悪人達がサキュバスに転生しましたが、容姿が見た事のあるキャラばかりでした


 

始まり

「お前達は悪人じゃった。」

飛行機が墜落して死んだと思ったら、目の前に知らん爺がいた。
そして、俺の周りにも知らない野郎共がいた。
…いや、待てよ。
同じ飛行機に乗っていた野郎共だ。

「このまま地獄に送ってもよいのじゃが、転生して反省してもらうぞ!」

爺は手に持った木の杖を振り回し、怒りの表情で言い放つ。
転生?
…ああ、そうか。
嫁に借りたファンタジー小説と似た話だ。
ということは、爺は神ってわけか。

「女性として生まれ変わり、地獄の日々を味わうがよい!」

地獄か、なるほど。
確かに俺は、天国へ行けない。
殺し屋で、金の為に沢山殺した。
断罪されて当然の人間だ。
周りの野郎共も同じ悪人か?

「記憶はそのままじゃ。その方がより、反省するじゃろ。」

それは助かる。
暗殺技術が使えるわけだし。

「さあ、転生の時がきた!きえええええええっ…あっ。」

おい、爺。
やっちゃったって顔はなんだ。
何を失敗した。

「うっかり、異世界に転生の許可を…。おまけに…。」

異世界だと?
あと、おまけに何をしやがった?
うっ…意識が薄れてきた。
目が覚めた時に確認するしかないか。
嫁よ、すまん。
これが最後の仕事だっていうのに、死んじまった。
 

 

地球の神は失敗した

わしは、地球という世界の神の1人じゃ。
最近人間達が増え過ぎたと、神々の間で問題になっておった。
会議した結果、減らすべし。
悪人なら殺しても良いじゃん?という事に。
運命を操り、飛行機に悪人達を集める。
勿論、パイロット達も悪人。
わしに抜かりなし!
飛行機が離陸した後、事故に見せかけて墜とした。
ほっほっほっ。
これで人間も減り、悪人も減る。
万々歳じゃ!
次は船にしてみるかのう。
おお、いかんいかん。
忘れるところだったわい。
悪人達の中で、とんでもない悪人達が紛れておった。
記憶を持ったまま転生させて、地獄の日々を味わってもらうか。
自分達がやった事を、自分達で体験するのじゃ!
反省させるのも神の仕事よ。

「なのに…わし、失敗してしもうた。」

違う世界に転生させてしまった。
わしの管轄でない故、もう何も手出しできん。
とほほ。
おまけに、人間達の創作した物語のキャラにしてしまった。
いや、それはいい。
本当に困ったのは…。
チート能力を与えてしまったこと!
その力で悪人達が、悪い事をしてしまったら…。
ああ、心配じゃ。
一体どうすればいいんじゃ!
万が一、他の神々に知られたら、わしの立場が危うい。

「………。」

なかった事にしよう。
わしは何も知らん。
こちらの世界の魂が不運にも、あちらの世界に流れた。
そうしよう。
すまぬ、異世界の神々よ。
悪人達の事は任せた! 

 

もと暗殺者は、とある魔神の姿となる

さて、困った。
転生してしまったわけだが、赤ちゃんじゃなかった。
成人した身体。
ラッキーだけど、非常に困った。
別に女になった事は、全然問題ない。
問題は姿だ。
目が覚めた場所には、何故か大きな鏡があった。
爺の仕業か?
とにかく転生した自分を確認したら…知ってる姿だった。
魔女の帽子、眼帯、マントの付いた水着のような服。
美人で、長い金髪と碧色の瞳に、見事なプロポーション。

「あは、あははは。」

もう笑うしかない。
魔神オティヌスじゃないか!
嫁が貸してくれた小説の1つ、新約とある魔術の禁書目録のキャラ。
何を考えてやがる、あのクソ爺め!
ついでに、頭の中に情報がある。
人間でなく、サキュバスに転生していた。
マジかよ。
淫魔って呼ばれているエロい悪魔だろ?
そう思ったら、最悪な情報が出現。
1日に1回、どちらかを満たさないと死ぬ。
男性から(人間でなくてもいい)、〇液を吸収。
もしくは、30食分の料理を食べる。

「なんじゃそりゃあああああああああああああああっ!!!」

叫んだ俺は悪くない。
吸収って、エッチしろって事だろ。
もと男だけに、凄く嫌だ。
30食分も、ふざけている。
毎回そんなに食べてたら、食費代で破産するわ!
というか、この身体に入るか!?

「ちくしょう!」

再会できるなら、爺を殴ってやりたい。

「すうーーーはあーーー。」

深呼吸して、とりあえず冷静になる。
まずは現状把握だ。
辺りを見回す。
天井も壁も床も、岩のブロックで作られた人工物。
ファンタジー世界のダンジョンっぽい。
いや、異世界に転生とか言ってたし、本物のダンジョンか?
魔物がいたら危険だ。
俺の暗殺技術が通用するか分からない。
人間も味方とは限らない。
今の俺はサキュバスだし、敵の可能性が高いか。
もっと情報はないか!?
頭を叩くと、情報が出た…やってみるもんだな。
情報はチート能力。
大地を操る力が、俺にはあるらしい。

「…ふむ、使えるかもしれない。」

壁に触れて、頭の中でイメージする。
扉があり、その奥には部屋があると。
すると、壁が石製の扉に変化した。
よし!
石製で重いが、扉を開いた。
ダンジョンは不思議と真っ暗でない。
少々暗いが、ちゃんと見える。
だから扉の中も見える。
想像した通りの部屋が存在した。
よっしゃー!
大地を操る能力は、岩のブロックにも作用する。
ダンジョン?に、住居を作れるぞ。
ここを拠点にして、異世界を調べよう。
あとは…。
周りに、美女・美少女・美幼女達がいた。
間違いなく、俺と同じ転生者。
さっき周りにいた野郎共だ。
こいつらと話そう。
同じ境遇の上、生きるのに仲間は必要だ。

「おい。」

1番近い美幼女に声をかけた。
 

 

もと奴隷商人は、とある吸血鬼の姿となる

息子よ。
どうやら父は、転生した上に、漫画のキャラになったようだ。
お前が見せてくれた…えーと、なんだっけ?
大きな鏡に映った、自分の姿を見ながら考える。
あっ、思い出したぞ!
魔法先生ネギま!のキャラ。
名前は確か、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
どんなキャラか忘れたが、お前が1番好きなキャラだったな。
わははは。
もう笑うしかない。

