心配だった仲も


 

第一章

                心配だった仲も
 獅堂黒子はずっとペットを飼いたいと思っていた、そしてその願いは適った。
 家に一匹の生まれたばかりの柴犬が来た、柴犬は雄で茶と白の典型的な柴犬の色合いだった。その柴犬を見てだった。
 黒子は笑顔で両親に言った。
「この子がなのね」
「ああ、新しい家族だ」
「里親探してる人から頂いたのよ」 
 両親、父の彰黒髪をオールバックにした大男と母の静茶色の髪を伸ばした痩せた妙齢の女性は黒子に笑顔で話した、あどけない母親似の茶色の髪の毛のあどけない顔立ちである彼女に対して。
「いい子だぞ」
「早速お父さんにもお母さんにも懐いてるしな」
「私にも懐いてくれて」
 黒子は自分にそうしてくれている犬を抱きつつ言った。
「凄くいい子ね」
「そうだな」
「本当にそうね」
「うん、じゃあこの子今日からうちの家族だから」
 黒子は両親に話した。
「これからね」
「世話もするんだな」
「そうするのね」
「うん、そうするね」
 両親に笑顔で答えてだった。
 黒子は実際に犬を育てることにした、だが。
 まずは犬の名前だった、その名前は。
「ポチにしたの」
「またありきたりな名前だな」
「ポチってね」
「うん、色々考えたけれど」
 それでもとだ、黒子は両親に話した。
「私の名前が黒子でしょ」
「色々考えてな」
「そうしたけれどね」
「黒は神聖な色でもあるからな」
「それでそうしたのよ
「そうよね、黒子って名前が珍しい名前だから」 
 それでというのだ。
「この子は普通の名前でってね」
「考えてか」
「それでなの」
「ポチにしたの」
「そうか、じゃあな」
「この子の名前はポチね」
「そうしていくわね」
 犬の名前も決めてだった、黒子はポチを自分が主に世話をした。散歩もそうしたが。
「ポチって私の動きに合わせてね」
「歩いてくれるか」
「そうしてくれるのね」
「勝手に行かないの」
 そうしたことはないというのだ。
「無理に行ったりしないから」
「犬は我儘に行く子も多いけれどな」
「そうしたこともないのね」
「うん、それでね」 
「散歩もか」
「出来るのね」
「うん、だからこれからもね」
 はじめての散歩の後での言葉だった。
「ポチのお散歩行ってくるね」
「そうか、けれど小さな女の子が一人で出歩くのは危ないからな」
「絶対にお父さんかお母さんが一緒に行くからね」
 このことも忘れないでだった。
 両親はポチの世話をする黒子と共にいた、そしてだった。
 日々ポチと共に楽しい日常を過ごしていた、そんな日々が二年程続き。
 ある日黒子は母と散歩をしている時に遠くに見えるダンボール箱を見て言った。
「お母さん、あの箱動いてない?」
「そうね、中に何かいる感じね」
 母もそのダンボール箱を見て言う。
「どうやら」
「見てみる?」
「ええ、最初にお母さんが見るわね」
 蛇がいると危ないからだ、娘より先に観ることにした。 

 

