蒼穹のカンヘル


 

一枚目

硝子の割れるような音と共に、俺の眼前の存在が緑色の結晶に覆われていく。

「なんなのだ!なんなのだ貴様はぁ!」

俺が握る銀色の錫杖。

それに貫かれた、背中から五対十枚のカラスのように黒い羽を生やした男。

『神の子を見張るもの』幹部が一柱。

堕天使コカビエル。

奴の顔は恐怖に歪んでいる。

まぁそれも当たり前の事だ。

何せ奴は今、魂を直接攻撃され、記憶を侵され、存在を消されようとしているのだから。

「コカビエル、お前は俺を怒らせた!
テメェが消える理由はそれだけだ!」

俺はコカビエルを同化しながら、これまでの日々を、コイツが壊そうとした俺達の日常を、思い出していた。




時はさかのぼる。









『おぎゃぁ!おぎゃぁ!』

あっ、ああ、俺は、どう、なった?

たしか、友人との帰り道、俺は小さい女の子を庇ってトレーラーに…

あのあとどうなった?あの女の子は無事なのか?

体が動かねぇ、だが痛くはない、麻酔か?

『おぎゃぁ!おぎゃぁ!』

赤ん坊の声が聴こえる、病院だな。

ああ、起きないと、皆が心配してるかもしれない。

俺は目を開け…られなかった。

なんだ?まぶたが重い…まだ夢の中なのか?

「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

それにしてはこの赤ん坊の声がやけにリアルだ。

「元気な男の子だな」

渋く深みのある声が聞こえた。

は?俺の居る病室で生まれたの?

ここどこだよ?そんな狭い病院近くに有ったかな?

ふっ、と浮遊感がした。

「やっと、生まれてきてくれた、私たちの天使」

そうか、良かったね奥さん。

にしてもマジで目が空かねぇ、目をやっちまったか?

俺はなんとか目を開けようとした。

なんとか目を開けて見たのは優しそうな女性の顔だった。

彼女は俺の目を覗き込み言った。

「貴方の名前は篝、姫島 篝、本当に生まれてきてくれてありがとう、私達の天使」

チュッ、そして『俺の』額にキスをした。

「フフッ堕天使の息子が天使と言うのも、なかなか、くくっ」

堕天使?息子?待てよ、待ってくれよ!

息子?俺が?何を言っている?どっきりか?

仕掛人は…あれ?……何でだ?あいつの名前が、思い出せない、俺の相棒だったあいつの…

あれ?俺は?俺は誰?名前が、思い出せない?

駄目だ、駄目だっ、駄目だ!

思い出せない!

何で!何で!どうして!

「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

思考の渦に囚われていた俺は再び赤ん坊の声を聞いた。

泣いているのは…俺?

彼女に抱かれている?

彼女の天使、つまり子供?

さっきの声の男性は彼女の旦那さん?

ははっ、待てよ、待ってくれよ

なら、俺は、死んだってのか?

そして、生まれ変わったとでも言うのか?

ははっ、カッコつけて、この様か…

ああ、てことはあいつは俺の死ぬところを見ちまったのか。

あいつは真面目だからな、『俺がやっていれば』とか考えてるかもな。

あーあ、やりたいこと、沢山あったのに…

ははっ、せめて卒業してから死にたかったぜ、二つの意味で…………はぁ。

ふざけても変わらないか…

今生じゃぁ、せいぜい無茶しないようにしよう。
 

 

二枚目

俺が生まれ変わってから五年が過ぎた。

今は父さんに戦いかた…といってもまだまだ5歳なので効果的なパンチの打ち方とかしか習っていない。

何故そんなことをしているか?

さてここで問題ですジャジャーン!

私の名字は「姫島」…神社に住んでます。

母さんが巫女で名前は「朱璃」です。

私には姉が居て名前は「朱乃」です。

父さんの背中には鴉の濡れ羽色の翼があって名前は「バラキエル」です。

姉さんにも小さい翼があります。

まぁ何故か俺にはないけど…

さぁ、ここは何の世界でしょう?

そう、ここは「ハイスクールD×D」の世界だ。

最初に気づいた時はそれはそれは喜んだね

だって姫島朱乃の弟ポジションだぜ?

俺が好きなキャラ一位の。

でもさぁ「ハイスクールD×D」ってさパワーインフレがヤバイんだよね。

最終的には主人公が人型のドラゴンになってたし。

しかもさぁ、さっきも言ったけど『姫島』だよ。

たしか姉さんが十歳の時に母さんの親戚が責め込んでくるんだよね。

まぁ、そんなわけで修行中ですよ。

俺に神器が在るかなんて判らない、だからとりあえず体を鍛える。

腕立て伏せ十回が限界のガキの体でも、何もしないよりましだろうしな。

「篝、もう少し力を抜け。
今のお前では力任せの拳は無意味だ」

「うん!」

ザッザッザッザと神社の砂利を踏む音がした。

誰か来たかな?

「よぉ、バラキエル。せっかくの休暇に家族サービスじゃなくて息子に戦を教えるたぁ何考えてんだ?」

そこに居たのは見た目三十代くらいの男だった。

「アザゼル…」

アザゼル…コイツがアザゼルか…

作中じゃぁキャラの濃いグリゴリを纏める苦労人…ではなく神器マニアのイメージが強い奴だ。

「おっちゃん誰だよ」

「ははははははは!!おい!バラキエル聞いたか!?
堕天使総督をおっちゃん呼ばわりとは!
こいつぁ大物になるぜ!」

「篝、このおじさんにはなるべく関わるなよ。
悪い人だから」

「おいおい、ダチにそれは無いだろう」

「悪友だがな」

「こいつぁ一本とられたぜ!」

「実際お前が居ると教育に悪い」

「はぁ?何言ってやがる?毎晩毎晩嫁さんとSMプムグッ!」

ああ、やっぱりそうなのか。

倉庫に鞭とか磔とか蝋燭とかあったし、それにこの前夜中にトイレ行った時に…その、ウン、ナンデモナイ。

「アザゼル、小便は済ませたか?
部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?」

一説抜けているぞ父よ。

「バラキエルよまだまだだな一説抜けているぞ」

「貴様がそれを言うのか?」

「いや、確かに聖書の神は「アザゼル!」はいはい。
でもネタは最後までやるもんだぜ」

アザゼルェ、ちょっと迂闊じゃないか?

いいのか?堕天使総督がそんなので。

「いいから来い、篝、そのまま続けていろ。
お父さんはこのおじさんと話がある」

あ、父さんがアザゼルを引っ張って行った。

とりあえず続けよう。

side out














side AZAZEL

バラキエルの奥さんの家に行ったら何故か神社の裏手に連れてこられた。

「なんだよバラキエルこんな所に連れてきて」

コイツそんなに息子が大切なのかねぇ。

確かに『おっパブで天使を堕とそう作戦』なんてのを幹部会に上げたが…

まだ怒ってんのか?

「アザゼル、篝を、どう思う?」

はぁ?

「どうって、普通の男の子だろ」

そう、普通の男の子だ、ただの人間の男の子だ。

「篝に何か感じたりは?」

「俺はショタコンでもホモでもない」

「そういう事ではない!篝に神器が有るか調べられないか?」

「何でわざわざそんな事をする?」

「翼だ、篝には翼がない。
それに気づいてないのか?
お前が言ったように篝は普通の男の子だ」

「!」

俺はハッとした、そうこのバラキエルの息子が普通の男の子の筈がないのだ。

「お前の息子に神器があり、それが堕天使の力を抑えていると?」

「それ以外に何がある」

堕天使の力の源である翼が無いとすると…

「力を抑え込む神器か…封印系統か?
それとも幻獣系統でそちらが勝って…いや、だとしたら気配が…」

少なくとも神滅具では無いはずだ…

「アザゼル、何か思い浮かんだか?」

「いいや、全くだぜ」

「そうか…」

おいおい、そんなため息吐いてくれるなよ。

「俺は万能じゃないんだぞ」

「神器マニアのお前ならと思ったが…」

「あれは聖書の神が創った物さ。
たかが一披造物の俺が見ただけでそこまで判るかよ」

「そうか…」

「見ただけではな」

「アザゼルまさかお前…」

「ああ、そうさ、早い内にパパの職場を見せとくのも良いとは思わねぇか?」

「しかしだな…」

「まぁまぁ、家族旅行だとでも思っとけよ。
堕天使領の入領許可証は出すからよ。
総督直々だぜ」

俺のサインがあれば大抵はなんとかなるからな。

「ム…いいだろう」

「なら行こうか、堕天使領グリゴリ本部」
 

 

三枚目

「ようこそバラキエル御一行様!
篝、朱乃、此処がお前たちのパパの職場だぜ」

冥界、堕天使領グリゴリ本部に転移した。

エントランスのような所で芝居がかった仕草で俺達を迎えたのはアザゼルだった。

「それじゃぁ案内するぜ」

と言われ案内されたのだが…

「グリィィゴリィィィ!」

筋肉ムッキムキの男が大声で叫んでいる…

「シシシ、やっと此処までこぎ着けたのだ」

白い肌の研究員っぽい男が不穏な事を言っている…

「ほらほら、もっといい声で鳴きなさい!」

「ブヒィィ!」

ボンテージ姿の女性が全裸の男を鞭で叩いている…

「何このカオス…」

母さんと姉さんは後ろで引いている…

おいそこ!SMプレイ見て目を輝かせるな!

「……………帰るか」

父さんも少し思う所があるようだ。

「まぁまぁ、そう言うなよバラキエル。
お前から頼んだことだろう?」

「しかしだな…」

「とにかく、帰りたいなら用事を済ませてからだ」

用事?仕事か?

「篝、今日此所に来たのはお前を検査するためだ。
そうだろ?バラキエル」

「う、うむ、そうなのだが…」

「検査?何を言っているのですかアザゼルさん?
アナタも私に黙って篝に何をさせるつもりですか?」

母さんがすげー怒ってるな…

「い、いや、これは必要なことなんだわかってくれ朱璃」

「言い訳は要りません今夜はお仕置きです」

それってご褒美なんじゃ…

「そ、そうか、それは残念だ…」

口ではそう言いながら口元がニヤけてるよ父さん。

「まぁまぁ、奥さん、これはバラキエルが篝君を心配してのことです。
危険はないので御安心を…」

アザゼルがフォローしてるが…

敬語だあのアザゼルが敬語を使っている…母さんって何者だよ…

「奥さんは神器という物をご存知ですか?」

「ええ、主人から聞いています」

え?そんなの教えちゃっていいの?

「篝君には神器が宿っている可能性が有りそれを検査します」

マジで!?どんな神器かな~楽しみだな~

「…そうですか本当に危険は無いんですねアザゼルさん?」

「ええ、もちろんです」

「わかりました。ですがアナタ、黙っていたことはお仕置きです」

結局お仕置き(ご褒美)は有りなんですか…

「さて篝、行こうか」

「うん!」

よし!行こう!とおもったら姉さんがアザゼルの裾を引っ張っていた。

「あの、おじ様、私にも神器というのはあるのですか?」

あ、今『おじ様』って言われて葛藤したな?まさかロリコンじゃないよな…

「さぁな、なんなら朱乃も来るか?」

「はい!」

「よーし、じゃぁこっちだ。
あ、お二人さん、朱乃も連れていくんでどうぞごゆっくり~」

え?あの、状態で放置?今にもおっ始めようって雰囲気なのに?

ん?アザゼルが端末を出した、誰にかけるんだ?

「ベネムネか?……ああ……一つ空いてるか?……空いてる?……わかった、バラキエルと奥さん放り込むから……ああ……頼んだ」

「ねぇねぇアザゼル、どこに電話したの?」

「さっき鞭持ったねーちゃんが居ただろ?
アイツの部屋を朱璃さんに貸すんだよ」

なるほどプレイルーム(意味深)ね。

「おいバラキエル」

「なんだアザz…ごふぅ!」

おおぅ、見事なリバーブローだ…

「アザゼル……きさ……ま…」

「朱璃さん部屋を用意しましたので此方の魔方陣でどうぞ」

「あらあら、お手数かけてすみませんアザゼルさん」

「いえいえ、これくらいどうってこと無いですよ」

「ではお言葉に甘えて」













で、連れてこられたのは大きなホールだった。

といっても所々に機材が置いてある。

「よーし二人とも先ずは神器を持っているかを検査するぞ。
そこのベッドに横になってくれ。
大丈夫、危なくはないから。
さぁ、どっちからやる?」

アザゼルが示す方向にはMRIみたいな機材があった。

「では私から、姉ですもの」

「わかった篝もいいか?」

「うん」

姉さんがベッドに横になる。

うぃ~ん、と気の抜けるような音を出しながら機材が動き、姉さんをスキャンしていく。

「三十秒くらいで終わるぞ」

というアザゼルの言葉の通りすぐに終わった。

「あ~、残念と言うべきか良かったと言うべきか朱乃には神器は無いようだ」

「そうですか…」

姉さんは残念そうにしているけど神器ってたしか…

「まぁまぁ、そう落ち込むなよ。
それに神器持ちは狙われる可能性だってあるんだからな」

「じゃぁ篝は大丈夫なのですか?」

「ん?流石に教会も悪魔もバラキエルの息子に手は出さんだろう。
そんな事をすれば今度こそハルマゲドンだな」

冗談っぽく言ってるが内容が笑えんな。

「さて、次は篝だ、朱乃と同じように横になってくれ」

「はーい」

俺もMRI擬きに横になる。

さっきと同じようにスキャンされていく。

「ん?あ?どうなってんだ?」

なんだ?なんかあったのか?聞いてみるか…

「どうしたのアザゼル?」

「あ、ああ、少しおかしな結果が出てな。
悪いがもう一回いいか?」

おかしな結果ねぇ…聖と魔とかか?

「別にいいよ」

「じゃぁ二回目行くぞ」

再びMRI擬きに横になった。

「まぁこの機械も造ってかなり経つ。
そろそろオーバーホールだな」

と言いながら機材を操作するアザゼル。

俺はふと思ったことを聞いてみた。

「ねぇねぇアザゼル」

「なんだ篝?」

「アザゼルって一番偉いんでしょ?」

「ああ、もちろんだ」

「じゃぁ何でわざわざ自分で出迎えしたり俺達の検査してるの?
部下に任せたらいいのに」

「確かにそうですわね」

姉さんも思ってたようだ。

「堕天使は天使や悪魔ほど数が多くないのさ。
つまり人員不足なんだよ」

「さっきの眼鏡の人は?」

「サハリエルか?アイツは神器は専門外だ。
俺をはじめとして神器を研究する奴も結構いるが、あいつらは自分の研究以外に興味ないからなぁ…」

喋っていると終わったようだ、俺はベッドから降りた。

「ん~変わらずか…」

さっきと同じ結果なのか?

「どうしたのです?おじ様?」

「ん…篝に神器が有るのは確定だ…
で、この機材は神器があればその属性まで解るんだが…『聖』と『竜』の反応が出ているんだ。
前者は文字通り『聖』を武器にする物で後者は単純に『力』に干渉するのが一般的だ」

スターリングブルーとかトゥワイスクリティカルとかだな。

「何故にその二つが出るのはあり得ないのですか?」

「朱乃、篝、お前たち聖書は知っているか?」

「ええ、知っていますわ」

「うん」

たぶん次の質問は…

「なら失楽園のエピソードは解るか?」

「ええ、それに関係するのですか?」

姉さんは気づいてないみたいだ…

「姉さん、エヴァを騙して知恵の実を食べさせたのは誰?」

「篝、お前本当に5歳か?
でもまぁそういう事だ」

「?」

未だはてなを浮かべる姉さん。

「エヴァを騙したのは蛇に化けたサタン。
そしてサタンは竜でもあった。
だからキリスト教において竜は悪なんだよ。
わかった?姉さん?」

「そういうことですか…でも他の神話の竜という線は無いのですか?」

「神器を創ったのはヤハウェだ。
確かに異教の存在を封じた物も有るには有るが絶対数が少ない。
それに各神話の竜は殆どその存在が確認されている」

「それに竜は宝を溜め込むような強欲な存在だから、聖の力を持つことはないよ」

「よく知ってんなーこれはバラキエルの後継者も安泰だな」

おいおい…俺は何故か翼出せねぇってのに…

「篝、お前翼出せるか?」

にゃろう、人が気にしてる事を…

「無理、まぁでもいつか出せるようになるでしょ」

「無理だな。お前の堕天使の力は神器が押さえ込んでいる。
まぁ今のところ害は無いがな」

まじかよ…じゃぁどうすんのさ?

「取り敢えず神器を出してみろ。
そうだなぁ…自分が一番強いと思うキャラの真似してみろ。
子供の神器所有者なら大抵はこの方法で出るから」

原作主人公がやってたやつか…強いやつねぇ…ノゲノラのジブリールとか?

やってみるか…

「ふうぅ…」

目を瞑り、手を空高く掲げる。

イメージはノーゲームノーライフ四巻でジブリールが使った天撃…

自分の手の中に周りの力を集めるイメージ…

ふわりと、風が起こった気がした。

大地を流れる精霊回廊から力を引き出す。

周囲の全ての精霊を搾取しつくす…

それを収束、圧縮する…

「お、おい、篝、なんだ…それは…」

もっと、もっとあつめて…

「おい!篝!」

ん?アザゼルがなんか言ってるな…

「篝!」

「なに?アザゼル?」

「上を見てみろ」

上………………なぁにこれ…

掲げた手の上には剣や槍というには余りにも不定形な光の柱があった。

「ねぇアザゼル、これが俺の神器?」

俺の神器って天撃?

「違うだろうな…ソレはお前がイメージで周りのエネルギーを根こそぎ集めた結果だ…
何を想像したかは知らんしどうでもいいが…どうする気だソレ?」

「どうしたらいいと思う?」

「三十秒、そのままで保持できるか?」

「うん」

「待ってろ、朱乃は篝の後ろにつけ、絶対前に出るなよ!」

「わかりましたわ」

アザゼルはホールの入り口とは反対方向のゲートを開けた。

「篝!このゲートから外に向かって撃て!」

よ~し、じゃぁ、撃つか!

「天撃、参ります!」

俺はゲートから光の柱を投げた…

どんどん進んでいって…

ちゅっどぉ~ん! と爆音が響き、閃光が迸る。

あ、山が吹き飛んだ…どうしよ…

「どうしよ…アザゼル…」

「なに、あそこは誰も住んでねぇから大丈夫さ」

え?そんだけ?

「いいの?」

「戦闘抂が暴れたらもっと行くんだから気にすんな」

「わかった」

「良かったわね篝」

ところで…

「俺の神器は?」

ぴーぴー!

何の音だ?

ガチャ、あ、電話の音か。

「俺だ、………ああ………問題ない……ちょっとした事故だ……ああ……そうか……ああ……わかった……ああ…そうだ……すぐ行く……」

ガチャ…

「今のでちと呼び出しを喰らっちまった。
なに、安心しろお前の事は黙っとくから」

「呼び出し?総督なのに怒られるの?」

「総督って言っても飾りみたいな物さ。
一応色々な最終決定権は有るが合議制だからなぁ…」

「てことは俺の神器はお預け?」

「ああ、何が起こるか分からんからな。
そうだな、ちょっと待ってろ」

またもアザゼルは端末を出して誰かにかけている。

「よう、暇か?………ああ……そうだが……うっせ………あ~わかってるわかってる、で暇なんだろ?…………んなもん部下に任せたらいいだろ………大丈夫だって…………暇なんだな?なら仕事だ……拒否権?あると思うか?……なに、ガキのお守りさ……大丈夫、結構ちゃんとしてるから……そうだ……じゃぁ第三ホールに……あいよ」

ガチャン…

「よしお前ら俺は行くけど直ぐに案内役が来るから待ってろ」

「案内役?」

「グザファンって奴だ。
動力炉の管理人って肩書きだが結局は暇人だからな、まぁそういうこった、また後でな」

グザファン……動力炉の管理人……あ、天界に放火しようとしたやつか。

そんな事を考えている内にアザゼルは何処かに転移していった。

「案内役ってどんなひとかなぁ」

「変な人じゃないといいですわね」

目の前の床が淡く光る。

お?魔方陣だ、案内役かな?

その魔方陣はどんどん輝きを増していき、出て来たのは…

俺達とそう変わらない幼女だった………は?

「よう、お前らがアザゼルが言ってたガキか?
お前らの案内役をやらされるグザファンだ。
とりあえずよろしく」

見た目に反して男口調だ。

グザファンの容姿は金髪に緑の瞳で八重歯の目立つ口元に格好はよく鉄工所のおっちゃんが着てるようなツナギ。

「まぁ、シェムハザ…グリゴリでアザゼルの次に偉い奴の説教が終わるまでだから…だいたい五時間くらいこのグリゴリを案内するぜ」

五時間て…日頃から色々と言いたいんだろうな…

「よろしく」

「よろしくお願いいたしますわ」

「じゃぁ、行くか」

さぁて、どんな面白い物があるのかねぇ…
 

 

四枚目

今現在俺と姉さんはグザファンの案内でグリゴリ本部を歩いている。

コンコン…

「サハリエルー居るか?」

まずはトイレノックやめてやれよちゃんと三回叩けよ。

「誰なのだ?おやグザファンなのだ。
どうしたのだ?」

あ、さっきの研究員だ、変な喋り方だな…

あれ?たしか原作にも出てきたような…

「アザゼルがさっきの件でシェムハザに呼び出されてな。
アタシがこいつらの面倒見てんのさ」

「分かったのだ。見学なのだ?」

「どうするお前ら?コイツの研究室見学するか?」

何の研究だろうか?アザゼルが言ってたから神器では無いとおもうが…

「僕は基本的に月そのものやそれに付随する術式を研究しているのだ」

月………面白そうだな

「見学したいです。面白そうなので」

「篝が言うなら私も」

「決定なのだ、早く入るのだ」

そう言われて入った研究室は結構普通だった。

「ここは僕の執務室兼研究室なのだ。
実験室が別にあってここは資料室なのだ」

「じゃぁアタシはそこで寝てるから」

グザファンはソファーに横になって眠り始めた…

「何か面白い物は有りますか?」

「ん~ぶっちゃけ余りないのだ。
ところで二人は魔法とかに興味があるのだ?」

「はい、ありますわ」

「あるよー」

「なら魔法の基本を教えるのだ」

マジで!堕天使幹部から直々に教えてもらえるなんて!

「やった!」

「すごい喜びようですね」

「まずは魔法と魔力、光力、聖力の違いを説明するのだ。
魔力はイメージのみで創る物で悪魔の技なのだ。
そして光力は堕天使の、聖力は天使の技でこの3つは才能が物を言うのだ。
逆に魔法は法則を理解してあやつるのだ」

父さん曰く、魔力とは天使だった悪魔達が『聖』と『光』を捨てた結果らしい。

同じく光力とは堕天使が『聖』を捨てた結果との事だ。

「そうなんですか」

姉さんは知らなかったようだ。

「人間は基本的に魔力は扱えないのだ。
人間が使うのは大抵は悪魔の魔力を模倣した物なのだ」

「へ~」

「でも君達は多分習わなくても雷を操れると思うのだ」

「雷…ですか?」

父さんが雷光の堕天使だしね。

「そうなのだ、バラキエルは雷光を操れるのだ。
だから二人も使えるはずなのだ。
試しにやってみるといいのだ」

いいのか?こんなところで…

「こんなところでやっていいの?」

「別に構わないのだ。
ここの資料は全て術式で保護してあるのだ」

なら遠慮なく…

「どんなイメージでやるの?」

「多分掌の上に雷をイメージすればいいのだ」

掌の上に雷…

パチッパチッパチッ

お?なんか出たぞ!

でもさっきみたいになったら面倒だしここら辺で…

姉さんも出せたみたいだ。

「できたー!」

「できましたわ」

「じゃぁ次はその雷を球にしてみるのだ」

球…球ねぇ…雷が球になるイメージ……ダメだ、丸まらねぇ…

螺旋丸みたいに回してみよう…

雷が回りながら球になるイメージ……

くるくると回る雷が、やがて球体になった。

できた!

「お~弟君は優秀なのだ」

姉さんは…苦戦してるな。

「姉さん、雷を回しながら丸めるんだよ」

とアドバイスをしたら姉さんも結構あっさりとできていた。

「お姉ちゃんの方もできたのだ。
次はお待ちかねの魔法なのだ」

よっしゃ!きた!

「とはいえ二人は純粋な人間じゃなくて堕天使とのハーフだから簡単な魔法なら陣や詠唱なしでイメージでなんとかなるのだ。
どっちかというと光力を使うことになるのだ」

マジか。

「試しに指先に火を灯すイメージをしてみるのだ」

指先に火…指先に火…お、出た、でもショボい…

「うんうん、それでいいのだ、二人は火とはどういう現象か理解してるのだ?」

「物が燃える…でしょうか?」

「アホかお前、五歳と六歳のガキが知るわけねーだろ」

あ、グザファン起きてたんだ

「それもそうなのだ、燃焼じゃなくて炎その物は…たしかハイスクールの内容なのだ」

「焔はプラズマ…イオンでしょ?」

「おぉ…最近の幼稚園児は進んでるのだ…」

気体分子を引き裂くイメージ。

要するに魔法科高校の『ムスペルヘイム』の理屈だ。

「お?弟君の火がおっきくなってるのだ、何をイメージしたのだ?」

「気体分子を引き裂くイメージを」

こんな回答でいいよね?

「君が子供だと思えないのだ…
それと炎ならグザファンが詳しいのだ。
彼女は炉の管理人なのだ」

「アタシは特にイメージなんてしてないよ」

イメージ無しで出せる…権能ってことか…

「じゃぁとりあえず、今から基本の光力の使い方を教えるのだ」

トン、トン、と俺と姉さんの前に一つずつ水の入ったコップが置かれた。

「試しに凍らせてみるのだ」

あ、原作でイッセーとアーシアがやってたやつだ。

悪魔も堕天使も基本は一緒ってことか?

氷らせる、温度を下げるイメージで……

ダメか…なら…停止するイメージでやってみるか…

パキパキパキ…お、凍った。

姉さんもできたみたいだ。

「じゃぁ次は…」

そんなカンジで俺と姉さんはサハリエルから光力の扱いを学んだ…

頑張ったらドレスブレ…いや、なんでもない。

ぴーぴーぴーぴー

ん?端末の呼び出し音?

「グザファンだ、アザゼルか?………なんだお前か…………ああ……………そうだが……………それで?……………分かった、あ、バラキエルは?…………ああ、なるほど………そろそろ終わってんじゃね?………はいはい……………サハリエルの執務室だ…………分かった」

誰からだ?アザゼルからではないようだが…

「誰からなのだ?」

サハリエルの問にグザファンは…

「シェムハザから。おい二人とも、アザゼルの説教が済んだらしい。
直ぐに来ると言ってるから待ってろ。
じゃぁな」

と言って何処かに転移していった…

「逃げたのだ…まぁ直ぐにアザゼルが来ると思うから心配は要らないのだ」

ヴォン…と音がして魔方陣が展開され現れたのは…

「よう…待たせたな篝……お前の神器を…確かめにいくぞ……」

物凄く疲れた顔をしたアザゼルだった。
 

 

五枚目

俺は今再びホールに来ている。

「篝、今回は強いものをイメージする必要はない」

まぁ、さっきみたいになったらまた呼び出し喰らうだろうし。

「今回は自分の心の奥に潜るんだ」

心の奥に?

「イメージは?」

「特にない、強いて言うなら心を落ち着かせることくらいだ」

「分かった…やってみる……」

足を肩幅に開き目をとじる…

暗闇に閉ざされる…

心を落ち着かせる…何も考えずにただただ無心になる…

どれだけそうしていたかは分からない…

やがて虚空になにか玉のような物が浮かんだのが見えた。

色は青っぽい色だった。

海みたいな色だなと思ったけど、透明じゃなくて中は見えない。

大きさは…分からない。

ビー玉のように小さくも見えるし運動会の大玉転がしの玉みたいに大きくも見える。

俺は、なんとなくその玉に触れようと思った。

玉は固かった。

でも柔らかいような気もした。

表面は叩いてみるとコンコンと音がして硬度を感じさせる。

でもゆっくりと押すと窪んだ。

気付いたら玉は俺を飲み込めるような大きさになっていた。

いつの間に大きくなったのだろうか?

今や直径十メートルはあるかもしれない。

俺はその玉の中に入ってみようと思った。

叩いたら弾かれたので、腕を突き出してゆっくり、ゆっくりと沈みこませる。

トプンッ と腕が粘度の高い液体に沈んだのが分かった。

俺は肘から上もゆっくりと入れていった。

玉が鼻先まで来た。

俺は思いきって顔を突っ込んだ。

特に息苦しさは無く、普通に呼吸できた。

俺はそのまま全身を玉の中に入れた。

中は呼吸ができるけど、身体中の感覚は水の中に居るときとおなじだった。

玉の外は見えない、それどころか何処までも水中が続いていた。

俺は何かに引き寄せられるような、誰かに呼ばれたような気がした。

さっき玉に入った方向から考えて俺を呼んだ何かは中央にいるようだ。

俺はその方向へ向け泳ぎだした

気付くと大人の、否、前世での自分の体になっていた。

そんなの、もう覚えていない筈なのに。

俺はそんな事は気にも止めず泳ぎ続けた。

どれ程泳いだかは分からない。

疲れもしないし息継ぎも必要ない。

それでも結構泳いだと思う。

やがて進行方向に何か光るものが見えた。

あの光が俺を呼んだのだろうか?

俺は光へ向かって泳いだ。

いつの間にか手足を動かさなくても進むようになった。

俺はそのまま進み続けた。

やがて、光にたどり着いた。

あったのは形のない光だった。

俺はその光が何かとても大切な物に思えた。

その輝きは優しく暖かかった。

そして言い様のない慈愛を内包しているように思えた。

俺はその光を両手で包み込み、自分の胸に抱き込む。

光の暖かさが全身を包み込み、俺の体は光に溶けていった。















目を開けた、さっき光に包まれて…どうなったんだ?

目の前には杖があった、ただの杖ではなく銀色に輝く錫杖だ。

長さは1,5メートルほど。

持ち手の上には円状になったパーツがあり四つの銀色のリングが通されいる。

円の中には台座があり翡翠色のクリスタルが嵌め込まれていた。

一目見て思ったことは『美しい』。

語彙力の無い俺にはそうとしかいえない。

俺はその錫杖を手に取った。

その時俺はこの神器の名前を知った。

「カンヘル…これから、よろしくな」

これが…俺の神器…使い方は分からない。

でもこうやって持っていると落ち着く。

とても、暖かくて、安心する…

「篝、それがお前の神器なのか?」

あれ?父さん、お仕置きは終わったの?

「そう、この杖はカンヘル。
俺の神器だよ」

「良かったなー篝。神器出せて」

アザゼル…

「お前さん一時間近く立ったままだったんだぜ」

マジか

「嘘でしょ」

「本当さ、お前が立ったまま二十分位してバラキエルと朱璃さんが来てさらに四十分近くそのままだったぜ」

あ、でもかなり泳いだ感覚だったしな

「お前さんその杖をなんと言った?」

知ってるのかな?

「カンヘルだよ。
掴んだ瞬間に名前が分かったんだ」

既存の神器か新種の神器か…

「カンヘル…聞いたことねーな」

「新種の神器ってこと?」

「ああ、多分な。こんなにも濃い光の気配にそれと同等の龍の気配なんて見たこともねぇよ」

ふぅ~ん、ま、いいか…

「じゃぁこの杖って龍が封印されてたりするの?
それとも龍から作り出したとか?」

「さぁな、調べてみないことにはなんとも言えん」

そっか、新種の神器だしまだあんまり分からないもんね。

ところで…

「姉さんは?」

「あっちで寝てるぞ。
大方慣れない光力を使って疲れたんだろう」

あ、母さんに膝枕されて寝てる。

せっかく神器出したのに寝てるとか…姉さんェ…

ところで俺もサハリエルに教えられた事をやったけど…

そこまで疲れてないぞ?なんでだ?

まぁいいか、それよりも…

「ねぇねぇ今なら翼出せるかな?」

聞きたかった事を聞いてみた。

「分からん、試しにやってみたらどうだ?
そうだなぁ…まぁ出るなら念じたら出るはずだ」

え?そんだけ?まぁいいや背中に意識を集中して…

あ、背中の肩甲骨辺りが熱くなってきたな、このままでいいのかな…

バサッ!

出たかな?

「なんだと?」

どうしたよ総督殿?

「うむ……これは…」

父さんまで…

「どうしたのさ?」

「翼を見てみりゃわかるよ」

翼?……何にもないじゃないか。

ちっさい黒い翼があるだけだ。

でもこんな小さい翼で飛べるのか?

「違う、逆だ逆」

逆?反対側の翼は……ええ…

そこには白銀の大翼があった。

大きさは二メートルはあるだろうか?

しかも形状が鳥の翼とは少し違う。

翼の途中に爪のような物まである。

まるで蝙蝠の翼の皮膜を白銀の羽毛に変えたような翼だ。

「そいつぁ多分だが神器の中に居る龍の翼だと思うぜ」

これが龍の翼?羽毛があるのに?

「でも羽毛があるよ?」

「だから訳が分からんのさ」

ふぅん…

「何か調べたりするの?」

人体実験とかやだな…

「いいや、やりたいがバラキエルと朱璃さんが怖いからやんねーよ」

マジで母さんなにしたんだよ…

「そっか、ならいいや」

にしてもバランス悪いな…小さくなんねぇかなコレ…聞いてみるか。

「コレってすごくアンバランスなんだけど小さくなんないの?
もしくは堕天使の翼って大きくなんないの?」

という俺の質問にアザゼルは答えた

「龍の翼は多分だがイメージ次第で小さくできるだろう。
しかし堕天使の翼を大きくすることは出来ん。
堕天使の翼は力の源だ。
これは天使と堕天使共通でな自分の意思じゃぁ大きさを変えることは無理だ。
俺やバラキエルのような複数枚の翼を持つ者は翼の大きさではなく外に出す翼の枚数で力を調整する」

へ~そうなんだ

「じゃぁ龍の力の源ってなに?」

「一般的には心臓と言われているが詳しくは解っていない。
龍が使う力も何を代償にしてるかもな。
龍を解剖しようなんてバカはそうそう居ねぇしな」

へ~そうか…心臓か…

「龍の翼が出たのならお前の体は龍に近づきつつあるのかもしれんな」

じゃぁ俺って出力系統が二つあるってこと?

「なら俺って龍の力も使えるの?」

「さぁ?使えるかもしれんし使えんかもしれん。
まぁ余り勧められるもんじゃないがな」

「どうして?」

「龍ってのは力の塊なのさ。
その力を操る事の出来る奴より力に呑まれた奴の方が遥かに多い」

「おい、アザゼル」

あ、父さん

「余り篝にそういう事をだな…」

「いーや、こう言うのは早めに教えるべきだと俺は思っている。
バラキエル、ちゃんと篝を見といてやれよ」

「言われなくともそのつもりだ」

と何やら俺抜きで話し合いを始めた。

「で、どうするよ、なんなら俺等で篝と朱乃を鍛えてやってもいいが」

え?なにそれめっちゃやりたい。

「ふむ…いやしかしコカビエルやケムエルのような戦争主義者は教育に悪いだろう」

あ、ダメですかそうですか。

「あ~確かになぁ…やめとくか…
まぁたまに連れてくるぐらいは大丈夫だろ」

よっしゃ!

「アザゼル、貴様は篝のデータが欲しいだけではないのか?」

「いやいや、そんなことねーよバラキエル。
サハリエルが気に入ってるしグザファンも満更じゃなさそうだったしな」

サハリエルは丁寧に教えてくれたしグザファンも解んないところを教えてくれたしな。

「サハリエルとグザファンか…まぁいいだろう」

あ、その二人はいいんだ。

「で、今夜は泊まっていくのか?」

アザゼルの問に父さんは…

「朱璃に聞いてくる」

母さんが一番強いもんなー…

母さんの方に走って行ったな。

「なぁ篝」

アザゼルが話しかけてきた。

「なにアザゼル?」

「羽根を1枚くれないか?」

「羽根?」

「そう、羽根」

父さんが離れるのを見計らってたな。

「何に使うの?」

「調べるだけさ」

ならいいのか?てか羽根って抜けるの?

「羽根って抜いて大丈夫なの?てか抜けるの?」

「ん?大丈夫だぞ。髪の毛と同じ様なもんさ。
ちょっと痛いがそれだけだ。
それに髪の毛と違って直ぐにまた生えて来るからな」

そんな物なんだ…でもさ…

「それって堕天使の翼でしょ?
龍も同じでいいの?」

「ああ、多分大丈夫だ。
それに龍の回復力なら堕天使の翼より早く生えるだろ」

あ、そうなの?

「なら別にいいけどアザゼルの羽根も1枚頂戴」

等価交換ってね。

「別にいいぞ」

バサッ!

おお、六対十二枚の漆黒の翼…これはこれで綺麗だしカッコいいな。

それにアザゼルの翼で上手く俺を隠している。

多分父さん達に俺が羽根を抜くのを見せないためだろう。

アザゼルは自分の翼から1枚の羽根を取って渡した。

「ほら、これでいいだろう?」

「うん」

俺も自分の龍の翼から1枚取る。

イテッ!本当に髪の毛抜いたような感覚だな。

「はい」

アザゼルの羽根を受け取り自分の羽根を渡す。

アザゼルは懐に入れ俺はポケットに入れた。

あ、父さんが戻ってきた。

「篝、今日はここに泊まっていくぞ」

あ、許可がでたんだ…

「分かったー」

「アザゼル、部屋はあるのか?」

「余ってなけりゃあんなこと言わねぇよ」

「そうか」

「で、そろそろメシ時だが?」

あ、そうか、昼過ぎに此所に来てからだから…今大体そのくらいか…

「何処で食べるんだ?食堂か?街に出るのか?」

「篝はどうしたい?」

父さんそこで俺に振るのかよ…

「アザゼルのお勧めで。
総督なら一番知ってるでしょ?」

と言ったら

「ハハハハハ!篝!わかってるじゃねーか!
よーし分かった!俺の一番のお気に入りにつれていってやらぁ!」

え?え?何?なんかアザゼルのテンションが一気に上がったぞ?

「はぁ…」

父さんが溜息をついた…あれぇ?俺なんか不味いこといった?

「よーし!いくぞお前ら!
朱璃さーん!代金俺持ちで街までいきますよー!」

「はーい!」

あ、姉さん起きたな。

こっち見て…驚いてるな。

まぁいいか、とにかくメシだメシ!

慣れないことばっかりで腹減ってんだよな。

さぁて、堕天使総督の勧める所ってどんなところかなぁ~
 

 

六枚目

 
前書き
「朱璃さんTUEEEEEE !!」回。 

 
「HAHAHAHAHAHAHA!のめのめぇ!」

さて、いきなりオッサンの声で始まって訳が分からないだろう?

三行で説明しろだって?

いやいや、そんな事言うなよ…

『アザゼルがお気に入りの店ではしゃいでる』

コレだけの事をそんな三行も使えってか?

あの後ハイテンションなアザゼルに連れられた俺達は堕天使の街に繰り出した。

堕天使の街はニンゲンの街よりも進んでいた。

こっちに来たときはグリゴリ本部エントランスに直接転移したから外が見えなかったのだ。

そしてアザゼルのお勧めの店なのだが…居酒屋だった。

バーでもパブでもなく居酒屋、日本式の、しかも御座敷…

あんた等一応西洋圏が根城だろうが、と思った俺は悪くない筈だ。

「アザゼル、少し落ち着いたらどうだ?
まだ乾杯したばかりだぞ」

ちなみに俺はコーラ、姉さんはオレンジジュースで乾杯しました。

「堅ぇ事言うなよバラキエル!
もっと飲めよ!」

父さんはアザゼルに絡まれてるな。

にしてもアザゼルの奴はっちゃけてんなー…

そんなにストレス溜まってんのかねー?

「あらあら、ウフフ…」

母さんはニコニコしながら日本酒呑んでるし…

姉さん?姉さんは…

「篝~?羽だしてください~」

こんな感じだ。

さっきホールから出る前に触らせて欲しいと言われたので後でと答えて今現在我慢の限界らしい…

「今出したら邪魔になるよ」

「大丈夫ですわ。他に人はいませんから」

そうなのである、この居酒屋…アザゼル一行の貸し切りである。

「篝!出してやったらどうだ?」

アザゼルまで…まぁ身分最上位者が言うなら大丈夫なのだろう…

肩甲骨に意識を集中する…バサッ!

よし、出た。

「姉さん、触っていいよ」

そーいや今はカンヘル出してないけど翼だせるな…

一回出したから?早く翼大きくなんないかな…

「もふもふ…」

ご満悦で何よりです。

「あらあら…篝の白い翼もなかなかいいですわね…」

母さんもモフッてるし…

「うにぃ…」

ああ、きもちぃ…翼って気持ちいいな…

父さんもこんな感じなのかなぁ…

俺と姉さんは時々父さんの翼をモフッてる。

姉さんの翼はまだモフれるほど大きくないし…

と~け~る~……………

「く、コレはなかなか…俺はショタコンじゃない俺はショタコンじゃない俺はショタコンじゃない俺はショタコンじゃない俺はショタコンじゃない…」

「…………………」

アザゼルはなんか頭押さえてるし父さんは黙りこくってるけど…どうしたん?

「にぃ~」

そんな事どうでもいい…きもちぃ…

「おい!篝!顔!顔!」

ん~?なにぃ…

「どしやのぉ~アザゼル~」

「お前の顔ヤバいって!溶けてる!溶けてる!」

「あらあら、本当ですわ…」

「朱璃さん!分かってるなら止めてください!おっと…鼻血が…」

なんかアザゼルが鼻つっぺしてる…

うにぃ…

「朱乃、篝の翼を撫でるのはそれくらいにしてご飯たべましょう。
篝も翼を仕舞いなさい」

あ~モフられるのきもちよかった…

「はーい」

「うにぃ…」

「駄目だこりゃ…」

何がさ?て言うかさっきから父さんが一言も喋ってない…

その後はアザゼルが注文した料理を食べたが滅茶苦茶美味しかった。

流石は堕天使総督が勧める店だ。








そしてある程度食べて大人組は晩酌を始めた。

大体一時間ぐらい経ったが真っ先に潰れたのは父さんだった…

えぇ…そのナリで真っ先につぶれるのかよ…と思った俺は悪くない。

それと姉さんは寝落ちした。

もう十時近いからね…

「ちょっとお花を摘みに…」

ん?母さんがトイレに行ったな…

「おい、篝」

「何?アザゼル?」

今度は何さ…

「ちょっとコレ飲んでみないか?」

と差し出されたグラスは酒だった。

「お酒?」

「飲んでみろ、上手いぞ?」

前世じゃぁ毎年正月にお屠蘇飲むくらいだったしな…今なら呑んでもだいじょうぶか?

