の夜―――専用列車”デアフリンガー号”にて現地に向けて出発してもらいます――――」

そしてブリーフィングが終わり、教官陣やリアンヌ分校長がそれぞれの準備の為に行動を始めている中リィンとトワ、セレーネとミリアムは部屋を出た後廊下で立ち止まった。



~廊下~



「ふう………」

「……決まった事とはいえ、さすがに憂鬱だね。」

「ええ、難易度で言えば正直、1年半前の内戦よりも厳しいと思いますし。」

「んー、まさかここまで大掛かりな話だったなんて。せっかくついてきたのに合わせる顔が無いっていうか……」

リィン達がそれぞれ重苦しい空気を纏っている中ミリアムは溜息を吐いた後複雑そうな表情をした。

「あはは、ミリアムちゃんが気に病む必要はないってば。」

「ああ―――設立された時点で、この路線は決まってたんだろう。エレボニアの西側が手薄っていうのは何となく気づいていたしな。」

「そうですわね……エレボニアの東側と接しているメンフィル領で学んでいたわたくし達は直接関係していないといえ、メンフィル・クロイツェン統括領主関係者という事で、エレボニアに接しているメンフィル領近辺の情報も頂きましたものね。」

ミリアムの言葉を聞いたトワは苦笑しながら、リィンとセレーネはそれぞれ複雑そうな表情で指摘した。



「んー、でも情報局の人間としてさすがに申し訳ないっていうか。前もって知ってたらサラかフィーあたりに情報を流してリィン達にも伝えられたんだけど。」

「いや、それは不味いだろう。」

「守秘義務っていうのはどんな仕事にもあるからねぇ。」

「ええ……ましてや情報を取り扱っている情報局は特に守秘義務が厳しいでしょうしね。」

ミリアムが何気なく呟いた言葉に冷や汗をかいたリィンは呆れた表情で、トワとセレーネは苦笑しながら指摘した。するとその時ミハイル少佐とレクター少佐が部屋から出て来た。

「なんだ、まだいたのか。ああ、ハーシェル教官、移動計画は週明けに頼む。アルフヘイム教官も週明けに医療物資の確認の完了と演習で必要と思われる医療物資の推測の報告を頼む。」

「………了解しました。」

「……わかりましたわ。」

ミハイル少佐の指示にトワとセレーネはそれぞれ頷いた。

「レクター、もう帰るの?」

「いや、情報局のデータを渡しちまう必要があってな。しばらくかかるから適当にブラついててくれ。―――そうだシュバルツァー。できればお守を頼めないか?」

「ええ……それほ喜んで。」

「ぶーぶー、お守ってなにさー。えへへ、でもいっか。リィンが案内してくれるなら。」

レクター少佐のリィンへの頼みを聞いていたミリアムは頬を膨らませたが無邪気な笑顔を浮かべた。

「まったく緊張感のない……くれぐれも面倒を起こすなよ?」

「そんじゃ、また後でなー。」

「ふう………わたしもちょっと蔵書室で調べ物をしてくるね。演習のことを考えると調べておきたい資料があるから。」

「あ、わたくしも調べておきたい資料があるので蔵書室で調べてきますわ。その後医務室で確認したい事もありますので、アルフィンさん達に帰りが遅くなると伝えておいてください。」

「わかった、伝えておく。でも二人とも、無理はしないでください。」

「かいちょーは昔から頑張りすぎだから少し肩の力を抜いた方がいいと思うよー。それにセレーネも、マキアスみたいに真面目過ぎだから、かいちょーと一緒に少し肩の力を抜いた方がいいと思うよー。」

「あはは……うん、気を付けるね。」

「ふふ、助言ありがとうございます。―――それでは失礼しますわ。」

そして教官達はそれぞれの用事の為にその場から去っていき、その場はリィンとミリアムだけになった。



「あはは、でもよかったじゃん。かいちょーと一緒の職場で。相変わらず色々と頼まれて苦労してそうだけど。」

「はは、オレも色々助けられてるしその分返せればいいと思ってるけどな。―――それより、どうする?分校や街を一通り案内するか?」

「うんっ、よろしく!それじゃあレッツ・ゴー!」

その後リィンはミリアムに分校や街を案内しながら引き続き生徒達に相談に乗って、時間を過ごしている最中にベーカリーカフェでパンケーキを食べているアルティナを見かけ、声をかけた。



~リーヴス・ベーカリーカフェ”ルセット”~



「ここにいたのか、アルティナ。」

「……ええ、糖分摂取による体力回復を図っているところです。今日は少々疲れましたので。」

「そう言えば、ちゃんと部活が決まってよかったよ。レオノーラたちとの水泳部……楽しくやっていけるといいな。」

アルティナの話を聞き、アルティナの部活決めに付き合った時の事を思い出したリィンはアルティナを微笑ましそうに見つめた。

「……まあ、学院側の認可が下りてからの話かと。」

「はは……何はともあれ決まってよかったよ。」

「へー、部活をやるんだ?うんうん、ボクも応援するね!」

「………できる限り続けてはみるつもりです。そう言えば、そちらのブリーフィングは――――………?……今の声は。」

リィンと会話をしていたアルティナは自分達の会話にリィンの声ではない人物の声があった事に気づき、困惑の表情を浮かべた。

「やっほー、アーちゃん♪久しぶりー!元気にしてたー?」

するとその時リィンの背中に隠れていたミリアムが現れて無邪気な笑顔を浮かべてアルティナを見つめた。



「!!………どうして彼女がここに?」

ミリアムの登場に驚いたアルティナはジト目でリィンに訊ね

「はは、仕事の関係で来てくれてな。ちょうど街を案内しているところだったんだ。」

訊ねられたリィンは苦笑しながら答えた。

「ニシシ、アーちゃん。本当に久しぶりだねー!去年の3月に、リィン達と一緒にボク達の最後の自由行動日にトリスタを訪れた以来だっけ?クーちゃんは元気してるー?」

「………ええ、久しぶりですね。”アーちゃん”はいい加減止めて欲しいのですが。」

「えー、だってアルティナってなんか言いにくいんだモン。あ、なんだったらボクらもミーちゃんとかガーちゃんって―――」

「呼びません。そもそもクラウ=ソラスの呼び名も認めた覚えは……」

アルティナの反論に対して不満げな様子で答えたミリアムは新たな提案を思いついてアルティナに提案したが、アルティナは即座に断りの答えを口にした後呆れた表情でミリアムを見つめた。

「あはは、いいじゃん。覚えやすいしー。」

一方ミリアムはアルティナの反論に対してあまり効果はなく、無邪気な笑顔を浮かべ、ミリアムの態度にアルティナはやりにくそうな様子を見せながらミリアムと会話をしていた。



(はは……嬉しそうだな、ミリアム。)

アルティナとミリアムの様子を微笑ましく見守っていたリィンだったが着信音に気づき、二人から少し離れてARCUSⅡを取り出して通信を開始した。

「はい、こちらシュバルツァー………」

「そんなことはわかっている。いちいち名乗らなくていい。」

「えっと、もしかしてシュミット博士ですか?」

「ブリーフィングが終わって時間を持て余しているのだろう。今から準備を整えて”アインヘル小要塞”に来るがいい。」

「それってもしかして昼間に言っていた……?すみませんが、今は知人を案内している用事があって―――」

「ああ、情報局の娘が来ていたか。むしろ好都合というものだ。手が空き次第、こちらに来い。―――以上だ。」

通信相手――――シュミット博士は用件を伝えた後通信を切った。



「……き、切られた………相変わらず一方的というか。」

「リィン、どうかしたのー?」

「今の通信は……」

「その、よくわからないが……」

そしてリィンは二人にシュミット博士からの通信内容を伝えた。

「へー、そんな場所が……なんだか面白そうだねー!それじゃ、さっそく行ってみる?」

「いいのかミリアム?せっかく街の案内を……」

「あはは、充分アーちゃんにも会えたし。シュミット爺ちゃんにも久しぶりに会いたいしね!」

「ふう……まあ何だか大事な用みたいだしな。じゃあ準備ができたら――――」

ミリアムの意志を確認したリィンがミリアムと共にアインヘル小要塞に向かおうとしたその時

「―――私もお付き合いします。」

アルティナが意外な申し出をした。



「へっ………?」

「リィン教官もご存知のように私の入学の目的の一つはリィン教官のサポートをする事をリウイ陛下より命じられています。なので、シュバルツァー家の使用人であり、リウイ陛下からも指示を頂いている私も同行するのが筋かと。それに特に人数の指定もないようですし。」

「あははっ、いいんじゃない?一緒に行こ行こ!アー・ミー・クー・ガーのさいきょーカルテット結成だね♪」

「勝手に妙なものに所属させないでください。」

無邪気な笑顔を浮かべて答えたミリアムの言葉にアルティナはジト目で反論し

「ふう……わかった。小要塞に行く準備ができたらまた声をかける。パンケーキも残ってるみたいだし少しゆっくりしててくれ。」

「了解しました。では、待機に移行します。」

二人の会話を見守っていたリィンは冷や汗をかいて溜息を吐いた後気を取り直してアルティナに指示をした。その後準備を終えたリィンとミリアムは間食をちょうど終えたアルティナに声をかけ、3人で小要塞へと向かったのだった――――


 
 

 
後書き
閃Ⅲ篇は2章であるクロスベル篇が終わるまで更新は早いかもしれません。クロスベル編では個人的に出して結社のあるキャラと戦わせたいエウシュリーキャラや、原作と違い、終盤スポット参戦としてリィン達と共闘する零・碧陣営のキャラやエウシュリーキャラを考えていますので。(先に言っておきますが、共闘予定の零・碧陣営のキャラはロイドを含めた特務支援課の初期の4人ではありません。)ちなみにあるキャラと戦わせたいエウシュリーキャラは戦女神シリーズのキャラです(ぇ)このヒントだけで既にわかった人もいるかもしれませんが(汗)そしてそのキャラと戦えば、原作よりも早期の退場がほぼ確定である事も(冷や汗) 

 

第9話

~アインヘル小要塞~



「お疲れ様ですっ、リィン教官!」

リィン達がアインヘル小要塞に到着するとシュミット博士の傍にいたティータがリィン達に迎えの言葉をかけた。

「ああ、お疲れだ。すみません、ちょっと遅れてしまったみたいで。」

「やっほー、シュミット爺ちゃん!久しぶりだねー、元気だった?」

「相変わらずやかましい小娘だ……爺ちゃん呼ばわりは止めるがいい。………黒兎も一緒か。」

ミリアムに声をかけられたシュミット博士は呆れた表情で指摘した後アルティナに視線を向けた。

「はい。……何か問題が?」

「いや、テストに支障はない。……むしろレベルをもう1段階上げてもよかったか。」

アルティナの問いかけに対して答えたシュミット博士は不穏な言葉を口にした。



「早速ですが呼び出した理由を教えてもらえませんか?彼女(ティータ)もいる以上、何となく察してはいますが。」

「あ、あはは……多分想像通りだと思います。」

「わかっているながら話が早い。―――付いて来るがいい。」

そしてリィン達は小要塞の中へと入って行った。



「ほえ~、中はこうなってるんだ。」

「………入学時のテスト以来ですね。」

ミリアムが興味ありげな表情で小要塞内を見回している中アルティナは入学式の時の事を思い出していた。

「へえ、そんな事をやってたんだ?」

アルティナの言葉を聞いたミリアムは目を丸くしてアルティナを見つめた。

「―――要するに、仄めかしていた”続き”をやれという事ですか?」

一方シュミット博士の目的を既に悟っていたリィンはシュミット博士に問いかけた。



「その通り。半月前にお前達が挑んだのは小手調べの”LV0”……今回は実戦向きに構成した”LV1”になっている。前回と同程度と侮っていたら最悪、命にすら関わるだろう。」

「……”魔煌兵”すら使われたあの時よりも……?」

「へえ……なんか面白そう!」

「ま、待ってください!さすがにそこまでのものにいきなり挑戦しろというのは……!」

シュミット博士の説明を聞いて顔色を変えたアルティは僅かに驚きの表情をし、ミリアムは興味ありげな表情をし、リィンは信じられない表情で反論したが

「参加の拒否は自由だ。だが、この実戦テストに”灰色の騎士”が参加すること………それが私が分校へとの就任を引き受けた条件の一つでもある。反故にするというなら―――私が分校に留まる理由は無くなるな。」

「なっ………」

シュミット博士の答えを聞くと絶句した。

「あはは、超ワガママだねー。」

「こ、困りますよ博士~!機甲兵教練だって控えてますし………今、博士がいなくなったら……!」

シュミット博士の答えを聞いたミリアムが呑気な様子でいる中ティータは不安げな様子で声を上げた。



「フン、私の知った事ではない。―――”特別カリキュラム”については既にこちらの耳にも入っている。今の内に、ARCUSⅡの新機能に慣れておくのも無意味ではあるまい?」

「…………それは…………」

「………?」

「えっと………?」

シュミット博士の指摘を聞いて複雑そうな表情で黙り込んでいるリィンの様子を不思議に思ったアルティナとティータは首を傾げた。

「うーん、確かに現地で何があるかわからないし………慣れておいて損はないかもねー。大丈夫だよ、リィンにはボクたちがついてるし!ね、アーちゃん!」

「………よくわかりませんが同行しない理由はありません。そもそも教官のサポートは私の役目ですから。」

「ミリアム、アルティナ………わかりました。テストに参加させていただきます。二人とも、どうか力を貸してくれ。」

ミリアムとアルティナの意志を知ったリィンは少しの間考え込んだ後やがて決意の表情になって参加を申し出た。

「もっちろん!」

「了解しました。」

「フン、無駄話が過ぎたな。さっそくテストを開始するぞ。―――奥にエレベーターが用意してある。それを使って開始地点に向かうがいい。」

「ARCUSⅡの調整が必要なら今の内に言ってくださいね……!」

その後リィン達はエレベーターを使って、開始地点に到着した。



~LV1~



「ほえ~、これが要塞の中なんだ。」

「………”昇って”きましたね。」

開始地点に到着したミリアムが興味ありげな表情で周囲を見回している中アルティナはリィンに確認し

「ああ、前回は地下から開始していたはずだ。」

アルティナの言葉に頷いたリィンは周囲の地形を確認した。

「……どうやら内部構造が完全に変わっているみたいだな。自在に構成を変えられる仕組みとは聞いていたが、ここまでとは………」

「へえ、シュミット爺ちゃんもなかなかやるね!フフン、腕が鳴ってきたかも!」

リィンがアインヘル小要塞の設備に改めて驚いている中ミリアムは口元に笑みを浮かべた。

「―――前回のテストと同じく、最奥地点を目指してもらう。なお騎神の使用並びに異種族達の協力は引き続き禁止とする。せいぜい気を抜かずに進むことだ。」

「今度もわたしが精一杯ナビゲートします!皆さん、どうか頑張ってくださいっ!」

「ああ………!ミリアム、アルティナ、準備を!」

要塞内に聞こえてきたティータの声に頷いたリィンは二人に指示を出した。

「ガーちゃん!」

「クラウ=ソラス。」

「「―――――」」

リィンの指示に対して二人はそれぞれが操る傀儡を召喚し、リィンは普段使っている太刀を鞘から抜いた。

「アガートラム、久しぶりだな。クラウ=ソラスもよろしく頼む。行くぞ――――アインヘル小要塞・LV1の攻略を開始する!」

「OK、一気に行くよー!」

「可及的速やかに完了しましょう。」

そしてリィンの号令を合図にリィン達は小要塞の攻略を開始した。その後攻略を開始したリィン達は徘徊する魔獣達を撃破しながら進み続けていた。



「ふう、手強いな……大丈夫か、二人とも?」

「ええ、特に問題はありません。」

「うん、ボクもヘーキ!リィンもアーちゃんもいるしむしろちょー楽しいっていうか。」

「………楽しい………」

ミリアムの言葉の意味がわからないアルティナは困惑の表情でミリアムを見つめた。

「ニシシ、あるイミシュミット爺ちゃんのおかげかな?」

「はは、おかげっていうのはさすがにどうかと思うが………まあ、二人がいてくれて助かっているのは確かだ。正直、戦闘でもあそこまで息ピッタリだとは思わなかったよ。」

「えへへ、これでも姉妹みたいなものだしね~。」

「……まあ、仕様的には同期しやすいのは当然かと。”形式番号”も一つ違いですし。」

アルティナが呟いた言葉を聞いたリィンはかつての出来事を思い出した。



形式番号Oz74、”黒兎”アルティナ―――リィン様と”英雄王”との司法取引によってメンフィル帝国の捕虜の身であった私の身柄は貴方達―――シュバルツァー家に引き取られる事になり、今後は貴方達”シュバルツァー家”の”使用人”として貴方達をサポートさせて頂く事になりましたので、これからよろしくお願いします、リィン様―――いえ、マスター。



え、えっと……それよりもアルティナさんはミリアムちゃんと同じファミリーネームである”オライオン”を名乗っていましたが……



まさかアンタも”人造人間(ホムンクルス)”なのかしら?



はい。私の形式番号はOz74です



あ、ボクの方が1コ上だから、ボクは君のお姉さんだね~♪



「……ミリアム、アルティナ。君達との付き合いも長いし、ある程度はわかっているつもりだ。」

「へ………」

「リィン教官……?」

リィンの突然の言葉にミリアムは呆け、アルティナは不思議そうな表情をした。

「二人の出身が”黒の工房”という正体不明な所であるのも知っている。そこで過ごした時の記憶は消され、ミリアムは情報局に、アルティナはルーファス・アルバレアに引き渡されたことも……”戦術殻”という不可思議な武装と同期する能力を持っている事も。」

「あはは………ボク達が”厳密には人間じゃない”って事も1年半前”黒の工房”が所有している工房の一つを潰して情報を手に入れたメンフィルから、ボク達の情報も知らされていたもんね。」

「………ああ。」

苦笑しているミリアムの言葉にリィンは重々しい様子を纏って頷いた。



「1年半前私がメンフィル帝国の捕虜であった時ペテレーネ神官長が調合した自白剤によって、わたし達が”人造人間(ホムンクルス)”――――”人工的に生み出された存在”であるという情報も自白させられ、リィン教官の耳にも届いていましたね。」

「といっても遺伝子は人間と殆ど変わらないみたいなんだけど。むー、そのわりには背がゼンゼン伸びないのは納得できないけどさー。……っていうか何気にアーちゃんって、背が伸びているよね?それに胸も少し大きくなっているよね?」

「……不埒な事は止めてください。胸のサイズについてはわたしにとっての秘匿情報になるため答えられませんが、身長については1年半前と比べると3リジュ伸びている事を認めます。わたしが成長した理由は以前わたしの事を知ったリィン教官が”匠王”ウィルフレド・ディオンの娘であるセティさん達―――ディオン三姉妹に相談し、その時に”零の至宝”とは別の方法で造られた”人造人間(ホムンクルス)”であるわたしの成長等についても相談して頂いたお陰でディオン三姉妹は父親である”匠王”にも相談し、その結果”匠王”達は協力して”人造人間(ホムンクルス)”であるわたしでも普通の人間と同様人間の成人へと成長できる”成長促進剤”を完成させ、その”成長促進剤”を一定の間隔で投与し続けているお陰で、今でも成長し続けています。ちなみにわたしはその”成長促進剤”の完成の過程で”成長剤促進”の被験者になったという”対価”の代わりに今後も成人するまで”成長促進剤”を無料で頂ける事になっていますので、”成長促進剤”の消費に困る事はありません。」

学生服を着ていても僅かに膨らんでいる事がわかる自分の胸を揉もうとしたミリアムの行動をすぐに察知したアルティナはミリアムから距離を取ってジト目で答えた後、”人造人間(ホムンクルス)”である自分が成長した理由を僅かに得意げな表情になって説明した。

「な、何ソレー!そんなの反則じゃないか~!というか薬物の人体実験について、リィン達は反対とかしなかったの~?」

「勿論お互いに話し合ったし、最初は反対もしたさ。だけど、新薬の作成者にはアルティナも言っていたようにセティ達に加えてウィルフレド卿も関わっていた上、セティ達は万が一の状況に対しても備えていたから、最終的にアルティナの意志を確認した上で”成長促進剤”―――つまり新薬の人体実験の許可を出したんだ。」

「へ~、”グノーシス”の解毒薬を開発したディオン三姉妹どころか”匠王”まで関わっているなんて、滅茶苦茶豪華なメンツだね~。ねーねー、アーちゃん。ボクにもその”成長促進剤”って言う薬を頂戴♪」

リィンの説明を聞いたミリアムは興味ありげな表情をした後アルティナに要求し

「お断りします。わたしが持っている”成長促進剤”は正当な対価です………”成長促進剤”が欲しいのでしたら、クロスベル帝国にいるディオン三姉妹から直接購入してください。」

「ぶーぶー、アーちゃんのケチ~!」

アルティナはジト目でミリアムの要求を断り、要求を断られたミリアムは頬を膨らませて不満を口にした。



「ハハ……(”黒の工房”―――”結社”を裏切って内戦の最中にオズボーン宰相に取り込まれた組織。メンフィル帝国軍が”七日戦役”の際に制圧した工房は氷山の一角で、他の工房等の場所については今でも手掛かりを掴んでいないとの事だったな………記憶を消された彼女達は勿論、レクター少佐ですら何も知らないらしいしな。レン教官の話では工房の居場所がわかったのも、レン教官がアルティナの記憶を読み取った事によって、”黒の工房”が消したと思っていた記憶がアルティナの脳に残っていたお陰との事だからな……一体どういう……何の目的でミリアムやアルティナを?)」

「おーい、リィンってば!」

リィンが考え込んでいるとミリアムが声をかけた。

「もー、何をぼーっとしてんのさー?」

「……体調が優れませんか?なら、いったん小休止を―――」

「はは、大丈夫だ。気にしないでくれ。…………ミリアムはミリアムだし、アルティナがアルティナであるのはそもそも何も変わらないんだしな。」

「???」

「あはは、リィンってばなに当たり前のこと言ってるのさー。えへへ……うん、でもありがとね!」

リィンの言葉の意味を理解できていないアルティナが不思議そうな表情で首を傾げている一方リィンの言葉の意味を理解していたミリアムは嬉しそうな表情を浮かべた。



「はは……それこそ礼を言われる事じゃないだろう。」

「………テスト評価に影響します。問題なければ探索を続行しましょう。」

ミリアムと共に笑い合っている様子のリィンを見て”何か”を感じ、その”何か”に首を傾げたアルティナはリィンに声をかけ

「ああ、行こう。」

「改めてレッツ・ゴーだね!」

(アイドス様、アルティナさんはもしかして……)

(多分、ミリアムに”嫉妬”してリィンに自分にも目を向けてもらう為に無意識で声をかけたのでしょうね……まあ、アルティナ自身はミリアムに対して感じた”感情”には気づいていない様子だけど………)

アルティナの様子に気づいていないリィンはミリアムと共にアルティナの言葉に頷いている一方、アルティナの様子に気づき、アルティナが感じた”何か”を悟っていたメサイアと念話をしていたアイドスは微笑ましそうにアルティナを見つめていた。その後リィン達は探索を続けていると終点に到着した。



~最奥~



「行き止まり……?」

「どうやらここが最終地点みたいだな。」

「あはは、とうちゃーく!んー、面白かったけどシュミット爺ちゃんにしてはちょっと拍子抜けかな?」

「!!いや―――下がれ二人とも!」

終点に到着したミリアムが若干不満げな感想を口にしたその時、何かの気配を感じ取ったリィンは太刀を構えて二人に警告し、警告を聞いた二人がそれぞれ傀儡を召喚すると同時にリィン達の目の前に大型の魔獣―――”ズオウ”が現れた!

「わわっ、何アレ……!」

「やっぱりか……!」

「は、博士っ!?その魔獣はLV1用じゃないですよ~!?」

「フン、お望みどおり”面白く”してやったまでだ。仔兎どもがいるなら何とか対処できるだろう。

魔獣の登場にミリアムが驚き、リィンが表情を引き締めている中混乱している様子のティータの声と、ティータに対していつもの調子で答えたシュミット博士の声が聞こえてきた。



「くっ、勝手なことを……!」

「この前の”魔煌兵”に迫りそうですが………(セティさん達から送って頂いた追加武装を試すには絶好の相手ですね……)」

「トーゼン正面突破しかないでしょ!ねっ、リィン!」

「……ああ、そうだな!全力で行くぞ、ミリアム、アルティナ!」

そしてリィンの号令を合図にリィン達はズオウとの戦闘を開始した!



「いっくよー!ホワイトデコレーション!!」

「―――――」

戦闘開始時ミリアムはオーダーを発動し、ミリアムがオーダーを発動した直後に敵は巨体を利用した巨腕でリィン達を攻撃したが、リィン達はミリアムのオーダーによって巨体である敵による攻撃のダメージも最小限に抑えられた。

「二の型・改―――裏紅蓮剣!斬!!」

敵の攻撃が終わるとリィンは反撃に電光石火の速さで炎を宿した太刀を叩き込んだ後続けて炎の斬撃波を放って敵にダメージを与え

「―――クラウ=ソラス、シンクロ開始。――――追加武装、自動浮遊射撃機”クルージーン”発動。」

リィンが攻撃している間にアルティナはクラウ=ソラスと一体化し、更に自身の周囲に4つの自動浮遊射撃機”クルージーン”を召喚した。

「――――」

そして敵はリィン達にアーツを放つ為に霊力を溜め始めたが

「”クルージーン”、照射。」

「!?」

アルティナの指示によって”クルージーン”が一斉に特殊レーザーを放ち、レーザーに命中した敵は霊力の溜め込みを中断させられと共にアーツを一定時間使えなくなる状態異常”封魔”状態に陥った。



「あはは、ボクも負けないぞ~!ガーちゃん、ハンマー!!」

アルティナの攻撃を見て無邪気にはしゃいだミリアムはアガートラムをハンマーに変形させ、地面を叩きつけて広範囲の敵を攻撃するクラフト―――スレッジインパクトで追撃し

「!?」

「崩したよ!」

「そこだっ!」

ミリアムのクラフトによって敵の態勢が崩れるとミリアムと戦術リンクを結んでいたリィンが更なる追撃を叩き込んだ。

「”ベガルタ”起動―――斬!!」

そこにアルティナが両腕と一体化しているクラウ=ソラスの腕を導力エネルギーの刃と化し、敵に突撃して導力エネルギーの刃と化した両腕で攻撃した後そのまま突進の勢いを利用して敵から距離を取った。

「――――――」

アルティナの攻撃が終わると敵は反撃に毒のブレス―――ポイズンブレスをアルティナに放ったが

「”クルージーン”、シールド展開。」

アルティナは”クルージーン”を操って”クルージーン”によるエネルギー障壁を展開するクラフト――――イージスバリアで襲い掛かる毒のブレスを防いだ。

「ぶっ放せ~、ガーちゃん!」

「――――」

そこにミリアムの指示によってアガートラムが極太のレーザーを放つクラフト―――ヴァリアントカノンを放って敵の背後を攻撃し、背後からの奇襲攻撃を受けた態勢を崩した。

「崩したよ!」

「ああ!蒼き龍よ――――吼えろ!!」

「ブリューナク、照射。」

アガートラムの攻撃が終わるとミリアムと戦術リンクを結んでいたリィンが追撃代わりに太刀に宿した蒼き炎の竜を解き放つクラフト―――蒼龍炎波で、アルティナは正面から両肩の砲口から集束したエネルギーを解き放って追撃をした。



「――――――!」

立て続けにダメージを受けた敵は咆哮を上げて”高揚”状態になり

「―――――」

「!秘技―――裏疾風!斬!!」

「わわっ!?ガーちゃん、お願い!」

「―――――」

すぐに振り向いてリィンとアルティナに攻撃し、敵の攻撃に即座に反応したリィンは敵の懐に飛び込む電光石火の攻撃で回避すると共に反撃を叩き込み、ミリアムは慌ててアガートラムに絶対障壁―――アルティウムバリアを展開させて敵の攻撃を防いだ。

「――――」

二人に攻撃した敵は続けて背後にいるアルティナとリィンを纏めて攻撃する為に振り向くと同時に口から毒のブレスを放とうとしたが

「炸裂せよ、烈輝の陣―――イオ=ルーン!!」

「――――!?」

詠唱を終えたアルティナの魔術によって発生した魔力の爆発が顔面で発生した事により、ダメージを受けると共に怯み

「集いし炎よ、貫け―――轟焔爆炎閃!!」

「―――――!!??」

そこにアルティナに続くように魔術の詠唱を終えたリィンが集束した炎を閃光として解き放って再び敵の顔面を攻撃して敵に悲鳴を上げさせると共に怯ませた。

「ガーちゃん、分身!―――チェーンジッ!!ト―――スッ!」

するとその時ミリアムはアガートラムを分身させ、分身したアガートラムは巨大なハンマーと球体に変身した後球体は天井へと向かい

「やあああああああっ!テラ――――ブレイカー――――――ッ!!」

ミリアムはハンマーを持って跳躍し、球体をハンマーを振るって地面へと叩き落した。すると地面に叩き付けられた球体は戦場全体に凄まじい衝撃と大爆発を起こした!

「―――――――!!??」

ミリアムが放ったSクラフト―――テラブレイカーによる大ダメージに耐えきれなくなった敵は悲鳴を上げながら消滅した!



「……目標の沈黙を確認。シンクロを解除します。」

敵の消滅を確認したアルティナはクラウ=ソラスとの一体化状態を解除して元の姿に戻り

「イエーイ、完全勝利っ!!―――というかアーちゃんたち凄いじゃん!?」

ミリアムは無邪気に喜んだ後驚きの表情でリィンとアルティナに視線を向けた。

「ああ、1年半前使っていた戦技(クラフト)とは違うようだな?それに1年半前と比べると見た事のない武装も使っていたようだし。」

ミリアムの言葉に頷いたリィンは自分にとって見覚えがない戦技(クラフト)を使っていた事が気になっていた為ミリアム同様アルティナに視線を向けた。

「……リィン教官もご存知のようにリィン教官に引き取られてからのクラウ=ソラスの整備はセティさん達にしてもらっていますが、その際にセティさん達からクラウ=ソラスの強化や追加武装の提案がされ、その提案を受けた結果としてちょうど入学式の日に宿舎にセティさん達からクラウ=ソラスの追加武装が届き、それを搭載しました。……追加武装はクラウ=ソラスとシンクロしてからの物が主だった為、実戦レベルにするまで今日までかかってしまいましたが。」

「い、いつの間にそんな事を………」

「いーなー、いーなー!ボクもその内クロスベルにいるディオン三姉妹にガーちゃんを強くしてもらうように頼もうかな~。」

アルティナの説明を聞いたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、ミリアムはアルティナを羨ましがった。

「はは………まあ、何とはともあれよく頑張ったな。ミリアムも、アガートラムもクラウ=ソラスもありがとうな。」

「ニシシ、どーいたしまして♪」

「「――――」」

リィンの感謝の言葉に対してミリアム達はそれぞれ答えた。



「はあ、よかったぁ……皆さん大丈夫みたいですね?」

「フン、まあまあのデータがとれたか。―――これで本日のテストを終了とする。エントランスで待っているからとっとと戻ってくるがいい。」

「は、博士っ?―――あのあの、帰りもお気をつけて!」

「ふう……まったくあの人は。」

「………少々疲れました。指示通り戻るとしましょう。」

「ああ、そうだな。」

「あはは、やっぱりお姉ちゃんがおんぶしたげよっか?」

「結構です。」

その後リィン達はエントランスに戻ってシュミット博士とティータと少しの間話をした後レクター少佐からミリアムと合流したいという通信が来た為、待ち合わせ場所である駅前に向かった―――――




 
 

 
後書き


今回の話を読んでお気づきと思いますがアルティナとクラウ=ソラスはウィルやセティ達によって、強化されていますwwしかもアルティナに関しては身体的成長までウィル達にww………え?さすがのウィル達でも人造人間(ホムンクルス)は作っていないから、無理じゃねだって?ハッハッハッ、『工匠に不可能はない!』……それが”工匠”なのだから可能なのです(理由になっていない)まあ、そもそもウィルにはたくさんの種族が協力していますから人造人間(ホムンクルス)についての知識を持っている種族も当然いるでしょうから例え作っていなくても成長促進剤の作成くらい余裕かとww
 

 

第10話

~リーヴス~



「よっ、お疲れさん。」

リィン達が駅前に到着すると既に駅前にいたレクター少佐がリィン達に声をかけて近づいてきた。

「やっほーレクター!おまたせー。」

「お疲れ様です、少佐。」

「そっちこそお守ゴクロー。」

「フン………」

リィン達の様子を見ていたアッシュは鼻を鳴らした後その場から去り

(………?)

「お久しぶりですね、かかし(スケアクロウ)。」

アッシュに気づいたリィンが不思議そうな表情をしている中、アルティナはレクター少佐に挨拶をした。

「なんだ、黒兎。お前さんも一緒だったか。――――そう言えばお前さんは”七日戦役”の件がなかったら、元々情報局(ウチ)に来る予定だったそうだが………どうだ、シュバルツァーの実家は?ユミル襲撃の件や”ルシア夫人誘拐未遂”の件で、さぞいじめられて、情報局(ウチ)に来たくなったんじゃねぇのか~?」

「少佐………父さん達はそんな器の小さい人達ではありませんよ。」

「リィン教官の言う通りですね。テオ様達も1年半前の件をリィン教官やエリゼ様同様、わたしの事をすぐに許した上とても大切にして頂いています。少なくても”七日戦役”と内戦の件で激務になっていると思われる”情報局”に所属するよりは、よほど良い労働環境かと。」

からかいの意味も込めたレクター少佐の問いかけに対してリィンは呆れた表情で反論し、リィンの意見に頷いたアルティナは静かな表情で答えた後ジト目になってレクター少佐を見つめた。



「やれやれ、それを言われると反論できねぇな………それにしても皇女殿下の件といい、シュバルツァー男爵夫妻はつくづく懐が深い貴族だな……まあ、黒兎の場合は息子の新たなハーレムの一員と見ているから、大切にしているかもしれないな♪」

「少佐は俺を何だと思っているんですか……?」

アルティナの指摘に対して苦笑したレクター少佐はからかいの表情で答え、レクター少佐の答えを聞いたリィンは疲れた表情で反論したが

「……まあ、わたし自身もリィン教官の側室もしくは愛人としてリィン教官に引き取られた可能性は未だ否定し切れていないので、その推測については否定しません。」

「あはは、もし本当にそうなったらアルティナがボクの妹だから、リィンはボクの義理の弟になるね~♪あれ?でも年齢はボクの方が下だから、兄になるのかな??」

「ちょっ、アルティナ!?そんな目的で君を引き取っていないと何度も言っただろう!?それとミリアムも、これ以上この場がややこしくなるような事を言わないでくれ!」

ジト目で答えたアルティナの答えを聞くと驚き、更にミリアムの推測を聞くと疲れた表情で指摘した。



「クックックッ………それじゃあそろそろ列車も出る頃だし、名残惜しいが俺達はそろそろ退散させてもらうぜ。」

リィン達の様子を面白そうに見ていたレクター少佐は気を取り直して自分とミリアムがリーヴスから去る事を伝えた。

「えー、もう?うーん、仕方ないか。もうちょっと遊びたかったけど。―――それじゃあまたねっ、二人とも!アーちゃん、ボクの代わりにしっかりリィンを見といてよね!リィンもアーちゃんの事ヨロシク!」

「何故貴女の代わりをしなければならないのかが理解不能ですが、リィン教官をサポートするのがわたしの任務ですから貴女に言われずとも教官はわたしが見ています。」

「はは………色々大変かもしれないがミリアムも頑張ってくれ。」

「ニシシッ、了解!」

「そんじゃーな。」

そしてリィンとアルティナはレクター少佐とミリアムが駅に入り、二人が乗った列車が去っていく様子を見守っていた。



「……行ってしまったか。ハハ、なんだか一気に静かになったな。」

「………………」

「アルティナ?」

自分の言葉に何も返さず黙り込んでいるアルティナが気になったリィンは不思議そうな表情でアルティナに視線を向けた。

「………わたしと彼女は、本当に”同じ”なのでしょうか?形式番号はわたしが最新……少なくとも基本的なスペックで劣る事はないと自負しています。ですが、どうしてあんな………………」

「アルティナ………ははミリアムはミリアム。アルティナはアルティナだ。君にも、いつかきっと見つかる。アルティナが、アルティナらしくあれる道が。」

(ま、”また”ですか、リィン様……)

(”そういう事”を今でも無意識でしているから、まだ増える可能性がある事をエリゼや私達は考えているものね………現にエリゼ達もアルティナもいずれ”自分達のようになる”と思っているもの。)

自分とミリアムを比べて複雑そうな表情で考え込んでいるアルティナの様子に若干驚いたリィンはアルティナの頭を優しく叩いた後優し気な微笑みを浮かべて答え、その様子を見守っていたメサイアは疲れた表情をし、アイドスは苦笑していた。

「わたし、らしく……?………難題続きです………本当に………」

一方リィンの言葉に対して呆けたアルティナは少しの間考え込んだ後疲れた表情で答えた。



~宿舎・リィンの自室~



その日の夜、リィンは宿舎の自室でいつものように今後の授業や演習に備えての準備をしていた。

「……ふう、こんな所か。明日の機甲兵教練と特別演習の為の準備………根を詰めても逆効果だし、このあたりにしておくか。」

準備を一区切りしたリィンはふと今日一日にあった出来事を思い返した。

「……ふう、なんて一日だ。支援課にいた頃より濃いっていうか。しかし、まさかロジーヌやムンクもこの街に来ていたなんてな。そういえば――――」

リィンはふと、今日再会する事ができたトールズ士官学院の卒業生の一人にしてラジオ局に務め、1年半前の内戦にも”カレイジャス”に乗り込みリィン達に協力した元トールズ士官学院の学生であるムンクのある言葉を思い出してラジオに近づいた。

「………ムンクが言ってたな。ビックリする番組が始まるって。そろそろ時間みたいだし、せっかくだから聞いてみるか。」

リィンがラジオの電源を付けると何かの音楽が流れ始めた。

「おっと……ちょうど始まるところかな?」

そしてラジオから離れたリィンがベッドに座ると番組が始まった。



「リスナーの皆さん、こんばんは。トリスタ放送が、4月16日、午後9時をお伝えします。1年半ぶりでしょうか?トーク番組”アーベントタイム(夕べの瞬間)”、本日から再開させて頂きます。」

「―――――!!?」

ラジオの番組の名を知ったリィンは信じられない表情をした。

「初めての方もいるでしょうから改めて自己紹介しちゃいますね。本番組の進行を務めさせていただく”ミスティ”といいます。1年半前、様々な事情があってきちんとしたご挨拶もなく、終了してしまった本番組………皆さんの熱いご要望もあってこうして再開できたこと本当に嬉しく、感謝しています。学生だったリスナーの皆さんは卒業して社会人になったのかな?新入生やそうでない皆さんも改めてお付き合い頂ければ幸いです。」

リィンは番組の進行を務める人物―――”ミスティ”や、”ミスティ”が以前務めていた番組の名からミスティの正体が”身喰らう蛇”の”蛇の使徒”の第二柱――――”蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダである情報を思い出し、驚きの表情でラジオを見つめた。

(な、な、な………何をやってるんだ、この人(蒼の深淵)は………!?)

「―――さて、4月も中旬、ライノの花も真っ盛りですね――――――」

その後ラジオが終わるとリィンは急いでリーヴスにあるラジオ局―――”トリスタ放送”へと向かい、番組の事についてよく知っていると思われるムンクに事情を訊ねた。



~リーヴス・”トリスタ放送”~



「……収録場所がわからないだって!?」

「あはは………流石にボクも驚いたけどね。先月、ミスティさんからマイケルディレクターに連絡があったらしいんだ。それで、リスナーのお便りをミスティさんに送ってくれたら録音したトークを返送する――――そんな形でよければアーベントタイムを再開できるって話になったらしくてさ。かなり異例ではあったけど大勢のファンが待っていたから局も腹を括ったみたいだね。」

「無茶苦茶すぎるだろう………それじゃあ、そのミスティさんがどこにいるかもわからないのか?」

ムンクの説明を聞いたリィンは呆れた後気を取り直してムンクに訊ねた。

「うん、各地を転々としているからそういうやり方しか無理らしくて。でもでも、君も聞いたでしょ!?やっぱり最高だよね、ミスティさんのトークは!」

「あ、ああ………1年半前に一度終わったらしいのに、ブランクを全然感じなかったというか………ユーモアもウィットもあって全然押し付けがましくないからつい聞き惚れるというか……――――じゃなくて。どうして居場所がわからないのにデータのやり取りができるんだ?」

「帝都の総合郵便番号に私書箱を用意してるらしくてね。そこにお便りを送ったら5日後くらいにトークが入ったデータが届くらしいんだ。そう言えば、当局に番組を申請した時、少し難癖をつけられたそうだけど……こうして無事、初回が放送できたってことは何の問題もないってことだよね?」

その後ムンクから事情を聞き終えたリィンが外に出ると聞き覚えのある着信音が聞こえ、音に気づいたリィンはARCUSⅡを取り出した。



~リーヴス~



「この音は――――……タイミングから考えると、バリアハートにいるプリネ皇女殿下達の誰かからか?」

ARCUSⅡを取り出したリィンがARCUSⅡを操作して”Ⅶ組の輪”を起動するとツーヤの顔が映った。

「ツーヤさん……!」

「―――お久しぶりです、リィンさん。恐らくリィンさんもラジオを聞いたか誰かから教えて貰って驚いたと思いますが、先程のラジオ番組―――”アーベントタイム”についての情報をお伝えします。確かリーヴスの”トリスタ放送”には1年半前あたし達にも協力してくれたトールズ士官学院の卒業生の方が務めているとの事ですが……もしかして既にその方から事情を聞きましたか?」

「え、ええ、ある程度は。”アーベントタイム”………どうしてあの番組が―――”蒼の深淵”の手掛かりをツーヤさん達は掴んでいるんですか!?」

ツーヤの問いかけに頷いたリィンは信じられない表情でツーヤに訊ねた。

「………あたしやマスター、それにサフィナ義母さんやレーヴェさんですら、最初にその情報が諜報部隊よりもたらされた事を知った時本当に驚きました。あたし達の介入によって内戦での”結社”の”計画”を滅茶苦茶にされた挙句、”煌魔城”での決戦でもあたし達に敗北し、最後は撤退した”結社”の魔女―――まさか堂々とエレボニアに舞い戻ってラジオのトーク番組をしてるなんて、誰も予想できないと思います。―――それこそ様々な”流れ”を読んで1年半前の内戦をほぼ自分が描いたシナリオ通りに誘導したレンさんですらも。」

「同感です……当然、メンフィル帝国の諜報部隊―――いや、エレボニアの情報局の方でも……?」

「ええ、総合郵便局の私書箱に届けられた便りを監視したそうです。ですが―――取りに来る人物はおらず、いつの間にか私書箱から頼りの束が消えたとのことです。トークを録音した記憶結晶(メディア)も同じで、忽然と配送用の私書箱に現れ、料金はも支払われるというまさに文字通りの意味で、”魔法”を使っているのでしょうね。」

「………なるほど、そんな経緯だったんですか。」

「情報局は番組自体を潰す事も考えたそうですが、再開を待ってたファンも多く、ファンたちの反感を恐れた事もありますが、わざと泳がせて”蒼の深淵”の居場所を掴む為に番組の再開を許可したとの事です。―――以上です。また、何かあれば連絡します。」

「わざわざ連絡して頂き、ありがとうございます。”アーベントタイム”の件はセレーネやレン教官達にも……?」

「ええ、後で個別でそれぞれ連絡しておきます。―――ああ、一つ伝え忘れていました。ひょっとしたら来週の演習地でフォルデさんとステラさんと会えるかもしれません。お二人は来週、セントアークで領主見習いとしての実習で向かう予定があり、時間が空けばリィンさん達に会いに行くような事も言っていましたから。」

「え………それは本当ですか!?」

「はい。確か来週の”特別カリキュラム”の演習地はセントアーク地方と隣接していましたよね?」

「あ………え、ええ、言われてみれば演習地はセントアーク地方とも隣接していました。―――って、何で教官陣の俺達もようやく今日知った演習地の場所を………それもメンフィル帝国の諜報部隊経由ですか?」

ツーヤの問いかけに戸惑いの表情で頷いたリィンだったが、すぐにツーヤが自分達がようやく今日知ることができた情報を知っている事がおかしい事に気づき、苦笑しながらツーヤに自分達より早く知る事ができた理由を確認した。

「ふふっ、それについてはご想像にお任せします。――――夜分遅くに突然申し訳ありませんでした。お休みなさい、リィンさん。」

リィンの問いかけに対して微笑みながら答えたツーヤが通信を切ると、リィンのARCUSⅡからはツーヤの映像が消えた。

「…………エマとも手紙でやり取りをしてるけどそんな話は出て来なかったな……それを考えるとエマやセリーヌが知れば、間違いなく驚くだろうな。(………”蒼の深淵”か。敵だった上、エリゼや母さんを狙ったようだけど最後は特務部隊(俺達)に協力してくれた。”彼”の最期も心から哀しみ、怒っていたようだった……それを考えると彼女は根っからの”悪党”じゃなかったかもしれなかったな。ただ、何の為に”アーベントタイム”を再開したのかわからないが………)―――”アーベントタイム”。しばらく定期的に聞いていくか。」

ARCUSⅡをしまって少しの間考えていたリィンだったが、やがて宿舎へと戻っていった――――


 

 

第11話

4月17日、早朝――――



~第Ⅱ分校・教官室~



翌朝、機甲兵教練の直前の時間リィン達はミーティングをしていた。

「―――本日からの機甲兵教練は第Ⅱ分校にとって重要な意味を持つ。合同教練を行う戦術科と特務科、バックアップを担当する主計科共々、万全な状態に仕上げてもらいたい。週末の”特別演習”に向けてな。」

「………了解しました。」

「まあ正直、1日そこらでどこまで仕込めるかわからんが……」

「でも、生徒達が身につけられるよう可能なかぎりサポートします!」

「クク、ガキ共全員は厳しいかもしれねぇが最低でも分校にある機甲兵全てをいつでも実戦投入できる状態にまでは仕上げるつもりだから、大船に乗ったつもりでいていいぜ。」

「うふふ、生徒達の機甲兵の操縦の慣れ次第になるけど、もし一人でも実戦に投入できるレベルまで身につけたら”パテル=マテル”にも生徒達の練習相手をしてもらうつもりよ。」

「教練中に生徒達が怪我などをすれば、治癒術で完全に怪我を治しますので、そちらはお任せ下さい。」

ミーティングを進行しているミハイル少佐の言葉に対してリィン達教官陣はそれぞれの答えを口にした。

「よろしく頼む。さっそく準備に取り掛かってもらおう―――と言いたいところだが。その前にシュバルツァー、確認しておきたい事がある。」

「自分、ですか?」

「ああ、今朝ある運送会社から問い合わせがあってな。昨日、リーヴスに配達に行った折、とある黒髪の青年に業務を手伝って貰ったとか。かの有名な”灰色の騎士”にどことなく似ていたそうだが……?」

ミハイル少佐の問いかけを聞いたリィンは自由行動日に、届ける場所がわからなく困っていた運送業者の配達を手伝った事を思い出した。



「ああ、あの時の……どうにも放っておけなくて……その、何かまずかったですか?」

「……やはり君だったか。町の住民からも似たような連絡が入って来ていたが……」

「アハハ……お兄様らしいというか。」

「支援課にいた頃も率先して雑用を引き受けていたものなぁ。」

リィンの答えを聞いて若干呆れた表情で答えたミハイル少佐の話を聞いたセレーネとランディはそれぞれ苦笑し

「はは、懐かしいな。」

「ふふっ、そんな事があったんだ。………なんだか、わたしもちょっと懐かしくなってくるよ。」

リィンは懐かしそうに支援課にいた頃を思い出し、リィン達の会話を聞いていたトワもリィン同様過去を思い出していた。



「コホン、責めるつもりはないが少しは立場を考えたらどうかね?軍事学校たる士官学院の教官、それも”灰色の騎士”が下らん雑用を引き受けるなど―――」

「―――いえ、私はそうは思いません。それどころか、素晴らしい行いだと思います。」

そして咳ばらいをしたミハイル少佐が呆れた表情でリィンに指摘をしようとしたその時リアンヌ分校長が部屋に入って来た。

「分校長……?」

「ど、どういう事ですか?」

「フフ、要するにシュバルツァー教官は、自ら体現しているのです。”世の礎たれ”―――かのドライケルスの言葉を。」

リアンヌ分校長の言葉を聞いたその場にいる全員はリィンに注目した。

「い、いや、そんな大層な話では……」

「では栄えあるトールズ第Ⅱ分校としてはしかと支えるのが筋でしょう。ひとえに雛鳥たちの今後の成長のためにも―――リーヴスの市民達との”橋渡し”となってもらうためにも。」

「え”。」

「そ、それって……」

「まさか……」

「クスクス、要するに市民達の人気取りの為に設立された”特務支援課”の第Ⅱ分校版って所かしら♪」

「クク、言い得て妙だな。まあ、実際そのお陰で今や”特務支援課”はクロスベルの市民達にとっての”英雄”として有名で、解散した事が今でも惜しまれているぐらいだからなぁ。」

「ハア……俺やロイド達も最初から課長に説明してもらって理解していたが、もうちっと、遠回しな言い方をしてくれないかねぇ。」

リアンヌ分校長の提案を聞いてある事を察したリィンは表情を引き攣らせ、トワとセレーネは目を丸くし、小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンの推測を聞いたランドロスは口元に笑みを浮かべて同意している一方ランディは疲れた表情で溜息を吐いた。



「―――成程、第Ⅱ分校の設立はかなり唐突だったと聞いています。その意味で、住民との軋轢回避は今後の課題と思っていましたが……」

一方リアンヌ分校長の提案を聞いてリアンヌ分校長の意図を理解したミハイル少佐は納得した様子で考え込んでいた。

「ええ、分校長として”次”の段取りは引受させて頂きます。貴方達は今日の機甲兵教練と来たる特別演習に備えてください。」

そしてリィン達に説明を伝え終えたリアンヌ分校長は部屋から去っていった。

「ハハ、なんか余計な仕事を抱え込んじまった感じだな?」

「だ、大丈夫、リィン君?」

「うふふ、ご愁傷様、リィンお兄さん♪」

「ハハ………まあ、なるようになりますよ。とにかく今は分校長の言う通り機甲兵教練に集中すべきでしょう。」

「……道理だな。まあいい、この件については君と分校長の判断に任せる。それでは各自準備を進めてくれたまえ―――解散!」

そしてミハイル少佐のミーティングの解散の号令を合図にリィン達は大急ぎで準備を進め……いよいよ分校初となる機甲兵教練が始まるのだった。



~格納庫~



分校の生徒達全員がミハイル少佐とトワ、レンから機甲兵についての説明を受けている中リィンとランディ、ランドロスは格納庫にある機甲兵達の移動の作業を手伝っていた。

「フン、何とか間に合ったか。教練中は任せる。生徒どもを動かすなりして適宣対応するがいい。」

「は、はいっ……!」

作業の様子を見守っていたシュミット博士はティータに指示をし、指示をされたティータは緊張した様子で頷いた。

「相変わらず無茶苦茶な爺さんだな……それについていけるあの子も大したモンみたいだが。」

「ああ、リベールきっての技術者一家の出身だそうだからな。それにしても、あすがに人手不足だとは思うが……」

「しかも、ロクな訓練もなしに週末に現地に出発だからな。―――最低でも2,3人―――いや、4,5人は実戦でも操縦できるくらいにしてやる必要はあるだろうな。」

一方二人が会話している様子に気づき、作業を一旦中断したランディの言葉にリィンは頷いた後疲れた表情で呟き、リィンの言葉に続くようにランドロスは二人に提案をした。

「おいおい、さすがにそれは無理じゃねぇか?模擬戦ができるようになるのが精一杯だと思うぜ。―――そこん所、ヴァリマールの操縦者であるお前さんはどう思っているんだ?」

ランドロスの提案に呆れた表情で指摘したランディは機甲兵と似たような存在である”騎神”の操縦者であるリィンに意見を求めた。

「……そうだな。リスクはあるが、カンのいい子ならいけると思う。生徒の数は分担するとして……ランディとランドロス教官は交代で”ヘクトル”を使うんですよね?」

ランディの問いかけに対して自身の意見を答えたリィンはランディに確認した後重装機甲兵”ヘクトル弐型”に視線を向けた。



「ああ、若干扱いづらいがパワーがあって俺やそこの仮面のオッサン好みの機体だ。お前さんはヴァリマールじゃなくて”ドラッケン”で教えるんだな?しかも太刀じゃなくて機甲兵用の剣を使うんだって?」

リィンの問いかけに頷いたランディはリィン達と一緒に汎用機甲兵”ドラッケンⅡ”へと視線を向けた。

「ああ、さすがにヴァリマールはお手本にはならないだろうしな。騎士剣術なら父さんからも教わっているから何とかなると思う。」

「はは、そっちの方は頼むぜ。あとは生徒(あいつら)の準備が終わるのを待つだけだが……」

「ま、俺としてはこんな鉄屑に乗って戦うより、てめぇ自身を鍛え上げた方が結果的にはそっちの方がガキ共の為になると思うがな。こんな鉄屑、俺なら木刀でもかる~く真っ二つにできるぜ?」

ランドロスの発言を聞いたリィンとランディは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「例え生徒達を鍛え上げても、こんなとんでもない物を木刀で斬る事ができるアンタみたいな”化物”がそんな次々と生まれるかっつーの。」

「というか”機甲兵”を”鉄屑”呼ばわりするのは、さすがにこの分校の教官の発言として、かなり問題発言だと思うのですが……」

我に返ったランディとリィンはそれぞれ疲れた表情で指摘した。



「そういや、リィン。ラジオの”アーベントタイム”の件、もしかしてお前さん達もメンフィル帝国から既に聞いているか?」

「!あ、ああ。という事はランディとランドロス教官も……?」

ある事を思い出したランディの問いかけを聞き、ランディも”アーベントタイム”の事について知っている事に気づき、ランディとランドロスに訊ねた。

「おう。昨日の夜に、ルイーネから直通の連絡が来たぜ。クク、内戦の件で散々な目に遭ってエレボニアから逃げておきながら堂々とラジオ番組に舞い戻ってくるなんざ、中々肝の据わった女のようだな、”蒼の深淵”とやらは?」

「ったく、正体隠すつもりがあるんだったら”皇妃”のルイーネ姐さんを呼び捨てで呼ぶなっつーの。……それにしても容姿とかもデータで送られてきて確認したが、あんなスタイル抜群かつ美人なお姉さんが”蛇の使徒”とはねぇ。しかも昨日俺もたまたま”アーベントタイム”を聞いて声を知ったけど、メチャ好みの声で、俺のドストライクのお姉様じゃねーか!例え戦う相手が綺麗なお姉様や女の子でも分校長や”鉄機隊”みたいなおっかない連中よりも、ミステリアスかつ妖艶な雰囲気を纏っているっぽい”蒼の深淵”のような連中がよかったぜ……」

「ハハ………その言葉は絶対に分校長の前で言わない方がいいと思うぞ。(というか会った事もないのに、よく雰囲気とかわかるな……それにしても”鉄機隊”か。分校長が”碧の大樹”の件が終わった後、分校長は自分がリウイ皇帝陛下とイリーナ皇妃殿下に仕える事とその理由を説明して、”鉄機隊”の解散を宣言した後”神速”を含めた”鉄機隊”の隊士達は分校長について来なかったそうだけど………彼女達も”結社”の残党として活動しているんだろうか……?)」

ランドロスのある言葉を聞いて呆れた表情で指摘したランディは気を取り直した後真剣な表情で会った事もない人物の予想を口にした後疲れた表情で溜息を吐き、リィンは苦笑しながらランディに指摘した後かつて戦ったある人物を思い浮かべて、その人物のその後について考え込んでいた。



その後準備が終わり、”機甲兵教練”が始まった。



2~4限、機甲兵教練――――



~グラウンド~



「はあ、本当に機甲兵に乗るハメになったなんて……………」

教練がある程度終わり、休憩時間で生徒達がそれぞれ初めて乗る機甲兵について話し合っている中ユウナは疲れた表情で肩を落とした。

「その割にはノリノリで基本操縦はクリアしていたみたいですが。」

「ああ、僕よりも早く慣れていたくらいだったな。クロスベルの警察学校でも乗った事は無いんだったよな?」

「あ、当たり前よ。機甲兵は警備た―――ううん、クロスベル帝国軍に配備されていて、警察(あたしたち)に機甲兵が配備されるなんてありえないわよ。警察(あたしたち)の基本理念はクロスベルが”自治州”だった頃と一緒で、クロスベルの各市内の治安維持と自治しゅ―――いえ、帝国法の選守なんだから。まあ、警察学校で導力車の運転はしてたから、そのお陰かしら?一度掴んだらスムーズに動かせちゃったというか………」

ジト目のアルティナと困惑の表情をしているクルトの指摘に疲れた表情で答えたユウナは気を取り直して苦笑しながら答えた。

「運転間隔の延長か……天性のカンかもしれないな。」

「わたしは若干つまずいたので素直にうらやましいです。どうもクラウ=ソラスと比較してしまうみたいで…………」

「フフ、わたくしもアルティナさん同様ユウナさんが羨ましいですわ。わたくしなんて”教官”でありながら、”機甲兵”の操縦はそれ程上手くないのですから。”竜化”は例え姿が”竜”になっても自分自身の身体ですから、どんな風に動かせばいいのかわかりますから、アルティナさんのようにわたくしの”竜化”した際と機甲兵を比べてしまうんですもの……」

ユウナの説明を聞いたクルトが感心している中アルティナは複雑そうな表情で答え、アルティナに続くようにセレーネは苦笑しながら答えた。

「え、え~と……アルティナはともかく、セレーネ教官の悩みは何か色々と違うような気がするのですが……」

「というか何気にとんでもない事実を聞いてしまった気がするのですが。」

セレーネの発言に冷や汗をかいたユウナはジト目で、クルトは疲れた表情でセレーネに指摘した。するとその時生徒達の様子を見守っていたリィンが操縦するドラッケンとランディが操縦するヘクトルは互いの機体に視線を向けて頷いた後それぞれの操縦席からリィンとランディが生徒達にある提案をした。



「よし―――少し早いが簡単な模擬戦をやるぞ!」

「レン教官、”パテル=マテル”も呼んでもらって構いませんか?」

「うふふ、了解♪来て――――パテル=マテル!!」

ランディの声の後に聞こえたドラッケンから聞こえるリィンの問いかけに頷いたレンはかつて”リベールの異変”の際結社から奪い取ったゴルディアス級戦略人形―――パテル=マテルの名を呼んだ!すると格納庫からパテル=マテルが現れ、ドラッケンとヘクトルの横に並び、その様子を見守っていた生徒達は驚いたり口をパクパクさせていた。

「な、な、な、なんなのアレ~~~~~!?」

「――――ゴルディアス級戦略人形”パテル=マテル”。4年前の”リベールの異変”にてレン教官が結社との戦いの最中で、結社から奪い取った人形兵器です。」

「そう言えばその話は兄上から聞いた事があるな………まさか、あれ程巨大な人形兵器だったなんて想像もしていなかった。」

「ア、アハハ……まさか本当に朝のミーティングで言っていた事を本気で実行するなんて、何気にランディさんやお兄様もスパルタですわね……」

ユウナは他の生徒達同様口をパクパクさせた後驚きの声を上げ、ユウナの疑問にアルティナが冷静な様子で答えている一方、クルトはある事を思い出して呆けた表情でパテル=マテルを見つめ、セレーネは冷や汗をかいて苦笑していた。



「これから俺とランディ、パテル=マテルを操作するレン教官が交代で君達2名の相手をする。呼ばれた者は前に出てくれ。まずはユウナ、クルト!」

「って、いきなり!?」

「……折角の機会だ。見極めさせてもらおうか。」

リィンに名前を呼ばれたユウナは驚き、クルトは静かな闘気を纏いながらで呟き

「お二人とも、ファイトです。」

「フフ、頑張ってください。」

アルティナとセレーネは二人に応援の言葉をかけた。

「へぇ………?」

「ふふっ……」

一方その様子をそれぞれの場所からアッシュとミュゼは興味ありげな様子で見守っていた。



その後それぞれドラッケンに乗り込んだユウナとクルトのペアは協力してリィンが操縦するドラッケンを戦闘不能まで追いやった。



「や、やった……!」

「いや…………(ギリッ)」

リィンが操縦するドラッケンが戦闘不能になる様子を見たユウナが自分達の勝利に喜んでいる中、何かに気づいていたクルトは悔しそうな表情で唇を噛みしめた。

「……いい感じだな。今の感覚を覚えててくれ。」

するとその時リィンの称賛の声が聞こえた後リィンが操縦するドラッケンは立ち上がった。

「余裕か……」

「ふむ、流石ですね。」

リィンが手を抜いて二人と戦った事に気づいた生徒達は驚いたり感心したりしていた。

「よし、お次はウェインにレオノーラだ――――」

その後次の模擬戦が始まり、次の模擬戦が始まった頃、機甲兵から降りたユウナとクルトはアルティナがいる所に戻った。



「お二人とも、お疲れ様でした。」

戻って来た二人に対してアルティナは労いの言葉をかけ

「く、悔しい~っ……!途中から手を抜かれてるって気づいてたのに……!」

「こちらは初搭乗だ。気にする必要はないさ。(………手を抜かれてたとはいえ、やっぱり納得いかないな……どこか手ぬるいというか甘さがあるというか………)」

リィンに手を抜かれていた事にユウナは悔しそうな表情で声を上げ、ユウナに慰めの言葉をかけたクルトは複雑そうな表情で考え込んでいた。するとその時、大きな音が聞こえ、音に気づいたユウナ達が視線を向けるとパテル=マテルに敗北した2体のドラッケンの様子があった。



「ま、参りました……!」

「さすがだねぇ………!ランドロス教官達と違って、実際に乗って操縦もしていないのに、あれを躱せるなんて!」

眼鏡の男子生徒―――ウェインと緑色の髪をポニーテールにしている女子生徒―――レオノーラはそれぞれ自身の敗北を認め

「うふふ、レオノーラは初めてとはいえそこまで使いこなした時点で”上出来”よ。ウェインはまずは基本操縦を徹底的に練習して、基本操縦をマスターする事ね。」

パテル=マテルを操作していたレンは二人に対してそれぞれの評価をした。

「次はそうだな……アッシュにゼシカ、行けるか?」

「ええ………!望むところで―――」

「ハッ、お断りだな。」

そしてリィンに指名された蒼髪の女子生徒―――ゼシカが頷きかけたその時アッシュが予想外の答えを口にした。



「………………」

「ほう?」

「フゥン?」

「え、えっと……?」

「おい、アッシュ………」

「ちょっと貴方、どういうつもり……!?

アッシュの答えを聞いたリィンは真剣な表情で黙ってアッシュを見つめ、ランドロスとレンは興味ありげな表情をし、セレーネは戸惑い、ランディは目を細めてアッシュを睨み、ゼシカはアッシュを睨んで問いかけた。

「ああ、お前さんとの共闘に文句があるわけじゃねえよ。せっかく模擬戦をするんなら面白い趣向がいいと思ってなァ。――――ランドルフ教官、ヘクトルを貸してくれねえか?どうせだったら一対一でシュバルツァー教官の胸を貸してもらいたいと思ってね。」

「そいつは……」

「―――いいさ。その条件でやってみようか。」

ゼシカの問いかけに答えた後に提案したアッシュの言葉にランディが答えを濁しているとリィンが了承の答えを口にし

「ハッ………!」

リィンの答えを聞いたアッシュは不敵な笑みを浮かべた。一方その頃リィンとランディは機甲兵同士の内線でアッシュの提案について話し合っていた。

「……おい、いいのか?」

「ああ、差し支えがなかったら。折角やる気になっている事だし、水を差すのも勿体ないだろうしな。」

「やる気ねぇ……まあいい。せいぜい鼻っ柱を折ってやってくれよ?」

その後ランディはヘクトルから降り、ヘクトルに乗ったアッシュはドラッケンを操縦するリィンと対峙した。



「なんなのよ、アイツ………さすがに生意気すぎない!?」

リィンの操縦するドラッケンとアッシュの操縦するヘクトルが対峙している様子を見守っていたユウナはアッシュの態度に対して不満の声を上げたが

「ユウナさんは人のことを全く言えないと思いますが。」

「むぐっ………」

ジト目のアルティナに指摘されると気まずそうな表情で黙り込んだ。

「………………」

一方クルトは真剣な表情で黙って2体の機甲兵を見つめた。



「クク、礼を言うぜ。シュバルツァー教官どの。折角だから英雄サマの凄さを直接味わってみたくてねぇ。」

「別に構わないが……いきなりヘクトルで大丈夫か?パワーがある分、扱いは難しいから初心者にはハードルが高いぞ?」

「ああ、そうみたいだな。だが――――コイツを使うには少しパワーが必要なんでな……!」

そしてリィンの忠告に対してアッシュが不敵な笑みを浮かべて答えたその時ヘクトルは先端が赤く光り始めたヴァリアブルアクスを振り上げた!

「なっ……!?」

「その距離では―――」

「いや……!」

アッシュの行動にユウナやアルティナが驚いている中すぐに察したクルトが血相を変えたその時、ヘクトルがヴァリアブルアクスを振り下ろすと何と鎌の形態をしている刃が伸びてドラッケンに攻撃をした!

「ええっ!?お、斧が”伸びた”……!?」

「奇襲用のギミックだと……!?」

「あら、やるじゃない♪」

「だぁっはっはっはっはっ!”戦”ってモンをよく理解しているようだな、悪ガキよぉ?」

ヘクトルの奇襲攻撃にセレーネとランディが驚いている中、レンとランドロスはヘクトルを操縦するアッシュに対して感心していた。一方ドラッケンを操縦するリィンは間一髪でヘクトル奇襲攻撃を回避した。

「やりやがる……!だが先手はもらったぜ!」

その後ドラッケンはヘクトルの先制攻撃を連続で受けてしまったが、すぐに立ち直り、余裕な様子でヘクトルを戦闘不能に追いやった。



「はあ~………なんとか凌いだか。ていうか最初の”あれ”、さすがに汚すぎない!?」

模擬戦の様子を見守っていたユウナは安堵の溜息を吐いた後アッシュの奇襲攻撃を思い出し、不満を口にした。

「確かに、開始の合図の前でもありましたし。」

「ああ………武を尊ぶエレボニア人の風上にも置けないやり方だ。(だが、あの瞬発力と虚を突いた奇襲は……)」

ユウナの意見にアルティナと共に頷いたクルトはアッシュのヘクトルの操縦の腕前について考え込んでいた。



「チッ……しくじったか。」

「おい、アッシュ・カーバイド!開始前の奇襲はともかく、あのギミックはなんだっつーの!?昨日、追加で届いた装備だが……なんであんな仕掛けを知っている!?」

アッシュがヘクトルが飛び降りるとランディが血相を変えてアッシュに駆け寄ってアッシュに問いかけた。

「偶然ッスよ、偶然。振ったらたまたま飛び出ただけさ。シュバルツァー教官、胸をかしてくれて感謝ッス。また機会があったらよろしくお願いしたいもんだぜ。」

「ああ、いつでもいいぞ。ちなみに先手後のラッシュはちょっと大雑把過ぎたな?一撃一撃を的確に繰り出せば次にも繋げやすくなるだろう。」

「………ケッ………」

ランディの問いかけを軽く流したアッシュは不敵な笑みを浮かべてリィンに感謝の言葉を述べたが、リィンの指摘を聞くと舌打ちをしてその場から離れた。

「おいコラ、アッシュ……!……ったく、すまねぇな。どこか危なっかしいヤツだとは思っちゃいたんだが。」

「はは……結構な問題児みたいだな。だけどあの天性のバネ―――鍛えれば相当強くなりそうだ。」

「ああ、そいつは同感だぜ。」

その後、機甲兵教練は午前中のうちに一通り終了し……昼食後、興奮も覚めやらぬうちに週末の”特別カリキュラム”について生徒達全員に伝えられるのだった。



~軍略会議室~



「っひょおおおっ、マジか!?専用列車に乗って、サザ―ラント州へ遠征やて!?」

「うわ~、なんだかワクワクしてきましたねぇ♪」

「で、ですが入学したばかりでどうしていきなり………」

「……まあ、それが命令ならこっちは従うのみだけど。」

「金曜日ということはあまり準備期間もないな………」

「えっと、食料とか現地調達できるのかな……?」

「フフフ、豊かな山の幸がさぞや期待できそうだな……!」

「―――出発は金曜の夜、それまでに為すべき準備をクラスごとに決めてある!担当教官の指示に従って備え、英気を養うこと―――以上だ!

”特別カリキュラム”の説明を受けた生徒達が様々な反応を見せている中ミハイル少佐は冷静な様子で説明を続けた。



「うーん、入っていきなり地方での演習だなんてねぇ。サザ―ラント………エレボニアの南西の州だっけ?」

「ええ、ここからだと列車で数時間ほどですね。ちなみに”第二都アルトリザス”は14年前の”百日戦役”にてアルトリザスと隣接しているサザ―ラント州の中心部の都市である”白亜の都セントアーク”がメンフィル帝国軍に占領、そしてメンフィル帝国領となった為、新たなサザ―ラント州の中心部の都市となった場所です。」

「へ~、じゃあお隣はメンフィル帝国の領土なんだ………って、メンフィル帝国の領土になった経緯や今のエレボニアとメンフィルの関係を考えると色々な意味で大丈夫なの!?」

自分の質問に答えたアルティナの話を聞いたユウナは呆けたがすぐに我に返り、表情を引き攣らせて指摘した。

「サザ―ラントか………(………懐かしいな。)」

(えっと、たしかリベールで2番目に近いエレボニアの地方で、そのお隣はリベールのハーケン門に一番近いメンフィルのセントアーク地方だったっけ。あ、ということは………)

(ハッ………聞いてた通りの行き先か。行ったことはねぇハズだが………ひょっとしたら……)

「ふふっ………」

一方クルトは懐かしそうな表情をし、ある事に気づいたティータは目を丸くし、アッシュは考え込み、アッシュの様子に気づいたミュゼは微笑んだ後再びリィン達教官陣に注目した。



そして数日後”特別カリキュラム”の演習地に出発する日の夜が訪れた―――――


 

 

第12話

4月21日、演習地出発――――



午後6:30――――



~第Ⅱ分校・分校専用列車停車駅~



演習地出発の夕方、生徒達が分校専用の駅構内で出発の準備をしている中、ある程度準備を終えたリィン達教官陣は顔を合わせて今後の事について話し合っていた。

「そろそろ時間かな……?」

「ええ、第Ⅱ分校専用の特別装甲列車……機甲兵やヴァリマール、それにパテル=マテルも数機分運べるそうですね。」

「機体の搬入に物資や装備の積み込み……夜9時の出発らしいがなんとか間に合うのかね?」

「問題は肝心の装甲列車がいつ来るかですけど……」

ランディの疑問に続くようにセレーネが呟いたその時、列車のクラクションが駅構内に聞こえ

「クク、その噂の列車が来たようだな。」

「うふふ、どんな列車なのかしら♪」

クラクションを聞いたランドロスとレンはそれぞれ興味ありげな表情をした。

「おっしゃあ、来たでぇ~!」

「ぁ――――」

一方リィン達同様列車のクラクションに気づいた生徒達も列車が来る出入り口に視線を向けると先頭列車に第Ⅱ分校の紋章がある第Ⅱ分校専用、特別列車―――”デアフリンガー号”が姿を現し、駅に到着すると停車した。



「……キレイ……!」

「銀色の列車か……」

”デアフリンガー号”を初めて見たティータはデアフリンガー号に見とれ、クルトは目を丸くした。そして停車した列車から作業員が次々と出てくる中、クレア少佐も列車から姿を現した。

「え――――」

「あれっ………!」

「あの方は………」

「ほう?」

クレア少佐の登場にリィンとトワ、セレーネが目を丸くしている中ランドロスは興味ありげな表情をし

「―――フン、来たか。」

「おいおい、マジかよ。」

「うふふ、まあ”鉄道”―――それも”軍”が関わっているのだから、”彼女”の登場もそんなに驚く事はないわよ。」

ミハイル少佐は鼻を鳴らし、驚いているランディにレンは小悪魔な笑みを浮かべて指摘した。

「ふふっ………――――初めまして。第Ⅱ分校の生徒と教官の皆さん。鉄道憲兵隊少佐、クレア・リーヴェルトといいます。第Ⅱ分校専用、特別装甲列車、”デアフリンガー号”をお渡しします。」

そしてクレア少佐は第Ⅱ分校の面々を見回して微笑んだ後敬礼をして自己紹介と目的を説明した。



「―――よし、こちらは大丈夫だ。物資の搬入に回ってくれ。」

「了解だ。」

「はあはあ……がんばりますっ!」

数時間後生徒や教官達が協力して準備を続けている中、リィンは生徒達に新たな指示を出し、指示を受けた生徒達と入れ替わるようにクレア少佐がリィンに近づいてきた。

「あ………クレア大尉―――いえ少佐。お久しぶりですね。」

「ふふっ………ええ………3ヵ月前のバルヘイム宮での年始のパーティーの送迎以来でしょうか?第Ⅱ分校への就任、本当におめでとうございます。就任の経緯を考えると、私からの言葉ではご迷惑かもしれませんが……」

リィンに祝福の言葉を述べたクレア少佐は複雑そうな表情を浮かべ

「いえ、そんな事はないですよ。まさかクレア少佐が受け渡しに来てくれるなんて夢にも思いませんでしたが。」

クレア少佐の言葉に対して謙遜した様子で答えたリィンは苦笑しながらクレア少佐を見つめた。



「ふふっ………ミリアムちゃんとレクターさんに先を越されてしまいましたから。――――というのは冗談として今回の計画では、演習地の確保も含め鉄道憲兵隊がバックアップしています。現地までの連絡要員として同行しますので小姑と思って我慢していただけると。」

「小姑って……はは。」

クレア少佐の冗談を交えた説明にリィンが苦笑したその時

「やれやれ………”氷の乙女(アイスメイデン)”とも知り合いとか、マジでお前やロイドの綺麗なお姉様方と次々とお知り合いになれる強運を分けて欲しいぜ。」

ランディがランドロスと共に二人に近づいてきた。

「いや、意味がわからないんだが………」

「ふふっ……―――――オルランド准佐とこうして会うのは初めてになるでしょうか?レクターさんから、オルランド准佐の噂はかねがね伺っています。」

ランディの言葉に疲れた表情で答えたリィンの様子を微笑ましく見守っていたクレア少佐は気を取り直してランディに視線を向けた。

「あの”かかし(スケアクロウ)”からねぇ……大方”かかし(スケアクロウ)”の事だから俺の事もさぞ、面白おかしく伝えたんだろう?」

「フフ、多少脚色を加えた噂である事は否定しません。――――第Ⅱ分校への協力、本当にありがとうございました。」

「ま、半ばウチのリア充皇帝共のせいによる強制だったけどな。心配せずとも、振られた仕事はきっちりこなすつもりだし、アンタらが怪しむような”仕事”をするつもりはないぜ。――――アンタらがあんまり悪辣なことをしない限りはな。」

クレア少佐に感謝の言葉を述べられたランディは苦笑しながら答えたが、すぐに意味ありげな笑みを浮かべて辛辣な言葉を口にした。



「ええ………肝に銘じます。」

(まあ、エレボニアとクロスベルの状況を考えれば、ランディの態度も当然と言えば当然か……)

ランディの言葉をクレア少佐が素直に受け取っている様子をリィンは静かな表情で見守っていた。

「そして貴方が………」

「よー、あんたがあの名高い”氷の乙女(アイスメイデン)”か!俺は仮面の紳士ってもんだ、よろしくな。」

そしてクレア少佐がランドロスに視線を向けたその時、ランドロスが先にクレア少佐に声をかけた。

「え、ええ。……………えっと、リィンさん、ランドルフ准佐。分校の教官陣の件を知ってから聞く機会ができたら聞こうと思っていたのですが………こちらのランドロス教官もクロスベル出身の方……なのですよね?」

「へ………」

「おい……まさかとは思うが、気づいていないのか?」

困惑の表情をしているクレア少佐の質問にリィンが呆けている中、ランディは信じられない表情でクレア少佐に確認した。

「………?何にでしょうか。」

「えっと……”仮面の紳士”―――ランドロス教官の正体です。」

「勿論正体は知りたいですがその………こちらの変質者―――失礼。随分と変わった趣味の仮面を被った方が一体何者なのでしょうか?」

「変質者って、テメ――――」

「そこの仮面のオッサンはギュランドロス皇帝だぞ!?アンタがまだクロスベルが自治州だった時、”合同演習”の件で脅すつもりが逆に脅されて”鉄血宰相”に対する”宣戦布告”までした”六銃士”の”紅き暴君”ギュランドロス・ヴァスガンだ!」

リィンの指摘に対して戸惑いの表情で答えた後必死に遠回しな言葉を探しながら答えたクレア少佐の問いかけを聞いて驚いたランドロスが声を上げかけたその時、ランディが疲れた表情でランドロスの正体を答えた。



「ギュラン、ドロス皇帝………こちらの、変わった趣味の方が……?――――っぷ、クスクスクス、レクターさんから聞いていた通り、ランドルフ准佐はムードメーカーとしてその場の雰囲気を明るくする事にとても長けているのですね。そもそも、クロスベルの皇帝陛下の一人がこんな場所にいるなんてありえませんよ。」

「だったよなぁ……はっはっは………」

ランディの答えを聞いて呆けてランドロスを見つめたクレア少佐だったがすぐに可笑しそうに笑って答え、ランドロスもクレア少佐に続くように笑っていた。

(…………おい、マジで気づいていないみたいだぞ?)

(……そうみたいだな。正直、まさかあれで本当に騙せる人がいるなんて想像もしていなかったな……それも”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の一人を。)

(そ、そう言えば以前お父様の話でエルミナ様も今回の件同様”仮面の紳士”として正体を隠していたギュランドロス陛下の正体に気づかなかった話を聞いた事がありますわ……)

(エルミナ皇妃は、雰囲気や性格からして相当真面目な女性だったわよね?エルミナ皇妃という”前例”を考えると真面目過ぎる人程、真面目に考え過ぎてギュランドロス皇帝のような”あまりにもわかりやすすぎる変装”に騙されるかもしれないわね……)

(あっはははは!こりゃ、傑作だ!まさかあんなバレバレな変装に騙される大馬鹿がいて、それもクロスベルに戦争を仕掛けようと考える奴の下にいる幹部クラスの一人がその大馬鹿とはね。こんな大馬鹿は間違いなく、ルファディエルの”策”に利用されまくって、その”策”に対抗して自滅するタイプだね。)

一方クレア少佐の反応に冷や汗をかいてリィンと共に表情を引き攣らせたランディは信じられない表情でリィンに小声で囁き、リィンは戸惑いの表情でクレア少佐を見つめ、表情を引き攣らせて呟いたメサイアの念話を聞いたアイドスは苦笑しながら推測を口にし、エルンストは腹を抱えて笑った後口元に笑みを浮かべてクレア少佐を見つめていた。



「―――ここにいたか。リーヴェルト少佐。」

するとその時ミハイル少佐がリィン達に声をかけ、トワやレン、セレーネと共にリィン達に近づいてきた。

「……アーヴィング少佐。お役目、ご苦労様です。トワさんにセレーネさん、それにレン皇女殿下も本当にお久しぶりですね。」

「あはは………NGO絡みだったから、半年ぶりでしょうか?」

「ふふっ、わたくしとお兄様は年始のパーティー以来ですわね。」

「レンは去年の夏至祭にバルヘイム宮のパーティーに呼ばれて以来になるわね♪」

「再会の挨拶は後にしたまえ。そろそろ定刻だが………分校長や博士はどうした?見たところ報告にあった彼女の専用機も未だ分校にすら移送されていないようだが……」

「専用機……ですか?」

(サンドロッド卿専用の機甲兵……俺達も初耳だな。)

(え、ええ………レン教官でしたら、ご存知のような気もしますが……)

(うふふ、リアンヌお姉さんの”専用機”を知ったら、リィンお兄さん達も絶対驚くでしょうね♪)

クレア少佐とトワ達の再会の挨拶を中断させたミハイル少佐の疑問を聞いたトワは不思議そうな表情でミハイル少佐に視線を向け、セレーネはリィンと共に戸惑いの表情をした後レンに視線を向け、視線を向けられたレンが小悪魔な笑みを浮かべたその時

「――――それには及びません。」

リアンヌ分校長がシュミット博士と共にリィン達に近づいてきた。



「ご無沙汰しております。シュミット博士。そしてお初にお目にかかります、リアンヌ卿。」

「フン、TMPの小娘か。」

「ええ。これで”七日戦役”で戦死した貴族連合軍の”総参謀”を除けば”鉄血の子供達(アイアンブリード)”全員と(まみ)えたことになりますから、”子供達”の中で(まみ)えたのは貴女で最後になりますね、”氷の乙女(アイスメイデン)”殿。特別列車の引き渡しと現地までの同道、感謝致します。」

「もったいないお言葉。」

「そ、それよりも分校長、機体を運ばないというのは……」

「必要がないからです。――――今回の演習に私と博士は同行しませんから。」

ミハイル少佐の問いかけに対してリアンヌ分校長は驚愕の答えを口にした。

「………!?」

「ええっ!?そ、そうだったんですか!?」

「て、てっきり来られると思って計画書をまとめたんですけど……」

「ま、待ってください……それでは約束が違うでしょう!?現地での戦力計算は貴女の存在も見込んでいて――――」

リアンヌ分校長の答えにクレア少佐とセレーネは驚き、トワは戸惑いの表情でリアンヌ分校長を見つめ、ミハイル少佐が声を上げて反論をしかけたその時

「だからこそ、です。獅子は子を千尋の谷へという諺もあります。私が同行しては真の意味での成長も望めません。既に情報局にもメンフィル帝国政府を通して伝えてはいますが?」

「フン、地方での演習など私の研究に何の意味がある?各種運用と記録は弟子候補に任せた。微力を尽くしてくるがいい。」

「クク、なかなかガキ共の事をわかっているじゃねぇか。さすがは現代の”鉄騎隊”を育てた女の言う事だけはあるなぁ?」

「ったく、洒落になっていねぇぞ………ハア、あの正真正銘ドチートクラスの強さの”鋼の聖女”が味方だから、戦力面で言えば大分楽ができると思っていたんだがな……」

(くっ………)

(……そろそろ定刻です。後の対応は分隊に任せて出発するしかないかと。)

リアンヌ分校長の言葉にランドロスが感心している中、ランディは疲れた表情で肩を落とし、リアンヌ分校長とシュミット博士の正論に反論できないミハイル少佐が唇を噛みしめているとクレア少佐がミハイル少佐に助言をし

(……了解だ。ええい、なんと厄介な……!)

クレア少佐の助言に頷いたミハイル少佐は疲れた表情で呟いた。



午後8:55――――



そして出発の定刻が近づくと、集合した生徒達はリィン達教官陣とクレア少佐が見守っている中リアンヌ分校長と、見送りの為に現れたアルフィンとエリゼの激励の言葉を聞いていた。

「―――入学より3週間、いまだ浮き足立つ方もいるでしょう。ですが、先日の機甲兵教練も経て貴方達の扉は更に開かれました。そして古来より旅を人を成長させるともいいます。貴方達が一回り大きくなって還ることを期待しています――――以上です。」

「イエス・マム!!」

「皆さんが全員無事に帰って来る事を心より祈っております。皆さんに女神達の加護を……」

「―――いってらっしゃいませ。どうか、御武運を。」

「はいっ!!」

リアンヌ分校長とアルフィン、そしてエリゼの激励の言葉に生徒達は力強く答えた後次々と列車に乗り始め、リィン達教官陣も生徒達に続くように列車へと向かい始めた。

「ハーシェル教官、マーシルン教官、オルランド教官、ランドロス教官。雛鳥たちのことはよろしくお願いします。」

「……はい!お任せください!」

「うふふ、最低でも”特別カリキュラム”始まって早々”戦死者”を出すような無様な結果を持ち帰ったりはしないわよ♪」

「ま、大船に乗ったつもりでいな!」

「まあ、色々ありそうだが微力は尽くさせてもらうぜ。」

列車に乗る直前で呼び止めたリアンヌ分校長の言葉にトワ達はそれぞれ力強い答えを口にし

「そしてシュバルツァー教官とアルフヘイム教官。貴方達も既に気づいていると思いますが、エレボニアの”流れ”は北方戦役の終結を切っ掛けに変わりました。巨いなる力を持つ者達として流れを見極めてきなさい。己と向き合い―――時に周囲に頼りながら。」

「分校長………」

「…………」

リアンヌ分校長の言葉にリィンとセレーネは呆けていたが

「ええ―――承知しました!」

「はい!」

我に返るとすぐに力強く頷いた。

「兄様……どうか、お気をつけて。セレーネも無理せず、私達の代わりに兄様が無理をしないようにしっかり見ていてね。」

「はい、お任せください……!」

「ハハ………――――ベルフェゴール、リザイラ。俺達がいない間の二人の事は任せたぞ。」

エリゼの言葉とエリゼの言葉にセレーネが力強く頷いている様子を苦笑していたリィンはエリゼとアルフィンの背後を見つめて答え

「ふふふ、言われるまでもありませんよ。それが今の私達の”為すべき事”なのですからね。」

「うふふ、その代わり帰って来たらたっぷり可愛がってもらうわよ♪」

リィンの言葉を聞いて二人の背後の空間から姿を現したリザイラは微笑みながら答え、ベルフェゴールはウインクをし、ベルフェゴールの答えにリィン達は冷や汗をかいた。

「あの、リィンさん………本当にベルフェゴールさんとリザイラさんも連れて行かなくてよかったのですか……?演習は”何が起こるかわからない”との事なのですから、それを考えると生徒の方達の為にもお二人も連れて行くべきだと思うのですが……」

「心配しなくても大丈夫だ。いざとなったらメサイアやアイドスがいるし、俺達教官陣もついている。だから、安心してくれ。」

心配そうな表情で問いかけたアルフィンの言葉に対して優し気な微笑みを浮かべて答えたリィンはアルフィンの頭を優しくなでた。



「ぁ…………」

「……………」

「うふふ、久しぶりに出たわね、リィンお兄さんお得意の”無自覚笑顔での頭なでなで”が♪」

「さすがご主人様♪釣った魚にもちゃんと餌をあげ続けるというマメな事をしているからこそ、ハーレムの維持をできる上、更に増やす事ができるのよ♪」

「というか結婚をしていても未だに無自覚は治ってないんだね、リィン君……」

「だぁっはっはっはっはっ!さすがはあのヴァイスハイトに娘を”自分の女”にする事を認められた男だ!」

「ふふふ、相変わらず私達の期待を裏切りませんね。」

「ア、アハハ………」

「こっの、兄貴族が……ッ!これから”戦場”になるかもしれない場所に向かう俺達に見せつけやがって……!これだからリア充は……ッ!」

「フフ………」

リィンに頭を撫でられたアルフィンが呆けている中エリゼはジト目で二人を見つめ、レンとベルフェゴールはからかいの表情で、トワは疲れた表情で、ランドロスは豪快に笑い、リザイラは静かな笑みを浮かべてそれぞれ答えてリィンを見つめ、セレーネは苦笑し、ランディは悔しそうな表情でリィンを睨み、リィン達の様子をリアンヌ分校長は微笑ましそうに見守り

「―――はい!旦那様達の無事を信じて、旦那様達の帰りをお待ちしておりますわ!―――――ちゅ♪」

「ムッ………―――いってらっしゃいませ、兄様。――――ん……」

我に返ったアルフィンは誰もが見惚れるような笑顔を浮かべてリィンを見つめた後リィンの唇に軽い口づけをし、アルフィンの口づけを見たエリゼは頬を膨らませた後アルフィンのようにリィンに軽い口づけをし、アルフィンとエリゼの行動を見たランディやトワは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「は、はわわわっ!?え、えっと………1年半前よりも更に仲良くなったんだね、リィン君達……」

「畜生―――――ッ!ロイドといい、リィンといい、リア充局長やギュランドロスのオッサンといい、何で俺の周りの野郎に限ってリア充野郎が多いんだよっ!?頼むから、お前達のそのリア充力(パワー)を俺にも分けやがれ!」

「ア、アハハ………(未来のキーアさんの話だとランディさんの未来の伴侶の方はミレイユ大佐との事ですから、あの様子だとまだミレイユ大佐とはお付き合いをされていないようですわね…………というか、ワジさんも一部の層の女性達にとても人気のある方の上課長はソーニャ准将と夫婦だったとの事ですから、よく考えてみたらランディさんの仰る通り特務支援課の男性の方達はランディさんを除けば全員女性と縁がある方達ばかりでしたわね……)

我に返ったトワは頬を赤らめて慌て、ランディは悔しそうな表情で声を上げてリィンを睨み、その様子をセレーネは苦笑しながら見守っていた。

「機甲兵の運用と整備については一通り教えた通りだ。小破程度の通常整備なら何とか一人でやり切るがいい。Z・C・F(ツァイス中央工房)の誇りに賭けてな。」

同じ頃シュミット博士はティータに出発直前の指示を出した後激励の言葉をかけ

「はい………!お任せくださいっ!」

博士の言葉にティータは力強く頷いた。その後リィン達は列車に乗り込み、機甲兵やヴァリマール、そしてパテル=マテルを収納したデアフリンガー号は演習地に向けて出発した。



「フン………物は言いようだな、聖女?生徒、教官合わせて27名―――何人無事に戻ってくることやら。」

デアフリンガー号を見送っていたシュミット博士はリアンヌ分校長に視線を向けて指摘し

「フフ………―――激動の時代に”終焉”を告げる時は迫っています。彼我(ひが)も、(くに)も、老若男女の違いもなく……乗り越えられないのであればどのみち”明日”はないでしょう。」

シュミット博士の指摘に対して静かな笑みを浮かべたリアンヌ分校長は静かな口調で答えた後その場から去っていった―――――




 
 

 
後書き
え~……今回の話でおわかりかと思いますがまさかのクレアが仮面の紳士の正体が本気でわかりませんwwまあ、エルミナの例を考えたらクレアは予想している人もいたかもしれませんが(笑)それと今回エリゼとアルフィンはお留守番ですが、2章から参戦予定となっています。ちなみに二人の護衛を担当しているベルフェゴールとリザイラはアルフィンとエリゼと仮契約状態です。……え?どうやって契約したかって?それは勿論それぞれのキャラ同士とリィンを交えてエウシュリーシリーズ恒例の性魔術で……ゲフンゲフン! 

 

第13話

生徒達がデアフリンガー号で英気を養っている中、リィン達教官陣は演習地到着前のブリーフィングを行っていた。



~デアフリンガー号・2号車―――ブリーフィングルーム~



「―――今回の演習期間は3日間を想定しています。明朝、アルトリザス駅到着後、近郊の演習予定地へと移動―――各種設備を展開後、そのまま各クラスごとのカリキュラムを開始する運びです。」

「なるほど―――この列車がそのまま”拠点”になるわけですね。」

「そのための専用列車、ですか……」

「まあ、合理的っちゃ合理的だな。そのための設備も整ってるみたいだし。」

「ただなぁ、”装甲列車”って言う割には大砲の一つも搭載していないのが名前負けしているよなぁ。」

「あら、奇遇ね。レンも同意見よ。軍関係者の列車なんだから、列車に武装の一つや二つ、搭載してもおかしくないわよね♪」

「あの……レン教官。お願いしますから”カレイジャス”の時のように”持ち主”に無許可でデアフリンガー号に武装を搭載したり、何らかの機能を追加したりしないでくださいね?」

クレア少佐の説明にリィンやトワ、ランディが納得している中不満げな表情で呟いたランドロスの言葉に小悪魔な笑みを浮かべて同意したレンの発言を聞いたリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせたている中、セレーネは疲れた表情で指摘した。



「コホン。各クラスのカリキュラムについては別途、手元の書類を確認してほしい。」

ミハイル少佐の話を聞いたリィン達はそれぞれ書類を確認した。

「……あれ?すみません、Ⅶ組について言及がないみたいですが。」

「あ、本当だ……」

「もしかして、Ⅶ組は普段の授業のようにⅧ組かⅨ組と一緒に、どちらかのカリキュラムに取り組むのでしょうか?」

書類を確認してある事に気づいたリィンはミハイル少佐に指摘をし、リィンの指摘を聞いたトワは目を丸くして書類を再確認し、セレーネは自分の推測をミハイル少佐に問いかけた。

「いや、Ⅶ組については、少々特殊なカリキュラムが用意されている。他クラスとは独立した内容のため演習地到着後、別途ブリーフィングの時間を設けるつもりだ。その際、シュバルツァー教官とアルフヘイム教官に加え、Ⅶ組生徒3名にも同席してもらう。」

「生徒達と一緒にですか。」

「ふーん?思わせぶりじゃねえか?」

「ふふ……あまり構えないで頂ければ。あくまで”特務科”ならではの内容だからと思ってください。」

「特務科ならでは……」

「一体どのような内容なのでしょうね……?」

(うふふ、”あのⅦ組”と同じクラスの名を冠しているから、大体どんな内容なのかレンならわかるけどね♪)

(クク………”特務”科なぁ?あいつらが所属していた名前と似ている事からして、間違いなく関係はあるだろうなぁ。)

「……いずれにしても詳しい話は明日の朝、ですか。」

クレア少佐の言葉にリィンとセレーネが考え込んでいる中既に察しがついていたレンは小悪魔な笑みを浮かべ、ランドロスは口元に笑みを浮かべ、トワは静かな表情で呟いた。



「ああ、サザ―ラント州においても不穏な兆候が現れていると報告がある。分校長が同行しないのは誤算だが……現状の人員でなんとか回すしかあるまい。これは単なる訓練ではない―――あくまで実戦の心持で本演習に挑んでもらいたい。」

「―――了解しました。明日、改めて生徒達に召集をかけます。」

ミハイル少佐の言葉に頷いたリィンは答え

「よろしい、では本日のブリーフィングはこれまでとする。ハーシェル教官、マーシルン教官、ランドロス教官、オルランド教官は今夜中に生徒達への連絡を。各自休息を取り体を休めてくれたまえ―――以上、解散!」

ミハイル少佐の指示と解散を合図にブリーフィングは終了した。その後列車内を見回りながらⅦ組の生徒達に明日についての連絡をしたリィンは明日に備えて、自分に割り当てられている列車の部屋の寝台で休んだ。



4月22日、演習1日目―――



翌朝、デアフリンガー号は第二都アルトリザス駅に到着した。物資などの積み込みのため、30分ほど停車した後、再び発車し……都市の南西近郊にある演習予定地へと向かうのだった。



~アルトリザス駅近辺~



「……到着確認。はぁ……また厄介なタイミングで来たもんだね。」

出発していくデアフリンガー号の様子を見守っていた銀髪の娘は溜息を吐いた後ARCUSⅡを取り出して通信を開始した。

「―――こちら”妖精”。これより遊撃活動を開始する。協力者は既に確保。……もう少し増えるかも?そっちからの”助っ人”も期待できそうだし、心配は無用。じゃあね―――”サラ”。」

銀髪の娘――――旧Ⅶ組の生徒の一人であるフィー・クラウゼルは通信相手との通信を終えるとどこかへと去っていった。



~演習地~



午前6:30―――



演習地に到着後第Ⅱ分校の教官達と生徒達は協力して、演習地に”拠点”を築き、作業が終わるとⅧ組とⅨ組はそれぞれの担当教官達からカリキュラムについての説明を受け、Ⅶ組は担当教官であるリィンとセレーネと共に列車内でカリキュラムについての説明を受けていた。

「――――Ⅷ組戦術科は、戦闘訓練に機甲兵によるミッション演習……Ⅸ組主計科は、通信、補給、救護などの実戦演習を予定している。シュバルツァー教官以下5名、”Ⅶ組特務科”の主要活動は二つ。第一は『広域哨戒』―――現地周辺に敵性勢力がいないかなど、偵察を兼ねた”情報収集活動”だ。そして第二は『現地貢献』―――本演習を現地に肯定的に受け入れてもらうための”支援活動”となる。本分校では、この二つを合わせて『特務活動』と定義している。」

「…………………」

「その、何というか………」

「………軍として合理的なようでそうでないような印象ですね。」

(というか軍に関係するカリキュラムに見せかけていますけど………)

(要は”遊撃士”の真似事――――”特務支援課”や前の”Ⅶ組”とやっている事よね……)

ミハイル少佐の説明を聞いたユウナが呆けている中クルトは戸惑い、アルティナは静かな表情で呟き、ある事に気づいていたメサイアとアイドスは苦笑し

「ははっ……―――なるほど。ようやく理解できました。確かに”Ⅶ組”ですね。発案者もわかった気がします。」

「アハハ……わたくし達が分校に来た経緯や”前のⅦ組”の事を考えると、その方しか思い浮かびませんものね。」

「ふふ……その想像は間違っていないと思いますよ?」

リィンとセレーネの推測を聞いたクレア少佐は苦笑しながら肯定した。



「フン、人数が少ないとはいえ、”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”が率いる小隊(クラス)だ。第Ⅱ分校としては確実に結果を出してもらいたいものだな?」

「ええ―――了解しました。察するに、まずは現地の責任者と面会するという段取りですか?」

「話が早くて助かります。アルトリザス市の城館でハイアームズ侯爵閣下がお待ちです。早朝ではありますが、いつ伺っても大丈夫だそうです。」

「まあ……”四大名門”の当主の一人であるハイアームズ候自らが……」

「それは有り難いですね。」

クレア少佐の話を聞いたセレーネは目を丸くし、リィンは静かな表情で呟いた。

「サザ―ラント州を統括する”四大名門”の一角……」

「穏健派とは言われますがエレボニア最大の貴族の一人ですね。」

「”四大名門”って確かあのユーディット皇妃の実家と同じくらいの凄い貴族でしたよね?そ、そんな人にこれから会いに行くんですか?」

「あら、クロスベル出身のユウナさんはエレボニアの”四大名門”についてもご存知なのですね。」

「まあ、クロスベルには”カイエン公爵家”の”当主代理”であるユーディット皇妃殿下がいるのだから、その関係で”四大名門”も知ったんだろうな。………一応、俺とセレーネは面識があるからあまり構える必要はないだろう。―――まずは侯爵閣下に挨拶して”特務活動”に関係する依頼などを伺えばいいんですね?」

クルトとアルティナの話を聞いて驚いている様子のユウナのある言葉を聞いたセレーネは目を丸くしている一方、リィンは納得した様子で呟いてユウナに安心する言葉をかけた後ミハイル少佐とクレア少佐に確認した。



「ああ、それと第Ⅱ分校の到着と演習開始の報告も併せて頼む。地方で演習を行う場合、現地の行政責任者の許可が形式上どうしても必要だからな。」

「了解です。」

「わかりましたわ。」

ミハイル少佐の言葉にリィンとセレーネはそれぞれ頷き

「な、なんかまだ頭がついていけないけど……”特務科”ならではの活動がようやう始められるわけね……!」

「ああ……望むところだ。―――準備は万端です。さっそく出発しましょう。」

「右に同じく、です。」

クルトの言葉を合図にⅦ組の生徒達は立ち上がった。

「気合は十分みたいだな。よし、準備を整えしだい、アルトリザスに向かうぞ。」

その後準備を整えたリィン達は列車から降りた。



「―――アルトリザスに向かうには徒歩で街道を行く必要があります。実はこの後、原隊に戻る前に侯爵閣下と打ち合わせする予定なのでよかったら同行させてください。」

「そういう事なら、是非ご一緒してください。」

「フフッ、短い間ですがよろしくお願いしますね。」

「よろしくお願いします。リーヴェルト少佐。」

「ええ、アルティナちゃんも。」

リィンとセレーネに続くように声をかけたアルティナの言葉に頷いたクレア少佐はユウナとクルトに視線を向けた。

「ユウナさんにクルトさんでしたか。お二人ともよろしくお願いします。」

「は、はい!」

「ええ……こちらこそ。(特務活動といい、気になる事は多いが……ヴァンダールの名に賭けて最善をつくすだけだ。)」

視線を向けられたユウナは緊張した様子で頷き、クルトは静かな表情で頷いた後考え込んでいた。



その後リィン達はクレア少佐と共に街道を歩いてアルトリザスに到着後、ハイアームズ侯爵家の城館へと向かい、ハイアームズ侯爵との面会を始めた。



午前7:00―――



~”第二の白亜”アルトリザス・貴族街・ハイアームズ侯爵城館・執務室~



「―――いや、本当によく来てくれた。サザ―ラント州の統括を任されているフェルナン・ハイアームズだ。リィン君とセレーネ嬢は久しぶりだな。今年の年始のパーティー以来になるね。」

「ええ、お久しぶりです。」

「侯爵閣下も変わらずご健勝そうで何よりですわ。」

年配の男性―――ハイアームズ侯爵は自己紹介をした後リィンとセレーネと再会の挨拶をした。

「セレスタンさんも本当にお久しぶりです。」

「ええ、リィン様。去年、パトリック様を残してアルトリザスに戻ってしまいましたが立派に成長されて卒業なさった様子。これも1年半前の内戦に関わった際リィン様達の影響を受けたお陰でしょう。リィン様やセレーネ様を始めとする”特務部隊”やご学友の方々には感謝してもしきれません。」

「フフ、大げさですわよ。パトリックさんと共にいた時間は本当に短いものだったのですから。」

リィンに視線を向けられたハイアームズ侯爵の傍にいる執事――――セレスタンは恭しく会釈をした後答え、セレスタンの言葉にセレーネは苦笑しながら答えた。



「―――こちらも紹介します。Ⅶ組”特務科”の生徒達です。」

「は、初めまして。ユウナ・クロフォードです。」

「クルト・ヴァンダールです。………お初にお目にかかります。」

「アルティナ・オライオン。よろしくお願いします。」

リィンに自己紹介を促されたユウナ達はそれぞれ自己紹介をした。

「ふふ、君達が新たな”Ⅶ組”というわけか。まさか、ヴァンダール家の御子息までいるとは思わなかった。お父上にはお前にお世話になったお目にかかれて嬉しいよ。」

「……過分なお言葉、恐縮です。」

ハイアームズ侯爵の言葉に対してクルトは謙遜した様子で答えた。



「さて、リーヴェルト少佐。例の話だが……先にリィン君達への話をすませても構わないかな?」

「ええ、勿論です。詳しい状況も知りたいので可能なら同席させて頂けると。」

「ああ、構わないだろう。」

「―――ハイアームズ侯爵閣下。トールズ士官学院・第Ⅱ分校、サザ―ラント州での演習を開始した事をご報告申し上げます。」

ハイアームズ侯爵とクレア少佐の会話が一区切りつくと、リィンが宣言をした。

「了解した。よき成果が得られることを願おう。それと”要請”だが……―――セレスタン。」

「は。どうぞ、お受け取り下さい。」

ハイアームズ侯爵に視線を向けられたセレスタンはリィンに要請書を手渡した。



『重要調査項目』



サザ―ラント州において複数確認された、”謎の魔獣”の目撃情報に関する調査。



「これは……」

「重要調査案件……」

「な、謎の魔獣……?」

(もしかして……)

要請書に書かれているある部分を読み上げたリィンは真剣な表情をし、クルトは静かな表情で呟き、ユウナは戸惑い、ある事に察しがついたセレーネは考え込み

「閣下、これは……」

セレーネ同様既に察しがついていたクレア少佐はハイアームズ侯爵に視線を向けた。

「ここ数日、サザ―ラント州で不審な魔獣の情報が寄せられてね。場所は、このアルトリザス近郊、そして南東のパルムの周辺になる。―――できれば君達に魔獣の正体を掴んでもらいたい。」

「正体、ですか。」

「……重要案件と書かれてあるのですから、やはり普通の魔獣でない可能性が?」

ハイアームズ侯爵の説明を聞いたアルティナは静かな表情で呟き、セレーネは真剣な表情でハイアームズ侯爵に確認した。



「ああ……寄せられた情報によると……”金属の部品で出来たような魔獣”だったらしい。」

「……!」

「それは……」

「やはりですか……」

「……確かなのですか?」

ハイアームズ侯爵の答えを聞いて確信に到ったリィンやアルティナ、セレーネが顔色を変えた中クレア少佐はハイアームズ侯爵に訊ねた。

「見間違いの可能性はあります。ですが、歯車の回るような音を聞いたという情報もありまして。」

「領邦軍にも調査をさせたがいまだ確認はできていなくてね。……もっとも内戦以降、州内の兵士も大幅に減っている。正直な所、十分な調査ができていないという状況なんだ。」

「………………」

「領邦軍の縮小ですか……」

領邦軍が縮小した事がハイアームズ侯爵の口から出ると縮小した原因を知っているクレア少佐や察しがついていたクルトはそれぞれ複雑そうな表情をした。

「よくわからないけど……変な魔獣がうろついているから調べるっていう話ですよね?気味悪がってる人もいそうだし、放ってはおけませんね!」

「ああ……当然だ。―――承知しました。他の要請と合わせて必ずや突き止めて見せます。」

「それと可能ならば、”謎の魔獣”が現れた”原因”についても突き止める所存ですわ。」

「ありがたい……どうかよろしく頼むよ。Ⅶ組・特務科諸君―――サザ―ラント州での特務活動、どうか頑張ってくれたまえ……!

そしてハイアームズ侯爵の激励の言葉を受けたリィン達は執務室から退室した。



~エントランス~



「……それでは私は侯爵閣下との話があるためここで失礼しますね。先程の件についてはTMPや情報局にも伝えるので何か判明したら連絡します。」

「ええ……助かります。」

「できたらより正確な情報が欲しい所ですね。」

「ア、アルティナさん。」

「……?」

(何かあるのか……?)

クレア少佐の言葉にリィンが頷いている中静かな表情で呟いたアルティナの発言を聞いたセレーネが冷や汗をかいている中、事情がわからないユウナとクルトは不思議そうな表情でアルティナに視線を向けていた。

「リィンさん、セレーネさん、アルティナちゃん。ユウナさんにクルトさんも。どうか気を付けて――――演習の成功をお祈りしています。」

「はい!」

「ありがとうございます。……機会があれば、また。」

そしてセレーネとリィンの答えを聞いたクレア少佐はリィン達に敬礼をした後再び執務室へと向かった。



「……なんか、思わせぶりな話が多かったですけど……」

「結局、その魔獣の調査と何をすればいいんですか?」

「他の案件というのもあるようですが?」

「ああ―――改めて説明するか。4人とも、これを見てくれ。」

そしてリィンはセレーネ達に要請書を見せた。



「これは………」

「……………」

「……軍務とは無関係のただの手伝い、ですか?」

要請書に書かれている”要請”を読み終えたクルトは戸惑い、ユウナは呆け、アルティナは困惑の表情でリィンとセレーネに訊ねた。

「ああ、市民からの要請や大聖堂からの要請みたいだな。”必須”と書かれたものはなるべくやった方がいいが……”任意”と書かれたものはやるもやらないも自由だ。ただし、広域哨戒の観点からアルトリザスの街区は一通り回っておくべきだろう。―――それから、こちらが先程の『重要調査項目』の詳細だな。」

アルティナの問いかけに頷いたリィンは重要調査項目についての詳細をユウナ達に見せた。



「この①の魔獣の調査も含めてやるべき”要請”をクリアしたら南にあるパルムへ移動し……そこでの要請も検討しつつ、②と③の魔獣調査を遂行する。―――1日目の特務活動はこんな流れになりそうだな。」

「そうですわね……パルムへの移動時間を考えると午前中に①の魔獣の調査も含めてやるべき”要請”をクリアすべきでしょうね。」

「そうだな……そのぐらいがちょうどいいだろうな。」

「さ、さすがにハードすぎるような……」

「……強行軍ですね。どこまでやり切る必要が?」

リィンとセレーネの説明を聞いたユウナ達は冷や汗をかいた後ユウナはジト目で呟き、クルトは困惑の表情で訊ねた。

「そうだな―――任意の要請については君達3人の判断に任せよう。俺とセレーネはあくまで教官として見守らせてもらうだけにするから話し合って決めるといい。」

「勿論、”必須”の要請と魔獣の調査の件を踏まえて、話し合って下さいね。」

リィンとセレーネの話を聞いたユウナ達はそれぞれ目を見開いた。



「……なるほど。そういう方針ですか。」

「そもそも必須でないなら対処する必要もないのでは?」

「い、いやいや!困ってる人がいるならそうも行かないでしょ。まだ8時だし――――」

そしてユウナ達が話し合いを始めるとその様子をリィンとセレーネはかつてクロスベルで”特務支援課”として活動していた自分達と思い出して、ユウナ達と重ね合わせていた。

(……懐かしい光景ですわね。)

「(ああ……内戦の時といい、俺達は”こういう事”に縁があるかもしれないな。)まあ、その調子で3人で考えておいてくれ。―――それではⅦ組特務科、最初の特務活動を開始する。演習地に残った他のクラスにいい報告ができるといいな?」

セレーネに囁かれたリィンは頷いた後ユウナ達に活動の開始を宣言し、そして若干挑発も交えた問いかけをユウナ達にした。

「っ……言われなくても!」

「無論、最善は尽くします。」

「行動開始、ですね。」

リィンの言葉にそれぞれ目を見開いたユウナ達はそれぞれ返事をした後、特務活動を開始した―――――






 

 

第14話



~アルトリザス・聖堂広場~



”要請”の一つの猫探しで町中を歩き回っていたリィン達は空港の近くまできた。

「聖堂広場の空港方面………この近辺でしょうか。」

「うーん、こっちの方に向かったって話だけど……」

リィン達はとりあえず、周囲を探したが目当ての猫は見つからなかった。

「……駄目だ、見当たらないな。」

「それらしい気配もなさそうだ。多分、移動したのかもしれない。」

「そうですわね……わたくしも猫のような小さな魔力の持ち主もある程度の距離にいたら感じられますが、今も感じませんから、この周辺にはいないでしょうね。」

「それがわかるのもどうかと思いますけど……でも、ひょっとして空港の敷地へと入っちゃったのかな?」

「だとすれば……かなり広大でしょうし、捜索は難航しそうですね。」

一通り探し終えたクルトは溜息を吐き、考え込みながら呟いたリィンとセレーネにジト目で指摘したユウナは推測を口にし、アルティナが今後の捜索状況の推測を口ににしたその時

「なに、ネコ探してるの?」

赤毛の娘が空港方面から歩いてリィン達に近づいてきた。



「ッ!」

「……………」

「あ、えっと……」

「貴女は……?」

赤毛の娘の顔を見たセレーネは息を呑み、リィンは真剣な表情で黙って娘を見つめ、二人の様子に気づいていないユウナは戸惑いの表情で娘を見つめ、クルトは娘に問いかけた。

「アハハ、ただの通りすがりだけどね。さっきそこにいたネコと遊んでたから気になってさ。」

「ホ、ホントですか?」

「ちなみにその猫の特徴は……」

娘の言葉を聞いたユウナは驚き、アルティナは娘に訊ねた。

「明るいクリーム色の子猫だったけど。ちょっと遊んであげたら満足して行っちゃったんで、空港(そっち)にはいないと思うよ。」

「そうですか……特徴もドンピシャだし。」

「……ちなみにどちらへ去っていったかはわかりますか?」

「うーん、南西の住宅街になるのかな?飼い猫みたいだし、ご主人のとこに戻ろうとしてるのかもね。でもあのくらいの子猫だとまた迷いっちゃいそうな気もするけど。」

リィンの質問に対して娘は少しの間考え込んだ後推測を答えた。



「ありがとうございます。……元の街区に戻ったみたいだな。」

「でも、まだ迷ってそうだし、こうなったら虱潰しに捜すしかないかも!」

「非効率的ですが、現状では仕方ありませんね。」

「フフ、ならお姉さんからの助言(アドバイス)。イヌと違ってネコは人見知りだし臆病だからね。また迷ったとしたら、人通りの少ない方に向かう可能性が高いよ。そういった場所を捜してみるといいんじゃない?」

猫をまだ探す様子のクルト達を見た娘はクルト達に助言をし

「そうか……はい、わかりました!」

「……色々ありがとうございます。」

「助言までして頂き、本当にありがとうございました。」

「ふふっ、それじゃあ早く見つけてあげるんだね。」

そして娘はその場から去っていった。



「うーん、このあたりじゃ珍しそうなお姉さんだったわね。格好もベルフェゴールさん程じゃないにしても、大胆で攻めてるっていうか。」

「まあ、間違いなく旅行者だろうな。帝都あたりか、もしくは外国人かもしれない。」

「「………………」」

「……教官?」

娘の事についてユウナとクルトが話し合っている中、真剣な表情で黙って去っていく娘の後ろ姿を見つめていたリィンとセレーネに気づいたアルティナは不思議そうな表情で声をかけた。

「いや、何でもない。―――それより南西の住宅街か。一度、戻ってみるか?」

「ええ、もちろん!」

「人通りの少ない場所……何とか探してみよう。」

その後リィン達は娘の助言通り人通りの少ない場所を探してみると猫が見つかり、猫は私有地内にいた為、依頼人を呼んで来て猫を呼んでもらうと猫は私有地から出てきて依頼人の元へと戻り、要請を完了したリィン達は特務活動を再開した。



~北アルトリザス街道~



その後街での要請を終えたリィン達は魔獣調査をする為に報告書にあった場所の内の一か所に向かい、到着した。

「えっと、このあたりが報告書にあった場所かな?」

「北アルトリザス街道の外れ、第二都から50セルジュの地点……距離的には間違いなさそうだ。」

「………………」

「”魔獣”の気配は無さそうだが……(セレーネ、何か聞こえるか?)」

(………!ええ、聞こえま――――)

「で、何なんです?さっきから3人して。」

「どうやら謎の魔獣について心当たりがありそうですが?」

生徒達が周囲を見回している中生徒達と共に周囲を見回していたリィンはセレーネに念話を送り、リィンの念話に対して目を閉じて集中していたセレーネが答えかけたその時、ユウナとクルトがリィン達に訊ねた。



「心当たりというか蓋然性の問題ですね。」

「”歯車の音”をきしませる”金属の部品でできた魔獣”……他の可能性もあるかもしれないが、十中八九―――」

「!皆さん、構えてください!――――来ます!」

「Ⅶ組総員、戦闘準備!」

そして二人の質問にアルティナとリィンが答えたその時何かに気づいたセレーネはリィン達に警告し、警告を聞いたリィンは号令をかけて太刀を構え、ユウナ達も続くように武装を構えた。

「……!?」

「こ、これって……」

「的中、ですか。」

武装を構えた瞬間何かの音が聞こえ、音を聞いたクルトとユウナが驚いている中アルティナが静かな表情で呟いたその時、人形兵器達がリィン達の前に現れた!

「機械の魔獣……!?」

「ち、違う……!もしかしてクロスベルにも持ち込まれたっていう……!?」

「ああ――――結社”身喰らう蛇”が秘密裏に開発している自律兵器……”人形兵器”の一種だ……!」

「『ファランクスJ9』―――中量級の量産攻撃機ですね。」

(もしかしてシャーリィさんがアルトリザスにいた事と関係しているのでしょうか……?)

そしてリィン達は人形兵器達との戦闘を開始し、協力して撃破した。



「っ……はあはあ……」

「くっ……兄上から話を聞いた事はあったが……」

「戦闘終了。残敵は見当たりません。」

戦闘が終了し、ユウナとクルトが息を切らせている中アルティナは淡々とした様子で報告をし

「みんな、よく凌いだな。」

「お疲れ様です、皆さん。」

リィンとセレーネはそれぞれの武器を収めて生徒達に労いの言葉をかけた。

「って、それよりも!どうして”結社”の兵器がこんな場所にいるんですか!?」

「エレボニアの内戦でも暗躍し、メンフィルに滅ぼされたという謎の犯罪結社……まさか、その残党がこの地で再び動き始めているという事ですか?」

「可能性はある―――だが、断言はできない。開発・量産した人形兵器を闇のマーケットに流しているとも噂されているからな。」

「現にユウナさんもご存知かもしれませんが、かの”ルバーチェ”も結社が量産した人形兵器を手に入れ、警備代わりに”ルバーチェ”の拠点に人形兵器を徘徊させていたとの事ですわ。」

「以前の内戦で放たれたものが今も稼働している報告もあります。現時点での確定は難しいかと。」

「……なるほど。」

「はあ、だからクレア少佐もシリアスな顔をしてたわけね……」

「―――へえ、大したモンだな。」

リィン達が人形兵器の事をユウナとクルトに説明していると飄々とした声が聞こえ、声に気づいたリィン達が視線を向けると中年の男性がリィン達に近づいてきた。



「………?」

「あなたは……」

「おーおー、あの化物どもが完全にバラバラじゃねえか。お前さん達がやったのかい?」

男性の登場にアルティナとリィンが戸惑っている中、男性はリィン達に問いかけた。

「えっと、そうですけど……」

「手こずりましたが、何とか。」

「どうやらお揃いの制服を着ているみたいだが……ひょっとしてトールズとかいう地方演習に来た学生さんたちかい?」

「知ってるんですか!?」

「どこかで情報を?」

初対面の男性が自分達の事を知っている事にユウナは驚き、アルティナは男性に自分達を知っている理由を訊ねた。



「ああ、仕事柄そういう噂は仕入れるようにしててなぁ。しかし大したモンだ。随分、優秀な学校みたいだな?」

「ま、まあ、それほどでも。」

「まだまだ修行不足です。」

男性の高評価にユウナは照れ、クルトは謙遜した様子で答えた。

「――――トールズ士官学院・第Ⅱ分校、”Ⅶ組・特務科”です。自分とこちらの女性は教官で、この子達は所属する生徒たちとなります。あなたは……?」

「ああ、俺は何て言うか”狩人”みたいなもんだ。さすがに魔獣は専門外だが手配されて、倒せそうだったら仲間を集めて退治することもある。この魔獣どもも、噂を聞いて調べに来たんだが、まさか機械仕掛けとはなぁ。確か”人形兵器”ってヤツだろう?」

「ご存知でしたか……」

「一体どちらでその情報を耳にされたのですか?」

一般人と思われる男性が人形兵器を知っている事にリィンは若干驚き、セレーネは知っている理由を訊ねた。

「いや、前の内戦の時に妙な連中が放ったそうじゃねえか。俺の仲間うちじゃずいぶんと噂になってたぜ?」

「やっぱりそうなんだ………」

「……以前から各地で徘徊していたという事か……」

「ま、この辺りにはもういないみてぇだし、他を当たってみるかね。って、ひょっとしたらお前さん達も捜してるのか?」

「ええ……演習の一環としてですが。人形兵器に限らず、何かあったら演習地に連絡をいただければ。各種情報に、戦力の提供―――お手伝いできるかもしれません。」

「ハハ、そいつはご丁寧に。―――そんじゃ、俺は行くぜ。お前さん達も頑張れよ。」

「あ、はいっ!」

「そちらもお気をつけて。」

そして男性はリィン達に応援の言葉をかけた後、軽く手を振りながらその場から去っていった。



「ふふっ……面白いオジサンだったね。大きいのに飄々としてたからかあんまり強そうじゃなかったけど。」

「……少なくとも武術の使い手じゃなさそうだ。”狩人”と言ってたけど罠の使い手なのかもしれない。」

「”罠”ですか。」

「…………………」

「お兄様、どうかされたのですか?」

生徒達が去っていった男性の事について話し合っている中黙って考え込んでいるリィンが気になったセレーネは不思議そうな表情でリィンに問いかけた。

「ああ……少し、な。……念のため、近くに”残存”がいないか確認しよう。周囲1セルジュ内でいい。」

「……?まあ、別にいいですけど。」

「索敵を再開します。」

その後念の為に周囲を確認していたリィン達は行き止まりに到着した。



「行き止まり……?」

「あれ、おかしくない?さっきのオジサン、こっちから歩いてきてたよね―――!?えっ……!?」

男性が歩いてきた方向が行き止まりであった事に首を傾げたユウナはふと崖下を見ると信じられない光景があり、驚きの声を上げた。

「ユウナさん?」

「一体どうした――――」

ユウナの様子を不思議に思ったクルトとアルティナもユウナに続くように崖下を見ると、そこには先程自分達が戦った人形兵器達の残骸がいくつもあった。

「さ、さっきの人形兵器……?」

「ああ……なんて数だ。」

「……まだ微かに煙を発していますね。」

「―――やっぱりか。」

人形兵器達の残骸にユウナ達が驚いている中、リィンはユウナ達に近づいて静かな表情で呟いた。



「や、やっぱりって……あのオジサン、何者なんですか!?」

「まさか”結社”の……いや―――」

「”結社”の人間なら人形兵器を破壊するのは不自然かもしれません。」

「ああ、予断は禁物だ。いずれにせよ、あの口ぶりだとパルム方面でも遭遇する可能性もあるかもしれない。」

「そうですわね……パルム方面には目撃情報が2件もありますもの……」

「……そちらも人形兵器である可能性は高そうですね。」

リィンの予想を聞いたセレーネは頷いて考え込み、クルトは推測を口にした。

「―――いずれにせよ、まだ”必須”の要請が残っている。そちらを達成したら頃合いを見てパルムに向かおう。」

「……了解しました。」

「くっ、まさかこんな場所で人形兵器に出くわすなんて……」

「警戒レベルを引き上げた方が良さそうですね。」

その後リィン達は特務活動を再開し、”必須”の要請である七耀教会からの依頼―――”薬草の採取”の実行の為に薬草がある”シュタット大森林”に訪れていた。



~シュタット大森林~



「あっ……もしかしてあれなんじゃない!?」

「青紫の花弁……ラベンダーの特徴ですね。要請にあった『エリンの花』で間違いないかと。」

森林の奥地に到着し、薬草らしき花を見つけたユウナは声を上げ、花の特徴をよく見たアルティナは静かな表情で答えた。

「はあ、いい香り……確かにラベンダーの一種みたい。」

「ああ……ずいぶん落ち着く香りだな。」

風に乗って来た花の香りをかいだユウナとクルトは静かな笑みを浮かべた。

「目的地に到着だ。あとはこの薬草カゴに―――いや、まだだ!」

「―――来ます!」

するとその時何かの気配や音に気づいたリィンとセレーネが警告の声を上げたその時、大型の蜘蛛の魔獣の群れがリィン達を包囲した!

「ク、クモの群れ……!?」

「囲まれたか……!―――どうします、教官!?」

「問題ない。―――このまま迎撃する!各員、背後に気を付けつつ各個撃破に務めてくれ!」

「それと要請にあった薬草も含めて周囲に可燃物がある状況ですので、火属性アーツや火炎魔術の使用はできる限り控えてください!」

「りょ、了解です……!」

「迎撃を開始します……!」

そしてリィンの号令とセレーネの助言を合図にリィン達は戦闘を開始した!



「「「…………」」」

蜘蛛の魔獣達はそれぞれリィン達に脚で攻撃したり、糸を吐いて攻撃したりした。

「!」

「この……っ!」

「クラウ=ソラス。」

「―――――」

魔獣が自分に向けて吐いた糸の攻撃はリィンは側面に跳躍して回避し、脚による攻撃はユウナは自身の武装で、アルティナはクラウ=ソラスに受け止めさせて防いだ。

「二の型―――疾風!!」

「―――失礼!えいっ!!」

「風よ……!ハァァァァァ……ッ!――――斬り刻め!!」

反撃にリィンは電光石火の攻撃で敵全員を攻撃し、セレーネは全身に氷の魔力を纏って全身を回転させて足払いをして攻撃するクラフト―――アイスアラウンドで、クルトは双剣に風の魔力を纏わせて無数の斬撃と共に鎌鼬を生み出すクラフト―――エアスラッシュでそれぞれの敵を攻撃した。

「崩した!」

「頂き!」

「崩しましたわ!」

「追撃します!」

セレーネとクルトとそれぞれ戦術リンクを結んでいたユウナとアルティナはセレーネとクルトの攻撃が終わるとそれぞれ追撃を敵に叩き込んだ。



「「「……………」」」

「逃がさないわよ……!――――ヤァァァァッ!!」

「ダークアーム―――斬!!」

「―――――」

敵達は反撃をしようとしたがユウナが放った広範囲を銃撃するクラフト――――ジェミニブラストとアルティナに指示をされて放ったクラウ=ソラスに闇の魔力刃で広範囲を攻撃させるクラフト―――ダークアームを受けて怯み

「二の型―――大雪斬!!」

「そこですっ!―――スパイラルピアス!!」

「ハァァァァ……これで、沈め――――黒鷹旋!!」

リィンのクラフトを受けた敵は一刀両断され、セレーネのクラフトを受けた敵は細剣で急所を貫かれ、クルトのクラフトを受けた敵は双剣か放たれた漆黒の闘気の刃を受けた事によって上下が真っ二つになってそれぞれ消滅して、セピスを落とした!



「―――戦闘終了。残敵も見当たりません。」

「よし―――お疲れだ、みんな。」

「見た所怪我は誰もされていないようですわね。」

「ふう、びっくりしたぁ~………あんな数で出てくるなんて。」

「魔獣の凶暴化……噂は確かみたいだな。この森に上位属性が働いているのと何か関係があるんでしょうか?」

戦闘が終了し、ユウナが安堵の溜息を吐いている中クルトは疑問をリィンとセレーネに訊ねた。

「いや、見たところ大昔から霊的な場所ではあるんだろう。何が原因かはわからないが……まずは用事を済ませるとするか。」

「ええ、『エリンの花』ですね!それじゃあ、手分けしてさっさと集めちゃうとしましょ!」

「了解です。」

「ふふっ、勿論周囲の警戒を怠らずに収集してくださいね。」

その後リィン達は薬草を手分けして収集した。



「―――これで目標達成だ。あまり待たせても悪いし、アルトリザスに戻るとしよう。」

「そうですわね。”任意”の要請にあった魚も手に入れましたから、この森林での用事はもうありませんね。」

「ふう……了解です。綺麗だし良い香りもするけどとっとと帰った方がいいかも……」

「ああ、さっきの魔獣もそうだが、何が起こるかわからないというか……」

「……特に何も感じませんがこれ以上の滞在は無意味かと。」

「よし、それじゃあ―――――っ……!?」

アルトリザスに戻る指示をリィンが出そうとしたその時、突如リィンの心臓がドクンと鼓動をし、リィンは思わず胸を抑えて地面に跪いた。

「……!?」

「お兄様……!?」

「え……」

「教官……!?」

リィンの突然の様子に生徒達が驚いている中セレーネとアルティナがリィンに駆け寄り

「だ、大丈夫だ―――」

自分を心配するセレーネ達にリィンが答えかけたその時、何とその場の空間が突如緋色に染まった!

「!?これは………!あ…………」

突然の出来事に驚いたリィンはセレーネ達がしゃべらない所か、全く動く事がない様子に気づき、更にいつの間にか自分の傍に現れた金髪の少女に気づいて呆けた声を出した。



「……どうやら”結界”に反応したようじゃの。」

「……君は………」

金髪の少女の言葉が静かな表情で呟いている中、リィンは戸惑いの表情で少女を見つめていた。

「フフ……聞いていた通りか。じゃが、物事には然るべき順序というものがある。見たところ、ヌシの因果はようやく再び回り始めた様子……」

リィンを見つめて妖しげな笑みを浮かべた少女がリィンに近づこうとしたその時

「―――止まりなさい!リィン様に何をするおつもりですか!?」

「―――まずは貴女が何者なのか、名乗ってもらうわよ。」

メサイアとアイドスがそれぞれ自分達から現れてそれぞれの武器を少女に向けた。



「メサイア……アイドス……二人はこの空間の影響を受けていないのか……?」

「ええ、私は自力で影響を受けないように防いだけどメサイアはリィンの身体や魔力と同化していたお陰でしょうね。」

「……まさかこのような芸当を”彼女”以外にできる人物がいるとは思いもしませんでしたわ。」

自分達の登場に驚いているリィンにアイドスは静かな表情で説明し、メサイアは警戒の表情で少女を見つめながら呟いた。

「ほう………ヌシ達が話に聞いていたクロスベルの覇王と聖女の娘とかの”オリンポス”の星女神の末妹神か。――――なるほど。慈悲の女神の持つその”真実”を見極める”十字架(けん)”はまさに”神剣”と呼ばれて当然の莫大な霊力(マナ)を宿しておるの。」

一方武器を突き付けられた少女は興味ありげな様子でメサイアとアイドスを見つめ

「え……っ!?」

「……どうやらその口ぶりだとリィンだけではなく、私達の事も”私達の事を知っている誰か”から聞いたようね。」

少女が自分達の事まで知っているような口ぶりにメサイアが驚いている中、アイドスは静かな表情で呟いて少女を見つめた。

「フフ……そう睨まなくてもヌシ達の愛する男に危害を加えるつもりはない。」

「……確かに敵意等は感じられないわね。――――メサイア。」

「……わかりましたわ。」

少女の言葉を聞き、少女から敵意等が一切感じられない事を悟ったアイドスはメサイアに視線を向けた後それぞれリィンの身体と神剣に戻り、アイドスとメサイアが戻ると少女はリィンに近づいてリィンの頬に口づけをした。



「…………ぁ………(何か流れ込んでくる……?)」

少女の口づけによって自身の身体に何かが流れ込んでくることを感じたリィンは呆け

「フフ、ほんの心付けじゃ。―――此れより先はまだ早い。いずれ(まみ)えようぞ―――”灰の起動者(ライザー)”よ。」

リィンから離れた少女が意味深な言葉を残して消えた瞬間、空間は元に戻った。



「っ……!?」

「ちょ、ちょっと………………リィン教官!?」

「っ………大丈夫ですか……!?」

「えっと……その……もしかして、”あの力”を抑える為の”行為”が必要なのですか………?」

突然の出来事にリィンが驚いている中ユウナとアルティナは心配そうな表情でリィンに声をかけ、セレーネは生徒達を見まわした後頬を僅かに赤らめて気まずそうな表情でリィンに訊ねた。

「ああ、いや―――すまない、少しつまずいただけさ。それより……今、”そこに誰かいたか?”」

ユウナ達の言葉に対して苦笑しながら答えて立ち上がったリィンは少女がいた場所に視線を向けてユウナ達に訊ねた。



「へ……!?」

「それはどういう――――」

「……僕達5人以外、誰もいなかったと思いますが?」

(まさかとは思いますがミントさんのように”この周囲の空間を停止”させた何者かがお兄様に接触を……?)

リィンの質問にユウナ達が戸惑っている中ある事を察したセレーネは心配そうな表情でリィンを見つめた。

「そうか……そうだよな。まあいい、とにかくアルトリザスに戻るとしよう。この深い闇……何が現れるかわからないからな。」

「だ、だからそういう事を言わないでくださいってば!」

「ふう、とにかく森から出ましょうか。」

そして森から出る為にユウナとクルトが先に歩き始めた中、アルティナとセレーネは二人の背中を見守っているリィンに声をかけた。

(……大丈夫ですか?幼い頃のマスターの”力の暴走”のことはエリゼ様達から伺っていましたが、もしかして先程の出来事が……?)

(その……本当に性魔術で、お兄様に秘められている”力”を発散させなくても大丈夫ですか?)

(いや、本当に問題ない。”力の暴走”に関してはリウイ陛下達による特訓やエリゼやセレーネ達との性魔術で”力”の制御や発散ができるようになって以降、一度も無かった。心配させて済まない。二人とも特務活動に専念してくれ。)

(……はい。)

(……わかりましたわ。ですがもし性魔術が必要でしたら、いつでも申し出てくださいね。)

心配する二人に答えたリィンはユウナとクルトの後を追って行く二人に続くように歩き始めたが立ち止まって少女がいた場所に視線を向けた。

(……人か、魔か。確かに”何か”がいた筈だ。”記憶がないのは”ゾッとしないが嫌な感じはしていない……今は気に留めておくだけにしておくか。)

(…………メサイアだけでなく、私の正体や神剣(スティルヴァーレ)の事を知っている事………対象以外の時空間を停止させる程の高度な結界魔術の使い手……まさか先程の”彼女”はエマ達の関係者なのかしら……?)

少しの間考え込んだリィンは再び歩き始めてユウナ達の後を追い、アイドスは真剣な表情で少女の正体について考え込んでいた――――――




 

 

第15話



その後アルトリザスに戻って来たリィン達は大聖堂から聞こえて来るバイオリンの演奏が気になり、報告するついでにバイオリンの演奏を観賞する為に大聖堂の中に入った。



~七耀教会・アルトリザス大聖堂~



「ぁ……………………」

「うわぁぁ~~っ………!」

リィン達が聖堂に入ると何と、エリオットがたった一人でバイオリンの演奏をし、多くの人々がエリオットの演奏を観賞していた。

「あの方は……」

「……やっぱりか。」

「フフ、話には聞いていましたが、まさかこれ程の腕前だったなんて。」

「え―――」

エリオットを知っているような口ぶりで呟いたアルティナやリィン、セレーネの言葉を聞いたユウナは呆けた表情でリィン達に視線を向けた。その後も演奏は続き、エリオットが演奏を終えると観賞していた人々は大喝采をし、大喝采を受けたエリオットは恭しく頭を下げた後リィン達に気づくとウインクをした。

「い、今のって……」

「聞いた事がある……帝都でデビューしたばかりの天才演奏家がいるって。―――察するに教官達のお知り合いですか?」

「ああ……―――エリオット・クレイグ。トールズ旧Ⅶ組に所属していた君達の先輩にあたる人物さ。」

その後リィン達は観賞していた人々がが帰路についている中、エリオットにユウナ達を紹介した。



「―――初めまして。新しいⅦ組のみんな。前のⅦ組に所属していたエリオット・クレイグだよ、よろしくね。」

「……お噂はかねがね。Ⅶ組出身とは知りませんでしたが。」

「よろしくお願いします……!演奏、とっても素敵でした!」

「あはは、ありがとう。君達のことは先週、リィン達から聞いたばかりでね。アルティナとは実際にこうして顔を合わせるのは久しぶりだけど……うーん、ずいぶん雰囲気が違うねぇ?」

興奮している様子のユウナの言葉に対して苦笑しながら答えたエリオットはアルティナに視線を向け

「まあ、1年半前と比べると身体的に成長していますし、服装も若干異なりますので。」

視線を向けられたアルティナは静かな表情で答えた。



「それにしても、まさかこんな場所で改めて再会できるなんて思いもしませんでしたわ。巡業旅行で回られているのでしょうか?」

「うん、さっきアルトリザス駅に到着したばかりでね。この大聖堂を拠点に数日ほど活動する予定にしているんだ。リィン達の演習に重なったのはちょっとラッキーだったかな?」

セレーネの問いかけに頷いたエリオットは笑顔を浮かべ

「ああ、そうだな。……ラッキーというにはタイミングが良すぎる気もするが。」

「た、確かにそうですわね……」

「ステラさんとフォルデさんがセントアークを訪れている事を考えると、あまりにもタイミングが良すぎますね。」

リィンも頷いた後苦笑し、リィンの言葉にセレーネとアルティナはそれぞれ同意した。

「ギクッ……あはは、何のこと?」

「???」

「………………」

リィン達の言葉に対して一瞬表情を引き攣らせた後苦笑で誤魔化したエリオットの様子をユウナは不思議そうな表情で見つめ、クルトは静かな表情で見つめていた。



「まあ、それはともかく今はちょうど忙しくてさ。改めて連絡するけど会う時間は作れそうか?」

「うん、大丈夫だと思う。夜になっちゃいそうだけど。実はこれからここで―――」

「すみません、エリオットさん。子供達がそろそろ……」

リィンの問いかけに頷いたエリオットが説明をしようとしたその時シスターが近づいてきてエリオットに話しかけた。

「あ、はい。こちらは大丈夫です。――実はアルトリザスの子供達に演奏のコツを教える事になってさ。」

「わぁ……演奏教室ですか!」

「そうか……子供達も喜ぶだろうな。」

「ええ……先程の演奏もきっと観賞していたでしょうから、皆さん、首を長くしてエリオットさんをお待ちしているでしょうね。」

「ふふっ、君達は特別演習――――じゃなくて”特務活動”だったっけ。初日みたいだし、無理しすぎないように頑張ってね?」

その後エリオットは聖堂にある日曜学校で使われる教室を借りて子供達に演奏について教え始めた。



「大盛況ですね。」

「デビューしたばかりなのにあんなに人気があるなんて……」

「レコードの売り上げもかなり良いとは聞いたけど……」

エリオットの演奏教室を見守っていた生徒達はエリオットの演奏教室に多くの子供達や保護者達が集まっている様子を見て驚き

「ああ、先月出たデビューアルバムのことだな。」

「わたくしやお兄様も購入して観賞しましたけど、とても癒される演奏でしたわ。」

リィンの言葉に続くようにセレーネは微笑みながら答えた。

「ふふ、まさか皆さんがお知り合いだったなんて。―――お願いしていた物も無事採取されたそうですね?部屋で大司教がお待ちですのでよろしくお願いしますね。」

「あ、はい!」

「それじゃあ届けるか。」

その後薬草を依頼人である大司教に届けたリィン達はパルムに向かう為に駅に向かったが、脱線事故が起こった為しばらく列車は動きそうになく徒歩でパルムに向かおうとしたが、そこにセレスタンが現れ、列車の代わりの移動手段としてリィン達の為にハイアームズ侯爵が馬を用意したとの事で、リィン達はハイアームズ侯爵の好意に甘えて馬に騎乗してパルムに向かい始めたが、途中経過を報告する為に演習地に寄った。



午後12:50――――



~演習地~



「チッ……まさか人形兵器が本当にうろついていたとはな。しかもその中年オヤジ、どう考えても只者じゃねえだろ。」

演習地に戻って来たリィン達の報告を聞いたランディは舌打ちをした後厳しい表情をした。

「ええ、飄々としてましたけどそれが逆に底知れないっていうか……人形兵器を倒したってことは結社関係じゃなさそうですけど。」

「そうか……―――1年半前の内戦で放たれた可能性もあるんだよな?」

「ええ……今までも何件か各地で報告されていますね。その意味で、結社の関与を決めつけるのも早計ですが………」

「―――それはどうかしらね?」

ランディの問いかけに頷いたトワが答えを濁したその時、レンは静かな表情で意外な事を口にした。



「え………」

「ほう?それは一体どういう意味だ?」

レンの指摘にトワが呆けている中ランドロスは興味ありげな様子でレンに訊ねた。

「うふふ、だってリィンお兄さん達は”アルトリザスで既に結社関係と思われる人物とも会っているもの。”」

「ええっ!?あ、あたし達がアルトリザスで……!?」

「一体誰の事―――いえ、それ以前に何故レン教官はアルトリザスで僕達が会った人物達を把握しているのですか?」

「レ、レン教官、まさか……」

「”例の能力”を使ったんですか……」

「幾ら教官とはいえ、わたし達に許可なくその能力を使うなんて、プライバシーの侵害だと思うのですが。」

レンの答えを聞いたユウナは驚き、クルトの質問を聞いてレンが自分達の記憶を読み取った能力を使った事を悟ったセレーネは表情を引き攣らせ、リィンは疲れた表情で溜息を吐き、アルティナはジト目で指摘した。



「レン教官の”例の能力”……ですか?」

「一体どんな能力なんですか?」

「うふふ、それはヒ・ミ・ツよ♪―――それよりもリィンお兄さんとセレーネは空港で出会った人物をみんなにも教えてあげたら?特にその人物がアルトリザスにいる事はランディお兄さんにとっても他人事じゃないし。」

クルトとユウナの疑問を小悪魔な笑みを浮かべて誤魔化したレンはランディに視線を向けて意味ありげな笑みを浮かべ

「へ……ランディ先輩にとって他人事じゃないって、どういう事なんですか??」

「おい、まさかとは思うが………」

レンの言葉にユウナが首を傾げている中既に察しがついていたランディは目を細めてリィンとセレーネを見つめた。

「はい………”任意”の要請の最中にアルトリザスの空港方面でシャーリィさんと会いましたわ。」

「クソッ………演習初日早々で奴かよ。」

「ほう?パティとルイーネにボロ負けしたというあの小娘か。」

そしてセレーネの答えを聞いたランディは厳しい表情である人物の顔を思い浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべた。



「え、えっと……?」

「空港方面と言うと………仔猫の捜索の時に助言をしてくれた女性の事ですか。教官達はその女性の事を知っている様子ですが、一体何者なのでしょうか?」

ランディとランドロスの様子にユウナが戸惑っている中クルトは真剣な表情で訊ねた。

「”シャーリィ”という人物にオルランド教官が関係している………―――なるほど。という事はあの人物が”赤い星座”の”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”だった為、教官達は彼女を警戒していたのですか。」

するとその時アルティナは静かな表情で呟き

「あ、”赤い星座”ですって!?しかもあの人が”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”だったなんて……!」

「えっと……その様子だとユウナちゃんは”赤い星座”について知っていたの……?」

アルティナの話を聞いて血相を変えて立ち上がったユウナの反応を見て、ユウナが”赤い星座”を知っている事を意外に感じたトワは目を丸くしてユウナに訊ねた。

「あ、当たり前ですよ!”赤い星座”………”D∴G教団”事件後にクロスベルに居座り始めた猟兵団で、”西ゼムリア通商会議”の件でクロスベルから追い出された後黒月(ヘイユエ)や結社の猟兵達と一緒にクロスベルを襲撃したクロスベルにとって超極悪人の集団です!しかも”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”はその超極悪人の集団の中でもとんでもない極悪人で、クロスベルの鉱山町であるマインツ襲撃の際に多くの警備隊の人達の命を奪った挙句、クロスベル襲撃の際アルカンシェルにまで襲撃して”炎の舞姫”の二つ名で世界的に有名なアーティストでもあるイリアさんに重傷を負わせたんですよ!?」

「その話は聞いた事がある………ディーター・クロイス元大統領が雇った猟兵達によるクロスベル襲撃の件でアルカンシェルのイリア・プラティエも重傷を負った話は知っているが、まさか彼女が”炎の舞姫”に重傷を負わせた張本人だったとは……それにしても、何故教官達がその人物の事を?」

ユウナの答えを聞いたクルトは静かな表情で呟いた後リィンとセレーネに訊ねた。




「事情があって、俺とセレーネは短期間だったけどクロスベル警察のランディと同じ部署に所属していたんだが……俺とセレーネは直接戦った事はないが、ランディ達はディーター・クロイスからクロスベルを解放した直後に突如現れた”碧の大樹”の攻略の際、クロイス家に雇われていた彼女とも剣を交えた事があったんだ。」

「ちなみにシャーリィさんの本名は”シャーリィ・オルランド”で、ランディさんにとって従妹にあたる方ですわ………」

「あ…………」

「………なるほど。」

「ランドルフ教官……」

「―――ま、そう言う訳だ。まあ、”赤い星座”自体叔父貴を含めた多くの猟兵達がリア充皇帝達によるクーデターで”六銃士”や六銃士派”の連中に殺害されたんだが……あの虎娘は悪運だけは強いようで、そこの超物騒な”天使”の暗殺の刃から逃れた後、”六銃士”達との戦いで逃げ延びて僅かに生き残った猟兵達と共にクロスベルから撤退したのさ。その後壊滅的な被害を受けた事によって衰退した”赤い星座”の立て直しをしながら、最高幹部達の死で崩壊したはずの結社と手を組んだという情報を耳にしていたんだが………」

「超物騒とは失礼ね~………ホント、あの時”道化師”に邪魔をされて止めを刺せなかったのは残念だったわ。あんなことになるんだったら”煌魔城”で”道化師”の相手をオリビエお兄さん達に任せずに、レン達の手で”道化師”を殺しておくべきだったと何度か思った事があるわ。」

リィンとセレーネの説明を聞いたユウナは気まずそうな表情で、クルトは静かな表情で、トワは心配そうな表情でそれぞれランディを見つめ、ランディは静かな表情で説明し、レンの話を聞いたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「だから、そういう所が物騒だって言っているだろうが。それにしても、初日で俺達があの虎娘に関わる事になるかもしれない情報を知るなんて、先が思いやられるぜ……」

「あの小娘の動向も気になるが、問題は人形兵器共の出現とあの小娘が関係しているかだな、」

ランディは呆れた表情でレンに指摘した後疲れた表情で溜息を吐き、ランドロスは真剣な表情で呟き

「ええ。パルム方面にも人形兵器の件で2件、似たような報告が上がっています。警戒するに越した事はないでしょう。」

「だな……」

リィンの話にランディは静かな表情で頷いた。



「そういえば……ミハイル教官の姿がありませんね。」

「あ、ホントだ。いつもガミガミうるさいのに。」

「……ひょっとして先程起きた脱線事故の関係で?」

ミハイル少佐がいない事に気づいたアルティナの言葉を聞いたユウナが不思議そうな表情をしている中クルトはランディ達にミハイル少佐の状況を確認した。

「あはは……うん。現場に顔を出してくるって。落石が原因らしいけどケガ人も殆どいないみたい。」

「そうですか……良かった。」

「ええ……本当に良かったですわ。」

「……脱線事故と聞くと前にクロスベルでもありましたね。」

「そうだな……ありゃ、重傷者が何人も出たが。―――しかしまあ、特務科も頑張ってるみたいじゃねえか?」

「ふふっ、そうですね。教官に頼りきりにならずにみんな頑張ってるみたいだし。」

「うふふ、本当にどこかの警察の”某部署”みたいに見えてきたわね♪」

「クク、雛鳥でありながら初日で結社の人形兵器を撃破するなんざ、中々やるじゃねぇか。」

「えへへ……そうですか?」

「まあ、それほどでも。」

「まあ、まだ半分です。あまりほめると気が緩みそうですし程々にしておいてください。」

「ふふっ、そうですわね。気が緩む事もそうですが、調子に乗って分不相応な事までする可能性も考えられますものね。」

ランディ達教官陣に褒められたユウナとアルティナが得意げな様子でいる中リィンは謙遜した様子で指摘し、リィンの指摘に対してセレーネは苦笑しながら同意した。



「って、何ですかその子供扱いみたいなコメントは!」

「不本意ですね。油断などしませんし、緊急事態以外自分達では不可能と思われる事に挑むような事はしません。」

「―――教官達の評価はともかく。”Ⅶ組”に”特務活動”――――どういう背景で設立されたのか何となく見えてきた気がします。」

リィンとセレーネにユウナとアルティナが文句を言っている中、ある仮説が頭に浮かんだクルトは静かな表情で答えた。

「ええっ……!?」

「へえ……?」

「……………」

「演習地周辺での情報収集、そして民間の依頼への対応―――哨戒だの、現地貢献だのもっともらしい理由が最初に説明されていましたが………要は”遊撃士協会(ブレイサーギルド)”と同じことをさせているんでしょう?」

「ああっ!?い、言われてみれば……」

「”遊撃士協会(ブレイサーギルド)”――――大陸全土にある民間の治安維持・調査組織ですね。エレボニアにも存在しますが、現在、活動が制限されているという。」

クルトの推測を聞いたユウナは声を上げて目を丸くし、アルティナは静かな表情で答えた。



「あはは……鋭いねぇ、クルト君。」

「うーん、聞いた時から俺も既視感(デジャヴ)があったんだが。」

「はは……エリオット達――――旧Ⅶ組の面々も”特別実習”という名前だったそうだが、同じことに気づいたそうだ。」

「うふふ、だけど演習初日早々で気づくなんて、ずいぶん鋭いわね?」

「別に……心当たりがあっただけです。―――察するに、この”Ⅶ組”を提案したのはオリヴァルト・アルノール殿下……皇位継承権を放棄された第一皇子その人なんでしょう。」

「そこまで………」

「ほう?」

「そういや、ヴァンダールって確か皇子の護衛をしてた……」

クルトの推測が完全に当たっている事にトワは驚き、ランドロスは興味ありげな表情をし、ある事を思い出したランディは目を丸くした。



「ランドルフ教官もご存知でしたか。自分の兄、ミュラーの事でしょう。―――皇子殿下が以前より遊撃士協会と懇意にされているのは自分も聞き及んでいます。1年半前の”七日戦役”の件で遊撃士協会自らがエレボニアから完全に撤退しようとした件を知った時も、様々な”伝手”に頼って思いとどまらせた事も聞き及んでおります。」

「うふふ、ちなみにレンもオリビエお兄さん―――オリヴァルト皇子の頼みでエレボニア帝国との縁を切ろうとしていた遊撃士協会を仲裁してあげたのよ♪」

「ええっ!?レ、レン教官が!?」

「どうせ、その嬢ちゃんの事だから、絶対何か”見返り”を求めてから仲裁したんじゃねぇのか?」

「ア、アハハ………」

クルトの説明を補足したレンの答えにユウナが驚いている中呆れた表情でレンを見つめて呟いたランディの言葉を聞いたセレーネは苦笑していた。

「何らかの理由で、トールズ本校が”あのような形”に生まれ変わって……理事長を退かれた皇子殿下がせめてもの”想い”を託された。……違いますか?」

「うん……そうだね。」

「はっきり聞いたわけじゃないが多分、間違いないだろう。」

「そうですわね……旧Ⅶ組の設立理由も考えると、間違いないでしょうね。」

クルトの推測を聞いたトワやリィン、セレーネはそれぞれ静かな表情で肯定した。



「なるほど……そういう背景でしたか。」

「オリヴァルト皇子……そんな人がエレボニアにいるんだ。」

「ああ、とても尊敬できる方だ。―――もっとも、この件については”自己満足”にしか思えないが。」

「えっ………」

「ク、クルトさん……?」

「………………………」

「ほう~?”アルノール家の懐刀”と謳われた家の出身にしては、中々辛辣な指摘じゃねえか。」

「うふふ、”元”がつくけどね。―――ああ、もしかして”その件”も関係しているから、リィンお兄さんに嫁いだアルフィン夫人と違って今もアルノール皇家の人物であるオリビエお兄さんに対しても辛辣になったのかしら?」

クルトの意外な指摘にトワとセレーネが戸惑っている中リィンは真剣な表情で黙ってクルトを見つめ、口元に笑みを浮かべたランドロスに指摘したレンは小悪魔な笑みを浮かべてクルトに問いかけた。

「別に……あの件とは一切関係していません。”Ⅶ組”に”想い”を託したオリヴァルト皇子殿下に対しての指摘は僕個人が感じた事です。」

「ちょっ、それって遊撃士を見習うことがってこと?エレボニアじゃ知らないけどギルドは正義の味方として―――」

「当然、知ってるさ。……多分君と同じくらいは。だが、理想と現実は違う。現にエレボニアのギルド支部の殆どは閉鎖されたまま再開されていない。彼らに共感し、協力しようとしていたオリヴァルト殿下や”光の剣匠”、そして――――………志を共にした者達も今のエレボニアでは無力な存在だ。そんな流れにあるのが”特務活動”で”Ⅶ組”なのだとしたら……”自己満足”以外の何者でもないと思わないか?」

「………っ…………」

「………………」

「クルト君………」

「………ふむ………」

「――――ま、確かにそういう見方もあるわね。」

「……だな。」

クルトの指摘に反論できないユウナとアルティナが黙り込んでいる中トワは複雑そうな表情をし、ランディは真剣な表情でクルトを見つめ、静かな表情で肯定したレンの言葉にランドロスは頷いた。



「――なるほど、学院に入る前に色々思う所があったみたいだな。大した慧眼だが、クルト……一つ忘れていることはないか?」

一方リィンは動じることなく静かな表情でクルトに問いかけた。

「?……何です?」

「殿下の希望とは関係なく―――Ⅶ組の特務活動が第Ⅱの正式なカリキュラムとして各方面から認められていることだ。」

「ええ……今のエレボニアでのオリヴァルト殿下の立場はとても厳しいものなのですから、そんな立場のオリヴァルト殿下が分校とはいえ士官学院のカリキュラムに介入できないと思いますわ。」

「……!」

リィンとセレーネの指摘を聞いたクルトは目を見開き

「シュミット博士や帝国政府の思惑も確実に特務科設立と絡んでいるだろう。それぞれ、俺達を”駒”として見込んでいるのかもしれない。多分、殿下の希望は”きっかけ”に過ぎないはずだ。」

「そ、それは……―――もっとタチが悪いと言う事じゃないですか!?」

リィンの正論に一瞬反論できなかったクルトだったがすぐに気を取り直して反論した。

「物事には両面がある……決めつけるなということさ。君は随分頭が切れるがどうも考え過ぎるところがある。今日、半日かけてやったことをどうして否定的な側面だけで判断しようとするんだ?」

「………っ………」

しかし更なるリィンの正論に反論できなかったクルトは唇を噛みしめて顔を俯かせた。



「その、あたしも同感っていうか……やり甲斐はあったし、重要な情報もゲットできたから無駄なんかじゃないと思うよ?」

「まあ、総合的な結論を出すには早いのではないかと。」

「……納得はしていませんが詮無い愚痴はやめておきます。いずれにせよ、務めである以上、第Ⅱ分校の生徒として―――ヴァンダールに連なる者として全力で当たるだけです。」

ユウナとアルティナの指摘を聞いて少しの間考え込んだクルトは自身の結論を口にした。

「ああ、今はそれでいい。俺達に言われたくはないだろうがその先は自分で見つけてみてくれ。」

「……っ……了解です……!」

「うふふ、同じヴァンダールに連なる者でも、フォルデお兄さんとは大違いよねぇ?」

「レン教官……フォルデ先輩は色々な意味でヴァンダールに連なる方として変わっている人ですから、比較対象にする事自体が間違っていますよ……現にフォルデ先輩の弟であり、俺やステラの同期であったフランツもミュラー中佐やクルトのように、とても真面目な人物なのですから……」

「確かにフォルデさんを比較対象にするのは色々な意味で間違っていますね。」

「というかお二人は正確に言えば”先祖がヴァンダールの人物”なだけですけどね……」

クルトの様子を見て小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉にリィンは疲れた表情で指摘し、アルティナはジト目でリィンの指摘に同意し、セレーネは苦笑していた。

「………?」

(”フォルデ”……話に聞いていたかつてリィン教官達と同じ”特務部隊”の所属にして、1年半前の内戦を終結させた僕達の先祖―――ロラン・ヴァンダールの妹君の子孫であり、ロランの死によって失われた”ヴァンダールの槍”を受け継ぎ続けた”もう一つのヴァンダール”の家系の人物か……一体どのような使い手なのか、ヴァンダール家の者として気になるな……)

レン達の会話を聞いていたユウナは何の事かわからず不思議そうな表情で首を傾げ、クルトは真剣な表情でリィン達を見まわした後考え込んでいた。

(Ⅶ組か……ユウ坊が入るっていうのはちょっとばかり心配だったが。……やっぱり教官達も含めてなかなか面白そうじゃねえの。)

(クク、見ている方にとっても、当事者にとっても退屈はしないだろうな。)

(ふふっ、そうでしょう?)

一方リィン達の様子を興味ありげな様子で見守っていたランディとランドロスの小声の言葉を聞いたトワは微笑みながら答えた。



その後報告を終えたリィン達は馬でパルムへと向かい始めた――――




 

 

第16話

パルムへと向かい始めたリィン達はパルムに向かう途中で脱線事故の現場を見かけた為、状況を確認する為に事故現場に近づいて現場を指示しているミハイル少佐から情報を聞いた後再び、パルムへと向かい始めたがその様子をある人物達が遠くから見ていた。



~南アルトリザス街道~



「フフン……大事な時期に面倒な連中が来ましたわね。1年半ぶりですか―――黒兎もそうですが、随分と変わりましたわね。あの年齢の男子ならば珍しくはないのでしょうが……まあ、まだまだ未熟でしょう。」

パルムへと向かうリィン達の様子を見ていた騎士装束の娘は不敵な笑みを浮かべて呟き

「あはは、なんか嬉しそうじゃん。」

その様子を見ていたリィン達が空港付近で出会った赤毛の娘は面白そうに見ていた。

「う、嬉しそうになんてしていませんっ!」

「ふふっ、さっき話した時も思ったけど……噂で聞いていたよりも更に腕が立ちそうじゃん。ランディ兄とどっちが上かな?1年半前の内戦を終結させた後クロスベルの奪還の際にランディ兄達と合流してそのまま”碧の大樹”にもランディ兄達と一緒に来たそうだけど、”結界”の解除の為の同時攻略でランディ兄達はシャーリィの所に来て、向こうはヴァルドの方に行っちゃったから結局戦う機会は無かったんだよね~。ちょっと愉しみかも。」

「”赤い死神”ですか……なかなかの腕前でしたけど。いずれにせよ、”彼女”も含めてわたくし達の敵ではありませんわね。せいぜい今回の実験の”目くらまし”として役に立ってもらいましょう。」

赤毛の娘の言葉を聞いてある人物を思い出したデュバリィは静かな表情で推測をした。

「そうかな~?1年半前の内戦やメンフィルとの戦争でそっちは何度もボロ負けしたんじゃなかったっけ~?」

「ぐっ……あ、あれは”殲滅天使”を始めとしたメンフィルの卑劣な策や、容姿どころか強さまで”嵐の剣神”とそっくりな人物という予想外の戦力がいたせいですわ!」

赤毛の娘の指摘に対して騎士装束の娘は唸り声を上げた後必死に言い訳をした。



「ま、何でもいいけどさー。―――ちょっと、味見するくらいは構わないとか思わない……?」

「っ………まったく貴女たちナンバー持ちと来たら……――――いいですか!我らにとって待ち望んでいた”大いなる計画”の再開です!貴女も衰退したとはいえ、結社入りしたのならば少しは――――」

凄まじい殺気を纏って不敵な笑みを浮かべた赤毛の娘に視線を向けられた騎士装束の娘は一瞬怯んだ後気を取り直して赤毛の娘に注意をしようとしたが

「まーまー、折角だからお互い目いっぱい愉しもうよ♪」

赤毛の娘は笑って軽く流した後、何と一瞬で騎士装束の娘の背後を取った!

「な……!?きゃあっ!ちょっ、何を――――あうん!やあっ、アアアン……!」

「うーん、小ぶりに見せかけてベルお嬢さんくらいはあるよねー。お仲間の二人と比べたら控えめかもしれないけどこれはこれで好きだなぁ♪」

騎士装束の娘の背後を取った赤毛の娘は騎士装束の娘の胸をもむことを楽しみ

「ちょ、ちょっと……!シャレになってないですわよ!?いい加減に――――いやああっ!!?」

騎士装束の娘は離れようともがいたが、赤毛の娘を離す事はできず赤毛の娘が気が済むまで、胸を揉まれ続けた。



「はあはあ……この娘……あまりにフリーダム過ぎますわ……ううっ………お母様………マスターぁぁぁぁああっ………!」

「う~ん……さーてと……せっかくのエレボニア再デビュー、派手に飾らせてもらおっかな?相手にとって不足はなし―――”サプライズゲスト”も期待できそうだしね♪」

騎士装束の娘が嘆いている中、赤毛の娘はリィン達が去った方向を見つめて不敵な笑みを浮かべていた。







その後パルムに到着したリィン達は、街を見回りながらクルトが昔住んでいたヴァンダール流の道場に近づいた。



~”紡績町”パルム~



「そうか、ここが――――」

「ええ、ヴァンダール流の道場です。はは……でも懐かしいな。小さい頃はここに住んでいましたし。」

「ふふっ、そうなんだ。でも、ヴァンダール流ってエレボニアじゃすごい流派なのよね?お弟子さんとか多そうだし、どうして閉鎖しちゃったの?」

「それは………大した事情じゃないさ。これも時代ってところかな。」

「へ…………」

「……………」

(……そう言えばヴァンダール家と言えば………)

(恐らく”あの件”とも関係しているのでしょうね……)

ヴァンダール流の道場が閉鎖した理由を言葉を濁して誤魔化したクルトの答えにユウナが呆けている中、事情を知っているリィンは目を伏せて黙り込み、ある事を思い出したアルティナは静かな表情で、セレーネは複雑そうな表情でそれぞれ道場を見つめていた。



「とおっ、やあああっ!!」

するとその時道場から掛け声らしき声が聞こえてきた。

「はは、やっぱり誰かいるみたいだな?」

「ええ……知り合いかもしれません。でもこれは……」

「せい、はあっ!」

「ちぇえええい!」

「閉鎖されたにしては賑やかですね。」

「……というか、声の感じからして道場を再開したようにしか思えないのですが……」

道場から次々と聞こえてくる掛け声にクルトが眉を顰めている中アルティナは静かな表情で呟き、セレーネは苦笑していた。

「……すみません。少し覗いてもいいですか?」

「ああ、もちろん。折角だし挨拶していこう。」

そしてリィン達は道場の中へと入っていくと、道場内では門下生達が鍛錬をしていた。



~ヴァンダール流・練武場~



「ちぇえい、まだまだーっ!」

「ホラホラ、脇が甘いよっ!」

「わぁ……!ここが剣術の道場……!」

「門下生も少ないなりに熱心みたいですね。」

「ああ……やる気が漲ってる感じだな。」

「えっと……本当に道場は閉鎖したんですわよね?」

「え、ええ………どうなってるんだ?」

門下生達の鍛錬の様子をユウナは興味ありげな様子で見つめ、アルティナの分析にリィンは静かな表情で頷き、苦笑しているセレーネに話を振られたクルトは頷いた後困惑の表情を浮かべた。



「おおっ、誰かと思えば……!クルト坊ちゃんではないですか!?」

するとその時リィン達に気づいた門下生の一人がリィン達に近づいて声をかけた。

「あ……お久しぶりです。ウォルトンさん。って、”坊ちゃん”はやめていただけると。」

「ははっ、これは失礼!いやあ、去年の暮れに帝都でお会いして以来ですな!いつこちらへ?ご連絡いただければお迎えしたものを!」

「いえ……実は士官学校のカリキュラムで来ていまして。」

「ほほう、そういえばそちらの方々は……」

「申し遅れました、自分達は――――」

クルトの話を聞いた門下生に視線を向けられたリィン達はそれぞれ自己紹介をした。



「なるほど、地方演習で……遠路はるばるご苦労様です!まさか、噂の”灰色の騎士”殿と”聖竜の姫君”殿に教わっているとは知りませんでしたぞ!しかもこんな可憐なお嬢さんたちと同じクラスとは……坊ちゃんも隅に置けませんなぁ!」

「あはは、可憐だなんてそんな~。」

「お世辞だと思いますが。」

「ええい、茶々入れないのっ。」

門下生の賛辞に照れているユウナにアルティナはジト目で指摘し、指摘されたユウナはジト目で反論した。

「はは……こちらこそ名高きヴァンダールの道場を見学できて光栄です。」

「そ、それはともかくどうなってるんですか?こちらの道場は去年の末に閉鎖されたはずじゃ……?」

「ええ、そうなんですが……先週から期間限定で再開することになったのですよ。実は、マテウス様の紹介で臨時の師範代に来て頂きまして。」

「父上の……?もしかして、僕も知っている方ですか?」

「ええ、今は出かけられていますがきっとご存知かと思いますよ。いやはや、お若いのにかなりの凄腕でしてなあ。閉鎖以来、腐っていた我々も久々に奮い立っているところです!」

「へえ、そんな使い手が。」

「……いったい誰が―――」

門下生の話を聞いたリィンが興味ありげな表情をしている中クルトは考え込んだ。

「そうそう、その臨時の師範代の方関連で坊ちゃんに朗報があるんです!」

「”朗報”……ですか?それは一体どのような……?」

「何でもその方のお知り合いで、遥か昔に失われた”ヴァンダールの槍術”を受け継ぎ続けた家系の人物―――坊ちゃんにとっては遠い親戚に当たる方がいらっしゃいまして、本日より数日間、その方から手合わせや先祖代々受け継ぎ続けた”ヴァンダール流槍術”を指南して頂ける事になりましてな。失われしヴァンダールの”槍”を我々の手で復活させる切っ掛けになればと、我々もその方の到着をお待ちしている所です。……ちなみに臨時の師範代の方が出かけられておられる理由は件の方のお迎えに向かっているからです。」

「”獅子戦役”での先祖ロランの死によって失われたヴァンダールの”槍”を………?」

(お、お兄様。もしかしてその方って………)

(ハハ、どう考えてもフォルデ先輩だろうな………という事はもしかしてその”臨時の師範代”という人物は―――)

門下生の話を聞いて若干驚いたクルトはリィンとセレーネに視線を向け、視線を向けられたセレーネとリィンはそれぞれ苦笑しながらある人物を思い浮かべた。



「――――ウォルトンさん!手合わせの相手を頼めませんか……」

するとその時別の門下生がリィン達と会話をしている門下生に声をかけたが、リィン達の中にいるクルトに気づくと血相を変えた。

「クルト……!?お前、クルトか!?」

「あらま坊ちゃん!大きくなっちゃって!」

「はは……ラフィ、カティアさん。どうもお久しぶりです。」

その後、クルトは昔住んでいた時の顔馴染みと久闊を叙し……お茶などをご馳走になった後、また顔を出すことを約束してから稽古を再開する彼らに別れを告げた後特務活動を再開した。



特務活動を再開したリィン達はパルムにいる人形兵器らしき魔獣を見かけた人物――――トールズ士官学院の卒業生でああるミントに情報を聞いた後、街道へと向かい、ミントの話通り人形兵器達が現れた為、協力して撃破した。



~アグリア旧道~



「くっ……自爆までするなんて……」

「今のも”結社”の……とんでもない戦闘力だな。」

「ふう……内戦時、”執行者”達が使役したのと同じタイプみたいですね。」

戦闘が終了し、戦闘の疲労によってユウナとクルトが息を切らせている中アルティナは一息ついて静かな表情で呟いた。

「相変わらずサラッととんでもない事を言うな……」

「って、その口ぶりだとあんた、まさか”執行者”とまで戦ったの……?教官達も黙っていないで――――って、教官……?」

アルティナの発言に冷や汗をかいたクルトは疲れた表情で指摘し、クルトと共にジト目で指摘したユウナだったが未だ武器を収めていないリィンとセレーネの様子を見て首を傾げた。

「気を抜くな……聞いた情報を思い出すんだ。本校の卒業生は幾つの影を見たと言った?」

「3つの影……」

「まさかもう一体……!」

リィンの指摘を聞いたアルティナとクルトが呟いたその時、ユウナ達の背後に先程リィン達と共に倒した人形兵器が新たに一体現れた!



「ぁ………」

「くっ……」

「クラウ―――(間に合わない……?)」

疲労によってすぐに動けないユウナとクルトが人形兵器の奇襲攻撃を受けようとしたその時

「オオオオオオオッ……!」

「ハアアアアアアッ……!」

リィンは自身に秘められる”力”を解放し、セレーネは膨大な魔力を一瞬で解放して二人同時にユウナ達を電光石火の速さで横切って人形兵器へと向かった!

「!?」

「な――――」

二人の一瞬の動きを見たユウナが驚き、クルトが絶句したその時リィンとセレーネはそれぞれ左右から袈裟斬りを放って一撃で人形兵器を撃破した!



「ふう……」

「間一髪でしたが、間に合いましたわね……」

「す、凄い……」

「い、今のは……」

それぞれ解放した”力”を抑えたリィンとセレーネをユウナとクルトは呆けた表情で見つめ

「……撃破後の警戒を怠り、更にサポートが遅れてしまい、申し訳ありませんでした。」

アルティナは二人に近づいて申し訳なさそうな表情で謝罪をした。

「ふふっ、気にしないでください。わたくし達は”教官”として当然の事をしたまでだ。」

「ああ。それに遅れたと言っても、咄嗟にサポートしようとしていた――――って。」

セレーネと共にアルティナに慰めの言葉を言いかけたリィンだったが、自分をジッと見つめているユウナとクルトの視線に気づいた。

「リィン、教官…………」

「…………………」

「はは…………まあ、病気とは違うがちょっと特殊な”体質”でね。気味悪いかもしれないが……極力、見せるつもりはないからどうか我慢してもらえないか?」

「が、我慢って……!そんな話じゃないでしょう!?今のだって、あたしたちを助けるためじゃないですか……!」

「……危ない所をありがとうございました。その、もしかして――――………」

苦笑しているリィンの言葉に対してユウナは真剣な表情で反論し、クルトは感謝の言葉を述べた後リィンにある事を訊ねようとしたが、すぐに訊ねるのをやめて黙り込んだ。



「えっと……セレーネ教官もリィン教官みたいに凄い動きをしましたけど、もしかしてセレーネ教官もリィン教官と同じ……?」

「いえ、皆さんもご存知のようにわたくしは”竜”ですから、魔力を瞬時に身体能力に回したお陰であんな動きができたのです。」

「とは言っても、そのような芸当ができるのはセレーネ教官が”特殊な竜族”だからですが。」

「へ……それってどういう事なんですか?

自分の質問にセレーネと共に答えたアルティナの答えが気になったユウナは不思議そうな表情で訊ねた。

「わたくしは通常の竜族とは若干異なる竜族でして。その関係で、あのような魔力の使い方もできるのですわ。……とは言っても、魔術を使う事と比べると魔力の消費が激しいですから、普段は使いませんが……」

「そうなんですか………」

セレーネの答えを聞いたユウナは呆けた表情をした。



「まあ、それはともかく、3人とも対応が甘かったな。きちんと情報を聞いていれば残敵を見逃すことも無かったはずだ。初日だから仕方ないが、”次”には是非、活かしてもらおうか。」

「くっ、この人は~……!」

「……今回に関してはまったく言い返せないけどね。」

「まあ、次の課題としましょう。」

「フフ……」

リィンの評価を聞いて様々な反応を見せている生徒達をセレーネは微笑ましく見守っていた。その後、付近を捜索したが人形兵器はそれ以上に現れず―――怪しげな人物にも遭遇しなかったためリィン達はパルムに戻ることにした。



その後パルムに戻ったリィン達は残りの人形兵器らしき魔獣の目撃情報があった場所へと向かった――――


 
 

 
後書き
原作ではリィンの暴走しかけが何度かありましたが、この物語ではそんな事は全くない予定の上、神気合一は閃Ⅲ開始時から使用可能です。(そりゃそうだ)問題は原作と異なり、暴走しない事が今後どう影響するかなんですよねぇ……(閃Ⅲは未だに4章夏至祭の最中です(遅っ))ちなみにですが、まだ仮の段階ですが灰の軌跡の設定(つまり光と闇の軌跡、運命が改変された少年を混ぜた設定)で閃Ⅳ篇を書く設定を思いついちゃいました(ぇ)閃Ⅳ篇突入するかどうかは2章のクロスベル到着前後あたりの時期でわかると思います(その頃にはさすがに私も閃Ⅲをクリアしているはず……) 

 

第17話

~パルム間道~



「さっきの人の話だとこっちの高台みたいだけど……」

「これは、(ゲート)……?」

目撃情報があった場所に到着したユウナは周囲を見回し、クルトは目の前にある巨大な門を見つめて不思議そうな表情をした。

「……なにこれ。ずいぶん思わせぶりな感じだけど。」

「これは……山中に続いているのか?」

「……?地図に何もありませんね。この門も、その先の道も。」

「大昔に打ち棄てられた廃道かもしれないが……いや、そこまで古くもなさそうだ。」

地図を確認したアルティナが困惑の表情を浮かべている中推測を口に仕掛けたリィンだったが、門に据え付けられている警告に気づいて門に近づいて確認した。



”警告”



この先、崖崩れのため危険。関係者以外の立ち入りを禁ずる。



「な、なんか素っ気ないわねぇ。―――クルト君、こんな場所があるって知ってた?」

「いや……聞いた事もないな。手前のコンテナは昔からあったから気づかなかっただけだと思うけど。」

(お兄様……もしかしてと思うのですが……この先は”ハーメル村”なのでは……?)

(!……そう言えば、1年半前”特務部隊”結成時に”和解条約”の詳細について教えてもらった際、メンフィルから貰った情報に書いてあった”ハーメル村”の位置は…………)

ユウナとクルトが謎の門の先について話し合っている中、ある事に気づいたセレーネはリィンに念話を送り、セレーネの念話を受け取ったリィンは目を見開いて真剣な表情で門を見つめた。

「いずれにせよ、人形兵器が目撃された場所ではなさそうですね。」

「………ああ、見た所相当、頑丈に施錠されているようだ。地面が荒らされた跡もないし、別の場所を―――」

アルティナの言葉にリィンが頷いて指示をしかけたその時、何かの気配や音を感じ取ったリィンとセレーネは集中して周囲を警戒した。すると人形兵器が木々の中から現れてリィン達へと向かい

「―――戦闘準備。ちょうど向こうから来てくれたみたいだぞ?」

「しかもタイプは違いますが、先程戦った人形兵器と同格と思われますから、気を引き締めて下さい。」

「なっ……!?」

「木々の間から……!」

「クラウ=ソラス。」

リィンとセレーネの忠告に驚いたユウナ達がそれぞれ武装を構えると人形兵器が3体木々の間から現れてリィン達の退路を塞いだ!



「な、な、な……」

「これも……人形兵器なんですか!?」

「ああ……!かなり特殊なタイプだ!」

「奇襲・暗殺用の特殊機―――”パランシングクラウン”です!」

「あの人形兵器は先程戦った人形兵器とは真逆―――攻撃に特化しているタイプですから、気をつけてください!」

驚いているユウナとクルトにリィンとアルティナ、セレーネはそれぞれ説明をした。

「くっ……こいつら、本当に”人形”なの!?」

「いいだろう……返り討ちにしてくれる!」

「ギミック攻撃に気を付けろ!毒や麻痺が仕込んであるぞ!(3体か……俺とセレーネだけでは生徒達をサポートしきれないかもしれないな。だったら………)来てくれ――――メサイア!」

生徒達に助言をしたリィンはメサイアを召喚した!

「へ……っ!?お、女の人が教官の身体から……?しかも名前が”メサイア”って事はもしかしてあの人が局長の……」

「クロスベル帝国皇女にしてリィン教官の婚約者の一人――――メサイア・シリオス皇女殿下……!」

「―――今は私の事よりも、目の前に敵に集中してください!」

自分の登場に驚いているユウナとクルトに指摘したメサイアは”匠王”の娘達が作成し、今でも愛用し続けている”聖剣ガラティン”を構え

「――来ます!」

アルティナの言葉を合図にリィン達は人形兵器達との戦闘を開始した!



「「「……………」」」

人形兵器達は先制攻撃代わりに刃をリィン達に解き放ち

「甘い!」

解き放たれた刃に対してリィンが前に出てクラフト―――弧月一閃を放って襲い掛かる刃を全て弾いた。

「逃がさないわよ……!――――ヤァァァァッ!!」

「ブリューナク、照射。」

「―――――」

「ハァァァァ……セイッ!!」

反撃にユウナはクラフト――ジェミニブラストで、アルティナはクラフト――ブリューナクで、そしてクルトは双剣から光と闇の斬撃波を放つクラフト――双剋刃で遠距離からの攻撃を叩き込んだ。

「アークス駆動――――エクスクルセイド!!」

「浄化の炎よ、邪を焼き尽くせ――――贖罪の聖炎!!」

3人の攻撃が終わるとセレーネは地面から光の十字架による衝撃波を発生させるアーツを、メサイアは浄化の炎を発生させる魔術を発動して人形兵器達に追撃して怯ませた。



「オォォォォ……唸れ――――螺旋撃!!」

「えいっ!やあっ!」

「ハアッ!」

人形兵器達が怯んだ隙にそれぞれ人形兵器達に近づいたリィンは炎を宿した太刀で螺旋を描くような斬撃を叩き込み、ユウナとクルトはそれぞれ通常攻撃を叩き込んだ。

「「「…………」」」

リィン達の攻撃を受けた人形兵器達は反撃にそれぞれの両腕から鋼糸(ワイヤー)を放ち

「!」

「キャッ……!?か、身体が……!」

「ぐっ……ワイヤーに麻痺毒が仕込まれていたのか……!」

人形兵器達によるギミック攻撃をリィンは人間離れした動きで回避したが、ユウナとクルトは回避が間に合わず攻撃を受け、人形兵器達の鋼糸には麻痺毒も仕込まれていた為更に麻痺状態に陥った。そして麻痺状態に陥ったユウナとクルトに人形兵器達は追撃をしようとしたが

「二の型―――疾風!!」

「闘技―――月影剣舞!!」

リィンの鎌鼬を纏った電光石火の攻撃とそのすぐ後に放たれたメサイアの美しき剣舞を受けた事によって妨害され

「闇に呑まれよ―――ティルワンの闇界!!」

更にアルティナが発動した広範囲の魔術を受けて再び怯んだ。

「浄化の光よ――――オーディナリーシェイプ!!」

リィン達の攻撃の間に魔術の詠唱を終えたセレーネは浄化の光の魔術で二人の麻痺状態を治癒し

「ありがとうございます!お返しよ!ハァァァァ……クロスブレイク!!」

麻痺状態が回復したユウナはトンファーに電撃を流して人形兵器達に強烈な一撃を叩き込んでダメージを与えた。

「ヴァンダールが双剣――――とくと味わえ!行くぞ――――うおおおおぉぉぉぉぉ……っ!!」

するとその時止めを刺す為にクルトは双剣を凄まじい速さで振るって何度も斬撃を人形兵器達に叩き込んだ後跳躍し

「止めだ――――たあっ!ラグナ――――ストライク!!」

空中で双剣を振るって人形兵器達の周囲に雷撃を発生させた後最後に全身に雷撃を纏って人形兵器達に突撃し、クルトのSクラフト――ラグナストライクによるダメージに耐えきれなかった人形兵器達は爆発を起こしながら消滅した!



「はあはあ………た、倒せた……」

「……”邪道”を使う人形……どこまでだ、”結社”というのは……」

「……さすがに体力も限界近くかもしれません。」

戦闘が終了し、安堵や今までの特務活動や戦闘等による疲労によってユウナ達はそれぞれ息を切らせた後武器を収めた後周囲を警戒した。

「………ふふ………」

「先程の反省を早速生かしていますわね……」

ユウナ達の様子を微笑ましく見守っていたリィンとセレーネも周囲を探った後、何かに気づいてユウナ達に警告した。

「―――まずいな。少し読み違えたみたいだ。」

「ええ……しかも先程よりも数が多いですわ。」

「へ………」

「………!」

リィンとセレーネの言葉を聞いたユウナが呆け、クルトが目を見開いたその時反対側から先程戦った人形兵器達の倍の数がリィン達に近づき

「反対から―――」

「ああ……しかも数が多い!」

更にリィン達の退路を防ぐ位置に陣取った1



「っ、退路を……!」

「僕達を弄るつもりか………」

「ほ、ほんとに性格悪すぎない!?」

「―――すまない、3人とも無理をさせすぎたみたいだ。この場は俺達に任せてくれ。セレーネ、メサイア。」

「「はい。」」

疲労がピークの生徒達にこれ以上戦闘させない為にリィンはセレーネとメサイアと共にユウナ達の前に出た。

「え………」

リィン達の行動を見たユウナは呆けた声を出し

「コオオオオオオッ………!」

「「ハアアアアアアッ………!」」

「ま、まさか――――」

それぞれの”力”を解放しようとしている様子のリィン達を見たクルトは驚きの表情で呟いた。

「神気合――――」

「―――その必要はない。」

そしてリィンが鬼の力を解放した姿になろうとしたその時、娘の声が聞こえてきた!するといつの間にか人形兵器達の背後に大剣を構えた蒼髪の娘とライフルを構えた腰まで伸ばした漆黒の髪の娘、そしてそれぞれ槍を構えた金髪の青年と中性的な容姿を持つ金髪の青年がいた!



「あ………」

「貴女達は……」

「まさか―――!」

蒼髪の娘達の登場にユウナとアルティナが呆けている中、蒼髪の娘に見覚えがあるクルトは信じられない表情をした。するとその時人形兵器達はそれぞれ鋼糸の攻撃を娘達に放ったが娘達はそれぞれ回避し

「無駄です―――――」

漆黒の髪の娘が正確無比かつ凄まじい速さの射撃で人形兵器達を攻撃して怯ませ、その隙に蒼髪の娘達はそれぞれ凄まじい一撃を次々と人形兵器達に叩き込んだ!

「………ぁ………」

「ええ……っ!?」

娘達の圧倒的な強さにクルトが呆け、ユウナが驚きの声を上げたその時最後の一体となった人形兵器に漆黒の髪の娘がライフルによる狙撃で怯ませた後蒼髪の娘が一瞬で詰め寄って回転斬りを叩き込んだ跳躍し

「喰らうがよい――――!」

最後の一撃に人形兵器を豪快な一刀両断して滅した!



「…………」

「”アルゼイド”の絶技……それにヴァンダールの剛剣術や双剣術の面影があるあの槍術はまさか………」

「……皆さん、戦闘力が以前とまるで違うような。」

娘達の圧倒的な強さにユウナは口をパクパクさせ、クルトは驚き、アルティナはジト目で呟いた。

「はは………”遥か昔に失われたヴァンダールの槍術を受け継ぎ続けた家系の人物”を迎えに行った凄腕の臨時師範代”………まさかエリオットに続いて君ともここで再会できるなんて。」

「フフ……」

苦笑しながら近づいたリィンの言葉に対して微笑んだ蒼髪の娘は静かな笑みを浮かべた後何とリィンを抱きしめた。



「って――――」

「ラ、ラウラさん……!?」

「クク、何だ~?俺達の知らない所で”光の剣匠”の娘までハーレムに加えていたのか~?」

「フォルデ先輩……」

「こんな時に茶化さないでよ、兄さん……」

娘の行動にリィンとセレーネは驚きの声を上げ、その様子を見守っていた金髪の青年はからかいの表情で呟き、青年の言葉を聞いた漆黒の髪の娘ともう一人の青年は呆れた表情で溜息を吐いた。

「このくらいは我慢するがよい。文のやり取りがあったとはいえ、顔を合わせるのは久しいのだから。しかしそなた、背が伸びたな?正直見違えてしまったぞ。」

「はは……ラウラこそ。1年ちょっととは思えないほど凛として、眩しいほど綺麗になった。」

娘に抱きしめられたリィンも娘を抱き返して娘に微笑んだ。



「フフ、世辞はよせ。そちらの修行はまだまだだ。」

リィンの言葉に苦笑した娘はリィンから離れ、今度はセレーネを抱きしめた。

「ふふっ、そなたと顔を合わせるのも久しいが、あれからまた更に綺麗になって、見違えたのではないか?」

「フフ、わたくしは1年半前の時点で既に”成竜”でしたから身体的な成長は止まっていますから、皆さんのように背が伸びたり等はしていないはずなのですが……」

「フフ、どちらかというと雰囲気だから、身体的な成長は関係ないと思うぞ。こうして顔を合わせて感じたが、そなたと同じ性別の身として、ますます離されたような気分に陥ったぞ。」

「フフッ、お世辞でもそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいですわ。」

そして蒼髪の娘に抱きしめられたセレーネもリィンのように娘を抱き返して微笑んだ後娘から離れた後、アルティナに近づいてアルティナを抱きしめた。

「お久しぶりです。」

「ふふ、そなたのそういう所は相変わらずだな。しかしそなた、1年半前と比べると随分と見違えたのではないか?背もそうだが、雰囲気も1年半前とは比べものにならないぞ。」

抱きしめられても特に何の反応も見せずに冷静な様子で答えたアルティナの様子に苦笑した娘はアルティナの成長を興味ありげな様子で見つめていた。

「雰囲気に関してはよくわかりませんが、身体的な成長をしている事は肯定します。………わたしが皆さんのように成長できたのも、リィン教官のお陰です。」

「そうか……”ミリアムと同じ存在”であるそなたが成長した話に興味はあるが、ゆっくりと話す機会ができた時に聞くとしよう。」

アルティナの答えを聞いた娘は静かな笑みを浮かべて頷いた後アルティナから離れた。

「え、えっと……」

「……お噂はかねがね。」

一方その様子を見守っていたユウナは気まずそうな表情をし、クルトは静かな表情で会釈をした。



「ふふ、見た顔もいるが改めて名乗らせてもらおう。レグラムの子爵家が息女、ラウラ・S・アルゼイドという者だ。トールズ”旧Ⅶ組”の出身でもある。見知りおき願おうか―――後輩殿たち。」

そして蒼髪の娘――――旧Ⅶ組の一人であるラウラ・S・アルゼイドはユウナとクルトに自己紹介をした。

「エリオットさんと同じ”旧Ⅶ組”の………という事はもしかしてそちらの人達も………?……ぁ…………(あの人達はリィン教官達と一緒にいた……)」

ラウラの事を知ったユウナは漆黒の髪の娘達へと視線を向けた後漆黒の髪の娘や金髪の軽そうな雰囲気を纏っている青年の容姿を見て何かに気づき、呆けた声を出した。

「フフ、残念ながら私達は”旧Ⅶ組”ではありません。――――初めまして。メンフィル帝国領ケルディック地方の領主予定の子爵家の当主、ステラ・ディアメルと申します。メンフィル帝国軍”特務部隊”の”副将”を務めていました。よろしくお願いします―――新Ⅶ組の方々。」

「”特務部隊”……それに”ディアメル”という事は、貴女が唯一生きている”ディアメル伯爵家”の血を引く人物にしてリィン教官の婚約者の一人でもある方ですか。」

漆黒の髪の娘―――かつて1年半前のエレボニアの内戦に介入し、内戦を終結させる為にメンフィルが結成し、リィンやセレーネ、アルティナが所属していた”特務部隊”の副将を務めていたステラ・ディアメルの自己紹介を聞いてある事を思い出したクルトは真剣な表情でステラを見つめた。

「ええっ!?それじゃあ、貴女がセレーネ教官やベルフェゴールさん達と同じ8人いるリィン教官の婚約者の一人でもあるんですか……!?」

「はい。リィンさんの妻の序列は最下位の9位になりますが、私もリィンさんの婚約者の一人です。」

「くくっ、ステラがエリゼちゃんみたいに積極的か、もしくはリィンが鈍感じゃなかったら、少なくても序列はエリゼちゃんの次だった可能性が非常に高かった程、リィンのハーレムメンバーの中でエリゼちゃんの次にリィンと付き合いが長い女なんだぜ~。」

「に、兄さん。」

クルトの説明を聞いて驚いている様子のユウナにステラは頷いて答え、からかいの表情で答えた軽そうな青年の言葉にもう一人の青年が冷や汗をかき

「えっと………リィン教官達の昔の事を知っているという事は貴方達もリィン教官と同じ”特務部隊”の……?」

「おう。――――俺の名はフォルデ・ヴィント。メンフィル帝国領オーロックス地方の領主予定のしがない男爵家の当主だ。そんでこっちは俺の弟のフランツだ。」

「―――フォルデの弟のフランツ・ヴィントです。僕は”特務部隊”の所属ではなく、メンフィル帝国軍の所属で、訓練兵時代のリィンやステラの同期だよ。よろしくね、リィンの教え子達。」

ユウナに視線を向けられた軽そうな青年――――リィン達と同じ”特務部隊”に所属し、ステラと共に”副将”を務めたフォルデ・ヴィントは自己紹介をした後もう一人の青年に視線を向け、もう一人の青年――――フォルデの弟にして訓練兵時代だったリィンとステラの同期生の一人でもあるフランツ・ヴィントは軽く自己紹介をした。



その後リィン達はラウラ達と共にパルムへと戻って行った。



~パルム・ヴァンダール流・練武場~



「そうか………子爵閣下から。」

「うん、免許皆伝に至った後、師範代の資格も与えられてな。こうして各地を回りながら備えて欲しいと頼まれていたのだ。」

「まあ………ふふっ、子爵閣下もラウラさんの力をとても頼りにしていらっしゃるのですね。」

ラウラの事情を知ったセレーネは目を丸くした後微笑んだ。

「フフ、期待に沿えるといいのだが。」

「”アルゼイド流”でしたっけ……物凄く有名な流派なんですよね?」

「エレボニアでは”ヴァンダール流”と双璧と言われているみたいです。」

「ああ、規模も格式も互角……どちらも軍の武術師範を正式に務めているくらいだ。」

「それは………」

ユウナの質問に答えたアルティナの答えに頷いたリィンはアルティナの説明を補足し、リィンの説明を聞いたクルトは複雑そうな表情をした。

「フフ、面映いがそう呼ばれることは多いな。マテウス・ヴァンダール閣下―――お父上からそなたの話も聞いている。ヴァンダールには類稀なる双剣術の使い手―――会えて光栄だ。」

「そんな―――滅相もありません!自分など、未熟の極みで……父や兄の足元すら見えぬくらいです。まして、その歳で”皆伝”に至った貴女と比べるなど―――」

ラウラに視線を向けられたクルトはラウラの高評価に対して謙遜した様子で答えた。

「ふむ……?剣の道は果てしない。皆伝など通過点に過ぎぬであろう。此の身は未だ修行中……精々リィンと同じくらいの立場だ。」

「いや、さすがにラウラと俺を一緒にするのは無理があるような……」

「フフ、謙遜は止めるがいい。それに世には真の天才もいる。そなたらの分校の責任者のように。」

謙遜している様子のリィンに苦笑しながら指摘した後に呟いたラウラの言葉を聞いてリアンヌ分校長を思い浮かべたリィン達は冷や汗をかいた。



「ああ、まあ……確かに。」

「天才というより化物ですね。」

「というか天才をも遥かに超える”至高の武”の存在ですものね……」

「えっと……あの人、そんなに凄いの?」

リィンやアルティナ、セレーネの話を聞いたユウナは不思議そうな表情でリアンヌ分校長の事について訊ねた。

「あの結社”身喰らう蛇”でも”結社最強”と呼ばれていた使い手にして、ヴァイスハイト皇帝陛下達――――クロスベルの”六銃士”が全員揃って互角の強さと言えばわかるだろう?」

「って、聞くだけで滅茶苦茶凄そうなんだけど……というか、分校長って”結社”の出身だったの!?」

「ええ……色々と事情があって、今は結社を抜けてメンフィル帝国に所属していますが。」

リィンの指摘を聞いたユウナは表情を引き攣らせた後驚きの声を上げ、ユウナの反応にセレーネは苦笑しながらリアンヌ分校長について軽く説明をした。

「ふふっ、天才といえばフォルデ先輩もそうですよね?」

「うむ。”アルゼイド流”と”ヴァンダール流”の皆伝に至った今は亡きオーレリア将軍閣下のように、フォルデ殿はヴァンダール流の剛槍術と連槍術の皆伝に至っているのだからな。」

「これで、普段の態度がカイル先輩みたいに真面目だったら、文句なしなんだけどね……」

「おいおい、俺があの”超”がつく程の堅物人間になって欲しいだなんて、冗談でも止めて欲しいぜ。あんな人間になったら、人生、楽しめないぜ?」

ステラの言葉にラウラは静かな笑みを浮かべて頷いてステラと共にフォルデに視線を向け、疲れた表情で呟いたフランツに呆れた表情で指摘したフォルデは軽そうな態度を見せて答え、フォルデの答えにリィン達は冷や汗をかいた。



「え、えっと……ラウラさんがフォルデさんが”ヴァンダール流”の使い手みたいな事を言っていたけど、もしかしてフォルデさんやフランツさんもクルト君と同じ流派の……?」

「ん?ああ、俺とフランツは単に先祖が”ヴァンダール”の家系の人物なだけで、何の因果か俺達の代まで”ヴァンダール流の槍術”が受け継がれてきただけで、”ヴァンダール流”とは関係ないぜ。」

ユウナの問いかけに軽い調子で答えたフォルデの答えにリィン達は冷や汗をかき

「いや、十分関係あるじゃないですか……って、先祖が”ヴァンダール”って事はもしかしてフォルデさんとフランツさんはクルト君にとって、遠い親戚になるんですか!?」

「アハハ……一応そうなるね。まあ、実際こうして僕達が”本家”の人物と会うのは初めてになるけど。」

「……初めまして。ヴァンダール家の次男、クルト・ヴァンダールと言います。お二人のお話は叔父ゼクスや兄ミュラーから伺っています。」

驚いている様子のユウナに苦笑しながら答えたフランツに視線を向けられたクルトは会釈をして答えた。

「俺達の話をね~?大方、1年半前の”七日戦役”の件で俺達の事を知って、先祖が自分達と同じ”アルノール家の懐刀”の血を引いていながらメンフィルに所属していたから”ヴァンダールの恥晒し”とでも伝えられていたんじゃないのか~?」

「に、兄さん。そんな事を言われても彼が困るだけだよ………」

「へ………ど、どうしてそこで”七日戦役”の話が出てくるんですか?」

からかいの表情で問いかけたフォルデの問いかけにリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中フランツは困った表情で指摘し、ユウナは困惑の表情でリィン達に訊ねた。

「その………”七日戦役”の際、貴族連合軍によって幽閉の身であったアルフィンさんがわたくし達―――メンフィル帝国に捕縛された後様々な事情によってリベール王国に保護され、その後”七日戦役”に調印した話は知っていますわよね?実はアルフィンさんを捕縛したのはフォルデさんなんです………」

「ちなみにクルト達の実家――――”ヴァンダール家”はフォルデ先輩も言っていたように”アルノール家の懐刀”という異名通り、エレボニア皇家の守護職に就いていたんだ。」

「ええっ!?フォルデさんがアルフィンさんを!?しかも、クルト君の実家がそんなとんでもない役職についていたなんて……」

「……守護職は既に解任されているから、”元”がつくけどね。――――それはともかく、叔父や兄も貴方達の事に対して悪感情を持っているような言い方はしていませんでした。むしろ、機会があれば先祖ロランの死によって失われた”ヴァンダールの槍”を教わり、以後門下生や子孫達に受け継がせたいと仰っていました。それに、ウォルトンさん達にお二人が先祖代々受け継いで来た”ヴァンダールの槍術”を教授して下さるとの事ですから、それを叔父たちも知ればきっと、今もお二人に感謝している僕のように喜び、お二人に感謝すると思います。お二人の貴重な時間を割いて頂き、お二人が先祖代々受け継ぎ続けてきた”ヴァンダールの槍”をウォルトンさん達に教授してくださること、ヴァンダール家を代表し、心より感謝を申し上げます。」

セレーネとリィンの説明を聞いて驚いているユウナに視線を向けられたクルトは静かな表情で答えた後フォルデとフランツに会釈をした。

「アハハ……”ヴァンダール流”の宗家を受け継ぎ続けてきた実家の人にそこまで言って貰えるなんて、光栄だね。」

「こりゃまたカイルとも良い勝負をする堅物男だね~。やれやれ、死んだ親父といい、フランツやクルトといい、”ヴァンダール”の血が混じっている家系は堅物になりやすい傾向でもあるのかね?」

「むしろ先輩は何で、クルトやフランツとは真逆のような人格なんですか………」

「今まで出会った”ヴァンダール家”の人物と比較するとまさに”ヴァンダールの突然変異”と言ってもおかしくない人格ですね、フォルデさんは。」

「ア、アルティナさん。」

クルトの言葉にフランツが苦笑している中呆れた表情で呟いたフォルデの発言にユウナ達と共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたリィンは疲れた表情で指摘し、ジト目で指摘したアルティナの言葉を聞いたセレーネは冷や汗をかいた。



「そう言えば……フォルデ先輩から聞いたよ、フランツ。エイリーク皇女殿下の親衛隊所属の騎士に昇進した上、アメリアとも婚約したんだって?遅くなったが祝福の言葉を言わせてくれ。―――おめでとう。二人の同期として2重の意味で祝福するよ。」

「ありがとう。でも、その言葉は僕のセリフでもあるよ。リィンの出世や婚約は色々な意味でも驚いたけど、一番驚いたのはリィンがステラの気持ちにようやく気づいた事かな?」

「え”。その口ぶりだとフランツ達もステラの気持ちについて気づいていたのか……?」

フランツを祝福したリィンだったが、フランツの口から出た予想外の話に表情を引き攣らせてフランツに訊ねた。

「クク、むしろ訓練兵時代お前の同期や俺やカイルのようにお前達を指導する騎士達、それにセシリア将軍も全員気づいていて、気づいていないのは当の本人のお前だけだぜ?ステラのお前に向ける気持ちはアメリアよりもわかりやすかったしな。」

「ええっ!?」

「……そんなにわかりやすかったなんて、初めて知りました。」

「ア、アハハ………」

からかいの表情をしているフォルデの指摘にリィンが驚いている中ステラは疲れた表情で溜息を吐き、セレーネは苦笑し、その様子を見守っていたユウナ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

(ねえねえ、アルティナ。もしかしてリィン教官って、恋愛に関してとんでもない鈍感なの……?)

(もしかしなくてもその通りです。しかも、とんでもないどころか”致命的”と言ってもおかしくないかと。実際そのお陰で、アルフィン様や1年半前の内戦でリィン教官との関係が親密になった事で婚約関係になった旧Ⅶ組の女性―――アリサさんも苦労し、エリゼ様のように”最終手段”を実行してようやく自分達の気持ちに気づいてもらえたとの事です。)

(さ、”最終手段”って一体どんな”手段”を実行したのよ……)

(というかよくそれで、教官は皇女殿下を含めた多くの女性達の気持ちに応えて、将来を共にする事を決められたな……)

(し、視線が痛い……)

それぞれジト目で話し合っているアルティナとユウナ、呆れた表情のクルトの視線に晒されたリィンは疲れた表情で溜息を吐いた。



「フフ………しかし此の地にサンドロッド卿が来ておらぬのはさぞ見込み違いであっただろうな。」

一方その様子を微笑ましく見守っていたラウラは気を取り直して話を変えた。

「……ああ。リウイ陛下やメンフィル帝国政府の意向ではないみたいだ。そして、3種類の人形兵器がこの地で確認されたことの意味――――」

「や、やっぱり”結社”の残党が何かしようとしてるんでしょうか?」

「現時点では断言できぬ。陽動の可能性も否定はできまい。この地に注目を集めながらまったく別の地で事を為す――――そのくらいの事は平気でやりそうな連中のようだからな。」

「確かに、謀略のレベルはレン皇女殿下やメンフィル帝国の諜報部隊並みかもしれませんね。」

「って、アンタねぇ……」

「ふう……君が言うか。」

「はは………」

(というかレン皇女殿下やメンフィルの諜報部隊はもっとえげつない事をしているから、比較対象にならないんじゃね?)

(に、兄さん。)

ラウラの推測に同意したアルティナの話を聞いたユウナとクルトは呆れた表情でアルティナを見つめ、その様子を見守っていたリィンは苦笑し、からかいの表情で呟いたフォルデの小声を聞いたフランツは冷や汗をかいた。



「―――お互い、何かわかったらすぐに連絡し合うことにしよう。エリオットもそうだが……ラウラ達がこの地にいてくれるのは何よりも心強いと思っている。まあ、女神達の導きとはちょっと違う気もするけど。」

「ふふっ、そうですわね。」

「フフ、何のことかな?こちらも同じだ――――頼みにさせてもらうとしよう。トールズ第Ⅱ、そして”Ⅶ組”の名を受け継ぎしそなたたち全員に。」

その後ラウラ達と別れたリィン達は練武場を出た。



~パルム~



「はぁ……なんていうかカッコよすぎるヒトだったなぁ。背が高くて凛としててそれでいて滅茶苦茶美人だし。ステラさんはステラさんで、まさに”深窓のお嬢様”のような女性でスタイルも抜群で、ラウラさんと比べても互角の美人だし。」

「ユウナさん。目がハートになってます。」

練武場を出て憧れの表情で感想を口にしたユウナにアルティナは静かな表情で指摘し

「……まさかあの方まで”Ⅶ組”とは思いませんでした。」

「はは、そうか。――――ラウラも、エリオットも、フォルデ先輩達も”Ⅶ組”や”特務部隊”は全員、俺の誇りだ。みんなそれぞれの事情でそれぞれの道を歩むことになったが……その誇りに支えられながら俺も、今までも、そして今もこうして自分の”道”に迷う事無く歩み続けていると思う。」

「お兄様………はい、それわたくしも同じ気持ちですし、勿論その誇りにはロイドさん達――――”特務支援課”の皆さんも入っていますわよね?」

「ああ、当たり前だ。」

「あ………」

「…………………」

「………ミリアムさんも、ですか?」

リィンとセレーネの話を聞いたユウナが呆けている中クルトは静かな表情で二人を見つめ、アルティナは二人に訊ねた。

「ああ、大切な仲間だ。そしてその仲間の中には当然アルティナも入っているぞ。」

「………ぁ…………」

(リ、リィン様、また”いつもの癖”が早速ですか……)

(まあ、リィンだものね……)

リィンに頭を撫でられたアルティナは呆けた声を出し、その様子を見守っていたメサイアは疲れた表情で呟き、アイドスは苦笑していた。

「勿論、かつての”Ⅶ組”と新しい”Ⅶ組”は同じじゃない。君達は君達の”Ⅶ組”がどういうものか見出していくといい。――――初めての特務活動も無事、完了したわけだしな。」

「ふふっ、しかも”任意”の要請の対応も全て終えましたから、まさに完璧の対応でしたわね。」

「そ、そういえば………」

「………今日中に3箇所の調査と必須の要請への対応でしたか。」

「正直、ギリギリでしたね。」

リィンとセレーネの指摘を聞いてそれぞれ我に返ったユウナは目を丸くし、クルトとアルティナは静かな表情で答えた。

「まあ、正確には演習地に帰るまでだが。―――それじゃあ、そろそろ町にでよう。何とか日没前に演習地に戻りたいからな。」

「はい!」

「了解です………と言いたい所ですが、教官。その前にメサイア皇女殿下にもご挨拶をしておきたいのですが………」

「ああ、そう言えばさっきは色々あって、お互い自己紹介はしていなかったな。――――メサイア。」

クルトの言葉を聞いてある事を思い出したリィンはメサイアを召喚した。

「あ…………さっきの時の…………」

「ふふっ、クロスベル皇女にしてヴァイスハイト・ツェリンダー皇帝と第4皇妃マルギレッタ・シリオスの養女、そしてリィン様の婚約者の一人のメサイア・シリオスと申します。先程は色々あってご挨拶もせずにリィン様の身体の中へと戻るという失礼をしてしまい、申し訳ありませんでした。」

「い、いえいえ……!むしろ、失礼をしたのは助けてもらったのに、お礼も言わなかったあたし達の方ですよ。えっと……ユウナ・クロフォードです。よろしくお願いします、メサイア皇女様。」

「お初にお目にかかります。ヴァンダール家が次男、クルト・ヴァンダールです。先程は助太刀をして頂き、本当にありがとうございました。」

メサイアに微笑まれたユウナは緊張した様子で答えた後自己紹介をし、クルトもユウナに続くように自己紹介をした後感謝の言葉を述べた。



「フフ、私は大した事はしていませんから、そんなに気になさらないでください。皆さんの”教官”であるリィン様の役目の一つは生徒である皆さんを守る事なのですから、リィン様の使い魔の一人として当然の事をしただけですわ。」

「えっと……メサイア皇女様の事を知ってから気になっていたんですけど、メサイア皇女様が教官の使い魔をしている事は色々と不味くありませんか?メサイア皇女様はクロスベルの皇女様なのに、いくらリィン教官と婚約関係とはいえ、”使い魔”―――主従関係を結んでいるんですから……」

メサイアの話を聞いたとユウナは気まずそうな様子でリィン達に訊ねた。

「フフ、お父様達からもリィン様の使い魔を続けて行く許可は貰っていますから、大丈夫ですわ。」

「そもそもメサイアさんはメンフィル帝国の”客将”でもありますから、メサイアさんがお兄様の使い魔である事を問題にしたら、そっちの方が問題にされますものね……」

ユウナの質問にメサイアとセレーネは苦笑しながら答え

「へ……じゃあ、メサイア皇女様もベルフェゴールさん達と同じメンフィル帝国の”客将”なんですか!?」

「ああ。元々メサイアと俺が出会った時期はヴァイスハイト皇帝達とメサイアが出会う前だったからな。その時点のメサイアもメルキア帝国の元皇女だったから、リウイ陛下達―――メンフィル帝国もメサイアを”客将”扱いしたんだ。幸い実力もあったしな。」

「”メルキア帝国”………聞いた事がない国ですが、もしかして異世界の……?」

ユウナの問いかけに答えたリィンの答えを聞いてある事が気になったクルトはリィン達に質問した。

「はい。そして私は今より遥か昔のメルキア皇帝だったヴァイスハイト・フィズ・メルキアーナとその妾である元アンナローツェ王国女王であったマルギレッタ・シリオスの娘だったのです。」

「へ………メサイア皇女様が、遥か昔のメルキア帝国っていう異世界の国の皇女様って…………」

「しかもご両親の名前がメサイア皇女殿下の養親である今のご両親の名前と非常に似ていますが……何か関係があるのですか?」

メサイアの説明を聞いたユウナは呆け、クルトは困惑の表情でメサイアを見つめた。そしてリィン達はメサイアが謎の転移門によって過去の並行世界から現代に迷い出た人物で、それを知ったヴァイスハイト皇帝達がメサイアを養子にした事を説明した。



「へ、並行世界で、しかもタイムスリップって………色々と非常識過ぎよ……」

「……まあ、教官の周りは”非常識”だらけなので、”今更”かと。」

「ア、アハハ………」

「別に意図してそうなった訳じゃないんだけどな……」

事情を聞き終えたユウナは疲れた表情で溜息を吐き、ジト目で呟いたアルティナの言葉を聞いたセレーネは苦笑し、リィンは疲れた表情で呟いた。

「……なるほど。だからヴァイスハイト皇帝陛下達は、自分達とそれほど年が離れて―――いえ、自分達よりも年上のメサイア皇女殿下を養子に迎えたのですか。」

「ちょっと、クルト君?女性に年齢の事を指摘するなんて、失礼なんじゃないの?」

「あ…………失礼しました。」

納得した様子で呟いたクルトの言葉を聞いたユウナはジト目で指摘し、指摘されたクルトは一瞬呆けた後メサイアに謝罪をした。

「ふふ、私は気にしていませんから、どうかお気になさらないでください。今後はリィン様に呼ばれれば、共に協力する事もありますでしょうから、よろしくお願いしますね。」

「はい!」

「こちらこそよろしくお願いします。」

「ハハ……―――さてと、今度こそ町を出て演習地に向かおうか。」

その後リィン達は町を出て演習地へと向かった―――――


 
 

 
後書き
今回出て来た新キャラフランツはフォルデやステラと違って、パーティーメンバー化する予定はないですから出番は今後あるかどうかわかりません(ぇ)それと暁の軌跡、まさかのアルティナ登場には驚きましたねwちなみに、私はアルティナゲットの為に回したアルティナの確率が高くなっているガチャでシャロンが来るという奇妙な出来事が起こりました(汗)マジでどうしよう……メインは月姫とフィー、紅騎士にマジレンだから、シャロンの入るスペースが(汗) 

 

第18話

午後8:00――――



~演習地・デアフリンガー号・2号車~



演習初日の夜、生徒達がそれぞれの夜を過ごしている中リィン達教官陣はミハイル少佐に演習の状況を報告していた。

「ふむ………演習一日目はそれなりに順調だったようだ。Ⅷ組、Ⅸ組共に予定していたカリキュラムは終了……Ⅶ組の特務活動にしても一定の成果を上げたと言えるだろう。」

「ふふっ、そうですね。」

「ま、ガキ共とっても、俺達教官達にとっても初めての演習初日としては上出来の類に入るだろうな。」

報告を聞き終えたミハイル少佐の感想にトワは微笑みながら同意し、ランドロスも静かな表情で同意した。

「は~、しかしマジでどこかで聞いた活動みたいだな。」

「うふふ、奇遇ね♪レンも聞いた事がある活動ね、”特務活動”は♪」

苦笑しているランディの言葉にレンは小悪魔な笑みを浮かべて同意し

「―――生徒達3人もよくやってくれたと思います。思いがけない手助けがあったというのもありますが。」

「フフ……ですが、そう言った手助けがあった”運”もまた実力の内だと思いますわよ。」

静かな表情で答えたリィンの話に続くようにセレーネは微笑みながら答えた。



「ふふっ、まさかラウラちゃんやフォルデさん達までアルトリザスに来ていたなんて。他にも関係者がいるみたいだし、ちょっと心強いね。」

「フン、あまり馴れ合わないようにはしてもらいたいものだがな。」

「はは、そのくらいは構わないんじゃないッスか?……ただでさえ、キナ臭い気配がしてるみたいだし。」

トワの言葉を聞いて呆れた表情で注意をしたミハイル少佐に対して苦笑しながら指摘したランディは表情を引き締めて話を続けた。

「ああ……3箇所での人形兵器の出現―――特殊なタイプまで含まれています。サザ―ラント州以外を狙った陽動の可能性もあるでしょうが……念のため、各方面に要請して危機に備えた方がいいのでは?」

「それにシャーリィさんもアルトリザスにいましたし……人形兵器の出現とシャーリィさんがアルトリザスにいた事は偶然とはとても思えませんわ。」

「ふむ……」

リィンとセレーネの話を聞いたミハイル少佐は考え込み

「通信網の構築も完了しました。今なら各方面にも要請できます。」

「TMP以外だと、現地の領邦軍にエレボニア正規軍の司令部あたりか。遊撃士協会(ブレイサーギルド)が機能してりゃあ連携のしようもあるんだけどな。」

「まあ、それは無理な相談よ。エレボニア―――いえ、”革新派”のギルド嫌いは筋金入りだからね♪」

「クク、1年半前の内戦終結後のエレボニア帝国内に起こった混乱も結局ギルドに頭を下げずにテメェ達だけの力で治める程の”意地”を張っていたものなぁ。」

ランディの話を聞いてそれぞれ指摘したレンとランドロスの微妙に危ない発言にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「フン……ギルドはともかく。放たれていた人形兵器も少数―――大規模に運用されている気配もない。”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”の目撃情報があったとはいえ、猟兵団”赤い星座”の猟兵達のサザ―ラント州入りは確認されていない。各方面への連絡はしているし、本格的な要請の必要はないだろう。」

「で、ですが……」

ミハイル少佐の話を聞いたトワは反論をしようとしたが

「そのための第Ⅱであるというのも弁えてもらいたい。あらゆる場所のカバーは不可能だ。それを補うという意味でもな。」

「………………………」

ミハイル少佐の正論に反論できず、黙り込んだ。

「ったく、御説ご尤もではあるが……」

「……現時点の状況なら第Ⅱが備えるだけでも十分だと?」

「専用の装甲列車と機甲兵を擁し、こうして演習地まで構築している。新兵ばかりとはいえ、中隊以上の戦力はあるだろう。国際的な規模とはいえ、相手は所詮、犯罪組織風情―――それもトップや最高幹部の大半を失った”残党”共だ。何とでも対処できるはずだ。」

そしてリィンの指摘にミハイル少佐が答えたその時!

「アハハ、それはどうかなぁ?」

突如娘の声が列車内に響いた!



「なに……!?」

「せ、生徒の声じゃないみたいですけど……」

「クク、どうやらお出ましのようだな。」

「うふふ、演習初日で”これ”なんだから、今後の演習も退屈せずにすみそうね♪」

「御二人はどうして、そんな呑気な様子でいられるのですか……」

声を聞いたミハイル少佐が驚き、トワが困惑している中不敵な笑みを浮かべたランドロスと小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉を聞いたセレーネは疲れた表情で指摘し

「この声は―――!」

声に聞き覚えがあるランディが立ち上がって厳しい表情を浮かべたその時、何かがぶつかり、爆発する音が聞こえてきた!

「これは―――!」

対戦車砲(パンツァーファウスト)だ!」

音を聞いたリィンは目を見開き、ランディは音の正体を口にした。



~演習地~



リィン達が外に出る少し前、装甲列車や機甲兵は対戦車砲(パンツァーファウスト)によって攻撃され、煙をあげ、更に機甲兵は爆発の衝撃によって地面に倒れた!

「う、うわああああっ……!?」

「な、なんなの……!?」

「ああっ……!列車に機甲兵が……!」

突然の出来事に生徒達が混乱したり驚いたりしている中、列車から出て来たリィン達と共に出て来たトワは生徒達の元に向かって警告をした。

「危ないから離れて……!」

「くっ、どこだ……!?」

「―――あそこだ!」

「っ………!」

列車や機甲兵を襲撃した張本人―――空港付近で出会った赤毛の娘は高い丘で対戦車砲(パンツァーファウスト)を片手に持って騎士装束の娘と共にリィン達を見下ろしていた。



「シャーリィ、てめえっ!!」

「うふふ、まさかそっちから”殲滅”されにくるなんてね。」

ランディは赤毛の娘を睨んで声を上げ、レンは意味ありげな笑みを浮かべた。

「あはは……!ランディ兄、久しぶりだね♪」

「”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”……!それにあんたは――――」

「やはり結社に残っておられたのですか……」

厳しい表情で赤毛の娘に視線を向けたリィンはその隣にいる騎士装束の娘に視線を向けて厳しい表情をし、セレーネは真剣な表情で騎士装束の娘を見つめた。

「フフ、久しいですわね。灰の起動者(ライザー)に聖竜の姫君。”身喰らう蛇”の第七柱直属、”鉄機隊”筆頭隊士デュバリィです。短い付き合いとは思いますが第Ⅱとやらに挨拶に来ましたわ。」

「執行者No.ⅩⅦ――――”紅の戦鬼”シャーリィ・オルランド。よろしくね、トールズ第Ⅱのみんな♪」

騎士装束の娘―――結社”身喰らう蛇”の第七柱直属にして内戦でも何度も剣を交えた”鉄機隊”の筆頭隊士―――”神速”のデュバリィと、同じく結社”身喰らう蛇”の”執行者”の一人にして、猟兵団”赤い星座”の”臨時”の団長を務めている”紅の戦鬼”シャーリィ・オルランドはそれぞれ名乗り上げた!

「くっ、結社最強の戦闘部隊と”執行者”の一人とは……!」

「結社と手を組んだとは聞いたが”執行者”になってたとはな……まさかガレスや他の”赤い星座”の連中も来てんのか!?」

予想外の強敵の登場にミハイル少佐が唇を噛みしめている中、ランディは厳しい表情でシャーリィに問いかけた。



「ふふっ、こんな楽しい仕事、ガレス達に任せるわけないじゃん。あくまで個人的な暇つぶしかなぁ?」

「まったく貴女は……少しは使命感を見せなさい!」

「執行者に鉄機隊筆頭……予想以上の死地だったみたいだな。問答無用の奇襲――――一体どういうつもりだ!?」

シャーリィの発言に呆れたデュバリィがシャーリィに指摘している中厳しい表情で二人を睨んでいたリィンは二人に問いかけた。

「ふふっ、決まってるじゃん。」

リィンの問いかけに対して答えたシャーリィは対戦車砲(パンツァーファウスト)を地面に投げ捨てた後自身の得物であるチェーンソーが刃となっている特注のブレードライフルを構えた!

「………!」

「”テスタロッサ”………!」

「ほう~?まさかここで俺達とやりあうつもりかぁ?」

「うふふ、それならそれでレン達も構わないわよ?結社の残党の一部をわざわざ探さずに殲滅できるんだから♪」

「お二人とも、お願いしますからせめて状況を考えてから相手を挑発してくださいよ……」

シャーリィの行動を見たリィンとランディが表情を引き締めている中不敵な笑みを浮かべたランドロスとレンにセレーネは疲れた表情で指摘した。



「勘違いしないでください。わたくし達が出るまでもありませんわ。ここに来たのは挨拶と警告―――貴方がたに”身の程”というものを思い知らせるためですわ!」

そして剣と盾を構えたデュバリィが剣を掲げると大量の人形兵器がデュバリィとシャーリィの周囲に現れ、更に街道方面からも大量の人形兵器が現れた!

「きゃあっ……!?」

「クルトたちが言っていた……!」

人形兵器達の登場に生徒達は悲鳴を上げたり、表情を引き締めたりしていた。

「あはは、それじゃあ歓迎パーティを始めよっか!」

「我等からのもてなし、せいぜい楽しむといいですわ!」

シャーリィとデュバリィはそれぞれ第Ⅱ分校に宣戦布告をした!

「―――狼狽えんな!Ⅷ組戦術科、迎撃準備!機甲兵は狙われるから乗り込むな!―――お待ちかねの”戦場”だぜ、エルンスト!」

「”実戦”だからって、ビビる事はねぇ!相手は所詮犯罪組織の残党共だ!逆に相手に”身の程”を思い知らせてやる気概で戦え!」

「イ、イエス・サー!」

「Ⅸ組は後ろに下がって!戦術科が討ち漏らした敵に対処!医療班は待機、通信班は緊急連絡を!」

「単独行動は絶対に厳禁よ!戦うにせよ、報告するにせよ、必ず誰かと行動を共にしなさい!」

「イ、イエス・マム!」

エルンストを召喚したランディとランドロス、そしてトワとレンの指示にそれぞれ答えた戦術科と主計科の生徒達がそれぞれ人形兵器達に対する迎撃を始めている中ユウナ達特務科の生徒達も担当教官であるリィンとセレーネに仰ぐためにそれぞれ武器を構えた二人の元へと集まった。

「リィン教官……!セレーネ教官……!」

「僕達はどうすれば!?」

「Ⅶ組は遊撃だ!Ⅷ組・Ⅸ組をフォローする。来い――――メサイア!」

「連戦も予想されるので、体力の配分に気をつけてください!」

「了解です。」

生徒達にセレーネと共に指示をしたリィンはメサイアを召喚し

「チッ、どこからここまでの戦力を……Ⅷ組、スリーマンセルで対応!Ⅸ組は散開しすぎだ!Ⅶ組、遊撃を頼む!」

既に生徒達や教官達が人形兵器達と戦っている中敵の戦力の多さに舌打ちをしたミハイル少佐は気を取り直した後指示をした。

「了解―――みんな、行くぞ!」

「イエス・サー!」

そしてリィン達は遊撃を開始し、まず最初に街道方面から新たに現れた人形兵器達を撃破した。



「よし……!」

「こ、これで何とか……!」

「うわあっ、なんや……!?」

「くっ………」

「うわああ……っ!?」

「ぁうっ……!」

人形兵器達に勝利したユウナとクルトが一息ついたその時、Ⅷ組、Ⅸ組の生徒達がそれぞれ新たに現れた人形兵器達の戦闘によって苦戦したり、戦闘不能に陥ったりしていた。

「ああっ……!ゼシカ!?」

「シドニー、ウェインも!」

「両翼側面!」

「二手に分かれてカバーする!俺とメサイアは右翼!残りのメンバーは左翼のカバーに当たれ!セレーネ、ユウナ達の事は頼んだぞ!」

「わかりましたわ!」

「「はい!」」

「「了解しました!」」

そして生徒達に新たな指示を出したリィンはメサイアと共に窮地に陥っているⅨ組の生徒達のカバーへと向かい、セレーネはユウナ達と共にⅧ組の生徒達のカバーに向かった。

「リィン教官!」

「私達じゃ保たない!」

赤茶色の毛の少女―――サンディと銀髪の少女―――ヴァレリーは救援に来たリィンとメサイアに援護を頼み

「後は任せてください!」

「撃破するぞ!」

メサイアとリィンは人形兵器達に向かって行き、戦闘を開始した!



「「―――――――」」

新たに現れた敵であるリィンとメサイアに対して人形兵器達はそれぞれ回転するレーザー―――サイクロンレーザーを解き放った。

「「!」」

襲い掛かるレーザーに対して二人はそれぞれ側面に跳躍して回避し

「斬り裂け―――斬闇!!」

メサイアが暗黒の魔力を宿した剣による薙ぎ払い攻撃を放って反撃をした。

「「!?」」

「崩しましたわ!」

「隙あり!――――緋空斬!!」

メサイアの反撃によって敵の態勢が崩れるとメサイアと戦術リンクを結んでいたリィンが続くように炎の斬撃波を放って追撃をした。

「ブレイブオーダー起動―――聖魔陣”聖淵”!出でよ、断罪の光よ―――斎戒の洗礼!!」

リィンが追撃している間にあらゆる能力を一時的に上昇させるブレイブオーダーで自分達の能力を上昇させたメサイアは断罪の力を持った光柱を発生させる魔術を発動して人形兵器達に更なるダメージを与え

「二の型―――洸波斬!!」

リィンも続くように神速の抜刀による斬撃波を放って更なるダメージを与えた。

「「――――」」

リィンによる追撃が終わると人形兵器達は背中にある砲台からミサイルを次々と二人に放ち

「二の型・改――――裏紅蓮剣!斬!!」

「闘技―――虎口一閃!!」

襲い掛かるミサイルに対して二人はそれぞれ電光石火の速さで敵に詰め寄って攻撃をするクラフトを放って回避と共に反撃を叩き込み

「これで――――」

「終わりですわ!」

反撃を叩き込んだ後それぞれすぐに反転して強烈な一撃による袈裟斬りを放って止めを刺した!



「やったぁ!」

「すげぇ……!たった二人で俺達だとどうしようも無かったあんなとんでもない人形兵器達を撃破するなんて……!」

人形兵器達の撃破を見たサンディは喜び、赤茶髪の男子―――パブロは二人の強さに興奮した。

「ここはもう大丈夫のようですわね……」

「ああ。遊撃並びに援護を再開するぞ!」

「はい!」

そしてリィンとメサイアは他の遊撃や援護の為にその場から離れた。



リィンとメサイアがⅨ組の救援に駆けつけた同じ頃、セレーネ達もⅧ組の救援に駆けつけた。

「ク、クルト、セレーネ教官も!」

「き、気を付けなさい……!」

加勢に来たセレーネ達の登場に一人でライフルで牽制していた男子―――シドニーは僅かに安堵の表情をし、蒼髪の女子―――ゼシカはユウナ達に忠告した。

「敵多数、迎撃を開始します!」

「ここが正念場ですわ――――行きますわよ!」

そしてセレーネの号令を合図にユウナ達は戦闘を人形兵器達との戦闘を開始した。



「「―――――」」

「っと!」

「その攻撃は既に見切っている……!」

戦闘開始時、人形兵器達はそれぞれ回転する刃を放ったが、放たれた対象―――ユウナとクルトはそれぞれ武器で叩き落した。

「ブリューナク、照射。」

「――――――」

「落ちよ、聖なる雷――――ライトニングプラズマ!!」

反撃にアルティナはクラウ=ソラスにレーザーを解き放たさせ、セレーネは詠唱時間が短い魔術を発動して人形兵器達にそれぞれダメージを与えた。

「逃がさない……!ヤァァァァッ!!」

「ハァァァァ……これで、沈め――――黒鷹旋!!」

ユウナとクルトも続くようにそれぞれ遠距離攻撃のクラフトを放って追撃し

「いきます――――ノワールクレスト!――えいっ!」

「―――――」

「ヤアッ!」

アルティナはブレイブオーダーを起動して味方全体に反射結界を付与した後セレーネと共に人形兵器達に詰め寄って近接攻撃をして更なるダメージを与えた。

「「――――――!?」」

近接攻撃を仕掛けて来た二人の行動を好機と判断した人形兵器達は麻痺毒が塗り込まれている糸を放って反撃したがアルティナのオーダーによって、反射結界が二人に付与されていた為、人形兵器達は自分達の反撃でダメージを受けてしまった。



「ハァァァァァ……!―――斬!!」

「ハァァァァ……!えいっ!!」

「「!?」」

クルトとユウナもセレーネとアルティナに続くようにそれぞれ人形兵器達に接近してクラフトを叩き込んで人形兵器達の態勢を崩し

「崩したぞ!」

「追撃します!」

「崩したわ!」

「そこですっ!」

人形兵器達の態勢が崩れるとそれぞれと戦術リンクを結んでいたアルティナとセレーネがすかさず追撃を叩き込んだ。

「アークス駆動――――エアリアルダスト!!」

追撃を終えた後、戦術オーブメントの駆動を終えたアルティナは竜巻を発生させるアーツを発動して人形兵器達の動きを止め

「全てを塵と化せ―――超電磁砲(レールガン)―――――ッ!!」

止めにセレーネが両手から極太の雷光のエネルギーを放って人形兵器達を跡形もなく消滅させた!



「ふう………ゼシカ、大丈夫!?」

人形兵器達の撃破を確認したユウナは一息ついた後ゼシカに安否を確認し

「ええ……!でもウェイン君が……!」

「う……ぐううっ……」

ユウナの言葉に頷いたゼシカは地面に倒れて人形兵器達との戦いで負った重傷で呻いている眼鏡の男子生徒―――ウェインを心配そうな表情で見つめた。

「皆さん……!」

「だ、大丈夫ですか……!?」

「こちらへ、応急処置しますっ!」

するとその時医療班を担当しているミュゼ、中性的な容姿の男子生徒―――カイリとティータが駆け寄ってゼシカ達に声をかけた。

「シドニーさん!ウェインさんを連れて下がってください!」

医療班の到着を確認したセレーネはシドニーに指示をした。

「わ、わかりましたっ……!クルト、ここは頼んだぜ!」

「ああ、任せてくれ!」

「索敵を再開します!」

そしてセレーネ達は遊撃や援護を再開した。



「フン、思ったよりも食い下がりますわね。」

「ふふっ、ランディ兄も、教え子君達も悪くないじゃん。指揮と遊撃のおかげかな?なかなかソソらせてくれるねぇ……」

一方分校の生徒や教官達による迎撃戦をデュバリィと共に観戦していたシャーリィは不敵な笑みを浮かべて自身の得物のチェーンソーの部分を起動させ

「ちょ、ちょっと貴女!まさか―――」

シャーリィの行動を見て何かを察したデュバリィは表情を引き攣らせた。

「あはは、美味しそうな匂いには我慢できないタチなんだよね……ちょっとだけ―――味見するくらいだからさああっ!!」

そしてシャーリィは装甲列車を攻撃する為に演習地に突撃し

「ああもう―――どうしてわたくしが御守を!」

シャーリィの行動を見たデュバリィは疲れた表情で溜息を吐いた後シャーリィの後を追って行った。



「………!」

「チイ……ッ!」

シャーリィとデュバリィの行動に逸早く気づいたリィンは厳しい表情を浮かべ、ランディは舌打ちをし

「し、死角を……!」

「くっ、狙いは車両―――」

トワは不安そうな表情をし、ミハイル少佐は唇を噛みしめた。

「うおおっ……!?」

「ひええっ……!」

突撃してくるシャーリィを見た生徒達は悲鳴を上げ

「ほらほら!巻き込まれたくなかったらとっとと逃げなよねぇ!」

そしてシャーリィが車両に近づいたその時、シャーリィの頭上から銃弾が解き放たれ、突然の奇襲に気づいたシャーリィは一旦下がった。

「え………」

「うふふ、なるほどね。となるとアルトリザスにいる他のメンバーも――――」

シャーリィへの奇襲を見たティータが呆けている中レンは小悪魔な笑みを浮かべていた。

「あははっ……!ナイスタイミングだね!」

「………バッドタイミングの間違いだと思うけど。」

「………あ………」

「フィーさん……!」

シャーリィの言葉に対して列車の屋根にいるフィーは静かな表情で答え、フィーの登場にリィンは呆け、セレーネは明るい表情を浮かべた。

「3年―――いや4年ぶりかな?おっきくなったねぇ!”西風の妖精(シルフィード)”!」

「”血染めのシャーリィ(ブラッディシャーリィ)”―――……ううん、結社の”紅の戦鬼”。4年前は敵わなかったけどこっちもそれなりに成長した。今日は届かせてもらう。」

「アハッ、いいよ!それじゃあ小手調べと行こうか!」

フィーの言葉に好戦的な笑みを浮かべて答えたシャーリィはフィーとの戦闘を開始した!

「まさか”旧Ⅶ組”が他にも来ていたとは……しかもあの娘は確か………!これは――――」

一方二人の戦いの様子を見守っていたデュバリィは突如戦場に響き始めたバイオリンの音に気づき、音がしてくる方向へと視線を向けた。



「響いて――――レメディ・ファンタジア!!」

デュバリィが視線を向けた方向―――列車の屋根でバイオリンに変形した魔導杖で演奏をしていたエリオットが演奏を終えると何と戦闘によって傷ついた生徒達の傷が回復し始めた。

「おおっ、動けるぞ……!?」

「なんて綺麗な音色……」

「エリオット……」

「す、凄い……」

「魔導杖の特殊モードによる戦場全体の回復術ですか……」

「ふふっ、さすがはエリオットさんですわね。」

エリオットの回復術に生徒達だけでなく、リィンやセレーネも驚いたり感心したりしていた。



「つ、次から次へと……いいでしょう!ならばわたくしも本気を――――」

次から次へと現れるリィン達に対する援軍に顔に青筋を立てて身体を震わせていたデュバリィが本気を出そうとしたその時

「その本気は私達が受け止めさせてもらおうか。」

娘の声が突如聞こえ、声に気づいたデュバリィが視線を向けると高い丘にいつの間にか大剣を構えたラウラがいた。

「くっ………現れましたわね!」

「奥義――――”洸凰剣”!!」

ラウラの登場にデュバリィが表情を引き締めて迎撃をしようとしたその時ラウラは高い丘から突撃してデュバリィに闘気によって蒼く輝く大剣による強烈な一撃を叩き込んだ!

「くうっ……こ、ここまでとは……ラウラ・アルゼイド―――皆伝に至りましたわね!?」

ラウラの強烈な一撃を盾で防御したデュバリィだったが、あまりの威力に後ろへと下がらせられた後ラウラを睨んだ。

「フフ、お陰様でな。これでそなたらともようやく対等に渡り合える。」

「くっ、生意気な……―――なっ!?くっ………」

ラウラの言葉にデュバリィが唇を噛みしめたその時突如デュバリィに向かって狙撃が次々と放たれ、狙撃に気づいたデュバリィは間一髪のタイミングで盾で防ぎながら回避行動に移ったが銃弾が僅かに肩をかすった事でうめき声を上げた。

「今の狙撃はまさか――――!やはり、貴女でしたか………ステラ・ディアメル!口上も無しにいきなり狙撃をするなんて、パンダグリュエルで撤退する為に背を向けたわたくしを撃った時といい、その卑劣さも相変わらずですわね……!前々から指摘しようと思っていましたけどそれが騎士のやる事ですか!?」

ラウラがいた高い丘でライフルを構えているステラを見つけたデュバリィは声を上げた後ステラを睨んで問いかけ

「”銃騎士”の本領の一つは敵に気取られる事無く狙撃を成功させ、味方を援護する事です。それに確か貴女の部隊の隊員の一人に弓の使い手がいて、星見の塔での”特務支援課”の皆さんとの戦いで人形兵器達に”特務支援課”の相手を任せて、自身は”狙撃”による奇襲攻撃をしたと聞いています。私の”狙撃”による奇襲攻撃を”卑劣”と評した貴女のその言葉は貴女の仲間―――”魔弓”にも当てはまると理解していて、発言しているのですか?」

「ぐっ………!」

ステラの指摘と正論に反論できないデュバリィは唸り声を上げ

「フフ、それに先程私はそなたに対して、”そなたの本気は私達が受け止めさせてもらおうか”と言った。”ステラ達と共にそなたの相手をするつもりでいた私”の言葉をよく聞いていなかったそなたの落ち度だ。」

「くっ、やかましいですわ!―――――!?”ステラ達”という事はまさか他にも―――――」

ラウラの指摘に対して反論したデュバリィだったが、すぐにある事に気づいて血相を変えて周囲を見回したその時

「絶――――蒼龍天雷槍!!」

「あぐっ!?」

デュバリィの死角から全身に雷を迸る蒼き竜を宿したフォルデが突撃してデュバリィに強烈な一撃を与えた!

「やれやれ、わざわざ敵の落ち度を指摘してやるなんて、相変わらず正々堂々が好きだね~、ラウラは。」

「フフ、それが私―――いや、”アルゼイド流”の性分ですので。」

「クッ……―――フォルデ・ヴィント!死角から絶技による奇襲をするなんて、貴方には”ヴァンダール流”の使い手としての”誇り”はないのですか!?」

若干呆れた様子で指摘したフォルデの指摘に対してラウラが苦笑している中デュバリィは唇を噛みしめた後フォルデを睨んで指摘し

「”誇り”とかそう言うめんどくさいものは”本家”の連中が受け継いでいるから、”本家”の人間ではない俺達はやりたいようにやらせてもらうだけだ。それにメンフィルは奇襲、夜襲、暗殺と言った俗に言う”卑怯な手段”も十八番(おはこ)だし、第一”実戦”に”ルール”なんて存在しないぜ?”実戦”で相手が正々堂々な正面からのぶつかり合いの勝負に応じてくれるって思っているお前の方が随分とおめでたい考えをしているんじゃねぇのか?」

「だ、誰がおめでたい考えをしているですって!?というか”殲滅天使”といい、ステラ・ディアメルや貴方といい、1年半前の”七日戦役”や内戦の件といい、何でメンフィルはそんなに卑劣な手段ばかり取る事が多いのですか!普通、そういった手段は我々”結社”や”猟兵”のような裏の組織に所属している者達の専売特許ですわよ!?―――って、言った傍から……!ああもう……!どうしてわたくしばかりこんな目に……!」

「そんじゃ、俺達も始めるとするか。」

「フフ、承知した。」

フォルデの話や正論を聞くと怒りの表情で反論したが、ステラによる問答無用の狙撃に気づくと回避や防御行動に移り、フォルデとラウラもステラの狙撃に続くようにデュバリィとの戦闘を開始した。

「フィーちゃん、エリオット君、ラウラちゃん、フォルデさんにステラちゃんも……」

「……トールズ旧Ⅶ組にメンフィル帝国の特務部隊。助かったがこのタイミングは……」

フィー達の登場にトワが安堵の表情をしている中ミハイル少佐はフィー達の登場のタイミングの良さに呆れていた。



「ふーん、口先だけじゃなかったみたいだね?ぬるい道を選んだと思ったけど紫電ってヒトの薫陶かな?」

一方列車の屋根でフィーと武器の打ち合いをしていたシャーリィは一旦離れた後興味ありげな様子でフィーに問いかけた。

「否定はしない。でも、まだそっちの方が上かな?」

「あはは、それが言えるだけでも十分凄いとは思うけど。……いいね、妖精。改めて気に入っちゃったよ。」

「こちらはお断り。」

そして二人が再び戦闘を再開しようとしたその時

「ええい、小腹を満たしたならとっとと行きますわよ!」

ラウラ達との戦闘を一旦中断したデュバリィがシャーリィに注意をした。

「あはは、ゴメンゴメン。」

デュバリィの注意を聞いたシャーリィは苦笑した後デュバリィと共に再び高い丘へと戻っていった。



「な、なんて身体能力……」

「これが”結社”……」

二人の身体能力にユウナとクルトは驚き

「チッ……化物娘どもが。」

「……しかも全然、本気を出していないな。」

ランディは舌打ちをし、リィンは真剣な表情で呟いた。

「……あら?ランディさん、ランドロス教官が見当たらないのですが……?」

「ハア?げっ……ちょっと目を離した隙にこの非常時にどこに行ったんだよ、あのオッサンは!?しかもエルンストも見当たらねぇ!まさかとは思うが―――」

ある事に気づいたセレーネの指摘を聞いたランディは周囲を見回してランドロスやエルンストがいない事に気づいて疲れた表情で声を上げた後ある推測をした。



「お遊びにしてはなかなか楽しめたかな?―――本当の”戦争”だったら5分くらいで壊滅だろうけど。」

「ひっ……」

「お、お遊びですって……」

シャーリィの言葉を聞いたカイリは悲鳴を上げ、ゼシカは怒りの表情でシャーリィを睨んだ。

「まあ、この場所を叩くのは今夜限りと宣言しておきます。明日以降、せいぜい閉じこもって演習や訓練に励むといいでしょう。―――この地で起きる一切のことに―――」

そしてデュバリィが第Ⅱ分校の生徒や教官達に忠告をしかけたその時!

「ほう。残党の分際でこのオレサマ達がいるにも関わらず、5分で”壊滅”とは随分と口がデカくなったようだな、小娘共?」

「へ。」

「な―――――」

なんとエルンストの転移魔術によってランドロスがシャーリィとデュバリィの背後にエルンストとレン、そしてパテル=マテルと共に現れ、エルンスト達の登場にシャーリィは呆け、デュバリィが絶句したその時

「クク、演習初日早々に仕掛けて来て、雛鳥達に”奇襲”を経験させてくれた事に関しては礼を言うよ。その礼代わりに……例え”お遊び”だろうと、”戦争”を仕掛けたんだったら、当然”思わぬ反撃”を喰らう事も覚悟していた事を確かめさせて―――もらうよっ!!」

そしてエルンストは両手に溜め込んだ膨大な魔力を解放してシャーリィとデュバリィの周囲に魔力による怒涛の連続大爆発を起こし

「なああああああああっ!?」

「あはは、さすがランディ兄の使い魔だけあって、容赦がないねぇ!」

エルンストのSクラフト――転移爆発に対してデュバリィは混乱しながら、シャーリィは不敵な笑みを浮かべて反撃の機会を練りながらそれぞれ必死に回避や防御行動に移り

「こいつは今回の”お遊び”の”土産”だ。遠慮なく持っていけ――――玄武の滅燐撃!!」

「あうっ!?」

「あぐっ!?」

そこにランドロスが膨大な闘気を纏った大剣を地面に叩き付けて広範囲の凄まじい威力の衝撃波を二人に命中させて怯ませ

「うふふ、そしてこれは”お土産のオマケ”よ♪――――パテル=マテル!」

「―――――――」

「ちょ――――ぐっ!?」

「さすがにこれは不味――――へぶっ!?」

二人が怯んだ隙にレンはパテル=マテルに指示をし、レンの指示を受け取ったパテル=マテルは二人に向かって突撃してアッパーカットを放って二人を空高くへとふっ飛ばした!

「あはは、まんまとやられたねぇ。」

「くっ……去り際のセリフすらも言わせてもらえなかったなんて……!ううっ、今日は厄日ですわ……!今回受けた屈辱、1年半前に受けた屈辱も合わせていつか必ず倍返しにしてあげますから、絶対に覚えていやがれですわ――――!」

空高くへとふっ飛ばされたシャーリィは呑気に笑いながら、デュバリィは疲れた表情で呟いた後捨て台詞を口にした後転移魔術の効果がある道具を使ってシャーリィと共にその場から消え、その様子を見守っていたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「ったく………これだから目を離す事ができねぇんだよ、あのハチャメチャ連中共は!」

「レ、レンちゃ~ん………」

「ア、アハハ……敵どころか味方まで欺く所も、レン教官達らしいと言えばらしい行動でしたわね……」

我に返ったランディとティータは疲れた表情で溜息を吐き、セレーネは苦笑していた。



「くっ……まさか初日からとは。」

「とにかく被害状況を確かめましょう……!」

シャーリィとデュバリィがパテル=マテルの追撃によってその場からふっ飛ばされた後戦闘が終了した事によって生徒達が安堵や疲労で地面に座り込んだり倒れ込んだりしている中ミハイル少佐は唇を噛みしめ、トワはすぐにやるべきことを口にした。

「動けないヤツには手を貸してやれ!」

「動けない方達はわたくしとレン教官が治癒魔術で治しますので、わたくしかレン教官の所に運んでください!」

「軽傷で済んだ人達も動けない人達の治癒が終わったらちゃんと治癒魔術をかけてあげるから、後片付けが終わったら忘れずにレンかセレーネの所に来なさい!」

「手が空いている奴等はまず消火活動をしろ!火をほおっておいたら、二次災害が起きるぞ!」

「みんな、怪我はないな?ユウナとアルティナは負傷者のフォローを。クルトは被害状況の確認に回ってくれ。メサイアもすまないが、セレーネやレン教官に手を貸してやってくれ。」

それぞれの教官達が生徒達に指示をしている中、リィンはユウナ達に他の教官達のように指示をしていた。



「は、はい……!」

「……………(コクッ)」

「……了解です。」

「わかりましたわ。」

リィンの指示にそれぞれ頷いたユウナ達はメサイアと共にその場から離れてリィンの指示通りの行動を始めた。

「リィン。」

するとその時ラウラ達と共に来たエリオットがリィンを呼び止めた。

「エリオット、ラウラ……ステラにフォルデ先輩……そしてフィーも。ありがとう、助かったよ。」

「ん。ラウラとかミリアムみたいに再会のハグがしたかったけどちょっとそんな雰囲気じゃないね。わたし達も手伝おうか?」

「ああ、助かる―――ってミリアムのことまでなんで知っているんだ?」

「フフ、それは追々な。」

フィーの言葉に頷きかけたリィンだったが、フィーがその場にいなかったにも関わらず知っている出来事に困惑し、リィンの様子にラウラは苦笑していた。

「クク、しかしラウラやミリアムでハグなんだから、お前やエリゼちゃん達と”同じ立場”でありながら中々会う機会が無かったアリサが再会したら、ハグに加えてディープキスもするんじゃねぇのか~?」

「フフ、アリサさんでしたらありえそうですね。」

「ん。その光景がわたし達でも目に浮かぶ。」

「まあ、1年前の最後の”自由活動日”の時も、人前であるにも関わらずミリアムのように、リィンに突撃した後自ら口づけをする程、リィンを慕っている様子を見せていたしな。」

「というかそういう話はせめて当事者の一人になる俺がいない所でしてくれないか……?」

フォルデのからかいにステラが苦笑している中フィーの言葉に続くようにラウラは困った表情で答え、フォルデ達の会話を聞いたリィンは疲れた表情で指摘した。

「アハハ……とりあえず僕も治療を手伝うよ。医務室は列車の中?」

「ああ、よろしく頼む。それにしても――――」

苦笑した後気を取り直したエリオットの申し出に頷いたリィンは”戦場”跡となった演習地を見回し

「……とうとう事態が動き始めてしまったか。」

「うん……そうだね。」

「それも氷山の一角。全貌がまったく見えない。」

「やれやれ……今回の出来事はアルトリザスと隣接しているメンフィル帝国領(セントアーク)にとっても他人事じゃないだろうから、間違いなく今夜の件も既にリウイ陛下やシルヴァン陛下の耳に入っているだろうな。」

「はい………そして両陛下が例の”要請(オーダー)”を発動する可能性も非常に高いでしょうね。」

「ああ……―――明日は色々と忙しくなりそうだ。」

リィンと共に演習地を見回して重々しい様子を纏って呟いたラウラの言葉にエリオットは頷き、フィーは静かな表情で呟き、疲れた表情で溜息を吐いたフォルデの言葉に続くように呟いたステラはリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは頷いた後決意の表情を浮かべていた。


 
 

 
後書き
原作と違い、レン達がいるのでデュバリィとシャーリィは思わぬ反撃を喰らった上最後はポケモンのロケット団のように空高くへとふっ飛ばされましたww 

 

第19話

4月23日、演習2日目――――



シャーリィとデュバリィによる夜襲があった翌朝、リィン達はミハイル少佐とレクター少佐から信じられない報告を受けていた。



~デアフリンガー号・2号車―――ブリーフィングルーム~



「て、鉄道憲兵隊も動かないんですか……!?」

「ああ……諸般の事情でな。」

「ま、帝国の東側で面倒な事件が起こってな。こっちに戦力を割いてる余裕がないってことだ。」

驚いている様子のトワにミハイル少佐は重々しい様子を纏って、レクター少佐はいつもの調子で理由を答え

「……おいおい、ふざけんなよ。”結社”の執行者に鉄機隊―――しかもあのシャーリィが来ている。下手したらサザ―ラント州が火に包まれてもおかしくねえぞ?」

「サザ―ラントどころか、下手したらアルトリザスの”お隣”のメンフィル帝国領(セントアーク)まで”巻き添え”を受けるかもしれないわねぇ?」

「クク、1年半前の件でメンフィルにあれ程痛い目に遭わされたにも関わらず、そんな”余裕”があるなんて、さすがは1年半前に建国されたばかりの”新興の某帝国”と違って”伝統”を誇るエレボニア帝国だなぁ?」

「………それは………」

静かな怒りを纏ったランディと小悪魔な笑みを浮かべたレン、そして不敵な笑みを浮かべたランドロスの指摘に対して反論できないミハイル少佐は複雑そうな表情で言葉を濁した。

「……ランドルフ教官。あの、シャーリィさんという女性は?」

「ああ……身内の恥にはなるが俺の従妹になる。大陸最強の猟兵団の一つ、”赤い星座”の大隊長……―――いや、叔父貴が死んで団長になったみてえだな。」

トワの質問に対してランディは静かな表情で答え

「赤い星座……聞いた事があります。」

「クロスベルの異変で暗躍していた最強の猟兵団………わたくしやお兄様、それにランディさんが所属していた”特務支援課”やヴァイスハイト皇帝陛下達―――”六銃士”の方達の協力によって阻止する事ができたのですわ……」

「阻止っつーか、リア充皇帝共や”嵐の剣神”達が言葉通り叔父貴を含めたあの異変に関わっていたほとんどの猟兵達の命を奪って”壊滅”に陥らせたけどな。だがその後、あの人喰い虎は”結社”にスカウトされやがった。”赤い星座”に所属したままな。」

ランディの答えを聞いたトワは真剣な表情を浮かべ、複雑そうな表情で答えたセレーネに続くように疲れた表情で答えたランディは厳しい表情を浮かべた。

「それは………」

「―――”赤い星座”の本隊の連中が控えているって事だな。」

「更に”神速”を除いた”鉄機隊”の他の面々もね。」

ランディの話を聞いたリィンは表情を厳しくし、ランドロスとレンはそれぞれ静かな表情で答えた。



「―――それなんだが、”赤い星座”の本隊の方は帝国には入ってないみたいだな。」」

「なに……!?」

するとその時レクター少佐が意外な情報を口にし、その情報を聞いてリィン達と共に血相を変えたランディは驚きの声を上げた。

「元々、結社の傘下じゃないし別のヤマをやってるみたいだぜ?分隊は知らんが、アンタが想像する最悪の状況にはなってないってことだ。」

「……………」

「……その意味で、現状の危険度は”そこまで”ではないという判断だ。連中の狙いがわかるまであくまで第Ⅱのみで備えておく。無論、サザ―ラント領邦軍には治安維持をしてもらうつもりだが。」

レクター少佐の指摘にランディが目を細めて黙り込んでいる中ミハイル少佐は静かな表情で答えた。

「で、でも……」

「ならば帝国正規軍には?リグバルト要塞―――サザ―ラントの北端ですよね。」

ミハイル少佐の説明に納得し切れないトワが反論しようとしたその時、リィンが別の質問をした。

「……正規軍は正規軍で忙しい。煩わせたくないとの判断だ。繰り返しになるが……今回の件は、現地領邦軍と第Ⅱの”現有戦力”に対処してもらう。これが現時点での決定事項だ。――――エレボニア帝国政府の。」

ミハイル少佐の説明を聞いたリィン達はそれぞれある人物―――オズボーン宰相の顔を思い浮かべた。

「そ、それって………」

「帝国政府……ってことは”あの”―――」

「なるほどなぁ………まさか”そういう手で来る”とはな。」

「……そういう事ですか。そして貴方が今朝タイミング良く現れた事を考えると………――――例の”要請”を貴方が”両陛下の代理人”としてこの場に現れたのですね?」

オズボーン宰相の顔を思い浮かべたトワは不安そうな表情をし、ランディは厳しい表情を浮かべ、ランドロスが不敵な笑みを浮かべたその時ある事を察したリィンは静かな表情でレクター少佐に問いかけた。

「お兄様……」

「………?」

リィンの言葉を聞いたセレーネが心配そうな表情をしている中、ランディは不思議そうな表情をしていた。



「ハハッ………いいんだな?そこまで察しているという事は、お前がやろうとしている事は結果的にお前の今の祖国であるメンフィルではなく、1年半前の戦争相手だったエレボニアの方に”利”がある事も既に察しているだろう?」

「ええ、レン皇女殿下達に鍛えて頂いたお陰で。だが、そこに危機が迫り、何とかする力があるのなら……エレボニアの内戦を終結させた”特務部隊”の”総大将”として、”七日戦役”を”和解”への切っ掛けを作った者として、俺は見過ごすことはできません。このまま”結社”の計画通りに状況が進めば、最悪アルトリザスに隣接しているメンフィル帝国領(セントアーク)まで巻き込まれ、その結果”ユミルの二の舞い”になる事は見過ごせません。」

レクター少佐の問いかけに対してリィンは決意の表情で答え

「……上等だ。」

リィンの答えを聞いて不敵な笑みを浮かべたレクター少佐は持っていた封筒から一枚の紙を取り出してある宣言をした。

「『”灰色の騎士”リィン・シュバルツァー殿。メンフィル帝国両皇帝の”要請(オーダー)”を伝える。サザ―ラント州にて進行する”結社”の目的を暴き、これを阻止、可能ならば”結社”の関係者を討伐せよ。」

「ほう~?それが話に聞いていた例の”灰色の騎士”専用の”要請(オーダー)”とやらか、」

「メンフィル帝国両皇帝―――”英雄王”とその息子である現メンフィル皇帝からの要請(オーダー)……”灰色の騎士”を動かす唯一の。」

レクター少佐が読み上げた紙の内容を知ったランドロスは興味ありげな表情を浮かべ、ミハイル少佐は真剣な表情を浮かべていた。

「その要請(オーダー)―――しかと承りました。」

そしてリィンは紙を受け取った後手に胸を当てて宣言をした。



「……なるほど。そういうカラクリか。しかし何で、エレボニアでの出来事にメンフィルが介入して、それをエレボニアの政府は何も言わないんだ?幾らエレボニアが1年半前の件でメンフィルに頭が上がらない立場とはいえ、さすがに不味くねぇか?」

「え、ええ……普通に考えたら、一種の”内政干渉”に考えられますけど……」

リィン達の様子を見守っていたランディの疑問に続くようにトワは戸惑いの表情で呟いた。

「うふふ………メンフィルが求めている”利”とエレボニア帝国政府が求めている”利”……―――それぞれに”利”があるからこそ、エレボニア帝国政府はパパとシルヴァンお兄様によるリィンお兄さんに対しての要請(オーダー)について何も口出ししないのよ。」

するとその時レンが小悪魔な笑みを浮かべて答えた。

「メンフィル帝国とエレボニア帝国の双方に”利”……ですか?それは一体どのような”利”なのでしょうか?」

レンの答えを聞いたトワは不思議そうな表情で訊ね

「既にみんなも知っての通り、パパ達やメンフィル帝国軍の精鋭部隊や暗殺部隊が結社の”盟主”を始めとした最高幹部クラスのほとんどを討ち取ったわ。で、メンフィルは今も”残党”として生き残っている結社の”殲滅”を目指して”極一部の人達を除いた結社や十三工房の上層部やエージェント”―――”執行者”や”蛇の使徒”、”蛇の使徒直属の部隊”、それと”十三工房”の関係者達を”賞金首”扱いしているの。で、エレボニアは1年半前の七日戦役やクロスベル帝国建国の件で様々な”力”が衰退した影響で、戦力もそうだけどあらゆる方面で深刻な人材不足に陥っているわ。――――ここまで言えば、エレボニア帝国政府がパパとシルヴァンお兄様による介入の件について何も言わない”理由”もわかるでしょう?」

「あ…………」

「……なるほどな。そういうカラクリになっていたのか。」

「クク、エレボニアの”利”に関しては”それ以外の利”も当然あるんだろうなぁ。」

レンの説明を聞いたトワは呆けた声を出し、ランディは真剣な表情で呟き、ランドロスは不敵な笑みを浮かべた。

「………!」

「やれやれ………今の話だけで”そこまで”察する事ができるなんてな……天性―――いや、”野生の勘”って所か?」

ランドロスの言葉を聞いたミハイル少佐が驚いている中疲れた表情で溜息を吐いたレクター少佐は不敵な笑みを浮かべてランドロスを見つめた。



「それにしても、その要請(オーダー)とやらは見ようによってはメンフィルの言いようにこき使われているようにも見えるが……リィン、お前さんはそれで納得しているのか?」

「ラ、ランドルフ教官。この場にはメンフィル皇家の一員であるレン教官もいらっしゃるのですから………」

リィンを見つめて目を細めて問いかけたランディの問いかけにトワはレンを気にしながら冷や汗をかいた。

「うふふ、ランディお兄さんはリィンお兄さんを心配して訊ねている事はちゃんと理解しているから、レンの事は別に気にしなくていいわよ。それにそのリィンお兄さん専用の要請(オーダー)はリィンお兄さんにとっても様々な”利”があるからこそ、リィンお兄さんも納得して請けているのよ?」

「ふえ……?それってどういう”利”なんですか……?」

レンの指摘を聞いたトワは不思議そうな表情でレンに訊ねた。

「国内、国外に関わらずいずれかの勢力によるシュバルツァー家に対する干渉に関する事はレン達―――メンフィル皇家がシュバルツァー家の”後ろ盾”になって、守ってあげる事よ。リィンお兄さん―――いえ、シュバルツァー家は1年半前の”七日戦役”とエレボニアの内戦の件で”色々な意味”でメンフィルやエレボニアは当然として、ゼムリア大陸ではとても有名な存在になったしね。特にエレボニアの両派閥の”一部の勢力”も、シュバルツァー家を取り込む事を未だに諦めていないみたいだしねぇ?」

「あ…………」

「…………………」

「なるほどな……特に、”某宰相”あたりはリィンを利用する事を考えていそうだな。何せリィンとの関係を考えると、あの怪物の事だから”政治以外の方面”からも利用できると考えているだろうしな。」

「ハハッ……どうやらその口ぶりだと、”特務支援課”の連中にも今の両親から聞いたお前の”真実”について話したみたいだな?」

意味ありげな笑みを浮かべたレンの言葉を聞いたトワが呆けている中ミハイル少佐は複雑そうな表情で黙り込み、目を細めたランディに視線を向けられたレクター少佐は口元に笑みを浮かべた後リィンに問いかけた。

「ええ……アリサ達も知っているのですから、ロイド達にも当然知っておいて欲しかった事実でしたので。――――話を続けますけど、いくら戦争で活躍し、その活躍を評して”公爵”の爵位を授けたとはいえメンフィル皇家が一貴族を贔屓する事は、メンフィル帝国内の人々に”示し”がつきません。ですからメンフィル皇家以外の人々を納得させるには、それなりの”対価”が必要です。」

「そしてその”対価”が、メンフィル皇帝直々による”要請(オーダー)”って訳か。わざわざ皇帝直々の”要請(オーダー)”にしたのは皇家以外のメンフィルの政治家や軍の連中の介入を防ぐ為か?」

レクター少佐の問いかけに静かな表情で頷いたリィンは説明を続け、リィンの説明を納得した様子で聞いていたランドロスはレンに視線を向けた。



「うふふ、大正解♪リィンお兄さんに対する”要請(オーダー)”の権限を持つのはパパとシルヴァンお兄様のみだから、レンやプリネお姉様は当然として、リフィアお姉様ですら、リィンお兄さんに対する”要請(オーダー)”の権限を発動する事もできないのよ?」

「次期メンフィル女帝に即位する事が確定しているリフィア皇女殿下ですらも、リィン君に対する”要請(オーダー)”の権限がないのですか………」

レンの説明を聞いたトワは驚き

「更にリウイ陛下達もお兄様に対する”要請(オーダー)”を発動した際は、お兄様に様々なサポート要員を付けてくれましたわ。―――勿論、そのサポート要員の中にはわたくしも入っています。」

「やれやれ、至れり尽くせりだな。ま、そのお陰で”北方戦役”でのノーザンブリアの市民達の被害は皆無に済んだから、こっちとしては助かったんだがな。」

「何……っ!?」

「”北方戦役”って……!もしかしてリィン君、1年前のエレボニア帝国によるノーザンブリア侵略に協力していたの……!?」

セレーネの説明の補足の後に苦笑しながら答えたレクター少佐の話を聞いたランディは驚き、トワは信じられない表情でリィンに訊ねた。

「えっと、それは……」

「あー、紛らわしい事を言ってすまん。正確に言えば、”遊撃士協会の外部協力者として”、ノーザンブリアの公都であるハリアスクの市民達の避難誘導や救助に手を貸していやがったんだ。」

「遊撃士協会の………という事はエレボニア帝国軍によるノーザンブリア侵攻の情報を掴んだ遊撃士協会がメンフィル帝国と交渉して、リィン君達をハリアスクの市民の人達の避難誘導や救助を手伝う”要請(オーダー)”を両陛下が出したの……?」

リィンが困った表情で答えを濁していると代わりにレクター少佐が答え、レクター少佐の説明を聞いてある事に気づいたトワはリィンに視線を向け

「はい。」

視線を向けられたリィンは静かな表情で頷いた。

「ま、そのお陰でエレボニア帝国軍(こちら側)に軽い混乱が起こった上、被害も受けたから、メンフィルによる”北方戦役”に対する介入を疑って、情報局(オレ達)を惑わせたんだぜ?」

「ほう?”被害”って事はノーザンブリアに侵攻したエレボニアの連中を殺ったのか?」

レクター少佐の話を聞いてある事を察したランドロスは興味ありげな様子でリィンに訊ね

「市民にまで危害を加えようとした極一部のエレボニア帝国の兵士達のみを峰打ちか重傷を負わせただけですから、命までは奪っていません。」

「そ、そうだったんだ……」

「つーか、リィン達に攻撃されたエレボニアの兵士達は完全に自業自得だろ。市民にまで危害を加えようとするなんて、”百日戦役”の再来じゃねぇか。”七日戦役”でのメンフィルもそうだが、メンフィル・クロスベル連合軍によるカルバード侵攻―――”三日戦役”で旧共和国に恨みを持っていたクロスベル帝国軍ですら市民達に危害を加えるような事はしなかったんだぜ?」

「うふふ、対して”百日戦役”ではエレボニア帝国軍は多くのリベール王国の罪無き市民達の命を奪ったものねぇ?」

リィンの説明を聞いたトワが安堵の表情をしている中、ランディは呆れた表情で溜息を吐き、レンは意味ありげな笑みを浮かべてミハイル少佐やレクター少佐を見つめた。



「……シュバルツァー教官が言っているように、市民達に危害を加えようとしたエレボニア帝国軍の兵士達は”極一部”だ。そしてその者達は”北方戦役”後軍法会議にかけられ、重い処罰を受けた。」

「ま、メンフィルに”七日戦役”を仕掛けられてエレボニアが衰退した原因の一つは”北の猟兵”だったから、そのバカな連中は八つ当たりでハリアスクの市民達に危害を加えようとしたとの事だったから、シュバルツァーがハリアスクに侵攻したエレボニア帝国軍の兵達を攻撃した理由が判明した後帝国政府に加えてユーゲント皇帝陛下直々からも感謝状や勲章をシュバルツァーに贈ったんだぜ?」

レンに視線を向けられたミハイル少佐は静かな表情で答え、レクター少佐は苦笑しながら答えた。

「うふふ、そう言う訳だからリィンお兄さんは自分に対する”要請(オーダー)”も納得の上で請けているのよ。―――――そう言う訳だから、今からレンもリィンお兄さんやセレーネと一緒に”要請(オーダー)”を開始するからトワお姉さんはⅨ組の生徒達の面倒をお願いね♪」

「ええっ!?セレーネちゃんがリィン君を手伝う事は察していましたけどレン教官まで、手伝われるのですか……!?」

レンの話を聞いたトワは驚いた様子でレンに訊ね

「セレーネの説明にもあったでしょう?リィンお兄さんが”要請(オーダー)”を実行する際はメンフィルからもサポート要員を付けるって。――――ミハイル少佐も、その件について特に文句はないでしょう?」

「………ああ。シュバルツァー教官に対するメンフィル両皇帝陛下専用の”要請(オーダー)”の件に関する事はエレボニア帝国政府も承認した事は情報局を通して私にも伝わっているし、幸いにも第Ⅱのクラスには全て”副担任”もいるのだから問題無い。ハーシェル教官は本日の演習で、マーシルン教官がいないと支障が出る事はあるのか?」

理由を説明したレンはミハイル少佐に視線を向け、視線を向けられたミハイル少佐は静かな表情で頷いた後トワに確認し

「い、いえ、特に問題はありませんけど………」

「ならばその要請(オーダー)、我等も手伝わせてもらおう。」

ミハイル少佐の確認に対してトワが答えたその時、ラウラ達が現れた。



「ラウラ……フィーにエリオット、それにステラやフォルデ先輩も。」

「待て、部外者は遠慮してもらおうか……!」

ラウラ達の登場にリィンが驚いている中ミハイル少佐はラウラ達に注意をしたが

「メンフィル両皇帝からの要請は一教官へのものじゃない筈。リィン個人への要請だったらわたしたちも無関係じゃない。」

「まあ、俺とステラの場合はメンフィル帝国所属だから、強制参加みたいなものだけどな。」

「フォルデ先輩……時と場合を考えて発言してください……」

「どうやら何らかの思惑で正規軍も動かしたくない様子……リィン達も動きにくいでしょうし僕達がサポートしますよ。」

フィーが反論し、フォルデの答えにステラが疲れた表情で指摘している中エリオットが協力の申し出の理由等を口にした。



「だ、だが――――」

「ああ、何を言っても無駄だぞ?メンフィル帝国所属のフォルデ殿やステラは当然として、我等もみな、エレボニア政府からのしがらみを受けぬ者ばかり……その意味で、TMPと情報局に行動を制限される謂れはないからな。」

「……ぐっ………」

「確かに、止められる権限はカケラも持っちゃいないなぁ。」

「はは……」

「だぁっはっはっはっ!さすがは旧Ⅶ組だけあって、1枚上手じゃねぇか?」

「ラウラちゃん、フィーちゃん、ステラちゃん、フォルデさん、エリオット君も……」

ラウラの正論に反論できないミハイル少佐は唸り声を上げ、レクター少佐が苦笑している中その様子を見守っていたランディは苦笑し、ランドロスは豪快に笑い、トワは明るい表情を浮かべた。

「みんな……その、いいのか?」

「あはは、なに言っているんだか。どうして僕達がこのタイミングでこの地方に来たと思ってるのさ?」

「え………」

自分の問いかけに対して苦笑しながら答えたエリオットの答えを聞いたリィンは呆けた声を出した。

「皆、1年前の我等にとっての最後の自由行動日を機会に、滅多にエレボニアに姿を現さなくなったそなたの事をずっと気にかけていたのだ。内戦を終結させた後更にはクロスベルの仲間達の元に駆けつけ、彼らと共にクロスベルの動乱を解決した事でようやくそなたも平穏な生活に戻る事ができたにも関わらず、元エレボニア帝国領を含めたメンフィル帝国の領土に加えてノーザンブリアでそなたが為さなければ誰かが傷つくような”要請”――――それを独りで成し遂げてきたかけがえのない”Ⅶ組”の仲間を。」

「………ぁ………」

「皆さん………」

ラウラの話にリィンは呆けた声を出し、セレーネは微笑んだ。

「”約束”もあったし一石二鳥。ちなみに第Ⅱの演習地と日程はとある筋から教えてもらった。それで来られそうなメンバーが集まったっていうカラクリ。」

「ふふ、アリサとかマキアスなんか物凄く悔しがってたよね。」

「クク、特にアリサはその件を大義名分にして、婚約者のリィンと会えるから、二重の意味で悔しがっているだと思うぜ?」

「ふふ、そうですね。」

「…………………」

「お兄様……」

フィーやエリオット、フォルデとステラの話を聞き、仲間達の心遣いを知ったリィンが感動している中その様子をセレーネは微笑みながら見守り

「………えへへ………」

「……ったく。正直、予想外っつーか……エレボニアの内戦の話は聞いてはいたが、まさか俺やロイド達のような深い”絆”を結んでいたとはな………そう言う意味でもロイドと似ているな。」

「うふふ、ついでに言えばロイドお兄さんと同じようにレディ達にモテモテな所も似ているわよね♪」

「クク、この調子ならば成長すればいずれヴァイスハイトと同じ―――いや、それ以上の”器”になるかもしれないなぁ?」

トワは嬉しそうな表情を浮かべ、ランディは苦笑し、レンはからかいの表情で答え、ランドロスは興味ありげな表情でリィンを見つめていた。

「……成程。あの方からの手回しか。」

「ったく、翼をもがれながら色々とやってくれるぜ。」

一方ラウラ達が分校の演習地の場所等を知っている理由を察したミハイル少佐は複雑そうな表情で呟き、レクター少佐は呆れた表情で呟いた。



「―――ありがとう。ラウラ、フィー、エリオット、ステラ、フォルデ先輩。”灰色の騎士”への要請……ヴァリマールを動かす可能性すらあり得るほどの案件だ。どうか5人の力を貸してくれ!」

「うんっ!」

「ああっ!」

「……ん!」

「はい!」

「おう!」

リィンの言葉に対してエリオット達はそれぞれ力強く頷いた。その後準備を整えたリィン達が外に出ると娘の声がリィンを呼び止めた。



~演習地~



「教官……!」

声に気づいたリィン達が足を止めるとユウナ達―――”特務科”の生徒達がリィン達に駆け寄った。

「ユウナ……クルトにアルティナもか。」

「い、いまトワ教官から聞いたんですけど本当ですか!?メンフィル皇帝直々からの要請で教官達は別行動になるって―――!」

「それは…………」

「アランドール少佐が来ていたのはこのためですか。」

「それで―――どうなんですか?」

ユウナの問いかけにリィンが答えを濁しているとアルティナが推測を口にし、クルトはリィンに問いかけた。

「本当だ―――特務活動は昨日で終了とする。本日はⅧ組・Ⅸ組と合同でカリキュラムに当たってくれ。」

「トワさん達には既にⅦ組がⅧ組・Ⅸ組と合同でカリキュラムをする事は既に伝えてありますわ。」

「……………」

「そ、そんな……!」

「了解しました。では、わたしだけでも――――」

リィンとセレーネの話を聞いてそれぞれ血相を変えたクルトは黙り込み、ユウナは信じられない表情をし、アルティナは冷静な様子でリィン達に協力を申し出ようとしたが

「―――例外はない。君も同じだ、アルティナ。」

「え。……ですがわたしは教官をサポートするため―――」

リィンから協力の申し出が不要の指示が与えられるという予想外の指示に呆けた後反論をした。



「……経緯はどうあれ、今の君は第Ⅱに所属する生徒だ。一生徒を、”俺の個人的な用事”に付き合わせるわけにはいかない。それに”君の処遇については俺達シュバルツァー家にある事は今も変わらない。”」

「……………………」

リィンの説明によって反論の余地を奪われたアルティナは黙り込み

「これも良い機会だと思う………ユウナやクルトと行動してくれ。」

「でも、わたしは……………………」

再び反論をしようとしたが、反論の言葉が頭に浮かばなく目を伏せて黙り込んだ。

「………一つだけ聞かせてください。」

「?……なんだ?」

「見れば、アルゼイド流と”槍”のヴァンダール流の皆伝者を協力者として見込んだ様子……”双剣”のヴァンダール流では――――……いや、僕の剣では不足ですか?」

「……………ああ、不足だな。」

「!」

自身の問いかけに対して少しの間考え込んだ後ハッキリと断りの答えを口にしたリィンの答えを聞いたクルトは目を見開いた。

「”生徒だから”とは別にして。いくら才に恵まれていようがその歳で中伝に至っていようが……半端な人間を”死地”に連れて行くわけにはいかない。」

「!!っ……失礼します―――!」

リィンの答えを聞いたクルトは唇を噛みしめた後その場から走り去り

「ちょ……クルト君!?ああもう……アルも一緒に来て!」

クルトの突然の行動に驚いたユウナはアルティナの手を握ってリィン達に背を向け

「……何よ、ちょっとは見直しかけたのに。」

リィンに対する指摘を口にした後アルティナの手を引っ張ってクルトの後を追って行った。



「ふう………」

「お兄様……」

「ふむ……さすがに厳しすぎるのではないか?」

「リィン、ツンデレすぎ。」

「うふふ、まあアリサお姉さんみたいな典型的なツンデレと比べたら可愛いものよ♪」

「確かにアリサ程まさに”ツンデレの見本”と言ってもおかしくない女は現実には滅多にいないよな?」

「ふふ、そうですね。ですがリィンさんのそう言う所は初めて見ました。」

「はは、まあリィンも不器用な所があるしね。けっこう苦労してるでしょ?」

クルト達が去った後溜息を吐いたリィンの様子をセレーネは心配そうな表情で見つめ、ラウラは複雑そうな表情でリィンに問いかけ、ジト目のフィーとからかいの表情を浮かべているレンとフォルデの指摘にステラと共に苦笑していたエリオットは気を取り直してリィンに訊ねた。

「ああ……苦労の連続だよ。今になって、セシリア教官やサラさんの凄さが身に染みるくらいだ。」

「それは……どうなのであろうな?」

「セシリア将軍はともかくサラは絶対、深くは考えてないと思う。」

「うん……でもリィンは少し真面目すぎるのかもね。」

リィンの言葉に冷や汗をかいたラウラは困った表情でエリオットやフィーに視線を向け、フィーは呆れた表情で答え、エリオットは困った表情で答えた。

「ああ、不真面目なくらいが時にいいこともあると思う。でも、これも性分だ。……あの子たちとどう接するか俺とセレーネなりに今後も考えていきたい。―――何とかこの危機を乗り越えることができたなら。」

「……そうだな。」

「”死地”か……たしかに連れていけないね。」

「ふふ、僕なんかよりは戦闘力は高いとは思うけど……やっぱり経験ってあるよねぇ。」

リィンの話にラウラとフィー、エリオットはそれぞれ頷き

「うふふ、確かに”命を奪い合う実戦の経験”は大事よね。―――そう言う意味では”旧Ⅶ組”のみんなも、”特務部隊”と一緒に行動してよかったのじゃないかしら♪」

「よりにもよって、アリサさん達に殺人の強要をした張本人であるレン教官がそれを言いますか……?」

「ま、実際に命は奪っていなくても、”実戦”の経験が大事である事は事実だな。」

「はい。”実戦”の雰囲気は”模擬戦”や”練習”とは全く違うものですから、例えどのような使い手であっても、”実戦”を経験していなければ本来の力を出せずに倒れてしまう事もあり得ますものね。」

レンの問いかけにその場にいる全員と共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたセレーネは疲れた表情で指摘し、苦笑しながら答えたフォルデの言葉にステラは静かな表情で頷いた。そしてリィン達は互いの顔を見回してそれぞれ頷いた。

「――――出発しよう。時間は有効に使いたい。とりあえず情報を集めたいがなにかアイデアはないか?」

「それならまずはアルトリザスに移動しよう。情報整理ができそうな場所にリィン達を案内する。」

「え、それって……」

「フフ、そなたの新たな”就職先”に関わる場所か。」

「―――なるほど、期待できそうだな?」

「ま、お楽しみに。馬は使えるんだっけ?」

「ああ、準備を済ませたら演習地を出て向かおう。」

その後準備を整えたリィン達は馬を駆って演習地から去っていった。



「ハハッ……せいぜいガンバレよー。」

「―――ハッ、もうトンボ帰りかよ?」

リィン達を見送ったレクター少佐も演習地から去ろうとしたその時アッシュがレクター少佐を呼び止めた。

「朝っぱらから使いっ走りとはご苦労なこった。」

「ま、これも宮仕えの辛いとおろってヤツでね。―――で、”そっちの方はどうよ?”」

「……ハン、まだ何とも言えねぇな。……言えねぇが………―――どうやら色々と”重なる”のは確かみてぇだ。」

レクター少佐の問いかけに対して鼻を鳴らして答えたアッシュは周囲を見回した後片手で左目を抑えて答えた。

「……なるほどね。いや~、紹介した甲斐があったぜ。ま、演習が終わるまでに手掛かりを掴めるのは祈ってるぜ?」

「……チッ、カカシ野郎が。」

自分の答えを聞いて満足げな表情を浮かべた後演習地から去って行くレクター少佐を見つめて舌打ちをしたアッシュはその場から去り

(ふふ……幾つもの”縁”が絡まり合っているみたいですね。)

二人の様子を距離を取って見守っていたミュゼは意味ありげな笑みを浮かべた後ティータに視線を向けた。

(サザ―ラントでの盤面もどうやら後半戦みたいです。少しばかり”指し手”として介入させて頂きましょうか―――)

そしてティータに視線を向けたミュゼは意味ありげな笑みを浮かべていた。



~同時刻・メンフィル帝国領クロイツェン州・”翡翠の公都”バリアハート・クロイツェン統括領主城館前~



「――――それではサフィナお姉様、後の事はよろしくお願いします。」

「ええ、武運を祈っていますよ。」

同じ頃腰まで届く程の夕焼け色の髪をなびかせている女性―――メンフィル帝国皇女の一人にして、レンの義理の姉でもあるプリネ・カリン・マーシルンはツーヤと銀髪の青年、銀髪の娘と共に金髪の女性―――プリネは腹違いのメンフィル皇女であり、セレーネとツーヤの義理の母にしてメンフィル帝国の”竜騎士軍団”の”元帥”とプリネやレンと同じ臨時のクロイツェン統括領主を兼ねているサフィナ・L・マーシルンに見送られて城館を後にした。

「それにしても演習初日早々に結社が第Ⅱ分校に襲撃するなんて、想像もしていませんでしたね……」

「そうね……それもエレボニアでは”捨石”や”二軍”扱いされている分校にわざわざ”執行者”や”鉄機隊”程の使い手が襲撃するなんて……」

「……それだけ”結社”が追い詰められている証拠かもしれんな。1年半前の”英雄王”達を含めたメンフィルの精鋭部隊や暗殺部隊によって、”盟主”や多くの”蛇の使徒”達を失ったからな。」

「くふっ♪それにしても”結社”って、バカだよね。リウイお兄ちゃん達のリィンに対する”要請(オーダー)”も知っているだろうに、わざわざリィンがいるとわかっていてリィンがいる場所に現れるなんて、自分から殺されに来ているようなものじゃん♪」

バリアハート市内を歩きながら呟いたツーヤの言葉に頷いたプリネは考え込み、銀髪の青年―――元結社”身喰らう蛇”の”執行者(レギオン)”にしてプリネの恋人でもあるプリネ皇女親衛隊副長――――”剣帝”レオンハルト=ベルガー――――通称”レーヴェ”は静かな表情で推測し、銀髪の娘―――”深凌の契魔”の一柱にして、メンフィル帝国の”客将”の一人でもある魔神エヴリーヌは凶悪な笑みを浮かべて呟いた。

「………案外、それが目的で第Ⅱ分校の演習地を”幻焔計画”の為の”実験”の場所に選んだのかもしれんな。」

「え……それって、どういう事なんですか?」

静かな表情で呟いたレーヴェの推測を聞いたツーヤは不思議そうな表情で訊ねた。

「………あくまで俺の勝手な推測だからあまり気にする必要はない。――――それよりも、急ぐぞ。セントアークからのあの場所への移動時間と、リィン達があの場所に辿り着く時間の予想を考えると下手をすれば俺達が到着した頃に”実験”が終わり、”神速”達が撤退しているかもしれん。」

「?その口ぶりだと、”結社”の残党がいる場所もわかっているの?」

レーヴェの話を聞いてある事に気づいたエヴリーヌは不思議そうな表情でレーヴェに訊ね

「……ああ。アルトリザス近郊で多くの人形兵器を忍ばせ、必要に応じて繰り出せる”拠点”………”多くの死者が眠っているだけのあの村”しか思い当たらない。」

「”多くの死者が眠っているだけのあの村”……―――!そう言えばアルトリザスの近郊には……」

「!まさか結社が”拠点”にしている場所は――――」

レーヴェの推測を聞いてある事を察したツーヤとプリネは信じられない表情をし

「ああ、二人の想像通りの場所だ。―――どうやら今回の”墓参り”は随分と”騒がしい墓参り”になりそうだな。」

レーヴェは静かな表情で頷いた後静かな怒りを纏い、目を細めて空を見上げた―――――




 
 

 
後書き
という訳でこの物語の要請(オーダー)はエレボニアに理不尽かつただ働きさせられる原作と違い、リィンにもちゃんとした対価がありますからリィンも納得して要請(オーダー)を請けています(そりゃそうだw)なお、各章での後半(旧Ⅶ組や特務部隊の仲間達が加入する時期)の通常戦闘BGMはVERITAの幻燐陣営の戦闘BGMである”我が旗の元に”、手配魔獣や大型の魔獣の時の戦闘BGMはVERITAの”怨嗟を孕みし幾千の”だと思ってください♪そして今回の話の最後でプリネ達が登場した事で既に察しているかもしれませんが……1章で結社の誰かが死亡し、原作よりも早期退場させられる事は確定しています(黒笑)それと今の内に予告しておきますと2章は戦女神と魔導巧殻、3章は幻燐、4章は戦女神のキャラ達がゲスト参戦し、そして終章は戦女神、魔導巧殻、幻燐、神採り、更に空主人公勢や零・碧主人公勢も登場し、終章後半のヘイムダルで起こる大混乱鎮圧の為に力を貸すか、リィン達のラストダンジョン突入時に加入してラスボス戦まで参戦するという超豪華な予定を考えています(当然ラスボス戦時はエウシュリー二大作品である戦女神、幻燐の主人公であるセリカとリウイ、どちらかの参戦は確定しています)なので原作と違い、旧Ⅶ組はラストダンジョンで待ち受けているボスたちの足止めとかしません(そもそもメンツを考えたらする必要すらないww)ちなみに私は今、ラストダンジョンでルトガー達4人組の戦闘を終えたあたりですからもう少しでようやく閃Ⅲクリアできます(遅っ) 

 

第20話

アルトリザスに到着したリィン達はフィーの先導によってアパートの一室に到着し、部屋に到着後フィーは部屋に備え付けている端末を操作した。



~遊撃士協会・アルトリザス仮設支部~



「よっ、久しぶりだなリィン、セレーネ。それに”殲滅天使”のお姫さんも。元気してたか?」

フィーが端末を操作すると端末の映像に遊撃士の一人であるトヴァル・ランドナーの顔が映った。

「トヴァルさん……!お久しぶりです。」

「エレボニアに戻って来られたのですね……!」

「うふふ、たった1年半でB級に昇格し直した上エレボニアの支部に戻る事を”本部”に許可してもらえたなんて、オレドどころか色んな支部にも応援に行ってよっぽど頑張ったのかしら?」

トヴァルの登場にリィンが驚き、セレーネが微笑んでいる中レンは小悪魔な笑みを浮かべてトヴァルに問いかけた。

「ああ、”七日戦役”の”前科”があるから俺がエレボニアの支部に戻る事に”本部”の連中も相当渋っていたが、1ヵ月前にようやく認められてオレド支部の引継ぎもすんで戻ってこれた所だ。――――それよりも話には聞いていたがお前さん達も教官の方、頑張ってるみたいだな?」

「……ええ、おかげさまで。」

「ふふっ、まだまだ教官としてはわたくし達は未熟ですけどね。」

「うふふ、それにしても遊撃士協会は本当に運が良いわね♪”七日戦役”や”風の剣聖”のせいでゼムリア大陸の人々に対する遊撃士協会の信頼が落ちると思いきや、それを払拭するほどの活躍がエステル達がしてくれた上、史上初の”SSランク”の遊撃士が生まれたものね♪しかも、”西風の妖精(シルフィード)”まで遊撃士協会入りしたしねぇ?」

「ハハ、そうだな。実際、フィーが去年入ってくれた事は本当に助かったぜ。」

トヴァルの言葉にリィンとセレーネが頷いている中意味ありげな笑みを浮かべたレンの指摘にトヴァルは苦笑しながら同意した。



「フフ、それにしてもフィーが遊撃士になるとはわからぬものだ。」

「まあ、士官学生になる前の職業とは正反対の職業だしな。」

「フォ、フォルデ先輩。」

「ま、サラやトヴァルには相当サポートしてもらったけど。今回、わたしたちの合流にも色々と力を貸して貰ったし。」

ラウラはフィーに視線を向け、からかいの表情で答えたフォルデの言葉にステラは冷や汗をかき、たフィーは静かな表情で答え

「そうそう、トヴァルさん発案の”Ⅶの輪(ROUND・OF・SEVEN)”が無かったらそもそも難しかっただろうしねぇ。」

「!じゃあ、あれはトヴァルさんが作ってくれたアプリなんですか!?」

エリオットの話を聞いて”Ⅶの輪”の発案者がトヴァルである事を知って驚いたリィンはトヴァルに確認した。

「いやいや、アプリ開発は財団で俺はARCUSⅡの機能を利用した”裏技”を提案させてもらっただけさ。オリヴァルト殿下が隠し持っている”あらゆる場所と通信できる古代遺物”――――そいつの力を使わせてもらうことで中継器を介さない通信が可能になるような。」

「うふふ、そういうカラクリだった訳ね。という事はオリビエお兄さん、結局あの通信機はケビンお兄さんから取り上げられないように頑張ったみたいね♪」

トヴァルとレンの話を聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「な、何だかとんでもない事を聞いた気がするんだが……」

「そ、そうですね……しかも所々聞いてはいけない方がいいお話も知ってしまいましたし……」

「うん、技術的な事はサッパリだが相当な裏技である事は理解できる。」

「まあ、古代遺物(アーティファクト)頼りだからさすがに汎用性は無いんだけど。」

「それでも、ゼムリア大陸ならどんな場所でもⅦ組や特務部隊のみんなと通信が繋がるっていうのは奇蹟だよねぇ。」

「確かにな。導力通信ですら繋がる距離は限られているしな。」

「ふふ、古代遺物(アーティファクト)の力を借りていますから、言葉通り”奇蹟”ですわね。」

我に返ったリィンとステラは困った表情で呟き、ラウラとフィーは静かな表情で答え、エリオットとフォルデ、そしてセレーネは苦笑していた。

「ああ……本当に色々な人に助けてもらってるんだな、俺達は。―――トヴァルさん。改めて、本当にありがとうございました。」

「ハハ、いいってことさ。こっちも好きでやってるんでな。で、本当だが……”結社”がチョッカイをかけてきたんだって?」

「ええ……半年ぶりに。いや、エレボニア本土に限定すればあの内戦以来になりますね。数種類の人形兵器群―――鉄機隊の”神速”に加えて新たな執行者まで現れました。そこまでの戦力をこの地に投入する目的―――何か心当たりはありませんか?」

「………結社についてはギルドも警戒を強めてはいる。だが、詳しい動きは何もわかっていないのが現状だ。各地で暗躍しているいくつかの猟兵団も含めてな。」

リィンの問いかけに対してトヴァルは複雑そうな表情で答えた。

「そうですか……」

「ま、”赤い星座”の本隊がいないってわかっただけでも収穫だけど。」

「ああ、その辺は”かかし(スケアクロウ)”に感謝するとして。結社については、現時点で一つだけ確実に言えることがある。――――”例の計画”ってのを何としても奪い返す事をきっかけにして、メンフィルによって大きく力を削がれた裏の世界での結社の力や名を復活させようとしてるってことだろう。」

「そ、それって確か、クロチルダさんが言っていた――――」

「―――”幻焔計画”、ね。一昨年の内戦の裏で進められ、最後には”鉄血宰相”に奪われたという。」

トヴァルの推測を聞いて仲間達と共に血相を変えたエリオットは真剣な表情をし、レンは意味ありげな笑みを浮かべた。



「ああ、計画の内容はいまだ不明だがリベールやクロスベルでの前例もある。奴等の行動のすべてが、何かしらの形でそれに繋がってるのは間違いないだろう。おそらく、現れた人形兵器ってのもそのために用意された”駒”の一つだ。」

「ありそうな話だね。問題は、人形兵器を持ち出して連中が何を狙っているかだけど。」

トヴァルの推測に頷いたフィーの言葉を切っ掛けにリィン達はその場で少しの間黙って考え込んだ。

「……昨日の様子を見る限りたとえばアルトリザスを攻撃しようとしている感じじゃないよね。そんな事をしたら、さすがに正規軍だって動かないわけには行かないだろうし。」

「うん、そうであろうな。そもそも第Ⅱに釘を刺している時点で彼らは見極めているのであろう。政府と貴族勢力の力関係と正規軍が介入するギリギリの一線を。」

「……そうだな。いずれにせよ、最大の手掛かりはあの大量の人形兵器になるだろう。昨夜にしてもそうだが―――そもそも彼らは、あれだけの数をどこから持ってきたんだろうか?」

エリオットとラウラの推測に頷いたリィンは考え込みながら疑問を口にした。

「……確かに。」

「まさか全然別の場所から”転位”させたとか……?」

「もしくはメンフィル帝国のように転位装置があるのかもしれませんわね……」

「まあ、実際内戦でも結社の連中は”転位”を使っていたからその可能性は十分にありえるな。」

「それを考えると何らかの転位装置、もしくは古代遺物(アーティファクト)の類を使っているかもしれませんね。」

「いや、さすがに結社とはいえそこまでの技術は無いはずだ。かと言って、奴等が持っていた”方舟”は4年前の”リベールの異変”にてメンフィルに奪われている。」

リィンの疑問にフィーが頷いている中それぞれ推測をしたエリオットとセレーネ、フォルデとステラのそれぞれの推測をトヴァルは否定し

「……ならばどこかに何らかの彼らの”陣”があるのではないか?人形兵器という戦力を忍ばせ、必要に応じて繰り出せる”拠点”が。」

「”拠点”か……」

「―――いい目のつけ所じゃねか。」

ラウラの言葉を聞いたリィンが考え込んだその時アガットが部屋に入って来た。



「え………」

「あ、貴方は……!」

「うふふ、出たわね、ロリコン。」

「ロリ……ッ!このクソガキ……!」

アガットの登場にエリオットが呆け、リィンが驚いている中小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンの言葉にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アガットは背中の大剣に手をかけかけたが、レンの挑発に乗れば更に悪循環になる事やレンの性格を熟知していた為、必死に耐えながら大剣から手を離して顔に青筋を立ててレンを睨みつけた。

「よう、お疲れさん。」

「遅かったね――――アガット。」

「へっ、ちょいと寄り道しちまってな。邪魔するぜ、”灰色の騎士”に”聖竜の姫君”―――いや、リィン・シュバルツァーにセレーネ・L・アルフヘイム。まさかこんな形で再会するとは思わなかったがな。」

「ハハ……俺達の方こそ。入学式の日に会った時も只者ではないと思っていましたが……なるほど、遊撃士だったんですね。」

「レン教官とアガットさんはお知り合いのようですけど……一体どちらで知り合ったのですか?」

アガットの言葉にリィンは苦笑しながら答え、セレーネは不思議そうな表情でアガットとレンを見比べた。



「”重剣”のアガット―――リベールの”A級”遊撃士さ。少し前からエレボニアギルドに助っ人に来てくれていてな。何かの助けになればとあらかじめ連絡しておいたのさ。」

「”A級”っていうとサラ教官と同じ……!?」

「まあ……という事は相当の使い手の方なのですね。」

「ん、かなりの凄腕。あの”リベールの異変”を解決した立役者の一人でもある。」

「4年前にあったという……そうだったんですか。」

「という事はその時にレン教官とアガットさんがお知り合いである理由はその件で……?」

「ええ。あ、そうそう。ちなみにアガットはあのレーヴェを”無謀”にも好敵手扱いしているのよ♪レーヴェの実力を知っているみんなからしたら、あのレーヴェの好敵手を名乗るなんて”無謀”なのがわかるでしょう?」

トヴァルとフィーの説明を聞いたエリオットとステラが驚いている中リィンは納得した様子で呟き、セレーネに視線を向けられたレンはからかいの表情で答え、レンの答えにリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「え、えっと……」

「確かにアガットは凄腕だけど、レーヴェ相手だとさすがに分が悪いね。」

「うふふ、フィーはよくわかっているじゃない♪」

「クソガキ共が揃いも揃ってふざけた事を……!」

我に返ったエリオットは困った表情で答えを濁し、冷静な様子で推測を口にしたフィーの推測を聞いたレンはからかいの表情でアガットを見つめ、アガットは顔に青筋を立てて身体を震わせながらレンとフィーを睨んでいた。



「ふふ、風の噂で巨大な大剣を振るうA級遊撃士の渾名を聞いた事はあったが……お目にかかれて光栄だ、”重剣”殿。」

「ハッ、こちらこそだ、”光の剣匠”のお嬢さんよ。―――話を戻すが、結社の”拠点”がどこかにあるっていうのは同意見だ。シュバルツァー、アルフヘイム。どうやら昨日色々回ったみたいだが、何か心当たりはねぇのか?」

「それは………幾つか気になる場所があったのは確かです。ですが、どこも決め手となるような手掛かりがあったとはいえませんね。」

「そうですわよね………」

アガットの問いかけを聞いて昨日の特務活動で回った場所を思い返したリィンの言葉にセレーネは頷き

「そもそもサザ―ラント州ってのは手付かずの自然が多い土地だしなぁ。」

「怪しい場所をしらみ潰しにしたらキリがないと思う。」

「かと言って幾ら何でもアルトリザスに隣接しているからと言って、エレボニアよりも警戒が厳しいメンフィル帝国領(セントアーク)に潜伏しているとは思えないしなあ……」

「フン、そうか………テメェの方は何か心当たりはないのか?」

トヴァルとフィー、フォルデはそれぞれ意見を口にし、リィン達の話に頷いたアガットはレンに視線を向けて問いかけた。



「あら、そこでどうしてレンに話を振るのかしら?レンはリィンお兄さん達と違って、アルトリザス地方やパルム地方の様々な所を巡っていないわよ?」

「ハッ………テメェの事だから、大方サザ―ラントに限らずエレボニアの各地で情報収集をしているメンフィルの諜報部隊から様々な情報を手に入れているだろうが。テメェやシュバルツァー達の分校への派遣もメンフィルの思惑も間違いなく関係しているだろうしな。」

「……………」

「実際”アーベントタイム”の件をお姉様から知らされた時も、メンフィル帝国の諜報部隊による情報収集のお陰でしたものね……」

「リィンさん……セレーネさん……」

「確かにそうだね。英雄王と現メンフィル皇帝のリィンに対する”要請(オーダー)”が発動した早さも考えると、どう考えてもサザ―ラントにもメンフィルの諜報部隊がいる証拠だね。」

レンの問いかけに対して鼻を鳴らして答えたアガットの推測を聞いたリィンは目を伏せて静かな表情で黙り込み、セレーネが複雑そうな表情を浮かべている中、二人の様子をステラは心配そうな表情で見つめ、フィーは真剣な表情で答えてレンを見つめた。

「で、でも……どうしてメンフィルの諜報部隊がエレボニアに……内戦や”七日戦役”が終結して、既に1年半も経っているんだよ?」

「いや、むしろその逆であの件から”まだ1年半しか経っていない”。第一他国の情報を集める為に自国の諜報関係者を他国で情報収集に当たらせる事は国として当然の事だし、ましてやエレボニアは1年半前の件で衰退した”原因”の一つであるメンフィルに対して怨恨があり、その怨恨に対する”報復”をエレボニアが実行する可能性がある事をメンフィルが予想していない訳がないだろうしな。」

「それは………」

不安そうな表情で呟いたエリオットの話に複雑そうな表情で指摘したトヴァルの推測を聞いたラウラもトヴァル同様複雑そうな表情で浮かべてリィン達―――メンフィル帝国所属の人物達に視線を向け

「うふふ、その件については今はあまり関係ないから置いておくとして………―――話を戻すけど、結社の”拠点”の件については既に目星はつけているわよ。」

「ええっ!?」

「ハハ、さすがレン皇女殿下っすね。」

「……やっぱり、既に目星をつけていたか。だったら、どうして演習地から出る時に教えてくれなかったの?その時に答えてくれれば、ここに来る手間も省けたんだけど?」

レンの答えを聞き、リィン達と共に血相を変えたエリオットは驚きの声を上げ、フォルデは苦笑しながら感心し、フィーはジト目でレンに問いかけた。

「や~ね、それを答えようと思った時に情報整理ができそうな場所をフィーが案内する雰囲気になっていたから、レンも”空気を読んで”、フィーに花を持たせて黙ってあげていたのよ♪」

「く、”空気を読んで”って………」

「というかレン教官はいつ、結社の”拠点”がアルトリザスのどこかにある事を推測して、その目星をつけたのですか?」

レンの答えを聞き、エリオット達と共に冷や汗をかいて脱力したリィンは疲れた表情で呟き、セレーネは疲れた表情でレンに訊ねた。



「うふふ、アルトリザスのどこかに”拠点”がある事は昨夜の襲撃の時点で既に予想していたわ。で、肝心の結社の”拠点”の目星についてだけど昨夜の襲撃の後片付けが終わった後に”Ⅶの輪”でレーヴェに聞いてみたのよ。」

「!あの野郎か………」

「確かに結社出身の”剣帝”だったら、結社が”拠点”にしそうな場所の目星がつくかもしれねぇな。」

レンの説明を聞いて血相を変えたアガットは真剣な表情でレーヴェの顔を思い浮かべ、トヴァルは納得の表情で呟いた。

「それで、レーヴェ殿の予想では結社の”拠点”はどこなのですか?」

「それについてだけど………――――まずはリグバルド要塞に向かうわよ。そこの”責任者”からの許可がないと、その場所に向かう事ができないもの。レーヴェが目星をつけた結社の拠点については、リグバルド要塞の責任者と会った時に教えてあげるわ。」

「結社の拠点にしている場所に向かうにはリグバルド要塞――――正規軍の拠点の責任者の許可が必要……ですか?」

「………ま、何でこの場で答えないかの理由については聞きたいけど、どの道正規軍からも得られる情報があるかもしれないから、まずはそっちに行った方がよさそうだね?北西の”リグバルド要塞”に。」

ラウラの問いかけに答えたレンの答えにステラが不思議そうな表情をしている中フィーは静かな表情で今後の方針を口にした。

「待て待て。いきなり行ってどうする?軍なんざ普通、民間相手に融通を利かせたりはしねえだろ。ましてや、あのエレボニア軍……門前払いが関の山じゃねえか?」

するとその時様子を見守っていたアガットが指摘した。



「いや―――訊ねる価値はあるだろう。たしか今、リグバルド要塞はとある将軍が預かっているはずだ。”最強”と謳われる第四機甲師団長―――”紅毛”のオーラフ・クレイグが。」

トヴァルの話を聞いたリィン達はエリオットの父親――――エレボニア軍の第四機甲師団を率いるオーラフ・クレイグ将軍の顔を思い浮かべた。

「エリオットのお父さんが……!」

「成程、そうであったか……!」

「半年くらい前からだっけ?」

「……うん、実はそうなんだ。こっちでの巡業が終わったら現地で会う約束もしているから不在っていうこともないと思う。」

「そうか、だったら………」

「エリオットさんのお父様でしたら、事情を説明すれば融通を利かせて会ってくれそうですし、レン教官が仰る”許可”もくださる可能性も高いでしょうね。」

「ま、何せ”超”が付く子煩悩だしな♪」

エリオットの推測を聞いたリィンとセレーネはそれぞれ明るい表情を浮かべ、フォルデはからかいの表情で答え

「ハッ、さすがアイツが立ち上げたクラスというか……それにしてもあの野郎が目星につけた場所か………そう言えばあの野郎はサザ―ラントの出身で、しかもあの野郎やヨシュアの”故郷”の位置は………―――よし、だったらそっちの筋は任せたぜ。」

リィン達の様子を見守っていたアガットはある人物とレーヴェの顔を思い浮かべて小声で呟いた後気を取り直して口を開いた。

「アガットはどうするの?」

「俺は俺で足を使って調べてみる。レンの今の話を聞いて、俺も結社が拠点にしそうな場所に心当たりがある事に気づけたしな。―――そうだ、コイツを渡しておく。」

フィーに訊ねられたアガットは答えた後リィンにメモを渡し、メモの内容を確認するとメモには手配魔獣がいる場所について書かれていた。



「これは……魔獣の情報ですか?」

「ここに来るついでにまとめた、いわゆる”手配魔獣”の情報だ。そっちの行動範囲だから警戒しとけ。余裕があれば倒しちまっても構わねぇ。」

「ああ、それで遅れてたんだ。けっこうマメだね。」

「うふふ、ホントに見た目とは裏腹にマメよね~。」

「遊撃士としてこのくらいは当然だっつの。気張れよ、シュバルツァー。お前らもな。」

フィーとレンの指摘に対して静かな表情で答えたアガットはリィン達に応援の言葉を送った。

「わかりました……!アガットさんもお気をつけて。」

「ま、折角だし第Ⅱの演習地にも顔を出してきちゃどうだ?!大事なあの子も”さぞ喜ぶんじゃないか?」

「………」

トヴァルの指摘を聞いたアガットは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「ああ、ひょっとして。」

「あ、さっき話したよ。聞いてた以上に可愛かった。」

「うふふ、ついでに言えば家族公認―――いえ、ティータのママを除けば家族全員からも”認められているのよ♪”」

「まあ……そうだったのですか。」

「クク、これはいいネタを聞いたな♪」

「フウ……そういう所も全然変わりませんね、フォルデ先輩は……」

トヴァルの話からティータの事を示している事を察したリィンは目を丸くし、フィーは口元に笑みを浮かべてアガットを見つめ、小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの答えにセレーネは微笑み、からかいの表情で呟いたフォルデの答えにステラは疲れた表情で溜息を吐いた。



「ったく………余計なお世話だっつの。そんじゃあな。何かわかったら連絡する。」

アガットは溜息を吐いた後部屋から出て行った。

「あ、逃げた。」

「フフ、よくわからぬが……」

「うーん、ちょっと怖そうだけど親しみやすそうな人だね。」

「ハハ、そうみたいだな。―――トヴァルさん、俺達も行動を開始します。」

「ああ、健闘を祈ってる。くれぐれも気をつけてくれ。フィー、ラウラお嬢さんもしっかりサポートしてやってくれ。」

「ん、任せて。」

「リグバルド要塞は北西にある街道の先でしたね。」

「そんじゃまあ、先程の手配魔獣の件も含めて用事をすませたら向かうとしますか。」

そしてリィン達も行動を開始し、アルトリザス市内での用事や手配魔獣の撃破を終えた後リグバルド要塞へと向かった―――――


 
 

 
後書き


昨日ようやく閃Ⅲクリアしました!クリアしてからの感想は……うん、攻略サイトである程度予め知っていたとはいえ、今までの軌跡シリーズの中で一番後味悪いかつ続きが滅茶苦茶気になる最後でしたね……後ファルコムさん。貴方達の方がエウシュリーさんよりもカオスルート作る才能あるんじゃないですかぁ!?と思ってしまいましたwwマジで今までのエウシュリー作品のカオスルートの上を行っているんじゃないかと本気で思いました、閃ⅢED(汗)それと光と闇の軌跡のカオスルートは……うん、タイトルは既に変えたとはいえカオスルートの名前は今更ですが返上します。原作閃Ⅲの終章以降の展開にはとても対抗できません(笑)そして閃Ⅲクリアしたお陰で閃Ⅲ篇を完全に把握できましたので、今後も閃Ⅲ篇完結&閃Ⅳ篇への布石の為の更新をがんばります!なお、現時点でアルベリヒ、ゲオルグ、オズボーン、そしてセドリックをエウシュリー陣営or空陣営の誰かによって絶望や屈辱を感じさせられた挙句内二人はむごい最後(それこそ光と闇の軌跡シリーズのブレアードやマリアベルのような最後)を遂げさせる事は既に決定していますので、その時を気長にお待ちください(黒笑)それと皆さんも既に予想していると思いますがこの物語は敵陣営はぶっ殺す事が当然になっていますが、閃Ⅲの敵陣営の内5名は寝返るか生き残る事は確定しています。ちなみにシャロンは………下手したら……というか、ほぼ確実に終盤18禁展開になると思います(ぇ)……え?何でシャロンが終盤18禁展開になるかだって?それはまあ……ベルフェゴールが閃Ⅲ篇でも当然の如く運命が改変されたシリーズのスカーレットやエーデルの時のように悪知恵(?)を誰かさんに吹き込み、しかもその悪知恵にアリサも巻き込みますので(もうこの時点で誰かさんについてはバレバレですがw)とりあえず現時点で言えることは…………困った時は性魔術で解決としか言いようがないですね!(オイッ!)
 

 

第21話

リグバルド要塞に向かいながらリィン達は時折襲い掛かってくる魔獣達を撃破し続けた。



~北アルトリザス街道~



「よし……!」

「ふむ、この先は魔獣が手強くなっているようだな。」

「ん、慎重に、でも迅速に先を急ごう。」

「………ははっ。」

魔獣の撃破を確認した後のエリオットやラウラ、フィーの反応を聞いていたリィンは懐かしそうな様子で微笑み

「?どうかされたのですか、お兄様。」

「いや……こうしてみんなと街道を往くのも懐かしいなって。内戦の頃や特務支援課に派遣されていた頃を思い出すというかさ。」

「………ふふ、そうだね。」

「そう言えば、”特務支援課”という部署は”旧Ⅶ組”や”新Ⅶ組”と非常に似た存在だったそうですね?」

「そうね。ま、要するにどれも遊撃士の”パクリ”よ♪」

リィンの言葉にフィーが静かな笑みを浮かべている中ステラの疑問にレンがからかいの表情で答え、レンの答えにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「アハハ……僕達も自覚はしていたけど……」

「そっちももうちょっと遠回しな言い方をしたらどう?」

「フフ、しかし”特務支援課”か。話には聞いてはいたが、クロスベルの警察の部署でありながら活動はレン皇女殿下の話通り我等と共通している所はいくつかあったと聞く。そんな部署に派遣されていたリィンが我等Ⅶ組と関わる事になるとは、これも女神のお導きかもしれないな。」

「ま、それはあるだろうな。何せ俺やリィン達はクロスベルでその”女神”――――”空の女神”とも実際に会った事があるしな♪」

「ア、アハハ……ですがエイドス様がラウラさんの今の話を知れば、『何でもかんでも私のせいにしないでください!』って言いそうですわね……」

我に返ったエリオットは困った表情で呟き、フィーはジト目でレンに指摘し、苦笑しているラウラの言葉に頷いたフォルデはからかいの表情で答え、フォルデの話を聞いて苦笑しながら口にしたセレーネの推測を聞いたエリオット達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「そ、そう言えばリィン達はクロスベル動乱を鎮める為に突如現代のゼムリア大陸に降臨した”空の女神”やその両親に先祖とも会って、”空の女神”達とも一緒に戦ってクロスベル動乱を解決したんだったね……」

「フム……クロスベル動乱を解決し、天界へと戻られるまでの”空の女神”のゼムリア大陸での精力的な活動を考えるとセレーネの推測も強ち間違っていないかもしれないな。」

「というか精力的な活動って言っているけど、ぶっちゃっけ”空の女神”は自分のやりたい放題にゼムリア大陸を引っ掻き回しただけじゃん。各国の観光旅行に各国の音楽家達を集めて、更に自分達も参加したコンサートをするとか、どう考えてもハチャメチャ女神じゃん。……まあ、わたしからすればあんなハチャメチャ女神が先祖だからエステルみたいな”子孫”もできるんだと思ったね。」

「ハ、ハハ………」

(これでエイドス様は天界に戻ったのではなく、”自分の時代に戻った事”を知ればエリオットさん達は再び驚くでしょうね……)

エリオットの言葉に続くように呟いたラウラの推測をジト目で指摘したフィーの言葉を聞いたリィンが冷や汗をかいて乾いた声で笑っている中、セレーネは苦笑していた。

「”エステル”………カシウス卿のご息女にして、かの”ブレイサーロード”か……」

「もしかして仕事の関係で、フィーは”ブレイサーロード”と会った事があるの?」

フィーの話を聞いたラウラは考え込み、エリオットはフィーに訊ねた。

「ん。ちなみにエステルはクロスベル動乱を解決した件で史上初の”SSランク”に昇格している。」

「え、”SSランク”……!?」

「確か遊撃士の最高ランクは非公式である”Sランク”であると聞いた事があるが……」

フィーの話を聞いたエリオットが驚いている中ラウラは困惑の表情をした。



「詳しい話はわたしも知らないけど、エステルは今までの遊撃士の中で”規格外な存在”かつリベールのクーデター、異変、そしてクロスベル動乱を解決した事から”Sランク”の上の史上初の”SSランク”に認定されて、その事からエステルは”ブレイサーロード”の異名の他にも”ブレイサーオブブレイサー”の二つ名が遊撃士協会本部から贈られたって聞いている。」

「”ブレイサーオブブレイサー”………”遊撃士の中の遊撃士”を意味する二つ名か……史上初という事はゼムリア大陸で唯一の”SSランク遊撃士”という事になるから、まさにSSランクに相応しい二つ名だな……」

「サラ教官よりも二つも上のランクの遊撃士って、どんな人なんだろう……?」

「ふふっ、クロスベル動乱の時に私達もエステルさん達と会って共に”碧の大樹”を攻略しましたけど、存在するだけでその場を明るくしましたからまるで太陽のようなとても明るい方でしたよ、エステルさんは。」

「しかも仲間や恋人であるエステルの周りの連中もリィンのハーレムメンバーとも並ぶくらい色々な意味でとんでもないメンツだったしな♪」

「うふふ、言われてみればそうね♪」

「何でそこで俺が出てくるんですか……」

フィーの説明を聞いたラウラは静かな表情で呟き、エリオットの疑問にステラは微笑みながら、フォルデとレンはからかいの表情で答え、フォルデとレンの答えを聞いたリィンは疲れた表情で呟いた。

「リ、リィンの周りの女性―――セレーネやアリサ、それにアルフィン皇女殿下達とも並ぶくらい”色々な意味でとんでもないメンツ”って……」

「ふふ、機会があれば会ってみたいな、そのエステル殿という人物に。」

一方エリオットは冷や汗をかいてリィンに視線を向け、ラウラは苦笑していた。



「ま、エステル達もラウラ達にも興味はあるようだし、機会があればいつか会えると思うよ……それにしてもあれから1年ちょっとか。」

「うん……皆、見違えるほど逞しくなったものだ。」

「あはは、ラウラがそれを言う?」

「そうだな……アルゼイド流の”奥義”も完全に受け継いだみたいだし。」

ラウラへの指摘に対するエリオットの言葉に頷いたリィンは昨夜の結社による襲撃の際に放ったラウラの奥義を思い返した。

「フフ、まだ完全に使いこなせているわけではないが。あれを完成させるためには更なる精進が必要となろう。―――かの”鉄機隊”に後れを取らぬためにも。」

「……昨夜の”神速”が所属してる部隊でしたね。」

「250年前の獅子戦役で槍の聖女リアンヌが率いていた”鉄騎隊”と似ているんだっけ……?」

ラウラの話を聞いたステラは静かな表情で呟き、エリオットはラウラに確認した。

「うむ、父上にも出立の間際、かの隊には注意せよと言付けられた。何か他にも事情がありそうな雰囲気ではあったが……今は成すべき事を成すのみだろう。」

「ふふ、ラウラらしいね。」

「それにしても”鉄機隊”だったか?肝心の”主”はメンフィルに寝返ったって言うのに、何で未だに結社に残っているのか連中の考えが未だにわかんねぇぜ。」

「まあ、1年半前の件で”神速”の件も含めて”鉄機隊”はメンフィルに散々な目に遭わされたから、幾ら敬愛する主がメンフィルに寝返っても過去の経緯で自分達もメンフィルに寝返る気持ちが湧いてこないんじゃないかしら?」

ラウラの説明にフィーが苦笑している中疲れた表情で呟いたフォルデの疑問に答えたレンの答えにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「1年半前の内戦や”七日戦役”の件で鉄機隊の筆頭であるデュバリィさんを散々嵌めたり、弄んだ張本人であるレン教官がそれを言いますか……?」

セレーネは疲れた表情で指摘した。



「うふふ、成長していると言えば、リィンお兄さん達もそうよね♪たった1年半でみんな、領主やその補佐をする秘書として随分と力をつけてきたもの♪」

「フフ、恐縮です。これもレン皇女殿下達による教育の賜物です。」

「ま、今の内に苦労をしておけば、リィンの親父さんみたいにさっさと気楽な領主生活を送れるようになりますしね。」

「だから、何でそんな事に限って父さんを見本をするんですか……」

「ま、まあまあ……お養父(とう)様も領主としては素晴らしい方である事には間違いはないのですから……」

「ふふ、領主の娘として私もそなた達を見習わなくてはな。」

レンの指摘にステラは微笑みながら、フォルデはいつもの調子で答え、フォルデの答えに脱力して疲れた表情で指摘したリィンを宥めるかのようにセレーネはフォローの言葉を口にし、ラウラは苦笑していた。

「リィン達が成長している事で気になったけど……そういうレンは成長しているの?身体的成長とは違う意味で。ぶっちゃけ、前会った時と全然変わっていないように見えるんだけど。」

「ちょっと、フィー……幾ら何でもその言葉はレン皇女殿下に失礼だよ……」

ジト目でレンを見つめて問いかけたフィーの問いかけを聞いたエリオットは不安そうな表情で指摘し

「うふふ、むしろレンが特務部隊や旧Ⅶ組のメンバーの中で一番成長しているのよ?何せクロスベル動乱では今ではクロスベル帝国を動かす重要人物として働いている”六銃士”やヴァイスお兄さんの為にわざわざ異世界からやって来たヴァイスお兄さんの”仲間”の人達の”知識”も吸収したしね♪」

「そ、それってもしかして……」

「かの”D∴G教団”に誘拐され、投与された”グノーシス”なる薬物によって覚醒させられたレン皇女殿下の能力の一つである”相手の記憶を読み取る”事ですか……」

「というかそれってどう考えても反則技じゃん。人が時間をかけて、手に入れた知識を横からかすめ取っているようなものだし。」

レンの説明を聞いてある事を察したエリオットは表情を引き攣らせ、ラウラは困った表情で呟き、フィーはジト目で指摘した。



「うふふ………―――そう言えば、まさかかの”西風の妖精(シルフィード)”が真逆の存在である遊撃士に就職するなんて正直ちょっと意外だったわね。」

「はは……エレボニアでは厳しい立場にあるがやっぱりサラさんの影響か?」

「ま、ね。それに、わたしの”目的”に一番近い道だと思ったから。」

「大陸最強の猟兵団の一つ、”西風の旅団”……か。」

「……あれから何か手掛かりは掴めたの?」

レンとリィンの指摘に対して答えたフィーの話を聞いてフィーの目的を察していたラウラは静かな表情で呟き、エリオットはフィーに訊ねた。

「……残念ながら。でも必ず尻尾は掴むつもり。ゼノやレオに近づくためにも。」

「………フィーならきっとできるさ。」

「前にトヴァル殿から聞いたが最年少で正遊撃士の資格を取ったとか。何でも、リベールで活躍する”ブレイサーロード”―――いや、エステル殿を含めた若手遊撃士達以来の快挙だそうだな?」

「……みたいだね。でも、頑張ったっていうならエリオットもそうだと思う。演奏だけじゃなく魔導杖のほうも腕を上げているみたいだし。」

「あはは……巡業旅行の合間に何とかそちらも鍛えてるからね。」

フィーの指摘に対してエリオットは苦笑しながら答えた。



「デビューしたばかりですのに、すでに人気が出始めてるんですよね?去年のヘイムダルのコンクリートでは音楽院の在学中に優勝してかなり話題になったと聞いていますよ。」

「ほう、そうだったのか。」

「やるね、エリオット。」

「えへへ、僕なんてまだまだ駆け出しだと思うけど。でも……この巡業中にできるだけたくさんの人達に音楽の力を見せられたらいいな。去年の”北方戦役”あたりから、エレボニア全体が変な流れになりつつあるっていうか……」

ステラの話を聞いて自分に対して感心している様子のラウラとフィーの言葉に苦笑しながら答えたエリオットは気を取り直して真剣な表情を浮かべた。

「……うん、私も各地を巡る中で肌で感じている。ノーザンブリアの併合を称揚し、新興の大国であるクロスベルに加えて1年半前の戦争で敗戦した相手であるメンフィルをカルバードに代わる”宿敵”と見る流れ……正直言って”怖い”くらいだ。」

「ああ………これもきっと”計画外に起こった出来事”を修正させた”彼”の描いたシナリオなんだろう。」

ラウラの言葉に頷いたリィンは静かな表情で推測を口にした。

「お兄様……」

「……そなた……」

リィンが言っている人物が誰であるかを察していたセレーネは心配そうな表情で、ラウラは真剣な表情でリィンを見つめた。

「はは、悪い。気にしないでくれ。――――リグバルド要塞まであと半分くらいだな。とにかく、今は先を急ごう。」

「……了解。」

そしてリィン達は再びリグバルド要塞に向かい、時折襲い掛かってくる魔獣達を撃破しながらリグバルド要塞に到着し、要塞の近くまで来ると青年の将校がリィン達に声をかけた。



~リグバルド要塞~



「――君達、この要塞に何か用かい?」

「すみません、自分達は――――……あれ?その声、どこかで聞いた事があるような……?」

近づいてきた青年士官に名乗り上げようとしたリィンだったが青年士官の声に聞き覚えがある事に首を傾げ

「―――ああ、もしかして君はリィンか!?どうしてこんなところに!?」

「えっと……すまない、声に聞き覚えがあるのは確かなのだが貴方は誰なんだ?」

「なんだよ~、俺の事を忘れちまったのかよ……まあ、俺は”Ⅶ組”程リィン達と頻繁に接していないし、あれから1年半も経っちまっているからな……って、おおっ!?よく見たら”Ⅶ組”の面々までいるじゃないか!?しかも”特務部隊”の面々まで!?ははっ、久しぶりだなあ!俺の事覚えてないか?」

リィンの問いかけに苦笑した青年士官だったがエリオット達に気づくと驚きの声を上げ、懐かしそうな様子でエリオット達に声をかけた。

「そなたは確か、フェンシング部の………!」

「もしかして―――アラン君!?」

青年士官―――アランの顔をよく見て何かに気づいたラウラとエリオットは驚きの声を上げた。

「帝国正規軍・第四機甲師団所属のアラン准尉であります!ははっ……なんてな。みんな、本当に久しぶりだ!」

そしてアランは敬礼をして自己紹介をした。その後リィン達はアランの案内によって要塞の責任者の元へと向かい始めた。



「……改めて凄いな。主力戦車に加えて、新型の機甲兵があんなに……」

「よくもまあたった1年半で”ここまで”立て直したな……」

「ええ………エレボニア帝国はクロスベル帝国によってRF(ラインフォルトグループ)との兵器売買の取引について様々な”制約”が加えられているというのに……」

「うふふ、1年半の件で衰退したエレボニア帝国があれらを購入する為の”軍資金”は一体どこから調達したのでしょうねぇ?」

要塞内に入り、戦車や機甲兵が整列している様子を見て驚いたリィンや呆れた表情で溜息を吐いたフォルデの言葉に頷いたステラは考え込み、レンは意味ありげな笑みを浮かべていた。

「……見て、あれ。」

するとその時一際大きい機甲兵――――”ゴライアス”に気づいたフィーは静かな表情で呟き

「あ、あの大きいのは確か……!」

「トリスタ奪還作戦の時に、ノルティア領邦軍を苦戦させた結果ベルフェゴール様達に出て貰って破壊した機体ですわね。」

「かつての貴族連合軍の切り札……あんなものまで配備されているとは。」

「ああ………(……それにしてもこの軍備の規模はいったい……)」

ゴライアスを見たエリオットは驚き、セレーネとラウラの言葉に頷いたリィンは真剣な表情で考え込んでいた。



「……あそこにいるのは閣下の御子息じゃないか?」

「ああ、例の巡業旅行で立ち寄ったのかもしれないな。」

「って、一緒にいるのは”灰色の騎士”か!?」

「それによく見たら”聖竜の姫君”や”小さな参謀(リトルストラテジスト)”、”奔放の懐刀”に”魔弾の姫騎士”もいるぞ……!」

「おおっ、あれが……!」

「―――敬礼!」

「ようこそ、我等がリグバルド要塞へ!」

リィン達に気づいた兵士達は演習や作業を中断してそれぞれリィン達に対して敬礼をした。



「……参ったな。」

「うーん、わかってたけどここまで注目されるなんて。」

「ちょっと恥ずかしいですわよね……」

「しかもいつの間にか二つ名まで付けられているしな……俺なんて得物は槍なのに、”懐刀”って色々とおかしいだろ。」

「そういう意味での”懐刀”ではないと思うのですが……まあ、私も幾ら伯爵家の令嬢だったとは言え”姫騎士”は過剰評価だと思っていますが……」

「うふふ、まあレンにとってはそこそこ可愛さもあるからまあまあな二つ名だけどね。」

「確かに”殲滅天使”と比べたら可愛げはあるだろうね。」

兵士達からある程度距離を取った場所で立ち止まったリィンは溜息を吐き、エリオットとセレーネは苦笑し、フォルデとステラはそれぞれ疲れた表情で溜息を吐き、小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンにフィーはジト目で指摘した。

「リィン達―――特務部隊の武勇伝はいまだに流れているみたいだからな。すまない、裏口から案内するべきだったか?」

「いや、気にしないでくれ。それにしても、アランが正規軍入りしていたとは……しかも第四機甲師団に配属されていたなんて。」

「正規軍最強の師団……訓練もかなり厳しいのではないか?」

「はは、まあね。毎日シゴかれてクタクタだよ。でも、正規軍入りを決めた事を後悔はしてないつもりさ。……”あいつ”のいるこのエレボニアをこの手で守りたいからな。」

ラウラの問いかけに対して苦笑しながら答えたアランはある人物の顔を思い浮かべて決意の表情をした。



「フフ、男子の誉れ、か。」

「うふふ、そう言えばアランお兄さんはブリジットお姉さんと卒業後に婚約したんだったわよね?」

「ええっ、そうなの!?」

「ほ~?そう言えばブリジットって確かステラと同じ貴族のお嬢様だったな……幾ら幼馴染の関係とはいえ、エレボニアの貴族に結婚を認めてもらえるなんてやるじゃねぇか。」

「ふふ、おめでとうございます。」

「俺からも祝福の言葉を贈らせてくれ……―――ブリジットとの婚約、おめでとう。」

「ゴチソーサマ。」

「というかレン教官はどうしてそんな情報まで知っているのでしょうか……?」

アランの言葉にラウラが静かな笑みを浮かべている中レンが口にした情報を知ったエリオットやフォルデ、ステラやリィンが様々な反応を見せている中フィーはジト目でアランを見つめ、セレーネは表情を引き攣らせてレンに視線を向けた。

「ハハ……ちょっとクサかったか。」

「――来たか。」

リィン達の反応にアランが恥ずかしがっていたその時金髪の将校がリィン達に近づいてきた。



「お疲れ様です!」

「ようこそ、”特務部隊”。エリオット坊ちゃん。アルゼイドにクラウゼル、それにレン皇女殿下も。」

「貴方は……ナイトハルト少―――いえ、中佐……!」

「ふふっ、お久しぶりですわ。」

「うふふ、実際に会うのは1年前のⅦ組の最後の”自由行動日”以来ね。」

「ども。」

「ハハ、相変わらず俺の知り合いと良い勝負をする堅物だね~。」

「あはは……坊ちゃんはやめてくださいよ。」

「お久しぶりです、少佐―――いえ、今は中佐でしたか。」

「遅くなりましたが昇進、おめでとうございます。」

「フッ、皆変わりないようでなによりだ。いや―――違うな。驚くほどに見違えたものだ。かつて君達を教えた身として、そして共に戦った身として誇らしい限りだ。」

リィン達がそれぞれの反応を見せている中金髪の将校―――第四機甲師団の師団長の補佐を務めているナイトハルト中佐はリィン達の成長を感じ取り、静かな笑みを浮かべた。

「中佐……」

「ふふっ……ありがとうございます。」

「―――閣下がお待ちだ。ここからは私が案内しよう。ご苦労だったな、准尉。」

「ハッ!」

その後リィン達は要塞の責任者がいる場所にナイトハルト中佐の先導によって到着した。



「―――閣下。彼らをお連れしました。」

「うむ、入るがいい。」

ナイトハルト中佐の言葉に対して紅毛の将官―――第四機甲師団の師団長にしてエリオットの父でもあるオーラフ・クレイグ将軍が答えるとリィン達がナイトハルト中佐と共に部屋に入って来た。

(オーラフ・クレイグ将軍……相変わらずの威厳と風格だな。)

(ああ、大将に昇進されてからも一層活躍されてるみたいだが……)

(クク、だがその威厳や風格もすぐにぶち壊されるだろうけどね♪)

(うふふ、そうね♪何せここにはエリオットお兄さんもいるしね♪)

クレイグ将軍がさらけ出す威厳や風格をラウラやリィンが感じ取っている中ある事が起こる事に気づいていたフォルデとレンがからかいの表情を浮かべたその時

「――――よーく来てくれた、エーリオットォオオオ!!」

クレイグ将軍が満面の笑みを浮かべてエリオットを抱きしめようとしたが、エリオットは一瞬の隙をついて回避した後軽くクレイグ将軍の肩を叩いた。

「ハイ、それはいいから。さっそく本題に入りたいんだけどいいかな?」

「頼もしくなったな、我が息子よ。父は嬉しいぞ……」

(そう言っている割には寂しそうに見えますわね……)

(フフ、エリオットさんを溺愛している将軍閣下からすれば色々と複雑なのでしょうね。)

(お約束だね。)

(ああ、エリオットの躱しっぷりも慣れたものというか。)

(うふふ、確かにエリオットお兄さんは確実に成長している証拠ね♪)

エリオットとクレイグ将軍のやり取りに冷や汗をかいて脱力したセレーネとステラは苦笑し、フィーの言葉にリィンは頷き、レンは小悪魔な笑みを浮かべて呟いた。

「コホン、とにかくよくぞ来た。―――本来であれば招かれざる客だがまずは歓迎させてもらおう。」

「……!」

「父さん、ひょっとして……」

「………我等が訪れた理由も大凡察せられているようですね?」

「無論―――帝国南部の治安維持は本要塞の主要任務の一つでもある。期待には沿えないだろうが……一応、話を聞かせてもらおうか?」

その後リィン達はクレイグ将軍に事情を説明した。



「―――結社に関する一連の状況は既にこちらでも把握している。―――だが、現時点で第四機甲師団が直接的な作戦行動を行う予定はない。たとえおぬしらの頼みであってもな。」

「父さん……」

「アランドール少佐の言葉通り……あくまで動向を見守るだけですか。」

「……腑に落ちないな。正規軍も、結社の人形兵器を野放しにしていいわけないよね?」

クレイグ将軍の答えを聞いたエリオットは複雑そうな表情をし、ラウラは真剣な表情でクレイグ将軍を見つめ、フィーは真剣な表情でクレイグ将軍に問いかけた。

「……ここに来るまでの間、その”意味”を考えていました。この要塞が備える戦力ならば結社の動きなど、それこそ半日足らずで片づけられるでしょう。にも関わらず、正規軍が頑なに動こうとしない本当の理由――――」

「あ………」

「……………」

「へえ?」

リィンの言葉を聞いたエリオットは呆け、ナイトハルト中佐が重々しい様子を纏って黙っている中レンは興味ありげな表情を浮かべた。

「正規軍―――いや、帝国政府は待っているんですね?今度こそ貴族勢力が音を上げるのを。」

「…………………」

「またえげつない事を考えたもんだねぇ、エレボニアの政府―――いや、”革新派”は。」

「貴族勢力にとってはまさに”泣きっ面に蜂”でしょうね。」

「ええ………しかも民達まで巻き込もうとするなんて、相当悪辣なやり方ですね。」

「1年半前の件で貴族勢力は相当衰退したのに、どうしてそこまでして貴族勢力を……」

リィンの推測を聞いたクレイグ将軍は否定することなく黙り込み、事情を察して呆れた表情で溜息を吐いたフォルデとレンの言葉にステラは頷き、セレーネは悲しそうな表情をし

「……そういう事か。なんとか存続しているとはいえ、領邦軍の規模は縮小の一方……そんな状況で”何か”が起きれば―――」

「”領邦軍とは名ばかり”……そんな主張が成り立つわけか。その存続と引き換えに”北方戦役”で自らの手を汚した准将達の功績すら打ち消す形で。」

「ひいては貴族勢力の存在意義すらみんなに、国民に疑問視させる……―――父さん、ナイトハルト中佐もそれでいいんですか……!?」

フィーやラウラに続くように帝国政府の狙いを口にしたエリオットはクレイグ将軍とナイトハルト中佐に問いかけた。



「………それは………」

「……わかっている。内戦では争ったが、領邦軍も本来、エレボニアの地を共に護る同胞―――窮地にあるのを見過ごすなど、帝国軍人の誇りに(もと)るだろう。だが――――我等が”軍人”だ。そして軍の統括権は陛下にあり、ひいては帝国政府に委ねられている。その決定を覆す形で勝手に動くわけにはいかんのだ。」

「………父さん……」

「……ま、それもそっか。納得はできないけど。」

「―――ならば、情報については?結社がこの地に築いた”拠点”―――当然、目星も付いているのでしょう。」

答えを濁しているナイトハルト中佐の代わりに答えたクレイグ将軍の答えを聞いたエリオットが複雑そうな表情をし、フィーが静かな表情をしている中ラウラは真剣な表情で質問を続けた。

「それは………」

「―――当然、こちらの方でもある程度の当たりはつけてある。だが、現時点で確たることが教えられるような状況でもなくてな。」

「?それは一体……」

「意味が全くわかんないぜ……」

「そんな……!それすら駄目なんですか!?」

結社が拠点にしている場所の目星すら教えられないというナイトハルト中佐の回答にステラが不思議そうな表情をし、フォルデが溜息を吐いている中エリオットは信じられない表情で訊ねた。



「―――案の定”レンの読み通り”だったようね。」

「え………”読み通り”という事は……」

「もしかしてレン皇女殿下は将軍閣下達からも結社が拠点にしそうな場所の目星を我等に教えてくれない事も察していたのですか……?」

するとその時呆れた表情で呟いたレンの答えにセレーネが呆けている中、ラウラは真剣な表情でレンに訊ねた。

「ええ。ま、レン達に教えない理由は帝国政府の意向もあるかもしれないけど………別の意味でも正規軍としては、”あの場所”にレン達に入って欲しくないものねぇ?」

「…………!」

「……………」

意味ありげな笑みを浮かべたレンの問いかけを聞いたある事を察したナイトハルト中佐は目を見開き、クレイグ将軍は重々しい様子を纏って黙り込んだ。

「――――なるほど。だから、レン教官はクレイグ将軍の許可が必要だからリグバルド要塞に向かうと仰ったのですか。」

「え………リィンさんもレン皇女殿下が仰っている”あの場所”について何かお分かりになったのですか?」

するとその時レンの話を聞いてある事を察したリィンの答えを聞いたステラはリィンに訊ね

「ああ………アルトリザス近郊―――いや、サザ―ラント州の治安維持を司る正規軍の責任者の許可も必要な場所……―――恐らく”ハーメル村”の事だ。」

「あ………っ!」

「ええっ!?ハ、”ハーメル村”って確か……!」

「……14年前の”百日戦役”が勃発した理由にして、レーヴェ殿の故郷でもあるエレボニア帝国が犯した”大罪”の象徴を示す廃村……か。」

「道理でレーヴェも気づいたわけだ。けど何でエレボニアは今でもあの村の存在を隠そうとするの?1年半前のメンフィルとの”和解条約”で”ハーメルの惨劇”も公表したから、今更隠す必要なんてないんじゃないの?」

リィンの答えを聞いたセレーネは昨日の夕方見つけた巨大な(ゲート)があった場所を思い出し、エリオットは驚き、ラウラは重々しい様子を纏って呟き、フィーは静かな表情で呟いてクレイグ将軍とナイトハルト中佐に問いかけた。



「………それは………」

「……なるほど。レン皇女殿下達が結社に関係する情報と何らかに対する儂の”許可”を求めて来たという知らせを聞いてまさかとは思いましたが、やはり”ハーメル村”に立ち入る許可を貰う為だったのですか………そして特別にハーメル村立ち入りの自由が許可されているレオンハルト准将をこのサザ―ラントに呼ばずにエリオット達を同行させてわざわざ許可を求めに来た理由の一つは”ハーメル村”を未だに国家機密の場所に指定しているエレボニア帝国の”現状や理由”を教える為と言った所ですか……」

「ハ、”ハーメル村を未だに国家機密の場所に指定している”って………」

「それってどういう意味?」

ナイトハルト中佐が答えを濁している中静かな表情でリィン達が来た理由を口にした後レンの意図を口にしたクレイグ将軍の推測を聞いたエリオットは目を丸くし、フィーは不思議そうな表情で首を傾げた。

「うふふ、その件については後で教えてあげるわ。――――という訳でハーメル村立ち入りの許可証を用意してもらえるかしら?パパとシルヴァンお兄様が発行したリィンお兄さんに対する”要請(オーダー)”を妨げるような行為を行ってはいけない事は帝国政府からも知らされているでしょう?」

「……了解しました。ナイトハルト。書筒の用意を。」

「は。」

レンの問いかけに重々しい様子を纏って頷いたクレイグ将軍はナイトハルト中佐に指示をし、指示をされたナイトハルト中佐は書筒の用意を始めた。

「……感謝します、将軍。」

「礼には及ばぬ。―――むしろしがらみに縛られた己の不甲斐なさを痛感している所だ。……やはりヴァンダイク元帥や”彼”と比べればまだまだだな。」

「え………」

「閣下、こちらを。」

「うむ、すまぬな。」

感謝を述べた事に対して静かな表情で答えたクレイグ将軍の言葉にリィンが呆けたその時書筒の用意を終えたナイトハルト中佐が書筒をクレイグ将軍に渡した。



「――――先程レン皇女殿下も仰ったようにハーメル村に立ち入るにはサザ―ラント州における2名の最高責任者の許可を必要とする。」

「”サザ―ラント州における2名の最高責任者の許可”という事はもう一名許可を貰う人物がいるのですか……」

「そしてもう一名の人物は恐らく――――」

ナイトハルト中佐の説明を聞いて考え込んでいるステラに続くようにセレーネが答えかけたその時、書類にサインを終えたクレイグ将軍が書類を手に顔を上げた。

「――――リグバルド要塞司令、オーラフ・クレイグの名において”許可証”をしたためた。これを持ってアルトリザスにいるもう一人の”責任者”を訊ねるがいい。サザ―ラント州統括―――ハイアームズ侯爵閣下の元へな。」

そしてクレイグ将軍から許可証を受け取ったリィン達はハイアームズ侯爵からの許可証を求めてアルトリザスへと向かい始めた―――――




 

 

第22話

~同時刻・演習地~



リィン達がアルトリザスへ向かい始めた同じ頃、分校の演習地では午前の訓練を終えていた。

「ふう………午前の訓練も終わりか。」

「あ~、ハラ減った~!!」

「……みんな、少しは調子が戻ったみたいね。」

「ティータちゃん。私達、先に行ってるね?」

「あっ、はい!先に食べてくださいっ!」

「―――よお、ちょうど昼メシ時か?」

午前の訓練を終えた生徒達がそれぞれ昼食に向かっている中、昼食に向かわずに演習地に残っているティータに用事で演習地に寄ったアガットが声をかけてティータに近づいた。

「あ、あ……―――アガットさん!?わああっ、アガットさん!ほ、本物ですよね!?」

「って、見りゃわかるだろ。3週間ぶりってとこか。元気にしてたか、ティータ?」

自分の登場に無邪気にはしゃいでいるティータの様子に苦笑したアガットはティータの近況を訊ねた。

「えへへ、はいっ!みんなとってもよくしてくれて……授業もどれもとても興味深い内容ばかりで……あ、ちなみにレンちゃん―――いえ、レン教官はわたし達に”魔術”をとってもわかりやすいように教えてくれているんです!で、でもどうしてこんな所にいるんですか~!?」

入学してからの近況を嬉しそうに答えたティータだったが遊撃士のアガットが分校の演習地に訊ねた事を疑問に思い、アガットに訊ねた。



「ああ、ちょっとした野暮用ついでに様子を見に来たところでな。昨日は大変だったみたいだが……悪かったな、側にいてやれなくて。」

「アガットさん……ふふ、そんなことないです。いつだってアガットさんはここにいてくれますから。」

「……ったく。」

アガットに頭を撫でられたティータは微笑んだ後胸に手を当て、ティータの言葉にアガットは苦笑していた。

「あれ、貴方は……ティータちゃんの知り合いの方ですか?」

するとその時トワがランディとランドロスと共に二人に近づいて声をかけた。

「あ、えっと………」

「ま、コイツの保護者みたいなモンでな。仕事で近くを通るついでにちょいと立ち寄らせてもらった。」

「へえ、”仕事”ねぇ。……察するに”支える篭手”の助っ人あたりってところかい?」

トワの疑問に答えたアガットの説明を聞き、アガットの服の胸につけている”支える篭手”の紋章に気づいたランディはアガットに確認した。

「あ、それじゃあフィーちゃんやリィン君達の……!?」

「ほう、その赤毛に大剣………お前がヴァイスハイトの話にあった”影の国事件”に巻き込まれ、共闘した”重剣”か。」

「へえ……って事は、アンタもティオすけが巻き込まれたっていう”影の国事件”に関わっていたのか。」

アガットの話を聞いてある事を察したトワは目を丸くし、興味ありげな様子でアガットを見つめて呟いたランドロスの話を聞いたランディは若干驚いた様子でアガットを見つめ

「やれやれ、シュバルツァー達以外の教官陣も充実してるみてぇだし、何やら俺の知り合いとも縁があるみたいだな。丁度いい、昨日の状況を詳しく聞かせてくれねぇか?俺はリベール出身の遊撃士―――」

アガットは苦笑した後自己紹介をし、トワたちの昨夜の襲撃について聞き始めた。



~同時刻・デアフリンガー号・3号車~



「二人とも、お疲れ!はい、クルト君。こっちはアルね!」

同じ頃午前の演習を終えた特務科の面々は昼食を取ろうとし、ユウナがクルトとアルティナの分も含めて自分達の昼食を机に置いた。

「……ああ、ありがとう。」

「どうも……あの、先程から気になっていたのですが。”アル”というのは、一体……?」

「へ……ああ、そう言えば何となく縮めちゃったっていうか。でも呼びやすいし、いいと思わない?」

「ふう、ユウナさんまでランドルフ教官や誰かみたいなことを……まあ、構いません。お好きに呼んでもらえれば。」

ユウナの自分への呼び方に溜息を吐いてランディやミリアムの顔を思い浮かべたアルティナだったが、過去の経験から一々訂正を求めても時間の無駄だとわかっていた為諦めてユウナの自分への呼び方を受け入れた。

「えへへ、そう?そんじゃアルで決まりね!折角だしクルト君もって、あれ?ちょっ、どこ行くの?……ってまさか。」

席から立ちあがってどこかへと向かおうとするクルトに気づいたユウナは驚きの表情でクルトを見つめ

「心配いらない。ただの稽古さ。………半端者だが、一人で飛び出すほど愚かではないつもりだ。」

ユウナの推測ではない事をクルトは淡々とした様子で答えた。



「クルト君……その、あの人にあんな風に言われたからって―――」

「別に落ち込んじゃいないさ。……とっくにわかっているんだ。あの人が、僕らを危険から遠ざけるためあんな態度をとったことくらい。僕らには―――いや、僕には荷が勝ちすぎる。……彼の判断は何も間違っていないさ。」

「………クルト君………」

「…………………」

リィンの判断が間違っていない事を複雑そうな表情で肯定しているクルトの様子をユウナは心配そうな表情で見つめ、アルティナは複雑そうな表情で黙り込んでいた。

「ハハ……情けなくはあるけどね。だが、この情けなさもある意味、僕自身の不甲斐なさから来たものだ。今は噛み締めて―――あるかわからないけど、”次”に活かすしかないな。」

「………………はあ、まったく。男の子って不器用よね。」

「え………」

決意の表情で答えたクルトだったが呆れた表情で溜息を吐いた後苦笑したユウナの言葉に呆けた声を出した。

「―――あのね、クルト君。格好つけて物分りがよさそうな事を言ってるみたいだけど……そんな悔しそうな顔してたら説得力ないよ?」

「………っ………」

そしてユウナに図星を刺されると息を呑んだ。



「別にいいじゃない、”置いてかれて悔しい”で。あんな風に遠ざけられて、納得なんてできるわけない。あたしも、アルだて同じだよ。」

「……”悔しい”かどうかはわかりませんが、おおむね同意見です。これでも”特務部隊”結成時から一年半近く、教官をサポートしてきた実績もあります。それこそ”要請”の時も作戦行動の関係で教官とは別行動を取っていたセレーネ教官やエリゼ様達にも任されて教官をサポートした事もありますし、内戦では教官を含めた”特務部隊”のメンバーや”旧Ⅶ組”とも同じ作戦行動を行いましたし、クロスベル動乱でも教官達と一緒にクロスベル解放作戦に参加し、更には”碧の大樹”にも突入して教官―――いえ、”特務支援課”の悲願である”彼女”の奪還を果たしました。形式上”生徒”になったとはいえ、それを理由に外されるのは………正直”納得”いきません。」

ユウナの言葉に続くようにアルティナは若干不満そうな様子で答えた。

「そっか……って、やっぱりアルも”あの人達”と一緒に”あの娘”を助けるために”碧の大樹”に突入していたんだ。……まったくあの薄情好色教官はこんな子にここまで言わせて……!」

「……わかってるさ。そんなことは、僕だって。」

ユウナがリィンに対する不満や怒りの言葉を口にしたその時、クルトは静かな表情で呟いて入学前に兄ミュラーから言われた言葉を思い出した。



クルト、お前の”護る(ヴァンダール)”の在り方を決めるのは、他でもないお前自身だ。有角の獅子の魂を継いだ第Ⅱ分校……あの場所ならば、きっと――――



「だけど―――だからって、どうすればいい……!?未熟さも、置いてかれた事実も何も変わりはしないのに……!」

「……クルトさん。」

「―――そんなこと、動いてみなきゃわからないじゃない?」

「!?」

クルトが辛そうな表情で自身の本音を口にしたその時、その様子をアルティナは静かな表情で見守り、ユウナは口元に笑みを浮かべて指摘し、ユウナの指摘に驚いたクルトはユウナを見つめた。

「納得できないことがあるならとにかく動くしかない、でしょ。足掻いて足掻いて、足掻きまくって、いつか”壁”を乗り越えればいい……私から尊敬する人達も、いつだってそうしてきたんだから。」

「え……」

「……………………」

ユウナの言葉にクルトとアルティナ、それぞれ呆けた様子で黙って聞いていた。

「そもそも、1ヵ月程度の付き合いで足手まとい呼ばわりとか失礼な話でしょ。思い知らせてやろうじゃない。そっちの目が曇ってたんだって。あたしたちも協力するから―――ね、アル?」

「……断る理由はありません。Ⅶ組のサポートが現状任務ですし。」

「……本当に前向きというか、どこまでも真っすぐだな、君は。―――そこまでいうからには何かいいアイデアでもあるのかい?この件を解決しようとしている教官達に追いつくための。」

ユウナの真っすぐな正確に苦笑したクルトは今後の方針をユウナに訊ねたが

「え。……えっとまあ、それはその、あるような……ないような?」

今後の方針を全く考えていないユウナは表情を引き攣らせた後視線を逸らして答えを濁し、ユウナの答えにクルトとアルティナは冷や汗をかいて脱力した。

「まさか、何の案もなしにあそこまでの発言を……?逆にちょっと感心しました。」

「う、うるさいわねっ。これから皆で考えればいいでしょ!」

「……はは、そうだな。簡単には行かないだろうが。」

「―――ふふっ、よかった。元気を取り戻されたみたいで。」

アルティナの指摘に頬を赤らめて恥ずかしがっているユウナの様子にクルトが苦笑しながら答えたその時ミュゼがユウナ達に声をかけて近づいてきた。



「……?」

「Ⅸ組・主計科の……」

「ミュゼだっけ。……えっと、何か用かな?」

「ふふ、ちょっとだけお耳に入れたい事があるんです。―――もしかすると皆さんのお役に立てる情報かもしれなくって。」

「え。」

「それは……」

「……どういう意味だい?」

ミュゼの意外な提案にユウナ達がそれぞれ不思議そうな表情をしたその時

「――クク、なにやら面白ぇ話をしてるみてぇだな?その話、俺にも聞かせろや。」

いつの間にか現れたアッシュがユウナ達に声をかけた。



「ア、アンタは……!」

「アッシュ・カーバイド……どうして君まで……?」

「クスクス……わかりました。では、内緒話と参りましょうか。……実はこの周辺の地図で気になる”場所”を見つけまして―――」

アッシュの申し出にユウナ達が困惑している中意味ありげな笑みを浮かべたミュゼはユウナ達にソファーに座るように促した後それぞれが座ると話し始めた。



ユウナ達がミュゼの話を聞き始めたその頃、アルトリザスに到着したリィン達はそのまま侯爵家の城館に向かい……事情を説明して面会の時間を作ってもらったのだった。



~アルトリザス・貴族街・ハイアームズ侯爵城館・執務室~



「―――クレイグ将軍の許可証、確かに拝見させてもらった。昨夜の演習地襲撃、サザ―ラント州を預かる身として何とか解決するつもりだったが……よりにもよって、我々も手を出せない”あの地”を拠点としていたはな。………いや、むしろ彼の地だからこそ、人知れず仕込みを進められたのか……」

「閣下……」

事情を聞き終えた後様々な思いを抱えている様子のハイアームズ侯爵をセレスタンは心配そうな表情で見つめ

「”ハーメル村”がこ、侯爵閣下ですら手を出せない場所って………」

「確かにエレボニアが”ハーメルの惨劇”を隠ぺいしていた頃だったら侯爵でも手を出せない場所だっただろうけど、”ハーメルの惨劇”は”七日戦役”の和解条約の件で世間に公表されたのに、何で今も正規軍もそうだけど侯爵も手を出せないの?」

エリオットは信じられない表情をし、フィーは不思議そうな表情でハイアームズ侯爵を見つめて問いかけた。

「……レン教官が何か事情を知っているとの事ですが……できれば、エレボニア帝国側である侯爵閣下から詳しい事情を伺いたいのです。」

「…………アルフィン皇女殿下を娶った君ならひょっとしたら、皇女殿下から皇女殿下自身が疑問に思っている事を伺っているかもしれぬな。――――エレボニアの”ハーメルの惨劇”に対する”贖罪”の件について。」

「エレボニアの”ハーメル”や”百日戦役”に対する贖罪の件でアルフィン皇女殿下自身が疑問に思っている事……ですか?」

「あ………」

リィンの問いかけに対して少しの間考えた後答えたハイアームズ侯爵の答えにステラは不思議そうな表情をし、心当たりがあるセレーネは呆けた声を出した。

「その様子だと、何か心当たりがありそうだな。」

「あ……はい。以前、アルフィンさんがエレボニア帝国に対する疑問を仰っていた事があるんです。―――――エイドス様に与えられたハーメルとリベールに対する”エレボニアの贖罪”を本当にエレボニア帝国が行ったかを。」

「そう言えばシュバルツァー家に来てからのアルフィンはエレボニアの状況を知る為に毎日”帝国時報”を読んでいて、”帝国時報”にエレボニアが”贖罪”を実行したという話が一度も載っていない事を分校に来る少し前も気にしていたな……」

フォルデに視線を向けられて答えたセレーネの話を聞いてリィンはかつての出来事を思い出し

「”空の女神”に与えられた”ハーメルの惨劇”に関するエレボニア帝国の”贖罪”の件って……」

「確か”七日戦役”の和解条約の時に現れた”空の女神”にアルフィン皇女が”ハーメルの惨劇”について謝罪した後、”空の女神”から与えられた様々な”贖罪”の件だね。」

「……言われてみれば、内戦終結から今日に到るまでエレボニア帝国がアルフィン皇女殿下がエレボニア帝国を代表して約束された”空の女神”から与えられた”贖罪”を実行したという話を聞いた事がないな……」

エリオットは目を丸くし、フィーとラウラは静かな表情で呟いた。



「………すまないが、それ以上は私の口から言う事はできない。だが、一つ言えるとしたら……君達が触れようとしているのはエレボニアがアルフィン皇女殿下の”想い”すらも無下にしようとしている事を思い知らされてしまう”事実”だ。あまりに哀しく――――そして愚かしい、ね。」

「………………」

「エレボニアがアルフィンさんの”想い”を無下にしようとしている事、ですか………」

「うふふ、確かに遠からず当たっているわね、侯爵さんのその言葉は。」

重々しい様子を纏って答えたハイアームズ侯爵の説明を聞いたリィンは目を伏せて考え込み、セレーネは真剣な表情で呟き、レンは意味ありげな笑みを浮かべた。

「……すまない。無用に混乱させてしまったようだ。―――セレスタン、例のものを彼らに。」

「……は。こちらをお持ちください。」

ハイアームズ侯爵に視線を向けられたセレスタンは廃道の鍵をリィンに手渡した。

「正規軍司令、サザ―ラント州統括者、両名の許可をもってその鍵を託そう。……おそらく大凡の事情についてはギルドの高位遊撃士も知っていよう。だが―――この件についてはくれぐれも(おおやけ)巷間(こうかん)に流布しないと約束して欲しい。………場合によっては帝国機密法に接触し、国家反逆罪に問われかねないだろうから。」

「ごくっ……」

「……わかりました。丁重に預からせていただきます。」

「トールズⅦ組――――君達に女神達の加護を。どうかくれぐれも気をつけてくれたまえ。それとレン皇女殿下。こんな事を頼める立場ではないと承知していますが、できれば”贖罪”の件についてはリベール王国や七耀教会には――――」

「別に頼まれなくったって、リベールや七耀教会に教えるつもりはないわよ。”贖罪”の件は”七日戦役”の”和解条約”とは無関係だし。―――というかレン達―――メンフィルが教えなくてもリベールや七耀教会もそれぞれ独自で掴んでいるか、内戦終結以降のエレボニアの態度で”察している”と思うわよ。」

リィン達に忠告した後懇願するような表情を浮かべたハイアームズ侯爵に見つめられたレンは呆れた表情で溜息を吐いて答え

「……確かにそうですね。ちなみにその件について彼――――レオンハルト准将は何と仰っていましたか?」

レンの答えを聞いたハイアームズ侯爵は重々しい様子を纏って頷いた後レンに問いかけた。

「そうねぇ………『エレボニアは何も変わっていない―――いや、エレボニアに変わる事を期待するだけ時間の無駄だ』と言っていたわね。」

「………そう、ですか………確かに内戦が終結してからのエレボニアの態度を考えれば……―――ましてや当事者の一人であった彼ならばエレボニアに対してそう思って当然でしょうね……」

「閣下……」

レンの話を聞いて疲れた表情で肩を落としている様子のハイアームズ侯爵をセレスタンは心配そうな表情で見つめ

「……こんな事を頼むのは恐れ多い事と承知していますが、できればレオンハルト准将に機会があれば、私自身は”ハーメル”の件に関わる事で彼ともう一人の”ハーメルの遺児”に謝罪したいと伝えて頂けないでしょうか?」

「そのくらいは別にいいけど……――――それは”ハイアームズ侯爵個人”として?それとも”サザ―ラント州統括者”として?」

「勿論、”両方として”、です。」

「……そう。ま、ハイアームズ侯爵はオリビエお兄さんやアルフィン夫人のように”ハーメル”の件について重く受け止めている事も伝えておくわ。」

「……寛大なお心遣い、ありがとうございます。――――私事で、時間を取ってしまってすまないね。改めて女神達の加護を。どうか武運を。」

その後アルトリザスを後にしたリィン達はハーメル村に向かう為に馬で街道を進み、パルムに到着後町で困っている家族の依頼を達成した後パルムをを出てハーメル村に向かい始めた。



~パルム間道~



「……ハハ、どうやら先を越されちまいそうだな。」

リィン達が昨日の人形兵器の探索・撃破の最中に出会った謎の中年の男がリィン達がパルムを出てハーメル村に向かう所を見つめて苦笑していた。

「しかし、あの若いのが前から聞いてたヤツだったとは。まあいい―――まずはお手並み拝見と行くか。……ウチのチビがどのくらい育ったのかも含めてな?」

そして男が呟いたその時、何とどこからともなく男の背後にかつてリィン達が1年半前のエレボニアの内戦で戦った貴族連合軍の”裏の協力者”にして”大陸最強”を誇る猟兵団の片翼である”西風の旅団”に所属している”罠使い(トラップマスター)”ゼノと”破壊獣(ベヒモス)”レオニダスが現れ

「ハハ、異存はないで~。」

「では、行くとしよう。」

それぞれ興味ありげな様子で答えた後男と共にリィン達の後を追い始めた――――






 

 

第23話

~パルム間道~



巨大な(ゲート)の前に仲間達と共に到着したリィンはハイアームズ侯爵から受け取った鍵を使って門の鍵を開いた。

「ふう……やっと開いた。」

「これだけの厳重さ……やはり”ハーメル村”に”百日戦役”以外の”何か”があるようだな。」

「ええ……”ハーメルの惨劇”を公表してもなお、ハーメル村に続く道をここまで厳重に閉じていますし……」

「問題はその”何か”ですが……」

「ま、少なくてもロクでもない事には間違いないだろうな。」

厳重な鍵を解いた事にフィーが一息ついている中ラウラとセレーネの呟いた言葉に続くようにステラは考え込み、フォルデは疲れた表情で溜息を吐いた。

「フン……やはりそこに繋がりやがるか。」

するとその時アガットがリィン達に近づいてきた。



「あ………」

「アガット、来たんだ?」

「トヴァルさんから連絡を?」

「ああ、それと俺の方でもタイタス門周辺を探ってな。領邦軍の監視を掠めるようにこっちの方へ大量の人形どもを移動させた跡を見つけた。侯爵やレーヴェの野郎から仕入れた情報の裏付けにはなるんじゃねえか?」

「そうでしたか……」

「……弱体化した領邦軍の目を盗んで拠点にしたんだね。」

「うふふ……結社なら領邦軍が弱体化しなくても目を盗んで拠点にする事くらいできるでしょうけど、あえて”ハーメル村”を拠点にするなんて、”盟主”や大半の”蛇の使徒”が死んでも悪知恵は未だ顕在のようね、”身喰らう蛇”は。」

アガットの話にリィンが頷いている中エリオットは複雑そうな表情で呟き、小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンの言葉を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「結社も、内戦で様々な策略で散々貴族連合軍どころか自分達まで陥れた”殲滅天使”に”悪知恵”って言われる筋合いはないと思うだろうね。」

「ああ、まったく同感だ。………しかし結社の連中もこの先の場所をぬけぬけと利用するとはな。」

ジト目のフィーの言葉に頷いたアガットは真剣な表情で考え込んだ。



「そう言えば侯爵閣下は高位遊撃士の方ならば、”ハーメルの惨劇”を公表した後でもなお、未だ”ハーメル村”に正規軍や領邦軍がおいそれと手を出せない場所である事を知っているような事を仰っていたが……」

「もしかしてアガットも知っているの?」

「ああ、大凡の事情はな。」

「えっと……リベールの方、なんですよね?」

ラウラとフィーの質問に頷いたアガットの答えを聞いたエリオットはアガットに確認した。

「ああ―――――行くんだったら俺も付き合わせてもらうぜ。”後輩ども”への義理と、………俺自身を見つめ直す機会をくれたあの銀髪野郎への義理を果たす為にもな。」

「あ………」

「……サラから、ちょっとだけ聞いた事があるけど……」

「ヨシュアさんとレーヴェさんの事ですか………」

「―――わかりました。ありがたく力をお借りします。」

アガットの答えを聞いたエリオットは呆け、フィーとセレーネは複雑そうな表情で呟き、リィンはアガットの申し出を受け入れる事に頷いた。

「”重剣”の名、聞き及んでいる。A級遊撃士としての実力、是非とも学ばせていただこう。」

「ハッ……サラと同じく殆ど我流だがな。”光の剣匠”の娘に見せられるモンがあるといいが。―――”連中”が何のためにこの先に入り込んでるかは不明だ。だが、ここまで仕込んでる以上、相当ヤバイ状況が待ってるだろう。覚悟はいいな――――トールズ士官学院”旧Ⅶ組”とメンフィル帝国軍”特務部隊”?」

「ええ……!」

「とっくに完了。」

「いつでも”彼女達”と戦う覚悟―――いえ、彼女達を討つ覚悟もできていますわ。」

「ま、サクッと終わらせようぜ。」

「エレボニアの地に漂い始めたモヤを晴らす為にも……!」

「そしてこれ以上”結社”による暗躍を防ぐ為にも……!」

「この先に待ち受ける闇。我等の手で払ってみせよう!」

「うふふ、それじゃあ”要請(オーダー)開始(スタート)、ね♪」

アガットの問いかけにそれぞれ決意の表情で答えたリィン達は先へと進み始めた。



「へっ……ドンピシャだったな。」

一方その頃リィン達がハーメル村へと続く山道を進み始めている様子をユウナ達―――”特務科”の面々と共に遠くから見守っていたアッシュは不敵な笑みを浮かべ

「ふう……あの(ミュゼ)の情報通りだったわね。でも、ここまで離れてなくてもさすがに大丈夫だったんじゃない?」

「……リィン教官とセレーネ教官の気配察知や聴力を考えたらこのくらいの距離は必要かと。同行者達も侮れませんし。」

「ああ……何とか気づかれずに後を追いかけるしかなさそうだ。場合によっては獣道を使う必要があるかもしれない。」

溜息を吐いた後呟いたユウナの疑問にアルティナは静かな表情で答え、アルティナの推測にクルトは頷いた。

「はあ、ここまでするのはちょっと気が咎めるけど……―――でも、ここまで来て蚊帳の外は納得できないよね!……Ⅷ組のアンタがどうして付いてきたのかは知らないけど。あたしたちのこと、気に喰わないんじゃなかったの?」

「ハッ、俺の勝手だろうが。ランドロスとランドルフの野郎共を撒いてコイツを持ってきたのを忘れんなよ?」

ユウナの疑問に対して鼻を鳴らして答えたアッシュは機甲兵―――ドラッケンに視線を向けた。

「はあ……いいのかなぁ。」

「戦力としては妥当かと。」

「どうせ通せない道理……多少の無理は押し通すまでだ。」

その後ユウナ達はリィン達の後を追い始めた。



~同時刻・演習地~



「あれっ……?」

「どうしたんだ?もう訓練が終わったのか?」

一方その頃、サンディとサンディと話していた男子生徒―――スタークは演習地に慌てた様子で戻って来たⅧ組の生徒達を不思議そうな表情で見つめて問いかけた。

「いや、それがねぇ……」

「……少々不味い状況だな。」

「ええっ!?」

レオノーラが答えを濁している中大柄な男子生徒―――グスタフが重々しい様子を纏って答え、グスタフの答えを聞いたカイリは驚きの声を上げた。

「クソッ、やりやがった……!」

「だぁっはっはっはっ!むしろお前どころか、俺まで出し抜いた事は評価すべきじゃねぇか?」

「感心している場合じゃないだろうが!?」

厳しい表情で声を上げたランディだったが、呑気な様子で豪快に笑っているランドロスの言葉に疲れた表情で指摘した。

「ど、どうしたんですか?」

「まさか……また襲撃があったのか?」

するとその時騒ぎを聞きつけてランディとランドロスに駆け寄ったトワとミハイル少佐が二人に事情を求めた。

「……訓練中にアッシュの野郎がドラッケンごと消えちまった。ユウ坊、クルト、アルきち――――Ⅶ組の連中も付いていったらしい。」

「へ………」

「な、なんだと!?」

「………ふふっ。お役に立てて何よりです。」

ランディの説明にトワとミハイル少佐が驚いている中、その様子を見守っていたミュゼは口元に笑みを浮かべた。



~ハーメル廃道~



分校がユウナ達の失踪に気づいたその頃、リィン達は時折襲い掛かってくる魔獣達や結社が放った人形兵器を撃破しながら先を進んでいた。

「ふう……」

「厄介だけど何とかなりそうだね。」

「ええ、内戦時に戦った人形兵器と比べれば大した事はありませんね。」

「ですが油断はできませんわ。アルトリザスやパルムのそれぞれの場所に内戦時で戦った人形兵器や見た事のない特殊な人形兵器もいたのですから。」

「ま、少なくても連中と直にやりあう羽目になったら、嫌でも戦う事になるだろうな。」

「うふふ、今までの事を考えたらもはや”お約束”の展開だものね♪」

人形兵器を撃破し終えて一息ついたラウラとフィーの言葉にステラは頷き、セレーネの忠告に続くようにフォルデは苦笑しながら答え、からかいの表情で答えたレンの答えにその場にいる全員は冷や汗をかいた。

「しかしトールズの”Ⅶ組”にメンフィルの”特務部隊”か……フィーも驚いたが、アルゼイド流のお嬢さんやあのヴァンダールの少佐―――いや中佐の親戚といい、灰色の騎士やツーヤの妹といい、リベールのお姫さんに似た雰囲気を纏っている銃使いのお嬢さんといい、やるじゃねえか。さすがは、あのお調子者や”英雄王”達が設立に関わっただけはあるぜ。」

「お調子者……?」

「”Ⅶ組”の設立に関わったって事はもしかして……」

「オリヴァルト殿下の事ですか?」

アガットの評価を聞いたリィンが不思議そうな表情をしている中、ある事を察したエリオットは目を丸くし、ラウラはアガットに確認した。

「ああ、4年前のリベールの異変で知り合ってな。当時あいつは、身分を隠してリベールでスチャラカ演奏旅行をしてやがったんだが……俺の後輩を中心に、一緒につるんで最後には”結社”の陰謀をぶっ潰した。まあ、エレボニアの機甲師団を率いて小芝居を打ったりもしやがったが。」

「うふふ、まさに”茶番”のようなお芝居だったわね♪」

「おいコラ……”お茶会”で散々俺達を振り回した挙句、あのスチャラカ皇子と一緒に小芝居を打った”英雄王”達の関係者のお前だけはあのスチャラカ皇子の事は言えねぇぞ。」

アガットとレンの話にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アガットは顔に青筋を立ててレンを睨んで指摘した。



「アハハ……そう言えば、ツーヤお姉様からそのあたりは少しだけ伺った事がありますわ。」

「リベールの智将と英雄王と協力してエレボニア軍の強引な介入を口先三寸で阻止したんだっけ。」

「あはは……つくづく規格外っていうか。」

「フフ、”紅き翼”や我等Ⅶ組の産みの親の一人でいらっしゃるだけはあるな。」

アガットのレンへの指摘にセレーネは苦笑し、フィーの説明を聞いたエリオットとラウラはそれぞれ苦笑していた。

「ああ、だが知っての通りヴァンダール家の守護職は解かれ、今のあいつの翼はもがれちまった。帝国政府―――いや”鉄血宰相”、ギリアス・オズボーンの意向によって。」

「あ………」

「……エレボニアの状況について一通りご存知みたいですね?」

「ああ、別にアイツを助けようってわけじゃないが……内戦やメンフィルとの戦争が収まったにも関わらず異常なまでの軍拡を続ける一方怪しげな連中が動き始めている。そんな状況でも、帝国政府のギルドへの規制は続いたままだ。」

「大陸中部にある、ギルド総本部も流石に見過ごせないって判断した。それで、アガットやシェラザードなんかがリベールから派遣されたみたい。」

「”シェラザード”というと……1年半前の内戦でアルフィン皇女殿下の護衛を担当した女性のA級遊撃士の方ですね。」

「規制されている状況で大陸で20数名しかいないA級遊撃士を二人も送り込むなんて、エレボニアはよっぽどヤバイ状況である証拠だな。」

アガットとフィーの説明を聞いたステラはある人物の顔を思い浮かべ、フォルデは疲れた表情で溜息を吐いた。

「うふふ、そこに補足する形になるけど……ギルド総本部は”エレボニア帝国に接している外国の領土”―――つまり、メンフィルやクロスベルの領土にあるギルドの各支部にもA級遊撃士に加えてエステル達を含めたS級遊撃士も派遣しているのよ♪」

「ええっ!?え、A級遊撃士やS級遊撃士どころか、最近生まれたばかりの大陸で一人しかいないSS級遊撃士まで……!」

「まあ………という事はエレボニアに接しているメンフィルからクロスベルの領土のギルドにエステルさん達も派遣されているのですか。」

「エレボニアの領土に接しているメンフィルやクロスベルの領土に彼女達が派遣されたのは、エレボニアに”何らかの緊急事態”が起こった場合、いつでも応援に向かわせる為ですか?」

「ああ。幸いな事にメンフィル・クロスベルの両帝国政府はエレボニアと違って、ギルドへの規制は特にしていない―――いや、むしろ一人でも多くの高ランク遊撃士を自国の領土に派遣して治安維持に手を貸して欲しい申し出をギルド総本部にしたそうだからな。で、両帝国政府の申し出はいざとなったら、いつでもエレボニアに応援を送れる状況にしたいギルド総本部にとっては渡りに船だったから、エステル達を含めた多くの高ランク遊撃士をエレボニアの領土に接しているメンフィルやクロスベルの領土に派遣したそうだ。特に元エレボニアの領土で、”五大都市”だったオルディス、ルーレ、そしてバリアハートのそれぞれの支部に最低でもA級遊撃士2名を派遣していると聞いている。」

小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの説明を聞いたエリオットが驚き、セレーネが目を丸くしている中ある事に気づいたステラの問いかけにアガットは頷いて答えた。



「そうだったのですか……」

「……つくづくギルドには世話になってしまっているな。」

事情を聞き終えたリィンとラウラはそれぞれ静かな表情で呟き

「ま、エレボニアに何かあったら周辺諸国も他人事じゃねえからな。……本当なら、俺の後輩共―――エステル達がエレボニア入りするはずだったんだが……帝国政府の許可が下りなくて代わりに来たっていうのもある。」

「政府の許可が下りない………どうして政府は”ブレイサーロード”達をエレボニアに入れたくないんだろう……?」

「エステルとミントの場合、1年半前の戦争相手だったメンフィルから爵位を貰っている事もそうだけどエステルとヨシュアの親――――”剣聖”カシウス・ブライトが王国軍の重鎮だから許可が出なかったと聞いている。」

「……ま、もう一人―――ヨシュアの出身も含めて目をつけられてるみたいでな。それはともかく……村跡までは結構歩くはずだ。気を抜かずに行くとしようぜ。」

「……了解です。」

「そんじゃま、探索を再開するとしますか。」

その後リィン達は再び先へと進み、時折襲い掛かってくる魔獣達や人形兵器達を撃破しながら先を進んでいた。



「ふう……それにしても、どうしてエレボニアは”ハーメルの惨劇”を世界中に公表したのに、未だに”ハーメル村”への立ち入りに厳重な規制を続けているんだろう……?」

「ハイアームズ侯はエレボニアがアルフィン皇女殿下の”想い”をも無下にしようとしていると仰っていたが………」

「………………」

ハーメル村跡までの道のりでの中間地点に到着して溜息を吐いて呟いたエリオットと考え込みながら呟いたラウラの言葉を聞いたアガットは目を伏せて黙り込み

「……アガットさん。ハイアームズ侯が言っていました。ギルドの高位遊撃士であればエレボニアが未だにハーメル村跡への立ち入りに厳重な規制を敷いている事を知っているかもしれないと。」

「それにレン教官も後でわたくし達にも説明すると仰っていましたが……」

「……うふふ、そうね。それじゃあ、そろそろ教えてあげるわね。――――アガットも勿論”ハーメルの惨劇”公表後の”エレボニアのハーメルに対する対応に秘められた真意”に関して知っているのでしょう?」

「ああ……俺はレンと違って、完全に又聞きになるが、それでもいいか?エレボニア人であるお前らやあのスチャラカ皇子の妹を妻にしているシュバルツァーにはちょっとキツい話でもあるだろう。」

「……是非とも。」

「お、お願いします。」

アガットの問いかけにリィン達の代わりにラウラとエリオットはそれぞれ答えてリィン達と共に決意の表情でアガットを見つめた。



「そうだな……―――言うまでもねぇだろうが、”ハーメルの惨劇”はエレボニアが絶対に世間に隠し通し続けるつもりだった”真実”だ。もし、世間に知られてしまえば、エレボニアの国際的な立場は地の底に堕ちるだろうからな。」

「だけど、”ハーメルの惨劇”は”七日戦役”の和解条約によって、”メンフィルとの和解の為にエレボニアは渋々”公表し、その結果アガットの言う通り、エレボニアの国際的な立場はどん底に落ちて周辺諸国のエレボニアに向ける目は厳しくなったわ。――――”ハーメルの惨劇”の公表を和解条約に入れるようにパパに要請した”空の女神”のせいでね。」

「そして、エレボニアは”ハーメルの惨劇”を隠ぺいする為にこの先にあったハーメルという村は今も存在しないという事にしている。エレボニアの地図からも消えてるだろ?まったく、大した情報規制ぶりだぜ。……村人全員が皆殺しにあった真実を知り、その真実を知った”空の女神”の怒りを収める為にその場で謝罪し、更には”贖罪”を誓った自国の皇女の意志を完全に無かった事にしようとしているのだからな。」

「ええ……っ!?」

「……どうするんだ、リィン?話の初めの内容からして、あの皇女さんにとってショックを受けるような内容っぽいぜ?」

「……………勿論、リーヴスに戻った後にアルフィンにも教えます。”贖罪”の件はアルフィンが当事者なのですから、当事者である彼女に教えないのは”筋が通らない”ですし、何よりアルフィン自身が知る事を心から望んでいます。」

「お兄様……」

「アガット殿、それは――――」

レンの後に答えたアガットの答えにエリオットが驚いている中疲れた表情をしたフォルデの問いかけに少しの間黙り込んだ跡静かな表情で答えたリィンの様子をセレーネは辛そうな表情で見つめ、ラウラは真剣な表情でアガットを見つめた。

「ま、とにかく先に進むぞ。”結社”の連中しだいだが……続きはハーメルに到着してからだ。」

「……わかりました。」

「よろしくお願いする。」

その後リィン達は先へと進み、ついにハーメル村に到着した――――




 

 

第24話



~”忘れ去られし村”ハーメル~



「………………」

「ここが……”ハーメル村”………」

「ここにレーヴェさんやヨシュアさん、それに転生前のプリネ様が……」

「……どうしてだろう。こんなに哀しい風景なのに。」

「綺麗……だね。」

「ああ……一種の絵画にも見えるな……絵描きの一人として許される事なら、この風景を絵にしたいくらいだ。」

「……美しい(むら)だったのだろう。この地に眠る魂が今は安らいでいる証拠かもしれぬ。」

「……そうだといいんだが。」

「ま……あながち間違っちゃいないかもな。」

「……そうね。」

ハーメル村に到着したリィン達がハーメル村の風景に様々な思いを抱えている中アガットとレンは静かな表情でラウラが呟いた言葉を肯定した。



「ヨシュア達……さっき言った俺の後輩たちやレーヴェも一度、里帰りしているはずだ。それで安心したのかもしれん。」

「それと後は、”空の女神”によって自分達が存在していた事を世間の人達にようやく知ってもらえたのかもしれないわね。」

「その、ヨシュアさんというのが……」

「リベールの若手遊撃士の一人で、エレボニア出身みたいだね。」

「そして、ヨシュアさんもレオンハルト准将と同じこのハーメル村の遺児というわけですか……」

アガットとレンの説明を聞いたエリオットの言葉に続くようにフィーが答え、リィンは溜息を吐いてかつてクロスベル動乱で共に戦った仲間の一人――ヨシュアの顔を思い浮かべた。

「ああ………―――”ハーメルの惨劇”については既に世間にも公表されたし、お前達は内戦の最中にレンから”七日戦役”の和解条約の説明を受けた際に、あのスチャラカ皇子から”百日戦役”の真実である”ハーメルの惨劇”を聞いたとの事だから、それについては説明は省略する。」

「で。ここからの説明がリィンお兄さん達も知らない”ハーメルの惨劇”を公表しても、今もなお頑なに”ハーメル”の存在を隠そうとしているエレボニアの”事情”よ。」

「わたくし達も知らない”ハーメルの惨劇を公表しても、今もなお頑なにハーメルの存在を隠そうとしているエレボニアの事情”、ですか……」

「リグバルド要塞でレン皇女殿下の口から少しだけ話に出ましたね……」

「ま、この村の状況を見たら俺でも何となくわかってきたけどな。」

「え……ハーメル村の今の状況を見て、フォルデさんは何がわかったのですか?」

アガットの後に説明したレンの説明を聞いたセレーネは考え込み、ステラは静かな表情で呟き、呆れた表情で溜息を吐いたフォルデの言葉を聞いたエリオットは不思議そうな表情でフォルデに訊ねた。



「――――村の状況をよく見てみろ。1年半前の和解条約の際に現れた”空の女神”に誓った皇女さんのエレボニアの”贖罪”の一つである”惨劇で亡くなったハーメル村の村人達の墓がどこにあるんだ?”」

「!!」

「……言われてみれば、どこにもない――――というか、”ハーメルの惨劇が起こった後の状態のまま”だね。」

「一体どういう事なのだ……!?まさかとは思うが……エレボニア帝国政府はアルフィン皇女殿下が”空の女神”に誓ったエレボニアの贖罪の一つである”惨劇で亡くなったハーメル村の村人達全員の墓を建造する事”を実行していないのか……!?」

フォルデの指摘を聞いたリィンは目を見開き、フィーは静かな表情で呟き、ラウラは厳しい表情で自身の疑問を口にし

「一つどころか、エレボニアはアルフィン夫人が”空の女神”に誓った”贖罪”を全て実行していないわよ。」

「す、”全て”って……!」

そしてレンの説明を聞いたエリオットは信じられない表情をした。



「……お前達も知っての通り、エレボニアは一年半前のメンフィルとの戦争、メンフィルの介入による内戦終結、そして領土問題で旧共和国と揉めていた”自治州”だったクロスベルによる下克上で戦力や国力が大きく衰退した事に加えて、皇族―――特に現エレボニア皇帝であるユーゲント皇帝と政府に対するエレボニアの民達の信頼が失墜し、更にはゼムリア大陸での国際的な立場は地の底に堕ちた。」

「そんなあらゆる意味でボロボロになったエレボニアだけど、エレボニア帝国政府に復帰した”鉄血宰相”がボロボロになったエレボニアの復興だけで満足する訳がないでしょう?で、政府やユーゲント皇帝に対して落ちたエレボニアの民達の信頼を回復し、エレボニアを再びゼムリア大陸の覇者に戻してエレボニアの国際的立場の地位回復の為の手っ取り早い方法として、メンフィル・クロスベル連合の侵略によって滅びた長年の宿敵――――旧カルバード共和国の代わりに”宗主国”である自分達に歯向かった挙句、下克上までした新興の大国―――”クロスベル帝国”との戦争に勝つ事を考えたのよ。」

「だが、内戦や”七日戦役”の”和解条約”によって国力――――特に財政方面で深刻なダメージを受けた状態で、とてもエレボニアの一部の領土に加えてカルバードの大半を領土としているクロスベルに戦争を仕掛けた所で結果は”エレボニアの敗戦”が目に見えている。そして一日でも早くクロスベルに対抗できる戦力を整える為に帝国政府は内戦勃発前よりも軍拡を再開した。――――それこそギルド総本部が”異常”とまで思う程のな。」

「で、軍拡――――内戦やメンフィルとの戦争で失った戦力を回復・増強する為には当然たくさんのお金が必要な事は誰でもわかるでしょう?そしてそのお金を集める為に帝国政府はアルフィン夫人が”空の女神”に誓った”ハーメルの惨劇”に対する”贖罪”を”エレボニアがアルフィン皇女が空の女神に誓った贖罪は帝国政府内では何の権力もないアルフィン皇女の独断の為、贖罪を実行する必要はない事を決定したのよ。”」

「ま、”空の女神”がエレボニアに要求した”贖罪”の中にはリベールに”百日戦役”の賠償金を払わなければならない挙句自国の領土の一部までリベールに贈与しなければならない事になっているからな。クロスベルとの戦争に向けての軍拡を最優先で行っているのに、自国の皇女―――ましてや他国に嫁いだ皇女が独断で決めた虐殺された村人達の墓の建造費も含めた”無駄な出費”を帝国政府が許す訳がない。だが、本人はもはや今のゼムリア大陸から去ったとはいえ、ゼムリア大陸全土で崇められている”空の女神”に自国の皇女が”ハーメルの惨劇”に対する”贖罪”を必ず実行する事を和解条約時に出席していたリベール、ギルド、七耀教会、そしてメンフィルの代表者達の前で宣言しちまった以上、その宣言を撤回してしまえば、エレボニアはクロスベルに加えてリベールや七耀教会、更には内戦終結に最も貢献した事からエレボニア皇族の中で最も人気があったスチャラカ皇子の妹を慕っている自国の民や貴族達まで敵に回しちまう事になるからな。そうならない為に、帝国政府は”贖罪”を実行していない件でのリベールや七耀教会の指摘に対しては”未だに国力が回復していない為、贖罪を実行する余裕がない事”を理由に、”贖罪”の実行を延期し続けている。」

「クロスベルに加えていざとなったら無条件でメンフィルに軍を出して貰える上”不戦条約”の件でクロスベルとの関係も悪くない―――いえ、むしろ良好な関係を結んでいるリベールは当然として、自国の民達を含めたゼムリア大陸に多くの信者を抱え、”外法を殺す事”が認められている”星杯騎士団”を有する七耀教会まで敵に回す事やエレボニアから去って1年半経った今でも根強い人気を誇るアルフィン夫人を慕う平民や貴族達を敵に回す事はさすがに今のエレボニアだと”無謀”である事くらいは帝国政府も理解しているわ。だから、アルフィン夫人が”空の女神”に誓った”贖罪”はあくまで”延期”という理由で実行せず、リベールや七耀教会に対して誤魔化し続けているのよ。」

「そして帝国政府はエレボニアの民達に”贖罪”の件を忘れるように徹底した情報工作を行った。―――――かつてハーメルの虐殺を未来永劫、闇に葬った時のようにな。これが――――ハーメルの惨劇を公表したエレボニアが今もなお、ハーメルの存在を隠し続けている”事情”だ。」

「…………………」

「そんな……そんな事が………」

「レーヴェが言っていたっていう『エレボニアは何も変わらない――――変わる事を期待するだけ時間の無駄だ』って言う言葉はそういう意味だったんだね。」

「そうですね……ハーメルの惨劇を闇に葬った時から、何も変わっていませんね。」

「そしてハイアームズ侯が言っていたエレボニアはアルフィンの”想い”をも無下にしようとしているという意味はエレボニアは一からやり直して欲しいと願っていたアルフィンの”想い”をも無下にしようとしている事だったのか………」

「やれやれ……あの皇女さんが知ったら、冗談抜きでエレボニアの政府どころか政府の意向を認めた父親――――ユーゲント皇帝に対しても失望するかもしれないな。」

「はい…………そして、アルフィンさんの事ですからきっと悲しまれるでしょうね……」

アガットとレンからエレボニアがハーメルの存在を隠ぺいし続ける事情を知ったラウラは信じられない表情で絶句し、エリオットは悲しそうな表情で呟き、複雑そうな表情で呟いたフィーの言葉にステラは静かな怒りを纏って頷き、リィンは静かな表情で呟き、呆れた表情で溜息を吐いたフォルデの推測にセレーネは辛そうな表情で頷いた。



「……レン皇女殿下。メンフィル帝国はエレボニア帝国がアルフィン皇女殿下が”空の女神”に誓った”贖罪”を実行していない事について抗議等はしなかったのですか?メンフィル帝国の貴族であるリィンに降嫁なされたアルフィン皇女殿下はメンフィル帝国に所属されている事になりますし、和解条約には”空の女神”の希望である”ハーメルの惨劇の公表”が組み込まれたとの事ですから、”贖罪”とも間接的に関係があるように思えるのですが……」

「まあ、アルフィン皇女自身がリィンお兄さんに嫁いだ事でアルフィン皇女がメンフィル帝国の所属になったから全く関係がないとは言えないけど、エレボニアは”和解条約”を全てちゃんと実行したし、”贖罪”はあくまで”アルフィン皇女と空の女神を含めた七耀教会との間で結ばれた条約”の為、”和解条約ではなく別の条約”になるから、幾ら戦争で勝ったとはいえ、”メンフィルとは関係のない別組織同士で決めた出来事”に口出しする”権利”なんてないわよ。第一、もし抗議なんかして七耀教会の肩を持ったら、メンフィルが理想として掲げる”光と闇の共存”を破る事になるもの。」

「え………それって、どういう事なんですか?」

ラウラの質問に答えたレンの答えを聞いて疑問を抱いたエリオットは困惑の表情でレンに訊ねた。

「………メンフィルは”光と闇の共存”を理想として掲げている以上、”光”の勢力として見られている七耀教会に一方的に肩入れをしてしまえば、メンフィルの民達に”示し”がつかないからだと思いますわ。」

「―――加えてリウイ前皇帝陛下の側室の一人であられるペテレーネ神官長は”闇”の勢力である混沌の女神(アーライナ)教の”神格者”です。しかもペテレーネ神官長はゼムリア大陸に存在する混沌の女神(アーライナ)教の長でもありますから、ペテレーネ神官長個人はともかく、メンフィル建国時より協力関係を結んでいた混沌の女神(アーライナ)教にも”メンフィルが光と闇の共存を理想として掲げている事”に対して疑問を抱かれる可能性も考えられます。」

「それは…………」

「光と闇―――相反する存在の”共存”を謳っているからこそ、異世界では”光”と、”闇”、それぞれの勢力に”宗教”があるメンフィルは宗教関係でどちらかの肩入れはできないって事か。」

レンとステラの推測を聞いたラウラは複雑そうな表情をし、フィーは静かな表情で呟いた。

「………それと”贖罪”をエレボニアが実行するつもりがない事に気づいたリベールや七耀教会のエレボニアとの関係を悪化させてエレボニアを孤立させる事で、エレボニアがメンフィル、もしくはクロスベルとの戦争に敗戦して滅亡の危機に陥った際、エレボニアの懇願に応えてエレボニアを存続させる為のリベールや七耀教会の仲裁の意志を無くす事も含まれているのでしょう?」

「あ………」

「確かにエレボニアの皇女が自分達が崇め続けている”空の女神”自身と約束をしたって言うのに、それを破れば七耀教会は当然エレボニアが再び滅亡の危機に陥っても和解条約や西ゼムリア同盟の時のようにエレボニアに味方しないだろうし、幾らオリヴァルト皇子と親交があり、慈悲深いアリシア女王やクローディア王太女とは言え、王国政府やリベールの民達の”贖罪”を実行しないエレボニアに対する感情を考えればエレボニアの味方はし辛いだろうな。」

リィンの推測を聞いたエリオットは呆けた声を出し、フォルデは疲れた表情で呟き

「……そして、エレボニア皇族――――それも帝位継承権を持つ自分がエレボニアを代表して”空の女神”に誓った”贖罪”すらも実行しない事を決めたエレボニア帝国政府やユーゲント皇帝陛下に失望したアルフィン自身のエレボニアに対する”想い”を断ち切る事で、エレボニアの帝位継承権を持つアルフィンがいつか起こるかもしれないメンフィル・クロスベル連合とエレボニアとの戦争によって敗戦したエレボニアの統治者に選ばれ、エレボニアへの想いを断ち切ったアルフィン自身がその決定に従って受け入れる意志を作る為………――――違いますか?」

「それは………」

更なるリィンの推測を聞いたラウラは複雑そうな表情をした。

「へえ?”そこまで気づく”なんて、驚いたわ♪リィンお兄さんの予想外の成長の早さに、一日でも早くレン達をお役御免にして欲しい臨時クロイツェン統括領主の一人として、嬉しい誤算だわ♪」

一方レンは意味ありげな笑みを浮かべてリィンを見つめ、リィンの推測を肯定したレンの答えにエリオット達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「ったく、案の定ロクでもねぇ事を考えていやがったようだな……」

「うふふ、”ロクでもない”とは失敬ね。レン達メンフィルはエレボニアの”ハーメルの惨劇”に対する”贖罪”について口出しする”権利”はリベールや七耀教会程持ち合わせていない事は事実だし、別に内戦や”七日戦役”の時と違って何らかの暗躍もしていないわよ?要するにエレボニア自身が自滅しようとしているから、それを上手く利用しようとしているだけよ。」

「……確かにレン皇女殿下の仰る通り、その件に関しては完全にエレボニアの自業自得ですね。」

「……だな。帝国政府も”贖罪”を無視し続ければ、いずれエレボニアは孤立する事くらいは予想できているのに、そんな選択を取るという事はいつかクロスベルやメンフィルどころか、リベールを含めた各国に戦争を吹っ掛けるつもりなのかね?」

呆れた表情で溜息を吐いたアガットに小悪魔な笑みを浮かべて指摘したレンの指摘にステラと共に頷いたフォルデは呆れた表情で溜息を吐き

「……確かに今のエレボニアの軍拡を考えれば、フォルデの推測も当たっているかもね。」

「い、幾ら何でも1年半前の件で衰退したエレボニアがゼムリア大陸全土の国家に戦争を吹っ掛けるなんて、ありえないと思うけど……」

「だが………エレボニアは自ら破滅の道を歩もうとしている事は今の話で思い知らされたな………」

「あの……レン教官。もしお兄様の仰るような出来事が本当に実現したら、アルフィンさんをエレボニアの統治者にするつもりなのですか……?1年半前のエレボニアの内戦終結によって”七日戦役”勃発に対する”償い”とようやく皇族の重荷を捨てる事ができて、お兄様に嫁いだ事で平穏な生活を送っていたアルフィンさんを今更政治の世界に再び連れ戻す事は酷な事だと思われるのですが……」

「………………」

静かな表情で呟いたフィーがフォルデの推測を肯定している中エリオットは不安そうな表情で呟き、ラウラは重々しい様子を纏って呟き、セレーネは心配そうな表情でレンに問いかけ、リィンは真剣な表情で黙ってレンを見つめていた。

「うふふ、”万が一”メンフィル・クロスベル連合とエレボニアが戦争状態になり、エレボニアを降した時に考えているエレボニアの統治者は正確に言えば”リィンお兄さんとアルフィン夫人の子供”だから、アルフィン夫人自身を今更政治の世界に連れ戻すつもりはないから、安心していいわよ。」

「リ、リィンとアルフィン皇女殿下の子供って………」

「確かに帝位継承権を持つ皇女殿下の血を引く御子ならば、当然エレボニアの帝位継承権はあるだろうな。」

「………―――なるほど。”幻燐戦争”の時のように、元々その国を治めていた皇族の血を引く子供を統治者にする事で、エレボニアの民達の反感を抑えてエレボニアの統治をしやすくする為ですか。」

レンの答えを聞いたエリオットが困惑している中ラウラは真剣な表情で呟き、リィンは静かな表情で呟いてレンを見つめた。

「”幻燐戦争”………以前レンがレグラムに”ガランシャール”を返しに来てくれた時に少しだけ話に出た事がある異世界の戦争だね。」

「俺も”影の国”で少しだけだが、当事者――――”英雄王”達本人から聞いた事がある。大陸全土の国家を敵に回したその戦争に勝利した事によって建国当時は小国だったメンフィルが大国へと成りあがった戦争で、戦後占領した皇族を生かしてそのまま占領した領土の統治を続けさせて”英雄王”がラピス皇女さん達――――各国の皇女を側室にして、その子供を占領したそれぞれの国の統治者にしたって話だったな。」

リィンの話を聞いたフィーとアガットはそれぞれかつての出来事を思い出し

「またまた大正解♪―――まあ、”幻燐戦争”の時と違ってあくまで案の一つなだけだから、リィンお兄さんとアルフィン夫人の子供がエレボニアの統治者になる事が決定している訳ではないわよ?リィンお兄さん達が拒否するんだったら、当然他の案を考えるつもりだもの。1年半前の件が切っ掛けで大出世した今のシュバルツァー家はエフラムお兄様達を始めとしたメンフィル皇家の分家と同格と言ってもおかしくないのだから、そんなシュバルツァー家の意志を”無下”にはできないわよ。」

「……寛大なお心遣い、ありがとうございます。ですが、さすがにマーシルン皇家や各国の皇家の血を引く分家の方々と”同格”は過剰評価かと。」

レンの答えにリィンは静かな表情で会釈をした後苦笑しながら指摘し

「シュ、シュバルツァー家がメンフィル皇家の分家と同格って………」

「フム、強ち間違ってはいないだろう。1年半前の件でシュバルツァー家は広大なクロイツェン州の大半の部分の統括領主に任命される事が内定しているのだからな。正直、エレボニアで例えるのならば”四大名門”と同格と言ってもおかしくないと私は思っている。」

「ハ、ハハ……」

表情を引き攣らせているエリオットの言葉に続くように呟いたラウラの言葉を聞いたリィンは乾いた声で苦笑していた。

「―――ま、話は戻すけどエレボニアがメンフィルやクロスベルに限らず他国に戦争を仕掛ける事をしなければ、リィンお兄さんの当たって欲しくない推測は見事に外れる事になるけどね♪」

「ったく、このクソガキは………―――まあいい。とりあえず、さっきの花を供えに行くぞ。たしか、村の奥の方に14年前の慰霊碑があるはずだ。」

小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンの言葉にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アガットは呆れた表情で溜息を吐いた後気を取り直して答えた。

「……わかりました。行きましょう。」

「一応、警戒した方がよさそうだね。」

そしてアガットの提案にフィーと共に頷いたリィンが仲間達と共に先へと進もうとしたその時、リィンの頭の中に一瞬だけ惨劇が起こる前のハーメル村の平和な光景の一端―――黒髪の姉弟と銀髪の少年の普段の生活、そして幼い自分を背負った若い頃のオズボーン宰相の姿が浮かんだ。

「………!?(……今のは……?)」

一瞬の出来事に驚いたリィンは周囲を見回し

(間違いない……ここに来るのは初めてのはずだ。だが……何か関係があるのか?)

