練習用小説供養処


 

私の神字書き【ジャン神・綾おけ】

『綾城さんの書く小説が一番好きです!』
『綾城さん神……!』
 マロを開設して以降、そのような感想をもらうことが増えた。本当にありがたいことだ。
 今こうして私が小説を書いていられるのは、ひとえに中島さんとナツメさんのおかげ。
 ナツメさんとは繋がりが切れてしまったけれど……。
 小説を書き始めたきっかけはナツメさんに勧められたから。
 そして……私が書くのを辞めようと思った時には、いつも中島さんが励ましてくれた。

『綾城さんの作品全部大好き!!』
 もともと私がツイッターを始めたのは、中島さんの作品の虜になったからだ。
 ランキングサイトを巡回していて見つけた、神作品。
 それが中島さんのものだった。
 そこから中島さんのツイッターを見つけ、『虚崎』の名前で初めてツイッターに登録した。
『初めまして、フォロー失礼します。サイトにあげられていた作品、全て読みました。どの作品もとても面白く、おけけパワー中島さんの作品ごとアスカレがもっと大好きになりました』
 フォローと共に送ったリプライには、すぐに返事が来た。
『初めまして!フォロバ失礼します~!そんなこと言っていただけるなんて嬉しすぎて椅子から転げ落ちました!虚崎さんも一緒にアスカレ推していきましょう……!』
 気さくなリプに、私の緊張は一気にほどけた。
 私はもっと中島さんの作品、というより中島さん自身に魅せられるようになっていく。
 私が虚崎から有島へ、有島から綾城へアカウントやジャンルを移行しても、中島さんだけは変わらず仲良くしてくれた。
 作品を投稿すると必ず中島さんは感想を送ってくれる。
 ネットで活動していると嫌な思いをすることもあるけれど、それでも私が書き続けられるのは、中島さんやその他の感想をくれる方々がいるからだ。
 中島さんに出会えてよかったと、同人活動に出会えて幸せだと、私は心の底から思っている。 

 

夢の国の少年

 こんな夢を見た、とパソコンに打ち込む夢を見た。
 夢の中の僕は、どうやら小説を書いているらしい。
 その出だしは某文豪のパクリのように思えたけれど、とうに著作権は失効しているはずなのでまあ良いのかもしれない。
 とにかく、今日の僕は夢を見たという内容の小説を書く夢を見たのだ。
 夢の中の僕はカタカタとパソコンのキーボードをタイプする。



 少年は白うさぎを追いかけて穴の中へ飛び込んだ。
 長い長い間穴の中を落ちていくと、いつしか一番下にたどり着いたらしい。
 たくさんの扉が並ぶ空間だ。
 一番小さな扉の向こうにうさぎが消えていくのが見えた。



 待て待て待て。それは少年を主人公にしても良いのか?
 著作権が失効しているのは出だしの小説とも同じだが、さすがにそのまんますぎやしないだろうか。
 夢を見ながら今の僕は思う。



 少年は扉に向けて怒鳴った。
「待って、うさぎさん! 僕に小説の上達法を教えてよ!」
 うさぎはこちらを振り向いて怒鳴り返した。
「君は駄目だ! 甘えたがりの君なんか、私のスパルタ指導についてこられやしないよ!」
「ついていけるさ! 優しくしてくれれば!」
「それが駄目だと言っているんだ!!」
 少年はべそをかきながら扉から離れる。
「うさぎさんの馬鹿ぁ……ん?」
 少年は扉の近くにある箱を見つけた。
"やわらかい小説上達法"と箱についたタグに書かれている。
 蓋を開けるとそこには、"EAT ME"と彫りこまれたキノコが入っていた。
 少年がそれを食べたかどうかは定かではない。
 だってそこで私は目を覚ましてしまったのだから。



 ……駄目だこりゃ。
 こんなにつまらない夢しか見られないのなら、今回も僕の小説は一次選考で落選するだろう。
 何せ僕は小説の上達法を夢の中のうさぎに聞くくらいしか、できることがないのだから。 

 

八百字小説

 
前書き
八百字チャレンジは『ジャン神』にて紹介されていた小説の練習法です。 

 
しまった、教科書忘れた。高橋がそれに気づいたのは休み時間が終了する二分前。今から借りに行けば確実に授業に遅れる。今日の授業は諦めよう。
 高橋の、空白の五十分が生まれた瞬間だった。
 さて、何をしようか。高橋の席は最前列、教卓の真ん前だ。他教科の予習も切羽詰まっていたが、教科書とノートを広げる必要のある予習は、高橋の席ではあまりにもリスクが高い。例えるなら、ライブの最前列アリーナ席でカップラーメンをすするようなものだ。——絶対に、怒られる。
 ふむ、と思案する高橋。チャイムが鳴り響き学級委員の号令に合わせて教師に頭を下げる。幸いにも、今日の授業で当たることはなさそうだ。短絡的な当て方を鼻で笑うこともあったが、こういう時にはありがたい。高橋には、一つ思い当たることがあった。
 小説だ。
 SNS上で話題になっていた、小説の練習方法。その名も「八百字チャレンジ」。八百字以内のショートショートストーリーを毎日書く、というものだ。文章記述が必須となった昨今の入試情勢に加え、文芸部員として精力的に活動している高橋に、文章力の上達は目下の課題であった。そのため、高橋もその「八百字チャレンジ」に挑戦中だ。
 よし、書こう。要らない紙なら複数枚ある。何とも都合の良いことに、マス目付きのものも。これなら字数も数えやすい。そうと決まれば、まずはプロットだ。プロットとは小説の設計図のようなものだと。ノートの端っこに大体の話の流れをメモする。短編ならプロ作家はプロットを作らない、とどこかで見たような気もするが、高橋はどれほど短い文章でもプロットは作るべきだと思っていた。
 そうだな……例えば現状を小説化して僕の執筆プロセスを記録しておくのはどうだろう? さすがに本名は出せないので適当な偽名を当てて、教科書を忘れたところから始まる800字の小説。
 そうと決まれば、高橋の筆の進みは早かった。
 誤算と言えば、自分の執筆スタイルがあまりにも淡々としていて、たいして面白くもない文章になってしまったことだろうか。
 例えばほら、あなたが今読んでいるこの文章のように。