釣りガールでも


 

第一章

                釣りガールでも
 長曾我部千明の趣味は釣りである。
 釣りの為に日焼けした肌に面長の顔にはっきりとした目に細く長い眉を持っている。髪の毛は黒々としていて腰まである。背は一六五程でスタイルはかなりのものだ、通っている高校では吹奏楽部だが暇があると釣りをしている。
 その彼女に同級生の御坂ゆみりは尋ねた。背は一五四程で黒髪はショートだ。目は大きくキラキラとしていて丸顔で唇は小さい。スタイルは胸は大きいが他は普通といったものだ。その彼女が聞くことはというと。
「千明ちゃん釣り好きよね」
「ええ、そうだけれど」 
 千明はすぐに答えた。二人共今はクラスにいて共に学校の制服である夏用の半そでの白いブラウスと青いミニスカートという恰好だ。
「それがどうかしたの?」
「川と海どっちが好きなの?」
 ゆみりが千明に問うたのはこのことだった。
「それで」
「どっちもね」
「どっちもなの」
「そう、どっちもね」
 千明はゆみりに笑って答えた。
「好きよ」
「そうなの」
「川でも海でも。勿論お池でもダムでもね」
「つまり淡水ね」
「釣るわよ」
「そうなのね」
「それで釣ったら食べるお魚はね」 
 そうしたものはというと。
「食べるわよ」
「そうするのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「河豚は釣っても調理出来ないから」
 それでというのだ。
「返すの」
「ああ、毒があるから」
「そうなの、あれは特別な免許ないとね」
 河豚の調理にはというのだ。
「無理だからね」
「河豚はあたるからね」
「そう、だからね」
「そういうことね」
「それでゆみりちゃんも釣りに興味あるの?」
 千明はゆみりに笑って今度は自分から問うた。
「そうなの?」
「実はね。お兄ちゃんが好きで」
 それでというのだ。
「千明ちゃんがしていることも聞いて最近ね」
「興味あるの」
「最近お兄ちゃんとも一緒に釣りしてね」
「経験者なの」
「一応ね」
「じゃあね」
 千明はゆみりの言葉を聞いて彼女に笑顔で言った。
「今度一緒にね」
「釣りするのね」
「そうしない?」
 ゆみりにその笑顔で誘いをかけた。
「釣りはお話するよりもね」
「まずは釣るってことね」
「実際にね、だからね」
「二人でなのね」
「釣ろう、いいわね」
「それじゃあね」
「今度の日曜の」
 その時のというのだ。
「朝早くとか夕方とかにね」
「部活はお昼だし」
「夕方までには終わってるでしょ」
「ええ、私卓球部だけれど」
 そちらの部活もとだ、ゆみりは千明に答えた。
「その時にはね」
「だったらね」
「今度の日曜の朝と夕方に」
「釣り行こう、行くのはね」
 千明は学校に近い波止場を話に出した、そしてだった。 

 

第二章

 そこにまずは朝早くに行ってそうして釣りをした、その時に二人共結構連れてゆみりは千明に笑顔で言った。
「やっぱり釣りは朝よね」
「朝早くよね」
「漁師さんも夜明け前にお仕事するし」
「だからね」
 それでというのだ。
「釣りもね」
「朝早くなのね」
「それがいいのよ」
 こう言うのだった。
「それで夕方にもね」
「いいのね」
「だから部活が終わったら」
 その時はというのだ。
「またここでね」
「釣るのね」
「そうしよう」
 千明はゆみりに笑顔で話した。
「またね」
「そうね、じゃあね」
「お昼はそれぞれ学校で部活で」
「夕方またね」
「ここで釣り楽しもう」
 二人でこう話してだった。
 それで朝に釣りを楽しみ時間になると部活に行った、そして部活が終わるとまた波止場で釣りを楽しんだ。
 夕方も結構連れた、それでゆみりは千明に笑顔で言った。
「いや、いい感じね」
「そうね」
 千明も釣りながら微笑んで述べた。二人共折り畳み式の椅子に座ってくつろいで釣っている。実にリラックスしている。
「今日は。じゃあ釣ったお魚はね」
「小さくてリリースしていない子以外はね」
「私のお家でね」
 そこでというのだ。
「お刺身にしたり天麩羅にしたりお吸いものにするから」
「食べるのね」
「何故釣るか」
 それはというと。
「やっぱりあれでしょ」
「食べるからね」
「だからね」
 それでというのだ。
「食べましょう」
「それじゃあね」
「私もさばけるけれどお母さんが得意だから」 
 魚をさばくことはというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「お母さんに頼んで」
「それでなの」
「一緒に食べよう」
「それじゃあね」 
 二人で笑顔で話してだった、そして。
 夕方の釣りが終わるとだ、二人は千明の家に入ってそうして千明の母に釣った魚をさばいてもらってだった。
 刺身や天麩羅そして吸いものを楽しんだが。
 ゆみりは食べ終えると千明に言った。
「夜はどうするの?」
「釣り?」
「行くの?」
「ああ、夜釣りね」
 自分の家に泊まることになっているゆみりに話した。
「それはね」
「止めた方がいいっていう口調?」
「実際にそうよ」
 千明はデザートの苺を食べつつ一緒に食べているゆみりに話した。
「この辺りはね」
「それはどうしてなの?」
「釣りは実際にやってみてだから」
 千明はクールな口調で述べた。 

 

