インフィニット・ストラトス ~自由と正義の騎士~


 

プロローグ

「本当に良いのか弾?」

「あぁ、もう家族には未練なんて無いぜ!」


一夏、弾と呼ばれる2人の幼い少年は、前々から計画していた家出を敢行した。



一夏と呼ばれる少年。
名を【織斑一夏】と言い、【世界最強(ブリュンヒルデ)】と称されるIS乗りの姉に神童と呼ばれる双子の兄を持つ彼は、世間や実兄から【織斑家の恥】や【出来損ない】等の誹謗中傷を受けていた。



弾と呼ばれる少年。
名を【五反田弾】と言い、織斑一夏の同級生にて親友の1人。
彼の実家は、祖父が経営する大衆食堂。
だが、彼は次第に居心地の良い環境とは言えなくなっていた。
最愛と呼べた家族から、日に日に増す理不尽な扱いに堪えきれなかった。

そんな2人は家出を計画し、そして決行した。

しかし、所詮は幼い子供の2人。
家出する為に貯めた小遣いも数日で底を尽き、途方に暮れていた時だった。

とある一組の男女が2人に声を掛けた。


「君達、どうしたんだ?」

「迷子になったの?」


「「…………………」」


しかし2人は空腹の為か、二人の問い掛けに反応する事はなかった。


「お腹が空いている様だね?深雪、済まないが何か食べ物を買って来てくれないか?」

「畏まりました」


深雪と呼びれる女性は、足早に近くのファーストフードに向かい、ハンバーガーセットを2つ購入し幼い少年達と、兄と呼んだ男性の元へと舞い戻った。


「只今、戻りました」

「済まないね、深雪。さぁ、君達。これを食べなさい」


そう言って、男性は女性から差し出された2つの袋を受け取ると、そのまま幼い少年達に差し出した。

空腹の余りか、弾は直ぐ様に袋を開けてハンバーガーを頬張るが、一夏は無言のまま袋を見詰める。


「さぁ、遠慮はいらない。温かい内に君も食べると良い」


そう言って男性は一夏少年に食する様に促すが………。


「何故ですか?何故、見ず知らずの僕達にこんな事をしてくれるのですか?」


弾や数馬と同様に空腹の筈の一夏は『警戒心が剥き出し』と言う表現が合う様に、促す男性に問い掛けていた。

すると男性は、こう答えた。


「なら聞こう。君は他人を助けるのに理由が必要なのか?」

「えっ?」

「理由が必要と言うなら、それは偽善者と言う者だよ。他人を助ける為に理由は要らない。それに君達の様な子供なら尚更だ」


その男性の言葉を聞いた一夏少年は、目から鱗が落ちた様な表情をし、目元から大粒の涙を流していた。


「さぁ、早く食べなさい」

「はい、いただきます!」


一夏少年は、泣きながら数日振りの食事を口にしたのだった。


「「ご馳走様でした!」」


空腹を満たした2人は、先程とは打って変わって元気良く返事をした。


「うふふ、お粗末様でした」

「これだけ元気が出れば大丈夫だろ。では、改めて聞こう。君達は、こんな時間帯に何をしていたのかな?」

「迷子に成ったのなら、私達がお家まで送ってあげるわよ?」


深雪と呼ばれる女性は、2人と目線を合わせる様に屈みながら笑顔で言うと、先程まで笑顔を見せていた2人の表情が一変し、暗い表情に変わった。


「家には………」

「帰りたくない………」

「「その為に、僕達は……………」」


涙を堪えながら2人の幼い少年は言葉を発した。

その言葉で全てを察した男性と深雪と呼ばれる女性。
深雪と呼ばれる女性は、2人を抱き締めていた。


「本当に辛かったのでしょうね………。けれど、何故家出をしたのか理由を話してくれないかしら?」


優しく2人の頭を撫でながら理由を聞き出す深雪と呼ばれる女性の言葉に心を許した2人は、其々家出をした理由を口にする。

その理由を聞いた男性は瞼を閉じ、何かを考える様に立ちつくし。
深雪と呼ばれる女性は、涙を流しながら更に強く2人を抱き締めていた。


「なんて酷い………血縁者で在りながら、こんな幼い子供達を蔑ろにするなんて………貴方」

「お前の言いたい事は理解している。どうだろう一夏君、弾君。君達が良ければ私達の家族に成らないか?」

「「えっ!?」」


男性が放った一言に、2人は驚きを隠せなかった。


「まぁ、その前に自己紹介しよう。俺の名前は司波達也。F.L.T社の副社長兼開発エンジニアをしている」

