俺、ツインテールになります。外伝~追憶のテイルチェイサー~


 

プロローグ

 
前書き
一生で一番多くの2が並ぶ今日こそは、絶好の投稿日和!!

といえわけで、長らく再投稿出来ていなかった追憶をupです。 

 
 これは、私が全てを失った日への追憶。

 大切なものを守れなかった。

 大切な人を失った。

 世界は灰色に染まり、人々は色彩を失った。

 それでも、それは単なる終わりの日ではありません。

 全てが始まった日でもあったのです。

 だから私は、この日を心に刻み続けます。

 あなたとの、銀色に輝く思い出の日々は、私にとって永遠の宝物なのですから。



「フッ、確かに噂通りの強さだったな」

 町外れの空き地の中。全身の関節部以外を鎧に包んだ、黄金の竜のような怪人が呟く。

 見下ろす先に倒れているのは、露出度高めの青い鎧に身を包んだ、銀髪で髪を標準的な形のツインテールにした少女の姿。

 そう、怪人は種族名をエレメリアン。名をラードーンギルディという。

 無数の平行世界を渡り、人間達の心の力、属性力(エレメーラ)を奪う事で世界を侵略する組織、「アルティメギル」の尖兵である。

「しかし、これで終わりだ!!」

 両手剣を振りかざし、トドメを刺そうとするラードーンギルディ。

「フッ……」
「む!?な、なんだその不敵な笑みは?」

 追い込まれたこの状況で、少女は笑っていた。
 まるで、ラードーンギルディを嘲笑うかのように。

「確かに、あなたは今まで戦ってきたエレメリアンに比べて骨がありますね……正直、ここまで追い込まれたのは初めてです」

 少女は地面に転がっていた、弓と双刃を一つにした様な武器を持ち直す。

 まるで、まだいけるとアピールし、挑発するように。

「まだ戦えると?良いだろう!ならば次の一撃で終わらせてやる!!」
「ええ、終わりますとも。……ただし、終わるのはあなたの方ですけどねっ!!」

 少女はラードーンギルディに、何かテニスボールのようなものを投げつけた。
 投げつけられたそれは、金色に光り輝くラードーンギルディの顔に、ベチャッと音を立てて付着した。

「ぬおおおおお!?私の美しい体に泥が!!」
「今です!完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

 刃の部分にエネルギーが集まり、光り輝く。

「フィールスパイラル!!」

 両手で武器を回転させると、巨大な渦潮が発生し、ラードーンギルディを飲み込む。

 ラードーンギルディは渦の中で、洗濯機に入れられた洗濯物のように力無く流され、その身を幾重にも重なる水流のカッターで切り刻まれていった。

「ぐわああああああ!!か、顔にも鎧を付けておくべきであったかああああ!!」

 人生最期の悔いを叫びながら、荒れ狂う激流の中で、洗濯されながら消滅するラードーンギルディ。

 敗因となった、美しさを重要視する性格をよく表した最後の言葉であった。

「汚れるのが嫌などという甘い考え方で、戦場に出てくるとは…精神的にはまだまだ未熟だったようですね」

 渦潮が消えると、消滅したラードーンギルディの属性玉(エレメーラオーブ)が落下してくる。
 その属性玉を拾う少女は、その属性玉の名を呟いた。

「ツインテール属性……道理でいつもより強い筈です」

 そう呟くと、彼女はその属性玉をそっと握り締めた。

 彼女はテイル戦士。数多の世界にそれぞれ存在する、侵略者アルティメギルに唯一対抗できる最強の属性力、ツインテール属性を持った、ツインテールの戦士たちの一人である。


 これは、ツインテイルズ結成以前の…いや、世界最高のツインテール馬鹿こと、観束総二がテイルレッドになるより遥か前の、異世界の物語である。 
 

 
後書き
本当は全話上げたいのですが、5話中3話がもう手元に残ってないんですよ。
再投稿出来なかったのはそれが理由です。

いつかリメイクして、もう一度完結させなければ……。 

 