「おい。」

声をかけられて振り向くと…痴女がいた!?
そんな恰好で恥ずかしくないのか?
とびっきりの美少女なのに、残念でならない。
いや、待てよ。
転生する時、周りに知らない者達がいた。
彼らの1人ではないだろうか?
そして、私と同じような状況に陥っている。
恥ずかしい恰好も、漫画?のキャラなら納得だ。
本人の意思ではないのだから。
私は黒いワンピースを着ている。
うむ、まともな格好だ。

「おい。」

「ああ、すみません。」

おっと、声をかけられているのを忘れていた。
気をつけなければ。
商人たるもの、相手の話はきちんと聞くべし。
まあ、商人は商人でも、奴隷商人だが…。
私が死んだ後、商品である奴隷達の管理は大丈夫だろうか?
息子に一通りの事は教えてある。
多分、大丈夫と…信じたい。

「現状を把握しているか?」

「大体は。」

痴女の話に頷く。
あのご老人の言葉通りなら、ここは異世界。
頭の中には、サキュバスとチート能力の情報がある。
厄介な種族になったものだ。
チート能力も、非常に厄介と言わざるを得ない。
女性をサキュバスに変える力。
これで仲間を増やせとでも?
あのご老人は何を考えているのやら。
大きな溜息を吐いてから、痴女と相談する。
これからどうするかを。
息子よ、父は頑張って生きるぞ! 

 

もと大量破壊兵器開発者は、とある侍女子高生となる

いやはや、科学で説明できない事が起きるとは…。
科学者としては複雑な気分だ。
しかし、神の天罰を受けて、ほっとしている。
外国の軍隊に捕まり、大量破壊兵器を作れと命令された。
拒否すれば死刑。
自分が助かりたい為に、大勢の命を奪う兵器を、私は作り続けた。
なんと愚かだった事か。
地獄の日々が始まるというなら、潔く受けよう。

「私も話に参加したい。」

オティヌスとエヴァンジェリンが、今後の事を話そうとしていた。
だから、私も参加する事にした。
2人は小説や漫画の登場人物。
もっとも中身は違う。
私もそうだ。
今は女性の身体であり、御剣涼子の身体。
リアルバウトハイスクールという小説の登場人物。
何故知っているかといえば…。
息抜きに日本の雑誌が欲しいと、軍隊に要求した。
すると、漫画や小説。
おまけにゲームまでくれた。
おかげで、ここにいる人物達の名前は全員知っている。
私を含めて、10人か。
これだけいるなら異世界でも、なんとかなるかもしれない。
協力し合えるなら。

「俺もまぜてくれ。」

「あたしもお願いするわ。」

「…同じく。」

次々と皆が話に参加する。
心配し過ぎたようだ。
誰もが現状を理解している。
個人で動くより、団体で動いた方が良いと。
互いに自分のチート能力を告げる。
温泉を作る力。
それが私のチート能力。
しかも、様々な温泉効果を付ける事が可能。
前の世界のように、ちょっと効果がありますよ、ではない。
魔法のような効果を発揮する…らしい。
試していないので、今はらしいとしか言えない。
サキュバスの能力も分かってきた。
1日1回、〇液を吸収するか、30食分の食事をしないと死ぬ。
死にはするが、寿命のない不老。
男性を魅了する魔眼(魔眼の力が強いと女性も可能)。
魔力で作る武器(作れる武器は自分で選べない)。
神は何を考えて、人の姿のまま、我々を人外にしたのか?
これも罰という事か?
オティヌスは失敗したと言っているが、神にも失敗はあるのだろうか?
話は進み、拠点作りと情報収集。
異世界の事が何も分からない以上、この2つは重要だ。
2班に分けて行動しようとした、その時。

「「「プギイイイイイイイイイィッ!」」」

ゲーム等で登場する魔物が現れた。
巨大な身体に豚の顔。
オークである。 

 

もと兵士は、とある剣姫となる

「「「プギイィッ!プギイイイイイイイイイィッ!」」」

さすが、異世界というべきか。
目の前に化け物共がいた。
空想上の存在が、現実に存在する。
驚きだ。
もっとも驚いただけで、恐怖という感情は湧きでない。
周りを見れば、誰も恐怖を感じていないようだ。
彼ら…いや、彼女達は俺と同じ兵士だったのか?
後で聞いてみよう。
今は、この化け物共だ。
体長は2mを超え、木で作った太い棒を持っている。
顔は醜い豚。
誰かが、オークと言っていた。
服は着ておらず、素っ裸だ。
数は3匹。
オーク共は豚みたいに鳴きながら、俺達をじーっと見て笑う。
戦場で何度か見た事がある。
異性に欲情して、襲ってやろうとしている顔だ。
不快な気分になる。
敵兵なら、2度そんな気が起きないように殺す。
味方なら、馬鹿な事をしないように殴り倒す。

「「「プギイイイイイイイイイィッ!」」」

下半身のアレ。
オーク達の男の象徴が、欲情に反応してそそり立つ。
なるほど。
女性の視点から見ると、こんなにも醜悪に感じるのか。
よし、殺そう。
俺は兵士…だった。
国の為に敵兵を、数え切れない程殺した。
国を裏切った味方を、容赦なく殺した。
俺の手は血塗れだ。
だが、願いを叶える為なら…。

「「「プギイィィッ!プギイッ!」」」

煩い奴らだ。
チート能力が、武の力で良かった。
女性になってしまったが、兵士だった時のように動けるだろう。
魔力で武器を作れると聞いた。
魔力というものが理解できないが、武器が欲しいと念じてみた。
黒い靄が手に集まり、長剣になった。
バスタードソードか。
片手でも両手でも使える剣だ。
銃器が欲しかったが、贅沢は言ってられない。
あるだけマシだ。
それに…。
何故か知らないが、鎧を着ている俺に似合っている。
少々、服も鎧も露出が多いが…。

「死ね。」

オークの首を刎ねる。
凄いな。
身体が軽く、剣の重さを感じない。
力も入れてないのに、あっさりと斬れた。
これが武の力か。

「プギイイィィッ!?」

「息が臭い。黙って死ね。」

続けて、オークの首を刎ねる。
不思議な感じだ。
命を刈り取っても、何も感じない。
相手が化け物だからか?
それとも、俺も化け物になってしまったからか?