第三章

「だから実際にまた波止場行けばわかるわよ」
「そうなの」
「そう、だから今から行こう、ただしね」
 千明はここからはやや強い口調で話した。
「釣り道具は持って行かないで」
「行くだけなの」
「そうしよう」
 こう言うのだった。
「それでわかるから」
「そうね、千明ちゃんがそう言うのなら」
 それならとだ、ゆみりも頷いた。そうしてだった。
 二人で一緒に朝と夕方に釣りを楽しんだ波止場に行った、するとそこには。
 救命胴衣を着てかなり厚い手袋を着たおじさんが釣りを一人楽しんでいた、そしておじさんの蕎麦のバケツには。
 やけにゴツゴツした魚がいた、ゆみりはその魚を見て眉を曇らせた。
「オコゼよね」
「そうよ、ここオコゼもいるのよ」
「そうだったの」
「それで夜になったら」
 その時にというのだ。
「よく出て来てね」
「釣れるの」
「オコゼって毒あるでしょ」
「鰭にね」
 ゆみりもこのことは知っていた、それで千明にも答えた。
「あるわね」
「だから迂闊に釣ったらね」
 その時はというのだ。
「危ないのよ」
「鰭に刺されるから」
「あとエイもいるしね」
「エイもなの」
「時々アカエイも連れたりするから」
「アカエイも危ないわよね」
 この魚についてもだ、ゆみりは知っていた答えた。
「そうよね」
「ええ、尻尾の付け根のところにね」
「鉛筆みたいな毒針あるわね」
「あれに刺されるだけで大怪我で」 
 その大きな針にというのだ。
「それでね」
「おまけに毒があるから」
「だからね」
 それでというのだ。
「下手したら死ぬから」
「危ないのね」
「この辺りの海にはいないけれどウツボとかオオカミウオとか夜に釣ったら」
「どっちも凄い狂暴ね」
「お昼に釣っても危ないのに」
「夜だと余計ね」
「だからね」
 それでというのだ。
「私もしないのよ」
「夜釣りは危ないの」
「川とか湖でもね」
「ああ、足場つるっていったら」
「夜のお水は危ないでしょ」
「お昼よりもね」
「見えないから」
 その分というのだ。
「お昼よりも遥かにね」
「だからおじさんもなの」
「救命胴衣着けてるのよ」
「万が一に備えて」
「そうなの」
 実際にというのだ。
「そうしているのよ」
「そういうことね」
「しかもね」
 千明はゆみりにさらに話した。
「若し夜に海に落ちて鮫がいたら」
「鮫って基本夜行性だったわね」
「そうよ、回遊魚だからいつも泳いでいるけれど」
 当然昼もというのだ、鮫という魚はその多くが常に泳いでいないといけない身体の構造になっているのだ。 

 

第四章

「特に夜にね」
「活動的になるのよね」
「だからね」
「若し夜に海に落ちたら」
「冗談抜きで危ないわよ」
「そうなのね」
「だからおじさんもね」
 今釣りをしている人もというのだ。
「あまり海の方に出てないでしょ」
「結構離れてるわね」
「それで立ってないで座り込んでるわね」
「海に落ちない様に重心しっかりしてるのね」
「そうよ、手もガードして救命胴衣も着けて」
「それでもなのね」
「そうした注意もしてるのよ」
 こうゆみりに話した。
「おじさんもね」
「さもないとな」 
 そのおじさんも言ってきた、渋いバリトンの声だ。
「危ないからな」
「だからですか」
「おこぜは美味いけれどな」
 ゆみりにこう言った。
「釣った魚はしっかりライトで照らして何か確かめてからな」
「手に取っていますか」
「オコゼは危ないからな」
 毒があるからなのは言うまでもなかった。
「他にも危ない魚は多いし」
「だからですか」
「用心しているんだよ、夜釣りはな」
 どうしてもというのだ。
「するならしっかり勉強して釣りの経験を積んでな」
「それからするものですか」
「危ないからな、本当に」
「そういうことよ、私もまだしてないから」
 千明がここでまた言った。
「夜釣りはまだまだ先でいいわよ」
「危ないから」
「そうよ、釣りは楽しむものでね」
 それでというのだ。
「死ぬものじゃないのよ」
「シビアな言葉ね」
「実際に死んだ人もいるから」
「釣りの事故で」
「そう、だから釣りには用心をして」
 そうしてというのだ。
「やっていこう」
「それじゃあね」
「帰ろうね、今は」
「うん、じゃあね」
「飲む?高校生だけれど」
 千明はゆみりに今度はこう言った。
「お酒ね」
「お酒って」
「堅苦しいことはいいっこなしでね、煙草とかじゃないんだし」
「ううん、いいの?」
「お家の中でね。晩ご飯の残りを肴にして」
 そうしてというのだ。
「飲もう、ビールも焼酎もあるしね」
「焼酎ね」
「ウイスキーもあるよ。何飲む?」
「飲むなんてちょっと」
「まあまあ。堅苦しいことは抜きでね」 
 千明はお酒は駄目なんじゃと真面目に言うゆみりのそこはあしらいつつ彼女を家に連れて帰って一緒に風呂に入ってからゆみりを巧みに誘って飲んだ、すると。
 千明はビールを飲んでいたがゆみりは何とウイスキーボトル一本あっという間に空けた、それでこう彼女に言った。
「ウイスキー一本って私より凄いじゃない」
「そう?」
「そうよ、お酒は駄目とか言いながら」 
 それがというのだ。
「やるわね。けれどまたね」
「ええ、釣りをね」
「やろうね」
「そうしようね」
 二人で飲みつつ話した、肴の刺身も天麩羅も美味かった。それで二人はまた釣ってそうしたものを食べようと約束したのだった。


釣りガールでも   完


                   2020・9・13