病弱な魔法師


 

日常



僕は生まれながらにして体が弱かった。魔法師としての才能には恵まれていたがその分、激しい運動が出来ない。だから小学生の時や中学校の時は家や学校に居るより病院に居る時間の方が長かった。年が上がるごとに少しずつ体は良くなってきていて激しい運動は出来ないにしても学校に生活に支障が出ない程度にはなってきたのでちょうど高校から久しぶりに学校に通っている。
そして第一高校に入学し早いようで遅い高校生活を送りながら学生を謳歌していると思う。


今日は自宅で気ままに読書を楽しんでいた。第一高校では今頃入学式が執り行われている頃だろうな。入学式は一年生が主役なので二年生や三年生は生徒会に入っているとか特別な役割がある人達以外は学校に行かなくても良い。
だから俺はこの休みを利用して読書に勤しんでいた。いくら激しい運動が少しずつ大丈夫になったとしても不要な外出に関しては避けたいところ。なので家で出来ると事と言ったら読書しか思いつかなかった。

読書は普通、一人でするものだ。だけど何故かこの部屋には僕以外に人がいる。


「綺羅は何を読んでいるの?」
僕は話し掛けられたため目線を本から話し掛けた人に移した。その人はスタイルは良くて、もし女装をしたら女子と見間違えてしまうほどの美貌の持ち主。本人が言うには同性の友達が少なくて僕は数少ない同性の友達の中の一人らしい。


「『夢』。一回聞いた事があるんじゃないかな。最近なんか流行っているから見てみようかなと思ってね。それで何で啓くんはここに居るの?」
さっきも言ったかもしれないけど今日、僕は家で静かに一人で読書をしようと思っていた。なので何故か啓くんがこの場にいる。それにこの場にいるのは啓くんだけじゃなくてもう一人赤髪の女子も居る。


「だって綺羅が遊びに誘っても「今日は静かに読書をするよ」何て言うから今、ここにいるんだよ」

「いや、ちょっとおかしい気がする。別に僕を抜いて遊びに行っても良い気がするんだけど...それに僕が居ない方がデートが出来ると思うんだけど....」

「そんなのダメよ。綺羅が居なくちゃどこに行って楽しく感じられない。啓と綺羅が居ないと私は嫌なの」

僕と啓が話している内容が聞こえていたのか今、さっきまで勉強に勤しんでいた赤い髪の女子が話に入ってきた。

「花音の言う通りだよ。綺羅が居れば何でも楽しいと感じる事が出来るんだよ」

啓と花音がここまで何で僕に執着してしまっているのかは僕も分からない。何か執着されるような事をした覚えはないからな。

「...まあ、ありがとうと言うよ。だけどたまには二人でどこかに行ったりしても良い気がするよ。二人は許嫁なんだからたまには二人の時間を取るのも悪い事じゃないと思うよ」

「そこら辺の心配はいらないよ。ちゃんと二人の時間は取るようにしているから」

やっぱり昔から知っている僕としては心配になってしまう。三人で遊ぶのは楽しいけどたまには二人でデート見たいな事をした方が良いんじゃないかと思ってしまう。余計なお世話だけどね。

「そうか.....急に話は変わるけど明日から僕たちも二年生か...」

思っていたより一年生の高校生活は充実していた。小学校もっ中学校もあまり行って来なかったから馴染めるか心配ではあったけど啓や花音が居たから馴染む事は出来た。二年生になると変わる事もあるだろうけど一年生の時みたいに楽しく過ごせると良い。

「そうだね。今年も同じクラスになれると良いね」


「そうね。同じクラスじゃなくても別に今の関係のままだけどやっぱり同じクラスの方が良いわね」

クラス替えに関しては生徒がどうにか出来る事じゃないから何とも言えないけど.....同じクラスだと良いな。
そしてそれからも三人でどこかに出掛けるだとかここの問題が分からないとか色々と問題を解いたり出掛ける相談をしたりした。




そして時は流れ...啓と花音は自宅に帰った。今は縁側で寝転がりながら読書をしている。食事の時間まで後、少しぐらいあるしどこかで読書をしようかと考えると頭の中に最初に思いついたのは縁側だった。

啓と花音が居る時は小説のページが進むことはあまりないからやっぱり読書をする時は一人の方が良いね。一人だと読書は捗る。本の世界に入るとはいかないまでも頭の中で空想しながら読んでい
ると僕は大きな音で現実へと引き戻された。何だろうと思い音の元凶を探して見ると端末だった。端末を手に取り確認してみると夕歌さんからの電話だった。僕は通話ボタンを押して端末を耳に当てた。