「プギギイイイイィッ!」

残りの1匹が、背を向けて逃げ出した。
逃がすか。
跳躍すると、疾風の如く速さで、オークの首を刎ねた。
恐ろしい力だ。
だが、ここでは頼りになる。

「まるで、本物のアイズ・ヴァレンシュタインみたいだ。」

赤毛をポニーテールしている少女が、俺を見て呟いた。

「誰だそれは?」

「ダンまち外伝ソードオラトリア。小説で、その物語の主人公。」

どうやら俺は、ソードなんとかの登場人物と、同じ姿をしているようだ。
他の連中もそうなのか?
その辺りも詳しく聞いてみよう。
異世界で生きる仲間として。 

 

もと麻薬の売人は、とあるコスプレ先生となる

アイズちゃん、強いわね~。
本物じゃないけど、オーク達を瞬殺じゃない。
それにしても…。

「はあー、困ったわ。」

そそり立ったオーク達のアレを見たら、お腹の下辺りが熱くなった。
今もキュンキュンしている。
これって、子宮が疼いているのかしら。
初めての感じだわ。
オネエの時と違って、身体が乙女になったわけだし。
〇液か食事。
サキュバスは、どちらかを必要とする。
反応しちゃったのかな~。
人間でなくても良いみたいだから、魔物もオッケーか。
でも、アイズちゃんに、そんな気配はなかった。
心底嫌っていたわね。
私のような反応をしたのは、2人だけ。
ん~~~。
サキュバスの特性より、転生前の男の感情が勝ったのかしら?
多分、大半が食事で乗り切ろうとするけど…。
〇液でも良いと思う私は、問題あり?
転生前は、男も女も愛せたからな~。

「あら?」

オティヌスちゃん達が、行動を変更するみたいね。
拠点作りは、そのまま。
情報収集をダンジョン探索にするみたい。
まあ、そうよね。
どんな魔物がいるのか、調べるのは大切だわ。
勝てない魔物がいたら大変だし。

「ふふふ。」

知らない者同士で、協力するのは良いわね。
神様に感謝したいわ。
あのおじいちゃんが、そうだったのかしら?
死んで、突然の転生には驚いたけど、麻薬の売人より断然マシ。
あんな生活は2度ごめんよ。
おっと、班分けが決まったみたいね。
拠点作りが7名で、ダンジョン探索が3名。
人数に差があるけど、チート能力のせいでしょうね。
私のチート能力は、魔法の力。
魔法を創造して、使う事の出来る力。
早速使ってみようかしら。

「はいはい、3人とも動かないでね。」

探索組に帰還の魔法をかけた。
リターンと口にすれば、瞬時にここへ戻れる魔法。
うん、成功。
さすが、チート能力ね。
長年使っていたみたいに、簡単だった。

「ありがとうございます。とても助かります。」

エヴァちゃんが感謝してくれた。
可愛いわ。
口調が本物と違うけど、可愛いものは可愛い。
…そう、そこが不満だわ!
みんな若くて可愛いキャラクターなのに!
どうして私が、ダンベル何キロ持てる?の立花里美なのよ!
美人だし、胸が大きいし、スタイルも良いわ。
だけど、奏流院朱美ちゃんになりたかった!
ピッチピッチJKに!
はあー、嘆いても仕方ないわね。
立花里美の人気も凄かったし、不老だから、これ以上歳を取らないわ。
大人の魅力で勝負よ。

「さて、頑張りましょうか!」

拠点作りだと、私の魔法でやる事は多い。
結界で魔物を入らないようにする。
万が一入っても、分かるように細工もしておきましょう。
ダンジョンはちょっと薄暗いから、灯りの魔法で明るく。
忙しくなるけど、楽しくなりそうね! 

 

もと傀儡の国王は、とある対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースとなる

3人が探索に出かけた。
心配だけど、アイズさんがいるし、里美さんのかけた魔法もある。
だから大丈夫…多分。

「あれが私。」

大きな鏡に映る自分の姿。
眼鏡をかけた大人しそうな少女。
着ているのは学校の制服。
ちょっと足が寒い。
スカートを穿くなんて、初めての経験だ。
長門有希。
涼宮ハルヒの憂鬱に登場する女の子。
まさか、彼女になるなんて。
驚いているけど、鏡に映る少女の顔は無表情のまま。
転生しても僕は僕か。

「拠点できたぞ。」

オティヌスさんが扉を指差す。
大地の力で、ダンジョンに拠点を作った。
イメージして、ほんの数秒で。
不可能を可能にするチート能力恐るべし。

「適当に作ったが、あとで作り直せるし、とりあえず聞いてくれ。」

僕達が頷くと、オティヌスさんは説明を始める。
拠点は、上層と中層と下層の3階層。
施設は追々追加していく予定で、とりあえず…。
上層が憩いの場や食堂。
中層が各自の部屋や温泉。
下層は、とても大事な場所。
僕のチート能力を使う場所でもある。

「あっ、ちょっと待って!」

早速行こうとしたら、里美さんに止められた。

「これに魔法をかけるわ。」

コンコンと扉を叩く。
ダンジョンと繋がっている唯一の扉。
魔法に詠唱は必要ないらしく、また数秒で終わった。
かけた魔法は3つ。
僕達以外は壁に見える魔法。
僕達にしか開けれない魔法。
壊されたら警報が鳴る魔法。
用心に用心を重ねるのは大事だよね。
オークが出るような場所だし。

「お待たせ。さあ、行きましょう。」

上層から中層へ、中層から下層へ、順々に下りて行く。
3階層の中で、下層が1番広い。

「有希の要望通り、広く作った。」

「有希ちゃん、よろしくね!」

「頑張って!」

あああ、何年振りだろう。
誰かに頼みを聞いてもらったり、期待や応援されるのは…。
僕は小さな国の王だった。
大臣達の言葉に従うだけの…傀儡の王だけど。
逆らえば、両親や兄弟達と同じく、暗殺される。
ごめん、国民達。
僕が弱いばかりに、大勢を苦しめて、死に追いやった。
いつも身の回りの世話をしてくれたメイド達。
味方ではなく、大臣が用意した僕を監視する者達。
ずっと1人で孤独だった。
おかげで、顔から表情がなくなった。