「私の名前は司波深雪。妻で同じ会社の社長をしているの」

「それで、私達の家族に成る気は在るかな?」


無表情だった表情から一変して、優しく微笑みながら両手を2人に向けて差し出す司波達也と呼ばれる男性に、一夏は右手を弾は左手を躊躇無く掴み力強く答えた。


「「はい!俺は、貴方達の家族に成りたいです!」」


その言葉を聞いた司波深雪は2人を優しく抱き締めた、


「さぁ、一先ずは私達の家へ帰りましょう」


そう言って司波深雪は2人の手を繋ぐと、ゆっくりと歩きだし、一夏と弾もその優しく温かい手を握り締めながら一緒に歩き出す。

その光景に司波達也は、2人が持っていた荷物を拾い上げて、3人の後に続いて行くのだった。

 

 

四葉家

私は、司波達也。

日本有数の大企業の1つ。
Four Leaves Technology(フォア・リーブス・テクノロジー)社】の副社長兼開発エンジニアだ。

我が社は、日用品から工業用品まで様々な分野に置けて高い実績を誇っている企業だ。

だがそれは、本家である四葉家の隠れ蓑企業に過ぎない。

四葉家とは【日本国対暗部用暗部組織】更識家と並ぶ、もう1つの【日本国対暗部用暗部組織】である。

日本を守護するが更識家なら、世界各国又は暗部組織に対して攻撃するのが四葉家であり【盾の更識家と剣の四葉家】としてされている。





そして私は今、数日前の家出少年達の件について報告する為に、本家である四葉家に訪れた。


「お久し振りでごさいます、達也様。奥の執務室にて真夜様がお待ちしております」

「お元気そうで何よりです、葉山さん」


四葉家に仕える執事長の葉山さんに出迎えられ、四葉家当主が待つ執務室へと案内される。


「失礼致します、真夜様。達也様をお連れ致しました」

「そう。通して下さいな」


入室の許可が出ると、葉山さんは扉を開けた。


「お久し振りです、母上。今日は御忙しい中、時間を割いて頂きありがとうございます」

「お久し振りね?達也さん。取り敢えず、此方でお話を伺いましょう。葉山さん、お茶の用意をして下さる?」

「畏まりました、真夜様」


当主の母上に促されて近くのソファーに座ると、対面側に母上が座ると同時に葉山さんが紅茶の入ったティーカップを置く。


「さて、今日はどう言った御用件かしら達也さん?」

「はい。実は、数日前に幼い2人の家出少年を発見し保護しました」

「2人の家出少年?2人は兄弟なのかしら?」

「いいえ。2人は友人同士で、其々家族はおろか世間から酷い扱いを受けていました。そして此方が、それに関する調査報告書になります」


私は、彼等から聞き出した情報を元に彼等の身辺調査を行い、その調査結果を母上に報告した。


「織斑一夏君と五反田弾君ですか…………。何と嘆かわしのでしょう………」

「織斑一夏と呼ばれる少年は、あの世界最強(ブリュンヒルデ)と呼ばれる織斑千冬の弟の1人で、五反田弾と呼ばれる少年は一般家庭の子供です」

「そう、一夏君は織斑千冬の弟ですか…………。それで、この達をどうするのですか?」

「はい、織斑一夏君は司波家の養子として迎え、五反田弾君は七草家の養子として迎え様かと思います」

「そう………深雪さんと真由美さんは供に子供を産めない身体ですからね………」

「えぇ、2人とも若くして子宮癌で子宮を全摘出してしまいましたし……何より2人は私の大切な妻達です。既に深雪は一夏君を気に入っており、真由美は弾君を気に入っている様子でしたので」


そう私には2人の妻が居る。
昔から、四葉家には重婚が認められている。
何を隠そう私は四葉家次期当主である為、私には可愛い妻が2人いるのだ。

そして司波家は四葉家の分家であり、七草家は四葉家に仕える従者の家系の1つ。

妻の七草真由美は私の幼馴染みで、司波深雪は元義妹だった人だ。

義妹と驚くかも知れないが、私は目の前に居る【四葉真夜】の息子で、深雪は既に他界した司波深夜の娘。

母の四葉真夜と司波深夜は姉妹であり、深雪同様に若くして子宮癌を患い、子供が産めない身体と成った為に姉妹は、四葉家の科学技術の総力を駆使して産まれた【完全調整体】云わば、試験官ベビーが私達なのだ。