「分かったー」

グラスを受け取る…どうしようか…

うん、堕天使の血があるから急性アル中にはならんよな。

俺は受け取ったグラスを一気に煽った

「あ!馬鹿野郎!イッキすんじゃ…」

時既に遅し。

「もどりましたー」

喉が!喉が焼ける!

「ゲホッゲホッ!」

喉が!…………あれぇ?

俺は喉が焼ける感覚と母さんの怒号を耳にしながら意識を失った…

















夢を見た。

何かよく分からない大きな物が四つあった。

そして一際大きい何かが目の前にあった…

目の前にある何かは銀色だった…

それ以外の四つは赤かったり白かったりした…

目の前の何かが大きく口を開き何かを言った…

口を開いた事は分かるのに目の前の何かの全体像は掴めない…













ん…あれ?ここは…どこだ?

俺は気が付くと和室にいた…

机につっぷして父さんが寝ている。

姉さんは畳に寝てるし。

あ、そうか、アザゼルに連れられて居酒屋に来たんだった。

あれ?母さんとアザゼルは?

えっと…たしか姉さん達に翼をモフられて…

料理を食べて…あれ?そのあと…

うっ!頭が痛い…あ、そうだ、アザゼルに勧められて酒呑んだんだった…

いや、ガキに酒勧めるとか親戚のおっちゃんかよ…

スー、と引き戸が開けられた。

「お目覚めですか?坊っちゃん」

着物を着こんだ女性だった。

女将さんだろうか?

「女将さん?」

「ええ、そうです」

聞いてみるか…

「母さんとアザ…総督はどちらに?」

と言うと女将さんは着物の袖で口元を隠して笑いだした。

「奥様と総督でしたら玄関です。
ご覧になりますか?
面白い事になっておりますよ」

「面白い事?」

「ええ、ではこちらへ…」

まだ酒が抜けず、フラフラしながら通されたのは厨房だった。

「あの…玄関では?」

「こちらでいいのです」

と言われるまま厨房から裏口へ…さらにそこから表へまわると…

ああ、うん、確かに面白い事になってるね。

でもさぁ…コレ、不味いんじゃないの?

その光景は何というか…うん、もう言っちゃおう。

正座だ。堕天使総督の。

しかもその正面に立って説教してるのは母さんだ…

「コレどんな状況なんですか?」

「総督が坊っちゃんにお酒を呑ませた事についての説教ですよ」

「ああ、なるほど…」

「かれこれ三時間はこのままですね」

「三時間!?今何時ですか?」

「そうですね…人間の時間で大体…夜中の一時ですね」

堕天使総督を夜中に居酒屋の前で三時間正座だと!?

母さんマジスゲー


この後座敷に戻って寝た。

いろいろあって直ぐに眠りに落ちた。

翌朝、説教は無かったが酒を飲んだ事を注意された…

アザゼル?一日に二回も説教されてショボくれてたよ…

さて、帰りますか!
 

 

七枚目

俺から二メートルほど離れた場所に体育座りの幼女がいる。

彼女はさっきからチラチラと此方を窺っているが此方から見ると目を反らす。

彼女の髪は長い銀髪、陽光を反射してキラキラと輝いている。

その瞳はトパーズのような美しい黄色だが、怯えと恐怖、不安を湛え濁っている。

そして彼女の名前はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーという。

うん、どうしてこうなった?

状況を整理しよう。

朝の十時ごろ、父さんに雷光の出し方を教わっていた時(俺はまだ雷しか出せない)。

「よう!バラキエル、篝!元気にしてたか?」

アザゼルがやって来た…幼女を連れて…

「アザゼル…見損なったぞ…」

「へ、変態だー!」

「ま、待てお前ら!ご、誤解だ!話を聞いてくれ!」

しらばっくれるか…

「知らん!」

父さんも戦闘体制だ…

「そのセリフが証拠だ!
犯人は何時もそう言う!
『証拠は何処に有るんだ』『たいした推理だ君は小説家にでもなった方がいいんじゃないか』『殺人鬼と同じ部屋になんか居られるか』とな!」

俺はそう叫びカンヘルを召喚する準備を始める…

「本当にちがう!しかも最後のは次に殺られる奴の死亡フラグじゃねぇか!」

そうだっけ?だが…

「問答無用!幼女を誘かわした罪は重いぞアザゼルゥゥゥゥ!」

俺はカンヘルを召喚してアザゼルに攻撃した。

「あっぶね!うわっ!ちょっ!なんでっ!そんなこなれてんっだ!」

父さんに杖術習ったからなぁ!

ピシャァァン!と父さんの『雷』が落ちる

「あぶねぇ!バラキエル!何しやがる!」

援護サンキュー父さん!

「死ねやこのロリコン!」

俺はカンヘルに今出せる最大の雷を纏わせアザゼルをぶっ叩こうとした…

「うを!?」

おかしな声を上げてアザゼルが大きく飛び退いた。

「ハァハァハァ…腐っても堕天使総督か…」

俺はそろそろ限界だ。

今ありったけの力で雷を纏わせたからスタミナがもう無い。

「おいこらバラキエル!テメェ分かっててやってんだろ!さっさと篝を何とかしろ!」

なに?

「ふむ、アザゼルにはバレるか…篝、アザゼルはその少女を拐って来たわけでは無いだろう」

え?

「じゃぁ何でさっき攻撃したの?
さっきの雷って俺の援護だったよね?」

あのタイミングではそうとしかあり得ない

「全てはアザゼルが話すだろう…では聞かせて貰うぞアザゼル」

父さんは一度其処で区切り、プレッシャーを放って続けた。

「悪魔の少女を連れている理由をな」

悪魔?悪魔!?この幼女が?ってことは……敵?

シャラララララン…シャン!

俺はアザゼルではなくその隣の幼女にカンヘルを向けた…が…

「よせ!篝!この子は敵じゃない!」

とアザゼルが言って悪魔の幼女の前に出て庇う素振りを見せたので構えを解いた。

「敵じゃないってどういう事?
悪魔は俺達堕天使の敵でしょ?」

原作が始まってない今、三大勢力の自軍以外は敵のはず…

「それも含めて話す、バラキエル、さっさとプレッシャーを引っ込めろ。
コイツは間違いなく篝と同い年だ、そう警戒するな」

悪魔の幼女はアザゼルの服の裾を掴んで怯えている。

若干涙目だ、否、父さんのプレッシャーで泣かないとは相当肝が座ってるな…

「わかった…」

父さんは短く返し家へ向かった

「篝、バラキエルと話してる間、ヴァーリを頼むぞ」

「はいはい、わか…は?」

今、アザゼルは何と言った?

「ね、ねぇアザゼル、今何て言った?」

「バラキエルと話してくるからその間ヴァーリを頼むぞ」

「ヴァーリってその子の名前?」

「そうだが?」

「その子、女の子だよね?」

「コイツが男に見えるなら病院に行った方がいいな」

なん…だと…?

「あ、ああ、うん、わかった、ヴァーリちゃん?行こうか?」

あ、結局俺は何も知らされないのね…









俺は彼女を自分の部屋に連れて行った…

おい!そこぉ!変態とか言うな!

開いてるのが此所しかねぇんだよ!

今本殿じゃぁ姉さんが祓魔を習ってんの!

俺は部屋の突き当たりに座る。

陽当たりがいい特等席だ。

「俺の名前は篝だ。
まぁ、何処でもいいから座りなよ」

と言うと彼女は入り口近くの壁際に体育座りをした。






そして冒頭へ…

な、何を話せばいい?

「あ~ちょっとまっててね…」

「ひっ!」

俺がお菓子とジュースを持ってこようと立った瞬間彼女は怯えた。

「え~と…」

そうじゃん、ヴァーリって確か白龍皇故に虐待されてたんだっけ…

どうしよう…此方が危害を加えないと示す?駄目だ時間がかかりすぎる…

俺も龍系神器の所有者だと示す…これだ!

「ねぇ」

びくぅっ!と彼女は反応した。

「君は龍を宿してるんだろう?」

「あ、あ、あ、い、いやぁ!来ないで!」

ヤベェ、失策だったか?ええい!このままいっちまえ!

「怯えなくてもいいよ。
だって俺も龍を宿して居るんだから…」

「え?」

彼女は『あり得ない』『そんなはずはない』という疑念と共に僅かな『期待』を目にうかべた。

「見せてあげよう」

俺は翼を出そうと思い…考えた。

両翼を龍の翼に出来ないだろうか、と。

やってみよう、きっと出来る筈だから…

俺は白銀の龍の双翼を広げる自分を思いながら、肩甲骨に意識を集めた。

何時もより温かくなる範囲が広い気がした。

でも、構わず翼を広げた。

バサッ!

「ほらね、俺の翼は白いけど天使の翼じゃない。
ツメが有るだろう?これが俺に宿る龍の翼さ」

彼女はとても驚いた顔をしていた。

「触ってみるかい?」

と言ったら彼女は恐る恐る近付いてきた。

「ほら」

と彼女に翼を差し出すと、ちょんっとつついたりした。

「もっと触っていいよ」

と言うと今度は撫で始めた、拙いけど優しかった。

「うう、ぐすっ…」

あれ、なんかまずった?

「ふぇぇぇ…」

「え、ちょ、な!」

ええ!なんでぇ!こっちが泣きたいわ!

「うぅ~」

「え、え~と…」

取り敢えず、ヴァーリを膝の上に抱き寄せてその上から自分ごと翼で包み込む。

「大丈夫?」

「うん…ぐすっ…」

落ち着いたみたいだ。

ヴァーリは人とのふれあいに飢えていたのだろうか?

俺はヴァーリの頭を撫でてあげた。

ヴァーリの髪はふわふわしてた。

「すぅ…すぅ…」

あれ?寝ちゃった?泣きつかれたのかな?

「ふぁ~あ」

俺も眠くなってきたな…さっきありったけの光力使ったからかな…

ああ、ねむ…ぃ………

side out








side AZAZEL

「つーわけだ。あの子は一度悪魔から引き離した方がいい」

あの子…二日前雪の日に出会った幼い少女龍を宿したが故に愛を奪われた子供。

「それは理解している。
あの娘、貴様が育てる気か?」

っかー、そこなんだよなぁ…

「バラキエル、お前の言いたいことはよく分かる…どうしよう……」

ぶっちゃけノープラン。

それを聞きにコイツの所まで来たのもある。

「貴様何も考えていなかったのか?」

篝に会わせに来たんだっつーの。

「怒るなよ…兎に角警戒してたから同い年の篝がいる此所に来たってのが本当の所だ」

「そうか…というかいきなり篝と二人きりだが大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「そのヴァーリという娘の事だ。
篝はまぁ、光力がある。
年が同じならば悪魔に負けることは無いだろう…多分大丈夫だろうが…」

本当は篝の方が心配なくせによ…

「心配なら見に行くか?」

「いやしかし此処で我々大人が介入するのも…」

コイツは何時もこういう所で真面目だからな…多少強引だが…

「篝が心配なんだろ?なら見に行くぞ。
おら、立てバラキエル」

「うむ…」




確か此所が篝の部屋だったよな…

「アザゼル、どうした?」

「しっ!」

小指を立て静かにとジェスチャーを送る。

………聞こえて来るのは…………寝息?

「おい、バラキエル。そーっと開けるぞ。
いいな、物音立てるなよ…」

小声でそう伝えたら、コクりと首を縦に振った。

俺はそっとドアを開けた……

「「すぅ…すぅ…すぅ…」」

マジかよ…篝の奴どんな手を使ったんだ?

あんなに警戒してたヴァーリと抱き合って寝てるたぁよ…

ほう…その上面白い事になってんな

「な!こ、これ…ムグ!」

とっさにバラキエルの口を塞ぐ。

「起きたらどーすんだ!
そっとしといてやれ!」

小声でまくし立てながらドアをそっと閉めた…

「す、すまない、アザゼル…し、しかし!」

あーもーうるさいな…

「分かってるよ、篝の翼だろう?
大丈夫だ。多分隠れて見えなかっただけで堕天使の翼もちゃんとあるだろう」

しかし、だとすれば四枚の翼を展開していたって事だ…

「そ、そうか…」

「ああ、だから安心しろ。
アイツ等が起きたら、二人と朱璃さん、朱乃も交えて話し合おう」

「わかった」

ヴァーリ・ルシファー。アイツはきっと人に飢えていたのかもしれん。

やはり篝に会わせて正解だったな。

ヴァーリの事、頼むぜ篝。
 

 

八枚目

此所は……何処だ?

気付くと俺は深い深い森の中に居た。

いや少し違う。深い森の中に出来た不自然に木がない広場にいた。

此所は何処だ?俺はさっきまで何をしていた?

思い出せない…

「グウォォォォォォォォォォォ!」

なんだ!?

突如聞こえた咆哮に俺は耳をふさいだ。

突然影が出来た。

その影は周囲を覆うほど大きい。

俺は不審に思い空を見上げると…龍がいた。

空高く太陽を背に悠々と飛んでいた。

俺は慌てて広場から回りの森に入った。

そこから上空を窺う。

やがて龍が降りてきた。

太陽から出てきたその龍は純白だった。

翼や各所に宝玉を持つ美しい龍だった。

ズンッと音を発てて龍は広場に降り立った。

「そこの人間、話がしたい。出てこい」

話…だと?どうする?出ていくか、留まるか…

出よう、もし俺を殺る気ならもうやってる筈だ。

俺は龍の前に踊り出た。

「よう、人間、龍を宿せし者よ、まず礼を言わせて欲しい、ありがとう」

礼?何の事だ?

「何を言っている?俺は龍を助けた覚えは無いが?」

カンヘルを召喚する準備をしないと…

「人間、気付いてないのか?
まぁ、それもそうか、自己紹介といこう」

自己紹介?

「我が名はアルビオン。
二天龍にして白龍皇の名を持つ者。
先程はヴァーリが世話になった」

ああ、そうか、そういう事か。

思い出したぞ。なら此所は俺かヴァーリのアストラルサイドもしくは神器の中か…

「俺の名は姫島篝、堕天使の血を引き龍を宿す者」

「では篝、一つ聞きたい、お前はまだ童ではないのか?」

言われて気付く、体が前世の体になっていた。

「俺の前世の姿さ。アンタにとってはどっちにしろガキだろ?」

「それもそうだな…では少しヴァーリの事を聞いてはくれまいか?」

「いいぜ」

「ヴァーリは何処にでもいる悪魔の子供だった。
しかしヴァーリは俺を宿していた…」

その声に現れるのは『後悔』。

「ある日ヴァーリの祖父がやって来た。
あやつはヴァーリを一目見た瞬間、殴ったのだ。
龍を、俺を宿しているからと…」

そしてその声は懺悔のようでもあった。

「その日から、父親はヴァーリを虐待した。
祖父に唆されて」

そして言い様のない怒りが込められていた。

「俺はせめてもの償いにヴァーリに保護の力を使い、体を治してやった。
故にヴァーリは余り痛みはなかった、しかし心は…」

その声は自らの無力さを悔いていた。

「やがてヴァーリの父は祖父に殺された!
ヴァーリの目の前でだ!
俺には何故そのような事になったのかはわからない!
だが虐待されていたとはいえ目の前で父親が殺されたのはショックだったのだろう」

その声は憐れみに満ちていた。

「それが3日前の事だ。
そして一夜開けた日、ヴァーリは呑まれた、おびただしい数の怨霊に…」

その瞳は自らに対する叱責をたたえていた。

「ヴァーリは至ったのだ。
バランスブレイカーを経ず、ジャガーノートドライヴに…」

その声は戸惑いと不安を孕んでいた。

「何時もの俺であれば喜んだのだろう…
だが、だが!俺は見ていられなかった!
神器に呑まれ、その命を削られていくのを!
俺は何とか覇龍を止めた」

少しだけ安心感を滲ませた声だった。

「そしてあの堕天使に出会ったのだ」

そして僅かな喜び。

「後はお前の知る通りだ」

そうして白龍皇アルビオンの独白は終った。

「お前はずっとヴァーリを守って来たんだな」

「ああ」

「お前はきっといい父親になれるぜ」

「たわけ…」

そう言いつつも少し嬉しそうだった。

「篝、これからヴァーリの事を頼んでもいいか?」

「俺の出来る範囲でそうしよう。
しかしそれはアザゼルに頼むべきだ」

「いや、これはお前に言うべき事だ…」

「そうかい」

「では、また会おう」

その声と共に俺の意識は溶けていった。











「ふぁ~あ」

今何時だ?………二時か、アザゼルが来たのが十時ごろだから…三時間半ぐらい寝てたか?

「ううん……」

ヴァーリは……まだ寝てるかな。

さて、ヴァーリを抱えて寝てるから動けないな…

もうひとねむ…

ガチャ…

「篝、起きてるか?」

と扉を開けてアザゼルが顔を覗かせた。

コクリと頷くとアザゼルはニヤけながら言った。

「抱き合って寝てるたぁ手が早いな」

俺は少しイラッとしたのでアザゼルに向けて氷の礫を飛ばした。

「のわっ!っぶねーなー」

「チッ」

当たらなかったか…

「舌打ちっておまえ…まぁ、いいか」

いいのかよ…

「おい!アザゼル何とか出来るか?」

「う、ううん?」

あ、ヤベェ…

俺はアザゼルを睨んだ。

「おいおい、睨むなよ…今のはおまっ!」

もう一回氷の礫を飛ばした。

「起きたか?ヴァーリ?」

「ううん…おはよぉ……篝」

か、可愛い!

「え、えーとちょっと退いてくれないかな…」

そう言いながら俺は翼を開いた。

「うん……わかった…」

ヴァーリはのそのそと俺の膝の上から退いた。

「篝、ヴァーリ、メシ食え。
もう二時だぞ」

とアザゼルがいうと…

「ひゃっ!?」

アザゼルになついてたんじゃないの?

「篝、どうやらヴァーリはお前の方がいいらしい。
先行ってるからヴァーリ連れて来いよ」

「はいよ」

アザゼルめまた俺に投げたな。

「ヴァーリ、昼飯食べるぞ」

と言って手を差し出すとちゃんと握ってくれた。

「よし、行こうか」

この後居間に行ったらアザゼルがニヤニヤしながらからかってきたのでまた氷の礫を飛ばしておいた。

氷の礫便利だわー雷みたいに逸れないし練習すれば真っ直ぐ飛ぶし、こういう威嚇程度ならつかえるな…

あとメシ食ってるヴァーリも可愛かった。

『可愛い』は唯一絶対不変の正義だな。
 

 

九枚目

「ごちそうさまでした」

「ご、ごちそうさまでした?」

ふぅ、旨かった。

あとメシ食ってるヴァーリも可愛かったです。

「さて、ヴァーリお前これからどうしたい?」

とアザゼルが切り出した。

「?」

どうしたいって何さ?

ヴァーリはアザゼルと父さんの話なんて聞いてないから『どうするか』の選択肢は知らないはずだぞ。

「その、なんだ、お前はこれから何処に住みたい?」

「?」

またもやヴァーリはコテンと首をかしげる。

たぶんヴァーリはグリゴリでアザゼルが育てるんだろう。

「えっと…ヴァーリ誰はと一緒に居たい?」

とアザゼルが聞くがやはりヴァーリにはわからないようで。

「誰と?」

と、言った。そこで母さんが口を開いた。

「ヴァーリちゃんはアザゼルさんと一緒に居たい?」

俺ならやだな…アザゼルは多少まともだけど周りがね…

「いや!篝といる!」

アザゼルざまぁ、てかヴァーリって俺になついてんの?

「よし、そういうこった。
諦めろバラキエル」

「む…篝はそれでいいのか?」

家に美幼女が増えるなら大歓迎だ!

「いいよ」

これ以外の答えがあるだろうか?

「ヴァーリもずっと篝といたいよな?」

「うん!」

うっしゃぁ!と、俺が心の中でガッツポーズをしているとアザゼルは帰り仕度を始めた。

「じゃぁ話は決まった。そろそろ帰るぜ。
朱璃さん、面倒かけてすいません」

「娘が増えるなんてうれしいですわ」

「頼むぞバラキエル」

「わかっている……」

と大人組で挨拶した後アザゼルは俺達に向けて言った。

「朱乃、ヴァーリの姉になってやってくれ」

と、姉さんに言った。

「はい!おじさま!」

「ヴァーリ、朱乃と篝に頼れ。
お前はもう一人じゃないんだ」

次にヴァーリにそう言った

「うん!」

最後に俺に。

「篝、ヴァーリを本当に救えるのは、同じく龍を宿すお前だけだろう。
まだ幼いお前にこんな事を頼むのは間違いだと思うが…ヴァーリを頼む」

と、言った。

「言われなくたってそのつもりさ」

アルビオンにも頼まれたんだ、何が有ろうとも守るさ。

「ククッ、いい目だ」

ああ、そうかい。可愛い幼女を守るのは男の役目だろう。

「じゃぁな!」

アザゼルは玄関から出て直ぐに転移した。

別に出る必要無くね?と思うがマナーなのだろうか?

「今夜はヴァーリちゃんの歓迎会にしましょう!」

と母さんが言った。

「歓迎会?」

とヴァーリが聞き返した。

「ええ、ヴァーリちゃんが新しくこの家に住む家族になったんですもの」

「家族?」

と不思議そうにしているので。

「そうだぜヴァーリ、同じ家に住んで同じメシを食うんだ。家族だろ」

俺はそう思っている

「かぞ…く…」

「ああ、例え血の繋がりがなくても家族は家族さ」

「うう…ぐすっ…」

はいぃ!?

「や、え、ちょ、なん、え…なんかまずった!?」

ヤベェ!地雷踏んだか!?

って!何で俺に抱き付くの!?そこは普通姉さんか母さんだろ!?

「あらあら、うふふ…」

「………」ムスー

そして何故そうなる女性陣!?

母さんは笑ってるし姉さんはむくれてるし…

と、取り敢えず頭を撫でよう。

「うう…」

泣き止んだかな?泣き止んだよね?

「えっと…ヴァーリ?」

「はね…」

「え?」

「はね…出して…」

はね…羽?俺の翼気に入ったのかな?

「気に入ったの?」

「うん…」

邪魔にならないかな…

「母さん、いい?」

「ん~……かまいませんよ」

すぅっ、と静かに翼を展開する。

勿論龍の両翼だ。

俺は展開した両翼でヴァーリを包み込む。

「えへへ~」

嬉しそうで何よりだ…

「篝、少しいいか?」

「何?父さん?」

「後ろを向いてくれないか?」

後ろ?まぁ、いいけど…

「ヴァーリ、動くよ」

「いいよ」

ずりずり、とヴァーリを膝にのせたまま後ろを向く。

「はい、後ろ向いたよ」

何でいきなり?

「あ!」

姉さん?

「篝の翼…増えてる…」

増えてる?それってあり得ないんじゃ…

「あらあら、本当ですわ…」

「うむ…」

はぁ?

「増えてるってどんな風に?」

と、聞いてみたら姉さんが。

「白い翼と黒い翼が二枚ずつになってる」

龍の翼と堕天使の翼で四枚?

でも特に感覚は無いんだよな…

「よく分からないんだけど…ちょっと触ってみて」

と姉さんに言った。

「わかりましたわ」

と言って俺の背中に手を伸ばしたと思ったら…

「ひゃう!?」

な、なんかくすぐったいような気持ちいいような感覚がした。

「あ~だいたい分かった…でも小さいまんまみたいだね…」

今なら分かる、肩甲骨の辺りから龍の翼が、その下に堕天使の翼が有るのが。

試しに堕天使の翼をぱたぱたしてみた。

「流石に飛べないよな…」

「篝、飛ぶ練習したいか?」

え?出来るの?ならやりたいんだけど。

「飛べるのなら」

「分かった、では明日から始めよう」

やった!

「篝!篝!部屋に行きませんか?
行きましょう!翼をモフモフさせてくださいな」

おおぅ…姉さんの目が輝いてるよ…

「わ、分かったから…ヴァーリ。
取り敢えず下りて、部屋でまたやったげるから」

「うん!」

俺と姉さんとヴァーリは俺の部屋に向かった。

で、だ…

「えへへ~」

「うにぃ…」

「…………」モフモフモフモフ…

今の状況?ヴァーリを抱えた俺を姉さんがモフってるだけだ。

あ…んくっ、そこ…気持ちいい…ああ…

「うふふふふ…」

「うにぃ…」

羽って撫でられると気持ちいいんだよね…

ツツツーと姉さんが翼を指でなぞる。

「ひゃう!?」

な、なんか!今ゾクッてなった!

「ね、姉さんやめて…」

「あらあら、うふふ…」

ツー…

「ひゃん!?」

「可愛いっ!」

おい!姉さん!可愛いってなんだよ!あとその笑顔やめて!なんか怖いから!

「うふふふふ…」モフモフモフモフ…

「ね、姉さんそろそろやめてよ」

「そうですね…一緒にお昼寝してくれたらいいですよ」

昼寝か…まぁ、いいか…

「いいよ」

と言って俺はヴァーリを抱き抱えてベッドに寝転がった。

自分の翼を下に敷いて…

「ほら、来なよ姉さん、こうしたかったんでしょ?」

そう言うと姉さんはすごく嬉しそうな顔をしてベッドに乗った。

「篝~」

ああ、やっぱり姉さんも可愛いなぁ…

ヴァーリと姉さん、美幼女に囲まれて俺は幸せだぜ!

「「すぅ、すぅ…」」

しばらくすると姉さんもヴァーリも寝息をたて始めた…俺も…ねむ…ぃ…zzz







目が覚めたら四時頃だった、その後は少し遊んで夕食になった。

ヴァーリの歓迎会ということでかなり豪勢だった…

父さん…この肉って鹿だよね?

え?射って来た?は?猟銃使ったの?

ああ、光の槍ですかそうですか…

この穏やかで優しい光景が、何時までも何時までも続いて欲しいと、俺は心の底から願うのだった。
 

 

十枚目

目を開いた。

目の前には我が創造主の姿がある。

創造主は我に命じた。

これから創造する者達に祝福を与えよ、と。

祝福。創られたばかりの我だったが創造主の言う祝福という言葉を直ぐに理解出来た。

何故なら、それこそが我の生まれた意味であり存在意義なのだから。

創造主は我と同じ、輝く翼と光輪を持つが、我とは姿形が全く違う存在を創られた。

我は創造された者達に祝福を与え続けた。

気の遠くなるような、しかし一瞬のような、そんな長い時間、我は我に与えられた責務を果たそうとした。

創造主が創られた者達に祝福を与えると創造主は我を封じた。

鈍く光る銀の杖に、我の前に創造主に創られ、創造主と共に世界を創った偉大なる同族の一部と共に。

すまないセルピヌスこんな私を赦しておくれ、創造主は我を封じる間際にそう言った。

創造主よ、貴方は何も悔いることも赦しを請うこともないのです。

我は創造主が望むならば我は…










夢を見た、気の遠くなるような長い長い夢を。

夢の中で俺は龍だった。

銀の翼と輝く光輪を持った龍、『創造主』に『セルピヌス』と呼ばれていた。

シャラララン…

俺はカンヘルを召喚し、握りしめた。あの夢、否、記憶は…

「お前なのか?なぁ…お前はそこに居るのか?セルピヌス…」

シャラララン…

気付けばカンヘルに通されているリングの色が変わっていた。

赤と白と黒と黄色、セルピヌスの言う『偉大なる同族』達の、たった五体しかいない者達の内、四体を示す色。

すぅっ、と白銀の翼を展開する。

白銀、それはこの手に握る錫杖の、『創造主』によって創られた五体の内最後に創られた龍の翼、つまり…

「この中に居る、お前の翼」

俺はカンヘルを抱き締めた。

「うぅん……かがりぃ?」

「起きたか?ヴァーリ」

ヴァーリが家に来てから俺とヴァーリは同じ部屋で寝ている。

「羽なんか出してどうしたの?」

と聞かれた、まぁ当たり前だな。

「少し夢を見てな…長い長い、本当に気の遠くなるような夢を」

「夢?どんな?」

「この杖に封じられている龍の記憶さ。
この杖、多分だが天使が一柱封じられている」

セルピヌス、生前でも全く聞いたことのない天使しかもその姿形は龍のそれだ。

しかし輝く翼とエンジェルハイロゥを持つのなら天使なのだろう。

しかし『自分達を除く全ての天使に祝福を与えた』天使か…セラフィムやスローンズ、ケルビムよりも上の存在…

「龍なのに天使なの?」

「それは俺も思ったさ、でもこのツメをもった天使の翼と俺に宿る『聖』の力を見る限りそうとしか考えられん」

「じゃぁ……篝は天使なの?」

そう……だよな…そうなるよな…まぁ、でもこれは今考える事じゃないな。

「安心しろヴァーリ、俺は俺だ。
例え俺が天使だったとしても俺は姫島篝だ。
どうせ生まれた時から堕天使だ、一文字しか違わねーよ」

「そうだよね、篝は篝だもんね!」

「そういう事だ」

少しアザゼルに相談しないとな…

前にアザゼルと話あった事がある。

この神器の力の源になっている龍の存在を。

一応の仮説として挙げられたのは『天使を喰らった龍』の存在だ。

つまり天使を喰らいその力を奪った龍がおり、その龍が封印されている、もしくはその龍の一部を使って創られているのではないか?という仮説だ。

だが、さっきの夢が真実ならば…

「篝、朝御飯食べよう」

「ああ、先に行っててくれ」

「わかったー」

「髪直せよ」

「篝もねー」

そんな中身のない受け答えをしながら考える。

いろいろと考えたが全くわからない事がある。

カンヘルを発現した当初から考えてもわからない事でもある、それは…

「コイツの使い方……」

そう、俺はコイツの使い方を全く知らない。

どんな力があり、どのように使うか。

この錫杖を発現させて二年、父さんに杖術を習ったりした。

ヴァーリが来て一年以上経つ。

ヴァーリの歓迎会の翌日から飛ぶ練習を始めた、それも龍の翼で。

なのにこの杖の、カンヘルの使い方は全くわからない。

父さんが言うには聖剣と同じく触れれば悪魔を消滅させられるらしい。

だからヴァーリの近くでは出来るだけ召喚しないようにしていた。

ヴァーリって急に抱きついて来るし。

でも、それだけじゃない筈だ。

アザゼルも『これだけのオーラを持つ神器に能力がない筈が無い』と言っていた。

ここで言う能力とはスターリングライトやソードバースのような神器自体に形の無い神器の力ではなくトゥワイスクリティカルの倍化のような形ある神器の力だ。

シャラララン…

「そろそろ行くか」

と、立とうとした瞬間…

『【ロスト】』

目の前が真っ暗になってぐるんと回る感じがして…

「あらぁ!?」

ドスン!ガシャン!ゴッ!

「イテェ!」

「篝!?」

とヴァーリの声が聞こえたような気がしたが俺は意識を失った。










「うぅ~ん」

「あ!篝!大丈夫!?」

んあ?

「っ、ヴァーリ?」

「お姉ちゃーん!篝起きたよー!」

あ…れ、俺何してたっけ?

「ヴァーリ…俺って何しててこうなった?」

取り敢えず聞いてみた。

「篝より先に居間に行ったのに居間に入った瞬間篝が落ちてきたの!」

ああ、そうだ…最後に見たのは居間の天井だ…

しかし…なぜだ?

「あのね、その時篝の頭の上にわっかがあったの!」

「わっか?」

何だそれ?

「あのね白くて綺麗なわっかなの!」

白くて綺麗なわっか…エンジェルハイロゥ?

むくり、と体を起こす、そこで翼を出したままだったと気付いた。

壁にカンヘルも立て掛けられている

「いつつ…」

後頭部に鈍い痛みが走りとっさに手をやる。

「あ、起きちゃだめだよ!
篝は頭をうったんだから!」

頭?ああ、落ちたんだったな…

「『落ちた』か…カンヘルの能力か?」

と言ってカンヘルを取ろうと手を伸ばすと…

『【アポート】』

「え?」

澄んだ女性の声らしきものが聞こえたと思った瞬間。

パキパキパキパキパキパキィ!

とカンヘルが緑色のクリスタルに覆われた。

それと同時に伸ばした手の中心からカンヘルを覆うのと同じクリスタルが発生し棒状になる、そして…

パリィィン……

とクリスタルが砕け散り俺の手の中にはカンヘルがあった。

「へ?」

「きれー!ねぇ今のどうやったの!?」

俺が知りたい。

「さ、さぁな…」

「あー!」

とヴァーリが声を上げて俺を指差す。

「今度はなんだよ…」

「わっかが出てる!」

え?マジで?

「あ、あれ?」

エンジェルハイロゥがあると言うので頭に手をやるが何もない。

「すり抜けてるよ」

「そうみたいだな」

スカッスカッ、と何もない空間で手を動かす。

「あ、消えちゃった」

「そうか…」

これがカンヘルの能力…ワープか?自分の部屋から居間へ、壁際から手の中へ…

ガチャリ

「篝、起きましたか。良かったですわ」

姉さんが入ってきた、心配かけたようだ。

「心配かけてごめん」

「全く、何をどうしたら食卓の上に落ちるんですか?」

「多分、コレのせい」

そう言ってカンヘルを見せる。

「そうでしょうとも、父様が明日グリゴリに連れて行くと言ってましたよ」

「よっしゃぁ!」

「全く、此方は振り回されているというのに…」

だってグリゴリ本部だぜ?先生にいろいろ教われるじゃないか!

「そんなにサハリエルさんにあいたいんですか?」

「うん!」

う~む、サハリエル先生の『幻視』をなんとか再現したいんだがな…

俺は片目を瞑ってみた。

しかし何かが起こる訳もなくただのウインクにしかならない。

「サハリエルさんの『幻視』は『邪視』の副産物なんですから再現は無理だと思いますよ」

なんで分かるのさ?

「姉さんって心読めるの?」

「サハリエルさんの名前が出たあとにウインクなんてしていればわかります」

ああ、そう。

ちなみにサハリエル先生は少しイタズラ好きな所がある。

この前は部屋に入った瞬間に幻影を見せられた。

それもすっごく怖いヤツ。

驚く俺達を前にニヤニヤと笑っていた。

「姉さんも行くの?」

「もちろんですわ」

「ヴァーリは?」

「行く!」

「そっか」

ヴァーリはグザファンになついている。

姉御肌の彼女は面倒見がいいので子供受けがいい。

「それじゃぁお昼ご飯にしましょう」

俺は立ち上がろうとして…止めた、さっきのようにいきなり転移したら困るからだ。

カンヘルを戻して翼をたたんでから立ち上がった。

居間に行くと仏頂面の父さんがいた。

仏頂面と言っても僅かに口元がゆるんでいたが…

「篝、体は大丈夫か?」

「勿論だよ」

「そうか、朱乃から聞いただろうが明日グリゴリ本部にいく」

「分かってるよ、カンヘルの調査でしょ?
何かが解るなら俺も大歓迎だよ」

「そうか」

「サハリエル先生に会う時間はある?」

聞きたいことも有るしな。

なんせ最後に会ったのが半年前だ。

「わからん、アザゼル次第だ」

「そっかぁ…」

割と重要かつ早急にやらなければいけないんだが…まぁまだ大丈夫か?

「はーい、ご飯できましたよ~」

と母さんが昼御飯をもってきた。

朝から何も食べてないから腹が減ってるんだよな。

「「「「「いただきます」」」」」

いやぁ、やっぱ母さんの料理は旨いなぁ。

この味も守らないといけないんだ。

俺が神器を持って転生した意味、それはよく解らないけど、当面の目的は。

母さんを守る事。

つまり、敵は。


姫島本家。
 

 

十一枚目

龍だ。目の前に龍がいる。

白銀の鱗に身を包み、ツメをもった白銀の翼をはためかせる西洋龍。

ここは…神器の中か?

「こうして顔を突き合わすのは初めてだな。
堕ちたる天使の血を引き先を知る者よ。
我が名はセルピヌス」

「ああ、はじめましてだ。
全ての天使を祝福せし祖なる龍よ。
俺の今生での名は姫島篝だ」

「何故ここに呼ばれたのか、分かるか?」

「こっちが聞きたいんだが」

能力とか能力とか能力とか。

「その説明のために呼んだのだ」

そいつぁ親切な事で。

「なら、教えてくれよセルピヌス。
カンヘルの力を、俺に何が出来るのかを」

それで、母さん達を護れるなら、そして…

「ふむ、いいだろう、我らが杖を出せ」

カンヘルを?まぁ、出すか。

シャラララン…

俺はカンヘルを召喚し、翼を展開した。

「面倒だ、実演するぞ」

え?

「実演?俺は何をすればいいんだ?」

「そこに立っていろ」

と、セルピヌスは言って…

グパァ!と口を開けた、口の中には光の球があり…

チュイン!と音を発ててビームが撃たれた

「え!?」

ヤバいヤバいヤバい!ガードしないと死ぬ!

俺は翼で自らを包み込みカンヘルを構え先生に習った防御魔方陣を展開する。

しかしパリンと音を発てて防御魔方陣は一瞬で破られた。

あ、死んだな。

【ウォール】

死を覚悟して目を瞑るが何も起きなかった。

恐る恐る目を開けると壁があった。

あらゆる光を飲み込む漆黒の壁が。

「それが力の一つ【ウォール】。
あらゆる物に対する防壁だ」

「し、死ぬかとおもった…」

いや、マジで、いきなり撃って来るなんて。

「くくっお前は死なんよ」

いや、確かに今のは手加減されてたと思うよ?

最上位の天使の一撃なんて本当に星を砕くぐらい有るだろうし。

「わかってるよ。手加減してくれたんだろう?」

「フフフ、そういう事ではないのだが…
まぁ、その、何だ、なるべく痛くないようにはしてやろう」

え?まだやるの?

「で、次は何すんの?痛いの?」

痛いのはやだなぁ…

「まぁ、頑張れと言っておこう。
それと、避けるなよ」

ヒュゥン!

と風切り音が聞こえ、俺の首は飛んだ。

【リバース】

俺は慌てて自分の首を触る。

「えっ、あっ、なっ、お、おれ、っい、今、し、死んっで!?」

そうだ、今の感覚は、七年前のと同じ。

『命が尽きる』感覚…あれは忘れられる筈がない。

「安心しろ篝、確かにお前の首は飛んだが死んではいない。
いや少し違うな、今のお前には生と死は同価値にして同じもの。
今のお前に生と死の境界は存在しない」

「不死……身?」

生と死の境界がない、生きてもいない、死んでもいない、つまり。

「顕界かつ冥界たる世界。
ネクロファンタジア…」

「くく、ネクロファンタジアか。
なかなか面白い事を言うじゃないか」

「笑い事じゃねーよぉ…」

「あといくつか力がある。
一次元に潜り込み瞬間転移する【ロスト】
生物以外のいかなるものも引き寄せる【アポート】。
この二つは既に体感したはずだ。
そしてあらゆる力を概念的に強化する【アクセル】。
体感時間を引き伸ばす【ブレイン】。
有りとあらゆる物を喰らい自らの糧にする【同化】。
有りとあらゆる物を閉じ込め空間をねじ曲げる【ワーム】」

「【ウォール】【リバース】【ロスト】
【アポート】【アクセル】【ブレイン】
【同化】【ワーム】…八つもあるのか…」

ロンギヌスの槍には届かないが…すごいな。

「何でこんなにあるんだ?」

「【同化】【アポート】以外は我が偉大なる同族の力だ。その杖に通してあるリングが我が偉大なる同族達の一部だ」

なるほど、実質的に五体の龍の、それも最上位の天使でもある存在の力か…ちょっと待てよ?

「なぁ…それって大丈夫なのか?」

「何がだ?」

「代償とかないのか?それだけの力をノーリスクで使えるとは思えない」

「確かに我らが力を使うには莫大な代償を必要とする。
ただの人間では宿っても発現すらしない。
ただの人間ではなしかしお前は堕天使の血を引いている。
普通に使うにはほぼノーリスクで扱えるだろう。
ただし、どれ程の力が使えるかはお前の力量次第。
コレは他の神器と同じだ」

俺の力量ね…

「なぁ、所で【同化】と【ワーム】ってどうやるの?」

「【同化】は意識して触れた物を侵食し同化する
【ワーム】は念じた物をねじ曲げる」

怖っ!え?なに?俺って物触っちゃまずい?

「それって日常生活大丈夫なのか?」

「お前が念じない限りな」

そか…気を付けよう

「ふむ、そろそろ潮時か」

え?

「なんの事だ?」

「起きろ寝坊助という事だ」

「は?」

そこで俺の意識はプツンと途切れた。










篝!かーがーりー!起きて!はーやーくー!

「うぅん…」

うるさいなぁ…

「おきろー!」

ばっ!

と布団を剥ぎ取られた。

「うぅん…もちっと寝かせてくれぇ…」

「今日はグリゴリ本部に行くんでしょ!」

………………

「そうだった!」

ガバッと起き上がり急いで居間に向かう。

俺とヴァーリ以外は全員そろっている。

「あらあら、ヴァーリちゃんの旦那さんはお寝坊ですね」

と、姉さんに言われて俺とヴァーリは真っ赤になった。

「だ、旦那って何言ってんのさ姉さん。
な、なぁヴァーリ?」

とヴァーリに振ると顔を真っ赤にして頭から湯気が出てた。

「あ、あぅあぅ…」

「あらあら、うふふ…」

「……………」

母さんも笑ってるし、父さんの口元も弛んでる…味方は!味方はいないのか!?

そうだ!セルピヌス!おい!セルピヌス!

『…………………』

ちくせう!味方がいねぇ!

「え、えっとぉ…ヴァーリ?」

「あぅあぅ…」

「おーい」

あ、ダメだこれ。どうしよう…頬っぺたつついてみようか?

ぷにぷにふにふに、あーやわらけぇ…

「に…」

あ、気が付いたかな?

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

スタタタタタタタタタタタタ、バタン!

「あらあら、うふふ…」

はぁ…、とため息をついて

「ヴァーリ呼んでくる」

「私がいってきますわ」

と姉さんが立ち上がりヴァーリの後を追う。

「先に食べましょう」

「はーい」

あ、そういえば…

「何時頃出るの?」

「9時だ」

「わかったー、母さんも来るんだよね?」

と聞くと

「いえ、私は行きませんわ」

なに?