「有希?大丈夫か?」

「はっ!なんでもない、平気。」

つい転生前の事を思い出して、ぼーっとしてしまった。
今の僕に出来る事を精一杯しよう。
もう傀儡の王じゃない。
床に触れて、チート能力を解放する。
生える。
下層に沢山の木々が、どんどん生える。
植物の力。
木々を生み、食べ物を実らせる。
それが僕の力。
目の前にある木には、ピーマンが大量に実っていた。
隣の木には、苺が大量に実っている。
残念なのは…肉類が実らないこと。
お菓子も駄目だった。
さすがに、無理があったかな?
収穫した後は…。
なんと、24時間後に再び実る。
助かるけど、常識が崩れるチート能力だ。

「これは凄い。」

「まったくな。これで食事は何とかなりそうだ。ありがとう、有希。」

「有希ちゃん、ありがと~♪」

皆に感謝された。
嬉しい。
生えた木々は、世話をしなくてもいい。
僕達の身体から漏れている魔力。
ダンジョンに漂っている魔力。
それらを吸収して、養分にするから。
里美さんが扉にかけた魔法も同じらしい。
魔力を吸って、永久持続するとか。

「…あっ。」

気がついてしまった。
とても嫌な事に。
沢山の木々と大量に実った食べ物。
これ…これから毎日収穫?
ど、どうしよう。 

 

もと詐欺師は、とある褐色ロリっ子となる

「もぐもぐ、美味ーっ!」

植物の力、半端ないね。
トマトの木?から、トマトを取って食べた。
転生前に食べた、どのトマトよりの甘くて美味しい。
他の食べ物も美味しいに違いない。
じいさん、地獄の日々?
天国なんですけど。
親の借金を返す為、詐欺師に転職。
最低な親め!って思っていたけど、俺も最低な人間になっていた。
返しても返しても、減らない借金。
そろそろ自殺を考えていたけど…やったね!
ロリっ子に転生。
しかも、プリズマ☆イリヤのクロエ・フォン・アインツベルン。
褐色の肌に、ピンクの混じった白髪。
最高じゃん!
服装はアーチャー。
魔力で武器を作ってみたら、干将と莫耶だった。
素晴らしい!
もう転生前の事は忘れて、クロエとして生きていこう。

「仕事をしてくるよ。」

「はいはい!私も行くわ~。」

涼子が中層に向かうと、里美もついて行った。
仕事?
あっ、そっか。
温泉を作りに行ったのか。
中層にあるって言ってたし。
あとで俺も入ろう!
さてさて、サキュバスとして、どう行動しようか。
1日1回、〇液か30食分の食事。
正直、どっちでも構わないんだよね。
美味しい物を沢山食べるのは大好き。
エッチで気持ち良くなるのも大好き。
前の世界なら、色々アウトな姿だけど…。
異世界では、大丈夫なはず!

「クロエ、食堂で能力を使ってくれ。」

「了解。」

オティヌスに頼まれて、上層の食堂に行く。
いよいよ、俺のチート能力を使う時がきた。
蛇口の力!
最初、頭に情報が流れた時は、orzになった。
きっと誰でもそうなる。
効果を知った時は、超安心したけど。

「食堂に到着!」

力を使うと、手に蛇口が現れる。
壁に刺して完成!
豆腐に刺したみたいで、まったく力がいらない。
ビックリだね。
ハンドルを回すと、綺麗な水が出た。
摩訶不思議。
この水はどこから?
考えても分からないし、チート能力だから!で、済ませよう。
そして!
チート能力には、まだまだ秘められた力がある。
液体なら何でも出せる。
ジュース、ビール、油、醬油等々。
便利だね!
ちょっと飲んでみよ…あー、コップがない。
しょうがない。
両手ですくって飲む。

「ごくごく、美味ーっ!」

キンキンに冷えているビールに勝るものなし!

「子供が飲むな。」

ジト目を向けるオティヌスに、ない胸を張って言った。

「見た目は子供、中身は大人、飲んで問題なし!」

「…そうだったな、ロリババア。」

「若いよ!転生前も20代だったよ!」 

 

もとスパイは、とある眠りの向上を求める姫となる

はあー、永眠できると思ったのに…。
変な爺に転生させられた。
あれはきっと、悪魔に違いない。
スパイだった俺は働いた。
ブラック企業も真っ青になる程、滅茶苦茶働いた。
上層部め。
優秀だからって、こき使いやがって。

「ガルルウウウウっ!」

寝たい。
とにかく寝たい。
死んでもいいから寝たい。
スパイを辞めてもよかったが…。
俺の盗んだ情報のせいで、沢山の人間が死んだ。
だから辞めない。
償いみたいなもんだ。

「バウッ!バウッ!バウッ!」

でも、せめて1日ぐらい休暇が欲しかった。
あの漫画も、もう1度読みたかった。
魔王城でおやすみ。
羨ましい生活をしている姫の話。
そう思ったのが悪かったのか。
転生したら、姫の姿に。
オーロラ・栖夜・リース・カイミーンに。
通称、スヤリス姫。
漫画と違って、眠れない状態だが…。
いや、諦めるな俺。
環境を整えて、良い睡眠生活を手に入れるのだ!

「ワオオオオオーーーーーン!」

そろそろ、現実逃避から戻ろう。
アイズとエヴァンジェリンの3人で、ダンジョンの探索をしていた。
広い上に、魔物の数が多い。
さっきから、炎を吐く黒い毛並みの大型犬。
ヘルハウンドに襲撃されている。
倒しても倒してもきりがない。
相手にするのが、面倒になってきた。
まあ戦っているのは2人だけど。
アイズの強さは分かる。
チート能力が武の力。
剣の一振りで、ヘルハウンドの首が、スポポーンといくつも飛ぶ。
怖くて近寄れない。
おかしいのが、エヴァンジェリン。
チート能力は確か、女性をサキュバスに変える力。
強い要素はない。
見た目も幼女だし、魔力で作った武器は扇子。
ところが、開いて状態で振れば、ヘルハウンドが真っ二つ。
閉じた状態で振れば、ヘルハウンドの頭が陥没。
こっちも怖くて近寄れない。
2人とも、生き物を殺すのに躊躇がない。
生命の危機もあるが、中身は一体何者だろう?
ちなみに…。
俺が魔力を武器にすると、巨大なハサミになった。
スヤリス姫が持っていたアレと同じだ。
驚いた事に、スパッとヘルハウンドの胴体が切れた。
とんでもないハサミである。

「「「「「ワオオオオオーーーーーン!」」」」」

「げっ。」

ヘルハウンドが、また沢山きた。
しかも、通路で挟まれた。
何とかなりそうな気もするけど、仕方ない。
チート能力を使う。
魔物を強制召喚する力。
さあ、来い!