少しの間考えて困惑の表情をしたが気を取り直して仲間の後を追った――――――


 

 

第25話

リィン達が慰霊碑がある場所に到着すると、そこには慰霊碑に廃道の最中に生えていた花を供えているデュバリィとシャーリィの姿があった。



~”忘れ去られし村”ハーメル~



「「………………」」

慰霊碑に花を供えた二人はそれぞれ惨劇で亡くなった村人達に対する祈りを捧げていた。

「―――さてと、お待たせ。」

「なにをグズグズしてますの?待っていて差し上げますから花を捧げてしまいなさい。」

「貴女たちは……いや……そうだな。」

「それでは謹んで捧げさせていただこう。」

祈りを終えた二人に促されたリィンとラウラは二人の言葉に頷いて仲間達と共に二人のように廃道でつんだ花を慰霊碑に供えて祈りを捧げた。



「お前達もここがヨシュアとあの野郎―――レーヴェの故郷である事は当然知っているんだよな?」

「ええ――――No.Ⅱ”剣帝”レオンハルトとNo.ⅩⅢ”漆黒の牙”ヨシュア。かつてエレボニアの民だった二人がエレボニアに仇名す”結社”に所属し、結社脱退後はそれぞれエレボニアの戦争相手だったリベールとメンフィルの民になるなんて、皮肉な話ですわ。」

「”剣帝”レオンハルトに”漆黒の牙”ヨシュアか。”剣聖”に育てられたっていう”漆黒の牙”も気になるけど、”剣帝”レオンハルトは元から滅茶苦茶強くてメンフィルに所属してから更に強くなったそうだね。特に”剣帝”はあの火焔の亡霊のお兄さんにも気にいられているみたいだし。」

「ええ、付き合いも長かったようですから。……終わったようですわね?」

祈りを終えたアガットの問いかけに頷いたデュバリィの話にシャーリィは興味ありげな様子で呟き、デュバリィは祈りを終えた様子のリィン達に問いかけた。

「……昨夜の件も含めて聞きたいことは山ほどある。だが――――ここでは止めておかないか?」

「村の手前の広場あたり……あそこなら少々五月蠅くしても迷惑はかけねえだろ。」

「いいでしょう。貴女も構いませんわね?」

「別にいいよー。本命はまだ来てないし。そんじゃ、行こっか。」

リィンとアガットの提案に頷いたデュバリィとシャーリィは一足先に村の手前の広場へと向かい

(本命……?)

(何のことだろう……?)

(わからぬが……決着をつけるとしよう。)

(うふふ………プリネお姉様達の方はギリギリのタイミングで”間に合いそう”ね。)

シャーリィが呟いた意味ありげな言葉に仲間達が首を傾げて二人の後を追っている中一人だけ意味ありげな笑みを浮かべたレンはリィン達の後を追って行った。



~ハーメル廃道~



「―――単刀直入に問おう。この地の静寂を破ってまで”何”をしようとするつもりだ?」

「死者を悼む心と礼節を持ち合わせている事は見受けます。なのに何故、よりによってこんな場所を利用しているのですか?」

村の手前の広場で仲間達と共にデュバリィとシャーリィと対峙したラウラとステラはそれぞれ真剣な表情で二人に問いかけた。

「……こういった里は別にここだけではありませんわ。エレボニア以外の辺境……野盗風情に襲われて全滅した集落なども少なくありません。わたくしの故郷のように―――」

「え………」

「なるほどな……結社の連中にしては妙に言葉遣いが礼儀正しい事に疑問を思っていたが、その理由が何となくわかってきたな。」

「もしかして貴女―――いえ、”鉄機隊”の方達は分校長に……」

デュバリィがふと呟いた言葉を聞いたリィンが呆けている中フォルデは納得した様子でデュバリィを見つめ、ある事を察したセレーネは複雑そうな表情でデュバリィを見つめた。

「どうでもいい話でしたわね。」

一方リィン達の反応を見たデュバリィは自分を蔑むような表情を浮かべたがすぐに気を取り直した。

「死者は死者だよ。そして生者には生者の生きる世界がある……生きて足掻いて苦しんで―――刹那の喜びと安らぎを感じながら死んでいく世界がね。」

「……!」

シャーリィが自身の主張を口にした後から漂い始めたシャーリィの闘気を逸早く察したフィーが表情を厳しくしたその時、自身の得物を取り出したシャーリィが後ろに跳躍してリィン達から距離を取った。



「それじゃあ、始めようか?ランディ兄や”紅き暴君”がいないのはちょっと残念だったけど……妖精にA級遊撃士、殲滅天使もいるし、けっこう楽しめそうかな?」

そして不敵な笑みを浮かべたシャーリィの言葉を合図にデュバリィの背後に人形兵器が2体、更にシャーリィの背後から大型の獣型の魔獣が3体現れた。

「赤い星座の軍用魔獣……!」

「白い人形兵器の方は鉄機隊の専用機体といった所ですか……」

敵の援軍の登場にフィーとステラは人形兵器と魔獣を警戒し

「ヴァンガード”F2”スレイプニル。最新鋭の機体ですわ。わたくしの剣技があれば無用ですが少しは愉しませて差し上げます。」

デュバリィは不敵な笑みを浮かべて説明した。

「チッ……」

「……数は若干こちらが上か。」

「問題はこの後に姿を現すかもしれない敵の援軍だな。」

「まあ、少なくても他の”鉄機隊”のメンバーは現れる可能性は高いと考えた方がよさそうね。」

敵が増えた事にアガットは舌打ちをし、エリオットは状況を分析し、フォルデとレンはそれぞれ真剣な表情で推測をしていた。

「―――いいだろう。俺達が勝ったら話してもらうぞ。1年半の沈黙を破り、”盟主”を始めとした多くの最高幹部を失った”結社”の残党が何をするつもりなのか!」

「あはは、乗った……!それじゃあ妖精、昨日の決着をつけようか!?それと昨日受けた”貸し”を倍にして返させてもらうよ、”殲滅天使”!?」

リィンの問いかけを聞いたシャーリィは武器を構えなおしてフィーとレンを見つめ

「望むところ。」

「うふふ、やれるものならやってみなさい♪」

対するフィーも武器をシャーリィに向けて宣言し、レンは大鎌を構えて不敵な笑みを浮かべてシャーリィを見つめた。

「灰の起動者に”重剣”、”聖竜”に”魔弾”―――アルゼイドの娘と槍のヴァンダールも参りますわよ!」

「上等だ……かかって来いや小娘共!」

「いざ、尋常に勝負――――!」

そしてリィン達はそれぞれ分散してそれぞれが戦う相手へと向かい、デュバリィ達との戦闘を開始した!



「二の型―――疾風!!」

セレーネと共に人形兵器達に向かったリィンは電光石火の攻撃で先制攻撃を人形兵器達に叩き込み

「「…………」」

リィンの先制攻撃を受けた人形兵器達は強烈な盾による攻撃で敵を気絶させるクラフト―――シールドバッシュでリィンに反撃したが

「!―――緋空斬!!」

リィンは攻撃が当たるギリギリのタイミングまで引き付けて後ろに跳躍して回避した後炎の斬撃波を放って反撃を叩き込んだ。

「集束せし聖なる光よ、炸裂せよ――――ホーリーバースト!!」

「「!?」」

その時魔術の詠唱を終えたセレーネが高火力の魔術を発動し、セレーネの魔術によって発生した集束した光の魔力による爆発をその身に受けた人形兵器達は怯んだ。

「二の型―――大雪斬!!」

「そこです――――スパイラルピアス!!」

人形兵器達が怯んだ隙を見逃さないかのようにリィンは跳躍して人形兵器の頭上からの強襲攻撃で、セレーネは人形兵器に詰め寄って捻りを加えた突きによる攻撃でそれぞれ人形兵器の片腕の関節部分を攻撃した。すると二人の攻撃によって関節部分が破壊された人形兵器達はそれぞれ盾を持つ腕が地面に落ちた。

「「…………」」

片腕を失った人形兵器達だったが、腕を失った事に気にせず残りの片腕に持つ戦斧でリィンとセレーネに攻撃し

「!吼えろ、蒼き龍よ――――蒼龍炎波!!」

「ハッ!雷光よ、我が右腕に宿れ――――サンダーストライク!!」

それぞれ後ろに跳躍して敵の攻撃を回避したリィンは太刀を振るって闘気で発生した蒼き炎の竜を、セレーネは右腕に集束させた雷光のエネルギーを解き放って人形兵器達に止めを刺した!



「「「ガウッ!!」」」

軍用魔獣達は自分達に向かってきたフォルデとステラ、そしてエリオットにそれぞれ襲い掛かったが

「―――させません!そこっ!!」

「「「ガッ!?」」」

散弾銃(ショットガン)を取り出したステラによる銃撃を受けて怯み

「アークス駆動――――エアリアルダスト!!」

更に竜巻を発生させるエリオットのアーツが魔獣達に炸裂し、魔獣達はダメージを受けると共に竜巻によって足止めをされた。

「吹き飛びなあっ―――――轟爆旋風牙!!」

「「「ギャンッ!?」」」

そこにフォルデが魔獣達の前の地面に槍を突き立てて衝撃波と共に旋風を発生させて魔獣達に追撃すると共に吹き飛ばした。

「貫け―――スパイラルショット!!」

「そこだ―――風雷神槍!!」

吹き飛ばされた魔獣に更なる追撃をする為にステラは散弾銃(ショットガン)からライフルに戻した後ライフルで回転する風の弾丸を、フォルデは槍から雷が迸る竜巻を魔獣達に放ったが、魔獣達は素早い動きでそれぞれ回避した後フォルデ達に反撃する為に猛スピードでフォルデ達に迫った。



「奏でて―――ブルーオーケストラ!!」

魔獣達の攻撃がエリオット達に命中する寸前にエリオットが起動したダメージを7割も軽減するブレイブオーダーによって発生したエネルギー障壁に魔獣達の攻撃は阻まれ、ダメージを受けたエリオット達は軽傷ですんだ。

「巻き込んでさしあげます………!――――ショット!!」

一撃離脱技―――空牙でエリオット達にダメージを与えてエリオット達から離れた魔獣達だったがステラが放った吸引力のある竜巻を発生させる魔術が込められた弾丸を放つクラフト―――トルネードバレットによって発生した竜巻に巻き込まれて一か所に固められ

「常世の鐘よ、鳴り響け――――ノクターンベル!!」

そこにエリオットの魔導杖(オーバルスタッフ)によって発生した銀の鐘が鳴り響いて魔獣達に追撃を叩き込んだ。

「こいつは見切れねぇだろう?ハァァァァァァ……!――――終わりだっ!!」

そして止めにフォルデが連続突きの後強烈な薙ぎ払い攻撃を放つクラフト―――スラストレインで3体の魔獣達を纏めて止めを刺した!



「さ~てと……サクッと行くよ!」

シャーリィが自分に向かってきたフィーとレンを見るとチェーンソーの部分を回転して二人に向かって突撃し

「!」

「っと!」

シャーリィが放ったクラフト―――ブラッドストームに対して二人はそれぞれ軽やかな動きで左右に分かれて回避し

「排除する。」

「消えちゃえ♪」

フィーは双銃剣による一斉掃射のクラフト―――クリアランスでレンは指先から高熱度の光を放つ純粋魔術―――死線で遠距離攻撃による反撃をシャーリィに放ち

「あはは、いいねぇ!それじゃあ、これはどうかなあっ!?」

二人の反撃に対して好戦的な笑みを浮かべながら回避したシャーリィは火炎放射を放つクラフト―――フレイムチャージでフィーとレンに向けて放ち

「ミッションスタート。」

「―――転移。」

襲い掛かる火炎放射に対してフィーが幻影の風をその身に纏って完全に気配を戦場から消し、レンが転移魔術を発動してその場から消えるとフィーとレンがいた場所は誰もいなく、誰もいない所に火炎放射が通り過ぎ

「うふふ、反撃よ♪」

「おっと!良い奇襲だけど、シャーリィには通じないよ。」

転移魔術でシャーリィの背後に現れたレンはシャーリィの背後から大鎌で襲い掛かったが、レンの奇襲に即座に気づいたシャーリィはレンの奇襲を回避した後ライフルによる乱射攻撃でレンに反撃しようとしたが

「せーの……ヤアッ!―――止め。」

「あうっ!?」

戦場から完全に姿と共に気配を消していたフィーがシャーリィの側面から限界突破の連続攻撃―――トライサイクロンで攻撃してシャーリィの態勢を崩し

「崩したよ!」

「隙は逃さないわよ♪―――羅刹刃!!」

「っ!?」

シャーリィの態勢が崩れるとフィーと戦術リンクを結んでいたレンがフィーに続くように大鎌を振り回しての連続攻撃でシャーリィに追撃し、レンの追撃に対してシャーリィは攻撃の一部を喰らった後後ろに跳躍してダメージを最小限にした。



「行くよ―――シュッ!!」

「狙いは悪くないけど、その程度じゃあシャーリィには届かないよ、妖精!」

「っ!?」

更なる追撃を仕掛ける為にフィーは全身に風を纏って神速の強襲攻撃を仕掛けるクラフト―――サイファーエッジでシャーリィに攻撃を仕掛けたがシャーリィは攻撃が命中する寸前で身体を逸らして回避した後無防備になったフィーの背後から反撃を叩き込んでフィーにダメージを与えると共にダメージによる痛みでフィーの持ち味である速さを失速させた。

「そおれっ!」

「……っ!」

「彼の者に光の守護を―――防護の光盾!!」

失速し、足が止まったフィーにシャーリィはライフルを掃射させて追撃し、シャーリィの追撃に対してフィーが武器を構えて防御をしたその時レンが光の魔力による障壁をフィーに付与してフィーの防御力を高めた。

「ぶっ飛べ!!ブラッディクロス!!」

「くっ……!?」

ライフルを掃射したシャーリィは続けてフィーに詰め寄ってチェーンソーを振るってフィーを宙へと上げた後チェーンソーによる十文字斬りをフィーに叩き込んでフィーにダメージを与えた。

「アークス駆動―――ティアラ!!」

「援護します―――シュート!!」

「!」

シャーリィの攻撃が終わったその時、魔獣達との戦闘を終えたエリオットが治癒アーツをフィーに放ってフィーが受けたダメージを回復し、シャーリィをフィーから離れさせるためにステラはライフルによる三連射攻撃―――トライバーストを放ち、ステラが放った三連射攻撃に気づいたシャーリィはフィーから離れて攻撃を回避した。



「伍の型―――光輪斬!!」

「あうっ!?」

そこに回避行動を取った後にできたシャーリィの僅かな隙を狙って、エリオット達同様人形兵器との戦闘を終えてフィー達の加勢にかけつけたリィンが刀気の輪を繰り出してシャーリィにダメージを与えた。

「四の型・改――――紅蓮切り!!」

「っと!今度はこっちの番だよおっ!」

続けてリィンが太刀に炎を纏わせた一撃離脱技で追撃を仕掛けると側面に跳躍して回避したシャーリィはクラフト―――ブラッドストームでリィンに反撃し

「させるか!」

「あはは、やるじゃない!それじゃあ、これはどうか――――」

自分の反撃を太刀で受け流して回避したリィンの回避行動に好戦的な笑みを浮かべたシャーリィは続けてライフルを掃射する為にライフルをリィンに向けようとしたその時

「やらせないよ!アークス駆動―――ブルーアセンション!!」

「っ!?」

エリオットが発動したアーツによってシャーリィの足元から凄まじい威力の水のエネルギーが吹き上がってシャーリィにダメージを与えて怯ませると共にリィンへの追撃の手を中断させた。

「リィンさん、敵から距離を取ってください!えいっ!」

「わかった!」

「あうっ!?身体が……!へえ……変わった物を持っているねぇ……!」

エリオットのアーツが終わる寸前にリィンに忠告したステラはリィンがシャーリィから距離を取ると同時に冷気が込められたFグレネードをシャーリィの足元に投擲した。するとエリオットのアーツが終わると同時にグレネードは炸裂して閃光と共に冷気をシャーリィの周囲に発生させ、冷気によって身体の一部が凍結した事で動きが鈍くなったシャーリィは冷気が込められたFグレネード―――Aグレネードを投擲したステラを興味ありげな様子で見つめた。

「うふふ、感心している場合かしら?」

「くっ、身体が完全に……!?」

凍結効果によって動きが鈍ったシャーリィにレンが魔眼を発動してシャーリィの動きを完全に封じ込めたその時!

「―――さてと。始めよっか。それっ!」

フィーが双銃剣を回転させて投擲した。すると双銃剣はまるで意志を持っているかのようにシャーリィに襲い掛かって無数の斬撃を叩き込んだ後シャーリィから離れ

「キャッチ。ヤァァァァァ……っ!」

跳躍して空中で片方の双銃剣をキャッチしたフィーはそのままシャーリィに掃射攻撃を叩き込んで地面に着地すると同時にそのままシャーリィに神速の強襲攻撃を叩き込み、強襲攻撃が終わると残り片方の双銃剣がフィーの手に戻った。

「パシッと。ダメ押し――――リーサクルセイド!!」

そしてフィーは双銃剣でシャーリィ目がけて怒涛の連射をした。するとシャーリィを中心に連鎖する爆発が起こった!

「っっっ!!??へえ……!」

フィーが放ったSクラフト―――リーサクルセイドの最中にレンの魔眼の効果が切れたシャーリィはフィーのSクラフトを受けながら後ろへと跳躍して最後に起こった連鎖する爆発を回避した後好戦的な笑みを浮かべてフィーを見つめた。



「そこだぁっ!」

「甘いですわ!―――喰らいなさい!」

ラウラと共にデュバリィに向かったアガットが放った先制攻撃である火柱を伴う衝撃波――――ドラグナーエッジに対してデュバリィは側面に跳躍して回避した後高速によって発生した残影を残しながら強襲攻撃を行うクラフト―――残影剣でアガットに反撃し

「チッ……!」

デュバリィの反撃に対してアガットは自身の得物である大剣で受け流し

「蒼裂斬!!」

「……!」

クラフトを放ち終えたデュバリィにラウラは蒼き闘気を纏った衝撃波を放ち、デュバリィはラウラが放った衝撃波が命中する寸前で盾で防いだ。

「喰らいやがれ―――ドラゴンエッジ!!」

「うっ!?」

ラウラの攻撃が終わるとアガットが竜気を纏った回転撃―――ドラゴンエッジでデュバリィに襲い掛かり、デュバリィはアガットの攻撃も盾で防ごうとしたがアガットの攻撃の破壊力によって態勢が崩されると共にダメージを受け

「崩したぜ!」

「行くぞ―――でやぁっ!!」

「キャアッ!?」

アガットと戦術リンクを結んでいるラウラはデュバリィの態勢が崩れると追撃に獅子のように襲い掛かって2連続攻撃を行うアルゼイド流の剣技―――獅子連爪で追撃してデュバリィに更なるダメージを与えた。



「調子に乗っているんじゃ――――ありませんのっ!」

「「!!」」

デュバリィは反撃に炎を纏わせた剣による薙ぎ払い――――豪炎剣で反撃し、アガットとラウラはデュバリィが放った炎の薙ぎ払い攻撃が当たる寸前で後ろに跳躍して回避した。

「まだですわ――――喰らいなさい!」

「っ!?」

「くっ!?」

豪炎剣を回避した二人にデュバリィは続けてクラフト―――残影剣を放って回避行動に成功した事によってできた僅かな隙をついてダメージを与え

「おぉぉぉぉ……ドラゴンスマッシュ!!」

「!」

反撃に放ってきたアガットの竜気を宿らせた強烈な一撃を側面に跳躍して回避した。

「逃がしはせぬ――――洸閃牙!!」

「くっ……小癪な……っ!?」

しかしそこに光の渦を発生させて自分の元へと引き寄せて一閃を放ったラウラの攻撃を盾で受け止めたが、ラウラの一撃の凄まじさが盾越しに伝わって来た事によって盾を持つ腕が痺れ

「そこだぁっ!」

「蒼裂斬!!」

「キャアッ!?」

片腕に伝わる僅かな痺れによってできたデュバリィの隙をついたアガットとラウラはそれぞれ左右から逃げ場のない衝撃波を放ってデュバリィにダメージを与えた。



「七色の光の矢よ――――プリズミックミサイル!!」

するとその時人形兵器との戦闘を終わらせたセレーネがラウラとアガットの加勢に現れてデュバリィ目がけて魔術によって発生した七色の光の矢を放ち

「!!」

「行くぜ――――ハァァァァッ!そらっ!」

「あうっ!」

セレーネが放った七色の光の矢を側面に跳躍して回避したデュバリィだったが、そこに狙いすましたかのようなタイミングでセレーネ同様軍用魔獣との戦闘を終え、ラウラ達の加勢に現れたフォルデが華麗な槍舞による攻撃―――スピアダンサーでデュバリィにダメージを与えた。

「アルゼイドの真髄、その身に刻むがよい―――参る!オォォォォ……ッ!」

「こいつでしまいにしようぜ……!ハアッ!セイヤァッ!―――とうっ!」

「く……っ!?キャアッ!?」

するとその時それぞれ奥義を発動したラウラは精神統一をした後神速の強襲攻撃を行い、アガットは片足を地面に踏み込んでデュバリィに突進して大剣による斬撃を何度も叩き込んで盾を構えたデュバリィの防御を崩した後空高くへと跳躍し

「奥義――――洸凰剣!!」

「ハァァァァァァ……ッ!止めだ――――ドラゴン――――フォール――――ッ!!」

「キャアアアアアア……ッ!?く……っ!」

ラウラは蒼き闘気を纏わせた事によって光の大剣と化した得物で一刀両断攻撃を、アガットは全身に竜気を纏った空からの一刀両断攻撃をデュバリィの目の前の地面に叩き付けて凄まじい火柱を発生させ、二人のSクラフトによる大ダメージを受けたデュバリィは後ろに跳躍してラウラ達から距離を取った――――


 
 

 
後書き


もうすぐ1章が終わりますが、1章にて閃Ⅳ篇を書く為に必要なキャラクター達を登場させる予定ですのでその時をお待ちください。それと暁の軌跡、サラの為に回したガチャでアルティナが当たってしもうた(汗)先月もアルティナの為に回したガチャでシャロンが当たってしまった事を考えるとまさか来月のピックアップキャラのガチャの時にサラが来るのか……と一瞬思ってしまいましたが、さすがにそんな強運はありえないですよね(苦笑)
 

 

第26話

~ハーメル廃道~



「あはは、なかなかいいじゃん!」

「フン、さすが皆伝に至っただけはありますわね……!」

それぞれが対峙している相手と距離を取ったシャーリィは不敵な笑みを浮かべ、デュバリィは鼻を鳴らして忌々しそうな表情でラウラを見つめた。

「そちらはそちらで更に腕を上げたようだ。」

「……まだ、届いていないか。」

敵の評価に対してラウラとフィーはそれぞれ静かな表情で答えた。

「うーん、”重剣”や”殲滅天使”に”ヴァンダールの槍”も相当だし、楽士のお兄さんや”聖竜”に”魔弾”のお姉さんの支援もいいけど……―――ねえ、灰色のお兄さん。どうして本気を出さないのさァ?しかもお兄さんの使い魔……じゃなくって婚約者だったか。何でその人達も呼ばないの?もしかしてシャーリィ達を舐めているのかなぁ?」

「………!」

それぞれの評価をしたシャーリィは不敵な笑みを浮かべてリィンを見つめ、対するリィンがシャーリィから漂う凄まじい殺気に気づいたその時

「させない!」

フィーがシャーリィ目がけて突進したが、斜め上方から自分に襲い掛かる狙撃の矢に気づき、シャーリィへの突進を中断して回避行動に専念した。

「狙撃………!」

「それも”矢”という事は、まさか……!」

狙撃による矢を見たステラが驚き、ある事を察したセレーネが真剣な表情で仲間達と共に狙撃が放たれた方向に視線を向けると、そこにはデュバリィと同じ騎士装束を纏った女弓騎士と斧槍(ハルバード)を持つ女騎士がいた。

「も、もしかして”鉄機隊”の……!?」

「ああ……他の隊士だ。」

「うふふ、”やっぱり”出て来たわね。」

「予想通りの展開ですが、”赤い星座”の援軍はいないみたいっすね。」

女騎士達の正体を察したエリオットの言葉にリィンは頷き、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、フォルデは敵の援軍で”赤い星座”の猟兵達がいない事に気づいた。



「我が名は”剛毅”のアイネス。音に聞こえしアルゼイド流の後継者と遥か昔に失われたヴァンダール流の”槍”の後継者と(まみ)えて光栄だ。」

「”魔弓”のエンネア――――ふふっ、うちのデュバリィがお世話になったみたいね。」

斧槍(ハルバード)を持つ女騎士と狙撃を行った弓女騎士―――デュバリィと同じ”鉄機隊”の隊士であるアイネスとエンネアはそれぞれリィン達に名乗り上げた。

「こ、子供扱いするんじゃありませんわ!それとアルゼイドの娘と卑劣な手段ばかり取るヴァンダールの槍相手に礼儀など無用です!」

するとその時、転移魔術が込められた魔導具で転移したデュバリィが二人に注意し、シャーリィは驚異的な身体能力でデュバリィ達の所まで下がった。

「―――ま、それはともかく。改めて9対4……”対戦相手”も様子見みたいだし、とことん殺り合おうか?」

「まあ、いいでしょう。上手くいけば”起動条件”もクリアできそうですし。」

「”対戦相手”……?」

「”起動条件”だと……?」

リィン達との戦闘を再開しようとしたシャーリィとデュバリィの言葉にエリオットとアガットが眉を顰めたその時!

「ハッ、もらったぜ!!」

「おっと……!」

何とドラッケンを操縦するアッシュがシャーリィの背後から現れてシャーリィに奇襲し、奇襲に逸早く気づいたシャーリィは間一髪のタイミングで前方に跳躍して回避した。

「その声―――Ⅷ組のアッシュか!?」

「うふふ、”やっぱり”来たわね。大方演習の最中にランディお兄さん達の目を盗んでここまで来たんでしょうけど………どのタイミングでレン達の後を追って、しかも”自分達”どころか機甲兵(ドラッケン)をランディお兄さん達の目を盗んでここまで来た方法は純粋に気になるわね♪」

「か、感心している場合ではありませんわよ……というかどうしてその事をわたくし達に教えてくれなかったのですか………あら?”達”という事はまさかとは思いますが――――」

ドラッケンから聞こえてきたアッシュの声を聞いたリィンは驚き、小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉に呆れた表情で溜息を吐いたセレーネだったがある事に気づいた。

「あたしたちもいます!」

「参る――――!」

するとその時セレーネの予想通り、ユウナとクルトの声が聞こえた後ユウナとクルトは”鉄機隊”の側面から現れ

「ほう……!?」

「あら……!?」

アイネスとエンネアはクルトとユウナの奇襲攻撃をそれぞれ回避した後二人と対峙した。

「くっ、雛鳥ごときが―――ぐっ……!」

そしてユウナとクルトの奇襲に唇を噛みしめたデュバリィが何かに気づいて視線を向けたその時、片腕にアルティナを乗せたクラウ=ソラスがデュバリィを殴り飛ばした!



「”黒兎(ブラックラビット)……!貴女がいましたか……!」

「久しぶりですね、”神速”の。」

唇を噛みしめて呟いたデュバリィの言葉に対してアルティナは淡々とした様子で答えた。

「アルティナ……クルトにユウナまで……!駄目だ、下がってろ……!」

ユウナ達の登場に驚いたリィンはユウナ達に警告をしたが

「聞けません―――!貴方は言った……!”その先”は自分で見つけろと!父と兄の剣に憧れ、失望し、行き場を見失っていた自分に……間違っているかもしれない―――だが、これが僕の”一歩先”です!」

「………!」

「クルトさん……」

意外にもクルトが反論し、クルトの反論にリィンとセレーネはそれぞれ驚いた。

「クルト君……」

「―――命令違反は承知です。ですが有益な情報を入手したのでサポートに来ました。状況に応じて主体的に判断するのが特務活動という話でしたので。」

「それは………」

「ア、アルティナさんまで……」

「クク、1年半前の時とは比べものにならないくらい、”人”に近づいているようだな。」

「そうですね………それもリィンさん達――――”シュバルツァー家”での生活や第Ⅱ分校での学生生活によるものでしょうけど、この場合のアルティナさんの”判断”は褒めるべきか、叱るべきなのか迷う所でしょうね……」

クルトの意志を知ったユウナが静かな表情でクルトを見つめている中、クルトに続くように反論をしたアルティナの言葉にリィンは答えを濁し、アルティナまで命令違反に加えて反論までして来たことにセレーネは表情を引き攣らせ、口元に笑みを浮かべたフォルデの言葉にステラは苦笑していた。

「アル……すみません、教官。言いつけを破ってしまって。―――でも、言いましたよね?『君達は君達の”Ⅶ組”がどういうものか見出すといい』って。そしてセレーネ教官は『わたくし達に対する意見や注意して欲しい事があれば、遠慮なく言ってくださいね』って。自信も確信もないけど……3人で決めて、ここに来ました!」

「「…………………」」

「ハハッ……」

「君達……」

「……なるほど。確かに”Ⅶ組”だな。」

「しかもリィンとセレーネの言葉が全部ブーメランになってる。」

「クスクス、二人とも見事に返されたわね♪」

ユウナの主張に返す言葉がないリィンとセレーネが黙っている中、アガット達は苦笑し、レンはからかいの表情で呟いた。



「くっ、何を青臭く盛り上がってるんですの!?」

「あはは、愉しそうでいいじゃん。折角だからまとめて全員と殺り合ってもよかったけど……―――これだけ場が暖まってたら行けそうかな?」

自分達の存在を忘れているかのようなリィン達のやり取りにデュバリィが唇を噛みしめている中呑気に笑ったシャーリィは懐からボタンがついた何らかの装置を取り出した。

「おっと、イカした姉さん。妙なことはやめてくれよな?化物みてぇに強そうだが……勝手な真似はさせねえぜ?」

シャーリィの行動に逸早く気づいたアッシュはドラッケンを操作してドラッケンが持つ自分と同じタイプの得物の切っ先をシャーリィに向けて警告した。

「ふふっ、面白い子がいるねぇ。機甲兵に乗ってるのに全然油断してないみたいだし。」

「ハッ、戦車よりは装甲が薄いって話だからな。昨日みたいに対戦車砲(パンツァーファウスト)喰らったらヤバいってのはわかってんだよ。その化物みたいなチェーンソーもむざむざ喰らうつもりはねぇぞ?」

「ふふっ、パパが生きていたら君の事を気にいりそうだけど……今は引っ込んでてくれないかな?」

「てめえ……!」

そしてシャーリィがアッシュの警告を無視して装置のボタンを押したその時、何らかの駆動音が広場に聞こえてきた。



「な、なんだァ……」

突然の出来事にアッシュが戸惑ったその時アッシュが操縦するドラッケンの背後にドラッケンの何倍もの大きさがある人形兵器が現れ

「後ろ―――!?うおっ……!」

ドラッケンを一撃で殴り飛ばした!

「アッシュ……!?」

「大丈夫ですか……!?」

「ま、まさかこれも……?」

「結社の……人形兵器?」

「なんという巨きさだ……」

「……巨人機(ゴライアス)以上みたいだね。」

「………結社の”神機”。クロスベル独立国に貸与され、第五機甲師団を壊滅させた……」

「そしてパパ達に壊されたらしいけど……どうやら、それの後継機みたいね。」

「確か話によると”至宝”の力で動いていたらしいが……まさか”至宝”の力なしで動けんのかよ!?」

新たに現れた超弩級人形兵器―――”神機アイオーン”TYPE-γIIの登場にリィン達がそれぞれ驚いている中レンは真剣な表情でアイオーンを見つめ、アガットは信じられない表情で声を上げた。



「あはは、見事成功だね!」

「あとはどこまで機能が使えるかのテストですが―――っ……!」

アイオーンの起動成功にシャーリィが無邪気に喜んでいる中何かに気づいたデュバリィがリィンに視線を向けるとリィンは集中し、リィンに続くようにレンも集中した。

「リィンさん、行くんですね?」

「ああ―――こんなものを人里に出す訳にはいかない」

「後は任せたぜ。」

「わたし達がリィンがヴァリマールで実際に戦っている所を見るのはこれが初めてになるね。」

ステラの問いかけに頷いたリィンをフォルデは静かな表情で見つめ、フィーは興味ありげな表情でリィンを見つめ

「………!」

「まさか……」

一方リィン達の様子を見て何かに気づいたユウナとクルトが驚きの表情でリィンを見つめたその時

「来い―――”灰の騎神”ヴァリマール!!」

「来て――――パテル=マテル!!」

リィンはヴァリマールの名を呼び、レンも続くようにパテル=マテルの名を呼んだ!



~演習地~



「応!!」

「――――――!!」

それぞれの呼びかけに応えたヴァリマールとパテル=マテルは操縦者無しで起動し、2体が起動すると2体を収納していた列車の屋根や装甲が開いた。

「ええっ……!?」

「な、なんで勝手に……!?」

「ほう?オルキスタワーでの”神機”以来のようだなぁ?」

「あの時も疑問に思ったが、マジでどうなってやがるんだ!?」

突然の出来事に生徒達が驚いている中ランドロスは不敵な笑みを浮かべ、ランディは困惑の表情で声を上げた。

「ヴァリマール!リィン君から呼ばれたの!?」

するとその時トワがヴァリマールに近づいてヴァリマールに状況を訊ねた。

「―――うむ。尋常ではない敵が現れたらしい。生徒達もいるようだ。そなたらも征くといいだろう。」

「………!」

トワに助言をしたヴァリマールはパテル=マテルと共に空へと飛びあがり、主であるリィンの元へと向かい始めた!



「す、凄い……」

「ふふっ……選ばれし者の(はたら)きですか。」

その様子を見守っていたティータは驚き、ミュゼは静かな笑みを浮かべた。

「くっ、あそこまでの機動性があるとは……」

「―――ミハイル少佐、ランドロス教官とランドルフ教官も!TMPと領邦軍に連絡――――この場をお願いして総員、現場に向かいましょう!」

予想外の出来事にミハイル少佐が唇を噛みしめたその時トワが振り向いてミハイル少佐達に今後に行動を提案した。

「な、なんだと!?」

「ハッ……合点承知だ!」

「さぁて……悪ガキ共を連れ戻すついでに、俺達も加勢に行こうじゃねぇか!」

トワの提案にミハイル少佐が驚いている中ランディとランドロスはそれぞれトワの提案に頷いた。



~ハーメル廃道~



「あれは……!」

「ヴァリマールとパテル=マテル………!あの2体をリィンさんとレンさんが呼んだという事は、それ程の相手が”ハーメル村”に……!?」

廃道を進んでいたプリネとツーヤは空を飛んでハーメル村に向かっているヴァリマールとパテル=マテルに気づいて驚きの声を上げ

「…………――――急ぐぞ。”ハーメル”を”実験”の場に選んだ事…………奴等に必ず後悔させるぞ。」

「レーヴェ………ええ、急ぎましょう―――!」

「くふっ♪エヴリーヌは誰と遊ぼうかな♪」

目を伏せて黙り込んだ後静かな怒りを全身に纏ったレーヴェの言葉を聞いたプリネは少しの間目を伏せて黙り込んだが決意の表情になってツーヤとレーヴェ、そしてこれから結社の使い手達と戦う事を楽しみにしているエヴリーヌと共にハーメル村へと向かう足を速めた。



「あ、あれは……!」

「リィン教官とレン教官の……」

「”灰の騎神”とパテル=マテル……久しぶりですね。」

「ハハ、まさか演習地から飛んでくるとは……!」

空を飛んで近づいてきたヴァリマールとパテル=マテルに気づいたユウナとクルトは驚き、アルティナは静かな表情で呟き、アガットは感心した様子で苦笑していた。

「あははっ!これが噂の”騎神”だね!」

「来ましたわね――――パテル=マテルは少々予定外でしたが、想定の範囲内ですわ!」

地面に着地したヴァリマールとパテル=マテルの登場にシャーリィが興味ありげな様子でいる中デュバリィは真剣な表情で声を上げた。そしてリィンは光に包まれてヴァリマールの操縦席へと入り、レンはその場で集中をしてパテル=マテルの操縦を始めた。

「リィン、ヴァリマールも!」

「レン教官とパテル=マテルも御武運を……!」

「相手はクロスベル独立時に機甲師団を壊滅させた機体……」

「くれぐれも気をつけるがよい!」

「「おおっ……!」」

「うふふ、後はレン達に任せなさい♪」

「――――」

仲間達の声援に応えたヴァリマールとパテル=マテルはそれぞれの操縦者の操作によってヴァリマールは太刀を、パテル=マテルは両腕を構えて格闘の構えをした。



「ふむ、久々の実戦だが尋常な相手ではなさそうだ。」

「ああ、騎神とも機甲兵とも違う、奇妙な力の流れを感じる……まずはパテル=マテルと協力しつつ、様子を探っていくぞ!」

「承知……!」

そしてヴァリマールはパテル=マテルと共にアイオーンとの戦闘を開始した!大きさは数倍以上もあるアイオーン相手にヴァリマールとパテル=マテルは果敢に戦ったが、いくら攻撃しても全くダメージが通っている様子はなく、攻めあぐねていた。



「くっ、デカブツ相手に大したモンだが……」

「”神機”とやらもまた別格のようだな……」

「クロスベル解放の時にオルキスタワーで戦ったデカブツと比べても別格じゃねえか?」

「ええ……加えて、あの”神機”の操縦者は戦闘に縁がなかった”人”―――――ディーター元大統領でしたから……」

ヴァリマール達の攻撃が効いている様子がない戦いを見守っていたアガットは唇を噛みしめ、ラウラは真剣な表情で呟き、フォルデの推測に頷いたステラは考え込み

「途轍もない質量と装甲……それ以外にもあるみたいだね。」

「ええ……ヴァリマールの”太刀”は以前内戦終結の為に旧Ⅶ組の皆さんがわたくし達”特務部隊”の指揮下に入った際に、レン教官が皆さんに支給したウィルフレド様直々に作成された武装と同じ”オリハルコン”を始めとした様々な高位の鉱石で作られているのですから、攻撃が通らないなんて幾ら何でもおかしいですわ。」

「ど、どうしたら……」

フィーの推測に頷いたセレーネは真剣な表情で考え込み、エリオットは不安そうな表情で呟いた。するとその時デュバリィ達から離れたユウナ達がアガット達の元に到着した。



「結社が開発した合金、”クルダレゴンⅡ”。ですが”匠王”―――ウィルフレド様が直々に開発したオリハルコンを始めとしたゼムリアストーンよりも高位のディル=リフィーナの鉱石で作られた太刀が通らないのは妙です。」

「ああもう……!流石に相手が悪いでしょ!あんなデカブツに二機じゃ無理があるわよ!」

「そうか……!」

アルティナが淡々と分析している中ユウナは信じられない表情で声を上げ、何かに気づいたクルトは声を上げた後ある場所に向かって走り始め

「クルト君……!?」

クルトの行動に驚いたユウナはアルティナと共にクルトを追って行くと、アイオーンにふっ飛ばされたドラッケンに近づいたクルトはドラッケンの操縦席を開放した。

「……ク、クソが……」

「大丈夫か……!?」

「……ああ……だがクラクラしやがる……インパクトは外したから機体のダメージは軽いはずだ……不本意だが任せた……ブチかましてこいや……!」

「ええっ!?」

「もしかして――――」

クルトに向けたアッシュの激励の言葉を聞いてある事を察したユウナとアルティナが驚いたその時

「ああ―――任せてくれ!」

クルトは決意の表情で頷いた。



「おかしい……幾ら何でも硬すぎる……!クロスベル独立騒ぎの時には超常的な力を振るったが……レン教官、何かわかりませんか!?」

「そうね……機体から感じる膨大な霊力からして、”零の至宝”程ではない何らかの”力”があの機体に働いているわ。多分、ヴァリマールも気づいているのじゃないかしら?」

「うむ、どうやら機体そのものに不可解な力の働きがあるようだ。何とかして流れを断てれば――――」

「――――助太刀します!」

リィン達がアイオーンの攻略法について相談しているとアッシュと操縦を変わったクルトがドラッケンを操作してヴァリマールやパテル=マテルと並んだ。

「その声―――クルトか!?クルト、下がれ!機甲兵の敵う相手じゃない!」

「百も承知です!ですが見過ごすことはできない!幼き頃に育ったこの地を災厄から守る為にも……僕自身が前に踏み出すためにもヴァンダールの双剣、役立ててください!」

「君は………」

クルトの意志を知ったリィンが呆けたその時リィンの懐が光を放ち始めた。

「これは……」

「戦術リンクと同じ……!?」

「ラウラお姉さん達も光っていて、アガットだけ光っていない。もしかしてこの光は――――」

それぞれが所有しているARCUSⅡが光を放ち始めている事に気づいたリィンとクルトが驚いている中二人同様光を放っている自身のARCUSⅡやユウナ達に視線を向けたレンはある仮説をたてた。

「こ、この感覚って……!?」

「ARCUSⅡを介して……?」

「内戦でトールズ士官学院を奪還した後に起こった旧校舎での出来事の時にもあった……」

「……いや、その時よりも強い繋がりを感じるな。」

「この光の正体は一体……」

「ま、少なくてもリィンや俺達にとって悪い効果ではないだろうな。」

「はい。ARCUSⅡの性能を考えると恐らく戦術リンクに関係する何らかの機能でリィンさん達を援護できると思うのですが……」

「ん、新しいⅦ組の子たちまで……」

「おいおい……魂消たな。」

それぞれ光を放っているARCUSⅡを取り出したユウナ達が驚いたり呆けている中、その様子を見守っていたアガットは信じられない表情で呟いた。

「―――小言は後だ。あのデカブツを無力化する。奇妙な”力”の流れを見極め、断ち切って刃を突き立てるぞ!」

「ええ―――!」

「了解です―――!」

そしてドラッケンを加えたヴァリマール達はアイオーンとの戦闘を再開した!



「パテル=マテル、銃で頭を狙いなさい!」

「―――――」

レンの指示によって異空間から大型の機関銃を召喚して両手にそれぞれ一丁ずつ持ったパテル=マテルはアイオーンの頭目がけて機関銃を連射し

「――――――」

パテル=マテルの銃撃を頭に受けたアイオーンは”溜め”の態勢に入った後両腕を振り上げた。

「!――――ブースターを起動させて側面に回避しなさい!」

「―――――」

「―――――!」

アイオーンが振り上げた両腕をパテル=マテル目がけて振り下ろした瞬間、レンの操作によってパテル=マテルは両足についているブースターで側面へと移動してアイオーンが放ったクラフト―――ギガースハンマーを回避した。

「下がれっ!」

「ハァァァァァァ……!―――斬!!」

アイオーンがパテル=マテルへの攻撃が失敗に終わったその時、アイオーンの注意がパテル=マテルに逸れている事を利用し、アイオーンの左右から襲い掛かったヴァリマールはクラフト―――弧月一閃で、ドラッケンはクラフト―――レインスラッシュをアイオーンに叩き込んだ。

「!?」

「そこだっ!」

「もらった!」

左右からの強襲攻撃で態勢が崩れたアイオーンにヴァリマールとドラッケンは追撃し

「今の内に追撃よ、パテル=マテル!」

「――――――」

パテル=マテルも二体に続くように異空間から巨大なハルバードを召喚した後ハルバードをアイオーンに叩き込んだ。



「―――――」

「く……っ!」

パテル=マテルの攻撃が終わるとアイオーンは反撃にドラッケン目がけてパンチを放ち、襲い掛かるパンチを見たクルトが衝撃に備えようとしたその時

「やあっ!」

「――――!?」

ドラッケンとリンクを結んでいるアルティナが反射結界を付与するEXアーツ――――ノワールバリアをドラッケンに展開させてアイオーンに攻撃を反射させて攻撃したアイオーン自身にダメージを与えた。

「援護しますわ、お兄様!」

その時ヴァリマールとリンクをしているセレーネの思念を受け取ったヴァリマールは剣に霊力(マナ)によって発生した雷撃を纏わせ

「サンダーストライク!!」

雷撃を纏わせた強烈な突きを勢いよくアイオーンに叩き込んだ!

「――――!!??」

強烈な雷撃を受けた事によって一時的に麻痺状態になったアイオーンは動けなくなり

「えいっ!」

「うふふ、パテル=マテルにまで効果があるなんて、便利な機能ね♪――――ダブルバスターキャノン発射!!」

「―――――!!」

そこにパテル=マテルとリンクを結んでいるユウナのEXアーツ――――クイックスターによって一時的に全体的な動きが”加速”状態になったパテル=マテルは両肩についている砲口に一瞬でエネルギーを溜めた後溜めたエネルギーを解き放ってアイオーンに命中させた!



「―――――――」

「パトリオットフィールド展開!」

「――――――」

パテル=マテルが放った凄まじいエネルギー攻撃を受けたアイオーンは両腕を動かしてパテル=マテルを捕えようと両腕を伸ばしたがパテル=マテルが展開した絶対防壁の展開に阻まれてパテル=マテルを捕える事ができなかった。

「援護する―――洸翼陣!!」

「受け取りなぁ―――蒼龍陣!!」

「唸れ――――おぉぉぉ……螺旋撃!!」

「ハァァァァァァ……!―――斬!!」

「――――!!??」

そこにそれぞれとリンクを結んでいるラウラとフォルデが発動したEXアーツによって一時的に様々な能力が上昇したヴァリマールとドラッケンが再びアイオーンの左右からクラフトを叩き込み、左右からの強烈な攻撃にアイオーンはダメージを受けると共に態勢を崩した。

「崩した――――二人とも、頼んだ!」

「ええ!」

「レンに任せて♪」

態勢を崩したアイオーンの様子を見て好機と判断したヴァリマールはドラッケンとパテル=マテルと共に連携攻撃を開始した。

「―――下がれ!」

「ハァァァァァァ……!そこだっ!」

「パテル=マテル、ダブルバスターキャノン発射!!」

「―――――!!」

ヴァリマールがクラフト―――弧月一閃を叩き込むとヴァリマールに続くようにドラッケンはクラフト―――双剋刃を、パテル=マテルはクラフト―――ダブルバスターキャノンをアイオーンに叩き込み

「連ノ太刀―――――箒星!!」

止めに太刀に闘気を溜め込んだヴァリマールが太刀をアイオーンに叩き込むとアイオーンの上空からアイオーン目がけて無数のエネルギー弾が降り注いだ!」

「――――――!!!???」

ヴァリマール達が放った連携技による大ダメージを受けた事と今までの戦いで蓄積したダメージによってついに限界が来たアイオーンは全身をショートさせながら戦闘の続行が完全に不可能になった―――――!
 

 

第27話

~ハーメル廃道~



「やったあああっ!」

「機能停止―――奇妙な力の流れも完全になくなったみたいです。」

「……へっ………」

「やりやがったか……!」

「ふふ……見事だ。」

「まずはこれで”1体”、ですね。」

「問題はあんな代物を結社がいくつ持っているかだが……今は、そんな事を気にしていても仕方ないな。」

「ふふっ、そうですわね。」

「ん……連携も良かった。」

「新Ⅶ組……いいクラスみたいだね。」

ヴァリマール達の勝利にユウナ達はそれぞれ喜んだり嬉しそうな様子でヴァリマール達を見つめた。

「な、なんですの、その力は!?」

「ふむ……”実験”は終了か。」

「まあ、最初にしては上出来と言うべきかしら?」

「ふふっ、そうだね。いいタイミングみたいだし。」

一方ヴァリマール達との戦いを見守っていたデュバリィは驚き、冷静な様子で呟いたアイネスとエンネアの言葉にシャーリィが頷いてある方向へと視線を向けたその時

「―――そこまでだぜシャーリィ!」

ランディが操縦するヘクトルがヴァリマール達の背後から現れた!



「あ……ランディ先輩!」

「来てくれたのか……」

ランディの登場にユウナは喜び、リィンは苦笑していた。

「ああ、他の連中もこちらに駆けつけている。”おいた”は終わりだ―――全員、覚悟してもらおうか!?」

「くっ、生意気な……」

「ふふっ……ちょっと喰い足りなかったけどまたのお楽しみかな。今度はちゃんと殺り合ってくれるよね――――”猟兵王”?」

ランディの警告にデュバリィが唇を噛みしめている中苦笑したシャーリィはある方向へと視線を向けて不敵な笑みを浮かべてリィン達にとって驚愕の人物の二つ名を口にした。

「……え………」

「なに……!?」

「へえ?」

シャーリィが叫んだある人物の二つ名を聞いたフィーが呆け、ランディが驚き、レンが興味ありげな表情をしたその時

「―――なんだ、気づいてやがったか。」

なんとシャーリィが視線を向けた方向にいつの間にかゼノとレオニダス、そしてリィン達が昨日の人形兵器の探索・撃破の最中に出会った謎の中年の男がいた!



「………………」

「チッ、いつの間に……!」

「あ、あのオジサン……!」

「やはり貴方も今回の件に何らかの関係があったのですか……」

「あのマークは……」

「……なるほど。そちらの所属でしたか。」

中年の男の登場にフィーが呆けている中アガット達は様々な反応を見せた。

「久しぶりやなぁ。黒兎、それに”闘神の息子”。」

「そちらは6年ぶりくらいか。」

「”西風の旅団”―――なんでここにいやがる!?そ、それにアンタは……」

ゼノとレオニダスに声をかけられたランディは厳しい表情で声を上げた後困惑の表情で中年の男を見つめた。



「ハハ、まさかここに関係者一同が集まるとはな。嬢ちゃんも久しぶりだ。相手できなくて悪かったな?」

「ま、”実験”は終了したから別にいいけどね。それにしても、あはは!”本当に生きてたなんて”……!”空の覇者”に討ち取られたのはこの目でちゃんと見たのにさ………!」

「”空の覇者”――――ファーミシルス大将軍閣下ですか……」

「あの大将軍閣下を相手にして生き延びるとか、どんな化物―――いや、”一度討ち取られた”から、大将軍閣下との戦闘で敗北した後大将軍閣下は死んだと判断して去った後に奇蹟的に生き延びていたのか……?」

「うふふ、ファーミシルスお姉さんに限って止めを刺さずに去るなんて事はしないはずよ。―――ましてや、自らが”強者”と認めた相手は特に、ね。」

「っ………」

「ま、まさか………」

「4年前に亡くなったというフィーの育ての親―――」

「”西風の旅団”の団長か!?」

男とシャーリィの会話を聞いてある事に気づいたステラは考え込み、フォルデの疑問にレンは意味ありげな笑みを浮かべて答え、フィーは辛そうな表情で顔を俯かせ、男の正体を察したエリオットとラウラは信じられない表情をし、リィンは男の正体を口にした。



「フフ………西風の旅団長、ルトガーだ。改めてよろしくな、新旧Ⅶ組と特務部隊。それにフィー、ずいぶんと久しぶりだぜ。」

中年の男――――フィーの育ての親にして”西風の旅団”の団長である”猟兵王”ルトガー・クラウゼルは懐かしそうな表情でフィーに声をかけた。

「ど、どうして……だって団長はあの時に……お墓だって作った……!ゼノ、レオ、どういう事……!?」

「いや~、別にお前を騙しとったんとちゃうで?これには色々と込み入った事情があってなぁ。」

「結果的に、お前を置いて消えた理由の一つでもある。”真の雇い主”の要請で今は亡きカイエン公と貴族連合に協力していたことも含めて。」

「なっ………」

「あの内戦で、西風の旅団が貴族勢力以外に雇われていた……?」

「うふふ、中々興味深い話ね。」

「……………………」

ゼノとレオニダスが語った驚愕の事実にラウラは絶句し、エリオットは困惑の表情をし、レンは小悪魔な笑みを浮かべてルトガー達を見つめ、フィーは呆けていた。

「ま、背はそんなに伸びなかったが大きくなったモンだぜ。遊撃士もヤクザな商売だが猟兵稼業よりは百倍マシだろう。”紫電”のお嬢ちゃんにはいつか礼を言っとかないとな。」

「……団長……………本当に団長なんだ。どうして―――一体、何がどうなってるの!?」

「―――サラへの伝言は俺が預かっておこうじゃねえか。遊撃士協会としても色々と話を聞いてみたいからな?」

フィーのルトガーへの問いかけに続くようにアガットは大剣をルトガー達がいる方向に向けて問いかけた。



「ハハ、こっちはギルドと事を構えるつもりはねぇんだが。ま、今後は色々と動くつもりなんで挨拶だけはしておくぜ。」

自身のリィン達に対して伝えたい事を伝え終えたルトガーはその場から飛び降り

「団長……!?」

「と、飛び降りた……!?」

「いや、この音は―――」

ルトガーの行動にリィン達が驚いたその時何かの機械音がし、ルトガーが飛び降りた先から紫色の騎神らしき機体が現れた!

「な……!?」

「新手……!?」

謎の機体の登場にリィン達が驚いていると謎の機体はアイオーンに激しい攻撃を叩き込み始めた!

「あははははっ……!」

「迅い……!」

謎の機体の強さにシャーリィが無邪気に喜んでいる中デュバリィが驚いていると謎の機体はアイオーンの両足と両腕を斬り落とした!

「クルト、ランドルフ教官、レン教官!」

「はい!」

「おおっ!」

「ええ!」

その様子を見てある事が起こる事を察したリィンがクルト達に呼びかけるとヴァリマール達はユウナ達の前に出てアイオーンの破壊によって起こる爆発に備えた。そして謎の機体はアイオーンに止めを刺してアイオーンから大爆発を起こさせ

「きゃああっ……!」

「クラウ=ソラス……!」

襲い掛かる爆発の余波にユウナは思わず悲鳴を上げ、アルティナはクラウ=ソラスを自分達の前に出して障壁を展開させて爆発の余波を防いだ。



「ぁ……」

「馬鹿な……あれではまるで……」

「紫色の……騎神!?」

「あはは!さすがは”闘神”のライバル”今度はちゃんと相手をしてよね!」

「クク、いいだろう。フィー、灰色の小僧もまたな。」

「ほななー!」

「せいぜい精進するがいい。」

そして謎の機体を操るルトガーを始めとした西風の旅団はその場から去り

「コラ、待ちやがれ!」

それを見たランディは声を上げた。

「まったく……敵同士で何を悠長な。」

「フフ………相手にとって不足なしだ。」

「ええ、次の邂逅が楽しみね。」

デュバリィ達もルトガー達に続くように転移の魔導具を起動した。



「それでは失礼しますわ第Ⅱ分校、それに遊撃士協会。」

「『幻焔計画』の奪還もようやく始まったばかりだ。」

「”我々”と”彼ら”の戦い……指を咥えて眺めていることね。」

そしてデュバリィ達が転移の光に包まれたその時、転移の光は突然消えた!

「あら……?」

「転移の光が消えた………だと……?」

「ちょっとー、一体何があったのー?」

「そ、それは私達もわかりませんわ!?途中まではちゃんと起動していたのに、一体何が――――」

転移の光が消えた事にデュバリィ達が困惑したその時

「だぁっはっはっはっ!援軍に来たぜ!」

「教官達、ご無事ですか!」

「よっしゃ!Ⅶ組も無事みたいだぜ!」

「アッシュ!君も何をやっている!」

「ええい、先行するな!」

「まずは周辺の警戒を……」

ランドロスを始めとしたⅧ組のメンバーやミハイル少佐、トワもその場に駆けつけた!



「――――やれやれ、まさに”千客万来”の状況だな。」

するとその時リィン達にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた!

「と、突然声が……?」

「新手か……!?」

「な………」

「あら、この声は確か―――」

「!!どこにいるのですか!?No.Ⅱ―――”剣帝”レオンハルト・ベルガー!」

「くふっ♪死にたくなければせいぜい逃げ回ればぁ!?――――三連制圧射撃!!」

聞こえてきた声にⅧ組のメンバーが戸惑っている中声に聞き覚えがあるアガットは絶句し、エンネアが目を丸くし、血相を変えて周囲を見回したデュバリィが声を上げたその時デュバリィ達の頭上に転移魔術で現れたエヴリーヌがクラフトを発動してデュバリィ達の頭上から無数の矢を降り注がせた!

「なあっ!?」

「上空からだと……!?」

「クッ、まさか私が矢による奇襲を許すなんて……!?」

頭上から襲い掛かる矢の雨に驚いたデュバリィ達がそれぞれ回避や防御行動に専念し始めたその時、ルトガー達がいた場所とは反対の場所の森に潜んでいたレーヴェが人間離れした動きでシャーリィに強襲した!

「おっと!」

レーヴェの強襲攻撃に対してシャーリィは後ろに跳躍して回避した。

「破邪の力よ、我が刃に力を――――エクステンケニヒ!!」

「十六夜――――”斬”!!」

「「きゃあっ!?」」

「ぐっ!?」

一方デュバリィ達が回避や防御に専念している間にレーヴェが現れた場所から人間離れした動きで一瞬でデュバリィ達に近づいたプリネとツーヤはデュバリィ達を挟み撃ちにしてそれぞれ光の魔法剣と抜刀による広範囲の斬撃のクラフトをデュバリィ達に叩き込んでデュバリィ達を怯ませた!



「………………」

自身の強襲を回避したシャーリィと対峙したレーヴェは静かな表情で剣を構え

「ええっ!?あ、貴方達は……!」

「”特務部隊”出身にして元結社の”執行者”No.Ⅱ――――”剣帝”レオンハルト・ベルガー!それに”魔弓将”やプリネ皇女殿下、”蒼黒の薔薇”まで……!」

「い、一体いつの間にここに……」

「というかレン教官……まさかとは思いますが、ツーヤお姉様達の登場も予想をしていらしていたのですか……?」

レーヴェ達の登場にトワは驚き、ミハイル少佐は信じられない表情で声を上げ、リィンは困惑し、ある事を察していたセレーネは疲れた表情でレンに問いかけ

「クスクス、むしろ”ハーメル”が関係しているのに、レーヴェ達が来ない事を推測する方がおかしいわよ♪」

セレーネの問いかけに対してレンは小悪魔な笑みを浮かべて答えた。

「”剣帝”レオンハルト……兄上の話にあったプリネ皇女殿下の親衛隊副長にして元結社の最高峰の剣士……」

「ええっ!?それじゃあ、あの銀髪の剣士の人も元結社の人だったの!?」

「はい。しかも戦闘能力は結社でも分校長や”劫焔”に次ぐトップクラスの使い手だったそうです。」

「………っ!あの野郎はまさか………!?」

一方リィン達同様レーヴェ達の登場に驚いて呆けた様子でレーヴェを見つめて呟いたクルトの言葉を聞いて驚いたユウナの疑問にアルティナは答え、レーヴェの顔を見て何かに気づいたアッシュは左目を抑えてレーヴェを睨みつけた。



「クッ……No.Ⅱどころか”姫君の中の姫君(プリンセスオブプリンセス)”に”蒼黒の薔薇”、それに”魔弓将”まで……!現れたタイミングとわたくし達の転移の魔導具の発動がしなかった事を考えると、まさか貴女方が何かしたのですか!?」

「―――その通りです。”転移封じの結界”。メンフィルがウィル様達――――ユイドラの”工匠”達と協力して開発した魔導具です。」

「”転移封じの結界”とはその名の通り、魔術、魔導具に限らず”転移”に関わる類のものは全て封じる魔導具です。効果範囲が限られている事やある条件がなければ、味方も転移できない等欠点が残されている”試作品”ではありますが……」

「いざとなったら”転移”で逃げるお前達のウザイ行動を封じられるんだから、いつも”転移”に頼っているお前達にとっては嫌な道具でしょう?キャハッ♪」

唇を噛みしめて声を上げたデュバリィの問いかけに対してプリネとツーヤは静かな表情で答え、エヴリーヌは凶悪な笑みを浮かべてデュバリィ達を見つめた。

「なあっ!?」

「”ウィル”……”工匠”……”ユイドラ”……―――なるほど。かの”匠王”が私達が持つ転移の魔導具を封じているこの状況に関わっていたようね……」

「そのよう魔導具を持ち出し、しかも普段はバリアハートや異世界の本国にいる貴女達がわざわざこの場に現れた理由は……この状況を考えれば、愚問か。」

「シャーリィ達を”狩る”つもりなんだ?」

プリネ達の話を聞いたデュバリィは驚き、エンネアとアイネスはプリネ達の動きを警戒しながら厳しい表情で答え、シャーリィは不敵な笑みを浮かべてレーヴェを見つめた。

「大正解♪というか”実験”する場所をよりにもよって”ハーメル村”を選ぶなんて、ポンコツなのは1年半前から変わっていないわね、”神速”は♪」

「だ、誰がポンコツですって!?」

レンの言葉を聞いたデュバリィはレンを睨んだが

「逆に聞かせてもらうけど、大方貴女達の事だから”要請(オーダー)”の件も知っていて、その”要請(オーダー)”をも利用した”実験”を行ったのでしょうけど……”この場所”で”実験”を行えば、パパとシルヴァンお兄様の”要請(オーダー)”を受けたリィンお兄さんを補佐する人員としてレーヴェが来ないと、本気で思っていたのかしら?」

「グッ……!」

「何……!?」

「リ、リィンが受けている”要請(オーダー)”をも利用した”実験”って……」

「恐らく”騎神”が関わっているのでしょうね……」

「まさか”そこまで気づかれていた”なんてね……」

「さすがは”殲滅天使”―――――いや、”小さな参謀(リトルストラテジスト)”といった所か……」

レンの指摘に反論できないデュバリィが唸り声を上げている中アガットは驚きの声を上げ、エリオットは困惑の表情で呟き、ステラは静かな表情で推測し、エンネアは厳しい表情で呟き、アイネスは重々しい様子を纏って呟いた。



「――――そう言う訳だ。多くの死者たちが静かに眠っていた”ハーメル”を騒がせたその愚かさ………かつて”ハーメル”を滅ぼした者達と同じ猟兵であるお前自身の”命”で償ってもらう――――血染め(ブラッディ)―――いや、”紅の戦鬼”シャーリィ・オルランド。」

「あはははは……っ!今回の”実験”は喰い足りない結果で終わると思っていたけど、まさかこんな”御馳走”が転がり込んでくるなんてねぇ!”剣帝”とも一度殺り合いたいと思っていた所なんだよね……!」

魔剣を突き付けたレーヴェに対して好戦的な笑みを浮かべたシャーリィも自身の得物を構えた。

「いや――――先程の”続き”も、再開させてもらうから、あんたの相手はレオンハルト准将だけじゃない――――”紅の戦鬼”シャーリィ・オルランド。」

「リ、リィン……!?」

「そなた、まさかあの”力”を……」

するとその時静かな表情で前に出て集中を始めたリィンの様子を見てある事を察したエリオットとラウラが驚きの声を上げたその時

「神気――――合一!!」

リィンは”鬼”の力を解放し、更に”神剣アイドス”を鞘から抜いた!

「あ、あれ……?あの”太刀”って、教官がいつも使っているのじゃないわよね……?」

「ああ……今まで教官が頑なに抜く事すらなかったもう一本の”太刀”だ。しかし……なんて”力”だ……離れていても、あの”太刀”から凄まじい”力”を感じる。」

「―――”神剣アイドス”。リィン教官の婚約者にして女神であるアイドス様自らが宿る”神剣”です。」

リィンが鞘から抜いた神剣アイドスを見て首を傾げたユウナの疑問に答えたクルトは神剣アイドスを見つめ、アルティナは解説し

「ええっ!?それじゃああの”太刀”にメサイア皇女様みたいに、教官の婚約者の一人が……―――って、今、”女神”って言わなかった!?」

「はい、正真正銘本物の”女神”があの”太刀”に宿っている為、まさに”神剣”と呼ぶべき武装です。”神剣”ですから当然威力も古代遺物(アーティファクト)クラスの武装ですらも比較できない程強力な為、リィン教官は生身で機甲兵や戦車等の”兵器”に挑む時を除けば”よほどの強敵”を相手にする時以外抜く事はありません。そしてあの剣を抜いたという事は恐らくアイドス様も―――――」

「力を貸してくれ―――アイドス!」

自分の解説に驚いているユウナにアルティナが補足の説明を仕掛けたその時、リィンはアイドスを召喚した!



「な、なんだぁ……!?」

「リィン教官の太刀から女性が………」

「綺麗な人………」

「な……あの女は……!おいおい……どうなってやがるんだ!?正義の大女神(サティア)はエステルに宿っているはずだろう……!?」

アイドスの登場に分校の生徒達が驚いている中アイドスの容姿を見たアガットは一瞬絶句した後困惑の表情で声を上げ

「メサイア皇女様じゃない……という事はもしかして、あの人もリィン教官の婚約者の一人で、しかも女神様なの……!?」

「―――はい。”慈悲の大女神”アイドス様。争いを誰よりも嫌う性格をしている方ですが教官が契約している異種族達の中では間違いなく”最強”の使い手です。」

「さ、”最強”って……!」

「あの女性が兄上の話にあった”飛燕剣”の使い手か……」

分校の生徒達同様驚いているユウナの疑問にアルティナは静かな表情で答え、アルティナの答えを聞いたユウナが信じられない表情をしている中クルトは興味ありげな様子でアイドスを見つめた。

「我が祖国メンフィルが今もなお行い続けている”蛇狩り”を成功させる為……そして元”特務支援課”の一員として、”碧の大樹”では付けられなかった決着をロイド達の代わりに今ここで付けさせてもらう、”紅の戦鬼”シャーリィ・オルランド!」

「生者達の争いを愉しむ”狂人”の子よ………これ以上、貴女の”狂気”によって巻き込まれる生きとし生ける者達が出る事を防ぐ為に、そして貴女が今まで犯した”罪”を我が姉正義の大女神(アストライア)に代わって裁く為に私自らが剣を取ります。――星芒より出でよ、”真実の十字架(スティルヴァーレ)”!!」

「あははははっ!それが灰色の騎士のお兄さんの”本気”なんだ……!灰色の騎士のお兄さんが呼んだお姉さんといい、面白くなってきたじゃない……!で、その様子だとランディ兄もシャーリィを”狩る”つもりなの?」

リィンの宣言と自らの神剣を異空間から呼び寄せたアイドスの宣言に好戦的な笑みを浮かべたシャーリィはヘクトルから降りてリィン達に近づいてきたランディに視線を向けた。

「まあな……リィン同様俺も元”特務支援課”の一員としてロイド達の代わりに決着を付ける義務があるし、それに……俺は古巣(おまえら)と決別した事を他の連中に知らしめる必要もあるしな。ハァァァァァァ……ウォォォォォ――――!」

シャーリィの問いかけに対して静かな表情で答えたランディは紅き闘気を全身に纏うクラフト――――クリムゾンクライを発動して全身に紅き闘気を纏って普段使っている得物(スタンハルバード)ではなくリィンが普段使っている太刀と同じ”匠王”ウィルフレド・ディオンの娘達が開発したランディ専用のブレードライフル――――メルカルトを構えた。

「――ま、そう言う訳だから身内に引導を渡す意味も込めて、俺も加勢させてもらうぜ、リィン、”剣帝”。」

「ランディ……ああ、よろしく頼む。」

「―――好きにしろ。」

ランディの言葉に対してリィンは頷き、レーヴェは静かな表情で答えた。



「教官、私達も加勢を――――」

「―――止めときな。」

一方その様子を見守っていたゼシカはⅧ組のクラスメイト達と共にランディ達の加勢をしようとしたが、ランドロスがゼシカ達の先を遮るかのように片手を真横に広げた。

「どういうつもりだい、ランドロス教官?」

「ここからは”強者”と”強者”が殺し合う”戦場”の中でも”特上の戦場”だ。雛鳥達のお前達があの場に加わるのはまだ早い。―――勿論主任教官殿や戦闘ではなく主に頭脳を担当していた”紅い翼”を率いた才媛、そして”旧Ⅶ組”の連中でも、あの中に加わってあのメンツの足を引っ張らずに生き残る事が厳しい事は理解しているだろう?」

「そ、それは………」

「フン………そちらこそ、シュバルツァー教官達に加勢しなくていいのか?ランドロス教官にとっても”紅の戦鬼”は因縁がある相手ではないのか?」

レオノーラの問いかけに対して不敵な笑みを浮かべて答えたランドロスの指摘にトワは複雑そうな表情をし、ミハイル少佐は鼻を鳴らした後真剣な表情でランドロスに問いかけ

「クク、それについてはランディが俺達の分も纏めて引導を渡してくれるから、わざわざオレサマが出るまでもねぇさ。」

ミハイル少佐の問いかけに対してランドロスは口元に笑みを浮かべて答えた。



「うふふ、”紅の戦鬼”はリィンお兄さん達に任せてレン達は”鉄機隊”の相手をするわよ、ステラお姉さん、フォルデお兄さん、セレーネ。」

「はい。」

「了解。」

「はい……!」

そしてレンはステラ達に呼びかけた後転移魔術を発動してステラ達と共に転移し

「クッ……―――撤退に専念しなさい、No.ⅩⅦ!幾ら貴女でも、その4人を同時に相手するなんて貴女に勝ち目はほとんどありません―――いえ、全くありません!わたくし達も協力しますから、撤退に専念しなさい!エンネア、アイネス!No,ⅩⅦが撤退できるように――――」

リィン達の加勢の様子を見ていたデュバリィはシャーリィに忠告をした後エンネアやアイネスに指示をしかけたが

「うふふ、リィンお兄さん達の邪魔はさせないわよ?」

転移魔術を発動したレンがステラ達と共にデュバリィ達の前に現れた。



「なあっ!?」

「先程そちらが使った転移封じの結界の魔導具は味方の転移も封じると説明したにも関わらず、転移の手段を取ってくるとは……!」

「大方、説明の中にあった”ある条件”とやらを”殲滅天使”は満たしているのでしょうね。」

結界によって転移が封じられている中でレンが転移魔術を使った事にデュバリィとアイネスは驚き、エンネアは厳しい表情で推測を口にした。

「―――その通りです。貴女達の相手は私達がします―――”鉄機隊”。」

「そんじゃ、俺達もさっきの”続き”を再開しようぜ、”神速”。」

「”紅の戦鬼”の心配よりもまずは自分達の心配をする事ですね。」

「くっ、”星洸陣”を使おうにも、こうも分断されていては………!」

プリネとフォルデ、ステラが対峙したデュバリィはそれぞれの相手と対峙しているアイネスとエンネアの様子を見て唇を噛みしめ

「プリネ皇女殿下親衛隊長にして専属侍女長ツーヤ・A・ルクセンベール、参ります。」

「アルフヘイム子爵家当主にしてトールズ第Ⅱ分校”Ⅶ組”副担任、セレーネ・L・アルフヘイム、我が姉ツーヤと共に貴女のお相手をさせて頂きます……!」

「フフ、本来ならばかの双子の竜姫姉妹が相手とは腕が鳴るな……と言いたい所だが、今のこの状況だと正直喜べないな。”鉄機隊”が隊士、”剛毅”のアイネス。この窮地、我が斧槍にて切り抜けさせてもらう……!」

ツーヤとセレーネが対峙したアイネスは口元に笑みを浮かべて斧槍(ハルバード)を構え

「ん~?ねえ、レン。あの弓使いの女騎士ってな~んか見覚えがあるんだけど、レンは知っている?」

「あら、エヴリーヌお姉様ったらもう忘れちゃったのかしら?”影の国”のパパとエクリアお姉さんの”試練”の途中で出てきてエヴリーヌお姉様自らが討ち取ったエヴリーヌお姉様の二つ名に似た二つ名を持つ”魔弓”のエンネアよ♪」

「キャハッ、道理で見覚えがある訳だ♪あの時同様、すぐに潰れないように手を抜いてたっぷり遊んであげるよ♪」

「あらあら……まさか”影の国”で私の”偽物”まで出て来ていたなんてね。”偽物”を倒したからと言って本物である私をそこまで侮ったその傲慢、すぐに後悔させてあげるわ。」

エンネアは自身と対峙した相手―――エヴリーヌとレンの会話を聞くと微笑みを浮かべながらも目は笑っていない表情で弓矢を構えた。



「ハァァァァァ…………!」

「な、何これ………闘気で空気が……震えている……?」

「っ……!何という剣気……!この剣気……兄上―――いや、父上や叔父上以上……!?それにリィン教官達から感じられる剣気も尋常じゃない……!ハハ……ランドルフ教官もそうだがリィン教官の実力を僕は完全に読み違えていたようだな……」

レーヴェが練り始めた空気を震わせる程の莫大な闘気の余波を受けたユウナと共に驚いたクルトは苦笑し

「あははははっ!面白くなってきたねぇ!!」

シャーリィは一流の猟兵達のクラフト―――”戦場の叫び(ウォークライ)”の上位技であるオーガクライを発動して全身に莫大な紅き闘気を纏って武器を構え

「トールズ第Ⅱ分校”特務科Ⅶ組”担当教官、リィン・シュバルツァー以下4名。これより結社”身喰らう蛇”の”執行者”――――No.ⅩⅦ”紅の戦鬼”シャーリィ・オルランドの”討伐”を開始する。みんな、行くぞ!」

「おおっ!」

「ああ!」

「ええ!」

そしてリィンの号令を合図にリィン達はそれぞれ戦術リンクを起動させてシャーリィ達との戦闘を開始し、プリネ達も戦術リンクを起動させて”鉄機隊”との戦闘を開始した――――!


 
 

 
後書き
という訳でここから光と闇の軌跡シリーズ恒例の原作をぶっ潰す久々のメンフィル無双の時間ですwwというか書いていて気づきましたけど、何気に今回の話で原作ではありえなかったアッシュとレーヴェの邂逅が実現してしまいました(汗)果たして大丈夫だろうか……アッシュがwwそして今回の話でも何気にウィル達ユイドラ勢が関わっていましたwwウィル達にかかれば、転移封じの結界くらい楽勝かと。理由?それは当然”工匠に不可能はない!”だからです(オイッ!)なお、レーヴェ達の登場のBGMは空FCかFCEVOの”銀の意志”で次回の戦闘BGMは空3rdか3rdEVOのカシウスや黒騎士戦のBGMである”銀の意志”だと思ってください♪ 

 

第28話



~ハーメル廃道~



「参りましょう――――レディーライズ!!」

プリネ達と共にデュバリィとの戦闘を開始したステラは味方の集中力を高めてクリティカルヒットや回避率等を高めるブレイブオーダー―――レディーライズで自分達の集中力を高め

「雷の力よ―――瞬雷!!」

「甘いですわ!」

「そこだ―――風雷神槍!!」

「!」

デュバリィは細剣(レイピア)に雷の魔力を纏わせたプリネの強襲攻撃を回避した後、プリネの攻撃のすぐ後に放たれたフォルデの雷が迸る竜巻を盾で防いだ。

「出でよ、双子の竜巻よ―――双竜の大竜巻!!アークス駆動―――エアリアルダスト!!」

「キャアッ!?」

プリネとフォルデの攻撃を防いだデュバリィだったが、二人の攻撃の間に魔術の詠唱と戦術オーブメントの駆動を終えたステラが発動した竜巻を発生させる魔術とアーツをその身に受けてダメージを受けると共に怯み

「行きなさい―――貫通闇弾!!」

「ぐっ!?」

「滅翔槍!!」

「くっ……あうっ!?」

デュバリィが怯んだ隙にプリネは片手から貫通力のある暗黒の魔力弾を放ち、フォルデは槍でデュバリィを跳ね上げさせた後空中で追い討ちをかけて叩き落として追撃し

「崩したぜ!」

「そこですっ!」

「っ!?」

フォルデのクラフトによってデュバリィの態勢が崩れるとフォルデと戦術リンクを結んでいたステラが追撃にライフルによる射撃をデュバリィに命中させた。



「よくもやりましたわね……!オォォォォォ………ハアッ!!」

「!」

「よっと!」

ステラの追撃が終わるとデュバリィは反撃に剣に氷の魔力を纏わせて薙ぎ払うクラフト―――豪氷剣をプリネとフォルデに放ち、放たれた斬撃に対して二人はそれぞれ後ろに跳躍して回避し

「まだですわ――――喰らいなさい!」

「させねえぜ?」

「回復します!」

続けてクラフト―――残影剣でステラに襲い掛かったが、ステラと戦術リンクを結んでいるフォルデがすぐにステラのカバーに入ってデュバリィの攻撃を防御態勢でステラの代わりにダメージを受け、更にステラはリンクアビリティ―――クイックキュリアを発動して自分の代わりにダメージを受けたフォルデの傷を回復した。

「炎の力よ、我が剣に宿れ――――集炎!!」

「オォォォォォ………豪炎剣!!」

炎の魔力を細剣(レイピア)に宿したプリネの薙ぎ払いに対してデュバリィもプリネのように剣に炎の魔力を纏わせた斬撃を放って相殺し

「―――ロックオン完了。逃がしません!!」

「!!」

更にステラのライフルによる弾丸を撃ち尽くす程の連射――――アサルトラッシュに対してはすぐに盾を構えて襲い掛かる連射を防いだ。

「足元がお留守だぜ――――そらっ!」

「!?―――ぐっ!?足を狙うとは相変わらず、卑劣な真似を……!―――そこですっ!」

「おっと、あぶねぇな!」

しかしステラの連射を盾で防いでいる事で視界が盾によって若干遮られている事を利用したフォルデは懐から取り出した数本の短剣をデュバリィの足目掛けて投擲し、ステラの連射攻撃に対する防御でフォルデの攻撃に対して一瞬反応が遅れたデュバリィはフォルデが投擲した短剣の一本が足に刺さってうめき声を上げた後すぐに足に刺さっていた短剣を抜いて投げ捨ててフォルデを睨んで高速の剣技で斬撃を放つクラフト―――瞬迅剣でフォルデに反撃したが、フォルデは槍を振るって襲い掛かる斬撃波を受け流した。



「刃折る風よ、巻き上がれ――――ヘレネーの消沈!!」

「くっ、またですか……!?――――な……ち、力が……」

その時魔術の詠唱を終えたステラが闘志を奪う広範囲の竜巻をデュバリィを中心に発生させ、ステラが放った魔術に対して身構えたデュバリィだったが竜巻に込められる闘志を奪う力によって自身の闘志が奪われ、更に闘志が奪われた事で身体が重く感じて動きが鈍くなり

「闇に呑まれよ――――ティルワンの死磔!!」

「しまっ――――キャアアアアアアアッ!?」

そこに魔術の詠唱を終えたプリネが超広範囲に闇の世界を造りだし、闇に包まれた敵全員を暗黒魔力による攻撃を叩き込む暗黒上位魔術を発動してデュバリィに大ダメージを与えた。

「そんじゃ、そろそろ決めちまうか。ハァァァァァァ……!」

そしてプリネの魔術が終わるとフォルデがデュバリィに詰め寄ってデュバリィの全方位から凄まじい早さの槍舞を繰り出すと共に雷が迸る竜巻を発生させてデュバリィを宙へと上げ

「そらっ!こいつでしまいだ――――ラグナクロス!!」

「かはっ!?ぐっ……あ、ありえませんわ……!」

止めに跳躍して宙へと舞い上がったデュバリィ目がけて竜巻と雷を纏わせた槍で突進した。するとフォルデの槍がデュバリィに命中した瞬間デュバリィを中心に竜巻と雷の十字が刻み込まれて爆発が起こると共に無数の雷の刃と風の刃の鎌鼬が発生し、フォルデが放ったヴァンダール流槍術の連槍術の奥義――――ラグナクロスを受けた事によって大ダメージを受けたデュバリィは戦闘不能になり、地面に膝をついた。



「攻めますよ――――十六夜”閃陣”!十六夜――――”突”!」

「落ちよ、聖なる雷―――ライトニングプラズマ!!」

セレーネと共にアイネスとの戦闘を開始したツーヤは一時的に味方の攻撃能力を高め、更に加速させるブレイブオーダー―――十六夜”閃陣”を発動した後抜刀による突きの衝撃波を放ち、魔術の詠唱をしていたセレーネもツーヤのブレイブオーダーによって行動が加速された為一瞬で魔術の詠唱を終えてアイネスの上空から雷を落とす魔術を発動した。

「盾よ!―――吹き飛べ!地裂斬!!」

対するアイネスは闘気による絶対防壁を展開するクラフト―――秩序の盾を発動してツーヤとセレーネの先制攻撃を防いだ後反撃代わりに斧槍(ハルバード)を地面に叩き付けて発生させた衝撃波を二人に放った。

「「!!」」

襲い掛かる衝撃波を見たツーヤとセレーネは左右に散開して回避し

「砕け散れ!」

そこにアイネスが跳躍して敵の脳天を叩き割る一撃―――兜割りでツーヤに襲い掛かった。

「十六夜―――”破”!!」

「何……っ!?」

対するツーヤは自身が扱える抜刀技の中でも一撃や打撃力に優れている抜刀技を放ってアイネスの強烈な一撃を防ぐと共に吹き飛ばし、自身の攻撃を防ぐどころか吹き飛ばしたツーヤの一撃の重さにアイネスは驚きながらふっ飛ばされた後空中で受け身を取って着地した。



「聖なる水よ、奔流となり、我が仇名す者達に裁きを――――リ・カルナシオン!!」

「ぐっ!?」

そこにツーヤに注意が向かっている隙に魔術の詠唱を終わらせたセレーネが凄まじい水流のエネルギーを発生させてアイネスにダメージを与えると共にアイネスの身体をずぶ濡れにし

「まだですわ!アークス駆動――――ネメシスアロー!!」

「ガアアアアアッ!?」

続けて雷のエネルギーを解き放つアーツをアイネスに放ち、全身が水にぬれた所に雷のアーツを受けたアイネスは感電して悲鳴を上げた。

「秘技――――神速!鳳凰剣舞!!」

「く……っ!?」

セレーネのアーツによって怯んだアイネスの隙を逃さないツーヤはまさに”神速”のような早さで次々と斬撃を繰り出し、繰り出される斬撃に対してアイネスは咄嗟に斧槍(ハルバード)で防御した。

「吹き荒れよ――――ハリケーンブリザード!!

「な――――うあああああっ!?くっ……か、身体が……!」

神速の連続斬撃を終えたツーヤは続けて自身を中心に猛吹雪を発生させ、詠唱無しで魔術を発動した事に驚いたアイネスは猛吹雪を至近距離で受けると共に濡れた体に吹雪を至近距離で受けた影響で身体の一部が凍結してしまい、身体の動きを封じ込められた。

「ハァァァァァァ……―――そこっ!」

「カハッ!?」

「崩しました!」

「追撃、開始します!一瞬で決めます! 剣閃よ、唸れ!疾風のように! ヴァーテクス・ローズ!!」

そして身体が凍結した影響で動きが鈍くなっているアイネスの腹にツーヤが籠手を付けた拳による闘気を纏った一撃で怯ませた瞬間、ツーヤと戦術リンクを結んでいるセレーネがツーヤの攻撃に続くように疾風のような速さの連続突きをアイネスに叩きつけた後すれ違う瞬間蒼い薔薇を刻み込んだ!

「ガハッ!?見事……!」

セレーネが放った鋭い剣撃によって敵をバラのように散らすSクラフト―――ヴァーテクス・ローズを受けた事によって戦闘不能になったアイネスは地面に膝をついた。



「フフ………耐えられるかしら?」

レンとエヴリーヌとの戦闘を開始したエンネアは一撃で戦闘不能に陥らせる呪いの矢を連射して放つクラフト―――デビルズアローを放ったが

「うふふ、無駄よ。」

レンが闘気を込めた大鎌を振り回し、衝撃波を発生させるクラフト―――旋風大魔刃で自分達に襲い掛かる矢を吹き飛ばし

「くふっ、そっちこそこれに耐えられるっ!?五連射撃!!」

エヴリーヌは反撃に一瞬で矢を5連続に放ち

「……!っ!?」

襲い掛かる矢に対してエンネアも矢を放つ事で相殺しようとしたが、全ては相殺できず、相殺できなかった2本の矢が両方の脇腹をかすった事でダメージを受けてしまい、表情を歪めた。

「串刺しにしてあ・げ・る♪――――豪破岩槍撃!!」

「く……っ!」

エンネアが地面に着地した瞬間を狙って魔術の詠唱を終えたレンが魔術を発動するとエンネアの足元から次々と大量の岩の槍が発生し、足元からの奇襲攻撃に驚いたエンネアは回避行動に専念して紙一重で全て回避した。

「どっかーん!―――旋風爆雷閃!!」

「!――――ここからが本番よ?」

更にエヴリーヌが放った直線上に爆発を起こしながら襲い掛かって来た雷に対してエンネアは側面に跳躍して回避した後姿を消すと共に魔法反射の結界を付与するクラフト―――リフレクトミラージュで自身の姿を消した。



「あら、姿を消しちゃったわね。」

「姿を消した所で、炙り出してやればいいじゃん――――どっかーん!どっかーん!キャハッ、隠れたってムダムダ―――!」

エンネアが姿を消した事にレンが目を丸くしている中エヴリーヌは全方位に連続で魔術を放った。するとその時エヴリーヌが放った魔術がある一か所に向かうと何と反射して、エヴリーヌとレンに向かってきた!

「「!!」」

反射して自分達に向かってきた爆発を起こしながら襲い掛かって来た雷を見た二人はそれぞれ転移魔術を発動してその場から消えると共に反射してきた魔術を回避し

「もらった――――石化の雨を喰らいなさい!」

そこに魔術を反射した場所からエンネアが現れて石化効果を付与する特殊な薬を塗り込んだ矢――――メデュースアローをレン達がいた場所に放った。

「くふっ♪一気に全部潰すよ――――アビスブレイク!!凍え死んじゃえ――――氷垢螺の絶対凍結!!」

「キャアアアアアアアッ!?」

するとその時転移魔術によってエンネアの側面に現れたエヴリーヌが深淵の力であらゆる攻撃能力を上昇させるブレイブオーダー―――アビスブレイクを発動した後続けて氷垢螺凍結のまま異次元に閉じ込める魔術を発動した。ブレイブオーダーによって”魔神”である事からただでさえ莫大な魔法攻撃力があるエヴリーヌの魔法攻撃力が強化された事によって発動された異次元に閉じ込めると共に一瞬で凍死させる程の猛吹雪をその身に受けたエンネアは大ダメージを受けると共に全身が凍結し

「うふふ、逃げられないんだからっ!それっ、それっ、それ―――――――っ!!ハァァァァァ………!」

そしてエヴリーヌの魔術が終わると転移魔術でエヴリーヌとは正反対の方向に現れた後エヴリーヌが魔術を放っている間にエンネアの背後を取ったレンが全身に闘気と魔力を込めた後エンネアにすざましい乱舞攻撃を放った後大鎌に魔力を込めた。すると大鎌は魔力によって巨大化し

「クリミナルシックル!!」

巨大化させた大鎌を振り下ろすと同時にレンはエンネアの真正面に駆け抜けた!

「アアアアアッ!?油断……したわね………」

レンのSクラフトによる大ダメージを受けた事によって戦闘不能になったエンネアは地面に膝をついた。



「かかれ――――シルバーウィル!負の刃よ――――我が敵を滅せよ!!」」

リィン達と共にシャーリィとの戦闘を開始したレーヴェは(しろがね)の意志によって物理攻撃能力や身体能力を高めると共に物理絶対防壁を付与するブレイブオーダー――――銀の意志(シルバーウィル)を発動した後強力な負の瘴気を剣に纏わせて衝撃波として解き放つクラフト―――ケイオスソードをシャーリィに放った。

「おっと!さ~てと……サクッと行くよ!」

「これで終わりだ………喰らえっ!!」

襲い掛かる衝撃波を側面に跳躍して回避したシャーリィはクラフト―――ブラッドストームで反撃したがランディもシャーリィと同じ攻撃内容のクラフト―――ブラッディストームを放って相殺し

「あははははっ!今のを相殺するなんて、また強くなったみたいだね、ランディ兄!」

「テメェにだけは言われたくないぜ、この虎娘が!」

攻撃を相殺されたシャーリィはランディと数度刃を交えて互いの攻撃を相殺した後距離を取って横に走りながらランディに向かって牽制射撃を行い、対するランディもシャーリィと同じ方向に走りながら牽制射撃を行った。

「二の型・改――――裏紅蓮剣!劫!!」

「うわっ!?」

シャーリィの注意がランディに行っている隙にリィンが炎の太刀による神速の攻撃と斬撃波をシャーリィに叩き込んでシャーリィにダメージを与えると共にシャーリィの態勢を崩し

「崩した!」

「妖の型――――沙綾身妖舞!!」

「っ!?」

シャーリィの態勢が崩れるとリィンと戦術リンクを結んでいたアイドスが続けて目にも止まらぬ高速剣の連続斬撃を一瞬でシャーリィに叩き込んでシャーリィから距離を取り

「―――疾風突!!」

「!く………っ!?」

アイドスの攻撃が終わるとレーヴェが疾風のごとき素早さでの突進で突きを繰り出し、対するシャーリィは自身の得物で防御したがレーヴェが放った攻撃の威力の重さと早さによって再び態勢を崩し

「崩れた!」

「そこだっ!」

「!!」

レーヴェと戦術リンクを結んでいるランディが追撃にブレードライフルによる連続射撃を行うとシャーリィは側面に跳躍して追撃を回避した。



「あははははっ!灰色のお兄さんや剣帝もそうだけど、ランディ兄や”嵐の剣神”にそっくりのお姉さんも容赦がなくていいねぇ!もっとシャーリィを愉しましてよぉ!」

シャーリィは反撃にクラフト―――フレイムチャージをリィン達に放ったが

「―――甘い!」

「わっ!?」

レーヴェは魔剣から凄まじい気流―――零ストームを巻き起こして襲い掛かる火炎放射を吹き飛ばすと共にシャーリィにダメージを与えた。

「ほーらよっ!!」

「っと!そんじゃ、今度はこっちの番だよぉ!?」

ランディが投擲した炸裂弾を回避したシャーリィはランディに向かってブレードライフルで連射し

「ハッ、テメェの番なんてあるかよ!」

対するランディもブレードライフルを連射し

「どりゃっ!」

「オラアッ!」

二人は連射を終えた後それぞれ同時に詰め寄って十文字斬りを放って互いの攻撃を再び相殺した。

「緋空斬!!」

「星よ、走れ――――星光地烈斬!!」

「空を断つ!!」

ランディとシャーリィが互いの同じ技――――ブラッディクロスで相殺して互いが距離を取った瞬間、リィンが炎の斬撃波を、アイドスは星の光を宿す衝撃波を、そしてレーヴェは凄まじい早さの衝撃波をシャーリィの3方向から放った!

「よっと!あはははははっ!」

一斉に襲い掛かって来た3方向からの遠距離攻撃に対してシャーリィは人間離れした動きで高く跳躍し、そのまま空中でライフルによる掃射をした。

「無駄だ!」

自分達の頭上から襲い掛かって来た無数の銃弾をレーヴェは再びクラフト―――零ストームを放って全て吹き飛ばし

「二の型―――大雪斬!!」

「おっと!―――わあっ!?」

レーヴェがシャーリィの攻撃を無効化するとリィンが跳躍して落下していくシャーリィ目がけて静かなる闘気を宿した太刀を振り下ろし、対するシャーリィは自身の得物であるブレードライフルで防御したが神剣によるリィンの剣技(クラフト)の威力はあまりにも凄まじく、防御した態勢のまま地面に叩き落された。

「輝け、星よ――――星光紅燐剣!!」

「あうっ!?」

そこにアイドスが逃げ場のない超広範囲の星の光を宿らせた高速剣による衝撃波を放ってシャーリィにダメージを与え

「外さないぜ―――そこだっ!」

「!……っ!?」

アイドスの攻撃が終わるとランディがシャーリィの起動力を奪う為に狙いを定めた部分に銃弾を集中攻撃させるクラフト―――スナイプラッシュでシャーリィの足に狙いを定めて集中攻撃し、ランディの集中射撃を回避する為に咄嗟に側面に跳躍して回避したシャーリィだったが、いくつかの弾丸はシャーリィの足をかすった。



「あはははははっ!やるねぇ、ランディ兄!でも……このくらいじゃ、シャーリィは止められないよ!行くよ―――テスタ=ロッサ!」

銃弾がかすった部分から血を流しながらもシャーリィは一切気にせずブレードライフルを構えて魔法陣を展開した。すると魔法陣から弾丸が現れ、シャーリィがブレードライフルのトリガーを引くと次々とリィン達目がけて襲い掛かった。

「させるか!伍の型――――光輪斬 !!」

自分達目がけて襲い掛かる弾丸を見たリィンは前に出て抜刀による刀気の輪を繰り出して襲い掛かる弾丸が自分達の元に到着する前に全て空中で炸裂させて無効化した。

「さあ―――上げて行くよっ!!」

そしてブレードライフルの刃の部分に炎の闘気を宿したシャーリィがリィン達に突進して一閃したその時!

「斬の型―――紅燐舞華斬!!」

「え―――――」

「今だ!――――行くぞ、ランディ!!」

神剣に闘気を溜め込んだアイドスが人間離れした動きでリィンの前に出て一閃をしてシャーリィのブレードライフルを真っ二つに斬り、自身の得物が真っ二つに斬られた事にシャーリィが呆けるとリィンはランディに呼びかけ

「おっしゃあ!任せとけ!」

リィンの呼びかけに頷いたランディはシャーリィを斜め挟み撃ちにした後ブレードライフルを振るって竜の姿をした炎の衝撃波を、リィンは太刀を鞘に収めた後抜刀による鳳凰の姿をした炎の闘気エネルギーを放った後ランディはブレードライフルに炎の竜を纏わせ、リィンは抜刀した太刀にそのまま”鳳凰”のオーラを纏って二人同時に斜め十字(クロス)に突撃して自分達が放った斬撃波や闘気エネルギーがシャーリィに命中した瞬間間髪入れずにシャーリィの背後を駆け抜けた。



「「龍凰――――絶炎衝!!」」



二人が敵の背後へと駆け抜け終えるとシャーリィを中心に炎の大爆発が起こると共にシャーリィの周囲は凄まじい炎に包みこまれた!

「うあっ!?アハハハハハハッ!”赤き死神”と”灰色の騎士”の協力技をシャーリィに躊躇う事無く使うなんて、さすが1年半前の件で敵に”容赦”をしなくなったランディ兄と灰色のお兄さんだねぇ!けど、それでもシャーリィはそう簡単に狩る事はできないよぉ!?」

炎竜と鳳凰による炎で敵陣を焼き尽くすランディとリィンの協力技(コンビクラフト)――――龍凰絶炎衝による全身に痛々しい火傷や無数の切り傷がありながらシャーリィは凶悪な笑みを浮かべてランディとリィンを見つめて叫び

「やれやれ……痩せ(ヴァルター)ですらもこれ程の狂気は宿していなかったが……まあ、本質は似ている奴と気が合うのは間違いないだろう。奴と会えるように”次”で貴様を冥府へと送ってやろう。」

「―――哀れな人。これで全て終わらせましょう。」

シャーリィの様子を見たレーヴェは呆れた後目を細めて魔剣を構えなおし、シャーリィを憐れんだアイドスも神剣を構えなおして二人はそれぞれ大技を発動した!

「受けてみろ……風鎌の奥義―――――ハートヴェイル!!」

「飛燕剣奥義――――飛燕―――姫神恍舞!!」

「あ―――――」

そしてレーヴェとアイドスはまるで瞬間移動したかのような人間離れした動きによる速さで一瞬でシャーリィに詰め寄ってそれぞれの剣を振るって神速の無数の斬撃を叩き込んでシャーリィの背後へと駆け抜けてそれぞれの剣を一振りすると、何とシャーリィはレーヴェとアイドスが刻み込んだ無数の斬撃によって全身から血が噴出した!

「あはは……は………さすがにこれ以上は……無理……かな………まさか再デビューのつもりが退場させられることになるなんてね………あ~あ……こんな事だったら……さっき”猟兵王”と殺り合えばよかったな……けどま、リーシャの時以上に楽しめたからいい……や…………………………」

全身から血を噴出させながら地面に倒れたシャーリィは大量の血を失った事と急所をつかれた事によって自身が”死”に近づいている事を自覚して様々な想いを口にした後最後は満足げな笑みを浮かべて絶命した!



「ったく、戦いの果てに満足して死ぬとかあの虎娘らしい最後だな………」

「ランディ………」

「「……………」」

シャーリィが絶命する様子を見守った後複雑そうな表情で呟いたランディの様子をリィンは辛そうな表情で見つめ、レーヴェとアイドスは静かな表情で自身の武器を収めた。

「ランディ先輩……リィン教官………」

「ユウナさん………」

「……これが、”互いの命を奪い合う本物の実戦”、か………」

一方リィン達の戦いを見守り、シャーリィの絶命を見て複雑そうな表情を浮かべるユウナをアルティナは心配そうな表情で見つめ、クルトは重々しい様子を纏って呟き

「結局”紅の戦鬼”には届く事ができず……”勝ち逃げ”されちゃったか………」

「フィー………」

「リィン……」

「………チッ、どうやら向こうも終わったようだが………何であいつらの方は止めを刺していないんだ?」

複雑そうな表情でシャーリィの死体を見つめて呟いたフィーの様子をラウラは心配そうな表情で見つめ、エリオットは辛そうな表情でリィンを見つめ、アガットは舌打ちをした後既に戦いを終えているレン達の様子を見て、”人を殺す事を楽しむ悪癖”があるレンやエヴリーヌと戦ったデュバリィ達が生きている事を不思議に思い、眉を顰めてレン達を見つめた。



「まさか………あのNo.ⅩⅦが………」

「No.Ⅱのみが相手ならば単独での撤退も可能だったかもしれないが、”灰色の騎士”を始めとしたNo.ⅩⅦと互角―――いや互角以上に渡り合う使い手が4人もいては、幾らかの”闘神”や”戦鬼”と同じ”狂戦士(ベルセルク)”の血を引くNo.ⅩⅦといえど、分が悪かったという事だろうな……」

「く……っ!よくもNo.ⅩⅦを……!貴女達メンフィルはわたくし達”結社”からどれだけのものを奪えば気がすむのですか!?メンフィルがいなければわたくし達”結社”は”残党”と呼ばれる程の惨めな存在になっていませんし……それにマスターも……っ!」

シャーリィの絶命を見たエンネアは信じられない表情をし、アイネスは重々しい様子を纏って呟き、悔しそうな表情で唇を噛みしめたデュバリィはレン達を睨みつけた。

「まあ、メンフィルがいなければ”身喰らう蛇”は衰退していない可能性については一理あるから、否定はしないけど………”身喰らう蛇”は設立から様々な”表”の人達に迷惑をかけたり、リベールの異変やエレボニアの内戦、そしてクロスベル動乱のような国家の一大事になる大事件になる重犯罪を犯し続けていたのだから、いつかその”報い”が自分達に返って来る事はありえないと本気で思っていたのかしら?」

「……っ!」

「……”報い”、か。確かに我等結社が今まで行った行為は世間一般からすれば、義に反した行為だな……」

「もしかしたらマスターが離反した理由の一つは”マスターの生まれ変わりであるもう一人のマスター”がそのような行為を犯し続ける結社を許せなかったからかもしれないわね……」

不敵な笑みを浮かべたレンの正論に対して反論ができないデュバリィが唇を噛みしめて黙り込んでいる中アイネスは重々しい様子を纏って呟き、エンネアは複雑そうな表情で呟いた。



「どうやらその口ぶりですと”鉄機隊”の方達も分校長がシルフィア様の生まれ変わりである事もご存知のようですわね……」

「まあ、シルフィアお姉さんの性格を考えたら長年”もう一人の自分”が面倒を見てきた”鉄機隊”に自分の事を教えてもおかしくないわよ。―――さてと。プリネお姉様。」

「ええ。―――――今転移封じの結界を解除しました。貴女達の転移の魔導具の使用も可能になっていますから、今ならば貴女達の転移の魔導具も正常に起動して撤退できるはずです。”今回は”これ以上追撃するつもりもありませんから、安心して撤退してもらって構いませんよ。」

セレーネが呟いた言葉にレンは自身の推測を答えた後プリネに視線を向け、視線を向けられたプリネは懐から何らかの装置を取り出して操作をした後デュバリィ達に撤退を促した。

「なあっ!?わたくし達をわざと見逃すつもりですか!?」

「一体何の真似かしら?貴女達メンフィルは私達―――”結社”の残党を全て”狩る”為に貴女達が”灰色の騎士”達の援軍に現れたのではなかったのかしら?現にNo.ⅩⅦを狩ったのに、何故……」

レン達が自分達をわざと見逃そうとしている事を知ったデュバリィは驚き、エンネアは警戒の表情でレン達に問いかけた。

「シルフィアさ―――いえ、リアンヌさんとの”約束”です。」

「マスターとの”約束”だと……?」

ツーヤが呟いた答えを聞いたアイネスは眉を顰め

「リアンヌ様が”結社”や”盟主”に対する”義理”を果たしてようやく”シルフィア・ルーハンスの生まれ変わりとして”お父様の元に現れ、結社からの脱退並びにメンフィルへの転属を申し出、その申し出をお父様が受け入れた時にリアンヌ様がお父様達に嘆願したのです。――――『盟主討伐後、結社が衰退もしくは崩壊後、”鉄機隊”が義に反した行為を犯した場合、一度だけ見逃して欲しい』と。」

「ちなみにお前達を一回だけ見逃して欲しい理由はシルフィア……じゃなかった。リアンヌの存在を支えにしているお前達の元から去った”詫び”だってさ。」

「え…………」

「マスターがそのような事を………」

「…………………」

プリネとエヴリーヌの説明を聞いたデュバリィは呆け、エンネアとアイネスはそれぞれ重々しい様子を纏っていた。



「そしてその嘆願をお父様達が受け入れ、今回私達は貴女達を討たず、撤退を許す結果となりました。それと――――昨夜の第Ⅱ分校の演習地への襲撃の件を知ったリアンヌ様から私達に貴女達への伝言も伝えられています。」

「マスターが貴女達に………どのような内容なのですか?」

プリネの話を驚きの表情で聞いていたデュバリィは続きを促した。

「『”アリアンロード”を失った貴女達が、”迷い”や”戸惑い”等の様々な”想い”、そして今までアリアンロードと共に世話になっていた結社に対する”義理”を果たす為に衰退した結社”身喰らう蛇”に残っている事も想定していました。貴女達にそのような選択をさせた全ての”元凶”は私でありますから、その事について責める権利は私にはありません。ですが”今の私”は結社”身喰らう蛇”に―――”盟主”に忠誠を誓っていた”鋼のアリアンロード”ではなく、リウイ・マーシルン前皇帝陛下とイリーナ・マーシルン皇妃殿下が目指す”全ての種族との共存”という理想に共感して御二方に心からの忠誠を誓ったシルフィア・ルーハンスの生まれ変わりであるリアンヌ・ルーハンス・サンドロッドです。我が忠誠を捧げた御二方が建国し、御二方の意志を受け継ぐメンフィル帝国に刃を向け続けるのならば、一度は見逃しますが”二度目”はありません。今後の結社の”実験”にも関わるのならば、かつて貴女達を見出した張本人としての責任を取る為に、私自らが”灰色の騎士”の”要請(オーダー)”の補佐の一人として彼に同行し、未だ結社に残り続ける貴女達の意思を聞き、その意思が結社に殉じるものならば私自らの手で貴女達に引導を渡しましょう。』―――――以上です。」

「マス、ター…………」

「「………………………」」

「クッ……分校長は一体何を考えているのだ……!?全く理解できん……!」

「クク、さすがは”軍神(マーズテリア)”の伝説の聖騎士の生まれ変わりだけあって、筋が通っている上厳しいねぇ。」

「えっと………ランドロス教官は分校長の事について何かご存知なのですか……?」

「さぁてなぁ。オレサマ自身は”シルフィア・ルーハンスという聖騎士”も、”鋼のアリアンロードという結社の蛇の使徒”とも会った事がないから、知らないぜ?」

「話には聞いていたがまさか本当に結社の”蛇の使徒”にあの聖騎士が生まれ変わっていたなんてな……」

「?アガット殿はサンドロッド卿が結社からメンフィル帝国に転属した理由をご存知なのか?」

「ああ……まあ、その件も後輩たちからの又聞きだがな。」

プリネを通したリアンヌ分校長からの伝言にデュバリィが呆然としている中エンネアやアイネスは辛そうな表情で黙り込み、ミハイル少佐は疲れた表情で呟き、ランドロスがふと呟いた言葉が気になったトワはランドロスに訊ねたが、ランドロスは口元に笑みを浮かべて答えを誤魔化し、自分がふと呟いた言葉を聞いたラウラに問いかけられたアガットは静かな表情で答えた。



「…………マスターからの伝言、確かに聞き届けましたわ。”敵”である私達にわざわざマスターからの伝言を伝えた事に関しては感謝致しますわ。―――行きますわよ、エンネア、アイネス。」

「ええ……」

「承知。」

そして気を取り直したデュバリィはエンネアとアイネスに視線を向けた後二人と共に転移の魔導具を発動させ

「――――わたくし達との雌雄の決する時が来るまで、わたくし達以外の結社の他の残党を含めた様々な勢力に負ける事は絶対に許しませんわよ、”特務部隊”と”旧Ⅶ組”。」

ある意味リィン達に対する激励の言葉にもなる言葉をリィン達に伝えた後転移の光に包まれてその場から消えた―――――


 
 

 
後書き


という訳でシャーリィは1章にて退場しちゃいました(黒笑)なお、2章でも敵キャラが退場しちゃう予定です(黒笑)2章で敵キャラを退場させるとんでもないキャラはホント誰でしょうねー。(目、逸らし)2章の演習場所を考えると幻燐勢に加えて戦女神に神採り、魔導巧殻と創刻陣営の登場も容易ですからねぇww
 

 

第29話

その後――――第Ⅱ分校全員が到着し、今回の件の事後処理が行われた。『決して口外しない』という誓約の元、分校生全員に”ハーメル村”の存在を隠蔽し続けている事情も明かされ……遊撃士アガットやメンフィル帝国皇女プリネ達の協力も受けつつ、シャーリィの遺体の処理と廃道から人形兵器を掃討するのだった。



そして――――廃道の人形兵器を掃討し終えた後分校は教官を含めた全員がハーメル村の慰霊碑に花を捧げ、祈りをささげた。



~ハーメル村~



「―――さっきは流したがこれは明白な命令違反だぞ!?確かに君達には自分達で考えろと言った!だが、言ったはずだ!特務活動は昨日で終了したと!おまけに訓練からのエスケープと機甲兵の私的な利用……!正規の軍人なら軍法会議ものだぞ!」

「わたくしも”自分の意志”ハッキリと口にして下さいと言いましたが、それと今回の件は全く別です!それに皆さんはただの学生ではなく士官学生――――”軍人の見習い”です!私的な理由で上官の軍事指示に逆らう事は単なる”命令違反”ですわ!」

「はい………」

「……反論できません。」

慰霊碑への祈りを終えた後リィンとセレーネは新Ⅶ組の生徒達を集めてそれぞれ怒りの表情で生徒達が自分達の助太刀の為に訓練を抜けだした事等に対する注意をし、二人の注意に対してユウナとアルティナは顔を俯かせて反省した様子で答えた。

「―――責は自分にあります。処分は一人にしていただけると。」

「って、そうじゃないでしょ!」

「責任は全員にあるかと。」

クルトは自分が全ての責任を負おうとしたが、クルトの言葉を聞いたユウナとアルティナがそれぞれ反論した。

「まあ、そのくらいにしておいてあげたら?」

「我等もかつて、命令違反は幾度もしてしまったからな。」

「そだね、トールズ本校が機甲兵に襲われた時とか。」

「そういや、ステラやエリゼちゃんから聞いた話だがお前も1年半前の”七日戦役”で命令違反もどきをしたんじゃなかったか~?」

「フフ、”オーロックス砦制圧作戦”の時に指示もなく戦列から飛び出して一番槍を行った時ですね。」

「うっ………」

「ア、アハハ……そんな事もありましたわね……」

「ふふっ、ユウナ達の時程じゃないけどリィンも上官のゼルギウス将軍に注意されていたわね。」

エリオット達のフォローの言葉やフォルデとステラの指摘を聞いてかつての自分を思い出したリィンは唸り声を上げ、セレーネとアイドスは苦笑していた。



「……教官?」

「自分達の正当性を主張するつもりはありませんが………」

「ブーメラン、でしょうか。」

「―――それはそれ、これはこれだ。教官である以上、生徒の独断専行を評価するわけにはいかない。今回は運が良かっただけで次、無事である保障がどこにある?」

「お兄様達とシャーリィさんの”死闘”を間近でその目にした皆さんならばお兄様が仰る事についてよく理解していますわよね?」、

生徒達に責められるような視線を向けられたリィンは咳ばらいをして誤魔化した後気を取り直してセレーネと共にユウナ達に問いかけた。

「それは……」

「……仰る通りです。」

「……………………」

二人の教官の指摘に反論できないユウナ達はそれぞれ反論することなく静かに聞いていた。

「―――ただまあ、突入のタイミングは良かった。」

「え。」

「機甲兵登場の隙を突いて女騎士達を下がらせたこと。倒れたアッシュの安全確認と臨機応変な機甲兵の運用。授業と訓練の成果がちゃんと出ていたじゃないか?」

「あ………」

「お兄様……」

「フフ……」

注意の後に生徒達を褒めたリィンの言葉にユウナとアルティナが呆けている中セレーネとアイドスは微笑ましそうに見守っていた。

「そしてクルト―――助太刀、本当に助かった。君ならではのヴァンダールの剣、しかと見届けさせてもらったよ。」

「…………ぁ…………―――はい!」

リィンに評価されたクルトは一瞬呆けた後決意の表情で頷いた。



「―――訓練中にⅦ組の連中とはぐれてここまで来ただと?そんな言い訳が通用すると思ってんのか?」

リィンとセレーネがユウナ達に注意をしている同じ頃、ランディはランドロスと共にユウナ達同様独断専攻を行っていたアッシュに注意をしていた。

「いや~、野外訓練って道に迷ったら大変だよなぁ。サーセン、次は気をつけるッス。」

「クク、道に迷ってこんな所までねぇ?それが本当ならとんでもない方向音痴だな。」

「ったく、Ⅶ組の連中が抜け出すってんならともかく……そういや誰からこの場所の事を聞いたんだ?」

アッシュの適当な言い訳にランドロスが口元に笑みを浮かべている中ランディは呆れた表情で溜息を吐いた後非常に限られた人物達しか知らないハーメル村をアッシュが知っていた理由を訊ねた。

「っと、Ⅷ組の連中のフォローに戻らねえとな。そんじゃ教官達、お疲れっしたー!」

「おい―――!ったく、何を考えてるんだか。」

「まあ細かい事はいいじゃねえか。ガキ共に限らず他人の考えを完全に悟る事ができるなんて、どこぞの”天使”のような”特別な才能”を持った奴くらいだぜ?」

答えを誤魔化して去って行ったアッシュの様子に溜息を吐いたランディをランドロスは慰めの言葉を送り

「あー……確かに”ルバーチェ”どころか”鉄血宰相”に旧共和国の大統領、それにテロリスト共の狙いを悟ってた上での策略を考えたルファディエル姐さんだったら、マジでできるかもな……って、アッシュよりも考えが全くわからねぇあんたにだけは言われたくないぞ!?………それにしても”猟兵王”――――4年前の”リベールの異変”で”空の覇者”に討ち取られたはずの男か。…………一体どうなってやがるんだ?」

ランドロスの慰めの言葉に苦笑しながら答えた後疲れた表情で溜息を吐いたランディは気を取り直してルトガーの顔を思い浮かべていた。

「この匂い、建物の並び……ハッ。やっぱり間違いなさそうだ。」

ランディとランドロスから離れたアッシュは立ち止まって周囲を見回した。すると何かを感じたアッシュは左目を片手で抑え

「……14年前の”あの日”。どうやら本当に……落とし前をつけられそうだぜ。だがその前に…………確かめる事があるな。」

不敵な笑みを浮かべた後アガットやティータ、そしてプリネ達と共に改めて慰霊碑に祈りを捧げているレーヴェを見つめた。



「……あいつらの分か?」

「はい、お兄ちゃんとお姉ちゃん、それにミントちゃんの分も………」

花を捧げ終えて立ち上がったティータにアガットは問いかけ、問いかけられたティータは静かな表情で答え

「ティータちゃん………」

「フフ……エステルさん達に続いて、まさかお二人まで私達と一緒にこの村の墓参りに来ることができるなんて、不思議な巡り合わせですね。」

「フッ、それこそ”女神の導き”かもしれないな。――――最も、今の俺の言葉を聞けば子孫や先祖共々、自分達のせいにするなと文句を言ってきそうだがな。」

「くふっ♪エステルもそうだけど、エイドスも”導き”が自分達のせいにされる事を滅茶苦茶嫌がっていたもんね。」

ティータの答えを聞いたツーヤは静かな表情で見つめ、プリネは微笑み、レーヴェは静かな笑みを浮かべ、エヴリーヌは口元に笑みを浮かべてある推測をした。

「アハハ……」

「ったく、洒落になっていねぇぞ………いつかあいつら全員と共にここを訪ねられりゃあいいんだが。」

レーヴェの言葉にティータが苦笑している中呆れた表情で溜息を吐いたアガットは気を取り直して静かな表情である人物達の顔を思い浮かべた。



(これにて”初手”は終了……ふふ、次の盤面はどんな風に進むのでしょう?)

一方ティータ達の様子を物陰から見守っていたミュゼは周囲を見回した後意味ありげな笑みを浮かべた。

「――――それで?今どんな気持ちなのかしら、”リィンお兄さんやレン達の動き、ユウナ達の独断専行に結社や西風の旅団の行動を含めた全てが貴女の読み通り”に進んでいる事に。」

するとその時レンがミュゼに近づいて意味ありげな笑みを浮かべてミュゼに問いかけた。

「ふふっ、何の事やら。私には1年半前の内戦で貴族連合軍の動きをまるで自分の掌の上で踊ってくるかのような聡明な考えができるレン教官のような才能はございませんわ。」

「うふふ、謙遜も時と場合によっては嫌味になるわよ?―――――まあ、それはともかく。貴女程の才女が典型的な”貴族の愚物”だった”某主宰”の元公爵と同じ血を引いているとはとても思えないわね。―――あ、でも息子はともかく娘達は優秀だから、それを考えると某公爵家は男性ではなく女性が優秀になりやすい傾向でもあるのかしら?」

「……………フフッ、やはりレン教官―――いえ、”レン教官達”は私の事をご存知でしたか。姫様もいけずですわね、乙女の秘密を何の断りもなく他の方達に話すなんて。」

小悪魔な笑みを浮かべたレンに見つめられたミュゼは少しの間黙り込んだ後苦笑しながらアルフィンの顔を思い浮かべていた。

「あら、アルフィン夫人はシュバルツァー家の跡継ぎの妻の一人として、そしてメンフィル帝国に所属している人として当然の事をしただけよ?第一貴女、”入学前に通っていた女学院”では別に正体を隠したりとかしていなかったでしょう?」

「フフ、それはそれ、これはこれですわ。それで………私の事を知ったレン教官達は今後、私に対してどういう対応をされるおつもりですか?」

レンの指摘に対して笑顔で誤魔化したミュゼは静かな表情でレンに問いかけた。



「別に何もするつもりはないわよ?幾ら貴女が”某主宰”の親類とはいえ、たったそれだけの理由で貴女の事を警戒する程レン達―――いえ、メンフィルの”器”は小さくないわよ。」

「そうですか…………でしたら、私が”10人目”に加わる為に様々な努力をしても、問題はないのですわよね?」

「”10人目”……うふふ、”そういう事”。ま、他人の恋愛事情は見ている方としたら面白いからレンからすれば、むしろ楽しませてもらうけど………貴女が”10人目”に加わりたい理由は大方、政治的な理由も含まれているのでしょう?それを考えると、貴女のリィンお兄さんに対する接触について色々な憶測を考えてしまうわね。」

ミュゼの口から出た意味ありげな言葉の意味を瞬時に悟ったレンは小悪魔な笑みを浮かべた後探るような視線でミュゼを見つめ

「まあ……レン教官ったら、酷いですわ。私はリィン教官に恋い焦がれる大多数の乙女の一人として、リィン教官を慕っているというのに……シクシク……」

見つめられたミュゼはわざとらしく悲しんでいる動作で答えた。

「うふふ、”そういう所もレンと似ているわね。”―――ま、レンは馬に蹴られたくないから人の恋時を邪魔するつもりなんて毛頭ないけど………”貴女達の事情”にリィンお兄さん達を巻き込むつもりなら、まずはレン達に一切全ての事情を話を通さないと、話にならない事だけ言っておくわ。貴女も知っているでしょうけど、レン達はリィンお兄さん達―――シュバルツァー家を守る義務が二重の意味であるのだからね。」

「あら、その口ぶりですと交渉の余地はあると判断してよろしいのですか?」

「クスクス、それは”貴女達の態度次第”だと思うわよ?」

ミュゼの問いかけに対して小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化したレンはミュゼの元から去り

(ふふっ、話に聞いていた通り―――いえ、それ以上にやり辛い相手ですわね。ですが回りくどい事や小細工はせずに正面から攻めた方が可能性がある事がわかった事だけでも、収穫と判断して良さそうですわね。)

ミュゼは自分の元から去って行き、自分を待っていたエヴリーヌと合流してどこかへと向かって行くレンの後ろ姿を見つめながら苦笑した後真剣な表情を浮かべた。



「それにしても今回のハーメル村のお墓参りはかつてない程の賑やかなお墓参りになったのではないですか?」

「ふふっ、そうね。それどころか、ハーメル村が存在した頃もこんなにも多くの”外”の人々がハーメル村を訪れた事もなかったわね。」

「そうだな。……まあ、その理由がこの村の惨劇を起こした元凶の一人である”白面”が所属している結社の”実験”が原因である事は皮肉な話だがな―――――!…………」

ツーヤとプリネと共に廃墟内を歩いて回っていたレーヴェは何者の気配に気づくと立ち止まって目を細めて廃墟の一角を見つめ

「レーヴェ?急に立ち止まってどうしたの――――…………」

「……何者ですか?その廃墟の物陰に隠れているのはわかっています。」

レーヴェが立ち止まった理由を不思議に思ったプリネだったがすぐに何者かの気配を気づいて表情を引き締め、ツーヤはプリネの前に出て抜刀の構えでレーヴェとプリネが見つめている方向を見つめて呟いた。



「……ハッ、さすがは結社の元執行者とかつては”大陸最強”を誇っていたエレボニアをボロ負けさせた異世界の大国の英雄サマ達ってか?」

すると廃墟の物陰からアッシュが現れ

「貴方は確か第Ⅱ分校の………」

「Ⅷ組”戦術科”――――”闘神の息子”と”紅き暴君”の生徒の一人であり、”新Ⅶ組”と共に助太刀に現れたアッシュ・カーバイドか。俺達に何の用だ?」

アッシュを見たツーヤは目を丸くし、レーヴェは静かな表情でアッシュに問いかけた。

「クク……”何の用だ”、か。どうやらその様子だと本気でオレの事がわからねぇみてぇだな。――――大方テメェと一緒にまんまと逃げた黒髪の小僧もオレの事がわからねぇんだろうな。」

「”黒髪の小僧”ってまさか………」

「貴方、どうしてあの子の事を………それに”まんまと逃げた”って仰っていましたけど、まさかとは思いますが貴方は………」

アッシュがある人物を知っている口ぶりにツーヤは目を丸くし、アッシュの話からアッシュが何者かを察したプリネは信じられない表情でアッシュを見つめ

「―――”3人目の遺児”か。可能性は低いが”3人目以降の存在”がいる事については想定していたが……まさかその一人がお前だったとはな。――――それで?お前と違い、”ハーメル”の村人であった事を捨てて他国の人間としてそれぞれの”道”を歩んでいる俺やヨシュアに対する恨み言を言う為に現れたのか?」

アッシュの正体を察したレーヴェは静かな表情で推測を口にした後、目を細めてアッシュに問いかけた。

「ハッ……”恨み言”とかそんな生温い事で済まされると思っているのか?オレを置き去りにしてまんまと逃げた上”結社”みたいな後ろ暗い事をする連中の一味になった癖に、その一味から抜けてエレボニアの上を行く異世界の大国の皇女サマお気に入りの騎士になった挙句、多くの仲間を手に入れたテメェが許される存在だと思っているのか?」

問いかけられたアッシュは鼻を鳴らした後全身から黒い瘴気を纏わせて自身の得物であるヴァリアブルアクスを構えた。

「あの黒い瘴気は一体……」

「わからないけど……凄まじい”負”の霊圧を感じるから、恐らく”呪い”の類でしょうね。一体彼に何があって……―――いえ、今はそんな事を気にしている場合ではないわね。アッシュさん、でしたか。まずは落ち着いて私達の話を――――」

「―――無駄だ。こういった輩は説得に耳を貸さない。―――下がっていろ。その男の相手は俺かヨシュアがすべきだ。二人は手を出す必要はない。」

アッシュが纏っている瘴気を見てツーヤと共に警戒の表情をしたプリネはアッシュを説得しようとしたが、レーヴェがプリネとツーヤの前に出て制止の言葉をかけた後魔剣を構えた。



「レーヴェ………その、決して命を奪うような事はしてはダメよ……?」

「そのくらいの事は言われなくてもわかっている。」

「ハッ、大事な皇女サマの気を惹く為とはいえ、あのとんでもないイカした姉さんを容赦なく殺った奴の言う事とは思えねぇな。――――いや、さっきの会話から察するとその皇女サマはあの惨劇でくたばったテメェの黒髪の女と何か関係が――――」

プリネの嘆願に頷いたレーヴェの様子を見たアッシュは鼻を鳴らして嘲笑した後プリネに視線を向けかけたが

「―――それ以上口を開くな、半端者が。」

「あ……?」

目を細めて睨みつけてきたレーヴェの言葉を聞くとレーヴェを睨んだ。

「”今の俺”が剣を振るうのは”英雄王”のように人を超え、修羅と理を極めた存在に至るがため………しかしお前は、己の空虚を充たすがためにその鉄塊を俺に向けている。」

「………………………………」

「重き鉄塊を振るうことで哀しき空虚を激情で充たす……。怒りや憎しみで心を震わす間は哀しさから逃れられるからだ。だが、それは欺瞞に過ぎない。」

「…………やめろ………………」

レーヴェの言葉を聞き、何かを耐えるような表情でアッシュは呟いた。

「そして、欺瞞を持つ者が前に進むことはありえない。”理”に至ることはおろか”修羅”に堕ちることもない。今のままでは……かつての”重剣”と同じようにお前はどこまでも半端なだけだ。」

「黙りやがれえええッ!!!」

そして続けて言ったレーヴェの言葉を聞いたアッシュはレーヴェに襲い掛かったが、レーヴェは人間離れした動きでアッシュに斬り込んだ!



「な―――かは……っ!?」

一撃で自身の得物が弾き飛ばされると共に峰打ちをされたアッシュは地面に倒れ

「――――だが今のお前は当時の俺やヨシュアの時と違い、周りの状況は恵まれている。俺に届きたいのであれば、まずは自分を見つめ直す事から始める事だな。そして人として生きたいなら……怒りと悲しみは忘れるがいい。――――行くぞ。」

「レーヴェ…………」

「………………」

アッシュに対する指摘を終えたレーヴェはアッシュに背を向けてプリネとツーヤと共にその場から去り

「ちく……しょう……忘れろだと……そんな事、できる訳ねぇだろ……――――うおおおおおっ!」

レーヴェ達が去った後地面に倒れたアッシュは空を睨みつけて悔しさの咆哮を上げた!



4月24日、演習最終日



午前11:30―――



翌日、演習を終えた分校の生徒達が次々と列車に乗り込んでいる中リィン達はラウラ達に見送られようとしていた。



~演習地~



「ラウラ、フィー、エリオット、ステラ、フランツ。本当に世話になったな。アガットさんやフォルデ先輩、プリネ皇女殿下達もありがとうございました。」

「フフ、気にしないでください。私達は当然の事をしただけですから。」

「ま、何とかサラの代わりができてよかったぜ。訊ねたかった場所にも行けたし、第Ⅱの活動なんかも確認できた。ま、”身内”を預けとくにはちょいと危なっかしい学校だが。」

リィンの感謝の言葉に対してプリネが謙遜した様子で答えている中アガットは苦笑しながら答えてティータに視線を向け

「それは……」

「正直、弁解の余地はねぇなぁ。」

「なんせ、演習初日で奇襲があったくらいだしなぁ。」

「うふふ、それよりも”身内”という言葉が気になるわよねぇ?」

「レ、レン教官。論点がズレていますわよ。」

アガットの言葉に対してトワが複雑そうな表情をしている中ランディとランドロスは苦笑し、意味ありげな笑みを浮かべてアガットを見つめるレンの言葉にセレーネは冷や汗をかいて指摘した。



「も、もうアガットさん……!わたしのことは大丈夫です!あんまり子供扱いしないでください!

「ああ、わかったわかった。修羅場をくぐってるって意味ではお前も相当なモンだからな。だが、本当にヤバくなったら問答無用でコイツは連れて帰る―――それだけは了解しといてくれや。」

「ア、アガットさん……」

アガットのリィン達への言葉にティータが頬を赤らめると既に列車に乗り込み、様子を見守っていた生徒達が口笛を吹いたり等ティータとアガットの関係を茶化すような声を上げ

「だ、大胆……」

「らぶらぶだね。」

「うふふ、ティータ?今のそこのアガットの言葉を小型の録音機に録音しておいたから、もしこの録音機が欲しかったら、寄宿舎に戻った後レンの部屋を訊ねてね♪」

「というかそれ以前に何で録音機(そんなもの)を常に携帯しているんですか、レンさん………」

「くふっ♪レンの事だから、いつでも誰かの弱みを握る為なんじゃないの♪」

「フッ、レン皇女の今までの行動を考えれば、そう言った推測が出てくるのも当然だろうな。」

ユウナは驚き、フィーはジト目で呟き、からかいの表情で声をかけたレンの答えを聞いたツーヤは呆れた表情で溜息を吐き、エヴリーヌとレーヴェは口元に笑みを浮かべて呟いた。



「あー、だからコイツの両親と約束してんだっての。」

「……了解しました。自分達も全力を尽くします。」

「わたくしもお兄様共々全力を尽くしますわ。」

「わ、わたしも副担任教官としてちゃんとサポートしますね!」

「うふふ、レンもいるんだから、ティータを含めた生徒達が死なないようにサポートはしてあげるから、大船に乗ったつもりでいていいわよ。」

「及ばずながら、俺もな。」

「クク、当然オレサマもいるから安心して遊撃士の活動に専念しなぁ。」

リィン達教官陣はアガットにとってそれぞれ心強い言葉をかけた。

「我等もまた、しばしの別れだな。」

「うん、ちょっと残念だけど。」

「でも、それぞれ目的もできた。またすぐに会えると思う。」

「ま、俺達はともかく旧Ⅶ組の連中は内戦後も何だかんだあって、また会えたんだ。いつか全員が揃う時が近くなっている証拠だと思うぜ?」

「フフ、そうですね。」

「アハハ、それを考えると元同期だった僕達も揃う時が来るかもしれないね。」

ラウラとエリオット、フィーもそれぞれリィン達に別れの言葉を告げ、フォルデが呟いた言葉を聞いたステラとフランツはそれぞれ苦笑していた。



「フィーはギルドの仕事をしながら”西風”の行方を追って……ラウラは各地の道場を回りつつ”兆候”を探るんだったな。」

「僕も巡業旅行で各地の様子を確かめるつもりだしね。………リグバルド要塞といい、ちょっと心配な空気も流れてる。何かあったら連絡するよ。」

「ああ……こっちもな。フランツは先輩と一緒にパルムの道場での特別講師を終えたら”本国”に戻るのか?」

「うん。けど1ヵ月後にはエイリーク皇女殿下がエフラム皇子殿下と共にゼムリア大陸に来訪する用事があるから、もしかしたらその来訪場所と来月の第Ⅱ分校の”特別演習”の場所が重なれば、また会えるかもしれないね。」

「ハハ、そんな偶然はありえないと思うけどな………それにしてもエイリーク皇女殿下とエフラム皇子殿下が二人揃ってゼムリア大陸に来訪する用事なんて1年半前の内戦時のメンフィル帝国領の防衛の援軍として来訪されて以来になるが………一体どんな用事なんだ?」

フランツの推測を聞いて苦笑しながら答えたリィンは考え込む動作でフランツを見つめた。

「アハハ、それについては今は内緒にさせてもらうよ。一応現時点では機密情報扱いだし。」

「ハハ、それもそうか。」

「どうせ”殲滅天使”の事だから、さっきの話にあった1年半前にわたし達も出会った”ブレイサーオブブレイサー”が持つ貴族の名前と同じ名前を持つ双子の皇族が来訪する用事の内容とかも知っているんでしょ?」

フランツの答えにリィンが苦笑している中フィーはジト目でレンに問いかけたが

「クスクス、それについては”レンのみぞ知る”、よ。」

「このクソガキは……」

「ア、アハハ……」

「ハア………その件については後にリィンさん達にも知らせますが………その件にはサフィナお姉様とセシリア将軍閣下もエフラムお兄様達に同行する事になっている事が決まっていますよ。」

レンは小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化し、レンの答えにリィン達と共に冷や汗をかいて呆れたアガットはレンを睨み、ティータは苦笑し、プリネは溜息を吐いた後気を取り直して説明をした。



「まあ……サフィナ様とセシリア様も………」

「ハハ、元帥閣下に加えて教官まで同行する用事がどんな用事なのか本気で気になって来たな。―――”結社”が再び動き始めたことや、あの巨大な”神機”……そして”赤い星座”に加えて”西風の旅団”まで動き始めている。」

プリネの説明にセレーネが目を丸くしている中リィンは苦笑した後気を取り直して今までの出来事を思い返していた。

「どこで手に入れたか知らないけど騎神っぽいのまで持ち出してきたし。しかも”結社”と対立してるっぽい。」

「正確には、彼らを雇っている”何らかの勢力”なのだろうが。未だ見えぬ構図がありそうだ。」

「そして私達も知らない1年半前の内戦に隠されていた”真実”、ですね。」

「結局”幻焔計画”の件も含めて1年半前の内戦にはまだ謎が結構残されているっぽいしなぁ。」

「うん、そのあたりに気をつけて情報収集をした方がよさそうだね。」

「す、凄いです……」

「ったく……ギルド顔負けの連携だな。」

「クク、某支援課とも互角―――いや、それ以上の連携かもしれないなぁ。」

「で、こんなメンバーが他にもいるんだろう?」

旧Ⅶ組や特務部隊の会話や今後の方針を聞いて冷や汗をかいたティータとアガットは感心し、興味ありげな表情をしたランドロスに視線を向けられたランディは苦笑しながらトワに視線を向けた。



「ふふっ、旧Ⅶ組は教官も含めたらあと7人いますね。」

ランディの問いかけに対してトワは微笑みながら答えた。

「ふう……それにひきかえ。」

「まだまだだな―――僕達は。」

「………確かに少々、経験値の差を感じます。特にわたしは教官達と同じ”特務部隊”に所属し、旧Ⅶ組の皆さんと内戦終結の為の作戦行動を行っていたのに……自分が不甲斐ないです。」

「―――いや、そんな事はないだろう。」

「実際、危ないところを助けてもらったわけだしね。」

「しかも奇襲とはいえ、あの”鉄機隊”の注意を惹きつける事ができたしな。」

「ふふ、あの時の助太刀は正直とても助かりましたわ。」

「機甲兵を使ってリィンのサポートもしてくれた。ARCUSⅡで全員、繋がっちゃったし。」

「はい。そう言う意味では私達”特務部隊”と繋がったとも言えますね。」

「ヴァンダールの双剣術―――それ以外もこの先が楽しみだ。同じ”Ⅶ組”として今度見(まみ)えた時はよろしく頼む。」

「フフ、同じく”特務”の名を持つ者同士としてもよろしくお願いしますね。」

「ま、力不足を感じているんだったらリィン達をちょっとでも楽をさせる為にもこれからも頑張ったら?あ、ちなみにエヴリーヌはいらないからね?獲物が減っちゃうし、キャハッ♪」

「エヴリーヌさん……最後の一言が余計ですよ……」

「フッ……だが、少なくてもお前達の方が”重剣”よりも”素質”はありそうだからな。意外と早く追いつく事ができるかもしれないな。」

「喧嘩売ってんのか、この野郎……!?いっそ、ここで今までの分の借りを纏めて返してやってもいいんだぜ……!?」

「こんな時くらいは落ち着いて対応してくださいよ、アガットさん~。」

ユウナ達は自分達の不甲斐なさを感じているとリィン達旧Ⅶ組や特務部隊の面々はユウナ達に対する高評価の答えを口にしている中余計な言葉を口にしたエヴリーヌはツーヤは呆れた表情で指摘し、レーヴェに視線を向けられて顔に青筋を立てたアガットの様子を見たティータは疲れた表情で指摘した。



「あ………」

「………了解です。」

「えへへ……よろしくお願いします!」

リィン達の心強い言葉に新Ⅶ組の生徒達はそれぞれ嬉しそうな様子で答え

「アガットさんも……どうか気をつけてください。古竜の時みたいに無茶したらダメですからねっ……!?」

「いつの話をしてんだ……お前も身体には気をつけろよ。」

ティータはアガットに別れの言葉を告げた。

「ええい、いつまで話している!定刻だ―――そろそろ出発するぞ!」

一方その様子を見守り、中々話が終わらない事に呆れたミハイル少佐はリィン達に指示をした。



その後列車に乗り込んだリィン達はエリオット達に見送られ、アルトリザスから去って行った―――――


 
 

 
後書き
という訳でアッシュ、案の定レーヴェに返り討ちにされました(そりゃそうだw)そして似たキャラ属性のレンとミュゼの対面という出来事も実現しちゃいましたw原作閃Ⅳでこの二人の対面は実現できるんでしょうかねぇ……?次回、ついに閃Ⅳ篇の布石となるキャラ達が登場します! 

 

異伝~終焉に諍う英雄達の来訪~ 第1話

~???~



「――――それでは始めるとしよう、”リィン”。世界を絶望で染め上げる、昏き終末の御伽噺を。」

多くの”騎神”らしき存在に”ヴァリマールらしき騎神の存在”が囲まれている中”ヴァリマールらしき騎神の存在”は漆黒の騎神らしき存在に持ち上げられた。

「く……っ………(せめて生徒達だけでも……!)――――うおおおおお………っ!」

「おい、リィン、この状況で一体何をするつもり――――」

そして”ヴァリマールらしき騎神の存在”は”蒼き騎神らしき存在”の言葉を無視して後方にいるユウナ達――――”新Ⅶ組の面々と瓜二つの容姿を持つピンク髪の女子達”に光を放った。するとピンク髪の女子達は光に包まれ

「教官!?一体何を――――」

「これは………」

「”精霊の道”………?」

「まさか私達をこの場から――――」

突然の出来事にピンク髪の女子達が驚いたその時光に包まれたピンク髪の女子達はその場から消えた。



七耀歴1206年、4月24日、午後13:00-―――



~クロスベル帝国・帝都クロスベル郊外・星見の塔・屋上~



1年半前に”六銃士”達の活躍によって”宗主国”であった旧カルバード共和国を占領して自国の領土とし、更にメンフィル帝国との取引でエレボニアの領土の一部も自国の領土としたことでエレボニア・カルバードの二大国に対して”下克上”を果たした新興の大国――――”クロスベル帝国”。クロスベル帝国の帝都となった”光と闇の帝都クロスベル”の郊外にある遺跡の一つである”星見の塔”の屋上に光に包まれたピンク髪の女子達が現れた。

「う、う~ん………今の光は一体………――――!クルト君、ミュゼ、それにアルも!みんな、無事!?」

「ああ……何とかな………」

「私も問題ありませんわ。」

「同じく身体・精神共に異常はありません。」

ピンク髪の女子―――ユウナは目覚めた後すぐに自分達の状況を思い出して我に返った後それぞれ自分の近くに倒れている仲間達―――蒼灰髪の男子―――クルトと、ミント髪の女子―――ミュゼ、そしてインナー姿の銀髪の少女―――アルティナに呼びかけ、呼びかけられた3人はそれぞれ起き上がって無事である事を返事をした。

「よかった~……って、ここってもしかして……”星見の塔”の屋上!?何であたし達がここにいるの!?あたし達、さっきまで”黒キ星杯”の最下層にいたのに……!?」

「………恐らく教官が咄嗟に騎神の”精霊の道”を使ってわたし達だけあの場から離脱させたからだと。」

自分が今いる場所に混乱しているユウナにアルティナは辛そうな表情で自身の推測を答え

「あ…………教官…………」

「……くっ………!」

「あれから……教官達は………エレボニア帝国はどうなったのでしょうね……」

アルティナの推測を聞いて自分達が星見の塔の屋上に転移する前に起きた”ある出来事”を思い出したユウナは辛そうな表情で顔を俯かせ、クルトは悔しさや自分の無力さによって唇を噛みしめ、ミュゼは重々しい様子を纏って呟いた。するとその時何かの咆哮が聞こえ、咆哮を聞いたユウナ達が身構えると翼竜型の魔獣が空から現れてユウナ達の前に着地した!



「翼竜型の魔獣……!」

「”D∴G教団事件”や”クロスベル動乱”時に現れたタイプと同タイプのようですね。」

「以前の演習でこちらに来た時は見かけなかった事を考えると手配魔獣として現れたか、もしくは”黒キ星杯”での出来事が関係しているかもしれませんね。」

魔獣の登場にクルトは表情を引き締め、アルティナとミュゼは冷静な様子で分析した。

「ああもう……!教官達がどうなったかとか確かめたい事はたくさんあるって言うのに……!早く倒して、星見の塔から脱出した後現状を確かめるわよ!」

「言われるまでも無い!」

「宰相達の盤面を阻止し、教官達の救出に向かう為にも、この窮地、切り抜けさせて頂きます……!」

「戦術リンク、セットアップ!敵の制圧を開始します……!」

「―――――!」

そしてユウナの号令を合図にクルト達はそれぞれ決意の表情になって魔獣との戦闘を開始した!



「「アークス駆動―――」」

ミュゼとアルティナはそれぞれ味方に身体能力の上昇等の援護アーツを発動する為に戦術オーブメントでアーツの駆動を開始したが

「―――――!!」

「きゃっ!?」

「くっ!?」

「やんっ!?」

「あうっ!?」

敵はオーブメントの駆動を妨害する”魔”の気を纏った衝撃波を広範囲に発生させるクラフト―――魔塊烈風でユウナ達に攻撃し、更にミュゼとアルティナのオーブメントの駆動を中断させた。

「ハァァァァァァ……そこだっ!」

「――――」

クルトは反撃に光と闇の斬撃波を解き放つクラフト―――双剋刃を放ったが、敵は空へと飛んで回避し

「この……っ!」

更に空目がけて放ったユウナのガンブレイカーの銃の部分による射撃を空を縦横無尽に飛んで回避した後ユウナとクルト目がけて急降下して時属性のブレス―――ダークブレスを二人に放った。

「きゃっ!?」

「ぐっ!?」

襲い掛かる闇のブレスに反応しきれなかった二人はダメージを受け

「援護します――――蒼き鳥よ!」

「!?」

ミュゼは蒼きエネルギーによってできた鳥を銃弾として解き放つクラフト―――オワソーブルーを放ち、襲い掛かる蒼き鳥に命中した敵は怯んでユウナとクルトへの攻撃のブレスを中断し

「回復します――――アルジェムヒール!!」

「―――――」

アルティナはユウナとクルトにクラウ=ソラスで回復エネルギーを放って二人の傷を回復した。



「ありがとう、アル!ハァァァァァァ……喰らえっ!!」

「!?」

傷を回復してもらったユウナは電撃を流し込んだガンブレイカーで斜め十字(クロス)の打撃を叩き込んで敵の態勢を崩し

「崩した!」

「もらった!!」

敵の態勢が崩れるとユウナと戦術リンクを結んでいるクルトが追撃を敵に叩き込んだ。

「お二人とも、離れてください!」

「「!!」」

「アークス駆動―――クリスタルフラッド!!」

「ブリューナク起動、照射。」

「―――――――!」

二人が攻撃している間にアーツの準備をすませ、ユウナとクルトに警告をして二人が敵から距離を取るのを確認したミュゼは地面を素早く走る氷の刃を解き放つアーツを放ち、アルティナはクラウ=ソラスに収束したレーザーを解き放たさせた。

「―――――――!!」

ミュゼとクラウ=ソラスによる遠距離攻撃を再び空を飛ぶことで回避した敵は再びクラフト―――魔塊烈風を発動した。



「きゃっ!?」

「くっ!?」

「やんっ!?」

「あうっ!?」

頭上からの逃げ場のない攻撃によってユウナ達は再びダメージを受けた後、それが切っ掛けになってそれぞれ疲弊した様子で息を切らせていた。

「ハァ……ハァ……クッ、さっきから身体が思うように動かない……!?」

「恐らく……黒き聖獣との戦いによる疲労も影響しているのかと……!」

「ハァ……ハァ………クッ……こんな所で、絶対に倒れる訳にはいかないのに……!って、アル、一体何を……!?」

息を切らせているクルトの疑問にミュゼは疲弊した様子で答え、悔しそうな表情をしたユウナだったが、自分達の前に出たアルティナに気づいて目を見開いた。

「教官が皆さんを守る為に黒き聖獣と必死の攻防をしている間に目覚めたわたしはまだ、それ程戦闘による疲労はありません。ここはわたしが敵の注意を惹きつけますので、皆さんはその間に塔内部への撤退、並びに”星見の塔”からの脱出を開始してください。わたしも隙を見て塔内部への撤退をして皆さんの後を追いますので、皆さんは先に撤退してください……!」

「な―――――そ、そんな事、できる訳ないでしょう!?教官達が……あたし達が絶対に助けるつもりだったアルを置いて逃げたりしたら、教官達に申し訳が立たないし、それに………―――あたし達も自分達の事を絶対に許せないわ!」

「僕もユウナと同じ意見だ………!かつては”アルノール皇家”の守護職に就いていた”ヴァンダール家”の一員としても、仲間を置いて敵に背を向けるような事は絶対にしない……!」

「”黒き聖獣”と違い、私達の攻撃も効いています。例え疲弊した今の私達でも、協力すれば勝機を見いだせる相手なのですから、自分を犠牲にする事は考えないでください、アルティナさん……!」

「皆さん………」

自らを犠牲にしてユウナ達を逃がそうとしたアルティナだったが、その決意を許さないユウナ達の決意と自分への気遣いを知り、嬉しさや辛さ等様々な感情を一度に感じた事によって複雑そうな表情をした。



「――――ユウナちゃん達の言う通りね。アルティナちゃんみたいな可愛い女の子が誰かの為に犠牲になる必要なんてないわ!」

するとその時女性の声が聞こえ

「へ………」

「今の声は一体……?」

声を聞いたユウナとクルトが困惑したその時、格闘家のような服装を纏った女性が帽子を被った銀髪の女性と共に塔内部から現れた後空高くへと跳躍し

「落ちなっ!雷神脚!!」

「!?」

敵の頭上から雷撃を纏わせた片足による蹴りを叩き込んで敵を地面に叩き落し

「さあ、治療の時間よ――――――メディカルダンス!!」

帽子を被った銀髪の女性は膨大な癒しの魔力で形成した主に医療手術等で使う”メス”を放ち、癒しの魔力でできた”メス”はユウナ達に命中するとユウナ達の傷を全回復させて消えた。

「貴女達は一体………」

「ええっ!?ど、どうしてリンさんとエオリアさんが今のクロスベルに……!?」

「その様子ですと、お二人はユウナさんのお知り合いのようですわね……という事は、”私達の味方”と判断してよろしいのですか?」

格闘家のような服装を纏った女性―――リンと帽子を被った銀髪の女性―――エオリア・フォーリアの登場にアルティナが呆けている中、二人に見覚えがあるユウナは驚き、ユウナの反応を見たミュゼはリンとエオリアに問いかけた。

「――――細かい話は後だ。まずはあの手配魔獣を制圧するよ!行くよ、エオリア!」

「ええっ!」

そしてリンの号令にエオリアが頷くと二人はユウナ達と共に翼竜との戦闘を再開した。



「喰らいなさい―――そこっ!!」

「!?」

エオリアは先制攻撃に毒薬を塗ったメスを数本素早く投擲するクラフト―――ランセットアローを放ち、エオリアが放ったメスを回避できなかった敵は怯んだ。

「見切れるものなら、見切ってみな――――千手悔拳!!」

「!?」

「崩したよ!」

「追撃するわ――――それっ!」

敵が怯んだ隙に敵に詰め寄ったリンは無数の拳を繰り出して敵の態勢を崩し、敵の態勢が崩れるとリンと戦術リンクを結んでいるエオリアが追撃に風を斬り裂く勢いでメスを投擲するクラフト―――ウィンドエッジを放ち、エオリアが投擲したメスは敵の片目に刺さった!

「―――――――!?」

片目にメスが刺さった事で敵は悲鳴の咆哮を上げてその場で暴れ

「逃がさない――――ヤァァァァァッ!!」

「お熱いのはいかが?――――シュート!!」

敵が暴れている事によってできた致命的な隙を見て好機と判断したユウナはガンブレイカーによる銃弾の嵐を放つクラフト―――ジェミニブラストを、ミュゼは魔導騎銃から数本の追尾する炎の魔剣を解き放つクラフト―――ムーランルージュを放って追撃し

「ハァァァァァァ……―――斬り裂け!!」

「メーザーアーム――――斬!!」

「――――!」

クルトは風を斬り裂く勢いで回転斬りを放つクラフト―――テンペストエッジで、アルティナはクラウ=ソラスによる広範囲の回転斬撃を叩き込むクラフト―――メーザーアームを発動させて追撃した。

「――――――」

集中攻撃をされた敵は近くにいるクルトとアルティナにブレスで反撃する為に口に暗黒のエネルギーを集束したが

「集束せし、光よ、邪悪なる者に裁きを―――――純聖光!!」

「―――――――!!??」

エオリアが発動した魔術によって発生した頭上からの集束した聖光のエネルギーをその身に受けると大ダメージを受けると共に悲鳴の咆哮を上げた。

「こいつで終わりだよ!ハァァァァァァ……!泰斗流奥義――――雷神掌!!」

「―――――!!!!???」

そこに両手に集束した雷が迸る闘気の球体をリンが放ち、リンが放ったSクラフト―――雷神掌を受けた事によってついにダメージに耐えきれなくなった敵は悲鳴を上げながら消滅した!



「あ………」

「勝った………のか……?」

「どうやらそうみたい……ですわね………」

「な、何とか勝てた~………!!」

敵の消滅を確認したアルティナ達は呆けた後安堵や疲労によって地面に膝をついた。

「ふふ……相手は古の魔物の類だったのに、あたし達が来るまでよく持ちこたえたね。さすがは”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”率いる”新Ⅶ組”って所かい?」

「そうね。アルティナちゃんは当然として、蒼灰髪の男の子の双剣やミント髪の女の子の銃も中々よかったし、何よりもユウナちゃんは以前会った時と比べると随分と見違えたわね。」

アルティナ達の様子を見たリンとエオリアはそれぞれ苦笑しながらアルティナ達を高評価していた。

「………?あちらの女性達はアルティナの知り合いでもあるのか……?」

「い、いえ……初対面ですが……」

エオリアのアルティナを知っているような口ぶりを聞いたクルトに視線を向けられたアルティナは困惑の表情で否定した後エオリアとリンを見つめ

「そ、そんな……アルティナちゃんったら、酷い……一緒に協力した期間は短かったけど、”碧の大樹”では最初から最後までロイド君達やリィン君達と一緒に協力して攻略した仲なのに、もう私の事を忘れているなんて……!」

「え………」

「へ!?ア、アルやリィン教官、それにエオリアさんがロイド先輩達と一緒に”碧の大樹”を攻略したって……!そんな話、初耳ですよ!?というかそれ以前にどうしてリンさんとエオリアさんが今のクロスベルにいられるのですか……!?クロスベル支部はクロスベルがエレボニアの属州になって以降、エレボニア政府の指示で撤退させられたのに………」

「”支部”が帝国政府の指示で撤退させられた……?―――――!まさかその二人は……」

「”支える篭手”の紋章………なるほど、”そう言う事”だったのですね。だから昔からお二人を知っているユウナさんはこの場―――いえ、クロスベルの地に”遊撃士”であるお二人が現れた事に驚いていらしたのですね。」

自身の答えを聞いてショックを受けた様子で呟いたエオリアの言葉を聞いたアルティナが呆けている中ユウナは驚いた後困惑の表情でリンとエオリアを見つめ、二人の正体を察したクルトは驚きの表情で二人を見つめ、クルト同様二人の正体を察したミュゼは冷静な様子で二人を見つめた。



「!?ちょっと待ちな。今、いくつか聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど、それってどういう事なんだい?」

「へ……”聞き捨てならない言葉”って、どれの事ですか?」

一方ユウナの言葉を聞いて驚きのあまり血相を変えたリンは真剣な表情でユウナに問いかけ、問いかけられたユウナは不思議そうな表情で問い返した。

「クロスベル支部が撤退させられた事やユウナちゃんが私がロイド君達と一緒に”碧の大樹”を攻略した事が”初耳だ”って言った事もそうだけど、何よりも一番気になるのは”クロスベルがエレボニアの属州になっている事”よ。クロスベルは1年半前にクロイス家とイアン・グリムウッド弁護士が起こした動乱終結後―――いえ、終結する直前あたりの時期に”クロスベル帝国”を”建国”してメンフィル帝国と連合を組んで旧カルバード共和国を滅ぼした所か、その”建国”も西ゼムリア大陸の各国に加えてクロスベル自治州の”宗主国”であったエレボニア帝国も認めた挙句、”七日戦役”でメンフィル帝国に奪われたエレボニア帝国の領土の一部もクロスベル帝国に贈与されてクロスベル帝国領化したから、むしろ”属州”になったのはエレボニア帝国の一部の領土よ?」

「な―――――――」

「”クロスベル帝国”、ですか……?」

「それに”クロスベルの国としての建国をエレボニアが認めた事”もそうですが、カルバード共和国がクロスベルと”メンフィル帝国”という今まで聞いた事がない国家に滅ぼされた話やエレボニアの領土の一部が奪われる切っ掛けになったと思われる”七日戦役”という戦争も非常に気になりますわね……(最初は何らかの要因で”過去に飛ばされた”と思いましたが、どうやら”時間移動に加えてとてつもない想定外の出来事”が起こったようですわね……)」

「な、な、なななな、なんですって~~~~~~~~~~~~~!?」

エオリアの話を聞いたクルトは驚きのあまり絶句し、アルティナは困惑の表情を浮かべ、ミュゼは真剣な表情で呟いた後ある推測をし、ユウナは口をパクパクさせた後信じられない表情で声を上げた。

「一体どうなっているんだい………?」

「う~ん………これは私の推測だけど、多分今私達の目の前にいるユウナちゃん達は”私達が知っているユウナちゃん達”じゃないのでしょうね………」

一方リンもユウナ達の反応を見てアルティナのように困惑し、エオリアは表情を引き攣らせて自身の推測を口にした。



その後リンとエオリアは互いが知る情報が食い違っている為、互いの情報交換をする為に帝都クロスベルにある遊撃士協会の支部まで同行し、そこで受付のミシェルも交えて情報交換を行いたいという申し出をし、二人の申し出に対してユウナ達は少しの間考えたり相談した後申し出を受ける事にし、リンとエオリアと共に星見の塔を降りて帝都クロスベルに向かった―――――


 
 

 
後書き


え~………今回の話でお気づきと思いますが閃Ⅳの布石となるキャラ達はまさかの原作ED手前のラストイベント時の新Ⅶ組メンバーです(汗)一体、このユウナ達はどの世界のユウナ達なんでしょうねー(遠い目)そしてこのユウナ達の登場によって原作閃Ⅳはどこまで原作崩壊しているのやら(汗)なお、今回の戦闘BGNは閃Ⅲの”Erosion of Madness”だと思ってください。
 

 

異伝~終焉に諍う英雄達の来訪~第2話

同日、14:30―――



~クロスベル帝国・光と闇の帝都クロスベル・西門付近~



「これは……ヘイムダルと街道を結ぶ出入り口である”門”と比べても遜色がない立派な”門”だな……」

「一体どういう事でしょう……?以前の”特別演習”でもクロスベルを訪れましたがその時はこのような”門”は無かったのですが……」

「それも”リンさん達が知るクロスベル”と”私達が知るクロスベル”の”違い”が関係しているのでしょうね。……ユウナさん、念のためにお聞きしますが、クロスベルは以前からこのような”門”はありませんでしたよね?」

「あ、当たり前よ!というか、クロスベルでの”特別演習”の時にミュゼもⅨ組やⅧ組の人達と一緒にオルキスタワーの警備をする為にクロスベルを訪れたんだから、クロスベルにこんな”門”が無かった事くらい、ミュゼも知っているでしょう!?」

クロスベルと街道を結ぶ巨大な”門”に到着し、”門”を見たクルトは呆け、アルティナは困惑し、落ち着いた様子で質問してきたミュゼに対してユウナは疲れた表情で答えた。

「”特別演習”に”オルキスタワーの警備”、ね…………」

「まさかとは思うが来月に行われる”三帝国交流会”の事を言っているのかもしれないね……まあ、それはともかく。――――ようこそ、”光と闇の帝都”クロスベルに。」

ユウナ達の会話を聞き、エオリアと共に真剣な表情を浮かべていたリンは気を取り直して口元に笑みを浮かべてユウナ達に歓迎の言葉をかけた。その後ユウナ達はリンとエオリアの案内によって、遊撃士協会の支部に向かった。



~遊撃士協会・クロスベル支部~



「あら、リンにエオリアじゃない。お帰りなさい、どうやらその様子だと”星見の塔”の手配魔獣は予想よりも早く討伐できたみたい……って、あら?どうしてその娘達がここに……今月のトールズ第Ⅱ分校の”特別演習”はアルトリザスで、今日終わったばかりでしょう?なのに、どうして”新Ⅶ組”の娘達がクロスベルにいるのかしら?」

「?僕達の事をご存知なのですか?」

リン達が遊撃士協会の支部に入ると独特の口調を持つ受付の男性―――ミシェルはリン達と共にいるユウナ達に気づくと目を丸くし、ミシェルが自分達を知っているような口ぶりを不思議に思ったクルトはミシェルに訊ねた。

「フフ、遊撃士協会の情報網を舐めてもらっては困るわよ?けどおかしいわね……確か情報だと”新Ⅶ組”のメンツはユウナに黒兎のお嬢ちゃん、それにヴァンダールの次男だけだったはずだけど………」

「へ…………」

「どうやらその口ぶりですとミュゼさんとアッシュさんが”新Ⅶ組”に転属した事をご存知でない様子ですが………」

「いえ、恐らく”知らない”のではなく、”この世界の新Ⅶ組に私とアッシュさんはまだ転属していない時期”なのですから、独自の情報網を持つ遊撃士協会の受付の方もご存知でないのは当然かと。」

ミシェルの話を聞いたユウナが呆けている中、戸惑いの表情をしているアルティナにミュゼは自身の推測を口にした。

「君とアッシュが”まだⅦ組に転属していない時期”という事は……まさか、僕達は過去のクロスベルに飛ばされたのか!?」

「いえ、正確に言えば”過去の並行世界のゼムリア大陸”に飛ばされたかと。そうでなければ、帝国の属州化したクロスベルがエレボニアから独立したどころか”帝国”として建国している事もそうですが、私達が知らない事実をエオリアさん達は世間一般の事実として認識している事に説明がつきません。」

「へ、”並行世界”って……!物語とかに出てくる、同じ世界でありながら中身は全く違う世界っていうあれの事……?い、一体何がどうなっているのよ~!?アル、もしかしてヴァリマール―――ううん、”騎神”には並行世界の過去に飛ばす機能とかもあるの?」

驚いている様子のクルトの推測を冷静な様子で否定したミュゼの説明を聞いたユウナは信じられない表情で声を上げた後アルティナに訊ね

「いえ、わたしも教官からそんな機能がある事は聞いた事がありません………というかそれ以前に幾ら騎神といえど、そのような非常識な性能は搭載していないかと。」

訊ねられたアルティナは疲れた表情で答えた。

「へ、”並行世界の過去”って……ハア……そう言った非常識過ぎる出来事は1年半前の件で終わりだと思っていたのだけどね………」

「というかむしろ、あの時以上の非常識な出来事じゃない……」

「やれやれ……どうやらあたし達はとんでもない事情を抱えた娘達を拾ったみたいだね。まあその件は一旦置いておくとして、まずはお互いの自己紹介を始めた方がよさそうだね――――」

一方ユウナ達の様子を見守り、ユウナ達が何者かを察したミシェルは表情を引き攣らせた後エオリアと共に疲れた表情で溜息を吐き、リンは苦笑した後気を取り直して提案をした。その後その場にいる全員は互いの自己紹介をした。



「なるほどね……新Ⅶ組のメンツの事情に多少の違いはあれど、ある程度は同じみたいね。」

「そうね……まあ、アルティナちゃんに関しては私達の世界のアルティナちゃんの事情と比べると全く違うけどね。」

「え…………」

「へ……こっちの世界のアルとあたし達の傍にいるあるの事情が全く違うってどういう事ですか?」

溜息を吐いたミシェルの言葉に続くように苦笑しながら答えたエオリアの答えを聞いたアルティナは呆け、ユウナは不思議そうな表情でエオリアに訊ねた。

「まず私達の世界のアルティナちゃんが新Ⅶ組に所属する前に所属していた組織はエレボニアの”情報局”じゃないもの。」

「ええっ!?」

「………ちなみにこちらの世界のアルティナは新Ⅶ組に所属する前はどのような組織に所属していたのですか?」

エオリアの答えを聞いたユウナが驚いている中クルトは質問を続けた。

「う~ん……”組織”というか、一般家庭に所属している……って言うべきかい?」

「”所属”なんて言い方をしたら、リィン君達が良い顔をしないのじゃないかしら?リィン君達にとってアルティナちゃんは家族同然の存在だもの。」

「それ以前に大貴族に昇格する事が確定しているシュバルツァー家は”一般家庭”じゃないでしょ。」

困った表情で答えたリンにエオリアとミシェルはそれぞれ苦笑しながら指摘し

「………………………」

「アルティナさんがリィン教官やエリゼ先輩――――”シュバルツァー家”の”家族同然の存在”、ですか?それは一体どういう事なのでしょうか?」

「しかも教官の実家―――”シュバルツァー家”が大貴族に昇格する事が確定しているとも仰っていましたが……」

リン達の会話を聞いていたアルティナは呆けた表情で黙り込み、ミュゼとクルトは困惑の表情でリン達に訊ねた。



「私達の世界のアルティナちゃんは様々な事情によってリィン君達――――シュバルツァー家に引き取られて、シュバルツァー家の使用人としての立場なのよ。ちなみにシュバルツァー家は”男爵”から”公爵”に昇格する事が確定しているわ。」

「な―――――」

「ええっ!?ア、アルが教官とエリゼさんの実家の使用人!?」

「しかもシュバルツァー家が”公爵家に昇格”する事が確定、ですか……一体何があってそのような事に……」

エオリアの説明を聞いたクルトは驚きのあまり絶句し、ユウナは信じられない表情で声を上げ、ミュゼは信じられない表情をし

「まあ、使用人とは言っても、リィン君達もそうだけど、リィン君達のご両親のシュバルツァー男爵夫妻も本当の家族のようにアルティナちゃんを可愛がっているらしいけどね。」

「………こちらの世界のアルティナの事情は僕達の世界のアルティナの事情とは随分違うんだな………」

「これも私達が知る世界と似て非なる世界―――並行世界である証拠、という事でしょうね。」

「………わたしが教官やエリゼさんの実家の使用人で家族………………あの、一体何があってこちらの世界のわたしはそのような事になっているのでしょうか?まさかこちらの世界のわたしは1年半前の内戦時、貴族連合軍の”裏の協力者”の一人として貴族連合軍に所属していなかったのでしょうか……?」

更なる驚愕の事実を知ったクルトが戸惑っている中ミュゼは静かな表情で答え、呆然とした様子で聞いていたアルティナは我に返ると困惑の表情でエオリア達に訊ねた。そしてエオリア達はアルティナがシュバルツァー家の使用人になった経緯―――――”七日戦役”や”七日戦役”でのエレボニア帝国の戦争相手であるメンフィル帝国について説明した。



「………………………」

「ゼムリア大陸とは異なり、天使や悪魔、それに獣人や妖精と言った空想上の種族が実際に存在している事に加えて複数の”神”までも現存している世界――――”ディル=リフィーナ”の大国の一つである”メンフィル帝国”、ですか。」

「しかも14年前の”百日戦役”の結末すらもそのメンフィル帝国という国の存在でエレボニアはセントアークを始めとしたいくつかの領土を失う形になり、更に”七日戦役”という戦争でおよそ半分に当たる領土を手放している上和解の為に”ハーメルの惨劇”まで公表しているとはな……」

「正直な所、共通している部分はわたし達の世界の人物だけで国家の事情を含めればほとんど”別世界”と言ってもおかしくない世界ですね。リィン教官が旧Ⅶ組の出身ですらない上エリゼさんはアルフィン皇女殿下の御付きの方でもないのですから、この世界の教官やエリゼさん、わたしに関しては似ているのは容姿だけで性格等に関してはほぼ”別人”かもしれませんね。」

”七日戦役”やメンフィル帝国の事を知ったユウナは驚きのあまり口をパクパクさせ、ミュゼは真剣な表情で呟き、クルトは重々しい様子を纏って呟き、アルティナは疲れた表情で呟いた。

「ちなみにアタシ達の世界の灰色の騎士の坊やは好色家の一人としても有名でね。”七日戦役”の和解条約の一つとしてエレボニアのアルフィン皇女と既に結婚している上、他にも婚約者が8人もいるのよ?」

「えええええええええええええええっ!?きょ、教官が既に結婚していて、その相手がアルフィン皇女様で、しかもそこに加えて婚約者が8人!?」

「………どうやらこの世界の教官はとんでもなく不埒な存在になっているみたいですね。」

「というか皇女殿下を既に娶っている事に加えて8人も婚約者がいるなんて、色々と滅茶苦茶だな………」

「うふふ、まさに”英雄色を好む”、ですわね♪こちらの世界の私が羨ましいですわ………こちらの世界の教官でしたら、私の事も教官の伴侶の一人として受け入れてくださる事も容易でしょうし♪」

ミシェルの口から出た驚愕の事実にユウナは驚きの声を上げ、アルティナはジト目で呟き、クルトは疲れた表情で溜息を吐き、ミュゼはからかいの表情で答えた。

「ミュゼ、あんたね…………っていうか、あたし達の世界の教官の恋人はアリサさんとエリゼさんですけど………もしかしてその教官の8人の婚約者の中に二人も入っているんですか?」

「ええ、勿論その二人もいるわよ。――――しかもエリゼちゃんは数多くいるリィン君の妻の中でも正妻になる予定との事よ。」

「皇女殿下が先に教官の伴侶として嫁いでいらっしゃっているのにエリゼさんが”正妻”、ですか………」

「まあ、教官のエリゼさんに対する普段の接し方を考えるとある意味納得ですね。」

「ふふ、先に教官と結婚なさった姫様を差し置いて教官の”正妻”になるなんて、私達の世界のエリゼ先輩と姫様が知れば、どのような反応をなさるでしょうね♪」

ミュゼの発言に呆れた後疲れた表情で訊ねたユウナの質問に答えたエオリアの答えを聞いたクルトは信じられない表情をし、アルティナはジト目で呟き、ミュゼは小悪魔な笑みを浮かべた。

「まあ、リィン君自身は自分が世間から”好色家”とみられている事に大変不本意……というか、『何でそんな風にみられるんだ……誤解だ!』と頭を抱えて叫んだ事もあるそうだけどね。」

「誤解も何も、ロイド先輩みたいに本物のハーレムを築いているんだからその通りじゃない………っていうか、よくよく考えてみるとあたし達の世界の教官の周りの女性事情も変わらない気がしてきたわ……他の旧Ⅶ組の女性の大半の人達もそうだけど、クレア教官やアルフィン皇女様、それにトワ教官も怪しいし………」

「……教官の事情はともかく教官自身の性格や考え等に関してはわたし達の世界の教官と一致しているかもしれませんね。」

エオリアの説明を聞いて冷や汗をかいて表情を引き攣らせたユウナは呆れた表情で呟き、アルティナはジト目で呟いた。



「まあ、真面目な話をすると”七日戦役”勃発の件でメンフィル帝国内でのアルフィン皇女の立場は正直、かなり不味い立場だって話だったからね。それを考えると自国の跡継ぎの皇女の専属侍女長を務めている事で自国の皇族や貴族達の信頼がある灰色の騎士の義妹を差し置いてアルフィン皇女を正妻にするなんて、メンフィル帝国からすればそっちの方が絶対に許容できない話だっただろうね。むしろ、アルフィン皇女自身にとってはその方がよかったと思うよ。和解条約の件で灰色の騎士とアルフィン皇女の結婚が決まるまでに灰色の騎士は既に6人もの婚約者がいて、その事によってアルフィン皇女は灰色の騎士の妻としての序列は低い妻として灰色の騎士に嫁いだお陰で皇族の重圧や責任から解放された上、メンフィル帝国内での社交界みたいなメンフィル帝国の上流階級達が集まるパーティーとかにも出席する必要もないからね。」

「……それは………」

「えっと………どうして、教官の妻としての序列が低いお陰でパーティーとかにも出席しなくていい事がアルフィン皇女様にとって良い事なの?」

静かな表情で語ったリンの説明を聞いて事情を察したクルトが複雑そうな表情を浮かべている中事情がわからないユウナは不思議そうな表情で自身の疑問を口にした。

「先程”七日戦役”の説明でシュバルツァー卿を頼ってユミルに避難していた姫様がユミルに滞在し続けていた事が原因でアルバレア公が雇った猟兵達がユミルを襲撃したという話があった事は覚えていますわよね?メンフィル帝国からすればユミルに滞在していた姫様は、猟兵達が自国の領土を襲撃した”元凶”の一人として見ているでしょうから、その件を踏まえるともし姫様がメンフィル帝国内での社交界等に出席をすれば、メンフィル帝国の上流階級の方達からは厳しい目で見られたり時には嫌味等を言われたりする可能性もあるのです。」

「通常伴侶がいる貴族が社交界等に出席する場合同行するのは正妻で、他にも側室や妾がいても、同行させるのは正妻以外だとせいぜい序列が2位や3位の女性だ。さすがに9人もの伴侶がいる貴族は聞いた事はないが………少なくても妻としての序列が7位の皇女殿下がメンフィル帝国の社交界等に出席する必要はないから、リンさんは”良かった”って言っていたんだ。」

「な、なにそれ………アルフィン皇女様は被害者なのに、何でそんな風に見られなくちゃならないのよ……!あたし、貴族や皇族のそういう所が全く理解できないわ!」

ミュゼとクルトの説明を聞いたユウナは怒っている様子で答えた。

「ちなみに先程から気になっていたのですが、ミシェルさん達はリィン教官の事をよくご存知のような口ぶりですけど………こちらの世界のリィン教官はミシェルさん達――――クロスベルの遊撃士協会の関係者達とも親交があるのですか?」

「親交があるも何も彼、所属していた期間は短かったけど”特務支援課”が再開されてからIBCによる各国に対する”資産凍結”が行われるまで”特務支援課”に所属していたんだから、支援課の坊や達と一緒に彼もアタシ達と連携して協力する事があったのよ?」

「…………………え。」

「こちらの世界のリィン教官はランドルフ教官やティオさんがかつて所属していた”特務支援課”に……………」

アルティナの質問に対して答えたミシェルの答えを聞いたユウナは一瞬固まった後呆けた声を出し、クルトはユウナを気にしながら驚きの表情で呟いた。



「えっと……ミシェルさんは教官が”特務支援課”が再開されてから配属されたって言っていましたけど、それって”特務支援課”の増員としてワジ先輩やノエル先輩も特務支援課に配属された頃ですか……?」

「ええ、そうよ。そう言えばさっき灰色の騎士の坊やが支援課のリーダーの坊やみたいにハーレムを築いているって言っていたけど………もしかして、そっちの世界の支援課のリーダーの坊やもハーレムを築いているのかしら?」

ユウナの問いかけに頷いたミシェルはある事が気になり、苦笑しながら訊ねた。

「ええ………一応現時点で正式にお付き合いしている相手はエリィ先輩と(イン)さんですけどティオ先輩やノエル先輩もいつかエリィ先輩達みたいにロイド先輩と付き合う事を目指している話を聞いた事がありますし、レン先輩も正直怪しいんですよね………」

「へ………”レン”って、まさかとは思うけど菫色の髪の小悪魔な性格をしていて、あらゆる才能に恵まれている女の子の事を言っているのかしら?」

ユウナの説明から意外な人物の名前が出た事に驚いたミシェルは一瞬呆けた後ユウナに確認した。

「あ、はい。レン先輩は支援課にいた期間はマクダエル議長の暗殺未遂事件が起こるちょっと前あたりからD∴G教団事件解決後一端支援課が休止したあたりですけど、1年半前のクロスベル動乱の時に仲間の人達と一緒に駆けつけてロイド先輩達に合流して、クロスベルを覆っていた結界を守っていた結社の”執行者”や”蛇の使徒”を退けた後クロスベルの解放や碧の大樹の攻略にも力を貸してくれたんです。」

「驚いたわね………まさか、あの”殲滅天使”が”特務支援課”に所属していたなんてね。しかも支援課やクロスベルの危機に駆けつける程仲間想いな性格をしているなんて、こっちの”殲滅天使”を知っている側としたら正直想像できないわ。」

「そんな事よりもティオちゃんに加えてあのレンちゃんまで支援課にいた事が重要よ!クッ、世界は違えど可愛い女の子達がいろどりみどりなのは一緒だなんて、可愛い女の子達に恵まれている支援課の運が羨ましいわ……!」

「ハア………こんな時くらいその悪い癖を抑える事はできないのかい?………しかしそっちの世界では一体何があってあの”殲滅天使”が特務支援課に所属していたんだろうねぇ……」

ユウナの口から出た驚愕の事実にミシェルは目を丸くし、本気で羨ましがっているエオリアの様子にユウナ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中呆れた表情で溜息を吐いたリンは苦笑した。



「………”殲滅天使”?その異名はレン先輩の妹さんの異名で、あたし達の世界のレン先輩自身の異名はそんな異名じゃないですよ?」

「あら?そちらの世界の殲滅天使―――いえ、”レン”には妹がいて、その妹の異名が”殲滅天使”なのかしら?」

「はい、レン先輩そっくりの双子の妹さんで名前は偶然にもあたしと同じ”ユウナ”って名前です。何でも昔は元結社の”執行者”で恐らくその関係だと思うのですけど実の姉のレン先輩との仲も相当悪かったらしくて、D∴G教団事件解決後色々あって仲直りした上レン先輩の実家――――ブライト家の一員になったそうです。あ、それと”パテル=マテル”っていう結社が開発した騎神や機甲兵クラスの人形兵器の操縦者でもあります。」

「ちなみに”ブライト家”とは恐らくそちらの”ブライト家”と同じだと思うのですがリベールの英雄―――”剣聖”カシウス・ブライトの実家です。」

新たな驚愕の事実がユウナとアルティナの口から出るとミシェル達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「なんていうか………改めてその娘達の世界はアタシ達の世界とは全然違う事が思い知らされたわね………」

「そうね……レンちゃんに双子の妹がいて、その妹が元結社の執行者兼パテル=マテルの操縦者である事もそうだけど、その妹やレンちゃんがまさかカシウスさんやエステル達の家族になっているなんて、一体何があってそうなったのか本気で知りたくなってきたわね………」

「ちなみにそっちの世界の”殲滅天使”……じゃなかった。”レン”はどんな異名を持っているんだい?ユウナの口ぶりだと、そっちの世界の”レン”も異名を持っている程の有名な存在なんだろう?」

我に返ったミシェルは疲れた表情で溜息を吐き、エオリアは苦笑し、ある事が気になったリンは興味本位の様子でユウナ達に訊ねた。

「えっと確か………”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”って異名で呼ばれているサラさんやアガットさんと同じA級正遊撃士です。」

「――それと兄上や教官達―――旧Ⅶ組の人達からの又聞きになるのですが………レンさんは”八葉一刀流”に彼女の義兄にあたる”焔の剣聖”が”八葉一刀流”と共に修めている剣術である”アルバート流”、そして”アルゼイド流”と15歳という若さで3つもの異なる剣術の”免許皆伝”を修めている正に”武”の才能に愛されていると過言でもない双剣士で、その事から”小剣聖”、”菫風の双剣姫”とも呼ばれていて剣士としてもとても有名な存在です。」

「加えて”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”は剣術以外にも様々な武装の使い手でもあり、剣術の他には双銃、魔導杖(オーバルスタッフ)、そして体術に関しては教官も修めている”八葉一刀流”の体術に加えて”泰斗流”も修めているとの事です。」

「な――――そっちの”レン”は遊撃士―――それもA級正遊撃士で”八葉一刀流”を含めた3つもの剣術を”免許皆伝”している事に加えて、銃に魔導杖、更には泰斗流まで扱えるのかい!?」

「さっすがレンちゃん!世界は違えど、可愛い事が最強である事を証明しているわね!」

「そんな驚愕の事実を知ってもアンタは全然ブレないわねぇ…………それにしてもそちらの世界の”レン”は戦闘能力に関してはこっちの世界の”レン”を上回っているのじゃないかしら?………って、今”レン”の義兄に当たる”焔の剣聖”って名前が出て来たけど、まさかその人物もブライト家の人物なのかしら?」

ユウナとクルト、アルティナの説明を聞いたリンは信じられない表情で声を上げ、嬉しがっている様子のエオリアに呆れたミシェルは溜息を吐いた後ある事に気づいた。



「はい。――――”焔の剣聖”ルーク・ブライト。年齢は30歳前後の男性でリィン教官と同じ”八葉一刀流”と彼自身が元々修めていた”アルバート流”の二つの剣術を修めているA級正遊撃士で、レンさん同様S級正遊撃士候補だとの事です。」

「なお、ルーク・ブライトはブライト家に来るまでの経緯が不明で、”百日戦役”末期劣勢になった帝国軍によるロレント襲撃時に現れて逃げ遅れたロレントの市民達の避難誘導等を行い、その後ブライト家の養子になったとの事です。」

「へ~……そっちの世界のブライト家も一家揃って凄腕の遊撃士揃いで、S級候補である事まで一緒だなんてね……そう言えば、アナタ達の口ぶりだとそっちの世界の灰色の騎士の坊やは旧Ⅶ組に所属していたみたいだけど……どうして旧Ⅶ組がそっちの世界の”レン”を知っているのかしら?」

クルトとアルティナの説明を興味ありげな様子で聞いていたミシェルはある事を思い出してユウナ達に訊ね

「!……え、えっと……それは………」

「――――レンさんは旧Ⅶ組のメンバーでもあった為、教官達もレンさんの事をよくご存知なのです。」

ある事情を思い出したユウナが気まずそうな表情で答えを濁しているとミュゼが静かな表情でミシェル達にとって再び驚愕の事実となる情報を答えた―――――
 
 

 
後書き
え~……今回の話で閃Ⅳの布石となる為に登場したユウナ達の世界は原作軌跡シリーズではなく、まさかの世界だと気づいたと思います(ガタガタブルブル)そして閃Ⅳも当然書くつもりで某世界観のユウナ達を登場させた訳ですから………もしかしたらまさかのキャラ達同士による共闘、共演が実現するかもしれません(ぇ)ちなみに現時点で閃Ⅳ参戦を予定している光と闇の軌跡側のクロスオーバーキャラは戦女神陣営並びに神採り陣営の一部、それと空を仰ぎて雲高くシリーズのキャラ達です(冷や汗)なお、帝都クロスベルのBGMは魔導巧殻の”胎動 ~帝国の未来を見据えて~”で、ユウナ達が自分達の世界のレン達の事を話し始めた時のBGMはアビスの”Crimson pride”か”The last chapter”だと思ってください。


 

 

異伝~終焉に諍う英雄達の来訪~第3話

~遊撃士協会・クロスベル支部~



「なん……ですって!?旧Ⅶ組――――トールズ士官学院生って事はレンちゃんが学生服を着ていたって事じゃない……!クッ……一度でいいから、学生服姿のレンちゃんをこの目で見たかったわ……!」

「ハア………あの娘なら頼めば案外面白半分で学生姿のコスプレをしてくれるのじゃないかしら?第一、あの娘は本来だったら学生服を着ていてもおかしくない年齢だし。それにしてもあの”殲滅天使”が学生だなんて、そっちもそっちで想像し辛いわねぇ……」

「ハハ、こっちの”殲滅天使”は教官を務めているから、余計に想像し辛いね。」

ミュゼの答えを聞いて真剣な表情で声を上げたエオリアの様子にその場にいる全員が冷や汗をかいて脱力した後ミシェルは呆れた表情で指摘した後リンと共に苦笑し

「へ……そっちの世界のレン先輩は教官を務めているって言っていましたけど………」

「ああ、こっちの世界の”レン”はあんた達の学校――――トールズ第Ⅱ分校の教官を務めているんだよ。」

「ちなみに担当しているクラスは確か……”主計科”だったかしら。」

「まあ………」

「ええっ!?レ、レン先輩がⅨ組―――”主計科”の担当に……!?あれ?それじゃあトワ教官は………」

リンとミシェルの説明を聞いたミュゼが目を丸くして驚いている中信じられない表情で声を上げたユウナはある事に気づいて戸惑いの表情をし

「”トワ”って確か1年半前の内戦時”紅き翼”の艦長代理を務めていたトールズ本校の才媛だったわよね?その娘なら、”主計科”の副担任として第Ⅱ分校に務めているわよ。」

「僕達の世界の第Ⅱ分校には”副担任”なんて存在はいなかったのですが………これも”世界の違い”か。」

「もしかしたらⅧ組やⅦ組にも副担任がいるかもしれませんね。………ちなみに先程から気になっていたのですが、そちらの世界のレンさんはどのような立場の方なのでしょうか?」

ミシェルの答えを聞いたクルトは驚きの表情で呟き、アルティナは静かな表情で推測を口にした後ミシェル達に訊ねた。



「アタシ達の世界のレン―――いえ、レン皇女はメンフィル帝国の皇女の一人で、異名は”殲滅天使”。”天使”のような可憐な容姿を持ちながら殺戮を愉しむ事からその異名がついたちょっと……いえ、かなり問題がある悪癖がある皇女で、才能も頭脳を含めてそっちの世界のレン皇女同様あらゆる才能に長けていて、4年前の”リベールの異変”で結社から奪い取った人形兵器――――”パテル=マテル”の操縦者でもあるわ。」

「ちなみにレンちゃんの武装は物語とかで出てくる”死神”が持っているような戦闘用に改造された”大鎌”よ。」

「ええっ!?レ、レン先輩がお姫様!?しかも結社から人形兵器――――パテル=マテルを奪い取ったって……!」

「それも先程話に出て来た異世界の大国―――”メンフィル帝国”の皇女、ですか。」

「しかもわたし達の世界の”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”の双子の妹の異名や性格、パテル=マテルの操縦者である事が一緒である事に加えて武装まで一致しているなんて、一体どういう事なんでしょう……?」

「ああ……”単なる偶然”とは思えない程、似ている部分があるな………」

ミシェルとエオリアの説明を聞いたユウナは驚き、ミュゼは真剣な表情で呟き、困惑の表情で呟いたアルティナに続くようにクルトは真剣な表情で考え込みながら頷いた。

「そう言えば、ちょっと気になっていたんだけど……そっちの世界のレン皇女を旧Ⅶ組のメンバーが知っている事にユウナは複雑そうな顔で答えを濁していたけど……そっちの世界のレン皇女と旧Ⅶ組は何らかのトラブルがあったのかい?」

「あ……その……トラブルというか……考え方の違いというか…………」

「………こちらの世界のレンさんはD∴G教団事件が終結し、特務支援課が一旦休止になった頃に旧Ⅶ組――――トールズ本校に転入してきたらしいのですが………IBCによる各国に対する資産凍結後エレボニア帝国が緊張状態になった頃にレンさんを心配したご両親―――ブライト家から内戦勃発が近いと噂されているエレボニア帝国の内戦に巻き込まれる前に祖国であるリベール王国に戻ってきて欲しいとの連絡があった為ご両親の意を組んでトールズ本校を休学してリベール王国に帰国。しかし内戦勃発後、貴族連合軍によるトールズ本校への襲撃の際に散り散りになった教官達が全員合流し、更にはオリヴァルト殿下達とも合流した時期に自ら姿を現し、自身は2度と旧Ⅶ組―――いえ、トールズ本校には戻ってこない事を宣言して教官達に一方的な別れを告げたとの事ですわ。」

「……その別れの際に当然教官達もレンさんを引き留めようとしたのですがレンさんの意志は固く……レンさんは自分を引き留めようとする教官達を諦めさせるために最後の機会として自身とレンさんの妹であるユウナさんと戦い、もし勝てたら旧Ⅶ組に戻り、負けたら自身を引き留める事を諦める条件を出して旧Ⅶ組と戦ったのですが………結果はレンさんとユウナさんの”圧勝”だったとの事です。ちなみに内戦終結後レンさんは意図的にエレボニアを避けるかのように祖国であるリベールを始めとしたエレボニア以外の国家や自治州等で遊撃士としての活動をしている為、教官達―――旧Ⅶ組の人達は誰も未だレンさんとの再会を果たしていないとの事です。」

リンの質問にユウナが複雑そうな表情で答えを濁しているとユウナの代わりにミュゼとクルトが詳しい経緯を説明した。



「それはまた…………」

「アリオスさんと同じ”八葉一刀流”の皆伝者で他にも様々な武術を修めているレンちゃんに加えて”執行者”だったというレンちゃんの妹が相手だったら、幾ら学生でありながら内戦終結の鍵となった旧Ⅶ組でも相手が悪すぎたんでしょうね……」

「ああ………旧Ⅶ組って事はサラもいたんだろうけど幾らサラでもさすがにA級―――いや、下手すればS級クラスの正遊撃士と執行者を同時に相手にするのは厳しかっただろうね。けど、そっちの世界のレン皇女は何で特務支援課の時とは真逆の対応をしたんだろうね?」

二人の説明を聞いたミシェルは表情を引き攣らせ、気まずそうな表情で呟いたエオリアの言葉に頷いたリンは不思議そうな表情で自身の疑問を口にした。

「……その”特務支援課”が理由です。」

「アル………」

「”特務支援課”が旧Ⅶ組に別れを告げた理由ってどういう事なのかしら?」

アルティナの答えを聞いたユウナが複雑そうな表情をしているとミシェルが訊ねた。

「教官達の話によると”特務支援課”には”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”にとって返しきれない”恩”があり、更には特務支援課は自分にとっての”本当の仲間”である為、その”恩”を返し、そして”本当の仲間”を救う為にクロスベル動乱時窮地の状況に陥っていた特務支援課を―――クロスベルを助けにクロスベルに向かう為に教官達に別れを告げたとの事です。」

「レンちゃんの特務支援課に対する”恩”って言うと確かエステル達が言っていた………」

「実の両親の件ね………しかもその話だと、旧Ⅶ組は”殲滅天使”にとっての”本当の仲間”じゃなかったみたいだから、別れを告げられた挙句仲間じゃないって言われたそっちの世界の旧Ⅶ組にとってはショックな出来事だったでしょうね………それにしても、別れを告げたタイミングがオリヴァルト皇子達とも合流した頃って言っていたけど、その時オリヴァルト皇子達はその場に同行して、旧Ⅶ組と一緒に”殲滅天使”の説得をしたり、”殲滅天使”達と戦ったりしなかったのかしら?」

アルティナの説明を聞き、エオリアと共に複雑そうな表情をしたミシェルはある事が気になり、ユウナ達に訊ねた。



「勿論殿下達もその場に同行して教官達と一緒に説得しようとしたとの事ですがそれでもレンさんの意志は固く、戦いになった際は殿下達も教官達に加勢しようとしたのですが………」

「レンさんは先程ユウナさんが仰っていたクロスベル動乱時の特務支援課を救う為に連れて行った”仲間”――――”暁の翼”の中でも相当な使い手達を殿下達の相手をさせてその使い手達は殿下達を無力化したとの事です。」

「………”暁の翼”?口ぶりからして何らかの組織みたいだけど、一体どんな集団なのかしら?」

クルトとミュゼの説明を聞いてある事が気になったミシェルは不思議そうな表情で訊ねた。

「――――”暁の翼”。アルセイユⅡ番艦――――”自由の翼アルビオール”を移動手段兼拠点にしている”Ms.L”でもある”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”の協力によって結成された遊撃士協会の特殊部隊です。」

「へ………」

「な――――”遊撃士協会の特殊部隊”だって!?」

「しかも”アルセイユⅡ番艦”を拠点にしているって言っていたけど……それって、”カレイジャス”みたいな高速巡洋艦の事よね?しかもレンちゃんが”Ms.L”とかいう存在でそのレンちゃんの協力によって結成されたって言っているけど、それってどういう事―――いえ、そもそも”Ms.L”ってどういう存在なのかしら?」

アルティナから語られた驚愕の事実にミシェルは呆けた声を出し、リンは驚きの声を上げ、エオリアは表情を引き攣らせて疑問を訊ねた。



そしてユウナ達は”Ms.L”とは神がかっているかのような資産運用によって上場した株や相場で莫大な富を築き、”ラインフォルトグループ”や”エプスタイン財団”のような世界的大企業の大株主の一人でもあり、また経営等の才能も神がかっているのか”Ms.L”が会社経営に口を出せばその企業に莫大な利益をもたらすことから、”現代の福の神”として称えられた存在であり、一個人でありながらIBC(クロスベル国際銀行)を経営していたクロイス家をも超える世界一の資産家である事、”暁の翼”はレンが遊撃士として西ゼムリア大陸内の各国の応援に行っている時に拾ったり保護した様々な複雑な事情によってまともな生活ができなかったり等、社会的立場が”日陰者”である人々がレンの教育や援助を受けた事によってレンに感謝し、レンから受けた恩を返す為にレンの力になったレンを助ける部下にして仲間――――通称”戦天使の勇者達(エンジェリック・エインフェリア)”と呼ばれる者達に加えて様々な組織や武装集団―――――”星杯騎士団”や”西風の旅団”、”北の猟兵”が”Ms.L”であるレンによる交渉によって所属している遊撃士協会直属の特殊部隊で、その目的とは各地の遊撃士協会の支部の応援やリベールの異変のような国家の大事件解決の協力に加えて自治州や小国のような立場の弱い組織や国家等がエレボニアやカルバードのような大国による一方的な武力侵攻が起こった際武力介入して民間人の保護に加えて”戦争を仕掛けてきた側”である軍を撃退する事で組織や国家間の問題の解決を目指す事、そして古代遺物(アーティファクト)の不正利用を行っている国家や組織に対して武力介入をしてでも古代遺物(アーティファクト)を回収する事を目的とした組織であり、本拠地としてアルセイユⅡ番艦である高速巡洋艦―――”自由の翼アルビオール”を所持する事に加えて最新の戦車や軍用飛行艇まで所持している事を説明した。



「国家間の武力衝突に武力介入して相手の軍を撃退するって……要は戦争に武力介入して片方に肩入れするって事じゃないか!しかも高速巡洋艦どころか戦車や軍用飛行艇まで所持しているなんて、もはや”軍”同然の存在じゃないか!何でそっちの世界の遊撃士協会はそんな組織の設立を許したんだい!?そんな組織を設立しちまったら遊撃士協会の中立性を否定しているようなものじゃないか……!」

「しかもレンちゃんがクロイス家を超える資産家で自分が集めたお金や人材でその組織を設立した上”カレイジャス”みたいな”アルセイユ”の姉妹艦に加えて戦車や軍用飛行艇まで手に入れているとか、”西風の旅団”や”北の猟兵”みたいな猟兵団(イェーガー)に加えて”星杯騎士団”――――七耀教会まで協力しているって、色々と突っ込み所や聞きたい事が山ほどある組織ね………」

「ハア………どうやらそっちの世界の”レン”はこっちの世界の”レン”が霞んで見える程のとんでもない存在になっているみたいね……それにしても、リベールの異変解決の為にエステル達と一緒にリベル=アークに乗り込んだオリヴァルト皇子や”光の剣匠”、それにB級正遊撃士のトヴァルまで撃退できるなんて、どんなメンツが集まっているのかしら、その”暁の翼”って組織には……まあ、少なくてもあの”西風の旅団”が協力している時点で、相当な使い手達が集まっている事はわかるけど。」

説明を聞いたリンは信じられない表情で声を上げ、エオリアは表情を引き攣らせ、ミシェルは疲れた表情で溜息を吐いた後疑問を口にした。

「教官達の話では殿下達の相手をした使い手は”西風の旅団”も含まれていたそうですが……大半の人達は”戦天使の勇者達(エンジェリック・エインフェリア)”によって無力化されたとの事です。」

「”戦天使の勇者達(エンジェリック・エインフェリア)”………そっちの世界のレン皇女が各国を遊撃士としての活動を行って回りながら拾って援助とかして自分の仲間にしたっていう集団ね………話を聞く感じ、何だか”鉄血の子供達(アイアンブリード)”と似ているわね。」

「言われてみればそうだね………」

「まさか”鉄血の子供達(アイアンブリード)”と何か関係があるのかしら……?」

アルティナの説明を聞いたミシェル達はそれぞれ考え込んだ。

「レンさんが”戦天使の勇者達(エンジェリック・エインフェリア)”という集団を作った真の意図は未だ不明との事ですが………”戦天使の勇者達(エンジェリック・エインフェリア)”を含めた”暁の翼”は戦闘能力は当然ですが情報収集能力にも長けており、1年半前の内戦時には貴族連合軍の隙をついてカレル離宮とザクセン鉄鉱山を同時に奇襲し、それぞれの場所に囚われていた皇太子殿下を含めたエレボニア帝国の重要人物達を幽閉場所から連れ出し、騒ぎに気づいた貴族連合軍の援軍が現れるまで撤退を完了させた事もありましたわ。」

「内戦時に貴族連合軍の隙を突いてエレボニア帝国の重要人物達の救出を成功させたって………」

「まあ、人質奪還は遊撃士協会としての活動として間違ってはいないけど………それにしても、何でその”暁の翼”って集団―――いえ、そっちの世界のレン皇女はその集団にそんな事をさせたのかしら?話を聞いた感じ、その集団はそっちの世界のレン皇女直属の”軍”みたいな組織なんでしょう?」

クルトの説明を聞き、話の内容の凄まじさにエオリアが表情を引き攣らせている中疲れた表情で溜息を吐いたミシェルはある事が気になって質問を続けた。

「………教官達からの又聞きになりますけど、レン先輩は教官達―――旧Ⅶ組やオリヴァルト皇子様に自分が旧Ⅶ組で世話になった”義理”を果たす為に”暁の翼”と共に貴族連合軍に幽閉された教官達のご家族を救出したそうなんです。」

「なお、貴族連合軍に幽閉された旧Ⅶ組の関係者はレーグニッツ知事閣下にイリーナ会長、そしてエリゼ先輩です。」

「それと救出作戦の際にエリオットさんの姉君―――クレイグ将軍のご息女も帝都(ヘイムダル)から連れ出し、救出したエリゼさん達と共に教官達の元に送り届けたと教官達が仰っていました。」

「どの人物も内戦時に貴族連合軍に幽閉されるか人質にされていた人物ばかりだね……」

「ええ……私達の世界のエリゼちゃんも貴族連合軍に狙われていたらしいしね……」

「なるほどね………もしかしたらそっちの世界のレン皇女は旧Ⅶ組から去る”詫び”の代わりとしても、貴族連合軍に幽閉された旧Ⅶ組やオリヴァルト皇子の関係者を救出したのかもしれないわね。それにしても、幾ら内戦時で人質奪還の為とはいえ、奇襲をされた側であるエレボニアは内戦後にその件を問題にして遊撃士協会に責任とかを追及しなかったわね……帝国内での遊撃士協会(アタシ達)の活動を大きく制限した”鉄血宰相”あたりなら、遊撃士協会(アタシ達)自体を完全に潰す大義名分としてきそうだけど………」

ユウナ達の話を聞いたリンとエオリアが真剣な表情で考え込んでいる中疲れた表情で溜息を吐いたミシェルは複雑そうな表情で推測を口にした後再び疲れた表情で溜息を吐いた。



「それは…………」

「勿論オズボーン宰相はそのつもりだったとの事ですがエリゼ先輩達の救出の件でエレボニアが”暁の翼”―――いえ、遊撃士協会に責任を追及する事をユーゲント皇帝陛下直々から禁じられる”勅命”をされた為、オズボーン宰相も実行に移せなかったとの事です。」

「ハ?何でそこでユーゲント皇帝が関わってくるのかしら?」

自分の疑問にクルトが複雑そうな表情で答えを濁している中静かな表情で答えたミュゼの答えを聞いたミシェルは不思議そうな表情で訊ねた。

「………”暁の翼”の団長にして”戦天使の勇者達(エンジェリック・エインフェリア)”の筆頭である人物がユーゲント皇帝陛下やオリヴァルト殿下も生存を諦めていたエレボニア帝国の皇女にして、オリヴァルト殿下の母君である今は亡きアリエル・レンハイム様のご息女でもある方だった為、今まで認知せずにレンさん――――”Ms.L”に拾われるまで自分達の加護や援助も無しに自分一人の力で苦労して生き続けていたその方に対するせめてもの”償い”として皇帝陛下はオズボーン宰相に件の指示をしたとの事です。」

「それはまたとんでもない人物がいたもんだね………」

「ええ……というか向こうの世界のレンちゃんはどうやってその人物と出会ったのかしら?」

「それよりもオリヴァルト皇子の母君が産んだ娘って事は腹違いの妹のアルフィン皇女やセドリック皇太子と違ってオリヴァルト皇子と直接血が繋がっている妹って事でしょう?アタシ達の世界にはそんな人物はいないから、それも”並行世界”による違いなんでしょうね。………ちなみにそのもう一人のエレボニア皇女はどんな人物なのかしら?」

クルトの説明を聞いたリンは目を丸くし、エオリアは苦笑し、疲れた表情で溜息を吐いたミシェルはある事を訊ねた。

「―――――”(つるぎ)の聖女”リーゼロッテ・レンハイム―――いえ、リーゼロッテ・ライゼ・アルノール皇女殿下。皇女殿下が繰り出すその剣技は次元違いと言える程の絶技にして、性格はとても高潔かつ力無き者達―――民間人には非常に優しい事からそのような異名で呼ばれるようになった”史上最強の遊撃士”との事ですわ。」

「”剣の聖女”は”暁の翼”団長就任前は”Ms.L”でもある”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”の秘書兼代理を務めていましたが………更にその前は東ゼムリア大陸で遊撃士としての活動を行いながら、東ゼムリア大陸の様々な国々が抱えていた問題を解決した事から、S級正遊撃士の昇格が何度も打診された”東ゼムリア大陸の大英雄”とも称されている人物だとの事です。」

「なんていうか………色々な意味で凄い人物ね、その”剣の聖女”って人物は。」

「そうね……話を聞く感じどう考えてもアリオスさんやカシウスさん以上の人物みたいだし………下手したら、結社最強の使い手だったあの”鋼の聖女”とも互角なんじゃないかしら?異名も似ているし。」

「少なくてもこっちの世界のリーゼロッテ皇女とは完全に別人なんだろうねぇ………」

ミュゼとアルティナの話を聞いて冷や汗をかいて表情を引き攣らせたミシェル達はそれぞれ疲れた表情で溜息を吐いた。

「それと……リーゼロッテ皇女殿下は他にも異名がありまして。その異名はリーゼロッテ皇女殿下にとって相応しい異名にしてエレボニアに対する皮肉の意味を込めた異名をレンさんから名付けて貰ったとの事です。」

「その皇女にとって相応しい異名にしてエレボニアに対する皮肉の意味を込めた異名ってどんなものなのよ?」

「――――獅子心女帝(レーヴェ・ザ・クイーン)。意味は”獅子心女帝”ですわ。」

「”獅子心女帝”………まさか、その異名って250年前の”獅子戦役”を終結へと導いたドライケルス皇帝の異名である”獅子心帝”を参考にしているのかしら?」

複雑そうな表情で語ったクルトの話を聞いて訊ねてきたミシェルの質問に静かな表情で答えたミュゼの話を聞いてある事を察したエオリアは目を丸くして訊ねた。

「はい。教官達からの又聞きになりますが、リーゼロッテ皇女殿下はレンさんに拾われてからレンさんの教育や援助によって育ったとの事ですが……元々”素質”があったらしく、武術もそうですが政治、経済等あらゆる分野に対しての能力も秀でていて、更に”人を惹きつける力”も身に着けているらしく、”戦天使の勇者達(エンジェリック・エインフェリア)”の約半数はリーゼロッテ皇女殿下のお陰で集まったとの事です。」

「なるほどね………話を聞く感じ、まさに第二の”獅子心帝”のような人物だね。」

「そうね……しかも生まれも”獅子心帝”のように帝位継承者としてはあまり縁がなかった所も一致しているわね。」

「そしてそんな人物を見捨てたエレボニアに対する皮肉の意味を込めて、”獅子心女帝”という異名をそちらの世界のレン皇女が名付けたって事ね………ちなみにそちらの世界のオリヴァルト皇子はそのリーゼロッテ皇女に対してどう思っているのかしら?事情はわからないけど、オリヴァルト皇子も生存を諦めていた自分の妹なんでしょう?普通に考えたら会って話をしたいと思うんだけど。」

クルトの説明を聞いたリンとエオリアが考え込んでいる中疲れた表情で溜息を吐いたミシェルはある事が気になり、訊ねた。



「当然リーゼロッテ皇女殿下の事をお知りになったオリヴァルト殿下はあらゆる伝手を使って何とかリーゼロッテ皇女殿下との面会を手配しようとしたとの事ですが………様々な複雑な事情に加えて肝心のリーゼロッテ皇女殿下自身がオリヴァルト殿下との面会を望んでおらず、未だに面会が実現していないとの事です。」

「―――元々”暁の翼”はエリゼ先輩達の救出の件でエレボニア帝国が”暁の翼”の”力”や”実績”を示す為の”踏み台”にされた事に加えて”暁の翼”が設立された理由の一つとして”大国による一方的な武力侵攻が起こった際武力介入する”というまさにゼムリア大陸の大国の一国であるエレボニアに対する当てつけの理由もある事から帝国政府からは相当忌み嫌われ、警戒されている組織である事に加えて、リーゼロッテ皇女殿下自身、今まで自分を認知しなかったユーゲント皇帝陛下や自分と違って認知してもらったオリヴァルト殿下に対して思う所がある為、オリヴァルト殿下とリーゼロッテ皇女殿下の面会が実現する事は非常に厳しい状況なのですわ。」

「なるほどね………”暁の翼”と帝国との事情の件は置いておいたとしても、今まで親の加護無しに苦労してきたリーゼロッテ皇女からしたら今更自分と会って話をしたいだなんて言われても、普通は断るでしょうね………」

「そうね……後はユーゲント皇帝やオリヴァルト皇子―――いえ、エレボニア帝国が”暁の翼”の団長であり、レンちゃん―――”Ms.L”とも親しい関係の自分に利用価値を見出している事も邪推しているかもしれないわね……」

クルトとミュゼの説明を聞いて事情を察したミシェルは疲れた表情で溜息を吐き、エオリアは複雑そうな表情で呟いた。

「そう言えば先程から気になっていましたが……こちらの世界にもリーゼロッテ皇女殿下は存在していらっしゃっているのですか?」

「ええ。とは言っても、こっちの世界のリーゼロッテ皇女はそっちの世界のリーゼロッテ皇女とは事情が全然違うわ。そもそもこっちの世界のリーゼロッテ皇女の親はユーゲント皇帝の正妃――――プリシラ皇妃にとって姉にあたる人物の娘として産まれて普通にプリシラ皇妃の実家の娘として育って来たから、両親自体が既に違うもの。」

「ちなみに貴族の令嬢として育ったリーゼロッテ皇女がエレボニア皇女になった理由は”七日戦役”や内戦によって衰退したエレボニア帝国全体が暗い雰囲気に陥りかけたから、その雰囲気を何とかする為の明るいニュースとして既に両親を亡くしていたリーゼロッテ皇女が灰色の騎士の坊やに嫁いだアルフィン皇女の代わりとしてアルノール皇家の養子として迎えられたとの事だよ。」

「な、何それ……何でアルフィン皇女様が教官に嫁いだからって、その代役としてその人が新たなエレボニア皇女になったとか全然理解できないわ……」

「こちらの世界のエレボニアの状況を考えると様々な憶測が考えられるな………ちなみにそちらの世界のリーゼロッテ皇女殿下の年齢は何歳なのでしょうか?」

ミュゼの質問に答えたミシェルとリンの話を聞いて呆れているユウナに自身の推測を答えたクルトはある質問をした。

「確か……アルフィン皇女やセドリック皇太子と同い年だったから今年で17歳のはずよ。」

「年齢も私達の世界のリーゼロッテ皇女殿下とは異なりますわね。」

「ああ……恐らくこちらの世界のリーゼロッテ皇女殿下は僕達の世界のリーゼロッテ皇女殿下と比べると完全に別人なんだろうな。」

「さてと……色々と話は逸れちゃったけど、そろそろアナタ達がこの世界に来た経緯を説明してもらってもいいかしら?」

ミシェルに説明を促されたユウナ達は少しの間黙り込んだ後互いの顔を見合わせて小声で相談を始めた。



(………どうする?こちらの世界は僕達の世界と事情が随分違うようだが………)

(当然話した方がいいに決まっているでしょう!?”あんな事”、例え世界は違っても絶対に未然に防ぐべき事じゃない!)

(はい………せめてこちらの世界のわたし達が今のわたし達のようにならない為にも事情を話して、”巨いなる黄昏”を防ぐ為の行動をしてもらうべきかと。)

クルトの確認に真剣な表情で答えたユウナに続くようにアルティナは辛そうな表情で答えた後決意の表情になった。

(アル………そうよね。今だったら、こっちの世界の教官もそうだけどミリアムさんやアンゼリカさん、それにオリヴァルト皇子達も助けられるかもしれないものね……!)

(―――この世界にとっての”未来”になるかもしれない出来事を説明をする事に関しては私も反対はしませんが……説明をする前にミシェルさん達に――――いえ、遊撃士協会にいくつかの条件を呑んで頂く必要がありますから、彼らから何の”対価”も払ってもらわずに未来を話すべきではないかと。)

アルティナの言葉にユウナが頷いたその時ミュゼがユウナ達にある指摘をした。

(た、”対価”って……!あんた、一体何を考えているのよ!?エレボニアどころか、世界中の危機になるかもしれない事なのよ!?なのに、何でそんな事を………!)

(落ち着け、ユウナ。………ミュゼ、遊撃士協会に何らかの条件を呑んでもらう必要がある理由は僕達が自分達の世界に帰還する為か?)

(ふふ、クルトさんはすぐにお気づきになられましたか。)

(あたし達が自分達の世界に帰るために遊撃士協会に条件を呑んでもらうって……)

(さすがに遊撃士協会と言えど、世界間の移動と言ったそのような非常識な問題は解決できないのでは?)

ミュゼの指摘に憤っていたユウナだったがクルトの指摘を聞くと呆けた表情をし、アルティナは戸惑いの表情で指摘した。

(さすがに遊撃士協会もそのような非常識な問題が解決できるとは思っていませんわ。ですが、遊撃士協会は様々な組織や国家に対して豊富な人脈がありますわ。)

(あ…………)

(なるほど……そういう事か。ミュゼは僕達が元の世界に帰還する為に様々な組織や国家が僕達の帰還方法を調べてくれるように遊撃士協会に働きかけさせる事を条件にするつもりなんだな?)

(うふふ、その通りですわ。後は当面の資金の調達方法や私達の拠点等の用意をして頂く事も頼むつもりですわ。)

(確かに今のわたし達だと帰還方法を探る以前に拠点等の用意が必須になりますね。)

ミュゼの説明を聞いたユウナ達はそれぞれ納得した様子になった後相談を止めてミシェル達に視線を向けた。



「それで………アタシ達の今後にも関わるかもしれないアナタ達の事情をアタシ達に説明する代わりの”対価”の相談は終わったのかしら?」

「ア、アハハ……気づいていたんですか……」

「ふふっ、ユウナちゃんも知っているでしょうけど遊撃士は交渉力も求められているから、私とリンもユウナちゃん達が自分達の世界に帰るために私達を頼る事も予想していたわ。」

「ま、とは言っても遊撃士協会(あたし達)の力だけじゃ、未来の並行世界に帰還する方法なんて用意する事はできないけど遊撃士協会には様々な国家や組織の人脈があるからね。あんた達もそれを頼って、あたし達に”依頼”をするつもりなんだろう?」

「ふふっ、話が早くて助かりますわ。私達の事情であり、皆さんの”未来”にもなる可能性が高い出来事を話す”対価”は―――――」

そしてミュゼはミシェル達に自分達が過去の並行世界である今のゼムリア大陸に来た事情を説明する対価として、自分達の世界への帰還方法の用意、拠点や偽造の戸籍、更には資金調達の方法を提示した。

「………なるほどね。ま、アナタ達の世界への帰還方法を除けばどれもアタシ達にとっては簡単な事だし、構わないわよ。」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ。むしろアタシ達からしてもありがたいくらいよ。何せ、サポーターとはいえ4人もの遊撃士の活動を手伝える人材が増えるのだから、こっちとしても大助かりよ。」

「え。」

「ふふ、資金調達の方法が条件に出た所で何となく予想はしていたけど……」

「ハハ、まあいいじゃないか。実際今のクロスベルは応援が来ているとはいえ、それでも以前以上に忙しい状況で、猫の手も借りたいくらいだしね。」

ミシェルの答えに嬉しそうな様子を見せたユウナだったがミシェルの口から出た不穏な言葉を聞くと呆けた声を出し、エオリアとリンは苦笑していた。

「……その口ぶりですと”資金調達の方法”はまさか僕達に遊撃士の活動をさせるおつもりなのですか?」

「あら、中々察しがいいわね。”特務活動”だったかしら?”特別演習”で遊撃士協会(アタシ達)に似た活動をしていたんだから、アナタ達にとっても慣れた活動でお金を稼げるから、何らかの仕事を紹介されるよりそっちの方がいいでしょう?」

「そ、それはそうなんですけど………確かクロスベル支部って、滅茶苦茶激務って話を聞いた事がありますよ!?準遊撃士になったばかりのクロエさん達ですらも、正遊撃士のリンさん達と大して変わらないくらい忙しいって話も聞いた事がありますし……」

「まあ、貴女達だったらすぐに慣れるわよ。あ、アルティナちゃんは当然私のサポーターに来てね♪優しく教えてあげるし、たくさん、可愛がってあげるわ♪」

「………何となく不埒な気配がするので、お断りします。」

クルトの確認の言葉に答えたミシェルの答えに表情を引き攣らせているユウナに苦笑しながら指摘したエオリアは嬉しそうな表情でアルティナを見つめ、見つめられたアルティナはジト目で答えた後エオリアから距離を取り

「クスクス、”働くもの食うべからず”ですから、そのくらいは仕方ありませんわね。それではお話しますわ。私達の”事情”について――――――」

その様子を微笑みながら見守っていたミュゼは気を取り直してミシェル達を見つめ、ユウナ達と共に自分達の事情を説明し始めた――――――




 
 

 
後書き
今回の話でいつか書く予定のあの世界の話がネタバレされまくっちゃいました(汗)なお、あの世界のリーゼロッテの話になった際のBGMはベルセリアの”Theme of Velvet -short ver.-”だと思ってください(一応言っておきますがベルセリアの主人公とは全く関係がありません) 

 

異伝~終焉に諍う英雄達の来訪~第4話

~遊撃士協会・クロスベル支部~



「――――以上が私達がこちらの世界に迷い込んだ”事情”ですわ。」

「「「………………………」」」

ミュゼが全ての説明を終えるとミシェル達はそれぞれ厳しい表情を浮かべて黙り込み

「………参ったわね…………絶対に未然に防ぐべき大事件がいくつもあるけど、どう考えても遊撃士協会(アタシ達)や七耀教会だけじゃ、未然に防ぐ事ができないわね……」

「そうね……帝都(ヘイムダル)での夏至祭までに起こった大事件に関しては実際の被害は大した事なかったみたいだし、一応解決はしているみたいだから、そちらに関してはリィン君達に任せても構わないとは思うんだけど………」

「………問題は夏至祭でのバルヘイム宮で起こったユーゲント皇帝への銃撃事件で、その事件によってエレボニア帝国とカルバード共和国―――いや、メンフィル・クロスベル連合軍との戦争勃発、そして”鉄血宰相”達の目的――――”巨イナル黄昏”とやらを利用して1200年前からエレボニア帝国内で存在した”至宝”によって生まれた”呪い”を完成させる事、そしてオリヴァルト皇子達が乗ったカレイジャスが爆破される事だね………」

我に返ったミシェルは疲れた表情で大きな溜息を吐き、エオリアは複雑そうな表情で呟き、リンは真剣な表情で考え込みながら呟いた。

「………せめて、こちらの世界のわたし達もそうですがリィン教官もわたし達の世界のリィン教官のようになって欲しくないんです………それに………ミリアムさんも………」

「アルティナさん………」

「アルティナの言う通りだ………例え世界が違えど、こちらの世界の僕達を……教官達やオリヴァルト殿下達が今の僕達の世界のようになって欲しくない気持ちは僕達も同じだ。」

「そうね……あたし達もこの世界のあたし達が今のあたし達にならないように、何とかする事が絶対あるはずよ……!」

辛そうな表情で呟いたアルティナの様子をミュゼは心配そうな表情で見つめ、クルトとユウナは決意の表情を浮かべた。

「う、う~ん……決意を改めている所に水を差すようで悪いけど正直他の人物達の件はともかく、こっちの世界の灰色の騎士の坊やの事はあまり心配する必要はないと思うわよ?」

「へ……ど、どうしてですか?」

ミシェルから意外な指摘を受けたユウナは困惑の表情で訊ねた。

「……それは灰色の騎士の坊やの8人の婚約者の内、何人かがとんでもない存在――――異世界に存在している異種族の中でもトップクラスの存在だからよ。」

「教官の婚約者達の何人かがとんでもない存在って、一体その人達はどんな存在なんですか?」

「まあ、簡単に説明すると精霊の女王に竜族の姫君、後は魔王と女神よ。」

ミシェルの答えを聞いて新たなる質問をしてきたユウナの質問にエオリアが苦笑しながら答えるとユウナ達は石化したかのように固まり

「えええええええええええええええっ!?な、なななななな、何なんですか、その滅茶苦茶な婚約者の人達は~~~~!?」

「精霊の女王や竜族の姫君を婚約者にする事自体が信じられないのに、魔王と女神を同時に婚約者にするとかこの世界のリィン教官は一体どうなっているんだ……?」

「……というかその教官の婚約者達がいれば”黒キ星杯”でわたし達の前を阻んだ人達全員を無力化できる上”黒き聖獣”やエレボニアの”呪い”も何とかできるような気がするのですが。」

「クスクス、そのような超越した存在に愛されるなんてどうやらこの世界のリィン教官は殿方としてとても魅力的な方なのでしょうね♪」

我に返ったユウナは驚きの声を上げ、クルトは疲れた表情で呟き、アルティナはジト目で推測し、ミュゼは小悪魔な笑みを浮かべた。



「話を戻すけど………問題はさっきリンが言っていた帝都での夏至祭以降に次々に起こる大事件を何とかする事でしょうね。そしてそれらの大事件を未然に防ぐ為にはどう考えても、メンフィル帝国の協力が鍵になってくるわ。」

「”メンフィル帝国”……エレボニアを2度も敗戦させ、こちらの世界の教官の祖国でもある異世界の大国ですか。何故、そのメンフィル帝国という国の協力が鍵となってくるのでしょうか?」

ミシェルの話を聞いてある事が気になったクルトはミシェルに訊ねた。

「さっきも説明したように異世界―――”ディル=リフィーナ”はゼムリア大陸にとって空想上の存在がいる事もそうだけど、実際に”ディル=リフィーナ”に行ったことがあるゼムリア大陸出身の人達の情報から推測すると”ディル=リフィーナ”は科学技術が発達しているゼムリア大陸と違って、魔法技術の方が発達しているっぽいなのよ。」

「当然魔法技術の中には”魔術”――――戦術オーブメントを使わずに魔法(アーツ)を放つ技術もあるよ。星見の塔でもエオリアがあんた達と一緒に戦った手配魔獣に止めを刺す前に放っていただろう?」

「あ……っ!」

「あの時の頭上から光を降り注がせる魔法(アーツ)か……確かにあのような魔法(アーツ)は少なくてもARCUSⅡでは存在していないな……」

「という事はエオリアさんはエマさんや”蒼の深淵”のような事ができるのでしょうか?」

「う~ん……私達はその人達の魔術を見た事がないから何とも言えないけど、少なくても魔術の体系は異なるはずよ。異世界の魔法なんだから。」

ミシェルとリンの話を聞いて星見の塔での戦いを思い出したユウナは声を上げ、クルトは静かな表情で呟き、アルティナに訊ねられたエオリアは苦笑しながら答えた。



「魔法技術が発展している………――なるほど。もしかしたら、”国と言う規模”で魔法技術を扱っているメンフィル帝国ならば、”大イナル黄昏”への対抗策や無力化する方法、エレボニア帝国に根付いている”呪い”を何とかする方法を知っている、もしくは開発する事も可能だとミシェルさん達は予想していらっしゃっているのですね?」

「ええ。そこに加えてメンフィルは”全ての種族との共存”を目指す事を公言しているだけあって、様々な異種族がメンフィル帝国に住んでいたり、協力関係を結んでいるわ。例えばゼムリア大陸にとっては空想上の存在であるエルフや妖精、獣人や悪魔、それに天使とかね。」

「そんなにも多くの異種族達が”メンフィル帝国”という国によって、共存しているのですか………」

「エルフや妖精、獣人とかはまだわかるけど、普通に考えたら争う関係の悪魔と天使が共存しているってどうなっているのよ……」

「ですが、様々な異種族達が協力関係を結んでいるのですから、”呪い”の類への対抗策等もありそうですね。」

ミュゼの推測に頷いて説明したミシェルの答えを聞いたクルトは驚き、ユウナは疲れた表情で呟き、アルティナは真剣な表情で呟いた。

「更にメンフィルの使い手達の中には当然魔術関係に秀でている使い手もいて、その中には魔術一つで”軍”を壊滅に陥らせる程の被害を与える”戦略級魔術”や”神”を戦場に召喚して、その召喚した”神”に自分達の敵全てを殲滅できるような使い手もいると聞いているわ。」

「ええっ!?魔術一つで軍を壊滅に陥らせるどころか、神様を戦場に召喚して神様の力で殲滅するって……!」

「……少なくてもローゼリアさんやクロチルダさんをも遥かに超える魔道の使い手なのでしょうね、そのメンフィルの魔道の使い手の方々は。」

ミシェルの説明を補足したエオリアの話を聞いたユウナは驚き、ミュゼは真剣な表情で呟いた。

「魔法技術の件で気づいた事があるけど……メンフィルは自分達の世界とこのゼムリア大陸を繋ぐ転移門を管理しているらしいから、それを考えると、あんた達が自分達の世界に帰還する為にはメンフィルの協力も必要になってくると思うよ。」

「あ………」

「なるほど……世界間の移動を既にしているから、可能性はありそうですね。問題はその技術が並行世界への移動かつ時間移動にも応用できるか、か……」

リンの推測を聞いたアルティナは呆け、クルトは真剣な表情で頷いた後考え込んだ。

「その件だけど………並行世界はわからないけど、時間移動だったら”時”を自由自在に操れる上過去、未来と言った”世界の時間移動”までできる能力を持つ人物が実は遊撃士協会に所属しているから、時間移動に関してはその人物に頼めばいいだけだからアタシ達はあんまり問題にしていないのよねぇ……」

「ええっ!?と、”時”を自由自在に操れる上”時間移動”までできる人物が遊撃士協会に所属しているって……!」

「ふふっ、まさに”遊撃士協会の人脈恐るべし”、と言った所でしょうか。」

「いや、それでも限度があるだろう………」

「何にしても、その人物もわたし達が自分達の世界に帰還する為に必須となる人物になるでしょうね。」

苦笑しながら答えたミシェルの説明を聞いたユウナは信じられない表情で声を上げ、微笑みながら答えたミュゼにクルトは呆れた表情で指摘し、アルティナは静かな表情で推測した。



「話をメンフィルの件に戻すけど………メンフィルはエレボニアを2度も敗戦させた程の強国だけあって軍は精鋭揃いの上特に皇族や将軍クラスに関してはとんでもない使い手ばかりで、前皇帝の”英雄王”リウイ・マーシルン前皇帝は強者揃いのメンフィルでもトップクラスの実力を持っているだけあって”七日戦役”で”結社最強の”執行者”――――No.Ⅰ”劫焔のマクバーン”を無傷で討ち取ったらしいのよ。」

「それと1年半前の時点で”英雄王”を含めたメンフィルの精鋭部隊によって結社の”盟主”や”蛇の使徒”の約半数が討ち取られた事で、トップや最高幹部の半数を失った今の結社は”残党”と化した事で”裏”の勢力としてはかなり衰退していると推測されているわ。」

「更に補足すると”西風の旅団”、”赤い星座”も過去結社に雇われた事でメンフィル軍とぶつかり合った事によって両団長を討ち取られた事に加えてかなりの数の死者を出したことで、双方の猟兵団が衰退したのもメンフィルが原因と言っても過言ではないね。」

「な――――――」

「あの”劫焔”を無傷で………」

「し、しかもあの結社や”西風の旅団”、それに”赤い星座”が衰退するって、どれだけ滅茶苦茶強いのよ、そのメンフィルって国は………」

「なるほど……戦力面に関してもそのメンフィル帝国の協力があれば、全ての敵勢力が連合を組んだ宰相側への対抗策になるでしょうね。」

ミシェル達の話を聞き、メンフィル帝国の凄まじき強さを知ったクルトは絶句し、アルティナとユウナは信じられない表情をし、ミュゼは静かな表情で呟いた。

「しかもそこに加えて、メンフィルには様々な理由によって結社の使い手達の一部も結社から寝返ってメンフィルに所属していて、その使い手の中には”劫焔”と並ぶもう一人の”結社最強”であるあの”鋼の聖女”アリアンロードもいるのよ?」

「えええええええええええええええっ!?」

「一体何があって、あの”鋼の聖女”が結社を寝返って別の組織―――いや、”国”に転属したんだ……?」

「というか今までの話から判断すると現時点で、”結社”に関しては相当戦力が低下している気がするのですが。」

「ふふっ、よりにもよって”結社最強”である二人の人物が味方の勢力に寝返っている、もしくは既に死亡していますものね。」

エオリアの話を聞いて更なる驚愕の事実を知ったユウナは驚きの声を上げ、クルトは疲れた表情で呟き、ジト目で呟いたアルティナの推測にミュゼは苦笑しながら同意した。



「ちなみにその”鋼の聖女”なんだけど、あたし達の世界ではあんた達の学校の”分校長”を務めているらしいよ。」

「………………………」

「あの”鋼の聖女”が第Ⅱ分校の”分校長”に………」

「レンさんの件といい、こちらの世界の第Ⅱ分校の教官陣は相当カオスな事になっていそうですね。」

「ふふっ、そうですわね。ちなみに私達の世界の分校長はオーレリア将軍閣下ですが……こちらの世界の将軍はどのような立場なのでしょうか?」

リンの話を聞いたユウナは驚きのあまり口をパクパクさせ、クルトは信じられない表情をし、アルティナはジト目で呟き、ある事が気になったミュゼはミシェル達に訊ねた。

「あら、そちらの世界の”黄金の羅刹”はそんな事になっていたの…………アタシ達の世界の”黄金の羅刹”は既に”戦死”―――死亡しているわ。それも”七日戦役”でのメンフィル帝国との戦闘によってね。」

「な―――――」

「ええっ!?あ、あの分校長が”戦死”!?」

「それも、”七日戦役”でのメンフィル帝国軍との戦闘によって、ですか。」

「あの化物を殺せるなんて、正直信じられないのですが………」

ミシェルの話を聞いたクルトとユウナは驚き、ミュゼは真剣な表情で呟き、アルティナは困惑の表情を浮かべた。

「その”化物”の上を行く”化物以上の存在”がゴロゴロいるのがメンフィル―――いえ、異世界なのよね………ちなみに、これは余談だけどその”七日戦役”で”英雄王”の右腕にしてメンフィル帝国の古参の将軍――――”空の覇者”ファーミシルス大将軍が貴族連合軍側に協力していた”騎神”を生身かつ単独で撃退した事がある上、最近では昨日行われた結社によるハーメル村での”実験”の際に灰色の騎士の坊やを含めたメンフィルの使い手達があの血染め―――いえ、”紅の戦鬼”シャーリィ・オルランドを討ち取ったわ。」

「え……………」

「ええっ!?き、教官があの”紅の戦鬼”を……!?……………」

「しかもその”空の覇者”という人物は生身かつ単独で”騎神”を撃退できるほど戦闘能力が高いのですか………」

「それに”昨日行われたハーメル村での実験”という事はこちらの世界の”今”は、最初の”特別演習”の最終日だったのか………ユウナ?どうかしたのか?」

疲れた表情で溜息を吐いた後説明をしたミシェルの説明を聞いたアルティナは呆け、ユウナは驚きの声を上げた後複雑そうな表情をし、ミュゼと共に真剣な表情を浮かべたクルトは複雑そうな表情を浮かべたユウナに気づいてユウナに声をかけた。



「あ、うん……………例え世界は違っても、教官が敵―――”人”を殺している事にちょっとショックを受けちゃって………」

「それは…………」

「ユウナさん…………」

「……………こちらの世界の教官は元々メンフィル帝国の”軍人”だったとの事ですから、既にそう言った経験があってもおかしくはないかと。ちなみに先程”七日戦役”が両帝国による和解という形で終結したのは、リィン教官が”七日戦役”で大きな手柄―――戦功を立て、その戦功を評したメンフィル帝国が教官の要望であるエレボニア帝国との和解に応じたとの事ですが、その戦功の内容とはどのようなものなのでしょうか?」

複雑そうな表情で呟いたユウナの言葉を聞いたクルトとアルティナが辛そうな表情をしている中静かな表情で呟いたミュゼはミシェル達に訊ねた。

「えっと確か………”バリアハート制圧作戦”ではユミル襲撃の元凶のアルバレア公爵の討伐並びに”光の剣匠”を含めたアルバレアの次男の救出に来た旧Ⅶ組とその協力者達の撃退、”パンダグリュエル制圧作戦”では貴族連合軍の総参謀のルーファス・アルバレアの討伐が灰色の騎士の坊やの”七日戦役”での戦功よ。」

「まあ、旧Ⅶ組撃退に関しては”灰色の騎士”一人だけの力じゃなくて、”灰色の騎士”と一緒に作戦活動を行っていたメンフィル帝国軍の小部隊の隊員達や”灰色の騎士”の婚約者達の協力もあって、撃退できたらしいけどね。」

「ええっ!?という事はユーシスさんのお父さんどころか、ユーシスさんのお兄さんのルーファス総督まで教官が……!?」

「という事はこの世界ではアルバレア公に加えて”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の”筆頭”であるルーファス総督も既に亡くなっているという事ですか………」

「しかもユーシスさんを救出に来た旧Ⅶ組の皆さんを撃退したという事は、こちらの世界のリィン教官は”七日戦役”で旧Ⅶ組とは”敵対関係”だったのですか………」

「更にその旧Ⅶ組の協力者の中には子爵閣下も含まれていたという事は、こちらの世界の教官は仲間の協力があったとはいえ旧Ⅶ組に加えてエレボニアで5本の指に入る帝国最高の剣士の一人にして”アルゼイド流”の師範である子爵閣下をも撃退できるほどの戦闘能力が高いのですか………」

ミシェルとリンの話を聞いたユウナは驚き、ミュゼは真剣な表情で呟き、アルティナは複雑そうな表情を浮かべ、クルトは重々しい様子を纏って呟いた。



「そちらの世界のリィン君の戦闘能力はどれ程かわからないけど、こちらの世界のリィン君は”八葉一刀流”の現在の伝位は”中伝”らしいけど、それはあくまで彼の師である”剣仙”ユン・カーファイが最近のリィン君と会う機会が無いからその伝位の状態の話なだけで、実際のリィン君の実力は”鬼の力”無しでも”皆伝”――――”剣聖”クラスと同等よ。」

「きょ、教官があのアリオスさん―――”風の剣聖”と同じくらいの強さって……!」

「しかも”鬼の力”も使わずにそのレベルという事は”鬼の力”を解放すれば一体どれ程の戦闘能力になるんだ……?」

「ふふっ、こちらの世界の教官は更に魅力が増していますから、ますますこちらの世界の私が羨ましいですわ♪」

「ミュゼさん、論点がズレていますよ。………それにしても、”七日戦役”での教官の戦功の件を聞いて疑問が出て来たのですが……教官と旧Ⅶ組は敵対関係だったにも関わらず、何故旧Ⅶ組のメンバーであるアリサさんと教官は婚約関係を結んでいるのでしょうか?」

異なる世界のリィンの強さが自分達が知るリィンより遥かに強い事にユウナとクルトは信じられない表情をし、異なる世界の自分を羨ましがっているミュゼに呆れた表情で指摘したアルティナはある事を思い出して戸惑いの表情で訊ねた。

「アタシ達も詳しい経緯は知らないけど、さっき説明した”七日戦役”での和解条約によって灰色の騎士の坊やを含めたエレボニアの内戦に介入して内戦を終結させる為にメンフィル帝国が結成した精鋭部隊――――”特務部隊”が旧Ⅶ組と一緒に内戦終結の為に約2週間くらい一緒に行動していたから、その間に仲良くなったのじゃないかしら?何せ灰色の騎士の坊やの”たらし”な性格に関してはそちらの世界の灰色の騎士の坊やと同じだと思うしね。」

「………確かに、教官の”あの性格”を考えれば納得ですね。」

「というか特に”そっちの方面”に関してはとんでもない無自覚かつ鈍感で、そんな性格でありながら二人も恋人がいる事自体が”奇蹟”のような状況なのに、たった2週間で敵対関係だったアリサさんを落として婚約関係にまで発展するって、こっちの世界の教官はあたし達が知っている教官の予想斜め上な性格をしているのかもしれないわね。」

「ふふっ、それと罪深い性格をしていらっしゃっている所に関しては私達がよく知っている教官と同じみたいですわね♪」

「ふう……少なくても、今までの話から推測するとこちらの世界の教官は良くも悪くも”あらゆる意味”で僕達の世界の教官より”上”である事はよくわかったな……」

苦笑しながら答えたミシェルの答えを聞いた瞬間冷や汗をかいて脱力したユウナとアルティナはジト目でリィンの顔を思い浮かべ、ミュゼは小悪魔な笑みを浮かべ、クルトは呆れた表情で溜息を吐いた。



「何だか色々と話が逸れちゃったから話をメンフィル帝国の件に戻すけど………メンフィル帝国を介さないと”匠王”達やセリカ達に協力を頼む事も厳しいのよね。」

「その方達は一体どのような方達なのでしょうか?」

溜息を吐いて呟いたミシェルの説明が気になったクルトはミシェルに訊ねた。

「まず”匠王”についてだけど……”匠王”ウィルフレド・ディオンはメンフィル帝国と親交がある異世界にある工匠都市―――”ユイドラ”の領主で、ゼムリア大陸では最高峰の技術者と謳われているわ。」

「ちなみに”工匠”って言うのは”あらゆる分野の技術者”の事よ。それとこれは余談になるけど”匠王”の娘達―――セティちゃん達も”特務支援課”に所属していた事もあったわ。」

「ええっ!?リィン教官に加えてその”匠王”って人の娘さん達も”特務支援課”に所属していた事があるんですか……!?」

ミシェルとエオリアの話を聞いたユウナは驚き

「”あらゆる分野の技術者”という事は例えば、武具の技術だけでなく薬等の他の技術も同時に修めているという事でしょうか?」

「ええ。実際D∴G教団事件ではグノーシスの解毒薬もセティちゃん達が作った事がある上ロイド君達の武装も作った事があるし、アルティナちゃんの傀儡―――クラウ=ソラスだっけ?アルティナちゃんがリィン君達に引き取られて以降、クラウ=ソラスのメンテナンスはセティちゃん達が担当している話を聞いた事があるわ。」

「クラウ=ソラスの………」

「し、しかもあの”グノーシス”の解毒薬を作ったって……!」

「”工匠”という存在はとてつもない技術者である事は間違いないようだな。」

ミュゼの疑問に答えたエオリアの説明を聞いたアルティナとユウナがそれぞれ驚いている中、クルトは真剣な表情で呟いた。

「それとこれは余談だけどこっちの世界のアルティナちゃんはセティちゃん達が作った”成長促進剤”のお陰で身体が普通の人間のように成長しているらしいわよ♪」

人造人間(ホムンクルス)のわたしがユウナさん達のように身体的な成長を………あの。その”成長促進剤”とやらを開発した方々は今、どちらにいらっしゃるのでしょうか?できれば、わたしもその”成長促進剤”を入手したいのですが……」

「君な……今はそんな事を聞いている場合じゃないぞ……」

「ふふ、特殊な事情をお持ちの為今後の身体的な成長を期待する事が厳しいアルティナさんがこちらの世界で実際に身体的な成長をしているのですから、自分も身体的な成長をする為に手に入れたくなる事は乙女として当然の事かと♪」

エオリアの話を聞いて驚いた後興味ありげな様子で聞いてい来たアルティナの行動に冷や汗をかいて脱力したクルトは呆れた表情で指摘し、ミュゼはからかいの表情で答えた。



「ハハ、幸い”匠王”の娘達は今もこのクロスベルにいるから、時間が出来た時に会いに行けばいいんじゃないかい?あの娘達だったら、事情を話せば販売してくれると思うよ。」

「へ………その、”匠王”っていう存在の娘さん達は今もクロスベルにいるんですか?」

「いるもなにも今のあの娘達はこのクロスベルの”工匠特区”の開発顧問として、クロスベルにとっての重要人物達よ?」

苦笑しながら答えたリンの話を聞いて訊ねてきたユウナの質問にミシェルはユウナ達にとって驚きの情報を口にした。

「”工匠特区”、ですか……?」

「その方達が”開発顧問”と呼ばれている事からして、恐らくクロスベルのどこかの区域をその”工匠”という存在が集中している区域へと開発しているのでしょうか?」

「あら、中々察しがいいわね。――――”工匠特区”は”工匠”をゼムリア大陸にも広げる為に作られた開発区域の事でその区域は旧市街に当たる場所なんだけど、旧市街の人達は”匠王”の娘達が設立した会社―――”インフィニティ”とあの娘達の故郷である”工匠都市ユイドラ”の援助や教育のお陰で”工匠”になる事で、以前とは比べものにならないくらい豊かな暮らしをしているわ。」

「まあ、そもそも”工匠”自身、セティ達を除けばゼムリア大陸に存在しなかったからね。その事から、ゼムリア大陸で唯一の”工匠”達が集まっている区域としても有名な場所で、その”工匠”達が作った商品を目的にした各国の商人達がクロスベルを訪れている影響でかつてクロスベル政府の頭を悩ましていた旧市街は今じゃクロスベルの発展や経済の一端を担う区域へと成長しているのさ。」

「………………………」

”工匠特区”の事を知り、クルト達と共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたユウナは驚きのあまり口をパクパクさせ

「今までの話を聞いて改めて思ったがエレボニアもそうだが、こちらの世界ではクロスベルが一番状況が変わっている気がするな………」

「ふふっ、まず”自治州”だったクロスベルが独立をするどころかエレボニアをも超える大国へと成りあがるなんて、普通は誰も想像できませんもの。」

我に返って疲れた表情で溜息を吐いたクルトにミュゼは苦笑しながら指摘した。



「ちなみにユイドラはメンフィルのように様々な種族が協力して成り立っている都市でもあってね………ユイドラがそうなったのも領主である”匠王”が領主になるまでの間に数多くの異種族達と親交を深めた事のお陰らしいわ。その証拠に”匠王”の伴侶の大半は異種族で、さっきの話に出て来た”匠王”の娘達はそれぞれエルフ族に天使族、そして睡魔族……と言ってもわからないでしょうから簡単に説明すれば悪魔の一種の種族の母親から生まれた人間と異種族のハーフの子供達よ。」

「クロスベルは光と闇が混在している事から”魔都”とも呼ばれていたそうですが………その時以上のカオスな状況になっているのではないでしょうか?」

「ああ………まさにその名の通り”光と闇の帝都”だな。」

ミシェルの話を聞いてユウナ達と共に冷や汗をかいたアルティナはジト目で呟き、クルトは疲れた表情で呟いた。

「話が色々と逸れてしまいましたが……話に聞く所、その”工匠”という存在は相当幅広い分野に通じている事から推測すると、その方達もメンフィル帝国同様、”大イナル黄昏”への対抗策となる物の開発の可能性もある為その方達の協力も必要との事でしょうか?」

「ええ。それどころか、”工匠”達ならその”大イナル黄昏”の原因となる”黒き聖獣”とやらを”呪い”ごと、消滅させるような武器も作れる気がするわ。」

「ええっ!?」

「という事はゼムリアストーン製を遥かに超える武装をその”工匠”達ならば作成が可能……という事か。」

「しかも異世界ですから、異世界にしか存在しない鉱石を始めとした材料等も考えるとそれこそ古代遺物(アーティファクト)―――いえ、下手をすれば”至宝”と同等の存在をも作る事ができるかもしれませんね。」

ミュゼの推測に頷いたエオリアの説明を聞いたユウナは驚きの声を上げ、クルトとミュゼは真剣な表情で推測した。

「さすがに”古代遺物(アーティファクト)”や”至宝”と同等の物を開発するような非常識な技術力はないのでは?」

「ア、アハハ……アルティナちゃんの推測は普通に考えればその通りなんだけど、それがそうでもないのよね……」

「へ……それって、どういう意味ですか?」

「だって、セティちゃん達もそうだけど”匠王”も既に古代遺物(アーティファクト)クラスどころか、”神剣”のような”神器”クラスの武装を開発した事があるもの。」

アルティナの推測を苦笑しながら否定した自分に訊ねたユウナの質問にエオリアが答えるとユウナ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「何か……色々な意味で非常識な職人みたいね、その”工匠”って。」

「はい。まさに”職人版の化物”ですね、その”工匠”という人物達は。」

「ふふっ、そのようですわね。ですが、少なくてもかの”黒の工房”をも遥かに超える技術者達である事は間違いないでしょうね。」

「ああ…………少なくても今の話でその”匠王”やそのご息女である人物達も、宰相達の野望を阻止する為に必要な人物達である事は理解できるな………ちなみに、もう片方―――”セリカ”という人物やその仲間と思われる人物達はどのような存在なのでしょうか?」

我に返ってジト目で呟いたユウナとアルティナの推測に苦笑しながら同意したミュゼは気を取り直して表情を引き締めて呟き、ミュゼの意見に頷いたクルトは新たな質問をした。

「――――セリカ・シルフィル。アタシ達の世界では”嵐の剣神”なんて異名で呼ばれているけど、本来の異名は”神殺し”って異名で呼ばれている”双界最強の剣士”と言っても過言ではない超が付く凄腕の剣士―――いえ、魔法剣士よ。」

「か、”神殺し”……っ!?何なんですか、その滅茶苦茶物騒な異名は……!?」

「今までの話に出て来た異世界の使い手達を考えると推測通り……いえ、それ以上の非常識な存在が出てきましたね。」

「ふふっ、普通に考えたらその異名通り”神”を”殺した”人物のように聞こえますが………」

「しかも”双界最強の剣士”と言われるほどの魔法剣士という事は魔術の使い手でありながら、相当な腕前の剣士でもあるのか………一体、どれ程の使い手だ……?」

ある人物の説明をミシェルから受けたユウナは信じられない表情で声を上げ、アルティナは疲れた表情で呟き、ミュゼは苦笑し、クルトは興味ありげな表情を浮かべた。



「ちなみにその”嵐の剣神”―――セリカさんは1年半前様々な経緯によってこのクロスベル支部にサポーターとして協力してくれた上D∴教団事件やクロスベル動乱の解決にも力を貸してくれたんだけど………その際に、色々あってそこのエオリアはそのセリカさんのハーレムの一員になったのさ。」

「ちょっと、リン?他にも言い方があるでしょう?せめて、メイドって言ってよ。私は”レシェンテちゃん達と同じ存在”になっているのだから。」

「えええええええええええええええっ!?凄い美人で性格もかなり良くてその事からたくさんの男の人達からモテているのに、ティオ先輩みたいな可愛い女の子しか興味がない事から若干”百合”方面なんじゃないかって思っていた残念美人のエオリアさんに恋人……しかも、教官やロイド先輩みたいに複数の女性を恋人にしている人の恋人~~~!?」

リンに指を刺されたエオリアがジト目で反論したその時、ユウナは驚きの声を上げた。

「”百合方面”とはどの方面の事を言うのでしょうか……?」

「ふふっ、それもまた”乙女の嗜み”―――いえ、この場合”殿方の嗜み”と言った方がいいでしょうか♪」

「いや、僕も意味がわからないんだが………」

ユウナの話を聞いてある事がわからないアルティナの質問に微笑みを浮かべて誤魔化したミュゼに視線を向けられたクルトは疲れた表情で答え

「へ、へえ?ユウナちゃんったら、私の事をそんな風に見ていたんだ?という事はこの世界のユウナちゃんも、私の事をそんな風に見ているという事になるわよね……?」

「あ”。」

「ハア………そんな事を言われて気にするくらいなら、その悪癖を人前で出さなければいいだけの話じゃない………」

「まあ、エオリアには一生無理だろうねぇ………」

顔に青筋を立てて威圧を纏った笑顔を浮かべたエオリアに見つめられたユウナは失言を口にしてしまった事に気づいて冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、その様子を見守っていたミシェルとリンは呆れた表情で溜息を吐いた。



「ハア……まあ、エオリアの件云々については一端置いて………”神殺し”という異名で呼ばれている事からセリカも”神”と同等の存在らしいわ。しかもセリカの仲間達もみんなとんでもない使い手ばかりで、その仲間の中には女神や魔王の一柱、教会の”聖典”や伝承で出てくるような”戦乙女(ヴァルキリー)”を召喚して使役する仲間もいるから、ぶっちゃけセリカ達がいれば、アナタ達の説明にあった”巨イナル黄昏”やらエレボニア帝国の”呪い”やらも全部”力技”――――要するに神やら魔王の力で”全て消し飛ばす事”で解決できるのじゃないかしらと思っているわ。」

「ち、”力技”で全部解決って………」

「確かに話から推測すると非常識過ぎる存在の集団のようですから、冗談抜きで”力技”で何とかできそうですね。」

「今までの話を総合すると、”ディル=リフィーナ”という異世界はゼムリア大陸にとってはとんでもない”魔境”のようだな……」

「フフ、逆に考えれば黒の工房や結社―――宰相達の”力”すらも通じないような凄まじい存在が多数存在しているようですから、そのような方々の協力を取り付ける事ができれば、宰相達の野望を確実に阻止できるかと。――――ですが、問題は”こちらの世界のリィン教官の嘆願がなければエレボニア帝国を滅ぼしていた可能性があるメンフィル帝国に戦争相手であったエレボニア帝国が原因で起こりうるであろう大事件を阻止する為にどう協力を取り付けるか”、ですか。」

ミシェルの説明を聞いたユウナは表情を引き攣らせ、アルティナとクルトは疲れた表情で呟き、ミュゼは微笑みながら指摘した後表情を引き締めてある問題を口にした―――――
 
 

 
後書き
メンフィルの話になった際のBGMは幻燐2の”荒野をわたりて”かVERITAの”覇道”、神採りの話になった際のBGMは神採りの”Ars Magna Ver.L”か”Ars Magna Ver.L”、戦女神の話になった際のBGMはLadiaの”La erteno”か”戦女神 Second half Loop”だとおもってください。 

 

異伝~終焉に諍う英雄達の来訪~第5話

~遊撃士協会・クロスベル支部~



「あ…………」

「そう言えば、その件があったな………」

「そう。アタシ達にとってもその問題が一番ネックなのよねぇ………アナタ達の世界だと”鉄血宰相”達はユーゲント皇帝銃撃事件の真犯人は旧共和国のせいにして、旧共和国との戦争をしようとした事を考えるとアタシ達の世界の場合、十中八九滅亡した旧共和国の代わりにかつて2度も敗戦した挙句、自国の領土の大半まで奪ったメンフィルを戦争相手に選びそうなのよね……」

「それとクロスベルもだね。それを考えるとこちらの世界の”鉄血宰相”達はメンフィル・クロスベル連合相手に戦争を仕掛けるつもりだろうね。」

「ク、”クロスベルも”って……!さっきもその話がちょっとだけ出て気になっていましたけど、どうしてこの世界のクロスベルはエレボニアとの仲が悪いんですか!?確か、ミシェルさん達の話によるとこの世界のクロスベルは国として建国した事を各国に認められた上、”宗主国”であったエレボニアもクロスベルの独立を認めたんじゃないんですか!?」

世界は違えど、祖国がエレボニア帝国と戦争になるかもしれない事を知ったユウナは信じられない表情でミシェル達に訊ねた。

「あくまで”表向き”はね。エレボニアが”クロスベル帝国の建国”――――つまり”クロスベルの独立”を認めた理由は内戦と”七日戦役”によって自国が衰退した上クロスベルがエレボニアが大敗した戦争相手であるメンフィルと同盟を組んでいた事もそうだけど、リベール王国が提唱した”西ゼムリア同盟”によってメンフィル、クロスベルの双方から”七日戦役”によって奪われた自国の領土の一部とザクセン鉄鉱山の鉱山権の一部が返還される事になっていたから、クロスベルの独立を”渋々”認めたようなものよ。」

「”西ゼムリア同盟”、ですか?」

「エオリアさんはリベール王国が提唱したと仰っていましたが………もしかして、その”西ゼムリア同盟”とやらは”不戦条約”と何か関係があるのでしょうか?」

エオリアの説明から聞きなれない言葉が出た事にアルティナは首を傾げ、クルトは戸惑いの表情で訊ねた。



「――――『西ゼムリア同盟』。1年半前の内戦終結から約1ヵ月後にリベール王国のアリシア女王陛下が提唱した『不戦条約』に続く抑止力を持つ新たな平和条約で、その内容は『国家間で外交問題が発生すれば、必ずその問題を当事者である国家間同士で―――特に武力で解決せず、条約に調印した国家も交えて解決する。』で、この条約の調印にはリベール、エレボニア、メンフィル、レミフェリア、そしてクロスベルと西ゼムリア大陸の国家全てが調印している条約さ。」

「『不戦条約』と同様強制力はないけれど、条約内容が堂々と戦争勃発を阻止する内容である事からその条約に調印したにも関わらずそれを無視するような事をすれば、その国家は他の国家から白い目で見られ、信用を無くす可能性が非常に高くなる事から『不戦条約』よりは効果が高いと推測されているわ。――――何せ、調印の場にはゼムリア大陸全土が崇める女神―――”空の女神”も立ち会ったのだからね。」

「へ………………い、今”空の女神”がその『西ゼムリア同盟』?という条約の調印に立ち会ったって言っていましたけど…………」

「まさか……こちらの世界では”空の女神”が降臨したのですか……!?」

リンとエオリアの説明を聞き、驚きのあまり石化したかのように固まったユウナとクルトは我に返ると信じられない表情で訊ね

「ええ。正確に言えば、さっき軽く説明した時間移動の能力を持つ人物が、”遥か昔に存在した空の女神”を現代のゼムリア大陸に連れて来て、”空の女神”は自分同様時代を超えてきた自分の両親や先祖と一緒にクロスベル動乱を終結させる為に支援課の坊や達による”碧の大樹”の攻略に手を貸したのよ。」

「そ、空の女神どころか、空の女神の両親や先祖がロイド先輩達と一緒に碧の大樹を攻略したって、幾ら何でも滅茶苦茶過ぎません!?」

「しかも碧の大樹の攻略メンバーがわたし達の世界と比べると明らかに”戦力過剰”な気がするのですが。」

「というか、空の女神に”両親”もそうですが”先祖”が存在している事が驚愕の事実だな………」

「うふふ、という事はその人物に頼めば過去に実際に存在していた”空の女神”もこの時代に連れてくることもできるという事なのですから、ゼムリア大陸の神である”空の女神”であれば、エレボニアの”呪い”の件についても何か知っていて、それに対する対策や”空の女神”自身の力で何とかできるのではないでしょうか?しかも”黒き聖獣”は”空の女神”の眷属の一柱でもあったのですから、”空の女神”にとっても他人事ではないはずだと思いますし。」

ミシェルの説明を聞いたユウナは疲れた表情で声を上げ、アルティナはジト目で指摘し、クルトは疲れた表情で溜息を吐き、ミュゼは微笑みながらある推測を口にした。



「あ……っ!」

「そう言えば”黒き聖獣”は”呪い”をその身に受けて自らエレボニアに封印されていた”空の女神”の眷属だったな……」

「……どうかしらね。”空の女神”は”過去の存在”である自分が未来の出来事に干渉する事―――”異なる時代の人物達が異なる時代の歴史を改変する事”を”禁忌”であるという考えを持っているから、時間を超えて現れた時間移動能力が持つ人物が自分の助力を頼みに来た時もその人物の頼みに最初は頷かったとの事だから、正直空の女神の助力はあまり期待しない方がいいと思うわよ。」

ミュゼの推測にユウナが声を上げ、クルトが静かな表情で呟いたその時エオリアは複雑そうな表情で指摘した。

「へ……で、でも結局その人に説得されて碧の大樹の攻略に協力してくれたんですよね?」

「碧の大樹の件はその”例外”に当たるから協力してくれたようよ。ユウナちゃん達も知っているでしょうけど碧の大樹―――いえ、”零の至宝”は”歴史の改変”すらも可能な力があったから、”零の至宝”もそうだけどクロイス家にゼムリア大陸の歴史を歪まさせない為に空の女神は時代を超えて”あの娘”を取り戻そうとしたロイド君達に協力したのよ。」

「あ………」

「それは…………」

「”零の至宝”――――キーア・バニングスですか。」

「へえ……そちらの世界のあの娘は既にバニングス性になっているみたいだね。」

ユウナの疑問に答えたエオリアの説明を聞いたクルトは複雑そうな表情で話を聞いて呆けているユウナに視線を向け、静かな表情で呟いたアルティナの話を聞いたリンは目を丸くした。

「なるほど……ですが、何故”空の女神”は”西ゼムリア同盟”の調印に出席したのでしょうか?”西ゼムリア同盟”は碧の大樹の件とは全く関係のない出来事だと思われる上、過去の存在である自分が未来の出来事に干渉する事を”禁忌”という考えをお持ちなのに、”碧の大樹”という例外を除いた未来の出来事―――それもよりにもよって、(まつりごと)に介入した事には少々疑問が残るのですが………」

「……………………」

ミュゼの疑問を聞き、空の女神の”誰も想像できない真意”を人づてで聞いていたミシェル達はそれぞれ冷や汗をかいて少しの間黙り込み

「え、え~と………空の女神が何を考えて”西ゼムリア同盟”に出席したかの理由はそれこそ言葉通り”女神のみぞ知る”だから、アタシ達もわからないわ。」

「これはあくまであたし達の想像だけど………ひょっとしたら、空の女神は”リベールの異変”の件で遥か昔に人々の為に自分が渡した”至宝”―――”輝く(オーリオール)”によってリベール王国に迷惑をかけてしまったから、その”詫び”代わりに出席したのかもしれないよ。”空の女神”に”西ゼムリア同盟”の調印式に出席してくれるように、リベール国王のアリシア女王やアリシア女王の跡継ぎであるクローディア王太女自らが偶然リベールを訪れていた”空の女神”を訊ねて、直接嘆願したという話だし。」

(まさかリベールに”家族旅行”に訪れていて、”西ゼムリア同盟”の調印式に出席した理由が子孫(エステル)に年寄り呼ばわりされたくないという事が一番の理由だなんて言えないわよねぇ……)

やがて我に返るとミシェルとリンは答えを誤魔化し、その様子を見守っていたエオリアは苦笑していた。



(何、今の間は。)

(しかも二人の様子からすると露骨に今考えた答えのように思えるが……)

(3人の様子からすると、空の女神の真意も知っているにも関わらず恐らくその真意を話したくないのではないかと。)

「(ふふっ、そのようですわね。)―――話をクロスベルの件に戻しますが………こちらの世界の宰相達―――エレボニアがこちらの世界では既に滅亡した旧共和国の代わりの戦争相手にメンフィルと共にクロスベルも選ばれる可能性がある理由は………やはり”宗主国”である自分達に対して独立どころか、”下克上”をしたからでしょうか。」

ミシェル達の態度をユウナ達が怪しがっている中、ミュゼは気を取り直して質問を続けた。

「ええ、遊撃士協会(アタシ達)は十中八九そうだと睨んでいるわ。”クロスベルが自国の領土であると主張してきたエレボニア”は元々旧共和国と領土問題を巡って何度も争ったのに、そのクロスベルがIBCによる資産凍結をきっかけにした”クロスベル動乱”で”宗主国”であるエレボニアに歯向かって”独立”した所か、エレボニアが内戦と”七日戦役”の件で混乱している間にエレボニアを衰退させた元凶の一つであるメンフィルと同盟を結んだ挙句、エレボニアよりも大国になった事で下克上までしたのだから、クロスベルを併合しようとしていた”鉄血宰相”を始めとした帝国政府はその事実が許せなくて、メンフィルとクロスベルを滅亡した旧共和国の代わりの”新たな宿敵”だと認識しているみたいだもの。」

「………っ!」

(ユウナ………)

ミシェルの説明を聞き、世界は違えど祖国(クロスベル)が念願の独立を果たしているにも関わらずエレボニアがその事実を許していない事を知り、辛そうな表情で唇を噛みしめているユウナに気づいたクルトは辛そうな表情をし

「………ちなみにカルバード共和国を滅ぼす為に組まれたメンフィル帝国とクロスベル帝国の同盟関係は未だ続いているのでしょうか?」

ある事が気になっていたミュゼは真剣な表情で訊ねた。

「ええ、アタシ達の予想だと最低でも現クロスベル皇帝が死去するまでは続くと思っているわ。何せ、現クロスベル皇帝と前メンフィル皇帝であるリウイ・マーシルン前皇帝やその孫娘のリフィア皇女は個人的に親しい関係の上、現クロスベル皇帝の娘であるメサイア皇女はメンフィル帝国の英雄―――灰色の騎士の坊やの婚約者の一人なのだからね。」

「えええええええええええええええっ!?ク、クロスベルの皇女様まで教官の婚約者の一人なんですか!?」

「ここでも教官の不埒な性格が関係してくるとは、ある意味教官らしいというべきでしょうか。」

「というか今のクロスベル皇帝はどうやって、異世界の大国の皇家の方々と親しい関係になったんだ……?」

「うふふ、さすがリィン教官と言った所でしょうか♪――――しかし、今までの話から推測するとミシェルさん達が悩んでいらっしゃっている問題は宰相達の野望を知ったメンフィルがクロスベルと共に”宰相達の野望を理由にして西ゼムリア同盟を破棄したエレボニアこそ西ゼムリアの平和を乱す存在という大義名分”扱いして、エレボニアに侵略、そして滅亡させる恐れがある事ですか。」

ミシェルの説明を聞いたユウナ達が様々な反応を見せている中落ち着いた様子でいたミュゼは表情を引き締めてミシェル達に確認した。



「ああ、しかもメンフィルにはエレボニア皇帝の帝位継承者の一人であるアルフィン皇女が手元にいるからね。例え、メンフィルの協力無しに”鉄血宰相”達の野望を阻止する事ができたとしても、メンフィルがアルフィン皇女をエレボニア皇帝に相応しい人物である事を主張してきて、ユーゲント皇帝の皇位簒奪並びにエレボニアの併合や属国化を狙って来る恐れもあるんだよね……」

「え…………こちらの世界の皇女殿下はリィン教官――――シュバルツァー家に降嫁したにも関わらず、皇女殿下の帝位継承権は消滅していないのですか?」

「へ……それって、どういう事??」

リンの話を聞いて驚きの表情で訊ねたクルトの問いかけの意味がわからないユウナは首を傾げた。

「通常、皇族の継承権を持つ方達が他家に降嫁―――つまり結婚する事で”他家の所属”になった方達は皇族の継承権は消滅する仕組みになっているのですが…………リンさんの口ぶりからすると、まさかメンフィル帝国は”和解条約”でのリィン教官と皇女殿下の結婚の件で、皇女殿下に存在しているエレボニア皇帝の帝位継承権を消滅させないという条件も加えていたのでしょうか?」

「ええ、当初和解条約によってメンフィルに贈与される事になるエレボニアの領地を少しでも減らす為に条約前に行われた交渉によって、メンフィルはエレボニアから贈与されるエレボニアの領地を減らす”代償”としてリィン君に嫁ぐアルフィン皇女の帝位継承権を消滅させない事を条件に出して、その条件をエレボニアが同意したという話よ。――――勿論、アルフィン皇女が降嫁した事で唯一のエレボニア皇帝の帝位継承者となってしまったセドリック皇太子が”何らかの理由でユーゲント皇帝の跡を継げなくなった場合のみ”という条件付きだけどね。」

「しかもアナタ達の話だとセドリック皇太子も”鉄血宰相”達に加担しているんでしょう?その件を考えると、”鉄血宰相”達の野望が阻止された場合セドリック皇太子がユーゲント皇帝の跡を継ぐ事はどう考えても無理なのよねぇ………」

ユウナに説明をしたミュゼの確認にエオリアは頷き、ミシェルは今後起こる可能性がある未来を想像して疲れた表情で溜息を吐いた。

「それは………」

「というか世界を滅茶苦茶にしようとしている人達に加担している上アルを殺そうとしたあんなバカ皇太子、むしろ皇帝にならない方が世の為よ。」

「まあ、ユウナさんの皇太子殿下に対する不敬な発言云々はともかく………何にしても、メンフィル帝国に協力を取りつけなければ、例え”巨イナル黄昏”を阻止したとしても別の問題が浮上するという事ですか。」

ミシェルの話を聞いて事情を察したクルトが複雑そうな表情をしている中ユウナはジト目である人物に対する痛烈な意見を口にし、アルティナは静かな表情で呟いた。



「そういう事。ホントにどうしようかしらねぇ…………」

「…………メンフィル、クロスベルの双方に嘘偽りなく説明するかつ”鉄血宰相”達の野望に関わる事でエレボニアを滅ぼしたり併合したりしないように頼んで、最初から”鉄血宰相”達の野望阻止に協力してもらうしかないんじゃないの?どの道第Ⅱ分校にはリィン君を含めたメンフィル、クロスベルの皇族や英雄が”教官”として派遣されているのだから、第Ⅱ分校の教官であるリィン君達が”鉄血宰相”達の野望に巻き込まれる事は確実の上、それまでの経緯もリィン君達によってメンフィルとクロスベルに伝わるでしょうし。」

「そうだね………後から判明すれば、それこそエレボニアとメンフィルの外交関係を気にしてアルフィン皇女をユミルに匿っていた事を”英雄王”達に報告しないようにシュバルツァー男爵に要請した結果”七日戦役”勃発に間接的に関わってしまったトヴァルの二の舞いみたいに最悪の結果――――”メンフィル・クロスベル連合との戦争によるエレボニア帝国の滅亡”に陥ってしまうと思うよ。」

ミシェルが悩んでいるとエオリアとリンが意見を口にし

(心配するのが戦争に勃発する事や”巨イナル黄昏”が起こる事じゃなくて、”エレボニアに戦争を仕掛けられる側”によってエレボニアが滅亡するかもしれない事を心配するなんて、何かおかしくない?)

(……まあ、今までの話を総合するとこの世界のエレボニアは僕達の世界のエレボニアと比べると国力、戦力共に相当衰退している上、メンフィルという国はとてつもない強国のようだから、ミシェルさん達はエレボニアの心配をしているのだろうな……)

ミシェル達の悩みを聞き、冷や汗をかいたユウナはジト目になって小声で囁き、クルトは静かな表情で答えた。

「………それもそうね。そうと決まれば、まずはクロスベル皇帝に面会する必要があるわね。」

一方エオリアとリンの意見を聞いて少しの間考え込んだ後答えを出したミシェルは通信機に近づいて誰かと通信を始めた。



「―――はい、エリィ・マクダエルです。どなたでしょうか?」

「仕事中に悪いわね、遊撃士協会・クロスベル支部のミシェルよ。”黄金の戦王”に面会のアポを取りたいんだけど、近日中に”黄金の戦王”と何とか面会できないかしら?」

「ヴァイスハイト陛下に……?陛下に直接面会しなければならない程の重要な用事があるのでしょうか?」

「ええ、重要も重要。1年半前の”クロスベル動乱”をも超える大事件の情報を掴んだから、その件について”黄金の戦王”とも話しあいたいのよ。」

「ええっ!?……わかりました、すぐに陛下に確認しますので、確認が終わり次第折り返し連絡をしますので、一端通信を切りますね。」

「ええ、お願いね。―――――今、クロスベル皇帝との面会のアポが取れるか確認しているらしいから、確認が終わるまで待っていてほしいよ。」

通信相手との通信を終えたミシェルはユウナ達に通信内容を伝えた。

「こちらの世界の遊撃士協会はクロスベル皇帝―――一国の”王”との面会のアポイントも容易に取れるのですか………」

「ふふっ、クロスベル皇帝が信頼している部下の一人に伝手があるお陰で、クロスベル皇帝を始めとしたクロスベルのVIP達とのアポは割と簡単なのよ。」

「えっと……ちなみにその人物はどのような人なんですか?」

「フフ、その人はユウナちゃんもよく知っている人よ。」

クロスベル皇帝を始めとしたクロスベルのVIPとのアポイントの確認ができる人物が気になっていたユウナの質問にエオリアは微笑みながら答えた。

「へ……あたしもよく知っている人って……?」

「マクダエル元議長の孫娘―――――エリィ・マクダエル一等書記官よ。」

「ええっ!?そ、それじゃあさっき、エリィ先輩と話していたんですか……!?」

「確かその名前は”特務支援課”の……」

「――――エリィ・マクダエル。”特務支援課”のサブリーダーであり、マクダエル議長の孫娘ですね。」

ミシェルの通信相手を知ったユウナが嬉しそうな表情をしている中意外な人物の名前が出た事にクルトは目を丸くし、アルティナは静かな表情で呟いた。



「”書記官”という事はその方はクロスベルの外交関係の職務に就いている方なのでしょうか?」

「ええ、”特務支援課”解散前に元々クロスベル皇帝達から書記官のポストを用意されていたエリィちゃんは”特務支援課”解散後に用意されたポストに就いて、そのまま各国との外交取引に携わるクロスベルのVIP達の下で学んでたった半年で一等書記官に昇格したお陰で、今では単独で各国との外交のやり取りの一部も任せられているわ。」

「え………この世界では”特務支援課”は解散したんですか!?一体どうして………」

ミュゼの質問に答えたエオリアの説明を聞いてある事に気づいたユウナは驚きの声を上げて戸惑いの表情をした。

「ユウナも知っているでしょうけど”特務支援課”の真の設立理由は二大国―――エレボニアとカルバードによる領有問題で発生したクロスベルの様々な”壁”を乗り越える為だったでしょう?だけど、カルバードは滅び、更にクロスベルはエレボニアを超える大国となった事でその”壁”もなくなった事もそうだけど、支援課のリーダーの坊やを除いた支援課のメンバーも生まれ変わったクロスベルでのそれぞれの自分達の”道”を歩む為に支援課のリーダーの坊やと課長の”搦め手”と”叡智”を除いた支援課のメンバーは全員、クロスベル警察を退職したのよ。」

「あ…………えっと、ちなみにこの世界のロイド先輩達―――ロイド先輩にティオ先輩とランディ先輩、ワジ先輩とノエル先輩、それにセルゲイ警部とキーアちゃんは今どういう状況なんでしょうか?」

ミシェルの説明を聞いて呆けた声を出したユウナは異なる世界の”特務支援課”の面々の状況が気になり、ミシェル達に質問をした―――――




 

 

異伝~終焉に諍う英雄達の来訪~第6話

~遊撃士協会・クロスベル支部~



「テスタメンツの元リーダーに関してはそちらの世界と一緒だと思うけど、”星杯騎士団”に戻って”星杯騎士”としての任務で各国を回っていて、”搦め手”は”警視”に昇級して、クロスベル警察の上層部の一人として活躍しているわ。」

「ティオちゃんは一度レマン自治州のエプスタイン財団の本部に戻ったけど、エプスタインのクロスベル支部の開発主任として最近クロスベルに帰って来て、キーアちゃんはロイド君に引き取られて以前のように普通の女の子としての生活をしているわ。」

「元警備隊の若手と”闘神の息子”はそれぞれ准佐待遇でクロスベル帝国軍に所属したけど……”闘神の息子”は第Ⅱ分校の教官の一人として、第Ⅱ分校に派遣されたって話だよ。」

「という事は第Ⅱ分校に元からいた教官陣は分校長を除けば僕達の世界と同じようだな………」

「そうですわね。……ただ、エレボニアとの関係が微妙なメンフィルやクロスベル所属のリィン教官達が何故第Ⅱ分校の教官として派遣された経緯は気にはなりますが。」

「しかもこちらの世界のわたしに関しては、”情報局”のような何らかの任務が命じられるような組織にすら所属していないのに第Ⅱ分校に入学している理由が全く理解できません。」

ミシェル達の説明を聞いたクルトとミュゼは考え込み、アルティナは疲れた表情で呟いた。



「で、肝心の支援課のリーダーの坊やに関してだけど………クロスベル軍警察の上級捜査官の一人として帝都(クロスベル)を含めたクロスベル帝国の領土内のあちこちを飛び回って活躍しているわよ。」

「そうだったんですか…………よかった…………あれ?だったら、どうしてこの世界のあたしは第Ⅱ分校に入学したんですか?あたしが第Ⅱ分校に入学した理由はエレボニアがロイド先輩達を指名手配した事を知ったあたしがエレボニアに併合されたクロスベルの軍警本部に抗議しちゃった時に帝国人の新しい本部長から取得した単位を全て取り消されたんですけど、それを見かねたクレア教官が説得してくれたお陰で半分くらいは取り戻せて、残り半分の単位は”別の学校”の単位で代替する条件でクレア教官の勧めもあって、第Ⅱ分校に入学したんですが……」

「君が第Ⅱ分校に入学した経緯はそのような経緯があったのか……」

「ふふっ、そう言えば夏至祭での祝賀会の時にクレア少佐と一緒にいるユウナさん達とリィン教官が話している所を遠目で見た事がありましたけど……もしかして、アルティナさんは既にご存知だったのですか?」

「はい。……その件も含めれば、本来第Ⅱ分校―――”新Ⅶ組”にわたしとユウナさんが入学する理由がないのですが……その件については何かご存知なのでしょうか?」

異なる世界の特務支援課の面々のその後を知った事で嬉しそうな表情をしたユウナだったがある事に気づいて訊ね、ユウナの質問の中にあったユウナが第Ⅱ分校に来た理由を知ったクルトは目を丸くし、静かな笑みを浮かべたミュゼに視線を向けられたアルティナは静かな表情で頷いた。

「黒兎のお嬢ちゃんに関しては知らないけど、アタシ達の世界のユウナの第Ⅱ分校行きの経緯は理由は違えど軍警本部に抗議して、それが原因で第Ⅱ分校に留学した所に関してはこちらの世界のユウナと一致しているわね。」

「へ……ど、どうしてですか?肝心のロイド先輩はこの世界では指名手配されていない所か、上級捜査官の一人として活躍しているのに……」

「………アリオスさんとグリムウッド弁護士の件でこちらの世界のユウナちゃんは軍警本部に抗議したのよ。」

ミシェルの話を聞いて首を傾げているユウナにエオリアは複雑そうな表情で答えた。



「へ………ア、アリオスさんとイアン先生の……?そう言えばさっき聞きそびれましたけど、(いん)さんやアリオスさんもそうですけど、この世界のマクダエル議長はどういう状況なんですか?ミシェルさん達はさっきマクダエル議長の事を”元議長”って言っていましたけど………」

(いん)―――リーシャ・マオは”銀”としての活動は”碧の大樹”の件が解決した時を機に引退してアルカンシェルのアーティストとしての活動に専念しているみたいだけど……たまにロイド達――――クロスベル軍警察に”銀”としての力を使って手を貸しているみたいだよ。」

「マクダエル元議長はクロスベル帝国が建国される少し前に自分は引退してクロスベル皇帝達にクロスベルの事を託す宣言をして議長を正式に退職しているわ。ただ、その後に今年の春に設立されたばかりのクロスベルの高等学校付属の大学院――――”サティア学院”の学院長に就任したわ。で、問題はアリオスさんとグリムウッド弁護士なんだけど………」

「……アリオスはクロスベル皇帝達によって”クロスベルの裏切り者”というレッテルを貼られて”ノックス拘置所”で服役中よ。懲役は現在の所20年らしいわ。そしてイアン・グリムウッド弁護士は………――――半年前に公開処刑されたわ。クロスベル動乱を起こした元凶の一人にして、D∴G教団事件の主犯であるヨアヒム・ギュンターを裏から操っていた黒幕(フィクサー)という理由でね。」

「な―――――」

「確か”風の剣聖”はクロスベルの英雄として有名だと聞いた事がありますが………その英雄が”裏切り者”扱いされて拘置所で服役、そしてクロスベルの民間人に親しまれていたグリムウッド弁護士は”公開処刑”ですか………その件も私達の世界とは随分違いますわね……」

「そうですね……その2名は一体何故そんな事になったのでしょう……?特にイアン・グリムウッドはエレボニア帝国政府ですら拘置所で服役させていますのに……」

ミシェルの口から語られた驚愕の事実にクルトは絶句し、真剣な表情で呟いたミュゼの言葉に頷いたアルティナは複雑そうな表情でユウナに視線を向け

「な、な、何で二人がそんな事になっているんですか!?確かに二人はクロスベル動乱を起こした関係者達でしたけど、それでも今までクロスベルを守って来たアリオスさんやクロスベルの人達の相談に気軽に乗ってくれたイアン先生がそんな事になるなんて、おかしいですよ!」

ユウナは口をパクパクさせた後怒りの表情で声を上げた。

「そう、まさに貴女が今言った同じような事をこちらの世界の貴女は軍警本部に抗議して、その件をよく思わなかった本部長が貴女の世界の本部長のように貴女が今まで軍警察学校で取った単位を全て取り消したらしいのよ。」

「………っ!どうして………どうして、ミシェルさん達は、二人がそんな事になったのに、二人を守る為の行動をしなかったんですか!?アリオスさんは言うまでもなくクロスベルの遊撃士達の纏め役で、クロスベル支部の”切り札”でしょう!?それにイアン先生は民間人――――”民間人の保護”を規約にしている遊撃士協会が守るべき存在なんじゃないですか!?なのに、どうして二人を見捨てたんですか……!?」

「ユウナ……」

ミシェルの指摘を聞いて唇を噛みしめたユウナは悲痛そうな表情でミシェル達に問いかけ、その様子をクルトは心配そうな表情で見守っていた。



「………耳が痛い話だね。」

「そうね………ただ、遊撃士協会(わたしたち)の言い分としては、残念ながら”クロスベル動乱を起こした関係者であるアリオスさんとグリムウッド弁護士は遊撃士協会の保護対象”に当てはまらない―――つまり、遊撃士協会が二人を守る為の”大義名分”がないから、何もできなかったのよ………」

「え…………」

「それは一体どういう意味でしょうか?」

ユウナの指摘に対してリンと共に複雑そうな表情を浮かべて答えたエオリアの説明を聞いたユウナは呆け、アルティナは不思議そうな表情で訊ねた。

「………なるほど。クロスベル動乱――――それも、世界各国を巻き込む程の大事件を起こした元凶―――つまり、”犯罪者”になってしまったお二人は遊撃士協会の保護対象である”民間人”には当てはまらないのですわね?」

「そうか………遊撃士協会の保護対象はあくまで”民間人”であって、幾ら民間人とはいえ犯罪を犯せば”犯罪者”――――つまり”民間人でなくなるから”、二人を守る為の大義名分が遊撃士協会には存在しないのか……」

「あ……………」

一方事情を察したミュゼの指摘を聞いてある事に気づいたクルトは複雑そうな表情で呟き、ミュゼとクルトの話を聞いたユウナは呆け

「その通りよ。実はアタシ達もせめて二人の罪を少しでも軽くする為に色々と動いていたんだけど、”D∴G教団”の黒幕であるクロイス家を裏から操っていたグリムウッド弁護士は七耀教会にも”外法認定”された存在で、しかも”零の巫女”に対する助言役を務める事でゼムリア大陸の歴史を歪めようとしていた彼の行いを知った”空の女神”の怒りまで買ってしまった事で七耀教会は当然として空の女神を崇めているゼムリア大陸の多くの人々もグリムウッド弁護士に対して怒りを抱いていたから、どうしようもなかったのよ………」

「そしてアリオスさんは国防軍の長官に就任した時に遊撃士を退職したからね………しかもアリオスさんは遊撃士時代、遊撃士協会(あたしたち)の目を盗んでクロスベル動乱を勃発させる為に裏で動いていた事実を知った遊撃士協会本部がアリオスさんに対して相当な怒りを抱いちまったようでね………本部にもグリムウッド弁護士同様アリオスさんの罪を軽くする為の協力を要請したんだけど、『既に遊撃士協会を去り、世界各国をも巻き込む大事件を起こした元凶を庇う理由はない』との答えで、アリオスさんの”減刑”に協力しない所か、アリオスさんが今まで重ねてきた”実績”―――A級正遊撃士の資格も剥奪しちまった上遊撃士協会の要注意人物のリスト―――つまり”ブラックリスト”にまでアリオスさんを入れたんだよ……」

「……遊撃士協会はただでさえ、トヴァルさんの件―――”七日戦役”勃発に間接的に関わっていたという失態があるから、これ以上の失態を犯して世界各国から遊撃士協会の存在の有無が問われないようにする為に、アリオスさんを切り捨てたんでしょうね……」

「………っ!」

「ユウナさん………その……話は変わりますが、こちらの世界のユウナさんはわたし達の世界のユウナさんと同じ状況―――第Ⅱ分校に入学してきたのでしょうか?ユウナさんの話からするとクレア少佐が取り消されたユウナさんの単位を取り戻したそうですが………エレボニアから独立している今のクロスベルの軍警察学校にエレボニア帝国の鉄道憲兵隊に所属しているクレア少佐が教官として赴任してくるとは思えないのですが……」

ミシェル達の指摘や説明に唇を噛みしめて両手の拳を握りしめたユウナの様子を辛そうな表情で見つめていたアルティナは重苦しい空気を変える為に別の質問をした。

「何でも、その件を知った臨時で教官を務めていたクロスベル皇帝の妃の一人―――リセル・ザイルード皇妃が見かねてユウナちゃんを庇ったお陰でそちらの世界のユウナちゃんと同じ状況になったみたいよ。」

「へ……ク、クロスベルの皇妃様があたしを……?というかさっきからずっと気になっていたんですけど、そのクロスベルの皇帝や皇妃様ってどんな人達なんですか?」

「あー……そう言えばクロスベル皇帝達――――”六銃士”については、まだ何も説明していなかったわね。まず”六銃士”という存在は――――」

エオリアの説明を聞いて驚いた後戸惑いの表情で訊ねたユウナの質問に苦笑したミシェルはユウナ達に自治州だったクロスベルを”帝国”へと成りあがらせたクロスベルの新たなる英雄達―――――”六銃士”についての説明をした。



「僅か6名で”猟兵団”をも壊滅させる戦闘能力があり、不正を働いていた上流階級の方々を失脚させることができるほどの策略も長けた流浪の英雄達にして、”クロスベル帝国”を建国したクロスベルの新たなる英雄―――――”六銃士”ですか………」

「しかも全員、異世界――――”ディル=リフィーナ”の出身で更には元皇帝や将軍クラスの人物であり、そしてIBCによる”資産凍結”が行われる少し前に起こった猟兵達によるクロスベル襲撃の際にはその”六銃士”のかつての戦友や生まれ変わった戦友達がかけつけて”六銃士”達と共に猟兵達を撃退して、クロスベル動乱時にクロスベル帝国を建国するなんて、まるでおとぎ話のような話だな……」

「正直な所、どれも非常識かつカオスな内容ばかりですね……まあ、カオスな状況になっているクロスベルを治める人物達として、ある意味納得もできますが。」

「こ、この世界のクロスベルって一体どうなっているのよ………警備隊の司令や警察の局長ですらも、その”六銃士”って人達が務めていた上、その局長が”特務支援課”にまで配属していたなんて、幾ら何でも滅茶苦茶よ………」

”六銃士”の説明を受けたミュゼとクルトは真剣な表情で呟き、アルティナはジト目で呟き、ユウナは疲れた表情で溜息を吐いた。

「まあ、”六銃士”が”色々な意味で規格外”なのは否定しないよ。何せ、クロスベル皇帝の一人―――”紅き暴君”が何を考えているのかわからないけど、第Ⅱ分校の教官に自ら名乗り上げてこの世界の第Ⅱ分校の”戦術科”の担当教官になっているのだからね。」

「ちなみにランディ君は”紅き暴君”の”お目付け役”として第Ⅱ分校の”戦術科”の副担任として第Ⅱ分校に派遣されたそうよ。」

「ど、どこまでハチャメチャな事を仕出かしたら気が済む人達なのよ、その”六銃士”って人達は………」

「……案の定”戦術科”もカオスな事になっていましたね。」

「というか、皇帝が他国―――それも緊張状態に陥りかけている国の士官学院の教官を務めるなんて、その”紅き暴君”という人物の意図もそうだが、エレボニアもその人物が第Ⅱ分校の教官として派遣される事を受け入れた意図も全然理解できないな……」

「うふふ、ですがその代わりこちらの世界の第Ⅱ分校の戦力は大幅に強化されている事に関しては朗報と思うべきでしょうね。……という事はこちらの世界のユウナさんの第Ⅱ分校入りの件に関わっていたリセル皇妃という人物はヴァイスハイト皇帝かギュランドロス皇帝、どちらかの妃という事でしょうか?」

リンとエオリアの口から出た驚愕の事実に冷や汗をかいて表情を引き攣らせた後我に返ったユウナとアルティナはジト目で呟き、疲れた表情で溜息を吐いたクルトに指摘したミュゼはミシェル達に確認した。



「ええ、リセル皇妃は”黄金の戦王”―――ヴァイスハイト皇帝の妃の一人で、ヴァイスハイト皇帝の正妃よ。」

「”妃の一人”……という事はヴァイスハイト皇帝には複数の妃が存在しているのでしょうか?」

「ああ、そうだよ。”黄金の戦王”――――ヴァイスハイト皇帝は”好色皇”って呼ばれている程とんでもない”好色家”でね……ギュランドロス皇帝の妃は一人だけなんだが、ヴァイスハイト皇帝の妃は17人もいるんだよ。」

「き、妃――――奥さんが、17人~~~~~!?何なんですか、その皇帝は!?幾ら女の子が好きだからと言って、17人も奥さんがいるなんて滅茶苦茶過ぎません!?」

「まさかこちらの世界のリィン教官を遥かに超える不埒な男性が存在したとは………」

「クスクス、まさに異名通り”好色皇”ですわね♪」

「というか17人も妃を娶るとか、そのヴァイスハイト皇帝という人物は何を考えているんだ……?確かにクロスベルは新興の国だから世継ぎや皇族は後々の事を考えて多く残す事には一理あるが、あまりにも多いと帝位継承権争いの元になる事がわからないのか……?」

エオリアの説明を聞いてある事が気になったクルトの問いかけに答えたリンの説明を聞いたユウナは信じられない表情で声を上げ、アルティナはジト目で呟き、ミュゼは小悪魔な笑みを浮かべ、クルトは疲れた表情で呟いた。

「その辺に関しては意外にもしっかりと考えているようでね。ヴァイスハイト皇帝の第1側妃―――――ユーディット皇妃が産んだ子供とギュランドロス皇帝の妃であり、”六銃士”の一人であるルイーネ皇妃が産んだ子供を結婚させて、その二人に自分達の跡を継がせる事も公言しているわ。」

「子供達の結婚まで既に決めているって………子供も産まれていないのに、幾ら何でもそんな先の事を決めるなんて机上の空論にも程があるでしょ……」

「そもそも、その二人から産まれた子供が異性でなければどうするつもりなのでしょうか?」

「まあ、その辺に関しては他の妃が産んだ子供達で何とかするつもりなんだろうな。片方の皇帝に妃が17人もいれば、幾ら何でも一人くらい異性の子供は産まれるだろうしな………というか、何故ヴァイスハイト皇帝はそのユーディット皇妃―――それも正妃ではなく側妃が産んだ子供に自分の跡継ぎにするつもりなんだ……?普通に考えれば、正妃が産んだ子供を跡継ぎにするべきだと思うが……」

ミシェルの説明を聞いたユウナとアルティナがジト目になっている中静かな表情で指摘したクルトは戸惑いの表情で考え込んだ。



「ユーディット皇妃にはゼムリア大陸側の”尊き血”――――それも”皇族に次ぐ尊き血”が流れているから、皇族や貴族の旗印も無しに”成りあがり”で建国したクロスベル帝国の正当性を証明する為にユーディット皇妃の子供を跡継ぎにするらしいわ。」

「”皇族に次ぐ尊き血”、ですか。……ちなみにそのユーディット皇妃という人物はどちらの上流階級の出身なのでしょうか?ゼムリア大陸出身で、それも”皇族に次ぐ尊き血”を引く上流階級となると相当限られますが……」

エオリアの説明を聞いてある事が気になったミュゼは真剣な表情で訊ねた。

「それがねぇ………そのユーディット皇妃の父親は貴族連合軍の”主宰”―――つまりトップだったクロワール・ド・カイエン元公爵なんだ。」

「へ…………」

「な―――――――カイエン公の……!?」

「……?確かカイエン公は未婚で、養子も存在しなかったはずですが……」

「………”並行世界”ですから、カイエン公の家庭事情も私達の世界とは異なるのでしょうね。…………確かに皇族や貴族―――”尊き血”を引く人物も無しに”国”―――それも”帝国”を建国したクロスベルに”四大名門”―――それも、かつての”獅子戦役”でドライケルス大帝に敗北した”偽帝”オルトロスの子孫であるカイエン公爵家の血が入れば、”帝国としての正当性”を証明しやすいでしょうね。ちなみにそのユーディット皇妃という人物はどのような―――」

リンの話を聞いたユウナ達が様々な反応を見せている中ミュゼが静かな表情で答えた後ある事を訊ねようとしたその時、通信機が鳴り始めた。



「あら、もしかしてもう確認が終わったのかしら?……こちら、遊撃士協会・クロスベル支部よ。………ええ……ええ、わかったわ。ただ、事情の説明の為にもアタシの他にも詳しい事情を知っている4人が同行して”黄金の戦王”と面会してもらう必要があるんだけど………ええ……ええ……わかったわ、お願いね。今、エリィお嬢ちゃんから連絡があったわ。今から”黄金の戦王”との面会が可能だとの事だから、並行世界の新Ⅶ組のアナタ達はアタシと一緒に同行してもらえるかしら?」

「へ………も、もしかして今からあたし達もミシェルさんと一緒にクロスベル皇帝の一人に会って、あたし達の事情を説明するんですか!?」

通信を終えたミシェルの自分達に対する要請を聞いたユウナは驚きの表情で訊ねた。

「当たり前よ。今後の未来の大事件をアタシ達が既に掴んでいるなんてこと、普通に考えれば誰も信じないでしょうけど”未来で起こった大事件を実際に体験してきた本人達”をその目にすれば、誰だって信じるでしょう?」

「まあ、正論ではありますが………」

「クロスベルを帝国へと成りあがらせた”六銃士”の一人にして二人いるクロスベル皇帝の片翼……一体どんな人物だ?」

「ふふっ、少なくても女性には甘い皇帝陛下なのではないでしょうか?何せ、”好色皇”と呼ばれている程のとてつもない好色家なのですから、女子である私やユウナさん、それとアルティナさんの3人でおだてたりお酌でもすれば、あっさり私達の頼みを聞いてくれるのではないでしょうか♪」

ミシェルの説明にアルティナが若干戸惑った様子で頷き、クルトが興味ありげな表情で考え込んでいる中小悪魔な笑みを浮かべたミュゼの提案を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力した。



「ミュゼ、あんたね………あたし達の許可もなく勝手にあんたの悪だくみにあたし達まで巻き込もうとするんじゃないわよ。」

「というかそんな不埒な行為を本当に実行するつもりなら、ミュゼさん一人でやってください。」

「ふふっ、どこぞの”小さい方の天使”を思い浮かべるような小悪魔な性格をしている娘ね。―――それじゃあ、今からアタシ達は”オルキスタワー”に行ってくるから二人は留守番、頼むわね。」

ユウナとアルティナがそれぞれジト目でミュゼを見つめている中その様子を苦笑しながら見守っていたミシェルはエオリアとリンに視線を向け

「ええ。」

「ああ、任せときな。」

視線を向けられた二人はそれぞれ頷いた。



その後ユウナ達はミシェルと共にクロスベル皇帝の一人――――”黄金の戦王”ヴァイスハイト・ツェリンダーに面会する為にクロスベル帝国の”帝城”であるオルキスタワーに向かった―――――




 

 

異伝~終焉に諍う英雄達の来訪~第7話

同日、16;00-――



~オルキスタワー・エントランスホール~



「ま、まさか”オルキスタワー”がクロスベルのお城として使われているなんて………」

「ふふっ、私達の世界のルーファス総督を始めとしたエレボニア帝国政府もオルキスタワーを総督府として使っていましたし、それを考えるとオルキスタワーはクロスベルの”帝城”として相応しいかもしれませんわね。」

ミシェルやクルト達と共にクロスベル皇帝に面会する為にクロスベル帝国の”帝城”であるオルキスタワーのエントランスに入った到着したユウナは信じられない表情で呟き、ミュゼは苦笑していた。

「入城の為の手続き等は必要ないのでしょうか?見た限り、一般の人達もチェック無しで出入りをしているようですが……」

一方一般人と思われる人々が帝城であるオルキスタワーを普通に出入りしている事を不思議に思ったクルトはミシェルに訊ねた。

「元々オルキスタワーにはエプスタイン財団を始めとした様々なテナントが入っていたからね。現状テナントが入っている階層までのエレベーターは制限なしかつノーチェックで入れるわ。まあ、将来的には別の高層ビルを建てて、そこにオルキスタワーに入っているテナントに移動してもらう計画が進行しているそうだけどね……」

「テナントが入っている階層までのエレベーターは制限無しという事はクロスベル帝国政府や皇族関係の階層はやはり、制限がかけられていて、荷物の検査等もあるのでしょうか?」

ミシェルの説明を聞いてある事が気になったアルティナはミシェルに訊ね

「ええ、特に皇族関係の階層のチェックはかなり厳しい―――――っと、どうやらちょうどいいタイミングだったようね。」

「あ…………」

アルティナの質問に答えかけたミシェルだったがエレベーターから現れたパールグレイの髪の女性に気づき、女性の登場にユウナは呆けた声を出した。



「―――お待たせしました、ミシェルさん。それでは陛下の元へは私が案内――――あら……?貴女達は………」

「お久しぶりです、エリィ先輩……!」

「”エリィ”………という事は貴女がマクダエル議長の……」

パールグレイの髪の女性―――――エリィ・マクダエルはミシェルを案内しようとしたがミシェルの傍にいるユウナ達に気づくと目を丸くし、ユウナは嬉しそうな表情でエリィに声をかけ、ユウナの言葉を聞いて目の前の女性がユウナが憧れている”特務支援課”のメンバーである事に気づいたクルトは目を丸くし

「ユ、ユウナちゃん……?それにアルティナちゃんまで………確か今の時間、貴女達――――第Ⅱ分校はアルトリザスでの”特別演習”が終わって”リーヴス”への帰還している途中なのに、どうしてユウナちゃん達がクロスベルに………」

「………ユウナさんはともかく、”ここにいるわたし”に関しては貴女とは”初めまして”になります、”特務支援課”サブリーダー、エリィ・マクダエルさん。」

「え、えっと……?」

「ふふっ、その娘達については話せば長くなるから、”黄金の戦王”との面会の時に説明させてもらうわ。」

ユウナ達の登場や自分にとって顔見知りであるはずのアルティナの反応に困惑しているエリィの様子に苦笑したミシェルは軽く説明した。

「ハ、ハア……?……もしかして先程の通信内容で出て来た4人とは、ユウナちゃん達の事なんですか?」

「ええ、そうよ。それじゃあ、”黄金の戦王”の所への案内を頼んでいいかしら?」

「………わかりました。――――陛下達は33階の応接室でお待ちです。本来は荷物検査や武装預りの手続き等も必要ですが、陛下より今回は事情が事情なので、そう言った面倒な手続きは特別に免除するとの事ですので、このまま私についてきてください。」

ミシェルの説明を聞いて少しの間考え込んだ後気を取り直したエリィはミシェル達の案内を始めた。



~エレベーター内~



「そう言えばさっきヴァイスハイト皇帝”達”が応接室で待っているって言っていたけど、ヴァイスハイト皇帝以外にアタシ達と面会する人物を訊ねてもいいかしら?」

「ええ、構いませんよ。ヴァイスハイト陛下以外ですとルイーネ皇妃殿下とユーディット皇妃殿下が皆さんと面会する事になっています。」

「あら、まさか旧共和国領方面と元エレボニア帝国領方面の”総督”まで揃っているなんて、珍しいわね。普段からクロスベルと旧共和国領方面を行き来している”微笑みの剣妃”はともかく、ユーディット皇妃は普段はオルディスでしょう?」

「お二人の陛下への定期報告がたまたま重なったんです。それで、先程のミシェルさんからの通信内容からして、ミシェルさん達の話をそれぞれの方面の”総督”であるお二人の耳にも入れておくべきだという陛下の判断で、お二人も陛下と一緒にミシェルさん達と面会する事になったんです。」

「なるほどね………まあ、その方が大事件の阻止の為の話がよりスムーズに進みそうで助かるわ。……ちなみにその”たまたま重なる定期報告”は来月の”三帝国交流会”の日程にも合わせているのかしら?」

「申し訳ありませんがその件については”対価”も無しに答えられません。お二人のスケジュールについては、私を含めて一部の人物達にしか公開されていないクロスベル帝国政府にとっても相当な機密情報に当たりますので。」

「あら、残念。それにしてもアナタ、段々”叡智”に似てきたんじゃないかしら?前のアナタならそう言った強かな所は見せずに、協力者には自分達が知る可能な限りの情報を共有する考えの人物だっただと思うわよ?」

「フフ、褒め言葉として受け取っておきます。」

(ク、クロスベルの皇帝どころか皇妃様達とまで面会する事になるなんて……!)

(ルイーネ皇妃……先程の話にあった”六銃士”の一人ですか……先程の”六銃士”のそれぞれの特徴を考えると、謀略に長けたその人物がある意味”六銃士”の中で最も厄介と思われる人物のようですが……)

(それともう一人はあのカイエン公のご息女で、しかも二人の会話からするとその人物は元エレボニア帝国の領土の”総督”を務めているようだが………一体どのような人物だ……?)

(ふふ、”まさに鬼が出るか蛇が出るか”、ですわね。(……少々厄介な事になりましたわね。そのユーディット皇妃という人物がクロワール叔父様のご息女ならば、当然”ユーディット皇妃の従妹であるこちらの世界の私とも面識がある”でしょうし………))

ミシェルとエリィの会話を聞いていたユウナは驚き、アルティナとクルトの疑問に苦笑しながら小声で答えたミュゼは困った表情で考え込んでいた。そしてエレベーターは33階に到着し、ミシェル達はクロスベル皇帝達が待機している部屋の前に到着し、部屋の前に到着したエリィは扉をノックした。



~33F・応接室~



「―――エリィです。ミシェルさん達をお連れしました。」

「ご苦労。客人達と共に入って来てくれ。」

「―――失礼します。」

部屋の中にいる人物の許可を聞いたエリィは扉を開けてミシェル達と共に部屋に入った。

(あ…………)

(あの3人が異なる世界のクロスベルの皇族の………)

それぞれソファーに座っている金髪の男性、蒼髪の女性、金髪の女性を見たユウナは呆け、クルトは興味ありげな表情で3人を見つめた。

「あら?貴女は………」

「?どうかしたのかしら、ユーディットさん。」

一方金髪の女性はミシェル達の中にいるミュゼを見つけると目を丸くし、金髪の女性の様子を不思議に思った蒼髪の女性は金髪の女性に訊ね

「………………」

「………後で説明致します。」

自分の事を黙っていて欲しい事を伝えるかのように静かな表情で口元に指を当てて自分を見つめて軽く会釈をしたミュゼの行動を見た金髪の女性は少しの間考え込んだ後答えを誤魔化した。



「ほう………?遊撃士協会からクロスベルにとって無視できない話が聞けると聞いていたが………まさか、件の話―――”1年半前のクロスベル動乱をも超える大事件の予兆”とやらがエレボニアも関係していて、しかもその大事件が”並行世界の未来”で起こっていたとはな。」

「へ…………」

「な――――」

「ええっ!?へ、”並行世界の未来”という事はまさか今目の前にいるユウナちゃん達は……!」

「………何故、わたし達の顔を見た瞬間、そのような非常識な推測をしたのでしょうか?」

金髪の男性は興味ありげな様子でユウナ達の顔を見回した後ユウナ達の正体を察しているも当然の推測を口にし、金髪の男性の推測を聞いたユウナが呆け、クルトが驚きのあまり絶句している中、エリィは信じられない表情で声を上げてユウナ達を見つめ、アルティナは真剣な表情で金髪の男性に訊ねた。

「簡単な話だ。既に遊撃士協会からも”こちらの世界の事情”等もそちらもある程度聞いているとは思うが、トールズ第Ⅱ分校には俺達ですら未だに何を考えているかわからないもう一人のクロスベル皇帝とそのもう一人のクロスベル皇帝のお目付け役としてランディを派遣していて、今日が第Ⅱ分校初めての”特別演習”の最終日で今の時間帯はデアフリンガー号で”リーヴス”に帰還している最中である事は把握している。―――にも、関わらず第Ⅱ分校の生徒達であるお前達が今俺達の目の前にいる事を考えると、お前達の正体はちょっと考えれば大体わかる。」

「僕達の顔を見ただけでそこまで察する事ができるなんて…………」

(た、ただのとんでもない女好きの皇帝だと思っていたけど、クロスベル警察の”局長”を務めていただけあって、一応推理や観察の能力は優れているわね……)

「(幾ら世界は違えど、さすがにその発言は一国の皇帝相手に失礼なのでは?)………しかし、何故わたし達が”並行世界”から来たのだと?そちらの推測ですと単なる時間移動―――”この世界の未来”から来た可能性も考えられるのでは?」

金髪の男性の答えにクルトが驚いている中信じられない表情で男性を見つめているユウナの小声の言葉に指摘したアルティナは不思議そうな表情で男性に問いかけた。



「ああ、そんな事か。それはアルティナ……―――お前達が”並行世界の未来”から来たと確信した一番の理由はお前がいたからだ。」

「わたしが……?ミシェルさん達から”こちらの世界のわたしの事情”はわたしの事情と随分異なる話は聞いていましたが……第Ⅱ分校に入学している点で言えば、こちらの世界のわたしとも一致しているはずですが……」

「そんな小難しい理由じゃない。理由は至って簡単………こちらの世界のアルティナは今目の前にいるアルティナよりも身長もそうだが胸も明らかに成長しているからだ。幾ら人造人間(ホムンクルス)といえど、成長が退化するなんてありえないだろう?ハッハッハッ!」

アルティナの問いかけの理由を答えた後軽く笑った金髪の男性の答えにその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて脱力した。

(……前言撤回。やっぱりただのとんでもない女好きのエロ皇帝じゃない……)

(……ですね。しかも堂々と不埒な発言をして来たことを考えると、リィン教官よりも遥かに不埒な方みたいですね。)

「陛下………お戯れは時と場合を考えてください。」

「フフ、だけどヴァイスさんらしいと言えば、らしい答えだからある意味納得ね♪」

我に返ったユウナとアルティナはジト目で男性を見つめ、金髪の女性は疲れた表情で、蒼髪の女性は微笑みを浮かべてそれぞれ指摘し

「へ・い・か?」

「おっと………俺に次ぐハーレムを形成しているクロスベルの英雄の一人も頭が上がらない我が国自慢の外交官の一人が怒りださない内に話を始めるとするか。―――――クロスベル皇帝の一人、ヴァイスハイト・ツェリンダーだ。」

威圧を纏った微笑みを浮かべたエリィに見つめられた男性―――――クロスベル皇帝の一人であり、”六銃士”の一人でもあるヴァイスハイト・ツェリンダー―――通称”ヴァイス”は話を変える為に自己紹介をし

「クスクス………もう一人のクロスベル皇帝―――ギュランドロス・ヴァスガンの妃のルイーネ・サーキュリーよ。今は旧共和国方面のクロスベル帝国領の”総督”も兼ねているわ。」

「……元エレボニア帝国方面のクロスベル帝国領の総督を務めているカイエン公爵家”当主代理”にして、ヴァイス様の側妃の一人であるユーディット・ド・カイエンです。以後、お見知りおきお願いします。」

ヴァイスに続くように蒼髪の女性――――”六銃士”の一人にしてもう一人のクロスベル皇帝の正妃であるルイーネ・サーキュリー、金髪の女性―――元エレボニアの”四大名門”のカイエン公爵家の”当主代理”にしてヴァイスの側室であるユーディット・ド・カイエンも自己紹介をした。そしてユウナ達は席についてそれぞれ自己紹介をし、自分達の事情を説明した。



「「「「……………」」」」

ユウナ達の事情を聞き終えたヴァイス達はそれぞれ厳しい表情や信じられない表情を浮かべて黙り込み

「やれやれ………衰退したエレボニアを”元通り”―――いや、それ以上の国へと成長させる為にいずれ”鉄血宰相”がクロスベルやメンフィルに”仕掛けてくる”と思ってはいたが……俺達の想定した以上の愚かな事を考えているようだな、”鉄血宰相”達は。」

「しかも皇太子殿下までオズボーン宰相に加担しているなんて……………殿下は一体何を考えてオズボーン宰相達の野望に加担を……」

「………セドリック皇太子の性格の急変は諜報部隊の報告で耳にしていたけれど、話を聞いた感じ、”鉄血宰相”に相当心酔しているようだから恐らくセドリック皇太子は”子供達”の一人に加わっているのでしょうね。」

「”子供達”――――”鉄血の子供達(アイアンブリード)”ですか………ですが、私達の世界のセドリック皇太子も”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の一人にはならず、単にエレボニア皇太子としての責任感で、性格が急変した可能性もあるのでは……?エレボニアやクロスベルを含めたゼムリア大陸の情勢も並行世界のユウナちゃん達のゼムリア大陸とは相当異なるようですし………」

我に返った後呆れた表情で溜息を吐いてヴァイスは表情を引き締め、困惑の表情をしているユーディットの疑問に答えたルイーネの推測を聞いて複雑そうな表情で呟いたエリィは否定の可能性も口にしたが

「いや、むしろ並行世界のセドリック皇太子よりも更に”鉄血宰相”を心酔している可能性の方が考えられる。何せ、メンフィルに敗北した事によってエレボニアは国力、戦力共に相当衰退した上そのメンフィルに”ハーメルの惨劇”を公表させられた影響でエレボニアの国際的地位は地の底に堕ち、止めに”属州扱い”していたクロスベルには独立される所か元エレボニアの領土まで奪われた挙句下克上までされて完全に立場が逆転したからな。」

「しかも内戦を終結させる為にメンフィルはアルフィン皇女が世間からエレボニアの内戦の一番の功労者に見られるように情報操作やアルフィン皇女を旗印にした”紅き翼”―――”特務部隊”や”旧Ⅶ組”を内戦で活躍させたから、”七日戦役”勃発の原因の一人となってしまったアルフィン皇女の汚名は返上した所か、むしろ敵国に囚われたにも関わらず内戦終結に最も貢献した上祖国の滅亡を防ぐ為にリィン君―――エレボニアを滅ぼそうとしたメンフィルへと嫁いだけれど、その嫁ぎ相手であるリィン君とは相思相愛の仲になっている事からまるで物語で出てくるような”王道のヒロイン”や”英雄”扱いされている影響で、リィン君に嫁いでから1年半前経った今でもエレボニアの民達の人気は相当なものよ?それらの件による劣等感や焦り等を感じたセドリック皇太子が現状のエレボニアで頼れる上、尊敬できる人物は一人しかいないでしょう?」

「……それとオリヴァルト殿下も内戦でもそうですが、”リベールの異変”でも活躍した事による”名声”がありますから、その”名声”によってオリヴァルト殿下やアルフィン殿下にエレボニア皇帝の座が奪われる事を危惧してお二人を超える”名声”を求めているのかもしれませんね………もしかしたら、オリヴァルト殿下が乗船されている”カレイジャス”が爆破される事を受け入れてまでオリヴァルト殿下達を排除した理由はその辺りが関係しているのかもしれません。」

「それは……………」

ヴァイス達の推測を聞くと複雑そうな表情で答えを濁した。



「―――まあ、何にしてもその”巨イナル黄昏”とやらを含めたゼムリア大陸全土をも巻き込もうとする”鉄血宰相”達の”野望”を必ず阻止する必要があり、その阻止の協力を俺達にも頼む為に面会を望んだ事もわかった。――――当然、”鉄血宰相”達の”野望”を阻止した後俺達がその件を理由にエレボニアを侵略してエレボニアに”止め”を刺す事をしないように頼む為に来たことやあわよくば、メンフィルの説得を俺達にしてもらえないかどうかも頼む為にも来た事もな。」

「あ……………」

「………っ!」

「………既にそこまで気づいていたのですか。」

「ふふっ、さすがは”西ゼムリア通商会議”での二大国の暗躍を覆してクロスベルの裏社会を一掃し、そしてクロスベルを真の意味で独立させた”クロスベルの真の英雄”ですわね。」

ヴァイスの指摘にエリィが呆けた声を出した後複雑そうな表情で黙り込んでいる中クルトは驚きのあまり息をのみ、アルティナは真剣な表情で、ミュゼは微笑みながらそれぞれヴァイスを見つめ

「クロスベルの独立云々は置いて、”西ゼムリア通商会議”の件での真の功労者は正確に言えば俺達ではなくエリィと同じロイドのハーレムメンバーにして、”特務支援課”の”参謀”でもあるどこぞの腹黒天使だがな。」

「”特務支援課”出身でしかもエリィ先輩と同じロイド先輩のハーレムメンバーの一人とか、一体どんな人なんですか、その”腹黒天使”って……?あたし達の世界のレン先輩は他の人達からは”腹黒い”って言われている上異名に”天使”がついていますけど、この世界のレン先輩は特務支援課に所属していませんでしたから、レン先輩の事ではないですよね?」

「え、え~と………”普段”は上司としてとても尊敬できるし、性格も理知的かつ優しい天使族の女性なのよ?ただ、敵対する相手に対しては私達でも”敵”が”哀れ”に思えてくる程”敵”に対しては容赦しないかつ合法スレスレの手段を使ってでも徹底的に叩き潰す方……と言うべきかしら。」

「ふふっ、戦闘能力は高いけれど、それよりも目立つのは知略や謀略と言った”知”の能力に長けている事ね。何せ伝説の暗殺者である”銀”を従わせた事もあるもの♪」

ヴァイスの話を聞いたその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ジト目で訊ねてきたユウナの質問にエリィは苦笑しながらある人物の顔を思い浮かべながら答え、ルイーネはエリィに続くように答え、二人の答えを聞いたユウナ達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「い、(いん)さんを従わせるって、その人……じゃなくて天使は何をやったんですか?」

「え、えっと………その件についてはこちらの世界のリーシャさんの許可を取ってから聞いてくれないかしら?その件は正直リーシャさんにとっても”心的外傷(トラウマ)”のような出来事だったそうだし………」

「伝説の暗殺者である”銀”に”心的外傷(トラウマ)”を感じさせる行動をするその人物……ではなく、その天使の行動は警察に所属する人物として大丈夫なのですか?」

「というか、幾ら相手が銀さん――――暗殺者とはいえ”心的外傷(トラウマ)”を感じさせるなんて一種の”傷害罪”になる気がするんだけど。」

「ふふっ、しかもヴァイスハイト陛下のお話ですとその方はオズボーン宰相とロックスミス大統領の暗躍を覆す程の知略の能力があるとの事ですから、敵にすれば厄介ですけど味方にすればとても心強い存在ですわね♪」

エリィの説明に仲間達と共に冷や汗をかいたアルティナとユウナはそれぞれジト目で指摘し、ミュゼは小悪魔な笑みを浮かべた。

「その意見に関しては同感ね………――――それで、話を戻すけど”並行世界の未来”のようにならない為の協力、そしてその件を理由にエレボニアに”止め”を刺さないようにしてもらえないかしら?”クロスベル帝国”は建国してからたった1年半しか経っていない上”クロスベル帝国”建国の経緯からして、クロスベルは世間からは”簒奪者”の国のようなイメージに見られているし、”西ゼムリア同盟”にも調印したのだから、エレボニア侵略はそちらにとってもエレボニアの領土を得て国力を増強させる事よりもデメリットの方が大きいと思うのだけど。」

「………まあ、そうだな。正直、今のクロスベルの状況でエレボニアに戦争を仕掛けてもデメリットの方が大きいしな。」

「そうですね………占領された領土のエレボニア帝国人の反発や世間のクロスベルに対するイメージの悪化等、建国してまだ1年半しか経っていないクロスベルにとっては国内外問わずに様々な問題の発生が考えられますから、幾らエレボニアに敵視されているとはいえ、現状こちらからエレボニアに侵略する事はしない方がいいでしょうね。ただ、ヴァイスハイト陛下にそのつもりがなくてもギュランドロス陛下のお考えはわかりませんが……」

ミシェルの指摘にヴァイスと共に静かな表情で頷いたユーディットはルイーネに視線を向け

「う~ん……多分だけど、ギュランドロス様もエレボニアを滅ぼす事までは考えていないと思うわよ?色々とこちらの予想外の考えを思い付くギュランドロス様と言えど、建国したばかりの今のクロスベルは内政に集中すべき時期や”専守防衛”の時期である事は理解されているでしょうし。」

「内政に集中すべき時期である事を御理解していらっしゃっているのでしたら、第Ⅱ分校―――他国―――それも国家間の関係が緊張状態になりかけているエレボニア帝国の士官学院の教官を務めるという非常識な事を実行しないで欲しかったのですが………フウ………」

視線を向けられたルイーネは苦笑しながら答え、ルイーネの答えを聞いたエリィは静かな表情で答えた後疲れた表情で溜息を吐き、エリィの様子を見守っていたユウナ達は冷や汗をかいた。



「敵国の国王の癖に幾ら停戦中だったとはいえ、センタクス軍に堂々と入隊してきたあのバカ王が、”激動の時代”であるこの状況で大人しくしているようなタマな訳がないだろうが。」

「うふふ、随分と懐かしい話ね♪」

「…………という事はクロスベル帝国はオズボーン宰相達の件でエレボニア帝国に侵略するおつもりはないという事でしょうか?」

エリィの言葉を聞いて呆れた表情で溜息を吐いたヴァイスの話を聞いて微笑んでいるルイーネの様子にユウナ達と共に再び冷や汗をかいたクルトは表情を引き締めてヴァイス達に訊ねた。

「ああ。で、メンフィルの説得の方だが………――――クロスベル(おれたち)の意志も答えたのだから、そちらも答えたらどうだ?」

「へ…………」

そしてヴァイスの誰かに対する問いかけを聞いたユウナが呆けた声を出したその時、ヴァイスがリモコンらしき装置を操作すると応接室の天井に備え付けているモニターが動き、モニターにはリウイの姿が映った!
 

 

異伝~終焉に諍う英雄達の来訪~最終話

~オルキスタワー・33F・応接室~



「え、”英雄王”リウイ・マーシルン大使………!?一体いつから、アタシ達の話を………」

「ええっ!?その名前って確か……!」

「異世界の大国にしてエレボニアを2度も打ち破ったメンフィル帝国の前皇帝陛下ですわね。………どうやらその様子ですと通信を最初から起動させて、リウイ陛下にも私達の事情を聞かせていらっしゃったようですわね?」

リウイの登場に驚いたミシェルの言葉を聞いたユウナが信じられない表情でリウイを見つめている中静かな表情で呟いたミュゼはヴァイスに視線を向けた。

「ああ。遊撃士協会からの連絡を受けたエリィからの通信内容を考えるとクロスベルどころか、メンフィルを含めたゼムリア大陸自身をも巻き込む大事件になる確立が高い事は想定していたからな。お前達からの又聞きで伝えるよりも、最初からお前達自身の話を聞いてもらった方が手間が省けるからな。」

「……………既に俺達―――メンフィルの情報についても遊撃士協会を通して聞いているだろうが、改めて名乗る。―――――俺がメンフィル前皇帝にして現メンフィル大使、リウイ・マーシルンだ。通信越しになるが見知りおき願おうか、並行世界の新Ⅶ組。」

「貴方が”英雄王”………」

(確かこっちの世界のエリゼさんが目の前の”英雄王”って皇帝の孫娘の専属侍女長だっけ?という事はあのモニターに映っているメンフィル帝国の前皇帝はその孫娘の”祖父”って事になるから結構な年齢を取っているという事になるけど………幾ら何でも若すぎない!?)