「な、何で?」

「用事が有りませんもの」

そうか…なら

「母さんも来て、母さんが来ないなら俺は行かない」

行ける訳がない、誰も居ない家に母さんを独りにするなんて。

「えっと…篝?」

「既にアザゼルに話を通した。
準備がされている」

「母さんが来ればいいだけの話だ」

「え、えっとぉ…」

「どうして朱璃を連れて行く必要がある?
あそこはただの人間が居るには危険な場所だ」

だろうな、だが…

「母さんを独りにする訳にはいかない」

「ならば朱乃とヴァーリを…」

違う!そうじゃない!

「そうじゃないだろ?
父さんと俺は母さんから離れちゃ駄目だろう」

「篝、何が言いたいんだ?」

「だから!姫島本家が攻めて来たらどうするんだよ」

原作ではまだ先の話?そんな保証は何処にもない。

ヴァーリは女の子だし既に姉さんがグリゴリ幹部と面識がある、そして俺というイレギュラー。

「あなた…?」

「う、むぅ…」

父さんがいったんだろ!

俺達は母さんと姉さんとヴァーリを…守らなきゃいけないって!

男は女を守る為にあるって!

「父さんが、いったんだろ、なら」

「……わかった。朱璃、お前も来い」

わかってくれたかな。

「ええ、後でじっくりと聞かせて貰いますよ、アナタ?」

「あ、ああ」

あ、あれ?母さんが怒ってる…なんでだ?

「え、えっと…どうしたの?三人共」

ヴァーリの声だ、姉さんとヴァーリが戻って来た。

「篝、部屋まで聞こえてましたわ。
いったいどうしたのですか?」

「なんでもないよ」

「ですが…」

と姉さんが尋ねてくるが…

「はいはい!ご飯にしましょう?」

母さんが止めてくれて朝食だ。

父さんが居て姉さんが居てヴァーリが居て母さんが居る。

もしも姫島本家が攻めて来たら俺は戦わなければいけない。

ガキの思い上がり、そう言われるかも知れないけど、俺には力がある。

力は使う為にあるのだから、そして力ある者は相応の責任があるのだから。
 

 

十二枚目

「よう、待ってたぜ篝。神器の能力が発言したんだって?」

出迎えはやはりアザゼルだった、子供のようにウキウキしながらの出迎えだ。

「うん、あと、コイツの事も結構分かって来たんだ」

シャララララン…という音と共にカンヘルが召喚される。

「マジか!?よし分かった!早く行くぞ直ぐに行くぞ!」

と言ってアザゼルは俺を連れて行こうとするが…

「アザゼルさん、少しよろしいですか?」

「は、はい!何ですか朱璃さん?」

「少し部屋を貸してください。
この人と少しお話がありますの」

母さんが呼び止めた。

「わかりました、直ぐに用意します」

やはり堕天使総督が俺の母さんに頭が上がらないのは間違っている…と、思うのだが言ったら負けだろうか?

「朱乃とヴァーリはサハリエルの所に行っててくれ。篝、行くぞ」

「分かった」

連れてこられたのはいつぞや俺が天撃(偽)を撃ったホールだった。

中には機材等が置いてあるがやはり誰も居ない。

「ねぇ、アザゼル」

ホールに入りスライドドアが閉まると共に俺はアザゼル問いかける。

「どうした?篝?」

「………セルピヌス。聞いた事 、いや、会ったこと、あるよね?」

と言うと予想通りアザゼルは狼狽えた。

「な、な、何故お前がその名前を知って居るんだ!」

俺は答える変わりにカンヘルを見せた。

「まさか、おいおい、嘘だろう?」

たどり着いたようだ。

「アザゼルが思っている通りだよ。
カンヘルに封じられて居るのは祝福の龍セルピヌスだ」

アザゼルは呆然としている。

「そ、んな、バカな…」

「でも事実だよ、今日の朝、夢に銀色の龍が出てきた。
夢にしては首を飛ばされた感覚がリアルだったし内容を覚えてるから、多分だけど神器の中に居たんだと思う」

「ちょ、ちょっと待て、篝、今何て言った?首を飛ばされた?」

あ、そこか

「そうだよ」

「お、おまえ!だ、大丈夫なのか!?
首は痛まないか!?は大丈夫か!?
光力は!?じ、神器の中って!」

う、うわ!?

アザゼルが詰め寄って来て俺の首を摩る。

「ど、どうしたのさアザゼル!?」

「お、お前!神器の中の出来事は現実に干渉するんだぞ!」

あ、そうなのか。

そういえばそうだな、夢の中で首を飛ばされたとしてもあくまでも夢の中の出来事。

セルピヌスの言う『実演』する意味がないからな…

「だ、大丈夫!ほら、ピンピンしてるでしょ?
それにそういう能力なのさ」

と答えるとアザゼルの目が変わった。

「どういう事だ?回復系か?」

「う~ん…『実演』しようか」

「実演だと?」

「うん」

俺はカンヘルの先端に光力刃をだし腕に降りおろ…せなかった。

「何考えてんだ!バカな事はやめろ!」

アザゼルに止められたからだ。

「だから『実演』だって!」

「それでもだ!ちょっと待ってろ!」

と言ってアザゼルは懐から一本の針を出した。

「これで指を刺せ、それ以上の事は却下だ」

「はいはい」

俺は針で自分の指を突いた、じわりと血が滲む…

「?」

「治らねぇな、やっぱり…何してんだ篝!」

俺は針を腕に刺し…腕を裂いた。

「バカ野郎が!待っ…」

【リバース】

硝子の割れるような音と共に腕が結晶に覆われた。

パリィィンと結晶が砕けた後には傷一つ無い腕が有った。

「これが【リバース】。
セルピヌスが言うには俺は不死身らしい。
今の俺にとって生と死は同価値にして同じもの…とセルピヌスは言ってた」

「そう、か…それがお前の…」

「力の一つ、後七つある」

あ、黙り込んじゃった。

「………………俺もう何があっても驚かねぇ自信あるぞ」

失礼な、俺を人外みた…あ、人外か。

「て言うか機材でデータ録らなくていいの?」

「あ、ああ、そうだな」

とアザゼルは機材の準備を始めた。

「篝、準備終わったぞ。
ただし【リバース】は無しだ」

「はいはい、でどれからやればいい?」

「選択肢をくれ」

あ、言ってなかったな…

「防壁の【ウォール】。
転移の【ロスト】。
空間をねじ曲げ攻撃する【ワーム】。
生物以外を引き寄せる【アポート】。
あらゆる物を侵食、糧とする【同化】。
あらゆる力を強化する【アクセル】。
思考速度を上げる【ブレイン】。
そして不死身をもたらす【リバース】」

「トゥルーロンギヌス並みじゃねぇか!?」

何があっても驚かねぇんじゃねぇのかよ…

「じゃぁまず【ウォール】を」

とアザゼルが言った。

「OK」

「よし……いいぞ」

俺はカンヘルを握りしめ障壁をイメージした。

【ウォール】

漆黒の、全ての光を呑み込まんとする壁が現れた。

「そのまま保持してくれ」

「OK」

アザゼルはカタカタとキーボードを叩いている。

「ん?は?どういうことだ?」

いや、お前がどうしたよ。

「どうしたのさアザゼル?」

「篝、その防壁について何かきいてないか?」

「なんで?」

「データがおかしい。異常だ。
その防壁は面であって面じゃない。
線だ、それも線の集合ではなく線そのものだ」

面のように見える線?でも面だろ?う~ん、そうだ!

「多分【ワーム】と【ロスト】を調べたら分かるよ」

「本当か?」

「多分この3つは近い物だから」

「そうか、では【ロスト】から頼む」

「OK、出現位置はなるべくこのホール内にする」

アレ以来試してねぇし。

「あ~分かった」

俺は意識を集中させる、位置は五メートル先ぐらい…

【ロスト】

視界が黒く染まり…俺は元の位置から五メートルの位置に居た。

「どう?セルピヌスは一次元空間に潜るとか言ってたけど…」

「……………………………」

また固まってるし。

「アザゼル、さっきからフリーズしすぎ」

「いや、一次元空間に潜るって…そもそも一次元空間ってなんだよ…線だろ…」

俺が知るか。

「篝、転移するときどんな感覚なんだ?」

「視界が黒くなるだけ、暗闇が消えたら転移してる」

アザゼルは腕を組んで考え始めた。

「………全くわからん」

うん、使ってる俺にもさっぱり。

「じゃぁ次は【ワーム】行くよー。
アザゼル、準備して」

と言うと。

「ああ、どうせ何もわからんだろうがな…」

あれー?なんか凹んでるんだけど…

「あ、【ワーム】って攻撃手段らしいからなんかターゲットちょうだい」

「んー、これでいいか?」

と赤のボールペンを渡された。

俺はそのペンを床に置き少し離れた。

そしてボールペンを意識する。

ねじ曲がれ、と。

【ワーム】

ボールペンが黒い球体に包まれた。

黒い球体が消えた後には無惨にねじ曲げられインクが血のように垂れていた。

「コイツぁまた…」

「今度も同じ?」

「いや、ちがうな…ゼロ次元に向かってネジ切られてる」

ゼロ次元?

「なにそれ?」

「ゼロ次元ってのは無だ。
この世界を包む虚無。天界、地獄、人間界を隔てる次元の狭間と同じだ」

そこで一度区切りアザゼルは続けた。

「そして今お前が出した黒い球体の内部は時空がぐちゃぐちゃになっている。
ペンがねじ切れたんじゃない、空間その物が歪んだんだ。
おそらく後の二つは【ワーム】の応用みたいな物だ」

やっぱりか…俺の、否カンヘルの能力は大きく分けて3つ。

『時空間干渉』『結晶』『強化』だ。

それぞれ【ワーム】【ロスト】【ウォール】、【同化】【アポート】【リバース】、【アクセル】【ブレイン】だ。

【アポート】【リバース】は3つの内二つを兼ねているように見えるが…ちがうのだろうか?

「じゃぁ次はどうする?」

「【アポート】だ」

転移系、つまり時空間干渉だけど結晶なんだよね…

「ん~分かった」

俺は少し離れた位地にカンヘルを置いた、だいたい三メートル位だ。

「いくよ」

【アポート】

パキパキパキパキ!とカンヘルが結晶に覆われ俺の手の中にも棒状の結晶が生まれる。

パリィィン!と結晶が砕け、俺の手の中にカンヘルが収まる。

「どう?」

「ふむ…お前の手の中の結晶がカンヘルと同じ形状になった瞬間に床にあったカンヘルが手の中に移動している。
カンヘルが同時に二つあるわけではなくあくまでも一つが移動している」

「へぇ…で、この結晶については?」

「少し待て」

と言ってアザゼルは結晶を拾い上げ、数歩離れた位地にあった機械にセットした。

ガション、とレバーを押し込んで一分ほどが経ち…

「どうやらこの結晶はケイ素でできているらしい。
それも未知の同素体だ」

ケイ素……土?

「要するに土?」

「よく知ってんな、まぁ、どちらかと言うとシリコンに近い」

へぇ…

「次に【同化】いけるか?」

「う~ん…」

セルピヌス曰く『あらゆる物を侵食し自らの糧とする』だからな…あ。

「アザゼル、羽ちょうだい」

「羽?なんでまた?」

「アザゼルの羽をターゲットにしてみようと思うんだ。
セルピヌスは『自らの糧とする』って言ってたし」

「あ~………いいぞ」

と言ってアザゼルは羽を一枚渡してくれた。

俺は渡された羽を手の平に乗せ…羽を喰らう事をイメージしたすると…

パキ…パキ…パキパキパキパキ!と結晶が表れ、力が流れ込んで来た。

「お、ぉ?おお!?これが『糧とする』って事か…」

パリィィン…と羽を覆った結晶が砕け、後には何もなかった。

「アザゼルー。なんかわかったー?」

「少し待て、それと今お前が作り出した結晶を全てくれ」

「はーい」

俺は手の中にある結晶を全てアザゼルに渡した。

先ほどの機械にセットして何かを調べ始めた

「ああ、これは…成る程な…」

「度したの?」

「俺の羽が完全に結晶になっている。
組成からオーラまでもな。
で、お前自信に何か変化は?」

「力が流れ込んで来た。
多分、アザゼルの羽の分」

「ふむ…アブソープション・ラインと似た力か…」

え~っと…黒い龍脈、だったっけ?

「ヴリトラ?」

「よく覚えてんな、もう一年は前だぞ」

テメェが龍系神器一覧押し付けたんだろうが。

「絶対読んどけって言ったのはアザゼルでしょ」

「ああ、うん、そだったな」

それで…

「【アクセル】と【ブレイン】はどうやって示せばいいの?」

「………………………」

「考えてねぇのかよ…」

「ん…百枡計算でもやるか?」

「【ブレイン】はそれでいいとして【アクセル】は?」

「エクソシスト用の光弾銃で試すか」

「おーけー」

アザゼルは待ってろと言って端末で誰かを呼び出した。

そして二分程経ち…

「篝、久しいな」

表れたのはブロンド、エメラルド、そして八重歯が特徴的な合法ロr……

「篝、何考えてんだ?」

わーバレてる…

「な、なんでもないよ。
久しぶり、グザファン」

「ほら、持ってきてやったぞ。
『三十四式光力式祓魔銃』」

そう言ってグザファンが差し出したのはSFチックなハンドガンだった。

「おう、わりぃな。篝、外に向けて射て」

「はーい、グザファンも見てく?」

「そうだな」

ピーピーピーピー!と警告音を出しながらゲートが開く。

いつぞや俺が山を吹き飛ばした時と同じようにだ。

「じゃぁ先ずは普通に撃つね」

「ああ」

トリガーを引くと光力が強制的に吸い上げられる感覚がした。

パシュッと気の抜けるような音と共に光の粒が吐き出される。

「ショボッ!」

吸い上げられた光力の割にショボい。

「そう言うな、それは人間が造った物だ。
下級悪魔に五発叩き込んでようやく倒せるレベルだ」

うわーこんなので戦ってんのか…成る程。

悪魔がそれほど衰退してないのは敵の実行部隊が弱いからか…

「じゃぁ、いくよ」

「ああ」

とアザゼル。

「いいぞ、見せてみろ」

とグザファン。

握りしめたハンドガンに意識を集中させると俺の手から結晶が生まれハンドガンを呑み込んだ。

【アクセル】

トリガーを引く、ドシュゥゥ!とレーザーのような光力弾が放たれた。

ドォォォォォォン!と以前俺が吹き飛ばした山より遠くの山が吹き飛んだ。

それと同時にハンドガンが砕け散った。

完全に結晶化しておらず、所々金属のパーツのまま砕けた。

「またか…はぁ…」

いや、山が吹っ飛ぶのは分かってただろ。

「おー!コイツぁ派手にやったなー!たーまやー!」

おいグザファン何故日本の伝統的掛け声をしっている。

ビービービービー!

「はぁ…」

これはたしか…端末の着信音だったか?

「ほれ、アザゼル、さっさと出ないと小言が増えるぞ」

とグザファンが茶化す、それを受けてアザゼルは嫌そうに応答した。

「おう、おr…」

『今度は何をやったんだ!』

と端末から声が響いた

「おーおー、シェムハザの奴怒ってんなー」

グザファン、少しはアザゼルの心配もしてやれよ…

「う、ぐぅ、耳元で叫ぶな…………ああ………分かった………いや!待て!………話を!………おい!………ああぁ…」

な、なんだ!?アザゼルからすげぇ負のオーラが…

「どうしたアザゼル?シェムハザからなんか言われたか?」

「グザファン……酒あるか?」

「くっ、くく、そうかそうか、あっはっはっはっは!またか!」

な、何?今ので笑うとこあるのか?

「お?篝、訳わかんねぇって顔だな。
アザゼルは禁酒を言い渡されたんだよ。
この前コイツがやらかした時にこれが効いてな!」

あー成る程。

「ん?コッソリ呑めばよくね?」

「そうもいかねぇのさ、シェムハザがコイツに酒を出さねぇように言ってるしコイツはこの前の事もあって酒を一本も隠せてねぇ」

うわーシェムハザさん怖えー、一回会った時は気のいいお兄さんってイメージだったな。

「ま、そんな訳さ。もしアザゼルがお前の家に酒を貰いに来たら追い出していいぞ」

「OK」

「あ、あぁぁ…」

アザゼルがめっちゃ凹んでる、やっぱり家に来る積もりだったようだ。

「おい、篝、アザゼルは放っておいてメシ食おうぜ」

「ん…姉さん達も一緒なら」

「よし、行くか」

その後は本部内の食堂で昼食を取った、母さんの拷m…ゲフンゲフン、尋m…ウォッフォン、O★HA★NA★S…ゴホゴホ、御話はまだ終わらないようなのでこれから先生の所にいく。

色々、聞きたい事があるしね。
 

 

十三枚目

ガチャリ…

「先生、失礼します」

「おー篝なのだ、久しぶりなのだ。さぁ入るのだ」

先生は前と変わらず出迎えてくれた。

「アザゼルがゴソゴソやってたのだ」

「俺の神器が少しずつ分かって来たので」

「おー、それは良かったのだ。
それで今日はどんな話を聞きに来たのだ?」

「発動したら特定の相手以外を無条件に攻撃する術式はありますか?」

「ん~…………少し待っていてほしいのだ」

そう言って先生は資料を漁り始めた。暫くして。

「お?有ったのだ」

「本当ですか!?」

「あ…でもコレは攻撃…とは呼べないような物なのだ…それに…」

先生はあまり言いたくない様子だった。

「とにかく、コレは陣を敷く術式なのだ。
そして陣を描いた時に陣の内側に居た者以外を弾き飛ばす術式なのだ。
その後は中級悪魔、能天使クラスなら侵入できない結界を張るのだ」

「本当ですか!?その術式を教えてください!」

「ん…………そうしたいのはやまやまなのだ。
でも理解できないのだ」

「先生が…理解できない術式?」

「そうなのだ、コレが概要なのだ」

と分厚いファイルを渡された。

「こ、れ…は…」

開いたファイルには陣が描かれていた、発動しないよう分割され両開きになった陣を見る。

はっきり言おう、訳がわからない。

「何なんです?この頭がおかしいとしか言えない術式は」

そう、この術式は『頭がおかしい』としか言えない。

アルファベット。

ルーン。

梵字。

漢字。

etc.etc.……

西洋魔術、北欧魔術、法力、陰陽道、その他色々な物が入り交じっていた。

「それはつい最近作完成した術式なのだ。
それぞれが別々ではなく調和しているのだ」

そう、それぞれがそれぞれの弱点をカバーしあって一つの大きな術式を形作っているように見える。

といっても俺には断片しかわからない。

ペラペラとファイルを見ていく、理解出来るのはこの術式を編んだ人は天才だってこと。

本来別々の法則に従って発動する物を同時に行えば不和が起こり暴発暴走する。

だがこの術式はそれが起こらないように綿密に調整されている。

「いったい誰がこんな物を……」

「こんな物とは失礼だな。
まぁ、暇潰しみたいな物だがね」

その声に驚きドアの方を見ると一人の女性が立っていた。

「ジュスヘル、入るときはノックぐらいして欲しいのだ」

「おお、すまんなサハリエル。
どうも独り暮らしが長いとそういった物を忘れてしまう」

ジュスヘルと呼ばれた女性。

特徴的なのはなによりも先ずはその格好だ。

修験道の僧が着るような山伏に角柱の帽子、簡単に言えば『天狗』。

その髪は透き通るような白髪、ヴァーリとは違う美しさのある色だ。

瞳は海のように深く澄みきった蒼、空とは違い深い深い蒼海の色。

「この術式はあなたが?」

「ああ、といってもさっき言ったように暇潰しだがね」

「篝、我々の一生はとてもとても長いのだ。
人間とは縮尺が数倍…数万倍あるのだ
この術式は500年近く掛けて作られてるのだ」

五百年の暇潰し…そうか、そうだよな…先生や父さんはアダムとイヴが産まれた時から、否、それよりも遥か昔から生きている。

五百年なんて、本当に暇潰しをしている内に終わるのだろう…

「でも、その術式のままじゃぁ君やサハリエルには扱えなよ」

「確かに意味不明ですね」

「そうじゃなくて…その術式、妖力と神力が無いと発動しないよ」

「神力?妖力?」

「ああ、君はこの格好を見て何か思わないかい?」

「天狗…みたいです」

「そう、天狗だ。
私は堕天使でもあり天狗でもある。
さらに天狗は山の神でもある。
だから私は妖しき力とカミの力を振るえるのさ」

「ちょ、ちょっと待ってください堕天使でもあり天狗でもある?」

「ああ、少し主上と揉めてね。
それでこの有り様さ」

と黒い翼を展開した。

「出ていって偶々着いたのが日本でな」

「あ、そういう…」

「人の体に黒い羽、まさに伝承の天狗そのもの。
そのうち人々に天狗と呼ばれる事で本当に天狗になってしまったのさ。
ある程度なら風を操れるよ」

そう呼ばれる事でそうなる…妖怪の類いはは『信じられ』『怖れられ』『恐がられ』『疎まれ』『奉られ』『敬われ』『嫌われ』『忌まれ』『願われ』る事で存在する。

あれは東方…じゃなくて…結界師…じゃないよな…青エクでもない…たしか物語シリーズだったかな?

「因みにジュスヘルは日本版聖書にも名を連ねているのだ」

「日本版聖書?」

「天地始之事さ。聞いた事位はあるだろ?
その中じゃ御前の七天使のトップ扱い。
主上の祝福の気配がしてついに日ノ本まで主上の手が伸びたかと思って様子を見に行ったら見つかってねぇ…」

「あ~、御愁傷様です」

「それで、山の奥の奥に構えたのが江戸の少し前だから…うんだいたい五百年だね」

少し前って言っても江戸時代の始まりの時期と五百年という年月から考えて百年近いけどな。

「話を戻すけど、この術式は私が自分の巣穴を守るために作っただけさ。
だから妖力や神力が必要なのさ。
そして改良を続けてできたのがコレ、暇潰しって言ったけどちゃんと実益もあったよ」

「堕天使の使いを何度出してもこの陣で弾き飛ばされたらしいのだ」

「いやぁ、最後にアザゼルに割られたのは驚いた。
まさか抜かれるとは思わなかったからね」

「その話を受けてここに居ると?」

「ああ、それにしても主上が既に…」

「ジュスヘル!」

「!」

「?」

「それ以上は、言ってはいけないのだ」

堕天使幹部の『言ってはいけない事』。

ジュスヘルが主上と呼ぶ存在……多分既にヤハウェがいないという事だろう。

「あ、ああ、そうだったね…」

「ヤハウェが既に亡いって話なら知ってるけど?」

「「!?」」

シャラララララン…

「コイツが教えてくれたんです」

『おい』

いいじゃねぇか、俺の記憶覗いてんだろ?

『まぁ、そうだが…』

じゃぁ、合わせて。

『しょうがない…合わせてやる。
まぁ喋る気は無いがな』

と、心の中でセルピヌスと会話していて気付かなかったが二人が唖然としていた。

「ああ、三大勢力共通の最高機密でしたっけ?」

『白々しいな』

ハハッ!俺の心は真っ白だからな。

『お前がそう思うんならそうなんだろうな、お前の中ではな』

何故にそのネタを…てか記憶覗いてんなら当然か。

「「…………」」

「おーい?生きてますかー?」

「君、教えてくれたとはどういう事だ?
そのカッカラが教えてくれたと言ったが、それには何が封じられているんだい?」

「カッカラじゃなくてカンヘル。
まぁ確かに錫杖をカッカラとも呼ぶけどね」

「いいから答えろ!」

「怒んないでよ…ジュスヘルや先生も知ってるはずです…会った事があるんだから」

創られたばかりの先生やジュスヘルに祝福を与えた記憶を…持っている。

「我々が会った事がある?」

「セルピヌス」

「「!?」」

「五柱しか居ない、セラフィムよりも偉大な天使の一柱」

神が直接創り出した天使、悪魔、堕天使全てに祝福を与えた。

「祝福の龍」

今の悪魔、堕天使には少なくなってしまった純正の者。

神が手ずから創った者なら識っているはずだ。

「成る程なのだ…神器に封じられてしまっていたら戦争には出てこれないのだ…」

「う~む、我々に祝福を与えた後に全く見ないと思えばそういう事だったか…」

戦争…ああ、成る程。三大勢力の戦争か…

「多分…創成の四龍とセルピヌスが十全の状態で天界に付いてたら、天界の一人勝ちだったろうね」

「篝…シャレにならんからやめろ」

とジュスヘル。

「もしも、もしも再び戦いの火蓋が落とされたら、俺は堕天使に付くよ。
父さんが居るし、悪魔には多少ながら私怨もあるしね」

そう、ヴァーリの事だ…

「抑えるのだ、聖力とか諸々漏れてるのだ」

「おっと…」

「ん?『父さん』って…お前…だれの子だ?」

「篝はバラキエルの息子なのだ。
姉も居るのだ」

「へぇ…バラキエルのね…よしっ!篝!」

「なに?ジュスヘル?」

「お前にさっきの結界を教えてやろう!」

「え!本当に!?」

「ああ、本当だ」

「っしゃぁ!」

「そういう訳だから。
サハリエル、篝借りるぞ」

その後はジュスヘルの部屋に行った。

俺は北欧魔術や法術、陰陽道に疎いので先ずはそこかららしい。

あと何と言うか…やけにスキンシップが多い…ショタコンじゃねぇよな?

然り気無く聞いて見るとずっと一人だったから距離感がわからないんだと…まぁ、それなら問題無いか…

sideout…





side JUSUHEL

ふふふ…アタシ好みの男の娘と二人っきり!

ぐへへへ…おっと…自重自重。

襲ったりしたらアザゼルとバラキエルに消されてしまう…

これから徐々にアタシの色に染め上げて…

sideout





sideKAGARI

うおっ!?なんか寒気が…

堕天使の血が流れてるから免疫とか諸々の耐性は高い筈だが…

まぁ、せっかくジュスヘルが教えてくれるんだ!頑張らないと!
 

 

十四枚目

 
前書き
セルピヌスのCVは特に決めていませんが一応女性です。 

 
3:00a.m.

「ん…ああ、遂に来たか…セルピヌス」

『ああ、解っているとも』

「う、うぅん…かがりぃ?」

「おっと…起こして悪いな、ヴァーリ。まだ暗い、寝とけ」

「んー、わかったー…」

これでいい、ヴァーリは関係無いからな。

「セルピヌス…時間を考えずに訪問してきた礼儀知らず共を、文字通りぶっ飛ばしに行くぞ」



グルン、と視界が周り、境内に立つ。

目の前には白装束の男達。

「やぁやぁ、姫島本家と分家の主力の皆々様。
こんな夜更け…じゃないか、こんなにお早く何の御用で?」

「貴様が篝か」「穢れた者め」
「フンッ、所詮は姫島の面汚しの子よ」
「お前に罪は無い、母を恨むのだな」

あー…ヤッチャッテイイヨネェ…

『抑えろ、当初の目的はどうした』

「なぁ、あんた等」

「なんて口のききかただ」
「育てた者の未熟さが見えるようだ」

はぁ…

「もういいや、いくよセルピヌス」

ガラスにヒビが入るような音を発てながら、俺の体が淡く光る結晶に覆われていく。

最後に、ガラスが割れるような甲高い音がして結晶が弾ける。

「な、なんだ!?」「ええい!妖しき技を使いおって」「こけおどしか!?」

アポートを使いローブを纏う、ジュスヘルがくれた物で補助具の役割がある。

「大八島を創りし大和の神々よ
幽冥に住まう明王よ
大地を走る龍脈よ
自然の権現たる精霊よ
世界を廻る七曜よ
そして我等と在る山川草木よ
我に力を
我等を侵す者を排せよ
クー・リ・アンセ!」

神社から光が溢れ出した。

「貴様!何をした!?」

「うるさいよ、黙れ有象無象」

「なにぃ?貴様!我等を愚弄するか!」

「ああ、もう、いいから…吹っ飛べ」

そして銃声のような音が鳴り響き…

姫島の主力は吹き飛ばされた。

「おぉ…凄いなコレ…教わっといてよかった」

クー・リ・アンセ。

彼の世界に於ける<新たなる神話>の主神。

その従者の使う業から名を取った。

ジュスヘルの結界を俺でも扱えるよう再編した物だ。

『それは人間相手だからだ。
お前の父やアザゼル、サハリエルのような者なら拳一つで容易く破るだろう』

「わかってるよ」

『三大勢力の上級以上の存在や多神教の神々には恐らく破られるだろう。
この結界も万全ではない、事実アザゼルに破られた。
その事を、忘れるなよ篝』

とジュスヘルも言ってたからな。

「さぁ、セルピヌス。あの馬鹿者共とOHANASIしにいこうか」

『殺してはならんぞ。その年で手を汚す事はない、それもあの様な者の血で』

「ありがとう、セルピヌス」

俺は結界の外へ向かった。










ザクザクザクザク…

「いよぅ…姫島本家当主殿」

「貴様ぁ…」

「アンタ等は母さんと姉さんと俺を殺しに来たんだろう?」

「……………」

「沈黙は是と取るぞ」

「ああ、そうだ」

「俺達から手を引け、クー…あの結界がある限り、お前達は俺達に手を出せない」

突然、鈍い音が鳴り響いた。

「あ…れ?」

視線を下げると、俺の心臓を白刃が貫いていた。

「はは、はははは!殺ったぞ!穢れた血め!」

背後から別の声が響いた。

ああ、成る程、刺されたのか。

だが、それがどうかしたのか?

「何かしたか?」

白刃が結晶に覆われていく。

「な、な、何が!?」

結晶が砕けた後には何もなかった。

そう、何も。

俺の心臓を刺した刀も。

俺の胸の傷さえも。

「ば、化物めぇ!」

「なぁ当主殿、コレはそういう事で良いんだな?
いや、そもそもそちらは此方を殺しに来てたのだから当たり前か…
遠慮無くやらせてもらおうか」

俺の背後の男の両腕が結晶に侵される。

「ヒ、ヒィィィィィ!?」

「殺って良いのは、殺られる覚悟が有る奴と、逃げ切れる自信が有る奴と、やられない自信が有る奴の三者のみ…と、俺は考えるが…
アンタはどれだ?」

そして結晶が男の腕もろとも砕け散った。

「ギィィィヤァァァァァァァァァァ!!」

男の両肩、先程まで腕が繋がっていた部分から、噴水の如く血が吹き出す。

『おい!篝!』

「安心しろ…殺しはせんよ…と、言ってもこのままじゃ失血死確実か…」

男に手を向け、指を弾く。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!……あぁ…」

男が気絶し肉が焦げるような匂いが立ち込める。

「さぁ、次はアンタの番だ。当主殿」

そう言って当主の方を向いた時だ。

何かを叩いたような鈍く大きな音が響いた。

「なんだ!?新手か!?」

「くく、くははははは!」

「おい!テメェ!何をしたんだ!」

「利害の一致だよ」

「利害だと!?」

いったい誰と、そう聞こうとしたができなかった。

何故ならクー・リ・アンセが、硝子の如く破られたのだから。
 

 

十五枚目

「クー・リ・アンセが…破られた?」

『そんな場合ではないぞ篝!
邪悪で強大な力が現れた!』

「んなこたぁ判ってんだよ!」

結界が壊されると同時に現れた大きな力…

光も聖も感じない…上級悪魔か邪神の類いだろう…

「チッ…」

俺は境内に転移した。

そこには大きく抉れた石畳があった。

抉れた中身は一部硝子化し、一部はまだ赤い光を放っていた…

「どうなっていやがる…」

いやぁぁぁ!

「ヴァーリ!?」

硝子化した石畳を見ているとヴァーリの悲鳴が聞こえた。

ヴァーリにはマーカーを持たせてある。

「ロスト!」

グルンと視界が周り…

目の前にヴァーリの首を掴んだ男が居た。

「ヴァーリを放しやがれぇぇぇ!」

俺はカンヘルで男を薙いだ。

男はヴァーリを放し、壁を壊して部屋の外に跳んでいった。

「無事か!?ヴァーリ!」

「う…けほっ…無事…だよ…篝……」

命に別状は無さそうだが…

「篝!ヴァーリ!」

母さんと姉さんが入って来た。

「母さん達はヴァーリを頼む!
俺はさっきの奴を追う!」

先程奴を薙いだ時にできた穴から外へ向かった。

外には先の男が立っていた。

大したダメージもなく平気そうだ。

「おい…テメェ…何者だ?姫島の縁者…ではないな…」

「僕ちゃん?僕ちゃんは…リリン…まぁ、言っても解らないよねぇ」

リリンと名乗った男は愉しそうに続けた。

「いやぁー!可愛い可愛い孫娘の様子を見に来たんだけどさー!なんかとっても幸せそうだったからさー!」

そしてありったけの笑顔でこう言った。

「壊したくなったんだ」

リリン…孫…ああ、そうか…貴様が…貴様がぁ!

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!
貴様が!貴様がヴァーリを!」


<ある日ヴァーリの祖父がやって来た、あやつはヴァーリを一目見た瞬間、殴ったのだ、龍を、俺を宿しているからと…>

<やがてヴァーリの父は祖父に殺された、ヴァーリの目の前でだ!俺には何故そのような事になったのかはわからない、だが虐待されていたとはいえ目の前で父親が殺されたのはショックだったのだろう>

<ヴァーリは至ったのだ、バランスブレイカーを経ず、ジャガーノートドライヴに…>


アルビオンと初めて話した日。

あいつは俺に話してくれた…

「お前だけは殺す!例え俺が死のうとも!
貴様だけは殺すぞ!
リゼヴィム・リヴァン・ルシファー…!」

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!
ねぇねぇ僕ぅ?何マジになってんのー?」

ひゃひゃひゃと下品な声を上げて嗤う奴を…俺は見据えていた。

「死ね」

ワームで奴を包み込む。

だが。

「ざーんねーん!効きまっせーん!残念だったねぇ僕ぅ」

あぁ…そんな能力あったな…

「チッ…神器無効化か…」

ならば奴に神器で触れなければいい。

「大八島の国津神よ…諏訪の神よ…我に力を…」

ミシャグジ、アルカナムを…俗に<神力>と呼ばれる物を含む龍脈の源潮流…時に神として崇められるそれから…力を引き出す。

その莫大な力を光力に変換する。

「おいおいおいおい!僕ぅ何だよそれぇ!
当たったらヤバい代物じゃねぇか!」

光力で奴を拘束する。

「え?ちょっと待って僕ちゃんピンチ?」

頭上に莫大な光力を集る。

二メートルの球体まで圧縮したそれを…

「滅べ」

リゼヴィムの周りにロストで転移させる。

<偽典・第一番個体>

しかし。

「ぐぁ…なかなかやるな…少年」

「貴様!」

後ろから声が聞こえた。

そこにはぼろぼろになったリゼヴィムが居た。

先の偽典・第一番個体は成功したようだ。

しかしリゼヴィムは流石と言うべきか生きていた。

とは言えかなりのダメージを受けているようだ。

俺は追撃としてカンヘルを振り下ろした。

「ぐ…んだ?これぇ…」

クロスしてカンヘルを受けたリゼヴィムの腕がシュウシュウと溶けだした。

「成る程…神器その物が聖なら…多少は効くらしいなぁ!」

瞬時にカンヘルに光力を伝わせ光の刃を生成する。

神器ではなく俺自身の力のみで作られた光の刃。



血しぶきが上がり、ボトリとリゼヴィムの腕が切り落とされた。

リゼヴィムはバックステップで後退し、腕を抱きこんだ。

「あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!このガキィ!」

刹那、後退した筈のリゼヴィムが眼前に迫っていた。

ズヴォォン!

と空を切ったリゼヴィムの蹴りが俺を捉えた。

轟音を轟かせ、俺は本殿に突っ込んだ。

「あ…!が…!」

クソ…滅茶苦茶いてぇ…

「かはっ!げほっ!」

喉の奥から血がせり上がってきた。

「肋骨がイカれて肺に刺さってるな…」

【リバース】

全身を結晶が包み込み、俺は無傷の状態になった。

『篝、無事か?』

「無事に決まってんだろ…」

セルピヌスの言葉に立ち上がりながら応える。

だが…奴を倒すのは至難だ…

啖呵切った手前アレだが…

「父さんが帰って来るまでせいぜい時間を稼ぐさ…!
シエロ・ザム・カファ!」

カンヘルで地面をコツンとたたく。

パキパキパキパキィ!

『聖』を含んだ氷…それが辺り一面の地面から氷柱のように生じた。

「今ので殺れた…訳無いか…行こう」

本殿から出た俺を、奴は待ち構えていた。

その腕は既に回復されていた。

「おうおう少年、全くの無傷じゃないか。
回復系神器か?」

「お前こそその両腕はどうした?
フェニックスの涙でも使ったか?
それと口調が崩れているぞリゼヴィム」

「あぁ…まさかお前みたいなガキのためにフェニックスの涙を使うなんて…」

リゼヴィムは心底悔しそうに言った。

しかし…

「油断した…ガキと侮ったからか…」

一瞬で笑みを浮かべ…

「だから油断しない…とりあえず…」

まさか!

「君の家族を殺してあげるよぉ!」

家に向かって放たれる凶弾…

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

俺は母さん達の所へ転移した…が

「かが…り…」

「母さん!」

一寸、間に合わなかった。

そこには

胸部に大穴が空いた母さんが居た。
 

 

十六枚目

「母さん!母さん!」

リゼヴィムの凶弾、それは母さんを貫いた。

胸に大穴を開け、動かない母さん。

「リバース!リバース!何でだ!何で発動しない!」

俺は必死にリバースを発動しようとするが全く発動しない。

『篝、リバースは生者にしか作用しない』

セルピヌスのその言葉は俺に母さんの死を突き付ける。

「ざけんな!テメェは『カンヘル』だろうが!
『創造の龍』だろ!人一人の命くらい救って見せろよ!」

『不可能だ。否、魂が肉体に有るからまだ不可能ではない』

「だったらやれよ!」

『今の篝では不可能だ。命を与えるのは、神の所業だ』

「だったら!俺の体をくれてやる!
俺が龍になればできる筈だろう!?」

イッセー…未だこの世界では神器を発動していない少年。

彼は思い人を救うためにその体を差し出した。

「それなら!できるだろ!さぁ!やれ!」

『確かにそれならば創造の権能を…反魂法をお前に与える事も可能だ。
だが、よいのか?それはお前の人としての時を止める…人として死ぬ事になるぞ』

人としての時?死?知ったことか!

「構わん!やれ!」

『いいだろう、篝、お前の体の半分を…人間としての体が対価だ…』

その言葉と共に体が変容していった。

まず内側から変わっていった。

腹の中がぐちゃぐちゃになりそうな痛みだった。

そして額に三本角が、腰から尾が生えてきた。

「はぁ…はぁ…ぐっ!」

背中から三対六枚の羽が生えた。

二対の堕天使の羽と一対の巨大な龍の羽。

四肢が鎧を纏ったかのように鱗に覆われる。

最後に、過剰なエネルギーが耀くエンジェルハイロゥと化した。

白銀の尾と角と翼と鱗…その異形が…俺だ。

「これで…いけるんだよな?セルピヌス?」

『ああ、いけるとも……』

「母さん、いま、助けるよ」

母さんの体にカンヘルを押し付ける。

「【リライブ】」

カンヘルの宝玉から緑色の閃光が放たれた。

そして宝玉から光の珠が現れ、母さんに吸い込まれていった。

母さんの胸の穴が塞がった。

「かがり…?」

「母さん!」

俺は母さんに抱き付いた。

「よかった…母さんが…死ななくて…このために、俺は…」

今まで…生きてきたんだ…!

「篝!後ろ!」

ヴァーリの叫び声、それと同時に魔力弾が飛んできた。

「ウォール…」

俺の背部に時空の歪みが発生した。

リゼヴィムの魔力弾は歪みに呑まれ消滅した。

「母さん、姉さん、ヴァーリ…奴を…リゼヴィムを…ぶっ飛ばして来るよ」

「篝…大丈夫なのですか?」

「解らないけど…心配しないで、姉さん」

俺は姉さんにそう言い残し。

今一度リゼヴィムと相対する。

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!感動のシーンですねぇー!僕ちゃん感動して涙が出そうだよーん!」

「おい…リゼヴィム」

「なにかなー?僕ぅ?」

六枚の翼を筒にし魔力を包む。

「アクセル…失せろ」

圧縮、強化した力を解放する。

弾けた力に圧され…

「ぐぼぁ!」

リゼヴィムの土手っ腹に拳を叩き込む。

「あ…がぁ…!お…ま…え…なぜ…神器を…」

「リゼヴィム!お前は神器無効化を信頼しすぎだ…なっ!」

今度はもう一方の手で抜き手を放った。

肉が裂ける感触…

鎧のような腕がリゼヴィムの胸を貫いた。

グチュリ…と奴の心臓を握り潰す。

「あ…ぐ…あ"あ"あ"!」

次の瞬時、リゼヴィムから莫大な魔力が放出された。

「ぐぅ!」

それに弾き飛ばされたが、なんとか空中で体勢を立て直した。

ごくり…

何かを飲み込む音がした…

「やっぱり…フェニックスの涙は効くな…」

「チッ…何本持ってやがんだ…」

リゼヴィムの胸の傷がどんどん塞がっていく。

「こっちは肉体を差し出したってのに…」

『あの小瓶の中身が何であろうと、喪われた命は戻せんぞ』

わかってるっつーの…

「やってくれたなこのガキィィィィィ!」

リゼヴィムは滅茶苦茶に魔力弾をばらまき始めた。

マズイ!

母さん達とリゼヴィムの直線上に入り、ウォールを展開する。

リゼヴィムの攻撃は数十秒に達した…何て魔力量だ…これが最上級悪魔…

「はぁはぁ…死ね!」

リゼヴィムはどこかから取り出したロングソードを構え突っ込んで来た。

「アポート!」

右手に、カンヘルが召喚される。

ガキィィィィン!!

激しい音と共にロングソードとカンヘルが激突した。

「お前…体を龍に差し出しやがったな…!」

「ああ…お前をぶっ飛ばためになぁ!」

鍔迫り合いの中、俺は雷光を呼び出した。

ピッシャァァァン!