Episode1 「起動」

 都内 通学路

 戦いを終え、帰路につく銀髪の少女。
 変身していない彼女は常に羽織っている白衣のポケットから取り出した端末を確認する。

 時計に目をやり時間を確認すると、彼女はその白銀に光るツインテールを靡かせながら、駆け足で道を進む。
 数分後、彼女が到着したのは小学校の前だった。

「3、2、1……」

 カウントダウンと同時に鳴るチャイム音。
 間もなく、ランドセルを背負った子供たちが、校門からぞろぞろと現れる。

 その内の、何人かの少女が、佇む彼女の姿に気付き、手を振りながら駆け寄ってきた。

「あ!トゥアールさん!」
「トゥアールさ~ん!」

 そう、彼女の名はトゥアール。この世界のツインテールを守護する戦士だ。
 トゥアールは手の甲で口元をぬぐうと、手を振り返す。あっという間に彼女は小学生たちに囲まれていた。

「みんな、今日も元気ですか?」
「うん!元気だよ!」
「そうですか~、それは何よりですね~」

 笑顔で少女たちの頭を撫でまわすトゥアール。
 そして、その少女たちの多くが、トゥアールを真似たツインテールだった。

 世界を守る彼女は、この世界の子供たちの人気者なのである。
 特に、一定年齢以下(具体的には13歳以下)の少女に優しいので、その歳の少女達が、日々こうして寄って来るのだ。

「トゥアールさん、昨日送った写真、見てくれました?」
「ええ、もちろん!可愛く撮れていましたよ!」
「やった!トゥアールさんに褒められた!!」
「いいな~、私も褒められたい!」
「私のメアドが欲しいならあげますよ?」

 メアド入りの名刺を取り出すトゥアール。

「え、いいんですか!?」
「はいもちろん!これで好きな時に写メ送ってくださいね?あと、何かあったらすぐに連絡すること。トゥアールお姉さんとの約束ですよ?」
「「「「「はーい!」」」」」

 名刺をどんどん配っていくトゥアール。
 傍から見れば、子供に優しいお姉さんに見えるかもしれないが、彼女の本心は別にある。

「ああ、幼女達が喜んでいる……ぐへへ」

 名刺を配り終え、喜ぶ少女達を見守る彼女の顔は密かに、だがかなりヤバい目をしていた。
 しかも、口から涎が垂れかけている。

 そう、彼女はロリコンなのである。しかも、見ての通り重度の。

「あ、あの……トゥアールさん?」
「ハッ!あ、はいはいなんですか~……ってイースナ!?」

 黒縁眼鏡に、おさげのように垂らしたツインテールの少女───イースナが、他の子供たちとは少し距離を置いた場所から、こちらへ近寄り、声をかけてくる。

「こんにちは…今日も、迎えに来てくれたんですね……」

 説明しよう。トゥアールの日課は、子供たちをエレメリアンの襲撃から守る為の、登下校時の見送り……と称して、合法的に幼女達に囲まれて歩く事である。

「ま、まあ、あなたたちを守る事が私の仕事ですから……」
「ありがとうございます……ところで、昨日のメールは読んでくれましたか?」

 ギクッ!というオノマトペが浮かびそうな表情になるトゥアール。

 実は、イースナはトゥアールのファンの中でも特に粘着質なタイプで、ストーカー紛いの行動と、大量のメール送信を繰り返しているのだ。

 今は人前なのでなりを潜めているが、登校時間は通学路の何処かを張り込んで待ち伏せては、トゥアールの自宅を突き止めるべく、追いかけストーキングする日々を送っている。

「す、すみません、目は通してるのですが、忙しくて返信できなくて……」

 もちろん、真っ赤な嘘である。本当は通販の催促メールと同じファイルにぶち込んであり、未読のままなのだ。
 普通なら迷惑メールにするところだが、知り合いな上にロリコンの彼女としては、それは忍びないので、これが一番妥当な判断なのだ。