「こんばんわ。夕歌さん」

「こんばんわ、綺羅くん」

「それで今晩は一体どんな御用でしょうか?」

「そうですね。まずは二年生への進級おめでとう!」

「あ...ありがとうございます。無事に進級出来ました」

「去年もほとんど学校を休まずに済んだみたいだし少しずつ体が良くなってきていると事だと思うわ」

「そうですね....まだ激しい運動は出来ませんけどね」

「運動に関しては少しずつ良いと思う。綺羅くんの体が一番大事ですからね」

「...え...夕歌さん。このためだけに電話をして来たわけじゃないですよね?」

「勿論、それ以外にも用がありますよ」

「なら良かったです。さすがにそれだけで連絡をさせてしまったのは心が痛いものがありますから」

「私は綺羅くんの声を聞くととても落ち着く。どんな時でも綺羅くんの声を聞ければ辛い事でも立ち直れる。綺羅くんの声には私にとってそんな力があるの。私が好きで綺羅くんに電話を掛けているんだから気にしなくて良いのよ」

「そう言って下さると嬉しいです」

「それでそれ以外の用なんだけど...」

「はい」

「...次の日曜日に私と出掛けませんか?」

「..日曜日ですか....大丈夫だと思いますよ」


何も予定は入っていなかったと思う。これで予定が入っていたら後でお断りの連絡を入れなくてはならないけど。

「ほ.本当に大丈夫!??」

「はい。大丈夫だと思いますよ。それでどこに出掛けますか?」

「...詳細に関しては私が決めても良いかな?」

「全然良いですよ」

「じゃあ、私が決めて後で綺羅くんに連絡する」

「分かりました」

「明日ぐらいにまた連絡するね」

「はい」

そして通話はきれた。夕歌さんからは三日に一度は連絡が来る。


僕が夕歌さんと知り合ったのは4年ぐらい前に一度だけ出た事があるパーティだった。そのパーティは十師族や百家の人たちが多く集っていた。本当は今まで通りそのパーティも欠席するはずだったけど今回は行けそうな感じだったために出席する事になった。

だけどパーティを楽しむ余裕なんてものは無くてほとんどは挨拶に費やされてしまった。このパーティには僕と学年が近い人もかなり居た。今の現生徒会長である七草真由美さんにその妹二人、現風紀委員長である渡辺摩利さん、現部活連会頭である十文字克人さん、四葉家の分家の出身である黒羽文弥さん。黒羽亜夜子さん、津久葉夕歌さん、一条家次期当主とも言われている一条将輝さんなど色々な人が居た。

後にも先にも中学生時代に皆が集まるような会合に参加したのはその一回だけだった。そしてこのパーティが夕歌さんと初めて会った。
今になって思えばそのパーティに行ったことで色々な人と繋がりが出来た気がする。その中の一人に津久葉夕歌さんが居たりもする。他には七草香澄さんや七草泉美さんとかともたまに連絡を取ったりもしていたりもする。パーティにもし参加して居なければ今の俺は存在しなかったかもしれない。

そんな事を考えていると夕食の時間になったので僕はリビングに向かった。 

 

生徒会との接触(前編)

今日の夢は最悪だった。どう最悪だったかと言うと...小さい子二人に殺される夢を見た。その二人とは七草香澄さんと七草泉美さん。

 

あれが本当に夢で良かったと思える。それとあの二人が俺を殺す直前に言った言葉が今でも頭に残っている。

 

 

 

 

        「「(ボク)が君を殺して自分のものにする」

 

 

 

 

 

この言葉を最後に意識が覚醒した。最悪の目覚め。ここまで酷い夢を見たのも久しぶりな気がする。それにまさか知っている人に殺される夢を見るとは思わなかった。

 

僕が知っている七草家の双子の一人は活発系の子でもう一人はとても清楚な感じのある子だったと記憶している。二人ともとてもフレンドリーで初対面の時も僕が楽しそうに見えなかったのか一緒に居てくれたりした。そんな優しい子たちが僕を殺す夢はそれなりに僕にとって精神的にくるものがある。

 

 

まあ、所詮は夢だから気にする事はないけどね。

その後に僕は朝食を食べて制服に着替えて家を出た。

 

 

 

 

 

「八十島家」とは少し特別な家で十師族とも関わりが深い。何で十師族と関わりが深いのかについては長くなるから今回は省くけど色々と事情があったりする。そして話を戻すと関わりが深いという事は一家一家の秘密を知ってたりする。例えば四葉家の家系図だったりね。

 

 

それほどの信頼があるのが「八十島家」。特殊が故に他の家からはこう呼ばれている。「調整者アジャスター」。この呼ばれ方で呼ばれる理由は色々とあったりするけど今日は説明を省くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

考えながら歩いているといつの間にかもう校門の前まで来ていた。

 

「綺羅」

 

 

呼ばれたので後ろを振り返ると後ろに居たのは....渡辺摩利先輩だった。

 

「渡辺先輩。おはようございます」

 

 

「おはよう。それでお前は風紀委員に入らんか?」

 

 

これで何度目か分からない勧誘を僕に聞いてきた。それに唐突すぎる気がする。

 

「何度もお断りしていますよ。僕は委員会に入る気はないと」

 

 

「入ってくれてもいいじゃないか?」

 

 

「嫌です。僕はあまりそういう感じなのは嫌なんですよ。委員会に入ると忙しくなりますしね」

 

 