「どこだここ!?」

「うおっ!?知らない犬の魔物が、いっぱいいるぞ!?」

「あっ、姫!また姫の仕業か!?」

…うん?
見た事のある魔物達だ。

「誰?」

「ミノタウロスだよ!」

「ゴブリンだよ!」

「はりとげマジロだよ!」

おおおっ!?
魔王城でおやすみに登場する魔物達だ!
この3人。
頻繁に、スヤリス姫の被害を受けている仲良しトリオ。
召喚する魔物って、魔王城でおやすみの魔物?
とりあえず、答えないと。

「私は…スヤリスであって、スヤリスではない!」

「「「何言ってんの!?」」」

綺麗にハモったな。
かくかくしかじかと、テキトーに説明。
俺の中身については話さない。
ややこしくなるし、別人のスヤリスにしといた。

「マジで!?」

「おい!あの魔物達は何だ!?」

「囲まれているぞ!?」

「敵。助けが欲しくて、君達を強制召喚した。」

笑顔で言うと、一瞬の沈黙。
そして、3人の絶叫。

「巻き込まれた!?別人でも姫は姫か!」

はりとげマジロが頭を抱える。
ごめんね。
だけど、そんな暇はない。
ヘルハウンド達が襲ってくる。

「ま、待て!同じ魔物だ!話し合おう!」

「だあーっ!言葉が通じねえっ!」

「もうやけだ!やったれ!」

ミノタウロスが、話し合いを提案。
異世界の魔物は言語が違うようで、絶望するゴブリン。
叫び声と共に、はりとげマジロのパンチ炸裂。
うんうん、戦闘開始だ。
アイズとエヴァンジェリンが、味方だと伝えておく。
間違って攻撃したら、俺の責任になって怒られる。
人手も増え、圧倒的有利。
さあ、殺戮の宴だよ!
剣で斬って、扇子で斬って、ハサミで斬って、拳で殴る~。

「「「キャイン!キャイン!」」」

あっという間に数が減った。
残っているヘルハウンド達も、戦意喪失状態だ。
逃走を始めているけど…。
アイズとエヴァンジェリンからは逃げれない。
南無南無。

「あの2人…勇者や魔王様より、強くないか?」

「俺も思った。」

「異世界怖いなー。」

2人の圧倒的な戦力に、はりとげマジロ達が怯えている。
よく分かるよ、その気持ち。
強さの次元が違う。
というか、ダンジョンの探索に、俺は要らなかったのでは?

「ほんと、あの2人は化け物だよね。」

「「「………。」」」

おりょ?
3人に、こいつ何言ってんの?って、目で見られた。

「姫も十分化け物だよ。」

「自分の姿と辺りを、よーーーく見ろ。」

「こっちの世界の姫より、数倍強いぞ。」

何を言って…あー。
血の滴るハサミを持ち、返り血で全身真っ赤な俺。
辺りには、内臓を撒き散らした死体が沢山。
てへ。

「笑って誤魔化すな!」

「余計怖いわ!」

「っ!?おい、避けろ!」

グシャッという音と共に、ミノタウロスが潰された。
犯人は、ヘルハウンド。
ただし、さっきのヘルハウンド達より、大きさが違った。
5倍はある巨体だ。
動かなくなったミノタウロスの身体が光る。
強制送還だ。
強制召喚された魔物が死んだ場合、もとの場所に戻される。
あれ?
頭の中に情報が流れた。
強制送還先について…。

「消えた!?」

「姫、ミノタウロスは!?」

「大丈夫。悪魔修道士の所に、強制送還されただけ。」

「大丈夫じゃねえよ!」

「死んでんじゃねえか!」

むう、正直に答えたのに怒られた。
解せぬ。
悪魔修道士の魔法で、生き返るのに…。

「ギャワン!」

放置していた巨体のヘルハウンドは、アイズに瞬殺されました。
一瞬の登場だったね。
ミノタウロスは無駄z…ごほごほ。
周りを見れば、ヘルハウンドも全滅。
はりとげマジロとゴブリンも強制送還しよう。
その前にお礼か。
何も持ってないし、うーん。
そうだ!
身体で払おう。
ちゅっと、頬にキスした。

「「っ!?!?」」

何故だ?
固まって動かなくなったぞ。
お気に召さなかった?
まあいいや。

「強制送還!」

ミノタウロスと同じく身体が光り、光りと共に消えた。
困ったら、また呼ぼう。
他の魔物達も召喚できるかな?
楽しみだ。

「1度帰還するぞ。少々疲れた。」

「分かった。…ところで、その背負っているものは?」

アイズが背負っているのは、ヘルハウンドの死体。
どうするつもり?

「魔物だが、肉は肉だ。」

なるほど。
小説や漫画では、魔物が食べれる話もある。
高級品って場合も。
幸いにも、鑑定できる能力者がいる。
食べれるなら、食事が助かる。
エヴァンジェリンと俺も、ヘルハウンドの死体を背負う。
よし、帰ろう。
里美にかけてもらった、帰還の魔法を使う。

「「「リターン!」」」 

 

もとテロリストは、とあるズボラな教師となる

吃驚した。
凄く吃驚したよ。
ダンジョンの探索から、無事に帰ってきた3人。
だけど、スヤリスが全身血塗れ。
大怪我!?と心配したのに、返り血だったとは…。
まあ、無事で良かった。

「…それで、私の前に置かれた魔物の死体は何?」

「食べられるか、鑑定して欲しい。」

アイズの言葉に耳を疑った。
これを食べる!?
確かに、ダンジョンで肉を確保するとしたら、魔物しかない。
食べるのに勇気が要りそうだが…。
とりあえず、鑑定しよう。
私のチート能力は、錬金術の力。
鑑定は、おまけみたいなもの。
素材として使えるか判断する為に。
今の状態だと、私は足手まとい。
素材や錬金術に必要な器具がないと、何も出来ないのだ。