(どう見ても孫がいるような年齢の容姿には見えませんね。)

「(ふふ、そうですか?私達の世界にもローゼリアさんや”鋼の聖女”という”規格外な存在の例”もありますし、リウイ陛下は人間族と魔神―――魔王の間から生まれた”半魔神”との事ですから、それらの件を考えるとそれ程おかしなことではないかと。)―――お初にお目にかかります、異世界の大国の偉大なるリウイ皇帝陛下。世界は違えど、かつては戦争をした国の民であり、ただの士官学院生如きの私達の為に貴重な時間を割いて頂いた事、心より感謝を申し上げますわ。」

リウイが名乗り上げるとクルトは呆けた表情でモニターに映るリウイを見つめ、リウイの容姿に驚いている様子のユウナとアルティナに苦笑しながら指摘したミュゼはモニターに映るリウイに対して恭しい挨拶をした。



「……世辞はいい。むしろ、お前達には感謝しているくらいだ。何せ、お前達の情報通りだと、間違いなく第Ⅱ分校に派遣している1年半前の件で生まれた我が国の”英雄”――――リィン・シュバルツァーが”鉄血宰相”達の愚かな野望に巻き込まれ、窮地に陥る可能性が高い上リィンの他にも第Ⅱ分校に派遣しているメンフィル帝国所属の者達も巻き込まれる可能性が非常に高い事を前もって知ることができたのだからな。………どうやらあの放蕩皇子が恐れていた事態がそんなにも早く現実になるとはな。」

「”放蕩皇子”って………」

「まさか……オリヴァルト殿下が僕達の世界のエレボニアで起こった出来事―――”巨イナル黄昏”等が起こる事についても予期されていたのですか……!?」

リウイの話を聞いたユウナが目を丸くしている中察しがついたクルトは驚きの表情で訊ねた。

「いや、さすがにそこまでは予期していなかったな。復帰した”鉄血宰相”による以前以上の強引な政策や”北方戦役”、そしてセドリック皇太子の急変………それらを踏まえてオリビエ――――オリヴァルト皇子はエレボニアは滅びの道を歩んでいる事を危惧して、それを未然に防ぐ為に俺やリウイにリィン達の派遣をオリヴァルト皇子が嘆願して、その嘆願に俺達は応えてやったんだ。」

「オリヴァルト殿下がそのような事を………」

「………あの、もしかしてこちらの世界のわたしの第Ⅱ分校への入学もリウイ皇帝陛下に対するオリヴァルト皇子の嘆願の件に含まれているのでしょうか?」

ヴァイスの説明にエリィが驚いている中ある事が気になっていたアルティナはモニターに映るリウイに訊ねた。



「いや、”黒兎(ブラックラビット)”の第Ⅱ分校への派遣は半分は第Ⅱ分校にリィン達を生徒側から補佐する人員として戦闘能力がある”黒兎”を選んだ俺達―――メンフィル帝国政府の指示ともう半分はリィン達―――シュバルツァー家の意志によるものだ。」

「ちなみにリウイお義兄様が仰っていたもう半分の理由――――シュバルツァー家の意志の件はリィン達がアルティナちゃんに普通の女の子として学生生活を経験して欲しいという考えで、アルティナちゃんにも第Ⅱ分校に入学してもらったそうよ。」

「教官達が…………そう………だったのですか……………世界は違えどリィン教官やエリゼさん――――シュバルツァー家のわたしに対する寛大な心遣いも同じなのですね……………」

「アル…………えっと、さっきエリィ先輩はリウイ皇帝陛下の事を”お義兄様”って言っていましたけど、あれってどういう意味なんですか?」

リウイとエリィの説明を聞いて呆けた後顔を俯かせて自分の世界のリィンやエリゼを思い浮かべて一筋の涙を流したアルティナを辛そうな表情で見つめていたユウナは重苦しくなりかけた空気を変える為にエリィにある質問をした。

「そう言えばまだその件については言っていなかったわね。私の姉――――旧性イリーナ・マクダエルがリウイお義兄様の”正妃”としてメンフィル皇家に嫁いでいるから、リウイお義兄様は私にとって義理の兄にあたるのよ。」

「な―――――」

「まあ………」

「えええええええええええええええっ!?で、でもあたし達の世界のエリィ先輩にお姉さんはいませんよ!?」

エリィの答えを聞いたクルトやミュゼ、ユウナはそれぞれ驚きの反応を見せ

「ホントに”並行世界”だけあって、色々な事についての事情が全然違うようねぇ…………―――それで話を戻しますけど、今のこの子達の話を聞いてメンフィル帝国はエレボニア帝国に対してどういう対応を取るおつもりですか?」

ミシェルは苦笑した後表情を引き締めてモニターに映るリウイに問いかけた。



「どうもこうも、その”巨イナル黄昏”とやらを未然に防ぐ為に我等メンフィルも協力せざるを得ない事は答えなくてもわかる事だろうが。第Ⅱ分校――エレボニアの士官学院に我が国の所属であるリィン達を派遣している上、”巨イナル黄昏”が発動すれば間違いなく元エレボニア帝国領だった我が国の領土も無関係でいられなくなるのだからな。」

「それでは………」

「―――――メンフィル帝国のご協力はとても心強いですが、”巨イナル黄昏”を未然に防いだ後やはりこちらの世界のリィン教官―――――貴国に所属している英雄の伴侶の一人となっている姫様――――アルフィン皇女殿下か、もしくは姫様が将来御産みになるリィン教官と姫様の御子が御持ちになられているエレボニアの帝位継承権を主張して、姫様か姫様の御子にユーゲント皇帝陛下の跡を継がせて、事実上エレボニアをメンフィル帝国の隷属国とするおつもりなのでしょうか?」

「ちょ、ちょっと、ミュゼ!?」

「もう少し、遠回しな訊ね方をすべきでは?」

「……………」

呆れた表情で答えたリウイの答えにクルトが明るい表情をしている中真剣な表情で問いかけたミュゼの問いかけにユウナが慌て、アルティナがジト目で指摘している中ユーディットは真剣な表情でミュゼを見つめていた。

「その可能性がある事は否定しない。実際、メンフィルはエレボニアの民達がアルフィン皇女――――いや、アルフィン夫人、もしくはアルフィン夫人が産んだ子供が次代のエレボニア皇帝に即位する事を受け入れる”下準備”としてアルフィン夫人もリィン達同様第Ⅱ分校の宿舎の管理人として派遣しているのだからな。」

「な―――――ア、アルフィン皇女殿下が第Ⅱ分校の宿舎の管理人を……!?」

「お、皇女様が第Ⅱ分校の宿舎の管理人を務めるなんて、滅茶苦茶よ………」

「教官陣どころか、宿舎の管理人すらもカオスな事になっているとは、さすがは”あらゆる意味で”カオスな事になっているこのゼムリア大陸というべきでしょうか。」

新たなる驚愕の事実を知ったクルトは絶句した後信じられない表情で声を上げ、ユウナは疲れた表情で呟き、アルティナはジト目で呟いた。

「………という事はやはり、貴国は1年半前の”七日戦役”の結果――――数々の戦功を立てた灰色の騎士の嘆願によるエレボニアとの和解を本音では認めたくなく、機会があればエレボニアを滅亡させたいというお考えなのでしょうか?」

一方ミシェルは複雑そうな表情でリウイにメンフィルの意図を問いかけた。



「勘違いするな。我等メンフィルは1年半前の件に対するエレボニアの謝罪は、”和解条約”をエレボニアが全て実行した時点で”手打ち”にしている上”西ゼムリア同盟”にも調印したのだから、エレボニアに対して思う所はあっても滅亡させたいという考えは持っていない。――――そもそも、リィンやアルフィン夫人達の第Ⅱ分校への派遣はエレボニア側――――オリヴァルト皇子による嘆願によるものだ。」

「へ………」

「オリヴァルト殿下が……!?」

「ど、どうしてオリヴァルト殿下がリウイお義兄様達――――メンフィル帝国にリィン達の派遣を頼んだのでしょうか……?特にエレボニアから去った今でもエレボニアでは根強い人気を誇っているアルフィン皇女殿下を再びエレボニアで起こる出来事等に関わらせたりしたら、最悪帝位継承権争いに発展する可能性も考えられますのに……」

リウイの説明にユウナが呆け、クルトが驚いている中エリィは困惑の表情で疑問を口にした。

「………先程のお前達の説明の一部でセドリック皇太子も”鉄血宰相”達に加担している話があったな。オリヴァルト皇子がアルフィン夫人まで第Ⅱ分校へ派遣する事を決めた一番の理由は1年半前と比べると別人のように様変わりしたセドリック皇太子の急変に危機感を抱き、鉄血宰相に同調し続けるセドリック皇太子の野心や暴走を思いとどまらせる為だ。」

「なるほど………皇太子殿下にエレボニアから去ったにも関わらず再びエレボニアに姿を現した姫様の目的がご自身と帝位継承争いする為であると錯覚させ、皇太子殿下の野心や暴走を思いとどまらせる為ですか。ですが、その方法ですとその件で逆に皇太子殿下が焦り、ご自身の心に秘めていた野心をさらけ出して暴走する後押しになると思うのですが………」

リウイの答えを聞いてある事を察したミュゼは考え込みながら呟いた後ある事を訊ねた。

「それも想定してのアルフィン夫人の派遣だ。時間が経てば経つほどセドリック皇太子に”後戻りができない事”を実行させてしまう恐れがあるから、そうなる前にセドリック皇太子を暴走させ、その暴走を阻止してセドリック皇太子にやり直せる機会を与える為だそうだ。」

「ま、要するにオリビエはセドリック皇太子を千尋の谷へと突き落としてでも、最悪セドリック皇太子の命が失われないようにする為に、被害が少ない内にさっさとセドリック皇太子を暴走させようという考えだ。」

「………例え帝位継承権をお持ちになられている皇太子殿下といえど、祖国どころか世界中をも巻き込む大事件を起こした関係者になってしまいますと、よくて帝位継承権剥奪や廃嫡………最悪の場合、ご自身が犯した”大罪”を償う為にご自身の命を持って償う可能性が考えられますものね……」

「なるほどね………まさか、オリヴァルト皇子が祖国(エレボニア)をメンフィルに差し出してでも、”鉄血宰相”やセドリック皇太子の野望を止めるつもりだったなんてね………」

リウイとヴァイス、ユーディットの説明を聞いてオリヴァルト皇子の考えを悟ったミシェルは疲れた表情で溜息を吐いた。



「………とはいえ、幾らメンフィルにとってエレボニアを隷属化させる絶好の機会があるとはいえ、ゼムリア大陸の平和の為にゼムリア大陸から戦争を無くす礎を作ろうとしているリベールと盟を結び、”不戦条約”に加えて”西ゼムリア同盟”にも調印した我等メンフィルがエレボニアを隷属化させる事は正直な所、”全ての種族との共存”を謳うメンフィルにとってもデメリットが大きい。よって、エレボニアが2度とメンフィルに対して刃を向ける等と言った”野心”を抱かない”保証”があれば、エレボニアを隷属化させるつもりはないのだが………」

「ま、”並行世界の未来”から来たユウナ達の話からするとセドリック皇太子がエレボニア皇帝に即位等当然論外の上、世界中の各国に加えてエレボニアの民達からもそんな事態を引き起こした”鉄血宰相”を重用したユーゲント皇帝の退位が求められるしな。いっそ、オリビエが帝位継承権の有無を気にせず、ユーゲント皇帝からエレボニア皇帝の地位を簒奪する意思があれば、話がスムーズに進むんだがな………」

「”祖国を他国に売ってでも家族を助けようとする”程の家族思いなオリヴァルト皇子が父親であるユーゲント皇帝から皇帝の地位を簒奪すると言った思い切った事をする覚悟はないでしょうね。それらの件を考えると、消去法でリーゼロッテ皇女にエレボニアの皇帝に即位してもらい、メンフィル・クロスベルとの友好を約束してもらうしかないわね。」

リウイとヴァイスが考え込んでいる中静かな表情で意見を口にしたルイーネはある提案をした。

「リーゼロッテ皇女………エレボニアから去ったアルフィン夫人の代わりにアルノール皇家の養子になった新たなるエレボニアの皇女か。確かに、”新たなる帝国の至宝”という呼び名でエレボニアの民達からの人気もあるリーゼロッテ皇女ならば、エレボニアの民達や各国も納得はすると思うが………」

「問題はリーゼロッテ皇女を支持する”後ろ盾”がない事だな。……そう言えば、エレボニア帝国政府から国家間の関係を回復する為の一環としてリーゼロッテ皇女とリィンの婚約がメンフィル(そちら)に提案されたのだったな?”巨イナル黄昏”を阻止して”鉄血宰相”達を排除した後いっそ、その提案を蒸し返してメンフィルがリーゼロッテ皇女の”後ろ盾”になってやればどうだ?」

「あ、あの……ヴァイスハイト陛下。お言葉ですが、もしその案を実行した場合、メンフィル帝国の貴族――――それも”公爵”といった大貴族の爵位を持つリィンがアルフィン皇女殿下どころかリーゼロッテ皇女殿下まで娶る事になり、結局エレボニアがメンフィルの隷属国と化すると思われるのですが……」

リウイが考え込んでいる中ある事を提案したヴァイスの提案を聞いたエリィは表情を引き攣らせて指摘し

「その点に関しては”西ゼムリア同盟”や”西ゼムリア通商会議”の時のように各国の代表者達を集めて彼らの前でリィン達やメンフィルがエレボニアの政治等に介入しない約束を宣言するか契約書に記せばいいと思うぞ?そうすれば、メンフィルもそうだがクロスベル皇女である俺の娘のメサイアをリィンと婚約させている事でクロスベルも鉄血宰相達を排除した後の新たな政府ができあがるまでのエレボニアの臨時政府の人員として派遣してリーゼロッテ皇女や新たなエレボニア帝国政府が成長するまでの補佐も可能となる。とは言っても、肝心のエレボニア側の政府の人員として”革新派”を除いた勢力かつリーゼロッテ皇女の後ろ盾になれるような勢力が存在しない事なんだがな………」

「………あの。その件についてですが、私に心当たりがあります。」

エリィの指摘に対して答えたヴァイスが考え込んだその時ユーディットが静かな表情で申し出た。



「ほう?エレボニアのどこの勢力だ?」

「………1年半前の内戦や”七日戦役”によって衰退した貴族勢力―――――”貴族派”です。」

「よりにもよって、”貴族派”とはね………遊撃士協会(アタシ達)は政治介入する事ができない為、賛成も反対もできませんけれど、アタシ個人の意見としてはバラッド侯爵―――”貴族派”は止めた方がいいと思うのですけど。ユーディット皇妃殿下の仰る通りバラッド侯爵は確かにエレボニア側の次期カイエン公爵に就任する有力人物とされていますけど……並行世界の未来だと、バラッド侯爵は並行世界で起こったオルディス地方の結社の”実験”の件で他の”四大名門”によって失脚させられたらしいですし、自らの地位向上の為に同じ帝国貴族を陥れるどころか帝国政府にまで協力する程のバラッド侯爵の野心的な性格も考えると、とてもリーゼロッテ皇女の後ろ盾を任せられないと思いますが………」

「そうですよ!あたし達の世界で起こったオルディスでの結社の”実験”もさっき軽く説明しましたけど、あの侯爵、色々とやらかしてあたし達の足を引っ張りまくったんですよ!?」

ヴァイスの問いかけに答えたユーディットの答えを聞いたミシェルは疲れた表情で指摘し、ミシェルに続くようにユウナは当時を思い出して怒り心頭の様子で指摘した。

「いえ、私が言っている”貴族派”はバラッド侯側ではなく貴女達の世界で新たなるカイエン公爵に内定した私の父であるクロワール・ド・カイエンの姪にして私やキュアにとって従妹に当たる”もう一つのカイエン公爵家”の公女――――ミルディーヌ・ ユーゼリス・ド・カイエンを新たな”貴族派”の旗印にしているミルディーヌ側の”貴族派”です。」

「公女ミルディーヌ………僕達もカイエン公の姪が次期カイエン公爵に内定した話は耳にしていましたが、名前までは存じていませんでした。」

「ちなみにミュゼさんはその人の事を知らないんですか?確かミュゼさんはオルディス――――ラマール州の貴族ですよね?」

ユーディットの答えを聞いたクルトが興味ありげな様子で考え込んでいる中、アルティナは事情を知っていそうなミュゼに訊ねた。

「ふふっ、私もミルディーヌ様の事は名前と幼い頃に両親を失って祖父母の下で育てられているという程度の情報しか存じていませんから、性格や能力等はわかりませんわ。」

「………………」

「………………公女ミルディーヌか。公女個人の能力に関しては次期カイエン公爵として文句なし―――いや、前カイエン公よりも遥かに優秀な者である事はわかっている。何せあのレンが現時点でも相当優秀で成長すれば、自分と”同格”になれると言っていた程、公女に対して高い評価をしていたからな。」

アルティナの問いかけに苦笑しながら答えるミュゼの様子をユーディットが呆れた表情で見守っている中モニターに映るリウイは黙って真剣な表情でミュゼを見つめた後静かな表情で答えた。



「え………ど、どうしてレンちゃんがその人物の事をご存知なのですか?」

「………その公女自身が第Ⅱ分校の”主計科”の生徒として所属しているからだ。」

「えええええええええええええええっ!?しゅ、”主計科”――――Ⅸ組にそのミルディーヌって人が……!?」

「僕達の世界ではそのような人物はⅨ組どころか第Ⅱ分校に所属していませんが………これも、並行世界だからなのだろうか……?」

エリィの問いかけに答えたリウイの答えを聞いたユウナが驚いている中信じられない表情をしているクルトは考え込み

「お前達がわからなくても無理はない。そもそも公女ミルディーヌは名前もそうだが身分も偽って第Ⅱ分校に入学したのだからな。」

「………ちなみにミルディーヌは第Ⅱ分校入学前は帝都(ヘイムダル)にある”聖アストライア女学院”に通っていました。ただ、内戦終結後、自分にとって叔父である私の父が貴族連合軍の”主宰”だった影響で、女学院にい辛い立場になった為女学院を退学して第Ⅱ分校に入学したらしいのですが……」

「という事はわたし達の世界のⅨ組にも公女ミルディーヌが所属している可能性が十分に考えられるという事ですか…………」

「”公女”って事は性別は当然女の子って事だから………Ⅸ組の女子の中にいるって事になるのよね、そのミルディーヌって人は………一体誰なのかしら……?」

「(カイエン公爵家………ラマール州の貴族………祖父母の下で育てられている………聖アストライア女学院出身…………―――!まさかとは思うが………)………………」

「ふふっ、その様子ですとクルトさんは私にミルディーヌ様の事で他に何か聞きたい事があるのでしょうか?」

リウイとユーディットの説明にアルティナとユウナが考え込んでいる中ある仮説が頭に思い浮かんだクルトは真剣な表情でミュゼを見つめ、見つめられたミュゼは静かな笑みを浮かべてクルトに問いかけた。

「……………いや、何でもない。」

「それで?話を戻すが、そのミルディーヌとやらを新たな貴族派の旗印にしている連中をリーゼロッテ皇女の後ろ盾に推薦するという事は、そのミルディーヌ自身はアルノール皇家に対する忠誠が篤いのか?」

クルトがミュゼの問いかけに静かな表情で答えを誤魔化した後ヴァイスはユーディットに問いかけた。



「いえ、そう言う訳ではありません。ただ、昔から頭が回る上要領も良くて自身がカイエン公爵家当主の地位を巡っての政争に巻き込まれる事を嫌い、また父自身も自分の地位を脅かす可能性があるあの娘を滅多に社交界等に招待しなかった為私達とも疎遠で会う機会はせいぜい年始のカイエン公爵家主催のパーティーくらいだったのですが………最近、そのミルディーヌからバラッド侯を退けてエレボニア側の次期カイエン公爵になる為に、私達にも協力して欲しいという内容の手紙が来ていて、実は今日の定期報告で、その件も説明してどう対処すべきか陛下達にご相談するつもりだったのです。」

「あら、そうだったの。それにしてもカイエン元公爵の直系の娘でありながら”成りあがり”で皇帝になったヴァイスさん―――――”平民”の側室になった事や幾ら実家を守る為とはいえクロスベル帝国の貴族になった事で一部のエレボニア帝国貴族から嫌われている”クロスベル側のカイエン公爵家”である貴女達に協力を頼むという事は………クロスベル側の元エレボニア貴族達を纏めている貴女達と協力関係になる事で険悪な関係になりつつあるクロスベルとエレボニアの関係を和解させて、エレボニア・クロスベル間の経済取引を良好な関係へと発展させる目的の為に貴女達にも協力を持ちかけたという所かしら?」

「ええ、恐らくは。――――加えて、メンフィル帝国との関係も良好にする事も目的にしているようなんです。」

「何?公女ミルディーヌはどのような方法で、メンフィル(俺達)との関係まで良好にするつもりなんだ?」

自分の話を聞いて推測をしたルイーネの言葉に頷いたユーディットはモニターに映るリウイに視線を向け、ユーディットの話を聞いていたリウイは眉を顰めてユーディットに問いかけた。

「それが…………どうやらあの娘、貴国の英雄にして次期クロイツェン州統括領主に内定している”灰色の騎士”―――――リィン・シュバルツァーさんの伴侶になる事で、メンフィルとエレボニア―――いえ、メンフィル帝国に対する”貴族派”の”謝罪”と共に”貴族派”はメンフィル帝国との和解を望んでいるという”誠意”を見せる事でメンフィル帝国との和解、並びに関係の良好化も狙っているようなんです………」

「えええええええええええええええっ!?そのミルディーヌって人がきょ、教官の奥さんに……!?」

「あらま。結婚していても灰色の騎士の坊やの高貴な立場の女性達のモテっぷりは未だ顕在のようねぇ……灰色の騎士の坊やの件を考えると支援課のリーダーの坊やも結婚してもモテるかもしれないわね。」

「………………」

「本当にそうなるかもしれませんから、冗談になっていませんよ………それにしても、一体何を考えていらっしゃるのでしょうか、そのミルディーヌ公女殿下という方は……?確かにリィンの将来のメンフィル帝国での地位は相当なものの上エレボニア帝国での”名声”もありますから、カイエン公爵家の当主であるご自身の伴侶として相応しいとは思いますけど、リィンには既に結婚したアルフィン皇女殿下を除けば8人の婚約者がいる影響で、リィンと結婚したとしてもご自身はリィン――――クロイツェン統括領主の妻としての序列は普通に考えれば最下位の10位になりますから、正直女性としてもそうですけど、カイエン公爵家当主としての政治的な意味合いでもリィンの伴侶になる事は様々な問題があるような気がするのですが………」

疲れた表情で答えたユーディットの答えにユウナが驚き、ミシェルが苦笑した後エリィに視線を向け、頭痛を感じたのかモニターに映るリウイが呆れた表情で片手で頭を抱え込んでいる中エリィは疲れた表情で溜息を吐いた後表情を引き攣らせて推測を口にし



「いや、むしろリィンの妻としての序列が低いお陰でその公女にとって様々なメリットが発生するからこそ、リィンの妻になる事を目指しているんじゃないか?」

「え………それはどういう事でしょうか?」

自分の疑問に対して指摘したヴァイスの指摘を聞いたエリィは不思議そうな表情で訊ねた。

「名家であるマクダエル家出身のエリィちゃんならわかるでしょうけど、皇族や貴族と言った上流階級の伴侶である女性達は序列によって嫁ぎ先での権力も全然違うわ。正室は当然として側室も第1~3位あたりなら、社交界等にもよく出席したり呼ばれたりする反面、側室の序列が低ければ低い程その嫁ぎ先での上流階級の影響力はほとんどないわ。”四大名門”の当主の一人であり、エレボニアの貴族達を纏めている立場である自分がメンフィル帝国の大貴族である”シュバルツァー公爵家”の当主に就任する予定のリィン君の序列の低い側室として結婚する事で、エレボニア側のカイエン公爵家を含めたエレボニアの貴族達はメンフィル帝国に対して野心を抱いていない事を印象付けさせると共に、1年半前の内戦や”七日戦役”の件に対する”謝罪”や”誠意”を示した事になるでしょう?」

「ついでに言えばカイエン公爵家の当主と結婚する事で、エレボニアの貴族達を纏めているエレボニア側のカイエン公爵家と直接の繋がりができる事で新興の大貴族になったシュバルツァー公爵家にとっても様々なメリットがある上、野心がないリィンが伴侶なら、カイエン公爵家側の跡継ぎや伴侶側――――要するにシュバルツァー家による政治介入の問題も発生しない可能性が非常に高いと考えられる。後は既にリィンに嫁いだアルフィン皇女よりも低い序列でリィンと結婚する事で、エレボニア皇家に対しても配慮をしたと見られるメリットもある。」

「………恐らく、御二方の推測通りと思われます。ミルディーヌの手紙にもリィンさんの”10番目の妻”になる事を目指しているとわざわざ目指している序列まで書いてありましたし………」

「………話を聞く限り、その公女ミルディーヌという人物は相当狡猾な人物のようですね。」

「そうね……ずる賢いというか腹黒いというか………しかも自分の目的の為に教官に言い寄ろうとしている所とかも含めてあんたみたいな性格の人物よね、その公女は。」

(みたいじゃなくて、”ミュゼ自身が公女ミルディーヌ”だと思うのだが………)

「まあ……私が”ずる賢い”やら”腹黒い”やら、ユウナさんったら、酷いですわ。政略の為に教官と結婚するつもりでいるミルディーヌ様と違い、私の教官への想いは一人の乙女として教官と結ばれたい純粋な恋心だというのに。シクシク………」

ルイーネやヴァイス、ユーディットの話を聞いてアルティナと共にジト目になったユウナがミュゼに視線を向けている中クルトは心の中で疲れた表情で指摘し、ミュゼはわざとらしく泣き真似をして答えてその場にいる全員を脱力させた。



「……………公女ミルディーヌとリィンの結婚の件は一端置いておくとしても、公女側の貴族派がリーゼロッテ皇女の後ろ盾として有力な候補である事は理解した。”巨イナル黄昏”阻止後のエレボニアの件については後で話し合うとして、まずはウィル達やセリカ達にも協力の要請をする必要があるな。」

「ああ。”巨イナル黄昏”阻止の為には特にセリカの協力は必須だろうし、世界は超えてまでゼムリア大陸の危機を伝えてくれた並行世界の新Ⅶ組を元の世界に帰してやる為にも”工匠に不可能は無い”という諺の第一人者であるウィルの協力も必須だろうしな。―――――エリィ、お前は機会を見てロイド達にも並行世界のユウナ達から聞いた話を伝えておけ。”巨イナル黄昏”阻止の為にはお前達――――”旧特務支援課”にも”黒キ星杯”に突入してもらうつもりだしな。」

「はい!ただ、ワジ君に連絡して実際に会って話す事はちょっと難しいかもしれませんが………現在第Ⅱ分校の教官として派遣されているランディにはどうやって伝えましょうか?今の所、私のエレボニア帝国への出張の予定はありませんが………」

リウイの言葉に頷いたヴァイスは今後の事を口にした後エリィに視線を向け、視線を向けられたエリィは静かな表情で頷いた後ある事を思い出してヴァイスに問いかけた。

「あら、わざわざエレボニアに出張しなくても、ランディ君――――第Ⅱ分校が来月にクロスベルに来てくれるのだから、その時にランディ君と会って伝えればいいのじゃないかしら。」

「”来月”って事はやっぱり、”三帝国交流会”のタイミングで第Ⅱ分校の”特別演習”と重なるみたいね?」

ルイーネの話を聞いてある事に気づいたミシェルはヴァイス達に確認し

「ああ。その件については後日、オルキスタワーの警備依頼の件も含めて詳細な説明をするが………遊撃士協会(そちら)もいざとなったらいつでもエステル達を動かせる手配は頼んだぞ?二大猟兵団や”黒の工房”、”鉄血の子供達(アイアンブリード)”、そして結社の残党共が最終的に手を組むのだから、こちらも最高戦力で挑む必要があるのだからな。」

「1年半前の襲撃の件で結社や赤い星座の猟兵どころか黒月(ヘイユエ)の構成員の大半を殺しまくってそれぞれの勢力を衰退させたアナタ達やセリカ達が手を組んだ時点で十分”鉄血宰相”に協力している裏の勢力の使い手達を圧倒できると思うんだけどねぇ…………まあ、アタシもその”黒キ星杯”、だったかしら?”巨イナル黄昏”を阻止させる為に何とかエステル達を帝都(ヘイムダル)での夏至祭の直前辺りの時期に密入国をさせてでもエレボニア入りをさせるつもりだったから、言われなくてもエステル達にも協力させるつもりよ。」

ヴァイスに話を振られたミシェルは苦笑した後気を取り直して答え

(な、何か、凄い豪華なメンバーが集まりそうね………)

(ああ………”リベールの異変”を解決した”剣聖”の子供達に”特務支援課”、異世界の英雄達、そして教官を含めた旧Ⅶ組………この様子だと僕達の時とは比べ物にならないくらいの多くの勢力が協力して”黒キ星杯”に挑みそうだな。)

(正直な所、”戦力過剰”と言ってもおかしくない気がします。)

(ふふっ、こちらの世界の私達があらゆる意味で羨ましくなってきましたわね。)

リウイ達の会話を見守っていたユウナの言葉にクルトは頷き、アルティナはジト目で指摘し、ミュゼは苦笑していた。



「さてと。これである程度話は纏まったが………お前達はこれからどうするつもりなんだ?」

「………とりあえず、帝都(ヘイムダル)での夏至祭の時までは遊撃士協会のお世話になる代わりに遊撃士協会の業務に協力するつもりです。」

「遊撃士協会の業務に協力するという事は遊撃士協会から仕事を貰って遊撃士と同等の活動をするおつもりですか?」

ヴァイスの問いかけに答えたクルトの話を聞いてある事が気になったユーディットはユウナ達に訊ねた。

「あ、はい。幸いにも遊撃士の活動と”特務活動”は割と似ていますから、あたし達にとっては”特務活動”の延長線上みたいな形ですから慣れていますし。」

「そうか。―――なら、そこに一つ提案だ。定期的に俺達――――”六銃士”や俺達の戦友―――クロスベル帝国の皇族や軍の上層部達との手合わせ―――まあ、要するに実戦に程近い模擬戦をするつもりはないか?」

「”模擬戦”、ですか……?」

「へ、陛下?一体何の為にユウナちゃん達に模擬戦を……」

ユウナの答えを聞いた後提案したヴァイスの提案にアルティナが首を傾げている中エリィは戸惑いの表情で訊ねた。

「お前達は元の世界に帰還すれば、”鉄血宰相”達の野望を打ち破り、お前達の世界のリィン達を助けるために今よりも強くなる必要があるのだろう?そして手っ取り早く強くなる方法は、”格上の存在”との戦いによる経験だ。―――――こう見えても俺達――――”六銃士”や時代を超えて再び集結した俺達の戦友達は”執行者”や”蛇の使徒”、或いは二大猟兵団の団長クラスかそれ以上の使い手の者だという自負はある。いずれリベンジする事になるお前達の世界の”鉄血宰相”達を打ち破る為の”糧”として俺達のような達人(マスター)クラスの使い手との戦いによる経験は必要だと思うのだが?」

「あ…………」

「それは………」

「確かに陛下の仰る通り、今の私達が元の世界に戻っても結社の”執行者”を始めとしたオズボーン宰相に組する使い手達との戦いの勝率は低いままですわね。」

「はい………特別演習の最中に起こった帝国政府のリィン教官に対する要請(オーダー)の件でも結社の使い手達と戦いましたが、結局どの戦いも教官達――――旧Ⅶ組の方々が戦った為、わたし達”新Ⅶ組”は結社の使い手達のような達人(マスター)クラスの使い手達との戦いの経験が教官達”旧Ⅶ組”と比べると圧倒的に不足しています。」

ヴァイスの指摘にユウナが呆け、クルトとミュゼ、アルティナはそれぞれ真剣な表情を浮かべた後それぞれ黙り込んでそれぞれの顔を見合わせて頷いた後ヴァイスを見つめて答えた。



「陛下のご厚意、私達の世界の終焉を食い止める一手の勝率を高める為にもありがたく受けさせて頂きますわ。」

「今この瞬間もあの人は―――リィン教官は自分を責めている………そんなの、絶対に放っておけません!教官を助ける為にもあたしたちはもっと強くなる必要がありますから、あたし達を鍛えてください……!」

「ああ……あの人には恩も借りもある―――――リィン教官を助ける事はリィン教官の教え子である新Ⅶ組(僕達)の役目だ。教官を助けるために僕達自身が異世界の英雄である貴方方に鍛えて頂く事は心から望む所です……!」

「”みんなを守ってみせる”――――彼女(ミリアムさん)の意志は、わたしが受け継ぎます。だから、わたしはもっと強くなる必要があります……!」

「貴女達…………」

「ふふっ、アナタ達を見ていると特務支援課の坊や達を思い出すようで懐かしくなってきたわね。」

(フフ、まさか貴女がそんな顔ができるようになるなんて………私達の世界の貴女も並行世界の貴女のように成長する事を願っているわ、ミルディーヌ……)

新Ⅶ組のそれぞれの決意の表情を見たエリィが驚いている中ミシェルと共に新Ⅶ組を微笑ましく見守っていたユーディットはミュゼを見つめていた。

「フフ、決まりみたいね。久しぶりに骨のある人達と戦える事にパティちゃんもきっと喜ぶでしょうね♪」

「それを言ったらガルムス元帥やベルあたりも喜ぶんじゃないか?あいつらもパティルナと同じ”戦闘狂”の連中だからな。―――――リウイ、お前達も並行世界の新Ⅶ組の強化に手を貸してやったらどうだ?特に隠居の立場であるリウイは割と時間があるんじゃないのか?」

「………隠居の立場とはいえ、俺はメンフィル帝国の”大使”だ。お前達と同じで緊急事態が起こらない限り、そう簡単に大使館を空ける事はできん。……とはいえ、その者達によって我が国の戦友達が窮地に陥る可能性が高い事を前もって知ることができたのだから、その”礼”代わりにその者達を鍛える時間を作ってやるつもりだ。」

一方エリィ達同様新Ⅶ組の様子を見守りながら微笑んだルイーネの言葉に苦笑しながら同意したヴァイスはモニターに映るリウイに話を振り、話を振られたリウイは静かな表情で答えた。



こうして………並行世界の新Ⅶ組は異なる世界のゼムリア大陸に将来起こりうるであろう世界の危機を伝え………いつか帰還する時と異なる世界のゼムリア大陸の危機に備え、異世界の英雄達の協力を得て自分達自身の実力を上げる為の修行を開始した―――――




 
 

 
後書き
並行世界のユウナ達が決意した所のBGMは閃Ⅲの”Spiral of Erebos”だと思ってください♪そしてお気づきと思いますが並行世界のユウナ達がエウシュリー勢によるブースト化フラグが……あれ?よく考えてみると唯一並行世界に来ていないアッシュだけ、ファンタジアの某弓使いのように仲間と再会時一人だけレベルが圧倒的に低いという事態に陥る気が(大爆笑)なお、次回更なる新クロスオーバーキャラが登場し、その新クロスオーバーキャラはレギュラーキャラ化します!ちなみにその新クロスオーバーキャラは光と闇の軌跡シリーズのどれかに既に出演しているキャラですww 

 

外伝~白き魔女の新たなる軌跡~

~???~



ゼムリア大陸とも、ディル=リフィーナとも異なる世界の城らしき屋上で様々な立場の戦士たちが黒く染まりつつある空が、白き魔女の魂によって浄化される様子を見守っていた。

「なぜ……なぜ、そんなに優しくなれる………肉体を捧げ……そしてまた、魂を捧げ………この世界がお前の為に何をしてくれたというのだ……」

「…………」

「私、わかるような気がする。」

白き魔女の魂が消える様子を見守っていた壮年の男性は悲痛そうな表情を浮かべている中少年は静かな表情で見守り、少女は男性の疑問を聞くと静かな表情で呟いた。

「………?」

「きっと、この世界とか異界とか……分けて考えちゃいけないのよ。」

「どちらかが助かればいい……そんな解決の仕方なんて、きっと……ウソなんだ。」

「この最後のチャンスをゲルドは信じていたのね。」

少年と少女がそれぞれの推測を答えたその時、白き魔女の魂は黒き空と共に消え、青空が広がり、少年達はそれぞれの未来に向けて歩み始めた。



――――悲しい運命を受け入れてもなお、優しくあり続けた貴女だからこそ、絶対に幸せになるべきだよ………



少年達が去った屋上に少女の声が突然響いたが、その場には誰もいなかった為誰も少女の声に気づかなかった。













七耀歴1206年、4月24日、午後16:20―――



並行世界の新Ⅶ組がヴァイス達との面会を始めたその頃、リーヴスの第Ⅱ分校専用の宿舎でも異変が起ころうとしていた。



~リーヴス・第Ⅱ分校専用宿舎~



「さてと………そろそろ、夕食の下ごしらえを始めましょうか、アルフィン。」

「そうね。約束通り皆さん全員無事に戻ってきてくれたし、初めての”演習”を終えたご褒美代わりに今夜は御馳走を作ってあげないとね。――――あ、リィンさんだけは特別に精力がたくさんつく食事の方がいいかしら?帰って来たリィンさんにわたくしもそうだけど、貴女も会えなかった分リィンさんに愛されたいでしょうし♪」

「アルフィン、貴女ねぇ………そんなあからさまな事をしたら、さすがに鈍感な兄様でも気づく上、引くと思うわよ?」

アルフィンと共に宿舎に戻って来たエリゼはアルフィンの提案に呆れた表情で指摘したその時

「―――二人とも、下がって!」

「凄まじい時空間の”歪み”を感じます。もうすぐ”何か”が現れますので、念の為に戦闘準備を。」

アルフィンの身体からベルフェゴールが、エリゼの身体からリザイラが現れた後二人に警告すると同時に結界を展開し

「え………」

「!」

二人の警告にアルフィンは呆け、エリゼが血相を変えてそれぞれ武装を構えたその時、突如閃光が走った!

「キャアッ!?」

「ッ!?」

突然の出来事にアルフィンが悲鳴を上げ、エリゼが驚いた後閃光が消え、閃光が消えた場所に旅用と思われる外套つきのローブを身に纏い、まるで雪のような白い髪を腰まで靡かせ、整った容姿を持つエリゼ達と同年代と思われる娘が倒れており、娘の傍には娘の所有物と思われる杖が落ちていた。



「この方は一体………?」

「状況を考えると”彼女” が転移魔術の類でこの場に転移してきたのだと思うのだけど……」

突然現れた娘にアルフィンは戸惑い、エリゼは真剣な表情で推測し

「―――いえ、意識を失っている様子からすると先程の転移術は彼女の意志ではなく、”何者かの意志”によるものでしょう。」

「問題はその”何者か”が何を考えてこの娘をここに転移させた目的だけど………あら?その娘の傍に落ちているのは……」

エリゼの推測をリザイラが訂正し、ベルフェゴールが娘が現れた事について考え込んだその時、ベルフェゴールがは娘の傍に落ちている杖に気づいた。

「”杖”……という事はまさか目の前の女性はエマさんと同じ”魔女”なのかしら……?」

「………とにかく、このまま放っておく事はできないから………――――ベルフェゴール様、お手数ですがこちらの方を私の部屋のベッドまで運んでください。リザイラ様はリアンヌ様にこちらの方についての報告をお願いします。」

「了解。」

「わかりました。」

娘の正体についてアルフィンが考え込んでいる中すぐに気を取り直したエリゼはベルフェゴールとリザイラに指示をし、指示をされた二人はそれぞれの行動を開始した。



~20分後・エリゼの私室~



「……ん……」

「あ……」

「――――どうやら目覚めるようですね。」

20分後ベルフェゴールによってエリゼの私室のベッドに運ばれた娘が目を覚ます様子を見たアルフィンが呆け、リザイラからの連絡を受けて宿舎に戻って来たリアンヌ分校長は静かな表情で呟いた。

「…………?え………どうして、私が生き返って……?それに貴方達やここは一体………?」

目が覚めた娘は起き上がると困惑の表情を浮かべたがエリゼ達に気づくと不思議そうな表情で首を傾げた。

「ここはエレボニア帝国の帝都近郊の町――――リーヴスにあるトールズ第Ⅱ分校の専用宿舎の私―――――第Ⅱ分校専用宿舎の管理人の補佐を務めるエリゼ・シュバルツァーと申します。」

「”エレボニア帝国”……?”トールズ第Ⅱ分校”……??」

「えっと……貴女の名前は何と言う名でどういった立場の方なのでしょう?」

不思議そうな表情で首を傾げ続けている娘にアルフィンは戸惑いの表情で尋ねた。

「…………ゲルド。ゲルド・フレデリック・リヒター。それと私がどういった人物かだけど………私が今いるこの世界は”ティラスイール”?」

「ティ、”ティラスイール”……?い、いえ……わたくし達が今いるこの世界の名前はゼムリア大陸ですわ。」

娘――――ゲルドの問いかけにアルフィンは戸惑いの表情で答え

(リアンヌ様。まさかこちらの方―――ゲルドさんは………)

(ええ……彼女はディル=リフィーナでもなく、ミント達の世界でもない異なる世界の出身なのでしょうね。そして彼女がこの世界に来た方法は恐らく”零の御子”殿が関係しているでしょうね。)

その様子を見守っていたエリゼはリアンヌ分校長に小声で囁き、囁かれたリアンヌ分校長は静かな表情で頷いてゲルドの正体等を察した。



「え…………えっと………一応念の為に聞くけど、”エル・フィルディン”、”ヴェルトルーナ”、”ガガープ”。この3つの言葉のどれかに聞き覚えはない?」

一方アルフィンの反応に驚いたゲルドはアルフィンに新たな質問をし

「は、はい。どれも初めて聞く言葉ですわ。」

「そう………………(一体どうして”魂ごと消滅したはずの私が生き返って”ティラスイールでもなく、エル・フィルディンやヴェルトルーナでもない異なる世界に…………)」

「――――ゲルドと仰いましたね。正直信じられない話と思いますが、貴女が今いるこの世界は貴女がいた世界とは全く異なる世界です。」

アルフィンの話を聞いて考え込んでいるゲルドにリアンヌ分校長は静かな表情で話しかけ

「ええ………それについては何となく気づいていたわ。」

「その……随分と落ち着いていらっしゃるようですけど、ゲルドさんは御自分が自身がいる世界とは全く異なる世界―――異世界に来たことに不安や驚き等はないのですか?」

リアンヌ分校長の言葉に落ち着いた様子で頷いたゲルドの様子を不思議に思ったエリゼはゲルドに訊ねた。



「うん。私は元々一人ぼっちで旅をしていたし………――――そもそも、私は”自分がいた世界では既に私自身が死んでいる”から、むしろこうして私自身が今生きている事の驚きの方が大きいもの。」

「ええっ!?」

「………………なるほど。という事はやはり元の世界では死んでいたはずの貴女が甦り、こうして我々の前に現れた事は零の御子殿が起こした”奇蹟”が関係しているのでしょうね。」

「”因果の操作”、ですか…………しかし、キーアさんの力は1年半前の件でほとんど消え、もはや”奇蹟”は起こせないはずですが………」

ゲルドの口から出た驚愕の事実にアルフィンが驚いている中リアンヌ分校長は静かな表情で答え、リアンヌ分校長の答えを聞いてある人物を思い浮かべたエリゼは新たなる疑問を口にした。

「それについては恐らくこことはまた異なる次元――――”並行世界”に存在する御子殿によるものなのでしょう。」

「それは………」

「えっと……わたくしもその方――――キーアさんの事はリィンさんやエリゼ達からも話には伺っていましたが………どうして、”並行世界”のキーアさんは異なる世界で命を落としたゲルドさんを蘇生させてこの世界に移動させたのでしょう……?」

リアンヌ分校長の推測にエリゼが真剣な表情を浮かべている中アルフィンは戸惑いの表情でリアンヌ分校長に訊ね

「さて……それについては並行世界の御子殿の意図ですからこちらの世界の御子殿に聞いたところでわからないでしょうが………彼女―――ゲルドを蘇生させ、この世界に移動させた何らかの理由はあるはずです。」

「えっと………その”キーア”、だったかしら?話を聞く限り、その人が私を蘇生させてこの世界に転移させたように聞こえるけど………その人って、一体何者なの?」

アルフィンの疑問にリアンヌ分校長が答えたその時、ゲルドは不思議そうな表情である人物の事を訊ねた。そしてリアンヌ分校長達はそれぞれ自己紹介をした後1年半前に起こった”クロスベル動乱”について説明をした。



「”因果の操作”………だから、死んだはずの私がこの世界―――――ゼムリア大陸でこうして生きているのね……………フフ、そのキーアって娘が何を考えて私を蘇生させてこの世界に転移させた理由はわからないけど………私はその娘に心から感謝しているわ。為すべき事を終えて世界から消滅するはずだった私をこうして生き返らせて、新たなる人生をくれたのだから………」

「ゲルドさん…………」

「……………以前いた世界の貴女の”為すべきこと”がどのような内容かはわかりませんが……これから、どうするおつもりですか?」

事情を聞き終えた後優し気な微笑みを浮かべたゲルドの様子をアルフィンは辛そうな表情で見つめ、目を伏せて黙り込んでいたリアンヌ分校長は静かな表情でゲルドに問いかけた。

「そうね………………――――――!」

リアンヌ分校長の問いかけにゲルドが考え込んだその時、ゲルドの脳裏にリィンを始めとした新Ⅶ組の面々と一緒に何気ない日常の学院生活を送っている”第Ⅱ分校の制服を着ている自分”や新Ⅶ組だけでなく旧Ⅶ組や特務部隊の面々と共に凄まじい瘴気を纏った竜らしき存在に挑んでいる様子の自分、リィン達が凄まじい瘴気を纏った獣らしき存在と戦っている間に美しい女性に見間違えるような夕焼けのような髪の男性が神剣らしき神々しい剣を構えて力を溜めている間に自分が知るある特別な”歌”を歌っている様子の自分、そして成人に成長した自分らしき女性が自分同様成長してそれぞれのウエディングドレスを身に纏ったエリゼやアルフィンらしき女性や多くの女性達のように自分の雪のような真っ白な髪に似合う純白のウエディングドレスを身に纏い、幸せそうな表情を浮かべてリィンらしき男性と結婚している様子の光景が浮かんできた。



「(今のは……………)……………えっと、リアンヌさん。リアンヌさんの学校に入りたいのだけど、どうすればいいのかしら?」

「ええっ!?という事はゲルドさんは第Ⅱ分校に編入させるおつもりなのですか……!?」

「………一体何故この学院に編入しようと決められたのですか?」

ゲルドの問いかけにアルフィンが驚いている中リアンヌ分校長は落ち着いた様子でゲルドに問い返した。

「……私には”見える”の。私がこの学校でたくさんの友達と笑い合っているとても暖かくて明るい光景や、この学校の友達と一緒に呪われた竜や黒き獣に挑んでいる私、そして、私自身が好きになったと思われる男性と結婚して幸せそうな顔を浮かべている私が…………」

「”見える”、ですか。ゲルドさんが先程仰った話はまるでご自分の未来を見ているような口ぶりでしたが………」

「”未来を見ている”………――――!まさか、貴女には”予知能力”があるのですか?」

ゲルドの答えにエリゼが考え込んでいる中察しがついたリアンヌ分校長は僅かに驚きの表情を浮かべてゲルドに問いかけた。



「えっと……”予知能力”とは一体どういうものなのでしょうか?」

「”予知能力”とはその名の通り今後起こり得る未来を予知する能力――――つまり、”未来を見る能力”です。」

「ええっ!?み、未来を……!?」

「という事は先程ゲルドさんが仰った事が今後起こる可能性が非常に高い出来事になりますが……その中でいくつか気になる事がありましたね。」

自分の質問に答えたリアンヌ分校長の答えにアルフィンが驚いている中エリゼは真剣な表情で考え込んでいた。

「彼女がこの第Ⅱ分校で絆を結んだ者達と共に呪われた竜や黒や獣に挑むという話ですか。(”呪われた竜”に”黒き獣”………――――!まさか………)」

「えっと、ゲルドさん。ちなみにゲルドさんが見た未来でゲルドさんがお友達になったという第Ⅱ分校の方々はどのような特徴の方々でしょうか?」

ゲルドが見た未来について考え、察しがついたリアンヌ分校長が目を細めている中アルフィンはゲルドに質問をした。

「えっと………ピンク色の髪の女の子に銀髪の女の子、蒼灰色の髪の男の子と……後は金茶髪の男の子とミント色の髪の女の子ね。」

「ピンク色の髪の女子と銀髪の女子、それに蒼灰色の髪の男子という特徴があるメンバーは恐らく………」

「”特務科”――――新Ⅶ組ですか。金茶髪の殿方は第Ⅱ分校の生徒の方々の特徴を考えると恐らくアッシュ・カーバイドさんと思われますが……」

「そ、それにミント色の髪の女の子は恐らく”あの娘”の事だと思いますけど……どうしてあの娘とアッシュさん、それにアルティナさん達がその竜や獣に挑んでいるのでしょう……?」

ゲルドが口にした人物達の特徴を聞いて誰の事かそれぞれ察したリアンヌ分校長は静かな表情で答え、エリゼは真剣な表情で考え込み、アルフィンは戸惑いの表情をしていた。



「………………」

「え、えっと………?」

「私達に何か他にも聞きたい事があるのでしょうか?」

興味ありげな様子で自分達を見つめてきたゲルドの行動にアルフィンが戸惑っている中エリゼはゲルドに訊ねた。

「うん。えっと、一つ聞きたいのだけど……この世界は一人の男性が複数の女性と結婚する事ができるの?」

「え?はい。現にわたくしはこの学院の教官の一人―――リィンさんの妻の一人で、こちらにいるエリゼはリィンさんの婚約者の一人でリィンさんの”正妻”になる予定ですわ。ですがどうしてそんな事をお知りになりたいのですか?」

ゲルドの質問に戸惑いの表情で答えたアルフィンは不思議そうな表情でゲルドを見つめた。

「さっき、私が”見えた”未来に私が好きになったと思われる男性と結婚している話もあったでしょう?その時に見えた光景に貴女達によく似た女性達がウエディングドレスを着て、私が結婚する男性と同じ男性と結婚している様子が”見えた”の。」

「!!!!???」

「ええっ!?という事はゲルドさんが見たという”未来”は……!」

「ふふふ、十中八九ご主人様と私達の結婚式の事でしょうね。」

「あらあら、まさかこんな形でご主人様の新たなるハーレムメンバーになる可能性が高い女の子が現れるなんて、さすがはご主人様と言った所かしら♪」

ゲルドの答えにエリゼが血相を変え、アルフィンが驚いたその時それぞれの身体から出て来たリザイラは静かな笑みを浮かべ、ベルフェゴールはからかいの表情でゲルドを見つめていた。



「…………ゲルドさん。一応念のために聞きますが、未来のゲルドさんが私達によく似た女性達と結婚する相手の特徴は黒髪の男性ですか?」

「うん。――――あ、そう言えばその男性はリアンヌさんの学校で私や私の友達の先生として、何かの授業をしていた未来も見えたわ。」

ジト目になったエリゼの問いかけにゲルドは静かな表情で答え

「ふふふ、今の話でその男性が誰なのかもはや確定したようなものですね。」

「うふふ、教師と生徒の恋愛という禁断の恋まで実行するなんて成長したじゃない、ご主人様♪」

「ハア………私達だけに飽き足らず、生徒にまで手を出すなんて、兄様は一体どれ程の女性に手を出せば満足されるのですか?うふふふふふふ………!」

ゲルドの答えにリザイラとベルフェゴールが興味ありげな表情をしている中疲れた表情で大きな溜息を吐いたエリゼは膨大な威圧を纏って微笑み始め、その様子を見守っていたアルフィン達は冷や汗をかいた。

「フフ、貴女達の伴侶の件は一端置いておくとして…………――――いいでしょう。リウイ陛下に事情を説明し、貴女が第Ⅱ分校に編入できる手配をしましょう。」

「……本当にいいの?自分で言うのもなんだけど、私って貴女達からしたら凄い怪しい存在だと思うのだけど。」

リアンヌ分校長の申し出を聞いたゲルドは不思議そうな表情でリアンヌに問いかけ

「これでも人を見る目は備わっている自負はありますし、知り合いがいないどころか生きていた環境すらも全く異なる世界であるこの世界に迷い込んできた貴女を放置するような真似は力無きもの達を守る立場である騎士の一人として……そして、陛下とイリーナ様の騎士の一人としても決してできませんので。」

「そう………ありがとう…………」

リアンヌ分校長の答えを聞いたゲルドは優し気な微笑みを浮かべた。そして1週間後――――



5月1日、AM8:40――――



~トールズ第Ⅱ分校・特務科Ⅶ組~



「――――みんな、おはよう。いつも通り、一人も遅刻や欠席もせず全員揃っていて何よりだ。」

「突然になりますが今日はⅦ組に新しい仲間が増えますわ。」

1週間後朝のHRを始める為に教室に入って来たリィンはユウナ達新Ⅶ組が全員いる事を確認し、セレーネはユウナ達にとって驚きの事実を口にした。

「へっ……!?」

「本当に突然ですね………」

セレーネの言葉にユウナは呆け、クルトは困惑の表情を浮かべた。

「ああ―――入ってくれ。」

「――――はい。」

クルトの言葉に頷いたリィンが廊下に視線を向けると第Ⅱ分校の制服を身に纏ったゲルドが教室に入って来た。



「キレイ………」

「銀髪……―――いや、純白の髪とは随分と珍しい髪の色だな…………」

「はい………まるで雪を思い浮かべるような純白の髪ですね……」

「ゲルドさん、まずは自己紹介をお願いしますわ。」

ゲルドの容姿や髪の色にユウナが見惚れている中クルトとアルティナは興味ありげな様子でゲルドの雪のような真っ白な髪を見つめ、セレーネはゲルドに自己紹介を促した。

「はい。―――――ゲルド・フレデリック・リヒター・パリエ。国籍はメンフィル帝国で”諸事情”で、この学校に編入したわ。学校を通うのは初めてで色々とわからない事もあって迷惑をかける事もあるかもしれないけど、1日でも早く慣れるつもりで頑張るから、よろしくね。」

「しょ、”諸事情”ってどんな事情よ………」

「国籍がメンフィル帝国という事は君は何か知っているのか?」

「いえ、生徒側の追加の人員が来るような連絡は来ていません。……お二人共、これは一体どういう事ですか?まさかわたしだけ意図的に知らされていなかったのでしょうか?」

ゲルドの自己紹介に冷や汗をかいたユウナは呆れた表情で指摘し、クルトに視線を向けられたアルティナは静かな表情で答えた後ジト目でリィンとセレーネに訊ねた。

「アハハ………そう思うのも無理はありませんけど、わたくし達にとってもゲルドさんの第Ⅱ分校への編入は青天の霹靂の出来事で先程知ったばかりですから、わたくし達もアルティナさんと同じですわよ。」

「そもそもゲルドの第Ⅱ分校への編入はメンフィル帝国政府は関わってはいるけど、編入した事情は俺達と違って単なる親族の厚意によるものだ。」

「”親族の厚意”、ですか?」

アルティナの指摘にセレーネが苦笑しながら答えた後に説明したリィンの説明を聞いたアルティナは不思議そうな表情で首を傾げた。



「ああ。先程名乗ったゲルドの名前の中に”パリエ”があっただろう?”パリエ”の名前に聞き覚えは無いか?」

「へ……?そ、そう言えば”パリエ”って名前はどっかで聞いたような………」

「”パリエ”………――――まさか……君は”癒しの聖女”ティア・マーシルン・パリエ皇女殿下の親族なのか……!?」

リィンの説明に呆けたユウナが考え込んでいる中ある事を察したクルトは驚きの表情でゲルドを見つめた。

「ええっ!?い、”癒しの聖女”って確かシズクちゃんの義理のお姉さんになった癒しの女神(イーリュン)教の聖女様じゃない……!」

「”癒しの聖女”――――ゼムリア大陸側の癒しの女神(イーリュン)教を纏める司祭長にして、”英雄王”の娘の一人でもあるメンフィル帝国の皇女ですね。………ですが確か、ティア皇女―――”パリエ”家の親族は父親の”英雄王”を除けば義母のセシル様と義妹のシズクさんだけだったはずでは?」

クルトの言葉を聞いたユウナが驚いている中アルティナは冷静な様子である人物の情報を口にした後新たなる疑問を口にした。

「これはエリゼお姉様達から伺った話ですが………ゲルドさんは先週の”特別演習”の最終日に突然、何者かの仕業によって第Ⅱ分校の宿舎に転移させられたそうなんです。」

「ええっ!?あ、あたし達が”デアフリンガー号”でリーヴスに帰っている間にそんな事が!?……あれ?でも、あたし達がリーヴスに戻った時、宿舎でその娘は見かけませんでしたけど……」

セレーネの説明を聞いて驚きの声を上げたユウナだったが、ある事を思い出して首を傾げた。

「分校長の話だと、ゲルドはゼムリア大陸ともメンフィル帝国の本国がある異世界――――”ディル=リフィーナ”とも異なる世界からやってきたそうなんだ。それで事情を聞いた分校長はゲルドがエレボニア帝国に彼女の存在を察知される前にメンフィル帝国に保護された方がいいと判断して、リウイ陛下に連絡して俺達がリーヴスに戻ってくる前に転移魔術で迎えに来たペテレーネ神官長と共にゲルドはリベール王国のロレント地方にあるメンフィル帝国の大使館に転移で移動して、大使館に保護されていたんだ。」

「?何故エレボニア帝国に彼女の存在が察知される事を恐れてそのような事をしたのでしょうか?」

「えっと………幾らゲルドさんの意志ではないとはいえ、ゲルドさんはエレボニア帝国に無許可で入国――――密入国をしたという問題が発生しているのですから、そんなゲルドさんがエレボニア帝国に察知されて捕まってしまえば戸籍も存在しないゲルドさんは中々自由の身になれない可能性が十分に考えられましたので。」

リィンの話を聞いて新たな疑問が出て来たクルトの質問にセレーネは困った表情で答え、セレーネの答えにユウナ達は冷や汗をかいた。



「た、確かに言われてみればそうよね………」

「というか転移魔術でゲルドさんを迎えに来たペテレーネ神官長も何気に”密入国罪”を犯している気がするのですが。」

「……それで話を戻しますけど、何故メンフィル帝国に保護された彼女が”癒しの聖女”の親族になったのですか?」

我に返ったユウナは苦笑し、アルティナはジト目で呟き、クルトは気を取り直して新たな質問をした。

「エリゼやアルフィンから聞いた話によるとゲルドはある”異能”を持っていて、メンフィル帝国がその”異能”を持ったゲルドを利用しようと考える悪意ある勢力がそう簡単にゲルドに手出しできないように、ゲルドをメンフィル皇女の一人であられるティア司祭長の親族にしたとの事だ。」

「”異能”というと、先週の”特別演習”でリィン教官が時折見せてくれたような能力の事ですか?」

「いえ、ゲルドさんの”異能”はお兄様の”異能”とは全く異なる能力ですわ。――――それどころか使いようによっては、戦争の勝敗すらも変えかねない凄まじい能力をゲルドさんは持っているのですわ。」

「せ、戦争の勝敗すらも変えかねない能力ってどんな能力よ……」

「―――――”予知能力”よ。」

ゲルドが持つ異能の凄まじさを軽く説明したセレーネの説明にクルトやアルティナと共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたユウナが疲れた表情で疑問を口にしたその時、ゲルドは静かな表情で答えた。



「ちなみに”予知能力”とは今後起こり得る未来を予知する能力――――つまり、”未来を見る能力”との事だ。」

「ええっ!?み、”未来を見る能力”……!?」

「……確かに未来を見る事ができれば、セレーネ教官の仰る通り戦争の勝敗すらも変えかねないですね。………まあ、ゲルドさんの出自も含めて非常識過ぎる内容ばかりですが。」

「そしてそんな能力を持っているゲルドの存在を大規模な軍拡を行い続けているエレボニア帝国が知れば、ゲルドを軍事利用する可能性が考えられたから分校長はメンフィル帝国にゲルドの保護をさせたのか………しかし、何故君は第Ⅱ分校――――”軍”の士官学院に編入を?学術機関に通いたいのならば、他にも軍とは無関係の学校があると思うのだが………」

ゲルドの”異能”を軽く説明したリィンの話にユウナが驚いている中真剣な表情で呟いたアルティナはジト目になり、クルトは複雑そうな表情で呟いた後ある事に気づき、不思議そうな表情でゲルドに問いかけた。

「……私の”予知能力”で”見えた”の。この学院に通えば、ずっと一人で旅をしていた私にたくさんの友達ができて、共に笑いあっている暖かい光景が…………だから、リアンヌさ―――ううん、リアンヌ分校長に頼んでこの学院に編入できるようにしてもらったの。」

「ゲルドさん…………」

「………………」

ゲルドの説明を聞いたセレーネとリィンは静かな表情でゲルドを見守り

「それと私は”魔女”でもあるわ。私が”魔女”である事に加えて”予知能力”があった事から私のいた世界ではそんな私を恐れる人達もいたわ…………やっぱり、迷惑かな?普通の人とは異なる存在の私がこのクラスに来て。」

自分の事についての説明を終えたゲルドは寂し気な笑みを浮かべてユウナ達に訊ねた。

「そ、そんな訳ないでしょう!?幾ら貴女が特別な能力を持っていたり”魔女”とかいう存在だったとしても、貴女もあたし達と同じ”人”でしょう!?むしろ、何も知らずに貴女を恐れていた貴女のその世界の人達の考えがおかしいわよ!」

「人を見かけだけで判断する事に反対なのは僕も同意見だ。――――そもそも、このゼムリア大陸にはメンフィル帝国を始めとした異世界―――”ディル=リフィーナ”との交流によって人間以外の様々な異種族が生きているのだから、君に多少普通の人とは違った事情があったとしても、それを理由に君の事を差別する等毛頭ない。」

「ユウナさん………クルトさん…………――――わたしも貴女程―――いえ、見方によっては貴女以上の普通の人間とは異なる事情があります。ですから、わたしは最初から貴女の事を新たなクラスメイトとして認識しています。」

ゲルドの問いかけにそれぞれ真剣な表情で答えたユウナとクルトの答えに驚いたアルティナも二人に続くように普通の人とは異なる存在のゲルドを受け入れる意志を伝えた。

「みんな…………ありがとう…………!これから、よろしくね………!」

ユウナ達の意志を知ったゲルドは嬉しさのあまり一筋の涙を流した後涙をふいて優し気な微笑みを浮かべてユウナ達を見つめた。

「フフ、よかったですわね、お兄様……」

「ああ………(それにしても”魔女”か。ハハ、世界が違うとはいえ、ゲルドと同じ”魔女”のエマが彼女の事を知ればどういう反応をするだろうな……?)」

ゲルド達の様子をセレーネと共に微笑ましく見守っていたリィンはある人物の顔を思い浮かべていた。



こうして………ゼムリアともディル=リフィーナとも異なる世界で背負っていた宿命から解放された”白き魔女”の自分自身の幸せを掴む為の新たなる軌跡が始まりを告げた―――――




 
 

 
後書き


という訳で予告していたレギュラーキャラになる新クロスオーバーキャラは運命の本編でも登場したガガープシリーズの重要人物の一人である”白き魔女”ゲルドです!ただし、今回の話を読んでお気づきと思いますが運命の本編と違ってこの物語のゲルドは記憶喪失にはなっていません。なので、最初から魔法チートキャラ(まあ、記憶喪失状態でも十分チートだった気がしますが(苦笑))ですwwというか、運命の本編のゲルドのレベルを見て貰えばわかると思いますが、ゲルドだけ新Ⅶ組のメンバーでありながら現時点でも新Ⅶ組どころか旧Ⅶ組のレベルよりも遥かに上というおかしな状況にwwなお、ゲルドの新Ⅶ組入り後に第ⅡOPとして閃ⅢのED”嘆きのリフレイン”が流れて並行世界でのED前のラストイベントの様子が流れた後並行世界のユウナ達が星見の塔で空を見上げているシーンと第Ⅱ分校の宿舎の前で空を見上げているゲルドのシーンが同時に映り、ユウナ達のそれぞれの学院生活の様子が映った後並行世界のユウナ達が魔導巧殻陣営のキャラ達と模擬戦をしている様子が映り、曲が一番盛り上がる所である場所の屋上でデュバリィ達と戦うリィン達、リウイとヴァイスの号令でそれぞれの国の軍がヘイムダルに突撃するシーン、黒キ星杯でリィン達と並行世界のユウナ達が共闘しているシーン、ルトガーと戦うフィーとサラ、幻燐陣営のある二人のキャラ達、シャロンと戦うアリサ、レーヴェ、ヨシュア、戦女神陣営のセリカの使徒の中のあるキャラ、ジークフリートと戦うリィンを含めたメンバー、カンパネルラと戦うメンバー、レクターと戦うロイド達、クレアと戦うメンバーが次々と映った後、ラスボスをリィン達が包囲している中ゲルドが歌を歌っている所と力を溜め終えたセリカがアストライアの力を解放している所が映った後、エイドスとある人物が数秒だけ映り、最後に新旧Ⅶ組&特務部隊が全員映るシーンになると思ってください。
 

 

外伝~槍の聖女流特訓法~前篇

4月28日、PM16:00――――



最初の特別演習が終わった数日後、授業が全て終わった後第Ⅱ分校の生徒・教官全員はリアンヌ分校長の指示によって全員グラウンドに集合していた。



~トールズ第Ⅱ分校・グラウンド~



「授業が全部終わった後生徒もそうだけど、教官も全員グラウンドに集合って、分校長は一体何を考えているんだろうね……?もしかしてリィン君達は前もって何か知らされているの?」

「いえ、俺達も朝の会議の時に初めて知らされました。―――――少佐の方はどうでしょうか?」

「私もシュバルツァー教官達と同じで今回の分校長の指示は突然過ぎて、分校長が何をするつもりなのか全く知らされていない。昼休みの間にも聞きに行ったが、”その時が来れば説明します”の一点張りだ。全く……”鉄機隊”の件といい、分校長は一体何を考えているのだ………!?」

「うふふ、少なくてもただのお話では終わらないでしょうね。」

生徒達が整列をして待機している中トワの問いかけに首を横に振って答えたリィンはミハイル少佐に話を振り、話を振られたミハイル少佐は静かな表情で答えた後疲れた表情で頭を抱え、レンは意味ありげな笑みを浮かべた。

「クク、オレサマの勘だが”特別演習”で結社の連中にあっけなく奇襲されたから、そんなあっけなく奇襲された俺達に”喝”を入れる為に俺達全員を御自慢の”槍”で補習授業でもするんじゃねえのか?」

「いや、さすがにそれは…………って、あの”鋼の聖女”だったらマジでやりかねないから、冗談でもそんな恐ろしい事を考えるなよ!?」

「ア、アハハ…………―――あ。分校長が来られましたわ。」

不敵な笑みを浮かべたランドロスの言葉に苦笑したランディだったがすぐに表情を引き攣らせて指摘し、二人の会話を苦笑しながら聞いていたセレーネはアルフィンやエリゼと共に自分達に近づいて来たリアンヌ分校長に気づいた。

「エリゼにアルフィン……?どうして二人まで、分校長と一緒に……」

「―――――皆、揃っているようですね。」

エリゼとアルフィンまでリアンヌ分校長と一緒にいる事にリィンが首を傾げているとリィン達の元に到着したリアンヌ分校長は生徒達や教官達を見回した後話を始めた。

「まずは最初の特別演習――――教官、生徒共に改めてお疲れ様でした。不測の事態が起こったとはいえ、全員無事に帰還して何よりです。――――――ですが、その不測の事態によって自分達の”力の足りなさ”を痛感したはずです。」

リアンヌ分校長の言葉に驚いたリィン達教官陣に加え、ユウナ達生徒達も血相を変えた後それぞれ複雑そうな表情を浮かべたりと様々な表情をしていた。

「今回、皆を招集した理由は授業では教えきれない内容―――――”格上の存在”との戦いによる経験をしてもらい、その経験を糧に今後の特別演習で起こりうるであろう”不測の事態”に備える為の”補習”です。なお、この”補習”の対象は生徒達だけではなく、教官達も対象としています。」

「か、”格上の存在との戦いによる経験”って………状況を考えたら、あたし達が戦う”格上の存在”は一人しかいないわよね……?」

「ああ………分校長――――”槍の聖女”自身だろうな。」

「幾ら何でも実力の差が開きすぎていて、戦いにすらならないと思うのですが。」

「………ハッ、面白そうな”補習”じゃねえか。」

「ふふっ、またしても想定外の出来事、ですわね。(そして姫様とエリゼ卿までいらっしゃる理由は恐らく………)」

「えとえと……確か分校長はシルフィアさんが転生した人だから………わたし達がシルフィアさんと戦う事になるって事だよね?……………ふえええ~~~っ!?」

リアンヌ分校長の口から出た驚愕の答えにその場にいる全員が驚いている中ある事を察したユウナは表情を引き攣らせ、クルトは真剣な表情で呟き、アルティナはジト目でリアンヌ分校長を見つめ、アッシュは不敵な笑みを浮かべ、ミュゼは苦笑した後アルフィンとエリゼに視線を向け、ティータはリアンヌ分校長のある事実や戦闘能力について思い返した後驚きの表情で声を上げた。



「あの、お兄様。分校長が仰った”補習”の”対象”は生徒達だけでなく、わたくし達―――教官陣も含まれていると聞こえたのですが………わたくしの気のせいではないですわよね……?」

「ああ………残念ながら、間違いなく俺の耳にも聞こえたよ………」

「だぁっはっはっはっ!どうやらオレサマの勘が当たったようだな!」

「笑いごとじゃねえだろうが!?あの”鋼の聖女”とまた戦う羽目になるとかマジで勘弁してくれよ、オイ………」

「ううっ、わたしがあの”槍の聖女”を相手にするとか絶対無理だよ………」

「うふふ、教官陣の中でレン達と違って執行者や蛇の使徒みたいな裏の使い手との戦いの経験がないトワお姉さんやミハイル少佐はご愁傷様ね。」

(ふふっ、皆さん予想通りの反応ね♪)

(それはそうでしょう……あの”槍の聖女”と直々に戦わなくちゃいけないのだから……」

一方教官であるセレーネは表情を引き攣らせてリィンに訊ね、訊ねられたリィンは疲れた表情で答え、豪快に笑っているランドロスに指摘したランディはトワと共に疲れた表情で肩を落とし、トワの様子をレンは小悪魔な笑みを浮かべて見守り、一連の流れを呑気な様子で見守っていたアルフィンの言葉にエリゼは呆れた表情で指摘した。

「ぶ、分校長!お言葉ですが、たった一度の”補習”をした所で教官陣もそうですが、生徒達の実力向上にはならないと思われるのですが、そこの所はどうお考えなのですか……!?」

するとその時ミハイル少佐は焦った様子でリアンヌ分校長に意見をし

「それを答える前に逆に訊ねさせて頂きますが………私がいつ、この補習が”今回限り”だと口にしましたか?」

「え”。」

「ま、まさかとは思いますが………分校長による”補習”は定期的に行うつもりなのですか……?」

ミハイル少佐に対するリアンヌ分校長の答えを聞いたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、セレーネは表情を引き攣らせながらリアンヌ分校長に確認した。



「フフ………――――定期的どころか毎日授業が終われば、”補習”を行うつもりですが?……とは言っても私だけでは手は足りませんから、貴女達教官陣に加えてシュバルツァー教官とランドルフ教官が契約している異種族の方々にも協力してもらうつもりの上、月に一度の間隔で”私個人の伝手”を使った人物達にも生徒達や貴女達教官陣のお相手をしてもらうつもりですが。」

「ふえええ~~~っ!?」

「オイオイオイ……!毎日俺達どころかエルンスト達の相手までするとか、幾ら何でも生徒達にとっては一種の”いじめ”なんじゃねえのか!?」

(ま、まさか私達まで手伝う羽目になるなんて……)

(私は別にいいのだけど、生徒達はそれでいいのかしら……?)

(あっはっはっはっ!面白くなってきたじゃないか!)

リアンヌ分校長の答えにその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせた後我に返ったトワは驚きの声を上げ、ランディは疲れた表情で指摘し、一連の流れを見守っていたメサイアは表情を引き攣らせ、アイドスは困った表情をし、エルンストは腹を抱えて声を上げて笑っていた。

「うふふ、分校長さん。分校長さん個人の伝手を使った人物達にレン達の相手をしてもらうという話だけど……その”人物達”ってもしかしてプリネお姉様達やパパ――――”英雄王”リウイ・マーシルン大使かしら?」

「フフ、そこに気づくとはさすがですね。――――ご名答です。マーシルン教官の仰る通り私個人の伝手を使ってメンフィル帝国の様々な使い手達に貴女達と手合わせをしてもらう事をリウイ陛下に相談した所陛下は快く引き受けて頂き、機会があればご自身も貴方方のお相手をするとも仰っていました。」

「メンフィル帝国の様々な使い手達という事はプリネ皇女殿下達どころか、ゼルギウス将軍閣下やファーミシルス大将軍閣下のようなメンフィル帝国でも指折りの実力者達まで俺達との手合わせをする可能性がある上、リウイ陛下まで俺達との手合わせをする可能性があるという事ですか………」

「ほう~?ゼムリア大陸にその名を轟かせる”英雄王”や”空の覇者”のようなメンフィルの達人たちとの手合わせができる可能性もあるのか。それは楽しみじゃねえか!」

「そんなとんでもない事に対して楽しみを感じるのはアンタだけだっつーの!マジで勘弁してくれよ、オイ………”英雄王”達の相手とか、完全に蹂躙されて終わりだろ……」

レンの問いかけに対して答えたリアンヌ分校長のとんでもない答えにその場にいる全員が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンは疲れた表情で呟き、豪快に笑っているランドロスに疲れた表情で指摘したランディは肩を落とした。

「あ、あの、分校長。先程毎日”補習”をすると仰いましたが放課後の生徒達はクラブ活動、教官の私達は翌日の授業の準備等で忙しく、”補習”をする時間を取る事ができないと思われるのですが………」

「その点の問題に関しては心配ありません。”補習”とは言っても、通常の授業のように長時間”補習”の為の時間で貴方達を拘束するつもりはありません。短くて10分、長くても30分でその日の”補習”を終えてもらう予定ですし、更に”補習”を行う組み合わせの方々のスケジュールを照らし合わせてその日の”補習”を行ってもらう予定です。それと教官陣に関しては私を含めてそれぞれが協力すれば”補習”の時間は取れるはずです。組み合わせについては教官陣に加えてシュバルツァー教官達に協力している異種族の方々の中から一人を選び、その一人に対して生徒数人の組み合わせならば、必ず教官陣の数人は手が空き、手が空いた日は”補習”をする必要がなく、生徒達の”補習”を行っている教官達の補佐ができるはずです。それぞれの仕事の時間が減り、更には実力向上の為の時間を取る事ができるのですから、我々教官陣にとっても一石二鳥の”利”を得られる事に加えて『常在戦場』というドライケルスの理念の一つも体現しているのですから、問題は無いと思われるのですが?」

「ぐっ………(ええい、何て厄介な……!メンフィル帝国はあのような存在の手綱をどのようにして握っていたのだ!?)」

トワの指摘に対して静かな表情で答えたリアンヌ分校長に視線を向けられ、反論ができないミハイル少佐は唸り声を上げて頭を抱え込んだ。



「あ、あの……先程から気になっていたのですが、どうして皇女殿下とエリゼさんまでこの場にいらっしゃるのでしょうか……?」

するとその時タチアナがアルフィンとエリゼに視線を向けた後遠慮気味にリアンヌ分校長に訊ねた。

「それは彼女達も今後の”特別演習”に参加する事になっているからです。――――ちなみに”特別演習”時の二人には食事の準備等の手伝い解いた細々とした仕事をしてもらう事になってもらいます。」

「なっ!?お、皇女殿下達が”特別演習”に……!?」

「い、幾ら何でも皇女殿下達まで不測の事態が起こるかもしれない”特別演習”に参加するなんて、無茶苦茶ではないでしょうか……!?下手をすればメンフィル帝国との国際問題が発生しますよ!?」

「そ、そうだよね……”特別演習”での不測の事態によって二人を危険な目に遭わせる可能性があって、その事によって1年半前の”七日戦役”の時のようにメンフィル帝国とエレボニア帝国の国家間の関係にまた亀裂が入るかもしれないし……」

「そ、それに……もし皇女殿下に何かあったら、ユーゲント皇帝陛下やエレボニア帝国政府も黙っていないわよね………?」

リアンヌ分校長の答えにその場にいる多くの者達が驚いている中ゼシカは信じられない表情で声を上げ、ウェインの意見に頷いたカイリとサンディは不安そうな表情である事を推測した。



「――――その心配は無用ですわ。エレボニア帝国人の方々にとっては複雑かもしれませんが………ここにいる皆さんもご存知のようにわたくしは1年半前の”七日戦役”の”和解条約”によってリィンさんに嫁いだ為”今のわたくし”はメンフィル帝国の貴族であられるリィンさんの妻の一人――――つまり、”わたくしの所属はエレボニア帝国ではなくメンフィル帝国”ですわ。よって、お父様―――ユーゲント皇帝を始めとしたエレボニア皇家やエレボニア帝国政府がわたくしの行動についてどうこう言う”権限”はございません。また、メンフィル帝国もわたくし達が”特別演習”に参加する事は了承済みですわ。」

「姫様…………」

「……………」

アルフィンの言葉に一部の生徒達に加えてトワやミハイル少佐が複雑そうな表情を浮かべている中ミュゼは真剣な表情でアルフィンを見つめ、クルトは目を伏せて黙り込み

「ハッ、”帝国の至宝”とか大層な二つ名で呼ばれてエレボニアの連中からチヤホヤされていた癖に他の国に鞍替えした事を堂々と俺達の前で宣言するとはな。いや~、さすがは他国――――それもエレボニアをボロ負けさせたメンフィルの新たなる英雄サマである灰色の騎士サマに股を開いてでも灰色の騎士サマやメンフィルの力を借りてエレボニアの内戦を終結させた皇女サマの言う事だけあって、真実味や説得力があるッスねぇ~。」

「へえ?」

「ア、アッシュ君………」

「おい、アッシュ!幾ら何でも言い過ぎだ!」

「カーバイド!口を謹め!」

「お二人の言う通りだ!例え今の皇女殿下が降嫁された立場とはいえ、今の君の発言は皇女殿下に加えてリィン教官対してもあまりにも不敬だぞ!?」

「貴方………内戦や”七日戦役”を終結させる為に皇女殿下がどれ程の辛い目にあった上メンフィル帝国にエレボニア帝国を滅ぼさせない為に交渉の経験もないのに貴族連合軍に幽閉されていた皇帝陛下に代わってメンフィル帝国の皇帝と必死に交渉した事も知らずに、よくもそんな事が言えるわね……!」

(どうしてアッシュさんはお兄様にもそうですが、アルフィンさんに対しても思う所があるような発言をされたのでしょう……?)

(俺もそれはわからないんだ………最初は俺が内戦や”七日戦役”で討った貴族連合軍の兵士達の中にアッシュの親族か知り合いがいるのかと思って、レン教官に調査を頼んだけど結果はアッシュの親族や知り合いに”貴族連合軍”所属の人はいなかった上、アッシュの母親も病気で随分前に亡くなったらしいから1年半前の件とは無関係だしな……)

鼻を鳴らして嘲笑したアッシュの言葉にその場にいる全員が血相を変えている中レンが興味ありげな表情を浮かべている中トワは不安そうな表情をし、ランディとミハイル少佐はアッシュを睨んで注意し、ウェインとゼシカもランディに続くように怒りの表情でアッシュを睨み、不安そうな表情をしているセレーネの疑問にリィンは静かな表情で答えた。

「――――構いません。わたくしがリィンさんを含めたメンフィル帝国の方々の力を借りて、内戦を終結させた事や帝都(ヘイムダル)奪還の決戦前日にわたくしは身も心もリィンさんに捧げた事は事実ですから、アッシュさんの仰っている事について否定をするつもりはありませんわ。」

「えっと……今、何気に凄い事実が聞こえたよね?」

「あ、ああ。へ、”帝都(ヘイムダル)奪還の決戦前日に身も心も捧げた”って事は……」

「リィン教官は内戦の決戦前日に皇女殿下とセ―――じゃなくてえ~と……そう!”子作り”も経験したんッスね!?」

「ハハッ、堂々とそんな事が言えるなんて中々肝が据わっているねぇ!」

「そんな事をこんな人前で言うなんて最低……」

「は、はわわわわわ……っ!?」

「まあまあまあ……!まさかそんな絶妙なタイミングでリィン教官に大人のレディにしてもらえたなんて、さすがは姫様ですわね♪」

その場の空気が険悪な空気になりかけたその時アルフィンが制止の声を上げて答え、アルフィンの答えを聞いてある事を察したカイリとパブロは表情を引き攣らせ、興奮した様子で声を上げたシドニーの発言にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中レオノーラは豪快に笑ってアルフィンを見つめ、ヴァレリーはシドニーに蔑みの視線を向け、ティータは顔を赤らめて慌て、ミュゼはからかいの表情でリィンとアルフィンを見つめた。

「うふふ、ちょっと嫌な空気になっていたのに一瞬で変えるなんて、さすがリィンお兄さんね♪」

「内戦の決戦前日って事はトリスタ奪還の翌日って事だから………は、はわわわわっ!?まさかその時にリィン君と皇女殿下がそんな事をしていたなんて……!」

「……………」

「ハア…………」

「こっの草食動物の皮を被った超肉食動物の兄貴族が……っ!そういう所まで弟貴族(ロイド)と一緒だったのかよ!?これだからリア充共は……!」

「クク、ヴァイスハイトに次ぐ女の多さに加えて妹もいる貴族だから、まさにランディの言う通りじゃねえか。だぁっはっはっはっ!」

「ううっ、穴があったら入りたい気分だ………」

「ま、まあまあ……空気が変わったのですから結果的にはよかったと思いますわよ?」

「フフ……」

「…………チッ。」

一方レンは小悪魔な笑みを浮かべてレンを見つめ、トワは顔を赤らめて慌て、エリゼはジト目でリィンとアルフィンを見つめ、ミハイル少佐が呆れた表情で溜息を吐いている中ランディは悔しそうな表情でリィンを睨み、ランドロスは豪快に笑い、疲れた表情で頭を抱えているリィンにセレーネは苦笑しながら慰めの言葉をかけ、リアンヌは苦笑しながら一連の流れを見守り、険悪な空気が一転し、完全に話が逸れた事に気づいたアッシュは呆けた後舌打ちをした。



「コホン。―――話を戻しますが、わたくしは1年半前の内戦で自分の無力さを感じて、周りの方々の足を引っ張らない為にリィンさんに嫁いでからわたくし自身の戦闘能力を向上させる精進をし続けましたから心配は無用ですわ。幸いにもわたくしにはアーツもそうですが、魔術師の適性も高い為、アーツや魔術による後方からの援護でしたらアーツや魔術の適性が高いトワさんやレン教官、それにセレーネさんにも決して劣りませんわ。」

(……ねえ、アル。アルフィンさんが言っている事は本当なの?)

(はい。実際アルフィン様は上位魔術や治癒魔術、そして支援系の魔術の一部を習得している事に加えて、アルフィン様の魔術適性が最も高い”火炎属性”に関しては最上位魔術も習得済みです。)

(最上位魔術………レン教官の話によると戦場の地形をも変えかねない凄まじい威力の魔術との話だったが……まさか皇女殿下がそのような凄まじい魔術の使い手になっていたとは……)

アルフィンの説明のある部分が気になったユウナに小声で訊ねられて答えたアルティナの答えを聞いたクルトは驚きの表情でアルフィンを見つめていた。

「そしてこちらにいるエリゼはリィンさんやセレーネさんと同じ”特務部隊”に所属していた上”七日戦役”でもリィンさん達と一緒に軍事行動を取っていましたからエリゼも決して皆さんの足を引っ張りませんわ。」

「――――アルフィンの説明通り、私も”七日戦役”に兄様達と共に従軍し、”特務部隊”の一員としてエレボニアの内戦終結の為に”実戦”を何度も経験しましたから、私の心配も無用です。」

「何と!エリゼさんもあの”特務部隊”の一員だったとは……!」

「しかも内戦に加えて”七日戦役”も経験しているから、実戦経験もそうだけど実力も確実に私達より上でしょうね……」

アルフィンとエリゼの説明を聞いたフレディが興味ありげな様子で声を上げている中マヤは驚きの表情でエリゼを見つめた。



「―――さてと、二人がこの場にいる理由の説明も終えましたし。そろそろ始めるとしましょう。――――まずはミハイル少佐以外の教官陣全員、前に出てください。」

「げげっ、いきなりかよ!?」

「ア、アハハ……何となくそんな事になるような気はしましたが……」

「ほう~?まさか俺達達全員を相手にしなければならない”格上の存在”であるという自信があるとはな。ますます、面白くなってきたじゃねぇか!」

「うふふ、生徒達のちょうどいい”見本”の戦いができるといいんだけどね。」

「ううっ、多分わたしがリィン君達の足を引っ張って、一番早く無力化されるんだろうね……」

リアンヌ分校長に名指しされたランディは表情を引き攣らせ、セレーネは苦笑し、ランドロスとレンが興味ありげな表情を浮かべている中トワは疲れた表情で肩を落とした。

「………―――俺達も可能な限り分校長の攻撃に耐えて先輩を含めた後衛のメンバーをカバーしますので、先輩は後方からの指揮や援護をお願いします。1年半前の内戦での先輩の指揮能力はレン教官やセシリア教官も褒めていた程優れているのですから、例え相手が分校長であろうと通じるはずです。」

「リィン君………うん、任せて!」

しかしリィンに元気づけられたトワは目を丸くした後力強く頷いた。



「―――一つ言い忘れました。今回の”補習”はシュバルツァー教官とマーシルン教官はそれぞれに秘められている”力”の解放を、アルフヘイム教官は魔力による身体能力の強化、竜化並びに魔術の使用、そしてランドルフ教官は”戦場の叫び(ウォークライ)”並びにブレードライフルの使用を控えてもらいます。」

「へ………」

「あら………」

「待て待て待て……!何で俺達だけハンデ付きで戦わなくちゃならないんだよ!?俺達がアンタとまともにやりあうにはマジで全員”本気”にならないと、太刀打ちできねぇぞ!?」

それぞれの武装を構えてリアンヌ分校長と対峙したリィン達だったがリアンヌ分校長の口から出た予想外の指示にリィンは呆け、レンは目を丸くし、ランディは疲れた表情で反論した。

「―――先程言ったはずです。この”補習”は私や貴方方教官陣を含めた実力向上の為の”補習”であると。”戦場”は常に万全の状態で戦えるとは限らない事は教官陣の中で最も”実戦”の経験がある貴方なら一番理解しているのでは?」

「ぐっ………」

「た、確かに仰る通りですが………あ、あの……ちなみにわたくし達の勝利条件はどのような条件でしょう?」

しかしリアンヌ分校長の正論に反論できないランディは唸り声を上げ、セレーネは疲れた表情である事を訊ねた。

「―――10分、戦闘不能者を一名も出さずに耐えるだけです。―――貴方方ならば容易な条件でしょう?」

「いやいやいや、アンタ相手にハンデ付きで10分も戦闘不能者を一人も出さずに耐えるとかどう考えても星見の塔での戦いよりもキツイぞ!?」

「しかも星見の塔の時と違って、ランディお兄さんにとってのベストメンバーじゃないものねぇ。」

「おいおい、何を弱気な事を言っているんだ?耐える前にいっそこっちから攻勢に出て分校長殿に膝をつかせれば、確実に俺達の勝ちだろうが!」

リアンヌ分校長の答えにランディは疲れた表情で指摘し、レンは苦笑しながら答え、ランドロスは不敵な笑みを浮かべてリアンヌ分校長を見つめた。

「フフ、その意気です。―――――ちなみに私も貴方方同様”ハンデ”として、この武装による攻撃しか行わない上普段の半分の力に抑えて戦いますし、更に奥義(Sクラフト)も使いません。」

ランドロスの答えにリアンヌ分校長は微笑んだ後自身の得物の一つである騎兵槍(ランス)を異空間から取り出して構えた!



「ふえ~……大きくて変わった形をした槍ですね~。」

「遥か昔主に馬上戦で扱われた得物であり、”槍の聖女”も得意としていた得物である騎兵槍(ランス)………!」

「………まさに伝承通りの姿だな。」

「……ハッ、三帝国の英雄サマ達の混合チームと大英雄サマによる戦い、お手並み拝見させてもらうぜ。」

リアンヌ分校長が構えた騎兵槍(ランス)を見たルイゼとゼシカが驚いている中グスタフは真剣な表情でリアンヌ分校長を見つめ、アッシュは鼻を鳴らして不敵な笑みを浮かべてリィン達を見つめた。

「あ、あの~………分校長、一つ聞きたい事があるのですが…………それのどこが”ハンデ”なのでしょうか?」

「――貴方方なら存じているでしょうが私は槍術他にも剣術と魔術も嗜んでいます。そんな私が槍術のみで、更に普段の半分の力に抑えて戦うのですから、十分ハンデかと思われるのですが?」

「いやいやいや、その”槍”を使っている時点で全然”ハンデ”になんねぇだろうが!?アンタの”本領”はどう考えてもその”槍”による武術だし、例え奥義(Sクラフト)の使用禁止や半分の力に抑えた所でそもそもアンタの場合だと、半分の力でも戦技(クラフト)が奥義(Sクラフト)の威力のようなものだろうが!?」

「クスクス、分校長さんは魔術はともかく剣術も槍術と同様の戦闘能力だから、”一応”ハンデにはなってはいるわよ。」

一方表情を引き攣らせたリィンの指摘に答えたリアンヌ分校長の答えにランディは疲れた表情で指摘し、レンは小悪魔な笑みを浮かべた。



「―――――問答はここまでです。そろそろ始めますよ。」

そしてリアンヌ分校長は莫大な闘気を解放し

「な、何この闘気……”紅の戦鬼”と”本気”で戦った教官達の闘気とも比べ物にならないんじゃないの……!?」

「予想―――いや、予想以上の凄まじい闘気だ……!半分でこれ程の闘気なのだから、分校長が”本気”になった時の実力は一体どれ程のものなのだ……!?」

「というかそれ以前にあんな”化物”の戦闘能力を測る事は不可能かと。」

リアンヌ分校長の闘気に生徒達が驚いている中ユウナとクルトは信じられない表情をし、アルティナは疲れた表情で呟き

「――――ミハイル少佐。開始と終了の合図、それと時間の計測をお願いします。」

「……っ!りょ、了解しました……!――――双方、構え!」

莫大な闘気をさらけ出し続けているリアンヌ分校長に視線を向けられたミハイル少佐は一瞬息を呑んだがすぐに気を取り直して号令をかけ、ミハイル少佐の号令を聞いたリィン達はそれぞれ武器を構え

「―――始め!」

ミハイル少佐の号令を合図にリアンヌ分校長との模擬戦を開始した――――!


 
 

 
後書き
という訳で1章でま・さ・かのリアンヌ戦(本気出していない状態)ですwwなお、次回の戦闘BGMは原作通り当然碧の” Unfathomed Force”だと思ってください♪なお、今回の外伝のタイトルは3rdの某ロリコン赤毛が関係している”扉”のタイトルや内容を参考にしていますが、どう考えても某ロリコン赤毛による地獄の特訓すらも”生温い”と思える特訓方法だと思っていますwwちなみにアルフィンが魔術師として覚醒している理由は………エウシュリーシリーズ恒例の”例の魔術”による強化だと思ってください(オイッ!)何せアルフィンの例の魔術の相手は魔神やら女神やら精霊女王やらととんでもない存在とヤッている事によるブーストされていますから、当然その相手とヤッているアルフィンもエリゼ達同様その恩恵を受けていますので……(遠い目) 

 

外伝~槍の聖女流特訓法~後篇(1章終了)

~トールズ第Ⅱ分校・グラウンド~



「まずは小手調べです!」

戦闘開始早々リアンヌ分校長は一瞬でリィン達の目の前に現れた!

「っ!ランディ、ランドロス教官、レン教官!手分けして防ぐぞ!」

「「おうっ!」」

「仕方ないわ……ねぇ!」

「ハァァァァァァァァ………!!」

「構えて――――九重陣!!セレーネちゃんは駆動時間が短くて足元から攻撃するアーツをお願い!」

「わかりましたわ!」

リアンヌ分校長が放った目にも止まらぬ速さの怒涛の連続突きをリィンとランディ、ランドロスとレンははそれぞれ協力して傷つきながらも防いでいた。一撃一撃が凄まじい威力を秘めていたリアンヌ分校長の怒涛の連続斬撃だったが、リィン達はトワが発動した敵の攻撃をある程度防ぐ防御結界を展開すると共に受けたダメージを大幅に回復させるブレイブオーダー――――九重陣によって傷つきながらもリアンヌ分校長の一軍も退かざるをえない怒涛の攻撃に耐えられていた。

「みんな、今助けるね!―――エナジーレイン!!」

そしてリアンヌ分校長の攻撃が終わるとトワが回復エネルギーを降り注がせる弾丸を空へと放つクラフト―――エナジーレインを放って傷ついたリィン達の傷を回復させ

「アークス駆動――――ブルーアセンション!!」

「!」

セレーネは足元から水のエネルギーを発生させるアーツを放ったが、足元からの攻撃に気づいたリアンヌ分校長は一端後ろに下がる事によってアーツを回避すると共にリィン達から距離を取った。



「リィン君とランドルフ教官は左右から遠距離攻撃の戦技(クラフト)を!セレーネちゃんは直線上に放つアーツを!レン教官は広範囲かつ高火力の魔術の準備をしながらランドロス教官と共に私の合図があるまで待機していてください!アークス駆動――――」

「了解しました!」

「アイ・マム!」

「わかりましたわ!アークス駆動――――」

「うふふ、了解♪……………」

「おう!クク、音に聞く紅き翼の”才媛”の指揮能力、お手並み拝見させてもらうぜ?」

瞬時に指示を出したトワの指示にリィン達と共に返事をしたランドロスは不敵な笑みを浮かべていた。

「―――緋空斬!!」

「ハァァァァァ………喰らえっ!!」

リアンヌ分校長を正面にして左右に散ったリィンは炎の斬撃波を、ランディはスタンハルバードで炎の竜を解き放つ戦技(クラフト)―――サラマンダーをリアンヌ分校長目がけて放ったが

「甘い!」

リアンヌ分校長が襲いかかる炎の斬撃波と竜を槍による薙ぎ払いで無効化した後リィン達にとっての司令塔であるトワをまず無効化しようとトワに視線を向けたその時

「水晶の刃よ、貫け――――クリスタルエッジ!!」

「!」

アーツの駆動を終えたセレーネによって放たれた水晶の刃達がリアンヌ分校長に襲い掛かり、水晶の刃達を回避する為にリアンヌ分校長は側面に跳躍して回避した。

「裁きの十字を―――――エクスクルセイド!―――今です、レン教官!」

「了解♪深淵に呑まれなさい――――ティルワンの死磔!!」

するとその時トワがリアンヌ分校長の足元から光の十字架を発生させるアーツを放ち、アーツを放った後のトワの合図によって魔術の詠唱を終えたレンもトワに続くように超広範囲を闇で包み込む魔術を発動した足元からと戦場全体からによる逃げ場のない攻撃にさすがのリアンヌ分校長もダメージは少なくないダメージは免れないと思われたが――――

「荒ぶる雷よ………戦場に来たれっ!!」

リアンヌ分校長は上空より雷を呼び寄せるクラフト――――アングリアハンマーによる雷で相殺して自分へのダメージを最小限にした。

「今です、ランドロス教官!」

「待ってたぜぇ!オラア――――天震撃!!」

「!!」

アーツと魔術が終わり、無事な様子のリアンヌ分校長が姿を現したその時トワの指示によって跳躍したランドロスがリアンヌ分校長目がけて大剣を落下スピードによる威力を増強させながら振り下ろし、ランドロスの奇襲に気づいたリアンヌ分校長は槍でランドロスの攻撃を防いだ。互いの武器がぶつかり合った瞬間、あまりの凄まじい衝撃によってつばぜり合いをしている二人の周囲に凄まじい衝撃波が発生した!



「ほう、今のを手加減した状態で真正面から受け止めるとはさすがは名高き”断罪の聖騎士”サマと言うべきか?」

「フフ、貴方こそかのメルキア中興の覇王たる”簒奪王”と並ぶユン・ガソルの”暴君”と言うべき実力でしょうね。」

「おいおい、今のはただの”小手調べ”だぜぇ?”本気”のオレサマやヴァイスハイトは”この程度”だと思ったら、大間違いだぁ!」

「ランドロス教官、一端下がってください!今です、リィン君、ランドルフ教官、レン教官!」

つばぜり合いをして互いの顔を見て口元に笑みを浮かべた二人だったがトワの声を合図にそれぞれの武器を収めて互いに距離を取った。

「二の型――――疾風!!」

「…………」

カマイタチを纏って電光石火の速さで強襲してきたリィンの斬撃をリアンヌ分校長は槍で受け流し

「そこだぁ!」

「せーの………………パワフルスイング!!」

「ハァァァァァ………滅!!」

「ぐっ!?」

「キャッ!?」

跳躍して上空から強烈な一撃を放つランディのクラフト―――大切斬と転移魔術で自身の背後から現れた後力を溜めた大鎌の一撃で襲い掛かって来たレンの奇襲に対してリアンヌ分校長は凄まじい闘気を纏った回転斬り――――アルティウムセイバーで防ぐと共に襲い掛かって来た二人にダメージを与えると共に吹き飛ばした。

「構えて―――九重陣!!アークス駆動――――空の祝福を―――フォルトゥナ!セレーネちゃん、今だよ!」

「はい!出でよ、(しろがね)の塔よ―――――ガリオンフォート!!」

するとその時トワが再びブレイブオーダーを発動してダメージ減少の結界を展開すると共にリアンヌ分校長の反撃を受けたランディとレンの傷を回復し、更に支援アーツを発動して自分とセレーネの魔法能力を上昇させてセレーネに指示をし、指示をされたセレーネがアーツを発動すると銀色の塔が戦場に現れた後銀色の塔から現れた砲台がリアンヌ分校長目がけて幻属性のレーザーを解き放った!

「貫け―――――シュトルムランツァー!!」

襲い掛かるレーザーに対してリアンヌ分校長は全身に闘気を纏った突撃攻撃―――シュトルムランツァーによる自身の闘気でレーザーを無効化しながらアーツを放ったセレーネ向けて突撃したが、転移魔術でセレーネの傍に現れたレンが再び転移魔術を発動してセレーネとトワと共に別の場所に転移した為、リアンヌ分校長の反撃は空振りに終わった。



「フフ、”予め全ての連携が防がれる事まで想定した上で彼女(レン)による転移魔術の救出まで連携前に指示を出していた”のでしょうね。彼女ならば、いずれはゼムリア―――いえ、ディル=リフィーナでも指折りの軍師になれるでしょうね。」

反撃が空振りになった理由をすぐに察したリアンヌ分校長は感心した様子でリィン達と共にいるトワを見つめ

「ま、まさか今の連携まで完全に防ぐなんて、流石は元結社最強の”鋼の聖女”にしてかの”獅子心帝”と並ぶ”槍の聖女”にして”メンフィルの守護神”の生まれ変わりというべきか………」

「分校長がシルフィア様の生まれ変わりであった事で、結果的にわたくし達の味方になってくれて本当によかったですわね………」

「ったく、あれで半分の力だなんて、絶対詐欺だろ!つーか、1年半前に戦った時よりも更に強くなっているんじゃねぇのか!?」

「うふふ、それは強くなっているに決まっているでしょ?分校長さんがメンフィルに寝返ってから、”シルフィアだった頃よりも更に強くなって”、今度こそパパ達を守る為にために第Ⅱ分校に来るまでパパ達――――メンフィルの様々な使い手との鍛錬を繰り返して続けていたもの。」

「ほう。という事は1年半前よりも更に強くなっているという事か。更に面白くなってきたじゃねぇか!だぁっはっはっはっ!」

「ううっ、今の連携なら最低でも一撃は与えられると思ったけど…………よし、切り換えなくちゃ!リィン君は―――――」

対するリィンとセレーネは冷や汗をかいて苦笑しながらリアンヌ分校長を見つめ、ランディは疲れた表情で溜息を吐いた後声を上げ、ランディの反応を面白がっているレンの説明を聞いたランドロスは不敵な笑みを浮かべた後豪快に笑い、トワは疲れた表情で肩を落としたがすぐに立ち直ってリィン達に新たなる指示を出してリアンヌ分校長との戦いを再開した。



「な、何、この戦い……!”特別演習”で教官達が”紅の戦鬼”達と戦った時とも比べ物にならないわよ!?」

「というか近代兵器でもあんな威力は出せないと思うのですが。」

「それに教官達が束になって連携して、何とか互角に持ち込んでいる状況でありながら、分校長はまだ半分の実力しか見せていないのか………分校長もそうだが、教官達も”本気”を出してぶつかり合えばどのような凄まじい戦いになるんだ……?」

リィン達の自分達の次元とは遥かに違う凄まじい戦いを見守っていた生徒達がそれぞれ驚いていたり信じられない表情をしている中驚きの声を上げたユウナの言葉に続くようにアルティナは疲れた表情で答え、クルトは真剣な表情で呟き

「…………ハッ、どいつもこいつも”英雄”と称えられているだけの力は持っているって事か。」

(ふふ、”騎神”や異種族の方々を呼ばず、更に自身も”本気”を出していない状況であれ程とは……………クスクス、ますます貴方が欲しくなってきましたわ。)

アッシュは鼻を鳴らした後目を細めてリィン達を見つめ、ミュゼは静かな笑みを浮かべた後意味ありげな笑みを浮かべてリィンを見つめた。そしてユウナ達が戦いを見守っているとリアンヌ分校長は突如戦闘の構えを解き、リアンヌ分校長の行動を不審に思ったリィン達もそれぞれリアンヌ分校長を警戒しながら武装を構えていた。



「――――ミハイル少佐。終了の合図を。制限時間の10分は経っているはずです。」

「え……………――――!!も、申し訳ございません……!制限時間を過ぎた為双方、模擬戦を終了せよ!」

リアンヌ分校長の指摘を聞いて一瞬呆けた後腕時計に視線を向けて10分経った事に気づいたミハイル少佐は慌てた様子で模擬戦の終了を告げた。

「ハア、ハア………何とか耐えられたか……!」

「ハア、ハア………というか、あれ程の激しい戦いをしながら制限時間まで測っていたなんて、信じられませんわ………」

「ぜえ、ぜえ……だがあの”化物”―――”鋼の聖女”ならそのくらいの事を平気でやってもおかしくないと思うぜ………」

「クク、今回の模擬戦のMVPは間違いなく紅き翼の才媛殿だな!」

「うふふ、そうね。本気を出していないとはいえ、伝説の”槍の聖女”相手にレン達に的確な指示を出して、互角の戦いまで持ち込んだのだから。」

「ハア、ハア………アハハ………さすがに褒めすぎですよ………それに、分校長には何度も私の予想を覆されて何度か危ない状況に陥りかけましたし……」

ミハイル少佐の終了の合図を聞き、ランドロス以外の教官陣は全員疲労した様子で地面に跪いている中、ランドロスとレンの称賛にトワは苦笑しながら答えた。



「フフ、見事です。―――では今私と戦った教官陣は一端下がり、次にミハイル少佐と生徒達全員が前に出てください。」

「”ミハイル少佐と生徒達全員”って事は………」

「まさか………分校長お一人で、連戦で僕達全員とミハイル教官をお相手するつもりなのですか……?」

リアンヌ分校長の指示に生徒達全員が驚いている中ある事を察したカイリは信じられない表情をし、スタークは困惑の表情でリアンヌ分校長に訊ねた。

「ええ。ただし、教官陣と違って貴方方には”ハンデ”と言った何らかの条件は付け加えませんので各自全身全霊を持って私に挑んでください。なお、私は”ハンデ”として先程の条件に加えて10分間、防御並びに回避に専念します。」

「じ、10分間防御と回避に専念するという事は………」

「いや~、分校長の優しさには驚くばかりだぜ。要は分校長はオレ達のサンドバッグになってくれるって事なんだろう?」

リアンヌ分校長の説明を聞いてある事を察したタチアナが信じられない表情をしている中アッシュは不敵な笑みを浮かべてリアンヌ分校長に確認した。

「ふふ、あくまで自発的に攻撃を仕掛けないだけですから、カウンター程度はさせてもらいます。なお、10分経てば私も自発的な攻撃を開始しますが…………先に宣言しておきます。”私が攻撃を開始すれば、10秒以内かつ本来の5分の1の力で貴方方全員を無力化します。”」

「じゅ、10秒以内で……しかも教官達と戦った時よりも更に力を落として僕達全員を無力化するって………!」

「……随分と舐められたものだね。」

「だけど、先程の教官達との戦いて見せた分校長の実力の一端を考えると、分校長なら本当にやりかねないかもしれないわ……」

リアンヌ分校長が口にしたとんでもない宣言にその場にいる多くの者達が血相を変えている中ウェインは信じられない表情をし、レオノーラとゼシカは厳しい表情でリアンヌ分校長を見つめ

「むっかー!確かにハンデ付きで教官達と互角以上に戦った分校長ならあたし達なんてあっという間に無力化できるでしょうけど、幾ら何でもあたし達生徒全員とミハイル教官を10秒以内で、しかも5分の1の力しか出していない状態で無力化なんてできませんよ!」

「…………そうですね。確かに分校長はとんでもない”化物”ですが、さすがに私達を過小評価し過ぎだと思われるのですが?」

「―――――――」

「ヴァンダール家の剣士の一人として……そして、第Ⅱ分校の生徒としても、貴女のその宣言、覆させてもらいます……!」

「はうう~……アガットさんやお姉ちゃん達もいないのにシルフィアさんに挑んで10秒も耐えられるかな……?ううん、わたしもあれから成長したって事をシルフィアさんにも知ってもらう為にもがんばらなくっちゃ!」

(フフ、さすがに皆さん、先程のサンドロッド卿の言葉には頭が来たみたいね。)

(それはそうでしょう……たった一人で、しかも手加減した状態で自分達全員を無力化すると宣言されたんだもの………)

怒り心頭の様子で声を上げてガンブレイカーを構えたユウナに続くようにアルティナはユウナの言葉に頷いた後クラウ=ソラスを自身の背後に現れさせ、クルトは決意の表情で双剣を構え、ユウナ達に続くように他の生徒達も戦意を高めて武装を構えている中唯一人リアンヌ分校長の化物じみた強さを正確に理解していたティータは疲れた表情で溜息を吐いたがすぐに気を取り直して自身の武装である導力砲を構え、生徒達の様子を見守っていたアルフィンの小声にエリゼは苦笑しながら答えた。

「ハーシェル教官、戦闘開始と終了の合図、そして時間の計測をお願いします。」

「は、はい……!えっと……双方、構え!」

リアンヌ分校長の指示に頷いたトワが開始前の言葉を口にするとユウナ達はそれぞれ戦闘の構えをした。

「――――戦闘中の指示は全て私が出す!決して私の指示無しに動くな!」

「イエス・サー!」

「―――始め!」

そしてミハイル少佐の指示に生徒達がそれぞれ頷いたその時、戦闘開始の号令がかかり、ユウナ達はリアンヌ分校長に攻撃を仕掛けた。奇襲を受けたとはいえ、結社の人形兵器を撃退する事ができた第Ⅱ分校の生徒達に加えて鉄道憲兵隊のエリートであるミハイル少佐の指示や援護に対してリアンヌ分校長は本気を出していない状況に加えて一人だった為、ダメージは受けるかと思われたが、リアンヌ分校長は生徒達の攻撃に加えて指示の最中に時折後方から銃やアーツによる攻撃を仕掛けてきたミハイル少佐の攻撃も全て回避するか、防ぎ続けていた。



「セイッ!」

「うわっ!?」

「っ!?」

「キャアッ!?いたた………ど、どうなっているのよ………!?さっきから絶え間なく、しかも必ず複数で攻撃を仕掛けているのに、全部避けられるか防がれてばっかりじゃない!大地の癒しよ――――大地の恵み!!」

リアンヌ分校長のカウンター攻撃によって他の生徒達と共にふっ飛ばされたユウナは信じられない表情でリアンヌ分校長を見つめた後治癒魔術を発動してリアンヌ分校長のカウンター攻撃によって受けたダメージを回復し

「というかアーツや魔術、クラウ=ソラスや導力銃のレーザー、更には導力砲の砲撃すらも戦技(クラフト)で全て無効化するとか、どう考えても物理法則を無視しているとしか思えないのですが。アークス駆動――――」

「しかもあれでまだ5分の1の実力しか出していないそうだからな………伝承通りまさに”至高の武”を示す強さだな、”槍の聖女”は………風の祝福を――――加速!!」

アルティナは疲れた表情で答えた後オーブメントを駆動させ、クルトは真剣な表情で絶え間なく繰り出される生徒達の攻撃を次々と回避するか防ぎ続けるリアンヌ分校長を見つめた後支援魔術を発動して自身の身体能力の強化をした。

「―――10分経過!」

するとその時時間を計測していたトワがその場にいる全員に聞こえるように大声で時間の経過を告げた。

「じゅ、10分が経過したという事は………」

「ぶ、分校長が攻勢に……!」

「落ち着け!まず接近戦用の武装を持つ者達は――――」

トワの宣言によってその場にいる全員が血相を変えている中サンディやシドニーが不安そうな表情をし、生徒達の動揺に気づいたミハイル少佐が生徒達を落ち着かせて新たな指示を出そうとしたが

「――――終わりです。」

「へ――――」

「え…………」

「な―――――」

リアンヌ分校長は一瞬で力を溜め終えた槍を一振りし、リアンヌ分校長の攻撃にユウナやアルティナ、クルトが呆けた声を出したその時リアンヌ分校長の槍の一振りを受けた生徒達全員とミハイル少佐は全員大ダメージを受けて吹き飛ばされ、地面に膝をついた!



「―――そこまで!勝者、リアンヌ分校長!」

「槍の一振りで起こした衝撃波によるい、”一撃必殺”………」

「えっと……わたくし達はその場にいませんでしたけど、ランディさんやロイドさん達も湿地帯の奥地で分校長によってあっという間に無力化されたとの事でしたけど……先程のような攻撃だったのですか?」

「いや………俺達の場合は一呼吸で数十放った超高速の突きだから、あいつらの方がまだマシだ………ったく、相変わらずの”化物”っぷりだぜ。」

「クク、しかし主任教官殿もそうだが、”リベールの異変”や”影の国”を経験していたラッセル家の才媛まで瞬殺するとはさすがは元結社最強の使い手にして、”メンフィルの守護神”の生まれ変わりじゃねえか!」

「ふふっ、幾ら他の生徒達と比べると実戦経験が豊富で、体力もついているティータでも相手が悪すぎたわ。まあ、”影の国”の時みたいに”オーバルギア”を使えばもうちょっと耐える事はできると思うわよ?」

トワが終了の合図をするとリアンヌ分校長の攻撃によって無力化されたユウナ達を見たリィンは口をパクパクさせ、表情を引き攣らせたセレーネに視線を向けられたランディは疲れた表情で答え、興味ありげな表情を浮かべているランドロスの言葉にレンは苦笑しながら答えた。

「は、はうう~……”オーバルギア”が使えればもうちょっと耐えられたかな……?」

「分校長―――”槍の聖女”が凄まじい強さである事はわかっていたつもりだったけど、予想―――いえ、予想以上の強さだったわ………”次元が違う”とはこの事を言うのでしょうね……」

「しかも”本気”を出していない状態であんな威力とか、分校長が”本気”を出せば一体どんな威力になるんだい………」

「ハハッ、まさに伝承通りの強さの一端を体験した気分だ……!」

戦闘不能になった生徒達がそれぞれうめき声を上げている中ティータとゼシカ、レオノーラは疲れた表情で呟き、フレディは感心した様子でリアンヌ分校長を見つめ

「クッ、5分の1の実力でこれ程の戦闘能力だと………?分校長を過小評価し過ぎていた情報局の連中には後で抗議と分校長の推定脅威度の変更を要請しておく必要がありそうだな………!―――ハーシェル教官、分校長が攻勢に出て、我々を何秒で無力化した!?」

ミハイル少佐は唇を噛みしめて情報局に対する恨み言を呟いた後ある事を思い出してトワに訊ねた。



「え、えっと………8秒05です………」

「じゅ、10秒どころか、たった8秒であたし達全員を無力化って……!」

「ク………ッ!」

「やはりクラウ=ソラスの障壁でも防げませんでしたか………宿舎に戻ったらセティさん達にクラウ=ソラスの障壁の強化を依頼する手紙を書いた方が良さそうですね………」

「――――――」

トワの答えにその場にいる全員が驚いている中ユウナは信じられない表情をし、クルトは悔しさによって唇を噛みしめ、静かな表情で呟いたアルティナの意見にクラウ=ソラスは機械音を出して返事をした。

「―――お疲れ様でした。では今戦った方達は下がり、エリゼとアルフィン殿は前に出てください。今日最後の模擬戦を始めます。」

「―――かしこまりました。」

「―――今日もお願いしますわ。」

(今日”も”………?)

「おい、リィン!幾ら何でも手加減した状態とはいえ、”鋼の聖女”相手にたった二人で挑むのはヤベェんじゃねえのか!?止めた方がいいんじゃねぇのか!?」

「そ、そうですわよね……?手加減した状態とはいえ分校長に挑むのでしたら、最低でも4人は必要と思いますし……」

リアンヌ分校長に名指しされた二人がそれぞれ会釈をしている中アルフィンが呟いた言葉が気になって考え込んでいるリィンにランディは焦った様子で訊ね、ランディの意見にセレーネは戸惑いの表情で頷いた。



「心配は無用よ、セレーネ。”私達の場合は慣れている”もの。」

「な、”慣れている”って、一体何に”慣れている”んですか……?」

(まさか………)

セレーネの心配に対して答えたエリゼの答えが気になったユウナが戸惑っている中ある事を察したクルトは信じられない表情を浮かべ

「ふふっ、それについてはすぐにわかりますわ。―――リィンさん、最後の模擬戦の合図はリィンさんにお願いしていいですか?」

「あ、ああ。分校長、制限時間はどのくらいで二人の勝利条件はどういう条件ですか?」

アルフィンに促されたリィンは頷いた後リアンヌ分校長に訊ねた。

「制限時間は10分で、二人の勝利条件は制限時間が過ぎるまで先程の模擬戦同様力を5分の1に抑えた私との戦いで、どちらとも戦闘不能にならずに耐える事です。」

「な――――………わかりました。――――双方、構え。」

リアンヌ分校長の答えを聞いたその場にいる多くの者達が驚いている中一瞬絶句したリィンだったがすぐに気を取り直して開始前の言葉を口にした。

「――――始め!」

そしてリィンの開始の合図によってエリゼとアルフィンはリアンヌ分校長との模擬戦を始めた。5分の1の力しか出していないとはいえ、生徒達を一瞬で無力化したリアンヌ分校長の猛攻をたった二人で耐える事はできないとその場にいる多くの者達が予想していたが、その予想は大きく外れる事になった。



「ハァァァァァ………ッ!」

「聖なる守護を――――聖護の結界!!」

リアンヌ分校長による超高速の連続突きに対してアルフィンは神聖魔術による光の結界を展開して防ごうとしたが、結界はリアンヌ分校長の攻撃によって罅が入り始めた。

「貫け―――レイ=ルーン!!」

「!」

リアンヌ分校長の攻撃によってアルフィンが展開した結界が破壊されようとしたその時、エリゼは片手から収束した魔力のレーザーを解き放ち、襲い掛かる魔力レーザーを見たリアンヌ分校長は回避する為に攻撃を中断して側面に跳躍し

「疾風の爪にて引き裂かん―――ガスティーネイル!!」

「セイッ!ハアッ!」

更にアルフィンが発動したアルフィン専用の魔導杖(オーバルスタッフ)による特殊魔法(アーツ)の一つであり、敵の空間の周囲から発生させた風の爪による連続攻撃に対してリアンヌ分校長は槍を振るって襲い掛かる爪を斬り裂いた。

「貫け―――――シュトルムランツァー!!」

「!」

「えいっ!」

二人の攻撃を全て防いだリアンヌ分校長は反撃にクラフト―――シュトルムランツァーで二人に襲い掛かったが、エリゼは大きく側面に跳躍し、アルフィンは転移魔術を即座に発動してリアンヌ分校長の反撃を回避した。

「……………」

「う、嘘………あたし達みたいに瞬殺されるどころか、たった二人で耐えているじゃない……!」

「エリゼ様はともかく、アルフィン様まであのような戦闘能力があった上転移魔術まで習得していたとは………シュバルツァー家に来てからのアルフィン様は時折ベルフェゴール様達によって鍛えられて様々な魔術を習得していた事は知っていましたが、まさか転移魔術まで習得した上レン教官のように転移魔術を戦闘中でも使いこなせるほどの使い手になっていたとは……」

エリゼ達の戦いをその場にいる全員が驚きや信じられない表情で見守っている中クルトは驚きのあまり絶句した様子で戦いを見守り、ユウナとアルティナはそれぞれ驚きの表情で呟いた。その後模擬戦は膠着し………制限時間を過ぎた事を確認したリィンの終了の合図によってエリゼ達は模擬戦を終了した。



「ハア、ハア………何とか耐えられたわね………」

「ハア……ハア………ふふっ、記録更新、ですわね………」

戦闘が終了すると安堵や疲労によってエリゼとアルフィンはそれぞれ地面に膝をついて息を切らせ

「お、驚きましたわね………手加減していたとはいえ、たった二人で分校長の攻撃に10分も耐えたなんて……」

「うふふ、しかもアルフィン夫人はレンやエヴリーヌお姉様みたいに転移魔術を戦闘に組み込める程魔術師として成長していたとはレンも予想外よ。」

「クク、ひょっとしたら1年半前の支援課(お前達)よりも実力はあるんじゃねぇのか?」

「いや、さすがにそれは過剰評価………とも言えなくはないか……?手加減した状態とはいえ、あの”鋼の聖女”相手に10分も耐えた所か反撃までしたしな………おい、リィン。このままエリゼちゃん達が強くなり続けたら、お前、将来絶対嫁(エリゼちゃん)達に尻にしかれる事になるんじゃねぇか?」

「ハ、ハハ…………」

「アハハ………そ、それよりも、さっき皇女殿下は”今日もお願いしますわ”と仰っていましたけど、もしかしてお二人は既に分校長との模擬戦を何度も経験しているのですか?」

二人の様子をセレーネは目を丸くし、レンは感心した様子で見守り、口元に笑みを浮かべたランドロスの指摘に苦笑したランディだったがすぐに表情を引き攣らせ、そしてリィンに同情し、同情されたリィンが乾いた声で笑っている様子を苦笑しながら見守っていたトワはアルフィンにある事を訊ねた。



「ええ。皆さんが学院に通い、宿舎に戻ってくるまでの間はわたくしとエリゼは鍛錬する時間を作れるくらいの余裕はありましたから、その時にサンドロッド卿にお付き合いしてもらったのです。1年半前の内戦でわたくしは嫌と言うほど自分の無力さを思い知りましたから………また1年半前のような出来事が起こった時自分の身は自分で守れる為にサンドロッド卿に鍛えて頂いたのですわ。お陰様で、猟兵のような裏の使い手達に襲われてもある程度自衛できるくらいまでは実力をつけられたと思っていますわ。」

「分校長相手に10分も耐えた時点で、”ある程度自衛できる”というレベルをとっくに超えていると思うのですが。」

「ハハ……今の皇女殿下を見れば、父上達もそうだが、皇帝陛下達もきっと驚かれるだろうな……」

アルフィンの答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中アルティナはジト目で指摘し、クルトは苦笑していた。

「さて………――――今の二人の戦いを見て理解できたはずです。雛鳥の貴方方も1年半前までは対人戦どころか魔獣との戦いも経験した事がなかったアルフィン殿が先程見せた強さのように成長できる可能性がある事に。入学式の時の言葉を今この場でもう一度だけ繰り返しましょう。――――自らを高める覚悟なき者は今、この場で去りなさい。先日の”特別演習”の時のように教練中に気を緩ませ、冥府へと旅立ちたくなければ、今すぐこの場から去るのが貴方達の為です。」

リアンヌ分校長の言葉を聞いた生徒達全員はそれぞれ血相を変えて黙り込んだ後それぞれ決意の表情でリアンヌ分校長を見つめ

「フフ、その意気です。―――雛鳥である生徒達(あなたたち)、そして雛鳥の見本となる為に自らを高め続ける教官陣の今後の成長を期待しています。」

リアンヌ分校長は静かな笑みを浮かべて答えた。



こうして………第Ⅱ分校は教官陣、生徒達の双方が強くなるために翌日から毎日授業が終わった後の”補習”を開始した―――――


 
 

 
後書き
ようやく1章を終わって、書くのを楽しみにしていた2章に移れる……とは言っても3章も書くのを楽しみにしているのですが(ぇ)ちなみに暁ですがまさかの10連でキャプテンリーシャが来てくれました!まあ、チアガールクロエは底引きでゲットしましたから、結局溜めていたBCはかなり消耗してしまいましたが(遠い目) 

 

設定2

<シュバルツァー家の使用人> アルティナ・オライオン





レベルは96、パラメーター、アタックランク、オーブメントの並びや属性、リンクアビリティ、ブレイブオーダーは原作と同じだがCPは2000、ATS、ADFは原作の1,3倍





装備



武器 アビスギア(至高の工匠―――”匠神”ウィルによって作られた攻撃対象の生命エネルギーを奪い取る深淵の魔力が宿るクラウ=ソラスの部品。アルティナ専用。ATK2250、ATS450、クリティカル率10%、通常攻撃、物理攻撃系のクラフト、Sクラフト使用時ダメージの10%吸収)

防具 シャドウスーツ(至高の工匠―――”匠神”ウィルによって作られた暗黒の魔力が宿るインナー。アルティナ専用。DEF&ADF1550、時属性、毒、暗闇、即死無効)

靴  アルジェムスター改(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって創られた銀の閃光を放つ奇跡の防護靴。DEF260、MOV+6、SPD+8、AGL15%上昇)

アクセサリー アビスシャドウ(性能は原作と同じ)

       ムラクモリング(空の女神エイドスより将来の為の餞別として送られた古の魔力が宿る指輪。通常攻撃並びに物理攻撃クラフトのクリティカル発生率が25%上昇&クリティカル時のダメージが2、5倍、アーツ『デス・スクリーム』を駆動&EP無しで放てる。)







スキル





リィンが好き バトルメンバーに『リィン』がいる場合、全パラメーター5%上昇

カウンターⅣ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。20%で発動

リベンジャー カウンター発動時の攻撃威力が1,5倍になる

急所狙いⅢ クリティカル率が常に15%上昇

貫通Ⅳ 20%でDEF無視攻撃

機械殺し 敵が機械系の場合、威力30%上昇

魔力再生Ⅱ 行動終了後にCPが300回復する

努力家Ⅲ 取得経験値30%増加

特務科の絆Ⅱ バトルメンバーに『特務科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,2倍になるかつ全パラメーター1,2%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる



  

クラフト(原作以外)





クラウ=ソラス 自分 0 クラウ=ソラスと一体化する。一体化後は魔術系とアルカディス・ギア以外のクラフト、Sクラフトはクラウ=ソラス一体化専用のクラフトしか使えない。なおこのクラフトのディレイ値は0の為、使用すればすぐに自分の番になる。

闇の息吹Ⅱ 120 単体 暗黒の力で傷を瞬時に回復させる。味方単体のHPを40%回復させる

イオ=ルーンⅡ 200 小円 高純粋の結晶である銅輝陣を広げて覆い被せる。無属性威力C+&バランスダウン50%攻撃、崩し無効、ブレイクC+(威力はATSに反映)

ダークアーム 80 中円・地点指定 闇の魔力刃で広範囲を攻撃する。時属性威力B+&暗闇40%攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクA(威力はATK、ATSの合計値に反映)

封印王の槍 300 単体 封印王ソロモンの力を源とする闇の鉄槌。時属性威力B&封魔40%攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクB+(威力はATSに反映)

レイ=ルーンⅡ 250 直線(貫通) 高純粋の光とされる烈輝陣で貫通させる。無属性威力B+&DEF、ADF25%減少攻撃、崩し無効、ブレイクB(威力はATSに反映)

ティルワンの闇界 600  全体  闇世界に閉じ込め、暗黒の打撃を叩きつける。時属性威力B+&即死、混乱、暗闇10%攻撃、崩し無効、ブレイクB(ATSに反映)





クラフト(クラウ=ソラス一体化専用)





解除 0 自分クラウ=ソラスとの一体化を解除する。なおこのクラフトのディレイ値は0の為、使用すればすぐに自分の番になる。

ブリューナク 性能、CPは原作通り

クルージーン 30 自分 ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって追加されたクラウ=ソラス一体化時の専用装備である自動浮遊射撃機を展開する。5ターンの間通常攻撃、魔術以外のクラフトの後に自動浮遊射撃機(範囲・中円、威力C+&アーツ、駆動妨害&封魔100%攻撃、ブレイクC+)の追撃をする

ベガルタ 60 中型直線(貫通) 導力エネルギーの刃と化した腕で突進し、斬り裂く。威力A&気絶40%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクS

イージスバリア 40 自分 ”クルージーン”によるエネルギー障壁を展開する。絶対防壁×2&DEF25%上昇、クラフト『クルージーン』発動中ならば、ディレイ値は0







<クロスベルからの留学生> ユウナ・クロフォード





レベルは20、パラメーター、アタックランク、オーブメントの並びや属性、リンクアビリティ、ブレイブオーダーは原作と同じだがCPは360、ATS、ADFは原作の1,2倍





装備





武器 ブーストハンマー(性能は原作通り)

防具 エーデルシルク(性能は原作通り)

靴  エーデルブーツ(性能は原作通り)

アクセサリー コーラルリング(性能は原作通り)

       ストーンブローチ(性能は原作通り)





スキル





支援課への尊敬心 バトルメンバーに『特務支援課のメンバー』の誰かがいると、全ての攻撃手段の威力が1,5倍になる。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる

特務科の絆Ⅱ バトルメンバーに『特務科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,2倍になるかつ全パラメーター1,2%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる

努力家Ⅰ 取得経験値10%増加

カウンターⅠ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。5%で発動

連携 味方のすぐ後に攻撃すれば、1,5倍







クラフト(原作以外)





大地の恵みⅠ 25 単体 地脈の流れを利用して肉体の損傷を治療する。HP25%回復

大地の小盾 40 単体  地精霊の力を借り、味方1人の体を少し硬質化させる 。5ターンの間、DEF&ADF25%上昇

岩槍撃 30 単体 敵の真下から岩の槍を出現させて貫く。地属性威力C+&DEF25%減少攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクB

アースブレイク 65 中円 ガンブレイカーに大地の力を宿し、強烈な一撃を敵に叩き付ける。地属性威力A&駆動解除&気絶40%&遅延攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクA+

光霞 110 全体 聖なる光で敵を閉じ込める。空属性威力B&封魔20、気絶20%攻撃、崩し無効、ブレイクC+







<ヴァンダール家の次男> クルト・ヴァンダール





レベルは30、パラメーター、アタックランク、オーブメントの並びや属性、リンクアビリティ、ブレイブオーダーは原作と同じだがCPは400、ATS、ADFは原作の1,1倍





装備



武器 アサシン(性能は原作通り)

防具 ホワイトコート(性能は原作通り)

靴  ホワイトレザー(性能は原作通り)

アクセサリー シトラスボトル(性能は原作通り)

       ブラックバングル(性能は原作通り)







スキル





血縁の絆 バトルメンバーに『ミュラー』がいるとATK&DEFが9%上昇

特務科の絆Ⅱ バトルメンバーに『特務科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,2倍になるかつ全パラメーター1,2%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる

先手Ⅰ 戦闘開始時5%で先制攻撃

努力家Ⅱ 取得経験値20%上昇

見切りⅠ 発動すると敵の攻撃を完全(魔法攻撃やSクラフトを含める)回避。5%で発動

連続攻撃Ⅱ 発動すれば物理攻撃後CP消費せず、同じ物理攻撃手段を放つ。8%で発動





クラフト(原作以外)





双波斬 40 単体 双剣による斬り上げと斬り下ろしの連続攻撃。威力B&気絶20%攻撃×2、崩し発生率+5%、ブレイクC

かまいたち 20 単体 大気を凝縮させて空気の刃を創り出す。風属性C&混乱20%攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクA(ATSに反映)

加速 80 単体 風の魔力を纏わせて一時的に速さを上昇させる。5ターンの間、SPD&AGL25%上昇、加速効果付与

エアスラッシュ 60 中円・地点指定 風の魔力を纏わせた双剣を振るって無数の斬撃と共に鎌鼬を生み出す。風属性威力A+、崩し発生率+25%、ブレイクA+

黒鷹旋 90 中型直線(貫通) 漆黒の闘気の刃を解き放つ。威力A&封魔40%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクB









<異界の魔女> ゲルド・フレデリック・リヒター・パリエ





スリーサイズは上から86、57、86



所属クラブ:テニス部





LV220

HP18400

CP19000

ATK1030

DEF2450

ATS16600

ADF10300

SPD94

DEX54

AGL32

MOV10





装備





武器 ゲルドの杖(ゲルドの魔力が宿るゲルド専用の杖。ATK300、ATS3000、RNG+4、中円魔法攻撃)

防具 白のローブ(ゲルドの防御魔法が宿る外套つきのローブ。ゲルド専用。DEF900、ADF2000。全状態異常無効化、全属性攻撃を15%軽減)  

靴  旅人の靴(旅人が愛用している靴。DEF100、MOV+5)

アクセサリー レオーネの輝石(とある天才音楽家のゲルドが幸福になれるように願いが込められた輝石。ゲルド専用、全パラメーター10%上昇、10%で敵の攻撃を無効化する)

       詠唱のティアラ(使用者の魔法の詠唱を早めたり硬直する時間を短くする魔法のティアラ。アーツ駆動時間半減、アーツ、魔法系クラフト発動後のディレイ値が半減)



スキル





慈愛の心 治癒系の魔術、アーツを使うと効果が1,5倍になる

女王の器 スキルの効果が2倍になる

魔力再生Ⅴ 行動終了後にCPが1000回復する

魔法反射Ⅲ 30%で魔法攻撃を反射する

悪魔殺し 敵が悪魔系の場合、威力30%上昇

霊体殺し 敵が幽霊、霧系の場合、威力30%上昇

不死殺し 敵がゾンビ系の場合、威力30%上昇

賢者の魔力Ⅴ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使ってもCPが50%残る

白き魔女の予知 ゲルドがバトルメンバーにいると戦闘開始時に敵全員の最初の行動が判明する(クラフトやアーツは勿論、威力、どんな効果や状態異常を起こすのかもわかる)更にゲルドの出番が3ターン廻るごとにも敵全員の次の行動が判明する

リィンが気になる バトルメンバーに『リィン』がいると全パラメーターが2%上昇

特務科の絆Ⅱ バトルメンバーに『特務科のメンバー』の誰かがいると全ての攻撃手段の威力が1,2倍になるかつ全パラメーター1,2%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる





アタックランク 斬C突C射A剛C 攻撃モーションはエリオットやエマと同じ





ARCUS版オーブメント(空・水・空属性)並びはエマです





リンクアビリティのタイプはクロチルダ





ブレイブオーダー





ホワイトフォース BP3 魔法(8カウント/全ての攻撃を吸収)2ターン、ATS&ADF50%上昇

ホワイトソング  BP2 防御(12カウント/被ダメージ0,35倍/全状態異常・能力減少無効化(バニッシュ、魅了も含む))HP&CP&EP25%回復





クラフト





魔力を練る 50 精神を集中し、自身の魔力を上昇させる。3ターン、ATS&魔法系クラフトの威力50%上昇

ハイダッシュ 200 全体 自分を含めた味方全体の身体能力を上昇させるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる”黒魔法”と呼ばれる世界の魔法。5ターンの間、SPD&AGL50%上昇

ハイインパクト 200 全体 自分を含めた味方全体の攻撃能力を上昇させるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる”黒魔法”と呼ばれる世界の魔法。5ターンの間、ATK&DEX50%上昇

ハイシールド 200 全体 自分を含めた味方全体の防御能力を上昇させるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる”白魔法”と呼ばれる世界の魔法。5ターンの間、DEF&ADF50%上昇

アンチダメージ 600 単体 自分を含めた味方全体に敵の全ての攻撃を一度だけ無効化する結界を付与するゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる”黒魔法”と呼ばれる世界の魔法。絶対防壁×1

フレアゴースト 300 大円 漆黒の炎で敵を焼き尽くすゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる”黒魔法”と呼ばれる世界の魔法。火属性威力B+&火傷50%攻撃、崩し無効、ブレイクC

デスクエイク 600 全体 大地震を起こした際に発生する衝撃波が敵を飲みこむゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”と呼ばれる魔法。地属性威力S&遅延、崩し発生率+20%、ブレイクB

エレクキューブ 400 中円 敵を電撃の檻に閉じ込めて攻撃するゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”と呼ばれる魔法。風属性力A&封技40%攻撃、ブレイクC

シャインブレット 500 中円・地点指定 聖なる銀の弾丸を降り注がせるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”と呼ばれる魔法。空属性威力A+、崩し発生率+30%、ブレイクB+

オキサイドリング 800 単体 敵を暗黒の魔法陣に閉じ込め、魔力の衝撃波で攻撃するゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”と呼ばれる魔法。時属性威力SS+、崩し無効、ブレイクB

リ・カルナシオン 1000 大円 清浄な水エネルギーで敵を浄化するゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”と呼ばれる魔法。水・空属性威力SS、崩し無効、ブレイクA

ジャッジメント 1200 全体 裁きの光の雨を降り注がせるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれる魔法。空属性威力S+、崩し無効、ブレイクA+

ハイバインド 300 全体 敵を90%で封技状態にするゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”と呼ばれる魔法

ハイスロー 200 全体 敵の身体能力を5ターンの間下げるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれる魔法。SPD&MOV&AGL50%減少

ハイスリープ 300 全体 敵を90%で睡眠状態にするゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれる魔法

ハイコンフュージョン 300 全体 敵を90%で混乱状態にするゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれる魔法

ラプレアラ  700 全体 自分を含めた味方全体のHPを75%回復するゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれる魔法

ハイリフレッシュ 150 全体  自分を含めた味方全体の状態異常を回復するゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれる魔法。全状態異常&能力減少回復(消滅も含める)

スクルド 2000 単体 自分以外の味方一人の魔力や闘気を完全回復させるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれる魔法。味方一人のCPMAX

的の歌・ハイターゲット 1200 全体 味方全体の集中力を上昇させる共鳴魔法。5ターンの間自分を含めた味方全体のDEX&AGL&クリティカル率50%上昇

心眼の歌・ハイマインドアイズ 600 全体(特殊) 心の眼を発動する共鳴魔法。味方に使えば自分を含めた味方全員に5ターンの間『心眼』状態を付与。敵に対して使えばステルス状態を解除する

隠者の歌・ハイトランスパー 1000 全体 自分を含めた味方全体を透明化させる共鳴魔法。1ターンの間ステルス状態

刻の歌・タイムストップ 2500 全体 敵全員の時間を止める共鳴魔法。敵全員1ターン封技・封魔状態(封技・封魔に耐性があっても必ず効果は発揮する)

ガイアフォール 1500 大円・地点指定 巨大な岩石を敵の上空に呼び出し、敵に落とすゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”と呼ばれる攻撃魔法。地属性威力SSS&石化40%攻撃、崩し無効、ブレイクB+

フリーズランス 1700 大型直線(貫通)  大気中に存在する水を上空に集め、一気に敵に向かい放つゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”。水属性SSS&凍結60%攻撃、崩し発生率+30%、ブレイクA

フレイムバースト 1900 特大円・地点指定 敵を包み込む灼熱の、竜巻を生み出し、敵を燃やし尽くすゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”。火属性威力SSS&火傷70%攻撃、崩し無効、ブレイクB

エアトルネード 1800 全体 竜巻を生じさせ、敵を上空へと飛ばし、地面へ叩きつけるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”。風属性威力SSS&混乱30%、遅延攻撃、崩し無効、ブレイクC+

サンダースフィア 2500 大円 大気中に作り出した巨大な雷球を、敵に向かい放つゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”。風・空属性威力SSS+&封技50%攻撃、崩し無効、ブレイクA+

ダークエクストリーム 3000 大円・地点指定 広範囲にいる敵を暗黒の空間で封じ込めて無数の闇を炸裂させるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”。時属性威力SSS+&毒、暗闇、即死、バランスダウン50%攻撃、崩し無効、ブレイクS

ライトアロー 3300 大円 上空より裁きの矢を呼び出し、邪悪なる者達を貫くゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”。空属性威力4S&封魔、気絶75%攻撃、崩し無効、DEF、ADF25%減少ブレイクS+

愛の歌・ラリザレクト 4000 全体 味方全員を死の淵から呼び戻す共鳴魔法。自分を除いた味方全体HPMAX、戦闘不能者も復活

テレシア 6000 単体 味方一人を完全復活させる事ができるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれ、使い手が非常に限られた究極の回復魔法。自分以外の味方一人のHP&EP&CPMAX&全状態異常&能力減少回復、戦闘不能者も復活





Sクラフト





W(ホワイト)・プラズマ 特大直線(貫通) 浄化の力を宿した白き雷のエネルギーを解き放つ大魔法。威力6S+&封技100%攻撃、ブレイクA。幽霊系、不死系、悪魔系、魔神系なら威力2倍

海の檻歌 全体 ゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界に存在する幻のメロディーを元にある天才音楽家によって新たに生み出された歌にして、ゲルドに受け継がれた誰もがその存在を知らない幻にして究極の共鳴魔法。自分を含めた味方全員のHPMAX、全状態異常(消滅も含める)&能力減少回復、5ターンの間全パラメーター100%上昇、絶対防壁1枚付与、自分以外の味方全員のEP&CPMAX。戦闘不能者も復活、敵は駆動中のアーツや技を強制解除され、更に1ターン行動不可能(CPMAX時に発動した場合、その戦闘の間だけゲルドを含めた味方全体のHP&CP2倍。絶対防壁1枚付与が2枚付与に増える)

ディヴァイン・ジャッジメント 全体 罪深き者達を浄化する穢れなき光の雨を降り注がせるゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”白魔法”と呼ばれ、使い手が非常に限られた究極攻撃魔法の一つ。威力12S+(条件、CPが最大値の80%以上ある事)、ブレイク4S+

B(ブルー)・アセンション  特大円 ゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界で”大魔導士”と称えられた英雄から受け継いだリ・カルナシオンの強化技。邪悪な魂を完全に滅するゼムリア、ディル=リフィーナとは異なる世界の”黒魔法”。水・空属性威力14S+&封魔、バランスダウン100%攻撃、ブレイクSSS+、攻撃対象が幽霊系、不死系、悪魔系、瘴気等を纏った敵なら威力2倍&即死100%も付与









”騎神戦”時EXアーツ





プレコグニション EP200 3ターン敵の攻撃を必ず回避し、カウンターを行う。なおカウンター時の崩し発生率は100%、ブレイクC

アクアマター EP、威力は原作と同じ





なお、ゲルドのクラフト、Sクラフトは全てATSに反映する









<クロスベル皇女> メサイア・シリオス(属性・聖魔人…………時・空属性75%耐性)





LV420

HP61200

CP13000

ATK6200

DEF3500

ATS5800

ADF4970

SPD205

DEX104

AGL66(絶対回避率10%あり)

MOV14





装備







武器 聖剣ガラティン(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって創られた”エクスカリバー”の兄弟剣とも言われている聖剣。ATK3600、ATS200、クリティカル率10%、不死系、悪魔系、幽霊系、霧系、魔神系の敵、”負”の気を纏った人間に100%命中&威力2倍)

防具 聖魔人姫のローブ+(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された聖魔人の為の服。装備可能者メサイアorセオビット。DEF1400、ADF1700、ATS900)

靴  バトルブーツ+(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された戦靴。DEF230、MOV+8、SPD&AGL8%上昇)

アクセサリー グリムロセウス(父ヴァイスより功績を称えられて贈られた記念品。マルギレッタorメサイア専用。全パラメーター10%上昇、全ての魔法攻撃手段にATS15%減少攻撃の効果が付与される)

       メビウスリング(空の女神エイドスより結婚祝い品として送られた古の魔力が宿る指輪。回復アイテムの効果が2倍&アイテムの射程距離+8&効果範囲が小円になる。アーツ『セレスティアル』を駆動&EP無しで放てる。)







スキル





血縁の絆 バトルメンバーに『ヴァイスorマルギレッタ』のどちらかがいるとATK&DEFが9%上昇。二人ともいると効果は倍増する

リィンが大好き バトルメンバーに『リィン』がいると全パラメーターが15%上昇

戦闘の心構えⅢ 戦闘開始時、HP&CPが9%回復

戦闘指揮 戦闘中、自分を含めた味方全員のDEX、AGLを10%上昇させる

連携 味方のすぐ後に攻撃すれば、1,5倍

努力家Ⅳ 取得経験値40%増加

カウンターⅣ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。20%で発動

リベンジャー カウンター発動時の攻撃威力が1,5倍になる

魔力再生Ⅳ  行動終了後にCPが750回復する

肉体再生Ⅲ  一人終わるごとにHPが3%回復する

霊体殺し 敵が幽霊、霧系の場合、威力30%上昇

不死殺し 敵がゾンビ系の場合、威力30%上昇

悪魔殺し 敵が悪魔系の場合、威力30%上昇

天使殺し 敵が天使系の場合、威力30%上昇

賢者の魔力Ⅳ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが40%減少。Sクラフトを使っても30%残る

達人の技力Ⅳ 物理攻撃系のクラフトを使った際、消費CPが40%減少。Sクラフトを使っても30%残る

反射Ⅱ 20%の確率で物理、魔法を問わず敵の攻撃を反射

守護者の絆 バトルメンバーに『ベルフェゴールorリザイラorアイドス』の内誰か一人がいるとATK、ATS、SPDが5%上昇。また、2人以上いると人数に比例して上昇も倍になる





ARCUS版オーブメント(空・時・空属性)並びはユーシスです





アタックランク 斬S突S







リンクアビリティのタイプはユーシス





ブレイブオーダー





聖魔陣”聖淵” BP3 特殊 (12カウント/与ダメージ+50%/被ダメージ0,5倍)12ターン、全パラメーター1,5倍上昇









クラフト





魅惑の応援 500 全体 自分を含めた味方全体に魔力を込めた声で応援する。5ターンの間、ATK40%、SPD30%、DEF20%上昇、CP15%回復

五段斬り 400 斬撃による5回攻撃。威力B&SPD、MOV50%減少攻撃×5、ブレイクC+

癒しの息吹Ⅳ 250 単体 味方一人のHPを80%回復する

大いなる浄化の風 700 全体 味方全体の状態異常を回復する(戦闘不能は例外)

真・双葉崩し 100 単体 隙を突いて相手の行動を無効化する特殊技。威力C&駆動解除&バランスダウン100%攻撃、ブレイクC

死愛の魔槍 600 単体 時属性威力A+&HP吸収30%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクA+(ATSに反映)

断罪の光柱 900 中型直線(貫通) 断罪の力を持った光柱を生成する。空属性威力A&気絶50%攻撃、ブレイクB+(ATSに反映)

真・月影剣舞 600 大円 美しさと攻撃力を兼ね備えた剣舞の上級技。威力S+&遅延攻撃、ブレイクA崩し発生率+40%

真・虎口一閃 750 中型直線(貫通) 一瞬で複数の斬撃を与える一閃の上級技。攻撃後のディレイ値が通常攻撃の3分の1。威力S&DEF25%減少攻撃、崩し発生率+60%、ブレイクS

純聖光 800 単体 凝縮させた聖光により敵対するものを浄化する古神神聖魔術。空属性威力SS+&幽霊系、不死系の敵に2倍ダメージ、崩し無効(威力はATSに反映)

ヴォア・ラクテⅡ 1600 大型直線(貫通) 暗黒の電撃を解き放つ暗黒魔術。時属性威力SSS+&封技80%、崩し無効、ブレイクS(威力はATSに反映)

癒しの風Ⅳ 1000 全体 味方全体のHPを80%回復する 

真・昇閃 500 大円 武器に聖なる力を込めて煌く魔法剣技。空属性威力S&ADF50%減少攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクA(威力はATK、ATSの合計値)

真・斬闇 600 大円 武器に呪いの力を込めて薙ぎ払う魔法剣技。時属性威力S+&即死70%攻撃、崩し発生率+35%、ブレイクA+(威力はATK、ATSの合計値)

蘇生 1500 単体 戦闘不能状態の味方をHP50%、CP25%回復状態で復活させる

贖罪の聖炎 2000 全体 罪を贖う為に生命を奪い取る厳格な炎。空属性威力5S、崩し無効、ブレイクS+(威力はATSに反映)

ティルワンの死磔 2000 全体 闇世界の中枢である死磔領域に閉じ込める。時属性威力5S&即死、混乱、暗闇25%攻撃、崩し無効、ブレイクSS(威力はATSに反映)

蘇生の息吹 3000 全体 自分以外の戦闘不能状態の味方全体をHP30%、CP15%状態で復活させる慈悲の光







Sクラフト





真・桜花乱舞 大円・地点指定 咲き乱れる花のように美しい剣技。威力13S、ブレイクSSS

ファイナルチェリオⅡ 特大円 禁じられし大魔術の一つ。暗黒の魔力が込められた魔槍にて全てを破壊する。時属性攻撃8S+、ブレイク4S(威力はATSに反映)

ファントムデストラクションⅡ 特大円  禁じられし大魔術の一つ。浄化の魔法陣にて悪しき者達を滅する。空属性攻撃8S+、ブレイク4S(威力はATSに反映)

絶招・聖魔の目覚め 全体 内に秘められし聖と魔の力を解放する究極奥義。威力11S+、ブレイク確定(ATK、ATSの合計値が反映)







コンビクラフト





イフリート・キャリバーⅡ 最大CPの30% 大円 灰色の騎士と共に業火の剣と断罪の剣を叩き込み、最後は裁きの剣と共に叩き込む協力奥義。威力7S&大火傷200%攻撃、ブレイクA。条件、バトルメンバーにリィンがいるかつ、双方の最大CPが30%ある事(リィンのATK、メサイアのATSの合計値が反映される)







<慈悲の大女神> アイドス・セイルーン(属性・神格)





LV1200

HP82000

CP200000

ATK26500

DEF14500

ATS140000

ADF125000

SPD720

DEX210

AGL140(絶対回避率10%あり)

MOV18











装備





武器 ルナ・スティルヴァーレ(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された神剣。アイドス専用。ATK10000、ATS20000。クオーツ、『治癒』、『機功』の3倍の効果と『刻耀珠』の効果を持ち、さらに不死系、悪魔系、幽霊系、霧系、”負”の気を纏った人間の敵に威力3倍。Sクラフト全て強化する、絶対防壁貫通)

防具 ルナ・アイドス(女神アイドスの結界。アイドス専用。DEF6000、ADF10000。全状態異常&能力減少無効化。戦闘開始時、絶対防壁&魔法反射の結界が2枚ずつ付与され、7ターンごとに2枚ずつ付与される)

靴  青き月女神の神靴(至高の工匠―――”匠神”ウィルとさまざまな分野での才がある者達によって創られた青の月女神、”リューシオン”の加護が宿った清き心と慈愛を持つ乙女のみが装備できる靴。装備可能者、セレーネ、プリネ、アイドス、エリゼ、アルフィン、メサイア、ゲルド。DEF400、ADF500、MOV+12、SPD10%上昇、回復手段の効果が2倍)

アクセサリー グロティナ(戦術眼を高める青い額飾り。魔法攻撃発動時のディレイ値が半分になる)

       エンブレムリング(空の女神エイドスより結婚祝い品として送られた古の魔力が宿る指輪。HPが20%以下になれば全ての攻撃を90%軽減、フィールドアタック時90%で『奇襲』、装備者が敵撃破時のアイテムドロップ率が2倍、アーツ『アルテアカノン』を駆動&EP無しで放てる。)









スキル





リィンが大好き バトルメンバーに『リィン』がいると、全パラメーターが15%上昇

真なる女神 属性・神格の効果が1,5倍になる

魔力再生Ⅹ 行動終了後にCPが5000回復する

賢者の魔力Ⅴ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使ってもCPが50%残る

破術Ⅶ 70%で攻撃した相手の能力上昇効果を打ち消す

女神の防壁 5ターンずつにどんな攻撃でも1回だけ防げる絶対防壁が自動的にアイドスにかかる 

女神の防護 アイドスを含めたバトルメンバー全員、全状態異常&全パラメーター減少無効

オリンポスの星女神 星属性(空属性の2倍かつ、無効化や吸収はできず、空属性に耐性を持っていても無効化され、通常に受けてしまう。)の技や魔術が使える。

慈悲の大女神 スティルヴァーレを装備できる。Sクラフト『聖なる慈悲の光』が使える

全状態異常無効 全状態異常(即死、バニッシュ、魅了も含める)を無効化する

反射無効 反射してくる敵の反射を無効化し、そのままダメージを与える

悪魔殺し 敵が悪魔系の場合、威力30%上昇

霊体殺し 敵が幽霊、霧系の場合、威力30%上昇

不死殺し 敵がゾンビ系の場合、威力30%上昇

慈愛の心 治癒系の魔術、アーツを使うと効果が1,5倍になる

見切りⅦ 発動すると敵の攻撃を完全(魔法攻撃やSクラフトを含める)回避。40%で発動

先手Ⅳ   戦闘開始時20%で先制攻撃

連続攻撃Ⅶ 発動すれば物理攻撃後CP消費せず、同じ物理攻撃手段を放つ。28%で発動

孤高    自分以外のバトルメンバーが戦闘不能状態の時のみAGLが70%上昇

達人の技Ⅴ 物理系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使っても、50%CPが残る

兄妹の絆 バトルメンバーに『セリカ』がいるとATK、ATS、SPDが9%上昇

姉妹の絆 バトルメンバーに『サティア』がいるとATK&DEFが7%上昇

守護者の絆 バトルメンバーに『ベルフェゴールorリザイラorメサイア』の内誰か一人がいるとATK、ATS、SPDが5%上昇。また、2人以上いると人数に比例して上昇も倍になる







ARCUS版オーブメント(空・空・空属性)並びはエマです





アタックランク 斬SS突A射S剛A フィールドでの攻撃モーションは近距離では身妖舞→殲鋼斬の連携、遠距離では紅燐剣





リンクアビリティのタイプはアルフィン


ブレイブオーダー


飛燕陣 BP3 攻撃(12カウント/与ダメージ+100%/ブレイクダメージ200%)2ターン、ATK&SPD50%上昇、加速

星芒陣”慈悲” BP5 防御(12カウント/全ての攻撃を無効化)HP&EP&CPMAX





クラフト





嵐光弾・広範囲 1700 特大円 範囲内に無数の光弾を放つ。空属性威力C+×2回攻撃、崩し無効、ブレイクC+(威力はATSに反映)

戦女神の神域 3000 全体 味方全員のATK、DEF、ATS、ADFを戦闘が終了するか戦闘不能になるまで50%上昇効果を付与する

レイ=ルーンⅤ 900 特大直線(貫通) 無高純粋の光とされる烈輝陣で貫通させる。属性威力SS+、崩し無効、ブレイクA(威力はATSに反映)

大いなる癒しの息吹 500 単体 味方単体のHPを全回復させる

星女神の祈り 0 星に祈りを捧げ、星の力によって失った魔力を集束する。CPがMAXに回復

星剣 1000 自分 剣に『星光』を纏わせる。しばらくの間、自分の物理攻撃を『星属性』にする。攻撃した際、相手が悪魔、不死、霊体系なら3倍&命中100%。星属性の魔法剣の威力を2倍にする

贖罪の聖光焔 2400 全体 空属性威力6S+、崩し無効(威力はATSに反映)

聖なる蘇生 2000 単体 味方単体の戦闘不能をHP完全回復状態で回復させる

ケルト=ルーン 1000 特大円  高純粋の渦とされる翼輝陣で広範囲を覆う。威力SS+の無属性攻撃、崩し無効、ブレイクS(威力はATSに反映)

大いなる癒しの風 1500 全体 味方全員のHPを全回復させる

大いなる浄化の風 1000 全体 味方全体の状態異常を回復する(戦闘不能は例外)

タキオンの爆発 2500 中円 敵の位置に魔力を凝縮させ、体内に魔力爆発を起こさせる。無属性威力4S、崩し発生率+20%、ブレイクS+(威力はATSに反映)

ルン=アウエラ 3000 特大円 純粋魔力の始祖を覚醒させた超越爆発。威力6S+、崩し無効、ブレイクSSS+(威力はATSに反映)

メギドの神槍 3300 単体 天界光と並ぶ究極神聖魔術。空属性威力5S&気絶70%攻撃×2、崩し発生率+30%、ブレイクSS(ATSに反映)

サザンクロス 6000 大円 十字に煌めく星を上空から敵に落とし、爆発させる上位星魔術。星属性威力4S+&バランスダウン100%攻撃、崩し無効、ブレイクS(威力はATSに反映)

オリンポスの星護壁 40000 全体 女神の魔力により、自分を含めた味方全体に星の力を借りた絶対防壁の大結界をはる。絶対防壁×25 

セレスティアルスターⅡ 35000 全体 禁じられし大魔術の一つにして、最強の神聖大魔術。空属性威力SS+×6+空属性威力5S、崩し無効、ブレイク4S(威力はATSに反映)

メテオスウォームⅡ 38000 全体 空より無数の隕石を召喚する失われし古代大魔術の一つ。無属性威力8S+、崩し無効、ブレイク確定(威力はATSに反映)

プリズミックスターズ 28000 全体 無数の星を呼び寄せる最上位星魔術。星属性威力6S、崩し無効、ブレイク確定(威力はATSに反映)

オリンポスの星封印 10000 全体 星の力による封印術。アーツ、駆動妨害(通常の妨害攻撃では妨害不可能な場合でも妨害できる)。さらに3ターンの間全行動封印(自分の出番が廻ってきても行動もできず、次の者に出番が廻る)

聖なる蘇生の息吹 4400 全体 自分以外の戦闘不能状態の味方全体をHPMAX、CP50%状態で復活させる慈悲の光

飛燕の舞 200 自分 自らの全能力を上げる舞。5ターンの間HP、CP以外の全パラメーター&DEX&AGL50%上昇

沙綾身妖舞 400 単体 命中精度の高い複合高速剣。威力Dの命中率100%の6回攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクC+

星光身妖舞  700 小円 星の力を利用した身妖舞。命中率100%の星属性威力C+×2、崩し発生率+12%、ブレイクB(威力はATKとATSの合計値に反映)

沙綾円舞剣 500 特殊 自分を中心とした大円を切り刻む高速剣技―――”円舞剣”の上位技。命中+50%の威力A+、崩し発生率+10%、ブレイクB

星光円舞剣 900 特殊 自分を中心とした大円に星の力を利用した円舞剣を叩きこむ。命中+50%の星属性威力S+、崩し発生率+12%、ブレイクB+(威力はATKとATSの合計値に反映)

紅燐舞華斬 600 単体 溜めて攻撃する打撃重視の一閃技。威力SSS&駆動解除&DEF50%減少攻撃、崩し発生率+30%、ブレイクSS

星光滅鋼斬 1100 単体 星の力を利用した滅鋼斬。星属性威力4S&DEF、ADF50%減少攻撃、崩し発生率+35%、ブレイクSS+(威力はATKとATSの合計値に反映)

殲鋼双肢乱 700 直線(貫通) 一撃重視の衝撃波を繰り返して放つ。敵の防御無視の威力SS+×2、崩し発生率+5%、ブレイクA

星光地烈斬 1400 中型直線(貫通) 星の力を利用した地烈斬。星属性威力SSS+の防御無視攻撃、崩し発生率+8%、ブレイクA+(威力はATKとATSの合計値に反映)

沙綾紅燐剣 900 特大直線(貫通) 威力の高い飛燕剣の上位技。威力S+、崩し発生率+15%、ブレイクS

星光紅燐剣 2000 特大直線(貫通) 星の力を利用した紅燐剣。星属性威力SS+、崩し発生率+20%、ブレイクS+(威力はATKとATSの合計値に反映)

枢孔身妖舞 2500 単体 身妖舞の最大奥義。威力Cの命中率100%の驚異の12回攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクB

枢孔円舞剣 2800 特殊 自分を中心としだ特大円に円舞剣の最大奥義を叩きこむ。威力SSS+、崩し発生率+15%、ブレイクA

枢孔紅燐剣 3300 特大直線(貫通) 全体高速剣最大の奥義。威力5S+、崩し発生率+20%、ブレイクSSS





Sクラフト





プリンセスオブマーメイドⅡ 全体 仇名す者達に粛清の慈悲を与える怒涛の流星爆撃。星属性威力22S&気絶100%攻撃、ブレイク確定(威力はATSに反映)

絶招・飛燕姫神恍舞 大円 飛燕剣最大の連続攻撃を繰り出す奥義。威力4S+×30回+威力8S+&封技、混乱100%攻撃、ブレイク4S+

神・聖なる慈悲の光 全体 慈悲の大女神アイドスだけが放つ事できる慈悲の光を放ち、全ての罪と呪いを浄化し、傷つきし者達に慈悲を与える。絶対防壁貫通威力50S+&自分以外の味方全体のHP、戦闘不能を含めた状態異常、能力減少、CP完全回復、ブレイク確定(威力はATSに反映) 条件、CPが70%以上ある事





コンビクラフト





真・神葬星条破 最大CPの70% 全体 星女神の神力を溜め込んだ太刀を地面に叩きつけ、戦場全体に星女神の神力を解放する協力神技。威力10S&絶対防壁貫通攻撃、ブレイクSS+(リィンのATK、アイドスのATSの合計値に反映)条件、バトルメンバーにリィンがいるかつリィンのCPが最大CPの70%以上、アイドスが6000以上ある事

星女神の剣嶺 12000 大円 神殺しと共に放つ星女神の姉妹神の剣撃の嵐。威力18S+、ブレイク確定(双方のATK、ATSの合計値も反映される) 条件、バトルメンバーにセリカがいるかつ双方のCPが12000以上ある事





アルティメットクラフト





飛葉双覇剣 最大CPの80% 中円 リィンと共に放つ八葉一刀流と飛燕剣による剣撃の嵐。威力9S&絶対防壁貫通&絶対ブレイク攻撃。条件、バトルメンバーにリィンがいるかつリィンが”神気合一”状態になっている事かつ、双方のCPが80%以上ある事

セレスティアル・アース 最大CPの80% 全体 星女神達による星の制裁を与えた後星の力を集束させた聖剣で薙ぎ払う協力神魔術。威力40S+&絶対防壁貫通、ブレイク確定(威力は双方のATSに反映)。条件、バトルメンバーにセリカorサティアのどちらかがいるかつ双方のCPが最大の80%以上ある事


 
 

 
後書き
新Ⅶ組でゲルドだけぶっちぎりで強く、ぶっちゃけゲルドだけ旧Ⅶ組メンバーよりも強い気が(汗)ユウナやクルトのレベルが意外と高いのはリアンヌ達との模擬戦による経験の影響だと思ってください(遠い目)


 

 

第二章 ~再会のクロスベル~ 外伝~それぞれの再会の鼓動~

エレボニアの帝都であるヘイムダルの大聖堂の近くにある”聖アストライア女学院”にて、紺色の髪の女生徒がある女生徒にとっての朗報を伝えていた。



帝都ヘイムダル・サンクト地区・聖アストライア女学院~



「ほ、本当ですか……?」

「ええ、寄付金の一部をお返しし、今後の授業料として充当―――これで卒業までの心配はないと思います。」

「ああっ………ありがとうございます!リーゼアリア会長にはどう感謝していいのか……!」

紺色の髪の女生徒――――リーゼアリア・クレールの説明を聞いた女生徒は嬉しそうな表情を浮かべた。

「ふふ、学生会長として当然のことをしただけですよ。………それに、ここだけの話ですが貴女のような生徒は他にもいます。ですから今回の件も引け目に感じないでくださいね?」

「………はい。本当にありがとうございます。ふふっ、安心しすぎて気が抜けちゃったというか……なんだか突然、お腹が空いてきちゃいました。」

「ふふっ、よかったら紅茶とクッキーでも召し上がりますか?差し入れで頂いたものですけど。」

「わあっ、いいんですか!?―――そうだ、でしたら前々からお聞きしたい事があったんです!その、会長の”お従兄(にい)様”についてなんですけど……!」

「え。」

女生徒が突如言い出した言葉にリーゼアリアは呆け

「若き英雄、”灰色の騎士”リィン・シュバルツァー様!ずっとずっとファンだったんです!」

リーゼアリアの様子に気づいていない女生徒は憧れの表情を浮かべて語っていた。

「そ、そうですか。まあ本人は、英雄と呼ばれるのは面映いと思っていらっしゃっているようですけど……」

一方女生徒の様子を見たリーゼアリアは困った表情で答え

「とんでもない!女生徒全員の憧れですよ!何でも新設された士官学校の教官に就かれたとか!?しかも皇女殿下もリィン様を陰で支える為にリィン様が就かれた士官学校の宿舎の管理人に就かれたともうかがっていますわ!女生徒はいるのかしら?はぁ~、妬けちゃいますねぇ。」

「え、えっと………貴女も今口にした通りリィンお兄様は既に既婚者――――アルフィン皇女殿下を娶っている事に加えて他にも多くの婚約者がいらっしゃっているのに、そこまで気にする必要はあるのですか?」

リィンに対して凄まじい憧れを持っている様子の女生徒に対してリーゼアリアは戸惑いの表情で訊ねた。

「当然じゃないですか!リィン様は皇女殿下と結ばれたにも関わらず、他にも多くの婚約者がいらっしゃっている事で、私達もリィン様にお近づきになれて、あわよくばリィン様の伴侶の一人にして頂けるチャンスがまだまだ残っている証拠なのですから!あ、そう言えば”あの噂”は本当なんでしょうか!?会長のお従兄様と新皇女殿下が―――――」

「―――アリア、いるかしら?」

そして女生徒が更なる質問をリーゼアリアにしようとしたその時、扉がノックされ、娘の声が聞こえてきた。



「あ……」

「ええ、どうぞ。」

娘の声を聞いた女生徒が驚いて背後へと振り向いている中リーゼアリアは声の主に部屋の入室を促した。すると扉が開かれ、金髪の女生徒が部屋に入って来た。

「あら、先客だったかしら?」

「と、とんでもありません!ちょうど話も終わった所で――――ご、ごきげんよう!わたくしはこれで失礼致します!リーゼアリア会長……またお話を聞かせてくださいね!」

金髪の女生徒の言葉に緊張した様子で答えた女生徒は金髪の女生徒に会釈をしてリーゼアリアに声をかけた後慌てた様子で部屋から退室した。

「あら……お邪魔しちゃったかしら?」

「ふう……どうせ狙って声をかけたのでしょう?」

女生徒を見送った後呟いた金髪の女生徒の言葉に呆れた表情で溜息を吐いたリーゼアリアは金髪の女生徒に指摘をした。

「ふふっ………だってアリアがリィンさんの事で困っていそうだったから。いっそ言ってあげたら良かったのに。『残ったお従兄様の伴侶の枠は14年前から決まっています』ってね♪」

金髪の女生徒―――――アルノール皇家の養子になった事で新たなるエレボニア帝国の皇女となったリーゼロッテ・ライゼ・アルノール皇女はリーゼアリアを見つめてウインクをした。

「ふう……またそんな事ばかり。そう言うロッテの方こそ、噂になっているわよ?『若き英雄”灰色の騎士”と皇城で親密そうなやり取り………夏至祭でのお約束か!?』なんて。」

「あ、あれは年始のパーティーでアリアの話をしていただけで………その、少し相談にも乗っていただいたけど………ふう………降参よ、アリア。学生会長を引き受けてから付け入る隙がなくなったというか。先生方からも、生徒たちからも頼りにされているみたいだし。」

リーゼアリアの指摘に対して驚いたリーゼロッテは慌てた様子で言い訳をしたがすぐに諦めて降参した。。



「ふふ、ここまで従兄が有名になると従妹としても気を使うわ。――――それに、学生会長として力不足を痛感することもあるわ。……”あの子”の力にもなれなかったし………」

「……仕方ないわ。経済的な事情でもなかったし。アルフィンお義姉(ねえ)様の手紙によると”あの子”も第Ⅱ分校の生徒として通っているそうだけど……その事も含めて手紙の返事がまだ来ない事は気になるわね。ちゃんともう一度手紙を書いて第Ⅱ分校の宿舎に送ったのに……」

「ええ…………手紙の件で思い出したけど、例の件―――1年半前の件で退学なされたアルフィン皇女殿下の聖アストライア女学院への復学の件はどうだったかしら?」

「ダメだったわ。宿舎の管理人が増えた事で宿舎の管理人を務めておられるお義姉様が不定期でも、女学院に通える時間は取れると思ってもう一度手紙で頼んでみたのだけど……『今のわたくしはメンフィル帝国の貴族の一人であられるリィンさんの伴侶―――つまりメンフィル帝国に所属している事になります。”今のわたくしが所属している国であるメンフィル帝国”の指示によって第Ⅱ分校の宿舎の管理人を務めている上1年半前の件で散々メンフィル帝国に迷惑をかけたのに、メンフィル帝国の許可もなくそのような身勝手な事はできませんし、リーゼアリア(あなた)にも迷惑をかけてしまう事になるわ』と書いてあったわ。わたくしはそんな事、気にしないのに……」

「その………メンフィル帝国の許可が必要なら、リベールにあるメンフィル帝国の大使館に皇女殿下の女学院への復学の許可を頂く為の手紙を送ってみたらどうかしら?確かリベールにあるメンフィル帝国の大使館にいらっしゃるメンフィル帝国の大使は前メンフィル皇帝であられるリウイ前皇帝陛下なのでしょう?」

「さすがにそれはわたくしだけの判断で決められないわ。幾ら元自国の皇女の為とはいえ、手紙を送る相手は今は隠居の立場とはいえ、一国――――それも1年半前エレボニア帝国の戦争相手だったメンフィル帝国の皇帝で、しかもエレボニア帝国に侵略したメンフィル帝国軍の総大将を務めていた方なのだから……そうだ。貴女の方から、メンフィル帝国にお義姉様の女学院への復学を許可して欲しい事をリィンさんとエリゼさんに伝えてもらえないかしら?」

リーゼアリアの提案に複雑そうな表情で答えたリーゼロッテはある事を思いついてリーゼアリアに訊ねた。

「……1年半前までの私の実家とお兄様達――――シュバルツァー家との関係を知っていて本気で言っているのかしら?お二人とも手紙の返事はちゃんとしてくださっているけど、14年前のリィンお兄様の件で私達―――”クレール子爵家”はシュバルツァー男爵―――いえ、”シュバルツァー公爵家”と一方的に断絶したのだからリィンお兄様は当然として、エリゼお姉様にもそんな厚かましい事を頼む事はできないわ。特にエリゼお姉様は半年前の件―――――帝国政府の改革によって将来のクレール家の存続を危ぶんだお父様達が私とリィンお兄様を婚約させようとした件で、内心クレール家(私達)に対して怒りを抱いているでしょうし………」

一方訊ねられたリーゼアリアは複雑そうな表情で答えた後悲しそうな表情を浮かべた。

「………ごめんなさい。フウ……ヴァンダール家の処遇といい、お義兄様の件といい、暗い話題ばかり。リィンさん達の第Ⅱ分校の演習先でも”事件”が起きたんでしょう?」

「ええ………サザ―ラント州ね。怪しげな兆候もあったみたいで………私や貴女も気をつけるようにと通信で言われたわ。」

「そう………ありがたいわね。それに比べてセドリックは………どうしてあんな風に………」

「ロッテ………」

複雑そうな表情を浮かべているリーゼロッテをリーゼアリアは心配そうな表情で見守っていた。

「そうそう―――すっかり本題を忘れていたわ。”例の話”なのだけど……何とか都合はつけられそうかしら?」

「ええ、学生会の案件も予定通り片付きそうだし。喜んでお付き合いさせてもらうわ。」

そして話を変えたリーゼロッテの言葉に対してリーゼアリアは静かな笑みを浮かべて答えた。



クロスベル帝国ノルティア州、ルーレ市



~同時刻・RFグループ本社ビル12F・第四開発部・PM(プロジェクトマネジメント)オフィス~



一方その頃1年半前クロスベル帝国の領土となったルーレ市にあるRF(ラインフォルトグループ)の本社ビルのある場所で金髪の娘が社員たちに指示を出していた。

「新型端末の受注は進めて。ただしVerは半々にしましょう。コスト、操作性、パフォーマンス、セキュリティ面で評価してちょうだい。」

「了解しました。」

「鉄道公社の業務システムも納入は完了してるわね?」

「はい!稼働テストは今週末です!」

「立ち合いはよろしく。アフターサービスについてもわかりやすく説明してあげて。」

「お任せください。」

金髪の娘を次々と指示を出していると通信の音が聞こえ、通信の音に気づいた金髪の娘はすぐに耳につけているインカムで通信を開始した。

「こちらラインフォルト。どうしたの?」

「財団のクロスベル支部から通信が入っています。いかがしますか、室長?」

「すぐに出ると伝えて!―――ミーティングは以上。みんな、よろしくお願いね!」

「はいっ!」

そして通信と指示を終えた金髪の娘は別の部屋に入って行った。



「はあ……いいよなぁ。ラインフォルト室長。」

「あの若さ、あの美貌に加えて頭も切れて度胸もあるし、気配りもできてるし………」

「ふふ、さすがはイリーナ会長の娘さんって感じですよね。それでいて、年頃の娘さんらしい可愛らしいところもありますし。」

金髪の娘がその場から去った後社員たちはそれぞれ憧れや感心した様子で上司である金髪の娘について話していた。

「いや~、ここまで忙しいとちょっと可哀想かもねぇ。婚約者さんとは今どうなっているのかしら?」

「ちょ、止めてくださいよ!」

「室長は俺達全員のアイドルなんですから!そしてその室長と婚約しているその婚約者は俺達にとって最大の宿敵ですよ!」

「そうですよ!”帝国の至宝”と称えられていたあのアルフィン皇女殿下と結婚したにも関わらず、室長を含めて8人の婚約者がいるって話でしょう!?幾ら”英雄”と称えられて、将来大貴族になる事が内定しているからと言って、やっていい事と悪い事がありますよ!」

「全くだ!俺達どころか、世界中の男の宿敵ですよ、室長の婚約者――――”灰色の騎士”は!」

女性スタッフの一人がふと呟いた言葉を聞いた男性スタッフたちはそれぞれ血相を変えて反論した。

「いや、キモいから。というかそもそも、室長が1年半前その”灰色の騎士”さんと婚約関係になったからこそ、列車砲の件でRF(わたしたち)に対して怒りを抱いていたクロスベル帝国も矛を納めたそうだから、むしろ室長と”灰色の騎士”さんの関係が良好であり続けてもらわないと私達が困る事になるかもしれないわよ?」

「そうよね。大体その婚約は政略結婚な意味合いはあるけど、それは結果的にそうなっただけの話で室長自身は灰色の騎士と普通に恋愛をして婚約関係になったって話だし、イリーナ会長も二人の仲を公認しているのだから、”部外者”の私達が室長達の恋についてどうこう言う権利は――――――」

対する女性スタッフ達は呆れた様子で男性スタッフ達の反論に対して答え始めた。一方スタッフたちがそんな会話をしている事を知らない金髪の娘――――ラインフォルトグループ会長の一人娘であり、”旧Ⅶ組”の一人にしてリィンの婚約者の一人でもあるアリサ・ラインフォルトはオフィスチェアに座って通信を開始した。



「お待たせしました。―――ふふ、先月ぶりですね。」

「ええ、その節はどうも。運用レポートは受け取りました。ARCUSⅡ――――順調みたいですね?」

アリサの通信相手――――漆黒の翼を背に生やした白衣の娘はアリサにある確認をした。

「ええ、おかげさまで。マスターシステムのサブ化も上手く行ってるみたいですし。遠距離通信の精度も思った以上に素晴らしいですね。」

「うーん、あれはブースターなどの設備がないとどうも不安定なのですが……RFの方で相応の設備を用意したんですか?」

「えっと、実はちょっと裏技を使わせてもらっていまして……今度お会いする時にでもお話しできると思うんですが。―――できれば、仕事以外のプライベートな時にでも……」

「……なるほど。こちらも何かネタを仕入れておきましょう。楽しみにしていますね。アリサ・ラインフォルト室長。」

「こちらこそ――――ティオ・プラトー主任。あ、それと私事になりますが、今度お会いする時に他にも聞きたい事があるのですが………」

「?私で答えられる事でしたら、答えさせて頂きますが……一体どのような事でしょうか?」

白衣の娘―――――リィンがクロスベルに派遣された際、ランディと同じくリィンの同僚だった元”特務支援課”の一員――――ティオ・プラトーはアリサの言葉を濁した様子の問いかけに不思議そうな表情で首を傾げて問いかけた。

「えっと……その………ティオ主任が1年半前まで財団の出向で所属していた部署の同僚の方の事で聞きたい事があるんですけど…………」

「私が1年半前まで財団の出向で所属していた部署――――”特務支援課”の……?―――ああ、なるほど。フフッ、そのくらいでしたらお安い御用です。ですがその代わり、アリサ室長がたった約2週間で、しかも敵対関係だったにも関わらずリィンさんに”落とされた”経緯を教えてくださいね?」

恥ずかしそうな表情で遠回しな問いかけをしたアリサの問いかけを聞いたティオは首を傾げたがすぐにアリサが誰の事で自分に訊ねようとしているのかを察し、静かな笑みを浮かべて答え

「ええっ!?」

「フフ……――――それでは失礼します。」

自分の問いかけに驚いている様子のアリサをティオは静かな笑みを浮かべて見つめた後通信を切った。



「ふう……彼女に会えるのは嬉しいけど。スケジュールが山積みなのは何とかしたいわね………」

「―――お嬢様、失礼します。」

ティオとの通信を終えたアリサが一息ついて今後の事を考えていると扉がノックされ、アリサにとって馴染み深い声が入室の許可を訊ねた。

「あ、うん、入って。」

「お疲れ様です。紅茶をお持ちしました。」

「あ……もう3時なんだ。ありがと、シャロン。よかったら付き合ってちょうだい。それと、みんなには――――」

「ふふ、コーヒーとお菓子をお出ししておきましたわ。」

アリサの許可を聞いて入室してきた紫髪のメイド――――ラインフォルト家に仕えているメイドにして結社”身喰らう蛇”の”執行者”の一人でもあるシャロン・クルーガーが持ってきた紅茶とお菓子で、アリサはシャロンと共に休憩をしていた。



「は~、生き返るわねぇ。ホント、シャロンのお茶とお菓子はオアシスというか生命線だわ。」

「ふう……頑張っていらっしゃるのはいいのですが少しは潤いも大事にされませんと。たまにはⅦ組や特務部隊の皆さんと連絡をお取りになっては如何ですか?」

「悪かったわね、潤いがなくても。フフン、でも言われなくてももう少ししたら”彼”にも――――……………」

シャロンの提案に呆れた表情で答えた後得意げに反論しかけたアリサだったが、すぐにシャロンに乗せられた事に気づくと頬を赤らめて恥ずかしそうな表情でシャロンから視線を逸らした。

「あらあら、言わずもがなでしたか♪そう言えば先日、ラウラ様やフィー様、ステラ様と通信で話されていたみたいですけど。」

「さ、察してるんならわざわざ言わないでちょうだい!……もう、それよりも自分はどうなのよ?最近、本社を空ける事も多いし、母様の手伝いばかりしていない?……それとも”昔”の関係で何かあったとか……」

「ふふ……それこそまさか、ですわ。過去は過去――――わたくしの愛と献身の対象が変わる事だけはあり得ません。ですからどうか、ご安心ください。」

アリサの問いかけに目を丸くしたシャロンは苦笑しながら答えた。その後休憩を終えて後片付けをしたシャロンは退室した。

「……やっぱり最近ヘンよね。妙に優しかったり昔を懐かしむようなことを。!来たわね――――」

シャロンの様子を見守り考え込んでいたアリサだったが、ARCUSⅡから鳴り響く”Ⅶの輪”の音に気づき、通信を開始した。

「ふふっ、こんにちは。」

「一応、指定した時間だがそちらは大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫。仕事の区切りは付けたから。それじゃあ二人とも、段取りを詰めましょうか?」

そしてアリサはある人物達と今後について話し合い始めた。



~パルム近郊、アグリア旧道~



「ええ、ええ………私も”やり残し”を片づけたら出発するつもりです。ふふ――――それでは現地で。」

一方その頃通信を終えた眼鏡の娘――――旧Ⅶ組の一人にして”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”の一人であるエマ・ミルスティンはARCUSⅡを元の場所に戻した。

「ふう、もう少し早く掴めていればこの地でも会えたんだけど……ふふっ、でももうすぐね。」

「まったく。嬉しそうにしちゃって。しかし人間ってのは面白いことを考えつくわねぇ。あの皇子が隠しもってた”遠話”のアーティファクトを通信網に利用するなんて。ま、あの裏技使いの遊撃士も絡んでいそうだけど。」

するとその時エマの足元から声が聞こえ、声が聞こえた方向にエマが視線を向けるとそこには黒猫がいた。

「ふふ、それとアリサさんの協力があってこそね。つくづく色々な人達の縁に助けられているわね。」

「”秘蹟”を守る一族としては本来どうかとは思うけど。でも―――何だかアイツ妙な事になってるみたいね?あの皇子が設立した分校への派遣の件もそうだけど、ゼムリアともディル=リフィーナとも異なる世界から現れた”魔女”―――それも”予知能力”なんてとんでもない”異能”を持っている人物の担当を受け持つ事になったんでしょう?そんなとんでもない人物とアイツがそんな関係になるなんて、とても偶然とは思えないわね。」

「ええ、しかもプリネ皇女殿下達の話だとその”魔女”の方―――ゲルドさんが見た”未来”で今後起こりうる可能性があるリィンさん達の戦いでゲルドさんがいたとの事だから、その戦いにゲルドさんがいる”意味”もあると判断したゲルドさんが自ら分校に来たそうだから、”次の演習地”で実際に会ってゲルドさん自身の事やゲルドさんが見た”未来”がどのような”未来”なのかを訊ねる機会があればいいのだけど………―――その前にこちらを片付けておかないと。」

黒猫―――エマの使い魔にしてお目付け役でもあるセリーヌの言葉に頷いたエマは表情を引き締めてある石碑を見つめて魔導杖を取り出した。

「この地の”霊窟”はここだけ――――手を貸してちょうだい、セリーヌ!」

「任せておきなさい、エマ!」

そしてエマはセリーヌと共に石碑にある魔術をかけ始めた。



~同時刻・レウィニア神権国・王都プレイア・セリカの屋敷~



同じ頃”ディル=リフィーナ”のアヴァタール地方最大の神権国――――レウィニア神権国の王都――プレイアにある”神殺し”セリカ・シルフィルとその使徒達が住む屋敷の自室で夕焼けのような色を赤髪を持ち、海のような蒼い瞳を持ち女性と見間違うほどの美貌を持つ男性――”神殺し”セリカ・シルフィルは本を読んでいた。

(やれやれ、1年半前のクロスベルの騒乱以来ゼムリアでも、このアヴァタールでも何も起こらず暇だの。そろそろまたひと暴れしたいから、どちらかの世界でまた”何か”が起こらないかものだの。)

セリカが本を静かに読んでいるとセリカの愛剣でありかつては”神”であるセリカの身体を狙って死闘をし続けた魔神であり、死闘の末セリカの愛剣となった”地の魔神”――ハイシェラは退屈をしていた。

「縁起でもない事を言うな。何も起こらず、平和のままが一番だろうが。それにそんな事を言っていると、本当にまた”何か”が起こるか――――」

「セリカ様、よろしいでしょうか?」

ハイシェラの念話を聞いたセリカが呆れた表情で答えかけたその時、扉がノックされてセリカにとって馴染み深い人物の声が聞こえてきた。

「ああ。」

「――――失礼します。セリカ様、先程エヴリーヌさんがいらっしゃり、この手紙をセリカ様に渡して欲しいとの事です。」

「エヴリーヌが?エオリアからの手紙か?」

部屋に入って来た茶髪のメイド――――セリカの”第三使徒”であるシュリ・レイツェンから手紙を手渡されたセリカはシュリに訊ねた。



「いえ、エヴリーヌさんの話ですとヴァイスハイト皇帝陛下からの手紙との事ですが………」

「何?ヴァイスからだと?……………………………」

意外な人物からの手紙である事をシュリから聞かされたセリカは眉を顰めた後手紙を読み始めたが、手紙に書かれてある内容を読むごとにセリカの表情は険しくなり始めた。

(おい………お前が縁起でもない事を言っていたせいで、本当に起こっただろうが……―――それも1年半前のクロスベルの騒乱すらも超えるような出来事が。)

(我のせいで起こった訳でもないのに、我に責任をなすりつけるなだの。しかし………クク、どうやら1年半前の騒乱よりも血肉が湧き踊る戦いになりそうで、今から楽しみだの。)

「あ、あの………?ゼムリア大陸で一体何が起こったのでしょうか……?」

呆れた様子のセリカはハイシェラに恨み言の念話を送り、対するハイシェラはいつもの調子で答えた後好戦的な笑みを浮かべ、二人の念話が聞こえていたシュリは不安そうな表情でセリカに訊ねた。

「………―――正確に言えば”これから起こる”事だ。―――シュリ、旅支度の準備を。準備を終えたら”冥き途”に向かい、ナベリウスと合流した後そのままミルスを経由してクロスベルに向かう。最低でも数ヵ月はゼムリア大陸で活動する事になるから、準備は念入りにしておいてくれ。」

「え………――――かしこまりました。ロカさんには連絡しなくてよろしいのですか?」

セリカの指示に一瞬呆けたシュリだったがすぐに気を取り直して会釈をした後セリカにある確認をした。

「世界中を回って活動しているあいつに連絡がつくとは思えないが………今から俺が書く手紙を一応ベテルーラの神殿に送ってくれ。―――勿論差出人は俺ではなく、お前の名前でな。」

「え………どうして私の名前で……」

(”神殺し”であるセリカの名前で送った手紙が軍神(マーズテリア)の神殿に届けば、絶対ロクでもない事が起こる事は間違いないから、セリカの名前ではロカ嬢ちゃんに手紙は送れないからだの。)

「あ…………―――かしこまりました。それでは私はマリーニャさん達と一緒に旅支度を始めますので、手紙を書き終えましたらお呼びしてください。」

セリカの指示を不思議に思ったシュリだったがハイシェラの指摘を聞くと理由を察し、セリカに会釈をした後部屋から退室した。

「………”鉄血宰相”に”黒のアルベリヒ”、そして二人に加担する愚か者共。未来に生まれてくるサティアが平和に過ごせるように、お前達の愚かな”野望”は徹底的に叩き潰させてもらう……!」

(やれやれ………エステル嬢ちゃんの娘に生まれ変わった愛する女が平和に過ごせるようにする為だけに、セリカに目をつけられた者共は”哀れ”だの。)

そしてセリカは決意の表情で外を見つめ、セリカの様子を見守っていたハイシェラは苦笑していた――――――






 
 

 
後書き
今回の話にてエリゼとアルフィンの代役を務めるリーゼアリア、リーゼロッテがようやく登場しました。なお、リーゼアリアの容姿やスタイルは『賢者の孫』のシシリーで、リーゼロッテの容姿やスタイルは『精霊幻想記』のリーゼロッテで髪の色だけ金髪にした人物だとイメージしてください。そして今回の話の最後でまさかの戦女神シリーズの主人公にして、エウシュリーキャラの中でも最強クラスかつ数あるエウシュリーの主人公でも恐らく最強キャラである”神殺し”セリカ・シルフィルが登場しました!サティアがゼムリア大陸で平和に過ごせるようにする為だけにセリカに敵認定された人物達はご愁傷様でしょうね(大爆笑)なお、2章終盤ある敵キャラ相手のセリカ無双の話を予定していますのでセリカ無双を楽しみにしている方達はその時までしばらくお待ちください。 

 

第30話

5月13日――――



5月―――サザ―ラントでの地方演習を終えた第Ⅱ分校では”部活動”が始まっていた。



本来、予算的な問題から部活は予定されていなかった第Ⅱ分校だったが――――



分校長であるリアンヌと教官であるランドロスとレン、それぞれの手配によってメンフィル、クロスベルの双方の皇族達が費用を”寄付金”という形で生徒全員が強制参加となった。



『第Ⅱ分校における部活動はエレボニア帝国人の余裕を示すものであれ―――』



そんなリアンヌの方針で自分の得意分野とは異なる部活を選択する生徒などもおり……忙しい日々の中、早朝や、昼休みなどに集まって気分をリフレッシュさせるのだった。



―――それ以外にも職員などに変化があった。ハイアームズ候の厚意により第Ⅱ分校の臨時スタッフとして執事のセレスタンが就任し――――分校での雑務や宿舎の管理を行っているアルフィンやエリゼの補佐などを引き受けてくれたのである。



更に、トールズの卒業生であるミントが臨時整備員として就任―――生徒だけでは手が回らなかった第Ⅱ分校用の機甲兵の塗装などにも協力してくれたのだった。



5限・6限―――男女選択授業



女子 調理実習



~第Ⅱ分校・調理室~



「―――それでは皆さん、まずはレシピ通りに進めてください!お菓子作りは分量と手際が大事です!経験者は教えてあげてください!」

「は~い!」

セレーネの指示に生徒達は返事をした後それぞれ調理を開始した。

「~~♪」

「わわっ、手際いいわねぇ。」

「……お見事です。」

「ふふっ、さすがご実家で料理をしていただけありますね。」

「いいな……私も将来の為にも今の内にティータみたいに料理を上手く作れるように頑張らないと……」

鼻歌を歌いながら手際よくボールの中の食材を混ぜているティータをユウナとアルティナ、ミュゼが感心しながら見守っている中ゲルドは羨ましそうな表情でティータを見つめていた。

「あはは……わたしの家、お父さんとお母さんが出かけててしばらく作ってたから。サンディさんみたいにプロの味とかは無理だけど。」

「いやいや、大したもんだよ。うーん、あたしも母さんに一通り教わったんだけどなぁ。」

「と言いつつ、先程から手際に淀みがないような気が……ユウナさんは意外と女子力が高いと見受けました。」

謙遜している様子のティータの言葉を聞いたユウナが苦笑している中アルティナはユウナの手際を見て静かな表情で評価した。

「意外とって何よ、意外とって!そういうアルこそ年齢の割に、結構手際良くて意外だと思うんだけど?」

「これでもわたしはリィン教官達――――シュバルツァー家唯一の使用人ですから、このくらいはできて当然かと。…………まあ、エリゼ様やルシア様の教育の賜物でもありますが。」

ユウナの反論に対して僅かに得意げに答えたアルティナはティータやユウナ同様ボールの中の食材を手際よく混ぜ続けていた。



「むむ、これは私も負けてられませんね……リィン教官に美味しいものを召し上がっていただくためにも♪」

自分達に対する対抗心を燃やしたミュゼの言葉を聞いたユウナ達は脱力した。

「ア、アンタねぇ……」

「あはは、ミュゼちゃんはリィン教官のファンなんだっけ?」

気を取り直したユウナはジト目でミュゼを見つめ、ティータは苦笑しながらミュゼに訊ねた。

「ええ、それはもう。ユウナさんやアルティナさん、そしてゲルドさんが羨ましいくらいです。もっとも教官を慕っている方は数多くいる事に加えてエリゼさんや姫様を始めとした教官に見初められた女性達までいます……せめて今は頭の片隅に止めてもらえるだけで十分ですけど。」

「な、なるほど。」

「ハア……確かに有名人だし、そりゃあモテるんでしょうけど。」

「………まあ、実際教官には既にアルフィン様と言う伴侶がいる事に加えてエリゼ様を含めて8人もの婚約者がいらっしゃいますものね。」

「えっと……今のリィン教官の奥さんはアルフィンだけで、婚約者の方は8人いて、その8人の婚約者はエリゼにセレーネ教官、ベルフェゴールさんにリザイラさん、メサイア皇女とアイドスさん、それにみんながこの前の”特別演習”で助けてもらったステラさんっていう人だから……あら?一人足りないけど、残りの一人はみんなは会った事があるのかしら?」

ミュゼの答えにティータが納得している中ユウナは呆れた表情で溜息を吐いた後ジト目になり、ユウナの言葉にアルティナは同意し、ある事が気になったゲルドは首を傾げて疑問を口にした。

「言われてみれば何だかんだ言って、あたし達は8人いる教官の婚約者のほとんどの人達と会ったけど一人だけまだ会っていないわね……」

「ふふ、アルティナさんでしたらご存知なのではないでしょうか?」

「………ええ、残りの一人は”旧Ⅶ組”の人物です。」

ゲルドの疑問を聞いたユウナは目を丸くし、ミュゼは口元に笑みを浮かべてアルティナに訊ね、訊ねられたアルティナは静かな表情で答えた。



「あ………演習地で助けてくれた。」

「アルゼイド家のラウラ様に、遊撃士のフィーさんでしたか。他にもいらっしゃるみたいですし、うーん、残りの一人が誰なのか気になりますねぇ。」

アルティナの答えを聞いたティータは特別演習での出来事を思い出し、ミュゼはからかいの表情で呟いた。

「フウ………アルフィンさんもそうだけど教官の婚約者の人達はみんな凄い美人ばかりだし、格好いいラウラさんや滅茶苦茶可愛いフィーさんの事を考えると残り一人も女のあたし達でも羨ましがるような素敵な女性なんでしょうね………それにエリオットっていう人も可愛いし、フォルデさんは不真面目な性格みたいだけど何だかんだ面倒見のいい先輩っぽいし、婚約者がたくさんいる件といい、恵まれすぎでしょ、あの人!」

「落ち着いてください、ユウナさん。」

「あ、それもアリですね♪乙女の嗜みという意味では!」

(”乙女の嗜み”って何の”嗜み”なのかしら……?)

「な、何がなんだか……」

若干憤っている様子のユウナにアルティナは困った表情で指摘し、小悪魔な笑みを浮かべたミュゼの言葉の意味がわからないゲルドが不思議そうな表情で首を傾げている中ティータは苦笑していた。



「なになに、リィン教官の話?確かにカッコいいけど、この学院、他にもハンサムな人が多いよねぇ。」

「ああ、ランドルフ教官もイケメンだしミハイル教官もやかましくなければ悪くない顔立ちだね。」

「ランドロス教官は……その……顔は仮面で隠していますけど、とても豪快な性格が魅力的ですものね……」

「いや、意外に思うかもしれないけどあの人、ああ見えてリィン教官と同じ既婚者――――それもとびっきり美人でスタイルも抜群な奥さんがいるから。」

「ふふっ、そう言えばそうだったわね。ランドロス教官には失礼になるかもしれないけど、まさに”美女と野獣”のような夫婦よね、お二人は。」

するとその時他の女生徒達も調理の手を止めて第Ⅱ分校の男性達について話し合い始め、タチアナがふと呟いた言葉を聞いたユウナはルイーネの顔を思い浮かべて呆れた表情で指摘し、ユウナの指摘を聞いたゼシカは苦笑し

「あー……でも、言われてみればそうよね……まあ、17人も奥さんがいる癖に”娼館”に時々通っているクロスベルのもう一人のとんでもない女好きのエロ皇帝よりはよっぽどマシよ。あのエロ皇帝の政策のせいで、メンフィル帝国でしか公に認められていなかった”娼館”―――売春行為を行う違法施設がクロスベル帝国でも公共施設扱いになってそんな施設がクロスベルにまでできたんだから。全く、確かに顔はイケメンで”女性”に関わる事を除けば魅力的な男性なのは認めるけど、とんでもない女好きでしかもエッチな事が大好きなあの性格が良い所を全部台無しにしているわ……何であんな女好きエロ皇帝にリセル教官やエルファティシア先輩、フラン先輩が………ブツブツ………」

「ア、アハハ………」

ゼシカの指摘を聞いたユウナはランドロスとルイーネを同時に思い浮かべてゼシカの指摘に同意した後ヴァイスの顔を思い浮かべてジト目になってブツブツと小声で文句を言い始めたユウナの様子を見た女生徒達全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ティータもユウナのようにヴァイスの顔を思い浮かべて乾いた声で笑っていた。



「ふふっ、男子も粒揃いですよねぇ。クルト君みたいな綺麗系や、アッシュ君みたいな不良系とか。」

「確かにクルト君は反則かもね。女子より整ってるというか……カイリ君くらい可愛いタイプだと逆に妬ましくはないけれど。」

「……アッシュさんはその、ちょっと怖いです……」

「ふむ、他を分析するとしたらスターク君は知的スマート系でグスタフ君は寡黙どっしり系――――ウェイン君は頑固暑苦しい系、パブロ君は瓢軽お調子系、フレディ君はワイルド野生児系――――あ、シドニー君は残念二枚目系でしょうか?」

「……さすがに失礼じゃないの?」

女生徒達が調理の手を止めて第Ⅱ分校の男性陣の事について話し合っているとセレーネが生徒達に近づいて注意をした。

「皆さん、今は調理実習中ですよ!そういう話は夜にお風呂あたりでしてくださいっ!」

「は~い!」

「―――ふふ、それはそれとして。セレーネ教官とリィン教官も姫様やベルフェゴール様達のように既に”大人”の関係なのでしょうか?」

セレーネの注意に女生徒達全員が返事をするとミュゼは小悪魔な笑みを浮かべて新たなる火種となる質問を口にし

「え”。」

「あ、あたしも何気に気になってました!それとティータちゃんと赤毛の遊撃士さんについても!後レン教官との仲もすっごく気になっていたわ!」

「ふえっ……!?」

ミュゼの言葉にセレーネが表情を引き攣らせているとサンディもミュゼの疑問に頷いた後ティータに視線を向け、視線を向けられたティータは驚きの声を上げた。



「うーん、あの人もいいよねぇ。結構アタシのタイプだよ。」

「それにレン教官は私達と同年代なのに”教官”を務められる程とても優秀な方のようですけど………そんなレン教官とティータさんはどのようにしてお知り合いになられたのか前々から気になっていました。」

「プライベートでティータがレン教官の事を”ちゃん”付けで呼んでいた事から、恐らく二人は昔からの友人同士だと思うのだけど……レン教官は皇族―――それも異世界の国であるメンフィル帝国の皇女の一人なのに、そんなレン教官と皇族や貴族でもないティータが出会って友人になれた経緯はとても気になるわ。」

「そう言えば、リィン教官と言えばエレボニアの新皇女殿下と親密だって聞いた事がありましたけど~。」

「ああ、前から噂されてるわね。私としては最近、弟君である皇太子殿下も気になるのだけど。」

「あ、わたしも……見違えていましたよね。」

「あううっ………」

「ああもう……!皆さん、静かにしてください!」

再び始まった”女子トーク”に自分まで槍玉にあげられた事にティータは恥ずかしそうな表情で顔を俯かせ、セレーネは呆れた表情で再び注意をし

「……カオスですね。」

「ミュゼ……あんた狙ってたでしょ?」

「”狙う”……?あ……言われてみればミュゼのセレーネ教官への質問をきっかけに、この状況が作り上げられたわね……」

「ふふ、何の事でしょう?」

その様子を見守っていたアルティナはジト目で呟き、ジト目でミュゼに視線を向けたユウナの言葉の意味がわからなかったゲルドだったがすぐに理由を察すると納得した様子で頷き、ユウナに視線を向けられたミュゼは静かな笑みを浮かべて答えを誤魔化した。



男子 導力端末入門



~同時刻・端末室~



一方その頃男生徒達は導力端末の操作の仕方の授業を受けていた。

「―――概要は以上だ。ここから先は自習だ。サルでもわかる課題プログラムを財団から取り寄せた。各自、画面に従って一通りの課題をこなすといい。相談は自由―――以上だ。」

モニターに映っている内容を一通り説明をした導力端末入門の教官を務めるシュミット博士はその場から去り、シュミット博士のマイペースさにその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「えっと………」

「……マジですか?」

「うふふ、そのようね。わからない事があったら、アドバイスをしてあげるわ。こう見えてもレンは以前IBC(クロスベル国際銀行)やRF(ラインフォルトグループ)にハッキングをした事もあるから、導力端末の技術も”それなりに”自信があるわよ♪」

我に返ったウェインとスタークの質問に苦笑しながら答えたレンは小悪魔な笑みを浮かべ、レンのとんでもない発言に生徒達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「ま、でもできる限り自分達で解いた方が身に付くと思うわよ?」

「やるしかないか……」

「あーあ、今頃女子はキャッキャウフフな感じでお菓子作りしてんだろうなぁ。」

「オレたちは次の時間、カレー作りやもんなぁ。」

「まあいい。とにかく始めよう。」

「………ハッ…………」

そして男子生徒達は導力端末の操作を相談しながらやり始めた。



「ふむ……多分こうすれば行けるんじゃないか?」

「クッ……機甲兵の操縦より遥かに難しいんだが……」

「またループか……だが、何とか行けそうだ。」

「な、何となくわかってきたような……」

「ううむ、これはこれで面白いじゃないか……!」

「……………」

「おいおいクルト………何でそんなスラスラ解けんだよ?」

「は~、ジブン。今日が初めてなんやろ?」

男子生徒達がそれぞれ悪戦苦闘している中クルトは流れるような動作で次々と端末を操作し、その様子を近くで見守っていたシドニーとパブロは驚きの表情で見学していた。



「ああ、でも剣術やチェスと同じような感覚かな。二人とも、コツを教えるよ。それさえ掴めば序盤は余裕だ。」

「おおきに!ええと、どれどれ……」

「くっ、こんな所にまでイケメン補正とは……」

クルトの説明を聞いたパブロは感謝した後必死の様子で端末を見つめ、シドニーはクルトの有能さを羨ましがっていた。

(どうやらレンの手助けは必要なさそうね。まあ、さすがに後半の問題は行き詰まると思うけど……あら?)

生徒達の様子を見守っていたレンは端末の前で座って何もしていない様子のアッシュに気づいた。

「アッシュ!君も少しは協力したまえ!自分達のような初心者でも力を合わせれば――――」

するとその時何もしないアッシュに気づいたウェインはアッシュを睨んで注意をしたが

「ハッ、くだらねぇな―――これ以上は時間のムダだ。バックレさせてもらうぜ。ま、せいぜい頑張れよ。―――どわっ!?」

アッシュは鼻を鳴らして流した後立ち上がって扉に近づいて部屋から退室しようとしたその時、アッシュの目の前で小さな雷が落ちた!



「うふふ、まさかレンの授業をサボろうとする命知ら―――コホン。ヤンチャな生徒がいるとはね。どうやらアッシュにはレンの”特別指導”が必要みたいね?」

魔術で小さな雷を落としたレンは小悪魔な笑みを浮かべて異空間から大鎌を取り出してその場にいる全員に聞こえるように大鎌の柄で床を叩き、レンの行動や発言にその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「ハッ、生憎だが俺には天使サマによる”特別指導”は必要ないぜ。嘘だと思うんだったら、端末を確認しろよ。」

「アッシュ!まだレン教官の話は終わっては――――」

一方アッシュは鼻を鳴らして答えた後部屋から退室し、その様子を見たウェインはアッシュに制止の言葉をかけたが、アッシュは無視して退室した。するとその時スタークがアッシュの席にある端末を確認してレンに声をかけた。

「驚いたな……教官、見てください。」

「?」

スタークに声をかけられたレンは端末に近づき、端末を操作して確認をした。

「あら。全問、解き終わっているわね。」

「ええっ……!?」

「ば、馬鹿な……!」

端末を確認したレンの答えにカイリは驚きの声を上げ、ウェインは信じられない表情をした。

「ちょっと待っててね……さすがに全問は正解していないけど十分、及第点は取っているわ。もしかして導力端末を扱った経験があるのかもしれないわね。」

「は~、たまげたなぁ。」

「フッ、あいつなら十分、考えられそうだが……」

「うむ、妙に世慣れた所がある男だからなぁ。」

「クソッ、不良のクセしてイケメン補正で有能ってか!?」

「―――ほらほら、授業中よ!時間がかかってもいいから丁寧に解いてみて。後半、難しいようなら遠慮なく質問していいわ。」

「は~い!」

アッシュの意外な才能に驚いている様子の男子生徒達を静かにさせる為にレンは指示をし、レンの指示に答えた生徒達は作業を再開した。

「それじゃあ、早速この問題を……」

「よっしゃ、燃えてきたわ!」

「クッ、まずはブラインドタッチをカッコよくできるように………ブツブツ……」

「……………………(アッシュ・カーバイドか……)」

生徒達がそれぞれ作業を再開している中クルトはアッシュが去った扉へと視線を向けて考え込んでいた。





HR―――



~特務科Ⅶ組~



「―――お疲れ。今日も盛りだくさんだったな。初めての男女別授業もあったが結構新鮮だったんじゃないか?」

「「………………………………」」

「???」

「ア、アハハ……」

HRの時間、ユウナ達を労ったリィンだったがユウナとアルティナはジト目でリィンを見つめ、二人の様子を理解できていないゲルドは不思議そうな表情で首を傾げ、事情がわかっていたセレーネは苦笑していた。

「えっと……(クルト、俺、何かやらかしたのか?)」

(知りませんよ……どうやら女子の授業で色々と盛り上がったそうですけど。教官は女難の相が強そうですし気をつけた方がいいのでは?)

ユウナ達の反応に戸惑ったリィンはクルトに訊ねたが、クルトから帰って来た答えはリィンが期待するような答えではなく、ただの忠告だった。

「………フン、まあ教官自身に”そこまで”非があるわけじゃないし。」

「本人の自覚が薄い以上、気にするだけ損かもしれません。」

「まあいい……部活も始まったし、ケガや体調管理には気をつけてくれ。それと―――明日は自由行動日になる。趣味、遊び、部活など何をするかは各自に任せるが……週明けには機甲兵訓練、週末には”特別演習”があるから注意しておいてくれ。」

ユウナとアルティナの答えに冷や汗をかいたリィンだったが気を取り直して話を続けた。



「ふう……あっという間な気がしますね。」

「ちなみに次、どこに行くかは教官達も知らないんですよね?」

「ええ、わたくし達教官陣も明日のブリーフィングで知らされる事になっていますわ。ただ、前回のことを考えると一筋縄では行かないと思われますが……どうか英気を養っておいてください。」

「―――了解です。特務活動はともかく……”結社”の動向は心配ですね。」

「うん……ロクでもないことをまたしでかしそうな気配だったし。」

「えっと………リィン教官、セレーネ教官。”特別演習”もそうだけど機甲兵?だったかしら。私だけ機甲兵に乗るのは初めてだけど、どうしたらいいのかしら?」

セレーネの説明にクルトとユウナがそれぞれ頷いている中、ある事が気になっていたゲルドはリィンとセレーネに質問をした。

「あ。そう言えば今月編入してきたゲルドは次の”特別演習”もそうだけど、機甲兵訓練もゲルドにとっては初めてになるわね……」

ゲルドの質問を聞いたユウナは目を丸くし

「機甲兵訓練については分校長が明日の自由行動日の午前中、ゲルドに機甲兵の基礎的な動かし方を教えてくれるとの事だ。」

「分校長が直々に………」

「そういう訳ですから、申し訳ありませんがゲルドさんの明日の自由行動日の午前中は機甲兵の操作を覚える為に潰れる事になりますわ……」

「……気にしないで。みんなより遅く分校に来た私はみんなに追いつくためにみんなより頑張らなくちゃならないのはわかっていて、分校に来たのだから。………ただ、正直”魔女”の私だと、機甲兵を操作して戦うよりも生身で戦った方がいいような気もするけど………」

リィンの答えを聞いたクルトが驚いている中セレーネは申し訳なさそうな表情でゲルドを見つめたが、ゲルドは謙遜した様子で答えた後困った表情で考え込みながら呟き、ゲルドの機甲兵で戦うよりも生身で戦った方がいいと言うとんでもない意見を聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「た、確かに機甲兵を操作していると魔術を詠唱して撃つような余裕はないものね……」

「まあ、ゲルドに限らず魔導杖(オーバルスタッフ)を使っている生徒達にとっては生身での戦いと勝手が違うからか操作には苦戦していたから、それを考えるとゲルドも機甲兵の基本操作に苦戦するだろうな……」

「と言うか魔術の授業でレン教官の提案によって見せて頂いたゲルドさんの上位魔術や最上位魔術の見た目や威力から推定すると、生身で機甲兵のような”兵器クラス”も破壊できると思われますから、正直ゲルドさんが機甲兵を操作しても戦力が増強どころか、大幅な減少になる為、ゲルドさんはむしろ機甲兵を操作して戦わない方がいいと思われるのですが。」

我に返ったユウナは苦笑し、クルトは困った表情で答え、アルティナはジト目で指摘した。

「ハハ、それはわかっているがゲルドも君達と同じ第Ⅱ分校の生徒なのだから、平等に扱う必要があるから当然機甲兵訓練も受けてもらう。」

「明日の午前9:00に格納庫に来るようにと分校長から伝言を預かっていますから、覚えておいてくださいね。」

「……明日の午前9:00に格納庫ね。わかったわ。」

アルティナの指摘にリィンは苦笑しながら答え、セレーネが伝えたリアンヌ分校長の伝言にゲルドは静かな表情で頷いた。



「―――ちなみに次もメンフィル両皇帝の”要請”があったらリィン教官達だけ別行動を?」

「そう言えば……」

「実力不足は否定しませんが全く当てにされないのも……」

アルティナの質問を聞いたユウナとクルトはそれぞれ複雑そうな表情を浮かべ

「……正直に言わせてもらえば君達の身を案じてでもある。だが、入学して2ヵ月近く、君達も鍛えられてきたようだ。確約まではできないが――――次は協力して欲しいと思っている。」

「あ……」

「言いましたね!?よーし、言質は取った!」

「……力を尽くします。稽古なども付けてもらえれば。」

「………勿論私も教官達に協力するわ。私もみんなと同じ”Ⅶ組”の一員だもの。」

リィンの答えを聞いたアルティナ達はそれぞれ明るい表情を浮かべ、ゲルドは静かな表情でリィンを見つめて協力を申し出た。

「ああ、考えておくよ。――――HRは以上だ。アルティナ、号令を頼む。」

「はい。起立―――礼。」

HRが終わり、教官室でセレーネや他の教官達と短めのブリーフィングを終えたリィンは分校内の見回りを始めた―――――




 

 

第31話

その後分校内の見回りを終え、宿舎に戻ったリィンは自室で明日の授業に備えて準備をしていた。



~第Ⅱ分校専用宿舎・リィンの私室~



「ふう……こんな所か。(教官としての仕事も何とかこなせるようになってきたな。)」

準備を終えたリィンが一息つくとリィンのお腹から空腹を示す音が鳴った。

「食事を忘れてたな……(8時過ぎ――――エリゼ達に頼むのもちょっと申し訳ないか。宿酒場ならまだやってるだろうしたまには出かけてみるかな?)」

外食をする事を決めたリィンは部屋にかけてあった教官用の制服を身に纏い、宿舎を出て宿酒場に向かった。



~宿酒場”バーニーズ”~



「おや、リィン教官。こんな時間に珍しいですね。」

「はは……今からでも大丈夫ですか?」

「ええ、もちろん。どうぞ座ってください。」

「おっと。お前さんも来てたのか。」

リィンが席に座ろうとしたその時出入り口から現れたランディがリィンに声をかけて近づいた。

「あ、ランディさん、いらっしゃいませー。」

「ランディ……ひょっとして、まだ学院に?」

「ああ、ちょっと野暮用でな。そっちも夕食、まだだったりするか?」

「ああ、色々と片づけていたら食べそびれてしまって。」

「そうか。………そういや、確かお前も成人してたな?折角だし、たまには呑まないか?」

「ああ、俺でよければ喜んで。」

ランディの誘いに乗ったリィンはランディと共に食事をとり始めた。



「そうか……小要塞で個人的な訓練を。」

「ああ、シャーリィに鉄機隊の連中――――”結社”の残党も現れやがったからな。ガチでやり合いたくはねえが、実戦のカンが鈍らねえようにしておこうと思ったんだ。」

「そうか………そう言えばずっと気になっていたが、ランディはやっぱりフィーの事も昔から知っていたのか?西風の旅団と赤い星座の関係は一応知っていたが……」

ランディの話を聞いたリィンはある事が気になり、ランディに訊ねた。

「ま、最強を競い合っていた双璧同士だったからな。妖精か……前に見た時はほんの子供だったが大きくなったモンだぜ。しかも1年半前、クロスベル奪還の為に駆けつけて来る前のお前さん達―――”特務部隊”の指揮下に入ったメンバーである”前のⅦ組”の中にいて、お前さん達と一時期協力関係だった事には驚いたぜ。」

「俺もメンフィル帝国から貰った旧Ⅶ組のメンバーの情報を見た時最初は驚いたよ。あんな年下で小柄の女の子が大陸最強の猟兵団の一員だった事にな。」

「そうか?”殲滅天使”なんていう妖精よりもとんでもない天使が祖国の皇女の一人であるお前さんにとっては”今更”じゃねえか?」

「ハハ、言われてみればそうだな。」

ランディの指摘にリィンは苦笑しながら同意した。



「しかし1年半前か………アリオスのオッサン達に一度負けた俺やロイド達が離れ離れになって、再び集まった時もお前や姫もいつか必ず支援課に戻ってくると信じていたが……まさか、メンフィルとエレボニアの間で起こった戦争をたった一週間で終わらせた挙句エレボニアの内戦まで終結させてから戻ってくるなんて、あの頃の俺達は想像すらもした事がなかったぜ。」

「ハハ、別に俺だけの力で”七日戦役”や内戦を終結させた訳じゃないんだが………戦力面といい、知識の面でいいといい、ベルフェゴール達には世話になりっぱなしだよ。実際メンフィルとエレボニアの戦争を早期に終結させる方法を思いついたのはベルフェゴールだしな。」

苦笑しながら自分を見つめるランディの言葉にリィンも苦笑した後懐かしそうな表情を浮かべた。

「ったく、ロイドといい、お前といい、女どころか協力してくれる異種族まで恵まれすぎだろ!俺に協力してくれる異種族は、あの虎娘と微妙にキャラが被っている”アレ”だぞ?」

「え、えっと……いいのか?今のランディの言葉、間違いなく本人(エルンスト)にも聞こえているんじゃないのか?」

疲れた表情で声を上げた後肩を落としたランディの言葉にリィンは冷や汗をかいた後困った表情でランディに訊ね

「エルンストの奴はクールダウン代わりに街道の魔獣を狩って行くとか言って勝手に街道に行きやがったから、今は俺の身体の中にはいねーよ。」

「ハハ…………」

ランディの答えを聞くと再び冷や汗をかき、苦笑していた。



「しかもエレボニアの内戦でお嬢とティオすけのキャラと微妙に被っている女の子達とあのRF(ラインフォルトグループ)の会長の一人娘なんていうお嬢よりもセレブなお嬢様をハーレムに加えた挙句、エレボニアのお姫様まで嫁さんにしやがって………ロイドよりも上に思えるお前のリア充度はマジで一体どうなってやがるんだよ!?」

「いや、そんな事を言われても困るんだが………というかティオと似ている女の子ってもしかしてアルティナの事か?ステラとアリサはともかく、以前にも説明したようにアルティナはそんなつもりで引き取っていないんだが………」

悔しがっている様子のランディに睨まれたリィンは疲れた表情で答えた後困った表情を浮かべた。

「どうかね………ロイドに落とされたティオすけの例を考えると、アルきちもとっくにお前さんに落とされているんじゃねぇのか?」

「いや、それとこれとは話が別だろ……」

アルティナとの関係を怪しがっているランディにリィンは呆れた表情で溜息を吐いて答えたが

「そう言えばお前さんには巨乳フェチの疑いがあったからな。それを考えると今のアルきちだとお前さんにとっては対象外か♪」

「ブッ!?今までの話から何でそんな答えが出てくるんだ!?というかそもそも俺は女性の身体的特徴だけで、エリゼ達と将来を共にする事を決めた訳じゃないぞ!?」

ある事を思い出してからかいの表情を浮かべたランディの推測を聞くと吹き出し、疲れた表情で反論した。



「いや、RF(ラインフォルトグループ)の会長の一人娘は会った事がないから知らないが実際お前のハーレムメンバーは巨乳ばっかりだし、キー坊くらいだった頃の姫には手を出さず、大人になって巨乳キャラに仲間入りした姫には手を出したんだから、そう疑われても仕方ないと思うぜ?」

「何気にエリゼ達やセレーネを邪な目で見るような評価は止めてくれ。大体”成竜”になったセレーネやアリサはともかく、1年半前のエリゼやアルフィン、ステラの胸はそんなに大きくは…………――――あ”。」

(リ、リィン様………思いっきり自爆していますわよ……)

(というか実際リィンは私達と”する”時の事を考えるとランディの推測も強ち間違ってはいないと思うのよね……)

ランディの指摘に顔に青筋を立てて反論した後呆れた表情で話を続けたリィンだったが失言をした事にすぐに気づくと冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、二人の会話をリィンの身体の中や神剣から見守っていたメサイアは呆れ、アイドスは苦笑していた。

「このヤロウ、やっぱり1年半前の時点でベルフェゴール姐さん達だけに飽き足らずエリゼちゃん達ともうらやまけしからん事をやっていやがったな………オラ、遅くなったがロイドやお嬢の時のようにお前にも成人祝いに今日は奢ってやるから、その代わりにエレボニアで増やしたお前の新たなるハーレムメンバーとの馴れ初めを聞かせてもらうぞ!」

ジト目でリィンを見つめたランディは気を取り直して空になったリィンのグラスに追加の酒を注ぎ

「いや、飲み慣れていないからせめて酒は程々にしてくれ………」

追加の酒を注がれたリィンは疲れた表情で答えた。



その後食事や酒を終えたリィンはランディと共に宿舎に戻り、部屋の前でランディと別れて自室に入るとベッドに倒れ込んだ。



~第Ⅱ分校専用宿舎・リィンの私室~



「……ふう……さすがに結構キツイな。アルコールか………支援課の頃は呑めなかったのもあるけど……(けど、楽しかったな………”Ⅶ組”や”特務部隊”が集まった時もそうだが、いつか支援課のメンバー全員とも集まって飲んでみたいな………)」

ベッドに倒れ込んだリィンがⅦ組や特務部隊、そして特務支援課のメンバーとお酒を飲んでいる様子を想像しているとリィンのARCUSⅡから”Ⅶの輪”が起動している音が鳴り始めた。

「あ……」

「やあ、リィン。半年ぶりだな。」

「マキアス……!」

リィンが”Ⅶの輪”を起動すると眼鏡の青年―――――旧Ⅶ組メンバーの一人にして”革新派”の有力人物である帝都知事の息子のマキアス・レーグニッツの顔がARCUSⅡに映った。

「少し遅い時間だが大丈夫だったか……?って、顔が少し赤いみたいだが。」

「ああ……付き合いで飲んでちょうど帰ってきたところさ。」

「そうか……お互い成年だもんな。僕の方も、職場の付き合いでそこそこ機会があってね。今度会ったら一緒に飲もう。当然、他のメンツも合わせて。」

「はは、ちょうど同じことを俺も思っていたところさ。―――仕事、忙しそうだな?よりにもよって”監査院”だもんな。」

「やりがいはあるさ。君の所と同じくらいには。予想通りというか……色々と透けて見え始めてね。やり応え半分、手を出せないジレンマ半分って所かな。」

「それは……大変だな。」

マキアスの現状をしったリィンは同情の視線でARCUSⅡに映るマキアスを見つめた。



「はは、お互い様だろう。」

「―――エリオットから先日のサザ―ラントの件は聞いたよ。結社の動きに、政府の思惑……キナ臭くなり始めるみたいだな?」

「ああ………予想通りと言うべきか。来週には次の地方演習もあるし、何かあれば見極めてみるつもりだ。」

「フフ、それなんだが……―――君達の演習先に僕も出張で行くかもしれない。」

「そうなのか……!?って、俺もどこになるかまだ聞いていないんだが……」

「そうなのか?次の君達の演習先は場所が場所だから既にプリネ皇女殿下達あたりから聞いていると思っていたのだが……」

「マキアスく~ん、いるかーい!?いるんなら付き合いたまえ~!無礼講と行こうじゃないか~っ!」

自分の話を聞いて驚いている様子のリィンを見たマキアスが意外そうな表情を浮かべたその時、通信先から別の男性の声が聞こえてきた。



「ライナー先輩?ちょ、ちょっと待ってください!」

「いいかいマキアスくん!僕はね、僕達はねえっ……!」

「……すまない、また連絡する。」

「はは……明日には演習地もわかるから俺の方から連絡するよ。」

「わかった。―――おやすみ、リィン。」

リィンがマキアスとの通信を終えた瞬間、再び”Ⅶの輪”が起動する音が聞こえ始めた。

「一晩に2回も来るなんて、初めてだな………―――――あ………」

再び”Ⅶの輪”を起動したリィンはARCUSⅡの映像に映った緑髪の女性――――元”特務部隊”の”参謀補佐”を務め、現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルンの側室の一人にしてシルヴァンを守護する親衛隊を率いている3人の将軍―――”皇帝三軍将”の一人でもあり、訓練兵時代のリィンとステラの恩師でもある”魔道軍将”セシリア・シルンが映った。

「―――久しぶりね、リィン。1年ぶりになるかしら?」

「セシリア教官……!はい、お久しぶりです。こうして通信で連絡して頂いた事を考えると、もしかして教官は今ゼムリア大陸のメンフィル帝国領のどこかにいらっしゃるのですか?」

「ええ、今は公務の関係でバリアハートの統括領主の城館に滞在しているわ。」

「そうだったんですか……いつまで、ゼムリア大陸に滞在する予定なんですか?」

「とりあえず”三帝国交流会”を終えるまではゼムリア大陸に滞在する予定よ。」

「!と言う事は教官も”三帝国交流会”に参加なさるのですか………!あ……そう言えばサザ―ラントの演習地でフランツが別れ際、教官やサフィナ閣下がエフラム皇子殿下とエイリーク皇女殿下と共にゼムリア大陸に来訪する公務があるような事を言っていましたが……もしかして、その公務は”三帝国交流会”の事だったんですか?」

「あら、フランツがそんな事を………――――ええ、ご名答よ。”三帝国交流会”が行われる場所は貴方も既に知っているでしょうけどクロスベル帝国の中心地である帝都クロスベル。そして貴方達―――第Ⅱ分校の”次の演習地”でもあるわ。」

「な―――――何故、クロスベルが第Ⅱ分校―――――エレボニアの士官学院の演習地に……!?今のクロスベルは”自治州”だった1年半前の時と違い、帝国――――完全に”他国”なのに、どうして第Ⅱ分校――――それもクロスベルとの国家関係が微妙な状況であるエレボニア帝国の士官学院の演習地に選ばれた―――いえ、そもそもクロスベル帝国政府はクロスベルが第Ⅱ分校の次の演習地になる事を了承しているのでしょうか?」

セシリアの口から語られた驚愕の事実に一瞬絶句したリィンは信じられない表情でセシリアに訊ねた。



「詳しい事情については明日のブリーフィングで説明される事になると思うから今は省くけど………帝都クロスベルが第Ⅱ分校の次の演習地になる事はクロスベル帝国政府も了承済みだから、現地でクロスベル側の関係でトラブルになる事は恐らくないと思うわ。ただ、そのクロスベル帝国政府―――いえ、ヴァイスハイト皇帝陛下がこのタイミングで驚きの行動に出たから、それも伝えておくわ。」

「局長―――いえ、ヴァイスハイト皇帝陛下は一体どのような行動に出たのでしょうか?」

「―――メンフィル帝国の大使館を通じてレウィニア神権国の王都プレイアにある”神殺し”セリカ・シルフィルに手紙を送ったのよ。」

「な――――セ、セリカ殿に……!?一体何の為……――――!まさか………クロスベルでも結社の動きがあり、その動きが”三帝国交流会”に関係していて”三帝国交流会”に何かあった時にセリカ殿で対抗する為ですか……!?」

更なる驚愕の事実を知って再び絶句したリィンはある事を察し、真剣な表情でセシリアに訊ねた。

「………状況を考えると恐らくはそうでしょうね。特務支援課は解散し、”六銃士”の仲間達もそうだけどクロスベルに所属している旧特務支援課のメンバーの一部も今は広大なクロスベル帝国の領土に散っている状況だから、結社に対抗できる”切り札”を一つでも多く備えておきたいのだと思うわ。」

「それは………―――ですがそれ以前に、セリカ殿は引き受けてくれるのでしょうか?1年半前にセリカ殿がクロスベルに滞在していた一番の理由はセリカ殿にとって恩人に当たるエステルさんの頼みだとの事ですし………ヴァイスハイト皇帝陛下はセリカ殿にとっては”知人”ではあっても、”恩人”ではありませんよね?」

「そうね。まあ、あくまで推測の段階だし今はそこまで気にする必要はないと思うけど………次の演習地でも”何が起こっても”対応できるように、気を引き締め直しておきなさい。」

「はい。ご忠告、ありがとうございます。」

「それともしクロスベルで”要請(オーダー)”が発生したら私とサフィナ元帥も貴方達に加勢するつもりだから、その時はよろしくね。それじゃあ、私はこの後セレーネ達にも今の件を連絡するからこの辺りで失礼するわ。――――お休みなさい、リィン。」

そしてリィンへの忠告を終えたセシリアは通信を切り

「ハハ……セシリア教官とサフィナ閣下が加勢してくれるなんて、とても心強いな……まあ、”要請(オーダー)”が発生するような出来事が起こらない方が一番いいんだけど。……酔いも醒めて来たしシャワーでも浴びて寝るか。ブリーフィングに各方面の要請……明日も忙しそうだからな。」

セシリアとの通信を終えたリィンはシャワーを浴び、明日に備えて休み始めた――――――


 

 

第32話

5月14日――――



翌日、”要請”という形で来た様々な方面の依頼をこなしていたリィンは校舎の中庭のベンチに座って休んでいるゲルドに気づき、ゲルドに声をかけた。



~第Ⅱ分校・中庭~



「フウ………」

「ゲルド、機甲兵教練の補習は終わったのか?」

「あ……リィン教官。ええ、さっき終わった所よ。何とか基礎の操作はできるようになったけど………みんなのように実戦で操作して戦える程上手くはなっていないと思うわ。」

「まあ、今の時点で機甲兵の操作が実戦でも十分通用する生徒達は非常に限られているし、それにゲルドは機甲兵どころか、常識等も違う異世界から来たんだからそんな状況で機甲兵に限らず他のカリキュラムにも1ヵ月遅れで追いつく必要があるのだから、そんなに気にする必要はないと思うぞ?」

僅かに残念がっている様子のゲルドにリィンは慰めの言葉をかけた。

「気を使ってくれてありがとう、リィン教官。でも私、この分校での生活がとっても楽しいの。だから、分校での生活が大変だなんて思った事もないわ。」

「ハハ、そうか………………そう言えば話は変わるがゲルドの部活動はテニス部だったな?」

「ええ、ユウナに誘われて体験入部をした時に”楽しい”って感じたし、クラスメイトのユウナとも協力する運動でもあるから、テニス部に入部したわ。………それがどうかしたのかしら?」

「いや、魔術やアーツを得意としている魔術師タイプ――――”魔女”であるゲルドがテニス部――――スポーツの部活動をするのはちょっと意外だと思っていたんだ。魔術師ではないけど、旧Ⅶ組のメンバーを含めた俺が知っている魔導杖(オーバルスタッフ)の使い手達が入っていた部活動はどれもスポーツのクラブじゃないしな。……まあ、偏見だと自覚してはいるんだが。」

「フフ、言われてみれば魔導杖(オーバルスタッフ)使いのタチアナとカイリが入っている部活も身体を動かす部活ではないわね。………私がテニス部―――身体をたくさん動かす部活動に入る一番の理由は”2度目の人生”はたくさんの人達と積極的に関わって色んな事にチャレンジしようと思っていたからなの。」

リィンの疑問を聞いたゲルドは苦笑した後静かな笑みを浮かべて答えた。



「あ………………その、ゲルドの事情はエリゼ達がある程度聞いているが………その口ぶりからすると、ゲルドの”1度目の人生”はあまり人に関わらず、何らかの目的の為にゲルドは旅をしていたのか?」

ゲルドの説明を聞き、ゲルドが自分がいた世界では死亡し、並行世界の”零の至宝”によって甦り、ゼムリア大陸に現れた事をエリゼ達から聞かされていた為ゲルドの事情もある程度知っていたリィンは呆けた声を出した後気まずそうな表情を浮かべてゲルドに訊ねた。

「ええ…………私の故郷と世界の人々の為に私は”予知能力”で見えたそれぞれの場所の”危険な未来”を避けるための予言を残していきながら、世界中を一人で旅をしていたわ………だから、別の世界のキーアのお陰で手に入った”2度目の人生”はみんなの為に孤独で生き続けた”1度目の人生”と違って、ずっと憧れていた”私が色々な人達との絆を結んだ私の為の人生”で生きるつもりなの。この世界に来た時に”予知能力”で見えたリィン教官達を含めたたくさんの人達と私が共に笑い合っている暖かい未来を見た時は嬉しかったな………私にもあんなにも暖かくて幸せな未来の可能性があるんだって………」

「ゲルド…………」

優し気な微笑みを浮かべたゲルドの様子を見つめたリィンはゲルドの頭を優しくなで

「ぁ…………」

「―――――だったら、ゲルドが見た”ゲルドにとっての幸せな未来”を叶えるためにもゲルド自身も、もっと頑張らないとな。勿論俺も教官の一人として可能な限りサポートするよ。」

(さ、早速ですか、リィン様………)

(ベルフェゴール達からは話に聞いていたけど、まさにゲルドの予言通り、ゲルドがリィンに心を寄せるきっかけをリィンが作ろうとしているわね……)

頭を撫でられて呆けているゲルドにリィンは優し気な笑顔を浮かべて答え、その様子を見守っていたメサイアは疲れた表情を浮かべ、アイドスは苦笑していた。

「リィン教官………ええ、そうね……!………未来の私もそうだけど、エリゼ達がリィン教官に恋をした理由、ちょっとだけわかった気がしたわ………」

「?何か言ったか?」

リィンの言葉に嬉しそうな表情を浮かべたゲルドはリィンから視線を逸らして苦笑しながら小声で呟き、ゲルドの様子が気になったリィンは首を傾げてゲルドに訊ねたが

「ううん、何でもないから気にしないで。」

ゲルドは苦笑しながら答えを誤魔化した。



その後ゲルドと別れたリィンは要請をこなし、時間がかかる為最後に残していたシュミット博士からの要請である更に難易度を上げた”アインヘル小要塞”の攻略を新Ⅶ組のメンバーと共に開始し、無事攻略を終えると学院の食堂で新Ⅶ組とティータにランチをご馳走し……予定の時刻も近づいたため、彼らと別れ、本校舎の戦略会議室でのブリーフィングに向かうのだった。



午後2:55―――



~戦略会議室~



「ようリィン、姫。ハーシェル教官とレン嬢ちゃんも。」

既に戦略会議室で待機していたリィンがセレーネ達と会話をしているとランディがランドロスと共に部屋に入って来た。

「あ、ランディさんとランドロス教官。」

「うふふ、ランディお兄さんとリィンお兄さんは昨夜は昔話で盛り上がっていたようね?」

「ほう、昨夜はそんな楽しい事をしていたのか。ったく、俺を呼ばないなんて水臭いぜ。俺も是非名高き”灰色の騎士”殿とランディの昔話を聞きたかったぜ。」

「アンタまで呼んだら、リィンどころか俺まで酔い潰されて今日に差し障るだろうが………実際ロイドやお嬢の成人祝いの時もどこで聞きつけたから知らねぇが、リア充皇帝やルイーネ姐さん達まで呼んで大騒ぎした挙句俺どころか主役の二人を酔い潰したじゃねえか……」

「そ、そんな事があったのか………というかそれ以前に何でレン教官がその事を……――――って、また人の記憶を勝手に読み取ったんですね?」

レンの指摘を聞いて若干残念がっているランドロスの言葉を聞いて呆れた表情をしたランディの話を聞いて冷や汗をかいたリィンだったがレンが昨夜の出来事を知っている事に気づいてすぐに理由を察すると呆れた表情でレンを見つめた。

「クスクス、何の事かレンにはわからないわ♪」

「ア、アハハ……リィン君達の仲の良さは相変わらずだね。」

小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化したレンに苦笑したトワは微笑ましそうにリィン達を見つめた。

「ま、お互い1年半前のクロスベルで色々と協力する事もあったからな。てなわけで、ハーシェル教官も俺の事はランディでいいぜ?教官同士、今後ますますチームワークが大切だろうしな。」

「ふふっ、それじゃあわたしもトワでいいですよ。よろしくお願いしますね、ランディさん!」

「おう!よろしくな、トワちゃん!」

「って、ちゃん付けは止めてくださいよ~!?」

「あら、そう?年齢よりも若く見える上可愛い呼ばれ方だし、トワお姉さんにはピッタリの呼ばれ方だと思うわよ?」

ランディの自分への呼び方にトワが不満を口にするとレンはからかいの表情で指摘した。



「アハハ……そう言えばランディさんはわたくしやエリィさん、アルティナさんの事もそうですが、ユウナさんの事も変わった呼び方で呼んでいますわね?」

「あー、クセみたいでつい付けたくなるんだよな。ティオすけ、キー坊、ヨナ公、アルきち……『トワたん』なんてどうだい?」

「ちゃ、ちゃんでいいです、ちゃんで!」

「うふふ、それじゃあレンにはどんな変わった呼び方をしてくれるのかしら♪」

「そうだな……」

「フフ、賑やかですね。」

呼び名の件でその場が盛り上がっているとリアンヌ分校長が部屋に入って来た。

「っと………」

「す、すみません。」

「いえ、若人同士打ち解けて何よりです。それに教官同士の結束も佳きことでしょう。次の演習地は既にご存知の方達もいらっしゃると思いますが、前回より更に厄介な場所との事ですし。」

「あ………」

「うふふ、確かに”この国の士官学院にとってはある意味厄介な場所”かもしれないわね♪」

「クク…………」

リアンヌ分校長の指摘を聞いたセレーネは複雑そうな表情をし、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべ

「えっと、もしかしてリィン君達は既に”次の演習地”がどこか知っているの?」

「ええ、実は昨日セシリア教官から―――――」

「………待たせたな。」

セレーネ達の反応を見たトワはメンフィル帝国とクロスベル帝国出身の教官陣は既に次の演習地について知っていると思ってリィンに訊ね、訊ねられたリィンが答えかけたその時、ミハイル少佐が部屋に入って来た。

「あ、ミハイル教官、お帰りなさ――――え。」

ミハイル少佐に迎えの言葉をかけかけたトワだったがミハイル少佐の後に入って来た人物を見ると呆けた声を出し

「き、君は………」

「どうして貴方がこちらに………」

「へえ?話には聞いていたけど、随分と”変わった”わね。」

「クク……まさかこんな所でお目にかかるとはな…………」

(なんだ……?)

トワ同様ミハイル少佐の後に入って来た人物―――金髪の男子を見たリィンとセレーネは驚き、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべ、リィン達の反応が気になったランディは戸惑いの表情をしていた。

「ふふ……」

「出張ご苦労様です、ミハイル主任。―――そして皇太子殿下、ようこそお出で下さいました。」

リィン達の反応に金髪の男子が静かな笑みを浮かべているとリアンヌ分校長はミハイル少佐と金髪の男子にそれぞれ声をかけた。

「いえ、突然の訪問、申し訳ありませんでした。トールズ士官学院・本校所属、セドリック・ライゼ・アルノールです。この度は、士官学生としてではなく――――皇族・アルノール家の人間として状況説明に参上しました。」

金髪の男子――――エレボニア帝国の皇太子にしてアルフィンの弟でもあるセドリック皇太子は自己紹介をした後ミハイル少佐と共に次の演習についての説明を始めた。



「……………」

「セシリア様からの連絡通りですわね………」

「ここが次の演習地、ですか………」

モニターに映る演習地の場所をランディは真剣な表情で見つめ、セレーネとトワは不安そうな表情を浮かべた。

「ええ、クロスベル帝国の帝都『光と闇の帝都クロスベル』――――1年半前に独立した元自治州であった国際貿易都市に行って頂きます。出発は金曜日の夜、期限は3日となる予定です。」

「その、幾つか疑問があるのですが……第Ⅱ分校がカバーする範囲は帝国西部になるという話では?」

「当初の予定としては、そうだ。――――だが来週末、『三帝国交流会』が帝都クロスベルにて開催される。」

「『三帝国交流会』の事は存じていましたが、その件と”特別演習”がどう関係してくるのでしょうか……?」

ミハイル少佐の説明を聞いてある疑問を抱いていたトワは質問をした。

「『三帝国交流会』の参加メンバーは言うまでもなくエレボニア、メンフィル、クロスベルの最高クラスのVIPになる。」

「当然我が国の最高クラスのVIP達も『三帝国交流会』に参加する為にクロスベルに向かう事になり、我が国としては彼らの身を守る為に正規軍や鉄道憲兵隊による万全の警備体制を敷きたい所ですが……開催場所がクロスベル帝国―――――”他国”の為、それをしてしまえば国際問題に発展しかねないですし、それ以前に幾ら最高クラスのVIPの警備の為とはいえ他国の軍を自国に滞在させるような案をクロスベルもそうですが他国が受け入れる事は常識的に考えてありえません。――――そこで短期間の”交換留学”という形で、”保険”の投入が決定され、クロスベル帝国政府との交渉の結果、”灰色の騎士”を始めとしたメンフィル、クロスベルの両帝国の英傑達を擁する新進気鋭のトールズ第Ⅱ分校………その特別演習地とする事をクロスベル帝国政府は承諾してくれました。」

「……そういう事、ですか。」

「えっと……先程皇太子殿下は”交換留学”としてクロスベルを第Ⅱ分校の特別演習地とする事を承諾したと仰いましたが、クロスベル側もエレボニア帝国の領土に対して何らかの組織を”留学”させるのでしょうか?」

ミハイル少佐とセドリック皇太子の説明を聞いたトワは複雑そうな表情で呟き、セレーネはセドリック皇太子に質問をした。



「はい。第Ⅱ分校の他にもクロスベルに留学させる組織があり、その組織と第Ⅱ分校と交代する形でクロスベル軍警察とクロスベル帝国の士官学生達が帝都(ヘイムダル)に留学する予定となっており、期限も第Ⅱ分校と同じです。」

「へえ?幾ら第Ⅱ分校のクロスベルでの特別演習を承諾させる為とはいえ、随分と思い切ったわね。他国の士官学生もそうだけど、警察組織の帝都(ヘイムダル)での留学まで受け入れるなんて。」

セドリック皇太子の答えを聞いたレンは意味ありげな笑みを浮かべてセドリック皇太子に問いかけ

「こちらも第Ⅱ分校―――――士官学生達を帝都(クロスベル)に留学させるのですから、同じ条件を受け入れないと”対等”ではないでしょう?”今のクロスベル”は1年半前と違い、エレボニアと同格―――下手をすればそれ以上の”国家”なのですから。」

「「…………………」」

「………なるほどな。皇太子殿はエレボニアの現状について冷静に受け止めているのか。」

セドリック皇太子の答えを聞いたリィンとランディが真剣な表情で黙っている中、ランドロスは興味ありげな様子でセドリック皇太子を見つめていた。

「――――趣旨は理解しました。しかし何故皇太子殿下ご自身がこちらへ?まるで帝国政府の意志を代弁されているかのような仰りようでしたが。」

「っ……!」

「ぶ、分校長……!」

リアンヌ分校長の指摘にセレーネは息を呑み、ミハイル少佐は慌てた表情を浮かべた。



「ふふ、ただの我儘です。元々トールズの理事長職は皇族が務める慣わし。昨年、本校から兄が退き、今は空席となっていますが………アルノールの末席として一度この目で第Ⅱ分校の様子を確かめたいと考えまして。」

「なるほど………実際にお目にかかるのは初めてになりますが、噂通り随分と見違えられましたね。―――その様子ですと”良き薫陶”に恵まれたようですね。」

「ええ、おかげさまで。」

「コホン……聞いた通り特別演習地はクロスベル帝国の帝都クロスベルとなる!移動計画を作成するためハーシェル教官は残って欲しい!本日は解散―――皇太子殿下に敬礼を!」

その後ブリーフィングを終えたリィン達は部屋から出た後、軽く今後の事について会話をした後それぞれ別れるとある人物がリィンに声をかけた。



~廊下~



「―――リィンさん。」

「皇太子殿下……―――ご無沙汰しています。ちょうど1年ぶりでしょうか。」

「ふふ、そうですね。今年の年始のパーティーは不在で申し訳ありませんでした。リーゼロッテから話を聞いて悔しい思いをしたものです。」

「……勿体無いお言葉。」

声をかけてきた人物―――セドリック皇太子の言葉にリィンは謙遜した様子で答えた。

「リィンさん、よかったら少し時間をいただけますか?これまでの事、これからの事……色々話したい事があるんです。」

その後セドリック皇太子の提案に頷いたリィンはセドリック皇太子と共に屋上へと向かった―――――
 

 

第33話

~第Ⅱ分校・屋上~



「フフ、良い街ですね。帝都近郊にありながら落ち着いて過ごしやすそうだ。旧Ⅶ組も馴染み深い、本校のあるトリスタ同様に。」

リィンと共に屋上からの景色を見つめていたセドリック皇太子は感想を口にし

「ええ………」

セドリック皇太子の感想にリィンは静かな表情で同意した。

「―――本当なら去年、本校に入学するはずでした。リィンさんと縁深いあの旧Ⅶ組の後輩として過ごせた筈なんです。ですが、旧Ⅶ組は全員本校から去り、僕自身も再び体調を崩して諦めざるを得ませんでした。悔しいし、心残りですよ。」

「殿下……―――殿下はまだ17歳、焦る必要は全くないでしょう。自分は殿下と違い、入学すらもしていないのですから。」

「フフ、それはいいんです。今年、本校に入学したのは結果的に良かったと思っています。―――この1年で背も随分伸びましたしね。」

「ええ、本当に見違えました。武術の訓練なども熱心にされている様子……ご立派になられましたね。アルフィンも今の殿下を見れば、きっと驚くと思います。」

「ふふ………まだまだです。アルフィンにも後で挨拶はして帰るつもりですが…………改めてお礼がしたいと思っていたんです。あの時、”Ⅶ組”や”特務部隊”の皆さんが助けてくれなかったら僕の命は危なかったでしょう。もしくは、今もカイエン公の傀儡であり続けたかもしれません。……本当にありがとうございました。」

「……恐縮です。それに、殿下をお救いしたのは自分達の力だけではありません。トールズ本校の皆や、オリヴァルト殿下を始めとする協力者の方々……――――それ以外にも力を貸してくれた者もいます。」

「歌姫クロチルダさんですね。」

「え………」

セドリック皇太子が知るはずのない協力者を知っている事にリィンは呆けた声を出した。



「リィンさん達に”蒼の騎神”ごと敗れたクロウさんがメンフィル帝国に対する憎悪や悔しさ等によって、そんなクロウさんの感情に反応した”紅蓮の魔王”がクロウさんと一体となり、暴走してしまったこと……そして――――戦いの末、”紅蓮の魔王”に生命エネルギーを奪われた事によってクロウさんが命を失った事も、あの時意識が混濁していたはずの僕の脳裏に不思議とその光景が見えていたんです。」

「!?」

セドリック皇太子の説明を聞いたリィンは驚きの表情でセドリック皇太子を見つめた。

「カイエン公の協力者とはいえ、クロチルダさんは力を尽くしてくれましたし、クロウさんはある意味僕の身代わりになったともいえます。その結果クロウさんは――――――ずっと悔やんでいたんです。あの時、僕に”力”があれば……何者にも屈することのない”揺るぎない力”があれば―――カイエン公に利用されず、メンフィル帝国との戦争も起きなかっただろうにと……」

「殿下……」

「ですが今年……僕は改めてトールズに入学しました。真に国家の礎たる人材を育成するため”生まれ変わった”本校に――――これでも首席で合格したんですよ?」

「それは……素晴らしいですね。両陛下やオリヴァルト殿下、リーゼロッテ殿下やアルフィンも鼻が高いでしょう。」

「―――いえ、まだまだです。もっともっと、”強く”ならなければ……僕の”弱さ”のせいで傷つく人をこれ以上出さないためにも……ああ、そうだ………そのためにも僕は………」

「………殿下……?」

決意を口にした後片手で頭を押さえて独り言を呟き始めたセドリック皇太子を不思議に思ったリィンは戸惑いの表情で声をかけたその時、我に返ったセドリック皇太子がリィンを見つめて驚愕の提案をした。



「――――ですから、リィンさん。次の特別演習が終わったら本校に移ってもらえませんか?」

「え………………」

「第Ⅱ分校は悪くない環境ですがそれでも本校の”二軍”でしかない。今年の本校は、前途有望な候補生も多く、設備や教官陣も遥かに充実しています。若き英雄たる”灰色の騎士”が指導するならどちらが相応しいか……フフ、議論するまでもないでしょう?」

「…………――――それはできません。」

「………………え。」

自身の提案を聞いて少しの間考え込んだ後断りの答えを口にしたリィンの答えを聞いたセドリック皇太子は一瞬固まった後呆けた声を出した。

「自分には、新たな”Ⅶ組”を始め分校生全員を指導する役目があります。まだ着任して2ヵ月足らず……放り出すわけにはいきません。そしてこれは殿下もご存知と思いますが……自分はメンフィル帝国政府の指示によって、第Ⅱ分校の教官の一人として派遣されています。その為、メンフィル帝国政府の許可もなくそのような事はできません。ですから……申し訳ありません。」

「っ………皇太子の頼みであっても、ですか?」

リィンの答えを聞いたセドリック皇太子は唇を噛みしめた後真剣な表情でリィンを見つめて問いかけた。



「……畏れながら、自分の忠誠は身元不明であった自分を重用し、”七日戦役”勃発時は山里である故郷(ユミル)の為にわざわざ正規軍や皇族の親衛隊に加えて皇族の方まで派遣して頂いた大恩あるリウイ前皇帝陛下やリフィア皇女殿下を始めとしたメンフィル皇家の方々です。そして自分の第Ⅱ分校への派遣はメンフィル帝国政府を通したリウイ前皇帝陛下の指示です。例えユーゲント皇帝陛下の勅命であっても、第Ⅱ分校の教官を辞めて本校の教官に就く事はできません。」

「………納得できませんね。」

リィンの説明を聞いたセドリック皇太子が不満げな表情で呟いたその時

「で、殿下……!?」

いつの間にかユウナ達と共に屋上に来ていたクルトが驚きの表情でセドリック皇太子を見つめていた。

「クルト……?ユウナにアルティナ、ゲルドまで………」

「やあクルト、久しぶりだね。」

「え………」

クルトが顔見知りのような口ぶりで話しかけたセドリック皇太子の様子にリィンは驚いてセドリック皇太子に視線を向けた。

「半年ぶりか――――会えて嬉しいよ。でもまさか、君が第Ⅱ分校なんかに入ってしまうなんてね。」

「……っ……殿下……本当に殿下なのですよね?」

憐れみの視線で見つめてきたセドリック皇太子に対してクルトは息を呑んだ後困惑の表情を浮かべた。



「フフ、結構背が伸びたから驚くのも無理はないか。まあ、君は君の方で大変だったみたいだからね。長きに渡る”皇族守護職からのヴァンダール家の解任”――――ショックだったのはわかるがだからといって本校への入学を辞退することなどなかったんだ。丁度いい、君もリィンさんと共に本校に移ってくるといい。そして望み通り、僕の護衛を務めながら切磋琢磨して欲しい。――――政府の決定ごとき僕の一存でどうとでもできるからね。」

「………………」

「ちょっと君、何様のつもり!?なんか似た制服を着てるけど関係者なわけ!?」

セドリック皇太子の提案にクルトが呆けている中ユウナはセドリック皇太子を睨んで反論したが

「いや、ユウナ――――」

「トールズ本校の制服ですね。こちらの方はセドリック・ライゼ・アルノール。エレボニア帝国の皇太子殿下であられます。」

「え”。」

「エレボニア帝国の皇太子という事はもしかして、アルフィンの弟かお兄さん……?」

「ああ、皇太子殿下はアルフィンの双子の弟君に当たる。」

アルティナからセドリック皇太子の正体を教えられると表情を引き攣らせ、不思議そうな表情で首を傾げているゲルドの推測にリィンは静かな表情で頷いてアルティナの説明を補足した。

「フフ、僕の顔を知らないとは外国人か属州民なのかな?黒兎のお嬢さんも久しぶりだ。君の話はレクター少佐から聞いているよ。まあ、リィンさんが本校に移ったら君が本校に移ることも認めてあげよう。」

「はあ……………本校に移る?」

「って、何それ!?」

「!(今のは………)………………………」

セドリック皇太子の提案にアルティナが不思議そうな表情で首を傾げている中ユウナは驚きの声を上げている一方”予知能力”によってセドリック皇太子のある”未来”が見えたゲルドは静かな表情でセドリック皇太子を黙って見つめていた。

「それとそこの白髪のお嬢さん。アルフィンの事を呼び捨てで呼んでいるようだけど、リィンさんに降嫁した事でエレボニア皇女を辞めたとはいえ、世間ではアルフィンの事は未だエレボニア皇女扱いだから、今後はアルフィンに対しても周りの人達のように皇族に対する接し方で接するように。どこの出身かは知らないが、第Ⅱ分校のような本校の”二軍”の生徒である君がエレボニア皇族であるアルフィンに対してそんな気安く接していると、僕達アルノール皇家まで世間に舐められる事になるからね。」

「………私は世間知らずだから貴族や皇族のような上流階級の人達の事情についてはよくわからないけど………私を養子にしてくれて、この学院に入る為のお金まで出してくれたお義父さんは”分家”の娘になったとはいえ、他国はともかくこの国での今の私の身分より上なのはこの国の王様と王妃様くらいだから、身分に関してはゆっくり学んでいいって言われているわ。」

「………?”分家”の娘でありながらこの国での君の身分の上は父上と母上しかいないって………君を引き取ったという養父は一体どういった立場の人物なのかな?」

ゲルドの答えを聞いたセドリック皇太子は眉を顰めてゲルドに訊ねた。

「………お義父さんはリィン教官達の祖国であるメンフィル帝国という国の前の王様だった人。今はリベール王国という国の”ロレント”という街の外にあるメンフィル帝国の大使館で”メンフィル大使”という仕事をしているわ。」

「!!…………なるほど、君がレクター少佐の報告にあった………フフ、これは失礼をした。確かに1年半前の件で和解したとはいえ、世間から見ればエレボニア帝国はメンフィル帝国に”敗戦”したようなものだからね。そんな立場であるエレボニアからすれば、分家の者でしかも養子とは言え、メンフィル帝国の皇家であるマーシルン家――――それもリウイ前皇帝陛下に連なる人物である君の身分で対等なのはせいぜい僕や兄上、リーゼロッテくらいで、その上になると父上や母上しかいないと仰っていたリウイ前皇帝陛下のご指摘通りだ。――――そう言うことならば、リィン教官達が本校に移ったら君の本校への編入も認め――――いや、歓迎するよ。」

ゲルドの説明を聞いてゲルドが何者かをすぐに察したセドリック皇太子は苦笑をした後口元に笑みを浮かべてゲルドにリィンやアルティナと同じ提案をし

「…………………」

提案をされたゲルドは何も答えず静かな表情でセドリック皇太子を見つめていた。

「―――返事は後日、改めて聞かせてもらいましょう。言い忘れていましたが本校に来て下さるのでしたら、勿論セレーネさんもリィンさんと一緒に本校に移る事も当然歓迎しますし、トリスタで貴方にとっての伴侶であるアルフィンやエリゼさん達と一緒に住む為の”別荘”も手配させてもらいます。いい返事を期待していますよ?リィン・シュバルツァー教官。」

そしてセドリック皇太子は背後に控えていた護衛の兵達と共にその場を去り、その様子をユウナ達と共に見守っていたミハイル少佐は疲れた表情で片手で顔を覆った。

「……………………」

(……僕は………夢でも見ているのか………?)

去って行くセドリック皇太子達をリィンがユウナ達と共に呆けた表情で見守っている中クルトは不思議そうな表情で首を傾げていた。



~15分後・宿舎~



「エリゼ、今晩のメニューはどうしようかしら?」

「そうね……パスタが残っているからメインはペペロンチーノかカルボナーラで、付け合わせのサラダとスープは――――……あら?」

「随分と騒がしいようだけど……何かあったのかしら?」

15分後宿舎の台所で夕食について話し合っていたアルフィンとエリゼだったが、外から聞こえてくる生徒達の騒いでいる様子の声に気づくと不思議そうな表情で首を傾げていた。するとその時食堂の扉が開かれ、セドリック皇太子が食堂に入って来た。

「…………え。」

「貴方は………」

セドリック皇太子の登場にアルフィンは呆けた声を出し、エリゼは目を丸くしてセドリック皇太子を見つめた。

「やあ、アルフィン。1年ぶりだね。」

「貴方……もしかして、セドリック……?」

セドリック皇太子に話しかけられたアルフィンは戸惑いの表情でセドリック皇太子に確認し

「フフ、酷いじゃないか。たった1年顔を見せなかっただけで双子の弟の顔を忘れたのかい?」

「そう言う訳ではないわ。………リーゼロッテの手紙にも、貴方の変貌について書いてあったけど………リーゼロッテが戸惑っていたのも無理はないわ。わたくしですら、1年半前とは比べ物にならないくらい変貌している今の貴方に戸惑っているもの。」

「1年半前の情けない自分と別れて強くなるために鍛錬をし続けたからね。さっき、リィンさんやクルトにも会ったけど二人とも今の僕を見て随分と驚いていたよ。」

「それはそうでしょうね………」

セドリック皇太子の言葉にアルフィンは静かな表情で頷いてセドリック皇太子を見つめた。



「エリゼさんもお久しぶりです。1年前とは比べ物にならないくらいとても綺麗になりましたね。リィンさんも大切な妹にして将来の伴侶でもあるエリゼさんがこんなにも素敵な女性に成長した事に鼻が高いでしょうね。」

「………恐縮です。」

「フウ……まさかお兄様のような軽口まで身に付けているなんて………エリゼは褒めて、実の姉のわたくしの成長については何も感想はないのかしら?」

セドリック皇太子の賛辞にエリゼが謙遜した様子で答えている中呆れた表情で溜息を吐いたアルフィンはジト目でセドリック皇太子を見つめ

「ハハ、勿論アルフィンも綺麗になっているよ。そのメイド服も中々似合っているじゃないか。リィンさんとの夫婦仲やエリゼさん達――――リィンさんの他の婚約者の人達との関係も良好と聞いているし、僕や兄上が”叔父”になる日も近いかもしれないね。」

「……余計なお世話よ。少なくてもわたくしやエリゼ達との結婚式を終えるまでは子供を作るつもりはないわ。第一、今のわたくしは第Ⅱ分校の宿舎の管理人の一人を務めているのだから、その業務の支障が出かねない事をする訳にはいかないでしょう?」

「……なるほど。宿舎の管理人の件で思い出したけどリーゼロッテから君のアストライア女学院の復学を提案されているそうだけど、君は第Ⅱ分校の宿舎の管理人を務めているという理由でリーゼロッテの誘いを断っているんだったね?」

「……ええ、それがどうかしらのかしら?」

「フフ、そう言うことならば話は速い。リィンさんが本校に移った際にアルフィンもリィンさんと一緒にトリスタに建設する予定のリィンさんやアルフィン達専用の別荘に移ってくれば、アルフィンも宿舎の管理人をする必要はないし、トリスタから女学院に通う事もできるよ。」

「え………」

「セ、セドリック……?リィンさんが本校に移るとか、トリスタにリィンさんやわたくし達専用の別荘を建設する予定って一体どういう事……!?」

セドリック皇太子の提案を聞いたエリゼが呆けている中アルフィンは困惑の表情でセドリック皇太子に訊ね

「詳しい事はリィンさんに聞くといいよ。それと勿論エリゼさんやセレーネさんもリィンさんやアルフィンと一緒にトリスタに移ってくる事を想定した別荘を建設させるつもりですので、エリゼさんも安心してトリスタに来ていただいて構いませんよ。――――それじゃあ、今日の所はこれで失礼するよ。」

そして一方的に要件を伝えたセドリック皇太子はその場から去り

「………随分と一方的な性格の皇太子に変貌したようですね。」

「そうね~。私なんて一瞬誰?って思ったもの。」

「セドリック………この1年の間に一体何があってあんな性格に………」

「アルフィン………」

セドリック皇太子がその場から離れるとそれぞれの身体の中から出て来たリザイラとベルフェゴールは変貌したセドリック皇太子の感想を口にし、疲れた表情で呟いたアルフィンの様子をエリゼは心配そうな表情で見守っていた。



~本校舎1F・教官室~



一方その頃ミハイル少佐と共に教官室に戻ったリィンはミハイル少佐に屋上でのセドリック皇太子との会話について説明をした。

「―――事情はわかった。妙に乗り気でいらっしゃったからどういう事かと思ったが………」

「………殿下のご訪問は突然の話だったんですね?」

「ああ……私も面喰っていた所だ。ふむ…………――――君の第Ⅱへの配属は各方面の意向や君自身の意志が合致して実現したものだ。私とて、この時期に移籍するなど筋が通らないとも思っている。だが、相手はこのエレボニアを継ぐ至尊の座が約束された方でもある。」

「それは………」

「殿下が強く希望されたら政府も頷かざるを得ないだろう。ただ、問題はメンフィル帝国政府の許可も必要になる事だが………判断は君自身に委ねる。気が変わったら私に言いたまえ。」

その後教官室を出たリィンは校舎や街を見回った後宿舎へと戻り、宿舎の食堂で夕食を取って自室に戻り明日に備えての準備を終えてラジオ番組を聞き終えるとマキアスに連絡をし、ラジオや次の演習地について話し合っていた。



~宿舎・リィンの私室~



「いや、しかしやっぱりミスティさんはミスティさんだな。僕もよく聴いていたが、軽妙でユーモアのある語り口もあの頃のままというか……途中から”魔女”だという事も忘れてすっかり聴き入ってしまったよ。」

「はは、確かにな。………しかし”光と闇の帝都”クロスベル、か。タイミングが良すぎて驚いたな。マキアスの出張先がクロスベルだったのも驚きだが。」

「はは、それについては昨夜僕が言った通りになっただろう?現地についたらクロスベル軍警察の業務を手伝う事になるが……お互い忙しいだろうが何とか会える時間を作れないか?」

「ああ、もちろん。お互い連絡を取り合うとしよう。そう言えば………”三帝国交流会”に参加するエレボニアのメンバーについてはマキアスの方ではわからないのか?」

マキアスの提案に頷いたリィンはある疑問を思い出し、マキアスに訊ねた。

「ああ……監査院は立場上、政府の情報は伝わらなくてね。何となく見当はつくが……まあ、憶測は止めておこう。―――それより、皇太子殿下の成長ぶりは、帝都でも話題になっているが……君をいきなり引き抜こうというのはさすがに驚きだな。」

「いや……こちらも素っ気なく断りすぎたかもしれない。機会があればもう一度、きちんと話したいんだが……」

その後マキアスとの通信を終えたリィンは明日に備えて休み始めた――――


 

 

第34話


5月15日――――



~格納庫~



翌日、機甲兵教練の為にⅨ組の生徒達が機甲兵のメンテナンス等をしている中その様子を見守っているランディにリィンは近づいた。

「なんだかんだ、主計科の連中も様になってきたじゃねえか。トワちゃんやレン嬢ちゃん、それに爺さんの指導が適切なのかもしれんが。」

「どの人物も非凡な人だからな。博士はまあ、放任主義みたいだが。生徒達も頑張っていると思うし……前回よりは上手くこなせると思う。」

「ああ……ここでの違いは緊急時の対応を左右するからな。戦術科や特務科の連中も負けずに仕上げるとしようぜ。」

「ああ……!」

ランディの言葉にリィンは力強く頷いた。

「そういや―――話は変わるが、あの後、大変だったんだって?」

「ああ……もう少し上手い断り方ができたと思うんだが……」

ランディの指摘で昨日のセドリック皇太子の勧誘の件を思い出したリィンは困った表情を浮かべた。

「はは、人気者はツラいねぇ。それにしても……あれがエレボニアの皇太子か。オリヴァルト皇子やアルフィンちゃんと比べたら親しみは感じにくかったな。というか正直あの皇太子とアルフィンちゃんは双子らしいが、似ているのは容姿だけで性格に関してはなんつーか、真逆だな。まあ、誰が皇族っぽいかといえば、皇太子の方かもしれんが。」

「そうだな………」

ランディのセドリック皇太子に関する感想にリィンは静かな表情で同意した。その後準備を終えたリィン達は2度目の機甲兵教練を開始した。



2~4限 機甲兵教練



~グラウンド~



「―――ウェイン!重心移動には気をつけろ!咄嗟の旋回ができれば前回みたいな対戦車砲の直撃もギリギリ回避できるぞ!」

「りょ、了解であります……!」

「マヤ、お前の持ち味はアウトレンジでの行動だ!狙撃、支援、移動―――常に距離を保ちつつ即行動に移れるようにしろ!」

「イエス・サー。」

「………………」

「昨日の事……まだ引きずってる?」

「殿下のお誘いについて迷っているんですか?」

「えっと……セドリック皇太子はクルトの実家の事についても言っていたけど……それも関係しているのかしら?」

生徒達と共に機甲兵教練を見守っていたクルトは複雑そうな表情を浮かべて黙り込み、クルトの様子に気づいたユウナやアルティナ、ゲルドはそれぞれクルトに訊ねた。

「まさか……今更考えられないさ。……それでもいつか一命を賭してでもお守りしようとしていた方だ。本校行きを辞退した事が本当に良かったのか……つい考えてしまってね。」

「そっか………」

「…………………」

「………少なくてもクルトが本校に行かなかった事はクルトの人生にとっては、よかったと思うわ。」

クルトの答えを聞いたユウナとアルティナが静かな表情でクルトを見つめている中ゲルドは静かな口調で指摘し

「?それはどういう意味―――――」

ゲルドの指摘が気になったクルトがゲルドに訊ねかけたその時、格納庫からトワやティータ、本校の卒業生で臨時整備員として就任したミントが出て来た。



「も~、強引だなぁ。」

「あのあの……!いきなりっていうのは!」

「と、とにかく分校長を呼んできますから……!」

「……?何かあったのかしら。」

格納庫から出て来たミントとティータが格納庫に向かって反論している中トワはARCUSⅡを取り出して誰かに通信を始め、その様子に気づいて生徒達と共にトワたちの様子を見ていたレンは眉を顰めた。するとその時格納庫から何かの音が聞こえ

「この音は……」

「機甲兵の移動音……?」

「え、でも機甲兵ってここにあるの以外は……」

格納庫から聞こえてきた音にクルトと共に眉を顰めたアルティナの推測を聞いたユウナが首を傾げたその時、格納庫から真紅の機甲兵を先頭に3体の機甲兵が現れた。

「ええっ!?」

「赤い……機甲兵……」

「ドラッケン―――いや。」

「上位機に相当する”シュピーゲル”ですね。」

突然現れた3体の機甲兵にユウナは驚き、ゲルドは呆け、クルトとアルティナは真剣な表情で赤い機甲兵を見つめた。

「へぇ……?」

「トールズの紋章……?」

「ええ……!しかもあのデザインは――――」

新たに現れた機甲兵に刻まれている”トールズ本校の紋章”に気づいたアッシュは興味ありげな表情をし、グスタフは眉を顰め、何かに気づいたゼシカは血相を変えた。



「そこの3機、止まれ!」

するとその時ヘクトルを操作しているランディが3体の機甲兵に声をかけた。

「お前ら……どっから沸いてきた?」

「どうやら貨物列車で到着したみたいだが……所属と名前を名乗ってもらおうか?」

「――――ええ、それは勿論。」

「あら、この声は……」

「ほう~?」

リィンの問いかけに対して答えた赤い機甲兵の操縦者の声を聞いたリィンとランディが驚いている中、レンは目を丸くし、ランドロスは不敵な笑みを浮かべた。

「トールズ士官学院”本校”所属、セドリック候補生以下3名です。第Ⅱ分校の機甲兵教練への特別参加を希望し参上しました。」

「………!」

「ええっ……!?」

「”特別参加”ねぇ?」

「”飛び込み”とは、中々わかっているじゃないか。だぁっはっはっはっ!」

「い、一体何が目的で………―――――あ。」

「おいおい……昨日の今日でかよ。」

赤い機甲兵――――シュピーゲルの操縦者であるセドリック皇太子の答えを聞いたリィンとユウナは驚き、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、ランドロスは感心した後豪快に笑い、セレーネは戸惑っていたがすぐにセドリック皇太子の目的を悟ると呆けた声を出してリィンが操縦するドラッケンに視線を向け、ランディは呆れた表情で溜息を吐いた。



「殿下……!一体どうして……!?」

するとその時クルトが前に出てセドリック皇太子に真意を問いかけた。

「言っただろう。返事を聞かせてもらうって。それと―――今の僕の実力を君やリィンさんにも知ってもらいたくてね。」

「え………」

「3機、出してください。本校と第Ⅱの親善試合と行きましょう。――――できれば相手は”Ⅶ組”を希望しますが。」

セドリック皇太子の要求にその場にいる全員は血相を変えた。

「おいおい、皇太子殿下。無茶言わないでくださいよ。こっちはしかるべき手順と安全を考えてやってるんでね。」

「………自分達の権限ではとても認められません。せめて自分達教官が稽古をつける形ならば――――」

一方ランディとリィンはセドリック皇太子の要求を断ろうとしたが

「構いません――――私が許可します。これもまた常在戦場。互いによき刺激になるでしょう。存分にやり合いなさい。」

「……ううっ………」

「こ、こんな事が上に知られたら……!」

「うふふ、分校長さんの事だからそう言う事になると思っていたわ♪」

「クク、さすが分校長殿はよくわかっているじゃねぇか!」

何といつの間にミハイル少佐と共に現れたリアンヌ分校長がセドリック皇太子の要求に答える答えを口にし、リアンヌ分校長の答えを聞いたトワは疲れた表情で肩を落とし、ミハイル少佐は頭痛を抑えるかのように片手で顔を覆い、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ランドロスは不敵な笑みを浮かべていた。



「…………」

「―――行こう、クルト君!ここまで言われて引き下がってもいいの!?」

セドリック皇太子が操縦する機体を見つめて考え込んでいたクルトに声をかけたユウナはアルティナやゲルドと共にクルトに駆け寄った。

「っ………―――わかった。畏れ多くはあるが……!」

「でしたらわたしかゲルドさんを入れてちょうど3人ですか。」

「わたしはまだ基本操作くらいしかできないから、アルティナがユウナとクルトと一緒にセドリック皇太子達と試合をした方がいいわよね……?」

「ハッ、こんな面白いイベント、てめえらで独占すんじゃねえよ。」

セドリック皇太子達との親善試合のメンバーをⅦ組のメンバーが決めかけたその時、アッシュが制止の声をかけてユウナ達に近づいた。

「もう一人は俺がやる。お前達はどいてな、チビ兎と白髪(しらが)魔女。――――ランドルフ教官!ヘクトルを貸してもらうぜ!」

「アッシュ……」

「チビ兎……まあ異存はありませんが。」

「白髪魔女……この髪は白髪じゃなくて地毛なんだけどね………でも3人とも、頑張って……!」

「誰だっていいわよ!ギャフンと言わせてやりましょ!」

「ああもう、マジかよ……!?」

「……事故だけは起こらないよう注意するしかないな。」

既に親善試合の空気になっている事にリィンと通信をしていたランディは疲れた表情で声を上げ、リィンは静かな表情で呟いた。その後それぞれの機甲兵に乗り込んだユウナ達はセドリック皇太子達が操縦するシュピーゲル達と対峙した。



「……第Ⅱ分校、せいぜい全力で来るがいい。」

「フフ、本校のレベル、存分に見せてあげますわ。」

ユウナ達と対峙したセドリック皇太子と共にいる本校の生徒達はそれぞれユウナ達に対して挑発をし

「クク、面白ぇ。」

「どうやら本校(むこう)のエース級の生徒みたいだな……しかも全員、上位機(シュピーゲル)か。」

「ちょっとの性能差なんか実戦じゃ関係ないわよ!こっちが潜った修羅場、エリートに見せてやるわ!」

挑発に対してアッシュは不敵な笑みを浮かべ、クルトはセドリック皇太子達の戦力を分析し、ユウナは闘志を高めた。

「―――これよりトールズ本校、第Ⅱ分校の模擬機甲兵戦を開始する。両者、練習用武装を使用、コックピットへの直接攻撃は禁止!小破以上で戦闘不能判定とする!それでは――――尋常に勝負!」

そしてリィンの号令を合図にユウナ達はセドリック皇太子達との試合を開始した!その後ユウナ達は苦戦しつつも、協力してセドリック皇太子達を戦闘不能に追いやった。



「勝負あり―――そこまで!」

「よっしゃああっ!」

「って、皇太子殿下に勝っちゃったりしたら……」

「さすがにそこに文句は言わないだろうさ。」

ユウナ達の勝利にパブロが無邪気にはしゃいでいる中、不安そうな表情を浮かべたカイリの推測にレオノーラは苦笑しながら否定し

「はあっ、はあっ……」

「や、やったね……!」

「……ハッ……こんなところか……」

勝利したクルト達はそれぞれ疲弊した様子で自分達の勝利を喜んでいた。

「……さすが腐ってもヴァンダールといった所か。そちらの二人も”分校”の生徒にしては悪く無かった。」

するとその時セドリック皇太子達がクルト達の通信に割り込んでクルト達を評価した。



「……っ……」

「き、君ねぇ……!」

「クク、スカした面して意外とかますっつーか……」

「―――クルト。今日は負けを認めておこう。だが、入学して2ヵ月で僕はここまで強くなった。剣もろくに使えなかった僕がね。―――君も成長しているだろうが2ヵ月後にはどうだろう?」

「そ、それは………」

セドリック皇太子の問いかけに何も返せないクルトは言葉を濁していた。するとその時他のシュピーゲル達と共に立ち上がった赤いシュピーゲルはランドロスの方向に機体を向けた後剣をランドロスに突き付けた。

「へえ?」

「こ、皇太子殿下……!?一体何を………」

「クク、これは何の真似だ?」

セドリック皇太子の行動にレンは意味ありげな笑みを浮かべ、トワは戸惑い、ランドロスは不敵な笑みを浮かべてセドリック皇太子に問いかけた。

「ちょうど良い機会ですので、先程あったリィン教官の申し出―――第Ⅱ分校の教官の方にも”稽古”をつけて頂こうと思いまして。自治州だったクロスベルをこのエレボニアと同格―――いえ、それ以上の”国家”を作り上げる礎となった名高き”六銃士”の一人に今の僕達の力がどこまで通じるか、試してみたいのですよ。」

「な――――――」

「ちょ、ちょっと……!?」

「おいおい………その仮面のオッサンの正体を知っていて、自分が何者なのか自覚していて言っているんですかい、皇太子殿下。」

「こ、皇太子殿下!幾ら何でも、お戯れがすぎます!」

セドリック皇太子の提案にリィンは絶句し、ユウナは信じられない表情で声を上げ、ランディは目を細めてセドリック皇太子が操縦するシュピーゲルを見つめて問いかけ、ミハイル少佐は慌てた様子でセドリック皇太子を諫めようとした。

「フフ、僕は”トールズ”に連なる分校の教官に”稽古”をつけて頂くという滅多にない機会を逃したくないから、この場に来て”稽古”をつけて頂きたい教官本人に頼んでいるだけですよ?何かおかしな事でも?」

「だ、だからといって、よりにもよってランドロス教官に”稽古”をつけて頂くなんて……」

「うふふ、どう考えてもランドロス教官がどこの誰かを”確信”していて稽古をつけてもらいたいのでしょうね。」

セドリック皇太子の説明にセレーネは不安そうな表情をし、レンは小悪魔な笑みを浮かべた。



「クク、俺の二つ名は”仮面の紳士”で、あのクロスベルの大英雄と称えられている”六銃士”じゃないんだがな………ま、そっちがお望みなら、遠慮なく”躾けて”やるよ、エリート気取りの悪ガキ共。」

「エ、”エリート気取りの悪ガキ”……!?私達を侮辱しているんですか……!?」

「……自分達は本校でも選りすぐりのメンバーだ。その言葉、取り消してもらおう。」

ランドロスの挑発に対して本校の生徒達はそれぞれランドロスを睨み

「そういう訳だから、このエリートに酔いしれた悪ガキ共の鼻っ柱はオレサマが叩き折る!―――構わねぇよなぁ、分校長殿!」

「――――構いません。皇太子殿下を含めた本校の生徒達も”世界は広い”事を知るべきです。」

「ほ、本気ですか、分校長……!?」

「こ、こんな事、絶対に上に知られる訳にはいかん……!」

不敵な笑みを浮かべたランドロスに許可を求められたリアンヌ分校長は許可をし、リアンヌ分校長の許可を聞いたトワは驚き、ミハイル少佐は疲れた表情で頭を抱えた。



「ルールはさっきと一緒でいいな?ちなみに俺に勝つ条件は俺に一撃入れる事ができればいいぜ?」

「ええ。そちらこそ本当によろしいのですか?幾らランドロス教官が凄まじい使い手とはいえ、生身で機甲兵に挑むのは無謀かと思われるのですが?」

ランドロスの問いかけに対してセドリック皇太子は不敵な笑みを浮かべて問い返し

「おいおい、”某自治州の某警備隊司令”は生身で”某帝国ご自慢の戦車を模擬戦用の武装で真っ二つにした例”があるんだから、オレサマにとってはお前達みたいなガキ相手はコイツがあれば十分だよ。」

「な―――――ぼ、”木刀”………!?」

「い、幾ら何でも生身で、しかも木刀で機甲兵3機に挑むなんて無茶じゃありません!?」

「ア、アハハ……常識で考えればそうなのですが……」

「………ランドロス教官はその”常識”に当てはまりませんから、実際に試合をしてみないとわからないかと。」

(今までの話からするとランドロス教官はもしかしてデュッセルさんみたいな凄い使い手なのかしら……?)

「つーか、本当に正体を隠すつもりがあるんだったら、わざとらしく正体に気づかれる話をするんじゃねぇ……!」

「クスクス………―――それじゃあリィンお兄さん、引き続き号令をお願いね♪」

ランドロスが構えた武装が模擬戦用の武装や実戦用の武装ではなく木刀である事を見たその場にいる全員が驚いている中クルトは絶句した後ユウナと共に信じられない表情で声を上げ、セレーネとアルティナの推測を聞いたゲルドは考え込み、ランディは疲れた表情で声を上げ、その様子を面白そうに見ていたレンはリィンに声をかけた。

「わ、わかりました。これよりトールズ本校生徒、第Ⅱ分校教官の模擬試合を開始する。双方、構え!」

「わ、私達を子供扱いした所か生身で、しかも木刀で3機の機甲兵に挑むなんて、どこまで私達の事をバカにしているのですか……!?」

「その無謀さ、その身を持って味わされる事を後悔しないで下さい、ランドロス教官……!」

「フフ、それでは見せてもらいますよ?”クロスベルの大英雄”―――――”六銃士”の”力”とやらを?」

リィンが号令をかけてそれぞれ戦闘の構えをした本校の生徒達はそれぞれ怒りの表情でランドロスを睨み、セドリック皇太子は不敵な笑みを浮かべ

「だぁっはっはっはっ!纏めてかかってこい、悪ガキ共!全員纏めて”世界の広さ”ってヤツを教えてやるよ!」

ランドロスは豪快に笑ってセドリック皇太子達が操縦するシュピーゲル達を見つめ

「―――始め!」

リィンの号令を合図にランドロス達は模擬戦を開始した!



「速攻で決めますわ!―――喰らいなさい!」

銃を持つシュピーゲルはランドロス目がけて銃を連射した。シュピーゲルの銃から放たれた無数のエネルギーの弾丸はランドロスを襲ったが

「クク、遅ぇ遅ぇ!オレサマからすればまだハエの方が速いぜっ!?」

何とランドロスは襲いかかる弾丸を全て木刀で弾いた!

「な――――な、生身で、それも木刀で模擬戦用とはいえ機甲兵用の銃の銃弾を弾くなんて非常識ですわ……!」

「さすがは音に聞く”六銃士”の中でもトップクラスの使い手と言われているだけはあるという事か……――――ならば、これはどうだ!?」

攻撃を無効化された事に銃を撃った機甲兵の操縦者である眼鏡の女子が驚いている中両腕にこん棒のような武装を持つシュピーゲルを操縦する厳つい男子はシュピーゲルを操縦してランドロスに近づき、両腕のこん棒をそれぞれ同時にランドロス目がけて振り下ろした!しかしランドロスは前方に跳躍して振り下ろしたこん棒の攻撃を回避した。

「手応えはない……躱されたか。どこに行った……!?」

「足元だ、フリッツ!」

自身の攻撃を躱された事にすぐに気づいたシュピーゲルが周囲を見回しているとセドリック皇太子が忠告をしたが

「まずは1体だ。オラアッ!!」

「ぐっ!?バ、バカな……一撃で……それも木刀で両脚の関節を無力化しただと……!?無念……!」

ランドロスは跳躍して木刀でクラフト――――豪薙ぎ払いを放ってシュピーゲルの関節部分を攻撃して一撃でシュピーゲルを戦闘不能に追いやり、ランドロスの常識外の凄まじい攻撃に驚いた厳つい男子は悔しそうな表情を浮かべた。



「……………」

「な、ななななななな……っ!?」

機甲兵の中でも上位機であるシュピーゲルが木刀で瞬殺された一連の流れを見たセドリック皇太子は呆然とし、眼鏡の女子は混乱していた。

「クク、次はお前だ。」

「ヒッ……!?」

そして獰猛な笑みを浮かべた後自分に向かって突撃し始めたランドロスに視線を向けられたシュピーゲルを操縦する眼鏡の女子は悲鳴を上げた後ランドロスに牽制射撃をしようとしたが獰猛な笑みを浮かべたランドロスに視線を向けられた瞬間、まるで蛇に睨まれた蛙のように身体が動かなかった為操縦席で硬直し続け

「好きにはさせませんよ!」

セドリック皇太子の赤いシュピーゲルは眼鏡の女子のシュピーゲルを庇うかのように眼鏡の女子のシュピーゲルの前へと移動した後突撃してくるランドロスに騎士剣による斬り払い攻撃を仕掛けたが

「そらよっ!」

「な――――」

「あ――――」

何とランドロスはギリギリのタイミングで跳躍して攻撃を回避すると共に赤いシュピーゲルの頭の部分を足蹴にして跳躍して赤いシュピーゲルを飛び越えて硬直し続けている眼鏡の女子のシュピーゲルの肩に着地すると攻撃を仕掛けた!

「沈めやぁっ!」

「あぐっ!?こ、今度は素手で、しかもまた一撃でシュピーゲルを無力化するなんて……!あ、ありえませんわ……!?」

ランドロスが放った凄まじい闘気を拳に集束して装甲すらも破壊する一撃を放つクラフト――――延髄砕きで頭を攻撃されたシュピーゲルは頭から伝わってくる凄まじい衝撃によって地面に倒れて戦闘不能になり、シュピーゲルの操縦者である眼鏡の女子は信じられない出来事の連続に混乱していた。



「クク、お供はいなくなったが、まだ続けるか、皇太子殿?」

「…………当然じゃないですか。貴方は今の僕達では絶対に敵わない相手である事は理解できましたが………――――それでもせめて一矢は報いないと本校生徒として……そしてアルノール家の者として、自分を許せません!」

ランドロスの問いかけに対して静かな怒りを全身に纏った後ランドロスを睨んで声を上げて答えたセドリック皇太子は赤い機甲兵を操縦して”溜め”の構えをさせ

「だぁっはっはっはっ!そうこなくっちゃなぁっ!」

対するランドロスはセドリック皇太子の答えに豪快に笑った後ランドロスも”溜め”の構えをした。

「ハァァァァァァァ………ッ!」

「オォォォォォォォ………ッ!」

それぞれ”溜め”の構えをした機甲兵とランドロスは全身に闘気を纏い

「紅き刃よ――――フレイムエ―――」

赤い機甲兵が先に動いてランドロスに炎を纏った騎士剣で攻撃を仕掛けたその時!

「大地よ、吼えやがれ――――天震撃!!」

「な―――――ガッ!?………くっ………これ程とは……っ!」

ランドロスは莫大な闘気を収束した木刀を地面に叩き付けて空にも届く程の強烈な衝撃波を発生させ、真正面から衝撃波に突撃してしまった赤い機甲兵はランドロスが発生させた衝撃波にぶつかった瞬間ふっ飛ばされて地面に叩き付けられて戦闘不能になり、赤い機甲兵の操縦席にいるセドリック皇太子は悔しそうな表情を浮かべた。



「勝負あり―――そこまで!!」

「「………………」」

「ランドロス教官が宣言した通り、生身かつ木刀であっという間に機甲兵を操縦するセドリック皇太子達を無力化したわね……」

「はい。相変わらずの”化物”っぷりです。………まあ、その”化物”を超える”化物”もこの場にいますが。」

「ア、アハハ……予想通りの結果でしたわね。」

「うふふ、相変わらずエステルとは別方向で突き抜けているオジサンね♪」

「つーか、1年半前より更に無茶苦茶さが上がってねぇか、あのオッサン!?」

リィンが終了の合図を出すとその場にいる一部の人物達を除いた全員は驚きのあまり絶句するか口をパクパクしている中、クルトやユウナも周りの生徒やトワやミハイル少佐のように絶句するか口をパクパクさせ、呆けた表情で呟いたゲルドの言葉に頷いたアルティナはジト目になり、セレーネは苦笑し、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ランディは疲れた表情で声を上げた。

「だぁっはっはっはっ!今回の”稽古”は中々勉強になっただろう、悪ガキ共!」

「くっ……生身で、それも木刀で3機もの機甲兵を一瞬で無力化するなんて、ランドロス教官は私達と同じ”人間”なんですか……!?」

「音に聞く”六銃士”………まさか、こんなとてつもない”化物”だったとは………今日からより精進する必要があるな………」

「………っ!―――御指導、ありがとうございました、ランドロス教官。」

豪快に笑ったランドロスはセドリック皇太子達に問いかけ、それぞれの機甲兵の操縦席にいる眼鏡の女子は信じられない表情で声を上げ、厳つい男子は真剣な表情を浮かべて新たなる決意をし、セドリック皇太子は悔しさのあまり身体を震わせて唇を噛みしめたがすぐに気を取り直してランドロスに対する感謝の言葉を述べ、そして操縦席から外に出て機甲兵の頭の部分まで昇って行ってその場にいる全員を見回して宣言をした。

「―――負けは負けですから今日は大人しく退散しましょう。クロスベルでの演習の準備を邪魔するつもりもありません。ですが僕は貴方を諦めませんよ。リィン・シュバルツァー教官――――」

「………!」

セドリック皇太子の宣言にリィンが息を呑んだその時セドリック皇太子は機甲兵の操縦席へと戻った後2体の機甲兵と共に格納庫へと入って行った。



「―――こちらミハイル!02方面隊に繋いでくれ!皇太子殿下を運ぶ列車の運行計画が来ていないぞ!?」

セドリック皇太子達の様子を見守っていたミハイル少佐はARCUSⅡを取り出して誰かと通信をし

「2ヵ月……それであれだけの剣技を……」

「クロスベルでの演習って………どういうこと………?」

「クク……皇太子か。なかなかイカれてるが………暴君の方がもっとイカれてやがったな。」

クルトは複雑そうな表情を浮かべて格納庫に視線を向け、セドリック皇太子の宣言のある内容が気になっていたユウナは困惑の表情を浮かべ、アッシュは不敵な笑みを浮かべていた。

「はあ……ゴメンね。分校長を説得できなくて。」

「仕方ありませんよ………そういう人なんでしょうから。」

一方リィンとセレーネにアルティナとゲルドと共に近づいたトワはリィンに謝罪し、謝罪されたリィンは苦笑しながら答え

「―――ところで次の演習地は報告通り、クロスベルなんですね?」

「クロスベル………ユウナの故郷だったわね。どんな所かしら……?」

アルティナはリィン達に次の演習地について確認し、アルティナの問いかけを聞いたゲルドは考え込んだ。

「う、うん……午後に説明する予定だけど。」

「生徒達を動揺させないよう、気を配る必要がありそうですね。」

「はい………特にユウナさんには………」

アルティナのマイペースさに冷や汗をかいて脱力したトワは苦笑しながら答え、リィンの言葉に頷いたセレーネは心配そうな表情でユウナの操縦するドラッケンに視線を向けた。

「うふふ、あの変わりよう………”駒”となるか”指し手”となるか、貴方はどう見立てるかしら……?」

「ふふっ、そうですね。――――”子供達”の一人としてどう取り込まれているか次第かと。」

一方レンはミュゼに問いかけ、問いかけられたミュゼは静かな笑みを浮かべて答えた。



午後――――本校舎の戦略会議室で生徒達に演習地の発表が行われた。合わせて同時期に”三帝国交流会”がクロスベルで開催される事も伝えられ……先月のサザ―ラント州での騒ぎも踏まえ、生徒達に檄が飛ばされるのだった。



~本校舎・戦略会議室~



「万が一の時こそ、諸君の出番だ!本校に劣らぬ事を示す為にも日頃の成果を見せてもらいたい!」

「…………うそ…………」

ミハイル少佐が生徒達に檄を飛ばしている中ユウナは信じられない表情をした後ランディに視線を向けたが、視線を向けられたランディは苦笑しながら肩をすくめた。

「…………っ………」

(ユウナ………)

ランディの様子を見て息を呑んだ後複雑そうな表情で黙り込んでいるユウナをゲルドは心配そうな表情で見守っていた―――――




 
 

 
後書き
という訳でセドリックのドヤ顔の話のはずがまさかの暴君による大暴れ……じゃなくて小暴れ?の話でしたww木刀で機甲兵を一撃で戦闘不能にするどころか、籠手を付けているとはいえ素手でも一撃で機甲兵を戦闘不能にする某仮面の紳士ならではの説得力かとww 

 

第35話

5月19日、演習地出発――――



午後7:00――――



~第Ⅱ分校・分校専用列車停車駅~



演習地出発の夜、生徒達が分校専用の駅構内で出発の準備をしている中、生徒達に新たな指示を出したリィンは機甲兵教練での出来事を思い返した。

(本校で使っていた上位機(シュピーゲル)………今後の戦術の幅を考えると一機くらいは回して欲しいかもな。それとトリスタ奪還の際に現れた高速機あたりも………)

今後第Ⅱ分校に追加して欲しい機甲兵の事を考えたリィンは生徒達の様子を見回した。

(しかし、みんな以前よりも手際が良くなってるみたいだ。………クルトも心配だったが何とか持ち直したみたいだな。ゲルドは特別演習が今回が初めてで慣れていない部分もあるが、アルティナがフォローしてくれているようだから、心配はなさそうだな。問題は――――)

それぞれの教官から指示を貰っているⅦ組のメンバーの様子を見回したリィンはユウナに視線を向けた。

(………今の所慎重に見守るしかないか。)

その後準備を終え、出発の定刻が近づくと、集合した生徒達はリィン達教官陣が見守っている中見送りの為に現れたシュミット博士達と共に現れたリアンヌ分校長の激励の言葉を聞いていた。



「―――今回、貴方達が向かうのは”宿業にして因縁の地”。数百年にわたり、エレボニアの宿敵、旧カルバード共和国と奪い合った場所にしてエレボニアとカルバードからの独立を果たした場所です。”三帝国交流会”とやらの影響でクロスベル帝国軍およびクロスベル警察も、遊撃士協会と協力体制を敷いて最大限に警戒しているとの事ですが――――2年前の資産凍結の件による騒動の時のように”何が起きても不思議ではありません。”」

「………洒落になってねぇぞ。」

「クク…………」

「…………………」

(その”騒動”を起こす可能性がある組織は結社だけでなく、エレボニアの可能性もある事は皆さん、気づいているのかしら……?)

(アルフィン………)

リアンヌ分校長の忠告にその場にいる全員が血相を変えている中ランディは厳しい表情で呟き、ランドロスは不敵な笑みを浮かべ、ユウナは静かな表情で黙り込み、辛そうな表情を浮かべているアルフィンの小声を聞いたエリゼは心配そうな表情でアルフィンを見つめた。

「ですが、想定外の状況こそ人を成長させる好機でもあります。人事を尽くして天命を持ち、変事にあっては大いに狼狽え、そして足掻く事もよい経験になるでしょう。皆の成長に期待します――――それでは行きなさい!」

「イエス・マム!」

リアンヌ分校長の激励の言葉に生徒達は力強く頷き

「みんな、頑張ってねー!」

「どうか皆様が無事、演習を終えられますよう。」

「フン、各種観察記録(モニタリング)もしっかりやることだな。」

ミントとセレスタン、シュミット博士はそれぞれ生徒達に見送りの言葉をかけた。そして教官達や生徒達はデアフリンガー号に乗り込み、デアフリンガー号は演習地に向けて出発し、生徒達やアルフィンとエリゼがデアフリンガー号で英気を養っている中、リィン達教官陣は演習地到着前のブリーフィングを行っていた。



~デアフリンガー号・2号車―――ブリーフィングルーム~



「クロスベル駅への到着は明朝5時過ぎを予定している。物資の搬入後、演習地へと向かい3日間のカリキュラムを開始する。……ちなみにランドロス教官とオルランド教官。わかっているとは思うが―――」

一通りの説明を終えたミハイル少佐はランドロスとランディに視線を向け

「へいへい、わかってますって。」

「やれやれ、器が小さいねぇ。」

視線を向けられたランディとランドロスはそれぞれ呆れた表情で答えた。

「………?」

「何かあるんですか?」

「一応、前もって言っておく。ランドロス・サーキュリー教官並びにランドルフ・オルランド教官は『クロスベル帝国軍』から第Ⅱ分校に派遣している立場となる。当然、現地に知り合いも多いだろうが万が一そちらに気を取られてしまえば肝心の演習が疎かになる可能性もある。その意味で、今回は演習地周辺に留まり、市街に出るのは自粛してもらいたい……―――そのような”要請”が非公式だがエレボニア帝国政府から来ているのだ。」

二人の様子が気になったリィンの質問にミハイル少佐は驚愕の答えを口にした。



「また、あからさまな要請をして来たわねぇ。」

「馬鹿な……!」

「そ、そんな事をエレボニア帝国政府はランディさん達に要請したんですか……!?」

「い、幾らなんでもそれは――――」

ミハイル少佐の答えを聞いたレンが呆れている中リィンやセレーネ、トワはそれぞれ怒りの表情でミハイル少佐を睨んだが

「まーまー、抑えた抑えた。」

ランディが苦笑しながらリィン達を諫めた。

「―――ぶっちゃけた話をしちまえば、俺達がエレボニアの士官学校に派遣されたのはクロスベルの無茶苦茶皇帝とリア充皇帝の”思惑”があってのことだ。余計な憶測を疑われて、こっちの仕事を邪魔されない為にクロスベルに戻る予定はなかったが……今回みたいな話になったら、ま、当然そう釘を刺されちまうわな。」

「当然その”要請”の件についてはクロスベル帝国政府にも話が行っていて、政府はその”要請”を承諾したとの事だから、クロスベル側も今回のオレ達に対するエレボニア側の”要請”についても文句はないぜ?」

「ランディさん……ランドロス教官………」

「………………」

「ヴァイスハイト皇帝陛下達は一体何を考えてそのような理不尽な”要請”を承諾されたのでしょうか………?」

「まあ、少なくてもヴァイスお兄さん達のことだから”対価”もなしにそんな”要請”は承諾していないでしょうねぇ?」

ランディとランドロスの説明を聞いたトワとリィンが辛そうな表情でランディとランドロスを見つめている中セレーネの疑問にレンは意味ありげな笑みを浮かべて自身の推測で答えた。



「あー、だからそんな顔すんなって。――――そもそもエレボニアに出向いてまだ3ヵ月も経っちゃいないからな。そんな短さで、ダチやらツレやらに再会したってどうも締まらねぇだろ。―――リィン、姫。お前さん達と違ってな。」

「……………」

「ランディさん………」

ランディの指摘にリィンは目を伏せ、セレーネは複雑そうな表情をした。

「……一応、最終日くらい、市街に出る機会を設けられないか私の方から打診してみるつもりだ。当然、何らかの要請があれば自粛云々の話でもなくなるだろう。申し訳ないが、今回についてはその程度で抑えてもらいたい。」

「おう―――一応の配慮、感謝するぜ。」

「そういう訳だからリィン達もそれ以上は気にしないでくれ。それと生徒達―――特にユウ坊にはあんまり言わないでおいてくれや。」

「………わかった。」

「お二人がそれでよろしいのでしたら、わたくし達も構いませんわ。」

「その、各種通信とか何かあったら言ってくださいね?……少佐。そのくらいはいいんですね?」

ランディの頼みにリィンとセレーネは頷き、トワはある事を申し出た後ミハイル少佐に確認した。

「ああ、それは問題ない。―――ただわかっているとは思うがハッキング等と言った違法行為を行った上での通信は当然許可しない。」

「あら、そこでどうしてレンを見て言うのかしら♪」

トワの確認に頷いたミハイル少佐はレンに視線を向けて注意をし、視線を向けられたレンは小悪魔な笑みを浮かべて答え、レンの答えにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「本題に戻るとしようぜ―――今回の演習の主旨は、”三帝国交流会”のバックアップでいいんだよな?」

「ああ、戦術科・主計科共に前回同様、カリキュラムをこなしつつ、何かあった時の備えをしてもらいたい。特務科についても同じ――――広域哨戒と、現地の要請への対応になる。」

「……了解しました。今回も明朝、ブリーフィングを?」

「ああ、演習地を構築したら生徒共々ここに集まってもらいたい。――――以上、質問がないなら今日のブリーフィングを終了する。各自今夜は英気を養って欲しい―――では解散!」

ブリーフィング後列車内を見回りながらⅦ組の生徒達に明日についての連絡をしたリィンは明日に備えて、自分に割り当てられている列車の部屋の寝台で休んだ。



5月20日、午前5:15――――



~クロスベル駅前~



「やっと来たか……まったく焦らしてくれるわね。こんな時期に来たのが、吉と出るか、凶と出るか……エマには内緒でこっそり訊ねてみようかしら?」

翌朝クロスベル駅に入っていく様子のデアフリンガー号を見守っていたセリーヌは溜息を吐いた後ある事を思いついたが

「―――コホン。兎にも角にも”あの女”ね。手分けしてでも何とか探さなくちゃ……!」

すぐにある事を思い出すとその場から去って行った。

「あれ………?おかしいなぁ、何かいたと思ったんだけど………」

するとその時駅員がセリーヌがいた場所に視線を向けて首を傾げたが

「―――なぁんてね。ウフフ………役者も揃い始めたみたいだね。だけど、まだまだ足りない。折角だから勢ぞろいしてから”宣言”させてもらおうかな?」

駅員はすぐに意味ありげな笑みを浮かべて指を鳴らした。すると駅員は服装だけ残して消え、残った服装も炎に包まれて灰になった!



その後、デアフリンガー号はクロスベル駅で10分程停車し………物資などを積み込んだ後、南の間道沿いへと出るのだった。



午前6:30―――



演習地に到着後第Ⅱ分校の教官達と生徒達は協力して、演習地に”拠点”を築き、作業が終わるとⅧ組とⅨ組はそれぞれの担当教官達からカリキュラムについての説明を受け、Ⅶ組は担当教官であるリィンとセレーネと共に列車内でカリキュラムについての説明を受けていた。



~演習地~



「しかし、よくこんな場所に演習地を用意できたよな。」

「確か……南にある医科大学とリゾート地を結んでいる路線ですよね?」

「ああ、ウルスラ支線――――一年前に着工し、既に運行も開始されているとの事だ。」

「医科大学……そんなものがあるんですか。」

「リゾート地の方も行った事はあります。………まあ、リィン教官とセレーネ教官と違って、リゾート地で過ごした事はありませんが。」

トワとミハイル少佐の話を聞いたクルトは目を丸くし、アルティナは淡々と答えた後ジト目でリィンとセレーネを見つめ

「ハハ、そう言えば1年半前クロイス政権からクロスベルを解放した後も色々あって、結局ミシェラムで英気を養う暇は無かったな……」

「フフ、機会があればアルティナさん達もいつか一緒に連れて行くつもりですわ。」

ジト目で見つめられたリィンとセレーネはそれぞれ苦笑しながら答えた。

「医科大学にリゾート地………一体どういう所なのかしら??」

一方不思議そうな表情で首を傾げて呟いたゲルドの疑問を聞き、ゲルドの世間知らずの部分を見たその場にいる全員は冷や汗をかいた。



「……ま、両方ともどういう所なのか後で説明するわ。どっちも列車が通ったことで利用客が倍増したみたいだけど。」

「ああ、確かに便利になったな。それまでも導力バスやら遊覧船は運航してたが……」

「列車になってからはどっちも利用客は減っちまったからなぁ。」

「ま、普通に考えたら列車の方が速くて楽だものね。」

ユウナとランディに続くようにランドロスとレンは苦笑しながら答えた。

「―――ところでⅦ組の特務活動ですが……前回のサザ―ラント州と手順は同じでいいんですね?」

「コホン……ああ。広域哨戒に加え、現地からの要請に対応してもらいたい。――――第Ⅱの演習開始について行政責任者に報告するのも含めてな。」

リィンの確認に答えたミハイル少佐の答えを聞いたリィン達はそれぞれ血相を変えたり目を丸くしたりした。

「そういえば……」

「それがあったな……」

「でも、それじゃあ……」

「うふふ、リィンお兄さんとセレーネは早速クロスベルでの知り合いと再会するでしょうね♪」

「アハハ……」

「クク………」

「行政責任者、ですか。」

「前回がサザ―ラント州を統括するハイアームズ候だとしたら………」

「ま、まさか………!」

「………?もしかしてユウナはその人が誰なのか知っているのかしら?」

リィン達教官陣が様々な反応を見せている中アルティナとクルトは考え込み、すぐに察しがついて血相を変えたユウナの様子が気になったゲルドは首を傾げてユウナに訊ね

「ああ、二人いるクロスベル帝国の皇帝の一人―――――ヴァイスハイト・ツェリンダー皇帝陛下がオルキスタワーでお待ちだ。」

ミハイル少佐はリィン達が会う予定の人物の名前と正体を告げた。



その後準備を整えたリィン達は列車から降りた。



「―――それにしても”六銃士”の一人であるあの”黄金の戦王”――――ヴァイスハイト皇帝陛下との面会なんて。お会いしたことはありませんがさすがに緊張しますね。」

「ああ……そうだな。一応、知り合いではあるから話は通しやすいとは思うが……」

「ええ……それにヴァイスハイト陛下は気さくで親しみやすい方ですから、違う意味で驚くかもしれませんわね。」

クロスベル皇帝の一人であるヴァイスに会う事に緊張している様子のクルトにリィンとセレーネはそれぞれ答え

「……ま、特に教官達に関してはそうでしょうね。ハンサムで政治家としてもやり手ですし、クロスベルの皇帝に即位した今でも警察局長だった頃のように色々と話題がつきない人ですよね。………あたしのタイプじゃありませんけど。」

「とりあえずリィン教官やロイドさん以上の”好色家”ではあります。それ以外の詳しい人柄については知りませんが。」

「”好色家”という事はその王様もリィン教官やそのロイドさん……?という人、それに私のお義父さんみたいにたくさんの奥さんや恋人がいるのね。」

「う”っ………」

「ア、アハハ……」

ユウナとアルティナの説明にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ゲルドはリィンを見つめて呟き、ゲルドの推測に反論できないリィンは唸り声を上げて疲れた表情で肩を落とし、その様子をセレーネは苦笑しながら見守っていた。



「そう言えば”黄金の戦王”は17人もの妃がいる事から”好色皇”とも呼ばれていたな……」

「ええ………しかもそのお妃様達の中にはあたしの知り合いの人達もいるのよ………あ、そう言えば妃で思い出したけど、ゲルドってあの”癒しの聖女”が当主の”パリエ家”――――”英雄王”の側室の一人になったセシルさんの娘で、セシルさんに養子として引き取られたシズクちゃんのお姉さんにもなるわよね……?」

「うん。ティアお義姉さんは今は東ゼムリア大陸で活動しているらしいけど………お義母(かあ)さんとシズクは今はクロスベル市に住んでいるわ。」

困った表情をしたクルトの言葉に複雑そうな表情で頷いたユウナはある事を思い出してゲルドに視線を向け、視線を向けられたゲルドは静かな表情で頷いて答えた。

「あれ………?シズクちゃんはともかく、セシルさんまでクロスベル市に住んでいるの?セシルさんって、確か今はウルスラ医科大学の寮に住んでいたはずだけど……」

ゲルドの説明を聞いたユウナは目を丸くして自身の疑問を口にし

「お義母さん、今お義父さんとの間にできた赤ちゃんがお腹の中にいるから看護師の仕事は休んでいて実家に住んでいるのよ。」

「へ………」

「ゲルドの義父――――あの”英雄王”の……!?」

「ええ、確か今月で9ヵ月目になるのでしたっけ……?」

「ああ、先月に貰ったロイドからの手紙に8ヵ月目と書いてあったから、そうなるな。」

「はい。妊娠9ヵ月目でしたら、お腹も目立っているでしょうし、体力の関係上妊婦の身で看護師の仕事を続けるのは厳しいでしょうから、看護師の仕事を休職なされているのでしょうね。」

ゲルドの口から出た驚愕の答えにユウナが呆け、クルトが驚いている中事情を知っているセレーネとリィン、アルティナはそれぞれ落ち着いた様子でいた。

「教官達はゲルドの義母が”英雄王”のご子息かご息女を身ごもっている事も既にご存知だったのですか………」

「ああ、以前にも少し説明したが、俺がクロスベルに派遣されていた頃の”部署”の同僚の一人がセシル様と家族同然の親しい関係だから、その同僚からの手紙でセシル様がリウイ陛下の子供を身ごもられた事を知ったんだ。」

「そうだったんだ……」

「………………」

クルトの疑問に答えたリィンの答えにゲルドが目を丸くしている中、ユウナは複雑そうな表情で黙り込んでいた。



「さて、それじゃあ準備を終えたら演習地から出るとしよう。」

「えっと……ここからですと”ウルスラ間道”に出るのでしたわよね?」

「ええ、湖沿いの街道ですね。地図で確認するかぎり、帝都までそう遠くないと思います。それじゃあ行きましょうか?」

「ああ、そうだな。」

そしてリィン達は街道を歩いてクロスベルに到着した―――――


 

 

第36話



午前7:00―――



~光と闇の帝都クロスベル・中央広場~



「何だかとても大きな建物や初めて見る建物が一杯で凄い都市ね……」

「へえ、新しいビルも多いしエレボニアの都市とは随分違うな。」

「やはり、クロスベルはあのオルキスタワーが特に印象的ですね。」

クロスベルに到着し、初めて見る光景にゲルドが驚いている中クルトは興味ありげな表情を浮かべ、アルティナは遠くからでも見えるオルキスタワーに視線を向けた。

「まあ、歴史的な建造物も結構あるんだけどね。独立するまで、エレボニアと旧カルバードに共同統治されていた自治州だけにどちらの影響も受けているし。」

「なるほど……あの”鐘”なんかも面白いし。導力車の多さも、大陸有数の国際都市ならではって感じだな。」

「…………………」

ユウナの説明を聞いたクルトは興味ありげな表情を浮かべ、何かが気になっていたゲルドは静かな表情で広場に備え付けてある巨大な鐘を見つめた、



「フ、フフン……そうでしょ?これだけ人口が多くて近代的で、導力車も多い街なんてエレボニア本土じゃ無いんじゃない?」

「はは、そうだな――――」

「………うーん、珍しいのは確かだけど帝都(ヘイムダル)も導力車はかなり多いかな。大通りは交通渋滞も頻繁だし、路面車(トラム)なんかも通っている。」

「人口比較だと、ヘイムダルは88万、クロスベルは70万くらいでしたね。近代的というなら、クロスベル帝国領のルーレ市はかなり技術先進的な街並みでしょうか。」

「そう言えば領主補佐の勉強の際に、メンフィルの帝都――――ミルスの人口は約3000万だと教わった事がありますわ。」

自慢げにクロスベルの事を語っているユウナの説明にリィンが苦笑しながら同意しかけたその時クルトやアルティナ、セレーネはそれぞれ意見を口にし

「3000万………メンフィル帝国の帝都の人口はヘイムダルの数十倍ですね。さすがはゼムリア大陸全土の国力をも超えると言われている大国の帝都と言った所ですか。」

「そうですね。戦力もそうですが国力もメンフィル帝国が現れるまでは大陸でも一、二を争っていたエレボニアや旧カルバードを遥かに超える大国と言われているだけあって、圧倒的なのがメンフィル帝国の特徴ですね。」

セレーネの答えを聞いたクルトは驚き、アルティナは静かな表情で呟いた。



「…………………」

一方ユウナは顔を俯かせて黙り込み

「い、いや別にこの都市が凄くないと言ってるわけじゃ………」

「そうですね、個々の要素を比較すればというだけで………」

ユウナの様子に気づいたクルトとアルティナはフォローの言葉を口にした。

「ええい、素直に驚いていればいいのよ!ゼムリア大陸西部の経済と文化の中心とも言える国際貿易・金融都市にして1年半前に建国されたばかりの新興の大国の中心都市でもあるのよ!?導力ネットを始めとする最先端技術の導入も世界一!更に異世界にしかいなかった職人――――”工匠”達が集まった特区――――ゼムリア大陸で唯一の”工匠特区”もあるのよ!?」

「そ、それは凄いな……」

「まあ、導力ネットワークは確かに珍しいですし、現状異世界ディル=リフィーナにしか存在しなかった”工匠”達が集まっているゼムリア大陸で唯一の場所でもありますね。」

恥ずかしそうな表情で声を上げた後真剣な表情でクロスベルの事を語ったユウナの様子にクルトは苦笑しながら答え、アルティナは静かな表情で同意した。



「ははっ………」

「ふふ………」

「な、なんですか……子供っぽい自慢とでも?」

一方苦笑しているリィンとセレーネに気づいたユウナはジト目で二人に問いかけ

「―――いや、いいと思うぞ。この都市は確かに”特別”だ。技術的にも、経済的にも、歴史的にも。特務活動で回り始めればすぐにでもわかってくるだろう。」

「また、クロスベルはエレボニアにとって”外国”でもあり、1年半前に建国されたばかりの国の中心部でもありますから色々と学ぶ事もありますわ。」

「あ………」

「そういうものですか………」

「少々、楽しみですね。リィン教官に引き取られてから今まで何度かクロスベルを訪れた事はありますが、リィン教官やセレーネ教官のように隅々まで回る機会はありませんでしたし。」

リィンとセレーネの説明にユウナが呆けている中クルトは考え込み、アルティナは興味ありげな表情をした。

「へ~……アルって、”あの時”以降も何度かクロスベルを訪れた事があるんだ。」

「”あの時”、ですか?」

ユウナがふと呟いた言葉を聞いたアルティナは不思議そうな表情で首を傾げてユウナを見つめ

「な、何でもないから気にしないで!……って、そう言えばゲルド、さっきからずっと同じ方向を見つめたまま黙っているけど、何か気になるものでも見つけたのかしら?」

「あ……うん。あの大きな”鐘”から魔力を感じて、何の目的の為にあんな人通りの多い場所にあるのか考えていたの。鐘の大きさからして多分、何か大掛かりな魔法儀式をする為の魔導具の類だと思うのだけど………」

「「!!」」

「あ…………」

「そうなのか?魔力の察知方法等もレン教官の授業で既にならったが、僕はあの鐘から魔力は感じないが……」

「わたしもです。………まあ、ゲルドさんは”魔女”――――魔術のエキスパートですから、魔術の専門家であるゲルドさんでしたらあの”鐘”がただの”鐘”でない事がわかってもおかしくありませんね。」

ゲルドの疑問を聞いたリィンとセレーネが血相を変えている中ユウナは呆けた声を出した後複雑そうな表情をし、不思議そうな表情で首を傾げているクルトの疑問にアルティナは静かな表情で答えた。



「……そうかもしれないわね。感じられる魔力も微弱だし。……ところで、アルティナはあの”鐘”が何なのか知っているような口ぶりだったけど、アルティナはあの”鐘”が何なのか知っているの?」

「はい。……とは言っても、リィン教官やセレーネ教官程ではありませんが。」

「?教官達もあの”鐘”の事についてご存知なのですか?」

ゲルドの質問に答えたアルティナの答えが気になったクルトはリィンとセレーネに訊ね

「ああ………あの”鐘”は約2年前のIBCによる資産凍結騒ぎの少し後に起きたディーター・クロイス政権による独立騒動でクロスベルの”異変”を起こす為に使われた魔導具の類だったんだ。」

「とは言ってもクロスベルをディーター・クロイス政権から解放した際に、あの”鐘”が起こしていた”異変”も当然収まりましたし、あの”鐘”はあくまで”異変”を起こす為に必要であった魔導具の類の為、あの”鐘”自体だけでは”異変”は起こせませんから、2年前のクロスベルでの異変のような出来事は2度と起こりませんわ。」

「そうだったんですか…………」

「………………」

「それじゃあ、あの”鐘”自体にはもう危険性はないから、今でもこの都市のオブジェとして飾られているのね。」

リィンとセレーネの説明を聞いたクルトが驚いている中、リィン達同様”鐘”についての事情を知っているユウナは複雑そうな表情で黙り込み、ゲルドは静かな表情で呟いた。

「いや、あの”鐘”はクロスベルにとってのシンボルマークだから、単なるオブジェじゃないわよ。―――――ほら、周りにあるクロスベルの国旗にもあの”鐘”と似たような”鐘”が描かれているでしょう?」

「あ、ホントだ………やっぱり”国”も違うからエレボニアやメンフィルの旗もそうだけど、街並みも全然違うわね……」

ゲルドの言葉に苦笑したユウナは街灯等に付けられているクロスベルの国旗を指さし、ユウナの指さしにつられるようにクロスベルの国旗に描かれている広場にある”鐘”と似た”鐘”のマークを確認したゲルドは目を丸くした後興味ありげな表情で周囲を見回した。

「ハハ、初めての”特別演習”やリーヴス以外の都市に来たゲルドにとっては何もかもが新鮮で興味が尽きないと思うが、まずは”特務活動”を始める為にオルキスタワーに行くぞ。」

「オルキスタワーは北に抜けて行政区経由で向かいましょう。」

ゲルドの様子を微笑ましく見守っていたリィンはセレーネと共に先に進むように促し、ユウナ達と共にオルキスタワーに向かい始めた。



「リィン教官…………」

「………わかってはいた事だが、”自分達”の様子を見るなんて何だか不思議な出来事だな……」

リィン達がオルキスタワーに向かって行く様子をそれぞれ地毛とは異なるウィッグを被り、”第Ⅱ分校の制服ではなく旅装を身に纏った並行世界のアルティナ”は辛そうな表情で”自分達と共に歩いているリィン”を見つめ、クルトは静かな表情で呟いた。

「フフ、そうですわね。ですが、やはり並行世界だけあって、現時点での新Ⅶ組のメンバーも私達の世界と異なりますわね。」

「そうね……あの蒼銀の髪の女性教官もそうだけど、今”この世界のあたし”としゃべっている純白の髪の女生徒なんて、あたし達の世界の第Ⅱ分校にはいなかったわよね?」

苦笑しながら呟いたミュゼの言葉に頷いたユウナは不思議そうな表情でセレーネとゲルドを見つめていた。

「……恐らく蒼銀の髪の女性はミシェルさん達の話にあったこの世界のリィン教官の婚約者の一人―――――セレーネ・L・アルフヘイム教官かと。」

「と言う事はあの女性が竜族の姫君か………見た感じは僕達”人間”とほとんど変わらないように見えるが………」

「……それにミシェルさん達の話通り、この世界の私は私よりも明らかに身体的成長をしていますね。………セティさん達から頂いた”成長促進剤”の効果が早く出て欲しいです。」

「――――――」

ミュゼの推測を聞いたクルトは考え込みながらセレーネを見つめ、アルティナはリィン達と共に歩いている自分自身を見つめて呟き、アルティナの意見に応えるかのようにクラウ=ソラスは機械音を出し、その様子を見たユウナ達は冷や汗をかいた。

「って、アル!クラウ=ソラスは目立つから、街中ではしまいなさいって!」

「あ、すみません。」

我に返ったユウナの指摘を聞いたアルティナはクラウ=ソラスをその場から消えさせ

「フフ、それよりも”サフィーさん”。”ルディさん”の呼び方が間違っていますわよ?」

「う”っ………仕方ないでしょう?まだ、慣れていないんだから。」

「しかも小説で出てくる登場人物の名前ですから、余計に慣れないですよね。」

「君達はまだマシな方だと思うぞ……?僕なんか”剣帝”という僕には分不相応で、しかも実際に僕達の世界に存在する相当な剣の使い手と同じ異名までついた人物の名前―――ザムザだしな………」

ミュゼに呼ばれたユウナ―――サフィーは唸り声を上げた後アルティナ―――ルディと共に疲れた表情で呟き、クルト―――ザムザは困った表情で答えた。

「あたし達だけ小説の人物の名前を偽名にしているのに、”ミューズ”だけ自分で考えた偽名なんだからなんか、ズルくない?しかもあたし達と違って、すぐに自分の偽名で呼ばれる事にも慣れているし。……まさかとは思うけど、”ミュゼ”の名前も偽名とかじゃないでしょうね?」

「さすがにそれはないのでは?実際にミュゼさんの祖父母も存在していらっしゃるのですから。……まあ、予めイーグレット伯爵夫妻と口裏を合わせているのでしたらわかりませんが。」

「シクシク……お二人とも私の事をそんな風に見ているなんて、酷いですわ……」

それぞれジト目で見つめてきたサフィーとルディの指摘にミューズはわざとらしく嘘泣きをして答え、その様子を見たサフィー達は冷や汗をかいて脱力した。

「フウ………この世界の新Ⅶ組の状況も確認できたし、ギルドに向かう前に朝食を取らないか?」

「そうですね。……この世界の教官達と鉢合わせをしない為にも、遊撃士の方達と合流して仕事に向かった方がいいですしね。確かクロスベルでの特務活動には東通りも入っていましたし。」

「それとこの世界の私達もそうですが、旧Ⅶ組の皆さんとも鉢合わせをしないように気をつける必要がありますわね。」

「あんた達はいいわよね……あたしなんて、地元で知り合いが多いから、知り合いに見つからないようにいっつも気をつけているんだから………」

そして並行世界の新Ⅶ組はその場から去って行った。



その後オルキスタワーに到着し、受付で要件を告げたリィン達はエレベーターに乗ってクロスベル皇族専用のフロアに向かった後形式的なチェックを受け……クロスベル皇帝の執務室に通されるのだった。



~オルキスタワー・34F・皇帝執務室~



「皇帝陛下、失礼します。」

「ああ、入ってくれ。」

ヴァイスの許可を聞いたリィン達は執務室に入って来た。

「ぁ…………」

「お久しぶりです。」

「御二方ともご健勝そうで何よりですわ。」

「失礼します。」

執務室に入り、ヴァイスと共にいる黒髪の女性を見たユウナは呆けた声を出し、リィンやセレーネ、アルティナは挨拶をした。

「―――リセル教官!」

するとその時ユウナは嬉しそうな表情で黒髪の女性に走って近づき

「ふふっ、3ヵ月ぶりですね、ユウナさん。」

黒髪の女性は微笑みながら自分に話しかけたユウナに答えた。



「………?ユウナはそちらの方とお知り合いなのか?」

「うん。去年リセル教官がクロスベルの軍警察学校の臨時教官を務めた時に知り合いになって、色々とお世話になったの!あの時も助けられちゃって………」

「あの時………?」

クルトの疑問に答えたユウナのある答えが気になったリィンは不思議そうな表情をし

「なるほど……お嬢さんがリセルの話にあったトールズの第Ⅱに留学中の未来の俺やロイド達の後輩か。中々健康的なお嬢さんじゃないか。何となくエステルに似ているが、スタイルに関しては明らかにエステルに勝っているな。」

「ヴァイス様……」

(お、お父様……)

「……っ。女好きでエッチな所も相変わらずですね……先に言っておきますけど、あたし、貴方は全然タイプじゃありませんから、他の女性達みたいに貴方の毒牙にはかかりませんよ!?」

興味ありげな表情をしたヴァイスはユウナに視線を向け、ヴァイスの発言に黒髪の女性とリィンの身体の中にいるメサイアが呆れた表情をしている中ユウナは一瞬怯んだ後ヴァイスを睨んで反論した。

「ユ、ユウナさん!?」

「さすがに不敬では?」

ユウナのヴァイスに対する態度にセレーネは驚き、アルティナは静かな表情でユウナに指摘し

「ハッハッハッ、この程度最初の頃のエルミナと比べれば可愛いものだ。さてと――――挨拶が遅れたが3人とも久しぶりだ。それ以外は初めてになるかな?クロスベル帝国双皇帝の一人、ヴァイスハイト・ツェリンダーだ。見知りおき願おうか、トールズ第Ⅱ、新Ⅶ組の諸君。」

「ヴァイス様の正妃の一人―――リセル・ザイルードです。以後お見知りおきください、第Ⅱ分校の皆様方。」

一方ヴァイスは軽く笑った後黒髪の女性―――ヴァイスの正室の一人であるリセル・ザイルードと共に自己紹介をした。その後リィンはメサイアを召喚してクルト達と共にヴァイス達に近づいた。



「フッ、久しぶりの邂逅になるが、ずいぶんと見違えたな。背も伸びたようだが、大人の貫禄も付き始めているな。セレーネは1年半前より女性らしさが更に増したな。フッ、リィンの婚約者じゃなかったら俺なら間違いなく狙っていたぞ。」

「ハハ、相変わらずですね。」

「ふふっ、皇帝に即位してから色々とご活躍されているようですが、陛下は変わっておりませんわね。」

「フウ……私としてはその活躍の中にある”娼館通い”はいい加減少しは控えて欲しいのですが……」

「やっぱり、クロスベルでも”娼館通い”をされているのですか、お父様は……」

ヴァイスの評価にリィンが苦笑し、セレーネが微笑んでいる中疲れた表情で溜息を吐いたリセルとメサイアの言葉にリィン達は冷や汗をかいた。

「フッ、それはできないな。何といっても”娼館”は”男のロマン”だしな!リィン、お前だってミルスにいた頃は上司や先輩に誘われて”娼館”を楽しんだんじゃないのか?」

「いやいやいや、確かに誘われはしましたけど、”娼館”には一度も行ったことはありませんから!」

「アハハ………フォルデさんやステラさんのお話ですと、お兄様はエリゼお姉様を理由にいつも断っていたそうですわよ?」

静かな笑みを浮かべて断言した後からかいの表情を浮かべたヴァイスに問いかけられたリィンは必死に否定し、セレーネは苦笑しながら答えた。



「やれやれ、そういう真面目な所も昔からだったのか………―――アルティナも久しぶりだが、1年半前と比べると随分と雰囲気が変わったな。」

「ヴァイスハイト皇帝陛下はお変わりなく。わたし自身は身体的成長以外は自覚していませんが、もし本当に変わっているのでしたらリィン教官達――――シュバルツァー家のお陰でしょうね。」

「ア、アル………」

「さすがに失礼だろう……」

ヴァイスに話を振られていつもの調子で答えたアルティナの様子にユウナは苦笑し、クルトは呆れた表情で指摘し

「フッ、事務的な所は変わっていないが良い仲間に恵まれたようだな。――――メサイア、リィンはあれからまたハーレムメンバーを増やしたのか?」

ヴァイスは苦笑した後メサイアに問いかけ、ヴァイスのメサイアへの質問を聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「何なんですか、その意味不明な問いかけは………第一俺には既に伴侶がいる上8人もの婚約者がいるのだから、これ以上増やすつもりはありませんよ……」

我に返ったリィンは疲れた表情で指摘し

「ア、アハハ……奇跡的にもあれからまだ一人も増えていませんわ。まあ、新しい女性と出会う機会も無かった事もありますが………ただ、第Ⅱ分校にいる今の状況だと増えるかもしれませんが………」

「メ、メサイアまで………というかそもそも第Ⅱ分校に所属している同僚の女性はセレーネを除けば知り合いばかりで、後は生徒達だけだから、メサイアが危惧しているような事は起こらないだろう……」

苦笑しながら答えた後気まずそうな表情をしたメサイアの推測にリィンは再び疲れた表情で指摘した。



「……どうでしょうね。1年半前の内戦で僅か2週間足らずで二人も増やした教官でしたら、トワ教官や生徒達にまで1年半前の内戦時のように”無自覚”で手をだす可能性はありえるのでは?」

「う”っ。」

「ご、ごめんなさい、お兄様……全く反論が見当たりませんわ……」

ジト目になったアルティナの説明に反論できないリィンは唸り声を上げ、セレーネは疲れた表情で答え

「そう言えばリウイ達から話には聞いていたがそちらの異世界から来た魔女のお嬢さんは未来を見る事ができるらしいが……やはりリィンは将来、更にハーレムメンバーを増やして結婚するのか?」

「”やはり”ってなんですか、”やはり”って!?ゲルド、そんな未来は見えないよな?」

「……………………えっと、私の予知能力で見える未来はあくまで”確定じゃなくて可能性”だから、私が見えた未来が確定している訳ではないから、断言できないわ。」

ヴァイスのゲルドへの問いかけに顔に青筋を立てて反論したリィンはゲルドに確認したが、ゲルドは少しの間黙り込んだ後リィンから目を逸らして困った表情で答えた。



「え”。」

「………どうやらゲルドさんの予知能力で今以上に女性を増やして結婚したリィン教官の未来が見えたようですね。」

「ああ……今の口ぶりだとそのように聞こえるな………」

「……つまり、今後もリィン教官の毒牙にかかってリィン教官のハーレムに加わる女性が現れる可能性があるって事ね。」

「ア、アハハ………」

(というかエリゼお姉様達の話ですと、その女性達の中にはゲルドさんまでいらっしゃるとの事ですが………ゲルドさんはそのような未来を見て、今お兄様の事をどう思っていらっしゃるのでしょう?)

ゲルドの反応にリィンは表情を引き攣らせ、ゲルドを除いた生徒達がジト目や呆れた表情でリィンを見つめている中メサイアとセレーネは苦笑し

「ハッハッハッ!さすがは俺の娘を落とした男だ!俺も負けずに更に増やさなければな!」

「お願いしますからこれ以上増やす事は止めてください…………と言っても、既に2名増えそうな気配ですけどね………」

「す、”既に2名増えそうな気配”って……」

「ま、まさか………心当たりがあるのですか?」

声を上げて笑ったヴァイスの言葉に呆れた表情で指摘したリセルのある言葉が気になったリィンは表情を引き攣らせ、セレーネは表情を引き攣らせながら訊ねた。

「ええ………元々はマルギレッタ様による交渉でヴァイス様と出会うきっかけとなった方達ですが………最近どうも”親しすぎる”ような気がするのです。しかもお二人とも未婚で、今まで男性との出会いが無かったとの事ですし……」

「ま、まさかお母様まで関わっていたなんて……それにしても”交渉”という事はそちらのお二人は何らかの立場についている方達なのですか?」

疲れた表情で答えたリセルの説明を聞いたメサイアは表情を引き攣らせた後ヴァイスとリセルに訊ねた。



「ああ。リベール王国のボース市長と彼女のお付きの侍女で、二人はマルギレッタとリ・アネスのような姉妹のように仲がいい可憐なる主従だ。」

「ブッ!?」

「リベール王国のボース市長は確か若輩でありながらもリベール王国の金融・経済の中心都市であるボース市を治めている事で”女傑”として有名なメイベル市長だったはずですが……」

「市長って事はマクダエル市長やディーター市長みたいな立場の人だから………ちょっ、そんなとんでもない立場の人を手籠めにしようとするなんて、幾ら何でも不味くありませんか!?」

「お、お父様……下手したら外交問題に発展するかもしれませんわよ……?」

ヴァイスの口から出たとんでもない答えにリィンは噴きだし、表情を引き攣らせながら呟いたクルトの言葉を聞いたユウナは信じられない表情でヴァイスを見つめ、メサイアは疲れた表情で指摘した。

「そうか?新興でありながらもエレボニアと”同格”であるクロスベルとより親密になれる機会だから、小国であるリベールからすれば問題にする所か、積極的に彼女達と俺との婚姻を進めてくるんじゃないのか?リベールの跡継ぎであるクローディア姫は女性だから、政略結婚をしようにも婿に取る相手は慎重にならざるを得ないだろうしな。それを考えるとリベールが政略結婚という方法で他国との関係を深める為にはクローディア姫に次ぐ立場―――デュナン公爵か、各都市の未婚の市長達と他国の立場がある者達と政略結婚させることだが……クローディア姫の性格を考えると、クローディア姫は幾ら国の為とはいえ相思相愛でもない政略結婚には賛成しないだろうしな。」

「そう言う口ぶりをするという事は既に私達の予想通りの展開になっているようですね………ハア………」

ヴァイスの推測を聞いたリセルは疲れた表情で片手で頭を抱えて溜息を吐き、その様子を見守っていたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「さてと。話を戻すがそちらは初対面になるな。」

そして話を戻したヴァイスはクルトに視線を向けた。

「―――初めまして、両陛下。ヴァンダール家が次子、クルト・ヴァンダールと申します。お二人の事は兄より伺っております。」

「兄……ミュラー中佐ですね。彼には”影の国”の時にお世話になりました。」

「フッ、その弟とこんな形で邂逅する事になるとは予想外だったが……これもまた巡り合わせなのだろうな。」

クルトの自己紹介に対してリセルは微笑みながら答え、ヴァイスは静かな笑みを浮かべてクルトを見つめ

「………恐縮です。」

クルトは謙遜した様子で答えた。



「そして、改めてになるがそちらのお嬢さんがリセルの話にあった………」

「―――ユウナ・クロフォードです。クロスベル軍警察学校出身で改めてトールズ第Ⅱに入学しました。」

ヴァイスに視線を向けられたユウナは真剣な表情で自己紹介をし

「リセルから第Ⅱ分校入りの経緯は聞いたが………――――悪かったな。知らなかったとはいえ、俺の部下が俺達”六銃士”に対する忠誠心が厚いあまり、俺にとっても後輩にあたるお前に理不尽な理由で迷惑をかけた上、わざわざ外国であるエレボニアの士官学院に入学し直す羽目に合わせてしまって。」

「っ………」

「ユウナさん……」

ヴァイスの話に唇を噛みしめたユウナの様子をリセルは複雑そうな表情で見つめた。

「色々あるだろうが、これもまた巡り合わせだ。――――第Ⅱで成長したお前がクロスベルに戻ってきてロイド達と一緒に活躍する時が来ることを期待して待っている。」

「はい………陛下の期待に応えられるよう……そしてあたしの望んだ未来を叶える為にもこれからも精進させてもらうつもりです。」

ヴァイスの言葉にユウナは複雑そうな表情で答えた。



「最後に――――改めてになるが魔女のお嬢さんがリウイ達の話にあったゼムリアとも、ディル=リフィーナとも異なる世界から来た者か。」

「……初めまして。ゲルド・フレデリック・リヒター・パリエです。”異界”から来た魔女で………”キーア”という人のお陰で、この世界で新たな人生を歩めるようになったわ。確かその娘はこの都市にいると聞いているけど……」

「え…………」

ヴァイスに視線を向けられたゲルドは軽く頭を下げて自己紹介をした後ヴァイスにある事を訊ね、ゲルドの口から出た意外な人物の名前を聞いたユウナは呆けた声を出した。

「ああ、キーアは今もこのクロスベルに住んでいる。特務活動でクロスベル内を歩き回ったりする事もあるだろうし、その時に会えるかもしれないな。」

「もし、よろしければ彼女に連絡を取って会える手筈を整えても構いませんよ?」

「ううん。忙しい王様達にそこまでしてもらう必要はありませんから、大丈夫です。それに時間があればお義母さんとシズクに会いに行こうと思っているから、お義母さん達がキーアという人と知り合いかどうかを聞いて、もし知り合いだったらお義母さん達を介してキーアという人に会うつもりです。」

「フッ、それなら俺達の手は必要なさそうだな。」

「ええ……お二人ともキーアちゃんとお知り合いですし、シズクちゃんに関してはキーアちゃんと親友の関係ですよ。」

「そうだったんだ………」

ヴァイスとリセルの話を聞いたゲルドは静かな笑みを浮かべた。

「――――それでは早速ですがご報告させていただきます。」

リィンは第Ⅱ分校が特別演習を開始した事をヴァイスに報告した。



「了解した。演習の成功は女神達に祈ろう。――――既に聞いているだろうが本日、”三帝国交流会”に参加する為にエレボニアとメンフィル、両帝国からそれぞれの国のVIP達が訪れる。最高レベルの警備体制を敷いているがそれでも気がかりがあってな。結社の残党の動向と――――”幻獣”の出現だ。――――リセル、要請書をリィンに。」

「かしこまりました、ヴァイス様。――――どうぞ、こちらが要請書です。」

ヴァイスに指示をされたリセルはリィンに特務活動の要請書を手渡した。



『重要調査項目』



帝都クロスベルにおいて確認された”幻獣”の出現可能性に関する調査。



「こ、これって……!」

「”幻獣”………?」

「”幻獣”というからには獣か魔獣の一種よね?どんな存在なのかしら………?

要請書の内容の一部を読んだユウナは驚き、クルトとゲルドは不思議そうな表情をし

「……”幻獣”というのは、通常より遥かに巨大で不可思議な力を持った魔獣のことだ。1年半前の独立宣言前後やエレボニアでの内戦中に各地で何体か出現していたが……」

「―――再び、クロスベルの地に”幻獣”が出現したということですか?」

事情がわからない生徒達にリィンが説明した後セレーネはヴァイス達に確認した。

「ええ、つい先日も北部の山道に現れたばかりです。」

「”幻獣”はリィンも言ったように、1年半前の独立宣言前後に現れて”碧の大樹”の件が終結した後は現れなくなったのだが……」

「それが何故今になって再びクロスベルに……?1年半前同様、結社の関与の可能性はあるのでしょうか?」

リセルとヴァイスの説明の後にアルティナは真剣な表情で二人に訊ねた。



「サザ―ラントの件を考えると一応、疑っておくべきだろうな。できれば第Ⅱ分校にはそちらの警戒を頼みたくてな。」

「……了解しました。この後、演習地にも伝えます。それと合わせて、幻獣が現れた山道の調査をする形でしょうか?」

「いえ、そちらの幻獣は遊撃士の方達によって撃破されました。その為皆さんには過去に出現した別の場所の調査を頼みたいのです。」

「……了解しましたわ。」

「1年半前の騒ぎに続いて”幻獣”に関しても遊撃士協会にも世話になっているが………ただでさえ、”三帝国交流会”の警備体制の件でも負担をかけているからこれ以上遊撃士協会に負担をかけさせるような事はできれば避けたい。その意味でも、お前達の活動には大いに期待させてもらっている。それではよろしく頼む――――灰色の騎士に聖竜の姫君、そして新Ⅶ組の面々。」

「了解しました!」

ヴァイスの応援の言葉にリィン達は力強く答え

「―――それとリィン。悪いが今回の特別演習が終わるまではメサイアを俺達に預けてもらってもいいか?」

「え………」

「メサイアを?何故でしょうか?」

ヴァイスの要求にメサイアが呆けている中リィンはヴァイスに理由を訊ねた。



「”三帝国交流会”に参加する為にはるばる祖国を離れてクロスベルを訪れるVIP達の対応にメサイアにも担当させたいからだ。」

「メサイア様は養子の身とはいえ、現状クロスベル帝国で唯一の皇女です。その為、できればエレボニアとメンフィルのVIP達にもメサイア様を公式の場で顔合わせをして欲しいのです。」

「なるほど……そういう事ですか。メサイアが構わないのでしたら、俺は構いませんが……メサイアはどうだ?」

ヴァイスとリセルの説明に納得したリィンはメサイアに確認し

「はい、まだ未婚の皇女の身でありながらリィン様と常に一緒にいるという我儘を許されているのですから、喜んで協力致しますわ。」

メサイアは静かな表情で頷いて了承の答えを口にした。

「そうか。特別演習の最終日の出発時にはメサイアを返す事を確約するから、それまでは他の異種族達と共に頑張ってくれ。……まあ、他のメンバーを考えるとメサイアが抜けた所で戦力に支障は出ないと思うが。」

「ハハ……了解しました。」

その後、メサイアをヴァイス達の元に残したリィン達はメンフィルとエレボニアのVIP達を迎える準備に多忙そうなヴァイス達の元を辞するのだった――――




 

 

第37話

エレベーターから降りたリィン達がエントランスホールに出るとある人物がリィン達に声をかけた。



~オルキスタワー・エントランスホール~



「ははっ――――早速会えたか、リィン、セレーネ。」

「え………」

「貴方は――――」

自分達に声をかけて近づいてきた人物―――マキアスを見たユウナとアルティナは呆け

「マキアスさん……!」

「ハハ、そっちも列車で来たばかりなのか?」

セレーネは驚き、リィンは苦笑しながらマキアスに対して返事をした。

「いや、昨日クロスベル入りして朝一番でここに参上したんだ。君達の演習と同じく今日からクロスベル軍警察との共同業務の開始でね。これから局の先輩と、皇帝陛下に”ご挨拶”しなくちゃならない。」

「そうか……俺達も挨拶してきたばかりさ。―――その、しっかりな。」

「はは……まあ、覚悟はできているよ。けど確か、ヴァイスハイト皇帝陛下はクロスベルにいた頃の君達の上司でもあったのだろう?それを考えると気は少し楽になるよ。」

「ふふっ、ヴァイスハイト陛下は皇帝でありながら気さくな方ですから、そんなに緊張しなくていいと思いますわ。」

マキアスと親しく会話している様子のリィン達が気になったユウナ達はリィン達にある事を訊ねた。

「えっと、ひょっとして。」

「そちらの方も―――――」

「ええ、”旧Ⅶ組”の一人で現帝都(ヘイムダル)知事の息子さんですね。」

「”旧Ⅶ組”という事はリィン教官達の昔の仲間の方ね……」

アルティナがマキアスの事について説明するとクルトとユウナはそれぞれ血相を変え、ゲルドは静かな表情で呟いた。



「あのレーグニッツ知事の……!」

「な、名前は知らないけどホント大物ばかりじゃない……!」

「えっと……”知事”ってどんな職業の人なのかしら??」

マキアスが誰の息子であるかを知ったクルトとユウナが驚いている中ゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。

「アルティナも久しぶりだな……話は聞いたが、本当に見違えたな。そちらの3人もよろしく。マキアス・レーグニッツだ。クロスベルには君達第Ⅱ分校と同じく”司法監査院”の出張として交換留学に来ていてね。」

「”司法監査院”………」

「……確か、司法の立場から行政機関をチェックするという………」

「成程、そうでしたか。――――この時勢にわざわざ茨の道を選択されたんですね。」

「”茨の道”……?ああ、その”司法監査院”?という所は政治家の人達にとっては厄介な所みたいだから、マキアスさん達は外国であるクロスベルに出張させられたのね。」

マキアスの自己紹介を聞いたユウナが呆け、クルトが考え込んでいる中アルティナとゲルドの感想を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「アル、ゲルド……あんた達ねぇ。」

「二人ともさすがに失礼すぎるだろう……」

「ハハ……君達の言う通りだ。エレボニアにある”全ての”行政機関に不正などの問題がないかどうかチェックする――――エレボニア政府まで厳密には対象になるんだからな。」

アルティナとゲルドの言動にユウナとクルトが呆れている中マキアスは苦笑しながらアルティナとゲルドの意見に同意した。

「そ、それって……」

「……大変どころの話ではなさそうですね。」

「ええ……エレボニア政府にはマキアスさんにとってのお父君であられるレーグニッツ知事も所属しているのですから………」

「だが、彼はあえてその道を進む事を選んだ。―――頑張っているみたいだな?」

「ああ、現実の壁の厚さにヘコみそうにはなるけどね。だが、そんなものは他のみんなだって同じだろう?」

「ああ………そうだな。」

リィンとマキアスがお互いの拳を合わせると、青年がリィン達に近づいて声をかけた。



「マキアスく~ん!面会の許可が下りたよ!」

「ああ、ライナー先輩。―――紹介します。1年半前の内戦時協力関係だった特務部隊に所属していたリィンとセレーネ、そして二人の教え子です。」

「ああっ、あの有名な――――いや~、マキアス君から君達の事は色々聞いてるよ~!」

マキアスにリィン達を紹介された青年―――ライナーは驚いた後親し気な笑顔をリィン達に見せた。

「はは……恐縮です。」

「フフ、1年半前マキアスさんにはお世話になりましたわ。」

ライナーの言葉に対してリィンとセレーネは苦笑しながら謙遜した様子で答えた。

「先輩、ヴァイスハイト皇帝陛下を待たせたらまずいのでは?彼らも忙しいみたいですし話はまたの機会にしましょう。」

「そ、そうだね。気を引き締めなくっちゃ。――――士官学院の演習だって?大変だろうけど頑張ってね!」

「リィン、セレーネ。夜にでも連絡する。君達もどうか頑張ってくれ。」

「は、はい!」

「またな、マキアス。ライナーさんも。」

「……ご武運を。」

「頑張ってください。」

「それではわたくし達も失礼しますわ。」

「……失礼します。」

その後マキアス達と別れたリィン達は特務活動を開始した。



~30分後・34F~



「―――それではフラン皇妃陛下、これからよろしくお願いします。」

「了解しました~。あ、その前に私の事は”フラン”でいいですよ~?ヴァイスさんと結婚して身分上は一応側妃ですが、クロスベル軍警察では普通の警察のオペレーター扱いをしてもらっていますので~。」

30分後ヴァイス達との面会を終えて執務室を出たマキアスは面会の際に紹介されたクロスベル軍警察のオペレーターを務め、ヴァイスの側妃の一人でもあるフラン・シーカーに軽く会釈をした。

「そうなんですか?それじゃあ、遠慮なくよろしくお願いします、フランさん。」

「はい~。フフ、それにしてもあの”旧Ⅶ組”の人とこんな形で知り合うなんて、不思議な出来事ですね~。」

「……?フランさんは僕達―――”旧Ⅶ組”の事をご存知なのですか?」

ライナーの言葉に頷いた後微笑みながら呟いたフランの言葉が気になったマキアスはフランたちと共にエレベーターに向かって歩きながら不思議そうな表情でフランに訊ねた。

「フフ、マキアスさん達――――”旧Ⅶ組”の方々は当然知っていますよ~。私は以前”特務支援課”のオペレーターを務めていましたので。」

「!フランさんがあの”特務支援課”の関係者だったとは………という事は僕達”旧Ⅶ組”の事はリィンやセレーネから?」

「はい~。あ、エレベーターが来たみたいですよ。」

驚いている様子のマキアスの言葉に頷いたフランはエレベーターの中へと入り、マキアスとライナーもフランに続くようにエレベーターの中へと入った。するとその時別のエレベーターが到着し、エレベーターからセリカ達が現れた。

「へ…………」

自分達が乗っているエレベーターの扉が閉まる瞬間、別のエレベーターから降りたセリカの横顔や後ろ姿が見えたマキアスは呆けた声を出し

「どうしたんだい、マキアス君?」

「い、いえ。一瞬知り合いに似た人物が見えたような気がしたのですが……多分、他人の空似だと思います。第一その人物はリィンと常に一緒にいますし。」

ライナーに訊ねられたマキアスは戸惑いの表情で答え

「???」

「不思議な事もあるんですね~。」

マキアスの答えにライナーは首を傾げ、フランは呑気な様子で答えた。一方セリカ達はヴァイスを訊ねていた。



~執務室~



「―――誰だ?」

執務室でヴァイスが一人で様々な書類のチェックをしていると扉がノックされ

「――――セリカだ。」

「ああ、そのまま入ってくれ。」

扉の外から聞こえた来た声を聞いたヴァイスが入室の許可を口にするとセリカ達が部屋に入って来た。

「どうも~、1年半ぶりですね~、ヴァイスハイト皇帝陛下♪」

「もう、マリーニャさんったら………―――お久しぶりです、ヴァイスハイト皇帝陛下。」

「えへへ~、また会えたです~。」

「うむ、久しぶりじゃ!」

「久し………ぶり………」

セリカと共にいた青髪のメイド――――セリカの”第二使徒”のマリーニャ・クルップ、シュリ、緑髪をツインテールにしているメイドと真紅の髪のメイド――――セリカの”第四使徒”のサリア・レイツェンとセリカの”第五使徒”にして古神の一柱でもあるレシェンテ、姿は少女でありながらもセリカやレシェンテに次ぐ莫大な魔力をその身に宿している魔神―――――ソロモン72柱の一柱であり、”冥き途”の門番でもある”冥門候”ナベリウスはそれぞれヴァイスに声をかけた。

「ああ、皆変わりないようで何よりだ。――――勿論ロカ殿も不老の存在である”神格者”だけあって、相変わらずの美しさだ。」

「フフ、ヴァイスハイト陛下も相変わらずですね。」

「………数多くの妃を娶っておきながら、未だ他の女性にも興味を向けるとは底抜けの女好きだな。」

ヴァイスの賛辞に特注の魔導鎧を身に纏った神官戦士―――――”軍神マーズテリア”の”神格者”の一人であるロカ・ルースコートは微笑み、セリカは呆れた表情でヴァイスを見つめた。

「いやいや、女神と将来結ばれる事が確定していながら、”使徒”達どころかマーズテリアの神格者にソロモン72柱の一柱、その他諸々の多くの様々な立場の女性達と関係を結んでいるセリカ程ではないぞ?」

「ア、アハハ………」

(クク、確かにセリカだけは他人の事は言えないだの。)

「……………下らん話はそこまでにして、本題に入れ。」

からかいの表情のヴァイスの指摘に対してシュリは苦笑し、ハイシェラは口元に笑みを浮かべて同意し、反論できないセリカは露骨に話を逸らそうとした。



「ああ。――――改めてになるが、俺―――いや、俺達の要請に応えて再びクロスベルの地に現れた事、感謝する。」

「………礼は必要ない。”鉄血宰相”と”黒のアルベリヒ”とやらが考えている”野望”は叩き潰す必要がある。―――――将来産まれてくるサティアが平和に過ごす為にもな。」

「フッ、たった一人の女の為だけに”神殺し”であるセリカの怒りを買った愚か者達はある意味哀れかもしれんな。――――しかし、驚いたぞ。プレイアにいる使徒達全員を連れてくる事までは予測していたが、わざわざ”冥き途”の門番であるナベリウスや”軍神(マーズテリア)”の神格者の一人であるロカ殿まで呼び寄せるとはな。」

セリカの答えを聞いて静かな笑みを浮かべたヴァイスはナベリウスとロカに視線を向けた。

「手紙に書いてある通りならば、状況はどう考えても1年半前の件を超えるからな。万全の態勢で挑む為にも二人にも声をかけた。………まあ、運良くロカにも事情を書いた俺の手紙が届き、こうして再び俺達と共にクロスベルに来たことには俺も驚いているが。」

「フフ、他ならぬセリカの為ならば私は喜んで協力するわ。それに異なる世界とはいえ、世界を”終焉”へと導く”巨イナル黄昏”とやらは”軍神(マーズテリア)”の神官の一人としても、絶対に阻止すべき事だもの。」

「黄昏……起こる事………わたし達の世界……冥き途………影響あるかもしれない、から……タルちゃん、セリカ達を手伝えって……言った………」

ヴァイスの指摘に対して静かな表情で答えたセリカはロカに視線を向け、視線を向けられたロカは微笑みながら答えた後表情を引き締め、ナベリウスは淡々といつもの調子で答えた。



「―――手紙の内容によりますと、”三帝国交流会”の際にも結社の残党による”実験”がある為、私達にも協力して欲しい事が手紙に書いてありましたが……具体的にはどのような協力をすればいいのでしょうか?」

「それは勿論、結社の残党共をわらわ達に始末して欲しいからに決まっているじゃろ!敵がわざわざ分散して現れてくれるのじゃから、始末して敵の戦力を低下させる絶好の機会じゃしな!」

「何であんたは真っ先にそんな物騒な考えを思いつくのよ………」

「ふえ?でも、敵さん達をやっつける為にサリア達、またみんなで一緒にゼムリア大陸に来たのじゃありませんの?」

シュリはヴァイスに要件を訊ね、ヴァイスが答える為に胸を張って答えたレシェンテの推測を聞いて呆れているマリーニャの言葉を聞いたサリアは無邪気な様子で首を傾げた。

「ハハ、まあレシェンテの推測も遠からず当たっているが………セリカ達に実際に動いてもらう事になるのは恐らく明日になると思われる。よって、今日は英気を養ってくれ。――――何だったら、魔力補充の為に”幻獣”を狩るか?もしそのつもりなら、リィン達に渡したのとは別の過去の”幻獣”が現れた資料を渡すが。」

「お前は俺を何だと思っている……?確かに魔力補充は俺にとっては必須だが、マリーニャ達がいるのだから、わざわざ必要もないのに”幻獣”を狩るつもりはない。」

「――――それよりも、その口ぶりですと”碧の大樹”が消滅してから現れなくなったはずの”幻獣”が再びクロスベルに現れたのですか?」

ヴァイスの問いかけにセリカは呆れた表情で答え、ロカは真剣な表情でヴァイスに訊ねた。

「ああ。そうなったのも”並行世界の新Ⅶ組”によると、”巨イナル黄昏”の前兆としてエレボニアとクロスベルの霊脈が繋がりつつある影響との事だからな。」

「それは………」

「………現時点でも、既に影響は出始めているという事か。」

ヴァイスの答えを聞いたシュリは不安そうな表情をし、セリカは静かな表情で呟いた。



「ああ、恐らくな。――――そうだ、お前達が来てくれたら渡そうと思っていた物があったから、それを今渡す。」

「へ……あ、あたし達に渡す物、ですか?」

「サリア達に何をくれるのでしょうか~?」

ある事を思い出したヴァイスの言葉を聞いたマリーニャは不思議そうな表情をし、サリアは首を傾げてヴァイスに訊ねた。

「フッ、それは見てからのお楽しみだ。―――――ヴァイスハイト皇帝だ。すまないが、今時間はあるか?依頼していた物品を届けて欲しいのだが―――――」

そしてヴァイスは誰かと通信をし、通信を終えてセリカ達と今後の事について話していると扉がノックされた。



「――――失礼します、ラインフォルトです。」

「ああ、入ってくれ。」

ヴァイスが入室を許可するとアリサとシャロンが執務室に入り

「へ………あ、貴女は………!………って、あれ?前に会った時と比べると服装もそうだけど雰囲気も随分変わっているようだけど………」

執務室に入り、セリカを見たアリサは呆けた後困惑の表情でセリカを見つめたが

「―――フフ、お嬢様。そちらのアイドス様に非常に似た男性――――”嵐の剣神”の二つ名で名高いセリカ・シルフィル様はアイドス様ではありませんわよ。」

「へ……お、”男”!?ど、道理でアイドスと全然雰囲気が違う訳ね………リィンからアイドスにアイドスそっくりのお兄さんがいる話は聞いていたけど、まさかここまで似ているなんて……」

シャロンの指摘を聞くと驚き、信じられない表情でセリカを見つめた。

「え………」

(ぬ?何故その嬢ちゃん達がアイドスの事を……)

「………何故、アイドスを知っている?リィンの知り合いのようだが………」

二人の会話を聞いたシュリは呆け、ハイシェラは眉を顰め、セリカは静かな表情でアリサ達に問いかけ

「あー、そう言えばまだ言ってなかったな。金髪のお嬢さんは”アリサ・ラインフォルト”という名前でラインフォルトグループの会長の一人娘にしてリィンやセレーネ達――――”特務部隊”と共に1年半前のエレボニアの内戦終結に大きく貢献したトールズ士官学院”旧Ⅶ組”の一人だ。」

「うふふ、それとアリサお嬢様は内戦時にリィン様と結ばれた事で数多くいるリィン様の婚約者の一人に加わった方ですわ♪」

「シャ、シャロン!」

ヴァイスの説明の後にからかいの表情を浮かべて答えたシャロンの自分の事についての紹介を聞いたセリカ達が冷や汗をかいて脱力している中アリサは顔を真っ赤にして声を上げた。



「……なるほど、そういう事か。」

「二人にも紹介しておこう。――――そこのアイドス似の男性の名前はセリカ・シルフィル。異世界ディル=リフィーナの大国―――”レウィニア神健国”の客将だ。ちなみに”レウィニア神健国”はメンフィル帝国と同等の国力を持っていると言われている大国だ。」

アリサ達の説明を聞いたセリカが納得している中ヴァイスはアリサとシャロンにセリカの事を軽く紹介し

「まあ………」

「ええっ……!?あ、あのメンフィルと……!?えっと………どうしてそんな特殊な立場の方がクロスベルを訪れているのでしょうか……?」

セリカについての説明を聞いたシャロンは目を丸くし、アリサは驚きの声を上げた後戸惑いの表情でセリカ達を見つめた。

「旧Ⅶ組や特務部隊と連絡を取り合っている二人なら知っているだろうが、今のクロスベルはある意味独立前よりも”結社の件を含めた気がかりな事”があるからな。ちなみにその”結社の件を除いた気がかりな事”がどの件なのかは、クロスベルと某帝国との関係を考えたら言わなくても大体察する事ができるだろう?」

「………っ…………」

「フフ、という事はリィン様達とは”別口”で、クロスベルで起こるかもしれない”不測の出来事”に当たってもらう為にセリカ様達をお呼びしたのでしょうか?セリカ様を含めて周りの方々も、相当な使い手―――それこそ、結社の”執行者”を軽く凌駕するほどの方々もいらっしゃいますし。」

ヴァイスの説明を聞いたアリサが息を呑んだ後複雑そうな表情で黙り込んでいる中シャロンは苦笑しながらセリカ達を見回した。



「ええっ!?セリカさん以外の他の人達ってメイドに子供……?ばかりなのに、そんなに強いの!?……そちらの紅い鎧の女性が強そうなのは何となくわかるけど………」

一方シャロンの推測を聞いたアリサは驚いてマリーニャ達を見回した後ロカに視線を向け

「わらわは子供じゃないぞ!」

「サリアも子供じゃなくて大人の女性ですよ~?」

「いや、レシェンテのその見た目だと事情を知らない人達からすれば、普通はそう見えるでしょ……それとサリア、あんたのその口調、どう考えても”子供”よ?」

「わたし………おとな………貴女達より………とっても年上………えっへん………」

「す、すみません……お見苦しい所を見せてしまって……」

アリサの言葉にレシェンテは憤慨し、サリアは首を傾げて指摘し、二人の反応を見たマリーニャは呆れた表情で指摘し、ナベリウスは静かな口調で呟き、シュリは疲れた表情でヴァイスとアリサ達に謝罪し、その様子を見たアリサとシャロンは冷や汗をかいて脱力した。

「何なのよ、この訳のわからない集団は………」

「クスクス………――――それで、話を戻しますが以前注文して頂いた商品はこちらの方々にお渡しすればよろしいのでしょうか?」

我に返ったアリサが疲れた表情で溜息を吐いている中、シャロンは微笑んだ後ヴァイスに訊ねた。

「ああ、まずはARCUSⅡの方から渡してやってくれ。」

「―――かしこまりました。どうぞ、お受け取りください。」

そしてヴァイスの答えを聞いたシャロンはセリカ達にARCUSⅡを渡した。

「これは………」

「――――”戦術オーブメント”か。だが、”戦術オーブメント”なら以前リウイ達から貰った”ENIGMA(エニグマ)・R(リメイク)”とやらを持っているが。」

渡されたARCUSⅡをロカが目を丸くして見ている中セリカは静かな表情でヴァイスに訊ねた。

「アリサ室長、セリカ達に”ARCUS(アークス)”についての説明を頼む。」

「あ、はい。こちらの戦術オーブメントは”ENIGMA”シリーズではなく、RF(我が社)がエプスタインと共同で開発した”ARCUS(アークス)”シリーズと言いまして―――――」

ヴァイスに説明を促されたアリサはセリカ達に”ARCUSⅡ”についての説明をした。



「………なるほど。要するに”ARCUS(アークス)”とやらは”ENIGMA(エニグマ)・R(リメイク)”を劣化させた戦術オーブメントか。」

(このバカ者が。ちゃんと二人の説明を聞いていたのか?)

