野生児の恋愛


 

第一章

                野生児の恋愛
 伊達瑞希は兎角ガサツである。
 黒髪をショートにしていてはっきりとした大きい二重の目に太く長い眉を持っている。紅の唇は薄いが大きい。日焼けした肌に一五五程の小柄な身体をいつもラフな服装で覆っている。
 部活はラクロス部でレギュラーだ、明るく闊達な性格で通っている高校では知られている。
 その彼女が彼氏で同じクラスの小泉幸正に言った。
「今度の休み山行こう」
「今度は山か」
「ええ、そこにね」
 一七八の背で細面できりっとした顔で黒髪をロングにした彼に言った、色白ですらりとしたスタイルである。
「行こうよ」
「前は川に行ったな」
 幸正は瑞希に言った。
「そうだったな」
「そうだったわね」
「それで今度はか」
「山ね」
「お前行こうって言う場所外ばかりだな」
 幸正は瑞希にこうも言った。
「本当にな」
「デートは外でするものでしょ」
「外って言っても自然の場所ばかりだな」
 外は外でもというのだ。
「川とか山とか海とかな」
「そこで釣りしたり歩いたり」
「アウトドアばかりだな」
「だってあたし子供の頃からね」
 瑞希は幸正に笑って話した。
「野山でよく遊んで」
「そうした場所に馴染んでるからか」
「だからね」 
 それでというのだ。
「デートの場所もよ」
「自然の場所か」
「そうなのよ」
「そうなんだな」
「それが嫌なの?」
「俺はそうした場所も悪くないけれどな」
 それでもとだ、幸正は瑞希に言った。
「他のな、テーマパークとかカラオケとか百貨店とかな」
「そうした場所に行きたいの」
「ああ、そうなんだよ」
 実際にというのだ。
「だからな」
「デートも」
「今度はそうした場所に行かないか?」
「じゃあ何処に行くの?」
 具体的にとだ、瑞希は幸正に問い返した。
「一体」
「そうだな、もう街に出てな」
 それでとだ、幸正は瑞希に返した。
「それで一通りな」
「カラオケも百貨店もなの」
「行ける場所にな」
「全部行って」
「そしてな」
 そのうえでというのだ。
「一通り楽しまないか?」
「そうするのね」
「今度のデートはな」
 こう瑞希に提案した。
「そうしないか?」
「それじゃあね」
 瑞希は幸正に言葉を受けて考える顔になった、そのうえで彼に言った。
「今度のデートは街に行きましょう」
「それでいいな」
「ええ、じゃあな」
「行こうな」
 こうしてだった、二人は今度の休みのデートは街自分達が暮らしている県の県庁所在地に行った、するとだった。
 駅前は多くの店に高層ビルが集まっていた、それで瑞希はその街中を見て言った。 

 

第二章

「ここ来るのなんてね」
「滅多になかったんだな」
「あたし本当にね」
「行く場所っていうとか」
「山とか川とかね」
「海とかだな」
「そうした場所ばかりでね」
 それでというのだ。
「後は動物園とか植物園で」
「自然ばかりだな」
「だからね」
「ここにはか」
「本当に久し振りに来たわ」
「たまにはいいだろ」
 幸正は瑞希に言った、だが。
 彼女の今の恰好を見てこう言った。
「しかしな」
「しかし?」
「お前のその恰好な」
 キャップ帽、タイガースのそれにラフな白いシャツと膝までの薄茶色の半ズボン、白いソックスとシューズというファッションを見て言った。
「もう山とか川にな」
「行く恰好っていうのね」
「ああ」
 幸正はお洒落した格好だった、何処かホスト風のファッションだが似合っているし着こなしもいい。その格好で彼女に言うのだった。
「それはな」
「あたし服はね」
「そういうのしか持ってないんだな」
「それかジャージね」
「デートにジャージで来るなよ」
「それはないから」
 瑞希もそこは断った。
「流石にね」
「やっぱりそうか」
「それは安心してね」
「ああ、まあ着てきたしな」
「仕方ないっていうのね」
「行こうか」
「最初は何処に行くの?」
 瑞希は幸正に問うた、駅前の広い場所で。
「それで」
「百貨店な」
「そこなの」
「そこに行ってな」
 そしてというのだ。
「そのうえでな」
「楽しむのね」
「百貨店行って昼も食って」
 そしてというのだ。
「カラオケもな」
「行くのね」
「それでどうだよ」
 瑞希に対して問うた。
「それで」
「いいんじゃない?」
 瑞希は笑顔で応えた。
「それで」
「ああ、じゃあ行こうな」
「行こうね」
 こう話して二人はまずだった。
 百貨店に入った、するとだった。
 瑞希は幸正の手を取って笑顔で言ってきた。
「案内してね」
「おい、案内ってな」
 その瑞希に返した。
「それは自分から動いて手を引っ張って言わないだろ」
「そうかな」
「普通はな、けれどな」
「案内してくれるよね」
「俺が言ったしな」
 街に行こう、そこでデートをしようとだ。
「それじゃあな」
「宜しくね」
「そうさせてもらうな」
 こう答えてだった。
 幸正は瑞希に百貨店の挨拶をしだした、その中で。 