「チッ…!」

リゼヴィムは舌打ちをして後退した。

「喰らえ!リゼヴィム!」

俺は先と同じ…聖水の氷の粒を作り出しリゼヴィムに放った。

リゼヴィムは避けるがそれを追うように聖氷弾をばらまき続ける。

「あぁ…もう…うざってぇんだよ!」

リゼヴィムが巨大な魔方陣を展開した。

クー・リ・アンセよりも巨大な陣だ。

辺りから、魔力が陣に集まっていった。

陣はだんだんとその輝きを増していき…

「消し飛んじゃいな!」

リゼヴィムの言葉と共に太陽よりも眩しい光が放たれた。

その威力はここら一体を文字通り消し飛ばせるものだった。

「ワーム!」

それを時空の歪みに飲み込ませる為に大規模なワームを展開しようとした。

その時…

背後に…境内に二つの魔方陣が現れた。
 

 

十七枚目

朱と蒼の魔方陣…

「こんな時に援軍かよ!」

今はワームに意識を割いている、そちらへの攻撃は出来ない。

やがて光が虚無に触れ…なかった。

ワームと光、その間に一枚の障壁が張られていた。

紅い紅い障壁、それに触れた光は消滅していった。

後ろから声が聞こえた。

「少年、よくぞ耐えた。
後の事は我々に任せて欲しい」

「そうね☆あとでヨシヨシしてあげる☆」

そこには紅い髪で貴族服をきた青年と…

黒髪紫眼でコスプレのような衣装に身をつつんだ少女が居た。

「嘘だろ…」

彼等を…作品の人物として読んだのはもう十年近く前だ。

しかし彼等の特徴は覚えていた。

クリムゾン・サタン…サーゼクス ルシファー。

魔王少女…セラフォルー レヴィアタン。

四大魔王が二人も何故…?

疑問に思っているとサーゼクスが口を開いた。

「リリン!人間界於ける此度の騒動!
如何なる意志があっての事か聞かせて貰おう!」

威厳のある声で、彼は尋ねた。

「あーらあら!これはこれはサーゼクス君じゃあーりませんか!
おぉ!セラフォルーちゃんも居るじゃないか!
おじさん嬉しーなー!」

茶化すリゼヴィムにセラフォルーが無表情で言い放った。

「ねぇおじさん…ぶっ殺すよ?」

「おぉ!おじさんこわーい!流石に魔王二人を相手取れるほどじゃないからねぇ…
んじゃ!
まーたーくーるねー!」

言った通り魔王二人を相手取れないのか、リゼヴィムは何処かへ転移していった。

「セラ」

「わかってるよサーゼクスちゃん」

魔王二人は何やら話し合っている。

三十秒ほどしてこちらに歩いて来た。

「今晩は☆少年!いやー凄かったよ!」

「ああ、君が持ちこたえてくれたお陰で奴の居場所を特定できた」

俺は、とりあえず距離を取りカンヘルを構える。

「ちょっと…サーゼクスちゃん!警戒されてるよ!そんな堅い服来てるせいだよ!」

「お前の格好も十分怪しいぞセラ」

と、気の抜ける会話をする魔王二人。

俺の方から話を出す。

「此度の件は感謝する…しかし現魔王二人がここに来た意図が知りたい!」

「うーん…君…子供なんだからもう少し子供っぽい口調で話したら?」

とセラフォルーに言われた。

良い歳こいてコスプレしてる魔王少女に言われたくねーな…」

「プフッ!……せ…せら…くく…」

いきなりサーゼクスが笑いだした。

どうしたんだ?

俺が疑問に思っているとサーゼクスが教えてくれた。

「いや…君、さっきの声に出てたよ…くく…魔王少女…コスプレ…プフッ!」

あ…マジか…

爆笑するサーゼクスの隣でセラフォルーはプルプル震えていた。

「いいじゃん!可愛いんだから!」

とセラフォルーが叫んだ。

弄ってみるか?上手く行けば空気を握れるかも…

「さっき子供っぽい口調でとか言われたからそれでいくけどさ…
『ねーねー!おねーちゃん!なんで大人なのにそんなはずかしい格好してるのー?』
これで満足か?」

「恥ずかしくないもん!ミルキーだもん!」

と言って泣き出した。

うわぁ…魔王少女のガチ泣きだ…

「あっはっはっはっは!セラ!一本取られたな!」

ああ、くそ…話がそれた…

「サーゼクスルシファー」

「なにかね少年?」

「何故にこのような場所へきた?」

「ふむ……その答えは君が思っている通りだ」

「リゼヴィムを追ってきたと?」

「ああ、ここ数ヶ月リリンに不審な動きがあった…」

そしてリゼヴィムを追っていたらここへたどり着いたと…

「こちらに来た理由は理解した。
しかし…これからどうする気だ?」

カンヘルを向けながら問う

「安心して欲しい、我々は君達と戦うつもりはない。
直ぐにでも冥界へ帰るつもりだ」

俺達…堕天使と開戦の為ではないらしい。

「わかった…では直ちに帰れ」

まぁ…彼等が…原作通りならば大人しく帰るだろう…

「少年」

「なんだサーゼクスルシファー?」

「年上には敬語を使おうね?」

サーゼクスから、莫大なプレッシャーが放たれた。

なんてプレッシャーだ!さっきのリゼヴィムの比じゃねぇ!

だが…膝を折る訳にはいかねぇな!

「ハッ!敵対勢力のトップに敬語を使う程大人じゃないんでな!」

「ふむ……今のを耐えたか。
気に入ったよ少年。
あと、君は十分大人だと思うがね…
しかしやはり君にそんな口調は似合わない。
さっきセラが言ったように気を抜くといい」

うるせぇな…

「『うわー魔王が堕天使の子供を脅してるー!
くりむぞんさたん(笑)って子持ちだったよなー!
そうやってしつけるのかなー?
うわー魔王って大人げないなー(棒)』」

「ぐはぁ!?」

嫌味を込めた俺の言葉にサーゼクスは崩れ落ちた。

「「……………」」

弱っ!?魔王弱っ!?セラフォルーといいサーゼクスといい弱すぎじゃね!?

近くに落ちていた木の棒を拾う。

つんつん…

「返事がない…ただの屍のようだ」

「少年…ドラクエの骸骨扱いはやめてくれないかい?」

あ、生きてた。

てか冥界にドラクエあんの?

「いや…御約束じゃん?
ていうかさっきの障壁とか殺気とか嘘見たいに凹んでるけどさ。
なに?自爆すんの好きなの?マゾなの?」

「………………………マゾではない」

今の間はなんだ?嫁とSMプレイでもしてんのか?

サーゼクスは立ち上がり未だ泣いているセラフォルーのもとへ向かった。

「セラ…帰ろう…彼は強すぎる…」

「そうだね…」

待てや、お前らそれ真面目かノリかどっちだ?

サーゼクスとセラフォルーは魔方陣を展開した。

「少年、我々は冥界へ戻る…コレを渡しておこう」

サーゼクスが差し出したのは紙切れだった。

「なにこれ?………は?」

その紙切れには紋様が描かれていた。

「じゃぁ私もあげちゃうよ☆」

セラフォルーからも渡された。

そちらにもやはり紋様がある。

陣の外側にはそれぞれ

CHARZECHS、SELAFOROUXとある

サーゼクス、セラフォルーと読める…

「は?」

「君は我々が駆けつけるまでリリンを抑えた。その報酬だ」

「いいのか?軍勢を揃えた真ん中で召喚するかもしれないぜ?」

「君はそんな事はしないでしょ☆」

えらく信頼されてるな…

「ただの報酬ではあるまい、何が望みだ?」

「ふむ…」

サーゼクスは母さん達の方を一瞥した。

「あそこに居るのはリリンの孫なのだろう?
ならば奴がまたここに現れる可能性がある。
ちょうどいいエサになるだろう」

俺はその言葉の意味を理解し…激昂した。
 

 

十八枚目

「あそこに居るのはリリンの孫なのだろう?
ならば奴がまたここに現れる可能性がある。
ちょうどいいエサになるだろう」

俺はその言葉の意味を理解し…激昂した。

「ふざけんじゃねぇぞ!
ヴァーリを囮にしようってか!
ヴァーリはまだ十歳だぞ!
テメェらの都合で!女の子を泣かせる気か!」

サーゼクスの言葉…それは俺を怒らせるのに十分な物だった。

「そうだ」

とサーゼクスは感情を感じさせずに答えた。

「貴様ぁ!」

アクセル…心の中で唱え、雷光を放つ準備をし…

ピッシャァァァン!!

俺はサーゼクスに雷光を放つが消滅の魔力に無効化された。

「ちょ、ちょっと!落ち着いてよ少年!
サーゼクスちゃんも言い方を考えてよ!」

セラフォルーが口を挟むがコレは男同士の話し合いなんだよ!

「女は黙ってろ!セラフォルーレヴィアタン!」

「な!?」

「テメェは家族を囮にされて平気でいられるか!?
リアスグレモリーやミリキャスグレモリーを…グレイフィアルキフグスを囮にされて平気でいられるのか!
答えろ!サーゼクスグレモリー!」

俺の詰問にサーゼクスは答えられなかった。

「サーゼクスちゃん…」

「セラ…帰ろう…少年…済まなかった…その紙は…もしもの保険に持っていてくれ…」

そして二人は冥界へ転移していった。

『魔王にあれだけの口を叩くか…将来は大物だな』

『ああ、そうかよ』

母さん達の所へ向かう。

半壊した家…その一室に母さん達はいた。

「母さん…姉さん、ヴァーリ、奴は…追っ払ったよ…
途中で助けも来てくれたよ」

魔王二人を助けと呼ぶのは癪に触るが、事実なのでそう伝えた。

「篝…ごめんなさい…私の…私のせいであなたは…」

泣きながら謝る母さんを抱き締めようとして…やめた。

今の俺が抱き締めたら、母さんを傷付けてしまう。

「いいんだ、コレで。ほら、カッコいいでしょ?」

そう言いながら腕を見せる。

鱗に覆われた鎧のような銀の腕。

人間を傷付ける腕。

「かがりぃ…」

ヴァーリが抱き付いてきた。

「ヴァーリ、危ないぞ?俺には触らない方がいい?」

「ありがとう…あの人が来たとき。
とっても怖かった。
だから、篝が助けてくれた時、嬉しかった…
だから、篝は危なくないよ…とっても安心する」

ヴァーリの言葉は俺の心を少しだけ軽くしてくれた。

「ありがとう…ヴァーリ。俺も、お前を護れて嬉しいよ」

俺は、生まれてからの今日までを災厄から家族を守る為に費やした。

そして俺は今日、一つの災厄を退けた。

俺の二度目の生は間違っていなかったんだ。

境内に二つの魔方陣が現れた。

俺がよく知る感じがした。

魔でも聖でもなく…光。

その魔方陣から現れたのは父さんとアザゼルだった。

二人は半壊した家に驚くが直ぐ様こっちに向かって来た。

「無事か!朱璃!朱乃!篝!ヴァーリ!」

あぁ…父さん達が来てくれた。

「父さん……」

安堵感で力が抜けそうになった。

「篝!?その姿は!?」

はは…やっぱり驚くよね…

「おれ…まもったよ…母さんとヴァーリと姉さんを…まもったんだ」

視界が揺れた。

「あ……れ?」

崩れ落ちる俺を、父さんが抱き止めた。

「よくやった!よく…家族を護った!」

だめだよ…父さん…いま…おれにさわったら…けがするよ…

心ではそんな事を思ったが、父さんの言葉には応えたかった。

「うん…まもったよ…」

そして俺は意識を失った。
 

 

十九枚目

~~!
~!

誰かが言い争っている…?

「うっ……うぅん……」

目を開けるとヴァーリが見えた。

「う"ぁーり?」

「篝!大丈夫!?」

ヴァーリ近付いてきた。

「うぅん…大丈夫…」

横向きで寝ていた体を起こす。

「ここは……」

ここは、母さんの部屋?

「篝が倒れたからバラキエルさんがここにはこんだの」

あぁ…なるほど…

「それと、服は私のワンピースだよ。
翼と尻尾が出せるのがそれしかなかったの」

そう言われたので見てみると確かにヴァーリのワンピースだった。

白くてゆったりしたやつで、肩紐の間から六枚の翼が出るようになっていた。

「あの後…何かあったか?」

「えっと……」

俺が聞くとヴァーリはくち籠った。

何かあったのだろうか?

「何か…あったのか?」

「お姉ちゃんが怒ってる」

「姉さんが?何に?」

「バラキエルさん達に…」

あ、あー…そうか…そうきたか…

「怒ってるって…どんな風に?」

「…………………行けばわかるよ」

ヴァーリの言葉に従い居間に向かおうと引戸を開けると…

「篝!起きたんですね!」

姉さんに抱き締められた。

「うん…おはよう、姉さん…あぶないよ…」

「そんな事はありませんわ…貴方が私を傷付ける筈がありませんもの」

「ありがと…姉さん…」

姉さんの言葉は異形となった俺の心を軽くした。

「篝、お母様が呼んでます」

母さんが?

「わかっ…た」

俺とヴァーリが部屋を出ると、姉さんは自分の部屋に行ったようだ。

背中に広がる翼は、堕天使のそれは収納できたが龍の翼は収納できなかった。

四肢を見ると、龍のままだ。

肘と膝から先は完全に鱗に覆われていた。

二の腕や太ももも部分的に鱗に覆われている。

腰の辺りに手をやるとカツンと音がした。

尻尾の付け根から背骨のラインの中頃まで鱗が走っている。

尻尾は二メートル程あるだろうか…

窓に映る自分の上にはエンジェルハイロゥが浮かんでいた。

改めて、自分が人間をやめたのだと認識した。

「篝?どうしたの?」

「いや…なんでもない」

居間に向かうと精気の抜けた父さんとアザゼルが居た。

「あら、篝、目が覚めたんですね」

「母さん…コレどんな状況?」

「……………朱乃も私の娘なんですよ」

「あー…うん…だいたいわかった」

おそらく姉さんが何か言ったのだろう…

「何言われたのさ…」

「……………」

「……………」

二人共黙りこくったまま…というか俺の声にも気付いていないようだ。

傷は深いな…

「はぁ…ったく…堕天使総督と幹部が子供の言葉でここまで沈むのかよ…」

三大勢力って大丈夫なのか?

天使は知らんが堕天使と悪魔のトップはあんまりアテにならんと言うか…

「ヴァーリ…どうする?」

「どうしよう?」

色々説明とかしたかったんだけど…

「はぁ…しょうがないですね…」

母さんがおもむろに立ち上がった…

「すぅ…はぁ…」

何故か深呼吸…

そして一枚の札を取りだし…

「起きなさい!」

パシィン!パシィン!

「「ぎゃぁ!?」」

えぇ…

母さんが握り締めた札から光の鞭が伸びていた。

「母さん…ナニソレ?」

「霊力の鞭です…朱乃にも仕込みました」

母さん!?

「ほら、二人共、篝が起きましたよ」

「あ、あぁ…」

「う…うむ…」

二人がノロノロと動き出した。

「篝、今回の件、すまなかった!」

おぉう…

「やめてよ…っていうか…それ…不味くないの?」

堕天使総督の土下座…

ていうか…

「父さんまで土下座しないでよ…父親に土下座されてどう反応したらいいのさ…」

取り敢えず…

「何があったか説明するから顔あげてよ」

二人はゆっくりと顔を上げた。

「篝、ヴァーリちゃん、ここに座りなさい」

母さんに言われて俺とヴァーリは座布団の上に座った。

良く見ると父さんとアザゼルには座布団が無い…

母さんェ…

「じゃぁ、はなすよ?
事の始まりは姫島本家が攻めてきた事。
それはジュスヘルに習ったクー・リ・アンセで撃退した。
けどそこにリリンが乱入してきて俺が応戦。
リリンを追ってサーゼクスルシファー、セラフォルーレヴィアタンが参戦。
形勢不良と見たリリンが撤退。
こんな所かな?」

母さんの命に関しては、何故か言うのが躊躇われた…なぜだろうか…

俺はその為に生きてきたのに…

そう思っていると母さんが言った。

「そして、リリンに一度奪われた私の命を取り戻したのは篝です」

「「!?」」

父さんとアザゼルは驚いた顔をした。

「あのね、篝が龍になったのは朱璃さんを助けたからなの」

確かにそうだ、だけど…

「父さん、母さん、俺は後悔してないよ。
母さんを護れたんだ。
それで…それだけでいいじゃないか」

「そうか…篝…!朱璃…!本当に済まなかった!」

父さんは膝の上で拳を握っていた。

その拳は震えていた。

「朱璃さん…あんまりバラキエルを責めないでください…
こんな時にコイツに仕事を押し付けた俺が悪いんです…」

アザゼルはとても申し訳無さそうに母さんに言った。

「私の言いたい事は全て朱乃が言いましたし…篝とヴァーリは何かありますか?」

なにか?特に無いかな…

するとヴァーリが父さん達に言った。

「バラキエルさんはお姉ちゃんに謝った方がいいと思う…
もちろん、アザゼルも…」

「あぁ、わかっ…」

「今はダメですよ?」

「む…そ、そうか…」

うーん、確かに今は聞く耳持たないだろうな…

「篝、ヴァーリちゃん、朱乃を見てきてください」

「ん、わかった…ヴァーリ、いくぞ」

「うん」

俺とヴァーリは居間を出て、姉さんの部屋に向かった。

途中、奴との戦闘で壊れた所もあった。

「ヴァーリ、気をつけろよ」

「うん…」

そして、姉さんの部屋に着いた。

コンコンコン…

「姉さん、入っていい?」

……返事がない

「姉さん?」

おかしい、姉さんの気配が無い…

「姉さん!」

俺はドアを開けた…



しかし



そこに



姉さんは



居なかった。

『篝へ、少し頭を冷やしたいので外に出ます。
暗くなる前には帰ります』

そんな置き手紙が机にあり、窓が開け放たれていた…

「ヴァーリ!母さん達に伝えろ!」

「わかった!」




俺は窓から飛び出した…
 

 

二十枚目

飛び出した俺は魔法で姿を消した。

クソッ…

まだ近くには姫島本家の奴等が居るかもしれない!

早く探さないと…

セルピヌス、何か方法は無いか?

『マーカーは持たせてないのか?』

それだ!

姉さんの翼の羽の一枚。

その先端部のみを結晶化させてある。

俺は全ての結晶の位置を知る事が出来る。

さて…姉さんは…

商店街か…

ロストを使い、姉さんの近くに瞬間転移する。

だが…

「はっはっはっは!穢れた血め!コレで我等の恥が一つ減ったな!」

そこには、耀く刀で心臓を貫かれた姉さんが居た。

「はっはっ……ん?」

オマエラ…

「貴様も来たか…丁度いい…者共!奴を殺せ!」

ヨクモ…

「ここに結界陣は無い!かかれ!」

ヨクモ…

姉サンヲ!

心ノ奥底カラ、黒イ物ガ込ミ上ゲテクル。

アァ…アァ…!

「オマエラ…ゼッタイニ…ユルサナイ!」

奴等ガ、武器ヲ持ッテ迫ッテ来ル。

正面カラノ二振ノ刀。

ソレヲ、腕デ受ケル。

カァン!

刀ハ俺ノ鱗ニ阻マレタ。

「ウウォォォォォォォォォォォォォォ!」

俺ノ咆哮ニ奴等ハ怯ンダ。

ミシミシ…

パキ…ピキ…

チカラガ…アフレテ来ル…

オレハ、ソノ力ニシタガッタ。

キヅクト、オレハ龍ニナッテイタ。

丁度イイ。

奴等ハ怯エテイル、ダケド、奴等が張ッテイル結界ハ奴等の声ヲトドカセナイ。

オレハ、奴等を喰ッタ。

オレハ、奴等ヲヒキサイタ。

オレハ、奴等ヲフミツブシタ。

ソシテ、ダレモイナクナッタ。

辺リニハ、紅イ華ガサイテイタ。

「グルルルルゥゥ…」

オレハ、ネエサンニ近ヅイタ。

【リライブ】

ダケド、ネエサンは甦ラナイ。

『奴等め、魂を攻撃する武器まで持ち出していたか』

セルピヌス…今度ハ何ヲサシ出セバイイ?

『もう、お前に差し出せる物は無い』

ナラバ、オレノ命ヲ…

『ダメだ。お前には命が無い。
生きても、死んでも居ないのだから』

ナラバ!ドウスレバイイ!?

『お前の前世の記憶を思い出せ。
彼の物は…この世界の主人公は、如何に甦った?』

イーヴィルピース!

俺はスグさまヒとに戻ッた。

ポケットを漁る。

そこには二枚の紙があった。

そのうち一枚を取りだした。

爪で腕を裂き、その血を擦り付ける。

「来い!」

それだけの短い命令。

しかし、陣はそれに応えた。

現れたのは、魔王少女だった。

「おや、少年どうしたのかな☆」

「イーヴィルピースで姉さんを劵属しろ…」

「それは…」

「対価は俺に対する全ての権利だ。
奴隷にしようがどうしようが好きにしろ」

セラフォルーレヴィアタンはその言葉に目を見開いた。

「正気?」

「ああ…姉さんを救うためならなんでもしよう。
さぁ、これでどうだ?」

彼女は少し、悩んで、言った。

「わかったよ…少し、待ってて…」

彼女は魔方陣が描かれた紙を取り出した。

現れたのは…

「セラフォルーお姉ちゃん?」

紅髪の少女だった…

「リアスグレモリー…」

何故彼女が?

そう思っていると、セラフォルーレヴィアタンはリアスグレモリーに言った。

「リアスちゃん、この子を…君の劵属にして欲しいんだ」

「この子?」

そういってリアスグレモリーは姉さんを見た。

「いいよ。駒は…」

リアスグレモリーは何処からかピースケースを取り出した。

あぁ…そうか…

リアスグレモリー…正史における姉さんのキング…

世界の大筋は…変わらないのか…

ならば…

「クイーンだ、姉さんは君を支えるクイーンに成れる」

「ちょ、ちょっと少年…」

「アンタは黙ってろ」

「むぅ…」

セラフォルーレヴィアタンは子供のように頬を膨らませ、抗議の視線を送ってきた。

「クイーン?」

「そうだ…クイーンだ…姉さんならその雷光で君の敵を討ち滅ぼすだろう…」

「わかった」

彼女は、クイーンの駒を手に取った。

「我、リアスグレモリーの名に於て命ず。
汝…」

「姫島朱乃だ」

「汝、姫島朱乃よ。我が女王とならんがため。
その御霊を帰還させ、悪魔となれ!
汝、わが女王となりて、新たな生に歓喜せよ!」

イーヴィルピースが、姉さんの胸に吸い込まれた。

紅い、紅い光に包まれ、姉さんの傷が消えた。

「かが…り?」

あぁ…!

俺は、姉さんを抱きしめた。

「よかった…姉さんが…」

「私…は…たし…か…」

「ごめん…姉さん…」

「何故…謝るのですか?」

それ…は…

「弟君が君と自分の魂を悪魔に売ったからさ」

「え?」

「君は悪魔になったのさ…姫島朱乃ちゃん☆」

四人しか居ない昼間の商店街に、魔王少女の声はとても良く響いた。
 

 

二十一枚目

「君は悪魔になったのさ…姫島朱乃ちゃん☆」

「え?」

混乱している姉さんに事情を話す。

「姉さん、姉さんは一度死んだ…」

「ええ、心臓を…」

「だから、姉さんを悪魔として甦らせるよう、悪魔と契約した。
安心して、グレモリー家は劵属を家族のように大切にする家だから」

姉さんを抱きしめていた腕を解き、立ち上がる。

セラフォルーレヴィアタンに相対する…

「さぁ、少年。願いは叶えた…
契約通り、君の全権利を貰おう」

「かまわない」

「待って!篝!それでは貴方は!」

「姉さん、大丈夫だよ…」

俺が居なくても、世界は変わらない。

きっと、原作通りになるだけだ。

「俺は、大丈夫」

「ヴァーリはどうするのですか!」

ヴァーリ…か…

「大丈夫、会いに行けるさ…」

きっと、ロストなら、行けるだろう…

「ですが!」

「姉さん!俺は…大丈夫。
さぁ、セラフォルーレヴィアタン…俺をどうしたい?」

魔王少女に、問いかける。

「うーん…じゃぁ…」










「君は私のクイーンになって☆」

そうか…

「いいだろう、アンタのクイーンになってやる」

「ふふっ…契約成立…」

彼女は見た目相応の笑顔を浮かべた。

「じゃぁ、転生といこうか☆」

彼女の手のひらに魔方陣が浮かび、そこから一つの駒が現れた。

「少年」

彼女が駒を差し出す。

「ああ」

俺は駒を受け取った。

掌に乗せ、顔の前に掲げる。

「我、セラフォルーレヴィアタンの名に於て命ず。
姫島篝よ、悪魔となり、我が女王となれ!」

彼女の言葉と共にイーヴィルピースが輝き…



四散した。



しかし、四散した駒は一瞬にして集まり…




龍の意匠を持った翡翠の駒となり、俺の胸に吸い込まれた。

「なに…それ…?」

「知らん…さて、我が主様。
何なりとお申し付けください」

俺は大仰な御辞儀をした。

「んー…そうだねー…取り敢えず駒の事は置いといて…挨拶かな?」

挨拶?

セラフォルーレヴィアタンが、俺を…否、俺の後ろを指差した。

振り向くと、そこにはアザゼルが居た。

「篝、どういうことだ?」

「アザゼル…」

「おー?アザゼル!久しぶりー☆」

「セラフォルー…説明して貰おう」

「いいよー☆」

俺を挟んでアザゼルと相対していたセラフォルーは俺を追い抜き、アザゼルの目の前に立った。

「あの少年のお姉さんが殺されたから彼は自らの全権利と引き換えにお姉さんを甦らせたんだよ☆」

「篝?」

「真実だ」

「そう…か…」

アザゼルは悔しそうにしていた。

刹那、アザゼルからプレッシャーが放たれた。

「セラフォルー…篝と朱乃を…どうするつもりだ?」

「少年は私のクイーンにしたよ☆
お姉さんの方はリアスちゃんのクイーンだね☆」

「リアス…………サーゼクスの妹か…」

「ね☆安心でしょ」

「二人を…悪魔領に連れて行くのか?」

「うーん…どうしようか?」






「決めていないのであれば…話し合いで決めよう…サーゼクスを連れてこい…
場所は…







姫島神社だ…」
 

 

二十二枚目

姫島神社

今現在、ここにはそうそうたる面子が揃っていた。

グリゴリ総督アザゼル。

グリゴリ副長シェムハザ。

グリゴリ幹部バラキエル。

グリゴリ幹部グザファン。

現魔王サーゼクスルシファー。

グレイフィアルキフグス。

リアスグレモリー。

現魔王セラフォルーレヴィアタン。

今にもハルマゲドンが起きそうなピリピリとした空気が流れていた。

「じゃぁ…篝と朱乃は時に応じて、呼び出されると言うことか?サーゼクス」

「妥協点はそこしかないだろうアザゼル」

そういう事で、決まったらしい。

そして…

「サーゼクス」

「なんだアザゼル」

「いい機会だ…一つ提案がある」

「奇遇だな…私もだ」

「グリゴリは悪魔政府に和平を申し入れる」

「悪魔政府はグリゴリに和平を申し入れる」

二人の言葉に、他の参加者は目を見開いた。

「だったら二人を大使にしようよ☆」

セラフォルーレヴィアタンのセリフに俺と姉さんは驚いた。

「大使って…俺達はまだ子供だぞ?
名目上とは言え無理が無いか?我が主様」

「君が子供か…最近の子供は恐ろしいね」

チッ

口を挟んできたサーゼクスルシファーに抗議の視線を送る。

「それに度胸もある…益々気に入ったよ」

「くはははは!魔王に舌打ちか!やるじゃねぇか!」

グザファンうるさい。

「では、正式な書面は追って送付させる…頼むぞ少年」

おい、決定かよ…

「バラキエル、彼等の父親として、何かあるかい?」

「…………………………」

父さんはずっと心ここに在らずといった感じだった。

「お、おいバラキエル?」

父さんはアザゼルの声で我に帰った。

「セラフォルーレヴィアタン、リアスグレモリー…二人を…守ってやってくれ…」

「うん!」

「わかってるよバラキエル☆」

その後は…うん…何故か宴会みたいになった。

取り敢えずアレだ、母さん強ぇ…

宴会といっても大人が酒を呑んでるくらいだ。

アザゼルもあまり騒いでいない。

料理は母さんとグレイフィアさんが作った。

大人(幹部)は酒を呑みながら色々話している。

分割がどうの領地がどうの言ってるから冥界の分割統治の草案でも出しているのだろう。

冥界の支配権を巡って戦っていた堕天使と悪魔だが今は形骸化し、名を上げる為に戦っている…という風に父さんに教わった。

一方子供(+保護者)組は…

「おぉ…篝の羽ってこうなってるのか…」

「グザファン?」

さわさわ…

「ひゃうっ!姉さん!そこはらめ!」

「ふふ…篝はココが弱いんですよね…」

といって羽の付け根を撫でられる。

「もふもふ…」

ちょっとリアスグレモリーさん!?

彼女も俺の羽に夢中だ…

「うにぃ…」

だんだんと力が抜けて、寝転んでしまった。

「カガリはセラフォルーお姉ちゃんの劵属になったんでしょ?
悪魔の翼はないの?」

「うにぃ…うにぃ?」

悪魔の翼?

あぁ…そう言えば悪魔にも翼があったね…

背中に意識を集中させると、余力が有ることがわかる。

そこに力を込め…

バサッ!

うつ伏せになっている俺の背中から翼が展開された。

「うそだろ…」

「あらあらうふふ…」

「これは…」

上からグザファン、母さん、グレイフィアさんだ。

「うにぃ…?」

「すごーい!翼が十枚ある!」

え?おい、ヴァーリ、今なんて言った?

「あ、本当に十枚ありますね…」

姉さんまで…

後ろを見る…うん…

逆を見る……あぁ…

なるほど…

一番上に二対四枚の龍天使の翼。

右に三枚の堕天使の翼。

左に三枚の悪魔の翼。

系十枚。

「おぉう…十枚って…普通なら上位だぞ…」

「これは…これで…」

「おい、リアスグレモリー、さりげなく他の羽を…ひぁう!」

左…悪魔の翼をさわられ、そちらを向く。

「姉さん…?」

「ああ、いいですわ…なんというか…こう…今の篝を見ていると…
ゾクゾクしますわ!」

ヒィ!?

「姉さん!?」

逃げなきゃ!

じたばたじたばた…

「あら…逃がしませんわよ?」

シュルル!

何かが俺に巻き付いた。

それは鱗の上から俺を縛っていた。

恐る恐る体を見ると…

淡く光る何かが巻き付いていた。

それを辿ると…

「うふふふふ…」

姉さんが見惚れるような笑みを浮かべ、御札を持っていた…

「あら朱乃、マスターしたんですね?」

「ええ…愛の力ですお母様」

そんな愛は求めてない!

「うふふふふ…さぁ…リアスさん、ヴァーリちゃん…篝’で’遊びましょうか…」

あ、ちょっとまって!

助けて!

あ!そこらめぇ!

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

この後目茶苦茶セッ…モフられた。
 

 

二十三枚目

冥界 シトリー領

「だぁぁ!また負けた!」

「貴方は中盤までは優勢なのに終盤のツメがいつも甘いのです」

「はぁぁぁ…今回は勝てると思ってたのになぁ…」

今の状況を説明すると、’ソーナ・シトリーにチェスで伸された直後’だ。

「そこら辺の一般人よりは強いですが、私には敵いませんよ」

「そうかよ、つかアンタの姉上は?」

「あと二時間は帰ってきませんね。
ところで何故このような時間に?」

二時間って…

「アンタの姉に時間指定で来るよう言われて来たらアンタに絡まれた次第だ」

今朝、魔方陣から手紙と印章紙が送られて来た。

内容は指定の時間に印章紙で転移しろという内容だった。

「絡むとは失礼ですね。お姉様のクイーンがどんな男かと気になっただけですよ」

セラフォルーのクイーンになって五日、何の音沙汰も無かった所に急にアレだもんな…我が主様(笑)はフリーダムだなぁ…

「取り敢えず我が主様(笑)の目的俺とアンタを会わせる事って解釈でいいのか?」

「さぁ?お姉様が帰ってきたら直接聞いてください」

「そうさせて貰うよ」













「やぁ!少年☆元気だった?」

セラフォルーの持つ応接間(と聞いた)のソファに座って本を読んでいると我が主様(笑)が入ってきた。

コスプレ姿で…

「元気だぞ。あとあんなに早く呼び出しといて自分は遅れて来るって淑女としてどうなの?
ねぇ魔王様?」

「あれ?ソーナたんに会わせたかったんだけど…居なかったのかな?」

「居たよ?いきなりチェス挑まれたよ?」

「それは良かった☆」

「ウゼェ、いちいち"☆"をつけるな。
カンヘルで三枚に降ろすぞ」

「それは夜のお誘いかな?私の服を脱がそうっていう…」

「オーケー!お望み通り剥いてやんよ!」

掌に力(魔力光力聖力龍力が混じったなんかよくわからない力)を集める。

それをセラフォルーに叩き付けようとしたのだが…

「キャー☆カガリ君へんたーい☆」

ヒラリとかわされてしまった。

「ほらほら~どうしたの☆そんなんじゃ私の服を脱がせる事はできないZO☆」

UZEEEEEEEEE!!

「あぁ、もういいや…で、今日俺を呼んだ理由はなんでしょうかワガアルジサマー」

「うん☆君の忠誠心は一先ず置いとくとして…
君に領地をあげるよ☆」

領地?あぁ…原作でも劵族に領地を分割授与するっていう話があったな…

「ふーん…」

「いやー☆私魔王なんだけど領地が広すぎてちょっと手がまわらないんだよね☆」

「仕事しろ魔王少女」

「だからクイーンの君には沢山土地をあげちゃうよ☆」

「管理の押し付けの間違いだろ」

「さぁ?何の事だろうね☆」

すっとぼけたセラフォルーは一枚の地図を取り出した。

「えーとね…この範囲がレヴィアタン領ね☆
で、君にはこの範囲を治めてもらうよ☆」

セラフォルーが指差したのは湖がある島だった。

なんだ、案外小さいじゃないか。

「あ、一応言っておくと人間界のオーストラリア大陸くらいの広さね☆」

「治められるか!ガキに一国任せる気かテメェ!」

「テメェじゃなくってレヴィアたんって呼んで☆」

「知るか!」

「大丈夫だよ☆都市は無いから☆」

いや、確かにそれは楽だが!都市の有無の問題じゃねぇだろ!

「そういう話じゃねぇよ!」

「大丈夫☆」

はぁ…しょうがない…やるしか無さそうだな…

「どうなっても知らねぇからな?」

「いいよいいよ☆」

良くねぇけどな。

という訳で俺は広大な土地を受け取った(管理を押し付けられた)のだった。
 

 

二十四枚目

じゃ☆跳ばすから取り敢えず見てきなよ☆

そんな事を言われて魔方陣で跳ばされたのが二時間前。

「アァ…疲レタ…」

渡された地図を元に気になったポイントを回ってきたが…

やはり一万キロ強の飛行は堪える…

『態々龍化する事も無かろうに』

いいじゃねぇか…大陸一つ往復したんだぞ?

『ま、お前がいいなら我は何も言わん』

今は、大陸中央の湖に浸かって休んでいる。

俺が渡された領地はほぼ円形の大陸で、中央にかなり大きい湖(っていうかもう海じゃね?)がある。

湖は中央に行くほど緩やかに深くなっているようだ。

俺(龍化)の全高が五メートルなので、水深二メートルあたりでのんびりしている。

『カガリ、帰らなくていいのか?もう冥界に来て半日ほど経つぞ』

あー…そうだな…そろそろ帰るか…

バサリと翼を羽ばたかせ、飛翔する。

上空で龍化を解き、ポケットから印章紙を取り出す。

セラフォルー個人の紋章が描かれた物だ。

『律儀だな』

そういう物じゃないのか?

『まぁ、好きにするがよい』

羽ばたきをやめ、足下に展開された魔方陣に向かい落下する。

ストン、と着地したのはセラフォルーの執務室だった。

「あれ?どうしたの少年☆」

「今から帰るから、報告」

「態々そんな事しなくても良かったのに」

「そか、じゃぁ帰らせて貰うぞ」

「ばいばーい☆」









「ただいま………」

「おかえりなさい篝、悪魔領はどうだった?」

出迎えてくれたのはヴァーリだった。

巫女服を着て掃き掃除をしている姿は、可愛いというよりも美しい。

なお姉さんは現在グレモリー領に居る。

あの非公式会談の翌日から、姉さんは家に帰って来ていない。

「どうだったって言うか…何て言うか…
土地の管理を押し付けられた」

「土地?」

「オーストラリア大陸の五割増くらいの土地をポンと渡された…
どうしろって言うんだよ…」

「オーストラリア大陸って…なんでそんな事になってるの?」

「魔王の仕事が忙しすぎて領地管理にまで手が回らねぇんだと」

「管理できるの?」

「知らん…まぁそこら辺のノウハウは明日にでも魔王少女に聞くさ…」

あ、良いこと考え付いた。

「なぁ、明日一緒に来るか?」

「え?」

「だから明日一緒に行こうぜ」

「篝の領地に?」

「おう。マジで広いからなぁ…」

「ん、わかった」

「ああ、その前に一回セラフォルーの所行くから」

そして翌日。

ヴァーリと手を繋ぎ、ロストを使ってセラフォルーの下へ。

出た場所はセラフォルーの執務室。

セラフォルーを見た瞬間ヴァーリは俺のワンピース(尻尾とか翼とか出しやすいから)の裾を握って後ろに隠れた…超可愛いんだけど…

セラフォルーは机に座って書類を書いていた。

内容は…あぁ…悪魔堕天使間の密約の件か…

ただ名前が"姫島条約"ってのはどうなんだろうか…?

「おや?どうしたんだい少年?」

「ヴァーリにも見せてやりたくてな。
あと出来れば領地管理のノウハウをだな…」

「ふーん…ま、いいよ。
じゃぁ……はい、これあげるよ☆」

セラフォルーが差し出したのは印章紙だった。

「どこ行き?」

「君の領地だよ☆」

「?」

領地の印章紙は既に受け取ったが…?

「まぁまぁ、行って見なよ☆」

なら…行くか…

「ヴァーリ、跳ぶよ」

「うん」

印章紙に魔力を流し…










「ふぉぉ!?何ぞこれ!?」

印章紙で跳んだ先には、豪邸があった。

ん?ドアになんか貼ってあるな…

[少年へ。
この邸宅は君の別荘兼領地の管理所だからね☆
領地管理の仕方は本に纏めて中に置いてあるよ☆
ps ヤリ部屋じゃないので自重しましょう]

「ヤルかあのアホンダラァァァァァ!」

しかも追伸を真面目トーンで書くな!せめて星付けろよ!?

紙をベリッと剥がして燃やす。

「どうしたのカガリ?」

コテンと首を傾げたヴァーリに何でもないと返し、玄関のドアを開けた…
 

 

二十五枚目

「おぉ…広い…」

中へ入ると、そこは大きな踊り場で、左右に伸びる廊下、正面の扉、正面の扉を挟んで二回に上がる階段が二つ。

更に二回にはステンドグラスがあり、キラキラと輝いている。

ただステンドグラスが交わる三匹の龍なのはどう行った意味なのだろうか…?

とりあえず、入ってすぐ横の案内板を見る。

全四階+地下三階建てで三、四階は全て客室。

二回には執務室や資料庫。

一階はホールや調理場、食堂など。

地下は地下一階に領地の管理室しか表記されていない。

どうやら正面の扉の先にはホールがあるらしい。

その横に調理場があるのでパーティー等に使う用と推定できる。

「えーっと…とりあえず管理室だな」

「そうだね…でも地下って何があるのかな?」

「たぶんだが何も無い。この豪邸だが、恐らく悪魔の技術でモジュール化された部屋の組み合わせだ」

何故わかるかって?

案内板の見取り図に方眼が引いてあるし、全部の部屋の大きさが基本っぽい部屋の倍の大きさだったりするからだ。

原作で兵藤家が一晩でリフォームされていたのはそういった理由だろう…

「だからまぁ、セラフォルーに言えば追々追加してくれるだろ」

階段を下って、地下に降りる。

案の定何も無く、階段から少し離れた場所に部屋があった。

ご丁寧に"領地管理室"と書いてある。

「行くか」

ペタペタという俺の足音と、カツカツというヴァーリの足音以外何の音もしない。

だが、管理室のドアを開けた瞬間…

Beep! Beep!

「「!?」」

なんだよいきなり! またセラフォルーの悪戯か?

しかし、部屋の中に入ると、そんな場合ではないと理解できた。

なぜなら部屋の中のモニターに、"侵入者アリ"というフォントが躍っていたからだ。

「侵入者ぁ?」

「篝、どうするの?」

「どうもこうも…やり方しらないぞ?」

取り敢えず、モニターの近くまで行くと、ホロキーボードがあった。

「えーと…」

キーボードには"映像"や"通信"等のアイコンが表示されている。

「映像…でいいのか?」

キーボードを叩くと、モニターが切り替わり、侵入者の映像が出た。

「…………Really?」

モニターの中で、多数の悪魔が一人を追っている。

問題は追われている悪魔だ。

黒い長髪、ピンと立った耳、着崩した着物、ダイナマイトボディ…

「よりにもよって黒歌か…」

面倒な…

「篝?」

うぉう!? なぜか寒気が!

「ど、どうしたヴァーリ?」

「どうしてその女の名前を知ってるの?」

やべぇ…! しくった!?

迂闊だった…! 俺が"黒歌"という名前を知っている筈はないというのに!

「え、えーと、あ、アザゼルから聞いた事があってな。
彼女は仙術を使う猫又の一人なんだ。
そ、そこそこ有名だぞ!」

ヤバイ、ヴァーリが無表情だ…。

「へー…」

な、納得してくれたかな…?

「よし、じゃぁ黒歌を助けに行こう」

「は?」

ひぃ!?

「なんで助けに行くの?ねぇなんで?」

「え?あ、いや、その、だって明らかにヤバそうじゃん?」

「なんでその黒歌さんの方を助けるの?
後ろの悪魔を手伝うんじゃなくて?」

「いや、そのぉ…こういう時って大抵女の方を助けない?」

「そう…じゃぁ好きにしたらいいじゃん!」

えぇぇ…?なんかヴァーリが怒ってるんだけど…?

「え、えーと、ヴァーリ?」

「なに?そんなにおっきい胸が好きなら早く助けに行けばいいと思うよ」

………そこぉ!?