しかも将来的に、結婚出来る様にしていたらしい。

流石の私も、これには驚いた。


「それよりも此方の2人の診断書を見て貰えますか?」


私は2人の健康診断書が入った封筒を差し出した。

母は、無言で封筒を受け取り開封して診断書に眼を通す。


「2人供、特に異常は無い様に思えますが………あら?」

「お気付きになられましたか?2人供、遺伝子操作された【コーディネーター】の子供です。しかも、一夏君は更に高位の遺伝子操作された【スーパーコーディネーター】の様です」

「もしかして、一夏君は元より姉の織斑千冬と兄の織斑秋久もコーディネーターと言う事に成るわね?」


当主である母は、そう呟く。


「残念ながら織斑千冬は、【コーディネーター】と言うより【調整体】と言った方が良いでしょう。そして織斑秋久は、一夏君のクローン体で失敗作です。そして母上、織斑明彦と織斑春江の2人をご存知ですよね?」

「………まさかっ!?昔、第四研究所に所属していた!?」

「えぇ、遺伝子工学の権威であった織斑明彦教授と妹の織斑春江准教授それが彼等の両親です。今は消息不明ですが。そして織斑千冬は、四葉家の秘匿技術とされた【調整体】の技術を応用し作られた子供です。そして更にその技術を進化させ【コーディネーター技術】を確立させた後、成功体である一夏君を禁断のクローン技術を応用したのが織斑秋久です。ですが、織斑秋久は失敗作の様でした」

「どう言う事ですか?」

「成長力ですね。織斑秋久は超早熟型で、世間からすれば天才又は神童と呼ばれる類いです。現に現在彼はそう呼ばれている様ですが、あと数年もすれば成長は止まり平均的より少し高い位の人間に成ると思われます。それに対し一夏は、成長スピードは早いものの底が知れないと言った感じですかね?超早熟型の兄と比べられれば【落ちこぼれ】と言われるのも納得いきます」

「良く短期間でそれだけ調べ上げたものね。流石は達也さんと言った処かしら?それで、弾君の方はどうなのかしら?」

「彼の場合は、五反田夫妻が不妊治療の際に担当医師が勝手に、世界で使用禁止された【コーディネーター技術】を施したものと思われます。現に、彼の妹は普通の人間です」


一通り説明を終えた私は紅茶を啜り一息入れた。


「解りました。2人に関しては達也さんに一任しましょう。後日、2人を連れてらっしゃい。初孫達に逢いたいわ」

「了解致しました、母上」





本家の四葉家から戻った私は、知人でF.L.T社の顧問弁護士の【藤林響子】に連絡を入れた。


『もしもし、藤林です』

「御忙しい所申し訳ありません、響子さん。司波達也です」

『あら、達也君。お久し振り、急にどうしたの?』

「えぇ、実は響子さんに早急な案件を1つお願いしたいのですが宜しいでしょうか?」

『えぇ、もちろん。達也君の頼みなら引き受けるわ!』

「ありがとうございます。実は2人の子供と養子縁組みを考えています。響子さんには法的手続きをお願いしたい」


そう言ながら私は、自身のPCから二人の資料を響子さん宛にメールした。


『片方は少し厄介ね。あの織斑千冬が相手…………下手すれば【女性権利団体】が絡んで来る可能性がある』

「えぇ、ですので響子さんにお願いした次第です」

『解りました!早急に必要な書類を作成し後日お伺い致します』

「宜しくお願いしたします」


それから2日後、私は響子さんと供に織斑家と五反田家に向かうのであった。
 

 