 

第三章

 瑞希は常に自分から手を取って次の場所に行こうとせがみ自分から動いていた。それは百貨店だけでなくゲームセンターでも同じで。
 自分からUFOキャッチャーやプリクラに入った、店も自分からあの店がいいと言って入ろうと言った。兎に角だった。
 かなり元気よく動いた、それで幸正は自分が行こうと思っていた店に瑞希を入れてそこで一緒に食べながら言った。食べているのはスパゲティだ。
「やっぱり俺が引っ張られてるな」
「そうだっていうの」
「実際にそうだろ」
 ペスカトーレを食べつつミートソースを食べる瑞希に言う、幸正の食べ方は普通だが瑞希は随分ワイルドだ。
「はっきり言って」
「私は別にね」
「じゃあ常に手を引っ張るんだよ」
「だって色々な場所に行きたいから」
「それでか」
「気が逸ってね」
 それでというのだ。
「お願いしているのよ」
「せっかちだな、何かな」
「何か?」
「山や川に行った時とな」
 瑞希が好きな場所に行った時と、というのだ。
「同じだな」
「そうだっていうの」
「どうもな」
 感覚的にというのだ。
「そうだな」
「そうなの」
「だからな」
 それでというのだ。
「正直山や川にいる時と変わらないな」
「気のせいでしょ」
「気のせいじゃないだろ」
 このことはとだ、幸正はペスカトーレを食べつつ話した。目の前でスパゲティを貪る瑞希に対して。
「それは」
「といってもあたしはね」
「ありのままか」
「普段と変わらないね」
「街にいてもか」
「そうしてるだけよ」
「つまり根っからの野生児って訳か」
 幸正はここでこう言った。
「そうなんだな」
「そう言われてもね」
 それでもとだ、瑞希は返した。
「私にしても」
「それはか」
「あたし嘘も隠しごとも苦手だし」
「しないしな」
「だからね」
「今もなんだな」
「いつも通りにやってるだけよ」
 こう幸正に話した。
「本当に」
「それだけか」
「あくまでね、それで次何処行くの?」
「カラオケな」  
 そこに行くとだ、幸正な話した。
「そこに行こうな」
「カラオケね、行くって言ってたわね」
「何か歌えるだろ」
「一応ね、じゃあね」
「次はそっちに行こうな」
「わかったわ」
 瑞希も頷いた、そしてだった。
 二人は食事の後はカラオケボックスに入った、そこでも瑞希は幸正の手を取って自分が引っ張る感じだった。だが。 

 

第四章

 歌う歌、それはというと。
「えっ、何だよ」
「何だよって?」
「お前バラード歌うのかよ」
 幸正は瑞希に驚きの声で言った。
「そうなのかよ」
「あたしバラード好きなのよ」
「お前の好きな曲ってな」
 幸正は瑞希のイメージから話した。
「ポップスとかアニソンとか特撮とかな」
「元気のいい曲なの」
「そういうのが好きだろ」
「そうした曲も好きよ」
 瑞希も否定しなかった。
「あたし、けどね」
「バラードもか」
「それもね」
 その曲もというのだ。
「好きでね、今はね」
「バラードか」
「それ歌うわね」
「そうするんだな」
「いいでしょ」
「意外だな」
「あたしだって色々な曲好きで」
 それでというのだ。
「バラードもね」
「好きでか」
「歌うから」
「そうなんだな」
「カラオケは久し振りに来たけれど」
 それでもというのだ。
「今日はバラードもね」
「歌うんだな」
「そうするから」
 こう言って歌いはじめた、するとだった。
 瑞希の歌は相当に上手かった、それでだった。
 幸正は歌い終わった瑞希にこう言った。
「滅茶苦茶上手だったな」
「そう?」
「ああ」
 実際にというのだ。
「本当にな」
「よかったわ、じゃあ次の曲もね」
「バラードか」
「それ歌うから」
 このジャンルの曲をというのだ。
「乗ってきたから」
「そうなんだな」
「それとね」
 さらに言うのだった。
「あんたもね」
「俺もか」
「色々歌ってね」
「わかったよ」
 幸正は頷いた、そしてだった。
 彼も歌った、彼はポップスやロックを歌ったが。
 瑞希は他にも色々歌った、それで幸正は言った。
「演歌までなんてな」
「意外?」
「しかも上手だったしな」 
 こちらの歌もというのだ。
「凄かった、っていうかな」
「っていうか?」
「街でも野生児だって思ってたらな」
 それがというのだ。
「歌はそうなんだな」
「まあ歌はね」
 これのことはとだ、瑞希は幸正に返した。もう時間になったので二人で下手を出る支度をしつつ話している。 