======================
ヘルハウンド
種族:魔犬 状態:死亡 ランク:C
食べられる肉(美味しい)
錬金術と防具の素材
======================

食べられる上に、美味しいとは…。
アイズに大丈夫と伝える。
素材に使えるのは、牙や皮?
解体して、取っておくべきだね。
しまった。
解体する道具もない。

「誰か、短剣作れる人いる?」

「俺が出来るよ。」

クロエが挙手した。
悪いけど、解体してもらおう。
サキュバスの魔力で作る武器は、自分しか使えない。
作った本人の手から離れると、魔力が霧散して、武器が無くなるのだ。

「教えるから、解体してね。」

「解体かー、了解。」

「この部分を真っ直ぐ斬って、次はそこを斜めに。」

「えーと、こう?」

「うん、上手だよ。」

解体するのも、教えるのも慣れている。
私はテロリストだった。
なんといいますか、家族全員がテロリスト。
森に潜み、機会があれば、破壊活動。
食糧は自給自足で、小動物を捕まえて食べていた。
そのおかげである。

「解体終わり、ばっちりだよ。ありがとう。」

「こっちも貴重な体験できて、面白かったよ。」

転生前は何をしていたか知らないけど、クロエには才能がある。
初めてなのに、綺麗に解体できている。
今度から解体は、全て彼女に任せよう。
肉を食堂に運んで、牙や皮は部屋の隅に片付けた。

「ううー、血でベトベト。」

「温泉できてるぞ。こっちだ。」

真っ赤に染まったスヤリスを、涼子が連れて行く。
温泉か、いいなー。
私も一緒に入ろう。

「私も入るわ~。」

「俺も。」

「同じく入る。」

どうやら、全員で入る事になりそうだ。
中層に移動して、温泉に到着。
見て言葉を失った。
広過ぎだ。
50人が入っても、まだ余裕がありそうな温泉。
泳げそう…しないけど。

「シャワーもあるのか。」

「そこで汚れ落としてから、入ってくれ。」

「分かった。皆が使う場所だ。清潔にしておこう。」

オティヌスと涼子の会話を聞き、服を脱いで身体を洗う。
転生前は、雨とか川で洗っていた。
不衛生極まりない。
よく病気にならなかったな私。

「あー、これはたまらない。」

温泉に入ると、じんわりと身体が暖かくなり、とても気持ちがいい。
サキュバスになったわけだが、人間と変わらない。
いや、温泉が偉大なのかも。

「くふふ。目の前に、裸の美女と美少女達が…。」

里美が危ない目で、私達を見ていた。
両手をワキワキさせながら、ゆっくりと近づいてくる。
背中に悪寒が走った。
全員がゆっくりと離れる。

「落ちつけ、里美。俺達の中身は、もと男性だぞ。」

「もとでしょ!今は女性の身体!あああ、堪能したい!」

オティヌスが説得するも、駄目だった。
完全に欲情している。
サキュバスになったせい?
…違う。
もともとの性格か。

「真冬ちゃん、美しいわ。細いけど、バランスの良い、しなやかな筋肉。」

「ひいいぃっ!?」

ロックオンされた!?
私の姿は、桐須真冬。
ぼくたちは勉強ができないに登場する教師。
メインヒロインの3人より、大好きなキャラクター。
…って、今はそれどころじゃない!
背負向け、猛ダッシュで逃げる。

「逃がさないわよ!魔法の力!」

チート能力を使った!?
ひ、卑怯者!
魔法で強化した里美から、逃げ切れるはずもなく。
捕まった私は…。
胸を揉まれまくった。

「いいわ!凄くいいわ!この感触!」

「にゃああああああああああっ!」 

 

もと泥棒は、とある家事万能な女子高校生となる

「大丈夫ですか?」

「はあ、はあ、なんとか…。」

息も絶え絶えな桐須さんに声をかける。
顔が真っ赤だ。
人に聞いた話だと、女性の胸は男性と比べて、敏感らしい。
あの大きな胸を揉みくちゃにされて…。
自分の胸を見る。

「………。」

これが格差社会。
って、しょんぼりしない!
女性になったとはいえ、もと男性。
小さな胸を気にして、どうしますか。
彼女にも失礼です。
船堀さん。
ディーふらぐ!に登場する女の子。
今の私の姿。
可愛いけど、独特な性格の子が多い漫画。
その中で1番好きだったのが、船堀さん。
小柄だけど家事万能。
優しくて気配りも出来る。
作中で唯一、まともなキャラではないでしょうか?

「ぶくぶくぶく。」

立花さんが温泉の底に沈んでいます。
ヴァレンシュタインさんの拳骨を脳天に受けて、撃沈。
自業自得です。
というか、立花里美ファンに謝りなさい。
さっきの光景を見たら泣きますよ。

「そろそろ上がりましょうか。」

身体も温まったし、食事の準備をしないと。
忘れてはならない1日1回のアレ。
命が掛かっています。
〇液は断固拒否したいので、残された道は食事のみ。
長門さんのおかげで、食材は豊富。
塩はないですが、味付けは醬油で十分。
アインツベルンさんにも感謝です。
肉は…魔物の肉は…一応使いましょう。

「…あっ。」

そういえば、タオルがない。
服も下着も、替わりがない。
不味い。
皆も気がついたようで、温泉から出れない。
女性じゃなくても、同じ物をずっと着るのは、大変良くない。
不潔です。
洗濯した場合、乾くまで裸のまま。
何も行動できない。

「やばいですね。」

色々順調で、油断してました。
こんな大きい落とし穴があったとは!

「は~い、私にお任せよ~!」

声の方を見れば…。
笑みを浮かべて、仁王立ちしている立花さん。
いつの間に復活を!?
あと、大事な所を隠して!