「あー、いや、待て、ヴァーリ。お前は勘違いしている。
別に黒歌の胸が大きいから助けに行く訳じゃないぞ」

「ふーん」

はぁ…ダメだこりゃ…

そう思っていると、モニターから爆音が聞こえた。

「悪いヴァーリ!戻って来たら理由を話すから!」

「え!?篝!?」

悪いけど!今は時間がない!

「カンヘル!」

手の中に、純銀の錫杖が現れる。

【ロスト】

黒歌達が戦闘している真上に転移。

「静まれ!」

両者の間にエネルギー弾を撃ち込む。

黒歌も、追手も足を止めた。

そして、エネルギー弾で出来たクレーターの底に降り立つ。

「貴様等は我が領地に無断で侵入している。
即座に立ち去れ。さもなくば死ね」

と形だけの警告をする。

奴等は悪者の筈だが、一応儀礼的に警告する義務がある。

「なぜ天使がここにいる!」

と追手の先頭にいた悪魔が叫ぶ。

悪魔と堕天使の翼を展開し、五対十枚の翼を顕現させる。

「俺は篝!魔王セラフォルー・レヴィアタンのクイーンだ!」

すると先頭の悪魔は口元を歪め…

「セラフォルー・レヴィアタンにクイーンは居ない!奴は敵だ!クロカより先に奴を落とせ!」

はぁ…

「返答は受け取った。では死ね」

敵がそれぞれ攻撃を仕掛けてくる。

【ウォール】

しかしそれらは全て時空の歪みに飲まれ、俺には一つとして届かない。

「俺のターンだ」

手を上に掲げ、ワームスフィアを円盤状にする。

「行け」

虚無の円盤は、俺の思い通りの軌道を通り、奴等を真っ二つにした。

クレーターの底から飛び上がり、奴等の元まで歩く。

「へぇ?まだ生きているか。悪魔は頑丈だなぁ…」

「き、貴様!我々にこのような事をして許されると…!」

上半身だけになったリーダー格がわめく。

「許されるさ。ここは俺が賜った領地で貴様等は侵入者なんだからな」

龍翼から敵の数だけの羽を抜く。

「じゃ、サヨナラだ。いや、いらっしゃいかな?
俺の糧となれ」

羽を放り投げると、一人に一枚ずつ飛んで行き…

ピシピシと音を発て、結晶に覆われていく。

「あ!がぁぁぁ!やめろ!やめろ!消えた…く…な……」

硝子が割れるような音と共に、砕けた。

「うん、結構良かったな」

奴等の持つイーヴィルピースの力も奪えた。

それもキングとビショップを除いた計13個。

なるほど、黒歌のポテンシャルではビショップ二つを消費するのか…

あ、忘れてた。

振り返り、クレーターの先に居る黒歌を見る。

「よう?無事?」

しかし、あちらは臨戦態勢だった。

「お前…誰にゃ…?お前も奴等と同じかにゃ?」

「いやいや。安心してくれていい。
俺はアンタの味方だ」

「確証はあるのかにゃ?」

「追手を倒したという所で納得しちゃくれないか?」

「無理にゃ。お前が侵入者を排除しただけの可能性を捨てきれにゃい」

ふーむ…どうすべきか…

「仮にだ。仮に俺がアンタの首を狙っていたならば、既に殺している。
それをしていないのだから信用して欲しい物だ」

「……………今は、それで納得するにゃ」

「OK、ならアンタの妹共々こちらでなんとかしよう。
なに、セラフォルーを脅してでも首を縦に振らせてやるさ」
 

 

二十六枚目

トンッとクレーターを飛び越え、黒歌の前へ立つ。

「じゃ、ちょっとついてこい」

「え?」

黒歌の腕を掴み、空間転移。

出た先は勿論領地管理室だ。

「ヴァーリ、戻ったぞ」

「…………変態」

ぐっはぁ!?

「にゃ?おい、セラフォルーのクイーン。
この女の子は誰にゃ?お前の番かにゃ?」

「つっ、つが、番じゃない!」

「まぁ、どうでもいいにゃ。
おい、セラフォルーのクイーン。
ここで何をするにゃ?
私を罠に嵌めようというならこっちにも考えがあるにゃ」

「あー…待て。取り敢えずセラフォルーの所行ってくるから待ってろ。
ヴァーリ、来るか?」

しかしヴァーリはそっぽを向いている。

はぁ…女心ってわかんないなぁ…

なぁ、どう思うよセルピヌス?

『知らん。自分で何とかしろ』

はいはい…

「じゃぁ、すぐ戻る」

セラフォルーの紋章が書かれた印章紙を使い、執務室へジャンプ。

「あれ?どうしたの少年?まだ15分も経ってないよ?」

「ああ、少し侵入者が居てな。その件で話がある」

「何々?下級堕天使が侵犯でもした?」

「いや、悪魔だ。一人を残して全て殺した」

「へぇ…なかなかやるじゃん」

さて本題だ。

「その一人がS級はぐれ悪魔でな。
そいつの"はぐれ"認定の解除をして欲しい」

「名前は?」

「黒歌。主は知らんが駒はビショップ二つ。
転生前の種族は猫又。
それと白音という妹が居るからそっちの保護も頼みたい」

「黒歌…黒歌…あぁ…四日前の事件の容疑者ね」

「頼めるか?」

「んー……別に構わないよ。だけど、少年が全ての責任を持つという条件が付くよ」

責任…つまり…

「その時は俺が黒歌を殺す…という事か?」

「勿論」

「いいだろう。それと、妹の保護はサーゼクスに頼むといい。
それがこの悪魔界にとって最良の結果をもたらす筈だ」

「またかい?君には未来視の能力でもあるのかな?」

「いや、無い。だけどわかる」

「ふーん…じゃぁ、サーゼクスちゃんに頼む事にするよ」

「あっさり信じるんだな」

「んー?その方が面白そうだしね☆」

快楽主義者め…

「あぁ、それと…奪ったイーヴィルピースって勝手に使っていいのか?」

「ふふふ…なるほど。力が増してるのはそういう事なんだね…
大丈夫。イーヴィルピースは"キング"に登録した悪魔しか使えないから。
君には"扱えないはず"だから」

「これは良いことを聞いた…」

手を広げ、その上に奪ったイーヴィルピースの力を顕す。

それぞれの駒は、エメラルドのように輝き、龍の意匠へ変化していた。

「つまりこれは俺の物にしてもいいって事だよな?」

「勿論だよ。魔王はレーティングゲームはできないからね…
君がどれだけ駒を奪い、力を得てもだぁれも気づかないよ☆」

「そうか。じゃぁ、俺は戻る。
仕事の邪魔して悪かったな」

「ふふ、対価はまた今度…そうだねぇ…
レヴィアたんに出てくれたらいいよ☆」

「……………………………いい、だろう」

【ロスト】
 

 

二十七枚目

まったく…篝ったら…

「ん?どうしたのかにゃ?」

「いーえ、何でもありません」

やっぱり篝も胸が大きい方がいいのかな?

黒歌の胸は…大きい。

私は…ちっさい…というか無い。

「にゃ?にゃはは…ねぇ、君」

「なんですか?」

「セラフォルーのクイーンとは番じゃない…って事でいいかにゃ?」

「ええ、あんな変態しりません」

男の子って皆ああなのかな?

「これは吉報にゃ。だったら私が貰ってもいいかにゃ?」

もらう?もらうって…………!?

「だ!駄目です!篝は私のです!
貴方なんかにはあげません!」

「あっれぇ~?さっきと言ってる事が違うにゃ。
だけど…その胸じゃ無理かにゃー?」

「そ!そんなものただの脂肪の塊です!」

「にゃっはっは!それはどうかにゃ~?」

篝はなんでこんなのを助けたんだろう?

「でも~事実私の方が胸も大きいし、多分君より私の方が強いにゃ」

「言いましたね?」

「にゃ?」

アルビオン。力を貸して?

『本気か?』

勿論。この雌猫に篝を渡したくないの。

『はぁ…仕方ない。だが危なくなったら止めるぞ』

十分だよ!

「ディバイン・ディバイディング!」

背中に、悪魔や天使や堕天使とは違う翼が現れた。

「そ、それってロンギヌス!?
ちょ、ちょ、ちょっと待つにゃ!」

「もう遅いですよ?」

黒歌の懐へ潜り込み、胸を鷲掴みにする。

ふにょん…

こんな脂肪の塊なんて!

Divide!!

「にゃ?」

『おい!戦うのではないのか!?』

いくよアルビオン!

DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!

「にゃぁぁぁぁぁぁ!?私の胸が!?」

黒歌の胸は小さくなり、対する私の胸は大きくなった。

『わ、我の力が…我の力がまさかこんな事に使われるなど…!』

黒歌の胸がペタンコになった。

そして次に、黒歌が縮んだ。

あとお尻も少し張るような?

「あれ…身長とヒップも取っちゃったかな?」

「にゃぁぁぁ!悪魔にゃ!この子本物の悪魔にゃぁぁ!」

「ええ、まぁ…認めるのは癪ですが、私は《ルシファー》ですから」

「違うにゃぁ!こんな!こんな!あんまりだにゃぁぁぁ!」

ざまぁみろです!

「さて、先程貴方は何と言いましたっけ?
貴方の方が胸も大きいし強いって言いましたか?
簡単に懐に潜り込まれた挙げ句に胸も小さくなりましたね。
さて……先程貴方は何と言いました?」

「ごめんなさぁぁぁい!」

「まぁ、これくらいで勘弁してあげます」

『ヴァーリ…お前、朱璃や朱乃に毒されていないか?』

え?何の事?

『はぁ…これは篝も苦労しそうだな…』

篝が?どうして?

『なんでもない。独り言だ』

「にゃぁぁ…あんまりだにゃ…。
神は死んだのにゃ…」

「悪魔が何をいってるんですか?」

すると黒歌は牙を剥き出しで威嚇してきた。

「フーッ!」

仔猫が威嚇しているようにしか見えない。

その時、背後で歪みを感じた。

篝が空間転移する時に決まって起こる歪みの感覚だ。

振り返ると、やっぱり彼が居た。

兄のようで、弟のようで、愛しい人。

私だけの、銀翼の騎士。

「お帰りなさい篝」
 

 

二十八枚目

管理室に転移すると、カオスだった。

「にゃ~!ひどいにゃ~!」

「お帰りなさい篝」

黒歌がツルペタロリになってるし、ヴァーリはデカくなっている。

しかもセラフォルーの所に行く前は不機嫌だったヴァーリがニコニコしてる…

「これどんな状況?」

「生意気な仔猫に"躾"をしただけだよ」

「お、おぅ、そうか…黒歌?」

ヴァーリに聞くのは不味い気がしたので黒歌に問いかける。

「にゃ~!」

「だめだこりゃ」

しょうがない…

「アルビオン!説明求む」

『その猫がヴァーリを煽り、ヴァーリがディバイン・ディバイディングで猫の胸部やら身長やら魔力やらを半減・吸収しただけだ』

………………………

「篝?どうかした?」

「アルビオン」

『なんだ?』

「愚痴なら聞くぞ」

『今晩頼む』

マジかよ…

ツルペタロリになり、へたり込んでいる黒歌を見下ろし、ボンキュッボンになったヴァーリを見上げる。

「どうしたの篝?」

「いや、なんでもない」

俺の身長が120前半。

今のヴァーリは…目測でも160はあるだろう。

「おい黒歌、黒歌!白音の事で話がある…おーい?黒歌ー?」

この後にゃーにゃー泣いてる黒歌を宥めるのに数分を要した。



「でだ、黒歌。白音はどこだ?」

「にゃー…人間界に隠したにゃ…」

「場所は?」

「……クオーっていう土地にゃ」

クオー…駒王?

「その場所は日本か?」

「そうにゃ」

ふぅー…

安堵のため息を漏らし、神に感謝する。

ヤハウェではなく、運命という神に。

「駒王町はリーアちゃんの土地だ。
彼女なら恐らく、上手くやるだろう。
兄の方に頼むよう言ったが…もしかするとリーアちゃんが独力でなんとかするかもな」

「リーアお姉ちゃんの土地?」

「そうそう、あと今代の赤龍帝が居る所でもある」

『それは本当か篝!?』

とアルビオンが食いついたが…

「はーい、落ち着こうねアルビオン。
私は赤龍帝に態々仕掛ける事はしないからね?」

『正気かヴァーリ!?』

「まー…あっちから来たなら禁手でも覇龍でも何でも使って撃退するけどね。
最近覇龍も少しくらいは制御できるようになったし」

禁手に覇龍ねぇ…

ん?そう言えばカンヘルの禁手と解放は何なんだ?

『抜かせ、お前は既に至っているではないか』

は?

『<龍化>は禁手の亜種だ。今まで至った物が居ないのに亜種というのも可笑しな話ではあるがな』

え?じゃぁ俺って鎧着れないの?

『お前がイメージすればできると思うが』

じゃぁ暇な時に試すか…

『暇潰しで禁手しようとするお前には感心するしかないな』

なぁ、知ってるかセルピヌス? そう言うのは『呆れ』って言うんだぜ。

『そうか、覚えておこう。解放については知らん。
だが止めておいた方がいい』

そうなのか?

『馬鹿者。我の力は全ての天使、堕天使、悪魔の総力に匹敵するのだぞ?』

あぁ…そうか…セルピヌスの役割は天使に力を与える事だったな…

『怨念が無くとも、我が力を受ければ、その魂は砕け散り、お前とて命を落とすやもしれん』

なぁるほど…

セルピヌスと会話していると、ヴァーリとアルビオンが揉めていた。

『先にドライグの宿主を殺さねばお前が死ぬのだぞ!』

「だからって力に目覚めていない…無力な一般市民を殺すの!?」

『そうだ!それにお前はすでに禁手に至っている!
奴が目覚める前に全ての決着を着ければ!』

まぁ…アルビオンの言うことにも一理…いや、アルビオンの言うことが絶対的に正しい。

だけどまぁ…今代に限れば…

「アルビオン」

『なんだ篝!』

「今代の赤龍帝は方っておいても問題無い。
断言しよう」

『何故そう言える!』

原作知識とは言えない。

「理由は言えんが知っている。
何ならセラフォルーかアザゼル辺りに頼んで調査してもらうか?」

『…………』

アザゼルなら、『今代の赤龍帝の情報いる?』って聞いたら多分大喜びするだろうな…。

『アルビオン、私も断言しよう。
今代の赤龍帝は放置しても…いや、放置する事こそが最良であるとな』

『セルピヌスまでか…』

「そういう事だ」

「そうだよ。私は篝と居れたらそれでいいの」

『ここは「ヨッイロオトコー」というべき所か?』

棒読み止めろや。

それにヴァーリのは多分恋心じゃないぞ。

多分、兄や姉への信頼だ。

『……………』

「篝は?」

「え!?あ、うん。俺も自分の周りが平和ならそれでいいぞ」

「だよね~」

あれ?ヴァーリの目からハイライトが…?

「そーれ!」

「わぷ!?」

ヴァーリに抱き締められた。

「ちょ、ちょっとヴァーリ!?」

「私は篝と居たいの。
篝は私と居たくない?」

「え?あ?そりゃ、居たいけど?」

いきなり何だよ…?

「うん…今は、それでいいや」

何か含みの有りそうな言い方だなぁ…

「つーか離してくんない?
いろいろ当たってるんだが?」

「こういう時って『当ててんのよ』って言うんでしょ?」

「アザゼルか?」

「うん」

よし、あとでアザゼル秘蔵のエロ-異本を燃やそう。

たしかグリゴリ本部地下四階プライベートルームの-4107号室の押入れだったはず…

-4283号室のも燃やしとくか…

「おっきい体っていいね。
全身で篝を感じられるよ」

「良くねぇよ。戻せ。
俺のプライド的に戻せ」

「やだ」

『言っておくと篝の身長はもう伸びない。
朱璃を助けた代償に肉体の<人間性>を差し出した。
堕天使も龍も成長しないしな』

「元々私の方が大きいから今さらだね」

「うっせ」





「あ~私を放っといてイチャイチャしてるにゃぁ…。
私メインの筈だったのに空気にゃ…
にゃ?変な"でんぱ"でも拾ったかにゃ?」

side out











手のひらを正面にかざして、念じる。

「やっぱり来ないか…」

どうやら、私のクイーンはとんだじゃじゃ馬らしい。

キングの権限による駒の召喚。

それに応じない。

「駒その物を書き換えるなんて…前代未聞だよ…」

ドラゴンを模した緑色のイーヴィルピース…

ミューテーションピースなんてレベルじゃない。

そしてそれを成した要因…

「セルピヌス…」

私は会った事がない。

だけど、もしかすると初代シトリー達は会った事があるのではないだろうか?

神が造り出した全ての天使に祝福を与えた祝福の権化。

それを宿している彼ならば、もしかすると…

〈オリジネイト-天上回帰〉

悪魔が長らく研究していた…

悪魔を天使に戻す術。

「そこら辺は、アジュカちゃんに聞こうかな…」

だけどなぁ…アジュカちゃんの所に行ったらピースを奪ったってバレちゃうんだよねぇ…

「まー、でも…ゲームに出ないならいいかな…」

手元にある四枚の書類。

二人の超越者に向けた物。

一枚は、先の少年の依頼…白音という悪魔の保護に関する物。

もう一枚は、少年のピースの調査を依頼する物。

最後の二枚は同じもの。

少年を『冥界』の切り札として隠匿したいという旨。

その為に少年には正式ルートで悪魔領に入らせていない。

「サーゼクスちゃんとアジュカちゃんの印章紙は…あったあった…」

二枚ずつ重ねた書類の上に、それぞれの印章紙を置き、魔力を流す。

光に包まれ、跡形も無く消えた。

こういう時、教会の者ならば、神に願うのだろう。

だけど、私達は神に叛いた者。

だから私は願う…

「運命の名の下に、冥界に幸多からん事を…」

運命という、気紛れで、誰にも手を差し伸べ、何者をも弄ぶ、この世の真理に。
 
 

 
後書き
高校が2時に終わってもバスの関係で家に返りつくのは5時…
つくづく田舎にすんでんなぁヲイ。
とおもう今日この日。 

 

二十九枚目

[『白音』の保護が完了したよ☆]

という嬉しいメッセージと…

[おい篝テメェ!俺のコレクション燃やしやがったな!?]

というエロオヤジからのメッセージが枕元に届いたのは、黒歌を保護し、小猫…白音の保護を依頼した翌日の朝だった。

アザゼルからのメッセージを読んでいると、俺よりも随分と大きくなったヴァーリが後ろから覗き込んだ。

「篝…何したの?」

「アザゼルが秘蔵してたエロ-異本を燃やした。
まぁ、アザゼルの事だから予備があるだろうがな」

「ふーん…」

するとヴァーリは増大した筋力で俺を抱え、膝の上に乗せた。

悪魔が人間よりも素の体力で勝り、更には体格差も有るとはいえ、ヴァーリに抱かれるのは変な気分だ。

「ヴァーリ、何度も言うが危ないぞ?
鱗で怪我したらどうするんだ?」

「そのくらいならディバイン・ディバイディングで『傷』を半減したら治るよ」

まさかそんな使い方が有るとは…

『ディバイン・ディバイディングとブーステッド・ギアは概念干渉系神器だからな。
【概念的半減】と【概念的倍増】だ』

「赤龍帝なら『傷の治りの速さ』を倍加したりするのか?」

『ああ。ただし、どちらも致命傷は治せん』

「ふーん…。
ま、リバースすればいいか…」

二天龍の能力については、今はそこまで重要じゃない。

本題は…

部屋の隅っこで丸くなってる黒猫だ。

「おーい起きろ黒歌。黒歌ー?」

起きない…

「仕方ないなー」

というヴァーリの声の後。

『Divide!』

ディバイン・ディバイディングが展開され、半減のボイスエフェクトが聞こえた。

ん?今度は何を半減したんだ?

と思っていると、ヴァーリの腕が伸びた、ように見えた。

そのまま黒歌の首を掴んでぷらーんと持ち上げた。

「今度は何をしたんだ?」

「私と黒歌とのあいだの『距離』を半減したんだよ。
それによって見掛け上私の腕が伸びたようにみえてただけだよ」

便利だなー…二天龍。

「にゃ?にゃー…にゃー?にゃおーん…」

「ヴァーリ、取り敢えず下ろしてあげたら?
この状態じゃ人化できんだろ」

「そうだね」

ヴァーリが黒歌を布団の上に下ろすと、直ぐに人化し、黒髪ロング、猫耳猫尻尾のロリになった。

「にあー…せっかく寝てたのに何の用かにゃ?」

「白音を保護したと報告が入った」

「ほんとう!?」

「ここで嘘を言うはずないだろう?
それに連絡を寄越したのはセラフォルーだ。
内容がちとアレだし口約束だが一応契約してるからな」

悪魔の契約とは、契約者から破れば悪魔に命を奪われ、悪魔側から破れば悪魔はその力が弱まる…と言うのがセオリーだ。

まぁ、今となっては契約者が契約を破棄しても命は取らないらしいけど…

「つー訳でメシ食ったらセラフォルーの所行くぞ」











姫島神社境内

「えーっと、帰っちゃダメかにゃ?」

「えぇい!面倒くさいぞ黒歌!
白音が追われたのはお前のせいじゃねぇっつってんだろーが!
つーか帰るって何処にだよ!?」

「いや、でもにゃぁ…」

ロストで跳ぼうとしていたが、先程からずっとこの調子である。

「篝、どうするの?」

「あー!もう!めんどくさい!無理矢理連れてく!」

ごねる黒歌に抱き付き、翼でくるむ。

「にゃっ!?」

「ヴァーリ!」

「はいはい」

その上からヴァーリが覆い被さるように俺と黒歌を抱き締める。

「カンヘル!」

祝福の龍杖を召喚し…コツンと石畳を叩く。

【ロスト】

視界が暗転し、再び光を取り戻した時には、セラフォルーの執務室。

「おや少年。早かったね☆」

「ああ、ちとコイツを連れてくるのに手間取ったがな」

黒歌の頭を鱗で傷付けないよう、ポフポフと撫でる。

「ふーん…その子が黒歌?」

「おう。で、白音は?
ここにいるのか?サーゼクスの所か?」

「今はリアスちゃんと一緒に居るよ☆」

「今から跳んで大丈夫か?」

「勿論だよ☆ あ、それと例の件頼むよー☆」

えー?あれだろ?<レヴィアたん>に出ろってヤツだろ?

「元から拒否権ねぇだろうが」

「そうなんだけどね☆」

ウゼェ…

「所で…なんでリリンの孫は1日でそんなに大きくなってるの?」

「まぁ、色々あるんだよ」

昨日は俺の後ろに隠れていたが、今のヴァーリは俺と黒歌をセラフォルーから護るように抱いている。

「んじゃ、グレモリー城に跳んでくる」

姉さんも居ると思うし…

「はいはーい。いってらっしゃい☆」

カンヘルで、床をコツンと叩く。

【ロスト】

再び視界が暗転。

そして目に入ったのは国会議事堂の数倍はあろうかという城。

スゥと息を吸う。

「リーアちゃーん!居るー?」

「篝、後で怒られるよ?」

「え?なんで?」

「まぁ、いいや…。
ほら、グレイフィアさんが来るよ」

見れば正面玄関が開かれ、グレイフィアさんが歩いて来ていた。

「お待ちしておりました。篝様」

綺麗な一礼がとても様になっている。

「あ、お邪魔します。
で、コイツが例の黒歌です。
妹の白音を保護したって聞いたので連れてきました」

「畏まりました」

案内された部屋には、赤髪の少女と白髪の猫耳ロリがいた。

「白音!」

「ねぇ…さん…?」

黒歌が白音に飛び付いた。

「あ、カガリ…」

リーアちゃんが部屋から出て来て、そっと扉を閉めた。

「久しぶり、リーアちゃん」

「ええ、久しぶりね…」

「姉さんは?」

「ちょうど入れ違いでグリゴリに行ったわ…」

あらぁ…

「それで…どうしてヴァーリはそんなに大きくなってるのかしら?」

「さっきの猫から身長を奪ったんだとよ」

「ペットの調教はしっかりしないとね!」

「そ、そう…」

リーアちゃんがすごく微妙な顔をした。

「あ、リーアちゃん」

「なに?カガリ」

「セラフォルーから領地貰ったんだけどさ、なんかヒントちょうだい?」

「領地?もう?」

「正確には管理を押し付けられたんだがな」

「見てみないとわからないわね」

そか…

「暇なときに連絡してくれ。出迎えてやるから」

「ええ、朱乃と一緒に行かせてもらうわ」

今度アザゼルとかもこっそり呼ぼうかな…

「あ、忘れてたわ」

ん?

「カガリ、ヴァーリ」

「「何?」」

「貴方達って12歳よね?」

「うん」

「学校行ってねぇけどな」

「知ってるわ。だから…」

だから?







「貴方達二人には学校に行ってもらいます」
 

 

三十枚目

「学校だと?」

「どうして?」

別に学校なんて行く必要ないだろ。

「貴方達二人が既にハイスクールの内容まで終わらせているのは知っているわ。
でも、学校を出ておかないと悪魔の身分を隠して人間界で活動するときに不便らしいのよ」

あ、なるほど。

「それって悪魔の権限とかで偽造できないの?」

とヴァーリが言った。

「できなくはないけれど、どうせなら学校生活を楽しんだ方が特でしょう?」

そりゃぁそうだが…

ヴァーリに後ろから抱きつかれた。

「篝と一緒にいる時間が減るからいや」

「私の権限で同じクラスにしてあげるから。
ね?それならヴァーリも問題ないでしょ?」

それをやるなら…っていうのは野暮だな。

「ん!わかったよリーアお姉ちゃん!」

うーむ……ヴァーリがべったりなのはどうにかしないとな…

ちゃんと兄離れさせてやらないと…

学校はいい機会かもしれん。

『なぁ、セルピヌス。コイツはどうにかならんのか?』

『諦めろアルビオン。コイツはこういう奴だ』

なんか神器同士で話しているらしいが、代名詞だけなので何について話しているかさっぱりだ。

まぁ、たぶん二人…? 二匹…? 二体…? 二柱…? もヴァーリのことを心配しているのだろう。

『『………』』

それと…

「ヴァーリ。当たってる当たってる。
そろそろ離れてくれ」

その、背中に当たる感触が…ね?

「篝はもう大人だから、私のおっぱいを押し付けられて、イヤらしい気持ちになったりはしないんだよね?」

アザゼルから貰った小遣いで買った本を読ませたのは失敗だったようだ。

「俺だって男なの。ほらほら離れた離れた。
男にこんな事したらダメだぞ。
お前は体が小さいときと同じ感覚なんだろうがこっちはそうもいかないんだよ」

「……昨日一緒にお風呂入ってくれなかったのも?」

「そういうこと。ほら、早く離れて」

「えー…」

いっそう抱きしめられる。

鱗が危ないのだが…

そこで咳払いが聞こえた。

「二人共、イチャイチャするならよそでやってほしいのだけれど?」

「あー…ごめんリーアちゃん」

ヴァーリが抱擁を解いたかと思えば、今度は180度体を回され、正面から抱き上げられた。

「ヴァーリ?」

「せっかく篝を抱けるくらい大きくなったんだからいいじゃん」

いろいろ文句を言いたいけど…まぁいいか…

『カガリよ。お前が一番ヴァーリを甘やかしてると思うのだが』

そうか?

「そういう事なら仕方ないわね…
でも少しは自重しなさいよ」

「はーい」

許しちゃうのかぁー…

「ただカガリの羽を私にももふもふさせて欲しいのだけど」

「リーアお姉ちゃんならいいよ」

待てや。俺の意見は聞かないのか?

「じゃぁどこかにすわろうかな…」

ヴァーリがキョロキョロして、バルコニーの方へ目を向けた。

「いい?」

「そうね、そうしましょうか」

リーアちゃんがバルコニーへ向かい、ヴァーリが俺を抱えたまま後に続く。

俺は尻尾と翼の分けっこう重いはずなのだが、ヴァーリは気にした様子もなく歩いている。

リーアちゃんが扉をあけ、バルコニーへ出ると、ヴァーリはすぐに椅子に座った。

リーアちゃんはその隣の椅子だ。

さて、正面から抱き上げられた状態で座られるとどうなるかと言えば…

「篝、私これ知ってる。対面座「ちょっと黙ろうかヴァーリ」

アザゼル…マジでどうしてくれようか…

「グザファンが教えてくれたんだよね」

まさかの伏兵…!?

「カガリ、とりあえず翼を広げてちょうだい」

あ…リーアちゃん置き去りにしてた…

「ん、わかったよ」

翼を左右に大きく伸ばす。

とたんに片方の翼にリーアちゃんが抱きついた。

「ん~!」

「リーアちゃん。一応言っとくけど俺の翼って『聖』の塊だからね?
触りすぎたら危ないよ」

「もふもふ!」

「リーアお姉ちゃん全く聞いてないね…」

だな…

「危なくなったら止めるか…」

「翼から『聖』を抜けないの?」

「無理。そも翼自体が『聖』の源だし。
仮にできてもやろうとおもえない」

仮に翼から『聖』を抜けたとして、その抜いた分の『聖』をどうするか、という事だ。

今の俺の体には、力の源が複数ある。

言わずもがな龍天使の心臓と翼、堕天使の翼、イーヴィル・ピースだ。

他の場所へ『聖』を移す前に他の力とぶつかってしまう。

「体内の力の制御なんて無理だ。今は魔法も使えない」

前は、『聖』『光』『龍』の三つの力しかなかったのである程度は制御できていた。

しかし今できるのはカンヘルの能力の行使とエネルギー弾を打つ事だけだ。

クーリアンセに関しては、外部の自然エネルギーで発動する物なので問題なし。

それに母さんには父さんがついている。

今のところ魔法を使えなくとも問題はない。

大人しくもふもふされていると、グレイフィアさんが来た。

「リアスお嬢様、篝様、ヴァーリ様。
黒歌様がお呼びです」

「わかりました」

リーアちゃんは残念そうにもふもふするのをやめた。

ヴァーリの膝の上からおりる。

「行こ、リーアちゃん」

「そうね…」

グレイフィアさんの後をついて行くけど、リーアちゃんがずっと翼をもふってる。

「リーアちゃん。ついたよ………
リーアちゃん?」

もふもふもふもふ……

仕方ないなぁ…

「ヴァーリ」

「はいはい」

ヴァーリがリーアちゃんの顔に手を近づけ…

ピシィッ!

「ふやっ!?」

リーアちゃんが仰け反った。

「な、なに!?」

「デコピンだよ。西洋圏にはない文化だね。
まぁ、ちょっとした悪戯だよ」

プーっと頬を膨らませてリーアちゃんがこっちを睨んでいる。

「痛かったんだけど」

「まぁ、そういう物だし。
俺の手はこんな感じだからヴァーリに頼んだんだよ」

鱗に覆われた手を見せる。

「むぅー…」

「グレイフィアさん。開けてください」

「かしこまりました」

ガチャ…とドアが開く。

そして目にはいった光景は……


幼女の土下座だった。
 
 

 
後書き
ようやく24巻読んだけど……
どうしよう… 

 

三十一枚目

ドアから見えたのは幼女の土下座だった。

扉から二メートル程の位置で綺麗な…

って土下座じゃねぇなこれ。

合手礼になってるし…

まぁ、本人達は土下座のつもりなのだろう。

三指着いてないだけマシか。

閑話休題。

「何故に土下座?」

「白音を助けてくれたから…」

「姉様を助けていただいたので…」

「あっそ。とりあえず顔上げてくれ。
こっちもやりにくい」

二人が顔をあげる。

「さぁて、じゃぁ今後の事を話し合おうか」

部屋に入り、猫耳二人の前にあぐらをかく。

「ヴァーリとリーアちゃんは適当な所に…」

座ってくれ、と言おうとしたら二人は床に座って羽をもふり始めた。

俺の両脇だ。

「はぁ…。グレイフィアさん、少し神器使いますけどいいですか?」

「害がなければ」

カンヘルを召喚する。

「ロスト」

部屋の中にあったソファーの上にグレイフィアさん以外を転移させた。

ちょうど三人がけのソファーが向かい合っていたので片方にk猫耳二人、反対に俺とヴァーリとリーアちゃん。

「にゃ!?」

「…?」

黒歌は驚き、白音はぽかんとしていた。

危ないのでカンヘルを消しておく。

「これから話すのは君達姉妹の処遇についてだ」

「処遇…ですか?」

「そう、処遇。要するに君達がこれからどうするかだ。
俺のペットになるか、リーアちゃんの眷属になるか、それともここで御別れか…」

「ペット?そういう趣味にゃのか?」

そんな訳あるか。

「ちがう。俺は正式なイーヴィル・ピースを持ってないんだ。
だからペットといったが、俺の部下だ。
お薦めは二番目だな。
グレモリー家は眷属を大切にする悪魔だからな」

「御別れってのはそういう事かにゃ?」

「そのままさ。俺達と縁を切り、何処かへ隠れすむってこと」

「やめとくにゃ。また追いかけまわされそうだからにゃ」

黒歌を指差す。

「なお、黒歌のイーヴィル・ピースは無力化できる…つまりお前は悪魔をやめられるが、どうする?」

「そんにゃことできるのか?」

「できる。カンヘルの祝福の力を、原初の創造の権能を持ってすればな」

カンヘルは、始まりの神器なのだ。

神が手ずからセルピヌスを封じた錫杖。

全ての神器の祖にして原初。

無論、他神教系神器や封印系神器は別だが、ほぼ全ての神器の力を行使できる。

もちろん、セフィロト・グラールの力も。

「悩むにゃぁ~…」

「さて、ここで取り敢えずイーヴィル・ピースを抜いておくというのはどうだ?」

それならば色々考えやすくなるだろう。

「わかったにゃ」

「まぁ、俺がイーヴィル・ピースを一揃い欲しいだけなんだがな。
黒歌、手をだしてくれ」

黒歌が伸ばした手を、握る。

「いけるな、セルピヌス」

『無論だ』

俺の意匠に関係なく、俺の手と黒歌が結晶に包まれた。

「姉様!?」

「案ずるな」

黒歌が結晶化していたのはほんの数秒。

すぐに結晶が砕け、無傷の黒歌が出てきた。

砕け散った結晶は黒歌の胸の前で収束し、翡翠のビショップと化した。

「これで、黒歌は悪魔ではなくなった。
さぁ、好きな道を選ぶといい」

すると黒歌は数瞬悩んだ素振りを見せた。

「私は少年の部下になるにゃ。
ただ、その代わり白音をグレモリー家で預かって欲しい」

なるほど。

「リーアちゃん、聞いてた?」

「聞いてるわよ。その子を家で預かればいいんでしょ」

もふる手を一切緩めず、リーアちゃんが答えた。

少し不安だな…

あぁ、それと…

「要するに、仮に俺がお前の前の主と同族だった場合の保険って事だろう?
ただ、言いたくはないが、もしグレモリー家が前の主と同族だったとしたらどうする?
俺はグレモリー家がそんな事をしないとわかっている。
だが、お前がそう決めた根拠を聞かせて欲しい」

黒歌を真っ直ぐ見つめる。

琥珀のような深みのあるその瞳もまた、俺を真っ直ぐ見つめている。

「瞳を見れば、わかるにゃ。
少年と、その赤髪と、白龍皇の目は、真っ直ぐで純粋…悪意を持たない者の目にゃ」

「それだけか?」

「十分すぎる理由だと思ってるにゃ」

「そう言うのなら、お前を俺の部下にしよう。
白音はなにかあるか?」

白音の方を見ると、ピクンと体を振るわせた。

ちょっと怖がらせてしまったようだ。

「……時々。時々でいいですから、姉様に会わせてください」

「わかった。時々と言わず、毎日でもいい。
家族は大切にするべきだ。
それと、君が悪魔となってリー…リアス・グレモリーに仕えるか、それとも別の形を取るかは、リアス・グレモリーとよく相談するんだ。
いいね?」

「は、はい!」

「これで話は以上かな。あ、リーアちゃん。
今日だけでも黒歌と白音を同じ所に泊めてあげたいんだけど」

あいも変わらず羽をもふってるリーアちゃん。

「白音を泊めた部屋に泊めてあげるといいわ」

「じゃ、そういう事だ黒歌。あした迎えに来るぜ」

席を立つと、リーアちゃんが不機嫌そうにこっちを見つめていた。

「もう帰るのかしら」

「用事は済んだしいつまでも居たら迷惑でしょ?」

「リーアお姉ちゃん」

「ええ、客室は開いてるわ」

は?

するとヴァーリが通話魔法を展開した。

「もしもしバラキエルさん?
はいヴァーリです。はい…はい…
今日グレモリー家に泊まっていいですか?
…………………はい。篝もです。
……はい。明日には。
わかりました。それでは」

通話魔法を切ったヴァーリがピースサインをした。

「いぇい!」

「しゃーない…今日は御世話になるよリーアちゃん」 
 

 
後書き
中間テスト初日の登校中のバスの中から投稿! 

 

三十二枚目

「ふみゅ~…」

グレモリー家の応接室。

そこで篝は溶けていた。

「気持ちいいですか篝様?」

「みゅ~…」

ソファーにうつぶせになっている篝の顔はふにゃっとして体からは力が抜けていた。

「えっと…グレイフィアさん?」

「はいヴァーリ様」

「どうやってるのそれ?」

「力の流れを誘導しているだけです」

「力の流れ?」

「はい。万物にある力の流れです。
それを上手く制御し、誘導すれば…」

グレイフィアが篝の翼をそっとなでる。

「ふみゃ~…」

「なるほど…」

「ヴァーリ様は『力の流れ』を認識できますか?」

「うっすらとは…」

「その流れに逆らわず、そして澱んだ場所はほぐすようにするのです」

「こうですか?」

グレイフィアが触っている方と反対の翼をヴァーリが撫でる。

「うみゅ…」

「ええ、そういう事です」

ヴァーリがグレイフィアのレクチャーを受けて篝の翼を弄っていると、やがて寝息が聞こえ始めた。

「あ、寝ちゃった」

「ではここら辺でやめておきましょう。
あまりやり過ぎると括約筋が緩んだりしますから」

「え?それ実体験?誰にやったの?」

濁した言葉の意味を察したヴァーリは、グレイフィアに問いかけた。

「以前夫への仕返しとしてやったら3日ほど拗ねてしまいまして」

言うまでもなく彼女、グレイフィア・ルキフグスの夫とはこの冥界を統べる魔王の一人だ。

「うわぁ…それは…うん…魔王様も大変だね…」

「はい。最終手段です」

ニッコリと笑ったグレイフィアをみたヴァーリは冷や汗を流した。

「え、えぇっと…リーアお姉ちゃん達の話し合いはもう終わったのかな…?」

この部屋には篝、ヴァーリ、グレイフィアしか居ない。

リアス、黒歌、白音の三人は今後の事を話し合うため別の部屋に移っていた。

「恐らくは既に終わっているでしょう。
大筋は篝様が決定されましたから」

なお三人が部屋を移ったのは、篝の翼をもふり続けるリアスを見かねたグレイフィアが義姉として追い出したからだ。

「如何なさいますか?」

「んー…邪魔しちゃ悪いかな。
リーアお姉ちゃんの事だしやることやったら篝の所に来るだろうから、それまでまちます」

side out









side The Lucifer

「私は…父親としても…夫としても…
それどころか、個人としても失格だ…」

雷光が、泣きながら言った。

酒の入ったグラスは、今にも割れそうな程に握り締められている。

「アザゼル、飲ませすぎだ」

「チッ…取り敢えず潰そうと思ったが失策だったか…」

炉の管理人と総督がそんな事を言う。

「肝心な時に…私は…誰も…守れなかった…
私に…存在価値など…父である資格も…夫である資格すらも……」

父として、夫として…

私はミリキャスに誇れる父だろうか。

私はグレイフィアに誇れる夫だろうか。

私はリアスに誇れる兄だろうか。

私は父と母に誇れる息子だろうか。

私は、冥界の全てに誇れる魔王だろうか。

気づけば、目の前に彼が立っていた。

リリンを退けた雷光の息子が。

神々しい光輪と猛々しい翼をはためかせる彼が。

彼は、私にその錫杖を突きつけた。

「テメェは家族を囮にされて平気でいられるか!?
リアスグレモリーやミリキャスグレモリーを…グレイフィアルキフグスを囮にされて平気でいられるのか!
答えろ!サーゼクスグレモリー!」

あのとき、私は彼の逆鱗に触れた。


『あそこに居るのはリリンの孫なのだろう?
ならば奴がまたここに現れる可能性がある。
ちょうどいいエサになるだろう』


私は…彼の家族を見殺しにすると、そう言った。

言ってしまった。

私は…わた…し………は………

side out










「サーゼクス。サーゼクス。起きなさいサーゼクス!」

「……母上?」

グレモリー家の一室。

実家のソファーに深く身を沈めていた魔王サーゼクスは、母ヴェネラナの声に目を開けた。

「貴方がなかなか起きないとは珍しい。
貴方の体は貴方だけの物ではないのですよ?」

「…………ええ、わかっています母上」

憂いを漂わせるサーゼクスに、ヴェネラナは違和感を抱いた。

「何かあったのですか?」

「私は………いえ、なんでもありません…
私が一人で向き合わねばならない事ですから」

「そうですか。ならば私は何も言いません」

プライベートではお調子者なサーゼクスだが、こういった場合は頑固だと、ヴェネラナは知っていた。

「サーゼクス、今日は泊まって行きなさい」

「そうですね…急ぎの仕事はないのでそうします」

サーゼクスは母へにこやかに応えた。

「今日はちょうど例のカガリ・ヒメジマも来ていますから。
彼には冥界の未来を左右するような大役を任せているのでしょう?
魔王じきじきに労ってさしあげなさい」

魔王の笑顔が凍りついた瞬間だった。
 

 

三十三枚目

「お久しぶりですサーゼクス様」

グレモリー家に泊まることになり、夕飯となったのだが、サーゼクスが同席していた。

グレモリー家はサーゼクスの実家だからおかしくはないが、間の悪い事だ。

「久しぶりだねカガリ君。君には期待しているよ」

「感謝の極みでございます」

ヴァーリ達が目を丸くしている…

ったく、俺だって敬語くらい使えるっつの。

黒歌と白音も同席しているが、こっちは特に不思議に思ってないようだ。

「あー。カガリ君。堅苦しいのは嫌いなんだ。
今は単に友人の兄として接してくれないか?」

「そのような畏れ多い事はできません。
ただでさえ私は頭上に光輪を浮かべる者にございます」

サーゼクスの事は、複雑だ。

彼には立場と責務がある。

それを理解している。

あのように言わなければいけない理由もわかっている。

でも…

「ふむ。そうか…ならば仕方ないな」

その後は社交辞令ばかりの会話だった。

メシの味がわからないなんて漫画みたいな事はなかったし、グレモリー家の夕食はとても美味しかった。






部屋に戻ると早速ヴァーリに聞かれた。

「篝ってサーゼクスさんの事嫌いなの?」

「嫌い…いや。どうだろう。魔王サーゼクスが尊敬できる人物だってことは知ってるんだ」

単に、俺の感情論だ。

俺がサーゼクスの立場なら、同じ事をしたかもしれない。

納得はできる。

だが感情が否定する。

理屈や正論は結局綺麗事の暴論なのだ。

「なら…」

「まぁ、今はいいじゃないか」

「そう…」

部屋の外から、バタバタと足音が聞こえた。

バタン! とドアが開かれる。

「ヴァーリ!カガリ!お風呂入りましょ!」

「女の子がはしたないよリーアちゃん」

「なにが?」

「自分の家とはいえ走らないの」

「いいじゃない。私の家よ」

お転婆だなぁ…

「それよりお風呂よお風呂!カガリの翼も洗ってあげるから!」

何故かリーアちゃんと一緒に入る事になってるし…

「俺男OK?」

これ言っとかないとたぶんヴァーリに連れていかれる。

「そんなの気にしないわよ?お兄様のは見たことあるもの」

そういう話じゃねーですよ。

「結婚前に家族以外の男に裸を見せちゃダメだよ」

「いいのよ。子供だもの」

「男女七歳にして…」

「何時も私と寝てるじゃん」

「ヴァーリは妹だから例外」

「篝のバカ」

罵倒された。解せぬ。

「黒歌と白音も一緒よ」

さらに入る訳にはいかなくなった。

「リーアちゃん。リーアちゃんは貴族の女の子。
お嬢様なんだ。いろいろあるでしょ?」

なんつーか…リーアちゃんの裸を見るのは一誠に悪い気がするのだ。

まだ会った事すらないけど、なんか、こう…ね?