 

第五章

「昔からね」
「得意なんだな」
「昔から上手って言われてて」
 それでというのだ。
「今日も久し振りに歌ったけれど」
「上手かったんだな」
「そうなるわね」
「バラードも演歌もか」
「好きな曲はね」 
 ジャンルに関わらずというのだ。
「好きだから」
「それでか」
「ええ、何でも歌うの」
「そうなんだな」
「聴きもするし」
 歌うだけでなくというのだ。
「そうしてるの」
「そうなんだな」
「ええ、じゃあ次は何処行くの?」
「実はな」
 幸正は瑞希に考える顔で返した。
「これからはな」
「考えてなかったの」
「まだ四時だけれどな」
 それでもというのだ。
「思った以上に展開が早かったからな」
「もう後はなの」
「考えてた場所全部行ったからな」
 それでというのだ。
「後はもうな」
「適当にとか?」
「そんな感じでな」
「行くの」
「それでいいか?」
「幸正君がいいっていうならね」 
 瑞希は笑って応えた、そしてだった。
 二人でカラオケボックスを出て今度は駅前にあったハンバーガーショップに行こうと話をして決めた、そうしてその店に行く途中に。
 ホテル街があった、休憩何千何百円だの一泊何千円からだのサービスがどうかだの幾つも連なっている何階建てもの建物の入り口に書いてある。
 その建物と文字を左右に見てだ、瑞希は。
 顔を真っ赤にさせて俯いてこう言った。
「ええと、ね」
「いや、近道だったからな」
 幸正も顔を赤くさせて応える。
「たまたまな」
「通っただけなのね」
「その店には何度も行ってるけれどな」
「この道はなの」
「知らなかったからな」 
 だからだというのだ。
「はじめて入るし」
「そうなの」
「ああ、すぐに通り抜けような」
「入らないの?」
 瑞希は俯いて問うた。
「何処かに」
「いや、それはな」  
 幸正も俯いて返した。
「流石にな」
「考えてなかったの」
「考えるっていうかな」
 それこそというのだ。
「予定も何も。キスもまだだろ」
「そうよね、あたし達って」
「だからな」
「ここはなのね」
「入らないでな」
 何処にもというのだ。
「そしてな」
「ハンバーガー食べに行くのね」
「ああ、そうしような」
「それじゃあ」
「行こうな」
 二人で顔を真っ赤にして俯いてだった。
 その場を駆け足の様に通り抜けてハンバーガーショップで共に食べた、その後で。
 瑞希は幸正に駅前で別れる時に言った。
「また街でね」
「デートしような」
 幸正も笑顔で応えた。
「瑞希の色々な面見られたしな」
「それでなの」
「ああ、またそういうの見たいからな」
 だからだというのだ。
「楽しいだけじゃなくてな」
「私も。自然の場所行くのもいいけれど」
「街もいいだろ」
「うん、だからね」
「じゃあな」
「またね」
「街で楽しもうな」
 こう彼女に話した。
「一緒に」
「そうしましょう、じゃあまたね」
「明日学校でな」
「また会おうね」
 二人で笑顔で話してだった。
 そうして今は別れた、だが。
 幸正は電車の中で一人になった時に車窓から夕陽で赤く染まっている街を見ながらホテル街のことを思い出した、そして。
 瑞希のとてつもなく可愛いところを見たと思った、純情で恥ずかしがり屋なところも。だが自分も入ろうと言わなかったので。
 自分は意気地がないかとも思った、それでまずはキスからだと決意した。そんなことを考えつつ家に帰った。街から離れて。


野生児の恋愛   完


                 2020・8・13