第二章

「そうするわね」
「お母さんがなの」
「ええ、先にね」
「それじゃあね」
 黒子も頷いた、そしてだった。
 母はダンボール箱に近寄って中を見てから娘を連れて二人でその中を見て言った。
「猫ちゃん達がいるでしょ」
「うん、凄く小さいね」 
 見れば五匹いる、皆トラ猫だ。
「子猫ちゃん達ね」
「皆首輪してないから野良猫か捨て猫ね」
「うん、そうね」
「折角見付けたから」
 だからだとだ、母は娘に話した。
「助けてあげないとね」
「助けてあげるの」
「野良猫にしても捨て猫にしてもこのままだと大変だから」
 それでというのだ。
「この子達はちゃんとね」
「お母さんが助けてあげるの」
「ええ、まずはお家に連れて行って」 
 そしてというのだ。
「この子達の飼い主さん達探してあげましょう」
「うちで飼えないの?」
「ポチがいるから」
 散歩をしていて上機嫌の彼を見て言う。
「だからね」
「それでなの」
「犬と猫は仲が悪いから」
「そうなの?」
「だからね」
 娘に難しい顔で話した。
「うちで飼ってあげることは」
「出来ないの」
「ちょっとね」
「そうなのね」
 黒子は犬だけでなく猫も好きだ、もっと言えば生きもの全般が好きになっている。それで母に猫を飼えないと言われて暗い顔になった。
 だがそれでもだ、子猫達は家に連れて帰られて。
 まずは病院に連れて行かれて病気等がないか診てもらってからそのうえで病院そして病院のつててボランティア団体にも連絡をしてもらい。
 子猫達の里親を探してもらった、猫達は病気もなく無事に生きていて里親も次々に見付かった。だが。
 一匹の雄猫だけ一ヶ月経っても残った、他の子達は十日もしないうちに里親が見付かったというのに。それで両親は話した。
「残った子はな」
「どうしようかしら」
「あのままにしておけないしな」
「そうよね」
「じゃあね」 
 黒子がここで言った。
「あの子もね」
「うちで引き取ってか」
「家族にしてあげるの」
「そうしよう」 
 こう両親に言うのだった。
「あの子がずっと飼い主さん見付からないのは」
「しかしな」
「うちにはポチがいるからね」
 両親は娘の話を聞いて暗い顔になって言った。
「犬と猫は本当に仲が悪いから」
「だからな」
「ポチはとてもいい子だけれど」
「犬だからな」
「猫ちゃんを引き取っても」
「喧嘩しないかしら」
「けれどこのままだと」
 黒子は両親にさらに言った。 

 

第三章

「あの子ずっとひとりぼっちだし」
「一ヶ月経っても飼い主が見付からないしな」
「それじゃあね」
「うん、あの子も家族にしてあげよう」
「どうなるか心配だけれどな」
「あの子も飼い主が必要だし」
 両親は娘に言われて決心した、そしてだった。
 一匹だけ残った子猫は引き取り飼うことにした、猫の名前も黒子が名付けタマとなった。そのタマであるが。
 両親はポチとタマの顔合わせの時不安で仕方なかった、やはりそれは彼等が犬と猫という間柄だからだ。
 それでだ、その時も言っていた。
「大丈夫かな」
「そうよね」
「喧嘩しないか」
「犬と猫は仲が悪いわ」
「幾らポチが大人しい子でも」
「大丈夫かしら」
 本当に不安だった、だが遂にその時が来て。
 黒子が室内飼い散歩の時以外はそうしているポチをタマの前に連れて来た、すると。
「ワン?」
「ニャン?」
 両者はお互いを見てまずは驚いた、そして。
 警戒しつつ近付いてだ。そこから。
 すぐに身体を近寄せ合った、ポチは尻尾を左右にぱたぱたとやりタマは喉を鳴らした。両親はそれを見てほっとした。
「打ち解けたみたいだな」
「早速仲良くなったみたいね」
「ああ、凄く心配したけれどな」
「そうなったみたいね」
「だってポチ凄くいい子だから」
 黒子は最初からわかっているという言葉を出した。
「誰とでも仲良くなれるから」
「それでか」
「猫ちゃんでも大丈夫だっていうのね」
「うん、そうだよ」
 両親にもこう言った。
「全然大丈夫だって思ってたよ」
「そうか、ポチが誰とでも仲良くなれるからか」
「そうした子だからなのね」
「私大丈夫って思ってたわ」
 黒子はポチとタマのところに来てだった。
 二匹と遊びだした、タマは彼女にもすぐに懐いた。
 黒子はこの時からポチだけでなくタマの世話もする様になった、大人しく優しいポチと違いタマはやんちゃで悪戯好きだった、だが。
 黒子はそのタマにもご飯をやってブラッシングをして優しく接していた。その中で。
 二匹と楽しい時間を過ごした、そうして両親に言うのだった。
「私ポチとタマが一緒でね」
「本当にいいか」
「そう言うのね、黒子ちゃんは」
「うん、最高に幸せよ」
 その二匹と一緒にいながらの言葉だった、そうして。
 この日も二匹の世話をした、二匹はお互いに仲良くしながら黒子とも仲良くしていた。それは実の姉弟達よりも仲睦まじいものだった。


心配だった仲も   完


                  2020・4・21