処女伝説


 

第一章

               処女伝説
 アニメ関係の仕事をしていて声優さんについてのお話を聞くとよく一部だけれどファンの人達がこう言っている。
「えっ、処女とか?」
「彼氏さんがいるかどうかとかね」
 私は別の仕事をしている高校時代の友人と仕事帰り偶然に久し振りに会って一緒に飲んでいる時に話した。
「そんなお話をしてるのよ」
「声優さんって」
 友人は私にビールを飲みつつ言ってきた。
「二十代三十代の人多いでしょ」
「ええ、もっと上の人もね」
「男の人も女の人も」
「女の人の割合がかなり多いの。それで若い娘が人気あるの」
「アイドルみたいに」
「そうなの。男の声優さんも人気があるけれど」
 男の人は四十代になっても女の子達に人気があることが結構ある。
「けれどやっぱりね」
「女の人がなの」
「注目される業界で本当にアイドルみたいにね」
「人気があるの」
「それで歌を歌ったりグラビアのお仕事したりイベントに出たり作品の制服着たり」
「本当にアイドルみたいね」
「そんな風なの。それでしょっちゅうね」
 沢山の人がこう言われてきた。
「付き合ってる人いるとかね」
「言われてるの」
「そうなの。ツイッターやブログでお兄さんや弟さんがどうとか書いたら」
「実は彼氏さんとか」
「発表していないだけで実はとか」
 そうした風にだ。
「言われるのよ」
「そうなのね」
「それでね」
 私はさらに話した。
「指輪をしていたら」
「結婚指輪?」
「それ本当に言われるから」
「左手の薬指じゃなくても」
「言われるし。だから三十になったら急に発表する人いたり」 
 それかだ。
「公表していない人もいるの」
「声優さんも大変ね」
「それで人気の声優さんが結婚発表したら」
 例え三十歳になっていてもだ。
「大騒ぎする人もいるのよ」
「厄介ね」
「だからアイドルだから」
 人気のある女性声優さんはそうなっているからだ。
「中には水着になる人もいるし」
「水着もあるの」
「流石になる人は少ないけれど」
 それでもだ。
「そうした人もいるから」
「何か色々難しい世界ね」
「もうそんなの個人の勝手でしょ」
 私は自分の日本酒、大吟醸を飲みながら友人に言った。
「正直言って」
「もうね」
「けれどそうした業界で」
 それでだ。
「ファンの人がややこしいのよ」
「困った業界ね」
「本当にね、私だってね」
 今度は私自身の話をした。
「もう相手いるわよ」
「あんたは声優さんじゃないしね」
「二十五でね。それで来年結婚よ」
 そうする予定だ。
「そんなのなのに三十になるまでとかなっても公表しないとか」
「別にいいのに」
「そういうのってね」
「おかしいわね」
「それぞれの業界のしがらみとかあっても」
 それでもだ。
「声優業界そこが変なのよ」
「何処の業界でもそういうのあるけれどね」
「そういうのがあって」
 そしてだ。 

 

第二章

「色々ややこしいところもあるわ」
「成程ね、そっちも大変ね」
「否定しないわ」
 肴のホッケを食べながら応えた、そしてだ。
 私達はしこたまお酒を飲んでこの時は別れた、けれど飲み終わってから家でパソコンで業界のことを確認するとだった。
「また誰かが実はとか」
「彼氏さんいるとか?」
「もう結婚してるとかね」
 同居している彼に話した、彼は今仕事から帰ったところだ。
「そんな話してるわ」
「ネットは誰でも好き勝手書くだろ」
「それが実はってね」
「事実書いてるとか」
「あるから。今話題になってる人は」
 二十代の若手人気声優さんだ、美人としても有名だ。
「子供さんはまだだけれど」
「結婚してるんだ」
「当ててる人いるわ、けれど結婚していたら」
 そして彼氏さんがいてもだ。
「色々言われる業界だから」
「ややこしいんだね」
「全く。自分が付き合う訳でも結婚する訳でもないのに」
 それでもだ。
「あれこれ言うのはね」
「的外れだね」
「そんなことどうでもいいでしょってね」 
 私はかなり酔いながらも思った。
「そうじゃないかしら」
「結局はそうなるね」
「ええ、けれどね」
「ファンの人達はそう言ってるのね」
「そうなの。まあそうした業界ってことかしら」
 私はこのことを今ここでこれ以上考えても仕方ないと思って言った。
「そうしたファンの人もいるってことで」
「割り切る?」
「それしかないでしょうし。それじゃあ」
 ここでパソコンの電源を落として彼に向かいなおった。
「シャワー浴びて寝ましょう」
「そうだね、僕も晩ご飯食べたし」
「そうしましょう、明日もお仕事だし」
「お互いね」
「そうしたことは置いておいて」
 あれこれ思ってもだ。
「それでね」
「シャワー浴びて」
「寝るわ」
 アニメ業界にいて声優さん達のことを見てそうした話を聞いてどうかと思ってもそれでも今すぐどうにかなる話でもない、だからだ。
 私はこれで今このことについて考えることは止めてそうしてシャワーを浴びにお風呂場に行った。すると彼も入ってきてシャワーではなく浴槽に湯舟に二人で入って楽しむことになった。こうしたことは二十代なら普通だし別に誰がどうしてもいいだろうと思った。それが犯罪でないから尚更だ、それでそうも思いながら楽しんでからお風呂を一緒に出た。幸い私はそうしても別に何もなかった。そのことは有り難いと正直思った。


処女伝説   完


                    2021・3・1