生徒会に入っても風紀委員に入っても同じことが一つだけある。それは時間を取られてしまう。僕は別にせっかちな人間ではないけど無駄に時間を使うのはあまり好きじゃない。

 

 

それに僕には自由に出来る時間がもう限られているから。学生が終わったら家を継ぐために色々と学ばなきゃならなくなる。そしたら自分の時間なんて無いも同然だ。

 

 

「君を説得するのはとても難しいからな。今回のところは諦める事にするよ」

 

 

「そうしてくれると助かります」

まあ、これで諦めてくれるなら僕はここまで渡辺先輩に苦労する事はなかっただろう。

 

 

 

 

その後は少しだけ話をして別れた。

 

 

 

 

 

 

 

教室に着くと僕は迷わず自分の席に向かうと.....何故か僕の席に誰かが腰を下ろしていた。誰だろうと見てみるとそこに居たのは....あずさだった。

 

見た目は小動物と思われても仕方ないかもなと思うぐらい年の割に成長がなされていない。こんな事を本人の目の前で言ったら怒ってしまうだろうから言うことはないけど。

僕は少し近付いて行くとあずさもどうやら気付いたようで急いで僕の席から離れた。

 

 

「すみませんでした!」

 

 

「いや、全然大丈夫だよ」

 

あずさは何故か今だに僕に萎縮しているようだった。もう一年という長い月日が過ぎたのに………僕はそんなに怖がらせるような事をした覚えはないんだけど。

 

僕は何でだろうと考えながら自分の席に付いた。するとほぼそれと同時に先生が入って来てHRが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業を受けながら昨日の夕歌さんとの電話を思い出していた。夕歌さんは体が不自由で外に出ることをあまりしてこなかった僕のために誘ってくれたんだろう。

 

その気持ちは嬉しいけど夕歌さんは僕と一緒に居すぎる気がする。夕歌さんと出掛けるのは嬉しかったりするけど夕歌さんには夕歌さんの時間がある。僕なんかのために時間をさいている時間なんて本当はないと思う。夕歌さんは津久葉家の次期当主になることは目に見えている。

 

 

 

そうなると当主になるために色々としなくてはならない事があったりする。なのに夕歌さんは僕のために時間をさいてしまっている。いつも断ろうと思ってはいるけど折角、夕歌さんから誘ってもらっているんだからと思って断る事が出来ない。

 

だけどそろそろ本当に断った方が良いのかも.....。

 

 

 

 

 

 

そんな事を頭で考えているといつの間にか授業は終わっていて休み時間に入っていた。

 

「あの.....綺羅くん...」

 

 

今にも消え入りそうな声がどこからか聞こえた。辺りを見回すとそこには..申し訳なさそうにしている、あずさの姿があった。

 

「気付くのが遅くなってすまない。それであずさは僕に何の用かな?」

 

 

「...あの..七草先輩が今日の昼食に生徒会まで連れてきたと言われたのでお誘いに......」

 

 

何でまた生徒会長から呼び出し何て......いくら考えを巡らせても呼び出されるような事をした覚えは全くないんですけど。それに今日の昼は静かに一人で食べたかったんだよな。

 

でも、生徒会長からのお誘いを無碍にしたともなれば「八十島家」の恥になってしまう。だって僕たちは全てに平等に接さなくてはならないのだから。

 

 

「うん。分かった。お昼に生徒会室まで行けば良いんだね?」

 

 

「はい!...良かった......」

 

あずさは僕に断られるのは心配していたのか...僕の返答を聞いて胸をなでおろしている。そんなに僕が断ると思ったのかな。今まで一度も生徒会のお誘いに関して断った事はないはずなんだけどな。

 

 

僕はずっと気になっている事をちょうど良いと思い聞いて見る事にした。

「あずさって僕の事怖いと思ってる?」

 

 

「..................いいえ...そんな事微塵も思ってませんよ....」

 

いや、この反応確実にある時の反応だ。本当に僕の事を怖いと思っている何て思わなかった。

 

 

「どこが怖い?正直な事を言ってくれ」

 

あずさが怖いと思っているところを少しずつ直していかないといけないしな。自分では自分の事はあまり気付けなかったりするから。

 

 

「...怖くはないんです」

 

 

「いや、別に遠慮しなくても良いよ。正直なことを言ってくれた方が僕にとっても嬉しいから」

 

 

「..本当に怖くないんです。でも...綺羅くんとどう接せば良いのか分からなくて....私も他の人と同じみたいに仲良く話したいんですけど..どうやったら良いのか分からなくて....」

 

 

「本当に怖くない?」

 

 

「はい、怖くないです」

 

 

「なら良かった。それに普通に接してくれれば良いよ。別にそんなに悩むほどの事じゃないよ」

 

まさか、どう接すれば良いのか分からないと言われるとは思ってなかった。一年もの間、僕との接し方が分からずに悩んでいたのか。

あずさは真面目すぎるからな。適当に接してくれればいいのに......

 

 

「それじゃ改めてよろしくね!あずさ」

 

 

「はい、よろしくお願いします!綺羅くん」