説明を聞き終えて最初に口にしたセリカの感想にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ハイシェラは呆れた表情で指摘し

「セ、セリカ様!確かに”ARCUSⅡ”は”ENIGMA・R”と使い勝手が異なる部分がありますが、決して”ARCUSⅡ”が”ENIGMA・R”に劣っている訳ではありませんよ?」

「そうね。特に”ブレイブオーダー”とやらは説明を聞いた感じ戦闘の際、かなり便利な機能だと思うわよ?」

「じゃが、クオーツによるアーツの組み合わせができなくなるから、失敗作じゃないのか?」

「はいです~。アーツがたくさん使えないと不便ですよ~?」

「………………」

「というかどうせあんた達は威力が高くて広範囲の上位か最上位アーツしか使わないんだから、そんなに気にする必要なんてないと思うけどね……」

シュリは我に返るとアリサとシャロンを気にしながら苦笑しているロカと共にセリカの推測が若干異なっている事を指摘している一方、レシェンテとサリアはセリカの感想に同意し、二人の言葉に続くようにナベリウスは軽く頷き、レシェンテ達に対してマリーニャは呆れた表情で指摘した。

「うぐっ………一番痛い所を容赦なく突いてきたわね………」

「フフ、皆様の仰る通りその欠点については未だ改良中の為、お恥ずかしながら克服できておりませんわ。――――ですが、その欠点を補う部分があるのが”ARCUSⅡ”の特徴ですわ。」

アリサは唸り声を上げた後ジト目でセリカ達を見つめ、シャロンは苦笑した後説明を続けた。



「………まあいい。実際に戦闘に使って、どっちが有用なのか確かめればわかる事だ。――――それで、俺達に渡す物はこの”ARCUS(アークス)Ⅱ”とやらか?」

「いや、それはあくまで”オマケ”だ。本命はRF(ラインフォルトグループ)とセティ達―――”工匠”が共同で開発したお前達専用の特注の移動用の道具だぞ?」

「え……セティさん達と共同で……それも移動用の道具ですか?」

「フフ、ウィルの子供である彼女達も関わっているのだから、どんな物なのかかなり興味が湧いてくるわね。」

セリカの問いかけに答えたヴァイスの答えを聞いたシュリは目を丸くし、ロカは微笑んだ。そしてセリカ達は話に出た”道具”を受け取る為にヴァイスとアリサ達と共にエレベーターでタワー地下にある駐車場まで下りた。



~B1F~



「これは…………」

地下に到着し、アリサとシャロンの先導によって数台の導力バイクが置かれている場所まで移動して導力バイクを見たセリカは目を丸くし

「こちらは”導力バイク”といいまして、”導力技術”が存在しない異世界の方々である皆様方にわかりやすいように説明しますと、馬の代わりになる機械の乗り物ですわ。」

「”導力バイク”は機械ですから当然馬のように馬自身の疲労や餌の準備と言った生物に関して発生するその他諸々の問題は発生しませんし、”導力車”と違い、狭い道や山道と言った所も走行可能ですから、主に街道を外れた場所を散策する遊撃士達が購入しています。」

「まあ……それは便利ですね。」

(フム、確かに馬と違って生死を気にする必要はない上、疲労もせぬから便利だの。)

「………あの横についている物はなにかしら?」

シャロンとアリサの説明を聞いたシュリとハイシェラは興味ありげな表情を浮かべて導力バイクを見つめ、導力バイクに接続されているサイドカーが気になったロカはアリサ達に質問した。

「あちらは”サイドカー”といいまして、導力バイクを運転をしない方が乗り込む事で導力バイクの運転者の方と共に導力バイクで移動する為の物ですわ。」

「なるほどね……という事はサリアとレシェンテ、後はナベリウスはサイドカーに乗る事が決定ね。」

「なんじゃと!?わらわもあの導力バイクとやらを運転したいぞ!」

「サリアも運転したいです~!」

「………わたし……座っているだけで移動……楽……サイドカー……いい………」

サイドカーの説明を聞いたマリーニャの提案を聞いたレシェンテとサリアが反論している中ナベリウスだけマリーニャの提案に頷いていた。



「レシェンテとナベリウスの背では運転するのに無理があるし、馬術の経験もないサリアには危なすぎる。――――それよりも俺達の為に特注で作ったと言っていたが、どこが特注なのだ?」

「あ、はい。通常導力バイクは戦術オーブメントのように導力バイクを動かす為に燃料である”導力”が必要なため、”導力”が無くなれば”導力”の補充を必要とする手間が発生しますが、これらの導力バイクはセティさん達――――”工匠”の方々の協力によって、止まっている時は勿論走っている時も自動的に”導力”が補充され続けるため”補充”の手間を必要としないのです。」

「あら……”燃料の補充”も必要としないなんて、とても便利ね。さすがはウィルの子供達ね。」

「はい。”導力”を自動的に補充させるという事は、もしかして”導力”を自動的に回復させる為のアクセサリーやクオーツ等もこれらのバイクに内蔵しているのでしょうか?」

セリカの質問に答えたアリサの答えを聞いたロカは感心した様子で導力バイクを見つめ、シュリは自身の推測をアリサ達に訊ねた。

「フフ、まさにその通りですわ。」

「それにしても”導力技術”が存在しない異世界の方の割には随分と”導力技術”についてもご存知のようですが………どなたか、知り合いに教わったのでしょうか?」

シュリの指摘にシャロンが頷いている中アリサは不思議そうな表情でシュリに訊ねた。

「シュリは元々技術関係を学んでいて、”匠王”であるウィル様や導力技術に詳しいゼムリア大陸の知り合いからも”工匠”や”導力技術”についても学んでいたから、シュリはこう見えても技術関連にはとても秀でているのよ♪」

「マ、マリーニャさん。幾ら何でもさすがにそれは言い過ぎですよ………」

「フッ、だがウィルに加えて”三高弟”の一人であるラッセル博士の孫娘から学んだのだから、そこらの技術者よりはシュリの方が圧倒的に優れていると思うぞ?」

マリーニャの答えを聞いたシュリは恥ずかしそうな表情で答え、その様子を見たヴァイスは口元に笑みを浮かべて指摘した。

「ええっ!?”匠王”に加えてあのラッセル博士の孫娘からそれぞれの技術を学んだのですか!?」

「うふふ、シュリ様は技術の師にとてもめぐまれた方なのですわね♪」

ヴァイスの話を聞いたアリサは驚き、シャロンは微笑みながらシュリを見つめた。



「………それで?ARCUSⅡに加えてこんな物までわざわざ用意して、何故俺達に何の見返りもなく渡す事にしたんだ?」

一方ヴァイスの真意が気になったセリカはヴァイスに真意を訊ね

「それは勿論”ディル=リフィーナ中にその名を轟かせている程の使い手であるセリカ”が旧知の仲とはいえ、わざわざ世界を超えて俺の頼みに応えてクロスベルに来てくれたのだから、俺からのせめてもの感謝の気持ちだ。ARCUSⅡに導力バイク……どちらもお前達にとってはお前達の世界でも役立つ物だから、金にも困っていないお前達の場合、金よりもこういった実用的な物の方が助かるだろう?」

(クク、確かにセリカはその名をディル=リフィーナ中に轟かせてはいるが、少なくても良い印象ではないだの。)

「………確かにな。――――そういう事ならば、ありがたく受け取っておこう。」

ヴァイスの答えを聞くとハイシェラが口元に笑みを浮かべて指摘している中、セリカは納得した様子で導力バイクを見つめた。



こうして再びクロスベルの地に現れた”神殺し”セリカ一行はヴァイスの厚意によって導力バイクを手に入れた――――――






 
 

 
後書き
という訳で今回の話でセリカ達がクロスベルに現れ、まさかの導力バイクを手に入れました!セリカにバイク……何気に似合っているような気がしますwwそして今回の話で原作では登場しなかったフランが出番はちょびっとですが姉のノエルよりも早く閃Ⅲで登場しましたww 

 

第38話

特務活動の必須要請の一つである市内の店舗調査で、リィン達はある調査対象の一つである会社の建物の前に到着した。



~中央広場~



「ここが次の調査対象の一つである”インフィニティ”ですか………」

「何だかこの建物はクロスベルの他の建物とは色々と違うように感じるわね……」

”インフィニティ”という看板をつけた建物の前に到着したクルトは建物を見上げ、ゲルドは不思議そうな表情で首を傾げて呟いた。

「クロスベルの他の建物と色々と違うと仰いましたが、ゲルドさんはどういう違いに気づいたのですか?」

「う~ん……ハッキリとした違いはわからないんだけど………この建物からは何だか暖かい雰囲気を感じるわ。」

「へえ……」

「暖かい雰囲気………以前来た時もわたしはそういうのは感じませんでしたが………」

「………………」

セレーネの質問に首を傾げながら答えたゲルドの答えを聞いたリィンは感心した様子でゲルドを見つめ、アルティナは不思議そうな表情を浮かべ、ユウナは複雑そうな表情で建物を見つめた。

「ハハ、アルティナもいつかわかる時が来るさ。――――それよりもこうして”インフィニティ”に来る機会ができたのだから、せっかくだからセティ達に”いつもの”を頼んでおくか?」

「……そうですね。第Ⅱ分校に派遣中の今の状況では次はいつクロスベルを訪れる事ができるかわかりませんし。」

リィンに話を振られたアルティナは頷き

「?教官達はこの会社に以前も立ち寄った事があるのですか?」

「ああ、それについては中に入ってから説明するよ。」

クルトの疑問に答えたリィンはユウナ達と共に建物の中へと入って行った。



~総合工匠会社”インフィニティ”~



「お邪魔しま――――あ。」

建物の中に入って挨拶をしたゲルドは室内の奥にある長いテーブルで話している人物達を見つけると呆けた声を出し

「あ、お客様みたいだよ、キーアちゃ――――え。」

「あら、貴女達は………」

一方テーブルで碧い髪の少女と談笑していた黒髪の少女はリィン達に気づくと呆け、少女達と一緒にいる妊婦の女性は目を丸くしてリィン達を見つめ

「わぁぁぁ……っ!リィン、セレーネ、おっかえり~――――!」

碧い髪の少女は目を輝かせた後リィンとセレーネにタックルをした。

「おっと……!ハハ、まさかクロスベルに来て早々キーアの”これ”を受け止める事になるなんてな。」

「フフ、久しぶりの”ただいま”です、キーアさん。」

セレーネと共に碧い髪の少女のタックルを受け止めたリィンは苦笑し、セレーネは微笑みながら答えた。

「教官達はそちらの少女とお知り合いのようですが………まさかとは思いますがそちらの少女もマキアスさんと同じ……」

「いやいや、さすがにそれはありえないから。」

「―――彼女はキーアさん。教官達が以前クロスベルに派遣された際に所属していたクロスベル警察の部署――――”特務支援課”が保護していた少女です。」

リィン達の様子を見たクルトの推測を聞いたユウナは苦笑しながら否定し、アルティナは静かな表情で碧い髪の少女―――キーアの事について軽く紹介し

「!!なるほど、”そちら”の方か………」

「その娘が”キーア”………」

アルティナの説明を聞いたクルトは目を見開いて興味ありげな表情で静かな表情を浮かべたゲルドと共にキーアを見つめた。



「あっ!アルティナにユウナ!二人とも、リィン達と一緒にクロスベルに帰ってくるなんて、どうしたの?もしかして、ブンコウを”クビ”になって、サイシュウショクをする為にクロスベルに帰って来たの~?」

「いやいや、例え第Ⅱ分校を退学や退職処分になったとしてもあたしはともかくメンフィル帝国出身―――それもメンフィル帝国の大貴族になる事が内定している教官達が、再就職する為にクロスベルに帰ってくるなんておかしいわよ!」

「というかキーアさんは一体どこからそのような普通の子供は学ばないような事を学んでいるのでしょうか?」

キーアの推測にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ユウナは苦笑しながら否定し、アルティナはジト目で指摘した。

「もう、キーアちゃんったら…………えっと……お久しぶりです、リィンさん、セレーネさん、アルティナさん。……それとゲルド義姉(ねえ)さんも。」

そこに妊婦の女性と共にリィン達に近づいてきた黒髪の少女は溜息を吐いた後リィン達に挨拶をし

「ゲルドが義姉(あね)………という事はまさかそちらのお二人がゲルドの――――」

「うん。黒髪の女の子はシズクで私の義妹(いもうと)。そしてシズクの隣にいる今お腹の中に赤ちゃんがいる女性は私のお義母(かあ)さんのセシルお義母(かあ)さん。」

クルトの推測に頷いたゲルドは黒髪の少女――――ゲルドの義妹であるシズク・M・パリエと妊婦の女性――――ゲルドの義母にしてリウイの側妃の一人であるセシル・パリエをリィン達に紹介し

「フフ、貴方達がゲルドのクラスメイトね。ゲルドとシズクのお母さんのセシルよ。よろしくね。」

ゲルドに紹介されたセシルは微笑みながら自己紹介をした。

「ただいまー。3人とも、留守番ありがとう。…………え。」

「どうしたのですか、シャマーラ。玄関で立ち止まったりして――――――あ。」

「まあ……!フフ、クロスベルを訪れている事はエリィさん達から伺っていましたが、もうここに顔を出してくれたのですね。」

するとその時リィン達の背後から魔族の娘が現れた後リィン達に気づくと立ち止まって呆けた声を出し、魔族の娘に続くように現れた天使族の娘は魔族の娘のように立ち止まって呆けた声を出し、二人の背後にいたエルフ族の娘はリィン達を見ると驚いた後微笑んだ。

「ハハ、3人とも久しぶりだな。」

「皆さんお出かけだったようですが……ちょうどいい時に訊ねる事ができたようですわね。」

新たな娘達の登場にリィンは懐かしそうな表情を浮かべ、セレーネは微笑んだ。その後リィン達は奥のテーブルの席についた。



「初めての方達もいらっしゃるようですからまずは自己紹介からですね。―――――若輩者ではありますが総合工匠会社”インフィニティ”のトップである”匠貴”を務めさせて頂いておりますセルヴァンティティ・ディオンと申します。親しい方達には私の事を”セティ”と呼んでもらっていますので、どうか皆さんも私の事は”セティ”とお呼びください。」

「次はあたしだね!”インフィニティ”のナンバー2の”副匠貴”でセティ姉さんの妹のシャマーラ・ディオンだよ!よろしくね!」

「同じく”インフィニティ”の”副匠貴”を務めるセティ姉様の妹の一人―――エリナ・ディオンと申します。よろしくお願いします。」

エルフ族の娘――――セルヴァンティティ・ディオン―――セティと魔族の娘―――シャマーラ・ディオン、そして天使族の娘―――エリナ・ディオンはそれぞれ自己紹介をし

「”ディオン”……という事は貴女方があの”匠王”の……」

「?クルトはセティさん達のご両親を知っているようだけど……”匠王”って一体どんな人なの?」

セティ達を驚きの表情で見つめて呟いたクルトの言葉が気になったゲルドは首を傾げて訊ねた。

「――――”匠王”とはあらゆる技術分野を取り扱っている”工匠”の中でも最も優れ、彼の技術力は誰も敵わない事から”匠の王”を意味する二つ名を付けられた最高峰の技術者――――ウィルフレド・ディオン卿の事さ。」

「そしてセティ先輩達がその”匠王”の娘にして、クロスベルの英雄である”特務支援課”の一員だったのよ!しかも”特務支援課”が解散した後も故郷に戻らずクロスベルでゼムリア大陸の”工匠”達を育てる為に会社を設立した上、クロスベル政府の頭を悩ましていた旧市街を”工匠特区”へと発展させる礎を作った超凄い人達なのよ!」

「そこで何故ユウナさんが自慢げに語る必要があるのでしょうか?」

「まあまあ。」

クルトの後に自慢げに説明したユウナをジト目で指摘したアルティナをセレーネは苦笑しながら諫めた。



「アハハ、さすがに褒めすぎだよ~。」

「……そうですね。私達はあくまで旧市街の人達で”工匠”になりたい人達に”工匠”になる為のお手伝いをしただけで、旧市街を発展させたのは旧市街の人達の努力の賜物ですよ。」

一方ユウナの賛辞にシャマーラとエリナは苦笑し

「―――それよりも貴方はお父様の事をご存知のようですが、どなたからお父様の事を伺ったのでしょうか?」

「あ……名乗るのが遅れてしまい、申し訳ありません。――――ヴァンダールが次子、クルト・ヴァンダールと申します。皆さんの父君―――ウィルフレド卿や母君であるセラヴァルウィ夫人については兄ミュラーから伺っています。」

「あら……」

「あ、クルトさんはミュラー中佐の弟さんなんだ。道理で父さんやあたし達の事を知っている訳だね~。」

「……今までの様子からして、クルトのお兄さんは顔が広いのね。クルトのお兄さんはセティさん達のご両親やクロスベルの王様とも知り合いみたいだし。」

セティの質問を聞いて自己紹介をしたクルトの話を聞いたセシルとシャマーラは目を丸くし、ゲルドは興味ありげな表情を浮かべてクルトを見つめた。

「兄が巻き込まれた”とある事件”でたまたま、ヴァイスハイト陛下達も巻き込まれて、その時に兄が知り合ったようなんだ。」

「フフ、ちなみにその事件にはわたくしのお姉様やレン教官も巻き込まれたとの事ですから、クルトさんのお兄さんであるミュラー中佐はお姉様達とも知り合いですわ。」

「そうなんだ………えっと……それで貴女が”キーア”なのね?」

クルトとセレーネの説明を聞いて目を丸くしたゲルドはキーアに視線を向け

「うん!ゲルドの髪、雪みたいに真っ白でとってもキレイだね~♪」

「フフ、わたしも最初ゲルド義姉さんの髪を見た時は見惚れちゃった……」

「髪もそうだけど容姿もとっても綺麗だから、ゲルドは男の子達にモテモテなんでしょうね………―――ハッ、もしかしてもう恋人ができたから私達に紹介する為にクロスベルに来たのかしら?お相手はやっぱりリィン君?それともクルト君かしら?」

視線を向けられたキーアは興味ありげな表情でゲルドを見つめ、キーアの言葉にシズクは微笑みながら答え、セシルもシズクの意見に同意したがすぐにセシル独特の”天然”らしさをさらけ出し、それを見たその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力した。



「お、お義母さぁん……」

「ア、アハハ……久しぶりに出ましたね、セシルさんの”天然”っぷりが。」

「フフ、懐かしいですわね。」

「というか”やっぱり”ってなんですか、”やっぱり”って!?ヴァイスハイト陛下といい、セシル様といい、俺をどんな風に見ているんですか……」

(間違いなく多くの女性を虜にする男性である事は理解していて、言っているのでしょうね……)

我に返ったシズクは疲れた表情を浮かべ、ユウナは苦笑し、セレーネは懐かしみ、リィンは疲れた表情で指摘し、その様子を神剣から見守っていたアイドスは苦笑していた。

「そう言えば……演習地でも気になっていましたが、もしかしてユウナさんはセシル様とお知り合いなのですか?」

「うん。セシルさんの実家があるアパートはあたしの実家があるアパートでもあるから、セシルさんはご近所さんで昔からの付き合いなの。」

「そうだったのか………」

アルティナの疑問に対して答えたユウナとセシルの意外な関係を知ったクルトは驚きの表情を浮かべた。

「それで今日はどのような要件で我が社に?リィンさん達――――第Ⅱ分校が”特別演習”の為にクロスベルを訪れている事は知っていますが……」

「っと、そう言えば先に要件をすまさないとな。」

セティの疑問を聞いたリィンはセティ達に必須要請の中にある店舗の聞き取り調査で訊ねた事を説明した。



「なるほど……その為にわざわざ我が社に。ヴァイスハイト陛下の事ですから、私達とリィンさん達を再会させる為に敢えてこの要請をリィンさん達に回したのでしょうね……」

「アハハ、確かにヴァイスハイト陛下だったらありえそうだね~。それにしても”特務活動”って、何だかどこかの活動と非常に似ていて、親近感が湧いてくるよね~。」

「ん~~~~………あっ!キーア、わかった!ユウナ達は今、ロイド達やミシェル達の真似っこをしているんだ!」

事情を聞いたエリナとシャマーラが苦笑している中首を傾げて考え込んでいたキーアは無邪気な笑顔を浮かべて答え、キーアの推測を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいた。

「相変わらず普通なら口にしにくい事を躊躇わずにストレートに口にする方ですね。」

「キ、キーアちゃん!そういう事はわかっていてもせめて、ユウナさん達の前では言ったらだめだよ。」

我に返ったアルティナはジト目でキーアを見つめ、シズクは焦った様子でキーアに指摘した。

「ハハ……そういう訳だから、忙しい中悪いとは思うが、少しだけ教えてくれないか?」

「ええ、構いませんよ。―――エリナ、収益のデータを持ってきてくれる?」

「わかりました、姉様。」

リィン達はエリナからアンケートの答えを受け取った。



「ありがとうございます。……えっと………」

「必要な情報は揃っていますね。」

「………ここまでの収益と来客者数があるんですか。帝都(ヘイムダル)にあるRFストアを凌駕しているような……」

受け取った情報が予想以上である事にクルトは驚き

「ま、何といってもゼムリア大陸で”工匠”達が集まっているのはクロスベルだけだからね。わざわざ外国から工匠(あたし達)の商品を手に入れる為にたくさんのお客様が”工匠特区”もそうだけど、あたし達の会社にも来てくれるんだ。」

「加えて私達の場合父様―――”匠王”の娘が直々に作った商品というネームバリューもあって、今の所毎年収益が上がっている状況です。……ただ親の七光りみたいに感じますから、素直には喜べませんが……」

「う~ん、実際にセティ達の恩恵を受けた事がある俺達からすれば、そうは思わないけどな……」

「……そうですね。それに幾ら親が優秀な技術者とはいえ、子供まで優秀な技術者であると限らない事は実際にセティさん達が作った商品を買う人達も理解しているでしょうし。」

「フフ、二人ともありがとうございます。」

シャマーラの後に困った表情で答えたエリナの推測を聞いてそれぞれフォローの言葉を口にしたリィンとアルティナにセティは微笑みながら答えた。

「アンケート、お疲れ様。それとついでにアルティナとクラウ=ソラスの件で頼みたい事があるのだが………」

「あ……そう言えば、そろそろの時期だね。」

「ええ。―――エリナ、シャマーラ。私はリィンさん達に対応をしているから、貴女達二人で”いつもの”をお願いしてもいいかしら?」

リィンの言葉を聞いてある事を思い出したシャマーラは目を丸くし、セティは頷いた後シャマーラとエリナに指示をし

「は~い!」

「わかりました、姉様。それでは、アルティナさん。」

「――――了解しました。皆さん、少しの間だけ席を外させてもらいます。」

指示をされた二人はアルティナと共に地下室へと入って行った。



「えっと……?」

「アルティナは何の為に二人と一緒に地下室に行ったの?」

一方その様子を不思議そうに見ていたユウナは首を傾げ、ゲルドはセティに訊ねた。

「クラウ=ソラスのメンテナンスと、後はクラウ=ソラスを操っているアルティナさん自身の定期健診ですね。」

「へ……”クラウ=ソラス”って、確かアルの……って、セティ先輩達があの黒い傀儡のメンテナンスをしていたんですか!?」

セティの説明を聞いたユウナは呆けた後驚きの表情でセティに訊ねた。

「ええ。他にはクラウ=ソラスの強化や改良等も行っています。アルティナさんがクラウ=ソラスとシンクロした時の追加武装をアルティナさんに頼まれていて、それが完成した為確かアルティナさんの入学時に送ったはずですが……」

「ハハ、ちゃんと届いていたさ。実際に実用できるようになったのは2週間くらいかかったようだけど……」

セティとリィンの話を聞いたユウナ達は冷や汗をかいた。

「それにしてもよくメンテナンスができましたね………僕達はアルティナの出自についてあまり詳しくありませんが、確かアルティナは”貴族連合軍”が雇っていた結社のような”裏”の勢力に所属していたんですよね?そんな所が開発した未知の人形を解析して、メンテナンスまでできるなんて……”工匠”についても兄上から伺っていましたが、話に聞いていた以上のとてつもない職人なんですね。」

「フフ、それはさすがに褒めすぎですよ。」

「ねーねー、セティ。セティ達はクラウ=ソラスみたいなお人形さんは作れないの?キーアも欲しい。」

「キ、キーアちゃん。クラウ=ソラスさんはただのお人形さんじゃないよ?」

クルトの賛辞にセティが謙遜している所に問いかけたキーアの問いかけを聞いたシズクは冷や汗をかいて指摘し

「う~ん、”工匠”としては是非チャレンジしてみたいけど、保護者であるロイドさんの許可がないとダメよ。」

「そうね。それにキーアちゃん、お人形さんなら既にたくさん持っているでしょう?」

「む~。でもクラウ=ソラスはキーアの持っているお人形さんと違って、ちゃんとおしゃべりができるよ?ロイド、シュッチョウからまだ帰って来ないから、ロイドの代わりにおしゃべりできるお人形さんがあったらいいなって思っていたんだけど……」

「え……ロイドさんは今、クロスベルにいないのですか?」

セティとセシルの指摘に不満げな表情を浮かべて呟いたキーアのある言葉が気になったセレーネはセティ達に訊ねた。



「……………」

セレーネの問いかけにセティ達は僅かな間黙り込み

「ええ、ロイドさんもそうですけど課長やルファディエルさんも今、オルディスやルーレに出張中なんです。その為、今キーアちゃんは私達が預かっているんです。」

「そうだったんですか………機会があればロイド先輩達にも挨拶しておこうと思っていたんですが………」

(今の間は一体何なんだ……?)

セティの答えにユウナが残念そうな表情をしている中僅かな間黙り込んだセティ達の様子が気になったリィンは考え込み

「挨拶といえばユウナちゃん………せっかくクロスベルに帰って来たのだから、リナさん達にも挨拶をしてきたらどうかしら?リナさん達もユウナちゃんが今日演習の為にクロスベルに一時的に帰ってくる事は知っているから、ユウナちゃんが元気な姿を見せてくれる事を首を長くして待っているわよ?」

「アハハ、この後教官達の事を紹介するついでに顔を見せに行くつもりです。」

セシルの指摘にユウナは苦笑しながら答えた。



その後セティ達と談笑していたリィン達は検査が終わったアルティナと合流した後、セティ達に見送られて次々とビルから出て行った。



「――――キーア。ちょうどいい機会だから、お礼を言っておくね。」

「ほえ?キーア、ゲルドに会うのは今日が初めてで、おレイを言われるような事はしていないよ~?」

リィン達がビルから次々と出て行く中最後に一人だけ残ったゲルドはキーアを見つめ、ゲルドの言葉を聞いたキーアは無邪気な様子で首を傾げた。

「………それでもお礼を言っておくわ。例え世界は違っても、貴女のお陰で私は”2度目の人生”を歩む事ができて、幸せで暖かい未来を手に入れる可能性ができたもの。だから―――――私を蘇生させた上この世界に転移させてくれてありがとう。例え、それが貴女の目的の為でも私は貴女に心から感謝しているわ。」

そしてゲルドは優し気な微笑みを浮かべて感謝の言葉を述べた後ビルから出て行き

「ぁ……………………」

「キーアちゃん………」

「……………」

一方ゲルドの説明で事情を察したキーアが呆けた後複雑そうな表情で黙り込んでいる中、キーアの様子をシズクは心配そうな表情で見つめ、二人の様子をセシルは静かな表情で見守り

「……エリナ、シャマーラ。”黒の工房”によって取り付けられていたアルティナさんとクラウ=ソラスの”例の設定”は………」

「うん、並行世界のアルティナさん同様バッチリ解除しておいたよ♪」

「少なくてもこれで、こちらの世界のアルティナさんは並行世界のアルティナさんの時のような出来事は起こらないかと。」

一方真剣な表情を浮かべたセティに訊ねられたシャマーラとエリナはそれぞれ答え

「そう………さてと、それじゃあ仕事を再開しましょう!」

「は~い!」

「はい!」

二人の答えを聞いたセティは静かな表情で頷いてリィン達の後ろ姿を見つめた後気を取り直してシャマーラ達と共に仕事を再開した。



その後リィン達はユウナの実家に挨拶する為にユウナの実家があるアパートの一室を訊ねた。



~西通り・アパルトメント”ベルハイム”~



「ここが君の実家か………」

「あはは、狭いけどね。えっと、それじゃあ………」

実家の扉を見つめて呟いたクルトの言葉に苦笑しながら答えたユウナはインターホンを押した。

「―――は~い、今出ますよ。はいはい、どちらさま――――………あ………ユウナ………?」

扉を開けて姿を見せた女性はユウナに気づくと呆け

「お母さん……あはは……来ちゃった。」

「まあ………まあまあまあ!本当にユウナなのね!?ああもう、お母さんびっくりしちゃったわ!今日帰るとは聞いてたけど、まさかこんないきなりだなんて!」

我に返ると嬉しそうな表情でユウナを見つめた。

「ゴメンね、何時に行けるとかわからなかったから。でも元気そうでよかったよ。」

「うふふ、あなたもね。ちょっとだけ痩せたかしら?――――おかえりなさい、ユウナ。」

「うん―――ただいま。」

(この方がユウナさんの……)

(はは………似ているな。)

(ああ……優しそうなお母さんじゃないか。)

(うん……それに明るい所もユウナにそっくりね。)

(ふふ、そうですわね。)

「あらっ、そちらの方達は……もしかしてクラスメイトの方?それに――――」

ユウナの後ろで小声で会話しているリィン達に気づいた女性――――ユウナの母親のリナがユウナに訊ねかけたその時

「今の、ねーちゃんの声じゃない!?」

「今の、おねーちゃんの声なのー!!」

リナの背後から二人の子供の声が聞こえた後リナの背後から現れた男の子と女の子がユウナに抱きついた。

「ねえちゃあああん!!」

「おねえちゃあああん!!」

「わあっ!?」

「おっと………」

「これは……」

「あ、もしかしてその二人がユウナの話にあった……」

突然の出来事にユウナとクルトが驚いている中アルティナとゲルドは目を丸くした。



「ちょっと、ケン、ナナ!いきなり抱きつかないの!」

「わーい、ねーちゃんだ!ねーちゃんが帰って来たー!!」

「ほんものなの~!ひさしぶりなの~!!」

ユウナの注意に対して男の子と女の子――――ユウナの弟と妹であるケンとナナは無邪気な様子で喜びながらユウナに抱きつき続け

「……も、もう、あんたたちは。ホント甘えん坊なんだから……―――ただいま、ケン、ナナ。」

弟と妹の様子に苦笑したユウナは二人の頭を優しくなでた。

「えへへ、おかえり!」

「おかえりなの~!」

「この子たちが……」

「ユウナさんの弟妹(きょうだい)ですね。」

「もしかして双子……?」

「あはは、うん、双子なの。」

「ふふ、よかったら皆さん、上がって行ってください。今、とっておきのお茶とお菓子を出しますからね。」

そしてリィン達はユウナの実家であるクロフォード家にお邪魔し、お茶を御馳走してもらった。



「改めまして――――リィン・シュバルツァーです。ユウナさんが所属しているⅦ組の担任教官を務めています。」

「同じくユウナさんが所属しているⅦ組の副担任を務めているセレーネ・L・アルフヘイムと申します。どうかお見知りおきを。」

「まあ、そうだったんですか……では貴方達があの。……そう、なるほどね。何度聞いても手紙に書いてくれなかったのはそういうわけだったのね。」

「う………」

リィンとセレーネがそれぞれ名乗るとリナは目を丸くした後一人納得した様子でユウナを見つめ、見つめられたユウナは気まずそうな表情をした。

「ふふ、でもこうして皆さんに会えて嬉しいわ。クルト君にアルティナちゃん、それにゲルドちゃんも、ユウナがいつもお世話になっているみたいね?」

「いえ、そんな。」

「むしろ意外にこちらの方がお世話になっているような……あ、でも座学のノートなどは確かにフォローしていますね。」

「私はみんなよりたくさんユウナにお世話になっているわ……そのお礼に時々聞いて来る明日の天気や夕食の内容とかユウナが知りたいちょっとした先の未来の出来事を教えてあげているわ。」

「あ、ちょっとアル!?それにゲルドも!?」

リナの言葉にクルトが謙遜している中それぞれ余計な一言を口にしたアルティナとゲルドをユウナは気まずそうな表情で見つめ

「君はゲルドの”予知能力”をそんな些細な事に使っていたのか……」

「まさに”予知能力”の無駄遣いですね。」

クルトとアルティナは呆れた表情でユウナを見つめた。



「はは……とにかくご家族の方にご挨拶できてよかった。演習での活動中なのであまり長居できないのは残念ですが。」

「そうですねぇ、できれば主人が帰ってくるまでいてもらえたらよかったんですけど。勤め先がミシェラムなので最近、いつも帰りが遅いんですよ。」

「ああ、例の賑わっているテーマパークがある……」

「そちらにお勤めなんですか?」

「うん、リゾートホテルの企画営業部門に勤めててね。ふう、さすがに今回はお父さんと会う暇はないか……」

父とは会えない可能性が高い事にユウナは残念そうな表情を浮かべて溜息を吐いた。



「いや、最終日だったら外泊許可も取れるかもしれない。ミハイル主任の判断しだいだが俺達の方からも掛け合ってみよう。」

「はい。それとゲルドさんの外泊許可もですわね。」

「あ……フ、フン。それじゃあお願いしますっ。」

「ありがとう、リィン教官、セレーネ教官。」

リィンとセレーネの申し出を聞いたユウナは呆けた声を出した後やや複雑そうな表情を浮かべて静かな笑みを浮かべているゲルドと共に感謝の言葉を口にした。

「やれやれ、この子ったら。ふふっ、ふつつかな娘ですがこれからもよろしくお願いします。」

「ねーねー、それよりさぁ。さっきから気になってるんだけど。」

「どっちがおねーちゃんのカレシさんなのー?」

「………え”。」

興味ありげな表情をしているケンとナナの疑問を聞いたユウナは少しの間固まった後ジト目になった。



「やっぱこっちの黒髪のにーちゃんじゃないかー?」

「でもでも、ナナはあっちのキレーなおにーちゃんだと思うー。」

「えっと……」

「キ、キレーなおにーちゃん?」

ケンとナナの自分達に対する言葉にリィンとクルトは戸惑い

「マ、マセたこと言ってないの!どっちも違うからっ!」

我に返ったユウナは真剣な表情で反論した。



「きゃははっ……」

「にげろー!」

ユウナの反応を見たナナとケンは無邪気に笑って別室に向かった。

「まったくもう……」

「キレーなおにーちゃん……」

その様子を見守っていたユウナは呆れ、クルトは疲れた表情で肩を落とし

「?褒められているのに、どうしてクルトは残念がっているの?Ⅷ組やⅨ組の女子達もクルトの事を反則過ぎるくらい”綺麗”だって褒めているわよ?」

「ぐっ………まさか他のクラスの女子達まで僕の事をそんな風に見ていたなんて……」

「ゲルドさん、フォローどころか追い打ちになっていますよ。」

クルトの様子を不思議そうな表情で首を傾げて見つめて呟いたゲルドの言葉にクルトが唸り声を上げている中アルティナはジト目でゲルドに指摘した。

「はは、賑やかですね。」

「ふふ、ウチでは日常茶飯事なんですよ。」

(……これが”家族”………私もお義母さん達とこんなにも暖かくて賑やかな生活ができるのかな……?)

リィンの言葉にリナが苦笑している中ゲルドは興味ありげな表情をしていた。



こうして少しの間、クロフォード家で休息を取った後、特務活動を再開するのだった。



「それでは失礼します。」

「お茶とお菓子、ご馳走様でした。」

「……お世話になりました。」

「……ありがとうございました。」

「お茶もお菓子もとても美味しかったです。」

「ふふ、それはよかった。是非また来てちょうだいね。ユウナも、しっかり頑張るのよ?」

「ん、任せといて!」

リナの応援の言葉に対してユウナは力強く頷いた。

「おねーちゃんたち、もーいっちゃうのー?」

「ちぇっ、つまんないのー。そうだ、こんど帰ってくるときは”あの人”のことも教えてくれよなー!」

「ちょっ、ケンっ………!」

「あの人……?」

「一体誰の事なのかしら……?」

ナナと共に残念がっているケンが呟いた言葉を聞いたユウナが焦っている中クルトとゲルドは首を傾げた。



「あれー、にーちゃんたちエレボニアのヒトなのに知らないの?スッゲー強くてカッコイイんだぜ?」

「うんうん、あのとき、ナナたちのことも――――」

「ケン、ナナッ!」

「ふぇっ?」

「ふぇ……?」

ケンとナナが昔の事を口にしようとしたその時ユウナは声を上げて制止した。

「今度、家に帰ったらちゃんと話してあげるから。エレボニアのお土産もあるから、それまでいい子で待っててね?」

「わわ、ホント!?」

「楽しみなのー!」

「……………………」

(…………?)

ユウナ達の様子をリナが優しそうな表情を浮かべて見守っている中リィンは首を傾げて見守っていた。



「……いいご家族だったな。」

「ええ、どこまでも暖かくて居心地がいいというか……」

「……ご弟妹もなんというか抱きしめたくなりました。あれが”愛らしい”ということなんでしょうか。」

「ふふ、そういうアルティナもお人形さんみたいに可愛いから、”愛らしい”と思って抱きしめたくなる人はいると思うけど……」

その後クロフォード家を後にしたリィンとクルトがユウナの実家についての感想を口にしている中ユウナの弟と妹についての感想を口にしたアルティナの言葉を聞いたゲルドは微笑みながらアルティナに指摘し

「……まあ、約1―――いえ、2名実際に私の事を”可愛い”と言って抱きしめて来たことはありますから、否定はしません。――――最も”可愛い”事について異常とも思える程執着しているあの二人にユウナさんのご弟妹を会わせない方がいいと思いますが。」

「ア、アハハ……(アルティナさんが言っている人物は間違いなくアネラスさんとエオリアさんの事でしょうね……)」

ゲルドの指摘に対してジト目になって答えたアルティナの答えを聞いたセレーネは苦笑しながらある人物達の顔を思い浮かべた。

「アル……あはは、ありがと。でも、これからどうします?予定してた街区は以上ですけど。」

「そうだな……まずは一旦、外に出るとしようか。」

その後リィン達が外に出ると必須要請の一つを出した依頼者が戻って来たという連絡があった為、依頼者から要請内容について聞くために依頼者がいるRF(ラインフォルトグループ)の支部へと向かった――――――
 
 

 
後書き
という訳で今回の話でウィルの娘達&原作閃Ⅲでは登場しなかったセシル、キーア、シズクが登場しました!それと何気にそれぞれの作品のキーキャラクターであるキーアとゲルドの邂逅までしちゃいましたww 

 

第39話

RF(ラインフォルトグループ)の支社のロビーでリィン達が依頼者を待っていると、エレベーターからある人物が現れた。



~ラインフォルトグループ・クロスベル支社~



「え。」

「?……別の人か?」

「まあ……あの方は……」

「ハハ、セティ達に続いて”彼女”ともこんなにも早く再会する事になるとはな。」

「セティさん達も言っていたように、これもヴァイスハイト陛下のお心遣いなのでしょうね。」

「えっと……もしかしてあの人もリィン教官達の知り合い……?」

エレベーターから現れたティオを見たユウナが呆け、クルトが首を傾げている中セレーネやリィンは懐かしそうな表情をし、アルティナは静かな表情で呟き、リィン達の反応を見たゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。

「ティオ先輩……!?戻ってらしたんですか!?」

自分達に近づいてきたティオにユウナは嬉しそうな様子で駆け寄ってティオに声をかけた。

「ええ、ちょうどユウナさんと入れ替わる形でして。お久しぶりです。元気そうで何よりですね。」

「ティオ先輩こそ……あ、それじゃあ新主任って!」

「フフ、まあそういう事です。」

ユウナの言葉にティオが苦笑しているとリィン達が二人に近づいた。



「知り合いだったのか……」

「漆黒の翼………という事は貴女もセティさん達みたいな異種族の人?」

「ええ、まあそんな所ですが……どうやらその様子ですとわたしよりも先に既にセティさん達と再会していたようですね。」

「ハハ、特務活動の関係で偶然”インフィニティ”による用事があってな。」

「キーアさんやセシルさん、シズクさんとも会って話してきましたわ。」

「……お久しぶりです、ティオさん。」

ユウナとティオが知り合いである事にクルトが驚いている中興味ありげな表情で自分を見つめて訊ねたゲルドの疑問に答えたティオはリィン達に視線を向け、ティオの言葉にリィンとセレーネは苦笑しながら答え、アルティナは軽く頭を下げて挨拶をした。

「教官達も知り合いで、しかもセティさん達の知り合いでもあるという事はまさか貴女は………」

「教官達が昔所属していたクロスベル警察の”特務支援課”に所属していた人?」

「ええ。トールズ第Ⅱ分校、”Ⅶ組”の皆さんですね?ティオ・プラトー――――エプスタイン財団、クロスベル支部の開発主任を務めています。どうぞ、よろしくお願いします。」

そしてクルトとゲルドの質問に答えたティオは自己紹介をした後、リィン達と共にロビーにあるソファーに座って話し始めた。



「……なるほど、やはり貴女も”特務支援課”の所属でしたか。」

「ええ、警察の人間ではなく財団からの出向という形ですけど。しばらくの間、財団本部のあるレマン自治州に戻っていましたが……春から当クロスベル支部の開発主任を拝命して戻ってきました。」

「……なるほど、そういう事情だったのか。」

「フフ、昇進おめでとうございます。」

「ふふっ、ありがとうございます。」

自分の説明を聞いたリィンが納得している中祝いの言葉を述べたセレーネに対してティオは微笑んだ。



「しかし、開発主任というにはかなりお若いですよね?見たところユウナよりも年下に見えるんですが……」

「あ、16なので1つ下ですね。先輩と呼ばれるのはちょっと面映いんですが。」

「いえいえ、憧れの支援課メンバー―――それも初期のメンバーの一人なんですから!ティオさんでもいいですけど……やっぱり先輩って呼ばせてください!ティオ先輩は凄いんですよ!”特務支援課”の情報担当にして導力ネットの申し子なんですから!それでみっしぃが大好きで――――」

クルトの疑問に答えた後困った表情をしているティオにユウナは真剣な表情で否定した後嬉しそうな表情でティオの事について語りだしたが

「ユウナさん、ユウナさん。」

「……す、すみません。熱くなりすぎちゃって………」

ティオに制止されると我に返ってティオに謝罪し、その様子を見守っていたリィン達は冷や汗をかいた。

「はは……ティオがクロスベルに戻って来た事はランディから聞いていたが……改めてよろしく頼む、ティオ。」

「ええ、こちらこそ改めてよろしくお願いします、リィンさん。それとセレーネさんとアルティナさんも。」

「はい、改めてよろしくお願いしますわ。」

「…………よろしくお願いします、ティオさん。」

(この二人、なんだか雰囲気が似ているな?)

(あ……それは私も感じたわ。)

(うん、あたしも会った時にそれはちょっと思ったかも。でもティオ先輩は話してみると普通に冗談とかいうんだけど………)

リィン達と会話しているティオを見てティオとアルティナの雰囲気が似ている事に気づいたクルトとゲルドの小声の言葉にユウナは苦笑しながら同意した。



「さてと。―――久しぶりの再会でお互い話したい事はありそうだが。とりあえず『要請』についての詳細を教えてもらえるかな?」

「ええ、そうですね。――――こちらをご覧ください。」

リィンの問いかけに答えたティオは端末を取り出して操作し、リィン達に端末に映る映像を見せた。

「これは……」

「ひょっとして『ジオフロント』ですか?」

「ジオフロント……?」

「クロスベル市の地下に広がる、インフラ用のメンテナンス区画です。場当たり的な増設が繰り返されてとんでもない広さになっていますが……先日から、ある区画の制御端末がバグで機能不全に陥っているんです。」

「そ、そうなんですか?」

「制御端末というと”導力ネットワーク”の?」

「ええ、そのせいでネット全体に細かなバグが発生していまして。市民サービスや、株式市場にも不具合が発生しているんです。ですが、制御端末を直そうにも地下区画に魔獣が増殖していて……クロスベル軍や遊撃士も忙しいとのことなのでクロスベル帝国政府に”要請”を出したわけです。」

ティオの話を聞いてある事を察したリィン達はそれぞれ冷や汗をかいた。



「そ、それって、”三帝国交流会”関連の警備を優先するためなんじゃ……」

「可能性は高そうだが……地下に普通に魔獣が出るのか。」

「魔獣が増殖した理由も気になるわね……」

「―――なるほど、話はわかった。すると俺達の役目は魔獣の掃討と、端末の修理かな?」

ユウナ達がそれぞれ話し合っている中リィンはティオに確認した。

「いえ―――制御端末の修理は専門的な知識を必要とします。わたしが向かうので、皆さんには念の為に”護衛”をお願いできればと。」

その後リィン達はティオと共にジオフロントに潜り、端末がある場所まで時折襲い掛かってくる魔獣を倒しながら到着した。



~ジオフロント・F区画終点・端末室~



「これが端末室か……」

「……うん、あたしも入ったのは初めてだけど。」

リィン達と共に端末室に到着したティオが端末を操作している中クルトとユウナは興味ありげな表情で周囲を見回し

「それで、状況はどうなのでしょうか?」

「……見た所物理的な故障ではなさそうですし再起動すれば大丈夫でしょう。作業の間、皆さんは――――!……………………」

アルティナに訊ねられたティオは答えかけたが何かに気づくと警戒の表情で周囲を見回した。



「ティオ先輩……?」

「どうしたんですか――――」

ティオの様子が気になったユウナとクルトが声をかけたその時

「――――みんな、構えて!もうすぐ機甲兵に似た”敵”が現れるわ!」

「へ………」

「機甲兵みたいな”敵”……結社の人形兵器の一種か!?」

「機甲兵のような”敵”………リィン教官、セレーネ教官。もしかして――――」

「ええ、わたくし達も恐らくそうだと思っていますわ。」

「―――”来るぞ”!」

予知能力で少し先の未来が見えたゲルドの警告を聞いたその場にいる全員がそれぞれ武装を構えて警戒している中敵の正体にある程度察しがついていたアルティナに視線を向けられたセレーネは頷き、リィンが警告すると巨大な甲冑が出入り口付近に現れた!



「………!」

「こ、これは……!」

「人型―――幻獣ではない……!?」

「いえ……これは!」

「入学式の日に戦った”魔煌兵”の仲間……!?」

「ええ……!内戦時にも現れたタイプです!」

「端末を破壊される訳にはいかない!何としても撃破するぞ!」

「承知―――!」

「了解です!」

「「はい!」」

「ティオ先輩、行きましょう!」

「ええ――――エイオンシステム、全開!」

そしてリィン達は巨大な甲冑――――魔煌兵との戦闘を開始した!



「分析を開始します―――――水属性が弱点で、風属性に抵抗があります!アークス駆動――――」

戦闘開始早々ティオは敵の情報を分析するクラフト―――アナライザーで敵の情報を分析してリィン達に助言した後アーツを撃つ準備をし

「響いて―――――ホワイトソング!……………」

ゲルドは一定時間味方全体のダメージを減少させるブレイブオーダーを発動させた後魔術の詠唱を開始した。

「逃がさない……!ヤァァァァッ!」

「ブリューナク起動、照射。」

「――――!!」

「唸れ……オォォォッ!螺旋撃!!」

「ハァァァァ………切り刻め!!」

ユウナとアルティナがそれぞれ遠距離攻撃のクラフトで敵を攻撃している間に敵の足元に詰め寄ってリィンとクルトはそれぞれ威力が高いクラフトで攻撃し

「……………」

敵は足元のリィンとクルトを攻撃する為に持っていた斧を振り下ろして衝撃波を発生させて二人に攻撃を命中させたが、ゲルドが発動したブレイブオーダーによって受けたダメージを減少させる特殊な障壁の影響によって二人が受けたダメージは些細なダメージだった。

「聖なる水よ、奔流となり、我が仇名す者達に裁きを―――リ・カルナシオン!!」

「えい!ブルーアセンション!!」

「聖なる水よ、奔流となり、邪悪なる者達に裁きを―――リ・カルナシオン!!」

するとその時後方で魔術やアーツの準備をしていたセレーネとティオ、ゲルドがそれぞれ敵にとっての弱点属性かつ高威力のアーツや魔術を発動して敵に大ダメージを与えた。



「――――――――!!」

大ダメージを受けた敵は”高揚”状態になった後咆哮を上げる事で闘志と共に体力や傷を再生させるクラフト――――トライコンボで回復すると共に自己を強化して、更にアーツの準備を開始した。

「……!みんな、敵の視線から一端外れるように動いて!視線を向けた方向にアーツ――――ガリオンフォートを撃ってくるわ!」

「「わかった!」」

「わかりました!」

「了解しました。」

「了解!」

「え……了解しました。」

予知能力で敵の次の行動がわかったゲルドの忠告を聞いたリィン達がそれぞれ敵の視線をから逃れるように動いている中ゲルドの予知能力を知らないティオだけ戸惑いの表情で頷きながらもリィン達のように敵の視線を注意しながら動いていた。

「―――――!」

そしてアーツの準備を終えた敵はゲルドの忠告通りアーツ――――ガリオンフォートを放ったが、攻撃範囲には誰もいなかった為空振りに終わった。

「四の型・改――――紅蓮斬り!!」

「ハァァァァァァ………風よ、斬り裂け!!」

「ヤァァァァァ………ホーリーインパクト!!」

「暗黒属性付与………ダークアーム、滅!!」

「―――――――!」

「アークス駆動――――クリスタルエッジ!!」

「デミガンナー起動………アブソリュート――――ゼロ!!」

敵がアーツを放ち終えた時にできた隙を逃さないリィン達は総攻撃をし

「これで決める……!ヤァァァァァッ!!もう一丁!」

リィン達が総攻撃を終えるとSクラフトを発動したユウナが走り出して敵の目の前にガンブレイカーを叩きつけて衝撃波を発生させて怯ませた後連続攻撃を叩き込んで最後にサマーソルトキックを叩き込んで一端敵から距離を取り

「止めよ――――エクセル―――――ブレイカー!!」

最後にガンブレイカーの銃口に収束した導力エネルギーを解き放った!



「!?――――――!!」

ユウナが放ったガンブレイカーによる連携奥義―――――エクセルブレイカーによる大ダメージを受けて撃破されると思われた敵だったが、リィン達が予想していたよりもタフだった為リィン達の総攻撃とユウナのSクラフトを耐えきり、再びクラフト―――トライコンボを発動して自己再生をすると共に自身を強化した。

「嘘っ!?まさか今のを耐えるなんて……!」

「入学式の時に戦った魔煌兵と比べると相当タフだな……」

「はい。……どうしますか、リィン教官。」

自分達の総攻撃に耐えきった敵に驚いているユウナとクルトの言葉に頷いたアルティナはリィンに判断を訊ね

「……そうだな。ティオ、久しぶりに”アレ”を頼めるか?」

「お安い御用です。」

訊ねられたリィンは少しの間考え込んだ後ティオに視線を向け、視線を向けられたティオは頷いた後魔導杖を構えなおした。



「”アレ”………?」

「教官とティオ先輩は一体何を………」

「フフ、皆さんも今後の戦闘の向上の為にもお二人の戦いよく見ていて下さいね。」

二人の会話が気になったゲルドとユウナが首を傾げている中セレーネが微笑みながらユウナ達に助言をしたその時

「頼んだ、ティオ!」

「お任せ下さい!」

リィンの呼びかけに頷いたティオが魔導杖を構えて結界で敵の動きを封じ込め、そこにリィンが”疾風(はやて)”で敵の周囲を縦横無尽に駆けながら連続で叩き込み、止めの一撃を放つ為に力を溜め込んだ所にティオが自身の導力エネルギーを力を溜め込んでいるリィンの太刀に付与させてリィンの攻撃力を更に強化させ、自身の闘気とティオの導力エネルギーで強化された太刀でリィンは敵に止めの一撃を放った!



「「Ω(オメガ)―――ソード!!」」



「――――――――!?」

ティオの協力によって放たれたリィンとティオの協力技(コンビクラフト)――――Ωソードによって縦に真っ二つに両断された敵は咆哮を上げる暇もなく消滅した!

「今の技は一体………」

「――――協力技(コンビクラフト)です。」

二人の協力技(コンビクラフト)をユウナ達と共に見て呆けた様子で呟いたクルトの疑問にアルティナが答え

協力技(コンビクラフト)………?」

協力技(コンビクラフト)とはその名の通り、息の合った仲間達が協力して放つ”協力技”です。習得は厳しいですが、二人で放つ分威力はSクラフトを凌駕しますわ。」

「そ、そんな(クラフト)があったなんて………!」

「教官とティオさんが扱えるという事は、もしかしてセレーネ教官も………?」

アルティナの答えを聞いて首を傾げたゲルドの新たな疑問に答えたセレーネの説明を聞いたユウナは驚き、クルトはセレーネに視線を向け

「ええ。とは言ってもわたくしはお兄様と比べると、協力技(コンビクラフト)を扱える組み合わせは少ないですが。」

視線を向けられたセレーネは苦笑しながら答えた。



「フウ……”魔煌兵”ですか。エレボニアには今のような存在が?」

「ああ……内戦中に何体か各地に現れたし、故郷(ユミル)にも現れた事がある。どうやら暗黒時代の魔導のゴーレムらしいが………クロスベルに現れたゴーレムとは違うはずだよな?」

一方協力技(コンビクラフト)を放ち終えた後リィンとハイタッチを交わしたティオは一息ついてリィンに魔煌兵の事について訊ね、訊ねられたリィンは答えた後ティオに確認した。

「ええ………あのゴーレムは錬金術を応用した魔導兵で、今程巨大な存在はいなかったですね。一体どうして―――――」

リィンの確認の言葉に頷いたティオは答えたがすぐにある事に気づくと自分と同じようにある事に気づいたリィンとセレーネ、そしてゲルド共に違う方向に視線を向けた。すると新たな魔煌兵が現れた!

「う、うそ………」

「”もう一体”か……!」

「……先程とは別の個体みたいです。」

「わたくしとお兄様は大丈夫ですが……ユウナさん達やティオさんは体力はどうでしょうか?」

「……まだ、若干余裕はありますが………このまま、連戦に移るとユウナさん達はマズイかもしれませんね。」

新たな魔煌兵の登場にユウナ達が驚いている中セレーネに状態を確認されたティオは真剣な表情で答えた。

「リィン教官……?」

「まさか……”あの力”を!?」

一方太刀を収めた様子のリィンを見て不思議に思ったゲルドは首を傾げ、ある事に気づいたクルトは血相を変えた。

「いや――――この距離なら”彼”が呼べるかもしれない。」

「ええっ!?」

「”彼”――――ヴァリマールですか………」

「ですが演習地からでは――――」

リィンがヴァリマールを呼ぼうとしている事を知ったユウナは驚き、ティオは興味ありげな表情をし、ある事に気づいたアルティナがある事を指摘しようとした。

「………届かなければその時は”鬼の力”を解放するか、アイドスの力を借りるだけだ。――――来い!”灰の騎神”………」

そしてリィンがヴァリマールを呼ぼうとしたその時!

「その必要はないわ!」

リィンにとって聞き覚えのある娘の声が聞こえ、声を聞いたリィンが驚いたその時魔煌兵の足元に矢が撃ち込まれた!



「あ………」

「綺麗………」

「弓……?にしてはちょっと形が変わっているけど………」

「今のは……導力仕掛けの弓!?」

矢が飛んできた方向にリィン達が視線を向けるとそこにはアリサとシャロンがリィン達を見下ろしており、二人の登場にアルティナとユウナは呆け、ゲルドはアリサが持っている弓を見て首を傾げ、クルトは驚きの表情でアリサを見つめた。

「まあ……!ふふっ、ステラさんのように1年の間にとても素敵な女性に成長なされましたわね……」

「……間に合いましたか。」

一方セレーネは目を丸くした後微笑み、ティオは安堵の表情で呟いた。



「シャロン!一気に仕留めましょう!」

「ふふ、お任せください。」

アリサの号令に頷いたシャロンは跳躍した後落下しながら無数の鋼糸を解き放った。

(おそ)いですわ――――」

「鋼の………糸……?」

「鋼糸……!?」

「”死線”………」

そしてシャロンが魔煌兵の背後に着地すると魔煌兵は鋼糸によって動きが封じ込められ、それを見たゲルドが首を傾げている中クルトは驚きの表情を浮かべた、アルティナは静かな表情で呟いた。

「もらったわ……!ジブリール・アロー!!」

一方導力弓の形態を変えたアリサは矢の切っ先に凄まじい炎の導力エネルギーを集束させた後炎の導力エネルギーと化した矢を解き放ち

「秘技―――死縛葬送!!」

シャロンは拘束していた鋼糸で魔煌兵を締め付けた!すると締め付けられた鋼糸で魔煌兵が苦しんでいる所に炎の導力エネルギーが命中して炎の大爆発を起こし、それらによるダメージに耐えきれなくなった魔煌兵は消滅した!

「……………………」

「い、今の技は…………」

「………ティオ、まだ出現しそうな気配は?」

「完全になくなりました。もう一安心かと。」

魔煌兵が倒される一連の流れを見たユウナとクルトが呆けている中リィンはティオと新たな敵の出現の有無を確認し合っていた。



「………………」

その後リィン達の所まで下りてシャロンと共に近づいてきたアリサはリィンを黙って見つめ

「………はは、何て言うか。やっぱりマキアスとグルになって狙っていただろう……?」

「フフ、この様子ですとクロスベルに来ているⅦ組の方がまだいるかもしれませんわね。」

見つめられたリィンはセレーネと共に苦笑していた。

「………っ………!」

一方アリサは二人の言葉を聞くと唇を噛みしめた後走ってリィンを抱きしめ

「あはは………気の利いた挨拶をちゃんと考えてたんだけど………いざ会ってみたら全部、吹き飛んじゃったっていうか………」

「そうか………」

アリサの言葉を聞いたリィンは静かな表情で頷いた後アリサを抱きしめた。



「――――久しぶりだ。直接会うのは1年以上ぶりか。綺麗になったな……正直、見違えたくらいだ。」

「ふふっ、貴方の方こそ。………でも一目で、声を聞いただけでわかった。貴方が私達の大切な人で―――――この世で一人しかいない私の愛する人だって。」

「ハハ、それは光栄だな………」

「―――久しぶり、リィン!………ん………っ!………ちゅ………ちゅるる……れる………!」

「んんっ!?……ちょっ……アリ……ティオや生徒達も……見て………」

リィンと互いに抱きしめ合ったアリサは微笑んだ後リィンに反論を許さないかのように何度も舌を絡める程の深い口づけをした。



「うふふ、やはりフォルデ様と私のご推察通りの展開になりましたわね♪」

「な、なななななななな……っ!?ア、アルにはまだ早いから、アルは見ちゃダメ~ッ!」

「あの………わたしは今の光景どころか、教官達の性行為も見た事があるのですから、今更教官達の”らぶらぶ”な所を見せないようにしても意味がないのですが。」

「その…………もしかして彼女もエリゼさん達と同じリィン教官の……?」

「アハハ……はい。”旧Ⅶ組”の一人にして、皆さんが唯一まだ会った事がなかったお兄様の婚約者の一人ですわ。」

「フフ、今の光景を見れば少なくてもあの人がリィン教官の婚約者だって事は誰でもわかるわ。」

「……話は聞いてましたけどちょっとラブラブ過ぎません?ぶっちゃけ、ロイドさんとエリィさんのラブラブっぷりよりも凄いような………」

突如始まった二人のラブシーンに微笑んだシャロンはいつの間にか懐から取り出した携帯ビデオカメラで二人のラブシーンを録画し、顔を真っ赤にして混乱した後両手で自分の目を隠したユウナにアルティナは呆れた表情で答え、気まずそうな表情で二人から視線を逸らしたクルトの疑問に苦笑しながら答えたセレーネの説明にゲルドは微笑みながら指摘し、ティオは落ち着いた様子で二人のラブシーンとあるカップルの普段の様子を思い浮かべて分析していた。

「うふふ………思い、焦がれた日々の長さゆえでしょう。熱いベーゼの一つくらいはご容赦くださいませ。あ、ですが”本命”である再会の挨拶代わりの将来夫婦になるお二人の”愛の営み”を見るのは御遠慮くださいませ♪」

「”愛の営み”………?あ、それってもしかして愛し合っている二人が赤ちゃんを作る為にする――――」

「わーっ!わーっ!男子もいるのに女の子がそんな事を堂々と言っちゃダメよ!」

「って、さすがにそんな事を人前でする訳ないでしょう!?――――というか、いつまで録っているのよ!?そのビデオカメラのデータを今すぐ消去しなさ――――――いッ!!」

ビデオカメラで二人のラブシーンを録画しながら呟いたシャロンの指摘を聞いて一瞬何の事かわからなかったゲルドだったがすぐに察するとその内容を口にしかけ、それを聞いたユウナは顔を真っ赤にして声を上げて制止し、我に返ったアリサは慌ててリィンから離れて顔を真っ赤にしてシャロンを睨んだ。



―――その後、ティオは制御端末の再起動を滞りなく終え……アリサ達が運んできたというメンテナンス用の部品も念のため交換される事になった、



そして、駅前に戻ったⅦ組は落ち着いて話をするためもあり―――――ティオ、アリサたちと共に第Ⅱ分校の演習地に戻るのだった――――――




 
 

 
後書き


という訳でアリサとの再会は皆さんの予想通りの展開だったと思いますww
 

 

第40話

演習地に到着するとRF(ラインフォルトグループ)の整備車両がデアフリンガー号とドッキングし、整備車両から現れた作業員たちが演習地に物品を置き始めていた。



~演習地~



「ホ、ホントーですか!?整備車両が来るっていう話は聞いていましたけど……!」

「ええ、以前から連絡していた”例の装備”も持ってきたわ。あなたがティータさんね?ふふっ、会えて嬉しいわ。」

自分達の説明を聞いて無邪気に喜んでいるティータの言葉に頷いたアリサは微笑んだ。

「こ、こちらこそ……!アリサさんのことは前々からグエンさんやレンちゃんから聞いていました!」

「ええっ、そうだったの?」

「ふふっ、大旦那様とラッセル博士は旧知の仲でいらっしゃいますから。年に一度、大陸各地を回る時にリベールに行かれていたようですね。ちなみにティータ様はレン皇女殿下にとって数少ない親友の関係でして。以前オリヴァルト皇子殿下の話にあったレン皇女殿下がリベールの王都で起こした事件―――”お茶会事件”で知り合われたようですわ。」

「そ、そうだったんだ………それじゃあ同じ孫同士、私達も仲良くしましょうか?」

ティータと自分の知り合い達との意外な関係をシャロンから聞かされたアリサは驚いた後ティータに微笑み

「はいっ……!」

アリサに微笑まれたティータも笑顔を浮かべて頷いた。

「あ、孫で思い出したけどシュリさんに導力技術を教えたのはティータさんだったのね。」

「ふえ?シュリさんって、セリカさんのメイドさんの一人であるシュリさんの事ですよね?どうしてアリサさんがシュリさんの事を………」

アリサの口から出た意外な人物の名前を知ったティータは不思議そうな表情でアリサを見つめ

「フフ、実はヴァイスハイト陛下の要請によって”嵐の剣神”セリカ・シルフィル様御一行が本日クロスベルを訪れ、しばらくの間クロスベルに滞在されるとの事ですが………セリカ様達がヴァイスハイト陛下にご挨拶をなさっている時に私とお嬢様がヴァイスハイト陛下に依頼されていた物品を届ける為に偶然知り合ったのですわ。」

「わああ……っ!それじゃあ今セリカさん達もクロスベルにいるんですね……っ!」

シャロンの説明を聞いたティータは明るい表情をした。

「あら、ティータったらセリカお兄さん達がクロスベルにいるからって、どうしてそんなに嬉しそうな顔をするのかしら?もしかしてアガットからセリカお兄さんに乗り換えるつもり?」

「レ、レンちゃん!?そ、そういう事じゃなくてセリカさん達と会うのは”影の国”以来になるから、嬉しくってつい……ティオちゃんと実際にこうしてまた会えたのもセリカさん達と同じ”影の国”以来だし……」

するとそこにレンが近づいて小悪魔な笑みを浮かべてティータに話しかけ、話しかけられたティータは驚いた後苦笑しながらランディと話している様子のティオに視線を向けた。



「ティオすけ。お疲れさんだったな。5ヵ月ぶりか。俺達も熱い抱擁といくか?」

「ふふ、ランディさんも元気そうで何よりです。ミレイユさんに悪いのでハグは遠慮しておきますね。」

「いや、あいつとはそこまでの関係じゃ………って、ははっ。」

ティオの返しに対して気まずそうな表情をしたランディだったがすぐに笑い

「ふふっ……」

対するティオは微笑んだ後ランディとハイタッチをした。

「そちらの状況はあまり良くなさそうですが……第Ⅱ分校やⅦ組というのは悪い方々ではなさそうですね。」

「……ああ、信じていいだろう。幻獣の出現、”三帝国交流会”、そしてロイド達の出張の”理由”――――キナ臭い空気が漂い始めてやがる。何とかこの状況を打開する”きっかけ”になってくれると助かるんだが……」

ティオの言葉に頷いたランディはリィン達に視線を向けた。



~デアフリンガー号・ブリーフィングルーム~



「うーん、それにしても綺麗になったねぇ、アリサちゃん!」

「ふふっ、トワ会長も本当にお久しぶりです。リィン達もそうですけど……頑張ってらっしゃるみたいですね。」

「ふふ、旧Ⅶ組のみんなと同じくらいなんじゃないかな?――――でも結局、マキアス君とも連絡してクロスベルに来たんだよね?」

「ええ、そうみたいです。」

アリサとの再会の挨拶を交わしたトワに視線を向けられたリィンは頷き

「べ、別に驚かせるためだけで伝えなかったわけじゃないのよ?元々、第Ⅱ分校に新装備を届ける予定もあったけど……今回、私が立ち会ったのは財団との仕事もあったからで。」

「ふふっ、その割には何とかスケジュールを調整しようと頑張ってらっしゃいましたけど。」

「やけに具体的な日時を提案してきましたよね。おかげでRFビルに伝言を残してジオフロントに行けたんですが。」

「ちょ、二人とも……!」

アリサは落ち着いた様子で説明していたがシャロンとティオにある事を指摘すると慌て始めた。



「フフ……それにしてもアリサさん、本当にお綺麗になられましたわよね……スタイルも更に成長なさっていますし………同じリィンさんを慕う女性の一人として、アリサさんの急成長ぶりに危機感を抱いてしまいますわ。ただでさえ、わたくしは以前レン皇女殿下も仰ったようにリィンさんを慕う他の女性達との”キャラ属性”が被っていますし………」

「クスクス、そう言えばそんな事も言っていたわね♪アルフィン夫人の属性は軽く言って”妹”、”姫”、”ブロンド美女”だけど、”妹”はエリゼお姉さんとセレーネ、”姫”はセレーネとメサイアお姉さん、そして”ブロンド美女”はアリサお姉さんと被っているものね♪」

「………そうですね。しかもアリサさんは私だけだと思っていた”幼馴染属性”までありますしね。」

「う”っ………」

「ア、アハハ………」

羨ましそうにアリサを見つめて呟いたアルフィンの言葉に小悪魔な笑みを浮かべたレンが同意している中エリゼはジト目でリィンを見つめ、見つめられたリィンが唸り声を上げている様子をセレーネが苦笑しながら見守っている中その場にいる全員は冷や汗をかいて脱力した。

「そ、そんな……皇女殿下にまでそんな風に思われるなんて恐れ多いですよ……!エリゼもそうだけど、皇女殿下の方こそ、1年半前と比べると見違えるように凄く素敵な女性になっていて、最初に会った時は二人の成長ぶりに本当に驚きましたよ………」

「ふふ、アリサさんにそんな風に言って貰えるなんて嬉しいですわ。アリサさんを含めてリィンさんと将来共になる女性達はどの方もそれぞれ誰もが敵わないような様々な魅力がありますし、多くの女性の心を虜にするリィンさんですから、これからも更に増えるかもしれませんから、後から増える女性達に負けない為にもわたくし自身、女性としてもっと精進する必要がありますもの♪」

「………そうね。兄様のその”悪い癖”についてはどれだけ警戒していても、正直ほとんど意味がないから、アルフィンの言っている事にも一理あるわね。」

「いや、だから何度も言っているようにこれ以上増やすつもりはないって言っているだろう!?」

謙遜している様子のアリサの言葉に微笑んだアルフィンはリィンに視線を向けてウインクをし、エリゼはジト目でリィンを見つめ、二人に見つめられたリィンは疲れた表情で答え

「……教官自身がそう思っていても、ゲルドさんの”予知能力”では未来のリィン教官は今以上に女性を増やして結婚したとの事ですから、教官自身がそう思っていた所で、ほとんど無意味なのでは?実際、内戦時にアルフィン様以外にも増やしましたし。」

「うふふ、リィン様を強く想っていたお嬢様とステラ様の努力の賜物でもありますが、一番の理由は多くの女性を虜にするリィン様の女性との出会いに恵まれた運ではないかと♪」

「う”っ………」

「ご、ごめんなさい、お兄様………今までの事を考えると、全く反論が思いつきませんわ……」

ジト目のアルティナとからかいの表情をしているシャロンの指摘に反論できないリィンが唸り声を上げている中、セレーネは疲れた表情で答え、その様子を見守っていたトワたちは再び冷や汗をかいて脱力した。



「ったく、わかってはいた事だがそっち方面で恵まれすぎだろ。」

「それもただのレディじゃなくて、それぞれ様々な立場のあるレディばかりを落として行っているから、ランディお兄さんの言う通りまさに”兄貴族”よね♪」

「クク、あのヴァイスハイトと同じまさに”英雄色を好む”をその身で示しているな!」

「あ、あはは………(確かにその通りかも………)」

ランディとレン、ランドロスの指摘にトワは苦笑しながら若干呆れた様子で3人の指摘に同意し

(予想はしていたけど、アリサさんも同じ女性のあたし達でも羨むような素敵な女性よね……)

(うん………ちなみにアルティナもアルフィン達みたいにリィンの傍にずっといる女の子だけど、アルティナだけリィン教官の婚約者じゃないのよね?)

(………ええ。まあ、”好色家”のリィン教官が将来私を妾や側室にする為にメンフィル帝国から引き取った疑いはまだはれていませんから、将来はどうなるかわかりませんが……)

ジト目になって小声で呟いたユウナの言葉に頷いたゲルドに視線を向けられたアルティナは静かな表情で答えた。



「(自分の事なのに、君は何でそんな冷静に応えられるんだ……?)コホン。それはそれとして―――先程の”魔煌兵”ですが。」

アルティナの答えに戸惑っていたクルトだったがすぐに気を取り直して話を戻した。

「そうだ――――その話だった。」

「話が逸れた気もするけど……確かにそうね。」

「どうしてあんな存在(もの)が出現したのか……ですか。」

「その、幻獣というのはクロスベルにも出現したことはあったみたいですけど………”魔煌兵”みたいな存在が出現したことは無いんですよね?」

「ああ、少なくとも支援課の時に出くわしたことは一度もねぇ。多分、ギルドの連中も同じ筈だ。」

「クロスベル元警備隊や警察の連中も、出くわした事はねぇぜ。第一もしそんなのがいたら、とっ捕まえた後その”魔煌兵”って奴を”再利用”する方法を考えていたと思うぜ?」

トワの質問にランディと共に答えたランドロスはとんでもない事を発言し、ランドロスのとんでもない発言にその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「ったく、アンタだと本当にやりかねないから、洒落になっていないっつーの。」

「うふふ、しかも”工匠”のセティ達もいるから、もし”魔煌兵”を捕まえる事ができたらランドロスおじさんの言う通り様々な再利用(リサイクル)の仕方があったでしょうね♪」

我に返ったランディは呆れた表情で、レンは小悪魔な笑みを浮かべてそれぞれ指摘した。



「アハハ………それにしても気になりますね。エレボニア由来の化物がこの地に………」

「わたくしたちもまさかあのような現場に遭遇するとは思っていませんでしたし。」

「”魔煌兵”の出現については既に各方面へ連絡を?」

「うん………クロスベル帝国政府とクロスベル帝国軍、それにクロスベル軍警察と遊撃士協会には連絡したよ。でも、”三帝国交流会”でクロスベルを訪れるエレボニアとメンフィルのVIP達の訪問でそれ所じゃないみたいだね。」

「エレボニアとメンフィルのVIP………午後には来るんですよね?」

「ああ、ミハイルの旦那がひっきりなしに連絡してるな。」

「そうですか………――――こうなってくると”幻獣”も心配になってきましたわね。」

「………はい。」

「あんな化物が唐突に現れるくらいですしね。」

「……被害が出る前に未然に喰い止めないとね。」

「要請書にあった2箇所を確認しに行くべきかと。」

セレーネがふと呟いた言葉にユウナ達新Ⅶ組の生徒達はそれぞれ頷いた。



「エルム湖の岸辺と東の街道外れの沼地だったか。2年前、亀みたいな幻獣と食虫植物みたいな幻獣が出たな。」

「そう言えばそうだったな……確かあの時は沼地の方は俺とセレーネ、セティ達が退治したな。」

「ええ、そうなのですが………一つ気になる情報が。先日、遊撃士達が倒した幻獣についてですが。どうやら”巨大なカバ”のような幻獣だったそうです。」

「なんだと……?2年前、俺達が戦ったのはケバい色の”竜”じゃなかったか?」

「それって………」

「………まさか………」

ティオの口から出た幻獣が以前と異なる事にランディが眉を顰めている中、どんな幻獣なのか察しがついたアリサとリィンは表情を引き締めた。

「そう言えばリィン君達の報告にもあった………」

「?……何か情報が?」

「そう言えば内戦の時にもそのような形態の”幻獣”と交戦しましたね。」

「そうね……確か出現した場所は壊滅したガレリア要塞の跡地だったわね。」

「ティオさんの話にあったようにまさしく”巨大なカバ”としか言いようがないタイプでしたね。」

かつての出来事を思い出したアルティナの言葉にレンとエリゼはそれぞれ頷いて説明をした。



「なるほど、わたくしが艦を降りた後ですか………」

「………同じタイプかわからんが妙に引っかかりやがるな。」

「ええ……こちらももう少し情報を集めておきたい所です。」

「クク……分校長殿の言う通り、まさしく”何が起こるかわからねぇ状況”じゃねぇか。」

「教官……!こうしちゃいられませんよ!」

「そろそろ郊外の調査に出発するべきでしょう。」

「まずは間道の先ですね。」

「わかった、そうしよう。―――トワ先輩。いざとなったらヴァリマールを動かすかもしれません。」

「了解。ミハイル教官にはわたしの方から言っておくね。」

「幻獣は現れた際、その場が上位三属性も働くようになりますから、”魔女”であるゲルドさんは使う魔術に特に気をつけてくださいね。」

「ええ……もし、どの属性もあまり効果が無かったら援護や回復に専念した方がよさそうね。」

リィン達が今後の事について話し合っているとシャロンとアイコンタクトを交わしたアリサはある申し出をした。



「ねえ、リィンにセレーネ、Ⅶ組のみんな。二つほど提案があるんだけど。」

「え………」

「提案……ですか?」

「ええ――――まず一つは貴方達に使って欲しいと思って持ってきたものがあるの。整備車両に積んであるから出発前に付き合って欲しくて。」

その後アリサの申し出を受けたリィン達は他の用事ができたアルフィン達と分かれて、外に出て整備車両に向かうとアリサとシャロンは整備車両から数台の導力バイクを出した。



~演習地~



「こ、これって………」

「鉄の馬――――いや……」

「察するに導力駆動の小型特殊車両でしょうか。」

「ああ……サイドカーユニット付きの”導力バイク”だな。」

「”導力バイク”…………」

「フフ、これを見るのは内戦以来ですわね。」

導力バイクをⅦ組の面々が興味ありげな表情で見ている中セレーネはかつての出来事を思い返していた。

「アリサちゃん……量産化ができたんだね?」

「ええ、先輩方が実用化を目指していた新たな乗物………アンゼリカさんに頼まれて春、ようやく量産化できました。エレボニア・クロスベルの両帝国の交通法もクリアして既に多くの受注も入っています。」

「そうなんだ……えへへ、ありがとう!」

「アリサ――――本当にありがとう。遠慮なく使わせてもらうよ。」

「ふふっ、そうしてちょうだい。ただ、できれば私としてはセティさん達――――”工匠”の協力によってできた特注の導力バイクを貴方達にも使って欲しかったのだけど……生憎、セティさん達も多忙だったから特注の導力バイクは注文分しか作れなかったのよ。」

トワと共に感謝の言葉を述べたリィンに微笑んだアリサはある事を思い出して若干残念そうな表情をした。



「まあ……」

「ハハ、まさかセティ嬢ちゃん達もこれに関わっていたとはな。」

「ですが”特注”との話ですが………一体、誰に頼まれてセティさん達に協力してもらってその”特注”の”導力バイク”とやらを開発したのですか?」

アリサの口から出たある人物達の名前を聞いたセレーネは目を丸くし、ランディは苦笑し、ティオは興味ありげな表情でアリサに訊ねた。

「直接注文して頂いた方はヴァイスハイト陛下ですが、実際に特注の導力バイクをお渡ししたのはヴァイスハイト陛下の依頼によってはるばる異世界の”レウィニア神権国”という大国からクロスベルを訪れた”レウィニア神権国”の客将御一行ですわ。」

「へ……ヴァイスハイト陛下の依頼で……しかも”レウィニア神権国の客将”ですか?」

「あ、あの方々がクロスベルを訪れる可能性はセシリア様から伺っていましたが、まさか本当にクロスベルに来るなんて……」

「おいおい………”レウィニア神権国の客将”って事はまさかとは思うが……」

「ええ……間違いなく”あの人達”の事でしょうね。いずれ”あの人達”が再びクロスベルに訪れる事は知っていましたが……まさかこんなにも早く訪れるなんて。」

シャロンの説明を聞いたリィンは目を丸くし、セレーネと共に驚きの表情を浮かべているランディに視線を向けられたティオは疲れた表情で答えた。

「教官達はシャロンさんが言っていた人達の事について知っているの?」

「ああ…………簡単に説明するとシャロンさんが言っていた人物――――セリカ殿は異世界にある”レウィニア神権国”という国の”客将”を務めている人物で、アイドスにとっては”兄”に当たる人物なんだ。」

(ふふ、正確に言えば義兄だけどね。)

ゲルドの質問にリィンが答えている中アイドスは苦笑していた。



「へ………ア、アイドスさんの……?――――って、ちょっと待ってください!女神様のアイドスさんのお兄さんって事はその人も神様なんですか!?」

「まあ、”神”ではありませんがアイドス様同様非常識過ぎる存在ではありますね。」

「ア、アルティナさん。」

「”セリカ”………そう言えば兄上やオリヴァルト殿下が巻き込まれた”影の国事件”で兄上から、”剣皇”とも称えられているリウイ陛下をも超える剣の使い手にして、剣士としての腕前も”双界最強”と言っても過言ではない剣士の名前が”セリカ”であると伺っていますが………まさかその人物の事ですか?」

リィンの説明を聞いて一瞬呆けた後すぐに我に返って驚きの表情を浮かべたユウナの疑問に静かな表情で答えたアルティナの答えを聞いたセレーネは冷や汗をかき、クルトは考え込みながら呟いた後リィン達に確認した。

「ええ、クルトさんの推測通りの人物です。ちなみにアイドスさんを知っているのでしたらセリカさんと会ったら驚くでしょうね。――――多分、実際にセリカさんと会った事があるアリサさんも驚いたでしょう?」

「ええ………リィンから話には聞いていましたけど、まさかあそこまで容姿が瓜二つとは思いませんでしたよ……」

クルトの推測に頷いたティオに視線を向けられたアリサは疲れた表情で答えた。



「アイドスさんの容姿に瓜二つという事はもしかしてアイドスさんとそのセリカさんという人達は”双子”………?」

「ハハ、厳密には違うが似たようなものさ。――――それよりも話を戻しますが、もう一つの提案は驚きました。」

「ええ――――そちらの方に調査を手伝っていただけるとか。」

ゲルドの推測に苦笑しながら答えたリィンはシャロンに視線を向け、リィンの言葉に頷いたクルトは仲間達と共にシャロンを見つめた。

「――――改めまして。ラインフォルト家に仕えるメイドのシャロン・クルーガーと申します。お嬢様が新装備の引き渡しをするまでの間で恐縮ですが……新Ⅶ組の皆さんに誠心誠意、ご奉仕させて頂きますわ♪」

「えっと……」

「……先程拝見した実力は十二分すぎるほどですが……」

「まあ、幻獣を相手にするならこの上ないか戦力かと。」

「それにしてもこっちの世界のメイドさんは私達の世界と違ってみんな戦えるのね……シャロンさんと同じメイドさんのエリゼとアルフィンも戦えるし……」

「え、えっと、ゲルドさん?シャロンさんやエリゼお姉様達はメイドとしては特殊な部類になりますから、シャロンさん達を基準にはしない方がいいですわよ?」

シャロンの自己紹介に冷や汗をかいて脱力したユウナとクルトが戸惑っている中アルティナは冷静な様子で呟き、ゲルドの推測を聞いたセレーネは冷や汗をかいて苦笑しながら指摘した。

「――――折角の申し出だ。ありがたくお言葉に甘えよう。シャロンさん、どうかよろしくお願いします。」

「ふふっ、こちらこそ。」

こうしてシャロンを加えたリィン達は幻獣の調査の為に導力バイクを使って、ウルスラ間道の調査場所へと向かった―――――




 

 

第41話

”幻獣”が現れた場所に到着したリィン達は意外な物を見つけた。



~ウルスラ間道~



「これは………緋色の、花……?」

「綺麗ですが、妙ですね。」

「な、なんかうっすらと光っているような……」

「………………」

クルト達は目の前に咲いている緋色の花を興味ありげな表情で見つめている中ゲルドは真剣な表情を浮かべて花を見つめていた。

「お、お兄様……まさかとは思いますがこの花は………」

「ああ………だけど、”あの花は蒼色のはず”だが……」

一方心当たりがあるセレーネは不安そうな表情でリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは頷いて真剣な表情で花を見つめていた。

「そ、そう言えば独立国の時に似たような花を見かけたかも……!先輩達からも幻獣が現れる場所に”蒼い花”が咲いてたって……!」

するとその時ある事を思い出したユウナは血相を変えて声を上げた。



「そ、そうなのか……!?」

「……言われてみればわたしも見覚えがあります。確か花の名前は”プレロマ草”でしたね。」

「ああ……独立国の誕生と共に現れ、”碧の大樹”とも関係していると推測されていたが……」

「そうそう、それです!……でもこれ、赤いですし、別物かもしれませんけど……」

「わたくしはそうとは思えないのですが………形に関してはあの時の”プレロマ草”と瓜二つですし………」

「――――!みんな、構えて!”来るわ”…………!」

「――――皆様。お気をつけてくださいませ。」

リィン達が目の前の花について話し合っていると”予知能力”で僅か先の未来が見えたゲルドと敵の登場を逸早く察知したシャロンが警告すると、リィン達の背後に幻獣が現れた!



「で、出た……!?」

「”魔煌兵”と同じパターン……!」

「……大きい………!」

「か、亀型じゃないけど……」

「これは――――」

「確かノルド高原で現れた―――――」

「色々疑問はありますが―――来ますわ!」

「ええ――――Ⅶ組総員、戦闘準備!全力をもって撃破するぞ!」

「了解……!」

そしてリィン達は幻獣との戦闘を開始した!



「………………」

戦闘開始時敵は巨大な腕を振り上げてリィン達に先制攻撃をしようとし

「散開してください――――」

「いえ、その必要はありません。行きます――――ノワールクレスト!!」

敵の行動を見たセレーネはリィン達に忠告しようとしたがアルティナが制止して反射の結界を味方全体に付与するブレイブオーダーを発動した。

「!?」

リィン達に先制攻撃をした敵だったが、アルティナのブレイブオーダーによって発生した反射結界によって自身の攻撃でダメージを受けて怯んだ。

「秘技―――裏疾風!斬!!」

「行きますわよ……!――――シャドウステッチ!!」

敵が怯んだ隙にリィンとシャロンはそれぞれ広範囲を攻撃するクラフトで敵の腕や足を攻撃してダメージを与え

「唸れ、大地の力……アースブレイク!!」

「ハァァァァァ……斬り裂け!!」

二人の攻撃が終わるとユウナとクルトがそれぞれ左右から敵に接近してクラフト―――アースブレイクとエアスラッシュで追撃した。



「二人とも離れてください!―――――プリズミックミサイル!!」

「「!!」」

するとその時魔術の詠唱を終えたセレーネが敵に接近しているユウナとクルトに警告し、二人が敵から離れると同時にセレーネは両手から無数の七色の光の魔法の矢を放って敵に命中させた。

「爆ぜよ、銅輝陣――――イオ=ルーン!!」

「!?」

そこにアルティナの魔術が炸裂し、アルティナの魔術によって発生した周囲に起こる爆発を至近距離で受けた敵は怯み

「灼熱の炎よ、竜巻となり、敵を焼き尽くせ―――――フレイムバースト!!」

「―――――!?」

更にゲルドが発動した灼熱の竜巻はゲルドが扱える魔術の中でも相当な威力である事に加えて魔術師としても”達人(マスター)クラス”であるゲルド自身の魔法攻撃力も高かったため、強烈な威力を秘める火炎魔術をその身に受けた敵は悲鳴を上げて大きく怯んだ。

「二の型・改――――裏紅蓮剣!!」

そしてリィンは火属性を付与した魔法剣による剣技(クラフト)で追撃し

「こんなのはいかがですか……?――――絶!!」

シャロンは鋼糸で敵の全身を縛りつけた後ダガーで一閃するクラフト―――カラミティクロスで追撃した。



「―――――――!!」

度重なるダメージを受けた敵は”高揚”状態になった後雄たけび―――ドラグハウルでリィン達にダメージを与えると共に咆哮による衝撃波で後退させ

「―――――!」

続けて口から無数の氷の礫を解き放つクラフト―――アイシクルロアで追撃した。

「くっ………―――みんな、大丈夫か!?」

敵の攻撃が終わるとリィンは仲間達に状況を確認し

「す、すみません、教官……!」

「さっきの攻撃で脚や腕が凍結して、動きが……!」

「すぐに回復する!――――セレーネとゲルドは二人の凍結状態の回復とさっき受けた攻撃のダメージの回復に専念してくれ!」

「わかりましたわ!」

「うん……!」

ユウナとクルトが”凍結”状態に陥っている事を確認するとセレーネとゲルドに指示をし、指示をされた二人はそれぞれ魔術の詠唱を開始し

「アルティナ、シャロンさん!二人が回復に専念している間に俺達は敵の注意を惹きつけます!」

「了解しました。」

「かしこまりましたわ。―――見切れますか?――――ブラッディクロス!!」

リィンの指示にアルティナと共に頷いたシャロンは鋼糸で敵の全身を縛りつけた後縦横無尽に移動しながら敵を切り刻み、最後にダガーと鋼糸による十字(クロス)攻撃を叩き込んだ。



「………………!」

「ハッ!」

凄まじい威力のダメージを与えたシャロンを脅威に感じた敵はシャロン目がけて巨大な腕を振り下ろしたがシャロンは軽やかに回避し

「――――緋空斬!!」

「ブリューナク起動、照射。」

「――――――!」

リィンとアルティナは左右からそれぞれ遠距離攻撃を放って敵に更なるダメージを与えた。

「浄化の光よ、かの者達に浄化の癒しを―――――オーディナリーシェイプ!!」

「聖なる光よ、我等に癒しを―――――ラプレアラ!!」

「ありがとうございます!これはお返しよ……!ヤァァァァァッ!」

「助かりました!―――――黒鷹旋!!」

そしてセレーネとゲルドの治癒魔術で状態異常や傷が回復したユウナとクルトは遠距離による攻撃で敵に反撃をした。



「――――――!」

二人の反撃を受けた敵は再びクラフト―――アイシクルロアで後方にいるセレーネ達に攻撃したが

「させませんわ!――――ハリケーンブリザード!!」

セレーネが前に出て吹雪の結界を発生させて襲い掛かってきた無数の氷の礫を無効化し

「猛き力よ、我等に加護を―――――ハイインパクト!!」

「行くわよ……!―――スマッシュ!!」

「―――見えた!――――斬!!」

セレーネが敵の攻撃を無効化するとゲルドの支援魔術によって物理攻撃力が上昇したユウナは闘気を全身に纏って突撃する(クラフト)―――ブレイブスマッシュで、クルトは敵に向かって突進して双剣による横一文字攻撃を叩き込むクラフト―――ハングスラッシュでダメージを与え

「―――フラガラッハ―――滅!!」

「――――――!」

アルティナはクラウ=ソラスを刃と化させて強烈な一撃を叩き付けるクラフト―――フラガラッハで追撃した。

「!?」

「崩しました!」

「隙あり!燃え盛れ――――滅!!」

クラウ=ソラスが放った強烈な一撃によって敵の態勢が崩れるとアルティナと戦術リンクを結んでいたリィンが更なる追撃として業火を伴う渾身の袈裟斬り――――龍炎撃を叩き込んだ。



「!?……………」

「死線の由来とくとご覧あれ―――――失礼――――ですが、もう逃げられませんわ!」

「―――これで決めます!運命の門、 汝も見るか、高貴なる極光!!」

「邪を払う白き雷よ、全てを浄化せよ―――――」

そして度重なるダメージによって敵が”ブレイク”状態になったその時シャロンは跳躍して無数の鋼糸を放って敵を縛りつけた後縦横無尽に駆けながら敵に何度もダガーで攻撃を叩き込み、その間にセレーネは自身の背後に門を召喚し、ゲルドは両手に白き雷を集束し

「秘技――――死縛葬送!!」

「マジェスティ・ゲイト!!」

「W(ホワイト)プラズマ!!」

「――――――――!!??」

シャロンが止めの一撃に放った敵を縛りつけている無数の鋼糸による斬撃を叩き込んだ瞬間、セレーネは背後の門から無数の聖なる光の奔流を、ゲルドは両手から極太の白き雷のエネルギーを敵に叩き込み、それらを受けてダメージに耐えきれなくなった敵は悲鳴を上げながら消滅した!



「っ………はあはあ………」

「やった……のか……」

「ふう……何とか撃破できましたか……」

「今のが”幻獣”………」

敵の消滅を確認したユウナとクルト、アルティナは疲労と安堵によって息を切らせ、3人と違ってリィン達同様まだ体力に余裕があるゲルドは静かな表情で呟き

「………とりあえず危険は去ったみたいですね。」

「ええ……少なくとも”幻獣”については、でしょうが。」

「―――皆さん、お疲れ様です。よく頑張ってくれましたね。」

武器を収めたリィンとシャロンが話し合っている中セレーネはユウナ達を労った。



「いえ……まだまだです。」

「……改めて自分の体力不足を痛感します。」

「うん、教官達と比べてもだけど――――」

それぞれ謙遜した様子で答えたユウナ達はシャロンとゲルドに視線を向け

「…………………」

「?みんな、私とシャロンさんに何か聞きたい事があるの?」

視線を向けられたシャロンが静かな笑みを浮かべて黙り込んでいる中ゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。



「正直……改めて驚きました。―――内戦で旧Ⅶ組を手伝った時の”実力”。あれはまだ片鱗に過ぎなかったんですね?」

「ふふ……それでも全力のサラ様には及びませんが。所詮は”暗殺術”――――正道の武術や、実戦で極められた戦技とは比べるべくもありません。―――勿論ゲルド様のような卓越した魔術もそこに含まれていますわ。」

「あ、暗殺術………」

(……やはり………)

「………………」

リィンの指摘に苦笑しながら答えたシャロンの答えにユウナが驚き、クルトが納得している中ゲルドは静かな表情で黙ってシャロンを見つめた。

「フフ……栓ないことを申し上げてしまいましたね。それよりもわたくしの方こそ、ゲルド様の実力には正直驚きましたわ。卓越した魔術に加えて先程の”幻獣”のような存在との戦いを終えてもまだ余裕のご様子………もしかすればゲルド様はかの”蒼の深淵”をも超える”魔女”なのかもしれませんわね。」

「ええ……それはわたくしも感じましたわ。」

「そうだな……俺の推測だがゲルドの魔術師としての実力はセシリア教官と同格―――いや、ひょっとすればペテレーネ神官長のような”神格者”に迫る程の魔道の使い手かもしれないな。」

「た、確かに……”魔術”の授業を教えてくれるあのレン教官ですらも、魔術師としての単純な戦闘能力ならゲルドは自分を軽く超えているって言っていたし………」

「しかも”幻獣”との戦いを終えても僕達と違って、まだ余裕を見せていたしな……」

「その若さで一体どのようにしてそれ程の実力を手に入れたのでしょうか?」

シャロンの指摘にリィン達や生徒達が頷いている中アルティナはゲルドにある事を訊ねた。

「う~ん……そう言われても魔法――――魔術に関しては私がいた世界で魔術師として有名な人がいて、たまたまその人に魔術を教わる機会があったからで体力に関しては私がこの世界に来るまでは私は一人で世界中を歩いて回っていたから多分その時に自然についたんだと思うわよ?」

「せ、世界中を歩いて回ったって………」

「フフ、わたくしのお姉様のお友達の方はリベール王国の遊撃士ですが、その方の親類はある高名な遊撃士だったのですが……その高名な遊撃士の方はリベールの遊撃士の方達は王国全土の土地勘を覚えると共に体力をつける為に、遊撃士の見習いである”準遊撃士”時代は王国全土を徒歩で回る事を推奨し、実際にリベールの”準遊撃士”の方達は王国全土を徒歩で回っているとの事ですわ。」

ゲルドの答えを聞いたユウナが驚いている中セレーネは微笑みながら答えた。



「それは凄いですね………さすがに、エレボニアでそれを実行するのは厳しいと思われますが……」

「……まあ、1年半前の件で国力が衰退したとはいえエレボニアは大国ですからね。エレボニア全土を徒歩で回れば、少なくてもリベールの数倍の時間はかかるでしょうね。………少なくてもわたしはそのような無謀な事を実行しようとは思いませんが。」

セレーネの答えにそれぞれ冷や汗をかいたクルトは驚きの表情で呟き、アルティナは静かな表情で答えた後ジト目になった。

「ハハ………――――とりあえず、先程の”花”を調べよう。どう考えても何かの関係がありそうだ。」

「は、はいっ!」

「緋色の花、か……」

そしてリィンの指示によってユウナ達は緋色の花に近づいて花の周囲を調べた。



「……結局、咲いているのはこの一輪だけみたいね。」

「ええ、半径50アージュ内には他にありませんでした。」

「……教官、どうします?」

「―――仕方ない。一応、採取はしておこう。まずはARCUSⅡのカメラモードで数点撮影を。その後、直接触れないようにしてサバイバルキットに採取してくれ。」

「はい。」

「それでは撮影を行います。」

リィンの指示に頷いた生徒達はそれぞれ行動を開始した。



「うふふ、皆さん、手慣れていらっしゃいますね。」

「ええ、特務活動もこれで2回目ですから。日頃の授業や訓練が少しでも役立っていたらいいんですが。」

「フフ、きっと役立っていますわよ。特にゼムリア大陸に来たばかりでゼムリア大陸の常識も全く知らなかったゲルドさんも手慣れた様子でARCUSⅡを使いこなしているのですから。」

「ハハ、そうだな。(それにしてもあの色……どこかで見たような気がするな。)」

シャロンやセレーネと共に生徒達の様子を見守っていたリィンは緋色の花を見つめて考え込んでいた。



その後撮影と採取を終えたリィン達が導力バイクを駐輪させている場所に向かっていると、その様子を遠くから一人の亡霊が見つめていた。



「………ふわあぁっ………灰の小僧に聖竜の娘、クルーガー………まあ、悪くはねぇんだが。今は”標的”探しの方に集中しておくか。」

リィン達を見つめていた亡霊はあくびをした後リィン達に背を向け

「めんどくせぇ実験はアイツに任せるとして……仮面どもや”六銃士”が動きだしてくれりゃあちったあ面白くなるんだが。」

やがて亡霊は炎に包まれてその場から転移した。



「先に行けって……何を話してるのかしら?」

「……どうやら内緒の話があるみたいだったな。」

「気になりますが……ユウナさん、安全運転を。」

「って、そうだった……!」

導力バイクに乗って演習地に向かっているユウナは運転しながら背後で走っているリィンとシャロンに視線を向け、クルトは静かな表情で呟き、アルティナはユウナに注意をした。

「えっと………ゲルドさんはユウナさん達のようにお兄様とシャロンさんの様子が気にならないのですか?」

同じようにユウナ達の前を導力バイクを運転して先に進んでいるセレーネはユウナ達の会話が聞こえていたためサイドカーに乗っているゲルドに訊ね

「そうね……確かに気にはなるけど、ユウナ達と違ってそれ程気にしていないわ。ただ私の場合、”別の意味でリィン教官が気になる”けど………」

「そ、それは…………」

ゲルドの答えを聞き、すぐにゲルドの言っている事の意味をすぐに察していたセレーネは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「ふふっ……風が気持ちいいですわね。バイクでリィン様と二人きり……お嬢様に羨ましがられてしまいそうですけど♪」

一方リィンが運転する導力バイクのサイドカーに乗っているシャロンはリィンをからかっていた。

「はは……この程度ならいくらでも。それよりも―――いいですよ、話してもらっても。」

「え………」

「”二人きりで乗りたい”………何か、話があるんでしょう?あの子達に聞かれたくない……いや、”アリサに”聞かれたくない話が。」

「!!ふふっ、本当に……頼もしくなられましたね。ええ――――リィン様の仰る通りです。リィン様に聞いて欲しいことがあってここまで付き合わせて頂きました。」

リィンが自分の真意を悟っていた事に驚いたシャロンはリィンに感心した。

「もしかして……”結社”のことについて?」

「ええ、それもありますが……聞いて欲しいのは、ある娘の過去。”死線”という忌名を与えられたちっぽけな小娘の半生です。」

「あ………」

そしてシャロンはかつての自分について話し始めた。



「―――その娘は”虚ろ”でした。暗黒時代より続いてきた闇の暗殺組織”月光木馬園”。13歳にしてその第二の使い手だったそうです。



―――少女に与えられたのは受け継がれた”死線”という忌名と”クルーガー”という”号”だけ。感情も持たぬ暗殺人形として任務を遂行するだけの日々でしたが……ある時、組織存亡の危機が訪れます。



”身喰らう蛇”――――当時、まだ新興勢力に過ぎなかったかの結社と水面下で全面衝突したのです。ですが劫炎に剣帝、鋼の聖女まで――――圧倒的な強者たちを前に総崩れとなり、”木馬園”は消滅してしまいました。



後に第四柱となる”千の破壊者”とNo.Ⅲとなる”黄金蝶”――――そしてNo.Ⅸとなる”死線”を結社に吸収される形で。



”執行者”となっても少女の日々は変わりませんでした。使徒たちの要請に従い、遂行する幾つもの任務(ミッション)………断るのは自由でしたが、他の生き方を知らない彼女は受け入れる以外はありません。―――ラインフォルト家との関わりもそんな中で生まれたものでした。



当時、第六柱から受けた任務により、娘はエレボニア北東、ルーレ市へ潜入します。目的は”とある人物”との接触……しかし、そこで事故(アクシデント)が発生しました。結果として任務は失敗……娘は瀕死の重傷を負ってしまい、別の方の命も喪われてしまったのです。



―――その人物こそ、イリーナ会長のご主人にしてアリサお嬢様のお父様にあたる方……フランツ・ラインフォルト様でした。」



「…………………」

シャロンのラインフォルト家入りの経緯を知ったリィンはシャロンにかける言葉がなく黙り込み

「ふふ………―――イリーナ様は、元凶の娘を助け、名前まで与えてくださいました。わたくし、それまで”名前”を持っていなかったんです。”クルーガー”というのは受け継いだ”死線”の”号”……”名”は任務に応じて変えるというのが”木馬園”の流儀でした。ですがイリーナ様は、わたくしに”シャロン”という名前を与え……虚ろだった娘に、ラインフォルト家のメイドとしての立場を下さったんです。以来、わたくしは”結社”に属したままラインフォルト家のメイドを続けていました。”執行者”としての権利である”あらゆる自由”を活用する形で―――」

「……そんな事が………どうして俺に……?しかもこのタイミングで……当然……アリサは知らないんですよね?」

シャロンの過去を全て聞き終えるとリィンは複雑そうな表情を浮かべた後シャロンに真意を訊ねた。

「ふふ、良い機会でしたので。―――いつか、必要だとリィン様が判断された場合、どうかお嬢様に教えてあげてください。その時、わたくしがお嬢様の側にいない可能性もあるでしょうから。」

「……!?」

シャロンの説明を聞いたリィンは血相を変えたが

「ふふっ、仮定の話ですわ。わたくしの愛と献身が会長やお嬢様から離れることは絶対にありえません。ああ、もちろんリィン様が正式にお嬢様と結ばれることになれば”旦那様”としてご奉仕を―――」

「いや、それは魅力的ですけど……!」

いつもの様子に戻ってからかってきたシャロンの言葉に脱力した。



「……ありがとう。そんな大切な話を聞かせてくれて。アリサは――――アリサ達旧Ⅶ組は貴女にずっとお世話になっていたのでしょう。日々の寮生活で、内戦の危機で……―――だから、何かあったら遠慮なく頼ってください。旧Ⅶ組もそうですが俺や特務部隊の仲間も、……もちろんアリサだっていくらでも力になりますから。」

「リィン様……ふふっ………本当に頼もしくなられましたね。――――しかし今の仰りよう、年上相手に少々反則ではないかと。これはもう、お嬢様達とは別に”ご主人様”とお呼びするしか―――」

「だ、だから誘惑しないでくださいってば……!」

(実際リィンは自分にとっての年上である私達の心を掴んだから、シャロンの言っている事に一理あるのよね。それよりも、まさかとは思うけどゲルドが見た”未来”にリィンの伴侶の中に彼女(シャロン)も含まれているのかしら……?)

ウインクをして誘惑したシャロンにリィンは疲れた表情で答え、その様子を見守っていたアイドスは苦笑した後ある事に気づいて冷や汗をかいていた―――


 

 

第42話

その後演習地に戻ったリィン達はミハイル少佐達にウルスラ間道での出来事を報告した。



~デアフリンガー号・ブリーフィングルーム~



「……まさか(あか)いプレロマ草とはな……」

「間違いねぇ……2年前のあの花だぜ。色は全く違っちゃいるが……」

「……そうですね。サイズ、形状共に同じです。ディーター元大統領の権力を支えた”奇蹟の力”の依代たる”花”……やはり『上位三属性』が働いていたような気配も?」

「ええ、間違いありませんわ。」

「サザ―ラント州の森でも同じような効き方でしたが……」

「……問題となるのはこの(あか)いプレロマ草が秘めている”力”ね。」

ミハイル少佐とランディがモニターに映る緋色のプレロマ草に注目している中ティオの質問にセレーネとクルトはそれぞれ答え、レンは真剣な表情でモニターに映る緋色のプレロマ草を見つめていた。

「しかもこの”幻獣”まで……」

「”幻獣”アンスルト……旧校舎地下に、ノルド高原でも出現したっていう幻獣だね。」

「ええ、魔煌兵に続いてエレボニアの化物が出現したことになります。」

「ちなみに主任教官殿よ。2年前クロスベルに現れた”幻獣”が今のクロスベルのようにエレボニアには現れていねぇのか?」

「ああ……今の所そのような報告は受けていない。」

モニターに映る見覚えのある”幻獣”にアリサが驚いている中トワの言葉にリィンは頷き、ランドロスに訊ねられたミハイル少佐は静かな表情で頷いた。



「―――シャロン、単刀直入に聞くわ。こういったことを”結社”は人為的に起こせるのかしら?」

「あ…………」

「………………」

「そうですわね。可能性はゼロではないかと。ですが結社は基本的に超超技技術的(オーバーテクノロジー)なものを追い求める傾向にあると思います。霊的な魔獣である”幻獣”や暗黒時代の魔導の産物”魔煌兵”を利用するのは違和感がありますね。」

「そっか……ありがとう。」

「クスクス、何気にとんでもない事を口走ったわよねぇ?」

「……重大な機密情報を聞いた気がするが、まあいい。だが、それならどうして今頃、”緋いプレロマ草”などが……」

シャロンの推測を聞いたレンが小悪魔な笑みを浮かべている中疲れた表情で答えたミハイル少佐は考え込んでいた。



「ふう、それにしても”三帝国交流会”と同じ時期に重なるなんて……」

「……やはり作為を感じますわね。」

「そう言えば……」

「午後に来るというメンフィルとエレボニアのVIP達はもうクロスベル入りしたんですか?」

「あ、うん、それがね――――」

クルトの質問にトワが答えかけたその時何かの機械音が聞こえてきた。



「これは………」

「この独特な機関音……まさか!」

「そ、それに……他にも聞こえてくる独特の機関音も、まさかとは思いますが――――」

「―――全員外に出てご挨拶申し上げるとしよう。」

突如聞こえてきた機械音にリィン達が驚いている中理由がわかっていたミハイル少佐はリィン達に外に出るように促し、リィン達と共に外に出た。



~演習地~



リィン達が外に出ると生徒達やアルフィンとエリゼは既に外に出て上空を見上げており、リィン達も上空を見上げるとエレボニア皇家であるアルノール家専有の高速飛行艇――――”カレイジャス”と1年半前の”七日戦役”によってメンフィル帝国の所有戦艦となった銀色の戦艦――――”パンダグリュエル”がクロスベルに向かっていた。

「な、な、な………」

「おいおい、たまげたな……」

「紅い船に銀色の大きな船………」

「真紅の飛行船はアルノール家専有であのリベールの”白き翼”の後継機で、銀色の巨大な戦艦はエレボニアの内戦中、貴族連合軍の旗艦として使われ”七日戦役”の際メンフィル帝国軍に占領されたという……」

「ええ―――”カレイジャス号”と”パンダグリュエル号”ですね。」

上空を飛んでいる二つの飛行船にユウナが驚きのあまり口をパクパクしている中、ランディとゲルドは呆け、ティオの言葉にアルティナは静かな表情で頷いた。



「!”カレイジャス”という事はまさかエレボニアのVIPは―――――」

「ええ、エレボニア政界の代表としてレーグニッツ帝都知事……」

「クロスベル側は経済界の代表としてイリーナ会長が参加なさりますわ。」

「それに、それにね……!リーゼロッテ殿下とオリヴァルト殿下がいらっしゃるんだって……!」

「うふふ、ちなみにメンフィル側のVIPはセシリアお姉さんとサフィナお姉様、そしてエフラムお兄様とエイリークお姉様よ。」

そしてクロスベルのオルキスタワーの上空に到着したカレイジャスからは小型の飛行艇が、パンダグリュエルからは天馬騎士(ペガサスナイト)竜騎士(ドラゴンナイト)の小部隊がオルキスタワーの屋上に離陸しようとしていた。



~クロスベル~



―――ご覧ください!今、カレイジャス搭載の揚陸艇が発進し、パンダグリュエルからは”空の乙女”と”空の王者”と名高いメンフィル帝国軍の天馬騎士と竜騎士の部隊が現れました!エレボニア・メンフィルのVIP達と共にタワー屋上へと向かいます!



クロスベルではオルキスタワー屋上に現れたカレイジャスとパンダグリュエルに市民達が注目している中、クロスベルの新聞社――――”クロスベルタイムズ”の記者の一人であるグレイス・リンがアナウンサーをしていた。



~オルキスタワー・屋上~



「――――まずはカール・レーグニッツ帝都知事!エレボニア首都ヘイムダルを管理する初の平民出身の行政長官であります!」



天馬騎士と竜騎士の部隊より先に到着した小型の飛行艇からはマキアスの父――――カール・レーグニッツ知事が現れた。



「あれは――――以前クロスベルに来られたオリヴァルト皇子殿下です!」

次にエレボニア帝国軍の新たな近衛兵である”衛士隊”の兵達が出て来た後オリヴァルト皇子が飛行船から姿を現して恭しく頭を下げて飛行船の出入り口で身体を横に向けて誰かを待っているとある人物達が姿を現した。



「おおっと!あの女性はリーゼロッテ姫です!失礼しました――――その後ろはかの”灰色の騎士”に降嫁なされたアルフィン殿下の代わりに”七日戦役”と内戦で疲弊したエレボニアを支える為にユーゲント皇帝陛下のご養女としてアルノール皇家に迎えられ、”新たなエレボニアの至宝”と名高いリーゼロッテ殿下です!まさに”エレボニアの至宝”と称えられたアルフィン殿下とも並ぶ天使のような可憐さです!更には、御付きのお嬢さんも相当な可憐さで――――って、ああっとっ!?今情報が入りました!リーゼロッテ殿下のお付きのお嬢さんは何とクロスベルの皆さんもご存知の”特務支援課”にも所属し、1年半前の”七日戦役”とエレボニアの内戦を終結させ、更にはディーター・クロイス元政権による”クロスベル動乱”も”特務支援課”や”六銃士”と共に解決したエレボニア、メンフィル、そしてクロスベルの三帝国の英雄であるあの”灰色の騎士”にとって従妹に当たるリーゼアリア・クレール嬢との事です!以前”灰色の騎士”の妹君であられるエリゼ・シュバルツァー嬢も”西ゼムリア通商会議”の際リフィア殿下のお付きの専属侍女長としてクロスベルを訪れましたが、今こうして再び”灰色の騎士”と親類関係であるリーゼアリア嬢もクロスベルを訪れた事からして、これも”空の女神”による運命の悪戯かもしれません!」

最後にリーゼロッテ皇女とリーゼアリアが飛行船から出て来て上品な仕草で会釈をした後オリヴァルト皇子と共にクロスベルのVIP達の所に向かった。



「次はメンフィル帝国のVIP達の紹介に移りたいと思います!まずはサフィナ・L・マーシルン元帥閣下!1年半前のエレボニアの内戦終結に大きく貢献したメンフィル帝国軍の精鋭部隊―――”特務部隊”の一員であり、メンフィル帝国軍の竜騎士軍団の長であり、またメンフィル帝国の皇女の一人でもあり、かの”蒼黒の薔薇”と”聖竜の姫君”の二つ名で有名なメンフィル帝国の竜族の双子姉妹の義理の母君との事です!―――その隣にいる女性はセシリア・シルン将軍閣下!サフィナ元帥閣下と同じく”特務部隊”の一員であり、現メンフィル皇帝の親衛隊を率いる将軍の一人であり、また現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルン陛下の側妃の方でもあり、更にセシリア将軍閣下は士官時代だった頃の”灰色の騎士”の担任教官であった事から”灰色の騎士”にとって恩師に当たる人物との事です!」

竜騎士と天馬騎士の部隊が降り立つとサフィナとセシリアが前に出てそれぞれ敬礼をした後クロスベルのVIP達の所に向かった。



「あのお二人はエフラム殿下とエイリーク殿下!お二人はエレボニアの内戦時、エレボニアの領土と隣接していたメンフィル帝国の領土に加えて”七日戦役”時にメンフィル帝国軍が占領したエレボニアの領土を貴族連合軍の襲撃から守り切ったメンフィル帝国軍を指揮したメンフィル皇家の方々であり、また遊撃士でありながら”自由貴族”としてメンフィル帝国から爵位を与えられたかの”ブレイサーロード”が持つ貴族の名と同じ名である”ファラ・サウリン”の名を持つ方々との事です!しかもお二人は偶然にも双子のご姉弟であられるエレボニア皇家のセドリック、アルフィン両殿下の真逆の双子のご兄妹との事です!」

更に騎士達と共に凛々しさと勇敢さをさらけ出す青年――――エフラムは軽く手を挙げ、可憐さと優しさをさらけ出している女性―――エイリークは上品な仕草で会釈をした後クロスベルのVIP達の所へと向かった。そしてグレイスは今度はクロスベル側のVIP達についての説明を始めた。



「さあ、最後に二帝国のVIP達を送迎しているクロスベル側のVIPの方々のご紹介に移ろうかと思います!まずはイリーナ・ラインフォルト会長!クロスベルの経済産業界にとってもそうですが、エレボニアの経済産業界にとってもこれ程の重要人物はいないでしょう!次にエリィ・マクダエル一等書記官!彼女はクロスベルの皆さんもご存知の2年前のD∴G教団事件、そして1年半前のクロスベル動乱を解決したクロスベル帝国の生みの親であるあの”六銃士”達と並ぶクロスベルの英雄―――”特務支援課”の一員でした!”特務支援課”解散後彼女はクロスベル帝国政府の書記官の一人になりましたが、何と僅か半年で”一等書記官”に昇進する程の才能をクロスベル帝国政府で振るっております!また、彼女はクロスベル帝国建国を期に勇退なされたヘンリー・マクダエル元議長の孫娘でもありますから、”六銃士”と並ぶクロスベル政界の代表者は彼女を置いて右に出る者はいないと言っても過言ではないでしょう!」

グレイスに紹介されたイリーナ会長は冷静な様子で、エリィは必要以上に自分の事を持ち上げるグレイスの紹介の仕方に冷や汗をかいて苦笑した後静かな笑みを浮かべて軽く会釈をした。



「ああっと!あちらの女性はメサイア・シリオス皇女殿下!メサイア殿下はヴァイスハイト陛下とマルギレッタ皇妃陛下のご息女であり、またあの”灰色の騎士”の婚約者の一人でもあります!”灰色の騎士”と協力契約を結んでいるメサイア殿下は普段は”灰色の騎士”の側にいるとの事ですが、今回クロスベル皇女として二帝国のVIPの方々と交流する為に急遽帰国され、”三帝国交流会”に参加する事になったとの事です!そしてメサイア殿下の隣にいられる方はユーディット・ド・カイエン皇妃陛下です!ユーディット皇妃陛下は1年半前のエレボニア帝国で起こった内戦の主犯である貴族連合軍の”主宰”にして”四大名門”の”カイエン公爵家”の当主――――クロワール・ド・カイエン元公爵のご息女ですが、彼女自身は妹君と共に内戦に反対し、内戦勃発後は自らの私財を投げ打ってまで内戦による被害を受けた民達の援助をし、更にはクロスベル帝国の領土となったエレボニア帝国の貴族達の権威を守る為にクロスベルの貴族となった元エレボニア貴族達の忠誠の証として自らヴァイスハイト陛下の側妃として嫁がれた方です!また、エレボニアの社交界で”才媛”と名高かったユーディット皇妃陛下の能力を見出したヴァイスハイト陛下からも重用され、その期待に応えるかのようにユーディット皇妃陛下は様々な実績をあげ、更にはクロスベルの領土と化したエレボニアの領土の”総督”と同時に”カイエン公爵家”の当主代理を務めているまさに”才媛の中の才媛”の御令嬢であり、元エレボニア帝国の貴族でありながら新興の国家であるクロスベル帝国にこれ程貢献し続けている人物は彼女を置いて右に出る者はいないでしょう!最後にユーディット皇妃陛下の隣におられるお嬢さんはキュア・ド・カイエン嬢!名前から既に察していると思いますがキュア嬢はユーディット皇妃陛下の妹君であられ、また将来”カイエン公爵家”の当主に内定している御令嬢です!現在は帝都クロスベルに建設されたばかりの”サティア学院”の高等部に通われ、学生達のまとめ役である”生徒会長”を任せられるという姉君のように学生の身でありながらも既にその身に秘めている才能の一端を見せているとの事です!」

グレイスのアナウンスと共にカメラを向けられたメサイアとユーディット、そして学生服を身に纏っている橙色の髪の娘――――ユーディットの妹であるキュア・ド・カイエンはそれぞれ上品な仕草で軽く会釈をした。



~港湾区~



「あ、あれがリーゼロッテ皇女殿下……まさに天使じゃないか……!」

「オリヴァルト皇子様もかなりハンサムよねぇ!」

「そう?私はメンフィル帝国のエフラム皇子様の方が凛々しいから、そちらの方が素敵に見えるわよ?」

「いやいや、凛々しさで言えばサフィナ元帥も負けていないぞ!それも凛々しくありながらも、可憐さもある!まさに物語とかで出てくる理想の女性騎士じゃないか!」

「それにエイリーク皇女様もそうだけどセシリア将軍もそれぞれ可憐で、同じ女性の私達も羨むような素敵な女性よね………」

「あの女性がメサイア殿下………初めて見たけど、本当にマルギレッタ皇妃陛下のご息女なのか?確かに容姿は似ているけど、親娘というよりも姉妹のように見えないか?」

「何だ、君は知らなかったのか?メサイア殿下はお二人の養子だから直接血が繋がった親子じゃないから、マルギレッタ皇妃陛下と姉妹のように見える若すぎる親娘に見えてもおかしくないぞ?まあ、メサイア殿下があそこまでマルギレッタ皇妃陛下と似ているなんて、凄い偶然だが……」

「マクダエル市長の孫娘のお嬢さんも立派になったのう………市長も今のお嬢さんの姿を見れば、きっと誇りに思うじゃろう……」

「父さん……その言い方だとマクダエル議長が既に亡くなっているような言い方だから、マクダエル議長とお嬢さんに失礼になるぞ……マクダエル議長は今も壮健で、クロスベルに建国された学院の学院長を立派に務めておられる話をもう忘れたのか?」

「ユーディット皇妃陛下とその妹さん……二人とも元エレボニアの大貴族の御令嬢でありながら、自分達が貴族である事を理由に威張っているエレボニアの貴族達と違って、私達のような平民にも気さくに接しているって噂を聞いて本当かどうか怪しんでいたけど、実際にこうして二人の顔を見ると本当にそう思えてきたわ……」

「うわ~……!まさかリーゼロッテ殿下までいらっしゃったなんて………!マキアス君のお父さんが来るのは何とか掴めてたけど……」

「ええ―――情報収集については完全に後手に回ってしまいました。………そもそも”三帝国交流会”もそうですが今回の僕達と第Ⅱ分校の”交換留学”はあまりにも不透明な部分が多すぎます。何とか突破口を見つけて監査業務を始めないと……!」

市民達が街に設置されている巨大なモニターに映る各国のVIP達を見て騒いでいる中驚いている様子のライナーの言葉に頷いたマキアスは真剣な表情を浮かべた。



~東通り~



「にーたん。お姫様達キラキラねー。」

「た、確かに可愛いけど……」

「フン……メンフィルはともかく、エレボニアはしょせんクロスベルの敵ネ。何を考えてわざわざまたクロスベルに来たのか知らないケド、どうせ”西ゼムリア通商会議”のようにクロスベルで悪だくみをする為に来たに決まっているネ。ま、どうせ悪だくみをした所で”六銃士”やロイドさん達が何とかするに決まっているから、エレボニアの悪だくみも無駄に終わるだろうネ。」

「やっぱ半々……いや、4:6で印象悪いなぁ。」

「うん……でも、仕方ないよ。ちょっとずつでもお互いわかり合えばいいんだけど……」

「せやな……ウチも負けへんでぇ!!」

一方東通りでは時折聞こえてくるクロスベルの市民達のエレボニアのVIP達に対する厳しい意見を聞いていた商人の女性――――トールズ本校の卒業生であるベッキーと看護婦――――トールズ本校の卒業生でありヴィヴィの双子の姉でもあるリンデはそれぞれ複雑そうな表情を浮かべ

「フフ……ゲストも来たみたいね。”道化師”に”火焔魔人”、そして”彼ら”も来ている筈――――本来の配役(キャスト)は変更されて置き換わってしまい、脚本(シナリオ)も”イレギュラー”の存在で”彼ら”にとっても予想外の方向に進み続けている。どうするのかしら、リィン君―――それにエマ?」

街道の出入り口付近で様子を見守っていた黒髪の女性は怪しげな笑みを浮かべていた。



~中央通り~



「あのおっきいフネ、怖いの……」

「だ、大丈夫だよ……あの船はクロスベルと仲がいいメンフィル帝国の船なんだから……」

「それにもしエレボニアが何か悪い事をしようとしてもロイド兄ちゃんたちがいればぜってー食い止めてくれるぜ!」

「……本当なのか?アイツがその為にルーレに出張しているってのは?」

「うん………間違いないみたい。」

子供達が不安がっている中ある人物の知人達はある人物について話し合っていた。

「………………」

「ふみゃあ……」

一方その様子を”インフィニティ”の屋上で見守っていた仮面の男は黙っていたが、自分を警戒している黒猫――――”インフィニティ”どころか”特務支援課”の分室になる前から住み着いているコッペの頭を撫でてコッペを宥めていた。

「………同居人の留守でも守っているつもりか?さて……”蛇”どもがどう動くか。そして”イレギュラー”どもがどう介入してくるか。トールズ第Ⅱとやらの手並み、拝見させてもらうとしようか。」

そして立ち上がった仮面の男は空を見上げて呟いた。



~同時刻・デアフリンガー号・3号車~



「ひゃっほう!リーゼロッテ姫ばんざーい!」

「ま、まさか新皇女殿下まで……」

「オリヴァルト殿下……!うわぁ~、久しぶりに見たよ~!」

「レーグニッツ帝都知事にRFグループのイリーナ会長、メンフィル皇家の双子の殿下達、”特務部隊”の一員であったメンフィル帝国の元帥と将軍、それにマクダエル元議長の孫娘にカイエン公爵令嬢姉妹か。」

「し、しかもリィン教官と常に一緒にいるはずのメサイア皇女殿下まで参加していらっしゃるなんて……!」

「それにサフィナ元帥っていう女騎士があの”特務部隊”の一員で、セシリア将軍っていう女将軍がリィン教官の恩師とはねぇ……」

「女性の将軍クラスでエレボニアで思い浮かべるとしたら”七日戦役”で戦死なされたオーレリア将軍閣下ですが、お二人から感じられる雰囲気はオーレリア将軍閣下とは全然違いますね。」

「ハッ……中々の大盤振る舞いじゃねーか。」

「(フフ……お久しぶり、ですね。それにキュアさんと普段はオルディスに滞在していらっしゃるユーディお姉様までオルキスタワーにいらっしゃっているのは好都合ですわ………何とか”交渉”する機会を作れるとよいのですが……――――あら?)――――もしもし、ミュゼですがどなたで――――え。…………」

同じ頃3号車に備え付けているモニターで各国のVIP達の様子を見た生徒達が騒いでいる中アッシュは不敵な笑みを浮かべ、ミュゼは静かな笑みを浮かべた後真剣な表情でモニターに映るユーディットやキュアを見つめていたが自身のARCUSⅡから通信の音が聞こえて首を傾げた後その場から離れて通信を開始し、通信相手を知って驚いた後一瞬で表情を戻して何者かとの通信を再開した。

(やはり殿下の側に兄上の姿はいないか……―――当然だな。今頃第七機甲師団は……それに”カレイジャス”が来ているのに艦長である子爵閣下があの場にいないのも恐らくは帝国政府の意向によるものなのだろうな………)

「…………………」

「?どうしたの、ユウナ。」

「ユウナさんにとっての憧れである”特務支援課”の一員であったエリィさんもあの場にいるのに、何故そのような複雑そうな表情をするのでしょうか?」

「あ、うん、まあ……エリィ先輩があの場にいる事が嬉しいのは事実だけど。(………あの場にマクダエル議長がいないって事はやっぱりマクダエル議長はもう、クロスベルの政治に関わるつもりはないのかな……?それにどうして”六銃士”やリセル教官があの場にいないのかしら……?)」

一方クルトは複雑そうな表情をし、クルト同様複雑そうな表情をした自分の様子に気づいて訊ねられたゲルドとアルティナの問いかけにユウナは苦笑しながら答えた後複雑そうな表情である人物を思い浮かべた後ある人物達の意図を考えていた。

「フフ、お兄様やリーゼロッテが来ることまでは想定していたけど、まさかリーゼアリアまで付いてくるなんて、貴女も驚いたんじゃないの?」

「………別に。あの娘がリーゼロッテ殿下の御付きの侍女になった事は手紙で知らされていたから、私は最初からあの娘が来ることも想定していたわ。」

苦笑しながら問いかけたアルフィンの問いかけにエリゼは冷静な様子で答え

「……その、エリゼ。貴女達シュバルツァー家とリーゼアリアの実家同士の関係でリーゼアリア達に思う所があるのは仕方がないかもしれないけど、せめてリーゼアリア自身とは直に会って話してお互いの誤解を解くべきではないかしら?確か婚約の件はリーゼアリアのご両親の独断で、リーゼアリア自身は寝耳に水な話でその話を貴女達との手紙のやり取りでようやく知ったとの事でしょう?」

「…………………そうね。実際に会って話す機会ができれば、考えておくわ。」

自分の様子を見て複雑そうな表情で話しかけたアルフィンの言葉を聞いて少しの間黙り込んだエリゼは静かな表情で答えた。



~2号車・ブリーフィングルーム~



「ふふ、まさかリィンの従妹のお嬢さんも来てるなんてね。うーん、新皇女殿下もそうだけど、アルフィン殿下やエリゼさんに負けないくらい綺麗よねぇ。」

「はは……そうだな。しかし連絡が付かないと思ったらこういう事だったとは……」

「フフ、それにフランツさんも先月の宣言通りエフラム様達の護衛としていらっしゃっていますわね。ちなみにフランツさんの隣にいるお兄様やフランツさんの同年代に見える女性騎士はもしかして……」

「ああ……俺やステラの同期で、フランツと婚約を結んだアメリアだ。」

「ちなみにアメリアお姉さんはエイリークお姉様の親衛隊の隊士なんだけど、本人の希望で婚約を機にエイリークお姉様の御付きの侍女になる為に現在は侍女としての教育を受けている最中との事よ。」

「ほう?分家とはいえ皇族の親衛隊士になれたのに、何でその地位を捨ててわざわざ侍女になるんだ?」

ブリーフィングルームにあるモニターで各国のVIP達の様子を見ているリィン達が話し合っている所に割り込んだレンの補足の説明が気になったランドロスはリィン達に訊ねた。

「みんなも知っての通りメンフィル皇家のお世話をする専属使用人は使用人としての能力だけではなく、戦闘能力も求められるわ。その為ある程度の戦闘能力があり、式典等の会場内を警備する関係で上流階級に対する礼節も教育される親衛隊の隊士達が戦場に出る事が嫌になったり、結婚を機に戦場から離れたい等年齢による身体の衰えや病気以外の理由で親衛隊から離れて新たな職に就きたい人達にも紹介される職の一つとして、メンフィル皇家専属使用人もその一つなのよ。専属使用人は戦闘能力は求められるけど、それは平時の際の護衛に必要なだけあって、実際に”戦場”に出る事は求められていないからね。―――ま、中にはリフィアお姉様みたいに専属侍女を”戦場”にまで連れて行く変わり者もいるけどね♪」

「ハハ………それにしても実際にリーゼアリアの顔を見るのは本当に久しぶりだな……13―――いや、14年ぶりになるな。」

レンの説明を聞いたその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中乾いた声で苦笑していたリィンは懐かしそうな表情を浮かべた。



「え……リィン君、リーゼアリアさんとはそんなにも長い間会った事がなかったの?」

「会った事がないというよりも、”会えなかった”というべきですかね?トワ先輩も父さん――――シュバルツァー家が俺を養子にした件でエレボニアの社交界から追放された事情は知っていますよね?実はリーゼアリアと長い間会えなかった理由はその件も関係しているんです。」

「へ………どうしてその件が関係してくるの?」

トワの疑問に困った表情で答えたリィンの答えを聞いたアリサは呆けた声を出した後訊ね

「………恐らくゴシップで騒がれ、社交界から追放されたシュバルツァー男爵閣下と親類関係である事で自分達までシュバルツァー家と同じようにみられる事を恐れたリーゼアリア様のご実家が、シュバルツァー家との縁を切った為、男爵閣下のご子息であり、ゴシップの理由となったリィン様とリーゼアリア様のご実家がリーゼアリア様とリィン様を会わせないようにしたからではないでしょうか?」

事情をすぐに察したシャロンは言い辛そうな表情で自身の推測をリィンに確認した。

「あ…………」

「ええ、まさにその通りです。実際父さんがエレボニアの社交界から追放された時を機にそれまであったリーゼアリアの実家――――クレール子爵家との交流はなくなりましたし、俺とエリゼはリーゼアリアと手紙でお互いの近況を報告し合っていましたが、それも無くなりましたから。」

「お兄様………で、でも内戦終結後お兄様の活躍を知ったリーゼアリアさんのご実家も再びリーゼアリアさんとお兄様とエリゼお姉様の手紙による交流をお許しになったのでしたわよね?」

シャロンの推測を聞いたアリサが呆けた声を出して辛そうな表情を浮かべている中静かな表情で答えたリィンの様子を心配そうな表情で見守っていたセレーネはその場の空気を変える為にリィンに訊ねた。

「ああ……内戦が終結してから1ヵ月後くらいか……その頃にリーゼアリアからの手紙が来て、手紙にも長い間叔父さん達に俺達に手紙を出す事を固く禁じられていて出せなかった事に対して手紙を読んでいる俺の方が心配になってくるほどの謝罪の言葉が書いてあったから、多分リーゼアリア自身は叔父さん達と違って俺達との交流を続けたかったんだと思う。」

「そっか……それじゃあ、演習の間に実際にリーゼアリアさんと会って話す機会ができるといいね。」

「ええ……まあ、見ての通りリーゼアリアはリーゼロッテ殿下の御付きの侍女としてきていますからその関係で忙しいでしょうし、俺達も特務活動で忙しいから、多分会う機会はないと思うのですが……」

リィンの答えを聞いたトワは安堵の表情を浮かべた後リィンを見つめ、見つめられたリィンは苦笑しながら答えた。



「……ですが、リィンさんが”七日戦役”や内戦の件で有名になってから再び連絡を取ってくるなんて、幾ら何でもあからさま過ぎませんか?」

「おい、ティオすけ……察してはいてもさすがにストレート過ぎねぇか、その聞き方は?」

するとその時ティオはジト目でリィンに訊ね、ティオの質問の仕方にランディは疲れた表情で指摘した。

「いや……実際ティオの言う通りなんだと思う。リーゼアリア自身はともかく、叔父さん達は”七日戦役”と内戦の件で”公爵”に陞爵する事が内定しているシュバルツァー家との縁を前以上に深くしたいという考えを持っているようだしな。現に俺がユミルを留守にしている間に叔父さん達が連絡もなく父さん達を訊ねてきて、今まで一方的に自分達がシュバルツァー家と絶縁し続けた事に対する謝罪をしてその謝罪の証として俺とリーゼアリアの婚約を提案してきたそうだ。」

「ええっ!?そ、そんな事があったの!?」

「謝罪をしてくるタイミングがあまりにもあからさま過ぎて、婚約が”謝罪の証”なんて(てい)の言い理由である事が見え見えよねぇ。」

「ま、内戦で”貴族連合軍”が負けた事で、今のエレボニアの貴族達の立場は悪くなる一方だからな。大方他の貴族達のように自分の所の娘を”灰色の騎士”に嫁がせる事ができれば、その娘の産んだ子供達がシュバルツァー家の縁者―――つまり、メンフィル帝国で貴族として自分達の家を存続し続けられるから婚約を提案したんだろうな。」

「そいつは………」

「”尊き血”とやらを大事にしている他のエレボニアの貴族達から責められない為に自分達も一緒になってリィンさんをバカにしていたのに、そのリィンさんが出世して自分達の立場が悪くなるとそんな事を提案してくるなんて、その厚かましさに呆れを通り越して感心しますね。」

リィンの説明を聞いたアリサが驚いている中レンは呆れた表情で呟き、ランドロスの推測を聞いたランディは目を細め、ティオはジト目で呟いた。



「……まあ、貴族同士の繋がりはどうしてもお互いの損得も関係してくるからな。ただ、問題は叔父さん達が婚約を持っていた件でエリゼが相当怒っていて、その怒りをリーゼアリアにまでぶつけないかちょっと心配なんだよな……」

「え………何でその件でエリゼが怒ったのかしら?」

複雑そうな表情で呟いたリィンのある言葉が気になったアリサは不思議そうな表情でリィンに訊ね

「うふふ、アリサお姉さん達にも以前エリゼお姉さんは幼い頃からリィンお兄さんの事を慕っていて、リィンお兄さんの件で両親がエレボニアの社交界から爪弾きにされた件に対してエレボニアの貴族達や皇族達に対して内心怒りを抱いていた話はしたでしょう?で、当然その怒りはリィンお兄さんの件で絶縁したリーゼアリアお姉さんの実家にも向けられているのよ。確か、婚約の件を提案した時その場に偶然帰省していたエリゼお姉さんも同席していて、シュバルツァー男爵夫妻が返事をする前にエリゼお姉さんが断って叔父夫婦を追い払ったって話でしょう?」

「はい………わたくし達はその場にいませんでしたが、後から聞いたテオ様達の話ですとテオ様達も初めて見る程の怒りをエリゼお姉様は見せていたそうですわ。」

「あのエリゼ様がご両親も初めて見るほどの”怒り”を見せるとはどのような怒りだったのでしょうね?」

「まあ、お嬢やセティちゃんと同じ笑顔でメンフィル皇帝の跡継ぎの娘すらもビビらせて大人しくさせる程の威圧感をさらけ出せるエリゼちゃんの本気の怒りなんだから、それこそ叔父貴やクソ親父が見せる怒りよりもよっぽどおっかねぇ怒りなんだと思うぜ?」

「クク、笑顔で雑魚共を気絶させる程の威圧感をさらけ出せるルイーネが見せる怒りよりも凄まじいかもしれねぇな。」

「お二人とも、茶化す空気ではない上例えにする相手が色んな意味で間違っていると思うのですが。」

レンに話を振られて複雑そうな表情で答えたセレーネの話を聞いたシャロンが考え込んでいる中からかいの表情で呟いたランディと不敵な笑みを浮かべたランドロスの推測にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ティオはジト目で指摘した。

「ハハ………―――ちなみにアリサたちはイリーナさんと合流するのか?」

「私はしないけど、シャロンはそうね。」

「この後、会長の視察などにお付き合いする予定です。」

その後、アリサとティオたちは演習地とリィン達に別れを告げて一足先にクロスベルへと戻り……トワ達も、それぞれのクラスの演習課題をこなすべく動き始め、リィン達特務科”Ⅶ組”は東クロスベル街道の”幻獣”の出現地点を調べる為に特務活動を再開した――――




 

 

第43話

”幻獣”の出現地点付近に到着したリィン達は出現地点に行く為に必要な鍵を借りる為に近くのボート小屋を訊ねた。



~東クロスベル街道・ボート小屋~



「えっと、ごめんください。」

「どなたかいらっしゃいますか?」

「―――おや?やあ、またお客さんかな?」

「ええっ!?貴方は確か……!」

「もしかして―――ケネスか!?」

小屋の中にいる青年を見たセレーネとリィンは驚き

「あれ、よく見たらリィン君とセレーネさんじゃないか?あはは、久しぶりだね~。」

「え………」

「……もしかしてこの方も?」

「教官達の知り合い?」

「ああ……アリサ達―――旧Ⅶ組の同窓生さ。」

自分達と青年が知り合いの様子を不思議に思ったゲルドとアルティナの質問にリィンは青年の事を軽く説明した。

「あはは、奇遇だねぇ。まさかクロスベルで会えるなんて。教官になったって話は聞いてたけど、そちらが教え子さんたちかな?僕はケネス・レイクロード。よろしくね~。」

「よ、よろしくお願いします。」

「レイクロード……ひょっとして、釣具で有名な?」

「クルトさんはご存知だったのですね。ケネスさんはそのレイクロード社の次男の方なんです。」

「それと、彼は以前サザ―ラントで会ったアナベルさんと同じ”釣皇倶楽部”のメンバーでもあるな。」

「あの方ですか……」

「”釣皇倶楽部”……名前からして”釣り”のクラブなんでしょうね。」

青年―――ケネスの事を紹介したセレーネとリィンの説明を聞いたアルティナはある人物を思い浮かべ、ゲルドは静かな表情で呟いた。



「ああ、聞いたよ。彼女とも偶然再会したんだってね?やっぱり釣り(アングラー)同士縁があるっていうか、引かれあう運命なのかもね~。」

「はは……かもしれないな。釣公師団で噂を聞いてもしやとは思ってたんだが……まさか本当にクロスベルのボート小屋で会う事になるなんてな。」

「フフ……実は前に僕の兄さんが滞在しててさ。ちょっと興味が湧いてたんだよね。釣皇倶楽部と釣公師団が一世一代の大勝負をやった地として、釣り人の間では語り草なんだよ~。」

「ア、アハハ……そんな事もありましたわね……」

「そう言えば一時期、東通りの支部の看板が変わったりしてたような……」

「釣り人の世界にも色々あるんですね。」

「釣り人の勝負ってどんな勝負なのかしら……?」

ケネスの話にリィン達と共に冷や汗をかいて脱力したセレーネとユウナは苦笑し、アルティナは静かな表情で呟き、ゲルドは不思議そうな表情で首を傾げていた。



「そう言えばリィン君達はどうしてここに?もしかして君達も何かの調べ物に来たのかい?」

「ああ、実は―――………って、君達”も”?」

ケネスの問いかけが気になったリィンが不思議そうな表情をしたその時

「―――おや、お客さんかな?」

隣の部屋から男性が現れた。

「え………」

(たしか、街で見かけた……)

「―――――!!……………………」

男性の登場にアルティナが呆け、リィンが男性がクロスベルでも見かけた事を思い返している中”予知能力”で男性の未来が見えたゲルドは驚いた後真剣な表情で男性を見つめていた。

「はは、すまない。歓談中に邪魔してしまったかな?」

「はは、大丈夫ですよ。ルーグマンさんはこれからお出かけですか?」

「ああ、フィールドワークの続きさ。やはりあの”不思議な植物”がどうしても気になってしまってね。」

「植物って、まさか……!」

「もしかして……”緋色の花”のことですか?」

ケネスの問いかけに答えた男性の答えを聞き、リィン達と共に血相を変えたユウナは驚きの声を上げ、クルトは男性に訊ねた。

「どうしてそれを……ふむ、その揃いの制服を見るにエレボニアの学校関係者のようだね。君達はいったい?」

「申し遅れました――――自分達はトールズ士官学院、第Ⅱ分校に所属する者です。」

「そうか、あのトールズの……分校が新設されたとは聞いていたが。ああ、失礼。こちらも名乗っておかなくてはね。私はルーグマン。とある大学で客員教授をしていてね。色々と興味深い話ができそうだ。もしよければ聞かせてもらえないか?」

男性―――ルーグマン教授は自己紹介をした後リィン達との情報交換を始めた。



「―――それではあの”帝國学術院”で教鞭を……!?」

「ああ、専攻は地質学(ジオロジー)になるね。教育者の一人というイミでは君達と同業という事になるかな?フフ、あの有名な”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”が教官をしているとは知らなかったが。」

「そんな……わたくし達は着任してまだ3ヵ月も経っていない新人なのですから、教育者としての経験はルーグマン教授とは比べ物になりませんわ。」

「はは……恐縮です。ではクロスベルでの滞在もその一環ということですか。」

「ああ、休暇がてら地質分布のデータを取りにね。夢中で帝都近郊を一回りしていたらあっという間に日程を消費してしまってね。こうして慌てて最後の調査地点に来たという訳さ。」

「あはは、各地の水質の話とか色々興味深い話もしてもらってたんだ~。」

「………なるほど。」

「はは、根っからのフィールドワークみたいですね。」

ルーグマン教授とケネスの話を聞いたアルティナは静かな表情で頷き、リィンは感心した様子でルーグマン教授を見つめていた。



「……えっと、”学術院”ってそんなに有名な大学なの?」

「有名も有名さ。エレボニアにおけるアカデミズムの”最高峰”とすら言われている。」

「高名な学者・研究者なども数多く輩出しているとか。」

「ええ、数え切れないくらいとの事ですわ。」

(それと確か………ギデオン――――西ゼムリア通商会議を襲撃した”帝国解放戦線”の幹部で”G”と呼ばれていたあの男がかつて在籍していた大学だったな。)

「……………………」

ユウナが”学術院”の事についてクルト達から説明を受けている中リィンはかつて対峙した敵の一人を思い浮かべ、ゲルドは会話に割り込む事なく目を伏せて黙り続けていた。

「―――って、そんなすごい大学の教授ってことは結構有名な先生だったりするんですか?」

「いや、そんな事はないさ。しがない客員教授の身だからね。私としてはむしろ、君達の”特務活動”の方こそ興味深い。士官学校としても異例だが――――まさかあの花が”幻獣”なんてものに関係している事まで突き止めるとはね。」

「ええ、まだ断定はできていませんが。”緋色の花”―――この沼地の奥で見かけたんですね?」

「ああ、今日の午前中、地質調査に行った折にね。――――私は植物学者ではないが、見た事のない形状と淡く光る様子にどうしても気になってしまってね。土壌の性質とも関係あるかもしれないし改めてもう一度調べにいこうとしていたところだったわけさ。」

「………この沼地にもあの花が咲いてたなんて。」

「幻獣との因果関係―――ますます濃厚になってきましたね。」

ルーグマン教授の話を聞いたユウナとアルティナはそれぞれ表情を引き締め

「ああ、やっぱり僕達で調べに行くべきだろう。」

「………そうね。万が一幻獣が現れたら、大変な事になるだろうし。」

クルトの言葉にゲルドは静かな表情で頷いた後リィン達と顔を見合わせて頷いた。



「―――ルーグマン教授。幻獣の危険は説明したとおりです。この先の調査は自分達に任せていただけませんか?」

「万が一幻獣が現れた時の事を考えるとルーグマン教授の身にも危険が迫る恐れも考えられますので……」

「……ふう、仕方がないか。さすがに危険すぎるだろうからね。その、もし花が入手できるようなら私にも少しわけてくれないかね?帝都(ヘイムダル)にいる植物学者の友人に見せたら何かわかるかもしれないし……」

「それは………」

「いえ……現時点では危険だと思います。できれば諦めていただけると。」

警告をされた後緋色の花をわけてくれるかどうかを依頼してきたルーグマン教授の頼みにクルトは複雑そうな表情をし、リィンは申し訳なさそうな表情で遠回しに断りの答えを口にした。

「ふう、それもそうか……運搬中に何かあったら大変だろうし。――――ケネス君、鍵は彼らに渡してやってくれ。」

「ええ、わかりました。それじゃあリィン君、これを受け取ってくれ。」

リィンはケネスから鍵を受け取った。

「その鍵があれば沼地に行ける。どうか気をつけてね。」

「ああ、ありがとうケネス。――――みんな、準備はできているか?」

「当然です……!」

「早速、行くとしましょう。」

その後ケネスから借りた鍵を使って沼地へと続く道を塞いでいる木戸を開けて先を進んだリィン達は奥地で緋色の花を見つけた。



~沼地・奥~



「あった……!ちょっと小さいけど……」

「……すると………」

緋色の花を見つけたユウナは声を上げ、次に何が起こるか察していたクルトはリィン達と共に振り向いて武器を構えたが何も起こらなかった。

「……現れませんね。」

「緋い花……必ずしも幻獣が出現する兆候じゃないということか?」

「確かに……独立国の時、結構あちこちで咲いてたし。」

「そうですわね……もし、本当にプレロマ草が咲いている場所に必ず幻獣が現れれば独立国の時にクロスベルは幻獣だらけになっていたでしょうしね。」

何も起こらない事にアルティナとクルトは戸惑い、ある事を思い出したユウナとセレーネは静かな表情で呟いた。

「…………………出現しないのであればそれはそれで好都合だろう。ゲルド、一応聞いておくが君の”予知能力”でこの場に”幻獣”が出現するかどうかわかるか?」

「………………ええ、ここも後少ししたら幻獣が現れ――――」

「フフ……どうやら”足りない”みたいだね。

リィンに確認されたゲルドがその場で集中して”予知能力”で見えた未来をリィン達に伝えようとしたその時突如リィン達の誰でもない声が聞こえてきた!



「今のは……!?」

「お、男の子の声……?」

「そ、それに確か今の声はどこかで聞いたような……?」

「みんな、気をつけて。もうすぐ幻獣が現れるわ……!」

「……リィン教官。」

「ああ………――――トールズ士官学院、第Ⅱ分校、Ⅶ組特務科の者だ。何者だ、名乗ってもらおうか?」

突然聞こえてきた声に驚いた生徒達やセレーネが周囲を警戒している中アルティナに話しかけられたリィンは頷いた後声の主に問いかけた。

「うふふ、僕の事をもう忘れているなんて酷いなぁ。一応”灰色の騎士”とは実際に会っているんだけど……まあいいや。改めて名乗ってもいいんだけどここじゃあさすがにギャラリーが足りないかなぁ。」

「くっ………!?」

「どこからだ……!?」

「―――でも、折角だからちょっと見せてもらおうかな?デュバリィ達を退けた”Ⅶ組”と灰色の騎士、聖竜の姫君の力をね!」

謎の声が辺りに響くと突如緋色の花が赤く光り始めた!



「なに……!」

「霊的な力……!?」

「霊脈の活性化……!みんな、気をつけろ!」

そして少しするとリィン達の目の前に幻獣が現れた!

「な、なななな……」

「植物型の幻獣……でも………」

「た、確かに聞いたような”植物型”みたいだが……」

「………形状が違う上さすがに巨大すぎるのでは。」

「それにやはり以前のクロスベルに現れた幻獣ではありませんわ。」

「………っ………(ここは安全策を取る……!)来い!灰の騎神――――」

幻獣の登場にユウナ達が驚いている中リィンは生徒達の安全の為にヴァリマールを呼ぼうとしたが

「アハハ!それは後で見せて欲しいな!」

何と声の主がその場を結界で覆った!



「なっ……!?」

「な、なにこれ……!」

「霊的な”障壁”――――”結界”ですわ!」

「しかも物理的な結界に加えて精神的なものも遮断する結界ね。」

結界の登場にリィンとユウナが驚いている中セレーネは警戒の表情で声を上げ、ゲルドは厳しい表情で結界を分析した。

「へえ?一目見ただけでそこまで分析するなんて、さすが灰色の騎士と聖竜の姫君の教え子と言った所かな?君の分析通り、この結界は思念波を遮断できるのさ。そこまでの強度じゃないけど”騎神”の助けは呼べないよ?」

「―――なるほどな。”繋がり”を感じないわけだ。」

(リィン、どうする?私の力なら結界をすぐに破れるけど………)

(いや、向こうも様子見で仕掛けているようだからこちらの奥の手はできるだけ見せたくないから、大丈夫だ。それとセレーネも竜化は控えてくれ。)

(わかりましたわ。)

アイドスに念話で訊ねられたリィンはアイドスの力を借りない事を決めた後念話でセレーネに指示をした。

「だったら仕方ない……全力で行かせてもらおうか。コオオッ………!」

「リィン教官……!?」

「あ、あの時の……」

「教官がその身に秘める”異能”………!?」

「この”力”は……………」

リィンが”鬼の力”を解放し始めている所を見たアルティナ達が驚いている中何かを感じたゲルドは不安そうな表情をした。



「”神気合一”――――!」

”鬼の力”を解放したリィンは力を解放した姿になった!

「……ぁ………」

「………教官………」

「相変わらずなんて凄まじい剣気だ………」

「アハハ、いい感じじゃないか!それじゃあ見せてごらんよ君自身の”鬼”の力をね!」

「Ⅶ組総員、迎撃準備!全力で目標を撃破するぞ!」

「イエス・サー!」

そしてリィン達は幻獣との戦闘を開始した!植物型の幻獣は複数の状態異常を仕掛けてくるやっかいな敵だったが、”鬼の力”を解放したリィンが圧倒的な力で幻獣を圧倒し、協力して幻獣を撃破した!



「や、やったぁ!」

「こ、これで何とか……」

「リィン教官――――」

「………ふう…………」

幻獣の撃破にユウナとクルトが安心している中アルティナがリィンに声をかけたその時、リィンは元の姿に戻り

「リィン教官、大丈夫?」

「ああ、別に問題ないが……っと、そう言えばゲルドが俺の”鬼の力”を解放した所を見るのはこれが初めてになるな。驚かせてすまなかった。」

「ううん、それはいいんだけど………本当に大丈夫なの?さっき見せた教官の”力”、凄い”負”の”力”を感じたから、リィン教官が”負”の力に呑みこまれていないか心配で………」

「フフ、その心配は無用ですわ。お兄様は1年半前から”鬼の力”を使いこなしていますし、”万が一”が起こらない”予防”もしていますし、例え”万が一”が怒っても対策はすでにありますから。」

「ああ、それに扱えるようになってから今まで何度も”鬼の力”を解放したが、特に何も起こらなかったから大丈夫だ。」

ゲルドの自分への心配にリィンはセレーネと共に心配が無用である理由を説明した。

「そう………だったらいいのだけど………」

「あれ?てっきり暴走してくれると思っていたのに、予想以上に使いこなしているようでちょっとつまらないなぁ。だったら、もっと”力”を解放してどこまで行けるかもうちょっと見せてもらうよ!フフ、上手く誘導すればもう一体くらいは呼べそうだし。さあて、何が顕れるかは―――――」

ゲルドが安心している中声の主が不満げな様子で答えた後再び何かを仕掛けようとしたその時!



「そこまでです―――!」

「えっ……!?」

突如娘の声が聞こえ、声を聞いた声の主は呆けた声を出した。するとその時声の主が展開した結界が植物の蔓らしきものに包まれ

「―――いいわエマ!思いっきりやりなさい!」

「Aurum Hedera(黄金のツタよ)!」

その場に現れたエマとセリーヌの魔術によって発生した蔦は結界を破壊した!

「え………」

「………綺麗………」

「ふう……貴女方でしたか。」

「さっきの結界破壊の魔法に”杖”………それに”使い魔”………もしかして貴女はこの世界の………」

エマとセリーヌの登場にクルトとユウナが呆けている中アルティナは安堵のため息を吐き、エマが持つ魔導杖とエマの隣にいるセリーヌを見てエマの正体を察したゲルドは目を丸くした。

「あはは、邪魔されちゃったか。今の結界を破壊した力―――”あの人”かと思っちゃったけど。」

「やっぱり姉さんもこの地にいるんですね……”結社”の執行者―――大人しく姿を見せてください!」

「フフ、それは今後の御愉しみということで。そう待たせないから楽しみにするといい―――じゃあね。」

声の主はエマの要求に応えず焔に包まれてその場から消えた。



「………焔の幻術……という事は………」

「やはり”煌魔城”で戦った”執行者”――――”道化師”カンパネルラか。」

「………”道化師”ですか。彼は他の”執行者”と異なる存在であり、また同じ執行者であったレオンハルト准将やヨシュアさんすらも彼についての情報はほとんど知らなくて、色々と謎に包まれている事からある意味最も厄介な執行者の一人でもありましたね。」

その様子を見て心当たりを思い出したセレーネとリィン、アルティナは真剣な表情をし

「”道化師”………そ、そう言えば独立国の時にディーター元大統領に力を貸していた結社の執行者の一人もその人がいたって話を聞いた事があるわ……」

「僕もその二つ名の”執行者”には兄上から聞いた事がある……確か”リベールの異変”にも関わっていたいたはずだ。」

「幻術を使っていた事や”幻獣”を呼び寄せた事といい、”戦いをも自分にとっての遊びにしている事”といい、二つ名通りまさに”道化師”ね………」

「ふふっ………」

「フン、思った以上に実力があるみたいね、アンタ達の生徒達は。」

ユウナ達が新たに現れた敵のことについて話し合っているとエマとセリーヌがリィン達に近づいてきた。



「な…………」

「って、ね、猫がしゃべった~~~っ!?」

自分達に近づいて話しかけたセリーヌにクルトとユウナは驚き

「?二人はリィン教官と使い魔契約や協力契約をしている婚約者の人達を知っているのに、猫がしゃべった事くらいでどうして驚いているのかしら?」

「確かにゲルドさんの言う通り、リィン教官の婚約者の方々の非常識さと比べればセリーヌさんの非常識さは”些細なもの”ですね。」

「ア、アハハ………その”非常識さ”の中にはやはりわたくしも入っているのでしょうね……」

驚いている様子の二人が理解できないゲルドの言葉に同意したアルティナの答えを聞いたセレーネは冷や汗をかいて苦笑していた。

「―――――助かったよ、よくあの結界を壊してくれて。」

「ふふっ……大した事はしていません。でも、新たに教わった術が役に立ってくれました。」

「フフン、せいぜい恩に着なさいよね。」

リィンに声をかけられたエマはセリーヌと共に答えた後握手をする為に手を差し出したリィンの手を両手で握った。

「やっと……やっと会えましたね、リィンさん!」

「ああ――――久しぶりだ、エマ。」

その後、リィン達はエマ達といったんボート小屋まで戻り………ケネスの好意で、消耗した身体を部屋で休ませてもらうのだった――――


 
 

 
後書き
ついに三代目”教授”こと、ルーグマンが登場しました。空、零の事を考えると”教授”は基本怪しい存在である事から軌跡シリーズのプレイヤーの多くはルーグマンも敵である事を予想できていたでしょうねwwさて、原作シリーズでは今までの”教授”たち同様ラスボスクラスですが………この物語は下手したら光と闇の軌跡シリーズで三下っぷりを見せつけてくれたヨアヒムのようになるかもしれません(ぇ)黒……ゲフンゲフン。ルーグマンにとってはディル=リフィーナ勢もそうですが空主人公勢のある人物がイレギュラー過ぎる存在ですのでwwちなみにその人物が基本殺人は避ける空主人公勢でありながら、私がアンチする予定のキャラにヨアヒム並みかそれ以上の絶望や悔しさを感じさせながら命を奪う予定になっています(黒笑) 

 

第44話

~ボート小屋~



「そ、それじゃあエマさんも”魔女”なんですか……!?」

「ええ―――正確には”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”の一人ですね。この子はセリーヌ。私の眷属で、家族でもあります。」

「ま、使い魔といった方が通りがいいかもしれないわね。とりあえずヨロシク。まあ、ヨロシクしないでもいいけど。―――それと先に言っておくけど、幾ら使い魔だからといってアンタ達の担任の滅茶苦茶な存在の使い魔連中と一緒にしないでよ。一般的に使い魔っていうのはアタシみたいなのが”常識”でリィンの使い魔連中はハッキリ言って”使い魔である事自体が非常識過ぎる存在”ばかりなんだからね。」

「ハハ……」

「アハハ………」

自分の事を知って驚いているユウナに説明を補足したエマはセリーヌを紹介し、紹介されたセリーヌは答えた後ジト目になり、セリーヌの答えを聞いたリィンとセレーネは苦笑していた。

「…………」

「……どれだけなんですか。旧Ⅶ組のメンバーというのは。」

「正直、わたしも同感です。」

「ふふ………」

一方ユウナは口をパクパクさせてセリーヌを見つめ、疲れた表情で呟いたクルトの言葉にアルティナは頷き、その様子を見守っていたゲルドは微笑んでいた。



「ですがよかったのですか?”魔女”の事を明かしても。」

「ま、そっちの黒兎にはもう知られちゃってるし、そっちには”異世界の魔女”までいるんだから隠す必要なんてないでしょ。」

「ふふ、それに皆さんにも知ってもらいたかったんです。……同じ”Ⅶ組”として、ただ隠して遠ざけるのではなく。この世に”裏の世界”が実在し、時に問題を引き起こすことも。」

セレーネの問いかけに答えたセリーヌはゲルドを見つめ、エマは微笑んだ後静かな表情で答えた。

「あ……」

「幻獣に魔煌兵……例の花のような存在ですね。」

「まあ、エレボニアでは”煌魔城”がクロスベルでは”碧の大樹”が現れたくらいですし。」

「ああ―――そして系統も違うが”結社”も”裏の世界”の存在だ。」

「そうだ、さっきの……!」

「……子供みたいな声だったけど、その人も先月の特別演習で教官達が戦った”結社”の人なのかしら?」

リィンの話を聞いて血相を変えたユウナは声を上げ、ゲルドは静かな表情で訊ねた。



「ええ。――――結社でも有名な存在の”執行者”の一人かと。」

「そうか……地下の霊脈を操作していたみたいだが。やっぱり彼らが、幻獣や魔煌兵を出現させているのか?」

「……可能性はあります。ただ、エレボニア由来の魔煌兵や幻獣が現れている理由はわからなくて。想像したくはありませんが………”姉さん”が関与している可能性はあるかもしれません。」

「………”蒼の深淵”ですか。この前来た定期報告の際にクロスベルに来てはいる話は聞いていましたが。やはり”使徒”である彼女が執行者達に何らかの指示を?」

エマの推測を聞いたアルティナは考えた後自身の推測を口にした。

「うーん、あのアマのことだから十分ありそうなんだけど………ここ半年、追いかけた限りじゃちょっと様子がおかしいというか。」

「そうなのか……?」

「ええ、確証はないのですが足跡を追ってみると違和感が……」

「それよりもエマ。せっかく噂の魔女の眷属(アタシ達)とは違う”魔女”とも会えたんだから、何か聞いたらどうかしら?」

「セ、セリーヌ。」

セリーヌの指摘にエマは気まずそうな表情でゲルドに視線を向け

「……………………」

「えっと……やはりエマさんは”魔女”として違う世界の”魔女”であるゲルドさんの事が気になっていたんですか?」

視線を向けられたゲルドは静かな表情で黙り込み、セレーネはエマに訊ねた。

「ええ、まあ………その、ゲルドさんと仰いましたよね?いくつか聞きたい事があるのですが………」

「……何を聞きたいのかしら?」

「プリネ皇女殿下達の話によりますとゲルドさんは”予知能力”―――”未来を視る事ができる異能”をお持ちで、その異能によって視えた未来の為に新Ⅶ組に編入したとの事ですが………ゲルドさんはどうしてその未来の為に新Ⅶ組に編入したのでしょうか?」

「そうね………いくつか理由はあるけど一番の理由はいずれ起きるエレボニア―――ううん、この世界の”運命”を左右する出来事を未然に防ぐ為に私は第Ⅱ分校に編入したの。この世界の”運命”を左右する出来事を未然に防ぐ為には私がその場にいる必要もあるから………」

「ゲルドさん………」

「……………」

エマに訊ねられて答えたゲルドの話を聞いたセレーネは心配そうな表情をし、リィンは真剣な表情でゲルドを見つめた。



「エレボニアどころかゼムリア大陸の”運命”を左右する出来事ですか………」

「……いきなり滅茶苦茶気になる話が出て来たけど……何でアンタは自分にとって何の関係もないこの世界の為に動いているのかしら?」

「関係なくなんてないわ。今私がこうしてこの世界で生きている…………私にとっても十分関係があるでしょう?」

自分の話を聞いたエマが真剣な表情で考え込んでいる中セリーヌの問いかけに対して静かに首を横に振って答えたゲルドは優し気な微笑みを浮かべ

「………………なるほどね。アタシ達やあのアマのように何らかの意図があるかと思っていたけど、ただ単にアンタが信じられない程”お人よし”なだけだからこの世界の為に動いているのね……あのアマにアンタの爪を煎じて飲ませてあげたいくらいだわ。」

「もう、セリーヌ。ゲルドさんに失礼でしょう?………えっと、ゲルドさん。そのゼムリア大陸の”運命”を左右する出来事を未然に防ぐ為にはゲルドさんがその場にいる必要があるとの事ですが、他に必要な事はないのでしょうか?」

「…………どんな呪いや罪も浄化する”女神の焔”……その”焔”を使える男性の協力が必要よ。」

自分の答えに呆けた後呆れた表情でため息を吐いたセリーヌに指摘したエマに訊ねられたゲルドは静かな表情で答えた。

「呪いや罪を浄化する”女神の焔”の使い手―――それも男性ですか………」

「念の為に聞くけど”慈悲の大女神(アイドス)”はそんな”焔”は使えるのかしら?」

「そうだな………一応アイドスが扱える神聖魔術で”贖罪の聖光焔”という光の炎を発生させる魔術があるが、”女神の焔”という言葉からして恐らくその焔は”神術”の類だと思うからゲルドが言っている人物はアイドスの事ではないと思う。」

「そもそもゲルドさんの話ですとその”女神の焔”の使い手は男性との事ですから、わたくし達の知り合いの神は皆さん、”女神”ですから男性ではありませんものね……」

「それ以前に”神”と知り合いである事自体が非常識過ぎるのですが。」

(呪いや罪を浄化する”女神の焔”…………まさか”聖なる裁きの炎”の事かしら?……そして”男性”という事はゲルドが言っている人物は恐らく――――)

ゲルドの話を聞いたリィン達がそれぞれ考えたり話し合ってりしている中心当たりがあるアイドスはある人物の顔を思い浮かべて真剣な表情をした。

(クルト君……ついていける?)

(いや……だがある程度は掴んでおく必要がありそうだな。)

一方その様子を見守っていたユウナは小声でクルトに訊ね、訊ねられたクルトは静かな表情で答えた。



「――――現在、午後4時。とりあえず本日の活動は終了だ。お疲れだったな、4人とも。」

「フフ、”任意”の要請も全て終えましたから完璧でしたわ。」

「そ、そう言えば……!」

「クロスベル帝国政府から出ていた幻獣の調査も完了か……」

「後は演習地に戻るだけですね。」

「それと演習地に戻ったら、レポートを書く必要があるのよね。」

リィンとセレーネに労われた生徒達は我に返り、特務活動を完了していた事に気づいた。

「ああ、いったんバイクでクロスベル市に戻ろう。エマとセリーヌも付き合うよな?」

「はい、バイクに余裕があるのでしたら。」

「それじゃあ行きましょ。」

その後リィン達はケネスに別れを告げた後バイクでクロスベルへと向かっていたが、クロスベルの付近に近づくと気になる光景が見えた。



~東クロスベル街道~



「……な………」

「教官?」

「どうしたんですか―――」

ある光景を見て血相を変えたリィンの様子が気になったユウナやエマも仲間達と共にリィンが見つめている方向に視線を向けるとそれぞれ血相を変えた。

「あれは………」

「な、なによアレ!?」

我に返ったアルティナは真剣な表情をし、セリーヌは驚きの表情で声を上げた。リィン達が見た驚きの光景―――――それはRF社製・戦略兵器”ドラグノフ級列車砲”が特別列車に引かれて移送されている光景だった。

「……………………」

「大砲の………列車…………」

「あ、あの巨大な砲台は………」

「”新型列車砲”………定期報告の際に存在だけは教えてもらえましたが。」

その様子を見ていたユウナとゲルドは呆け、クルトは驚き、アルティナは真剣な表情で呟いた。



「……かつてガレリア要塞に格納されていた戦略兵器………クロスベルのような巨大都市でも半日で壊滅できるという………」

「……サイズやデザインも違うし、その”後継機”といった所か。しかもこの進路は――――旧カルバード方面に向かっているのか?」

「旧カルバード方面にも当然クロスベル帝国の領土はありますが、一体何の為に列車砲の”後継機”を旧カルバード方面に………」

「何にしても正気の沙汰じゃないわね。いったいこの地で何が起ころうとしているワケ……?」

驚愕の光景を見たリィン達はそれぞれ重々しい雰囲気を纏ってクロスベルに到着した。



午後5:00――――



~帝都クロスベル・東通り~



「……送ってもらってありがとうございました。」

「世話になったわね。」

「気にしないでくれ。――――しかしここがエマ達の滞在先か。」

リィンはエマ達の滞在先である東方風の宿酒場―――”龍老飯店”に視線を向けた。

「”龍老飯店”………東方風の宿酒場ですか。」

「料理も美味でしたし良い宿なのではないかと。」

「………………」

「ユウナ?どうしたの?」

クルトとアルティナがエマ達の滞在先についてそれぞれ答えている中真剣な表情で黙り込んでいるユウナが気になったゲルドは不思議そうな表情で声をかけた。

「あ、えっと……期待してもいいと思いますよ!チャンホイさんの料理は絶品ですし、部屋も結構落ち着けるみたいで……」

「そうですか……ふふっ、楽しみです。ARCUSⅡも繋がりますから何かあれば連絡してください。こちらも何かわかったら皆さんに連絡しますから。」

「わかりましたわ、よろしくお願いしますね。」

「それじゃあね。無理しない程度に頑張りなさい。」

そしてエマとセリーヌは宿酒場へと向かった。



「……さて、俺達も演習地に戻るか。」

「そうですね……さすがに疲れました。」

「……体力的にもそうですが精神的にも、かもしれません。」

「…………うん…………」

アルティナの言葉に頷いた後呆けているユウナが気になったリィン達はそれぞれ心配そうな表情でユウナを見つめた。

「って、だからそんな顔をしないでってば!そりゃあ、あの列車砲も含めて気になることが山積みだけど……」

「……クロスベル出身じゃないが深刻さを感じているのは同じだ。」

「帰ったらレポートを纏めがてら気になった所の整理をしましょう。」

「そうね……ユウナの故郷の事なんだから、頑張らないと。」

「クルト君、アル、ゲルド……」

仲間達の心遣いに感謝しているユウナの様子をリィンとセレーネが微笑ましそうに見守っていたその時

「――――お前達もクロスベルを訪れている事は知ってはいたが、まさかクロスベルに来た早々顔を合わせる事になるとはな。」

街道方面からサイドカーにロカを乗せてバイクを運転しているセリカがリィン達の前で停車した。



「貴方方は…………」

「!!」

「…………綺麗………」

「っ!?(力を隠してはいるが、二人からは尋常ではない気配を感じるぞ……!)」

セリカ達の登場にアルティナは目を丸くし、ゲルドは目を見開いてセリカを見つめ、セリカとロカの整った容姿を見たユウナは呆け、二人から感じられる強さの一端を感じ取ったクルトは驚いた後真剣な表情で二人を見つめた。

「セリカ殿!?それにロカさんまで……!セリカ殿がクロスベルに来ている事はアリサ達からの話で知っていましたが、まさかロカさんまで来ていたなんて……!」

「お二人とも、お久しぶりですわ。」

リィンは驚きの表情でセリカ達を見つめ、セレーネは微笑みながら二人に挨拶をした。

「フフ、3人とも久しぶりね。教官服に学生服……どれも似合っているわよ。」

「………1年半ぶりになるか。お前達のトールズ第Ⅱとやらの派遣された理由はリウイ達から聞いているが………―――幾ら主君(リウイ達)からの指示とはいえ、戦争をしていた国の士官学院の関係者になる等エステルのように随分とお人好しな事をしたものだな、お前達も。」

ロカはリィン達に微笑み、セリカは静かな表情でリィン達を見つめて呟いた。



「ハハ………エレボニアは内戦の件で絆を結んだ俺達の大切な仲間達―――旧Ⅶ組が深く関わっている国でもありますから、内戦で協力してもらった礼を返す意味でも引き受けたんです。――――それに”お人好し”という意味ではセリカ殿達も同じではないでしょうか?セリカ殿程の方が”知り合い”ではあっても、エステルさんと違って”恩人”ではないヴァイスハイト陛下の要請に応じてこうしてクロスベルを訪れたのですから。」

「フフ、セリカは元々お人好しな性格よ?」

(クク、確かに何だかんだ、様々な立場の者達や時には敵対した者達まで助けたから、お人好しといえばお人好しな性格だの。)

セリカの言葉にリィンは苦笑しながら答え、リィンの言葉にロカは微笑みながら、ハイシェラは口元に笑みを浮かべてそれぞれ答えた。

「………リィン達に下らん事を吹き込むな。そろそろ行くぞ――――」

ロカとハイシェラの答えに呆れたセリカは再びバイクを走らせようとしたが

「―――待って、一つだけ聞きたい事があるわ。」

「ゲ、ゲルドさん………?」

ゲルドがセリカを呼び止め、その様子を見たセレーネは戸惑った。



「………なんだ?」

「”世界”に恐れられ……たくさんの人達から命を狙われ………これからも数多の”戦い”が待ち受けているのに、どうして貴方は悠久の時を生き続ける事ができるの………?」

「!貴方、どうしてセリカの事を………」

セリカに視線を向けられて答えたゲルドの問いかけに驚いたロカは驚きの表情でゲルドを見つめ

「純白の髪の魔女………――――なるほど、お前がリウイ達の話にあったゼムリアともディル=リフィーナとも違う世界から来た”魔女”か。さっきの問いかけからして、大方”予知能力”で俺の事を知ったか俺の未来を視たから知ったのだと思うが…………”約束を果たす為”――――それが俺が生き続ける”理由”だ。」

ゲルドの純白の髪とゲルドの武装である杖を見てゲルドが何者なのかを察したセリカは静かな表情で答えた後再びバイクを走らせてその場から去って行った。

「”約束を果たす為”…………………」

「な、何か意味不明な事を言って去っていったけど………あの人達も教官達の知り合いなんですか?」

セリカ達が去った後ゲルドは呆けた表情で呟き、ジト目で呟いたユウナはリィン達に訊ねた。

「ああ。――――セリカ・シルフィル。演習地でも軽く説明したがセリカ殿は”嵐の剣神”の二つ名を持つディル=リフィーナにある国―――”レウィニア神権国”という国の客将さ。」

「ちなみにセリカ様はアイドス様にとってのお兄様ですわ。」

「ええっ!?あ、あの人が……!?い、言われてみればアイドスさんに滅茶苦茶似ていたかも――――って、あの容姿で”男”なんですか!?しかもよくよく思い返してみたら”嵐の剣神”ってアリオスさんよりも凄腕の剣士って評判だった遊撃士協会の助っ人じゃない!」

「ユウナさんはクロスベル出身ですからセリカさんの事についても当然ご存知だと思っていたのですが………今頃気づいたのですか。」

「あの人が兄上が”双界最強の剣士”と評していた”セリカ・シルフィル”……ちなみに隣にいた女性は何者なのでしょうか?」

リィンとセレーネの説明を聞いて驚いているユウナをアルティナは呆れた表情で見つめ、クルトはセリカ達が去った方向を見つめて呟いた後ロカの事をリィン達に訊ねた。



「ロカさんはセリカ様の仲間の一人で異世界の宗教の一つ――――軍神(マーズテリア)教の”神官戦士”ですわ。」

「”神官戦士”……?呼び方から察すると戦闘もできる神官のように聞こえるけど………」

「へえ、ゲルドは中々鋭いな。ゲルドの言う通り”神官戦士”とは戦闘技能を持つ”神官”の事で、戦闘技能がない神官達の護衛もそうだが時には魔獣の大量発生で困っている村や町に出向いて、市民達の代わりに魔獣の退治等を行っているんだ。」

「戦闘技能を持つ宗教の関係者だからワジ先輩みたいな存在だと思っていたけど、話を聞く所全然違うわね……」

セレーネの答えを聞いてある事が気になったゲルドの推測に感心して答えたリィンの説明を聞いたユウナは目を丸くした。

「その口ぶりだとユウナも”星杯騎士”の存在を知っていたのか?」

「へ………そう言うクルト君こそ、”星杯騎士”を知っているの?」

クルトに訊ねられたユウナは驚いた後クルトに問い返した。

「ああ……”星杯騎士”も兄がオリヴァルト殿下と共に”リベールの異変”の際に知り合ったんだ。兄の話だと”星杯騎士”は少数ながらも精鋭揃いとの事ですが………先程のロカさんの宗教―――軍神(マーズテリア)教という所の神官戦士も相当な使い手揃いなのですか?」

「ああ。ディル=リフィーナには多くの宗教があるが………軍神(マーズテリア)教が崇める神は”軍神”という呼び名だけあって、他の宗教の神官戦士達とも比べると実力も高い上規模も大きいが………ロカさんはその中でもトップクラスの使い手なんだ。」

「……まあ、”神格者”になれる程ですから間違いなく非常識な強さかと。」

クルトの質問にリィンが答え、アルティナがリィンの説明を補足した。



「”神格者”?なんなのそれ。」

「えっと、”神格者”というのは―――――」

ユウナの疑問を聞いたセレーネは”神格者”の事について説明した。

「……………………」

「”神格者”についても兄から聞いた事がありますが、まさかロカさんもその一人とは………”神”に選ばれる程なのですから、相当な使い手なのは間違いないでしょうね。」

「異世界ではそんな凄い存在がいるのね…………」

「まあ、神が現存している非常識さと比べれば大した事はないかと。」

”神格者”の説明を受けたユウナは驚きのあまり口をパクパクさせ、クルトは信じられない表情をし、呆けた表情で呟いたゲルドの言葉に指摘したアルティナの言葉を聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。するとその時リィンのARCUSⅡから通信の音が聞こえ、リィンは通信を開始した。



「―――こちらシュバルツァー。」

「あ、よかった!移動中じゃなかったんだね。今どこかな、リィン君。特務活動の区切りはついた?」

「ええ、ちょうど終わらせて市内に戻って来たところですが………ひょっとして”列車砲”についてですか?」

「そっか……帰る途中で見たんだね?その話もしておきたいけどちょっと大変な事があって。急いで演習地に戻ってこられないかな?」

「そのつもりでしたが………」

「ちょっと失礼します!大変なことって何が……!?」

リィンが通信相手―――トワと通信をしているとユウナが血相を変えて通信に割り込んだ。

「わわっ、ユウナちゃん。あはは、別に悪いことがあったわけじゃないの。さっき突然、クロスベル帝国政府から第Ⅱ分校に要請があってね。」

「へ………」

「分校に要請、ですか?」

トワの答えにユウナは呆け、アルティナは首を傾げた。

「本日夜、オルキスタワーで開かれる晩餐会の警備に参加――――オリヴァルト、リーゼロッテ両殿下にもご挨拶申し上げるようにって……!」

その後、リィン達は演習地に戻りシャワーを浴びて予備の制服に着替えた後――――クロスベル帝国軍に警備を任せる形でクロスベル帝城・オルキスタワーへと向かった――――


 
 

 
後書き
ちょっとした補足ですがセリカ達は西通りの原作碧のクエストで2回ほど関わったカルバードの不良集団が住んでいた家をクロスベルでの拠点としてヴァイスから貰った形になって、そこに住んでいる設定です。さすがに今回はエクリアとエオリアを除いた使徒全員&ロカとナベリウスという大所帯ですからエステル達が住んでいたアパートの部屋じゃ狭すぎますので(苦笑)ちなみに戦女神陣営でほとんど皆勤賞と言っていいほど光と闇の軌跡シリーズのそれぞれの作品に登場していながらも今作ではセリカ達が登場しているのに唯一姿を現していないリタですが……ちゃんと後で登場し、ラストダンジョン突入前後あたりにはリィン達に合流する予定となっています。なお、リタが登場した章では何とリタがゲストキャラとして”とあるダンジョン”攻略開始から終了までリィン達の仲間になる予定です。肝心のリタがゲストキャラとして仲間になるダンジョンがどこかはリタが何者かをわかっている人達なら察しているかもしれませんねww 

 

第45話

午後6:10―――――



~オルキスタワー・正面玄関~



―――先程から続々とクロスベル帝国の有力者たちがタワーへと集まってきています。マクダエル元議長の姿も確認された事から、やはり今夜の晩餐会にはマクダエル元議長も招待され、参加なされるようです。あっ!あちらの方々はクロスベルの皆さんにとって馴染み深い”インフィニティ”のディオン三姉妹です!やはり”工匠特区”誕生の礎となった彼女達も―――――」



オルキスタワーの正面玄関でグレイスが中継をしている中リィン達はタワーのある一室で三帝国のVIP達と”六銃士”達との邂逅をしていた。



~35F~



「―――第Ⅱ分校の諸君。わざわざの足労、大義。晩餐会の警備についてはこの後、説明させてもらうが……その前にエレボニアとエレボニアと縁があるクロスベル、メンフィルのVIP達、そしてせっかくの機会だから俺達”六銃士”の事を紹介させてもらおう。」

演習地に来ている第Ⅱ分校の関係者全員が整列している中ヴァイスは第Ⅱ分校の関係者達に労いの言葉をかけた後エレボニアとクロスベルのVIP達に視線を向けた。

「初めまして、諸君。帝都ヘイムダルを預かるカール・レーグニッツという者だ。リーヴスは帝都の近郊………今まで縁が無かったのは残念だが今回は良い機会といえるだろう。」

「イリーナ・ラインフォルト。お初にお目にかかるわね。ARCUSⅡにデアフリンガー号、機甲兵や各種設備などの面で間接的に付き合いがあるわね。レポートなども拝見しているし期待させてもらっているわ。」

(レーグニッツ知事………鉄血宰相の盟友と言われる人物か。)

(あれがアリサさんのお母さん……お祖父ちゃん達の知り合いらしいけど。)

レーグニッツ知事とイリーナ会長が自己紹介をするとクルトとティータはそれぞれ興味ありげな様子で二人を見つめた。

「―――初めまして、第Ⅱ分校の皆様方。ヴァイスハイト皇帝陛下の側妃の一人で”四大名門”の”カイエン公爵家”の当主代理――――ユーディット・ド・カイエンと申します。内戦を勃発させた挙句、”七日戦役”の勃発も防がずエレボニアを衰退させた張本人の一人である父の娘であり、”四大名門”でありながらエレボニアにとっては色々と思う所があるクロスベルに新たなる忠誠を誓った私達に対して色々と思う所があるかもしれませんが………元祖国であったエレボニアの”新たなる風”となる皆様方にこのような形でお会いできた事、光栄に思っておりますわ。」

「ユーディットの妹のキュア・ド・カイエンです。今年の春に設立されたばかりの”サティア学院”の生徒会長を務めさせて頂いております。聞けば第Ⅱ分校も今年の春に設立されたばかりとか。同じ設立されたばかりの学院同士、交流を深めたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします。」

(あのカイエン元公爵のご息女であるユーディット皇妃にキュア嬢……実際にお会いするのはこれが初めてになるな。)

(フフ、お二人とも”明日、お手柔らかにお願いします”わね?)

ユーディットとキュアが自己紹介をするとリィンは静かな表情で二人を見つめ、ミュゼは意味ありげな笑みを浮かべた。



「そして――――そちらについては紹介するまでもな―――いや、むしろ紹介してもらわらなくても第Ⅱ分校の諸君は知っていないとエレボニア帝国人としては色々な意味で不味いかもしれないな。まあ、何人かはエレボニア帝国人ではない者達もいるが、そういう細かいことは今は気にするな。」

ヴァイスはオリヴァルト皇子とリーゼアリア皇女に視線を向けた後第Ⅱ分校の関係者達を見つめてからかいの表情で答え、ヴァイスの答えにその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「初めまして、第Ⅱ分校の皆さん。エレボニア帝国皇女、リーゼロッテ・ライゼ・アルノールです。」

リーゼロッテ皇女はスカートを両手で上品な仕草で摘みあげて会釈をした後第Ⅱ分校の関係者達を見回した。

「―――本当なら、もう少し早くこうした機会を持ちたくもありました。―――ですがこの時期、この地で皆さんとお会いできたのも女神達の巡り合わせでしょう。」

「オリヴァルト・ライゼ・アルノール。”放蕩皇子”なんて呼ばれているかな。今回の交流会のエレボニア側のVIP達の長を務めているがまあ”お飾り”みたいなものだ。」

リーゼロッテ皇女が話を終えるとオリヴァルト皇子が前に出て自己紹介をして第Ⅱ分校の関係者達を見回した。

「―――実は君達とはちょっとした縁があってね。前年度まで、トールズの本校で理事長をやらせてもらっていたのさ。そして奇しくも、ここにいるレーグニッツ知事とイリーナ会長はトールズ本校の常任理事でもあった。遅まきながら、入学おめでとう――――激動の時代にあっても青春を謳歌し、”世の礎”たる自分を見つけて欲しい!」

オリヴァルト皇子が歓迎の言葉をかけるとその場にいる全員は拍手をした。拍手が終わってその場に静寂が訪れるとヴァイスに視線を向けられたセシリアとサフィナは自己紹介をした。



「―――次は私達ですね。私の名はセシリア・シルン。現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルン皇帝陛下の親衛隊を率いる長の一人です。第Ⅱ分校の皆さんは私の教え子の一人であるリィンの教え子達でもありますから、それを考えると皆さんと私の縁は間接的にではありますが繋がっていますね。リィンの教育によって貴方達がどのような成長をしているのかはリィンを教育した者の一人として気にはなりますが………皆さんはそんな私事は気にせず、いつも通りの皆さんを見せてくれると幸いです。」

「サフィナ・L・マーシルン。貴方達の教官の一人であるセレーネの義母でメンフィル帝国軍竜騎士軍団の長を務めており、また現在はメンフィル帝国側のクロイツェン州の臨時統括領主も兼任しています。ちなみに少々先の話になりますが、リアンヌ殿より貴方達の鍛錬相手を務めて欲しいという依頼があり、その依頼を引き受けましたので……今月の末辺りに貴方達の”補習”にセシリア将軍と共に指導する予定になっていますので、その時はよろしくお願いしますね。」

(な、何気にとんでもない話が聞こえてきたけど……やっぱりあの二人も強いの?)

(はい。二人とも戦闘能力は分校長同様”化物の中の化物”クラスです。)

(リィン教官の恩師であり、現メンフィル皇帝の親衛隊を率いる将軍に大鎌の二刀流という随分と珍しい戦闘スタイルの使い手である元帥か………かつて皇家守護職に就いていたヴァンダール家の者として……二刀流の武装を扱う戦士として、色々と学ぶ事もあるだろうから二人が指導する”補習”の日が来るのが待ち遠しいな……)

(モニターに写っていた双子の皇子と皇女もそうだけど、二人は私にとっても親戚になるのよね……?お義父さんの実家の親戚って一体どのくらいいるのかしら?)

セシリアとサフィナが自己紹介をすると第Ⅱ分校の関係者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、我に返ったユウナとアルティナはジト目で会話をし、クルトは興味ありげな様子でセシリアとサフィナを見つめ、ゲルドは首を傾げて考え込んでいた。



「―――さてと。後は俺達か。――――クロスベル双皇帝の一人、ヴァイスハイト・ツェリンダーだ。”六銃士”としての通り名は”黄金の戦王”で他にも”好色皇”とも呼ばれているようだが………エレボニアの諸君にとっては”宗主国に逆らった挙句エレボニアの領土まで奪い取り、下克上をした事”から、そのクロスベルの皇である俺の事は”簒奪王”という二つ名の方が知られているかもしれんな。」

二人の自己紹介の後にヴァイスが前に出て自己紹介をして不敵な笑みを浮かべ、ヴァイスの言葉にその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「あの~、ヴァイス?君自身がそれを言っちゃうと彼らも反応に困るから、そう言った微妙な発言は勘弁してくれないかな?」

「フッ、俺は緊張をほぐす為に冗談のつもりで言ったのだが………まさか、普段から率先して緊張をほぐす言動や行動をしているお前に注意される日が来るとはな。これは明日は槍が降る―――いや、この場合は”不測の事態”が起こる事を警戒すべきかもしれんな。」

(ア、アハハ………)

冷や汗をかいて困った表情で指摘したオリヴァルト皇子に対して静かな笑みを浮かべて答えたヴァイスの答えにその場にいる全員が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ティータは苦笑していた。

「ヴァイスの側妃の一人で、”六銃士”の”蒼銀の魔剣姫”の二つ名で呼ばれているアル・ノウゲートです。以後お見知りおきください。」

「――――戦術科”の連中とは今日のカリキュラムで先に顔を合わせたけど、他の連中とは初めて顔を合わせるから改めて名乗っておくよ。あたしはパティルナ・シンク!”六銃士”の”暴風の戦姫”なんて名前で呼ばれているクロスベル帝国軍の将軍の一人さ。あんた達は祖国では”二軍”やら”寄せ集め”やら、悪い意味で有名だそうだけど、あたしはそうは思わないよ。何てたって、クロスベルがまだ”自治州”だった頃、警備隊や警察も各国もそうだけど市民達からの評価も低かったけど、それらの評価を覆したからね。あんた達もそうなる事を期待しているよ!」

「―――”六銃士”の”鋼鉄の剣姫”と呼ばれているエルミナ・エクスです。クロスベル帝国軍の”総参謀”を務めているそこの女にだらしない皇帝の正妃の一人です。」

”六銃士”である蒼銀の髪のエルフの娘――――アル・ノウゲートと紫髪の娘――――パティルナ・シンクが自己紹介を終えた後に答えた金髪の娘―――エルミナ・エクスの自己紹介の仕方にその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「あのな……俺が”好色家”である事は否定しないがもっと、マシな言い方はないのか?」

「私は事実を言ったまでですが?――――失礼。パティルナ――――パティのように主計科の方々とは本日のカリキュラムで顔合わせをしましたが………後日に行う予定の戦術科、主計科合同のカリキュラムは私やパティも指導する予定となっていて、その際は交換留学で来ている外国の勢力の方達である貴方達もクロスベル帝国軍と区別せずに”普段通り”厳しく指導するつもりですので、今の内に覚悟を決めておいてください。」

呆れた表情で呟いたヴァイスにジト目で指摘したエルミナは気を取り直して第Ⅱ分校の関係者達を見回し、エルミナの発言に第Ⅱ分校の関係者達の多くは表情を青褪めさせる等それぞれ顔色を悪くしていた。

「フフ………――――私はルイーネ・サーキュリー。”六銃士”の”微笑みの剣妃”と呼ばれているもう一人のクロスベル皇帝――――ギュランドロス様の正妃よ。先月の特別演習のように万が一クロスベルでも”不測の事態”が起こった時は、先月の反省を生かした上での活躍をする事を期待しているわ♪」

「……で、”六銃士”という二つ名を思いついた肝心のもう一人のクロスベル皇帝もこの場で紹介したかったんだが………生憎あのバカ王は”事情”があってしばらくクロスベルを留守にしている状況でな。その”事情”に関してはできれば気にしないようにしてくれ。――――というか、むしろ気にするだけ時間の無駄だ。正直付き合いの長い俺達ですらも、未だにあのバカ王の考えや行動原理はわからんからな。」

ルイーネが微笑みながら自己紹介をした後ヴァイスはため息を吐いてランドロスに視線を向け、ルイーネとヴァイスの発言にそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせたランドロスを除いた第Ⅱ分校の関係者達全員はランドロスに視線を向けた。

「クク、何でそこで俺を見るんだ?」

「ハア…………本当に何を考えているんだよ、この滅茶苦茶なオッサンは……」

「アハハ、その様子だとそっちでも存分に楽しんでいるようだね~♪」

「フフ、ひょっとしたらセンタクス軍に潜入していた時よりも楽しんでいるのじゃないかしら♪」

「バカです………まさにバカの中のバカです……」

その場にいる多くの者達に視線を向けられたランドロスが口元に笑みを浮かべている中ランディは疲れた表情で溜息を吐き、パティルナとルイーネは呑気に笑い、エルミナは呆れた表情で片手で頭を抑えた。

「―――ま、そう言う訳で本日より演習最終日までの第Ⅱ分校の活躍を期待している。――――以上だ。」

「―――三帝国のVIPの方々に敬礼!」

そしてヴァイスが話を締めくくるとミハイル少佐が号令をかけ、第Ⅱ分校の関係者達全員はそれぞれ敬礼をした。そして三帝国のVIP達が退室を終えるとミハイル少佐が第Ⅱ分校の関係者達に今後についての説明を開始した。



「―――既に伝えたとおり我々は下の34階で待機となる!だが、あくまで予備戦力だ!くれぐれも勝手な行動は慎め!それでは移動する!総員、整列して付いてくるように!」

「は~、なんつーか、凄ぇコネがある学校だよな。そういや通商会議の時に皇子から聞いた気もするが。」

「ふふ、あくまでも2年前の本校の時ですけど……」

「そう言えばオリヴァルト殿下は冗談と思うのですが、特務支援課(わたくし達)にもトールズ本校の特別教官として本校の皆さんを指導して欲しいような事も仰っていましたわよね……」

「はは、そんな事もあったな。」

「まあ……お兄様がそんな事を。もしそれが実現したらリィンさん達はもっと早く旧Ⅶ組の皆さんと出会っていたかもしれませんわね。」

「……そうね。例え歴史が変わっても、兄様達と旧Ⅶ組の皆さんの縁がある証拠ね。」

生徒達がミハイル少佐と共にその場から退室すると苦笑しながら溜息を吐いたランディの言葉にトワは微笑みながら答え、ある事を思い出したセレーネとリィンは懐かしそうな表情をし、二人の話を聞いたアルフィンとエリゼは微笑んでいた。

「クスクス、オリビエお兄さんの事だから間違いなく旧Ⅶ組と特務支援課を交流させていたでしょうね。―――まあ、もし本当に実現していたらアリサお姉さんがその時にリィンお兄さんに”落とされていた”上アリサお姉さん以外のⅦ組の女生徒達も”落とされて”、アルフィン夫人の妻の序列は今より低くなっていた可能性はあったかもしれないわね♪」

「クク、Ⅶ組どころか他のトールズ本校の女生徒達も落としていたかもしれねぇぞ?」

「………確かにこの兄貴族ならマジでやりかねん―――つーか、弟貴族(ロイド)とタッグを組んで旧Ⅶ組どころかトワちゃんを含めたトールズ本校の女生徒や女性教官を何人か―――いや、下手したら全員纏めて落としていたかもしれねぇな……」

「ア、アハハ………(ロイドさんって人はどんな人かわからないけど、話を聞いた感じリィン君に似た人みたいだから、本当にありえたかもしれないから洒落になっていないかも……)」

「ちょっ、さすがにそれはありえないから!」

小悪魔な笑みを浮かべたレンや口元に笑みを浮かべたランドロスの推測に同意したランディはジト目でリィンを見つめ、ランディの推測を聞いたトワは苦笑した後内心冷や汗をかき、話題の中心となったリィンは驚きの声を上げて反論し

「……内戦の件を考えると本当にありえそうで、冗談になっていませんね、お三方の推測は。」

「そうですわよね……もし本当にそうなったらわたくし、お兄様を恨んでいたかもしれませんわ。」

「ご、ごめんなさい、お兄様……全く反論を思いつきませんわ……」

「ううっ、何でこんなことに……」

ジト目のエリゼと困った表情をしたアルフィン、申し訳なさそうな表情をしたセレーネの答えを聞いたリィンは疲れた表情で肩を落とした。



「ハッハッハッ、もし特務支援課のトールズ本校への特別教官の”支援要請”が出ていたら当然”特務支援課”の一員であった俺も二人に負けずに女性教官や女生徒達に声をかけていたかもしれんな。」

するとその時ヴァイスが軽く笑ってリィン達に近づき

「あ………」

「クク、ヴァイスハイトの事だから声をかけたその日に抱くんじゃねぇか?」

「確かにこのリア充皇帝ならありえそうだから、洒落になっていねぇ………」

「うふふ、何せ政略結婚で嫁いできたつもりのユーディットお姉さんも口説き落として、今では自分にメロメロにさせる程の男性とのしての魅力を持っているものねぇ?もしかしたら妹の方も機会があれば口説き落として、名門貴族令嬢の”姉妹丼”を実現しようと思っているのじゃないかしら♪」

近づいてきたヴァイスを見たトワは呆け、口元に笑みを浮かべたランドロスの推測にランディは同意してジト目でヴァイスを見つめ、レンはからかいの表情でヴァイスを見つめ、レンの発言にその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「は、はわわわっ!?」

「クク、ルイーネ達―――”三銃士”を纏めて抱いた事もあるこの男なら名門貴族令嬢の姉妹を纏めて落として自分の女にするくらい、かる~く実現するだろうな!だぁっはっはっはっ!」

「ハアッ!?そんな事があったのかよ!?こっのリア充皇帝が……っ!何で俺と同じ声で綺麗なお姉さんが大好きでナンパ野郎な所も同じなのに、こんなにも差があるんだよ!?」

「ハハ、期待をしている所悪いがユーディとの約束があるのだからキュア嬢を積極的に口説くつもりはないぞ。それよりも、どうやら第Ⅱの教官として充実した日々を送っているようだな。」

我に返ったトワは顔を真っ赤にして慌て、豪快に笑ったランドロスの話を聞いて驚いたランディは悔しそうな表情でヴァイスを睨み、ヴァイスは苦笑しながら答えた後ランディを見つめた。



「ったく、そこの滅茶苦茶なオッサンとそのオッサンの”お目付け役”を押し付けたアンタ達のせいでほとんど強制のようなもんだがな。それで、俺かそこのオッサンに何か用でも?」

「いや、用があるのはリィンとセレーネの方だ。」

「え………」

「わたくし達ですか?」

ランディの問いかけに答えたヴァイスの意外な答えを聞いたリィンは呆け、セレーネは不思議そうな表情で首を傾げた。するとその場にアルが現れた。

「この上の36――――VIPフロアに案内させる。晩餐会までの僅かな時間だがゲストと話せる機会を作った。新Ⅶ組とティータにレン皇女、それとエリゼ嬢とアルフィン夫人を連れて挨拶をしてくるといい。」

その後リィン達はヴァイスの提案を受け、ユウナ達を呼び寄せてアルと共に36FのVIP達がいるフロアに到着した。



~36F~



「こちらが36F・VIPフロアにになります。手前から二つ目の部屋にレーグニッツ帝都知事が。奥の部屋にリーゼロッテ皇女殿下とオリヴァルト皇子殿下が。その向かいの二つ目の部屋にユーディット皇妃とキュア嬢、そしてイリーナ会長が。その奥の部屋にエフラム皇子殿下とエイリーク皇女殿下、サフィナ元帥とセシリア将軍がそれぞれお待ちになっています。入室の際は部屋の前の警備の者達に声をかけてください。」

「了解しました。」

「お疲れ様です。」

「あの………アル先輩。エリィ先輩やメサイア皇女様はユーディット皇妃様達と一緒の部屋にいないのですか……?さっきの紹介の時にもいなかったのが気になっていたのですが……」

アルの説明を聞いたリィンは頷き、セレーネが労いの言葉をアルにかけるとユウナがアルに訊ねた。

「お二人は多忙の為、残念ながら皆さんとお会いする時間を作れなかったのですが………ヴァイスが後で貴女と二人―――特にエリィとは必ず話せる時間は作ると言っていましたから、晩餐会までにはエリィと話せる機会があると思いますよ。」

「そ、そうだったんですか!?あの女好きエロ皇帝も結構良い所があるんですね………――――って、まさかとは思いますけどあのエロ皇帝があたしを落としてハーレムの一員にする為とかじゃないでしょうね?」

アルの話を聞いて驚いた後意外そうな表情をしたユウナだったがすぐにある事に気づくとジト目でアルに訊ね、ユウナの発言にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「ユ、ユウナさん………」

「さすがに常識に疎い私でもその言い方はあの王様に対して失礼だと思うのだけど……」

「幾らその可能性が十分に考えられるとはいえ、さすがに不敬では?」

「何気に君もヴァイスハイト陛下に対して不敬な発言をしているぞ……」

「うふふ、まあ、”好色家”を公言しているヴァイスお兄さんなら本当にやりかねないわよね♪」

「レ、レンちゃん!」

「す、すみません。自分達の教育不足で生徒達がヴァイスハイト陛下やアル皇妃陛下に対して失礼な発言を……」

我に返ったセレーネとゲルドは困った表情をし、呆れた表情をしたアルティナの指摘にクルトは疲れた表情で溜息を吐き、小悪魔な笑みを浮かべたレンの発言を聞いたティータは冷や汗をかいて慌てた表情をし、リィンはアルに謝罪した。

「フフ、普段のヴァイスの言動や行動を考えるとユウナ達がそう言った邪推をする事はヴァイスの自業自得ですから私は気にしていませんよ。」

謝罪されたアルは苦笑しながら答えた後その場を離れた。



「はあ~、緊張してきたかも。いきなり初対面の―――それも三帝国のVIP相手に挨拶とか、無茶振り過ぎません?」

「”新Ⅶ組とぜひ話したい”と時間を作ってくれたらしいからな。ティータ達―――君達についてはオリヴァルト、リーゼロッテ両殿下とイリーナ会長、それにエフラム殿下達からそれぞれリクエストがあったらしい。」

「えへへ、オリヴァルト殿下とちゃんと話すのは久しぶりなのですごく楽しみです。アリサさんのお母さんとはお会いするのは初めてですけど。」

「エフラムお兄様達はレンやリィンお兄さん達、アルフィン夫人はオリビエお兄さん達――――エレボニアのVIP達だろうけど………そのリクエストをした要求した人物の中にリーゼアリアお姉さんも含まれていて、リーゼアリアお姉さんが話したい相手はリィンお兄さんとエリゼお姉さんなんでしょう?」

緊張している様子のユウナに説明をしたリィンの話を聞いたティータは嬉しそうな表情をし、レンは意味ありげな笑みを浮かべてリィンに問いかけた。

「あ…………」

「え、えっと…………」

「…………………」

レンの問いかけを聞いたアルフィンとセレーネはそれぞれ気まずそうな表情で目を伏せて黙り込んでいるエリゼに視線を向け

「……ええ。―――エリゼ、14年前の件とこの前の件でリーゼアリアに対しても思う所があるかもしれないが、まずは落ち着いて対応してくれないか?」

「……そのくらいの事は言われなくてもわかっています。」

「………?」

「えとえと……もしかしてリィン教官とエリゼさんって、そのリーゼアリアさんって人と何かあったんですか……?」

レンの問いかけに頷いたリィンに促されて静かな表情で答えたエリゼの様子を不思議に思ったユウナは首を傾げ、ティータは不安そうな表情で訊ねた。

「ハハ、リーゼアリア自身とは何かあったって訳じゃないんだが………とにかくVIPの方々の貴重な時間を無駄にする訳にはいかないし、まずはレーグニッツ知事の部屋を訊ねてみよう。」

ティータの問いかけに苦笑しながら答えを誤魔化したリィンはユウナ達と共にレーグニッツ知事がいる部屋を最初に訊ねた―――――




 
 

 
後書き
ついにエウシュリー新作、発表されましたね~!今度の主人公は戦姫シリーズでちょいちょい耳にするベルガラード出身だから、久しぶりのアヴァタール出身者である事もあって今からワクワクしますね!ただねぇ……見た感じ今回の主人公は闇勢力っぽい感じに見えるけど、傭兵というか盗賊か暗殺者みたいな見た目もあって同じ闇勢力の主人公のイグナートやリウイと比べるとどうしても見劣りしてしまう……(まあ、比較対象がどっちも”王”だから比較する事自体が間違っている気もしますがww)そしてメインヒロインっぽいのが魔導巧殻の一文字違いの存在である事を見てマジで一瞬魔導巧殻かと思ってしまったww中の人がアルみたいな悲劇にならなきゃいいけど(冷や汗)それにしても次のエウシュリーの新作が最近のはやりもの(?)である成りあがり系とは……成りあがり系という事は最終的に王にでもなるんですかねぇ……(エウシュリーだからハーレムは当然だと思っています(キリッ))後発売日が10月でよかった……9月だと閃Ⅳと被ってしまってどっちをプレイするか迷うところでした……(まあ、封緘のグラセスタ発売までに閃Ⅳ終えられるかも疑問ですが) 

 

第46話

~オルキスタワー・36F~



「―――やあ、よく来てくれたね。忙しいだろうに急に呼びつけてすまなかったね。」

リィン達が部屋に入るとレーグニッツ知事がリィン達に声をかけて立ち上がった。

「いえ、せっかくの機会ですし。改めてお久しぶりです、レーグニッツ閣下、イリーナ会長。シャロンさんももう合流していたみたいですね?」

「ふふ、おかげさまで滞りなく会長をお迎えできました。皆様も無事に本日の活動を終えられたようで何よりですわ。」

「特務活動については聞いているわ。まずはお疲れ様と言っておきましょう。―――そちらが新Ⅶ組に、エリカ博士の娘さんかしら?」

リィンの問いかけにシャロンと共に答えたイリーナ会長はユウナ達に視線を向けた。

「は、はいっ。」

「……お初にお目にかかります。」

「は、初めまして……やっぱり母をご存知なんですか?」

「その昔、父に同行してリベールに行った折にね。今でもたまに連絡は取るけど貴女のノロケ話ばかりしてくるのは少々参るわね。」

「ふふっ、ティータのお母さんってティータの事が大好きでティータを凄く大事にしているのね。」

「あ、あはは……お母さんったら。」

イリーナ会長の話を聞いたゲルドは微笑みながら苦笑しているティータに視線を向けた。



「レーグニッツ閣下もお久しぶりですね。」

「はは………君とはカレル離宮以来だな。それとアルフィン皇女殿下とレン皇女殿下、それにエリゼ君――――いや、エリゼ卿もお久しぶりです。御三方とも年始のパーティーで会った時と比べると随分と見違えましたね。」

「まあ……ふふ、レーグニッツ閣下ったら。お褒めに頂き、光栄ですわ。」

「クスクス、アルフィン夫人やエリゼお姉さんの成長ぶりと比べたらレンの成長なんて大した事ないわよ。」

「……お久しぶりです。それと幾ら爵位を持っているからとはいえ、”今の私”は第Ⅱ分校の宿舎の管理人補佐ですので私に対してそこまでかしこまる必要はございませんので、以前のような気楽な態度での接し方で構いません。」

アルティナに話しかけられたレーグニッツ知事は苦笑しながら答えた後アルフィンとレン、エリゼに挨拶をし、挨拶をされたアルフィンとレンは微笑みながら答え、エリゼは軽く会釈をして答えた。

「ところでどうしてイリーナ会長とシャロンさんがこちらの部屋に?イリーナ会長はクロスベル側のVIPの一人ですから、ユーディット皇妃陛下達の部屋にいると思っていたのですが………」

「ああ、それに関しては私の方からイリーナ会長に話があって、こちらに来てもらったんだ。――――まあ、とりあえず皆座ってくれ。」

「―――シャロン、皆さんにお茶を。」

「ふふ、かしこまりました。」

セレーネの問いかけに答えたレーグニッツ知事がリィン達にソファーに座るように促すとイリーナ会長がシャロンに指示をし、リィン達はソファーに座って話を聞き始めた。



「――――RF(ラインフォルトグループ)に対しての価格交渉、ですか?」

レーグニッツ知事の事情を聞いたリィンは不思議そうな表情をし

「ああ……君も知っての通り、1年半前の”七日戦役”でRF(ラインフォルトグループ)本社があるルーレ市を含めたRF(ラインフォルトグループ)の工場がある領土は全てメンフィル帝国に譲渡、そしてその譲渡された領土がクロスベルに譲渡された事でかつてエレボニア帝国が鉄鋼メーカーとして最も頼っていたRF(ラインフォルトグループ)がクロスベルの所属になった事で、様々な弊害が出てきてね……今回の価格交渉はその弊害の一つであるRF(ラインフォルトグループ)が販売している商品の値上げを少しでも抑えてもらう為の交渉さ。」

「どうしてイリーナさんの会社の所属の国が変わったら、イリーナさんの会社が出している商品の値段が上がるの……?」

「………基本企業は自分達が根を下ろしている”国”で商品を販売するから、根を下ろす”国”に対しても色々と便宜を図ってもらう為にその国の政府や皇家との取引では様々な便宜を図るんだ……例えば政府の人達がその企業の商品を纏め買いをする代わりに、その企業はその商品の値段を割引すると言ったような事をね。」

「そして現在RF(ラインフォルトグループ)の”所属国”は”クロスベル帝国”ですから、”外国であるエレボニア帝国”に対して便宜を図る必要はありませんから、エレボニア帝国の関係者―――特に政府や皇家の関係者がRFと取引をする際は、”RFの所属国がエレボニア帝国だった時”よりも商品の値段が上がってしまうんです。」

「……まあ、所属国より外国を優先したら、それこそ所属国に”色々と疑われる事”も考えられますから、所属国がクロスベル帝国になったRFのエレボニア帝国に対しての対応は当然の流れかと。」

「……………………」

レーグニッツ知事の話を聞いて疑問を抱いたゲルドに説明をしたクルトとエリゼ、アルティナの話を聞いていたアルフィンは複雑そうな表情をし

「クスクス、正確に言えばRFの所属国がクロスベルになった事でヴァイスお兄さん達の意向によって、RFはエレボニア帝国に対して戦車や機甲兵と言った”兵器”の値段を暴利のような値段にしたから、その値段を少しでも下げて欲しい為にレーグニッツ知事はイリーナ会長と交渉しているのでしょう?」

「ハハ………やはりレン皇女殿下はお気づきになられていましたか。」

意味ありげな笑みを浮かべたレンの問いかけにレーグニッツ知事は苦笑しながら答えた。



「エ、エレボニア帝国に対して兵器を売る時”暴利”のような値段にしたって、レンちゃん、それってどういう事なの?」

「ま、簡単に説明するとメンフィルやリベール、それにレミフェリアと違って”過去の経緯”からエレボニアと仲良くする事は時間がかかると判断したヴァイスお兄さん達は未だに兵器の量産をRFに頼っているエレボニア帝国の”力”をつけさせにくいように、RFがエレボニア帝国に”兵器”を売る時の値段を通常の値段よりも遥かに値上げした状態で売らせているのよ。」

「あ…………」

「それは……………」

「その……ちなみにですがRFはどのくらいの値上げをした状態で、エレボニア帝国に対して兵器を販売しているのでしょうか?」

ティータの疑問に答えたレンの説明を聞いたセレーネは呆けた後気まずそうな表情をし、クルト同様複雑そうな表情をしたアルフィンはレンに訊ねた。

「そうねぇ………確か”機甲兵”が登場するまでエレボニア帝国正規軍ご自慢の最新戦車の”アハツェン”は定価の2倍で機甲兵は種類にもよるけど、一番安い”ドラッケン”で1,5倍、一番高い”ゴライアス”は10倍近く値上げした状態でエレボニア帝国に販売させているはずよ。」

「じゅ、10倍~~~!?幾ら何でも、ボッタクリすぎでしょ!」

「ちなみにその10倍近く値上げしている”ゴライアス”?という機甲兵の値段はいくらなのかしら?」

レンの答えを聞いたリィン達が驚いている中ユウナは信じられない表情で声を上げた後ジト目になり、ゲルドはレンに質問をした。

「エレボニア帝国に販売している”ゴライアス”の値段は1機10億ミラだったはずよ。―――そうよね、イリーナ会長?」

「………ええ。レン皇女殿下が公表もしていない現在の我が社の兵器の値段をご存知である事は………この場では聞かない方がいいでしょうね。」

「ふふっ、今の話を聞いて我が社の導力ネットワークのセキュリティーや情報の管理を見直す必要が出てきましたわね。」

レンの問いかけに答えたイリーナ会長とシャロンの話を聞いてレンがハッキングでRFの情報を盗んだ事を察したリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「1機10億ミラ………だから、第四機甲師団が集結している”リグバルド要塞”でも”ゴライアス”は1機しか見かけなかったのですわね。」

「まあ、”ゴライアス”は他の”機甲兵”と違って”乗り手”が限られている事も関係していると思うが………」

「………少なくても第Ⅱ分校に配備される事はないでしょうね。というかよくRFの兵器部門である”第二製作所”はクロスベル帝国政府の意向に従って、エレボニア帝国に対して兵器の販売の値上げをしていますね。貴族連合軍に所属していた時、確か”第二製作所”の取締役を含めた上層部は”革新派”だったという情報を見た記憶があるのですが。」

リグバルド要塞に待機していた機甲兵達の事を思い返したセレーネの言葉に続くようにリィンはある事を思い出して呟き、ジト目で呟いたアルティナはある事が気になり、その疑問を口にした。

「………第二もそうだけど、第一――――つまり、エレボニア帝国の貴族、革新両派閥の関係者であった我が社の上層部達はクロスベル帝国政府より国家反逆罪や反乱助長罪と言った何らかの”容疑”をかけられて、その容疑に対する”判決”として降格や解雇をされたわ。―――その代わり新しい上層部にクロスベル帝国政府の関係者達が着いたのよ。」

「ちなみに第二製作所の新しい取締役はエイフェリア・プラダ元帥閣下が、第一製作所の新しい取締役はリューン様ですわ。」

「そ、そんな……!?」

「い、幾ら何でも横暴じゃないですか!?エレボニアの派閥の関係者だからと言って、何も犯罪を犯していない人達を”犯罪者”扱いするなんて……!」

「ヴァイスさん………」

イリーナ会長とシャロンの説明を聞いたアルフィンは悲痛そうな表情をし、ユウナは怒りの表情で声を上げ、ティータは辛そうな表情をした。



「―――そうかしら?他国の派閥の関係者なんて、国が乱れる”原因”になる可能性が非常に高いのだから、ヴァイスお兄さん達は危険の芽を摘み取っただけだと思うわよ。」

「それにエイフェリア元帥閣下とリューン様は魔導技術者として優秀な方達で、導力技術もすぐにものにしたと伺っております。技術者として優秀で、クロスベル帝国軍の上層部でもある御二方が取締役になった事はRFにとって結果的にプラスになったのではないでしょうか?」

するとその時レンとエリゼがそれぞれ意見を口にし

「そうね。実際二人は技術者としても優秀で、兵器に限らず様々な鉄鋼製品を開発し続けているし、二人を含めた新たな上層部達はクロスベル帝国政府でも上層クラスだから、政府との取引もスムーズになって時間を節約できるから、RFの会長としては第一、二の上層部達を挿げ替えられた事に関して思う所はないわ。」

「ハハ、エレボニア帝国政府としては耳が痛い話ですな………そう言う訳だから、何とか少しでも値下げをしてもらう糸口を見つける為にイリーナ会長と話をしていたのさ。」

エリゼの言葉に頷いたイリーナ会長の話を聞いたレーグニッツ知事は苦笑しながら答えた。

「そうだったのですか…………その、知事閣下は現在のエレボニア帝国政府の方針をどうお思いなのでしょうか?――――女神様から与えられたハーメルに対する”償い”を無視し続け、”北方戦役”を機に西ゼムリア大陸の戦乱が終結したにも関わらず軍拡をし続けるエレボニア帝国政府の方針を………」

「アルフィン…………」

辛そうな表情でレーグニッツ知事へ問いかけるアルフィンの様子をリィンは心配そうな表情で見つめ

「……正直な所、私も最近のエレボニア帝国政府の――――宰相閣下の方針には疑問を抱いております。エレボニアにも多くの信者が存在し、有事の際は心強い協力者になりうるであろう”七耀教会”との関係を悪化させる事もそうですが、”西ゼムリア同盟”を調印した矢先に軍拡をし続ければ、各国のエレボニアに対する信頼がいつまで経っても回復せず、結果エレボニアが孤立してしまい、万が一またエレボニアに有事が起こればどの勢力も手を差し伸べてくれず、最悪エレボニアが滅亡してしまうリスクが発生し続けている事は宰相閣下も気づいているでしょうに……………」

「――――その件も含めて色々あるのでしょう。オズボーン宰相の描こうとしている絵によればね。」

複雑そうな表情で語ったレーグニッツ知事に続くように答えたイリーナ会長の推測を聞いたリィン達は血相を変え

「……………………」

レーグニッツ知事は複雑そうな表情で黙ってイリーナ会長に視線を向けた。



「私にしても、レーグニッツ閣下にしてもそれぞれ理由があってクロスベルを訪問した。でも、本来交流会とは関係なく、別々のタイミングで来る予定だったの。恐らく、エレボニアの両殿下や他のVIP達も同じでしょうね。」

「それって………」

「……カレイジャスとパンダグリュエルでの来訪も含めて、全てそれぞれの帝国政府の意向ですか。」

「そして、自分達第Ⅱ分校の演習地がクロスベルになったことも………」

「―――あの列車砲がこのタイミングでクロスベルに姿を現した事もですか?」

イリーナ会長の話を聞いた生徒達がそれぞれ考え込んでいる中リィンはある事をイリーナ会長に訊ねた。

「あ……!」

「ああ、貴方達も見たようね?――――新型の”ドラグノフ級列車砲”を。あれの旧カルバード方面の配備を見届けることが、私のクロスベル入りの主要目的の一つになるわね。」

「ド、ドラグノフ級……」

「っ………どうしてそんな……」

「ユウナ……」

イリーナ会長の話を聞いたティータが不安そうな表情をしている中表情を厳しくしているユウナをゲルドは心配そうな表情で見つめた。

「………イリーナ会長。差し支えなければ教えてください。あれは一体どういうものなのかを。」

「リィン様……」

「いいでしょう―――現時点で公表できる範囲でよければだけど。ドラグノフ級、新型列車砲――――かつてガレリア要塞に配備されていた列車砲の正式な後継機になるわ。詳しい性能は伏せるけど、従来型に匹敵する火力を保持したまま移動性が圧倒的に向上――――迂回路線も使えば、主要鉄道路線で運用することも可能になっているわ。……もちろん”大陸横断鉄道”でもね。」

「………!!」

「ガレリア要塞に配備されていたものに匹敵する”大量破壊兵器”ですか……」

「実物を見た事はありませんが、数十万一規模の大都市を2時間で壊滅させることが可能とか。」

「……っ……!?」

「ど、どうしてそんなものがクロスベルに……!?」

「それにイリーナさんはどうしてそんなただ人を殺戮する為だけの兵器が自分の会社によって世に出る事を許しているの……?」

イリーナ会長とアルティナの説明を聞いたティータとユウナが驚いている中ゲルドは悲しそうな表情でイリーナ会長を見つめた。



「”理由”は私の知るところではないわ。あくまでクロスベル、エレボニア両帝国政府と正規軍の発注に応える最適なものを造った―――それだけのこと。そして私達RFは”死の商人”という忌名を背負う覚悟を持って、RFの持ち味である”兵器”の新開発・量産を向上させ続けているだけの事。ちなみに設計には貴方たちの分校顧問、シュミット博士も協力してくれているわ。」

「そ、そんな…………」

「それとこれは余談だけど、クロスベル帝国政府はRFに新型の”ドラグノフ級列車砲”をエレボニア帝国政府、正規軍に対して定価の20倍である200億ミラで販売させているわ。―――ま、値段が値段だからクロスベル帝国政府が6機購入した事に対して、さすがのエレボニア帝国政府も1機しか買えなかったようだけどねぇ?」

イリーナ会長の話を聞いたティータが信じられない表情をしている中レンは意味ありげな笑みを浮かべて答え

「あの列車砲が6機もクロスベルの領土のどこかに配備されるのですか……」

「……………」

「というかレン教官……イリーナ会長達の前でそんなRFの関係者でも非常に限られた人達しか知らないはずの情報まで口にするのはさすがにどうかと思うのですが……」

レンの話を聞いたクルトは真剣な表情をし、ユウナは複雑そうな表情で黙り込み、セレーネは疲れた表情でレンに指摘した。



「VIPの件で気になっていた事があるのですが………レーグニッツ閣下はユーディット皇妃陛下達――――カイエン公爵令嬢姉妹とは今後のエレボニアとクロスベルについて話し合うこと等はないのでしょうか?」

その時暗くなりかけた空気を変える為にエリゼがレーグニッツ知事にある質問をし

「勿論お二人と話す時間も取るつもりさ。革新派(われわれ)と争っていた貴族派のトップであるカイエン公爵のご息女でありながら、あのカイエン公爵の血を引いているとは思えない聡明な考えを持つ令嬢姉妹……彼女達―――特にユーディット皇妃陛下が当時のカイエン公爵で”七日戦役”で戦死したルーファス卿が当時のアルバレア公爵だったら、内戦は起きず、互いに手を取り合ってエレボニア帝国を支える未来があったのではないかとも思っているよ。」

「まあ、少なくてもアルバレア公爵家の当主がルーファス・アルバレアだったら幾らアルフィン夫人が他国領にいるからとはいえ、他国領―――それもメンフィル帝国の領土を猟兵達に襲わせるようなおバカな事はしなかったでしょうから”七日戦役”も起こらなかったでしょうねぇ。」

「………………」

「アルフィン………」

残念そうな表情を浮かべたレーグニッツ知事の話に続くように答えたレンの推測を聞いて辛そうな表情で顔を俯かせているアルフィンに気づいたリィンは心配そうな表情でアルフィンを見つめた。

「ルーファス・アルバレア………エレボニアの貴族達を導く未来のリーダーとして社交界で有名だった”四大名門”の”アルバレア公爵家”の長男で、貴族連合軍の”総参謀”として貴族連合軍の采配をしていた人物ですね………(そう言えばルーファス卿を”七日戦役”で討った人物は確か……)」

「ちなみにルーファス・アルバレアは”七日戦役”の際、リィン教官に討ち取られて”七日戦役”を終わらせる為に必要となったリィン教官の”手柄”の一つになったとの事です。」

「ア、アルティナさん。」

「ええっ!?きょ、教官がそのルーファスって人を”七日戦役”で……!?」

クルトは静かな表情で呟いた後リィンに視線を向け、アルティナの答えを聞いたセレーネは冷や汗をかき、ユウナは驚きの声を上げてリィンを見つめた。

「………………」

「リィン教官………」

「えっと……ちょっと気になっていたんだけど……エレボニア帝国は”自治州”だったクロスベル帝国が独立した事や”資産凍結”……?だったかしら。それらの件で、クロスベル帝国との仲があまりよくない話はお義父さんやユウナ達から聞いていたけど……エレボニアの政府の人達でもかなり偉い立場のレーグニッツ知事はクロスベル帝国と仲良くしたいと思っているのかしら?」

「へえ?」

「ゲ、ゲルドさん!?」

「さすがにその質問を知事閣下にするのは不味いのでは?」

目を伏せて黙り込んでいるリィンをティータが辛そうな表情で見つめている中再び暗くなりかけた空気を変える為にレーグニッツ知事に質問をしたゲルドの質問を聞いたレンは興味ありげな表情をし、セレーネは慌て、アルティナはジト目で指摘した。



「ハハ、まあエレボニアとクロスベルの関係と私の立場を考えれば、そのような疑問を抱く人達がいてもおかしくないだろうね。――――私自身は”敵対”ではなく”友好”な関係を結ぶべきだと思っている。確かに2年前の資産凍結の件も含めてクロスベルに対して思う所が無いと言えば嘘になるが、今のエレボニアはかつてゼムリア大陸の大国の一つとしてその名を轟かせていた頃とは違う。”ハーメルの惨劇”の件でエレボニアの権威は地の底に堕ち、各国からは領土欲しさに自国の民まで虐殺する国として白い目で見られたり今後もそう言う事をする国なのではないかと疑いの目を向けられ、自国の民達からの信頼も大きく落とした事で、選択を一つでも間違えれば市民達による暴動が起こってもおかしくない薄氷の上で”国”を保っている……―――それが”今のエレボニア帝国”だ。そしてその状況から脱する為には他国のエレボニアに対する信頼を取り戻し、友好な関係を結ぶ事もその一つだと私は思っている。――――勿論友好を結ぶべき他国の中にはクロスベルも含まれるべきだと私は思っているよ。」

「そ、そうなんですか………」

「……先程の知事閣下の意見を聞き、少しだけ安心しましたわ。エレボニア帝国政府にもお兄様のようなお考えを持つ方もいらっしゃっている事に……」

レーグニッツ知事の意見を聞いたユウナとアルフィンはそれぞれ安堵の表情をした。

「……私もイリーナ会長も元理事として旧Ⅶ組の設立に関わった人間でもある。その意味で、このような場を持つことでせめて君達に示したかったのだ。エレボニアとクロスベルが置かれた状況―――将来の可能性と、厳しい現実の双方をね。」

「あ………」

「レーグニッツ閣下………」

「「……………………」」

レーグニッツ知事の話を聞いた生徒達はそれぞれ考え込み

「……そろそろいい時間ね。他のVIP達にも呼ばれているのでしょう?あまり待たせては悪いのではないかしら。」

「……そうですね。レーグニッツ閣下、イリーナ会長。自分達はこれで失礼します。」

イリーナ会長の指摘を聞いたリィンは退室する事を決めた。

「ああ、演習の成功を祈っている。」

「まあ、せいぜい気をつけなさい。―――ああ、それとリィン君。私事にはなるけど、アリサとは”どこまで進んでいる”のかしら?」

レーグニッツ知事と共にリィン達に声をかけたイリーナ会長は興味ありげな表情を浮かべてリィンに問いかけ

「え”。」

「うふふ、それについてはわたくし達も気になっていましたわ♪」

「……そうね。特にアリサさんは私達と違って普段兄様と会えない分、会えた時の兄様に対する愛情表現が凄いものね。」

「ア、アハハ………」

問いかけられたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、アルフィンはからかいの表情で、エリゼはジト目で、セレーネは苦笑しながらそれぞれリィンに視線を向けた。



「ふふっ、それはもう最後にお会いした1年前よりも、更に仲が深まっていると思いますわ♪」

「……そうですね。実際今日再会した途端わたし達の目の前でリィン教官を抱きしめてディープキスまでするくらいですからね。」

「うん。もしあの場に私達がいなかったら、二人は愛の営みもしていたかも。」

「ちょっ、アル、ゲルド!?」

「この場には知事閣下や殿下達もいるのに、他人の情事を口にするのはさすがにどうかと思うぞ……」

「ふ、ふええええっ!?ア、アリサさんって恋をしたら凄い情熱的な人になるんですね………」

「うふふ、まあアリサお姉さんみたいなタイプは惚れた相手に対して一途な性格になるでしょうから、ひょっとしたらエリゼお姉さん達よりもラブラブかもしれないわね♪」

からかいの表情を浮かべたシャロンの言葉にそれぞれ同意して答えたアルティナとゲルドの言葉を聞いたユウナは顔を赤らめて慌て、クルトは疲れた表情で指摘し、ティータは驚いた後頬を赤らめて興味ありげな表情をし、レンは小悪魔な笑みを浮かべた。

「お互い既に成人してお互いの家も認めた婚約者同士なんだし、結婚よりも先に子供を作っても構わないわよ?私があの娘を産んだ年齢も結構若かったし。」

「うふふ、勿論お二人の子供のお世話はわたくしが責任を持ってする所存ですわ。ですので安心して”ハメ”を外していただいて結構ですわよ♪」

「いや、外しませんから!?」

イリーナ会長に続くように答えたシャロンのからかいも混ぜた提案にユウナ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンは疲れた表情で声を上げて反論した。



その後レーグニッツ知事達の部屋を退出したリィン達はオリヴァルト皇子達が待機している部屋を訊ねた――――




 

 

第47話

~オルキスタワー・36F~



「お兄様、お姉様……!」

「ふふ、ようこそいらっしゃいました。」

リィン達が部屋に入るとソファーに座っていたリーゼアリアが立ち会ってリィン達に声をかけ、ソファーに座っているリーゼロッテ皇女も続くようにリィン達に声をかけた。

「お久しぶりです、リーゼロッテ殿下。それにリーゼアリアも。」

「………こうして直に顔を合わすのは14年ぶりになるわね。」

「はい……ようやくまたお二人とお会いできて本当によかったです……!」

「フフ、よかったわね、アリア。―――――わたくしの方は年始以来になりますね。それとアルフィン義姉(ねえ)様もお久しぶりです。」

「ええ、リーゼロッテも元気そうで何よりだわ。」

(この人達がもう一人のエレボニアの皇女殿下と教官とエリゼさんの従妹さん……)

(ハア、お二人とも夢みたいに綺麗でステキっていうか……)

リィン達がリーゼロッテ皇女達とそれぞれ再会の挨拶の言葉を交わしている中ユウナは呆けた表情で、ティータは憧れの表情でリーゼロッテ皇女達を見つめた。

「―――フッ、よく来てくれたね。リィン君達。」

するとその時窓際にいたオリヴァルト皇子がリィン達に近づいて声をかけた。



「お兄様もお久しぶりですわね。」

「ああ、年始以来になるね。―――リィン君達との仲も相変わらず良好で何よりだよ。それと第Ⅱへの就任、ありがとう。リィン君、エリゼ君、セレーネ君、そしてレン君――――遅くなったが第Ⅱへの就任、感謝するよ。」

「ふふっ、勿体無いお言葉ですわ。」

「ま、貴重な経験になって結構楽しませてもらっているわ。」

「私も貴重な経験をさせて頂き、そのような機会を設けて頂いた殿下に感謝しています。」

「自分達の方こそ殿下に感謝しています。トヴァルさんと合わせて色々と配慮してくださって……この場にいない仲間達と合わせて改めてお礼を言わせてください。」

アルフィンと言葉を交わしたオリヴァルト皇子に感謝の言葉をかけられたセレーネ達がそれぞれ答えている中軽く頭を下げたリィンはオリヴァルト皇子を見つめた。

「ハハ、そっちは裏技だからあまり気にしないでくれたまえ。」

(……なんか旧Ⅶ組絡みで色々あるみたいだけど……さすがはエレボニアの皇子様だけあって気取った人みたいね。)

(うん……それでいて親しみもある人だから、エレボニアの人達もオリヴァルト皇子が自分達の国の皇子である事が自慢なんでしょうね……)

(い、いや………)

オリヴァルト皇子の印象についてそれぞれ小声で口にしたユウナとゲルドの言葉を聞いたクルトは”本性”をさらけ出した時のオリヴァルト皇子を知っているため表情を引き攣らせて言葉を濁した。



「フフ、そしてそちらが新Ⅶ組とかつての小さな戦友どの……クルトも久しぶりだが、ティータ君は3年ぶりになるかな?」

そしてユウナ達とティータに視線を向けたオリヴァルト皇子は突如リュートを取り出し

「フッ、まずは出会いと再会を祝して一曲贈らせてもらうとしようか♪」

「はは、いえ……あまり時間もないでしょうし。」

「あはは……全然変わりなくて安心しましたっ。」

「……ご無沙汰しています。1年ぶりくらいでしょうか。」

その場で一曲弾こうとしているオリヴァルト皇子の様子に冷や汗をかいて脱力したリィンとティータ、クルトは苦笑しながら答えた。

「え、え……?」

「……噂には聞いていましたがこういう方みたいですね。」

「むしろ噂以上だと思うわよ♪」

「……まあ、リフィアと比べればオリヴァルト殿下の方がまだ”マシ”かと。」

「エ、エリゼお姉様……お二人に対して失礼ですわよ……」

(”リフィア”……確かお義父さんの孫娘で、メンフィル帝国の王様の跡継ぎの皇女よね……?あれ……?という事はもしかして私、お義父さんの娘になった時点で”叔母”にもなっているのかしら……?)

あまり動じていない様子でオリヴァルト皇子と接しているリィン達を見たユウナは戸惑い、ジト目で呟いたアルティナにレンと共に指摘したエリゼの言葉を聞いたセレーネが冷や汗をかいている中、ある事が気になったゲルドは考え込んでいた。

「クスクス……」

「もうお兄様、初めての方が引いていらっしゃいますわ。」

「ふふ、どうぞ遠慮なくおかけになってくださいね。

一方その様子を見守っていたリーゼアリアは微笑み、アルフィンは呆れ、リーゼロッテ皇女はリィン達にソファーに座るように促した。



「―――いやはや、懐かしいねぇ。ティータ君とはリベールの異変、いや、”影の国”以来になるかな?」

「あはは、あの時は大変でしたねぇ。でもオリビ―――オリヴァルト皇子が元気そうで安心しましたっ。」

「フッ、君の方こそ素敵なお嬢さんになったものだ。アガット君も、君の成長ぶりにさぞヤキモキしてることだろう。」

「そ、そんなことは………えへへ。」

「クスクス、嬉しさを隠しきれていないわよ、ティータ♪」

オリヴァルト皇子の賛辞に恥ずかしそうに笑った後嬉しそうな表情をしているティータにレンはからかいの表情で指摘し、その様子を見守っていたリィン達は冷や汗をかいて脱力した。

「そう言えばアガット君とはサザ―ラントで会ったそうだが……―――前回の演習の話は聞いている。リウイ陛下達の要請、本当にお疲れだった。」

「いえ、旧Ⅶ組やステラ達、アガットさんが助けてくれたのもありますし……クルト、ユウナ、アルティナを始め、第Ⅱの全員が力を貸してくれました。」

「教官………」

オリヴァルト皇子の言葉に答えたリィンの話を聞いたクルトは驚いた表情をした。



「ふふ、クルトさんがⅦ組に入ったとは聞いていましたが、これも何かの縁みたいですね。………まさかセドリックがあんな事をするとは思いませんでしたけど。」

「あ…………」

「…………」

「……ロッテ。」

複雑そうな表情をしたリーゼロッテ皇女の言葉にセドリック皇太子が機甲兵教練に乗り込んできた時の事を思い出したクルトは呆けた声を出し、アルフィンとリーゼアリアは複雑そうな表情をした。

「お耳に入っていましたか。」

「そう言えば、あの偉そうな皇太子の義姉にあたるんでしたっけ―――」

セドリック皇太子の事を思い出した表情を厳しくしてセドリック皇太子についてあまりよく思っていない様子のユウナの発言を聞いたリィン達はユウナに注目した。

「……流石に不敬かと。」

リィン達に注目されたユウナが我に返って慌てている所をアルティナがリィン達を代表して指摘した。



「いや、返す言葉もないかな。リィン君に対してもそうだが……」

「特にクルトさんは、ご実家も含めて本当に申し訳ないことを……この通り、お詫びいたします。」

「そんな……どうかお気になさらないでください!父も兄も、叔父だって既に納得している話ですし!」

「……………………」

(……?一体なにが……)

オリヴァルト皇子の言葉に続くように謝罪したリーゼロッテ皇女の言葉を聞いたクルトは謙遜した様子で答え、その様子を見守っていたリィンは目を伏せて黙り込み、ユウナは不思議そうな表情で首を傾げた。

「自分に対する配慮も不要です。どちらかというと、殿下の見違える成長ぶりに戸惑いの方が大きいといいますか……」

「そうですわよね……?わたくし達がセドリック殿下とお会いした回数は指で数えられる程度ですが、それでもまるで”人が変わったかのような”成長ぶりですわよね……?」

「……お兄様、リーゼロッテ。セドリックは一体いつから、あんな風になったのかしら……?」

リィンの意見に頷いたセレーネは戸惑いの表情をし、アルフィンは不安そうな表情でオリヴァルト皇子達に訊ねた。



「……去年の夏くらいかな。体調不良で夏至祭を休んだ後、別人のように変わった印象となった。」

「急に背も伸びて、逞しくなって……それだけならよかったのですが強引なところが目立つようになって……お義母様も気にしていましたが、”あの方”が原因に違いありません。」

「”あの方”ねぇ?まあ、皇太子の今の性格を考えたら誰に似てきたのかは明白よね。」

「レン教官、それは………」

(………体調不良で身体を休んだ後に、別人のように変わった話も気になるわね………多分、セドリック皇太子に”何か”があってそんな事になったのだと思うのだけど……)

オリヴァルト皇子の後に答えたリーゼロッテ皇女の話を聞いて意味ありげな笑みを浮かべているレンの言葉を聞いたエリゼは複雑そうな表情をし、ゲルドは静かな表情でセドリック皇太子の変貌について考え込んでいた。

「……はい、オズボーン宰相です。最近、セドリックが随分、懇意にしているみたいで……」

「……………」

(お兄様……)

(兄様……)

「あ、あの方が………」

「”鉄血宰相”なんて呼ばれている方でしたっけ……?」

「それに、”西ゼムリア通商会議”の時に自分を狙うテロリストとそのテロリストを殲滅する為に雇った猟兵達――――”赤い星座”を利用して、クロスベル併合の第一段階を築き上げようとしたけど、ヴァイスハイト陛下達の反撃によって痛手を受けたって言われてる……」

リーゼロッテ皇女の答えを聞いたその場にいる多くの者達が血相を変えている中真剣な表情で黙り込んでいるリィンに気づいたセレーネとエリゼは心配そうな表情をし、クルトは驚き、ティータは不思議そうな表情で訊ね、ユウナは表情を厳しくした。



「……元々、宰相の豪腕ぶりに憧れていた子ではあったからね。元気を取り戻し、逞しく成長したきっかけに宰相が一役買っているのなら、個人的には感謝したいくらいさ。今の強引さも、いずれセドリック自身、その是非に気づくと私は信じている。」

「相変わらずオリビエお兄さんは肝心な事に限って、判断が鈍いわよねぇ。――――1年半前せっかくレンが”革新派”の”力”を一時的に著しく衰退させてあげたのに、それを利用せずむざむざと”鉄血宰相”の復権を許したんだから。パパも指摘したでしょうけど、”鉄血宰相”は宰相の癖に内戦終結に何も貢献していないのだから、それを口実に”鉄血宰相”をエレボニアから排除できたでしょうに。」

「レ、レンちゃん………」

オリヴァルト皇子の話を聞いて呆れた表情で指摘したレンの言葉を聞いたティータは複雑そうな表情をし

「耳が痛い話だ。だけど例え私がその為に動いたとしても、父上が宰相殿の続投を望んでいたから宰相殿の排除は無理だったと思うよ。」

「―――だったら、ユーゲント皇帝の皇位も剥奪して、自分が”皇”になればいいだけの話じゃない。ユーゲント皇帝は内戦勃発時真っ先に貴族連合軍に囚われて、結局レン達が救出するまで内戦終結の為に何もしてこなかったのだから。内戦や七日戦役の件に加えてエレボニアの若き英雄―――”灰色の騎士”と結ばれた事でエレボニアの民達に大人気なアルフィン夫人と組めば、ユーゲント皇帝から皇位を簒奪する事も結構簡単だったと思うわよ?幸いオリビエお兄さんもアルフィン夫人程じゃないけど内戦終結に貢献していたのだし。」

「「………………」」

「レ、レンちゃん……さすがに今の言葉はわたしも不味いと思うんだけど……」

「レ、レン教官!お言葉ですが、それはさすがにユーゲント陛下にもですが、オリヴァルト殿下に対しても不敬かつ危険な発言ですわよ……!」

オリヴァルト皇子に対して痛烈な指摘をしたレンの指摘にリィンとアルフィンがそれぞれ複雑そうな表情で黙り込んでいる中、ティータは不安そうな表情で呟き、セレーネは慌てた様子でレンに注意をした。



「ハハ、そう言う厳しい意見や危ない意見を躊躇いもなく口にできるところも相変わらずだね………しかも今のエレボニアの状況を考えると、レン君の意見通りにエレボニアの為にアルノール家の一員として”非情”な手段を取った方がよかったかもしれないと思えるのが洒落にならない所だね……」

「お義兄様………」

疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子の様子をリーゼロッテ皇女は心配そうな表情で見つめ

「クスクス、いっそ”他国との交流を深める為という名目”でパパやヴァイスお兄さんに”皇家”に関する心構えやその他諸々について学んだらどうかしら?ミュラーお兄さんあたりなら、『ちょうどいい機会だから、ついでにそのふざけた性根を叩き直してもらってこい』とでも言って賛成すると思うわよ?」

(兄上なら本当に言いそうで冗談になっていないな……)

「ハハ、その光景が目に浮かぶよ。―――話は逸れたが、クルト、リィン君も。今はセドリックの事は見守ってやって欲しい。」

「お兄様……」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの話にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中兄のオリヴァルト皇子に対する普段の接し方を思い浮かべたクルトは表情を引き攣らせ、オリヴァルト皇子は苦笑した後表情を引き締めてクルトとリィンに声をかけ、その様子をアルフィンは静かな表情で見守っていた。

「………はい。」

「勿論です、殿下。」

(……色々と複雑な事情があるみたいですけど……)

(ふふ、でもちょっと見直したかも。弟さんを気遣う良いご兄妹っていうか。)

(うん……オリヴァルト皇子にとって、リーゼロッテ皇女にとって、そしてアルフィンにとってセドリック皇太子が大切な”家族”である証拠ね……)

オリヴァルト皇子の言葉に二人がそれぞれ答えている様子を見守っていたティータの小声に続くように呟いたユウナの言葉に頷いたゲルドは微笑ましそうな表情でオリヴァルト皇子達を見つめた。



「あの、義姉様。この前の手紙の件ですが……やはり考え直して頂けないでしょうか?」

「フウ……手紙にも書いたように、メンフィル帝国の許可もなしにそんな事はできないし、例え許可が出たとしても不規則な日数で女学院に通うなんて特別な扱いをしたら、生徒達に”示し”がつかないでしょう?」

リーゼロッテ皇女に話しかけられたアルフィンは疲れた表情で溜息を吐いて答え

「それでも、です。生徒達もそうですが教師の方々も皆、義姉様が女学院に戻ってくることを心から待ち望んでおります。その証拠に生徒達にアンケートを取った所、全員が例え不規則な日数でも義姉様と共に学びたいというありがたい回答を頂けましたし、学院長も義姉様の事は”退学”扱いではなく”休学”扱いにしてくださっていますし、義姉様の事情についても理解しておられ、義姉様を”特例”扱いする事も了承してくださっています。」

「もし、どうしても生徒として再び女学院に通う事が厳しいのでしたら、”講師”として女学院に来て下さることはどうでしょうか?」

アルフィンの答えを聞いたリーゼロッテ皇女はリーゼアリアと共に説明をした。

「”講師”って……わたくしが貴女達に何を教えろというのかしら?わたくしにはリィンさん達のように人にものを教える事ができるような知識はないわよ?」

「上流階級に嫁いだ女性の一人として、実際に嫁いだ家での生活や気をつける事等を教えて頂ければと。皇女殿下もご存知の通り聖アストライア女学院は将来上流階級に嫁ぐ淑女を育てる為の学術機関でもありますから、私達と同年代でありながら既にリィンお兄様の伴侶となった皇女殿下の夫婦生活は私達にとっても身近に感じて将来の勉強になると思います。」

「うふふ、アストライア女学院の生徒達がリィンお兄さんとアルフィン夫人の夫婦生活に興味がある事は嘘ではないでしょうけど……その興味がある夫婦生活の中には当然”夜の生活”も含まれているのでしょうね♪」

「ブッ!?」

「レ、レン教官!?」

「は、はわわわわわ……っ!?」

「夫婦関係での”夜の生活”……?――――あ、それってもしかして……」

「間違いなく”子作り”の事かと。」

「わー!わー!ふ、二人とも男がいる前でそんな事を堂々と口にしちゃダメよ!」

「ハア………」

「あの、レン教官……お言葉ですがそういう事はせめて本人達がいない所で聞くべきだと思うのですが……」

「ハッハッハッ、相変わらずクルトもミュラーのように真面目だね。私にとっても”甥”か”姪”ができるかもしれない他人事ではない話だから、是非アルフィンの講義を女生徒達と共に受けたいね♪」

「もう、お義兄様ったら………」

アルフィンの疑問に答えたリーゼアリアの答えに続くようにからかいの表情で指摘したレンの話を聞いたリィンは吹き出し、セレーネは驚き、ティータは顔を赤らめて慌て、首を傾げた後ある事に気づいたゲルドとジト目で呟いたアルティナの言葉を聞いたユウナは顔を真っ赤にして指摘し、困った表情でレンに指摘したクルトに対して呑気に笑って答えたオリヴァルト皇子の答えを聞いたその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リーゼロッテ皇女は呆れた表情で溜息を吐いた。



「ふう………復学の件にしても講師の件にしても、まずはメンフィル帝国に話を通してからよ。お兄様の頼みでわたくしが宿舎の管理人を務めている事やわたくしがメンフィル帝国の許可も無しに勝手にそのような事ができるような立場ではない事は貴女達も知っているでしょう?」

「それは…………」

「………―――わかりました。幸い今回の交流会でメンフィル皇家の方々がいらっしゃっている上、その中にはシルヴァン皇帝陛下の側妃であられるセシリア将軍閣下もいらっしゃっているのですから、まずはセシリア将軍閣下達の説得から始めようと思います。」

「えっと……さっきから気になっていたけど、アルフィンがリーゼアリア達の学校に戻ってきて欲しいって、どういう事なのかしら?」

アルフィンの答えを聞いたリーゼアリアが複雑そうな表情で答えを濁している中リーゼロッテ皇女が静かな表情で答えるとゲルドが質問をした。

「……お恥ずかしい話、内戦が終結してから学費を払えなくなった生徒達が学院を去ってしまう事が続出している状況でして。その件に加えて内戦や七日戦役の件で女学院の生徒達は今後の自分達に不安や暗い思いを抱えて過ごしている状況で、その状況を少しでも良くする為に生徒達が今でも慕っているアルフィン皇女殿下が女学院に復学して頂けるように、ロッテが何度か手紙で嘆願している状況なんです。」

「聖アストライア女学院は現在そのような事になっているのですか………」

「内戦が終結してから学費を払えなくなった理由は………やはりエレボニア帝国政府の貴族達に対する締め付けの影響ですか?」

「………ああ。今はリーゼロッテやリーゼアリア君が手を尽くして、学費を払えなくなった生徒達に対する救済策を考えて、これ以上学費不足による退学者の続出を何とか食い止めている状況なんだ。」

リーゼアリアの話を聞いたクルトは重々しい様子を纏って呟き、真剣な表情を浮かべたリィンに訊ねられたオリヴァルト皇子は静かな表情で答えた。



「女学院か~……お姫様のアルフィンさんやリーゼロッテ皇女殿下、それに貴族のお嬢様のリーゼアリアさんが通うような所だから、あたしにとっては敷居が高すぎて、絶対縁がない所なんでしょうね~。」

ユウナは聖アストライア女学院を思い浮かべて呟いたが

「まあ、どの道ユウナさんの場合、座学の時点でついていけないかと。聖アストライア女学院の学力はエレボニアではトップクラスとの事ですし。」

「うぐっ………いつもノートを見せてもらっている身としては、反論できないわ……」

「ア、アハハ………」

アルティナの指摘を受けると唸り声をあげて疲れた表情になり、その様子を見守っていたリィン達が冷や汗をかいている中ティータは苦笑していた。

「フム……女学院の件は別にしても、せっかく帝都(ヘイムダル)近郊の町に滞在しているのだから、たまに父上や義母上(ははうえ)に顔を見せるついでに女学院のOGとして、女学院にも君の元気な様子を見せるくらいならメンフィル帝国の許可をわざわざ取る必要もないと思うが、そちらの方はどうかな?」

「そうですね……御二方とも口には出しませんが、アルフィン義姉様と中々会えない事を寂しく思っていると思いますよ?」

「それは………」

「えとえと……レンちゃん。アルフィンさんがリィン教官と結婚した”事情”は知っているけど………今オリヴァルト皇子が言った提案も、やっぱりリウイ陛下達に話を通さないとダメなのかな?」

オリヴァルト皇子とリーゼロッテ皇女の話にアルフィンが言葉を濁している中、ティータはレンに訊ね

「別にそのくらいだったらパパ達は何も言わないと思うわよ。そもそも、アルフィン夫人がリィンお兄さんに嫁いだ時点でアルフィン夫人は”シュバルツァー家の一員”なんだから、幾ら皇家とはいえ深い理由もなく”家庭の事情”に口出しするような暇な事はしないわよ。まあ、あまりにも頻繁だったら、さすがに口出しするかもしれないけどね。―――ああ、後わかっていると思うけど”夫”であるリィンお兄さんの許可は必要よ?」

「俺は当然許可します。事情があるとはいえ、ユーゲント陛下達は普通の親子達よりも早くアルフィンと離れて暮らす事になったのだから、せめてもの親孝行として、たまには元気な様子を見せに行くべきだと俺も思うぞ?」

「リィンさん……………わかりました。その件については前向きに考えておきますわ。」

「そうか………なんだったら、”夫婦揃って”父上達に顔見せに来てもいいんだよ?父上達も義理の息子になったリィン君と機会があればゆっくりと色々な事を話したいだろうしね。それとアルフィンの子供―――つまり私の甥か姪で、父上達にとっては孫をいつ作るつもりなのかも気になっているだろうしね♪」

レンとリィンの答えを聞いたアルフィンは目を丸くした後口元に笑みを浮かべて答え、オリヴァルト皇子は安堵の表情で溜息を吐いた後からかいの表情でリィンとアルフィンを見つめ、オリヴァルト皇子の発言にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「お義兄様ったら……お客様の目の前でそんな事を言うなんて、お下品ですわよ。」

「あいた。」

「ふふっ、”その役割”もちゃんと受け継いでくれたのね、リーゼロッテは。」

「ア、アハハ………」

するとその時リーゼロッテ皇女は懐から取り出したハリセンでオリヴァルト皇子の頭を軽く叩き、その様子を見ていたリィン達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アルフィンとティータは苦笑していた。




 

 

第48話

~オルキスタワー・36F~



「―――ふふ、紹介が遅くなりましたが、私もご挨拶させていただきますね。リーゼアリア・クレール。リィンお兄様とエリゼお姉様の従妹になります。Ⅶ組の皆さんや、ティータさん達には日頃から従兄達がお世話になっております。」

話が一端途切れた事を確認したリーゼアリアは自己紹介をしたが

「って、お世話になっているのはこっちですってば……!ああいや、別にエリゼさんはともかく教官のことは尊敬しても嫌ってもいなくて……」

「???」

ユウナの様子を見ると不思議そうな表情で首を傾げた。

「やれやれ……―――こちらこそ、教官やエリゼさんには日頃から何くれとなくお世話になっています。」

「ふふ、わたしも授業や機甲兵関連もそうですが、寮生活でお世話になっています。」

「私も編入した時から、少しでもみんなに追いつけるように二人には色々とお世話になっているわ。」

「そうですか………二人ともそれぞれが就いている役職についてはまだ若輩の身、どうかよろしくお願いいたしますね。」

クルトやティータ、ゲルドの言葉を聞いて安堵の表情を浮かべたリーゼアリアはユウナ達を見つめて軽く会釈をした。



「参ったな………」

「フフ、会うのは14年ぶりだというのに、お兄様達の事を本当に大切に思っていらっしゃるのですね、リーゼアリアさんは……」

「……………」

その様子を見守っていたリィンは苦笑し、セレーネは微笑み、エリゼは目を伏せて黙り込んでいた。

「ふふ、澄ましちゃって。本当は二人の事を誰よりも尊敬して信頼しているのに♪」

「ロ、ロッテ……!―――コホン、それはともかく。―――リィンお兄様、エリゼお姉様。改めてになりますが、お久しぶりです。こうして再び顔をあわせる事ができて、本当によかったです。」

「ハハ、大げさだな、リーゼアリアは。叔父さん達にも俺達との交流を許してもらったんだから、これからも会って話す機会は何度もあるさ。」

「……そうですね。――――最も、叔父様達は私達と貴女が”14年前と違ってそれ以上の関係”になる事を望んでいらっしゃっているようですが。」

(”14年前と違ってそれ以上の関係になる事を望んでいる”……?)

(一体どういう意味だ……?)

「…………………」

「エリゼお姉様……」

嬉しそうな表情で自分達を見つめるリーゼアリアの言葉にリィンが苦笑しながら答えた後エリゼは静かな表情でリーゼアリアを見つめて答え、エリゼの話の中にあったある言葉が気になったゲルドとクルトは不思議そうな表情で首を傾げ、事情を知っているアルティナは静かな表情で黙って状況を見守り、セレーネは心配そうな表情でエリゼを見つめた。



「あ………」

「……エリゼ。」

「―――ごめんなさい。”あの件”は貴女も知らされていなかったそうだから、貴女にその件を持ち出すのは筋違いね。」

一方リーゼアリアが呆けた声を出して悲しそうな表情をしている中その様子を見たリィンは気まずそうな表情でエリゼに視線を向け、視線を向けられたエリゼは静かな表情でリーゼアリアに謝罪した。

「いえ………謝罪するのは私の方です。14年前の件といい、この前の件といい、私はお二人に本当の妹のように可愛がって頂いたのに、その恩を仇で返す事ばかりを……」

「アリア………」

悲しそうな表情を浮かべたリーゼアリアの言葉を聞いたリーゼロッテ皇女は心配そうな表情でアリアを見つめた。

「どちらの件もリーゼアリアの意志によるものではないだろう?……叔父さん達は”エレボニア帝国貴族”として当然の選択をしただけだ。」

「ですが……」

リィンの慰めの言葉を聞いてもリーゼアリアは申し訳なさそうな表情をしたが

「それに俺達にはこの言葉は俺の師匠の一人からの受け売りなんだが………。『人は様々なものに影響を受けながら生きていく存在だ。逆に生きているだけで様々なものに影響を与えていく。それこそが『縁』であり―――『縁』は深まれば『絆』となる。そして、一度結ばれた『絆』は決して途切れることがないものだ。遠く離れようと、立場を(たが)えようと何らかの形で存在し続ける……』、という教えを受けた。その教え通り、俺達とリーゼアリアも14年前に『絆』で結ばれて、色々あってお互い縁遠い存在になったがこうしてまた復縁する事ができたんだ。だから、そんな事は気にするな。」

「……ぁ…………」

優し気な微笑みを浮かべたリィンの言葉を聞くと呆けた声を出した。



「ふえっ?そ、その言葉って確かヨシュアお兄ちゃんがエステルお姉ちゃんと一緒に戻って来た時にカシウスさんがヨシュアお兄ちゃんに教えた………」

「フッ、彼もカシウスさんの”弟子”の一人でもあるから、カシウスさんから『絆』についての教えも受けているのさ。」

「カシウス………――――リベールの英雄――――”剣聖カシウス・ブライト”がそのような教えをリィン教官に……」

「ちなみにカシウス・ブライト少将は”風の剣聖”の兄弟子でもあります。」

「ええっ!?ア、アリオスさんの……!?」

『『縁』は深まれば『絆』となる。………遠く離れようと、立場を違えようと、一度結ばれた『絆』は決して途切れることがないもの』、か。フフ、いい言葉ね。」

一方リィンが口にした聞き覚えのある言葉に首を傾げたティータに静かな笑みを浮かべて答えたオリヴァルト皇子の説明を聞いたクルトは目を丸くし、オリヴァルト皇子の説明を補足したアルティナの話を聞いたユウナは驚き、ゲルドは優し気な微笑みを浮かべていた。

「幸い俺達には時間もあるんだ。また、以前のように手紙のやり取りやお互いの時間ができたら実際に会って交流を深めて行こう。」

「ぁ………―――はいっ!」

「…………………」

「うふふ、ここでも出たわね、リィンお兄さんお得意の”必殺笑顔で頭なでなで”が♪」

(ふふふ、もはやこれで今後”彼女がご主人様とどんな関係になるのか”はわかったも同然ですね。)

(うふふ、私達にはわかるわよ。次はその娘をハーレムの一員にするのでしょう?)

(予想はしていたけど、あの様子だとリーゼアリアもリィンの事を昔から慕っていたのでしょうね……)

そして立ち上がって近づいてきたリィンに頭を優しく撫でられて嬉しそうな表情で返事をしたリーゼアリアの様子をエリゼが静かな表情で見守っている中、ユウナ達は冷や汗をかいて脱力し、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、リザイラは静かな笑みを浮かべ、ベルフェゴールはからかいの表情になり、アイドスは苦笑していた。

「フッ、ならば私達もリィン君達に負けずに同じ兄妹の間柄としてお互いの仲を深めようじゃないか!という訳でまずはアルフィン、まずは再会のハグをしようか♪」

「遠慮しますわ。わたくしはこれでも”人妻”ですから、例え相手がお兄様といえど、夫であるリィンさん以外の男性と抱きしめ合うのはさすがにどうかと思いますし。」

「ガーン!!」

「クスクス……」

「フフ………」

一方オリヴァルト皇子もリィンに続くように立ち上がってアルフィンを見つめて抱擁のポーズをしたが、アルフィンがあっさり断りの答えを口にするとショックを受けた様子で声を上げ、その様子を見ていたユウナ達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ティータとリーゼロッテ皇女は微笑ましそうに見守っていた。



「うふふ、リィンお兄さんはそれでいいとして、エリゼお姉さんはどうかしらねぇ?」

「レ、レン教官……何もそこで水を差すような事を言わなくても……」

するとその時意味ありげな笑みを浮かべたレンはエリゼに視線を向け、レンの言葉を聞いたセレーネは不安そうな表情をしている中その場にいる全員はエリゼに注目し

「……………………」

注目されたエリゼは何も語らず目を伏せて黙り込んでいた。

「あの……エリゼお姉様……やはりエリゼお姉様はお父様達や私の事を今でもお怒りになられているのでしょうか……?」

「………叔父様達はともかく、貴女に関してはそれ程思う所はないわ。だけど一つだけ聞きたい事があるわ。――――――貴女はどうして”聖アストライア女学院”に入学してからも、私達に連絡を取らなかったのかしら?遠方から”聖アストライア女学院”に通っている女学生たちは女学院専用の”寮”で生活しているのだから、寮生活をしていた貴女なら叔父様達の目を盗んで私達に連絡を取る機会は幾らでもあったはずよ。」

「!!そ、それは………」

エリゼの問いかけに目を見開いたリーゼアリアは言い辛そうな表情をし

「大方叔父様達の言いつけを律儀に守っていたか、何年も連絡を取っていないのだから今更連絡を取るのは気まずいと思っていたのでしょう?――――そして内戦が終結して兄様が内戦と七日戦役で活躍した事で有名になった事で叔父様達からのお許しが出て連絡を寄越した事からして………――――結局貴女の私達に対する絆は”親の許しがないと連絡すら自発的に寄越す事はしない程度”だったものなのでしょう?」

「ぁ………」

「エリゼ!さすがにはそれはリーゼアリアに対して言い過ぎじゃないか!?」

エリゼの正論に反論できないリーゼアリアは呆けた声を出して辛そうな表情で顔を俯かせ、リィンはエリゼに注意をした。



「………―――申し訳ございません。少々頭に血が上っていました。頭を冷やす為に私は先に失礼しますので、兄様達は私の事は気にせず殿下達との会談を続行してください。―――オリヴァルト殿下、リーゼロッテ殿下、それと皆様方。みっともない所をお見せしてしまい、大変失礼しました。―――それではお先に失礼します。」

するとエリゼは静かな表情で謝罪をした後立ち上がってリィン達を見回して頭を下げて謝罪をし、そして部屋から出て行き

「エリゼお姉様!?す、すみません!わたくしはエリゼお姉様を追いかけますでの、わたくしもお先に失礼しますわ!」

「ああ、エリゼの事は頼む!」

エリゼの行動に驚いたセレーネはリィンの言葉を背に受けてエリゼの後を追って部屋を出た。

「……………………」

「アリア…………」

一方二人が出て行った後辛そうな表情で顔を俯かせ続けているリーゼアリアの様子をリーゼロッテ皇女は心配そうな表情で見つめ

「え、えっと………」

「エリゼはリーゼアリアの一体何に対してあんなに怒っているのかしら?」

「ゲ、ゲルドさん。さすがに本人がいる目の前でそれを訊ねるのは……」

「……ちなみに君は何か事情を知っているのか?」

「……まあ、”それなり”には。」

リーゼアリアにかける言葉がないユウナは気まずそうな表情をし、ゲルドの質問を聞いたティータは冷や汗をかいて不安そうな表情でリーゼアリアに視線を向け、クルトに訊ねられたアルティナは静かな表情で答えた。



「……申し訳ございません、オリヴァルト殿下、リーゼロッテ殿下。自分達の家庭の事情に関係のない殿下達にまで、気分を悪くするような所を見せてしまって。」

「いや、エリゼ君がリーゼアリア君に対してあのような態度を取った元凶は間接的ではあるが私達”アルノール皇家”も関わっているのだから、むしろ謝罪するのは私達の方だ。」

「その……お義姉様、お義姉様はエリゼさんと親しい様子ですが……お義姉様はどのようにして”アルノール皇家やエレボニア帝国貴族を嫌っている”エリゼさんと親しくなれたのでしょうか?」

「へ…………”アルノール皇家やエレボニア帝国貴族”を嫌っているってどういう事ですか?エリゼさん、普段の寮生活でもエレボニア帝国貴族のゼシカやミュゼとかに対してもあたし達と同じ態度で接していますし、さっきもオリヴァルト殿下やリーゼロッテ殿下に対しても普通に接していましたけど……―――っていうか、エリゼさんも貴族のお嬢様ですよね?なのにどうして、貴族やエレボニア皇家を……」

リィンに謝罪されたオリヴァルト皇子は静かな表情で答え、リーゼロッテ皇女のアルフィンへの質問を聞いたユウナは困惑の表情をし

「ふふっ、別にエリゼはアルノール皇家やエレボニア帝国貴族全てを嫌っているという訳ではないわ。エリゼが嫌っているのはお父様と身分にうるさいエレボニア帝国貴族よ。」

「エレボニアの王様と身分にうるさい貴族達を……?」

「………もしかしてエリゼさんがリーゼアリアさんに対して先程のような態度を取った理由はエリゼさんとリィン教官の父君――――テオ・シュバルツァー男爵閣下がエレボニアの社交界から追放された件が関係しているのですか?」

「ふえ……?リィン教官達のお父さんがエレボニアの社交界から追放されたって、一体どういう事なんですか??」

リーゼロッテ皇女の疑問に苦笑しながら答えたアルフィンの話を聞いたゲルドが首を傾げている中察しがついたクルトのリィン達に対する確認の問いかけを聞いて首を傾げたティータはリィン達を見つめた。

「……そうだな。本当なら俺達の家庭の事情に君達を巻き込むつもりはなかったのだが、巻き込んでしまった以上説明をするべきだな―――――」

クルト達の問いかけに目を伏せて黙って考え込んでいたリィンは目を見開いてオリヴァルト皇子達と共にエリゼがリーゼアリアに対して厳しい態度を取る原因となった事情―――――14年前リィンとエリゼの父親であるテオ・シュバルツァー男爵が雪山に捨てられたリィンを拾って養子にした事でエレボニアの社交界のゴシップの的となり、それ以降エレボニア貴族達の煩わしい言葉に嫌気がさしたシュバルツァー男爵はエレボニアの社交界に姿を現す事はなくなり、またそのゴシップの件を機に今まで交流関係があったリーゼアリアの実家である”クレール子爵家”からも一方的に絶縁された事、そして内戦が終結して”貴族連合軍”が敗北したエレボニア貴族達の立場が弱くなった事で、将来を危ぶんだリーゼアリアの両親がリィンとリーゼアリアを”謝罪”という名目で婚約させようとし、その場に両親と共に同席していたエリゼが叔父夫婦に対して両親も初めてみるような凄まじい怒りを見せて叔父夫婦を追い返した話を説明した。



「14年前の件に加えてそのような事が………」

「だからエリゼは身分にうるさいエレボニア帝国の貴族達とエリゼのお父さんと親しい関係でありながら何もしてくれなかったアルフィンのお父さん――――エレボニアの王様を嫌っているのね………」

「はい……お恥ずかしい話、未だにエレボニア帝国貴族の多くは”尊き血”に拘っている家が多い状況なんです……」

「で、でもミュラーさんや先月の特別演習の時に助けてくれたラウラさん、それにゼシカさんやミュゼさんもエレボニア帝国の貴族の人達ですよね?わたしにはちょっと想像し辛いです……」

「まあ、ティータの場合、今まで出会ったエレボニアの上流階級の人達の中でも”稀な存在”ばかりだったから、ティータがそう思うのも無理はないわ。」

「ハハ、そうだね。後は身分制度を廃したリベール王国に住んでいるからというのもあるかもしれないが………」

「それらを踏まえるとティータさんは”運がよかった”からかと。」

事情を聞き終えたクルトは重々しい様子を纏って呟き、静かな表情で呟いたゲルドの言葉に頷いたリーゼロッテ皇女は悲しそうな表情をし、戸惑いの表情をしているティータの意見にレンとオリヴァルト皇子は苦笑しながら、アルティナは静かな表情で指摘した。

「う、うーん………クロスベルが自治州だった頃エレボニア帝国の貴族達も旧カルバード共和国の旅行者達のように貴族だからという理由でクロスベルで悪さをしておきながら、ハルトマン元議長達――――エレボニア帝国派の議員達にもみ消されたりした事もありますから、身分にうるさい貴族達を嫌うエリゼさんの気持ちも何となくわかるんですが………その件でリーゼアリアさんにまで厳しい態度を取る理由がわからないんですよね……リーゼアリアさんはリィン教官やエリゼさん達のように、平民のあたし達に対しても普通に接してくれますし……」

「それはやはり、エリゼお姉様はお父様達の言いつけを守っていた私もお父様達と”同類”だと見ているからだと思います………」

「リーゼアリア……」

困惑の表情をしているユウナの疑問に辛そうな表情で答えたリーゼアリアの様子をリィンは心配そうな表情で見つめた。

「――――私はそれらの件が理由でエリゼはリーゼアリアに対して怒っているんじゃないと思う。」

「え………」

「あら、ゲルドはどうしてそう思ったのかしら?」

しかし意外な推測を口にしたゲルドの答えを聞いたリーゼアリアは呆け、レンは目を丸くしてゲルドに訊ねた。



「だって、本当にエリゼがリィン教官の件でリーゼアリアに対しても怒っていたら、再び始めたリーゼアリアとの文通をエリゼはしないでしょう?」

「それは………」

「言われてみればそうですね。」

「ああ……確かリーゼアリアとの文通の頻度は俺と同じくらいだったはずだ。―――そうだよな、リーゼアリア?」

「は、はい。お父様達が私にも話を通さずテオ叔父様達にお兄様と私との婚約を提案してからも、文通は止まっていません。」

「フム………――――レン君、君ならエリゼ君の考えもわかるんじゃないかい?」

ゲルドの説明を聞いたクルトとアルティナが目を丸くして同意している中、リィンに確認されたリーゼアリアの答えを聞いて考え込んだオリヴァルト皇子はレンに訊ねた。

「あら、そこでどうしてレンに聞くのかしら?」

「ハハ、1年半前君がクロスベルの件で新たに得た”能力”なら、エリゼ君の考えも読み取れるだろう?」

「そ、それは………」

「確かにレン教官なら可能かと。」

「ア、アハハ……」

(?一体何の事かしら……?)

レンが持つ異能の一つ――――”他人の記憶を読み取る能力”の事を知っていたリィンは表情を引き攣らせ、アルティナは静かな表情で答え、ティータは苦笑し、その様子をユウナは不思議そうな表情で見守っていた。



「そうね………………――――エリゼお姉さんがリーゼアリアお姉さんに対して怒っていた理由は簡単に言えばリーゼアリアさんのエリゼお姉さんやリィンお兄さんに対する”絆の薄さ”よ。」

「”絆の薄さ”………それは一体どういう意味なのでしょうか?」

その場で集中して自分の記憶の中のエリゼの記憶を読み取ったレンの答えを聞いたリーゼロッテ皇女は真剣な表情でレンに訊ねた。

「その言葉通りよ。リーゼアリアお姉さんも言っていたけど、リーゼアリアお姉さんは二人からは本当の妹のように可愛がってもらっていたのでしょう?なのに、幾ら両親の命令だからと言って、その命令を破らずに内戦終結まで連絡をしてこなかったリーゼアリアお姉さんと自分達との”絆の薄さ”に怒っているのよ。もし、本当にお互い大切な姉妹(きょうだい)であると認識していたら、親の言いつけなんて破ってでも連絡をするでしょう?――――ましてやリーゼアリアお姉さんはアストライア女学院に入学してからは親の目が届かない寮生活だったんだから。」

「……ぁ……………」

「エリゼ……………」

レンの答えを聞いたリーゼアリアは呆けた声を出し、リィンは複雑そうな表情をした。

「ティータならエステル達、ユウナならロイドお兄さん達、クルトならミュラーお兄さん、アルティナならリィンお兄さん、ゲルドならセシルお姉さん達と親の一方的な都合で連絡を取るなって両親に命令をされたら、従うかしら?」

「お、お母さん達はそんな事は言うような人達じゃないけど………もし、そんな事を言われてもわたしはお母さんたちの言う事を聞かないよ。エステルお姉ちゃん達もわたしにとってお母さんたちと同じくらい大切な人達だもの。」

「あたしだって同じです!ロイド先輩達はあたしにとって憧れの存在なんですから!」

「……自分も同じです。例えもしそのような事が起こったとしても納得のできる理由でなければ、兄上との連絡を父上達の目を盗んででもしていたと思います。」

「親が存在しないわたしにはイマイチ理解できませんが……それでもわたしはリィン教官を補佐する使用人としてリィン教官の意志によって引き取られたのですから、リィン教官以外の人達に指示をされてリィン教官と連絡を交わす事を禁じられる事は納得できません。」

「……私も。セシルお義母さん達は初めてできた私の”大切な家族”だもの。」

レンにそれぞれ例えを出されたティータ達はそれぞれ即答し

「―――ご覧の通り、ティータ達もそれぞれ親の言いつけなんて簡単に破れるようなそれぞれにとって大切な”絆”があるでしょう?エリゼお姉さんだって例え両親どころか主君であるリフィアお姉様に逆らってでも、リィンお兄さん達との絆を大切にしたでしょうね。―――つまりリーゼアリアお姉さんに足りなかったものは”親の言いつけ”という”呪縛”を自ら破る”勇気”よ。」

「……………結局は私の自業自得だったのですね………もし、寮生活に入ってから内戦が勃発するまでに私から兄様達に連絡を差し上げれば、エリゼお姉様は以前のように接してくれていたのですね…………」

「アリア………」

「………レン君。リーゼアリア君がエリゼ君の信頼を取り戻す方法で何かいい方法を教えてくれないだろうか?――――この通りだ。」

レンの指摘を聞いて辛そうな表情で顔を俯かせているリーゼアリアをリーゼロッテ皇女が心配そうな表情で見守っている中オリヴァルト皇子はレンを見つめて頭を下げた。



「わたくしからもお願いします。―――アリアは今まで14年前の件でずっと苦しみ、後悔し続けてきました。どうかこの娘を14年前の苦しみと後悔から解き放たれる方法を教えてあげてください。」

「殿下………」

リーゼロッテ皇女もオリヴァルト皇子に続くようにレンを見つめて頭を下げ、二人の行動を見たクルトは驚き

「そうは言っても一度失った信頼を取り戻す事はかなり難しいわよ?今は文通を続けているようだけど、文通に加えて実際に会って交流を深める事を地道に続けていくか………――――後はリィンお兄さんとエリゼお姉さんのピンチに駆けつけて助けたりしたら、エリゼお姉さんもリーゼアリアお姉さんの事を見直すでしょうね。」

「教官とエリゼさんのピンチに駆けつけるって………」

「二人の強さを考えるとそんな事になった場合、相当不味い状況だと思うのですが……」

「それ以前にベルフェゴール様達の守護がある教官達が危機的状況に発展するなんてありえないのですが。」

レンの答えを聞いたユウナは表情を引き攣らせ、クルトは困った表情をし、アルティナはジト目で指摘した。

「……………………貴重な意見をして頂き、本当にありがとうございます。それとアリアとオリヴァルト殿下も私の為にわざわざレン皇女殿下に嘆願して頂き、ありがとうございます。」

「フフ、気にしないで。貴女は私にとって大切な親友でもあるのだから。」

「それに君達がそんな事になってしまったのも元はといえばシュバルツァー家を庇わなかった私達”アルノール皇家”の怠慢でもあるのだから、失ったシュバルツァー家との絆を復活させる為なら幾らでも頭を下げるよ。」

「というかそれ以前にオリビエお兄さんの場合、今までもエステル達やシェラザードお姉さん達に何度も頭を下げているからありがたみが全くないわよねぇ?」

「レ、レンちゃ~ん………」

「全くもう………”素のお兄様”はおふざけが多すぎたお陰で、旧知の方々の信頼は下の方である事に身内として恥ずかしい話ですわ。」

レンに感謝の言葉を述べた後自分達にも感謝の言葉を述べたリーゼアリアに対してリーゼロッテ皇女と共にオリヴァルト皇子は静かな表情で答え、呆れた表情で指摘したレンの意見を聞いたリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ティータは疲れた表情で呟き、アルフィンは呆れた表情で溜息を吐いた。

「ハッハッハッ、何せ私は”放蕩皇子”だからねぇ。―――まだ他のVIPの方々と話していないのだろう?名残惜しいが今回の邂逅はこれで閉幕にしようじゃないか。」

「……そうですね。オリヴァルト殿下、リーゼロッテ殿下、それにリーゼアリア。俺達はこれで失礼します。………それと俺も時間をかけてエリゼを説得するつもりだから、レン教官がさっき言った提案の中にあった無茶をするような事をするなよ?」

「…………はい。お兄様、それに皆さんもお疲れ様でした。」

その後オリヴァルト皇子達がいる部屋から退室したリィン達は廊下で待っていたエリゼとセレーネと合流した後ユーディット達がいる部屋を訊ねた――――


 

 

第49話

~オルキスタワー・36F~



「――――ようこそ、いらっしゃいました。」

リィン達が部屋に入るとユーディットがリィン達に声をかけ

「―――お初にお目にかかります、ユーディット皇妃陛下。それにキュアさんも。」

「本日は貴重な時間をわたくし達の為に取って頂き、誠にありがとうございます。」

「いえ、こちらの方こそお忙しいところ、貴重な時間を頂き、ありがとうございました。――――皆様、まずはソファーにおかけになってください。」

声をかけられたリィンはセレーネと共に代表して答え、キュアにソファーに座るように促されるとユウナ達と共にソファーに座った。



「うふふ、それにしても貴女達がレン達と話したいなんてちょっと意外だったわ。レン達の中で面識があるのはせいぜいアルフィン夫人くらいで、接点はほとんどないでしょう?」

「レ、レンちゃん。」

レンのユーディット達に対する指摘を聞いたティータは冷や汗をかき

「”特務部隊”と共に父―――カイエン元公爵が原因で起こった内戦終結に多大な貢献をして頂いた旧Ⅶ組の意志を継ぐ”新Ⅶ組”の方々と話したかったのは本当の事ですわ。」

「それにリィンさんにお礼と、アルフィン皇女殿下とアルティナさんにも謝罪をする機会を設けたかったので、お忙しいところ申し訳ないとは思いましたが、時間を取って頂いたんです。」

「へ……」

「え………」

「アルフィン様はともかくわたしに”謝罪”、ですか?」

ユーディットの後に答えたキュアの説明を聞いたリィンとアルフィンは呆け、アルティナは不思議そうな表情で首を傾げた。するとユーディットとキュアは最初にリィンに視線を向けて答えた。

「リィンさん、他国の方でありながら父――――クロワールの野望を未然に防ぎ、私達の祖国であったエレボニアの内戦を終結して頂き、本当にありがとうございました。」

「そして、父達―――貴族連合軍の愚行によって故郷(ユミル)やご両親が傷つけられながらも、”七日戦役”を和解へと導いて頂き、ありがとうございました。」

「いえ……どちらも、自分にとっても必要な事柄でしたから、お二人が自分に感謝の言葉を述べる必要はないと思います。それよりもむしろ自分はお二人に謝罪すべき立場です、自分はお二人の父を討った張本人で、またお二人の兄を討った人物の手助けをしたのですから……」

「兄様……」

二人に感謝の言葉を述べられたリィンは謙遜した様子で答えた後静かな表情で二人を見つめ、リィンの様子をエリゼは心配そうな表情で見つめた。



「父と兄の事はどうかお気になさらないでください。二人の”死”は当然の”報い”だと私達も思っていますので。」

「それにお恥ずかしい話、私達と父と兄は昔から反りが合わず、お互いの家族仲はそれ程いいものではありませんでした。ですから、父と兄の件で私達に対して罪悪感等を抱く必要はありません。」

「……寛大なお心遣い、ありがとうございます。」

ユーディットとキュアの言葉にリィンは静かな表情で会釈をして答えた。そしてユーディットとキュアは次にアルフィンとアルティナを見つめて頭を深く下げた。

「――――謝罪が遅くなりましたが、内戦を止められず、挙句七日戦役まで勃発させてしまった事でエレボニア帝国を衰退させ、皇女殿下の御身にまで危険な目をあわせてしまい、誠に申し訳ございませんでした……」

「アルティナさんも父の愚かな野望に付き合わせてしまった事で、メンフィル帝国に囚われの身になって、怖い思いをさせてしまい、本当にごめんなさい……」

「ユーディット皇妃陛下………キュア公女殿下………」

二人の謝罪を見たクルトは驚き

「……お二人とも顔を上げてください。確かにカイエン元公爵に思う所が無いと言えば嘘になりますが、貴女達が内戦に反対した事や内戦勃発後も内戦で傷ついた民達を私財をなげうってまで援助した事は存じていますわ。ですからわたくしは内戦や七日戦役の件で貴女達を責めるつもりは一切ございませんわ。」

「……わたしにも謝罪は不要かと。元々わたしはルーファス・アルバレアの指示で”貴族連合軍”の”裏の協力者”と貴族連合軍に協力していた身ですから、わたしの場合は自業自得です。それにメンフィル帝国に囚われた事で前の職場よりも待遇が遥かに良いリィン教官達に引き取られたのですから、結果的にはわたしにとって良い結果になりましたし。」

「寛大なお心遣い、感謝いたします。」

「父上が原因で、政略結婚をさせられたアルフィン皇女殿下が結婚相手であるリィン様と相思相愛の間柄である事はヴァイス様達を通して伺っていましたが………実際に仲がいいお二人の様子を見て安心しました。」

アルフィンとアルティナの気遣いにキュアは軽く会釈をし、ユーディットは安堵の表情でリィンとアルフィンを見つめた。



「ふふっ、そう言うユーディットさんの方こそヴァイスハイト陛下の事を愛称で呼んでいらっしゃるのですから、ユーディットさんもヴァイスハイト陛下ととても仲がよろしいのでしょうね。」

「あ……そう言えばユーディット皇妃陛下も、わたしやレンちゃんみたいにヴァイスさんの事を愛称で呼んでいますね。」

「えっと……という事はティータとレン教官もヴァイスハイト皇帝と昔からの知り合いなのかしら?」

アルフィンの答えを聞いてある事に気づいたティータの言葉を聞いて疑問を抱いたゲルドはレンとティータに訊ねた。

「ええ、オリビエお兄さんと同じ”影の国”という所で知り合ったのよ。――――それにしても貴女とヴァイスお兄さんとの結婚の件は人づてで聞いていたけど、たった1年半で政略結婚をしたはずの貴女の心を本当の意味で奪ったヴァイスお兄さんの手腕はリィンお兄さんも見習った方がいいのじゃないかしら♪」

「ちょっ、何でそこで俺を例えに出すんですか!?」

ゲルドの質問に答えたレンは小悪魔な笑みを浮かべてリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは慌て

「………まあ、”自覚”している事に関しては見習って欲しいですね。」

「確かに”無自覚”の方が性質が悪いかと。」

「ご、ごめんなさい、お兄様……その件に関してはわたくしも常々思っていますわ……」

「ううっ、そんな事を言われても、どうすればいいんだ……?」

更にエリゼやアルティナ、セレーネもレンの意見に同意するとリィンは疲れた表情で肩を落とし、その様子を見守っていたユウナ達は冷や汗をかいて脱力した。



「クスクス………――――それにしても”新Ⅶ組”も”旧Ⅶ組”のように所属する生徒達の構成が随分と変わっていますね。三帝国出身の人達が全員所属しているんですから。」

「さすがに”旧Ⅶ組”程ではないと思いますが………そう言えば少しだけ気になっていたのですが、キュアさんは何故”サティア学院”に?確かオルディスにはアストライア女学院と並ぶ女学院があるのですから、”四大名門”の”カイエン公爵家”の令嬢であるキュアさんも姉君のようにオルディスの女学院か聖アストライア女学院に通っているものと思っていましたが………」

リィン達の様子を微笑みながら見つめた後自分達を見回して感想を口にしたキュアの言葉に困った表情で答えたクルトはある事をキュアに訊ねた。

「確かに去年まではオルディスの女学院に通っていましたが………私達――――カイエン公爵家はご存知の通り、クロスベル帝国に帰属しましたから今後のクロスベルを支える勉強の為にも、サティア学院に編入したんです。”激動の時代”であるこの時代で最も”変わった”ともいえるクロスベルの為に私達が何をすべきかを知る為にも、この目でクロスベルの現状を見て、実際にクロスベルの人達とも接する必要がありますので。」

「ふえ~……立派な考えだと思います!」

「あたしもクロスベル人として、キュアさんの考えは立派で、嬉しく思います!あの……ユーディット皇妃陛下、失礼とは思いますがいくつか聞きたい事があるのですが………」

「何を知りたいのでしょうか?私で答えられるような質問でしたら答えますので遠慮なく、幾らでも質問をして頂いて構いませんよ。」

キュアの答えを聞いて呆けたティータは感心した様子でキュアを見つめ、嬉しそうな表情でキュアを見つめたユウナは遠慮気味にユーディットに視線を向け、視線を向けられたユーディットは親し気な微笑みを浮かべて続きを促した。



「えっと………さっき、エレボニアとメンフィルのVIPの人達がオルキスタワーの屋上に着いた時にユーディット皇妃陛下やエリィ先輩達はVIPの人達を迎えていましたけど……どうしてあの場にヴァイスハイト陛下達――――”六銃士”やリセル教官がいなかったのでしょうか?ヴァイスハイト陛下の正妃のリセル教官は勿論、”六銃士”の人達はみんな、クロスベルの最高クラスのVIPなのに………」

「言われてみれば、あの場に”六銃士”は一人もいなかったな……」

「皇帝や正妃はともかく、皇帝や正妃でもない”六銃士”のアル皇妃やパティルナ将軍があの場にいなかった事には少々違和感を感じますね。」

ユウナの質問を聞いてある事を思い出したクルトは目を丸くし、アルティナは静かな表情で呟いた。

「そうですね………それについては簡単に説明すると、新興の国家であるクロスベルはメンフィルは勿論、エレボニアとも”同格”である事を双方の帝国やクロスベルの市民達に知らしめる為ですわ。」

「ふえ……?」

「新しい国であるクロスベルがメンフィルとエレボニアと”同格”である事を知ってもらう為にどうしてそんな事をするのかしら?」

ユーディットの答えを聞いて意味がわからないティータとゲルドは不思議そうな表情で首を傾げた。



「―――単純な話よ。”六銃士”はユウナも言ったようにクロスベルの最高クラスのVIP――――つまり、その国の代表者―――”王”や”大統領”のようなものよ。そんな存在が他国の皇族―――それもその国の長である”王”や”大統領”でもない人達の迎えの場にクロスベルの最高クラスのVIPである”六銃士”がいれば、クロスベルはメンフィルやエレボニアよりも下に見られるかもしれない可能性があったからあの場にヴァイスお兄さん達はいるべきではないのよ。――――つまり、もっと簡単に言えばメンフィルやエレボニアにクロスベルの事を舐められないようにする為よ。」

「それは…………」

「……なるほど。だから双方の国のVIP達の中で身分上の”格”で言えば”同格”である側妃のユーディット皇妃陛下や皇女のメサイアがヴァイスハイト陛下達の代わりに双方の国のVIP達を迎える場にいたのですね。」

「えっと……もしかしてエリィさんがあの場にいたのも、何か理由があったのですか?」

レンの答えを聞いたエリゼは複雑そうな表情をし、リィンは静かな表情で呟き、ある事に気づいたセレーネはユーディット達に訊ねた。

「はい。エリィさんは皆さんもご存知のように長年クロスベルの市長を務めてきたヘンリー学院長の孫娘であり、ヴァイスハイト陛下達――――”六銃士”が現れるまで”クロスベルの新たなる英雄”として称えられ、親しまれてきた”特務支援課”の一員であったのですから、以前のクロスベルと比べると何もかもが大きく変わったクロスベルに不安を抱えるクロスベルの市民達を安心させる為に、私達と共にあの場にいたのです。エリィさんに対して失礼な言い方になりますが、ヘンリー学院長の孫娘であり”特務支援課”の一員であったエリィさんはクロスベルの市民達に大きな影響を与える存在ですから。」

「VIP達を迎える時点で既にそのような思惑があり、ユーディット皇妃陛下達が迎えの場に選抜されたのですか……」

「で、ですがその思惑だとエリィさんがヴァイスハイト陛下達に……」

「―――政治利用されているって事じゃないですか!まさかエリィ先輩はそれを承知で、あの場にいたんですか!?」

キュアの説明を聞いたクルトは真剣な表情を浮かべ、ある事に気づいていたアルフィンは複雑そうな表情をし、ユウナは怒りの表情で声を上げてユーディット達に訊ねた。

「ヴァイス様達からヴァイス様達が考えている思惑について直接説明はされませんでしたが、幼い頃から将来マクダエル学院長を支える為に政治を学び、今では”一等書記官”として外交業務に今まで積み重ねてきた経験や知識を振るっている聡明なエリィさんでしたらその程度の思惑は気づいているでしょうね。」

「だったら、エリィ先輩はどうしてあの場に……っ!自分が利用されているってわかっているのに……っ!」

「ユウナ……」

ユーディットの答えを聞いて怒りの表情で身体を震わせているユウナの様子をゲルドは心配そうな表情で見つめていた。



「多分だけど、それもクロスベルの為だから、ヴァイスハイト陛下達に思惑を聞くことや反論することなくエリィは受け入れたんだと思う。」

「そうですわね……エリィさんが目指していた事は二大国の圧力――――エレボニア帝国と旧カルバード共和国の圧力によって起こるクロスベルの様々な”しがらみ”を何とかする事――――即ちクロスベルが”真の平和”と”自由”を掴む事ですから、”生まれ変わったクロスベル”に対して感じているクロスベルの市民達の不安を取り除く事に関してはヴァイスハイト陛下達の思惑と一致していますから、ようやく手に入れた”クロスベルの平和と自由”を保つ為にも受け入れたのでしょうね。」

「わたしは教官達程エリィさんの事は詳しくありませんが………少なくても、エリィさんはクロスベルを大国へと成りあがらせる事やクロスベルの皇になるという大きな目標を持った”六銃士”と違い、政治家の一人としてクロスベルを支える事を目標としていた事は今までのエリィさんの言動や行動から判断できます。」

「……………ぁ……………………それじゃあ、別の質問になるんですが………ユーディット皇妃陛下はクロスベルの領土となった所に住んでいる元エレボニア帝国貴族達の立場を護る為にユーディット皇妃陛下自身が自らあの女好き―――いえ、ヴァイスハイト陛下の側室になる事を申し出て結婚したとの事ですけど、本当にそうなんですか?」

リィンやセレーネ、アルティナの意見を聞いてエリィの事を思い返したユウナは呆けた声を出した後複雑そうな表情でユーディットに訊ねた。

「本当にそうなのかとは、一体どういう意味でしょうか?」

「その………ヴァイスハイト陛下ってユーディット皇妃陛下も知っていると思いますけど、たくさんの女性達と結婚していながら娼館にまで通っている”好色家”じゃないですか。そんなヴァイスハイト陛下の事だから、すっごい美人で大貴族のお嬢様のユーディット皇妃陛下も自分のハーレムに加える事を目的で、クロスベルの領土に住んでいる元エレボニアの貴族達の立場を護ろうとしていたユーディット皇妃陛下の弱みに付け込んだじゃないんでしょうか……?」

「ユウナさん………」

ユーディットへのユウナの質問内容を聞いたセレーネは複雑そうな表情をした。

「…………そうですね。まず、クロスベルに帰属する事になったエレボニアの貴族達や私達カイエン公爵家の立場を護る為にヴァイス様に私をヴァイス様の側妃にして頂けるように私の方から申し出た事は本当の話です。ですがヴァイス様は私の”忠誠”を確かめる為に、”誰もが驚き、普通の女性なら忌避するような条件”を出しました。」

「”誰もが驚き、普通の女性なら忌避するような条件”、ですか?」

「まあ、たくさんの女性と結婚しても娼館にも通うようなヴァイスお兄さんの性格を考えたら大体想像できるけどねぇ。リィンお兄さんとセレーネも、ヴァイスお兄さんがユーディット皇妃に突き付けた条件は予想できているのじゃないかしら?」

「そ、それは……」

「え、えっと……それを本人の目の前で口にするのはちょっと……」

ユーディットの話を聞いたクルトが不思議そうな表情をしている中呆れ半分の様子で答えたレンに話を振られたリィンとセレーネはそれぞれユーディットを気にしながら言葉を濁していた。



「フフ………その条件とは、”忠誠の証”として私の操をヴァイス様に捧げる事――――つまり、私がヴァイス様の側室になる事を申し出たその日にヴァイス様に抱かれる事でした。」

「!!」

「な――――――」

「ふ、ふええええっ!?」

「……”好色皇”とも呼ばれているヴァイスハイト陛下らしい条件ですね。」

「そ、その……それでユーディットさんはどうされたのですか……?」

リィンとセレーネの様子に苦笑したユーディットは静かな表情で答え、ユーディットが答えた驚愕の事実にユウナとクルト、ティータが驚いている中アルティナはジト目で呟き、アルフィンは不安そうな表情でユーディットに訊ねた。

「勿論了承し、その日にヴァイス様に今まで守っていた私の純潔を捧げました。そしてヴァイス様は約束通り、カイエン公爵家(私達)を含めた元エレボニアの貴族達の立場を守ってくれましたし、私自身の事も信頼し、大切にしてくださっています。」

「えっと……ユーディット皇妃陛下はいきなり純潔を捧げる事を躊躇わなかったの?普通は躊躇うのだと思うのだけど……」

「一瞬躊躇いはしましたが、ヴァイス様が”好色家”だからこそ私の申し出を受け入れてもらえると思い、ヴァイス様の性格を承知の上で側室になる事を申し出ましたから、”そう言った条件を求められる事”も想定していました。………さすがに、側室を申し出たその日に純潔を捧げる事になるとは予想していませんでしたが。」

「ユーディったらそんなとんでもない事をよく他人事のように話せるわよね……?」

ゲルドの質問に対して答えた後苦笑したユーディットにキュアは呆れた表情で指摘した。



「……っ!そんなとんでもない要求を受け入れたユーディット皇妃陛下はそんな形で好きでもない男性に女性にとって一番大切なものを奪われて本当によかったんですか……!?」

「私は皆さんもご存知のように”貴族”―――それも貴族の中でも相当地位が高かった”四大名門”の一角ですから、”家”の利益の為に政略結婚として好きでもない殿方に嫁ぎ、操を捧げる覚悟はできていましたし………それに、レン皇女殿下も仰ったように今ではヴァイス様の事を心から愛していますから、ヴァイス様に純潔を捧げた事に後悔はしていませんわ。」

「ヴァイスハイト陛下は一体どのようにして、ユーディット皇妃陛下の心を奪ったのでしょうか?」

唇を噛みしめた後厳しい表情を浮かべたユウナの質問に静かな表情で答えた後微笑んだユーディットにエリゼは不思議そうな表情で訊ねた。

「そうですね……色々ありますが、一番の理由は側室になる事を申し出たその日に純潔を捧げる事を要求した後に口にしたヴァイス様のお言葉がきっかけだと思いますわ。」

「えとえと……ヴァイスさんは何て言ったんですか?」

ユーディットの説明の中になったある事が気になったティータはユーディットに訊ねた。

「『俺は女性全員を等しく愛し、幸せにする主義だ。いつか必ずお前に俺を惚れさせ、家の為に俺に嫁いだ事が幸せである事を思い知らせてやろう。何せ俺の好きな物の一つは女性の笑顔であり、嫌いなものは女性の涙だからな!』……今思い返すとヴァイス様の事を殿方として気になり始めたのきっかけはその言葉だと思いますわ。」

「ふふっ、それもまたヴァイスハイト陛下らしい答えですわね。」

「ああ………」

「クスクス……やっぱりヴァイスさんはヴァイスさんですね。」

「何というか………端麗な容姿とは裏腹に大胆かつ懐が広い性格をしていらっしゃる方ですね……」

「ふふ、私も最初はユーディの事を心配していましたけど、いつの間にかユーディからヴァイスハイト陛下とのノロケ話を聞かされる程、ヴァイスハイト陛下と仲良くなった事を知って安心すると共に二重の意味で驚きましたよ……政略結婚するつもりでいたユーディが政略結婚相手であるヴァイスハイト陛下に恋をして、ユーディの口からノロケ話が出たのですから……」

ユーディットの答えにセレーネとリィン、ティータが苦笑している中クルトは驚きの表情で呟き、キュアは微笑みながら答えた。

「うふふ、リィンお兄さんも”上司”だったヴァイスお兄さんの女性達に対するそう言った姿勢を見ていたから、釣った魚達もちゃんと大切にし続けているのかしら♪」

「つ、”釣った魚達”って……もしかしなくてもわたくし達の事ですわよね………?」

「ふふっ、間違いなくそうですわ♪――――そして、リィンさんが一番最初に釣った魚がエリゼで、その証拠にエリゼがリィンさんにとっての”特別”だもの♪」

「そうね…………まあ、その私が兄様に”釣られた魚”である事を知ってもらうのに随分と時間がかかった上、私自らが行動しなくてはならなかったけど。」

「ううっ、返す言葉がない………」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの発言にユウナ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セレーネはユウナ達のように表情を引き攣らせ、アルフィンにウインクをされたエリゼは静かな表情で答えた後ジト目でリィンを見つめ、見つめられたリィンが疲れた表情で肩を落としている様子を見たユウナ達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「フフ……―――そう言う訳ですから、私はヴァイス様と結ばれた事で”女性”として今でも幸せです。そしてそれはヴァイス様の他の多くの伴侶の方々も同じだと思いますよ。」

「………その、最後の聞きたい事があるのですが………RF(ラインフォルトグループ)が開発した新型の”列車砲”がクロスベルにも配備されるとの事ですが、ユーディット皇妃陛下達はその件についてどうお思いなのでしょうか……?」

「ユウナ………」

ユーディットの説明を聞いた後更なる質問をしたユウナの質問内容を聞いたクルトは複雑そうな表情をし

「―――新興の国であるクロスベルに新型の列車砲を配備する事は為政者の一人として、そして私個人の意見としても必要だと思っています。ここにいる皆さんもご存知のようにエレボニア帝国はクロスベル帝国とメンフィル帝国を滅亡した旧カルバード共和国の代わり―――新たな宿敵として見ていますしね。」

「メンフィル帝国は”百日戦役”と”七日戦役”による”結果”がありますから、幾ら軍拡を続けているとはいえ、衰退したエレボニア帝国がメンフィル帝国との三度目の戦争を起こす事は”無謀”である事はエレボニア帝国政府も理解していると思います。ですがクロスベル帝国は新興の国ですから、どうしても他国からは侮られてしまいます。そして他国からは侮られない為として……そして戦争を仕掛ける事を躊躇わせる抑止力としてかつてディーター・クロイス大統領政権によるクロスベル独立国の力の象徴である”神機”のような凄まじい”力の象徴”が今のクロスベルには必要ですから、ヴァイスハイト陛下達も新型の”列車砲”の配備を決めたのだと思います。」

「それは…………」

「ユーディットさん……キュアさん…………」

「…………………」

ユーディットとキュアの説明を聞いたリィンとアルフィンは複雑そうな表情をし、ユウナは辛そうな表情で顔を俯かせて黙り込み

「うふふ、ちなみにオルディスには列車砲を配備するのかしら?オルディス地方もエレボニア帝国の領土である”フォートガード地方”と隣接しているし。」

「レ、レンちゃん……」

「――――ええ、オルディスにも新型の列車砲を配備する事をヴァイス様に既に要請し、承諾して頂きました。」

「ええっ!?という事は……!」

「ユーディット皇妃達の故郷にもあの”列車砲”という”力の象徴”が配備される事になるのね……」

レンの質問にティータが不安そうな表情をしている中躊躇いもなく答えたユーディットの答えにセレーネは驚き、ゲルドは複雑そうな表情で呟いた。



「その……どうしてユーディットさんはそのような要請をヴァイスハイト陛下にしたのでしょうか……?」

「……アルフィン殿下もご存知と思いますが、私とキュアは”七日戦役”で兄が戦死した後事実上カイエン公爵家を乗っ取り、メンフィル、クロスベルの両帝国に対して忠実な態度を取った事でそれをよく思わないエレボニア帝国の貴族達からも反感を抱かれています。そしてフォートガード地方はクロスベルに帰属する事を嫌がったラマールの貴族達が集まっている場所であり、また縮小されたとはいえ領邦軍の本拠地がある場所でもあります。それらの件を踏まえると私達クロスベル側のカイエン公爵家はエレボニア帝国政府もそうですが、エレボニア帝国の貴族達の動きも警戒し、そして牽制する必要があるのです。」

「…………………」

「アルフィン…………」

自分の質問に対して答えたユーディットの答えを聞いて辛そうな表情で黙り込んでいるアルフィンをエリゼは心配そうな表情で見つめ

「”クロスベル側のカイエン公爵家”……?そういう言い方をするという事は、エレボニアにもカイエン公爵家が存在するのかしら……?」

「はい。カイエン公爵家はエレボニア帝国の”四大名門”の一角ですから、エレボニアの貴族勢力が衰退したとはいえ、カイエン公爵家を無くす事はエレボニア帝国の貴族達にとって色々と問題があるようなんです。――――とは言っても、今はそのエレボニア側のカイエン公爵家の当主はまだ決まっておらず、その件でエレボニア帝国の貴族達は揉めていらっしゃっているようですが………」

(バラッド候の件か………)

ゲルドの質問に答えたキュアの説明を聞いて心当たりがあるクルトは複雑そうな表情を浮かべた。



「少しだけ話は逸れてしまいましたが、私がクロスベルに新型の列車砲が必要であると思っていた理由は先程も説明したように新興の国であるクロスベルを他国から侮られない為に必要な”力の象徴”だからだと思っているからです。」

「…………………あたしみたいな平民の疑問に色々と答えてくださってありがとうございました。」

ユーディットの答えに複雑そうな表情で黙り込んでいたユウナはユーディットに会釈をした。

「………―――ユウナさん。貴女が見せたヴァイス様に対する態度や私に対する質問から察するとヴァイス様に対して何か思う所があるようですけど………もしかして、ヴァイス様達――――”六銃士”がクロスベルを”変えた事”ですか?」

「ち、違います!クロスベルの独立をディーター市長とは違うやり方でエレボニアどころか各国にも認めさせたヴァイスハイト陛下達のやり方は複雑ではありますけど、感謝していますし、尊敬もしています!だけど、今聞いたエリィ先輩がVIP達を迎える場にいた理由も含めてあたしには色々とわからない事や、『何でそこまでするのか』って思う事があるんです………」

「ユウナ………」

ユーディットの指摘に必死の様子で答えた後複雑そうな表情を浮かべたユウナの様子をクルトは心配そうな表情で見つめていた。

「なるほど………貴女の悩みはどんなものなのか、何となくわかりますが、その悩みには”部外者”である私に答える”資格”はありませんからこの場では答えられませんが………これだけは知っておいてください。”政治”は綺麗事だけで”国”を成り立たせる事はできません。それは為政者である私やヴァイス様達は当然理解していますし、エリィさんも理解した上で”国の政治”に関わっています。―――そしてそれは”市長”だったマクダエル元議長も同じで、マクダエル元議長はその覚悟を持ったうえで、長年二大国からの圧力に対してクロスベル市長として戦っていたと思います。」

「それは……………」

ユーディットの言葉をある程度理解できていたユウナは複雑そうな表情で黙り込み

「そしてヴァイス様とギュランドロス陛下は”クロスベルの皇”として様々な清濁を呑みこみ、自分達が先頭に立ってクロスベルを導く事を自覚し、クロスベル帝国の更なる繁栄を目指しています。………私の言いたい事は以上です。ごめんなさいね、皆さんに難しい話を聞かせてしまって。」

「いえ、自分達にとっても勉強になる話でした。」

「ふふっ、エレボニアの社交界で”才媛”と称されていたユーディットさんが仰る言葉だけあって、言葉の重みもあって、わたくしも思わず緊張してしまいましたわ。」

語り終えた後のユーディットに謝罪されたリィンとアルフィンが代表して答え

「……色々と教えてくださり、本当にありがとうございました。」

ユウナも続くように会釈をした。

「そう言えばまだメンフィル帝国のVIPの方々には会っていないのでしたよね?パーティーが始まるまでの時間を考えれば、そろそろメンフィル帝国のVIPの方々がいらっしゃる部屋を訊ねた方がよろしいのではないでしょうか?」

「そうですわね………お兄様。」

「ああ。ユーディット皇妃陛下、キュアさん。自分達はこれで失礼します。」

「ええ、皆さんの演習の成功を祈っていますわ。」

「本日は私達の為に時間を取って頂き、本当にありがとうございました。」

そしてユーディット達がいる部屋を出たリィン達は最後にメンフィル帝国のVIP達――――エフラム達がいる部屋を訊ねた―――――


 

 

第50話

~オルキスタワー・36F~



「――――ようこそいらっしゃいました。」

「フウ……待ちくたびれていたぞ。まあ、俺よりもフランツとアメリアの方が待ちくたびれていたかもしれないがな。」

リィン達が部屋に入るとエイリークがリィン達に声をかけ、エフラムは溜息を吐いた後自分とエイリークの背後にそれぞれ控えているフランツと金髪の女性騎士に視線を向け

「アハハ、僕はそれ程でも。リィンとは先月再会したばかりですし。」

「全くもう、フランツったら薄情なんですよ?せっかく昔の仲間(リィン)と再会できる機会があったのに、それを教えてくれなかったんですから。―――まあ、それはともかく。久しぶり、リィン!」

エフラムの言葉に苦笑しながら答えたフランツに視線を向けられた女性騎士は溜息を吐いてジト目でフランツを見つめた後笑顔を浮かべてリィンに近づいて手を差し出し

「ああ、久しぶりだな、アメリア。それとフランツとの婚約、おめでとう。」

リィンは差し出された女性騎士と握手をして懐かしそうな表情で女性騎士を見つめ

「フフ、それはお互い様だよ。エリゼさんも久しぶり!遅くなったけど、リィンとの婚約、おめでとう!」

見つめられた女性は微笑んだ後エリゼに視線を向けた。

「―――お久しぶりです。アメリアさんこそ、おめでとうございます。」

「リィンさんとエリゼはそちらの方とどういった関係なのでしょうか……?」

女性騎士の言葉にエリゼが会釈をするとアルフィンは不思議そうな表情でリィンとエリゼに訊ね

「彼女はアメリア・シルヴァ。訓練兵時代の俺やステラの同期で、フランツの婚約者だ。」

「―――初めまして。あたしはアメリア!よろしくね、リィンの仲間達に教え子達!」

リィンに紹介された女性騎士―――アメリアはユウナ達を見回して挨拶をした。

「ふふっ、アメリア。久しぶりの再会で浮かれるのも無理はないけど、殿下達をお待たせするのはさすがに注意せざるをえないわよ。」

「あ………すみません、セシリア教官!エイリーク様達も失礼をしてしまい、大変申し訳ございません!」

「フフ、私達の事は気にしないで下さい。旧知の戦友との再会を嬉しく思っている貴女の気持ちも理解しています。」

「―――皆さん、まずはソファーにおかげください。」

「――――失礼します。」

セシリアの指摘に我に返ったアメリアの謝罪にエイリークは優し気な微笑みを浮かべて答え、サフィナに促されたリィンは会釈をした後ユウナ達と共にソファーに座った。



「――――改めてになりますがお久しぶりです、エフラム皇子殿下、エイリーク皇女殿下。お礼を述べるのが遅くなりましたが、内戦の間ユミルを守って頂き、本当にありがとうございました。」

「御二方の采配のお陰で、父様達やユミルの民達は内戦中でも安心して過ごす事ができました。本当にありがとうございました。」

「フフ、気にしないでください。私達はメンフィル皇族として当然の義務を果たしたまでです。」

「それにシュバルツァー家は元は他国の貴族でありながらも、メンフィル帝国に忠実であり、更にはリィンとエリゼという素晴らしい人材まで輩出してくれたのだから、その恩に報いたまでだ。」

リィンとエリゼに感謝の言葉を述べられた二人はそれぞれ謙遜した様子で答え

「うふふ、”聖炎の勇槍”と称えられているエフラムお兄様にとっては物足りない戦じゃなかったのかしら?ひたすら攻めてくる雑魚ばかりを追い払う防衛戦だけだったのだから。」

「ざ、”雑魚”ってもしかしてエレボニアの……」

「”貴族連合軍”の事かと。」

「レ、レン教官……何もそんな言い方をしなくても………」

「……………………」

意味ありげな笑みを浮かべたレンの指摘に表情を引き攣らせたユウナにアルティナは静かな表情で指摘し、セレーネは複雑そうな表情で黙り込んでいるアルフィンを気にしながらレンに指摘した。



「フウ………レン、士官学院の教官でありながら領土を守護する為の戦である”防衛戦”を軽く見るような発言は問題があると思いますよ?」

「ただ、エフラム皇子殿下にとっては物足りない戦である事に関しては反論できませんね。エフラム皇子殿下は戦場で常に最前線で槍を振るって武功を挙げてきたメンフィル帝国の”勇将”の一人であられるのですから。」

「別に俺はレン達のように戦を楽しむ趣味はないんだがな…………絶対に民達を戦火に巻き込まない事や戦時中の民達が感じている不安等本国では知ることができない事を知れて、俺にとっても色々と学べる戦だったさ、1年半前の内戦は。―――すまないな。相手が賊軍だったとはいえ、祖国の兵達の命を奪った話なんてエレボニア出身の二人にとってはあまり聞きたくなかった話を聞かせてしまって。」

サフィナは呆れた表情で溜息を吐いてレンに指摘し、セシリアは苦笑しながらレンの意見に同意し、エフラムは困った表情で答えた後表情を引き締めて話を続けた後アルフィンとクルトに視線を向けて謝罪の言葉をかけた。

「いえ………元はといえば、貴族連合軍の愚行が原因で殿下達がゼムリア大陸のメンフィル帝国の民達を貴族連合軍の魔の手から守る為に派遣され、”七日戦役”が終結したにも関わらず貴国に逆恨みをして襲撃をした貴族連合軍は自業自得だと思っていますから、謝罪は不要ですわ。」

「自分もアルフィン殿下と同じ考えですので、自分への気遣いも無用です。」

エフラムに謝罪されたアルフィンとクルトは謙遜した様子で答え

(同じ双子の皇子でもあの偉そうな皇太子とは大違いね……そう言えば、メンフィル帝国の跡継ぎってエリゼさんが仕えている皇女様―――リフィア皇女殿下だったっけ?その人って、どんな人なのかしら?)

(まあ、”偉そう”という意味ではリフィア殿下も同じではありますが、印象はセドリック殿下とは異なりますね。)

エフラム達の様子を見ていたユウナはセドリック皇太子とエフラムを比べてジト目になった後アルティナに小声で訊ね、訊ねられたアルティナは静かな表情で答えた。



「そう言えば、貴女がリウイ祖父上の話にあった新たに私達の”妹”になったゲルドさんでしたね。改めてになりますが、よろしくお願いしますね。」

「リウイお義父さんとセシルお義母さんの養女にしてもらったゲルド・フレデリック・リヒター・パリエです。えっと、エイリーク皇女もそうだけどエフラム皇子達もお義父さんの”家族”でいいのかしら?」

「ええ、そうなりますね。―――とは言ってもマーシルン皇家は”少々特殊な皇族かつ家族”ですから、我々への呼び方はゲルドさんの自由にして頂いて構いませんよ。」

エイリークに微笑まれたゲルドは軽く会釈をした後質問をし、ゲルドの質問にサフィナは苦笑しながら答え

「まあ、そうよね。例えばサフィナお姉様の養女になっているセレーネやツーヤ、それにセシルお姉さんの養女になっているゲルドとシズクはレンにとっては”姪”になるから、セレーネ達のレンへの正確な呼び方が”叔母様”になっちゃうもの。この年で、”叔母”なんて普通は呼ばれたくないし、事情を知らない人達も混乱しちゃうでしょう?」

「い、言われてみればレンちゃんとツーヤちゃん達って遠い親戚同士になるから、正確な呼び方はそうなっちゃうよね……」

「ア、アハハ………それはともかく、どうして今回の交流会にエフラム殿下達がゼムリア大陸に派遣されたのでしょうか?”西ゼムリア通商会議”の例を考えると、リフィア殿下が派遣されると思っていたのですが………」

呆れ半分の様子で説明をしたレンの問いかけにリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィン達同様ティータは表情を引き攣らせて呟き、苦笑していたセレーネは表情を戻してエフラム達に訊ねた。

「……色々と理由はありますが、我々が派遣された一番の理由は”黒の工房”への対応について、クロスベルと話し合う為です。」

「”黒の工房”………確かアルティナを貴族連合軍に派遣したという結社と同じ”裏”の組織の………」

「―――はい。そしてその拠点の一つは”七日戦役”の際にメンフィル帝国軍によって制圧されています。」

「アルティナ………」

セシリアの説明を聞いたクルトに視線を向けられて淡々と話すアルティナの様子をリィンは心配そうな表情で見つめた。



「えっと……その”黒の工房”という所への対応についてヴァイスさん達と話し合うと仰っていますけど、具体的にはどんな対応をするつもりなんでしょうか……?」

「それは………」

「……簡単に言うとクロスベルと協力して各地に点在する”黒の工房”の”拠点”を”潰す”――――要するに”黒の工房”の施設、関係者達をこの世から葬り去る為の話し合いだ。」

ティータの質問にエイリークが複雑そうな表情で答えを濁しているとエフラムが静かな表情で答え

「な――――」

「ええっ!?」

「こ、”この世から葬り去る”って、まるで襲撃するみたいに聞こえますけど……」

エフラムの答えにクルト達が驚いている中リィンは絶句し、セレーネは驚きの声を上げ、ユウナは不安そうな表情で呟いた。

「まるでも何もその通りよ?メンフィル帝国並びにクロスベル帝国は”黒の工房”を完全に殲滅対象としているから、”黒の工房”の施設の破壊は当然として、関係者達も全員”殲滅”――――殺すつもりよ?かつて結社”身喰らう蛇”の”盟主”を含めた結社の多くの最高幹部の命を奪い、今もなお”残党”達の殲滅を目標としているようにね。」

「………どうしてメンフィル帝国とクロスベル帝国はその”黒の工房”?という所に対して、そこまで過激な対応をするのかしら?」

「……まあ、色々と理由はあるが最近になって今まで中々掴めなかった”黒の工房”の目的をようやく掴んだんだが……その目的の一つが一国どころか、世界中をも巻き込む混乱を引き起こす事だそうだ。そしてその目的を知った俺達は国家どころかゼムリア大陸にとって危険な組織である”黒の工房”の完全抹殺を決定したという訳だ。」

レンの説明を聞いて悲しそうな表情を浮かべたゲルドの疑問にエフラムは静かな表情で答えた。



「一国どころかゼムリア大陸全土を巻き込む混乱ですか………”黒の工房”とやらは一体何の為にそのような事を……」

「……………………しかし、どのようにしてメンフィル帝国とクロスベル帝国は今まで謎に満ちた”黒の工房”の目的を掴んだのでしょうか?それにそのような話し合いをするという事はわたしが知っていた拠点以外の”黒の工房”の本拠地を含めた拠点が判明したのでしょうか?」

「アルティナ………」

クルトが重々しい様子を纏って考え込んでいる中目を伏せて黙り込んでいたアルティナはエフラム達に質問し、アルティナの質問を聞いたリィンは心配そうな表情でアルティナを見つめた。

「申し訳ございませんが、情報元に関しては機密扱いの為、今この場で教える事ができません。――――ただ、メンフィル帝国は”黒の工房”の”本拠地”を含めた拠点は全て掴み、それらを一つも残さず”抹殺”為の準備を進めている事だけはこの場で確言できます。」

「ま、”抹殺………その、いつかその”黒の工房”という所を制圧する為にレンちゃん達もその作戦に参加するの……?」

サフィナの答えを聞いたティータは不安そうな表情を浮かべてレンに訊ね

「残念ながら、その件にレン達は関われないわ。ティータも知っての通り、今のレン達は第Ⅱ分校の教官を務めているのだから、その件に関われるような暇はないわよ。」

「あの………メンフィル帝国とクロスベル帝国による”黒の工房”という所を制圧する作戦がいずれ行われるとの事ですが、その作戦にエレボニア帝国を加えるつもりはないのでしょうか……?」

ティータの質問にレンが答えるとアルフィンが複雑そうな表情でエフラム達に訊ねた。



「………アルフィン夫人にとってはお辛い事を指摘するようで申し訳ありませんが………――――”黒の工房”と協力関係を結んでいる疑いのある人物がエレボニア帝国政府の上層部にいるのですから、政府内にそんな人物が上層部にいるエレボニア帝国と私達が”黒の工房”を抹殺する為の協力関係を結ぶとお思いですか?」

「そ、それは…………」

「アルフィン…………」

「………………」

「ちなみにその人物はオリビエお兄さん――――オリヴァルト皇子も知っているわよ。」

エイリークの指摘に辛そうな表情で顔を俯かせているアルフィンの様子をエリゼは心配そうな表情で見つめ、リィンは目を伏せて黙り込み、レンは意味ありげな笑みを浮かべて答え

「エ、エレボニア帝国政府の上層部にその”黒の工房”と協力関係の疑いがある人物がいるって………!一体エレボニア帝国政府の誰がそんな所と協力関係を………というかオリヴァルト皇子殿下はその人の事を知っているのに何で、何もしないんですか………?」

(まさか…………)

ユウナは信じられない表情で呟いた後新たなる疑問を口にし、心当たりがあるクルトはある人物の顔を思い浮かべて真剣な表情を浮かべた。

「対処したくてもできないのです、今のオリヴァルト殿下の立場では。」

「オリヴァルト殿下は皇族ではありますが、政府内の発言力は皆無に等しいのです。」

「ま、”鉄血宰相”を始めとしたエレボニア帝国政府にとって自分達の意向に背く考えを持つオリビエお兄さんの存在は正直言って邪魔な存在だからね。今後の自分達の目的を邪魔させない為にも、オリビエお兄さんが持つ権限は1年半前の内戦勃発前と比べるとエレボニア帝国政府によって相当弱体化されているのよ。」

「さっき会った時はそんな所は全く見せていなかったけど………オリヴァルト皇子は辛い立場に立たされているのね………」

「オリビエさん………」

サフィナとセシリア、レンの説明を聞いたゲルドは静かな表情で呟き、ティータは心配そうな表情を浮かべた。



「………あの、先程エフラム殿下達は”黒の工房”の関係者全員を抹殺すると仰っていましたが、もしかしてその中には今もなお、”黒の工房”の拠点にいるかもしれない”わたしと同じ存在”も含まれているのでしょうか……?」

「あ……………」

(”アルと同じ存在”……?)

(一体どういう意味だ……?)

辛そうな表情で問いかけたアルティナの問いかけを聞いたセレーネは呆けた声を出して不安そうな表情をし、ユウナとクルトは不思議そうな表情で首を傾げていた。

「その件も含めて、今回の交流会で話し合うつもりだ。――――とは言っても、俺達メンフィルはその件に関しては”保護”をして、お前のようにその者達自身の未来を決めるまでは俺達で世話をするべきという考えだ。」

「それに恐らくその件に関してはクロスベル側――――ヴァイスハイト陛下達も同じ考えだと思いますよ。」

「まあ、女の子が大好きなヴァイスお兄さんが幾らクロスベルの為とはいえ、罪もない女の子達の命を奪うような事は絶対許さないでしょうしねぇ。―――まあ、ひょっとしたらリィンお兄さんみたいに保護した”アルティナと同じ存在”をハーレムに加えるかもしれないけどね♪」

「ちょっ、何でそこで俺が槍玉に上がるんですか!?何度も言っているように、アルティナをそんなつもりで引き取っていませんよ!?」

「ア、アハハ………さ、さすがに幾らヴァイスさんでもそこまではしないと思うけど………」

エフラムとサフィナはそれぞれ答え、サフィナの話を補足する説明をしたレンの答えにユウナ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンは慌てた様子で反論し、ティータは乾いた声で苦笑しながらレンに指摘し

「ふふっ、ですが確かに女性に優しいヴァイスハイト陛下の性格を考えれば、その点に関しては安心できますわね。」

「……そうですね。まあ、別の意味での心配が考えられますが。」

我に返ったセレーネは微笑み、アルティナはジト目で呟いた。



「………アルティナ、”黒の工房”が完全に制圧されて貴女と同じ存在がいて、その娘達が保護された後、もし貴女が希望するのだったら、その娘達も貴女のようにシュバルツァー家の使用人として引き取っても構わないわ。幸い、シュバルツァー家は”公爵”に陞爵する事が内定していながら、未だ使用人は貴女しかいないのだから、貴女以外の使用人もいずれ増やすべきだと思っていたもの。」

「そうだな……シュバルツァー家の使用人はアルティナだけなんだから、いずれシュバルツァー家が公爵になった後は大勢の使用人達を雇った時昔からずっとシュバルツァー家に仕えているアルティナがシュバルツァー家の使用人達の長――――”侍女長”になる可能性が高いんだから、できればアルティナと同年代かそれよりも下の年代の使用人達の方が、お互いにとってもやりやすいと思うしな。」

「エリゼ様……リィン教官……………その………お二人が仰った提案をメンフィル帝国とクロスベル帝国は受け入れて頂けるのでしょうか……?」

エリゼとリィンの提案に驚いたアルティナはエフラム達に視線を向けた。

「フフ、私達はシュバルツァー家の方々がそれを望むのでしたら構わないと思いますよ。エリゼさん達も仰ったようにリィンさんがシュバルツァー家の跡を継いで、クロイツェン統括領主になった時リィンさん達シュバルツァー家を支える使用人はアルティナさんのようにシュバルツァー家に直接仕えている使用人が必要で、人数が多ければ多い程、新興の大貴族になったシュバルツァー家にとっては色々な意味で助かると思いますし。」

「そうだな……今回の交流会でも今の件も含めて話し合うつもりだ。」

「そう、ですか………………その、今すぐには決められないので、お二人の申し出については後で答えを出しても構わないでしょうか……?」

エイリークとエフラムの答えを聞いたアルティナは少しの間考え込んだ後リィンに訊ね

「ああ、考える時間はあるんだから、しっかり考えて答えを出してくれ。」

「……はい。」

リィンの答えを聞いたアルティナは静かな表情で頷いた。



「フウ………それにしても”黒の工房”についての話し合いの件はともかく、もうすぐ訪れる晩餐会に参加する事は正直気が滅入るな………あんな堅苦しくて、面倒なものに参加するくらいならリィン達と模擬戦をした方が俺にとってはよっぽど実りのある時間の使い方なんだがな。」

「兄上…………」

「貴方の気持ちはわからなくはないですが、それも皇族の”義務”ですよ。」

疲れた表情で溜息を吐いて呟いたエフラムの言葉を聞いたリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エイリークは呆れた表情で片手で頭を抱え、サフィナは呆れた表情で指摘した。

「ハハ………メンフィルの勇将の一人として有名なエフラム殿下の申し出は正直身に余る光栄ですが、自分達はエフラム殿下を含めた各国のVIPの方々の警備という重要な任務がありますので。」

「フフ、それにリィン達と手合わせをしたいのでしたら、交流会を終えた後、リアンヌ様に第Ⅱ分校の方々の補習の相手を申し出ればよいのでは?」

「うふふ、分校長なら間違いなくレン達の相手にエフラムお兄様をぶつける事もレン達にとって良い刺激になると判断して、エフラムお兄様の申し出も受け入れるでしょうね♪」

「洒落になっていませんわよ、レン教官………」

我に返ったリィンは苦笑しながら謙遜した答えを口にし、セシリアの提案に小悪魔な笑みを浮かべたレンの推測を聞いたセレーネは疲れた表情で指摘し

「クスクス……エフラム皇子殿下には失礼な言い方になるかもしれませんが、そう言った型破りな所はエステルお姉ちゃんに似ていますね。」

「そうか?残念ながら俺達は今までエステルと会う機会がなかったから何とも言えないが、俺達の祖母――――ラピス様も皇族として型破りな方だったとの事だから、”ファラ・サウリン”の名を継ぐ者達は型破りな性格が多いのかもしれないな。」

「兄上………その言い方ですと私や父様達まで、皇族として型破りな人物のように見られるのですが………まあ、その件はともかく。フランツ、アメリア。待たせてしまってごめんなさいね。私達の話は終わったから、二人も久しぶりに会ったリィンさんとの再会話をして構いませんよ。」

可笑しそうに笑いながら答えたティータの指摘に答えたエフラムの推測にエイリークは呆れた表情で指摘した後フランツとアメリアに視線を向けた。

「ありがとうございます。とは言っても、僕は先月再会したばかりですから、リィンと話したい事がたくさんあるのはアメリアの方だと思うのですが………」

「えへへ……改めてになるけど、久しぶり、リィン!”七日戦役”やエレボニアの内戦でのリィンの活躍はあたしも後で知って驚いたけど、何よりも驚いたのは恋に関してはとんでもない”唐変木”だったリィンがエリゼちゃんとステラの気持ちに気づいて応えてあげた所か、8人もの婚約者を作って、更に政略結婚とはいえ、既に結婚までした事の驚きの方が大きかったよ?」

エイリークに視線を向けられたフランツは会釈をした後アメリアに視線を向け、アメリアは無邪気な笑顔を浮かべてリィンを見つめた。



「と、”唐変木”って………さすがにそれは言い過ぎじゃないか?」

「いえ、アメリアさんの仰っている通りかと。」

「そうですわよね……わたくし達―――女性の方から行動しなければ、リィンさんは一生わたくし達の気持ちに気づいてくれなかったと思いますし……」

「そ、そう言えばわたくし達全員、自ら行動してお兄様にわたくし達の気持ちを知ってもらいましたわよね……?」

アメリアの言葉に対して表情を引き攣らせて否定したリィンだったがエリゼとアルフィン、セレーネの指摘を聞くと冷や汗をかき

「………教官?」

「その……”部外者”の僕達に指摘する”資格”があるかどうかわかりませんが、教官には多くの将来を共に決めた女性がいるにも関わらず、未だに女性達の方から動いてもらわなければ女性の気持ちに気づかないのは、さすがにどうかと思うのですが………」

「まあ、教官のその”唐変木”な性格は一生治らないと思いますから、指摘しても無駄な気はしますが。」

「う”っ。」

(という事は未来の私は自ら行動して、リィン教官に未来の私の気持ちを知ってもらったのかしら……?)

ジト目のユウナと困った表情を浮かべたクルト、静かな表情で呟いたアルティナの指摘にリィンが唸り声を上げて疲れた表情で肩を落としている中、ゲルドは首を傾げてリィンを見つめていた。



「クスクス………どうやらその様子だと、恋愛方面に関しては相変わらずみたいだね。」

「アハハ、むしろリィンが恋愛方面に鋭くなったら、リィンを知っている人達はみんな、天変地異が起こる前触れだと思うだろうね。」

「い、幾ら何でも天変地異の前触れはありえないだろう!?」

苦笑しながら答えたアメリアとフランツの話にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中リィンは疲れた表情で指摘し

「そんな事を言われるくらい、鈍感って事よ、リィンは。確か……ベルフェゴール様だっけ?エリゼちゃんが積極的になったのも、多分睡魔族のベルフェゴール様との出会いが理由だったんでしょう?」

「そ、それは…………」

「………そうですね、アメリアさんの推測は概ね当たっていますね。」

「エ、エリゼお姉様……」

呆れた表情をしたアメリアの指摘に反論できないリィンが表情を引き攣らせている中、静かな表情で同意したエリゼの答えを聞いたセレーネは冷や汗をかき

(えっと……ベルフェゴールさん、今のアメリアさんの話は本当なのですか?)

(ええ、それについては話し始めたら長くなるから後で教えてあげるわ♪)

アメリアの話が気になっていたアルフィンはベルフェゴールと念話をしていた。



「アハハ……けど、そのお陰でリィンはエリゼちゃん達の気持ちに気づけたのだから、お互いにとってよかったと思うよ?」

「フフ、それらの件を考えればリィンのような男性は睡魔族のような積極的な性格をしている女性との知り合うべきかもしれないわね。」

「クスクス、何せ女性の方から”荒療治”をしてくれるものね♪」

「ううっ、セシリア教官まで………しかも実際に”荒療治”をされた側としては否定できない………」

苦笑しているフランツとセシリア、小悪魔な笑みを浮かべたレンの指摘にその場にいる全員が冷や汗をかいている中リィンは疲れた表情で肩を落とした。



その後ユウナ達はフランツ達からリィンの昔話を教えてもらって話に花を咲かせていると晩餐会の開始の時間が訪れた為、エフラム達に別れの挨拶をした後第Ⅱ分校に割り当てられている待機室へと向かい始めた――――


 
 

 
後書き
公式サイトでようやくリィンとクロウが登場しましたね。とりあえずリィンも普通にプレイアブルキャラとして使えるっぽいからホッとしましたww絆イベントとかどうなる事やら……というかクロウって、プレイアブルキャラだと銃と双刃剣、どっちを使うんでしょうね?そしてヴァリマールとオルディーネもプレイヤーが操作できるのやら…… 

 

第51話

リィン達がエレベーターへと向かっていると近くの部屋の突如開かれた。



~オルキスタワー・36F~



「その様子だと、どうやら話は終わったようだな?」

「あ………」

「ヴァイスハイト陛下。」

「陛下もこちらの階に?」

部屋から出て来たヴァイスの登場にティータは呆け、アルティナは静かな表情で呟き、リィンはヴァイスに訊ねた。

「ああ、そろそろ招待客が会場に通される頃合いだからな。丁度いい、リィンとユウナ。二人は少し話に付き合ってくれ。個人的に話したいことがあってな。―――なに、時間は取らせない。」

「へ………」

「それは…………自分はわかりますが、何故ユウナにも陛下が個人的に話したい事があるのでしょうか?失礼ながら、お二人にはあまり共通点はないように思えるのですが……」

ヴァイスの頼みにユウナが呆けている中、リィンは戸惑いの表情でヴァイスに訊ねた。



「どちらかというと用があるのはユウナの方だ。リィンはユウナの担任教官だから、付き添いとしていてくれるだけでいい。」

「………一体あたしに何の用ですか?」

ヴァイスの説明を聞いたユウナは警戒の表情でヴァイスを睨み

「そう睨むな。さっきアルがエリィとメサイアの件でお前達に伝言をしただろう?生憎メサイアの時間に空きは作れなかったが、エリィの時間に空きが作れたから、エリィも交えた上で話し合いの場を設ける。」

「え………それじゃあ、エリィ先輩と会えるんですか!?」

「ハハ…………―――わかりました。すまないが、先に戻ってもらえるか?」

エリィと会える事に目を輝かせているユウナの様子に苦笑したリィンはセレーネ達を見回して指示をし

「ええ、わかりましたわ。」

リィンの指示にセレーネは頷いた。その後セレーネ達と一端別れたリィンとユウナはヴァイスと共に部屋に入り、それぞれソファーに座って向かい合うと扉がノックされた。



「―――エリィです。入室してもよろしいでしょうか?」

「あ………!」

「ああ、遠慮なく入って来てくれ。」

「――――失礼します。」

扉から聞こえてきた声を聞いたユウナが嬉しそうな表情で扉に視線を向けるとエリィが部屋に入って来た。

「お久しぶりです、エリィ先輩……っ!」

「ユウナちゃん……ええ、ユウナちゃんも元気そうで何よりね。――――それと、リィンも久しぶりね。」

「ああ、実際にこうして会うのは”碧の大樹”の件以来になるから1年半ぶりだな。」

嬉しそうな様子で駆け寄って来たユウナに微笑んだエリィは懐かしそうな表情でリィンに視線を向け、エリィに視線を向けられたリィンも懐かしそうな表情で返事をした。その後リィン達はソファーに座り直した。

「それで……陛下はユウナに話があるとの事でしたが………わざわざこの場にエリィを呼んだという事は単なる再会の場を設ける訳ではなく、もしかして陛下のユウナに対する用事の件と関係しているのでしょうか?」

「へ………」

「それは………」

「まあ、遠からず当たっているな。さて………時間もないから、早速本題に入らせてもらう。―――――ユウナ・クロフォード。俺の部下がお前に理不尽な理由で迷惑をかけた事で、わざわざ外国であるトールズ第Ⅱで入学し直す羽目になった”詫び”代わりに、お前が俺に対して疑問を抱いている事を全て答えてやろう。イアン・グリムウッドとアリオス・マクレインの件で軍警察本部に怒鳴り込んだ事を考えると俺に聞きたい事があるんじゃないのか?」

リィンの推測にユウナが呆け、エリィが複雑そうな表情をしている中ヴァイスは静かな表情で答えた後真剣な表情を浮かべてユウナを見つめ

「……っ!」

「ユウナちゃん………」

「……本当によろしいのでしょうか?失礼を承知で申し上げますが、ユウナの陛下に対して思う所があるような発言と思われる発言があった事を考えると陛下を御不快にするような発言をユウナがするかもしれませんが……」

「構わん。俺は元々口調等で”不敬”扱いするような”器”の小さい者達とは違うし、この場は非公式の場で、同席している者達は気心が知れた者達のみだ。何だったら俺に対する不満も口にしても構わない。民の不満を受け止める事も”皇”―――いや為政者の務めだからな。」

ヴァイスの言葉に唇を噛みしめて身体を震わせているユウナに気づいたエリィは心配そうな表情をし、ユウナの様子を見たリィンは複雑そうな表情でヴァイスに確認し、リィンの問いかけにヴァイスは静かな笑みを浮かべて答えた。



「…………だったら、お言葉に甘えて遠慮なく言わせてもらいます…………―――――マクダエル議長は”クロスベル帝国建国”を機に自分から政治の世界から退く事を仰っていましたけど、本当は貴方達にとってマクダエル議長が邪魔だからマクダエル議長に政治の世界から退くように脅迫とかをしたんじゃないんですか!?それにクロスベルが世間からも独立を認められたにも関わらず、かつてディーター市長が”神機”をクロスベルの”力の象徴”にしたように”列車砲”をクロスベルに配備して、更にただでさえ国家間の関係が悪いエレボニアとの関係を更に悪くさせるような事――――例えばRF(ラインフォルトグループ)の兵器を倍以上に値上げさせた状態でエレボニアに売らせるような事をさせているんですか!?そして………どうしてクロスベルのみんなから親しまれていたイアン先生を処刑した上、”クロスベルの英雄”として親しまれていたアリオスさんを世紀の大悪党扱いして、更にアリオスさんの全て――――地位、名誉、家族まで奪ったんですか!?」

「…………………」

「ユウナちゃん…………」

そしてユウナは勢いよく立ち上がってヴァイスを睨んで自身の本音を口にし、ユウナのヴァイスに対する疑問を知ったリィンは目を伏せて黙り込み、エリィは複雑そうな表情をしていた。

「………――――いいだろう。まずはマクダエル議長の件から答えるつもりだが……エリィ、マクダエル議長の件についてはマクダエル議長の血縁者であるお前が説明した方が俺に対して不信感を抱いているユウナにとってはお前の説明の方が信用できるだろうから、マクダエル議長の件についてはお前が答えてやってくれ。」

「………わかりました。ユウナちゃんはお祖父様の引退は陛下達――――”六銃士”が関わっていると思っているようだけど………お祖父様の引退は1年半前のあの日―――――お祖父様がディーターおじ様による”クロスベル独立国”についての無効宣言をした後の引退宣言通り、お祖父様自身の”意志”によるものよ。――――陛下達はクロスベル帝国建国後お祖父様にもクロスベル帝国政府の上層部の一人になってもらうつもりでいて、むしろお祖父様の引退を引き留めようとしていたわ。」

ヴァイスに促されたエリィは静かな表情で頷いたエリィはユウナを見つめてユウナの疑問について答え

「…………ぇ……………」

「そこに補足する形になるが、マクダエル議長が俺達にクロスベルの後を託す事を伝えたその場にリウイもいたから、”特務支援課”の他にリウイもマクダエル議長が自らの意志で引退を決めた事を口にした事を証明できる人物だ。」

「リウイ陛下もその場にいらっしゃったのですか………」

エリィの説明にユウナが呆けている中ヴァイスの説明を聞いたリィンは驚きの表情で呟いた。



「ど、どうしてマクダエル議長は引退を決められたんですか……!?あんなにもクロスベルの為に身を粉にしてずっとクロスベル市長として二大国の圧力に対して戦って、ディーター市長が当選してからも議長としてクロスベルを支えていたのに……」

我に返ったユウナは戸惑いの表情でエリィに訊ね

「ユウナちゃんも知っているでしょうけど、お祖父様は本来だったらいつ引退してもおかしくない高齢の方よ。……本当はお祖父様は自分の後を託せる人物が現れてくれれば、その人物が自分の補佐も必要ないくらい政治家として成長すれば、お祖父様は引退するつもりだったのよ。現にディーターおじ様がクロスベル市長に就任した時もお祖父様は”議長”に就任して、おじ様を支えていたでしょう?」

「それは…………で、でもそれじゃあヴァイスハイト陛下達――――”六銃士”がクロスベル帝国を建国した時に、ご自身は引退されたんですか……?エリィ先輩の話だと、ヴァイスハイト陛下達もマクダエル議長の力を必要としていたのに………」

エリィの説明を聞いて複雑そうな表情をしたユウナは新たに抱いた疑問をエリィに訊ねた。

「……お祖父様は高齢である自分だと若い陛下達の足かせになるという理由で引退したのだけど………ひょっとしたら、自分が生まれ変わったクロスベルでも為政者を続けていれば、エレボニア帝国のように陛下達のやり方に不安や不満を抱いたクロスベルの人々がお祖父様自身を”派閥”の長にする事で”派閥争い”が起こる可能性を無くす為に、自分とは全く違うやり方でクロスベルを治めるつもりである陛下達の登場を機に政治の世界から退いたのではないかとも思っているわ。」

「まあ、実際”クロスベル問題”の元凶の一つはエレボニアと旧カルバード、それぞれの派閥に所属している議員達による派閥争いだからな。二大国の派閥争いの真っ只中で必死に諍っていたマクダエル議長だからこそ、派閥争いの愚かさやそれによって起こる”最悪の事態”という前例があるから、生まれ変わったクロスベルがそうならないように自ら退く決意をしたのかもしれないな。」

「”派閥争いによって起こる最悪の事態の前例”………―――――1年半前のエレボニア帝国の”貴族派”と”革新派”の派閥争いによって起こった内戦ですか……」

エリィとヴァイスの推測を聞いてすぐに心当たりを思い出したリィンは重々しい様子を纏って呟き

「……………もしかして、エリィ先輩があの時―――――メンフィルとエレボニアのVIPの人達を迎える場にメサイア皇女様達と一緒にいた理由はクロスベル帝国政府内で”派閥争い”を発生させない為ですか?」

「え………」

「ほう……?今の話だけでエリィがメンフィルとエレボニアのVIP達を迎えるクロスベルのVIP担当の一人として選ばれた理由の一つを察するとはな。クロスベル軍警察の就職を希望しているとの事だが、案外政治家に向いているのではないか?」

ユウナの推測を聞いたエリィが驚きのあまり呆けた声を出している中ヴァイスは興味ありげな様子でユウナを見つめた。

「さっきユーディット皇妃陛下達からエリィ先輩もメンフィルとエレボニアのVIPの人達を迎えるクロスベルのVIPの一人として選ばれた理由の推測を教えてもらって、そこから推測をしただけです。」

「え……ユ、ユーディット皇妃陛下達が?お二人は一体どんな話をユウナちゃんにしたのかしら?」

「実は―――――」

ユウナの答えを聞いたエリィは戸惑いの表情でユウナに訊ね、リィンはユウナの代わりにユーディット皇妃とキュアから聞いたエリィがメンフィルと”三帝国交流会”のクロスベルのVIPの一人に選ばれた理由の推測について答えた。



「そう……ユーディット皇妃陛下とキュアさんがそのような事を………そうね。お二人とユウナちゃんが今推測したように、私があの場にいた理由も全てクロスベルで生まれる可能性がある”争いの芽”を少しでも減らす為よ。そしてそれと同時にクロスベルの人々にクロスベルが独立し、エレボニアと旧カルバードに対して”下克上”を果たしたとはいえ、それらの出来事に驕らず、今まで通りの自由と平和を大切にするクロスベル人であり続けて欲しいという意味でもあの場に同席したのよ。」

「ハハ、エリィらしいな。」

「フッ、他にも理由があって俺達の頼みに応えてくれた予想していたが………まさか、そのような理由も含まれていたとはな。さすがはマクダエル議長の孫娘――――いや、クロスベルの様々な立場の者達と接してきた”特務支援課”を代表し、政治の世界に踏み入れた者というべきか。」

エリィの真意を知ったリィンは微笑み、ヴァイスは静かな笑みを浮かべてエリィを見つめた。

「フフ、国は違いますけどリィンとセレーネちゃんも将来政治の世界に踏み入れる事になるのですから、私だけが”特務支援課”を代表して政治の世界に踏み入れた訳ではありませんよ?」

「ハハ、言われてみればそうだな。」

ヴァイスの指摘に対して答えたエリィの答えにリィンは苦笑し

「エリィ先輩……………一つ目の質問に関しては理解して、納得もしました。次の質問に関して、お願いします。」

尊敬の眼差しでエリィを見つめていたユウナは表情を引き締めてヴァイスを見つめて続きを促した。



「いいだろう。――――とは言っても、お前達は既にイリーナ会長やユーディ達と会ってきたのだから”列車砲”やRFの件に関しての俺達の意図について説明されているのではないか?」

「ええ………ユーディット皇妃陛下達から聞いた話は正直複雑に感じていますけど、政治に関して第Ⅱ分校で学び始めた程度のあたしでも貴方達のやっている事は新興の国であるクロスベルにとって決して間違ってはいない事である事は理解しています。それでも聞かせてください……エレボニアもクロスベルの”独立”を認めたのに、何で今もエレボニアに対して厳しい態度を取り続けているんですか?確かにエレボニアと仲良くする事は以前のクロスベルを考えたら難しいかもしれませんが、今は対等の立場になったのですから、昔の事は水に流して仲良くした方がいいんじゃないんですか?」

「昔の事は水に流して仲良く、か…………まあ、お前の言っている事は正論だが………逆に聞かせてもらうが”下克上をされた側であるエレボニア”がそう簡単に”下克上をした側であるクロスベル”に対して過去の出来事を水に流して手を取り合いたいと思うか?」

「陛下、それは………」

ユウナの指摘に対してヴァイスは真剣な表情でユウナを見つめて指摘し、ヴァイスの指摘に対してリィンは複雑そうな表情をし

「そ、それは………で、でも!レーグニッツ閣下はエレボニアはクロスベルとも仲良くすべきだと仰っていました!それにティータから教えてもらいましたけど、ヴァイスハイト陛下ってオリヴァルト殿下とも仲が良いんですよね?実際、さっき三帝国のVIPの人達を紹介してくれた時も親しそうに話していましたし。だったら、エレボニアとも仲良くできるんじゃあ……!」

「無理だな。レーグニッツ知事はあくまでエレボニア帝国政府の上層部の一人であって、トップではない。オリビエに関しては正直エレボニアでの政治的立場は低い。そしてエレボニア帝国政府のトップは誰で、そのトップがかつて”西ゼムリア通商会議”にてクロスベルに対して仕掛けた事や、今もなおクロスベルやメンフィルに対する復讐の牙を磨き続けている事を忘れたのか?」

「っ!!………………」

「…………………」

「リィン……………」

自分の主張に対して即座に反論したヴァイスの指摘を聞いたユウナはオズボーン宰相の顔を思い浮かべて目を見開いて息を呑んだ後複雑そうな表情で黙り込み、目を伏せて黙り込んでいるリィンをエリィは心配そうな表情で見つめた。

「そしてその者を重用し続けているのはエレボニアの皇帝――――ユーゲント皇帝だ。エレボニアの皇帝と政府のトップがクロスベルに対して”そう言った態度”を取っている以上、こちらもクロスベルの平和の為に”対策”を取らざるを得ないだろう?」

「………………………」

ヴァイスの正論に対して反論できないユウナは辛そうな表情で顔を俯かせた。



「さて、後はイアン・グリムウッドとアリオス・マクレインの件か。まずイアン・グリムウッドを処刑した件についてだが………お前は奴の事を慕っているようだが、1年半前のクロスベル動乱とD∴G教団司祭――――ヨアヒム・ギュンターによるクロスベル襲撃の手筈を考え、裏でそうなるように仕向けた黒幕(フィクサー)である事を忘れたのか?更に奴はお前が心の底から尊敬する”特務支援課”のリーダー――――ロイド・バニングスの兄にして”特務支援課”の産みの親でもあるガイ・バニングスの命を奪った張本人だぞ?これらの話を知ってもなお、奴の事を庇うのか?」

「そ、それは……………」

「…………もしかして、陛下達がイアン氏を処刑する事を決めた理由の一つはロイドの為に……?」

ヴァイスの正論に反論できないユウナが辛そうな表情で答えを濁している中ある事に気づいたリィンは複雑そうな表情でヴァイスに訊ね

「勘違いするな。幾ら兄の仇とは言え、ロイドの場合死んで償うよりも生きて償うべきだという考えの持ち主である事はお前も知っているだろうが。イアン・グリムウッドを処刑した一番の理由はクロスベル―――いや、ゼムリア大陸の後の”災厄の芽”となる可能性を潰す為だ。」

「な―――――」

「え―――――」

「…………………」

リィンの質問に対して答えたヴァイスの答えを聞いたリィンが驚き、ユウナが呆けている中事情を知っているエリィは複雑そうな表情で黙り込んでいた。

「イ、イアン先生が”ゼムリア大陸の災厄の芽”になるかもしれないから、処刑したって一体どういう事ですか!?」

「お前も知っての通りイアン・グリムウッドがクロスベル動乱を引き起こした”動機”は自分の家族を含めたクロスベルの民達が二大国による争いで命を奪われ続けるという現状を変える為に”歴史を改変する事”でそれらの出来事をやり直し、自分達の思い通りの歴史を作るという人が決して手を出してはいけない”神”をも恐れぬ”禁忌”の所業だ。実際、奴とクロイス家の所業を知った”空の女神”が1年半前現代のゼムリア大陸に降臨し、ロイドやリィン達と共に”碧の大樹”を攻略した事やイアン・グリムウッド達は”空の女神”の”逆鱗”に触れた事も世界中に公表されたから、お前も知っているだろう?」

「ぁ……………」

ヴァイスの話を聞いて血相を変えて質問したユウナだったがヴァイスから理由を説明されると呆けた声を出して複雑そうな表情で黙り込んだ。



「そして1度”禁忌”を犯そうとした者は生き続ける限り、再び”禁忌”を犯す可能性が非常に高い事は明白だ。よって、俺達は後の”災厄の芽”となる可能性が非常に高い奴を処刑する事を決めた。」

「っ!で、でも!イアン先生が利用しようとしていた”零の至宝”――――キーアちゃんにはもう”至宝”としての力はほとんどなくなって、もう2度と”零の至宝”としての力が使えなくなったと聞いています!キーアちゃんがそんな状況なんですからイアン先生もキーアちゃんを利用しようとも考えないでしょうから、処刑する必要はなかったんではないですか……!?」

ヴァイスの結論を聞いて唇を噛みしめたユウナは必死に反論した。

「”キーア以外の他の存在”―――――本物の”七の至宝(セプト=テリオン)”を利用するという可能性が残っているだろうが。実際に”至宝”を悪用した者が他の”至宝”を利用しない保証がどこにある?」

「そ、それは………」

「それとクロスベル動乱の”真実”を知った星杯騎士団――――”七耀教会”はクロイス親娘――――ディーター・クロイス並びにマリアベル・クロイスに加えてイアン・グリムウッドを”外法認定”している。どの道奴に生きる事は許されない。」

「げ、”外法認定”………?何なんですか、それは……?」

ヴァイスの説明の中にあったある事が気になったユウナは不安そうな表情で訊ね

「………”外法認定”とは七耀教会が”後戻りできない大罪人”―――”外法”を認定する事で、星杯騎士団は”外法認定”した者を”狩る”――――つまり殺害する事も任務の一つなんだ。」

「な―――――そ、それじゃあまさかワジ先輩が”碧の大樹”にロイド先輩達と一緒に攻略した本当の理由は……!」

「………ええ、星杯騎士団を束ねる12人の騎士――――守護騎士(ドミニオン)であるワジ君にも封聖省――――七耀教会からイアン先生同様”外法認定”されたベルを抹殺する指示が来ていたそうよ。実際にベルを殺害した人物はワジ君ではない別の星杯騎士だったけどね…………」

リィンの説明を聞いて一瞬絶句したユウナはエリィに視線を向け、視線を向けられたエリィは重々しい様子を纏って答えた後複雑そうな表情を浮かべた。



「更にそれらの件とは別にイアン・グリムウッドが西ゼムリア大陸の騒乱の引き金となったクロスベル動乱の主犯者の一人である事は世界中に公表された。そのような他国からも憎悪を抱かれている人物を新興の国であるクロスベルが庇えば、他国がクロスベルと友好を結んでくれると思うか?」

「……………………もしかして、アリオスさんの件もイアン先生と同じ理由なんですか?」

ヴァイスの正論に反論できないユウナは辛そうな表情で顔を俯かせた状態でヴァイスに訊ねた。

「ああ。―――ちなみにお前は俺達がアリオスの”全て”を奪ったと思っているようだが、実際にアリオスの地位や名誉――――S級に最も近かったA級正遊撃士やそれまでの功績を剥奪したのは遊撃士協会本部だぞ?」

「ええっ!?ど、どうしてギルドの本部がアリオスさんの地位や名誉を……!」

「ギルド本部の上層部の人達は遊撃士時代から自分達の目を盗んでクロスベル動乱を引き起こす為の暗躍をしていたアリオスさんの自分達ギルドに対する”裏切り”を許さなかった事もそうだけど、西ゼムリア大陸の騒乱の引き金となった”クロスベル動乱”の主犯者の一人であるアリオスさんの存在によってゼムリア大陸全土の国家からギルド自身の存続が問われる可能性へと発展する可能性も考えられたから、ギルド本部はアリオスさんの名誉や地位を剥奪したとの事なのよ。」

「そ、そんな………」

「……………………」

ヴァイスの指摘を聞いて驚いた自分の疑問に対して答えたエリィの答えを聞いたユウナが信じられない表情をしている中、リィンは目を伏せて黙り込んでいた。

「それと家族――――シズクの件だが、確かに俺達は奴から家族を奪った形にはなったが、実際の目的はシズクを”保護”する意味で、シズクと奴の縁戚関係を切らせる事の割合が大きい。」

「シ、シズクちゃんを保護する為にアリオスさんとシズクちゃんの縁戚関係を切ったってどういう事ですか!?」

「逆に聞かせてもらうが、かつて”クロスベルの英雄”と称えられていた者が幾ら独立の為とはいえクロスベルを騒乱の引き金とする為に暗躍していた事を知ったクロスベルの民はアリオスもそうだが、アリオスの娘に対して悪感情を抱かないと思えるのか?――――更に言えばクロスベル動乱をきっかけにそれぞれ内戦が起こった二大国もアリオスの娘に危害を加えないと思えるのか?」

「ぁ……………そ、それじゃあもしかしてセシルさんがシズクちゃんを引き取ったのも自分が前メンフィル皇帝の側妃の一人だから、シズクちゃんがそんな凄い立場の自分の娘になったのならアリオスさんに対して悪感情を抱いている人達もシズクちゃんに危害を加えにくいと思って………」

「ええ、それも理由の一つよ。………リウイお義兄様は元々シズクちゃんをイーリュン教の孤児院に預けるつもりだったようだけど、シズクちゃんが入院していた頃ずっとシズクちゃんをお世話をしていたセシルさんはシズクちゃんの将来を凄く心配していて引き取ったのよ。」

「後はセシル様も普段はクロスベルで働いているから、自分がシズクちゃんを引き取ればシズクちゃんをそのまま故郷(クロスベル)に育ってもらえるからというのもあるだろうな………」

ヴァイスの指摘を聞いて呆けた声を出してある事に気づいたユウナの推測にエリィは頷いて説明をし、リィンもエリィに続くようにエリィの説明を補足した。するとその時通信の音が鳴り始めた。



「―――ツェリンダーだ。ああ、ああ………わかった、今行く。――――どうやら時間が来たようだ。お前の知りたい疑問に対しての”真実”もちょうど全て答える事ができたし、”時間切れ”で話を中断する羽目にならなくて済んだ。俺は先に向かうが、エリィ。お前は二人を見送った後で、晩餐会に来てくれ。」

「かしこまりました。」

懐からARCUSⅡを取り出して通信をしたヴァイスは立ち上がってエリィに指示をし、指示をされたエリィは会釈をし

「――――一つ言い忘れていた。アリオス・マクレインの件だが、実はまだ続きがあってな。イアン・グリムウッドを処刑して1ヵ月後あたりか………その頃からアリオス・マクレインの減刑を嘆願する署名活動が始まり、今も署名活動が続けられているとの事だ。」

「え…………」

「アリオスさんの……署名活動が続いているという事は、その件に関して陛下達は署名活動を制限すると言った事はするつもりはないのですか?」

自分達に背を向けた状態で答えたヴァイスの話を聞いたユウナが呆けている中リィンは驚いた後目を丸くしてヴァイスに問いかけた。

「フッ、犯罪者の減刑の署名活動自体はクロスベルに限らず、どの国でも”違法”扱いされていないのだから弾圧や制限等をすれば、それこそ俺達が嫌う”独裁者”であるディーター・クロイスや”鉄血宰相”と同じ穴の狢だ。話を続けるが俺が知る限りではアリオス・マクレインの減刑嘆願の署名の中には遊撃士協会の関係者は当然として、クロスベルの有力者やクロスベル軍警察にクロスベル帝国軍、更には”特務支援課”出身の者達の名前があり、しかも”特務支援課出身の某一等書記官”は自身の外交のついでに他国の有力者達からの署名も集めているとの事だ。どのタイミングで署名をクロスベル帝国政府に提出してくるかわからないが………少なくても、俺達も無視できない署名を集め切るまでは署名を続けるだろうな。」

リィンの問いかけに対して静かな笑みを浮かべて答えたヴァイスはそのまま部屋から去って行った。



「”特務支援課出身の某一等書記官”って………ハハ、まさかエリィがそんな事をしていたなんてな。」

「フフ、外交方面は私だけじゃないわ。リーヴちゃんも自身の伝手を使って手伝ってくれているわ。」

ヴァイスが去った後苦笑しているリィンにエリィは微笑みながら答え

「リーヴ―――いや、リーヴスラシル公女殿下も署名活動を手伝っているという事はもしかして”エルフェンテック”の取引相手に加えてレミフェリアの市民や有力者達からも署名を集めてもらう為に……?」

「ええ、今はクロエちゃん達と一緒にレミフェリアで”クロスプロジェクト”の活動をしつつ、署名を集めてくれているわ。レミフェリア公国はかつて起こったバイオテロを解決したアリオスさんに感謝の証として勲章を授けているから、有力者達もそうだけど、多くの市民達からの署名も期待できると思うわ。」

「あ、あの……!もしかして署名活動を始めたのもエリィ先輩達――――”特務支援課”なのですか……?」

リィンの質問にエリィが答えるとユウナは真剣な表情でエリィに訊ね

「ええ。イアン先生が亡くなってからも、せめてアリオスさんの罪を軽くする為に私達に何かできる事はないかずっと考えていてね。ヴァイスハイト陛下が先程仰ったように二人がそんな痛ましい結果になってしまった理由は多くの人々の”意志”だから、それを逆手に取る事をロイドが思いついてくれたのよ。」

「ロイド先輩が……!」

「ハハ、さすが自分も言っていたように家系的に”諦めの悪さ”が取り得の一つだと言っていたロイドらしい提案だな。それで署名活動の状況は今、どうなっているんだ?」

エリィの説明を聞いたユウナが明るい表情を浮かべてある人物の顔を思い浮かべ、ユウナと同じ人物を思い浮かべたリィンは口元に笑みを浮かべた後話の続きを促した。



「帝都周辺――――つまりクロスベル市を含めたクロスベル地方に住んでいる人々の内およそ8割に当たる人数からの署名をしてもらえたわ。更にエステルさん達も署名活動を手伝ってくれていて、エステルさん達のお陰でクロスベル以外の支部の遊撃士達やエステルさんの父親やアリシア女王陛下を始めとしたリベール王国の有力者達からも署名してもらえたわ。」

「そ、そんなにも多くの人達がアリオスさんの罪を軽くする為に署名してくれたんですか……!?」

「ハハ、まさかカシウス少将も署名に加わっていたなんてな……………――――エリィ、俺も―――いや、俺とセレーネ、それにエリゼとアルフィンも署名させてもらってもいいか?”灰色の騎士”を始めとした二つ名は正直俺達には分不相応だと今でも感じているが、今この時だけはその二つ名をあえて利用する。二つ名持ちの俺達による署名も雀の涙程度には、意味はあるとは思うが……」

エリィの説明を聞いたユウナが嬉しそうな表情をしている中リィンは苦笑した後静かな笑みを浮かべてある事を申し出

「フフ、”雀の涙”だなんて謙遜し過ぎよ。機会があれば貴方達にも署名を頼むつもりだったから、是非お願いするわ。」

「あたしも当然署名させてください!それにアル達――――新Ⅶ組のクラスメイトにも今連絡して、署名の許可をもらいます!」

「ユウナちゃんもありがとう。是非お願いするわ。」

「ハハ、そうと決まったら早速セレーネ達に連絡して署名の許可を取らないとな。」

その後ARCUSⅡでセレーネ達に連絡して署名の許可を貰ったリィンとユウナは”クロスベル動乱”を引き起こした元凶の一人にして八葉一刀流の皆伝者の一人――――”風の剣聖”アリオス・マクレインの減刑嘆願に署名をした後、エリィに見送られて第Ⅱ分校の関係者達が待機している部屋へと戻って行った――――


 
 

 
後書き
という訳で今回の話で原作には登場しなかったエリィが登場し、リィン達と再会しました!なお、ユウナの質問に答えるところからのBGMは碧か碧EVOの”乗り越えるべき壁”で、 ヴァイスが署名の件について話し始めたところからのBGMは零か零EVOの”踏み出す勇気”、もしくは閃Ⅲの”行き着く先 -Instrumental Ver”のどれかだと思ってください♪ 

 

第52話

その後―――35Fにて三帝国のVIP達と地元の有力者や大企業との会食が開始された。



~オルキスタワー・34F~



一方第Ⅱ分校は晩餐会の様子をモニターで見守りながら、晩餐会で出された食事を楽しんでいた。

「わっ、何コレ美味しい~!」

「ううむ、晩餐会と同じメニューを学生―――しかもクロスベルとは関係が微妙なエレボニアの士官学生にも振る舞ってもらえるとは。」

「ハハ、なかなか太っ腹だねぇ。」

「はあ~、これで新姫様とお近づきになれたら最高だったんだけどなぁ。」

「はー、可愛かったなぁ。御付きの蒼髪の子も好みやけど♪」

「ハハ、どいつもこいつも緩みまくってやがるな。」

「ま、晩餐会に出される食事なんざ、滅多に食う機会がないからな。」

「まったく、だから豪勢な食事など学生には必要ないと……」

はしゃいでいる生徒達の様子を見たランディが苦笑し、ランドロスが口元に笑みを浮かべている中ミハイル少佐は呆れた表情をし

「あはは、ヴァイスハイト陛下のせっかくのご厚意ですから。それにランディさんとランドロス教官もこうして正式に招待されてよかったです。」

「おう、わざわざ気遣ってくれてありがとな。」

「ハハ……ま、タワー限定だけどな。」

ミハイル少佐の文句に苦笑したトワはランドロスとランディに視線を向け、視線を向けられた二人はそれぞれ答えた。



「フフ、それにしてもまさかランディさん達がアリオスさんの罪を軽くする為にそのような事をしていたなんて、先程のお兄様からの通信で初めて知りましたわ。」

「ハハ、まずはクロスベルの市民達を納得させる必要があるから、お嬢が”一等書記官”に昇進して他国でも署名活動をするようになるまではクロスベルでしか署名活動をしていなかったから姫達が知らなくても無理はないぜ。それよりも姫とリィンもそうだが、エリゼちゃんとアルフィンちゃんも署名をしてくれてありがとうな。リィンと姫はともかく、エリゼちゃんは”西ゼムリア通商会議”で面識がある程度で、アルフィンちゃんに関しては会った事もないのに、名前を貸してくれて本当に助かったぜ。」

「いえ……色々ありましたが、アリオスさんには”西ゼムリア通商会議”の時に襲撃してきたテロリスト達の撃退を率先して行ってくれた事で、リフィア達の身を守ってくれましたから、その恩を返したまでです。」

「ふふっ、わたくしもアリオス・マクレインさんにはミュラーさんと一緒にお兄様を守って頂けたのですから、お兄様の妹としてせめてもの恩返しをしただけですから、どうか気になさらないでください。」

セレーネに視線を向けられたランディは苦笑した後エリゼとアルフィンに感謝の言葉を述べ、ランディに感謝の言葉を述べられた二人はそれぞれ謙遜した様子で答えた。

「うふふ、リィンお兄さんの事だから後で旧Ⅶ組や特務部隊のメンツにも事情を話して、署名に協力してもらうつもりなのでしょう?」

「ハハ、やはり見抜かれていましたか。でしたら早速になりますがレン教官も署名に協力してくれないでしょうか?レン教官も”西ゼムリア通商会議”の時にアリオスさんに対する”借り”を返す意味でもせめて署名に協力してあげてもいいのでは?」

レンに指摘されたリィンは苦笑した後レンに問いかけ

「あら、そこでさり気なくレンにも署名に協力するように促すなんて成長したわね♪ま、リィンお兄さんの言う通り”風の剣聖”に”借り”があるのも事実だから、今の内にさっさと返しておいた方がよさそうだから、署名に協力してあげるわ。」

「やれやれ、そう言った素直じゃない所もあれから全然変わっていねぇな……」

「クスクス………」

リィンの問いかけに対して小悪魔な笑みを浮かべたレンの答えを聞いたランディは苦笑し、セレーネは微笑んでいた。



「あ、そうだミュゼちゃん。ちょっと聞きたいんだけど……リーゼロッテ皇女殿下と面識があったりするの?」

一方その頃Ⅸ組の女子のクラスメイト達と食事をしていたティータはミュゼに質問をした。

「あら、どうしてですか?」

「その、さっき挨拶に伺ったときリーゼロッテ皇女殿下がミュゼちゃんやアルフィン皇女殿下が通っていた女学院に通っている話を思い出して……どうなのかなあって。」

「………ふふ、以前女学院でお見かけした程度ならありますけど。そういうティータさんこそオリヴァルト殿下のお知り合いだとか。あの赤毛の遊撃士の方との将来を殿下の演奏で祝福されたという噂も……」

「え~っ、そうなの~!?」

「オリヴァルト殿下がどうして……?」

「あの人、演奏とかやるんだ?」

「えとえと、そんな事はちょっとなかったような……ていうかミュゼちゃん?なんか微妙に詳しくない~!?」

答えを誤魔化したミュゼに逆に質問されたティータが驚いてる中周囲の女子達は興味ありげな様子でティータに視線を向け、話の的になったティータは困った表情をした後恥ずかしそうな表情を浮かべてミュゼを睨み

「クスクス……」

ティータの様子をミュゼは微笑ましそうに見守っていた。



「ふう………」

(………ユウナさん。また、少し暗いですね。)

(殿下達との会話や”風の剣聖”の署名の件で少し気が晴れたかと思ったが……列車砲といい、ヴァイスハイト陛下といい、やはり気がかりは多いんだろうな。)

(そうね……何といってもどれもユウナが愛する故郷が関係しているものね。)

(……そういうものですか。)

同じ頃溜息を吐いて考え込んでいるユウナの様子を見たクルト達は小声で会話をしていた。

「なんだ、揃いも揃ってシケた顔してるじゃねぇか。」

するとその時アッシュがユウナ達に近づいてきた。

「なんだ、アッシュか。」

「……ふう、別に。君こそ何かようでもあるの?さっきからあちこち、ウロウロしてるみたいだけど。」

「ああ、何とか上手いことタワーから出られないかと思ってな。酒も出ねぇ席なんざとっとと抜けて綺麗なねーちゃんの店でも探しにいった方が建設的ってモンだろ?しかもクロスベル(ここ)はあのハーレム皇帝の政策のおかげで綺麗なねーちゃんが”イイ事”してくれる店もあるんだから、男なら誰でも興味があるってモンだろ?クク、なんならお前らも一枚噛むかよ?」

「……やれやれ。前の演習で怒られただろう?」

「って、そもそも女のあたし達がそんな店に行ってどうするのよ!?」

アッシュの誘いに冷や汗をかいて脱力したクルトは呆れた表情で、ユウナは疲れた表情で指摘した。



「はは……生徒達も一応、リラックスできているみたいですね。」

「ま、常に気を張っているよりもよっぽどいい状況には違いないな。」

「フン、自覚が足らんな。演習地に戻るまでが任務という気概を持ってもらいたいものだが。」

「クスクス、”お家に帰るまでが遠足”だものね♪」

「レ、レン教官……意味が微妙に違うような気がするのですが……」

リラックスしている生徒達を見たリィンとランドロスが微笑ましく見守っている中呆れた表情で文句を言うミハイル少佐に小悪魔な笑みを浮かべて同意したレンの言葉にリィン達と共に冷や汗をかいて脱力したセレーネは困った表情で指摘した。

「そう言えばこの後、両帝国のVIPの方々が移動するまではしばらく待機なんですよね。演習地は大丈夫なんでしょうか?お任せしちゃましたけど……」

「そちらの心配は必要ないだろう。預けたクロスベル帝国軍の部隊は”六銃士”がまだクロスベルが自治州だった頃”六銃士”によって鍛え上げられたクロスベル警備隊の精鋭との事だし、結社の動きも現時点では見られない。」

「ハハ、それもそうだな。しかし、護衛の件で思い出したがクレア少佐やあのレクターの姿はエレボニアのVIP達の護衛の中には見かけねぇな?」

トワの疑問に答えたミハイル少佐の答えに苦笑したランディはミハイル少佐にある事を訊ねた。

「彼らは国内で別の任務に当たっているし、そもそもエレボニア皇族の護衛任務を担当しているのは”衛士隊”だ。幾ら宰相閣下直属の部下とはいえ、そう易々と殿下達の護衛任務に介入すれば様々な問題が発生する。そちらは気にせず、諸君は諸君の役割を果たしてもらおう。」

「わ、わかりました。」

「やれやれ、どこまで行っても情報制限が付きまとうっつーか。」

「いずれにせよ、あと30分ほどで晩餐会も終了しそうですね。」

その後、晩餐会は滞りなく終了し……メンフィルとエレボニアのVIPメンバーを市内の迎賓館に送る準備が整うまで、しばらく待機する事になるのだった。



「―――自由行動は34Fのみ許可する!招集をかけられたら速やかにここに集まるように―――解散!」

ミハイル少佐の号令で解散した第Ⅱ分校のメンバーがそれぞれ部屋を出たり部屋に残って談笑している中ミュゼはリィンに意味ありげな視線を向けて退出し

(……?まあいい、時間はあまり無さそうだが俺も少しばかりフロアを回ってみるか。)

ミュゼの視線に気づいたリィンは首を傾げたがすぐに気を取り直して見回りを始めた。



「まったく……話を聞いていなかったのかね?」

リィンが見回りをしているとミハイル少佐がトールズ本校の卒業生の一人である新聞記者――――ヴィヴィに注意をしていた。

「マスコミ関係者は許可が出るまで控室で待機と通達されただろう。」

「いや~、あはは……別にVIPの方々に近づこうとしてたわけじゃなくて。警備関係や、第Ⅱ分校の皆さんにインタビューでもと思いまして。あ、第Ⅱのアーヴィング主任教官って鉄道憲兵隊からの出向なんですよねっ?せっかくなので今回の件で一言―――」

「ええい、いいかげんにしたまえ!」

「ヴィヴィ、やはり来ていたのか。」

注意してもなお食い下がってくるヴィヴィの態度に顔に青筋を立てたミハイル少佐が声を上げて注意したその時リィンがヴィヴィに声をかけて近づいた。



「あ、リィン君!やっほー!」

「なんだ、君の知り合いか―――………という事はメンフィル帝国の”特務部隊”の関係者、もしくはトールズ本校の……?」

「あ、帝国時報のヴィヴィっていいまーす。今年の春、トールズ本校を卒業したばかりで♪」

「むむっ………―――まあいい、シュバルツァー。ここは君に任せた。ちゃんと規則を守るように”お友達”に言い含めるがいい。」

ヴィヴィの正体を知ったミハイル少佐は唸り声をあげた後その場から去って行った。

「うーん……結構ハンサムだけどアタマの固そうな人ねぇ。」

「まあ、それは同意するが規則は守った方がいいな。下手をしたらタワーからつまみ出されるかもしれないぞ?」

「やっぱそうか~……あわよくばVIPから直接話を聞きたかったんだけど。警備に絶対いると思っていたリィン君がお世話になっていた”特務支援課”出身のバニングス捜査官やルファディエル警視もそうだけど、今はクロスベル帝国内で活動している”ブレイサーオブブレイサー”達も警備の中にいなかったし……」

「え――――」

自分の注意に対して苦笑した後ふと呟いたヴィヴィの言葉が気になったリィンが呆けた声を出したその時

「ヴィヴィ君、ここにいたのか!」

「やばっ……」

「貴方は確かクロスベルタイムズの……」

別の新聞記者の男性がヴィヴィに近づいてきた。



「ああ、貴方もいましたか。ヴィヴィ君、提携してるんだから独断専行はどうか勘弁してくれ。君にしたって、強引に割り込んだ手前、問題を起こしたらマズイんじゃないか?」

「うっ、それは……はあ、わかりました。インタビューまで大人しくしてます。」

新聞記者の指摘に痛い所を疲れたヴィヴィは疲れた表情で肩を落とした後リィンに別れを告げて去って行った。

(うーん、あのバイタリティは見習うべきだが………しかし気になる事を言ってたな。エステル達がクロスベル帝国内で活動していながら、ギルドも警備に協力している今回の交流会の警備に参加していないなんて……それによく考えたらロイド達の件もそうだな………”西ゼムリア通商会議”で実際に襲撃を許してしまった件を考えると、万全を期してロイド達も警備に参加させるべきなのに、どうして出張を……)

ヴィヴィと別れたリィンは考え込んだ後気を取り直して見回りを再開し、非常階段付近に近づくと聞き覚えのある娘の声が聞こえてきたため立ち止まった。



「――――それにしてもまさか貴女が第Ⅱ分校に入ったなんて……」

(この声は……)

声に気づいたリィンが見上げると、ミュゼがリーゼロッテ皇女とリーゼアリアと共に会話をしていた。

「……アルフィン皇女殿下からの手紙が来るまで全然、知らなかったわ。てっきりフォートガードの女学院に移ったと思っていたのに……」

「ふふっ、手紙の方ではそこはボカしていましたから。それとなくヒントも散りばめていましたけど。」

「ふう、貴女ときたら相変わらずというか……わざわざフォートガードに届いた手紙をリーヴスに転送させたのね?」

驚いている様子のリーゼアリアに小悪魔な笑みを浮かべて答えたミュゼの様子に呆れた様子で溜息を吐いたリーゼロッテ皇女はミュゼが行った行動を確認した。

「うふふ、ちょっとしたスパイ小説みたいでしょう?お二人を心配させたくないのが半分、驚かせたかったのが半分ですね♪とは言っても姫様のお陰で、お二人が驚いている所を見れなかったのはちょっぴり残念でしたが♪」

「心配させたくないって……心配に決まってるでしょう。」

茶化している様子のミュゼに対してリーゼアリアは真面目に答えてミュゼに近づいてミュゼの頬を優しく撫でた。

「ぁ………」

「……でもよかった。返事がいつも遅かったから何か起きているのかと思って。………ただでさえ何の力にもなってあげられなかったから……」

「……わたくしもそうだわ。もっと力になれればって……」

「お二人とも……ふふ、そのお気持ちだけで十分です。どの道女学院(アストライア)に居続けることはできませんでしたから。―――まあ、新姫様と乙女の嗜みで盛り上がったり……リーゼアリア先輩のお兄様ラヴな話が聞けなくなったのは残念ですけど♪」

純粋に自分を心配している二人の様子に驚いたミュゼは静かな表情で答えた後いつものように小悪魔な笑みを浮かべた。



「も、もう……」

「ふふ、本当に相変わらずね。」

「……確かトールズでは”ミュゼ”と名乗っているのだったわね?実戦もある環境だそうだけど、ちゃんとやって行けそう?」

「ええ、これも自分で選んだ道ですから。―――いざとなれば先輩のお従兄様が守ってくれるでしょうし♪」

リーゼアリアの心配に対して静かな表情で答えたミュゼは意味ありげな視線をリィンに向けて微笑んだ。

「え………」

「……?」

「―――悪い。聞くつもりじゃなかったんだが。」

ミュゼの言葉に二人が首を傾げているとリィンがミュゼ達に近づいてきた。



「お、お兄様……!?」

「リィンさん……!」

「その……殿下も申し訳ありません。」

「ふふっ、乙女の密談を聞かれてしまいましたね♪」

「まったく、思わせぶりに目配せしてくると思ったら……」

二人が自分の登場に驚いている中意味ありげな笑みを浮かべたミュゼの言葉にリィンは呆れた表情で溜息を吐いた。

「ふう……リィンさんは悪くありませんわ。」

「ええ……昔からこの子はこうですから。」

その後リーゼアリア達はミュゼとの関係についてリィンに説明した。



「そうか……アルフィンからミュゼが帝都のアストライア女学院に在籍していた事は聞いていたが、二人とも知り合い同士だったんだな?」

「ええ、在籍は昨年末までですけど。お二人や姫様には後輩としてとても可愛がっていただきました。」

「どちらかというと私はこの子にいじられてばかりでしたけど……」

「ふふっ、だって先輩、いちいち可愛いんですもの。」

「うーん、それについてはわたくしも大いに同意するわね。」

ジト目で見つめてきたリーゼアリアに対して小悪魔な笑みを浮かべて答えたミュゼの答えにリーゼロッテ皇女は苦笑しながら同意し

「だからロッテもよ!」

リーゼアリアは疲れた表情でリーゼロッテ皇女に視線を向けて指摘した。



(……アルフィンは口にはしなかったけど、ミュゼが第Ⅱ分校に移ってきた理由は恐らく彼女の”叔父”が原因なんだろうな……)

「……殿下、リーゼアリア様。そろそろお時間が――――」

ミュゼたちの様子を見守りながらリィンが考え込んでいるとリーゼロッテ皇女達の背後にある階段の付近に待機している女性SPがリーゼロッテ皇女達に声をかけ

「いけない……!」

「すみません!すぐに戻りますね。」

声を聞いたリーゼロッテ皇女とリーゼアリアはそれぞれ我に返って返事をした。

「この後、帝都内にある迎賓館に移動することになっていまして。」

「ええ、聞いています。明日からもお忙しいでしょうしゆっくりお休みになってください――――リーゼアリアもな?」

「はい、お兄様とミル――――ミュゼも。サザ―ラントの件もありますし、くれぐれもお気をつけください。」

「ああ、了解だ。」

「ふふっ………ありがとうございます。」

「ああっ!?」

「ちょっと、ミルディー――――」

リィンと共に二人に別れの言葉を告げたミュゼはリィンと腕を組み、それを見た二人はそれぞれ血相を変えてミュゼを睨んで声を上げたその時

「クスクス………先輩、新姫様もお休みなさい。しばらく教官はお借りしますね?返してあげないかもしれませんけど♪」

「すまない―――また明日にでも連絡する!……だからタチの悪い冗談はやめて欲しいんだが……」

「ふふっ、冗談じゃなかったらどうします……?