「えー…篝の翼…」

やっぱりそれが本音か。

「お風呂あがったらちゃんと触らせてあげるから」

「ぶー…」

可愛いなおい…。










リーアちゃんに連れられてグレモリー家の風呂…というか温泉に向かった。

リーアちゃんの話ではジオティクスさんが日本の露天風呂に憧れて悪魔の建築家に注文したらどこでどう間違ったが西洋宮殿風の風呂になったらしい。

二層にわかれており、上が女性用で下が男用だそうだ。

要するに覗きができないようになっているのだ。

「じゃ、俺は下だな」

昨日はヴァーリが超スタイル良くなっていろいろアレだったので風呂に入っていない。

翼とか諸々、手先が鎧みたくなっているので一人では洗いにくいのだ。

龍人化してからはヴァーリに洗って貰ってたが、昨日はそうもいかなかった。

代わりに超高温で滅却した。

魔方陣の上に踏み入れると高温の炎柱ができるトラップマジックの応用だ。

半龍なので炎へ高い耐性があるのでできることである。

「篝、一人で洗えるの?」

「ん?なんとかするさ」

「んー…ならいいんだけど…」












風呂場に入るとめちゃくちゃ広かった。

おぉー…さすが公爵家…

さて…とりあえず熱で汚れを滅却してから湯船につかるか…

「背中ながそうか?カガリ君」

…………………………。

「なぜ居るんだサーゼクス」

背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには魔王がいた。

「君とは、話したい事があるからね」

「そうかよ…」

まぁ、こっちも、その、なんだ…話したい事があるしな…





ごしごしと背中を擦られる。

「サーゼクス」

「なんだい」

「この前は、わるかったな…
俺も狡い言い方をした」

あのとき。

サーゼクスがヴァーリを囮にすると言った時だ。

「あのとき俺は、『魔王』としてリゼヴィムを追いかけてきたお前を『グレモリー』と呼んだ」

それは卑怯だ。

「あの時お前はヴァーリを囮にするって言った。
たしかに許しがたい。でも魔王としては正しい。
感情を廃し、冷酷に徹するべき場面で、俺はお前の良心を攻撃してしまった」

「君は、優しいな」

「お前もな。サーゼクス」

「私も宴会で、君の言葉を考えたのだよ」

「へぇ」

宴会って事は、父さんやアザゼルといた時か。

「私も君の立場なら激昂しただろう、とね。
私はその強さ故に魔王になった。
だが果たして私は魔王であり続けていいのか…」

そんなにも、追い詰めてしまっていたのか…

「いいんじゃないか?お前の甘さは弱みだが、同時に強みだ。
俺はさ、サーゼクス。お前が優しい奴だってのはまぁ、知ってんだよ。
なんで知ってるかは言えないけど、知ってる。
だから、あの時お前に勝手に失望した」

サーゼクス・ルシファーというキャラクターは俺のお気に入りだった。

「してくれて構わないさ。
失望されるだけの事を言ったのだから」

「失望したけど、ソレを認めたくない俺もいたんだよ」

「はは…私も所詮は個人なのだよ。
魔王だなんだ言われていてもね」

魔王も、悩むんだな。

サーゼクスが背中を擦るのをやめ、お湯をかけた。

「おれもお前の背中流そうか?」

「是非とも頼んだ」

警戒心無さすぎだろ…

場所をかわり、スポンジでサーゼクスの背中を擦る。

腕が直接当たらないよう注意しながらだ。

「サーゼクス。もし俺がここでお前に光の槍を突き刺したらどうするつもりだ?
俺はお前に悪感情をいだいているんだぞ」

「『もし俺が』と言っているじてんでしないだろう。
それに、君がリーアが悲しむような事をするとは思えない」

そうきたか。

「君は親しい者のためなら命を投げ出せる漢だ。
親しい者を悲しませる事をするような者でないと私は確信している」

なるほど。リーアちゃんが信頼する俺を信頼している…という事か。

「そうか…」

ごしごしと背中を擦る。

大きな背中だ。

ルシファーとして、四大魔王の中でも議長として動く男。

「カガリ君。君はバラキエルをどう思っている?」

「どうって?」

「君は父親を誇りに思っているか?」

いうまでもない。

「誇れる。だから、父さんに誇れる息子になりたい。
手の中の全てを守れるほどに、強く」

「そうか…。カガリ君。あのときバラキエルは間に合わなかった。それでもか?」

「サーゼクス。それ以上言うなら本当に光の力で貫くぞ」

「すまない。ただ、もし私がバラキエルの立場で、間に合わなかったらと考えてしまう。
妻を、息子を、妹を、両親を、守れなかったら、自分はどうなってしまうのだろうかと」

「ふーん…」

確かに、あと一歩遅かったら、そう考える事もあった。

「サーゼクス。グレイフィアさんを信じてやれよ。
お前が認めたパートナーは、お前に守られるだけの女じゃぁないんだろう?」

「くく…そうだね…」

指をパチンッ!とならして、サーゼクスの頭に冷水をぶっかける。

「冷たっ!?氷水!?」

「あの時の言葉の仕返しだ」

「ささっさ寒い!?」

「そんなにお湯がほしいか?」

もう一度指をならし、熱湯をぶっかけるとサーゼクスがのたうち回る。

「じゃ、俺は気が済んだから湯船に浸からせてもらうぞ」













俺が湯船に浸かり、遅れてサーゼクスが入ってきた。

「今度セラフォルーに頼んでお前のリアクションを撮影してもらおうか」

「やめてくれ…魔王の威厳がなくなる」

ふと、思った事がある。

「サーゼクス。お前、息子はどうした?」

「君と話したかったからね。
今はグレイフィアと遊んでいるだろう」

「そ」

「ところでカガリ君」

「んだよ」

「その龍の体、不便じゃないかい?」

「まぁ、な」

確かに時々つっかえる。

「提案がある。京都に行ってみないか?」

「What?」
 
 

 
後書き
いぃぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉう!三週間ぶりの休み(1日だけ)だぜぇ!ひぃぃぃぃぃやっはあぁぁあぁ! 

 

三十四枚目

夜9:00

「本当に来ちゃったよ京都」

しかも転移で。

「どうしたの篝?」

と俺を抱き抱えたヴァーリが言った。

「なんでもねぇよ…」

「にゃー?」

「お?どうしたんだい黒猫ちゃん?」

ジュスヘルが抱く黒歌が鳴く。

「じゃ、旅館行くぞ。篝、ヴァーリ、ジュスヘル、黒歌ついてこい」

アザゼルが先頭をあるきだす。

「ちゃんと認識結界張ってあるよな?な?」

「心配しなくてもお前の翼と尻尾は見えてないよ」

ならいいのだが…。



旅館に着くと、先頭がアザゼルからジュスヘルに変わった。

「失礼するよ女将」

「おぉ?ジュスヘルじゃないかぁ!何百年ぶりだい?」

「六百年かな?」

と旅館の女将(雪女…?)とジュスヘルが会話を始めた。

「それで今日はどんな用向きなんだい?」

「ちょっと堕天使の子供が大変でね。八坂の力を借りようと思ったのさ。
あの狐には貸しが幾つかあったからね」

そう言って、ジュスヘルが俺を示した。

「どうも。姫島篝といいます」

「これは確かに大変だ」

女将はカラカラと笑った。

「ま、八坂様がなんとかしてくれるから、坊やは安心しなさい」

「はい」











「失礼するよ八坂」

「ジュスヘル…久しいのぅ」

お座敷に通され、ジュスヘルが戸を開けると、先方は先に来ていたようだ。

中から声が聞こえる。

「八坂、お前には幾つか貸しがあっただろう?」

「何時の話だと思っておる…」

「まぁ、悪い話ではないさ。篝、入れ」

ジュスヘルに呼ばれ、お座敷に入る。

先方は、狐だった。

それも九尾。白面金毛九尾御前だ。

「お初にお目にかかります。私は…」

「ジュスヘル?」

「なんだ八坂」

「まさかこの混沌の面倒を見ろという話ではあるまいな?」

「変化を教えてやって欲しい。こいつは家族の為にその身を差し出せる奴だ」

「ふむ……」

「それにだ」

「む?」

「お前の娘には同年代の友など居るまい?
ちょうど良いと思うが?」

「そうくるかジュスヘル…」

八坂さんが俺を見た。

見られた。視線で貫かれた。

「名を、名をなんという?」

「姫島篝です」

「姫島?姫島…面白い。よかろう変化じゃな?」

面白い?何が……あぁ…『姫島』だもんな…

「一応、注釈を。私は姫島本家に連なる者ではありません。
むしろ、本家とは敵対しています」

「で、あろうな」

八坂さんはジュスヘルに視線を移した。

「総督は来ておるのか?」

「アザゼル」

「ほいほいっと」

アザゼルも座敷に入ってきた。

「姫島と堕天使の子に関しては引き受けた。
じゃが、総督殿がおるのは好ましくない。
総督殿ほどの力ある『光』があっては我等裏京都の者も安心できぬ」

「お、すまないなぁ、九尾の御大将。
じゃ、俺ぁここら辺でおいとまさせてもらうぜ」

アザゼルは空間転移で旅館から消えた。

「では篝とやら、今日はもう遅い。ここに部屋を取っておる。
ジュスヘルと同室じゃが我慢せよ」

「あー、八坂。悪いけどあと二人居るんだ」

「なに?」

「ヴァーリ、黒歌」

今度は黒歌を抱いたヴァーリが入ってきた。

「明星…?」

「の曾孫です。私はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファーといいます。
こっちは黒歌、猫又です」

「にゃおん」

「どうせ貸し切りじゃ。好きにせよ」
 

 

三十五枚目

 
前書き
千文字ちょいなら投稿できるっぽい。
 

 
そうして、女将に部屋へ案内してもらった。

部屋はヴァーリ、ジュスヘル、黒歌と同じなのだが…

「なぁジュスヘル。やっぱり女将に頼んで俺別室行こうか?」

部屋はそれなりに大きい。

子供ならあと二三人増えたところで問題ない位だろう。

「遠慮するなよ篝。私とお前の仲だろ?」

「やめろ誤解を招く言い方をするな」

「なぁに『た・だ・の』教師と生徒の関係だろ?」

たしかに例の結界を教わったが…

「何故『ただの』なのに厭らしいニュアンスがあるのだろうか…」

日本語って不思議だよなぁ…

「もうっ! 篝は私と同じ部屋が嫌なの!?」

「嫌じゃないよ? 嬉しいよ? でもね、落ち着かないの。
お前もジュスヘルもそんなワガママボディひっさげやがってよー」

「なんで? 篝も男の子ならこういうの好きでしょ?」

ヴァーリが胸を持ち上げる。

「やめなさい。俺は男なの。狼なの」

「えー、じゃぁおそってよー。『きせーじじつ』つくろうよ」

「お前意味しってんのか?」

「『きせーじじつ』作ったら結婚できるってグザファンがいってた!」

グザファン何教えちゃってんの?

「あ!忘れる所だった!」

「ん?どうしたヴァーリ?」

ヴァーリが荷物をごそごそと荷物をひっくり返し、二枚の紙を取り出した。

それは折り畳まれた五センチ四方の紙で…

「…………おいヴァーリ。その召喚印をどうする気だ」

「え?使うけど?」

ヴァーリが二枚の紙を広げ、床に置いた。

「来たれ赤髪の姫よ!雷光の魔天使よ!」

召喚印が輝き、二柱の悪魔が召喚された。

「もうっ!遅いわよヴァーリ!」

「あまりヴァーリちゃんを責めてはいけませんわリアス」

リーアちゃんと姉さんだった…。

「久しぶりですね、篝」

「さしぶり、姉さん」

天使堕天使の会談以来だ。

姉さんが帰って来ないのは父さんとの事だって予想はつくが、やはり寂しくは思っていた。

「姉さん。一個きいていい?」

「どうしましたか?」

「この件サーゼクスは…」

「貴方がどういう経緯でサーゼクス様を呼び捨てにするのかは置いておいて…
貴方の思う通り、全く知らない筈です」

やべぇ、これグレモリー家が大騒ぎになるやつじゃん…

サーゼクスの通信用印章紙もってねぇ…

仕方ないか…

とゆう訳でセラフォルーの通信用印章紙を取り出す。

裏に現在の事情を書いて、魔力を流す。

ポゥッと発光して、印章紙が消えた。

「これでよし」

明日にはグレイフィアさん辺りが迎えに来てくれるはずだ。

その後リーアちゃんは怒られるだろうけど…まぁ、俺は関係ないか。












※ヴェネラナさんに後でしっかり怒られました。
 

 

三十六枚目

風呂に入る事になった。

勿論男女別れてだ。

「はふぅ…」

風呂は好きだ。

一人で入ればゆっくりできる。

数人で入れば仲が深まる。

「ん? だれかはいっておるのか?」

え? 誰?

「まぁ、よい。はいるぞ」

入ってきたのは、俺より更に小さい女の子だ。

金髪で、狐耳と狐尻尾……。

あ、この子って確か……。

「んー? 初めて見るのぅ」

「君は……」

「九重は九重という! お主は雷光の『娘』の篝であっておるか?」

「あ、あぁ、俺は篝で合って……」

ん? 今コイツ娘って言わなかったか?

「ま、待て! 俺は!」

「ん? 話なら後で聞こう。せっかく母上がお主と親睦を深めるようにと男湯を貸し切ってくれたからの」

もしかして八坂……

悪戯にしては悪質すぎるぞ…!

もし俺が九重に手を出したらどうするつもりなんだ…!

ん? それとも俺が九重に手を出すような奴なら追い払う気で……って無いか。

体を洗う九重の後ろ姿を見る。

うん。さすがにあの体に欲情すんのは無理。

思考を巡らせていると、隣にチャポと九重が入ってきた。

「く、九重。近い」

「母上にお主と仲を深めるよう言われておる。九重も同年代の友達が居らぬからうれしいのじゃ!」

成る程ねぇ……。

「ところで篝」

「なんだ九重?」

「その羽はどうなっておるのか見てもいいかの?」

「いいよ」

九重に背を向け、翼を広げる。

二対四枚の龍天使の羽だ。

悪魔と堕天使はともかくこの四枚隠せない。

「はわぁ…! さわってもいいかのぅ?」

「いいよ」

九重は嬉しそうに俺の羽に抱きついた。

「もっふもふなのじゃ! 母上の尻尾にも負けず劣らずじゃ!」

それは嬉しい事を聞いた。

九重は一通り羽を触って満足したのか、手を止めた。

「篝。九重ばかり触ってはずるになる。篝も九重の尻尾をさわってもよいぞ!」

九重が背を向けて立ち上がる。

色々見えてるので、羽でそっと湯船に浸からせる。

「俺も触りたいけどねぇ、この手だからさ」

九重に、龍の手を見せる。

鎧のような腕だ。

「むぅ…残念じゃ…。しかし篝は変化を習いにきたのであろう?」

「そうだよ。俺は人間だけど、この体じゃ不便だろうって魔王様がね」

「ふーん…」

九重が頤に手を当てて考え込む。

「よし! 篝よ! 良いことを思い付いたのじゃ!」

「なに?」

「九重の尻尾を触りたいと思うのじゃ! 九重を傷付けず触るにはヒトに変化するほかない!」

「成る程?」

ぴょこっと九重が尻尾を俺に向ける。

「さぁ! やってみるのじゃ!」

目の前には、九重のモフモフの尻尾…。

右手をだして…止める。

触りたい…けど龍の腕じゃダメだ。

傷付けてしまう…!

だから…だから!

「この手が戻らなければ…九重の尻尾を触れない…!」

手が、縮んでいく。

龍の手が、縮んでいく。

刺々しい凹凸が消え、滑らかなシルエットへと変貌する。

やがて、色が変わった。

銀色から、肌色へ。

「や……やった! 変化できた! 人間だ! 人間の腕だ!」

左手も、人間の腕にする。

「く、九重! 本当にさわってもいいか!? 九重のモフモフの尻尾触ってもいいか?」

「勿論じゃ!」

九重の尻尾に、触れる。

ふわふわして、柔らかくて、モフモフだ。

最上級のシルクように滑らかなで、金糸のように輝いている。

「んぅっ…」

「ご、ごめんっ! 痛かったか九重?」

「全然! 篝のさわりかた、優しくて気持ちいいのじゃ!」

「そりゃよかった…」

しばらく九重の尻尾を堪能した後、今度は全身変化をしてみる事にした。

感覚は掴めた。

あとはやるだけだ。

「変化」

肩甲骨が、むずむずする。

翼と尻尾が、縮んだ。

脚も龍の脚じゃなくなった。

首の鱗も肌に沈んだ。

髪は銀のままだが、まぁ、仕方ない。

「やった! やったぞ九重!」

立ち上がり、九重とハイタッチする。

「ん?」

九重の視線がなぜか下へ…………………。

あ。

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

一つだけ言っておく。

俺は悪くねぇ。 

 

三十七枚目

「あっはっはっはっはっは! 愉快愉快!」

「母上!」

あの後、駆けつけたジュスヘル達に訳を話すと、ジュスヘルに連れられて八坂(敬称なんてつけてやるもんか)の部屋に向かった。

「八坂、悪戯が過ぎるぞ」

「なぁに、ちょっとしたサプライズだ。それにどうやったかはともかく混沌も変化を覚えたようだし結果オーライだろう?」

そうだけどもぉ…。

「まぁまぁ、そう怒るな九重」

「ぅー……九重は汚されてしまいました!」

女性陣からの視線が痛い…!

「待て! 俺は尻尾の先を触っただけだ疚しい事は何もないぞ!」

「いえ、そこは心配していません。篝が奥手で恥ずかしがり屋のチキンなのは皆知っていますから」

「酷くない!? ねぇ酷くない姉さん!?」

「ぅー………篝! 償いをするのじゃ!」

「えーと…小指詰めればいいですか内臓ですか?」

「翼を触らせろ! 今夜は九重の布団になるのじゃ!」

あー、はいはい。そういう事ね。

って汚されたとか言ってる割に一緒に寝るのは良いのかよ…。

まぁ、モフモフの抱き枕とでも思うか…。







部屋に戻ると人数分の布団が敷かれていた。

「モフモフなのじゃ!」

早速九重に羽をねだられた。

「んー…部屋狭くない?」

「狭くないよ。篝とくっつけるし」

「そうね、カガリの羽を触れるもの」

「………………………」

ヴァーリとリーアちゃんはOKみたいだ。

姉さんは無言で羽をモフっている。

ジュスヘルは部屋のすみで黒歌といつの間にか来ていた白音(リーアちゃんが召喚したようだ)を膝の上に乗せて撫でていた。

平和だ…。

「カガリ、明日は何処にいきましょうか?」

「んー? 街に出るの?」

「当たり前じゃない!」

リーアちゃんは元気だなぁ…何か良いことでもあったのかな?

「キョートよキョート!」

あ、そっか。この子こんなノリなんだ。

道理でソワソワしてる訳だ。

ふむ…リーアちゃんくらいの年で楽しめるスポット…………。

あ、そうだ。

「んー…九重」

「なんじゃ篝?」

「明日映画村行ける?」

「行けるが……映画村? 鹿苑寺や慈照寺ではなく? 清水寺も行かんのか?」

「んー…リーアちゃんがもうちょっと大人だったらそのチョイスもいいけどねぇ」

「もうっ!カガリ!私は大人よ!」

「ムキになってる時点でリアスはまだ子供ですよ」

「朱乃まで!」

リーアちゃんは可愛いなぁ。

プクって頬を膨らませている。

おっとこんな所に魔王印の小型カメラが…。

後でサーゼクスとの交渉道具にしよう。

「映画村行こうよリーアちゃん。お姫様の着物あるよ」

「ほんとう!?」

「うん」

「行く! 行ってみたいわ!」

「だそうだよ、九重」

「うむ。映画村じゃな。まぁ、よかろう」

俺は忍者でもやろうかな…。

「ふぁ…。もう十時だよ。そろそろねよ?」

欠伸をしながらヴァーリが言った。

体はデカくなったが、まだ中身に引っ張られている。

そこは可愛い。

体は可愛くねぇけど!

布団に入ると、隣に九重が潜り込んできた。

そういえばそうだったな…。

翼で九重を包み込む。

「おやすみなさい。九重」

「うむ………おや…す…み……」

くぅ…くぅ…と寝息をたて始めた九重。

頭を撫でるとくすぐったそうにかぶりをふる。

「ぬくい」

温かいぬくもりを抱き、暗転した。 

 

三十八枚目

「すごいわ! 時代劇みたいよ! 見てみてSAMURAIよ!」

「あー。うん。ちょっと落ち着こうねリーアちゃん」

今にも飛び出しそうなリーアちゃんの後ろ襟を掴んで止める。

「はぐれたら面倒だから、取り敢えず全員に羽を渡しとこうと思う」

リーアちゃん、ヴァーリ、白音、黒歌、九重、姉さん、ジュスヘルに羽を渡す。

「なんで? みんな一緒に動くんじゃないの?」

まぁ、そうなんだけどね。

九重、白音、黒歌、ジュスヘルの四人は羽を懐に入れた。

四人は着物だ。

「じゃ、先ずは衣装借りに行こっか」







衣装一覧を見ながらリーアちゃんがかなり悩んでいた。

「どうしたの?」

「カツラつけた方がいいかしら…」

「んー…。リーアちゃんの髪綺麗だし着けない方が映えると思うよ?」

「そう? うふふ…。じゃぁこれにするわ」

リーアちゃんが衣装を選んで受付の人に伝えた。

「篝ー。篝は着替えないの?」

「ん? どうしようかなー…」

振り向いた先には振袖若衆の格好のヴァーリがいた。

「ばか野郎。真剣差すな。レプリカに取り替えてこい」

その腰の刀はいつぞやアザゼルがヴァーリに買ってやった物だ。

「えー! いいじゃんいいじゃん! せっかく出したんだから!」

ぷぅ、って頬を膨らませている。

「はぁ…しょうがないか…ん?」

ヴァーリの背後を見ると、白音と黒歌も着替えていた。

忍者だ。

「ふふん。これで少年を誘惑するにゃん!」

俺の両隣に黒歌と白音が抱きつく。

ちょっと君達? なにしてんの?

「可愛い猫に囲まれてご機嫌だね。篝」

「ん?うん」

悪い気はしない。俺も男だし。

「じゃぁ篝の衣装は殿様で決定だな。美人クノイチを侍らせるわるーいお殿様だ」

いつの間にかジュスヘルが後ろに居て、あれよあれよという間に着替えさせられた。

少ししてリーアちゃんも出てきた。

「ねぇねぇ篝! どう? 似合ってる?」

「うーん……なんかなぁ…」

「似合ってない?」

似合ってない。着物の赤がリーアちゃんの紅い髪に負けている。

「着物がリーアちゃんに負けてる気がする。
リーアちゃんが着物を着るならもう少しちゃんとしたの着た方がいいかも」

「そ、そう?」

「うん。ま、でも今日くらいは着物に慣れるって事でいいんじゃない?」

サーゼクス辺りに言ってみようか。

俺も見てみたいしな。

「とっところで朱乃はどうしたの?」

「あっちで九重をモフッてる」

九重は姉さんの膝の上でふにゃっとしてた。

姉さん撫でるの上手いもんなー。

つか姉さんいつの間に巫女装束着たのん?

「あらあら、随分かかりましたねリアス」

「しかたないじゃない」

「そうですね。それに篝に褒められて嬉しかったですか?」

「そうねっ! 私だもの! 似合ってとうぜんよっ!」

「いえ、篝に褒められ」

「そ、それより早く廻るわよっ!」

照れてる。かわいい。

「はいはい」












お化け屋敷やら忍者屋敷やらを廻って、お土産も買った。

平服に着替え直したリーアちゃんが模造刀を抱き抱えている。

映画村を出て、駅まであるく。

「ふー。たのしかったわ!」

ご満足そうでなにより。

「左様ですか。ではそろそろ帰りましょうお嬢様。お父様とお母様が心配して居られましたよ」

「!?」

リーアちゃんがバッと振り返るとグレイフィアさんがたっていた。

いやまぁ、途中から気づいてはいたけどね。

「ぐ、グレイフィア!? なぜここに!?」

「昨日カガリ様がセラフォルー様経由でサーゼクス様にご連絡くださったからです」

リーアちゃんから睨まれた。

でもしかたないじゃないか。

放置してたら最悪の場合俺の首がスッパーンだからな。

「ぅー…」

「リーアちゃん。京都ならまた来ればいいんだよ。ね?」

「はぁ…。わかったわ…かえるわよ…。朱乃、白音、貴方達はもう少しカガリと居てあげなさい」

「ええ、そのつもりですわ」

「わかりました。リアス様」

リーアちゃんがグレイフィアさんに連れられて行った。

「グレイフィアさーん! 今度はミリキャスもつれてきてあげてくださいねー!」

グレイフィアさんが振り返ってひらひらと手を振った。

「これで面倒なお姫様は居なくなったにゃ。ねぇねぇ近くのラブホでしっぽりしにゃーい?」

と黒歌に後ろから抱きつかれた。

「お前がダイナマイトボディを取り返したら考えてやろう」

「酷いにゃ! 私は悪くないにゃ!」

「うるせぇ三味線にすんぞ」

「み”ゃ!?」

黒歌が飛び退いて、姉さんにうしろから抱かれた。

「あんまり虐めてはいけませんよ篝」

黒歌をあすなろ抱きにする姉さんが咎めるように言った。

「いやこいつ本当は年上だから大丈夫。何れだけ虐めても良心は痛まない」

クイクイと九重に袖を引かれた。

「篝、御主サディストとかいう奴か? 」

「Mではないと思いたい」

でもなー。俺父さんの子供なんだよなー。

あの人ドMだしなー…。

「あら、篝はマゾの素質はあるはずですよ?
何せおと……いえ、翼を撫でられている時の顔は嗜虐心をくすぐりますし」

「ヴァーリー。俺姉さんとのつきあい方考えた方がいい気がしてきた」

「篝のトロ顔かわいいと思う」

ブルータス……。

「九重ー。後でその尻尾で俺を癒してくれぇー…」

「篝なら好きなだけ触ってよいぞ! 篝は九重の友達じゃからな!」

天使や…天使がおる…。

「篝様」

「ん? どうした白音?」

「わ、私ももふもふしていいですよ?」

「おー? なんだ? さみしいのかー?」

頭を撫でてやるとふにゃっと笑った。

今日は九重と黒歌と白音をモフろう。








旅館に着くと何故かツナギ八重歯金髪合法ロリのグザファンがいた。

「おせーぞ篝」

「なんで居るのグザファン?」

「アザゼルの遣いだよ」

うわっ、嫌な予感。

「大使としてのお前にグリゴリから部下をつけるそうだ。
直ぐに顔合わせさせたいらしい」

「つまり直ぐに来いってこと?」

「そうだ」

マジかよファック。

「はぁ…しょうがない…」

黒歌の後ろ襟を引くと、猫化した。

左手に黒歌を抱え、右手にカンヘルを召喚する。

「じゃぁ俺と黒歌はグリゴリ行ってくる。ジュスヘルあと宜しく」

「はいはい」

「それじゃ…いくぞセルピヌス!」

『【ロスト】』 

 

三十九枚目

「おう。来たか篝」

グリゴリ本部のエントランスに飛ぶと、アザゼルが出迎えた。

「アザゼル…お前直々に出迎えないといけないくらい人員いないのに俺に着ける余裕なんてあるのか?」

「まぁ、それはそれこれはこれだ」

アザゼルの後をついていくと、何故かエレベーターで地下へ地下へと潜る。

「アザゼル?」

「どうしたぁー?」

「このしたって懲罰房だろう?」

「ああ、そうだな」

「おいまさかヤベェ奴を押し付けようってんじゃないよな? だったら帰るぞ」

「ヤベェ奴……ではないな。出世欲が少しつよすぎるが、お前ほどの地位ならあいつらも黙って従うだろうさ」

「地位? 俺に地位なんて有ってないような物じゃないか」

大使なんてのは名ばかりの肩書きだ。

「大丈夫大丈夫。お前たちの序列は幹部級にしておいたから」

「仕事押し付ける気満々かよ!?」

エレベーターから降り、ある懲罰房の前で止まった。

「いよう。出世欲溢れるお前達にちょうどいい上司を与えてやろう」

牢が開き、出てきたのは三柱の堕天使だ。

「篝。コイツらを好きに使っていいぞ」

「え、あー。うん。わかった」

目の前の堕天使三柱。

見た事がある。

「レイナーレよ。貴方が幹部級である限り私達は全力で仕えるわ」

「あー。うん。よろしく。レイナーレ、カラワーナ、ミッテルト」












「ふーん……で? 篝はまた女の子を連れてきたんだ?」

取り敢えず三人には領地の屋敷の管理をさせようと思い、ベネムネに撫で回されていた黒歌を拾ってロストで飛ぶとヴァーリが先に来ていた。

エントランスの先の階段の手摺に腰かけている。

「いやそうじゃなくて、本当、ただの部下だよ」

「へー?」

「ちょっと私達の前で痴話喧嘩しないでくれる? さっさと仕事寄越しなさいよ」

「篝? 部下はちゃんと教育しないとダメだよ?」

「後でやるよ……」

取り敢えず…。

「お前達先ずは着替えてこい。黒歌もな」

「うにゃ?」

「ドレスルームだよ」

「あー…言ってた所かにゃ?」

「おう」

「私もなのかにゃ?」

「もちろん」

「はぁ……しょうがない。ついてくるにゃ」

黒歌が三人を連れて出ていった。

「それで? アザゼルは何て言ってたの?」

「どうも奴ら手柄欲しさにアザゼルの研究室に侵入したらしい」

「手柄? それじゃぁ犯罪になっちゃうんじゃない?」

「人造セイクリッドギアで悪魔と一戦交える気だったんだとさ」

「あ、あぁ…成る程…」

「そういう訳だから、あいつらにはドラグーンピースを渡そうと思う」

掌に駒を顕現させる。

龍を象った駒で、その色は赤でなく緑。

カンヘルの力によって強制的に変異した駒。

「うーん…取り敢えずポーンでいっか」

ポーンの駒を三つだけ残し、残りを異空間に放り込む。

「ねぇ、篝」

「どうしたー?」

「私は篝のクイーンには足りないの?」

ん? クイーン?

「え? 何? どういう事?」

「篝がイーヴィルピースを使えるようになってから4日経つけどさ。篝は私にクイーンになってくれって言ってくれないんだね」

「なんで? クイーンなりたいの?」

「篝は嫌?」

「うん。俺はヴァーリを縛り付けたくないんだ。
ヴァーリはきっと強くなる。強い仲間だってできる。
その時に邪魔になるのは俺が嫌だからさ」

ヴァーリは俺になついてくれている。

ずっと一緒に過ごしてきた。

ヴァーリは、俺にとって妹のような存在だ。

でも…

「ヴァーリ。そろそろ兄離れした方がいいんじゃないか?
俺は男でお前は女だ。いつまでもこうとはいかん」

「ふーん…」

ヴァーリが凄く悲しそうな顔をする。

俺だってヴァーリとは一緒に居たいさ。

でもそうはいかない。

「ねぇ、篝」

「なんだ」

「面倒な事は置いといてさ、篝は私といたいんでしょ?
『こうとはいかん』って、篝も今のまま、こうありたいって事でしょ?」

「ああ、そうだよ」

「じゃぁそれでいいじゃん」

「いや…その…ね?」

ぶっちゃけるとヴァーリが超絶美人になってから近くに居るのが気まずい。

うん。あーだこーだ言ってる自覚はある。

「篝」

「なに?」

「私ごちゃごちゃ言っていつまでもくっつかない漫画とか大嫌いなの。
ほら、篝の持ってる小説のヒロインもそんな事言ってたじゃん」

ダメだこりゃ。梃子でも動かん。

「はぁ…。わかったわかった。俺のクイーンはお前にするよ」

「…………はぁ」

ため息つかれた。なんで?

カツカツとヴァーリが歩いてくる。

「ねぇ? 篝ってバカなの?」

「えぇ…?」

目の前でピタリと止まった。

俺より数十センチ高いその身長をぐっと屈めた。

ぎゅぅっとだきしめられた。

「篝。好きだよ。愛してる」

ん━━━━━━━━━━━…………………?

「私は篝が好き。篝を守りたい。篝に守って欲しい。篝のために戦いたい。篝の隣で戦いたい。篝に全てを捧げたい。篝の全てが欲しい」

耳元で囁かれた。

「ごめんちょっと待って。思考が追い付かない」

「ねぇ、ここまで私を落としといて放置なの? また新しい女の子を落とすの? 無自覚なの? ジゴロなの? バカなの?」

おっといきなり罵倒になったぞー。

「いや…その…そんなつもりはなかったです…はい」

「女の子はいつだって自分を助けてくれる王子様を待ってるの。
ねぇ、私の王子様。あのときリリンをやっつけてくれたとき、最初に私のために怒ってくれたとき。
不謹慎にも私は嬉しかったの」

「そっか…」

そうなのか…。

「ねぇ、篝。こんな重い女の子は嫌?」

嫌なわけ…ないじゃないか。

「嬉しいよ。とっても嬉しい」

ヴァーリの事はずっと見てきた。

ずっと側に居た。守ってきた。

「俺はヴァーリが好きだ。でもそれはただの家族愛かもしれない」

「うん」

でも、それでも。

「そうだな…うん…」

ヴァーリに答えるように、同じ人のセリフを引用する。

「お前を好きになる努力を、したいとおもう」

「ありがとう。篝」










蛇足。数日後の話。

『お前を好きになる努力をしたいとおもう』

「言うねぇ!」

「うるさい。あとそのボイスレコードは何だ。消せアザゼル」

「やーだね。せっかく黒歌が渡してくれたんだ暫く酒の肴にさせてもらうぜ」

こそこそ逃げようとした淫乱ロリ猫の後頭部にエネルギー弾をぶち当てる。

「OK。戦争がしたいんだな?」

「おいおいサーゼクス達まで敵に回すのか?」

「なんだと?」

「サーゼクスとセラフォルーには黒歌が、八坂と九重にはジュスヘルが送ったぞ」

「黒歌!」

「きゃー犯されちゃうにゃー!」

「ジュスヘルはどこだ一発殴ってくる」

「さぁ? 今頃八坂の所じゃねぇのか? 戻ってきてからこっち入り浸ってるみたいだぜ」

このあと方々を殴って回った。

なお、父さんの無言のグッドサインが一番イラッときた。 
 

 
後書き
この展開予想してた奴挙手。 

 

四十枚目

セラフォルーが建てたこの館にはバカデカイ書斎がある。

今日はヴァーリだけがアザゼルに呼ばれていたので、俺は書斎で術式を編んでいた。

「ミッテルト。三番四段目右から四つ目取って」

「ちーっす」

ミッテルトから受け取った資料を元に古文書を読み解く。

今研究中の物にどうしても必要な物なのだ。

「ご主人様ー。暇なんすけど」

脚立に乗ったミッテルトがパタパタと脚をふる。

メイド服のミニスカートがめくれて中のかぼちゃパンツが露になる。

「ん? そこら辺の本でも読んどけ。為になるぞ」

「いや、読めないっす」

「はぁ? お前も龍魔天使だろうが。読め」

「えー…」

悪魔になったならば、如何なる言語も理解できる。

ただ、理解できるから読める訳でもないのが古文書やら魔導書というやつだ。

「あのねぇ、お前プロモーションしたらビショップだろう?」

「それっすよ。なんでアタシらポーンなんすか。一番の雑魚っすよ?」

「バカか。ロストで送り込んで一瞬でプロモーション出来る」

「えー…アタシ後衛…」

「光の槍術使いじゃなかったのか?」

「ジャベリンだし!」

「まぁどっちでもいいけど」

「きー! ムカツクっす! そりゃご主人様は幹部級なんすから強いのはあたりまえっすけど! アタシらだって四枚羽なんすよ!」

「あ、俺十枚」

「んなこたぁしってるっすよ!」

「いいじゃん…つかお前らも龍魔天使の翼入れたら六枚だろ?」

翼の数は力の度合いそのものだ。

ミッテルト達三人は下の上から中の下。

今となっては貴重な動ける中級堕天使だ。

戦争で主力を失い、幹部としたっぱだけになったグリゴリ。

アザゼルが三人を消さなかったのはそういう理由だろう。

「そうっすね…でも使ったら服が破けるのどうにかならないっすか?」

「?」

服が破ける?

「新しいメイド服にはちゃんと翼と尻尾用のスリットが入ってるはずだが」

三人が初めて龍魔天使になった日、せっかくのメイド服が破れたのでセラフォルーに頼んだのだ。

俺も確認した。

「え? なんすかソレ?」

「試しに今やってみ」

ミッテルトが脚立から降りて、脚を肩幅に開く。

「リベレイション!」

ミッテルトの背部にバサリと爪のある純白の翼が広がり、腰から尾が伸びる。

そして幽かな光を放つエンジェルハイロゥが浮かんでいた。

服は全く破れていない。

きちんとスリット部分から出て居るようだ。

「わっ本当にやぶれてないっす」

「だろう?」

ミッテルトがクルリと体を回す。

「ま、暫くそのままで慣れろ」

「うぃーっす」

そのあとミッテルトは小説を読み出した。

小一時間ほどして、ミッテルトは小説を読み終えたらしい。

「ご主人様ー」

「なんだー」

「今はどんな魔法作ってるんっすか?」

「んー。エロい触手を召喚する魔法」

「ぶふっ!?」

「冗談だよ冗談」

「はぁ…びびったっす…」

「ま、そんな魔法あってもお前には使わないよ。
そんな貧相な体辱しめた所でねぇ…」

「はずっ…ご主人様ド変態っすか!?」

「んー? ふつうじゃね?」

「はぁ…。で、本当は何を作ってるんっすか」

「お前らがアザゼルの所からぱちろうとしたやつの一つさ」

「疑似セイクリッドギアっすか?」

「ああ」

いま書いているのはそれに仕込む術式だ。

名はルガーランス。

万象を貫く雷の槍………になるはず。

ミッテルトに術式の内容と陣を見せる。

「うへぇ…訳わかんねぇっす」

「だろうね」

俺はサハリエル先生やジュスヘルに術を習っている。

それは月の真理だったり妖術の奥伝だったりが含まれる。

そのあとミッテルトと色々駄弁った。

そんな折だ。

部屋の中に魔方陣の輝きが生まれた。

「カガリ。迎えに来ました」

それは眼鏡をかけた少女だった。

「ソーナ、わざわざ来なくても印章紙で知らせてくれればいいのに…」

「お姉様がそうしろと」

セラフォルーが?