五反田家

先ず私は顧問弁護士の藤林響子さんと供に、五反田家に向かった。

閑静な住宅街に在る大衆食堂。
そこが五反田弾の実家だ。

扉に【準備中】の札が掛かっており暖簾もまだ出ていない。

私はその扉を開けて中に入ると、中から割烹着姿の男性が此方を見て声を掛けてきた。


「済みませんね。まだ準備中なんですが」

「御忙しい所申し訳ありません。私は七草達也と申します。そして、此方は弁護士の藤林響子さん。今日は五反田弾君の事でお伺い致しました」


そう言うと、割烹着姿の男性を仕込み作業を中断し此方を睨んできた。


「弾の事だと?少し待ってな。娘の蓮を呼んでくる!」


そう言って奥に引っ込む男性。
私達は近くのテーブル席に座り待つ事数分。

奥の方から男性と供に現れた1人の女性。
観るからに彼女が弾君の母親【五反田蓮】のようだ。


「初めまして。私は五反田弾の母【五反田蓮】です。此方は、私の父にて弾の祖父の【五反田厳】です」

「初めまして、私は七草達也。そして此方は弁護士の藤林響子先生です。本日お伺いした理由は弾君の事です」

「弾は、弾は見つかったのですか?」

「えぇ、数日前に私供が保護致しました。本来なら、直ぐにでも此方に連れて来る気だったのですが………」

「今、何処に弾は居るのですか?」

「それは御応え出来ません。彼はこの家に戻るつもりが無いと言っています」

「何だと!それはどう言う了見だ!お前さん?」


私の言葉に目くじらを立てながら睨んで怒鳴る五反田厳に、響子さんは診断書を二人の前に提出する。


「此方は、五反田弾君の診断書です。彼の身体には虐待を受けた痕跡が多数存在していました。まさか、身に覚えが無いとは言いませんよね?」

「そ、それは躾の為に殴ったのは数回在るが………」

「そ、それは我が家の問題です!他人の貴方達には関係が無い事じゃなくって?」

「いいえ、貴方達が行っているのは虐待です。この事を児童相談所と警察に通報すれば、どうなるか解りますよね?」


そう言って響子さんは1枚の書類を提出する。


「これは?」

「此方の書類は、養子縁組みに関する書類です。弾君を七草家の養子として迎えると言う事です」

「「なっ!?」」


響子さんの言葉に驚愕する2人。
私は最後の後押しとばかりに言葉を発した。


「簡単な話しです。此方にサインして居たければ、これまで弾君に掛かった養育費を支払い、この事を今後一切口外しないと言う事です」


私は持っていたアタッシュケースを開けて2人の前に差し出す。
ケースの中身は1000万が入っている。

2人は1000万と言う大金に言葉を失っていた。


「どうでしょう?これでサインをお願い出来ませんか?弾君は、我々夫婦が責任を持って育て上げますので」

「少し考えさせて下さい。お父さん、ちょっと」


そう言って2人は奥に引っ込む。
どうやら2人は1000万と言う大金に目が眩んだ様だ。

すると響子さんは、少し悲しい表情を見せて呟く。


「本当に愛情があれば、大金を目の当たりにしても拒否するのですが…………」

「それだけ、弾君に愛情を向けていない証拠です。悲しい事ですが……」


そう話していたら、2人は奥から再び現れた。


「解りました。此方の書類にサイン致します。弾の事宜しくお願い致します」


五反田蓮は、そう言って速やかにサインと捺印を押す。
母親として、彼女は失格だと改めてしらされた。

書類のサインと捺印を確認する響子さん。


「問題は在りません。これで、弾君は七草家の養子と言う形になりました」

「ありがとうございました、藤林先生。では、我々は此にて失礼します。あっ、後1つだけ………」

「な、何でしょう?」


私は濃密の殺気を二人に放ち忠告する。


「今後一切、弾に近付かないで下さい。これは弾の為であり、貴女達の為でもある。もしも忠告を無視するのなら…………貴女達を消す!」

その言葉を残して私達は、五反田家を後にした。
 

 

織斑家

五反田家を出た私達は、次の目的地である織斑家へと向かった。

事前に響子さんが、織斑千冬にアポイントメントを取って措いてくれたお陰で、難なく織斑千冬と会う事が出た。

織斑千冬に案内されてリビングに入ると、スーツ姿の女性がソファーの前に立っていた。


「初めまして、私は織斑千冬さんの専属弁護士をしております松本順子と申します。今回、織斑千冬さんから依頼を頂き、織斑家の交渉役を担当させて頂きます」


そう言って名刺を差し出す弁護士の松本順子氏。
二十歳にも満たないとは言え、IS日本代表の織斑千冬にとって弁護士の1人や2人居ても可笑しくはなかった為、予想の想定内だった。