「問題は魔法で解決よ。」

温泉から上がり、床に魔法陣を発動させる。
赤く光っている魔法陣と青く光っている魔法陣。
これは一体?
立花さんが赤い方の魔法陣に入ると、温風に包まれ、身体も髪も乾きました。
す、凄い。
続けてもう1つの魔法陣に、着ていた服と下着を入れると…。
青い光の渦が現れ、飲み込んでしまう。

「まさか、洗濯機!?」

予想通りでした。
渦が消えた後、服と下着が綺麗に。
しかも、濡れていない。
様々なチート能力がありますが、魔法の力…万能過ぎる。
ある意味、最強かも。

「どう、これで解決でしょ?お礼は胸を揉ま、ぐぺっ!?」

言い終える前に、またヴァレンシュタインさんに撃沈されました。
もともとエロかったのか。
サキュバスになって、エロくなったのか。
とりあえず、使わせてもらいましょう。
順々に身体と髪を乾かし、服と下着を洗濯していきます。
待っている間、ふと思い出す。
転生前の自分は泥棒。
やりたくなかったのですが、仕方なかった。
孤児院を、子供達を守る為には…。

「船堀、次いいよ。」

「は、はい。」

いけない。
まずは、やるべき事をしましょう。
さくっと魔法陣で、身支度を終わらせ、食事の準備を始める。
下層で食材を調達。
30食を10人分…沢山必要ですね。
1回で運ぶのは、到底無理。
何度も往復するのでは、時間が掛かります。
なので、立花さんにお願いしてみました。

「ははは、本当に何とかして頂けるとは…。」

下層と上層を繋ぐ、移動魔法陣の完成。
もはや、何でもありですね。

「お礼は…」

「ヴァレンシュタインさーん。」

「勿論、お礼なんていらなわ!」

うん、扱いにも慣れてきました。
エロいのは駄目ですが、食事でお礼しましょう。
私のチート能力は、料理の力。
1度でも食べた料理を、作る事が出来ます。
必要な食材や調理の工程を知らなくても。
もし食材が足りなくても、別の食材で再現可能。
幸いというべきか。
転生前は、色々な料理を食べていました。
頑張りますか!
そう意気込んで…。

「あちゃー。」

テーブルと椅子。
それだけしか、食堂になかった。
ガスコンロも食器も調理道具もない。
ですよねー。
温泉の時に気がつくべきでした。

「船堀、どうした?」

「オティヌスさん。実は色々と足りなくて、料理が出来ません。」

「…なるほど、そういう事か。能力で、作ろうか?」

「その手がありました!お願いします!」

彼女に頼んで、出来上がった物は5種類。
食器とスプーンとフォークを人数分。
催し物とかで使われる超大型の鍋を3つ。
最後は包丁です。
大地の力恐るべし。
石で作ったのに、陶器のような滑らかな仕上がりに。
感謝しつつ、調理開始です。
現状では、凝ったものは作れない。
シンプルで美味しいものがいい。
うーん。
野菜スープにしましょう!
決めると調理工程が、頭の中に流れてくる。
間違えないよう注意して、迅速に行動。
ふふふ。
気分は、プロの料理人。
ちなみに、魔力で作った武器は…お玉杓子でした。
何故!?
大きさ、長さ、形を変えられ、とても便利ですが…。
武器じゃないですよね!?

「船堀ちゃん、ちょっとだけ食べていい?」

「却下です。出来るまで、これでも食べて下さい。」

つまみ食いしようとする立花さんの口に、赤い野菜を入れる。
デザートとして持ってきた苺。
知らない人も多いようですが、苺は果物でなく野菜です。

「甘い~♪」

移動魔法陣に続いて、料理に必要な火を魔法で代用しました。
このくらいの御褒美はいいでしょう。
食器は、大きなどんぶり。
いっぱい食べると思うので。

「食事が出来ました!」

異世界に転生して、初めての食事。
皆の様子を窺います。
チート能力とはいえ、本当に美味しいのか?
不安です。
味見したので大丈夫と思いますが…。

「ふう、温かくて優しい味だ。」

「やばい、何杯でも食えそう。」

「もぐもぐ、美味ーっ!」

「…おかわり。」

「食べるの早っ!?」

「肉が入ってる。」

「それって、ヘルハウンドの…。」

「意外と美味いよ。食べてみなよ。」

「ああ~、幸せだわ~。」

良かった。
予想以上に好評でした。
安心して私も食べる。
美味しい…でも、もっと美味しく出来そうですね。
同じ物を作るだけでなく、更に美味しく進化させる。
これが料理の力の真骨頂。

「まあ、それよりも…。」

皆で楽しく食べる事が、最高の調味料かもしれない。 

 

オティヌス、口調の変化

「…うん?」

ベッドが冷たくて硬い?
目を開けると、床で寝ていた。

「ああ、そうか。」

食事が終わった後、一時解散になり、部屋で休憩していた。
どうやら、そのまま寝てしまったようだ。
私達の住居は中層にある。
1人1部屋で、部屋はかなり広い。
家具がないせいか、余計に広く感じる。