ミュゼは意味ありげな笑みを浮かべた後小悪魔な笑みを浮かべてリィンと腕を組んだ状態でその場から去り

「はあ………いいなぁ。セドリックの気持ちは今ならわかるかも。でも、どこまで本気なのかしら?」

「さあ、なかなか本音を見せてくれない子だから……ただ――――彼女の立場を考えたら何か思惑がありそうね。」

「ふう……確かに。……いい子なんだけどあまりに頭が良すぎるというか。何かとんでもないことを考えてないといいのだけど――――」

二人の様子をリーゼロッテ皇女とリーゼアリアは羨ましそうに見つめながらミュゼの意図について考えていた―――――


 
 

 
後書き
ついに!閃Ⅳにエステル、ヨシュア、レンの参戦が確定しましたね!しかも3人ともプレイアブルキャラっぽいですから閃シリーズでエステル達を操作する日が待ち遠しいですね!そしてレンの名前が正式にレン・ブライトになっている事にレンちゃんを贔屓している一人として本当に嬉しかったですね♪エステル達の登場は空シリーズからプレイしてきた人達にとってはまさに真打ち登場!のようなものでしょうね~♪ 

 

第53話

~オルキスタワー・34F~



「……しかしやっぱり、二人と知り合いだったか。思わせぶりなことばかり言ってたから怪しいとは思っていたが。」

階段を下りて通路に戻って来たリィンは疲れた表情で溜息を吐いて既に自分から離れたミュゼを見つめ

「ふふっ、だってリーゼアリア先輩、リィン教官とエリゼさんの話ばかりなんですもの。新姫様からも良く聞きましたし恋い焦がれても仕方ないでしょう?」

ミュゼは苦笑しながら答えた後リィンと共に通路を歩き始めた。

「まあ、それはともかく。従妹と仲良くしてくれたみたいだな?殿下やアルフィンとも仲が良いみたいだし、改めて礼を言わせてくれ。」

「……ふふっ、とんでもないです。皆さん、私の立場に関係なく本当によくしてくださって……お二人と離れることだけが女学院を辞めた時の心残りでしたね。あ、ですが”七日戦役”の件で私よりも早く女学院を辞めた姫様と第Ⅱ分校でお会いできてまた以前のようによくしてくださりましたから、第Ⅱ分校に入学して本当によかったですわ。」

「……そうか。(カイエン元公爵の姪か……多分、何か圧力を受けたんだろう。俺の実の父――――オズボーン宰相の帝国政府に。)」

ミュゼがアストライア女学院を辞めた理由についてリィンが考え込んでいるとミュゼは微笑んで再びリィンと腕を組んだ。



「って、おい……」

「ふふっ……そんな顔をしないでください。女学院にも未練はありますが、Ⅸ組の皆さんや、ユウナさんたちなど新しいお友達とも仲良くなれました。――――何よりもこうして運命の方とも出会えたんですもの♪」

「ふう、だからそういう冗談は―――」

ミュゼの言葉にリィンが呆れた表情で溜息を吐いて答えかけたその時

「……何やってんだ、アンタら。」

アッシュが二人に近づいてきた。

「アッシュ……」

「ふふ、ごきげんよう。」

「おいおい、シュバルツァー教官。相変わらず隅に置けないじゃねえか。クク……まさか教え子にまで手を出しちまうなんてなぁ?」

「いや、これは――――」

「そんな、誤解です!”まだ”プラトニックな関係で!私としては姫様達のようにいつでも全てを捧げるつもりですけど♪」

アッシュのからかいに対してリィンが答えかけたその時ミュゼは更にリィンに自分の身体を寄せて笑顔を浮かべて状況が更に悪くなるような発言をし

「はあ、悪ノリが過ぎるぞ。((けい)を使うか―――)」

リィンは呆れた表情で溜息を吐いた後一瞬の動作でミュゼから離れた。



「あ、あら……?」

(……なんだ、今の動きは?)

強く腕を組んでいたにも関わらず、いつの間にか離れている事にミュゼが戸惑っている中一連の動きを見ていたアッシュは眉を顰めてリィンを見つめていた。

「―――教官?何をしているんですか?あれ、ミュゼにアッシュも?」

するとその時ユウナ達新Ⅶ組がリィン達に近づいてきた。

「……?何かあったんですか?」

「いや、たまたまさ。―――俺を呼びに来たのか?」

「はい、そろそろ時間です。」

「エフラムお義兄さん達――――メンフィルとエレボニアのVIPの人達を見送りするのよね?」

「ああ、それじゃあ二人とも各自のクラスに――――」

「!…………」

そしてリィンがミュゼとアッシュに指示をしかけたその時、”何か”を強く感じたリィンは天井を睨み、リィンが”何か”を強く感じると同時に”予知能力”によって未来が突如見えたゲルドもリィンのように真剣な表情を浮かべて天井を見つめた。



「リィン教官……?」

「ど、どうしたんですか?」

「それにゲルドさんも………お二人とも上を見ているようですが、何か気になる事があるのですか?」

(間違いない、今のは……1年半前の内戦の時に感じたことがある―――)

(なんだ、今の悪寒は……)

リィンとゲルドの様子にユウナ達が戸惑っている中リィンはある人物を思い浮かべ、アッシュが考え込んでいたその時突如タワー内に爆発音が聞こえてきた!

「今のは……!?」

「爆発音……!?」

突然の爆発音に第Ⅱ分校の生徒達が驚いている中、トワは待機室に備え付けている端末を操作した。



「……こいつは………」

「―――屋上で何かあったみたいです……!」

「クク、サザ―ラントに続いてクロスベルでも初日で”不測の事態”が起こるとはな。」

「この調子だと今後の”特別演習”は全て初日で”不測の事態”が起こりそうで今から楽しみね♪」

「お二人とも、どうしてそんな呑気いられるのですか……」

ランディが目を細め、トワが端末を操作している中不敵な笑みを浮かべたランドロスと小悪魔な笑みを浮かべたレンの答えを聞いたセレーネは脱力し

「なんだ、何があった!?」

ミハイル少佐はトワ達に近づいて状況を訊ねた。



「―――出ました!タワーの屋上の映像です!」

「な、なんや……!?」

「あれは……昼間見た揚陸艇……!?」

「……なんだい?あの人影は……」

第Ⅱ分校の生徒達がトワが操作している端末に注目していると端末には片腕の少年とダルそうな青年の亡霊が映った!

「………ぁ…………」

「この二人は……!」

「へえ?よりにもよって次はこの二人が来るとはね。(パパ達からの情報通りね。となると明日の”要請”で後から来る援軍のメンバーは恐らく――――)」

「No.Ⅰ―――”劫炎”とNo.0―――”道化師”。」

端末に映っている二人を見たアルティナが呆け、セレーネが驚いている中レンは意味ありげな笑みを浮かべ、リィンが静かな表情で呟いた言葉を聞いて端末に映っている二人の正体を察したその場にいる全員は血相を変えた。



「そ、それって……!」

「”結社”の執行者………!」

「トワ先輩、ランディ、ランドロス教官、エリゼ、アルフィン!生徒達とVIPの安全確保を!ミハイル少佐はタワー内の警備部隊との連絡をお願いします!」

「合点承知だ!」

「エレベーターは使用不能だよ!非常階段を使って!」

「クク、この場は俺達に任せなぁ!その代わり、屋上にいる連中の撃退はお前達に任せたぜ!」

「兄様、どうかお気をつけて……!」

「御武運をお祈りしておりますわ……!」

リィンの指示にランディは頷き、トワとランドロス、エリゼとアルフィンはそれぞれ助言や応援の言葉をリィンに告げ

「了解です!セレーネ、レン教官!俺達は屋上にいる二人の撃退に向かうぞ!」

「はい!」

「仕方ないわねぇ。」

リィンはセレーネとレンに声をかけた後二人と共にその場から走り去った。



「あ……!」

「……教官……!」

走り去るリィン達を見たユウナとクルトは驚き

「Ⅶ組・Ⅷ組・Ⅸ組は集合しろ!装備を確認!36FのVIPフロアに向かう!」

「優先すべきはVIPの安全確保だ!それを絶対に忘れんなよ!」

「ええい、勝手に仕切るな!――――こちらトールズ第Ⅱ!警備管制室、応答せよ!」

ランディとランドロスがそれぞれ仕切っている中ミハイル少佐は二人に対して文句を言いつつARCUSⅡを取り出して警備部隊との連絡を開始した。するとその時互いの顔を見合わせて決意の表情をしたユウナ達Ⅶ組はその場から走り去り

「こら待て、お前ら!」

「ハッ、だったら俺が連れ戻してくてやるよ……!」

「では、私も。すぐに戻ってきますから。」

ユウナ達の行動に気づいたランディがユウナ達に制止の声をかけると、アッシュとミュゼもユウナ達の後を追い始めた。



「ハッ………なんのつもりだ?」

「ふふっ、今回ばかりはこの目で見ておきたくて。」

「ミュ、ミュゼちゃん!?」

「ど、どうして……!?」

「ああもう、何だってんだアイツらは!?」

「だぁっはっはっはっ!1度ならず2度もオレサマ達を出し抜くなんざ、やるじゃねぇか!」

走り去った二人を見たティータやトワが困惑している中ランディは疲れた表情で声を上げ、ランドロスは豪快に笑い

「シュバルツァー達に任せろ!VIPたちの保護が優先だ!」

ミハイル少佐は落ち着いた様子でその場にいる全員に指示をした。



(反応しているのか……あの”黒い炎”に……)

「この人数で”道化師”に加えてあの”劫炎”が相手をしなければならない事を考えると、”劫炎”の相手はやはりお兄様とアイドス様にお任せし、わたくしとレン教官は”道化師”の相手をすべきでしょうか……?」

「――――いえ、恐らく向こうもここで”本気”の戦闘をするつもりはないでしょうし、屋上とはいえオルキスタワーで”本気”を出し合う戦闘は避けた方がいいでしょうから、アイドスお姉さんの助太刀もそうだけどレン達が”本気”を出すのもレン達が不味い状況に陥るまでは控えた方がいいでしょうね。」

非常階段を使って屋上に向かっているリィンが考えている中屋上にいる二人との戦闘を想定したセレーネの推測にレンは静かな表情で否定して説明をした。

「リィン様、セレーネ様、レン皇女殿下……!」

するとその時シャロンがかけつけて、リィン達と共に屋上へと向かい始めた。

「あら。」

「シャロンさん……!」

「わたくしもご一緒します……!会長のお許しを頂きましたので!」

「………助かります!」

「加勢、感謝致しますわ!」

シャロンの加勢にリィン達が感謝しつつ先へと進んでいると、リィン達の行く手を阻むように小型の人形兵器達が待ち構えており

「―――皆様!一気に参りましょう。」

「ええ、お願いします!」

そしてリィン達はそれぞれ人形兵器達に突撃すると同時にそれぞれの武装による一撃で人形兵器達を無力化した後先へと急いだ。



「戦闘音!?」

「まさか……中まで入り込んでいるのか!?」

一方その頃上の階層から聞こえてきた戦闘音を聞いたユウナ達は立ち止まって上層を見上げ

「――――来たわね。」

「結社の哨戒機……!」

「くっ……こんな時に!」

階段と、通路のそれぞれから向かってきた人形兵器を見たゲルドは静かな表情で呟き、アルティナは警戒の表情で声を上げた後それぞれユウナ達と共に武装を構えた。



「ハッ、加勢するぜ!」

するとその時それぞれ自身の得物であるヴァリアブルアクスを片手に持ったアッシュと魔導騎銃を両手に持ったミュゼがかけつけた。

「貴方達は……」

「ミュゼまで………!?」

「毎度毎度、てめぇらだけにオイシイ思いをさせてたまるかよ!」

「ふふっ、今回は私もお手伝いさせて頂きます♪」

「話は後だ……!こいつらを無力化する!」

「ああもう!気をつけてよね!?」

「ハッ、誰に物言ってやがる!」

「それでは戦闘開始(オープンコンバット)、ですね!」

そしてユウナ達は人形兵器達との戦闘を開始した!



~同時刻・オルキスタワー・屋上~



一方その頃屋上に到着したリィン達は結社の執行者らしき二人と対峙していた。

「ふああっ……遅かったじゃねえか。」

「うふふ……君達が一緒に来るとはね。」

リィン達と対峙しているダルそうな亡霊はあくびをしてリィン達を見つめ、緑髪の少年は口元に笑みを浮かべた。

「その声、やはり沼地でわたくし達に幻獣をけしかけて来たのは貴方だったのですね……」

「……最悪の組み合わせ、ですわね。」

一方セレーネは少年を睨み、シャロンは重々しい様子を纏って呟いた。



「久しぶりだな、クルーガー。それに灰の小僧に聖竜の小娘、それと殲滅天使もか。面白い場所で再会したもんだぜ。」

「ふふ、お茶会などであればなお良かったのですけど。」

「そう?リタみたいな可愛い幽霊はともかく、あんな服装のセンスもイマイチなオジサンの幽霊、レンはお茶会に招待なんてしたくないわよ?」

亡霊――――執行者NOⅠ”劫炎”のマクバーンの言葉に対して静かな表情で答えたシャロンにレンは疲れた表情で指摘した。

「……アンタだとすぐわかったよ。存在自体と一体化した”力”……今ならその化物ぶりが一層わかる。」

「へえ、そういうお前さんは面白い事になっているな。”鬼”の力……一年半前より更に増しているし、聖竜の小娘と殲滅天使も灰の小僧のようにそれぞれの”力”が以前より増していて、イイ感じになっているじゃねえか。」

「「「………………」」」

マクバーンの言葉に対して何も答えなかったリィン達はそれぞれいつでも武装を抜けるようにそれぞれの武装に手を置き

「……騎神やベルフェゴール様達を呼ばれるのは様子を見た方がよいかと。下手をすれば彼をその気にさせてしまいます。」

「ええ……重々承知です。”煌魔城”の時も絡まれそうでしたから。」

シャロンの助言に頷いたリィンは警戒した様子でマクバーンを睨んだ。



「おいおい、人のことを戦闘凶みたいに言うなよ。ヴァルターや戦鬼の小娘よりは弁えてるつもりだからな。」

「アハハ……どっちもどっちだと思うけど。うふふ……僕の方も灰のお兄さん達とは久しぶりだね。いや~、それにしても驚いたよ。まさかあの”紅の戦鬼”を殺っちゃうなんてねえ。レーヴェ達の協力があったとはいえ、”執行者”の中ではトップクラスの戦闘力を持つ彼女を苦も無く討ち取るなんて、さすがは僕達”結社”を衰退させたメンフィルの新たなる英雄と言った所かな?」

「……仲間や盟主達の仇を討つ為に今クロスベルに来ているメンフィルのVIPの方々を狙うつもりか?」

マクバーンの言葉に対して少年――――執行者No.0”道化師”カンパネルラは苦笑した後呑気な様子でリィンに話しかけ、リィンはカンパネルラを警戒しながら問いかけた。

「フフ、”実験”のついでにちょっと挨拶に来ただけさ。お望みならこのタワーを丸焼きにすることもできるけど?―――彼がね。」

「って人任せかよ。」

「くっ………(実験……ハーメルでも言ってたな。)」

(ええ。そうなると………ハーメルの時のように改良された”神機”もどこかにあるかもしれませんわね……)

(それに多分、その”神機”もハーメルで戦ったのとは違うタイプでしょうね。)

カンパネルラとマクバーンの会話にリィンが唇を噛みしめている中セレーネとレンは小声で会話をし

「……………………」

「フフ、クルーガー。怖い顔をしないでおくれよ。4年ぶりじゃないか。って、シャロンって呼ぶんだっけ?」

厳しい表情で自分達を睨み続けるシャロンに対してカンパネルラは口元に笑みを浮かべて話しかけた。



「どちらでもお好きなように。4年前、貴方からの要請でサラ様を足止めした時以来ですね。」

「え………!?」

「4年前………となるとリベールのクーデター時、エレボニアで起こっていた猟兵団――――”ジェスター猟兵団”による遊撃士協会支部の襲撃の件に間接的に関わっていたようね。」

「そうそう、リベールでの”福音計画”!あれの一環で、帝国のギルドを爆破して剣聖カシウスを誘き寄せたんだけど……最年少のA級だった”紫電”には足止めを喰らってもらったんだよね。里帰りしたノーザンブリアでさ。」

シャロンの話にリィンが驚いている中レンはかつての出来事を思い返して呟き、カンパネルラは懐かしそうな様子で答えていた。

「その結果、ギルドの建て直しで剣聖のリベールへの帰国も延期……見事、教授の”福音計画”は第一段階をクリアしたってワケさ!」

「ハン……レーヴェのヤツから聞いたな。」

「……そんな事が………」

「だからサラさんはシャロンさんに対して思う所があるような態度を取っているのですか……」

「ええ……所詮、わたくしはその程度の存在(もの)。ラインフォルト家に害がなければ古巣の悪事を手伝うような外道です。」

カンパネルラとマクバーンの会話を聞いていたリィンは信じられない表情をし、セレーネは複雑そうな表情で呟き、二人の言葉に頷いたシャロンは前に出てダガーと鋼糸を構えた。



「―――ですがこのタワーにはイリーナ会長や他の方々がいます。仇なすつもりならば”死線”として貴方がたの前に立ちふさがりましょう。」

「シャロンさん………」

「フフ……変わったねぇ、君も。”木馬園”から結社入りしたばかりの頃とは大違いだ。」

「クク……12年くらい前だったか?」

「フフ、笑顔もサービスできない出来損ないの小娘でしたが……あの時、軍門に下された借り、少しはお返しいたしましょう。」

「うふふ、レンも1年半前で”仕留めそこねた”借りをちょっとでもここで返させてもらうわ♪」

「何が目的かは知らないが……俺達も同様に、守るべき人々がいる。届かせてもらうぞ―――”劫炎”に”道化師”……!」

「いずれこの時が来ることも想定し、わたくし達は常に鍛錬し続けてきました。その成果……今こそ、お見せいたしますわ……!」

冷酷な笑みを浮かべたシャロンと不敵な笑みを浮かべて大鎌を構えたレンに続くようにリィンとセレーネもそれぞれ決意の表情で武器を構え

「クク……いいだろう。」

「うーん、僕の出番は無さそうなんだけど……」

リィン達の様子にマクバーンが口元に笑みを浮かべ、カンパネルラが困った表情をしたその時!

「いた……!」

「追いつけたか……!」

何とユウナ達がその場に駆けつけてきた!



「来るな……!正真正銘の化物だぞ!」

自分達の元に駆けつけようとしたユウナ達にリィンは警告し

「結社の執行者……!」

「って、子供まで!?」

「見た目に惑わされないで……あの亡霊からもそうだけど、隣の少年からもとてつもない”邪気”が感じられるわ……」

「……そちらはともかく、あちらの彼は最悪ですね。」

リィンの警告を聞いて立ち止まったクルトとユウナはマクバーン達を見て驚き、カンパネルラの容姿に驚いているユウナにゲルドは警戒の表情でカンパネルラを睨みながら答え、アルティナは真剣な表情で二人を睨み

「ハッ……どっちもイカした面構えじゃねえか。」

「ええ―――尋常ではなさそうですね。」

不敵な笑みを浮かべたアッシュの言葉にミュゼは真剣な表情で頷いて同意した。



「くっ、アッシュにミュゼまで……」

「ハン……?そっちは黒兎だったか。」

「フフ、折角だからボクが相手をさせてもらおうかな?」

ユウナ達と戦う事を決めたカンパネルラは指を鳴らしてその場から転移してユウナ達の前に現れてユウナ達と対峙し

「なっ……!」

「幻影……!?」

突然現れたカンパネルラに驚いたユウナ達は武装を構えた。

「くっ、やらせるか……!」

「おいおい、小僧。余所見してる余裕あんのか?」

「……いったん任せましょう。彼の戦闘力はわたくし程度です。ですがこちらの彼は……気を抜けば”死”あるのみですわ。」

「ッ……!」

生徒達を助けようとしたリィンだったがシャロンの警告を聞くと唇を噛みしめてマクバーンと戦う事を決め

「シャロンお姉さん、今更聞くのもなんだけど相手は亡霊よ?魔力が付与されていないただの武器だと、物理攻撃はほとんど効かないわよ?」

「御心配には及びませんわ。いずれ”劫炎”の亡霊と対峙する事を想定し、セティ様達に魔法効果――――特に亡霊や悪魔といった”魔”の存在に対して絶大な威力を発揮する”神聖属性”が付与された武装を開発してもらいましたから、このダガーもそうですが鋼糸(ワイヤー)も全て”神聖属性”かつ悪魔や亡霊のような”魔”の存在に対して更に威力があがる追加効果が付与されていますわ。かつてレン皇女殿下がお嬢様達に授けた”匠王”が作成なされた武装よりは下回ると思いますが……少なくてもこの武装―――”聖絶”でしたら目の前の魔人の亡霊には絶大な効果を発揮してくれますわ。」

「い、一体いつの間にセティさん達に………」

レンの問いかけに対して静かな表情で答えたシャロンの説明を聞いたセレーネは冷や汗をかいて苦笑していた。



「Ⅶ組総員、ミュゼもアッシュも!2方向での迎撃行動を開始する!適宣オーダーを出す――――――死力を尽くして生き延びろ!!」

「っ……はい!」

「承知……!」

「了解しました!」

「うん……!」

「お任せを……!」

「言われるまでもねえ!」

リィンの号令にユウナ達はそれぞれ力強く答えた。

「アハハ、盛り上がってきたねぇ!」

「そんじゃあ、ちっとは愉しませてもらうぜ……!」

そしてリィン達はマクバーンと、ユウナ達はカンパネルラとの戦闘を開始した―――――


 

 

第54話

~オルキスタワー・屋上~



「響け―――ホワイトソング!!(的の歌……)―――――♪」

「光の守護を―――防護の結界!!」

ユウナ達と共にカンパネルラとの戦闘を開始したゲルドとミュゼはそれぞれ仲間全員の防御能力を高めるブレイブオーダーと魔術で自分達の防御能力を高め、ゲルドはブレイブオーダーを発動させた後”歌”による魔法で仲間達全員の集中力を上昇させ

「ブリューナク起動、照射。」

「――――!」

「ハァァァァ……そこだっ!!」

「へえ、学生なのに結構やるね。さすがは灰のお兄さんの教え子って所かな?」

アルティナはクラウ=ソラスで集束したレーザーを、クルトは光と闇の斬撃波をそれぞれカンパネルラに放ったが、カンパネルラは余裕の笑みを浮かべてそれぞれの攻撃を回避した。

「いつまでも余裕ぶってんじゃねえぞ!オラアッ!!」

「おっと、今のはちょっとだけ危なかったよ。」

「ぐっ!?」

跳躍して上空から強襲するクラフト――――ランブルスマッシュで襲い掛かって来たアッシュの攻撃を回避したカンパネルラは指を鳴らしてアッシュを中心に鎌鼬を発生させてダメージを与え

「光の一撃、受けてみなさい!ハァァァァ……ッ!スマ――――ッシュ!!」

「!フウ、今のは冷や汗をかいたよ。」

反撃を終えた瞬間全身に光の魔力を纏って突撃するクラフト――――ホーリースマッシュで襲い掛かって来たユウナの攻撃を紙一重で回避したカンパネルラは冷や汗をかいて呟いた。



「蒼き翼よ――――シュート!!」

「大地に降り注ぐ光よ、弾丸となり、敵を貫け―――――シャインブレッド!!」

「うわっ!?」

するとその時ミュゼが魔導騎銃から蒼き翼のエネルギーを解き放つクラフト――――オワソーブルーを、ゲルドは上空より無数の光の弾丸を降り注がせる魔術―――シャインブレッドを放ち、絶えず攻撃が放たれ続けた事で反応が遅れたカンパネルラはまともにダメージを受けてしまった事によって怯み

「崩しましたわ!」

「もらったぜ!」

「崩したわ!」

「追撃します!」

「――――!」

「いたっ!?」

カンパネルラが怯むとカンパネルラを怯ませた攻撃を放った二人とそれぞれリンクを結んでいたアッシュとアルティナがそれぞれ追撃をカンパネルラに叩き込み

「光よ、集え――――光霞!!」

「風よ、斬り裂け―――かまいたち!!」

「ぐっ!?」

アッシュとアルティナが攻撃している間にそれぞれ詠唱の短い魔術の詠唱を終えたユウナは光の結界で広範囲を閉じ込めて炸裂させる光の魔術で、クルトはかまいたちを発生させる風の魔術で追撃してカンパネルラに更なるダメージを与えた。

「アークス駆動――――貫け、水晶の刃よ!クリスタルエッジ!!」

「氷結せし刃、鋭く空を駆け抜けよ――――フリーズランス!!」

更にアッシュ達の反撃が開始されると同時に駆動や詠唱に時間がかかる代わりに威力が高いアーツや魔術の準備を終えたミュゼとゲルドはそれぞれ水晶の刃を解き放つアーツと無数の氷の槍を解き放つ魔術をカンパネルラに向かって放った。



「っと!まさか学生なのにここまでやるなんて、驚いたよ。さあ……席替えをしようか。シャッフル、シャッフル!」

転移で襲い掛かるアーツと魔術を回避したカンパネルラはユウナ達をランダム転移させて位置をバラバラにさせるクラフト――――ナイトメアシャッフルでユウナ達の位置をそれぞれバラバラにさせ

「ふふっ……プレゼントだよ!それそれそれっ!」

続けて全属性の魔力弾を降り注がせるクラフト――――セブンスフィアで反撃し、それらを受けたユウナ達の何人かは様々な状態異常に陥った。

「浄化の光よ――――ハイリフレッシュ!!―――ブレス!!」

しかし”予知能力”によってカンパネルラの反撃の内容がわかっていた為、既に状態異常回復と範囲回復の魔術とアーツの準備を終えていたゲルドはカンパネルラの攻撃が終わった瞬間準備を終えた状態異常回復の魔術で様々な状態異常に陥った仲間達の状態異常を回復させた後範囲回復アーツで自分と偶然自分の側にいたミュゼの傷を回復させ

「回復します―――アルジェムヒール!!」

「――――!」

「蒼珀の雨よ、我等に癒しを――――サフィールレイン!!」

ゲルドに続くようにアルティナとミュゼもそれぞれ回復クラフトで自分や仲間達の傷を回復させた。

「あ、あれ……?ちょっと立ち直りが早くないかい……!?」

一方自分の反撃の後にすぐに状況を立て直したゲルド達の早さにカンパネルラは驚いた後高火力のアーツを放つ為にオーブメントを駆動させていたが駆動を中断させて攻撃に移ろうとしたが

「逃がさない――――ヤァァァァッ!」

「っと!」

ユウナがガンブレイカーから無数の弾丸による射撃を放つと、カンパネルラは転移で回避してユウナの攻撃範囲外から逃れた。



「へっ、”それ”を待っていたぜ!おらよっと!逝きやがれ!」

「しま――――あぐっ!?」

その時転移で回避した後に現れる瞬間を狙っていたアッシュがカンパネルラの側面からヴァリアブルアクスを大鎌に変形させて薙ぎ払うクラフト――――デッドリーサイズを叩き込んでカンパネルラを怯ませ

「崩したぜ!」

「冬の翼よ―――シュート!!」

「くっ……ちょっとマズイかな……」

カンパネルラが怯むとアッシュとリンクをしていたミュゼが魔導騎銃から冷却属性を付与した事によって凍結効果が込められた蒼きエネルギーの翼――――オワソーアイスを命中させるとカンパネルラの全身のいくつかの場所が凍結し始め、凍結によってカンパネルラの動きは制限された。

「壊せ――――スレッジハンマー!!行くわよ……!スマ―――シュッ!!」

「カハッ!?くっ………」

その時敵が”ブレイク状態”に陥りやすいようにブレイクダメージを倍加させるブレイブオーダーを発動したユウナはクラフト――――ブレイブスマッシュをカンパネルラに叩き込み、今までの攻撃によってブレイクダメージが蓄積していた所にブレイクダメージが倍加されたクラフトを受けたカンパネルラは”ブレイク状態”になる事で無防備な所をさらしてしまい

「漆黒の闇に包まれよ――――ティルワンの闇界!!」

「いたっ!?」

無防備な状態をさらしたカンパネルラにアルティナは広範囲の暗黒魔術を放って追撃し

「ヴァンダールが双剣――――とくと味わえ!行くぞ――――うおおおおぉぉぉぉぉ……っ!!」

「……!…………………」

クルトは止めを刺す為にSクラフトをカンパネルラに叩き込み始めると”予知能力”によってクルトのSクラフトの後に見えた少し先の未来――――クルトのSクラフトを受けても倒れず、反撃に凄まじいアーツを放つカンパネルラを視たゲルドはその対策をする為に魔術の詠唱を開始した。

「止めだ――――たあっ!ラグナ――――ストライク!!」

「ぐっ!?うふふ……中々楽しい子達じゃない。だったら……ちょっと本気を出させてもらうかな……!ふふっ――――そぉれっ!!」

クルトが放った止めの一撃を受けたカンパネルラは唸り声を上げて胸を抑えたがすぐに余裕の笑みを浮かべて立ち直り、何と駆動ゼロで空より無数の雷を呼び寄せる最高位アーツ――――イクシオン・ヴォルトをユウナ達に放った!



「集束せし天雷よ、炸裂し、裁きを――――サンダースフィア!!」

そして上空から無数の雷がユウナ達に向かって降り注いだその時魔術の詠唱を終えたゲルドは自分達の上空に向かって巨大な雷球を放ち、炸裂させる事で上空でカンパネルラが放ったアーツによる雷を相殺した!

「なっ………今のアーツを魔術で相殺して無力化するなんて……!?」

自分が放った最高位アーツを無力化された事に驚いたカンパネルラは驚きの表情でゲルドを見つめたその時

「ハッ、余所見してんじゃねえぞ!焔よ、吼えやがれっ!!」

「ハァァァァ……ッ!斬り裂け!!」

「ハァァァァァ………受けろ、大地の一撃!!」

「!!ぐっ!?」

一気に詰め寄って反撃したアッシュが放った火属性の魔力を付与した事で様々な部分が強化されたランブルスマッシュ――――バーンスマッシュとクルトが放った回転と共に竜巻を発生させるヴァンダールの双剣技――――テンペストエッジ、ユウナの地属性の魔力を溜め込んで強烈な一撃――――アースブレイクを受けたカンパネルラは再び怯み

「アークス駆動――――出でよ、幻の砲台――――ガリオンフォート!!」

「アークス駆動――――吹き上がれ、清浄なる水―――ブルーアセンション!!」

「カハッ!?」

更に3人が攻撃している間に駆動時間が長い代わりに威力が高い上位アーツの駆動を終えたアルティナとミュゼはそれぞれ発動させた上位アーツでカンパネルラに追撃して大ダメージを与えた。

「――――全てを闇の眠りへと誘え、炸裂せし大いなる深淵―――――ダークエクストリーム!!」

「な―――――うわあああああああっ!?参ったなぁ………さすがにここまでやるなんて、想定外だよ………」

そして自身が扱える魔術の中でもトップクラスの威力の魔術の詠唱を終えたゲルドが魔術を発動した瞬間ドーム型の暗黒の空間がカンパネルラを中心に覆い、暗黒のドームの発現にカンパネルラが驚きのあまり絶句したがドームの中で連鎖して炸裂した暗黒の爆発をその身に受けて悲鳴を上げ、そして攻撃が終わるとカンパネルラは今まで蓄積したダメージによって戦闘不能になり、地面に膝をついた!



「構えろ――――防御陣”鉄心”!!」

セレーネ達と共にマクバーンの戦闘を開始したリィンは自分達の防御能力を高めるブレイブオーダーを発動して自分達の防御能力を高め

「焼き尽くせ!!」

マクバーンは先制攻撃として炎の狼を解き放つクラフト――――ヘルハウンドをリィン達に放った。

「させませんわ!吹雪よ、吹き荒れよ――――ハリケーンブリザード!!」

襲い掛かる炎の狼に対してセレーネはリィン達の前に出て自分を中心とした吹雪の結界を発生させて炎の狼を吹雪で消し飛ばし

「へえ?まさか吹雪であれを消し飛ばすとはな?」

「串刺しにしてあ・げ・る――――豪破岩槍撃!!」

「っと!」

自分の攻撃を無効化したセレーネを興味ありげな様子で見つめていたマクバーンだったが地面から突然現れた無数の岩の槍を回避する為に側面へと跳躍し

「緋空斬!!」

「ぬりぃ。」

回避した瞬間を狙って炎の斬撃波を放ったリィンの遠距離攻撃に対しては片手で瞬間的に発生した炎の球体をぶつけて相殺した。



「まだですわ……――――シャドウステッチ!!」

「ガッ!?おらっ!」

「!!」

しかし亡霊に絶大な効果を発揮する”神聖属性”に加えて亡霊や悪魔などの”魔”の存在に威力が倍増する武装を装備しているシャロンが放った物理攻撃のクラフトを受けた事で思わずうめき声を上げたマクバーンは反撃に炎の球体をシャロン目がけて放ち、シャロンは炎の球体を側面に跳躍して回避した。

「秘技――――裏疾風!斬!!」

「ぐっ!?」

そこにリィンが側面から電光石火の強襲攻撃と斬撃の連携攻撃を叩き込み、リィンの得物である”神剣”による斬撃を受けたマクバーンは自身が亡霊であった為、悪魔や亡霊といった”魔”の存在に対して絶大な威力を発揮する”神剣”によるダメージは決して無視できず、うめき声をあげると共に怯んだ。

「崩した!」

「甘々ですわ!」

マクバーンが怯むとリィンとリンクを結んでいるシャロンが追撃をし

「出でよ、空の神槍―――そして邪悪なる存在を貫け、イナンナ!!」

「行け、七色の光の矢よ――――プリズミックミサイル!!」

レンとセレーネはそれぞれ亡霊にとって弱点である神聖属性の魔力槍と七色の矢をマクバーン目がけて解き放った!



「燃えやがれっ!」

襲い掛かる槍と矢に対してマクバーンは炎の渦を発生させる球体―――――ギルティフレイムをぶつけて無効化し

「おら、おら、おら、おらぁっ!」

リィン達一人一人にそれぞれ炎の球体を解き放ち、解き放たれた炎の球体に対してリィン達はそれぞれ回避行動を取って回避した。

「うふふ、これはどうかしら?」

「あ?こんなもん、効かねぇよっ!!」

炎の球体を回避し終えたレンは束縛の効果がある特殊な睨み――――魔眼を発動してマクバーンを束縛しようとしたが、マクバーンは膨大な黒き闘気を解放して魔眼による束縛を一瞬で打ち破った。

「うふふ、一瞬でも動きを止める事ができれば十分よ。―――そうよね、セレーネ?」

「はい!落ちよ、聖なる雷――――ライトニングプラズマ!!」

「アークス駆動――――ゴルトスフィア!!」

「ガッ!?」

マクバーンの言葉に対して意味ありげな笑みを浮かべたレンはセレーネに視線を向け、視線を向けられたセレーネは頷いた後短い詠唱で敵の頭上より聖なる雷を落とす魔術を発動し、レンも続くように駆動時間が短い”魔”の存在に対して絶大な威力を発揮する神聖属性同様”光”の属性である”空属性”の下位アーツを発動してマクバーンに命中させ、弱点属性の魔法攻撃を連続で受けたマクバーンは再び怯み

「こんなのはいかがですか?――――絶!!」

「下がれ――――弧月一閃!!」

「ぐあっ!?」

マクバーンが怯むとシャロンはクラフト――――カラミティクロスでマクバーンを引き寄せた後リィンが抜刀による一閃をマクバーンに叩き込むと同時にダガーを一閃してマクバーンに大ダメージを与えた後リィンと同時にマクバーンから距離を取った。



「クク、やるじゃねぇか……ご褒美だ!いいものを見せてやるよっ!オラッ、オラッ、オラァッ!!」

リィンとシャロンが離れると予想以上に善戦するリィン達に対して闘争心が沸いてきた事で凶悪な笑みを浮かべたマクバーンは次々と巨大な火炎弾を放ち

「リィンお兄さん、セレーネ!任せるわよ!」

「はい!アイドス、結界を頼む!二の型――――洸波斬!!」

レンの言葉に力強く頷いたリィンは前に出て神剣による神速の抜刀の斬撃波を放って襲い掛かる炎の球体を切り裂いて炸裂させ、炸裂した炎の爆発は近くにいたリィンを襲ったがリィンは神剣の中にいるアイドスが展開した結界によって守られていた為無傷で済んだ。

「さて……こいつで仕上げだ……!ジリオン――――ハザードッ!!」

「全てを塵と化せ―――超電磁砲(レールガン)―――――ッ!!」

そして片手に炎のエネルギーを溜め込んだマクバーンが炎の球体を放った瞬間、セレーネは両手から極太の雷光のエネルギーを解き放った!炎と雷光のエネルギーがぶつかり合った瞬間互いのエネルギーがぶつかり合った事で大爆発が起こり、互いの大技は無効化された!



「何…………っ!?」

自身の奥義(Sクラフト)が相殺された事に驚いたマクバーンが思わず驚きの声を上げたその時

「アークス駆動――――降り注げ、七耀の剣――――セブンス・キャリバー!!」

オーブメントの駆動を終えたレンが空属性の最高位アーツを発動させると空より七色の魔法陣が現れた後そこから巨大な剣が現れてマクバーンの周囲に突き刺さった後七色の爆発を起こした!

「うおおおおおおお……っ!?ぐ……っ!?」

弱点属性である空属性かつ威力が非常に高いアーツをその身に受けたマクバーンは大ダメージを受けた後”ブレイク”状態になって無防備になり

「明鏡止水――――我が太刀は静……―――見えた!うおおおおお…………っ!斬!七ノ太刀――――落葉!!」

「死線の由来とくとご覧あれ―――――失礼――――ですが、もう逃げられませんわ!秘技――――死縛葬送!!」

無防備になったマクバーンの隙を好機と判断したリィンとシャロンはそれぞれ縦横無尽に駆けながら同時にSクラフトでマクバーンを攻撃して大ダメージを与えた!

「がああああああああっ!?クク、ここまでやるとはな……!」

亡霊である自分にとって弱点の効果を秘められた武装による奥義をその身に受けたマクバーンは悲鳴を上げた後、思わず地面に膝をついて”本気”を出していないとはいえ、自分を膝につかせたリィン達に対する闘争心が更に沸いてきたことで不敵な笑みを浮かべていた―――――


 
 

 
後書き


という訳で本来なら負けイベントの執行者戦、どっちも原作と違い、メンバーが大幅に強化されている上レン達の加勢もあった為勝利しましたw(そりゃそうだ)ちなみにマクバーンは原作と違い、空属性が200%になっている為空属性が弱点の状態だと思ってくださいw(つまり、クオーツやマスタークオーツの組み合わせによっては空属性最高位アーツであるセブンス・キャリバー一発でマクバーンを瞬殺できる可能性もww)
 

 

第55話

~オルキスタワー・屋上~



「う、嘘だろう……?僕どころか本気を出していないとはいえ”劫炎”まで灰のお兄さん達に負けるなんて………それに”深淵”とも並ぶ―――いや、下手したらそれ以上の”魔女”の君は一体何者なんだい……っ!?」

「そのエマさんが探している”魔女”がどういう人なのかは知らないけど………”トールズ第Ⅱ分校の新Ⅶ組のクラスメイト”―――――それが”今の私”よ。」

リィン達に敗北したマクバーンを見て信じられない表情をしているカンパネルラに見つめられたゲルドは静かな表情で答えて杖をカンパネルラに突き付け

「勝った……の……?あたし達が結社の”執行者”相手に……」

「ああ………これも分校長達の”補講”によって”格上”と頻繁に戦い続けた成果だろうな……」

「まあ、あの”化物”達と比べれば、”道化師”の方はまだマシですものね。」

「クク、つーかランドルフ達よりも弱く感じたぜ?」

「フフ、それに”補講”は私達だけでなく教官達にとっても意味はあったようですわよ?」

ユウナ達がそれぞれ勝利に喜んでいる中リィン達の勝利にも気づいたミュゼはリィン達に視線を向けた。



「フウ………何とか無力化できましたわね………」

「ええ、でも………」

「恐らく今のでその気にさせたかもしれませんわ。」

「………………」

一方マクバーンの戦闘不能を見たセレーネは安堵の表情で溜息を吐き、レンとシャロン、リィンはそれぞれ警戒の表情でマクバーンを見つめていた。

「クク………クルーガーの小娘もだが、灰の小僧達も随分成長したじゃねえか………思わず本気を出しそうになっちまったが………――――お前達が本気を出さねぇならそれはそれで面白くねぇ話だ。”本気”を出せよ、小僧共。とことんやり合おうぜ………?」

「……………(彼を本気にさせる訳にはいかない。だが、このままでは……)」

全身に黒い炎を纏って立ち上がったマクバーンの言葉に対してリィンは何も答えず、判断に迷ったその時!

「――――そうはさせないわ!」

娘の声が突如、その場に響いた後何とアリサとマキアス、エマがエマの転移術によってリィン達の側面に現れた!



「はああっ………!」

「そこっ………!」

「わわっ………?」

「ちっ………!」

マキアスとアリサは現れると同時にそれぞれカンパネルラとマクバーンに対して奇襲攻撃を行い、二人の奇襲攻撃にカンパネルラは慌てた様子で、マクバーンは舌打ちをして回避した。

「マキアス、アリサ……!」

「それにエマさんも……!」

「お、お嬢様……」

「うふふ、先月のエリオットお兄さん達といい、美味しい所を持っていくなんて、やるようになったわね旧Ⅶ組も♪」

アリサ達の登場にリィンとセレーネが明るい表情をしている中シャロンは驚き、レンはからかいの表情を浮かべていた。



「Luc lunae sanctam(聖なる月の光よ)」

一方詠唱を終えたエマが魔術を発動すると燃えていた揚陸艇の炎が消えた。

「あ………」

「殆ど燃えてない……?」

「幻術の焔……そんな所でしょうか。」

「へえ、鋭いじゃない。」

それを見たユウナ達が驚いている中いつの間にかユウナ達に近づいたセリーヌがユウナ達の足元に魔法陣を発生させて戦闘によって負ったユウナ達の傷を回復し始めた。

「あ、エマさんの………」

「しゃ、喋りやがった………」

セリーヌの登場にゲルドは呆け、猫であるセリーヌがしゃべった事にアッシュは困惑していた。



「ハッ……”深淵”の身内どもか。」

「あーあ、せっかく綺麗にライトアップしたのにさ。」

アリサ達の登場にマクバーンが鼻を鳴らし、カンパネルラがつまらなさそうな表情で揚陸艇に視線を向けたその時アリサ達がリィン達に駆け寄った。

「リィン、セレーネ、無事だったか!」

「マキアス……アリサにエマたちも助かった。」

「大丈夫、シャロン……!」

「ふふっ、リィン様達とセティ様達から頂いたこの武装のお陰で何とかあの魔人の亡霊相手に無事でいられましたわ。」

「というか何気にレンだけ心配しないなんて、マキアスお兄さんったら酷いわね♪どうして、レンの事は心配してくれないのかしら♪」

「今は茶化している状況ではありませんわよ、レン教官……」

リィンとマキアス、アリサとシャロンがそれぞれ無事を確かめ合っている中小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉にセレーネは呆れた表情で指摘し

「―――これ以上するつもりなら私もお相手します。魔女クロチルダが姉弟子にして”緋のローゼリア”の養い子……トールズ旧Ⅶ組出身、エマ・ミルスティンが……!」

リィン達の前で魔導杖を構えたエマは膨大な魔力を解放して自分達の周囲に謎の結界を展開した。



「へえ……”深淵”に届く魔力か。エレボニアの”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”……たしかに大した一族みたいだね。」

「クク、内戦の時よりもそそらせてくれるじゃねえか。面白ぇ、折角だからこのまま第2ラウンドでも――――」

カンパネルラが興味ありげな様子でエマを見つめている中マクバーンがリィン達に再戦を仕掛けようとしたその時

「――――そこまでだ、結社の残党共!」

青年の声が聞こえた後第Ⅱ分校の教官陣やアルフィンにエリゼ、ヴァイス達――――”六銃士”やリセル、エフラム達―――メンフィルのVIP達、そしてオリヴァルト皇子がそれぞれの武装を構えてカンパネルラ達と対峙した!

「あ………」

「殿下!先輩達も……!」

「それにエフラム殿下達も……!」

「ランディ先輩、リセル教官!」

「ハッ、来やがったか。」

「……間にあったか。」

「大丈夫!?リィン君にみんなも!?」

自分達の登場に生徒達が明るい表情をしている中ミハイル少佐は静かな表情で呟き、トワは状況を確認した。



「だぁっはっはっはっ!ここからはオレサマ達も加勢するから、安心しろ!」

「ふふ、久しぶりの”六銃士”全員揃っての戦闘になりそうだね♪」

「及ばずながら私達も加勢します。」

「リアンヌ様達との鍛錬の成果……わたくし達もお見せいたしますわ……!」

ランドロスは豪快に笑い、パティルナは不敵な笑みを浮かべ、エリゼとアルフィンは決意の表情でカンパネルラとマクバーンを睨み

「フフ、”通商会議”に続いて今回の”交流会”でも随分とヤンチャな事をしてくれたわね?その”代償”は当然、覚悟しているわよね?」

「”通商会議”の件は結社は間接的に関わっていただけで、実際に襲撃したのは二大国でテロ活動を行っているテロリスト達だったはずですが………」

「間接的とはいえ、襲撃に結社も関わっていたのですから、ルイーネ殿の仰っている事は間違ってはいませんよ、アルちゃん。」

「戦力は圧倒的にこちらが上……――――投降した方が貴方達の身の為ですよ。」

膨大な威圧を纏って微笑むルイーネの言葉に首を傾げたアルにリセルは苦笑しながら指摘し、エルミナは淡々した様子で答えてカンパネルラ達を睨んだ。



「あの二人が結社”身喰らう蛇”の”執行者”とやらか。なるほど………話に聞いていた以上の使い手のようだな。」

「左の男はかつて”七日戦役”時リウイ前皇帝陛下とゼルギウス将軍閣下が二人がかりで討ち取り、亡霊と化した”結社最強”の”執行者”――――”劫炎のマクバーン”ですから、特に左の男には注意してください。」

「彼がリウイ祖父上とゼルギウス将軍の二人がかりで挑む必要がある程の………」

「あ、あのお二人がわざわざ協力して倒す必要があった相手って……!」

「相当な使い手なのだろうね、あの”劫炎”のマクバーンという男は。」

「それと右の少年も見かけによらずトリッキーな戦い方をしてくるので油断しないでください。」

エフラムは警戒の表情でカンパネルラ達を睨み、セシリアの助言を聞いたエイリークが表情を引き締め、アメリアが驚いている中フランツは真剣な表情をし、サフィナはセシリアの説明に続くようにカンパネルラの事についても説明した。



「すまねぇ、人形どもを片付けてたら遅くなった。道化師か―――ずいぶんと久しぶりじゃねえか。」

「あはは、闘神の息子か。妹さんを灰のお兄さん達と一緒に殺っちゃうなんて、酷いお兄さんだねぇ。」

「ああ、戦鬼の小娘の兄貴か。」

ランディに睨まれて呑気に笑いながら答えたカンパネルラの言葉を聞いたマクバーンはある事を思い出し

「兄貴じゃねえっての!」

ランディは二人を睨んで指摘した。

「マキアス君、アリサ君、エマ君達もお疲れだった。お馴染みの道化師君に……リウイ陛下達に討ち取られて亡霊と化した”火焔魔人”殿だったか。」

「クク、そういうアンタは”放蕩皇子”で、”聖魔皇女の懐刀”の隣は”帝国の至宝”の片割れだったか。ただの皇族のクセに兄妹揃って妙な魔力を感じるじゃねえか?」

「フフ……古のアルノールの血かな?そしてそちらが………噂の”六銃士”達の”筆頭”の”黄金の戦王”殿か。フフ、もしくは”好色皇”か”簒奪王”と呼ぶべきかな?」

オリヴァルト皇子とアルフィンを興味ありげな様子で見つめているマクバーンの言葉に対して意味ありげな笑みを浮かべて答えたカンパネルラはヴァイスに視線を向けた。



「やれやれ、別に”六銃士”には”鉄血の子供達(アイアンブリード)”のように”筆頭”は存在しないのだが―――――この(タワー)は俺達の城であり、クロスベル帝国の”象徴”でもある城だ。礼儀は弁えてもらおうか、”身喰らう蛇”の残党共?」

カンパネルラの言葉に対して溜息を吐いたヴァイスは一歩前に出て全身に凄まじい闘気を纏ってカンパネルラとマクバーンに対して大剣を突き付けた。

「あはは……!ゾクゾクしてくるなぁ!でも、そろそろ時間切れかな?」

「クク、アンタ達とは一度、やり合ってみたかったが……目当ての連中は釣れなかったし、あくまで今日は”前挨拶”だ。」

意味深な事を口にした執行者の二人はそれぞれ転移と跳躍で揚陸艇の上に乗った。

「フフ、それじゃあ今宵はお付き合い下さり――――」

揚陸艇の上に乗ったカンパネルラは別れの言葉を告げようとしたが

「待ちたまえ。折角だ、手土産の一つくらい置いていってもらおうじゃないか。”情報”という名のね。」

「お兄様……」

「あら、オリビエお兄さんにしては珍しくまともな提案じゃない。」

「今は茶化している状況ではありませんわよ、レン教官……」

オリヴァルト皇子が二人に対して制止の言葉をかけてある提案をし、オリヴァルト皇子の提案にアルフィンが驚いている中目を丸くして呟いたレンにセレーネは疲れた表情で指摘した。



「へえ……?」

「うふふ……何が聞きたいのかな?」

「言うまでもない―――”目当ての連中”というのは何者だ?そして、どうしてこの地に来ている”深淵の魔女”どのがそこにいない?」

「あ………」

「……た、確かにクロチルダさんが来てるなら……」

「……このような状況で出てこない方ではありませんわね。」

オリヴァルト皇子の質問に仲間達と共に血相を変えたリィンは呆けた声を出し、マキアスは戸惑いの表情をし、シャロンは静かな表情で呟き

「……姉さんの気配は確かにこの地にあります。それなのにこの場所に姿を見せないということは………」

「――――もしかして”結社”と袂を分かったんじゃないの?」

「あはは―――大正解!いやぁ、メンフィルの”蛇狩り”から生き延びた使徒たちの間で”方針”の違いが出ちゃってさ!2対1で彼女の主張が退けられちゃったんだよねぇ!」

「そして”深淵”は出奔―――現在、行方知れずってわけだ。一応補足を頼まれたが………面倒くさいったらありゃしねぇ。」

エマとセリーヌの推測にリィン達が驚いている中カンパネルラは呑気に笑いながら拍手をしてマクバーンと共に事情を説明した。



「……やっぱり……」

「何やってんのよ、あの女は……」

「エマ………」

エマは疲れた表情で肩を落とし、セリーヌは呆れた表情で呟き、アリサは心配そうな表情でエマを見つめた。

「それだけじゃないだろう。”目当ての連中”――――それ以外にもいるという表現だ。サザ―ラントでは何者かの手先の”西風の旅団”が潜んでいた。だが現在、クロスベル帝国軍やクロスベル帝国軍警察、そして遊撃士協会によって猟兵関係者はクロスベル周辺―――いや、クロスベル帝国の領土内から徹底的に締め出されている。―――ならば一体、何者だい?そして幻獣や今回のような騒ぎ、その相手との対決を通じて”何の実験”をしようとしている!?」

「…………………」

(……なるほど。)

オリヴァルト皇子の問いかけに対してヴァイスは真剣な表情で黙ってカンパネルラ達を睨み、ある事に気づいたミュゼは一人納得した様子でいた。



「アハハ、さすがは放蕩皇子!」

「クク、落ちぶれたとはいえなかなか冴えてるじゃねぇか。」

オリヴァルト皇子の推測にマクバーンと共に感心したカンパネルラが指を鳴らすと二人の背後の上空に突如巨大な影が現れた!

「……!?」

「影……?」

「まさか―――」

「くっ……!」

「アルティナ……!セレーネにエリゼ、アルフィンにレン教官、それにエマにセリーヌ、ゲルドも……!」

「了解です……!」

「「「「はいっ……!」」」」

「ええ……!」

「うん……!」

「わかった……!」

「セシリア将軍、念の為にお願いします……!」

「アルちゃんもお願いします……!」

「ええ、お任せください……!」

「了解しました……!」

巨大な影―――高速型の”神機”の登場にその場にいる全員が驚いている中リィンがアルティナ達に指示をするとアルティナ達はそれぞれ結界を展開し、サフィナとリセルに視線を向けられたセシリアアルもそれぞれ結界を展開すると神機は揚陸艇を破壊した!



「こ、これは……」

「……独立時に旧共和国軍を壊滅状態にしやがった……」

「高速飛行型の”神機”ですか……」

新たなる”神機”の登場にミハイル少佐は驚き、ランディとエルミナは厳しい表情で神機を睨んでいた。

「”神機アイオーンβⅡ”―――新たに造られた後継機ってわけさ。」

「ま、”至宝”の力がねぇから中途半端にしか動かせねぇけどな。もう少ししたら色々と愉しませてやれると思うぜ?」

「フフ、別に交流会や演習を邪魔するつもりはないけどね。それじゃあ、今夜はこれで――――」

「―――ふざけないでよ!」

神機の事についての説明を終えたカンパネルラはマクバーンと神機と共に去ろうとしたがユウナの怒鳴り声を聞くと、リィン達同様驚いてユウナを見つめた。

「え………」

「ユウナさん……?」

「!待って、ユウナ……!それ以上聞いたら貴女が辛い事実を――――」

ユウナの突然の行動にクルトとアルティナが戸惑っている中、予知能力で既に先の未来が見えていたゲルドは心配そうな表情でユウナを制止しようとしたがユウナは無視して話を続けた。

「黙って聞いてればペラペラと………クロスベルで……あたしたちのクロスベルに来て勝手なことばかりして……!結社だの、エレボニア人が未だにクロスベルを認めようとしない挙句にそんなデカブツまで持ち出して!絶対に―――絶対に許さないんだから!」

「ユウナさん……」

「……ユウ坊。」

「…………………」

二人を睨んで叫んだユウナの様子をリセルとランディが心配そうな表情で見つめている中オリヴァルト皇子は目を伏せて黙り込んでいた。



「クスクス……威勢のいいお嬢さんだなぁ。クロスベル出身みたいだけどどう許さないっていうのさ?お仲間に頼らないで一人で立ち向かうつもりかい?」

「お望みなら一人でもやってやるわよ!それに――――クロスベル出身はあたしだけじゃない!”特務支援課”だっているんだから!」

カンパネルラの問いかけに対してガンブレイカーを二人に向けたユウナは”特務支援課”の面々の顔を思い浮かべた。

「今は出張しているロイドさんにルファディエル警視……!ノエル先輩にダドリーさんとリーシャさん、セルゲイ課長にツァイト君だって!エリィ先輩にティオ先輩、セティ先輩にシャマーラ先輩、エリナ先輩、ここにいるランディ先輩とリィン教官、セレーネ教官だって!アンタたちみたいなフザけた連中、支援課が絶対放っておけないんだから!」

「ユウナ……」

「……ユウナさん。」

「…………………」

ユウナの言葉を聞いたクルトが驚き、アリサが静かな笑みを浮かべている中ランディは重々しい様子を纏って黙り込んでいた。



「うふふ、特務支援課か。確かに手強い相手だけど……――――そちらの皇帝陛下の指示で、”三帝国交流会”の日が近づいて来るに連れて激しくなりつつあるエレボニアとの諜報戦に勝つ為に敢えてクロスベルから離れさせてなかったらの話かな?」

「え。」

「やれやれ…………」

「!まさかロイド達の出張やクロスベル帝国内にいながら今回の交流会の警備にエステル達が参加していない理由は……!」

「”三帝国交流会”によってできるクロスベル以外のクロスベル帝国の領土内の”隙”を補う為に………」

「………ロイド君やエステル君達にクロスベル帝国の領土に潜んでいる”情報局”の捜査、そして摘発を手伝わせているのかい……?」

カンパネルラの言葉にユウナが呆け、ヴァイスが溜息を吐いている中察しがついたリィンは血相を変え、マキアスは複雑そうな表情で推測を口にし、オリヴァルト皇子は複雑そうな表情でヴァイスに確認し

「………!」

「あ………」

「……………」

それを聞いたユウナは目を見開き、アルティナは呆けた声を出し、ゲルドは心配そうな表情でユウナを見つめた。



「ああ、そうだ………オリビエは知っているかどうか知らないが”三帝国交流会”は元々エレボニア帝国政府の提案によるものだ。『同じ”帝国”の名を持つ国同士、交流をする事でそれぞれの国同士の国家間の関係を良くすると同時に西ゼムリアの今後について話し合う』といった、”鉄血宰相”を始めとした凡そエレボニア帝国政府らしくない名目とした交流会だから、何かあると警戒しつつ、エレボニアの動きを探る為に受け入れたが………交流会のちょうど1ヵ月前あたりから、エレボニア方面からのクロスベル帝国の領土内への”不法入国者”が交流会の日が近づくごとに増え続けた。しかもエレボニア帝国政府からはヘイムダルに留学するクロスベル帝国の軍警察もしくは士官学生達の付添人に”クロスベルの英雄”も付けて欲しいという要請が出されている。トールズ第Ⅱも”英雄”の称号を持つ者達も同道させているのだから、クロスベル側も”英雄”の称号を持つ者達をヘイムダルに留学するクロスベルの者達に同道させて欲しいという理由でな。」

「そしてその要請に応えたクロスベル帝国政府(われわれ)は”特務支援課”出身のノエル・シーカー准佐を”特別臨時教官”としてヘイムダルに留学するクロスベルの関係者達に同行させました。ちなみに、クロスベルへの不法入国者の中には情報局だけでなく、TMP(鉄道憲兵隊)と思われる人物達の姿も確認されているとの事です。」

「現在ロイドとルファディエル警視はルーレ地方で、セルゲイ・ロウ警視とアレックス・ダドリー警部、そしてエステル達はオルディス地方でそれぞれ”不法入国者達”――――つまり、エレボニア帝国所属の諜報員達の捜査をしています。」

「フフ、実際はどうなのかしら、ミハイル少佐?確か私達が手に入れた情報では貴方の”同僚”の何人かはしばらく休暇を取っているのでしょう?」

ヴァイスとリセル、アルが説明をした後ルイーネは意味ありげな笑みを浮かべてミハイル少佐に問いかけ

「………誠に申し訳ございませんが我が国の軍の機密内の情報となる為、自分に答えられる権限はありませんが………ただ、隊員達の一部は長期休暇を取り、現在”国内での任務に就いていない事は事実”です。」

ルイーネの問いかけに対してミハイル少佐は複雑そうな表情で答えた。



「………っ………」

「………そんな………」

「…………………」

「ど、どうして……なんでそんな………」

ヴァイス達の話を聞いていたリィンは唇を噛みしめ、セレーネは辛そうな表情をし、ランディは目を伏せて黙り込み、ユウナが信じられない表情で呟いたその時

「アハハ、決まってるじゃない!――――彼らを分散させる事で、”事件”を解決させない為に決まっているじゃないか!特務支援課なんていうクロスベルの英雄、いずれ”六銃士”達を排除してクロスベルを掌握する事を考えているエレボニアの統治の邪魔でしかないからね!かと言って暗殺をしようにも彼ら自身実力がある上、異種族達の加護もあるから返り討ちに遭う事でクロスベルに”弱味”を握られる可能性が高い上、彼らの中にはメンフィルの皇族――――”聖皇妃”の血縁者までいるから下手に手を出せない!だから彼らに活躍させない為に、クロスベルの領土内を引っ掻き回す事で優秀な彼らに”不法入国者”の捜査や摘発をさせるとエレボニア帝国政府は考えて、そこの皇帝陛下は見事その策に引っかかったのさ!そして今回の交流会がエレボニアが描いた”茶番”だと気づいていたメンフィルも、そんな”茶番”に”英雄王”達――――メンフィル皇帝の直系者達を付き合わせる必要もないから、現メンフィル皇帝や”英雄王”、そして”聖魔皇女”を今回の交流会に参加させていないのさ!―――後はそうだね………エレボニア帝国政府にとって邪魔な存在である”放蕩皇子”達が”事件”に巻き込まれる事で、あわよくば邪魔な”放蕩皇子”達を直接手を下さずに始末できる上、それを口実にクロスベルに戦争を仕掛けると言った所かな?」

「………ぁ…………」

「―――なるほどね。オリビエお兄さんは当然として、オリビエお兄さんの考えに同調しているリーゼロッテ皇女に、エレボニア帝国政府の上層部であり、”鉄血宰相”の盟友でありながらクロスベルとの和平を望んでいるレーグニッツ知事は”鉄血宰相”達にとっては正直邪魔な存在だものね。」

「………そしてその”邪魔な存在”の中にはわたくしも含まれているのでしょうね………」

「アルフィン………」

「ま、さすがに悪趣味だとは思うがな。特務支援課の異種族共とは一度やり合ってみたかったんだが。」

ユウナの疑問に対してカンパネルラは可笑しそうに笑いながら説明し、説明を聞いたユウナは悲しそうな表情で呆けた声を出し、レンは静かな表情で呟き、辛そうな表情で呟いたアルフィンをエリゼは心配そうな表情で見つめ、マクバーンがつまらなそうな様子で答えたその時心が折れたユウナはその場で崩れ落ちた!



「ユウナさん……!?」

「大丈夫か……!?」

「ごめんなさい、ユウナ………”こうなるとわかっていた”のに、止められなくて………」

ユウナの様子を見たアルティナ達はユウナにかけよってそれぞれ心配や辛そうな表情で声をかけると、第Ⅱ分校の生徒達やリーゼロッテ皇女にリーゼアリア、エリィとセティ達がその場に駆けつけた!

「お兄様、お義姉様、皆さん……!」

「お兄様、お姉様、ご無事ですか……!?」

「リィン、セレーネ、ランディ、アルティナちゃんとユウナちゃんも大丈夫……!?」

「私達も加勢しに来ました……!」

「それで、相手は誰……!?――――って、ええっ!?あ、あの人形兵器ってまさか……!」

「高速飛行タイプの”神機”――――それも改良した神機ですか……」

その場に駆けつけたリーゼロッテ皇女とリーゼアリア、エリィとセティはそれぞれリィン達に声をかけ、神機に気づいたシャマーラは驚きの声を上げ、エリナは真剣な表情で分析していた。



「みんな………」

「………放たれた人形兵器も全て制圧できたか……」

「ふふっ、今度こそ幕引きかな?」

リーゼロッテ皇女達の登場を確認したカンパネルラが指を鳴らすと神機が動き始めた!

「なあああっ!?」

「あ、あれは……!」

「じゃあな、クルーガー。灰の小僧どもに放蕩皇子、六銃士も。」

「”実験”が成功した暁にはもう一度だけ挨拶に伺おうかな?――――今宵はお付き合いいただき、真にありがとうございました。」

そしてカンパネルラとマクバーンが転移で去ると同時に神機も飛び去って行った!



「………ぁ………」

「私達……夢でも見ているの……?」

「―――さて、当面の脅威は去ったが………―――どうやら三帝国の英雄に一働きしてもらう局面になりそうだな?」

驚愕の出来事に生徒達が呆けている中ヴァイスはリィンを見つめて声をかけ

「……………………」

「……くっ…………」

声をかけられたられたリィンは重々しい様子を纏って目を伏せて黙り込み、マキアスは今回の事件解決の為にリィンが動く羽目になった原因の一つが祖国(エレボニア)である事に悔しさを始めとした様々な感情によって唇を噛みしめた。

「どうして……?」

「ユウナさん……?」

「……ユウナ………」

「ユウナ………」

するとその時ユウナが立ち上がって無意識にリィンに近づき、ユウナの様子をアルティナ達は見守っていた。

「ねえ………どうしてあたし達の誇りまで否定しようとするの……?クロスベルを国として未だ認めようとせず、戦争をしようとして……あたし達の光を………希望を……教えて。あたしたちのクロスベルが!あの自由で、誰もが夢を持てた街が!教えてよおおおおおっ―――――!!」

リィンに近づいてリィンの胸元を掴んだユウナは自身の本音を口にした後大声で泣き始め、その様子を周囲の者達は辛そうな様子で見守っていた。



~1時間後・オルキスタワー・執務室~



1時間後リィン達がオルキスタワーから撤収し、それぞれ明日に備えて休んでいる中ヴァイスは一人で執務室で端末を操作していた。

「こんばんわー、ヴァイスさん。」

「こんな夜更けにどうしたんですか?やはり”三帝国交流会”で何か不測の事態が起こったのでしょうか?」

ヴァイスが端末を操作すると端末に栗色の髪の娘と茶髪の青年の映像が映った。

「ああ、想定通り”結社”の残党が現れたんだが―――――」

ヴァイスは先程の出来事について端末に映る二人に説明した。



「………そうですか。ユウナがそんな事に………」

「全くもう……ユウナちゃんがそんな事になったのも元を正せば全部エレボニア帝国政府の連中のせいじゃない!あたし達のエレボニア入りを拒否した件といい、あたし達が今関わっている件といい、ホント碌な事をしないわね!」

ヴァイスの話を聞いた青年は重々しい様子を纏い、娘は憤慨した様子でエレボニア帝国政府に対しての文句を口にしていた。

「同感だ。―――で、今夜連絡した理由だが………”予定通り交流会の最中に結社の残党が現れた”為明日、お前達には動いてもらう。」

「!―――了解しました!ルファ姉達にも伝えておきます!」

「や~っと、あいつらをぶっ飛ばす事ができるのね!あたし達はそれでオッケーだけど、クロスベル(そっち)に助っ人はいらないの?確か”劫炎のマクバーン”だったっけ?ヨシュアの話だと相当ヤバイ”執行者”だって話だけど………」

ヴァイスの話を聞いた青年は表情を引き締めて敬礼をし、娘は口元に笑みを浮かべた後ヴァイスにある事を訊ねた。

「ああ、それについては心配ない。何せ今クロスベルには―――――」

そしてヴァイスは二人との通信を終えた後ARCUSⅡである人物に通信をした。

「――――セリカか?こんな夜更けにすまないな。早速で悪いが今朝の予告通りお前達には明日、動いてもらう事になる。明日、お前達にしてもらいたい事は―――――」

その後ある人物――――セリカとの通信を終えたヴァイスは立ち上がって巨大なガラス窓に近づいて夜景を見つめた。

「確か並行世界のユウナ達の話では、”蒼”も現れるのだったな。……上手く”事”を運ぶ事ができれば、今の内に”蒼の騎神”を排除する事ができるかもしれないな。フッ、明日は”俺達も”忙しくなりそうだな―――――」

明日の予定について考えたヴァイスは不敵な笑みを浮かべた。



~2時間後・演習地~



更に2時間後、第Ⅱ分校の教官、生徒達共に明日に備えてそれぞれ床に就いている中ミュゼは一人、デアフリンガー号から現れて人気(ひとけ)のない場所へと向かった。

(確かこの辺りのはずですが………―――!)

人気のない場所に移動し終えたミュゼが周囲を見回し、人の気配を感じると気配を感じた方向に視線を向けた。

「――――フフ、ごきげんよう。」

「え―――――」

するとミューズが森の中から現れ、”自分と瓜二つの容姿や髪の第Ⅱ分校の制服姿のミューズ”を見たミュゼは呆けた声を出した。

「クスクス、その顔が私が驚いた時の顔なのですわね。”自分”を驚かせるなんて、貴重な体験でしたわ♪」

「むう………”そちら”ばかり、驚かせる側になるなんて卑怯ですわ。」

可笑しそうに笑うミューズに対してミュゼは頬を膨らませ

「フフ、貴女が知らないだけでそちらの世界の事情を知った私は何度も驚きましたわよ?―――まあ、それはともかく。手筈は整えましたから、後は貴女次第ですわよ?」

「ええ、わかっておりますわ。それでは通信で話した通り明日一日、私の代わりをお願いしますわね。」

ミューズの言葉を聞くと表情を引き締めたミュゼは頷いた後演習地から出て行って演習地の出入り口付近に止めてあったミューズの導力バイクを運転してクロスベルへと向かい、ミューズはデアフリンガー号の中へと入って行き、ミュゼ達に割り当てられている部屋に到着すると明日に備えて休み始めた―――――


 
 

 
後書き
今回の話でロイド達の出張の理由が判明しました。原作通りクロスベルで活躍できない状況のロイド達です……が!今回の話の終盤でお気づきと思いますが、ちゃんとクロスベル以外でのロイド達の活躍の場はある上今までほとんど話の中に出て来なかったエステル達の活躍もあるので、その時までお待ちください!クロスベル篇は原作の神機戦後、ロイド達を含めて様々な勢力による無双の話になって、エレボニアも結社も、そして黒の工房も全てエウシュリー陣営や空、零・碧陣営によって酷い目に遭わされると思いますwwしかも、リィン達側にはメンフィルだけでなくクロスベル側からもクロスベルでの要請が終えるまで限定のゲストキャラが二人、加勢する上片方は原作零・碧キャラです!なお、その二人が誰なのかは次回で判明します。 

 

第56話



5月21日、午前7:00――――



翌朝、現状を知った生徒達が重苦しい空気を纏っていながらも結社の動きに対していつでも動けるように厳戒態勢でいる中心が折れたユウナは目は覚めてもベッドから起き上がらず、ベッドにい続けた。



~デアフリンガー号・ブリーフィングルーム~



「―――それでは、今回例の要請書は私が渡します。」

一方その頃リィンに対する要請(オーダー)の書類を持ったセシリアはリィンと対峙し

「あれが……」

「………メンフィル両皇帝からの要請書か。」

「リィンさんとヴァリマールをこの1年動かしてきた……」

「そしてその”対価”として新興の大貴族に内定しているシュバルツァー家をメンフィル皇家が庇護する誓約書でもある要請書ですわね。」

「ホント、よく考えられている要請書ね。」

セシリアが持つ要請書を見たアリサ達がそれぞれ複雑そうな表情をしている中シャロンとセリーヌは静かな表情で呟き

「……朝早くからお疲れ様です。今回はシルヴァン皇帝陛下の側妃の教官がいる為、レクター少佐ではなく教官が渡す事になったのですか?」

「ええ。そもそも、アランドール少佐は今それどころではないでしょうし。」

「え…………それって、どういう事なのでしょうか……?」

リィンの問いかけに対して頷いて答えたセシリアの話が気になったトワは不思議そうな様子でセシリアに訊ねた。



「申し訳ありませんが、今はそれについて説明している時間はありません。明日になればわかると思いますから、その時までお待ちください。―――それでは始めて構いませんね?」

「ええ、異存はありません。」

「”灰色の騎士”リィン・シュバルツァー。――――メンフィル両皇帝の要請(オーダー)を伝える。”結社”の狙いを見極め、クロスベルの地の混乱を回復し、可能ならば”執行者”を討伐せよ。」

「その要請――――引き受けました。」

セシリアが宣言と共に差し出した要請書に対して答えて受け取ったリィンは会釈をした。

「当然、私達も手伝わせてもらうわ。」

「及ばずながら私も協力させて頂きますわ。今回の相手は相当危険ですから、お嬢様とお嬢様の将来の伴侶であられるリィン様を守る為にも”死線”の力、とくと震わせて頂きますわ。」

「ええ、姉さんの動きを確かめる必要もありますし。」

「監察院の許可も貰った。どうか助太刀させてくれ。」

「アリサちゃん、エマちゃんにマキアス君、シャロンさんも……」

「……ありがとう。遠慮なく力を貸してもらう。」

アリサ達の協力の申し出にトワが嬉しそうな表情をしている中リィンは静かな笑みを浮かべて頷いた。



「勿論我々も助太刀させて頂きます。」

「シルヴァン陛下からも私達の加勢は許可されていますから、遠慮なく私達も戦力として数えて貰って構いませんよ。」

「ありがとうございます。お二人共、改めてよろしくお願いします。」

サフィナとセシリアの協力の申し出にリィンは会釈をし

「兄様。私とアルフィンも加勢させて頂きます。私達はその為にもサンドロッド卿に鍛えて頂いたのですから………」

「後方からの援護はお任せください。それにいざとなったらベルフェゴールさん達にも加勢して頂きますわ。」

「ああ、二人共期待している。――――構いませんね、ミハイル少佐?」

エリゼとアルフィンの申し出にも頷いたリィンはミハイル少佐に確認した。



「……勝手にするがいい。オルランド”准佐”とランドロス教官。君達の同行は許可できないが。」

「…………。」

「へーへー、言われなくてもわかっているぜ。」

ミハイル少佐に視線を向けられたランディは目を伏せて黙り込み、ランドロスはつまらなそうな様子で答えた。

「ま、何としても”特務支援課”を始めとしたクロスベルの英雄達にこれ以上活躍して欲しくないエレボニアとしては、絶対に認められないのでしょうね。」

するとその時女性の声が聞こえてきた後帽子を被ったエルフの女性がブリーフィングルームに入って来た。

「え、えっと、貴女は一体……?」

「あ、貴女は……!」

「何者だ。ここは関係者以外立入禁止――――」

エルフの女性の登場にトワが戸惑っている中セレーネは目を見開いて驚きの声を上げ、ミハイル少佐がエルフの女性に注意しようとしたその時

「残念ながら私も”関係者”なのよね~♪―――――リィンにセレーネ、それにランディにとっての。」

「リ、リィンとセレーネ、それにランドルフさんの”関係者”、ですか?貴女は一体………」

エルフの女性がからかいの表情で答えてミハイル少佐の注意を制止し、エルフの女性の話を聞いたマキアスは戸惑いの表情でエルフの女性を見つめた。



「フフ…………―――――私の名前はエルファティシア・ノウゲート。クロスベル双皇帝が一人、ヴァイスハイト・ツェリンダーの側妃の一人で、かつて”特務支援課”に所属していたわ。よろしくね、トールズ第Ⅱ分校と旧Ⅶ組のみんな♪」

「何……っ!?」

「ええっ!?と、”特務支援課”の……!?」

「そう言えばかつて”特務支援課”にはヴァイスハイト陛下を含めた3名のクロスベル皇族の関係者達も所属していた話は伺っていましたが、まさかエルファティシア皇妃陛下がその一人だったとは………」

「それにとんでもない霊力(マナ)も秘めているわね………その耳といい、少なくてもアンタは異種族なんでしょう?」

エルフの女性――――ヴァイスの側妃の一人であり、かつて”特務支援課”に所属していた事もあるエルファティシア・ノウゲートが自己紹介をするとミハイル少佐とアリサは驚き、シャロンは静かな表情で呟いてエルファティシアを見つめ、セリーヌは目を細めてエルファティシアを見つめた。

「ま、この耳を見れば少なくても私が”人間”ではない事はわかるでしょうね。私はエルフ――――”ルーンエルフ族”よ。」

「自然や精霊と共に生きる伝承の存在である”森の民”――――”エルフ”……!それもエルフの中でも最高位のエルフ族である”ルーンエルフ族”だなんて………!?」

「フフ、それとエルファティシアさんはかつてエルフ族の国の一つ―――”エレン・ダ・メイル”という国の女王でもあったのですわよ?」

「ええっ!?じょ、”女王”!?」

「君達がかつて所属していた”特務支援課”とやらは僕達”旧Ⅶ組”も比べものにならないくらい、とんでもない人材が集まっていたんだな……」

「ハハ…………―――お久しぶりです、エルファティシアさ―――いえ、エルファティシア皇妃陛下。エルファティシア皇妃陛下がこちらにいらっしゃったのは、もしかしてヴァイスハイト陛下の指示で俺達の助太刀をしてくれる為に……?」

エルファティシアが自分の種族を答えるとエマは信じられない表情でエルファティシアを見つめ、セレーネの話を聞いたアリサは驚き、疲れた表情をしたマキアスに視線を向けられたリィンは苦笑した後エルファティシアに会釈をして訊ねた。

「以前のように”エルファティシアさん”でいいわよ。話を戻すけど、リィンの推測通り、ヴァイスに言われて貴方達に加勢する事になったわ。今回の敵の一人である”劫炎”とやらに対して優位に立てる力が私にあるとの事だからね。」

「えっと………エルファティシア皇妃陛下はエルフの中でも最高位の”ルーンエルフ族”ですから、魔術に長けている事は推測できますが、あの”劫炎”を相手にどのような優位な部分があるのでしょうか……?」

エルファティシアの説明が気になったエマは遠慮気味にエルファティシアに訊ね

「”神聖属性”――――つまり、亡霊や悪魔と言った”魔”の存在の弱点である”破邪”の魔術を最も得意としているわ。ま、治癒魔術や純粋属性の魔術も扱える上当然アーツの適性も高いから、後衛からの援護は大船に乗ったつもりでいていいわよ。」

「”破邪”の魔術………なるほどね。亡霊である”劫炎”にとって、亡霊――――”魔”の存在にとって弱点である”光”――――つまり”空属性”や”神聖属性”による攻撃が最も効果的でしょうね。」

「そうですわね……実際セティ様達に開発して頂いた”神聖属性”や”魔”の存在に対して最も威力を発揮するこの武装による”劫炎”に対しての攻撃も相当効果的でしたわ。」

エルファティシアの答えを聞いたセリーヌは納得した様子で頷き、セリーヌの言葉に続くようにシャロンは静かな表情で自身の武装を取り出して呟いた。



「うふふ、亡霊になった事で亡霊特有の弱点である”神聖属性”が弱点になった”劫炎”にとって強力な”神聖属性”の魔術の使い手であるエルファティシアお姉さんは”天敵”のような存在でしょうね。――――それにしても、このタイミングで特務支援課出身のエルファティシアお姉さんを加勢させるなんてヴァイスお兄さんは見事にエレボニア帝国政府に対しての”反撃”をしたわね♪」

「……………」

「レ、レン教官………」

意味ありげな笑みを浮かべたレンに視線を向けられたミハイル少佐は複雑そうな表情で黙り込み、その様子を見たトワは不安そうな表情をし

「だぁっはっはっはっ!このタイミングでエレボニアに対して反撃をするとは、さすがはヴァイスハイトだ!」

「ハハ……まさかここで俺達の代わりにエルファティシアちゃんを投入するとはな……ちなみにエルファティシアちゃん一人でこの演習地に来たのかい?」

ランドロスが豪快に笑っている中ランディは苦笑した後エルファティシアに訊ねた。

「いえ、私の護衛兼私同様リィン達の”助っ人”を命じられた人物と共にこの演習地に来たわ。」

「え……クロスベルからの協力者がまだおられるのですか?一体どなたが……」

「もしかしてその方も”特務支援課”に(ゆかり)のある方なのでしょうか?」

エルファティシアの答えが気になったエリゼは不思議そうな表情をし、アルフィンがエルファティシアに訊ねたその時

「ふふっ、”縁”というよりも”因縁”というべきかもしれないがな。」

黒髪の長髪の男性がブリーフィングルームに入って来た!



「な――――」

「ええっ!?ど、どうして貴方がここに……!?」

「ほう~?」

「おいおい………あのリア充皇帝は何を考えていやがるんだ……?」

「クスクス、確かに”特務支援課”と”因縁”があるという言葉は間違っていないわね♪」

黒髪の長髪の男性の登場にリィンは驚きのあまり絶句し、セレーネは驚きの声を上げ、ランドロスは興味ありげな様子で男性を見つめ、ランディは疲れた表情で呟き、レンは小悪魔な笑みを浮かべ

「バ、バカな……貴様は元クロスベル国防軍長官―――――”風の剣聖”アリオス・マクレイン………!クロスベル動乱後逮捕され、拘置所で服役中の貴様が何故この場に……!?」

ミハイル少佐は信じられない表情で声を上げた後黒髪の長髪の男性―――――かつて1年半前に起こった”クロスベル動乱”の主犯格の一人にして、元A級正遊撃士であり、リィンの剣術の流派――――”八葉一刀流”の皆伝者の一人である”風の剣聖”アリオス・マクレインを厳しい表情で睨んだ。

「”クロスベル国防軍”といえば確か”クロスベル独立国”の時のクロスベルの軍の名称だったはずだが……」

「そ、それに”剣聖”という事はもしかしてその方は………」

「リィンやアネラスが修めている剣術の流派――――”八葉一刀流”の”皆伝者”なのかしら?」

「ええ、そうですわ。――――”風の剣聖”アリオス・マクレイン………かつては”クロスベルの守護神”と称えられ、レミフェリア公国で起こった国家を揺るがす程の大事件を解決した事からS級正遊撃士への昇格が何度も打診されていたA級正遊撃士でしたが、その裏ではディーター・クロイス元大統領―――いえ、イアン・グリムウッド弁護士の”同士”の一人としてクロスベル動乱の為の暗躍をし、更には”碧の大樹”でも”特務支援課”を阻み、”特務支援課”に敗北後逮捕されて拘置所に幽閉され、今は服役中のはずですわ。……恐らく実力はサラ様をも軽く上回るかと。」

「ええっ!?サ、サラ教官を軽く上回るって……!」

マキアスは戸惑いの表情でアリオスを見つめ、驚きの表情でアリオスを見つめるエマの言葉に続くように推測を口にしたセリーヌの推測にシャロンは頷いて答え、シャロンの推測を聞いたアリサは信じられない表情でアリオスを見つめた。



「フッ、罪を償い続けている俺と違い、今も実戦に身を置いているサラと比べれば、俺の方が遥かに劣ると思うがな。」

「ハハ………それよりもどうして拘置所で服役中のアリオスさんを俺達の助っ人にする事をヴァイスハイト陛下達は決められたのでしょうか?」

アリサの言葉に対して静かな笑みを浮かべて指摘したアリオスの言葉に苦笑したリィンはエルファティシアに事情を訊ねた。

「ヴァイスハイト達からもエレボニアの諜報関係者がクロスベルの領土に潜んでいる事で、その捜査や摘発の為に今はまさに文字通り”猫の手も借りたい”――――それこそ、実力がある犯罪者の手も借りたい状況だから、”黒の競売会”の時に戦ったマフィアの若頭と一緒にアリオスも一時的に釈放して私達の協力をさせているのよ。―――――クロスベルに貢献する事で”恩赦”としてそれぞれの”罪”に対する”減刑”をする事を条件にね。」

「そのような事情があってアリオスさんを………」

「”減刑”と引き換えに犯罪者相手に司法取引をして国家の事件解決の協力をさせるなんてめ、滅茶苦茶で非常識過ぎる……!」

「フフ、ですがかつてリベール王国にてクーデターを引き起こした”情報部”も結社の”福音計画”による”導力停止現象”が起こり、結社が王都(グランセル)を襲撃した際護送中の間援軍として駆けつけて救援した事と引き換えにクーデターの罪を許してもらい、釈放してもらったという前例がありますから、それを考えるとそれ程おかしくはないかと。」

エルファティシアの説明を聞いたエリゼは驚き、マキアスは疲れた表情で溜息を吐き、シャロンは苦笑しながら答えた。



「……ん?おい、ちょっと待て。エルファティシアちゃん、さっき”黒の競売会でやり合ったマフィアの若頭同様”アリオスのオッサンを一時的に釈放したって言ったよな?って事は、まさかとは思うが”キリングベア”の野郎も……!」

「ええ、今はオルディスにいるロイド達の協力者の一人として、ロイド達と共にいるわ。ちなみにロイドの話だと、割と協力的な態度を取っているとの事よ。」

「犯罪者を”減刑”と引き換えに協力者として事件解決の為に協力させている事も驚きですけど、その犯罪者が協力的なのも驚きですね。」

「まあ、自身の働き次第でどれだけ”減刑”されるかにも直結しますから、自分だけでなく部下や上司であるマルコーニの罪を少しでも減らすためにも協力的な態度を取っているのでしょうね。」

ある事に気づいたランディはエルファティシアに確認し、エルファティシアは苦笑しながら答え、話を聞いていたセシリアとサフィナはそれぞれ苦笑し

「マジかよ、オイ………ったく、そこの仮面のオッサンと比べればまだ常識を弁えている方だと思っていたが、結局はあのリア充皇帝も仮面のオッサンと”同類”じゃねぇか!?」

「クク、ヴァイスハイトは何といってもこのオレサマが唯一”永遠の好敵手”と認めた男だからな!常識というつまらねぇ”壁”なんてかる~く、ブチ破って当然だぜ?だぁっはっはっはっ!」

エルファティシアの答えを聞いたランディは疲れた表情で肩を落としてランドロスに視線を向け、視線を向けられたランドロスは口元に笑みを浮かべた後豪快に笑い、その様子を見守っていたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

(えっと……その”キリングベア”って何者なのかしら?)

(わたくしもロイドさん達からその方の事を聞いた程度で実際に会った事があるのは一度だけなのですが………”キリングベア”という二つ名を持つ方――――ガルシア・ロッシという方はかつてクロスベルの裏世界を牛耳っていたマフィア―――”ルバーチェ商会”の若頭さんで、元”西風の旅団”の猟兵で、しかも”部隊長”すわ。)

(ええっ!?フィーちゃんがいた猟兵団――――”西風の旅団”の……!?)

(それも”部隊長”という事は、”連隊長”の”罠使い”や”破壊獣(ベヒモス)”と並ぶ使い手なのかもしれませんわね。)

(し、しかも”ルバーチェ商会”ってエレボニア人の僕達でも知っている程の有名なマフィアだぞ!?確か連中は2年前のD∴G教団事件に深く関わっていたから、逮捕されたらしいけど……)

(”風の剣聖”の件といい、そんな大事件の関係者達を釈放して戦力として扱うなんて、”あらゆる意味”で常識外れの皇帝みたいね、”黄金の戦王”とやらは。)

アリサの小声の質問に答えたセレーネの説明を聞いたエマとマキアスが驚いている中シャロンは冷静な様子で呟き、セリーヌは呆れた表情で溜息を吐いた。



「しっかし、まさかあんたがリア充皇帝の司法取引に応じてリィン達に力を貸すとはな。自分に対しても厳しいアンタだったら、『かつてクロスベルを騒乱の渦に巻き込んだ元凶の一人である自分には資格がない』とか言って、リア充皇帝の司法取引に応じなかった事に驚いたぜ。」

「――――勘違いするな。実際、未だに俺は俺自身が犯した罪を忘れていないし、ガイやクロスベルの民達に対する償いは俺の一生では到底償い切れないと思っている。俺がヴァイスハイト皇帝の司法取引に応じた目的は”減刑”ではなく、ガイやクロスベルの民達に対する”償い”として、クロスベルを再び騒乱の渦に巻き込もうとする結社の残党達からクロスベルを守る為だ。」

苦笑しながら話しかけたランディの言葉に対してアリオスは静かな表情で答え

「アリオスさん…………」

「ったく、その厳しさも相変わらずだな………」

「クク、さすがはかつて”クロスベルの守護神”とも呼ばれた男だけあって、例え罪を犯した後でもクロスベルを”外敵”から守る考えは変わっていねぇようだな。」

「うふふ、今回の”要請”はクロスベルを外敵から守る為でもあるのだからかつてクロスベル動乱を引き起こした元凶の一人である”風の剣聖”も信頼できる”助っ人”ね。」

「フン………」

アリオスの決意を知ったセレーネは驚き、ランディは疲れた表情で溜息を吐き、ランドロスは口元に笑みを浮かべ、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ミハイル少佐は鼻を鳴らして厳しい表情でアリオスを睨んでいた。

「………――――事情が違えど、クロスベルを結社から守りたいという考えは俺達も同じです。”八葉一刀流”の”二の型”の皆伝者にしてS級正遊撃士候補に挙がっていた元A級正遊撃士である”風の剣聖”と肩を並べて戦える事、アリオスさんと同じ”八葉一刀流”の剣士として光栄です。アリオスさんの協力、喜んで受けさせて頂きます。―――――改めてよろしくお願いします。」

静かな表情で呟いたリィンはアリオスに利き手である右手を差し出し

「……ああ。我が風の太刀、お前のクロスベルでの要請(オーダー)を成功させる為に存分に利用するがいい。」

リィンの行動に一瞬驚いたアリオスは静かな笑みを浮かべて自身も利き手である右手を差し出してリィンと握手をした。



「ふふっ、世にその名を轟かせ、しかも同じ流派である”八葉一刀流”の”灰色の騎士”と”風の剣聖”の共闘の誓いの握手なんてレアな場面、グレイスが知ったら、その場面を写真に撮れなかった事に物凄く悔しがるのじゃないかしら?」

「あー……確かにあの姉さんなら、本気で悔しがるだろうな………――――って、今気づいたけどオッサン、武器は大丈夫なのか?片方の相手は幽霊なんだから、幽霊相手に普通の武器だとほとんど攻撃が効かねぇぞ?」

二人の握手を見てある事を推測したエルファティシアに視線を向けられたランディは苦笑しながらグレイスが悔しがっている様子を思い浮かべた後ある事に気づいてアリオスに訊ねた。

「その心配は無用だ。―――――利剣『神風(かみかぜ)』。ヴァイスハイト皇帝より依頼されたディオン三姉妹が俺の為にわざわざ鍛え上げた”太刀”で、俺にこの太刀を授けたディオン三姉妹の説明によると”魔”の存在に対して絶大な威力を発揮する退魔の太刀との事だ。」

「セティさん達が………」

「………確かにその”太刀”にもとんでもない霊力(マナ)が秘められているみたいね。―――それこそエマ達が殲滅天使から貰った”匠王”自らが鍛え上げた武装同様”古代遺物(アーティファクト)”クラスのとんでもない霊力が感じられるわ。」

「ええ…………一体どんな製法で、こんなとてつもない武装を鍛え上げる事ができるのかしら、ウィルフレド様達は………」

「うふふ、さすが”工匠”ね♪」

ランディの質問に対して答えたアリオスは自身の得物である太刀を鞘から抜いてリィン達に見せて説明し、アリオスの説明を聞いたアリサは驚き、目を細めて呟いたセリーヌの言葉に頷いたエマは考え込み、レンは小悪魔な笑みを浮かべていた。



「――――ランディ。正直役不足だと思っているが………”ランディ達”の代役、俺達”Ⅶ組”と”特務部隊”が務めさせてもらう。」

そしてランディの正面に身体を向けたリィンは決意の表情で答え、リィンの言葉にランディが驚いている中アリサ達はそれぞれ頷いた。

「リィン君、みんなも………」

「はは………―――生徒達は任せてくれ。通信やクロスベル政府の動き、装備の改良だったらティオすけやお嬢、それにセティちゃん達も最大限協力してくれるはずだ。だから頼む――――”俺達”の代わりにどうか事件を解決してくれ!」

その様子をトワが驚きの様子で見守っている中ランディは苦笑した後リィン達に自分達―――”特務支援課”の”想い”を託し

「頼まれました!」

託されたリィン達はそれぞれ力強く頷いた。



その後――――トワ達が生徒達に今後の動きについて説明している中、リィンは新Ⅶ組のメンバーを呼び集めた。



~デアフリンガー号・3号車~



「……………」

「教官……行くんですね。」

「昨夜、オルキスタワーの屋上に現れた”結社”の二人と”神機”を何とかする為よね?」

リィンやセレーネと対峙したクルトは目を伏せて黙り込み、アルティナとゲルドは静かな表情でリィンとセレーネに目的を確認した。

「ああ………だが今回、君達の同行を止めるつもりはない。」

二人の問いかけに頷いたリィンの答えを聞いたクルト達はそれぞれ驚いた様子でリィンとセレーネを見つめた。

「フフ、そんなに驚く事はないと思いますわよ?以前に約束した事もありますが、昨夜の”道化師”との戦いも一歩も退かずに、互角以上に戦ったのですから今の皆さんでしたら、決して足手まといになりませんわ。」

「だが――――このままユウナを放っておいてもいいのか?」

クルト達の反応にセレーネが苦笑しながら答えるとリィンは真剣な表情でクルト達に問いかけた。



「…………それは…………」

「…………とても放っておけません。」

「今、ユウナを放っておいたら、多分ユウナはもう2度と立ち上がれなくなるわ。」

「………演習先が決まった時からずっと無理をしてたんだろう。帝都内に家族もいることだし、一時帰宅を勧めてもいいんだが………だが――――こんな時だからこそ彼女自身に気づいて欲しいんだ。第Ⅱ分校生として、クロスベルを愛する人間として今、何をすべきなのかを。そしてできれば――――4人揃って追いかけてきて欲しい。」

「…………あ…………………」

「僕自身、迷いもありますが………了解しました。」

「………必ず、ユウナと一緒に教官達に追いつくわ。」

リィンの頼みにアルティナは呆けた後静かな表情で頷き、クルトとゲルドは決意の表情で頷いた。

「ああ、頼んだ。――――それとできれば”伝言”を頼みたいんだが……」

そしてリィンとセレーネがアルティナ達に何を伝えている様子をアリサ達は見守っていた。



「………新Ⅶ組か。いいクラスじゃないか。」

「そうね。迷い、悩んでそれでも前に進んで……」

「ふふ、それが未来の自分を形作っていくんですよね。」

「アンタたちも大概、迷いまくってたもんねぇ。」

「ふふっ、アルティナ様達もきっとお嬢様達のように未来の御自分を見つめられるでしょうね。」

リィン達の様子をシャロンは旧Ⅶ組のメンバーと共に微笑ましそうに見守り

「うふふ、セシリアお姉さんも鼻が高いのじゃないかしら?教え子が立派な教官になっているのだから♪」

「いいえ、私からすると”まだまだ”ですが………新米の教官としては、”上出来”の部類だと思っています。」

「そうですね……新米でありながら着任して僅か2ヵ月弱で生徒達にあそこまで慕われる教官は滅多にいませんものね。」

「ふふっ、あの様子では新旧Ⅶ組が揃って協力する事が訪れる日が近いかもしれないわね……」

「ええ………そしてそれが実現する事もオリヴァルトお兄様の望みなのでしょうね……」

からかいの表情を浮かべたレンに話を振られたセシリアは苦笑しながら答えた後静かな笑みを浮かべ、サフィナは感心した様子でリィンを見つめ、エリゼとアルフィンは微笑ましそうにリィン達を見つめ

「それにしても、少し前まではただの軍人見習いだったあの子が”英雄”になって、教官として人にものを教える立場になるなんて、本当に人間は寿命が短い代わりに成長が早いわね~。」

「そうだな…………(ガイ……お前が”特務支援課”に残した”想い”はしっかりと受け継がれているぞ……)」

興味ありげな様子でリィン達を見つめながら呟いたエルファティシアの意見に頷いたアリオスは今は亡き親友の顔を思い浮かべていた。



その後、デアフリンガー号から出たリィン達はまずクロスベルで情報収集をする為に導力バイクにそれぞれ乗ってクロスベルへと向かった―――――


 
 

 
後書き


という訳でクロスベル篇での終盤で参戦するクロスベル側のゲストキャラは魔導巧殻のエルファティシアと零・碧からまさかのアリオスですwwなお次回、リィン達はある零・碧キャラと再会する話を書いています。というか前々から疑問に思っていましたけど、原作でのクロスベル篇での相手はマクバーンとカンパネルラに対してこっちのメンバーは後衛ばっかで実質前衛はリィンしかいない事にええ………って思いました。前衛は二人入れるのが鉄板なんだからせめてシャロンをスポット参戦させるか、シャロンが無理なら新Ⅶ組メンバーの誰かを参戦させて欲しかったと何度も思いましたね……(遠い目)
 

 

第57話

クロスベルに到着したリィン達は過去に起こったクロスベルでの結社が関わっている事件――――”クロスベル動乱”についての資料が保管され続けている元”特務支援課”の拠点にして、今は”インフィニティ”の本社でもあるビルの前に来た。



~中央広場~



「……ここは……」

「セティさん達――――”インフィニティ”の本社だけど、元はセティさん達やティオ主任が所属していた”特務支援課”の分室ビルだったそうよ。」

「と言う事は、もしかしてここでリィンさん達が………」

ビルの前に到着したマキアスはビルを見上げ、アリサの説明を聞いたエマは驚きの表情でリィン達に視線を向け

「ああ、数ヵ月程度だったがエマ達が第三学生寮で過ごしていたようにここでロイド達と共に寝食を過ごしていたんだ。」

「フフ、あれからもう2年近く経っているのに、ついこの間のように感じるわね。」

「はい………」

視線を向けられたリィンとエルファティシア、セレーネはそれぞれ懐かしそうな表情をしていた。

「確かこちらのビルの今のオーナーの方々はリィンさん達の元同僚で、オリヴァルトお兄様もお世話になった”匠王”ウィルフレド卿のご息女である方々でしたわよね?ふふっ、機会があればご挨拶をしたいと思っておりましたから、今からお会いするのが楽しみですわ。」

「その事なんだが……残念ながら、今朝セティ達に連絡した時に、朝から外回りの仕事があるって言っていたから、今はビルの中にはいないと思う。」

「そうだったのですか……ちょっと残念ですわ。」

期待している様子でビルを見つめて呟いたアルフィンだったが、困った表情を浮かべたリィンの話を聞くと残念そうな表情をした。

「そう言えば兄様達の話ですと、セシル様達が偶に多忙なセティ様達に代わって本社ビルで留守を預かっていたとの事ですから、ひょっとすればシズクさんともお会いできるかもしれませんね。」

「いや、それなんだが……セティ達の話だとセシル様達は今日は朝から病院で検診に行っているって言っていたから、セシル様もそうだけど、セシル様に付き添っているシズクちゃんやキーアはビルにはいないと思う。」

「そうだったのですか………アリオスさんにとっては、残念な偶然でしたわね……」

「――――俺への気遣いは無用だ。それに俺は少なくても俺の罪を償いきれるまでは、俺自身からシズクに会いに行く資格はないと思っている。」

「アリオスさん………」

「……………」

ある事を思い出したエリゼはアリオスに視線を向け、リィンの話を聞いたセレーネは残念そうな表情で視線を向けられたアリオスは静かな表情で答え、アリオスの答えを聞いたリィンは複雑そうな表情をし、シャロンは目を伏せて黙り込んでいた。



「えっと……その、セシル様やシズクさんって、リィン達とはどう言った知り合いなのかしら?特にそのシズクさんという方はアリオスさんと何か関係があるようだけど………」

「そうだな………事情が色々と複雑だからどう説明すればいいかな…………」

「――――シズクは俺の娘だ。そしてセシルは俺の亡き友の婚約者だったが………どのような出会いがあったのかは知らぬが、今は”英雄王”の側妃の一人として”英雄王”の伴侶の一人になり、1年半前のクロスベル動乱で俺が逮捕された事で”親”という庇護を失い、更にクロスベル動乱の元凶の一人である俺の娘という事で世間での立場が非常に悪くなったシズクを養子として引き取り、俺の代わりにシズクを守り、育ててくれている。」

アリサの疑問に対してリィンがアリオスを気にしながら答えを濁しているとアリオスは静かな表情で説明し

「ええっ!?ア、アリオスさんの娘!?しかもそのセシル様って人は”英雄王”――――リウイ前皇帝陛下の側妃の一人って……!」

「一体何があってそんな超展開になったのよ………」

アリオスの説明を聞いてアリサやエマと共に驚いたマキアスは信じられない表情で声を上げ、セリーヌは疲れた表情で溜息を吐いた。

「フフ、ちなみにセシル皇妃陛下は”癒しの聖女”と名高い”癒しの女神(イーリュン)”教の司祭――――ティア皇女殿下やゲルドさんの”義母”でもあります。」

「ゲルドさんの……そう言えばプリネ皇女殿下からはゲルドさんが持つ異能――――”予知能力”を悪用しようと考える様々な勢力から守る為にゲルドさんをメンフィル皇家の分家の養子にする事でメンフィル皇家がゲルドさんの”後ろ盾”になった事を仰っていましたが、その分家はセシル皇妃陛下達の事だったのですか……えっと、病院に検診に行っていると言っていましたが、セシル皇妃陛下は身体のどこかが悪いのでしょうか?」

セシリアの説明を聞いたエマは驚きの表情で呟いた後ある事を思い出して不安そうな表情でリィン達に訊ねた。

「うふふ、別にセシルママは身体のどこかが悪いから病院に行っている訳ではないわよ?セシルママは今お腹の中にレン達の弟か妹がいるから、病院に通っているのよ。」

「ええっ!?レ、”レン皇女殿下の弟か妹がお腹の中にいる”って事は、そのセシル皇妃陛下は今、妊娠しているんですか……!?」

「ああ。」

レンの説明を聞いて驚いている様子のアリサの疑問にリィンは頷いたが

「うふふ、シズク様にとっても妹か弟ができますからとてもおめでたい話ですわね。―――ところで妊娠で思い出しましたが、リィン様とお嬢様は今回の要請(オーダー)を無事終えれば、”子作り”にも励んで頂けるのでしょうか♪」

「エリゼ達を出し抜いてそんな事をするつもりはないし、そもそもみんなの前でそんなとんでもない事を聞かないでよ、シャロンッ!!」

「だから、ハメを外さないって言っているじゃありませんか!?」

からかいの表情を浮かべたシャロンの問いかけに対して顔を真っ赤にしたアリサと共に反論し、その様子を見守っていたセレーネ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「ハア………しかし、そうなると今ビルの中には誰もおらず、鍵がかかっていて入れないのでは?」

「いや、セティ達の話ですとセシル様達とは別の人物に留守を頼んだと言っていましたから、開いているはずです。」

我に返って呆れた表情で溜息を吐いたサフィナの疑問に答えたリィンは仲間達と共にビルの中へと入って行くと、白い狼が玄関付近にあるソファーの傍で寝そべって寛いでいた。



~総合工匠会社”インフィニティ”~



「へ……っ!?」

「お、狼……!?」

「えっと……もしかしてセティさん達が言っていた留守を頼んだ人物って………この狼の事なのかしら……?」

「どこが”人物”よ……”人”ですらないじゃない……」

白い狼を見たマキアスとエマは驚き、アリサは表情を引き攣らせ、セリーヌは呆れた表情で溜息を吐いた。

「ハハ……確かに”彼”も留守役としてピッタリだな。」

「そ、そうですわね。でもどうしてセティさん達は留守を預かるのが”彼”である事をお兄様に教えなかったのでしょう?」

「うふふ、わざと黙っていて貴女達を驚かせようとしたのじゃないかしら♪もしくは貴方の指示かしら?」

一方リィンとセレーネは苦笑し、エルファティシアがからかいの表情で狼に問いかけると

「フッ、別に我はセティ達に口止めもしていないのだから、恐らくセティ達の仕業だろう。」

「へ………お、狼がしゃべった!?」

「ま、まさかとは思うがあの狼も君達の関係者か……?」

「アンタ達ねぇ……人の言葉を解する動物は、みんな魔女の眷属(アタシ達)だと思っているんじゃないでしょうね?」

「ア、アハハ……少なくても魔女の眷属(私達)の中に狼を使い魔にした人達はいませんよ。」

何と狼はセリーヌのように人の言葉を口にし、狼がしゃべった事にアリサが驚いている中疲れた表情をしたマキアスに視線を向けられて呆れた表情で答えたセリーヌの話を聞いたエマは苦笑しながら答え

「白い狼で、リィン様達が全く驚いていない様子から推測すると………貴方が”幻の至宝”を見守っていた”空の女神”の”眷属”の一柱であられる”神狼”様なのでしょうか?」

「!!」

「”神狼”ですって!?」

狼を見つめて狼に問いかけたシャロンの推測を聞いてエマと共に血相を変えたセリーヌは声を上げて狼を見つめ

「左様。私の名はツァイト。かつて女神から人に贈られた大いなる”七の至宝(セプト=テリオン)”の一つ――――”幻の至宝”の行く末に在り続けた者だ。」

その場にいる全員に見つめられた狼――――”空の女神”の眷属の一柱にして、かつて”特務支援課”の”警察犬”でもあったツァイトは自己紹介をした。



「ええっ!?」

「そ、”空の女神”の”眷属”って……!何でそんな伝承上の存在がこのビルの留守を……!?リィン、君達とそちらの狼とは一体どういう関係なんだ……!?」

ツァイトが名乗るとアリサは驚きの声を上げ、マキアスは混乱した様子でリィン達に訊ねた。

「ハハ……ツァイトは”特務支援課”の”警察犬”だったんだ。」

「しかもロイドさん達の話によると、”特務支援課”が発足されて少ししてから起こった事件を切っ掛けに”警察犬”としてロイドさん達に協力してきたそうですわ。」

「ちなみにツァイトは”特務支援課”に所属していた期間はリィン達どころか、リィン達よりも長く所属していた私よりも古株なのよ~?」

「け、”警察犬”ですか………」

「ハア……”神狼”の名が泣くわよ……」

「フフ、私もツァイト様の事を知った時は皆さんのように驚きました。」

リィン達の話を聞いてアリサやマキアスと共に冷や汗をかいたエマは表情を引き攣らせ、セリーヌは呆れた表情で溜息を吐き、アリサ達の様子を見たエリゼは苦笑していた。



「えっと……”空の女神の眷属”という事はもしかして、わたくしがグランセル城で女神様と共に出会った”竜”―――――レグナート様の……?」

「うむ、レグナートは私の同胞(はらから)だ。しかし……セティ達から予め聞いていたが、そなたもロイドのように随分と奇妙な縁に恵まれているようだな。かの”獅子心帝”の子孫に”風の剣聖”、そして”焔”を受け継ぎし一族の子孫と共闘する事になるとはな……」

「いや、”神狼”のツァイトもその『奇妙な縁』に入っていると思うんだが………それよりも”焔を受け継ぎし一族”って一体誰の事だ?」

アルフィンの質問に答えた後自分達を見回して呟いたツァイトの感想に疲れた表情で答えたリィンはある事が気になってツァイトに訊ねた。

「”焔”の名は遥か昔の名で、確か今は”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”と名乗っている一族の事だ。」

「ええっ!?エ、エマとセリーヌが……!?」

「………はい。私達――――魔女の眷属(ヘクセンブリード)はかつて”焔の眷属”と名乗っていたのですが様々な事情があって、今は魔女の眷属(ヘクセンブリード)を名乗っているのです。」

「―――とは言っても、その名を名乗っていたのは相当昔――――”獅子戦役”よりも遥か昔の話だけどね。」

(”焔を受け継ぎし一族”……”空の女神の眷属”である”神狼”が()っていた事から考えると、まさか”焔”は”至宝”の事を示しているのか……?)

ツァイトの答えを聞いて驚いたアリサに視線を向けられて答えたエマとセリーヌの話を聞いていたアリオスは真剣な表情で考え込みながらエマとセリーヌを見つめた。

「お互いに色々と聞きたい事はあるでしょうが、今は”要請(オーダー)”を達成する事に集中した方がいいのでは?」

「あ………そうですね。――――それでは、早速始めよう。」

そしてセシリアに促されたリィンは仲間達と共に手分けしてテーブルを借りて資料などを広げ……クロスベルにおける”結社”の狙いと動きについて推測していく事にした。



「―――結社がクロスベルで何をしようとしているか……VIPの来訪や列車砲の搬入などで色々と状況は錯綜しているが……―――やはり鍵となるのは”実験”という言葉だろう。」

「実験……」

「オリヴァルト殿下が”道化師”に問い質していた言葉ね。」

「たしか、サザ―ラントでもその言葉が使われたそうですね?」

「そうね。サザ―ラントでの”実験”を考えると間違いなく”神機”が関係しているのでしょうね。」

「はい……もしかしたらお兄様がヴァリマールを使っての戦闘すらも”実験”の内に入っているかもしれませんし……」

「と言う事は向こうも、リィンさん達が来ることを想定しているかもしれないという事ですか………」

リィンの言葉を聞いた仲間達がそれぞれ考え込んでいる中セレーネの話を聞いてある事を推測したアルフィンは心配そうな表情でリィンを見つめた。

「ああ―――その意味で今回の件も前回の”続き”にあたるんだと思う。サザ―ラントと同じく―――”神機”が現れている事も含めて。」

「”神機アイオーン”――――かつて”クロスベル独立国”で運用された機体の後継機ですわね。確か、以前の”神機”はほとんどメンフィルやロイド様達―――”特務支援課”によって破壊されたと伺っておりますが……

「ああ………ただ、ロイド達が直接戦った”白の神機”―――――”アイオーンα”に関しては結社の”第六柱”が撤退時に自身と共に”転移”で去ったそうだが……」

「”第六柱”……――――”蛇狩り”から生き伸びた”蛇の使徒”のノバルティス博士ですか。そうなると前回と今回の”神機”の開発には間違いなくノバルティス博士が関わっているのでしょうね。」

「そうね。ノバルティス博士は結社の”十三工房”を纏めている立場だし。」

リィンの言葉に続くようにかつての出来事を訊ねてきたシャロンの疑問に対してアリオスは静かな表情で答え、考え込みながら呟いたサフィナの言葉にレンは静かな表情で頷いた。



「サザ―ラントでの情報も聞いたけどそもそも、そんな巨大な質量の機体が動いていること自体がおかしいのよね。あのゴライアスを超えるサイズなのに2本足で立っていたみたいだし。」

「ああ……シュミット博士も似たような事を言っていたな。タワーに現れた神機はスリムだったがそれでも騎神を遥かに上回る大きさだ。そして―――飛び去るスピードはヴァリマールを超えていたと思う。」

「……まさか騎神を超える人型がエレボニアの外で造られてたなんてね。」

「でも……神機を造った”結社”も当初は使いこなせなかったそうです。人が再現した”女神の至宝”でようやく動かせていたそうですが……」

「かつて”零の御子”と呼ばれた”特務支援課”が保護していた女の子か。フランさんからも聞いたが、その力はとっくの昔に失われてるんだろう?」

「マキアスはフランと会った事があるのか………ああ、それについては俺やロイド達も自分の目で確認しているから今のキーアに”零の御子”の力がほとんど失われている事は断言できる。」

「残っている僅かな力も、少なくても”神機”のような凄まじい存在を動かせる事ができる力は全く残っていない事は”空の女神”であるエイドス様も断言しましたわ」

「ですが、あの”紫の機体”は昨夜、当然のように動いていましたが……そして、あの火焔魔人――――”劫炎”の言葉………」

昨夜の出来事を思い返したエリゼはリィン達と共にマクバーンの言葉を思い返していた。



ま、”至宝”の力がねぇから中途半端に動かせねぇけどな。もう少ししたら色々と愉しませてやれると思うぜ?



「……あれ、気になるわね。少なくとも”至宝”が無い状態で機能が制限されていながら……何らかの条件が整ったら至宝無しでも機能が使えるようになるって事よね?」

「ええ……”至宝”とは”女神の力”。それに代わる”何か”というのは正直、想像もつきませんが………―――ですが大前提として、あの神機が、大量の”霊力(マナ)”を使っているのは確かだと思うんです。」

「ああ、それは感じたわ。」

「霊力―――霊子エネルギーね。」

「僕達が普段使っている導力とどういった違いがあるものなんだ?」

「私の知る限り……導力はオーブメントによって精製されたより使いやすい”霊力”みたいですね。オーブメント機能は謎が多くて、詳しい事は私にはわかりませんが……」

「まあ、誰にでも魔術と同等の”力”が使えるようになる時点で、色々と謎が多いわよねぇ。」

「そうですね………我々の世界にも魔術の心得がない者達でも作動させることができる”魔導具”は存在しますが、戦術オーブメントのような魔導具は存在しませんね。」

エマの意見にそれぞれ同意したエルファティシアは苦笑し、セシリアは考え込みながら呟いた。



「うーん、そのあたりは発明者のエプスタイン博士しか知らないって話ね。ただ、どちらも本質的には似ていて大型機械を霊力で動かす事も可能みたい。………教会あたりが霊子駆動の飛行船を運用しているって噂もあるくらいだし。」

「……………」

(お兄様、その飛行船はもしかして……)

(間違いなく”メルカパ”の事だろうな……)

アリサの話を聞いて心当たりがあるシャロンは目を伏せて黙り込み、セレーネはリィンと小声で会話をし

「フム……霊力で動く大型機械という意味では騎神も同じでしたね。」

「はい―――ですがあの神機が騎神以上に非常識な力を実現できているとしたら話は別になると思います。おそらく、”外部”から霊力を過剰に取り込んでいるのではないでしょうか?」

「いわゆる過剰供給(オーバーチャージ)ね……!」

「すると、霊力を大量に供給できる何らかの場所(スポット)……そこに、あの紫の神機がいる可能性があるのではないでしょうか……!?」

考え込みながら呟いたサフィナの言葉に頷いたエマの推測を聞いて血相を変えたアリサとアルフィンはそれぞれ推測を口にした。



「なんだ、見えてきたじゃないか!」

「……でも、このクロスベルって無数に霊的な(パワースポット)が存在してるのよね。」

「え”。」

「そ、そうなの?」

今後の方針が見えた事に明るい表情をしたマキアスだったがセリーヌの答えを聞くと表情を引き攣らせ、アリサは困惑の表情を浮かべた。

「……ええ、姉さんを捜すついでに色々と調べてみたんですが……北東の古戦場に、湖の湿地帯、暗黒時代の僧院なんかもあります。」

「どの場所も全く違う方向に存在していますから、しらみつぶしに捜す訳にもいきませんね。」

「ああ……VIP達が来ている以上あまりノンビリしていられない。―――って、そう言えばツァイト、さんだったか?君―――じゃなくて貴方は”空の女神の眷属”で、しかも遥か昔からクロスベルにいるような口ぶりを考えると、何か知っているのではないでしょうか?」

エマの話に続くように考え込みながら呟いたエリゼの言葉に頷いたマキアスはソファーの側で寝そべって寛いでいるツァイトに声をかけた。

「”ツァイト”でよい。”神機”の行方だが………―――そなた達には悪いがその件については私は介入する事はできない為、何も話せぬ。」

「ツァイトさんは介入できないって………一体どういう意味なんですか?」

「………――――今回現れた”神機”も”七の至宝(セプト=テリオン)”が関わっているからではないのか?」

ツァイトの答えを聞いたセレーネが首を傾げている中ある事に察しがついたアリオスは静かな表情でツァイトに問いかけた。



「へ……何で”神機”に”七の至宝(セプト=テリオン)”が関わっているからってツァイトが介入できないんだ……?」

「――――それはツァイトが”空の女神の眷属”だからよ。”空の女神エイドス”は”眷属”達に”至宝”の行方を見守ると共に”至宝”に関する介入は禁じているのよ。」

「……そう言えば”リベールの異変”で姿を現した”空の至宝”についてもアンタの同胞――――”古竜レグナート”は介入しなかったわね。という事は今回の神機の件……まさかとは思うけど、他の”至宝”が関わっているのかしら?」

「……………………」

「あの様子からすると、直接的にせよ、間接的にせよ”当たり”なのは間違いないでしょうね。」

「女神様は一体何故レグナート様やツァイト様にそのような命令をしたのでしょう……?」

「さあね。元々神が考えている事なんて”人”の身では決してわからないんだから、それこそ言葉通り”神のみぞ知る”、よ。」

マキアスの疑問に対して答えたレンの説明を聞いたセリーヌはある事を思い出してツァイトに問いかけたがツァイトは何も答えず黙り込み、ツァイトの様子から判断したシャロンは静かな表情で呟き、不安そうな表情で呟いたアルフィンの疑問にエルファティシアは疲れた表情で答えた。

「……何か方法は無いのかしら。たとえば何らかの探知機構………レーダーみたいな仕組みを使うとか。」

「その意味では、エマが霊脈を霊視するのが一番近道っぽいけど……さすがにクロスベル全体は無理よね?」

「ええ……姉さんやお祖母ちゃんもそこまでは無理だと思う。霊視能力を増幅できるようないい方法があればいいんですが………」

「霊視能力の増幅、か。」

「霊視能力の増幅………もしかしたら、ティオさんだったら何か力になるのでは?確かティオさん、ご自分が扱える魔術を”エイオンシステム”を利用して威力を増強したり、大魔術を制御したりしていましたし……!」

「そうね。幾らあの娘が特異な能力の持ち主でも、あの若さで大魔術の制御を何の補助もなしにするなんて、普通に考えて無理だもの。」

「うふふ、早速ティオの力を借りる時が来たようね♪」

「でしたら、まずそちらの端末を使ってティオさんに連絡を取りましょう。」

その後リィン達はティオに連絡して事情を説明した。



「――――なるほど、そういう事ですか。それならば確かにジオフロントが探知に利用できるかもしれません。」

「本当ですか……!?」

「かつて錬金術を発展させた魔導科学に利用された地下区画……」

「やれやれ、こんな都市の下にそんな場所があったなんてね。」

「正に”灯台下暗し”、ですね。」

ティオの答えを聞いたアリサは明るい表情をし、エマが考えている中呆れた表情で溜息を吐いたセリーヌの言葉に続くようにセシリアは苦笑しながら答えた。

「ふふ、いい着眼点かと。―――詳細は省きますが、ジオフロントはクロスベル全土の霊脈と接続する形で構成されています。そちらのエマさんの霊視能力と、わたしのエイオンシステムを連動させれば広域の探知(サーチ)も可能でしょう。以前、行方不明になった遊撃士を捜索した時のノウハウも活かせそうですし。」

「よ、よくわからないが……」

「でも、伺っているかぎり、何とか光は見えてきましたね。」

「ええ……できればティオ主任もこちらに合流してもらえませんか?」

「ええ、勿論です―――といいたい所ですが。実はこの後、ヴァイスさん―――ヴァイスハイト皇帝陛下の要請によってエリィさん達と協力する”仕事”がありまして。リィンさん達に合流して探知(サーチ)を手伝う余裕はないんです。」

アリサの頼みに対して意外な答えを口にしたティオの答えを聞いたリィン達は驚いた。



「そ、そうなんですか!?」

「ヴァイスハイト皇帝陛下が関係しているという話も気になりますね………」

「ああ、ひょっとしたら昨夜道化師達が口にした件―――――クロスベルの領土に潜伏している”情報局”や”鉄道憲兵隊”の捜査や摘発に関係しているかもしれないな………」

「うふふ、状況からしてどう考えてもその件が関係している可能性が高いでしょうね。」

「あ……………」

(今朝、クロスベル帝国政府から連絡があった”例の件”の事でしょうね……)

マキアスの推測を聞いたレンは意味ありげな笑みを浮かべ、アルフィンは呆けた声を出した後辛そうな表情で黙り込み、事情を知っているサフィナは目を伏せて黙り込み

「も、もしかしてセティさん達が留守にしているのもティオさんと同じ”仕事”なのでは……?」

「―――はい。しかも現在、テロ対策のためか多くの区画が封鎖されています。広域探知に向く場所は一つありますが、皆さんだけで向かう必要がありますね。」

「案内ナシか……ま、仕方ないでしょ。」

「ああ、何も問題はない。―――それで、俺達はどこに向かえばいいんだ?」

セレーネの推測に頷いたティオは説明を続け、ティオの説明を聞いたセリーヌは溜息を吐き、リィンは静かな表情で頷いてティオに続きを促した。



「……そちらにアリオスさんがいるのですから、ひょっとしたらアリオスさんに先導してもらえるかもしれない場所です。」

「”アリオスさんに先導してもらえるかもしれない場所”という事はまさか………」

「――――イアン先生の事務所の地下にある区画か?」

「はい。やはりアリオスさんもご存知でしたか………ジオフロントB区画・”SⅡ”エリア―――――”旧グリムウッド法律事務所”の地下から降りられる機密エリアです。」

ティオの話を聞いてある事を察したエリゼはアリオスに視線を向け、静かな表情で問いかけたアリオスの問いかけに頷いたティオはリィン達にとって驚愕の答えを口にした。

「な、なんだって……!?」

「よりにもよってイアン・グリムウッドの事務所の地下ですか………」

「……わかった。後の事は任せてくれ。ティオ達の代わり――――何としても成し遂げてみせる。」

「ふふ、ランディさんから聞きました。こんな状況ですがわたしも最大限のサポートをするつもりです。探知ポイントの詳細と、それと別にちょっとした情報も集めたのでよかったら確認してみてください。それでは、また――――ジオフロントの探索を開始したら連絡していただけると。」

その後リィン達はツァイトに見送られた後ティオから貰った情報の中にあった手配魔獣の撃退とクロスベルで情報を集めた後、市役所に事情を説明して”旧グリムウッド法律事務所”の鍵を借りて”旧グリムウッド法律事務所”の中へと入り、事務所の地下にあるジオフロントでの探索を開始した――――




 
 

 
後書き


という訳で予告していたリィン達が再会する零・碧キャラはツァイトでした!なお、余談ですが並行世界のユウナ達からもたらされた閃Ⅲの情報は零・碧陣営はランディとワジ以外は既に知っている事になっています。後エステル達もww閃Ⅳでも果たしてツァイトは登場するのやら……初期の特務支援の4人とキーアは登場する事は確定しているようですが……
 

 

第58話

ジオフロントの探索を開始したリィン達は時折襲い掛かってくる魔獣達を撃退しながら奥の端末がある場所に到着し、ティオに連絡をし、ティオの指示通りアリサは端末を操作した。



~ジオフロントB区画・”SⅡ”~



「エイオンシステム起動――――位相空間にアクセス。リアルアバターを展開します。」

端末の映像に映っているティオが操作すると端末から何かの光が漏れ始めた。

「なあああっ!?」

「こ、これは……!!」

突然の出来事にリィン達が驚いていると何と端末の傍に透き通った身体のティオが現れた!

「―――上手くいきました。ちゃんと見えていますよね?」

「ティ、ティオ主任………」

「げ、幻術………ではないんですよね?」

「ふふ、エイオンシステムの応用で心的イメージの空間投影を行いました。外観は最新の画像データで補正―――財団で研究中の最新技術になりますね。」

「凄い………」

「ええ……まさかここまでなんて。」

「うふふ、さすがはエプスタインね。」

「はい。是非RF(我が社)も採用したいシステムですわ。」

「仕組みはサッパリだがとんでもない事はわかるぞ……」

ティオの説明を聞いたアリサとセレーネは驚き、レンとシャロンは感心し、マキアスは疲れた表情で呟き

「やれやれ、まさか人の手でヴィータとグリアノスの真似事なんて。」

「あ、あはは……魔女の立場がないわね。」

「この調子じゃ下手したら、その内”科学”で魔術に関わるあらゆる現象が実現する日が来るかもしれないわね。」

「我々の世界――――”ディル=リフィーナ”の遥か昔も、このような技術があったのかもしれませんね……」

「そうですね………もしかしたら魔導技術の応用でもこのような事ができるかもしれませんね。」

科学の力で魔術によって起こせる現象を実現した事にセリーヌは溜息を吐き、エマとエルファティシアは苦笑し、サフィナとセシリアは真剣な表情で考え込みながら推測を口にした。



「――――とにかくこれで疑似的にエマさんのサポートが可能です。さっそく始めましょう。」

「はい、わかりました……!」

そしてティオとエマがそれぞれ魔導杖を取り出して探索(サーチ)を開始するとジオフロント全体に何かの光が連続で輝き始めた。

「ええっ……!?こ、これは一体……!」

「ジオフロントのフロア全体が光を……」

「――――ジオフロントを通してクロスベル全土の霊脈の動きを調べているのか。」

突然の出来事にアルフィンが驚き、エリゼが呆けている中事情を察したアリオスは静かな表情で推測を口にし

「ええ――――周辺のクロスベル全土の霊脈の動きも感じられます……!」

「エイオンとの連動完了――――しばらく広域サーチを続けます。どこかに大量の霊子エネルギーの”動き”があるはず―――何とか捉えてみてください。」

「ええ、任せてください……!」

そしてエマはティオの協力の元クロスベル全土の霊脈を調べ始めた。



「ふう……何とか上手くいきそうですわね。」

「はい、あとはエマさんとティオさんに任せましょう。」

「ああ、終わるまでしばらく待機するとして――――」

その様子を見ていたアルフィンやエリゼ、マキアスが安堵の表情で呟いたその時何かの気配を瞬時に感じ取った旧Ⅶ組メンバーとエリゼ、アルフィン以外の全員――――リィン達はそれぞれ血相を変えて背後を警戒した。

「この気配は――――」

リィンが呟くとリィン達の背後に魔煌兵が3体現れた!

「えっ……!?」

「あれは――――!」

「魔煌兵ですか……!」

「へ~……あれがヴァイス達の話にあった”魔煌兵”とやらか。感じられる力といい、遺跡に眠っている魔導人形達の中でも上位クラスね。」

「かつてのクロスベル動乱時、クロイス家がクロスベルの霊脈を利用して操作していた魔導兵達とも桁違いの力を秘めているようだな。」

魔煌兵の登場にアリサが驚き、真剣な表情を浮かべて呟いたサフィナとセシリアの話を聞いたエルファティシアとアリオスは警戒の表情で魔煌兵達を睨んだ。



「昨日現れたのとは違う―――見た事もないタイプだわ!」

「チッ、こんな時に……!」

「それに、”こんな時”に現れるなんて果たして偶然なのかどうか怪しいわね。」

「そうですわね……現れるタイミングが余りにも絶妙ですから、”道化師”達の(トラップ)を疑いますわね。」

アリサが警戒の表情で魔煌兵を睨んでいる中セリーヌは舌打ちをし、レンの考えに同意するようにシャロンはレンの推測の先を口にした。

「皆さん………!」

「今、サーチをやめると正確なデータが……!」

「エマ君達の邪魔はさせない!」

「ああ、ここで撃破する。相手は3体だからこちらも4人3組に分かれて各自、協力して撃破してくれ!―――レン教官、メンバーの組み合わせの判断をお願いします!」

「了解したわ!―――――左の相手はアリサお姉さん、シャロンお姉さん、マキアスお兄さん、レンで、右の相手はエルファティシアお姉さん、セシリアお姉さん、サフィナお姉さん、アリオスおじさんで、真ん中の相手は残りのメンツ――――リィンお兄さん、セレーネ、エリゼお姉さん、アルフィン夫人よ!」

「わかりました!―――各自、レン教官が今言ったメンツで協力して魔煌兵を撃破してくれ!」

「おおっ!!」

そしてレンが瞬時に考えたメンバーはリィンの号令に力強く頷いた後それぞれが相手をする魔煌兵達の元へと向かって、戦闘を開始した!



「行きましょう――――ラジカルスキーム!!」

仲間達と共に魔煌兵との戦闘を開始したアリサはブレイクダメージの威力が上がるブレイブオーダーを発動して自分達のブレイクダメージ率を高め

「行きますわよ――――シャドウステッチ!!」

シャロンは先制攻撃代わりに電光石火のような速さでダガーで敵に斬りつけた後鋼糸による締め付けの追撃をした。

「ヤァァァァァ……ッ!」

「そこですわっ!」

シャロンに続くようにレンは敵に詰め寄って大鎌による回転斬り――――ブラッドサークルで敵の足元を攻撃し、一端敵から離れたシャロンも再び詰め寄って鋼糸による攻撃を敵に叩き込んだ。

「――――――」

「っと!」

「!!」

敵は反撃に巨大な剣による薙ぎ払い攻撃を放ったが二人はそれぞれ人間離れした身体能力で回避し

「逃がさない――――メルトストーム!!」

「貫け―――メイルブレイカー!!」

アリサは炎の竜巻を発生させる矢の雨を、マキアスは貫通する銃弾を敵目がけて放った。

「!?」

「崩したわ!」

「甘々ですわ!」

「崩したぞ!」

「レンも続くわ!」

二人の攻撃によって敵が態勢を崩すとそれぞれとリンクを結んでいるシャロンとレンが追撃を敵に叩き込んだ。



「―――――――!!」

二人の追撃が終わると敵は咆哮によって攻撃力と共に体力を回復させるクラフト――――ダークロアで回復すると共に自身を強化し

「――――!」

続けて剣を地面に叩き付けて衝撃波を走らせるクラフト――――アースブレイカーを後方にいるマキアスとアリサ目がけて放った!

「キャッ!?」

「グッ!?」

襲い掛かる衝撃波を回避し切れなかった二人はそれぞれダメージを受け

「せ~の――――パワフルスイング!!」

「こんなのはいかがですか?――――絶!!」

敵が二人を攻撃している間にレンとシャロンは左右から襲い掛かって同時に攻撃を叩き込んだ。

「!?」

「崩したわ!」

「そこだっ!」

「崩しましたわ!」

「もらった!」

レンとシャロンの同時攻撃によって敵が再び態勢を崩すと二人とリンクを結んでいるマキアスとアリサがそれぞれ遠距離から追撃をした。

「切り裂いてあげる♪――――羅刹刃!!」

「見切れますか?―――――ブラッディクロス!!」

二人が追撃を終えると敵に休む暇を与えないかのようにレンは大鎌による連続斬撃で、シャロンは縦横無尽にかけながら鋼糸とダガーによる攻撃を敵に叩き込んだ。



「―――――」

アリサ達の攻撃によってダメージが積み重ねって来た敵は回復する為に再びクラフトを発動しようとしたが

「させないわよ―――――冥界の叫びよ――――マインドクラッシュ!!」

「!?」

クラフトを発動する瞬間レンが指を鳴らすと敵の足元から瘴気の爆発が起こり、それをまともに受けた敵はクラフトを中断させられると共に怯んだ。

「レン皇女殿下、お下がりください!」

「!!」

「―――お嬢様達に仇名す方達は今すぐお帰りを。リュストル・レア!!」

シャロンの警告を聞いたレンがその場から離れると同時にシャロンは魔術を発動し、魔術によって敵の頭上に突如現れた巨大なシャンデリアが落下して来た!

「!!??…………」

頭上から落下してきたシャンデリアを回避する暇もなくまともに受けてしまった敵は”ブレイク”状態に陥って無防備な状態をさらけ出し

「そこまでだっ!強制監察を開始する――――」

敵の状態を見て好機と判断したマキアスはショットガンによる連続射撃を叩き込んだ後敵に詰め寄って二丁拳銃による射撃で銃弾を跳弾させた後敵から距離を取り

「もう一丁!!」

「とっておきを見せてあげるわ……!気高き光よ、我が元に集え………!」

敵から距離を取ったマキアスが再び二丁拳銃による連続射撃を敵に叩き込むと同時にアリサは導力弓を変形させると共に魔法陣を展開して炎のエネルギーを集束させた。

「これで止めだ――――ジャスティス――――バレット!!」

「喰らいなさい――――ジブリール――――アロー!!」

そしてマキアスがショットガンから連鎖する爆発を起こす特殊な銃弾を放つと共にアリサが集束した炎のエネルギーを導力弓から解き放つと、それらを受けた敵を中心に連鎖する爆発とドーム型に広がる炎の大爆発が起こった!

「――――――!!??」

「己の罪を、悔いなさい――――」

二人のSクラフトによってダメージに限界が来た敵が断末魔を上げながら消滅するのを確認したアリサは敵に背を向けて静かな表情で呟いた。



「秘技――――裏疾風!斬!!」

「喰い破れ――――竜牙衝!!」

魔煌兵との戦争を開始したアリオスは先制攻撃代わりに鎌鼬を纏った斬撃と斬撃波の連続攻撃で、サフィナは竜の牙のように鋭い斬撃を突進と共に放つクラフト――――竜牙衝で攻撃した

「!?」

「崩したぞ!」

「行くわよ!――――集え、自然の魔力(マナ)!リーフ=グラオス!!」

「崩しました!」

「追撃、開始します!――――踊れ、炎蛇よ!――――炎蛇咆哮!!」

二人の攻撃によって敵が態勢を崩すと二人とそれぞれリンクを結んでいるエルファティシアが自然の魔力を集束した魔力球体を、セシリアは魔力によって形成した炎の蛇を解き放って追撃した。

「行くぞ――――セイヤァッ!!」

「逃がしません―――斬!!」

エルファティシアとセシリアの魔術が終わるとアリオスは剣技―――大雪斬で敵の頭上から太刀で襲い掛かり、サフィナはクラフト――――薙ぎ払いで敵の足元を双鎌による力任せの薙ぎ払い攻撃を敵に叩き込んで敵に更なるダメージを与えた。

「――――――」

「「甘い!」」

再び接近戦を仕掛けてきたアリオスとサフィナに対して敵は巨大な剣で薙ぎ払って反撃したが、二人はそれぞれの武装で攻撃を受け流した。

「貫け、烈輝の陣――――レイ=ルーン!!」

「稲妻よ、走れ――――旋風爆雷閃!!」

そこに後方で魔術の詠唱を終えたエルファティシアは両手に集束した純粋属性のエネルギーを、セシリアは軌道上に爆発を起こす高威力の稲妻を発射して追撃をした。



「―――――――!!」

次々と重なるダメージを受け続けた敵は自身の不利を覆す為にクラフト――――ダークロアで回復すると共に自身を強化し

「―――――」

「「!!」」

近くにいたアリオスとサフィナ目がけて再び剣で薙ぎ払ったが二人はそれぞれ後方に跳躍する事で敵の攻撃を回避した。

「今の咆哮は強化と回復を兼ねた(クラフト)か…………―――ならば。風よ、我等に力を――――風皇陣”黒皇”!行くぞ――――斬!!」

敵の様子を見て敵が使ったクラフトを解析したアリオスは味方の必殺率を高めると共にスピードを上昇させるブレイブオーダーを発動した後クラフト――――洸波斬で攻撃した。

「!?」

「崩したぞ!」

「行くわよ!――――炸裂せよ、鋼輝陣!イオ=ルーン!!」

アリオスが放った神速の斬撃波は敵にクリティカルヒットをした為敵の態勢を再び崩させ、アリオスとリンクを結んでいるエルファティシアが間髪入れずに敵を中心に純粋属性の魔力を炸裂させる魔術を発動して追撃した。

「大地を走れ――――玄武の地走り!!」

「!?」

そこにサフィナが地を這う斬撃―――玄武の地走りによる遠距離攻撃を敵に命中させると共に再びクリティカルヒットをして敵の態勢を再び崩し

「崩しました!」

「追撃、開始します!――――双子の竜巻よ、今こそ共に吹き荒れよ――――双竜の大竜巻!!」

サフィナとリンクを結んでいるセシリアが敵の左右から発生した二つの大竜巻を操って同時に敵にぶつけて追撃をした。



「――――――」

アリオス達の猛攻によって敵は”ブレイク”状態になって無防備な姿を見せ

「―――受けて見よ、滅びの太刀を!ハアアアアアアアア――――――ッ!!」

敵の状態を見て好機と判断したアリオスは全身に膨大な闘気を纏って跳躍した!

「吼えよ!――――剛破虎爪斬!!」

「ルリエンよ、邪悪なる者に裁きの鉄槌を――――神槍!!」

「罪を贖わせる聖炎よ、今こそ顕現せよ――――贖罪の聖炎!!」

アリオスが跳躍した後サフィナ達はそれぞれ高威力のクラフトや魔術を敵に叩き込み

「絶!黒皇剣!!」

そしてアリオスが膨大な闘気を全身に纏いながら地上に突撃すると風のエネルギーによる大爆発が起こった!

「―――――――!!??」

アリオスが放った八葉一刀流”二の型”の絶技――――終ノ太刀・黒皇をその身に受けた敵は断末魔を上げながら消滅した!



「響け――――絶唱陣”神楽”!!」

セレーネ達と共に戦闘を開始したリィンは魔術やアーツをメインとするメンバーが多い事から、駆動や詠唱時間をゼロにするブレイブオーダー―――絶唱陣”神楽”を発動した。

「サンダーストライク!!」

「氷垢螺の氷雨!!」

「えいっ!フレアバタフライ!!」

するとセレーネ達はそれぞれ無詠唱や駆動ゼロで魔術やアーツを次々と連続で放ち

「!?」

正面からは雷光のエネルギーを、頭上からは氷柱の雨を、そして足元からは炎のエネルギーを受けるという逃げ場のない怒涛の魔法攻撃を受けた敵は思わず怯み

「燃え盛れ――――滅!!」

「!?」

「崩したっ!」

「隙は見逃しません!」

その隙に敵に詰め寄ったリィンはクラフト――――龍炎撃で追撃して敵の態勢を崩し、リィンとリンクを結んでいるエリゼが連接剣の刃を伸ばして追撃をした。



「――――――」

「四の型――――紅葉切り!!」

ダメージから立ち直った敵は足元にいるリィン目がけて剣で薙ぎ払ったがリィンは抜刀と共に敵の背後へと駆け抜く剣技で回避すると共にダメージを与えて敵から距離を取った。

「えいっ!エクスクルセイド!!」

「アルカナの崩壊!!」

「メルカーナの轟炎!!」

「!?」

リィンが敵から距離を取ったその瞬間、セレーネ達は再び詠唱、駆動ゼロの怒涛の連続魔法攻撃を敵に叩き込み、セレーネのアーツは敵の足元に発生した光の十字架は光の衝撃波で、エリゼの魔術は敵の周囲に凝縮させた魔力が炸裂し、アルフィンの魔術は高熱の炎が敵を包み込んで激しく燃え上がって敵に大ダメージを与えた。

「――――――――!!」

リィン達の怒涛の連続攻撃によってダメージが重なって来た敵は回復する為にクラフト――――ダークロアで回復すると共に自身を強化したが

「エクスプロード!!」

「ホーリーバースト!!」

「!?」

アルフィンのドーム型に広がる魔導杖に搭載されている炎の爆裂魔法による特殊魔法(クラフト)とセレーネの光の魔力を集束させて爆裂させる魔術という2種類の高火力の爆裂系の魔法によって回復が無意味になった。

「これで止めだ!―――エリゼ、一緒に行くぞ!」

「はい、兄様!」

そして敵に止めを刺す為にリィンはエリゼと視線を交わして互いの手を強く握りしめ、凄まじい闘気を全身に纏った二人は同時に突撃した。突撃して行く闘気を纏っているリィンは”鳳”の姿を形どり、エリスは”凰”の姿を形どった。



「「比翼―――鳳凰撃!!」」



そして敵に突撃する瞬間一つとなった事で”鳳凰”の姿を形どったリィンとエリゼが敵に攻撃を叩きこんで敵の背後で武器を構え直すと闘気の大爆発が起こった!



「――――――!!??」

リィンとエリゼの協力技(コンビクラフト)――――比翼鳳凰撃によって止めを刺された敵は悲鳴を上げながら消滅した――――――!






 

 

第59話

~ジオフロントB区画・”SⅡ”~



「はあはあ……やったか!」

「ハア、ハア……魔煌兵を相手にしてもリィン達もそうだけど、アリオスさんやエルファティシア皇妃陛下もまだまだ余裕だなんて、自分達の力不足を思い知らされるわね……」

「ふふっ、比較する相手が少々間違っているだけで、お嬢様達も1年半前とは比べものにならないくらい成長なさっていますわ。」

「ま、”本物の戦場”を何度も経験して、更にメンフィルの”要請(オーダー)”によってアンタ達以上に”実戦”を経験しているリィン達は当然として、八葉一刀流の皆伝者(マスター)にヴィータどころかアタシ達の”長”ですらも足元にも及ばないエルフ族の使い手なんだから、比較する事自体が間違っているわね。」

戦闘終了後マキアスと共に息を切らせて呟いたアリサの言葉を聞いたシャロンは苦笑しながら、セリーヌは呆れた表情で指摘し

「………今のが”魔煌兵”とやらか。クロイス家が使役していた魔導兵達とは桁違いの戦闘能力だな。」

「そうね。ま、倒しても無限に湧いて来たクロスベル奪還での魔導兵達と比べたら、楽な相手よ。」

「フム……旧Ⅶ組やクロスベル側の”助っ人”達はともかく、アルフィン夫人が僅か1年半であれ程の術者に成長している事には驚きましたね。」

「ええ………旧Ⅶ組と違って”実戦”はカレル離宮での救出作戦くらいしか経験していないはずのアルフィン夫人があれ程の術者へと成長した事には驚きました。まあ、アルフィン夫人が1年半前と比べると魔力は当然として、体力も相当つけている”理由”は何となく想像はできますが………」

静かな表情で呟いたアリオスの分析に頷いたエルファティシアはかつての出来事を思い返し、サフィナは息を切らせていない様子のアルフィンを見つめて僅かに驚きの表情を浮かべて呟き、サフィナの意見に頷いたセシリアはアルフィンが1年半前と比べものにならないくらい体力や魔力が上昇している”理由”は察していた為苦笑していた。

「フウ……何とか問題なく撃破できましたわね。」

「ああ。エリゼ、アルフィン。二人とも大丈夫か?」

「はい、私達も問題ありません。」

「ふふっ、ご心配して頂き、ありがとうございます。」

セレーネと共に安堵の溜息を吐いたリィンはエリゼとアルフィンに無事を確認し、リィンの言葉に二人はそれぞれ頷いた。

「うふふ、それにしてもアルフィン夫人が1年半前とは比べものにならないくらい戦闘能力が総合的に大幅に成長している事には驚いたけど…………その大幅に成長した秘訣は性魔術で強化したエリゼお姉さん達のように、”夫婦の役目”でもある”子作り”が関係しているのでしょう?」

「ブッ!?レ、レン教官!お願いしますから、そういう事はもう少し遠回しな言い方で言って頂けませんか……?」

「ふふっ、ですがレン皇女殿下の仰っている事も強ち間違ってはいませんわよね、あ・な・た♪」

自分達に近づいてからかいの表情を浮かべたレンの問いかけに噴きだしたリィンが慌てた様子でレンに指摘している中、アルフィンは微笑んだ後リィンの片腕に自身の両腕を組ませると共に豊満な胸を押し付けてウインクをし

「………アルフィン?貴女と兄様は夫婦だからそういう事を人前でするなとは言わないけど、せめて時と場合を考えるべきだと思うのだけど?」

「ア、アハハ………」

その様子をエリゼがジト目でアルフィンに指摘している中セレーネは苦笑していた。



「――――見つけました!」

するとその時クロスベル全土の霊脈をティオと共に調べていたエマが目的を達成した事を口にするとリィン達はエマとティオに視線を向けた。

「エマさん、そのまま集中を――――データ変換します!」

そして目的を終えた二人は霊脈の探索(サーチ)を止めた。

「はあはあ………」

「エマ、ティオ主任……!?」

「二人とも、大丈夫か……!?」

息を切らせているエマの様子にアリサは驚き、マキアスは心配そうな表情で二人に声をかけた。

「ええ……確実に”捉え”ました。」

「こちらも、霊力感知のデータ変換が完了しました。皆さん、本当にお疲れ様です。」

「そうか……!」

「これで何とか敵の拠点の目星がつきそうですわね。」

「エマ、お疲れ様……!」

「ふふっ、ティオさんのサポートと皆さんの力があったからです。でもエイオンシステム――――本当に凄い技術ですね。」

「魔術と技術の合わせ技なんて恐れ入ったわよ、まったく。」

「ふふ、お役に立てたならよかったです。これから座標解析に入るのであとはこちらに任せてください。地図情報と共に送りますので一度インフィニティに戻るといいかと。」

「わかった、よろしく頼む。協力、本当にありがとう。」

「ふふ、こちらのセリフです。――――それではまたあとで。」

こうして目的を果たしたリィン達はインフィニティの本社ビルへと戻り始めるとある人物達がリィン達に声をかけた。



~クロスベル・西通り~



「あ、ねーちゃんの先生だ!」

「君達は……ケンとナナだったか。」

「そう言えば日曜学校に通っているのでしたわね?」

「うん!たのしかったー!」

「ちぇっ、あんなのメンドクサイだけじゃん。」

リィン達に近づいた人物達――――ナナとケンはそれぞれ日曜学校の事についての感想を口にしたがある事に気づいてリィン達に訊ねた。

「あれ、ねーちゃんは?クルトにアル、ゲルドもいないし、メガネのオジサン、だれ?」

「ガクッ、おじさんって………」

「クスクス、ご愁傷様、マキアス”おじさん”♪」

「レ、レン教官………そこで追い打ちをするのはさすがにマキアスさんが可哀想ですわよ……」

子供に”おじさん”呼ばわりされて疲れた表情で肩を落としているマキアスにからかいの表情で追い打ちをしたレンにセレーネは表情を引き攣らせて指摘した。

「うわああっ………みんな、美人さんなの~!おねえちゃんたち、おなまえ何ていうのー?」

一方女性陣――――アリサ達を見回したナナは目を輝かせてアリサ達の名前を訊ねた。



「あはは………可愛いわねぇ。アリサよ、こっちのお姉ちゃんはエマ。」

「アリサお嬢様にお仕えしているメイドのシャロンと申しますわ♪」

「ふふっ、リィンさん達のお知り合いの子たちですか?」

「ああ………ユウナの双子の弟妹(きょうだい)さ。」

「まあ………ユウナさんの。」

「道理で髪の色とかもそっくりな訳ですわね………――――あっと、自己紹介が遅れましたわね。わたくしはアルフィン。こちらの黒髪の女性はエリゼ。よろしくお願いしますわね。」

ケンとナナをアリサ達と共に微笑ましく見守っていたアルフィンはアリサのように自分とエリゼの事を説明し

「―――サフィナと申します。以後、お見知りおきを。」

「エルファティシアよ、よろしくね♪―――と言っても、ひょっとしたらその内日曜学校で私の名前も知ることになるかもしれないわね。」

「私の名はセシリア。貴方達の姉君の教師であるリィンの元教師です。よろしくお願いしますね。」

「ねーちゃんの先生の先生って、なんかヤヤコシイな………」

「三人とも綺麗でカッコイイの~。――――あれ?スミレ色のおねえちゃんって、もしかしてコリン君の話に時々出て来た、”レンおねえちゃん”?」

サフィナは軽く会釈をして自己紹介をし、エルファティシアは自己紹介をした後苦笑し、セシリアが自己紹介をするとケンは首を傾げ、ナナは無邪気な様子で二人を見つめていたがレンに気づくと興味ありげな様子でレンに訊ねた。



「あら、貴方達、コリンの友達でもあるの…………まあ、見た感じ年もあの子に近いし、あの子の実家も近いから仲良くなっていてもおかしくないわね。――――ええ、レンがその”レンおねえちゃん”よ。いつも、”レンにとっては弟のようなコリン”と仲良くしてくれてありがとうね♪」

ナナの口から出て来た意外な人物に目を丸くしたレンは微笑みながら答え

(えっと……”コリン”って、レン皇女殿下とは一体どういう関係なんだ……?)

(えっと、それは…………)

(―――――コリン・ヘイワーズ。レン皇女の”本当の両親から産まれたレン皇女と血が繋がっているレン皇女の弟”の事だ。)

(ええっ!?)

(そう言えば”殲滅天使”は”D∴G教団”の件で家族と離れ離れになって、教団の拠点(ロッジ)を襲撃した”英雄王”達に拾われたらしいけど………あの様子だと、本当の家族ともそこそこ上手くやっているようだけど、何で本当の家族は”殲滅天使”を元の関係――――レン皇女を”家族”に戻す事をしなかったのかしら?)

(……色々と複雑な事情があるんだ。)

その様子を見て不思議に思ったマキアスの疑問にセレーネが答えを濁しているとアリオスが代わりに答え、アリオスの答えを聞いたエマが驚いている中困惑の様子で呟いたセリーヌの疑問にリィンは静かな表情で答えた。



「へ~、コリンがいつもジマンしているだけあってスミレ色でキレイなねーちゃんだなー………って、えええええええっ!?おじさん、もしかして………ゆーげきしのアリオスさん!?」

「ふえ……?わあぁぁ……っ!シズクおねえちゃんのお父さんなの~!ロイドおにいちゃん達が集めている”ショメイ”で、ついにシズクおねえちゃんの所に戻って来れるようになったの~?」

アリオスに気づいたケンとナナはそれぞれ驚いた様子でアリオスを見つめ

「フッ、国防軍長官に就任する前にミシェルに辞表を渡した上遊撃士協会本部も俺を除名したから今の俺は遊撃士ではないのだがな…………―――今は事情があって、彼らに協力する為に彼らと共にしているだけだ。それよりもシズクと仲が良いようだが……日曜学校でシズクと知り合ったのか?」

アリオスは苦笑しながら答えた後二人にシズクとの関係について訊ねた。

「ううん、シズクおねえちゃんはナナ達のおウチのゴキンジョさんなの~。」

「近所………という事はガイやセシルの実家の”ベルハイム”の住民か………――――クロスベル全土を巻き込んだ”大罪”を犯した俺の娘であるシズクと仲良くしてくれている事……心より感謝する。」

「アリオスさんは何もワルイ事をしてねぇよ!ワルイ事をしたのはダイトーリョウだよ!それよりもアリオスさんがクロスベルにいる事をねーちゃんが知ったら喜ぶだろうな~――――って、あ、そうだ。また聞くのわすれるトコだった。」

「なの、なの!ちゃんと聞かないと!」

ナナの答えを聞いて二人が”ベルハイム”の住民である事に気づいたアリオスは二人に感謝の言葉を述べ、アリオスの答えに対して反論したケンはある事を思い出し、ケンに続くようにナナもリィンを見つめた。



「あのさ、にーちゃんnたち、”灰いろの騎士”って知ってる?アリオスさんと同じ”ハチヨウイットウリュウ”の剣士で、”トクムシエンカ”にもいてたんだぜ!」

「……えっと。」

「コホン……ああ、よく知ってるが。」

「ふふっ、それがどうしたの?」

ケンの問いかけに仲間達と共に一瞬黙り込んだリィンは困った表情をし、マキアスは咳ばらいをし、アリサは優し気な口調で訊ねた。

「えとね、えとね!おれいが言いたいのー!ナナたちのイノチのオンジンだからー。」

「え………」

「命の……恩人ですか?」

「うん、1年半前……だっけ?ろくじゅうしとトクムシエンカが協力して、ダイトーリョウ達からクロスベルをダッカンしているとき、オレたちを助けてくれたんだぜ!」

「町を歩いていたおっきな人形達が、ナナ達を襲おうとした時にぴゅーんときて、あっという間に人形達を倒してナナ達を助けてくれたのー♪ユウナおねえちゃんもいっしょだったんだよー!」

ケンとナナがかつての出来事をリィン達に説明している中、演習地ではⅧ組、Ⅸ組がそれぞれ演習をしている中、アルティナ達―――Ⅶ組はユウナの看病をしていた。



~デアフリンガー号~



「……ユウナさん、せめて朝食くらいは。サンディさん自慢のミルク粥だそうです。」

「何か食べないと、倒れたり病気になってケン達を心配させてしまうかもしれないわよ……?」

「…………………」

ミルク粥を乗せたお盆を持っているアルティナと共にゲルドは心配そうな様子でユウナに声をかけたが、ユウナはアルティナ達に背を向けて寝転がったまま何も答えなかった。

「ルイゼやゼシカも心配してたよ。いや、彼女達だけじゃない。第Ⅱの生徒全員が心配している。――――もちろん僕達も。」

「……どうして………3人ともどうして教官達についていかなかったのよ……行きたかったんでしょ?」

クルトが二人に続くようにユウナに声をかけるとユウナはクルト達に背を向けたまま訊ねた。

「……そりゃあ、また置いてけぼりだからね。ただ、君を置いて行くのは”違う”と思ったんだ。」

「…………………」

「僕は……もう知ってるだろうが本当は”本校”に行くはずだった。長きに渡り、皇族を護り続けたヴァンダール家の一員として。セドリック殿下の護衛を兼ねて共に入学することを疑わなかった。……だが去年の秋、政府の決定でヴァンダール家の役目は解かれた。『皇族の護衛という栄誉を一貴族に独占させるべきではない』そして兄は辺境に飛ばされ、父や叔父たちも軍務に封じられ……僕自身も殿下の護衛を禁じられた。………ただの自暴(やけ)だったんだ。本校ではなく分校を選んだのは。」

「…………………」

「……クルトさん………」

「クルト……」

クルトの分校に入学した理由を知ったユウナが黙り込んでいる中アルティナとゲルドは静かな表情で見守っていた。



「―――正直、クロスベルについては伝聞程度しか知らなかった。”六銃士”達による”クロスベル帝国”の建国の経緯はエレボニア人としては複雑だけど、大国へと成りあがり、更には2度もエレボニアを降したメンフィル帝国と盟を結んだのだからこれからは、エレボニアとクロスベルもお互いに対等の関係になるのだと思っていた。でも――――人の誇りや国同士の関係と言うものはそんな単純なものじゃないんだよな。君たちが味わっている無力さと比べたら僕の悩みなんて、なんてちっぽけなんだろう。――――そんな風に思ったらとても君を放っておけなかった。」

「…………………」

「……わたしは、ユウナさんが何故そこまで落ち込むのかわかりません。――――故郷などはありませんし、生物学的な親からも産まれていません。そもそも必要なく感情が動くように”造られて”はいないと思うので……」

「なっ……!?」

「………ぇ……………」

「………編入時に口にしたアルティナの話を聞いて”貴女が何者なのか”は薄々気づいてはいたけど………」

クルトが話し終えると次にアルティナが自身の事について話し始め、アルティナの話を聞いたクルトとユウナが驚いている中、ゲルドは辛そうな表情でアルティナを見つめていた。

「でも昨夜―――ユウナさんが叫んでいるのを見て……なんだか胸がモヤモヤしました。それで教官達に『放っておいていいのか?』と言われて……わたしがここに残っている理由はそのくらいです。」

「…………………」

「……アル………」

「………ここにいるみんなも知っているでしょうけど、私は”予知能力”――――”未来を視る”事ができるわ。だから、昨夜ユウナが”辛い現実を知って、今の状況になる未来”もユウナが執行者達に問い詰める少し前に”視えた”の。……私の”予知能力”はあくまで”可能性”であって、”回避する事もできる”のに、結局ユウナを止められず、ユウナに辛い思いをさせてしまった………だから私はその償いをする為にも……そしてこの世界に来てようやくできた”友達”に立ち上がって欲しいという思いもあるから、ここにいるわ。」

アルティナが話し終えるとゲルドは辛そうな表情で事情を説明した後決意の表情でユウナを見つめ

「そうか……だから君はあの時ユウナを止めようと……」

「未来が見えすぎる事は決して良い事ばかりではないのですね………」

「………ゲルド………あたしこそ……そんな大層な理由じゃないよ……本当はわかってるんだ………どうしようもない現実があっても……歯を食いしばって頑張るしかないんだって……あたしのは……ただの”我儘”だよ………」

ゲルドの事情を知ったクルトとアルティナが辛そうな表情でゲルドを見つめている中仲間達が自分の為に残っているそれぞれの事情を知ったユウナは自分の本音を口にし始めた――――――


 

 

第60話

一方その頃、インフィニティの本社ビルに戻ったリィン達はティオから報告を受けていた。



~インフィニティ~



「座標125、73/89.15――――解析されたパターンからはそう出ました。」

「ありがとう、ティオさん。………ここね。」

アリサが端末を操作するとクロスベルの地図が出て、ある場所にマークされていた。

「クロスベルの南西………演習地の更に先になるのか。」

「ん……これって?」

「ええ……間違いなさそうね。」

「エマ君、心当たりが?」

「ええ、このクロスベルには幾つもの霊跡が点在しているんです。北西の寺院や、北東の古戦場、湖の南側にある湿地帯……他にもあって、いずれ回ろうとしていた候補地の一つだったんですが……」

「そんなにもあるのですか………」

「クロスベルの”過去の因縁”はある程度知ってはいましたが……」

「それが1年半前に出現した”碧の大樹”へと繋がったって事ね。」

エマの話を聞いたセシリアが目を丸くしている中真剣な表情で考え込みながら呟いたサフィナの言葉に続くようにレンは静かな表情で答えた。



「ええ―――この座標の場所は”星見の塔”。”偽りの奇蹟”をもたらす儀式に使われた場所の一つでした。先程取ったログによると急激に霊力が上昇しているようです。」

「―――ありがとうございます。そこまでわかれば十分ですわ。」

「いよいよ大詰めだ――――せめて万全の準備を整えよう。」

「ええ、待ち受ける相手は恐るべき実力の執行者2名――――」

「新Ⅶ組の諸君に、第Ⅱのみんなも力になってくれるとは思うが……」

「まずは私達”旧Ⅶ組”と”特務部隊”で突破口を開く必要がありそうね。」

「………………」

リィン達の様子をティオが静かな表情で見守っていたその時突如リュートの音が聞こえてきた。



「―――ならばその先駆け、ボクも付き合わせてもらおうか!」

「え。」

「は?」

リュートの後に聞こえてきた聞き覚えのある声にリィン達と共に驚いたティオとセリーヌはそれぞれ呆けた声を出し、出入り口に視線を向けると白いコートを身に纏ったオリヴァルト皇子がビルに入って来た!

「ま、まま、まさか……」

「ひょっとして―――――」

「うふふ、随分と懐かしい恰好ね♪」

「ふふっ、レンにとっては2年ぶりで、私にとっては4年ぶりに見るお姿ですね。」

「そう言えばサフィナ閣下は”リベールの異変”でエステル卿達や演奏家に変装していたオリヴァルト皇子殿下と共にリベル=アークを攻略したのでしたわね。」

変装したオリヴァルト皇子を見たマキアスは混乱し、アリサが目を丸くしている中からかいの表情を浮かべたレンの言葉に続くように苦笑しながら呟いたサフィナの話を聞いたセシリアはある事を思い出していた。

「オリヴァルトお兄様!?」

驚きの声を上げたアルフィンに対して髪をかき上げて返事をした”演奏家”に変装したオリヴァルト皇子――――オリビエ・レンハイムはリィン達に近づいた後端末に映るティオに話しかけた。



「フッ、ティオ君とは久しぶりにかな?ボクの事は”漂白の詩人”、オリビエとでも呼んでくれたまえ。エレボニアの放蕩皇子とはあくまで別人なのだからね♪」

「いや、無理があるでしょ………」

「変装するなら、せめてギュランドロスみたいに顔を隠すような努力くらいはするべきだと思うのだけど~?」

「アハハ………ギュランドロス陛下も正直バレバレな変装ですが………」

「……まあ、変装する事もせずいつもの姿で城や大使館を抜け出しているリフィアよりはまだマシかとは思いますが………」

「エ、エリゼ………」

オリビエの自己紹介にセリーヌが呆れている中からかいの表情で指摘したエルファティシアの感想にセレーネは苦笑しながら答え、ジト目になってある人物の事を口にしたエリゼの様子を見たリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。

「………4年前のリベール旅行で名乗られた肩書きのようですが………」

「その、交流会関連の行事はどうされるおつもりですか……?」

「フッ、あくまでそちらはリーゼロッテが本命だからね。放蕩皇子はテーマパークを借り切って”みっしぃ”と戯れている事にするさ。」

「うふふ、という事はサフィナ元帥閣下とセシリア将軍閣下もテーマパークで”みっしぃ”と戯れている事にされているのでしょうか♪」

「あの……我々はちゃんとリィン達に助太刀する事をエフラム殿下達にもお伝えしていますし、クロスベル帝国政府にも伝えていますよ?」

エマの質問に対してウインクをして答えたいい加減過ぎるオリビエの答えにリィン達が冷や汗をかいている中からかいの表情を浮かべたシャロンに話を振られたサフィナは疲れた表情で反論した。



「フッ、不幸中の幸いと言うべきか………今回はお目付け(ミュラー)もいないからね。」

「殿下………」

「で、ですが、皇族の方が……!」

「いや――――今回ばかりは”皇族だから”こそさ。」

オリビエが自分達に同行する事に反対するマキアスの言葉に対して意外な答えを口にしたオリビエの答えにその場にいる全員は驚いた。

「クロスベルのこの状況――――是非を述べられる立場に僕はない。…………だからこそ今回だけは自分の身体を張る必要があるんだ。クロスベルを愛する人々の想いに正面から向き合うためにも。そうリーゼロッテに告げたら溜息まじりだが賛成してくれてね。リーゼアリア君からもリィン君たちに気をつけるよう伝言も預かって来た。」

「そう、ですか……」

「………そこまで言われたら、納得するしかありませんね。」

「フウ………その時のリーゼロッテの気持ちが手に取るようにわかりますわ。」

「………殿下の加勢、クロスベル市民の一人として心より感謝を申し上げます。4年前の”リベールの異変”にて結社の”執行者”達を退けた殿下の加勢は心強く思っております。」

オリビエの決意を知ったリィンとマキアスは静かな表情で呟き、アルフィンは溜息を吐き、アリオスはオリビエに会釈をした。

「いやいや、あのカシウスさんの弟弟子でしかも、カシウスさんと実力も同じくらいだと言われているアリオスさんと比べれば、僕の加勢なんて微々たるものさ。」

「うふふ、まあエステル達もオリビエお兄さんの事を”銃とアーツ”だけがオリビエの唯一の取り柄”って言っていた通り、後方からの援護に関してはちょっとは役に立つと思うわよ♪」

謙遜した様子で答えたオリビエに続くように小悪魔な笑みを浮かべたレンの指摘にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「――――ありがとうございます。オリヴァルト殿下にⅦ組、そして特務部隊の方々も。動けないランディさんやエリィさん、ロイドさんたちの代わりに………どうか迫りくる”災厄”からクロスベルの地を守ってください!」

「おお……っ!」

そしてティオに想いを託されたリィン達がそれぞれ力強く頷いていた頃ユウナはかつての出来事をクルト達に話していた。



~デアフリンガー号~



「……1年半前、”六銃士”や”特務支援課”、そしてロイドさんたちやヴァイスハイト陛下達の協力者達によるクロスベル奪還が始まった後当然、ディーター大統領達は黙っていなかった。………”神機”とクロスベルの霊脈を利用して無限に復活するクロイス家が生み出した”魔導兵”………それをもってクロスベルを奪還しようとする自分達に対する反乱分子を撃退しようとしたの。クロスベルの各街道方面に展開している防衛部隊を突破した”六銃士派”の警備隊や警官達もクロスベル市内で反撃の隙を伺っていたセルゲイ課長達――――クロスベル警察や遊撃士達と合流して、クロスベルの奪還をしようとしたんだけど………さすがに市街に展開している魔導兵達の対処には手が回らなかったみたい。………魔導兵達の登場で市民達に混乱や動揺していく……全てが終わるまで、ほとんどの市民は自分の家に閉じこもっていた。ウチも、家族全員家に閉じこもっていたわ………アルは覚えていないようだけど………あたし達が初めて会った場所は第Ⅱ分校じゃなくて、”六銃士や特務支援課によるクロスベル奪還のあの日”よ。」

「………え……………」

ユウナの話を聞いたアルティナは呆けた声を出してユウナを見つめた。

「………ケンとナナがあたし達の目が離れている隙に、外に出て行ったわ。……後から事情を聞いたらイアン先生や遊撃士の人達に魔導兵達がうろつくクロスベルの状況を何とかして欲しい事を頼む為に外に出たそうだったけど…………二人が外に出た事に気づいたあたしは慌てて、二人の後を追って外に出た。そして外に出てあたしが二人に追いついて見た光景は――――魔導兵達の攻撃によって重傷を負って倒れている二人だった。悔しかった……何であたしはこんなにも無力なんだろうって。入ったばかりの警察学校の訓練は何の役にも立たなくて……せめてこの子達の盾にってケンとナナの上に覆いかぶさった……その時だった――――銃声が聞こえた後疾風のような速さで銃撃で怯んだ魔導兵達を撃破した黒髪の青年の剣士だった。仲間の軽そうな雰囲気を纏わせている槍の騎士や深窓のお嬢様のような雰囲気を纏っている黒髪の銃使いの女性騎士、そして漆黒の傀儡を操る不思議な女の子と一緒にあたし達の周りにいた魔導兵達を撃破して………黒髪のメイドと蒼銀の髪の女性は重傷を負ったケンとナナに治癒魔術で治療して、二人が負った重傷をあっという間に傷痕一つなく治してくれて………あたし達の命を掬いあげてくれた。」



もう大丈夫だ。立てるか――――?



かつての出来事を思い返していたユウナは手を差し伸べてくる1年半前のリィンやその様子を見守っているリィンの周りにいる仲間達――――当時のセレーネ、エリゼ、アルティナ、ステラ、フォルデの姿を思い返していた。



「手を差し伸べて来たのは黒髪の青年の剣士で………それが………後の”灰色の騎士”って呼ばれる”あの人”のロイドさん達――――”特務支援課”と合流する直前の出来事だった………」

ユウナが当時の出来事を語り終えたその頃、リィン達はツァイトに見送られてインフィニティの外に出た。



~中央広場~



「それでは殿下―――じゃなくて、オリビエさん。」

「よろしくお願いいたします。」

「フッ、こちらこそヨロシク頼むよ。いや~、しかしこの格好はやっぱり解放感があっていいねぇ。時間があれば歓楽街の劇場あたりでゲリラライブでもしたかったんだが。」

「そ、それはできればまたの機会ということで………」

「わたくしとしてはできれば、永遠にその機会が訪れてほしくありませんわ。」

オリビエがふと呟いた言葉にリィン達と共に脱力したマキアスとアルフィンは疲れた表情で指摘した。

「でも歓楽街の劇場……”アルカンシェル”の事ですよね?」

「ああ、看板女優が怪我して一時的に公演は休止していたそうだが、”二大聖女”による治療で怪我をしていた看板女優が治療されてから、僅か半年で公演を再開したそうだよ。」

「”二大聖女”って言うとメンフィル皇族の”闇の聖女”と”癒しの聖女”の事よね?何でその”アルカンシェル”っていう劇場や女優と(ゆかり)もない聖女達が二人揃ってその看板女優の怪我を治療したのかしら?」

アリサの疑問に答えたオリビエの話が気になったセリーヌはリィン達に訊ねた。



「実はアルカンシェルの関係者がメンフィルの協力者でもあってね。メンフィルはその人の協力のお陰で様々な恩恵を受けたから、そのお礼代わりにその人の頼みに応じて怪我をした看板女優の治療をママとティアお姉様にさせたのよ。」

「……ちなみにその怪我をした看板女優はセシル様の親友でもあるから、多分セシル様からの頼みもあったからだと思う。」

「そ、そうだったのですか………」

「…………………」

レンとリィンの説明を聞いたエマは驚き、アリオスは話に出て来た人物が誰であるか知っていた為僅かに安堵の表情を浮かべていた。

「ふふっ、それにしても”アルカンシェル”というメンフィル帝国とは何の縁もない所に所属しているその協力者すらもメンフィルに内通していた事を考えると、RF(我が社)もメンフィル帝国に内通している社員の有無を調べるべきかもしれませんわね♪」

「シャロン、貴女ねぇ………洒落になっていないわよ。」

苦笑しながら呟いたシャロンの言葉にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサは呆れた表情で指摘した。

「”アルカンシェル”で思い出しましたが……やはりオリヴァルト殿―――いえ、オリビエさんも交流会の期間に他のVIP達と共に”アルカンシェル”を観賞する事になっているのですか?」

「ああ、予定では今夜観賞しに行く事になっている。だから、可能ならば今日の夕方くらいまでにはケリをつけておきたい所だね♪」

「フウ………そんな事を仰るくらいでしたら、最初からわたくし達に加勢しなければよいのに……」

エリゼの質問に対してウインクをして答えたオリビエの答えにリィン達と共に脱力したアルフィンは呆れた表情で溜息を吐き

「フフッ、ですがこのメンバーでしたらオリビエ殿が気になさっている時間までに”星見の塔”にいる”執行者”達を撃退できるでしょうね。」

「そうですね……”劫炎”が要注意ですが、それでも”魔神”と比べれば脅威度は大した事はありませんしね。」

「”魔神”を比較対象にするのは間違っているとは思うけど………ヴァイスハイトがレウィニアから呼び寄せた助っ人達も私達の後を追わせて加勢させるって言っていたから、その助っ人達が私達に合流したら私達の勝利は確実だと思っていいわよ。」

それぞれ苦笑しているセシリアとサフィナの指摘に対して答えたエルファティシアは意外な情報を口にした。



「レウィニアから呼び寄せた助っ人達という事はまさか………」

「フフ、確かにあの方達が加勢して下さったら、例え”劫炎”やあの”紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァ―ミリオン)”が相手であろうと、あっという間に撃破してくださるでしょうね。」

「ええっ!?」

「あ、あの”劫炎”どころか”紅き終焉の魔王(エンド・オブ・ヴァ―ミリオン)”まであっという間に倒せるって、一体どんな非常識な強さの人達なんだ……?」

「まさかとは思うけど、ベルフェゴールやアイドスみたいな”魔王”や”神”のような”超越者”達なのかしら?」

エルファティシアの話を聞いて心当たりがある人物を思い浮かべたオリビエは目を丸くし、微笑みながら答えたセレーネの推測をエマとマキアスは驚き、セリーヌは疲れた表情でリィン達に訊ねた。

「ああ、正確に言えばレウィニアから来た人達を率いている存在は”神”ではないけど、”神”と同等の存在でアイドスにとっては兄に当たる人物なんだ。」

(フフ、”義理”が付くけどね。)

「女神――――それも”オリンポス”の星女神の一柱であられるアイドスさんの兄という事は……」

「どう考えても、とんでもない存在である事には間違いないわね………でも、おかしいわね……?慈悲の女神(アイドス)は三姉妹神の末妹神だから、兄神はいないはずよ?」

リィンの説明を聞いていたアイドスが苦笑している中エマは表情を引き攣らせ、セリーヌは疲れた表情で溜息を吐いた後眉を顰めた。

(”レウィニア”という国からの助っ人でアイドスのお兄さんって事は、リィン達の話に出た人ってやっぱり昨日特注の導力バイクを渡したセリカさん達のことよね……?)

(間違いないかと。”嵐の剣神”の異名を持つセリカ様は”風の剣聖”の異名を持つアリオス様よりも遥か上の剣士との噂ですから、噂通りの実力なら”劫炎”すらも圧倒できるかもしれませんわ。)

一方リィン達の話に出た人物に心当たりがあるアリサはシャロンに小声で訊ね、訊ねられたシャロンは静かな表情で答えた。



「―――市内で準備を終えたら間道に出て演習地に寄りましょう。そこで状況を整理して……”星見の塔”を目指します。」

「了解だ。」

「それじゃあ行きましょう!」

その後市内で準備を終えたリィン達は南口に停めている導力バイクへと向かったその頃、オルキスタワーではタワーの客室でリーゼロッテ皇女と共に待機していたリーゼアリアは手洗いの為に席を外し、手洗いをすませた後自分達が待機する部屋に戻っている最中にある人物に声をかけられた。



~オルキスタワー・36F~



「――――リーゼアリア先輩、少々よろしいでしょうか?」

「え………ミル―――ミュゼ!?ど、どうして貴女がここに………第Ⅱ分校は確か今は演習地で厳戒態勢に入っているって聞いていたけど………」

ミュゼに背後から声をかけられて一瞬呆けたリーゼアリアは振り向いて困惑の表情を浮かべてミュゼを見つめた。

「フフッ、少々”裏技”を使って抜け出して来ましたわ。――――それよりも、リーゼアリア先輩。昨日14年ぶりのエリゼさんとの再会が芳しくない結果になってしまった事は、小耳に挟みましたわ。私、先輩達に大切にして頂きましたから、先輩がエリゼさんの件で気を落とされていないか、心配でして………」

「ぁ…………エリゼお姉様の件は全て私の自業自得だから、貴女が気にする必要はないわ。」

ミュゼの話を聞いたリーゼアリアは辛そうな表情で呆けた声を出したがすぐに気を取り直して静かな表情で答えた。

「先輩…………フフッ、やはり先輩に声をかけて正解でした。これでようやく女学院で御世話になった恩を少しでも返す事ができますわ。」

「え………」

「先輩、私の方から提案があるのですが――――――」

そしてミュゼはリーゼアリアに自分の提案を耳打ちをした。



「ミュゼ、貴女………本気で言っているの?私なんかがお兄様達の所に向かっても足手纏いだから、お兄様達に迷惑をかけてしまうし、それ以前にクロスベル帝国政府にまで迷惑をかけてしまう事になるわ………」

ミュゼの提案を聞いたリーゼアリアは信じられない表情を浮かべた後戸惑いの表情で指摘した。

「教官達の足手纏いは私達――――第Ⅱ分校の生徒達も同じですわ。それに先輩の武装は確かアリサさんと同じ導力弓で、アーツの適性も高かったはずですから後方による支援でしたら、教官達にも迷惑をかけないと思いますわよ?」

「例えお兄様達のお役に立てたとしても、ロッテにも心配をかけてしまう上、ひょっとしたら私がオルキスタワーから抜け出した事でロッテ達――――エレボニア帝国のVIPの方々に迷惑をかけてしまうかもしれないし……」

ミュゼの指摘に対してリーゼアリアは複雑そうな表情でミュゼの提案を断るような答えを口にしたが

「………先輩は本当にそれでよろしいのですか?先輩から勇気を出して行動をしなければ、エリゼさんが先輩を見直すような事はないと思いますわよ?ティータさんの話ですと、確かレン教官もエリゼさんとの仲を修復をする為には先輩自身から行動をしなければならない事を言っていたそうですわね?」

「ぁ…………」

ミュゼの更なる指摘を聞くと昨日の出来事を思い出した。



後はリィンお兄さんとエリゼお姉さんのピンチに駆けつけて助けたりしたら、エリゼお姉さんもリーゼアリアお姉さんの事を見直すでしょうね。



「………………………ミュゼ、お兄様達の所に向かう為に協力してもらってもいいかしら?」

「ふふっ、その言葉を待っていましたわ♪ではまず、タワーから抜け出す為に怪しまれないように非常階段を使って―――――」

決意の表情で自分を見つめるリーゼアリアに対して微笑みながら答えたミュゼは今後の方針を伝えた後リーゼアリアと共に行動を開始した。



~南口~



「フフ、最近RFで量産化されたという導力バイクだね。」

「ええ、春に発売されたばかりです。サイドカーユニットを外せば単体でも動かせますね。」

「ふーむ、エリオット君じゃないが演奏旅行にも向いてそうだねぇ。それに、隣に見目麗しい女性を乗せても絵になりそうじゃないか。フム、色々と片付いたら改めてシェラ君でも誘って……♪」

アリサの説明を聞いた後導力バイクを使っての自分の未来を思い浮かべたオリビエの様子にリィン達が冷や汗をかいて脱力したその時

「やれやれ………お前の加勢まではさすがに俺達も想定していなかったぞ。」

聞き覚えのある声が聞こえ、声を聞いたリィン達が振り向くとヴァイスがリセルと共に空港方面から歩いて、リィン達に近づいてきた。

「ヴァイスハイト陛下………」

「それにリセル皇妃陛下まで……」

「………恐れながら意見をさせて頂きますがクロスベルのトップである皇帝陛下と皇妃陛下が護衛も連れずに、歩き回るのは危険だと思われるのですが。」

二人の登場にリィンとセレーネが目を丸くしている中アリオスは静かな表情で二人に指摘した。



「固い事を言うな。護衛がいれば、息抜きができないだろうが。」

「フフ、そう言えばセンタクスの領主だった頃もよく一人でセンタクスを歩き回っていたわね~?」

「実はあの時はちゃんと陰で護衛する者達もつけていましたが………正直な所、ヴァイス様の立場を考えると一人で歩き回るのは止めて欲しいのですが……」

ヴァイスの答えを聞いてかつての出来事を思い出したエルファティシアはからかいの表情を浮かべ、リセルは呆れた表情で溜息を吐き

「いやいや、あのバカ王やリフィア皇女の型破り過ぎる行動と比べれば自国の領土を一人で歩き回るなんて、些細な事だろう?」

「ハア……リフィア殿下の事を出されると我々は反論できませんね………」

「……そうですね。ちょっとでも目を離せばリフィアは自国の領土どころか、外国の領土にも”ただの旅人”として入国して、様々な騒動を起こす事を比べれば、ヴァイスハイト陛下の行動は”些細な事”ですね。」

「ふふっ、ですがエリゼがリフィア殿下のお目付け役になってからはそう言った型破りな行動を起こす頻度が納まりつつあるとの事ですから、良い傾向だと思いますよ?」

ヴァイスの反論にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中サフィナは呆れた表情で溜息を吐き、エリゼがジト目で呟いている中セシリアは苦笑しながら答えた。



「―――それよりも、リィン。幾らリウイとシルヴァン皇帝の要請だからってそこの助っ人はマズイんじゃないか?そこの助っ人はエルファティシアやセシリア将軍達と違って、エレボニア帝国政府の許可は取っていないんだろう?」

「……でしょうね。ですが、あくまで自分も協力して頂きたいと思っています。」

「リィン……」

「フッ、僕よりも型破りなキミにそもそも言われたく無いんだが。放蕩皇子オリヴァルトはあくまでMWLを借り切って一日豪遊……キミ達も現地に行って二人きりのデートをしてきたらどうだい?」

「フフ、相変わらずですね。」

「………ま、いいだろう。くれぐれも気をつけてくれ。――――それとリィン、レン皇女。紫の神機の”翼”には気をつけておけ。前のタイプと同じなら無数の追尾レーザーを撃ってくる。灰の騎神とパテル=マテルが協力すれば、何とかできると思うが……用心しておけ。」

オリビエの指摘にリセルが苦笑している中溜息を吐いたヴァイスは表情を引き締めてリィンとレンの忠告をし

「……はい。」

「忠告、感謝するわ。」

忠告された二人はそれぞれ静かに頷いた。そしてヴァイスとリセルはリィン達に背を向けて去ろうとしたが

「――――二人とも、待ってくれ。」

オリビエが二人を呼び止め、呼び止められた二人はそれぞれ不思議そうな表情を浮かべて立ち止まってオリビエを見つめた。



「折角の機会だ、君達にも知っておいて欲しいし、できればリウイ陛下達にも伝えて欲しい。翼をもがれ、剣も喪ったが心の銃と薔薇は失くしていない。”彼ら”が道を外れ、国家の命運を誤らせようとするならば――――今度こそ”覚悟”を決めて、”彼らの生死を問わず”祖国(エレボニア)から”彼ら”を排除するつもりだ、と。そしてその時がくれば、どうかボク達に力を貸して欲しい。―――三帝国間―――いや、西ゼムリア大陸に”真の平和”を取り戻す為に。」

「………!」

「殿下……」

「お兄様……」

「…………フッ、ようやく”本気”になったようだな。ま、リウイにもお前の決意は伝えておく。”メンフィル・クロスベル連合(俺達)”がお前にとっての”敵”になるか、”味方”になるかは………今は”女神のみぞ、知る”とだけ言っておく。………まあ、本人(エイドス)が今の俺の言葉を聞けば、反論してくるかもしれんがな………」

「――――それでは我々はこれで失礼します。」

オリビエの決意を知ったアリサとマキアスが驚いている中ヴァイスは静かな笑みを浮かべて答えた後リィン達に会釈をしたリセルと共にその場から去って行った。

「フフ、それじゃあ第Ⅱの演習地に向かうとしよう。」

「ええ……!」

「はい……!」

そしてリィン達は導力バイクに乗って演習地に向かい始め

「……よろしかったのですか、オルキスタワーから抜け出したリーゼアリア嬢の件を伝えなくて。」

「ああ……リーゼアリア嬢の件に気が取られて、要請(オーダー)に集中できないという事態には陥って欲しくないし、そもそもリーゼアリア嬢は”彼女”と共にいるのだから、そんなに心配する必要はないしな。」

クロスベルから去って行くリィン達を見ていたリセルはヴァイスに訊ね、訊ねられたヴァイスは静かな表情で答えた。

「”彼女”……ミューズ―――いえ、”並行世界の公女ミルディーヌ”ですか……一体彼女は何が目的で、リーゼアリア嬢をオルキスタワーから連れ出した挙句、ユーディット様達との会談の手筈を整えたのでしょう……?」

「さてな……公女の真意については公女の事を良く知るユーディ達に任せているが…………ひょっとしたら、リーゼアリア嬢をオルキスタワーから連れ出し、ユーディ達との会談に挑もうとする公女は”俺達の世界の公女”かもしれないぞ?」

リセルの疑問に対してヴァイスは真剣な表情で自身の推測を口にして、演習地がある間道に視線を向けていた―――――








 

 

第61話

その後演習地に到着したリィン達は状況を整理する為にデアフリンガー号に入り、ミハイル少佐達と今まで手に入れた情報を共有し、今後の作戦を伝えた。



~デアフリンガー号~



「ふう………殿下、さすがに考え直してはいただけませんか?」

オリビエ――――オリヴァルト皇子によるリィン達の加勢を知ったミハイル少佐は疲れた表情で溜息を吐いてオリビエに考え直すように頼んだが

「いやいや、ボクはあくまで”愛の狩人”オリビエだからね。ヴァイス――――ヴァイスハイト皇帝陛下にも(一応)筋は通したし気にしないでくれたまえっ!」

「あ、あはは……」

「いや~……相変わらずッスねぇ、殿下。」

「クク、さすがはあのヴァイスハイトが”友”と認めた男だな!」

「もう……笑いごとではありませんわよ……」

(クスクス、”ただの新妻”を名乗っていた”某女神”を思い出すわよね♪)

(い、言われてみればそうですわね……)

オリビエは笑顔でミハイル少佐の嘆願をスルーし、その様子をトワやランディが苦笑している中、口元に笑みを浮かべて呟いたランドロスの言葉を聞いたアルフィンは呆れた表情で溜息を吐き、小声で囁いたレンの言葉にセレーネは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。



「ハハ、2年前の通商会議がついこの前のようにも感じるね。ティータ君にしてみればこの格好は4年ぶりになるかな?」

「ふふっ……そうですね。お姉ちゃんたちと、アガットさんとシェラさんとオリビエさん、レンちゃん……浮遊都市(オーリオール)に乗り込んだのがつい昨日みたいに感じます。」

「うーん、懐かしいねぇ。クローディア姫やジンさん、それにリウイ陛下達もいたしねぇ……」

「フフ、気づけばあれから既に4年も経っているのですね。」

オリビエとティータ、サフィナの話を聞いていたリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「そ、そちらはそちらで物凄く気になる話ですけど……」

「またの機会ということで今は”星見の塔”を目指そう。………ユウナ達はどうですか?」

「……まだ駄目みたいだな。立ち直ってくれると信じてるが。」

「でも、リィン君たちが動くなら第Ⅱとしても全面的にバックアップはするつもりだよ!――――ですよね、少佐!?」

「コホン、それについては元より私としても異存はないし、クロスベル帝国政府からもクロスベルに潜伏している結社の残党に対する第Ⅱ(我々)の軍事行動の許可も取れている。引き込み路線も確保できたし、”例の段取り”で問題はないな?」

「ええ、お願いします。……ティータもよろしくな?」

ミハイル少佐の確認の言葉に頷いたリィンはティータに視線を向け

「はいっ!準備はバッチリです!」

視線を向けられたティータは力強く頷いた。



「………故郷を持たない俺にとってこのクロスベルは唯一の故郷(ふるさと)だ。先陣きって動けないのは悔しいし、………あいつらも国の思惑でそれぞれ先陣をきれない事は歯がゆくて気が狂いそうになる。」

「……ランディさん……」

「……………………」

胸に手を当てて語ったランディの様子をセレーネとトワは辛そうな表情で見つめた。

「だが、俺はまだ第Ⅱの人間として関われるだけラッキーってもんだ。全力でバックアップさせてもらうからどうか頼むぜ―――リィン、殿下達!」

「ええ……!」

「フッ、任せたまえ!」

「ま、大船に乗ったつもりでいていいわよ♪」

「――――ガイの―――いや、特務支援課(お前達)の代わり、必ずこなして来る。」

ランディの言葉にリィン達がそれぞれ力強く頷いている中オリビエは髪をかきあげ、エルファティシアはウインクをし、アリオスは静かな表情で答えた。



一方その頃ユウナはクルト達のある話をしていた。



「………本当は……助けてもらったお礼を”あの人”や”あの人”の仲間達にずっと言いたかった。でも………どうしても悔しくて………あの時何もできなかった自分が惨めで……反発するしかできなかった……今、こうしてるのだってそうだよ……」

自身の本音を語り終えたユウナは辛そうな表情で顔を俯かせた。

「……そうだったのか………」

「ユウナさん………」

「………やっとわかったわ。ユウナは……リィン教官達に、認めてもらいたかったのね?」

ユウナの様子をクルトとアルティナが見守っている中、ある事に気づいたゲルドはユウナに問いかけた。

「………っ………」

「……私も同じよ。”予知能力”もそうだけど、魔術を教えているレン教官も褒めてくれた私が今まで覚えた魔法なら、様々な大変な事件に関わる事になる教官達の今後の戦いや動きに役に立つと思っていたのに、教官達は私の予知能力や魔法を全然頼ってくれない事に、寂しさを感じているもの。」

「わたしも同じです。特務部隊に所属していた頃もそうですが、今までのメンフィル両皇帝による要請(オーダー)の任務に同行し、サポートをしていた時……子供扱いされて守ってもらったり、何も相談してくれないことにモヤモヤした気分になりました。」

「……僕も同じだ。僕自身のヴァンダールの剣をあの人達に認めてもらいたかった。そして―――またまだ至らないけどサザ―ラントでの演習で少しは変われたんじゃないかと思う。」

ゲルドやアルティナと共に自身の想いを伝えたクルトはユウナの隣に座ったてユウナの肩に手を置いた。



「ユウナ、君の踏ん張りどころは”ここ”じゃないのか―――」

「………ぁ………」

クルトの言葉にユウナが呆けたその時、アルティナはARCUSⅡを取り出してある機能を起動した。

「……教官達からの伝言を再生します。」

ある機能――――録画した声がよく聞こえるようにアルティナがARCUSⅡをユウナに向けると、二人の声が聞こえてきた。

「ユウナ―――確かに”特務支援課”は英雄だろう。俺達が所属していた期間は短かったが……それでも、ロイドも含めて、凄い連中だと思ったよ。」

「―――ですが、ロイドさん達に憧れるだけでいいのですか?ロイドさん達が動けない今――――他の誰でもない、クロスベルの意地を示せるのは”誰”なのですか?」

リィンとセレーネのユウナへの伝言が終わるとアルティナはARCUSを仕舞った。



「……本当に……あの人達は、いつもいつも……フン……そんなの……そんなの貴方達に言われなくてもわかってるんだから……!」

そしてリィンとセレーネの伝言によって元気を取り戻したユウナが決意を叫び、その様子を見たアルティナ達がそれぞれ視線を交わして頷くと扉が開き

「ふふ、それはそうと”場所”がわかったそうですよ?」

「フン、グズグズしてんなら勝手に行かせてもらうぜ?」

「へ……」

開いた扉からそれぞれ聞き覚えのある声が聞こえ、声に気づいたユウナが呆けた様子で視線を向けるとそこにはアッシュとミューズそしてゼシカとルイゼがいた。

「ミュゼさんに、アッシュさん?」

「どうして君達が……」

「――――その様子だと二人も協力してくれるのね?」

「ハッ、ランドルフとランドロスの許可は一応貰ってるからな。」

「ふふっ、私の方もトワ教官にバックアップを任されまして。」

自分達の登場にアルティナとクルトが不思議がっている中事情を察したゲルドは静かな表情で呟き、アッシュは不敵な笑みを浮かべ、ミューズは微笑みを浮かべて答えた。



「ふう、本当だったら私が行きたかったけど……」

「わたしもちゃんと戦えたらついて行きたかったのになぁ~。」

「………ルイゼにゼシカはともかく………アンタたちはどこまで話を聞いてたのよっ!?」

自分達に同行しないゼシカとルイゼが残念がっている中一連の流れをアッシュとミューズが聞いていた事に身体を震わせていたユウナは声を上げて指摘した。その後ユウナ達はリィン達の後を追う為に導力バイクで演習地を出たが、ミューズが演習地の出入り口付近で運転していた導力バイクを停めると、それを不思議に思ったユウナ達も導力バイクを停めた。



~ウルスラ間道~



「どうしたのですか、ミュゼさん?」

「何か忘れ物でもしたのか?」

「ふふっ、ええ。とても大切なものを忘れていますわ。―――――お待たせしました、リーゼアリア先輩。」

「へ……」

アルティナとクルトの問いかけに静かな笑みを浮かべて答えたミューズが間道の木々がうっそうとしている場所に視線を向けて声をかけ、ミューズの言葉を聞いたユウナが呆けたその時リーゼアリアが木々の物陰から姿を現した。

「貴女は確かリィン教官とエリゼの従妹の………」

「リーゼアリアさん!?どうして、リーゼアリアさんがこちらに………」

「フフッ、このタイミングで、しかも昨日の件を考えればリーゼアリア先輩がここに姿を現す理由は一つしかないではありませんか♪」

「き、昨日の件って………――――あっ!も、もしかして……!」

「エリゼ様に見直してもらう為に、教官達の助太刀に向かうつもりなのですか?」

リーゼアリアの登場にゲルドが目を丸くし、クルトが驚いている中微笑みを浮かべたミューズの言葉を聞いてある事を察したユウナは信じられない表情で声を上げ、アルティナは目を丸くしてリーゼアリアに訊ねた。



「―――はい。とは言っても、半分はその娘――――”ミュゼ”に発破をかけられたせいでもありますが………お兄様とお姉様に私がお二人と以前のような関係に戻る事を心から望んでいる私の”本気”を知ってもらう為に……そして、今度こそお兄様とお姉様の”妹”としてお二人の力になる為にも、私自らも弓を取る事を決めたのです。あつかましいと思われますが、どうか私も皆さんに同行する事を許してください……!お願いします……!」

「リーゼアリアさん………」

「ハッ、その女がここにいるのもテメェが関係しているようだな。一体、何を考えてやがる?」

リーゼアリアの決意を知ったクルトが驚いている中アッシュは不敵な笑みを浮かべてミューズに問いかけ

「フフ、リーゼアリア先輩に私はお世話になった恩を返す為に、先輩の悩み事を解決する”提案”をしただけですわ。」

「ホントかしら………まあ、今はそんな事よりも………さっきまで折れていたあたしが言うのもなんだけど、リーゼアリアさんは”覚悟”ができているの?あたし達と一緒に教官達の後を追って行ったら、厳しい戦いに巻き込まれて傷ついたり、最悪は命を落とす事になるかもしれないわよ?」

笑顔で答えたミューズをジト目で見つめたユウナは気を取り直して真剣な表情でリーゼアリアに訊ね

「はい、お兄様達の所に向かう事を決めた時点で”覚悟”もしております。」

「……決意は固いみたいね。――――わかったわ。みんなもいいわよね?」

「後で教官達からリーゼアリアさんまで連れてきた事に怒られるかもしれないが………リーゼアリアさんの気持ちも理解しているから、僕もいいと思う。幸いリーゼアリアさんの戦闘能力は後衛がメインのようだから、前衛の僕達がリーゼアリアさんを含めた後衛のメンバーにまで敵の攻撃が行かないように今まで通り敵の注意を惹きつければいいだけだしな。」

「教官達の所に少しでも早く辿り着く為にも戦力は一人でも多い事は問題ないかと。」

「ハッ、シュバルツァー達の驚いた顔も見てみたいしな。」

リーゼアリアの決意を見たユウナは仲間達に確認し、仲間達はそれぞれ賛成の様子で答えた。

「皆さん……ありがとうございます……!」

「ふふっ、これから導力バイクで目的地まで向かいますのでリーゼアリア先輩は私のバイクのサイドカーに乗ってください。」

「ええ……!お願いするわね、ミュゼ……!」

そしてリーゼアリアを加えたユウナ達は”星見の塔”へと向かった。

「ふふっ、ご武運をお祈りしていますわ、先輩。――――さてと。”ここからが、私にとっての正念場ですわね。”」

ユウナ達の様子をリーゼアリアが隠れていた物陰とは別の場所で隠れて見守っていたミュゼは微笑んだ後真剣な表情を浮かべてクロスベルを見つめた後、物陰に隠していた導力バイクでクロスベルへと向かい始めた。



~星見の塔~



一方その頃、リィン達は森の中に不意にそびえ立つ古めかしい建物―――星見の塔の前に到着した。

「ここが”星見の塔”………」

「暗黒時代の建物らしいですがこの気配は……」

塔の前に到着したアリサは呆けた様子で塔を見つめ、何かに気づいたセシリアは真剣な表情を浮かべ

「な、なんだ……?背中がチリチリするような……」

「………霊感の無い人間がそこまで感じるレベルとはね。」

「それ程までにこの”星見の塔”から凄まじい魔力の中心地になっている証拠ね。」

「……間違いありません。霊脈を通じて、クロスベル中の霊力が吸い上げられています。」

ある事に気づいたマキアスの言葉を聞いたセリーヌは目を細め、エルファティシアとエマは真剣な表情で答えた。



「ああ、僕も感じるよ。……蒼色の……いや、緋も混じっているかな?」

「殿下……おわかりになるんですか?」

「はあ、そう言えばアンタの妹も魔力は大したモンでさっきも上級レベルの魔術を使いこなしていたけど……やっぱり古のアルノールの血ってやつ?」

オリビエまでエマ達のように霊感がある事にエマは驚き、セリーヌは溜息を吐いた後興味ありげな様子でオリビエに訊ねた。

「フッ、そうらしい。自覚はあんまり無いけどね。」

「わたくしも1年半前までは自覚していませんでしたが……リィンさんと結婚してからは、自覚するようになりましたわ。」

「へ………どうして、リィンと結婚してからは自覚するようになったのでしょうか?」

「………………」

オリビエの後に答えたアルフィンの答えが気になったマキアスは不思議そうな表情でアルフィンに訊ね、理由を察していたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。



「うふふ、大方魔力や身体能力を強化されたエリゼお姉さん達のように”性魔術”で元々備わっていた魔術師としての才能が覚醒したからじゃないのかしら♪」

「うふっ♪確かに二人は”夫婦”なんだから、”そう言った行為”――――”子作り”をする事も当たり前だものね♪」

「ブッ!?」

「レ、レン教官!?エルファティシアさんまで……!」

(実際その通りだから、冗談になっていないわね、レン皇女殿下の推測は……)

からかいの表情を浮かべたレンとエルファティシアの話にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンは吹き出し、セレーネは顔を赤らめて驚き、エリゼは呆れた表情をし

「な、ななななななな……っ!?」

「……そう言えば内戦の時にリィンやエリゼ達が人外じみた身体能力や凄まじい魔力を身に付けている理由が”性行為”による魔術とやらで強化された事を殲滅天使がアタシ達にも解説していたわね………確かに魔王、聖女の娘に竜の姫君、精霊王、そして女神と結ばれた事でそれぞれに秘められている凄まじい霊力(マナ)を宿すリィンとアルフィン皇女が結ばれれば、元々備わっていたアルフィン皇女の魔術師としての才能が覚醒して当然でしょうね…………」

「セ、セリーヌ!」

「ハッハッハッ、アルフィンともしっかりやることはやっていて、アルフィンまで強くしてくれるなんてさすが経験豊富なリィン君だね♪」

「お兄様、お下品ですわよ。」

「あいた。」

我に返ったマキアスは顔を赤らめて慌て、呆れた表情でリィンとアルフィンを見つめて呟いたセリーヌの説明を聞いたエマは顔を赤らめて声を上げ、声を上げて笑ってからかいの表情を浮かべたオリビエの言葉に呆れたアルフィンは常に携帯している突っ込み用のハリセンでオリビエの頭を叩き

「うふふ、という事は既にリィン様と結ばれたお嬢様も、もし魔術師としての才能がおありでしたら、皇女殿下のように魔術師としての才能が既に覚醒したり、エリゼ様達のように身体能力が強化されているのでしょうか♪」

「みんなの前でとんでもない事を言わないでよ、シャロン!!」

更なる火種を口にしたシャロンの言葉にリィン達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサは顔を真っ赤にしてシャロンを睨んだ。



「フッ、それで、話は戻すがこの塔の屋上にいるのが昨日の”神機”というわけか。」

静かな笑みを浮かべたオリビエは気を取り直して塔を見上げ

「ええ、ハーメルで戦った巨大神機とは異なりますが………旧共和国軍を壊滅させた飛行型の後継機みたいですね。」

「”至宝”の力を得ないと満足に動けないみたいだけど………ああやって、霊力を溜め込む事で同等の力を発揮できるみたいね。」

オリビエの言葉に頷いたリィンの話に続くようにアリサは説明を続けた。

「―――旧Ⅶ組並びに特務部隊、協力者と共に”星見の塔”の探索を開始する。目標は屋上の”神機”――――霊力補給を阻止するのが第一の目的だ。各自、全力を尽くしてくれ……!」

「了解だ……!」

「「「「「ええ……!」」」」」

「「「「はい……!」」」」

「かしこまりましたわ……!」

「承知……!」

「フッ、それではいくとしようか……!」

そしてリィン達は星見の塔へと入っていたが、その様子を仮面の男が遠くから見守っていた。

「さて……連中が失敗したら出番というわけか。折角の”リハビリ”の機会、逃したくはないが………――――トールズ士官学院”Ⅶ組”とメンフィル帝国軍”特務部隊”とやら……せいぜいお手並みを拝見させてもらおうか……?」

意味深な事を口にした仮面の男はその場から姿を消した。



その後、リィン達は協力しながら時折襲いかかってくる魔獣や魔導兵達を撃退しながら屋上に到着した。



~屋上~



「いたか……!」

「”道化師”……1年半前の動乱に続いて、今回の騒動でもクロスベルに姿を現したのか………」

「そしてもう片方の執行者―――いえ、亡霊が”劫炎”とやらね。なるほどね……感じられる力からしてあのノイアスとも同等―――いえ、それ以上ね。」

カンパネルラ達と神機を見つけたマキアスは声を上げ、アリオスとエルファティシアはそれぞれ目を細めてカンパネルラ達を睨んでいた。

「クク、もうちょっと待たされると思ったが。」

「どうやら”裏技”と使ってここを掴んだみたいだね?」

「ああ―――幾つもの想いが俺達をここまで導いてくれた。」

「彼らとは何の関わりもなかった私達が出しゃばるのも心苦しいけど……」

「それでも、これ以上あなた方に好き勝手させる訳にはいきません。」

カンパネルラの問いかけに対してリィンとアリサ、エマはそれぞれ決意の表情で答えた。



「フッ、4年前の”ゴスペル”と同じく阻止させてもらおうか?」

「そしてようやく”真の自由”を手に入れたクロスベルを再び騒乱の渦に巻き込もうとするその”業”………お前達の身を持って、償ってもらうぞ。」

「ま、ヴァイスや私達がいるクロスベルに手を出したことが”運の尽き”である事をヴァイス達とロイド達の代わりにたっぷりと思い知らせてあげるわ。」

「あん?なんだアンタ達――――」

「4年前……その格好って。しかもそちらのお二人さんは。」

オリビエとアリオス、エルファティシアもリィン達に続くように答えるとオリビエ達がわからないマクバーンは眉を顰め、カンパネルラはオリビエ達を見回してある事に気づくと驚いた。

「あはは、さすがに想定外すぎるんだけど!何やってるのさ、オリヴァルト皇子!しかも”黄金の戦王”と一緒に”特務支援課”にいた”混沌の森王”に加えて拘置所にいるはずの”風の剣聖”まで……!」

「はああっ………!?なんでエレボニアの皇子やクロスベルの側妃に、犯罪者扱いされて拘置所に幽閉された”風の剣聖”までこんな場所に来てやがるんだ!?」

カンパネルラが口にしたオリビエ達の正体を聞いたマクバーンは困惑の表情でオリビエ達を見つめ、その様子を見たリィン達は冷や汗をかいた。

「……そりゃ、驚くよな。」

「それも交流会の行事の真っ最中だものね………」

「しかもアリオスさんに関しては、本来拘置所にいるはずの方ですものね……」

マクバーンの様子を見たマキアスとアリサ、セレーネはそれぞれ苦笑した。

「うふふ、”混沌”はクロスベルが光と闇が交差する都市だから付けられたのだと思うけど、それにしてもエルファティシアお姉さんの新しい二つ名って、何だかママの仲間のように聞こえるわよね♪」

「全くよ………私が信仰している神は”混沌の女神(アーライナ)”じゃなくて、”森の女神(ルリエン)”なのに、迷惑な話よ。」

小悪魔な笑みを浮かべたレンに問いかけられたエルファティシアは疲れた表情で溜息を吐いて答え

「今の俺は遊撃士でもなく国防軍長官でもなく、クロスベルの(いち)剣士として、クロスベルを再び騒乱の渦に巻き込もうとするお前達を斬るためにここにいる。」

「今のボクは(いち)演奏家。クロスベルの熱い想いを――――ボクなりに表現しに来ただけさ。しかし、やはり魔女殿は来ていないんだね?キミたちが再び動き始めたのならてっきり来ていると思ったんだが。」

アリオスと共に自分達がリィン達と共にいる理由を説明したオリビエは自身の疑問を口にした。



「フフ、言ったように”結社”でも色々あってね。――――『幻焔計画』の奪還。その邪魔をされたくないしね。」

「っ………!」

「……やはりその名前に行き着くのですね。貴方方が姉を狙うならその意味でも捨て置けません。その『計画』の趣旨についてもある程度は話していただきます。」

「エマ………」

魔導杖を取り出して魔力を溜め始めたエマに続くようにリィン達もそれぞれの武装を構えた。



「フフ、いい気合いね……!」

「ああ――――1年半前に残された”謎”に迫る為にも……!」

「三帝国に渦巻く暗雲を少しでも払う為にも……!」

「貴方達の”実験”、阻止させて頂きますわ!」

「お嬢様とリィン様に仇名すならば、この”死線”が貴方達の前に立ちふさがりますわ。」

「フッ、”煌魔城”での続きを始めようか……!」

「うふふ、”碧の大樹”で”紅の戦鬼”を仕留め損ねた”借り”、返させてもらうわよ♪」

「我が祖国メンフィルに………そして教え子達に仇名すならば、この”魔道軍将”、容赦は致しません……!」

「主が滅びてもなお、主の愚かな意志を継ごうとする貴方達の愚かな忠誠心、我が双鎌にて全て斬り裂く……!」

「兄様に仇名すならば、兄様の妹として……未来の伴侶として、私も兄様と共に貴方達を討ちます……!」

「エリゼと同じくリィンさんの妻として……そしてエレボニア皇女として、1年半前の内戦の時のように貴方達の好き勝手にはさせませんわ!」

「”湖上の森王”と呼ばれた私の力、その身を持ってたっぷりと思い知りなさい……!」

「八葉一刀流、二の型奥義皆伝、アリオス・マクレイン……義に従い、我が刃にてクロスベルの仇名す者達を斬る!往くぞ―――――結社”身喰らう蛇”!」

リィン達はそれぞれ決意の表情でカンパネルラ達を睨み

「ははっ……!熱くさせてくれそうじゃねえか!」

「どうやら”本気”で迎え撃つ必要がありそうだね。それじゃあ”結社”の執行者、No.0とNo.Ⅰがお相手するよ。」

「俺の中の”黒き焔”、見事引きずりだしてみろや……!」

リィン達の様子を見たカンパネルラ達もそれぞれ戦意を高めて迎撃の構えをした。



「Ⅶ組並びに特務部隊総員、全力で迎撃する!オリビエさん達もお願いします!」

「おおっ!」

「任せたまえ!」

「承知!」

「任せなさい!」

そしてリィンの号令に力強く頷いたリィンの仲間達はそれぞれ二手に分かれて執行者達との戦闘を開始した―――――


 

 

第62話

~星見の塔・屋上~



「吼えよ――――竜皇陣!!」

仲間達と共にカンパネルラに向かったサフィナはあらゆる攻撃能力を上昇させるブレイブオーダーを発動させて自分や仲間達の攻撃を上昇させた。

「斬り裂け――――エアブレイド!!」

「おっと。それっ!」

「うわっ!?」

「大丈夫ですか!?」

マキアスがショットガンから放った風の刃を回避したカンパネルラは魔力による鎌鼬でマキアスに反撃したが、マキアスとリンクを結んでいるエマがリンクアビリティ――――クイックキュリアを発動してマキアスのダメージをすぐに回復し

「うふふ、死んじゃえ♪」

「刃よ、伸びよ!」

「あぶないな~。これはお返しだ――――」

レンが投擲した大鎌とエリゼが伸長させた連接剣の刃を回避したカンパネルラは二人に対しての反撃をする為に指を鳴らそうとしたが

「白き剣よ、お願い!」

「安らかに眠れ………レクイエムショット!!」

「あいたっ!?」

エマが放った魔導杖に搭載されている白き剣を解き放つ特殊魔法(クラフト)――――イクリプスエッジとオリビエが銃に集束したエネルギーを球体として解き放つクラフト―――レクイエムショットによって反撃が妨害されると共に怯み

「崩しました!」

「もらったっ!」

「崩したよ!」

「続きますわ―――裁きの光よ、悪に粛清を!粛清の閃光!!」

「ぐっ!?」

二人の攻撃によってカンパネルラの態勢が崩れるとマキアスはショットガンによる通常攻撃で、アルフィンは中範囲を裁きの光を炸裂させて攻撃する魔術で追撃した。

「喰い破れ――――竜牙衝!!」

そこにサフィナが竜の牙のように鋭い斬撃を放つ為に突進し

「!!フウ、今のはヒヤッとしたよ………さあ……席替えをしようか。シャッフル、シャッフル!」

紙一重で転移で回避したカンパネルラはクラフト―――ナイトメアシャッフルでエマ達の位置をそれぞれバラバラにさせ

「さあてと…………それ!ガリオンフォート!!」

続けて戦術オーブメントを駆動させた後僅かな時間で上位アーツ―――ガリオンフォートをアルフィンとオリビエ、エマに向けて放った!



「絶対障壁――――ラウンドバリア発動!」

襲い掛かる幻の砲台による砲撃のエネルギーに対してアルフィンは魔導杖に搭載されている全てを防ぐ強固な結界――――ラウンドバリアを自分を中心とした結界を展開して、オリビエとエマを襲い掛かる砲撃を全て防いだ。

「へえ……今のを結界で防ぐなんて、さすがは古のアルノールの血って所かな?」

上位アーツが防がれた事に驚いたカンパネルラは目を丸くしてアルフィンを見つめたが

「魔力集束――――アウエラの導き!!」

「!!あ、あぶな~………まさか、灰のお兄さんの妹まであんな高レベルの術者だったなんて、驚いたな……」

側面から片手に電撃が迸る程の魔力を球体状へと集束させた後解き放ったエリゼの魔術に気づいて慌てて回避したカンパネルラは自分がいた場所で大爆発を起こしたエリゼが放った魔術を見ると冷や汗をかいて驚いていた。

「呑みこめ―――ダークイレイザー!!」

「く……っ!?」

そこにマキアスのショットガンから放たれた暗黒の重力エネルギーによってカンパネルラは動きが封じ込められ

「「玄武の地走り!!」」

「ぐっ!?」

レンとサフィナはカンパネルラを中心に十字(クロス)させるように地を這う斬撃を放ってカンパネルラにダメージを与えた。

「フッ、お返しだ――――ガリオンフォート!!」

「アークス駆動――――ガリオンフォート!!」

「ヤバ――――あいたっ!?」

オリビエとエマが発動した先程自分が撃ったアーツと同じアーツをその身に受けたカンパネルラはダメージを受けると共に再び怯み

「業火よ、全てを焼き飛ばせ――――灼熱の大熱風!!」

仲間達が攻撃している間に魔術の詠唱を終えたアルフィンがカンパネルラを中心に業火の竜巻を発生させる魔術を叩き込んだ。



「あつつ………まさか、僕にここまでダメージを与えるなんて、さすがはブルブラン達を退けたオリヴァルト皇子達って所か。――――だったら、僕もとっておきを出そうかな!」

攻撃の最中に転移で攻撃範囲から逃れたカンパネルラはエマ達に大ダメージを与える為にSクラフトを発動し、カンパネルラの幻術によってカンパネルラの頭上にかつてノーザンブリアを絶望へと追いやった古代遺物(アーティファクト)――――”塩の杭”を模倣した巨大な”杭”が顕れ

「させません!我が求めに応じ、今こそ顕現せよ――――其は堅牢、我等を守る唯一の盾!其は流麗、昏黒を照らす無二の鏡!」

カンパネルラのSクラフトに対抗する為にエマがその場で詠唱をして魔導杖を振り回しながら舞うと、幻影の城がエマ達を囲むように顕れ始めた。

「さすがに反則?でも、やっちゃおうっと!アハハハハッ!全部塩になれ!!」

「照らせ――――パレス・オブ・エレギオン!!」

そしてカンパネルラが頭上の杭を自分達に向けて放った瞬間、エマの魔術によって完成した幻影の城はどんな攻撃も防ぎ、そして反射する結界をエマ達に付与し、カンパネルラが放った杭がエマ達に命中すると結界はエマ達を守り、本来受けるはずだったエマ達のダメージをカンパネルラへと反射した!

「ああああああああああああっ!?ぐっ………ま、まさか……今のを防ぐどころか、反射するなんて……!?」

自分が放ったSクラフトによって大ダメージを受けたカンパネルラが悲鳴を上げて怯みながらエマ達を見つめたその時、術者であるエマを除いた仲間達はそれぞれ反撃を開始した!



「うふふ、お茶会を始めましょうか――――アタナシアン・キティ!!アークス駆動――――」

「アルフィン、合わせるわよ!」

「ええ、エリゼ!」

味方のスピードを高めるブレイブオーダーを発動したレンはオーブメントを駆動させ、エリゼの呼びかけに頷いたアルフィンはそれぞれ同時に詠唱を開始した。

「させないよ―――」

「それはこちらのセリフです!」

「あぐっ!?」

レン達の行動を見たカンパネルラは駆動や詠唱を妨害しようとしたが、サフィナが投擲した双鎌をその身に受けて怯んだ為妨害に失敗した。

「「大気に舞いし精霊たちよ、清浄なる調べを奏でよ――――」」

「時の結界よ、砕け散れ!!」

「セブンス・キャリバー!!」

「「フェアリーサークル!!」」

「あいたっ!?」

レンが発動したブレイブオーダーに加えて詠唱や駆動時間を一気に早めるマキアスのクラフト―――バーストドライブを受けたレンはカンパネルラの頭上より七色の連鎖爆発を起こす巨大な剣を降り注がせ、エリゼとアルフィンは味方を回復させると共に敵にはダメージを与える清浄なる風を発生させる魔法陣を発生させてそれぞれカンパネルラに大ダメージを与えた。

「少し本気を出させてもらうよ!ハァァァァァ………!」

するとその時、足元に魔法陣を発生させて自身の周囲に莫大な霊力を発生させたオリビエが片手を空へと掲げると巨大な魔法陣が現れると共に球体が顕現し始めた。

「我が元に集え、大いなる七耀の力!解き放て――――アカシックスタ――――――!!」

そこに魔法陣が顕現した銃口でオリビエが球体目がけて銃撃して球体を貫くと球体は砕け散って、エネルギーの雨と化してカンパネルラを中心に降り注いだ!

「うわあああああ……っ!?ふふ、やるじゃない……」

「フッ、楽しんでくれたかな……?」

オリビエが放ったSクラフトによってカンパネルラが戦闘不能になって地面に膝をつくと、オリビエはカンパネルラに背を向けて髪をかきあげて決め台詞を口にした。



「ルリエンよ、我等に森と精霊の加護を――――ルリエンクレスト!!」

リィン達と共にマクバーンとの戦闘を開始したエルファティシアは味方に敵から受けるダメージの内3割を防ぐと共に様々な状態異常を無効化し、更に体力や傷が自動で回復する効果を持つ特殊結界を付与するブレイブオーダーを発動して、リィン達や自分に特殊結界を付与した。

「焼き尽くせ!!」

「踊れ、炎蛇よ!――――炎蛇咆哮!!」

マクバーンが先制攻撃に炎の狼を解き放つと、セシリアが魔術で発生した巨大な炎の蛇を放って相殺し

「アークス駆動――――ゴルトスフィア!!」

「落ちよ、聖なる雷!ライトニングプラズマ!!」

「ぬりぃ。」

アリサとセレーネがそれぞれ威力が低い代わりに発動が早いアーツや魔術で反撃すると、自身を炎で覆って二人が放った魔法攻撃を防いだ為弱点属性である光の攻撃を受けたにも関わらずマクバーンは怯まず、余裕の様子を見せた。

「クク、テメェとは一度やりあいたかったんだよなあ、”風の剣聖”!」

そしてマクバーンは不敵な笑みを浮かべてアリオス目がけて片手で生み出した炎の球体を放ち

「!ハアッ!」

「っと。」

解き放たれた炎の球体を跳躍して回避したアリオスはそのままマクバーン目がけて太刀を振り下ろし、アリオスが反撃に放った剣技―――大雪斬に対してマクバーンは後ろに跳躍して回避した。

「こんなのはいかがですか……!?」

「チッ、鬱陶しいんだよ……!」

そこにシャロンが亡霊であるマクバーンにも効く鋼糸(ワイヤー)でマクバーンを拘束し、拘束されたマクバーンは身体から一瞬で発生させた自身の焔で鋼糸(ワイヤー)を焼き切って、シャロンの攻撃を無効化したが

「秘技―――裏疾風!斬!!」

「秘技―――裏疾風!ハアアァァッ!!」

「ぐっ!?」

電光石火のような速さで襲い掛かって来た亡霊である自分に対して絶大な効果を発揮するリィンとアリオスの神剣と退魔刀の剣技をその身に受けると怯み

「崩した!」

「続きますわ!ヤァァァァァ………ホーリーインパクト!!」

「崩れたぞ!」

「私も続くわ!ルリエンよ、邪悪なる者に裁きの鉄槌を――――神槍!!」

「光よ、炸裂せよ――――爆裂光弾!!」

「がああああああっ!?」

マクバーンが怯むと二人とそれぞれリンクを結んでいたセレーネがアリオスが持つ太刀同様亡霊等の”魔”の存在に対して真骨頂を発揮する聖剣に光の魔力を込めて薙ぎ払い攻撃を、エルファティシアは魔術によって発生した光の槍をマクバーン目がけて放ち、二人の後にセシリアは広範囲に炸裂する光を集束した球体を放ってマクバーンに命中させ、弱点属性である光の攻撃を連続で喰らったマクバーンは思わず悲鳴を上げた。



「絶!!」

「ガッ!?」

マクバーンに反撃の隙を与えない為にリィン達の追撃が終わるとシャロンが続くように亡霊に対して絶大な効果を発揮するセティ達特製のダガーで一閃すると、マクバーンは呻き声を上げて再び怯み

「崩しましたわ!」

「もらった!燃え尽きなさい………――――ファイアッ!!」

マクバーンが怯むとシャロンとリンクを結んでいるアリサが追撃に力を溜めた炎の矢をマクバーン目がけて解き放った。

「ハッ、やるじゃねえか!―――燃えろ!!」

「キャッ!?」

「お嬢様……!っ!?」

しかし襲い掛かって来た矢を片手で掴み取って焼き尽くしたマクバーンは反撃にクラフト―――ギルティフレイムをアリサとシャロンに放ち、回避が間に合わなかった二人はそれぞれダメージを受け

「ハッハァッ!!」

「「!!」」

続けてリィンとアリオス目がけてクラフト―――ヘルハウンドを放ち、襲い掛かる炎の狼を二人はそれぞれ左右に散って回避した。



「聖なる光よ、傷つきし者達に慈悲を――――癒しの風!!」

そしてセシリアは治癒魔術を発動してアリサとシャロンが受けたダメージを回復し

「チッ、うぜぇんだよ!」

「させるか!―――緋空斬!!」

それを見たマクバーンは舌打ちをしてセシリアに火炎弾を放ったがリィンが放った炎の斬撃波によって相殺された。

「七色の光の矢よ――――プリズミックミサイル!!」

「しゃらくせぇっ!」

セレーネが放った無数の虹色の光の矢に対してマクバーンはクラフト―――ヘルハウンドを放って相殺したが

「逃がさないわよ――――メルトストーム!!」

「だからぬりぃんだよ!」

アリサが放った炎の竜巻を発生させる矢の雨は受けてしまい、矢の雨を放ったアリサにマクバーンは反撃をしようと再び片手に炎の球体を形成した。



「フフ、ではこちらはどうですか……!?―――――シャドウステッチ!!」

「がっ!?」

その時シャロンが凄まじい速さでダガーで斬りかかった後鋼糸(ワイヤー)による締め付け攻撃をマクバーンに叩き込んでアリサへの反撃を妨害し

「受けなさい、浄罪の焔――――贖罪の聖炎!!」

「ルリエンよ、悪しき者達に浄化の焔を――――贖罪の聖炎!!」

「がああああああっ!?」

セシリアとエルファティシアが放った浄化の焔をその身に受けたマクバーンは悲鳴を上げて怯んだ。

「これで決める!無明を切り裂く閃火の一刀………はあああ………!」

「風巻く光よ―――――我が剣に集え!オォォォォ………ッ!!」

マクバーンの様子を見て好機と判断したリィンは太刀に闘気による膨大な炎を纏わせ、太刀に闘気による膨大な風を纏わせたアリオスは地面を蹴って神速の抜刀によって発生した無数の斬撃でマクバーンを攻撃した後空高く跳躍し

「はっ!せい!たあ!おおおお………!」

アリオスが跳躍するとリィンが太刀に炎を宿したリィンが凄まじい早さの連続攻撃をマクバーンに叩き込んだ!

「終ノ太刀―――――暁!!」

「奥義――――風神烈波!!」

そしてリィンがマクバーンの背後へと駆け抜くと炎の大爆発が起こり、炎の大爆発の後に更にアリオスがマクバーンの頭上より闘気によって発生した風を纏った強烈な一撃をマクバーンに叩き込んだ!

「ガアッ!?クク、マジかよ………」

神剣と退魔の太刀による奥義を連続で受けたマクバーンは戦闘不能になり、自分を追いつめたリィン達に対する好戦的な笑みを浮かべて地面に膝をついた。



「クク、ハハ………いいねぇ、お前ら、煌魔城の時よりもずっといい………」

「やれやれ、別にいいけどさ。下手したらこの塔ごと巻き込んじゃうじゃないの?」

地面に膝をついていたマクバーンだったがすぐに立ち上がると足元から黒い焔を噴き出させ、それを見たリィン達は血相を変えている中カンパネルラは呆れた表情で溜息を吐いて立ち上がった後マクバーンに指摘した。

「まあ、ちっとは譲れや。”深淵”が出て来なくてちょいとイラついてたからな。大丈夫だ――――デカブツまで燃やしたりしねぇよ。」

「うふふ、仕方ないなぁ。」

マクバーンとカンパネルラが呑気に会話をしている中リィン達はマクバーンを最大限に警戒していた。

「………来るぞ……」

「わかってる……!」

「くっ、1年半ぶりだがなんてプレッシャーだ……」

「相変わらず”人間”とは思えない”力”の持ち主ですわ……」

「”ここからが本番”ですわね……」

「”火焔魔人”……”七日戦役”でリウイ陛下達が討ち取り、そして亡霊となった彼は子爵閣とがやり合った人外か。」

「………なるほど。まさに”人外”というべき”力”が感じられるな。」

「そうね。飛天魔族(ラウマカール)―――いえ、下級魔神クラスと見積もった方がよさそうね。」

既にマクバーンの”本気”を知っているリィン達が警戒している中、初めて見るマクバーンの”本気”を見たオリビエやアリオス、エルファティシアも表情を引き締め

「うふふ、でもパパとゼルギウス将軍はたった二人で無傷で勝利したけどね♪」

「レン……あの二人を比較対象に出す時点で比較対象として間違っていますよ……」

「ふふっ、お二人は英傑揃いのメンフィルの将や皇族の中でも指折りの実力者ですからね。」

小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉にサフィナは疲れた表情で指摘し、セシリアは苦笑していた。

「セリーヌ、手伝って……!」

「ええ、あの黒い焔を何とか封じ込めるわよ……!」

「アルフィン。」

「ええ、わかっていますわ。――――お願いします、ベルフェゴール様!」

「どうか私達に御力を――――リザイラ様!」

一方エマはセリーヌと共にマクバーンの焔を封じ込める為に魔術を開始し、エリゼとアルフィンはそれぞれの魔力(マナ)と同化していたベルフェゴールとリザイラを召喚した!



「オオオォォォオォォオオッ……!」

ベルフェゴールとリザイラが現れると同時にマクバーンは咆哮と共に”火焔魔人”へと変貌した!

「1年半ぶりだ――――せいぜい熱くさせてくれよ?最低でも”光の剣匠”くらいにはなああっ!!」

そしてリィン達は”火焔魔人”へと変貌したマクバーンとの戦闘を開始した―――――




 

 

第63話



~星見の塔・屋上~



「ヒャッハーッ!たぎって来たぜぇっ!!」

戦闘開始時マクバーンは自身の”焔”によって一瞬でダメージや霊力を回復させると共に自身を強化するクラフト―――オーバーヒートを発動し

「ヒャハハハッ!ちょいと熱いが我慢しろよ!?オラオラオラオラァッ!!」

続けてSクラフトを発動し、黒き火炎弾をリィン達に放った!

「ベルフェゴール、リザイラ!」

「了解♪」

「ふふふ、幾ら”人”を超えた身とはいえ、魔神と精霊女王の結界を破れますか?」

それを見たリィンに呼びかけられた二人は協力して強固な結界で自分達を覆い、マクバーンが放った火炎弾は結界にぶつかると黒き焔の渦と化した。

「さあて……コイツで仕上げだ!ジリオン―――――ハザード!!」

片手に集束した黒き焔の球体をマクバーンが放ち、黒き焔の球体は結界にぶつかると超越した黒き焔の大爆発を起こした!そして爆発による煙が晴れると、結界に僅かに罅が入った状態で傷一つ負っていないリィン達が現れた!



「何……っ!?」

自分の最大技が防がれた事にマクバーンは驚き

「うふふ、私達の結界に罅を入れた事は褒めてあげるけど、”その程度”で”七大罪”の一柱である私と精霊女王のリザイラの魔力に届くと思っていたのかしら?」

「い、今のが”その程度”って……こっちもこっちで、相変わらず化物じみているな………」

「うふふ、ですがそのお陰で本気になった”劫炎”の最大攻撃を防ぐ事ができるのですから、私達にとっては朗報ですわ♪行きますわよ――――シャドウステッチ!!」

「ハッ、ぬりぃぞ!」

「!」

余裕の笑みを浮かべてリザイラと共に結界を解除したベルフェゴールの言葉にマキアスが冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中シャロンは微笑んだ後マクバーンに反撃をしたが、マクバーンはダメージを受けたにも関わらず怯まず反撃にシャロンに黒い火炎弾を放ち、放たれた火炎弾をシャロンは紙一重で回避し

「走れ――――玄武の地走り!!」

「チッ……!」

シャロンに反撃をした影響でサフィナが放った斬撃波に咄嗟に反応できなかったマクバーンはダメージを受けて舌打ちをした。

「コォォォォ………神気――――合一!!」

「うふふ、レンも”本気”を出してあげる――――わっ!!」

「風よ、我に力を――――ハアッ!!」

一方リィンは”鬼の力”を解放した姿になり、レンは魔人と化し、アリオスは気功技―――軽功で自身を強化した。

「魔術師達に祝福を―――――魔法領域の符術!!」

「ルリエンよ、我等に守護の盾を―――防護の聖域!!」

「月の守りを――――クレシェントシェル!!」

「ふふふ、それでは始めましょうか――――精霊陣”守護”!水の精霊達よ――――双子水精弾!!」

更にアルフィンとエルファティシア、エマはそれぞれ魔術やクラフトで自分や仲間達の様々な能力を上昇させ、リザイラは全属性を半減する特殊結界を付与すると共に体力や傷、霊力を自動的回復する効果を付与するブレイブオーダーを発動した後マクバーン目がけて水精の力を宿した魔力球を連続で射出した。



「ハッ、蒸発しちまえ!!」

襲い掛かる水球に対してマクバーンはクラフト――――ヘルハウンドを放って相殺し

「アークス駆動――――クリスタルフラッド!!」

「降り注げ、氷の刃よ―――氷垢螺の氷雨!!」

「貫け、氷の剣―――絶対氷剣!!」

「クク、その程度の氷、すぐに溶かしてやらあっ!!」

更にセレーネとエリゼ、セシリアが放った前方、頭上、足元と逃げ場のない氷の魔法攻撃に対してマクバーンはまず自身から黒き焔を発火させて無効化した。

「うふふ、これはどうかしら?」

「ハッ、そんなもん、この俺に効くかぁ!!」

「フフ、それじゃあこれはどうかしら?」

「何―――――」

「超―――ねこアッパー!!」

「ガッ!?」

レンが発動した魔眼を気合で吹き飛ばして無効化したマクバーンだったが、背後に転移魔術で現れたベルフェゴールが放ったアッパー攻撃をまともに受けた事によって上空へと舞い上がらせられた。



「「洸波斬!!」」

「出でよ、空の神槍――――イナンナ!!」

「ルリエンよ、邪悪なる者に裁きの鉄槌を――――神槍!!」

「光よ、炸裂せよ――――爆裂光弾!!」

「七色の光の矢よ――――プリズミックミサイル!!」

「うぜぇ!!」

逃げ場のない上空へと舞い上がったマクバーン目がけてリィンとアリオスは神速の斬撃波を、レンとエルファティシアは光の槍を、セシリアは炸裂する光の球体を、セレーネは七色の光の矢を同時に放ったが空中で受け身を取ったマクバーンはクラフト―――ギルティフレイムを放ち、ギルティフレイムは空中で黒き焔の渦と化して襲い掛かるマクバーンにとって弱点となる斬撃波と魔法攻撃を一度に焼き飛ばした。

「フッ、ならばこれはどうかな!?―――それっ!!」

「アークス駆動――――エクスクルセイド!!」

「白銀(しろがね)の光輪、ここへ――――エンジェルリング!!」

「雷光エネルギー集束完了―――レイジレーザー!!」

「何……!?ガッ!?」

そしてマクバーンが着地した瞬間アルフィンが光の輪を生み出してマクバーンを拘束すると共にダメージを与える魔導杖に搭載されている特殊魔法(クラフト)を発動してマクバーンの動きを止めた瞬間、オリビエとアリサが発動した空属性アーツ――――エクスクルセイドとマキアスがショットガンから放った雷光のエネルギーがマクバーンにダメージを与えると共に怯ませ

「四の型――――紅葉斬り!!」

「二の型―――疾風!!」

「ふふ、耐えられますか?――――ブラッディクロス!!」

「チィッ!?」

そこにリィンとアリオス、シャロンが縦横無尽に駆けながらマクバーンに追撃をした。



「――――視えた!心眼斬!!」

「すごい――――ねこパンチ!!」

「ガハッ!?」

リィン達の攻撃が終わった後サフィナはマクバーンの背後から心眼によって霊体すらも斬り裂く一撃で、ベルフェゴールは装甲をも容易に破壊できるパンチでマクバーンを攻撃してマクバーンを怯ませ

「崩しました!」

「追撃開始します!豪破岩槍撃!!」

「崩したわよ!」

「ふふふ、では私も続きましょう―――――風の精霊達よ―――気体凝縮!!」

マクバーンが怯むとそれぞれとリンクを結んでいるセシリアとリザイラが詠唱時間が短い魔術で追撃をした。



「クク、面白くなってきたじゃねぇかあっ!!」

リィン達の攻撃を次々と受け続けているにも関わらずマクバーンは好戦的な笑みを浮かべて笑った後仕切り直す為に再びクラフト―――オーバーヒートを発動して回復したが

「時の結界よ、砕け散れ!!」

「「「エクスクルセイド!!」」」

「ガリオンフォート!!」

「ホーリーバースト!!」

「セブンス・キャリバー!!」

「デネカの津波!!」

「「贖罪の聖炎!!」」

「「ルン=アウエラ!!」」

「うおおおおおおおおおっ!?」

マキアスのクラフト―――バーストドライブによって駆動時間や詠唱時間を省略させたアリサ、アルフィン、オリビエ、エマ、セレーネ、レン、エリゼ、セシリア、エルファティシア、ベルフェゴール、リザイラが一斉に放ったアーツや魔術を受けて大ダメージを受けると共に怯んだ。



「明鏡止水……我が太刀は静……――――見えた!うおおおおおお……っ!!」

「死線の由来とくとご覧あれ―――――失礼――――ですが、もう逃げられませんわ!」

そこにSクラフトが発動したリィンとシャロンが縦横無尽に駆けながらマクバーンに大ダメージを与え続け

「受けて見よっ!滅びの太刀!!ハアアアアアアアア――――――ッ!!」

「受け継がれしルクセンベールの絶技、その身に刻め!!セイッ!ヤアッ!ハァァァァァ―――――ッ!!」

同じようにSクラフトを発動したアリオスは全身に膨大な闘気を纏って跳躍し、サフィナは双鎌を投擲した後アリオスのように全身に膨大な闘気を纏って跳躍すると、マクバーンに襲い掛かった双鎌はまるで意志を持っているかのように縦横無尽に回転しながら何度もマクバーンにダメージを与えた後サフィナの手に戻って行った。

「斬!灰ノ太刀――――滅葉!!」

「秘技――――死縛葬送!!」

「がああああああっ!?」

「絶――――黒皇!!」

「絶技――――双竜皇!!」

そしてリィンとシャロンのSクラフトが決まると、二人に続くように空へと跳躍したアリオスとサフィナがマクバーン目がけて地上へと突撃すると凄まじい風のエネルギーの大爆発と、地面から二つの巨大な竜が咆哮を上げて周りに連鎖爆発を起こしながら空へと舞い上がって行った!

「ぐああああああああああっ!?クク……ハハ………!」

リィン達が放ったSクラフトによって普通なら戦闘不能になってもおかしくないダメージを受けたマクバーンだったが、それでも倒れず好戦的な笑みを浮かべてリィン達を見つめた。



「灰の若造に聖竜と魔女の娘!殲滅天使に死線と風の剣聖!他の連中に放蕩皇子とその妹も悪くねえ!ノって来たぜ……!このまま踊り続けようとしようか!?」

「………やれやれ。趣旨が違ってきてないかい?」

好戦的な笑みを浮かべて更なる戦意を高めたマクバーンの様子にカンパネルラは呆れた表情で溜息を吐いた。

「……っ……何とか焔は押さえましたが……」

「これは……長くは保たないかもしれないわね……」

「……まさに魔人か。」

「これでも、まだ倒れませんか……!」

「あ、あんな化物と子爵閣下は一人でやり合ったのか……!?」

「リィン、このままじゃ……!」

「ああ……!切り札の一つを切らせてもらう!来い――――灰の騎神、」

ヴァリマールを呼ぶ事を決めたリィンはヴァリマールを呼ぼうとしたが

「おっと、させないよ!」

カンパネルラが指を鳴らして結界を展開した!



「結界……!?」

「しかもこの結界は……物理的なものに加えて、精神的なものを遮断する結界ですね。」

「結社による灰の騎神対策ですか………レン、そちらはどうですか?」

「駄目ね。あの結界を何とかしない限り、ヴァリマールもパテル=マテルも呼べないわ。」

カンパネルラの結界にエルファティシアは驚き、セシリアの説明を聞いてすぐに結界の役割を察したサフィナはレンに訊ね、訊ねられたレンは首を横に振って疲れた表情で答えた。

「くっ……それがあったか!」

「エマ――――いえ、アンタ達だったら、結界の解除くらいすぐにできるでしょう!?」

「あら、そこで私達に話を振るとはね。」

「ふふふ、別に私達が手を貸さなくても他の方達でも可能かと思いますが?」

「お、お二人とも……今はそんな呑気な事を言っている場合ではありませんわよ……」

リィンが唇を噛みしめている中セリーヌに結界を解くように迫られたベルフェゴールは目を丸くし、リザイラは静かな笑みを浮かべ、二人の答えに脱力したセレーネは疲れた表情で溜息を吐いた。



「クク、そんじゃあこのまま喰らい合うとしようぜ……!」

「アハハ、さすがに相手が悪かったかな。トールズの”Ⅶ組”とメンフィルの”特務部隊”――――噂以上だったけどここまでか。やっぱり”深淵”か彼らに来てもらわないと――――」

マクバーンがリィン達に戦いを迫っている中カンパネルラが溜息を吐いた後意味ありげな笑みを浮かべて周囲を見回したその時!

「”Ⅶ組”ならまだいるわ!」

女子の声が聞こえてきた後怒涛の銃撃がカンパネルラとマクバーンを襲い、カンパネルラは銃撃を結界で防御した。するとリィン達の背後から現れたクルトとユウナが連携攻撃をカンパネルラを放ち

「わわっ……!?」

二人の連携攻撃にカンパネルラは思わず後ろに下がり、ユウナとクルトが一端後ろに跳躍して体勢を立て直すとミューズが駆け寄ってきて二人の背後で魔導騎銃をいつでも撃てるように構えた。



「ユウナ、クルト!ミュゼまで……!」

「あん……!?」

ユウナ達の登場にリィンが驚いている中マクバーンは水を差された事に眉を顰めたがクラウ=ソラスと一体化して突撃してくるアルティナに気づくとアルティナの突撃を回避した。

「ハッ、黒兎か……!」

「喰らえや――――!」

不敵な笑みを浮かべたマクバーンが上空にいるアルティナを見上げたその時男子の声が聞こえ、飛来してきた鎖鎌がマクバーンの顔に命中した!

「ガッ………!」

マクバーンに命中した鎖鎌はアッシュの元へと戻って行き、鎌状に変形させた刃を回収したアッシュはアルティナと並んだ。

「アルティナ、アッシュ……!」

「降り注げ聖光――――アストラルレイン!!」

アルティナとアッシュの登場にリィンが明るい表情をしたその時、リィン達にとって予想外の声が聞こえると、カンパネルラとマクバーンの頭上から光のエネルギーが降り注いだ!

「あいたっ!?」

「ぐ……っ!?」

「え…………」

「なっ!?今の声はまさか―――――」

頭上から降り注いだエネルギーによって二人がダメージを受けている中聞き覚えのある声にエリゼは呆け、リィンは信じられない表情で声を上げた。

「輝く御名の下、地を這う穢れし魂に、裁きの光を雨と降らせん。安息に眠れ、罪深き者―――――ジャッジメント!!」

「うわあああああっ!?」

「がああああああっ!?」

するとその時他の女子の声が聞こえた後カンパネルラとマクバーンの頭上より裁きの光の雨が降り注ぎ、威力が高い事に加えて術者の魔力も高い事で更に威力が増した裁きの光の雨に命中した二人は思わず悲鳴を上げた。そして術者であるゲルドと光のエネルギーの雨を放った本人であるリーゼアリアがそれぞれの得物である魔杖と魔導弓を構えて並んでいた。

「ゲルドさん……そ、それにどうしてリーゼアリアさんまで………」

「うふふ、まさか昨日レンが言った事を本当に実現するなんて、さすがのレンも驚いたわ♪」

「レン……貴女、彼女に一体何を吹き込んだのですか……」

ゲルドと共にいるリーゼアリアを見たセレーネが困惑している中、小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉を聞いてリーゼアリアまで助太刀に来た事にレンが関わっている事をすぐに察したサフィナは呆れた表情で溜息を吐いた。



「お待たせしました、教官!」

「新Ⅶ組――――協力者と共に参上しました!」

「ふふ、来ちゃいました♪」

「何とか隙は突けましたが……」

「ヤベーヤベー……ひょっとして殺っちまったか?」

「約束通り”みんな”で来たわ、リィン教官、セレーネ教官。」

「お兄様、お姉様、ご無事ですか……!?」

「き、来てくれたんだ……」

「ふふっ、さすが”Ⅶ組”を継ぐ方達ですわね♪」

「リ、リーゼアリアまで一緒に来るなんて……あら?という事はあの娘、オルキスタワーを抜け出してきたんじゃ……」

「ハッハッハッ、どうやらレン君のお陰でリーゼアリア君も中々やんちゃな仔猫ちゃんへと変わったみたいだね♪」

ユウナ達がそれぞれリィン達に声をかけている中ユウナ達の登場にアリサは驚き、シャロンは微笑み、アルフィンが戸惑いの表情をしている中オリビエは呑気に笑っていた。



「あ、有り難いがさすがにこの場は……」

「危険です!下がっていてください!」

一方敵の危険性を身をもって知っていたマキアスは不安そうな表情をし、エマはユウナ達に警告をした。

「クク、いいねぇ……そこの金茶の小僧……見込みがありそうじゃねえか?」

一方立ち上がったマクバーンは好戦的な笑みを浮かべてアッシュを見つめた。

「………マジかよ。」

「”人外”と考えた方がいいみたいですね……」

「フフ、今ので打ち止めかな?心意気は買うけどそれだけじゃあねぇ?」

真正面から顔に攻撃を受けたにも関わらず平気で立ち上がったマクバーンを見たアッシュとミューズが驚いている中カンパネルラは口元に笑みを浮かべてユウナ達に指摘した。

「甘く見るんじゃないわよ……」

「新Ⅶ組と第Ⅱ分校の力、アンタたちに見せてやる……」

「ビーコン設置完了。いつでも誘導できます。」

「デアフリンガー号への無線接続も完了しました!」

「オラ、とっとと呼べや!」

「見せてあげて、ユウナ。”私達の力”を……!」

「お願い――――ティータ!」

「了解です……!」

アルティナとミューズがそれぞれARCUSⅡを操作した後ユウナは通信でティータにある事を指示した。



~旧警備隊・貨物迂回線~



一方第Ⅱ分校は列車と共に星見の塔近辺まで移動しており、ユウナとの通信を終えたティータが振り向くとそこには背中にブースターらしき装置を取り付けたドラッケン待機していた。

「ブーストキャリア点火!3(トライ)、2(ツヴァイ)、1(アインス)、0(ヌル)――――ドラッケンⅡ号機、上昇(リフトオフ)……!」

ティータがカウントダウンを終えるとドラッケンは背中のブースターによって飛び上がり、星見の塔へと向かった!

「おおっ……!」

「す、凄い………」

「ラインフォルトとZCFが共同開発した新技術か……」

「(クク、中々面白いモンを見せてもらったぜ。ヴァイスハイト達の話通りなら、”オレ達の出番”もそろそろだな。)――――ヴァイスハイトか?オレだ、ヴァイスハイト・ツェリンダー唯一の好敵手たる”ギュランドロス・ヴァスガン”だ。)」

ランディ達教官陣が生徒達と共に星見の塔へと向かって行くドラッケンの様子を見守っている中口元に笑みを浮かべたランドロスは気配を消して列車の中へと入っていき、ヴァイスとの通信を開始した。



~星見の塔・屋上~



星見の塔の屋上に到着したドラッケンがそのまま落下すると落下の衝撃によってカンパネルラの結界は粉々に砕け散った!

「なああっ………!」

「魔術の結界を強引に……!」

「ハハ………!大した子達だ……!」

「うふっ♪この調子だとうかうかしていたら、その内特務支援課(ロイド達)も追いつかれるかもしれないわね♪」

「………そうかもしれないな。」

結界が破壊される様子をマキアスとセリーヌが驚き、オリビエが感心している中からかいの表情を浮かべたエルファティシアの言葉にアリオスは静かな笑みを浮かべて答えた。



「教官……!」

「リィン……!」

「リィンさん……!」

「レン教官も………!」

「ああ……!来い――――”灰の騎神”ヴァリマール!!」

「ええ……!来て――――パテル=マテル!!」

そして結界がなくなった事で頼もしき相棒たちを呼べるようになったリィンとレンもそれぞれ相棒の名を叫んだ。



「応―――――!」

「――――――!」

それぞれの主の呼びかけに答えた機体達もそれぞれ飛び上がって、主の元に到着した。



「あたしも付き合うわ!」

リィンがヴァリマールの中へと吸い込まれようとしたその時セリーヌもリィンと一緒にヴァリマールの中へと吸い込まれた。

「おいおい……そんなのアリかよ?」

「あはは、ちょっとばかり見くびっていたみたいだね。でも―――これでやっと”起動条件”も整ったみたいだ。」

一方完全に戦う気をなくしたマクバーンが呆れている中カンパネルラは呑気に笑った後懐から取り出した装置のボタンを押した。すると紫の神機が立ち上がった!



「動きやがったか……!」

「昨日の時と違う……!?」

「フフ、昨日は霊子エネルギーの充填が十分じゃなかったからね。だが、条件はクリアできたしもう”武装”を使うことができる。」

動きだした紫の神機にアッシュとエマが驚いている中カンパネルラは不敵な笑みを浮かべて説明をした。

「中に入るのはこれが初めてね………尋常な相手じゃなさそうだけど何とかなりそう……!?」

「前回戦ったタイプより小さいが機動性は遥かに高そうだ。妙な力の流れも感じる……まずは様子を伺いつつ崩すぞ!」

「了解だ、リィン。」

「教官―――助太刀します!」

セリーヌの問いかけに答えた後に呼びかけたリィンの言葉にヴァリマールが頷いたその時、ユウナがリィンに映像付きの通信で加勢を申し出、ユウナが操縦するドラッケンはユウナの得物である機甲兵戦用に造られたガンブレイカーを構えた。

「止めても無駄らしいな?」

「ええ―――当たり前です!あたしならではのクロスベルの意地、何としても示してみせます!」

リィンの確認の言葉にユウナが頷いたその時、ユウナのARCUSⅡが輝き始めた!

「これって……!」

「やはり発動したか……」

「うむ……おぬしらの新たな力だ。」

「フィーたちに聞いた……」

「騎神を起点に新旧Ⅶ組と特務部隊を結ぶ、霊的な結びつき(リンク)……!」

「うふふ、一部Ⅶ組でも特務部隊でもない人達も結んでいるんようね?」

それぞれ輝き始めているARCUSⅡにリィン達が驚いている中レンはからかいの表情を浮かべて自分達と同じように輝き始めているARCUSⅡを持つアルフィンとリーゼアリアに視線を向けた。



「あら、わたくしもですか……?」

「え………ど、どうしてアルフィンさんとリーゼアリアさんまで………」

「………アルフィンは兄様の夫で、リーゼアリアは”貴女や私と同じ兄様にとって大切な妹の一人”だから、その関係で結んで(リンク)しているのだと思うわ。」

「エリゼお姉様……」

困惑しているアルフィンとセレーネの疑問に静かな表情で答えたエリゼの推測を聞いたリーゼアリアは驚きの表情でエリゼを見つめた。

「これが……”騎神”を使っての戦闘の際に発生する結びつき(リンク)……」

「感じる……教官とユウナたちを。」

「ええ……(やっぱりクラウ=ソラスに似てる……)」

「あら……?」

「チッ……またかよ。」

リィン達との繋がりをゲルドとクルト、アルティナが感じている中、クルト達のようにARCUSⅡを輝かしているミューズは首を傾げ、アッシュは舌打ちをして眉を顰めた。

「(……新旧”Ⅶ組”と”特務部隊”……やはり”縁”があるみたいだな。)――――来るぞ!いったん全員下がりたまえ!」

リィン達の様子を見てある事を察したオリビエは神機の動向に気づくとクルト達に警告した。



「行くぞ、レン教官、ユウナ――――!」

「ええ!」

「はい、教官!」

そしてヴァリマールはパテル=マテルとドラッケンと共に神機との戦闘を開始した―――――




 

 

第64話

~星見の塔・屋上~



「まずは小手調べだ……ハアッ!」

「―――――」

ヴァリマールは先制攻撃代わりに敵のヘッド目がけて攻撃したが敵は両腕でガードした。

「ユウナ、両腕を一斉に攻撃するわよ!貴女は右腕を攻撃しなさい!パテル=マテル、貴方は左腕よ!」

「はい、レン教官!やあっ!」

「―――――!」

「!?」

リィンに続くようにドラッケンとパテル=マテルがそれぞれ敵の両腕を攻撃すると敵は怯み

「崩れたわ!パテル=マテル、追撃よ!」

「崩れた!頂き!」

「―――――!」

敵が怯むとパテル=マテルとドラッケンは追撃を敵に叩き込んだ。



「――――――」

「キャアッ!?」

敵は反撃に両腕からレーザーブレードへと変えてドラッケンを攻撃し

「――――!」

「クッ……!」

「パテル=マテル、身を固めなさい!」

「―――――!」

ドラッケンへの反撃を終えると巨大な機体とは思えないスピードでヴァリマールやパテル=マテルにも反撃をし、二体はそれぞれ武装や両腕でガードした。

「反撃だ―――ゲイルレイド!!」

「私達も続きましょう、リィン!――――ロードフレア!!」

「反撃開始です―――ゴルトアロー!!」

敵がそれぞれへの機体に対する反撃を終えるとユウナとリンクを結んでいるクルト、リィンとリンクを結んでいるアリサ、そしてレンとリンクを結んでいるサフィナはそれぞれリンクが結んでいる操縦者の機体の霊力(マナ)を利用しての特殊魔法(EXアーツ)を発動して敵に連続で魔法攻撃を叩き込んだ。



「―――――」

魔法攻撃が終わると敵は機体を変化させて空中に滞空した。

「空からの攻撃……アーツか、銃で迎撃しなさい!」

「わかった!―――ユウナ、頼めるか!?」

「任せてください、教官!逃がさない――――ファイアー!!」

敵の様子を見て次に何が来るか察したセリーヌの助言に頷いたリィンはユウナに声をかけ、声をかけられたユウナは頷いてドラッケンを操縦してガンブレイカーによる銃撃のクラフト―――ジェミニブラストを敵に叩き込んだ。

「!?」

銃撃を叩き込まれた敵は地上戦用へと変化して地面に着陸したが

「うふふ、これはどうかしら?」

「―――――」

「!?」

パテル=マテルが肩に装着している砲口から集束したレーザーを放ち、パテル=マテルが放ったレーザー―――バスターキャノンによって敵は更なるダメージを受けると共に怯んだ。

「―――下がれ!!」

「!?」

「隙あり!」

そこにヴァリマールがクラフト―――孤月一閃を叩き込んで敵の体勢を崩した後追撃を叩き込んだ。



「―――――」

「グッ……!?」

ヴァリマールの追撃が終わると敵は反撃に背中より追尾性のレーザーを放つクラフト―――セラフィムレイでヴァリマールに反撃を叩き込み

「教官!?この――――」

それを見たドラッケンは敵に攻撃を叩き込もうとしたが

「――――」

「キャアッ!?」

敵はドラッケンの攻撃を回避した後両腕をレーザーブレードへと変えて反撃し

「パテル=マテル、機関銃用意!」

「―――――」

「撃ちなさい(ファイアー)!!」

「――――」

更に異空間から大型の2丁の大型の銃を召喚して怒涛の連射攻撃を行ったパテル=マテルの遠距離攻撃に対して敵はすぐに反応して防御態勢へと移行して自分へのダメージを最小限に抑えた。



「援護しますわ―――――サフィールレイン!!」

味方の機体全てを回復する為にミューズはレンとのリンクへと切り替えてEXアーツ――――サフィールレインを発動してヴァリマール達のダメージを回復し

「!―――リィン教官、私の”力”も使って!エマさんはクルトと交代して機体の防御力を高める援護をお願い!」

「!!これは――――全機体、防御態勢に入れ!」

「わかりました!――――月よ、守りの力を――――クレシェントシェル!!」

自身の予知能力によって次に取る敵の行動がわかったゲルドはリィンとリンクを結んで敵の行動を予知するEXアーツ―――プレコグニションを発動させ、敵の次の行動が大技である事を知ったリィンはユウナとレンに指示をし、エマは防御能力を一時的に高めるEXアーツを発動してそれぞれ防御態勢に入っている機体全ての防御能力を高めた。



「――――――!!」

「く……っ!?」

「キャア……ッ!?」

「―――――」

そしてエマのEXアーツが発動し終えた後敵は背中から怒涛のエネルギー弾を機体全てに放つSクラフト―――滅天アウナロクを発動し、ヴァリマール達はそれぞれ防御態勢のままで敵の大技を耐えきった

「何とか無事凌ぎ切れたわね……まずは回復に専念しなさい!」

「わかっている!アリサ―――いや、リーゼアリア!力を貸してくれ!」

セリーヌの助言に頷いたリィンは全機体を回復させる為に一瞬アリサの力を借りようとしたが、すぐに機体のダメージと闘気の同時回復能力を持つアリサのEXアーツよりも機体の回復に専念しているリーゼアリアのEXアーツの方が回復量が多い事に気づき、リーゼアリアを呼んだ。

「お任せください、お兄様!――――女神よ、どうかご慈悲を……!」

リィンに呼ばれたリーゼアリアは全機体の総エネルギーの半分に当たるエネルギーを回復させるEXアーツ―――ホーリースコールを発動してヴァリマール達のダメージを完全に回復した。



「皆さん――――頑張ってください!!」

「援護します――――セイントルーン!!」

更にユウナとレン、それぞれとリンクを結んだアルフィンは機体全ての攻撃能力とスピードを上昇させるEXアーツ―――プリンセスエールを、レンとリンクを結んだエリゼは一時的に機体のダメージと闘気を自動回復させる効果を付与するEXアーツ―――セイントルーンを発動してヴァリマール達を援護した。

「ありがとうございます!さっきのお返しよ!ハァァァァァ……喰らえ!!」

「!?」

「頂き!」

そしてドラッケンは敵に対する反撃にクラフト―――クロスブレイクを敵に叩き込んで敵が怯むと追撃をし

「パテル=マテル、ロケットパンチよ♪」

「―――――!!」

ドラッケンの追撃の後にパテル=マテルは両腕によるロケットパンチを放つクラフト―――ダブルクラッシャーパンチを敵に叩き付けた!

「!?」

真正面から2つの巨大な腕を受けた衝撃によって敵は”気絶”状態に陥って無防備な所を見せた。

「唸れ……オォォォォ……!螺旋撃!!」

「!?」

「そこだっ!」

「!?…………」

敵が”気絶”状態に陥るとヴァリマールは炎を宿した太刀で螺旋を描くような斬撃を敵に叩き込んで怯ませ、追撃をして敵のダメージを重ねた。すると今までのダメージによって敵は”ブレイク”状態になり、再び無防備な状態を見せた。



「チャンス!頼みます、教官!」

「わかった♪」

「レンに任せて♪」

無防備な状態の敵を見て好機と判断したドラッケンはヴァリマールとパテル=マテルと共に連携攻撃を開始した。

「ヤァァァァァ……ッ!」

「―――下がれ!」

「パテル=マテル、ダブルバスターキャノン発射!!」

「―――――!!」

ドラッケンがクラフト―――ジェミニブラストを敵に叩き込むと、ドラッケンに続くようにヴァリマールはクラフト―――弧月一閃を、パテル=マテルはクラフト―――ダブルバスターキャノンを敵に叩き込み

「エクセル――――バースト!!」

止めにドラッケンはガンブレイカーを突きの構えにして敵に突撃した!

「――――――!!!???」

ドラッケン達が放った連携技による大ダメージを受けた事と今までの戦いで蓄積したダメージによってついに限界が来た敵は全身をショートさせながら戦闘の続行が完全に不可能になった!



「やった……!」

「……導力機関、停止したみたいです。」

「凄いな、3人とも……!」

「ええ……本当に!」

「フフ、やるじゃない。」

「……見事だ。」

新旧Ⅶ組がそれぞれリィン達の勝利に喜んでいる中エルファティシアとアリオスは感心した様子で見守っていた。

「フフ……やったじゃない?」

「ああ……ユウナも含めてみんなのおかげだ。」

「少しは示せた、かな………」

「ま、こんなものね。」

ヴァリマールの中にいるセリーヌの言葉にリィンは頷き、それぞれの機体を操縦していたユウナは満足げな笑みを浮かべ、レンは口元に笑みを浮かべた。



「フフ、やられちゃったか。博士はいい顔をしないだろうけどこれにて実験は終了だね。」

「使い捨てだ、構わねぇだろ。それより――――そろそろ出て来いよ、”3人とも”?」

一方苦笑しているカンパネルラの言葉に答えたマクバーンは意味ありげな言葉を口にして周囲を見回した。

「え……!?」

「まさか―――」

マクバーンの言葉を聞いたアリサ達が驚いたその時

「フフ……さすがに気づかれてたわね。」

突如女性の声が聞こえ、声が聞こえた方向にその場にいる全員が視線を向けると柱の一つに女性の幻影が姿を現した!



「あ…………」

「結社身喰らう蛇”第二柱”――――”蒼の深淵”……!」

「まさかこのタイミングで姿を現すとは……」

「貴女がエマさんが探していた”魔女”………」

「あれは”幻影”ね。」

女性の幻影の登場にエマは呆け、セシリアとサフィナは真剣な表情を浮かべ、ゲルドは静かな表情で女性の幻影を見つめ、レンは女性が幻影である事にすぐに見抜いた。



「姉さん……!やっと見つけたわ……!」

「何やってんのよアンタは……!」

女性――――かつての結社の蛇の使徒の第二柱―――”蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダを確認したエマはヴァリマールの中から出たセリーヌと共に前に出てクロチルダに声をかけた。

「久しぶりね、エマ、セリーヌ。リィン君たちに黒兎も。皇子殿下と皇女殿下、風の剣聖に混沌の森王、そしてリィン君の従妹と新Ⅶ組の子達は改めてお見知りおきを。元・帝都歌劇場の歌姫にして結社”身喰らう蛇”が第二柱――――”蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダよ。」

「失踪中の歌姫……!?」

「あ、貴女があの蒼の歌姫(ディーヴァ)……」

「ふふ、こんな場所でお目にかかるなんて……」

クロチルダが自己紹介をするとクルトは驚き、リーゼアリアは呆け、ミューズは微笑んだ。



「フフ………カンパネルラにマクバーン。半年ぶりくらいかしら?」

「アンタが”結社”と揉めて行方をくらまして以来だな。まったく面倒くせぇ真似をしてくれたもんだぜ。」

「たしか使い(グリアノス)はやられちゃったんだろう?フフ、幻影を飛ばすにしても”近く”にはいそうだね……?」

クロチルダに声をかけられたマクバーンは溜息を吐き、カンパネルラは意味ありげな笑みを浮かべた。

「ふふ、否定はしないわ。さすがに今回ばかりはピンチかもしれないわね。」

「姉さん、どうして……”結社”から離れたのだったら、どうして戻ってくれなかったの!?おばあちゃんに杖まで返して……!」

「――――私の忠誠はあくまで”あの方”に捧げられている。その意味で、一族の魔女として里に戻ることは無いでしょう。」

「………そんな………」

「”あの方”……”英雄王”達に討ち取られたという結社の”盟主”とやらね……」

「うふふ、死んでもなお忠誠を誓うのはある意味感心するわ。」

「……そうですね。亡き主に未だ忠誠を捧げるという点では、同じ主に忠誠を捧げる”騎士”の一人として気持ちは理解できます。」

結社を離れてもなおクロチルダが故郷に戻ってこない理由を知ったエマが辛そうな表情をし、セリーヌが目を細めている中小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉にサフィナは静かな表情で頷いた。



「フフ、とは言っても最近ちょっと事情も変わってね。婆様と貴女たちと話したいこともでてきたのだけど……まあ、それはともかく――――”魔女”が姿を現したのなら”そちらも出るのが筋”じゃないかしら?”」

「フッ……道理だな。」

クロチルダが意味ありげな笑みを浮かべて視線を向けると、クロチルダがいる場所とは違う場所にいつの間にか仮面の男がいた!

「え――――」

「……なん……」

「あの方は……」

仮面の男の登場にアリサは呆け、マキアスは絶句し、シャロンは目を丸くした。

「い、いつの間に……!」

「……あの球体は………」

「……何者だ。」

「ハア……まさかどこかのバカ王みたいに趣味の悪い仮面をつけるような人が他にもいるとはね。」

クルトは驚きの表情を浮かべ、アルティナは仮面の男の側に浮いている謎の球体を見つめ、アリオスは警戒の表情で男を睨み、エルファティシアは呆れた表情で溜息を吐き

(予め父上から話は聞いていましたが………こうして直に見ると本当に驚きますね。)

(ええ……そして隣にいる球体を通して諸悪の根源の一つである”黒”が私達を見ているのでしょうね……)

サフィナとセシリアは小声で会話をしながら男と球体を見つめた。

「か、仮面………?なんなのよコイツ……”デアフリンガー”!そちらに映像は行ってますか?」

一方ユウナは困惑した後通信をした。



~デアフリンガー号・1号車~



「な、なんだコイツは……!?」

「”結社”……?いや、話の流れからすると……」

一方その頃映像に映っている仮面の男を見たミハイル少佐は困惑し、ランディは真剣な表情で考え込んでいた。

「…………………」

「ト、トワ教官?どうしたんですか?」

辛そうな表情で黙り込んでいるトワに気づいたティータは困惑の表情でトワに声をかけた。



~星見の塔・屋上~



「―――お初にお目にかかる。”蒼”のジークフリードという者だ。”地精”の長代理として参上した。」

仮面の男―――蒼のジークフリードが名乗るとその場にいる多くの者達は驚いた。

「ち、地精……!?」

「それって確か……」

「……魔女の始祖たちと共に”騎神”を造った………」

「しかも、長代理って……」

「………………」

「うふふ………アハハハハハッ……!―――とうとう現れたわね。この1年半、ううん……数百年の永きにわたり、歴史から消えていた勢力が……!」

ジークフリードの所属している勢力を知った旧Ⅶ組の面々が困惑している中シャロンは辛そうな表情で黙り込み、クロチルダは声をあげて笑った後意味ありげな笑みを浮かべた。



「……数百年………」

「な、何言ってやがる……」

「……途方もない話みたいですね。」

「「…………………」」

(”地精(グノーム)”……1200年前の真実を知る片方か……しかしあの”彼”は……)

(お兄様……?)

旧Ⅶ組の面々もそれぞれジークフリードに注目している中真剣な表情を浮かべたオリビエの様子を不思議に思ったアルフィンは不思議そうな表情で首を傾げた。



「……クク、面白ぇ。”惜しいヤツとは思ってたが”……まさかそう来やがったとは。」

「へえ、何やら因縁があるみたいだね?それにしても、いいね君!”結社”の相手に相応しいよ!」

一方口元に笑みを浮かべたマクバーンの言葉を興味ありげな様子で聞いていたカンパネルラは口元に笑みを浮かべてジークフリードに声をかけた。

「フッ、今回は顔見せに終わってしまいそうだが……―――”身喰らう蛇”。よければやりあってもいいが?」

カンパネルラの挑発に対して静かな笑みを浮かべて答えたジークフリードは2丁の銃を取り出して構えた。

「っ……!」

「その武装は……」

「2丁の導力銃、ですか……」

「………?」

ジークフリードの武装を見て血相を変えているアリサ達を不思議に思ったセレーネは首を傾げた。

「――――だったら、結社ではなく俺達とやり合ってもらおうか?」

するとその時男の声が聞こえ、聞き覚えのある男の声を聞いたその場にいる全員が驚いたその時ヴァイス、リセル、ルイーネ、エルミナ、パティルナ、アルが屋上と塔内を結ぶ出入り口から現れた!


 
 

 
後書き


お待たせしました!ついに光と闇の軌跡シリーズ恒例の原作改変という名のエウシュリー無双の話が次回から始まりますwwなお、今回はエウシュリー以外の陣営も無双しますが(ニヤリ)
 

 

第65話




~星見の塔・屋上~



「ヴァ、ヴァイスハイト陛下!?それにリセル皇妃陛下や他の”六銃士”まで……!」

「な、何で、リセル教官達がこんな所に……!?」

ヴァイス達の登場にリィンとユウナは驚きの声を上げ

「おいおい、俺達がここにいる事はそんなにおかしくないぞ?」

「そうね。何せ交流会に訪れたエレボニアのVIPの関係者が行方不明になったのだから、その捜索、並びに行方不明になった人を”保護”する為に様々な事情で軍に警察、そして遊撃士達が忙しい中手が空いている私達”六銃士”自ら動いてもおかしくないでしょう?」

「エ、”エレボニアのVIPの関係者が行方不明になった”って、もしかして………」

「………ぁ………………」

「………………」

ヴァイスとルイーネの答えにアルフィンは驚きの表情でリーゼアリアに視線を向け、リーゼアリアは呆けた声を出して辛そうな表情をし、エリゼは複雑そうな表情で黙り込んでいた。



「とは言っても、それはあくまで”我々六銃士が全員揃って”少しの間クロスベルを留守にする”建前”で、”本命”は貴方達です――――結社”身喰らう蛇”の残党に”地精(グノーム)”。」

「………………」

「へえ?僕達に何の用かな?”実験”も終わったから、もう撤収する所だよ?」

エルミナの説明にジークフリードが黙り込んでいる中、カンパネルラは興味ありげな様子でヴァイス達に問いかけた。

「あはは、もしかして本気でわからないの?―――――あたし達の”敵”がわざわざクロスベルに姿を現した挙句、あたし達の国で好き勝手に暴れてくれたんだから、それらに対する”落とし前”を付ける為に決まっているじゃん!!」

「――――既に工匠特製の転移封じの結界は展開しました。少なくても貴方達は”転移”の手段でこの場から撤退する事はできませんよ。」

カンパネルラの問いかけに対して声を上げて笑ったパティルナは好戦的な笑みを浮かべて投刃を、アルは静かな表情で答えて剣とアサルトマシンガンを構え、ヴァイス達も続くようにそれぞれの武装である大剣、銃剣、細剣、双剣を構えた!



「ええっ!?」

「”落とし前”ってま、まさかとは思うが………」

「”結社”を滅ぼす為に行っていたメンフィル・クロスベル連合の”蛇狩り”ですか……」

「ハハ……このタイミングで姿を現すなんて、狙っていたとしか思えないよ。そう言えばエルファティシア皇妃陛下がセリカさん達を後でボク達の援軍に向かわせるといっていたが、まさか彼らも共に来ているのかい?」

ヴァイス達のやろうとしている事を知ったエマは驚き、マキアスは信じられない表情をし、シャロンは静かな表情で呟き、疲れた表情で呟いたオリビエはヴァイスに問いかけた。

「――――その通りだ。」

するとその時まるで女性を思わせるような男の声が聞こえた後セリカ一行がヴァイス達の背後から姿を現した!



「へ。」

「ちょっ、君は……!?」

「アイドスさん!?い、いえ――――”別人”……!?」

「”セリカ”……と言う事はアンタがリィン達の話にあった後でリィン達に合流するつもりだった慈悲の女神(アイドス)の”兄”とやらね………―――何者よ、アンタ。」

セリカ達の登場にマキアスは呆けた声を出し、カンパネルラが表情を青褪めさせて声を上げ、エマはセリカを一瞬アイドスと思ったがすぐに別人である事に気づき、セリーヌは目を細めてセリカに問いかけた。

「――――”レウィニア神権国客将”セリカ・シルフィル。”今のお前達に名乗れるとしたら”、この肩書きくらいだ。」

「―――軍神(マーズテリア)様より”神核”を賜りし者の一人――――ロカ・ルースコートよ。」

「セリカ様の”第二使徒”のマリーニャ・クルップよ。よろしくね♪」

「セリカ様の”第三使徒”、シュリ・レイツェンです。以後お見知りおきを。」

「初めまして~、サリアはご主人様の”第四使徒”のサリア・レイツェンです~。」

「わらわはセリカの”第五使徒”にして”古神七英雄”が一柱、”紅雪”のレシェンテじゃ!わらわの力に恐れおののき、ひれ伏すがいい、結社の残党に地精とやらよ!」

「わたし……ナベリウス………冥き途……門番……よろ……しく………」

セリーヌに問いかけに対してセリカ達はそれぞれ名乗り、セリカ達の自己紹介の一部が気になったセリカ達の事を知らないその場にいる全員は冷や汗をかいた。



「な、なんなんだ、この人達は……」

「しかも”ナベリウス”って確か”ソロモン72柱”の一柱――――”冥門候”の名前じゃない……まさかとは思うけど、あの娘が”冥門候”なのかしら?彼女から感じられる霊力(マナ)もベルフェゴールやリザイラみたいに、”人”が持つにはありえない莫大な霊力だし………」

「そ、それに……あのメイド達は”使徒”って言っていたけど………少なくてもクロチルダさんの”蛇の使徒”とは違うわよね……?」

「え、ええ……そもそもあちらには姉さんと同じ”第二使徒”を名乗る方もいらっしゃいますし……」

「うふふ……アハハハハハハッ!まさかこのタイミングで結社と地精、どちらにとっても”イレギュラー”の存在である貴方達まで姿を現すなんて。フフ、それで”貴方達”はどうするのかしら?」

我に返ったマキアスとセリーヌは疲れた表情で溜息を吐き、困惑の表情をしているアリサの疑問に頷いたエマは困った表情を浮かべてクロチルダに視線を向け、目を丸くしてヴァイス達やセリカ達を見回していたクロチルダはやがて声を上げて笑った後意味ありげな笑みを浮かべてカンパネルラ達とジークフリードに問いかけた。



「クク……ハハ………ハハハハハハッ!当然、やり合うに決まっているじゃねぇか!まさか、”味見”のつもりで来たのにこんな”御馳走”まで転がりこんだんだから、当然喰らい合うに決まっているだろうが!オオオォォォオォォオオ――――ッ!」

クロチルダの問いかけに対して声を上げて笑ったマクバーンは好戦的な笑みを浮かべた後再び火焔魔人と化し

「ちょっ、マクバーン!幾ら君でも彼ら―――特に”嵐の剣神”を相手にするのは不味いよ!”嵐の剣神”は彼女――――”鋼の聖女”すらも圧倒したんだよ!?」

「ハアッ!?」

「あ、あのリアンヌ様を圧倒するなんて……」

「フフ、どうやら”形勢逆転”のようですわね♪」

「ハハ、僕達の知らない所で結社にまで恐れられる程の武勇伝を作っていたなんて、さすがはセリカさん達だね……」

慌てているカンパネルラの話を聞いたアリサ達がそれぞれ血相を変えている中セリーヌは驚きの声を上げ、アルフィンは信じられない表情をし、シャロンは微笑み、オリビエは苦笑していた。



「ハハハハハハッ!アリアンロードを圧倒したって話が本当なら、余計に面白くなってきたじゃねぇかあっ!!”英雄王”と”漆黒の守護神”へのリベンジの前哨戦にちょうどいい相手だ。アツく喰らい合おうぜ、”嵐の剣神”!!」

「フフ、相変わらずセリカは人気者ね。」

「俺にとっては迷惑な話なんだがな……それにしても俺がリウイ達に対するリベンジの前哨戦か。この俺と対峙してそんな愚かな事を考えている時点で、お前のような”雑魚”がリウイに届くわけがないだろうが。」

好戦的な笑みを浮かべて異空間から自身の黒き焔によって形成した黒き焔の剣を取り出して構えたマクバーンにセリカが名指しされるとロカは苦笑しながらセリカに視線を向け、セリカは呆れた表情で溜息を吐いた後静かな表情で答えた後ロカと共にマクバーンと対峙し

「あん……!?」

(クク、あの雑魚に見せてやれ、セリカ!”本物の強者”という”力”を!)

セリカの言葉にマクバーンが不愉快そうな表情をしている中ハイシェラは不敵な笑みを浮かべてセリカを促した。



「さて、結社のほうはやる気のようだが………――――そちらはこのまま、尻尾を巻いて逃げるつもりか、地精とやら?」

「………………」

不敵な笑みを浮かべたヴァイスに視線を向けられたジークフリードは何も語らず黙り込み

「うふふ、逃げたいのなら別に逃げてもいいわよ?もし本当に逃げるのだったら、貴方達や貴方達の”主”も所詮は”その程度の存在”で、私達”六銃士”の足元にも及ばない”雑魚”である”証拠”なのだから、”雑魚”に構っていられる程私達は暇じゃないのよ♪」

「ル、ルイーネ皇妃陛下……」

「クク、あんなあからさまな挑発をするとかさすがあのランドロスのツレをやっているだけはあるぜ。」

「クスクス、アッシュさん。ルイーネ皇妃陛下の伴侶の殿方は”ランドロス教官ではなくギュランドロス皇帝陛下”ですわよ。」

微笑みながらジークフリードを挑発するルイーネの様子にセレーネは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、不敵な笑みを浮かべたアッシュにミューズは静かな笑みを浮かべて指摘した。



「クク……まさか我等地精がここまでコケにされるとはな。俺としては”リハビリ”代わりに付き合ってもいいがどうする、”長”。」

「……”観察”だけに留めるつもりだったが、予定変更だ。”蒼”の使用も許可する。全力を持って我等や我等の”主”の”今後”を乱す”イレギュラー”達を今のうちに”始末”しなさい、ジークフリード。」

「ほう……?――――了解だ。来い―――オルディーネ!」

隣にいる球体に判断を促したジークフリードは興味ありげな表情を浮かべた後リィン達にとって驚愕の言葉を口にした!

「な―――――」

「ええっ!?オ、”オルディーネ”って……!」

「と言う事はまさかあのジークフリードという仮面の男の正体は……!」

「……なにが………どうなっているんだ……?」

ジークフリードの言葉を聞いたリィンが絶句し、セレーネとエリゼが信じられない表情をしている中、マキアスは呆然とした様子でジークフリードを見つめた。するとジークフリードの背後に蒼い翼の騎神らしき”影”が現れた!



「あれは……翼!?」

「サザ―ラントでも現れた”騎神”とは別の……!?」

「それにどことなくヴァリマールに似ているけど……もしかしてあの機体もヴァリマールと同じ……」

新たに現れた”影”にユウナとクルトが驚いている中、ゲルドは不思議そうな表情で影を見つめた。そしてジークフリードがリィンのように”影”の中へと入っていくと、”影”は跳躍して星見の塔の屋上に着地し、着地した”影”は実体化した!



「ぁ…………」

「”蒼の騎神”…………」

”影”――――”蒼の騎神”オルディーネが実体化するとアリサとエマは呆けた声を出した。

「――――どうやら、これで”予定通りの流れ”になりましたね。―――パティ。」

「オッケー、エル姉!――――部下に任せて自分は高見の見物なんて真似……気に入らないんだよっ!」

静かな表情で答えたエルミナの言葉にヴァイス達とセリカ一行を除いたその場にいる全員が驚いている中エルミナに視線を向けられたパティルナは突如投刃をジークフリードがいた場所の傍に浮いている球体目がけて放った!

「な―――――」

パティルナの突然の奇襲に球体が驚いた瞬間、球体は投刃によって真っ二つに割れて破壊され、パティルナの元へと戻って行った!



「アル、予定通り、お前達は地精の相手だ。」

「了解しました。」

「マリーニャさん、サリア、レシェンテ、ナベリウスさん!私達も……!」

「オッケー!」

「はいです~♪」

「ん………」

「久々の大物じゃ!その屑鉄ごしにとくと思い知るがよい、わらわ達の”力”を!」

ヴァイスに指示をされたヴァイスとリセルを除いた”六銃士”、シュリに促されたマリーニャ達はシュリと共にそれぞれオルディーネを包囲するようにそれぞれの武装―――シュリは二丁の小型魔導銃、マリーニャは両手に短剣、サリアはスリングショット、ナベリウスとレシェンテはグローブを付けている両手を構えた。

「ええっ!?も、もしかして生身であんなとてつもない存在に挑むおつもりなのですか……!?」

「常識で考えたらあの連中の行動は”無謀”だけど、大方あの連中はあんた達みたいにその”常識”の枠に入らない”人外”クラスの連中なんでしょう?」

「うふふ、レン達と付き合ってきて、わかってきたみたいね♪」

シュリ達が生身でオルディーネと戦おうとしている事にリーゼアリアが驚いている中疲れた表情で問いかけたセリーヌの疑問にレンは小悪魔な笑みを浮かべて肯定した。



「さてと――――残った俺とリセルが”道化師”の相手をするといいたい所だが……――――いい加減出て来たらどうだ、”ギュランドロス”。」

「へ。」

リセルと共にカンパネルラと対峙したヴァイスが呆れた表情である人物の名前を口にし、その名前を聞いたリィン達が驚いている中ユウナは呆けた声を出した。

「クク、”真打ち”は遅れて登場してくるもんだぜぇ?」

すると獰猛な”獣の王”を思わせるような容姿を持ち、”ランドロスと瓜二つの真紅の鎧”を纏い、”仮面を付ければランドロスと瓜二つにしか見えない”大男―――――クロスベル皇帝の一人にして、”六銃士”の”紅き暴君”の異名を持つギュランドロス・ヴァスガンが不敵な笑みを浮かべて屋上と塔内の出入り口から姿を現してヴァイスとリセルと共に並んで自身の武装である大剣を構えた!

「ランドロス教――――いや、もう一人のクロスベル皇帝――――ギュランドロス・ヴァスガン皇帝陛下!?」

「どうしてこちらに……エレボニア帝国政府による介入で、今回の件にランドルフ教官と共にリィン教官達に加勢する事を禁じられていたのでは……」

ギュランドロスの登場にクルトが驚き、アルティナは戸惑いの表情で疑問を口にした。



~デアフリンガー号・1号車~



「ええっ!?ど、どうしてランドロス教―――いえ、ギュランドロス皇帝陛下があそこに……!?さっきまでランドロス教官はわたし達と一緒にいたはずなのに………」

「……くっ………大方クロスベルの”転移”の使い手によって、我々の目を盗んであの場へと転移したのだろう。―――――これはどういう事だ、”ランドルフ准佐”!?クロスベルでの要請(オーダー)が発生した際、君とランドロス教官のシュバルツァー教官達の同行を認めない事は、エレボニア帝国政府とクロスベル帝国政府の間で決められたのだぞ!?何故、それを堂々と破った……!」

「いや、そこで俺を責められても困るんッスけど!?こっちだって、あのオッサンの”独断専行”は今知って、マジで驚いているんだぜ!?」

同じ頃モニターで状況を見守っていたトワは信じられない表情で声を上げ、唇を噛みしめたミハイル少佐は厳しい表情でランディに問いかけ、問いかけられたランディは疲れた表情で反論した。



~星見の塔・屋上~



「ちょっ、何で”紅き暴君”までここに現れる訳!?確か”紅き暴君”はかエレボニア帝国政府とクロスベル帝国政府との取り決めで、ここに来ることを禁じられていたんじゃなかったの!?」

「おいおい、あの件に関係している奴はランディと”仮面の紳士”ランドロス・サーキュリーという男だぜ?オレサマはギュランドロス・ヴァスガン!オレサマはランディでもないし、”仮面の紳士”とは”全くの別人”だぜぇ!」

「いや、無理があるでしょ………」

「む、無茶苦茶過ぎる暴論だ……」

「それに何なのよ、”仮面の紳士”って………というか、あんな無茶苦茶な人が私達の新たな祖国の皇帝の一人なのね………」

「ふふ、常識を平然と破り、国や皇族のしがらみに囚われず自分の思うがままに生きる”紅き皇”………まさに異名通り”紅き暴君”ですわね。」

焦った様子で指摘したカンパネルラの指摘に対して堂々と答えたギュランドロスの説明にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セリーヌは呆れた表情で呟き、マキアスとアリサは疲れた表情で呟き、シャロンは苦笑しながらギュランドロスを見つめた。

「ハッハッハッ、まさか僕の真似をするとは、さすがは我が親友の好敵手だね♪」

「もう……笑いごとではありませんわよ、お兄様……」

「フフ、ですが興味深い対決になりそうですね。」

「ええ………エフラムが知れば、この対決に居合わせなかった事を本気で悔しがるでしょうね。」

一方呑気に笑っているオリビエにアルフィンは呆れた表情で指摘し、セシリアとサフィナはそれぞれ苦笑しながら見守っていた。



「第一、オレサマ達の国で好き勝手暴れた挙句、オレサマ達の国民を泣かせた馬鹿共がいると知っていて、このオレサマが黙っていると思っていたのか?」

「幾ら結社であろうとも、”バカ王”のお前にだけは”馬鹿”呼ばわりされる筋合いはないと思うが……民――――それもまだ成人もしていない女子供を泣かせた事を許さない点については俺も同じ考えだ。」

「……そうですね。私も”教え子”を泣かした貴方達は心の奥底から許せません。そして”教え子”が立ち直ってクロスベルの”意地と誇り”を示したのですから、今度はクロスベルの”皇”であるお二方と”教官”である私達が示す番です。」

厳しい表情を浮かべたギュランドロスに呆れた表情で指摘したヴァイスだったがすぐにギュランドロスのようにリセルと共に厳しい表情を浮かべてカンパネルラを睨んだ。

「………あ…………」

ギュランドロス達の話に出た人物が自分である事にすぐに気づいたユウナは呆けた声を出し

「フフッ………――――だったら、あの娘にとっての先輩である私もロイド達の代わりに貴方達と共に”誇り”と”意地”を示さないとね。仕方ないから貴方達の”馬鹿騒ぎ”に付き合ってあげるわ♪」

「――――ならば俺は未だこんな俺を慕ってくれるクロスベルの市民達の為に、クロスベルの災いになりうるその機体の撃破で示そう―――――クロスベルの”意地”と”誇り”、そして”力”を。」

「エ、エルファティシアさんとアリオスさんまで……」

更にエルファティシアとアリオスもそれぞれ静かな笑みを浮かべて参戦を申し出てエルファティシアはヴァイス達と共にカンパネルラに対峙し、アリオスはルイーネ達と共にオルディーネと対峙し、その様子を見ていたセレーネは苦笑していた。



「ハハハハハハッ!最高にアツくなってきたじゃねぇかあっ!」

「いや、僕としては最悪の展開なんでだけど………ハア。何で、こうなったんだか。」

「フッ、その”意地”と”誇り”とやらでどこまでこの”力”を前に示せるか、見せてもらおう。」

それぞれが相手する使い手達と対峙したマクバーンは好戦的な笑みを浮かべて声を上げて笑い、カンパネルラは疲れた表情で溜息を吐き、オルディーネの中にいるジークフリードは静かな笑みを浮かべた。

「――――トールズ第Ⅱとその協力者の連中!”三帝国交流会”の最中に起こったオレサマ達の国の事件解決の貢献をした礼に見せてやろう、オレ達”六銃士”―――いや、クロスベルの”力”、”意地”と”誇り”を!」

「そして”双界最強の剣士”たるセリカの力も見ていくといい!」

「俺達の戦いを見世物にするな……それに勝手に俺の肩書きまで増やすな………それを真に受けた面倒な連中が増えるだろうが。――――サティアの為に貴様は滅ぼす。―――――行くぞ。」

ギュランドロスとヴァイスはそれぞれ高々と宣言し、セリカは呆れた表情で指摘した後すぐに表情を引き締めてロカと共にマクバーンとの戦闘を開始し、ヴァイス達もそれぞれの相手との戦闘を開始した――――!










 
 

 
後書き


という訳でクロスベル陣営VS結社&オルディーネというまさかの対決です!そして予告していたセリカの相手は予想していた人達もいたでしょうが、”最強”同士の対決という事でマクバーンでしたwwまあ、ロカでも単独で勝てるような気はしますが(ぇ)なお、今回のイベントBGMは魔導巧殻のOP”月女神の詠唱 ~アリア~”のフルVERで、ヴァイス達VSカンパネルラとクロスベル陣営&戦女神陣営VSオルディーネの戦闘BGMは魔導巧殻の”勇猛無比”か天秤の”戦女神 Second half Loop”、セリカ&ロカVSマクバーンの戦闘BGMはZEROの”我が剣、飛燕の如く!”か天秤の”轟け、飛燕の力 戦士arr.ver”だと思ってください(マクバーンだけ、セリカの宣言通り雑魚戦のBGMww)なお次回とその次はお待ちかねの空、零・碧の主人公達も登場します♪
 

 

外伝~”空の女神”エイドスの末裔、エステル・ファラ・サウリン・ブライト~

~同時刻・クロスベル帝国オルディス地方・西ランドック峡谷道~



ヴァイス達の戦いが始まったその頃、かつてエレボニア帝国の領土であったが、”七日戦役”によってクロスベルの領土となったユーディット達の故郷――――”海都オルディス”から、エレボニア帝国の領土であり、山中にある町でありながらカジノといったギャンブルなどの施設が充実している”歓楽都市ラクウェル”へと続く西ランドック峡谷道をミリアムとクレア少佐はクロスベル帝国の領土で諜報活動を行っていた20数人の鉄道建部隊や情報局に所属している軍人達と共に、峡谷道の途中にある国境でもある関所を目指していた。

「……何とか追手は撒いたようだね~。」

「ええ……ですが、峡谷道に伏兵を潜ませている可能性も考えられますから、油断せず関所を目指しましょう。」

背後を見て誰も追っていない事を確認したミリアムの言葉にクレア少佐は静かな表情で頷いて軍人達を促した。

「イエス・マム。」

「しかしクロスベルの連中、まさか我々を”結社の残党”扱いするという強引な手段を取って、我々の一斉検挙をしてくるなんて……!」

「我等が主も失った薄汚い裏組織の残党だなんて、どう考えても冤罪だろう!クソッ!」

軍人達はそれぞれクロスベルに対する悪態をついていた。



「―――ま、冤罪はともかく、結社みたいに裏でコソコソ動いて悪い事をしようとしている事に関しては結社と同類だと思うわよ。」

「!!」

「やっぱ、簡単に国境を超えさせてはもらえないみたいだね~。」

するとその時娘の声が聞こえ、声を聞いたクレア少佐が軍人達と共に周囲を警戒している中ミリアムは疲れた表情で呟いてすぐに表情を引き締めて周囲を警戒していた。すると街道から外れた場所へと続く道から栗色の髪の娘、漆黒の髪の青年、蜂蜜色のような金髪の娘、そして黄金のような輝きの金髪の女性が現れてクレア少佐達と対峙した!

「き、貴様らは――――!」

「最上級警戒対象者――――”剣聖”カシウス・ブライトの娘にして”空の女神エイドス”の末裔でもある史上初”SSランク”正遊撃士”遊撃士の中の遊撃士(ブレイサーオブブレイサー)”エステル・ファラ・サウリン・ブライトにその娘、Sランク正遊撃士”黄金の百合”ミント・ルーハンス・ブライト!」

「しかもAランク正遊撃士”漆黒の牙”ヨシュア・ブライトと”黄金の女帝”フェミリンスまで!」

栗色の娘達の登場に血相を変えた軍人達はそれぞれ厳しい表情で娘達を睨んだ。



「……どうやら自己紹介の必要はなさそうですわね。」

「アハハ、ミント達、以前のエレボニアでの活動でエレボニアでも有名になったもんね~。」

「それも悪い意味でね………」

「ちょっと、ヨシュア。何でそこであたしを見るのよ?―――って、そんな事より今はこいつらね。―――――あんた達には言わなくても知っているでしょうけど、あたし達は遊撃士協会よ!大人しく投降しなさい!」

金髪の女性――――遥か昔の異世界ディル=リフィーナのレスペレント地方全土を納めていた女帝にして女神―――”姫神”フェミリンスは静かな表情で呟き、金髪の娘――――セレーネと同じ”パートナードラゴン”という竜族の娘にしてメンフィル帝国から”伯爵”の爵位を授けられたゼムリア大陸全土で数名しか存在しないS級正遊撃士”黄金の百合”ミント・ルーハンス・ブライトは苦笑し、漆黒の髪の青年――――かつて結社”身喰らう蛇”の執行者の一人であったA級正遊撃士”漆黒の牙”ヨシュア・ブライトは呆れた表情で栗色の娘を見つめ、見つめられた栗色の娘―――――”百日戦役”で活躍したリベール王国の英雄―――”剣聖”カシウス・ブライトの娘にしてミント同じくメンフィル帝国から”侯爵”と”ロード”の爵位と称号を授けられたゼムリア大陸史上初のSSランク正遊撃士――――”ブレイサーオブブレイサー”エステル・ファラ・サウリン・ブライトはジト目で反論した後クレア少佐達を睨んで投降を促し

「国際犯罪組織”身喰らう蛇”の残党の疑いがかけられた貴方達には他にもクロスベル帝国で犯した様々な容疑があり、クロスベル帝国政府は貴方達の逮捕の協力を僕達遊撃士協会にも依頼し、遊撃士協会は規約に従い、依頼を請けました。」

「大人しく投降するのならばそれでよし―――――拒否するのならば、”強制執行”をさせてもらいますわ。」

「クロスベル帝国に引き渡しても、罪を許されてクロスベル帝国から解放されるまでの貴方達の身柄の保証は遊撃士協会がするよ!だから、大人しく投降して!」

ヨシュア、フェミリンス、ミントもエステルに続くようにクレア少佐達に説明や投降を促した。



「ふ、ふざけるな!”我等の所属”を知っていながら、我等を”結社の残党”扱いする等全て貴様らクロスベルと遊撃士協会の(はかりごと)だろうが!」

「しかもよりにもよってカシウス・ブライトの関係者達とハーメルの遺児が我等を阻むとは……!」

「まさか我等を阻んだ理由の一つは貴様らのエレボニア帝国入りを拒否した件に対する”報復”か……!」

エステル達の宣言に対して軍人達は怒り心頭の様子で反論し

「そんな訳ないでしょう?あたし達のエレボニア帝国入りを拒否した件に関してはあんた達には色々と言いたい事はあるけど、それと今回の件は別問題よ。」

「皆さん、落ち着いてください!――――お初にお目にかかります、ファラ・サウリン卿。私はクレア・リーヴェルト少佐。エレボニア帝国軍鉄道憲兵隊に所属しています。彼らが結社”身喰らう蛇”の残党でない事は私が保証しますので、道を開けて頂けないでしょうか?」

「それにボク達とやりあったら、ギリアスのオジサンがただでさえエレボニアでの活動が制限されているサラやフィー達が更に活動しにくくしたり、もしくはサラ達に対する”仕返し”をするかもしれないよ~?」

軍人達の反論に対してエステルはジト目で答え、クレア少佐は軍人達を諫めた後エステル達に会釈をして説明し、ミリアムは真剣な表情でエステル達に忠告した。



「あ、サラさん達に関しては心配無用だから。今回の件の成功の有無に関係なく、ヴァイスさん達があんた達の件でのエレボニア帝国政府との交渉の時に、エレボニア帝国政府がこれ以上エレボニア帝国で活動しているサラさん達に手を出さないようにするって約束だし。」

「それにクレア少佐は彼らの身分の保証をすると仰っていますが………そうなると、別の容疑が貴女達にかかる事がおわかりにならないのですか?」

「クロスベルに許可も無く”他国の軍人”が入国したら、最低でも密入国や諜報活動に関する容疑が発生するよ!」

「―――どの道貴女達がこの場を言い逃れできる理由は存在しませんわ。」

ミリアムの忠告に対してエステルは全く動じずに答え、ヨシュアとミントはそれぞれ説明し、静かな表情で呟いたフェミリンスが自身の武装である神槍を構えるとエステル達も続くようにそれぞれの武装である棍、双剣、長剣を構えた!



「”今回の件の成功の有無に関係なく”………――――!彼らの拘束が成功しても失敗しても、クロスベルがクロスベルに潜入させていた彼らを”結社の残党”扱いする事で、エレボニア帝国政府の弱味を握り、彼らの拘束に成功すれば拘束された彼らの身柄の返還を、失敗すれば1年半前の”七日戦役”の件でただでさえ各国からの信用が地に堕ちているエレボニアが、結社の残党を匿っているという疑いを各国に知らしめることを盾に、エレボニア帝国政府に対して有利な交渉をするつもりですか……!」

「なるほどね~。実際、クロスベルで”情報局”や”鉄道憲兵隊”が諜報活動を行っている間に”三帝国交流会”の最中に結社の残党がクロスベルで事件を起こしたせいで、状況を考えれば何も知らない人達はクロスベルに諜報活動を行っていた人達も結社の残党と関係しているって思うだろうしね~。」

エステル達の話を聞いてすぐにクロスベルの狙いを悟ったクレア少佐は厳しい表情で推測を口にし、ミリアムは疲れた表情で溜息を吐いた。

「なっ!?という事はまさか”六銃士”は最初から我等を嵌める為に、”三帝国交流会”が開催されるまであえて我等を泳がしていたのか……!」

「もしそれが本当ならば、貴様ら遊撃士協会やクロスベルの方が結社の残党と裏で繋がり、奴等の襲撃を奴等から予め知らされていたのではないのか!?」

クレア少佐とミリアムの推測を聞いた軍人達は驚いたり怒りの表情でエステル達を睨んだ。



「いや、あたし達が結社と繋がっているって無理があるでしょ……」

「――――第一それを言ったら、まず最初に疑われるのは4年前の結社による”リベールの異変”の際、”導力停止現象”が起こっている最中に、まるで見計らったかのように導力を必要としない蒸気機関による戦車で浮遊都市(リベル=アーク)の破壊を名目にリベールに押し入ろうとしていた貴方達エレボニアの方だと思われるのですが?」

軍人達の指摘に対してエステルが呆れている中ヨシュアは真剣な表情で軍人達に指摘し返した。

「ぐ……っ……!」

「おのれ、”ハーメル”の亡霊が……!”七日戦役”での”和解条約”に飽き足らず、未だ我等を苦しめるとは、かつてはエレボニアの民だった癖に、祖国であるエレボニアに対する復讐を止めないとは、何様のつもりだ!?」

「パパは亡霊なんかじゃないし、エレボニアに対して酷い事をしようとする人じゃないよ!」

「そもそもハーメルの民達に復讐されてもおかしくない理由を最初に作ったのは貴方達エレボニアなのですから、むしろ貴方達がハーメルの民達に”エレボニアは何様のつもりだ”と問いかけられる側ですわよ。」

ヨシュアの正論に反論できない軍人達が唸り声を上げ、ヨシュアを睨んでいる中軍人の一人が叫んだヨシュアに対する怨嗟の言葉に対してミントが反論し、フェミリンスは厳しい表情で指摘した。



「二人ともありがとう。レーヴェは知りませんが、少なくても僕は14年前のハーメルで起こった悲劇が世界中に公表された時点で満足していますし、元々エレボニアに対する復讐心等はありません。―――――まあエレボニアが”空の女神(エイドス)”に命じられたハーメルに対する”償い”をかつてのハーメルのように”無かった事にしようとしている事”については色々と言いたい事や聞きたい事はありますが………少なくてもそれを決めたのは貴方達でないのは理解していますから、その件で貴方達を責めるつもりはありません。」

「ヨシュア…………――――で、話を戻すけど大人しく投降するのかしら!?」

静かな表情で自身の本音を語ったヨシュアの話を聞いて辛そうな表情をしたエステルだったがすぐに気を取り直してクレア少佐達を睨んだ。

「どうするの、クレア~?”ブレイサーオブブレイサー”達の話だと例え撤退に成功できても、結局ボク達の”負け”っぽいよ~?」

「……少なくても、撤退が成功すればまだ言い訳ができますし、こちらの損害は最小限にすみます。……合流が間に合わず、既に拘束されてしまった者達もいますが、それでも拘束された者達の返還の交渉をする際、拘束された者達は一人でも少ない方がいいですから、強行突破をするしかありません。――――時間をかければ、クロスベル帝国軍や軍警察も追いついてしまいます!一人に対して必ず複数であたり、隙を突いて撤退しなさい!」

ミリアムに判断を促されたクレア少佐はエステル達と戦う事を決めて軍人達に指示をし

「イエス・マム!」

「宰相閣下に行動が制限されもなお、活動を続ける鬱陶しい遊撃士如きが……!我等の力、思い知らせてやる!」

「幾ら腕利きだろうが、たった4人で少佐を加えた我等を制圧できると思ったその傲慢、すぐに後悔させてやる!」

「ちょっ、それって”フラグ”になるから言わないでよ~!」

クレア少佐の指示に答えた軍人達の中の一人が呟いた言葉を聞いて1年半前の”七日戦役”時、リィン達と戦った出来事を思い返したミリアムが慌てた様子で軍人に指摘したその時

「ふ~ん……別にあんた達”程度”、パズモ達の協力がなくても全員ブッ飛ばせるけどそこまで言うんだったら、お望み通り呼んであげるわよ!――――おいで、パズモ、永恒、テトリ、ニル、クーちゃん、カファルー!!」

自分達を侮っているような事を口にした軍人をジト目で睨んだエステルは自身が”絆”を結んだ頼もしき異種族達の名を呼んだ!すると風の最上位精霊―――”ルファニー”族のパズモ・メネシス、炎のような真っ赤な鬣を持ち、8本の尾がある狐炎獣―――サエラブ、木の妖精(ユイチリ)族の最上位妖精―――”ニルユイチリ”族のテトリ、”第四位”を冠する天使―――”主天使(ドミニオン)”のニル・デュナミス、銀色に輝く鱗を持つ水竜の上位種である”白水竜”―――クー、炎を纏いし巨大な獣にしてエヴリーヌと同じ”深凌の契魔”の一柱―――”魔神”カファルーが次々とエステル達の傍に姿を現した!



「フフッ、フルメンバーで戦うのは久しぶりね!」

(フッ、全員揃って戦うのは碧の大樹での決戦以来になるな。)

「アハハ……でも普通に考えたら、私達全員が出なければならない程の戦闘は起こらないほうがいいんですけどね……」

「そうね。――――さてと。諜報関係者である貴方達の事だから当然私達の事も知っているでしょうけど……ちょうどいい機会だからその身に刻んであげるわ―――――ゼムリアの新たなる時代の”英雄”の一人にして、双界の”絆”の紡ぎ手たるエステルの守護者である私達の”力”を!」

「ク―♪」

「グオオオオオオオオ――――ッ!」

パズモとサエラブの言葉を聞いて苦笑しているテトリの意見に頷いたニルは自身の武装である接剣をクレア少佐達に突き付け、ニルの宣言に答えるかのようにクーは見た目とは裏腹の可愛らしい鳴き声で、カファルーは猛々しい咆哮を上げて答えた。



「なあああああああっ!?」

「や、奴等はまさか……!」

「”ブレイサーオブブレイサー”に従う6人の異種族達――――”六異将”……!」

「クッ……連中の情報も当然掴んでいたが、こうして実際に対峙するだけで連中の脅威度が我等の推定脅威度を大きく上回っている事だけはわかる……!」

「舐めるな!例え相手が竜や幻獣らしき大型の魔獣であろうと我等だけでも貴様ら程度の対処はできる!」

「あ~、もう……”ブレイサーオブブレイサー”にはリィンやプリネ皇女みたいにたくさんの異種族達が協力しているから、余計な事を言って敵を増やしてほしくなかったのに増えたじゃないか~!」

「……くっ………相手に絶対に連携させず、必ず各個撃破するように心がけてください!でなければ我々に勝利の芽はありません!」

パズモ達の登場に軍人達が驚いたり戦意を高めたりしている中ミリアムは疲れた表情で声を上げ、唇を噛みしめたクレア少佐は号令をかけ

「さ~てと……ようやく落ち着いた今の西ゼムリア大陸を乱そうとしている人達にその考えが間違っている事を身を持って教える為と、ついでにあたし達のエレボニア入りを拒否したお返しにお仕置きをしてあげるわ!一人残らずブッ飛ばすわよ、みんな!」

「おおっ!」

そしてエステルの号令に力強く頷いたヨシュア達はクレア少佐達との戦闘を開始した!


 
 

 
後書き
という訳でついにエステル達が登場しました!なお、今回のイベントBGMは空シリーズの”奪還”で、エステル達側の戦闘BGMは空シリーズの”The Fate Of The Fairies”だと思ってください♪ 

 

外伝~”特務支援課”リーダー、ロイド・バニングス~

~同時刻・メンフィル帝国領・ユミル地方・ユミル山道~

エステル達がクレア少佐達の戦闘が始まる少し前、クレア少佐達のようにクロスベルの領土であるルーレ市を始めとしたノルティア地方で諜報活動を行っていたエレボニアの軍人達の一部と合流してエレボニアへの撤退をしていたレクター少佐はメンフィル帝国の領土にして、リィンとエリゼの故郷である”温泉卿ユミル”へと続く山道を進んでいた。
「よし……やっぱりユミルの圏内に入っちまったらクロスベルの連中も俺達を追いかける事はできないみたいだな。」
殿を務めて背後を振りむいてクロスベル軍や警察、遊撃士達が追撃してこない事を確認したレクター少佐は安堵の溜息を吐いた。
「で、ですが少佐………本当に緊急の撤退ルートで、メンフィル帝国に無許可でメンフィル帝国領に入ってよかったのですか……?」
「それもよりにもよって、”七日戦役”の勃発の原因となったユミルに密入国をしたなんて事実、万が一メンフィルに知られれば、別の問題が発生すると思うのですが……」
一方軍人達は不安そうな表情でレクター少佐に指摘した。
「だから、メンフィルにバレないようにユミル地方をこっそり利用してアイゼンガルド連峰を抜けてノルドのゼンダー門に向かうんだよ。平時のユミルは他のメンフィル領と違って、メンフィル兵達を徘徊させていないどころか配置すらしていないからな。………まあ、当然郷の連中に気づかれないように、中腹あたりで山道を外れてそのまま郷からそれるルートを使う必要はあるがな。――――唯一の懸念はシュバルツァーの父親―――現シュバルツァー家当主であるシュバルツァー男爵が趣味の狩りをする為に頻繁に山を徘徊しているって情報があるから、幾ら郷から外れた所を歩いているからって、気を抜くなよ?――――それと間違っても、万が一シュバルツァー男爵を含めたユミルの関係者達と遭遇した場合、絶対に制圧行動を含めた攻撃行動に移ったりするなよ。」
「それは言われなくても理解していますが……」
「攻撃行動を禁ずるという事は威嚇射撃や閃光弾の使用もダメなのでしょうか?」
レクター少佐の念押しに軍人達はそれぞれ頷いている中一人の軍人がある事をレクター少佐に訊ねた。
「当たり前だ。もし何らかの要因で威嚇射撃のつもりが本当に命中しちまったり、閃光弾によって郷の関係者に傷が一つでもついてみろ。―――”七日戦役”が再勃発して、今度こそエレボニアはメンフィル――――いや、メンフィル・クロスベル連合に息の根を止められるぞ。メンフィルは例え死者が出なくても、民達に危害が加えられれば、その危害を加えた連中を絶対に許さず、その”報復”をする為に国と戦争する事すらも躊躇わない事は1年半前に貴族連合軍の連中が身を持って証明してくれただろうが。」
軍人の質問にレクター少佐は真剣な表情で頷いて忠告をした。
「りょ、了解しました。」
「では万が一郷の関係者と遭遇してしまった場合は、攻撃に関する行動は一切せず速やかに撤退に専念するのでしょうか?」
「ああ。―――そんじゃ、行くぞ。」
そしてレクター少佐達は山道を進んで、平らで広くなっている中腹に到着した時、レクター少佐達を待ち構えていたかのように、ある人物が郷へと続く山道の側面にある木々の物陰から姿を現して声をかけた。

「――――やはり、ルファ姉の想定通りメンフィル帝国領――――それも”七日戦役”勃発の原因となったユミルならば、俺達も迂闊に入る事はできず、また貴方達も撤退ルートには選ばないという先入観があると踏んで、ユミルを撤退のルートに選んだようですね。」
木々の物陰から姿を現した人物――――背中にクロスベル軍警察の文字と紋章が刻まれたジャケットを身に纏った茶髪の青年が身体のラインやハッキリ見え、太腿を大胆に晒している東方風の特殊な衣装を身に纏った紫が混ざった黒髪の娘と共にレクター少佐達に近づいてレクター少佐達と対峙した!
「なっ!?き、貴様らは……!」
「元”特務支援課”リーダー――――クロスベル軍警察上級捜査官ロイド・バニングスと”アルカンシェル”のリーシャ・マオ―――いや、東方の伝説の暗殺者―――”(イン)”!!」
「フウ……碧の大樹消滅の件を機に、裏稼業は引退してアーティスト稼業に専念しているんですけどね……」
軍人達は驚きの表情で青年――――かつてリィンがクロスベルに派遣された際所属していた”特務支援課”のリーダーであり、キーアの保護者でもあるロイド・バニングスと娘―――――クロスベルの劇団”アルカンシェル”のアーティストの一人にして東方の伝説の暗殺者―――”(イン)”の一族であり、またロイドの恋人の一人でもあるリーシャ・マオを見つめ、軍人達の言葉を聞いたリーシャは疲れた表情で溜息を吐いた。

「ハッ、その”銀”の衣装を纏っておきながらよく言うぜ。――――それよりも久しぶりだな、バニングス。クロスベルの解放以来になるか。………何でクロスベル所属のお前達がメンフィル帝国領であるユミル地方にいるんだ?幾ら連合を結んでいる関係だからといって、許可も無く警察関係者のバニングスや”銀”がユミルにいる事がメンフィルにバレたら、メンフィルとクロスベルの関係に亀裂に入るんじゃねえのか?」
「メンフィルに無許可でユミルに密入国している少佐達にだけは言われる筋合いはありませんが。それに俺達はちゃんと”激務の最中に無理矢理取らされた休養と支援課時代にお世話になった仲間の両親へのお礼の挨拶という正当な目的”があってユミルに滞在していましたから、メンフィル帝国は俺達がユミルに滞在する許可もちゃんと出していますよ。」
「”仲間”…………そう言えばシュバルツァーは”七日戦役”と内戦の活躍に目が行くが、奴は”特務支援課”の一員でもあって、クロスベルの解放や碧の大樹攻略にも関わっていたな。しかし、激務の最中休養を無理矢理取らされてアルカンシェルのトップアーティストの一人のあの”月の姫”と温泉旅行なんざ、うらやましい御身分じゃねえか。もしかしてマクダエル元議長の下の方のお嬢さんには秘密の温泉旅行か?」
ロイドに指摘したレクター少佐だったがロイドの説明を聞いてある事実を思い出したレクター少佐は苦笑した後からかいの表情を浮かべてロイドに問いかけた。

「その”激務”の”原因”の一つである貴方達にだけは言われる筋合いはないのですが。それとエリィも今回の件は当然知っていますし、今頃エリィもティオ達と一緒に帝都(クロスベル)に滞在している三帝国のVIPに危害を加える疑いがある”結社の残党”の一斉検挙に参加しているのですから、心配は無用ですよ。」
「なっ!?という事はまさか今頃クロスベルでも、クロスベルにいる我等の仲間も……!」
「やってくれるぜ、あの好色皇………”紅き暴君”と”闘神の息子”の件に対する”対価”がクロスベルに密入国している鉄道憲兵隊や情報局(俺達)について、エレボニア帝国政府・軍とは関係ない事を示す証明書にサインをさせた事から何かあると警戒していたが、まさかそれを逆手に取って潜入していた連中を堂々と”結社の残党”に見立てて、エレボニアのVIP達や第Ⅱ分校もいる帝都(クロスベル)でも奴等の一斉検挙を行うとはな………――――しかし、”銀”。さっきアンタはアーティスト稼業に専念しているって言っていたが、こんな所で油を売っていいのか?確か今夜エレボニア(ウチ)のVIPを含めた三帝国のVIP達がアルカンシェルの観賞をする予定のはずだろう?」
ロイドの説明を聞いてある事に気づいた軍人は血相を変え、厳しい表情でヴァイスの顔を思い浮かべたレクター少佐はリーシャに問いかけた。
「―――ご心配なく。ルファディエルさんの想定では、”今日の夕方までには貴方達を含めたクロスベルに潜伏している結社の残党の一斉検挙を終えられますし”、現に今こうして予定よりも早く姿を現してくれたのですから、ここで貴方達を無力化して無力化した貴方達をクロスベル軍・警察に引き渡せば、今夜の公演には余裕で間に合いますよ。なので、私達の公演を楽しみにしてくださっているエレボニアのVIPの方々の為にも、できれば”無駄な抵抗”をせずに投降して欲しいのですが?」
「闇に紛れなければ戦闘を限りなく避けようとする、暗殺者如きが我等を舐めるな!」
「幾らクロスベルの英雄と伝説の暗殺者だからといって、たった2人で我々を制圧できると思ったら大間違いだ!」
「お前達は黙っていろ。それよりも”叡智”が今回の一斉検挙に関わっているんだから、大方メンフィルにとって他国の所属であるお前達がメンフィル帝国領内で俺達の検挙を行える手筈も整えているんだろう?」
レクター少佐の忠告に対して笑顔で答えて投降を促したリーシャに対して怒り心頭の様子で反論した軍人達に注意したレクター少佐はある推測をロイドに訊ねた。

「あら、よくわかっているじゃない。」
するとその時女性の声が聞こえた後、空から、”第五位”を冠する天使―――力天使(ヴァーチャーズ)の女性がロイドとリーシャの傍に舞い降りた!
「き、貴様は……!」
「クロスベル軍警察の”叡智”のルファディエル……!」
天使の女性――――ロイドの”守護天使”にして、元”特務支援課”の”課長”の一人でもあり、今はクロスベル軍警察の”警視”で、主にクロスベル軍警察内での作戦立案等、クロスベルの捜査官達を裏から支える役割を担当し、更にリーシャやエリィ同様ロイドの恋人の一人でもあるルファディエルを驚きの表情で見つめた。
「フフ、ユミルは”七日戦役”勃発の原因となった地であり、メンフィルの新たなる英雄――――”灰色の騎士”の故郷でもあり、しかもシュバルツァー家は要請(オーダー)の件でメンフィル皇家の庇護を受けている状況なのだから、メンフィルとしても再びユミルやシュバルツァー家関連で戦争や国際問題を発生させる事は可能な限り避けたいのよ。リィンとエリゼはともかく、シュバルツァー男爵夫妻のエレボニアや”アルノール皇家”を大切に思っている”想い”は未だ顕在だしね。そこで”私達が休暇でユミルに滞在している最中に、偶然結社の残党である貴方達と遭遇して、結社の残党の討伐・逮捕、そしてユミル守護の為のメンフィル帝国軍が到着するまでの緊急措置として、貴方達の無力化、そして検挙”するという筋書きでクロスベルは自国で諜報・破壊活動を行っている貴方達の身柄の確保を、メンフィルは労せず自国の英雄の故郷を守れるという互いのメリットがあるから、メンフィル帝国領土内であるユミルで、クロスベル帝国所属の私達が貴方達を無力化・検挙する事はメンフィルも了承済みよ。」
「チッ、そういう事か…………――――なあ、バニングス。お前さんには”黒の競売会(シュバルツオークション)”で零の至宝のお嬢ちゃんと”混沌の森王”と共にルバーチェの連中から逃げ回っている最中に、血眼になってお前達を探していたルバーチェの連中の目を逸らしてやった”貸し”があったよな?その”貸し”、一体いつになったら返すつもりなんだ?」
ルファディエルの説明を聞いて全ての事情を察したレクター少佐は舌打ちをして厳しい表情をしたがある事を思い出して、ロイドに問いかけた。
「随分と懐かしい話ですね。勿論あの時少佐から受けた”借り”は覚えていますが、あの時と今の状況や関わっている人達の規模を比べると”利子”込みだとしてもあの時の”借り”だけではとても釣り合わないのですが?」
そしてレクター少佐の問いかけに対してロイドが答えたその時
「クク、なるほどな………まさかあの脱走劇に、”当時俺達と繋がっていた”あんたもロイド達の脱走に手を貸していた事は初耳だぜ。」
スーツを身に纏った大柄な大男が不敵な笑みを浮かべてロイド達が潜んでいた木々の物陰から姿を現してロイド達と共にレクター少佐達と対峙した!

「バカな!?貴様は……!」
「ルバーチェの”キリングベア”ガルシア・ロッシ!拘置所で服役中のはずの貴様が何故ここに……!?」
「……アーヴィング少佐からシュバルツァー達に”風の剣聖”が協力している件の報告の際にあんたはバニングス達に加勢している話もあったから、バニングスが現れた時点であんたもいる事も想定はしていたが………やれやれ。自分達を逮捕したバニングス達どころか、宿敵でもあった”銀”にまで協力するとか、幾ら減刑の為とはいえ、かつてクロスベルの裏社会を牛耳っていたマフィアの若頭がよくそこまでプライドを捨てられたもんだね?」
大男―――――かつてクロスベルに存在したクロスベル最大のマフィアである”ルバーチェ商会”の若頭にして、元”西風の旅団”の部隊長でもあったガルシア・ロッシの登場に一部の軍人達が驚いている中レクター少佐は静かな表情で呟いた後疲れた表情で溜息を吐いてガルシアに指摘した。
「クク、それを元”猟兵”である俺に言うのか?プライドみたいな”戦場”の役にも立たないモンなんか、幾らでも捨ててやるし、今もムショの中にいる会長や部下達が一日でも早くムショから出られるんだったら、”六銃士”の連中の思惑に幾らでも乗ってやるぜ?」
「クロスベルの捜査官の一人である俺としては、使える人材は犯罪者でも”減刑”と引き換えに協力させる事については少々複雑だけどな……」
「フフ、相変わらず真面目ね、ロイドは。」
「ですが、それがロイドさんの良い所でもありますしね。」
レクター少佐の指摘に対して不敵な笑みを浮かべて答えたガルシアの答えを聞いて疲れた表情で溜息を吐いたロイドの様子をルファディエルとリーシャは苦笑しながら見守っていた。

「それと”猟兵”は味方だった連中が敵になる事もあれば、その逆もあるのが”日常茶飯事”なんだから、”猟兵”だった俺からすれば、わりとあっさり受け入れられる提案だったぜ、”黄金の戦王”の提案は。それにかつては敵対した連中や昔馴染みと組んで、俺達をあっさり切り捨てやがったテメェ()と存分にやり合うなんて、中々面白い話じゃねぇか――――そう思わねぇか、フィー!」
そして不敵な笑みを浮かべて答えたガルシアが声を上げたその時!
「ん……団長だったら、間違いなく面白がるだろうね。」
ロイド達が隠れていた木々の物陰とは逆の位置に生えている木々の物陰から姿を現したフィーがワインレッドの髪の女性と共にロイド達に近づき、ロイド達と共にレクター少佐達と対峙した!
「”西風の妖精(シルフィード)”に”紫電(エクレール)”まで……!」
「おいおい……アンタ達、何考えてんだ?エレボニアで活動しているアンタ達がここで俺達とやり合ったら、今後の活動が更にやりにくくなる事がわからないのか?」
フィーとワインレッドの女性―――――旧Ⅶ組の担任教官にして、A級正遊撃士”紫電(エクレール)”サラ・バレスタインの登場に軍人達が驚いている中レクター少佐は呆れた表情で溜息を吐いた後真剣な表情を浮かべてフィーとサラに問いかけた。

「ふふん、あんた達にとっては残念な知らせでしょうけど”黄金の戦王”と親しい関係のあたしの”後輩達”の話だとここで、あんた達とやり合ってもエレボニアでのあたし達の活動に何の影響もないわよ?クロスベル帝国政府はエレボニア帝国政府(あんた達)と違ってリベールやメンフィル、それにレミフェリアのように遊撃士協会(あたし達)との協力関係も重視してくれているお陰で、今回の件の成功の有無に関係なく、クロスベルがエレボニアと交渉して、その交渉の一つにエレボニアで活動している遊撃士達(あたし達)にこれ以上圧力をかけさせない事をエレボニアに約束させるそうよ♪」
「何だと………?―――――!チッ、”そういう事”か………今回の件、オッサンや俺達の読みが甘かったな……ったく、ここまで徹底的にしてやられるなんて、2年前の”通商会議”以来だぜ……」
サラの話を聞いて眉を顰めたレクター少佐だったがすぐに今後の流れを察すると舌打ちをして疲れた表情で呟き
「――――状況が理解できたのでしたら、大人しく投降してくれませんか?貴方達の身の保証については遊撃士協会や局長―――いえ、ヴァイスハイト陛下も確約してくれましたし、投降すれば少佐達の罪は少しは軽くなって、拘束される期間も短くなりますよ?」
「悪いがそう言う訳にはいかないな。何せ俺達も特務支援課(お前達)のように諦めの悪い連中ばかりだからな。」
ロイドに投降を促されたレクター少佐は苦笑しながら答えた後自身の武装である細剣を構え、軍人達も続くようにそれぞれの武装を構えた。

「ま、そうだと思っていたわ。いや~、君達にとっては面倒な展開かもしれないけど、あたし個人としてはこうなる展開になる事を期待していたのよね~♪――――という訳でクロスベルからクロスベルに潜入して、同盟国であるメンフィルに逃げ込んでメンフィル帝国領での破壊活動やメンフィル・クロスベル連合の関係に亀裂を入れるような国際問題を発生させる暗躍をする恐れがある”結社の残党”を”偶然メンフィル帝国領に滞在していたクロスベル軍警察関係者と協力して制圧・検挙する事を依頼された遊撃士協会(あたし達)”は”仕方なく、結社の残党の疑いがかかっているエレボニアの諜報関係者達と思われる人物達とも存分にやり合わなければならないから”、あんた達と”本気”でやり合うのはあたしの”私怨”じゃないから、勘違いしないでね~♪」
「サラ、白々しすぎ。さっき、ルーレから”かかし男”達がユミル(こっち)方面に密入国したって連絡が来た時にガッツポーズまでして思いっきり喜んでたじゃん。」
晴れやかな笑顔で答えながら全身に凄まじい闘気を纏い始めたサラの答えにその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中フィーはジト目で指摘し
「ハハ………―――――まあ、それはともかく。抵抗するのでしたら、こちらも”強制執行”に移らせて頂きます。――――力を貸してくれ、ギレゼル!」
「キタキター!久々の吾輩の出番!」
サラとフィーの言葉に苦笑していたロイドは気を取り直して自身の武装であるトンファーを構え、ロイドに続くようにリーシャは斬魔刀、ルファディエルは聖杖、ガルシアは両手を覆っているグローブ、フィーは双銃剣(ダブルガンナーソード)、そしてサラは強化ブレードと銃とロイド達がそれぞれの武装を構えるとロイドの呼びかけによってロイドの身体から出て来てロイドの傍に現れた悪魔――――ルファディエルと共にロイドに力を貸している悪魔族のギレゼルは自身の武装である魔槍を構えた!
「クロスベル軍警察・捜査一課所属ロイド・バニングス以下3名並びにクロスベル軍警察・協力者リーシャ・マオ以下2名ーーーー」
「同じく遊撃士協会所属サラ・バレスタイン以下2名――――」
「これより事件解決のため、容疑者達の制圧を開始する……!行くぞ、みんな!」
「おおっ!」
そしてサラと共に改めて名乗ったロイドは力強い号令をかけてレクター少佐達との戦闘を開始した―――――
 
 

 
後書き
というわけでついにお待ちかねの零・碧主人公であるロイドも登場しました!なお、今回のイベントBGMは零の”守り抜く意志”で、ロイド達側の戦闘BGMは零・碧の”Inevitable Struggle”シリーズのどれかだと思ってください♪ 

 

外伝~カイエン公爵家の才女達~


~オルキスタワー~

それぞれの場所でそれぞれの戦いが始まっている中ミュゼはカイエン公爵令嬢姉妹と対面していた。
「ユーディット皇妃陛下、それにキュアさん。本日は私のような者の為に時間を取って頂き、心より感謝致しますわ。」
「え、えっと………」
「……貴女が私達との会談を望んだ要件を訊ねる前に一つ聞きたい事があります。―――――何故、リーゼアリア嬢をそそのかして、オルキスタワーから抜け出させたのですか?」
ミュゼに会釈をされたキュアが戸惑っている中ユーディットは真剣な表情でミュゼに問いかけた。
「そんな、そそのかすだなんて………私は女学院に通っていた頃にお世話になった恩を少しでも返す為にリーゼアリア先輩の悩みを解決する方法を提案しただけですわ。」
「それを”そそのかす”って言うんだけど…………――――って、”リーゼアリアさんが女学院――――聖アストライア女学院時代にお世話になった先輩”?――――!!まさか、貴女は………!」
「………やはり貴女は”私達の世界のミュゼ―――いえ、ミルディーヌ”ね?」
笑顔で答えを誤魔化そうとしているミュゼの答えに呆れた表情で溜息を吐いたキュアだったがある事に気づいて血相を変え、ユーディットは真剣な表情でミュゼに問いかけた。

「フフッ…………――――さすが、”才媛”と名高い”ユーディお姉様”とその妹であられるキュアさんですわね。お二人とも、お久しぶりですわ。祝福するのが遅くなりましたが、ユーディお姉様のご結婚とキュアさんの次期カイエン公爵家当主の内定、おめでとうございますわ♪」
「………こうして顔を合わせて、話をするのは本当に久しぶりね。まさか貴女が”並行世界の未来の貴女”と接触していた事―――いえ、”並行世界の未来の貴女が貴女に接触していた事”には驚いたけど………一体何の為に私達との会談をセッティングした理由は――――愚問だったわね。」
「ユーディと私、それぞれに当てた手紙の内容であるお願い――――エレボニア側のカイエン公爵家当主内定の為の力添えの件、だよね?」
ミュゼに微笑まれた二人はそれぞれ静かな表情を浮かべてミュゼを見つめ
「―――はい。手紙にも書いた通り、私達――――エレボニア帝国貴族の未来の為にもバラッド侯をエレボニア側のカイエン公爵にする訳にはいかなく、私が就かなければならないのです。ですがお恥ずかしい話、現状バラッド侯が優勢で私だけの力ではとてもバラッド侯を押しのけてエレボニア側の次期カイエン公爵に就任する事は厳しいのですわ。なので、是非お二人にも私に協力して頂きたいのですわ。」
二人に見つめられたミュゼは真剣な表情で頷いて説明をした。
「……貴女の事だから、他の”四大名門”――――アルバレア、ログナー、そしてハイアームズの当主達の協力を取り付けているのではないかしら?わざわざ外国―――それも、クロスベルに帰属した件でエレボニア貴族達から色々と怒りや恨みを買っている私達の力が必要な程、貴女の協力者は足りないのかしら?」
「ええ。ユーディお姉様もご存知の通り、”七日戦役”によってエレボニアは多くの領土を失いました。そしてその出来事によってハイアームズ候はともかくアルバレア侯――――ユーシスさんとログナー侯はかつての”四大名門”としての力や影響力は衰えていますわ。特にユーシスさんは当主に就任してまだ1年くらいしか経っていない上、父君―――前アルバレア公爵閣下が”七日戦役勃発の張本人”だった事による背負ってしまった”アルバレアの負債”がある為、戦力、財力、貴族としての影響力を含めたあらゆる方面でバラッド侯もそうですが他の”四大名門”と比べると劣っている状況ですし……こんな私に剣を捧げてくれた私にとって唯一の騎士である”羅刹”も”七日戦役”によって亡くなってしまいましたし………」
「”羅刹”ってもしかして………」
「………オーレリア将軍ね。まさかオーレリア将軍が貴女を”主”と認めていたとはね………」
ユーディットの指摘に対して静かな表情で答えたミュゼは僅かに悲しそうな表情を浮かべ、ミュゼの話で出て来た人物に心当たりがあるキュアは目を丸くし、ユーディットは重々しい様子を纏って呟いた後静かな表情でミュゼを見つめた。

「その………将軍が討たれた件で、ミルディーヌは将軍を討ったメンフィル帝国やメンフィル帝国に従順な態度を取った私達を恨んだりはしていないの……?」
「オーレリア将軍の件は本当に残念でしたが、”七日戦役”は我が国―――いえ、私達エレボニア帝国貴族に全面的な非があるのですし、キュアさん達は御自分達だけでなく、オルディス―――いえ、ラマールの貴族達を守る為にラマール統括領主の血を引くカイエン公爵家として当然の行動を取っただけですから、将軍や”七日戦役”の件でお二人もそうですがメンフィル帝国に対して思う所はありませんわ。」
「……………単刀直入に聞くわ。貴女の私達クロスベル側のカイエン公爵家―――いえ、メンフィル・クロスベル連合に対する要求はどんな内容かしら?そしてその要求に対して、貴女はどのような対価を提示するのかしら?」
キュアの質問に対して静かな表情で答えたミュゼの説明を聞いて目を伏せて黙り込んでいたユーディットは目を見開いてミュゼに問いかけた。
「……………ふふっ、さすがユーディお姉様。話が早くて助かりますわ。まずユーディお姉様達――――クロスベル側のカイエン公爵家に対してお願いしたいのは”カイエン公爵本家が保有している財産の一部”を私に贈与して頂く事ですわ。」
「え……わ、カイエン公爵家(私達)の財産の一部をミルディーヌに……?ミルディーヌって、そんなにお金に執着するような人には見えなかったけど………それに、アルフレッド伯父様達がミルディーヌの為に遺した遺産もミルディーヌが受け継いだはずだよね……?それでもお金が足りないの……?」
ミュゼの要求の内容が意外な内容である事に目を丸くしたキュアは戸惑いの表情でミュゼを見つめた。
「ふふっ、確かにお父様達が残してくれた遺産は莫大ですがキュアさん達が受け継いだ”本家”が所有している財産と比べると大した事はありませんわ。そして例え次期カイエン公爵に内定したとしても、先立つものが足りなければ、何も為す事はできず、お飾りの公爵ですわ。」
「……貴女が何を考えているのか知らないけど、貴女を含めた”四大名門”の協力に加えて貴女に味方する貴族達の協力があっても、貴女が為したいと思っている事は実現不可能なのかしら?」
「はい。私が打とうとしていた手は終焉を食い止める最悪にして最低の一手…………それは”二つに分かれた今のカイエン公爵家”では打つ事はできませんわ。」
「しゅ、”終焉を食い止める最悪にして最低の一手”………?あ、あれ……?”終焉”って確か並行世界の貴女達の話にも出て来ていたけど………」
「”最悪にして最低の一手”………――――!!ミルディーヌ、貴女まさか………帝国政府―――いえ、”エレボニア帝国”に対して反旗を翻すつもり……!?」
ミュゼの答えを聞いて戸惑っているキュアが考え込んでいる中ミュゼがやろうとしている事を察したユーディットは血相を変えて信じられない表情でミュゼを見つめて問いかけた。

「フフッ…………―――――”ヴァイスラント決起軍”。並行世界の私の話では”終焉”を利用しようとしているオズボーン宰相達に抗う勢力をそのような名をつけたとの事ですわ。」
「”ヴァイスラント”………”白の国”、ね。エレボニア―――いえ、オズボーン宰相に対してあらゆる意味で皮肉な名前を考えたものね………」
「そ、それよりも………確か並行世界のミルディーヌは”終焉”が起こった直後に私達の世界に来たって話だから、その”ヴァイスラント決起軍”を結成したのはそれよりも前って事になるから、まさか並行世界の貴女―――いえ、”貴女達”は”終焉が起こる事を予め悟っていたの”………!?」
ミュゼの説明を聞いたユーディットが考え込んでいる中ある事に気づいたキュアは驚きの表情でミュゼに訊ねた。
「フフ、それについてはご想像にお任せしますわ。それよりも、私が打とうとしている”一手”を知った聡明なお二人でしたら、私がメンフィル・クロスベル連合に求めたい内容がおわかりでしょう?」
「!あ………」
「父達が起こした愚かな1年半前の内戦―――いえ、それ以上の規模になるであろう内戦にメンフィル・クロスベル連合を介入させるつもりなの!?そんな事をすれば、例え勝てたとしてもエレボニアがどうなるか、貴女ならわかるでしょう!?」
ミュゼに話を振られ、ある事を察したキュアが不安そうな表情をしている中ユーディットは怒りの表情で声を上げてミュゼを睨んだ。
「勿論、理解しておりますわ。――――そしてそれが私がメンフィル・クロスベル連合に提示する唯一の”対価”でもありますわ。オズボーン宰相達を廃した後、ユーゲント皇帝陛下から”エレボニア皇帝”の地位を剥奪して代わりに新姫様―――リーゼロッテ皇女殿下を”新たなるエレボニア皇帝”に即位させて、緊張状態に陥りかけているエレボニアとメンフィル・クロスベル双帝国の関係を和解へと導きたいと思っていても、生まれ変わったエレボニア帝国の政府の人員や新姫様を支持する”後ろ盾”がない事にユーディお姉様達は困っていたのでしょう?私――いえ、エレボニア側のカイエン公爵家や私に協力する方々がその人員を用意しますし、新姫様の”後ろ盾”にもなりますわ。」
「!!そ、”その件”まで知っているなんて……!」
「ハア………どうやら”並行世界の未来の貴女”は世界は違えど、”自分”を勝利させる為に”自分の知る全て”を貴女に話したみたいね………そこまで知っているのだったら、私達は”終焉”―――いえ、”巨イナル黄昏”を未然に阻止する為の精鋭部隊を”黒キ星杯”が現れたその日に新旧Ⅶ組と共に送り込む事も聞いているはずよね?」
ミュゼの答えを聞いたキュアが驚いている中疲れた表情で溜息を吐いたユーディットはミュゼに確認した。

「ええ、勿論伺っておりますわ。”神殺し”、でしたか。俄かには信じられない存在ですが、”空の女神”すらも実際にゼムリア大陸に降臨したのですし、異世界―――ディル=リフィーナはゼムリア大陸にとっては幻想上の存在が多種多様存在している事に加えて複数の神々まで実際に存在しているのですから、そのような凄まじい存在がいる事にも納得していますわ。」
「その話も知っているのだったら、”ヴァイスラント決起軍”を結成する意味が無い事は貴女もわかっているんじゃないの?」
「例え勝率は高くても”備え”は必要ですし、”黒キ星杯”とやらが現れたその日は帝都(ヘイムダル)に幻獣や魔煌兵が現れるとの事なのですから、それらを鎮圧する為の戦力は必要ですわ。」
「そのくらいだったら、わざわざそのメンフィル・クロスベル連合を加勢させた”ヴァイスラント決起軍”を投入しなくても、正規軍が撃退するんじゃないの?確か当日帝都(ヘイムダル)を警備する正規軍は正規軍の中でも精鋭揃いの”第四機甲師団”だし、それに事件が起こる場所が帝都(ヘイムダル)なら”衛士隊”や”鉄道憲兵隊”も協力すると思うけど………」
「確かにキュアさんの仰る通り彼らに任せても問題はありませんが、果たして彼らは私達――――いえ、”新姫様の味方”といえる存在でしょうか?」
「それは…………―――――!も、もしかしてヴァイスラント決起軍を混乱が起こった帝都(ヘイムダル)を投入する”真の理由”は……!」
「かつて父達が帝都(ヘイムダル)を強襲してバルヘイム宮を占領したように、混乱のどさくさに紛れてバルヘイム宮を占領して、ユーゲント皇帝陛下達を”保護”して、”黒キ星杯”でオズボーン宰相達を廃した後抵抗してくるかもしれない正規軍を早急に鎮圧する為にヴァイスラント決起軍を帝都(ヘイムダル)に投入するつもりなのかしら?」
ミュゼの狙いをすぐに悟ったキュアは血相を変え、ユーディットは厳しい表情でミュゼに確認した。

「ふふっ、そんな怖い顔で睨まないでください。私達とメンフィル・クロスベル連合の利害や目的は一致しているのですから、オズボーン宰相達を廃してエレボニア―――いえ、西ゼムリア大陸に真の平和を訪れさせる為に是非、私達もメンフィル・クロスベル連合に加えて欲しいだけの話ではありませんか。」
「それは……………」
「………話は変わるけど、確か今の貴女が通っている第Ⅱ分校にはメンフィル皇家の一員であられるレン皇女殿下も”教官”として就任していて、レン皇女殿下は貴女にとっての担任教官でもあったわね。もしかして既にレン皇女殿下にも貴女達の目的を話して、レン皇女殿下を通してメンフィル帝国とも交渉をしているのかしら?」
ミュゼの指摘にキュアが複雑そうな表情で答えを濁している中ユーディットは静かな表情でミュゼに訊ねた。
「それとなく匂わせるような話はしていますが、まだ本格的な話や交渉はしていませんわ。リィン教官にもアプローチをしているのですが、さすが姫様を娶り、多くの魅力ある女性達と婚約しているだけあって、中々手強い相手で相手にしてもらえず私も少々困っているのですわ。シクシク………」
「リ、リィン様にアプローチしているって……ミルディーヌは本当にリィン様の伴侶の一人になるつもりなんだ………」
質問に答えた後わざとらしく嘘泣きをしたミュゼの行動にユーディットと共に冷や汗をかいて脱力したキュアは表情を引き攣らせてミュゼを見つめた。
「はい♪リィン教官が望むのでしたら、ユーディお姉様のようにいつでも私の純潔をリィン教官に捧げるつもりですわ♪―――あ、先にいっておきますがもし新姫様やリーゼアリア先輩もリィン教官の伴侶になる事を望むようでしたら勿論賛成しますし、序列もお二人よりも低くて構いませんし、教官が私や先輩達以外にも更に伴侶を増やす事も受け入れますわ♪」
「リィンさんとの結婚の件で私を例えに出したことは反論できないけど………リィンさんの件も含めて貴女が求めるメンフィル・クロスベル連合に対する要求はカイエン公爵本家の財産の一部の贈与を除けば、私達だけで判断できないから今この場で答える事はできないわよ。」
「それは勿論承知しておりますわ。ですが私の”読み”ではメンフィル・クロスベル連合はそれぞれの思惑によって、私の提案を受け入れてくださると思っておりますわ。」
「ミルディーヌ………」
「………貴女―――いえ、アルフレッド伯父様がお父様を押しのけるか、廃したりしてカイエン公爵家の当主に就任すれば、エレボニアは違う道を歩んだかもしれないわね…………」
ミュゼに隠された才能の凄まじさを改めて知ったキュアは驚きの表情でミュゼを見つめ、ユーディットは静かな表情で呟き
「……………………フフ、そうかもしれませんわね。」
ユーディットの話を聞いて幼い頃に亡くなった両親の顔を思い浮かべたミュゼは静かな笑みを浮かべて同意した。

「…………………わかったわ。ヴァイス様達に貴女の提案を話して、リーゼロッテ皇女殿下の”後ろ盾”は貴女達が最有力候補である事を私とキュア――――”カイエン公爵家当主代理兼クロスベル皇帝第1側妃”と”カイエン公爵家次期当主”の立場として推薦しておくわ。それとお父様から受け継いだカイエン公爵本家の財産の一部も貴女に贈与するわ。キュアもいいわね?」
「ユーディ………………うん、私もいいよ。財産に関しては元々ミルディーヌにも分配を主張する権利はあるのだし。」
少しの間考え込んで結論を出したユーディットに視線を向けられたキュアは目を丸くした後ユーディットのように少しの間考え込んでユーディットと同じ答えを出し
「お二人のご協力、心より感謝致しますわ♪めでたく話がまとまった所早速で恐縮なのですが、まずお姉様達には来月に行われる”領邦会議”に出席してもらいたく―――――」
二人の答えを知ったミュゼは笑顔を浮かべた後二人と今後の事についての打ち合わせをした。

こうして………ミュゼは人知れず、自分が想定していた以上の結果を出すことになる”一手”を打つ事に成功した――――――
 
 

 
後書き
今回のBGMは零の”黒の競売会”か閃Ⅲの”静かなる駆け引き”のどちらかだと思ってください♪ 

 

外伝~想定外(イレギュラー)の戦い~ 前篇


~クロスベル帝国オルディス地方・西ランドック峡谷道~

「さあ、一気に攻めましょう――――パーフェクトオーダー!!」
エステル達との戦闘を開始したクレア少佐は味方を加速させ、更にそれぞれの攻撃手段がクリティカルヒットになる確率を高めるブレイブオーダーを発動して味方を援護し
「波状攻撃で一気に制圧するぞ!」
「喰らえ!!」
近接戦闘用の武装を得物としている軍人達は瞬時にエステル達に襲い掛かった。
「おおおぉぉぉ……っ!」
「グッ……!?」
「か、身体が……!?」
しかしヨシュアが発動したクラフト―――魔眼によって襲いかかる最中で強制的に動きが封じ込められてその場で動けなくなった。
「ハァァァァ………!」
そこに動けない軍人達に詰め寄ったエステルが棍に力を溜め込んで強烈な一撃を放とうとし
「させません!」
「援護する!」
クレア少佐やクレア少佐のように銃やライフルを武装にして、後衛にいる軍人達が動けない味方を攻撃しようとするエステルを妨害する為に銃口をエステルに向けたが
「吹き飛びなさい!!」
「せーの―――裂甲断!!」
「キャアッ!?」
「グアッ!?」
フェミリンスが槍から発生させた衝撃波を目にも見えぬ速さで放ち、ミントは跳躍と共に力を込めた長剣を叩きつけて衝撃波を発生させて放ち、フェミリンスのクラフト―――ハイロウスピンとミントのクラフト―――裂甲断を受けたクレア少佐達はエステルへの妨害ができなかった。

「剛震撃!!」
「ガーちゃん、守ってあげて!」
「――――――」
そして棒に地属性の魔力を込めたエステルが動けない軍人達に棍を振り下ろしたその時、アガートラムが軍人達の前に出て絶対障壁を展開したが、何とエステルの棍は絶対障壁を易々と破壊してアガートラムごと軍人達に強烈な一撃を叩き込んだ!
「ぐあっ!?」
「がっ!?」
「――――!?」
「ガーちゃん!?」
エステルの攻撃によって軍人達が怯んでいる中自分の近くへとふっ飛ばされたアガートラムを見たミリアムは驚き
「崩れたわ!」
「追撃する!―――――セイッ!!」
エステルとリンクを結んでいるヨシュアはまさに雷光のような速さで広範囲を攻撃するクラフト―――雷光撃で追撃した。
「みんな、一気に攻めよう――――ドラゴンオーダー!――――バーングラウンド!!」
「ぐああああああっ!?」
「熱い、熱い――――ッ!」
ミントは加速効果と一定時間アーツの駆動時間や魔術の詠唱時間をゼロにするブレイブオーダーを発動した後瞬時に魔術を発動し、ミントの魔術によってエステルとヨシュアが攻撃した軍人達の足元から溶岩が発生した後炎が噴出して軍人達を苦しめ
「深緑の吸収!!」
「カルバリーエッジ!!」
更にエステルとヨシュアもミントに続くようにエステルは足元から現れた無数の蔦で敵を絡めた後体力を奪う魔術を、ヨシュアは敵の体力を奪う時の槍を降り注がせるアーツを瞬時に発動させて追撃し
「――――止めですわ!」
「ガッ!?つ、強すぎる………」
「グアッ!?む、無念……」
そこにフェミリンスが軍人達に詰め寄って神槍に更なる聖なる魔力を纏わせて薙ぎ払い、フェミリンスのクラフト―――闘聖の薙ぎ払いによって吹き飛ばされた軍人達は地面に叩き付けられると気を失った。

「クッ、よくも………!アークス駆動――――」
仲間達が無力化された事に銃を持つ軍人はアーツを撃つためにオーブメントを駆動させたが
「行くよ―――空間翔転移!!」
「な―――グアッ!?」
ミントが一瞬で転移して軍人の背後に現れて長剣で斬りつけ
「あっちいけ~!」
「ガッーーーへぶっ!?………」
続けて氷の魔力を纏わせた足で軍人の背中を蹴り飛ばし、ミントのクラフト―――アイシクルショットによって蹴り飛ばされた軍人は脚に込められた氷の魔力によって身体の一部が凍結していた為空中で受け身を取る事ができず、そのまま崖にぶつかって気絶した。
「クッ、まさか”黄金の百合”は”転移”による奇襲攻撃までできるなんて……!――――凍てつきなさい……!」
ミントの奇襲によってあっという間に制圧された軍人を見て唇を噛みしめたクレア少佐はミントの動きを封じ込める為にミントの頭上に氷の塊を発生させ、ライフルを取り出して氷の塊に狙撃しようとしたが
「朧!!」
「!」
一瞬で自身の背後に現れて居合斬りを放ってきたヨシュアの奇襲攻撃に即座に気づくとミントへの攻撃を中断してヨシュアの奇襲攻撃を紙一重で回避した。
「クレア!?ガーちゃん、ビーム!」
「―――――」
クレア少佐の危機に驚いたミリアムはアガートラムにヨシュア目がけてレーザーを放たさせたが
「無駄ですわ!」
「わっ!?」
フェミリンスが詠唱無しで放った無数の光の魔力弾によってヨシュアへと放たれたレーザーは消滅させられ、更に光の魔力弾が地面やレーザーに命中した時に発生した衝撃波の余波を受けたミリアムは思わず怯み
「セイッ!」
「わあっ!?」
エステルが棍から衝撃波を放つクラフト―――稔糸棍をアガートラムにガードさせる暇もなくそのまま喰らってダメージを受けた。そしてエステルはフェミリンスと、ヨシュアはミントとリンクを結び直してそれぞれミリアムとクレア少佐と対峙した。

「シャインアロー!!」
「沙綾―――紅燐剣!!」
クレア少佐と対峙したミントは魔術による空に無数の光の矢を発生させてクレア少佐目がけて放ち、ヨシュアは双剣から強力な真空の刃を創り出してそのまま放った。
「勝機!――――モータルミラージュ!!」
クレア少佐はダメージを覚悟して空より襲い掛かる光の矢をヨシュアとミント目がけて突進する事で回避するととjもに、正面から襲い掛かってくる無数の真空の刃の一部を受けながらヨシュアとミントの背後に回った後銃から巨大なエネルギー弾を放った。
「たぁっ!次元斬!!」
襲い掛かる巨大なエネルギー弾を無力化する為にミントは跳躍して巨大な闘気を纏った剣で空中からエネルギー弾を叩き斬り
「そこですっ!」
エネルギー弾を無効化する為に技を放った事でできた隙を逃さないクレア少佐はミントに銃口を向けて追撃しようとしたが
「絶影―――――舞の型!!」
「うっ!?」
ヨシュアが周囲に衝撃波を纏った神速の一撃離脱技を先にクレア少佐に叩き込んだ為、ミントへの追撃は妨害された。

「行くよ――――紅燐舞華斬!!」
「ッ!?」
更にヨシュアが力を溜めた一閃技をクレア少佐に叩き込むとクレア少佐は怯み
「崩したよ!」
「ミントも続くよ~!――――やああっ!!」
「ああっ!?」
クレア少佐が怯むとヨシュアとリンクを結んでいるミントが追撃に全身に雷を纏って突きの構えで突進するクラフト―――インパルスドライブをクレア少佐に叩き込んだ。
「これで―――決めさせてもらう!ハァァァァ……ッ!」
「凄いの、いっくよ~!ヤァァァァァァッ!」
そして一気に勝負を決める為にヨシュアは分け身達と共にクレア少佐に突進して斬撃を叩き込み、ミントはクレア少佐に詰め寄って凄まじい技の乱舞をクレア少佐に叩き込み
究極逆鱗乱舞(ファイナルドラグジェノサイド)―――――ッ!」
「カハッ!?」
ミントは乱舞技の最中に空中へと舞い上がったクレア少佐に止めの蹴りを叩き込んで地面に叩き付け
「秘技――――幻影奇襲(ファントムレイド)!!」
ヨシュアは止めにクレア少佐に突撃してクレア少佐を中心に発生する無数の斬撃をクレア少佐に叩き込んだ!
「キャアアアアアアアッ!?皆さん……申し訳ございま……せん………」
ミントとヨシュアのSクラフトを受けたクレア少佐は悲鳴を上げて戦闘不能になり、地面に膝をついた。

「ぶっとばせ~!」
「―――――」
「「!!」」
エステルとフェミリンスと対峙したミリアムはアガートラムにクラフトーーーーバスターアームを放たさせたが二人は左右に跳躍して回避し
「邪を打ち消す光よ!」
「わっ!?」
フェミリンスは反撃に片手から本来は敵に付与されている支援系の魔術や身体能力の強化を打ち消す閃光――――破術の閃光を放ってミリアムにダメージを与えると共にミリアムの目を眩ませ
「瞬散撃!!」
「――――」
エステルが地面を蹴った勢いで一気にミリアムに詰め寄って棍を振り下ろしたがアガートラムがすぐに反応してミリアムの前に現れて振り下ろした棍を自らの身体を張って受け止めた。

「へ~、アルティナちゃんのクラウ=ソラスみたいに、相方の危機には真っ先に反応する所も一緒みたいね。」
「へ……何でアーちゃんやクーちゃんの事を……って、そう言えば君達もリィン達と一緒に”碧の大樹”を攻略したメンバーだったね~。君達は知らないかもしれないけど、ボクはリィン達の仲間なんだよ~?」
アガートラムから一端離れて感心した様子で呟いたエステルの言葉を聞いて不思議に思ったミリアムだったがある事を思い出し、エステルの気をそらせる為にエステルが驚くであろう事実を口にしたが
「”Ⅶ組”、だっけ?当然貴女達の事もリィン君達から少しだけ話は聞いているわよ。」
「だったら、もうちょっと手加減するとか、リィンの仲間のボクと戦う事に躊躇いとかないの~?」
「これでも手加減してあげているわよ?そうよね、フェミリンス。」
「そうですわね。我々が”本気”で貴女達を攻撃すれば、間違いなくその傀儡は今頃木端微塵になっていますわ。」
「え”。」
「―――――!?」
エステルは全く動じずにフェミリンスと共にミリアムの疑問に答え、二人の答えを聞いたミリアムは表情を引き攣らせ、アガートラムは驚いた様子で機械音を出した。
「それとリィン君達の仲間の貴女と戦う事に”躊躇い”なんてない―――ううん、むしろその逆よ。だって、あたし達の仲間のリィン君達にとって大切な仲間である貴女が悪い事をしようとしているんだから、リィン君達の代わりに未然に防いでお仕置きをして、更生させるのがリィン君達の仲間であるあたし達の役目だしね!」
「む、無茶苦茶だよ~!鬼~!悪魔~!ガーちゃん、お願い!」
「――――!」
エステルの理論を聞いて疲れた表情で指摘したミリアムはアガートラムを球体に変化させて上空から奇襲させるクラフト―――メガトンプレスを発動し
「っと!乙女に向かって鬼や悪魔だなんて、失礼な娘ね~!――――爆裂火球!!」
「そうですわね。まあ、エステルが”人外”のような”人間”である事は否定しませんが。―――――ネメシスアロー!!」
「わわっ!?」
それぞれ大きく後ろに跳躍して回避したエステルは爆裂する火球の魔術を、フェミリンスは雷のエネルギーを放つアーツを発動して反撃し、二人が放った魔術とアーツをミリアムは慌てた様子で紙一重で回避した。

「お返しだ~!ガーちゃん、ぶっ飛ばせ~!」
「―――――!」
回避を終えたミリアムは反撃にアガートラムにレーザーをエステルとフェミリンスに向けて放たさせたが
「ハァァァァ……滅!!」
フェミリンスが神槍に上位神聖魔術を込めた一撃で襲い掛かるレーザーを消し飛ばし
「え”。」
「――――!?」
フェミリンスのクラフト―――闘聖の滅燐撃によってレーザーが消し飛ばされる様子を見たミリアムが表情を引き攣らせ、アガートラムが驚いたその時!
「これで終わりよ―――――七耀のみんな、あたしに力を!―――行くわよ!」
Sクラフトを発動したエステルが棍を虹色に輝かせてミリアムに向かって突撃した。
「わわっ、ガーちゃん、何とか耐えて~!」
「―――――!」
突撃してくるエステルを見たミリアムは慌てた様子でアガートラムに防御の構えで絶対障壁を展開させて自分を守らせたが
「たぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「―――――!?」
「ひゃんっ!?はうっ!?いたいっ!?」
神の力を宿した棍による乱舞攻撃の前には絶対障壁は何の意味もなさず易々と破壊され、エステルはアガートラムごとミリアムに乱舞攻撃を叩き込んだ後止めに突進と共に薙ぎ払いによる一撃を叩きつけてミリアム達の背後へと移動し
「神技!セプトブラスト!!」
エステルが棍を一振りするとミリアム達の中心地で火・水・風・地・時・幻・空の7属性による連鎖爆発が起こった後虹色の大爆発が起こり、更にミリアム達の足元から空に浮かんでいる雲を貫く程の虹色の柱が上がった!
「うわああああああっ!?も、もう無理だよ~…………」
「!!!!!???――――――………」
遥か昔の先祖である空の女神エイドス直伝の七耀脈の加護を受けた神棍で乱舞攻撃を行う神技――――セプトブラストをその身に受けたミリアムとアガートラムはそれぞれ悲鳴を上げて戦闘不能になったリアムは地面に膝をつき、アガートラムは地面に落下してそのまま動かなくなった!

「…………」
「撃たせるか!」
「魔術は厄介だが、アーツのように発動には時間がかかる事は調査済みだ……!」
一方エステルに協力している異種族達に向かって行った軍人達は魔術の詠唱を開始したパズモを見ると詠唱の最中に攻撃して魔術の発動を中断させる為に近接戦闘用の武装でパズモに襲い掛かったが
(させるか――――疾風牙!)
「ぐがっ!?」
「ガッ!?」
サエラブが電光石火の如く鋭い気迫と共にパズモに襲い掛かった軍人達に突進攻撃を叩き付けて怯ませ
「援護する!」
「獣如きが……!」
苦戦している味方の様子を見た銃を武装にしている軍人達はパズモやサエラブに銃撃をしようとした。
「させません!――――降り注げ、大地の力!大地の制圧射撃!!」
「ぐあっ!?」
「ががっ!?」
しかしテトリが空に向けて放った一本の魔力の矢が矢の雨となり、遠距離からパズモ達を攻撃しようとした軍人達に降り注いだ為、軍人達は支援ができなかった。

「フフ、纏めて落としてあげるわ!」
「しま―――」
「クッ、身体の動きが……!」
ニルは光の魔力を宿らせた連接剣で近接戦闘用の武装の軍人達を纏めて巻き付けた後そのまま連接剣を振り上げて軍人達を宙に浮かせ
「ハアッ!」
「グエッ!?」
「ガアッ!?」
連接剣を地面に向けて思い切り振り下ろして軍人達を叩きつけた!
「吹き荒れよ、怒りの風よ!――――撃滅の大嵐!!」
ニルがクラフト―――縛光武・墜影を終えると詠唱を終えたパズモが魔術を発動すると前衛と後衛の軍人達の真ん中に当たる位置に圧縮した魔力風が爆発させ、前衛と後衛の軍人達を纏めて攻撃すると共に吹き飛ばした!

「舐めるなよ……!」
「この程度で倒れてたまるか……!」
「まずはダメージを回復するぞ……!アークス駆動――――」
「了解……!アークス駆動――――」
4人の攻撃を受けてもなお軍人達はそれぞれ立ち上がり、ダメージを回復する為に回復アーツの駆動を始めた軍人達もいたが
「風よ、走れ!気体連弾!!」
(燃えよ!)
「そこですっ!大地の精密射撃!!」
「さっさと沈みなさい!」
「がっ!?」
「ぐあっ!?」
「く、くそ……」
「む、無念……」
パズモは詠唱無しで空気の塊を2連続で放つ魔術を発動し、サエラブは炸裂する火球を口から放ち、テトリは大地の魔力が宿った矢を放ち、ニルは連接剣を伸長させてそれぞれの攻撃が命中した軍人達はそれぞれ吹き飛ばされて壁に叩き付けられ、気絶した!

「アークス駆動――――ラ・クレスト!!」
「アークス駆動――――ラ・フォルテ!!」
一方カファルーやクーに向かって行った軍人達はそれぞれ支援アーツを発動して仲間達の能力を上昇させ
「左右から同時に攻めるぞ!」
「了解!」
仲間達のアーツによって攻撃能力が上昇した軍人達はそれぞれ近接戦闘用の武装で左右から同時にクーとカファルーに襲い掛かったが
「クー。」
「ガッ!?」
「グッ!?」
クーは巨大な尻尾で薙ぎ払って襲い掛かってくる軍人達を吹き飛ばし、吹き飛ばされた軍人達は壁に叩き付けられて気絶し
「グオオオッ!」
「「ギャアアアアアアッ!?」」
カファルーは口から灼熱のブレスを吐きながら首を振って軍人達にダメージを与えると共に怯ませ
「グオッ!」
「ガッ!?」
「グアッ!?」
更に両脚に炎を纏わせた一撃で追撃し、カファルーのクラフト―――爆炎スマッシュによって吹き飛ばされた軍人達は気絶した。

「なっ!?クッ……!」
「クッ……ならばこれはどうだ……!」
「幻獣風情が……!アークス駆動――――クリスタルフラッド!!」
「アークス駆動――――ネメシスアロー!!」
あっさりと反撃された仲間達の様子を見て驚いた後方の軍人達はそれぞれ銃等の遠距離武装による攻撃やスマートミサイル、そしてアーツでそれぞれクーやカファルーに攻撃した。
「ク?」
しかし銃弾どころか、ミサイルに命中しても”万物の長”と恐れられている竜族の中でも高位の竜族であるクーの鱗には傷一つつける事はできず
「グオオオオッ!」
「グアッ!?」
「ガッ!?」
また”魔神”である事から如何なる攻撃も軽減する強靭な肉体を持ち、更に自身が常に凄まじい炎を纏っているカファルーは銃弾は身体に命中する前に自身が覆っている炎で焼き尽くし、更に魔術が命中しても全く怯まずそのまま突進して爪の一振りで自分を攻撃した軍人達を吹き飛ばして壁に叩き付けて気絶させた。
「クー―――――ッ!!」
「しま――――ぐああああああっ!?」
「退避、退避――――うわああああああっ!?」
そしてクーは口から岩どころか鉄すらも易々と砕く程の威力があり、更に逃げ場が見つからない程の広範囲を攻撃する水のブレスを軍人達に叩き込んで、軍人達を戦闘不能にすると共に気絶させた!