私は敢えて名刺を出さなかった。
理由は無論、私の素性が割れる可能性があるからだ。

軽く挨拶を交わし席に着くと、織斑千冬側の弁護士は1枚の書面を差し出し、書面の説明をしだした。


「此方の書面は、織斑千冬さんが織斑一夏さんに対するこれ迄掛かった養育費の金額と、養子縁組みする際に対しての手切れ金として要求の金額が提示してあります」


そう説明する織斑千冬側の弁護士。

その書面には、こう記載されていた。




1、織斑一夏に対する養育期間:3年6ヶ月×養育費:月々100万円=総額4200万円

2、手切れ金2000万円

以上の二点を要求し、織斑一夏を司波家への養子縁組みを認める。


振り込み先:´〇〇〇〇銀行〇〇支店 ########

依頼人:織斑千冬
弁護人:松本順子




私達は、その書面を見て驚きを隠せなかった。
その金額は、余りにも法外過ぎる金額。
普通に考えて一般家庭の月の養育費の三倍以上の金額に相当する。

だがこれで私は織斑千冬と言う人物が、どう言う人物なのかを理解してしまった。

そもそも彼女は一夏に対して『感心が無い』と言える。

何故なら、彼女は私達と会ってからと言うものの、今まで一夏に対して心配する仕草や発言など1度も見せていないのだ。

彼女が発言したのは、自己紹介した時のみ。
その後は口を噤んだままで、全てを弁護士に任せているのだ。

逸れに、響子さん事前に司波家へ一夏を養子に迎え入れるとは一言も伝えていない。

只、司波家で一夏を保護しており、一夏の処遇をどうするかを検討したいと伝えてもらった。

逸れにも拘らず、一方的な金銭要求。

流石の私も、この行動には怒りを覚えたが、反論しようとする響子さんを手で制して私は彼女達に確認する。


「これはどう言う事ですか?」


しかし、この返答に応えたのは織斑千冬ではなく弁護士の松本順子だった。


「織斑千冬さんは、織斑家を出て行った一夏君を今一度、織斑家に迎え入れる事を拒否して……」

「私は貴女に聞いていない!私は織斑千冬に聞いている!!」


私は弁護士の言葉を遮り、殺気を放ちながら織斑千冬を睨み付けながら彼女の返答を待った。
そして、彼女は遂に重い口を開いた。


「この度、愚弟の一夏が貴方方に大変なご迷惑をお掛けしました。しかし、この家を出た奴の居場所など既に無いし、許しを乞いても私は迎え入れる積もり在りません。奴など織斑家の恥でしかない!それに………」


彼女の返答は、予想していた物より酷い内容だった。

ここぞと計りに一夏に対して悪態の言葉を述べ、終いには一夏の事を『出来損ないな奴』とか『恥晒しな奴』など言う始末。

彼女は本当に一夏の事を見ていなかった。
否、彼女は一夏の事を『不出来な弟』としか見ていなかったのだ。


「血の繋がりの在る実の弟に、良くそんな悪態を付けますね?本当に姉で在るなら、彼の悩みや異変に気が付いて対処するべきではないですか?自身で対処出来なければ周りの大人達に相談するなど出来た筈ですよね?」

「ふん!織斑家には不出来な人間は不要です。ですので、奴を引き取る気が無いのなら孤児寺院なり何処かに捨てれば良い。まぁ、あんな出来損ないを引き取っても何の特も無いと思いますけどね?」


織斑千冬の最後の言葉を聞いて、私の堪忍袋が切れかけるが今は法律上、私達と一夏は垢の他人。

ならば、これ以上話し合いする必要性が無いと判断した私は、早急に終わらせる為に行動を移した。

ポケットからスマホを取り出し電話を掛けた。


「もしもし、深雪か。忙しい処済まないが、今から言う銀行口座に指定する金額を送金して欲しい。無論、私の個人口座から振り込んで欲しい」


私はそう言って、彼女達の目の前で妻の深雪に連絡を入れ、織斑千冬への振り込み先と金額を伝えた連絡を切った。


「た、達也君?もう少し慎重になった方が良いのでは?」


私の突然の行動に困惑する響子さんは、冷静になる様に促すも、私は否定する様に首を左右に振った。


「大丈夫ですよ、藤林先生。これ以上、彼女達と話し合いを行う必要性が無いと判断した為です。織斑さん、既に貴女の銀行口座に振り込まれていると思いますので確認して下さい」


自身の銀行口座を確認する様に促し、彼女はスマホから自身の銀行口座を確認する彼女は一瞬だが、口元を緩めて笑みを浮かべた。


「確認出来た様ですね?これで、今後は一夏君を私達の養子として迎え入れます…………」


書面にサインと捺印した後、響子さんも用意していた書面を彼女達に差し出し彼女達にサインと捺印をさせた。

五反田家と同じ様に、一夏に対する今後一切の接触や関与する事を禁止する内容の書面。

彼女のサインと捺印を確認した響子さんは、書面を終うと、私は最後にこう言った。


「もし今後、貴女達や『貴女の友人』が一夏に手出ししようとするなら、彼は私の全てを用いて貴女達を【報復(抹殺)】する!」


そう言い残して私達は、織斑家を後にした。