「…喉が渇いた。」

食堂で何か飲むか。
起き上がり、上層へ向かう。
薄暗かった廊下も、里美が灯りの魔法をかけたので、とても明るい。

「あっ、オティヌスさん。」

着くと、船堀がいた。
大量の野菜や果物があり、調理の真っ最中のようだ。
もう次の食事を作っているのか?
1日1回なのだから、慌てなくても大丈夫のはず。

「昨日は簡単に作ったので、次はちゃんと作ろうと思いまして。」

あれで簡単だと?
凄く美味しかったのに、それ以上になるのか。
いかんな。
次の料理が、今から楽しみだ。

「それでも早過ぎないか?」

「6品ほど作る予定なので、下ごしらえの最中です。」

「無理はするな。私も手伝うぞ?」

「大丈夫です。大地の力で、調理器具を作って頂きましたから。」

「分かった。」

任せるとしよう。
そもそも料理の経験が、私になかった。
手伝うと足を引っ張りそうだ。
あれ?
ちょっと待てよ。
何か違和感が…あっ。

「船堀、口調が変わっていないか?」

紳士のような口調が…。
漫画の船堀さんのようになっている。

「はい、気がついたら変わっていました。」

「なっ!?」

「私だけでなく、皆さんも変わっていました。」

「皆も!?」

本人が気づかないうちに変わる。
どう考えても異常だ。
しかも、1人だけじゃない。

「オティヌスさんも、口調が変わってますよ。」

「えっ?」

「一人称も俺から私に、変わっていますし。」

「………本当だ!?」

全然気がつかなかった。
まさか、精神が肉体に…。
キャラに引っ張られつつある!?
ゾッとした。
自分が自分でなくなる。
味わった事のない恐怖に、身体が震えた。

「あの、心配ないと…マクダウェルさんが言ってました。」

「エヴァンジェリンが?」

「私達本来の記憶や性格は変わらず、口調も似ているだけ。」

…確かに。
暗殺者時代の辛い出来事も、嫁との楽しい思い出も、しっかりと覚えている。
性格だって、オティヌスとは似ても似つかない。

「原因は転生した時の副作用か何か。以上、心配の必要なし…との事です。」

なるほど。
エヴァンジェリンの推測だと思うが、納得したし安心もした。
凄い人だ。

「それにしても、副作用か…。」

起きても不思議はない。
転生そのものが異常だった。
男性から女性に、人間からサキュバスに。
身体と種族の違いに、これから悩んだり、心境の変化もあるだろう。
仲間がいて、本当によかった。
相談出来るし、相談に乗れる。
1人孤独だったら、どうなっていた事やら…。

「ありがとう、船堀。」

「いえ、私は何も。お礼なら、マクダウェルさんに。」

「うっ。」

優しい笑顔が眩しい。
本物の船堀さんみたいだ。
転生前が悪人だったとは、にわかには信じられない。
爺のミスじゃないか?
副作用か何かも、爺のせいなら絶対に許さんぞ。

「ふうー。」

紅茶で喉を潤し、今後の事を考える。
まあ、ほぼ決まっている。
人間の町を探し出す。
くっくっくっ、手に入れてやるぞ。
家具を!生活用品を!娯楽(小説・ゲーム)を!
そして、普通の服を!
オティヌスの服は嫌いじゃない。
むしろ、大好きだ。
ただ…。
偽物の私が着るには、レベルの高過ぎる服だった。
ずっと平気な顔をしていたが、本当は…。
超恥ずかしいいいいぃぃっ! 

 

スヤリス、おばけふろしきを所望する

オティヌスが用意してくれた部屋に入って、私は絶望した。
ベッドがない!枕も!布団も!
ここは地獄だった。
全部、あの悪魔のせい。

「………。」

ううん、寝れるだけマシかも。
上層部の連中に、もう働けって言われないし。
床に寝っ転がる。
硬くて痛い…じんわりと冷える…寝れない。
せめて、毛布だけでもあれば!
チート能力も、今は役に…はっ!…立つ!
うっかりしていた。
あの魔物の存在を忘れるなんて。
おばけふろしき。
ニヤリと笑い、魔力で巨大なハサミを作る。
準備よし。
魔物を強制召喚する力を発動!

「おばけふろしきを1体召喚せよ。」

毛布の代わりにする。
顔と手は要らないから、ちょん切る。
安心していい。
終わったらちゃんと、悪魔修道士の所に強制送還する。

「な、なんだ!?」

「光に包まれたと思ったら、知らない場所に!?」

「姫もいるぞ!一緒に巻き込まれたのか!?」

「魔王城だよな、ここ!?」

…おばけふろしきじゃない。
違う魔物。
しかも、4人いる。
チート能力は魔物を選べず、数も決められない?
つまりランダム?

「むすうぅぅぅっ!」

魔王城でおやすみの魔物達を、呼び出せるのは確定したけど…。
役に立たない!

「うわあああああぁっ!」

「姫が乱心したぞ!」

「ハサミを振り回すなあぁぁっ!」

「助けてくれええぇっ!」

ふーーー。
暴れたら、スッキリした。
魔物達は部屋の隅で、プルプル震えている。
じーっと観察するけど、寝具の材料になりそうな魔物はいなかった。
スヤリス姫みたいに、自分で作るのも悪くないよね。

「残念。」

「「「「何がっ!?」」」」

しょうがない。
もう1回チート能力を使おう。
今度こそ、おばけふろしきを!

「…あれ?」

魔物を強制召喚する力が発動しない。
どうして?
何回やっても発動しない。
あの悪魔め。
チート能力でなく、ポンコツ能力を授けたな!

「やべえ、また姫が不機嫌になってるぞ。」

「俺、無事に帰ったら…結婚するんだ。」

「馬鹿、やめろ!フラグ立てるな!」

「ひいいいぃぃっ、目が合った!」

ひょっとして、アレが原因?
魔物達を強制送還して、再度チート能力を使う。

「外にいたのに、城の中にいる!?」

「いやいや、魔王城と違わないか!?」

発動した!
やっぱり、魔物達が原因だった。
強制召喚したら強制送還する。
そうしないと、次の強制召喚は出来ない。
早めに気がついて良かった。

「ふふふ。」

仕組みが分かれば、こっちのもの。
おばけふろしきが出るまで、繰り返すのみ。

「ひ、姫さん。ここは魔王城だよな?」

「いや、違うよな。」

強制召喚したのは、スケルトン2体。
ハズレだ。

「材料にならないから、強制送還するね。」

「「よく分からんが、助かった!?」」

強制送還!
さあ、始めよう。
船堀達の分も、集めようかな。

「んん?」

さっきから口調が変。
…まあいいか。
多分、スヤリス姫の身体に引っ張られているか、サキュバスになった影響。
その他の可能性もあるけど、問題ない。
私という根っこの部分は、変わっていないから。
それより、おばけふろしき!





強制召喚&強制送還、7回目。

「ひ、姫!?「違う、さようなら」ええええっ!?」

強制召喚&強制送還、15回目。

「また君か。」

「好きで来てんじゃねえよ!」

強制召喚&強制送還、22回目。

「…ねえ。おばけふろしきは、どこ?」

「し、知らないっす!ハサミを構えたまま、近づいてこないで!」

強制召喚&強制送還、39回目。

「………。」

「お、おい。すんげえ顔で、こっちを睨んでいるぞ。」

「俺ら姫に、何かしたっけ?」

「無言で尚更こえーな。」





おばけふろしき。
何故、出てこないの!?
いつからレアモンスターに転職したの!?
いっぱい頑張ったに。
寝具の材料にならない魔物ばっかりだし。

「疲れた。」

あったかいココアでも飲んで、この虚しさを癒そう。
しょんぼりしながら、食堂に向かった。