「いたた………うわっ!?みんな、気絶しているよ~!」
「………くっ………ここまで、”力の差”があったなんて……!」
戦闘が終了し、ミリアムは周囲に倒れている軍人達に気づくと驚き、クレア少佐は唇を噛みしめて悔しそうな表情を浮かべた。
「やれやれ……随分と暴れたものね。」
「ったく、そういう事を平気でするから、エレボニア帝国政府の連中に警戒されて、エレボニアの入国を拒否されたんじゃねぇのか?」
するとその時銀髪で褐色肌の女性が呆れた表情をしたトヴァルと共にエステル達の背後から現れた。
「あ、シェラ姉!それにトヴァルさんも。」
「二人ともお疲れ様です。」
銀髪の女性―――――リベールのA級正遊撃士の一人”嵐の銀閃”シェラザード・ハーヴェイとトヴァルの登場にエステルは目を丸くし、ヨシュアは二人に労いの言葉をかけた。

「……っ!」
「ちょっ、ボク達はこれ以上やり合うのは無理なのに、このタイミングで更に援軍って酷くない!?こんなの”イジメ”じゃないか~!」
二人の登場がエステル達にとって更なる援軍である事を悟ったクレア少佐は唇を噛みしめ、ミリアムは表情を引き攣らせた後疲れた表情で声を上げた。
「アハハ………ミント達はこれ以上貴女達と戦うつもりはないから、安心していいよ?」
「――――その二人は”白兎”の貴女と”氷”の少佐を”保護”して、貴女達の”主”であるかの宰相の所まで同行する為に現れただけですわ。」
ミリアムの指摘に対してミントは苦笑しながら答え、フェミリンスは静かな表情で答えた。

「へ………」
「………何故お二人が私とミリアムちゃんだけ見逃し、宰相閣下の元に………」
フェミリンスの説明を聞いたミリアムは呆け、クレア少佐は困惑の表情を浮かべた。
「ま、遊撃士協会(あたし達)としてはクロスベルとエレボニアの関係を悪化させない為にクロスベルが拘束しようとしていたエレボニア帝国軍でも有名な貴女達を”保護”してエレボニア帝国に帰還してもらう為だけど……あくまでそれは”建前”で、クロスベル――――ヴァイスさん達が貴女達をあたし達が保護して鉄血宰相の元に送還する”本当の理由”はクレア少佐。2年前まだクロスベル警備隊の上層部だった頃のギュランドロス皇帝夫妻と交渉した事のある貴女なら、『2年前の宣戦布告の仕切り直しです』といえば理解すると、ルイーネ皇妃からの伝言よ。」
「『2年前の宣戦布告』……ギュランドロス皇帝夫妻との交渉………――――――!!」

テメェら”如き”が俺達”六銃士”をどうにかできると思うな。――――身の程を知れ。

私達が進む道を阻むなら全力でお相手し、叩き潰しましょう。――――”六銃士”の名に賭けて。

シェラザードの話を聞いて少しの間考え込んだクレア少佐はかつての出来事をすぐに思い出して表情を青褪めさせて身体を震わせ
「ク、クレア~?顔が悪いし、身体が震えているようだけど2年前に一体何があったの~!?クレアをそこまで怖がらせるなんて、”六銃士”達は一体何をやったの~!?」
「いや、俺達だってマジで何があったのか、知りたい側なんだがな………エステル、”六銃士”達と親しいお前さん達なら知っているだろう?」
「う~ん……期待している所悪いけどあたし達が親しいのはヴァイスさんとリセルさんだけだから、他の”六銃士”の人達に関してはあんまり話したことがないから、あたし達も知らないわ。」
「……まあ、2年前のクロスベルとエレボニアの関係や状況、一般的に知られているギュランドロス皇帝の性格を分析すれば当時何があったか大体想像はつきますが………」
「恐らくはオズボーン宰相に対する”釘刺し”でしょうね……」
クレア少佐の様子を見て驚いたミリアムはエステル達に問いかけ、ミリアムの問いかけに苦笑しながら答えたトヴァルはヴァイス達と親しい関係のエステルに答えを促したが、促されたエステルは疲れた表情で答え、フェミリンスとヨシュアは静かな表情で推測を口にした。

「ホントとんでもないわよね、ヴァイスさんを含めた”六銃士”は………」
「アハハ……”自治州”だったクロスベルを”帝国”に成りあがらせた上、大国のとても偉い人に平気で喧嘩を売っているもんね……」
疲れた表情で溜息を吐いたシェラザードの言葉を聞いたミントは苦笑しながら同意し
「ハア……改めて思ったけどヴァイスさんもそうだけど、ギュランドロス皇帝も無茶苦茶過ぎる皇帝達よ………―――まあ、それはともかく。シェラ姉、トヴァルさん。打ち合わせ通り二人を帝都(ヘイムダル)に送る方はよろしくね!」
エステルは溜息を吐いてジト目になって呟いたがすぐに気を取り直してシェラザードとトヴァルに声をかけた。
「ええ、貴女達の方もクロスベル軍・警察が到着するまでの無力化した連中の見張り、頑張りなさい。」
「そんじゃ、二人にとっては不本意かもしれんが、帝都(ヘイムダル)まで俺達と一緒に行ってもらうぞ。」
「………わかりました………よろしくお願いします………」
「あ~あ………この調子だとレクター達の方もボク達みたいになっているかもしれないね~。」
そしてクレア少佐とミリアムはシェラザードとトヴァルと共にエレボニア帝国方面へと向かった。

「旧Ⅶ組の人達にはちょっと悪い事をしたよね~。サザ―ラントでアガットさんを手伝ってくれたのに………」
「……そうだね。だけど彼女は旧Ⅶ組の中で特に”立ち位置”が微妙でもあるから、今回のような出来事が起こっても仕方なかったと思うよ。」
「――――だからといって、肝心な場面で旧Ⅶ組の人達と敵対して、最後はリィン君達を守るためにリィン君達を庇って命を落として、リィン君達を悲しませるなんて事まで、あたし達の世界で起こす訳にはいかないわ!」
複雑そうな表情で呟いたミントの言葉にヨシュアが静かな表情で同意している中エステルは怒りの表情で答えた。
「エステル………そうだね………オリビエさん達の為にも、並行世界の新Ⅶ組が教えてくれたオズボーン宰相達の野望は何としても食い止めないとね。」
「うん!みんなで協力すれば、絶対に大丈夫だよ!」
エステルの意見にヨシュアとミントもそれぞれ賛成の答えを口にした。
「フフ…………(例え世界が”終焉”に向かおうとも、どんな闇をも照らし、希望を諦めない貴女のその”光”は変わらないでしょうね………)」
一方エステル達の様子をフェミリンスは微笑ましそうに見守っていた。

その後エステル達は気絶した軍人達を拘束し、エステル達の連絡を受けて峡谷道に到着したクロスベル軍・警察に拘束した軍人達の身柄を引き渡した――――― 

 

外伝~想定外(イレギュラー)の戦い~中篇

~メンフィル帝国領・ユミル地方・ユミル山道~

「燃やせ――――フーリッシュレッド!―――――フレアバタフライ!!」
「エアリアルダスト!!」
「シルバーソーン!!」
「クリスタルエッジ!!」
戦闘開始時レクター少佐は一定時間アーツの駆動時間をゼロにするブレイブオーダーを発動した後アーツをすぐに発動し、軍人達もレクター少佐に続くように次々とアーツを発動させ、様々なアーツがロイド達を襲ったが
「聖なる加護を――――セイクリッドフォース!!」
ルファディエルが発動と同時に体力や傷、闘気や霊力を回復させ、魔法攻撃を吸収する特殊結界を味方に付与するブレイブオーダーを発動させてレクター少佐達が放った怒涛のアーツを無効化した。
「チッ、攻撃アーツを無力化するとか厄介なブレイブオーダーだな………―――――ラ・フォルテ!!」
ロイド達にアーツが効かない事に舌打ちをしたレクター少佐は支援アーツで自身や軍人達の攻撃力を上昇させた。
「さてと、今度はこっちの番ね……!ヤァァァァッ!」
「逃がすか……!」
「排除する。」
「散開しろ!」
サラは反撃に雷撃が宿った弾丸を連射するクラフト―――鳴神で、ロイドはトンファーから2丁の銃に変えた後怒涛の連射で広範囲を攻撃するクラフト―――クイックドロウで、フィーはクラフト―――クリアランスで反撃し、反撃されたレクター少佐達はそれぞれその場からすぐに散開して二人の反撃を回避した後それぞれ反撃行動に移り、ロイド達も本格的な攻撃に移り始めた。

「「…………」」
「あの二人は機動力を奪えば脅威度は激減する!足を狙え!」
「撃て――――ッ!」
疾風のような速さで距離を詰めてくるリーシャとフィーを見た軍人達は二人の足を止めるために二人の足元に銃撃をしたが
「遅い――――シュッ!」
「ガッ!?」
フィーはクラフト―――サイファーエッジで回避すると共に反撃を叩き込んで一撃で敵の一人を戦闘不能に追いやるとともに気を失わせ
「ハッ!――――爆雷符!!」
「な―――どこに―――ガハッ!?」
リーシャは人間離れした跳躍で一瞬で軍人の背後をとって起爆するクナイを投擲し、リーシャが投擲したクナイに命中して至近距離で爆裂を受けた軍人も一撃で戦闘不能になるとともに気を失った。
「クッ、包囲して同時攻撃で制圧するぞ!」
一瞬で仲間たちを無力化されたことに唇を噛みしめた軍人達はそれぞれ素早い動きでリーシャとフィーを包囲したが
「ポイっと。」
「しま―――」
「F(フラッシュ)グレネードだ!目をつぶれ!」
「ミッションスタート。」
フィーがFグレネードを投擲してFグレネードによる閃光で自身の包囲網を崩して包囲の範囲外へと逃れた後クラフト―――エリアルハイドによって戦場から完全に気配を消した。

「クッ、小賢しい真似を―――なっ!?」
「い、いない……どこに消えた!?」
Fグレネードの光が止んだ後目を開けた軍人達はフィーを探したがフィーが見つからない事に混乱した。
「行くよ―――――」
「しま――――」
「側面からだと!?」
するとその時いつの間にか軍人達の側面に回り込んだフィーが神速の速さで無数の斬撃を一瞬で軍人達に叩き込んだ後軍人達の中心地に足を止め
「シルフィード――――ダンス!!」
「ぐああああああっ!?」
「ぎゃああああっ!?」
「いっちょあがり。」
双銃剣で怒涛の銃撃を放ちながら全身を回転し、縦横無尽に舞い踊り、戦域を蹂躙するフィーのSクラフト―――シルフィードダンスを受けた軍人達は全員戦闘不能にになるとともに気を失って地面に倒れ、Sクラフトを放ち終えたフィーは静かな表情でつぶやいた。
「一斉にかかれっ!」
「喰らえ――――」
一方リーシャを包囲した軍人達は一斉にリーシャに襲い掛かったが
「来い――――」
「な――――」
リーシャは鉤爪で襲い掛かってきた軍人達全てを捕らえるとと共に自分の元へと引き寄せ
「斬!」
「ぐあっ!?」
「ががっ!?」
自分の元へと引き寄せた軍人達を斬魔刀で薙ぎ払って怯ませた!
「月影の蝶のように…………」
クラフト―――龍爪斬によって軍人達が怯んでいる隙にリーシャは”(イン)”の隠行術であるクラフト―――月光蝶で自身の姿を完全に消し
「き、消えた……」!?」
「隠行術か……!互いの背中を合わせて周囲を警戒し、奇襲に備えるぞ!」
リーシャが消えた事に驚いた軍人達はそれぞれ互いに背中合わせになって周囲を警戒した。すると様々な方向から軍人達に向かって突如現れた暗器や符が軍人達へと襲い掛かったが軍人達はそれぞれの武装で襲い掛かる攻撃を叩き落したり回避したりしたが、軍人達が囮の攻撃に夢中になっている間にリーシャは木の頂上へと移動して大技を発動した!
「我が舞は夢幻…………去り逝く者への手向け………眠れ……(しろがね)の元に!縛!!」
「バカな……上からだと!?」
「不味い、か、身体が……!」
リーシャが放った無数の鉤爪は軍人達を完全に拘束し、軍人達を完全に拘束したリーシャは跳躍して勢いよく拘束した軍人達目がけて突撃して斬魔刀で一閃した!
「滅!!」
「ガハッ!?」
「つ、強すぎる………」
「こ、これが伝説の暗殺者の力だという……の……か……!?」
リーシャの奥義(Sクラフト)の一つ――幻月の舞をその身に受けた軍人達はそれぞれ戦闘不能になると共に気を失って地面に倒れた!

「………………」
「させるか!」
「今回の件にはしてやられたが、せめて一矢は報いてくれる……!」
魔術の詠唱を開始したルファディエルを見た軍人達は詠唱を妨害するためにルファディエルに襲い掛かったが
「ヒャッハー!雑魚が吾輩を無視すんなよ?そらあっ!」
「ガッ!?」
「グアッ!?」
ギレゼルが魔槍でまるで死神が命を刈り取るかのような斬撃を放つクラフト―――狩リ取ル鎌斬を軍人達に叩き込んで怯ませ
「この………っ!」
「喰らえ!」
「無駄無駄ァッ!」
更に後方から放たれた銃撃は器用に魔槍を振るって銃弾をそれぞれ斬った。
「さて、今度はこっちの番だぜぇっ!ヒャッハー!!」
「グアッ!?」
「ががっ!?」
そしてギレゼルは自分が先ほど攻撃した近接戦闘用の武装の軍人達に暗黒の力を纏った槍で怒涛の突きを叩き込み、ギレゼルのクラフト―――流黒の闇槍によって戦闘不能になった軍人達はそれぞれ気を失った。
「天よ、罪深き者達に裁きの雷を――――天雷!!」
「ぎゃああああっ!?」
「があああああっ!?」
その時詠唱を終えたルファディエルが魔術を発動すると後方の軍人達の頭上から巨大な神聖な稲妻が落ち、稲妻をその身に受けた軍人達は悲鳴を上げた後気絶した。

「―――今だ!喰らえっ!」
ルファディエルの魔術が終わると味方に攻撃している間にルファディエルの背後へと回った軍人の一人が自身の得物でルファディエルに襲い掛かったが
「――――護法蓮!!」
「な――――ガッ!?-―――グッ!?」
背後からの奇襲に全く気付いていなかったように見えたルファディエルは突然振り向くと同時に聖杖から障壁をさせて奇襲攻撃を防ぐと共に障壁を炸裂させて軍人を吹き飛ばし、吹き飛ばされた軍人は近くの木にぶつかり、そのまま気を失った。
「クッ、ならばこれはどうだ!?」
「反撃の後にできる隙は埋められまい!」
ルファディエルが奇襲攻撃を行った軍人への反撃を終えると今度はルファディエルの側面に回っていた軍人達がルファディエル目がけて一斉射撃を行ったが、なんとルファディエルは軍人達に視線を向けることなく聖杖を持っていないもう片方の手から光の魔力弾を軍人達目がけて無数に放った。無数の光の魔力弾はルファディエルへと襲い掛かる銃弾全てを相殺し、更に残った魔法弾は軍人達へと襲い掛かかった!
「ぐっ!?」
「がっ!?」
「バ、バカな……視線すら向けていないのに、正確な位置まで把握しているだと……!?」
ルファディエルが放った魔術――――連射光衝撃弾・広範囲を受けた軍人達はそれぞれ怯んだり驚いたりしたが
「くかかかっ!”軍師”のルファディエルからすれば、自分に攻撃が集中する事くらい戦闘が始まる前からお見通しだぜ!」
「な――――」
「しま――――」
「早い―――――」
「くかかかっ!ノッてきたぜ~!ヒャッハー!」
目にも止まらぬ速さで強襲してきたギレゼルに驚いた後すぐに迎撃態勢を取ろうとしたが、ギレゼルは自身がまるで狂戦士(バーサーカー)になったかのような狂気に身を任せた魔槍の乱舞を叩き込んできたため、軍人達はギレゼルの乱舞をまともに受けて怯み
「これでフィナーレだぜぇっ!」
「ぐああああああっ!?」
「む、無念………」
「クソ、忌々しい異種族共が……っ!」
狂気に身を任せて暴れまくる乱舞技であるギレゼルのSクラフト―――狂気乱舞を受けて戦闘不能になった軍人達は次々と意識を失って地面に倒れ
「その『異種族達の国であるメンフィルに2度も大敗北した』にも関わらず、未だ異種族の事をそんな風に見ている時点で、2度も”敗北”を味わったにも関わらずエレボニアは全く変わっていない証拠ね。」
「くかかかっ!まさに”負け犬の遠吠え”だな!くかかかっ!」
軍人の一人が気を失う寸前に呟いた言葉を聞いたルファディエルは呆れた表情で溜息を吐き、ギレゼルは暢気に笑っていた。

「セイッ!これはオマケよ!」
「ぐあっ!?」
「ががっ!?」
サラは上空からの強化ブレードによる奇襲から銃の追撃の連携攻撃をするクラフト―――絶光石火で奇襲し、サラの奇襲を回避しきれなかった軍人達は怯んだ
「くっ、舐めるな!?」
「自ら敵の懐に入ったこと、後悔するがいい……っ!」
一方サラのクラフトの回避に成功した軍人達の一部は銃でサラに反撃をしようとしたが
「おおおおおおっ!」
「そこだっ!」
「ぐっ!?」
「がっ!?」
ロイドがクラフト―――ブレイブスマッシュで、ガルシアが闘気を纏った突進―――ベアタックルを叩き込んでサラへの反撃を妨害した。
「一斉ではなく、左右に分かれて波状攻撃をしかけて休む暇を与えるな!-―――――ホーリーブレス!!」
「「「イエス・サー!」」」
一方レクター少佐はアーツで軍人達の傷を回復した後指示をし、指示を受けた軍人達はそれぞれロイド達に攻撃を仕掛けた。
「「喰らえ!」」
「オラアっ!」
「「ぐああっ!?」」
左右から同時に襲い掛かった軍人達はガルシアが高速回転しつつ相手の内蔵を蹴りつける軍用格闘技――――大回転旋風脚で吹き飛ばすと共に無力化し
「この……っ!」
「まだだ……っ!」
「させるか!」
「甘いわよ!」
「があああああっ!?」
「ぐあっ!?」
攻撃を放った後にできる僅かな隙を逃さないかのように他の軍人達が攻撃を仕掛けたがガルシアをカバーするようにロイドがトンファーに電撃を流し込んで攻撃するクラフト―――スタンブレイクで攻撃してきた軍人の一人を気絶させ、サラは強化ブレードを力強く振るって軍人を吹き飛ばし、吹き飛ばされた軍人は近くの木に頭をぶつけて意識を失った。

「ったく、たった3人で戦闘のプロフェッショナルの”軍人”達による波状攻撃を防ぐどころか、反撃で瞬殺するとか化物(ばけもの)かよ……仕方ねぇな。-――――燃えちまえ!!」
あっという間に制圧された軍人達を見たレクター少佐は疲れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してロイド達に向かって突撃し炎を纏わせた細剣をロイド達目がけて何度も振るった!
「「「!!」」」
レクター少佐が放った炎の魔剣による攻撃のクラフト――――レーヴァテインをロイド達はそれぞれ散開して回避し
「ヤァァァァッ!」
「っと!」
サラが反撃にクラフト―――鳴神をレクター少佐に放ち、次々と襲い掛かる雷の銃弾をレクター少佐は軽やかに回避し
「エネルギー充電――――チャージショット!!」
「あぶねっ!?」
背後から放たれたロイドの双銃によるエネルギーを溜めた事によって集束したエネルギー弾を振り返ることなく側面に跳躍して回避した。
「クク、秘書の割にはあのマクダエル市長の元第一秘書のように中々いい動きをするじゃねえか、”かかし男”よおっ!」
「……っ!!」
そこにガルシアが体重を乗せた重い蹴りのクラフト―――バーストキックで襲い掛かり、ガルシアの蹴りをレクター少佐は細剣で受け止めたが、受け止めた瞬間衝撃によって後退させられた。
「切り刻め――――」
「しま――――」
「紫電一閃!!」
「ぐっ!?」
レクター少佐がガルシアの攻撃を受け止めている間にレクター少佐の背後へと回ったサラは旋風を巻き起こしてレクター少佐を旋風へと引き寄せた後そのまま一閃し、サラのクラフト―――紫電一閃を受けたレクター少佐はダメージを受けると共に態勢を崩し
「崩れたわよ!」
「俺も続くっ!セイクリッド――――クロス!!」
「がっ!?」
レクター少佐が態勢を崩すとサラとリンクを結んでいるロイドが追撃にトンファーを十字に交差させ、収束し裂帛の気合とともに光の力と闘気を炸裂させるクラフトで追撃をした。

「一気に片を付ける!光と闇よ……今こそ俺に力を!ハァァァァ……ッ!!」
レクター少佐への追撃を終えたロイドはレクター少佐を迅速に制圧するために左右のトンファーにそれぞれ光と闇の魔力を纏わせ
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「チッ………!」
光と闇の魔力を纏わせた猛ラッシュをレクター少佐に叩き付け、レクター少佐は細剣で猛ラッシュをさばいたが
「おおおおおっ……!」
「グッ!?」
猛ラッシュの後に放たれたロイドの高速回転攻撃により空へと打ち上げられ、回転攻撃によって空へと跳躍したロイドはトンファーによる渾身の一撃をレクター少佐に叩きつけた!
「スパイラル――――ネメシス!!」
「カハッ!?]
「あたしの本気――――見せてあげるっ!ハァァァァァァッ!!ハッ!セイッ!」
ロイドの渾身の一撃によってレクター少佐が地面に叩き付けられた瞬間、サラは全身に凄まじい紫電を纏ってレクター少佐に突撃し、斬撃と銃撃の乱舞攻撃をまさに雷光のような速さで叩き込んでレクター少佐から一端距離を取り
「ノーザン―――――ライトニング!!」
「があああああっ!?………ったく、好き放題に攻撃を叩き込みやがって……俺はサンドバッグじゃねぇぞ……!?そら――――」
凄まじい速さでレクター少佐目がけて突撃すると共に強化ブレードで一閃するとレクター少佐の足元から衝撃波が炸裂した!二人のSクラフトを受けてもなお、レクター少佐は闘志を失っておらず、状況を立て直すためにオーブメントで治癒アーツを発動したが、何も起こらずアーツは不発に終わった。
「?――――!チッ、さっきの紫電(エクレール)の奥義(Sクラフト)を受けた際にショートしちまったのか……!?」
アーツが不発に終わった事に困惑したレクター少佐は自身のARCUSⅡがショートしてオーブメントの機能を失っていることに気づくと表情を歪めた。
「クク、アンタのその運の良さは戦いには通じなかったようだな?」
「!?げっ―――――」
するとその時背後からガルシアの声が聞こえ、声を聞いたレクター少佐は慌ててガルシアから距離を取ろうとしたが
「そこだっ!―――でいっ!」
「不味-――――」
ガルシアはレクター少佐を捕まえて空高くへと放り投げ
「捕まえたぜ……!落ちろ――――ッ!!」
「ガッ!?クソ………ここまでか………」
更に自身が跳躍して落下して来るレクター少佐を捕まえて地面に叩きこみ、ガルシアの奥義(Sクラフト)―――――キリングドライバーをまともに受けたレクター少佐は立ち上がろうとしたが、今までの戦闘によるダメージでもはや立ち上がる気力もなく、地面に膝をついた!

「あいたた………ったく、人をサンドバッグのように好き放題にボコりやがって………”紫電(エクレール)”や”キリングベア”はともかく、バニングス達にまでここまでボコられるような恨みは買っていないはずだぜ………?」
「あら~、戦闘前にあたしは”遊撃士”として仕方なく本気を出すといったことをもう忘れるなんて、どこか頭の打ちどころが悪かったのかしら~?」
疲れた表情で溜息を吐いて呟いたレクター少佐の言葉に対して笑顔を浮かべて答えたサラの答えにロイド達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「ハハ…………ですが、俺たちの相手をする羽目になった少佐達の方はまだマシだったと思いますよ?」
「そうですよね。むしろオルディス方面から撤退しようとしている人達の身を心配すべきですよね?何といっても、オルディス方面の最終防衛ラインはあのエステルさん達なんですから。」
我に返ったロイドとリーシャはそれぞれ苦笑しながら答え
「おいおい………ってことはクレア達はよりにもよって”ブレイサーオブブレイサー”達にボコられてんのかよ…………この様子だと、クロスベルに潜入していた連中は全員クロスベル(お前達)に捕まるだろうな…………」
「フフ、貴方達エレボニアは結社と比べればまだマシな方だと思うわよ?なんせヴァイスハイト皇帝はメンフィル同様結社の残党を”本気で抹殺する為に”自身の伝手を使って異世界から”最強の助っ人”を呼び寄せたのだから。」
「くかかかっ!”最強”ではなく、”最凶”と呼ぶべきなんじゃねぇのか、あいつ等の場合。」
二人の話を聞いて表情を引き攣らせたレクター少佐は疲れた表情で溜息を吐き、レクター少佐に指摘したルファディエルの話にギレゼルは暢気に笑いながら同意した。
「結社の残党……蛇狩り………”異世界からの最強の助っ人”………――――――!なるほどな。”嵐の剣神”達はエレボニア(俺達)ではなく、結社の残党――――いや、クロスベルに敵対する勢力に対する切り(ジョーカー)か。ったく、1年半前のクロスベル動乱時同様、なんでクロスベルにはそんなとんでもない戦力が集まるんだよ………まさかとは思うが、”空の女神”まで再び降臨してクロスベルに味方させる算段もついているのか?」
ルファディエルとギレゼルの話を聞いてすぐに察しがついたレクター少佐は疲れた表情で溜息を吐いた後表情を引き締めてロイド達に問いかけた。
「あら、それこそ言葉通り”女神のみぞ知る”、だと思うわよ?1年半前の”空の女神”の降臨、降臨した彼女達が私たちに手を貸してくれたことに関してはヴァイスハイト皇帝達もそうだけど、私たちにとっても完全に想定外だったもの。」
「くかかかっ!1年半前の動乱後に”家族旅行”をしていたあの女神なら、『今度は新婚旅行をするために夫と一緒にまた来ちゃいました♪』とか言って、また来るかもしれないな♪」
「何それ。”空の女神”ってそんなハチャメチャな性格なの?」
「ハア………もしその話が本当なら、ある意味納得するわ………なんせあのエステルの先祖なんだからね………」
(アハハ………1年半前の件や空の女神の性格を考えると、本当にありえるかもしれませんから、洒落になっていませんよね?)
「(ああ………)―――――さてと。サラさん、フィー。打ち合わせ通り、少佐に関してはお願いします。」
ルファディエルとギレゼルの話を聞いたフィーはジト目になり、サラは呆れた表情で溜息を吐き、苦笑しているリーシャにささやかれたロイドは疲れた表情で頷いた後気を取り直してサラとフィーに視線を向けた。

「ん。」
「ええ、後は任せておきなさい。君達も後処理、頼むわね♪――――ほら、とっとと立ちなさい!帝都(ヘイムダル)のあんた達の親玉の所までこのあたし達が送ってあげるんだから、ありがたく思いなさい。」
「何……?一体どういうことだ、バニングス。お前達は俺達を一斉検挙する為に俺達とやりあったんじゃねぇのか?」
フィーと共に近づいてきたサラに立ち上がるように促されたレクター少佐は困惑の表情でロイドに問いかけた。
「ええ、勿論倒れている彼らに関してはクロスベルへと連行する人達を今ルファ姉が呼んでいる最中で、彼らが到着次第少佐以外の人達を連行してもらいます。――――ですが少佐に関しては2年前の”競売会(オークション)”で受けた”借り”がありますから、その”借り”を返すために少佐とオルディス方面の”子供達”だけ帰国させることをヴァイスハイト陛下達に頼んだ所、了承を得られましたので少佐達はサラさん達―――――エレボニアにいる遊撃士達に”保護”されて帝都(ヘイムダル)まで帰還してもらいます。」
「………何?ということはクレア達も………………―――――”六銃士”の連中は一体何を考えていやがるんだ?幾ら何でも特務支援課(お前達)の私情だけで、倒れている連中よりも価値がある俺達をわざと見逃すなんて判断、絶対しねぇだろ。」
「クク、”鉄血”の懐刀であるあんたなら、あんたを含めた”鉄血の子供達(アイアンブリード)を完全に無力化する絶好の機会がありながら、わざと見逃す理由”についても大体察しがつくんじゃねぇのか?」
ロイドの話を聞いて戸惑いの表情をしているレクター少佐にガルシアは不敵な笑みを浮かべてレクター少佐に問いかけた。
「…………――――!まさか………オッサンに対する”挑発”――――いや、”宣戦布告”か………!?」
「…………ヴァイスハイト陛下からオズボーン宰相への伝言です。『せっかく1年半前はメンフィルやリィン達に免じて見逃してやったのに、再びクロスベルに手を出そうとするのならば、今度は慈悲もなく貴様等の愚かな野望を徹底的に叩き潰し、貴様を必ず冥府へと送ってやろう。』―――――以上です。」
「………………」
ロイドからヴァイスのオズボーン宰相に対する伝言を聞いたレクター少佐は呆け
「―――――そしてこれは俺達”特務支援課”のオズボーン宰相に対する伝言です。貴方が『小さな意志』と評した俺達特務支援課の――――クロスベルの”炎”は絶対に貴方達のような全てを飲み込もうとする”炎”には呑ませはしない!」
「ロイドさん………」
「おおおおおっ!ここでお前達自身の”宣戦布告”もするとは、ハーレム以外にもあの”好色皇”の影響を受けたんじゃねぇのか?くかかかかっ!」
「まあ、今の様子からすると女性関係以外にも間違いなく影響を受けているでしょうね………」
「クク、まさか警察のガキ共がたった二年で”鉄血宰相”に宣戦布告までする程成長するとはな…………それでこそ、俺達”ルバーチェ”を終わらせた奴等だ。」
更にロイドは決意の表情でトンファーをレクター少佐に突き付けて宣言し、ロイドの宣言にリーシャが微笑み、ギレゼルが興奮している中通信を終えたルファディエルは苦笑し、ガルシアは満足げな笑みを浮かべてロイドを見つめ
「………………なるほどね。さすがはあたし達の代わりにリィンと共に学び、育った連中って所かしら。」
「………ん。ノリや雰囲気もまるでⅦ組(わたし達)を見ているみたいだね。」
サラとフィーもそれぞれ静かな笑みを浮かべて見守っていた。

「………………」
一方ロイドに宣言されたレクター少佐はロイドの背後にロイドを始めとした”特務支援課”の面々に加えてロイド達同様”特務支援課”のメンバーであったリィンとセレーネの幻影が映っている幻覚を見た事によって呆けた表情で黙り込み
「クク……ハハ………ハハハハハッ!まさか俺どころかオッサンに対してそこまで大きく出る発言をするようになるなんて、随分と成長したじゃねぇか、バニングス――――いや、特務支援課(お前達)は。この様子じゃシュバルツァーもその内、オッサンとの”縁”を完全に切ってオッサンに対して”宣戦布告”をするかもしれねぇな。」
やがて口元に笑みを浮かべて大声で笑い、感心した様子でロイドを見つめた。
「それ以前に”縁”もなにも、リィン自身、とっくに”鉄血宰相”を父親だと思っていないから、リィンと”鉄血宰相”の縁はとっくに切れているから、リィンも”鉄血宰相”に対して容赦はしないと思うけど。」
「そうよねぇ~?一年半前の”煌魔城”でも、プリネ皇女達もいる目の前でリィンを利用すると堂々とバカな宣言をした鉄血宰相本人に向かって『俺は父さんたち――――シュバルツァー家の長男にして大恩あるメンフィル皇家に忠誠を捧げているメンフィル貴族の一人だ。例え血が繋がっていようと貴方の事は決して”親”と認めないし、貴方の思い通りに動くと思ったら大間違いだ!』って宣言して、内戦後のあんたや”鉄血宰相”の”要請”を無視し続けているものねぇ?」
「クク、なるほどな………シュバルツァーも既にオッサンに対して”宣戦布告”をしていたのか。―――――ヴァイスハイト皇帝陛下と”特務支援課”の宰相閣下に対する伝言、確かに承りました。――――そんじゃ、またな。」
ジト目のフィーと口元をニヤニヤさせているサラの話を聞いたレクター少佐は口元に笑みを浮かべた後立ち上がってロイドを見つめて恭しく礼をし、軽く手を振りながら下山し始め
「今回の件に関わらせてくれて、感謝しているわ♪ま、これからもエレボニア関連で色々厄介ごとがあるでしょうけど、君達も頑張りなさい。」
「じゃ、今度はⅦ組(わたし達)と特務支援課(あなた達)が全員揃って共闘する日が来る事を期待して待っているね。」
レクター少佐に続くようにロイド達に応援や別れの言葉を告げた二人はレクター少佐の後を追い始めたが
「――――フィー、紫電(エクレール)!もし団長やゼノ達に会うことがあれば伝えておいてくれ。猟兵を西ゼムリア大陸から締め出すも同然の”西ゼムリア同盟”が調印され、”オルランド”の一族も俺のように猟兵稼業から退いた”闘神の息子”を除けば全員死に絶えた今の時代に”猟兵”はもはや”時代遅れの存在”だ。時代に取り残されたくなければ、俺のように”猟兵”を辞めた方がいいぜってな。」
「………………」
「ガルシア………ん、わかった。次、団長たちに会うことがあれば、伝えておく。」
ガルシアに声を掛けられ、サラはフィーと共にガルシアの伝言を聞くと立ち止まって重々しい様子を纏って黙り込み、フィーは辛そうな表情をした後すぐに気を取り直してガルシアへと振り向いて頷いた後レクター少佐の後を追い始めた。

その後ロイド達は気絶した軍人達を拘束し、ロイド達の連絡を受けて山道に到着したクロスベル軍・警察に拘束した軍人達の身柄を引き渡し、シュバルツァー男爵夫妻に別れの挨拶をした後ユミルを去ってルーレへと向かった―――――

 

 

外伝~想定外(イレギュラー)の戦い~ 後篇


~星見の塔・屋上~

「風よ――――我が力となれ!」
「セリカ様、私達に御力を―――――英雄領域の付術!!」
「応えよ―――――トリプルオーダー!!」
戦闘開始時アリオスは気功で自身の身体能力を強化し、シュリは魔術で味方や自分の集中力を、エルミナは攻撃、防御に加えてブレイクダメージを高めるブレイブオーダーを発動してオルディーネと戦う味方の様々な能力を上昇させた。
「喰らうがいい―――――クリミナルエッジ!!」
そこにオルディーネが周囲を薙ぎ払う強力な一撃でルイーネ達目がけて襲い掛かかったが
「みんなを守ってください~!神護の結界~!!」
「何………っ!?」
サリアがドーム型に展開した絶対障壁がオルディーネの双刃剣(ダブルセイバー)を受け止め、結界によって攻撃を受け止められたオルディーネの操縦席にいるジークフリードは驚いた。
「狙いは外さないよ――――それっ!」
「ぐっ!?」
サリアがオルディーネの攻撃を防ぐとマリーニャが人間離れした跳躍力でオルディーネの頭の位置まで跳躍した後無数の短剣をオルディーネの両目目がけて放ち、短剣が両目に命中した事でオルディーネのダメージがフィードバックしたジークフリードは怯んだ。
「―――零距離、もらいました。ファイアー――――ッ!!」
「あんたに見切れるかい!?――――旋転斬!!」
「何………っ!?」
オルディーネが怯んでいる間に距離を詰めたアルはオルディーネの右足から超至近距離で関節部分目がけて連射し、パティルナは投刃で左足の関節部分を攻撃した後更にサマーソルトキックを叩き込んでオルディーネの態勢を崩し
「崩しました!」
「私も続くわ♪――――私の剣、見えるかしら?シューティングスター!!」
「崩したよ!」
「続きます!―――走れ―――ダブルサーキュラー!!」
オルディーネの態勢が崩れるとそれぞれとリンクを結んでいるルイーネが目にも止まらぬスピードで突撃して細剣を繰り出し、エルミナは突撃して双剣を極僅かな時間差で繰り出す連続攻撃で追撃した。

「原初の炎に焼き尽くされるがよい――――メル=ステリナル!!」
「セリカ様、邪悪なる者達に裁きの焔を――――贖罪の聖光焔!!」
「みんな……もえ、ちゃえ………メル=ステリナル。」
「ぐああああああっ!?」
ルイーネ達がオルディーネに接近戦を仕掛ける事で後衛の魔術の詠唱時間が確保され、詠唱を終えたレシェンテとシュリ、ナベリウスはそれぞれ灼熱の炎と聖なる炎を発生させる最高位魔術をオルディーネに叩き込み、三つの最高位魔術によって発生する炎をその身に受けたオルディーネは大ダメージを受けると共に、更に操縦席にいるジークフリートも全てを塵も残さず焼き尽くす炎が機体に叩き込まれたため、フィードバックによるダメージと機体越しに伝わる熱さを感じたことで悲鳴を上げた。
「御雪さん~、お願いします~!」
「凍え死になさい………!」
「うおおおおおおおおおっ!?」
三つの魔術による炎が消えた事で哀れにも蒼き機体が黒焦げの状態のオルディーネが現れるとサリアが東方風の白い着物を身にまとっていることからまるで”雪女”のような姿をした女性――――”氷魔神”御雪を召喚し、召喚された氷魔神は猛吹雪を発生させてオルディーネとジークフリートを苦しめた。
「秘技――――裏疾風!ハアァッ!!」
「一点集中!――――乱れ突き!!」
「ぐうっ!?」
そこにアリオスがカマイタチを纏った電光石火の連続攻撃で、マリーニャは両手に持つ短剣でオルディーネの右足を目にも見えぬ速さで一点集中攻撃してオルディーネに追撃をし、灼熱の炎と猛吹雪を連続で受けた事による激しい温度差の影響でゼムリアストーン製であるオルディーネの装甲は脆くなっており、関節を攻撃されていないにも関わらず関節を攻撃された時のような痛恨のダメージを受けてしまった。
「クッ………まさか生身で僅かな時間でオルディーネにこれ程のダメージを与えるとは完全に敵の戦力を見誤っていたな………神気発動!」
ジークフリートは立て続けに受けた機体のダメージを回復するために霊力を取り込んで機体のダメージを回復させたが
「すごいの、いきますよ~!ルン=アウエラ~!!」
「ごろごろ……どっかーん………リーフ=ファセト。」
「身も心も凍てつくがよい――――ユン=ステリナル!!」
「ぐがああああああああっ!?」
サリアとナベリウス、レシェンテが放った3種類の最上位魔術が命中した為、回復したダメージは無駄になった。

「凍って下さい!!」
三人の魔術が終わるとシュリは両手に持つ魔導銃から冷却属性の魔導弾をオルディーネの両足目がけて無数に放ち、シュリのクラフト―――凍結拡散撃ちによってオルディーネの足元は氷に包まれた為身動きが取れなくなった。
「二の型――――疾風!!」
「あたしのナイフ捌き、見切れるかしら!?ハァァァァァァ――――乱れ斬り!!」
「暗黒魔力集束――――深淵剣!まだです―――フェア・バティス!!」
「うふふ、踊りなさい――――パラレル・スティング!カドラプル・ペイン!!」
「薙ぎ払え―――エンド・リボルバー!!」
「唸りな――――烈震斬!さあ、暴れるよ!乱舞!!」
オルディーネの動きが一時的に封じられたことを好機と判断したアリオス、マリーニャ、アル、ルイーネ、エルミナ、パティルナは一斉に襲い掛かって次々とオルディーネに攻撃を叩き込んだ。

「なななななななっ!?な、生身でオルディーネ――――”騎神”相手に……!」
「まさに一方的な試合(ワンサイドゲーム)と言ってもいい圧倒的な戦いを繰り広げていますわね………」
「そ、それに………魔術師と思われる方々が放つ魔術はあまりにも圧倒的すぎます……!」
「あんな威力、近代兵器どころか、新型の”ドラグノフ級列車砲”でも絶対出せないわよ………」
「そうね……それこそベルフェゴール達と比べても遜色ない”化物”っぷりね。ソロモンの”冥門侯”と思われる娘はわかるけど、後のメイド達は見た目は人間でありながらあんな”人外”じみた魔術を平気で次々と撃つとか一体何者なのよ………」
ルイーネ達の戦いを見守っていたマキアスは驚きのあまり混乱し、シャロンは目を丸くし、信じられない表情をしているエマと表情を引き攣らせているアリサの言葉に同意したセリーヌは疲れた表情で呟き
「ハハ、マリーニャさん達が相変わらずの強さなのは理解していたが、まさか噂に聞く”六銃士”の面々までマリーニャさん達と比べても遜色ない強さだったとはね………」
(さすがはかの”神殺し”の”使徒”達といったところですか。)
(ええ…………それに”六銃士”が戦闘している所も初めて見ますが………彼らも古のメルキアが発展するきっかけとなった戦争を生き抜いた猛者達だけあって、メンフィル軍(我々)の将軍や元帥クラスと遜色ない戦闘能力ですね。)
「そういえばエリゼのお師匠様は確か今”劫焔”という執行者と剣を交えているセリカさんという方に元々お仕えしている方との事だけど………もしかしてその方もマリーニャさん達と同じ存在なのかしら?」
「ええ。そしてエクリア様はセリカ様の使徒達の纏め役でもある”第一使徒”よ。」
「うふふ、あの蒼いガラクタ、”終わった”わね。」
「ふふふ、彼らは果たして”操縦者”を生かすのでしょうかね?」
オリビエが苦笑しながら、サフィナとセシリアが真剣な表情で戦いを見守っている中あることを思い出したアルフィンに訊ねられたエリゼは静かな笑みを浮かべてある人物を思い浮かべ、戦いがどうなるかわかっていたベルフェゴールは暢気な様子で呟き、リザイラは静かな笑みを浮かべてアリサたちに視線を向けた。
「………………」
「あれが”風の剣聖”と”六銃士”の”力”…………」
「凄い……まさかミッシェルさんも遥かに超える魔法の使い手があんなにたくさんいるなんて………」
「私達……夢でも見ているのでしょうか……?」
「クク、メイドの連中やチビ蝙蝠娘も見た目とは裏腹に相当イカれた連中だな。」
「フフ、さすがはクロスベルの”切り札”といった所でしょうか。(あのような凄まじい使い手達を味方にできる”こちらの世界の私”が羨ましいですわね。)」
「相変わらず”化物”じみた方々です。」
一方機甲兵から降りて仲間たちと共に戦いを見守っていたユウナはルイーネ達の圧倒的な強さに口をパクパクさせ、クルトとゲルド、リーゼアリアは呆け、アッシュは不敵な笑みを浮かべ、ミューズは静かな笑みを浮かべ、アルティナは疲れた表情で呟き
「皆さん、相変わらずの強さですわね……あの様子ですとオルディーネは間違いなくルイーネ皇妃陛下たちに破壊されるでしょうね。」
「ああ、問題は”蒼のジークフリード”と名乗っている仮面の男をどうするかだな………」
「クスクス、それと今も静観している”蒼の深淵”に対してヴァイスお兄さんたちはどうするかも気になるわね。」
(フフ、こんな”想定外(イレギュラー)”、結社、地精双方共に想定もしていなかったでしょうね。いえ、それどころか”あの男”にとっても―――――………それにしても”嵐の剣神”、だったかしら。確か彼が盟主(マスター)を討った仇の一人だそうだけど…………フフ、中々いい男ね。”劫焔”すらも歯牙にもかけない戦闘能力でレオンと似た雰囲気を纏っていながら多くの女性を囲っているなんて、私個人としても”色々な意味”で興味深い人物ね。)
苦笑しているセレーネの推測にセリカ達の戦いの間にヴァリマールから降りたリィンは同意した後複雑そうな表情でアリサたちに視線を向け、レンは興味ありげな様子で戦いに介入することなく静観し続けているクロチルダに視線を向け、クロチルダは意味ありげな笑みを浮かべて戦いを見守っていた。

「ハア、ハア………ぐっ………まさか俺達が生身相手にここまで追いつめられるとは………こんな事になるのであれば、イレギュラー共の挑発に従ってあの場を撤退すべきだったな……」
ルイーネ達との戦闘によって蓄積されたダメージでオルディーネは既に追いつめられており、操縦席にいるジークフリートもオルディーネが受けたダメージによって瀕死の状態で操縦しつつ、カンパネルラとマクバーンもそれぞれ自分同様追いつめられている様子が目に入った。
「”蛇”の方も劣勢か………恐らくイレギュラー共は蛇ごと地精(俺達)も”狩る”つもりだな……だが、このジークフリート、ただで狩られると思うな……!」
そしてジークフリートはせめてルイーネ達に一矢を報いるためにダメージ無視の捨て身の一撃を放つ為にルイーネ達に突撃しようとしたが
「汝、美の祝福賜らば、我その至宝、紫苑の鎖に繋ぎとめん!――――――アブソリュートゼロ!!」
「贖罪無き罪は罰と化し……裁きの時を呼び寄せる……ペイルフレアー。」
「がああああああああああっ!?」
普段よりも長い詠唱を必要としている”大魔術”の詠唱を終えたレシェンテは世界をも凍てつかせる程の極寒の猛吹雪を発生させる大魔術を、ナベリウスは骨も残さず焼き尽くす冥界の炎を呼び寄せる大魔術を発動し、2種類の大魔術によるダメージに耐えきれなかったジークフリードは悲鳴を上げ、オルディーネは地面に膝をついた。
「セリカ様――――裁きの槍を!メギドの神槍!!」
「古の深淵よ、我が槍に滅びの力を―――――ソロモンの魔槍!!」
「全部、貫いてやっつけてください~!アウエラの槍~!!」
「ぁ――――――」
そこにシュリとアル、サリアが放った神聖、暗黒、そして純粋の三属性の最上位魔力が込められた槍がオルディーネの双刃剣(ダブルセイバー)目がけて襲い掛かり、三種類の最上位魔力が込められた槍が双刃剣(ダブルセイバー)に命中すると凄まじい大爆発が起こった後ゼムリアストーン製の双刃剣(ダブルセイバー)は木端微塵に砕け散った!
「受けて見よっ!滅びの太刀!!ハアアアアアアアア――――――ッ!!」
「あたしの本気―――――ついてこれるかしら!?ハァァァァァァ………!秘技!稲妻奇襲(ライトニングブレイド)!!」
その時Sクラフトを発動したアリオスは全身に膨大な闘気を纏って跳躍し、マリーニャはまるで稲妻になったかのような凄まじい速さでオルディーネを中心に縦横無尽に駆けながら無数の斬撃を叩き込み始めた。
「エルちゃん、パティちゃん♪久しぶりに一緒にいきましょうか♪」
「はい、ルイーネ様!」
「オッケー、お姉さま!――――まずはあたしから!」
一方ルイーネ、エルミナ、パティルナの三人はそれぞれ視線を交わして頷いた後パティルナが自身の得物を勢いよく投擲してオルディーネを怯ませ
「次、私が続きます!」
パティルナの攻撃の間にオルディーネに詰め寄っていたエルミナがパティルナの攻撃が命中した後にすぐに双剣で切り付けてそのまま駆け抜け
「うふふ、次は私ね♪」
エルミナの攻撃が命中するとルイーネが細剣による怒涛の連続突きを放った後神速の突進攻撃で追撃すると共に駆け抜け
「これが!」
「”三銃士”の!」
「”力”よ♪」
そして三人は三方向から同時に突進攻撃を行って駆け抜け、3人が駆け抜けるとオルディーネを中心に大爆発が起こった!

「「「三銃士の協撃(デルタブラスト)!!」」」

「があああああああああっ!?」
かつて”三銃士”と呼ばれたルイーネ達の協力技――――三銃士の協撃(デルタブラスト)によってオルディーネの四肢はもがれた!
「絶――――黒皇!!」
そこに空高くへと跳躍したアリオスがオルディーネの頭上から襲い掛かり、太刀に凄まじい風のエネルギーを纏わせたアリオスはそのままオルディーネを真っ二つに斬りながら(ケルン)に到達した後オルディーネから離れた。すると(ケルン)を中心に風のエネルギーの大爆発が炸裂し
「ガハッ!?」
風の大爆発の炸裂によって(ケルン)が粉々に砕け散った事で、(ケルン)の中にいたジークフリートは爆発による衝撃で吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた!

「我が覇道についてくるがいい――――覇王陣”勇敢”!!」
リセル達と共にカンパネルラとの戦闘を開始したヴァイスは味方を加速させ、更にブレイクダメージを圧倒的に上昇させるブレイブオーダーを発動し
「レイ=ルーン!!」
「わわっ!?」
ヴァイスのブレイブオーダーによって詠唱も加速させたエルファティシアは片手から極太の魔力レーザーをカンパネルラに放ち、カンパネルラは慌てて回避した。
「逃がしません――――精密砲撃!!」
「あいたっ!?」
エルファティシアの魔術を回避したカンパネルラだったが、回避の瞬間を狙っていたリセルがカンパネルラ目がけて精密な砲撃をし、リセルの武装である砲剣の砲口から放たれた導力砲弾はカンパネルラに命中すると爆裂してカンパネルラを怯ませ
「崩しました!」
「もらったわ!リーフ=グラオス!!」
カンパネルラが怯むとリセルとリンクを結んでいるエルファティシアが炸裂する自然の魔力が込められた球体を放って追撃した。
「燃えちまいなぁっ!――――豪炎斬!!」
「あぶなっ!?お返しだよっ!」
闘気による炎を纏わせた大剣で襲い掛かったギュランドロスのクラフトを後退して回避したカンパネルラは指を鳴らしてギュランドロスの周囲にカマイタチを発生させて反撃したが
「オラアッ!」
「な―――――け、剣の一振りでカマイタチを全て吹き飛ばすとか無茶苦茶だよ……」
ギュランドロスは自身の武装を軽く振るってカマイタチを吹き飛ばし、それを見たカンパネルラは表情を引き攣らせた。
「ま、その男が無茶苦茶な男なのは否定せんよ。――――剛震突き!!」
「!?ぐ……っ!?」
その時リセル達の攻撃の間にカンパネルラの背後へと回ったヴァイスが自身の武装である大剣でカンパネルラ目がけて突き刺し攻撃を放ち、ヴァイスの奇襲を転移で回避したカンパネルラだったが、転移する寸前に脇腹に突きが命中していた為、転移した後のカンパネルラは表情を僅かに歪めて脇腹から血を流していた。

「魔力凝縮―――――爆ぜよ、サヴァンの爆発!!」
「!うああああああっ!?」
そこにエルファティシアが魔術を発動させ、エルファティシアの魔術によってカンパネルラを中心に魔力が凝縮した後大爆発が起こり、大爆発が起こる瞬間結界を全身に覆って直撃を防ごうとしたカンパネルラだったが、ルーンエルフ族の女王であったエルファティシアの魔力による高位魔術の前では全く意味を成さず、カンパネルラの結界は易々と破壊されてカンパネルラは大爆発の直撃を受けたことで悲鳴を上げた。
「貫け――――剛進突破剣!!」
「いたっ!?」
エルファティシアの魔術による爆発が終わった直後にリセルは衝撃波と共に突進してカンパネルラとすれ違った瞬間斬撃を叩き込んで追撃し
「行くぞ―――薙ぎ払え!!」
「クク、纏めてぶった斬ってやらあっ!!」
「ぎゃああああああああっ!?」
リセルの追撃が終わるとヴァイスがカンパネルラの背後から、ギュランドロスがカンパネルラの正面からと、カンパネルラを挟み撃ちにする形でそれぞれの大剣で薙ぎ払い攻撃を放ち、二人の薙ぎ払いによってカンパネルラは腹と背中から大量の血を出血させながら悲鳴を上げた。
「ハア、ハア………”六銃士”が相当な実力者であることは知っていたけど、まさか最低でもレーヴェクラスだなんて完全に想定外だよ………しかも、皇妃の二人も全員最低でもレーヴェクラスでないと対抗できないレベルの戦闘能力とか、勘弁してほしいよ………」
転移魔術で一端ヴァイス達から距離を取ったカンパネルラは満身創痍の状態で息を切らせつつ、周囲を見回すとそれぞれの相手に一方的に押され続けているマクバーンとオルディーネに気づいた。
「不味い――――!マクバーンもそうだけど、”蒼”にも今倒れてもらうわけには―――――クッ…………まだ霊力(マナ)も回復しきっていない状況で”アレ”を撃ちたくはなかったけど、やむをえないね……!」
二人の劣勢に血相を変えたカンパネルラは表情を厳しくした後一気に勝負を決めるためにSクラフトを発動させた。するとカンパネルラはのの頭上に”塩の杭”を模倣した巨大な”杭”が顕れた。
「ルリエンよ、汝の裁きを今ここに―――――」
するとカンパネルラが大技を仕掛ける事を悟ったエルファティシアは自身の頭上に凄まじい魔力が集束した事によって槍の姿へと顕させ
「全部、塩になっちゃえ!!」
「ルリエンの裁き!!」
カンパネルラが巨大な”杭”を放つと同時に”槍”を放った!すると”杭”と”槍”がぶつかった瞬間、槍は”杭”を易々と貫いてカンパネルラ目がけて襲い掛かり、貫かれた”杭”は真っ二つになって空中で消滅した!
「な―――――あぐっ!?くっ………」
自身の大技が易々と無効化された事に驚いたカンパネルラは襲い掛かる槍に気づくと咄嗟に側面に跳躍して直撃は回避したが、槍が地面に刺さった瞬間に起こった光の大爆発に巻き込まれ、ダメージを受けた後”ブレイク”状態になって、致命的な隙ができた。

「リセル、共に行くぞ!」
「はい!どこまでもお供します、ヴァイス様!」
カンパネルラにできた隙を見逃さないかのようにヴァイスはリセルと視線を交わした後カンパネルラに強烈な斬撃を叩き込んで一端下がり、ヴァイスの一撃離脱と入れ替わるようにリセルは怒涛の連続砲撃で追撃し、砲撃を終えた後ヴァイスと同時にカンパネルラに斬り込んだ!
「「ロードストライク!!」」
「うあああああああっ!?」
ヴァイスとリセルが放った連携突撃技(コンビクラフト)を受けたことでカンパネルラは二人に斬られた場所から大量の血を出血させながら悲鳴を上げた。
「こいつで止めだ。――――――沈めやぁっ!」
「へぶっ!?――――あぐっ!?」
そして止めにギュランドロスがカンパネルラに詰め寄って剛腕をカンパネルラの顔目がけて振るい、ギュランドロスの剛腕を防御する余裕もなくまともに受けたカンパネルラは殴られた際に折れた鼻から血を流しながら吹っ飛ばされ、柱に叩き付けられた!

「飛燕の如く――――飛燕陣!!」
「マーズテリアよ、我らに御身のご加護を――――防護の聖域!!」
マクバーンとの戦闘を開始したセリカはあらゆる攻撃手段の威力を上昇させるブレイブオーダーを発動させて自分とロカを強化し、ロカは魔術で自分とセリカの防御能力を上昇させた。
「燃えちまえっ!」
「「!!」」
マクバーンは敵の身体能力の上昇状態を打ち消す効果もあるクラフト―――ギルティフレイムをセリカ達に放ったが、二人は軽やかな動きで左右に跳躍して回避した。
「行けっ!」
「ハッ、そんなもんが効くかよ!」
マクバーンの攻撃を回避したロカは反撃に自身の魔導鎧から神聖属性が込められた魔導砲弾をマクバーンへと放ち、マクバーンへと放たれた砲弾はマクバーンが振るった炎の剣によって焼き斬られた。
「沙綾―――――」
「クク、来いやぁっ、嵐の剣神!!」
そこにセリカがマクバーンへと襲い掛かり、襲い掛かるセリカを見たマクバーンは不敵な笑みを浮かべて炎剣を構えて迎撃しようとしたが
「身妖舞!!」
「な―――速――――チッ!?」
一瞬で6度も振るったセリカの高速剣を見切れず、セリカが放った斬撃全てを受けてしまった。
「雷光―――円舞剣!!」
「ガッ!?」
「崩れた!」
「隙あり!壊山槍!!」
「ガアッ!?」
続けて放たれた魔剣(ラクスハイシェラ)に雷光を纏わせたセリカの薙ぎ払い攻撃を受けたマクバーンが怯むとセリカとリンクを結んでいるロカが聖なる魔力を纏わせた槍で山をも崩壊させたと言われる強烈な一撃を繰り出し、亡霊である為聖なる魔力に弱いマクバーンはロカの一撃を受けると思わずうめき声をあげた。

「走れ、黒き雷―――――黒ゼレフの電撃!!」
「そんな雷、喰らってやるよ―――ヘルハウンド!!」
セリカが高電圧の黒い電撃を放つとマクバーンは黒き焔の狼を放ってセリカの電撃を飲み込もうとしたが、”神殺し”であるセリカの魔力の前では結社最強の一人と恐れられていたマクバーンの莫大な魔力を嘲笑うかのように易々とセリカの電撃はマクバーンの炎の狼を一瞬で消滅させた後マクバーンへと襲い掛かり
「何っ!?」
「マーズテリアよ、邪悪なる者達に裁きの炎を――――贖罪の聖炎!!」
「があああああああっ!?」
自身のクラフトが易々と飲み込まれた事にマクバーンは驚きつつも回避したが、続けて放たれたロカの魔術によって発生した神聖なる炎を受けてしまい、思わず悲鳴をあげる程のダメージを受けてしまった。
「雷光――――滅鋼斬!!」
ロカの魔術によってマクバーンが苦しんでいる間にマクバーンとの距離を詰めたセリカは雷光を纏わせた魔剣による強烈な一撃を放ち
「舐めん――――じゃねぇっ!」
セリカの追撃に気づいていたマクバーンは自身の異能によって形成された焔の剣による強烈な一撃―――ヘルフレアを放って対抗した。すると二人の剣がぶつかり合った瞬間、セリカの魔剣はマクバーンの焔の剣を真っ二つに切り裂いてそのままマクバーンへと襲い掛かった!
「な――――ぐああああああああッ!?」
自身の異能によって作られた焔の剣が易々と斬られた事に驚いたマクバーンはすぐに回避行動をとったが、高速で放たれたセリカの強烈な一撃には間に合わず、セリカの雷光を纏わせた強烈な一撃は焔の剣を持っていたマクバーンの腕を”霊体ごと”斬り、霊体ごと腕が斬られたマクバーンは片腕を失った状態で悲鳴を上げ
「薙ぎ払え――――斬!!」
「ガアッ!?」
更にロカが側面から聖槍による薙ぎ払い攻撃で追撃し、マクバーンに更なるダメージを与えた。

「ハア、ハア………!ク、クク……俺が……また、負ける―――いや、殺される……?”英雄王”達にリベンジもできずに……?」
セリカ達との戦闘によって満身創痍の状態のマクバーンは不敵な笑みを浮かべ
「そんな事……ありえる訳がねぇだろうが―――――――ッ!!」
やがて全身に膨大な黒き焔を纏わせる咆哮―――――オーバーヒートを発動させてダメージや霊力を回復させた。
「俺の”全部”、耐えられるものなら耐えてみろ!オォォォォォ―――――――ッ!!ヘル――――ハザードッ!!」
全身に膨大な黒き焔を溜めたマクバーンは残った片腕から巨大な黒き焔の球体をセリカ達目がけて放った!
「枢孔―――――紅燐剣!!」
対するセリカは刀身に真空の刃を創り出して広範囲を攻撃する飛燕剣の剣技―――――”紅燐剣”の最上位技を解き放った!すると解き放たれた無数の真空の刃は黒き焔の球体を”木端微塵に斬り裂いた!”
「な……あ……っ!?」
剣技によって自身の最大技が防がれるという信じられない出来事にマクバーンが目を見開いて驚いたその時!
「マーズテリアよ、あらゆる穢れの浄化の光を今ここに――――――天界光!!」
「ぐがあああああああああああああああああああっ!?」
ロカがあらゆる穢れを消滅させる究極の神聖魔術を発動させ、天より顕れた究極の神聖魔術の光の柱を受けたマクバーンは悲鳴を上げて大ダメージを受け
「終わりだ。飛燕―――――」
「!!」
そこにセリカがマクバーンに向かって神速で飛び込んで一瞬で無数の斬撃を叩き込み
「姫神恍舞!!」
「ガ……ア………ッ!?ク……ソ……”最高の祭り”が……始まる前に……俺が死ぬ……だと…っ…!?クソ―――――――――――ッ!!」
そしてマクバーンの背後に立ったセリカが魔剣を一振りするとマクバーンの霊体はバラバラになり、マクバーンは瀕死の状態の霊体ごと無数に斬り裂かれた事によって、自身が魂ごと抹消される事に悔しさの咆哮を上げながら消滅した!
「――――だから、言っただろう。”リウイよりも上の俺の実力”にすら気づかないお前のような”雑魚”如きでは、リウイには決して届かないと。」
マクバーンの消滅を確認したセリカはマクバーンの無謀さに呆れながら魔剣を鞘に納めた―――――
 
 

 
後書き
という訳でオルディーネとマクバーンはここで退場ですwwもう、現時点で結社、地精共にかなり戦力が削られているような気がw 

 

外伝~クロスベル双皇帝の宣戦布告~

~星見の塔・屋上~

「し、信じられん……!あの”劫焔”が………!」
「まさか互角どころか、一方的な戦い(ワンサイドゲーム)でかの”劫焔”が滅されるとは………」
「そ、それにオルディーネが………!」
「………………あそこまで徹底的に破壊されたら、もはやオルディーネを直すことは不可能でしょうね……」
「……ええ。特に騎神の心臓部分であり、意志の部分でもある(ケルン)があそこまで破壊されてしまえば、例え元の姿に直せたとしても2度と動くことはない――――つまり、”蒼の騎神”は真の意味で”死”を迎えたということよ。」
「姉さん………」
ヴァイス達の戦いが終わるとマキアスとシャロン、アリサは信じられない表情をし、複雑そうな表情で語ったセリーヌの言葉に続くように静かな表情でオルディーネの”死”を宣言したクロチルダの言葉を聞いたエマは複雑そうな表情を浮かべ
「――――これで、結社の残党は相当戦力が低下した事になりますね。」
「ええ、結社は”結社最強”の異名を持つ使い手達はこの戦いによって、完全に失った事になるのですから。」
「ハハ、あの火焔魔人殿をあっさり滅するなんて、さすがはセリカさんだね……」
「それにセリカさんという方と一緒に戦っていたロカさんという方も凄いですわ……女性の身でありながら、あのような凄まじい相手を圧倒するなんて……」
「まあ、ロカ様は何と言っても”神格者”――――それも、武闘派揃いの軍神(マーズテリア)教の”神格者”ですもの……」
セシリアとサフィナは冷静な様子で今後の分析をし、オリビエはセリカの圧倒的な強さに苦笑し、目を丸くして呟いたアルフィンの言葉にエリゼは苦笑しながら答えた。
「うふふ、セリカお兄さんたちのお陰で結社の残党で残っている厄介な戦力だった”劫焔”に加えて”何故か蘇った蒼の騎神”もここで退場してくれたわね♪」
「はい。ただ問題はヴァイスハイト皇帝陛下たちがあの仮面の男―――――”蒼のジークフリート”に対してどのような処遇をするかですね。」
「アリサさん達がまた悲しむような事にならないとよいのですが………」
意味ありげな笑みを浮かべたレンの言葉に頷いたリィンは複雑そうな表情を浮かべて心配そうな表情をしているセレーネと共に満身創痍の状態のジークフリートに視線を向けた。
「ま、まさかリセル教官があんな滅茶苦茶強かったなんて……それに、ヴァイスハイト皇帝陛下達―――――”六銃士”も結社の執行者や”騎神”みたいなあんなとんでもない存在を圧倒できるくらいとんでもない強さだなんて……”六銃士”が滅茶苦茶強い話は聞いていたけど、あんなとんでもない強さだなんて夢にも思わなかったわ………」
「まさにわたし達と同じ”人”とは思えない”化物”っぷりですね。」
「あれが”六銃士”の……”風の剣聖”―――――八葉一等流の”皆伝”の………そして”双界最強の剣士”の”力”…………ハハ、あんな”人”を超えた使い手達の戦いを間近で見れるなんてとても貴重な体験だったな…………」
一方信じられない表情をしたユウナの言葉に続くようにアルティナは疲れた表情で答え、クルトは呆けた後嬉しそうな表情をし
「クク……おい、白髪(しらが)魔女。まさかこうなることもテメェの”予知能力”とやらでわかっていたのか?」
「……………ヴァイスハイト皇帝達が戦い始めたあたりから、”この結果になる未来は視えていた”わ。」
「うふふ、さすがはゲルドさんですわね♪リーゼアリア先輩も、いっそゲルドさんの予知能力で愛しのリィン教官と将来結ばれる事を占ってみてもらってはどうでしょうか♪」
「もう、ミュゼったら………そんなあからさまな手には乗らないわよ。」
不敵な笑みを浮かべたアッシュの問いかけに静かな表情で答えたゲルドの説明を聞いたミューズはからかいの表情を浮かべてリーゼアリアに視線を向け、視線を向けられたリーゼアリアは呆れた表情で溜息を吐いた。

「………………ぐっ……………」
「いたた…………4人がかりで本気で殺しに来るなんて、噂以上に容赦無さすぎだよ、”六銃士”は…………って、それよりも”蒼”とマクバーンは――――――え。」
ルイーネ達との戦いでオルディーネを失ったジークフリートは地面に跪いてうめき声をあげ、カンパネルラは何とか立ち上がった後急いで周囲を見回したが、ルイーネ達との戦いで無残な姿となったオルディーネやマクバーンが見当たらず、マクバーンと戦っていたセリカとロカが無事の様子である事に気づくと呆けた声を出し
「!!馬鹿な………生身でオルディーネ――――騎神をここまで破壊するとは………」
「うふふ、貴方にとってご自慢の”オルディーネ”とやらは見ての通りよ♪」
「騎神を生身で撃破する方法等、騎神(ヴァリマール)を所有しているリィンがメンフィルに所属しているのですから、メンフィルやリィンの協力を得て既に研究済みです。」
「ま、あんな鉄屑、対処方法がなくてもあたし達ならガラクタにできたけどね!」
(これがクロスベルをイアン先生達とは違うやり方で独立させる所か”覇道”へと歩ませた”英雄”達の”力”、か…………)
オルディーネの成れの果てに気づいて呆然とした様子でいるジークフリートにルイーネは微笑み、エルミナは冷静な様子で答え、パティルナは勝ち誇った笑みを浮かべ、アリオスは静かな笑みを浮かべてヴァイス達――――”六銃士”を見守り
「フハハハハハ!わらわ達の力、思い知ったか!わらわ達からすれば、騎神とやらもただの図体のでかい鉄屑じゃ!」
「わたしたちの……勝ち………ブイ………」
「ま、あれなら”はぐれ魔神”の方がよっぽど手強かったわね。」
レシェンテは胸を張って勝ち誇り、ナベリウスは静かな笑みを浮かべて片手の指で勝利のピースサインをし、マリーニャは苦笑しながら答えた。
「――――ご無事ですか、ご主人様、ロカ様!」
「サリア達、勝ちました~!」
一方セリカ達の身を心配したシュリはサリアと共にセリカ達に駆け寄り
「ああ、(マクバーン)についてはリウイから予め聞いていたお陰もあって、特に苦戦することもなく無傷で滅した。」
「そちらも問題なく”騎神”とやらを撃破できたみたいね。」
シュリの心配に対してセリカは静かな表情で答え、ロカは微笑みを浮かべてシュリ達を見つめた。

「全く………セリカ達を援軍によこすんだったら、最初から寄こしなさいよね。お陰で、ノイアスクラスの厄介な”魔人”と戦う羽目になったじゃない………」
「フフッ、すみません。過去の経緯からエルファティシア様達にセリカ様達が加勢している事を知った結社の残党が撤退する可能性も考えられましたので、セリカ様達の加勢はギリギリまで伏せて置きたかったのです。」
「昔はノイアスにも果敢に戦っていましたけど、今ではそんなことを言うなんて、もしかして年ですか?」
「ちょっと、アル~?私はまだ………え~と、何百歳か忘れたけど、まだ年寄り扱いされる程衰えていないわよ!」
無事な様子のセリカ達がいて、マクバーンが見当たらない事からマクバーンが滅せられた事を悟ったエルファティシアは呆れた表情でリセルとアルに文句を言い、文句を言われたリセルは苦笑しながら答え、アルは口元に笑みを浮かべてエルファティシアをからかい、アルのからかいに対してエルファティシアはジト目で反論し、エルファティシアの口から出たとんでもない事実にアリサたちは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「な、”何百歳か忘れた”って………」
「フフ、それでいてあの若々しいお姿。異種族の方々は相変わらず年齢とは釣り合わない容姿をしていらっしゃいますわね♪」
「あの口ぶりだとあのエルフ、ひょっとしたらロゼよりも年寄りなんじゃないかしら?」
「セ、セリーヌ!エルファティシア皇妃陛下にもそうだけど、婆様にも失礼よ!」
「君達も何気にとんでもない事実をさりげなく口にしないでくれ……」
我に返ったアリサはジト目でエルファティシアを見つめ、シャロンはからかいの表情を浮かべ、アリサと共にジト目でエルファティシアを見つめて呟いたセリーヌの推測を聞いたエマは慌てた様子で指摘し、二人の会話を聞いたマキアスは疲れた表情で溜息を吐いた。
「ハッハッハッ!エルファティシアが今でも若々しい事は、エルファティシアの素晴らしい身体を数えきれないくらい味わっているこの俺が一番良くわかっている。だからエルファティシアを年寄り扱いしてやるなよ、アル。」
「ちょっと、ヴァイスハイト!?みんなのいる前で、そんな恥ずかしい事を言わないでよ!」
「ヴァイス様……少しは場所を考えて発言してください………」
「ギュランドロス様がクロスベル一のバカだとすれば、ヴァイスハイトはクロスベル一の恥さらしです………」
声を上げて笑った後に答えたヴァイスの発言にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エルファティシアは顔を赤らめて文句を言い、リセルとエルミナはそれぞれ呆れた表情で呟き
「こんな所であのような発言をするなんて、不埒過ぎます。」
「ううっ、あのエロ皇帝を見直したあたしがバカだったわ………」
アルティナはジト目で呟き、ユウナは疲れた表情で溜息を吐いた。
「クク、おしゃべりはそこまでにしておけ。まだ肝心な事が残っているぜ?」
「そうだな…………」
そして不敵な笑みを浮かべたギュランドロスの指摘に頷いたヴァイスは表情を引き締めてカンパネルラとジークフリートへと視線を向け
「さてと。――――クロスベルに手を出せば、かつての”鉄血宰相”の二の舞になることを身をもって思い知っただろう、結社に地精共。」
「ああ、まさに言葉通り身をもって思い知らされたよ………まさかマクバーンが滅されるなんて、完全に想定外だよ……だから、”嵐の剣神”に挑むなってあれ程言ったのに………」
「クク、ご自慢の”騎神”が同じ騎神どころか、生身のルイーネ達にぶっ壊されて、何か感想はないのか、そこの仮面野郎?」
「………………」
ヴァイスの問いかけにカンパネルラが疲れた表情で答えている中、ジークフリートはギュランドロスの問いかけに対して何も答えなかったが内心悔しさを感じているのか、それぞれ銃を持っている手を僅かに震わせていた。

「――――さてと。本来ならクロスベルで”特大のヤンチャ”をした貴方達は”劫焔”の後を追わすべきなのだけど………」
「ご、”劫焔の後を追わすべき”って、まさか……!?」
「………ヴァイスハイト陛下達がその気になれば、満身創痍のあの二人に”止め”を刺す事も容易いでしょうね。」
「そ、そんな……!?」
「ま、待ってください……!二人には私達も聞きたいが事がたくさんありますし、二人は陛下達にとっても有用な情報を持っていると思われますから、そんな簡単に命を奪わないでください……!」
「皆さん………」
「………………」
「…………アンタは”六銃士”の連中にあの二人の命乞いをしなくていいのかしら?”道化師”もそうだけど、あの仮面男もアンタにとっては他人事じゃないないでしょう?」
「あら、カンパネルラを滅してくれるのだったら、私としてはありがたいわよ?さっきも説明したように今の私は結社から離れて、むしろ追われている側なのだから。それと”蒼のジークフリード”、だったかしら。確かに彼は私にとっても興味がある人物ではあるけど、今の私にとってはそれよりも興味がある人物がいるのよねぇ。」
ルイーネが呟いた言葉を聞いてヴァイス達がカンパネルラと共にジークフリートを殺そうとしている事を察したマキアスは表情を青褪めさせ、重々しい様子を纏って呟いたシャロンの言葉を聞いたアリサは悲痛そうな表情でジークフリートを見つめ、エマはヴァイス達に嘆願をし、アリサ達の様子を見たアルフィンは辛そうな表情をし、オリビエは重々しい様子を纏って黙り込み、セリーヌに話を振られたクロチルダは意外そうな表情で答えた後怪しげな笑みを浮かべてセリカに視線を向け
「………俺に何の用だ。」
クロチルダの視線に気づいたセリカ警戒の表情でクロチルダに問いかけ
「フフ……セリカ、だったかしら?あのマクバーンどころか、アリアンロードすらも足元にも及ばず、そして私どころか、私やエマ―――――魔女の眷属(ヘクセンブリード)の”長”を遥かに超える霊力(マナ)の持ち主である異世界の魔剣士…………私のものになってくれるのなら、貴方の知りたいことは何でも話してあげるし、私の”全て”を貴方にあげてもいいわよ?勿論、貴方の周りにいる貴方を慕っている女性達との関係も許容するわ。」
「ね、姉さん!?」
「アンタ……本気?」
「な、なななななななっ!?」
「まあ……」
「ほほう……?」
「うふふ、中々大胆な告白ね♪でも確か深淵のお姉さんはレーヴェにご執心だったらしいけど、そんな告白をするということはレーヴェからセリカお兄さんに乗り換えるつもりなのかしら♪」
クロチルダのセリカへの告白同然の言葉にエマは驚き、セリーヌは困惑し、マキアスは混乱し、シャロンは目を丸くし、オリビエは興味ありげな表情を浮かべて状況を見守り、レンは小悪魔な笑みを浮かべてクロチルダに問いかけた。

「ええ、レオンも捨てがたいけど、貴女も知っているようにレオンには既に想い人がいるから、かつてレオンを心から想っていた女として潔く身を引いて、新たな恋に挑むつもりよ。」
「やれやれ、あれほど熱を上げていたレーヴェよりも魅力的な男性が現れると、そっちに目移りするなんて、結社を離れてもそういう所も相変わらずだねぇ。というか”嵐の剣神”は貴女が忠誠を誓っていた”盟主”を討った人物――――つまり貴女にとっての”仇”の一人だけど、そこの所はどう考えている訳さ?」
クロチルダの答えを聞いたカンパネルラは苦笑した後口元に笑みを浮かべて指摘し
「あら、敵討ちなんて私の柄じゃないし、そんな下らない事に拘るよりもあの盟主(マスター)を討つ程のとてつもない男をものにする方が魅力的でしょう?」
「うわ~…………まさに”魔女”ね。」
「何だかルイーネやフェルアノがもう一人増えたみたいに感じますね。」
「フフ、アルちゃんったら、失礼ね。私はギュランドロス様、フェルアノさんはヴァイスさん一筋よ?」
「アルちゃんはそういう意味で言った訳ではないと思いますよ………」
「まあ、実際アルの言う通り腹黒い事に関しては同じだよね~♪」
「……パティ、貴女も時と場所を考えて発言しなさい。」
クロチルダの答えを聞いたエルファティシアはジト目でクロチルダを見つめ、アルの感想を聞いて微笑みを浮かべて反論したルイーネにリセルは疲れた表情で指摘し、口元に笑みを浮かべたパティルナの言葉を聞いたエルミナは静かな表情で注意した。
「セリカは誰の”もの”にはならないし、そもそもセリカには心から愛する女性がいるわ。」
「貴女……セリカ………選ぶ資格……ない………むしろ………セリカ……選ばれる資格……取るため……努力……必要………」
(フン、この我を差し置いてセリカを”もの”にする等1億年早いわ、小娘が!セリカ、ああいう輩はしつこいのが相場だから、この場でハッキリと断れだの!)
「(いわれなくてもそのつもりだ。)―――――断る。お前のような腹に一物を抱えた魔女は碌な女でないことは過去の経験からよくわかっているし、そもそも魔女もそうだが魔術師という存在は自身の欲望の為ならば、どのような外道を犯すことも躊躇わない者が多い事はわかり切っている。いつ寝首をかくかわからない女等、願い下げだ。」
一方ロカはクロチルダを睨み、ナベリウスは静かな表情で呟き、不愉快そうな表情で鼻を逸らしたハイシェラの念話に頷いたセリカはクロチルダを睨んで断りの答えを口にし、セリカの口から出た断りの理由を聞いたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ア、アハハ………(ご主人様の話に出てきた”腹に一物を抱えた魔女”は間違いなくウェンディスさんの事でしょうね……)」
「へえ?中々人を見る目があるわね。まさにアンタの推測通り、その女は碌な女じゃないわよ。」
「セ、セリーヌ。」
シュリは苦笑しながらある人物を思い浮かべ、納得した様子で頷いているセリーヌの言葉を聞いたエマは冷や汗をかき
「まあ~、実際あたし達が今まで会った魔術師や魔女って、碌な奴じゃない人達ばかりでしたものね~。」
「うむ。ブレアードにアビルース、ラプシィア、そしてウェンディス………どの魔術師や魔女も碌な連中ではなかったな!」
「ふえ~?でも、ウェンディスさんは、ご主人様やサリア達を手伝ってくれましたよ~?」
マリーニャもシュリのように苦笑しながら今まで出会ったある人物たちを思い浮かべ、レシェンテが納得した様子で頷いている中サリアは不思議そうな表情で首を傾げた。

「フフ、つれないわね。でも、そういう所もレオンと似ていて、増々貴方のことが気に入ったわ♪」
「やれやれ、”蛇の使徒”すらも惹きつけるとはさすがはセリカと言うべきか。――――さてと。話を戻させてもらうが、結社に地精。本来ならここで纏めて討ってやってもいいが、”今回は”そこの”神機”を代償に勘弁してやろう。」
「へ―――――って、『そこの神機を代償に勘弁してやろう』って、まさか……!?」
躊躇うことなく断られたにも関わらず未だセリカに興味を持ち続けているクロチルダの意志を知ったヴァイスは苦笑した後不敵な笑みを浮かべてカンパネルラとジークフリートを見つめ、ヴァイスの答えを聞いてあることに気づいたユウナは信じられない表情をし
「クク、当然そこのガラクタもオレサマ達の国の新たな戦力に組み込むに決まっているじゃねぇか!」
「1年半前の動乱時と今回のヴァリマール達との戦いで見せたスペックを考えれば、我が軍にとって十分戦力になります。むろん、元々結社によって作られた人形兵器ですから改良は必須ですが、幸いにも今のクロスベルにはそこの神機の改良を任せられる者がいますから、何の問題はありません。」
(お兄様、エルミナ皇妃陛下が仰っている”神機”の改良ができる人物は………)
(恐らく”ローゼンベルク工房”のヨルグさんに依頼するつもりなんだろうな……)
ユウナの疑問に対してギュランドロスは不敵な笑みを浮かべて答え、エルミナの説明を聞いてあることに気づいたセレーネはリィンと小声で会話をしていた。
「………………」
「…………神機をクロスベルの戦力に組み込む、ですか。」
「確かにあのような存在を戦力に組み込めば、間違いなくクロスベルが持つ”力”は上がるだろうな………」
「実際かつてあの神機はクロスベルを占領しようとした旧共和国軍を一機で壊滅に追いやったことがありますから、あの神機一機で最低でもエレボニアの機甲師団一つに相当するかと。」
ヴァイス達が神機を奪ってクロスベルの戦力にすることを知ったユウナは驚きのあまり口をパクパクさせ、ミューズは真剣な表情で呟き、クルトは重々しい様子を纏って推測を口にし、アルティナは冷静に分析していた。
「なるほどね………確かにあの人なら、その”神機”の改良もできるだろうね………その”神機”は”実験”が終われば元々処分するつもりで奪われた所で今後の計画の支障にはならないから、そちらの好きにしてもらっても構わないけど、どうして結社(僕達)と敵対している地精の彼までその”神機”と引き換えに見逃してくれるんだい?」
一方カンパネルラは冷静な様子である人物を思い浮かべながらつぶやいた後、一瞬ジークフリートに視線を向けてからヴァイス達にある疑問を問いかけた。
「クク、決まっているじゃねぇか。テメェ等は結社と地精に対する”伝言役”として、わざと生かしてやったんだよ。」
「何………?」
「へえ?君達は僕たちに何を伝えるつもりなのかな?」
ギュランドロスの答えを聞いたジークフリートが困惑している中、カンパネルラは興味ありげな様子で問いかけた。

「――――結社に地精、それぞれの関係者共に伝えておけ。貴様等の愚かで下らん計画に俺達クロスベルを巻き込んだ以上、貴様等はクロスベルに仇名す”敵”と認定して貴様等結社と地精、そしてその関係組織を纏めて徹底的に叩き潰す!」
「オレサマ達の国に手を出した以上、タダですむと思うなよ………テメェ等の計画は叩き潰して、全員纏めて、オレサマ達がブッ殺す!これは俺達”六銃士”のテメェ等に対する”宣戦布告”だ!」
「な――――――」
「け、結社と地精に対する”宣戦布告”って………!」
「クク……ハハ………ハハハハハハッ!噂以上に相当イカれた連中だな、”六銃士”は!」
「フフ、”彼ら”からの話に聞いていた通りまさに大胆不敵な方々ですわね。」
「む、無謀ではないかしら……?あんなとてつもない存在を所有している組織を同時に相手にしなければならないのだし………」
「………………”六銃士”の場合はその普通に考えれば”無謀”と思えるような出来事―――――自治州であったクロスベルを帝国化するという出来事を実現しましたから、本当にやりかねないかと。」
「フフ、クロスベルの人達は幸せね。あんなにも民思いの王様が二人もいるのだから。」
ヴァイスとギュランドロスはそれぞれの武装をカンパネルラとジークフリートに突き付けて”宣戦布告”をし、二人の”宣戦布告”にクルトは驚きのあまり絶句し、ユウナは信じられない表情をし、アッシュとミューズは興味ありげな様子でヴァイス達を見つめ、不安そうな表情で呟いたリーゼアリアの言葉にアルティナは静かな表情で指摘し、ゲルドは微笑みながらヴァイス達を見つめた。

「……………」
一方ヴァイスとギュランドロスの宣言にカンパネルラは呆けた様子で黙り込んだが
「――――アハハハハハハッ!まさか、僕達結社が一国家に堂々と”宣戦布告”をされるなんてね。僕達にとってもそうだけど、地精(そっち)にとっても初めての出来事じゃないかい?」
「………ああ。フッ、まさかこのような想定外(イレギュラー)まで起こるとは、”長”も想定していなかっただろうな。」
やがて声を上げて笑い始め、カンパネルラに話を振られたジークフリートは同意した後口元に笑みを浮かべた。
「フフ、いいだろう。君達クロスベル―――いや、メンフィル・クロスベル連合かな?君達の”宣戦布告”、結社”身喰らう蛇”の執行者No.0”道化師”カンパネルラが亡き盟主の代理人として、確かに聞き届けたよ。」
「同じく地精の”長代理”として、確かに聞き届けた。――――――今回受けた”借り”はいずれ、何倍もの”利子”を含めて返してやるから、期待して待っているがいい。」
カンパネルラとジークフリートはそれぞれ静かな表情で答え
「今、転移妨害装置の機能を切ってやった。俺達の用もすんだのだから、とっとと消えろ。」
「ご親切にどうも。……そうそう、だったら僕の方もやらせてもらうよ。幸いギャラリーも多いからいい機会だしね。執行者No.0”道化師”―――これより亡き”盟主”の代理として『幻焔計画』奪還の見届けを開始する。」
「俺もこれで失礼させてもらおう。―――灰の起動者、それにトールズ”Ⅶ組”にメンフィルの”特務部隊”だったか。次に相まみえた時、どれほど腕を磨いているのか、楽しみにさせてもらおう。」
そしてヴァイスが転移妨害装置を切るとカンパネルラとジークフリートはそれぞれ宣言をした後転移術や魔導具で転移した。

「フフ……それでは私も失礼するわね。グズグズしてたらカンパネルラに捕まりそうだし。」
「ま、待って姉さん!」
「アンタねえ、今のを見て何も話さずに行くつもり!?それに”結社”に追われてるなら少しくらい協力しても――――」
二人に続くようにクロチルダの幻影も消えようとしたが、エマとセリーヌが呼び止めた。
「フフ……協力者もいるから心配ないわ。それと、しばらくこの地で幻獣や魔煌兵は出現しないでしょう。プレロマ草の”芽”は私が一通り潰しておいたから。」
「………!」
「ええっ!?」
「………プレロマ草の件については感謝するが………――――”蒼の深淵”。お前やお前の”協力者達”は結社や地精のようにクロスベルに仇名すつもりか?」
クロチルダが語った驚愕の事実にリィンとユウナが驚いている中アリオスは静かな表情で呟いて真剣な表情でクロチルダを見つめて問いかけた。
「フフ、まさか『碧き零の計画』の主犯格の一人である貴方から、そのような言葉が聞けるとはね。―――いえ、むしろ当然と言うべきかしら?”六銃士”や”特務支援課”と方法は違えど、貴方は”クロスベルの守護者”として『碧き零の計画』でクロスベルをあらゆる勢力から守ろうとしたのだから。」
「………………」
「アリオスさん………」
怪しげな笑みを浮かべたクロチルダの言葉に対してアリオスは目を伏せて黙り込み、アリオスの様子をセレーネは心配そうな表情で見つめ
「まあ、マクバーンとオルディーネを滅してくれたお礼にそのくらいの事は答えてあげるわ。私もそうだけど、私の協力者達もクロスベルもそうだけど、メンフィルと敵対するつもりはないわ。――――いえ、むしろ将来はメンフィル・クロスベル連合と協力関係を結ぶ事も希望しているわ。」
「ええっ!?」
「へえ?」
「まさか、”盟主”に忠誠を誓っていた”蒼の深淵”が”盟主”を抹殺したメンフィル・クロスベル連合との協力関係を結ぼうとされているとは………一体どのような心境の変化があったのか、個人的には気になりますわね。」
クロチルダの口から語られた更なる驚愕の事実にその場にいる全員が血相を変えている中アリサは声を上げて驚いてヴァイス達に視線を向け、レンは興味ありげな笑みを浮かべ、シャロンは驚きの表情で呟いた。
「メンフィル・クロスベル連合との協力関係を望んでいるのはどちらかというと”協力者達”の方で、私はあまり興味がなかったのだけど…………どうやらセリカもメンフィル・クロスベル連合側のようだし、私もメンフィル・クロスベル連合との協力関係を結ぶ為に動くつもりよ。だから、私の事を知ってもらうのはいつか訪れる私と貴方との共闘まで待っていてね、セリカ。」
「………何か勘違いしているようだが……俺がヴァイス達に手を貸しているのは結社や地精の存在は、俺にとっても滅すべき存在だから手を貸してやっているだけだ。――――俺の剣は誰の為でもなく、俺自身の為だ。例えその剣を振るう相手が”国”であろうと”神”であろうと、俺の”敵”になるのであれば迷う事無く全て”斬る”。―――――それだけだ。」
クロチルダにウインクをされたセリカは静かな表情で答え
「フフッ、ますます気に入ったわ。――――でも、一つ忠告してあげる。既に”物語”は始まっている。私が結末をすり替えようとして失敗してしまった”真なる物語”が。エレボニアを、クロスベルを――――世界を巻き込む”終わりの御伽噺”が。くれぐれも気をつけることね、エマ、リィン君、Ⅶ組や特務部隊のみんなも――――」
そしてリィン達に対する忠告をしたクロチルダの幻影はその場から消えた。

その後、デアフリンガー号から第Ⅱの教官や生徒たちが駆け付け―――――”星見の塔”周辺に徘徊していた結社の人形兵器も一通り掃討された。飛行型神機やオルディーネの残骸はクロスベルの空挺軍が回収し………結社がどんな”実験”をしていたのか第Ⅱ分校が推測するのは困難と思われた。

そして―――― 
 

 
後書き
という訳でセリカ、マクバーンを滅したことで相変わらず厄介な女性に目を付けられました(ぇ)なお、ヴァイス達が宣戦布告をするあたりからのBGMは魔導巧殻のOP”月女神の詠唱 ~アリア~”のフルVERだと思ってください♪ 

 

第66話


~星見の塔・屋上~

「リィン君、あれって……」

「………詳しいことは、何も。ですが”あり得ない”ことは俺達が一番良く知っているはずです。」

ランディと共に自分たちに近づき、問いかけたトワの質問にリィンは静かな表情で答えた。

「………そうだね……」

「はい……」

「………全員で埋葬にも立ち会ったんだもんな。」

「一体この1年半の間に”彼”に何が起こったのでしょう……?」

「………………」

「……………アリサちゃんも大丈夫?少しボーっとしてるけど。」

トワの言葉にエマたちがそれぞれ頷いている中黙り込んでいるアリサが気になったトワはアリサに訊ねた。

「………そう、ですね。色々とありすぎて頭がマヒしてるのかもしれませんが…………」

「………アリサ?本当に大丈夫か?」

(お嬢様………)

リィンがアリサを気遣っている中、シャロンは複雑そうな表情でアリサを見守っていた。

「ううん、平気。……エマの方こそ大丈夫?」

「そうだな……折角やっと会えたのに。」

「いえ………久しぶりに顔を見られただけでも良かったです。それよりも―――――色々な事が見せてきましたね。私達全員の”今後”に関わるような。」

「”真なる物語”……”終わりの御伽噺”か。」

「非常に気になる言葉ですね。」

「ええ……まるで世界が終わるような言い方に聞こえますし……」

「うふふ、深淵のお姉さんはセリカお兄さんにご執心のようだから、深淵のお姉さんもセリカお兄さんのハーレムに加わってもらえれば、すぐにわかるかもしれないわね♪」
リィン達が今後の事について真剣に考えこんでいる中小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの言葉を聞いたリィン達は冷や汗をかいて脱力した。


「………みんなで頑張って何とかここまで来られたけど……」

「僕たちじゃ手に余るような問題ばかりが見えてきたな………」

「………………」
リィン達が話し合っている同じころ、ユウナ達新Ⅶ組やアッシュとミューズも集まってこれからの事について不安を感じていた。
「オラ……!辛気臭ぇ顔してんじゃねえ!」
するとその時ランディが元気づけるようにユウナの肩を叩いた。

「そうそう!ここは胸を張らなくっちゃ!」
「え…………」

「フッ、君達が頑張らなかったら事件も解決していなかったかもしれない。」

「ああ、突入タイミングも完璧だった。」

「ふふっ、渡した新装備もちゃんと活用してくれたしね。」

「ええ、あの結界が壊れたからヴァリマール達も呼べたわけですし。」

「ま、少しくらいは自信持ってもいいんじゃない?」

「フフッ、少なくても今の貴方達ならば正規軍の兵士達と同格と思いますよ。」

「ええ、将来どのような武人に成長するのか今から楽しみですね。」

「うふふ、最初からメンフィル所属のアルティナとゲルドはともかく、他のメンバーは卒業後は一人くらいスカウトしたいわね♪」
トワや旧Ⅶ組、特務部隊の面々はそれぞれ新Ⅶ組を誉め
「………あ……」

「………………」
トワ達に褒められたクルトとアルティナはそれぞれ呆けた。
「―――これで今回の要請も何とかクリアすることができた。ユウナ、クルト、アルティナ、ゲルド。それにミュゼにアッシュも。本当に、よく頑張ったな。」
「先月の要請から僅か1ヶ月でわたくし達も驚く程の成長を遂げましたわね……」

「ケッ……」

「ふふっ、あくまで主役はⅦ組の皆さんですけど。」
リィンとセレーネの称賛にアッシュは鼻を鳴らし、ミューズは苦笑しながら答えた。

「………一番頑張ったのはユウナさんではないかと。」

「そうだな……教官に協力して”神機”を倒したわけだし。」

「うん、辛い出来事を知って一度心が折れたにも関わらずすぐに立ち直って、率先して私達を率いてくれたもの。」

「あ、あたしは必死について行ったくらいで……!」
クラスメイト達に称賛されたユウナは謙遜した様子で答えた。
「―――謙遜することはない。警察学校時代で磨いていた戦闘技術や操縦センス……第Ⅱでの頑張りと、想いの全てがあの戦いに込められていたと思う。」

「ぁ………」

「ありがとう、ユウナ。――――クロスベルの意地、しかと見せてもらった。」

「………………はい、教官……!」
リィンに称賛され、肩を軽く叩かれたユウナは目を丸くして黙り込んだ後笑顔を浮かべて力強く頷いた。

「――――それはそれとして。軍関係者でもないどころか他国から招かれている立場であるリーゼアリアまでこの場に連れてきた事についての説教や反省は後でたっぷりしてもらうからな。」
「え”。」

「チッ、少しは空気を読んでそんな些細な事は見逃せよ。」

「いや、全然些細な事じゃないぞ……」

「うふふ、しかもよりにもよって教官にとってエリゼさんと同じく目の中に入れても痛く無いほど妹同然の存在であるリーゼアリア先輩ですものね♪」

「あ…………今、私達がたくさん反省文を書かされる”未来”が”視えた”わ。」

「この場合わざわざ予知能力を使わなくても、わたし達でも普通に予測できる展開かと。」
しかしすぐに威圧を纏った笑顔を浮かべたリィンの言葉を聞いたユウナは表情を引き攣らせ、舌打ちをしたアッシュにクルトは呆れた表情で指摘し、ミューズは小悪魔な笑みを浮かべ、静かな表情で呟いたゲルドにアルティナは疲れた表情で指摘した。

「うふふ、それよりも肝心のリーゼアリアお姉さんの方はどうなったのかしらね?」
そしてレンは意味ありげな笑みを浮かべてエリゼ達へと視線を向け、レンにつられるかのようにリィン達もエリゼ達を見つめた。

「リーゼアリア……貴女、自分が何をしたのかわかっているの?もし、”三帝国交流会”でクロスベルにとって”客人”の一人である貴女の身に何かあれば最悪クロスベルとエレボニアの間で外交問題が発生したのかもしれなかったのよ?」

「エリゼ………気持ちはわかるけど、リーゼアリアをそんなに責めないであげて。リーゼアリアは貴女に14年前の”贖罪”をする為にも勇気を出して―――――」
リーゼアリアと対峙しているエリゼは厳しい表情でリーゼアリアに注意し、その様子を見守っていたアルフィンはリーゼアリアを庇おうとしたが
「いいのです、皇女殿下。私はお姉様達にしっせきされる事も承知の上で、ミュゼ達に同行したのですから。」

「リーゼアリア…………」
静かな表情で首を横に振った後決意の表情でエリゼを見つめるリーゼアリアの様子を見て二人にかける言葉を無くした。

「………そこまで言うのだったら、叔父様達のように遠慮なく怒りをぶつけさせてもらうわよ。」
リーゼアリアの答えを聞いたエリゼは静かな表情で呟いた後リーゼアリアの頬を叩いた!

「エ、エリゼお姉様!?お姉様のお怒りも理解していますが、リーゼアリアさんの―――――」
「――――待った。今は二人を見守ってあげてくれ。」
エリゼ達の様子に気づいたセレーネは驚いた後エリゼ達に声をかけようとしたが、リィンが制止した。

「ちょ、ちょっとエリゼ!?何も叩かなくても……!」

「………いいんです、皇女殿下。14年前から自分勝手な私にはこの程度の罰は当たり前です。」
エリゼを注意しようとしたアルフィンだったがリーゼアリアが叩かれた頬を手で抑えて辛そうな様子で語ったが
「本当に何もわかっていないわね…………私はそんな事に怒って、貴女を叩いた訳ではないわ。」

「え…………」
エリゼの答えを聞くと呆けた表情でエリゼを見つめた。するとエリゼはリーゼアリアを優しく抱きしめ
「ぁ…………」

「私が怒っているのは、今回みたいな危ない事をした事よ!貴女が何のために新Ⅶ組と共にここに来た理由は貴女が言わなくてもわかっていたけど、だからと言ってこんな無茶をして、兄様や私にまで心配をかけるような事をしないで―――――”リーア”。」

「ぇ………お、お姉様……今、私の事を”リーア”って…………」
エリゼの自分に対する呼び方を聞いたリーゼアリアは驚きの表情を浮かべ

「昨日はごめんなさい…………貴女がこの14年、苦しんできたのは今までの手紙でわかっていたのに、あんな事を言ってしまって…………私の方が”姉”として失格ね………」

「いいえ、いいえ……!お姉様は正しい事を言っただけで、悪いのは全て私ですから、”妹”として失格なのは私の方です……!」

「フフ、本当に私たちは従姉妹同士なのに似た者姉妹ね……―――――また、14年前のように姉妹の関係に戻ってもいいかしら?」

「エリゼお姉様……!はい!むしろお願いするのは私の方です……!……ううっ……ああっ………うああああ……っ!」
エリゼの答えを知ったリーゼアリアは嬉しさの涙を流して泣きながらエリゼと抱きしめあった。

「……ぐすっ………二人ともよかったわね……」
二人の様子を傍で見守っていたアルフィンは感動のあまり、涙を流し

「うふふ、”雨降って地固まる”、ですわね♪」

「もう、シャロンったら。もうちょっと気の利いた言葉があるでしょう?」

「まあ、何にしても二人が和解して本当によかったな。」

「ええ………私もいつか二人のように姉さんと元通りの関係になれるといいのですけど………」

「ま、少なくても結社から脱退している今の状況なら結社に所属していた頃よりは可能性はあるでしょうね。」

「うふふ、これでシュバルツァー家に対して罪悪感を抱いているオリビエお兄さん達―――――アルノール皇家も少しは肩の荷が下りたかしら?」

「ハハ、レン君には僕の気持ちもお見通しか。フッ、ということで二人の和解を祝福して、アルノール皇家の一員である僕自らが率先して早速一曲捧げようじゃないか♪」
同じように遠くから見守っていたシャロンは微笑みながら答え、シャロンの言葉にアリサは苦笑し、マキアスの言葉に頷いた後に口にしたエマの望みを聞いたセリーヌは静かな表情で答え、口元に笑みを浮かべたレンに話を振られたオリビエは苦笑しながら答えた後リュートを取り出してリュートで曲を弾き始め、オリビエの行動にその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力した。

「フフ、本当にどんな状況でも相変わらずですわね、オリヴァルト殿下は。そう言えばお兄様、エリゼお姉様がリーゼアリアさんの事を”リーア”と呼んでいらっしゃいましたが、もしかしてリーゼアリアさんの……」

「ああ、俺がシュバルツァー家に来る前から二人は仲がよくて、エリゼはリーゼアリアの事を”リーア”という愛称で呼んでいたんだ。」

「なるほど……そしてエリゼがリーゼアリア嬢をかつての呼び名で呼んだということは………」

「真の意味で、リーゼアリア嬢を許したということでしょうね……」
苦笑しているセレーネはあることが気になってリィンに訊ね、訊ねられたリィンは説明し、リィンの説明を聞いたサフィナとセシリアは微笑ましそうにエリゼ達を見つめ

「ええ………(よかったな、リーゼアリア……)」
セシリアの推測に頷いたリィンは優し気な微笑みを浮かべてエリゼ達を見守っていた。

「ランドロス教官………まずは今回の例のエレボニア帝国政府直々の要請を違反した件………どう、説明するつもりだ?」
一方その頃、いつの間にか消えたギュランドロスと入れ替わるように姿を現して第Ⅱの生徒達と共に人形兵器の掃討や事後処理の指示を行っていたランドロスを呼び出したミハイル少佐はランドロスを睨んで問いかけ

「ん~?オレサマは別に違反した覚えはねぇぜ~?」

「ふざけるな!ならば、何故ヴァイスハイト陛下達がシュバルツァー達に加勢した時にギュランドロス皇帝が現れ、その時に貴殿がデアフリンガー号から姿を消していた!?」

「おいおい、オレサマは第Ⅱの連中が名高き”六銃士”達の戦いに夢中になっている間に星見の塔以外の場所にも伏せている可能性がある結社や地精とやらの伏兵の奇襲に備えるために、生徒や教官達の代わりにオレサマ一人で周辺の警備をしていただけだぜ?それに映像に映っていたギュランドロス皇帝も言っていただろう?”ギュランドロス皇帝とオレサマは全くの別人”ってな!」

「詭弁を……!」
悪びれもない様子で答えるランドロスの答えを聞いたミハイル少佐はランドロスを睨んで更なる言葉を続けようとしたその時

「あー……アーヴィング少佐だったか?そこのバカがやる事にいちいち目くじらを立てない方がいいぞ?真面目な奴程、そのバカの相手をしていたら振り回されてストレスを貯めてしまうことになるからな。」

「フフ、まるで自らが経験をしてきたかのような口振りね♪」
ミハイル少佐に声をかけたヴァイスがルイーネと共にミハイル少佐達に近づいてきた。

「ヴァイスハイト皇帝陛下、それにルイーネ皇妃陛下……!無礼を承知で訊ねさせてもらいますが、何故陛下達はランドロス教官がエレボニア帝国政府の要請を無視し、今回の件を実行した事を見逃したのですか!?事と次第によっては、我が国とクロスベルの間に国際問題に発展する可能性を考えなかったのですか!?」

「フッ、別にそのバカを庇う訳じゃないが、例の件をそこのバカが破った件についてエレボニア帝国政府は事後承諾をせざるをえなくなって国際問題には発展しないから、そこまで怒る必要はないと思うぞ?」

「クスクス、そもそも”国際問題に発展する事を先にしたのは、本当はどちら”なのでしょうね♪」

「それは………………?ヴァイスハイト皇帝陛下、先程エレボニア帝国政府はランドロス教官の要請違反の件を”事後承諾をせざるをえなくなる”と仰いましたが………それは一体どういう意味なのでしょうか………?」
怒りの表情でヴァイスとルイーネに厳しい意見をぶつけたミハイル少佐だったが、静かな笑みを浮かべたヴァイスと共に微笑みを浮かべて答えたルイーネの指摘に複雑そうな表情で黙り込んだが、ヴァイスのある言葉が気になり、ヴァイスに訊ねた。

「フフ、帝都でもそうですがクロスベルの各地で次々と結社の残党を検挙していますわ。聡明な少佐でしたら、それが何を意味するのか、理解できるかと♪」

「………?結社の残党は帝都(クロスベル)のみに姿を現して”実験”とやらを行っただけなのでは……………”クロスベルの各地”…………―――――――!ま、まさか………っ!」
ルイーネの言葉を聞いて眉を顰めたミハイル少佐だったがルイーネの話に出てきた”結社の残党”がクロスベルの各地に潜入しているエレボニアの諜報関係者であることをすぐに悟り、驚きの表情を浮かべ

「――――ま、そういうことだ。早ければ明日には”かかし男”あたりが、本日行われた一斉検挙で捕まった連中を”エレボニアの重要参考人”として引き取る為に帝都(クロスベル)に来るだろう。”餅は餅屋”という諺通り、政治はエレボニア帝国政府関係者に任せて、軍関係者である貴官は第Ⅱの主任教官の仕事に専念すべきだと思われるが?」

「……………………………ご指摘、ありがとうございます。自分はまだ事後処理や生徒たちへの指示が残っているので、これで失礼します。それとランドロス教官、後で第Ⅱの主任教官として今回の貴官の行動についての指摘すべき事がまだあるから、これで終わりだと勘違いしないように。」
ヴァイスの指摘に複雑そうな表情で黙り込んでいたミハイル少佐はヴァイス達に敬礼をしてからランドロス教官に視線を向けてある事を伝えた後ヴァイス達から離れて、生徒達に他の指示をし始めた。

「やれやれ、前々から思っていたがエルミナを男にしたような固い男だねぇ。」

「フフ、言われてみればそうですね♪」

「全くだな。エルミナの代わりにお前のバカな行動に振り回される羽目になったあの少佐には同情するよ………」
ミハイル少佐が去った後苦笑しながら呟いたランドロスの言葉にルイーネと共に頷いたヴァイスは苦笑しながらミハイル少佐を見つめていた。

そして翌日、演習を終えた分校の生徒達が次々と列車に乗り込んでいる中リィン達はアリサ達に見送られようとしていた――――― 

 

第67話

5月22日、演習最終日――――

~演習地~

「このような場所でのお見送りさすがに畏れ多いかと……」
ミハイル少佐はアリサ達と共に見送りに来たリーゼロッテ皇女に謙遜した様子で意見をした。

「ふふっ、どうかお気になさらず。今回、皆さんが為したことを考えればいくら感謝してもしきれませんから。」
ミハイル少佐の言葉に微笑みながら答えたリーゼロッテ皇女は第Ⅱ分校の生徒たちに微笑んで手を振り、リーゼロッテ皇女の行動に生徒たちは歓声を上げた。

「もう、ロッテ……」

「ふふっ、さすが姫様の代わりを務めているだけあってさすがのサービス精神ですね。」

「フフ、お陰でわたくしは安心してリィンさんの妻を務められ続けていますわ♪」

「アルフィン、貴女ねぇ………」

「クスクス、お二人はまさに似た者同士ですわね。」
リーゼロッテ皇女の行動にリーゼアリアが呆れている中微笑みながら答えたアルフィンの言葉にエリゼは呆れ、セレーネは微笑んでいた。

「フフ、本来ならばリィン君やティオ君達のかつての職場仲間達とも引き合わせたかった所だが。―――――今日で私達もエレボニアに帰還する事になるのだから彼らを忙しくさせている”原因”である”者達”は、全員クロスベルから撤退させたのだろうね?」
「そ、それは………………」
目を細めて睨んで問いかけたオリヴァルト皇子の問いかけにミハイル少佐が複雑そうな表情で答えを濁したその時

「そもそもアーヴィング少佐にそんな権限はないし、撤退させようにも連中は”撤退させられない状況に陥っている”からアーヴィング少佐を責めるのはさすがにお門違いだと思うぞ。」
ヴァイスがリセルと共にオリヴァルト皇子達の背後から現れた。

「ヴァ、ヴァイスハイト陛下!?それにリセル皇妃陛下まで……!わざわざお見送りにきてくださったのですか!?」

「おいおい、俺は”元”とはいえ、リィン達の上司でもあったのだが?かつての部下達の見送りくらいはするぞ。」

「フフ、それに第Ⅱ分校には”影の国”で共に戦った仲間もいますしね。」

「えへへ………」
ヴァイス達の登場にトワが驚いている中ヴァイスと共に現れた理由を説明したリセルはティータに視線を向け、視線を向けられたティータは嬉しそうな表情をし

「だからと言って、本当に見送りに来るなんて皇帝夫妻の癖に夫婦揃ってフットワークが軽過ぎよ……ギュランドロス皇帝とは別の意味で無茶苦茶な皇族ね……」

「セ、セリーヌ!ヴァイスハイト陛下とリセル皇妃陛下に失礼よ!?」

「ハハ………それよりも陛下。先ほど”撤退させようにも連中は撤退させられない状況に陥っている”と仰っていましたがあれはどういう意味なんでしょうか………?」
呆れた表情でヴァイス達に指摘したセリーヌの言葉にエマが慌てている中リィンは苦笑した後ヴァイス達に訊ねた。
「フッ、どうやらその様子ではまだ知らなかったようだな。アーヴィング少佐、どうせ隠した所で近日中に新聞等で判明するのだから昨日クロスベルの各地で行われた一斉検挙の件をリィン達にも教えてやったらどうだ?」

「………………かしこまりました。昨夜に入った情報だが………クロスベルの各地に潜伏していた情報局、鉄道憲兵隊の関係者達は全員、クロスベル軍・警察、そして遊撃士協会によって一斉検挙されてしまった。ちなみに逮捕された理由は潜伏していた者達がクロスベル帝国に”結社の残党”に認定されてしまったからとの事だ。」

「え――――――」

「ええっ!?ま、まさか昨日にそんな事が起こっていたなんて………!?」

「し、しかもクロスベルがクロスベルに潜伏していたエレボニアの諜報関係者達を”結社の残党”に認定するって一体どうなっているんですか!?」
ヴァイスに促されて重々しい様子を纏って答えたミハイル少佐の説明を聞いたトワは呆け、アリサは驚き、マキアスは困惑した様子でヴァイス達に視線を向け

「………なるほど。エレボニアの諜報関係者達がクロスベルに潜伏している間に”道化師”達が実際にクロスベルで事件を起こしましたから、クロスベルの各地に潜伏していたエレボニアの諜報関係者も”結社の残党”という冤罪を押し付けられても、世間はその事実を疑わないでしょうね。」

「うふふ、なるほどね。ヴァイスお兄さんたちがランディお兄さん達の件を了承する代わりに、クロスベルの各地に潜伏していたエレボニアの諜報関係者はエレボニア帝国政府・軍の関係者でない事を示す証明書にサインさせた”真の狙い”はそれだったのね♪」

「あ…………」

「ランディ達にクロスベルで起こった事件に介入させない”対価”はそういう条件だったのですか………」

「で、ですがランドロス教官はその条件を堂々と破りましたわよね………?」
ある事に気づいたシャロンとレンの話を聞いたエマは呆け、リィンは重々しい様子を纏って呟き、セレーネは困惑の表情でランドロスに視線を向けた。

「おいおい、何おかしなことを言っているんだ?映像に映っているギュランドロス皇帝も言っていただろう?オレサマとギュランドロス皇帝は”別人”だってな♪」
悪びれもない様子で答えたランドロスの答えにその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「うふっ♪正確に言えば、捕虜になったエレボニアの諜報関係者たちを返してもらう為にクロスベルに来るであろうエレボニア帝国政府の関係者達にそういう条件も呑ませるのでしょう?」

「ま、そういう訳だ。―――――エリィもそうだが、ティオもすまなかったな。二人は既に警察関係者でもないのに、”結社の残党”の捕縛を手伝わせてしまって。」

「いえ………”三帝国交流会”が行われている影響で治安維持に関わる関係者達が多忙なのはかつてクロスベル警察に所属していた者として理解していましたから、かつてクロスベル警察にお世話になっていた身として………そして元特務支援課の一員として動いたまでです。」

「………ですね。ちなみにクロスベルに潜伏していた人達はランディさん達の分も含めて”お仕置き”しておきましたよ。」

「ハハ、ティオすけにやられた連中には同情するぜ。」
からかいの表情のエルファティシアの言葉に頷いたヴァイスはエリィとティオを労い、エリィは静かな表情で会釈をして答え、ティオの話を聞いたランディは苦笑していた。

「ええっ!?じゃあエリィ先輩達も関わっていたんですか……!?」

「そ、そういえばティオ主任はヴァイスハイト皇帝陛下の要請によってエリィさんやセティさん達と協力する”仕事”があると言っていましたけど……もしかしてその”仕事”が……!」

「クロスベルに潜伏していたエレボニアの諜報関係達の逮捕という訳だったのか………と言う事はロイド君やエステル君達も、各地で”結社の残党”認定されたエレボニアの諜報関係者たちを捕らえたのかい?」

「ええ。ちなみにエレボニア方面の遊撃士協会からの応援で旧Ⅶ組の関係者であった”紫電(エクレール)”と”西風の妖精(シルフィード)”も結社の残党の一斉検挙に協力してくれましたよ。」

「サ、サラ教官とフィーまで……っ!?」

「まさか旧Ⅶ組(私達)の関係者まで関わっていたなんて………」
ユウナが驚き、ある事に気づいたアリサが不安そうな表情で呟き、アリサの推測を重々しい様子を纏って口にしたオリヴァルト皇子の質問に答えたリセルの説明を聞いたマキアスとエマは信じられない表情をした。

「………………あの、ヴァイスハイト陛下。我が国の者達が貴国に大変なご迷惑をおかけしていながら勝手な申し出と思われますが、貴国が捕らえた我が国の者達の返還の交渉をさせて頂けないでしょうか……?」
「ロッテ……」

「あー……せっかくの申し出の所悪いが、連中の返還の交渉についてリーゼロッテ皇女もそうだがオリビエも関わる事はできない。――――というか、むしろ交渉に関わったらエレボニア(そちら)にとってもそうだが、クロスベル(こちら)にとっても面倒な事態になりかねないから、連中の返還の交渉についての交流会に来ているVIPの面々の参加は遠慮してもらう。」

「……?それは一体どういう意味だい?」
複雑そうな表情で黙り込んだ後決意の表情になって申し出たリーゼロッテ皇女の様子にリーゼアリアが心配そうな表情を浮かべている中困った表情でリーゼロッテ皇女の申し出を断ったヴァイスの説明が気になったオリビエはヴァイス達に訊ねた。
「……今後の西ゼムリアの平和を保つための話し合いでもある”三帝国交流会”の期間中に捕らえられた世間では”結社の残党”――――つまり”国際犯罪組織”の関係者扱いされているエレボニアの諜報関係者達の返還の交渉を交流会に訪れているエレボニアのVIP達が関わったという事実が世間に知れ渡れば、エレボニアは他国家や他勢力からの信頼を更に失う所か結社と連なっている疑いがかけられ、クロスベルは国際犯罪組織の関係者のをむざむざと他国―――――それも”宗主国”であったエレボニアに返還する交渉をしたという事実が世間に知れ渡ればクロスベルの民達もそうですが、世間のクロスベル政府に対する信頼が揺らぎかねない可能性に陥りますから、彼らの返還の交渉は秘密裏に行わければならないのです。」

「ましてや、昨日の一斉検挙の際、”結社の残党”の一部はレクター少佐の誘導によってメンフィル帝国領――――それも”七日戦役”勃発の地となったユミルを撤退ルートに選び、ユミルの領内に密入国をしましたから、リーゼロッテ皇女達が彼らの返還の交渉に関われば、メンフィル(我々)も関わらざるをえませんので。」

「え……………」
「レクター少佐がユミルを撤退ルートに選んだって……一体どういう事ですか!?」
セシリアと共に説明したサフィナの話の中にあった驚愕の事実を知ったその場にいる全員が血相を変えている中エリゼは呆け、リィンは厳しい表情で訊ねた。

「そのままの意味よ。リィンお兄さん達も知っての通り、平時のユミルは他のゼムリア大陸に存在するメンフィル領と違ってメンフィル兵を徘徊させていない所か、配置もしていないわ。さすがに同盟を結んでいるとはいえクロスベルの軍や警察関係者が許可もなく他国領に踏み込めない上、普通に考えればエレボニアの政府・軍関係者が”七日戦役”勃発の地となったユミルを撤退ルートに選ばないという先入観があるから、レクター少佐は敢えて撤退ルートにユミルを選んだのよ。――――まあ、その結果それを予測していたロイドお兄さんやサラお姉さんたちにボコボコにされたらしいけどね♪」

「え……………それじゃあユミルはロイドさん達が守ってくれたのですか………?」

「――――ああ。最も、少佐達も”七日戦役”の件があるから、郷から逸れるルートを選んだ上万が一ユミルの関係者達に遭遇しても危害を加えるつもりはなかったらしいけどね。」
レンの説明を聞いてあることに気づいたセレーネが呟いたその時、聞き覚えのある青年の声が聞こえた後ロイドが姿を現した!

「あ…………」

「わあ………!おっかえりー、ロイド――――――ッ!」
ロイドの登場にユウナが呆けたその時、目を輝かせたキーアがロイドにタックルをした。
「おっと。ただいま、キーア。いい子にしてたか?」

「うん!昨日は赤ちゃんがいるセシルの”定期健診”の為にシズクと一緒に病院に付き添ったんだよ~!」

「そうか………ありがとうな、キーア。」
嬉しそうに報告するキーアの頭をロイドは優しくなでた。

「フフ、長期の出張、お疲れ様、ロイド。」

「お帰りなさい、ロイドさん。もしかしてロイドさんもランディさん達の見送りに?」

「ああ、何とか間に合ってよかったよ。」

「ハハ、それにしては絶妙なタイミングじゃねぇか。まさに”真打ち登場”ってか?」
エリィとティオに労われたロイドは頷き、ランディは苦笑した後からかいの表情でロイドを見つめた。

「ハハ………別にそんなつもりはないんだが………―――――久しぶりだな、リィン。」

「ああ……”碧の大樹”の件以来だから、こうして直に会うのは1年半ぶりになるな。今レン教官から聞いたけどユミルを撤退ルートに選んだレクター少佐達と戦ったんだって?少佐達が父さんや郷の者達と接触する前に無力化してくれて、本当に助かったよ。」

「ユミルや父様達を私達の代わりに守ってくださり、本当にありがとうございます。」
ロイドと対峙したリィンはエリゼと共に感謝の言葉を述べ

「いや、結果的とはいえクロスベルの事情に君達の故郷まで巻き込みかけたのだから、そのお詫びとして俺達は当然の事をしたまでさ。」

「それでも本当に感謝している。―――ありがとう。」

「”七日戦役”で頂いたメンフィルの恩を仇で返そうとしていた我が国の愚行を止めて頂き、本当にありがとうございます………」

「えっと、貴女は………?」
アルフィンは頭を下げて感謝の言葉を述べ、アルフィンと初対面のロイドは不思議そうな表情でアルフィンを見つめた。

「フフ、そういえばまだ名乗っていませんでしたわね。1年半前のエレボニアの内戦終結後”七日戦役”の和解条約に従ってリィンさんの7人目の妻としてリィンさんに嫁いだアルフィン・シュバルツァーと申します。ロイドさんの事はリィンさんやオリヴァルトお兄様達から伺っておりましたわ。」

「ええっ!?貴女がオリヴァルト殿下の………!」
アルフィンが自己紹介をするとロイドは驚き
「えっと、リィン。もしかしてそちらの人が貴方とセレーネがかつて所属していた………?」

「っと………そういえばまだ名乗っていなかったな。俺はクロスベル軍警察捜査一課所属、ロイド・バニングス捜査官。かつてはリィンやセレーネが所属していた”特務支援課”のリーダーを務めていた。君達は確か”旧Ⅶ組”だったね?君達の事はリィン達から聞いているよ。俺達の代わりにクロスベルの事件を解決してくれてありがとう。」
ロイドの事が気になったアリサがリィンに訊ねると、ロイドは自己紹介をしてアリサたちを見回した。

「い、いえ………ティオさん達の助力がなければ星見の塔に辿り着けなかったですし、それに新Ⅶ組を含めた多くの方々の助力もあって、何とか代わりを務められたようなものですから………」

「そうだな……僕達がまだ学生だった頃から数々の大事件を解決してきた君達”特務支援課”と比べるとまだまだな事が今回の件で痛感したよ。」
ロイドの感謝の言葉に対してエマとマキアスは謙遜した様子で答え

「――――そんなことはないさ。俺達だって様々な人達の力を借りて今までの事件を解決できたようなものだし、今回の件だって君達の力も借りて事件を解決できたのだから、お互い様さ。――――――お疲れ様。今回は本当に助かったよ。」
二人の答えに対して指摘をしたロイドは笑顔を浮かべてアリサたちを見つめて労いの言葉をかけ、その様子を見守っていた多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「リィン達の話を聞いて察してはいたけど、まさかここまで似ているなんてね………」

「ふふっ、もしかしたらリィン様の性格はロイド様に影響されたのかもしれませんわね♪」

「ア、アハハ………(私はどちらも”素”だと思うけど………)」
我に返ったアリサはジト目でロイドを見つめ、シャロンはからかいの表情で呟き、トワは苦笑し
「ロイド、貴方………」

「帰ってきて早速ですか………」

「えへへ、でもそれがロイドだもんね♪」

「ったく、どうせお前の事だからユミルでリーシャちゃんとうらやまけしからんこともしたんだろう?この弟王が………!」
一方エリィとティオはジト目でロイドを見つめ、キーアは無邪気な笑顔を浮かべ、ランディは呆れた表情で溜息を吐いた後悔しそうな表情でロイドを睨み

「クスクス、教官と出会う前だったら私も危なかったかもしれませんわね♪」

「あんたねぇ………けど、ロイド先輩のそういう所も相変わらずよね………」

「………教官とロイドさんはまさに”似た者同士”ですね。」
からかいの表情で呟いたミュゼの言葉に呆れたユウナは苦笑しながらロイドを見つめ、アルティナはジト目でリィンとロイドを見つめた。

「えっと………俺、何か不味い事でも言ったのかな………?」

「というかなんでそこで、俺の名前まで挙がるのか意味がわからないんだが………」

「ハッハッハッハッ!さすがはそれぞれ三帝国の綺麗所をハーレムの一員にした英雄殿達だね♪」
周りの人々の様子にロイドは戸惑い、リィンが疲れた表情で溜息を吐くとオリヴァルト皇子は暢気に笑っていた。

「全く、このスチャラカ皇子は………お目付け役のミュラーさんがいないせいで、前よりもスチャラカしているんじゃないかしら?」

「アハハ……ミントは前と同じだと思うよ?ミュラーさんがいても、オリビエさんはいつも通りだったし。」

「二人とも、この場には他の人達もいるんだからそういうことを口にするのは慎んだ方がいいと思うよ………?」

「フウ………ミントもアストライアのように段々とエステルの悪影響を受け始めてきていますわね………」
するとその時エステル達が姿を現した!

「おや………」

「あ…………っ!」

「フッ、まさに”勢揃い”の状況だな。」

「……!?(あの黒髪の野郎はまさか………!)」

「………………」
エステル達の登場にオリヴァルト皇子は目を丸くし、ティータは嬉しそうな表情をし、ヴァイスは静かな笑みを浮かべ、ヨシュアの顔を見た瞬間左目が疼いたアッシュは左目を抑えながらヨシュアを睨み、アッシュの様子に気づいたミュゼは真剣な表情を浮かべ

「お疲れ様です、エステルさん、ヨシュアさん、ミントさん、それにフェミリンス殿。貴女達も第Ⅱの見送りに?」

「うん!リィン君達に挨拶をしたかった事もそうだけど、ティータとも話をしたかったしね!」

「ハハ、そういえばティータは”リベールの異変”時、共に解決したエステル達の仲間だったな。」
リセルの問いかけに答えたエステルの話を聞いたリィンは苦笑しながらティータに視線を向けた。

「エステルお姉ちゃん、ヨシュアお兄ちゃん、ミントちゃん!」
するとティータは嬉しそうにエステル達に駆け寄り

「久しぶり、ティータ。最後に会ったのは第Ⅱ分校への入学前だから2ヵ月ぶりくらいかな?」

「第Ⅱ分校では友達ができたかしら?」

「うん!みんな、とっても優しい人達で、授業も新鮮で為になる内容ばかりで毎日がとても楽しいよ!」
ヨシュアとエステルの問いかけに対してティータは嬉しそうな様子で近況を伝え

「アハハ……授業が楽しいって、さすがはティータよね。」

「ティータのそういう所はエステルも見習うべきだと思うけどね。日曜学校どころかジェニス王立学園に短期間いた時も、君、頻繁に居眠りをしていただろう?」

「うっさいわね!そんな昔の事をここで持ち出さないでよ!?」

「ア、アハハ……」

「ハア………将来生まれてくるアストライアに”母”としてどのような教育をするのか、考えただけで頭が痛くなってきますわね………」

「クスクス………」
エステルとヨシュアのいつものやり取りの様子にその場にいる全員が呆気に取られている中ミントは苦笑し、フェミリンスは呆れた表情で溜息を吐き、ティータはエステル達の様子を微笑ましそうに見守っていた。

「えっと、お義兄様。もしかしてこの方達が4年前のお義兄様のリベール王国の旅行時にお世話になったカシウス卿の………?」

「ああ。そしてエステル君は”百日戦役”の英雄であるカシウスさんの娘であり、世界で一人しかいない遊撃士達の頂点たる存在―――――”ブレイサーオブブレイサー”にしてメンフィルから”侯爵”の爵位を貰った自由貴族であり、そしてあの”空の女神”の血を引く”空の女神の末裔”さ♪」

「なっ!?そ、”空の女神”の………!?しかも”百日戦役”で活躍したあのリベールの”英雄”の娘だなんて………!」

「そ、そういえば以前オリヴァルト殿下達から”空の女神”に子孫が存在して、その一族が今も存続し続けている話を聞いたことはありますが………」

「まさかアンタがかの”剣聖”の娘にしてあの”空の女神(エイドス)”の末裔とはね………」
リーゼロッテ皇女の質問に答えたオリヴァルト皇子の答えにその場にいる多くの者達が驚いている中マキアスは信じられない表情で声を上げ、エマは驚きの表情で真剣な表情を浮かべているセリーヌと共にエステルを見つめた。

「あたしとしては不良中年親父はともかくあの自称”ただの新妻”の子孫に見られたくないんだけどね………ま、それはともかく。――――初めまして!あたしの名前はエステル!遊撃士のエステル・ファラ・サウリン・ブライトよ!よろしくね、Ⅶ組と第Ⅱ分校のみんな!」

「同じく遊撃士のヨシュア・ブライトです。サザ―ラントでは僕達の遊撃士仲間のアガットさんやフィーに協力してくれてありがとうございました。」

「ミントは二人の義娘でママ達と同じ遊撃士のミント・ルーハンス・ブライトだよ!よろしくね!」

「――――我が名はフェミリンス。様々な事情により彼女達と共に遊撃士稼業を務めていますわ。以後お見知りおきを。」
エステルは疲れた表情で溜息を吐いてジト目である人物を思い浮かべた後気を取り直して自己紹介をし、エステルに続くようにヨシュア達も自己紹介をした。
「貴女達がカシウス卿の………――――お初にお目にかかりますわ。わたくしの名はアルフィン・シュバルツァー。リィンさんの妻の一人でオリヴァルトお兄様の妹の一人ですわ。4年前は兄のお世話をしていただき、ありがとうございました。」

「へ………ってことは貴女が”七日戦役”の件でリィン君と結婚したオリビエの………アハハ、別にあたし達はお礼を言われるような事はしていないわよ。そこのスチャラカ皇子のストッパーは主にミュラーさんとシェラ姉だったし。」

(兄上………)
自己紹介をしたアルフィンの話を聞いたエステルは目を丸くした後苦笑しながら答え、エステルの話にその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中クルトは疲れた表情で兄の顔を思い浮かべた。

「エステル………時と場合を考えて発言しなよ………下手したらここにいる人達のオリヴァルト皇子に対する印象が変わるかもしれないんだよ?」

「いや、変わるも何も幾ら猫を被っていたところで、オリビエは所詮ただのスチャラカ皇子じゃない。どうせオリビエの事だから、”本性”もとっくに見せていると思うわよ?」

「フッ、さすがはエステル君。久しぶりの再会でそこまで僕の事をわかっている事をこんな大勢の前で口にしてくれるなんて、その…………照れてしまうよ。」
呆れた表情をしたヨシュアの指摘に対してジト目で答えたエステルの話を聞いたオリヴァルト皇子は顔を赤らめて答え、その様子にその場にいる全員は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「顔を赤らめながらおぞましい事を言うのはやめい!」

「「お(義)兄様、おふざけは時と場合を考えてしてください。」」
エステルはオリヴァルト皇子を睨んで怒鳴り、アルフィンとリーゼロッテ皇女は同時にハリセンでオリヴァルト皇子の頭を叩いてツッコミをし

「アハハ……何年経っても、どんな状況になろうともオリビエさんはオリビエさんだね。」

「ハア………まさに皇族の恥晒しのような人物ですわ………」
その様子を見守っていたミントは苦笑し、フェミリンスは呆れた表情で溜息を吐いた。

「あ、それよりも旧Ⅶ組のみんなに先に謝っておくね?昨日エレボニアの諜報関係者達を捕らえる際に妨害してきた貴女達の仲間の一人に”お仕置き”をしちゃってごめんね?」

「わ、私達Ⅶ組の仲間でエレボニアの諜報関係者達を捕らえる際に妨害してきた人物ってまさか………」

「間違いなくミリアム様かと。」

「まあ、ミリアムの立場を考えれば仕方ないといえば、仕方ないか………」

「はい………」
エステルに謝られ、エステルの話にあった人物にすぐに思い当たったアリサは不安そうな表情をし、シャロンは静かな表情で呟き、マキアスとエマは複雑そうな表情をしていた。

「!?…………」
一方シャロンに気づいたヨシュアは驚いた後真剣な表情でシャロンを見つめていた。

「やれやれ、君達に撃退される羽目になったミリアム君はご愁傷様と言うべきだろうね………と言う事はもしかしてミリアム君もクロスベルに捕らわれてしまったのかい?」

「ううん、ミリアムちゃんもそうだけどクレア少佐だっけ?二人はシェラ姉とトヴァルさんに保護してもらって帝都(ヘイムダル)に帰還してもらったわ。」

「ちなみにレクター少佐は戦闘終了後サラさんとフィーに保護してもらって、帝都(ヘイムダル)に帰還してもらいました。」

「ふえ………?どうしてミリアムちゃん達だけは捕まえずにエレボニアに帰還させたんですか………?」
疲れた表情で溜息を吐いた後にヴァイスに問いかけたオリヴァルト皇子の質問に答えたエステルとロイドの話を聞いたトワは不思議そうな表情で訊ねた。

「ん?大した理由じゃないぞ?連中にクロスベルに手を出せば、痛い目に遭う事を連中の”親玉”に伝える伝言役として見逃してやっただけだ。」
そしてヴァイスの答えを聞いてあることを察したその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「いやいやいや!?思いっきりとんでもない理由じゃねぇか!?つーか、それって2年前のギュランドロスのオッサンとルイーネ姐さんの”仕切り直し”のようなものじゃねぇか!」

「ほう、ランディはすぐに気づくとはさすがだな!だぁっはっはっはっ!」

「あの、笑い事ではないのですが。しかもクロスベルに潜入していたエレボニアの諜報関係者の救援に来たレクター少佐達を無力化していながらも捕まえずにわざと見逃す事も一種の”見せしめ”になって、オズボーン宰相もそうですがレクター少佐達にも挑発しているように見えますね。」

「幾ら相手側に非があるとはいえあまり相手を挑発するような事は正直な所、止めて頂きたいのですが………」

「全くですね。相手の性格を考えれば、むしろ逆効果になるでしょうしね………」

「しかも昨日は結社と地精にも喧嘩を売ったものね~?」
逸早く我に返ったランディは疲れた表情でヴァイスに指摘し、ランドロスは豪快に笑い、ティオはジト目でランドロスを見つめた後推測を口にし、エリィとリセルは疲れた表情で溜息を吐き、エルファティシアはからかいの表情で呟いた。

「うふふ、そんな事よりもエステルはミリアムへの”お仕置き”はどんな”ぶっ飛ばし”になったのかしら♪どうせエステルの事だから手加減抜きの”ニーベルンヴァレスティ”でミリアムに”お仕置き”したのでしょう?」

「いや、殺傷力が滅茶苦茶ある”ニーベルンヴァレスティ”だと加減しても、ミリアムちゃんが死んじゃうでしょ。ちゃんと加減した技で無力化したから戦闘後もミリアムちゃんは意識を保っていたわよ。」

「そういっている割にはエイドス直伝の神技で”白兎”を無力化したようですが。」
レンとエステル、フェミリンスのとんでもない会話内容にその場にいる全員は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「エ、”エイドス直伝の神技”って………もしかしてエステルさん、エイドス様がゼムリア大陸に滞在している間にエイドス様から技を教えてもらったんですか………?」
逸早く我に返ったセレーネは表情を引き攣らせながらエステルに訊ね

「うん。エイドスの話だと、エイドスの血を引いているあたしなら習得できるって話だったからせっかくの機会ってことでエイドスから、エイドスの神技と神術を教わったのよ。その代わり”ニーベルンヴァレスティ”を含めたあたしのいくつかの技もエイドスに教えたけどね!」

「そ、”空の女神”の”神技”と”神術”を教わったって………!どちらも決して”人”の身で、習得できるものではありませんよ………!?」

「まあ、その娘が空の女神の血族である事を考えるとその娘が空の女神の”神技”や”神術”を覚えられる”素質”がある事には一応納得はできるわよ。………にしても空の女神の神技と神術が受け継がれたなんて話、七耀教会が知れば、絶対大騒ぎするわよ………」

「ひ、非常識な………」

「お、お姉ちぁ~ん………」

「ハッハッハッ!エステル君の”人外”っぷりは相変わらずどころか、前よりもパワーアップしているね♪」
エステルの答えを聞いたエマは信じられない表情をし、セリーヌとマキアス、ティータは疲れた表情で溜息を吐き、オリヴァルト皇子は暢気に笑い

「ご愁傷様です、ミリアムさん。この時ばかりは心の奥底から同情します。」

「そういっている割にはあまり、同情しているようには見えないわよ………」

「大丈夫………そのミリアムって人は、ちゃんと無事な様子で教官や私達と一緒に行動している所も”視えた”事があるよ………」

「前々から疑問に思っていたが、君は一体どこまでの未来を既にみたことがあるんだ………?」
静かな表情である人物を思い浮かべたアルティナの言葉を聞いたユウナは呆れた表情で指摘し、ゲルドの話を聞いたクルトは疲れた表情溜息を吐いた。

「――――よかった。何とか間に合ったみたいですね。」

するとその時エステル達やロイドのように導力バイクで演習地に来たセティ達がリィン達に近づいてきた。
「セティ……それにシャマーラとエリナも。エリィ達が見送りに来てくれて、君達は見送りに来ていない事を不思議に思っていたけど、何か用事があったのか?」

「うん!ヴァイスハイト陛下達から依頼された品物の最終調整にちょっとだけ時間がかかっちゃって、来るのがギリギリになっちゃったんだ。」

「え……………ヴァイスハイト陛下達からの”依頼”、ですか?しかもその品物の最終調整の関係で遅れたという事は、もしかしてわたくし達に関係があるのですか?」
リィンの質問に答えたシャマーラの説明を聞いたセレーネは不思議そうな表情でヴァイスを見つめて訊ねた。

「フッ、察しがいいな。―――――第Ⅱ分校の諸君、知っている者もいるかもしれないが改めて紹介しておこう。彼女達はクロスベルの”工匠特区”の礎となった”ディオン三姉妹”。双界一の職人と評されている”匠王”の娘達だ。昨日(さくじつ)、クロスベル軍・警察の代わりにクロスベルで暗躍を行っていた結社の連中の撃退、そして星見の塔に徘徊していた結社の人形兵器の掃討の礼として、彼女達が開発した武装を第Ⅱ分校の諸君に送呈する。遠慮なく受け取るといい。」

「彼女達の開発した武装もウィル殿が開発した武装と遜色ない程の素晴らしい品々ですから、今後の活動に役立てて下さい。」

「フフッ、さすがに父様と同格だなんて過剰に評価し過ぎですが………皆さんが私達が開発した武装の力を完全に引き出すことができれば、生身で戦車や機甲兵等の”兵器”にも対抗できる力を秘めていますよ。」

「ふえええええええええっ!?」

「な―――――お、お待ちください!そのような事、今初めて聞きましたし、失礼を承知で意見をさせて頂きますが彼らには分不相応な物ですし、エレボニア帝国政府に話も通さずにそのような高性能な武装を学生の彼らに下贈(かし)すれば、エレボニア帝国政府にいらぬ誤解を招いたり等の様々なトラブルの発生の恐れが考えられます!」
ヴァイスとリセル、エリナの説明にその場にいる多くの者達が驚いている中トワは信じられない表情で声を上げ、ミハイル少佐は絶句した後慌てた様子でヴァイスに意見をした。

「エレボニア帝国政府に関しては、既に交渉に入っているルイーネ達に交渉相手であるアランドール少佐にその件も言い含めておくようにルイーネ達に伝えてある。それにセティ達が開発した武装は昨日の件が起こらなかったとしても、元々ユーディ達―――――”カイエン公爵家”が”寄付”という形で送呈するつもりだったらしいから、そんなに目くじらを立てる必要はないぞ。」

「へ………ユ、ユーディット皇妃陛下達―――――”カイエン公爵家”が、第Ⅱ分校にセティさん達が開発した新武装を”寄付”するつもりだったって………一体何故ですか?第Ⅱ分校と”カイエン公爵家”は縁もゆかりもありませんよね?」
ヴァイスの説明を聞いたアリサは不思議そうな表情でヴァイス達に訊ねた。

「アリサ室長ならば、既に気づいていると思うが第Ⅱ分校が設立された理由の一つは内戦後どこぞの宰相の政策によって、トールズ本校が改革された事によって失われつつある獅子心皇帝の理念を受け継ぐ事だ。そして第Ⅱ分校が設立された理由は元を辿れば、前カイエン公爵―――――クロワール・ド・カイエンが勃発させた内戦が一番の理由だ。父が犯した大罪の償いとして、そしてかつてはエレボニアを支えた”四大名門”の一角として、トールズ本校の連中から”捨石”やら”落ちこぼれ”やらと見下されながらも、改革前の本校の理念を受け継ぎ、精進し続ける第Ⅱ分校の諸君に対する細やかな協力として、この先も厳しい戦いが待っている第Ⅱ分校の諸君の生存率を少しでも上げるためにセティ達に武装の開発を依頼、依頼した武装を第Ⅱ分校に寄付する事を決めたそうだ。」

「あ…………」

「ユーディットさんがそのような事を………」

「………………後で改めてお礼を言っておかないといけませんね。」

「そうだね………それにしても今の話を聞いて、改めて非常に優秀な人材をエレボニアは手放してしまったことを痛感するね………」

「殿下………」
ヴァイスの話を聞いたトワは呆けた声を出し、アルフィンは辛そうな表情をし、静かな表情で呟いたリーゼロッテ皇女の提案に頷いて疲れた表情で溜息を吐いたオリヴァルト皇子の様子をクルトは心配そうな表情で見守っていた。

「ユーディット皇妃陛下か………僕もユーディット皇妃陛下の人柄やクロスベルでの活躍は新聞等で知っていたけど、今の話といい、とてもあの前カイエン公爵の娘とは思えない聡明な人物だな………」

「そうね。まさに言葉通り”鳶が鷹を産んだ”としか思えない貴族令嬢よね。」

「セ、セリーヌ。」
静かな表情で考え込んでいるマキアスの言葉に頷いたセリーヌの感想にエマは冷や汗をかいた。

「ま、そういう訳で第Ⅱ分校の諸君は遠慮なく受け取るといい。――――まだ、何か言いたいことはあるかな、アーヴィング少佐?」

「いえ………――――お前達、ヴァイスハイト陛下達の寛大な心に感謝し、そして陛下達の期待を裏切る事がないようにこれからより一層精進するように!わかったな!?」

「イエス・サー!」
そして第Ⅱ分校の生徒達はセティ達が持ってきたセティ達特製の武装の受け取りやサイズの調整等を始め、その間にリィンはアリサ達と今後について話し始めた。 
 

 
後書き
ついに閃Ⅳが発売されましたね!まあ、私がゲットするのは明日ですが(畜生………なんで新作のPCゲーの発売日は金曜日なんだよ………!)閃Ⅳのプレイの関係で2章が終わったらしばらく更新は止まるので申し訳ありません。なるべくエウシュリー新作が発売されるまでには更新は再開したいと思っています(汗)それと2章終了後に出す予定のキャラのステータスはエリゼ、アルフィン、ベルフェゴール、リザイラ、セリカ、ロカです(他の戦女神、魔導巧殻キャラはあまりにも多い上、魔導巧殻に関しては2章のみの限定参戦でしたので終章でも活躍する予定の戦女神陣営を代表して主人公&メインヒロインのセリカとロカだけにしました) 

 

第68話(2章終了)


~演習地~

「それにしても、結社は変な事になってるみたいね………」

「ええ、まさか第二柱が追われているとは………」

「………はい………」

「そのあたりの状況は探っていく必要がありそうね。」
アリサとシャロンの話にエマは辛そうな表情で頷き、セリーヌは真剣な表情で呟いた。

「”蛇の使徒”の第二柱か~。確か話によるとその人はシルフィアさ―――じゃなくてリアンヌさんと同じ女性の”蛇の使徒”だったそうだけど、ヨシュアは結社時代その人と話した事とかはあるの?」

「………彼女―――――”蒼の深淵”と会話を交わした事はあるけど、会話は数える程だったから正直僕は彼女の人柄等についてはあまり詳しくないよ。彼女の興味はレーヴェだったから、僕はレーヴェのおまけ程度にしか見られていなかっただろうし。」

「へ………け、”結社時代”って、もしかしてヨシュアさんは………!」
そこに話に加わってきたエステルとヨシュアの会話を聞いてアリサたちと共に驚いたマキアスは信じられない表情でヨシュアを見つめ

「うん、かつては”執行者”の一人だったんだ。………最もエステルや父さん達との出会いがあったお陰で、結社を完全に離れる事ができて遊撃士として活動しているんだ。――――だからこそ、最初貴女が彼らと共にいる事には驚いたよ――――――執行者No.Ⅸ”告死線域”のクルーガー。」

「あ、あんですって~!?じゃあ、そこのメイドさんは結社の”執行者”なの!?」
ヨシュアは説明した後真剣な表情でシャロンを見つめ、ヨシュアの話を聞いたエステルは驚いた様子でシャロンを見つめ

「そういえばヨシュアはレオンハルト准将と同じ元”執行者”の一人でもあったから、シャロンさんと顔見知りでもおかしくなかったな………」

「シャロン………」
リィンは静かな表情でヨシュアとシャロンを見比べ、アリサは複雑そうな表情をしていた。


「フフ………―――――お久しぶりですわ、ヨシュア様。最後にお会いした時と比べると随分と雰囲気が変わられましたが………それも”剣聖”―――――いえ、かの”空の女神”の一族による導きでしょうか♪」

「………そうだね。父さんやエステル達との出会いで僕自身を取り戻せた事は否定しない。そういう貴女こそ、昔と比べると随分と雰囲気が変わっているね。」

「ふふっ、ヨシュア様がエステル様達との出会いがあったように、わたくしにも会長やお嬢様との出会いによって今のわたくしが存在するのですわ♪」

「もう、シャロンったら………」
シャロンとヨシュアの会話を聞いていたアリサは恥ずかしそうな表情をし

「う~ん………それにしてもシャロンさんが”執行者”ね~?あたし達が今まで会ったことがある”執行者”の連中とは全然違うように見えるわね。」

「えっと………エステルさんは遊撃士との事ですが………やはり過去結社の執行者と刃を交えた事があるのですか?」

「うん。え~と、ブルブランにヴァルター、ルシオラお姉さんにレーヴェ、それと直接戦ったことはないけどカンパネルラとも会ったことがあるわよ。あ、それと”碧の大樹”では結社じゃないけど、アリオスさんとも戦ったことがあるわよ。」
エマの質問に答えたエステルの答えを聞いたリィン達はそれぞれ冷や汗をかき

「ひ、一人でもとんでもない強さなのに、レオンハルト准将を含めた4人もの”執行者”やあのアリオスさんと戦ったことがある上”道化師”とも会ったことがあるって………」

「経歴がとんでもなさすぎだろ………――――って、そういえばアリオスさんはあれからどうなったんだ?」
我に返ったアリサはジト目でエステルとヨシュアを見つめ、マキアスは疲れた表情で呟いた後ある事を思い出し、リィンに訊ねた。


「あの後ヴァイスハイト陛下達に教えてもらった話だけど、昨日の星見の塔で想定以上の活躍をした”褒美”として今日一日だけ仮釈放されて、シズクちゃんと親子水入らずで過ごす事になっているらしいから、今頃はシズクちゃんと久しぶりの”親娘”として過ごしていると思う。」

「そうだったのですか………」
リィンの話を聞いたエマは安堵の表情をし

「それよりも、いいのか?こんな状況なのにセリーヌがしばらく俺の方に来てしまっても。」
リィンは自分の足元にいるセリーヌに視線を向けた後エマに訊ねた。

「ふふ、私も当てはありますししばらくは一人で大丈夫です。」

「それに今後の事を考えるとアンタには本来アタシ達が教えるべきであったヴァリマール―――騎神の操縦を含めた様々な事についても知ってもらった方がいいでしょうしね。しばらくアタシが鍛えてあげるわ。」

「わかった、よろしく頼む。――――くれぐれも元気で。何かあったら連絡してくれ。」

「はい………!セリーヌも、リィンさんのことよろしくお願いね。」
リィンの言葉に笑顔で頷いたエマはセリーヌに視線を向け

「ええ、アンタも気をつけなさい。」
視線を向けられたセリーヌは頷いた。


「マキアスは………しばらくクロスベルに残るそうだな?」

「ああ、第Ⅱ分校(君達)と違って、監査院(僕達)は”研修”という名目でしばらく、エレボニアからクロスベル警察へと追いやられたからな。改めて父さんとも話し合う必要がありそうだし、これを機会に君やセレーネのリーダーであった”彼”とも、話したいと思っている。」
リィンの問いかけに真剣な表情で頷いたマキアスはユウナたちと話しているロイドに視線を向け

「そうか………ロイドはとても真面目な男だから、マキアスとも話が合うと思う。」

「ハハ、そうか。監査院と警察………どちらも”法”に関わる組織だけど、その役割は似ているようで全く異なる………今後の為にも色々と学ばさせてもらうつもりさ。」

「フフ、そういえばマキアス様は第二柱のファンとの事ですが、クロスベルに滞在していればその第二柱の新たな意中の相手であるセリカ様の事をよく知るのにもちょうどいい機会ですわね♪」
リィンの話を聞いたマキアスが今後について期待している中シャロンはからかいの表情で指摘し、シャロンの指摘にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「シャロン、貴女ねぇ………って、そういえばセリカさん、だっけ?あの後リィン達とちょっとだけ言葉を交わした後メイドの人達と一緒にクロスベルに帰って行ったようだけど………一体何を言われたのかしら?」

「え、え~と………正確にはエマへの伝言なんだが………」

「え……………わ、私ですか?一体どのような事を伝えられたのでしょうか?」
ジト目でシャロンを睨んだ後ある事を思い出したアリサの質問に苦笑しながら答えたリィンの話を聞いたエマは不思議そうな表情でリィンを見つめた。


「『あの”蒼の深淵”とやらの魔女はお前の身内のようだから、身内として俺に付き纏わないように何とかしろ。あんな女に目をつけられても迷惑なだけだ』、との事だ。」

「ア、アハハ………」

「アタシ達であの女を何とかできるんだったら、今頃こんな状況になっていないわよ。」

「というかあんなにもたくさんの女の人達を侍らせておきながらあの蒼の歌姫(ディーバ)であるクロチルダさんにあそこまで大胆な告白をされておきながら、断った上そんな事まで言うなんて罰当たり過ぎだろう………」
リィンのセリカからの伝言を聞いてアリサたちと共に冷や汗をかいたエマは苦笑し、セリーヌはジト目で呟き、マキアスは疲れた表情で呟いた。

「全くセリカったら………エオリアさんに飽き足らず、結社の”蛇の使徒”までハーレムの一人にしようとするとか、見境がなさすぎよ。」

「いや、リィンの話だとセリカさん自身は”蒼の深淵”の件についてはレーヴェみたいに迷惑しているって話だから、”蒼の深淵”はエオリアさんの時とは違うと思うよ。」
ジト目で呟いたエステルにヨシュアは疲れた表情で指摘し

「どうかしらね。確かレシェンテもそうだけど、エクリアさんも昔はセリカと敵対していたらしいけど、最終的にセリカの”使徒”になったんだから、その”蛇の使徒”もいつかセリカの”使徒”になるんじゃない?」

「ハ、ハハ………そうなったらセリカさん側の戦力が更に向上する事になるだろうね………」
ジト目である事を推測したエステルの推測を聞いたヨシュアは冷や汗をかいて苦笑しながら呟いた。


「えっと………エステルさんはセリカさん達とはどういった関係なんでしょうか?」

「随分と連中の事を知っているようだけど………もしかして例の”リベールの異変”を解決した仲間なのかしら?」

「ううん、セリカ達と出会ったのは”影の国”って所よ。」

「”影の国”って確かオリヴァルト皇子殿下やレン皇女殿下達が巻き込まれたっていう………」

「”リベールの異変”の半年後に異変に深い関わりがある人物たちのみが巻き込まれた古代遺物(アーティファクト)の事件ですわね。」
エマとセリーヌの疑問に答えたエステルの説明を聞いて心当たりを思い出したアリサは目を丸くし、シャロンは静かな表情で呟いた。

「まあ、正確に言えば巻き込まれたのは僕達と僕達と関わりのある人物だったけどね。ちなみにアイドスさんとフェミリンスもその”影の国”に巻き込まれて、エステルはその事件の最中にフェミリンスにフェミリンス自身が力を貸す”契約者”として認められてフェミリンスと”契約”したんだ。」

「へ………って事はあちらのフェミリンスさんという女性も異種族の方なんですか?」
ヨシュアの説明を聞いてあることに気づいたマキアスはアイドスを始めとしたリィンと契約している異種族達やヴァイス達と何らかの会話をしているフェミリンスに視線を向けた。

「うん、フェミリンスはアイドスさんと同じ世界―――”ディル=リフィーナ”の”女神”よ。」
そしてエステルの答えを聞いたアリサ達はそれぞれ石化したかのように固まり

「め、”女神”って、………リィンはあまり驚いていないようだけど、フェミリンスさんの事も知っていたの?」

「ああ。けど最初知った時は心の底から驚いたよ、――――メンフィルの”本国”がある大陸――――レスペレント地方では伝説の存在であるあの”姫神フェミリンス”が一人の人間の為だけに力を貸していたんだからな。」

「アイドスと婚約している君だけはエステルさんの事は言えないと思うぞ………」

「全くよね。おまけに七大罪の魔王の一柱に竜の姫君、覇王と聖女の娘に精霊王にまで寵愛されているなんて、アンタみたいな”規格外”の起動者(ライザー)は、間違いなく歴代初よ。」
表情を引き攣らせながらフェミリンスを見つめた後に問いかけたアリサの疑問に答えたリィンの答えを聞き、マキアスと共に呆れたセリーヌはジト目でリィンを見つめた。



「フフ、何だか………あっという間だったわね。」

「ああ……でも、またすぐに会えるさ。アリサも数日ほどクロスベルに残るんだったか。」

「ええ、帰りは一応、母様と一緒に戻ろうと思ってる。列車砲に巨大軍需要工場………問い質したいことも多いから。」

「お嬢様………」

「………そうか。」
アリサの決意を知ったシャロンは心配そうな表情でアリサを見つめ、リィンは静かな表情で見守っていた。

「ふふ、心配しないで。これでも開発部を背負う室長だから。―――お互い頑張りましょう。Ⅶ(わたしたち)特務部隊(あなたたち)にしかできないやり方で。それがあの”約束”を果たすことにも繋がるでしょうから。」

「アリサ………そうだな。」

「はい………!」

「ああ、踏ん張り所だろう!」
アリサの言葉にリィン達はそれぞれ頷き

「ハハ………――――今後、どこまで君達の力になれるかどうかわからないが………私は私で、できるかぎりの悪あがきをさせてもらうつもりだ。それからありがとう。演奏家オリビエ・レンハイムの我儘に付き合ってくれて。」
リィン達の様子を黙って見守っていたオリヴァルト皇子は感謝の言葉を述べた後ウインクをした。


「こちらこそ………本当に助かりました。」

「殿下が立ち上げてくださった”Ⅶ組”という枠組み――」

「私達ならではの形で続けさせて頂こうと思います。」

「そうか………今後も楽しみにさせてもらおう。」

(というか、”演奏家オリビエ・レンハイム”って………”三帝国交流会”に参加しておきながら、またスチャラカ演奏家をやっていたのね………やっぱりミュラーさんが見張れなくなった影響で、前より悪化しているじゃない。)
(ハハ………どんな状況に陥っても相変わらずなのは、オリビエさんらしいけどね。)
「………ハッ………」
リィン達とオリヴァルト皇子の会話を見守っていたエステルはジト目でオリヴァルト皇子を見つめ、ヨシュアは苦笑し、リィン達と談笑しているヨシュアの様子を厳しい表情で睨んでいたアッシュは鼻を鳴らしてその場から離れた。


「えへへ、まさか演習地でツーヤちゃんに続いてミントちゃん達にも会えるなんて、これもエイドスさんのお導きかな?」

「ふふっ、エイドス様の事ですから今のティータさんの言葉を聞けば全力で否定なさるでしょうね。」

「うふふ、空の女神(エイドス)の性格を知っているレン達からすればその様子が目に思い浮かぶわね♪」

「ア、アハハ……―――サザ―ラントの件はミント達も後で聞いたよ。ミントもママ達と一緒にサラさん達のお手伝いをしたかったのだけど、ティータちゃん達も知っているようにミント達のエレボニアへの入国は認められなかったんだよね………そのせいで、ティータちゃんやツーヤちゃん達と一緒にパパの故郷のお墓参りもできなかったし………」
嬉しそうな表情をしているティータの言葉に微笑みながら答えたセレーネの推測と小悪魔な笑みを浮かべたレンの推測に苦笑したミントは残念そうな表情を浮かべた。

「ミントさん………そんなに気を落とさないでください。いつか必ず、わたくし達が全員揃ってハーメル村のお墓参りができる機会がありますわ。」

「………そうだね!それにしてもみんなの学生服や教官服、初めて見たけどとっても似合っているよ♪」

「えへへ………そうかな?」

「うふふ、デザインは悪くないけど欠点は毎日同じ服装で代わり映えしない事なんだけどね。――――それにしても前々から気になっていたけど、竜族って、みんな大人になったら美人かつスタイルが完璧になるのかしら?ミント達もそうだけど、ヴァイスお兄さんの側妃の一人も竜族だけど、その人もミント達のように綺麗なお姉さんでスタイル抜群だし。」
セレーネの言葉に力強く頷いたミントはティータ達の服装について誉め、ミントの誉め言葉にティータと共に同意したレンだったが、すぐにからかいの表情になってミントとセレーネを見つめた。

「あっ!私もそれについては前々から気になっていたよ。ミントちゃんやツーヤちゃん、それにセレーネちゃんの3人とも凄い美人さんで、胸も凄く大きいし………」

「え、えっと………」

「ううっ、隙あらば場を引っ掻き回そうとするレンちゃんの性格も相変わらずだよね………」
レンの言葉に頷いた後興味ありげな様子で見てくるティータの視線にセレーネは困った表情で答えを濁し、ミントは疲れた表情で溜息を吐いた。


「ユウナ、改めてになるが今回は本当にありがとう。再びクロスベルに現れた結社が撤退したのも君達の活躍のお陰だよ。」

「そ、そそそそ、そんなっ!あたし達のした事なんて、大した事じゃなく、実際に結社の執行者達と戦ったのはリィン教官達―――旧Ⅶ組や特務部隊の人達ですよ!」
ロイドに感謝の言葉を述べられたユウナは緊張した様子で答え

「フフ、でもオルキスタワーでは”道化師”と戦った上、勝ったのでしょう?第Ⅱ分校に入学して僅か2ヵ月弱でそこまでの実力をつけていたなんて、本当に驚いたわ。」

「まあ、あの”化物”連中の相手を毎日放課後に強制的にさせられれば、嫌でも実力はつくと思うぜ?お嬢も知っていると思うがその”化物”の中にはあの”鋼の聖女”どころか、リィンと契約している異種族のお姉さん達も含まれているんだぜ?」

「そ、それは………」

「………………なるほど。ユウナさんはかつて”影の国”に巻き込まれたわたしのような状況―――いえ、それ以上の状況なのですか。心の奥底から同情しますよ………」

「ほえ~?ユウナ、ブンコウに行ってすっごく強くなっているのに、どうして喜ばないの~?」
微笑みながらユウナを称賛するエリィの感想に苦笑しながら答えたランディの話にエリィ達と共に冷や汗をかいたロイドは表情を引き攣らせて答えを濁し、ティオはジト目で呟いた後憐みの目でユウナを見つめ、ロイド達の様子にキーアは無邪気な様子で首を傾げた。

「ア、アハハ……確かに分校長を始めとした教官達の一部は無茶苦茶な人達で、授業も大変ですけど、第Ⅱ分校に留学した事は結果的によかったと思っています!」

「………そうか。第Ⅱ分校で色々と経験して見違えたユウナが、今度こそ俺達の後輩としてクロスベルに帰って来る日を楽しみに待っている。」
第Ⅱ分校に入学したユウナが成長している様子に静かな笑みを浮かべたロイドは笑顔を浮かべてユウナを見つめ

「あ…………――――はいっ!」
ロイドの応援の言葉に一瞬呆けたユウナは嬉しそうな表情を浮かべて力強く頷いた。


「ユウナ、とても嬉しそうね………」

「まあ、ずっと目標にしていた人達に今までの成果を認めてもらったから、嬉しいんだろうな。」

「………なるほど。先月の演習でのリィン教官達への助太刀を教官達から称賛してもらったクルトさんが言うと、真実味がありますね。」
ユウナの様子を微笑ましそうに見守っているゲルドの感想に続くように呟いたクルトの推測を聞いたアルティナは納得した様子で呟いた。

「ぐっ………別に僕は彼女のように”嬉しい”って訳じゃ………というか、そもそもあの時は君やユウナも僕と同じ理由で助太刀に向かったのだから、君だけは僕の事は言えないんじゃないのか?」

「………さて、何のことやら。」

「クスクス………」
自分の指摘に唸り声を上げた後反論してきたクルトの指摘に対してアルティナはクルトから視線を逸らして答えを誤魔化し、二人の様子をゲルドは微笑ましそうに見守っていた。


「お姉様………くれぐれも、お姉様もそうですがお兄様も無茶はしないようにお気をつけください。」

「フウ………その”無茶”をやらかした貴女にだけは言われる筋合いはないと思うのだけど………」

「うっ。そ、それは………」
エリゼを心配したリーゼアリアだったが、呆れた表情で溜息を吐いた後ジト目で見つめて呟いたエリゼの言葉に反論ができず、気まずそうな表情で答えを濁し

「もう、エリゼったらまだ根に持っているなんて、いつもの貴女らしくないわよ?」

「フフ、先輩はエリゼさんにとって大切な”妹”なのですから、”根に持つ”というよりも”過保護”なので、そのような態度をとっておられるのではないでしょうか♪」

「………アリアをそそのかした張本人である貴女がそれを言う?全く………エリゼさんの仰る通りあんな無茶はもう2度としないでよ?貴女がオルキスタワーからいなくなった時は本当に心配したんだから………」
二人の様子を呆れた様子で見守っているアルフィンに笑顔を浮かべて指摘するミュゼにジト目で指摘したリーゼロッテ皇女は真剣な表情でリーゼアリアを見つめた。

「ええ………心配をかけてしまって本当にごめんなさい。もう、あんな無茶は2度としないつもりよ。」

「フフ、それはそれとして。――――エリゼさんが先輩を許したという事は、教官の新たな伴侶の最有力候補はエリゼさん公認であるアリア先輩という事なのでしょうか♪」

「ミュ、ミュゼ!?」

「フフ、でもそれについてはわたくしも気になっていたわ。―――ちなみにリーゼアリアの次の候補はリーゼロッテかしら♪」

「お義姉様まで………アリアはともかく、わたくしはリィンさんとそれ程親しくありませんわよ。」
ミュゼのからかいに対してリーゼアリアが驚いている中ミュゼに悪乗りするかのようにアルフィンにからかわれたリーゼロッテ皇女は困った表情で答えた。

「………そう仰っている割には今年の夏至祭のパーティで兄様が殿下をダンスに誘ってくるかどうかを気にしているようだと、以前のリーアの手紙に書いてありましたが。」

「あ、それについてはわたくしがリーゼロッテから貰っている手紙にも書いてあったわ。」

「あらあら………ふふっ、という事は、将来”私達”が全員揃って、リィン教官の伴侶になる日が来るかもしれませんわね♪」
静かな表情で呟いたエリゼに続くようにある事を思い出してその内容を口にしたアルフィンの話を聞いたミュゼは意味ありげな笑みを浮かべてリーゼロッテ皇女とリーゼアリアを見つめ、ミュゼの発言にエリゼ達はそれぞれ冷や汗をかいた。

「もう、この娘はまたそんな事を言って………」

「というかさりげなく自分まで含めようとするなんて、貴女のそういう所は第Ⅱ分校に行っても相変わらずのようね………」
ミュゼの発言にリーゼアリアとリーゼロッテ皇女はそれぞれ呆れた表情で溜息を吐き

(フフ、後でゲルドさんに以前ゲルドさんが視た未来にリーゼロッテ達もわたくし達と一緒にいたのかどうかを、訊ねてみるべきかしら?)

(………その必要はないわ。兄様のこどだから、どうせ私や貴女の予想通り――――いえ、”それ以上の結果”になる事はゲルドさんの予知能力に頼らなくても目に見えているわ………)

苦笑しながら小声で訊ねてきたアルフィンに対してエリゼは疲れた表情で呟いた後ジト目でリィンを見つめた。


「………………そう。もしかしてセリカをクロスベル――――いえ、ゼムリア大陸に再び呼び寄せた”真の理由”はセリカの―――――アストライアお姉様の”焔”で”終焉”を浄化させる為かしら?」
ヴァイス達から並行世界のユウナ達からもたらされた情報を伝えられたアイドスは重々しい様子を纏って呟いた後ある事をヴァイス達に確認した。

「ああ。念の為に確認するが、かつて”影の国”でシルフィエッタ皇妃達の”試練”の際に見せた女神アストライアの浄化の焔で”巨イナル黄昏”のトリガーとなるエレボニア帝国に眠る”呪い”を浄化させることは可能か?」

「………可能よ。”聖なる裁きの炎”は”全ての呪いや罪を浄化する炎よ。”その炎の前では例え”邪神”すらも浄化されるわ。しかもその”呪い”は話に聞く所”至宝”―――空の女神(エイドス)が人に与えた”神器”が原因で生まれたそうだから、お姉様の身体に宿っているセリカならば、確実に浄化できると思うわ。」

「そうか………」

「ちなみにアイドス様ではその”聖なる裁きの炎”は使用できないのでしょうか?サティア様の身体に宿っているという意味ではアイドス様も同じ条件になりますが………」
アイドスの答えを知ったヴァイスが静かな表情で頷いた後ある事が気になっていたリセルはアイドスに訊ねた。

「貴女達も知っているでしょうけどこの身体はキーア―――”零の至宝”によって作られた”アストライアお姉様そっくりの肉体”であって、アストライアお姉様自身の肉体ではないわ。だから当然アストライアお姉様のみしか扱えない”聖なる裁きの炎”を私が扱う事は不可能よ。」

「しかし”慈悲の大女神”である貴女のみが扱える”神術”ならば、”聖なる裁きの炎”とやらと同等の効果があると思われるのですが。」

「そうよね~。”慈悲の大女神”なんだから浄化の神術の一つや二つ、扱えて当然だと思うわよ。呪われた存在や邪悪なる存在を滅する事も考えようによっては”慈悲”でしょう?」

「さ、さすがにそれは偏見なのでは………」
アイドスの説明を聞いて新たなる疑問が出たリザイラとベルフェゴールの意見を聞いたメサイアは苦笑しながら指摘した。

「――――一応、私が扱える神術で”聖なる裁きの炎”に匹敵する浄化の神術はあるわ。」

「………そういう事はもっと早くに答えなさい………」

「フフッ、ですがエレボニアの”呪い”を浄化する手段が増えた事は朗報かと。」

「ええ………”切り札”は多い事に越したことはありません。――――ましてや世界の命運がかかっているのですから。」
アイドスの答えにヴァイス達と共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたフェミリンスは我に返ると疲れた表情で指摘し、サフィナはセシリアと共に苦笑した後表情を引き締めて空を見上げた。


その後調整が終わった武装を受け取った第Ⅱ分校の面々がそれぞれ列車に乗り込む中、ユウナはエリィ達と共に見送りに来ていたケンとナナに別れを告げようとしていた。


「―――ケン、ナナ!お父さんとお母さんによろしく!手紙もいっぱい書くから二人とも良い子で、元気でね………!」

「うんっ!ねーちゃんもゲンキでなー!」

「クルトちゃんとアルちゃんとゲルドちゃんもまたねー!」

「ああ……また会おう!」

「どうかお元気で………!」

「またいつか必ず会おうね………!」
ケンとナナの別れの言葉にクルト達はそれぞれ力強く頷いて答えた。


「リィン。エレボニアとメンフィル・クロスベル連合の関係の問題でお互いに大変だろうけど、内戦やクロスベル動乱の時のように俺達にもできる事は必ずあるはずだ。碧の大樹の時のようにいつかそれぞれが協力する時が来ると思っている。」

「その時が来たら今度はⅦ組や特務部隊の人達と一緒に頑張りましょうね!」

「ああ………っ!」
ロイドとエステルの言葉にリィンは力強く頷き、そしてロイド、エステル、リィンの三人は未来への約束の印を示すかのようにそれぞれの拳を打ち合わせた。


~クロスベル某所~

第Ⅱ分校の面々を乗せたデアフリンガー号がリーヴスへと帰還して行く様子を万が一リィン達に見つからないようにサフィー達は見守っていた。

「行ったか………先月の”特別演習”同様、今回の”特別演習”も僕達の世界とは異なる”結果”になったな………」

「はい。”劫焔のマクバーンと蒼の騎神の撃破”に加えて本来”劫焔”によって破棄される予定だった”神機の回収”、ですね。」

「フフ、それとクロスベル双皇帝による”結社”と”地精”に対する”宣戦布告”もですわね♪」

「しかも帝都を含めたクロスベルの領土に潜入していたエレボニアの諜報関係者達を全員一斉検挙した上、その人達の救出に来たクレア教官達を”返り討ち”にした挙句クレア教官達にオズボーン宰相に対する”宣戦布告”の伝言役として見逃すとか、無茶苦茶よ………ううっ、皇帝が二人ともオズボーン宰相のように野心がある上好戦的な性格だから、この世界のクロスベルは別の意味で心配になってくるわね………」
ザムザ達と共にリーヴスへと帰還して行くデアフリンガー号を見守っていたサフィーは疲れた表情で溜息を吐いた。

「そうでしょうか………?確かに二人を含めた”六銃士”達のクロスベルでの活躍を聞く限り彼らもオズボーン宰相のような強烈な”野心”がある事は見受けられましたが、少なくてもあのお二人から感じられる印象はオズボーン宰相とは全く異なるように思いますが。」

「それについては僕も同感だ。昨日の”道化師”達と対峙した陛下達の言動からして、僕は陛下達はクロスベルの民達を思って”怒り”を見せている事やクロスベルの”守護者”のように見えたな。」

「フフ、少なくてもサフィーさんにとっては私達の世界のクロスベルの統治者である”総督閣下”よりはよほど素晴らしい為政者なのだと、私も思いましたわよ?

「………………それはわかっているわよ。あの人達はあたしやロイド先輩達のようにクロスベルの事を本当に大切にしている人達で、悪い人達じゃないって事は。でも、やる事為すこと全てが非常識で滅茶苦茶過ぎよ………」
サフィーの言葉に首を傾げて呟いたルディの意見にザムザは静かな表情で頷き、ミューズの指摘に複雑そうな表情で同意したサフィーは帝都(クロスベル)へと視線を向けた後疲れた表情で肩を落とした。


「まあ、それを言えばそもそもこの世界のリィン教官の事情を含めたあらゆる事柄が非常識かつ滅茶苦茶な状況ですが。」

「――――」
サフィーの意見に続くようにルディはジト目で呟き、ルディの意見に同意するかのように突如現れたクラウ=ソラスは機械音を出し、それを見たザムザ達は冷や汗をかいた。

「コホン。それはともかく………この後はミシェルさんの配慮であの”劫焔”を滅した異世界の魔剣士―――――セリカ卿達との顔合わせ兼模擬戦なのだから、今のうちにウォーミングアップをすませておこう。」

「ううっ………結社最高の”執行者”や”騎神”を生身であんなアッサリ倒すような人達と今から模擬戦だなんて、気が滅入るわ………」

「”六銃士”やクロスベル軍関係者の上層部達との模擬戦と同等――――いえ、それ以上に蹂躙される事は目に見えていますものね。」

「フフ、ですがこれもこちらの世界の”黒キ星杯”での激闘、そして私達の世界に戻った時に備えた修行の一環なのですから、泣き言を言う訳にはいかないかと。」
ザムザの言葉にサフィーとルディが疲れた表情で答えている中ミューズは苦笑した後静かな笑みを浮かべて答えた。

「………そうね。それじゃあそろそろ、行きましょう!」

「ああ!」

「はい!」
そしてサフィー達はその場から去っていった。


こうして………様々なトラブルに巻き込まれつつも無事2回目の”特別演習”を終えた第Ⅱ分校は様々な立場の多くの者達に見送られ、リーヴスへと帰還した。


なお、クロスベルと遊撃士協会の共同作戦によって虜囚の身となった情報局や鉄道憲兵隊はレクター少佐の交渉によって、解放されてエレボニアに送還されたが、その代償にエレボニアは多額の身代金をクロスベルに支払う事になった上、更にはクロスベルが用意したクロスベルに潜伏していたエレボニアの諜報関係者がクロスベルについての情報を何らかの方法で、他者に教えれば即死する呪いがかかる魔術契約書にサインする事になってしまい、その結果クロスベルに潜伏していたエレボニアの諜報関係者達の労力は無意味と化した。

また、かつての”西ゼムリア通商会議”のようにクロスベルに徹底的に嵌められた事を思い知らされた上、”宣戦布告”までされたオズボーン宰相は内心クロスベルに対する怒りや屈辱を抱えながらも顔に出すことはなく、不敵な笑みを浮かべて笑いながら帝都クロスベル方面を見つめていたという………

 
 

 
後書き
これにて2章終了です!閃Ⅳ、初っ端から僅かな期間ですがとんでもない豪華メンバーを操作できることにまさにテンションアガットでしたwwそして気の早すぎる話ですがこの話のⅣ篇を書くときは序盤から書く必要がありそうだなと思いました(汗)なお現時点でⅣ篇に参戦する予定(つまり、焔と菫の軌跡に殴り込んでくる)の灰の軌跡側のキャラはリィン、セレーネ、アッシュを除いた新Ⅶ組、特務部隊のメンツ、エリゼ、アルフィン、レン、リィンの使い魔達、戦女神陣営、ミント、フェミリンス、ディオン三姉妹、ケビン&リースの予定です。なぜ一部ほとんど接点がないこのメンツにしたのかは、閃Ⅳ篇を始めた時にわかると思います。(まあ、少なくても閃Ⅲ篇を完結してからですからいつになるか不明ですが(笑))閃Ⅳ篇は原作ですら豪華メンバーが揃うのですから、この物語で書いたらそれこそドリームパーティーが実現するような気がしますw例えばダブルレン&ユウナ(レンの妹の方)とか、ダブルリィンとか、軌跡、戦女神、アビスの主人公勢揃いとか……… 

 

設定3


<リィンの妻> アルフィン・シュバルツァー


スタイルは原作より若干成長しており、閃Ⅲのアリサと同じ


レベルは160、パラメーターは原作(閃Ⅱ)通りだがCPは3300、ATS、ADFは原作の2倍


装備


武器 ルシフェリオン(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって改造されたアルフィン専用の特製魔導杖。”明けの明星”を意味する。ATK400、ATS1800、RNG+4、中円攻撃、一人廻るごとにCP8%回復、アタックランクを全て1段階上げる。装備専用クラフト、Sクラフトが扱える)
防具 クリスタルドドレス(性能は閃Ⅱと同じ)
靴  クリスタルヒール(性能は閃Ⅱと同じ)
アクセサリー ホーリーシンボル(性能は閃Ⅱと同じ)
       エンゼルリング(空の女神エイドスより結婚祝い品として送られた古の魔力が宿る指輪。ATS、ADF15%上昇。戦闘不能になってもその戦闘のみ、2回だけHP、EP、CP完全回復による完全復活をする。ピンチ時5ターン自分の出番が終わるごとにHPが20%回復、空属性アーツの駆動時間&発動後の硬直時間が半減、アーツ『セラフィムリング』を駆動&EP無しで放てる。)



スキル


血縁の絆 バトルメンバーに『オリヴァルト』がいるとATK&DEFが9%上昇

リィンが大好き バトルメンバーに『リィン』がいると、全パラメーターが15%上昇

友の絆 バトルメンバーに『エリゼ』がいる場合、アルフィンの全パラメーターが2%上昇

夫婦の絆 『リィン』、『アルフィン』の移動範囲内にお互いがいて、片方が攻撃した時、片方が自動的に連携して攻撃する。リィンとのコンビクラフトの威力が2倍になる

努力家Ⅲ 取得経験値30%増加

魔力再生Ⅱ 行動終了後にCPが300回復する

賢者の魔力Ⅲ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが30%減少。Sクラフトを使っても30%残る

怠惰との仮契約 『ベルフェゴール』を召喚できる

怠惰の加護 混乱、魅了を無効化





アタックランク 斬C突B射C剛B


ブレイブオーダー


プリンセスエール BP2 攻撃(12カウント/ダメージ&ブレイクダメージ+150%)2ターン、ATK、ATS、SPD50%上昇、HP&EP&CP15%回復




クラフト(原作以外)


エクスプロード 400 大円・地点指定 大火球により大爆発を起こす特殊魔法(アーツ)火属性威力A+&火傷60%攻撃、崩し無効、ブレイクB(ルシフェリオンが必要)

アイスシアーズⅡ 260 大円 効果範囲を挟み込むように氷の牙を発生させて挟み込ませる特殊魔法(アーツ)水属性威力A&凍結50%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクC+(ルシフェリオンが必要)

エアプレッシャーⅡ 200 中円・地点指定 重力場を発生させて敵の動きを制限する特殊魔法(アーツ)地属性威力B+&3ターンSPD、MOV50%減少攻撃、崩し無効、ブレイクC(ルシフェリオンが必要)

ガスティーネイルⅡ 450 特大円 異空間より風の爪を発生させて2回斬り裂く特殊魔法(アーツ)風属性威力A+×2&3ターンバランスダウン80%攻撃、崩し発生率+40%、ブレイクA+(ルシフェリオンΩが必要)

イービルスフィア 360 大円 闇の空間を発生させて攻撃する特殊魔法(アーツ)時属性A&即死40%&吸引攻撃、崩し無効、ブレイクC(ルシフェリオンが必要)

ピコレイン 340 全体 戦場全体にハンマーの雨を降り注がせる特殊魔法(アーツ)幻属性A+&3ターン気絶200%攻撃、崩し発生率+50%、ブレイクA(ルシフェリオンが必要)

エンジェルリングⅡ  500 特大円 光の輪を生み出し収束させる事で敵を一箇所に集める 特殊魔法(アーツ)空属性S&吸引攻撃、崩し無効、ブレイクB+(ルシフェリオンが必要)

リフレッシュ 200 単体 炎の生命力で自分以外の味方を回復する特殊魔法(アーツ)HP、EP、CP80%回復&全状態異常、能力減少回復(ルシフェリオンが必要)

ラウンドバリア 300 大円 自分を中心とした広範囲に全てを防ぐ強固な結界を展開する。絶対防壁×2(ルシフェリオンが必要)

リバイブ 800 単体 倒れし者に再び命の炎を宿らせる特殊魔法(アーツ)戦闘不能になっても一度だけHP&CP50%回復で復活する。自分にもかけられる(ルシフェリオンが必要)

癒しの息吹Ⅲ 300 単体 癒しの光で味方単体のHPを60%回復させる

戦闘領域の付術 500 全体 5ターンの間、自分を含めた味方全体のATK&DEFを25%上昇させる

魔法領域の付術 500 全体 5ターンの間、自分を含めた味方全体のATS&ADFを25%上昇させる

英雄領域の付術 400 全体 5ターンの間、自分を含めた味方全体のSPD、DEX、AGL、ブレイクダメージを20%上昇させる

灼熱の大熱風 200 大円 炎の竜巻を発生させる火の魔術。火属性威力B+&火傷30%、崩し無効、ブレイクC(威力はATSに反映)

粛清の閃光 250 中円 悪を滅ぼすために存在する裁きの光。空属性威力B&悪魔系、幽霊系には70%で即死効果、崩し無効、ブレイクC+

癒しの風Ⅱ 600 全体 聖なる風で味方の傷を癒す。自分を含めた味方全体をHP40%回復

爆裂光弾 700 大円・地点指定 広範囲に爆裂する光弾を放つ。空属性威力A+&気絶50%攻撃、崩し無効、ブレイクB

メルカーナの轟炎 1200 単体 最も高熱である秘印凱炎で敵を溶解させる。火属性威力S+&火傷100%攻撃、崩し無効、ブレイクS

ベルフェゴール召喚 最大HP10%、最大CP30% 自分 パーティーキャラ、ベルフェゴールを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大HPが5%、最大CPが15%下がる、任意でベルフェゴールを自分の元に戻せる


Sクラフト(原作以外)


ルシフェリオン・ブレイカー 特大直線(貫通) 周囲の魔力を取り入れ、明星の光の輝きを持つ膨大な魔力エネルギーを解き放つ。威力5S+、ブレイクSS

メル=ステリナル 全体 全てを無へと帰す機工熱炎で戦場を焼き尽くす最上位火炎魔術。火属性威力6S&劫炎60%、ブレイクSSS



コンビクラフト


フェアリーサークルⅡ 400 全体 純粋なる乙女たちの女神への祈りが女神に代わって応えた妖精たちが清浄なる調べを奏でて、味方には聖なる加護を、仇名す者には制裁を与える。威力5S&自分達を含めた味方全体のHPMAX&全状態異常並びに能力減少回復、5ターンDEF&ADF100%上昇、戦闘不能者も復活。条件、バトルメンバーにエリゼがいるかつ、双方のCPが400以上ある事(双方のATSの合計値に反映)

インフェルノドライブⅡ 600 特大円 アルノール家の魔力によって発生した全てを焼き尽くす紅き炎を宿した太刀で斬る紅き奥義。威力5S+&3ターン火傷500%攻撃(リィンのATK、アルフィンのATSの合計値が反映される)。条件、バトルメンバーにリィンがいるかつ、双方のCPが600以上ある事


なお、アルフィンのクラフト、Sクラフトの威力は全てATSに反映する





<リィンの義妹> エリゼ・シュバルツァー


服装はVERITA光END時のエクリアの服装、スタイルは原作と違い、原作閃Ⅲのアルフィンと同じ。


LV220
HP21400
CP4400
ATK3750
DEF2260
ATS4200
ADF2670
SPD145
DEX60
AGL52
MOV12



武器 聖女の聖剣(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって創られた純真にして清き心を持つ者のみに力を貸す聖剣。エリゼ専用。ATK1700、ATS2000、RNG+3、中円攻撃、連接剣を使った範囲攻撃クラフトの攻撃範囲を中円に広げる。一人廻るごとにHP5%回復)
防具 アークテルパ(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって創られた純真にして清き心が宿るメイド服。エリゼ専用。DEF1400、ADF1200、10%で受けたダメージを無効化する)
靴  アルジェムスター改(ユイドラ工匠セティ達の手によって創られた銀の閃光を放つ奇跡の防護靴。DEF260、MOV+6、SPD+8、AGL15%上昇)
アクセサリー ジェネシスリング(空の女神エイドスより結婚祝い品として送られた古の魔力が宿る指輪。全ての攻撃手段が残HPが少ない程クリティカル発生率が上昇、物理攻撃時気絶100%攻撃、アーツ『アルテアカノン』を駆動&EP無しで放てる。)
       リィンの絆(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化されたブローチ。エリゼ専用。全パラメーター10%上昇、回復系の魔術、アーツの効果を1,5倍にする)





スキル


リィンが大好き バトルメンバーに『リィン』がいると、全パラメーターが15%上昇

兄妹の絆 バトルメンバーに『リィン』がいるとATK&SPDが8%上昇

主従の絆 バトルメンバーに『リフィア』がいる場合、エリゼのATS&SPDが9%上昇

友の絆 バトルメンバーに『リフィア、アルフィン』のどちらかがいる場合、エリゼの全パラメーターが2%上昇。二人ともいると効果は2倍になる

姉妹の絆 バトルメンバーに『セレーネ』がいればATK&DEFが7%上昇

師弟の絆 バトルメンバーに『エクリア』がいると、全パラメーターが3%上昇

従者の絆 バトルメンバーに『ゼルギウス、シグルーン』のどちらかがいると、ATK&SPD5%上昇、二人共いると効果は2倍

嫉妬心  バトルメンバーにリィンとリィンの使い魔キャラ(女性)がいる場合、一人につきATK&クリティカル率10%上昇、DEF&DEX5%減少。なお、人数が多ければ多いほど効果も倍増する。更にリィンが自分以外との女性キャラとのコンビクラフトを放った直後の自分の出番のみ物理攻撃並びに物理攻撃のクラフトが命中した際必ずクリティカルになる

慈愛の心 治癒系の魔術、アーツを使うと効果が1,5倍になる

努力家Ⅲ 取得経験値30%増加

急所狙いⅣ クリティカル率が常に20%上昇

連携 味方のすぐ後に攻撃すれば、1,5倍

見切りⅣ 発動すると敵の攻撃を完全(魔法攻撃やSクラフトを含める)回避。25%で発動

魔力再生Ⅲ 行動終了後にCPが500回復する

賢者の魔力Ⅲ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが30%減少。Sクラフトを使っても、30%CPが残る

達人の技力Ⅱ 物理系のクラフトを使った際、消費CPが20%減少。

精霊女王との仮契約 『リザイラ』を召喚できる

精霊女王の加護 物理を除いた全属性耐性20%



ARCUS版オーブメント (水・空・空属性)並びは原作通り、リンクアビリティも原作通り


アタックランク 斬S突S射S


ブレイブオーダー 


ホーリークレスト BP3 防御(10カウント/被ダメージ50%回復/毎ターンHP5%回復) HP、CP30%回復&戦闘不能者も復活



クラフト


聖なる再生の風 500 全体 自分を含めた味方全体に傷を再生する膜を覆わせる。しばらくの間、一人廻るごとにHP10%回復

連続水弾 100 単体 水の魔力弾を連続で放つ。水属性威力C+×2、崩し無効、ブレイクC(威力はATSに反映)

癒しの息吹Ⅳ 400 単体 癒しの光で味方単体のHPを80%回復させる

氷垢螺の氷雨 450 特大円・地点指定 効果範囲内に氷柱の雨を降り注がせる魔術。水属性威力C+&凍結25%、ブレイクB(威力はATSに反映)

真・連接剣伸張 70 直線(貫通) 連接剣の刃を伸ばす。威力B&アーツ、駆動妨害、崩し発生率+10%、ブレイクC+

贖罪の光霞 600 全体 神々しき光で包み込む。空属性威力A、崩し無効、ブレイクB+(威力はATSに反映)

防護の光陣 400 全体 防御能力を高める魔術。5ターンの間自分を含めた味方全体のDEF、ADF、AGLを30%上昇

救世の聖雷 300 単体 洗練された浄化の光による雷を落とす魔術。空属性威力S&封技50%攻撃、崩し無効、ブレイクB+

イオ=ルーンⅢ 400 中円  高純粋の結晶である銅輝陣を広げて覆い被せる。無属性威力B、崩し無効、ブレイクB(威力はATSに反映)

レイ=ルーンⅢ 500 中型直線(貫通) 高純粋の光とされる烈輝陣で貫通させる。無属性威力A、崩し無効、ブレイクA(威力はATSに反映)

真・冷却剣 80 単体 冷却属性の魔力を込めた連接剣で攻撃する。水属性威力B&凍結40%攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクB(威力はATK、ATSの合計値に反映)

真・神聖剣 120 単体 神聖属性の魔力を込めた連接剣で攻撃する。空属性威力A&気絶40%攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクB+(威力はATK、ATSの合計値に反映)

浄化 300 単体 味方一人の状態異常を回復する(戦闘不能は例外)

癒しの風Ⅲ 800 全体 聖なる風で味方の傷を癒す。味方全体のHPを60%回復する

真・冷却剣舞 250 中円 冷却魔術を纏わせた連接剣で剣舞を放つ。水属性威力A&凍結60%攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクA(威力はATK、ATSの合計値に反映)

真・神聖剣舞 300 中円 神聖魔術を纏わせた連接剣で剣舞を放つ。空属性威力A+、崩し発生率+30%、ブレイクA+(威力はATK、ATSの合計値に反映)

デネカの津波 1100 全体 異空間より溶解魔力の間欠泉を召喚し、敵を呑みこむ。水属性威力SS&遅延攻撃、崩し無効、ブレイクS(威力はATSに反映)

アウエラの導き 1000 小円 触れるものを破壊する魔法球を創り出す。威力SS、崩し無効、ブレイクS(ATSに反映)

蘇生 1100 単体 戦闘不能状態の味方をHP50%、CP25%回復状態で復活させる

アルカナの崩壊 1500 中円・地点指定 敵の位置に魔力を凝縮させ、押しつぶす事でダメージを与える。威力SSS、崩し無効、ブレイクSS+(ATSに反映)

秘剣・鳳仙花 1200 大円・地点指定 美しき花びらが舞う回転斬りを放つ。威力SSS+&混乱80%攻撃、崩し発生率+50%、ブレイクSS

リザイラ召喚 最大CPの40% 自分 パーティーキャラ、リザイラを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPが20%下がる、任意でリザイラを自分の元に戻せる。


Sクラフト



リヒトクライス 特殊 自分を中心とした大円に慈愛溢れる祈りで傷つきし者達に癒しを与える。HP40%回復、CP最大時で使用するとHP80%回復&DEF30%上昇。戦闘不能者も復活

極・聖氷剣舞陣 中円 光と吹雪の力を纏わせた魔法剣で剣舞を放った後止めに魔術による純粋属性の爆発を起こす。威力4S&凍結、気絶50%攻撃、ブレイクS+(威力はATK、ATSの合計値に反映)+無属性400%攻撃(威力はATSに反映)

グランドフィナーレⅢ 全体 戦場全体を凍結させ、砕き散らす大魔術。水属性威力5S+凍結100%攻撃、ブレイクSS(威力はATSに反映)。使用条件、CPが75%以上ある事

ルン=アウエラ 特大円 純粋魔力の始祖を覚醒させた超越爆発。無属性威力6S+、ブレイクSSS+(ATSに反映)


コンビクラフト


真・比翼鳳凰撃 500 大円 呼吸を合わせ、鳳凰の闘気を纏って同時に一点突破を仕掛ける連携突撃技。威力7S+、ブレイクS+。条件、バトルメンバーにリィンがいるかつ、双方のCPが500以上ある事

フォーチューン・アークⅡ 600 全体 戦場に浄化の雨を降り注がせる協力魔術。威力6S、ブレイクA+。条件、バトルメンバーにセレーネがいるかつ、双方のCPが600以上ある事

フェアリーサークルⅡ 400 全体 純粋なる乙女たちの女神への祈りが女神に代わって応えた妖精たちが清浄なる調べを奏でて、味方には聖なる加護を、仇名す者には制裁を与える。威力5S&自分達を含めた味方全体のHPMAX&全状態異常並びに能力減少回復、5ターンDEF&ADF100%上昇、戦闘不能者も復活。条件、バトルメンバーにアルフィンがいるかつ、双方のCPが400以上ある事(双方のATSの合計値に反映)


<怠惰の睡魔女王> ベルフェゴール(属性・魔神)





LV740

HP93500

CP46000

ATK8300

DEF4100

ATS17500

ADF10200

SPD465

DEX180

AGL125(絶対回避率20%あり)

MOV16



装備

武器 べるふぇぐろーぶ+(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された魔神ベルフェゴールが長年愛用している手袋。ベルフェゴール専用。ATK2200、ATS500、DEX50%、クリティカル率25%上昇)

防具 睡魔女王の水着+(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された大胆な水着。リリエール族専用。DEF1400、ADF500、SPD&AGL20%上昇)

靴  睡魔女王の靴+(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された睡魔族の女王がはいている靴。リリエール族専用。DEF400、MOV+7、SPD&AGL10%上昇)

アクセサリー サイファーリング(空の女神エイドスより結婚祝い品として送られた古の魔力が宿る指輪。Sクラフト、コンビクラフトを除いた攻撃手段を行った際、90%で攻撃した相手の能力のどれかを3ターン25%減少させる。能力減少のターン数を2ターン増やす。アーツ『カラミティクロウ』を駆動&EP無しで放てる。)

       睡魔女王のマント(あらゆる厄災を防ぐ睡魔女王種が身に纏うマント。リリエール族専用。全状態異常&能力減少、遅延、バニッシュ無効化)





スキル


リィンが大好き バトルメンバーに『リィン』がいると全パラメーターが15%上昇

睡魔女王の魅力 敵の性別が男もしくは雄の場合、敵自身のターンが回って来た際15%でベルフェゴールに見惚れ、何もできない

戦意高揚Ⅵ 戦闘開始時ATK&SPD30%上昇

威圧 敵全員のATK&SPDを常に3%減少状態にする

カウンターⅦ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。35%で発動

リベンジャー カウンター発動時の攻撃威力が1,5倍になる

魔力再生Ⅶ 行動終了後にCPが1500回復する

近接軽減Ⅴ 自身に対する近接攻撃を25%軽減

天使殺し 敵が天使系の場合、威力30%上昇

英雄殺し 敵の属性が神格もしくは敵が”英雄”の場合、威力30%上昇

全状態異常無効 即死、消滅を含めた全状態異常を無効化する

達人の技力Ⅴ 物理攻撃系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少、Sクラフトを使っても50%残る

賢者の魔力Ⅴ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使ってもCPが50%残る

守護者の絆 バトルメンバーに『リザイラorメサイアorアイドス』の内誰か一人がいるとATK、ATS、SPDが5%上昇。また、2人以上いると人数に比例して上昇も倍になる




ARCUS版オーブメント(時・火・時属性)並びはエマです



アタックランク 突SS剛SS



リンクアビリティのタイプはミリアム



ブレイブオーダー


七大陣『怠惰』 BP4 攻撃(8カウント/攻撃時、与ダメージ100%吸収/崩し確定)CP、EP50%回復



クラフト


大いなる闇の息吹 1200 単体 味方のHPを全回復&戦闘不能以外の全状態異常回復

性愛の露淫術  700 単体 攻撃と共に敵の体力を奪い自分の体力を回復させる。威力SS+&封魔100%、吸収率100%、崩し無効、ブレイクA(ATSに反映)

すごいねこアッパー 800 単体 敵を空高くへと打ち上げる強力なアッパー。威力SSS&アーツ、駆動妨害攻撃、崩し発生率+25%、ブレイクA+

連射暗黒弾・広範囲 3000 中円 広範囲の敵に時属性の魔力弾を8個放つ。時属性威力C×8回、崩し無効、ブレイクC+(ATSに反映)

恐怖のごろごろ 600 中型直線(貫通) 闘気を身に纏い、身体全体を回転させて突撃する体術。威力A+&遅延攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクB+

淫魔の魅惑 800 特大円 敵の思考能力を奪う魔力の眼で微笑む淫魔の微笑み。混乱90%

メルカーナの轟炎 1200 単体 最も高熱である秘印凱炎で敵を溶解させる。火属性威力S+&火傷100%攻撃、崩し無効、ブレイクS(ATSに反映)

レイ=ルーンⅤ 1000 大型直線(貫通) 高純粋の光とされる烈輝陣で貫通させる。無属性威力S、崩し無効、ブレイクS(ATSに反映)

破滅のヴィクティム  3000 全体 体を崩壊させる漆黒の霧で包み込む。時属性威力4S&毒、暗闇50%&全能力30%減少攻撃、崩し無効、ブレイクA(ATSに反映)

死愛の魔槍 600 単体 封印王ソロモンの力を源とする魔術槍。時属性威力A+&HP吸収30%攻撃、崩し発生率+20%、ブレイクB(ATSに反映)

真・烈風脚 450 単体 両脚を連続で蹴り上げる脚技。威力S×2&気絶40%&遅延攻撃、崩し発生率+10、ブレイクB+%

マルウェラの微笑 1100 大円 魔術による暗示で抵抗できなかった者達に即死させる恐ろしき淫魔の微笑み。即死70%

ケルト=ルーン 1000 特大円  高純粋の渦とされる翼輝陣で広範囲を覆う。威力SS+の無属性攻撃、崩し無効、ブレイクS(ATSに反映)

ルン=アウエラ 3000 特大円 純粋魔力の始祖を覚醒させた超越爆発。無属性威力6S+、ブレイクSSS+(ATSに反映)

メル=ステリナル 3000 全体 全てを無へと帰す機工熱炎で戦場を焼き尽くす最上位火炎魔術。火属性威力6S&劫炎60%、ブレイクSSS(ATSに反映)

ティルワンの死磔 2000 全体 闇世界の中枢である死磔領域に閉じ込める。時属性威力5S&即死、混乱、暗闇50%攻撃、崩し無効、ブレイクSS+(威力はATSに反映)

すごいねこパンチ 1500 単体 可愛らしい名前とは裏腹に装甲をも容易に破壊できる恐ろしき溜め技。威力4S+&崩し確定、ブレイクSSS


Sクラフト


ダークネスイリュージョンⅡ 単体 魔術による分身を作った後、分身と共に怒涛の集中攻撃を叩きこむ奥義。威力14S、ブレイク確定

イフリート・キャレスⅡ 特大円 禁じられし大魔術の一つ。火属性8S+&劫炎100%、ブレイク確定(ATSに反映)

アルマティルワンⅡ 全体 戦場全体にいる敵を闇世界に閉じ込める究極の暗黒魔術。時属性威力8S+&即死、混乱、暗闇60%攻撃、ブレイク確定(ATSに反映)

メテオスウォームⅡ 全体 空より無数の隕石を召喚する失われし古代大魔術の一つ。無属性威力9S、ブレイク確定(ATSに反映)

プライマリィ・インブレイス 全体 原初の焔で全てを焼き尽くす失われし究極魔術の一つ。威力12S+&絶対防壁貫通、ブレイク確定(ATSに反映)


コンビクラフト


クルーアル・ブラストⅡ 最大CPの30% 特大円・地点指定 睡魔女王と共に連携攻撃を叩き込んだ後睡魔女王の愛がこもった魔力の太刀を共に振り下ろす協力奥義。威力8S+&ブレイクSS。条件、バトルメンバーにリィンがいるかつ、双方の最大CPが30%ある事(リィンのATK、ベルフェゴールのATSの合計値が反映される)


<リスレドネーの精霊女王> リザイラ(属性・精霊女王………物理属性攻撃は90%減少、時・空属性攻撃は70%減少させる)





LV560

HP53400

CP50000

ATK2650

DEF2980

ATS16500

ADF10670

SPD245

DEX115

AGL72

MOV13







装備



武器 精霊王女の横笛+(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された美しい音色を奏でる精霊が宿る笛。ATK950、ATS3400)

防具 精霊王女の衣+(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された精霊王女が身に纏う服。フィニリィ、リザイラ専用。DEF1100、ADF2200、物理を除いた全属性攻撃を25%軽減、更に10%の確率で物理を除いた全属性攻撃を無効化する)

靴  精霊王女の靴+(ユイドラ工匠ディオン3姉妹の手によって強化された精霊王女がはく靴。フィニリィ、リザイラ専用。DEF250、MOV+5、SPD&AGL10%上昇)

アクセサリー 精霊王女の髪飾り(決して枯れない純白の花の髪飾り。リザイラ専用。全パラメーター5%上昇、能力減少無効化)

       マギウスリング(空の女神エイドスより結婚祝い品として送られた古の魔力が宿る指輪。HPが40%以下になれば全ての魔法攻撃の威力が1,5倍&クリティカル率20%上昇、全ての魔法攻撃の効果範囲が4段階上昇、アーツ『ロストオブエデン』を駆動&EP無しで放てる。)



スキル



リィンが大好き バトルメンバーに『リィン』がいると全パラメーターが15%上昇

精霊の絆 バトルメンバーに『フィニリィ、ミルモ、パズモ、テトリ』の誰かがいる場合、ATS&ADF5%上昇。なお、2人以上いるとパラメーター上昇は人数に比例して倍になる。

戦闘の心構えⅣ 戦闘開始時、HP&CPが12%回復

戦闘指揮 戦闘中、自分を含めた味方全員のDEX、AGLを10%上昇させる

物理反射Ⅳ 20%で物理攻撃を反射する

魔法反射Ⅵ 30%で魔法攻撃を反射する

全状態異常無効 即死、消滅を含めた全状態異常を無効化する

賢者の魔力Ⅴ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使ってもCPが50%残る

魔力再生Ⅶ 行動終了後にCPが1500回復する

守護者の絆 バトルメンバーに『ベルフェゴールorメサイアorアイドス』の内誰か一人がいるとATK、ATS、SPDが5%上昇。また、2人以上いると人数に比例して上昇も倍になる



ARCUS版オーブメント(無属性)並びはエマです


アタックランク 斬B、突A、剛A、射A、フィールドでの攻撃モーションは片手から魔力弾を放つ


リンクアビリティのタイプはクロチルダ


ブレイブオーダー


精霊陣『四精』 BP4 特殊(8カウント/与ダメージ+40%/被ダメージ0.4倍/硬直時間0.4倍/消費EP&CP1/4)2ターンの間ATK、ATS、DEF、ADF、SPD50%上昇



クラフト


消沈Ⅴ 500 中円 戦意を低下させる特殊魔術。5ターンの間ATK、ATS、SPD50%減少、アーツ、駆動妨害

真・気体凝縮 200 中円 空気の急激な圧縮により範囲内の物体を破壊する。風属性威力C&遅延攻撃、ブレイクC

真・双子水精弾 800 大円 水精の力を宿した魔力球を連続で射出する。水属性威力B+×2、崩し無効、ブレイクC+

レイ=ルーンⅤ 1000 大型直線(貫通) 高純粋の光とされる烈輝陣で貫通させる。無属性威力S、崩し無効、ブレイクS

大いなる大地の恵み 1500 単体 地脈の流れを利用して肉体の損傷を治療する。HP完全回復、戦闘不能者も復活

大いなる戦意の祝福 1000 全体 5ターンの間自分を含めた味方全体の戦意を上昇させる。ATK、ATS、SPD30%上昇

大地の大障壁 750 全体 地精霊の力を借り、味方全体の体を硬質化させる。5ターンの間、自分を含めた味方全体DEF50%上昇&物理絶対防壁1枚付与

真・悪夢の息吹 900 大円・地点指定 身体に様々な異常をきたす風を起こす大気系魔術。風属性威力B&20%で毒、石化、混乱、睡眠、悪夢、封技、即死のいずれかになる、崩し無効、ブレイクB

真・アウエラの裁き 1200 中円 高純粋の魔力球を敵にぶつけて爆発させる。無属性威力SSS、崩し無効、ブレイクSS

真・豪破岩槍撃 1100 中円 敵の真下から大量の岩の槍を出現させて貫く。地属性威力S+、崩し発生率+20%。ブレイクA+

リスレドネーの誘惑 500 全体 敵全体を幻覚で包み込み、混乱させる。混乱75%

大いなる癒しの風 1500 全体 味方全員のHPを全回復させる

真・虚空の迅風 1100 中型直線(貫通) 強力な魔力風を生成し敵を吹き飛ばす。風属性威力S&最後列まで吹っ飛ばし攻撃、崩し無効、ブレイクS

メテオグレイブⅡ 1400 大円 強力な地脈の力が宿った魔力弾を創り出し放つ。地属性威力SSS&DEF、ADF25%減少攻撃、崩し無効、ブレイクA

二つ回廊の轟雷 2000 大円  空間を歪ませて凄まじい電撃の爆発を起こす。風属性威力4S&封技70%、崩し無効、ブレイクSS

リスレドネーの幻惑 800 全体 敵全体を幻覚で包み込み、幻惑状態に陥らせる。睡眠&混乱50%

ケルト=ルーン 1000 特大円  高純粋の渦とされる翼輝陣で広範囲を覆う。威力SS+の無属性攻撃、崩し無効、ブレイクS

リスレドネーの支配 1200 全体 敵全体を幻覚で包み込んで悪夢を見させ、能力を低下させる。悪夢40%&5ターンの間全パラメーター25%減少 

撃滅の大嵐  2500 全体 限界まで圧縮した魔力風を爆発させ、全てを吹き飛ばす大気系最上位魔術。風属性威力5S&混乱100%攻撃、崩し無効。ブレイクS

水精女王の激流 2800 全体 水精『女王』の力により魔力を宿した激流を起こし全てを飲み込む。水属性5S攻撃、崩し無効、ブレイクSSS

ベーセ=ファセト 3000 全体 先史文明世界の機工地震と術者の魔力を反応させる地属性最上位魔術。地属性威力6S&毒、混乱40%攻撃、崩し無効、ブレイクSSS

ルン=アウエラ 3000 特大円 純粋魔力の始祖を覚醒させた超越爆発。無属性威力6S+、ブレイクSSS+(ATSに反映)

メル=ステリナル 3000 全体 全てを無へと帰す機工熱炎で戦場を焼き尽くす最上位火炎魔術。火属性威力6S&劫炎60%、ブレイクSSS

リーフ=ファセト 3000 全体 先代文明の機工放電と術者の魔力を反応させ、超越した爆発を起こす。風属性威力6S&封技100%&大幅な遅延攻撃、崩し無効

ユン=ステリナル  3000 全体 先代文明の機工冷気と術者の魔力を反応させる。水属性威力6S&絶対凍結100%、崩し無効、ブレイクSSS



Sクラフト



アーステッパーⅡ 全体 地の精霊達に呼びかけ、自然と精霊に仇名す愚か者達に大地の怒りを思い知らせる。地属性威力8S&DEF100%減少&遅延攻撃、ブレイク確定

アクアリムスⅡ 全体 水の精霊達に呼びかけ、自然と精霊に仇名す愚か者達を粛清の水で呑み込み、味方には正義の心の祝福を与える。水属性威力8S、自分を含めた味方全体HP完全回復&状態異常、能力減少回復。戦闘不能者も復活、ブレイク確定

フランブレイブⅡ 全体 火の精霊達に呼びかけ、自然と精霊に仇名す愚か者達を業火で焼き尽くす。火属性威力4000%&大火傷(受けるダメージが火傷の2倍)100%攻撃、ブレイク確定

シルフィスティアⅡ 全体 風の精霊達に呼びかけ、自然と精霊に仇名す愚か者達を疾風で切り裂き、味方には疾風の加護を与える。風属性威力8S攻撃、自分を含めた味方全体SPD100%上昇、自分以外の味方全員の行動順を加速、ブレイク確定

ソルブライトⅡ 全体 光の精霊達に呼びかけ、自然と精霊に仇名す愚か者達に浄化の光で裁きを与える。空属性威力8S攻撃&ATS、ADF100%減少攻撃、ブレイク確定

スプリームエレメンツⅡ 特大直線(貫通) 地水火風の精霊達の力を借りたエルフの大魔術にして精霊大魔術。威力10S&絶対防壁貫通、ブレイク確定

エレメンタルメテオ 全体 地水火風の魔力が宿る隕石を戦場に降り注がせる精霊の王族種のみが扱える精霊大魔術。威力15S+&絶対防壁貫通、ブレイク確定。条件、CPが70%以上ある事







コンビクラフト



真・龍虎滅牙斬 最大CPの30% 特大円 精霊王女の力で浄化の扉を開いて邪悪なる者達を切り裂く協力奥義。威力6S+&ブレイクA、幽霊系、悪魔系、不死者系、魔神系の敵には2倍ダメージ&3ターン全パラメーター50%減少攻撃。条件、バトルメンバーにリィンがいるかつ、双方の最大CPが30%ある事(リィンのATK、リザイラのATSの合計値が反映される)



<神殺し> セリカ・シルフィル(属性・神格)



LV1000

HP312000

CP86500

ATK73200

DEF30200

ATS70500

ADF34100

SPD420

DEX400

AGL300

MOV20



装備


武器 ラクスハイシェラ(魔剣ハイシェラソードの最終形態。セリカ専用。ATK28000、ATS20000。クリティカル率50%。飛燕剣、魔法剣の威力を2倍にする)
   リブラクルース(またの名を”絆の神剣”。”影の国”にてエステルから受け継いだ幾多もの奇跡の絆を起こした生きとし生ける者達の絆の証である奇跡の神剣。エステルorセリカ専用。形状は正義の大女神、アストライアが持つ神剣、”天秤の十字架(リブラクルース)”と瓜二つ。ATK15000、ATS6000。クオーツ、『治癒』、『機功』の2倍の効果と『駆動2』の効果を持ち、さらに不死系、悪魔系、幽霊系、霧系の敵に3倍ダメージ&100%命中。また、邪気に染まった神剣スティルヴァーレを完全破壊する効果も持っていた。)

防具 ラクスハイシェラ(魔神ハイシェラによる加護の結界。セリカ専用。DEF9500、ADF7000。全属性攻撃を50%軽減、能力減少無効化、戦闘開始時、絶対防壁が3枚付与され、8ターンごとに2枚付与される)

靴  水の神靴(レウィニアの守護神、”水の巫女”の加護が宿った靴。セリカ専用。DEF300、MOV+7、SPD10%、AGL10%上昇。水属性攻撃無効化)

アクセサリー 第三使徒の護輪(シュリの思いが籠ったお守り。セリカ専用。全パラメーター10%上昇、取得経験値10%上昇、全状態異常無効化)
       星女神の絆(サティアとの真なる愛の証の指輪。セリカ専用。一人廻るごとにHPが10%、CPが20%自動回復、戦闘不能になっても20%で完全復活、受けたダメージを20%で無効化する)


スキル


サティアが大好き バトルメンバーに『サティア』がいると、全パラメーターが15%上昇

ロカが大好き バトルメンバーに『ロカ』がいると、全パラメーターが15%上昇

恋人の絆 『サティア、ロカ』とのコンビクラフトの威力が2倍になる

主従の絆 バトルメンバーに『エクリア、マリーニャ、シュリ、サリア、レシェンテ、エオリア』の誰かがいるとが全パラメーターが7%上昇。2人以上いると効果も人数に応じて倍増する。

永遠の戦友 バトルメンバーに『ハイシェラ』がいる際、セリカの全パラメーター10%上昇、ハイシェラとのコンビクラフトの威力が2倍になる

過去の絆 バトルメンバーに『パズモ、ペルル、リタ、ナベリウス、アムドシアス、テトリ、ニル、クー』の誰かがいると全パラメーター2%上昇。2人以上いるときは人数に比例して効果も倍増する

見切りⅩ 発動すると敵の攻撃を完全回避。(魔法攻撃やSクラフトを含める)50%で発動

先手Ⅹ   戦闘開始時50%で先制攻撃

連続攻撃Ⅹ 発動すれば物理攻撃後CP消費せず、同じ物理攻撃手段を放つ。40%で発動

孤高    自分以外のバトルメンバーが戦闘不能状態の時のみAGLが70%上昇

殺し無効 敵が特攻系のスキルを持っていても無効化する

即死無効 即死攻撃を無効化する

反射無効 反射してくる敵の反射を無効化し、そのままダメージを与える

達人の技力Ⅴ 物理系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使っても、50%CPが残る

賢者の魔力Ⅴ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使ってもCPが50%残る

二刀流 武器を2つ装備できるかつ通常攻撃が常に2回攻撃

兄妹の絆 バトルメンバーに『アイドス』がいるとATK、ATS、SPDが9%上昇



ARCUSⅡ版オーブメント(風・空・風属性)並びはオリビエです


リンクアビリティのタイプはラウラ


アタックランク 斬SS突SS射SS剛SS フィールドでの攻撃モーションは近距離では身妖舞→殲鋼斬→円舞剣の連携、遠距離では紅燐剣


ブレイブオーダー


飛燕陣 BP3 攻撃(12カウント/与ダメージ+100%/ブレイクダメージ200%)2ターン、ATK&SPD50%上昇、加速

星芒陣”正義” BP5 特殊(12カウント/クラフト、アーツの消費CP&EP0)加速



クラフト

飛燕の舞 200 自分 自らの全能力を上げる舞。5ターンの間HP、CP以外の全パラメーター&DEX&AGL50%上昇

二刀流装備 0 自分 二刀流の状態にする。なお、召喚、魔術は扱え、1刀流の状態の剣技は全て剣技の前に”双破”の名前が付いたうえ、効果は×2状態になる。なお、Sクラフト、真・枢孔飛燕剣と神技・閃光翼は使えなくなるが、二刀流専用のSクラフトが追加される

沙綾身妖舞 400 単体 命中精度の高い複合高速剣。命中確定威力B×6、崩し発生率+10%、ブレイクB

雷光身妖舞  500 小円 雷撃の力を利用した身妖舞。命中率確定風属性威力C+×2回&封技50%攻撃、崩し発生率+5%、ブレイクC+(威力はATKとATSの合計値に反映)

リリエム召喚 最大CPの3% 自分 パーティーキャラ、リリエムを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPが1.5%下がる。任意でリリエムを自分の元に戻せる。
 
ヴァレフォル召喚 最大CPの8% 自分 パーティーキャラ、ヴァレフォルを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPが4%下がる。任意でリリエムを自分の元に戻せる。

メティサーナ召喚 最大CPの4% 自分 パーティーキャラ、メティサーナを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPが2%下がる。任意でメティサーナを自分の元に戻せる。

リ・クアルー召喚 最大CPの6% 自分 パーティーキャラ、リ・クアルーを召喚する(HPは主の最大HPの8割。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPが3%下がる。任意でリ・クアルーを自分の元に戻せる。

沙綾円舞剣 500 特殊 自分を中心とした大円を一閃する。威力B+、崩し発生率+20%、ブレイクB

雷光円舞剣 600 特殊 自分を中心とした大円に雷撃の力を利用した円舞剣を叩きこむ。風属性威力B&封技30%攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクB+(威力はATKとATSの合計値に反映)

双竜の大竜巻 1100 特大円・地点指定 竜巻を操り、あらゆるものを吹き飛ばす。風属性威力S+、崩し無効、ブレイクA+(威力はATSに反映)

紅燐舞華斬 600 単体 溜めて攻撃する打撃重視の一閃技。威力A+&駆動、アーツ妨害&気絶60%&DEF50%減少攻撃、崩し発生率+30%、ブレイクA+

雷光滅鋼斬 700 単体 雷撃の力を利用した滅鋼斬。風属性威力A&駆動、アーツ妨害&DEF25%減少&封技30%攻撃、ブレイクA(威力はATKとATSの合計値に反映)

性愛の露淫術  700 単体 攻撃と共に敵の体力を奪い自分の体力を回復させる。威力SS+&封魔100%、吸収率100%、崩し無効、ブレイクA(ATSに反映)

加速・広範囲 100 全体 5ターンの間、風の魔力で自分を含めた味方全員のSPDを50%上昇させる&加速

迅速・広範囲 100 全体 風の魔力で自分を含めた味方全員のオーブメントの駆動時間を4分の3にし、詠唱や駆動をしている味方達をすぐに出番に回す                

黒ゼレフの電撃 1100 中型直線(貫通) 高電圧の黒い電撃を放つ。風属性SS&封技45%攻撃、崩し無効、ブレイクS(ATSに反映)

殲鋼双肢乱 700 直線(貫通) 一撃重視の衝撃波を繰り返して放つ。防御無視威力A+×2、崩し発生率+25%、ブレイクSS

雷光地烈斬 800 中型直線(貫通) 雷撃の力を利用した地烈斬。風属性威力A&封技30%の防御無視攻撃、崩し発生率+15%、ブレイクA(威力はATKとATSの合計値に反映)

マルウェラの微笑 1100 大円 魔術による暗示で抵抗できなかった者達に即死させる恐ろしき淫魔の微笑み。即死70%

沙綾紅燐剣 900 特大直線(貫通) 強力な真空の刃を創り出し全体攻撃。威力S、崩し発生率+10%、ブレイクB+

雷光紅燐剣 1200 特大直線(貫通) 雷撃の力を利用した紅燐剣。風属性威力A+&封技60%攻撃、崩し発生率+5%、ブレイクA(威力はATKとATSの合計値に反映)

二つ回廊の轟雷 2000 大円  空間を歪ませて凄まじい電撃の爆発を起こす。風属性威力4S&封技70%、崩し無効、ブレイクSS(威力はATSに反映)

枢孔身妖舞 2500 単体 身妖舞の最大奥義。命中率確定威力A×12、崩し発生率+30%、ブレイクSS

枢孔円舞剣 2800 特殊 自分を中心としだ特大円に円舞剣の最大奥義を叩きこむ。威力A+、崩し発生率+40%、ブレイクS+

枢孔紅燐剣 3300 特大直線(貫通) 全体高速剣最大の奥義。威力SSS+、崩し発生率+50%、ブレイクSSS+

リーフ=ファセト 3000 全体 先代文明の機工放電と術者の魔力を反応させ、超越した爆発を起こす。風属性威力6S&封技100%&大幅な遅延攻撃、崩し無効(ATSに反映)

ハイシェラ召喚 最大CPの40% 自分 パーティーキャラ、ハイシェラを召喚する。ただし召喚した主は召喚している間、最大CPがMAXの20%下がる


Sクラフト


極・飛燕姫神恍舞 中円 飛燕剣最大の連続攻撃を繰り出す奥義。威力SSS+×30、ブレイク確定

極・枢孔飛燕剣 全体 飛燕剣の最終奥義。威力20S+&ブレイク確定

メギド召喚Ⅲ 全体 使徒達の祈りによって得た信仰心で遊星を召喚する。威力25S+&気絶100%&絶対防壁貫通、ブレイク確定。(ATSに反映)条件、バトルメンバーに『エクリア、マリーニャ、シュリ、サリア、レシェンテ、エオリア』がいるかつ全員がクラフト『使徒の祈り』を使用している事

神技・閃光翼  全体 発現した翼から全てを無に帰す光を放つ究極奥義。威力50S+&即死100%&絶対防壁貫通、ブレイク確定(ATK、ATSの合計値に反映)

聖なる裁きの炎 全体 自らに秘められし正義の大女神の力によって『聖なる裁きの炎』を具現化させ、全ての罪と呪いを焼き尽くす。威力99S+&絶対防壁貫通(威力はATSに反映)。使用条件、CPがMAXである事


二刀流時専用Sクラフト


戦女神の剣嶺  特大円 二刀流で放たれる正義の大女神アストライアの力を解き放つ剣撃の嵐。威力25S+、ブレイク確定

果たされた誓い(リバースクルセイダー) 特殊 自分を中心とした特大円に創世に伝わりし究極の雷で邪悪なる者達を薙ぎ払う。威力30S+&絶対防壁貫通、ブレイク確定(ATSに反映)条件、CPが最大の70%以上あることかつ片方の剣に絆の神剣を装備している事

永遠なる約束(エターナルロード)  特大直線(貫通) ”正義の大女神アストライア”、”絆の神剣(リブラクルース)”の力を同時解放して、放たれる神の究極奥義。威力60S+&絶対防壁貫通、ブレイク確定(双方のATK、ATSの合計値も反映される)絶対防壁も貫通する。条件、二刀流状態で『ラクスハイシェラ』、『絆の神剣』を装備している事



コンビクラフト


真・飛燕無双演舞剣 2000 中円 エステルと共に放つ飛燕剣の究極剣技の一つ。威力15S+、ブレイク確定。条件、バトルメンバーに『エステル』いるかつ、双方のCPが2000以上、エステルがリブラクルースを装備している事。

真・比翼飛燕剣 10000 全体 ハイシェラと共に放つ飛燕剣の究極剣技の一つ。威力20S+、ブレイク確定。条件、バトルメンバーに『ハイシェラ』がいるかつ、双方のCPが10000以上ある事

真・神魔の剣嶺 9000 特大円 リウイと共に放つ剛と柔の剣撃の嵐。威力35S+、ブレイク確定。条件、バトルメンバーにリウイがいるかつ双方のCPが9000以上ある事。

飛燕無双演舞剣 最大CPの30% 中円 サティアと共に放つ飛燕剣の究極剣技の一つ。威力18S+、ブレイク確定。条件、バトルメンバーに『サティア』がいるかつ、双方のCPが最大の30%、サティアが剣を装備している事

星女神の剣嶺 12000 大円 神殺しと共に放つ星女神の姉妹神の剣撃の嵐。威力18S+、ブレイク確定(双方のATK、ATSの合計値も反映される) 条件、バトルメンバーにアイドスがいるかつ双方のCPが12000以上ある事

飛槍十文字撃 4000 大円 ロカと共に放つ飛燕剣と槍術の嵐。威力22S+&気絶100%、ブレイク確定。条件、バトルメンバーにロカがいるかつ双方のCPが4000以上ある事



アルティメットコンビクラフト


セレスティアル・アース 最大CPの80% 全体 星女神達による星の制裁を与えた後星の力を集束させた聖剣で薙ぎ払う協力神魔術。威力40S+&絶対防壁貫通、ブレイク確定(威力は双方のATSに反映)。条件、バトルメンバーにアイドスorサティアのどちらかがいるかつ双方のCPが最大の80%以上ある事



<マーズテリアの神格者> ロカ・ルースコート(属性・神格)


LV600

HP108400

CP15800

ATK18230

DEF14100

ATS17210

ADF9260

SPD270

DEX150

AGL95

MOV16



装備


武器 神槍マーズテリア改(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって強化、改造された軍神マーズテリアの加護が宿った神槍。マーズテリアの神格者のみに授けられる武具。ロカ専用。ATK8000、ATS5000、RNG+4。不死系、悪魔系、幽霊系、霧系、魔神系の敵、”負”の気を纏った人間に2倍ダメージ)

防具 魔導鎧クリムゾン改(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって強化、改造された真紅の魔導鎧。ロカ専用。DEF3600、ADF1200、全属性攻撃20%軽減、魔導砲撃のクラフトが1,5倍になる)

靴  アルジェムスター改(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって創られた銀の閃光を放つ奇跡の防護靴。DEF380、MOV+10、SPD8%、AGL15%上昇)

アクセサリー 祝福の盾改(ユイドラ工匠ディオン3姉妹によって強化、改造された盾。全状態異常(消滅も含める)&能力減少無効化&一人出番が終わる度にHP5%回復)

       メルティナ(戦術眼を高める紅い額飾り。物理攻撃発動時のディレイ値が半分になる)


スキル


セリカが大好き バトルメンバーに『セリカ』がいると、全パラメーターが15%上昇

恋人の絆 『セリカ』とのコンビクラフトの威力が2倍になる

友の絆 バトルメンバーに『ウィル』がいる場合、全パラメーター2%上昇

貫通Ⅶ 35%でDEF無視攻撃

連続攻撃Ⅴ 発動すれば物理攻撃後CP消費せず、同じ物理攻撃手段を放つ。20%で発動

態勢崩しⅤ 全ての物理攻撃手段に『崩し発生率+15%』が付与される。なお既に崩し発生率が付与されているクラフトにはそこに上乗せされる

カウンターⅦ 発動したら敵の攻撃を完全回避、攻撃範囲内に攻撃した敵がいたら反撃する。35%で発動

慈愛の心 治癒系の魔術、アーツを使うと効果が1,5倍になる

魔力再生Ⅵ 行動終了後にCPが1250回復する

悪魔殺し 敵が悪魔系の場合、威力30%上昇

霊体殺し 敵が幽霊、霧系の場合、威力30%上昇

不死殺し 敵がゾンビ系の場合、威力30%上昇

魔神殺し 敵が魔神系の場合、威力30%上昇

達人の技力Ⅴ 物理系のクラフトを使った際、消費CPが50%減少。Sクラフトを使ってもCPが50%残る

賢者の魔力Ⅳ 魔法系のクラフトを使った際、消費CPが40%減少。Sクラフトを使ってもCPが40%残る



ARCUS版オーブメント(空・水・空属性)並びはユーシスです


リンクアビリティはアルフィン


アタックランク 突SS射A剛S フィールドでの攻撃モーションは近接時は槍での攻撃、遠距離時は魔導鎧による魔導砲撃


ブレイブオーダー


セイクリッドハーツ BP3 攻撃(12カウント/与ダメージ&ブレイクダメージ+50%/崩し発生率+50%)

軍神陣 BP5 特殊(8カウント/絶対防壁、クリティカル確定)2ターンの間、全パラメータ50%上昇、HP&CP40%回復



クラフト



真・豪薙ぎ払い 300 自分を中心とした大円を薙ぎ払う。威力B、崩し発生率+10%、ブレイクB

大いなる癒しの息吹 800 単体 味方一人のHPを完全回復する

真・壊山槍  400 単体 山をも砕くといわれる槍技。威力S&アーツ、駆動妨害、遅延攻撃、崩し発生率+60%、ブレイクS

真・空裂槍連撃 1000 直線(貫通) 貫けぬものはないと言われる最高峰の槍技。威力SS+&DEF50%減少攻撃、崩し発生率+40%、ブレイクSSS

神槍 550 単体 ”光槍”系の上位魔術。空属性威力S×2&40%暗闇攻撃、崩し発生率+10%、ブレイクB+(ATSに反映)

防護の聖域 1100 全体 5ターンの間味方全員のDEF、ADF、AGLを50%上昇

魔導重砲撃 800 中円  魔導鎧による集中砲撃。威力S、崩し発生無効、ブレイクC+

消沈制圧砲撃 500 大円 特殊魔導砲弾による能力下降を行う。威力D&3ターンウィーク200%攻撃、崩し無効、ブレイクC

大いなる浄化の風 700 全体 味方全体の状態異常を回復する(戦闘不能は例外)

大いなる癒しの風 1500 全体 味方全員のHPを全回復させる

魔導神聖砲撃 1000 特大円 神聖属性が込められた魔導砲弾を放つ。空属性威力SS+、崩し無効、ブレイクB

魔導暗黒砲撃 1000 特大円 暗黒属性が込められた魔導砲弾を放つ。時属性威力SS+、崩し無効、ブレイクB

聖なる蘇生 2000 単体 味方単体の戦闘不能をHP完全回復状態で回復させる

贖罪の聖炎 2000 全体 罪を贖う為に生命を奪い取る厳格な炎。空属性威力5S、崩し無効、ブレイクA+(威力はATSに反映)

蘇生の息吹 3000 全体 自分以外の戦闘不能状態の味方全体をHP30%、CP15%状態で復活させる慈悲の光

魔導全弾砲撃 2000 全体 魔導鎧による連続砲撃。威力SSS+、崩し無効、ブレイクA

天界光 2500 単体 あらゆる穢れを消滅させる究極神聖魔術。空属性威力6S+&1ターンバニッシュ100%攻撃。幽霊系、不死系の敵に2倍ダメージ、崩し無効、ブレイクS+(威力はATSに反映)

魔導充填砲撃 4000 特大直線(貫通) 魔力で威力を高めた砲撃。威力4S+、崩し無効、ブレイクSS(ATSに反映)

イルザーブ召喚 最大CPの17% サポートキャラ、『イルザーブ』を召喚する(HPは主の9割、様々な属性剣技に加えて神聖魔術を扱う。Sクラフトは絶招・桜花乱舞(大円・地点指定の威力12S+)とディヴァインジャッジメント(全体の空属性8S+&5ターンATS&ADF50%減少攻撃))なお、召喚中は最大CPが8%下がる。任意でイルザーブを自分の元に戻せる。


Sクラフト


絶招・覇王籠月槍 単体 敵一体を集中攻撃する最高峰の槍技。威力10S+、ブレイクSSS+

エクスピアシオンⅡ 大型直線(貫通) ”贖罪”の名を持つ究極神聖魔術。空属性威力12S+&絶対防壁貫通、ブレイク確定(ATSに反映)

絶招・軍神の神槍 大円 軍神の力を武器に宿らせて叩きつけて大爆発を起こす。威力13S+&絶対防壁貫通、ブレイク確定(ATK、ATSの合計値に反映) 



コンビクラフト


飛槍十文字撃 4000 大円 セリカと共に放つ飛燕剣と槍術の嵐。威力22S+&気絶100%、ブレイク確定。条件、バトルメンバーにセリカがいるかつ双方のCPが4000以上ある事




 

 

第三章~新海都繚乱~ 外伝~戦の鼓動~

エレボニア帝国・東部クロイツェン州、旧公都ロンテグリフ―――――

~”四大名門”アルバレア侯爵家館・”当主”執務室~

エレボニア帝国の東部――――”クロイツェン州”。七日戦役の和解条約によって広大な領土の凡そ8割をメンフィル帝国に譲渡されたことで、僅か2割の領土を統括している”アルバレア侯爵家”の当主にして旧Ⅶ組のメンバーの一人――――ユーシス・アルバレアは端末である人物からの報告を受けていた。

「―――そうか。ログナー侯も欠席されるとは。”四大”から当主が出席するのは俺とそちらの家だけになりそうだな?」

「ああ、因果なことにね。ログナー侯も義理堅いというか不器用でいらっしゃるというか………1年半前の内戦後の謹慎をいまだ続けていらっしゃるとはな。」

「武闘派として兵を率いた身では慎重になるのも仕方あるまい。ましてや1年半前の内戦はレン皇女殿下とセシリア将軍閣下が考えた策によって内戦の終盤は所属は違えど、同じ領邦軍の兵達の命を奪ったからな。………1年半前の内戦で上手く立ち回ったように見えて、肝心な事には気づかずに呆気なく”戦死”した”総参謀”にも見習わせたい程の謙虚さと思うがな。」

「ユーシス………」
亡き兄の事を思い返しているユーシスの様子をユーシスの通信相手――――トールズ本校の卒業生で”ハイアームズ侯爵家”の三男であるパトリック・ハイアームズは心配そうな表情を浮かべた。

「フッ、ただの愚痴だ。ところで………”バラッド侯”とはどんな人物だ?」

「ハッ………噂通りの人物さ。――――ただ愚かで強欲ながら己の益には恐ろしく聡く、抜け目ない。どう会議を引っ掻き回してくれるか”世話役”として今から頭が痛くてね。」

「フフ………お前のお父上、ハイアームズ候がいらっしゃるなら少しは安心できるだろう。あの方ならば滅多なことで後れを取ったりはしないはずだ。」

「そうか………まあ父上のバランス感覚は大したものだと思うが。―――――しかし、サザ―ラントに続いて”三帝国交流会”が行われたクロスベルでも”事件”が起きている。どんな不測の事態が起こるかわからない。せいぜい君も気を付けてきたまえ。」

「フッ、言われるまでもない。頼みにできそうな面々の当てもあることだしな。」

「そういえば第Ⅱの演習とちょうど時期が重なるようだが………――――まあいい。個人的にも楽しみにさせてもらうとしよう。かつてのⅠ組のライバルの結束をね。」
ユーシスがパトリックとの通信を終えると扉がノックされた。

「―――ユーシス様。約束の方が見えられましたがどうされますか?」

「ああ、構わん。そのまま通してくれ。」

「はい。――どうぞ中へ。」

「あはは、ありがとー。」
ユーシスの許可によって扉が開かれると執事と共にミリアムが姿を現し、執事は恭しく礼をした後扉をしめた。

「ヤッホー!ユーシス、久しぶり~!」

「フッ………よく来たな、ミリアム。少し遅れたようだが。」
2年経っても相変わらず無邪気な様子のミリアムにユーシスは苦笑しながら近づいた。

「それが申請に戸惑っちゃってさー。なんでユーシスに会うのにいちいち許可取らなきゃならないんだか。」

「お前の立場からしたら当然すぎるとは思うが………」

「えいっ!」
自身の戸惑いに対して呆れた表情でユーシスが答えたその時ミリアムはユーシスに飛びつこうとしたが、ユーシスは身体を横に向けて回避した。


「だ、だからなんで避けるのさ―!?」

「いい加減に学習するがいい。お前も15歳だろう。少しは年頃の娘らしさを―――」

「ガーちゃん!」

「―――」
ユーシスがミリアムに説教をしたその時ミリアムはアガートラムをユーシスの横に呼び寄せ

「隙アリッ!」

「しま――――」

「ニシシ、捕まえた~!」
ユーシスがアガートラムに気を取られた瞬間、ユーシスの顔目がけて飛び掛かった。

「こ、こら――――離れるがいい!お前のその格好だと色々と危ないだろうが………!」

「まったく、髪型変えてカッコつけすぎじゃないのー?眉間のシワがこれ以上増えないようボクが和ませてあげる!」

「ええい、余計なお世話だ………!」
その後ユーシスはミリアムにケーキと紅茶を御馳走した。


「モグモグ、美味しー!この前アーちゃんと食べたパンケーキに負けてないかなぁ。」

「ふう、最近街の子らが似たように振舞ってくるが………教えたのはお前だな、ミリアム?」

「うん、そーだよ?ユーシスの所に来るたびになんか仲良くなっちゃってさー。良い子たちだよね、みんな!」

「………ああ、そうだな。(造られし存在………だからどうしたという話だな。まあこれ以上、背が伸びないかもと溜息はついていたが………)」
無邪気な様子で美味しそうにケーキと紅茶を楽しんでいるミリアムをユーシスは見守りながらミリアムの素性を改めて考えていた。

「んー?(モグモグ)」

「―――何でもない。それより結局、お前の方はどうするつもりだ?こちらの予定に変更は無しだが。」

「あ、うんっ!色々あったけどそれは大丈夫!ニシシ、うれしい!?ボクと一緒にバカンスに行けて!」

「フン、確かにバカンスと言ってもいいくらいの景勝地ではあるな。開かれるのは、脂びった思惑が入り乱れるような謝肉祭(カーニバル)だが。」

「あはは、うまいねユーシス!………はあ、でもやっぱり情報規制は喰らってるんだよねー。貴族関係やギルド関係、それにメンフィル関係やクロスベル関係とかあくまで限定的ではあるんだけど。」
鼻を鳴らして皮肉気に答えたユーシスの推測に無邪気に笑って答えたミリアムは溜息を吐いて困った表情を浮かべた。

「気にするな――――というか情報局としても当然の処置だろう。”鉄血の子供”であるお前はむしろ配慮されている方なんじゃないか?」

「それでもレクターくらい権限があればⅦ組や特務部隊のみんなをもうちょっと助けてあげられるんだけどな~。アリサやマキアスなんかも厳しそうだし。フィーとサラは………自分たちで何とかしちゃいそうな気がするけど。リィン達は………いざとなったら”英雄王”達がバックにいる上”ブレイサーオブブレイサー”達や”特務支援課”の人達とも親しいから、助けなんていらないだろうけど。」

「―――だから気にするな。お前がⅦ組の一員であり続ける方が何倍も価値があるだろう。」

「あ…………えへへ………もっかい抱きついてもいい?」
「却下だ。」
自分の気づかいにミリアムが嬉しそうな表情で自分を見つめて口にした提案をユーシスが断ると二人にとって聞き覚えのある音が聞こえてきた。

「あれっ、この音。」
「ああ、Ⅶ組関連だ。何かあったのか………?」
そしてユーシスがARCUSを起動させるとある人物の名前が出た。

「これって………!」
「まさか………!」

「久しぶりだな、ユーシス。ん………?なんだ、ミリアムもいるのか。」
「「ガイウス!?」」
ARCUSに映った人物―――――旧Ⅶ組メンバーの一人にして”ノルド高原”に住む”ノルドの民”であるガイウス・ウォーゼルを見た二人は驚きの声を上げた。

エレボニア西部・ラマール州、ラングドック峡谷地帯――――

一方その頃、エレボニア西部にある峡谷で黒い鎧の猟兵達と紫の鎧の猟兵達がぶつかり合い、その様子を崖の上から一人の”赤い星座”の猟兵――――――”閃撃”のガレスが観戦していた。

「………いつまで隠れているつもりだ。―――――”猟兵王”。」
「なんだ、気づいてたのかよ。」
猟兵が振り向いて呟くと物陰に隠れていたルトガーが現れて猟兵に近づき、猟兵は身構えた。

「おいおい、閃撃の。見ての通り丸腰だぜ?警戒すんのはコッチじゃねえか?」

「――――失礼。だが貴方に見せる隙はない。”空の覇者”とほぼ互角の戦いを繰り広げるほどの強者たる貴方には………」

「ったく、何度か一緒に飲んだこともあるってのによ。………そういやぁ、俺達がハーメルを去った後に戦鬼のお嬢ちゃんがメンフィルの連中に殺られちまったんだってな。バルデルもシグムントも逝っちまって、ランドルフは抜けて最後の頼みの戦鬼のお嬢ちゃんが逝っちまった以上、”赤い星座”もさすがに”終わり”だろう?”閃撃”の、お前さんも含めて残った星座の連中もいっそ西風の旅団(俺達)の所に来て新しい猟兵団を作らねぇか?西風の旅団(俺達)も4年前の件で、赤い星座(お前さん達)のようにメンフィル帝国との戦いで仲間が相当殺られちまって、お前さん達”星座”同様俺達”旅団”も絶滅危惧種のようなものだ。同じ絶滅危惧種同士、手を組むのも面白いと思うし、お前さん達にとってもメリットはあると思うぜ。特にお前さん達星座は”オルランド”の家系が全滅してしまった今、団を維持する事も厳しいんじゃねぇのか?」

「………ありがたい申し出だが、我等にとっては不要な気遣いだ。………亡きシャーリィ様の………シグムント様とバルデル様の仇を討つためにも我等は必ず這い上がり、シャーリィ様達の仇を討ったメンフィル帝国に心の奥底から後悔させる。――――それでは失礼する、猟兵王。」
ルトガーの誘いに対して静かな表情で断ったガレスは全身に黒き闘気を纏って決意の表情で答えた後目の前にある崖を跳躍して去って行った。

「やれやれ………どいつもこいつも”死”に急ぎやがって………”旅団”と”星座”相手に正面からぶつかり合って俺達を壊滅に追いやったメンフィル相手にリベンジを挑んだ所で、結果は同じだって言うのによ………」
ガレスが去った後溜息を吐いたルトガーは葉巻を取り出して葉巻に火をつけて一服し
「――――なあ、そう思わねぇか?」
「……………………」
不敵な笑みを浮かべて背後の岩に語り掛け、岩の物陰に隠れている人物はルトガーの問いかけに何も答えず武装を構えていた。

「独り言だ、構えるな。大佐―――――お前さんの親父には若い頃に世話になった事もある。こいつの銘柄も教えてくれたしな。」

「……………………」

「ま、フィーの件についてはいずれ礼をさせてもらうつもりだ。”俺達”を追い回すのもいいがせいぜい若いのを支えてやるんだな。ま、お前さんも十分若いだろうが。」
そして”独り言”を呟いたルトガーはその場から去って行った。


「ふう………参ったわね………4年前と同じじゃない。――――”大佐”か。久しぶりにその名を聞いたわね。」
ルトガーが去った後岩の物陰から姿を現した人物――――サラは溜息を吐いて苦笑した後懐かしそうな表情を浮かべた。

「”閃撃のガレス”にも殆ど気づかれてたようだし、ちょっとブランクを感じるわねぇ。最近じゃフィーもめきめき実力をつけてくるし、エステル達に関しては完全に追い抜かれちゃったしアラサーを実感するというか………って、あたしはまだ27!………もう少しで28だけど!あ、焦ってなんてないんだからね!」
自分の力不足を実感していたサラは自分自身に突っ込んだが、誰も答える者はいなく、そのむなしさにサラは冷や汗をかいた。
「コホン………それはともかく。――――最強の猟兵団2つに”竜”たち、そして紫の一団………正念場になりそうね―――――あたしにとっても”あの子たち”にとっても。」
そして今後の展開を予想したサラは真剣な表情で呟いた後その場から去りかけたが
「それにしても………子爵閣下とは全然タイプが違うけど。あれはあれでカッコイイオジサマねぇ♪」
立ち止まってルトガーの事を思い返してうっとりとした表情を浮かべた。

~エレボニア帝国某所~

「……………………」
一方その頃デュバリィが転移魔導具である場所に訪れ、”遺跡”と化している巨大な像を黙って見つめていた。
「――――遅くなった。」
「ふふ、いい子にしていた?」
するとその時アイネスとエンネアが転移魔導具で姿を現してデュバリィに声をかけた。

「遅いですわよ、二人とも。」

「すまぬ。――――だが”神速”であるデュバリィよりも早く到着しろというのも、少々無理があると思うのだが?」

「それとこれとは別問題ですわ。ただでさえ、私達はメンフィル・クロスベルの”蛇狩り”によって”執行者”や”使徒”達を狩られ続けているのですから、予定時刻よりも遅れれば”何かあった”と憶測してしまいますわよ。」

「………そうね。この間の”実験”ではとうとう、あの”劫焔”まで狩られてしまったとの事だものね。冗談抜きで結社も”滅び”に向かっているかもしれないわね。」
アイネスの指摘に対して反論したデュバリィの話にエンネアは静かな表情で同意した後複雑そうな表情で呟いた。
「アハハ、盟主に加えて”使徒”達までほとんど殺されちゃったこの状況で、未だ衰退しつつも勢力を保っている今の状況が”奇蹟”のようなものだものね。」
するとその時デュバリィ達にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた後、カンパネルラが転移術によって姿を現した。

「貴方ですか………」

「久しいな、道化師殿。」

「ふふっ、それこそクロスベルの一件以来かしら?」

「フフ、そうだね。お互い大陸各地に行ってたし。これで西部の関係者は全員集合かな?」

「ええ。段取りを詰めておきましょう。」
そしてデュバリィ達はカンパネルラと今後の段取りについての打ち合わせをした。


「さて………と。当日の段取りはこれでよしとして………もう一度確認するけど、君達、本気で”今回の件を最後に僕達結社との縁を終わりにする”つもりなのかい?」

「ええ。3人で何度も話し合った末に決めた事ですわ。」

「我等は元々マスターに忠誠を誓っていた。そのマスターが結社から去ってしまった以上、我等が結社に留まる理由はない。」

「マスターの突然の結社脱退に戸惑っていた私達を2年もの間置いてくれたことには感謝しているけど………私達がお仕えするのはこの世であの方のみなのだから、あの方がいない結社にはこれ以上いられないわ。――――私達自身の為にも。それとも鉄機隊(私達)は行動の自由が認められている”執行者”ではないから、脱退は許さないとでも言うつもりかしら?」
疲れた表情で問いかけたカンパネルラの問いかけにデュバリィ達と共に決意の表情で答えたエンネアは真剣な表情でカンパネルラに問いかけた。

「アハハ、さすがにそんなことを言うつもりはないよ。君達に関しては”執行者”と同等の扱いをする事を、亡き盟主からも言われていたしね。それじゃあ現代の鉄騎隊の”結末”がどうなるのか、亡き”盟主”に代わり、”見届け役”である僕が見届けさせてもらうよ。」
エンネアの問いかけに対して苦笑しながら答えたカンパネルラは恭しく礼をした後転移術で去って行った。

「相変わらず何を考えているのかわからない人ね。」

「うむ。――――幾年経とうとも決して容姿が変わることがない事も含めてな。」

「あんな男の事等、気にするだけ無駄ですわ。――――それよりも行きますわよ。」

「うむ。」

「ええ。」
そしてデュバリィ達も転移魔導具によってその場から去って行った――――――
 

 

第69話

6月10日―――

6月―――紫陽花が咲き始め、初夏の兆しが見えてきた頃。帝都(ヘイムダル)にほど近い西のリーヴスでも断続的に小雨が続いていた。

2度に渡る地方演習を経て各方面での第Ⅱ分校の評判はそれなりに高まっており―――資金面や、装備面などにおいても更なる充実が図られる事となった。

その他にも、職員などの面で更なる補充がなされることとなった。トールズ本校出身であるベッキーが購買部をスタートさせ―――ウルスラ医大で研修していたリンデがセレーネから臨時保険医を引き継いで医務室専属となったのである。

そして―――生徒たちの方にもささやかだが大きな変更があった。

~特務科Ⅶ組~

「ふう、もう週末かぁ………クロスベルから戻って3週間、あっという間に過ぎ去った感じねぇ。」

「正確には19日間ですね。一応、明日は自由行動日ですが少し余裕があるような気がします。」

「ふふっ、なんだかんだ言ってアルも体力付いてきたんじゃない?水泳部も頑張ってるみたいだしレオ姉も誉めてたよ?」

「………まだ40アージュ、泳ぎきれていないんですが………」

「………大丈夫。アルも近い内に泳ぎきれるようになれるわ。」
ユウナの賛辞に対してアルティナが不満げな表情で答えるとゲルドが静かな表情で指摘し、ゲルドの指摘を聞いてゲルドが予知能力を使ったことを察したユウナ達は冷や汗をかいた。


「アハハ………よかったじゃない、アル。ゲルドが太鼓判を押してくれたのだから、近い内にアルが納得できる結果が出せるわよ。」

「というかそういう事は一般的に言う”達成感”なのに、達成もしていない時点で予告されてしまうと、達成感が半減してしまうような気がするのですが………」
ユウナが苦笑している中アルティナはジト目でゲルドを見つめて指摘した。

「ユウナとゲルドの方も、訓練にテニス部、それに座学も頑張ってるみたいだな。早速、エレボニア、クロスベルの両帝都の高等学校と親善試合があるんだって?

「うん、向こうもできたばかりだから丁度いいって話になってさ。」

「ちなみにクロスベルの高等学校のテニス部には以前の特別演習で会ったキュアさんも所属しているそうよ。」

「そうだったのか………という事はキュアさんは生徒会長を務めながらテニス部も務めているのか………」

「多忙な生徒会の長を務めながら、運動部にまで所属しているなんて、さすがは”才媛”と名高いユーディット皇妃陛下の妹と言った所でしょうか。」
ユウナとゲルドの話を聞いたクルトは若干驚き、アルティナは静かな表情で呟いた。


「うーん、雨晴れないかなぁ。放課後練習したかったんだけど。」

「予報では4時あたりから晴れるという話もありますが。ユウナさんは座学方面の予復習はいいのですか?」

「うっ………」

「わかりやすいな、君は………まあ、期末テストは来月だからまだ余裕があるかもしれないが。」

「ふ、ふん。訓練に部活に勉強なんて全部こなせるわけないっての。クルト君のチェス部とか試合なんて無いんでしょう?」

「いや、君達と同じくエレボニア・クロスベルの両帝都の高等学校と親善試合をすることになってね。棋譜の勉強や、シドニーへの指導なんかでけっこう時間は取られてるかな。」

「こ、このムッツリ秀才め………」

「ありがとう。誉め言葉として受け取っておくよ。」
クルトの秀才っぷりに冷や汗をかいて呆れたユウナの皮肉が混じった指摘にクルトは静かな笑みを浮かべて答えた。

「チェスで気になっていたけど、もしゲルドがチェスみたいなボードゲームをしたら無敵なんじゃないかしら?」

「ボードゲームは先の読み合いが大半ですから、”予知能力”があるゲルドさんだと、勝率は高そうですね。」

「いや、それはさすがに反則の気がするのだが………というか、そんな事の為に”予知能力”を使うなんて、大人げなさすぎだろ………」

「フフ、第一例え先の展開がわかっても、その対処方法がわからなかったら意味がないし、”勝ち負け”じゃなくて”楽しむこと”が目的のゲームの趣旨から外れているわよ。」
ユウナの提案にアルティナが同意している中クルトは冷や汗をかいて脱力した後呆れた表情で指摘し、ゲルドは苦笑しながら答えた。


「そういえば、今朝さっそく購買部を覗いてきたんだけど!いいね、あれ!各地の商品とか仕入れてるし!最新の帝国時報やクロスベルタイムズもあったからつい買ってきちゃった。」

「ああ、旧Ⅶ組の皆さんの同窓生のベッキーさんが開いた店舗か。ようやくこの分校も士官学院らしくなってきたな。」

「建物ばかりが新しく立派で中身がアンバランスでしたし。医務室や園芸スペースなどもやっと稼働した印象があります。」

「医務室は同じく旧Ⅶ組の人達の同窓生のリンデさんだっけ。園芸スペースはサンディだけどホント、一気に充実したよね!」

「ああ、機甲兵も新たなタイプが配備されたし………はは、でも君が帝国時報を買うというのも結構以外だな?エレボニア本土の情報が主体だからつまらないんじゃないか?」

「ま、まあ、そこらへんはちょっと前向きになったというか。クロスベルの記事もあるし、最近買うようになったのよ。そういえば、目次のところに見慣れない言葉があったんだけど。『領邦会議』って何なの?」

「ああ…………もう、そんな時期か。」

「今年は少し遅いのでしたっけ?」

「二人ともその『領邦会議』という言葉を知っているのかしら?」
ユウナの疑問を聞いたクルトとアルティナの反応を見たゲルドは首を傾げて訊ねた。


「ああ。『帝国領邦会議』―――年に一度開かれる言ってみれば大貴族たちの会合さ。参加できるのは伯爵位以上………伝統的に『四大名門』と呼ばれる四家が持ち回りで会議の主宰者となっている。去年はアルトリザス――――あのハイアームズ候が主催したらしい。」

「『四大名門』って確かユーディット皇妃陛下とキュアさんの実家がその『四大名門』の内の一つに入る大貴族でしょ?………それと確かその四大名門って大貴族の当主をリィン教官が”七日戦役”と内戦で討ったらしいし。」

「”七日戦役”では”アルバレア公”とその長男である貴族連合軍の”総参謀”を務めていたルーファス・アルバレア、内戦では”カイエン公”を討っていますね。………ちなみにカイエン公とアルバレア公の件は、形は違えど”旧Ⅶ組”が関わっていたそうです。」

「ええっ!?そ、そうなのっ!?」

「内戦はともかく、”七日戦役”で旧Ⅶ組の人達はどうして教官と関わったのかしら?確か”七日戦役”はメンフィル帝国とエレボニア帝国の戦争だから、当時メンフィル帝国の軍にいた教官にとっては旧Ⅶ組の人達は”敵国”に所属している人達よね?」

「それは…………」
クルトの話を聞いたユウナが驚いている中、ある事が気になっていたゲルドの言葉を聞いたアルティナが複雑そうな表情で答えを濁したその時
「――――おはよう。盛り上がっているみたいだな。」
「おはようございます、皆さん。」
リィンとセレーネが教室に入ってきた。


「おはようございます。」

「二人とも、おはようございます。………あれ?そういえばいつもより少し遅いですね?」

「いや、それ以前に――――」

「どうして扉を閉めないのかしら?」
教室の扉が開けたままである事が気になっていたクルトとゲルドの言葉を聞いたユウナとアルティナもそれぞれ首を傾げて開けたままの扉を見つめた。

「フフ、さすがに気づきますわね。」

「――――突然の話になるが君達に”仲間”が増える。」

「へっ………!?」

「”仲間”というと………もしかしてゲルドのような転入生ですか?」

「いや――――”二人とも”、入ってきてくれ。」
そしてリィンが廊下に視線を向けて声をかけると、アッシュとミュゼが教室に入ってきた。


「あ…………」

「君達は………」

「という事は二人が私達Ⅶ組の………?」

「ふふっ………」

「………ハッ………」

「紹介する必要はないと思いますけど………お二人とも、一応挨拶をお願いしますわ。」
ユウナ達に注目されたミュゼは静かな笑みを浮かべ、アッシュは鼻を鳴らし、セレーネは苦笑しながら二人に自己紹介を促した。

「ふふ、では私から。―――ミュゼ・イーグレット。主計科からⅦ組へ移籍しました。今後とも宜しくお願いしますね♪」

「アッシュ・カーバイド。戦術科からの移籍だ。別に馴れ合うつもりはねえが宜しくしたいなら考えてやるよ。」
ミュゼとアッシュの自己紹介を聞いたユウナ達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。


今週初め――――

二人の移籍が決まる数日前、リィン達教官陣はリアンヌ分校長からある事を伝えられていた。
「な、Ⅶ組への移籍を!?」

「ええ―――Ⅷ組アッシュ・カーバイドにⅨ組ミュゼ・イーグレット。クロスベルでの報告書を読みましたがどちらも少々、独断専行が過ぎています。その処分も兼ねてという事になりますね。」

「……………………」

「えっと…………」

「あー……………………わからなくはないんですが。」

「ば、罰ということでしたらわたしたち教官にも責任が――――」

「クスクス、分校長さんが言う処分はあくまで”建前”だからそんなに真剣になる必要はないわよ、二人とも♪」

「連中の今までの演習地での独断専行の件もそうだが、元から他のクラスより少ないⅦ組の人数を増やす為じゃねぇのか?」
リアンヌ分校長の話にリィンとセレーネがそれぞれ戸惑っている中、ランディとトワがそれぞれ生徒達を庇おうとしている中レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ランドロスは口元に浮かべてそれぞれ指摘した。

「ええ。ランドロス教官の仰る通り元々適正ありそうな生徒を私の権限で移すつもりでもありました。―――二つの地方の特務活動でここまでの変事が起きては尚更です。」

「それは…………」

「確かに………今後のことを考えると、ですか。」

「特にⅦ組は、街道とかにも出て魔獣や結社が放った人形兵器と戦う機会も多いでしょうしねぇ。」
リアンヌ分校長の指摘にミハイル少佐が複雑そうな表情をしている中、トワとレンはそれぞれ納得した様子で呟いた。


「お前さん達の方はどうだよ?」

「実力的にも、メンタル的にも十分やっていける二人だと思う。――――本人たちに異存がなければⅦ組で引き受けさせて頂きます。」

「わたくしもお兄様同様、お二人をⅦ組に引き受けることに問題はありませんわ。」

「宜しい。主任、問題はありませんね?」

「………まあ、座学なども合同ですし問題ないでしょう。(しかし偶然か………?カーバイドの方はちょうど、情報局からも話があったが………)」
リアンヌ分校長に確認されたミハイル少佐は内心ある事実が気になりながらも表情に出さず、二人のⅦ組への移籍を同意した。

「フフ、決まりですね。」

「そっか………これで新Ⅶ組7人だね!」

「ハハ、知っての通りクセの強い奴だがよろしくな。」

「ええ、任せてくれ。(ミュゼにアッシュか………まずは本人たちと話さないとな。)」
そしてリィンは新たに受け持つことになる生徒達の顔を思い浮かべた。


5限目 芸術教養

~音楽室~

”芸術教養”のカリキュラムでは担当官であるセレーネが生徒達全員を前に教壇に立って授業を進めていた。

「さて、週に一度の芸術の時間です。――――それでは前回話した旋律(メロディ)和音(コード)律動(リズム)ですが。ゲルドさん、17ページの曲の最初の一節を無歌詞(スキャット)で歌ってみてください。」

「って、いきなり!?」

「――――はい。♪~~~~~~~~」
セレーネの突然の指名にユウナがクルト達と共に驚いている中ゲルドは動じずに立ち上がって歌い始めた。

(凄いな……帝都のオペラ歌手にも引けを取らないのではないか?)

(綺麗でいて、ゲルドさんの優しい性格が伝わってくる歌ですね……)
ゲルドの歌に生徒達共に聞きほれていたクルトは感心し、ティータは尊敬の眼差しでゲルドを見つめていた。そしてゲルドが歌い終わるとその場にいる全員は拍手をした。

「お疲れ様でした。今、皆さんもお分かりになったと思いますが旋律(メロディ)律動(リズム)だけでここまで心地よさを生み出すことができます。ここに和音(コード)が加わればどのような違いが出るかというと――――」
ゲルドに微笑んだセレーネは授業を再開した。



HR――――

~Ⅶ組~

「――――今日もお疲れだった。ミュゼ、アッシュ共に座学自体は変わらないだろうからその点の心配はないかな?」

「ええ、心配ご無用です♪」

「余裕だろ、余裕。」

「ていうか、クルト君やミュゼはともかくアッシュって何でそんな勉強できるの!?どの授業で当てられてもスラスラ答えられてたし!」

「それに魔術の授業でも魔術の習得もそうだけど、魔術と(クラフト)を応用した魔法技(マジッククラフト)の習得もクルトと同じくらいの速さで習得していたわね……」

「ああ…………地頭(じあたま)の違いじゃねえのか?」
リィンが生徒達を労っている中ジト目のユウナとある事を思い出しながら呟いたゲルドに指摘されたアッシュは興味なさげな様子で答え

「い、言ったわねぇ!?」
アッシュの言葉を聞いてアッシュを睨むユウナの様子にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいた。

「まあまあ……同じクラスになったのですから勉強についても協力して行ってください。当然、わたくし達の方も相談に乗りますから遠慮なく言ってください。」

「でしたら今夜あたりにでもリィン教官のお部屋で個人的に……♪もしくはセレーネ教官にリィン教官がどうすれば、私を10人目の婚約者にして頂くかについての相談でも構いませんが♪」

「だからアンタはやめいっ!」

(やれやれですね。)

(………いろいろな意味で賑やかにはなりそうだが。)
その後HRは終わり、リィンとセレーネが部屋から出て行った後ユウナ達は放課後での雑談を始めていた。


「……それにしてもいきなり過ぎるっていうか……元々のクラスもあるんだし二人とも抵抗は無かったわけ?」

「ええ、主計科を離れること自体はちょっと考えてしまいましたけど。でもリィン教官のクラスなら―――♪」

「あー、はいはい。アンタは聞くまでもなかったか。」

「君はリィン教官や教官の周りの人達に随分、反発していたと思っていたが……」

「わりと露骨でしたよね。」

「うん、編入したばかりの私でもわかるくらいだったし。」
ミュゼがⅦ組に編入してきた理由を知ったユウナが呆れている中、クルトやアルティナ、ゲルドは不思議そうな表情でアッシュを見つめた。

「ハッ、別に嫌っちゃいないさ。いけ好かないってだけでな。腕は立つし修羅場もくぐってる。―――そこは認めてやるさ。それに……妙な”力”を持ってやがるんだろ?」

「そ、それは…………」

「……どこで知ったんだ?」

「クク、最初の特別実習であのヤバイ女を4人がかりで殺る時に、さんざん見せていたじゃねぇか。喋るネコと知り合いだったり、大昔のオモチャの乗り手だったり、明らかに自分より腕の立つ女達に”ご主人様”呼ばわりのプレイをさせていたり、エレボニアの皇女サマどころか妹までハーレムに加えていたりと色々笑えるネタも満載だしな。せいぜい特務活動にも付き合って大笑いさせてもらうとするぜ。」

「……………………」

「あのねぇ……」

「……同じクラスで行動するならめんどうを起こさないで欲しいんだが。」
先行きが不安な発言をするアッシュをアルティナは黙って見つめ、ユウナと共に呆れた表情で溜息を吐いたクルトはアッシュに指摘をした。


「ふふ、きっと大丈夫ですよ♪ここにいる私達は色々な意味でリィン教官に何らかの興味を持っている……それはアッシュさんも同じだとお見受けしますから。」

「!」

「確かに、言われてみれば……」

「そこまで絡むというのは興味があることの裏返しか。」

「うん、興味がなかったり大嫌いだったら、その人の事を無視したりするものね。」

「なるほど、納得です。」
ミュゼの推測に血相を変えたアッシュがミュゼを睨んでいる中ユウナ達は納得した様子で頷いていた。

「てめえ……本当に油断ならねぇ女だな。”ゆるふわ女狐”とか”女郎蜘蛛”とか呼んでやろうか?」

「いえいえ、可憐な白百合と呼んでいただければ♪」
アッシュの毒舌に対して笑顔で返したミュゼにユウナ達は冷や汗をかいた。


「まあ――――それはともかく。ミュゼもアッシュも。ようこそ、Ⅶ組特務科へ!リィン教官達に負けないようにお互い一緒に頑張ろうね!」

「あ………」

「……………………」

「……増えたとはいえ他のクラスよりも人数は少ない。特務活動を含め、協力できそうな部分は協力しよう。」

「フフ、私はみんなより勉強が遅れているから、色々と教えてくれるとありがたいわ。その代わり魔術と音楽に関しては得意分野だから、そこに関して精一杯協力するわ。」

「とりあえずよろしくお願いします。まずは機甲兵教練――――いえ、小要塞のテストでしょうか。」

「……クク、おめでたいにも程があるっつーか。だが、シュバルツァーとアルフヘイムの鼻を明かしてやるってのは賛成だ。」

「ふふ……これも女神たちの巡り合わせかと。どうかよろしくお願いしますね。」
ユウナ達の調子に毒気を抜かれて一瞬呆けた二人はそれぞれ苦笑しながら新たなクラスメイトとなるユウナ達を見回した。

こうして………新Ⅶ組は新たな仲間を加えた事での更なる賑やかな日々が始まった―――― 

 

第70話

その後、校内や町の見回りを終えたリィンが宿舎に戻ろうとすると、ある人物達が声をかけた。

~リーヴス~

「あ、リィン君。」

「なんだ、アンタも帰りなの。」

「今日もお疲れ様です、お兄様。」
宿舎に入ろうとしたリィンは自分に声をかける人物達の声を聞いて振り向くとトワとセリーヌ、セレーネがいた。

「トワ先輩、セリーヌとセレーネも。はは、3人が連れ立ってるのも何だか珍しい光景ですね。」

「あはは、言われてみればそうかもねぇ。」

「わたくしはともかく、トワさんはセリーヌさんとはあまり接点がありませんでしたものね。」

「ま、たまにはね。喋るアタシが滞在するのもフォローしてくれたみたいだし。」

「そうだったんですか……すみません、お手数をかけて。」
トワが自分の知らない所でセリーヌの件についてのフォローを行っていた事を知ったリィンはトワに感謝した。

「た、大したことはしてないよ~。分校と町の人くらいだし。ただセリーヌちゃん。外から来たお客さんとかには一応、内緒にしておいてね?」

「はいはい、わかってるって。エマと長年一緒にいるんだからそのくらいの要領は――――」

「ああっ、ネコが言葉を……!?」

「にゃああっ……!?」
トワの念押しに軽い気持ちで頷いていたセリーヌだったが、自分に対して驚いている様子の青年の言葉を聞くと慌ててネコの鳴き声に変えて声が聞こえた方向へと視線を向けた。

「こ、これは……」

「その―――」

「えっと――――」
一方トワ達も言い訳を説明しようとしたが
「ふふっ……すみません、お兄様。トワさんにセレーネさん、それにセリーヌさんも。」
リーゼアリアがリィン達にとって見覚えのある太った青年と共にリィン達に近づいてきて苦笑しながらリィン達を驚かせた事を謝罪した。

「あ…………」

「リーゼアリア……!?って、そこにいるのは――――」

「ハハ、ゴメンゴメン。驚かせちゃったみたいだね。」

「ジョ、ジョルジュ君――――!?」
太った青年――――トワの同期生であったジョルジュ・ノームの登場にリィン達は驚いた。

「久しぶりだね、トワ。リィン君にセレーネ君、セリーヌ君も。従妹さんとは偶然、帝都からの列車で知り会ってね。」
その後ジョルジュはシュミット博士達に挨拶をしに行き、その間にリィン達はエリゼを交えてリーゼアリアに突然の訪問の事情を聞いていた。

~宿酒場”バーニーズ”~

「そうか…………父さんから預かった老師の手紙を届けに。」

「ええ、昼過ぎに届いて一刻も早くお渡ししたくて……帰りの列車もありそうですし思い切って来てしまったんです。本当だったらお渡ししたらすぐ帰るつもりだったんですけど………」

「ダメだよ、そんな!帝都行きの最終は10時だっけ?そんな遅くに女の子が帰っちゃ!宿舎には客室もあるし今夜は泊って行って!」

「――――既にアルフィンに客室の準備も頼んでいるから、客室の用意も既にできているわ。」

「ええっ!?皇女殿下にそこまでして頂くなんて、恐れ多いですし……」
深夜で帰ろうとする自身を引き留めようとするトワとエリゼの話を聞いたリーゼアリアは驚いた後申し訳なさそうな表情をしたが
「ああ、二人の言う通り是非そうしてくれ。明日は日曜日……予定が入っていなければだが。」

「そ、それはその、問題はないんですけど………」

「フフ、せっかくの絶たれていたお兄様達との交流の再開を逃す手はないと思いますよ。」

「セレーネさん…………わかりました。お言葉に甘えさせて頂きます。どのみち、第Ⅱ分校の方々に改めてご挨拶もしたかったですし。よろしくお願いしますね。」
リィンとセレーネの説得を受けて第Ⅱ分校の宿舎に泊まる事を決めた。


「ふふっ、うん!後で分校長に許可も貰うから。」

「すみません、よろしくお願いします。」

「しかしアンタが来たのも驚きだったけど。あの太った技術屋まで訪ねて来るなんてね。」

「ああ…………俺達も1年ぶりくらいだな。博士にご挨拶したらこちらに来るんですよね?」

「うん、料理とかは適当に頼んじゃっていいって。ジョルジュ君、いっぱい食べるからメニュー片っ端でもいいかなぁ。」

「はは、いいかもしれませんね。」

「さすがにやりすぎでしょ………」

「そ、そうですわね。それにそんなに頼んだ所で、テーブルに頼んだ料理が全て乗らないと思いますし……」
トワの推測を聞いたリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて苦笑したり呆れたりしていた。


「しかし、どうして父さんは老師の手紙を俺に渡すためにわざわざアストライアに通っているリーゼアリアを経由したんだ?エレボニア帝国政府の検問を警戒して、そんな渡し方をしたことは想像できるけど、それなら他にももっと手間がかからないやり方があったと思うんだが……」

「言われてみれば、そうですわよね?例えばエリゼお姉様やアルフィンさんに導力通信でお二人に手紙が来ているからユミルまで取りに来て欲しいと伝えた後、お二人がベルフェゴールさん達の転移魔術でユミルへと移動してお兄様への手紙を受け取った後にリーヴスに帰還してお兄様に直接渡すという方法もありますのに。」

「そもそも、手紙を渡すくらいで転移魔術を使う事自体を思いつかないんじゃないかしら?……というか、そんな事の為に魔術の中でも高度な転移魔術を使うなんて、魔女の眷属(ヘクセンブリード)の身としては、いろいろとツッコミたい事があるけどね。」

「アハハ………えっと、エリゼちゃんは心当たりとかはない?」
リィンの疑問を聞いたセレーネはリィンの疑問に頷き、ジト目で呟いたセリーヌの言葉を聞いて苦笑したトワはエリゼに訊ねた。

「……恐らくですが、リーアと私達を交流させる”切っ掛け”の為に、敢えてリーアに兄様へのお使いを頼んだのではないかと。私が14年前の件と半年前の件でのリーアに対するわだかまりがなくなった事は、この間の特別演習の後に手紙で知らせていますし……」

「あ…………」

「ハハ、本当に父さん達には気を遣わせてばかりで申し訳ないな。」
エリゼの推測を聞いたリーゼアリアは呆けた声を出し、リィンは苦笑していた。

「もしくは、リィンの正妻予定になるエリゼがリーゼアリアの事を許したから、これ幸いとリーゼアリアの両親がリーゼアリアとリィンをくっつける為の協力をリィン達の両親に頼んでいるのじゃないかしら?」

「セ、セリーヌちゃん。」

「そうですね………私にも黙って、お兄様と私を婚約させようとしたお父様たちでしたらありえそうです……」

「リーゼアリアさん…………」
セリーヌの推測を聞いたトワが冷や汗をかいている中辛そうな表情で同意したリーゼアリアをセレーネは心配そうな表情で見つめた。

「フウ………そんな辛そうな顔をする必要はないわ、リーア。例え叔父様達の思惑があろうとも、貴女が”誰に想いを寄せている”かは別の話だから、”姉”として”妹”である貴女の恋が叶う事を応援しているし、貴女が望むのなら協力もしてあげるつもりよ。」

「お姉様……………………」

(というか、今までの話の流れからしてリーゼアリアが恋をしている相手は”誰なのか明白”で、その本人を目の前にしてあんな話をしているけど、その本人であるアンタは何だかんだ言ってどうせ最終的には受け入れてあげるのでしょう?特に義理とは言え妹とまで結婚する上、その妹を正妻に決める双界一と言ってもいいほどの”シスコン”のアンタならエリゼのように妹扱いしているあの娘の事もエリゼと似た扱いをしていると思うし。)

(そ、それは…………というか、俺は”シスコン”じゃないぞ!?)

(ほ、本気で言っているんですか、お兄様………?)

(ま、まさか”そっち”に関しても自覚していなかったなんて………)
溜息を吐いた後自分に微笑んで答えたエリゼの意思を知ったリーゼアリアが驚いている中、呆れた表情をしたセリーヌに小声で話を振られたリィンは唸り声を上げた後反論し、リィンの反論が聞こえていたセレーネとトワは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。するとその時ジョルジュがレンと共に酒場に入ってリィン達に近づいてきた。


「やあ、待たせちゃったかな?」

「あ、ジョルジュ君!それにレン教官も。もしかしてレン教官もわたし達とご一緒する為に……?」

「ええ。さっき宿舎への帰りで偶々鉢合わせしたから、せっかくの機会だし、ご一緒させてもらおうと思ったけど、お邪魔かしら?」

「ハハ、誰もそんな事は思いませんよ。二人とも座ってください。せっかくだから乾杯しましょう。」

「はは、そっか。リィン君とセレーネ君も飲める歳なんだよね。」

「フフ、お互い成人した証拠ですわね。」

「わ、わたしだって飲めるもん!」

「では、私はジンジャーエールで。」

「アタシはミルクね。」

「では私はリーアと同じもので。レン教官はどうされますか?」

「そうねぇ………レンはこの『カルーアミルク』っていう飲み物にしておくわ♪名前からして『ミルク』の類でしょうから、問題ないでしょう?」
周りの人物達がそれぞれが頼む飲み物の希望を口にした後にレンが小悪魔な笑みを浮かべて自身の希望する飲み物の名前を口にすると、未成年であるレンが酒を飲もうとしている事にリィン達は冷や汗をかいた。

「いやいや、問題ありまくりですから!『カルーアミルク』も思いっきりアルコールの欄に入っているじゃないですか!」

「いくら教官とは言え、レン教官も未成年なのですからお酒を飲む事は止めて下さい。生徒達が真似をしたらどうするんですか………」

「あら、残念♪だったら”子供らしく”、カルピスソーダあたりにしておくわ♪―――それよりも、リーゼアリアお姉さん、”さり気なく”リィンお兄さんが頼んだ飲み物を”間違って飲んで”、リィンお兄さんに介抱してもらうか、運が良ければそのまま客室まで送ってもらって、リィンお兄さんに”食べてもらって”リィンお兄さんのハーレムメンバーに入る大チャンスよ♪」
疲れた表情で指摘したリィンとセレーネの言葉に悪びれもない様子で答えたレンはアルコールではない飲み物の名前を頼むことを決めた後リーゼアリアに話を振り

「え、えっと………」

「さり気なくリーゼアリアを悪の道に誘わないでください。」

「今更だけど、アンタ………よく、あんな無茶苦茶な皇女の補佐が務められているわよね?あの皇女の事だから、アンタが日々頭痛やストレスによる腹痛に悩まされるような事をしているんじゃないかしら?」

「アハハ、そんな事はないよ。副担任なのに、むしろわたしがレン教官に助けられる事もあるし、それに………ランドロス教官や分校長と比べたら、レン教官の方がよっぽど常識的な人に見えてくるよ?」

「ハハ、話には聞いていたけど分校でも、改革前の本校のような賑やかな日々を過ごしているようだね、トワ達は…………」
リーゼアリアが困った表情で答えを濁している中リィンは顔に青筋を立てて若干威圧を纏わせた笑顔でレンに指摘し、ジト目のセリーヌに話を振られたトワは苦笑しながら答えた後疲れた表情をし、その様子を見たジョルジュは冷や汗をかいて苦笑していた。その後食事を終えたリィン達はジョルジュとの情報交換を始めた。


「そうか…………噂は聞いていたけどクロスベルでそんな事があったなんて。再び動き始めた”結社”の残党……それに”地精”を名乗る勢力か。」

「はい………」

「…………うん………」

「お兄様、トワさん…………」

「…………ま、確かにあれはアタシも驚きだったわね。」
ジョルジュの言葉にリィン達がそれぞれ重々しい様子を纏っている中セリーヌは先月での出来事―――蒼のジークフリードとの出会いを思い返していた。

「……俺も”星見の塔”で”彼”に会ったときは本当に驚きました。内戦直後俺達特務部隊とⅦ組、そして先輩達は”彼”の埋葬に立ち会ったのですから。」

「うん……安からな顔をしてたよね。クロウ君らしくもなく……満足したような顔をして………」

「トワさん…………」

「…………トワ……」
辛そうな表情で肩を落とすトワの様子をセレーネとジョルジュは心配そうな表情で見つめた。

「あはは………なんでだろ。ついこの前みたいに思えちゃった。――でもそうだね。わたし達は確かに知っている。”あの仮面の人が絶対にクロウ君じゃないってことを。”」

「………ええ。その意味で、あの機体も騎神に良く似た別物だったかもしれません。」

(果たしてそれはどうかしらねぇ?)
トワとリィンの話を聞いていたレンは一瞬意味ありげな笑みを浮かべてジョルジュに視線を向けた後表情をすぐに戻した。

「そういえば”蒼の騎神”は軍に回収されたのよね?貴族勢力に使われないよう厳重に封印したって聞いたけど……」

「ああ、新築したトリスタ要塞の最深部に保管されたみたいだね。起動者だったクロウがいない以上、転位とかもできないと思うし……やっぱり別物なんじゃないかな?」

「そう……だよね。星見の塔で現れた機体は破壊された後クロスベル帝国軍に回収されたけど…………もしかしたらランドルフ教官やランドロス教官はあの機体の事について何か知らされているのかな?」

「ランディさんはわかりませんが、少なくてもランドロス教官は知らされているでしょうね……」

「まあ、ランドロスおじさんの”正体”を考えたらねぇ?」
トワの疑問を聞いたセレーネは複雑そうな表情をし、レンは呆れ半分の様子で答えた。


「…………その仮面の男はともかく”地精”というのは気になるな。エマ君達”魔女”と対になる歴史の闇に消えた一族……各地の精霊窟を造り、旧校舎地下も造ったんだっけ。」

「ええ、最後に魔女と接触したのは800年前と聞いたわね。それを最後に両者の交流は断たれ、以後、地精を見た者はいないらしいけど………」

「…………それがこの時代、このタイミングで現れたという事か。しかも”結社”と対立し、”西風の旅団”すら雇う形で……」

「ええ、正直アタシにも何がなんだかサッパリわからないわ。長やヴィータならもう少し”謎”に迫ってそうだけど……」

「”長”って人に尋ねてもはぐらかされちゃったんだよね?」

「んー、彼女は彼女で頑固なところがあるというか……まったく、あんなナリしてそのへんは頑固ババアらしいというか。」

「あんなナリ?」
セリーヌがふと呟いた言葉を聞いたリィンは不思議そうな表情をした。


「ああ、こっちの話よ。」

「…………なあ、リィン君。”地精”についてなんだが―――少し見当は付いてるんじゃないかい?」

「それは…………どうしてそんな風に?」

「一応、Ⅶ組もそうだけど君達特務部隊の戦いをバックアップさせてもらった身だ。あの内戦で、君達が得た情報を一通り聞かせてもらっている。――――すると、やっぱり一つの”仮説”が浮かび上がってくるんだ。かつて”地精”と呼ばれた存在―――それが今は別の名前で呼ばれてるんじゃないかって。」

「あ…………」

「それって……」

「わ、私も断片的にしか聞いていませんが……」

「―――ええ、以前からぼんやりとした疑いはあったんです。ですが、ここ2ヵ月ほどでその疑いは確信にまで強まりました。”地精”が名乗る別の名前、それは―――――黒の工房。ミリアムやアルティナの”戦術殻”を造った謎の工房――――同時に、超一流の猟兵団などに常識外れの性能の武器を流しているとも聞いています。」
ジョルジュの問いかけを聞いて周りの者達がある程度察しがついている中、リィンが答えを口にした。

「…………やっぱり……」

「――――恐らくそうだろう。”C”を名乗ったクロウが使った超長距離ライフルを手掛けたのも同じだ。」

「アルティナさんの”クラウ=ソラス”もそうですわよね?」

「ああ、だがミリアムもアルティナも工房の記憶は消去されてるらしい……誰も知らないんだ、その実態を。”身喰らう蛇”とメンフィル・クロスベル連合の極一部の人達と――――オズボーン宰相を除いて。」

「あ………」

「…………なるほど、そう繋がるわけね。ヴィータによると、”黒の工房”ってのは元々結社の”十三工房”とかいう集まりに参加してたらしいけど―――」

「ああ―――これは各地を回っていろいろと掴んだ情報なんだが………どうやらその”十三工房”というのは大陸各地の異能の技術集団をまとめる”ネットワーク”のようなものらしい。しかし内戦で、宰相側について結社の”計画”を奪う手伝いをした………」

「うん、そんな構図が見えてくるね。………そうなると鍵を握るのはオズボーン宰相か”黒の工房”の殲滅作戦を考えているメンフィル・クロスベル連合の極一部の人達なんだろうけど………」

「…………おいそれと詳しい話をお聞きできる方々ではありませんね。」
ジョルジュの推測に頷いたトワは複雑そうな表情でレンに視線を向け、リーゼアリアは不安そうな表情で呟いた。


「――――先に言っておくけど、レンは”黒の工房”の件については何も知らされていないわよ。”その件については全く関わる事ができない”のだし。」

「ハ?メンフィルの皇女で、しかも内戦の状況をコントロールして、勝利へと導いた参謀であるアンタすらも知らされていないっていうの?」

「エフラム殿下達の話によりますと、相当機密なやり取りで行われる作戦だそうですから、どこから情報が漏洩するかわからない以上、作戦に関われないレン教官にも知らされていない事はおかしくはありませんが………」

「…………少なくても、セシリア教官やサフィナ閣下は詳細について知っているだろうな。先月の”三帝国交流会”に教官達がクロスベルを来訪した理由の一つは”黒の工房”の件だとの事だし。」

「リィン君………」
レンの答えを聞いたセリーヌが眉を顰めている中、セレーネがセリーヌの疑問に答え、リィンは静かな表情で心当たりのある人物を答え、リィンにとって恩師である人物(セシリア)もリィン達に何も教えずに”事を進めよう”としている事についてリィンがどう思っているかを想像したトワは心配そうな表情でリィンを見つめた。

「――――ありがとうございます、ジョルジュさん。錯綜していた情報の幾つかがかなり整理されてきた気がします。」

「はは、どういたしまして。―――”黒の工房”………僕自身もずっと気になってたんだ。ひょっとしたら博士も何かを知っているかもしれない。」

「それは…………」

「メチャクチャありそうね。」

「エレボニア一と言われる天才技術者ですものね。」

「今夜は博士の研究室に泊まっていろいろと手伝いをするつもりなんだ。明日にはルーレ方面に発つけどそれとなく聞いてみようと思ってる。何かわかったらリィン君にも教えるよ。」

「すみません、助かります。」
その後店を後にしたリィン達は宿舎前で分校に向かうジョルジュを見送ると、聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。

~リーヴス~

「あーっ、ここにいた!」

「ユウナにアルティナ、ゲルドとミュゼも………」

「ティータちゃんまで。」

「そういえばミル―――ミュゼ以外にはご挨拶もしていませんでしたね。お久しぶりです、ユウナさん。アルティナさんにゲルドさん、ティータさんも。」

「あはは………うん!」

「といっても19日ぶりくらいですが。」

「こんばんわ、リーゼアリア。」

「ふふ、ジョルジュさんから聞いてわたしもビックリしちゃって……」

「うーん、先程は気を利かせて外したんですけど……ユウナさん達にお話したら是非ご挨拶したいと仰られて。」

「当たり前じゃない!前に会う約束もしてるんだし!―――教官達も教官達です!なんで呼んでくれなかったんですか?」

「ああ、そうだな……折角の機会だっただろうし。」

「アハハ………いろいろと話が盛り上がっていまして……」
責めるような視線のユウナの言葉にリィンとセレーネはそれぞれ苦笑しながら答えた。


「す、すみません。ちょっと考えが至りませんでした。」

「いいのいいの、リーゼアリアさんは。でも帝都だったよね?最終列車とかそろそろ厳しそう?」

「ふふ、それなんだけど……今日はリーゼアリアさんに宿舎に泊まってもらう事になって。」

「ええっ、ホント!?」

「わぁ……っ!」

「ふふっ、そうなるとちょっと思っていました。もしかしてリィン教官のお部屋にお泊りするんですか?」

「そ、そんな訳ないでしょう!」

「うふふ、と言いつつ本音はリィンお兄さんと同じベッドで寝て、あわよくばリィンお兄さんに食べてもらいたいのでしょう♪」

「そ、そんなふしだらな事、考えていません!」
リーゼアリアが宿舎に泊まる事にユウナ達が嬉しがっている中ミュゼとレンはそれぞれ小悪魔な笑みを浮かべてリーゼアリアをからかい、からかわれたリーゼアリアは必死の様子で答え
「レン教官?貴女の”悪戯(じょうだん)”に慣れていないこの娘をあまりからかわないでやってくれませんか?」

「それと俺の事を何だと思っているんですか、レン教官は…………」
エリゼは威圧を纏った笑顔を浮かべてレンを見つめ、リィンは疲れた表情でレンに指摘し
「うふふ、怖い怖い♪リフィアお姉様の二の舞にならないためにも、悪戯はこのくらいにしておくわ♪」

「フフ、すっかり元通りの関係に戻れて何よりですわ♪」
レンとミュゼは笑顔で答え、二人のマイペースさにリィン達は冷や汗をかいて脱力した。


「あはは……客室に泊まってもらうつもりだよ。さっき分校長に連絡したら『1日といわず数日でも泊まってもらって構いません』とか言ってたし。」

「フフ、相変わらずとても優しいわよね、分校長は。」

「ゲルドさんの分校長に対するイメージはわたし達が持つ分校長のイメージと若干かけ離れている気がするのですが。」

「あはは……」
トワの話を聞いて微笑みながら答えたゲルドにジト目で指摘したアルティナの言葉を聞いたティータは苦笑していた。

「あ、それならリーゼアリアさん!客室よりあたし達の部屋に泊まるのはどうですか!?」

「え………」

「アル、ゲルド、どうかな!?」

「異存はありませんが……所謂『パジャマパーティー』もしくは『女子会』ですね。」

「フフ、私はそういった集まりを経験するのは初めてだから、今から楽しみだわ。」

「いえいえ、それでしたら元後輩の私とティータさんの部屋に……」

「うんうん、わたしも大歓迎です!」
ユウナ達の姦しさにリィン達はそれぞれ冷や汗をかいた。


「姦しすぎでしょ……」

「うふふ、女三人寄れば何とやらって諺もあるじゃない♪」

「アハハ………三人どころかの話ではありませんが……」

「えっと………」

「はは、折角の機会だしたまにはいいんじゃないか?」

「ふふ、そうだね。夜更かしは勧められないけど。」

「これを機会に交友関係を広げる事も貴女の将来の為になるわ。」

「そういう事でしたら……―――それでは今夜一晩、よろしくお願いいたします。」
リィンとトワ、エリゼにも勧められたリーゼアリアはユウナ達に恭しく礼をした後微笑みを浮かべた。

その後リィンは自分の部屋を見る事を希望したリーゼアリアに部屋を案内した後リーゼアリアから”八葉一刀流”を教わった師匠であるユン・カーファイからの手紙を受け取ると、ユウナ達がリーゼアリアを迎えに現れ、リーゼアリアはユウナ達とパジャマパーティーを始める為にユウナ達と共にその場から去り、リーゼアリア達を見送ったリィンは手紙を読み始めた。

~宿舎・リィンの私室~

前略 リィン・シュバルツァー殿

―――久しいな、リィン。最後に会ったのはメンフィル本国の軍に入る直前じゃからもう4年は顔を合わせておらぬことになるか。テオ殿から最近の写真を見せてもらったが随分と大人びて、男前になったもんじゃ。

おぬしのモテっぷりはエレボニアから遠く離れた地にいるワシにも聞こえてくる程じゃ。朴念仁のおぬしがいつの間にか将来を共にする多くの女子(おなご)達を決めた上、伴侶まで迎えた話を知った時は天変地異が起こる事を一瞬警戒した程じゃぞ。

――実は、この後すぐにでも大陸東部に向かわなくてはならなくてな。……あちらは酷いものじゃ。龍脈の枯渇と、徐々に広がる不毛の地。西部とは最早違う世界と言ってもよい。恐らく半年は帰ってこれぬだろう。その前におぬしに会っておきたかったがこれもまあ、女神達の巡り合わせじゃろう。

伝え聞くエレボニアの内戦とメンフィル・エレボニア戦争に、”灰色の騎士”なるおぬしの異名。そもそもワシに弟子入りするきっかけでもあった”鬼”の力に、おぬし自身の過去や出生の謎――――さぞや迷い、翻弄されているだろうが恐れることはない。

おぬしに授けたのは”七の型”――――無明の闇に刹那の閃きをもたらす剣。その極みは他の型よりも遠く、おぬしが”理”に至れるかはわからぬが……それでもワシは10年前、”最後の弟子”としておぬしを選んだ。カシウスでも、アリオスでもなく……”八葉”を真の意味で完成させる一刀としておぬしをな。

―――激動の時代において刹那であっても闇を照らす一刀たれ。おぬしと魂を共有する同志たち、魂を継ぎし者達ならばできるはずじゃ。それでは達者でな。――――東より戻りて再会できたら奥伝を授けるのでそのつもりでおれ。

草々、ユン・カーファイ

「ハハ、相変わらずと言うべきか………まrで見てきたように俺の状況を把握していらっしゃるな……(大陸東部……近年、土地が荒れて、住む人が激減している不毛の地か………老師の事だから心配はないと思うが……―――いや、俺が心配するのは烏滸がましいな。)」
ユン・カーファイからの手紙を読み終えたリィンは考え込んだ後集中を始め
(”七の型”は”無”……無明の闇に刹那の閃きをもたらす剣。昔から老師が言っていた言葉だがようやく掴めてきたような気もする。奥伝……”八葉”を完成させる最後の弟子など畏れ多いだけだが―――せめて教え子や仲間の力になれるよう、俺も”壁”を乗り越えるしかなさそうだ。)
そして集中を終えて新たなる決意をしたリィンは明日に備えて休み始めた。


~同時刻・ユウナ、アルティナ、ゲルドの私室~

同じ頃、ユウナ達は第Ⅱ分校の女子生徒達とエリゼ、アルフィンを交えてリーゼアリアと談笑しているとミュゼがある提案をした。
「フフッ、話の場が温まってきた所でそろそろアリア先輩を含めたここにいるほとんどの女性達が気になっているである事を、姫様やエリゼさんに代表して答えてもらいましょうか♪」

「ミュゼ?一体何を……?」

「それに私達が気になっている事が、どうしてアルフィン皇女殿下とエリゼさんが答えることに繋がるのかしら?」

「ミュゼ、まさか貴女………」

「…………」
ミュゼの提案にその場にいる多くの者達が首を傾げている中リーゼアリアとゼシカは不思議そうな表情をし、察しがついたアルフィンは表情を引き攣らせ、エリゼはジト目でミュゼを見つめた。

「うふふ、それは勿論姫様とエリゼさん達―――――リィン教官の伴侶として既にリィン教官の奥方となった姫様や教官の婚約者の方々の”夜の生活”―――――つまり、新しい命を作る為や互いの愛を確認する為の行為である”男女の営み”に決まっているではありませんか♪」

「な、なななななななななっ!?」

「そ、そそそそそ、それって、どう考えても”アレ”の事だよね……!?」

「は、はわわわわわわっ!?」
ミュゼの答えにその場にいる多くの者達が表情を引き攣らせている中ユウナとサンディ、ティータはそれぞれ顔を真っ赤にして混乱していた。


「やっぱり、そういう類の質問でしたか……」

「もう、この娘ったら………」

「ミル―――ミュゼ!いくらこの場には女性達しかいないとはいえ、お姉様と皇女殿下にそんなことを聞くなんて失礼よ!」
一方エリゼとアルフィンはそれぞれ呆れた表情で溜息を吐き、リーゼアリアは頬を赤らめてミュゼに注意した。

「そうでしょうか?もしお二人もそうですが、セレーネ教官達のお腹に教官との”愛の証”が宿っていたら、姫様達は今の仕事に支障が出るのですから、いつも姫様達にお世話をしてもらっている私達にとっても他人事ではないのですから、それを聞く権利くらいはあるかと思うのですが♪」

「いや、それとこれとは別問題じゃないか………」

「全くですわ……第一わたくしを含めたエリゼ達との結婚式もまだだし、今のわたくし達はお兄様の頼みとメンフィル帝国の指示によって今の仕事に就いているのだから、その仕事に支障が出ないためにも第Ⅱ分校に来てからも避妊処置はいつもしている―――――あ。」

「アルフィン………」

「盛大な自爆発言ですね。というかやはり、第Ⅱ分校に来てからも”していた”のですか。」

「そ、それよりも今の皇女殿下の発言から判断すると、リィン教官と皇女殿下達は私達が生活しているこの宿舎でも、だ、だだだだ、”男女の営み”を……!」

「その割には教官達に割り当てられている部屋から、そういった”行為”の声が聞こえてきたという話や教官達に用があって、教官達の部屋を訊ねた人達がその場面を偶然見てしまったという話を聞いたことがないわよね……?」

「きっと、私達が寝静まった頃にしているんじゃないかな~?」

「例えそうだとしても、今まで誰にも気づかれていない事には違和感を感じますね。特に分校長もそうですが私達と違い、同じ階層で住んでいる教官陣が誰も気づいていないなんて事はないと思いますし。」

「3人とも気にする所が間違っているわよ……」
ミュゼの暴論にレオノーラが呆れている中、呆れた表情で溜息を吐きながら答えたアルフィンだったがすぐに自分がとんでもない発言をしたことに気づくと呆けた声を出し、アルフィンの発言を聞いたエリゼは疲れた表情で頭を抱え、アルティナはジト目で呟き、タチアナは顔を真っ赤にしながらも興味津々な様子でアルフィンとエリゼを見つめ、首を傾げて呟いたゲルドとルイゼ、冷静な様子で呟いたマヤの疑問を聞いたヴァレリーは呆れた表情で指摘した。


「わたくしとした事がこの娘の誘導尋問に引っかかってしまうなんて………そういう役割はリーゼアリアなのに。」

「何故そこで私が出てくるのですか………そ、それよりも………薄々察してはいましたけど、お兄様の奥方となった皇女殿下は当然として、お姉様もやはりお兄様と………」
疲れた表情で溜息を吐いたアルフィンにジト目で指摘したリーゼアリアは頬を赤らめてエリゼを見つめた。

「フウ………この状況で”違う”と言っても信じられないでしょうね。ええ、そうよ――――私達と兄様との”関係”は2年前からよ。勿論、妊娠しないようにいつも避妊魔術を使っているけどね。そうでなければ、今頃私達全員”母親”になっているわ。」

「旦那様は普段は穏やかな殿方ですけど、性行為をする時になれば豹変してとても性欲旺盛な方になって、何度もわたくし達を求めて”達する時”はいつも中に出しますものね。この間した時なんて、”危険日”で”奉仕”と”お掃除”でそれぞれ1回出したにも関わらずに6回くらい中に出されましたから、避妊魔術を使っていなかったら確実に妊娠していたと思いますわ。」
言い訳をすることを諦めてリィンとの情事を赤裸々に語ったエリゼとアルフィンの話を聞いたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせたり、混乱したりしていた。

「フフ、なるほど♪リィン教官は”絶倫”の上”男女の営み”になれば、野獣のように何度も求めてくださる上、しかも避妊魔術を使えば例え危険日に何度も中に出されても妊娠しないのですね♪良い事を聞きましたわ♪後でレン教官あたりに避妊魔術の習得方法を教わった方がよさそう―――――いえ、いっそ”愛の証”を理由に教官の伴侶の一人にする為にも避妊魔術は習得しない方がいいかもしれませんわね♪」

「この世界に避妊する為の魔術が存在する事にも驚いたけど、それよりもアルフィンが今言った”お掃除”と”奉仕”って、何の事かしら……?”奉仕”って、確か利害を考えずに誰かにつくすって意味よね?部屋を掃除したり、誰かにつくすことが性行為とどう関係してくるのかしら……?」

「私も意味はわかりませんが、話の流れからして不埒な行為である事は確実かと。」

「ふふふ、どうやらそろそろ我々の出番のようですね。」

「そうみたいね♪ちょうどいい機会だから、ご主人様が好む奉仕とかも含めて二人にも教えてあげるわ――――」

「だからアンタはやめい!それとリザイラさんとベルフェゴールさんも学生のあたし達どころか、純真無垢なゲルドやまだ子供のアルを汚すような知識を教えないでください!」
ミュゼが小悪魔な笑みを浮かべ、首を傾げているとゲルドとジト目になったアルティナの疑問を聞いてアルフィンの傍に現れたリザイラとベルフェゴールは二人にある知識を伝えようとし、ユウナは顔を真っ赤にしてミュゼを睨んだ後リザイラとベルフェゴールに睨んで指摘した。

その後もベルフェゴールとリザイラはリィンの性癖等を含めたリィンと自分達の”営み”を赤裸々に語り……翌日、リィンは女子生徒達が自分とすれ違ったり目が合うと様々な感情で自分を見つめたり、それが気になって声をかけると何らかの理由を作ってその場から急いで立ち去る事に首を傾げていたという………
 
 

 
後書き

原作にあったテオからの手紙イベントですが、灰の軌跡でリィンが実の父親を知ったタイミングは七日戦役の間に、ルーファスの遺体の記憶を読み取ったレンからリウイ達にリィンの父親が知らされ、その後リィンに教えられ、特務部隊の総大将の任をリィンが受けた後ユミルにテオ達に報告した後、テオ達から真相を聞かされたことにしていますので、原作と違い、テオからの手紙イベントはスキップしました。それと今更ですがユン老師は一体いつになったら、登場するんでしょうね(汗)主人公が八葉一刀流のリィンを出した以上、多分次の軌跡シリーズの主人公はリィンとダブらせないためにも八葉一刀流ではないと思いますし……

 

 

第71話

6月11日――――

翌日、”要請”という形で来た様々な方面の依頼をこなし、恒例であるシュミット博士からの要請である更に難易度を上げた”アインヘル小要塞”の攻略を新Ⅶ組のメンバーと共に開始し、無事攻略を終えて要塞の出入り口に戻ると誰かがリィン達に声をかけてきた。

~アインヘル小要塞~

「みんなっ、お疲れ様!」

「あん……?」

「あら、アンタ達は。」
声が聞こえた方向に視線を向けるとそこにはジョルジュ、ティータ、リーゼアリア、トワ、エリゼ、アルフィンがいた。

「ふふ、無事にテストを終えられたみたいですね。」

「リーゼアリア……エリゼ達も。どうしてこんなところに?それにシュミット博士は…………」

「ああ、博士はデータを纏めるってさっさと研究棟に帰っちゃってね。」

「ふふ、お昼時になったので”約束”を果しにきたんです。ひょっとしてお忘れですか?」

「そういえば、一緒にランチをとる約束をしてたんだったな。」

「そっか、もうお昼なんだ。」

「ずっと小要塞にいたから気がつかなかったな。」

「小要塞でのテストの間に時間を確認するような余裕はなかったものね……」

「あはは……今回のテストも大変でしたし。」
今が昼時であることにようやく気付いたユウナとクルト、ゲルドの会話を聞いていたティータは要塞内でのユウナ達の苦労を思い返して苦笑していた。

「…………そういえば少々、空腹状態のようです。」

「ふふっ、いい匂いがしますけどアリア先輩、ひょっとして?」

「ええ、お姉様達にも手伝っていただいて宿舎でお弁当を(こしら)えてきました。」

「ふふっ、よければ皆さんで一緒にランチ、どうですか?」

「私達と新Ⅶ組の全員分を用意していますので、量を心配する必要はありませんから、遠慮なく食べてください。」
ミュゼの推測にリーゼアリアは頷き、アルフィンとエリゼはユウナ達をランチに誘った。その後リィン達は中庭でシートを広げてランチを始めた。

~トールズ第Ⅱ分校・中庭~

「いや、凄いなこれは……」

「ええ………彩り豊かで目も癒されるというか。」

「こんな綺麗なお弁当、初めて見たわ……」
弁当の中身を見たリィンとクルト、ゲルドはそれぞれ感心した様子で呟き
「しかも、どれも超美味しい~!疲れが吹っ飛んじゃう!」

「ユウナさん、そんなに急いで食べると喉につまらせてしまいますわよ。」

「ふふ、良かった。気に行っていただけて。」
嬉しそうな様子で次々と弁当の中身を食べるユウナをセレーネは苦笑しながら諫め、リーゼアリアは自分達が作った弁当を美味しそうに食べる様子を嬉しそうに見守っていた。

「ティータちゃんやエリゼちゃん達で協力して用意したもんねぇ。」

「えへへ、わたしは朝の仕込みくらいで本職のエリゼさんやアルフィンさん程じゃありませんよ。」

「フフ、そんな事はありませんわ。ティータさんとトワさんも料理が凄くお上手で、リィンさんに嫁いでから家事を本格的に学んだわたくしにとっても勉強になりましたわ。」

「私も自分の知らない味付けや出汁の取り方を知る事ができましたから、お二人との共同作業は私にとっても有意義な時間でした。」

「えへへ、さすがに褒めすぎですよ。でも博士の分、どうしましょう?せっかく作ってきたんですけど。」

「はは、後で届けてあげればいいさ。研究の合間に勝手に食べるだろう。

アルフィンとエリゼの賛辞に恥ずかしそうな表情をしたティータはジョルジュに訊ね、訊ねられたジョルジュは苦笑しながら答えた。


「ん~、この唐揚げなんて外はサクサク、中はじゅわっとジューシーで最っ高!卵焼きはキレイな形だし……でも、ちょっと味付けが珍しいような?」

「もしかして”お出汁”を使っているのですか?」

「ふふっ、セレーネちゃん、正解!実は隠し味にお出汁を加えてるんだ。」
ユウナの疑問に続くように答えたセレーネの推測にトワは笑顔で答え

「以前、上手なお出汁の取り方を東方出身の方から教えて頂きまして。よかったら後でお教えしましょうか?」

「わっ、いいんですか!?やった、お弁当のレパートリーが増える!」

「…………私もユウナさんと一緒に教えてください。卵焼きもそうですが唐揚げをこんなに美味しく調理する方法はまだシュバルツァー家でも学んでいませんし。」

「フフ、わたくしもエリゼやリーゼアリアと違って料理の腕前はまだまだですから、一緒に学びましょうね。勿論、リィンさんの新たな婚約者の最有力候補のリーゼアリアも一緒にね♪」

「お、皇女殿下、そう言う事はせめてお兄様のいない所で……」
エリゼの申し出を聞いたユウナは嬉しそうな表情をし、アルティナも続くように申し出をし、アルティナの申し出を聞いたアルフィンは微笑みながら答えた後リーゼアリアにウインクをし、ウインクをされたリーゼアリアはリィンを気にしながら答えた。

「みんな、”女子力”が高いわね……同じ女の子として、羨ましいわ……」

「うーん、負けてられませんね。私もそのうちリィン教官に真心こめた愛情弁当を……♪」
料理について話し合っているエリゼ達の様子をゲルドと共に羨ましそうに見ていたミュゼは頬を赤らめて微笑みを浮かべてリィンに視線を向けた。


「…………」

「兄様?……その、もしかしてお口に合わなかったでしょうか?」
一方フォークがあまり進んでいない様子のリィンに気づいたエリゼは不安そうな表情でリィンに訊ねたが
「ああいや……そうじゃないんだ。ただ、なんていうか……懐かしい味だなって思ってさ。一瞬、実家に戻ってきたような気がしたくらいだ。」

「あ…………ふふっ、当然です。シュバルツァー家の味付けですから。この機会にたんと召し上がってくださいね?」

「ああ、ありがたく頂くよ。」
リィンの感想を聞くと若干自慢げな様子になって答えた後リィンと二人だけの世界を作り、その様子を見たユウナ達は冷や汗をかいて呆れた。

「って、一瞬で二人の世界だし……」

「フフ、何だかんだ言ってもエリゼには敵いませんわね。」

「何と言っても、お兄様が最初に出会った女性で、お兄様の事を最も理解されている方ですものね。」

「むむっ、やはり正妻であるエリゼさんをまず味方にする必要がありそうですね……」

「もう、ミュゼったら……」
ユウナがジト目でリィンとエリゼの様子を見守っている中アルフィンとセレーネは苦笑し、真剣な表情を浮かべて呟いたミュゼの独り言を聞いたリーゼアリアは呆れた表情で溜息を吐いた。

「ハグハグ……この魚もなかなか……」
一方セリーヌはリィン達の様子は気にせず、魚を美味しそうに食べていた


「ガツガツ……ま、悪くはねえな。」

「…………家庭の味、か。そういえばこういうのは久しぶりだな………」
アッシュはエリゼ達が作った弁当を食べながら高評価をしている中クルトは懐かしそうな表情を浮かべた。
「クク、なんだ?母ちゃんの手料理が恋しくなっちまったか?帝都にいるんだろうし、毎週帰ればいいじゃねえか。」
クルトがふと呟いた言葉が気になったアッシュはからかい半分でクルトに指摘した。

「修行も兼ねているんだし、そうそう簡単には帰れないさ。君の方こそ、入学して3ヵ月、家の味が恋しくなったんじゃないか?」

「ま、そうだな。ちょいとメシマズな母親だったが無けりゃあ物足りねぇもんだ。」

「へえ……?」
アッシュの話を聞いたクルトは興味ありげな様子でアッシュを見つめた。

「モグモグ……ンな事よりちょいと物足りねぇ感じだな。おっ、いいところにサンドイッチが余ってるじゃねぇか。」

「僕のだ。……油断もスキもないな。」
クルトのサンドイッチを奪う為にアッシュはクルトの弁当箱へと手を伸ばしたがクルトは即座に弁当箱をアッシュの手から遠ざけた。
「ふふ、一応余分に作ってますからよかったらどうぞ。」

「おっ、そんじゃ頂くぜ~。」

「………やれやれ。」
二人のやり取りに気づいたリーゼアリアは余りの弁当箱をアッシュに渡し、その様子を見守っていたリィンは苦笑していた。

その後リィン達は弁当を綺麗にたいらげて解散となり――――シュミット博士に一言挨拶をすませた後、クロスベル帝国のルーレに向かうジョルジュを駅まで見送った後リィンとトワ、セレーネは次の特別演習についてのブリーフィングに参加するために第Ⅱ分校に戻った。

~ブリーフィングルーム~

「――――配った資料にもある通り、今度の演習地は西部フォートガード州だ。演習地は新海都フォートガードの近郊―――ただ、これまでより離れた場所となる。それに加え、東にある峡谷地帯のラクウェル市までが演習範囲となる。」

「なるほど………」

「フォートガードにラクウェルか。ラクウェルには行った事はあるが………」

「…………前2回と比べてもかなりの広範囲となりますね。」

「フォートガードで気づいたけど、フォートガードはクロスベルのオルディスと隣り合っているわね♪」

「クク、ちなみに先月にオルディスに潜入していた”結社の残党”の連中はラクウェルへ続く峡谷道の最中で空の女神の末裔達にとっ捕まったそうだぜ。」

「あ、あのランドロス教官……ミハイル少佐がいる目の前でその話をするのはちょっと……」
ある事実に気づいたレンは小悪魔な笑みを浮かべ、口元に笑みを浮かべて呟いたランドロスの話を聞いたセレーネは冷や汗をかいてミハイル少佐に視線を向けた。


「コホン、静粛に……!―――知っているかもしれんが、この場所に決まったのも訳がある。エレボニアの貴族諸侯による”とある会議”が開かれるためだ。」

「『帝国領邦会議』ですね………今年の開催がフォートガードになるのは聞いていましたが………」

「今までの演習を考えたら結社や地精が関わってくる可能性は高いでしょうねぇ?」
ミハイル少佐の話を聞いてある事を察したトワは表情を引き締め、レンは意味ありげな笑みを浮かべた。

「……っ」

「…………”結社”が動く可能性はかなり高いかもしれませんわね。」

「ああ、連中の”実験”とやらが行われるかどうかはわからんが。」

「それに”結社”ばかりでなく、”他の勢力”も今までの演習のように何らかの動きをするかもしれないぜ?」

「”他の勢力”――――”地精”ですか………」

「”地精”と名乗る勢力も含めて備えた方がいいと思います。」

「フフ、生徒達もそうですが貴方達も改めて覚悟を決めたようですね。意気やよし――――これならば本校にそう後れを取ることもないでしょう。」
リアンヌ分校長が呟いたある言葉が気になったリィン達はそれぞれ不思議そうな表情をした。


「へ………」

「本校に後れ……ですか?」

「分校長、それは…………」
リアンヌ分校長の言葉にトワが呆け、リィンが不思議そうな表情で呟いたその時、事情を知っているミハイル少佐は複雑そうな表情を浮かべた。

「その様子では、まだご存じでなかったようですね。―――どうやら今月から本校でも”特別演習”が始まるとの事です。」

「ええっ……!?」

「分校だけじゃないのかよ!?」

「…………本校は本校で帝国の危機に貢献すべきと皇太子殿下が仰られてな。第Ⅱとは別の場所にはなるが……週末、同じ日に出発することになる。」

「ふぅん?この間ランドロスおじさんに負けた事に加えて、クロスベルの演習ではクロスベル皇帝直々から演習での活躍の”感謝の証”として、”工匠”の中でもトップクラスの腕前のセティ達が作った武装を下贈されたことを知って対抗意識を燃やしてきたのかしら♪」

「ま、何にしても相手が自ら同じ土俵に上がってきたんだから、都合がいいじゃねぇか――――――分校(オレ様達)の”踏み台”になる”相手”としてなぁ?」

「ラ、ランドロス教官、さすがに今の発言は危険過ぎるのでは………」

「お願いしますから、少しは相手に対して遠慮をしてください………」

「このオッサンの頭の中には”遠慮”という言葉は絶対ないと思うぜ……」
ミハイル少佐の話を聞いたレンが意味ありげな笑みを浮かべている中、獰猛な笑みを浮かべたランドロスの言葉にトワは冷や汗をかき、セレーネとランディは疲れた表情で溜息を吐き

「ハハ……それよりも本校は大人数ですが……やはり演習用の特別列車で?」

「皇太子の提案で決まった事なんだから、特別列車どころか特別飛行船――――それこそ”紅き翼”を使うのじゃないかしら?”紅き翼”の所有者はアルノール皇家だし。」

「その可能性は確かに考えられそうですね…………」

「本校の演習は機密事項だ!他言無用とするように!繰り返すが、演習地はフォートガード地方、金曜の夜に出発し、期間は4日となる。それでは各自、明日までに計画概要を一読しておいてもらおう!」
リィンの疑問に対して呆れ半分の様子で答えたレンの推測にトワは複雑そうな表情で同意し、機密事項であった本校の演習について話し合っているリィン達の様子に内心溜息を吐いたミハイル少佐は気を取り直して今後の方針について説明し始めた。

ブリーフィングが終わり、分校や町を見回っていたリィンは宿酒場で悩んでいる様子のティータとゲルドが気になり、二人に近づいた。

~宿酒場”バーニーズ”~

「はぁ……せっかくだから、もっと気の利いた物にしたいんだけどなぁ。」

「中々決まらないわよね……」

「ティータとゲルドか……一体、何を悩んでるんだ?」

「リィン教官。」

「お疲れ様です。あはは……その、実は昔からの親しい人達に贈るプレゼントのことなんですけど。回を重ねる内に、最近はどうにも定番なものばかり選んでしまいがちで……」

「私もティータと同じで、この世界に来てから特にお世話になった人達のプレゼントをしようと思って……先月初めての特別演習をみんなと乗り越える事ができたから、その報告の手紙と一緒に贈ろうと思って経験があるティータにも相談に乗ってもらっていたんだけど、中々決まらなくて……」

「へえ……プレゼントか。俺も最近、贈る機会が多くて気持ちがわかるというか。喜ばれて、かつ新鮮味のある物ってなかなか難しいよな。」

「はい、そうなんです。その人の事も知っている分、かえって難しいところもあるような気もしますし……そうだ、リィン教官―――もしよければ、プレゼント選びに付き合ってもらえませんか?ゲルドちゃんもいいよね?」

「うん。他の人の視点からのアドバイスも必要って、ティータも言っていたし、私もお願いしたいわ。」

「お、俺がか……?ふむ、自信はないが俺でよければ協力させてもらうかな。」
ティータとゲルドの頼みに一瞬戸惑ったリィンだったが、すぐに二人の相談に乗る事を決めた。

「えへへ、やったぁ―――どうもありがとうございます!」

「それで、すでに候補とかは決まっているのか?」

「うん……何となく、どのお店で誰のものを買うかくらいは。言い忘れてたのだけど、今回はそれぞれ5人分のプレゼントを見繕う予定よ。」

「なるほど、そうだったのか。ならとりあえず、店に行って検討するのがいいかもな。」

「はい、お願いします。それじゃあまずは―――”如水庵”に行っていいですか?」

「ああ、じゃあ向かうとしよう。」
そしてリィンは二人のプレゼント選びのために雑貨屋に向かった。

~如水庵~

「ふむ、改めて見ると結構いろんな品が並んでいるよな。ちなみにここでは、どんな人へのプレゼントを選ぶつもりなんだ?」

「そうですね――――レンちゃんに贈るものを考えてます。リィン教官も知っていると思いますけどレンちゃんはリボンを愛用していて……ふわふわしつつも、小悪魔っぽい感じですよね。」

「よ、よりにもよってレン教官か……いきなり難題だな。ちなみにゲルドはどんな人へのプレゼントを選ぶつもりなんだ?」
ティータの話を聞いたリィンはレンの顔を思い浮かべて冷や汗をかいて困った表情をした後ゲルドに訊ね

「私はリフィア義姉さんよ。」

「ええっ!?リ、リフィア皇女殿下に!?というかゲルドはリフィア殿下とそんなに親しかったのか!?」
ゲルドの口から出た意外な人物の名前に驚いた後信じられない表情でゲルドに確認した。

「うん。私がお義父さん達の娘になったその日に訊ねて来てくれて、『お前が余の新たな妹か!今日から余の事は姉と呼ぶがよい!例え血が繋がっていなくても、お前も余にとっての大切な妹じゃ!だから、遠慮する必要はないぞ!』って、言ってくれて親しくしてもらっているとても寛容な義姉さんよ。」

「ハハ、リフィア殿下らしいな………しかし、ゲルドはゲルドでレン教官と同様――――いや、それ以上に難題だな。エリゼがいたら助かるんだが………ちなみに二人はここでどんな物を買うのか考えているんだ?」

「ちなみにレンちゃんは可愛い物好きで、いつもはブティックでプレゼントを選ぶんですけど……もう15歳って事を考えると、少し大人っぽい物もアリかなぁと。なので今日はあえて、ここで選んでみようと思いまして。」

「リフィア義姉さんは興味のあるものならなんでも好きだって言って部屋も見せてくれたんだけど……部屋には今まで旅をして気になって手に入れた物を飾ってあるって言っていたから、お土産とかも売っているここにしようかなと思ったの。」

「わかった――――それじゃあ考えてみるか。」
その後リィンは考えた末カウンターに来て二人にそれぞれの候補を伝えた。

「なら――――ティータは『東方銘茶』、ゲルドは『カゲマル人形』なんてどうだ?」

「東方のお茶――――その、すごくいいと思います!レンちゃんは紅茶好きなので、これなら必ず喜んでくれると思います。」

「そういえば”カゲマル”って、元々クロスベルの”ご当地マスコット”ってユウナが言っていたわよね……?うん――――私もすごくいいと思うわ。クロスベルに行ってきた何よりのお土産になるし、リフィア義姉さんの部屋にはぬいぐるみはなかったから、義姉さんも喜んでくれると思うわ。」

「はは、ならよかった。」

「すみません、それじゃあこちらを1ついただけますか?」

「私もこれを一つお願いします。」

「わはは、了解じゃ。」

「えっと、それじゃあ次は”カーネギー書房”に向かっていいでしょうか。」

「ああ、さっそく行こう。」
そして二人はリィンが選んだプレゼントを購入した後、今度は本屋に向かった。


~カーネギー書房~

「”カーネギー書房”か―――ここには本だけじゃなく遊具も置いてあるんだよな。それで、次はどんな人へのプレゼントを選ぶつもりなんだ?」

「はい、次はエステルお姉ちゃんとミントちゃんです。エステルお姉ちゃんは棒術と剣術をやっていて、釣りやスニーカー集めが趣味で―――いつも明るく元気でいっぱいの。ミントちゃんもエステルお姉ちゃんのように明るく元気で、卵料理が大好きで、外で遊ぶのが大好きな女性です。」

「はは、二人ともまさに本物の”親娘”のように二人揃ってアクティブで快活そうだものな。とりあえず、ティータの考えていることはわかってきたかな。アクティブな女性達だからこそ新鮮味を狙って本を贈りたいってことだろう?」

「ふふ、その通りです。」

「わかった。ちなみにゲルドはどんな人へのプレゼントを選ぶつもりなんだ?」

「私はリウイお義父さんと分校長よ。二人とも誇り高い人で、優しくて武術は相当の腕前で、それでいて知識も私なんかとは比べ物にならないくらい豊富な人達よ。」

「つ、次はリウイ陛下と分校長か。……………………ゲルドの考えている事もわかってきたな。それぞれ仕事で多忙な二人に、頭の体操代わりに遊具でリラックスしてもらおうと思っているんだろう?」

「ええ、そうよ。」

「わかった――――それじゃあ考えてみるか。」
その後リィンは考えた末カウンターに来て二人にそれぞれの候補を伝えた。


「ティータは――――『帝国山水百景』と『帝国甘味集』なんてどうだ?水辺や花の写真も多いし、甘味(デザート)は卵を使う事が多いらしいから、二人のそれぞれの趣味や好みに合うんじゃないか。」

「確かに――――野外を出歩く事も多いし、色んな町に出歩くからピッタリかと!それに……もう一度エレボニアに行きたがっていたので…………」

(ふむ……?)

「と、とにかく二人にピッタリの最高のプレゼントだと思います。」

「はは、ならよかった。ゲルドは――――二人にはそれぞれVMのスターターセットなんてどうだ?」

「VMは確か最近流行り出したカードゲームよね……?うん、二人とも仕事の合間にカードのデッキを考えたり、カードを持っている人達と対戦したりできるから二人にとってピッタリだと思うわ。――――すみません、これを二つください。」

「私はこれとこれをを一つずつください。」

「あいよ、まいどあり!」

「それじゃあ、最後はブティック”ラパン”に向かっていいでしょうか。」

「ああ、了解だ。」
そして二人はリィンが選んだプレゼントを購入した後、最後にブティックに向かった。

~ブティック”ラパン”~

「この店はけっこうお洒落で……って、ユウナたちとリーゼアリアも来ているのか。ふむ、内容によっては相談に乗ってもらうのもアリかもな。」
ブティックに入ったリィンはブティックで服を選んでいるユウナとミュゼ、リーゼアリアに気づいた。
「ふふ、確かにそれもいいかもしれませんね。ちなみに最後の贈り相手はヨシュアお兄ちゃんとツーヤちゃんです。」

「私はお義母さんとイリーナお義母さんよ。」

「よ、予想はしていたがやっぱりルクセンベール卿達もか……って、ゲルドが言っていた『イリーナお義母さん』って、まさかリウイ陛下の正妃であられるイリーナ皇妃陛下の事か?」
二人が送る相手を思い浮かべたリィンは冷や汗をかいて困った表情をした後ある事に気づき、表情を引き攣らせてゲルドに確認した。
「うん。イリーナお義母さんは分校長の手配でプリネさん達の元に連れられた私からプリネさんやお義父さん達と一緒に事情を聞いた後、私の身の上を知って私の事をお義父さん達の”家族”にする事を提案してくれた人で、私にとってはもう一人のお義母さんよ。」

「多分リィン教官も知っていると思いますけど、イリーナ皇妃陛下ってとっても綺麗で、優しくて素敵な皇妃様なんですよ!」

「ハハ、俺も面識はあるから、どんな方かはある程度は知っているよ。(それにしても今更だが、ゲルドが考えているプレゼントの相手はみんなメンフィル帝国の皇族か上層部クラスって………まあ、ゲルド自身が分校に来た経緯を考えれば、当然と言えば当然なんだが……)――――とりあえず、何かよさそうなものを見繕うか。」
ゲルドとティータの話を聞いたリィンは苦笑しながら内心ゲルドの人脈に冷や汗をかいた後気を取り直してプレゼント選びを開始し、ユウナ達にも助言を聞きつつ、考えた末カウンターに来て二人にそれぞれの候補を伝えた。


「ティータはヨシュアには洒落たニット帽、ルクセンベール卿にはシンプルな髪飾りなんてどうだ?」

「へえ、帽子と髪飾りですか。」

「ああ、二つともラインナップの一つに加えられるし、常に身に付けるものでもないからな。恋人であるエステルへの配慮や公の場に呼ばれる事が多いルクセンベール卿自身への配慮としても十分かなって。」

「なるほど……そこまで考えてくれたんですね。お姉ちゃんたちはラブラブなので心配いらない気もしますけど……最高のプレゼントだと思いますし、ツーヤちゃんもプリネさんの親衛隊長や貴族の人としてパーティーとかにも出席していると思いますからそういった配慮も必要だと思いますから髪飾りも最高のプレゼントだと思います。」

「ゲルドはセシル様にはシンプルな腕時計を、イリーナ皇妃陛下には上品なリボンなんてどうだ?」

「時計とリボン?」

「ああ、日々看護師として多忙なセシル様には服やアクセサリーの類よりも仕事の合間でも時間を確認できる時計の方が実用的で喜ばれると思うしな。イリーナ皇妃陛下の場合は逆に服やアクセサリーの類はもっと上質なものをたくさん持っていると思うから、お忍びによるプライベートを過ごす時用に気軽に身に着けられるものの方がいい上、リウイ陛下の正妃として様々な高価なアクセサリーを持っている必要があるイリーナ皇妃陛下にとって多分リボンは新鮮なアクセサリーでもあると思うんだ。」

「あ、そういえばイリーナ皇妃陛下って、リボンをつけている姿を今まで一度も見た事がないですね。」

「そうなんだ……―――だったら、二人にとって最高のプレゼントになりそうね。すみません、これとこれを1つずつください。」

「あ、わたしはこれとこれを1つずつお願いします。」

「ああ、お買い上げありがとう。」

「ふふ、どうやら素敵な品を選べたようですね。」

「みたいね。アドバイスできてよかったわ。」

「ふふ、そうですね。」
リィンが二人にアドバイスをして、アドバイスされた二人がそれぞれプレゼントを購入している所をミュゼ達は微笑ましそうに見守っていた。


~リーヴス~

「えとえと……今日はどうもありがとうございました!」

「どの品も素敵で、”その人らしさ”もあって、それでいて新鮮味もあって……私とティータじゃここまで思いつかなかったから、本当にリィン教官のおかげよ。」

「はは、そう言ってくれると嬉しいよ。」

「その、これはお礼の品なんですけど……」

「私はこれを。」
ティータはクオーツ”練気”を、ゲルドはアクセサリー”エナジーリング”をリィンに渡した。

「クオーツと指輪か……クオーツはティータが合成したのか?」

「はい、その中でもリィン教官に合う物を選びました!」

「はは、それは何よりだな。ちなみにゲルドがくれたこの指輪は?」

「それは”エナジーリング”と言って、クオーツの”省EP”のように魔術や(クラフト)の消費を節約してくれる私の世界のアクセサリーの一つよ。剣(クラフト)が主力の教官にとっても役に立つと思うわ。」

「ゲルドの世界の……そんな貴重な物を本当にもらっていいのか?」

「うん、旅の間でたまたま手に入れた物で、魔力を自分で回復する方法がある私自身には不要な物だから、遠慮なく使って。」

「わかった、ありがたく使わせてもらうよ。……それはそうと、ちょっと気になっていたんだが……ゲルドは”予知能力”を使って、どのプレゼントがいいのかとかはわからなかったのか?まあ、もしそれで選ぶことができたとしてもゲルドの嬉しさが減るようなものだから、あえて使わなかった事もわかるが。」
二人の心使いに感謝したリィンはある疑問をゲルドに訊ねた後苦笑した。


「それもあるけど、以前にも言ったように”予知能力”で見える未来はあくまで”可能性”よ。”本当の未来”は誰にだって変えられるわ――――それこそ、災害による大惨事の被害や戦争による悲劇を防いだりする事もね。」

「ゲルドさん…………うん、そうだよね。”リベールの異変”や”影の国”の時もとても大変な状況だったけど、お姉ちゃんたちみんなが力を合わせて解決へと導いたんだから!」

「ハハ、それを言うなら俺の方もそうかもしれないな。それにしても”予知能力”の件で気になっていたが、ゲルドが今こうして第Ⅱ分校に通っている事も、ゲルドが異世界にいた時にわかっていたのか?」
ゲルドの話を聞いてそれぞれ心当たりがあるティータと共にかつての出来事を思い返したリィンは懐かしそうな表情をした後、ゲルドにある事を訊ねた。

「ううん、私が元の世界を旅していた時はこんなにも暖かくて賑やかな未来を一度も見た事がないわ。―――だからこそ、私にとって”今”は本当に心から幸せな状況よ。”家族”やたくさんの友達ができて、どこにでもあるありふれた何気ない日常を過ごす平穏な日々は…………」

「ゲルドさん…………えへへ、その気持ち、わたしもわかります。クーデターや”異変”を経験してから、”日常”を過ごせる事が幸せな事である事を改めて自覚できましたし。」

「そうだな………ゲルドの”幸せ”が続くように、俺にできる限り力になるよ。生徒の学生生活をサポートするのが教官の務めでもあるしな。」

「あ、勿論わたしも力になりますよ!友達が困っていたら力を貸すことは当然なんですから!」

「二人とも……ありがとう。」

その後二人と別れたリィンは街を軽く見回った後宿舎へと戻って行った――――

 
 

 
後書き
エウシュリー新作、面白くて相変わらずの時間泥棒なんですが(おかげで更新も遅くなります(ぇ))……GP制度がウザすぎる(怒)仲間を一々貴重なポイント払って雇う事もそうですが、装備の買戻しとかふざけてんのかと言いたいですよ……果たして今年中にクリアできるのやら(遠い目) 

 

第72話


―――その後、料理研究会とユウナ達が腕を振るった結果、晩餐のメニューが数点追加され……リアンヌ主催のリーゼアリア歓迎会はオルキスタワーで供されたメニューに勝るとも劣らぬ豪華さとなった。

更に、料理が余りそうということで事前に近隣の人々にも声がかけられ……リーヴスの夕べは思いもかけず、賑やかなものになるのだった。

~宿舎・女子風呂~

「はぁ、こんなに本格的な浴室があるなんて……ふふっ、ちょっと驚きました。」

「あはは、どう考えても分校長の趣味だと睨んでるけどね。」

「そういえば、第Ⅱの宿舎になる時に大規模な改修がされたそうですね。元々は没落した領主の屋敷だったそうですが。」

「ええ、そうらしいですね。10年ほど前、悪徳商人に騙されて、借金を作って領地を手放したそうで……今では外国で事業を立ち上げ、頑張ってらっしゃるみたいですけど。」

「そうだったの……」

「は~……相変わらず情報通ねぇ。」

「ミュゼはそういった情報を一体どこから仕入れているのかしら?」

(な、何だかどこかで聞いたことがあるような……)
ミュゼの情報をリーゼアリアやユウナ、ゲルドが感心した様子で聞いている中心当たりがあるティータは冷や汗をかいた。


「でも、一緒のお風呂なんて少し抵抗あるかと思ったけど……みんな、全然平気みたいね?」

「?……何か問題でも?」

「いや、普通は恥ずかしがるでしょ。……って、アルは平気そうだけど。リーゼアリアさんとかティータやゲルドとか恥じらう所が見られるかもなんて。」

「あはは……実は小さい頃から温泉とかには入り慣れてまして。割と近くに温泉地があったんです。」

「私はこっちの世界に来てからは何もかもが新鮮で、むしろこうしてみんなでお風呂に入っておしゃべりする事は楽しいくらいよ。」

「その……私は幼い頃お兄様達の故郷――――ユミルにも遊びに行った事が何度かありまして。ご存じの方もいるかもしれませんがユミルは温泉郷として知られている場所なんです。」

「そ、そうだったの!?ティータも意外だけどリーゼアリアさんは初情報というか。」
ティータとリーゼアリアの説明を聞いたユウナは驚きの声を上げた。

「北部の温泉郷ユミル――――リィン教官達の故郷ですね。風情があって、落ち着ける所です。……ちなみに、ベルフェゴール様達の話曰く、エリゼ様やアルフィン様は露天風呂でリィン教官と一緒に入浴した所か、性行為も行った事があるそうです。……勿論、その時は周囲にわからないようにベルフェゴール様達が結界を展開していたそうですが。」

「そ、そういう余計な情報は言わなくてもいいわよ!それよりも露天風呂でまで”した”事があるなんて、やっぱりあのエロ皇帝の影響を受けているじゃない……そうなると、ロイド先輩も怪しくなってきたわね……ブツブツ……」

「あ、あはは……」
ジト目である情報を口にしたアルティナに顔を真っ赤にして指摘したユウナはジト目になってブツブツと呟きだし、その様子を見た周囲の者達が冷や汗をかいている中ティータは乾いた声で笑っていた。


「ふふ、しかしそうなると―――リーゼアリア先輩はリィン教官と、ティータさんはアガットさんと仲良く入浴されたんでしょうか?」

「ふえっ!?わ、わたしはそんな………」

「い、従兄ですし、幼い頃だったら何度か……」
意味ありげな笑みを浮かべたミュゼの問いかけにティータとリーゼアリアはそれぞれ頬を赤らめて答えた。

「ふふ、でも、落ち込んだリィン教官を元気つけるために大胆に入ったり……ティータさんは家族ぐるみのノリで一緒に入ってドキドキとかありそうですけど♪」

「そ、そんな事したことないわよ!私とお兄様達の交流は最近ようやく始まったばかりである事は貴女も知っているでしょう!?」

「…………ううう~~~っ………」
ミュゼの指摘にリーゼアリアは顔を赤らめて反論し、ティータは赤らめた顔を俯かせていた。

「…………ミュゼさん、流石ですね。」

「あの様子だとリーゼアリアはともかく、ティータは当たっていそうよね……」

「お、恐ろしい子―――て言うかアンタも少しは照れなさいよっ!――――は~、でもいいなぁ。みんな綺麗な髪をしてて。リーゼアリアさんはマリンブルーでティータはハニーブロンドだし、アルとゲルドに至っては反則すぎる銀髪と純白の髪。アンタも黙ってればゆるゆるヘアーのお嬢様だしね。」
周りの女子達の髪を羨ましがったユウナは隣にいるミュゼの髪をいじり始めた。


「ふふっ、ユウナさんの髪も素敵だと思いますけど。」

「先程、髪を洗う時に下ろされていましたけど……ずいぶん印象が違いましたね。」

「うんうん、新鮮ですし、すごく女の子っぽかったです!」

「そういえば結構、マメに手入れしてますよね。」

「そうね。いつも髪の手入れに一番時間をかけているものね、ユウナ。」

「アンタたちみたいに手入れもしないで髪も肌もツヤツヤな子とは違うの!」
アルティナとゲルドの言葉を聞いたユウナは羨望の眼差しで二人を見つめながら答えた。

「そうそう、折角の機会ですし。乙女にしかできない有意義な話をしませんか?」

「え………」

「乙女にしかできない……?」

「一体どういう内容なのかしら……?」
ミュゼの提案にティータは呆け、アルティナとゲルドは首を傾げた。
「ええ、ずばりリィン教官の好みのタイプについてです♪ご存じのようにリィン教官には既に姫様を伴侶に迎えている事に加えて、エリゼさんを始めとした多くの婚約者もいらっしゃる状況です。例えば、ここにいる面々だったらどなたが一番の好みなんでしょう?」

「ま、また物議を醸しそうなことを……」

「……確かに少々、興味深くはありますね。」

「教官には色んなタイプの女性が既にいるものね。」

「あのあの、わたしは……」
ミュゼの言葉に冷や汗をかいたユウナはジト目になり、アルティナとゲルドは興味ありげな表情を浮かべ、ティータは気まずそうな表情をした。


「ふふ、ティータさんは参考程度くらいに考えて。―――アリア先輩、そこの所はどうでしょう?ふふっ、やっぱり一番は正妻予定のエリゼさんが当然として、その次はエリゼさんのように”妹”として扱っているアリア先輩なんでしょうか♪」

「ゴクッ……」

「ドキドキ……」

「「……………………」」

「そうね――――特にタイプは無いんじゃないかしら。実際にお兄様には皇女殿下を始めとした多くの女性達がお兄様と将来を共にすることになっているのだし。お姉様にセレーネさん、ベルフェゴールさんとリザイラさん、メサイア皇女殿下とアイドス様、そしてアリサさんとアルフィン皇女殿下と、みんなタイプはほとんど異なる女性だもの。」
全員に注目されたリーゼアリアは冷や汗をかいた後落ち着いた様子で答えた。


「た、確かにそれを聞くと改めてとんでもないというか……」

「”女の敵”というヤツですね。」

「でも姫様によれば、男性のお仲間とも熱い視線を交わしあっていたなんて……♪」

「ふえええっ……!?」

「…………ミュゼ、女学院の悪癖を広めないでちょうだい。」
そしてユウナ達はそれぞれ声を上げて笑った。


「はあ……でも確かにリィン教官って少し放っておけない所もあるかもね。それを言ったらクルト君も、あのアッシュもそうなんだけど……」

「あらまあ。」

「って、何でも拾わないの!」

「…………ちょっと不思議です。女子と男子―――分校に入るまで性別の違いなど余り意識したことはありませんでしたが……やはり違うものなんですね。」

「あ…………」

「アルティナさん……」

「…………そうですか。」

「うんうん、アルも3ヵ月でずいぶんと成長したよね~。背とか胸は若干反則技のような気もするけど。」

「そういえばアルって、セティさん達が作った薬のお陰で成長しているんだっけ……?」

「余計なお世話です。……わたしの場合は、事情が特殊ですから仕方ありません。」

「あはは……!可愛いな~、アルは!」
若干不満げな様子で答えたアルティナにユウナは思わず抱きついた。

「だ、だから過度の接触は……」

「あはは……」

「……ふふっ……」

「ふふっ、失礼するねー!」

「うふふ、もう始めちゃっているみたいね♪」

「フフ、私達もお邪魔させて頂きますわね。」
するとその時トワとレン、セレーネが浴室に入ってきた。

「あ、セレーネ教官。」

「それにトワ教官とレン教官も。」

「一緒に入るんですか―――」
ティータがトワ達に訊ねかけたその時、トワ達の背後から現れた人物達を見るとそれぞれ驚きの表情を浮かべた。

「フフ、失礼。」

「私達もご一緒させて頂きますわね。」

「ふふっ、こんなにも多くの女性達とお風呂を入るなんて、2年前の内戦以来ですわね♪」

「はーい♪今回は私達も一緒よ♪」

「ふふふ、お望みでしたら昨夜の続きを教えてあげても構いませんよ?」

「リ、リザイラ様……一体昨夜、何があったんですか……」

「まあ、あの口ぶりだとユウナ達の教育に悪い事を教えているのでしょうね……」
リアンヌ分校長を筆頭にエリゼ、アルフィン、ベルフェゴール、リザイラ、メサイア、アイドスがそれぞれユウナ達やトワ達同様湯着の姿で現れた。


「……………………」

「す、すごい……」

「…………圧倒的ですね。」

「うん、特にリアンヌ分校長とセレーネ教官、それとベルフェゴールさんが凄いわ。」

「お、お先に失礼しております。」
リアンヌ分校長達のスタイルの良さにユウナ達はそれぞれ圧倒されていた。

「ふふ、従妹殿もいることですし、たまには生徒と裸の付き合いも悪くないと思いまして。」

「あはは……気にしないでゆっくり浸かってねー。」

「まあ、リアンヌ分校長やセレーネ達のこのスタイルの良さを見て、まだ成長中のレン達がゆっくり浸かるのは無理があるかもしれないけどねぇ?」

「レ、レン教官。」
その後リアンヌ分校長達もそれぞれ身体を洗った後湯に浸かり始めた。


「フフ、やはり風呂はいいですね。しかし皆女性らしく盛り上がっていたようですが……メンツを考えるとシュバルツァー教官から心を寄せられ、新たな伴侶にしてもらう方法の話でもしていたのでしょうか?」

「あ、新たな伴侶にしてもらうって……」

「はい、そうなんです♪」

「…………そんな話では無かったと思いますが。」
リアンヌ分校長の指摘にそれぞれ血相を変えている中ユウナは表情を引き攣らせ、ミュゼは笑顔で答え、アルティナはジト目で指摘し
「あら、そういう話をするんだったら、まず最初に私達を呼べば、的確なアドバイスをしてあげるわよ♪」

「ふふふ、我々は既にご主人様の心を自らの行動によってつかみ取ったという実績がありますしね。」

(お二人の場合ですと、どう考えても”なし崩し的”であるような気がするのですが……)

(まあ、それを言ったら私達も二人の事は言えないでしょうね……)
ベルフェゴールとリザイラがそれぞれ答えている中、冷や汗をかいたメサイアの念話にアイドスは苦笑しながら答えた。

「――――皆さん、頼るにしてもそちらのお二人は”絶対に止めて下さい。”お二人の事ですから自分達が楽しむために大方兄様を押し倒して関係を結ぶ方法やサディスティックな方法で無理矢理兄様の心を縛り付けて兄様に想いを寄せられる方法を教えると思いますから。」

「エ、エリゼお姉様………」

「は、はわわわわ……っ!?」

「ふふっ、わたくしとアリサさんは実際にベルフェゴールさん達に相談して今エリゼが仰った方法に”若干近い方法”で、ようやく旦那様にわたくし達の”想い”に気づいて頂いて、伴侶にしてもらったという実体験がありますから、反論できませんわね。」
ジト目になったエリゼの指摘にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中セレーネは表情を引き攣らせ、トワは顔を赤らめて慌て、アルフィンは苦笑していた。

「エリゼったら、酷いわね~。少なくてもドSのリザイラよりは私の方が的確なアドバイスができると思うけど♪」

「ふふふ、出会い頭にご主人様の”初めて”を奪って無理矢理”関係”を結び、ご主人様が性欲旺盛になるように”調教”した貴女にだけはそれを言われる筋合いはないと思うのですが?」

「どっちもどっちですわよ………」

「”ドS”ってどういう意味なのかしら……?それに、ベルフェゴールさんは一体どんな方法でリィン教官が性欲旺盛になるように調教したのかしら……?」

「わー!わー!学生のあたし達は知らなくていい事よ!」
ベルフェゴールとリザイラのとんでもない会話にその場にいる多くの者達が再び冷や汗をかいている中メサイアは呆れた表情で指摘し、首を傾げているゲルドにユウナは顔を真っ赤にして指摘した。


「ちなみに”男女の営み”の知識が豊富なベルフェゴールさんに聞きたいことがあるのですが……ずばり、私や新姫様、そしてアリア先輩はリィン教官にとって興奮する女性なんでしょうか♪」

「ミュ、ミュゼ!?」

「うふふ、少なくても今挙げた貴女を含めた3人は年齢の割には大きな部類に入る貴女達の胸なら十分挟めるサイズだからご主人様のストライクゾーンに入っていると思うわよ♪昨夜も説明したようにご主人様は否定しているけど、胸が大きい女性が好みで、実際胸で”挟んであげる”とすごく喜ぶし、セックスをする時はいつも胸を”揉んで”いるもの♪」
ミュゼのベルフェゴールへの質問にリーゼアリアが驚いている中ベルフェゴールはからかいの表情で答え、ベルフェゴールの答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ふふ、それは朗報ですわ♪お互いによかったですわね、アリア先輩♪それとその時に備えて今から練習をしておいた方がいいかもしれませんわね♪」

「そこで私に同意を求めないでよ、ミュゼ……っ!」

(”昨夜も説明した”って………一体昨夜の集まりでベルフェゴール様達は何をユウナさん達に説明したんですか……?)

(知らない方がいいわよ……)
嬉しそうな表情を浮かべたミュゼに話を振られたリーゼアリアは顔を赤らめて声を上げ、表情を引き攣らせたセレーネに小声で訊ねられたエリゼは疲れた表情で答えた。
「ベルフェゴールさんは胸で挟めば挟んであげるとリィン教官は喜ぶって言っているけど、一体何を挟んでいるのかしら……?」

「ちょっ、ゲルド!?ベルフェゴールさんが言っている事は全部学生のあたし達はまだ知ってはいけない事だから、気にする必要はないわよ!」

(アガットさんも胸が大きい方がいいのかな……?)

(………胸も身長同様順調に成長はしていますが、念の為にセティさん達に豊胸薬を新たに依頼すべきでしょうか………?)
不思議そうな表情で首を傾げているゲルドにユウナは顔を真っ赤にして必死の様子で指摘し、ティータは不安そうな表情でユウナ達と違ってあまり大きくない自身の胸を見つめ、アルティナは真剣な表情で考え込んでいた。



「――――少し指南をしましょう。彼のような手合いは八方美人ではありますが、いざ想いをよせる事になれば一途で頑固になりますでしょうし、例えその相手が複数になったとしても一度心を決めた相手には真剣に向き合うでしょう。ならば如何に雰囲気を作って己が土俵に引き込むかが肝要になるでしょう。」

「そ、そうなんですか?」

「少々興味深いです。」

「でも、実際に教官はエリゼ達の事をとても大切にしているものね。」

「…………一途で、頑固なタイプはいかに雰囲気を作るか……」
リアンヌ分校長の指南にそれぞれ血相を変えている中ユウナとアルティナ、ゲルドは興味ありげな表情を浮かべ、ティータはアガットの顔を思い浮かべて真剣な表情を浮かべた。

「ふふっ、先輩。これは聞き逃せませんね♪」

「もう、ミュゼ……!」

「――――ハッ!もう、分校長……っ!」

「うふふ、でも実際にパパの側室の一人の分校長が言うと真実味があるわよね♪」
ミュゼにからかわれたリーゼアリアがミュゼを睨み、トワが疲れた表情で声を上げている中レンは興味ありげな表情で指摘し

「兄様とリウイ陛下は性格等も含めて、ほとんど似ていないと思いますが………」

「フフ、ですが様々なタイプの女性を落としているという意味では一緒かもしれませんわね。」
レンの指摘を聞いたエリゼは困った表情で意見をし、セレーネは苦笑しながら答えた。


「側室の一人って…………ぶ、分校長って、結婚していたんですか!?」

「しかもお相手があのリウイ前皇帝陛下だなんて…………その、ロッテ共々ずっと気になっていたのですが……リアンヌ分校長は250年前の”獅子戦役”にてドライケルス大帝と共に活躍し、獅子戦役後消息が突如途絶えたあの伝説の”槍の聖女”――――リアンヌ・サンドロッド卿なのでしょうか……?」
レン達の会話を聞いてある驚愕の事実に気づいたユウナは一瞬呆けた後驚きの声を上げ、リーゼアリアは信じられない表情をした後興味ありげな様子でリアンヌ分校長に訊ねた。
「フフ、正確に言えば”私はリアンヌ・サンドロッドではない”のですが、この肉体の持ち主はそう呼ばれていた人物ですね。」

「”リアンヌさんが正確に言えばリアンヌさんではなく、肉体の持ち主がリアンヌ・サンドロッドと呼ばれていた人物”……?それって一体どういう意味なのかしら?」

「まあ、初めて聞けば”存在自体が非常識”であるゲルドさんにとっても”非常識”に思えるような事実です。」

「あ、あはは…………」
リアンヌ分校長が答えた答えに首を傾げているゲルドにアルティナはジト目で指摘し、アルティナ同様リアンヌ分校長の正体を知っているティータは苦笑していた。その後もユウナ達はリアンヌ分校長達を交えて様々な事について談笑していた。


~同時刻・リィンの私室~

一方その頃リィンは今後の授業の準備を終えて一息ついていた。
「――――熱心ねぇ。」
するとその時セリーヌが部屋に入ってきた。
「ああ―――演習地も決まって明日は機甲兵教練もあるからな。新しい機体もあるし、準備することは山積みだよ。そういえば、エリゼ達と風呂に入るんじゃなかったのか?」

「…………フン。とっとと抜け出してきたわ。なんか巻き込まれてのぼせそうな予感がしたし。」

「…………?そうだ、そういえば――――」
セリーヌの言葉に首を傾げたリィンだったがある事に気づき、立ち上がってラジオに近づいた。

「ラジオ……?何か聞いてる番組でも―――」
リィンの行動にセリーヌが首を傾げているとリィンがラジオのスイッチを入れた。するとある音楽が流れ始めた。

「ちょ、これって……なんでわざわざヴィータの番組なんか聞くのよ!?」

「まあ、一応今回の件でファンになったからな。……あの人の事だから何か狙いがありそうな気もするし。」

「ハア、ただの暇つぶしか悪ふざけでしょ…………」
そして二人は”アーベントタイム”を聞き始めた。


――――みなさんこんばんわ。アーベントタイムのお時間です。トリスタ放送が6月11日、夜9時をお知らせします。みなさん、日曜の夜はいかがお過ごしでしょうか?6月も半ば…………そろそろ1年の半分が過ぎるんですね。長かったような、短かったような。

そんなこんなで今年もやってきました。――――そう、”夏至祭”の季節ですね。この時期、各地で開かれる伝統的なお祭り―――ああ、帝都だけは一月遅れですが、土地によって色々な催しが開かれるのが特徴ですね。個人的にオススメするのはやっぱり海沿いの”フォートガード州”とクロスベル帝国の”ラマール州”でしょうか!

”海都オルディス”では、恒例行事として湾内に無数の篝火を浮かべる事で有名で、クロスベル帝国領と化してからは失われる事も危ぶまれていましたが、ラマール州の責任者であり、先月の”三帝国交流会”にも参加したカイエン公爵令嬢姉妹がクロスベルの両皇帝陛下達にオルディスでの”夏至祭”が続けられるように嘆願し、その結果寛大な両皇帝陛下達が許可を出したお陰で続行されています。そしてオルディスがクロスベル帝国領と化した事で”新海都”となったフォートガードでは、オルディスと同じ行事を行う事を予定されていましたが残念ながら去年は諸事情で自粛されたため、楽しみにしている人も多いのでは?…………ふふ、そういう私もその一人です。

夏至祭の雰囲気をしっとりと楽しみながら、ショットグラスの氷をカランと回して…………そんなロマンチックで大人な夜を過ごせたら素敵ですね。


「…………次の演習地はフォートガード州なんだよな。そういえば前回も、前々回もサザ―ラントにクロスベルだったか。」

「ったく、完全に狙っているとしか思えないチョイスじゃない。”結社”の動きを読んでいるのか政府の動きを見越しているのか…………ま、多分両方でしょうね。」

「ああ…………だろうな。」
アーベントタイムを聞いていてふと先月と先々月のアーベントタイムでも特別演習の実習地をネタにしていたことを思い出したリィンの話を聞いたセリーヌは呆れた表情で呟き、リィンはセリーヌの推測に頷いた。


―――そうそう、フォートガード州といえば、お楽しみは新海都だけではありません。沿岸部にはビーチなども点在していますし、新鮮な海産物を使った料理も魅力的ですね。峡谷地帯の”歓楽都市ラクウェル”はカジノや小劇場が有名ですし…………あとは沖合いにある”ブリオニア島”かな?定期便こそ出ていませんが、豊かな自然と古代のロマンが溢れた知る人ぞ知る穴場スポットなんだとか。ふふ、夏至祭を堪能したあとは、海水浴にギャンブル、ボートを借りての歴史探訪なんかもアリかもしれませんね。


「ブリオニア島…………旧Ⅶ組から聞いたことがあるな。2年前、旧Ⅶ組のB班が特別実習で行ったらしいな?」

「ええ、で、エマ達はノルドに行ったはずよ。そういえば…………その島は前に”長”が気にかけてたわね。エレボニアでも有数の霊跡があるとかなんとか――――」

「へえ……?”長”―――エマが”お祖母ちゃん”、クロチルダさんが”婆様”と呼ぶ人だよな?」
セリーヌの話を聞いてある事が気になっていたリィンはセリーヌに確認した。
「ええ………実物を見たら驚くと思うけど。あの子たちにとったら実の祖母同然でしょうね。」

「という事は…………血は、繋がってないんだな?」

「当然そうなるわね――――なに、興味があるの?」

「まあ、当然気になるかな。」

「…………」
リィンが魔女の眷属(ヘクセンブリード)の”長”を知りたがっている事に考え込んでいたセリーヌはすぐに結論を出して、リィンに視線を向けた。
「…………フフ、いい機会かもね。エマから話ておいてくれって頼まれてもいたし。」

「え。」

「少しだけ、教えてあげるわ。あの子たちの過去と――――”魔女の眷属(ヘクセンブリード)”についてね。」


―――エマにヴィータ。とある里を拠点とする一族の末裔(すえ)として生まれた二人の娘達。ヴィータは早くに両親を亡くしたけど、その天賦ともいえる才能を見込まれ、”長”の一番弟子として引き取られたわ。一方、エマの母親は”在野の魔女”――――世俗の街で暮らしていたけど、不幸な事故で命を落としてしまった。エマは幼くして”長”に引き取られ、そして二人は実の姉妹のように育ったわ。長が生み出した2匹の使い魔もそれぞれ与えられたわ。

才気溢れるヴィータに、ちょっと引っ込み思案のエマ。どちらも善き魔女として成長し、穏やかな日々が続いたけど…………――――16歳の時、ヴィータが”巡回魔女”に志願したの。

里の外、世の情勢を見極める役目――――”長”は安心して送り出したけど、半年でヴィータは消息を断ってしまった。エレボニアのみならず、大陸全土にまたがり暗躍する結社”身喰らう蛇”…………その首領たる”盟主(グランドマスター)”と邂逅し、魔女としての使命を棄ててしまったの。”長”は随分後悔したみたい…………過去にも似たような事があったのにどうして警戒できなかったのかって。ここだけの話、ヴィータが”七日戦役”の件でメンフィルの標的(ターゲット)になった事を知った時、里に伝わっている禁術や秘術、貴重な魔導書等や最悪は”長”自身の身柄を対価に何とかヴィータの命を助けてもらえるようにメンフィルと交渉するつもりだったらしいわ。

話を戻すけど慕っていた”姉”を失ったエマのショックはそれ以上だった。『あやつ事は忘れよ』という”長”の言葉にも納得せず、その日からひたらすらに修行と勉学に励んでいったわ。同じ巡回魔女となっていつか”姉”を連れ戻せると信じて。

―――そうしてエマは16歳になり、渋る長から巡回魔女の資格を認められた。在野の魔女なんかの協力も得てトールズを受験し、奨学生の資格も得て……そして17の春、旧Ⅶ組と出会い、その半年後に起こった内戦でアンタと出会った。


「………ありがとな、セリーヌ。ようやくエマやクロチルダさん、セリーヌのこともわかってきたよ。」
セリーヌが過去の話を終えるとリィンが感謝の言葉を述べた。
「ま、部外者には禁じられてるけどアンタたちⅦ組や特務部隊はもう身内のようなものでしょうし。”長”が認めてくれるよう、そのあたりはエマが掛け合ってたわね。」

「そうか…………クロスベルでの別れ際に俺に預けてくれたあのペンダントといい。通信でもいいが―――どうかお礼を言っておいてくれ。」

「あー、自分で言いなさい。近いうちにまた会うんでしょ?」


―――リスナーの皆さん。それでは今週はこのあたりで。ふふっ……セリーヌ、リィン君も今夜は早く寝た方がいいわね。

そしてアーベントタイムの終わり際にミスティ――――クロチルダがリィンとセリーヌを名指ししての言葉を口にすると二人はそれぞれ驚きの表情を浮かべてラジオに視線を向けた。
「い、今のは…………」

「まったくあのアマは………多分、因果を先読みしてアタシたちだけに聞こえるメッセージを録音に仕込んでいたみたいね。」

「さ、流石にとんでもなさすぎだろう…………」

「そうね。エマも届きつつはあるけど、ヴィータの魔女としての力は強大よ。それでも、万能じゃないわ。結局、メンフィルや鉄血宰相にしてやられて、”結社”にも追われてるみたいだし。」

「…………”結社”の計画を乗っ取った宰相、そして謎の動きを見せる”黒の工房”、双方にとって想定外(イレギュラー)の存在であるメンフィル・クロスベル連合…………クロチルダさんが言っていた”真なる物語”というのもあったな。」

「ええ、1年半前の煌魔城の出現で『結末を変えようとして失敗した』とも。ヴィータはふざけた性格だけど適当な嘘やデタラメは言わないわ。必ず存在するのよ、その”危機”は。」

「…………ああ…………―――そうか、行くんだな?ここまで重要な話をしてくれたってことは…………」
セリーヌの忠告に頷いたリィンはセリーヌの意図を察してセリーヌに確認した。


「ま、餞別代わりね。内戦の間では伝えきれなかった話も伝えられたし、アンタの生徒になったあの白き魔女からも他にも聞きたいことが聞けたし。明日の朝、アンタの従妹と一緒にお暇することになるわ。今度会うときは、”Ⅶ組と特務部隊全員”の再会に立ち会う時かしら?」

「はは、そうだな。」
その後セリーヌが部屋を出ていくとリィンは明日に備えて休み始めた―――― 
 

 
後書き
封緘のグラセスタ、現在5章でようやくユリーシャのポンコツがなくなってくれ、更にフルーレティも盟友化してくれました………最初ユリーシャの治癒魔術が4分の1の確率でダメージになる事に、せっかくの貴重な最初から盟友化するキャラなのに、何て残念性能………って何度も思った事か。ただでさえユリーシャは装備できる武器は杖・ハンマーと通常攻撃メインとしては使いづらい武装の上物理攻撃力も中途半端なのに、治癒魔法まで事実上使えないとかマジで残念過ぎでしたから。それとフルーレティですが加入した時のレベルを見て天秤のリザイラ並みに現在のメンバーそれぞれのレベルの倍近くある事に噴きましたwwHPが共通じゃなくて、戦女神シリーズのように別々制度だったらさぞフルーレティは強かったでしょうに、そこの所が残念ですね。逆に言えばハゲの猛牛はHPが共通性だからこそ光る性能があるのでしょうけど…………そのハゲの猛牛がスキルをあげてちゃんとした装備にしてやれば、ボス戦で割と重宝する事に驚きました。まあ、防御するまで中々出番が回らないのが欠点ですが………… 

 

第73話

6月12日――――早朝

翌朝リィン達はリーゼアリアとセリーヌの見送りをしていた。

~リーヴス駅前~

「…………この度は図々しくご厄介になってしまい、申し訳ありませんでした。それと、ありがとうございます。一緒に過ごせてとても楽しかったです。」

「ふふっ………それはこっちの台詞だよ。」

「わたくしにとってもお兄様とお姉様の従妹であるリーゼアリアさんとはゆっくり話す機会を作りたかったですから、良い機会でしたわ。」

「時間ができたらまたいつでも気軽に来なさい。」
リーゼアリアの謙遜した様子の言葉にトワは苦笑しながら、セレーネとエリゼは優し気な微笑みを浮かべて答えた。
「リーゼアリアさん、また一緒にガールズトークしようね!」

「有意義な時間でした。」

「あはは…………とっても楽しかったです。」

「私もあんなにもたくさんの同性の人達とおしゃべりしたのは初めてで楽しかったわ。」

「ふふっ、帝都は近いですからすぐにお会いできそうですけど。」

「何だったら次はリーゼロッテと一緒に来てもいいわよ。」
生徒達女性陣とアルフィンはそれぞれ明るい表情でリーゼアリアに声をかけ
「そうですね…………リーゼロッテ皇女殿下にもよろしくお伝えください。」

「ふふ、承りました。」
クルトの言葉にリーゼアリアは微笑みながら答えた。


「でもまさか、セリーヌさんまで一緒に帰っちゃうなんて…………」

「ずいぶん急な話ですね。」

「もしかしてエマさんが何か見つけたの?」

「ええ、エマの方でも色々と手掛かりを見つけたみたいでね。アンタたちの教官にも教えたい事は全て教えたし、短い間だけどお暇させてもらうわ。」

「そっか…………エマちゃんにもよろしくね。」

「ふふっ、最後にもう一度ブラッシングしたかったんですけど。」

「ア、アンタのは危険だから遠慮しとくわ…………!」
微笑みながら答えたミュゼの希望にセリーヌは表情を引き攣らせて指摘した。

「ま、アンタたちもせいぜい頑張りなさい。エマ達だって2年前はアンタたち以上に迷ったり足掻いたりしてたんだから。それを考えると上出来なんじゃない?」

「あ…………」

「アハハ、セリーヌちゃんったら。」

「――――それじゃあ、リーゼアリア。セリーヌも元気でな。」

「ま、そっちも頑張りなさい。」

「――――聞けば今週末にもまた演習に行かれるとのこと。お兄様、お姉様、皆さんもくれぐれもお気をつけください。」

「うん、ありがとう…………!」

「必ず無事に戻って来る。安心していてくれ。」
そしてリーゼアリアとセリーヌはリィン達に見送られながら駅の中へと入って行った。
「…………ハッ。ヌルい休暇も終わりか。機甲兵教練に演習地発表…………楽しみにさせてもらうぜ?」
リィン達の様子を遠くから見守っていたアッシュは不敵な笑みを浮かべた後その場から去って行った。

数時間後―――機甲兵教練

~第Ⅱ分校・グラウンド~

数時間後新型の機甲兵が支給された第Ⅱ分校は機甲兵教練を行っていた。
「アッシュ、無茶はするな!ミュゼも動きが遅すぎるぞ!」

「チッ、なんだこの機体は…………!踏ん張りが効かなさすぎだろ!」

「うーん、さすがに重すぎて狙撃すらしにくそうですね………」
ケストレルを操縦しているアッシュとヘクトルを操縦しているミュゼはそれぞれ操縦に苦戦していた。

「ほう…………二人とも悪くねえな?」

「ええ、こちらの機体の方が剣の型が再現しやすいみたいです。」

「うーん、あたりはこっちかな。取り回しが利きやすいっていうか。」
一方アッシュ達同様新たに支給された機甲兵―――シュピーゲルをクルトは慣れた様子で使いこなし、ユウナは最初からある機甲兵であるドラッケンをクルト同様使いこなしていた。

「…………タイプ別の適性が結構現れているみたいですね。」

「ま、そのあたりは人それぞれだろう。」

「ただ、アッシュ君とミュゼさんは間違いなく逆の機体でしょうね。」

「うん。そこの所は多分機体の性能と二人の戦闘スタイルも関係していると思うけど…………」
教練の様子を見守っていたアルティナとレオノーラ、マヤとゲルドはそれぞれの感想を口にしていた。
「――――よし、次はアルティナにゲルド!ヘクトルとケストレルに搭乗してくれ!」

「レオノーラにグスタフ!シュピーゲルとドラッケンに搭乗しろ!」
その後も教練は続き、Ⅷ組が教練を受けている間にユウナ達Ⅶ組は集まってそれぞれ感想を口にしていた。


「ふう………一通り乗ってみたけど。やっぱりあたしはドラッケンが一番素直で好きかな?」

「僕はシュピーゲルだな。やはり剣技が乗せやすい気がする。」

「うーん、私はケストレルですね。魔導ライフルとの相性もいいですし。」

「ハッ、ヘクトル一択だな。他の機体じゃパワーが物足りねぇ。」

「…………」

「みんな、もうそれぞれの適正の機体を見つけることができて凄いわね……」
ユウナ達がそれぞれ適正の機体を答えている中、適性の機体を見つけていないアルティナは考え込み、ゲルドは羨ましそうな表情でユウナ達を見回して呟いた。

「アル、ゲルド、気にする必要ないって!」

「どの機体も平均以上か平均並みには乗りこなせていたんだろう?」

「ええ、特性がわかりさえすれば後はマニュアル通りですから。……どの機体が好みかと言われるとちょっと判断に困りますが。」

「私の場合戦技(クラフト)をメインに使っているみんなと違って、魔術やアーツがメインだからアル以上に判断に困っていると思うわ。」

「ハッ、ならチビ兎はヘクトルで良いだろ。黒いデカイのを使ってんだしなぁ。」

「いえいえ、クラウ=ソラスさんは飛べますし、魔導ライフルとの相性の良さも考えると魔法をメインに扱うゲルドさんにとってもケストレルの方が……」

「そういう問題ないと思うんだけど………でも、普段の武装との相性は何気に重要かもしれないわね。」
それぞれアルティナとゲルドに適性の機甲兵を進めるアッシュとミュゼの指摘に呆れたユウナは気を取り直して答えた。

「ああ、間違いないだろう。ゲルドもそうだが、アルティナもクラウ=ソラス同様、いずれしっくり来る機体も見えてくるんじゃないか?」

「…………そうですね。もう少し見極めてみます。」

「私ももう少し色々と試してみるわ。」
その後Ⅶ組、Ⅷ組はそれぞれ一通りの機甲兵の操縦をし終えるとリィン達教官陣は集合させた。

「よし―――タイプ別の慣らしはここまでだ。ここからはお待ちかねのチームに分かれた”集団模擬戦”だ。」

「制限時間は5分。短いかもしれないけど頑張ってね♪」

「ええっ!?」

「マ、マジかよ……」
ランドロスとレンの話に生徒達がそれぞれ驚いている中ウェインは驚きの声を上げ、シドニーは表情を引き攣らせていた。
「機体に限りがあるから適正に応じた組み合わせとする。シュピーゲルとケストレルは1機ずつしかないから使いたい者は申し出てくれ。」
こうしてタイプ別の機甲兵に乗った生徒達は、幾つかのチームに分かれて簡単な模擬戦を繰り返し―――個人差はあったが、あっという間に新たな機体にも慣れて行くのだった。


「ハハ、結構盛り上がってるな。よし……そろそろ仕上げといくか?」

「ああ―――」
生徒達がそれぞれ機体について話し合っている所を見守っていたランディに視線を向けられたリィンは頷いた後生徒達に声をかけた。

「よし―――そこまで!最後に仕上げとして俺とランディ、レン教官が相手をする!」

「えっ……!?」

「…………そう来たか。」

「俺とリィン、パテル=マテルの3機相手に5機がかりで挑んでもらおう。全力で行くつもりだからまあ、負けるつもりはねえがな。」

「うふふ、勿論レンも”実戦”並みの操作でお相手してあげるわ♪」

「オレ様は審判だ。せいぜい、自分達の糧にするように頑張りな、ガキ共!」

「…………っ……!」

「クク、面白ぇ……!」

「ハハハ……!腕が鳴るというものだ!」

「――――折角ですから私も混ぜて頂きましょう。」
教官陣と機甲兵模擬戦をすることに生徒達が盛り上がっている所に聞き覚えのある女性の声が聞こえ、声が聞こえてきた方向に視線を向けるとリアンヌ分校長がグラウンドを歩いてリィン達に近づいてきた。


「へ…………」

「ぶ、分校長……?混ざると仰っても、分校長まで加勢するとなると、機甲兵の数が足りないのですが……」
リアンヌ分校長の登場にユウナが呆け、リィンは戸惑いの表情で指摘した。
「――――いえ、私は”自前の機体”がありますので、機甲兵は必要ありません。―――――来なさい、アルグレオン。」

「応!」
リィンの問いかけに答えたリアンヌ分校長が静かな表情で呟くとどこからともなく機械の声が聞こえ、声を聞いたリィン達が驚いて周囲を見回すとリアンヌ分校長の背後に銀色の巨大人形が突如現れた!
「な―――――」

「銀色の機甲兵……?ううん、多分さっきの声はあの機体だと思うからあの機体はもしかしてヴァリマールと同じ……」

「まさか……その機体は”騎神”なのですか!?」
銀色の巨大人形の登場にその場にいる多くの者達が驚いている中リィンは絶句し、ゲルドは首を傾げ、クルトは信じられない表情でリアンヌ分校長に訊ねた。

「はい。―――――”銀の騎神アルグレオン”。それがシュバルツァー教官と同じ起動者(ライザー)たる私が駆る機体の名前です。」

「……………………」

「おいおいおい……!ただでさせ化物じみた強さなのに、そんな”切り札”まであったのかよ!?」

「クスクス、これで”騎神”は5体存在していることが確認されたけど、後何体あるのかしらね♪」

「オレ様個人としてはオレ様のトレードマークである”紅”の騎神を操縦してぇもんだな。」
リアンヌ分校長の説明にリィンは驚きのあまり口をパクパクさせ、ランディは疲れた表情で声を上げ、レンとランドロスは興味ありげな表情で答えた。

「いや、”紅の騎神”――――テスタロッサはアルノール家の方々しか動かせませんし、そもそもランドロス教官は起動者(ライザー)ではありませんから……って、それよりもまさか分校長が起動者(ライザー)の一人だなんて……何故今まで教えてくれなかったのですか?」
ランドロスの言葉に苦笑しながら指摘したリィンは疲れた表情を浮かべてリアンヌ分校長に訊ねた。
「特に聞かれる事もありませんでしたので。」

「いやいやいや!?普通に考えてアンタまで騎神を持っているなんて、誰も想像できないっつーの!」

「ったく、どこまで化物じみてやがるんだよ、ウチの分校長は。」
リアンヌ分校長の答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ランディは疲れた表情で指摘し、アッシュは呆れた表情で呟いた。

「新型の機甲兵も支給された事に加えて今までの経験で機甲兵戦の戦術も広まった事でしょう。本日の仕上げは私が引き受ける事にします。異存はありませんか?オルランド教官、シュバルツァー教官、マーシルン教官、ランドロス教官?」

「い、いやいやいやいや!」

「……流石に分校長相手で、しかも騎神相手では勝負にはならないでしょう。」

「まあ、さすがにオレ様も大人げないと思うぜ?」

「勝負というか、ただの”弱いものいじめ”になるんじゃないかしら♪」
リアンヌ分校長の問いかけにランディは疲れた表情で否定し、リィンは困った表情で、ランドロスは苦笑しながらそれぞれ指摘し、レンは小悪魔な笑みを浮かべてユウナ達がどうなるかを推測した。


「手加減はします。それに武の極みの一端を垣間見るのも修行の内です。――――最も、怖気づくのでしたら話は無かったことにしますが?」

「言ってくれるじゃない……!」

「クハハ、上等じゃねえか!」

「うーん、全員でかかっても勝ち目は無さそうですが……」

「それでも武人ならば手合わせを願いたい相手だ……!」
銀色の機体――――”銀の騎神”アルグレオンの中に入ったリアンヌ分校長の挑発に乗ったⅦ組の面々はそれぞれ機甲兵に乗り始め
「皆さん……」

「頑張って、みんな……!」
「………はあ。これは止められねぇか。」

「うふふ、でも新たな騎神の実力を見るいい機会じゃない♪」

「クク………たっぷりと見せてもらおうぜぇ?騎神に乗った断罪の聖騎士サマの実力をよぉ?」
それぞれ闘志を燃やし始めたユウナ達の様子をアルティナとゲルドは静かに見守り、ランディは疲れた表情で溜息を吐き、レンとランドロスは興味ありげな表情を浮かべた。」
「――――わかりました!ハンデも考えて1対4とします!まずはユウナ、クルト、ミュゼ、アッシュ、それぞれの機体に搭乗してくれ!」
そしてリィンの指示通り、ユウナ達はそれぞれの機甲兵に乗り込んでアルグレオンと対峙した。

「――――制限時間は無し!分校長機を小破させれば合格とする!いいッスよね、分校長!?」

「ええ、それで構いません。―――新生Ⅶ組。全身全霊を持って掛かってきなさい。」

「おおっ!」
その後ユウナ達はリアンヌ分校長操る騎神という今までにない強敵相手にかつてない程の苦戦をしつつ、何とか小破まではできたが、最後はSクラフトを喰らって全員一度に戦闘不能にさせられた。


「っ……そこまで!」

「………はあはあ………分校長が無茶苦茶強いのはわかってはいたけど………」

「これが………”至高の武”と称えられた”槍の聖女”の力の一端………」

「………槍の聖女にしてメンフィルの守護神、ですか。」

「クハハ………マジモンの化物かよ……!」
ランディが戦闘終了の合図を出した後ユウナ達はリアンヌ分校長の強さを改めて身をもって思い知った事に驚いたり苦笑したりしていた。

「フン…………」

「ええ~っ…………!?なんであんな風に動けるの!?」

「リィン教官以上に普通に考えたら無理な筈の動きをしていますよね…………」

「というかそれ以前にリアンヌ分校長が騎神の起動者(ライザー)の一人である事も驚きの事実なのですが…………」
一方騒ぎに気づいて外に出て模擬戦を見守っていたシュミット博士は興味ありげな表情でアルグレオンに視線を向け、信じられない表情で声を上げたミントの言葉にティータは苦笑しながら答え、ティータ達の手伝いをしていたセレーネは表情を引き攣らせながらアルグレオンを見つめていた。

「フフ、良い肩慣らしになりました。このまま続けて稽古をつけても構いませんが―――」

「ひっ…………」

「………………っ…………」
リアンヌ分校長の言葉を聞いて次は自分達の番であることを理解したシドニーは思わず悲鳴を上げ、ゼシカは息を呑んで真剣な表情でアルグレオンを見つめていた。

「一度、全力を出し切る形で闘気を鎮めておきましょう。――――オルランド教官、シュバルツァー教官、マーシルン教官。相手をしてください。」

「なっ…………!?」

「はあっ!?」

「あら。」
リアンヌ分校長に名指しされた3人はそれぞれ驚きの表情を浮かべた。
「貴方達3人ならば不足はありません。最もシュバルツァー教官は己の機体を使うべきでしょうが。―――この立会いで少しでも”何か”を得たいのであれば。」

「己の機体…………まさか。」

「ヴァリマールの事でしょうね。」

「…………了解しました。聞いていたか?来てくれ、ヴァリマール!」

「応…………!」
そしてリィンに呼ばれたヴァリマールは転移で現れた後リィンを操縦席の中へと入れた。

「ったく、まさかこんな事になるなんてな…………ちなみにリィン、お前の予想だと勝率はどのくらいだ?」

「多分、騎神を使って3機がかりでも勝率は五分と五分…………いや―――二割以下かもしれない。」

「そこまでの化物かよ!?――――って、そうだよな、なんせ相手はあの”鋼の聖女”で、しかも2年前と違って”騎神”なんていう反則技付きだものな…………」

「うふふ、カーリアンお姉さんと”神格者”のロカお姉さんの助力があってようやくランディお兄さん達が互角に戦えた正真正銘の”化物”だものねぇ。――――ま、覚悟を決めた方がよさそうね。」
リィンとの通信でリィンが予想した勝率を知ったランディは驚いた後疲れた表情で溜息を吐き、レンは苦笑していた。その後ヴァリマール達はアルグレオンと対峙した。

「フフ、それでは始めるとしましょう。”英雄王と聖皇妃の守護神”リアンヌ・ルーハンス・サンドロッドが相手をします。いざ尋常に勝負―――”灰色の騎士”、”赤い死神”、”殲滅天使”よ!」

「「「おおっ!!」」」
そしてヴァリマール達はアルグレオンとの戦闘を開始した!


