元がいいので


 

第一章

                元がいいので
 二十六歳のOL山下絵里奈は低めの鼻に小さな唇とやや浅黒い肌を持っている、穏やかな顔立ちで目はやや切れ長でいつも眼鏡をかけていて癖のある長い黒髪を後ろで束ねている。
 仕事は出来るのでそちらでは頼られているがそれでもだった。
「山下さんって目立たない?」
「ちょっとね」
「仕事は出来るけれど」
「大人しい性格だし」
「外見も地味だしね」
「これといってね」
「存在感もないかな」
 職場の者達は絵里奈についてこう言った、見れば制服の着こなしもそつなくつまり特徴がないものであり。
 黙々と仕事をしていた、静かなので余計に目立たなかった。
 そんな彼女を見て社内きっても所謂お局でありかつ嫌われ者である清原恋方黒髪を短くしていてやけにきつい睨んでいる様な目でへの字口の彼女はこう言っていた。
「あんな人は何でもないのよ」
「山下さんが?」
「そうだっていうの?」
「あの人は」
「仕事が出来るだけよ」
 こう言うのだった、尚恋方は仕事は全く出来ない。それこそ初歩の初歩のものさえ全く出来ない位だ。
「あんな地味な外見だとね」
「仕事が出来ても意味ない?」
「そうだっていうの」
「地味だと」
「女は外見も整えないとね」
 見れば服はブランドものでメイクもしている、黒髪もセットしている。
「駄目よ、あれじゃあ女を捨ててるわよ」
「そうかな」
「山下さん確かに地味だけれど」
「仕事出来るし」
「別にね」
「そこまで言わなくても」
 周りは恋方の言葉を聞いた、多くの者は恋方が仕事があまりにも出来ずかつ人にはあれこれ言うが自分には徹底的に甘い性格も知っていてだ。
 内心何を言っていると思っていた、それで。
 ここでだ、絵里奈と同期で仲良くしている花垣佳奈薄茶色の髪の毛をロングにしていて大きな胸の見事なスタイルで楚々とした目で白い肌と奇麗な唇の彼女が言った。
「私に考えがあるの」
「考えって?」
「そう、清原さんが言ったことよ」
「あの人ね」
「絵里奈も聞いてるでしょ」
「ええ、けれど私実際にね」
 否定出来ないという感じでだ、彼は言った。 

 

第二章

「地味だから」
「じゃあその地味なところをね」
 それとというのだ。
「変えればいいのよ」
「というと」
「メイクよ、実は私メイクの専門学校に通っていたのよ」
「そうだったの」
「そう、見て」
 ここでだ、佳奈は。
 自分の顔の右半分をさっと拭いた、するとだった。
 整っている、しかし。
 左半分とは全く違っていた、左の顔は楚々としながらも非常に整い大人の顔立ちであるがそれでもだった。
 右半分は穏やかな感じで目は幼い感じだ、整っているが別人だ。童顔と言うとまさにそれだ。それでだ。
 恵梨香は驚いてだ、佳奈に言った。
「あの、何か」
「別人みたいでしょ」
「左は大人でね」
「そう、右はね」
 佳奈は笑って話した。
「この通りね」
「童顔なのね」
「そうなの」
 実際にというのだ。
「私の顔は素はね」
「童顔なの」
「そうなの、それをね」
「メイクでなの」
「大人にしてるの」
「そうなの」
 まさにというのだ。
「この通りね、それで絵里奈もね」
「メイクをしたら」
「変われるわ、それで奇麗になって」
 そうしてというのだ。
「清原さんをね」
「見返すの」
「そうしよう、いいわね」
「どうしても?」
「絵里奈だって悔しいでしょ」
 あの様に言われてというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「やってみましょう」
「佳奈がそこまで言うなら」
 それならとだ、絵里奈も頷いてだった。
 佳奈にメイクを教えてもらった、そして。
 実際にメイクをした、そうして会社に行くと。
「!?誰あれ」
「一体」
「誰なの?」
「若しかして山下さん!?」
「そう言えば面影があるけれど」
「山下さん!?」
「そう、絵里奈よ」
 ここで佳奈が話した。
「私がメイクを教えたの」
「そうだったの」
「それであそこまで変わったの」
「そうだったの」
「そうよ、絵里奈は元々元がいいから」
 地顔がいいからだというのだ。
「それでなのよ」
「メイクしたらそこまで映えるんだ」
「あんなに奇麗になるんだ」
「地味な人だと思っていたら」
「メイクだけで」
「それに絵里奈は人相もいいから」
 このこともあってとだ、佳奈はさらに話した。
「余計にね」
「いいんだな」
「仕事出来るしあそこまで奇麗になったら」
「もう怖いものなしだな」
「そうだよな」
「それに対して」
 ここでだ、社内の誰もがだった。 

 

第三章

 恋方を見た、それで顔を顰めさせて言った。
「メイクして髪の毛もセットして」
「着ている服はいつもブランドだけれど」
「滅茶苦茶人相悪いから」
「もうどうしようもなく醜いわね」
「しかも言うのは悪口ばかり」
「他人に滅茶苦茶厳しく自分に徹底的に甘い」
「尚且つ仕事は全く出来ない」 
 こう言うのだった。
「そんな人が山下さんにどうか言っても」
「どの口が言うだよな」
「もうあんな人相手にしたら駄目ね」
「何があっても」
「くっ・・・・・・」
 恋方はその冷たい声と視線に歯噛みするしかなかった、そして。
 やがて会社の金を横領して自分の服に浸かっていることがばれて懲戒免職の上逮捕されることになった、こうして会社からいなくなった。
 そして彼女がいなくなってから佳奈は絵里奈に話した。
「あの人もいなくなったし」
「それでなのね」
「ええ、もうね」
 絵里奈に会社の近くの食堂で昼食を食べつつ話している、佳奈は焼きそば定食を絵里奈は海老フライ定食を食べている。
「気にすることなく、それでね」
「メイクもなのね」
「続けていこう、悪い気分じゃないでしょ」
「ええ、清原さんも黙ったし」
「ああした人はああなるのよ」 
 佳奈は捕まった彼女のことを話した。
「他の人にあれこれ言うだけの人はね」
「その人が凄くなったら」
「黙るのよ」
「そうなのね」
「逮捕されるとは思わなかったけれど」
 佳奈としてはだ。
「ああなるものよ」
「そうなのね」
「それでね」
 佳奈は焼きそばでご飯を食べつつ述べた。
「これからもね」
「メイクをして」
「仕事が出来て美人にね」
 そういうことを言われる人にというのだ。
「なっていこうね」
「ええ、そう言われて私も悪い気はしないし」
「それじゃあね」
「お仕事だけでなくメイクもしていくわ」
「そうしていこう」
 二人で話した、そしてだった。
 もう絵里奈を地味と言う人は誰もいなくなっていた、やがてお見合いをしていい人と結婚して幸せになった。結婚してからも仕事は続けたが会社の中では仕事が出来る美人という評判はそのままだった。そして家では夫と会社では佳奈といつも仲良く過ごした。


元がいいので   完


                 2021・9・19