「まぁ、いいや。で? 魔王からオーダー?」

「はい。詳しいことはあちらで話したいとの事です」

「了解。じゃぁ、すぐ行くよ」

ソーナがミッテルトにめを向けた。

「どうしたんっすか?」

「貴方…カガリの駒ですか?」

「ポーン一個っすよ」

「これほどの堕天使をポーン一つで……」

「ドラグーンピースについてはセラフォルーから聞いてないか?」

セルピヌスの力の影響で、もんのすごい強化されてるっぽい。

「聞いていますよ。なんでも主に逆らう駒だとか」

いやそれ俺が悪いんじゃないから。

「ミッテルト、来るか?」

「行くっす。どうせ暇っすから」

椅子から立ち上がり、カンヘルを召喚する。

『【アポート】』

今着ている半袖半ズボンから、ゆったりしていてかつ背中が大きく空いたワンピースに着替える。

「解放」

押さえ込んでいた物を顕す。

三本の角。鎧のような龍の四肢。背中を走る鱗のライン。尾てい骨から伸びる尾。二対の翼。輝く光輪。

「じゃ、セラフォルーの所行こうか」

『【ロスト】』 
 

 
後書き
あの三人のなかでミッテルトが一番なつきそう。
あと口調がわからないからミッテルトは後輩口調だけど勘弁してください。 

 

四十一枚目

セラフォルーの所に転移すると、サーゼクスとベルゼブブ様がいた。

出た場所は会議室のような場所だ。

「御初にお目にかかりますアジュカ・ベルゼブブ様。
頭上に光輪を浮かべての謁見どうかご容赦ください」

「構わない。そんなに畏まる必要もない。それとも俺は君がからかうに値しないか?」

「いえ、からかおうなど畏れ多い事です」

「どういう事かな少年? 私やサーゼクスちゃんはからかってもいいの?」

「………………………ふっ」

「っはっはっはっはっ! 面白い子だ。セラが気に入ったのもわかる。
さてカガリ君。仕事の話だ。掛けてくれ」

ベルゼブブ様が指差す椅子に座る。

両隣にミッテルトが座り、ソーナは退室した。

「来てもらった理由はこれだ」

モニターには<聖剣計画>と書かれていた。

「教会では悪魔に対抗する存在として長年戦士の育成が行われてきた。
この聖剣計画もその一環だ」

聖剣…計画……たしか…木場佑斗に関するエピソードでそんなのがあったな…。

「聖剣、つまりはエクスカリバーを扱える人間を育てる事を目的としている」

「それを何故私に?」

「君には彼等聖剣計画の子供達を救ってもらいたい」

「何故?」

「教会に潜り込ませたスパイからの情報だ。
この計画は前々からマークしていた。
近々彼等聖剣計画の子供達を殺処分するらしい。
いや、今すでに手が下っているのかもしれない」

「それはまた……物騒ですね。教会の闇ですか」

最も恐ろしいのは、いつだって人間…か。

「これを聞いたとき、ベルゼブブと呼ばれる私も背中におぞけが走ったよ。
人間がここまで残虐になれるのかとね」

「人間は残虐ですよ。なんせ、自身の娘ですら殺そうとするのですから」

そう、例えば、あの忌まわしい姫島の者達のように。

「君ならそう言うと思った。では直ぐにでも発ってくれ。
仮に生き延びた者が現れても、今度は教会の処刑人がうごくだろう」

「は、仰せのままに」

ベルゼブブ様から地図を受けとる。

場所は欧州。

「では行ってくるぞ。セラフォルー、サーゼクス」

「いってらっしゃい☆」

「武運を祈るよ」

『【ロスト】』










地図のポイント近くに転移する。

雪が降っていた。

「出でよ我が龍の血を分けし下僕よ」

ミッテルトの隣にレイナーレとカラワーナを召喚する。

「お呼びでしょうかごしゅ……寒い!?」

「こ、氷る! おいご主人様ここはどこだ!?」

レイナーレとカラワーナが揃って寒さに文句を言う。

「ヨーロッパだよ。今から罪のない子供を殺そうとしているカスどもを叩く」

「相手は教会? それとも悪魔?」

「教会だよ」

もう一つ魔方陣を展開し、黒歌を呼び出す。

「黒歌」

「寒いにゃぁ! なんでいきなりこんな所によぶにゃ!?」

何故って…だって近くに来てるかもしっrないじゃん。

あの赤髪のお転婆娘が。

「うるさいぞ。兎に角龍脈に繋いで近くに人が居ないか調べろ」

「にゃ?」

黒歌がロリボディを震わせながら、地面に手を着ける。

「ちべたいにゃー……にゃ?」

「どうした?」

「こっから600メートル先に悪意と幽霊が居るにゃ。
その直線上800メートルに死にかけが一…………にゃ? 何故かリアス・グレモリーが居るにゃ」

遅かったか!

「急ぐぞ! いや乗り込むぞ! プロモーション用意!」

各々が武器を構えた。

「【ロスト!】」

施設内部に強制転移する。

転移したのは大部屋だった。

嫌な臭いが立ち込めている。

そして、足元には倒れ伏す十数人の子供達。

「研究員を全て捕らえろ! 俺はコイツらを蘇生する!」

黒歌とプロモーションした堕天使組が部屋から出ていく。

「セルピヌス!」

『わかっている!』

カンヘルの底を床に叩きつけた。

神器を通し、子供達の状態が伝わる。

ガスによって肉体がダメージが受けていた。

更には聖剣の因子を抜き取られ、魂にも傷がついている。

「セルピヌス。彼等の足りない部分を補うくらい。お前にはできるよな?」

『私を嘗めるな。全てを祝福する者だぞ』

ああ、わかっているさ!

いくぞ相棒!

「我創造の龍なり! 世界を作りし同胞と万象を祝う我が身が命ず!
汝らいまだ冥界へ向かうことなかれ!」

『【リライブ】』

カンヘルから結晶が溢れ出る。

子供達の肉体を覆い、その傷ついた体を癒す。

抜き取られた因子の分の足りない部分をセルピヌスの祝福で満たす。

器と中身のどちらも欠かす事はできない。

体の奥底から何かがごっそり持っていかれた感覚と共に、子供達を覆う結晶が砕け散った。

「セルピヌス」

『問題ない。全員無事だ』

その言葉でふっと気が抜けた気がした。

カンヘルを消して倒れ込む。

「つかれた…。なんでだろう…」

『生命の理をねじ曲げる事は容易ではない』

「そっか…」

『これだけの人数を甦らせたのだ。その疲労も妥当なものだろう』

暫くして、カラワーナが戻ってきた。

「ご主人様。終わったぞ」

「はいはい…」

カラワーナの後をついていくと、防護服に身を包んだ者や白衣の者がいた。

「バルパーはどうした」

「居なかったわ。既に逃げた後みたいね」

チッ…。

研究員達に手を向ける。

「取り敢えず、お前ら全員俺の糧になれ」

研究員達を侵食していくと、様々な知識が流れ込んでくる。

教会の事。子供達の事。聖剣の事。因子の事。

全員の体が完全に結晶化し、粉々に砕けた。

「あとは…どうするかなぁ…」

「みゃ、少年。リアス・グレモリーが此処に向かってるにゃ。その後ろに白音と少年の姉もいるにゃ」

「わかった。出迎える」

side out







篝が四人を迎え入れた。

「ようこそリーアちゃん。人間の業を濃縮しまくったクソみたいな研究所へ」

「あらずいぶんなお迎えね。堕天使三人に囲まれて肝がひえたわ」

篝は研究員を拘束していた部屋で机に腰かけていた。

出迎えにいかせたレイナーレ達がリアスの後ろに控えている。

「いや、俺だって自分で行くべきかと思ったけど、色々準備があったからさ」

「そう? ま、それで納得しておくわ」

「それにもしレイナーレ達が暴走しても姉さんがどうにかするんじゃない?」

「あら、嬉しい事を言ってくれますね篝」

篝が簡易ベッドを指差す。

「その男の子はあっちね。それで? リーアちゃん達こんな所で何してたの?」

「別件で近くまで来ていたのだけど、偶々悪魔のエージェントと会ったのよ。
その人から話を聞いて、ここまで来たって訳」

「ふーん…」

「そうそう。そこの男の子は眷属にしたわ」

「俺も残りの子を甦らせたよ」

「大団円かしら?」

「さぁな。それは彼等が決める事じゃないのか?」

「ええ…そうね」

「兎に角セラフォルーやサーゼクスに指示を仰ごう。
この研究所は…直ぐにでも教会の処刑人が来るだろうから土地ごと俺の領地に持っていこうか」

篝がカンヘルでコツンと床を叩いた。

中からは確認できないが、この時研究所周辺の土地は丸ごと黒い球体に飲まれていた。

闇が晴れた後、そこには明らかに土壌も植生も異なる場となっていた。

「さぁ、これで追っ手を気にする必要もなくなった」

篝は少年をレイナーレに抱かせ、施設を出る。

施設の土地は屋敷の数十メートル隣に転移していた。

「残りの子供達も大部屋に布団か何か敷いてから寝かせる。
その時はロストで送るから、お前達は大部屋に布団敷いて。敷き布団だけでいいから」

篝がメイド(擬き)に指示を出す。

「OK。わかったっす」

「こんなのばっかりね私達」

「最近戦ってなくて体がなまっているな…」

「そら行け。【ロスト】」

四人が屋敷へ転送された。

「俺達は今から魔王の元に向かう。OK?」

篝が振り向くとリアスがこっそり逃げようとしていた。

「………………………………」

「おい。逃げるな赤髪のお転婆娘」

むんずとリアスの腕を取る。

「嫌よ放しなさいカガリ!」

「うるさいおとなしくヴェネラナさんに叱られろ!」

「偶々よ偶々!」

「疚しくなかったら逃げんなや!」

篝は翼を大きく広げ、朱乃と白音を包んだ。

「【ロスト】!」

リアスの視界が晴れた時、目の前には兄サーゼクスがいた。

「?」

きょとんとした顔のサーゼクス。

「任務完了。聖剣計画の子供達は一名を除いて蘇生のち保護。逃亡していた一名も偶然居合わせたリアス・グレモリーが保護。
死者は研究員のみ」

篝がアジュカに報告する。

「ご苦労だった。その子供達はどうするかね?」

「なんなら俺の領地に住まわせても構いません。
そこのバカが土地だけはくれましたから」

「うん。それはいいとして少年はなんでリアスちゃんを拘束してるの?」

「このお転婆娘が逃げようとするからさ。サーゼクス、お前からも危ない事はするなと言ってやれ」

「うん? 偶々なのだろう?」

「純真か貴様!?」

「私が何も言わなくても母上が叱るだろう。
私の役目は……そのあとでリーアたんをうんと甘やかすことだ」

「なんで劇画チックにセリフ吐いてんだテメェ!」

「それが兄の役目だからさ…」

「おふざけはそこまでにしておけサーゼクス」

「お、そうだなアジュカ」

「軽いなー…」

と篝がため息をついた。

「ところで少年」

「ん?」

「子供達を棲ませるなら屋敷増築しようか?」

「んー…そうだなぁ…。うん。宜しく頼む」

「だってよ。手伝ってねアジュカちゃん」

「ああ。任せろ」

「何故アジュカ様が?」

「カガリ君。悪魔で君の事をしっているのは私達四大魔王とグレモリー家だけだ」

サーゼクスがそう切り出した。

「私達は君を天界に対する切り札になりうると考えている。
情報はどこから漏れるかわからない。よって君にかんする全ての手続きは我々魔王だけで内々に行っている」

「っていうのは建前でね☆ アジュカちゃんの暇潰しだよ☆」

「あっと驚くようなギミックを容易している。改築後は屋敷を探検してみるといい」

「は、はぁなるほど…」

篝は内心で、この人も魔王(変人枠)なんだな、と感じた。

「では、行っていいよカガリ君。リアス」

「セラフォルー。後で子供達の生活に必要な物を一通り送ってくれ」

「魔王少女におまかせ☆」



『【ロスト】』
 

 

四十二枚目

 
前書き
センター試験前々日なう。 

 
少女は、目を覚ました。

辺りを見渡すと、仲間達が眠っていた。

硬い床ではなく、大きなマットの敷かれた部屋だ。

「ここは…何処…」

少女は近くにいた赤みがかった茶髪の女の子の肩を揺り動かす。

「起きて、起きてクリス」

「んぅ………トスカ…?」

クリスと呼ばれた少女が目を開く。

「ぅっ………」

クリスが体を起こす。

「ここは?」

「わからない。私も起きたばかりなの」

二人が人数を数えると、十八人。

一人足りない。

「イザイヤ…逃げ切れたかな…」

「大丈夫よトスカ! イザイヤは剣士だもの!」

二人は残りの十六人を起こした。

「なぁ、これからどうするんだよジョージ」

目付きの悪い金髪の男の子が、黒髪の男の子に問いかけた。

「わからない。僕達は生きていて、誰かに助けられた。
誰に助けてもらったかはわからないけれど……」

十八人が車座になって考えていると、その中央に闇が現れた。

暗い暗い虚無が晴れた時、そこには神々しい光を放つ異形の天使がたたずんでいた。

「目が覚めたか、龍の血を分けし子供らよ」

背丈は自分達とそう変わらない。

ただ、龍の尾や翼を持っている。

「俺の名は篝。祝福の龍セルピヌスを宿す者だ」

その突拍子のない言葉は、何故か子供達の中にスッと解けていった。

「君達は一度死んだ。故に俺が甦らせた」

天使がパチンと指を鳴らすと、子供達の背から純白の翼が、腰から尾が、手足から鱗が、額から角が、頭から光輪が現れ、瞳孔が縦に割けた。

「君達を甦らせた時、抜き取られた因子をセルピヌスの祝福でカバーした。
そのせいで君達はニンゲンではなくなってしまった。謝罪する」

ぽかんとする子供達の中央で、天使は黒い翼を広げた。

「俺は、天使であり、堕天使であり、悪魔であり、龍でもある。
教会に属していた君達には酷かもしれないが、きょうから俺の領地で…この館で過ごしてもらう。
何か聞きたい事は?」

そこでトスカが手をあげた。

「あ、あの! イザイヤは! 私達の仲間は無事なんですか?」

「無事だ。だがイザイヤは悪魔に転生した。
しかし些細な事だ。君達を殺した人間より優しい悪魔が主だ」

「そうですか…いえ、イザイヤが生きていてくれたら、それだけで十分です」

「君達は、悪魔は人間の敵だと教わった筈だ。
でもね、天使だって絶対的な人間の味方じゃない。
悪魔や堕天使も絶対的な悪じゃない。
だから、こんどイザイヤに会ったら、彼が悪魔だろうと、優しく受け入れてあげてくれ」

はい! と子供達が返事をした。

「ふむ…では館の地図を置いておく。俺は書斎に居る。
何かあれば書斎に来るかメイドを捕まえるといい」

天使が再び指を鳴らすと、一人に一つ手帳が現れた。

「ではな」

黒い球体に包まれ、天使は姿を消した。


「…あの天使様を信じる人」

クリスが問いかけると、全員が挙手した。

「なぁ、皆。まずはこの手帳を読んでみないか?」

ジョージが手帳を掲げる。

一本の錫杖が書かれた手帳だ。

各々手帳を開こうとするが、鎧のような龍の手に慣れず、手帳を取り落とす者も多かった。

始めに紙片が挟んであった。

〔落ち着いたら、新しい名前をつけるので書斎に来ること。
≪名は命なり≫新しき生には新しき名を〕

「主よ……いや…篝様……」

十八人のなかでいちばん背の高い子が呟いた。

「これって、天使様が新しい洗礼をくれるってことなのかなぁ~?」

眠たげな少女の言葉が示す事は、新たなる希望だ。

教会に裏切られ、揺らいだ信仰。

奪われた因子の代わりに与えられた暖かな光。

どちらを取るかは、わかりきっていた。

「行こう。そして、生まれ代わろう。悪魔を憎む、教会の奴隷だった僕らは死んだ。
天使も悪魔も堕天使も関係ない。僕は僕達を救ってくれたあの天使様の為に祈りを捧げたい。皆はどう?」

ジョージが見渡すと、皆が頷いた。

「私は、悪魔になってもイザイヤはイザイヤだと思う。だから、悪魔を全否定したくない」

トスカの瞳には意志が宿っていた。

過去と決別する覚悟が。












書斎

「早っ!? 俺3日くらい待つ気だったんだけど!?
無理しなくていいからね? 悩んでいいんだよ?」

何故か慌てる天使。

「いいえ。僕達は決めました。貴方の為に祈りを捧げると」

篝は一瞬ポカーンとして、自分の内側に意識を向けた。

子供達の声が聞こえる。

子供達に分け与えた魂の欠片をとおして。

本心から、自分へ祈る心の声が。

篝が龍の瞳を開く。

「うん…。わかった。じゃぁ、名前をつけようか」

篝が全員を見渡す。

「トスカ」

「はい」

「君の名前は、“謡”。君の中の歌声からつけた」

「ありがとうございます」

トスカがペコリとお辞儀をした。

「次はジョージ。君の名前は“典夜”。皆を支え、引っ張っていく君にこの名前をあげたい」

「喜んで」

篝は十八人全員に名前をつけていった。

女の子には音楽にかんする名前を。

男の子には文学にかんする名前を。

与えられた名前は、子供達の魂にとけて、一つになった。

その祝福は、新たなる拠り所。

新たなる信仰の礎。

「天使に生まれ変わった君達が、光を歩む事を願っているよ」 
 

 
後書き
女子十名
謡(うたい)(トスカ)
詠奈(えいな)
響湖(きょうこ)
舞(まい)
詩華(しいか)
声花(せいか)
真琴(まこと)
韶子(しょうこ)
美弦(みつる)
律(りつ)

男子八名
典也(のりや)
雄辞(ゆうじ)
忠文(ただふみ)
灯籍(ともより)
字将(あざまさ)
章(あきら)
経助(きょうすけ)
哲(さとる)

トスカ出そうと思ったらこうするしかなかった。
ぶっちゃけトスカ意外全員オリキャラ(名有りのモブ)です。もしかしたらその上活躍するかも? 

 

四十三枚目

「わたしだって彼氏いるもんっ! かっこいい王子様だもん! お前なんか篝にけちょんけちょんにされちゃえー!」

ヴァーリの放った魔力弾に吹っ飛ばされ、鋼生は壁に突き刺さって気絶した。

ヴァーリがシュン! と転移して消えた。

「彼氏呼ぶまでもなく鮫島がけちょんけちょんなんだけど…」

壁に刺さった鋼生を見て鳶尾が呟く。

「ヴァーリちゃんを怒らせたらダメなのです。あの年でその気になれば暴走したトビーを一方的に蹂躙できるほどなのですよ」

「えーっと…それってどれくらいなの?」

夏梅がラヴィニアに尋ねる。

「うーんと……。世界を滅ぼしてもお釣りがくるのですよー」

鳶尾の顔がサァッと青ざめる。

「お、おおおおお俺ころされるんじゃ!?」

「それは無いと思うな。だってあの子優しいから。本気で鳶尾達を害しはしないと思う」

紗枝がポツリと言った。

「はい。ヴァーリちゃんは彼氏君と居られればそれでいいのですよ。
ウツセミ機関を追っていたのも、多少の因縁があったからなのです」

「ぅ…………」

「さ、鮫島? 無事か?」

「…………………心配するくらいなら引き抜いてくれ。動けねぇんだ」

相当面白い格好にも関わらず、四人は一切笑う事なく鮫島を救出した。

「うぉー……いててて…ったくルシドラ先生め…」

鮫島は女子三人に介抱される事をキッパリ断り、自分で薬を塗り始めた。

「さっきのはシャークが悪いのです」

へへ、ルシドラ先生も恋に恋する乙女ってか? ま、その様子じゃ彼氏なんざ居ねぇだろうがな。

鮫島の一言に対して、ヴァーリはぷるぷると震えたあと、子供のように泣き顔で言ったのだった。











side in

「篝! ちょっと! 起きてよ篝!」

屋敷のベッド惰眠を堪能していたらヴァーリに揺り起こされた。

いや起きてはいたんだよ?

「なに…? 今日はオフでしょ…?」

今日はグリゴリの仕事(主に研究)も悪魔の仕事(主に討伐)もない。

子供達を迎えて一週間。彼等ももう慣れたらしくこちらのサポートも減った。

というか俺に遠慮してる。

件の研究所もカンヘルの神器空間に収納し、地下にあった子供の遺体も埋葬して弔った。

まぁ、そんな訳で、本当に久々のオフだ。

「んぅー……なんか用…?」

「私に彼氏なんていないだろってコーキが言ったの! ムカついたの! だから篝来て!」

んぁー……スラッシュドッグの所の猫使い……だっけ…。

資料はこの前読んだけど、あんまり覚えてない。

ケイニスリュカオンの所有者が姫島の縁者だったので、彼の事を調べた。

結果は白。それ以来彼等の資料はファイルに閉じてなおした。

「もー! 起きてよぉー!」

「んー…起きるからぁ…ちょっと待てよ…」

体を起こす。眠い。

流石に四徹は気分的に堪える。

「もー! 勝手に連れていくからねっ!」

ヴァーリに抱き抱えられた。

「転移!」

side out








ヴァーリは彼氏を腕に抱いてとんぼ返りで戻ってきた。

「えーと…ルシドラ先生。それが先生の彼氏?」

「うん!」

「子供……よね…?」

「子供…ね」

夏梅と紗枝が顔を見合わせる。

「ヴァーリさん、流石に男の子を誘拐してくるのは…」

「ちがうもん! 同い年だもん! 篝も起きてよぉ!」

「んー…おきてるー…おきてるよー…。四徹から三時間で起こされたよー…」

篝はのろのろとヴァーリの手のなかからでる。

「はじめましてー。おれはひめじまかがり。いちおうとびおくんのはとこですよろしくー………ふぁぁぁ」

最後に欠伸を噛まして、空いていた椅子に座った。

普段アザゼルが座っていた席だ。

「ひめ…じま…?」

「うんー。でも本家とは敵対してるよー。宗主含め実働部隊殺しまくったしねー」

ぽやぽやと眠たげな口調で残虐なセリフを垂れ流す。

「んー…………あー……眼ぇさめてきた…。嫌なこと思いだしちまったなぁ…」

「き、君は人を殺した…のかい?」

「ふーん……」

篝が鳶尾の瞳をじっと見つめる。

「中途半端な眼だね。鳶尾兄さん」

「中途半端…?」

「眼の奥にギラギラしたリビドーがあるのに理性がそれを全力で押さえてる。
だけどロンギヌスを宿した貴方は、必ず人を殺める。自分の意志でだ。どうしても殺さないといけない奴が出てくる。
殺す覚悟はしといたがいい」

声変わりをしていない、少年とも少女とも取れる声は、何故だか大人の言葉のようだった。

「…君もロンギヌスを?」

「勿論」

篝は錫杖を呼び出し、押さえていた物を解放する。

そのルックスに五人が目をむいた。

「この錫杖はカンヘル。始まりのロンギヌスにして、恐らくはトゥルーロンギヌスを越える物。
この姿は色々あってね。人間はやめたんだ」

三対六枚の龍天使の翼に加え、三対六枚の悪魔と堕天使の翼が顕れた。

「見ろよこの翼。カオス過ぎて笑えてこないか?」

「す、すごいのです…聖書に記された天使悪魔堕天使龍全てのオーラを感じるのです…」

「お? そこの魔女っ娘はわかるんだね。感心感心」

篝が六対十二枚の翼を折り畳む。

畳んでもかなりのボリュームだ。

「で? 中学生にもなってない女の子を泣かした大人げない魚類は君?」

篝がにっこにこしながら鋼生に顔を向ける。

「んだよ…」

「んー……まだまだかなぁ…。さっさとバランスブレイカー使えるようになってね。
ヴァーリにあーだこーだ言うのはその後で」

「へぇ…? いうじゃねぇのガキんちょが」

鋼生がポキポキと指を鳴らす。

「お? やる? やっちゃう? 年下相手に?? 大人げなくて抱腹絶倒だよ」

「はーい。質問。篝君達って幾つなの?」

紗枝が面白がるように尋ねた。

「俺もヴァーリも12だよ」

「「「「小学生!?」」」」

鳶尾と鋼生がヴァーリの胸元に目を向ける。

「おうコラ俺の女に色目使ってんじゃねぇぞガキども」

ごっ!ごっ! と二人の頭に錫杖が振り下ろされた。

「「いっでぇぁー!?」」

「い、いまの一撃で下級悪魔なら消滅なのですよ……」

「え!? 十二!? ヴァーリちゃん十二なの!? ヴァーリちゃんが早熟だったの!? 篝君が幼形成熟とかじゃなくて!?」

「うるさいぞ皆川」

「私よりおっぱい大きいのに!?」

「東城……そこなのかよ…。ん?レーニは知っていたのか?」

「アザゼル総督から聞いてはいたのですよー」

「ふーん…。まぁお互い様か。俺も一通りの資料は読ませて貰っているよ」

「例えばテメェはどんな事を知ってるってんだ?」

「んー…皆川と東城とレーニのスリーサイズとか?」

「「!?」」

篝が紗枝を指差す。

「東城は上からぁ…」

鳶尾がごくりと唾を飲む。

「何眼ぇ輝かせてるのよ幾瀬君!」

「鳶尾のえっち…」

「え!? 俺だけ!? なんで俺だけなの!?」

「お前が分かりやすいからだよラノベ主人公」

「ら、ラノベ主人公!?」

「世界を滅ぼす能力(笑)持ってて? 女の子三人と同居で? もうすぐ能力者の学校行きだろ?
これをラノベ主人公とよばずしてどうしようか、いやどうしようもない」

「はははは! お前にぴったりだな幾瀬!」

「騒ぐな主人公パーティーその一」

「知らねぇのか? そういうポジションが一番役得なんだぜ」

「ふむ、一理ある」

篝は頷くと、勝手に冷蔵庫を開け始めた。

「マッ缶無いの?」

「「「「マッ缶?」」」」

「ヴァーリちゃんが時々飲んでるコーヒーなのですよ」

篝は舌打ちすると、手の中にアポートで二つマッ缶を出した。

片方をヴァーリに放り投げる。

「ラヴィーも飲む?」

ヴァーリがマッ缶をラヴィニアに差し出す。

「ラヴィー級の魔法使いなら糖分は大事だよ?」

「それは前に聞いたのです。でも一本でご飯一杯分はハイカロリーなのです。私もお年頃なのです」

「おーおー。さすがは花の…ふむぐっ!?」

何かを言いかけた篝をラヴィニアが押さえ込む。

「カガリそれはいけないのですよ」

「むー!むー!」

「ちょっとラヴィー! 篝をぱふぱふしていいのは私だけなの!」

「ぱふ…?」

こてんと首を傾げるラヴィニアの腕のなかで、豊満なバストに押さえつけられている篝がもがく。

『【ロスト】』

刹那、ラヴィニアの腕のなかに闇が現れ、篝の姿が掻き消えた。

「あれぇー? カガリが消えちゃったのです」

ヴォン…。

ヴァーリの隣に同一の球体が現れ、闇の中から篝が顕れた。

「はぁ、まさかこんなくだらん事でロストを使おうとは…」

「せ、セイクリッドギア…?」

「の能力のひとつだ。まぁ、全部見せはせんがな」

刹那、篝に純白の一閃が放たれた。

しかし篝は一瞬で闇に潜り、鋼生の背後を取った。

背丈に似合わない大きな手が鋼生の頭を掴む。

「俺の実力知りたいのはわかったけど、タイミングとか考えろバトルジャンキー」

篝は鋼生の頭を持ったまま、自分の手もろとも思い切り壁に叩きつけた。

再び壁に突き刺さる鋼生。

篝は鋼生の頭から手を離し壁から抜き、スマホを取り出した。

「タイトル。犬神家の一族かっこ猫かっこ閉じる」

と言いながらパシャパシャと写真を撮る。

「ツイートツイート………」

憐れ、鋼生の面白画像はネットの海に流されてしまった。

「カガリ、壁に二つも穴が空いたのです」

「怒るなよレーニ。っていうかそっちの穴は俺じゃない」

「そっちはヴァーリちゃんなのです。ちゃんと保護者が責任を取るべきなのです」

「えー……じゃぁアザゼル辺りに言えよ…」

「総督は忙しいのです」

「一昨日アザゼルの部屋覗いたらAV見てたぞ。強姦系のやつ。流石は堕天使総督、いい趣味だった」

篝がそう言うと、ヴァーリから黒いオーラが吹き出る。

「篝?」

「いや、俺は見てないよ。なんならミッテルト達に聞いてみ? 俺この4日くらい働き詰めだったから」

そう言いながら篝は指を鳴らした。

するとどちらの穴も綺麗に塞がった。

…………片方に鋼生がささったまま。

「一件落着」

その後は壁に刺さったままの鋼生を部屋の反対側に回った篝が煽りに煽り、鬼ごっこが始まった。

篝は鬼ごっこの最中も鋼生をおちょくりまくった。

最終的にぶっ倒れた鋼生の上で高笑いし、さんざん場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、篝は帰って行った。










「あんのガキ次会ったらぶっ殺してやらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「まず私に勝ってから言おうか。シャーク」 
 

 
後書き
ヴァーリと篝は基本的に領地の屋敷か姫島神社で生活してます。
ヴァーリは毎回例のアパートへは転移魔法です。住んではいません(というか篝が認めない)。 

 

四十四枚目

「っ……ここ…は……」

少年が目を覚ますと、見慣れない天井が目に入った。

身を起こし、周囲を見渡す。

その中で、動く物があった。

「…魔物?」

白い獣の耳をはやした少女だった。

少女は直ぐに出ていくと、何者かを連れてきた。

赤い髪の少女。黒い髪の少女。

否、少女の姿をしたナニカ。

少年はその気配を知っていた。

「ここはどこだ!? 何故僕はここにいる!あんた達はだれだ!?」

「ここは日本よ。世界で最も平和な国。貴方の顔立ちが日本人に似ていたから連れてきたの」

「ニホン…,?」

混乱する少年の前で少女は翼を広げた。

「私はリアス・グレモリー。上級悪魔グレモリー家の次期当主。
そして貴方も」

リアスと名乗った少女が、少年に指を向ける。

バサリと少年の背中に翼が現れた。

「悪魔になったのよ」













「我は創世の龍を宿せし者なり」

少年がマンションに軟禁されて二週間ほどした辺り、ソレは現れた。

背は少年より低く、顔つきや声は両性的。

そして、エンジェルハイロゥと六枚の純白の翼、龍のような四肢を持った異形の天使だ。

「ほう。やはり剣を向けるか」

少年は、もう何も信じられなかった。

「だ、誰だ! 僕を殺しに来たのか!?」

「はっ。アホ言え。だったらとっくに殺してらぁ」

とたんに口調を崩した天使の背中に、三対六枚の翼が顕れる。

黒い、翼だ。

「これがわかるか? 悪魔と堕天使の翼だ。おれはどれでもありどれでもない。
こんな俺なら信じてくれたっていいんじゃねぇのか?」

天使は翼をたたみ、少年に歩み寄る。

「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

少年は訳もわからず、天使を剣で貫いた。

天使の口からゴポリと血が溢れる。

それでもなお、天使は止まらなかった。

「好きなだけ刺せばいい。斬ればいい。
辛かったよなぁ。苦しかったよなぁ。
俺にはお前の辛さはわからん。でも、それを受け止めるくらいはできるかもしれない。気のすむまで、そうしていろ」

ふわりと翼で包まれながら、少年は泣き出した。










side in

「気は、済んだか?」

「……」

少年がコクンと頷いた。

「じゃぁ剣を抜いてくれ」

流石にどてっぱら貫かれたら痛い。

ズルリと剣が抜ける。

「あ! 待て! 血は触るなよ、危ないから」

俺の血は創世の龍天使の血。聖の塊。

ニトロ並の危険物だ。

リバースで傷を消す。

「少年。今日俺がここに来たのはあることを知らせるためだ」

「ある…こと…?」

「喜べ。君の仲間は生きている」

「……………へ?」

お、いいアホ面。パシャり。

「俺の力で甦らせた。リーアちゃんはサプライズ! ってやりたかったらしいけど、流石にここまで塞ぎ込まれて痺れを切らしたらしい。
今朝呼び出されたよ」

少年が俺の肩を掴む。

「本当に仲間はいきているんですか!?」

「嘘を言ってどうする」

今から連れていくつもりだし。

「会いに行こう。皆君を待っている」

『【ロスト】』












少年が仲間と遊ぶ様子をバルコニーから見下ろす。

「これで満足?」

「ええ、満点よ」

円卓の上のクッキーを一つかじる。

子供達が焼いてくれた物だ。

きっと少年も食べるのだろう。

そういえば、あの少年はまだあの名前を貰ってなかったな。

「……少年の名前は決めたの?」

「ええ、彼が心を開いてくれたら、その名前で呼ぶつもりだったのよ」

そのままだと随分と先になりそうな計画だなぁ…。

「貴方も、子供達全員に名前を着けたのでしょう?」

「うん」

十八人全員に名前をつけた。

女の子十人と男の子八人。

考えるのに苦労した。

「あの子の名前も貴方にあわせてニホンっぽくしたのよ」

「へぇ…」

聖剣計画の子供達には、日本語の名前を与えた。

名は命なり。彼等は新しい命を手に入れた。

新しい名前を手に入れた。

「見ろよ、謡たちのあの顔。リーアちゃんが望んだ大団円だ」

「あの子も嬉しそうね」

トスカという少女に、謡という名前を与えた。

綺麗な声の子だ。

「あらあら。年寄臭いですよお二人とも」

「いきなりね朱乃」

「白音ちゃんもそうは思いませんか?」

「お二人が、大人びたことを言うのは、きっと守る側の人間だからです。確かに、少し背伸びしてる気もしますけど…」

最後が余計だっつーの。

「えー? 大人ぶってる篝可愛いと思うなー」

隣に座るヴァーリがおもむろに俺の頭を撫で始めた。

「うっさいヴァーリ」

パシッと手を払う。

「えー…せっかく恋人になったんだからもっとイチャイチャしよーよー!
最近トビー達がラブコメしてて羨ましいのぉー!」

「幾瀬鳶尾…か」

この間までヴァーリはウツセミという組織を追っていた。

五大宗家のはみ出しものの集いだ。

アザゼルは俺を関わらせたくなくてヴァーリにやらせているようだった。

おれはヴァーリとアザゼルから、俺の再従兄弟の話を聞いた。

幾瀬鳶尾。彼のおばあさんは得意な術式の関係で姫島から追い出されたらしい。

「なんで篝は私にラッキースケベしないの!?」

おっとー? なんか話が変な方向に行ったぞー?

「いや、そんなラッキーそうそう起こらないから」

「トビーは毎日やってるよ? 昨日なんてなっちゃんと二人で寝てたし」

うわー…マジか。

「だから篝も私と寝よぅよぉー」

「俺が眠れなくなるからやめてね」

ヴァーリと寝たら抱き枕にされる。

勿論あの爆乳を押し付けられるので眠れた物ではない。

「えー…」

「ねぇいちゃつくなら他所でやってくれないかしら?」

「あらリアス正直にヴァーリが羨ましいって言ったらどうですか?」

「な!? ぜ、全然羨ましくなんてないんだから!」

リーアちゃんも恋愛してみたいのかな?

「リーアちゃん。高校行ったらたぶん彼氏できるよ」

「篝はちょっと黙ってようか」

なんでだよ。











夕方になりリーアちゃん達が帰ったあと、ある一幕を回想していた。

リアス・グレモリー。僕を強くしてください。もう二度と、悪意に負けないように。

木場祐斗はリーアちゃんにそう言った。

彼は強くなる。

復讐のためじゃない。

守る為にだ。

でも、木場祐斗よ。

お前の仲間達は、ただ守られるだけの奴じゃないぞ。

謡(うたい)、詠奈(えいな)、響湖(きょうこ)、舞(まい)、詩華(しいか)、声花(せいか)、真琴(まこと)、韶子(しょうこ)、美弦(みつる)、律(りつ)、典也(のりや)、雄辞(ゆうじ)、忠文(ただふみ)、灯籍(ともより)、字将(あざまさ)、章(あきら)、経助(きょうすけ)、哲(さとる)。

十八人の、龍天使の子供達。

彼等もお前と同じく、悪意をはね除ける力を欲した。

なら俺は、それに答えるだけだ。 

 

四十五枚目

 
前書き
※ドラゴニューツというのは聖剣計画の子供達の事だと思ってください。 

 
駒王学園。

今年から男女共学になった学園。

初等部から大学院まで所有する、かなり大きな学園だ。

そこの中等部一年生として”転入”してはや数ヶ月。

神話伝承研究会という部活を立ち上げた。

部室放棄された旧部活棟(奥の扉から屋敷にゲートを開ける)を根城にしている。

活動内容は聖書や神話の考察。

ちゃんと真面目にやっている。

表では。

そんなこんなで、二学期も後半になろうという頃だった。

「主様! 怪しい奴を見つけました!」

「すいません篝様! 尻尾見られました!」

「んんー?」

扉がバタンと開かれた。

何事かと思い入り口を見ると、真琴と舞の元気っ娘二人が茶髪の少女を連行していた。

「真琴。ノックしようぜ? 俺の本性も見られちゃった訳だけども?」

「ん? 主様なら記憶操作くらいお手のものでしょう?」

そう答えたのは金髪で『男装の麗人』という表現が似合う女の子。

ドラゴニューツの真琴だ。

「真琴。篝様の言ってるのはそういう事じゃないとおもうなー」

そして真琴に注意した黒髪ショートカットの子は同じくドラゴニューツの舞だ。

「で?何事?」

「えっとですね、舞がここの前でくしゃみして尻尾が出ちゃったんですよ」

「それで慌てて周囲を探ったらこの子が…」

ふーむ。

「で、その子気絶してるけど?」

「「あ」」

side out












桐生藍華は好奇心の強い少女だった。

だから、気になった。

中等部に進学して、突然入ってきた少年少女達が。

どう考えてもヨーロッパ系なのに日本語の名前を持っている不思議な子供達。

そして、銀髪を揺らす少女のような男の子。

同じく銀髪で、同い年なのに妖艶な少女。

同い年なのに小学校低学年ほどの背しかない猫みたいな女の子。

その子よりは背が高いが小柄な金髪の子。

そんなおかしな集団。

二学期も後半。

文化祭できっちり神話についての考察を発表していた。

全員が同じ部活に所属していた。

気になった彼女は、同じクラスの舞と真琴をつけた。

そして見てしまった。

可愛らしいくしゃみの後、舞に翼と尻尾が生えるのを。

気づけばつけていた二人に捕まり、部室に連行された。

奥の扉を開けた先には、竜が佇んでいた。

そして桐生藍華は、気を失った。





彼女が目を覚ますと目の前には竜がいた。

「ひぃっ!?」

「ぐるるるるる……」

ヌッと竜が顔を近づける。

「ごめんなさい許して! 食べないでぇ!」

ズシン…ズシン…と竜が足を踏み出す。

彼女は逃げ出した。

が、扉が開かない。

壁に背をつけ、へたりこむ藍華。

「ぐるる…」

「やだ…やだよぉ…たすけてよぉ…誰か助けてよぉ!!!」



「何してんのさかがりィィィィィィ!?」

突然、竜が吹っ飛んだ。

蹴り飛ばされたのだ。

蹴り飛ばしたのは……姫島ヴァーリだった。

ヴァーリは壁まで吹っ飛んだ竜の下へ行くと、背中を踏みつけた。

「ねぇ何してんの? ねぇ? 謡から聞いて飛んできたけど何してんの? なんで桐生さんいじめてるの? 追い詰めてんの? 篝そういう趣味なの? ねぇ?」

「げふぅっ!? 待って待って! ちょっと脅かそうとしただけだって!」

「それでなんで漏らすまでやってんの?」

「なんか興がのっちゃっ…」

「逆鱗ひっぺがすよ?」

「ぴぃ!?」

今度は首を踏みつけた。

「げふぁぁ!?」

「いいからさっさと人に戻りなさい」

「その前に退いて…」

「は?」

「はい戻りますぅ…」

竜の姿が縮み、やがて小柄な少女の姿になった。

「重い重い重い!? 首に体重掛けないでぇ!?」

「反省した?」

「しました! した! したから退いてぇ!?」

じたばたと暴れる少女の上からヴァーリが退いた。

そしてヴァーリが指を鳴らすと、ギザギザした何かが出てきた。

隣には板状の石まである。

「篝。正座」

とギザギザの板を指差した。

「え?」

「は?」

「はい……」

少女が大人しく正座した。

そして膝の上にきっちり石板を乗せる。

さらにはどこかから取り出した手錠を嵌めギャグボールを噛ませた。

そこでようやく、ヴァーリが藍華の方を向いた。

「とりあえずシャワーに行きましょうか」













篝が石抱きの刑に処されて一時間後。

ヴァーリと藍華が戻ってきた。

「うー! うー!」

「どう? 篝を許す気になった?」

「許すから外したげてよぉ!?」

「らしいよ篝」

ヴァーリが指を鳴らすと、石板とギザギザの板が消えた。

「むぐぅっ!?」

突然下の板が消え、足を打った篝。

「はいこれ」

ヴァーリがとてもいい笑顔で藍華に鍵を渡した。

「手錠とギャグボールの鍵。許すんだったら貴女が外して」

「あ、はい…」

篝の後ろに回り、手錠とギャグボールを外した。

「篝。何か言うことは?」

「モウシワケアリマセンナンデモシマスカラユルシテクダサイ」

綺麗な土下座だった。

「って言ってるけど桐生さんどうする? 篝をFA○Kする?」

「しないから」

「だってよ篝。よかったねー」

(ヴァーリさん恐い)

「じゃぁ他に何か望みはある?」

「え?」

「さっきシャワー中に言ったじゃん。私達は龍魔天使。悪魔の力を持った天使。
今回はある程度までなら桐生さんのお願いをタダで受けちゃうよー」

「えぇー…?」

「じゃぁ明日聞くから、今日はもう帰った方がいいかも」

ヴァーリが時計を指差す。

「は、はい」

桐生藍華は逃げるように出ていった。

「おい。何勝手に話してんだよ」

「だめだった?」

「いやまぁ…遅かれ早かれ彼女ならこっちに来ただろうけども…」

「ならいいじゃん」

「はぁ…。それはそうと…」

「ん?」

「お前、母さんに似てきたな」









翌日の放課後、桐生藍華は舞と真琴に連れられて篝の下へと来ていた。

「でー? 望みは何? 永遠の命くらいならやったげてもいいよ。
世界の破壊とかはダメだから」

「……………………」

「何? どうしたのさ?」

「えーと……その方はどちら様ですか?」

藍華の目の前では、龍体の篝がソファーに座った青髪の女性の膝に頭を乗せて、くるくると喉をならしていた。

「私はカラワーナ。ご主人様のポーンだ」

「悪魔の方ですか?」

「ああ」

カラワーナの背中から翼が、腰から尾が、額から角が、そして頭上にエンジェルハイロゥが現れた。

「そーゆーのいーからさー。さっさと望み言ってくんない?」

面倒臭そうにドラゴンが言った。

「えーと…だったら、私を篝君の眷属にしてほしい」

「ふーん? 理由は? あ、怒らないから本音でお願いね。作った理由は認めない」

「…………楽しそうだから」

「ふーん? 今の人生は退屈?」

「うん」

「よくわかったよ。じゃぁ君を眷属にしよう」

「いいの?」

「ああ。君みたいなのが居ると明るくなるからね」

篝はカラワーナの上から首をあげると、龍人となった。

そして、藍華の目の前まで来ると、手を握った。

「君は……ふむ…ん? なんだこれ?」

「どうしたの姫島君?」

自分の手を握ってぶつぶつ言い出した篝に不安を覚えた。

「いや…少し…うん…なんでもないよ?」

「?」

「きみは、魔力が多いようだ。これならビショップだな」

「ビショップ?」

「魔法系だよ。魔法に関してはちゃんと教えるから大丈夫」

篝は手を離すと、アポートでドラグーン・ピースを呼び出した。

「じゃぁ、やるよ」

「うん」

ドラグーン・ピースが藍華の胸の前で静止する。

「我、創造の龍を宿せし者。万象の祝福を汝に与える者。汝我が祝福と呪いを以て転生せよ」

ピースが光輝きながら、藍華の胸に入っていく。

「あったかい…」

「これで終わりだよ」

「え?」

「以外とあっさりしてるでしょ?」

「ええ…はい」

クルリと、篝が藍華に背を向けた。

「カラワーナ、彼女の服を用意しろ」

「御心のままに」

カラワーナが手招きし、藍華がついていく。

篝は龍人のまま、ソファーの上に横になった。

「はふぅ…」

羽と尻尾をだらしなく伸ばす。

ヴオン…と闇と共に篝の前に現れたのは、金髪ダウナー系のイケメンだった。

「章(あきら)? どしたの?」

「いいんですかねぇ?あの子」

「いいんじゃないかな。それにいい掘り出し物だ。彼女人間以外の血が混じってる。うっすいけどね」

「へー。何の血ですか?」

「サキュバスだな。あれは」

ピュゥーと章が口笛を吹いた。

「ドラゴニューツや龍魔天使には効かないだろうけどな」

「効いたら貴方が受け入れませんよね。篝様」

「ま、そうなんだけど」

篝と章が話していると、カラワーナと藍華が戻ってきた。

「じゃぁ俺は戻って寝ます」

「おい。宿題やれよ?」

「はーい」

再びロストでどこかへ消える章。

戻ってきた藍華が来ていたのは駒王学園の制服とほぼ同じものだ。

「カラワーナ。間違いないな?」

「勿論です」

「桐生藍華、少し痛いかもしれんが我慢しろ」

篝は藍華の後ろに回ると、心臓の後ろに手を当てた。

刹那、藍華の背から翼が伸びた。

次に尻尾、角と続き、最後にエンジェルハイロゥが現れた。

「大丈夫? 痛くなかった?」

「どちらかと言えばくすぐったい気が…」

「なら大丈夫」

パチンと篝が指を鳴らし、姿見を召喚した。

「これが、新しい君だ」

藍華が、鏡をまじまじと見る。

「これが…私…」

「望めば尻尾や翼は消せる」

藍華が望むと本当に消えた。



「歓迎するよ桐生藍華。こちらの世界にようこそ、ってね」
 

 

四十六枚目

冬休み間近という時だった。

「なぁ! 君悪魔なんだろう? オレを魔法少女にしてくれよ!」

神話伝承研究会の部室へ向かう途中、突然声をかけられた。

声をかけたのは、シュッとした感じの青みがかった黒髪をツインテールに纏めた大柄な女の子だった。

ふむ、俺が悪魔と知っている?