「まずは様子見よ、パテル=マテル!ファイアー!!」

「――――」
レンの操縦によってパテル=マテルは異空間から巨大な銃を2丁取り出してアルグレオンへと掃射し
「させません!」
掃射された銃撃をアルグレオンは防御態勢に入って防いだ。
「そこだっ!」

「甘い――――ハアッ!」

「な―――グッ!?」
アルグレオンが防御態勢に入っている間にランディが操縦するヘクトルは跳躍して力を込めた渾身の一撃を放つクラフト―――パワースマッシュで襲い掛かったが、アルグレオンは機体を僅かに逸らして回避した後反撃を叩き込んだ。
「そこだっ!」

「く…………っ!?」

「今だ――――ハアッ!」
ヘクトルへの攻撃の間にアルグレオンの側面に回ったヴァリマールはクラフト―――孤月一閃を叩き込んで態勢を崩した後追撃を叩き込み
「パテル=マテル、バスターキャノン発射!」

「――――」

「ハァァァァァァ…………喰らいやがれっ!」

「くっ!?」
パテル=マテルとヘクトルも続くように遠距離から集束導力エネルギー砲とクラフトによる炎の竜をアルグレオンに叩き込んで更なるダメージを与えた。


「行きますよ―――――貫け!」

「――――!?」

「勝機――――ハアッ!」
アルグレオンは反撃に強烈な突きで敵を貫くクラフト――――シュトルムランツァーでパテル=マテルにダメージを与えると共に態勢を崩して追撃を叩き込み

「そこだ!」

「フン!」

「喰らうがいい――――滅!!」

「ぐっ!?」

「うおっ!?」
左右から同時に襲い掛かったヴァリマールとヘクトルには槍による薙ぎ払い攻撃――――アルティウムセイバーを叩き込んで逆にダメージを与えた。


「パテル=マテル、リバイバルレインで一端立て直しなさい!」

「――――!」

「ありがとう!」

「サンクス!」
レンの指示によってパテル=マテルは回復エネルギーの雨を降り注がせて自分を含めた味方を回復させるクラフトで自分とヴァリマール達のダメージを回復し
「ハァァァァァァ…………!」
一方それを見たアルグレオンは一度にヴァリマール達にダメージを与える為に槍を正面にたてて構えて霊力を溜め始めた。

「させるかよ!」

「ああっ!?」
しかしそこにヘクトルがクラフト――――パワースマッシュで襲い掛かってアルグレオンの溜め技を解除し
「唸れ――――うおおおぉぉっ!螺旋撃!」

「ロケットパンチよ、パテル=マテル♪」

「――――!」

「く…………っ!?」

「そこだ―――ハアッ!」

「今よ、パテル=マテル!」

「――――!」
更に右から襲い掛かったヴァリマールが炎の連続斬撃を、パテル=マテルは左から左右の腕による同時ロケットパンチを叩き込んでアルグレオンの態勢を崩してそれぞれ追撃した。


「フフ、さすがですね。ならばこれはどうですか?さあ―――――耐えてみなさい!ハァァァァァァ…………ッ!」
アルグレオンは大技を放つ為に全身に膨大な霊力を纏った後槍を掲げて巨大な竜巻を発生させてヴァリマール達へと解き放ち
「来るぞ!全機防御態勢!」

「アイサー!」

「パテル=マテル、パトリオットフィールドの集束に使うエネルギーをドーム型に散開させてヴァリマールとヘクトルも守りつつ防御態勢に入りなさい!」

「――――!」
アルグレオンの大技を見たヴァリマールとヘクトルはそれぞれ防御態勢に入り、パテル=マテルは霊子エネルギーによる障壁をドーム型に展開しつつ自身も防御態勢に入った。
「我は断罪―――全てを断ち切る者。これで――――終わりです!」
霊力による竜巻を解き放ってヴァリマール達にぶつけた後アルグレオンは突撃してヴァリマール達に十字架を刻み込んだ!

「聖技――――グランドクロス!!」
そして十字架を刻み込まれたヴァリマール達はそれぞれ光の十字架が炸裂し、大ダメージを受けた!


「ぐっ…………何とか耐えられたか……!ランディ、レン教官!」

「こっちも何とかいけるぜ……!」

「まあ、こっちも大丈夫だけど正直言って早めに勝負を決めないとヴァリマールはともかくパテル=マテルもそうだけどヘクトルも戦闘の続行は不可能だと思うわよ?」
アルグレオンのSクラフトが終わったリィンはSクラフトによる大ダメージにうめいた後ランディとレンにそれぞれ無事を確認し、リィンの確認に二人はそれぞれ答えた。
「わかっています!パテル=マテルは牽制射撃をお願いします!」

「了解!パテル=マテル!」

「――――!」

「甘い!」
リィンの指示に頷いたレンはパテル=マテルに指示をし、指示をされたパテル=マテルは再び異空間から巨大な銃を2丁取り出してアルグレオンへと掃射し、襲い掛かる銃撃を機体を側面に逸らして回避したアルグレオンはパテル=マテルに反撃する為にパテル=マテル目がけて突撃したが
「ランディ、遠距離攻撃でパテル=マテルの援護を!」

「任せとけ!ハァァァァァァ…………喰らいやがれっ!」

「!!」
ヘクトルが放った炎の竜が襲い掛かってきた為、咄嗟に防御態勢に入ってヘクトルのクラフト――――サラマンダーを防いだ。

「燃え盛れ――――滅!!」

「ぐっ!?」
そこにヴァリマールが側面から竜を形どった炎を宿した太刀をアルグレオンに叩き付け、ヴァリマールの攻撃によってアルグレオンは怯むと同時に態勢を崩した。
「今だ!――――行くぞ、ランディ!!」

「おっしゃあ!任せとけ!」
そしてヴァリマールとヘクトルはアルグレオンを挟み撃ちにした後ヘクトルはスタンハルバードを振るって竜の姿をした炎の衝撃波を、ヴァリマールは太刀を鞘に収めた後抜刀による鳳凰の姿をした炎の闘気エネルギーを放った後ヘクトルはスタンハルバードに炎の竜を纏わせ、ヴァリマールは抜刀した太刀にそのまま”鳳凰”のオーラを纏って二人同時に斜め十字(クロス)に突撃して自分達が放った斬撃波や闘気エネルギーがアルグレオンに命中した瞬間間髪入れずにアルグレオンの背後を駆け抜けた。

「「龍凰――――絶炎衝!!」」

「ああっ!?やりますね…………ですが、後一押し足りませんでしたね…………!」
ヴァリマールとヘクトルによるコンビクラフトで大ダメージを受けたアルグレオンだったが、戦闘不能には陥らずヴァリマール達への反撃をしようとしたが
「うふふ、だったらその”一押し”をレンがしてあげるわ♪パテル=マテル、残存エネルギーを全て砲撃エネルギーに回しなさい!」

「――――!」

「!しま――――」
両肩に装着している巨大な砲台にエネルギーを集束しているパテル=マテルに気づくと防御態勢に入ろうとしたが

「全力全開!ダブルオメガバスターキャノン!!」

「――――!」

「あああぁぁぁぁっ!?フフ……見事です…………」
パテル=マテルが両肩から放った膨大なエネルギー砲がアルグレオンが完全に防御態勢に入る前に命中した為、パテル=マテルによるSクラフトで追撃されたアルグレオンは戦闘不能になり、地面に膝をついた!

「――――そこまで!勝者、ヴァリマール以下3機!」

「あ…………」

「教官達が、勝った…………?」

「ああ…………なんて勝負だ。」
ランドロスが模擬戦の終了の号令をかけるとユウナとアルティナは呆け、クルトは驚きの表情で呟いた。すると周囲の生徒達はそれぞれ歓声や驚きの声を上げた。

「な、何を騒いでいるかと思えば分校長が出ていたとは…………しかも今まで出さなかった分校長専用の機体をここで出すとは…………それもよりにもよって”騎神”とは…………それならそれで、せめて予め報告しておいてもらいたかったのだが…………」

「で、でも凄い戦いでしたね…………!」
一方騒ぎに気づいてⅨ組のようにグラウンドに出てきたミハイル少佐は疲れた表情で溜息を吐き、トワは苦笑しながら話を変えるためにヴァリマール達の戦闘についての感想を口にし
「フン…………見事だ。」
シュミット博士は満足げな笑みを浮かべてヴァリマール達に称賛の言葉を贈った。


「ぜえぜえ…………ただでさせ生身でも化物なのに、騎神を使ったらよりとんでもない化物じゃねぇか…………騎神ありの分校長ならマジで”英雄王”やセリカともタメを張れるんじゃねぇか?」

「うふふ、ファーミシルスお姉さんやカーリアンお姉さんには勝てるかもしれないけど、パパやセリカお兄さんは”別次元の強さ”だから騎神を使った分校長でも正直勝率は非常に低いと思うわよ?」

「ハハ、それでも陛下達相手に”勝率が存在している時点”で凄いと思いますけど。(3対1での辛勝…………さすがは伝説の最高の武人にしてメンフィルの守護神か。)」
リィンに通信をしてきたランディの感想にランディに続くように通信してきたレンが自身の推測を答え、レンの推測にリィンは苦笑した後リアンヌ分校長の強さに感心していた。するとその時リアンヌ分校長が通信に入ってきた。
「フフ、見事です。その若さにしてその武、3人とも先が愉しみです。」

「はは…………そりゃどーも。」

「…………こちらこそいい勉強になりました。」

「うふふ、レンとパテル=マテルにとっても貴重な経験になったわ♪」
リアンヌ分校長の称賛にリィン達はそれぞれ苦笑しながら受け取った。そしてアルグレオンは立ち上がって生徒達に視線を向けた。

「――――良き具合に闘気も発散できました。それではⅧ組の面々にも改めて稽古を付けるとしましょうか?」
―――こうしてリアンヌはⅧ組メンバーにも(優しく)稽古を付け…………全員、疲労困憊になったもののかつてない充実した教練となったのだった。

そして、昼休みが終わっても生徒達の興奮が冷めやらぬ中―――本校舎の戦略会議室において今週末の演習予定地が発表された。


~第Ⅱ分校・軍略会議室~

「フォートガード州かぁ…………海産物とかで有名だよね。」

「西部沿海州の盟主、新海都フォートガードもあるのか。」

「おおっ、カジノで有名なラクウェルもあるじゃん!」

「…………夏至祭の時期…………領邦会議もあるんですよね…………」

「例の”結社”の動きもさすがに気になるね……」

「そ、それに……フォートガードはクロスベル帝国領と化して、”総督”も兼ねているユーディット皇妃陛下の本拠地にしてラマールの盟主でもあるオルディスと隣り合っているけどクロスベル関連で何も問題が起こらないといいんだけど……」

「まあ、ユーディット皇妃陛下は父君であった前カイエン公と違い、理知的な方との事ですから例え諜報活動を行っていたエレボニア帝国軍関係者の件があったとしても、その件を根に持つような方ではないから大丈夫だと思いますが……」

「演習範囲や日程など、これまで以上に厳しくなることも予想される。各自、準備を怠らず、英気を養いつつ週末に備えて欲しい!」

「イエス・サー!」
次なる演習地に生徒達が期待や不安を感じている中ミハイル少佐は生徒達に忠告と激励の言葉を贈った。


「フォートガード州か……エレボニアの西側だったよね?」

「ええ、海都オルディスを含めたラマール州の凡そ7割がクロスベル領と化した事で貴族派最大の本拠地となった州でもあります。確かその関係でミュゼさんの実家もフォートガードに引っ越したとか。」
教官陣がそれぞれ話し合ったり、生徒達を集めて今後の方針を伝えている中Ⅶ組同士集まっていたユウナの疑問にアルティナが答え
「フフ、オルディスに負けず劣らず良いところですよ。風光明媚で海も綺麗ですし。」

「海かぁ…………私にとってはこちらの世界の”海”を見るのは今度の特別演習が初めてになるから楽しみだわ。」
ミュゼの話を聞いたゲルドはまだ見ぬ演習地を楽しみにしていた。
「たしか君もそちらの出身だったよな?」

「クク、海なんざ見えねぇ峡谷の歓楽都市だけどな。――――それよりもいい事を思いついたぜ。その白髪魔女をラクウェルのカジノに連れていけば、俺達が億万長者になれる大チャンスじゃねぇか?」
クルトの質問に答えたアッシュは口元に笑みを浮かべてゲルドに視線を向け
「えっと、もしかして私の”予知能力”で賭け事に勝とうと考えているの……?」

「……まあ、スロットはともかくブラックジャックやポーカーもそうですが、ルーレットもゲルドさんの予知能力によるサポートがあれば勝率は非常に高くなるでしょうね。」

「フフ、ちなみにもしチャレンジをするのでしたら配当率が高いルーレットの一点賭けが効率良くコインを溜められる上”怪しまれないように意図的に負ける事”も簡単ですからお勧めですわ♪」

「いや、何であんたはカジノのゲームの配当率やカジノの人達に怪しまれないようにする方法を知っているのよ……まあ、それはともかくゲルドの”予知能力”を賭け事のイカサマの為に悪用するとか、あたし達もそうだけど教官達が許すわけないでしょう?」

「そもそもそれ以前に教官達が僕達生徒がカジノに入る事自体を許可しないと思うがな。」
アッシュの言葉を聞いてある事を予想できていたゲルドは困った表情をし、アルティナは静かな表情で推測を口にし、ミュゼは微笑みながら答え、ユウナとクルトは呆れた表情でアッシュに指摘した。
「チッ、そういやあの二人がいたか。。(………今更未練はねえが……”あの事”がわかった今、見えてくる事も新たにあるかもしれねぇな……)」
クルトの指摘を聞いて舌打ちをしてミハイル少佐達と話し合っているリィンとセレーネに視線を向けたアッシュは気を取り直して不敵な笑みを浮かべていた。

そして数日後”特別カリキュラム”の演習地に出発する日の夜が訪れた―――――
 
 

 
後書き
今回のアルグレオン戦のBGMは閃Ⅳの”七の相克 -EXCELLION KRIEG-”だと思ってください♪ 

 

第74話

6月16日、午後7:00――――

~第Ⅱ分校・分校専用列車停車駅~

演習地出発の夜、教官陣や生徒達が分校専用の駅構内で出発の準備をし終えてリアンヌ分校長達を待っていると、見送りの為に現れたシュミット博士達と共に現れたリアンヌ分校長がいつものように演習地に向かう教官陣、生徒達に激励の言葉を送り始めた。

「――――前置きは止めておきます。特別演習も既に3回目、クラスの再編成もあったばかり。先月の特別演習ではヴァイスハイト皇帝陛下達からの厚意で工匠達によるそれぞれ専用の武装が下贈され、機甲兵も上位機が補充され、十分な”戦力”を備えるに至りました。―――しかしトールズ本校はその上を行くと予想されます。ちなみに本日、時を同じくして初の”特別演習”に向かうとの事です。」
リアンヌ分校長の口から出た驚愕の事実に生徒達はそれぞれ血相を変えた。
「ちなみに彼らの初の演習地は本土より離れた”ノーザンブリア州”。現在、名高き”紅き翼”カレイジャスで向かっているとの事です。」

「カ、カレイジャスやと……!?」

「カレイジャスって、確か先月の特別演習の”三帝国交流会”で現れたあの紅い船の事よね…………?」

「うん…………オリヴァルト皇子が建造された皇室専用の巡洋艦…………」

「そしてかの”光の剣匠”が艦長を務められているという…………」

「…………」
リアンヌ分校長の説明に生徒達がそれぞれ様々な反応を見せている中故郷がノーザンブリア州であるヴァレリーは呆けた表情をしていた。

翼をもがれ、剣も喪ったが心の銃と薔薇は失くしていない。

(『翼をもがれた』…………そういう事だったのか。それもノーザンブリアとは………)

(お兄様…………)
クロスベルでのヴァイス達に向けたオリヴァルト皇子の言葉をふと思い返したリィンをセレーネは心配そうな表情で見つめた。
「ですが、捨石同然だった第Ⅱも成果を評価されつつあります。ならばここからが本番、更なる力と意地を示す時でしょう。傾きつつある貴族派、新たなる最大の本拠地での特別演習―――貴方達の健闘、奮闘を期待します!」

「イエス・マム!」
リアンヌ分校長の激励の言葉に力強く答えた生徒達はリィン達教官陣と共にデアフリンガー号に乗り込み、新たなる特別演習の地へと向かい始めた。


「どうか気を付けて…………!」

「みんな、頑張ってくるんやで~っ!!」

「それで…………”見込み”はどのくらいだ?連中の『幻焔計画』―――奪還のための第三の実験は。」
リンデ達がそれぞれデアフリンガー号を見送っている中シュミット博士はリアンヌ分校長に訊ねた。
「フフ……五分五分でしょう。しかも恐らく私が”出陣()ざるを得ない人物達”が現れる可能性は高いでしょう。そしてその時こそが私が”彼女達”と向き合う”最後の機会”かもしれませんね――――」
シュミット博士の質問に静かな表情で答えたリアンヌ分校長はその場から去り
「”聖女”か―――言い得て妙だな。」
リアンヌ分校長が去った後シュミット博士は静かな口調で呟いた。

~デアフリンガー号・2号車―――ブリーフィングルーム~

デアフリンガー号が新たなる特別演習の地へと向かっている中、リィン達教官陣は演習地到着前のブリーフィングを行っていた。

「――――以上が新海都フォートガードにおける基本的な演習カリキュラムとなる。Ⅶ組の特務活動はこれまで通り、明朝、ブリーフィングを行う予定だ。ここまでで何か質問は?」

「Ⅷ組、了解したぜ。」

「Ⅸ組も問題ないわ。」

「…………Ⅶ組も問題ありません。」
ミハイル少佐の確認の言葉にランドロスとレンが答えた後少しの間を取ったリィンは静かな表情で頷いた。

「――――現在、エレボニア本土に10以上の猟兵団が秘密裏に入っているとの情報もある。その半数以上が、詳しい目的や雇い主も判明していない状況らしい。―――結社に協力する”赤い星座”や、対立する”西風の旅団”も含めてな。」

「…………ああ、その二つは特別だが油断ならねぇ団はそれだけじゃねぇ。サザ―ラント、クロスベルに続いて今回も気は抜けねぇだろう。」

「フォートガード州はかなり広大ですし、現地との連携も大切になりそうですね。」

「ああ、その意味でⅦ組の活動意義は前回に引き続き大きい―――いかなる状況にも対応できるようにくれぐれも配慮してもらいたい。」

「わかりましたわ。新メンバー含めて、改めて気を引き締めさせてもらいますわ。」
ミハイル少佐の忠告にセレーネがリィンの代わりに頷いて答えた。

そしてブリーフィングが終了した後、リィンは列車内を見回りながらⅦ組の生徒達に明日についての連絡をした後自分に割り当てられている列車の部屋の寝台で休んだ。

6月17日、午前6:10―――


翌朝、デアフリンガー号が演習地に到着すると第Ⅱ分校の教官達と生徒達は協力して、演習地に”拠点”を築き、作業が終わるとⅧ組とⅨ組はそれぞれの担当教官達からカリキュラムについての説明を受け、リィン達Ⅶ組は列車内でカリキュラムについての説明を受けていた。

「――――さて、増員されたが特務活動の基本方針は同じだ。まずは現地責任者と面会して演習開始の報告と、各種要請の受け取りをしてもらおう。」

「了解しました。」

「クク、噂に聞いてた遊撃士の真似事ってヤツか。」
アッシュがふと呟いた言葉が気になったリィン達Ⅶ組はそれぞれアッシュに視線を向けた。
「ちょっと…………遊撃士の何が悪いのよ!」

「フフ、ですが実際その通りですわね。ただそれ以外にも広域哨戒や危険度の高い魔獣退治もあります。」

「君が想像しているよりは多分、ハードになると思うぞ?」

「ハッ、上等だ。」

「クク、中々頼もしい答えじゃねぇか。」

「やれやれ………ま、せいぜい頑張ってこい。
セレーネとクルトの指摘を聞いて不敵な笑みを浮かべたアッシュの様子にランドロスは口元に笑みを浮かべ、ランディは苦笑していた。

「それで…………現地の責任者というのは?確かエレボニア側のカイエン公爵は未だ決まっておらず、地方統括者は不在ですよね。」

「うん、だから政府に任命された”暫定統括者”がいるんだけど―――」

「ふふっ…………”バラッド侯爵閣下”ですよね?カイエン公の叔父君にあたるという。」

「ああ、その人物が現地責任者だが領邦会議の準備で多忙とのことでな。まずは”グラーフ海上要塞”に向かい、”代理人”に面会してもらいたい。」

(”多忙”ねぇ?一体どういう意味の多忙なのやら。)
ミュゼの話に頷いたミハイル少佐の説明を聞いたレンは意味ありげな笑みを浮かべていた。
「グラーフ海上要塞…………!」

「内戦の時、メンフィルにオルディスが抑えられた貴族連合軍が第二の本拠地にしたっつーアレか。」

「…………となるとそこに詰めている人達はエレボニアの貴族の私兵のえっと………”領邦軍”?なのかしら?」

「ああ、現在は各領邦軍の精鋭を集めた”統合地方軍”が管理している。すると代理人というのは……?」
自分達がこれから向かう所を聞いたⅦ組の面々がそれぞれ血相を変えている中首を傾げて呟いたゲルドの言葉にリィンは静かな表情で頷いて説明を続けた後ミハイル少佐に視線を向けた。
「ああ、サザ―ラント領邦軍を率いていた”黄金の羅刹”オーレリア将軍の右腕―――現・統合地方軍の総司令を務めるウォレス・バルディアス准将だ。」
その後準備を整えたリィン達は導力バイクでグラーフ海上要塞へと向かった。


午前6:50―――

~グラーフ海上要塞~

「止まりたまえ。」

「なんだい、君達は?」
バイクから降りて近づいてきたリィン達に地方軍の兵士達が声をかけた。
「失礼します。トールズ士官学院・第Ⅱ分校の者です。この地での演習開始をご報告sるうため、参上しました。」

「准将から伺っていた…………そうか、貴公が”灰色の騎士”か!」

「という事は隣にいる女性は”聖竜の姫君”ですか………!」

「北方戦役での活躍は伺っています。――――お会いできて光栄です、騎士殿、姫君殿。」

「恐縮ですわ。」
感心した様子や興味ありげな様子で自分達を見つめる領邦軍に対してセレーネは謙遜した様子で会釈をした。
(さすが有名みたいね…………)

(あれ…………?でも、教官達って2年前の内戦や”七日戦役”という戦争でエレボニアの貴族の軍と敵対していたのよね…………?)

(そ、そういえば…………その割には友好的よね?)

(まあ、どちらの戦争もカイエン公やアルバレア公の暴走だったからな…………)

(主君筋の愚行を止めたという意味で感謝している向きもあるみたいですね。)

(ノーザンブリアで市民達に危害を加えようとした兵士達を”峰打ち”した事や暴走する人形兵器を数百体倒したのも大きいと思います。後はカイエン公やアルバレア公の愚行によって勃発したメンフィル・エレボニア戦争―――”七日戦役”勃発から1週間という常識では考えられない早さで”和解”という形へと導いたことにも感謝していると思います。)

(ハッ、ご苦労なこって。)
地方軍の兵士達がリィンとセレーネに対して友好的に接している事を見て首を傾げているユウナとゲルドの疑問に答えたクルト達の説明を聞いたアッシュは鼻を鳴らしてリィンとセレーネを見つめてあ。

「開門!客人方をお通しせよ!」

「どうぞお通り下さい。准将閣下がお待ちです。」
その後リィン達は地方軍の兵士の誘導によって応接室に通された。

~応接室~

「あ……あの人って確か……!」

「やはり………」

「?二人はあの人達の事を知っているの?」
応接室に通され、ソファーに座っている人物達の中にいるクレア少佐を見つけてそれぞれ反応を見せたユウナとアルティナを見たゲルドは首を傾げ
「クレア少佐…………それにパトリックも。」

「お久しぶりですわね、パトリックさん。」

「ああ、二人ともあの内戦以来になるね。二人とも相変わらずのようで何よりだよ。」

「…………ご無沙汰しています。リィンさん、セレーネさん、Ⅶ組の皆さんも。」
リィンとセレーネに視線を向けられたクレア少佐の隣に座っているパトリックは親し気な様子でリィンとセレーネに声をかけ、パトリックに続くようにクレア少佐もリィン達に声をかけた。
「お久しぶり、クレア少佐。クロスベルじゃ会えませんで――――あ…………」

(………そういえば彼女はオルディスで…………)

(潜入していたエレボニアの諜報関係者の救出作戦の指揮を任された結果、エステルさん達に撃退され、その結果任務は失敗したそうですね。)

(あの人がこの間の特別演習の時の……)
クレア少佐に声をかけたユウナだったがある事に気づくと気まずそうな表情をし、クルトとアルティナの小声の会話を聞いていたゲルドは静かな表情でクレア少佐を見つめた。
「ああ、TMPの美人将校さんッスか。オルディスじゃまんまとクロスベルの好色皇の罠に嵌って、何とか合流できた仲間と一緒に”空の女神の子孫”で有名な遊撃士達にあっけなくやられて、合流できた仲間が囚われ、自身は宰相への伝言役としてわざと見逃されたそうッスねぇ?」

「ア、アッシュさん…………」

「…………口を慎め。すみません、不躾な事を。」
クレア少佐に対して皮肉を口にしたアッシュをセレーネは不安そうな表情で見つめ、リィンは呆れた表情で指摘した後クレア少佐に謝罪した。
「いえ、その通りですから。お話は伺っています。Ⅶ組の新メンバーの方々ですね?アッシュ・カーバイドさんにミュゼ・イーグレットさん、そしてゲルド・フレデリック・リヒター・パリエさん。」

「クク……どうもッス。」

「ふふっ、お噂はかねがね。」

「…………初めまして。」
クレア少佐に名指しされた3人はそれぞれ答えた。
「こちらに伺ったのは、領邦会議の警備体制に関する協議のためでして…………話は終わったので、私は失礼しますね。―――それでは失礼します。准将閣下、パトリックさんも。」

「ああ、よろしく頼む。」

「侯爵閣下の横槍にはくれぐれもご注意あれ。」「

「ええ、承知しました。」
そしてクレア少佐はリィン達に軽く会釈をした後その場から去って行った。

「…………」

「クレア少佐…………」
去って行くクレア少佐の様子をリィンは黙って見守り、セレーネは心配そうな表情で見つめていた。


「噂では聞いていたが…………クロスベルで色々あったみたいだな?」

「ああ、エレボニアとはまた違った問題があってね。しかし2年ぶりか。准将閣下とは1年ぶりですね。」

「ハハ…………北方戦役以来か。」
パトリックの言葉に頷いた後のリィンに視線を向けられた浅黒い男性将校はパトリックと共に立ち上がってリィン達に近づいて対峙した。

(オーレリア将軍の右腕と呼ばれた歴戦の武将…………)

(”黒旋風”…………さすがにできるみたいだな。)
自分達と対峙した男性将校の強さの一端を感じ取っていたミュゼとアッシュはそれぞれ興味ありげな様子で男性将校を見つめた。

「ウォレス・バルディアス。統合地方軍の総司令を任されている。――――ようこそ、フォートガード州へ。トールズ第Ⅱ・新生Ⅶ組の諸君。」
男性将校―――ウォレス准将は興味ありげな表情でリィン達を見回して自己紹介をした。


「――――それでは准将閣下。改めて、トールズ第Ⅱ分校の特別演習の開始をご報告します。」

「了解した。演習の成功を祈る。まあ、代理でしかない俺が言うのもなんだがな。」

「フフ、バラッド侯はフォートガード州の暫定統括者なのですから、多忙なのは仕方ないと思いますわ。」
ウォレス准将の言葉に対してセレーネは苦笑しながら答えたが
「フン、さぞ忙しいだろうよ。領邦会議を明日に控えながら毎夜、遊び呆けるくらいにはな。」

「え、えっと………?」

「な、なにそれ…………」

「クク、ラマール―――いや、フォートガードじゃ結構有名だぜ?ロクデナシの放蕩貴族ってな。」

「ふふっ、新海都であるフォートガードよりラクウェルの方が過ごされている時間が長いとか。」

「えっと………オリヴァルト皇子も”放蕩皇子”って名乗っていたから、その人もオリヴァルト皇子みたいな人なのかしら…………?」

「いえ、メンフィル帝国からの情報のみによるわたしの分析になりますが、バラッド侯は少なくてもオリヴァルト皇子と違い、悪い意味での”放蕩”の人物かと。」

「…………こら、失礼だぞ。」
鼻を鳴らした後皮肉気に語ったパトリックの話を聞いてリィン達と共に冷や汗をかいた後困った表情をし、ユウナは若干厳しい表情を浮かべ、アッシュとミュゼの話を聞いて首を傾げて推測を口にしたゲルドにアルティナはジト目で指摘し、生徒達の会話を聞いたリィンは疲れた表情で生徒達に注意した。
「はは、それでは早速だがこれを受け取ってくれ。」
そしてリィンはウォレス准将から特務活動の要請書を受け取った。


『注意事項』

フォートガード州における猟兵団の活動可能性についての留意点。


「これは…………」

「猟兵団の活動可能性―――”赤い星座”に”西風の旅団”ですか?」

「いや、あくまで現時点で具体的な話があるわけではない。だがここ半年、エレボニア各地で不可解な動きをしていた各猟兵団が半月くらい前から鳴りを潜めていてな。まるで”フォートガード州で開かれる領邦会議に合わせるように”。」

「そ、それって…………」

「領邦会議を狙っている、ということでしょうか?」
ウォレス准将の話を聞いて仲間達と共に血相を変えたユウナは表情を引き締め、クルトは推測を口にした。
「取り越し苦労かもしれないがね。例の”結社”が関係しているのかそうでないかも含めて不透明だが………会議の世話役として気になったので念の為に准将に提案したというわけだ。」

「パトリックさんの配慮だったのですか…………」

「ちなみに情報局や鉄道憲兵隊からの情報は?」

「一応、リーヴェルト少佐とは非常時の協力については協議した。だが―――新たな情報はなく、当然、情報局からの連絡もない。まあ、政府の意向もあるのだろう。」

「そんな…………」

「ハッ、地方で何が起きても痛くも痒くもねぇだろうからな。」

「…………えっと…………ウォレス准将、猟兵の件でクロスベル帝国と協力したりとかはしないの?」
ウォレス准将からもたらされたエレボニア政府の非情な判断にユウナは信じられない表情をし、アッシュが鼻を鳴らして皮肉を口にした後目を伏せて考え込んでいたゲルドは目を見開いてウォレス准将にある質問をした。

「あら…………」

「ほう…………それを答える前に何故ここでクロスベル帝国が出てきたのか、訊ねても構わないか?」
ゲルドの質問にミュゼは目を丸くし、ウォレス准将は興味ありげな表情でゲルドを見つめて訊ねた。
「トールズ第Ⅱ分校の授業で習った事もそうだけど、私がお義父さん達に引き取られた時にお義父さん達の故郷――――メンフィル帝国やメンフィル帝国とエレボニア帝国を含めた西ゼムリア大陸の国家間の関係や事情を一通り教えてもらったけど………確か、2年前に起こったメンフィル帝国とエレボニア帝国の戦争――――”七日戦役”は”猟兵”が関係していたのよね?その”七日戦役”の原因の一つは”猟兵”だったのだから、もしその姿を消した猟兵達がフォートガードと隣り合っているクロスベルの領土―――オルディス?だったかしら。そこで暴れたりしたら、”七日戦役”みたいに今度はエレボニアとクロスベルによる戦争が起こるかもしれないから、戦争を起こさない為にもクロスベル帝国に予め事情を説明して協力はしないのかなっと思ったの。」

「い、言われてみればそうよね…………?」

「はい。ましてやオルディスの統治者であるユーディット皇妃陛下は”七日戦役”時、オルディスがメンフィル帝国軍に占領された後、妹のキュアさんと共にカイエン公爵家を乗っ取ってメンフィル帝国に従順な態度を取った事もそうですが、エレボニアにとっては憎悪の対象の一人であり、また”血統主義”のエレボニア貴族達にとっても許容しがたい存在――――平民から皇帝へと成りあがったヴァイスハイト皇帝陛下の側妃の一人として嫁ぎ、今ではラマール州を掌握している事からエレボニア政府にもそうですが、エレボニア貴族達からも憎まれている存在であるとご自身も仰っていましたから、もしオルディスで猟兵達による事件が起こればクロスベルは”七日戦役”のようにエレボニアの関与を疑う可能性は十分に考えられますね。」
ゲルドの推測を聞いたユウナは不安そうな表情をし、アルティナは静かな表情で答えた。
「フフ、そこに気づくとはさすがは”旧Ⅶ組”を受け継ぎし新たなる”Ⅶ組”といった所か。――――そちらの懸念通り、本来ならばオルディスの統治者であるユーディット嬢―――いや、ユーディット皇妃陛下とも協力すべきなのだが、生憎バラッド侯の横槍が入っている為、我々統合地方軍はオルディスとは協力体制を組むことはできない。」

「そこでバラッド侯が…………その、統括地方軍とオルディスが協力体制を取れないようにバラッド侯が横槍を入れたのは、もしかしてバラッド侯も他の一部のエレボニア貴族達のように”四大名門”でありながらクロスベルに帰属したユーディット皇妃陛下を毛嫌いしていらっしゃっているからですか…………?」

「それもあるが、その件とは別にバラッド侯にとってユーディット皇妃陛下とキュア嬢の存在自体が邪魔だからだろう。所属している国は違うとはいえ、前カイエン公の娘であり、クロスベル側の現カイエン公爵家当主代理、次期当主であるお二人にはエレボニア側のカイエン公爵を決める時の発言権は十分にあるから、もし二人が介入すれば自身のカイエン公爵家当主就任が遠のく可能性や、もし就任できても今後お二人が自分の立場を脅かす存在であることは十分に考えられるからな。その証拠に相当二人の存在を警戒しているのか、世話役の僕にまでユーディット皇妃陛下達クロスベル側のカイエン公爵家の関係者と連絡を取っているのか、頻繁に聞いてくるくらいだよ。大方、同じ”四大名門”同士、裏で連絡を取っていると邪推しているのだろうね。」

「それは…………」

(フフ、そういった所も相変わらずですわね。)
ゲルド達の話に感心した様子で聞いていたウォレス准将は表情を引き締めて答え、セレーネの推測にパトリックはある人物を思い浮かべて呆れた表情で答え、パトリックの話を聞いたクルトは真剣な表情を浮かべ、ミュゼは苦笑していた。
「―――とはいってもユーディット皇妃陛下も予めバラッド侯の行動も予想していたみたいで、遊撃士協会を通じてオルディスでの猟兵の件についての情報を流してくれているんだ。だからこちらも、その対価としてフォートガードでの猟兵の件についての情報を遊撃士協会を通じてユーディット皇妃陛下達に伝えてもらっているんだ。」

「遊撃士協会を…………という事はフォートガードでも活動している遊撃士がいるのか?」
パトリックの説明を聞いてある事が気になったリィンはパトリックに訊ねた。
「ああ、今は遊撃士に復帰したサラ教官がフォートガードを中心に活動している。」

「うげっ、あの女かよ…………」

「まあ…………サラさんが。フフ、早速フォートガードで再会できるかもしれない旧Ⅶ組の方がわかりましたね。」

「ハハ、そうだな。」
パトリックの話を聞いてサラをそれぞれ思い浮かべたアッシュは嫌そうな表情をし、セレーネは微笑みながらリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは静かな笑みを浮かべて答えた。
「教官達の口ぶりからするとそのサラさんという人も”旧Ⅶ組”の……?」

「はい。サラ・バレスタイン――――”旧Ⅶ組”の担当教官で、大陸全土で20数名しかいないA級正遊撃士の一人で、エレボニアの遊撃士の中ではトップクラスの実力者です。」

「フフ、確か”紫電(エクレール)”なんて格好いい呼ばれ方をされている方ですわよね?女学院でも噂になっていましたわ。」

「僕も噂だけは聞いたことはあったが、まさかあの旧Ⅶ組の担当教官だったとは驚いたな…………」
ゲルドの疑問にアルティナとミュゼがそれぞれ答え、クルトは考え込みながら呟いた。


「フフ……この状況で君達が来たというのも風と女神の導きだろう。かの”槍の聖女”の薫陶も含め、新Ⅶ組の働き、期待させてもらうぞ。」

「あ………」

(風の導き………?)

(北東のノルド高原ならではの伝統信仰らしいな…………)
ウォレス准将がふと呟いた言葉を聞いたリィンはある人物を思い返し、首を傾げているゲルドの疑問にクルトが答えた。
「――――了解しました。領邦会議が開かれるのを踏まえ、胡乱な動きには警戒しておきます。」

「ああ、よろしくお願いする。そういえば…………)この後、すぐに新海都に向かうのか?よければ公子共々、車を手配するが。」

「いや、”足”はあるので心配無用です。」

「ああ、導力バイクだったか。ふむ、もし定員に空きがあるなら僕も相伴に預かれないだろうか?」

「ああ、大丈夫だが…………みんな、構わないか?」

「ええ、もちろん!」

「工夫すれば十分、分乗できそうですね。」

「それでは坊ちゃん。会議をどうかよろしくお願いします。」

「ええい、セレスタンといい坊ちゃん呼ばわりは止めてくれ!」

「フフ……若、どうかお気をつけて。」
その後パトリックを加えたリィン達は新海都フォートガードへと向かった――――
 

 

第75話

新海都フォートガードに到着後パトリックと別れて特務活動を開始したリィン達は、フォートガードに実家があるミュゼの家族に挨拶をする為にミュゼと共にイーグレット伯爵家を訊ねた。

~新海都フォートガード・イーグレット伯爵家~

「――――お待ちしておりました。お帰りなさいませ、ミュゼお嬢様。」

「ふふ、ただいまセツナさん。お出迎えありがとうございます。」
リィン達がイーグレット伯爵家に入ると既に控えていたメイド―――セツナが恭しく礼をし、ミュゼは礼をしたセツナに微笑んだ。

「こ、こんにちは。」

「突然の訪問、申し訳ありません。自分達は―――」

「トールズ第Ⅱ、Ⅶ組の皆さまですね。お嬢様より伺っております。ふふ、ちょうど今しがたお茶のご用意もできたところですわ。」

「あん…………?」

「いくらなんでも準備が良すぎるような……」

「もしかして予知能力?」

「そんな非常識な事ができるのはゲルドさんだけかと。」
セツナの準備の良さに疑問を抱いたアッシュとクルトが不思議そうな表情をしている中、首を傾げて呟いたゲルドにアルティナはジト目で指摘した。
「ふふ、実は手紙に到着時間の大体の予想を書いていまして。”たまたま”ピッタリ当たってよかったですわ♪」

「…………たまたま…………」

「って、場当たり的すぎでしょ!?」

「…………」
ミュゼが真相を口にするとアルティナはミュゼを疑うかのような視線で見つめ、ユウナは疲れた表情で指摘し、リィンは静かな表情で黙ってミュゼに視線を向けた。
「――――よく戻ったな、ミュゼ。」

「ふふっ、お帰りなさい。」
するとその時ミュゼ達の来訪に気づいて部屋から出てきた老夫婦が2Fから声をかけた。
「ふふっ、お久しぶりです。お祖父様、お祖母様。」

「ふふっ、貴女こそ変わりないみたいで安心したわ。そして、そちらの方々が…………」

「高いところから失礼―――お初にお目にかかる、ミュゼの祖父セオドア・イーグレットだ。歓迎するよ、Ⅶ組の諸君。そして”灰色の騎士”どのと”聖竜の姫君”どの。」
そしてリィン達は応接間でお茶を御馳走になっていた。


「うわあ、美味しい…………!」

「これはいい茶葉ですね。」

「スコーンも焼き立てでかなりの美味かと。」

「オレドのファーストフラッシュでね。セツナの焼き菓子もよく合うだろう?シュバルツァー教官どのは東方剣術の使い手だったか…………龍来(ロンライ)産の緑茶の方がよかったかね?」
生徒達がそれぞれお茶やお菓子を楽しんでいる中お茶について説明をしたイーグレット伯爵はリィンに確認した。
「はは、とんでもない。堪能させていただいています。しかしミュゼの着ていた着物といい、多彩な趣味でいらっしゃるんですね。」

「フフ、隠居してからは少々暇を持て余し気味なのでね。海港都市ゆえ、遠い船来の品がそれなりに届くというのもある。」

「ふふ、狭い家ですのに物ばかり増えて困っていますけど。」

「せ、狭い家ですか……」

「普通の家よりも十分大きいと思うけど……」
シュザンヌ夫人の話にセレーネは苦笑し、ゲルドは首を傾げて周囲を見回した。


「まあまあ、お祖父さまの数少ない楽しみの一つですから。」

「まあ、折角こうして来てくれたのだ。どうか遠慮せず寛いで欲しい。――――生憎、猟兵団については教えられる情報は持っていないが。」

「な…………!?」

「どうしてそれを……?」
自分達が猟兵団についての情報を探っている事をイーグレット伯爵が察している事にクルトは驚き、アルティナは目を丸くして訊ねた。
「なに、新海上要塞に寄ったと聞いてね。近頃のエレボニア西部の情勢や今の時期に諸君らが来るという状況を合わせてカマを掛けてみたのだよ。」

「ふふっ、お祖父様ったら。」

「ハッ、孫が孫ならっつーか……隠居を決め込んでる割にはなかなか鼻が利く爺さんだな?」
イーグレット伯爵が説明した理由を知ったリィン達が冷や汗をかいている中ミュゼは苦笑し、アッシュは呆れた表情を浮かべた後意味ありげな笑みを浮かべてイーグレット伯爵を見つめた。
「ちょ、ちょっとアッシュ!」

(………イーグレット伯……さすがは先々代カイエン公の相談役を務めていただけはあるというか。)

(そうですわよね……先々代カイエン公の件で気になりましたけど……もしかしたら、イーグレット伯はユーディット皇妃陛下達とも知り合いの可能性はあるかもしれませんわね。)

(ああ。先代カイエン公はイーグレット伯の干渉を嫌ってイーグレット伯を相談役から外したとの事だが……先代カイエン公が亡くなった事で、ユーディット皇妃陛下達と連絡を取っている可能性は十分に考えられるな。)

「ふふ、隠居してもなお、色々と噂は聞こえてくるのでな。個人的にはかの”灰色の騎士”どのにお会いできて光栄だ。孫娘のことを思えば、今後も末長い付き合いになるやもしれぬしな。」

「ふふ、いやですわ、お祖父様ったら♪」
遠回しにリィンがミュゼの将来の夫になる可能性がある事を指摘するイーグレット伯爵の言葉にミュゼが嬉しそうな様子で微笑んでいる中リィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。


「いや、それは…………」

「確かにこの祖父にして、ですね。」

「うん、二人ともとても似ているわ。」

「ていうかミュゼ、手紙かなんかで絶対に仕込んでるでしょ!?」

「もう、ミュゼもあなたも、あまり困らせてはいけないわ。ごめんなさいね。久々に孫の顔が見れたからって舞い上がってしまって。」

「フフ、冗談はさておき、君達も微妙な時期に来たものだ。明日からの領邦会議に向けて諸侯も訪れるこの時期、いろいろと気を使う事だろう。」

「ええ…………そういえば閣下は会議には参加されないのですか?」

「ああ、伯爵以上は権利があるとはいえ長らく隠居している身なのでね。それに今年は議題も議題だ。大人しくしているつもりだよ。」

「議題……―――そうか、考えてみれば当然あって然るべき話題ですね。」

「ええ、クロイツェン州よりもむしろ深刻な筈ですし…………」

「ハン、なるほどな。平民のオレでも見えてきたぜ。」

(………?アル、なんの事かわかる?)

(いえ、新海都については内戦前後の情報しかもっていませんので…………)
イーグレット伯爵の話の意味をリィンとクルト、アッシュが察している中意味がわからないユウナとアルティナは小声で話し合っていた。

「ふふ、会議の内容については憶測まじりになると思いますし、そのくらいにされては?」

「ハハ、それもそうだな。」
その後リィン達はイーグレット伯爵達からミュゼの幼い頃の話等を聞かされた後、イーグレット伯爵達に見送られて特務活動を再開した。

特務活動を再開したⅦ組は要請内容の一つである海辺にいる手配魔獣を倒した後、フォートガードに戻ろうとするとある異変に気付いて立ち止まった。

~エリセン海岸道~

「…………」

「これは…………」

「…………ハン…………」

「?…………どうしたの?」
それぞれ何かに気づいたリィンとセレーネ、アッシュの様子にユウナは不思議そうな表情で訊ねた。

(………静かに。)

(ハッ…………身をかがめてろや。)

「ッ…………」
そしてリィン達がその場で身をかがめると複数の武装した猟兵達がどこかへと走り去った。

(こ、これって…………)

(…………数名の移動音…………)

(…………一般人じゃあり得ない。訓練を積んだ者の動きだろう。)

(新海都近郊…………人通りの少ない裏道で、ですか。)

(ウォレス准将から話に聞いていた”猟兵”である可能性は高いでしょうね。)

(よく気づいたな、アッシュ。)

(ハッ、鋭いのがテメェらだけとは思うなよ?)
猟兵達の足音が完全に聞こえなくなるとリィン達は立ち上がった。


「…………准将からの注意事項も受けていたところだ。念の為正体を探ってみるがみんな、ついてこられそうか?」

「勿論です…………!」

「私も体力や魔力はまだまだ余裕だから大丈夫よ。」

「ハッ、誰に言ってやがる。」

「…………全力を尽くします。」

「では、参りましょうか。」

「海岸道の脇道…………丘陵方面に入ったあたりですね。」

「いつ戦闘になっても迎撃できるように、最大限に警戒しつつ進みましょう。」
そしてリィン達は気配を消して猟兵達の後を追って行った。


(いた…………!)

(あの人達が”猟兵”…………)

(………教官、どうします?)

(教練通りだ。まずは退路を押さえる。セレーネ、アルティナ、アッシュ。回り込めるか?)

(大丈夫ですわ。)

(了解。)

(ハッ、余裕だぜ。)
リィンの確認の言葉にそれぞれ頷いたセレーネとアッシュは急斜面を走り、アルティナはクラウ=ソラスに乗って猟兵達の退路へと回り込み始めた。


「…………どうだ、竜どもの布陣は?」

「思ったとおり、迂回路側の警戒は手薄のようだな。このまま背後を突いて南西エリアを落とせば…………」

「ああ、何とか連中を退けて意地をみせてくれる…………!」
一方リィン達に気づいていない紫装束の猟兵達は相談しあっていた。そして猟兵達の退路へと回り込んだセレーネがリィンを見つめて頷くとリィン達はそれぞれ武装を構えて猟兵達に駆け寄った。

「動くな…………!」

「なっ…………!」

「敵か…………!?」
リィン達に気づいた猟兵達が驚いている中リィン達はそれぞれ戦闘態勢に入り、セレーネ達も飛び降りて猟兵達を包囲した。
「クッ…………!?」

「――――」

「動かないでください。」

「クク、背中は取ったぜ。」

「退路は断った上、人数もこちらが上です。―――まずは武装を解除してください。」
猟兵達の背後を取ったアルティナ達はそれぞれ猟兵達に向けて宣言した。


「制服…………女子供もいるようだが。」

「この地に演習に来たという士官学校とやらか…………?」

「しかしその傀儡は…………」
猟兵達がリィン達を警戒している中リィンが一歩前に出て名乗り上げた。
「トールズ士官学院・第Ⅱ分校、Ⅶ組特務科の者だ。哨戒活動中の不審行動――――できれば検めさせてもらおうか?」

「リィン・シュバルツァー!?それにセレーネ・L・アルフヘイム!」

「灰色の騎士に聖竜の姫君…………どうしてこんな場所に!?」
リィンとセレーネの顔を見て二人の正体がわかった猟兵達はそれぞれ驚きの表情で声を上げた。

「やはりといいますか”プロ”の方々みたいですね。」

「ああ…………しかもどうやら俺とセレーネに何らかの因縁があるらしいな?」

「考えられるとしたら2年前の”七日戦役”や内戦、もしくは”北方戦役”に関係しているかもしれませんわね。」

「っ…………」

「…………貴様らに直接恨みはない。感謝している部分すらある。」
リィンとセレーネに図星を突かれた事で猟兵の一人が息を呑んでいる中、他の猟兵は意外な答えを口にした。
「え………」

「感謝、ですか………?」

「だが、貴様らがエレボニアに協力している限り、邪魔されるわけにはいかん!」

「立ち塞がるなら容赦はしない!」
リィン達と戦う覚悟をした猟兵達はそれぞれの武装を構えた。
「対象集団を”猟兵”と認定!これより制圧を開始する!戦術リンクON!反撃には十分注意しろ!」

「イエス・サー!」
そしてリィン達は猟兵達との戦闘を開始し、協力して猟兵達に深手を負わせた。


「くっ、灰色の騎士と聖竜の姫君はともかく、学生ごときと侮ったが…………」

「…………どうやら認識を改める必要がありそうだな…………」

「これが猟兵…………さすがに手強いわね…………」

「ハッ、これ以上抵抗するなら叩き潰してやるだけだがなァ?」
猟兵達が生徒達を警戒している中、生徒達も猟兵達を警戒していた。
「…………その戦闘力、かなりのランクの団と見受ける。いったいアンタたちは―――」
そしてリィンが猟兵達に訊ねかけたその時、それぞれ何かに気づいたクルトとミュゼは血相を変えた。
「…………教官!」

「2時方向です!」

「下がってください――!」

「クラウ=ソラス!」
そしてセレーネが警告をしたその時、崖上からリィン達に向けて銃撃がされ、アルティナのクラウ=ソラスによって展開した防御壁によって銃撃は防がれた。

「チッ…………」

「新手…………!?しかもこんなに…………」

「…………」
崖上にいる新たな紫の猟兵達を確認したアッシュは舌打ちをし、ユウナが不安そうな表情をしている中ゲルドは一切動じず静かな表情で周囲を見回した。そして崖上の猟兵達は崖から飛び降りてリィン達を包囲した。


「ハハ…………形勢逆転だな。」

「到着が遅いと思えば、まさか灰色の騎士と聖竜の姫君とは…………」

「…………この遠き地で因果な邂逅もあったものだ。」

「…………繰り返し問うが俺とセレーネを知るアンタたちは何者だ?その戦装束に武装…………正直、見覚えは無いんだが。」

「見た所”猟兵”のようですが、少なくてもわたくし達が今まで戦った猟兵の武装ではありませんわ。」

「フン…………貴様らが知る必要はない。」

「…………命までは取らんが痛めつけるくらいはするか。この地で我らが意地を貫く邪魔をさせないためにもな…………」
猟兵達はリィンとセレーネの問いかけに答えず、戦闘続行の意思を見せた。
「…………っ…………」

「…………総員、離脱準備。俺とセレーネが血路を切り拓く。」

「ですが…………!」

「ハッ、誰がアンタに借りなんざ作るかっての!」

「――――大丈夫。教官達が私達の為にそこまでしてくれる必要はないわ。」

「ゲ、ゲルドさん…………?もしかして何か”視えた”のですか…………?」
リィンの指示にクルトとアッシュが反論する中静かな表情で答えたゲルドの答えが気になったセレーネが戸惑いの表情で訊ねたその時
「――――そこまでだ!」
リィンとセレーネにとって聞き覚えのある青年の声が聞こえてきた!


「ハイヤアアアッ…………!」

「ぐう…………っ!?」

「は、速い…………!」

「ユーシス…………!」
すると白馬に跨ったユーシスが猟兵達の背後から現れてそのままリィン達に向けて突撃させながら剣を振るって猟兵達を次々と怯ませ、ユーシスの登場にリィンは驚いた。
「いっけえええ~~っ!」

「ギャンッ!?」

「グルルルル…………!」

「あ、新手の傀儡…………!?」

「あ、あの時の…………!」

「ミリアムさん…………!」
更にミリアムがアガートラムに軍用魔獣達を攻撃させて牽制し、ミリアムの登場にユウナとアルティナは驚きの声を上げた。


「…………なるほど。危惧は当たっていたようだな。」

「ひーふーみー。捕まえるのは難しそうかなー?」

「…………数はまだそちらが上だが、既に包囲網は崩れた。それで、まだやり合うつもりか?」

「フン…………そのつもりはない。ここで戦力を減らす意味など皆無だからな。」

「D4、S5!」
リィンの問いかけに対して猟兵の一人が答えると、他の猟兵が懐から出した何かを空中へと放り投げ
「…………!」

「チッ…………!」

「総員、対衝撃閃光(スタンフィッシュ)!」
猟兵が放り投げたものが閃光手榴弾である事に気づいたリィンがセレーネ達に指示をすると同時に、閃光手榴弾は炸裂して強烈な光を放ち、光が消えると猟兵達はリィン達から距離を取って撤退を始めた。

「しまった…………!」

「ざけんな、コラアアッ!」
撤退していく猟兵達を見たユウナが声を上げている中、アッシュは自身の得物から鎌の刃を解き放つギミックで追撃しようとしたが、攻撃は届かなかった。
「灰色の騎士と聖竜の姫気、トールズ第Ⅱとやら!今回は退いてやる!だが、次は容赦しない!」

「…………」

「取り逃がしたか…………」

「チッ…………」
猟兵達の撤退を見届けたリィン達はそれぞれ武器を収めた。

衝撃閃光弾(スタングレネード)………油断していましたね。」

「うん、あたしたちが上手く反応できてれば…………」

「…………私も咄嗟の反応に遅れたわ。」

「ああ…………力不足だな。」

「……………………」

「いや、あの場合は自分の身を守れただけで上出来だ。それ以上の対応は次の課題として繋げればいい。」

「ええ…………皆さんは入学時と比べると着実に成長している証拠ですわ。」
生徒達がそれぞれ力不足を感じている中リィンとセレーネは生徒達に褒め言葉をかけた。
「はい………!」

「精進します。」

「………同じ失敗は繰り返しません。」

「ケッ…………」

「フッ、もっともらしい事を。」

「あはは、ちゃんと教官してるみたいだねー。」
二人の褒め言葉にユウナ達が返事をした後リィン達に近づいたユーシスとミリアムがそれぞれ声をかけた。



「久しぶりだな、ユーシス。ミリアムも2ヵ月ぶりか。でも、今日の夜に到着するんじゃなかったのか?」

「なに、飛行艇の準備が予定よりも早く完了してな。つい先程フォートガード空港に到着したところだ。」

「で、パトリックに聞いて当たりをつけて追いかけたってわけ!ニシシ、完全に偶然だけどナイスタイミングだったみたいだね!」

「そんな短期間でわたしたちの行方を…………」

「フフ、お二人とも相変わらずですわね。」
ミリアムの話を聞いたアルティナは目を丸くし、セレーネは苦笑していた。

「ハハ、白馬で登場なんて流石にあざとすぎるんじゃないか?」

「フッ、別に狙わずとも俺なら自然に絵になるというわけだ。」
リィンの指摘に対してユーシスはリィンとセレーネと軽くハイタッチをした後静かな笑みを浮かべて答えた。
「あーっ、ボクもボクも!」
そしてミリアムも続くようにリィン達と順番にハイタッチをした。

(や、やっぱりあの人も旧Ⅶ組の…………)

(ああ、それも”四大名門”の亡き前アルバレア公の跡を継いだ”アルバレア侯爵家”の当主だ。)

(………クク、でちっこい方がチビ兎の身内ってわけか。)

(そういえばあの子はアルと色違いの傀儡を操っていたわね…………)

(別に身内というわけでは…………)
アッシュとゲルドの小声の指摘に対してアルティナが複雑そうな表情で否定すると、自分達を見つめて囁きあっている生徒達の様子に気づいたリィン達が振り向いた。


「――――失礼、名乗りが遅れたな。」

「改めて―――ボクはミリアム!ミリアム・オライオンだよ!」

「アルバレア侯爵家当主、ユーシス・アルバレアという。見知り置き願おうか―――新Ⅶ組の後輩たち。」
その後リィン達は情報交換をする為にユーシスとミリアムと共にフォートガードへと戻って行った―――
 

 

第76話

フォートガードに戻ったリィン達はユーシスとパトリックの権限でカイエン公爵家城館の会議室の一角を借り、パトリックを交えて情報交換をしていた。

午後12:30―――

~フォートガード・カイエン公爵家第二城館~

「えっと………ちょっと整理させてください。西のカイエン公爵家に東のアルバレア侯爵家…………そして、北のログナー侯爵家に南のハイアームズ侯爵家を合わせたのがエレボニアの”四大名門”でしたよね?」

「ええ、エレボニア貴族の筆頭とも言える伝統的な四家ですわ。」

「ふふ、ここに既に四家のうちの公子と当主が揃っている訳ですね。」

「公子はパトリックさんで当主はユーシスさんね。」

「まあ、僕は侯爵家の三男で会議の世話役に過ぎないが…………ここにいるユーシスは正に筆頭出席者の一人になるな。」
ミュゼとゲルドの言葉に苦笑したパトリックはユーシスに視線を向けた。
「フン、俺はなし崩し的な流れで当主になったようなものだがな。ログナー侯は出席を辞退され、ユーディット皇妃陛下とキュア嬢はクロスベル所属の為、クロスベルによるエレボニアへの内政干渉が疑われない為にも余程の事情がない限り出席は辞退されるとの事だ。今年も去年に引き続き、四大が揃わない事になるだろう。」

「そうか…………」

「…………事情が事情とはいえ、一抹の不安がありますね。」

「…………?どうして…………?」

「それは…………」
ユーシス達の話を聞いて疑問を感じたユウナの言葉にクルトが複雑そうな表情で答えを濁したその時
「クク、正直に言っちまえよ。このままじゃ近い将来、エレボニアからは貴族が消えちまうからだってな。」
事情を察したアッシュが不敵な笑みを浮かべて指摘した。

「え………」

「貴族が消える…………?」

「……………………」

「あはは…………正直なお兄さんだなー。」
アッシュの指摘にユウナが呆け、ゲルドが首を傾げている中セレーネは何も反論せず目を伏せて黙り込み、ミリアムは苦笑していた。


「…………耳に痛いがその通りだ。サザ―ラントでも感じただろうがここフォートガードや、東のクロイツェンでも中央政府の圧力は高まる一方だ。加えて先月に発表された『七大都市構想』…………既存の税制度を完全に破壊する気だろう。」

「…………確かにエレボニアは変わらざるを得ないんだろう。だが、急激すぎる社会変革は歪みと軋轢を生むのも確かだ。貴族が手放した領地を大企業が買収し、領民が立ち退きを迫られている例もある。」

「そういえばこの街でも似たような話を聞いたような………」

「ある意味、中央政府としては合理的なのかもしれませんが…………」

「…………それでもさすがに事を急ぎすぎている気がする。」

「ああ…………それは間違いない。”鉄血宰相”――――全てはあの人の考えなんだろうが。」
クルトの意見に頷いたリィンは真剣な表情で考え込み
「…………ぁ…………」

「お兄様…………」

「リィン…………」

(………?)

(………なんだ…………?)
リィンの様子をそれぞれ心配そうな表情で見つめるアルティナやセレーネ、ミリアムの様子が気になったユウナとアッシュは不思議そうな表情を浮かべた。

「まあ、そうした動きにどう対処するかが明日からの領邦会議の議題の一つとなる。――――これは俺達の務めだ。お前達は気にせず演習に励むがいい。」

「ユーシス…………―――わかった。せめて応援させてもらうよ。」

「フッ、任せておくがいい。…………そちらはそちらで、気になる状況に出くわした訳だしな。」

「ああ、そうだったな。」

「猟兵団の件ですわね…………」

「この地で猟兵団が動いているのを実際に捉えたのは大きいだろう。既に准将、遊撃士協会を通じてユーディット皇妃陛下、そして一応、鉄道警察隊にも連絡している。」

「猟兵が全く正体不明というのが気になるところではあるが…………」

「…………サザ―ラントに現れた二つの猟兵団ではないんですよね?」

「いえ、戦闘服の形状を見る限りそのどちらでも無さそうです。」

「かといって、データベースにあるどの猟兵団にも該当しないんだよねー。大陸西部で活動しているほぼ全ての団を把握してるんだけど。」
クルトの疑問に対してアルティナとミリアムはそれぞれ答えた。

「でしたら既存の団、ないし別の勢力が装いを変えているんでしょうか?」

「ああ、その可能性が高そうだ。(俺とセレーネに対する含み…………考えられるとしたら…………)」
ミュゼの意見に頷いたリィンは紫の猟兵達の正体について考えていた。

「フン、そういえば相手がどうとか言ってやがったな。”竜どもの布陣”とか何とか。」

「よ、よく聞いてたわね。」

「ふむ、すると紫の猟兵どもには何らかの”相手”が存在している…………その相手に奇襲でも仕掛けるために迂回行動していた最中だったわけか。」

「ああ…………そう考えると辻褄が合いそうだ。そして”竜”というキーワードか。」

「うーん、なんか引っかかる感じがするけど…………」

「…………そうですね。既存の情報にあったような…………」

「”竜”というキーワードの相手も気になるけど、紫の猟兵達の目的も気になるわね。”意地を貫き通す”と言っていたけど、何の”意地”なのかしら…………?」

「そういえばそのような事も仰っていましたわね…………」
ミリアムとアルティナが考え込んでいる中ゲルドが呟いた言葉を聞いたセレーネは紫の猟兵達との出来事を思い返していた。


「いずれにせよ、あの方々の”行き先”は気になりますわね。丘陵地帯の東の向こうへ去ってらっしゃいましたけど。」

「ま、まさか第Ⅱの演習地とか?」

「いや…………方向が違うな。」
ミュゼの話を聞いてある事を察したユウナの推測にクルトは静かな表情で答えた。そしてリィン達は再び机に広げたフォートガード地方の地図を確認した。

「うーん、こうしてみると何も無さそうな方向だよね。川沿いに移動しても峡谷にブチ当たるだけみたいだし。」

「…………ふむ、むしろそこが目的地かもしれんな。”竜”なる相手が陣取っている場所があるなら。」

「…………奇襲を仕掛けるためか。」

「確かに、あり得そうな話だな。」

「そこに行けば紫の猟兵達の目的や正体もそうですが、”竜”なる相手の目的や正体についても何かわかるかもしれませんわね。」

「――――教官、午後からはラクウェルって街ですよね!?朝、ちょうど列車で通り過ぎた何とかっていう峡谷地帯にある!」
リィンとセレーネがユーシスとパトリックと話し合っているとユウナが表情を引き締めて訊ねた。
「”ランドック峡谷”です。ですが、丁度よさそうですね。」

「ああ、まさに一石二鳥だろう。」

「ハッ…………あの周辺だったらそれなりにアタリは付くぜ?」

「ふふ、アッシュさんにとっては自分の庭という所でしょうか?」

「さっきはミュゼの案内だったから次はアッシュの番という事ね。」

「ふう………やれやれ。」

「フフ、積極的なのは何よりではありませんか。」

「ああ…………何とも頼もしいじゃないか。」
それぞれ意気込んでいる生徒達の様子にリィンとセレーネ、パトリックは苦笑していた。


「フッ、ならばそちらの方はお前達に任せても良さそうだな。」

「ああ、演習地にも連絡してから向かうことにするさ。」

「うーん、それだったらボクも付き合おっかなー?ミーアークーガーのカルテットをまた復活させてもいいしね!」

「それはお断りします。」
ミリアムとアルティナのいつものマイペースにリィン達は冷や汗をかいて苦笑した。

こうしてリィン達はサンドイッチや紅茶といった簡単なランチをご馳走になり―――ユーシスやパトリックたちに暇を告げるのだった。

~玄関ホール~

「は~、さっき通った時も思いましたけど…………エレボニアの大貴族ってほんとお金持ちなんですね…………ここってユーディット皇妃陛下とキュアさんの実家―――カイエン公爵家の臨時用の城館なんですよね?臨時用でこの規模だったら、本宅はどんな規模なのかしら…………?」

「ハッ、まあ確かにアタマおかしいレベルだな。」

「これだけの規模だと維持費も莫大ではないかと。」

「…………まあ、特にこの城館は臨時用とはいえエレボニア最大の貴族の居城だしね。」
玄関ホールに出て周囲を見回したユウナの感想にアッシュとアルティナ、クルトはそれぞれ答えた
「確かに凄いけど、お義父さん達の実家のお城よりは小さいような気が…………?」

「お、”お義父さんの実家のお城”って………」

「さすがにエレボニアを超える大国であるメンフィル帝国の”帝城”は比較対象として間違っているかと。」

「そういえば確か君はリウイ前皇帝陛下の養女として引き取られたから、メンフィル帝国の皇女殿下の一人でもあるのか…………」

「まあ、マーシルンとは別の意味で”姫”ってタマには見えないがな。」

「ア、アッシュさん…………間違ってもレン教官の前でそんな事を言わないでくださいね?」
首を傾げて呟いたゲルドの言葉にユウナは表情を引き攣らせ、アルティナはジト目で指摘し、パトリックは苦笑しながらゲルドを見つめ、意味ありげな笑みを浮かべて答えたアッシュにセレーネは冷や汗をかいて指摘した後リィン達と共に玄関へと進み始めた。


「ふふっ、ユーシス様の新しいご実家も壮麗とは聞き及んでおりますが。」

「いや、さすがにここまでの規模ではないな。」

「うーん、けっこう似たり寄ったりだと思うけど。そういえばリィン達も将来ユーシスの実家だったバリアハートの城館が実家になるんだったよね~。」

「ハハ、以前は城暮らしだったセレーネはともかくユミルの実家でずっと過ごしてきた俺にとっては慣れない規模なんだけどな…………」

「――――なんだ、そなたらは?」
リィン達が会話しながら玄関へと進んでいると玄関から護衛の兵達を控えさせた初老の男がリィン達に声をかけてリィン達と対峙した。


「…………これは閣下。お戻りになられましたか。」

「パトリック君。君の知り合いかね?会議の前日にぞろぞろと…………おや、君は?」

「アルバレアが次子、ユーシス・アルバレアです。以前、帝都で何度かお目にかかっておりますが。」
初老の男に視線を向けられたユーシスはリィン達の前に出て自己紹介をした。
「おお、久しぶりだな!いや~、すっかり見違えたものだ。お父上とルーファス殿は残念だったが、君がエレボニア側のクロイツェンに残っている貴族達を御せればアルバレア家の未来も安泰だろう。まあ、エレボニアのカイエン家ほどではないだろうが!ワッハッハッハッ…………!」

(な、なにこのヒト…………)

(そうか、この方が噂の…………)
豪快に笑っている初老の男の様子をユウナはジト目で見つめ、初老の男の正体がわかったクルトは真剣な表情で男を見つめた。
「ほう…………?そちらの君達も見覚えがあるな?今年の年始のパーティーで見かけた…………たしか”灰色の騎士”と聖竜の姫君”だったか。」

「リィン・シュバルツァーです。現在、士官学院の教官をしていまして。」

「セレーネ・L・アルフヘイムです。リィン様と同じく士官学院の教官をしている身でして。こちらはトールズ第Ⅱ分校のわたくし達が担当している生徒達です。」
初老の男に視線を向けられたリィンとセレーネはそれぞれ軽く自己紹介をした。

「ふぅむ…………小耳に挟んだことはあるな。…………ああ、ウォレスに投げたアレか。ワシがフォートガード州を暫定統括するヴィルヘルム。バラッドという。まあ、”暫定”というのは近日中に無くなる予定じゃがな。ワッハッハッハッ!」
堂々と自分が次期エレボニア側のカイエン公爵であることを口にした初老の男――――バラッド侯爵にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「聞いたところ、リィン君は”七日戦役”の和解条約でアルフィン皇女殿下を娶ったとか。まあ、機会があればワシも色々と相談に乗ってやろう!下級貴族の出ならば、ユーゲント皇帝陛下の義理の息子となった上将来”公爵”になる事が約束されているリィン君にとっては、宮中での作法などには苦労するだろうからな!」

「…………恐縮です。」
バラッド侯爵の言葉にリィンが謙遜した様子で答えるとバラッド侯爵は護衛の兵達と共にその場から去って行った。


「な、な、な…………なんなのよ、あのオジサン!」

「…………不躾かつ無礼ですね。」

「バラッド侯…………新海都でも名前は聞いただろう?内戦で討伐された前カイエン公爵の叔父君で…………エレボニアの”次期カイエン公”と言われている。」

「え”。あ、あんなヒトがエレボニア最大の貴族に…………!?しかも前カイエン公爵の叔父って事はユーディット皇妃陛下とキュアさんの親戚にもなるって事じゃない…………!?」

「フフ、あくまで”最有力候補”らしいですけど。ご存じのように討伐された前カイエン公のお子さんの内長男のナーシェン卿は”七日戦役”時に戦死し、メンフィル帝国軍に投降して”七日戦役”や内戦が終結しても生き残る事ができた姉妹―――ユーディット皇妃陛下とキュア公女殿下はクロスベル帝国に帰属した事もありまして。」

「クク、麗しの新海都の未来もずいぶんと明るいじゃねえか。」

「えっと………”最有力候補”って事は他にもエレボニア側のカイエン公爵になる事ができる”候補”の人はいるの?」
ミュゼの話を聞いたアッシュが皮肉を口にした後ある事が気になったゲルドは不思議そうな表情で訊ねた。
「ああ、一応いることはいるが今の所その人物は興味がないのか、エレボニア側の次期カイエン公に名乗り上げていないみたいで、現状候補はバラッド侯だけなのさ。」

「そうだったのですか…………」

「…………」
ゲルドの疑問に答えたパトリックの話を聞いたセレーネとリィンはそれぞれミュゼに視線を向けた。
「うーん、なるほどねー。すると会議のもう一つの議題はエレボニア側の次期カイエン公の推挙なのかな?」

「コホン…………非公式だがそれもある。まあ、彼が公爵位を継ぐことが確定しているわけではないが…………」

「…………それでも何らかの形で”次”を決める必要はあるだろう。自らの益のためなら政府と組んで他の貴族を追い落とすエレボニア貴族にあるまじき厚顔無恥ぶり…………そんな男を推挙したくはないがな。」
ミリアムの疑問にパトリックと共に答えたユーシスの答えにリィン達は冷や汗をかいた。


「…………ユーシス、パトリックも。会議の方、くれぐれも頑張ってくれ。」

「その…………応援してます!」

「はは、ありがとう。」

「お前達も特務活動、しかとやり遂げるといいだろう。…………ミリアムの方もくれぐれも無茶はするなよ?」

「あはは、りょーかい!晩ゴハンまでには戻るからねー!」
そしてリィン達はユーシスとパトリックに見送られて城館から去って行った。

「…………あの娘。イーグレット伯の孫だったか。」

「ああ、ミュゼという子か。帝都の女学院にいたらしいが…………ハハ、見初めでもしたのか?」
リィン達を見送りながら呟いたユーシスの言葉に頷いたパトリックは冗談交じりにユーシスに訊ねた。
「フン…………(………イーグレット伯といえば先々代カイエン公の相談役だったか。討伐された先代カイエン公には疎まれ、隠居同然だったと聞いたが…………)」
訊ねられたユーシスは鼻を鳴らした後ミュゼの祖父について考え込んでいた。

その後結社の動向を探るミリアムと別れたリィン達は演習地へと向かい、演習地でミハイル少佐達や演習地を訊ねていたクレア少佐に紫の猟兵達について報告した後ラクウェルへと向かい始めた――――

 
 

 
後書き
久しぶりにシルフェニアの18禁版を更新しましたので興味がある方はそちらもどうぞ…………なお、時系列はこの物語の2章で、しかも近い時系列で2話も更新していますw 

 

第77話

リィン達がバイクでラクウェルに向かっている中、その様子を一人のハスキーボイスの女性が遠くから見守っていた。

~東ランドック峡谷道~

「――――ふふ、お疲れ様。随分と見違えたじゃないか。それに劣らず見違えた黒兎君と姫君に健康的な雰囲気のピンク髪の子と清楚で神秘的な雰囲気な白髪(はくはつ)の子か…………なかなか粒ぞろいじゃないか。…………もちろん”彼女”も含めてね。」
女性はリィン達と共にいるセレーネや女子生徒達の顔ぶれを思い返して口元に笑みを浮かべた後ARCUSⅡを取り出して通信を開始した。
「こちら”鉄馬のシュバリエ”。ランドッグ北東に動きなし。代わりに”彼ら”を見かけましたよ。…………え、どうだったかって?フフ、女の子達5人が可愛すぎて思わず鼻血が―――おっと、失敬。これからお迎えにあがりましょう。―――”相棒(コイツ)”と一緒にね。」
誰かとの通信を終えた女性―――”四大名門”の”ログナー侯爵家”の長女、アンゼリカ・ログナーは特注の導力バイクに乗ってどこかへと去って行った。

午後2:00――――

~歓楽都市ラクウェル~

「…………街に出るのは初めてだがエレボニアでは珍しい雰囲気の街だな。」

「へえ、なんかクロスベルにある歓楽街っぽいかも…………!」

「まあ、それに近いだろうな。小劇場にカジノ…………高級クラブなんかもある。」

「”高級クラブ”って何かしら?”クラブ”の名前がついているから、部活の類なのかしら?」
クルトとユウナが興味ありげそうに周囲を見回している中ユウナの言葉に同意したリィンの話を聞いて首を傾げたゲルドの疑問にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいた。

「クスクス、確かに似た名前ですが全く異なりますわよ。」

「クク、養父(おやじ)あたりに聞いたらどうだ?お前の養父は元皇帝なんだから、どうせクロスベルのあの好色皇みたいにたくさんの女を侍らしているだろうから、”娼館”もそうだが”高級クラブ”なんて飽きる程通っていると思うぜ。」

「まあ、実際リウイ陛下はヴァイスハイト陛下程ではありませんが複数の側妃がいますから、もしかしたら側妃の中には”高級クラブ”や”娼館”に通っていたリウイ陛下に見初められて側妃になった女性もいるかもしれませんね。」

「こら、失礼だぞ…………」

「そもそも、リウイ陛下の側妃の方でそういった施設の出身の方はいらっしゃいませんわよ…………」
我に返ったミュゼは微笑ましそうにゲルドを見つめ、皮肉気な笑みを浮かべるアッシュと静かな表情のアルティナの意見にそれぞれ冷や汗をかいたリィンとセレーネは疲れた表情で指摘した。


「フフ…………話を戻しますが元々、新海都や今はクロスベル領となった海都と帝都、ジュライ方面を結ぶ交通の要衝でしたが…………30年前の鉄道開通と同時に小劇場やカジノなども建てられて歓楽街となったみたいですね。そのあたりは、先代カイエン公の決定が大きかったようです。」

「なるほど…………するとこの賑わいは乗り換え客、もしくは観光客ですか。」
ミュゼの説明を聞いたアルティナは納得した様子で賑わっている街を見回した。
「クク、夜はまた違った客層だがな。昼と夜じゃあ全然違う顔を持っている街だ。」

「そうそう、アッシュの故郷なのよね。ご家族に挨拶するんでしょうし、まずは実家に行くべきじゃないの?」
アッシュの説明を聞いてラクウェルがアッシュの故郷であることを思い出したユウナはアッシュに確認した。
「あん…………?」

「……………………」

「クロスベルでも、ユウナさんとゲルドさんのご家族に挨拶しましたし。」

「迷惑でなかったら僕達も挨拶させてもらいたいんだが。」

「…………クク、挨拶って発想自体がおめでてぇ気もするが。ま、”実家”は確かにあるが誰もいねぇから行ってもムダだぜ?」

「え。」

「…………もしかしてアッシュの家族ってもう…………」
アッシュの実家を訪問するつもりだったが、アッシュの口から出た意外な話にユウナは呆け、ある事を察したゲルドは心配そうな表情でアッシュを見つめた。
「ああ、元々俺は天涯孤独でな。生まれもラクウェルじゃねえし、育ての親も商売女だった。そのお袋が6年前に亡くなってからずっと一人暮らしってわけだ。ま、訊ねてくるダチや女なんかは多かったけどな。」

「…………そうだったのですか。」

「……………………」

「えっと………なんて言ったらいいか…………」
アッシュの説明を聞いたセレーネは目を伏せ、クルトとユウナは気まずそうな表情をしていた。


「ハッ、昔の話だ。てめえらが浸ってんじゃねえ。とりま、クソったれな特務活動をすんだろうが?とっとと終わらせて一杯引っかけるとしようぜ。飲む、打つ、買うのイロハをお坊ちゃんに教えてやっからよ。」

「あのな…………」

「コラコラ…………させるわけないだろうが。」
肩に手を置いて口元に笑みを浮かべるアッシュの誘いにクルトが呆れている中、リィンは困った表情で指摘した。
「飲む・打つ・買う…………?」

「飲むはわかるし、打つはギャンブルだっけ?それじゃ買うって―――」

「一体何を”買う”のかしら?」

「ふふっ、それはですね。」

(やはり、そういった事もご存じだったのですかミュゼさんは…………)
一方アッシュの言葉の一部の意味がわからないアルティナ達がそれぞれ不思議そうな表情で首を傾げている中ミュゼは意味ありげな笑みを浮かべて小声でアルティナたちの疑問を説明し、その様子を見守っていたセレーネは冷や汗をかいた。

「こ、これだから男ってのは…………!」

「…………不埒ですね。」

「えっと………」
一方ミュゼの説明を聞いて疑問が解けてそれぞれ驚いたユウナとアルティナはジト目で男子生徒達を見つめ、ゲルドは困った表情で男子生徒達を見つめた。

「おーおー、ネンネだねぇ。」

「…………まったく。巻き込まないで欲しいんだが。」
ユウナ達からジト目で見つめられたアッシュはユウナ達をからかい、クルトは呆れた表情でアッシュに指摘した。


「はは…………とりあえず、本日の活動は夕刻までとする。任意の要請は任せるが一応、例の猟兵たちも念頭に街を一回りしてみるとしよう。アッシュ、案内を頼めるか?」

「ハッ、いいだろう。そんじゃあ―――」
その後リィン達はアッシュの案内で様々な所を回って情報収集し、更に任意の要請を片付けた後アッシュの実家を訊ねた。

~メゾン・エカイユ・カーバイド家~

「ま、3ヵ月も経ってねぇからそんなホコリも溜まってねぇな。世話好きな連中がたまに来ているみてぇだし。」

「あはは、そっか。…………でも良い部屋だね。」

「そうですね…………どこか温かみがあるような。」

「うん、ユウナ達やお義母さんの実家の雰囲気に似ているわ。」
部屋に入ったアッシュは周囲を見回した後苦笑しながらリィン達に視線を向け、ユウナやミュゼ、ゲルドは興味ありげな様子で周囲を見回していた。

「…………元々は育ててくれた親御さんの?」

「水商売のオバハンの部屋だ。歳より若くは見えたけどな。ああ、そっちに写真があるぜ。」
クルトの質問に苦笑しながら答えたアッシュは写真が飾ってある机に近づき、リィン達も近づいて写真を見た。


「へぇ…………」

「この方がアッシュさんのお母様ですか………」

「オバハンって………全然若いっていうか美人じゃん!」

「ふふ、それでいて粋で気風のいい雰囲気もあるというか。」

「こっちは君か…………いかにも生意気盛りそうだな。」

「でも…………どちらも”良い表情”をされてますね。」

「うん…………例え血が繋がってなくても、二人にとってお互いは”本当の親子”だと思っているからこそ、こんな表情をできるのだと思うわ。」

「オフクロも水商売で稼いでいたし、喰うには困らなかったからな。若い連中にしょっちゅう奢ってたからそこまでじゃねえが、貯えもあった。―――ま、感謝してるぜ。馴染み客に押し付けられたガキを文句も言わず8年も育ててくれてよ。」
リィン達がそれぞれ興味ありげな様子でアッシュの母親と幼きアッシュの写真を見ている中アッシュは自身の過去を軽く説明した。


「そうか…………」

「ってことは、引き取られたのはけっこう小さい頃だったんだ?」

「6年前に亡くなられて、その8年前ということは3つか、4つ…………?」

「ハッ、ロクに覚えちゃいないがな。俺に言えるのは、面倒見が良くてどうしようもなくお人好しで、それでいて強い女だったくらいだ。メシマズで、途中から俺が代わりに作るようになったのはご愛敬だがな。」

「ふふ、そっか…………」

「いいお母様だったんですね、本当に…………」

「…………ちなみにお母様は何が原因で?」

「タチの悪い腫瘍だ。コロッと逝っちまったな。いつも人の面倒を見てた割には女神達も見る目がねぇっつーか。ま、つっても巡り合わせだろ。」

「アッシュ…………」

「………………………………」
母親の死について軽く説明するアッシュの様子をクルトとゲルドはそれぞれ辛そうな表情で見つめ、リィン達もそれぞれ黙祷をしていた。

「チッ、だから止めろって。いくらこの街が乾燥気味だからってそういうジメっぽさは要らねぇんだよ。」

「はは…………上手い事言うじゃないか。」

「そういえば、峡谷地帯の中心だったな。」

「ふふ、ですが折角ですし、少し風を通していかれては?」

「そうね、知り合いの人が掃除はしてくれてるみたいだけど。」

「あー、そうだな。ちょいとやっておくか。」
―――その後、アッシュは窓を開けてしばらく風を通し…………再び玄関に鍵を掛けて実家の部屋を後にするのだった。

そしてリィン達は情報を整理する為に噴水がある広場で話し合いを始めた。

~ラクウェル~

「ふう、話を聞けそうなところは一通り回れたけど…………」

「これは、という情報は今の所ない感じですね。」

「うん、”猟兵”の話自体は聞くけど、私達がさっき会った猟兵に関する情報はないわね。」

「ま、もともと猟兵の出入りはそれなりにある街だしな。多少出入りしてる連中が増えても誰も気にも留めねぇってトコだろ。」

「…………なるほどな。」

「しかもラクウェルは歓楽街ですから、歓楽街にとってはそういった方々も”上客”の内に入りますから、特に商売を営んでいる方々は他の都市や街と違って、気にしないのでしょうね…………」

「となると、調査はここまででしょうか?」

「せっかくここまで来た以上、何か製あkを出したいところだが…………」

「クク、そんなアンタたちに耳寄りな情報があるぜぇ?」
リィン達が今後の方針について悩んでいると一人の男性がリィン達に声をかけた。


「……はっ。アンタか、ミゲル。」

「よお、アッシュ。ホントに帰ってきてたんだなぁ。―――”灰色の騎士”様と”聖竜の姫君”様にトールズ第Ⅱの坊ちゃん、嬢ちゃんたちもようこそ、ラクウェルへ。」

「あら…………」

「あたしたちのことまで何で知って…………」

「…………!…………」
男性――ミゲルの登場にアッシュは鼻を鳴らし、ミゲルが自分達の事を知っている事にミュゼとユウナが驚いている中予知能力によって少し未来の自分達が”視えた”ゲルドは目を見開いた後静かな表情で黙ってミゲルを見つめていた。

「アッシュ、知り合いか?」

「ま、一応はな。噂話だの裏話だのを?き集めてメシの種にしてる胡散臭いオヤジだ。」

「それは…………」

「なるほど。所謂”情報屋”ですか。」

「おいおい、久しぶりだってのに、随分な言いようじゃねぇか。―――クク、猟兵についての情報、知りたいんじゃねえのかよォ?」

「僕達がそれを探っていることまで…………」

「じゃあ、耳寄りな情報ってもしかして…………!?」
ミゲルの話にそれぞれ血相を変えたクルトとユウナはミゲルを見つめた。


「おおっと、ここからは取引だ。まあアッシュとは顔馴染みだ。特別に格安にしてやってもいいぜ?」

「ええっ…………?」

「当然、タダではなさそうですね。」

「クク、だそうだがどうするよ、教官どの?」

「…………気にならないと言えば嘘にはなるな。」

「だろう?だったら―――」
アッシュに判断を迫られて前向きと思われる答えを口にしたリィンの答えを聞いたミゲルは口元に笑みを浮かべた。
「――――だが、すみません。あくまでこれは士官学院の”演習”の一環でもあります。情報収集のためにミラを使うのはその趣旨からは少々、外れているかと。」

「そうですわね…………それこそ軍や遊撃士でしたらそういった方面の情報収集の為にミラを使う事もそれ程おかしくはない事なのですが…………わたくし達はご存じのように”士官学院”の関係者ですから。」

「へ。」
しかしリィンとセレーネが断りの答えを口にするとミゲルは呆けた声を出した。

「…………ふう、それもそうですね。そもそも制服を着ていますし。」

「確かに…………捜査官ならともかく、警官がミラを使って聞き込みをするようなものかぁ。」

「まあ、そもそも情報の信頼性があるかどうかもわかりませんし。」

「ふふ、残念ですがその話は無かったことに…………」

「――――まっ、待った!あ~もうしょうがねぇっ!こうなったらタダで教えてやらぁ!」
教官達の話を聞いてそれぞれ自分の情報を買う事に否定的になった生徒達を見たミゲルは焦った様子で意外な提案を口にした。
「へっ…………」

「…………?」

「コホン―――クロスベル帝国領になったオルディス地方との国境に近い西の峡谷道の外れに”岩の中庭(ロック=パティオ)”なんて地元で呼ばれる場所があってな。最近、どうもそっち方面に見ねぇ連中が出入りしてるみてぇなんだ。街に新しく猟兵が入り込んでるっつうならまず間違いねぇと思うぜ?」

「岩の中庭(ロック=パティオ)…………」

「ハッ、アンタにしちゃやけに太っ腹じゃねえか?」

「いや~、考えてみりゃあせっかくアッシュが戻ったんだしな!今回だけの特別サービスってヤツさ!ありがたく受け取っとけ!あんなところ、誰も立ち寄やらねえだろうから向こうもきっと油断してんだろ。―――そんじゃ、頑張れよな~!」

「へえ…………なんか顔に似合わず親切なオジサンねぇ。」

「顔に似合わずはともかく、耳寄りな情報ではありますね。」

「ちなみに人格はともかく、情報屋としちゃあ腕利きだぜ?」

「…………これはあくまで特務活動―――演習の一環であるのは言ったとおりだ。偶然、手に入れた情報をどう活かすかは考えてみてくれ。」
ミゲルが去った後生徒達がそれぞれミゲルの情報を活かす今後の活動を話し合っている中ある事に気づいていたリィンは静かな表情で指摘し
「!?ああん…………?」

「うーん、そう言われると…………あ、そうだ!ゲルドなら今の情報について何かわかるんじゃないの!?」

「確かにゲルドさんの”予知能力”ならば、先程の情報の正確性がわかるでしょうね。」

「…………うん、実はミゲルさんと会ったあたりでさっきの情報についての未来が”視えて”いるわ。」
リィンの指摘に驚いたアッシュは眉を顰め、考え込んだ後ある事を思いついたユウナの提案にアルティナが頷き、ゲルドは静かな表情で答えた。
「ほ、ホント!?じゃあ早速で悪いけどゲルドはどんな未来が―――」

「――――待った。ゲルドの予知能力に頼るのは無しだ。」

「へ…………ど、どうしてですか?」
ゲルドの答えを聞いてゲルドに情報の正確性について聞こうとしたユウナだったがリィンに制されると困惑の表情でリィンを見つめた。

「先程お兄様も言ったようにこれは”演習の一環”です。手に入れた情報を精査する事もまた、ユウナさん達にとっての勉強ですわ。」

「ゲルドの予知能力に頼れば正直言って”答え”が予めわかっているようなものだからな………それに、まだまだ勉強中の身である君達が今の時点でゲルドの予知能力に頼っていたら今後もゲルドの予知能力に頼りっきりになって、君達の成長の妨げになると思うぞ?」

「…………まあ、現にユウナさんは既に些細な未来を知りたい為だけにゲルドさんの予知能力に頼っていますものね。」

「う”っ。」

「一応私の予知能力で視える未来は”確定”じゃなくて、あくまで”可能性”の未来なのだけど…………」

「フフ、それでもゲルドさんの予知能力の的中率は今の所100%といっても過言ではありませんもの。」

「ハッ、白髪魔女が占いとかをやれば、世の占い師の連中は全員廃業する羽目になるんじゃねぇか?」
セレーネとリィンの指摘を聞いて静かな表情で呟いたアルティナの言葉を聞いたユウナは唸り、困った表情で呟いたゲルドの話にミュゼは苦笑しながら、アッシュは意味ありげな笑みを浮かべてそれぞれ指摘した。
「…………まだ夕方までは時間がありそうだな。」

「今日の内にもう少し成果を得たいのも確かですね…………」

「…………よし、こうなったら行くだけ行ってみましょ!ここでじっとしてても何も始まらないし!」

「ふふ、異論はありません。」

「てめえら…………意外と人が悪いな。わかってて言ってやがるだろ?」

「わかって…………?―――あ。だから、教官達はユウナ達が私の予知能力に頼らないように言ったんだ…………」
生徒達がそれぞれミゲルの情報を信じて行動しようとしている中既に察しがついていたアッシュは意味ありげな笑みを浮かべてリィンとセレーネに視線を向け、アッシュの問いかけに首を傾げたゲルドだったがすぐに察しがついて納得した表情を浮かべた。
「ああ…………やっぱり”そういう事”か。」

「まあ、情報屋の方がそもそも”対価”も求めずに肝心の情報を無料で教えた時点でかなり怪しかったですし…………」

「っ…………」

「…………」
リィンとセレーネがそれぞれ困った表情でアッシュの意味ありげな問いかけを肯定するとアッシュとゲルドはそれぞれ表情を引き締めた。
「大丈夫、フォローはする。瓢箪から駒という事もあるしアッシュとゲルドも備えておいてくれ。」

「…………クソが…………」

「――――わかったわ。」

「…………?」

「どうしたの?」
リィン達とのやり取りを不思議に思ったアルティナとユウナは不思議そうな表情でリィン達に訊ねた。
「チッ、なんでもねぇよ。―――岩の中庭(ロック=パティオ)は西口だ。行くならとっとと行こうぜ。」

「…………ああ…………」

「ふふ、町で準備だけはしておいた方がよさそうですね。」
その後町で準備を終えたリィン達はロック=パティオへと向かい、ロック=パティオの探索をしているとある事に気づいたリィンがユウナ達を制止した。


~ロック=パティオ~

「――――止まってくれ。…………気配はなし、か。」

「ハン…………いかにも仕掛けてきそうな場所だが。」

「ふふ、当ては外れたのか、予定が変わったのか…………」

「もしくは既にわたくし達とは異なる”敵”と遭遇しているかもしれませんわね。」

「「……………………」」
周囲を見回して確認したリィン、アッシュやミュゼ、セレーネの言葉を聞いて既に状況を察したアルティナとゲルドは警戒の表情で周囲を見回していた。

「…………?さっきから何を―――」

「………そうか。僕達は”おびき出された”んですね?あの情報屋―――いや、”彼を雇った何者か”に。」
リィン達の行動の意味がわからないユウナが不思議そうな表情をしている中、アルティナたち同様リィン達の行動の意味がわかったクルトは真剣な表情を浮かべて訊ねた。

「ふふ、おそらく欺瞞情報かと。私達をこの場所に誘い込むこと自体が目的の。」

「ハッ、さすがにてめぇは端っから気づいてやがったか。」

「…………様子がおかしいとは途中から気づきましたが。」

「ちょ、ちょっと待ってよ!だって、あのオジさん、アッシュの顔馴染みなんでしょ!?いくらなんでも―――」
自分達がミゲルに騙された事に生徒達がそれぞれ察している中ユウナは困惑の表情で否定しかけたが
「顔見知りを売るはずがねぇ、ってか?クク、お人好しにもほどがあんだろ。―――ま、幾らで引き受けたかは知らねぇがたぶん小遣い稼ぎくらいのミラだろ。おおかた、縄張りをチョロチョロする目障りな学生どもを痛めつけるのが”黒幕”の目的じゃねえか?」

「ふふ、そんな所でしょうね。私達が行方不明になってしまったら第Ⅱ分校や地方軍、最悪はメンフィル帝国が介入してくるのは予想できているでしょうし。」

「呆れたな…………そこまで読むのか。」

(………確かに。アッシュもそうだが、この子は…………)
アッシュの推理を捕捉したミュゼの説明にクルトは驚き、リィンは真剣な表情でミュゼを見つめた。
「えっと………もし、私達が行方不明になったら他国のメンフィル帝国まで介入するかもしれないってミュゼは言っていたけど、それってやっぱり教官達がいるからかしら?」

「フフ、確かに教官達が行方不明になればほぼ確実にメンフィル帝国が介入するでしょうが、その中にはリウイ前皇帝陛下のご息女の一人でもあるゲルドさんも含まれますわよ。」

「”マーシルン”性を与えられていないとはいえ、リウイ前皇帝陛下の娘として引き取られたゲルドさんはメンフィル帝国にとっては間違いなく”メンフィル帝国皇女”の一人ですし。」
首を傾げたゲルドの疑問にミュゼは苦笑しながら、アルティナは静かな表情で指摘した。


「あ、あんのオヤジ~…………舐めてくれちゃって~~っ…………!ていうか何で気づかないのよ、あたし!?」

「ユウナさん、声が大きいですわよ。」

「……そ、それでどうするんですか?結局現れないってことはこちらの様子を窺っているとか?」
一方悔しそうな表情で声を上げたユウナだったがセレーネに注意されるとすぐに声の大きさを下げてリィンに訊ねた。
「いや―――少なくても現時点で俺達を監視する者の気配はない。考えられるとすれば、もう少し奥で手ぐすねを引いて待ってるか…………」

「―――シュバルツァー。そもそも何処のどいつだと思う?情報屋を使って、オレたちをここでボコろうとしてたのは?」

「そうだな。考えられるとしたら――――ラクウェルを嗅ぎまわる俺達を、値踏みするような誘き出し方――――トールズ第Ⅱ分校の情報は知りつつ、どんな存在か確かめたかったとすれば…………おそらく、今まで接触した事のない、第4の猟兵団である可能性が高そうだ。」

「だ、第四の…………!?」

「…………確かに赤い星座も西風も僕達の状況は把握している…………海岸道で接触した連中は教官達の事を知っていたようだし。」

「知っていたら当然、こんな迂闊な手は使わない…………なるほど、一理ありますね。」

「チッ…………まあ、間違いねぇだろ。」

「ふふっ…………さすがはリィン教官です♪」
リィンの推測にユウナが驚いている中他の生徒達はそれぞれ納得した様子でいた。


「…………考えられるとすれば紫の猟兵達の”相手”でしょうね。」

「そういえば、確か”竜ども”とか呼んでいたわね…………」

「ああ、これは俺の感だが――――」
セレーネとゲルドの会話に頷いたリィンが答えかけたその時銃声が聞こえてきた!
「この音は……!」

「銃声―――奥からです!」

「しかもこいつは…………」

「状況を確認する―――警戒しつつついてきてくれ!」

「了解…………!」
そしてリィン達は警戒しながら奥へと進むとそこでは紫の猟兵達と黒の猟兵達が大規模な戦闘を繰り広げていた!


「…………下がれ!」

「あ…………」
状況を見たリィンが警告して生徒達をその場で制止させている中ユウナは呆けた様子で戦闘を見ていた。
(ほ、本物の殺し合い…………)

(さっきの猟兵もいるけど、それとは別の猟兵もいるわね…………)

(クク、俺達を誘き出そうとしてたのが黒い方か…………)

(………特定しました。高位猟兵団”ニーズヘッグ”です。)

(たしか大陸北西部に伝わるおとぎ話の”竜”の名前でしたね。)

(なるほど…………そして迂回した紫の猟兵達の奇襲を受けたのか。)

(ああ…………だが、戦況は互角のようだ。)

(それにしても彼らは誰に雇われてこんな所で戦闘を繰り広げているのでしょうね…………?)
リィン達が戦いを見守っていると猟兵達は突如戦いの手を中断した。


「――――敵戦力の低下を確認!作戦目的は達した!これよりB5に撤退する!」
戦いの手を中断した紫の猟兵達は撤退を開始し
「に、逃がすな…………!」

「クッ、あの長距離を迂回奇襲するとは…………!」

「二手に分かれて挟撃するぞ!」
それを見た黒の猟兵達は血相を変えて紫の猟兵達を挟撃する為にリィン達がいる方向へと向かい始めた。

「き、来た…………!」

「教官…………!」

「――――総員、戦闘準備。ただし先に攻撃するな。アルティナとセレーネは上へ!」

「了解。」

「はい!」
リィンの指示を受けたアルティナはクラウ=ソラスに乗り、セレーネは魔力による光の翼で上空へと向かい、リィン達がそれぞれ武装を構えて迎撃の構えをしていると黒の猟兵達がリィン達と対峙した。
「こいつら…………!?」

「街で俺達を探っていた…………!?」

「連中の仲間だったのか!?」

「クク、ガキを罠に嵌めようとして背中に喰らってりゃ世話ねぇな。」
自分達の存在に驚いている猟兵達にアッシュは嘲笑した。
「トールズ士官学院、第Ⅱ分校の者だ。邪魔をするつもりはなかったが…………少しばかり話を聞かせてもらおうか?」

「トールズ…………内戦で邪魔をした挙句、内戦に介入したメンフィルの特殊部隊と共に雇われていた我等の”前の部隊”を殲滅してくれた連中か。」

「まて、しかもコイツは…………」

「”灰色の騎士”…………リィン・シュバルツァーか!」

「そういうアンタたちは”ニーズヘッグ”だったな。こんな場所で何をしているのか…………聞かせてはもらえないだろうか?」

「クッ…………」
リィンの問いかけに猟兵が唇を噛みしめたその時、猟兵が所持している無線の通信音が聞こえ、通信音を聞いた猟兵は無線機を取り出して通信内容を聞いた。


「こちら”(ムント)”。連中をロストした…………!作戦終了、帰投せよ”(オード)”!」

「チッ…………」
通信内容を聞いて舌打ちをした猟兵は背後に着地したアルティナとセレーネに気づかず仲間達と視線を交わして頷いた後リィン達を睨んだ。
「貴様らのせいでせっかくの獲物を取り逃がした…………」

「内戦時の恨みもある。貴様の背後にいる英雄王達が厄介な為、命は取らぬが少しおしおきさせてもらおうか?」

「な、内戦なんて知らないわよ!」

「完全に逆恨みですね。」

「上等だ…………やんのかコラ?」

「迎撃開始―――まともに相手をする必要はない。無力化しだい、戦域を離脱するぞ!」

「了解…………!」

「舐めるなっ…………!」

「猛き竜の顎、せいぜい味わうがいい!」
そしてリィン達は協力して黒の猟兵達を無力化した。


「ぐっ…………」

「さすがは”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”…………子供連れと侮るべきではなかったか。」

「誰が子供だ、誰が。」

「うーん、そもそもこちらに戦うつもりはないのですけど。」

「…………アンタたちが非合法活動をしている証拠はない。その意味で、この場で拘束するつもりはないが…………よかったら聞かせてくれ。アンタたちが戦っていたあの紫の猟兵たちは一体何者だ?」

「…………っ…………」

「貴様らに答える義理など――――」
リィンの問いかけに猟兵達がそれぞれ答えを濁していると警笛が聞こえてきた!
「くっ…………!?」

「新手ですか………!」

「さすが一流どころか―――!」
すると黒の猟兵達にとっての援軍である新たな黒の猟兵達がその場に駆けつけてリィン達と対峙した!

「クク、形勢逆転だな…………」

「”灰色の騎士”と”聖竜の姫君”か…………依頼の標的には入っていないが。」

「これ以上、首を突っ込まぬよう痛い目には遭ってもらおうか。」

(………教官。)

(どうしましょうか。)

(………仕方ない。多少大人げはないが…………アルティナ、ゲルド。バリアと結界で2分ほど保たせてくれ。それと今回はセレーネも竜化を。)

(え。)

(まさか―――)
リィンの指示を聞いてある事を察したユウナは呆け、クルトは表情を引き締めた。
(了解しました。)

(―――わかったわ。)

(了解しましたわ!)

「来い!”灰の騎神”――――」

「ハァァァァァァ…………!」
そしてリィンがヴァリマールの召喚を、セレーネが竜化しようとしたその時!
「はーい、ストップ!」

「フフ、それには及ばないよ!」
突如リィン達にとって聞き覚えのある声が聞こえて二人の行動を制止し、リィン達やその場にいる全員が声が聞こえた方向――――相当な高さの崖から自分達を見守っているサラとアンゼリカを見つけた。
「あ…………」

「あの人達は…………」

「フフ、サラさんは伺っておりましたがまさかあの方まで来ていらっしゃっていたなんて…………」

「ブレードに大型拳銃…………」

「まさか、あの―――」

(おそ)いッ…………!」

「こちらも行くよ!」
二人の登場にそれぞれが呆けている中サラは全身に紫電を纏って猟兵達に向かって突撃し、アンゼリカは何と導力バイクで崖から飛び降り、突撃したサラが猟兵達に奇襲を叩き付けたところに飛び降りたアンゼリカが飛び降りた時の衝撃波で追撃した!
「ぐはっ…………!」

「この乗り物は…………!」

「ど、導力バイク…………!?」

「クク…………しかもあの赤髪の女は―――」

「さっきの稲妻はもしかして…………”紫電”…………?」
猟兵達が怯んでいる中二人の登場にユウナが驚き、アッシュが不敵な笑みを浮かべている中ゲルドは呆けた表情で呟いた。
「”紫電”のバレスタイン…………!」

「それにログナー侯の息女か…………!」

「フフ、覚えてもらって光栄ね。」

「やあ、ニーズヘッグの諸君。1年半ぶりかな?」

「くっ…………」

「…………ギルドのA級など相手にしてられるか。」

「”(ムント)”に”(オーア)”!戦域より離脱する!」

了解(ヤー)!」
二人の登場によって形勢の不利を悟った猟兵達は撤退し始めた。

「――――待ちなさい、結局何者なの?アンタたちが戦っていた正体不明の猟兵どもは?」

「…………答える義務はない。」

「クク、だが貴様の想像通りかもしれんな…………?」

「っ…………」
サラに呼び止められた猟兵達は意味ありげな答えを残して去り、猟兵達の答えの意味を悟っていたサラは唇をかみしめて黙り込んだ。


「ふむ…………大丈夫ですか?」

「ふふ、何でもないわ。やれやれ、もう少し強引に締め上げてやればよかったわね~。」

「…………お二人とも、助かりました。」
アンゼリカがサラに気づかいの言葉をかけるとリィンが二人に声をかけた。

「ハハッ、余計なお世話かとも思ったんだがね。」

「ま、あの程度だったら騎神を呼ぶまでもないでしょ。しかし君、背が伸びたわね~!大人っぽくなっちゃって、このこの!」

「はは…………本当にお久しぶりです。ちょっと不意打ちというか、…………お二人こそ見違えましたよ。」

「こらこら、いきなりドキッとすること言うんじゃないわよ!?」

「ハッハッハッ、皇女殿下と正式に結婚してそちらの修行も積んだみたいだね?」
リィンの言葉にサラは苦笑しながら指摘し、アンゼリカは暢気に笑いながら指摘し、リィン達とのやり取りにセレーネ達はそれぞれ冷や汗をかいて脱力した。
「セレーネも久しぶりね。貴女も前と比べるとグッと大人っぽくなっているわよ。」

「フフ、そうですか?わたくしは2年前に今の姿に成長した時点で身体的成長は既に止まっていますから、”成長しているという自覚”はあまりないのですが…………」

「ふふっ、サラ教官が言っているのは身体的じゃなくて精神的や雰囲気って意味だと思うよ。無論、後であれから身体的成長はしていないかどうか、私が直々に確かめさせてもらうが。フフ…………おっと、イカン。また鼻血が出てしまった。」
サラの言葉に微笑みながら答えたセレーネに指摘したアンゼリカは酔いしれた表情でセレーネを見つめた後突如出てきた鼻血をティッシュで止め、それを見たリィン達は再び冷や汗をかいて脱力した。



「えっと………」

「リィン教官とセレーネ教官と旧知の仲という事はもしかして旧Ⅶ組か特務部隊の…………?」

「フフ、私はどちらの所属ではなかったけどね。アンゼリカ・ログナー。トールズの出身でⅦ組の先輩だ。君達の教官の一人、トワの無二の親友でもある。よろしく頼むよ、仔猫ちゃんたち♪」
自己紹介をした後自分達にウインクをしたアンゼリカの行動にユウナ達は冷や汗をかいた。
「やはりログナー家のご息女でしたか…………」

「ふふっ、お久しぶりです。アンゼリカお姉様。」

「へ…………」

「ミュゼの知り合いなの?」
親し気にアンゼリカに話しかけるミュゼにユウナは呆け、ゲルドは訊ねた。
「フフ、わりと以前からのね。―――”ミュゼ”君。新皇女殿下やリーゼリア君から聞いている。いやはや、ますます可憐かつ小悪魔的になったじゃないか♪確か以前はレン君が担任教官だったと聞くが…………フフ、同じ小悪魔属性持ち同士、後で是非元担任教官と元教え子という珍しいセットで可愛がりたいくらいだよ♪」

「いえいえ、アンゼリカお姉様もますます凛々しく麗しくなられて。アンゼリカお姉様と同じ”凛々しく、麗しいお姉様属性”であるルクセンベール卿と共に是非可愛がってもらいたいですわ♪」
アンゼリカとミュゼの独特なやり取りにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「はは、二人が知り合いとは思わなかったけど。」

「まったく、タラシなのは相変わらずというか…………ま、こっちもアルティナ以外に見た顔がいるとは思わなかったけど。」

「ハッ、久しぶりじゃねえか。―――話には聞いていたがまさかアンタが旧Ⅶの教官だったとはな。」

「ええっ!?」

「知り合いだったのですか?」
サラと親しそうに話しているアッシュにユウナは驚き、セレーネは目を丸くして訊ねた。
「フフ、前にギルド絡みでちょっとした縁があってね。それはそれとして―――改めて名乗っておきますか。サラ・バレスタイン。旧Ⅶ組の教官を務めていたわ。今は古巣である遊撃士協会に戻っているけど。よろしくね、新Ⅶ組のみんな♪」
そしてサラもユウナ達に自己紹介をした後落ち着いた場所で情報交換をする為にサラ達と共に演習地へと帰還した――――

 

 

第78話

午後5:10―――

リィン達が演習地に戻るとⅧ組、Ⅸ組ともに演習の後片づけ等をしていた。

~演習地~

「わあああ~~っ、まさかサラ教官にアンちゃんと会えるとは思わなかったよ~!」

「御二方ともあれからまた、素敵になられましたわね♪」
サラ達と対面したトワは喜び、アルフィンは微笑んだ。
「ふふっ、トワや皇女殿下達も久しぶり。」

「その教官服も素敵じゃないか。フッ、さすが私のトワだね♪」
トワを誉めたアンゼリカがトワに抱きついた。
「も~、アンちゃんってばぁ。」

「クスクス…………相変わらずねぇ。」
アンゼリカの行動にリィン達が冷や汗をかいている中トワとレンは苦笑していた。
「それと勿論、アルフィン皇女殿下やエリゼ君のメイド服姿、それにレン君の教官服も素敵だよ♪特にエリゼ君は普段とは違うメイド服だから、新鮮さが増してただでさえ魅力的なのが更に魅力的になっているね♪」

「フフ、お褒めに預かり光栄です。」

「むう…………レン教官は”君呼ばわり”するのに、わたくしは未だ”皇女殿下呼ばわり”なのは納得できませんわ。特にわたくしの場合、リィンさんに嫁いだ事でレン教官と違って”皇女”ではなくなっていますのに。」

「クスクス、もしかしてジェラシーかしら?リィンお兄さん、油断していたらアルフィン夫人に限らずリィンお兄さんの大切なレディ達がアンゼリカお姉さんに”寝取られている”かもしれないわよ♪」

「ハハ、肝に銘じます。」
アンゼリカの賛辞にエリゼは静かな笑みを浮かべて会釈をし、不満げな様子でいるアルフィンを見たレンは小悪魔な笑みを浮かべてリィンに指摘し、レンの指摘にユウナ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中指摘されたリィンは苦笑しながら答えた。


「クク、しかし旧Ⅶ組の担任がまさかA級正遊撃士だったとはなぁ?」

「フフ、それはこちらの台詞でもあるけどね。それにしても…………野獣系のオジサマか…………今まで出会った素敵なオジサマ達の中にはいなかったから新鮮味もあって、より魅力的に見えるわね…………」

「え、えっと………サラさん?ご存じとは思いますけど、ランドロス教官は既婚者ですわよ?」
興味ありげな表情を浮かべているランドロスに苦笑しながら答えたサラは真剣な表情でランドロスを見つめ、それを見たセレーネは冷や汗をかいて苦笑しながらサラに指摘し
「ぐっ…………そういえばそうだったわね。」
セレーネの指摘を受けたサラは唸り声を上げたが
「フッ、ですが彼の”立場”を考えるとリィン君のように侍らすレディが一人増えてもおかしくない立場ですから、可能性はあるのでは?実際彼の”相方”はリィン君が侍らしているレディ達の数を超えるレディ達を侍らしているのですから。」

「ハッ!?その手があったわね…………しかも、”黄金の戦王”と違って確か側妃はまだ一人もいなかったわよね…………」

「ア、アンちゃん!?それにサラ教官も本気にしないでください!」

「いやいやいやいや!?ランドロス教官まであの女好きエロ皇帝みたいな人になるように仕向けないでくださいよ!?」

「というか何故そこで俺を引き合いに出すのですか…………」
アンゼリカの指摘を受けると再び真剣な表情で考え込んで小声で呟き、それを見たトワとユウナは慌てた様子で指摘し、リィンは疲れた表情で指摘し、その様子を見たセレーネ達は冷や汗をかいた。


「”紫電”のバレスタイン…………以前より高名は伺っています。」

「ふふ、あたしもヴァンダールの方々には何度かお世話になっているわ。―――うーん、それにしてもアンタがⅦ君に入ったなんてねぇ。その制服、結構似合ってるじゃない?」

「…………どうも。」
クルトの賛辞に苦笑しながら答えたサラに視線を向けられたアルティナは静かな表情で会釈した。
「で、ラクウェル一の悪童まで第Ⅱ分校入りしてるなんてね。どういう風の吹き回しかしら?」

「ハッ、俺の勝手だろうが。ま、潰れかけのギルドに入るよりはマシだったからじゃねえか?」

「って、アンタねぇ…………」
ジト目のサラの問いかけに対して皮肉で返したアッシュをユウナは呆れた表情で見つめた。
「あはは、まあホントの事だしね。」

「…………でも、本当に驚きました。」

「二人がフォートガード州に来たのは偶然だったんですよね?」

「うん、私はちょうど先日、大陸一周から帰国したばかりでね。父上に連絡を取って話をするうちに領邦会議への出席を頼まれたのさ。」

「あたしはギルド方面の情報でエレボニア内の猟兵団を追ってたんだけど…………フォートガードとエレボニア側のクロイツェンでそれぞれ、怪しげな動きを察知してね。で、追いかけて調べてる時にこの娘とちょうど出くわしたわけ。フフ、第Ⅱが来てるのは知ってたけどあんなタイミングに遭遇するなんてね。」

「ええ………本当に助かりました。しかし、これで状況はますますわからなくなりましたね。」

「そうだね、対立する猟兵団同士が何のために戦っているのか…………”結社”が本当に関わっているのかもまだわかっていないし。」

「ふむ、領邦会議についてもどう回るかわからないみたいだね。フォートガードとラクウェル…………どちらにも気を配る必要がありそうだ。」

「うーん、明日の特務活動もさらに忙しくなりそうな気が…………」

「だが、ここが僕達の踏ん張りどころでもあるだろう。」

「ええ………ミリアムさんに負けるつもりはありませんし。」

「ハッ、退屈しねぇんだったら俺はなんだっていいぜ。」

「ふふっ、少なくても刺激的ではありそうですね。」

「私は何も起こらずに演習を終える事が一番だと思うのだけど…………」
リィン達の会話を聞いて今後の活動が多忙であることに生徒達は様々な想いを口にした。
「うふふ、今までの演習の傾向を考えると少なくてもゲルドの希望通りにならない事は確実でしょうね♪」

「クク、どの演習も”初日”で”ハプニング”が起こったからなぁ?ひょっとしたら、今夜あたりにその紫の猟兵団とニーズヘッグとやらが手を組んで俺達を奇襲してくるかもしれねぇぜ?」

「ちょっ、縁起でもない事を言わないでくださいよ!?」

「しかも、”実例”がありますからお二人の推測が冗談になっていませんわよね…………」
レンとランドロスが口にした不穏な推測にユウナは表情を引き攣らせて指摘し、セレーネは疲れた表情で呟いた。
「…………あの、サラさん。先程エレボニア側のクロイツェンでも猟兵団が怪しい動きをしていると仰っていましたが、メンフィル側のクロイツェンは問題無かったのでしょうか?」

「ええ、メンフィルもそうだけどクロスベルだとギルドは大っぴらに動ける上、軍や警察も協力してくれるお陰で猟兵団の連中も両帝国での活動を控えて、活動はエレボニアに集中しているみたいだから大丈夫よ。」

「まあ、メンフィル・クロスベル共に過去”猟兵”による被害があるから”猟兵”は”犯罪者扱い”だから、領内に猟兵の存在を確認したら間違いなく検挙に動くから、元々猟兵の存在を許さないリベールでもそうだけど、2年前の件でメンフィル・クロスベル領でも猟兵は活動し辛い国になったから、メリットもなくわざわざ活動し辛い国で活動するような命知らずな猟兵団なんて皆無だと思うわよ。」

「そうですか…………今までの事を考えると、エレボニアでの猟兵団の活動が活発な理由は政府もそうですが、政府の意向に同意しているお父様の意向も関係している可能性は高いでしょうね…………」

「姫様…………」

「…………」
エリゼの質問に答えたサラとサラの説明を捕捉したレンの説明を聞いて辛そうな表情を浮かべたアルフィンをミュゼは心配そうな表情で見つめ、クルトは重々しい様子を纏って黙り込んでいた。


「そういえばサラさん。お礼が遅くなりましたが先月はユミルを守って頂き、ありがとうございました。」

「ユミルが再び国際問題になりかねない出来事に巻き込まれる事を未然に防いで頂き、本当にありがとうございました。」

「ああ、その件は別に気にしなくていいわよ。あたしとしては”かかし男”の連中に日頃の恨みをぶつける絶好の機会だったし、ユミルの温泉も久々に楽しめたから、そんな機会をくれたクロスベルに感謝しているくらいよ。」

「ふふ、話によれば何でもリィン君達がかつて所属していた例の支援課のリーダーに加えて”アルカンシェル”のあの”月の姫”とも共闘したとか?」
リィンとエリゼに感謝の言葉を述べられたサラは苦笑しながら答え、アンゼリカは興味ありげな様子でサラに訊ねた。
「ええ、二人ともさすがはクロスベルの修羅場を潜り抜けてきただけはあって、相当な使い手だったわ。」

「クク、特務支援課はオレサマやヴァイスハイトも一目置いている程の相当な使い手だぜぇ?なんせ連中は2年前のクロスベル動乱を解決する為に”紅の戦鬼”、”風の剣聖”、”赤の戦鬼(オーガロッソ)”、”鉄機隊”に加えてまだ結社に所属していた頃の分校長殿も退けた事があるんだからな!」

「まあ…………」

「ええっ!?あ、あの分校長まで…………!?」

「特務支援課の皆さんはそんなにも多くの強者達を退けてきたのですか…………」

「ハッ、あの化物分校長まで退けるとか見た目とは裏腹にとんでもない化物連中みたいだな。」

「ちょっと、アッシュ!”見た目とは裏腹”とか”化物”とかロイド先輩達に失礼でしょう!?」
サラの説明を捕捉したランドロスの説明にミュゼとトワ、クルトは驚き、アッシュの言葉を聞いたユウナはジト目で指摘し
「”赤の戦鬼(オーガロッソ)”って誰?」

「”赤の戦鬼(オーガロッソ)”シグムント・オルランドとは”赤い星座”の副団長にして”紅の戦鬼”の父親でもあります。―――最も彼は2年前の”碧の大樹”で”特務支援課”に敗北後、レン教官に”止め”を刺されて暗殺された為既に死亡していますが。」

「ふえええっ!?」

「クスクス、随分と懐かしい話ね♪」
ゲルドの疑問に答えたアルティナの答えにトワが驚きの声を上げている中レンは小悪魔な笑みを浮かべ、その様子を見たリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。


「さてと…………あたしたちもそろそろ新海都に行きますか。今日の宿を取る必要もあるし。」

「既に連絡はしたが…………私も城館に顔を出さないとな。」

「あ、それじゃあ送るね。」

「俺も送ります。――――みんな、今日はお疲れだった。明日も早いだろう。夕食をとってレポートをまとめたら早めに休むといい。」
その後一端解散したリィンはセレーネやトワ、アンゼリカやサラと共に演習を終えた生徒や教官達に声をかけて演習地を回った後新海都へと向かうサラ達を途中まで同行する為に出入り口に停めている導力バイクに近づいた。


「それじゃあアンちゃん、サラ教官も帰りは気を付けてくださいね。」

「ああ、また会おう。」

「世話になったわね、トワ。」

「俺とセレーネも途中まで送っていきます。少しやる事があるので帰りが遅くなるかもしれませんが。」

「え、そうなんだ?」

「やれやれ、お姉さんは悲しいわ。可愛い教え子の友達がこ~んな水臭い大人になっちゃうなんて。」

「え。」

「も、もしかしてお二人とも…………」
リィンとセレーネの今後の行動にトワが首を傾げている中既に察しがついてアンゼリカと共に呆れた表情で自分達を見つめるサラの言葉を聞いたリィンは呆け、セレーネは苦笑していた。
「フッ、君達の事はお見通しさ。これから夜のラクウェルにカップルで洒落込むつもりなんだろう?」

「それは…………」

「ど、どういうこと?カップル―――二人でラクウェルって………―――ま、まさかリィン君とセレーネちゃんッ!?そういう施設に行くつもりじゃ…………!」
アンゼリカの推測にリィンが困った表情で答えを濁している中トワは困惑した後真剣な表情でリィンとセレーネを見つめた。
「ち、違いますって。一応ミハイル少佐にも許可はもらっていますし。その、ああいう場所だと夜の方が情報収集には向いてるかと思いまして。」

「かといって夜の歓楽街は学生のユウナさん達の教育にはあまりよくない施設が営業している時間ですから、ユウナさん達は連れていけませんので…………」

「あ…………」

「要するに猟兵の調査の続きね。大方リィンの独断で、セレーネがリィンを一人にできないからついていくことにしたのでしょう?まったく、勝手に一人で決めて…………君のそういう所も君の恩師のセシリア将軍から聞いていたけど、あれから全然成長していないようねぇ?」

「アハハ…………わたくしには相談するようになっただけ、マシにはなっていると思いますが…………」

「いやはや、まったくだ。どうして私達を頼ってくれないんだい?」

「す、すみません…………―――って、え?」
サラと共に呆れた様子で指摘するアンゼリカの言葉を聞いて謝罪したリィンだったがすぐにある事に気づくと戸惑いの表情を浮かべた。
「フフ、ああいった歓楽街は君達よりも慣れてる自負がある。連れて行かない理由はないだろう?」

「ま、遊撃士の仕事で何度か訪れている街だし。夜のスポット巡りについてもそこそこ役に立てると思うわよ?」

「で、ですが―――」

「だーかーら、遠慮しなさんなっての!久々に会えたのよ?…………少しは力にならせなさい。」

「あ…………」

「サラさん…………」
サラの気づかいにリィンは呆け、セレーネは微笑んだ。
「フッ、そういうことさ。遠慮しないでくれたまえ。新海都の城館は、ユーシス君達に連絡を入れておけば大丈夫だろう。」

「アンちゃん、サラ教官…………」

「はは…………確かに水臭かったみたいです。よろしくお願いします、二人とも。」

「どうかお二人の力、わたくし達に貸してください。」

「ん、それでよし!」

「存分に頼ってくれたまえ。」

「ふふ、一応生徒のみんなには内緒にしておくから。あ、でも皇女殿下やエリゼちゃんはどうしよう?」

「お二人には既に前もって伝えてありますから大丈夫ですわ。…………というか、むしろわたくしはお二人からお兄様の”お目付け役”としてお兄様から目を離すなとまで言われているくらいですので…………」

「ハッハッハッ、さすがは妻と妹兼正妻予定の婚約者だけあって、リィン君の事を二人共よくわかっているみたいだね。」

「フフ、今でそうなんだから、将来はエリゼ達の尻にしかれる事が目に見えるわよね~?」

「う”っ…………」
トワの確認の言葉に苦笑しながら答えたセレーネの答えに呑気に笑ったアンゼリカの指摘とからかいの表情を浮かべるサラの指摘にリィンは疲れた表情で唸り声を上げた。

「クスクス…………それじゃああまり遅くならないようにね?」

「ありがとうございます、先輩。」

「さあ、そうと決まれば出発だね。めくるめく夜の世界にいざ、旅立とうじゃないか♪」

「ア、アンちゃん…………ホントにそういうお店はダメだよ!?」

「はは…………とにかく生徒達にバレないように行きましょう。」
その後リィン達はトワに見送られて導力バイクでラクウェルへと向かい始め、道を塞いでいる魔獣の群れを協力して撃破した。

~東フォートガード街道~

「ふうっ、一丁上がりっと。」

「フフ、我が拳とバイクの前に立ちはだかったのが運のツキってね。」

「はは…………やっぱり来てもらったのは正解だったかもしれません。二人ともさらに腕に磨きがかかっているというか。」

「ま、ここ数ヶ月は厄介な連中ばかり相手してからねぇ。アンゼリカの方はクロスベルやメンフィル領になった旧共和国領で鍛え直してきたんだったっけ?」

「ええ、あちらにいる武術の師匠を最後に訊ねまして。…………旧共和国領は旧共和国領で色々と不穏な状況みたいですね。」

「ええ、エレボニアもそうだけど大陸中のギルドが大忙しなのよね。」

「え………旧共和国領が不穏とは一体どのような事が起こっているのでしょうか…………?」
アンゼリカとサラの会話が気になったセレーネは不安そうな表情で訊ねた。
「ま、簡単に説明すれば旧共和国人の中にはメンフィルやクロスベルに統合されているという事実が許せず、旧共和国領で非合法活動している集団――――つまり、かつての”帝国解放戦線”のような集団が旧共和国領で暗躍をしているみたいなんだ。」

「それは…………」

「どうして旧共和国領ではそのような事に…………バリアハートを含めた旧エレボニア領ではそのような話は聞きませんのに…………」
アンゼリカの説明を聞いたリィンは複雑そうな表情をし、セレーネは悲しそうな表情を浮かべた。
「…………そうか。旧共和国領には旧エレボニア領のように、元祖国の代表的な存在が両帝国に従う、もしくはヴァイスハイト陛下のようなVIPクラスの人物と縁戚関係を結んでいないからですね?」

「あ…………」

「ええ、そうよ。旧エレボニア領の内メンフィルは君も知っての通りアルフィン皇女殿下が、クロスベルはカイエン公爵家のユーディット皇妃陛下がそれぞれ両帝国の英雄や皇帝に嫁いだ影響で、それぞれの国に統合された事への反発も大した事がないそうなのよ。だけど、エレボニアと違って貴族や皇族が存在しない旧共和国は代表格クラスの人物はロックスミス大統領だったけど、そのロックスミス大統領は2年前の連合軍が首都に侵攻した時に責任を取って自害したからね…………」

「一応大統領には娘が二人いるとの事だけど、二人とも既に政治とは縁遠い職業に就いている上アルフィン皇女殿下達と違って旧共和国人達にとってはそんなに有名な存在じゃないから、例え二人がアルフィン皇女殿下やユーディット皇妃陛下のようにメンフィル・クロスベルのVIPクラスと結婚したとしても、効果はあまり見込まれていないのさ。まあ、それもあって両帝国はロックスミス大統領の家族の事はそれ程重要視していないみたいなんだ。―――むしろ彼女達がロックスミス大統領の仇を取るためという名目でテロリスト達に拉致されてテロリスト達にとっての”旗印”にされないように、両帝国は彼女達に警護をつけているくらいさ。」
リィンの推測にセレーネが呆けている中サラとアンゼリカはそれぞれリィンの推測に頷いて説明を続けた。
「そうだったのですか…………あら?でも、どうしてアンゼリカさんは旧共和国の事情についてそこまで詳しいのですか?」

「フフ、実は私の泰斗流の師匠が旧共和国の情報機関に所属していた人物で、今はクロスベル帝国の情報機関の人物として働いているのさ。」

「え………?旧共和国の情報機関に所属していた人物で、”泰斗流”、ですか?確かわたくし達がクロスベルで知り合った方にもそのような方がいらっしゃるのですが…………」

「まさかアンゼリカさんの”師匠”はキリカ・ロウランさんですか?」
自分の質問に答えたアンゼリカの答えを聞いて心当たりがあるセレーネは目を丸くし、リィンは僅かに驚きの表情を浮かべてアンゼリカに訊ねた。


「ふふっ、その通り。師匠からは君達のクロスベルでの活躍も聞いたよ。何でも”西ゼムリア通商会議”では、特務支援課と共にオルキスタワーの襲撃に失敗して撤退しようとした帝国解放戦線を処刑しようとした”赤い星座”を制圧したんだって?」

「ハハ、俺達は大したことはしていませんよ。厄介な人物達――――”赤の戦鬼(オーガロッソ)”と”紅の戦鬼”はカーリアン様達が相手してくれた上、ヴァイスハイト陛下達――――”六銃士”と共に”赤い星座”の猟兵達を制圧しただけですから。」

「それでも二大猟兵団の片翼であるあの”赤い星座”を制圧しただけでも大したものよ。――――そういう訳でテロリスト関連で旧共和国領のギルドもエレボニア(こっち)と同じくらい忙しいそうなのよ。まあ、あっちはあたし達と違ってメンフィル・クロスベルの軍や警察と協力体制を取っているらしいから、あたし達よりは楽でしょうけどね。ちなみに特務支援課のリーダーも旧共和国領でのテロリスト関連の捜査の応援の為に今は旧共和国領で活動しているとの事よ。」
アンゼリカの言葉に苦笑しながら答えたリィンに称賛の言葉を贈ったサラは意外な話を口にした。
「まあ、ロイドさんが…………」

「特務支援課のリーダーとして培ってきたロイドの捜査官としての実力を考えたら、ロイドも捜査に加わる事は当然だろうな。しかしそうなると、キーアは寂しい思いをしているだろうな…………」

「そうですわよね…………せっかくルーレの出張から帰ってきたばかりですのに…………それにエリィさん達も寂しいでしょうね…………」
セレーネはリィンと共にキーアの顔を思い浮かべた後ロイドと恋仲の関係であるエリィ達の顔を思い浮かべた。
「”寂しい”で思い出したけどリィン。君、アリサがトールズを去ってからは直接会う事はしなくてアリサに寂しい思いをさせて、その反動で先月の特別演習で再会した時にあのメイドや新Ⅶ組の生徒達の目の前で躊躇いもなくディープキスをさせたそうね~?」

「う”っ…………何でサラさん達がその事を…………って、大方情報源はシャロンさんなんでしょうね………」

「シャロンさんが生き生きとしたご様子でサラさん達にお兄様とアリサさんのラブシーンを面白おかしく伝えている所が目に浮かびますわよね…………」
からかいの表情を浮かべるサラの指摘に唸り声を上げたリィンはサラにからかわれる原因となった情報を教えた人物について心当たりがあった為、その人物であるシャロンの顔を思い浮かべて疲れた表情で肩を落とし、セレーネは苦笑していた。
「ハッハッハッ、あのアリサ君にそこまでしてもらえたんだから、むしろ役得だと私は思うけどね♪」

「ハハ…………そうですね。アンゼリカさんは…………大陸一周のほうはどうでしたか?」

「ああ、正直色々あって語りつくせないくらいでね。特に東部は―――いや、日が暮れそうだから止めておこう。また別の機会にトワたちを交えて話させてもらうよ。」

「ふふっ、勿体ぶるじゃない。…………確かに色々聞くけど。」

「(大陸東部か…………老師の手紙にもあったな。)はは、でも確かに、トワ先輩やジョルジュさんとも一緒に聞きたい気がします。」

「ああ、そういえばジョルジュが分校を訪ねてきたそうだね。何か言っていたかい?―――”例の仮面の男”について。」

「あ…………」
アンゼリカのリィンへの質問にセレーネは蒼のジークフリードを思い出した。


「”蒼のジークフリード”…………話だけは他の子達から聞いたわ。地精―――黒の工房の関係者として君達の前に現れたそうだけど…………――――そんなに”似ているの?”」

「…………わかりません。そもそも俺とセレーネの”彼”との面識はサラさん達と違って数える程で、しかもお互い敵対関係のままでしたし…………」

「ですが、わたくし達もそれだけはあり得ないとは断言できますわ。」

「そうだね…………そうだった。」

「帝都近郊の霊園…………もう1年半になるのか。…………でもまあ、だからと言って気になるものは気になるんでしょう?」

「…………はい。黒の工房についてもジョルジュさんも調べてくれるそうですが…………」

「まあ、どのみちジョルジュとは会議が終わったらルーレに会いに行こうと思っているしね。そちらと合わせて、私の方でも何かわかったら連絡させてもらうよ。」

「すみません、助かります。」

「とと…………話し込んじゃったわね。」

「そろそろラクウェルに行きましょうか。」
その後リィン達は再びラクウェルへと向かい始めた。


~同時刻・デアフリンガー号~

一方その頃トワはユーシス達と通信をしていた。
「―――アンゼリカ先輩の件、了解した。明日の朝には来るように伝えてください。」

「うんっ、もちろんっ。戻ったらちゃんと言っておくね。」

「やれやれ、先輩もそうだがシュバルツァーも水臭いというか。猟兵が潜んでいるかもしれない夜の町に一人で向かおうとするとはな。」

「あはは、セレーネやエリゼ達に相談してセレーネと一緒に行こうとしただけ、マシかもしれないけどねー。ま、あの二人がついているならそこまで心配いらないかな?そもそもリィンには常に強力な”助っ人達”もいる訳だし。」
トワがユーシス達と通信をしている中、ユウナ達は扉の外から通信を聞いていた。


「…………ねえ、今のって。」

「ああ、おそらく。」

「…………ふう、またですか。」

「えっと………(教官達を追って演習地に戻った時にミハイル教官に凄く怒られる未来が視えた事は今言うべきかしら…………?」
トワ達の通信内容を聞いたユウナ達がそれぞれリィン達を追いかける決意をしている中予知能力で自分達の未来が視えたゲルドは困った表情をしていた。

~演習地~

「ハッ…………バレバレなんだっつーの。ま、居ないならかえって好都合ってモンだがな。」
一方その頃リィンのバイクがない事に気づいたアッシュは不敵な笑みを浮かべていた。
「――――あら、お一人で行ってしまうんですか?」
するとその時いつの間にかアッシュに近づいてきたミュゼが声をかけた。
「そろそろユウナさん達にも来る頃合いでしょうし…………折角なので旅は道連れの方が楽しめると思うんですけど♪」

「てめぇ…………クク、最近だんだん隠そうとしなくなってきたな?いや―――それすら計算のうちってか?」
ミュゼの提案を聞いたアッシュはミュゼを睨んだがすぐにミュゼの狙いを察して意味ありげな笑みを浮かべた。
「ふふっ、これでも新生Ⅶ組の一員ですから。つれない担任教官達への文句は分かち合うべきかと思いまして。さあ、それではみんなで作戦会議といきましょうか♪」
そしてミュゼとアッシュは列車から出てきたユウナ達に近づいて”作戦会議”を始めた――――

 

 

第79話





ラクウェルに到着したリィン達は猟兵についての情報収集した後、話し合いを始めた。

~ラクウェル~

「…………どうやら猟兵たちが確実に入り込んでいるみたいですね。ニーズヘッグ、西風、赤い星座…………入れ替わり立ち代わりみたいですが。」

「しかし紫の猟兵というのは全く尻尾を掴ませていないようだね。ラクウェルにも寄らずに野営しかしていないのかもしれない。」

「そしてわたくしとお兄様と縁があるような話もしていましたが…………本当に一体何者なのでしょう?内戦や”七日戦役”、そしてクロスベルでのお兄様とわたくしが多くの猟兵達を葬った事を考えるとわたくし達は猟兵の方々にはむしろ恨まれていると思うのですが…………」

「……………………」
リィン達が話し合っている中サラは目を伏せて黙って考え込んでいた。
「サラさん…………?」

「ふむ、何か心当たりでも?」

「…………いえ、候補については色々な可能性があると思ってね。結社の強化猟兵、情報局の偽装部隊、解散した護衛船団もあるみたいだし。」

「護衛船団”銀鯨”…………政府に解体させられたそうですね。」

「ふむ、”海の猟兵”とも言われている者たちみたいだね。」

「…………こうなって来ると決め手の情報が欲しいですね。彼らと直接やり取りをしているコネクションを持っている人物の。」

「そんな人物がいるのかい?」

「そうか―――”情報屋”ね?ラクウェルにもいた筈だけだ。」

「ええ、日中に遭遇したのですがですがあの方は…………」
リィンの言葉を聞いたアンゼリカが目を丸くしている中察しがついたサラはリィンに訊ね、サラの問いかけを聞いたセレーネは困った表情を浮かべた。
「まあ、さっきの件があるから正直言って信用はできないが”彼”ならニーズヘッグ以外と情報の取引をしている可能性が―――」

「ウイーック…………夕方から呑み過ぎたかねぇ。」
セレーネの言葉を聞いたリィンが苦笑しながら答えかけたその時、酔った様子のミゲルがリィン達の近くを歩いていた。
「クク、滅多にない稼ぎ時だ。パーッと使っちまわないとなぁ。ったく、ノイエ=プランが開いてりゃ豪遊したかったのによぉ~。まあいい、ここはカジノで女神たちの運試しでも…………ア、アンタらは…………」
気分よく歩いていたミゲルだったが、自分の先の行く手を阻むリィン達に気づくを顔色を変えて立ち止まった。
「やあ、昼間ぶりだな。――――顔馴染みのアッシュを売ったミラで飲む酒はさぞ美味かっただろうな?」

(お、お兄様…………実は結構怒っているのですね…………)

(アハハ…………リィン様が皮肉を口にする所なんて初めて見ましたわ。)

(まあ、自分どころか教え子を売った事はリィンもかなり頭にきているのでしょうね…………)
ミゲルに対する皮肉を口にしたリィンを見たセレーネやメサイア、アイドスはそれぞれ苦笑していた。
「い、いやだなぁ先生。”灰色の騎士”ともあろうお方が。――――って、そっちにいるのは”紫電”の姐さんに、ログナー家の!?」

「フフ、前に仕事で何度か会ったことがあるわね。」

「私の顔を見てすぐにわかるとはなかなか優秀じゃないか。」

「へ、へへ…………アッシュにとっちゃメシのタネなもんでねぇ。どちらも振るいつきたくなるようなイイ女だし、お近づきになりたいが…………って、ああっ!?全裸のキレイな姉ちゃんが!?」
リィン達から逃げ出そうとしたミゲルは隙を作るために古典的な方法でリィン達の隙を作ろうとし
「えっ!?」

「って、そんな手に――――」

「それは大変だ!どこだい、どこにいるっ!?」

「ア、アンゼリカさん…………普通に考えてそんな女性はいませんわよ…………」
ミゲルの古典的な隙の作り方にアンゼリカが見事嵌るとミゲルはリィン達に背を向けて逃げ出し
「しまった…………!」

「追いかけるわよ!」

「はい!」

「って、あれ?全裸っていうのは…………」
それを見たリィン達はミゲルを追い始めた。


「くっ…………ちょこまかと!二人とも、あんな見え透いた手に引っかかるんじゃないっての!」

「面目ない…………!(一瞬気を取られたな…………)」

「いや~、恐ろしい精神攻撃だったねぇ…………!」

「まあ、アンゼリカさんにとっては効果抜群だったでしょうね…………」
ミゲルを追いながら呆れた表情で声を上げたサラの注意にリィンは申し訳なさそうな表情で答え、暢気に笑っているアンゼリカにセレーネは疲れた表情で指摘した。ミゲルを追っていたリィン達だったが、ミゲルは何度も住宅を逃走経路に使った為、その逃走経路で起こった住民のトラブルに巻き込まれたリィン達はミゲルの追跡を中断させられていた。

「へ、へへ…………!何とか撒けそうだな…………このままヤサに戻ってしばらく隠れてりゃ…………!」
リィン達が追ってこない事を確認したミゲルが勝ち誇った笑みを浮かべて再び走り始めたその時、曲がり角からある女性が出てきた。
「ミラーデバイス、セットオン。」

「へっ…………(おっ、いいオンナ―――)」
突然現れた女性をミゲルが呆けた様子で見ている中女性――――いつもの軍服姿ではなく、内戦時の活動に来ていた私服姿のクレア少佐はミラーデバイスをミゲル目がけて解き放った!
「たわらばっ…………!……………………」
ミラーデバイスが顔面にぶつかった事で吹っ飛ばされたミゲルは身体をピクピクさせて気絶していた。
「これは…………」

導力反射盤(ミラーデバイス)……………?」

「ミラーデバイスという事はまさか――――」

「…………なるほど。アンタも来ていたわけだ。」
そこにリィン達がかけつけて状況を見て戸惑っている中ミラーデバイスを見て誰の仕業かを悟ったセレーネは驚き、サラは苦笑していた。
「ええ、つい先程非番で来たばかりですが………」

「クレア少佐…………!」

「ヒュウ、しかも私服とは♪」

「フフ、その私服姿を見るのは内戦以来ですわね。」
クレア少佐の登場にリィンは驚き、クレア少佐の私服姿を見たアンゼリカが興奮している中セレーネは微笑んでいた。
「こんばんわ、リィンさん、セレーネさん。サラさんにアンゼリカさんもご無沙汰しています。思わず足止めしてしまいましたがさすがにやりすぎたでしょうか…………?」
リィン達に挨拶をしたクレア少佐は気絶しているミゲルに視線を向けてリィン達に確認し、それを見たリィン達は冷や汗をかいた。

その後、リィン達とクレア少佐は駅前広場にあるパブに移動して夕食がてら情報交換する事にした。


~パブ・食堂”デッケン”~

「――――そうですか。TMPの任務は無く個人で。」

「…………ええ。明日にはまた、帝都方面に戻らなくてはならなくなりまして。息抜きに、小劇場やクラブなどに遊びに来たといった所でしょうか。」

「ク、クレア少佐が息抜きに小劇場やクラブ、ですか………申し訳ないですけど、ちょっと想像し辛いですわ…………」

「フン、アンタがそんな可愛らしい息抜きなんてする筈ないでしょうが。どうせTMPとは関係ないところで猟兵の動向を探りに来たんでしょう?せめて第Ⅱやミリアムに伝えるために。」
クレア少佐がラクウェルに来た理由にセレーネが冷や汗をかいている中サラはジト目でクレア少佐に指摘した後静かな表情を浮かべて自身の推測を口にした。
「……………………」

「少佐…………」

「フッ、美人の憂い顔というのもそれはそれで絵にはなるが…………貴女については安らいだ顔や笑顔の方が似合うと思うけどね。」
サラの推測に何も答えないクレア少佐をリィンは複雑そうな表情で見つめ、アンゼリカはクレア少佐にウインクをした。
「って、さらっと口説いてんじゃないわよ。」

「アハハ…………相変わらずどこでもブレませんわね、アンゼリカさんは。」

「…………政府の意向があるのも理解できているつもりです。ですが、第Ⅱを配している以上、政府もフォートガード州の災厄やその災厄に付随して発生する可能性があるラマール州―――クロスベル帝国との国際問題を望んでいるわけでもないでしょう。”息抜き”のついでで構いません。せめて協力し合えませんか…………?」

「リィンさん……………………そうですね。確かに意地を張っている場合ではないかもしれません。明日からは領邦会議もありますし、せめて備えを残しておくためにも…………―――現時点でTMP方面に伝わっている情報をお伝えします。どうか協力させて頂けないでしょうか。」
リィンの提案に少しの間考え込んだクレア少佐はリィン達と協力する事を決め、リィン達に自分が知る情報を伝えた。


「…………なるほどね。西風の連中は数名程度。赤い星座は、中隊クラスが移動していた形跡があるのか。」

「結社の執行者の娘は最初の特別演習でリィン君達に討伐されたそうだから、残っている幹部クラスが連れてきた手勢といったところかな?」

「ええ、”閃撃”のガレス。―――どうやら数日前にこの街に立ち寄ってるそうですが。一方、西風の面々は頻繁に目撃されているようですね。」

「ええ、赤い星座の方は野営地を築いていると思われます。それについてはニーズヘッグや紫の猟兵達も同じでしょう。」

「今の所紫の猟兵については正体が不明ですが…………クレア少佐達―――TMPもわからないのですか?さすがに情報局も掴んでいないのはあり得ないと思うのですが…………」

「…………恐らく情報局は既に把握しているのだと思います。ただ、ミリアムちゃんやTMP方面には伝えていないのかと。ちなみに護衛船団”銀鯨”のメンバーでないのは判明しています。そちらは、バラッド侯の私兵団やクライスト商会、クロスベルのラマール領邦軍などに、新たに雇われたそうですから。」
セレーネの疑問にクレア少佐は複雑そうな表情で答えた。


「そうだったんですか…………」

「クライスト商会…………あのヒューゴの実家だったわね。最近、帝都でも飛ぶ鳥を落とす勢いみたいだけど。」

「そしてラマール領邦軍―――いや、ユーディット皇妃陛下とバラッド侯か…………どちらも昔から”才媛”と”放蕩者”と、まさに対極に位置している形でそれぞれ有名だったが。どうやらバラッド侯は完全にエレボニア側の次期カイエン公になるつもりでいるみたいだね。」

「ええ、統合地方軍についてもウォレス准将を振り回す形で口出しているみたいで。峡谷方面が放置されているのもそのあたりが原因の一つでしょう。」

「そういえば峡谷方面はクロスベルとの国境ですのに、統合地方軍の兵士の方達はこのラクウェルでは見かけませんでしたわね…………」
アンゼリカの推測とクレア少佐の説明を聞いたセレーネは特務活動の最中にラクウェルや峡谷を回った時の事を思い返した。

「で、そんな状況を帝国政府は放置しておいて不手際を狙うと。サザ―ラントと一緒ってわけね。」

「……………………」

「…………状況はわかりました。いずれにせよ、この周辺にいる猟兵団は全部で4つですね。結社と関係がある”赤い星座”に何者かに雇われた”西風の旅団”―――そしてに”ニーズヘッグ”と正体不明の紫の猟兵団ですね。」

「ちなみに”西風”はともかく…………猟兵というからにはニーズヘッグも、紫の猟兵達もどこかに雇われているという事かな?」

「ええ、ニーズヘッグについてはそれで間違いないでしょう。ですが紫の猟兵達は…………」

「…………どちらかというと何か執念めいたものを感じました。」

「誰かに雇われているというより、自分達の意地を見せるような…………」

「そうですわね…………一体何のために、そして誰に対して意地を見せるような事をしようとしているのでしょうね…………」

「……………………―――”西風”と”赤い星座”はサザ―ラントでは対立していた。紫とニーズヘッグが対立しているならそれぞれが手を結んでいる可能性は?」
リィン達が話し合っている中複雑そうな表情で黙り込んでいたサラは気を取り直して自身の推測をリィン達に問いかけた。


「敵の敵は味方、ですか。」

「ええ………それならば西風や赤い星座が現時点で動いていない説明も付きそうです。」

「どちらも”前座”の決着がつくのを待っている可能性ですか。」

「ええ………――そう考えるのが自然でしょうね。」

「…………やはりもう少しだけ探りを入れてみようと思います。」

「先程の”彼”からの情報もありますものね。」
リィンの提案を聞いたセレーネはミゲルから聞いた情報を思い返した。


「チッ…………まさか名高き”氷の乙女(アイスメイデン)”までグルとはなぁ。もう逃げも隠れもしねぇや。煮るなり焼くなり好きにしろってんだ!」

「あんた…………」

「ふぅん、別にギルドでアンタの身柄を預かってもいいのよ?他の拠点で取り調べさせてもらうけど。」

「新海上要塞のウォレス准将に引き渡してもよさそうだね。領邦会議周辺の不審な動きの重要参考人という名目で。もしくはリィン君達――――メンフィル帝国の重要人物達の情報を売った件でリィン君やセレーネ君を通してメンフィル帝国に身柄を引き渡して、情報を搾り取ってもらうという手もあるね。」

「あ、あの…………アンゼリカさん。わたくしが言うのもなんですが、メンフィル帝国―――リウイ陛下達にミゲルさんを引き渡せば、ミゲルさんはとんでもない事になると思うのですが…………アンゼリカさん達もご存じのようにメンフィル帝国は情報を引き出す為なら”拷問”も行っていますし…………」

「あくまで非番ですが、この後、TMPで身柄を預かってもいいですね。その場合、フォートガード分室か帝都本部での取り調べとなりますが。」
セレーネを除いた女性陣のミゲルに対する容赦の無さにリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「わーった、知ってることを一通り話せばいいんだろ!?どうせそこまでヤバイ話は仕入れちゃいないんだし!」

「それじゃあ…………」

「だが、オレっちは情報屋だ。対価も無しに渡すことはできねぇ。どうしても欲しいってんなら―――」

「ミラ?それとも代わりのネタ?」

「――――アンタたち4人に思いっきり踏みつけてもらおうか!」


「…………ったくあのオヤジ。とんだ変態趣味だったわね。」

「えっと………確かああいった特殊な趣味の方を”マゾヒスト”と言うのでしたわよね?」

「セ、セレーネ…………一体どこでそんな情報を…………って、ベルフェゴールかリザイラだろうな…………」
ミゲルのとんでもない要求を思い返したサラが呆れている中、困った表情で呟いたセレーネの言葉を聞いたリィンは冷や汗をかいた後疲れた表情で肩を落とした。

「フッ、クレアさんについては軍服にブーツ、セレーネ君についてはドレスにヒールの方が彼的には嬉しかったのだろうが。」

「いずれにせよ、あんまり理解したくない世界ですね…………」

「ううっ、ベルフェゴール様達にだけは今回の件を知られたくありませんわ…………」

(まあ、ベルフェゴール達が知れば、間違いなくからかった挙句、リィンとの性行為の時に活用する事を薦めるでしょうものね…………)

(ええ………その様子が目に浮かびますわ…………)
口元に笑みを浮かべたアンゼリカの指摘にリィンが冷や汗をかいている中クレア少佐とセレーネは困った表情で答え、セレーネの言葉を聞いたアイドスは苦笑し、メサイアは疲れた表情で呟いた。

「まあ、おかげで(?)有益な情報が入ったわけですし。高級クラブ”ノイエ=プラン”と会員制カジノ”アリーシャ”でしたか。」

「ええ、”西風”と”赤い星座”がそれぞれ訪れていたって場所ね。ちなみに”ノイエ=プラン”はかつて帝都やクロスベルにも姉妹店はあったらしいけど…………”赤い星座”が買い取って資金源にしていた過去もあるわ。」

「フフ…………それはまた露骨というか。」

「確かクロスベルの”ノイエ=プラン”は”西ゼムリア通商会議”の件で、撤退したとの事でしたわよね?」

「ああ、それに”赤い星座”が国際犯罪テロリスト認定された事でエレボニアの方でも強制捜査等を行ったと聞いたことがあるが…………」

「”西ゼムリア通商会議”の直後、軍の捜査が入る前に権利を全て売却したそうですが…………いまだに何らかの繋がりがあるかもしれません。」

「先程貸切と聞きましたが…………改めて探った方がよさそうです。」

「ふむ、するとまずは高級クラブでボトルを入れてホステスにちやほやされて…………しかる後カジノに繰り出してバニーガールと戯れるわけだね?」
リィンに続くように答えたアンゼリカの自分達の今後の方針を聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。


「アンタは遊び慣れすぎでしょ!?」

「既にトワ先輩の心配は当たっていたという事ですわね…………」

「ま、まあ…………先にクラブにしましょうか。…………折角ですしクレアさんも付き合ってもらえませんか?

「ふふ、喜んで。遊び慣れていないのでサラさんやアンゼリカさんに指南して頂けると。」

「フッ、光栄ですレディ♪シャンパンタワーを奮発しますよ。」

「ちょ、この娘と一緒にしないでくれるっ!?」
こうしてリィン達はクレア少佐を同行者に加え―――夜8時を回った夜のラクウェルに再び繰り出すのだった。

その後再び情報収集を開始したリィン達は”ノイエ=プラン”に近づいた。

~ラクウェル~

「高級クラブ”ノイエ=プラン”か…………」

「うーん、さすが高級店らしい店構えだね。はあ、さぞかし良い酒と魅力的なホステスの皆さんを揃えていることだろう…………」

「はいはい、目を輝かせてんじゃないっての。」

「…………さすがに仕事でもこんな場所は使ったことがありませんね。うまく従業員の人などに話を聞ければいいんですが…………」

「従業員の方に話を聞くとなるとお店を利用する必要があると思いますけど…………わたくし達の今の持ち合わせで足りるでしょうか…………?」

「っと、ちょうど誰か出てきたみたいね。
ノイエ=プランの近くでリィン達が話し合っているとノイエ=プランの扉が開いた。
「ウイーッ…………やはりグランシャリネの30年物は効くわい。」

(あれは…………!)

(バラッド侯…………こんな所に来ていたのか。)
扉から出てきた人物達―――私兵に守られながら酔った様子で出てきたバラッド侯爵を見つけたリィンは驚き、アンゼリカは真剣な表情で呟いた。
「――――本日は貸切でのご利用、誠にありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」

「ウ~イ…………実に良い夜だったぞ支配人。明日からの面倒事を片付けたらまた利用するからそのつもりでな。おおそうだ、その暁には”カイエン公御用達”の看板を掲げる事を許そうぞ!」

「勿体なきお言葉…………新海都への帰路もどうぞお気を付けくださいませ。」

「ワッハッハ、善きかな善きかな!」
バラッド侯爵は支配人達に見送られて高級車に乗って去って行った。


(アレが”次期エレボニアカイエン公”…………なんというか、噂どおりの御仁ねぇ。)

(明日から領邦会議なのにこんな場所に顔を出してたのか…………)

(それだけ次期エレボニアカイエン公への就任に自信があるという余裕の表れなのでしょうか…………?)

(あれでも中々のやり手と聞きます。西部のRF社のプラントに出資して莫大な利益を上げているそうですから。)

(そうなんですか…………)

(フフ、その筋では有名かな?暫定統括者としての権限を乱用して色々とやりたい放題らしいからね。)
リィン達がバラッド侯爵について小声で話し合っていると支配人はホステスに指示をしていた。
「次の貸切のお客様方のご到着は30分後の予定です。準備の時間はあまりありませんので、迅速かつ確実に次のお客様方を迎える準備をしてください。」

「は~い。」

「お化粧直さないと…………」

「あの、すみません。」
ホステスに指示をしてノイエ=プランに入ろうとした支配人をリィンが呼び止めた。


「おや、お客様ですかな?申し訳ありませんが本日は貸切でして。誠に申し訳ありませんが後日改めて頂くことになるのですが…………」

「いや、それは残念だ。できれば遊びたかったんだけどね。」

「ア、アンゼリカさん…………」

「店を貸し切るお客さんは他にもいらっしゃるものですか?」

「いえ、近頃は先程のお客様ともう片方のお客様くらいでございますね。詳しくは守秘義務となりますが、先程のお客様はここ数日、毎日のように来店されて大変有難く思っております。」

「…………なるほど。」

「ちなみにもう片方のお客様はどのくらいの頻度でこちらを利用されているのでしょうか?」

「もう片方のお客様は二月程前から週に1,2度の頻度ですね。」

(さすがにガードが固そうですね。)

(ええ、赤い星座あたりについてどう切り込んだものか…………)
リィンとセレーネの質問に答えた支配人の様子を見たクレア少佐とサラは小声で話し合っていた。
「ふふ…………失礼ですがお客様方。かの高名な”灰色の騎士”―――リィン・シュバルツァー様と”聖竜の姫君”―――セレーネ・L・アルフヘイム様では?」

「へえ…………」

「…………ハハ、驚きました。夜の暗がりに紛れるかと思いましたが。」

「フフ、職業柄と申しますか。お連れの麗しい方々もそれぞれ一方ならぬご様子…………―――察するに、お知りになりたいのは当クラブの”前経営陣”についてでしょうか?」

「前経営陣って、まさか…………」

「…………どういうつもり?まさか”閃撃”たちの動きを教えてくれるっていうの?」
支配人の意外な問いかけにリィンがセレーネ達と共に驚いている中サラは警戒した様子で確認した。


「フフ、好きにとっていただければ。”かの方”は先日いらっしゃって以来、当店を訪れておりません。ラクウェルで足取りを追うのはあきらめたほうがよろしいでしょう。」

「あ…………」

「…………やれやれ。話が早くて助かるけど。」

「…………お認めになるのですか?いまだ彼の団と繋がりがあることを。」

「フフ…………滅相もない。これも浮世の義理、久々の挨拶にお立ち寄りになっただけのようでして。あくまで灰色の騎士一行様のお時間と、こちらの手間を省かせていただいた次第です。―――またお時間のある時にお客様としてお越しいただければ。お連れの皆さまも…………ホステスもいい勉強になるでしょうしサービスさせて頂きますよ?」

「ふう、お上手だこと。」

「フフ…………是非、寄らせてもらうよ。」

「――――それでは失礼しますわ。」
支配人から貴重な情報を受け取ったリィン達はノイエ=プランから離れて軽く話し合いを始めた。


「”ノイエ=プラン”―――赤い星座の資金源だったクラブか。今も関係があるかどうかはともかく、支配人もかなりの人物みたいですね。」

「そうですわね…………さすがは様々な”立場”の方々が訪れるクラブの支配人でしたわね。」

「ええ………ですが今の言葉に偽りはなさそうです。」

「そうね、その場しのぎの誤魔化しは言わないでしょ。バラッド侯とは別の”もう片方の貸切の客”ってのは気になるけど…………あの口ぶりだと赤い星座とは無関係でしょう。」

「となると…………赤い星座についてはいったん保留にしておくかい?」

「ええ………時間もありませんし、もう一つの候補に当たってみましょう。」

「”西風”の情報のあった会員制カジノ”アリーシャ”ですね。」

「それじゃ、引き返しましょ。―――って、あら?」

「高級リムジン…………もしかして”もう片方の貸切のお客様”、でしょうか?」
カジノに向かう為にその場を後にしようとしたリィン達だったがノイエ=プランの前に止まった高級車に気づくと立ち止まって高級車を見つめた。するとノイエ=プランから支配人やホステスが現れ、高級車から現れた意外な人物達を出迎えた。


「――――いらっしゃいませ。本日も貸切にして頂き誠にありがとうございます―――ヴァイスハイト様、ユーディット様。」

「ハッハッハッ、本当は”貸切”なんて大人げない事をしないで他の客たちの迷惑にならないように俺としては”一般客”として訊ねてもいいが、周りの者達が”それだけは止めてくれ”と頼むものでな。」

「……当たり前です。少しはご自身のお立場をお考え下さい。ちなみに支配人、バラッド侯は…………」
支配人達に出迎えられた人物達―――護衛の兵達を伴って現れたヴァイスは暢気に笑いながら答え、ヴァイスの答えに呆れた表情で溜息を吐いて答えたユーディットは気を取り直して支配人にある事を訊ね
「先程お帰りになられましたので、本日はこれ以上こちらをご利用になられないかと。」

「そうですか…………いつも、バラッド侯と私達が鉢合わせしないように配慮して頂きありがとうございます。」

「いえいえ、我々はお客様方が当店を気持ちよくご利用になられる為に当然の事をしたまでです。」

「フッ、そうか。――――さてと、いつも通り”相方”ももう少しすれば来ると思うが、先に利用させてもらうか。」
そしてヴァイス達はノイエ=プランの中へと入って行った。
(な、な、何をしているんだ、ヴァイスハイト陛下(あの人)は…………!?)

(お、お父様…………)

(ア、アハハ…………ヴァイスハイト陛下らしいといえば、らしいのですが…………)
その様子を見ていたリィンは口をパクパクさせた後疲れた表情で頭を抱え、メサイアは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、セレーネは苦笑していた。
(今の二人は六銃士の一人にして、クロスベル皇帝の一人の”黄金の戦王”とあの前カイエン公の娘の一人のユーディット皇妃よね?わざわざ他国の領土の高級クラブに来るとか何を考えているのよと言いたいわ…………)

(ハッハッハッ、噂に違わぬ皇帝陛下ですね。しかもわざわざユーディット皇妃陛下まで連れて利用するとは、さすがは”好色皇”といった所ですか。)

(………恐らく先程の話にあった”もう片方の貸切のお客様”とはヴァイスハイト陛下達の事でしょうね…………ただ、少々気になる事を仰っていましたが…………)
サラが呆れた表情を浮かべ、アンゼリカが呑気に笑っている中クレア少佐は困った表情で推測を口にした後表情を引き締めた。
(確か”いつも通り相方ももう少しすれば来る”と仰っていましたわよね?)

(ああ…………もしかしたら、高級クラブ(ノイエ=プラン)を隠れ蓑にした何らかの密会かもしれないな。…………とはいっても、今の俺達が欲しい情報とは無関係だろうけど。)

(そうね。彼らが言っていた”相方”が誰なのか確認したいけど、今はそんな事をしている余裕はないからカジノの方に行きましょう。)
そしてリィン達はその場から離れてカジノへと向かった――――
 

 

第80話

その後カジノの会員カードを購入してカジノに入店したリィン達は人だかりになっているポーカーのテーブルに気づいて人だかりに近づいた。

~カジノ”アリーシャ”~

「失礼…………ちょっと通ります。」
人だかりの中に入ったリィン達はポーカーをプレイしている人物達―――ルトガー達”西風の旅団”を見つけると血相を変えた。
「おっしゃ、来たで来たでぇ~!」

「んー、分が悪ぃ…………っつうか完全にやらかしちまったなぁ。さっきのベット、取り消していいよな、な?」

「ふむ、ここで引いては王の名が泣くのではないか?」

「ぐっ…………言ってくれやがる。」

「ほなディーラーはん、とっとと始めてんか!」

「――――それでは各々方、手札をオープンしてください。」

「どや、フルハウス!これで決まりやろ!」
ディーラーが手札の公開を促すとゼノが真っ先に自慢げな様子で自身の手札を公開した。
「甘いな―――フォーカードだ。」

「なあっ!?」

「はあ…………おまえら年寄り相手に容赦ねぇなぁ。――――うっかり本気出しちまっただろうが?」
しかしレオニダスが公開した手札を知ると驚き、ルトガーは溜息を吐いた後不敵な笑みを浮かべて自身の手札を公開した。
「ロ、ロイヤルストレートフラッシュ!」

「ほう…………!」

「んなアホなあああああっ!?」
ルトガーの手札の凄さにレオニダスはディーラーと共に驚き、ゼノが悲鳴を上げると周りの観客達が称賛の拍手をした。
「いやはや、見事な逆ブラフでした。それではチップは全額そちらに移動となります。」

「いやー、悪いねぇ。」

「ふう、さすが団長。相変わらずの腕前だな。」

「ウ、ウソや…………あんなん絶対イカサマや…………」

「ハハ、どうしたゼノ。ブラフはお前の領分だろ?若いモンは元気がなくちゃな。なんだったら一杯奢ってやろうか、ん?」

「だあっ、煽りが大人げないっちゅうねん!」

「あなたたちは…………」
勝負が終わった事で観客達がその場から去るとリィンがルトガー達に声をかけた。


「おお、若いの。久しぶりじゃねえか。ハハ、サザ―ラント以来か。”紫電”も”久しぶり”だな?」

「…………ええ、久しぶりね。”西風”の団長さん。」

「ふう、そんな気さくに声をかけられても困るんですが…………」

「西風―――なるほど、話に聞いていたフィー君の…………」

「ガルシアさんが以前所属していた猟兵団でもありますわね…………」

「そして”猟兵王”…………情報通り、ですか。」

「”氷の乙女”も久しぶりだな。」

「…………ん?そっちの嬢ちゃんもどっかで見たことがあるような。」

「ハハ、綺麗どころを引き攣れて羨ましいじゃないか。立ち話もなんだ、よかったらあっちのラウンジに付き合わないか?―――なにやら色々聞きたい事もあるみたいだしな。」

「…………ええ、よろしくお願いします。」
ルトガーの提案に頷いたリィンは仲間達と共にラウンジに移動してルトガー達と対峙した。


「はは、結局酒は頼まなかったのか?せっかくの良い夜なのに勿体ねぇな。所詮宵越しの金だ、オゴりだからって遠慮しなくたっていいんだぜ?」

「くっ、人から巻き上げたミラやと思って。」

「まあ、こちらも一応仕事中ですから。」

「それに生憎、貴方達の前で酔っ払うほどの度胸はないしねぇ。」

「フッ…………用心深い事だ。」

「やれやれ、つれないねぇ。オジさんは寂しいぜ。しかしまさか”四大”の御令嬢と”氷”の将校さんまで一緒とは。」
酒を断ったサラの理由にレオニダスは静かな笑みを浮かべ、ルトガーは苦笑した後クレア少佐とアンゼリカに視線を向けた。
「あくまで任務外の息抜きです。」

「フッ、折角フォートガード州に来てラクウェルの夜を楽しまないのは損というものだしね。」

「ハハ、わかってるじゃねぇか。―――ま、そう身構えないでくれや。フィーが世話になってきた礼をちゃんとしたかったのもあるしな。」

「…………一方的に礼を言われるようなことではありません。特務部隊の仲間として、旧Ⅶ組の彼らはクラスメイトとしてお互い支えあってきただけです。」

「Ⅶ組への参加や特務部隊への参加も、遊撃士の道もフィーが自分自身で決めたことよ。あたしたちに礼を言う暇があるなら”元保護者”としてちゃんと話す機会を作るべきじゃないの?」

「ハハ…………耳が痛いねぇ。」

「ま、それを言われちゃ流石にグウの音も出ぇへんわ。」

「…………それでも感謝はしている。」
サラの指摘にルトガー達はそれぞれ苦笑していた。


「…………わかりました。ともあれ、本題に入らせてください。貴方達がこの地にいること…………まさか偶然だとは言いませんよね?―――”黒の工房”に協力して何をしようとしているんですか?」

「へえ…………」

「ふむ…………」

「クク、グイグイ来るねぇ。嫌いじゃないぜ、そういうの。―――もっと踏み込んで色々聞いてくれてもいいんだぜ?例えばサザ―ラントで見せたアレのこと―――気になってんだろう?」

「あ…………」

「(あの紫色の”影”…………)……………………聞きたいのは山々ですがすんなり答えていただけるんですか?」
ルトガーの指摘にセレーネと共にリィンはサザ―ラントでの出来事を思い返したリィンはルトガーに問いかけた。

「ハハ、まあタダじゃあ無理だ。一応”守秘義務”があるんでな―――おいそれと話すわけにはいかねぇ。」

「――――!」

「っ…………!」
リィンの問いかけに答えたルトガーは懐に手を入れ、それを見たリィンとクレア少佐は顔色を変えたがルトガーは意外な物を懐から取り出して机に置いてリィン達に見せた。
「――――だからコイツで勝負といかねぇか?」

「え………」

「それは確か…………VM(ヴァンテージマスターズ)のデッキですわよね?」

「ああ、最近巷で流行っているという戦術カードゲームか。」

「俺達もちょいとハマっててな。もし俺達全員に勝てたら”これ以上”を喋ってやってもいいぜ。」

「カードゲームで情報を…………?」

「やれやれ、つくづく食えないオジサンねぇ。」
ルトガーの提案にクレア少佐が目を丸くしている中サラは苦笑していた。


「団長…………」

「はあ、文句言われても知らんで?」

「クク、若いモンにはチャンスを与えてやるもんだ。そして報酬はてめぇ自身の手で”掴み取るもの”――――乗るかよ、リィン・シュバルツァー?」

「――――わかりました。受けて立たせてもらいます。」

「ブレードもやってたしあたしも…………といいたいところだけど。デッキ構築が要るゲームはちょっと面倒くさいわねぇ。」

「わたくしも自分の”VM”のデッキはあるのですが、正直対戦の経験はあまりありませんので、勝つ自信はありませんわ。」

「ブラックジャックやポーカーなら自信はあるのですが…………」
リィンはルトガーの提案に乗ったがサラとセレーネ、クレア少佐はそれぞれ自信なさげな答えを口にした。
「ハハ、それだと多分少佐殿の一人勝ちだろうしな。ちょうど買ったばかりで未開封の完成デッキが余っている。お互いそいつを使ってやればそう差は出ねぇんじゃねえか?」

「…………なるほど、一応フェアな条件みたいだね。私がジャッジを引き受けよう。イカサマがないかどうかは検めさせてもらうよ?」

「フフ、好きにしな。」

「それでは1ゲームは私が引き受けましょう。」

「あたしも参加するわ。―――組み合わせはどうする?」

「ほな”紫電”の姐さんはオレの相手をしてもらおか。」

「”氷の乙女”は引き受けよう―――手並みを拝見させてもらう。」

「それでは、俺が貴方とですね。」
ゼノとレオニダスがそれぞれの相手を指名するとリィンは自分の相手であるルトガーを見つめた。
「クク、お手柔らかにな。それじゃあさっそく始めるとしようか…………!」
その後、アンゼリカが完成デッキにイカサマがないことを確認した後、ゲームが始まったのだった。

「―――ほな、ここで”コンジュレート”や。姐さんの切り札にはしばらく黙っといてもらおか?」

「チッ、やるわね…………!」

「”ブレイズ”で強化して攻撃―――マスターに6点のダメージだ。」

(………当たりが強いですね。)

「サラさん、クレア少佐…………!」

「慣れているとはいえ、あの二人を押すほどとはね…………」

「ええ………それにルトガーさんも…………」
サラとクレア少佐の劣勢の様子にリィンは不安そうな表情で声を上げ、アンゼリカは重々しい様子を纏って呟き、セレーネは心配そうな表情でリィンを見つめた。
「ハハ、さっきから余所見ばかりだな。一気に畳みかけちまうぞ?”キュリア・ベル”のスキル発動。全体にダメージだ。」

「くっ…………!(ここで負けるわけには…………!)」
そして自身も押され気味である事にリィンが唇を噛みしめたその時
「――――クハハ!揃いも揃って情けねぇなぁ?」

「え………」

「この声は…………!」
聞き覚えのある男子の声が聞こえ、声を聞いて驚いたリィン達が視線を向けると新Ⅶ組の面々がリィン達に近づいてきた。


「アッシュさん、ミュゼさん!?ユウナさん達までどうして…………」

「ふふっ、来ちゃいました♪」

「よ、ようやく見つけたと思ったら…………!」

「ほう、あの時の…………新顔も混じってやがるな。」

「黒兎も久しぶりだ。」

「ハハ、こないなところで何をしとるんや?」

「…………こちらのセリフかと。」

「あのカードゲームは…………何やらややこしい状況だな。」

「うん…………みんな、押されているわ。」
リィン達の状況を確認したアルティナはゼノの問いかけにジト目で答え、リィン達が劣勢である事に気づいているクルトとゲルドは真剣な表情で呟いた。
「ハッ、話は後だろ。…………ハン、なるほどな。代われやバレスタイン。オレがひっくり返してやるよ。」

「へ。」

「なんやと…………?」
アッシュの意外な提案にサラと対戦相手のゼノもそれぞれ呆け
「ふふ、このゲームなら私もある程度覚えがあります。少佐ほどの計算は無理ですが、どうかお任せ頂けませんか?」

「あ…………」

「ふむ…………」
更にミュゼの提案にもクレア少佐は呆け、レオニダスは興味ありげな表情でミュゼに視線を向けた。
「ちょ、大丈夫なの!?」
一方ユウナは不安そうな表情で交代を申し出たアッシュとミュゼに訊ねた。

「ふう………付け焼刃じゃここまでか。」

「ええ、少なくとも私達よりも心得はある様子。構いませんか?」
サラと共に交代する事を決めたクレア少佐はレオニダス達に確認した。
「…………こちらは問題はない。」

「ハハ、どうひっくり返すんかはお手並み拝見させてもらおか?」

「アッシュさん、ミュゼさん…………」
確認された二人はそれぞれ承諾の答えを口にし、セレーネは目を丸くしてミュゼとアッシュを見つめた。
「フフ、面白い展開になってきたじゃないか。若いの、こちらはいったん仕切り直すとしようぜ?」

「いいんですか?盤面はそちらの有利ですが。」
ルトガーの意外な提案に目を丸くしたリィンはルトガーに確認した。
「ま、横ばかり見てるヤツに勝っても面白くもなんともないんでな。―――今度はガチで真剣勝負と洒落込もうや。」

「…………わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます。」

「クク、折角だしお前さんが作ったデッキを使ってくれてもいいぜ?もちろんその場合は俺も自分のデッキで相手させてもらうが。」

「(猟兵王のデッキか…………かなりの手強そうだな。だが今の手持ちのカードなら何とか勝負になるかもしれない…………)…………わかりました。俺のデッキで挑まさせてもらいます。」

「はは、そう来なくちゃな…………!それじゃあ仕切り直しだ――――準備するとしようか。」
その後リィンはルトガーとのゲームを仕切り直しをし始め、アッシュとミュゼはそれぞれの対戦相手との対戦を開始した。


「あの二人、大丈夫なの?」

「わからないが…………任せるしかないだろう。」

「教官の相手もあの猟兵王…………全く気が抜けませんね。」

「うん…………みんな、頑張って…………!」

「頼んだわよ、君達…………!」

「リィンさんもどうか…………!」

「ご武運のお祈りしていますわ…………!」

「――――それではリィン君とルトガー氏の再試合を始める!」

「行くぞ―――!」

「ハハ、来な…………!」
そしてリィンはルトガーとの再試合を始めた。ルトガーは見た事もない強力なカードを持っていた為、試合は相当な激戦となったが、リィンはマスターカードの残りHPが瀬戸際の状態でルトガーから勝利をもぎ取った。


「マスター撃破…………!リィン君の勝利だ!」

「…………ふうっ。(なんとかなったか…………)」

「ハハ…………ここまでか。」
アンゼリカがリィンの勝利を宣言するとリィンは安堵の溜息を吐き、ルトガーは苦笑していた。
「や、やった…………!」

「よく勝てたな…………」

「うん…………本当にギリギリの勝負だったわ。」

「ミュゼさんとアッシュさんは―――」
ユウナ達がリィンの勝利を喜んでいる中アルティナはミュゼとアッシュの状況を確認した。
「――――クク、で、こいつで終いってワケだ。」

「嘘やろ!?”ヴァニッシュ”3連続で18点ダメージやとお!?オイオイ坊、んなモン今の今までどこに隠し持っとったんや?さてはお前―――」
アッシュが出した切り札に驚いたゼノはアッシュがイカサマした事を疑ったが
「ハッ、まさか証拠もねぇのにイカサマとか言わねぇよな?切り札は最後まで隠しとくのは常識だぜ。」

「ハハッ…………!おもろいボンやなぁ!」
アッシュが堂々とした様子でイカサマをしていない事を答えると感心した様子でアッシュを見つめた。
「ふふっ…………これでターン終了です。」

「次のターンでこちらの負け、か。…………見事だな。きめ手は3ターン前の”タイド”か。よくぞこの勝ち筋を見出したものだ。」

「うふふ、そんな。たまたま引きがよかっただけで。」
レオニダスに勝利したミュゼはレオニダスの賛辞に謙遜した様子で答えた。


「あ…………」

「無事、勝ったみたいですね。」

「ふう、二人ともよくあそこから凌いだな。」

「うん、少なくても私だと予知能力を使っても勝てなかったと思うわ。」

「フフ、今回はアッシュさん達に助けられてしまいましたわね。」

「ええ………どうやら定跡と戦型を完璧に使いこなしたみたいです。」

「アッシュは多分イカサマか…………いずれにせよ見事だわ。
生徒達の勝利にセレーネは苦笑し、クレア少佐とサラは感心した様子でアッシュたちを見守っていた。

「やれやれ、本当に3人とも負かされるとはなぁ。やっぱり若いヤツには勝てん勝てん。これも寄る年波ってやるかねぇ。」

「…………ふう、こっちはあまり勝った気がしてないんですが。教え子に助けられた上に仕切り直しまでしてもらいましたし。」

「クク、それでも勝ちは勝ち、約束は約束ってヤツじゃねえか?―――”報酬”の時間だ。いくつかは質問に答えてやろう。ちなみに前に見せた紫のヤツは”ゼクトール”って名前だ。それ以上は守秘義務で話せねぇがな。」
ルトガーが口にした情報を聞きリィン達はそれぞれ顔色を変えた。


「紫のって、サザ―ラントで見た…………」

「ゼクトール―――ますます”騎髪”っぽい響きだけど…………」

「そういえば分校長の騎神―――”アルグレオン”は”銀”ですけど…………”騎神”は一体何体存在しているのでしょうね…………?」
サザ―ラントで見た紫の”影”―――ゼクトールを思い返したユウナは真剣な表情で呟き、サラとセレーネはそれぞれ考え込んでいた。
「――――では、それ以外にも幾つか。貴方達を含めて、この地では”4つ”の団が暗躍しているみたいだ。西風に赤い星座、ニーズヘッグ。そして正体不明の”紫の猟兵”―――それぞれの目的は一体、何ですか?」

「あ…………」

「フフ、直球だねぇ。」
リィンの質問にアルティナは呆けた声を出し、アンゼリカは感心した様子で見守っていた。
「ま、そこに来るわな。4つの団の目的はそれぞれ違うが、大まかに二つの陣営にわかれていてな。片方の陣営は、赤い星座と、紫の猟兵―――もう片方の陣営は、俺達と”政府に雇われた”ニーズヘッグがいる。」

「せ、政府があの黒い猟兵を…………!?」

「…………そう、だったんですか。」

「協力関係も予想通りか…………」

「…………あれ?でも確か猟兵の雇用を禁止する”西ゼムリア同盟”に調印しているエレボニア帝国も猟兵を雇ってはいけないんじゃあ…………?」

「…………恐らく”ハーメル”の件同様、各国家には内密にするために少なくても政府側は証拠を残さず裏で雇っているんだろうな。」
ニーズヘッグがエレボニア帝国政府が雇っている事にユウナとクレア少佐が驚いている中、アンゼリカは真剣な表情で呟き、ゲルドの疑問にクルトは複雑そうな表情で答えた。


「…………同じ陣営だが、貴方がたは政府に雇われているわけではないんですね?」

「ああ、その通りだ。」

「ま、利害の一致でニーズヘッグをバックアップしとるだけやね。」

「俺達が”何処”に雇われているかはもうバレちまってるみたいだし…………赤い星座が”結社”の側についてるのは今更言うまでもねぇだろう。問題は”紫の猟兵”だが――――とっくに気づいてんだろ?サラ・バレスタイン。北方戦役で破れ、それでも”誇り”を捨てきれなかった死兵たち…………”北の猟兵”の脱退組だっていうのを。」

「ッ…………!!」
サラを見つめて指摘したルトガーの指摘にリィン達がそれぞれ驚いている中サラは唇をかみしめた。


「”北の猟兵”…………!」

「そ、それってたしか…………」

「旧ノーザンブリア自治州を本拠とした大規模猟兵団の名前ですね。」

「そして2年前のメンフィル帝国とエレボニア帝国の戦争―――”七日戦役”の勃発の原因となったリィン教官達の故郷を襲撃した猟兵達ね…………」
クルトは声を上げ、不安そうな表情をしているユウナに続くようにアルティナは答え、ゲルドは静かな表情でリィンを見つめて呟いた。
「…………やっぱり、そういうことだったのね。」

「サラさん…………」

「やはりサラさんは薄々気づかれていたのですか…………」

「……………………」
厳しい表情で呟いたサラの様子をクレア少佐とセレーネはそれぞれ辛そうな表情で見つめ、リィンは目を伏せて考え込み
「フフ…………」
その様子を見たルトガーが静かな笑みを浮かべているとゼノとレオニダスが立ち上がった。


「おい、待てやコラ!」

「せっかく3人勝ったのに報酬が名前と陣営だけというのはケチすぎやしないかい?」

「クク、守秘義務の完全無視はさすがにカンベンしてくれ。今回の報酬としちゃ十分すぎるくらいだろう?」
去ろうとする自分達を呼び止めて文句を言うアッシュとアンゼリカに対してルトガーは苦笑しながらリィン達に問いかけた後伏せていた自分の残りの手札をリィン達に見せた。

「あ…………」

「………てめぇ…………」

(やはり…………)
ルトガーが見せた手札を見て、ルトガーは本当はリィンに勝てたのにわざと負けた事を悟ったリィンは呆けた声を出し、アッシュはルトガーを睨み、ミュゼは納得した様子で手札を見つめていた。
「クク、だが良い勝負だった。…………またどこかでな。」

「ほなな、ボンども。なかなか楽しかったで~。」

「機会があればまた相手をしてもらおう。―――さらばだ。」

「――――待ちなさい。”キリングベア”から貴方達に伝言があるわ。」
ルトガー達が去ろうとするとサラが呼び止めた。
「”キリングベア”――――ガルシアやと…………?確か奴は今、クロスベルのムショに入っているはずやけど、何で”紫電”がわざわざクロスベルのムショにいる奴と会ったんや?」

「――――先月様々な事情によってクロスベル政府の判断で一時的に仮釈放された彼と共闘する事があったのよ。」

「先月…………――――フッ、クロスベルに潜伏していたエレボニアの諜報関係者達をクロスベル帝国軍・警察がギルドと協力して一網打尽にした件か。」

「ハハ、俺達もその件は風の噂で聞いてはいたがまさかガルシアも関わっていたとはな…………で、ガルシアは俺達に何を伝えろって言ったんだ?」
ゼノの疑問に答えたサラの説明にレオニダスは納得し、ルトガーは軽く笑った後興味ありげな様子でサラにつづきを促した。
「『猟兵を西ゼムリア大陸から締め出すも同然の西ゼムリア同盟が調印され、オルランドの一族も俺のように猟兵稼業から退いた闘神の息子を除けば全員死に絶えた今の時代に”猟兵”はもはや”時代遅れの存在”だ。時代に取り残されたくなければ、俺のように猟兵を辞めた方がいいぜ』――――それが貴方達への伝言よ。」

「ハハ、『猟兵は時代遅れの存在』、か。言い得て妙やな。」

「…………ああ。実際、裏で様々な事を画策しているエレボニア政府を除けば”表”の組織で猟兵を雇う組織は西ゼムリアには存在しないだろう。」

「全くだな…………そういう意味では猟兵が生き辛いこんな時代でも猟兵を続けている俺達も北の猟兵の脱退組と同じ穴の狢かもしれねぇな…………―――ガルシアの伝言をわざわざ届けてくれたことには感謝しているぜ。――――それじゃあな。」
そしてルトガー達は去って行き、ルトガー達が去るとリィン達はルトガーが残していったルトガーの残りカードを確認した。


「え、この残りカードって…………」

「こんな組み合わせを残していたということは…………」

「問答無用で大ダメージを与えられる最強の組み合わせ…………彼は終盤、いつでもこれを繰り出せるのにしなかった。…………どう考えても手を抜かれていたんだろうな。」

「あ…………」

「お兄様…………」

「ここがこう、ああなって…………確かにその可能性は高そうです。」

「チッ…………見ねぇマスターといい、何か仕込んでやがったのか?」

「もしかしてこれも”黒の工房”が関係しているのかしら?」

「いえ、恐るべき引きと卓越した戦術眼の為せる業かと。(………ふふ、”猟兵王”でしたか。)」
アッシュとゲルドの疑問に静かな表情で答えたミュゼはルトガーを思い返して苦笑していた。
「…………まあ、勝ちは勝ちよ。捨て台詞なんて放っておきなさい。」

「得られた情報は僅かでしたが収穫は限りなく大きいと思います。」

「胸を張りたまえ、リィン君。それにミュゼ君とアッシュ君も。」

「あ…………」

「ふふ、ありがとうございます。」

「ハッ、せいぜい恩に着ろや。」

「…………ああ、来てくれて本当に助かった。――――だが、どうしてここに居るかは聞かせてもらう必要がありそうだな?」

「――――そうですわね。来てくれたことには感謝していますが、要請(オーダー)の件でもないのに、ミハイル少佐に許可も取らずにわたくし達を追った事に関してはわたくし達も色々と言いたいことがありますしね。」
リィンとセレーネが自分達を説教しようとした事に生徒達はそれぞれ顔色を変え
「~~~~♪~~~」

「ふう、慣れない勝負の熱気でちょっとめまいが…………」
アッシュとミュゼはそれぞれ誤魔化そうとしていた。
「ちょっ、言いだしっぺは―――ってあたしたちも完全に同罪か。」

「ああ、しかも彼らは教官達のフォローも果したからな…………」

「VM…………合間を見て定跡を学習すべきでしょうか。」

「あ、それなら私と一緒に勉強しましょう、アル。いつか、お義父さん達ともこのカードゲームで遊びたいと思っているもの。」

「―――そういう問題じゃない。そもそも学生の身でこんな場所に…………」
その後セレーネと共に生徒達を説教したリィンはセレーネ達と共にカジノを出てラクウェルの出入り口付近に駐輪している導力バイクの所に向かおうとすると意外な人物達がリィン達に声をかけた。


~ラクウェル~

「―――こんな所でお前達は何をしている?」

「へ…………」

「な――――」

「ええっ!?ど、どうして陛下達がここに…………!?」
聞き覚えのある声にリィンが呆けて声が聞こえた方向に視線を向けるとそこにはリウイ、イリーナ、エクリア、カーリアンがいて、リウイ達を見たクレア少佐は絶句し、セレーネは信じられない表情で声を上げた。
「へ、”陛下”って…………」

「…………銀髪の男性は”英雄王”リウイ・マーシルン前皇帝陛下。メンフィル帝国の前皇帝にしてゲルドさんの義父でもあります。」

「貴方達があの…………」

「へえ?クク…………連れの女はどれもとんでもない上玉揃いなのに、その女達を連れてわざわざ他国の歓楽街に遊びに来るとか、お堅そうな面の割にはクロスベルの好色皇と大して変わんねぇな。」
セレーネが呟いた言葉を聞いたユウナが信じられない表情をしている中アルティナが説明し、クルトは驚きの表情でリウイ達を見つめ、アッシュは不敵な笑みを浮かべてリウイ達を見つめた。
「ア、アッシュさん!?」

「さすがに相手が不味すぎるわよ!?すぐに謝りなさい…………!」
アッシュのリウイに対する無礼な口ぶりにセレーネとサラはそれぞれ慌て
「フフ、まさかこのような形でゲルドさんの”実家”のご家族とお会いする事になるとは思いもしませんでしたわ♪」

「あ…………ミュゼ達もそうだけど、ユウナ達にもお義父さん達はまだ紹介していなかったわね…………―――紹介するわ。アルもさっき言ったように銀髪の男性がリウイお義父さん、金髪の女性がセシルお義母さんとは別のもう一人のお義母さんのイリーナお義母さんで、イリーナお義母さんの隣にいるメイドさんはエクリアさんって言って、お義父さんとイリーナお義母さんを支えているメイドさんよ。」
一方ミュゼは暢気に微笑みながらリウイ達を見つめ、ミュゼの言葉を聞いてある事を思い出したゲルドはユウナ達にリウイ達を紹介し、ゲルドのマイペースさにリィン達とリウイ達はそれぞれ冷や汗をかいて脱力した。


「この状況で真っ先に家族の紹介をするとか、いろいろとズレた娘ね…………」

「ハッハッハッ、まさにその純白の髪のような純粋な性格である証拠じゃないですか。」
我に返ったサラは呆れた表情で溜息を吐き、アンゼリカは暢気に笑い
「…………先程の紹介に出たメンフィル大使リウイ・マーシルンだ。見知り置き願おうか―――トールズ第Ⅱ分校、新Ⅶ組。」

「リウイの正妃のイリーナ・マーシルンと申します。ゼムリア大陸に来たばかりの私達の娘がいつもお世話になっております。」

「リウイ・イリーナ両陛下にお仕えしているエクリア・フェミリンスと申します。以後お見知りおきを。」

「フフ、私はカーリアン。リウイの愛人みたいなものよ♪」
その様子を見て再び冷や汗をかいて脱力したリウイは気を取り直して自己紹介をし、イリーナたちもリウイに続くように自己紹介をしたがカーリアンの自己紹介を聞くとリィン達に加えてリウイ達もそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「あ、”愛人”!?」

「…………まあ、厳密にいえば違いますが、似たような存在ではありますね。」

「いやいや、全然違うから!カーリアン様はれっきとしたリウイ陛下の側妃だから!す、すみません…………生徒達が陛下達に無礼な口を…………」
カーリアンの言葉を真に受けて驚いているユウナにアルティナはジト目で指摘し、慌てた様子で二人に指摘したリィンはリウイ達に謝罪をした。

「別に構わん。―――それよりも、何故お前達がこんな時間でわざわざ歓楽街にいる?まさかとは思うがこれもお前達新Ⅶ組の”特務活動”とやらの一環か?」

「しかもカジノから出てきたわよね~?もしかして生徒達にギャンブルを教えていたのかしら♪」

「ア、アハハ…………これには色々と複雑な事情がありまして…………というか、わたくし達の方こそ、カーリアン様達が何故こちらにいらっしゃるのかを訊ねたいのですが…………」
リウイに続くようにからかいの表情で問いかけたカーリアンの問いかけにセレーネは苦笑しながら答えを誤魔化した。


「”カーリアン”…………?あ、もしかして貴女がカーリアンお祖母(ばあ)ちゃん?」

「ブッ!?」

「ゲ、ゲルドさん!?」

「誰がお祖母(ばあ)ちゃんよ!?その白い髪…………貴女がリウイ達の話にあったリウイ達の養子の一人になったゲルドって娘なんでしょうけど…………何で私の事をお祖母(ばあ)ちゃんなんて呼ぶのよ!?」
カーリアンの名前を聞いてある事を思い出したゲルドの問いかけにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンは噴きだし、セレーネは表情を青褪めさせ、カーリアンは顔に青筋を立てて声を上げてゲルドを睨んで問いかけた。
「え?リフィア義姉(ねえ)さんが私の事を”妹”扱いしてくれていて、リフィア義姉さんが”カーリアン”っていう名前の肌を凄く露出している女性はリフィア義姉さんのおばあちゃんだから私もその人に会ったらそう呼べって…………」

「やっぱり元凶はリフィアね!次に会ったら覚えておきなさい…………!――――それと、私の事は普通に名前で呼びなさい!私はまだそんな年じゃないわよ!?」

「やれやれ………――――新Ⅶ組の他にもいるそれぞれの”立場”の者達とこんな時間にここに来たという事は…………大方、このフォートガードで暗躍している西風、星座、ニーズヘッグ、そして”北”の残党共の動きを調べるためといった所か?」
ゲルドの答えを聞いて顔に青筋を立ててある人物の顔を思い浮かべたカーリアンはゲルドに指摘し、カーリアンの”実年齢”を知っているリウイ達やリィン、セレーネはカーリアンのゲルドへの指摘を聞くとそれぞれ冷や汗をかき、リウイが呆れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してリィン達に問いかけるとリィン達はそれぞれ驚きの表情を浮かべた。


「ええっ!?」

「メンフィル帝国はこのフォートガードで暗躍している猟兵団全てを既に把握していらっしゃったのですか…………」

「やれやれ、リィン君達が何とか猟兵王達からつかみ取った”報酬”の価値が一瞬で暴落するとはね。」

「…………やはり陛下達も既にご存知でしたか。」

「知っていたのでしたら、予めわたし達にも情報を回して欲しかったのですが。」

「ア、アルティナさん。」
ユウナは驚きの声を上げ、クルトは真剣な表情で呟き、アンゼリカは疲れた表情で溜息を吐き、リィンは納得した様子で呟き、ジト目でリウイに文句を言うアルティナの言葉を聞いたセレーネは冷や汗をかいた。
「猟兵王…………確か4年前の異変の際に結社と共にロレントを攻めてきた所をファーミシルス様が討ち取った”西風の旅団”という猟兵団の団長でしたね。」

「ああ、そういえば殺したはずの獲物を生き返った事を知ったファーミが今度会ったら前と違って2度と生き返らないように『首を刈り取る』って息巻いていたわね~。ま、私も機会があればその猟兵王って奴と殺り合いたいわね~♪久しぶりに殺り合いがいがある相手である事もそうだけど、もし私が猟兵王をファーミよりも先に殺せば、ファーミの事だから物凄く悔しがるでしょうし♪」
アンゼリカの言葉を聞いてある事を思い出したイリーナは静かな表情で呟き、暢気な様子で呟いたカーリアンの物騒な発言にリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「フフ、”空の覇者”と名高いファーミシルス大将軍閣下が一度討ち取ったはずの”猟兵王”に対してそこまで執着しているという事は、もし今回の演習地で猟兵王―――”西風の旅団”が立ち塞がるかもしれない”要請(オーダー)”が発生した際は大将軍閣下を教官達のサポートとして派遣して頂けるのでしょうか?」

「…………さてな。だが、既にエレボニア帝国政府からリィン・シュバルツァーに対する要請(オーダー)の話は打診されている事は事実だ。」

「メンフィル帝国政府を通したエレボニア帝国政府の教官に対する要請(オーダー)が既に打診されているという事は…………」

「…………既に政府はこの地で”何が起こるか”、想定済みという事ですか。」

「ハッ、どうせサザ―ラントの時と同じで事件が起こっても正規軍を動かすつもりは全くねぇんだろうな。」
ミュゼの質問に対する答えを誤魔化した後にリウイが口にした驚愕の事実にリィン達がそれぞれ血相を変えている中クルトは重々しい様子を纏って呟き、クレア少佐は複雑そうな表情で推測し、アッシュは鼻を鳴らして皮肉気な笑みを浮かべた。


「…………陛下。その打診されているという要請(オーダー)の内容をここで教えて頂く事はできないでしょうか?」

「悪いがそれはできん。事件が起こるまでは他言無用という約定を帝国政府と予め取り決めている。――――が、今回の要請(オーダー)に関わると推測される結社の残党共のメンバーくらいならば教えても構わん。」

「やっぱり、結社もこの地でもサザ―ラントやクロスベルの時のような”実験”をするつもりなのね…………ちなみに、今回の”実験”を担当していると思われる結社のメンバーは誰なんですか?」
リィンの質問に対して答えたリウイの答えを聞いて真剣な表情で呟いたサラはリウイに訊ねた。
「――――リアンヌが出陣()ざるを得ない者達といえば、お前達ならばわかるだろう。」

「リアンヌさんが出陣()ざるを得ない結社のメンバー…………?」

「ま、まさか…………」

「間違いなく”鉄機隊”かと。」
リウイの答えを聞いたゲルドが首を傾げている中心当たりがあるセレーネは不安そうな表情をし、アルティナは静かな表情で答えた。
「サザ―ラントの時の…………!」

「そ、そういえば次に結社の実験に関われば、分校長自らが教官の”要請(オーダー)”の補佐の一人として同行して引導を渡すみたいな事をプリネ皇女殿下が伝えていたわよね…………?」

「…………貴重な情報を教えて頂き、ありがとうございます。」
かつての出来事を思い出したクルトは声を上げ、ユウナは不安そうな表情で呟き、目を伏せてデュバリィ達の事を思い返したリィンは目を見開いてリウイを見つめて軽く頭を下げて感謝の言葉を述べた。

「お前達には世間知らずの養娘(ゲルド)の世話をしてもらっているからな。その礼代わりだ。」

「フフ、学院生活はどうかしら、ゲルド?」

「勉強は難しいけど、友達になったユウナ達や教官達が教えてくれるから何とか付いていけているし、”部活”もとても楽しいわ。…………あ、”部活”で思い出したのだけど、お義父さんに聞きたいことがあるのだけど…………」
リウイの後に問いかけたイリーナの質問に嬉しそうな様子で答えたゲルドはある事を思い出してリウイに訊ねた。


「俺に聞きたい事だと?一体どんな内容だ?」

「えっと………”高級クラブ”って、どんな”部活”なの?」

「ブッ!?」

「ゲ、ゲルドさん…………」

「クク、まさか覚えていて本当に聞くとはな。」

「クスクス、さすがはゲルドさんですわね♪」
ゲルドのリウイへの質問にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンは噴きだし、セレーネは疲れた表情で肩を落とし、アッシュは口元に笑みを浮かべ、ミュゼは微笑んでいた。
「…………何故、俺にそれを聞こうと思ったのだ?」
頭痛を抑えるかのように疲れた表情で片手で頭を抱えたリウイはゲルドに訊ね
「教官達がヴァイスハイト皇帝みたいに”娼館”や”高級クラブ”に飽きる程通っているお義父さんなら、知っているんじゃないかって。あ、後お義父さんの側妃の中にはその”娼館”や”高級クラブ”でお義父さんに見初められた女性がいるかもしれないから、お義父さんに聞いた方がいいって。」

「プッ――――アハハハハハハッ!まあ、リウイもヴァイスみたいにそういった所には何度も通っていたから、リウイなら”高級クラブ”も知っていて当然でしょうね♪」

「俺をあの好色皇と一緒にするな…………それよりも、お前達はこの世界の事がほとんど知らない俺の養女(むすめ)に一体何を吹き込んだ?」
ゲルドの答えにカーリアンは噴きだした後腹を抱えて笑い、カーリアンの指摘に対して呆れた表情で答えたリウイは顔に青筋を立ててリィン達を睨んで問いかけた。


「ちょっ、俺はそんな失礼な事は一言も言っていませんよ!?ゲルドに陛下の事をそんな風に吹き込んだのは生徒達―――アッシュとアルティナです!」

「さぁて、そんな事を言った覚えはねぇな~。なんせ俺は”ラクウェルの悪童”なんで、頭の出来も悪いからな~。」

「私もリウイ陛下達に対してそのような無礼な言葉を口にした記憶はありません。リィン教官の記憶違いかと。」
リウイに睨まられたリィンは慌てた様子で言い訳をし、リィンの言い訳を聞いたアッシュとアルティナはそれぞれリウイ達を前にしてもいつものペースで責任逃れをしようとし、それを見たリィン達とリウイ達はそれぞれ冷や汗をかいて脱力した。
「フフ、そういえば正妃である私もあなたがそういった施設に通っている事は知ってはいましたが、具体的な内容はあまり知りませんでしたわね。ちょうどいい機会ですし、この後教えてくださいね?――――特に、私に隠れて側妃や愛人を作っていたかどうかについて。」

「…………待て、イリーナ。誤解だ。確かに昔はそういった所にも通ってはいたが、今は通っていないし、そもそも俺の場合はヴァイスと違って情報収集の意味もあって―――」
するとイリーナは威圧を纏った微笑みを浮かべてリウイに問いかけ、問いかけられたリウイは冷や汗をかいて答え始めたが
「フフ…………まずは通い始めたのはいつ頃なのかを教えてもらいますからね?」
イリーナは聞く耳を持たずに、リウイと腕を組んでその場から去り
「あらら、最近は収まっていたのに久しぶりに出ちゃったわね、イリーナ様の嫉妬心が♪―――それじゃあね♪縁があったら、また会えるかもね♪」

「――――それでは我々はこれで失礼します。」
カーリアンはその様子を呑気に笑いながら見守った後リィン達にウインクをし、軽く会釈をしたエクリアと共にその場から去って行き、その様子を見ていたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。


「…………カオスでしたね。」

「ハッハッハッ、さすがの”英雄王”も愛妻には勝てないようだね♪そういう所はリィン君と一緒だね♪」

「う”っ…………」
リウイ達がその場から去るとアルティナはジト目で呟き、暢気に笑いながら答えたアンゼリカの指摘に反論できないリィンは唸り声を上げた。
「そ、それにしてもリウイ陛下達がラクウェルにいらっしゃった事を考えると先程ノイエ=プランへと入店する際に口にしたヴァイスハイト陛下達の”相方”とは恐らくリウイ陛下達の事でしょうね。」

「まあ、そうでしょうね。結局どんな内容だったのかは聞けずじまいだったけど。」

「へ…………ヴァイスハイト陛下もラクウェルに来ていたんですか!?しかもノイエ=プランに入店したって…………!あ、あの女好きエロ皇帝は~!クロスベルのみんなが納める税金で何をやっているのよ~!?」

「まあ、恐らくノイエ=プランを隠れ蓑にしたリウイ陛下達との会談だろうから、決して私的な理由で税金を使っている訳じゃないと思うが…………」

「ア、アハハ…………それよりも早く演習地に戻りましょう?ミハイル少佐やトワ先輩達も首を長くしてわたくし達の帰りを待っているでしょうし。」

(結局、”高級クラブ”ってどんな部活だったのかしら??)
苦笑しながら話を露骨に変えたクレア少佐の推測にサラは疲れた表情で答え、二人の会話を聞いて驚いた後ヴァイスに対して怒っている様子のユウナにクルトは困った表情で指摘し、セレーネは苦笑した後演習地に戻るように促し、結局疑問が解けなかったゲルドは一人不思議そうな表情で首を傾げていた―――
 

 

第81話

午後10:30―――

その後リィン達が演習地に戻るとミハイル少佐が真っ先にユウナ達をしっせきしていた。

~デアフリンガー号・2号車~

「――――いい加減にしろ、貴様ら!前回、前々回に引き続き何度も何度も勝手なマネを…………!シュバルツァー教官とアルフヘイム教官を追いかける!?その必要がどこにある!?」

「そ、それは…………」

「…………弁解の余地もありません。」

「…………はい。」

「…………ごめんなさい。」
ミハイル少佐に怒鳴られたユウナは言葉を濁し、クルトやアルティナ、ゲルドは反省した様子で答えた。
「少佐、自分達の方からも既にきつく叱っています。できればそのくらいで―――」
その様子を見守っていたリィンはミハイル少佐をなだめようとしたが
「黙りたまえ!これは演習責任者としての権限だ!規律を破って抜け出すなど言語道断!就寝まで喝を入れさせてもらう!」
ミハイル少佐は聞く耳を持たず、ユウナ達を睨みつけた。
「うーん、あまりに遅くだとお肌にニキビが…………」

「あー、ボクら疲れてるんでお手柔らかにお願いするッス。」
更にミュゼとアッシュのマイペースさに更に顔に青筋を立てるとユウナ達への説教を続け始めた。

その後リィン達はその場を後にして演習地に出た。

~演習地~

「ふう………可哀そうだけど仕方ないかな。」

「ま、たまには絞られるくらいが丁度いいかもしれねぇな。」

「そうだな。教師に説教されることもまたガキ共の成長に必要な事だしな。」

「うふふ、士官学院とは言え、規律を三連続で破っているのに、罰は説教だけなのだからむしろ優しいほうだと思うわよ?」
最後に列車から出てきたトワの言葉に他の教官陣も同意した。
「…………でも、少し申し訳ないですね。猟兵王からの情報―――彼らに手伝ってもらいましたし。」

「ええ………ユウナさん達が来てくれなかったら、猟兵王から何も情報をもらえなかったでしょうし。」

「フフ…………それはそれ、これはこれでしょ。…………それよりも気になる情報が出てきたわね。」
自分達の為に規律を破った生徒達が怒られている事にそれぞれ申し訳なさそうな表情をしているリィンとセレーネに苦笑しながら指定したサラは表情を引き締めた。
「…………はい…………」

「”北の猟兵”の脱退組―――併合されたノーザンブリアの人間か。」

(ふふっ、レン達メンフィルやクロスベルも他人事ではないわね。)

(ああ…………”共和国解放戦線”とか名乗っているバカ共とはさっさと決着をつけねぇと、下手したらエレボニアの二の舞になるかもしれねぇしな。)
トワとランディがそれぞれ真剣な表情を浮かべている中苦笑しているレンに小声で話しかけられたランドロスは静かな表情で頷いた。


「北方戦役でノーザンブリアが併合されてから半年あまり―――既に”北の猟兵”の大部分はエレボニア軍の現地部隊に組み込まれた。でも、行方不明になった者も少なからずいるのよね…………」

「ええ、恐らく大陸中西部などに逃亡したかと思われていましたが…………まさかエレボニアの最西部であるフォートガード州に来ていたなんて。」

「新たな武装やプロテクターを纏っているということは…………資金源は”結社”でしょうか?」

「赤い星座と”同じ側”らしいからその可能性もありそうだね。」

「クソ…………面倒な話になって来やがったな。で、ニーズヘッグの雇い主が帝国政府だったのも驚きだよな。」

「…………鉄道警察隊には回されていない情報です。ですが、情報局は秘匿性の高い案件に猟兵を使うことはあると聞きます。レクターさんならば一通りの状況を知っている筈ですし、明日、何とか問い合わせれば――――」
ランディに続くように答えたクレア少佐が話を続けようとしたその時
「いい加減にするがいい、リーヴェルト。非番とはいえ、そんな恰好で勝手に情報収集しようとするとは…………少しは憲兵隊員の自覚を持ちたまえ。その中でも君はエリートなのだからな。」
列車から出たミハイル少佐がリィン達に近づいてクレア少佐に注意をした。
「…………っ…………はい…………」
ミハイル少佐の注意に辛そうな表情で唇をかみしめたクレア少佐は静かな表情で頷いた。
「司令部からの通達だ。明日早朝、帝都に帰投するがいい。――――それ以外の者も今日はもう遅いから仕方ないが明日の朝には発ってもらうぞ。」
クレア少佐に伝言を伝えた後サラやアンゼリカにも指摘したミハイル少佐はその場から去って行った。
「ふ~っ、役目ではあるんだろうけど頭の固そうなヒトねぇ。」

「あはは…………あれで生徒達の面倒見はいいんですけどね。」

「ええ、難しい立場なのに配慮はしてくれていますし。」

「そういう意味では最初よりカドは取れてきた感じはするな。」

「…………そうですか…………」

(………?)
ミハイル少佐の近況を知って僅かに安堵の表情を浮かべたクレア少佐に気づいたリィンは不思議そうな顔を浮かべた。


「しっかし、あのリア充皇帝はマジで何考えていやがるんだ?幾ら密談をする為とは言えわざわざ他国の高級クラブを貸切にして女連れで遊びに来るとか…………おいコラ、オッサン!どうせあんたはあのリア充皇帝と英雄王達との会談内容も知っているんだろう!?せめてオッサンと同じ国所属の俺くらいには教えてもいいだろうが!?」

「おいおい、何言っているんだ?オレサマはヴァイスハイトのライバルにして”仮面の紳士”ことランドロス・サーキュリー!幾らライバルとはいえ、”皇”であるヴァイスハイトが国の事情をオレサマに教える訳がないだろう?」

「つーか、前々から疑問に思っていたがいつまでその無茶苦茶設定を無理矢理通し続けるつもりなんだよ、オイ…………」
呆れた表情で溜息を吐いてヴァイス達を思い浮かべたランディはランドロスを睨んで問いかけたが、ランドロスはいつもの調子で答えを誤魔化し、その様子を見たリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ランディは疲れた表情で肩を落とした。
「…………まあ、”黄金の戦王”達の意図を知っていると思われる人物は他にもいると思うのよね。」

「クスクス、そこでどうしてレンに視線を向けるのかしら?先に言っておくけどレンは”まだ子供だから”、大人の難しいお話はパパ達から聞かされていないわよ♪」

「既に”教官”を務めているのに今更ご自身が”子供”だと断言する事は色々と間違っていると思いますわよ…………」
ジト目のサラに視線を向けられたレンも小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化し、レンの答えにリィン達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セレーネは呆れた表情で指摘した。


「アハハ…………あ、今日判明した情報は既に各方面に伝えておきました。それとサラ教官とクレア少佐は今夜は客室で休んでくださいねー?」

「わかりました。ありがとうございます。」

「ふふ、アンタは相変わらずの手際ねぇ。」

「うふふ、お陰でレンもいつも楽させてもらっているわ♪トワお姉さんさえよければ、レンの第Ⅱ分校の赴任期間が終わった後レンの秘書として雇ってあげてもいいのよ?勿論給料や待遇は専属侍女長のエリゼお姉さん並みだし、何だったらシルヴァンお兄様に頼んで爵位をあげて貴族にしてあげてもいいわよ。トワお姉さんの実力や今までの功績だったら男爵―――いえ、子爵は固いと思うし。」

「いや、俺とセレーネはともかく第Ⅱの教官のランディ達や鉄道警察隊のクレア少佐がいる目の前でヘッドハンティングは止めてくださいよ…………」

「まあ、厳密にいえばランディさん達もわたくし達同様”所属している国”はエレボニアではありませんけどね…………」」
トワの手際にクレア少佐が感謝し、サラが感心している中トワをヘッドハンティングしようとするレンの言動にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンは疲れた表情で指摘し、セレーネは苦笑しながら答えた。
「あはは…………アンちゃんはわたしと同室でお願いね?」

「フッ、もちろんさ。久々にイチャイチャしながら眠りに就こうじゃないか♪」
トワも苦笑した後アンゼリカの泊まる部屋を口にし、トワの言葉に対して笑顔で答えたアンゼリカの発言にリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

その後生徒達や教官達が眠りについている中、まだ寝付けていなかったリィンは深夜のデアフリンガー号や演習地の徘徊を始めると、3号車で一人酒を飲んでいるサラが気になり、サラに近づいた。


~デアフリンガー号・3号車~

「あら、どうしたの?ひょっとして眠れないとか?」

「いや…………そこまでじゃないですけどね。何というか、いろいろありすぎて…………頭を整理しておきたいといいますか。」

「フフ…………そっか。―――ねえ、リィン。寝る前に少し付き合わない?」

「え………」

「お仕事の後の息抜きってことで。ちょっと強めだから舐める程度でいいと思うけど。」
サラの誘いに乗ったリィンはサラの隣に座ってサラが用意していたお酒を少しだけ飲んだ。


「っ………これ、恐ろしく強いですね。」

「スピリタスよ。ノーザンブリアのお酒ね。95%超えで、世界一度数が高いともいわれているわ。」

「って、舐めるくらいしかできないと思うんですが…………あ、でも舌を刺していたのが甘く感じてきたな…………」
サラの説明を聞いたリィンは冷や汗をかいて苦笑した後お酒の後味を味わっていた。
「ふふ、言うじゃない。まさか君とこんな話ができるようになるなんてね…………―――新Ⅶ組。いいクラスじゃない。」

「はは…………まだまだですよ。俺自身、セレーネと共に教官として手探りの状態で…………もう少し上手く導いてやれるといいんですが。」

「君達もそうだけど、アリサ達旧Ⅶ組に負けず劣らず個性的な子たちみたいだからね。でもまあ、何とかなるんじゃない?あんな風に君達に心配をして全員で乗り込んでくるくらいだし。」

「はは、唆したメンツがいるとは思うんですけどね…………」
リィンと共に少しずつお酒を飲みながら新Ⅶ組の生徒達について語り合っていたサラは話を変えてリィンに問いかけた。
「…………君、気づいてたでしょ?紫の猟兵達の正体を。」

「……………………ええ、俺とセレーネに対する複雑な感情を感じさせる言葉…………最初は何となくでしたがサラさんの反応を見て確信しました。」
サラの指摘に少しの間黙り込んだリィンは複雑そうな表情で答えた。
「そっか…………あたしもまだまだ修行不足ね。」

「あの時――――”北方戦役”で俺は何もできませんでした。市内に放たれた大型人形の群れをヴァリマールで叩くのに時間を取られ…………占領前に、結社の残党と結託していた”北の猟兵”の上層部を拘束し損ねてしまいました。あれが間に合っていたら自治州政府も停戦を呼び掛けて…………准将たちによる占領も食い止められたかもしれないのに…………」

「それは違うわ、リィン。ノーザンブリアの占領はエレボニア政府の規定路線だった。准将たちにしても領邦軍存続を条件に引き受けたと聞いてるし。――――既に詰んでいたのよ、状況は。」
”北方戦役”の事を思い出して責任を感じているリィンにサラは寂し気な笑みを浮かべて指摘した。
「…………それは…………」

「でも君は、そんな中、何千、何万もの市民を救った。人形兵器の掃討だけでなくエレボニアと祖国(メンフィル)との外交問題が発生する恐れがあっても、躊躇う事無く八つ当たりで市民達に襲い掛かろうとしたエレボニア軍の兵士達を斬ってでも市民達を守った。…………それは”彼ら”にもちゃんとわかってるんだと思う。」

「……………………」
サラのフォローにリィンは何も語ることなく目を伏せて黙り込んでいた。
「…………まあ、元々無理があったのかもしれないわね。猟兵稼業なんかで滅び行く国を何とかする…………あの人もそれはわかっていたのかもしれない…………」

「あの人…………?」

「っと、今のは―――………フフ、あたしの初恋の人よ。」

「ええっ!?」
サラが口にした驚愕の事実にリィンは驚きの声を上げた。
「あはは…………といっても父親なんだけどね。」
リィンの様子を見て苦笑したサラは自身の過去を離し始めた。


「28年前の”塩の杭”の異変…………国土の大半が塩で覆われた異変で親を失った赤ん坊を引き取った人…………元公国軍大佐で、”北の猟兵”を立ち上げた一人―――物心ついた時には故郷は荒れ果て、外貨を稼ぐ猟兵達はまさに”英雄”だったわ。育ててくれた養父は”北の猟兵”のリーダー格の一人…………あたしは父に憧れて10歳の時に『少年猟兵隊』に入った。

厳しい訓練を積んで本隊への参加を認められたのが13歳の時…………あたしは初めて実戦を経験した。…………そこは地獄だった。誰かの欲望のため、誰かの命を奪う戦場であたしは血と硝煙に塗れながら戦い続け…………いつしか”紫電”なんて渾名の少女猟兵として知られるようになった。―――その”無理”が限界に達する時まで。

18の時、あたしは中隊長として部隊を任されるようになっていた。そしてエレボニア辺境であった任務―――大貴族と大企業の代理戦争に参戦したの。相手はあのニーズヘッグ…………でも、あたしの部隊は彼らを撃破し続け、勝利も目前と思われたその時―――周辺民を巻き込むのを避けようとしてあたしの部隊は手痛い反撃を食らった。

絶対絶命かと思われたその時…………あたしを救ってくれたのは父だった。総指揮官を務めていたのにあたしの部隊の危機に駆けつけて致命傷を負ってしまって…………」

…………わかっただろう、これが猟兵だ。この道を進むかどうか、今一度、よく考えてみなさい…………

「…………元公国軍人だったからかな?丁寧な口調のダンディな人だった。思えば、あたしが猟兵をやることに最初から最後まで良い顔をしなくて…………最後にそんな言葉を遺してあたしの腕の中で逝ってしまった。

あたしは絶叫して意識を失い…………気がついたらエレボニア軍のキャンプで手当てを受けていた。」


「…………それがベアトリクス教官の医療大隊だったんですね?」

「ええ、辺境での猟兵同士の戦いの被害を確認するために来ていたみたい。少尉だった頃のナイトハルト中佐やヴァンダールのミュラー中佐もいたわね。

―――そして戦闘がとっくに終結し、仲間達が故郷に引き上げたと聞いて…………あたしはロクにお礼も言わずにキャンプから飛び出して故郷へ戻った。…………帰郷したあたしを迎えたのは戦友や街の人達の温かい言葉だった。父を失ったものの”戦争”には勝利し、大貴族から莫大なミラが支払われたの。―――これでこの冬は餓死者を出さずに済むだろう…………そんな話を聞いて、あたしは安堵しながら何故だか涙が止まらなかった。…………貧困に喘ぐ故郷のため、罪もない外国の人達や土地を血と硝煙に塗れさせる…………そんな欺瞞がどうしようもなく痛く、ただ哀しかった。そうしてあたしは猟兵を辞め、生まれ故郷を離れることにした。

…………戦闘技術を活かせて、A級になればそこそこ稼げるっていう遊撃士(ブレイサー)になって…………せめて血が付いていないミラをノーザンブリアに送るために。」

「…………やっとわかりました。本当の意味での、サラさんの強さと優しさの原点を。」
サラの過去を聞き終えたリィンは静かな表情で答えた。
「全然強くないし、優しくもないわ。でも少しずつだけど近づけているとは信じている。父で、上官で、初恋の人で…………あたしが大好きだったあの人にね。」

「サラさん…………はは…………でも納得です。それはサラさんの趣味が渋い男性になるわけですよね。」

「ふふ、ファザコンをこじらせてるのは自覚してるけどね。―――ま、最近じゃ若い子にときめかないわけじゃないけど。」

「え。」
ウインクをしたサラの言葉にリィンが呆けたその時サラはリィンを自分の方へと抱き寄せてリィンの頬にキスをした。
「…………ぁ…………」

(ええっ!?)

(あら。)
サラの行動にリィンが呆けている中メサイアとアイドスはそれぞれ驚いていた。
「喋りすぎちゃった…………君、タラシの素質があるから反省しなさい。それじゃあおやすみ。―――いい夢をね。」
そしてサラはその場から立ち去り
(………夢じゃない、よな。……………………はは、まあいいか。夏至祭前の夜……………妖精に化かされたと思っておこう。)
リィンはサラにキスをされた頬を手で押さえて呆けた後気を取り直してその場から立ち去った。その後リィンは外に誰かいることに気づくとそれを確かめるために列車から出ると意外な人物達が会話をしていた。

~演習地~

「…………いい加減にしろ、クレア。閣下に目をかけられてるとはいえ今日のような行動は首を絞めるだけだぞ?」
リィンが外に出ると何とミハイル少佐がクレア少佐に注意をしていた。

「…………兄さんにはわかりません。」

「…………っ…………!?」
ミハイル少佐の注意をクレア少佐が静かに否定すると、二人を見て部外者である自身が聞いて良い話では無い事を悟ったリィンはその場から下がろうとしたが、運悪く靴が砂利を踏んだ為、足音が二人に聞こえた。
「「誰だ(です)…………!?」」
足音を聞いた二人は血相を変えてリィンを睨み
「(迂闊だったな…………)―――すみません。聞くつもりでは…………」
二人に睨まれたリィンは気まずそうな表情で謝罪して二人に近づいた。
「リィンさん…………」

「シュバルツァー…………くっ、盗み聞きとは感心しないぞ。―――忠告はした。せめて自分で考えるがいい。これ以上、10年前に囚われ続けるべきかどうか。」

「…………っ…………」
クレア少佐への忠告をしたミハイル少佐はその場から去り、列車の中へと入って行った。


「……………………」

「…………すみません。夜風に当たろうとしたんですが。その、明日は早いですし俺も列車に戻って休みます。」

「…………リィンさん。少しだけ…………ほんの少し、付き合っていただけませんか?いつかリィンさんには知ってもらおうと思っていた話―――…………今なら、月明かりの力を借りてお話しできると思うので。」

「――――わかりました。ぜひ、聞かせてください。」
リィンもその場から去ろうとした自分を呼び止めたがクレア少佐のただならぬ雰囲気を見て、クレア少佐の話を聞くことにした。
「彼は…………アーヴィング少佐は私の親戚なんです。旧姓、ミハイル・リーヴェルト―――私の従兄になります。」

「従兄…………そうだったんですか。個人的に関係がありそうとは何となく思っていましたが…………」

「ふふ…………でも”兄さん”は10年前にリーヴェルトの名を捨てました。叔母様の―――母方の性に変えたんです。彼の父を、私の家族を奪った叔父を私が処刑台へと送り込んだ時から。」

「……………………え。」
クレア少佐の口から語られた驚愕の事実にリィンは一瞬呆けた後呆けた声を出した。そしてクレア少佐は自身の過去について話し始めた。


…………知っているかもしれませんが私の家は”リーヴェルト社”―――元々、セントアーク市にあった楽器メーカーとして知られている会社を営んでいました。私の父が社長で、叔父が副社長…………経営は堅実ながらも順調で…………親戚一同、とても仲が良かったんです。

―――当時まだ珍しかった導力車同士の衝突事故でした。相手の運搬車は、盗まれたもので現場から運転手は逃走しており…………結局、事件はそのまま未解決の扱いとなってしまいました。私の父と、母と、弟を奪ったまま―――

奇跡的に助かった私は…………叔父の一家に引き取られました。副社長だった叔父は、会社経営も引き継いでくれて…………そんな叔父たちに感謝しながらも私はずっと同じことを考えていました。…………どうして私だけが生き残ってしまったんだろう、と。

きっかけはそのすぐ後でした。―――父の遺品を整理しているうちにここ数年の帳簿を発見し…………それをぼんやりと眺めているうちに…………奇妙なことに気づいたんです。元々リーヴェルト社は、質の良い楽器を手頃な価格で提供していたメーカーでした。それが、あり得ない原価で巨額の売り上げを出していた箇所が随所に見られて…………その意味を解釈しながら他の帳簿もチェックするうちに”視えて”しまったんです。…………副社長だった叔父が父の知らぬ所でやっていたこと―――

外国で作らせた大量生産品をそれまでと同じ国内製と偽って莫大な利益を上げる一方…………名匠(マイストロ)の作品の贋作を作らせて、本物として富裕層に売りつけるといった詐欺以外の何物でもないやり方を。――そして父がそれに気づき、叔父を正すため動こうとした矢先に”事故”が起こっていたことを…………

…………問い詰めると叔父は驚きつつもあっさり認めました。『証拠などない、あったとしても有力貴族を味方につけている。騒いでも無駄だし、逆に一人だけ生き残ったことを疑われるぞ?』

悔しかったし、何よりも哀しかった…………そうして、途方にくれていた所にあの方が現れたんです。

…………君の父上とは士官学校時代の友人だった。気になっていたのだが公務に追われ、来るのが遅れたのが悔やまれるな…………

――何故だがあの方は事件の真相を全て知っていました。そして、私がそれに気づいたことに驚きつつもこう仰ったんです。

君のその『統合的感覚』というべきか…………全体と部分を瞬時に把握する能力は元々あった先天的なものが事故で顕れた、と考えるべきだろう。―――この件、私自身の手で裁こうと思ったが気が変わった。君のその能力を活かす形で両親と弟の仇を討つつもりはないか?

――私は畏れ、迷いました。でも、父と母の…………何よりも宝物のように大切だった弟の笑顔がどうしても離れなくて…………私は閣下のアドバイスに従いつつ、叔父の罪を立証するあらゆる証拠を集めていったんです。

背景、動機、隠蔽工作、実行犯、メンフィル帝国に帰属した貴族達も握りつぶせないありとあらゆる揺るぎない証拠を。最後に、セントアークを含めたメンフィル帝国側のサザ―ラントを統括している当時のメンフィル帝国政府の統括領主の耳にも入り、叔父と結託した貴族も手を引き…………厳正かつ厳格な裁きが行われ、叔父には極刑が下りました。

代償として―――私は”家族”と”故郷”を失いました。…………取り戻した会社の経営権を古株の社員の方に譲渡したんです。閣下に勧められた帝都(ヘイムダル)近郊にある皇族ゆかりの伝統的な士官学校…………”トールズ士官学院”に入学するために。」


「…………クレアさん…………―――やっとわかりました。貴女がどうしてオズボーン宰相を信頼して、従っているのか。そしてどうして時折、哀しそうな目をしていたのかを。」
クレア少佐の過去を聞き終えたリィンは複雑そうな表情でクレア少佐を見つめた。
「…………っ…………」

「ミハイル少佐も…………クレアさんが心配なんですね?厳しい言葉は多いですが…………貴女を間違いなく気遣っていた。」

「…………はい。お互い鉄道警察隊に入ったことは偶然でしたけど…………先輩として、同僚としていつも助けられています。…………ですが私にその価値があるとは思えないんです。憎悪に取り憑かれ、一切の慈悲もなく叔父を極刑に追いやった…………10年前、大好きだった叔母さんや兄さん、従妹の子は私を罵りました。それだけのことをしたし、…………今でも憎まれていると思います。」

「――――そんな事はないと思います。」
自分に対する自虐の言葉を口にしていたクレア少佐だったがリィンがふと呟いた言葉が気になり、振り向いてリィンを見つめた。


「少なくとも今のミハイル少佐は貴女のことを本気で心配していました。貴女をよく知る人は…………サラさんのように反発していたとしても感謝しているし、嫌うなんてできない。ミリアムや、レクター少佐も。リーゼアリアやリーゼロッテ殿下、そしてアルフィンも…………旧Ⅶ組や特務部隊のみんなや…………もちろん俺もです。」

「…………リィン、さん…………」
リィンの指摘に胸を打たれたクレア少佐は思わず涙を流した。
「ふふ、駄目ですね。…………白状すると貴方のことを弟と重ねることがありました。」

「…………弟さんの名前は?」

「”エミル”といいます。…………生きていたらちょうど貴方と同い歳だったんですよ?」
リィンの問いかけに答えたクレア少佐はリィンを抱き締めた後なんとリィンの頬にキスをした!

「…………ぁ…………」

(リ、リィン様…………一晩で二人もの女性からキスをしてもらうだなんて、エリゼ様達に知られたらとんでもない事になると思いますわよ…………?)

(というか私は少なくてもベルフェゴール達にはバレていると思うのだけど…………二人の事だから、多分隠れてリィン達の様子を見守っているでしょうし…………)
キスをされたリィンが呆けている中メサイアは表情を引き攣らせ、アイドスは困った表情をしていた。
「――――ありがとう。話を聞いてくださって。でも、今夜をもってリィンさんを弟と重ねるのは止める事にします。弟にも、貴方にも失礼でしょうから。おやすみなさい…………いい夢を。」
そしてクレア少佐はその場から去って行き列車へと入って行った。


「………なんて日だ、まったく。」
クレア少佐を見送った後ふとサラにキスをされた時の事を思い浮かべたリィンは溜息を吐いた後クレア少佐にキスをされた頬を手で押さえた。
(目が冴えてもおかしくないけど妙に心は晴れている…………ぐっすり眠れそうだし、俺もそろそろ部屋に戻るか。)

「うふふ、みーっちゃった、みーっちゃった♪」

「ふふふ、一晩に二人もとは剣術だけでなく”そういう所”も成長しましたね。」

「え”。」
気を取り直したリィンも列車に戻ろうとしたが聞き覚えのある二人の女性の声を聞くと表情を引き攣らせた。するとベルフェゴールとリザイラが転移魔術でリィンの前に現れた!
「ベ、ベルフェゴール…………それにリザイラも…………何で今はそれぞれ仮契約しているアルフィンとエリゼの中にいるはずなのに、二人がここに…………」

「うふふ、本契約している私達にはご主人様がまだ起きている事くらいはわかるわよ?で、エリゼ達が寝静まっている中こんな真夜中で徘徊する事が気になっていてね。」

「そして、それぞれ姿を消してご主人様の様子を見守らせて頂いたのですが…………ふふふ、私達の予想―――いえ、予想以上の結果を出すとはさすがはご主人様です。」
冷や汗をかいて表情を引き攣らせているリィンにベルフェゴールとリザイラはそれぞれリィンをからかうように口元に笑みを浮かべて答えた。
「う”っ…………あ、あれは不可抗力やその場での雰囲気のようなものだから、二人が邪推しているような事は起こらないぞ?」

「クスクス、果たしてそうかしら♪それにしても今度は私達を除けば年上お姉さんジャンルという新たな属性の女の子達に手を出すとは、さすがはご主人様ね♪」

「ふふふ、それよりも今の出来事をエリゼ達に聞かせれば、どのような反応をするでしょうね?」

「ちょっ、か、勘弁してくれ…………!」
その後リィンは今夜の出来事をベルフェゴール達がエリゼ達に密告しないようにベルフェゴール達が出した条件によって”説得させられた”後、列車の中へと入り、部屋に戻って明日に備えて休み始めた-----

 

 

第82話

翌日、サラ達が演習地を去った後二日目の特務活動を開始したリィン達新Ⅶ組はフォートガード州の様々な場所を巡って要請をこなしていると、ユーシスから相談したい事がある為時間ができたら城館に来て欲しいとの連絡があった為、話を聞くために城館に向かった。

~フォートガード・カイエン公爵家第二城館~

「ユーシス、皆さん、」
リィン達が城館のホールに到着するとユーシスがアンゼリカやパトリック、ハイアームズ侯爵と話し合っていた。
「…………来てくれたか。」

「なんだ、呼んだのか?」

「おや、明け方ぶりだね。」

「はは、久しぶりだね。」

「ご無沙汰していますわ、侯爵閣下。」

「お久しぶりです!」

「フフ、リィン君にセレーネ君、新Ⅶ組の諸君。新しいメンバーもいるのか。何やら急ぎのようだが一体どうしたのかね?」

「…………自分の方から説明します。私事みたいなものですが―――」
ユーシスが、ミリアムと昨晩から連絡がつかないことを説明した。


「オライオンが…………!?」

「ふむ、こちらに来ているとは聞いていたが…………」

「このタイミングでとなると少々、心配ではあるな。各方面に問い合わせたのかな?」

「ええ、所属する情報局と鉄道憲兵隊の方にも一応。ですが双方とも心当たりがなく続報があれば連絡して欲しいと逆に頼まれました。」

「それは…………」

「不安が一気に増した感じだね。」
ハイアームズ侯爵の質問に答えたユーシスの説明を聞いたパトリックとアンゼリカはそれぞれ真剣な表情を浮かべた。
「…………まったく…………何をしてるのですかあの人は…………」

「アル…………」

(なんだかんだ言っても、ミリアムさんはアルにとってお姉さんだから心配みたいね…………)
ミリアムに対する不満を口にしたアルティナの様子をユウナとゲルドは心配そうな表情で見つめた。
「ミリアムについては一旦こちらで引き受けよう。この状況での情報局員の失踪…………何かが起きている可能性が高い。特務活動の主旨にも適うだろう。…………みんな、構わないか?」

「ええ、もちろん!」

「新海都周辺の事件であれば私としても気になりますし。」

「それに昨夜リウイ陛下達が教えてくれた今回発生すると思われる要請(オーダー)の件にも何か関係があるかもしれませんわ。」

「ミリアムさんの捜索という形で活動内容を切り替えましょう。」

「…………皆さん…………」

「――――すまない、感謝する。」
リィン達の気遣いにアルティナが驚いている中ユーシスは感謝の言葉を述べた。
「で、なんか手掛かりはあんのか?この街は馬鹿でかい。ノーヒントじゃ流石に厳しいぜ。」

「アッシュ、敬語敬語。」

「構わん。―――手掛かりがあるとすれば新海都周辺だろうが…………どうも、昨日市内で有益な情報を得たようでな。」
ユーシスは最後に会った時のミリアムの言葉をリィン達に伝えた。


美味しいものを食べたついでにいい情報もゲットしちゃってさー。


「フフ、いかにもミリアム君らしいと言うべきか。」

「ええ、その無邪気さもミリアムさんの武器なのでしょうね。」
ユーシスから伝えられたミリアムの言葉を聞いてリィン達と共に冷や汗をかいて脱力したアンゼリカとゲルドは苦笑した。
「それだけ聞けば十分だ。何かわかったら連絡する。っと、そうか…………これから会議があるんだったな。」

「会議中でも取り次げるようこちらで計らっておこう。」

「ふわああっ…………んっ、なんだそなたらは?」
パトリックがリィン達にある事を伝えるとバラッド侯爵がリィン達に近づいて声をかけた。
「これはバラッド侯。」

「ご無沙汰しています。」

「おお、ハイアームズ候。アンゼリカ嬢もいらしたか。ハッハッハッ!これでめでたく四大名門が一堂に会したというわけかな!」
既にバラッド侯爵が次期カイエン公爵家当主に就任する事が決まっているかのような発言にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「おお、そうだ。ユーシス君、パトリック君。なにやら峡谷方面に准将が兵を割こうとしていたがワシの権限で却下させたぞ。」

「な、なんですって……!?」

「…………複数の猟兵団が入り込み、交戦状態にあると説明しましたが。」
バラッド侯爵が口にした驚愕の事実にリィン達と共に驚いたパトリックは声を上げ、ユーシスは真剣な表情で指摘した。
「フン、峡谷で何が起ころうとも新海都に被害があるわけではあるまい。それに平民共の顔色を窺って点数稼ぎをしている小賢しいユーディットが、その内遊撃士共を介入させて連中に猟兵団を鎮圧させるだろう。確かオルディスに滞在している遊撃士は例の”剣聖”カシウス・ブライトの子供達にして”空の女神”の末裔の一族と聞く。一人一人が一騎当千にして”英雄”と称えられている連中を介入させれば猟兵ごとき敵ではあるまい。ならば領邦会議の期間中は余計な兵力分散は避けるべきだろう。…………どうせ会議中はラクウェルには行けないしのう。」

(ちょっとちょっと、本音が出たわよ…………!?)

(流石にあり得ないな…………)

(皇族や貴族――――上流階級の人達の役目は税金を納めてくれる平民たちを守る事が義務だって、王様だったお義父さんもいつも心がけている大切な事なのに…………)
バラッド侯爵の本音を知ったユウナは信じられない表情で小声でクルトに話しかけ、話しかけられたクルトは呆れた表情を浮かべ、ゲルドは悲しそうな表情を浮かべた。
「地方軍など、所詮は帝国政府の目こぼしで許される程度の存在だ。ならばせいぜい、ワシや諸侯たちを万全の態勢で守っていればよい。ハッハッハッ、蛮族上がりの男には過ぎた使命というものだろう!」

「それは流石に…………!」

「閣下、バルディアス男爵家はサザ―ラントの誉れ高き武門です。そのような仰りようはどうか控えていただけませんか?それにユーディット嬢―――いえ、ユーディット皇妃陛下はクロスベル帝国のヴァイスハイト皇帝陛下から寵愛を受けている”クロスベル皇妃”です。ユーディット皇妃陛下と親類関係に当たる閣下は皇妃陛下の事を気安い呼び方ができるかもしれませんが、それでもどこかで閣下のユーディット皇妃陛下に向けた言葉が漏れ、それがクロスベル帝国に伝わる事で何らかの問題が発生する可能性は十分に考えられますから、ユーディット皇妃陛下に対するそのような仰りようもどうか控えて頂けませんか?」
バラッド侯爵のウォレス准将に対する暴言にリィン達が驚いている中パトリックが厳しい表情でバラッド侯爵に反論しようとした所をハイアームズ侯爵が静かな口調でバラッド侯爵に指摘した。


「フン…………これは失敬。だが、そうして貴族の誇りなどにしがみついているから時流に乗り損ねているのではないかね?」

「なっ…………!」

「……………………」

「ふむ…………」
バラッド侯爵の驚愕の発言にリィン達が再び驚いている中パトリックは絶句し、ユーシスは目を伏せて黙り込み、アンゼリカは静かな表情でバラッド侯爵を見つめた。
「それに引き換え、ワシは政府と交渉し、”その先”をきちんと見据えている。アラゴン鉄鉱山もフル稼働させ、列車砲も2基も完成させたばかりだ。」

(なっ…………!?)

(あの列車砲が2基も…………)

(そんな話が…………?)
更なる驚愕の事実を知ったユウナは驚き、ゲルドが不安そうな表情をしている中リィンはユーシスに小声で訊ねた。
(………ああ。正規軍に引き渡すらしいが…………)

(それもご自身のエレボニア側のカイエン公爵家当主就任の為なのでしょうね…………)
訊ねられたユーシスの答えにセレーネは複雑そうな表情で推測した。
「――――私は愚かな(クロワール)とは違う!世の情勢を見極めて賢く、迅速に立ち回らぬとな!そういう意味では不愉快ではあるが、”七日戦役”時はオルディス占領の際に大人しくメンフィルに投降して従順な態度を取り、内戦後はクロスベルの好色皇に上手く取り入って”総督”と”クロスベル側の次期カイエン公爵家当主”の地位をクロスベル帝国に認められたユーディットとキュアの行動は四大名門の面汚しである行動ではあるが、貴族としてはワシのように賢く、迅速に立ち回ったと言えるだろう。できれば会議の方もそう頼むぞ!ワッハッハッ…………!」
堂々と宣言して声を上げて笑ったバラッド侯爵はその場から去って行った。
「…………さ、最低…………あんな最低ハゲ侯爵と、エレボニアの貴族だったのにクロスベルの為にずっと頑張り続けている上あたしみたいな平民にも誠実な態度で接してくれるユーディット皇妃陛下とキュアさんが親戚同士だなんて、あんな親戚を持った二人が可哀そうよ…………」

「ふふ、ユウナさん。そんな本当のことを仰っては。」
ジト目でバラッド侯爵の背中を見つめて呟くユウナにミュゼは微笑みながら指摘した。
「…………時が惜しい。俺達はミリアムを捜します。ハイアームズ候、アンゼリカさん、ユーシスにパトリックも。どうか会議の方、よろしくお願いします。」

「ああ、微力を尽くそう。」

「…………そうですね。私欲に塗れさせないためにも。」

「任せるがいい―――ミリアムのこと、よろしく頼む。」

「くれぐれも気を付けたまえ!」
その後街に出てミリアムの事について情報収集をしたリィン達はミリアムが新海都からやや離れた位置にある無人島―――通称”遺跡島”と呼ばれている”ブリオニア島”に向かったと思われる情報を入手した後島へと向かう為に必要なボートを手配してブリオニア島へと向かい、島に到着した後はかつて旧Ⅶ組の”特別実習”の際に利用していた宿泊小屋を調べるために宿泊小屋に入った。


~ブリオニア島・宿泊小屋~

「誰もいないみたいですね…………」

「…………ああ。人の気配も感じない。」

「ハッ、あのガキが泊まってたにしちゃ、整いすぎてるみてえだしな。」

「…………ええ、教授と同じくすぐに戻るつもりで訪れたのかもしれません。」

「恐らく最後にこの宿泊小屋を利用したのは教授でしょうね。」

「だとしたら心配だね…………ARCUSⅡも圏外みたいだし。」

「ミリアムさんについての手掛かりが何かあればいいのだけど…………」

「とにかく持ってきた中継器を設置してしまいましょう。」

「ああ、よろしく頼む。」
その後ミュゼが圏外の場所でも通信できるようになる中継器を設置するとリィンのARCUSⅡに通信が入り、トワの映像が映った。


「状況はユーシス君から聞いたよ。領邦会議も始まっちゃったし、早く見つかるといいんだけど…………」

「ええ…………ユーシスも心配でしょうし。」

「会議の状況はどうでしょうか?」

「パトリック君から聞いた限りでは一応、滞りなく進んでるみたい。バラッド侯が強引に仕切ろうとしてハイアームズ候やアンちゃんもやりにくそうにしてるそうだけど…………」

「どうあっても会議の主導権を握ろうとしてるわけですか。」

「ま、狙いは明らかだろうしな。」

「次期エレボニアのカイエン公爵家当主の就任、ですか………」

「どうしてそこまでしてその”カイエン公爵家当主”に就任する事に固執しているのかしら…………?」

「まあ、カイエン公爵家は四大名門の中でもリーダー的な存在だからな。絶大な権力もそうだが、自身の名誉を上げる為にもカイエン公爵家当主に就任する事に固執しているのだろう、バラッド侯は。」
トワの話を聞いたリィンは真剣な表情を浮かべ、意味ありげな笑みを浮かべたアッシュに続くように呟いたセレーネの言葉を聞いて不思議そうな表情をしているゲルドにクルトは静かな表情で指摘した。
「うーん、ちょっと気になるけど。」

「そちらはユーシスさんたちにお任せするしかなさそうですね。」

「ああ、彼らなら大丈夫だ。――そちらも気をつけてください。」

「うん、リィン君達も!何かあったらすぐ連絡してね!」
トワとの通信を終えたリィンはARCUSⅡを定位置に戻した。
「――――調査を開始しましょう。ここは最低限の設備がありますし、当面の拠点にできるかと。」

「ああ…………小屋を出て一通り島を回ってみるとしよう。」
その後小屋を出て島の探索を開始したリィン達は探索の最中に巨大な石像を見つけ、石像を確認する為に高台に設置されている長い梯子を上って石像に一番近い高台へと昇った。

~巨像前~

「うわ~っ、近くで見ると更にとんでもないっていうか…………」

「…………けっこう精巧に彫られてるみたいですね…………」

「しかし巨像の材質…………周りの岩と違う種類みたいだな。」

「フン…………?」

(―――――――)

(ゲルドさん…………?)
生徒達がそれぞれ巨像に注目している中小声で何らかの魔術の詠唱をしているゲルドに気づいたセレーネは不思議そうな表情を浮かべた。
「……………………」

「…………教官?」
一方巨像を見つめて目を伏せて集中しているリィンが気になったアルティナは不思議そうな表情を浮かべて声をかけた。
「いや、何か霊的な力でも感じるかと思ったが…………これからは何も感じない…………”空っぽ”みたいな気がしてね。」

「空っぽ、ですか。」

「ハッ、オカルトか?」

「いやいや、不思議な力ってのは実際にあるじゃない。」

「ふふ、セリーヌさんみたいな喋るネコさんもいましたし。そういう意味では”竜族”のセレーネ教官や”魔女”であるゲルドさんもその”不思議な存在”ですわよね♪」

「ア、アハハ…………それを言ったらディル=リフィーナは不思議だらけの世界といっても過言ではないのですが…………」

「ハハ………エマやセリーヌがいれば詳しい事がわかったかも―――」
ミュゼの指摘にセレーネと共に苦笑したリィンが答えかけたその時
「!?な――――」
リィンの心臓が強烈な鼓動をすると共にリィンの脳裏に遥か昔の出来事と思われる場面がリィンの脳裏に浮かび、我に返ったリィンが周囲を見回すとその場はまるで時間が止まったかのようにセレーネ達は動きを止めていた。


「ふむ、またも共鳴したか。」
するとその時かつてシュタット大森林で出会った少女がいつの間にか現れた!
「フフ、また会ったの。リィン・シュバルツァー。」

「君は…………フォートガードの樹海で会った。いったい何者なんだ…………?どうして俺のことを知っている?それに今の光景は…………」

「今のは”場”の記憶に共鳴しただけじゃろう。どうもヌシは、その手の記憶と相性がいいみたいじゃからな。―――かつて内戦時、偶然見つけた精霊窟の探索でドライケルスの記憶を見たように。」

「どうしてそれを…………!?」
限られた者達しか知らない出来事を目の前の少女が知っている事に驚いたリィンは信じられない表情で少女に訊ねた。

「妾は何でも知っている、といいたいところじゃが。あいにく遠見ではなく、単に人伝で聞いただけでな。…………言っておくがその気になれば可能じゃぞ?遠見や影飛ばしは、別にヴィータの専売特許でもないしの。」

「え”。」

「とと、口を滑らせたか。」

「――――その口ぶりだと貴女も私達が星見の塔で出会ったクロチルダさんの”影”のように、これから何が起ころうとしているのかを知っているの?」
少女の口から出た意外な名前にリィンが驚き、それを見た少女が気まずそうな表情をしたその時、ゲルドがリィンの隣に来て少女に問いかけた。
「なぬ…………!?”人”の身でありながら妾の時止めの結界の中で動けるじゃと…………!?」

「ゲルド…………一体どうやって…………」
対象者以外の”全て”を止めたはずであるに関わらずリィン以外の存在―――ゲルドが動いている事に少女は驚き、リィンは困惑の表情でゲルドを見つめた。
「この高台を上がる少し前の麓で、今の光景が”視えた”から、予め私の周りの時空間が干渉されないように、私の周りにだけ時空間も遮断する結界を展開していたのよ。」

「え、えっと………魔術についてはあまり詳しくないけど、何気にとんでもない事をしていないか…………?」

「言うまでもなく思いっきりとんでもない事をしておるわ、その女子(おなご)は!―――コホン。それにしても…………今の光景が予め”視えた”じゃと…………?―――よもやヌシが”彼女達”の話にあった”予知能力”という”異能”を持つゼムリアともディル=リフィーナとも違う世界から現れた異界の魔女か?」
ゲルドの答えに冷や汗をかいたリィンが困った表情をしている中疲れた表情で指摘した少女は気を取り直し、興味ありげな表情でゲルドに問いかけた。
「ゲルド・フレデリック・リヒター・パリエ。私がいた元の世界では”白き魔女”と呼ばれていたわ。」

「”白き魔女”…………」

「ふふっ、まさにヌシのその容貌を顕す二つ名じゃの。それにしても”魔”の存在と切っても切れない関係である”魔女”に何物にも染まっていない意味である”白”の名が付けられるとは変わった魔女じゃの。”彼女達”から聞いたヌシの優しき性格も考えると、ヌシは”魔女”どころかむしろ”聖女”と呼ばれるべき存在かもしれぬな。―――それで?わざわざ妾の前に力を隠すことなく、妾に話しかけたのは何の為じゃ、”理の外”から来た異界の魔女よ。」
ゲルドの自己紹介を聞いたリィンが呆けている中少女は苦笑しながらゲルドを見つめた後表情を引き締めてゲルドに問いかけた。
「”呪われし竜”と”黒き獣”について知っている事を教えて欲しいの。」

(”呪われし竜”と”黒き獣”…………エリゼ達の話にあったゲルドが予知能力で視えた俺達が戦う事になるであろう”未来の敵”か…………)

「!ヌシ…………一体どこであの2体の事を…………なるほど、それも”予知能力”によるものか。――――逆に聞きたい。ヌシは何の為にあの2体の事を知ろうとする?知らぬ方がよい存在じゃぞ、あの2体は。」
ゲルドの問いかけを聞いたリィンがエリゼ達から聞いたある事を思い返している中少女は驚いた後信じられない表情でゲルドを見つめたがすぐに心当たりを思い出し、真剣な表情でゲルドに問い返した。
「―――私が視える”未来”はあくまで”可能性”。それは言い換えれば”決まっている未来ではなくて、避けられる未来。”だけど、私や教官達の様々な”未来の可能性”を見ても、その2体と対峙する未来はどの未来にも存在していたわ。だからせめて、前もって知っておくことでいざ対峙した時の備えての”対策”を考えておこうと思ったの。」

「ほう…………?しかし何故妾にその2体の事を聞こうと思ったのじゃ?」
ゲルドの答えを興味ありげな様子で聞いていた少女はゲルドに問いかけた。
「私達のどの未来にもその2体との対峙との時に貴女は何らかの形で力を貸してくれていたわ。だから少なくても貴女は”敵”じゃないのはわかっていたし、エマさんや私―――”魔女”の武装である”杖”や何らかの魔術を使っていた所も考えると貴女の正体は――――」

「わー!わー!そこまでじゃ!まだ妾がリィン・シュバルツァーに名や正体を明かす時ではないというのに、本人達を目の前で”ねたばれ”をしようとするとは、大人しそうに見えて、とんでもない娘じゃの…………!?」
ゲルドが少女の事を答えかけると少女は慌てた様子で制止してゲルドをジト目で見つめ、その様子を見ていたリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。
「えっと………今までの君の発言やゲルドの予知能力による推測から察するに君はエマやクロチルダさんの関係者か…………?」

「グッ…………ええい、今はまだ妾について語る時ではないと言っておるじゃろうが!ぐぬぬ…………ヌシのせいでリィン・シュバルツァーが感じていた妾の神秘的でミステリーな”いめーじ”が粉々にされたじゃろうが!?」

「えっと………勝手な事をしてしまって、ごめんなさい…………?」
困った表情を浮かべたリィンの問いかけに図星を刺されたかのように唸り声を上げた少女は恨めしそうにゲルドを見つめて文句を言い、少女の文句に対してゲルドは不思議そうな表情で首を傾げて謝罪の言葉を口にし、それを聞いたリィンと少女はそれぞれ冷や汗をかいた。
「そこで謝られると余計に妾が滑稽に見えるじゃろうが!?――――コホン。それよりも、失せ者捜しじゃが。”彼女達”からの預かり物が”すぐ近く”で役に立つ筈じゃ。」

「!!」
疲れた表情でゲルドに指摘した後咳払いをして気を取り直した少女の話を聞いたリィンはエマから預かったペンダントを思い返した。
「それと異界の魔女よ、件の2体は時が来ればちゃんと答えてやる―――が、若輩でありながら予知能力という”ちーと”を使ったとはいえ妾の結界に介入したその魔術の腕前を称賛して、褒美代わりに少しだけその2体の事を答えてやろう。―――”呪われし竜”と”黒き獣”、その2体は遥か昔に起こった”とある一族同士の愚かな争い”によって生まれた女神が人に遺し力の残照じゃ。」

「女神が人に遺した力の残照…………」
一方少女から語られたある事実を聞いたゲルドは呆けた。

「フフ、それではの。行きがけの駄賃に”今回は”少し貰っていくぞ。」
そして少女はリィンに近づいてその場で座り込んでリィンに顔を近づけ
「あ。」

「ちょ、待ってくれ―――」

「待たぬ。」
その様子をゲルドが呆けた様子で、リィンが制止の言葉をかけたが少女は無視してリィンの首筋に噛みついた。するとその瞬間空間は元に戻った。


「…………!?」

「戻ったようね…………」
空間が戻った事にリィンが驚き、ゲルドが静かな表情で呟いたその時
「あら、教官…………?」

「?どうしましたか?」
リィンの様子に気づいたミュゼとアルティナが声をかけた。
「いや―――(………今回は”ちゃんと憶えているのか。”それに何よりも―――)」

「……………………」
答えを誤魔化したリィンは考え込んだ後ゲルドに視線を向け、視線を向けられたゲルドは何も答えず目を伏せて黙り込んでいた。
「その…………以前にもありましたよね?」

「あ…………」

「そうだ…………!サザ―ラントの樹海で…………!」

「なんだァ?また”妙な力”関係かよ?」

「いや―――それとは関係ない。…………だが、ちょっとしたヒントはくれたみたいだ。」

「ヒント、ですか?」
リィンの言葉にそれぞれが不思議そうな表情をしている中セレーネは困惑の表情で訊ねた。
「見たところ、この巨像自体に手掛かりはなさそうだ。だが、ミリアムがこの周辺を調べていたのは間違いないだろう。」

「あ…………!」

「ブーツの跡、ですね。」
リィンが視線に向けた方向―――地面についているブーツの跡を見たユウナは声を上げ、アルティナは静かな表情で呟いた。
「ああ、念のためこの辺りを調べてみよう。」
その後リィン達は近くにある意味ありげな紋章を見つけると、リィンが紋章の前でエマ達から預かったペンダントを掲げると紋章とペンダントが光を放ち始めた。


「あ…………!」

「光った…………!」

「どうして…………!?」

「どうやらこの紋章には霊的な仕掛けがあるらしいな。そして、このペンダントは”魔女の眷属”であるエマの魔力が込められている………それらが干渉し合って仕掛けが起動したみたいだ。」

「おいおい…………マジでオカルト関係かよ。」

「ですがやはり、この島には何か秘密があるという事ですね。」

「はい、恐らくミリアムさんはそれに気づいて消息を絶った…………」

「ってことは、他にも見つけて仕掛けを起動していけば…………!」

「”何か”を見つけられる可能性は高いかもしれない。」

「そういえば島の探索の最中にいくつかこの紋章を見かけましたわね…………」

「ああ、他の手掛かりも探しつつ、同じ紋章を見つけたら試してみよう。」

「…………了解です!」

「――――ふふ、それはそうと先程から気になっていたんですが。教官の首筋、虫に刺されたんですか?」

「え…………」

「あ…………(さっきの時の…………エマさんと同じ”魔女”かと思っていたけど、もしかして”吸血鬼”なのかしら…………?)」
意味ありげな笑みを浮かべたミュゼの指摘に一瞬呆けたリィンだったが少女が消える瞬間に自身の首筋に軽くかみついた事を思い返してその部分を咄嗟に手で覆い、それを見たゲルドは呆けた後少女の正体について考え込んでいた。
「クク、お安くねぇなぁ。昨日の夜、綺麗なお姉様達とヨロシクやってたんじゃねえのか?」

「お、お姉様達って………クレア少佐に、サラさん!?」

「…………教官…………」

「お、お兄様…………」
意味ありげな笑みを浮かべたアッシュのからかいにリィンが昨夜の出来事を思い返している中ユウナは血相を変えてリィンを睨み、アルティナはジト目で、セレーネは疲れた表情でリィンを見つめた。
「ふふ、なんだか不思議なラベンダーの香りもしますし。」

「いや、そんなのが何時までも残ってるわけないだろう!?(でもそうか、あの香りはラベンダーだったのか…………)」

「まあ、こういう時は下手に弁解しない方がいいと思いますよ?」

「だから誤解だって…………!」
ミュゼの指摘にリィンが必死に反論しているとクルトがリィンの肩に手を置いて憐みの視線で指摘し、指摘されたリィンは必死に否定した。

その後島を回って何か所かに設置されている紋章とペンダントを共鳴させると突如島中を轟かせる程の大きな音と震動が起こり、その震動によって何らかの仕掛けが解除されたと推測したリィン達が島を回って調べていると祭壇があった場所に神秘的な建物が存在していた――――
 

 

第83話

~ブリオニア島~

「こ、ここってさっきまで祭壇があった場所だよね?」

「ああ…………間違いないはずだ。」

「どうやら地形そのものが変化したみたいですね…………」

「うん、そしてその地形を変化させる為の仕掛けがさっきの紋章を全てペンダントに秘められている魔力と共鳴させる事だったのでしょうね。」
驚いた様子で建物を見つめるユウナの言葉にクルトは頷き、ミュゼとゲルドはそれぞれ何もなかった場所に突如建物が現れた理由を推測していた。
「…………教官。これは。」

「…………ああ。どことなく”精霊窟”に似ているな。」

「ええ…………もしかしたら、この建物も”精霊窟”かもしれませんわね。」

「せ、精霊窟…………?」
リィン達の会話内容が気になったユウナは困惑の表情でリィン達に訊ねた。
「内戦時に現れていた暗黒時代の建造物だ。例の”地精”が建造したと言われている。」

「内戦後には一通り姿を消してしまったとの事ですが…………」

「どうしてそんなものが…………」

「…………ハッ、事情は知らねぇがアタリなんじゃねえか?」
リィンとセレーネの説明を聞いたクルトが表情を引き締めている中何かを見つけたアッシュは見つけた物に近づいて拾った。
「それは…………!」

「ミリアムさんのポーチ…………!?」
アッシュが拾った物にアルティナと共に驚いたリィンがアッシュに手渡されたポーチを見つめていると何かに気づいたユウナが足元に落ちている物を拾ってリィン達に報告した。
「教官、これ………!」

「っ…………!」

「確かそれは旧Ⅶ組の皆さんが持っていた学生手帳…………それに最後の自由行動日に撮ったわたくし達特務部隊と旧Ⅶ組の集合写真ですわね。」

「…………ずっと持ち歩いていたみたいですね。」

「…………ミリアム…………」
心配そうな表情でミリアムの安否を考えていたリィンだったがすぐに気を取り直して生徒達に指示をした。


「―――現時点をもって非常事態が発生したと判断する。君達は宿泊小屋に待機、演習地方面への連絡を頼む。セレーネは俺と共にこの建造物の探索だ。」

「えっと………わたくしは構いませんが…………」
リィンの指示に生徒達がそれぞれ血相を変えている中セレーネは気まずそうな表情で生徒達に視線を向けた。
「おい、そいつは…………」

「…………お二人で行くつもり、みたいですね。」

「あ…………」

「…………すまない。だが今回は今までと状況が違う。この先は、あのミリアムが自力で帰還できないほどの”何か”が待ち受けている。今回ばかりは――――」

「――――冗談ではありません!」
リィンが生徒達を説得しようとしたその時ユウナがリィンを睨んで制止の声を上げた。
「”だからこそ”、でしょう!?こういう時にあたしたちを上手く使えなくて何が”Ⅶ組教官”ですか!?」

「あ…………」

「…………昨日の夜ならいざ知らず、今の貴方が冷静だとは思えません。未知の領域に二人で踏み込む危険はお二人が一番わかっているはずでしょう?」

「教官の”切り札”も今は姫様達の護衛に割いている影響でその力は半減しているのでしょう?”救出確率”を上げる為にもサポートはどう考えても必要では?」

「それに”何か”あった時の戦力は多ければ多いほど、”救出確率”もそうだけど”生存確率”を高める事にもできるのだから、こういう非常事態こそ私の予知能力や魔術、それにユウナ達それぞれの”力”が必要なのだと思うわ。」

「…………それは…………」

「ふふっ、正論ですわね。」
生徒達の指摘にリィンが反論できない中セレーネは苦笑していた。
「――――わたしは別にミリアムさんのことを姉妹とは思っていません。でも、それでも…………!どうしても放っておけないんです!教官のことを!…………あの能天気でお姉さんぶってでも、わたしと良く似たあの人のことを!」

「…………あ…………」

「アル…………」

「…………そうか。」
アルティナが珍しくもはっきりと感情を表にした事やその理由にリィンとユウナは驚き、アルティナの事情を知っているクルトは重々しい様子でアルティナを見つめていた。
「てめえに何を言われるまでもなくこっちは肚を括ってんだっつーの。だが、決めるのはアンタだ。―――切り捨てるならとっとと言えや。」

「ふうっ…………(完全に頭に血が上っていたな。やっぱり俺もまだまだだな…………教官としても、一人の人間としても。)」
アッシュの指摘によって一息ついて冷静になったリィンは気を取り直してARCUSⅡを取り出して指示をした。
「命令を訂正する―――総員、最高レベルの戦闘準備を。念の為に演習地に連絡し―――ヴァリマールを呼んだら突入しよう。」

「お兄様…………」

「あ…………」

「ハッ、それでいいんだよ。」

「よーし、早速準備を整えよう!」

「――――もしもし、リィン君?」

「トワ先輩、至急各方面に連絡して頂きたいことが―――」
その後トワに連絡したリィンはヴァリマールを呼んだ。


「――――待たせたな、リィン。そしてセレーネとⅦ組の教え子たちよ。」
リィンに呼ばれ、空を飛んでリィン達の傍に着地したヴァリマールはリィン達に声をかけた。
「いや、予想以上の速さだ。来てくれて助かった、ヴァリマール。」

「よかった、無事に到着したみたいだね?」

「ええ、トワ先輩。突然ですみませんが助かりました。」

「それに各方面への連絡も代わりにしてくれてありがとうございます。」

「ふふ、ティータさんたちも手伝ってくれたみたいですね。」

「うん、すぐに発進できるようハッチを動かしてくれてね。各方面への連絡も済ませたし、そっちは心配しないで。どうか気をつけて…………!ミリアムちゃんも一緒に絶対無事に戻ってきてね!」

「ええ、ありがとうございます。」

「ふふ、それではまた。」

「ご協力感謝いたしますわ。」
リィンとセレーネ、ミュゼがトワとの通信を終えると、その様子を見守っていたユウナ達は冷や汗をかいた。


「ふう、いつ見てもとんでもないというか。」

「騎神にバックアップを任せる…………教官にしかできない離れ技だな。」

「え…………?でもリアンヌ分校長も騎神がいるから、リアンヌ分校長も同じことができると思うけど…………」
ユウナとクルトの感想を聞いていたゲルドが首を傾げて呟くとユウナ達は再び冷や汗をかいた。
「あの化物分校長を比較対象にする時点で間違っているっつーの。」

「というかそもそも、分校長の場合、騎神のバックアップがなくても単独で解決できると思うけど…………」

「――――とにかくこれで準備はできましたね。」

「ああ、乗り込むとしよう、どうか力を貸して欲しい―――俺達の大切な仲間を助ける為に!」

「――――はいっ!」
こうして準備を整えたリィン達は精霊窟らしき建造物の探索を開始し、建造物の奥へと進むとそこには霊力が満ちた場所に神機を待機させてその様子を見守っている鉄機隊と、光の網に包まれたミリアムとアガートラムがいた!


~陽霊窟~

「あ、あれって…………!」

「やはりか…………!」

「それに”実験”を担当する結社の使い手達もリウイ陛下達の情報通りですわね…………」

「サザ―ラントに現れた結社の”鉄機隊”…………!」

「”鉄機隊”…………お義父さんが言っていたリアンヌさんと縁がある結社の人達があの人達の事なのね…………」

「ミリアムさん…………!」

「む…………!」

「あら…………」

「アーちゃん!?リィンにセレーネ、Ⅶ組のみんなも!」

「なっ…………!?どうしてこんな場所に!?」
アルティナの大声によってリィン達に気づいたデュバリィ達鉄機隊とミリアムはそれぞれリィン達の登場に驚いていた。そしてリィン達は武装を構えて駆け寄り、デュバリィ達と対峙した。


「よかった…………ご無事のようですね、ミリアムさん。」

「まったく、ユーシスが思い詰めるくらい心配してたぞ?」

「えへへ………会議があるのに悪い事しちゃったかな。それじゃあ、ユーシスに聞いてボクを捜しにきたんだ?」

「ええ、ですがさすがに迂闊すぎです…………!」

「でもよかった…………ちゃんと無事でいてくれて。」

「ま、そこのデカいのといい、ヤバそうな状況だけどな。」
ミリアムの無事にリィン達がそれぞれ安心している中アッシュは警戒した様子で神機を睨んだ。
「ふふ…………ここを探し当てるなんて。」

「ふむ、自力で仕掛けを解除してきたということか。」
一方エンネアとアイネスは感心した様子でリィン達を見つめていた。


「…………その巨大な機体が新たな実験用の”神機”だな?」

「ええ、ですがこれまでの2機と違いますわよ…………!クロスベル解放に関わっていた灰色の騎士達は知っているかもしれませんが、アイオーンTypeαⅡ―――かのガレリア要塞を消滅させたタイプの改良機ですわ!まあ、その時ほどの力はないみたいですけど…………それでも貴方の騎神ごとき敵ではないでしょう!」

「なんかこの場所で霊力を補給してるみたいでさー。何とか場所を突き止めたんだけど見つかって掴まっちゃったんだよねー。」

「迂闊すぎでしょう…………」
デュバリィの後に説明をしたミリアムの話にアルティナは呆れた表情を浮かべた。
「ですがやはり、クロスベルの紫の神機と同じみたいですね。」

「何とか阻止すべきだろうが人質を取られているとなると…………」

「――――いや、少なくとも傷つけられる心配はないだろう。”神速”しか知らないが彼女達の誇り高さは知っている。人質を傷つけるような真似は絶対にしないだろう。彼女達の崇拝する主―――”鋼の聖女”アリアンロードにして”槍の聖女”リアンヌ・ルーハンス・サンドロッドにかけて。」

「え…………じゃあ、あの人達はリアンヌさんに仕えていた騎士だったの?」

「ええ…………様々な事情によって今は道を違えているようですが…………」
クルトの心配に対して静かな表情で否定したリィンの説明に呆けた後興味ありげな様子でデュバリィ達を見つめるゲルドの疑問にセレーネは複雑そうな表情で答えた。
「な、な、な…………」

「ハハ、面白い若者だ。」

「ふふ、女心をくすぐってくれるじゃない。デュバリィがよろめくのも無理ないかもしれないわね。」

「よろめいてませんっ!―――ここで会ったが千年目!我ら鉄機隊の力、改めて見せてあげます!」

「フフ、そうだな。」

「灰色の騎士や聖竜の姫君といい、愉しませてもらえそうね。」
一方ある意味称賛にも聞こえるリィンの評価に顔を赤らめて口をパクパクして絶句していたリィンだったがアイネスと共に感心していたエンネアのからかいに必死に否定した後自身の武装である剣と盾を構え、エンネアとアイネスもデュバリィに続くように自身の武装である弓と斧槍を構えた。


「クク…………オレの獲物よりデカイとはな。」

「その弓も…………尋常ではない雰囲気ですね。」

「でも、絶対に退けない!」

「ああ、3ヵ月近くに及ぶ修行の成果を示す為にも…………!」

「そして教官達に追いつく為にも…………!」

「…………わたしも退けません。形式的とはいえ”姉妹”ですから。」

「アーちゃん…………」
生徒達がそれぞれ決意を固めている中アルティナの本音を知ったミリアムは驚きの表情でアルティナを見つめた。
「トールズ第Ⅱ、Ⅶ組特務科―――これより敵集団の制圧を開始する!――――来い、メサイア!」

「おおっ…………!」
そしてリィンは号令をかけた後メサイアを召喚し、リィンの号令にセレーネ達は力強く答えた。
「ふふ、”身喰らう蛇”、第七使徒直属―――」

「”鉄機隊”が三隊士、お相手仕る!」

「いざ、尋常に勝負ですわ!」
一方鉄機隊もそれぞれ戦意を高め、リィン達は鉄機隊との戦闘を開始した!


「三組に分かれて各個撃破する!ユウナとクルト、メサイアは”魔弓”、アッシュとミュゼ、セレーネは”剛毅”、アルティナとゲルドは俺と共に”神速”を担当し、それぞれの相手を撃破したら分散してまだ戦っているメンバーの加勢を!」

「わかりましたわ!」

「「「「「はいっ!」」」」」

「任せとけや!」

「了解しました!」
リィンの指示に頷いたセレーネ達はそれぞれリィンの指示通りのチームに分かれてそれぞれの相手へと向かい
三人一組(スリーマンセル)による各個撃破…………ふふ、戦術としては間違ってはいないけど…………」

「我ら”鉄機隊”にそのような基本的な戦術如きが通じると思ったら大間違いである事を我らの武にて見せつけてやろう…………!」

「幾ら腕利きが加勢しているとはいえ、雛鳥を抱えてたった三人で私達を制圧できるというその傲慢…………粉々に打ち砕いてやりますわ!」
一方リィンの戦術に対して鉄機隊も真っ向から受け止めるかのようにそれぞれ分散して向かってくる相手との戦闘を始めた。


「速攻だ―――太刀風の陣!!」

「逃がさない――――ヤァァァァァッ!!」
エンネアに向かって行ったクルトは自分達のスピードを上昇させて攻撃後の硬直を短くするブレイブオーダーを発動し、ユウナはエンネア目がけてエネルギー弾を掃射した。
「甘いわね――――喰らいなさい!!」

「闇よ、切り裂け――――斬闇!!」
しかしユウナの銃撃(ジェミニブラスト)を高く跳躍して回避したエンネアはユウナ達目がけて混乱の効果が付与された光の矢を連射するクラフト――――エンゼルアローを放ち、襲い掛かる光の矢をメサイアが暗黒の魔力を纏った魔剣で一閃した。
「ハァァァァァァ…………スマ―――シュッ!!」

「く…………っ!?」
そしてエンネアが着地する瞬間を狙っていたユウナが突撃技(ブレイブスマッシュ)を命中させてエンネアにダメージを与え
「――――。ハァァァァァァ…………切り裂け!!」

「!!」
そこに短い詠唱を終わらせたクルトがクラフト――――テンペストエッジで追撃してきたが、エンネアは後ろに跳躍して回避した。
「まだだ―――かまいたち!!」

「アークス駆動――――ソウルブラー!!」

「あぐっ!?く………っ…………まさかヴァンダールの剣士が魔術を扱うなんて、まんまと虚を突かれてしまったわね…………!」
続けて発動したクルトの魔術によるかまいたちとメサイアの下級アーツによる時属性の刃によるダメージを受けたエンネアは厳しい表情でクルトを睨んだ。
「魔術はエマさんや異世界の人達の専売特許じゃないってね!――――唸れ、大地よ!地響き!!」
するとその時ユウナが発動した魔術によってエンネアの足元を中心に地響きが起こり、エンネアの足元から次々と大地の隆起が襲い掛かった!
「その程度…………っ!お返しよ――――!?くっ…………さっきの魔術はこのために…………!――――させないわよ!」
足元からの奇襲に気づいたエンネアはその場で高く跳躍する事で回避すると共に反撃代わりに石化の効果を纏わせた魔の矢―――メデューアローをユウナ達に放とうとしたが、片手に暗黒の電撃を集束しているメサイアとARCUSⅡを駆動させているクルトに気づくと、ユウナの魔術は自身が逃げ場のない上空へと回避させ、地上にいるクルトやメサイアに空中に上がった自分を魔術やアーツで狙い撃ちさせる戦略であることに気づくとクラフトを中断してメサイアとクルト目がけて矢を連続で放った。
「アークス駆動――――アダマスシールド!!」

「闇の雷に呑まれなさい――――ヴォア・ラクテ!!」

「キャアアアアアアアッ!?」
エンネアが放った矢はクルトが発動したアーツによる物理攻撃を全て防ぐ結界によって阻まれ、メサイアは片手に集束した暗黒の雷エネルギーをエンネア目がけて放ち、逃げ場のない空中で暗黒の雷エネルギーをその身に受けたエンネアはダメージを受けると共に悲鳴を上げた。
「ユウナ、一気に決めるぞ!」

「うん、クルト君!」
メサイアの魔術を受けて地面へと落下していくエンネアを見て好機と判断したクルトはユウナに呼びかけ、呼びかけられたユウナは頷いてクルトと同時にエンネアに向かっていった。
「これがっ!」

「あたしたちの!」

「修業の!」

「成果よ!」

「「ファイナリティ・ゼスト!!」」
クルトとユウナは交互にエンネアに強烈な一撃を叩き込んで吹き飛ばした後、挟み撃ちにして無数の斬撃と打撃を浴びせ、止めの同時突撃攻撃をエンネアに叩き込んだ!
「あぐっ!?まさか…………たった3ヵ月でここまで化けるとはね…………っ!」
クルトとユウナの挟撃乱舞技(コンビクラフト)―――ファイナリティ・ゼストによって、大ダメージを受けたエンネアは態勢を立て直す為に大きく後ろに跳躍してユウナ達から距離を取った。


「滅せよ―――地裂斬!!」
アイネスは自分と対峙するアッシュ達目がけて斧槍を地面に叩き付けて衝撃波を襲わせる遠距離技でアッシュ達に先制攻撃をし
「散開してください!」

「言われるまでもねぇ!」

「はい!」
襲い掛かる衝撃波を見たセレーネの警告に頷いた二人はそれぞれセレーネと共に散開して回避した。
「ぶちかませ――――クレイジーハント!!」

「参りますわ――――えいっ!ハアッ!」
回避し終えたアッシュは攻撃力、魔法攻撃力を上昇させると共にクリティカルヒットを当てやすくする攻撃型のブレイブオーダーを発動し、セレーネは聖剣に光の魔力を纏わせて放つ連撃――――ホーリーラッシュでアイネスに攻撃した。
「この程度!」
セレーネの光の魔力を纏わせた連撃にアイネスは斧槍で防ぎ
「――――失礼!」

「っ!」
続けて放たれたセレーネの足に氷の魔力を纏わせた足払いにも咄嗟に後ろに跳躍する事で回避した。
「異界の海よ、我が呼びかけに応えよ―――津波!!」

「何っ!?―――盾よ!!」
ミュゼは魔術によって異空間から呼び寄せた津波をアイネス目がけて放ち、襲い掛かる津波に驚いたアイネスは逃げ場のない攻撃に対して絶対防壁の結界を展開するクラフト――――秩序の盾で防いだ。
「さ~てと…………喰らえやっ!」

「く…………っ!?」

「こいつはオマケだ!」

「ガッ!?」

「クク、油断大敵ってな。」
ミュゼの魔術を防いだアイネスだったが、側面から飛んできたアッシュの武装のギミックによる鎖鎌の拘束を防ぐことはできず、拘束した後の鎌による斬撃を受けて怯んだ。
「崩したぜ!」

「続きます!」

「好きにはさせん!」
アイネスが怯むとアッシュとリンクを結んでいるミュゼが追撃してきたが、すぐに立ち直ったアイネスは斧槍を振るってミュゼの追撃を防いだ。
「落ちよ、聖なる雷―――ライトニングプラズマ!!」

「!!」
そこにセレーネがアイネスの上空から聖なる雷を複数落とす魔術を発動し、上空からの奇襲に対してアイネスはアッシュたち目がけて突撃する事で回避した。
「フンッ!」

「オラアッ!」
アイネスがアッシュたち目がけて斧槍を振るうとアッシュもヴァリアブルアクスを振るい、斧槍とヴァリアブルアクスは互いの攻撃がぶつかった瞬間の衝撃によって、使い手達を同時に仰け反らせた。
「ほう?今のを相殺するか。マスターの薫陶を受けたとはいえ、僅か3ヵ月でここまで化けるとは…………フフ、この場合たった3ヵ月でお前達をここまで育て上げたマスターの力量に感心すべきか、お前達自身の成長の速さに感心すべきか悩む所だな。」

「ハッ、ぬかしていろ!それにオレ達は何も武術の腕前だけを磨いていた訳じゃない…………ぜっ!」
アイネスの賛辞に対して鼻を鳴らしたアッシュはアイネスに見えないように隠していた得物を持っていない手の指に魔力を纏わせた後、隠していた手をさらけ出すと同時にアイネス目がけて指先から火球を撃ち出した。
「何っ!?」
アッシュが奇襲代わりに放った魔術―――火炎指弾に対して、アイネスはアッシュが魔術を使った事と、奇襲による二重の驚きをしつつ、側面に跳躍して回避した。
「昂る戦意を沈みの底へ―――消沈!!」

「ぐ…………っ!?ち、力が抜ける…………っ!?」
そこにミュゼが発動した戦意魔術がアイネスの闘気を奪ってアイネスの動きを鈍くし
「爆ぜよ、七色の光の矢よ――――プリズミックミサイル!!」

「く…………っ!盾よ!!な――――うおおおおおっ!?」
そこにセレーネが様々な状態異常をもたらせる七色の光の矢を放つ魔術をアイネス目がけて放ち、アイネスは間一髪のタイミングでクラフト――――秩序の盾でセレーネの魔術を防ごうとしたが予めミュゼの戦意魔術によって闘気が削られていた影響で、発動したクラフトによる結界の強度も中途半端だった為、結界は易々と破られてアイネスは襲い掛かる光の矢を受けてダメージを受けると共に怯んだ。
「ハッ、そろそろ決めるぞ、ゆるふわ!」

「ふふ、かしこまりました♪蒼き光よ――――シュート!!」
そしてアッシュの呼びかけに頷いたミュゼは魔導騎銃から石化と凍結の効果を持つ蒼き光の波動弾を放ってアイネスの動きを封じ込め
「らああああああっ!」

「これでフィナーレですわ!」
アッシュはその場で力を溜めて大鎌に変形させたヴァリアブルアクスに暗黒の魔力を纏わせて暗黒の大鎌と化させ、ミュゼが魔導騎銃から”オワソーブルー”よりも一回り大きい蒼き鳥のエネルギーを放つと同時にそのままアイネス目がけて一閃した!
「「ベンヴェヌート・エンフェルネ!!」」

「ぐう…………っ!?ここまでやるとは…………っ!」
アッシュとミュゼの協力技(コンビクラフト)―――ベンヴェヌート・エンフェルネによる大ダメージに呻き声を上げたアイネスは態勢を立て直す為に大きく後ろに跳躍してアッシュ達から距離を取った。


「おぉぉぉぉ…………っ!豪炎斬!!」

「燃え盛れ―――滅!!」
リィン達に向かって行ったデュバリィは炎の魔法剣による薙ぎ払い攻撃をリィン目がけて放ち、対するリィンは太刀に炎の竜を纏わせた一刀両断攻撃で対抗し、二人の攻撃がぶつかり合った瞬間互いの攻撃を相殺すると共に鍔迫り合いの状態になった。
「フンッ、この私と真正面から鍔迫り合いができるとは、サザ―ラントでの出来事以降雛鳥達と共にマスターに鍛えられた成果は出ているという証拠ですか………!」

「ああ、お陰様でな…………!―――それよりも何のつもりで、再び結社の”実験”の為にエレボニアの地に現れた!?プリネ皇女殿下を通したリアンヌ分校長の貴女達への伝言、忘れたとは言わせないぞ!?」

「マスターの私達に向けたお言葉を私達が忘れる訳ありませんわ!私達はそれも覚悟の上で今、この場にいるのですわ!」

「!!」

「援護します、リィン教官!フラガラッハ――――滅!!」

「――――」
鍔迫り合いの最中に互いに睨みあっていたリィンがデュバリィの決意を知って驚いたその時、アルティナが側面から剣に変形させたクラウ=ソラスによる一刀両断するクラフト――――フラガラッハでデュバリィを攻撃した。
「チッ…………!」
側面からの奇襲に気づいたデュバリィは剣を引くと同時に後ろに跳躍してクラウ=ソラスの奇襲を回避した。
「聖なる水よ、奔流となり、我が仇名す者達に裁きを――――リ・カルナシオン!!」

「あうっ!?」
しかし予知能力で予めデュバリィが回避し終えた後の位置を予測していたゲルドの足元から水のエネルギーを発生させる魔術を受けて怯んだ。
「行くぞ―――突撃陣”烈火”!秘技―――裏疾風!」

「甘いですわ!」
リィンはダメージを上昇させる攻撃型のブレイブオーダーを発動させた後電光石火の如くデュバリィに斬りかかり、デュバリィは盾でリィンの電光石火の攻撃を受け流した。
「斬!」

「はあっ!ふふ、見切れますか…………?」
続けて放たれた斬撃波を跳躍して回避したデュバリィは分け身を作ってリィンを包囲し
「……………………」
包囲されたリィンは警戒の表情で次の剣技を繰り出す構えをした。
「斬!!」

「――――下がれ!」
そしてデュバリィが分け身と共に斬りかかるとクラフト――――弧月一閃でデュバリィのクラフト――――影技・剣帝陣を相殺した。

「出でよ、ソロモンの魔槍――――封印王の槍!!」

「アークス駆動――――エアリアルダスト!!」

「く…………っ!ああもうっ!さっきから、後ろから鬱陶しいですわね!行きますわよ…………っ!」
リィンの背後から次々と放ってきたアルティナとゲルドの魔法攻撃を間一髪で連続で回避したデュバリィは後衛の二人目がけて神速の速さで斬撃を叩き込むクラフト――――神速ノ太刀で強襲したが
「クラウ=ソラス。」

「――――」

「くっ、防がれましたか…………!」
アルティナがクラウ=ソラスを前に出して結界を展開させてデュバリィの強襲攻撃を防ぎ、攻撃が防がれたデュバリィは反撃を警戒して後ろへと跳躍して距離を取った。


「一刀両断―――大雪斬!!」

「!おぉぉぉぉぉ…………豪雷剣!!」
頭上から強襲してきたリィンの剣技を回避したデュバリィは反撃に雷を宿した剣でリィン目がけて薙ぎ払いを放ち
「!そこだっ!」

「あうっ!?」
襲い掛かる雷を宿した薙ぎ払いを太刀で受け流したリィンは反撃をし、反撃を受けたデュバリィは思わず呻き声を上げた。
「四の型・改―――紅蓮斬りっ!!」

「ぐっ!?」
更にリィンは続けて炎の魔力を宿した太刀でデュバリィの背後へと駆け抜けると共に抜刀による斬撃を叩き込んでデュバリィに追撃すると共に距離を取った。
「アル、合わせて!」

「了解です、ゲルドさん!」
その時互いに視線を交わして頷いたゲルドとアルティナはそれぞれその場で詠唱して魔術を発動した。
「善なる白き光よ!」

「悪なる黒き光よ!」
その場でそれぞれの魔力を集束したゲルドは白き魔力弾を、アルティナは黒き魔力弾を無数に放ってデュバリィを怯ませ
「今こそ混ざり!」

「全てを無へと導け!」

「「カオス――――エルドラド!!」」
それぞれ魔力弾を放ち終えた二人が同時に片手を挙げると二人の頭上の間に巨大な魔力球が発生し、二人が挙げていた手をデュバリィ目がけて振るうと巨大な魔力球はデュバリィへと襲い掛かり、大爆発を起こした!

「キャアアアアアアアッ!?」
神聖属性と暗黒属性という相反する属性を合わせたゲルドとアルティナの協力魔術(コンビクラフト)―――カオスエルドラドを受けたデュバリィは大ダメージを受けると共に悲鳴を上げ
「散り逝くは叢雲…咲き乱れるは桜花…………今ここに、散華する武士(もののふ)が為のせめてもの手向けを!はぁぁっ…………!せいやっ!秘技!桜花残月!!」

「あぐっ!?く…………っ!まさかこれ程の力をつけているとは…………っ!」
更にリィンが残像も残らぬ神速の剣技でデュバリィに追撃し、リィンのSクラフトで更なる大ダメージを受けたデュバリィは態勢を立て直すために大きく後ろに跳躍してリィン達から距離を取った。


「リィン、アーちゃんたち!」
リィン達の優勢にミリアムは嬉しそうな表情で声を上げた。
「くっ、やりますわね。」

「フフ、灰色の騎士達も流石だがそれ以外の雛鳥も結構やるな。」

「黒兎にヴァンダール流…………それ以外も粒が揃っているわね。」
リィン達の戦闘能力の高さにデュバリィが唇を噛みしめている中アイネスとエンネアは感心していた。

「「……………………」」

「さすがの腕前だが…………」

「でも、届かないわけじゃないわ…………!」

「ハッ、このまま一気に押し切ってやるかぁ…………!?」
リィンとセレーネがデュバリィ達を警戒している中クルトやユウナ、アッシュは戦意を高めていた。
「…………フン。調子に乗るんじゃありませんわ。ここまではあくまで小手調べです。」

「なにぃ…………!?」

「この上、まだ余力があるというわけですか…………」

「ええ、”本気”の彼女達はこんなものでは無いはず…………!」

「ああ、気を抜くな!」
リィン達がデュバリィ達を警戒しているとデュバリィ達は戦術リンクらしき光に包まれた!


「今の光はもしかして…………」

「せ、戦術リンク!?」

「いえ、別の何かですわ…………!」

「気を付けて!ボクもあれにやられたから!」
デュバリィ達の光を見たゲルドは目を丸くし、光の正体を推測したユウナにメサイアは真剣な表情で指摘し、ミリアムはリィン達に警告をした。
「フフ、”星洸陣”を披露するのも久しぶりかしら。」

「我ら”鉄機隊”が結社最強とも謳われる所以―――」

「その身で存分に味わうといいですわ…………!」

「―――そこまでにしてもらおう。」
そしてデュバリィ達がリィン達に再び戦闘を仕掛けようとしたその時突如男の声が聞こえると同時に、鷹がデュバリィ達の前を通過した!
「鷹…………!?」

「むっ…………!?」
突然の出来事にデュバリィ達が驚いているとリィン達の背後から褐色の青年が飛んできてデュバリィ達の前に十字槍を叩き付けると同時に衝撃波を発生させてデュバリィ達を後退させた!


「…………あ…………」

「貴方は…………!」

「そ、その肌の色…………」

「ウォレス准将と同じという事は…………」

「…………ノルドの一族…………」

「旧Ⅶ組の最後の…………」
褐色の青年――ガイウスの登場にリィンが呆け、セレーネが目を丸くしている中ユウナとゲルド、クルトはそれぞれ呆け、ガイウスの正体を知っていたアルティナは明るい表情を浮かべた。
「久しぶりだな、リィン、セレーネ。ミリアムとは先日の通信以来か。」

「ガ、ガイウスなのか…………!?」

「フフ、まさかこんな所で再会するなんて。」

「あはは、間に合ったんだ…………!こうなったらボクも―――!おおおおおっ、うりゃああああっ…………!!」
ガイウスに話しかけられたリィンとセレーネが驚いている中ミリアムは嬉しそうな表情を浮かべた後気合で自身を拘束していた光の網を吹き飛ばした!
「ミリアムさん…………!」

「やった!」

「ゴメンゴメン!手こずちゃった…………!」

「ふふ、なんて力…………」

「鉄血の”白兎”…………少しばかり侮ったか。」

「そしてノルド出身の旧Ⅶ組、ガイウス・ウォーゼル…………し、しかしその雰囲気は―――」
ガイウスから何かを感じ取っていたデュバリィは困惑の表情でガイウスを見つめた。
「その若さにしてその佇まい、その風格―――ガイウスさん…………貴方、リィン様とは別の意味で”只人”ではなくなったのですわね?」

「フフ、とはいってもリィンもそうだが覇王と聖女の娘たるメサイアと比べれば二人の足元にも及ぶまい。だが―――オレの全力をもって、彼女達の”切り札”に対抗することはできるつもりだ。」
ガイウスの強さを感じ取っていたメサイアの評価に苦笑したガイウスは表情を引き締めてデュバリィ達を睨んだ。
「ほう…………?」

「フフ、随分と大きく出たわね。」
ガイウスの発言にアイネスは興味ありげな表情を浮かべ、エンネアは不敵な笑みを浮かべた。
「お兄様、念の為にアイドス様も。」

「ああ。―――アイドス!」
セレーネに視線を向けられたリィンは頷いた後アイドスを召喚し
「むっ!?その者は…………!」

「2年前クロスベルの湿地帯で私達どころかマスターすらも圧倒した”嵐の剣神”セリカ・シルフィル…………!?何故、貴方が灰色の騎士の使い魔に…………!?」

「――――いえ、”彼女”はその”嵐の剣神”の妹ですわ!」
アイドスの容姿を見て何かに気づいたアイネスとエンネアは驚き、デュバリィは驚いている二人に指摘した。


「”嵐の剣神の妹”ですって…………!?…………言われてみれば確かによく見れば”女性”ね。まあ、”嵐の剣神”自身元々女性に見間違うような容姿の男性だったけど。」

「だが、それにしても”あまりにも嵐の剣神と似すぎている”。まさか双子か…………?」

「フフ、厳密には違うけどセリカとは”兄妹”の関係ではあるわね。」
デュバリィの指摘を聞いて驚きの声を上げたエンネアはアイドスを見つめてアイドスの女性らしい身体つきを見てアイドスが女性である事に気づき、アイネスの疑問に苦笑しながら答えたアイドスは異空間から真実の神剣(スティルヴァーレ)を取り出して構えた。
「なっ!?その”剣”は一体…………!?」

「マスターの”槍”と同格―――いや、まさか”それ以上”の代物か…………!?」

「――――退きますわよ!霊力の充填も完了しましたし、”舞台”も一通り整いました!口惜しいですが”嵐の剣神とほぼ同等の使い手と思われる彼女”には”私達では絶対に勝てませんわ!”――このフォートガードに来た私達の”目的”も果さずに、ここで倒れるわけにはいきませんわ!」
アイドスの神剣を見て驚いている二人にデュバリィは警告し
「”嵐の剣神の妹”がお前がそこまで言い切る程の使い手とは…………わかった。ここは潔く退くとしよう。」

「有角の若獅子たちに”そこの地精の代理者”も―――せめて今夜くらいは安らかに眠るといいでしょう。」
デュバリィの警告を聞いて撤退する事をアイネスと共に決めたエンネアはある方向に視線を向けて意味ありげな言葉を口にした後デュバリィ達と神機と共に魔導具による転移で撤退した。


「ふう………何とか退いてくれたか。」

「彼女達はセリカさんに似ているアイドスさんが現れた途端退く事を決めたみたいだけど…………セリカさんは彼女達に一体何をしたのかしら?」

「え、えっと、それは…………」

「フフ、それについてはゆっくり話す機会があれば説明してあげるわ。―――それよりもリィン。」
デュバリィ達が撤退するとガイウスは安堵の溜息を吐き、ゲルドの疑問を聞いたセレーネが答えを濁している中苦笑しながら答えたアイドスは表情を引き締めてリィンに視線を向け
「ああ…………出てきてもらおうか―――”蒼”のジークフリード…………!」

「あ…………」

「…………地精の代理者…………」
アイドスに視線を向けられたリィンは頷いた後エンネアが視線を向けた方向を睨んで声を上げ、リィンの言葉を聞いたアルティナは呆け、クルトは重々しい口調で呟いた。
「やれやれ。」
するとリィンが視線を向けた方向にいつの間にかジークフリードが現れ
「…………へ…………」

「…………まさか…………」
ジークフリードを見たミリアムは呆け、ガイウスは信じられない表情をした。
「クク、どうやら鉄機隊には最初から気づかれていたようだ。まだまだ甘いな―――俺も、そしてお前達も。」

「ああ…………否定はしない。―――どうやら”結社”と対立しているのは確かなようだな。この島と、峡谷地帯の争いでそれぞれ何を狙っているんだ…………?何よりも――――どうしてそんな仮面をつけている!?」

「答える義理はない――――付き合う必要も。」
リィンの問いかけに対して静かな口調で呟いたジークフリードは魔導具による転移で消えようとし
「ま、待て――――!」

「新旧Ⅶ組…………それなりだが実力不足は否めない。轟くは死兵の群れ、そして至高にして伝説の存在の弟子達。――――今回ばかりは指を咥えて眺めていることだな。」
リィン達に警告をした後転移で消えた。


「……………………」

「……………………」

「…………夢じゃない、よね?」

「…………はい…………」
ジークフリードが去った後リィンは目を伏せて考え込み、ガイウスはジークフリードが去った場所を見つめ、呆けた様子で呟いたミリアムにセレーネは重々しい様子を纏って答えた。

その後リィン達は外に出た――――
 
 

 
後書き
今回の話を読んでわかったと思いますがいつのまにかユウナ達もコンビクラフトを習得していましたw本来なら他の組み合わせも出したいんですが、ぶっちゃけもうおもいつけねぇ…………そもそも他のゲーム調べても軌跡シリーズ(特に閃シリーズ)のプレイアブルキャラの武装は個性的なのが多いから、ピッタリなのが見つからないんですよね…………それとついにグラセスタのアペンド2が発売してようやくセリカ達の出番だヒャッハー!と思っていましたが…………設定の音声のある部分によって判明した事実…………何でリウイだけ声がないんだよぉぉぉぉぉっ!?めっちゃリウイの声楽しみにしていたのに、酷すぎる…………まあ、シルフィアやリセルの参戦までは完全に予想外でしたがwというか主君(ヴァイス)を差し置いて他の作品に登場するリセルぅ…………しかしアペンド2、初戦のセリカが強すぎて、ホント苦労しました…………原作でもあんなヴァレフォル並みの回避率があったら、よかったのに…………というかセリカの手前のボス戦のメンツを見て吹きましたww後アペンド2のマップ、どれも懐かしい曲ばかりで興奮しましたねwwまあ、欲を言えばセリカのマップはZEROの”血路を開け”の方がいい気がしましたがw 

 

第84話

外に出たリィン達は通信で状況を説明した後先に演習地に戻るヴァリマールを見送っていた。

~ブリオニア島~

「ふむ…………力になれなかったようだな。」

「いや、俺の判断不足さ。だがあの白い神機―――尋常じゃない力を秘めていそうだった。」

「ああ、今のうちに手立てを考えておくがいい。私も有効な戦術を検討しよう。」

「ああ、よろしく頼む。」
そしてヴァリマールはミリアムとガイウスに視線を向けて頷いた後その場から飛び立って演習地へと戻って行った。
「フフ、以前にもまして人らしくなったようだな。」

「そだね。前はカタコトだったし。」

「はは、相変わらず昔の記憶は戻っていないらしいけどな。―――とにかくミリアム。無事でいてくれてよかった。ユーシスも安心してるだろう。」

「ええ…………それにミリアムさんの件を伝えた時にトワ先輩達も安心していましたわ。」

「ふふっ、先程城館にも通信を入れておきました。」

「あはは…………ホントありがとう!アーちゃんにⅦ組のみんなも!」
リィンとセレーネ、ミュゼの話を聞いたミリアムは無邪気な笑顔を浮かべてアルティナ達を見つめた。
「…………まあ、今後は気を付けて頂けると。」

「もーアル、素直じゃないんだから~!」

「えっと、今のアルみたいなのが”ツンデレ”って言うんだったかしら…………?」

「ゲ、ゲルドさん…………一体どこでそんな言葉を覚えたんですか………?」

「…………まあ、大方ベルフェゴールかレン教官あたりが教えているんだろうな…………」

「はは…………」

「ハッ、やれやれだな。」
すました様子で答えるアルティナをユウナが微笑ましそうに見守っている中首を傾げて呟いたゲルドの言葉を聞いてそれぞれ冷や汗をかいたセレーネは表情を引き攣らせ、リィンは疲れた表情で溜息を吐き、その様子を見守っていたクルトとアッシュは苦笑していた。


「そしてガイウス――――来てくれて本当にありがとう。それと、久しぶりだ。…………こんな嬉しいことはない。」

「ふふっ、お互い無事に再会できて何よりですわ。」

「フフ、俺もだ。」
ガイウスとそれぞれ久々に会うリィンとセレーネはそれぞれ順番にガイウスと握手をした。
「ふふっ…………」

「たしか最後のⅦ組メンバーでしたよね?」

「ああ…………そうなるな。しばらく連絡がつかなかったから心配していたんだが…………」

「ええ…………それにガイウスさん達がトールズ本校を去ってから起こったノルド高原での出来事の件もありましたし…………」

「そうそう、ボクもユーシスもまだ理由を聞いてないんだけど。」

「フフ、いろいろあってな。改めて―――ノルド出身の旧Ⅶ組、ガイウス・ウォーゼルだ。見知り置き願おう、新Ⅶ組のみんな。」
その後リィン達はガイウスと共にボートでフォートガードへと戻り始めた。

~海~

「フフ、どうやらオレたちの再会を祝福してくれているようだな。」

「”ゼオ”だったか…………はは、懐かしいな。」

「ええ…………2年前の内戦の際も協力してくださいましたものね。」
自分達よりも先へと飛んでいる鷹―――ゼオを見つめて呟いたガイウスに続くようにリィンとセレーネは懐かしそうな様子でゼオを見つめていた。
「もしかしてノルドから付いて来てくれたとかー?」

「ああ、オレの旅の道行きを見守ってくれている、誇り高き友だ。」

「うーん、さっき助けに来てくれた時の迫力も凄かったですけど…………」

「ウォレス准将といい、ノルドの方は噂以上の方々みたいですね?」

「ああ、例のバルディアスの末裔もこちらにいるという話だったな。実は共通の知り合いがいて、彼にも会いたいと思っていたんだが…………」

「ああ、そうなのか?」
ガイウスがウォレス准将と会いたがっている事にリィンは意外そうな表情を浮かべた。
「状況を考えると、すぐにでも会えそうな気がしますけど…………」

「…………そうだな。」

「……………………」
ミュゼやクルトがそれぞれ鉄機隊やジークフリードの事を思い返している中、ゲルドは目を伏せて黙り込んでいた。
「霊力の充填も完了―――”舞台”も一通り整った、か。…………猟兵たちの件と合わせてとんでもない状況になってきたな。」

「ええ…………間違いなく今回の特別演習の期間以内にもお兄様への要請(オーダー)が発生するでしょうね。」

「うーん、そうだね。クサイと思ってここまで来たけど予想のナナメ上だったかな?」

「おかげで今回の状況が判明したのはお手柄ですが…………だとしても掴まってしまったのは情報局員として不手際だったかと。」

「うーん、あの陣を出されるまで何とか逃げ切れると思ったんだけど。でも、リィンにセレーネ、ガイウス、アーちゃんたちも助けに来てくれたから万事オッケーだよね!」
ジト目のアルティナの指摘に対して苦笑しながら答えたミリアムだったがすぐに無邪気な笑顔を浮かべた。
「…………知りません。」

「あはは…………ねえミリアムさん。アル、凄かったんだよー。」

「そうだな、どうしても貴女を放っておけないとか何とか。」

「それにアルがリィン教官以外であんなにも感情をさらけ出す所は初めて見たわ。」

「!?」

「アーちゃんが…………ボクのために?」

アルティナはいつもの調子でミリアムの言葉を受け流そうとしたがユウナやクルト、ゲルドの指摘を聞くと驚き、ミリアムは目を丸くしてアルティナを見つめた。
「…………知りません、忘れました。」
一方アルティナは僅かに頬を赤らめて淡々とした様子で答えた。


「あははっ、ホントありがとね!」

「で、ですから…………ふう、もういいです。」

「ふふ…………」

「クスクス…………」

「ったく、情報局員とかなんかの間違いじゃねえのか?」

「ああ、個人的には同感だけど…………しかし鉄機隊に加えて、あの仮面まで現れるなんてな。西風の連中が来ている時点で可能性はあり得たんだが…………」

「ああ、”黒の工房”の関係者かもしれないんだよね?うーん、顔は隠れてたけどどう考えても…………でも、あり得ないよね?他に可能性があるとすれば…………」

「考えたくはありませんが”彼”を元にした”ホムンクルス”という可能性もありえますわよね…………」
リィンの推測を聞いたミリアムはジークフリードの事を思い返して考え込み、セレーネは複雑そうな表情で推測した。
「”蒼のジークフリード”か…………すまなかったな、リィン。今まで相談にも乗ってやれずに。せめてノルドにいれば駆けつけることもできたんだが…………」

「そういえば、例の特殊モードでも全然通信が繋がらなかったが…………もしかして―――どこか遠い場所に行ってたのか?」

「ああ―――事情があって、しかもかなり特殊な環境にいてな。殿下から送られたARCUSⅡもしばらく無駄にしてしまった。」

「ぞうなのですか…………」

「うーん、どう考えても色々あったみたいだね?」
リィンの疑問に対して苦笑しながら答えたガイウスの話を聞いたセレーネは静かな表情でガイウスを見つめ、ミリアムは興味ありげな様子でガイウスに訊ね
「ああ、いずれ落ち着いた時にでも話させてもらうとしよう。」
ミリアムの疑問にガイウスが静かな表情で頷くと、ユウナが運転するリィン達を乗せボートはフォートガードの港に近づいていた。

その後フォートガードの港に到着したリィン達はボートを返却した後ユーシスたちに会うために城館へと向かった。


午後6:50―――

~フォートガード・カイエン公爵家第二城館~

「――――まったく、せめて事前にどこに行くか伝えるがいい!俺に気を使ったのだろうが、情報局の圧力などどうとでもする!」

「あはは…………うん、ゴメンね。確かに行き先くらいはちゃんと伝えとけばよかったよ。」
城館で顔を会わした瞬間しっせきしてきたユーシスに対してミリアムは苦笑しながら答えた。
「フフ…………無事でよかったじゃないか。」

「ああ…………不幸中の幸いと言うべきか。」

「しかし、由々しき状況が明らかになったようだね。」

「ええ…………」
アンゼリカやパトリックもミリアムの無事に安堵している中状況の深刻さに気付いていたハイアームズ侯爵は表情を厳しくした。
「”結社”の実験とやらがこのフォーカードでも行われていた。しかも現れたのは”鉄機隊”―――かつて結社最強とも伝えられた”鋼の聖女”にして何らかの理由によって結社からメンフィル帝国へと所属を変え、今は第Ⅱ分校の分校長を務めているサンドロッド卿の直属部隊だった”現代の鉄騎隊”か。」

「…………内戦では”神速”としか剣を交えた事がありませんでしたが、それでも”執行者”とも同等―――いえ、それ以上の使い手でした。」

「ええ…………それに他のお二人も相当な使い手でしたわ。」

「ハッ、その割にはサザ―ラントの時はあっさり制圧していなかったか?」

「…………まあ、あの時はプリネ皇女殿下達の加勢もあった上、セレーネ教官にとってリィン教官と並ぶ最も連携が取りやすい味方であるルクセンベール卿も加勢していましたし。」

「ふふ、少なくても彼女達が現れた以上、今回の件には必ず私達にとって最も頼もしい方が加勢してくださることになるでしょうね。」

「分校長――――結社”鋼の聖女”にしてエレボニアの伝説の”槍の聖女”か…………」

「警告したにも関わらず、再び姿を現した彼女達に対してリアンヌさんは何を思っているんだろう…………?」
ウォレス准将の言葉にリィンとセレーネは重々しい様子を纏って答え、アッシュの指摘に対してアルティナが静かな表情で答え、静かな笑みを浮かべるミュゼの言葉に続くようにクルトは呟き、ゲルドはリアンヌ分校長の顔を思い浮かべて心配そうな表情を浮かべた。
「――――そして警戒すべきは3体目の”白い神機”だろう。」

「ふむ、あのガレリア要塞を消滅させた機体の後継機だったか。」

「それと同等の能力を持つとすれば恐るべき事態ではあるが…………女騎士たちによれば、そこまでは至らないという事だったか?」

「ええ、ですが今までの実験を考えると常識外れの能力を持っていると思われます。騎神と同等――――いや、それ以上と思った方がよさそうです。」

「ふむ…………」

「とんでもなさすぎだろう…………」
ウォレス准将の問いかけに答えたリィンの話を聞いたハイアームズ侯爵が考え込み、パトリックが信じられない表情で呟いたその時
「ええ――――由々しき事態ね。」
サラが現れ、リィン達に近づいてきた。

「サラさん…………!」

「あ、サラだ!」

「お久しぶりです、教官。」

「ふふ、ガイウスは久しぶりね。ミリアムとは2ヵ月ぶりくらいか。」

「先程ラクウェルへ連絡してこちらに来て貰うことになってな。」

「そうだったんですか…………峡谷方面はいいのですか?」
ユーシスが説明したサラが現れた理由を知ったセレーネは目を丸くしてサラに訊ねた。
「実は、やっと助っ人が来たからそちらに任せて来ちゃったのよ。トヴァルとアガットなんだけどね。」

「そうだったんですか…………!」

「うん、フィーにも連絡したんだけどちょうど別件で手を離せなくてね。」

「そうか…………彼女とも久しぶりだが。」

「んー、ちょっと残念だなー。」
フィーがフォートガードに来ていない事を知ったミリアムとガイウスはそれぞれ残念そうな表情を浮かべていた。


「――――しかし地方軍の配備は見直すべきかもしれませんな。」

「ああ、私もそう思う。フォーカードは当然としてもやはり峡谷方面も必要だろう。」

「ええ。二つが何らかの形で連動している可能性は高いでしょう。正規軍が当てにできない以上は地方軍にカバーして頂きたいところです。後できれば峡谷方面に関してはオルディスのクロスベル帝国軍とも連携を取って頂きたいのですが…………」

「――――了解した。それでは早速、編成とオルディスに連絡を…………」

「その必要はない!」
ハイアームズ侯爵とサラの意見を聞いて地方軍の配備の見直しを決意したウォレス准将だったが、突如私兵を連れて現れたバラッド侯爵が声を上げて地方軍の配備の見直しを否定した。

「侯爵閣下…………」

「准将、何度も言わせるな!地方軍は新海都と領邦会議を守っていればそれでよいのだ!全軍で当たれば”結社”とやらの人形だろうが恐れるに足らぬだろう!」

「そのために全軍を投入するのはあまりに無駄が多すぎます。結社と猟兵団の動きが読めぬ今、柔軟かつ迅速に対応できる態勢を―――」

「ええい、ワシに意見するつもりか!?地方軍の監督は、フォートガード州統括者たるこのワシに委ねられているのだぞ!?貴様ごとき、帝国政府に打診すれば首をすげ替えられることを忘れたか!?」

「……………………」

「くっ…………」
バラッド侯爵に意見をしたウォレス准将だったが聞く耳を持たない様子のバラッド侯爵に閉口し、パトリックは悔しそうな表情で唇をかみしめた。
「…………まあまあ、バラッド侯。いかに領邦会議が大切とはいえラクウェルの民も不安でしょう。閣下が贔屓にされている店などもあるのではないですか?」

「むっ、それは…………」

「エレボニアでは珍しい歓楽都市―――小劇場などの文化もあります。」

「次期カイエン公としてせめて保険を掛けるべきでは?」

「…………フン、そこまで諸君が言うならばいいだろう。だが一個中隊のみだ!それ以外割くことは許さん!残りは新海都防衛に回し領邦会議の開催を死守せよ!それとオルディスのユーディットには峡谷方面のクロスベル帝国軍の配備はあくまクロスベルの領土内で、決してクロスベル帝国軍はエレボニア帝国領土内には入って来るなと伝えて置け!これは決定事項だ、わかったな!」

「…………承りました。」
他の四大名門の関係者達からも意見が出るとさすがのバラッド侯爵も反論できず、ウォレス准将に指示をした後そのまま進んでユウナ達と対峙した。
「お前達か…………邪魔だ、どくがいい!」

「なっ…………!」

「ハッ、面白ぇ…………」

(よせ…………相手が相手だ。)
バラッド侯爵の横暴な指示にユウナが厳しい表情を浮かべ、アッシュは不敵な笑みを浮かべたがクルトが二人に忠告をした。するとその時ミュゼが静かに前に出てバラッド侯爵に話しかけた。
「失礼いたしました、”次期”公爵閣下。」

「ほう…………?昨日も見かけたがそなたは…………」

「ミュゼ・イーグレット。イーグレット伯の孫になります。今回の会議での決定、応援申し上げておりますわ。」

「ほう、イーグレット伯の…………このような令嬢がいたとはな。ハッハッハッ、覚えておこう。それではな!」

「ふふ、お休みなさいませ。」
恭しく礼をして応援の言葉を贈ったミュゼの態度に気をよくしたバラッド侯爵は満足げな様子で去って行った。


「あ、あんたって…………」

「ハッ、大したあしらいぶりじゃねぇか。」
バラッド侯爵が去った後ユウナはジト目でミュゼを見つめ、アッシュは呆れ半分の様子でミュゼに指摘した。
「ふふ、気分良くして頂いた方が面倒がなさそうでしたので。」

「私もミュゼを見習って、ああいった横柄な貴族の人に対するあしらい方を覚えるべきかしら…………?」

「ちょっ、ゲルド!?」

「まあ、養子の身とは言えリウイ陛下のご息女の一人であるゲルドもいずれは上流階級に属している人物達の接し方やあしらい方も覚えるべきとは思うが…………」

「少なくてもメンフィル帝国の皇女の一人であるゲルドさんがミュゼさんのようにエレボニア帝国貴族に対して気を使う必要はないと思うのですが。」
ミュゼを見習うべきかと考えているゲルドの様子にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ユウナは慌てた様子で声を上げ、クルトは困った表情を浮かべ、アルティナはジト目で指摘した。

「はあ…………でも、いい判断だったな。」

「ああ、僕の方からも礼を言わせてもらおう。」

「…………しかし明日は色々な意味で忙しくなりそうだな。」

「ええ、自分の方でもせめて今夜中に備えておきます。」

「――――リィン、セレーネ、新Ⅶ組の皆も。今夜はこれで演習地に戻るがいい。」

「そうね、特務活動に島の探索、目いっぱい働いたんでしょうし。」

「そうそう、捕まってた分。今夜はボクが働くからさ!」

「俺も手伝わせてもらおう。明日に備え、しっかり休んで英気を養っておいてもらいたい。」

「うーん、そう言われると…………」

「休息も大切な任務ですか…………」

「わかりました。―――何かあればご連絡ください。」
ユーシス達の好意を受ける事を決めたセレーネはリィン達の代わりに演習地に戻る事を答え
「フフ、ちょうど夏至祭の夜だし少しは愉しんで帰ったらどうだい?」

「まあ、夜更かししない程度にな。」
アンゼリカはリィン達にある提案をし、アンゼリカの提案を聞いたパトリックは苦笑しながら忠告した。


「ふむ、あれが改めて打診のあった…………」

「…………ええ。自分も流石に驚きました。」

「フフ、私は以前から面識はありましたけどね。」

「…………?何の話ですか?」
去って行くリィン達の背中を見つめながら会話をしているハイアームズ侯爵達の会話内容の意味がわからないパトリックは不思議そうな表情で訊ね
「ふぅん、ひょっとして…………」

「あ、ボクもちょっと聞いたことがあるかも。」
ハイアームズ侯爵達の会話が聞こえ、察しがついたサラとミリアムもそれぞれリィン達を見つめていた。
「フフ…………会うのは初めてだが師からの手紙で存じている。この身は既に帝国貴族、随分羨ましく思っていたものだ。」

「恐縮です、准将。」
ウォレス准将に話しかけられたガイウスは謙遜した様子で答えた。
「――――結社にせよ、会議にせよ、明日は恐らく佳境を迎えるだろう。風と女神の導きを、ガイウス。君の使命を果たすといいだろう。」

「ええ、そのつもりです。ただし、使命ではなく――――あくまで”Ⅶ組”としてですが。」
その後リィン達は夏至祭を行っている都市内を軽く回って演習地にいる第Ⅱ分校の教官や生徒達の為のお土産を買った後演習地へと帰還した――――

 

 

第85話

その夜、演習地に戻ったリィン達は土産物を振舞いつつ、明日の話をした。

結社や猟兵達に関連して間違いなく何かが起こるだろう―――

既に教官陣は、生徒達全員にその事を前もって警告しており…………生徒達は緊張しつつもユウナ達の土産に盛り上がってから前日よりも早く就寝するのだった。

そして――――

既に生徒達や教官陣が明日に備えて就寝している中、まだ起きていて今日起こった出来事を思い返していたリィンは誰かが出ていく気配に気づき、様子を確かめるために列車を出ると物陰で誰かと通信をしているアッシュを見つけ、それが気になったリィンはアッシュに近づいた。

~演習地~

「――――おい、いい加減にしとけよ?そう毎度、テメエの思惑に乗っかってやるとは思うなよ?」

「ま、そうツンツンすんなって。」

(この声は…………)
アッシュと通信をしている軽薄そうな声に聞き覚えがあったリィンは目を丸くした。
「別にこちらはお前さんに強制するつもりは一切ないしな。―――それより、繋がったんだろう?サザ―ラントからフォートガードまでの線が。」

「ッ…………テメエの言う通りだ。所々、ポツポツと繋がってきやがった。裸足で泣き喚いて山道を歩いてた時、ジョボくれたオッサンに手を引かれたこと…………オッサンに連れられて夜行列車みたいなのに乗った事…………キラキラした所に来て…………”あの人”に紹介されて…………クク。どいつもこいつもお人好しっつーか。」
軽薄そうな声に指摘された唇をかみしめたアッシュは左目を抑えてかつての出来事を思い返していた。
「そうか…………ま、大方睨んだ通りだったか。」

「テメエ…………だったらなんでもっと早く―――」

「たとえオレが何か教えて、それでお前さんは納得できんのか?全てを自分の目で確かめる―――そういったのはお前さん自身だろう?」

「チッ…………―――まあいい、オレのスタンスは今までと変わるわけじゃねえ。今度は”黒幕”関係だ。出し惜しみするんじゃねえぞ?」

「あー、それについては微妙にハードルが高そうだが…………いずれにせよ、今回の演習じゃ大したネタは掴めないと思うぜ?明日は相当ヤバそうな感じだし、とっとと寝た方が身のためだろ。――――”そこの教官どのに指導されちまう前にな。”」

「!…………てめぇ、いつから…………」
軽薄そうな声の指摘に驚いて振り向いたアッシュは厳しい表情でリィンを睨んだ。


「…………この場合、謝るべきか問い質すべきか、どっちだろうな?それは軍用通信器か…………都合したのはレクターさんですか?」
アッシュに睨まれたリィンは苦笑した後通信器に問いかけた。
「アタリだ、いわゆる暗号回線でな。ちなみにミリアムは噛んでないから、適当に黙っててくれ。そんじゃあ、二人ともとっとと寝ろよー。」
軽薄そうな声―――レクター少佐はリィンの疑問に答えた後通信を切った。
「チッ…………マジでどっかから見てるんじゃねえだろうな?…………オイ。なんかねぇのかよ?」

「いや、別に…………元々ウサン臭い人だからな。何らかの形で関係者を送り込んでも不思議じゃないだろう。…………ただ、どうも君は情報局員という訳じゃなさそうだな?」

「ハッ、たりめーだ。そもそも便宜も図られちゃいねえ。オレが第Ⅱに合格したのは完全な実力―――カカシ野郎は関係ねえ。」
リィンの問いかけにアッシュは鼻を鳴らして答えた。
「そうか…………じゃあ、どうして?」

「フン…………個人的にどうしても知りたい事があってな。それを知る為の近道が第Ⅱにあるってあの野郎に囁かれたのは確かだぜ。」

「レクターさんがそんなことを…………さっき話が少し聞こえたが君が知りたいのは、ひょっとして――――」

「ハッ、テメエに話すことはねぇよ。…………それとも何だ?”聖女”あたりに突きだすか?」

「え…………」
アッシュの指摘にリィンは意味がわからず呆けた様子でアッシュを見つめた。


「カカシ野郎から情報を引き出す代わりに色々、調べものはしてたからな。言ってみりゃ情報局の隠しスパイ…………白兎よりもタチが悪いだろ。あのおっかないかつ高潔な分校長様が知ったら即刻、退学にでもするんじゃねえか?」

「…………くっ…………はははははっ!」
アッシュの推測を呆けた様子で聞いていたリィンは突然笑い始めた。
「おい…………」

「まさかとは思うが…………本気で言ってるんじゃないよな?大人びてると思ったが、自分のことになると意外と周りが見えなくなるというか…………」

「……………………」
リィンの指摘を聞いたアッシュは目を細めてリィンを睨んだ。
「悪い、そんな目で睨まないでくれ。――――そもそも教官陣や生徒どころか分校長まで他国所属の俺達がいる時点で情報局のスパイ云々は今更だろう。第一、あの分校長がそれを知って君を辞めさせたりすると思うのか?」

「…………そいつは…………」

「断言するが、”あり得ないな。”むしろ面白がってとことんやれまで言いかねない。いや、いつでも寝首を掻いてこいとか、言いだしそうな気も…………」

「やめろっ、想像しちまうだろうが…………!ったく、これだから常識の通じねぇ連中は…………―――だったら、”リィン教官。””アンタ”はどうなんだ?処分の目がないとはいえ心情的な問題はゼロじゃないだろう。オレは、オレ自身の知りたい事のために情報局を利用して第Ⅱに入った。Ⅶ組入りを決めたのも百パーそうだ。そんな性根の、クソ生意気な問題児を入れておくメリットなんざどこにある?」

「メリットが無ければ担任として教えたらいけないのか?」
試すような視線で睨んでくるアッシュの問いかけに対してリィンは静かな表情で問い返した。


「俺はさ、アッシュ。自分がここまで来れたことに感謝しているんだ。そりゃあ、嫌だったさ。あんなに仲が良かった特務支援課のみんなと数ヶ月で離れ離れになったのは。内戦以降関わるつもりがなかったエレボニアの政府に灰色の騎士なんて持ち上げられたのも。もっと言えば、捨てられて拾われて、気味の悪い力を持っていた事も…………―――でも、それらが何の意味もない、無駄なことだなんて思いたくはない。君だってそうなんじゃないか?」

「っ…………!……………………」
リィンの指摘に対して息を呑んだアッシュは目を伏せて黙り込んだ。
「…………君の”事情”は知らない。だが、育ててくれた人の愛情はわかる。何だかんだ言って面倒見いいしな。仲間のフォローもちゃんとするし。」

「ハッ、そんなの……………………」

「君のありとあまるスペックからすればどうってことない、か?ちなみに君は大したヤツだとは思うがそれぞれ上には上がいるぞ?クルトは壁を感じているみたいだが間違いなく剣士としては天才だろう。ユウナもあれで、警察学校を卒業した、タフさも粘り強さもある有望株だ。アルティナは生徒の枠に囚われなければトップクラスのエージェントでもある。ゲルドは予知能力を抜きにしても、魔術師としては天才だろう。ミュゼは…………まあ、コメントは控えておこうか。」

「クク…………ま、わかるけどな。」
ミュゼだけ評価しなかったリィンの心情を察していたアッシュは口元に笑みを浮かべた。
「まあ、言いたいのは、君も間違いなく彼らから影響を受け、また与えているってことさ。それを是とするか非とするかはあくまで君自身の問題だろう。だが、そこに少しでもメリット以上の”意味”が見出せそうなら―――Ⅶ組特務科という集まりに、君の”居場所”がありそうだったら。俺はその手伝いをしたい―――ただ、そんな風に思っている。」

「ぁ…………ククッ…………―――ハハハハハッ…………!はぁ~あ…………クセぇ、クサすぎる!何でこの俺がこんな青春ドラマにつきあわされてんだっつの…………!」
リィンの指摘に一瞬呆けたアッシュは声を上げて笑った後苦笑した。

「君のⅦ組編入を決めたのは分校長だから、文句はそちらにな。――――ちなみに俺の意見を言えば、アッシュが入ってくれたのは嬉しいぞ、社交辞令とかじゃなく。」

「キモいんだよ…………ったく。―――今日のところは大人しく引き上げて寝ててやるよ。アンタの自分を曝け出すやり方に先制されちまったみてぇだからな。」

「時と場合によるさ。絶好のロケーションでもあるし。」

「ハッ、言ってろ。―――明日はどう考えてもヤベエんだろ?”俺達”Ⅶ組を率いるつもりがあるならとっととアンタも休むんだな。」

「…………ああ。おやすみ、アッシュ。……………………―――それで、”君の方”はいつまで起きてるつもりだ?」
その場から去って行くアッシュを見送ったリィンはその場で黙って考え込んだ後後ろへと振り向いて目の前の大きな木に語り掛けた。
「クスクス…………バレちゃいましたか。」
すると木の物陰からミュゼが姿を現してリィンに近づいた。


「えっと、別に立ち聞きしようとしていたわけではないんですよ?ただ明日のことが心配で目が冴えたので潮風に当たりたくて…………って、アッシュさん相手とあまりに態度が違いすぎません?ハッ、もしかして―――」
リィンと対峙して理由を説明したミュゼだったが何も語らずジト目で自分を見つめるリィンの態度に困惑した後ある事を察してその内容を口にしようとしたが
「そういうのはいいから。…………わかってると思うがくれぐれもアッシュのことは―――」
リィンが制止してミュゼに口止めを頼んだ。

「ここだけの秘密、ですよね。個人的に、アッシュさんの経歴に興味は出てきてしまいましたが…………少しだけ我慢することにします。」

「ああ、そうしてくれ。…………君にかかったら大抵のことは丸裸にされてしまうんだろうからな。」

「あら…………ひょっとして教官…………先程の話、私にも聞かせていました?」

「君の気配はわかったからな。さっきアッシュに言った、互いに影響を受け、与え合う関係…………―――いうまでもないだろうが君に対しては、少し違った意味がある。」

「……………………」

「この2週間…………担任として接して改めて確信したよ。秀才かつ天才的なクルトよりも、才能の塊みたいなアッシュよりも。人間として力強いユウナよりも、特異な経歴を持つアルティナやゲルドよりも。―――君は普通じゃないな。あらゆる意味で、空恐ろしいほどに。”あのレン教官”が君の事を相当高く評価していた”真の理由”も今ならわかるよ。レン教官と君は”似た者同士”だからこそ、君の”空恐ろしいほどの普通じゃない所”を悟っていたのだろう。」

「……………………」
リィンの評価に対してミュゼは何も答えず静かな笑みを浮かべてリィンを見つめていた。

「君の蠱惑的な言動、ちょっとした冗談やおふざけ、一挙手一投足に至るまで―――全てが俯瞰され、計算された上でどう因果が巡るかまで君には視えている。あくまで自然に、君自身が楽しみながら。アッシュが女郎蜘蛛なんて君のことを揶揄していたが…………そんなレベルじゃないだろ。さしずめトップクラスのプロのチェスプレイヤーのように…………何千手、何万手先まで読んで望む盤面を引き寄せようとしている。―――そうじゃないか?」

「…………正直、驚きました。教官の聡明さはもちろん、ある程度は把握していましたけど。――――まさかそんな形で”斬り込んで”来られるなんて。」
リィンの推測に対してミュゼは静かな笑みを浮かべて答えた後意味ありげな笑みを浮かべてリィンを見つめた。
「ッ…………!?」

(アイドス様…………今、ミュゼさんの雰囲気が…………)

(ええ…………恐らくあれが”本当のミュゼ”なのでしょうね。)
ミュゼの雰囲気が変わった事にリィンが驚いている中、状況を見守っていたメサイアの推測にアイドスは静かな表情で頷いた。


「”八葉一刀流”でしたか…………そのあたりの心構えなのかしら?”私”という人間を捉えるのに特殊な視方をされたんですね…………?」

「…………”観の眼”といってね。あらゆる先入観を排し、あるがままを見て本質を捉えようとする…………(くっ…………なんだ?頭が痺れるように甘い…………)」
一歩自分に近づいてきて問いかけたミュゼの問いかけに対して答えたリィンだったが内心体調に何かの違和感を感じていた。
「ふふっ、そうですか…………極めれば何事も”理”に通ずる…………やはり欲しいです。灰色の騎士としてではなく、先輩の大切なお兄様としてでもなく、姫様の伴侶としてでもなく。教官のことを―――教官の心も魂も…………」

「っ…………!」

「あ…………」
意味ありげな笑みを浮かべてリィンに迫ろうとしたミュゼだったが我に返ったリィンによって止められた。
「ふう………危ない危ない。―――今更かもしれないがあんまり大人を揶揄うんじゃない。相手によっては冗談にならないことだってあるんだぞ?」

「……………………ふふっ、失敗しちゃいました。以前、尊敬する方の一人に教わった”殿方を虜にする魔法”だったんですが。」
リィンの忠告に対して真剣な表情で黙ってリィンを見つめていたミュゼだったがすぐにいつもの調子に戻って答えた。
「え。」

「うーん、やっぱり香りも重要みたいですねぇ…………あのラベンダー…………何とか取り寄せられないかしら?」

「君は…………いや―――」
ミュゼと対峙していたリィンはふとクロチルダの事を思い浮かべた。
「ふふっ、別にゲルドさんみたいに”魔女”を気取っているわけじゃありません。ですが以前、”とある”機会にお話しすることがあっただけで…………これ以上はヒ・ミ・ツです♪」

「…………ハハ…………―――わかった。そこの詮索は止めておこう。さあ、そろそろ寝た方がいい。明日は多分、早いぞ。」

「ふふ、わかりました♪教官が添い寝してくださったらグッスリと…………」

「しません。ほら、良い子だから。」

「うーん、なんだか父親モードになられてしまったような…………まあいいです。それでは教官、おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」
そしてミュゼはその場から去ろうとしたが
「――――そうだ、最後に一言だけ。」

「…………?」
リィンに呼び止められると立ち止まって不思議そうな表情でリィンを見つめた。
「互いに影響を受け、与え合う関係…………いくら君がそれを”制御”できたとしても受ける影響はゼロではいられない筈だ。その意味で、見守らせてもらうよ。君とⅦ組のみんなを、これから先も。」

「あ…………よろしくお願いします。リィン教官。」
その後ミュゼが列車に戻るのを見送ったリィンも列車に戻ろうとしたが、海岸から吹く潮風と共に聞き覚えのある歌声が聞こえ、それが気になったリィンが海岸に近づくとゲルドが一人海に向かって歌っていた。


「―――――――♪」

(………なんて綺麗で心が洗われる歌声だ…………ゲルドが歌う歌がオペラ歌手並みに上手である事はセレーネから聞いてはいたけど、まさかこれ程とは…………)
海に向かって歌い続けているゲルドの歌声を近くで聞いたリィンはゲルドの歌が終わるまで心の中でゲルドの歌の上手さに感心しながら歌を聞き続けていた。
「―――――――♪ふう…………え…………」
歌い終えたゲルドは一息ついたが、後ろから聞こえてきた拍手を聞いて呆けた様子で後ろに振り向くとそこにはリィンがいた。
「ハハ、途中からしか聞いていなかったが、いい歌だったよ。もしかしてゲルドの故郷の曲か?」

「ううん、『時の向こう側』という歌で私を育ててくれたお祖父ちゃんが私に教えてくれた歌よ。」

「へえ…………という事はゲルドの育ての親である祖父は作曲家か?」

「ううん、確かにレオーネお祖父ちゃんは作曲もするけど楽器や歌も上手いからお祖父ちゃんは”音楽家”よ。」

「”音楽家”…………道理でゲルドは”歌”もそうだが、音楽に関する成績も評価が高い訳だな。」
ゲルドの育ての親を知ったリィンは納得した様子でゲルドを見つめた。
「ふふっ、お祖父ちゃんは昔、世界でも有名な音楽家だったから、そんなお祖父ちゃんに育てられたのだから私の音楽の成績が良い理由は間違いなくお祖父ちゃんのお陰だと思うわ。」

「そうか…………演奏家のエリオットが知れば、そのお祖父さんの事について色々と聞いてきたかもしれないな。……………………」
ゲルドの説明を聞いたリィンはエリオットの事を思い浮かべて苦笑した後気を取り直して静かな表情でゲルドを見つめた。
「?どうしたの、リィン教官?私に何か聞きたい事でもあるのかしら?」

「………君の担任になって1ヶ月、君と接してきてずっと気になっていたんだが…………――――どうして君はそんなにも”優しくあり続けられるんだ?”」

「えっと………それってどういう意味?」

「異世界であるゼムリアに来たばかりの君が第Ⅱ分校への編入を希望した理由、そしてブリオニア島でのあの謎の少女との邂逅での出来事………それらは全て君の予知能力によって視えた未来の俺達の戦いに備えたものだ。なのにゲルドは故郷も存在しないゼムリアの為に…………そして会ったばかりの俺達の為に、どうして惜しみない協力をしてくれるんだ?」

「………………………………」
リィンの問いかけに対してゲルドは何も答えず、静かな表情で神秘的な雰囲気を纏ってリィンを見つめ
「…………ゲルドが以前いた世界ではゲルドは何らかの出来事によってその若さで命を失っていた事もエリゼ達から聞いている…………もしかしてその若さで命を失った理由もその”優しさ”が関係しているんじゃないか…………?」

「…………ふふっ、私が”優しい”かどうかはともかく、私が私がいた世界に住むみんなの為に命を失った事は間違っていないわね。」
核心をついたリィンの推測に目を丸くしたゲルドは苦笑しながら驚きの事実を口にした。


「!それは……………………まさか君の視た未来には、かつての君のように何らかの理由によって君が俺達の為に命を落とす未来まで視ているのか?」
ゲルドの話を聞いたリィンは血相を変えた後ある可能性に気づいた真剣な表情でゲルドに問いかけた。
「それは大丈夫よ。今後起こるであろうあらゆる”可能性”を視てみたけど、全てヴァイスハイト皇帝達が異世界――――ディル=リフィーナから呼び寄せてくれた”あの人”が”本来訪れるはずだった終焉へと導く運命”をその人に宿る”正義の意志”によって全て浄化される未来しか視えないもの。」

「そうか…………(ヴァイスハイト陛下がディル=リフィーナから呼び寄せた人物でその人物に宿る”正義の意志”…………まさか…………セリカ殿の事か!?)…………まあ、それはそれでいいとして…………その件とは別に担任として、そして”Ⅶ組”と”特務部隊”の関係者としてゲルドに言っておくことがある。」

「?」

「――――例え今後どのような辛い未来が待っていたとしても、決して以前ゲルドがいた世界の時のように自分を犠牲にする事は担任として、そして仲間として俺―――いや、”俺達”が許さないし、絶対にそんな事はさせない。だから、何かあったら一人で抱え込まずに俺やセレーネ、それにユウナ達やリウイ陛下達でもいいから、必ず誰かに相談してくれ。かつてのゲルドはどんな生き方をしたのかわからないが…………今のゲルドは俺達を含めた多くの人達の”輪”の中にいるんだから、ゲルドがその”輪”から外れる事は俺達は誰も望んでいないし、そんな事が起こったらみんな悲しむからな。」

「ぁ……………………」
リィンに頭を撫でられたゲルドは呆けた表情を浮かべてリィンを見つめ
「――――うんっ!」
やがて笑顔を浮かべて頷いた。

その後リィンはゲルドと共に列車に戻ると部屋に戻って明日に備えて休み始めた。


~東ランドック峡谷道~

一方その頃峡谷道の開けた場所で戦っていた”北の猟兵”と”ニーズヘッグ”は笛の音が聞こえると戦闘を中断して対峙していた。
「まさか我らがここまで押されるとはな…………今回ばかりはそちらの執念勝ちのようだ。」
北の猟兵達と対峙していたニーズヘッグの猟兵の一人は自分達が戦った猟兵達に対する感心の言葉を口にした後何かの紙を北の猟兵達の足元に投げた。
「政府からの依頼書…………悪いが処分させてもらうぞ。」
足元に投げられた紙を拾って確認した北の猟兵はライターで紙を燃やした。
「フン、違約金の補填をどうやってまかなうか…………」

「せいぜい雪辱を果たすがいい。我らに与えた損失を数十倍にするくらいのな。」

「フフ、そのつもりだ。」

「お前達とも長い付き合いだ。願わくばこれが最期の機会であって欲しいものだな。」
そしてニーズヘッグの猟兵達はその場から撤退し始め
「作戦完了―――これより最終作戦に入る!既に我らは死兵!恐れるものは何もない!見せてやるぞ…………!ノーザンブリアの最期の誇りを!」

「おおお…………っ!」
ニーズヘッグの撤退を確認した北の猟兵は仲間達に号令をかけた後どこかへと向かい始めた。一方その様子をアガットとトヴァルが丘の上から観察していた。
「おい、コイツは…………!」

「ああ…………ヤバイことになってきやがった。元”北の猟兵”…………帝国政府もそうだが、実際に占領した貴族たちの軍もさぞ恨んでいるだろう。」

「チッ、そいつらがこんな場所で何をするか―――」
北の猟兵達の今後の動きについて話し合っていた二人はすぐに北の猟兵達の狙いを悟って血相を変えて互いの顔を見合わせた。
「例の放蕩侯爵が造らせたアレ、保管場所はどこだ…………!?」

「待ってくれ、今確認を…………!っ…………通信が利かない!?」
アガットに訊ねられたトヴァルはARCUSⅡを取り出して通信をしようとしたが、通信ができず驚いていた。

「フム………そろそろ頃合いか…………」
一方他の場所で何かの装置を背後に置いて猟兵達の動きを観察していたガレスは望遠鏡を取り出してある方向――――新型の列車砲が保管されている場所を見つめると北の猟兵達の襲撃によって劣勢になっているバラッド侯爵の私兵達がいた。

「――――やるな。どうやらこちらが手を貸すのは最後の詰めだけでよさそうだな…………」

「フフ…………通信波妨害装置も成功だね。」
ガレスがその場で今後の事について独り言を呟いているとカンパネルラが現れた。
「――――来たか。」

「フフ、彼女達の方も来たみたいだし、ちょうどいいタイミングだったみたいだね。」
ガレスの言葉を聞いたカンパネルラが視線を向けるとバラッド侯爵の私兵達を制圧し、列車砲を占領した北の猟兵達がそれぞれ配置につき、更に夜闇の中に神機が現れていた。
「さてと、夏至の夜を邪魔しないよう、忍び足でコッソリと始めようじゃないか。」
そして翌日の早朝、リィン達の想定以上の”非常事態”が起こった――――!
 

 

第86話

6月19日―――午前4:30――――


早朝、辺りを轟かせる砲撃音によってリィンはすぐに目を覚ました。

~デアフリンガー号~

「砲撃音―――!?」

「ああ…………かなり遠いがデカすぎる!よほど非常識なサイズじゃねえと―――」

「「列車砲()…………!」」
起き上がったリィンに自身の推測を答えた後考え込んだランディはすぐにリィンと共に心当たりを思い出した。

「緊急事態発生!みんな、すぐに準備して!」

「この辺り一帯は砲撃されていません!落ち着いて行動してください!」

「各方面との通信を繋げ!砲撃箇所の特定を急ぐぞ!」

「全機甲兵、出撃準備!いつでも出られるように!」

「戦術科集合!装備は確認しとけよ!」

「それと出撃をいつでもできるように覚悟をしとけよ!」

「主計科も戦術科、並びに特務科のサポート、それと地方領邦軍との連携をいつでもできるように準備をしておきなさい!」
突然の非常事態に生徒達が驚いている中教官陣は列車内を回ってそれぞれ指示を出していた。

~フォートガード・カイエン公爵家第Ⅱ城館~

一方その頃、砲撃音を聞いて外のテラスに出たユーシス達は港の海に何かが着弾する様子を見た。
「こ、この威力は…………!」

「RFの新型列車砲…………!」

「バラッド侯が正規軍用に造らせた代物か…………!」

「…………東からだな。距離にして800セルジュ。」

「それって峡谷方面!?」
ガイウスの分析を聞いたミリアムは驚きの声を上げ
「こちらバレスタイン!」

「やっと繋がったか―――!」
サラは突如自分のARCUSⅡにかかってきた通信で通信相手―――トヴァルとアガットとの通信を開始した。


~同時刻・クロスベル帝国領・海都オルディス・カイエン公爵家城館~

同じ頃、砲撃音を耳にしたユーディットとキュア、そして城館に泊まっていたエステル達とサフィー達は状況を確かめる為に外のテラスに出た。
「ユ、ユーディ…………この砲撃音って………!」

「ええ…………間違いなくRFの新型の”ドラグノフ級列車砲”でしょうね。」
不安そうな表情をしているキュアの問いかけにユーディットは厳しい表情を浮かべて答え
「やはり、こちらの世界でも新型の列車砲が北の猟兵達に奪われる事を防げなかったようですね。」

「ああ…………今頃フォートガードは列車砲の恐怖に晒されているのだろうな…………」

「うう~っ…………何でこういう事に関しては一緒なのよ~!?」

「まあ、バラッド侯爵が失脚していない時点でこうなる事は想定されていたようなものでしたが…………」
ミューズの言葉にザムザは重々しい様子を纏って頷き、悔しそうな表情で唸っているサフィーにルディは静かな表情で答え
「それでユーディットさん、キュアさん!こんな非常事態が起こった以上ユーディットさん達―――ううん、クロスベル帝国軍はどうするの!?」

「サフィー達の話通りの展開ですと、北の猟兵達の狙いはフォートガード方面ですから、恐らくオルディスには砲撃をしないと思われますが…………」

「――――ですが”万が一”の可能性も考えられますわよ。」

「そ、そうだよね…………?サフィーさん達の話だと今の北の猟兵の人達は”ノーザンブリアの誇り”を示す為だったら”どんな事をしてもおかしくないし”…………」
エステルとヨシュアは真剣な表情でユーディットとキュアに問いかけ、ミントは目を細めたフェミリンスの推測に不安そうな表情で頷いた。
「勿論、このまま状況が変わるまでオルディスをそのままにするような愚かな事はしません。―――クロスベル帝国軍にはこれよりオルディスの全市民の緊急避難場所として開発中の地下避難所への避難誘導を指示するつもりです。」

「――――現時点を持って”カイエン公爵家”並びに”クロスベル帝国政府”として遊撃士協会にオルディスの全市民の避難誘導の協力を依頼します!遊撃士協会並びにその協力者の皆さん…………オルディスの民達を守る為に、どうか力を貸して下さい!」
エステル達の疑問にユーディットは真剣な表情で答え、キュアはエステル達への依頼を宣言した後頭を下げた。
「うん、任せて!ヨシュア、ミント、フェミリンス、それにサフィーちゃん達も、行くわよ!」

「ああ…………!」

「はーい!」

「ええ…………!」

「「はい…………っ!」」

「了解…………!」

「了解しました…………!」
キュアの依頼を受ける事を答えたエステルはすぐに行動を開始する為にヨシュア達やサフィー達と共にその場から走り去った。


それぞれが非常事態に備えている中リィン達はサラ達と通信をしていた。

~デアフリンガー号・1号車~

「アガットさん、大丈夫ですか!?」
サラ達との通信を始めたティータは真っ先に通信相手の一人であるアガットの心配をした。
「ああ、こちらは大丈夫だ!だがバラッドってヤツが造らせた2基の列車砲が強奪された!ラクウェル北の峡谷地帯に全部が運ばれたみてぇだ!」

「幻獣が出たあたりか…………!」

「馬鹿な、そんな入り組んだ地形にどうやって列車砲を運び込む!?」

「た、確かに自走できるキャタピラもあるそうですが…………」

「そ、それでもさすがに無理がありません!?」
強奪された列車砲の場所を知ったミハイル少佐は驚き、トワとユウナは困惑していた。
「バラッドの私兵から話を聞いたが例の神機が現れたらしい…………!それが手をかざした瞬間、全ての列車砲が消えたそうだ…………!」

「”空間転移能力”…………!」

「白い神機は”空間”を操る―――それで2基とも運んだのかよ!」

「――――なるほどね。という事はブリオニア島の遺跡の霊力を神機に取り込ませていた理由はその為でしょうね。」

「あ…………」

「クク、”神機”をただの兵器としてではなく、そういった扱い方をするとは敵も考えているじゃねぇか…………!」
レンの推測を聞いたセレーネはブリオニア島で霊力を取り込んでいた様子の神機を思い出して呆けた声を出し、ランドロスは感心した様子で呟いた。


「――――取込中の所、割り込んでしまって申し訳ありません。」

「あ…………」

「貴女は…………!」

「ユーディット皇妃陛下…………!」
するとその時新たな通信が入ってユーディットの映像が追加され、それを見たゲルドは呆けた声を出し、アルティナとクルトは驚きの声を上げた。


「ユーディット皇妃陛下自らがこちらに連絡した理由はやはり今起こっている非常事態の件でしょうか?」

「ええ…………現在、峡谷方面から聞こえてくる列車砲の砲撃音の件でオルディスも非常事態に陥っている影響で皆さんと通信している時間もあまり取れない為、単刀直入に今回こちらに連絡した要件だけ伝えておきます。―――このまま、北の猟兵達によって強奪された列車砲が悪用される状況が続いた場合、クロスベル帝国(私達)は”正当防衛”として峡谷方面に設置されている列車砲を破壊する為にジュノー海上要塞を含めたオルディス地方に配備されている4基の列車砲による峡谷方面への砲撃での破壊をするつもりです。」

「そ、そんなっ!?」

「馬鹿な!?ユーディット皇妃陛下、無礼を承知で意見させて頂きますがもしそのような事を実行した場合、エレボニアとクロスベルとの間で外交問題が発生する可能性が高いとわかっていて、そのような事を実行するおつもりなのですか!?」
ユーディットの説明にリィン達がそれぞれ血相を変えている中トワは表情を青褪めさせ、ミハイル少佐は驚きの声を上げた後真剣な表情でユーディットに問いかけた。
「――――既にヴァイス様並びにギュランドロス陛下の代理を務めておられるルイーネ様からも”予め許可は頂いています。”」

「あ、”予め許可を頂いている”という事は…………」

「バラッド侯が列車砲を造らせている情報を予め入手していたクロスベルは”列車砲が何者かに強奪されて悪用される事”を見越して、予めユーディットお姉さんに許可を出していたという事でしょうね。」

「チッ…………幾ら自国の領土を守る為とは言え、他国の領土に列車砲で砲撃するとか何を考えていやがるんだ、あの野郎は!?下手をすればラクウェルまで巻き添えになるぞ!?」

「ヴァイスさん…………」

「…………っ!」
ユーディットの話を聞いてある事に気づいたセレーネは不安そうな表情をし、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、レンの推測を聞いたアガットは舌打ちをして厳しい表情を浮かべ、ティータは複雑そうな表情をし、アッシュは唇をかみしめてユーディットを睨んだ。
「…………ユーディット皇妃陛下、確かクロスベルにはリセル皇妃陛下達とメンフィルが共同で開発したあのとんでもない”化物”―――”歪竜”も所有していたッスよね?”歪竜”による空からの遠距離攻撃は考えなかったんっスか?正直、列車砲で砲撃するよりも”歪竜”の空からの遠距離攻撃の方が確実性があると思うんっスが。」

「まあ、普通に考えたら地上からの砲撃よりも空からの攻撃の方が命中率は高いな。」

「わ、”歪竜”…………?そ、そういえば内戦の時にもレン教官の話で何度か出てきた事があったけど………」

「メンフィル・クロスベル両帝国が共同で開発し、それぞれ保有している竜の姿をしたという超大型飛行兵器か…………」

「り、”竜”!?しかも飛行兵器って………!まさかクロスベルにそんな兵器があったなんて…………!?」
ランディは静かな表情でユーディットに問いかけ、ランディの問いかけに続くようにランドロスは静かな表情で呟き、ランディ達の話を聞いたトワが戸惑っている中重々しい様子を纏って呟いたミハイル少佐の話を聞いたユウナは驚きの声を上げた。
「”歪竜”の場合、逆にあまりにも威力があり、攻撃範囲も広すぎて、強奪された列車砲の近隣にある都市―――ラクウェルを巻き込む可能性がほぼ確実である為、”歪竜”による破壊は現在の所考えていません。」

「…………確かに”歪竜”によるエネルギー砲撃はあまりにも威力がありすぎますから、列車砲による砲撃よりも被害は大きくなるでしょうね。」

「リィン教官はその”歪竜”?という存在の事をよく知っているようだけど…………もしかして、その”歪竜”が戦争とかで利用されている所を見た事があるの?」
ユーディットの説明を聞いてかつての出来事を思い返して複雑そうな表情で呟いたリィンの話を聞いたゲルドはリィンに訊ねた。


「ああ…………”七日戦役”の最後の戦いだった”オルディス制圧作戦”で初めて実戦投入された所を見た事がある。」

「ちなみにその”歪竜”による空からの強力かつ超広範囲のエネルギー攻撃によってウォレス准将と並ぶ”領邦軍の英雄”と称えられていた”黄金の羅刹”オーレリア・ルグィン将軍も跡形もなく”消滅”して、戦死したのですわ。」

「!オーレリア将軍が七日戦役で戦死した話は知ってはいましたが、まさかそのような兵器によるものだったとは…………」

「……………………」
リィンとセレーネの話を聞いたクルトは驚き、ミュゼは目を伏せて黙り込んでいた。
「その”歪竜”って兵器を使用する予定はなくても、4基の列車砲による砲撃の可能性が残っているだけで大問題じゃねえか…………ユーディット皇妃陛下、この際クロスベルがバラッド侯が所有している列車砲が強奪される可能性を推測していた件を置いときますが…………”才媛”と称えられている貴女程の才女が何故そんな強硬手段を取る事を決めたんですか?もしそんな事をすれば、例え峡谷方面の列車砲を破壊できても、最悪エレボニアとクロスベルの間に戦争が勃発するかもしれない外交問題が発生する事は十分に考えられる事を予想していなかったんですか?」

「当然その可能性も想定しています。――――ですが、私はオルディスを含めた元エレボニア帝国領方面の”総督”にしてオルディスの民達の命を守る事が義務付けられている”クロスベル側のカイエン公爵家当主代理”です。オルディスの民達を守る為ならば”非情な手段”を取り、その結果他国から憎悪が向けられる覚悟も2年前キュアと共に父の爵位を剥奪し、カイエン公爵家を乗っ取った”七日戦役”の時からできています。」

「ユーディットさん…………」

「……………………」
ユーディットの覚悟を知ったアルフィンは複雑そうな表情をし、エリゼは静かな表情で目を伏せて黙り込んでいた。

「それに逆に聞かせて頂きますが、そもそも北の猟兵達によって強奪された列車砲の砲口がオルディスに向けられない保証がどこにあるのですか?」

「そ、それは…………」

「…………ちなみにオルディスもフォートガードと違って砲撃されていないとはいえ、市民達は砲撃音で混乱しているのですか?」
ユーディットの問いかけに反論できないトワが辛そうな表情で答えを濁している中、サラはユーディットに訊ねた。
「ええ。現在クロスベル帝国軍と遊撃士協会が協力して市民達の避難誘導を行っている最中です。」

「…………ユーディットさん、先程このまま峡谷方面の北の猟兵達が占拠した列車砲による砲撃が続けば、クロスベル帝国軍が保有している列車砲で峡谷方面の列車砲を砲撃するつもりだと仰っていましたが…………逆に言えば、クロスベル帝国軍はまだ砲撃するつもりはないのですわよね?」

「あ………っ!」

「確かに幾らオルディスの民達を守る為とは言え、戦争勃発の原因になりかねない事はそう簡単に実行できないわね。―――ユーディット皇妃陛下、クロスベル帝国軍はいつ頃峡谷方面の列車砲を砲撃する予定なのでしょうか?」
アルフィンの問いかけを聞いてそれぞれが血相を変えている中ユウナは声を上げ、エリゼは納得した様子で呟いた後ユーディットに問いかけた。

「最初の砲撃から12時間後――――つまり、本日の16(ヒトロク):30(サンマル)までは待ちますし、30分前まではオルディス地方に配備されている列車砲の砲口を峡谷方面にも向けません。それと砲撃の30分前には皆さんへの退避要請の為にそちらに連絡を差し上げます。ですからそれまでに皆さんの尽力によって解決できること…………心から祈っております。」
そしてエリゼの問いかけにユーディットは真剣な表情で答えた。


~フォートガード~

一方その頃列車砲の砲撃によって灯台が木端微塵に破壊されていた。
「と、灯台が…………!」

「いかんな………住民の避難を急がせよう!」

「こちらはいったん峡谷方面へ向かいます…………!」

「あ、ボクも!」

「オレも付き合います!」

「私も付き合おう。バイクで飛ばせるはずだ。」

「閣下、パトリックもフォートガード方面を頼みます!」
パトリックとハイアームズ侯爵にフォートガードの事を託したユーシス達は峡谷方面へと急行し始めた。

~グラーフ海上要塞・司令室~

「馬鹿な…………今度は全軍を峡谷に送れと仰るのか!?」
同じ頃ウォレス准将は通信相手であるバラッド侯爵のとんでもない指示内容に怒りの表情で問いかけた。
「そ、そうだ…………!列車砲を全て奪還するのだ!いいか、無傷でだぞ!?元手が掛かっているのだからな!それと絶対にユーディット達に破壊されないように迅速にだ!」
通信相手であるバラッド侯爵は起きたばかりなのか、就寝時の寝間着姿でウォレス准将と通信をしていた。
「新海都の守備はどうするのです!それにグラーフ(ここ)を空ける訳には!」

「あ、あの砲撃の前に守備など何の意味がある!?新海上要塞はワシに任せよ!これより護衛と向かうのでな!」

「くっ…………まさか自分だけがここに逃げてやり過ごすつもりか!」

「准将、峡谷に軍を送るにせよ、ここを明け渡すわけには…………!」
バラッド侯爵が通信を切ると地方軍将校の一人はウォレス准将に意見をした。
「いや―――統合地方軍へのバラッド侯の監督権限は絶大だ。違えるわけにもいかん…………だが、あらゆる事態に対応できるようにしておこう。第一から第八は峡谷方面へ!俺が指揮を執る!九から十二は新海都周辺に展開!避難誘導や被害への対応を行え!」

「イエス・コマンダー!」
ウォレス准将の指示に力強く答えた将校達はそれぞれ行動を開始し
(”あの方”の言葉通りか…………綱渡りになりそうだが…………果たして間に合うか?)
ウォレス准将はある人物の事を思い返して考え込んだ。

~演習地~

それぞれが行動を開始している中リィン達は要請(オーダー)を持ってきたレクター少佐と対峙していた。
「――――さてと、要請(オーダー)のお時間だ。政府が雇ったニーズヘッグは失敗、元・北の猟兵たちが列車砲を奪取した。結社の力を借りて峡谷地帯に運び、今現在も、新海都に砲撃を続けている。整備不足みたいだが、2基もあるからおよそ10分に1発撃てる計算になるな。」

「くっ…………」

「こんな状況になってやっと詳しい情報を…………」

「……………………」
レクター少佐の説明を聞いたクルトは唇をかみしめ、ユウナはレクター少佐を睨み、ミハイル少佐は目を伏せて黙り込んでいた。
「ま、結社の動きもあったから色々手探りだったのは確かでな。とりあえずお約束、やっちまうか。”灰色の騎士”リィン・シュバルツァー。――――メンフィル両皇帝の要請(オーダー)を伝える。”結社”と猟兵達の狙いを見極め、この地の混乱を回復せよ。可能ならば”執行者”を討伐もしくは捕縛せよ。」

「引き受けました…………!」

「ちょうど良かったわ!」
リィンがレクター少佐から要請書を受け取ったその時サラ達がその場に駆けつけた。


「アンちゃん、サラ教官!」

「ユーシスさんたちも…………!」

「列車砲の状況が知りたい!これから峡谷方面へ向かう!」

「リィンはどうする!?」

「――――行こう!」

「じゃあ、あたしたちも…………!」

「ご一緒します…………!」

「いや、君達は念の為こちらで待機しててくれ!」
リィン達に同行しようとした新Ⅶ組だったがリィンからのまさかの指示にそれぞれ血相を変えた。
「そんな…………!」

「ハッ、また生徒は置いてけぼりってか!?」

「違う―――思い出せ!列車砲は確かに脅威だがそれよりも危険な存在がある!昨夜、列車砲を運んだ”あれ”がどこに現れる可能性がある!?」
リィンの指摘を聞いた新Ⅶ組はそれぞれブリオニア島で見た神機を思い出した。


「そ、そっか…………」

「確かに、あの白い機体に備えておく必要がありますね。」

「うん、あの白い神機が列車砲がある場所にいるとは限らないもの。」

「各種装備を整えて待機!どうせ嫌でも協力してもらう!セレーネとエリゼ、それとアルフィンとレン教官も今回は念の為に生徒達と待機していてくれ!」

「「わかりましたわ!」」

「ま、現状を考えるとそれがベストな判断ね。レン達の方はいつでも出陣()れるようにしておくから、頑張って来なさい。」

「兄様、どうかご無事で…………!」

「頼んだぞ、Ⅶ組特務科!」

「イエス・サー!」
その後セレーネ達への指示を終えたリィンはユーシス達と共に峡谷へと急行した――――
 

 

第87話

~東フォートガード街道~

「…………故郷を失った猟兵の最後の意地なんでしょうね。本当に馬鹿な連中なんだから。」
リィン達と共に現場へと急行しているサラは寂し気な様子で北の猟兵達の犯行理由を答えた。
「でも、これでわかったよ。帝国政府がニーズヘッグを雇って半月も北の猟兵と戦わせた意味…………どっちに転んだとしても政府に有利に働くからだろうね。」

「ああ、阻止できれば政府の手柄で、防がなければ統合地方軍の失態。最悪の場合、新海都は破壊され、貴族勢力は最大の拠点を失うわけか。クロスベル帝国軍の列車砲による砲撃で北の猟兵達ごと列車砲が破壊された場合は…………莫大な謝罪金と引き換えにクロスベルとの戦争を回避するか、もしくはその件を理由にクロスベルが”西ゼムリア同盟”を破棄同然の行為を行ったと、メンフィルを除いた各国と共にクロスベルを非難してクロスベルの国際社会での信用を潰すつもりかもしれないな。」

「そこまで…………そこまでするか。」
ミリアムとリィンの推測を聞いたユーシスは重々しい様子を纏って呟いた。

「まあ、そのあたりは鉄血殿の掌の上ということだろう。だが、それとは別に”結社”も自らの実験を行おうとしている。”黒の工房”だったか…………その意を受ける者たちの狙いも。」

「絡み合う幾重もの意志…………風を見極める必要がありそうだ。」

「ああ…………!」
こうしてリィン達は可能な限りの速さで峡谷へ急ぎ―――多くの者が眠りについたばかりの早朝のラクウェルを通り過ぎ、転移された列車砲が配備されている北の峡谷に辿り着いた。

~北ラングドック峡谷~

「あ――」

「…………これは…………」
列車砲が配備されている近辺にリィン達と共に到着したミリアムは高い場所に設置されている列車砲が砲撃を行っている所を見ると呆け、ガイウスは言葉をなくしていた。
「愚かな…………!」

「それ以上はさせない!」

「ええ…………!何としても止めないと!」
リィン達が北の猟兵達の凶行を止める事を決意しているとリィン達の存在に気づいた北の猟兵達や軍用魔獣達がリィン達に向かっていた。
「来たか…………!」

「迎撃、突破するぞ!」

「おおっ!」
リィンの号令に力強く頷いたユーシス達は列車砲へと向かい始めるとすぐに迎撃の態勢を取っている猟兵達と対峙した。
「――――いい加減にしなさい!こんな事をしても何も変わらない!貴族の軍がノーザンブリアを占領したのはそもそも帝国政府の意向だわ!アンタたちもわかってるんでしょう!?」
北の猟兵達と対峙したサラは声を上げて猟兵達に問いかけた。
「――――百も承知だ!」
するとその時猟兵の一人はリィン達にとって予想外の答えを口にした。
「故郷を棄てた貴様にはわかるまい!あの異変以来、手を汚してまで守り続けた故郷を我らは失った…………!」

「怒りと喪失感を埋めるには、我等の誇りを示すにはもはやこうするしかないのだ!」

「そのために我らは犠牲となろう!」

「故郷を救うために異国で果てたバレスタイン大佐のように!」

「…………!」

「この分からず屋ども―――!!」
北の猟兵達の決意を知ったリィンが目を伏せるとサラは全身に紫電を纏い、リィン達と共に北の猟兵達との戦闘を開始した!


「喰らえっ!」

「フンっ!」

「グルルルッ!」
猟兵達はリィン達の先頭にいるサラに銃で攻撃したり、手榴弾で攻撃し、魔獣はサラに向かって突撃して攻撃をしたが
「ハアッ!これはオマケよ!」

「ガッ!?」

「ぐあっ!?」

「ギャンッ!?」
サラはクラフト―――絶光石火で回避すると共に反撃を叩き込んだ。
「――――緋空斬!!」

「そこだっ!!」

「フフ、行くよ―――セイヤァッ!!」
そこにリィンがクラフト―――緋空斬で、ガイウスが竜巻を十字槍から解き放つクラフト―――ゲイルストーム、アンゼリカは回し蹴りによる衝撃波のクラフト―――レイザーバレットによる遠距離攻撃でそれぞれ追撃した。
「舐めるなっ!」

「この程度で我らの誇りは揺らがない!」
ダメージを受けても猟兵達は自分達が受けたダメージを全く気にしないかのようにそれぞれ遠距離攻撃による反撃をし、リィン達はそれぞれ散開して回避した。
「ガーちゃん、お願い!」

「――――」

「いっけ~!」

「ぐあっ!?」

「がっ!?」

「崩したよ!」

「行くぞ――――斬!!」
アガートラムを球体に変化させ投下するクラフト―――メガトンプレスで猟兵達を怯ませるとミリアムとリンクを結んでいるユーシスが霊力を集束した騎士剣で薙ぎ払うクラフト―――アークブレイドで追撃し
「二の型―――疾風!!」

「竜巻よ―――薙ぎ払え!!」

「ヤァァァァァッ!」

「フフ、痺れさせてあげよう―――たあっ!―――ライトニングキック!!」

「がはっ!?おのれ…………っ!」

「ぐ…………強い…………」

「さすがは大佐の…………」
リィン達が続けてそれぞれ広範囲を攻撃するクラフトで追撃し、ダメージに耐え切れなくなった猟兵達はそれぞれ気を失って地面に倒れ、魔獣達は撃破された事で消滅してセピスを落とした。
「……………………」

「サラさん…………」

「んー…………ちょっと可哀想かなー。」
倒れた猟兵達を複雑そうな表情で見つめるサラの様子をリィンは辛そうな表情で見つめ、ミリアムは猟兵達を憐れんだ。
「ええ―――でも今は浸る時じゃないわ!」
ミリアムの言葉にサラが頷いたその時、猟兵達にとって敵対者であるリィン達の存在を知らせる笛の音が聞こえてきた。

「フッ、なかなか簡単には通してくれないみたいだね!」

「ならば押し通るまで!」

「このまま突き進むぞ!」
その後リィン達は道を阻む猟兵達を制圧しながら進んで行くと、先程聞こえてきた笛とは別の音が聞こえてきた。


「この指笛は…………!」

「赤い星座―――!」
聞き覚えのある音を聞いたリィンとサラが表情を引き締めると赤い星座の猟兵や軍用魔獣達が現れてリィン達と対峙した。
「フッ…………”紫電”に”灰色の騎士”か。」

「相手にとって不足なしだな。」

「サザ―ラントで討たれたシャーリィ様の仇、討たせてもらう!」

「フン、結社の片棒担ぎが…………!」

「ガーちゃん、いっくよー!」

「風よ、オレ達に力を…………!」

「来い、メサイア―――!」
メサイアを召喚したリィンはユーシス達と共に赤い星座との戦闘を開始した!


「昂れ―――黒龍陣!!」
戦闘開始早々アンゼリカは味方の攻撃がクリティカルヒットしやすいようにするブレイブオーダーを発動し
「そこだっ!」
猟兵の一人はリィン達に手榴弾を投擲し、手榴弾を見たリィン達はそれぞれ散開して回避した。
「フンッ!」

「ガーちゃん!」
リィン達が散開するのを見た大剣を武装にしている猟兵は跳躍して大剣を地面に叩き付けて衝撃波を発生させるクラフト―――グラウンドバスターでユーシス、ガイウス、ミリアムを攻撃しようとしたがミリアムはアガートラムを前に出して結界を展開させて攻撃を防いだ。
「「グルルルッ!!」」
続けて魔獣達がユーシス達目がけて襲い掛かったが
「跪け――――セイヤアッ!!」

「「ガッ!?」」
ユーシスの烈なる剣で絶対零度に凍らせ、砕き散らすクラフト―――プレシャスソードによって発生した足元からの冷気によって動きを封じ込められた後強烈な斬撃を受けて怯み
「竜巻よ――――薙ぎ払え!!」

「「!?」」
ガイウスの十字槍を頭上で振り回して竜巻を発生させるクラフト―――タービュランスによる追撃で撃破された。
「ぶっ放せ~!」

「――――」

「「――――!!」」
ミリアムの指示によって反撃を開始したアガートラムのクラフト―――ヴァリアントカノンを猟兵達は左右に散って回避し
「そこだっ!」

「ガーちゃん、お願い!」

「――――!」
銃を持つ猟兵はミリアム目がけて銃撃し、襲い掛かる銃撃に対してミリアムは再びアガートラムを前に出して結界を展開させて銃撃を防いだ。
「もらった!」
そこに大剣を持つ猟兵が跳躍してアガートラムを超えてミリアム目がけて落下しながら大剣を振り下ろそうとしたが
「させるか―――斬!!」

「ぐっ!?」
ユーシスがクラフト―――アークブレイドを落下して来る猟兵に叩き込んでミリアムへの反撃を妨害し
「それっ!」

「――――」

「ガアッ!?」
続けてアガートラムが巨大な機械腕を振るって猟兵を吹き飛ばした。
「チッ…………!」
味方の劣勢を見た銃を持つ猟兵は舌打ちをした後ユーシス達に手榴弾を投擲しようとしたが
「友よ!」

「ピ――――ッ!」

「!!」

「唸れ―――雷咬牙!!」

「ぐはっ!?」
ガイウスの呼びかけに応じたゼオの突撃を回避した後跳躍から落下の速度を利用して十字槍を叩き付けて凄まじい衝撃波を発生させるガイウスの追撃を受けて吹っ飛ばされた。


「ヤァァァァァッ!!」

「「グルルル…………ッ!?」」
サラは散開した後自分達に襲い掛かって来た魔獣達にクラフト―――鳴神を放って魔獣達の動きを牽制し、その間にメサイアは魔獣達の側面に回って奇襲しようとした。
「させるか!」

「緋空斬!!」

「!!」
それを見た銃を持つ猟兵はメサイアに銃撃しようとしたがリィンが放った炎の斬撃波を回避する為にメサイアへの妨害を中断し
「光よ、煌めけ―――昇閃!!」

「「ギャンッ!?」」
魔獣達の側面に回ったメサイアが光の魔力を纏わせた聖剣で広範囲の袈裟斬りを放って魔獣達を撃破した。
「フフ、これはどうかな?―――セイッ!」

「な――――カハッ!?」
メサイアが魔獣達を撃破した直後にアンゼリカは一瞬で懐に飛び込んで必殺の一撃を放つ泰斗流のクラフト―――ゼロ・インパクトで銃を持つ猟兵を一撃で大ダメージを与えると共に吹き飛ばして戦闘不能にさせ
「一撃だと!?」

「く…………っ、泰斗流の零頸(ゼロインパクト)か…………!」
一般兵としての猟兵の中でも最高ランクである自分達の仲間が一撃で沈められた事に驚いた大剣を持つ猟兵達は左右からアンゼリカを挟み撃ちにして攻撃しようとしたが
「秘技―――裏疾風!斬!!」

「切り刻みなさい――――紫電一閃!!」

「「ぐあっ!?」」
リィンの電光石火の攻撃とサラが強化ブレードから放った紫電を纏いし旋風を受けて怯み
「断罪の光を今ここに―――断罪の光柱!!」

「フフ、見切れるかい?ハァァァァァ…………ッ!セイッ!!」

「「ぐはっ!?」」
メサイアが放った魔術による光柱とアンゼリカの音速で繰り出される拳による連続攻撃を放つ泰斗流のクラフト―――ソニックシュートを受けてそれぞれ戦闘不能になって地面に膝をついた。


「ハハ、やるな…………!」

「クク…………存外に愉しめそうだ。」
リィン達との戦闘で追い込まれたと思われた猟兵達だったが、まだまだ余力を残しているのか戦闘不能になった猟兵達は次々と立ち上がって好戦的な笑みを浮かべてリィン達を見つめた。
「くっ…………わかってはいた事だが、やはり”赤い星座”の猟兵達は一般兵でも手強いな…………!」

「大陸最強という名も伊達じゃないらしいね…………!」
赤い星座の猟兵達の手強さにリィンとアンゼリカがそれぞれ警戒している時何かに気づいたリィンは血相を変えて方向を崖に向けて太刀を構えた。すると太刀に銃弾がぶつかり
「そこですわ―――死愛の魔槍!!」

「!…………今のに気づくとはさすがは”灰色の騎士”か。」
メサイアが魔術による暗黒槍でリィンを狙撃した人物―――ガレスを狙い、襲い掛かる暗黒槍を側面に跳躍して回避したガレスは表情を引き締めて崖下のリィン達を睨んだ。
「”閃撃のガレス”…………!」

「しかも中隊クラス…………!」
ガレスやガレスの背後にいる赤い星座の猟兵や魔獣達を見たサラとミリアムはそれぞれ表情を引き締めたその時
「ったく、何をモタモタしてやがる!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた後ガレス達とは対面になっている崖上からアガットとトヴァルが現れた。
「トヴァルさん、アガットさんも!」

「遅かったじゃない!」

「悪い、厄介な奴に邪魔されてな!」

「チッ…………!追いついて来やがったか!」
敵の気配に気づいたアガットがガレス達がいる場所に視線を向けるとカンパネルラが現れた!


「あはは…………鬼ゴッコも終わりかな?」

「これは…………」

「流石に厳しいかも…………」
カンパネルラが不敵な笑みを浮かべている中、敵の多さにユーシスとミリアムは表情を厳しくした。するとアガットとトヴァルが崖から飛び降りてリィン達の前に出た。
「――――状況が変わった!この場は俺達に任せとけ!」

「赤い星座はともかく、北の猟兵の本隊は別の場所だ!鉄機隊や白い神機と同じくな!」
トヴァルの話を聞いて何かに気づいたリィン達はそれぞれ血相を変えた。

「確かに、砲台を動かしているのはせいぜい分隊クラス…………」

「大多数の本隊はどこに行ったのか、ということか。」

「でも、お二人だけでは…………!」

「心配無用だぜぇ―――!」
二人だけでカンパネルラ達と戦おうとしているアガット達にリィンが心配したその時ランドロスの声が聞こえた後ミハイル少佐とランディ、ランドロス率いる戦術科が戦場に現れた!

「あ…………!」

「ランドロス教官、ランディ、ミハイル少佐!それに―――ドラッケンにシュピーゲルも!?」
現れた心強い援軍の中にいる機甲兵達を確認したリィンは驚きの声を上げた。


「第Ⅱ分校、加勢させてもらう!」

「ここからはオレ様達のターンだぁっ!」

「ドラッケンとシュピーゲル、戦術科メンバーを連れてきたぜ!――――お待ちかねの戦場だぜ、エルンスト!」

「あっはっはっはっ!いいね、いいね、この空気!久しぶりの本物の戦、たっぷり楽しませてもらうよ!」
ランディに召喚されたエルンストは好戦的な笑みを浮かべて笑いながら自身の周囲に無数の短剣を具現化させた。
「ちなみに例のブースターを利用して上がってきました。」

「ジュライデン流の名に賭けてこの場は任せてもらうわ!」
機甲兵の操縦者であるマヤとゼシカはリィン達にとって心強い言葉を口にした。するとその時ウォレス准将率いる地方領邦軍が現れてそれぞれ銃を構えて自分達の敵であるカンパネルラに銃口を向けた。


「シュバルツァー、サラ殿にユーシス殿たちも。列車砲は誓って食い止める。代わりにどうか頼みたい―――愚かなる統治者が引き受け、風前の灯となった”本丸”を…………!」

「”本丸”…………!?」

「統治者って、まさか…………」

「――――本命はグラーフか!」
ウォレス准将の頼みを聞いたリィンが驚いている中ある事に察したミリアムが驚きの表情を浮かべ、事情を察したユーシスは表情を厳しくして声を上げた。そしてリィン達はその場をウォレス准将達に任せる事を決めるとウォレス准将達と入れ替わるようにその場から離脱した。

「また会ったな、”重剣”。同じ赤毛同士よろしく頼むぜ。」

「ハッ、ランドルフだったか。エステルたちから話は聞いてるぜ。」

「ハハ、よろしく頼むぜ、”不撓(ふとう)”のアーヴィング少佐。」

「”零駆動”のランドナーか。A級並みという実力、見せてもらおう。」

「ふふ、A級クラス2名に”黒旋風”と”紅き暴君”―――いや、今は”仮面の紳士”だったか。こういう時こそマクバーンの出番なんだけどね…………やれやれ、今は人材不足だから僕一人で何とかするしかないか。」
新たに現れたウォレス准将たちを見たカンパネルラは不敵な笑みを浮かべた後溜息を吐き、指を鳴らして大型の人形兵器を次々と召喚した。
「作戦開始―――2基の列車砲を停止する!風と女神の加護を―――征くぞ!」

「オオオッ!!!」

「だぁっはっはっはっ!昂ってきたじゃねぇか!」

「さぁさぁさぁ!始めようじゃないか、互いの命を奪い合う”本物の戦争(いくさ)”を!」
ウォレス准将の号令にそれぞれが力強く答えた後ランドロスとエルンストはそれぞれ獰猛な笑みを浮かべてウォレス准将達と共にカンパネルラ達との戦闘を開始した―――!
 

 

第88話

午前6:20―――


峡谷で大規模な戦闘が繰り広げられている中リィン達はグラーフ海上要塞に急行していた。

~東フォートガード街道~

「……………………」

「生徒達が心配か、リィン?」
バイクを運転しながら考え込んでいるリィンの様子に気づいたガイウスはリィンに問いかけた。
「ああ…………さすがにな。」

「赤い星座もそうだが…………あの”道化師”もいるのがな。」

「うん、直接戦闘能力は他の執行者達程じゃないけど、幻術とか使われたら軍隊が相手でも互角以上にやりあえるだろうしね。」

「だが、”黒旋風”の方も天下の猛将として知られている。」

「地方軍の兵士も精鋭揃い…………トヴァルたちもいるし任せましょう。」

「…………はい。」
仲間達の言葉にリィンが頷いたその時通信が入り、トワとティータの映像がARCUSⅡのから現れた。


「リィン君達、今どこ!?」

「峡谷から戻るところです!ランディ達と准将たちに託してきました!トヴァルさんにアガットさん、戦術科のみんなも戦っています!」

「…………アガットさん…………教官達にⅧ組のみんなも…………」
リィンの話を聞いたティータはアガット達の身を心配した。
「そっか…………了解だよ。―――こちらの動きだけどグラーフ海上城塞が襲われたの!」
トワの報告を聞いたリィン達はそれぞれ血相を変えた。
「早速か…………!」

「は、はい…………!先程動きがありました!白い神機が現れて―――鉄機隊に元・北の猟兵もいるそうです!」


少し前―――


~グラーフ海上要塞~

トワ達がリィン達に通信をする少し前、グラーフ海上要塞の上空に現れた神機が遠距離攻撃の武装で要塞に備え付けている導力砲を破壊した。すると転移で現れたデュバリィ達鉄機隊が北の猟兵達と共に要塞の守備についているバラッド侯爵の私兵達を次々と制圧しながら、要塞の屋上を目指していた。
「に、二度寝しようと思っていたらこんなことに…………女神達よ…………!ワシが何をしたというのだ!」
騒ぎに気づいて屋上から状況を確認したバラッド侯爵は表情を青褪めさせた後その場で祈りをささげたその時、神機がバラッド侯爵の背後に現れた!
「なああああああっ!?ひいいいい…………っ!?」
神機の登場に思わず腰を抜かしたバラッド侯爵はすぐに立ち上がってその場から逃げ出したが
「逃がしませんわ!
転移で現れたデュバリィに阻まれ、デュバリィに続くように他の鉄機隊も次々と転移で現れた。
「き、貴様ら…………!次期エレボニア側のカイエン公に無礼であろう!」

「フン…………領民に加えて会議に来た同胞も見捨てるとはな。…………今回の騒ぎに対して、幾ら死兵達の攻撃対象になっていないとはいえ、いつ砲口がオルディスにも向けられるかわからない状況で自分達はオルディスに残って軍やギルドと協力して領民や同胞達の避難誘導を優先しているカイエン公爵令嬢姉妹とは大違いだな。」

「あらあら。貴族の風上にも置けないわね。まさにあのクロスベル側のカイエン公爵令嬢姉妹とは正反対の愚かな貴族ね。」
バラッド侯爵の反論に対してアイネスは軽蔑の眼差しでバラッド侯爵を睨み、エンネアは口元に笑みを浮かべながらも目は笑っていない様子でバラッド侯爵を見下ろした。するとその時北の猟兵達がデュバリィに近づいて声をかけた。
「感謝する―――我らに死に場所を与えてくれて。」

「これで自治州府(ハリアスク)を落とされた借りが返せるというものだ。」

「礼には及びませんわ。それに私達もある意味貴方達と同じ穴の狢ですし。ですが戦はこれからが本番―――最後の(いさお)、互いに見せますわよ。」
北の猟兵達の感謝の言葉に対して静かな表情で答えたデュバリィは決意の表情を浮かべた。

~東フォートガード街道~

「あ…………!」

「セレーネにアーちゃん、新Ⅶのみんな!」

「それにアルフィン殿下やエリゼ達も…………!」
リィン達が急行しているとリィン達の行く先にそれぞれバイクやサイドカーに乗っているユウナ達が待機していた。
「教官、皆さんも!」

「トワ教官の許可を得てきました!」

「うふふ、ここからはレン達も加わってあげるわ♪」

「そうか…………」

「フフ、これも風の導きか。」

「それにしてもクロスベルの件はアリサ達から聞いてはいたけどエリゼ達はともかくアルフィン殿下まで、本当にあたし達に加勢してくれるなんてね…………」

「ふふっ、殿下との共闘は2年前のカレル離宮に幽閉されていた皇帝陛下達の救出以来になりますね。」
セレーネ達の加勢にガイウスが口元に笑みを浮かべている中サラは苦笑しながらエリゼが運転するバイクのサイドカーに乗っているアルフィンに視線を向け、アンゼリカは口元に笑みを浮かべてアルフィンに声をかけた。
「はい。2年前のわたくしは守られるだけでしたが、今のわたくしは皆さんのお役に立てると思いますわ。」

「ふふっ、今のアルフィンは手加減をしているとはいえ、分校長相手に私と共に15分は持ちこたえられますよ。」

「ちなみにアリサさん達からクロスベルの出来事を聞いているかもしれませんが、”火焔魔人”と化した”劫焔のマクバーン”の亡霊相手にもアルフィンさんはわたくし達と共に果敢に戦えていましたわ。」

「第Ⅱの分校長とは確か元結社の”蛇の使徒”の…………」

「”鋼の聖女”―――いや、”槍の聖女”にして”鉄機隊”の主であるサンドロッド卿か…………皇帝陛下達が知れば驚くと共に、殿下の成長にお喜びになるでしょうね。」
エリゼやセレーネの説明を聞いたサラ達がそれぞれ冷や汗をかいている中我に返ったガイウスは目を丸くし、ユーシスは静かな表情で呟いた後苦笑しながらアルフィンを見つめた。

「教官、状況は全て把握しています。」

「第Ⅱ分校の一員として―――そして、Ⅶ組の一員として教官達に加勢する為にここに来たわ。」

「新しい故郷の危機…………さすがに見過ごせませんから。」

「ま、駄目つってっも勝手に行くだけだけどな。」

「ああ―――約束通り力を貸してもらう。全員、遅れずについてこい!」

「はい…………!」

「了解です…………!」
その後セレーネ達と合流後グラーフ海上要塞に急行したリィン達が要塞に到着すると、ある光景があった。


午前6:50―――

~グラーフ海上要塞~

「これって…………」

「…………完全に陥ちたようだな。」
要塞についたリィン達が目にした光景は破壊された戦車の爪痕やあちこちに煙が上がっている要塞、そして要塞にはある紋章と旗が要塞につけられていた。
「”身喰らう蛇”の紋章。そして、もう一つの紋章は…………」

「…………見覚えがあるね。ノーザンブリアの古い紋章だったか。」

「ええ、28年前の異変の時、公国を棄てて逃亡した大公家の旗―――」

「バルムント大公だったか。それをわざわざ使ったという事は…………」

「”北の猟兵”としてではなく、別の存在として今回の出来事を起こしたという事ね。」

「…………エレボニアに帰属した故郷の人々に迷惑はかけたくない―――」

「だが、意地は見せたいって所か。」

「…………本当に…………馬鹿ばかりなんだから。」

「そして彼らがここまで追い詰めた元凶はオズボーン宰相とオズボーン宰相を未だ重用し続けるエレボニア皇帝たるお父様なのでしょうね…………」
リィン達が様々な思いで北の猟兵達について考えている中サラとアルフィンは悲しそうな表情をした。そしてリィン達が要塞を結ぶ橋に視線を向けるとルトガー達が行く手を阻むように陣取っていた。
「…………西風の…………!」

「ふーん…………ニーズヘッグまでいるなんてね。」

「そして噂の”仮面”か…………」
ルトガー達に気づいたアルティナとミリアム、アンゼリカはそれぞれ表情を引き締めた後リィン達と共にルトガー達に近づいてルトガー達と対峙した。
「…………フ…………」

「よう、2日ぶりだな。」

「峡谷方面も結構アツかったやろ?」

「まあ、こちらの方は一足遅かったようだが。」

「…………何となく、来ているんじゃないかと思っていたよ。サザ―ラント、クロスベルで行われた”結社”による”実験”―――それを阻止すべく様子を伺っていた西風の旅団に、地精の代理人…………」

「要するに今回も同じという訳ですか。動くはずのない”神機”を持ちだして決戦の舞台を用意するという”実験”は。」
ルトガー達と対峙したリィンとセレーネはそれぞれ真剣な表情でルトガー達を見つめ、二人の話を聞いたユウナ達はそれぞれ今までの”実験”を思い返していた。
「そ、そういえば前回も、前々回も…………」

「つまり、破壊工作そのものを目的とした”実験”ではなく…………」

「こうした状況を作って対戦相手に挑ませようとするのが”実験”の主旨という訳ですか。」

「…………―――!(まさかとは思うけど、結社もそうだけど黒の工房は”戦”によって生まれる”負”のエネルギーで、”ラウアールの波”のようなものを再現しようとしているの…………!?)」
クルトとミュゼがそれぞれ推測を口にしている中今までの出来事からある仮説に気づいたゲルドは血相を変えた後信じられない表情でルトガー達を見つめた。
「フフ…………そこまで見抜いていたとは。」

「ま、今回の対戦相手はオレらとこっちの兄ちゃんでな。」

「鉄機隊に死兵ども―――相手にとって不足はない。」
リィン達の推測に対してジークフリード、ゼノ、レオニダスは否定することなく答えた。
「政府とは別口で西風で契約を結ばせてもらった。峡谷での戦いには敗れたがせめて違約金の補填はせねばな。」

(クスクス、そんな悠長なことを言っていられるのも今の内だけどね♪)
ニーズヘッグの猟兵の話を聞いたレンは意味ありげな笑みを浮かべていた。
「てなわけで、お前さん達はお呼びじゃないってわけだ。特等席で見せてやるからま、ゆっくり観戦してるんだな。」

「ざけんなコラ…………」

「そのような世迷言、認められるとでも思うか…………?」
不敵な笑みを浮かべたルトガーの言葉に対してアッシュとユーシスはそれぞれ厳しい表情でルトガー達を睨んだ。
「――――ならばどうする?」

「ま、オレらが万が一、敗れた後なら構わんへんけど。」

「譲れというのは通らぬ話だ。」

「…………文句があるなら、要塞攻略の肩慣らしに相手してやってもいいぜ?」

「っ…………」

「なんて闘気だ…………」

「”王”がいるだけでここまでの力を…………」
ルトガー達西風の旅団の猟兵達がそれぞれさらけ出し始めた黒い闘気にアルティナとアンゼリカ、サラはそれぞれ驚いていた。
「フフ、今回に限って言えば”将”は必須となるだろう。」

「既にここは”戦場”―――戦には”将”が必要ってことや。”紫電”にシュバルツァー、貴族の若様やエレボニアの元皇女様もいるみたいやけど。」

「”将”というには少しばかり役者不足なのは否めぬな…………?」

「…………っ。」

「………それは…………」

「……………………」
レオニダスの指摘に対して反論できないユーシスは唇をかみしめ、リィンとアルフィンが複雑そうな表情をしたその時
「ならばその”将”、私が務めさせて頂きます。」
突如女性の声が聞こえてきた後パンダグリュエルの揚陸艇が姿を現した。

「…………あ…………」

「パンダグリュエルの揚陸艇…………!?」
パンダグリュエルの揚陸艇の登場にその場にいる多くの者達が驚いていると揚陸艇が着陸すると、揚陸艇の甲板にいたリウイ、カーリアン、リアンヌ、レーヴェ、ツーヤ、プリネとエヴリーヌ、そしてリフィアは跳躍し、イリーナとエクリアは傍にいたペテレーネの転移魔術によって着地したリウイ達の傍に現れた!


「な、な、な…………」

「ぶ、分校長…………!?そ、それに貴方方は――――」

「お義父さんやリフィア義姉さん達まで…………」

「ええええええええええっ!?プリネ皇女達はわかるけど、”英雄王”達までいるとか一体どうなっているの~~~~!?」

「クハハ…………!無茶苦茶すぎんだろ!」

「うふふ、まさにピッタリのタイミングだったわね♪」

「はーい♪二日前の宣言通り、縁があったお陰でまた会えたようね♪」
リウイ達の登場にユウナは口をパクパクさせ、クルトは信じられない表情で声を上げ、ゲルドは目を丸くしてリウイ達を見つめ、ミリアムは混乱し、アッシュは状況の混沌さに笑い、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、カーリアンはリィン達にウインクをした。
「……………………」

「おいおい、聞いてへんで。」

「…………なるほど。まごうことなき”将”―――いや”王”か。」
予想外のリィン達の援軍にジークフリードは黙ってリウイ達を見つめ、ゼノは困惑し、レオニダスは表情を引き締めてリウイを見つめ
「――――勘違いするな。今回の件での俺達はあくまでプリネ達同様リィン・シュバルツァーの要請(オーダー)を補佐する”協力員”であって、”将”は俺ではなくリアンヌだ。」

「え”。」

「ハアッ!?」

「な――――――」

「リウイ陛下達がオレ達のようにリィンの”要請(オーダー)”を手伝う”協力員”…………」

「いやいや、色々な意味で無理があるんじゃないの、ソレ!?」

「はっはっはっ、”槍の聖女”どころかリウイ陛下達まで加勢してくれるなんてまさに”戦力過剰”と言ってもおかしくないメンツだねぇ。」
レオニダスの言葉を否定したリウイの話に仲間達がそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中我に返ったリィンは思わず表情を引き攣らせて呟き、サラは驚きの声を上げ、ユーシスは絶句し、ガイウスは呆けた表情で呟き、ミリアムは疲れた表情で指摘し、アンゼリカは暢気に笑っていた。そしてリアンヌが前に出てルトガー達と対峙した。
「アンタが有名な聖女さんかい。どんな化物かと思ったがとんでもなく佳い女じゃねえか?」

「私も貴殿の名は存じています。西風の猟兵王―――死んだと伺っていましたが(まみ)えて光栄です。―――ですが、せっかく生き永らえた命を部下共々失いたくなければ、そこを退いて頂きましょうか?」
ルトガーの言葉に対して静かな表情で答えたリアンヌは騎兵槍(ランス)をルトガー達に向けて忠告した。
「あいにく、先着はコッチでね。ラクウェルくんだりでダラダラと出待ちもしてたしな。…………そいつはスジが通らないんじゃねえか?」

「”筋”はあります。」

「へえ…………?」
リアンヌの忠告に対してルトガーは目を細めて反論したがリアンヌの答えを聞くと興味ありげな表情を浮かべた。
「死兵達と共にその要塞を陣取っている騎士達は袂を分けたかつての私の臣達。彼女達の真意を知る為――――そしてかつての”鉄機隊”の将として引導を渡す為にこの場に現れました。」

「なるほどねぇ………だからと言って、はいそうですかとこの場を譲る程の”スジ”じゃねぇな。」

「やれやれ…………リアンヌ様、一応警告はしたのじゃから、”たかが猟兵如き”にこれ以上余達メンフィルが歩む”覇道”にとって無駄となる時間を取る必要はあるまい?」
リアンヌの話を聞いてもなお、道を譲るつもりでないルトガーの意志を知ったリフィアは呆れた表情で溜息を吐いた後リアンヌに問いかけ、リフィアのとんでもない発言にその場に多くの者達は驚き、ルトガー達はそれぞれ目を細めてリフィアを睨んだ。
「団長が”たかが猟兵如き”やと………?」

「幾ら武勇を轟かせているメンフィルの次代の女帝であろうと、その言葉、取り消してもらおう。」

「もう、あの娘ったら…………」

「メ、”メンフィルの次代の女帝”って事はもしかしてあの女の子って…………」

「―――はい。現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルン皇帝陛下並びにその正妃であるカミーリ・マーシルン皇妃陛下の一人娘にしてリアンヌ分校長やリウイ・マーシルン前皇帝陛下にとっては孫娘にあたるリフィア・イリーナ・マーシルン皇女殿下です。」

「うん、そして私にとってはこの世界に来てからできた大切な家族である義姉さんの一人よ。」

「あの方があの”聖魔皇女”…………!」

「クク、猟兵王をあそこまで貶すなんてあのチビ皇女が初めてなんじゃねえのか?」

「フフ、ゼムリア大陸では最強の猟兵団の片翼を担う猟兵団の”王”すらも”たかが猟兵如き”と断言するとはさすがは”ゼムリア大陸真の覇者”と名高いメンフィルの次代の女帝たる器ですわね♪」
リフィアの発言にゼノとレオニダスがそれぞれ殺気を纏い始めている中無意識で”西風の旅団”に喧嘩を売るような発言をしたリフィアにエリゼは呆れた表情で頭を抱え、レオニダスの話を聞いてある事を察したユウナにアルティナとゲルドが説明し、リフィアの正体を知ったクルトは驚き、アッシュは不敵な笑みを浮かべ、ミュゼは微笑みながらリフィアを見つめた。


「――――確かに貴女の言う通り、警告もしたのですからこれ以上陛下達の貴重なお時間を取る必要はありませんね。猟兵王殿、できれば武人の一人として貴方とも手合わせをしたかったのですが、生憎私達は急いでいる上貴方にも”先約”はいますから、貴方の相手はその者に任せる事にします。」

「へえ…………?その口ぶりからすると、アンタ達にはまだ援軍が控えているのかい?」
リフィアの言葉を肯定した後に答えたリアンヌの説明を聞いて目を丸くしたルトガーが不敵な笑みを浮かべたその時!
「あらあら…………リウイ陛下がいる時点で私がいる事も想定していないなんて、一度は”この私に殺された事”によって判断力が鈍ったのかしら?」
揚陸艇の甲板から姿を現したラウマカール――――メンフィル帝国の大将軍たるファーミシルスがその場を跳躍して空を飛行して翼をはばたかせながらリアンヌの傍に着地した。
「あの翼の女は…………!」

「4年前の”リベールの異変”で団長を討ったメンフィル帝国の”大将軍”――――”空の覇者”ファーミシルス…………!」

「やれやれ…………俺のような年寄りをアンタのような強い美人が未だ覚えてくれているなんて、光栄だが…………生憎リターンマッチの約束をした覚えはないぜ?」
ファーミシルスの登場にゼノとレオニダスがそれぞれ血相を変えている中ルトガーは落ち着いた様子で溜息を吐いた後苦笑しながらファーミシルスに問いかけた。
「あら、この私がわざわざ”敵”である貴方の都合にあわしてあげるような甘い性格をしていると思ったのかしら?―――なんだったら、”ゼクトール”だったかしら?2年前の”七日戦役”時オルディスでやり合った”蒼の騎神”とかいう鉄屑のように、貴方ご自慢の鉄屑を呼んで乗り込む時間くらいは待ってあげても構わないわよ?」

「”騎神”を”鉄屑”扱いって、滅茶苦茶な人だよねー、”空の覇者”って。」

「だが、レン君の話ではファーミシルス大将軍閣下はかつてクロウが操縦していたオルディーネを単身生身で圧勝したという話だから、大将軍閣下にとっては”騎神”すらも大した障害ではないんだろうね。」
ファーミシルスが騎神を”鉄屑”扱いした事に、リィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ミリアムは暢気な様子で呟き、アンゼリカは苦笑しながら呟いた。
「ハハ、一度アンタに殺られた身としては念の為にゼクトールを呼びたいところだが、生憎”雇い主”からは先月のクロスベルの件のようにこれ以上今後の計画の支障になりかねない”イレギュラー”は起こすなって念押しされているから、ゼクトールを呼ぶつもりはねぇよ。」

「……………………」

「だが、その代わりに我等が団長に加勢させてもらう。」

「団長やったら大概の相手は大丈夫やろうけど、相手がアンタやと話は別や…………もう2度とオレ達から団長は奪わせへんで。」
ルトガーは苦笑しながら何も反論せず黙り込んでいるジークフリードに視線を向けながら答え、レオニダスとゼノは厳しい表情でファーミシルスを睨んだ。
「ふふっ、ファーミったらモテモテね♪要塞にいる女騎士達は2年前に星見の塔でやりあっているし、こっちの方が面白そうだから私も手伝ってあげるわ♪」

「フン、余計な真似を。別に貴女の手は必要ないけど…………猟兵王は私の獲物だから、貴女はそれ以外の有象無象と戦っていなさい。」
前に出て自分に加勢する事を決めたカーリアンにファーミシルスは鼻を鳴らして答え
「――――マーリオン、セオビット!お前達はニーズヘッグの猟兵共を”殲滅”しろ。」

「リウイ様の…………仰せのままに…………!」

「フフ、久しぶりの”本物の戦場”、たっぷりと楽しませてもらうわ!」
リウイに召喚されたマーリオンとセオビットはそれぞれの武装を構え
「貴女達もマーリオンさん達を手伝ってあげて―――ペルル、アムドシアス、フィニリィ!」

「はーい!ここはボク達に任せて!」

「さあ、奏でようではないか!我らの美しき絆を!」

「うふふ、愚かな人間共に見せてあげましょう、”精霊女王”たるこの私の魔力を!」

「お主はファーミシルスとカーリアンに加勢せよ、ディアーネ!」

「クク、確かに黒い甲冑の雑魚共よりも、そこの傭兵共の方が少しは楽しませてもらえそうだな…………!」
更にプリネとリフィアもそれぞれが契約している使い魔達を召喚し、召喚された使い魔達はそれぞれ武装を構えた。


「俺達とリィン達を入り口の前に転移だ、ベテレーネ、エクリア、エヴリーヌ!」

「「はい!」」

「はーい!」
そしてリウイの指示によってペテレーネ達はそれぞれ転移魔術を発動して自分達ごとリウイ達やリィン達を要塞の入り口へと転移した。
「あ…………」

「転移魔術で先を阻んでいた”猟兵王”達を超えて要塞の入り口に…………」

「ふふっ、三人がかりとはいえ、この人数を一瞬で運ぶなんて、さすがはあのメンフィル帝国の魔術のエキスパートの方々ですわね♪」

「クク、まさかの裏技で向こうも呆気にとられただろうぜ。」
転移魔術によって一瞬で要塞の入り口の前に現れたユウナは呆け、クルトは驚き、ミュゼは微笑み、アッシュは口元に笑みを浮かべて背後にいる一瞬の出来事によって呆気に取られたルトガー達に視線を向け
「よし―――猟兵王達の事は大将軍閣下達に任せて俺達はこのまま要塞に突入だ!」

「おおっ!」
リィンの号令に力強く頷いた仲間達は要塞へと突入した。
「コラ待て!そんな反則技、アリかいな!?」

「”転移”によって裏をかかれるとは…………完全に油断していたな。」
後ろに振り向いて要塞へと突入するリィン達の様子を見たゼノは慌てた様子で声を上げ、レオニダスは重々しい口調で呟いた。
「クク…………ハハ…………ハハハハハッ!まさかあんな方法であっさりと”西風”と”ニーズヘッグ”の壁を超えられるとは英雄王達にはまんまと一本取られちまったな…………完全に予定が狂っちまったが、今回ばかりは俺達も久しぶりに”本気”を出さざるを得ないようだな。」

「…………これ以上の”イレギュラー”は”地精”は望んでいない。排除させてもらうぞ―――異世界のイレギュラー共。」
ルトガーは豪快に笑った後全身から凄まじい闘気を解放しながら自身の得物を構えて双銃を構えたジークフリードと共にファーミシルス達を見つめ、
「くっ…………”空の覇者”達と―――メンフィルとやり合うなんて、完全に契約外の為すぐにでも離脱をしたい所だが…………」

「先程の”英雄王”の指示からして、どうやら連中は俺達も逃がすつもりはないようだしな…………」

「何とか隙をついて離脱するぞ…………!」
ニーズヘッグの猟兵達はセオビット達と戦う事に内心不本意だったが、自分達を殲滅するつもりでいるセオビット達相手には離脱は容易ではない事を悟っていた為、それぞれ武装を構えた。
「さあ―――リウイ陛下達に歯向かう愚か者達に思い知らせてあげるわよ、メンフィルの”力”を!」

「おおっ!」
そしてファーミシルスの号令に力強く頷いた仲間達はそれぞれ戦闘を開始した―――!

 
 

 
後書き
という訳で3章最後のダンジョンはレーヴェ達とリアンヌだけでなくまさかのリウイ達までゲストパーティーインという超過剰戦力ですwwなお、リウイ達登場の際のBGMはVERITAの”覇道”で、”覇道”が3章最後のダンジョンのフィールドBGMで通常バトルBGMはVERITAの”我が旗の元に”だと思ってください♪ 

 

第89話

午前7:15―――

要塞内に突入したリィン達が最初に目にした光景は誰もいない広場だった。

~グラーフ海上要塞~

「誰もいない…………!?」

「もしかして要塞を守っていた兵達はもうやられちゃったのかな?」

「いえ、この場に誰もいないのには”理由”があるようです。」
誰もいない事にユウナが驚き、エヴリーヌが不思議そうな表情で呟くと、何かに気づいたリアンヌが周囲を見回すと周囲の様々な場所に赤いプレロマ草が咲いていた。
「プレロマ草…………!?」

「おいおい、まさか…………!」

「――――来るわ!」
プレロマ草を見たアルティナが驚き、ある事を察したアッシュが呟いたその時予知能力である光景が見えたゲルドが叫ぶと幻獣や魔煌兵達が次々と現れた!
「昨日闘った…………!」

「猛獣型幻獣ですか………」

「それに内戦で見かけた幻獣や魔煌兵もいますわね…………」
幻獣達の登場にクルトが驚き、ミュゼが警戒している中セレーネは厳しい表情で自分達を包囲している魔煌兵や幻獣達を見回した。
「チッ…………これも”結社”の仕業!?」

「門番代わりの番犬というわけか…………!」

「総員、連携して――――」

「その必要はありません。」
リィンが仲間達に号令をかけようとしたその時リアンヌが制止した後騎兵槍(ランス)を構え
「聖技――――グランドクロス!!」

「イリーナ、ペテレーネ、エクリア、リフィア、手分けして左右の魔煌兵や幻獣共を殲滅しろ!皇技――――フェヒテンガロ!!」
Sクラフトを放った幻獣や一撃で滅し、イリーナ達に指示を出したリウイはリアンヌが滅した幻獣の近くにいた魔煌兵に闘気を極限まで収束した魔剣で渾身の踏み込みで力を込めた一撃を放って、リアンヌ同様魔煌兵を一撃で滅し
「邪を滅す光よ、顕現せよ――――神域の光柱!!」

「アーライナ様、御力を―――ルナ・アーライナ!!」

「フェミリンスの力を今ここに―――原罪の覚醒!!」

「消え去るがよい―――クロースシエル!!」
リウイ達に指示されたイリーナ達もそれぞれSクラフトによる大魔術で幻獣や魔煌兵達をプレロマ草ごとリアンヌとリウイ同様瞬殺した!


「……………………」

「なんという…………」

「…………槍の聖女に英雄王…………」

「イリーナお義母さん達って私なんかとは比べ物にならないくらいの凄い魔法使いなんだ…………」
リアンヌ達の圧倒的な強さにユウナは口をパクパクさせ、ガイウスとクルト、ゲルドは呆け
「な、なんかみんな情報局の情報より凄いんだけど…………」

「フッ、あのメンバーならば神機すらも瞬殺しかねないな。」

「た、確かに…………」

「というか実際お父様たちは生身で”神機”を撃破した事があるものね…………」

「うふふ、さすがパパ達ね♪」

「ふふっ、武勇でその名を轟かせていたドライケルス大帝の子孫の一人として、わたくしもリウイ陛下達と共に苦も無く幻獣達を撃破したリフィア殿下を見習うべきかしら?」

「お願いだから、リフィアを見本にするのだけは止めて。」
ミリアムは冷や汗をかいて苦笑し、静かな笑みを浮かべて呟いたレーヴェの指摘にツーヤは冷や汗をかいて同意し、プリネは疲れた表情で呟き、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、苦笑しながらリフィアに視線を向けて呟いたアルフィンにエリゼはジト目でリフィアを見つめながら指摘した。
「フフ、ただの余興でしょう。これより先は戦場、幻想の入り込む余地はありません。――――それよりも陛下、シュバルツァーに例の図面を。」

「ああ。」

「これは…………?」
リアンヌに促されたリウイによって地図を手渡されたリィンは不思議そうな表情でリウイに訊ねた。
「グラーフ海上要塞内の構造図面だ。」

「へ…………」

「な――――――何故、陛下――――いえ、メンフィル帝国がエレボニア帝国の軍事施設の一つであるグラーフ海上要塞の構造図面を所有しておられるのですか…………!?」
リウイの答えを聞いたミリアムは呆け、ユーシスは一瞬絶句した後信じられない表情でリウイに訊ねた。
「ふふ、正確に言えばリウイがリィンさんに渡したこの要塞の構造図面はクロスベルからの提供ですよ。」

「クロスベルからの提供、ですか?」

「フフ、お忘れですか?―――”クロスベル側のカイエン公爵家”は元々エレボニアのこのフォートガード州を含めたラマール地方を統括していたカイエン公爵家の”本家”なのですわよ?」

「あ…………っ!」

「そうか…………確かにカイエン公爵家の”本家”であるユーディット皇妃陛下達だったら、この海上要塞の構造図面を所有していてもおかしくないな…………」

「まあ、それでも他国がこの要塞の構造図面を所有している時点で問題があると思いますが…………」

「つーか、どうせあのハゲ侯爵の事だから、あんだけ貶していたあの令嬢姉妹がそれを持っている可能性も全然考えていなかったんだろうな。」

「なるほどね…………という事は2日前のラクウェルでのヴァイスハイト陛下達との内密の会談はそれの受け渡しを含めた今回の騒動に関連する打ち合わせといった所ですか?」
イリーナの説明を聞いたアルティナが首を傾げると静かな笑みを浮かべて答えたミュゼの答えにユウナは声を上げ、クルトは納得した様子で呟き、セレーネは困った表情で呟き、アッシュと共に呆れた表情を浮かべたサラはリウイ達に確認した。
「そんな所だ。―――それよりも要塞の構造図面を読んで要塞内の構造を解析したが、内部は尋常ではない広さのようだ。しかも、万が一攻め込まれた時に二手に分かれて攻略しなければ制圧できないような仕掛けもある。」

「それは…………」

「…………攻め手を二つにわけるという事ですか。」
リウイの説明を聞いたゲルドとアンゼリカはそれぞれ真剣な表情を浮かべた。
「シュバルツァー。主攻、副攻に分けなさい。ちなみに主攻は長く険しく、先に天守閣にも到達する―――それらを踏まえた上でのメンバーを分けるといいでしょう。」

「わかりました。でしたら主攻のメンバーは――――」
そしてリィンはその場で主攻はリィン、セレーネ、ユーシス、ミリアム、ガイウス、サラ、レン、リウイ、イリーナ、ペテレーネ、エクリア、リアンヌ、副攻は新Ⅶ組生徒全員とアンゼリカ、リフィア、エヴリーヌ、エリゼ、アルフィン、プリネ、ツーヤ、レーヴェにメンバー分けをした。


「トールズ士官学院、新旧Ⅶ組、ならびに協力者一同――――これより二手に分かれて海上要塞の攻略を開始する。待ち受けるは”結社”の鉄機隊、そして旧・北の猟兵たち―――各自、全力を尽くしてくれ!」

「おおおおっ!」
メンバー分けを終えたリィンは号令をかけ、リィンの号令に仲間達は力強く答え、それぞれ二手に分かれて海上要塞の攻略を開始した!


~B班~

”副攻”であるユウナ達B班が要塞内を進んでいると鍵穴が見当たらない開かない巨大な扉によって先を阻まれた。
「この扉はもしかしてリィンさん達”主攻”班の協力によって開かない扉でしょうか?」

「鍵穴も見当たらないですし、恐らくそうかと。」

「フム、それじゃあリィン君達に連絡をして―――」

「その必要はないのじゃ!」
アルフィンの推測にクルトが頷き、アンゼリカが提案しかけたその時リフィアが制止の声を上げ、リフィアの言葉が気になったその場にいる全員がリフィアに視線を向けるとリフィアはいつの間にか自身の武装である杖に膨大な魔力を溜め込んでいた。
「ちょっ、何を!?」

「お、お姉様…………まさかとは思いますが…………」

「どう考えてもその”まさか”でしょうね…………」

「止めなさい、リフィ―――」
リフィアの突然の行動にユウナが驚いている中既にリフィアの行動を察したプリネは表情を引き攣らせ、ツーヤは疲れた表情で呟き、エリゼがリフィアに制止の声を上げたその時
「余の道を阻むものはどんなものであろうと余自身の力で突き進むのみじゃ!―――レイ=ルーン!!」
杖に魔力を溜め終えたリフィアが純粋魔力の極太のエネルギーを扉に向けて放った!するとエネルギーにぶつかった扉は轟音を立てると共に砦に震動を与えた後勢いよくぶつかった部分がひしゃげた状態で吹っ飛ばされ、先に進めるようになった!
「……………………」

「膨大な魔力による魔術で先を阻んでいた扉を強引に吹っ飛ばしちゃったわね…………」

「くふっ♪リフィアやエヴリーヌ達からしたら仕掛けみたいな面倒なものに付き合う必要はないもんね♪」
扉が吹っ飛ばされたことにユウナは口をパクパクさせ、ゲルドは呆けた表情で呟き、エヴリーヌは口元に笑みを浮かべた。
「フハハハハハ―――ッ!この程度で、余の道を阻もうなぞ甘すぎる!さあ行くぞ、下僕共!」

「げ、”下僕”ってもしかしてあたし達の事!?」

「誰が下僕だ、このクラッシャーチビ皇女が!」

「いえいえ、逆に考えればメンフィル帝国の次代の女帝に即位する事が内定しているリフィア殿下直属の(しもべ)に認められる事は光栄と思うべきですわよ♪」

「それ以前に、わたしやゲルドさんはともかく他国の士官学生であるユウナさん達を勝手に(しもべ)扱いするのは問題があると思うのですが。」
高笑いをした後ユウナ達を見回して指示をしたリフィアの言葉にユウナは驚き、アッシュは反論し、微笑みながら答えたミュゼの指摘にアルティナはジト目で答えた。
「リ~フィ~ア~~?」

「ぬおっ!?」

「ひいっ!?」
するとその時エリゼは膨大な威圧を纏って微笑みを浮かべてリフィアに声をかけ、エリゼに微笑まれたリフィアは驚き、エリゼの微笑みを見たエヴリーヌは思わず悲鳴を上げた。


「幾ら先を急いでいるとはいえ、ちゃんとした開錠方法があるのに、ど・う・し・て!他国の軍事施設の防衛設備を破壊したのかしら??」

「そ、それは…………お主も言った通り、今は一刻も早く扉を奪還すべき状況じゃから、一々仕掛けを解いている時間はないじゃろ?それに潜入している訳でもないのじゃから、そんな面倒な事をしなくても全て余達の力で推し進んだが方がよほど簡単で、早いじゃろ?」

「ガタガタブルブル…………!」

「幾ら非常事態だからと言って皇族が他国の軍事施設の防衛設備を責任者に許可なく破壊するなんて、大問題ですよ…………」

「状況が落ち着いた後、賠償を求められる可能性を考えなかったんですか…………?」
エリゼの問いかけにリフィアが表情を青褪めさせながら答えている中エヴリーヌはその場で蹲って両手で頭を抱えて身体を震わせ、リフィアの答えにユウナ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中プリネとツーヤはそれぞれ疲れた表情で頭を抱えた。
「それはほれ!北の猟兵や結社のせいにすればいいだけだし、この要塞の責任者であるバラッド侯もどうせ今回の件で失脚する上、もう一人のエレボニア側の次期カイエン公爵の”候補”は余達メンフィルとの和解を望んでいるとの事だから問題はないのじゃ!」

「それとこれとは別問題よ!そもそも今回の作戦は兄様達”主攻”のA班と連動して要塞の攻略をしているのに――――」
悪びれもなく胸を張って答えたリフィアの答えにユウナ達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エリゼは声を上げて反論した後リフィアに説教を始め、その様子にユウナ達はそれぞれ冷や汗をかいた。


(…………ねえ、アル。本当にあんなハチャメチャな娘がメンフィル帝国の皇女様で、それもメンフィル帝国の次の皇帝になる人なの?)

(ええ、残念ながら。ちなみにリフィア殿下はリウイ陛下もそうですが、カーリアン様の孫でもあります。)

(ハア~~~ッ!?あんなちんちくりん皇女があの色気やエロ全開痴女の孫だと!?全然似てねぇな…………つーか、あの痴女、孫がいる程年を喰っていたのかよ…………白髪魔女の養父(おやじ)といい、メンフィルの連中は冗談抜きでオカルトじみた若作りだな。)

(おい…………リフィア殿下にもそうだが、リウイ陛下やカーリアン皇妃陛下にも不敬だぞ、その言い方は。…………しかし、リフィア殿下は先程気になる事を言っていたな…………?)

(それって、バラッド侯爵とは別の”もう一人のエレボニア側の次期カイエン公爵の候補”の事?)
ユウナはジト目で説教される様子のリフィアを見つめながらアルティナに訊ね、ユウナの疑問に答えたアルティナの説明に驚いたアッシュに注意をしたクルトは考え込み、クルトの小声が聞こえていたゲルドはクルトに確認した。
(ああ…………もしかして、殿下やアンゼリカさんはその人物に心当たりがあるのですか?)

(ええ。とはいっても”あの娘”がメンフィル帝国との和解を望んでいる事までは初耳でしたが。)

(フフ、機会があればいずれ君達もその人物の事を知る事ができると思うよ?)

「…………ふふっ…………」
クルトに訊ねられたアルフィンは静かな表情で頷いた後苦笑し、アンゼリカは静かな笑みを浮かべて答え、クルト達の会話が聞こえていたミュゼは静かな笑みを浮かべていた。
「やれやれ…………とりあえずリウイ陛下に先程のリフィア皇女の暴走を伝えるべきではないか?」

「そうね…………お父様には私から伝えておくわ…………ハア…………」
一方呆れた表情で呟いたレーヴェの言葉に頷いたプリネは疲れた表情で溜息を吐いた後ARCUSⅡを取り出してリウイとの通信を開始した。


~A班~

「…………そうか。そうなってしまった以上、わざわざ仕掛けを探す方が二重手間だろうから、こちらの方は俺達の方で何とかしておくから、お前達は先を急げ。…………ハア…………あの暴走娘は…………」

「…………その様子ですと、早速リフィアが”何かやらかした”のですか?」
プリネとの通信を終えて疲れた表情で溜息を吐いて頭を抱えたリウイにイリーナは苦笑しながら訊ね、イリーナの問いかけにリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ああ…………本来俺達が見つけて解く仕掛けと思われた先を阻んでいた扉をリフィアが魔術で破壊して強引に先に進むルートを作ったとの事だ…………」

「ハアッ!?」

「うわ~、リフィア皇女の破天荒な性格も情報局の情報にもあったけど、情報以上の破天荒さだね~。」

「おい…………例えどのような理由があろうと、他国の皇族の方に対してそのような不敬な発言は許されない事だと未だに理解できんのか、貴様は。」

「ア、アハハ…………相変わらずですよね、リフィア殿下の暴走癖は…………」

「エリゼがお目付け役になってからは徐々に収まりつつはありましたけど、久々の”戦場”に昂って、久しぶりの暴走癖が出たのかもしれませんね…………」

「うふふ、何年経っても変わらないわね、リフィアお姉様の突き抜けた性格は♪」
リウイの説明にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中サラは驚きの声を上げ、信じられない表情で呟いたミリアムにユーシスは顔に青筋を立てて指摘し、ペテレーネは苦笑し、エクリアは疲れた表情で推測を口にし、レンはからかいの表情で呟いた。
「えっと………それでは俺達の方はどうしましょうか?」

「先に進めるようになったユウナさん達に私達の方の仕掛けを解いてもらうのも、二重手間ですが、かといって私達が攻略しているルートでは仕掛けを解けないでしょうし…………」
そしてリィンとセレーネが苦笑しながらリウイ達に判断を訊ねたその時
「――――片方のチームが力づくで押しとおったのならば、我々も同じことをすればいいだけの事です。」

「え。」

「貫け――――シュトルムランツァー!!」
リアンヌが前に出て答え、リアンヌの答えにリィンが呆けるとリアンヌは凄まじい速さによる突撃で扉を吹っ飛ばした!
「――――これで、我々も仕掛けを解く必要もなく先に進めるようになりました。―――我々も先を急ぎましょう。」
扉を吹っ飛ばしたリアンヌは振り向いてリィン達に答え、リアンヌの行動や答えにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「え、えっと………とりあえず俺達も先に進みましょうか、ハ、ハハ…………」

「フフ、”槍の聖女”の凄まじさも相変わらずだな。」

「ふふっ、子が親に似るようにリアンヌ様は(リフィア)に似てあのような事をしたのかもしれませんね。」

「…………冗談でもそんな恐ろしい事を考えるのは止めてくれ、イリーナ…………」
我に返ったリィンは乾いた声で笑い、ガイウスは苦笑し、イリーナの推測を聞いたリウイは疲れた表情で頭を抱えて呟いた。

その後リィン達とユウナ達は要塞を攻略し続け、要塞内を徘徊している結社の人形兵器や北の猟兵達を制圧しながら先へと進み続けていた――――

 

 

第90話

その後順調A班同様順調に要塞の攻略を続けていたB班の攻略も終盤に差し掛かっていた。

~グラーフ海上要塞・B班~

「かなり進んできたけど…………天守閣まであとどのくらいかな?」

「あともう少しだと思います。こちらは猟兵も見当たりませんし、なんとか無事に辿り着けそうですね。」

「ハッ、つまらねぇな。やっぱ主攻に行くべきだったか?」

「ふう、だから蒸し返すのは―――」

「――――そ、そこに誰かおるのか!?」
つまらなそうにしているアッシュにクルトが注意したその時、ユウナ達の背後にある扉から声が聞こえてきた。
「この声は…………」

「ふむ、誰かいるみたいだね。」
扉から聞こえてきた声が気になったユウナ達が扉を開けて広間に入ると、そこにはミリアム同様光の檻に囚われたバラッド侯爵や気絶しているバラッド侯爵の私兵達がいた。
「お、お前達は…………!」

「…………バラッド侯。」

「あの人がフォートガードの臨時統括領主である例の…………」
自分達を見て驚いているバラッド侯爵を複雑そうな表情で見つめて呟いたアルフィンの言葉を聞いたエリゼは表情を厳しくした。


「こ、こんな所にいたんだ…………!」

「この光の檻は”鉄機隊”が用いていた拘束用の檻だな。」

「という事はバラッド侯爵達は鉄機隊に囚われていたようですね。」
ユウナは厳しい表情でバラッド侯爵を睨み、光の檻に見覚えがあるレーヴェの説明を聞いたツーヤは推測をした。
「クッ、何故よりにもよって学生どもにログナーの息女が…………い、いやこの際誰でもいい!とっとと助け出すがよい!」

「なんだ、このオッサン。てめぇの立場がわかってねぇのか?」

「自分の事しか考えない典型的な三流貴族じゃな。」

「ふふ、まあまあ。」
バラッド侯爵の命令に呆れているアッシュとリフィアをミュゼが苦笑しながら諫めようとした。
「一応、解放して差し上げよう。」
そしてユウナ達は光の檻を何とかしようとしたが、何をやっても解けなかった。


「う~ん、どうやっても解けないんですけど…………」

「檻の中にバラッド侯爵達がいるから、魔術で強引に破壊する訳にもいかないものね…………」
檻が解けない事にユウナとゲルドはそれぞれ考え込んだ。
「ミリアムさんを捕らえたのと同じ拘束術みたいです。鉄機隊を何とかしない限り、解除は難しいかと。」

「ハッ、時間の無駄だな。とっとと行くとしようぜ。」

「――――同感だな。これ以上あのような愚物の為の無駄な時間を取る必要はない。」
アルティナの分析を聞いたアッシュはバラッド侯爵を見捨てる事を決め、アッシュの意見にレーヴェは静かな表情で頷いた。
「ま、待つがいい!この私を見捨てるつもりか!?この私を―――帝国最大の貴族、次期カイエン公たる人間を!!他の者などどうでもよい―――私を連れて脱出するがいい!」

「ど、どうでもいいって…………―――誰のせいでこんなことになってると思ってるんですか!」

「ひっ…………!?」
バラッド侯爵のあまりにも愚かな発言に一瞬絶句したユウナだったがすぐにバラッド侯爵を睨んで怒りの声を上げ、ユウナの怒りに圧されたバラッド侯爵は思わず悲鳴を上げた。
「自分勝手な思惑だけで准将さんたちを散々振り回して!挙句の果てに列車砲を奪われて新海都の人達を危機に晒して―――!」

「…………ユウナさん。一応、大貴族相手です。」

「へえ…………何となくエステルと似ているよね、ユウナって。」

「む?言われてみれば確かに…………」

「ふふっ、相手の身分に怖じ気ず自分の意見をハッキリ言える所とかはまさにそっくりですよね。」
バラッド侯爵に怒りの声を上げるユウナにアルティナが複雑そうな表情で注意し、その様子を見ていたエヴリーヌの感想にリフィアは目を丸くし、プリネは微笑んでいた。
「――――ユウナさんの言う通りですよ、バラッド侯。自分の身を最優先にしている貴方はカイエン公爵以前に”貴族”として失格ですわ。」

「何だと!?よくもこの私に向かってそのような不敬な発言を――――って、ア、アアアアアアア、アルフィン皇女殿下ッ!?な、何故皇女殿下までアンゼリカ嬢達と共に…………!?」

「クク、このオッサンでもシュバルツァーのツレになって皇女じゃなくなっているとはいえ、元祖国の皇女相手には強気に出れないようだな。」

「フフッ、例え降嫁された事でアルノール家の一員でなくなっているとはいえ、姫様は未だエレボニア皇位継承権をお持ちの上、姫様がエレボニアにとって尊敬すべき皇女殿下であり、ご両親である皇帝陛下夫妻に大切にされ続けている事は変わりませんもの。」
するとその時アルフィンが前に出て真剣な表情でバラッド侯爵を睨んで指摘し、アルフィンの指摘を聞いたバラッド侯爵はアルフィンを睨んで反論しようとしたがすぐにアルフィンの正体に気づくと表情を青褪めさせて狼狽え、バラッド侯爵の様子を見て口元に笑みを浮かべているアッシュにミュゼは静かな笑みを浮かべて答えた。
「―――リィンさんに降嫁した事でアルノール皇家の一員ではなくなり、メンフィル帝国に所属している今のわたくしに貴方達エレボニア貴族を含めた今のエレボニアの政治に口出しする権利はございませんが…………それでもエレボニアの皇位継承権を所有している者の一人として、バラッド侯――――我が身可愛さの為だけに兵達だけでなく、フォートガードの領民達を見捨てようとする貴方には前カイエン公―――クロワール・ド・カイエン同様エレボニアの貴族達を束ねるカイエン公爵家当主の”器”でない事は断言致しますわ!」

「う…………っ!?」

「皇女殿下…………」

「ふふ、さすが姫様ですわ♪」

「フム………話によればアルフィン夫人は典型的な”籠の鳥”の皇女との事じゃったが、どうやら評価を改める必要がありそうじゃな。」

「ま、2年前の内戦をリィンやエヴリーヌ達と一緒に解決したから、成長くらいはしていると思うよ?キャハッ♪」

「もう、お二人とも…………アルフィン夫人に失礼ですよ…………」
威厳を纏って自分を睨んで宣言したアルフィンの宣言にバラッド侯爵は反論できず唸り、クルトは尊敬の眼差しでアルフィンを見つめ、ミュゼは微笑みながらアルフィンを称え、感心した様子でアルフィンを見つめて呟いたリフィアにエヴリーヌが指摘し、リフィアとエヴリーヌの発言にプリネは呆れた表情で溜息を吐いた。
「ま、数々の失態の責任は後日きちんと(はか)らせて頂きますから、その点はご安心ください、殿下。――――中断した領邦会議の席上でね。」

「ぐっ…………アンゼリカ嬢、そなた…………」
アルフィンの隣に来て答えたアンゼリカの言葉を聞いてある事を察したバラッド侯爵は苦々しい表情を浮かべてアンゼリカを睨んだ。

「――――申し訳ありませんが、閣下。自分達には使命がありまして。」

「ふふ、必ずや後で解放されるよう取り計らせていただきます。―――それではまた、”後日”。」

「へ…………」

(あん…………?)
ミュゼの意味ありげな最後の言葉にバラッド侯爵が呆けている中アッシュは眉を顰めたが、すぐに気を取り直してユウナ達と共に広間から出て要塞の攻略を再開した。


~A班~


「貴様らは…………!」
リウイ達の協力でリフィア達の協力を受けているユウナ達同様破竹の勢いで進み続けているリィン達A班が天守閣へ続く最後の扉に近づいたその時、扉から北の猟兵達が現れた!
「アンタたち…………!」

「北の猟兵の主力か…………!」

「サラ・バレスタイン―――灰色の騎士に聖竜の姫君!!」

「―――そ、それにそこにいるのは…………!?」

「――――”英雄王”…………!!」
リィン達を睨んでいた北の猟兵達だったがリウイに気づくと血相を変えてそれぞれ散って武装を構えた。
「チッ…………」

「トーゼンこっちにも待ち構えてたみたいだね~。」

「ま、でも北の猟兵の戦力は彼らで最後でしょうね。」
身構えた猟兵達を見たユーシスは舌打ちをし、ミリアムとレンはそれぞれ分析していた。
「…………ふ…………ふははっ…………!!」

「まさか…………”英雄王”が直々にここに来ていたとは…………―――故郷が奪われる原因となった戦争を勃発させる事を決めた貴様に、復讐できる日が来るとはな…………!!」

「っ…………!!」

「…………故郷か。」

「確かにノーザンブリアが併合された原因は”七日戦役”も含まれているとは思いますが…………」

「そもそも”七日戦役”の勃発原因の一つである北の猟兵達がパパやレン達メンフィルを恨むなんて完全に逆恨みだし、例え”七日戦役”が勃発しなくても、ノーザンブリアはエレボニアに併合されていたでしょうねぇ。」
リウイに対する憎しみの言葉を口にした猟兵達の言葉を聞いたリィンは息を呑み、ガイウスとセレーネは複雑そうな表情をし、レンは呆れた様子で推測した。
「くっ…………やめなさい、アンタたち!そもそもあの戦争はアンタ達が”元凶”の上そんな事したって何も―――」

「―――いや、これも俺がつけるべき”けじめ”だろう。」
猟兵達を説得しようとしたサラだったがリウイの制止の言葉を聞くとリィン達と共に驚いてリウイを見つめた。
「我が名はリウイ・マーシルン。元・メンフィル皇帝にしてノーザンブリアが滅ぶ原因の一つとなった前アルバレア公爵に雇われたお前達”北の猟兵”の同胞が起こした”ユミル襲撃”を理由にメンフィル・エレボニア戦争を開戦する事を決めた張本人の一人だ。お前達の悔恨と慙愧、そして憎悪の全てを引き受けてやろう。英雄王が首級(しるし)―――刈り取れるものならば取ってみるがいい!!」

「…………!!」

「言われるまでもない…………!」

「あなた…………」

「リウイ様…………」

「……………………」

「くっ…………!!」
リウイにたきつけられた猟兵達がそれぞれ戦意を高めている中、リウイの猟兵達に対する気づかいに気づいていたイリーナとペテレーネは辛そうな表情でリウイを見つめ、リアンヌは目を伏せて黙り込み、猟兵達を説得できなかったことにサラは唇をかみしめていた。
「邪魔をするなら貴様らもだ!」

「北の大地(ノーザンブリア)の名の下に揃って堕ちるがいい…………!」
そしてリィン達は猟兵達との戦闘を開始し、それぞれ連携して猟兵達を戦闘不能に追い込んだ!


「ぐふっ…………」

「こ、これが、英雄王…………紫電に灰色の騎士どもか…………」

「よし…………!!」

「フン…………何とか制圧したか。」

「――――殺せ!!」
猟兵達との戦闘に勝利したリィン達だったが、猟兵の一人が叫んだ信じられない要求にそれぞれ驚いた。
「へっ…………!?」

「…………何を…………」
猟兵の突然の要求にミリアムとガイウスはそれぞれ困惑した。
「ここは戦場…………!お前達は勝ったのだ!ここまでした我らに情けなど要るまい…………!?」

「……………………」

「――――履き違えるな、名もなき猟兵達よ。ここはお前達の”死に場所”ではない。」
猟兵の叫びにサラが辛そうな表情で顔を俯かせている中リウイが意外な言葉を口にして猟兵達を驚かせた。
「俺はお前達の誇りに免じてお前達の故郷が滅ぶ原因の一人としての義理を果したまでだ。そして勝負がついた以上、無為の血を流す趣味はない。」

「あなた…………」

「リウイ様…………」
リウイの猟兵達に対する心遣いにイリーナとペテレーネは微笑んだ。
「くっ…………!」

「…………故郷のみながらず死に場所まで奪われるのか…………」

「それならば…………!」
一方猟兵達はリィン達に止めを刺してもらう事を諦めて自ら命を絶つためにそれぞれ懐から取り出した自決用の武器を首筋にあてた。
「ああっ!?」

「駄目だ…………!!」

「――――オオオッ!」
それを見たミリアムが驚き、ガイウスが制止の言葉をかけたその時鬼の力を解放したリィンが一瞬で猟兵達に詰め寄って次々と猟兵達の自決用の武器を叩き落した。
「ぐっ…………」

「がっ…………」

(くっ、間に合わな―――)
次々と自決を阻止したリィンだったが最後の一人の自決の阻止は間に合わない可能性が高いとリィンが判断したその時銃声が鳴り響いたが、銃口はいつの間にか猟兵に詰め寄っていたサラによって天井に向けられていた為自決は阻止された。


「あ…………」

「バレス、タイン…………?」

「その異名通りまさに”紫電”のような速さでしたね…………」
サラの行動にユーシスと猟兵が呆けている中エクリアは驚きの表情で呟いた。
「――――甘ったれてんじゃないわよ!アンタたちは―――あたしたちは”誇り”のために命を賭けてたんじゃないでしょう!?故郷の貧しさを、誰かの空腹を、ほんの少しの間紛らわせるために…………!子供達を少しでも笑顔にできるそんな二束三文のミラのために…………!―――血と硝煙に塗れたとしてもその生き方を選んだんでしょうが!?っ…………だったら…………だったら最後までその”欺瞞”を貫いてみせなさいよ…………!そうじゃなかったら、大佐が…………パパがあまりにも浮かばれないじゃない…………」

「…………ぁ…………」

「サラさん…………」

「……………………」
サラの怒りと悲痛の叫びに猟兵は呆け、セレーネは心配そうな表情でサラを見つめ、リアンヌは目を伏せて黙り込んだ。
「これも巡り合わせ、か…………」

「サラ…………バレスタイン大佐の娘よ。」

「お前が来た事を…………女神たちに感謝しよう―――」
サラの説得によって自決を諦めた猟兵達は気を失ってそれぞれ地面に倒れた。
「グスッ…………ふふ、君達にはつくづくみっともない所を見せるわね…………」

「フッ、今更だろう。」

「故郷を想う彼らの気持ち、わからなくもないが…………」

「それでも無駄死になんてやっぱり”哀しい”もんね。」

「ああ…………サラさん、お疲れ様でした。」

「ふふ…………君達もありがとう。リウイ陛下も感謝します。…………彼らに全力で応えてくれて。」

「礼は不要だ。俺は俺の義務を果たしただけだ。時が惜しい―――先に進むぞ。」

「ええ…………!」
そしてリィン達は要塞の攻略を再開した。


~北ラングドック峡谷~

一方その頃、峡谷での戦闘は佳境に入っていた。
「おらあああっ…………!」

「そこだあっ…………!」

「まだだぜぇっ!」
アガットとランディ、そしてランドロスの連携攻撃をガレスは次々に回避してアガット達と距離を取った。
「さすがは若…………!”重剣”や”紅き暴君”も若と同等かそれ以上の相当な使い手…………だが、だからと言って”赤い星座”がこれで終わると思ったら大間違いである事を思い知らせてやろう…………!」
ランディ達の強さに感心したガレスだったがすぐに気を取り直してライフルを構えた。
「チッ、お前の古巣、あれはもはや執念の塊のようなものだろ…………!?」

「いや全く、申し訳ねぇ…………!―――いい加減にしやがれ、この頑固野郎が!赤い星座は親父に叔父貴、そしてシャーリィ――――――赤い星座を率いていた”オルランド”の一族が全滅した時点でもうとっくに終わってんだよ!」

「クク、面白くなってきたじゃねぇか!」
アガットの文句に対して謝罪したランディはガレスを睨んで声を上げ、ランドロスは獰猛な笑みを浮かべて声を上げた。


「ほらほら、そこだよ!」

「させるかよっ…………!」
一方カンパネルラと戦っていたトヴァルはカンパネルラの魔法攻撃に対して瞬時に最高位アーツであるセヴンスキャリバーを発動して相殺した。
「あはは…………!驚くほどの早さじゃないか!さすが”総長どの”に気に入られてるだけあるね!」

「だあっ、あいつの名前を出すんじゃねえっての…………!―――法国で起きているのはお前達の仕掛けだな…………!?」

「アハハ、エレボニアでの決着を邪魔されたくはないからねぇ…………!」
トヴァルの問いかけに対してカンパネルラは不敵な笑みを浮かべて答えた。更にもう一方、ウォレス准将はカンパネルラの幻術によって現れたマクバーンの幻影と戦っていたが、幻影の様子に変化が現れた事に気づいた。
「むっ…………!?」

「―――――――!!」
マクバーンの幻影は声なき咆哮を上げると何と”火焔魔人”と化した!
「まさか幻影まで”火焔魔人”と化するとはな…………―――総員、俺から離れろ!!」
魔人化した幻影を見たウォレス准将が背後にいる部下たちに指示を出した後、幻影は凄まじい炎の攻撃をウォレス准将に向けて放った!
「ウオオオオオオオッ…………!ハアアアアアアッ…………!」
しかしウォレス准将は十字槍を振り回して竜巻を発生させ、何と幻影の凄まじい炎の攻撃を防いだ!
「…………ふう、何とか凌げたか。」
攻撃を防いだウォレス准将は安堵の溜息を吐いた後戦闘を再開した。


「今だ、かかれ―――!」
するとその時ミハイル少佐の号令が戦場に響き渡るとドラッケンとシュピーゲルがブースターで上昇して列車砲に近づいていた。
「ゼシカ、エルンストさん、お願いします…………!」

「ええ…………!」

「あたいに遅れんじゃないよ、雛鳥共!」
ブースターによる上昇で列車砲の近くを陣取っている猟兵達に接近したドラッケン達は攻撃を開始した!
「はああっ…………!」

「アッハハハハハハッ!」

「な………っ!?」

「おおっ…………!?」

「ハッ、もらったよ…………!」
シュピーゲルとエルンストの牽制攻撃に猟兵達が驚いている所をレオノーラを始めとした戦術科のメンバーとミハイル少佐が背後から強襲して猟兵達を無力化した!
「よし―――次だ!」

「イエス・サー!」
そしてミハイル少佐の指示によって戦術科は列車砲を陣取っている猟兵達を圧し始めた。


「おおっ、やるじゃねえか!」

「少佐さんの指揮もだが生徒達もやるねぇ…………!」

「…………ハハ…………しごいた甲斐があったか。」

「クク、それとオレサマ達による補習の成果も出ているじゃねえか。」
一方列車砲の奪還に気づいたカンパネルラ達が戦闘を中断して撤退した事でそれぞれ戦闘を停止して生徒達の戦いを見守っていたアガット達はそれぞれ感心していた。
「…………ここまでか。」

「ふふっ…………後は本命にお任せかな?」
ランディ達とは別の場所で戦いを見守っていたガレスは重々しい口調で呟き、カンパネルラは意味ありげな笑みを浮かべて答えた後転移魔術によってその場から去り、ガレスを始めとした赤い星座の猟兵達も撤退を開始した。


「列車砲―――!2基とも制圧完了!」
ウォレス准将が幻影を撃破すると同時にミハイル少佐の報告が戦場に響き渡った。
「お疲れ様でした…………!」

「ですが、海上要塞が…………!」

「わかっている―――これより全軍、グラーフに戻る!第1、2のみ峡谷一体を確保してくれ!第三はオルディスのユーディット皇妃陛下に列車砲奪還の報告をした後、グラーフに戻れ!」

「ハッ…………!」

(頼むぞ、シュバルツァーにガイウス、新旧Ⅶ組の面々…………)
部下たちに指示を終えたウォレス准将は海上要塞がある方向に視線を向けてリィン達の武運を祈った。


~同時刻・グラーフ海上要塞前~

同じ頃要塞前に到着したトワ達主計科Ⅸ組だったが、要塞へと続く大橋の周辺で繰り広げられているファーミシルス達とルトガー達との戦闘があまりにも凄まじく、近づけなかった。
「ひええええええっ!?」

「”百日戦役”でエレボニア帝国軍を一方的に蹂躙して勝利し続けた事から”ゼムリア大陸真の覇者”と呼ばれているメンフィル帝国軍の中でも有名な武将達は凄まじい使い手だっていう話は聞いてはいたけど…………」

「みんな、信じられないくらい無茶苦茶な強さやで…………!」

「ニーズヘッグの猟兵達は既に全滅させられている上、”西風の旅団”の猟兵達まで圧されていますものね~。」

「………まあ、彼らの場合ニーズヘッグを相手にしていたメンフィル帝国の使い手達まで”戦妃”達に加勢しているからというのもあるでしょうけど…………」

「と、特に”空の覇者”と名高いファーミシルス大将軍閣下は凄まじ過ぎますよね…………大陸最強の猟兵団の一つである”西風の旅団”を率いる”猟兵王”と一騎打ちで優勢のご様子ですし…………」
距離を取っているにも関わらず感じ続ける戦闘の余波にカイリは思わず悲鳴を上げ、スタークとパブロは信じられない表情で戦闘の様子を見守り、既に討ち取られ、大橋周辺に散乱しているニーズヘッグの猟兵達の死体を見回して呟いたルイゼの感想に続くようにヴァレリーは自身の分析と共に答え、タチアナはおどおどとした様子でルトガーと一騎打ちを続けているファーミシルスの様子を見て呟いた。
「それ以前にあんなにも多くのメンフィル帝国の関係者が介入してあんな大規模な戦闘を繰り広げるなんて話、せめてわたし達にも前もって知らせて欲しかったよ…………ううっ…………」

「アハハ…………しかも要塞の攻略には分校長どころかリウイ陛下達まで加勢しているという話ですものね。」
疲れた表情で頭を抱えて呟いたトワの言葉を聞いたティータは苦笑しながら要塞を見つめ
「あの、教官…………本当に私達は加勢しなくていいんですか?」

「さっきも言ったように、明らかに実力が離れ過ぎている私達が加勢したらむしろファーミシルス大将軍達の足を引っ張る事になるから、今は決着が見守るまで待つしかないよ……………………」
サンディの問いかけに答えたトワは複雑そうな表情を浮かべてカーリアン達との戦いによって劣勢に陥っているジークフリードを見つめた。


「それぇっ!白露の桜吹雪!!」

「闇に呑まれるがいい――――ティルワンの死磔!!」

「うおおおおおおっ!?ガハッ!?」

「しもうた!?――――ぐああああああっ!?」

「く…………っ…………がああああああっ!?」
ニーズヘッグを殲滅し終えてカーリアン達に加勢したセオビット達の攻撃を必死で対処し続けたゼノ達だったが、猛者揃いの数の暴力はどうしようもできず、徐々に傷つき疲弊し、それぞれカーリアンやディアーネの大技や上位魔術を受けて大ダメージを受けて悲鳴を上げ
「喰らえ―――ラグナドライバー!!」

「我が力、思い知りなさい―――暗礁電撃剣!!」

「うおっ!?」
一方雷撃を纏わせたバスターグレイブでファーミシルスに襲い掛かったルトガーだったが、暗黒の雷を宿したファーミシルスの連接剣によって弾かれてゼノ達の所へと吹っ飛ばされた。
「団長、大丈夫か!?」

「ああ…………だが、参ったねぇ…………以前戦った時よりも遥かに強くなっていやがる。やれやれ、若いモンの成長の速さには年寄りは敵わねぇよ。」

「ハハッ、そんな事言える余裕があるんだから、まだまだ大丈夫のようやな…………!」
自分達の所に吹っ飛ばされたルトガーを気にかけたゼノだったがいつもの調子のルトガーの様子に苦笑しながら答えたが
「だが…………こちらの方は本格的に不味くなってきたな…………」

「せやな…………ニーズヘッグの連中を殲滅し終えた連中まで加勢し始めたからな…………ただでさえ団長クラスの”闘神”を殺った”戦妃”と”聖魔皇女”が呼んだ使い魔の姉ちゃんに苦戦しているのに、そこに”紅の殲滅姫(クリムゾン・ルインプリンセス)”達まで加勢とか、まさに”絶体絶命”の状況やで…………おい、”蒼のジークフリード”やったか?やっぱ、”オルディーネ”はまだ直ってへんのか?」

「…………先月の”イレギュラー”共との戦闘によってオルディーネは機体どころか(ケルン)まで甚大な被害を受けてしまったからな…………”長”が直々にクロスベルから何とか(ケルン)を奪還し、その(ケルン)を元にオルディーネを一から作り直している為、オルディーネの復活は”星杯”が現れる予定日にギリギリ間に合うといった所だ。」
厳しい表情を浮かべているレオニダスの分析に表情を厳しくして頷いた後ジークフリードに訊ね、訊ねられたジークフリードは静かな表情で答えた。
「かといってここで”ゼクトール”を呼んだ所で、クロスベルの二の舞になりそうだから、”ゼクトール”を呼べばむしろ状況は悪化するだろうな。要塞に侵入して、要塞内を逃げ回って連中の目を掻い潜って要塞から撤退する方法もあるが…………問題はここから要塞へ向かっても、”空の覇者”を含めた向こうの飛行戦力がすぐに追いついて挟み撃ちになる危険性があるからな…………さて、どうやってこの状況を切り抜けるか…………」

「「……………………」」
そしてルトガーが現在陥っている自分達の危機的状況を切り抜ける方法を考えていたその時、ゼノとレオニダスは決意の表情を浮かべて互いに視線を交わして頷いた後ルトガーにとって驚きの提案を口にした。
「……………………”蒼のジークフリード”、団長を連れて”転移”で撤退する事は可能か?」

「可能だが…………元々一人用であるこの転移の魔導具で更に一人加えて転移魔導を発動させるには少々時間がかかる。」

「その時間は具体的にはどのくらいや?」

「さすがに専門外の為、5分―――いや、せめて3分ほどあれば可能とは思うが…………」

「おい、お前達まさか…………」
ジークフリードに問いかけたレオニダスとゼノの問いかけを聞いてある事を察したルトガーは血相を変えて厳しい表情でゼノとレオニダスを見つめた。


「ああ…………その”まさか”や。」

「俺達はここに残って団長達が撤退する時間を稼ぎ、俺達自身は自分達の力で血路を開いて撤退するつもりだ。」

「…………短い間やったけど、団長とまた一緒にいれて、楽しかったで。…………ま、最後にフィーと会えなかったことはちょっとした心残りやけど…………サザ―ラントで再会できてんから、それでよしとするか。」

「フィーには遊撃士として成功する事を俺達は祈っている事を伝えておいてくれ。―――さらばだ、団長。」

「おい、待て、ゼノ、レオッ!!」
ゼノとレオニダスはルトガーの制止する声を無視してファーミシルス達へと向かい
「くっ…………早まった真似をしやがって、あの馬鹿野郎共が…………!来な――――『長の指示を破るつもりか?』…………てめぇ、俺に古巣の戦友達を見捨てさせるつもりか?」
それを見たルトガーはサザ―ラントでリィン達に見せた紫色の騎神らしき存在―――ゼクトールを呼ぼうとしたが、ジークフリードに銃口を向けられると呼ぶのを中断してジークフリードを睨みつけた。
「重ねて言うが”地精”はこれ以上の”イレギュラー”が起こる事を望まない。―――ましてや”相克”どころか、”終焉”すらも始まっていない状況でゼクトールの”起動者”たる猟兵王、お前を失う訳にはいかない。…………お前にも何か目的があり、我ら”地精”に雇われたのではないか、猟兵王?」

「…………ッ!馬鹿野郎共が…………ッ!」
ジークフリードに図星を突かれたルトガーは唇をかみしめた後ファーミシルス達に向かって行くゼノ達の背中を辛そうな表情を浮かべて見つめた。


「あら?猟兵王と仮面の男は突撃してこないようだけど、なんのつもりかしら?」

「大方、突撃してくる二人は”猟兵王”と”蒼のジークフリード”が転移による撤退をする時間を稼ぐための”捨石”といった所でしょうね。」

「ほう?自ら殺されに来るとはバカな連中だ。ならばその望み通りにしてやらないとな!」

「ええ、父様達の敵を確実に殺せる機会を逃すわけにはいかないわ!」
一方突撃してくる二人を見て首を傾げているカーリアンにファーミシルスが自身の推測を答え、ファーミシルスの説明を聞いたディアーネとセオビットは凶悪な笑みを浮かべた。
「フウ………この人数でタコ殴りをして殺すとか、弱いもの苛めをしているようで正直、気が進まないんだけど……………………リウイ達から連中の”雇い主”が”幻燐戦争”みたいなことを起こしてそれにイリーナ様とようやく再会できたリウイを含めたメンフィルを巻き込もうとしている事を知った以上、リウイ達の為にも連中の戦力を削れる時には削っておかないとね……………ファーミはお目当ての”猟兵王”を見逃してもよかったのかしら?」
疲れた表情で溜息を吐いたカーリアンだったがすぐに目を細めてジークフリードを見つめた後ファーミシルスに訊ね
「ええ、未来の並行世界から来た新Ⅶ組の情報によると猟兵王も”星杯”で彼らを阻んだとの事だから、猟兵王との決着はそこでつけるつもりよ。」

「あら、そうなの。―――だったらその時は私も猟兵王と殺り合わせてもらうわよ―――!」
ファーミシルスの話を聞いて目を丸くしたカーリアンは口元に笑みを浮かべてファーミシルス達と共に自分達に向かってくるゼノとレオニダスとの戦闘を再開した!そして数分後、ルトガーとジークフリードは転移の魔導具によってその場から撤退する事ができたが、ファーミシルス達に向かって行ったゼノとレオニダスは既に絶命したニーズヘッグの猟兵達同様ファーミシルス達に討ち取られ、それぞれ最後はファーミシルスとカーリアンに首を刈り取られて絶命した!


「ま、こんなもんね。さてと…………こっちは終わった事だし、そろそろ私達もリウイ達の後を―――」

「あ、あの、お久しぶりです!」
ゼノとレオニダスの絶命を確認したカーリアンはファーミシルス達を促して要塞に突入しようとしたが、自分達にとって聞き覚えのある娘の声に呼び止められると振り向いた。
「あら、貴女は…………」

「ティータじゃない!懐かしいわね~、会うのは”影の国”以来だから…………4年ぶりくらいかしら?」
自分達を呼び止めた娘―――ティータを見たセオビットは目を丸くし、カーリアンは懐かしそうな様子でティータに声をかけた。
「えへへ……カーリアンさん達と会うのはそれくらいになりますね。まさかこんな所で会えるとは思いもしませんでしたけど…………」

「フフ、それに関しては私達も同じよ。その制服って確かリィン達が派遣されているエレボニアの士官学院の学生服でしょう?まさか技術者見習いだった貴女が軍人見習いになるなんて、世の中わからないものね~。」

「えへへ…………色々と事情はありますけど、第Ⅱ分校に誘ってくれたオリビエさんのお陰でとても充実した学生生活を送らせてもらっています。」
カーリアンの言葉にティータは嬉しそうな表情をしながら答えた。
「ふふっ、それにしても士官学院で鍛えられた影響なのかわからないけど、随分と度胸がついたみたいね?あれ程の数の死体を目にしても動揺していないのだから。」

「言われてみればそうね…………確か分校長が転生したシルフィアだって話だから、シルフィア――じゃなくてリアンヌのお陰で度胸がついたのかもしれないわね♪」
ファーミシルスの指摘を聞き、ティータが自分達の背後にあるゼノ達の死体を目にしても動揺していない様子に気づいたカーリアンは目を丸くした後興味ありげな様子でティータを見つめた。
「あ……………………あのあの…………さっきカーリアンさん達が討ち取った”西風の旅団”の猟兵の人達の事で気になっていたんですけど…………どうしてカーリアンさんとファーミシルスさんは”らしくない事”―――自分達よりも実力が下の相手をみんなでよってたかって攻撃して殺したんですか…………?」
二人の会話を聞いて複雑そうな表情でゼノ達の死体に視線を向けたティータはカーリアン達に訊ねた。
「あら…………」

「…………詳しい事情は答えられないけど、連中はリウイ様達―――メンフィルにとって後の”災厄の種”になりうる組織に雇われていたから、”結社”の残党同様殺す機会があれば確実に殺す必要があったから、殺しただけよ。」
ティータの指摘にカーリアンが目を丸くしている中ファーミシルスは静かな表情で答えた。
「そう、ですか…………その、今グラーフ海上要塞を占領している元・北の猟兵や結社の”鉄機隊”の人達もやっぱり殺すんですか…………?」

「…………エレボニア政府との取り決めの件もあるから少なくてもリウイ様達は元・北の猟兵に関しては積極的に殺すつもりはないわ。”鉄機隊”に関しては…………リアンヌ次第と言った所でしょうね。」
そしてティータの質問に静かな表情で答えたファーミシルスはグラーフ海上要塞の天守閣に視線を向けた。

その後、その場をトワ達Ⅸ組に任せたファーミシルス達はリウイ達の後を追う為に要塞に突入して、リウイ達の後を追い始めた――――
 
 

 
後書き
という訳でⅢ篇のゼノとレオニダスはここであっさり退場です。 

 

第91話

午前、10:00―――

それぞれ天守閣に続く橋を降ろす装置の前に辿り着いた両チームは装置を起動させてそれぞれの橋を降ろして天守閣へと向かうと、まず最初に主攻チームであるリィン達A班が天守閣に辿り着いた。

~グラーフ海上要塞・天守閣~

「あ、あれ…………?」

「鉄機隊がいないだと…………!?」

「神機はいるようだが…………」

「一体どういうこと…………?今までの結社の”実験”を考えたら連中は必ず神機の近辺に待機していたのに…………」
鉄機隊がいない事にミリアムとユーシスは驚き、ガイウスとサラは真剣な表情で中央に鎮座している神機を見つめた。
「クスクス、パパ達がいるから、敵わないと判断して逃げちゃったのじゃないかしら♪」

「た、確かにその可能性も考えられなくはないのですが…………」

「―――彼女達の誇り高さを考えると、そのくらいの理由で退くとは思えないし、何よりもブリオニア島で戦った時に分校長が自ら姿を現して自分達を裁くかもしれない可能性を覚悟の上で現れたと言っていたから、例え陛下達が俺達に同行していても分校長がここにいるのだから、彼女達は決して退かないだろう。」

「それ程の覚悟をもってフォートガードに現れたという事は鉄機隊はリアンヌ様何か言いたい事や聞きたい事があって、あえて姿を現したのかもしれませんね…………」

「……………………」
レンの推測にセレーネが答えを濁しているとリィンが静かな表情で答え、リィンの話を聞いたイリーナは複雑そうな表情で推測と口にしてリアンヌに視線を向け、リアンヌは目を伏せて黙り込んでいた。
「それにしてもあれが今回の実験で使われた”神機”か。」

「”彼女達”の話によれば、あの神機は転移もそうですが空間に干渉する能力がある事から他の2機の神機と比べると遥かに厄介な機体との事ですが…………」
そしてリウイとエクリアが警戒の表情で神機を見つめたその時
「はあはあ…………お待たせしました!―――って、え………」

「鉄機隊の姿が見当たりませんが…………」

「その代わり神機の姿はありますが…………一体どういうことなんでしょう?」

「まさかとは思うけどそこのガラクタとの戦いで疲弊したエヴリーヌ達に攻撃を仕掛けるために、まずエヴリーヌ達がそこのガラクタと戦うのを待っているとか?」

「いや…………神速を始めとした鉄機隊の面々はそのような合理的な戦術は好まないし、そもそも神機との戦いは今までの事を考えれば騎神(ヴァリマール)や機甲兵達を操縦しての戦いだから直接神機と戦う事になるリィン達はともかく、俺達にはほぼ無意味な戦術だ。」
ユウナ達B班も天守閣に辿り着き、プリネやツーヤは鉄機隊の姿が見当たらない事に戸惑い、エヴリーヌの推測にレーヴェは静かな表情で否定した。


「フム…………とりあえず鉄機隊の事は後回しにして、神機の無力化を先にした方がいいんじゃないかい?」

「ええ、そうですね―――!」
アンゼリカの提案にリィンは頷いたがすぐに神機が動く気配に気づいて血相を変えて神機に視線を向けると神機は起動して立ち上がり始めた。
「神機が…………!」

「どうやら今回の結社の”実験”で戦う相手は入れ替わるみたいね…………」
起動し始めた神機を見たアルフィンは驚き、エリゼは警戒の表情で神機を見つめた。
「だったら、まずはそちらの望み通り神機を無力化させてもらう―――ユウナにクルト、アルティナにゲルド、アッシュにミュゼ!セレーネ、ユーシスにミリアム、ガイウス、サラさん!プリネ皇女殿下にルクセンベール卿、エヴリーヌさん、レオンハルト准将にレン教官も!どうか―――力を貸してくれ!」

「応!!」
リィンの要請に仲間達は力強く頷き
「―――せっかくの機会ですから今回は私も加勢させて頂きます、シュバルツァー。」

「ありがとうございます、分校長!来い―――”灰の騎神”ヴァリマール!!」

「顕現せよ―――”銀の騎神”アルグレオン!!」

「来て―――パテル=マテル!!」
リィンとリアンヌ、そしてレンはそれぞれの相棒の名を呼んだ。
「ティータ、お願い!」

「ヘクトル、ケストレルを頼む!」

「現在地、ビーコンで補正します!」
一方ユウナ達は通信でティータ達に機甲兵を発進させるように連絡をした。
「ハアッ!?」

「”騎神”だと!?」

「銀色の”騎神”…………」

「えええええええっ!?それじゃあ”鋼の聖女”―――”槍の聖女”もリィンやクロウと同じ起動者(ライザー)の一人なの~!?」
リアンヌの背後に現れたアルグレオンを見たサラとユーシスは驚き、ガイウスは呆け、ミリアムは信じられない表情で声を上げた。


~地上~

「応…………!」

「―――――」
一方その頃リィン達からの連絡を受け取ったヴァリマールとパテル=マテルは飛び上がってリィン達の元へと向かい始め
「ブーストキャリア点火や!」

「3(ドライ),2(ツヴァイ).1(アインス),0(ヌル)―――」

「ヘクトル弐型、ケストレルβ、上昇(リフトオフ)…………!」
機甲兵のヘクトルとケストレルはティータ達主計科によって背中に装着したブースターを使って飛び上がり、ヴァリマール達の後を追って行った。
(リィン君、みんなも頑張って…………!)
その様子を見ていたトワはリィン達の武運を祈った。

~要塞内・外壁~

「あら?あれは…………」
同じ頃、ファーミシルス達と共に要塞内の外壁を進んでいたセオビットは飛行するヴァリマール達に気づき
「レンの”パテル=マテル”にリィンのヴァリマール…………?だったかしら。他は機甲兵ね。あら?でも確か機甲兵は飛べないんじゃなかったっけ?」

「RF(ラインフォルトグループ)の開発によって機甲兵が飛行できるブースターが実装されているから騎神達のように飛行できるのでしょうね。しかし騎神達を呼んだという事は天守閣での戦いは佳境に入っているのでしょうね。」
カーリアンの疑問に答えたファーミシルスは静かな表情で現在の状況を推測した。

~天守閣~

そしてヴァリマール達がそれぞれ天守閣に着陸するとリィン達はそれぞれが操縦する機体に乗り込み、レンはパテル=マテルの近くへと移動し、リアンヌは背後に現れたアルグレオンの中へと入って行った。
「おおっ!あれが話に聞いていた”騎神”とやらか!…………ぬ?」
ヴァリマール達が動く様子を興味津々で見ていたリフィアはそれぞれが持つARCUSⅡから光を放ち始めているエリゼ達―――特務部隊や新旧Ⅶ組の様子に気づいた。
「これが聞いていた…………!」

「何て鮮烈な…………」

「ふふ…………あたしも認めてもらえるなんて。」

「アーちゃん、がんばろーね!」

「はい…………!教官たちの力になるためにも!」

「…………あれが”騎神”を介してのリンク機能か。」

「確か話によるとリンクできるメンバーは灰の騎神(ヴァリマール)が封印されていたトールズ本校の旧校舎を攻略したメンバー―――旧Ⅶ組と特務部隊との事でしたが、唯一そのどちらでもないアルフィン夫人まで騎神とリンクできることは少々気になりますね。」

「ふふっ、アルフィン夫人までリンクできるようになった理由はもしかしたら起動者であるリィンさんと結ばれたからかもしれませんね。」
それぞれが戦意を高めている中リウイは興味ありげな様子でヴァリマール達とリンクしているエリゼ達を見つめ、エクリアの疑問にイリーナは苦笑しながら答えた。
「―――伝えた通り、あの機体は”空間”を操る。何をしてくるかわからない!様子を見つつ連携するぞ…………!」

「ハッ、いいだろう!」

「了解しました…………!」

「うふふ、それでは始めましょうか♪」

「ええ―――鉄機隊との決着をつける為の前哨戦、迅速かつ慎重に挑みましょう―――!」
そしてヴァリマール達は神機との戦闘を開始した!”空間”を操る神機は今までの神機と比べると手強かったが、アルグレオンというもう一体の騎神かつリィンよりも遥かに優れた起動者であるリアンヌが加勢したお陰で、ヴァリマール達は苦戦することなく着実にダメージを与えて神機を無力化した!



「―――うむ、見事じゃ!」
ヴァリマール達の勝利を見届けたリフィアは感心した様子で声を上げ
「やったああっ!!」

「アッシュにミュゼもよくやった…………!」

「よかった、これで…………」

「―――ううん、むしろ”ここからが本番”よ。」
リィン達の勝利にユウナ達はそれぞれ喜んでいたが予知能力によってある光景が視えていたゲルドは静かな表情で答え
「え………それは一体どういう…………?」

「―――大方”予知能力”で鉄機隊がこの後すぐに現れ、俺達と対峙する光景が視えたといった所か。」
ゲルドの言葉の意味がわからないペテレーネが不思議そうな表情をしている中既に察しがついたリウイは静かな表情でゲルドに問いかけるとユウナ達はそれぞれ血相を変えた。
「そ、そういえばまだ鉄機隊の方々が残っていましたわよね…………?」

「ええ…………兄様の話によると彼女達はリアンヌ分校長に裁かれる事も覚悟の上でこの地に現れたという事だから、恐らく彼女達にとって最も優先すべき目的はリアンヌ分校長と会う事でしょうし…………」

「―――その通りですわ。」
不安そうな表情で呟いたアルフィンの疑問に頷いたエリゼが推測を口にしたその時、娘の声が辺りに響き渡るとデュバリィ達鉄機隊が転移の魔導具によって姿を現した!


「”鉄機隊”…………!」

「フム…………想定通りやはり、神機の制圧後に現れたか。しかし、今回の”実験”はサザ―ラントやクロスベルの”実験”での流れと若干異なるようだが…………もしかして何か意味があるのかい?」
デュバリィ達の登場に仲間達と共に驚いたサラは警戒の表情で武装を構え、アンゼリカは真剣な表情でデュバリィ達に問いかけた。
「ほう…………”よく気づいた”と本来ならば称賛の言葉をかけるべきかもしれないが…………」

「―――未だ私達を”結社の所属”と判断している時点で、その答えは”的外れ”よ。」

「へ…………」

「その口ぶりだと今の貴女達は”結社”から抜けたように聞こえるが…………」
アンゼリカの推測にアイネスが感心している中、苦笑しながら答えたエンネアの答えを聞いたミリアムは呆け、ガイウスは困惑の表情でデュバリィ達に問いかけた。
「ええ…………ガイウス・ウォーゼルの指摘通り、”今の私達は結社の所属”ではありません。―――正確に言えば先程の”アイオーンTypeαⅡと灰色の騎士達の戦いが始まった時点で結社の鉄機隊としての私達の役目を終えていますわ。”…………最も、”英雄王”達の加勢に加えてマスターが操縦するその銀色の機体の加勢までは完全に想定外でしたが。」

「何だと…………!?」

「い、一体何の為にそのタイミングで結社からの脱退を…………」

「恐らく事情はリアンヌさん関連なんでしょうけど…………それでしたら何故、わざわざ元・北の猟兵達と協力してこの要塞を占領するような罪を重ねてまでリアンヌさんと会う事にしたんですか?会うだけでしたら他にももっと穏便なやり方があったと思うのですが…………」
デュバリィの答えを聞いたユーシスは驚き、セレーネが戸惑っている中、ツーヤは静かな表情でアルグレオンに視線を向けた後デュバリィ達に問いかけた。
「それについては我々も元・北の猟兵達と同じ穴の狢と言えば理解できるかな?」

「”元・北の猟兵達と同じ穴の狢”って………」

「…………なるほどね。アンタ達も連中のように”結社の鉄機隊としての意地”を見せる為に、今回の騒動に関わっていたのね…………」
アイネスの答えにユウナが目を丸くしている中事情を察したサラは複雑そうな表情でデュバリィ達を見つめた。
「ええ、そうよ。―――まあ、私達”鉄機隊”が終わりを迎えているのは2年前マスターが結社と決別し、”英雄王”に新たな忠誠を誓った時点でしょうね。自分で言うのもなんだけどお仕えするマスターを失ってもなお、2年も”既に終わった鉄機隊”を続けられたと思っているわ。」

「そして今こうしてこの場に現れたのはマスター―――いえ、あえてこの場では”シルフィア・ルーハンス卿”と呼ばせて頂きます。シルフィア卿からマスターの件も含めた更なる詳しい事情を聞くためですわ!」

「あ…………」

「”シルフィア・ルーハンス”…………?」

「確か”ルーハンス”はあの娘―――ミントがメンフィルから貴族の爵位を貰った時の貴族としての家名だそうだけど…………もしかして、何か関係があるのかしら?」

「…………第Ⅱ分校の件を聞いてからずっと気になっていたが槍の聖女―――いや、”鋼の聖女”が結社を離反してメンフィルに所属を変えた経緯は俺達も知らなかったな…………」

「そうだよね~。今までみんな忙しかったから、事情を知っていそうなプリネ皇女達から聞く暇もなかったもんね~。ちなみにアーちゃん達も鋼の聖女の件について何か知っているの~?」

「…………まあ、ある程度は。」
デュバリィの話を聞いたイリーナは呆けた声を出して辛そうな表情でアルグレオンに視線を向け、聞き覚えのない名前を聞いたゲルドは不思議そうな表情をし、サラは考え込み、ユーシスの疑問に続くように呟いたミリアムに訊ねられたアルティナは静かな表情で答えた。
「…………そうですね。ちょうどいい機会ですから、リアンヌ様が何故結社を離反してお父様に忠誠を誓った理由を皆さんにもお話しします―――」
するとその時プリネが静かな表情で申し出て、リアンヌの事についてリアンヌと同じ”転生者”の例としてエステルの事情も含めて説明をした。



「鋼の聖女―――いや、槍の聖女にかつて”メンフィルの守護神”と称えられた程の武人の魂が宿った事で、槍の聖女はその”シルフィア・ルーハンス”という人物の生まれ変わりになっただと!?」

「しかもその人物がメンフィル建国時からリウイ陛下達に仕えていたファーミシルス大将軍閣下達と同じ昔からの忠臣の一人にしてリウイ陛下の側妃の一人にしてシルヴァン皇帝陛下の母君でもあるとは…………」

「それにエステルまでメンフィルの関係者―――それも”英雄王”の側妃達の生まれ変わりだったなんてね…………」

「あの人、ただでさえ”カシウス・ブライト直系の娘にして空の女神の血族”なんていうとんでもない出自なのに、そこに加えて”英雄王”の側妃達の生まれ変わりだとか一体どこまでボク達を驚かせば気がすむの~~!?」

「つーか、そんな非常識過ぎるオカルトが実在するなんて、普通に考えてありえねえだろ…………」

「フフ、本物の天使や悪魔どころか神々や魔王まで実在するディル=リフィーナという異世界自体が私達ゼムリア大陸の人々にとっては非常識なのですから、分校長がそのシルフィア卿という人物の転生者という話も今更かと♪」

「クスクス、確かにディル=リフィーナと比べたら分校長の事情も”今更”よね♪」
事情を聞き終えたユーシスは驚きの声を上げ、クルトは信じられない表情で一端ヴァリマール達から降りたリィン達同様アルグレオンから降りたリアンヌを見つめ、サラとミリアムは疲れた表情を浮かべてエステルの顔を思い浮かべ、呆れた表情で呟いたアッシュにミュゼは微笑みながら指摘し、ミュゼの指摘にレンは小悪魔な笑みを浮かべて同意した。
(ア、アハハ…………皆さん、予想通りの反応でしたわね…………)

(ああ…………ただ、鉄機隊の口ぶりからして彼女達も分校長がシルフィア卿の生まれ変わりである事は分校長から聞かされていたようだが…………)
驚いている様子の仲間達を見て苦笑しているセレーネの小声に頷いたリィンは静かな表情でデュバリィ達を見つめた。
「―――それで私から詳しい事情を聞くためにこの場に現れたとの事ですが、一体何を知りたいのですか?」

「単純な話ですわ…………シルフィア卿、貴女は一体いつからマスター―――リアンヌ様からシルフィア・ルーハンスの生まれ変わりになったのですか?」
静かな表情で問いかけたリアンヌの問いかけにデュバリィは決意の表情でリアンヌに訊ねた。


「あ…………」

「確かにシルフィア様の転生した時期によっては彼女達は途中から主を失った事になりますね…………」

「あれ?そういえばシルフィアが転生した時期っていつだっけ?」

「”鋼の聖女”に生まれ変わった事までは俺達も”影の国”で聞いてはいたが、転生した時期までは聞いていなかったが…………」
デュバリィの問いかけを聞いて事情を察したペテレーネは呆けた声を出して辛そうな表情でシルフィアを見つめ、静かな表情で呟いたエクリアの言葉を聞いてある事が気になって来たエヴリーヌは首を傾げ、レーヴェは静かな表情で呟いてリアンヌを見つめた。
「…………―――いいでしょう。リアンヌ・サンドロッドの自我と一体化した結果”私”―――シルフィア・ルーハンスの生まれ変わりとなった時期は8年前、当時遊撃士であった”剣聖”カシウス・ブライトが指揮を取った各国の軍や警察組織の連携による外道の集団―――”D∴G教団殲滅作戦”の完遂を見届けた時です。」

「!!」

「そんなにも前からリアンヌ様は生まれ変わっておったのか…………」
リアンヌの答えを聞いたデュバリィは目を見開き、リフィアは目を丸くして呟いた。
「8年前のあの件…………という事は少なくても私がマスター達と出会う前ね。」

「私もだ。デュバリィ、お前はどうなのだ?お前が鉄機隊の中で最も早くマスターに見いだされた一番の古株だろう?」
一方当時の事を思い返していたエンネアの後に答えたアイネスはデュバリィに訊ね
「…………私の場合はギリギリではありますが、マスターと出会った時点で既にマスターはシルフィア卿になっていたようですわ。」

「!そうか…………」

「つまり私達は結果的とはいえ、最初からシルフィア卿にお仕えしていたのね…………」
デュバリィの答えを聞いて目を見開いたアイネスは静かな表情で呟き、エンネアは僅かに安堵の表情を浮かべて答えた。そしてデュバリィ達は少しの間黙り込んで互いの顔を見合わせて頷いた後リウイに視線を向けて口を開いた。


「―――”英雄王”―――いえ、リウイ・マーシルン前皇帝陛下。貴方に提案がありますわ。」

「鉄機隊が俺に提案だと?―――一体なんだ。」

「それは…………―――我ら結社の元・鉄機隊をマスター―――リアンヌ・ルーハンス・サンドロッド様直属の騎士としてお仕えする事を許可して頂く事です。」

「対価として先程灰色の騎士達が無力化したそちらの神機―――アイオーンαⅡを自爆させずにそちらに差し上げますし、今後はメンフィル帝国に仕えるマスターの剣として、そして盾としてメンフィル帝国の戦力となる事をお約束致します。」

「ですがその前に”結社の鉄機隊の最後の意地”を見せる為に、今回この場に現れた”特務部隊”メンバーとの決戦を許可して頂きたいのですわ。」

「な――――――」

「えええええええええええええっ!?鉄機隊が所属を結社からメンフィルに寝返る~~~!?」

「しかもその前にリィン達”特務部隊”と決戦をするとか、意味不明よ…………」

「それ以前に今回このような騒動を起こした貴様らにそのような都合がいい事がまかり通ると思っているのか?」
鉄機隊の驚愕の提案にリィンは思わず絶句し、ミリアムは驚きの声を上げ、サラは疲れた表情で溜息を吐き、ユーシスは厳しい表情でデュバリィ達に指摘した。
「ええ。―――NO.Ⅱの件を考えればメンフィル帝国は罪無き民達に刃を向けるような”外道”な真似をしなければ、例え結社や猟兵のような裏に生きる者達もメンフィル帝国自身が謳い文句としている”光と闇の勢力を区別せず、全て共存する”という謳い文句通り、受け入れています。エレボニア出身の貴方たちにとってはあまり面白くはない話でしょうが、メンフィル帝国とエレボニア帝国の”力関係”を考えれば、”この程度の些事”でしたら通ると思っていますわ。」

「それに確か例の灰色の騎士へ要請(オーダー)は結社の所属であった私達の処遇についても灰色の騎士―――メンフィル帝国に委ねられているのだから、メンフィル帝国が私達の処遇を決定するならば、エレボニア帝国政府も文句を言えないでしょう?」

「え”。」

「ア、アハハ…………まさかお兄様の例の要請(オーダー)をそのように利用してくるとはわたくし達も全く想定していませんでしたわね…………」

「というか、リィンに討伐か捕縛されるはずだった君達がリィンの要請(オーダー)を利用してメンフィルに投降するとか色々と間違っていない!?」
デュバリィとエンネアの答えに表情を引き攣らせて思わず呟いたリィンをセレーネは苦笑しながら見つめ、ミリアムは疲れた表情で指摘した。
「ど、どうしましょう、リウイ様…………?」

「神機―――それも神機の中でも”空間を操る能力”という最も優れた機体が手に入る事もそうですが、鉄機隊がレオンハルト准将のようにメンフィル帝国の戦力になる事はメンフィル帝国にとっても利は十分にある話ではありますが…………」
一方ペテレーネとエクリアは困った表情でリウイに判断を委ね
「…………ハア…………黒の工房や結社の戦力を確実に消耗させるためにわざわざ今回の件に介入したのに、こんな話になるとは完全に想定外だ…………―――が、確かにメンフィルにとっても悪くない提案ではあるな。――――――そういう訳だからリィン・シュバルツァー。鉄機隊の提案について文句はないな?」
判断を委ねられたリウイは疲れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してリィンに確認した。
「は、はあ…………”蛇狩り”も関係している今回の要請(オーダー)に関しては”討伐”か”捕縛”ですから、自ら投降を申し出たこの場合だと一応”捕縛”という形になりますから要請(オーダー)通りですし…………というかそもそも要請(オーダー)を出したのは陛下達ですから、陛下達がそう判断した以上、自分には反論のしようがないですし…………」

「ちょっ、ええっ!?こんな大騒動を起こした人達を許して、今までの罪の償いもさせずにエレボニア帝国から庇うなんて間違っていません!?」

「ユウナさん、幾ら隠居の身とはいえ、リウイ陛下はメンフィル帝国の皇族でしかも、メンフィル帝国の初代皇帝ですよ。」

「…………無礼を承知で意見させて頂きますが、彼女の言う通り、エレボニア帝国政府に話を通す事もなくそのような事を独断で決めるのは筋が通ってはいないのではないでしょうか?」
リィンまでリウイの確認の問いかけに頷くと驚きの声を上げたユウナは真剣な表情でリウイを見つめて反論し、アルティナはリウイ相手にも怖気づく事無く意見するユウナに忠告をし、ユーシスもユウナに続くように真剣な表情を浮かべてリウイに意見をした。
「我らメンフィルは先程”神速”が口にしたように、本来ならば敵対同士となるであろう光と闇の勢力を区別せず、全て受け入れて共に生きる―――”全ての種族との共存”を謳っている。レオンハルトの例のように、メンフィルは過去敵対関係であった者達も我らメンフィルの謳い文句にして理想である”全ての種族との共存”に恭順を示すのであれば、”外道”でなければ受け入れている。そもそも列車砲の件もそうだが、この要塞の不当占拠の”主犯”は元・北の猟兵で、結社の関係者の処遇についてはリィン・シュバルツァーへの例の要請(オーダー)にもあったように我らメンフィルに優先権がある。よって、鉄機隊の処遇についてエレボニア帝国政府がリィン・シュバルツァーに要請(オーダー)を出した時点で口出しする権利はない。」

「…………それは…………」

「……………………」

「…………確かに結社の関係者の処遇も任せられている例の要請(オーダー)を持ち出されると我々としても反論し辛いですね。―――ちなみにまさかとは思いますが今回の件も、もう一人のエレボニア側のカイエン公爵候補と話がついているのですか?」
リウイの正論に対して反論し辛いユーシスは答えを濁し、サラは複雑そうな表情で黙り込み、アンゼリカは疲れた表情で溜息を吐いて気を取り直して一瞬だけミュゼに視線向けた後真剣な表情でリウイに訊ねた。
「さすがに鉄機隊の件までは想定外の為、例のもう一人のエレボニア側のカイエン公爵候補にもまだ話は通していない―――が、向こうも我らメンフィルと自分達―――エレボニア側のカイエン公爵家を含めたエレボニアの貴族勢力の和解の為に”普通に考えれば非常識な条件”をこちらにも求めてくるだろうから、こちらがその条件の一部を受け入れる事を条件にすれば鉄機隊の件についても呑むだろう。」

(クスクス、少なくても自分がリィンお兄さんの伴侶になる条件は確実にレン達に呑ませるでしょうね♪)

「………フフッ……………」

(あん…………?)

(あの娘ったら、メンフィル帝国にどんな条件を求めるつもりなのかしら…………?)
リウイの答えを聞いたレンは小悪魔な笑みを浮かべ、静かな笑みを浮かべているミュゼの様子に気づいたアッシュが眉を顰めている中アルフィンは疑惑の目でミュゼを見つめていた。
「―――それとユウナ・クロフォード。お前の言っている事は2年前のクロスベル動乱の主犯の一人である”風の剣聖”アリオス・マクレインにも当てはまる事に気づかないのか?」

「そ、それは…………で、でも!アリオスさんは今もノックス拘置所で罪を償っていますし、ご自身の罪を償う為に先月のクロスベルで起こった結社の”実験”の時も教官達に協力してくれましたよ!それに対して、鉄機隊の人達は結社時代に犯した罪を償っていないじゃないですか!」
リウイに指摘されたユウナは辛そうな表情で一瞬答えを濁したがすぐに反論した。
「その件に関しては心配無用だ。――――少なくても鉄機隊にはお前の目でも確認できる償い方を考えている。」

「「へ。」」

「ふむ…………一体どのような償い方になるのだろうな?」

「フフ…………私はどういう形で償う事になるか、今のリウイ陛下の話を聞いて何となく予想はできたわ。」
リウイの答えにユウナとデュバリィの双方が同時に呆けた声を出している中、興味ありげな様子で考え込みながら呟いたアイネスにエンネアは苦笑しながら答えた。


「それと念の為に確認しておくがリアンヌ、鉄機隊はああいっているが、お前自身の答えとしてはどうなんだ?」

「…………二つ、彼女達に確認したい事があります。デュバリィ、シュバルツァー達―――”特務部隊”を”結社の鉄機隊最後の相手”として選んだ理由は”七日戦役”でのメンフィル帝国軍によるパンダグリュエル制圧作戦から始まった因縁の相手だからですか?」

「ええ、そうですわ。欲を言えばリアンヌ様だった頃のマスターがお仕えしていた主であるかの”獅子心皇帝”が建てた学び舎で学ぶ者達であり、特務部隊の者達と共に何度も私達の前に立ち塞がった”Ⅶ組”とも決着をつけたかったですが…………彼らは特務部隊と違い、メンフィル帝国による指示に従う義務は存在しませんから除外したのですわ。」

「フフ、ちなみに灰色の騎士達に加勢したかったら加勢しても構わないわよ?―――本気になった私達”鉄機隊”には人数による戦力差は関係ないもの。」

「うむ、むしろ我々にとってはより闘志を燃やせる戦いとなるだろう。」

「―――まあ、アルゼイドの娘や西風の妖精(シルフィード)を欠いて”紫電(エクレール)”頼りである旧Ⅶ組と、マスターの薫陶のお陰で”少々実力を付けた程度の新Ⅶ組”が灰色の騎士達に加勢した所で大した障害ではありませんもの。」
リウイに促された後に問いかけたリアンヌの質問にデュバリィが答えた後エンネアとアイネスはそれぞれ不敵な笑みを浮かべてユーシス達を見回し、デュバリィは新旧Ⅶ組に対する挑発の言葉を口にし、それを聞いたⅦ組メンバーを除いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「あんだと…………!?」

「むっかー!そりゃラウラやフィーはボク達旧Ⅶ組じゃ最強コンビだけど、だからと言って二人やサラがいなくてもボク達でも君達と十分渡り合えるよ~!」

「フン、安い挑発だな。――――――だが、北の猟兵共の”全力”に応えてやったリウイ陛下のように、かのドライケルス大帝が建てた”トールズ”出身として俺達も”鉄機隊の意地”を見せようとする貴様等の本気に応えてやる為に、あえてその挑発に乗ってやる。」

「内戦で何度も戦った鉄機隊との決戦…………リィン達特務部隊だけに任せるのは”筋が通らない”。だからリィン、オレ達も加勢させてもらう…………!」

「及ばずながら自分達新Ⅶ組も加勢させて頂きます…………!」

「フフ、私達もブリオニア島でつけられなかった決着をつける権利はありますものね♪」

「うん、それに私達も”Ⅶ組”だから、彼女達の全力に応える義務はあるわ。」

「ふふっ、今回は教え子達はあたしの助けを必要としなさそうだし、あたしは高見の見物をさせてもらいましょうか。」

「フッ、では彼女達との因縁が薄い我々もサラ教官と共にリィン君達やⅦ組のみんなと鉄機隊の決着を見届けましょうか、殿下。」

「ええ、そうですわね。」

「ぬう~…………こんなことになるのじゃったら、余も特務部隊への参加に申し出るすべきじゃったな…………」

「例え申し出ても幾ら何でもリフィアお姉様の特務部隊への参加はお父様もそうですがシルヴァンお兄様も許可しなかったと思いますよ、リフィアお姉様…………」
デュバリィの挑発に乗ったアッシュとミリアムはデュバリィを睨み、ユーシスは鼻を鳴らした後真剣な表情で答え、ガイウスとクルトはリィンに参戦を申し出、微笑みながら答えたミュゼの答えにゲルドは頷き、その様子を見守っていたサラとアンゼリカ、アルフィンは観戦する事に決め、残念そうな表情で呟いたリフィアにプリネは疲れた表情で答えた。
「ア、アハハ…………何が何だか…………」

「何でもいいからさっさと遊ぼ。前よりは楽しめそうだしね、キャハッ♪」

「やれやれ…………だが、心しておけ―――”星洸陣”を使った鉄機隊はかつての俺の”本気”に迫る程の連携力だ。」

「かつてのレーヴェさんの”本気”に迫る程ですか…………確かにそれならば数の利は活かせないかもしれませんね。」
セレーネは苦笑し、エヴリーヌは無邪気な笑顔を浮かべ、呆れた表情で溜息を吐いた後気を取り直して答えたレーヴェの話を聞いたツーヤは表情を引き締めてデュバリィ達を見つめた。


「フフ…………―――デュバリィ、エンネア、アイネス。最後の確認ですが…………貴女達は私が”アリアンロード―――リアンヌ・サンドロッド”ではない事を承知の上で、再び私の下で研鑽を積みたいのですか?」
それぞれ闘志を高めているⅦ組や特務部隊の様子を見て微笑んだリアンヌは気を取り直してデュバリィ達に問いかけた。
「はい!…………大陸辺境の小貴族に生まれ、故郷と家族を喪い、両親の仇を取る事もできずに嬲られようとした哀れな小娘がせめて一対一となるよう、間引き…………仇を取った小娘を拾い、根気よく導いて下さったのはマスター―――シルフィア卿であることは変わりませんもの。そしてそれはエンネアとアイネスも変わりませんわ。」

「ああ…………一度は遊撃士協会(ギルド)に所属した事もあったが、規約に縛られた遊撃士の紋章など投げ捨てて構わないと思える程の気高く、慈悲深く、しかし容赦なく悪を断つあの武に一目で魅せたのは貴女です―――マスター。」

「フフ…………かのD∴G教団による幼い頃からの洗脳と異能開発された私と死闘を繰り広げ、敗北してそのまま果てる事も受け入れようとしていた私に『せめて己の目で世界を見てみなさい』なんて言ったのは貴女なのですから、責任をもってこれからも私を導いてください。―――どんな事情があってもマスターはマスターですよ。」

「ハアッ!?」

「このタイミングでさり気なくとんでもない事実を連続で暴露するとか理解不能です。」

「へえ?まさか鉄機隊の一人が”教団”の関係者だったなんて、凄いスクープね♪」

「…………彼女達の出自についてレーヴェは知っていたのかしら?」

「―――いや、”神速”が帝国貴族の出身であることは知っていたが他の二人に関しては初耳だな。」

「…………彼女達がリアンヌ分校長に心酔している真の理由が今ようやくわかりましたね。」

「ああ…………」
リアンヌの問いかけに頷いた後に答えたデュバリィ達が口にしたそれぞれの驚愕の過去に仲間達がそれぞれ驚いている中サラは思わず驚きの声を上げ、アルティナはジト目で呟き、レンは興味ありげな様子でエンネアを見つめ、プリネに訊ねられたレーヴェは静かな表情で答え、エリゼの言葉にリィンは静かな表情で頷いた。
「そうですか…………―――いいでしょう、ならば私はトールズ第Ⅱ分校の分校長として、そして鉄機隊の主として此度の決戦、見届けさせて頂きます。―――双方、全力をもって遺恨を残す事なく正々堂々互いの決着をつけなさい!」

「イエス・マム!!」

「イエス・マスター!!」
デュバリィ達の答えを聞いて静かな笑みを浮かべたリアンヌは双方に対して指示をし、リアンヌの指示に対して双方はそれぞれ力強く答えた後リィンは”鬼の力”を解放し、デュバリィ達”鉄機隊”は互いを結び合う事で様々な恩恵を受けられる戦術リンクに似た能力―――”星洸陣”を発動し
「おおおおおおお…………っ!」

「はああああああ…………っ!」
リィンとデュバリィが同時に雄たけびを上げながら突撃し始めた事を合図に決戦を新旧Ⅶ組と特務部隊のメンバーは鉄機隊との決戦を開始した――――――
 
 

 
後書き
3章は残り全てが完成しましたので、今日から3章が終わるまでは久しぶりの連日更新をします。ちなみに3章は最後の最後で唯一まだ登場せず、光と闇の軌跡シリーズや運命が改変された少年シリーズで皆勤賞だった戦女神シリーズのあのキャラがようやく登場します!(ニヤリ)なお、鉄機隊戦のBGMは碧の” Unfathomed Force”か閃Ⅳの”Endure Grief”のどちらかだと思ってください♪ 

 

第92話

~グラーフ海上要塞・天守閣~

「そこだっ!」

「セイッ!」

「「ぐっ!?」」
互いに突撃した二人は同時に武器を繰り出したが、互いの武器がぶつかり合った衝撃によって同時に仰け反り
「行くわよ―――ピアスアロー!!」

「させません―――刃よ、行きなさいっ!」
仰け反ったリィンの隙を狙ったエンネアがクラフト―――ピアスアローを放った事に対してエリゼはクラフト―――連接剣伸張で放たれた矢を叩き落し
「くふっ♪遊んであげる―――五連射撃!!」

「逃がさない―――ヤァァァァァッ!!」

「お熱いですがご容赦を―――シュート!!」

「―――盾よ!!」
エンネア同様遠距離攻撃ができる武装を持つエヴリーヌ、ユウナ、ミュゼも仰け反ったデュバリィに遠距離攻撃のクラフトを放ったがそこにアイネスが前に出てクラフト―――秩序の盾を発動してデュバリィと自分に襲い掛かった遠距離攻撃を無効化した。
「ブリューナク起動、照射。」

「――――――」

「ぶっ放せ~!!」

「――――――」

「「「!!」」」
左右からそれぞれレーザーを放ったクラウ=ソラスとアガートラムの遠距離攻撃に対してデュバリィ達は同時に後ろに跳躍をする事で散開せずに回避をした。
「「「――――――」」」

「させないわよ―――ハアッ!!」

「―――聖なる盾よ!!」
それぞれ魔術の詠唱を開始したセレーネ、ツーヤ、ゲルドを見たエンネアは魔術の発動を妨害すると共に動きを封じ込める為に石化の効果を持つ矢を放つクラフト―――メデュースアローを放つとユーシスがクラフト―――プラチナムシールドを発動してセレーネ達を襲い掛かる石化の矢から守り
「そこだっ!!」

「無駄だ!!」

「くっ!?」
クラフトを放つ為に逃げ場のない空中へと跳躍したエンネアにガイウスとレーヴェはそれぞれの武装から異なる竜巻を繰り出してダメージを与え
「もらったぜ―――オラアッ!!」

「走れ―――飛天翔駆!!」

「セイッ!砕け散れっ!!」

「チィッ!?」

「く…………っ!?」
追撃をする為に放ったアッシュのクラフト―――ランブルスマッシュと全身に風の魔力を纏った状態で跳躍して空から奇襲するクルツのクラフト―――飛天翔駆で攻撃したがアイネスがクラフト―――兜割りで二人の攻撃を防ぐと共に反撃をし、反撃を受けた二人は追撃を受けない為に一端下がった。
「行きますわよ―――ハアッ!!」

「雷よ―――瞬雷!!」
デュバリィが遠距離から一気に詰め寄って攻撃するクラフト―――神速ノ太刀に対してはプリネが雷の魔法剣を凄まじい速さの突撃と共に繰り出す魔法剣技で相殺し
「秘技―――裏疾風!斬!!」

「くっ!?」

「きゃっ!?」

「むっ!?」

「―――旋風斬!!」

「うふふ、これはどうかしら?―――玄武の鎌撃!!」
リィンがかまいたちを纏った電光石火の連続攻撃でデュバリィ達にまとめてダメージを与えた後そこにレーヴェが続けて 旋風のごとく剣で弧を描くように広範囲を斬りつけるクラフトで、レンはデュバリィ達の左右の側面から襲い掛かる広範囲の衝撃波を放つクラフトで追撃をした。


「「「「聖なる水よ、奔流となり、我が仇名す者達に裁きを――――リ・カルナシオン!!」」」
その時魔術の詠唱を終えた3人がそれぞれ全く同じ内容の魔術―――デュバリィ達の足元から凄まじい威力の水のエネルギーを発生させる魔術でデュバリィ達にダメージを与え
「輝け――――――セレブレイトアーツ!!」

「どっかーん!氷結雷撃!!」

「走れ、雷の矢よ―――ネメシスアロー!!」

「落ちよ―――救世の聖雷!!」

「魔の雷よ、応えなさい―――メ・ベルデ!!」

「「キャアアアアアアッ!?」」

「ぐうううううっ!?」
そこに短時間の間魔法攻撃の威力を上げると共に消費魔力やEPを軽減するミュゼが発動したブレイブオーダーの後にエヴリーヌ、ユーシス、エリゼ、レンがそれぞれ詠唱時間や駆動時間が短い雷を発生させる魔術やアーツで追撃をし、水の魔術を受けた事で全身が濡れていた所に雷撃を受けたデュバリィ達はそれぞれ感電した事で思わず悲鳴を上げた。
「四の型・改―――紅蓮斬り!!」

「光の一撃、受けてみなさい!ハァァァァ……ッ!スマ――――ッシュ!!」

「おぉぉぉぉ…………!獅子――――――衝撃波!!」

「”ベガルタ”起動―――斬!!」
そこにリィン、ユウナ、レーヴェ、クラウ=ソラスとシンクロしたアルティナがそれぞれの一撃離脱技のクラフトでデュバリィ達に追撃をし
「ハァァァァ……ッ!斬り裂け!!」

「おらよっと―――逝っちまいなぁ!!」

「竜巻よ―――薙ぎ払え!!」

「ガーちゃん、ハンマー!それぇっ!!」
リィン達の追撃が終わるとクルト、アッシュ、ガイウス、ミリアムがそれぞれ”テンペストエッジ”、”デッドリーサイズ”、”タービュランス”、”スレッジインパクト”とそれぞれの広範囲を攻撃するクラフトで更なる追撃をデュバリィ達に叩き込んだ。リィン達による怒涛の総攻撃を受けたデュバリィ達は普通に考えれば戦闘不能になるか、戦闘不能直前のダメージを受けているかと思われたがリィン達の攻撃が終わるとダメージを負いつつも無事な様子のデュバリィ達がそれぞれ武装を構えていた!


「ええっ!?あれだけの連続攻撃を耐えるなんて…………!」

「――――鉄機隊の”星洸陣”はメンバーのあらゆる能力を強化する事もあるが、受けたダメージを自動回復する効果も付与されている。恐らくそれが影響しているだろう。」

「ちょっ、そんなのずるくない!?」

「というか既に向こうが発動しているリンク効果を知っているのでしたら、予めわたし達にも説明しておいてほしかったのですが。」

「うふふ、おしゃべりはそこまでにしておきなさい。」

「ああ…………―――来るぞ!!」
総攻撃を受けてもなお耐えたデュバリィ達を見て驚いているユウナに説明したレーヴェの話を聞いたミリアムは驚き、アルティナはジト目でレーヴェに文句を言い、反撃の構えをしたレンとリィンが仲間達に警告をするとデュバリィ達が反撃を開始した。
「今度は私達の番ですわ―――”星洸陣”の真骨頂、その身をもって思い知りなさい!アイネス、エンネア!」

「応!!」

「援護するわ!―――どうかしら!?うふふ…………」
デュバリィの号令にアイネスと共に力強く応えたエンネアは跳躍して空から無数の矢を放ってリィン達にダメージを与えると共にその場を動かないように牽制をし
「フン―――砕け散れ!!」
エンネアの攻撃が終わるとアイネスが跳躍をしてリィン達に斧槍を叩き付けて衝撃波を発生させて追撃をし
「見切ってみなさいな―――斬!!」
止めはデュバリィが分け身と共に神速で斬り込んでリィン達にダメージを与えた!


「くっ…………まさかあれ程の連携力があるなんて…………セレーネとミュゼ、アルティナは先程のダメージの回復を!他は反撃だ!―――とにかく連携力を落とすためにまずは一人ずつ確実に潰していくぞ!」

「おおっ!!」
デュバリィ達の連携技―――デルタストリームに耐えたリィンは仲間達に指示を出し
「教官、まずは誰を一番最初に制圧するの?」

「――――まずは後方からの援護を行っている”魔弓”を最優先に制圧する。」

「クスクス、後方からの援護を先に潰せば敵の脅威度は一気に下がるから”戦の定石”ね♪」

「ついでに言えば後ろから魔術や遠距離攻撃する奴って前衛と比べたら、弱いしね。ま、エヴリーヌは違うけど、くふっ♪」
ゲルドの質問に答えたリィンの説明を聞いたレンは小悪魔な笑みを浮かべ、エヴリーヌは不敵な笑みを浮かべた。
「あらあら…………指名されちゃったわね。」

「フフ、まあ戦術としては定石で間違ってはいないが…………」

「”星洸陣”を発動している私達に定石が通じるのならば、やってみやがれですわ!」
一方リィン達の会話を聞いたエンネアは口元に笑みを浮かべながらも目は笑っていない状態でリィン達を見つめ、それぞれリィン達の作戦通りにさせない事を決意したデュバリィとアイネスはそれぞれ迎撃の構えをした。
「聖なる光よ、我らに癒しを―――キュア・プラムス!!」

「回復します―――アルジェムヒール!!」

「蒼珀の雨よ、我等に癒しを――――サフィールレイン!!」

「回復してあげるわ―――ヒールアロー!!」
セレーネ達がそれぞれ魔術やクラフトでリィン達のダメージを回復するとエンネアも回復の光を降り注がせる矢を空に放って自分達のダメージを回復した。
「ガーちゃん、お願い!!」

「――――――」

「行くぞ―――セイッ!雷咬牙!!」

「「「!!」」」
ミリアムのクラフト―――メガトンプレスとガイウスのクラフト―――雷咬牙による空からの奇襲に気づいたデュバリィ達は同時に側面に連続で跳躍して回避し
「十六夜―――”燐”!!」

「――――――剛裂斬!!」
ツーヤが抜刀による広範囲の真空の刃を放つとアイネスがクラフト―――剛裂斬で相殺し
「まだだ!ハァァァァァァ…………そこだっ!!」

「二の型―――洸波斬!!」

「行くわよ―――アクセルアロー!!」

「―――盾よ!!」
クルトがクラフト―――双剋刃、リィンがクラフト―――洸波斬でそれぞれ遠距離からの追撃に対してクラフトを放った事で僅かに硬直していたアイネスにエンネアがその硬直をなくしてすぐに動けるようになる特殊な矢を放ってアイネスをすぐに動けるようにし、すぐに動けるようになったアイネスは前に出て再び絶対障壁を展開してクルトとリィンが放った遠距離攻撃を防いだ。
「行くぞ―――斬!!」

「おぉぉぉぉ…………剛雷剣!!」
自分達に近づいてきてクラフト―――アークブレイドを繰り出したユーシスのクラフトに対してデュバリィは雷の魔法剣による薙ぎ払いで相殺し
「―――破砕剣!ハァァァァァァ…………ッ!」

「おぉぉぉぉぉ…………っ!」
ユーシスの後に繰り出したレーヴェの連続攻撃に対してデュバリィも連続攻撃を繰り出して相殺し
「止めだ―――むんっ!」

「…………っ!!」
最後に放たれた強烈な斬撃を盾で防いだ。
「―――フェヒテンケニヒ!!」

「あうっ!?」
そこにプリネが大きく踏み込んだ強烈な突きでデュバリィの防御を崩してダメージを与え
「崩したわ!」

「追撃する―――イルヴェングス!!」
デュバリィの態勢が崩れるとプリネとリンクを結んでいるレーヴェが高速剣を繰り出して追撃を叩き込んだ。
「「アークス駆動―――」」

「「「―――――――」」」

「時の結界よ―――砕け散れ!!」

「イクシオン・ヴォルト!!」

「ダイヤモンド・ノヴァ!!」

「ホーリーバースト!!」

「アルカナの崩壊!!」

「ライトアロー!!」

「「キャアアアアアアッ!?」」

「ぐううううううっ!?」
その時アーツを放つ為にオーブメントを駆動させていたアルティナとミュゼ、魔術の詠唱をしていたセレーネ、エリゼ、ゲルドにユウナが詠唱や駆動時間を省略させるクラフト―――クイックスターでアルティナ達の駆動や詠唱時間を省略してすぐに魔法を発動させ、アルティナ達が発動した頭上と足元に加えて広範囲と、まさに逃げ場のないアーツや魔術を受けたデュバリィ達はそれぞれ怯んだ。


「うふふ、それじゃあアッシュ、手筈通り頼むわよ?―――グラビティスフィア!!」
そこに転移魔術でアッシュと共にデュバリィ達の背後に現れたレンが重力の魔力球を放ってエンネアを自分達の元へと引き寄せ
「クク、任せとけや―――さ~てと…………喰らえやっ!」

「キャアッ!?」

「クク、油断大敵ってな。」
レンが引き寄せたエンネアをアッシュがクラフト―――ヴォイドブレイカーで追撃した。
「そんじゃ、エヴリーヌが止めの一撃を放つまでちゃんと時間を稼いでおいてね。」

「ああ、任せろ!コォォォォ…………ハアッ!!風よ―――俺に力を貸してくれ!うぉぉぉぉぉっ!カラミティ―――ホーク!!」
そこにレンとは逆側にエヴリーヌが転移魔術でガイウスと共に現れてエンネアを挟み撃ちにするとガイウスは体力と引き換えに闘気と攻撃力を得る猛き野生の咆哮―――黄金吼で自身を強化した後跳躍して命中すると竜巻を発生させる風を纏わせた十字槍を構えてエンネア目がけて突進してエンネアに大ダメージを与えた。
「これで終わりだよ――――――闇に呑まれちゃえ!」

「く…………っ!?」
ガイウスのクラフトが終わると凄まじい闇の魔力と闘気を番えた矢に溜め終えたエヴリーヌが自身の背後に現れた無数の闇の魔力球を放ってエンネアを怯ませ
「くふっ♪死ね。アビス・ロアー!!」

「あ――――――」
止めに巨大な闇の矢を放った!巨大な闇の矢はエンネアを呑み込み、闇の超越爆発を起こした!
「カハッ…………!?ここまで…………みたい…………ね…………」
エヴリーヌの深淵の究極弓技によるダメージに耐え切れなかったエンネアは戦闘不能になり、地面に跪いた!


「くっ…………エンネアがやられてしまいましたか。ですが、一人欠けようが星洸陣は健在ですわ!行きますわよ、アイネス!」

「応!―――砕け散れ!!」
エンネアの戦闘不能を見たデュバリィは唇をかみしめたがすぐに気を取り直してアイネスに呼びかけ、呼びかけられたアイネスはリィン達に強烈な衝撃波を放ったが
「無駄だ。」
レーヴェがクラフト―――零ストームで相殺し
「ふふ…………見切れますか?―――斬!!」

「―――見切った!下がれ!!」
分け身と同時に斬りかかったデュバリィにはリィンがクラフト―――孤月一閃で相殺してデュバリィとアイネスの連携攻撃―――デュアルアタックを無効化した。
「(刻の歌)――――――♪」

「っ!?しまった…………!」

「身体が…………!?」
するとその時ゲルドが短時間だけ敵全員の動きを完全に止める共鳴魔法―――刻の歌・タイムストップを歌ってデュバリィとアイネスの動きを完全に封じ込め、それを見て好機と判断したリィン達は総攻撃で一気にたたみかけた!
「ぶっ放せ~!!」

「――――」

「ブリューナク、照射!!」

「逃がさない―――ヤァァァァァッ!!」
ミリアムとアルティナ、ユウナは二人を包囲してそれぞれ遠距離攻撃で二人を怯ませ
「光よ、我が剣に―――ホーリーインパクト!!」

「風よ……!ハァァァァァ……ッ!――――斬り刻め!!」

「闘技―――月影剣舞!!」

「十六夜―――斬!!」

「むんっ!荒ぶる炎よ―――鬼炎斬!!」
3人の攻撃が終わるとセレーネ、クルト、プリネ、ツーヤ、レーヴェはそれぞれ広範囲のクラフトで追撃した。
「今から魔法をかけてさしあげます―――フフ…………お綺麗ですよ?」
セレーネ達の攻撃が終わるとミュゼは片手に顕現化した魔法陣を放ち、ミュゼの放った魔法陣によってデュバリィとアイネスは氷の華によって包まれ
「覚悟を決めるがいい―――セヤアアッ!―――ハアッ!!」
そこにユーシスが二人に詰め寄って氷に包まれた二人に連続突きを叩き込んだ後その場で跳躍し
「まばゆき光よ我が剣に力を!!」
空中で指で印を結んで印を結んだ指で剣の刃を這わせて、剣を聖剣へと変化させ
「ブリリアント―――ショット!!」

「アイオロス―――セイバー!!」
ミュゼが魔導騎銃で止めの一撃を放つと共に、ユーシスは聖剣を二人目がけて解き放った!ミュゼが放った一撃は氷の中を反射しながら最後は氷と共に炸裂し、ユーシスの聖剣は光の大爆発を起こした!
「これで止めだ!―――エリゼ、一緒に行くぞ!」

「はい、兄様!!」
二人のSクラフトが終わると決着をつける為にリィンはエリゼと共に凄まじい闘気を全身に纏い、二人合わせて”鳳凰”の姿を形どって同時に突撃した。

「「比翼―――鳳凰撃!!」」

「あぐっ!?そ、そんな…………この私が…………」

「フフ…………見事…………だ…………」
二人のコンビクラフトを受けてついにダメ―ジに耐え切れず戦闘不能になったデュバリィとアイネスはそれぞれ地面に跪いた!


「―――勝負あり!勝者―――Ⅶ組と特務部隊の混合部隊!」

「リィンさん、皆さん…………!」

「フフッ、現代の”鉄騎隊”をも超えるとは本当にみんな成長したね…………」

「ええ、ユーシス達もそうだけど新Ⅶ組のみんなも本当によくここまで成長したわね…………」

「うむ、双方よい戦いじゃったぞ!」
デュバリィ達の戦闘不能を見届けたリアンヌはリィン達の勝利を宣言し、リィン達の勝利にアルフィンやアンゼリカ、サラはそれぞれは嬉しそうな表情を浮かべ、リフィアは満足げな様子で双方に対して感心していた。
「やったぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ハア…………ハア…………これが本気を出した”鉄機隊”か…………」

「フフ、まさかたった3人で数倍以上の人数差を埋めるなんてさすがは分校長自らが”武”を教えた弟子にして”現代の鉄騎隊”と言うべきでしょうか。」

「うん…………それにブリオニア島で戦った時とは比べ物にならないくらいの気迫を感じたわ…………」

「…………とにかく、疲れました…………」

「ハッ、あの星洸陣とかいう鬱陶しいのがなかったら、もっと早く勝てたんだがな。」
自分達の勝利にユウナは喜び、ミュゼやゲルドはデュバリィ達の強さについての感想を口にし、アルティナは疲れた表情で溜息を吐き、アッシュは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「えへへ、ボク達の勝ちだね~!わーい!やったー!!」

「後輩達もいる目の前で子供のようにはしゃぐな、阿呆。みっともないだろうが。」

「フフ…………」
無邪気に喜んでいるミリアムにユーシスは苦笑しながら指摘し、その様子をガイウスは微笑ましそうに見守っていた。
「――――これで貴女達の望み通り、俺達と貴女達の決着はついた。一応念の為に聞いておくが、まだ続けるつもりか?」

「見損なわないでください…………決着がついた以上、そのような無粋な真似はしませんわ。」

「ふふっ、”星洸陣”まで破られてしまった以上、我らも”完敗”を認めるしかあるまい。」

「そうね…………正々堂々互いに全力を出しあった決着だから文句はないわ。」
元の姿に戻って太刀を鞘に収めたリィンの問いかけにデュバリィは静かな表情で答え、自分達の敗北にアイネスとエンネアは清々しい様子で答えた。
「――――とはいっても、今の決着はあくまでⅦ組・特務部隊の混合隊と鉄機隊の決着であって、貴方達との決着はついていませんから、これで勝ったと思わない事ですね―――”灰色の騎士”にNo.Ⅱ!!それとアルゼイドの娘にも、仲間達が私達に勝ったからと言って自分も勝ったと思うのは大間違いであることも伝えておきなさい!」

「やれやれ…………100戦以上も剣を交えていながら、まだ凝りていないのか…………」

「大人げなさすぎです、”神速”の。」

「ハハ…………機会があれば、後日”模擬戦”という形なら喜んで受けさせてもらうよ。」
すぐに気を取り直してリィンとレーヴェを睨んだ後サラ達を睨んで声を上げたデュバリィの主張にリィン達やリウイ達だけでなくエンネアとアイネスも冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中レーヴェとアルティナは呆れた表情で呟き、リィンは苦笑しながら答えた。

その後、リウイ達は天守閣に辿り着いたカーリアン達と合流してフォートガードとオルディスの国境付近に滞空していたパンダグリュエルを呼び寄せて神機を回収した後、プリネ達と共に天守閣へと移動した揚陸艇に自分達に投降した鉄機隊と共に乗り込み、その様子をリィン達が見守っていると最後にリアンヌと共にデュバリィが乗り込もうとしたその時デュバリィは立ち止まった。


「…………?」

「―――その様子ですと、まだ彼らに言いたい事があるのですか、デュバリィ。」
立ち止まったデュバリィの様子をリィンが不思議そうな表情で見つめていると、デュバリィの心情を察したリアンヌがデュバリィに問いかけた。
「はい。―――トールズ本校並びに第Ⅱ分校”Ⅶ組”。貴方達は例え特務部隊―――外国の組織の協力を得たとはいえ、私達―――”槍の聖女”でもあるリアンヌ様直々から薫陶を受けた現代の”鉄騎隊”たる我ら”鉄機隊”の”本気”に勝利したのです。今後も結社を含めた強力な使い手達が貴方達の前を阻む事になるでしょうが…………例え相手がどれだけ強大な存在であっても、負ける事は許しませんわよ!貴方達は結社最強”鋼の聖女”アリアンロード様直属にして、その実力は”執行者”にも劣らない私達”鉄機隊”の”本気”に勝利したのですから、精進していずれ貴方達に再戦を叩き付ける私達に負けるまでは誰にも負けるんじゃありません事よ!」
デュバリィは決意の表情でⅦ組の面々に指を突き付けて激励の言葉を送り
「あんた…………」

「フフ…………」
デュバリィのⅦ組に対する激励にサラは驚き、リアンヌは微笑み
「ああ…………!」

「フン、リベンジはいつでも受けてやろう。」

「次に会った時は貴女が好敵手扱いするのは”アルゼイド”だけでなく、”ヴァンダール”も含まれるように今以上により一層精進させてもらう。」

「ハッ、テメェに言われなくてもオレ達は誰にも負けるつもりなんてさらさらねぇぜ。」

「それじゃあ、いつか会う時まで元気でねー♪」
デュバリィの激励に対してガイウスは力強く頷き、ユーシスは鼻を鳴らして口元に笑みを浮かべ、クルトは真剣な表情でデュバリィに宣言し、アッシュは不敵な笑みを浮かべて答え、ミリアムは無邪気な笑顔を浮かべて手を振り
「―――!フフ、近い内彼女達と邂逅する所が今”視えた”から、”いつか”じゃなくて”その内”だと思うわ。」

「え”。」

「ゲルドさん、予知能力で視えたとはいえ、そういったこの場の空気を壊すような事は今後は黙っておくように気をつけた方がいいですよ。」

「フフ、ゲルドさんは一体私達と彼女達がどのように邂逅する未来を視たのか、個人的には気になりますわね♪」
静かな笑みを浮かべて答えたゲルドの宣言にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ユウナは思わず声を上げ、アルティナはジト目で指摘し、ミュゼは微笑みながら答えた。そして揚陸艇に乗り込んだリウイ達を見送ったリィン達は協力して戦後処理を始めた。


その後、ウォレス准将の指揮でフォートガード周辺の治安は回復し…………瞬く間に混乱は収束していった。第Ⅱ分校や遊撃士達、ミリアム、ガイウスも手伝い…………ユーシスとアンゼリカはハイアームズ侯やパトリックと協力してこの大騒動の事後処理を行うのだった。

なお、バラッド侯は拘束された状態から救出され…………周囲に当たり散らしていたがもはや相手にする者はいなかった。更には統合地方軍への不当な介入、列車砲や海上要塞を奪われ、クロスベル領であるオルディス地方との国際問題へ発展しかけた失態を追及する声も上がり始めていた。そして、その夜――――――
 

 

外伝~ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン~前篇

領邦会議、2日目(最終日)

~フォートガード・カイエン公爵家第二城館~

「方々、よろしいですな!?前公爵は2年前の内戦で既に戦死し、前公爵直系の娘達は他国―――クロスベル帝国に帰属した以上、もはや前公爵の娘達を再びエレボニアの貴族として復帰する事は叶いますまい!ならば早急に次期公爵を推挙する必要があるのです!四大名門を揃え、貴族全体が生き残る為にも!」
自分が追いつめられている立場である事を理解していたバラッド侯爵は必死の様子で演説をしたが、会議に出席している貴族達は誰も言葉を口にする事なく何の反応もしなかった。
「ど、どうしたのだ…………!?わかっているのであろうな!?ワシはエレボニアのカイエンを継ぐ唯一の―――」
周りの貴族達の反応に戸惑ったバラッド侯爵が主張を続けようとしたその時、ユーシスとアンゼリカが立ち上がってバラッド侯爵に対して宣言をした。
「――――此度の件、そして度重なる公費の私的乱用…………」

「四大名門の現当主、並びに当主代理として結論しました。」

「バラッド侯―――次期公爵候補から貴公を正式に外させていただく。オルディスのユーディット皇妃陛下からも、此度の騒動に巻き込まれたオルディス地方は貴公を次期公爵候補から外せば、エレボニア・クロスベル間の国際問題には発展させないようにヴァイスハイ皇帝陛下並びにギュランドロス皇帝陛下の代理であるルイーネ皇妃陛下を説得すると確約して頂いている。」

「!?」

「コホン…………それではお入りください。」

「…………失礼します。」
二人に続くように立ち上がって宣言したハイアームズ侯爵の宣言にバラッド侯爵が驚いたその時、バラッド侯爵の背後に控えていたパトリックが言葉を口にすると少女の声が聞こえてきた。すると”長髪のミント髪の少女”とレンが部屋に入ってきた。
「あの娘は…………?」

「メ、メンフィル帝国のレン・H・マーシルン皇女殿下…………今年の春に新設されたトールズの分校に教官の一人としてメンフィル帝国から派遣され、その分校が”演習”という形でフォートガードに滞在しているとは聞いていたが。」

「な、なんだ…………どこかで見たような…………」
二人の登場に諸侯達が戸惑っている中、バラッド侯爵は困惑の表情で少女をよく見つめ、少女が意味ありげな笑みを浮かべると少女がミュゼであることに気づいた。
「な…………!?もしやその顔―――」「

「前公爵クロワール・ド・カイエンが姪にして現クロスベル側のユーディット・ド・カイエン公爵代理の従妹。ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します。―――お久しぶりですね、大叔父様。」
驚いているバラッド侯爵に対して恭しく礼をしたミュゼ――――――ミルディーヌ公女は自己紹介をした後バラッド侯爵に対して意味ありげな笑みを浮かべた。
「……………………」

「公子アルフレッドの忘れ形見か…………!」

「まあ、前カイエン公の兄君で海難事故で亡くなられたという…………!」
エレボニア側の新たな次期カイエン公爵候補にして、バラッド侯爵よりも遥かに候補としての資格があるミルディーヌ公女の登場にバラッド侯爵が驚きのあまり口をパクパクしている中諸侯達は興奮した様子で公女ミルディーヌを見つめた。
「ふ、巫山戯るなぁああっ!こんな茶番、認められるものかああっ!」
そしてウォレス准将が合図をすると統合地方軍の兵士達はみっともなく喚くバラッド侯爵をその場から無理矢理連れ出した。


「…………それでは方々、採決をお願いします。こちらの公女ミルディーヌ殿をエレボニアの次期カイエン公に推挙するか否かを。」

「善きかな!」

「異議なしだ!」
バラッド侯爵が締め出されるのを確認したパトリックが諸侯達に確認すると、諸侯達は満場一致を示すかのように全員拍手をし、その様子をイーグレット伯爵夫妻が見守っていた。
「――――それではご挨拶の代わりに、最後の議題を追加させていただきます。帝国政府からの圧力と、彼らが帝都の夏至祭以降に進めようとしている”計画”。即ち、メンフィル・クロスベル連合への侵攻と、『国家総動員法』への対策について――――――」
その後席についたミルディーヌ公女はある議題を挙げて、それについての説明をし、説明を終えると諸侯達はそれぞれ驚きの声を上げた。


「な…………っ!?」

「りょ、領邦軍だけでなく、メンフィル・クロスベル連合とも盟を結んで鉄血宰相―――帝国正規軍に対抗するですと…………!?」

「た、確かに彼らと盟を結ぶことができれば、形勢は一気に逆転して、ミルディーヌ殿達―――”ヴァイスラント決起軍”の勝利は固いが…………」

「メンフィル帝国のレン皇女殿下がミルディーヌ殿と共にこの場に現れ、傍聴を続けている事に疑問を抱いておりましたが、まさか既にメンフィル帝国との盟を結べた為、それを示すために殿下がミルディーヌ殿と共に現れたのですか…………!?」
公女ミルディーヌが考えている”対策”の内容に驚きの声を上げた諸侯達の中の一人は公女ミルディーヌの背後に控えているレンに問いかけ
「フフ、(わたくし)に関しましてはあくまで”トールズ第Ⅱ分校の教官として”、建前上は実家である”イーグレット伯爵家に外泊する”という理由でアーヴィング主任教官にも内密で演習地を抜け出して今回の会議に出席している公女殿の付き添いの教官としているだけですわ。」

「”レン教官”も仰ったように、この場でのレン教官の立場はあくまで”第Ⅱ分校の教官として”ですわ。―――最も、レン教官には教官のご家族であるメンフィル帝国の皇族の方々への繋ぎをして頂き、”今回この会議に出席して頂けるように取り計らって頂きましたが。”」
諸侯達の問いかけにレンは上品な笑みを浮かべて答え、レンに続くように答えたミルディーヌ公女の説明に諸侯達は血相を変えた。
「”メンフィル帝国の皇族の方々がこの会議に出席して頂けるように取り計らって頂いたという事”は…………!?」

「まさか…………リウイ陛下達がフォートガードの地に現れた”真の理由”は―――!」

「――――長らくお待たせして申し訳ありません。皆様方、お入り下さいませ。」
ミルディーヌ公女の説明に諸侯の一人が驚きの声を上げ、ある事に気づいたユーシスが推測を口にしたその時ミルディーヌ公女は自分が現れた時の扉に視線を向けて宣言した。
「――――失礼する。」

「――――失礼します。」
すると扉が開かれ、扉からはリウイ、イリーナ、ユーディット、キュアが現れた!
「あ、貴方方は…………!?」

「メ、メンフィル帝国の前皇帝夫妻であられるリウイ・マーシルン皇帝陛下とイリーナ・マーシルン皇妃陛下…………!?」

「そ、それにクロスベル帝国のカイエン公爵当主代理にしてヴァイスハイト陛下の側妃でもあられるユーディット皇妃陛下とその妹にして次期カイエン公爵であられるキュア公女殿まで…………!?」

「まさかバラッド侯どころか我々にも気取られないように彼らと既にコンタクトを取り、今回の会議に出席するように手配をしていたとは…………」

「やれやれ…………どうやら、ラクウェルでのヴァイスハイト陛下達との会合は要塞の件だけでなく、この会議での件も含まれていたようですね?」
リウイ達の登場に諸侯達が驚いている中ハイアームズ侯爵は信じられない表情でミルディーヌ公女を見つめ、アンゼリカは溜息を吐いた後真剣な表情でリウイ達に問いかけた。
「―――そういう事だ。――――――現メンフィル大使、リウイ・マーシルン。メンフィルを含めた西ゼムリア大陸の平和を乱そうとする鉄血宰相共の謀への対策の為に今回の会議にメンフィルを代表してイリーナと共に出席する事となった。」

「リウイの正妻のイリーナと申します。以後お見知りおきを。」

「クロスベル側のカイエン公爵当主代理にして、元エレボニア帝国領の”総督”を務めているユーディット・ド・カイエンと申します。―――お久しぶりですね、帝国貴族の皆様方。」

「ユーディットの妹のキュア・ド・カイエンです。今回私達の従妹であるミルディーヌの嘆願を了承したヴァイスハイト・ギュランドロス両皇帝陛下の意向を受けてクロスベルを代表して姉ユーディットと共に此度の会議に出席する事になりましたので、どうかよろしくお願いいたします。」
それぞれ自己紹介をしたリウイ達はそれぞれ席につき、ミルディーヌ公女と共に今後の事について説明し始めた。


「なんと……………………」

「まさか現時点で帝国政府の動きを読み、その対策として既にそこまで話を進めているとは、さすがは公子アルフレッドの忘れ形見と言うべきか…………」

「…………リウイ陛下、イリーナ皇妃陛下。先程の説明を聞いて新たな疑問が出てきたのですが、恐れながらその疑問をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
説明を聞いた諸侯達がそれぞれ驚いたり思考している中、ユーシスは真剣な表情でリウイとイリーナに問いかけた。
「何を知りたい?」

「先程ミルディーヌ殿の説明の中に2年前の内戦と”七日戦役”でできてしまった貴国と我々エレボニア帝国の貴族勢力の”溝”を埋める為に、ミルディーヌ殿自らがアルフィン殿下のように貴国の英雄であるロード=リィンの側室として政略結婚をする予定だと仰っていましたが、その件については貴国もそうですが、当事者であるロード=リィンも既に了承しているのでしょうか?」

「その件につきましてはこの後オルディスで行う私達とミルディーヌ殿の交渉の場にて決定しますので、この場では確言はできませんが…………万が一、当事者であるリィンさんもそうですが新たな側室を増やす決定権を持つリィンさんの正妻予定であるエリゼさんが了承せず、その件が流れましてもメンフィル(私達)は彼の代わりとして、可能な限りミルディーヌ殿の希望に合ったメンフィル皇家の者をエレボニア側の次期カイエン公爵であるミルディーヌ殿の婿養子として出すつもりです。」

「2年前の”七日戦役”の件があったにも関わらず、エレボニアの為にメンフィル皇家にそこまでして頂けるとは…………」

「それ程までに鉄血宰相達が―――帝国政府が進めようとしている”計画”はメンフィル帝国も重く見ているという事ですか…………」
ユーシスの疑問に答えたイリーナの答えに諸侯達はそれぞれ驚いたり顔を見合わせたり、考え込んだりしていた。
「ふふっ、イリーナ皇妃陛下が仰った事はあくまで”万が一”で、私としましては次期エレボニア側のカイエン公として、そして私個人としてもロード=リィンの側室の一人として彼と結ばれたい事を強く希望していますから、この希望は絶対に通すつもりですが♪」

「全くこの娘は…………」

「アハハ…………」
小悪魔な笑みを浮かべたミルディーヌ公女の話にユーディットは呆れ、キュアは苦笑していた。
「しかし…………ミルディーヌ殿は本当にそれでよろしいのでしょうか?確かに2年前の”七日戦役”と内戦を終結へと導いたかの”灰色の騎士”殿はメンフィル帝国もそうですが、我が国にとっても”英雄”であり、次期クロイツェン統括領主と”公爵”へと陞爵する事が内定しているシュバルツァー家の次期当主に内定している彼はミルディーヌ殿にとって相応しい伴侶かと思われますが…………ミルディーヌ殿もご存じのように彼には既にアルフィン殿下を含めた多くの伴侶が存在している上、アルフィン殿下の件も考えると彼と結ばれればミルディーヌ殿も例外なくアルフィン殿下のように彼の伴侶としては序列の低い伴侶となってしまいますが…………」

「その件につきましては先程も説明しましたように、エレボニア側のカイエン公爵家の当主である私が序列の低い伴侶としてロード=リィンと結ばれるからこそ、”尊き血”を重視した前カイエン公爵―――クロワール叔父様が起こした内戦やそれに付随して勃発した”七日戦役”の件で一般的に見て”血統主義”である我々エレボニア貴族に対して”七日戦役”や内戦の件で思う所があるメンフィル帝国に、”血統主義”であった私達エレボニア帝国貴族は内戦と”七日戦役”の件で今までの行いを反省して変わろうとしている事やメンフィル帝国に対して野心を抱いていない事を知っていただくために、エレボニアの貴族達の中でも絶大な権力を持つ私自らがあえて彼の伴侶としては序列の低い伴侶として結ばれる事でメンフィル帝国に信用して頂けるのですわ。それに私の婿となる事でクロワール叔父様やバラッド大叔父様のようにカイエン公爵家が持つ権限を乱用しようと考える者が出る事を防ぐ措置でもありますから、カイエン公爵家として、エレボニアの貴族全体として、そして私個人としても十分に”利”がある話です。」

「む、むう…………確かに言われてみれば…………」

「そもそも”灰色の騎士”は野心や権力争いといったものとは無縁だったシュバルツァー卿に育てられた訳ですから、父君であられるシュバルツァー卿の理念を受け継ぐ彼も恐らくカイエン公爵家の当主の伴侶として持てる権限にも興味はもっていないと思われますものね…………」

「第一彼は温泉郷であるユミルしか領地をもたなかった領主から一気に広大なクロイツェン州の約8割を統括する事になる領主に内定しているから、カイエン公爵家を含めたエレボニアの権力に関わっているような暇はないだろう。」
ミルディーヌ公女の考えに反論できない諸侯達はそれぞれ納得した様子で考えていた。
「フフ、要はクロスベル帝国でも貴族として存続する為に平民でありながら皇帝へと成りあがったヴァイスハイト陛下に嫁いだユーディお姉様と同じようなものですわ♪―――もしかしたら、キュアさんもそうなるかもしれませんが♪」

「フウ………実際その通りだから反論はできないけど、そこでわざわざ私を例えに出す必要はないでしょう。」

「それとさり気なく縁談すらまだの私まで含めようとしないでよね…………」
小悪魔な笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の話にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ユーディットとキュアは疲れた表情で溜息を吐いた。


「……………………ミルディーヌ殿、貴女のしようとしている事は理由は違えど、前カイエン公であるクロワール卿と同じ―――いえ、それ以上のアルノール皇家に対する謀反であり、エレボニアの未来をメンフィル・クロスベル連合に――――――他国に委ねることになる事は理解していらっしゃっているのでしょうか?」

「当然、覚悟の上です。このまま帝国政府の計画が進めば、エレボニアに待っているのはメンフィル・クロスベル連合――――――いえ、西ゼムリア大陸全土の各国が盟を結んだ連合に無謀な戦争を仕掛けた挙句敗戦し、滅亡するだけの未来です。それを未然に食い止める為にはオズボーン宰相達を廃し、オズボーン宰相を重用しているユーゲント皇帝陛下にもオズボーン宰相を重用した責任を取って皇位から退いて頂かなければなりません。それと臨時政府の件は先程も説明したようにあくまで”期間限定”ですので、その期間が過ぎれば当然メンフィル・クロスベル両帝国には政府から撤収して頂きますし、私を含めたヴァイスラント決起軍の関係者達も政府から撤収する事をリベール、レミフェリア、七耀教会も参加してもらう予定となる国際会議にて宣言し、公文として残すつもりですわ。」
静かな表情で問いかけたハイアームズ侯爵に対してミルディーヌ公女は決意の表情で答え
「その…………ミルディーヌ殿は帝国政府の計画は必ず破綻し、戦争の為に戦力を増強した正規軍もエレボニアを除いた西ゼムリアの国家の連合軍に敗戦すると仰っていましたが………正規軍が連合軍に勝利する可能性は一切考えていないのでしょうか?」

「逆に聞きますが、今の正規軍―――いえ、エレボニアにエレボニアを除いた西ゼムリアの国家による連合軍に勝利できる要素がどこにあるというのですか?”百日戦役”、”七日戦役”共にメンフィル帝国軍に対して圧倒的な敗北をしてかつては”大陸最強”を誇っていた自分達が”井の中の蛙”である事を思い知らされた挙句、その”代償”として国力のおよそ5割とRF(ラインフォルトグループ)を失った今のエレボニアに。メンフィル帝国―――一国にも勝てないエレボニアが、共和国を飲み込んで大国となり、RFを手に入れたクロスベルとも連合を組んだメンフィルやリベール、そしてレミフェリアの連合軍に勝利できる可能性は”ゼロ”と言っても過言ではありませんわよ。」

「それは…………」
諸侯の一人はミルディーヌ公女にエレボニアの可能性を指摘したがミルディーヌ公女の正論を聞くと気まずそうな表情でリウイやユーディットに視線を向けて黙り込んだ。
「ユーディット皇妃陛下、リウイ前皇帝陛下。先程ミルディーヌ殿が仰った臨時政府の件については既に両帝国も承認しているのでしょうか?」

「はい。クロスベルは既にヴァイスハイト陛下並びにギュランドロス陛下の代理を務めておられるルイーネ皇妃陛下からも承認を頂いています。」

「メンフィルは先程も説明したように、ミルディーヌ公女との正式な交渉はこれからだが……………………臨時政府の件については現メンフィル皇帝であるシルヴァンからも承認をもらっている。」
アンゼリカの質問にユーディットとリウイはそれぞれ答えた。
「他にも質問がある方々も全て回答致しますので遠慮なく質問をお願いします―――」
そしてミルディーヌ公女は諸侯達を見回して問いかけた。


その後会議は進み、会議を終えるとミルディーヌ公女はリウイ達と共にレンの転移魔術によってオルディスの城館へと移動し、オルディスでリフィアと、外出届けを出して既にリフィア達と合流していたエリゼを交えて交渉を始めた。


~クロスベル帝国領・オルディス・カイエン公爵城館~

「―――改めてになるが、エレボニア側の次期カイエン公爵への内定、メンフィル帝国政府並びに現メンフィル皇帝・父シルヴァンに代わり祝福する、ミルディーヌ公女よ。」

「この身にとっては過分なお言葉、心より感謝致しますわ、リフィア殿下。それとレン教官、エリゼさん。私の希望通り、御二方ともエリゼさんも今回の交渉の場にお連れするように足労して頂いた事、心より感謝致しますわ。」
リフィアの賛辞に恭しく礼をしたミルディーヌ公女はリフィア達と共に席についているエリゼやレンに視線を向けて感謝の言葉を口にした。
「うふふ、別に大した事はしていないから気にしなくていいわよ。」

「…………私はリフィア殿下の専属侍女長として…………そして兄様の正妻予定の婚約者としてこの場に同席する義務がありますから、私にまで感謝する必要はございません、ミルディーヌ公女殿下。」
ミルディーヌ公女の感謝に対して二人はそれぞれ謙遜した様子で答えた。
「まあ…………この場にはお互いをよく見知った者達しか同席していないのですから”ミルディーヌ公女殿下”だなんて、他人行儀な呼び方をする必要はありませんわ、”エリゼ卿”。私達は将来、愛するリィン教官を支える伴侶同士となるのですから、”新参者”である私としましても既にリィン教官の伴侶となった姫様もですが、将来リィン教官の伴侶になる事が確定しているエリゼさん達とも是非仲良くしたいと思っているのですから♪」

「…………なるほど。やはり私やアルフィンが睨んでいた通り、貴女は”灰色の騎士”である兄様に憧れる他の有象無象の女性達と違って”本気”で兄様と結ばれたいと思っているようですね。」

「ぬおっ!?エ、エリゼよ…………幾らこの場には親しい者達しか同席していないとはいえ、この場は正式な交渉の場じゃから落ち着いてくれ…………!」

「よくリィン様の正妻予定のエリゼさんの目の前で堂々とそんな宣言ができるよね、ミルディーヌは…………」

「ハア…………本当にこの娘はもう…………」
エリゼの自分への呼び方にミルディーヌ公女はわざとらしく寂しげな笑みを浮かべた後微笑みを浮かべてエリゼを見つめ、それを見たその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エリゼは膨大な威圧を纏って微笑むミルディーヌ公女と見つめ合って火花を散らし、エリゼの隣にいたリフィアは思わず驚いて表情を青褪めさせながらエリゼを諫めようとし、キュアとユーディットは呆れた表情で溜息を吐いた。
「―――早速だが、”本題”に入らせてもらう。レンから予めミルディーヌ公女が望むメンフィル帝国に対する要望を聞いてはいるが…………互いに思い違いがないかどうかを確かめる為とその要望内容の詳細を知らない今回この場を提供してくれたクロスベル側のカイエン公爵令嬢姉妹にも知ってもらう為にも、その要望内容をこの場にいる全員に聞かせるが構わないな?」

「はい、お願いしますわ。」
リウイの問いかけにミルディーヌ公女が頷くと、リウイはミルディーヌ公女のメンフィル帝国に対する要望内容を口にした。


1、2年前の”七日戦役”時にメンフィル帝国が占領した貴族連合軍の旗艦”パンダグリュエル号”をエレボニア側のカイエン公爵家の当主であるミルディーヌ公女への返還

2、ギリアス・オズボーン討伐後に行う帝国政府の解体並びにメンフィル帝国、クロスベル帝国、ヴァイスラント決起軍による臨時帝国政府の期間は最長でもエレボニアの次期皇帝として帝位に付いてもらう予定のリーゼロッテ皇女が成人するまで。

3、ギリアス・オズボーンの件で責任が追及されるであろうユーゲント皇帝を含めたアルノール皇家に対する処罰内容で決してユーゲント皇帝達の命を奪うような内容ではない事。

4、メンフィル側のクロイツェン次期統括領主にしてシュバルツァー公爵家の次期当主であるリィン・シュバルツァーとミルディーヌ公女の婚約を認める事。(なお、ミルディーヌ公女のリィン・シュバルツァーの妻としての序列は交渉時点での最下位。)


「私達―――クロスベルに要望を出した時と同じように政府やユーゲント陛下達の件、それにリィン様の件までは想定していたけど、パンダグリュエルの返還の要望まで出していたの…………!?」

「―――ミルディーヌ、一体何の為にパンダグリュエル―――”戦艦”までメンフィル帝国に返還してもらおうと思ったのかしら?」
ミルディーヌ公女の要望内容を知ったキュアが驚いている中ユーディットは真剣な表情でミルディーヌ公女に問いかけた。
「帝国貴族の方々にエレボニア側のカイエン公爵に就任したばかりの私の”手柄”と”力”を示す為ですわ。」

「”手柄”と”力”…………?…………あ…………」

「…………なるほどね。バラッド大叔父様を退けたとはいえ、まだ10代の貴女の能力に疑問を抱く帝国貴族達に、2年前の”七日戦役”で敗戦させられた国であるメンフィル帝国から貴族連合軍の旗艦であったパンダグリュエルを返還してもらえるという”手柄”をたてる事で交渉を含めたカイエン公爵家の当主として相応しい能力がある事を貴女の能力に疑問を抱く帝国貴族に知ってもらう為ね。」

「”力”は親メンフィル派…………ううん、親メンフィル・クロスベル連合派に見られるミルディーヌに反感やバラッド大叔父様のようにエレボニア側のカイエン公の地位を簒奪する野心を抱く帝国貴族達が逆らえないと思えるような”力”だよね?」
ミルディーヌ公女の答えを聞いてミルディーヌ公女の狙いをすぐに悟った姉妹はそれぞれミルディーヌ公女に確認した。
「ふふっ、さすがですわね。―――話を戻しますが、その”対価”となる条件もレン教官を通じて陛下達にお伝え致しましたが、いかがでしょうか?」

「要望内容の内1~3については特に問題ないと既にシルヴァンからも回答をもらっている。」

「問題は要望内容の4なのじゃが…………公女も知っての通り、シュバルツァー家は”七日戦役”を含めた今までの功績によって、メンフィル皇家の分家と同格の大貴族になる事が内定しておるのじゃから、そんなシュバルツァー家の”意志”を無視してまで勝手にリィンの婚約者を増やす訳にはいかん。―――一応リィンの両親であるシュバルツァー男爵夫妻には既にその件を説明して、当事者であるリィン達が承諾するのならば二人もリィンとミルディーヌ公女の婚約を承諾するとの回答をもらってはいるが…………」

「エリゼさん、正直な所ミルディーヌ公女の件はどう思っているのですか?」
ミルディーヌ公女の確認にリウイが静かな表情で答え、リフィアはエリゼを気にしながら説明を続け、イリーナがエリゼに訊ねた。
「…………例え、政略結婚であろうとも彼女が私達のように心から兄様を想っているのでしたら、兄様の新たな伴侶の一人として増やしても構わないと思っています。―――ですが、彼女の事をよく知るアルフィンからの話通りの人格ですと、彼女が本当に兄様の事を愛しているのかどうか今でも疑問を抱いています。」

「ふふっ、姫様がエリゼさんに私の事をどんな風にお伝えしたのか興味はありますが…………エリゼさんが私のリィン教官への想いをそんな風に思っていたなんて、心外ですわ。―――お望みでしたら、ユーディお姉様のようにすぐにリィン教官に私が今まで守っていた純潔を捧げる上リィン教官が望まれるのでしたらいつでもこの身を捧げて喜んで犯されますし、何でしたら姫様のように”婚約者同士の親交を深める為”にエリゼさんやセレーネ教官を含めたリィン教官の他の婚約者の方々も交えてリィン教官から寵愛を頂いても構いませんわよ♪」

「どうしてそういった話になると何度も私を例に出すのよ…………」

「そ、それよりもミルディーヌ、エリゼさんどころかアルフィン殿下達とリィン様の…………その…………リィン様達にとってはリィン様達以外には知られたくない事実まで私達やリウイ陛下達のいる目の前で口にするのは、不味いと思うよ…………?」
エリゼの答えに対して苦笑した後小悪魔な笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の答えにその場にいる多くの者達が冷や汗を表情を引き攣らせている中ユーディットは疲れた表情で指摘し、キュアは頬を赤らめてリウイ達を気にしながらミルディーヌ公女に指摘した。
「クスクス、レン達の事は気にせず話を続けてもらって構わないわよ♪ヴァイスお兄さんやロイドお兄さんみたいにハーレムを築いているリィンお兄さん達がどんな”プレイ”をしていようと、リィンお兄さん達の”愛の営み”に意見したりするような野暮な事はしないし、パパ達だって、リィンお兄さん達みたいにたまに複数での”プレイ”をしているでしょうし♪」

「…………まあ、”英雄色を好むという”諺もあるのじゃから、女である余には関係ないが”英雄”であるリウイやヴァイス、そしてロイドやリィンにはそういった事ができる”器”はあるじゃろうしの。」

「それとこれとは別問題だ…………」

「ふふっ、そういう意味ではセリカ様も該当するでしょうから、そのお相手であるエクリアお姉様達も私達のような事もしたことがあるのでしょうね。」

「イリーナ、貴女ね…………そこで私にまで話を振るなんて、何を考えているのよ…………というか今の貴女の発言でレン皇女の推測が当たっている事を答えたようなものよ…………」
からかいの表情で答えたレンの推測にリフィアは困った表情で答え、リフィアの答えとイリーナの指摘にリウイとエクリアはそれぞれ呆れた表情で頭を抱えて溜息を吐いた。
「ふふっ…………―――恐らくエリゼさんは私がリィン教官と結ばれる事で”七日戦役”と内戦で有名になったリィン教官を含めたシュバルツァー家を利用する事を警戒されていると思われますが…………現実的な話、私をリィン教官の伴侶に加える事はリィン教官を含めたシュバルツァー家にとっても非常に”益”となる話ですから、リィン教官やシュバルツァー家の将来を考えた上で私とリィン教官の婚約も受け入れるべきだと愚考致しますわ。」

「兄様やシュバルツァー家にとっての”益”…………それは四大名門の一角にしてエレボニア最大の貴族であるカイエン公爵家の当主である貴女と縁戚関係になる事ですか?」
ミルディーヌ公女の指摘に対してエリゼは真剣な表情で問い返した。
「確かにエリゼさんの仰る通りカイエン公爵家がエレボニア最大の貴族かどうかの件はともかく、四大名門の一角であるカイエン公爵家の当主たる私と縁戚関係になる事は新興の大貴族であるシュバルツァー家にとっても”益”となる話は否定できませんが…………より正確に言えば、私自身をシュバルツァー家の一員にする事で、リィン教官を含めたシュバルツァー家に様々な恩恵をもたらすことをお約束致しますわ。」

「…………どういう意味ですか?」
ミルディーヌ公女の意図が理解できないエリゼは眉を顰めて問いかけた。
「―――それは私が持つ”能力”ですわ。」

「え…………ミ、ミルディーヌが持つ”能力”…………?」

「…………?」
ミルディーヌ公女の答えにキュアは戸惑い、ユーディットは不思議そうな表情でミルディーヌ公女を見つめた。
「―――ユーディお姉様とキュアさんもご存じのように本来カイエン公爵家の跡継ぎであった私の父は母と共に事故で亡くなって跡継ぎが叔父クロワール叔に代わり…………叔父がカイエン公を継ぐにあたり、わたくしは帝都に遠ざけられました。アストライアの初等科に封じ込められ10年近くを過ごしました。―――いずれ叔父が帝国で内戦を引き起こすであろうことを予感しながら。」
するとミルディーヌ公女は驚愕の事実を口にし、その場にいる全員を驚かせた――――――
 

 

外伝~ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン~後篇

~クロスベル帝国領・オルディス・カイエン公爵城館~

「え…………」

「!?まさか…………そんな幼い頃から2年前の内戦を読んでいたというの!?」
ミルディーヌ公女の話にその場にいる多くの者達が血相を変えて驚いている中キュアは思わず呆けた声を出し、ユーディットは信じられない表情でミルディーヌ公女に訊ねた。
「はい、叔父の本質にカイエンの財力。他の四大名門やRFグループの状況…………クロスベルや共和国、メンフィル帝国との関係、そして鉄血宰相ギリアス・オズボーン。ふふ、”結社”や騎神”、”六銃士”なんていう不可思議や想定外の要素もありましたが…………革新派の台頭を抑えきれない貴族派が力ずくで押さえ込む局面は見えました。そしてそれがメンフィル帝国との戦争へとまで誘発し、その結果カイエン公―――叔父クロワールの破滅とメンフィル帝国に敗戦したエレボニア帝国の衰退で終わる事も。」

「……………………2年前の内戦や”七日戦役”の件まで読んでいたと言っていたが…………―――その口ぶりからして”北方戦役”や鉄血宰相達の野望すらも読んでいたのか?」
ミルディーヌ公女の話にその場にいる全員が驚きのあまり絶句している中リウイは真剣な表情で訊ねた。
「はい。国家総動員法に、メンフィル・クロスベル連合との戦争、帝国で何かの”呪い”が発動する可能性、そして戦争の結果”オズボーン宰相達がリィン教官達やリウイ陛下達に討伐され、彼らの計画は必ず途中半ばで失敗に終わり、その後オズボーン宰相達を失い敗戦した事で絶望に包まれたエレボニア帝国は軍人だけでなく、民間人も含めて数十万規模という夥しい犠牲者を出し、戦争を勃発させ、挙句の果てには敗戦の責任を取る必要があるアルノール皇家はエレボニア帝国の皇家として断絶すると共にユーゲント皇帝陛下とセドリック皇太子殿下を生贄―――つまり、処刑せざるを得ない状況に陥り、新姫様を含めた残りのアルノール皇家の方々は姫様の件で縁戚関係となったシュバルツァー家の慈悲によってシュバルツァー家の故郷であるユミルの下で隠遁生活を送る事になり、皇家を失い、多くの軍人や貴族、民間人を失ったエレボニア帝国はエレボニアの新たな皇への野心、貴族、皇族といった上流階級への恨み、オズボーン宰相の併合政策によって生まれたエレボニアへの憎悪等と言った様々な要素によって2年前の内戦とは比較にならない泥沼の内戦へと発展し、その果ては西ゼムリアの地を平和に導くという名目で西ゼムリア同盟を結んだ国家であるリベール、メンフィル、クロスベル、レミフェリアの連合軍と連合軍に協力する七耀教会と遊撃士協会によって鎮圧され、鎮圧後のエレボニアの地は各国に分配され、それらの出来事によってエレボニア帝国は滅亡する”可能性まで”昨年末の時点で全て見えていますわ。”」

「そ、れは……………………」

「ゲルドさんと同じ未来予知…………いえ、違うわね。」

「そうね、多分ミュゼは因果―――いえ、”盤面”が見えるのでしょう?」
説得力のある今後起こりうるであろう未来を想定したミルディーヌ公女の能力にイリーナは信じられない表情をし、エクリアと共に落ち着いた様子で推測したレンはミルディーヌ公女に確認した。
「ええ、ただわたくしには”盤面”が見えるだけです。現在の局面、そこに至る過去と無数に展開し、うつ未来の局面が。―――何よりも、それを現在、動かしている”何者か”の狙いが。”盤面”を動かしているのは間違いなくオズボーン宰相。オリヴァルト殿下もそれに気づき、色々な手を打たれていますが………あと一歩、宰相の深い所までは見通せていないように思っています。―――その証拠に並行世界の未来では”黄昏”は起きてしまい…………オリヴァルト殿下達は爆殺されてしまったとの事ですから。」

「ミ、ミルディーヌ………………」

「……………………まさか貴女にそのような”異能”が備わっているなんてね………………」
意味ありげな笑みを浮かべて説明をしたミルディーヌ公女をキュアは”化物”を見るかのように恐怖も混じった表情でミルディーヌ公女を見つめ、ユーディットは重々しい様子を纏って呟いて静かな表情でミルディーヌ公女を見つめた。
「―――なるほど。本来ならば他国の皇族である俺達には決して明かすべきではない自身の能力―――つまり、”切り札”をあえてこの場で判明させた理由は自身がリィンと縁戚関係になる事でリィン―――シュバルツァー家を通してメンフィルと盟を結ぶことで我らメンフィルにミルディーヌ公女自身の能力の有用さを売り込み、自身の能力の活用と引き換えに今後メンフィルに求めたい要望を通す為と言った所か?」

「あ……………………」

「フム…………確かに今聞いたミルディーヌ公女の”異能”の有用さを考えると、どんな要望を今後余達メンフィルに出すかわからんが、余達メンフィルがその要望に応じる十分過ぎる”対価”となるじゃろうな。」

「そうね。内政や外交関係もそうだけど、戦争でも大いに役立つでしょうね、ミルディーヌ公女の”盤面”を見通す”指し手”たる”異能”は。正直言って、現時点でもレンの異能も遥かに上回っているわ。―――そしてそれは”姫将軍”であるエクリアお姉さんが持つ知識でも敵わないでしょう?」

「何度も言っているようにその呼び方は止めて頂きたいのですが…………それはともかく、”知”の能力で言えばミルディーヌ公女は最高峰クラスで私どころか、メンフィルに所属している優秀な参謀達、謀略や策略に長けているルイーネ皇妃陛下やルファディエル警視すらもミルディーヌ公女が持つ能力に対抗するには厳しいかと。」
リウイの推測を聞いたイリーナは呆けた声を出し、リフィアと共にミルディーヌ公女を静かな表情で見つめたレンに話を振られたエクリアは疲れた表情で溜息を吐いた後表情を引き締めてミルディーヌ公女を見つめた。
「フフッ、今の私の話を聞いてすぐにそこに気づくとはさすがは異世界の”英雄王”たるリウイ陛下ですわ♪」

「世辞はいい。それよりもミルディーヌ公女、確かに公女の能力はメンフィルにとっても有用であることは認めるが…………公女とて人間だ。その事実が公女の能力にとっての唯一の”欠点”であることには気づいているのか?」

「ええ、恐らくリウイ陛下は欠点―――”寿命”の事を仰っているのですわよね?確かに陛下の仰る通り私は寿命が存在せず、悠久の時を生き続けるアイドス様のような神々やベルフェゴールさんのような”魔神”でもなければ、陛下達のような長寿の種族と違い、病気や事故等なくても後せいぜい7,80年くらいしか生きられないただの”人間”ですわ。ですが、異世界の女神であるアイドス様に見初められたリィン教官と私が結ばれる事で、私の能力を今後永遠に活用できると思われますが?」

「え…………それって一体どういう…………」

「!!ミルディーヌ公女殿下―――いえ、ミュゼさん。その口ぶりからするとアルフィンから兄様は将来アイドス様―――”慈悲の大女神”の”神格者”になる事も聞いているのね?」
リウイの指摘に静かな笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の答えの意味がわからないキュアが呆けている中、既に察しがついたエリゼは真剣な表情でミルディーヌ公女に訊ねた。


「し、”神格者”って神々から”神核”を承る事で不老の存在となるあの…………!?た、確かにリィン様の婚約者の一人であるアイドス様は”古神”だから当然、リィン様を”神格者”や”使徒”にできるだろうけど…………それがどうしてミルディーヌの寿命の件まで関係する事に…………―――あ。」

「なるほど…………貴女が”神格者”となったリィンさんの”使徒”となる事で、”寿命”という貴女の能力にとっての唯一の”欠点”を補うという事ね?」

「はい♪姫様の話ですと”神格者”という存在も”使徒”が作れる為、リィン教官の伴侶であるエリゼさんや姫様達も将来は愛するリィン教官を永遠に支え続ける為にリィン教官の”使徒”になるとの事ですから、当然私もリィン教官の伴侶にして使徒の一人として、リィン教官を永遠に支え続けますわ♪」
エリゼの話を聞いて驚いたキュアは戸惑っていたがすぐにある事に気づき、ユーディットに指摘されたミュゼは微笑みながら答えた。
「クスクス、なるほどね。リィンお兄さんと結ばれるからこそできる”反則技”だものね♪」

「そもそも、”神格者”もそうですが”使徒”をそんな手軽な感覚で増やすのは色々な意味でおかしいのですがね…………」

「それに関しては本人達が納得していたら、別にいいじゃろ。現にプリネやレンも将来はいつか”神格者”に至る事を目指すレーヴェや”魔神”のエヴリーヌの”使徒”になるつもりだと事だしな。第一それを言ったら、エクリアよ、お主の”主”であるセリカがその手軽感覚で”使徒”を増やしている筆頭じゃろうが?」

「実際にセリカ様はゼムリア大陸に来て1年も経たずに”使徒”を増やした事もそうですが将来エステルさんの娘として生まれるサティア様も”使徒”にしたとの事ですし、更にセリカ様の新たな”使徒”になる事を希望する方も現れたとの事ですものね…………」

「フフッ、”星見の塔”でセリカ様の圧倒的な強さや存在に惹かれたヴィータお姉様ですわね♪」
小悪魔な笑みを浮かべるレンに疲れた表情で指摘するエクリアの言葉を聞いたリフィアは苦笑しながら答えた後エクリアに指摘し、リフィアの指摘を聞いたイリーナは苦笑しながらエクリアを見つめ、ミルディーヌ公女は小悪魔な笑みを浮かべて指摘し、その様子を見守っていたリウイ達は冷や汗をかいた。
「ううっ、返す言葉もないわ…………」

「エ、エクリア様…………―――コホン。貴女と兄様が結ばれればカイエン公爵家関連以外でも様々な”利”がある事は理解しました。最後に一つ―――いえ、二つ聞かせて下さい。」
疲れた表情で片手で頭を抱えているエクリアを表情を引き攣らせて見つめていたエリゼだったが気を取り直してミルディーヌ公女を見つめて問いかけた。


「なんなりと。」

「先程貴女は自身の切り札である”能力”を私達に披露しましたが…………それは陛下達も仰ったように、リウイ陛下達メンフィル帝国に対する売り込みですか?それとも私―――いえ、シュバルツァー家に対する売り込みですか?」

「フフッ、正確に言えば私の事をお疑いになっているエリゼさんに対する”誠意”を示す為ですわ。」

「エリゼに対する”誠意”じゃと?一体どういう意味じゃ?」
エリゼの問いかけに答えたミルディーヌ公女の答えの意味がわからないリフィアは眉を顰めて訊ねた。
「それに関しては恐らくミルディーヌ自身が説明したように、ミルディーヌは”盤面”を見て自分がどう”打つ”事で自分にとってベストな未来へと導く事ができるのですから、当然それはリィンさんとの結婚の件にも適用できますから、自身の能力をエリゼさんにもこの場で披露する事でリィンさんを含めたシュバルツァー家に対する二心はない事を示す為かと思われますわ。」

「さすがはユーディお姉様ですわ♪―――折角の機会ですし、エリゼさん―――いえ、シュバルツァー家に対する更なる”誠意”として、私が現時点で見えるオズボーン宰相達を廃した後に起こりうる可能性が浮上するリィン教官に迫る危機をお伝えしますわ。」

「オズボーン宰相達を廃した後に起こるかもしれない兄様に迫る危機の可能性…………?―――ミュゼさんは兄様に関して一体どのような”盤面”が見えたのですか?」
ユーディットの説明に微笑んだミルディーヌ公女は意味ありげな笑みを浮かべてエリゼを見つめ、ミルディーヌ公女の答えにその場にいる全員がそれぞれ血相を変えている中エリゼは真剣な表情でミルディーヌ公女に訊ねた。
「―――七大罪の魔神の一柱、精霊王、竜の姫君、異世界の女神を伴侶にし、他にはエレボニア皇家、クロスベル皇家、RF(ラインフォルトグループ)、ディアメル子爵家、カイエン公爵家からもそれぞれ伴侶を迎える事で縁戚関係となり、更には”騎神”という古代遺物(アーティファクト)同然の存在を自身の”信念”の為に使用し続け、将来は広大なクロイツェン統括領主になる事が内定しているリィン教官の存在を危険視した方々が、リィン教官の暗殺を図る事ですわ。首謀者は…………古代遺物(アーティファクト)の管理は教会であることを絶対とする考えを持つ七耀教会の封聖省や僧兵丁の一部の過激派といった所でしょうか。」

「!!」

「そ、それは…………」

「…………確かにリィンさん自身は意識していないとはいえ、彼は魔神や女神と言った”超越した存在”と”結婚”という形で盟を結び、更にはエレボニア、クロスベル皇家、ゼムリア大陸でも最大規模の導力器メーカーやエレボニアのトップクラスの四大名門の一角とそれに次ぐ貴族の家とも縁戚関係を結ぶことになっている上”騎神”の乗り手とリィンさん自身も”公爵”に内定しているという事実―――個人でありながら権力、戦力共に”国家クラス”を保有するリィンさんを危険視する人物が現れてもおかしくないわね…………」
意味ありげな笑みを浮かべたミルディーヌ公女の予測にエリゼは目を見開き、キュアは不安そうな表情になり、ユーディットは複雑そうな表情で呟いた。
「ふふっ、ちなみに暗殺の結果は勿論リィン教官達に”返り討ち”にあって”失敗”という形で終わって首謀者は後にメンフィル帝国からの”報復”によって2度と逆らえないような反撃を受ける”盤面”まで見えていますからご安心ください♪―――それよりも、陛下達はあまり驚かれていない様子からして、先程私が口にした”盤面”もやはり想定はされていたようですわね?」

「…………―――ああ。光と闇―――”全ての種族との共存”を目指す我らメンフィルは今までも教会関連で、様々な争いや問題を経験している為、ゼムリア大陸の権力者達もそうだがゼムリア大陸唯一の宗教であった七耀教会がリィンの存在を危険視する事は既に想定済みだ。」

「教会の関係者―――特に信仰する神々や教会の教えに盲目的な者達程、性質が悪く、危険な存在であることは今までの経験でわかりきっておるからの。当然、七耀教会にも常に目を光らせておる。」

「実際、4年前の”異変”で”輝く(オーリオール)”をリウイと共に破壊したエステルさんも七耀教会で問題視されて、”外法認定”にされかけた事もありましたものね…………」

「……………………」

「うふふ、レンとしてはミュゼが見えたレン達メンフィルにリィンお兄さんの件で”報復”を受けた七耀教会がどんな事になるのか、個人的には気になるわね♪」
ミルディーヌ公女の指摘に対してリウイとリフィアは重々しい口調で答え、イリーナは複雑そうな表情で呟き、リウイ達同様”教会”の”闇”をよく理解していたエクリアは目を伏せて黙り込み、レンは意味ありげな笑みを浮かべていた。
「―――以上のように、私がいればリィン教官―――シュバルツァー家に牙を向けたり、陥れようとする者達への”対策”になりますわ。それと同時に、私はリィン教官―――シュバルツァー家に足りない存在を補えることができる存在でもありますから、きっと教官やエリゼさんのお役に立つかと。」

「私達―――シュバルツァー家に足りない存在…………?それは一体どういった存在ですか。」

「それは策略、政略といった上流階級ならば決して避ける事ができない政治上の”駆け引き”に強い存在―――”参謀”ですわ。―――失礼を承知で申し上げますが、そういった存在に適している人物は今のシュバルツァー家に存在していないかと。」

「それは…………」

「フム…………確かに領主として勉強中のリィンは当然として、幾ら余の秘書も兼ねているとはいえエリゼではそういった”駆け引き”をする事はまだ厳しいじゃろうし、かといって他の上流階級出身の者達―――セレーネ、ステラ、メサイアもそういった方面の能力に秀でている訳でもないしの。」

「まあ、メルキア皇女として数十年生きてきたメサイアお姉さんやRF(ラインフォルトグループ)の室長の一人として様々な交渉も経験し続けているアリサお姉さんならある程度の駆け引きはできるかもしれないけど、ルイーネお姉さんやルファディエルお姉さんみたいな事はできないでしょうね。」
ミルディーヌ公女の指摘に反論できないエリゼは複雑そうな表情で答えを濁し、リフィアとレンは納得した様子で呟いた。


「というかその口ぶりだと、自分は腹黒い事を公言しているようなものだとわかっていて言っているの、ミルディーヌは。」

「クスクス、ご想像にお任せしますわ♪―――これで私が今この場で私の能力を明かした理由はエリゼさんに対する”誠意”であることをご理解して頂けたでしょうか?」
ジト目のキュアの言葉に対してミルディーヌ公女は笑顔を浮かべて流した後エリゼに問いかけた。
「………………ええ。それで最後の質問ですが…………―――ミュゼさんは例え政略結婚であろうと、兄様や私達と悠久の時を生き続けてでも兄様を愛し、支える覚悟はあるのですか?」

「勿論その覚悟もできておりますわ。―――私が跡継ぎにカイエン公爵家の全てを引き継がせた後は、爵位も返上し、ただの愛する殿方を支える女性の一人としてリィン教官の御傍でリィン教官を未来永劫支え続けるつもりですわ。あ、勿論リィン教官が望むのでしたら”神格者”となったリィン教官の”使徒”になったお陰で永遠に若々しい肉体となった私の身体をリィン教官に犯してもらって、その結果できるリィン教官と私の子供を何度でも産みますわ♪」
真剣な表情を浮かべたエリゼに見つめられたミルディーヌ公女は静かな表情で答えた後妖艶な笑みを浮かべて答え、ミルディーヌ公女の最後の答えにその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力した。
「最後の最後でそんなとんでもない事を平気で口にするなんて、本当にこの娘はもう…………」

「こんな大事な場面でそういった事を言うから、中々人に信用されないんだと思うよ…………?」
我に返ったユーディットとキュアはそれぞれ呆れた表情で溜息を吐き
「………………………………――――――いいでしょう。ミュゼさん―――いえ、ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン殿をリィン・シュバルツァーの10番目の伴侶として加える事を現時点をもってリィン・シュバルツァーの正妻予定である私―――エリゼ・シュバルツァーが認めます。貴女の件に関してはアルフィンや兄様の他の婚約者の方々―――セレーネ達は私が説得しておきます。」

「ふふっ、公式の場以外では”ミュゼ”で構いませんわ♪エリゼさんの寛大な御心とご英断、このミルディーヌ、心より感謝致しますわ♪」
エリゼの宣言にリウイ達がそれぞれ驚きの表情を浮かべている中ミルディーヌ公女は微笑みながら答え
「―――ただし、兄様への説得は貴女自身が行ってください。兄様が承諾しなければ、本末転倒ですので。」

「かしこまりましたわ。―――ちなみに”説得の方法”に”制限”はありますか?」

「…………常識の範囲内でしたら構いません。勿論脅迫等と言った犯罪行為は禁じます。」

「ふふっ、愛するリィン教官にそのような事をする疑いを持たれるなんて心外ですわ♪私はただ、姫様やアリサさんのように私の気持ちをリィン教官に知ってもらう為にリィン教官に私の”全て”を捧げるだけですし♪」

「え”。ア、アルフィン殿下とアリサさん、リィン様に自分の想いを知ってもらう為に本当にそんなことをしたの…………!?」

「気にする所が間違っているわよ、キュア…………ハア…………伯爵閣下達に育ててもらっていながら、どうしてこんな女性になったのかしら、この娘は…………」

「クスクス、きっとゲルドが見たリィンお兄さん達の結婚式の未来でリィンお兄さんの結婚相手の一人にミュゼも含まれているのでしょうね♪」

「洒落になっていないぞ…………ハア…………」
ミルディーヌ公女の口から出たとんでもない事実にリウイ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中思わず声を出して信じられない表情で呟いたキュアに疲れた表情で指摘したユーディットは溜息を吐き、小悪魔な笑みを浮かべたレンの言葉を聞いたリウイは疲れた表情で溜息を吐いた。

その後、打ち合わせが終わるとレンは”ミュゼ”に戻ったミルディーヌ公女とエリゼと共に転移魔術でオルディスから去り、リウイ達もペテレーネとエクリアの転移魔術でオルディスから去った―――
 
 

 
後書き
ミュゼの想定にあったリィン達VS七耀教会…………Ⅳ篇も書き切って、暇ができれば番外編という形で書くかもしれません。その場合閃のとある人物にリィンのハーレムフラグが…………(ぇ)
 

 

第93話

6月20日、演習最終日―――

~演習地~

翌日、演習地から去るリィン達はユーシス達に見送られようとしていた。
「はあ~…………今回の演習は本当に色々滅茶苦茶だったわよね…………」

「アハハ、”鋼の聖女”どころか”英雄王”達まで加勢した上、鉄機隊はメンフィルに投降したもんね~。あのヒトが分校長ってアーちゃんたちも大変だよねー。」

「まあ、さすがに慣れました。―――最も本来なら共有すべき情報を提供してくれなかったリウイ陛下達には苦言を申し上げたいですが。」

「ア、アルティナさん…………」

「ハハ、それに関しては俺達もそうだから、あまり気にするな。」

「そうよ。第一それを言ったらお義父さん達の娘の私なんてアル達と違って、何も教えてもらっていないのよ?」
ミリアムの同情に答えた後ジト目になったアルティナの意見にセレーネと共に冷や汗をかいたリィンとゲルドはそれぞれ苦笑しながら答えた。
「フフ、ゲルドさんに何も教えないのは様々な思惑が混じった”大人の話”にゲルドさんを巻き込むつもりはないという陛下達の親心だと思いますわよ?」

「―――そういえばミュゼ、ゆうべレン教官とどこに行ってたの?」

「あ、外出届けを出して一緒に出掛けたみたいだね?それとエリゼちゃんも二人の少し後に出掛けたみたいだけど…………」
ゲルドに指摘したミュゼの話を聞いてある事に気づいたユウナはジト目でミュゼに訊ね、ミュゼに続くようにトワもミュゼとエリゼに訊ねた。
「ふふ、ちょっと私の実家の方に顔を出していたんです。Ⅶ組に移る前は良くして頂いたレン教官にご挨拶をお礼を言いたいとお祖父様達が仰っていましたので。」

「ま、そういう訳で昨夜はミュゼの実家で泊まらせてもらっていたのよ。エリゼお姉さんは確かリフィアお姉様の専属侍女長としての務めだからでしょう?」

「はい。オルディスでユーディット皇妃陛下達との会談があり、その関係で。」

「ああ、そういう話でしたね。」

「ふふっ、そういえばレンちゃん、性格も似ている事もあってミュゼちゃんとたまに話していたものね。」
ミュゼ達の話を聞いたアルティナとティータはそれぞれ納得し
「……………………」

(………ハン…………?)

(フウ………相変わらず人を欺く事に関しては見事と言うべきね…………)
ミュゼ達の話の内容が気になったリィンは静かな表情で、アッシュが怪しげな視線でミュゼ達を見つめている中アルフィンは呆れた表情で溜息を吐いた。

(うーん、さすがミュゼ君。見事なまでの惚けぶりだねぇ♪)

(ふう、末恐ろしいというか。…………それに昨日の提議は…………)

(………いずれにせよ、今は見守るしかあるまい。)
一方事情を知っているアンゼリカやパトリック、ユーシスは様々な思いでミュゼ達を見つめていた。


「……………………わざわざ見送りに来るなんざ、アンタらもヒマっつうか。」

「こら、せっかく仕事の合間に見送りに来てくれたんだろう?」

「そうですわよ、普通は見送りにきてくれた方々にお礼を言うべきですわよ。」
アッシュは自分の見送りに来た顔馴染みのシスターと飲食店の女性を見つめ、アッシュの言葉を聞いたリィンとセレーネはそれぞれアッシュに注意した。
「フフ、いいのさ。まだランチ前だからね。」

「いいですか、アッシュ君。危ない事には手を出さないように。授業も抜け出さない、それと夜遊びもほどほどに―――」

「ハッ、アンタの方はもう少し遊び慣れとくんだな。そのうち下らねぇ男に食われちまっても知らねぇぞ?」

「なっ…………!…………もう、貴方って人は。」

「ふふ…………元気にしてるんだよ、アッシュ。Ⅶ組の皆さんも、コイツをどうかよろしく頼んだよ。」

「って、オイ―――」

「あはは、任せてくださいっ。」

「まあ一応、同じクラスメイトですし。」

「うん、それがアッシュと同じクラスメイトの私達の役目だものね。」

「品行方正は無理でしょうが一線は越えさせないようにします。」
女性の頼みにアッシュが反論する暇もなくⅦ組はそれぞれ答えた。
「ああっ、ありがとうございます!」

「……………クソ、どいつもこいつも…………」

(はは…………)

(フフ…………ラクウェルの人達に大切にされている証拠ですわね。)
アッシュが気まずそうな表情をしている中その様子をリィンとセレーネは微笑ましそうに見守っていた。


「ふふ…………ミュゼも元気でね。どうか無理はしないで頂戴。」

「大変なのは”これから”だろうが…………次に戻る時を楽しみにしている。」

「…………ふふ、お祖父様、お祖母様もどうかお元気で。」
イーグレット伯爵夫妻の見送りの言葉にミュゼは静かな笑みを浮かべて答えた。
「―――お孫さんのことはどうかお任せください。自分達も担任教官として精一杯支えさせていただきます。」

「まあ…………」

「フフ、よろしく頼んだよ。…………ふむ、事によっては次の帰省でめでたい報告などもあるやもしれんな。」

「もう、お祖父様ったら気が早いんですから♪」

「ふふ、首を長くしてお待ちしております。」
ミュゼと伯爵夫妻、セツナのやり取りを見たリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「…………あの、支えるというのはそういう意味では。」

「うーん、手強い家族ねぇ。」
我に返ったリィンは自分の発言の意味を訂正しようとし、ユウナは苦笑していた。


「フフ…………とにかく今回は本当に助かった。グラーフの奪還もそうだが――第Ⅱ分校のおかげで、新海都の被害も最小限に抑えられ、オルディスの被害は皆無でクロスベルとの国際問題も発生しなかったと言えるだろう。」

「はは…………准将もお疲れ様でした。幻影とはいえ魔人との戦い…………正直、気が気ではありませんでしたが。」

「ハハ、凌ぐだけで手一杯といった結果だったがな。亡霊とは言えあれの本物と互角に渡り合えたというアルゼイド卿の御力が思い知れるよ。」

「よく言うぜ…………アンタも十分化物だっただろ。」

「クク…………機会があれば、是非手合わせ願いたいぜ。」
リィンの言葉に対して苦笑しながら答えるウォレス准将をランディは苦笑し、ランドロスは興味ありげな様子で見つめていた。
「さすがは黄金の羅刹の右腕と言うべきか…………」

「ハッ…………やっぱエレボニアは広いっつーか。」

「フフ、第Ⅱにしても地方軍にしても、ギルドの諸君にしてもお疲れだった。サザ―ラントの事件に続いて、重ね重ね礼を言わせてもらうよ。」

「フッ、特に第Ⅱについては華々しいといってもいい働きだ。ひょっとしたら―――皇帝陛下から表彰を受ける可能性も十分あるんじゃないか?」

「こ、皇帝陛下って………!」

「ユーゲント三世陛下ですか………」

「えっと…………という事はその人がアルフィンのお父さんね。」

「さ、さすがに畏れ多いですね…………」

「…………へえ、皇帝か。そういえばエレボニアの皇帝はまだ生で見た事はなかったな。」

「ふふ、威厳と聡明さを兼ね備えた立派な方でいらっしゃいますよ。」
パトリックの言葉に新Ⅶ組のまだ見ぬユーゲント皇帝に対して様々な反応を見せていた。


「それにしても―――各地での結社の”実験”とやら。ここにきて極まった感があるな。」

「そうね、恐らく”神機”の”実験”は2年前のクロスベル動乱の件を考えるとあの機体が最後だと思うし。」

「うーん、神機や鉄機隊も全部”英雄王”達に持っていかれちゃったからね~。そっちはその件についてまだ何も情報が来ていないの~?」
考え込みながら呟いたユーシスの言葉にサラは頷き、意味ありげな笑みを浮かべたミリアムはリィン達を見つめて訊ね、その様子を見たユーシス達とリィン達、それぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ハハ、例え彼女達から結社についての情報を引き出せたとしても、そんな早くに俺達にまで回って来ないさ。」

「―――ま、鉄機隊の取り調べはリアンヌ分校長が直々にするらしいから、パパ達から貰える情報の正確性については保証できると思うわよ。」

「そうですわね…………彼女達の高潔さを考えると少なくても嘘の情報を口にするような事はしないと思いますわ。」

「”槍の聖女”自らが…………」
ミリアムの指摘にリィンが苦笑している中、レンとセレーネの説明を聞いたガイウスは目を丸くした。
「…………いずれにせよ、今後も備えは必要ということだろう。旧Ⅶ組と特務部隊としての”約束”―――果たすべき時が近いのかもしれん。」

「俺達が旧Ⅶ組最後の自由行動日の時の、”あの約束”か――俺達特務部隊と旧Ⅶ組が全員で集まるには確かにいいタイミングかもしれない。」

「うんうん、こうしてガイウスも戻ったわけだし!」

「ああ…………まさに風の導きというものだろう。」

「フフ、日時が決まったらあたしも参加させてもらうわ。」

「ふふっ…………わたしたちもジョルジュ君と集まらないとね!」

「…………ああ。それが叶ったらリィン君たちの所に乱入させてもらうとしよう。」

「フフ、喜んで。」

(ハハ、眩しいねぇ。)

(お前さんもちょっと羨ましいんじゃねえのか?)
トヴァルと共にリィン達の様子を見守っていたアガットはランディに話を振り
(まあな…………だがこちらも似たような約束はしていてね。)
話を振られたランディは苦笑しながら答えた。


「旧Ⅶ組と特務部隊全員の集結、か………」

「…………ちなみにその集まりには当然、私も出席できますよね?」

「ふふっ、心配しなくてもアルティナさんも参加できるように取り計らいますわ。」

「クスクス、それにしても”そこ”を気にするようになるなんて、やっぱり2年前と比べると随分”変わった”わね♪」

「はい…………きっとアルティナさんが変わった一番の影響は将来は自分の夫になるかもしれない旦那様だと思いますわ♪」
ゲルドは静かな表情で呟き、ジト目のアルティナの要求にセレーネは苦笑しながら答え、その様子を面白そうに見つめて呟いたレンに続くようにアルフィンはからかいの表情で答え、それを聞いたリィン達は冷や汗をかいて脱力し
「だから、いつまでそのネタを引っ張るんだよ…………」

「―――兄様だからこそ、未だにその疑いがもたれてしまうのは”当然の事”かと。」
我に返って疲れた表情で溜息を吐いたリィンにエリゼは静かな表情で指摘し、それを聞いたリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「ううっ、俺にどうしろと言うんだ…………」

「…………?(何故、リィン教官の今の答えを聞いて僅かですが”怒り”を感じたのでしょう…………?)」
リィンが疲れた表情で肩を落としている中、その様子を見たアルティナは何かの感情が芽生えた事を不思議に思っていた。
「アハハ…………でも、なんか凄いことになってきたわね。」

「ああ、なかなか背中が見えないというか…………」

「はは、何を言ってるんだ。―――君達も同じ”Ⅶ組”だろう?」

「今回の一件、君達の力がなければ解決までには至らなかったはずだ。」

「フッ、次も何かあれば是非、お前達の力を貸してもらいたい。―――Ⅶ組の”同輩”としてな。」
自分達の力の足りなさを感じているユウナにリィンとガイウス、ユーシスはそれぞれユウナ達にとって驚く言葉を口にした。
「…………光栄です。」

「あ、あはは…………ちょっと照れますけど。」

「ハッ、四大名門の当主がそこまで仰ってくれるとはな。」

「ふふ、喜んで力にならせて下さい。」

「うん、私達もみんなの”仲間”として全力で力にならせてもらうわ。」

「えへへ、アーちゃん、次も一緒に戦えるといいね!」

「…………考えておきます。」
リィン達の賛辞に新Ⅶ組の面々はそれぞれ自分達が成長している事が認められた事をかみしめながら答えた。


「フフ…………」

「仲間に教え子、そして将来の伴侶達…………フッ、つくづく恵まれた男だ。」
その様子をハイアームズ侯爵は微笑ましく見守り、パトリックはリィンの顔の広さに苦笑していた。
「そんじゃあな、リィン。今回もロクに話せなかったが次の機会があったらよろしく頼むぜ!」

「ええ、もちろん。こちらも頼りにさせてもらいます。」

「アガットさんも今回はどうもありがとうございましたわ。」

「ハッ、よせっての。そもそも、こういう切った張ったをするためにエレボニアに来たんだからな。」

「おっ、どこかのお姫様を守る為に来たんじゃないのかい?」

「もしくはそのお姫様との”逃避行”じゃないのかしら♪」

「ラ、ランディ教官…………!それにレンちゃんも…………!」
アガットをからかうランディとレンの言葉にティータは恥ずかしそうな表情をし
「てめぇら…………」

「クク…………」

「ほんとラブラブねぇ。」

「くっ、羨ましい御仁だな…………」

「アンちゃん、本気で悔しがらないの。」
ランディとレンを睨むアガットの様子をランドロスは面白そうに見つめ、サラは微笑ましそうに見守り、本気で悔しがっているアンゼリカにトワは苦笑しながら指摘した。
(サラお姉さん。念の為にもう一度言っておくけど…………)

(ええ、言われた通り”猟兵王”のような事が起こらない為にもあたしが引き取った”罠使い(トラップマスター)”と”破壊獣(ベヒモス)”の遺体はちゃんと焼却して、その灰を彼らの墓に埋めておくわよ。―――フィーと一緒にね。)
レンに小声で話しかけられたサラは静かな表情で頷いて答えた。
「―――ええい、定刻だ!いつまでも喋ってないでとっとと乗り込むがいい!」
その時、リィン達の様子を見守っていたミハイル少佐がリィン達に列車に乗るように指示をした。そしてユーシス達はデアフリンガー号で演習地から去って行くリィン達を見送った。


「あはは、行っちゃったねー。」

「フッ、またすぐ会えるだろう。」

「されと―――それじゃあ私もそろそろ行くとしよう。」
ユーシス達と共にリィン達を見送ったアンゼリカはバイクに乗り込んだ。
「ああ、バーニエに帰る前に帝都に寄るとか言ってたわね。何か用事でもあるわけ?」

「ええ、久々に知り合いの顔でも見ていこうかと思いまして。では教官、ユーシス君達も元気で。―――また会おう!」
サラの問いかけに答えたアンゼリカはバイクを走らせてその場から去って行った。
「さて、俺達はいったんラクウェルに戻らねぇとな。」

「ああ、今回の一件の後始末…………簡単には片付かないだろうしな。それにオルディスにいるエステル達とも情報を交換しておきたいしな。」

「バラッド侯が失脚した事も各方面に影響が出ている筈だ。遊撃士諸君、すまないが市民のためどうか力を貸してあげてほしい。」

「フフ、お任せを。ま、とっとと終わらせて今後のスケジュール調整をしないとね。」
ハイアームズ侯爵の頼みにサラが遊撃士協会を代表して答えた。
「さてと、君達は新海都での手伝いをもう少しお願いできるんだったな?」

「ああ、任せるがいい。」

「それじゃあ、レッツゴー!」
そしてその場にいる全員がそれぞれ演習地から去り始めている中、その場にはガイウスとウォレス准将だけが残っていた。


「―――ガイウス。最後に一つだけ聞かせて欲しい。やはり吹き始めているんだな?…………言い伝えの、”あの風”が。」

「……………………ええ。故郷(ノルド)で感じたよりもさらに昏く、禍々しく。」
ウォレス准将の問いかけに少しの間黙り込んだガイウスは静かな表情で頷いて答えた。
「そうか、この身に流れる血ではもはや捉えることは叶わぬが…………あくまで俺は、帝国の一武門(バルディアス家)の人間としての使命を果たすつもりだ。だが君は―――戦士ウォーゼルの血と、”もう一つ”を継いだ君には。できればこの国の”友”としてその大いなる翼を振るって欲しい。」

「…………勿体ない言葉。ですがもとより、そのつもりです。」
ウォレス准将の頼みに静かな表情で答えたガイウスは決意の表情を浮かべた――――

 

 

外伝~緋の魔女との邂逅~

同日、深夜――――


リィン達が演習地から去ったその日の夜、リアンヌと共に鉄機達の取り調べを行ったリウイは取り調べを終えた後リアンヌと共にテラスに出て夜景を見つめていた。

~メンフィル帝国領クロイツェン州・バリアハート・臨時統括領主城館~

「―――これでようやく”アリアンロード”としてのやり残していた事を終える事ができたか?」

「はい。―――ですが、”リアンヌ”としてやり残した事はまだ残っていますが…………」

「何?それは一体どういう―――!!」
リアンヌの答えに眉を顰めたリウイだったが何かの気配に気づくと自身の得物である紅き魔剣―――”エドラム”に手をかけて警戒の表情で周囲を見回し始めた。
「ふふっ、魔術で完全に気配を断っていたはずの妾の気配に気づくとはさすがは異世界の”英雄王”と言った所かの。」
するとサザ―ラントやブリオニア島でリィンの前に現れた金髪の少女が転移魔術でリウイ達の前に現れた!
「―――何者だ。」

「お初にお目にかかる、ゼムリアの”理”の外の英雄王よ。魔女の眷属(ヘクセンブリード)が長、”(あか)”のローゼリア・ミルスティンじゃ。2年前の内戦では放蕩娘(ヴィータ)が”灰”の小僧の件で内戦とは無関係だった其方の国にまで迷惑をかけた挙句、孫まで世話になってしまい、すまなかったの。」

「孫……ミルスティン……魔女の眷属(ヘクセンブリード)…………―――旧Ⅶ組のエマ・ミルスティンの親族か。」
少女―――ローゼリアが名乗るとリウイは記憶の中にあるⅦ組に関する資料からエマを思い浮かべながらローゼリアを見つめた。


「…………20年ぶりですか。私が知る記憶と比べると随分と可愛いらしい姿になりましたね―――ローゼリア殿。」

「”眷属”を分けたのでな。ま、片方は散ってしまったが。ロリぃなのも悪くないじゃろ?」
リアンヌの問いかけに答えて一瞬だけ寂しげな笑みを浮かべたローゼリアは自慢げに自身の髪をかきあげた。
「ええ、元の貴女も素敵でしたがその姿も愛らしくて良いかと。ドライケルス殿が見れば何と仰るかちょっと気になりますけど。」

「ハン、あの朴念仁のことじゃ。気の利いたことは言わんかったじゃろ。―――単刀直入に問おう。お主、”何があった?”ドライケルスや妾への呼び方もそうじゃが、あれ程ドライケルス一筋であり、何を考えていたかは知らぬが”盟主”とやらに忠誠を誓って結社に入ったはずのヌシがその”盟主”をそこの異世界の”英雄王”達と共に抹殺し、結社を抜けて異世界の国たる”メンフィル”という国に所属した事も含めて、今までのヌシとは考えられない行動じゃぞ。」
リアンヌの言葉に鼻を鳴らして答えたローゼリアは目を細めてリアンヌを見つめて問いかけた。
「…………そうですね。ちょうどいい機会ですし、”私”の事をお話し致します―――」
そしてリアンヌは自身がリアンヌ・サンドロッドではなく、シルフィア・ルーハンスの転生者であることやその経緯を説明した。


「なん………じゃと……………それではリアンヌは…………既に逝ってしまったというのか……………!?」

「―――(シルフィア)彼女(リアンヌ)が一つとなった事でリアンヌとしての記憶―――貴女(ロゼ)に関する記憶も勿論私にはありますが、自我は(シルフィア)であることを考えるとそう捉えてもらって構わないと思います。」
リアンヌの事情を聞いて愕然とした様子のローゼリアにリアンヌは静かな表情で答えた。
「……………………ッ!!シルフィアと言ったか……………………あの馬鹿者は…………リアンヌは自分にヌシの魂が宿った事を自覚してなお、ヌシと一つになったのか…………?」
リアンヌの答えを聞いて唇をかみしめて顔を俯かせて一筋の涙を流したローゼリアは顔を上げてリアンヌを真剣な表情で見つめて問いかけた。
「ええ、信じられない事に彼女(リアンヌ)は自分自身に起こった異変―――異なる魂である(シルフィア)の存在に気づき、自ら心の深層に潜って私と対峙し、私に後の事を託して私の魂と一体化しました。」

「エステルやプリネと違って自分自身で自分に宿った(シルフィア)の存在に気づいた挙句、自力で心の深層に潜るとは、信じられない程の傑物のようだったな、”槍の聖女”とやらは…………」

「…………何故じゃ。何故あやつはヌシに後の事を託して逝くことができたのじゃ………!?」
リアンヌの説明を聞いたリウイが驚いている中ローゼリアは悲痛そうな表情でリアンヌに問いかけた。
「…………(シルフィア)の方が彼女(リアンヌ)よりも生への渇望があり、そして(シルフィア)が紡いでいた”絆”であるリウイ陛下達の方が、”全ての元凶”を滅ぼせる確率が遥かに高かったからです。」

「”全ての元凶”じゃと……………………?よもや、エレボニア帝国に巣くう”呪い”の事を言っておるのか?」

「ええ、今ここで教えましょう。彼女(リアンヌ)が何を見て、何を決意したのかを―――」
そしてリアンヌはローゼリアに”槍の聖女”リアンヌ・サンドロッドがしか知らなかった事実を教えた。


「馬鹿者が―――なぜそれを言わんのじゃ!!どうしてじゃ―――リアンヌ!?どうして妾に少しでも相談してくれなかった…………!?ヌシも、ドライケルスも…………!呪いとなればまず魔女(わらわ)じゃろうが……………!?」
全てを聞き終えたローゼリアは声を上げて悲しそうな表情でリアンヌを見つめて問いかけた。
「―――彼は言っていました。『これはあくまで人の業なのだ。平穏を取り戻した人の世ですらロゼに泣きつくようでは”他の至宝”の二の舞、三の舞。生涯を終えようとする老いぼれがあまりに格好がつかぬだろう?』」

「………っ……………!!」

「クロスベルの至宝―――幻の至宝(デミウルゴス)か…………」
リアンヌを通しての今は亡き友の言葉を聞いたローゼリアは息を呑み、心当たりがあるリウイは重々しい口調で呟いた。
「―――”私”にとっても、これはただの個人的な”意地”でしかありません。大切な友人(あなた)に、そんなものを背負わせるわけにはいかないでしょう?」

「……………………ッ…………揃いも揃って……………………水臭くて、救いようのない阿呆どもが……………………いや…………一番の阿呆はそれに気づけもせなんだ妾か…………」
リアンヌ・サンドロッドの自分への心遣いを知ったローゼリアは寂しげな笑みを浮かべた。
「……………………それで、リアンヌはヌシに賭けた方が”元凶”を滅ぼせる確率が遥かに高いと言ったが、本当にアテはあるのか?」

「ええ、それは――――――」
そしてリアンヌはリウイと共にローゼリアに今後の事を伝え始めた。


~同時刻・帝都近郊・ヒンメル霊園~

一方その頃アンゼリカはバイクで一人、帝都近郊にある霊園の中のある墓に訪れていた。

クロウ・アームブラスト
 S1184~S1204

「一年ぶりか…………」
クロウの墓を見つめて呟いたアンゼリカは寂しげな笑みを浮かべた後持ってきたシャベルを支えに立ち上がった。
「フフ…………違っていたら煉獄行きは確実だろうね。」
そしてアンゼリカは何と墓の下を掘り返し始めた!
「…………っ…………!やっぱりか。…………”土の匂いしかしない。”」
墓の下を掘り返したアンゼリカはクロウの遺体を見つめて呟いた後遺体に近づいて遺体の状態を確かめた。
「…………屍ではなく、ましてや仮死状態でもない。骨格や関節までも再現した精巧な”ダミー”というわけか。」

「―――気づいちゃったんだね?」
アンゼリカがクロウの遺体を調べていると突如青年がアンゼリカに声をかけた。
「!!…………ああ。あの時、あいつの葬儀を手配してくれたのは君だった。”蒼の騎神”を軍に引き渡した時も技術者として同行していた。そして大陸各地の工房巡りの最後にコネを利用してメンフィル帝国領となった旧共和国領のヴェルヌ社とハミルトン博士を訊ねたそうだが―――…………既に博士は旧共和国領から離れていて、君の訪問記録がない事もわかっている。」
自分にとって馴染み深い声を聞いて目を見開いたアンゼリカは青年に背を向けたまま呟いた。
「そういえば、君のお師匠様は旧”中央情報省(カルバードCID)”の室長だったか。迂闊だったな…………まさか直接、確認されるなんて。」

「この3ヵ月、何をしていたんだ、ジョルジュ・ノーム―――!?」
青年が溜息を吐いた様子で呟くとアンゼリカは立ち上がると共にすぐに振り向いて青年―――ジョルジュを睨んで叫んだ。
「……………………」
睨まれたジョルジュは何も答えず、冷徹な視線でアンゼリカを見つめ
「あ、貴方は…………!?」
更にジョルジュの背後にいた黒衣の男に気づいたアンゼリカは信じられない表情をした。
「フフ…………そうか。”この顔”に見覚えがあるのか。”確かに何度か顔を合せた事が”あったかもしれないね。―――始末しなさい、”ゲオルグ”。彼女は知りすぎてしまった。」
アンゼリカの反応に口元に笑みを浮かべて呟いた男はアンゼリカに背を向けてジョルジュ―――ゲオルグに指示をし、指示をされたゲオルグは手に持っていた銃をアンゼリカに向けた!
「ジョルジュ、君は―――」
ゲオルグの行動にアンゼリカが驚き、ゲオルグが無言でアンゼリカに発砲したその時、突如どこからか矢が飛んできて発砲した瞬間に飛び出した弾丸を破壊すると共にゲオルグが持つ銃を弾き飛ばした!


「ぐ…………っ…………一体何が…………?”矢”…………?」

「フーン…………話には聞いていたけど、本当にお前が”裏切り者”だったとはね。―――いや、”最初から敵”?ま、エヴリーヌ達の敵になった以上どっちでもいいけどね。」
銃を弾き飛ばされた衝撃を受けたゲオルグは呻いた後自分の近くに刺さっている矢に気づきて眉を顰めると、何とエヴリーヌが転移魔術でカーリアンと共にアンゼリカの傍に現れて冷徹な目でゲオルグを睨んでいた。
「エヴリーヌ君!?それにカーリアン様まで…………!?」

「は~い、ラクウェルや要塞の時といい、貴女とは縁があるみたいね~♪」
突如現れた乱入者である自分達に驚いているアンゼリカにウインクをしたカーリアンはエヴリーヌと共にゲオルグ達と対峙した。
「一人は特務部隊の”魔弓将”とやらか。…………もう一人の女は何者だ?」

「…………英雄王の側妃にして”空の覇者”と並ぶ英雄王に次ぐメンフィル帝国の実力者の一人―――”戦妃”カーリアンだ。まさか二人までここに来て、僕達の様子をどこかで見ていたとはね…………それにその口ぶりだと、アン以外にも僕の事を疑っていた人物がいたみたいだね?一体誰だい?」

「バカじゃないの?何でエヴリーヌ達の”敵”になったお前にわざわざエヴリーヌ達が何かを教えてやるなんて、ありえないでしょ。」

「短い間だったとはいえ、かつての仲間を躊躇なく”敵”扱いできるなんて随分と非情な性格だね…………―――まあ、そこまで割り切ってくれたらこちらとしてもやりやすいけど。」
自分の質問に対してにべもなく断って武器を構えたエヴリーヌに対して淡々とした様子で答えたゲオルグは背後に赤銅の戦術殻を現した!
「――――――」

「その赤銅の戦術殻はまさかミリアム君やアルティナ君のと同じ…………!?」

「”ナグルファル”―――それが僕の戦術殻の名前さ。性能も二人のと比べると若干上さ。―――最も、”彼”が扱う戦術殻と比べれば、どれも比較対象にならないだろうけどね。」

「フフ…………死者の眠る庭園で騒ぐような悪趣味は持っていないのだがね…………彼女同様知りすぎった上、忌々しき”イレギュラー”の一味である君達も始末する必要があるからね。」
突如現れた赤銅の戦術殻―――ナグルファルに驚いた後すぐに察しがついたアンゼリカに説明をしたゲオルグは加勢を求めるかのように黒衣の男に視線を向けると、黒衣の男は口元に笑みを浮かべた後指を鳴らすと男の背後にナグルファルよりも一回り大きい戦術殻が現れた!
「――――――」

「ゾア=バロール。―――久々の稼働テストに付き合ってもらおう。」

「へ~…………私達相手に”稼働テスト”とは随分とその鉄屑に自信があるみたいね?あんたの纏っているその雰囲気が私やファーミが大っ嫌いなあの(ケルヴァン)とよく似ている事もあって増々腹立つ男ね。――――――だったら、まずはそのご自慢の鉄屑をバラバラにして、その顔に恐怖を刻み込んであげるわ。」
男が新たに現れた戦術殻―――ゾア=バロールの説明をするとカーリアンは口元に笑みを浮かべていながらも目を笑っていない表情で男を睨んだ。
「で、アンゼリカはどうするの?」

「―――当然、君達と共にジョルジュ達を制圧するさ。ジョルジュもそうだが、ジョルジュの隣にいる”彼”にも聞きたい事が山ほどあるしね。」
エヴリーヌの問いかけに答えたアンゼリカは格闘の構えでゲオルグと男を睨んだ。
「こら―――!多くの死者達が眠る霊園で暴れようとするなんて、一体何を考えているんですか―――!?」
するとその時緊迫したその場の空気には似合わない可愛いらしい少女の声が辺りに響き渡った。


「…………?今の声は一体…………」

「あら、この声って確か…………」
突如聞こえてきた少女の声にアンゼリカが眉を顰めている中声に聞き覚えがあるカーリアンが目を丸くすると、神々しい白銀の槍に座った少女がカーリアン達とゲオルグ達のちょうど真ん中の上空に現れた――――!
 
 

 
後書き
という訳で今回の話の最後でようやく光と闇の軌跡シリーズ、運命が改変された少年で唯一の皆勤賞である戦女神のあのキャラが登場しました!なお、次回の戦闘BGMはグラセスタの”あの日の誓いを胸に”、VERITAの”宿業”、ZEROの”鬼神降臨”のどれかだと思ってください♪ 

 

外伝~霊園の改変~(3章終了)

~ヒンメル霊園~


「あ、やっぱりリタだ。」

「安らかに眠る死者達の霊園を荒す事は”冥き途”の見習い門番であるこの私が許しませ―――って、エヴリーヌちゃんにカーリアンさん?」
少女―――”冥き途”の見習い門番にして”神殺し”セリカ・シルフィルの元守護霊であり、現在冥界に命じられてゼムリア大陸を調査している聖霊リタ・セミフの登場にエヴリーヌが呟くと、リタは地上にいるメンツを睨んで宣言しようとしたが、エヴリーヌとカーリアンに気づくと目を丸くした。
「……………………えっと…………事情はよくわかりませんけど、悪いのはあちらですか?あちらの二人の魂からは程度の違いはあれど、邪悪な気配が感じられる上、あの黒衣の男性は”不死者”のようですし。」

「理解が早くて助かるわ♪―――ちょうどいいから、手伝ってくれないかしら?ちなみにあの二人はセリカからも既に”敵”として認定されていて、セリカは私達と一緒に連中の野望を潰す為にまたこっちの世界に来たらしいわよ。」
少しの間黙ってカーリアン達とゲオルグ達を交互に見つめたリタはカーリアン達の傍に降りてカーリアン達に訊ね、訊ねられたカーリアンが答えた。
「主がまたゼムリア大陸に来たんですか!?――――――事情はよくわかりませんが、主の敵は私の敵。死者達が眠る霊園で暴れる事は本意ではありませんが、御覚悟を。」
カーリアンの説明を聞いて驚いたリタは表情を引き締めてゲオルグ達を睨んでカーリアン達と共にゲオルグ達と対峙した。
「フフッ、このタイミングでエヴリーヌ君達と知り合いの新たな仔猫ちゃんが加勢してくれるなんてね。エヴリーヌ君、後で絶対にそちらの可愛い過ぎる新顔の仔猫ちゃんに私の紹介をお願いするよ♪」

「えー…………何でエヴリーヌが。めんどくさいから、自分で勝手にリタと仲良くなれば?」

「アハハ…………もしかしてアネラスさんやエオリアさんみたいな人なのかな?」
その場の空気をぶち壊すアンゼリカの発言にその場にいる全員が冷や汗をかいて脱力している中エヴリーヌはめんどくさそうな表情をし、リタは苦笑しながら呟き
「ほう、どうやら彼女は霊体のようだが…………まさか、自我を持っていてあれ程の聖なる霊力(マナ)を纏っているという事はさしずめ彼女は”聖霊”と呼ぶべきか。―――興味深い存在だ。可能であればあの霊体は確保するぞ。」

「”魔弓将”と”戦妃”も相手にしなければならない状況で、さすがにそんな余裕はないと思うけど、一応了解した……………………―――ここでも想定外(イレギュラー)は起こってしまったが、これ以上の想定外(イレギュラー)を起こさない為にも君達にはここで消えてもらう。」
興味ありげな様子でリタを見つめて呟いた男の言葉に淡々とした様子で答えたゲオルグは男と共にカーリアン達に向かって行き、カーリアンとリタ、アンゼリカとエヴリーヌはそれぞれ戦術リンクを結んでカーリアンとリタはゾア=バロールを操る黒衣の男に、アンゼリカとエヴリーヌはナグルファルを操るゲオルグに向かい、それぞれ戦闘を開始した!


「グラムキャノン照射!」

「――――――!!」

「「!!」」
ゲオルグの指示によってレーザーを発射したナグルファルの先制攻撃にエヴリーヌとアンゼリカは左右に散って回避し
「ハァァァァァァ…………セイッ!」
アンゼリカはクラフト――――――レイザーバレットをゲオルグに放った。
「ナグルファル。」

「―――」
ゲオルグに襲い掛かった衝撃波はナグルファルがゲオルグの傍に転移して結界を展開して防いだ。
「くふっ、この一撃に耐えられる?――――――アン・セルヴォ!!」

「!?」

「ぐっ!?」
そこにエヴリーヌが矢に膨大な魔力と闘気を宿らせた凄まじい一撃を放ち、エヴリーヌが放った矢はナグルファルが展開した結界を貫くと共にゲオルグに命中し、ゲオルグの態勢を崩し
「崩してあげたよ!」

「そこだっ!」
ゲオルグの態勢が崩れるとエヴリーヌとリンクを結んでいるアンゼリカが追撃をゲオルグに叩き込んだ。
「く…………っ!―――お返しだ!」

「―――」

「!シュッ、シュッ、セイッ!」
ゲオルグの指示によってナグルファルはアンゼリカに反撃をしたが、アンゼリカは一旦後ろに下がって回避した後ナグルファルに向かって連続掌底からアッパーへの連携でダメージを与えた。
「そこどいて、アンゼリカ!」

「!!」

「どっかーん――――――旋風爆雷閃!!」
そこにエヴリーヌが無詠唱で 軌道上に爆発を起こす高威力の稲妻を発射し、エヴリーヌの警告を聞いたアンゼリカが側面に跳躍するとエヴリーヌが放った稲妻がナグルファルとその背後にいるゲオルグに襲い掛かった!
「――――――!?」

「な――――――ぐがあああああああああっ!?」
膨大な魔力をその身に秘める”魔神”であるエヴリーヌが放った上位魔術を防ぐ術を持たないナグルファルとゲオルグはそれぞれあまりの凄まじいダメージによって機械音と悲鳴を上げた。
「くふっ、見切れる?―――五連射撃!!」

「!?」

「ぐあっ!?」
魔術を放ち終えたエヴリーヌは目にも止まらぬ速さで矢を5連射し、エヴリーヌが連射した矢の内の3本はナグルファルの両腕と足を破壊し、残りの2本は破壊されたナグルファルの両腕があった部分を通り過ぎてゲオルグの両肩に刺さった。
「貫いちゃえ――――――絶対氷剣!!」

「――――――!?…………」
そしてエヴリーヌは止めにナグルファルの足元から巨大な氷の刃を発生させて貫き、巨大な氷の刃で貫かれたナグルファルは一瞬機械音を出した後縦に真っ二つにされて破壊された!
「ナグルファル!?」

「――――――私達の勝ちだ、ジョルジュ。」

「!しまっ――――――」
相棒の悲惨な末路を見たゲオルグが驚いたその時、アンゼリカが一瞬でゲオルグの目の前に現れ
「ゼロ・インパクト!!」

「ガハッ!?…………ガッ!?くっ…………やはりメンフィルは想定外過ぎる…………」
ゲオルグの腹に零頸(ゼロインパクト)を叩き込み、アンゼリカの零頸(ゼロインパクト)を腹に受けた事で吹っ飛ばされると共に吹っ飛ばされた先にある木にぶつかり、戦闘不能になった!


「昏き雷よ――――――焼き尽くせ!!」

「――――――」
黒衣の男の指示によってゾア=バロールは変形させた両腕と瞳から同時にレーザーを放つクラフト――――――トライ・ブリューナクをカーリアンとリタに放ったが
「させない!白露の鎌撃!!」
リタが襲い掛かる槍で広範囲の地を這う斬撃を放って自分達に向かって襲い掛かるレーザーを相殺した。
「それじゃあ、あげていきましょうか♪―――チャーミングキス!それじゃあ、行くわよ~?虎口一閃!!

「!?」

「ぐっ!?」
カーリアンは攻撃能力を上昇させると共に闘気を得て、更に加速させるスピード型のブレイブオーダーを発動した後目にも止まらぬ速度で突撃して一瞬で複数の斬撃を叩き込む剣技でゾア=バロールと男を同時に攻撃すると共に怯ませ
「チャンスよ!」

「続きます――――――邪悪なる魂に裁きを――――――粛清の閃光!!」

「!?」

「があああああああっ!?」
男の態勢が崩れるとカーリアンとリンクを結んでいるリタが追撃に裁きの光を放つ魔術を発動してゾア=バロールと男に追撃を叩き込み、魔術の中でも不死者や霊体に凄まじい効果を発揮する神聖魔術でその身に焼かれた男は悲鳴を上げ、リタの魔術が終わると男は神聖魔術による浄化の光で焼かれた影響によって身体のあちこちから煙を出していた。
「おのれ…………霊体でありながら、本来は自分の弱点でもある聖なる霊力(マナ)まで扱うとは小癪な………!貫け――――――ゾア=バロール!」

「――――――!!」

「っと!」

「フフ、幽霊の私にはその攻撃は無意味ですよ?」
自分にとって弱点となる魔術を放ったリタを睨んだ男がゾア=バロールに指示をするとゾア=バロールは全身を針状に伸ばして攻撃するクラフト――――――這い寄る銀腕で反撃したがカーリアンは側面に跳躍して回避し、霊体であるリタにはゾア=バロールによる物理攻撃は一切効かず、リタはそのまま突撃した。
「まさに必殺!剛震突き!!」

「―――!?」
ゾア=バロールに突撃したリタは槍による強烈な突きで反撃してゾア=バロールを怯ませ
「崩しました!」

「続くわ――――――行くわよっ!バラバラになっちゃえ!祓砕斬!十臥!!」
ゾア=バロールが怯むとリタとリンクを結んでいるカーリアンが身体を回転させながら敵に突進して攻撃して敵の背後を駆け抜けた後双剣から闘気による十字の衝撃波を放った!
「――――――!?」

「馬鹿な!?戦術殻の始まりにして最強の戦術殻であるゾア=バロールが人如きに破壊されるだと…………!?」
カーリアンのSクラフト――――――祓砕斬・十臥によるダメージに耐え切れず、十字の衝撃波を受けた事で十字型に破壊されたゾア=バロールの末路を見た男が信じられない表情で声を上げたその時!
「我と共にありし聖槍よ……天に昇りて煉獄を照らす光の柱と化せ…………」

「く…………っ!?」
詠唱を終えたリタが自身の背後に無数の聖槍を召喚し、それを見た男は結界を展開して防ごうとした。
「走れ!空の聖槍!!

「ぐうううううっ!?ぁ――――――」
次々と襲い掛かる無数の聖槍を結界で耐えていた男だったが、何度も聖槍がぶつかった事で罅が入った結界に限界が来て結界が破壊されると呆けた声を出し、そこに残りの聖槍が無常にも襲い掛かった!
「ぐ――――――ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!?」
無数の聖槍は男に襲い掛かって周囲の地面に刺さった後最後に巨大な光の柱を発生させ、それを受けた男は全身が浄化の光によって焼かれる強烈な痛みに悲鳴を上げ
「バ、バカな…………この私が人如きに敗れる…………だと!?」
光の柱が消えると浄化の光に焼かれた影響で全身から煙を出して満身創痍の状態で戦闘不能になり、地面に膝をついた!


「…………まさかアルベリヒまで敗れるなんて…………どうやら僕達は君達メンフィルの事を未だ過少評価をしていたようだね…………」
それぞれの戦闘が終わり、黒衣の男の敗北を見たゲオルグは信じられない表情をした後表情を歪めてエヴリーヌを見つめ
「あんな雑魚を操る事とウィルと違って中途半端な技術しかない奴如きがエヴリーヌ達の力を計れるなんて考えをしている時点でバカじゃないの?」

「”雑魚”とは言ってくれるね…………技術はともかく、ナグルファルはあれでも性能はアガートラムやクラウ=ソラスよりも上なんだけどね…………」
冷酷な視線で自分を見つめて酷評したエヴリーヌの指摘にゲオルグは悔しそうな表情で答えた。
「2年前の”七日戦役”や内戦でのメンフィル帝国を敵に回した貴族連合軍のように、君達も”相手が悪すぎた”―――それだけの話さ。さてと…………私を抹殺しようとした事や君達の”名前”の件も含めて、詳しい事情を聞かせてもらおうじゃないか、”ジュルジュ”。今回ばかりは私も頭に来ているから、何も話さないつもりでいるのならば今の内に”覚悟しておくといい。”」

「ま、話さないのは貴方達の判断次第だけど…………何も話さないんだったら、腕や足の一本を失う事は覚悟しときなさい。―――先に言っておくけど、私達は今言った事は比喩じゃなくて本当に実行するわよ。」

「くふっ♪お楽しみの”拷問タイム”ってやつだね。」

「あ、終わったらそちらの男性の”後処理”は任せて下さい。幾ら悪しき魂であろうと、”既に死んだ存在”を導くことは”冥き途”の見習い門番たる私の役目ですから。」
アンゼリカ達がゲオルグと黒衣の男に尋問しようとしている中、リタは無邪気な様子である事を申し出ていた。
「…………まさか僕達が絶体絶命の状況に陥るなんてね…………どうする、アルベリヒ?」

「おのれ…………っ、想定外(イレギュラー)どもが……………っ!」
アンゼリカ達に睨まれたゲオルグは表情を歪めて男に判断をゆだね、判断をゆだねられた男は忌々しそうな表情でカーリアン達を睨んだ。するとその時銃弾が音もなくカーリアン達に襲い掛かり、銃弾にすぐに気づいたカーリアンは双剣で次々と斬って無効化した。
「狙撃…………!?まさか…………!」

「ん、要塞へ続く橋を陣取ってエヴリーヌ達の邪魔をしようとした仮面男だね、―――闇夜に隠れたくらいで、エヴリーヌが見つけられないと思っている時点でバカだ…………ね!」
カーリアンが無効化した狙撃を見て狙撃を行った人物に心当たりがあるアンゼリカが呟きかけたその時、アンゼリカの呟きに続くように答えたエヴリーヌは反撃に狙撃を行った人物目がけて次々と矢を放った!
「!!闇夜の狙撃者にも気づいて反撃するとはさすがは”魔弓将”か…………まあ、時間は稼いでやったのだから、十分だな。」
スナイパーライフルで狙撃を行った人物―――ジークフリードは次々と襲い掛かる矢を間一髪のタイミングで回避した後転移の魔導具で転移してその場から消え
「皆さん、制圧した二人が…………!」

「しまった…………!」
ジークフリード同様それぞれ転移の魔導具を発動させて転移しようとするゲオルグと男に気づいたリタの声を聞いたアンゼリカは血相を変えてゲオルグ達を見つめた。
「君達に”知られ過ぎてしまって”始末できずにその情報を持ち帰らせる事は痛いが、ここは退かせてもらうよ、アン。」

「今は目の前の勝利に喜んでおくがいい。そして我らが崇高なる計画を何度も乱した事、必ず後悔させてくれる―――忌々しき異世界の想定外(イレギュラー)ども。」
そして二人は去り際の台詞を口にして転移によって破壊された戦術殻達と共にその場から消えた!


「逃がしちゃいましたね…………」

「ま、今回の私達の役割は”本来は生死不明になるはずだったアンゼリカ・ログナーを守る事”だったから、最低限の役割は果たしているから戦果としては十分よ。」

「それにどうせ、後で自分達から現れるって話だから、その時に全員まとめて潰せばいいだけだしね、キャハッ♪」
二人が消えた後僅かに残念そうな表情で呟いたリタにカーリアンとエヴリーヌはそれぞれ二人を逃がしたことをあまり気にしていない様子の答えを口にし
「エヴリーヌ君とカーリアン様が”本来は生死不明になるはずだった私”を…………?エヴリーヌ君、カーリアン様。今の口ぶりだとまるで未来を見てきたかのような口ぶりでしたが、一体どういう事なんでしょうか…………?」
二人の答えが気になったアンゼリカは眉を顰めた後真剣な表情で二人に訊ねた。
「…………そうね。ここからは貴女にも協力してもらう必要があるから、説明してあげるわ―――」
そしてカーリアンはアンゼリカと、なし崩し的にその場にいたリタにも説明をし始めた―――
 
 

 
後書き
という訳でリタ登場&3章最後にある霊園でのイベントの改変にて3章終了です!なお、リタは引き続き4章でも登場し、リィン達に協力する機会がある上終章でもセリカ達と共に協力する予定となっていますので、リタが好きな人達はその時までお待ちください。 

 

外伝~混沌の鼓動~ (4章開始)

エレボニア側ノルティア州北端・アイゼンガルド連峰上空―――

皇室所属・飛行巡洋艦”カレイジャス号”


2年前の内戦でⅦ組や特務部隊の旗印となったアルセイユⅡ番艦にしてエレボニア皇家所有の飛行巡洋艦―――”カレイジャス”に乗船しているトールズ本校の生徒達が初めて乗る”カレイジャス”を楽しんでいる中、艦長であり、ラウラの父でもあるヴィクター・S・アルゼイド子爵はクルーから報告を聞いていた。

~カレイジャス・ブリッジ~

「―――現在、アイゼンガルド連峰、西部上空を通過中。予定では14:10に帝都圏に到達する見込みです。」

「速度と針路を維持。アルスター近郊に到着後は、鉄道路線に並行して飛行せよ。」

「イエス・キャプテン!」

「―――お疲れ様です、閣下。」
アルゼイド子爵がクルーへの指示を終えると本校の教官として赴任しているナイトハルト教官が近づいてきてアルゼイド子爵に労いの言葉をかけた。
「この一週間、本当にお世話になりました。」

「なに、これも紅き翼の役目というものだ。貴官こそ、ノーザンブリアでの初演習、さぞ気苦労も多かったであろう。お疲れ様であったな。」

「……………………正直、どのように評し、どう論すべきか迷っています。」
アルゼイド子爵の労いに対してナイトハルト教官は首を横に振って複雑そうな表情で答えた。
「フフ、クレイグ殿の薫陶の賜物というべきか。…………とにかく今は貴官の信念を示し続けるしかなかろう。そうすれば、きっと―――」

「ああ、教官。こちらにいましたか。」
アルゼイド子爵が何かを言いかけたその時、セドリック皇太子が近づいてきた。


「アルノール候補生…………」

「ご機嫌よう、殿下。」

「フフ、しかし流石は”紅き翼”ですね。内戦で殆ど使われることのなかった”主砲”も大したものでしたし…………今後、飛行艦隊にも同等の巡洋艦を数隻配備すべきかもしれません。まあ、兵器の生産を現状他国の企業になってしまったRF(ラインフォルトグループ)に未だ頼っている上、特に兵器の販売に関しては通常の値段よりも数倍、数十倍の値段で購入せざるを得ない今の状況では厳しい事は理解しているのですがね。」

「候補生、君は…………」

「―――確かに変事においては役立つ力ではありましょう。そうした力の使いようと是非…………今回の演習で学ばれたのであれば有意義であったのではないかと。」
セドリック皇太子の意見にナイトハルト教官が答えを濁している中アルゼイド子爵は真剣な表情でセドリック皇太子を見つめて指摘した。
「ええ、勿論です。お疲れ様でした、アルゼイド艦長。またの機会があることを祈っています。それと帝都の夏至祭での哨戒任務―――兄上と共によろしくお願いします。」
そしてセドリック皇太子が口にした言葉にナイトハルト教官とアルゼイド子爵はそれぞれ血相を変えて驚いていた。


~同時刻・緋の帝都ヘイムダル・地下道~

一方その頃帝都の警護を務める憲兵達は地下道を使って逃亡するある人物達を追って行ったが、その人物達は突如消えた為、逃がしてしまった。
「クソ…………!」

「これで何回目だ…………キリがないぞ!?」

「やはり鉄道憲兵隊や情報局の力を借りるしか…………」
憲兵達は追っていた人物達を逃がしたことに悔しさを感じながら地上へと戻って行った。
「…………やれやれ、あの程度であれば助かるが。」
その様子を距離を取って見守っていた男は溜息を吐いた後他の男たちと共に姿を現した。
「今はまだ捕捉される訳にはいかん。定刻まで散開――”ラムダ”はいつでも使えるようにしておけ。」

「Roger(ラジャ)。」

「任務を再開します。」
男の指示に頷いた青年たちは散開してその場から去った。
「紅い花…………?」
どこかへと向かっている青年は地面に生えている紅い花に気づいたが、気にせずその場から去ると何と紅い花の真上に突如亡霊らしき存在が現れた!
「―――させないわ。」
するとその時女性の声が聞こえると亡霊は何らかの魔術を受けて消滅した、紅い花も消滅した!
「ふう………本当にキリがないわね。」
するとクロチルダがその場に現れた。


「奇蹟をもたらす存在の”眼”にして”依代”―――”幻”は”焔”に呑み込まれ、御伽噺もメンフィル帝国を始めとした想定外(イレギュラー)の存在によって徐々に誰もが想定していなかった方向へと進みつつある。それで、”専門家”としてはどう介入するつもりなのかしら?」
独り言をつぶやいていたクロチルダがある方向に視線を向けて問いかけた。
「いや~、バレバレでしたかぁ。」
するとクロチルダが視線を向けた方向の物陰から眼鏡をかけた男が現れた。
「正直、とっかかりがなくて困ってましてねぇ。できればお近づきになって情報交換できないかな~と。よかったら”長”殿との仲立ちもお手伝いさせていただきますよー?」

「ふふっ…………そういえば”協定”とやらを結んでいたそうね?まあ、それについては検討させてもらうとして――せいぜい、お手柔らかにお願いするわ、トールズ本校、元歴史学教官…………いえ――第二位”匣使い”、トマス・ライサンダー卿。」
気安い口調で話しかけた男―――トールズ本校の元歴史学教官にして”星杯騎士団”の守護騎士(ドミニオン)の第二位にして星杯騎士団の副長―――”匣使い”トマス・ライサンダーの言葉に妖しげな笑みを浮かべたクロチルダがトマスに指摘するとトマスは口元に笑みを浮かべて眼鏡に手を置いた。
「お話中の所、割り込んでしまってすみませんが、ちょっと聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
するとその時リタが突然何もない空間から現れ、リタの登場に二人はそれぞれ驚いた。
「おや、確か貴女は…………」
我に返ったトマスは目を丸くしてリタを見つめ
「亡霊…………?いえ、先程滅した霊と違って、ちゃんとした自我もあるようだし、何よりも感じる霊力(マナ)が聖気を纏っているわね…………―――何者かしら?」

「―――彼女は異世界に存在する死者達の魂を導き、来世へと繋げていく”冥き途”という場所の門番の一人にして守護霊であるリタ・セミフさんです。いや~、ケビン達の報告で貴女の事も挙がっていましたが、まさかこんな所でお会いできるなんて、これも女神(エイドス)のお導きかもしれませんね~。」
リタを興味ありげな様子で見つめているクロチルダにリタの事を説明したトマスはリタに気安く話しかけた。
「ケビンさん達から私の事を聞いたという事は”星杯騎士団”の関係者の方ですか。―――ちなみに貴女はどういった立場の方なのですか?」

「フフ、そうね…………”嵐の剣神”に惹かれし魔女とでも名乗っておこうかしら?」

「え…………”嵐の剣神”という事は主―――セリカ様に?そういえばこの間会ったカーリアンさん達から元結社の”蛇の使徒”にして魔女でもある方が主に恋をしているみたいな事を教えてくれましたけど、もしかしてその方ですか?えっと、確か名前は…………ヴィータ・クロチルダさんでしたっけ?」
怪しげな笑みを浮かべたクロチルダの説明に目を丸くしたリタはすぐに心当たりを思い出してクロチルダに確認した。
「ええ、そうよ。どうやらその口ぶりだと貴女は”嵐の剣神”の関係者みたいね?」

「はい、”元”にはなりますが私は主――セリカ様の”使い魔”でした。まあ、使い魔契約を解除しているとはいえ、主が今でも私にとって大切な人で主であることは変わりませんが。」

「いや~、契約を解除してもなお、”嵐の剣神”に忠誠を誓うその忠義心には感服しますよ。機会があれば、”嵐の剣神”の関係者の方々ともお近づきになりたいと思っていたのですが…………もし、お二方ともよろしければ、それぞれ、お互いの情報交換を致しませんか?」

「フフ、私としてはセリカの事をもっと知る事ができる機会でもあるから、別に構わないわよ。」

「えっと……そちらの魔女の方はともかく、私が”星杯騎士団”の方が知りたい情報を持っているとは思えないのですが…………個人的にここのこの状況をもっと詳しく知りたいので私も構いませんよ。」
そしてトマスの提案にそれぞれ了承した二人はその場で情報交換を始めた。


~皇城・バルヘイム宮・翡翠庭園~

一方その頃エレボニア皇帝ユーゲント三世とその妻、プリシラ皇妃は皇城内の庭園である事を話していた。
「ふう、まさかオリヴァルト殿下が祝賀会を欠席されるなんて…………」

「仕方あるまい―――あのような事があったばかりだ。紅き翼が帝都の空を守るならば民もさぞ安らごう。」
溜息を吐いて呟いたプリシラ皇妃にユーゲント三世は慰めの言葉をかけた。
「ええ…………ですが殿下に申し訳なくて。ただでさえセドリックの事で気を悪くされているでしょうし…………」

「フッ、その程度で不快となるオリヴァルトではあるまい。そなたも良く知っているようにな。」

「ふふ、そうですわね…………」
ユーゲント三世の言葉に微笑みを浮かべて答えたプリシラ皇妃は昔のオリヴァルト皇子やアルフィン達の様子を思い浮かべ得た。
「お母様を喪い、皇宮に引き取られたばかりの男の子…………小間使い上がりの継母のことなど邪剣にされてもおかしくないのに…………殿下はわたくしを受け入れアルフィンやセドリックの誕生を心より喜んでくださいました。」

「フフ、それがあれの人徳だろう。エレボニアだけでなく大陸各地に、そして14年前に突如現れ、交流はリベールが主であった異世界にも”友”がいるのも頷ける話だ。」

「ええ、それなのに。それなのに、最近のセドリックはあれほど慕っていた兄君を―――それどころか、自身の双子の姉のアルフィンまで―――…………既にセドリックがアルフィンとも会ったことは聞き及んでおりますが、アルフィンもセドリックの変貌にさぞショックを受けた事でしょうね…………」

「…………かもしれぬな。だが、今のアルフィンには心から信頼できる伴侶や仲間達がいる。アルフィンの事については彼らに任せるべきだろう。今のアルフィンは”アルノール家”ではなく、”シュバルツァー家”の一員なのだからな。」

「…………そうですわね。リィンさん達には”七日戦役”やアルフィンの件も含めて、わたくし達は受けた恩を何一つ返すことができず本当にお世話になってばかりで申し訳ないですわね…………」

「そうだな。それこそ養女に迎えたリーゼロッテもアルフィンのように彼の者の伴侶として差し出しても、私達は返し切れぬ恩を彼を含めたシュバルツァー家から受けているからな…………」

「――両陛下、失礼します。オズボーン閣下が拝謁を賜りたいとの事ですが…………」
プリシラ皇妃の意見にユーゲント三世が静かな表情で同意したその時、衛士が二人に話しかけた。
「わかった、通してくれ。」
そしてその場にエレボニア帝国宰相―――”鉄血宰相”ギリアス・オズボーンが衛士に連れられて現れた!


「お寛ぎのところ失礼いたします。陛下、プリシラ様も。」

「いえ…………お役目、お疲れ様です。それではわたくしは下がらせて頂きますね。」
オズボーン宰相の言葉に答えたプリシラ皇妃は恭しく会釈をした後衛士と共に皇宮内へと戻って行った。
「…………やはり、殿下のことでご不快にさせているようですな。」
プリシラ皇妃を見送ったオズボーン宰相は苦笑しながら答えた。
「こればかりは致し方あるまい。そもそも妃とそなたで見えているものが違う以上は。」

「御意。」

「それよりも―――いよいよ”史書”の通りになってきたわけか。」

「ええ、内戦についてはタイミングを計り、内戦の最中に”七日戦役”という”史書”には書かれていない戦は起こりましたが…………それでも全てが”それ”に至りつつあるのは確かでしょう。…………ですがよろしいのですか?”このまま私に任せても。”」

「―――14年前に言った通りだ。”それ”が避けられるぬのなら、まずはそなたに任せると決めた。息子たちには苦労をかけ、国の為に己の身を差し出したアルフィンには失望させてしまうだろうが…………”それについてはそなたも同じであろう。”」
オズボーン宰相の問いかけに対して静かな表情で答えたユーゲント三世はオズボーン宰相を見つめた。
「―――承りました(イエス)、陛下(ユア・マジャスティ)。」
ユーゲント三世の指摘に対してオズボーン宰相は口元に笑みを浮かべた後恭しく礼をした――――
 
 

 
後書き
ようやく、4章まで来た…………閃Ⅲ篇完結まで後少し…………なお、次回は一部の方達がお待ちかね(?)のミュゼのリィンハーレム入り&リィン達に閃Ⅲ原作ラストのネタバレ回の話になりますww 

 

外伝~灰色の騎士と盤上の指し手の覚悟~ 前篇

6月28日――――

~深夜・第Ⅱ分校宿舎~

3度目の特別演習が終了した数日後、リィンは通信で来たリアンヌ分校長からの呼び出しによって生徒や教官達が寝静まった深夜にリアンヌの部屋を訊ねていた。
「―――はい。」

「―――シュバルツァーです。」

「鍵は開いていますので、そのまま入ってもらって構いません。」

「…………失礼します。」
部屋の主であるリアンヌ分校長の許可を聞いたリィンがリアンヌ分校長用の部屋に入るとそこにはリアンヌ分校長以外にもセレーネ、アルティナ、ゲルド、レン、エリゼ、アルフィン、そして”ミルディーヌ公女”の姿になったミュゼがいた。
「セレーネ?それにエリゼ達やアルティナにゲルドまで…………まさか、メンフィル帝国から何か重要な情報が来たのですか?」
セレーネ達までいる事を不思議に思ったリィンだったが、集まっているメンバーがメンフィル帝国の関係者ばかりである事によって自分が呼ばれた理由がメンフィル帝国関連である事にすぐに察しがつくと表情を引き締めてリアンヌ分校長達に訊ねた。
「うふふ、相変わらず察しがいいわね。これで恋愛方面にもその鋭さが適用されればいいんだけどねぇ。」

「ふふっ、その意見にはわたくしも同感ですわ。わたくしやアリサさんが旦那様にわたくしの気持ちを知ってもらうのに随分と苦労しましたし…………」

「そんなにリィン教官って恋愛方面になると”鈍感”だったんだ…………」

「…………あの。兄様に”そちらの方面”が鋭すぎれば、ヴァイスハイト陛下のような事になりかねませんから、鋭すぎるのも考え物かと思います。」

「ア、アハハ…………確かに。」

「何事もほどほどがいいという事でしょうね。」
小悪魔な笑みを浮かべたレンの指摘にアルフィンは苦笑しながら同意し、二人の話を聞いたゲルドが目を丸くしている中、ジト目で指摘したエリゼの指摘にセレーネは苦笑し、アルティナは静かな表情で同意し、その様子にリィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「え、えっと………それで一体リウイ陛下達からどのような重要な情報がもたらされたのですか――――って、君は…………」

「クスクス、こんばんわ、リィン教官♪――――いえ、この姿では”初めまして”と言うべきでしょうか?」
我に返った後露骨に話を逸らそうとしたリィンはミルディーヌ公女の姿になっているミュゼに気づくと目を丸くし、ミュゼは微笑んだ後意味ありげな笑みを浮かべた。
「…………以前も言ったように君の”正体”についてはアルフィンから予め聞いている、ミュゼ―――いや、ミルディーヌ公女。」

「やはりリィン教官はミュゼさんの正体をご存じでしたか…………わたしに関しては今この場で初めて知ったのですが。わたしにミュゼさんの”正体”についての情報を共有しなかったリィン教官達には後で苦言をしたい事は山ほどありますが…………その件を一端置いておくとして、どうやらその様子ですと先日の特別演習の3日目の夜に外泊した本当の理由は”領邦会議”で、その会議によって次のエレボニア側のカイエン公爵はミュゼさんに決まったみたいですね?」

「あ…………そういえば、ミュゼが外泊したあの日って、”領邦会議”の最終日でもあったわね…………」
ミュゼの問いかけに静かな表情で答えたリィンをジト目で見つめたアルティナは真剣な表情でミュゼを見つめ、アルティナの話を聞いたゲルドはフォートガードの特別演習の際にミュゼが外泊した時の事を思い出した。
「はい、おかげさまで♪―――改めまして自己紹介を。前カイエン公爵クロワールの姪にして、エレボニア側のカイエン公爵に内定したミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します。ちなみにリィン教官の10番目の伴侶として教官と婚約を結ぶことをリウイ陛下を始めとしたメンフィル帝国の皇族、政府、リィン教官のご両親であられるシュバルツァー男爵夫妻、そして教官の正妻であるエリゼさんや姫様を始めとした教官の伴侶の方々にも正式に許可を頂いていますので、今後は婚約者同士、よろしくお願いしますね、リィン教官♪」

「「………………………………」」

「え”。―――エ、エリゼ!?それにセレーネやアルフィンも!一体どういう事だ…………!?」
ミュゼの自己紹介にアルティナとゲルドは驚きのあまり呆けた表情で黙り込み、リィンは表情を引き攣らせた後慌てた様子でエリゼ達に訊ねた。
「ア、アハハ…………実はミュゼさんの件はフォートガードでの特別演習が終わって、リーヴスに帰還した翌日にわたくしとアルフィンさんはエリゼお姉様から説明をされていたのですわ。」

「領邦会議でエレボニア側のカイエン公爵に内定したその日の夜にリウイ陛下達―――メンフィル帝国と何らかの交渉をする話はエリゼから聞いてはおりましたが、まさかその交渉でリィンさんとの婚約を陛下達どころかエリゼにまで承諾させた話を聞いた時は本当に驚きましたわ…………」

「ええっ!?領邦会議の最終日にエリゼが外泊した理由はリフィア殿下の専属侍女長としてオルディスにいるユーディット皇妃陛下達と何らかの会談を行う為に出席する為だとは聞いていたけど、その会談の内容はミュゼとの会談だったのか!?」
苦笑しているセレーネと呆れた表情でミュゼを見つめて呟いたアルフィンの話に驚いたリィンはエリゼに訊ね
「―――はい。そして様々な事情を鑑み、彼女を兄様の10番目の伴侶として迎える事を決めました。…………ちなみにアリサさんやステラさん、ベルフェゴール様達にも予め話をして了承してもらっています。」

「……………………―――い、いやいやいや!?どうして、そんな重要な事を当事者の俺にも話を通さずに決めたんだ!?というか何なんだ、その”様々な事情”というのは!?」
エリゼの答えを聞いて口をパクパクしていたリィンだったがすぐに我に返ると疲れた表情で問いかけた。
「ふふっ、教官と私の婚約は政略的な意味合いもありまして。そしてその政略とはエレボニア側のカイエン公爵たる私が多くの伴侶を迎える事で様々な方面との縁戚関係を持つリィン教官と結ばれる事で、”オズボーン宰相達を廃した後のエレボニアの政治にメンフィル・クロスベル連合を介入させる正当な理由の一つ”でもあるからですわ。」

「な――――――」

「え…………―――ミルディーヌ!?今の話は一体どういうこと!?まさか貴女…………エレボニア帝国をメンフィル・クロスベル連合の”属国”にするつもりなの!?」
ミュゼの説明にリィンは驚きのあまり絶句し、アルフィンは呆けた後血相を変えて厳しい表情でミュゼに問いかけた。
「…………彼女がそのような判断を降した理由については、貴方方とも共有すべきリウイ陛下達からの情報の件を含めて今から説明いたします―――」
その様子を見たリアンヌ分校長は静かな表情で申し出、リアンヌ分校長とレンはリウイ達からもたらされた情報―――並行世界の未来の新Ⅶ組の情報や領邦会議の後で行ったミュゼとリウイ達の交渉内容等を説明した。


「並行世界の未来のユウナ達がこの世界にいる事にも驚いたけど、並行世界ではそのような事が起こっていたなんて…………(まさか、異世界でも”ラウアールの波”のようなものが存在していたなんて…………あ…………だから、私はあの時”あの歌”を歌っていたのね…………)」

「並行世界の未来ではミリアムさんがわたしを庇って死亡し、”剣”になったのですか……………………」

「しかもアンゼリカさんは生死不明になり、カレイジャスまで爆破されたという事は並行世界の未来ではお兄様や子爵閣下、それにトヴァルさんは…………」

「アルティナさん、アルフィン…………」
驚愕の事情を聞き終えたゲルドは重々しい様子を纏って呟き、アルティナとアルフィンは悲痛そうな表情を浮かべ、二人の様子をエリゼは心配そうな表情で見つめた。
「………………………………―――ようやく、疑問が解けたよ。何故オルキスタワーにいたはずのリーゼアリアがユウナ達と共に”星見の塔”に現れる事ができた疑問を。あれは、ミュゼ。君と並行世界のミュゼの仕業だったんだな?」

「あ…………」

「そ、そういえばリーゼアリアさんはミュゼさんに発破をかけられてわたくし達の加勢の為にオルキスタワーを抜け出して星見の塔に現れたと仰っていましたが、よくよく考えてみるとおかしな点がありましたわよね?」

「はい。”ミュゼさんもわたし達と一緒に演習地にいたにも関わらず、オルキスタワーにいるはずのリーゼアリアさんを演習地に連れてきてわたし達と合流させた事”はどう考えても辻褄が合わない出来事です。恐らくですが、リーゼアリアさんに発破をかけたミュゼさんはわたし達の世界のミュゼさんで、わたし達と共に演習地にいたミュゼさんは――――」

「ええ、オルキスタワーでの結社との戦いの後に演習地に戻ったその日の夜に私と入れ替わった”並行世界の未来の私”ですわ。ちなみに私は皆さんが星見の塔で結社の使い手達と激闘を繰り広げている中、オルキスタワーでユーディお姉様とキュアさんと”今後”の事についての交渉をさせて頂いておりましたわ。」
目を伏せて黙り込んでいたリィンは目を見開いてミュゼを見つめてある事を口にし、それを聞いたゲルドは当時の事を思い出して呆けた声を出し、戸惑いの表情で呟いたセレーネの意見に頷いたアルティナは真剣な表情でミュゼを見つめながら推測し、アルティナの推測にミュゼは静かな表情で頷いた。
「オルキスタワーでユーディットさん達と…………という事は、貴女は並行世界の未来の貴女とクロスベルでの特別演習が行われる前から繋がっていたのかしら?」

「いえ、実際に彼女―――”ミューズと名乗っている私”との繋がりを持ったのは三帝国交流会の為にオルキスタワー屋上にメンフィルとエレボニアのVIP達が到着した時に彼女から連絡が来ましたから、彼女達の存在についてはその連絡が来るまで私も全く把握していませんでしたわ。…………それにしても、理解していたとはいえ”私がもう一人現れるなんて出来事”は”私自身”と会った時に心から驚いてしまいましたわ。あの驚きは間違いなく一生で一番の驚きになるかと♪クスクス♪」
アルフィンの問いかけに答えたミュゼは小悪魔な笑みを浮かべ、ミュゼの答えにリィン達は冷や汗をかいて脱力した。


「…………分校長、それにレン教官。まさかセリカ殿達が再びゼムリア大陸に現れた理由は先程の話にあった”黄昏”の件ですか?」

「へえ?―――その通りよ。”黄昏”が起こった事でエレボニアを中心とした西ゼムリア大陸の大戦乱が起こる事はセリカお兄さん達にとっては看過できない事だから、それを未然に防ぐために再びゼムリア大陸に現れたのよ。―――セリカお兄さんの”正体”を知っているリィンお兄さん達だったら、セリカお兄さんだったら”黄昏”を何とかできる事も知っているでしょう?」
リィンの問いかけに興味ありげな表情を浮かべたレンはリィン達に指摘し、レンの指摘にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいた。
「ア、アハハ…………まあ、セリカ様でしたら”黄昏”―――”世界の呪い”すらも何とかできるでしょうね。」

「そうですね。セリカ様は非常識過ぎる面々のディル=リフィーナ勢の中でも”最も非常識かつ理不尽な存在”と言っても過言ではありませんし。」
我に返ったセレーネは苦笑し、アルティナはジト目で呟いた。
「えっと………ずっと、気になっていたんだけど、どうしてセリカさんはその”黄昏”を何とかする為にわざわざ異世界からやって来たのかしら?」

「フフ、それは…………―――将来、彼の者の伴侶として生まれる正義の大女神殿が生きる世界が戦乱の時代であることは、彼の者にとっても看過できないとの理由だからです。」

「そ、そんな理由の為だけに…………」

「まあ、サティア様との再会、成長を心から望んでいるセリカ様自らが動かれる納得の理由ではありますが…………」

「そのような理由でセリカ様の逆鱗に触れたオズボーン宰相達は”哀れ”に見えてきますわよね…………」
ゲルドの疑問に答えたリアンヌ分校長の答えを聞いて冷や汗をかいて脱力したリィンは疲れた表情で呟き、エリゼとセレーネは苦笑していた。


「―――話をオズボーン宰相達の件に戻すわ。まず、未来では”ゲオルグ”と名乗るジョルジュ・ノームの裏切りによって生死不明になったアンゼリカお姉さんの件だけど…………それを未然に防ぐために、ヒンメル霊園でアンゼリカお姉さんが現れるのを待っていたエヴリーヌお姉様とカーリアンお姉さんがジョルジュによるアンゼリカお姉さんの暗殺を未然に防いで撃退した後、アンゼリカお姉さんにも事情を話して、しばらくの間メンフィル帝国の本土―――”ミルス”で匿われる事を了承してもらっているから、アンゼリカお姉さんは今はミルスにいるわ。」

「!!」

「それじゃあやはり、ジョルジュさんは…………」

「”黒の工房”の関係者だったという事ですか…………」

「それでも、生死不明になるはずだったアンゼリカさんを守る事ができて本当によかったわ…………」
レンの話を聞いたリィンは目を見開き、セレーネとアルティナは複雑そうな表情をし、ゲルドは安堵の表情で呟いた。
「………あの、レン皇女殿下。こんなことをレン皇女殿下達に嘆願する権利はわたくしにはないと承知の上ですが―――」

「―――ユーゲント皇帝への銃撃や”黒のアルベリヒ”による黒の工房が仕掛けたと思われる爆薬によるカレイジャスの爆破―――つまり、オリビエお兄さん達の爆殺を未然に防いで欲しいって事でしょう?まあ、レン達もそのつもりだけど、カレイジャスの件は何とかなると思うけど、ユーゲント皇帝の件は多分”完全に防ぐことは無理”だと思っているわ。」

「え…………ど、どうしてですか………?その…………ユーゲント陛下を銃撃する人物も並行世界のユウナさん達のお陰で予め判明しているのですから、当日”彼”を見張っていればいいのでは?」
アルフィンの嘆願に静かな表情で答えたレンの答えが気になったセレーネはアルフィンを気にしながら不安そうな表情で訊ねた。


「…………先程の話にあったエレボニアに巣食う”呪い”―――因果律を狂わせる強制力によって、こちらがどう妨害した所で結局は”黒の史書”通りになってしまう。―――そういう事ですか?」

「ええ。恐らく貴方達がどれ程カーバイドに注意をしていたとしても、因果律を狂わせる強制力を出し抜くことは並大抵のことではありません。」

「はい、その証拠に並行世界の未来の私もアッシュさんが入手したヴェルヌ社製の特殊拳銃を見逃したとの事ですから、恐らく私自身も例え予めアッシュさんが特殊拳銃を手にする所を目撃し、彼から特殊拳銃を取り上げたとしても、何らかの形で彼の手に再び特殊拳銃が渡る事になるでしょうね。」

「そんな…………お父様…………」

「アルフィン…………」

「…………それでも…………それでも、”黒の史書”という本に書かれている事は絶対ではない―――ううん、”絶対に決まった未来は存在しないわ。”黒の史書の内容も私の予知能力と同じであくまで”可能性”を記したものである事は今の話を聞いて、確信できるもの。」
リィンの推測にリアンヌ分校長とミュゼはそれぞれ頷き、その話を聞いて悲痛そうな表情をしているアルフィンをエリゼが辛そうな表情で見つめている中、ゲルドは静かな表情を浮かべて答えた。


「え…………ゲルドさんは今の話を聞いて、何故”黒の史書”に書かれている内容もあくまで”可能性”であることを断言できるのですか?」

「お義父さん達―――メンフィル帝国を始めとした異世界ディル=リフィーナとゼムリア大陸が繋がるという世界にとっての大事(おおごと)が記されていないようだもの。」

「あ…………」

「確かに…………”百日戦役”どころか”獅子戦役”が起こる事すらも記されていながら、それらと比べると遥かに世界にとっての大事であるディル=リフィーナとゼムリア大陸が繋がるという事実は記されていないとの事だからな…………」
アルティナの質問に答えたゲルドの答えを聞いたアルフィンは呆け、リィンは納得した様子で呟いた。
「つまり、”呪い”にとって異世界ディル=リフィーナの存在はまさに想定外(イレギュラー)ですから、もしかしたらディル=リフィーナの関係者でしたら、”呪い”は介入できない可能性も考えられるという事ですか。」

「そう―――それがレン達にとって”呪い”を出し抜ける”可能性”と言っても過言ではないわ。だから、ユーゲント皇帝への銃撃事件が起こる当日はベルフェゴールお姉さんに姿を消した状態で、ユーゲント皇帝の近くにいてもらって、ユーゲント皇帝への銃撃を可能な限り防いでもらう―――最悪でも、致命傷にはならないようにしてもらう予定になっているわ。」

「ベルフェゴールがユーゲント陛下を……………………なるほど、”七大罪”の一柱の魔神であるベルフェゴールならば、”呪い”による因果律すらも影響を及ばない事が考えられるからですか。」

「そういう事♪――――で、リィンお兄さん達に気を付けて欲しいのは帝国政府が何らかの形でアルティナをリィンお兄さん達から離す事―――つまり、拉致する事を絶対に阻止する事よ。」
リィンの推測に頷いたレンは表情を引き締めてリィン達に指摘した。
「アルティナさんを帝国政府から守る事は並行世界の未来で起こりかけたアルティナさんの命を奪って”剣”にさせない為ですか?」

「ええ。”百日戦役”と”七日戦役”による我が国とエレボニア帝国の力関係を考えると、メンフィル帝国に所属しているオライオン相手に強権を発動してまで我々からオライオンを拉致する事はありえないとは思いますが、並行世界の件を考えると十分に考えられますので。」

「パパ達からも、最悪戦闘になって相手を”抹殺”してでも絶対にアルティナの身柄をエレボニアに引き渡してはいけない事も伝えられているから、万が一向こうが頑なにアルティナの確保を望んだりメンフィル帝国の許可を得てとかこっちが納得をせざるを得ない理由を言ってきたとしても、その要請に応える必要はないからね。」

「―――了解しました。今後アルティナの身辺には最大限の注意を払うように気を付けます。」

「私も”予知能力”を使って、今後アルに何か起こらないか注意をしておくわね。」

「フフ、幾ら宰相達が黒の工房や結社と協力したとしてもメンフィル帝国による庇護に加えてゲルドさんの”予知能力”という二段構えの”迎撃態勢”を超える事は不可能でしょうね♪」

「アハハ…………そもそも、ゲルドさんの”予知能力”で自分達の行動が予測されて、前もってわたくし達にその対策をされるのですから、その時点でアルティナさんの拉致は不可能ですものね…………」
エリゼの質問に答えたリアンヌ分校長とレンの説明を聞いたリィンとゲルドは真剣な表情を浮かべて頷き、微笑みながら答えたミュゼの答えを聞いたセレーネは苦笑していた。


「…………わたしの事に配慮して頂けることはありがたいのですが…………その場合ですと、オズボーン宰相達はわたしではなく、ミリアムさんを”剣”にする事を考える可能性が考えられるのですが…………」

「それは…………」

「―――そうね。というか普通に考えて、並行世界と違ってエレボニアの権威や力すら通じないメンフィル相手にメンフィルに所属しているアルティナを確保するなんて、相当なリスクを覚悟しなければならないのだから、自分達の手元にいるミリアムをアルティナの”代役”として選んだ方が彼らの計画の成就の成功率は遥かに跳ね上がるもの。だから、レン達は”ミリアムが”剣”に選ばれてオズボーン宰相達によって拉致される事を想定した上での黄昏発動の阻止”を予定しているわ。」
ある事に気づいて辛そうな表情を浮かべたアルティナの推測を聞いたリィンは複雑そうな表情をし、レンは静かな表情でアルティナの推測に頷いて話を続けた。
「ミリアムさんの拉致を想定した上での”黄昏”の阻止作戦という事は、並行世界のお兄様達のように”黒キ星杯”に突入してミリアムさんの奪還、そして”呪い”をその身に封印している”聖獣”を何とかする事ですか?」

「ええ。”呪い”に侵された”聖獣”はセリカ殿、もしくはアイドス殿の神術ならば浄化は可能との事ですから、当日は転移魔術でエレボニアに密入国をしたセリカ殿達も貴方達に同行する事になります。」

「うふふ、それどころかロイドお兄さん達―――”特務支援課”やエステル達もリィンお兄さん達と一緒に”星杯”に突入する事も予定しているわよ♪」

「ええっ!?セリカ殿達どころかロイド達やエステル達まで俺達と一緒にその”黒キ星杯”とやらに突入するんですか…………!?」

「ふふっ、”碧の大樹”以来のメンバーですわね。」

「そうですね。…………あの、まさかとは思いますが”空の女神”の一族が再びゼムリア大陸に現れて、わたし達と一緒に”黒キ星杯”に突入する事まで予定しているのでしょうか?」

「クスクス…………そういえば、アルティナさんや教官達は2年前に降臨されたあの”空の女神”やその一族の方々とも直に会うどころか、共闘までしたとの事でしたわね♪」

「ゼムリア大陸全土が崇めている”女神”…………一体どんな”女神”なのかしら?」

「ふふっ、旦那様達の話によりますと女神様はオリヴァルトお兄様のように中々ユニークな性格をした女神であるとの事ですわ。」
レンから知らされた驚愕の予定にリィンは驚き、セレーネは微笑み、ある事が気になってジト目になったアルティナの推測を聞いたリィン達がそれぞれ空の女神―――普段は生き生きとした様子で”ただの新妻”と名乗り、”空の女神”呼ばわりする事を本気で嫌がり、様々な規格外な行動を平気でしてきたエイドスを思い浮かべて冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ミュゼは微笑み、ゲルドは興味ありげな表情を浮かべ、ゲルドの疑問にアルフィンは苦笑しながら答えた。


「え、え~っと…………まあ、決して一言では現せない性格だよな、空の女神は。」

「そうですね…………ある意味直に会う事は止めた方がいいと思えるような方ですね。」
我に返ったリィンとエリゼはそれぞれ困った表情で答え
「フフ…………さすがに彼女達の加勢までは予定していません。今回の件も”零の至宝”の件同様人の”業”によって生まれたものであり、解決の為に空の女神自らが動いてもおかしくない件ではありますが、2年前の件と違い、今回の件は”歴史の改変”ではないのですから、時代が異なる彼女達にまで負担を強いる件ではありませんので。―――それよりもリィン・シュバルツァー、ここまで話を聞けば恐らく貴方も既に察していると思いますが”黄昏”の阻止作戦の目的は”元凶”である”呪い”の浄化だけではありません。」

「……………………”黄昏”の発動、そして世界を”終焉”へと導くことを目論む主犯格の人物達――――エレボニア帝国宰相ギリアス・オズボーン並びに、”黒の工房”の長である”黒のアルベリヒ”―――いや、俺達がクロスベルの湿地帯で出会った”帝國学術院”の教授の一人にしてアリサが幼い頃に既に死亡したはずのアリサの父親―――――フランツ・ルーグマンの”抹殺”ですか。」

「そ、それは…………」

「……………………」
リアンヌ分校長の指摘に対して静かな表情で答えたリィンの話を聞き、それぞれリィンやアリサの心情を予想したセレーネは不安そうな表情をし、アルティナは複雑そうな表情を浮かべていた。
「そうよ。リィンお兄さんが予想しているようにエレボニア帝国政府は関係しないパパとシルヴァンお兄様による正真正銘のメンフィル両皇帝の要請(オーダー)という形で、リィンお兄さんにも二人の”抹殺”が指示される予定となっているわ。」

「―――単刀直入に聞きます。リィン・シュバルツァー、貴方はかつて”七日戦役”を和解へと導くために前アルバレア公やルーファス・アルバレアを討った時のようにゼムリア大陸の平和を乱すことを望むあの二人を自らの手で討てますか?」
そしてリィンの推測にレンが頷いて説明した後、リアンヌ分校長はリィンに非情の覚悟を問いかけた―――
 
 

 
後書き
なお、今回の話でリィン達が閃Ⅲ終盤の原作イベントを知った時からのBGMは閃Ⅲの”嘆きのリフレイン”か閃Ⅳの”変わる世界 -闇の底から-”のどちらかで次回の話でリィンが決意を口にする所からのBGMは閃ⅣのラストダンジョンのBGMである”The End of -SAGA-”だと思ってください♪ 

 

外伝~灰色の騎士と盤上の指し手の覚悟~ 後篇

~第Ⅱ分校宿舎~

「……………………――――はい。例えその結果アリサに嫌われ、婚約が解消されようと…………俺や多くの人達の未来の為…………世界を”終焉”へと導く主犯格の一人が身内である事で罪悪感や責任感に押し潰されるかもしれないアリサの為…………4年前エステル達が解決した”リベールの異変”、2年前みんなの協力によって終結する事ができた七日戦役、内戦、そしてクロスベル動乱を無駄にしない為にも、俺はギリアス・オズボーン並びにフランツ・ルーグマンを討ちます。」

「兄様…………」

「お兄様…………」

「旦那様…………」

「……………………」
リアンヌ分校長の問いかけに少しの間目を伏せて考えた後目を見開いて決意の表情で答えたリィンをエリゼ、セレーネ、アルフィンは辛そうな表情で見つめ、ゲルドは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「―――ですがその代わりと言っては何ですが、オズボーン宰相達の計画に加担し、”黒キ星杯”でも阻んで来ると思われる人物達の内の一部の人物達の処遇をかつてのアルティナの件のように俺に委ねて欲しいのです。」

「リィン教官…………」

「ふふっ、さすがリィン教官ですわ。」
リィンの要求にアルティナが驚いている中、ミュゼは微笑んでいた。


「ふふっ、なるほどね…………多分、リィンお兄さんが言っているその人物達はシャロンお姉さんと”蒼のジークフリード”――――いえ、クロウ・アームブラストでしょう?」

「はい。それとクレア少佐もです。」

「あら、”氷の乙女(アイスメイデン)”も?リィンお兄さんって、クレアお姉さんとそんなに接点があったかしら?」

「クスクス…………そういえば、先日のフォートガードの演習の際夜のラクウェルから帰還した後、私達が寝静まった頃にクレア少佐とサラさんといい雰囲気になって、お二方からベーゼをして頂いたとの事でしたものね♪」

「ええっ!?あの後クレア少佐とサラさんがお兄様に!?」

「という事はあの二人は少なからず教官に好意を寄せているんだ…………」

「ふふっ、まさかあのお二人を同時に攻略するなんて、さすがは旦那様ですわね♪」

「まさに油断も隙もありませんね、リィン教官のその”癖”は…………」

「…………兄様?今の話は私達も初耳なのですが、一体どういう事があってそのような事になったのか、詳しく説明をして頂いても構いませんか?」
リィンの指摘した人物が意外な人物も含まれている事にレンが目を丸くしている中、小悪魔な笑みを浮かべたミュゼの指摘にセレーネは驚き、ゲルドは呆け、アルフィンはからかいの表情でリィンにウインクをし、アルティナはジト目でリィンを見つめ、エリゼは膨大な威圧を纏って微笑みながらリィンに問いかけた。
「な、なんでミュゼがその事を…………って、大方ベルフェゴールかリザイラのどっちかが面白がって教えたんだろうな…………え、えっと………今はその件は置いておくとして、アリサ達の話によるとクレア少佐は内戦が起こるまでの旧Ⅶ組の”特別実習”でも度々力になったとの事ですし、ラクウェルでの件も考えると少佐はオズボーン宰相や帝国政府の思惑には一切関わっておらず、その”黒キ星杯”で並行世界の俺達を阻んだ件に関してもかつて恩を受けたオズボーン宰相に対する”義理”だと思いますし…………」

「確かにそうですわね…………ラクウェルでの猟兵の調査に関してはクレア少佐個人の判断との事ですから、それを考えるとクレア少佐はオズボーン宰相達が何を計画しているのかは”察して”はいても、内容に関しては一切把握していないと思われますし…………」
エリゼに微笑まれて冷や汗をかいたリィンはミュゼに自分と限られた人物達しか知らない話を教えた人物達を思い浮かべて疲れた表情を浮かべた後気を取り直して説明し、リィンの説明にセレーネは納得した様子で頷いた。
「…………なるほどね。ちなみに”星杯”で阻む相手で同じ”鉄血の子供達(アイアンブリード)”である”かかし(スケアクロウ)”を庇うつもりはないのかしら?」

「レクター少佐は…………正直な所、”黒”か”白”なのか判断し辛い人物ですので…………俺個人の偏見だとは自覚しているのですが…………」

「リィンお兄さんは”特務支援課”にも所属していた事で、”西ゼムリア通商会議”に関する”かかし(スケアクロウ)”の暗躍も知っている上今までの特別演習や北方戦役、それとこの間のクロスベルによる一斉検挙から逃れる為にユミルを撤退ルートに選んだ件で”情報局”自体に不信感があるでしょうから、”かかし(スケアクロウ)”に関しては”かかし(スケアクロウ)”自身の自業自得だから、あんまり気にする必要はないと思うわよ。――――それじゃあ、確認するけどリィンお兄さんが”星杯”で自分達を阻む敵勢力でありながら、メンフィル、クロスベル、そしてエレボニアによる責任追求での処罰対象として外す、もしくは穏便な内容にして欲しい人物はシャロン・クルーガー、クロウ・アームブラスト、クレア・リーヴェルトの三名ね?」

「はい。…………可能でしょうか?」

「抹殺対象である二人を助けて欲しいって訳じゃないし、今挙げた三名も情状酌量の余地はあってレンも大丈夫だと思うから、後でパパ達にその3名の件の承諾に関しての説得をしておいてあげるわ。――それと当然鉄血の子供達(アイアンブリード)だからという理由で処罰対象になる可能性が考えられるミリアムへの処罰も比較的軽い処罰にする事もね。」

「ありがとうございます、レン教官。――――それとすまない、アルフィン。アルフィンは2年前エレボニアを守る為に自らが泥をかぶって、エレボニアから去ったにも関わらずユーゲント陛下は皇位が剥奪され、リーゼロッテ殿下はその気がないにも関わらず未来のエレボニア皇帝として即位させられる事になり、本来の皇位継承者であった皇太子殿下もユーゲント陛下と共に何らかの処罰を受ける事になり、エレボニアの政治はしばらくの間他国の介入を許す未来になってしまって。」

「兄様…………」
レンに感謝の言葉を述べたリィンはアルフィンを見つめて頭を下げ、その様子をエリゼは辛そうな表情で見つめ
「…………どうか頭をあげて下さい、旦那様。わたくしが旦那様に嫁ぐ事を決めた2年前のグランセル城での和解交渉の時から、わたくしはメンフィル帝国に所属するシュバルツァー家の一員として”例え何が起こっても”、シュバルツァー家の一員であり続ける事を決めました。それにわたくしは旦那様を含めたシュバルツァー家の方々、そしてメンフィル帝国の方々には心から感謝しているのです。戦争勃発の原因を作った挙句受けた恩を仇で返した恩知らずの皇女でありながらも、旦那様達はわたくしを暖かく迎え入れ、とても大切にしてくださっていますし、メンフィル帝国の方々もわたくしに関して色々と配慮をしてくださっていますし、再び戦乱の時代を起こすという愚かなことを考えるエレボニアを止めようとし、更にはその後のエレボニアの事まで考えてくださってます。それにお父様とセドリックは自業自得ですから、どうかお気になさらないでくださいませ。―――政略結婚という形でしたが、心から愛する旦那様と出会い、結ばれ、旦那様からも愛されているわたくしは本当に幸せ者ですわ。」

「アルフィン…………」
心からの微笑みを浮かべるアルフィンをリィンは静かな表情で見つめ
「レン皇女殿下、サンドロット卿。大変厚かましい願いかと思われますが、本来なら皇位継承権とは無縁であるはずだったリーゼロッテに次期エレボニア皇帝に即位する事を条件に、あの娘の頼みを可能な限りか叶えて頂くように、リウイ陛下達にお伝えして頂けないでしょうか?」

「…………ま、ある意味リーゼロッテ皇女はとばっちりを受けてエレボニア皇帝に即位せざるを得ないから唯一の”被害者”と言ってもおかしくないものね。アルフィン夫人の嘆願の件もリィンお兄さんの件と一緒にパパ達を説得しておいてあげるわ。」

「―――私からも陛下達にアルフィン殿の願いにも応じて頂くよう、嘆願しておきます。」

「お二人ともありがとうございます。」

「フフ、”そちら”に関しての話が上手く纏まったようですから、そろそろ私と教官の婚約の件についても上手く話が纏まるように、私によるリィン教官への”説得を始めさせて”頂いても構いませんか、リィン教官♪」
アルフィンがレンとリアンヌ分校長に感謝の言葉を述べるとミュゼが意味ありげな笑みを浮かべてリィンと腕を組んで10代でありながらも大きい部類に入る自身の胸を押し付けて妖艶な笑みを浮かべてリィンを見つめ、その様子を見たセレーネ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「だ、だから大人をからかうんじゃないって言っているだろう!?それもエリゼ達の目の前で!第一その件に関しては俺は今ここで初めて知った上、そもそもどんな”説得”をするつもりだ…………!?」

「うふふ、その件に関しては当事者同士の話だから、二人はもう戻っていいわよ―――という訳でベルフェゴールお姉さん、後はお願いね♪」

「はいは~い♪じゃ、ご主人様も今の内に覚悟を決めておきなさい♪」

「ベルフェゴール!?覚悟って一体何の―――」
そしてレンがベルフェゴールの名を口にするとアルフィンの身体から現れたベルフェゴールがリィンの指摘に何も答えず問答無用で転移魔術を発動してリィンとミュゼと共にその場から消え、その様子を見守っていたセレーネ達は冷や汗をかいた。
「もう、あの娘ったら…………前から容量のいい娘だとは思っていたけど、まさか自分の恋すらも容量良く進めるなんて…………よくエリゼはあの娘を加える事を許したわよね?」

「…………兄様と結ばれる事で発生する様々な”利”が目当てとはいえ、ミュゼさんの兄様に対する想いや覚悟は本物のようだし、何よりも今回の件のように政治上の”駆け引き”を得意とする彼女自身兄様や私達にとって必要な存在だから許したのよ。」

「アハハ…………エリゼお姉様をも納得させる程の交渉力があるのは、さすがはユーディット皇妃陛下達の従妹と言うべきなのでしょうかね…………?―――あら?アルティナさん、どうかなされたのですか?」
呆れた表情で溜息を吐いたアルフィンの問いかけに静かな表情で答えたエリゼの答えに苦笑したセレーネだったが、複雑そうな表情で顔を俯かせて両手で胸を抑えているアルティナに気づき、声をかけた。
「いえ…………ベルフェゴール様やミュゼさんの口ぶりからこの後リィン教官とミュゼさんは”どうなるか”察してはいるのですが…………何故か、その事を考えると胸に痛みを感じるのです…………わたしはどこかおかしくなったのでしょうか…………?」

「アルティナさん…………」

「あら♪」

「…………ハア…………予想はしていましたが、やはりアルティナさんもいずれ、”そうなるのでしょう”ね…………」
複雑そうな表情で語ったアルティナ自身の心境を知り、アルティナに何の感情が芽生えているのかを察していたアルフィンは驚き、レンはからかいの表情を浮かべ、エリゼは疲れた表情で溜息を吐いた。
「…………大丈夫。アルが今感じている感情は人なら誰でも芽生える感情だし、アルの悩みもいつか必ず良い結果という形で解決するわ。」

「ゲルドさん…………ふふっ、わたしの未来の可能性を視たゲルドさんの言う事でしたら信憑性もあって、信頼できますね。」
静かな笑みを浮かべて答えたゲルドの指摘にアルティナは目を丸くした後微笑み、かつては感情が希薄だったアルティナが様々な感情―――特に心からの笑顔を今まで見せた事がなかったアルティナが笑顔を浮かべた事に驚いたエリゼ達はそれぞれ驚きの表情でアルティナを見つめ
(………この様子だと”11人目”はリーゼアリアじゃなくてアルティナさんかもしれないわね。)

(そうね…………それにゲルドさんと出会った時の事を考えると、ゲルドさんが視た私達の結婚式での兄様と結婚する女性は”最低でも13人”になる事は確実でしょうね。)

(アハハ…………冗談抜きで、お兄様の伴侶の人数はいつかヴァイスハイト陛下と同じかそれ以上になるかもしれませんわね。)
苦笑しながら囁いたアルフィンの言葉にエリゼは疲れた表情で答え、セレーネは苦笑していた。
「フフ…………――――さて。陛下達から伝えられた”黄昏”の件は以上になりますが、他にも伝えられた情報―――いえ、伝達事項も今この場で伝えておきます。」

「リウイ陛下からの伝達事項、ですか?」

「もしかして”黄昏”の件と何か関係があるのでしょうか?」
その様子を微笑ましそうに見守っていたリアンヌ分校長は気を取り直してエリゼ達にある事を伝え、リアンヌ分校長の説明を聞いたセレーネは不思議そうな表情で首を傾げ、エリゼは真剣な表情で訊ねた。
「まあ、”黄昏”の件と全く関係なくはないとは言えないのだけどね。後日リィンお兄さんにも伝えて欲しい事なのだけど――――」
そしてエリゼの質問にレンは苦笑しながら答え始めた。


~リィンの私室~

「到着っと。後はいつものように結界展開…………っと。それじゃあ後は二人でごゆっくり♪」
転移魔術でリィンとミュゼをリィンに充てられている宿舎の部屋に転移したベルフェゴールは結界を展開した後リィンとミュゼにウインクをした後リィンの身体の中へと戻り
「ちょっ、ベルフェゴール!?結界まで展開したという事はまさか…………!?」
一方ベルフェゴールの行動に驚いていたリィンはある事を察して表情を引き攣らせてミュゼに視線を向け
「ふふっ、そのまさかですわ♪」
視線を向けられたミュゼはリィンから離れて立ち上がると、何と着ている服を脱ぎ始め、それを見たリィンは慌ててミュゼから視線を逸らした。
「ミュ、ミュゼ!?エリゼ達をどうやって説得したのかは知らないが、幾らまだ承諾していない俺と婚約を結ぶためとはいえ、こんなやり方で承諾させるなんて、間違っているぞ!?」

「あら、姫様の話によりますとアリサさんや姫様は”こういう形”でご自身の”想い”を教官に伝えたとの事ですから、教官にとっては2番―――いえ、3番煎じなのでは?」
リィンはミュゼから必死に視線を逸らしながらミュゼの行動を思いとどまらせようとしたが、下着姿になってリィンと腕を組んだミュゼは妖艶な笑みを浮かべて答えた。
「う”っ…………そんな事まで教えていたのか、アルフィンは…………――――じゃなくてっ!俺達は教官と生徒なんだから、教官と生徒がそんな関係になるなんて、不味すぎるだろう!?」

「クスクス…………”禁断の関係”はたったの2年近くで、卒業すれば問題ありませんわよ♪――――それでは私の教官への想い、存分に知って頂きますわね♪ん…………」

「ぁ――――」
その後リィンはミュゼと結ばれ、”全て”を終えた二人は産まれたままの姿になってベッドに寝転がっていた。


「ううっ、やってしまった…………幾らミュゼから押し倒されたとはいえ、生徒と関係を結んでしまうなんて教官失格だ…………」

「クスクス、確かに最初は”ご奉仕”も含めて私が主導でしたが途中からリィン教官が主導で積極的に何度も私を犯して、全て中に出した上途中の”お掃除”も教官自身が求めて、私にさせたではないですか♪」

「う”っ…………」
”全て”が終わった後落ち着いた事で生徒と肉体関係を結んでしまったという罪悪感を感じていたリィンだったが、小悪魔な笑みを浮かべるミュゼに図星を指摘されると唸り声を上げた。
「フフ、姫様達からリィン教官の性欲旺盛な部分は聞いてはいましたが、まさか普段はあれ程紳士的な殿方であるリィン教官が”愛の営み”をする時はまさに”野獣”のように変貌して、あんなにも何度も求められる事になるとは予想していませんでしたわ♪お陰様で、ユーディお姉様にも自慢できる素敵な”初体験”になりましたわ♪」

「頼むから、その事はユーディット皇妃陛下もそうだが、誰にも話さないでくれ…………!…………ハア…………―――俺も男で、それもいずれは貴族の当主になる者だ。貴族の令嬢であり、次期カイエン公爵でもある君の操を奪った責任もきちんと取らせてもらうよ。」
小悪魔な笑みを浮かべるミュゼの話に疲れた表情で嘆願したリィンは大きな溜息を吐いた後表情を引き締めてミュゼを見つめて宣言した。
「リィン教官でしたらそう仰ってくれると信じていましたわ♪ですが私はユーディお姉様とは”逆”の方法を取りますので、期待していてくださいませ♪」

「”ユーディット皇妃陛下とは逆の方法”ってどういう意味だ?」

「クスクス…………――――この私を数多くいるリィン教官の伴侶の一人に加えて頂いた事を心から”幸福”である事を知って頂くために、いつか必ず教官の心を射止めてみせますわね♪」
リィンの疑問に対してミュゼは妖艶な笑みを浮かべて両手を銃を撃つような仕草でリィンに向けた。
「ハハ…………その日が来ることを期待して待たせてもらうよ。」
ミュゼの宣言と動作に一瞬目を丸くして呆けていたリィンだったがすぐに苦笑しながらミュゼを見つめた。
「はい♪―――という訳で、私の教官への想いをもっと知って頂くためにも次の”愛の営み”はいつにいたしましょうか♪」
リィンの言葉に嬉しそうな表情で頷いたミュゼは妖艶な笑みを浮かべてリィンと腕を組んでわざとらしく自分の胸をリィンの腕に押し付けていた。

「調子に乗るんじゃありません。婚約関係になったとはいえ、俺達は教官と生徒なんだから、今回だけが特別で卒業するまでミュゼと”そういう事”をするつもりは一切ないからな。それと当然だが事情を知らされたアルティナやゲルドはしょうがないが、ユウナ達や他の人達には俺達の関係を決して悟られないように気を付けてくれよ。」

「クスクス、でしたら教官のその考えを変える為かつユウナさん達に怪しまれない為にも、”普段通り”教官へのアタックを今後もより一層努力させて頂きますわ♪――――リィン・シュバルツァー様。」

「ミュゼ…………?な―――」
自分の事を”教官”ではなく、フルネームで改めて呼んだミュゼの言葉に眉を顰めたリィンだったが、ベッドから降りてその場で跪いて頭を下げたミュゼの行動に絶句した。
「エレボニア側カイエン公爵にしてヴァイスラント決起軍の”総主宰”ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン、我が身、我が才全てをこの命が続く限り永遠に御身に捧げる事をここに誓いますわ。」

「ミュゼ……………………―――ああ、改めてよろしく頼む。だけど、俺は伴侶に臣下としての態度を取ってほしくない…………というかそもそもまだそんな”器”でもないから、今のような態度はこれっきりにしてくれ。」
自身に心からの忠誠を捧げたミュゼの覚悟に驚いたリィンは静かな表情で頷いた後苦笑しながら指摘し
「はい、リィン教官♪愛していますわ、リィン教官―――ちゅ♪」
リィンの言葉にミュゼは顔を上げて微笑んだ後立ち上がって、自身の心からの愛を伝えるかのように幸福の笑みを浮かべてリィンの唇にキスをした――――
 
 

 
後書き
という訳でついにミュゼもリィンハーレム入りです(遠い目)…………ちなみにミュゼがリィンに忠誠を誓うシーンは初代うたわれるもののカルラのあるシーンを参考にしていると思ってください。なお、シルフェニアの18禁版にも投稿しましたので、興味がある方はそちらも読んでみてください。 

 

外伝~鉄機隊、再び~

7月1日、HR―――

~特務科Ⅶ組~

数日後、ユウナ達がいつものように朝のHRの為にリィンとセレーネを待っていると二人が教室に入ってきた。
「おはよう、みんな。いきなりになるが、今日から君達Ⅶ組の新たな仲間が増える。」

「へ…………っ!?」

「ゲルド、ミュゼ、アッシュに続いて更に編入生ですか…………?」

(………ねえ、アル。リィン教官が言っている”新たな仲間”ってもしかして数日前にレン教官とリアンヌ分校長から教えてもらった…………)

(ええ…………間違いなく”彼女達”の内の誰かがⅦ組の副担任を担当する事になったかと。)

(ふふ…………)
リィンの知らせにユウナとクルトが驚いている中既に察しがついていたゲルドとアルティナは小声で会話をし、二人同様事情を知っているミュゼは静かな笑みを浮かべていた。
「(あん…………?)クク、その”仲間”とやらは白髪魔女みたいな新顔か、もしくは俺とエセふわみたいな別のクラスから飛ばされた奴なのかは知らねぇが、今度はどんな”問題児”が増えるんだ?どうせこの分校には問題児しか来ねぇんだろう?」

「新しいクラスメイトもそうだけど、あたし達も分校の中でも特に問題児のあんたにだけは”問題児呼ばわり”される筋合いはないわよ…………」
アルティナ達の様子を不思議に思ったアッシュは鼻を鳴らして嘲笑しながら訊ね、アッシュの問いかけにクルト達と共に冷や汗をかいたユウナはジト目でアッシュに指摘した。
「アハハ…………それ以前に、お兄様はその”新しい仲間が生徒だと言ってはいませんわよ?”」

「へ。」

「まさか新しい仲間という方は”生徒”ではなく、”教官”なのですか…………?」

「―――それじゃあ、入ってきてくれ。」

「―――失礼しますわ。」
苦笑しながら答えたセレーネの答えにユウナは呆けた声を出し、クルトが目を丸くして訊ねるとリィンは廊下に視線を向けて声をかけた。すると何と”第Ⅱ分校の教官服を身に纏ったデュバリィ”が教室に入ってきた!


「な――――」

「……………………」

「ハア~~~~~~ッ!?何でテメェがそんな珍妙な格好でここにいるんだ!?まさかシュバルツァー達が言っていた”Ⅶ組の新しい仲間”とやらは、テメェなのかよ!?」

「…………元からわかっていたとはいえ、”教官”に向かって”テメェ”、それも人を指で刺すとは随分と口や態度が悪い生徒ですわね。どうやら私直々による”教育指導”が最初に必要なのは貴方になりそうですわね。」

「お、落ち着いてください、デュバリィさん。まずは自己紹介をお願いしますわ。」
デュバリィの登場にクルトは驚きのあまり絶句し、ユウナは口をパクパクし、アッシュは信じられない表情でデュバリィを指刺して声を上げ、デュバリィは顔に青筋をたてて口元をピクピクさせ、デュバリィの様子を見たセレーネはデュバリィを宥めながら自己紹介を促した。
「コホン、失礼しましたわ。―――改めて自己紹介を致しますわ。この(たび)、トールズ第Ⅱ分校の新たな臨時教官としてメンフィル帝国より派遣され、特務科Ⅶ組の副担任を務める事になったデュバリィですわ。担当する科目は座学は文学、それと新たに追加された科目である実戦技術・応用を担当しますわ。この私直々から指導を受けられる事、ありがたく思いやがりなさい!」
自己紹介をした後最後に自慢げに胸を張って答えたデュバリィの自己紹介の仕方にリィンとセレーネは冷や汗をかき
「あ、ありがたく思いやがりなさいって…………それ以前に何でアンタが第Ⅱ分校の教官―――それも、Ⅶ組(あたし達)の副担任として赴任できるのよ!?元結社の一味としてエレボニアで悪さをしまくって、最後はメンフィル帝国に投降してメンフィル帝国の捕虜になったアンタが!」

「アルティナとゲルドはあまり驚いていない様子だったが…………もしかして、メンフィル帝国から前もって知らされていたのか?」

「ええ、まあ。…………最も、彼女がわたし達の副担任になる事までは知らされていませんでしたが。」

「リアンヌ分校長達からデュバリィさん達の赴任は第Ⅱ分校に混乱が起こらないように、当日まで秘密にして欲しいって言い含められていたから、今まで黙っていてごめんね?」
ユウナはジト目で呟いた後疲れた表情でデュバリィに指摘し、クルトに訊ねられたアルティナは静かな表情で答えた後ジト目でデュバリィを見つめ、ゲルドは苦笑しながら答えた。
「クスクス、なるほど。ゲルドさんが以前仰っていた”予知能力”で視えた私達が近い内彼女達とまた再会する事になる未来はこの事だったのですね♪」

「そ、そういえばそんな事を言っていたわね…………―――リィン教官、セレーネ教官?メンフィル帝国は何を考えて、捕虜として扱っていた人物を教官として派遣させるなんて普通に考えたら無茶苦茶な事をするなんて、一体どういう事なんですか?」
微笑みながら答えたミュゼの指摘に海上要塞での激闘の後デュバリィ達と別れ際に答えたゲルドの予言を思い出したユウナはジト目でリィンとセレーネに追及した。
「ハハ、リウイ陛下も仰っていたじゃないか。デュバリィさん達”鉄機隊”による罪の償い方はユウナ達の目でもわかる方法にするって。」

「そしてその方法が最低限の賃金で結社時代に培った経験を活かして、まだまだ伸びしろがある皆さんを鍛え上げる事をデュバリィさん達”鉄機隊”の罪の償い方と決めた陛下達がデュバリィさん達の派遣を決めたとの事ですわ。」

「いや、確かにそんな事を言っていたけど、よりにもよってあたし達の”教官”って………」

「つーか、”最低限の賃金”って言っていたが、そこのポンコツ剣士の給料はシュバルツァー達よりも安月給なのかよ?」

「誰がポンコツ剣士ですか、この金茶頭!」
リィンとセレーネの説明を聞いたユウナはジト目でデュバリィを見つめ、アッシュの問いかけにデュバリィは顔に青筋を立てて反論した。
「アハハ…………詳細な金額は教えられませんが、第Ⅱ分校に派遣している間のデュバリィさん達が受け取る給与の金額はメンフィル帝国の新人の兵士の方々と同じとの事ですわ。」

「勿論給与を支払っているのはメンフィル帝国であって、エレボニア帝国は一銭も彼女達に給与を支払う必要はないとの事だから、第Ⅱ分校にとっては彼女達は”無償奉仕”という償い方で教官を務めてくれているんだ。」

「なるほど…………―――そういえば、先程”神速”―――いえ、デュバリィ教官が担当する科目の内の一つで”実戦技術・応用”という科目がありましたが、それは一体どういう内容なのですか?」

「デュバリィ教官は新しく追加される事になった科目と仰っていましたが、ランドロス教官が担当する実戦技術とは別の科目なのでしょうか?」
セレーネとリィンの説明を聞いたクルトとアルティナは新たな疑問を訊ねた。


「ああ…………――”実戦技術・応用”とは今までのカリキュラムで培った経験を活かして結社や猟兵のような”裏”に属する勢力との実戦を想定し、対策する授業だ。」

「今までの特別演習で私達や”道化師”達との戦いで経験した貴方達ならわかるでしょうが、”裏”の勢力は正々堂々とした戦いをせず、時には卑劣と思うような手段をとってまで、”目的”を果します。奇襲や夜襲は当然ですが、人質や脅迫と言った私達”鉄機隊”は絶対に手段として使わない”外道”な手段を取りますわ。その内容や対策を貴方達に教え、更には”執行者”のような”裏”に属するエージェントの戦い方を実戦で教えるのが私達の役目ですわ。」

「確かに警察学校でもそういった犯罪者の心理や行動とかも習っていたわね…………――って、”私達”?そういえば、さっきから気になっていたけど、貴女がⅦ組(あたし達)の副担任として派遣されたって事は他の二人も…………」
リィンとデュバリィの説明を聞いて納得した様子で呟いたユウナはある事に気づき、デュバリィに視線を向け
「ええ、アイネスはⅧ組に、エンネアはⅨ組に、それぞれ副担任として派遣されて、私と共に貴女達に実戦技術・応用を教え、座学もそれぞれ政治経済、医学と今まで掛け持ちで担当していたハーシェルの担当科目を引き継いで、ハーシェルの負担を軽くする事になっていますわ。」
ユウナの疑問にデュバリィは静かな表情で答えた。


~戦術科Ⅷ組~

「―――そういう訳で私は戦術科Ⅷ組の副担任を担当する事となった。戦術科は実戦になれば、第Ⅱ分校の”主力”であると聞いている。その”主力”となりうる雛鳥の其方達を指導する事を光栄に思っている。―――以後よろしくお願いする、Ⅷ組の諸君。」
アイネスが自己紹介を終えた後かつての自分達にとっての敵が教官になるという青天の霹靂の出来事にⅧ組の面々はそれぞれ表情を引き攣らせながらアイネスを見つめ
「クク、増々面白くなってきたじゃないか。だぁっはっはっはっ!」

「オッサンはいいよな、気楽で…………俺は2年前にもやり合ったから、色々複雑だっつーの…………ったく、上司が”鋼の聖女”に続いて同僚が”鉄機隊”とか、何で俺の周りの女の子は物騒な連中ばかり集まるんだよ…………」
ランドロスが呑気に笑っている中、ランディは疲れた表情で肩を落とした。


~主計科Ⅸ組~

「フフ、そういう訳だから以前の事は水に流してこれからは改めて生徒と教官同士としてよろしくね、Ⅸ組の皆さん。」
同じ頃エンネアが自己紹介を終えるとアイネスの時と同様Ⅸ組の面々もそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせながら微笑みを浮かべて答えたエンネアを見つめ
「そうそう。そういえば、このクラスには4年前の”リベールの異変”を”ブレイサーオブブレイサー”達と共に”浮遊都市(リベル=アーク)”に乗り込んで、幼いながらも執行者や強化猟兵達ともやり合ったラッセル家の才女も所属していたわね。故郷(リベール)を混乱に陥らせた結社と何度も戦った事がある貴女にとっては複雑かもしれないけど、これからは心を入れ替えて”教官”として指導させてもらうから、よろしくね?」

「ア、アハハ…………あの件にはエンネア教官達は何の関りもありませんでしたし、最後の戦いではレーヴェさんも仲間になって一緒に戦っているんですから、わたしは特にエンネア教官達に思う所はないのですが、改めてよろしくお願いします。」
エンネアに名指しされたティータは苦笑しながら答え
「クスクス、それよりもティータ?”リベールの異変”の最終決戦地である”リベル=アーク”での最後の決戦まで参加した事をクラスメイト達がいる目の前で堂々と肯定しちゃったけど、よかったのかしら♪」

「あ”…………は、はわわわわ…………っ!?」
しかし小悪魔な笑みを浮かべたレンに指摘されて周囲を見回し、クラスメイト達がそれぞれ驚きや信じられない表情、興味ありげな表情で自分に注目している事に気づくと慌て始め
「ううっ、負担が減るのはありがたいけど、エンネア教官達の派遣が先月の要請(オーダー)の時みたいに突然過ぎるよ…………どうしてメンフィル帝国はこういった重要な事柄を前もって教えてくれないの…………」
トワは疲れた表情で肩を落としていた。


~特務科Ⅶ組~


「…………今頃戦術科と主計科でもカオスな事になっているでしょうね。」

「クスクス、生徒もそうですが教官の方々も内心混乱されているでしょうね♪」

「まあ、今までの特別演習で何度も戦った結社の幹部だった人が突然自分達の教官として派遣されてきたら、普通は混乱とかするでしょうね…………」

「つーか、どう考えてもⅦ組(俺達)は3人の中で”ハズレ”を引いたようなもんだろ。よりにもよってポンコツ剣士なんだからな。」

「ちょっと、アッシュ…………”一応”教官になるんだから、さすがにその言い方は失礼でしょ。…………まあ、あたしも正直な所デュバリィ教官よりも他の二人のどっちかの方がよかったとは思うけど。」

「君も何気に失礼な事を言っているぞ…………何だかんだ言って、デュバリィ教官は剣士としての腕前だけは”現代の鉄騎隊の筆頭隊士”の名に相応しい実力なんだから。」
ジト目で呟いたアルティナと微笑みながら答えたミュゼの意見にゲルドは苦笑しながら同意し、呆れた表情でデュバリィを見つめながら答えたアッシュの感想にユウナは困った表情で指摘し、クルトは疲れた表情でユウナに指摘した。
「誰が剣術しか取り柄のないポンコツ女ですか!?貴方も無意識で失礼な事を言っていますわよ、ヴァンダール!―――”少々力を付けてきた程度”で、生意気になってきた雛鳥達を躾けるちょうどいい機会ですわ!3人纏めて私の剣で”教育指導”をして差し上げますから、表に出やがりなさい!!」

「ハッ、上等だ…………!今度はシュバルツァー達や旧Ⅶ組のパイセン達抜きで返り討ちにしてやるぜ…………!」

「お、落ち着いてください、デュバリィさん!お気持ちはわかりますが、教室内で剣を抜くのは止めてください!」

「頼むから、”教官”になったんだから今後はもう少し冷静な態度で対応してくれ…………」
自分にとっての侮辱的な言葉を口にしたアッシュ達にデュバリィは顔に青筋を立てて声を上げた後剣をアッシュ達に突き付け、デュバリィの行動を見たアッシュがデュバリィの挑発に乗ろうとしている中セレーネはデュバリィを宥めようとし、リィンは疲れた表情で頭を抱えて呟いた。


~分校長室~


「フフ、今頃それぞれのクラスで”彼女達”の派遣に驚いているでしょうね。」

「フウ………教官陣である我々ですら青天の霹靂の出来事なのですから、生徒達が驚くのも当然かと。…………それよりも、本当に彼女達に一部の座学を任せてしまって大丈夫なのでしょうか?新たに追加されることになった”実戦技術・応用”の件に関しては彼女達の実力を考えれば不安はないのですが…………」
一方その頃、リアンヌ分校長と今後の方針を話し合っていたミハイル少佐は静かな笑みを浮かべて呟いたリアンヌ分校長の言葉に疲れた表情で溜息を吐いた後不安そうな表情を浮かべた。
「デュバリィはああ見えて、元貴族です。今は滅びた彼女の故郷は辺境ではありましたが、彼女自身両親から貴族の令嬢としての英才教育を受けていますから、意外に思えるかもしれませんがデュバリィは文学の他にも、歴史、数学、政治経済の知識も豊富です。」

「そ、そうだったのですか…………ちなみに他の二人はどのような経緯で、それぞれが担当する座学を教えられる程の知識があるのでしょうか?」
リアンヌ分校長から聞かされたデュバリィの意外な経歴に目を丸くしたミハイル少佐はアイネスとエンネアの事について訊ねた。
「アイネスはかつて遊撃士として活動していましたから、政治に不干渉を謳って言えるとはいえ、世の流れを知っておくことは遊撃士にとって必須ですから当然アイネスも(まつりごと)についての知識も十分にあります。エンネアは”とある教団”によって洗脳と異能開発をされた経緯で、医学の分野に関して専門家も知らないような知識も一部知っていますから、主任教官殿の心配は無用ですよ。」

「……………………フウ………まさかこのような形で謎に包まれていた”鉄機隊”の過去を知る事ができるとは、想定していませんでしたが…………とりあえず、彼女達に座学を任せても不安はない事は理解しました。複数の座学を担当していた自分やハーシェル教官の負担が減る事は正直言って助かりますので、メンフィル帝国の思惑があると思われるとはいえ今は彼女達の派遣を素直にありがたく思っておきます。」
リアンヌ分校長から聞かされた鉄機隊の面々の驚愕の過去を知った事で冷や汗をかいて表情を引き攣らせたミハイル少佐は大きな溜息を吐いた後静かな表情で答えた。


こうして………デュバリィ達元鉄機隊が第Ⅱ分校の教官としてリィン達の仲間になった。なお、後にデュバリィ達の件を知り、『第Ⅱ分校ばかり本校には存在しない特別なカリキュラムが増える事は不公平』というセドリック皇太子の意見によって実戦技術・応用のカリキュラムは本校でも追加される事になり、デュバリィ達は本校の生徒達にも実戦技術・応用を教える為に分校と本校行き来するという普通に考えれば苦痛に思えるような負担を負う事になったデュバリィ達だったが、再び心からの忠誠を捧げたリアンヌの下で己の業を磨き、振るえる嬉しさの方が(まさ)っていた為、デュバリィ達にとっては何の負担にもならなかったという――――
 
 

 
後書き
という訳で灰と菫の軌跡でネタバレをしていたように、デュバリィ達も第Ⅱ分校の教官となり、デュバリィ自身は原作と違い、正式にリィン達の仲間かつ新Ⅶ組メンバーとしてパーティーインしました。なお、デュバリィ達の装備もメンフィルから依頼されたウィルの協力によって強化済みという事にしてあります(ぇ) 

 

第94話

7月4日―――

――7月に入り、帝都近郊のリーヴスでも夏の季節を迎えていた。しかし、本年度から軍学校としての本分に戻す名目で夏服の選択が廃止されており―――本校、分校の区別なく、制服の裏地を外すだけの対応となった。

暑さも本格化し始めて、多くの生徒達が辟易する中―――本校・分校と合同となるある行事が始まろうとしていた。


4限目 帝国史


「今週からは”人物史”という観点から歴史を切り取ってみよう。まずはご存じ、帝国中興の祖、ドライケルス・ライゼ・アルノール。250年前の獅子戦役を終わらせ、帝国の近代を導いたという人物―――ヴァリウスⅤ世の第三皇子だった彼は庶出の身のため、幼い頃から帝国各地を放浪していたそうだ。そして帝国辺境の地、ノルド高原にて遊牧民たちに受け入れられて時を過ごす。そんな中、帝国本土から血みどろの内戦の報せが届けられた。元々、皇位継承権から外れていた彼だったが泥沼と化した内戦を捨てておけず、ノルドの地から挙兵する事になる―――手勢は僅か17名、腹心の騎士ロランにノルドの戦士だけだったそうだ。そして半年後―――ドライケルス皇子は帝国南東のレグラムで運命の邂逅を果たす。”鉄騎隊”を率いた伯爵家の娘、リアンヌ・サンドロット―――”槍の聖女”とも謳われた英雄だ。」

「あのっ、質問なんですけど!ずっと前から気になっていたんですけど、分校長って聖女リアンヌ本人なんですか!?」
リィンが説明をしながら黒板に説明の内容を書いているとサンディが質問をし、それを聞いたリィンが手を止めて生徒達を見回すと生徒達もそれぞれ血相を変えていた。
「た、確かに…………ずっと気になっていました。」

「聖女リアンヌといえばおとぎ話にも出てくる有名人…………」

「容姿、名前、そして実力もまさに本人かと思われますが、異種族でもない人間であったサンドロット卿が250年以上もあんな若々しい姿で生き続けられるとは思えませんが…………」

「で、どうなんや!?」
サンディたちに続くように次々と質問してきた生徒達の質問に”真実”を知っているⅦ組の生徒達はそれぞれ冷や汗をかいた。
「…………確かに、分校長は本物としか思えない人物だ。だが、デュバリィ教官達の件からもわかるように分校長もかつては”結社”という犯罪組織の一員だった為、デュバリィ教官達のように結社のコードネームとして聖女を騙っている可能性もある―――そのあたりは保留にしておこう。―――ちなみに本日7月4日は254年前に獅子戦役が終結した日だ。設問内容は教えられないが獅子戦役前後の範囲は出る見込みだ。しっかりと復習するといい。」
リィンの説明を聞いた生徒達はすぐにノートにリィンの助言内容を書き始めた。
(………うーん、悔しいけどわかりやすいし丁寧なのよね。)

(まあ、僕達よりも早い年齢で士官学生としてセシリア将軍閣下達―――メンフィル帝国軍で学んでいたのもあるだろうけど、他国であるエレボニアの歴史にも詳しい事は意外だな。)

(ちなみにエリゼ様の話によりますと、メンフィル帝国軍での士官候補生としての成績はかなり上位だったとの事です。)

(フフ、まさに”文武両道”ね、リィン教官は。)

(ケッ…………)

(うふふ、次に”する”時は眼鏡姿を要望しようかしら♪)
ユウナ達がリィンについて小声で話し合っている中内容が聞こえていたアッシュは呆れた表情をし、ミュゼは妖艶な笑みを浮かべてリィンを見つめていた。


HR―――

~特務科Ⅶ組~

「さて、明日から予定通り4日間の定期考査がある。通常の座学に、軍事学、芸術、情報処理、実戦技術―――多岐に渡るから頑張って欲しい。」

「ちなみにありえないとは思いますが、赤点を取れば”補習”は確実ですから、私達の手を煩わせないようにせいぜい、気合いを入れて挑みなさい。」

「デュバリィさん…………何もテスト前から、生徒達の士気を下げるような事は言わない方がいいと思いますわよ?」
HR時リィンとデュバリィの説明に生徒達が冷や汗をかいている中、セレーネは疲れた表情でデュバリィに指摘した。
「ふう………簡単に言わないでくださいよ。」

「…………全てを完璧に対処するのは厳しいですね。」

「まあ、これまでの積み重ねを活かすしかないだろう。」

「ちなみに、試験内容と日程は本校と同じと聞きましたが。ひょっとして成績も両校揃って貼りだされたり?」
ミュゼの質問にユウナ達はそれぞれ顔色を変えた。
「ああ―――個人の総合順位を始め、クラスごとの平均点も発表される。まあ、そういう意味でもやり甲斐はあるんじゃないか?」

「なんか露骨なんですけど…………」

「競わせる気満々ですね。」

「クラスの平均点はともかく、自分の点数や順位まで発表されるのは恥ずかしいわ…………」
リィンの説明を聞いたユウナとアルティナが呆れている中ゲルドは困った表情で呟いた。
「つーか、どうせ皇太子が出来レースで1位じゃねえのか?」

「…………それは…………」

「いかにもありそうだけど…………」
嘲笑を浮かべたアッシュの推測にそれぞれ血相を変えたクルトは真剣な表情を浮かべ、ユウナは複雑そうな表情でアッシュの推測に同意した。
「―――いや、あり得ないな。かつてはトールズは貴族と平民のクラスにわかれていたがそれでも実力は公平に測られていたとの事だ。俺が知っている本校教官の方々もそんな不正を許すとは思えない。あくまで試験はフェアに行われると思ってくれていい。」

「ちなみにかつてのトールズ本校でのトワさんの個人総合成績は”四大名門”出身であるアンゼリカさんを押しのけて1位だったとの事ですわ。」

「そもそも、今の第Ⅱ分校には不正等と言った卑劣な事を許さない高潔な精神たるマスターが分校長なのですから、マスターがそのような愚かな事を許すなんて絶対にありえませんわ!―――万が一、本校がそのような所業を行えばマスターが教官陣もそうですが、皇太子にもその”槍”の絶技にて裁かれるでしょう!」
リィンとセレーネの後に自慢げに語ったデュバリィの説明と推測にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「いやいやいや!?さすがにそれをやったら不味すぎますし、幾ら分校長でもそこまではしないでしょう!?」

「まあ、物理的に裁く云々はともかく、リアンヌ分校長が不正を許さないという点に関しては同意できますね。」

「……………………」
我に返ったユウナは苦笑しながら指摘し、アルティナは静かな表情でデュバリィの意見に同意し、クルトは複雑そうな表情で黙ってセドリック皇太子の顔を思い浮かべた。


「まあ、試験が終わったらちょっとした”ご褒美”もある。今週末は自由行動日だし、持てる力を出し切ってみるといい。俺達もそれぞれが担当している座学や実戦技術だったら教えられるから気軽に相談してくれ。」
その後HRを終えたリィン達は職員室で打ち合わせを始めた。


~職員室~

「―――テストの準備も全て完了だ。本校との合同採点となるがまあ、そちらは何とかなるだろう。」

「ええ、導力ネットで授業の進行度も合わせていますし。」

「設問内容についても、本校の教官陣と協力できたのは大きかったですね。」

「ま、あとは生徒達自身と俺達の最後のフォローしだいか。」

「―――先月の演習以来、帝国本土から全ての猟兵団の撤退が確認されている。そして”結社”だが…………情報局によれば、再び帝国から”手を引いた”可能性もあるという。」

「……………………そうですか。」

「まあ、実際の所今までの”実験”で結社もそうだけど猟兵達も戦力をある程度失ったから、その可能性が間違っているとは言えないわねぇ。」

「本当だったら安心なんですけど…………」

「クク、そこの所実際はどうなんだ、元結社の”鉄機隊”の諸君?」

「ラ、ランドロス教官…………何もそこでわざとらしくデュバリィさん達に聞かなくても…………」
ミハイル少佐の情報にリィンは静かな表情で呟き、レンは呆れ気味の様子で答え、トワはデュバリィ達を気にしながら複雑そうな表情で答え、口元に笑みを浮かべたランドロスのデュバリィ達への質問を聞いたセレーネはデュバリィ達を気にしながら不安そうな表情を浮かべた。


「第Ⅱ分校に派遣されてから、生徒もそうですが教官陣からも結社関連の情報を聞かれる事くらいは最初から想定していましたから、貴女が気にする必要はありませんわよ、アルフヘイム。」

「私達が第Ⅱ分校の教官として派遣された以上、同僚となった貴方達と連携を取りやすくするためにもその程度の情報だったら幾らでも話してあげる…………と言いたいところなのだけど。」

「既にメンフィル帝国政府を経由してエレボニア帝国政府や情報局にも我らが知っている限りの結社の情報が行っていると思うが、実際の所我らが”道化師”から聞かされていた結社の動きはフォートガードの件までで、それ以降の動きについては全く何も知らされていないのだ。」

「え…………そ、そうなんですか?」

「まあ、”リベールの異変”の時も”執行者”達は今後結社がどんな動きをするのか知っている様子ではなかったから、”執行者”と同様の扱いだった”鉄機隊”も結社の予定を知らなくても無理はないと思うわよ。」

「そもそもデュバリィさん達がフォートガードの”実験”で結社を抜ける事を最初から知らされていたとの事ですから、その件もあって”道化師”はフォートガード以降の結社の動きは何も教えなかったかもしれませんが…………」
セレーネの指摘にデュバリィは静かな表情で答え、苦笑しているエンネアに続くように答えたアイネスの説明にトワが目を丸くしている中、レンは納得した表情で呟き、セレーネは苦笑しながら推測を口にした。
「ま、それでもちっとは一息つけそうってことかね?」

「ああ、油断は禁物だがしばらくは”学生”としての本分に集中させてやれるだろう。―――試験については設問を明かすのは無論厳禁だが質問への対応はOKとしている。まあ、手助け程度に力になってやって欲しい。」
その後教官陣内での打ち合わせを終えたリィンは校舎を見回りながら生徒達の勉強を見たり、相談に乗ったりした後生徒の下校を見送りつつ明日からのテストの最終確認を行い―――当番だった戸締りの確認もしてから下校するのだった。


~夜・トールズ第Ⅱ分校~

戸締りを確認し終えたリィンは雨が降っていた為、予め持ってきていた傘をさした。
「ふう………小雨だけど置き傘をしてて助かったな。生徒達も帰ったみたいだし俺も―――」

「わわっ…………!けっこう、降ってたかも…………!」
リィンが下校しようとしたその時、傘をささずに走って下校しようとしているトワに気づいた
「あれは…………先輩…………!」
トワに気づいたリィンはトワの元へと走って近づいた。
「あ、リィン君…………!今日は戸締り当番だったっけ。ふふっ、お疲れ様。」

「それはともかく、傘、入ってください。」

「い、いいよ~!そこまで降ってないし!」
リィンに相合い傘をするように促されたトワは恥ずかしそうな表情で断ろうとしたが
「ここで傘を押し付けられるのと一緒に帰るの、どちらがいいですか?」

「ズ、ズルイなぁ~。そんな言い方をするなんて…………それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうけど…………わたしを気遣って肩とか濡らしちゃダメだからね?」
笑顔のリィンに押され、相合い傘を受け入れる事にした。
「はは、大丈夫ですよ。先輩はち―――」
トワの気遣いにリィンは苦笑しながらある事を言いかけたがすぐにその言葉を口にするのを止めた。
「何を言いかけようとしたのかな~…………?」
一方トワは何かを言いかけてすぐに止めたリィンを意味ありげな笑みを浮かべて見つめていた。

その後二人は校門を施錠した。


「はあ、昔のリィン君だったらもっと純朴で素直だったのに…………断れないような言い方をするなんて悪い意味で大人になったというか。」

「はは…………すみません。でも、どうせ先輩の事だから生徒に傘を貸したんでしょう?予備があるから大丈夫とか言って。」

「み、見てたの!?」
自分の行動を言い当てられたトワは驚きの表情でリィンを見つめた。
「いや、先輩が傘の備えを忘れるはずは無いでしょうし。急な雨だったから普通に想像できるというか。」

「も、もう~…………変な読みを働かせるのも禁止!リィン君、まだ20歳なんだからもっと初々しくてもいいと思うよ!?同僚とはいえ、わたしの方がいちおう1歳年上なんだしっ!」

「はは…………了解です。それじゃあ帰りましょうか。何処かに寄りますか?」

「ううん、わたしは真っすぐでいいよ。」
そしてリィンはトワと共に下校を始めた。


~リーヴス~


「……………………政経倫理のテストは本校のハインリッヒ教頭とでしたか。」

「うん、専門的なところとか力を貸してもらっちゃった。」

「リィン君は歴史学と実戦技術だったっけ?」

「ええ、本校の新しい教官とベアトリクス教官と協力しました。あちらも色々と大変そうですね。」

「うん、ヴァンダイク学院長とトマス教官は退任されちゃったけど…………マカロフ教官とメアリー教官は相変わらず頑張ってくれてるみたいだね。ふふっ、でも懐かしいな。2年前はサラ教官に、ナイトハルト教官もいたんだよね。」

「ええ…………そうらしいですね。政府の方針で、聞いていた以上に軍事色が強まっているそうですが…………それでも、元いた教官方が頑張ってらっしゃるのは心強いですね。」
トワの意見に頷いたリィンは静かな表情で答えた。


「ふふっ、そうだね。うん―――私も、もっと頑張らないと!アンちゃんもジョルジュ君もせっかくエレボニアに戻ってきたんだし!」

「!…………そうでしたね。お二人とも今はバーニエに戻っているんでしたか。」
トワの口からアンゼリカとジョルジュの名前が出ると二人の”現状”はどうなっているかをメンフィル帝国からの情報で知っていたリィンは一瞬複雑そうな表情をした後すぐに気を取り直して答えた。
「うん、そのはずだよ。二人とも忙しいみたいでちょっと連絡が取れてないけど。うーん、でも二人ともいいなぁ。」

「えっ、それって…………でもアンゼリカさん、”ああいう”趣味ですよね?」
トワの話を聞いたリィンはアンゼリカとジョルジュが互いを想いあっている関係である事を察すると驚きの声を上げた後、苦笑しながらトワに確認した。
「ふふっ、付き合いも長いし、そんな感じじゃないかもしれないけど…………それでもやっぱり、同性の親友とは違うものを感じるんだよねぇ。身分の問題とかもあるかもだけどもしそういう話になったらいっぱい祝福したいと思ってるんだ。―――多分クロウ君も同じだと思う。」

「…………そうですか。俺は彼の事についてはよく知りませんが、先輩達と同期で、そしてアリサ達のクラスメイトでもあったのですから、自分にとっての友人であるお二人の事を先輩と共に真っ先に祝福するでしょうね。」

「うん、そうだね。…………そういえば、結局リィン君達”特務部隊”の人達はクロウ君とは敵同士の関係で終わっちゃったけど…………ちょっと残念だったな。リィン君達はクロウ君の良い所とかを知る事もなく、お互いを”敵”としてしか認識しなかった関係で終わった事に…………デュバリィ教官達みたいに和解できる機会はきっとあったと思うんだ。」
リィンの推測に頷いたトワは寂しげな笑みを浮かべた。
「まあ、彼女達の場合はリアンヌ分校長のお陰という事もありますが、俺達がパンダグリュエル制圧作戦にて彼の仲間であった”V”と”S”の命を奪った事で彼に恨まれていたとはいえ、内戦が終結し、お互いが冷静になれる期間ができれば”友”として接する機会を作る事ができたかもしれませんね。」

「…………うん。―――リィン君、あの仮面の人とか、家族のこととか、一人で考えることないんだからね?旧Ⅶ組やサラ教官、特務部隊の人達、それにアルフィン殿下はもちろん、たまには新Ⅶ組の子たちだって弱音を吐いてもいいと思う。その…………もちろんわたしにも。」

「トワ先輩……………………」
トワの助言に目を丸くしたリィンはその場で目を伏せて黙り込んでいた。すると雨は降り止んだ。
「あ…………!」

「…………止んだみたいですね。」
雨が降り止んだ後リィンが傘をたたんで、トワと共に空を見上げると夜空に星々が輝いていた。
「わあっ…………!」

「凄いな…………星がよく見えますね。」

「うん、ちょうど雲が風で流されたのかな…………?ふふっ…………入れてくれてありがとね。」

「はは、この程度でしたらお安い御用ですよ。」
そして翌日、ついに定期考査が始まり…………4日に渡る定期考査が無事終了すると、生徒達は手応えや心残りを感じつつテスト終了の解放感に存分に浸るのだった。そして午後―――分校長の鶴の一声により、打ち上げと、学業で鈍った身体をほぐす名目で”とある特別授業”が開かれるのだった―――
 

 

インターミッション~束の間の休日~

7月8日―――

~クラブハウス・プール~

「クク…………なかなか良い眺めじゃねえか。」

「ふう、あくまで授業中だぞ?」
プールで水着姿になったアッシュは女性陣の水着姿を見て口元に笑みを浮かべ、アッシュの言葉にクルトは呆れた表情で指摘し
「教官、ご指導お願いします♪」

「ミュ、ミュゼちゃん…………」

「って、なに更衣室に連れて行こうとしてんのよっ!」
ミュゼはリィンをどこかに連れていこうとし、ミュゼの行動を見たティータは冷や汗をかき、ユウナは呆れた表情でミュゼの行動を制止した。
「40アージュ、今度こそは…………」

「今気づいたけど、”泳ぐ”のはこれが生まれて初めてになるわね…………アルは忙しそうだし、レオノーラに泳ぎ方を習おうかしら…………?」
一方アルティナは真剣な表情でプールを見つめてある決意をし、ある事に気づいたゲルドはアルティナに視線を向けた後レオノーラに視線を向けた。
「やれやれ、平和だねぇ。」

「はは…………みんな生き生きしてるな。」

「ま、束の間の休日ってやつだな。」

「ふふっ、みんな勉強、すごく頑張ったみたいだし。」
ランディやリィン、ランドロスとトワは生徒達の様子を微笑ましそうに見守り
「クスクス、それにしても二人ともたった2年で身体が見違えるように成長したわね。二人の成長にはやっぱりリィンお兄さんも関わっているのかしら♪」

「…………あの。念の為に言っておきますが、私達の身体的特徴で成長した部分は胸だけではありませんから、わざとらしく胸を見ないで頂けますか?」

「フフッ、でもこの2年でわたくし達の一番成長した部分は旦那様が大好きな胸である事は否定できないわよ♪」
小悪魔な笑みを浮かべるレンに胸の部分を見つめられたエリゼは水着姿だからこそハッキリわかる豊満な胸の部分を両手で隠してジト目で反論し、その様子を見たアルフィンはからかいの表情で答えた。
「ふわ~~っ、改めて見るとセレーネ教官って、スタイルがまさに完璧な女性ですよね~~…………!一体何を食べたらそんなパーフェクトスタイルになるんですか!?」

「そう言えばセレーネ教官の姉君であられるルクセンベール卿の身体つきもセレーネ教官と互角に見えましたよね。教官達は私達”人間族”ではなく、”竜族”との事ですから、もしかしてそれが関係しているのでしょうか?」

「え、えっと………そう言われましても、気づいたらこうなっていたとしか言いようがないのですが…………」
興味津々の様子のサンディの問いかけや静かな表情で推測を口にしたヴァレリーの推測を聞いたセレーネは冷や汗をかいて苦笑しながら答えていた。


「うひょおぉぉぉ…………っ!予想はできていたけどセレーネ教官とリアンヌ分校長、スタイルが凄すぎるだろう!しかもアルフィン殿下やエリゼさんの水着姿まで拝めるなんて…………!く~っ、惜しむらくはセレーネ教官達の水着が肌の露出がイマイチな水練用である事と後はベルフェゴールさん達の水着姿も拝めたら、まさに天国(パラダイス)だったんだけどな~!」

「さすがにそれは高望みし過ぎだと思うよ…………?というか他の人達はともかく、ベルフェゴールさんは普段から遊泳用の水着姿のようなものだと思うんだけど…………」

「ハハ、水練用とはいえ”帝国の至宝”と名高く、エレボニア皇族であられたアルフィン殿下の水着姿を見る事が許される事だけでも光栄過ぎる出来事なのに、そこに加えてセレーネ教官達の水着姿まで見れるんだから、これ以上を望んだらその内罰が当たるぞ。」
興奮した様子でセレーネ達の水着姿を見回しているシドニーにカイリとスタークは苦笑しながら指摘した。
「―――貴方達。先程からマスターやアルフヘイム達ばかり見ていましたが、その様子ですとマスター達の水着姿に劣情を抱いているようですわね…………―――神聖な学び舎―――それもマスター直々が校長を務めている学び舎であるこの第Ⅱ分校でそのような劣情を抱く等言語道断ですわ!その腐った根性を叩き直す為に今から、”鉄機隊”流の水練を教えて差し上げますから、3人とも今すぐプールに入りなさい!」

「げっ、デュバリィ教官!?」

「さ、”3人とも”って事はまさか僕達もですか!?」

「ハハ…………早速”罰”が当たったみたいだね…………」

「フフ、”アレ”は私達でも相当キツイから程々にしてあげなさいよ。」

「まあ、あの様子では言っても無駄だと思うがな。」
そこに顔に青筋を立てたデュバリィが現れてシドニー達に指示をし、デュバリィの登場にシドニー達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中、その様子を見守っていたエンネアとアイネスは苦笑していた。
「エンネア教官~、もし上手く泳ぐ”コツ”みたいなものを知っていたら、教えてもらえませんか~?」

「そ、その…………これから水練の授業が増えるとの事ですから、これを機会に今の内に不得意である水練を指導して頂きたいんです…………!」

「フフ、そのくらいお安い御用よ。―――それじゃあ、あちらのコースを使わせてもらいましょうか。」

「アイネス教官!ちょうどいい機会だから、水練で勝負をしないかい!?」

「”現代の鉄騎隊”の一人であるアイネス教官の胸を借りさせてください!」

「フフ、”海の猟兵”と名高い”銀鯨”の一員であったレオノーラに領邦軍の中でも武闘派揃いであるノルティア領邦軍の指南役を務めている”シュライデン流”の継承者の一人であるゼシカが相手か。―――よかろう、相手にとって不足はない。その勝負、喜んで受けさせてもらおう。」
そしてルイゼやタチアナに話しかけられたエンネア、レオノーラとゼシカに話しかけられたアイネスはそれぞれ生徒達と和気藹々な様子で交流をしていた。
「やれやれ…………派遣されてまだ1週間だって言うのに、すっかり馴染んじまったな、鉄機隊の連中は。」

「ハハ、そうだな。」
かつては自分達にとっての”敵”であったデュバリィ達”鉄機隊”が生徒達と馴染んでいる様子をランディとリィンはそれぞれ苦笑しながら微笑ましく見守っていた。
「しかし授業と言うからには指導など最低限の体裁を…………」

「フフ、それよりもちょうどいい機会ですから水場ならではの真剣勝負をする方が互いの鍛錬になると思いますよ?」
一方ミハイル少佐の指摘を柳に風に流したリアンヌ分校長はある提案をし
「皆様、喉が乾いたらこちらで冷たいドリンクをどうぞ。」
一人だけいつもの執事服姿のセレスタンはプールサイドの端に置いたテーブルにドリンクを並べて待機していた。

試験明けの高揚のまま、リィンはⅦ組生徒やそれ以外の科の教え子たちと指導や勝負などで交流を深め…………最後はお約束のように、リアンヌがリィン、ランドロス、ランディ、ミハイル、デュバリィ、エンネア、アイエンスを勝負に巻き込み―――白熱の勝負が繰り広げられる中、濃密な特別授業は幕を閉じるのだった。


~夜・宿舎~

試験を終えたその日の夜、ユウナ達Ⅶ組の生徒達はティータと共にロビーにあるソファーに座って今日一日の出来事を振り返っていた。
「は~、テスト後にプールなんてさすがにクタクタっていうか…………」

「と言いつつ目一杯楽しんでたみたいですが。」
疲れた表情で溜息を吐いたユウナにアルティナは苦笑しながら指摘した。
「まあ、名勝負も見られたしいい授業だったと思うけどね。」

「うん、特にセレーネ教官は凄かったわ…………リアンヌ分校長と互角の勝負をしていたし。」

「あ、それはあたしも思ったわ。運動が苦手って訳じゃないけど、リィン教官やランディ先輩みたいに前衛特化型の人じゃない…………というか、どっちかというと後方からの支援や攻撃が得意な人に見えるのに、あの分校長と互角の勝負をしている所を見た時は驚いたわ…………」
クルトの言葉に続くように答えたゲルドの話を聞いたユウナはリアンヌ分校長達教官陣による勝負の際、セレーネがリアンヌ分校長と互角の勝負をしていた事を思い返し
「セレーネ教官は竜族―――それも水中や水上戦が専門である”水竜”との事ですから、セレーネ教官の泳ぎが早い事はそれ程おかしくはないかと。」

「あ…………そう言えばツーヤちゃんからも、ツーヤちゃん達”水竜”はみんな泳ぎが得意みたいなことを聞いたことがあります。」

「へー…………そうだったんだ。っていうか、セレーネ教官って”竜族”らしいけど、今でもあの穏やかで優しくて深窓のお嬢様みたいなセレーネ教官が物語とかで出てくる”竜”にはとても見えないわよね~。」
アルティナとティータの説明を聞くと目を丸くした後セレーネの顔を思い浮かべて苦笑し
(あの様子ではセレーネ教官の”竜化”を見れば、間違いなくわたし達の予想通りの反応をするでしょうね。)

(アハハ…………そもそも、セレーネちゃんがそこまでする程の相手が現れない方がいいんだけどね…………)
セレーネやツーヤ、そしてミントの”竜化”を見た事があるアルティナとティータはそれぞれ冷や汗をかいた後セレーネ達の竜化を見たユウナの反応について小声で会話をしていた。


「つーか、何で俺まで付き合わされてんだっつーの。」

「もう、同じクラスなんだからたまには付き合いなさいっての。」

「ふふ、ティータさんとユウナさん合作のレアチーズケーキですし。」

「セレスタンさんが淹れてくれたアイスコーヒーとよく合います。」

「いや、大したものだと思う。店とかでも出せるんじゃないか?」

「えへへ、そっかな?けっこう簡単なんだけど。」

「冷蔵庫で冷やす作り方なので今の季節にもピッタリですよね。」
クルトの賛辞にユウナとティータはそれぞれ嬉しそうな表情を浮かべていた。


「しっかし、明日は自由行動日だけど来週末はまた特別演習なのよね。機甲兵教練は水曜日みたいだけど。」

「今までのパターンだと同じ日に演習地の発表があるのか。試験と重なったからかもしれねぇがさすがに急すぎねぇか?」

「そ、そうですね。準備する時間も必要ですし。」

「そう言えばクロスベルでの特別演習からフォートガードでの特別演習までの準備期間を考えると、今回の特別演習は少し早いわよね。」

「僕達が慣れたから、ハードルを上げた可能性もありそうだが…………」

「それでも2日というのはちょっと厳しいかもしれません。」

「まあ、そのあたりも水曜日のお楽しみでしょうね。テストの結果発表もありますし♪」
ユウナ達と次の特別演習について話し合っていたミュゼは話の空気を変える為にある事を笑顔で答え、それを聞いたユウナ達は冷や汗をかいた。
「言わないでってば~!結構ミスっちゃったし…………」

「あはは、順位の方はちょっとドキドキですね…………」

「まあ、終わった事だ。大人しく結果発表を待とう。」

「ハッ、さすがは優等生。余裕じゃねえか。」
落ち着いた様子でテストの結果を待っているクルトにアッシュは鼻を鳴らして意味ありげな笑みを浮かべてクルトに視線を向け
「そういうアッシュさんも意外と悪くなさそうですが。」

「うん、アッシュ、普段からどの授業もわりと余裕な様子だものね。」
アルティナのアッシュへの指摘にゲルドは頷いた。


「あーもう決めた!明日は好きな事しかしない!…………ってそうか。小要塞攻略もあるのよね。」

「ああ…………博士次第だろうが。実戦のカンを鈍らせない為にも確実に参加しておきたいな。」

「そうですね…………海上要塞では色々手ごたえもありましたし。」

「ふふ、ですから余計にちょっと悔しいんでしょうね。教官達のチームに参加できなかったというのが。」

「そ、それは…………」

「…………そうだな。実力差があったとはいえ。」

「…………ケッ…………」

「……………………」

「皆さん…………」
ミュゼの指摘にユウナとクルトはそれぞれ複雑そうな表情をし、アッシュは鼻を鳴らし、ゲルドは静かな表情で黙り込み、その様子をティータは心配そうな表情で見つめた後ある事を思い出した。
「そうだ、小要塞といえば!実はⅦ組の皆さんに相談したいことがあるんですが…………!」
そしてティータはある事をユウナ達に相談し始めた――――