誰が話したのだろうか。

いや、それは重要じゃないな。

「おたくどなた?」

「オレの名前は柊深瑠璃(ひいらぎ みるり)! ミルって呼んでくれ!」







とりあえず、表の部室に案内した。

「えーと、柊先輩。あなた頭大丈夫?」

「?」

「いや、悪魔とか魔法少女とか」

「貴方達が悪魔なのは事実だろう?」

「いや、だから」

「オレの瞳がそう言っている。君達神話伝承研究会のメンバーが人間ではないと」

「ほう?」

柊深瑠璃の両目に、紋様が浮かぶ。

白目の部分に赤いルーンが浮かび、黒目が鳥の形に変化した。

「さぁ、オレを魔法少女にしてくれ、この瞳は役に立つぞ?」

知覚系神器か。

「先輩の言いたいことはよくわかった。だが、先輩の素質がまだわからない。だから三日の準備期間を置いてから貴方を魔法少女にしようじゃないか」

「ありがとう。悪魔さん」

「今日はもう帰るといい」

「………わかった」

柊深瑠璃が出ていった。

うん…。これはそういう事か。

あの子……………ミルたんだよなッッ!?

なんであんななってんの!?

何あれ男の娘? TS? しかも神器持ちとか何なの?

これは、あれだな。うん。

パチンと指を鳴らす。

「どうしたのよご主人様」

「む、今日は休日ではなかったのか?」

レイナーレとカラワーナを呼び出す。

レイナーレはメイド服、カラワーナは…パジャマだった。

「くぁ……眠いのだが」

「お前1日中寝てたのかよ?」

「いや、8時までネトゲを…」

「OK。それはどうでもいい。仕事だ」

今動かせる駒はこの二人だけだ。

二人以外は学校通ってるし。

「お前達には柊深瑠璃という少女の事を調べてほしい」

「ストーカーかしら?」

「いや、さっきいきなり俺が悪魔だと看破して、魔法少女にしてくれとほざきやがった。
どうやら知覚系の神器持ちらしくてな」

「ご主人様。知覚系なら、バレるのではないか?」

「あり得なくはない。だがさっき見た限りではアクティブ型でしかもそれなりの集中力が必要なようだ。乱発はできまい」

「わかったわ。じゃ、私達で調べるけど、ご主人様もちゃんと調べなさいよ?」

「わかってるよ。理事に言ってデータもらうさ」

この学校の理事は悪魔だ。

それもグレモリーの息のかかった。

っていうか、サーゼクスが理事長だ。

生徒のデータくらい集められる。












サーゼクスに頼んで柊深瑠璃のデータを集め精査してみたが、特におかしな事はなかった。

俺達の二個上の学年で、女子ボクシング部のエース。

ただ、親元を離れてひとりで駒王町に引っ越してきたらしい。

「ふむ……」

そこで、レイナーレがロストで書斎に入ってきた。

「ご主人様。報告よ」

「ん? なんか進展あったの?」

「進展かはさておき、柊深瑠璃だっけ? あの子襲われてるわよ?」

「はぁ?」

カラワーナの居るポイントにロストで転移すると、真下で本当に柊深瑠璃が戦っていた。

相手は五体の蛇人間。

探査術式をかける。

「なんだ。ダークビーストじゃないか」

「「ダークビースト?」」

「ん? ああ、俺らの管轄じゃねぇもんなアレ……。
簡単に言えば、暴走してる人造生命体だ」

ダークビースト。

意思ある生命を契約によって従える使い魔ではなく、魔術師達が作ったミニオン(使い魔の人造生命体)が暴走した物だ。

若い魔導師が身の丈に会わない素材を使った時に生まれたり、後は魔術師が死んで残されたり、とかな。

「見たところ、下級だな。頑張れば中学生でも倒せるレベルだ」

柊深瑠璃は木刀でダークビーストと戦っている。

一撃で吹っ飛ぶが、すぐ戻ってくる。

「なるほど魔法少女云々は力が欲しかった訳だな」

「どうするんだご主人様」

「なーに。少し手を貸してやるだけで終わる」

アポートで、試作した魔装を呼び出す。

「さぁ、柊深瑠璃よ。手は貸してやろうじゃないか」

その魔装を、真下にぶん投げた。

side out













「ああっ! もうっ!!!何なんだお前ら!」

柊深瑠璃は木刀で気持ちの悪い蛇人間の頭をぶっ叩く。

「キシャァー!」

「キモいんだよォっ!」

ぶっ叩かれて怯んだ蛇人間の胴を薙ぐと、吹っ飛んだ。

「はぁ…はぁ……」

深瑠璃の周りには、倒れた蛇人間が五匹。

「さっさと引いてくれねぇかなぁ…」

倒れていた蛇人間のうち一匹が飛びかかる。

が、それを木刀のフルスイングで殴る。

蛇人間は塀に当たりズシャッと落ちた。

フルスイングしてスキだらけの深瑠璃に、もう一匹が飛びかかった。

「やばっ!?」

深瑠璃が思わず目をつぶった時だった。

ガキィン! という金属音。

深瑠璃が目を開けると、目の前で蛇人間が剣に貫かれていた。

否、剣ではなかった。

刃の無い、丸い刀身。

それは持ち手の短い槍だった。

『柊深瑠璃』

「ッ!?」

深瑠璃の頭に声が響いた。

『上だよ』

深瑠璃が上を向くと、そこには神々しい光を放ち、十二枚の翼を広げる篝がいた。

『魔法少女になりたいんだろう? 武器はくれてやる。魔法少女になりたいなら力を見せてみろ』

「!」

深瑠璃が蛇人間に刺さった槍を抜く。

蛇人間が砂と化した。

『あと、四体。ルガーランスがあれば楽勝だろう?』

深瑠璃が槍を構える。向かってきた蛇人間のどてっ腹に、一突き。

ガシャ! と音を発てランスの刀身が割れ、蛇人間を引き裂いた。

「次!」

向かってきた蛇人間を刀身が開いたままのルガーランスで突き刺した。

『トリガーを引いてみろ』

抵抗する蛇人間。

その拳が深瑠璃に届く前に、深瑠璃がトリガーを引いた。

バチチチ…バシュン!

刀身の間に紫電が迸り、何かが発射された。

『その槍には俺の雷の力が宿っている』

「雷撃槍……」

蛇人間が立ち上がり、深瑠璃に背を向ける。

「キシャッ! シャー!」

「ギシャー!」

壊走する蛇人間。

『撃て。アレは人を襲う類いの者だ』

「わかったよ…」

深瑠璃がライフルのようにルガーランスを構える。

瞳に紋様を浮かべ、深瑠璃がトリガーを二度引いた。

二度の射撃で二匹を倒した。

パチパチパチパチと拍手と共に篝が降りてくる。

「見事だ。柊深瑠璃」

篝の後ろにはレイナーレとカラワーナが控えている。

「……ありがとう。悪魔…? さん」

深瑠璃がルガーランスを返そうと、差し出す。

「君が持っていなさい」

篝がパチンと指を鳴らすと、ルガーランスが光に包まれた。

ルガーランスが消えた場所には、チェーンがついた小さくデフォルメされたルガーランスがあった。

「首にでも巻くといいよ」

深瑠璃は宙に浮くアクセサリーを手に取り、首にかけた。

「では。君の家まで送ろう」

篝が指を鳴らすと、深瑠璃の視界が闇につつまれた。

だがそれも一瞬の事。

闇が晴れると、深瑠璃は自分のマンションの玄関の前にいた。














side in

放課後、柊深瑠璃が部室にやってきた。

「やぁ、柊深瑠璃」

彼女を座らせ、ファイルを渡す。

「これは?」

「最近君を襲っていた蛇人間に関してだ」

例の蛇人間はやっぱりダークビーストだった。

グリゴリで調べた結果、一月前に死んだ魔術師のミニオンだったらしい。

「読んだな? もう君を襲う奴は居ない。とはいえその瞳は強力だ。
知られたなら狙う輩も出てくるだろう。
さぁ、どうするかね柊深瑠璃。
龍魔天使として俺の配下になるか、それとも龍天使になるか、それともルガーランスだけ持って人間のまま過ごすか」


柊深瑠璃が、ファイルから顔を上げた。

「なるよ。君の配下に。オレは君に恩がある。でもオレには返せるのが、この瞳しかない。だから、この体ごと、瞳を君にあげよう」

「宜しい」

柊深瑠璃を、立たせる。

「アポート」

呼び出したのは、ルークの駒だ。

「これはルークの駒。簡単に言えば力を強くする駒だ。
ただひとつ。これを使ってしまうともう人間同士の戦いじゃなくなる。
人間同士のボクシングはもうできない」

「構わないとも。正直、この瞳だから最近はあまりやってないんだ。フェアじゃないからな。
だからこれを期にボクシングはやめるよ」

「そう。わかったよ。じゃぁ始めようか」

ルークの駒を浮かせ、柊深瑠璃の胸の前へ。

「我、創造の龍を宿せし者。万象の祝福を汝に与える者。汝我が祝福と呪いを以て転生せよ」

スッと駒が体に沈んだ。








「これから宜しくな、ミルたん」

「ミルたん言うな」

え? ダメ? 

 

四十七枚目

今日は一月一日、元日だ。

現在時刻は01:36。

「あぁ……ちっこい篝君も暖かくていいね」

「一匹貰って帰っていいかマスター?」

炬燵に潜った二人が白いナマモノを抱きながら呟く。

「ダメに決まってるだろう」

現在、領地の屋敷に入れて貰った和室に炬燵を出してまったり中だ。

ここに居るのは俺、藍華、ミルたん。

それともう一人。

「少年、お腹すいたんだけど」

「なぁ、魔王って暇なのか? 冥界は新年のパーティーとかねぇのかよ?」

「休憩中だよ☆」

セラフォルー・レヴィアタンだ。

それも何時もの魔王少女姿ではなく正装らしきドレス。

「で、我が主。なんか用?」

「特に無いよ。ここが単に居心地がいいってだけ。
あ、この二人が持ってるの私にもちょうだい」

「はいはい…」

いつの間にかできるようになっていた分身能力でちっこいコピーを作り、龍化させる。

猫くらいの大きさの龍化分身をセラフォルーに渡す。

「はいありがとねー」

「あんま変な所触んなよ」

今出してる五体の分身は感覚が繋がっていないとはいえ一応俺の分身だ。

残りの二体は炬燵の中で丸くなっている。

切り離した分身は好きに操れるが、操作と感覚共有を手放すと勝手に行動し始める。

小さいと龍化して猫みたいに寝るし、等身大だと勝手に龍化して寝始める。

……俺ってそんなに眠たいキャラなのだろうか。

あと、俺の身長の半分より小さくすると何故かデフォルメされて丸っこくなる。

「はいはいわかってるよ☆」

いちいち語尾に☆つけんなウゼェから。

「ところでヴァーリちゃんは?」

「ジュスヘル達と飲んでる」

神社に母さん、ヴァーリ、ジュスヘル、グザファン、レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトが集まっている。

たぶん父さんはアザゼルと角でチビチビやってるんじゃないかと思う。

ぶっちゃけると酔って絡まれると嫌だからこっちに逃げてきたっていうのもありはする。

「え…? あの子未成年なんじゃ…?」

片目をつぶってミッテルトと視界をリンクする。

「母さんが甘酒飲ませてるだけみたいだし大丈夫でしょ」

ミッテルトは気付いてくれたらしく、部屋をぐるりと見渡してくれた。

父さんとアザゼルとグザファンが居ない。

別室で飲んでるのかな…?

と、そこにジュスヘルが転移術式で侵入してきた。

「ヴァーリが呼んでるぞ篝」

「えぇー……ヴァーリ甘え上戸じゃん…」

去年の雛祭りは…うん…その…ね?

「お前が我慢すれば済む話だろう?」

「じゃぁコイツら連れていけば?」

炬燵で丸くなってたチビドラゴンの尻尾を引っ張って炬燵から出す。

そのままプラーンと持ってジュスヘルに差し出す。

「分身か?」

受け取ったジュスヘルが言った。

「おう」

「あと五匹くらいくれないか?」

「そんなにどうすんだよ…」

サイズダウンした手のひらサイズのプチドラゴンをチビドラゴンの上に10匹くらいのっける。

「ぷきゃー」

「うきゅー」

「ぷきゅー」

うん、出しすぎた。

超喧しい。

「きゅー」

「煩いから早く持ってけよ」

「これお前自身だろう?」

「正確には俺が能力で作り出した子機だ」

「吸血鬼のコウモリみたいなものか?」

「そんな感じ」

ジュスヘルが転移したのを見送り、また炬燵でまったりする。

「セラフォルー、お前酒飲む?」

「もうどうとでも呼んでおくれよ…」

「じゃぁ無礼講って事でセラな」

「まぁいいや。 日本酒あるの?」

「あるよ」

父さんから貰った日本酒を炬燵の上に置く。

「藍華とミルたんは?」

「もらおうかしら」

「初めてだが…飲んでみるかな…」

side out








姫島神社

「篝は無理だったがコイツらを貰ってきたぞ」

ジュスヘルが戻るなり手の中のドラゴンが勝手に飛び出した。

パタパタと羽を動かして、全員ストーブの前に集まって寝始めた。

「この子もらうよー」

ヴァーリがチビドラゴンを手に取った。

「くるる…?」

コテン、と首を傾げるチビドラゴン。

「これはこれでかわいいね…」

「ヴァーリちゃんわたしにもそっちの子ちょうだい」

「はい、朱璃さん」

ヴァーリはもう一匹のチビドラゴンを朱璃に渡した。

「くゅるる…」

「小さくても翼は篝と同じなのね…」

朱璃が翼を撫でながら、微笑む。

「んー…見たところエネルギーの流れも篝のミニチュアですね」

ヴァーリがチビドラゴンをひっくり返してお腹をぷにぷにつつく。

堕天使三人娘もプチドラゴンを一匹ずつ手に取る。

「小さいとかわいいわね…」

レイナーレが人差し指で顎の下を撫でると気持ち良さそうに目を細めた。

「ぷきゅー…?」

「この子ら鱗までぷにぷにしてるっす!」

「ソフトシェルクラブみたいだな……」

「きゅぴぃっ!?」

カラワーナの手の上のプチドラゴンが逃げ出した。

「いや食べないけどな」

プチドラゴンはヴァーリのうでの中のチビドラゴンの羽の下に潜り込んだ。

そこへグザファンが入ってきた。

「お? 篝の分身か?」

ストーブの前で丸くなるプチドラゴンを見て…。

「饅頭みてぇだな。旨そうだ」

きゅぃぃっ!? とプチドラゴンsが悲鳴を上げて、チビドラゴン二匹の翼の下に潜り込む。

「まぁまぁ、安心してくださいな。食べるにしてもちゃんと調理しますから」

ピぃ!?

結局ヴァーリの下に全プチドラゴンが集まった。

「こういうの見ると、つい意地悪したくなっちゃうのよねぇ…」

朱璃の膝の上のチビドラゴンはクァとあくびをしている。

「食べますか?」

朱璃がみかんを差し出す。

「くゅー」

差し出されたみかんを加えると上を向き、咀嚼する。

「くゅー…」

尻尾が嬉しそうに揺れる。

「本当に猫みたいですね」







side in

「しょぉーねぇーん! もうね!もうね! あの老害ども吹き飛ばしたいんだよぉ!」

「くっそこっちがハズレだったか。落ち着けセラ」

セラに酒を飲ませたら唐突に愚痴りだして、今に至る。

なんかヤバそうな機密をポロポロこぼし始めたので藍華とミルたんはドラゴニューツの新年会にロストで放り込んだ。

さっきからこの女特級秘密事項をペラペラとしゃべっている。

教会とか旧魔王派に送り込んだスパイの名前とかのどうでもいい割に知った責任が重いやつばっかりだ。

「あー、はいはい。数年以内に旧魔王派はクーデター起こすからその時に存分にやれ」

「よっしゃぁ! 死ねシャルバぁぁぁぁ!」

シャルバ? 誰だっけそれ? まぁ、どうせ旧魔王派の誰かだろ。

「その時には、きっと俺もアンタの為に戦えると思うよ」

現在悪魔側から振られている仕事の多くははぐれ討伐。

それも秘密裏に。

たぶん駒王協定が締結されるまではこのままだろうな。

俺まったくクイーンっぽい仕事してないし。

しばらくセラの相手をしていると、部屋の角にログインエフェクト…じゃない、転移魔方陣が浮かんだ。

「やはりここでしたかお姉様」

現れたのは青いドレスに身を包んだソーナだった。

「あー! そーなたんだぁー! 一緒にのもぉー!」

「ダメです。パーティーは終わりましたが今からサーゼクス様が内密の御前会議を行いますので」

「えぇー! やだやだやだぁー! 飲むのぉー!」

「ソーナたん、この酔っぱらいさっさと引き取ってくれないか?」

「は?」

こわ…。

「ソーナさん、この酔っぱらいさっさと引き取ってくれないか?」

「元からそのつもりです」

ソーナはセラの顎を片手で掴んで口を開けさせると、毒々しい色の液体を流し込んだ。

ビクンッ! とセラが震えて顔を青くする。

「なに今の」

「酔い覚ましです。少し刺激が強いですが」

「あ、そ…」

ソーナがややぐったりしたセラを立たせた。

「じゃぁな、ソーナ。また近い内に」

「ええ、そうねカガリ」

そしてセラとソーナが転移で帰って行った。

「ん? アイツ俺の分身もっていかなかったか?」

side out











御前会議会場。

ぷにぷにぷにぷに…………。

「ふむ」

サーゼクスは目の前のナマモノをつついて感触を確かめた。

「くゅるるる……」

「セラ、私にも一匹貰えるようカガリ君にたのん…」

ガブッ!

「ッアァ━━━━ッッッ!?」
 
 

 
後書き
四十八枚目はこの作品のR18パートである『色欲の龍天使』にて公開しています。 

 

設定集

姫島篝
神器 祝福の龍杖-カンヘル
属性 聖 光 魔 龍 混沌
種族 半天使龍半堕天使の悪魔転生体。
転生者であり朱乃の弟。
母の命を守る事を目標としていた。
リリンに殺された母を甦らせるため、人としての命をセルピヌスに捧げ、半龍半堕天使となった。
その後姉を助ける為にセラフォルーを呼び出し、己自身も悪魔となった。
半龍状態がデフォルトだが、龍態にもなれるし普通の人間の姿にもなれる。
ピースロビング(駒強奪)によって上限以上のピースを持ち、尚且つ全てがミューテーションピース(ドラグーン・ピース)となっている。
駒王学園神話研究会会長を務める。
『蒼穹のファフナー』でいう所のミール(情報集積体)のような存在で、眷属やドラゴニューツの見聞きした事を覗く事ができる。

身分
堕天使陣営では幹部級の権限を与えられており(アザゼルが仕事を押し付けるため)、魔装(劣化版の人造神器のようなもの)や術式の研究を主とする。
悪魔陣営においてはセラのクイーンであるためソレなりの権限があるはずだが、基本的に暗殺とかしかしないので使うことはない。
リアスとソーナが来るまで駒王町の暫定領主(管理はグレモリー家、はぐれ討伐などだけ)を務めている。

服装
直ぐに龍化できるよう平服はゆったりとしたワンピース(背中がらあき)を好んで着る。
ちょっと屈むと見える。

神器
祝福の龍杖-カンヘル
最後のカンヘルたるセルピヌスが封じられている神器。
神器システムではなくヤハウェ自らがセルピヌスを封じたファースト・ロンギヌス。
十の能力を発現することができる。
※本来であれば力を使えば使うほど龍に侵食されていく。
以下能力一覧
【ウォール】空間湾曲防壁
【リバース】結晶修復
【ロスト】空間湾曲転移
【アポート】結晶内転移
【アクセル】任意倍率増幅
【ブレイン】体感時間拡張
【ワーム】空間湾曲攻撃
【同化】 結晶同化
【リライブ】死者組成
【分裂】 分身作成

禁手
ドラグライズ-聖龍解放。
カンヘルの禁手(亜種)。
ハーフドラゴンから完全な龍の姿となり、一部力を解放する。
※通常の龍態への変化とは別。


カンヘルとセルピヌス
マヤ系の聖書亜種であるチラムバラムの予言に登場する龍の姿をした天使。セラフィムより偉大な存在。
原典ではヤハウェは世界より先に四柱のカンヘルを作り出し、彼らと共に世界を創造した。
その後四柱は世界を支えているという。
また神はもう一柱のカンヘルであるセルピヌスを造った。
そしてセルピヌスは後に創られる全ての天使に祝福を与えたとされる。

領地
セラフォルーに与えられたオーストラリア大陸の五割増しほどの面積の島(大陸)を持っている。
中央に大きな湖があり、湖畔には館がある。
現在館には篝、ヴァーリ、黒歌、堕天使メイド三人、ドラゴニューツが暮らしている。

眷属
ドラグーンピースを通じてカンヘルに祝福されており、全員が【リライブ】と【分裂】以外のカンヘルの能力を使うことができる(篝がやるより威力が格段に下がるが)。
また経験の共有とテレパシーも使えるようになる。
以下眷属一覧
クイーン ヴァーリ
ナイト
ナイト
ビショップ
ビショップ 桐生
ルーク ミルたん
ルーク
ポーン グザファン
ポーン レイナーレ
ポーン カラワーナ
ポーン ミッテルト
ポーン ジュスヘル
ポーン
ポーン
ポーン

基本戦略
ポーン全員がロストで突入。
即時プロモーション。
なので強い奴をポーンに置く戦略。



黒歌
篝の使い魔(ペット)。
ディバイン・ディバイディングで『成長』を奪われロリッ子になってしまった。
体格はほぼ白音と同にまで小さくはなったが、仙術(龍脈の力などの外部の力)をメインに使うためそこまで弱体化していない。
また駒を取り除かれている。



ヴァーリ・ルシファー(TS)
神器 ディバイン・ディバイディング
篝のクイーン。
幼い頃から篝と共に過ごしており、好意は常にMAX。その好意は依存や忠誠にも近い。
高身長で出る所は出ているナイスバディ。
赤龍帝へはこれといった感情を懐いていない。
篝と一緒に『銀色姉妹』と呼ばれている。
ラヴィニアとは仲がよく、鳶尾が頭が上がらない人だったりする。
『力の流れ』を見る事に長けているが、習得した理由は「篝をマッサージで喘がせたいから」だったりする。
黒歌編で黒歌の成長を半減吸収した結果ナイスバディになった。
精神は肉体に引っ張られるのか、急に大人びた印象になり篝を惑わせる。
篝の正妻ポジション。

アルビオン・グウィバー
ディバイン・ディバイディングの中に封じられている龍。
ヴァーリの事を実の娘のように思っており、篝の事も信頼している。
セルピヌスには頭が上がらない。



桐生藍華
篝のビショップ。
サキュバスの子孫で先祖返り。
好奇心が強く、楽しそうという理由で篝の眷属になった。



柊深瑠璃 (ひいらぎ みるり)(TS?)
アダ名 ミルたん
篝のルーク
神器 全視の瞳(レイヴンズ・アイリス)
本作では長身オレっ子美少女。
元ボクシング部エース。
篝の二個上。
魔法少女に憧れており、本人も極めて高い魔力を持つ。
一時期ダークビーストに襲われており、その時助けられた恩を返すため篝の配下になった。

神器
全視のワタリガラス(レイヴンズ・アイリス)
白目の部分に赤いルーン文字が浮かび、黒目がカラスの形になる。
おおよそあらゆる全てを見ることができる。
千里眼、透視など。
ただし瞳術等が使える訳ではない。




レイナーレ ミッテルト カラワーナ
篝の眷属兼部下(メイド)。
レイナーレとカラワーナはリアスとタメ(という設定で駒王学園へ行くことになっている)。
ミッテルトは篝とヴァーリとタメ(こっちは実年齢で既に通っている)。
レイナーレは篝とは基本的にビジネスライクな関係を心がけている。
ミッテルトが一番早く打ち解けて、最も篝になついている。
カラワーナはなんだかんだ言いつつ篝を慕っている。
全員が篝をご主人様と呼ぶ。


ジュスヘル
篝のポーン。
天地始之事(日本版聖書)において御前の七天使のトップとされている天使。
堕天した後いく宛もなくさ迷い日本に流れ着き、天狗の長として長い時を過ごしていた。
ほんの数十年前にアザゼルによって引っ張り出され、以後グリゴリで過ごしていた。
篝に道術、妖術、仙術、北欧魔術、法力、陰陽道などの基礎を教えた。
最上位結界クーリアンセ(篝命名)を作った本人。
※天狗なので重度のショタコン。


グザファン
篝のポーン
グリゴリで『炉』の管理をしている金髪ロリ。
面倒見がよく、篝と朱乃とヴァーリの事は小さい頃から知っている。



聖剣計画の子供達-ドラゴニューツ
篝のリライブによって甦った者達。
故にその身に龍天使の力を宿す。
以降グリゴリに所属(とはいえ篝の命令しかきかない)し、篝の直属として篝の領地で暮らす。
死からの復活という奇跡を体験したため『魂の格』が高くなっており、人造神器に高い適正を持つ。
信仰はヤハウェではなく篝へ向いている。
※駒を与えられている訳ではない。
※『蒼穹のファフナー』でいう所のファフナー各機やフェストゥムのような存在。
女子十名男子八名からなり名字はすべて龍下(たつもと)となっている。
命名基準は女子には音楽に関する名前が、男子には文章や書物に関する名前がついている。

以下女子メンバー。
謡(うたい)(トスカ)
金髪ロング。
神器
アイソレートゴスペル(拒絶と信頼の歌声)
熱、電磁波、物理攻撃、呪術など自分を傷つけうる全ての攻撃や干渉を遮断するバリアを纏う。その時は自分も内側からは攻撃できない。
(元ネタ絶対ナル孤独者)

詠奈(えいな)
肩までの茶髪。眼鏡っ娘。

響湖(きょうこ)
黒髪ロング。タレ目で眠たげ。

舞(まい)
黒ショートカットの活発な子。

詩華(しいか)
金髪で大人しめの子。

声花(せいか) (クリス)
赤みがかった茶髪をポニテにした子。
ドラゴニューツのまとめ役。

真琴(まこと)
金髪。腰までのストレート。男装の麗人。

韶子(しょうこ)
黒髪を後ろで三つ編み一本にしてる子。
おしゃべりが好き。

美弦(みつる)
綺麗な髪だけど隠れ目で少し気弱な子。

律(りつ)
悪戯好きな青みがかった黒髪ロングの子。

以下男子メンバー
典也(のりや) ジョージ
黒髪のスラブ系イケメンで男子の纏め役。

雄辞(ゆうじ)
金髪で目付きが悪いが優しい子。

忠文(ただふみ)
黒髪。メガネをかけたイケメン。

灯籍(ともより)
茶髪。一番身長が高いけど気が弱い。

字将(あざまさ)
茶髪。いちばん元気なやつ。

章(あきら)
金髪ダウナー系。

経助(きょうすけ)
黒髪。悪戯好きな男の子。

哲(さとる)
茶髪。皆のムードメーカーで引き際を間違えない。







以下堕天使陣営(?)

アザゼル
グリゴリのトップ。
篝と朱乃の事を小さい頃から気にしてくれていた。
本気になれば強いがいつもふざけているので基本的にネタキャラ。


シェムハザ
グリゴリの副長を務める。
基本的にアザゼルのストッパー。
アザゼルに説教できる数少ない内の一柱。


サハリエル
見た目はひょろひょろで不健康そうなオジサン。
月の力と邪眼を司る堕天使。
術式の研究を主としており、篝に術の基本を教えた。


アルマロス
グリィーゴリィー! なムキムキオジサン。
結構強い。


ベネムネ
朱璃と話が合う質の人。
グリゴリ本部のプレイ(深)ルームの管理者。


バラキエル
篝と朱乃の父親、朱璃の夫。
襲撃事件以降は基本的に家から出ず、在宅ワークをしている。
朱乃には原作程ではないが嫌われている。

姫島朱璃
原作とは違い存命。
朱乃とヴァーリに色々(神道系)教えている。
現在も神社で暮らしている。
娘と息子と義娘が家から出ていって少し寂しいらしい。その分夫と(検閲されました)。
アザゼルに正座させて説教できる程度には強い人。





以下悪魔陣営(?)

セラフォルー・レヴィヤタン
一応篝のキングだが特に(直接)仕事をさせてるわけではない。
篝にさせている事と言えば領地の管理くらいの物である。


サーゼクス・ルシファー
篝とは初対面の時に色々あったが今は和解している。


グレイフィア・ルキフグス
サーゼクスの妻でグレモリー家メイド長。
司る権能は『富』と『水難』。
先祖返りで『水難』の権能を使える。
その気になれば冥界を好き勝手できるだけの実力も地位も名誉もあったりしちゃう人。


リアス・グレモリー
会うたびに篝の翼をもふもふしている女の子。
まだ子供っぽい。
篝の事は友人以上に思っており、同じ『従える者』として共感しあう部分もある。
篝からは『リーアちゃん』と呼ばれている。

姫島朱乃
篝の姉で超ブラコンでシスコン。
朱璃が死んでいないので原作ほど嫌ってはいないがアザゼルとバラキエルに思う所がある。
殆ど家(神社)に帰らずグレモリー家でリアスのクイーンとして行動している。
姫島条約の悪魔側の大使も務める。
原作より大分強化されている(すでに雷光を使えるので)。

木場ユウト
リアスのナイト。
原作と変わらず。
ただし同士達が死んでいないのでリアス達と早く打ち解ける。

白音
篝がセラフォルー経由でサーゼクスに助けさせた。
姉の事を嫌っていない。
篝には恩義を感じている。


ソーナ・シトリー
セラフォルーの妹。
篝とはそれなりの交流がある。



以下京都陣営

八坂
齢四桁の狐。
美貌、ナイスバディ、もふもふの三拍子揃ったパーフェクトレディ。
ジュスヘルが天魔として天狗を纏めていた頃からの知り合い。
協力して京都を治めていた。

九重
八坂の娘。
美幼女、もふもふ、のじゃロリの三拍子揃ったパーフェクトロリ。
環境故に篝達以外に同世代の友達が居ない。

旅館の女将
たぶん雪女
ジュスヘルとは旧知の仲らしい。




ドラグーン・ピース
篝が持つミューテーションピース。
天使、悪魔、堕天使、龍の力を与える。
全てが篝がピースロビングで奪った駒を侵食、変異させており、上限数が実質的に存在しない。

オリジネイト-天上回帰
originate-由来する、という意味から転じて原点回帰。
つまり悪魔や堕天使を再び天使にすること。
聖や光への対抗措置の一つとして悪魔の中で研究されていた。
ドラグーン・ピースを使えば(篝の眷属になれば)可能。

姫島条約
悪魔堕天使間の密約で、互いに主力を動かさないという条約。
アザゼル、バラキエル、サーゼクス、セラフォルーの紋章によって調印されている。

ダークビースト
ミニオン(使い魔の人造生命体)の出来損ないや暴走体。
未熟な魔術師や魔法使いが身の丈に会わない素材でミニオンを作ったり、年老いた者が死んで遺されたミニオンなど。

クトゥルフ系神話生物群
魔法使いや魔術師が有名な文学作品を元にしたミニオン(美瑠璃編の蛇人間など)を作ったりしていたので、その影響で実際に形を得た存在達。
原典ほどの強さや権能はない。

駒王学園神話伝承研究会
篝の眷属が所属する。
会長 篝
副会長 ヴァーリ
部員 黒歌 ミッテルト 藍華 真尋 ドラゴニューツ
 
 

 
後書き
この3話くらい先で出てくる奴等の設定入れるかとか、朱乃と朱璃を何処に書くかとかで迷いました。
まぁ、一応朱乃はリアスの眷属だし朱璃は堕天使陣営と中がいいのでそれぞれ悪魔と堕天使の陣営としました。 

 

四十九枚目

「こんにちは、八坂真尋さん。我が主がお呼びです」

中学二年生になって直ぐの頃、八坂真尋はクラスメイトから呼び出しを受けた。

真尋を案内するのは龍下哲という男子生徒だ。

茶髪で明らかに日本人の顔つきではない。

「我が主って?」

「来ればわかりますよ」

哲はおどけたような口調で真尋を案内する。

「八坂さん。貴方オカルトは好きですか?」

「オカルト?」

「ええ、これから案内する場所は神話や伝承について調べる研究会ですから」

「研究会……」

なにやら不穏なワードのように聞こえ、真尋が躊躇う。

「ああ。ご心配なく。可笑しな宗教団体とは違いますよ。まぁ…本物ですからね」

「?」

「ご安心を。貴方を呼び出した我が主は神話伝承研究会の会長を務める姫島篝様ですから」

「あー。篝さんか。なら可笑しなことにはならないか…」

姫島篝の名前は中等部だけでなく高等部や初等部でも知らない人はいない。

そして、常にその隣にある人も。

「じゃぁヴァーリさんも研究会の人?」

「ええ、姫島ヴァーリ様は副会長を務めております」

真尋が連れていかれたのは、本校舎から離れた場所にあるプレハブ小屋だった。

「こ、ここが部室なの?」

「ええ、そうです」

哲がプレハブ小屋の引き戸を開け、真尋を案内する。

「え!?」

真尋が入った場所は、到底プレハブ小屋とは思えない広さの場所だった。

正面には三匹の龍が絡み合うステンドグラス。

左右に伸びる廊下。

まるで城か屋敷のような場所だった。

「龍下くん!?」

真尋が哲に説明を求めようとしたときには、もう哲は居なかった。

どころか、振り返った場所にあったのは荘厳な扉だ。

わけがわからず、真尋は扉を開けて飛び出した。

そしてやはり、そこはさっきまで歩いてきた学校の敷地ではなかった。

目の真にあったのは穏やかな水。

それが海なのか湖なのかは真尋にはわからなかった。

なぜならどこまでも続いているから。

さらにはプレハブ小屋だったはずの建物は巨大な館へと変貌していた。

「ど、どこだよここ…」

「何か用か?」

「うわぁっ!?」

いつの間にか、真尋の隣にはメイド服を着た青髪の美女が居た。

「んー? お前人間か? どうやって入ってきた?」

「え、えと……さ、哲君に…」

「ああ……なるほど。そういうことか」

青髪の美女…カラワーナが額に手を当てる。

「あのクソ主人……」

ため息をついた後カラワーナが屋敷へ入っていく。

「そこの人間。ついてこい」

またどこか訳のわからない場所につれていかれるのかと思った真尋だが、他に宛てもないので大人しくついていく事にした。

「私はカラワーナ。ご主人様…姫島篝の部下だ」

「ぶ、部下?」

「いずれお前も同僚になるだろう」

「え?」

扉の正面の階段を登り、二階へ。

「こっちだ」

とカラワーナに案内される真尋だったが、その反対側を見てしまった。

「っ!?」

視線の先、廊下の突き当たりの窓際。

そこに椅子とテーブルを置いてチェスをしているのは学校でも見覚えのある顔だった。

ただし、物々しい翼や尾や手足を持ち、頭に角と光輪を持っている。

「ん? ああ。まぁ、慣れろ」

「いやいや。おかしいだろ!?」

「なに、すぐにお前の中でも日常になるさ。八坂真尋」

そして案内されたのは、シンプルな扉の前だった。

「中にご主人様が居る。まぁ、余程の事をしなければなにもしてこない………はず」

カラワーナに背中を押されて、真尋が扉を開けた。

「フゥ━━━━━ハハハハハハ‼ よく来たな八坂真尋よ!」

「えぇ!?」

なんと中に居たのは、漆黒の翼を広げ、物々しい黒い鎧に身を包んだ篝だった。

「人間界をわが手中に収める為っ! 貴様の力を振るって貰おうではないかぁっ‼」

ビシィッ! と真尋を指差して決めポーズをそている篝。

「「…………………」」

コツコツコツ、とカラワーナが篝の隣に行き……。

目にも止まらぬ速さで蹴飛ばした。

「ほにぇぇっ!?」

篝はそのままぶっとばされ、ガシャンと窓から飛んで行った。

「ふぅ…。ウチのキングが失礼した」

「待て、展開が謎過ぎるだろ!?」

「アレの悪ふざけは何時もの事だ。今回は切迫してないしな」

とカラワーナが言った次の瞬間。

「ハァイ、元気?」

「ぎゃああぁぁあぁ!?」

真尋の真後ろから声がした。

振り向いて、その勢いで尻餅をつく真尋。

「レイナーレ。お前何処に居たんだ」

「え? さっきからこうして驚かすタイミングを図ってたわよ?」

レイナーレの格好はカラワーナと同じメイド服だが、その四肢は物々しい鎧に覆われている。

角、光輪、尻尾、翼とおよそ人とは思えないパーツもついている。

「うぉー…いてて…。いきなり蹴るなよなカラワーナ」

真尋が再び振り向くと、窓の外で篝が浮遊していた。


そのまま割れた窓ガラスを更に割りながら入ってくる。

そして、真尋の目の前に立ち…。

「やぁ、初めまして八坂真尋君。さっきは悪ふざけに付き合わせて悪かったね」

と篝が差し出した手は、鎧ではなく生身だった。 
 

 
後書き
レイナーレの「ハァイ、元気?」っていうのがお気に入り。
レイナちゃんみたいな作った感じじゃないフランクな感じで居て欲しい。 

 

五十枚目

館の談話室にて。

「っという訳でぇっ! 俺達は悪魔と堕天使両方の陣営に属すスペシャルな訳だ!」

篝は真尋に最低限明かせる事、つまりは聖書三大勢力の成り立ちと現状と自分達の立場を開示した。

「え、ぁ、うん」

「で、本題」

篝が手を差し出す。

「僕と契約して龍魔天使になってよ」

「その誘い文句で僕がOKするわけないだろうっ!」

「ちぇー、ノリの悪い奴」

「そもそも、なんで僕なんだ」

「君がロンギヌスにも匹敵しうるセイクリッドギアを持ってるからだよ」

「ぼ、僕が? そんなわけないだろう」

「そう思うのも仕方ない。君のセイクリッドギアは普段の生活じゃぁ役にたたないし形もない。
俺達が概念型って呼んでる物だ」

「概念型?」

「そう。君の持つ神器の名前はオリハルコン。
性質は絶対不変。
簡単に言えば全ての呪術的変化…ゲーム的に言えばデバフを全て無効化する。
それが例え、セイクリッドギアによるものだろうと」

篝がパチンと指を鳴らした。

「どうしたの篝?」

「うわぁっ!?」

突然篝が座ってる椅子の横にヴァーリが現れた。

「ちょっと彼の身長を半減しようとしてみてくれ」

「あ、この子が言ってたオリハルコンの子ね?」

ヴァーリが神器を呼び出し、真尋に掌を向けた。

「真尋君。必死で抵抗しないと身長半減だよ」

「は!?」

『Divide!』

ヴァーリの翼が発光したが、何も起きなかった。

「わ、すごい。本当に抵抗されちゃった」

「お、おどかすな!」

「脅しじゃないさ。今のは本当に君の中の神器が防いだんだ。
ロンギヌスが一つ、ディバイン・ディバイディングの半減をね」

「どうせでたらめだろ」

「お前がそう思うんならそうなんだろうな。お前の中ではな」

真尋がイラついたように拳を握る。

「一応言っとくと、君が龍魔天使になろうとなるまいと監視はつくよ。
君の力は悪用されれば面倒な事になる。
今現在駒王町を任されている俺からすれば、それは看過できない」

「僕のプライバシーはどうなるんだ」

「君のプライバシーと引き換えに世界が救えるなら安い安い」

「ぐっ……」

「だからもう一回聞こう。否、断られたなら事あるごとに聞こう。
龍魔天使になってはくれないか?」

「……考えさせてくれ」

「OK。あ、あと龍魔天使になったら神話伝承研究会に強制入部だから」

「………………やっぱやめとく」

「いや別に何か活動する訳じゃないんだよ? ただ何かあったときに部活で集まってましたって言っとけばある程度の人数集まってても怪しまれないし」

「うーん………」

「返事は今じゃなくていいよ」








結局、真尋が龍魔天使になるのは一月ほど先の事となる。