「そうなんですか……でも、返事はいつでも待ってますから……」
「あはは……では、そろそろ行きましょうか」

 笑って誤魔化すと、いつも通り幼女達を引き連れ、家の近くまで送っていくトゥアールなのであった。



 数十分後 都内ショッピングモール

「さて、確か牛乳がそろそろ切れていたような…」

 幼女達を無事に自宅まで送り届けたトゥアールは、いつものように買出しに来ていた。

 一人暮らしだから、というのもあるが、実はストーキングして来るイースナを巻く為の手段でもある。

 歩く度に時折、チラッと後ろを振り返る。
 一瞬遅れて、物陰に隠れる頭が見えた。

「まだ付いてきてますね……もう少し歩き回りますか……」

 新商品の広告を見る振りをしながら、背後を伺う。
 家電製品の広告の前まで来た頃、ふと目に付いたある広告に目を奪われる。

「ロボペット……ですか……」

 それは、ひと世代前に流行った、犬の形をしたロボットの広告だった。

 ペットに生き物を飼うと世話に手間がかかるが、ロボペットには餌をやる必要がなく、抜け毛やトイレの世話もない為、最近復刻したのだそうだ。

 どれだけ豊かな世の中になっても、人の寂しさ、心細さは埋めることが出来ない。
 そして、科学による発展を突きつめ、合理性を重視したこの世界の社会では、ロボペットが推奨される日が来るのは必然だった。

 しばらく広告を見つめ続け、やがてトゥアールは、自分に言い聞かせるように呟く。

「………いや、いりませんよね!例えどんなに精巧に作られていても、所詮はロボット。表情も温もりも、そこにありはしないんですから……」

 広告から目を逸らし、食料品コーナーへと足を運ぶトゥアール。

「トゥアール……さん……?」

 イースナは物陰から出て、移動しようとしたところで、トゥアールの後ろ姿を見て思わず立ち止まる。
 心なしか、その背中は少し哀愁が漂っていて、揺れるツインテールはどこか寂しげだった。



 夕刻 トゥアールの自宅

 あんまり人気のない通りに、ぽつんと佇む一軒の建物。
 他の民家に比べれば遥かに大きな邸宅は、私の研究施設だ。

 住居スペースの玄関の鍵を開け、中に入る。

「ただいま帰りました……」

 答える声はない。当然です。ここには、私一人しか住んでいないのですから。

 玄関のドアを閉め、靴を脱ぎ、そのまま台所へと直行する。
 買ってきた食料品を冷蔵庫に詰めると、溜息をついた。

 いつからだろうか。寂しい、と感じるようになってしまったのは。

 アルティメギルからこの世界を守れるのは、私しかいない。とはいえ、独りで戦い続けていると、少し心細くなってくるものです。

 街に出れば、私に憧れた子ども(ようじょ)たちが寄ってきてくれますけど、こうして家に帰れば私は独り。

 出迎えてくれる者もなく、ただ夕食を食べ、テイルギアのメンテをして、お風呂に入って、寝室で眠りについて。
 朝が来れば朝食の後、幼女たちの見送りをしたらラボに篭って研究に打ち込んで。
 エレメリアンが現れれば出撃して……。

 この繰り返しにも慣れていましたが、それでも寂しさだけは消えなかった。

 なら、さっさといい男でも見つければいいのかもしれませんけど、私は幼女の方が好きなので。
 正直それは今のところ、選択肢にありませんし。

 ………だから、ロボペットの広告を見た時に、ちょっと立ち止まってしまったのかもしれませんね。

 それに、ラードーンギルディの属性玉がツインテール属性だったと知った時、私と一緒に戦ってくれる仲間が欲しい、なんて一瞬考えてしまったのも……。



「属性玉エレメーラオーブ……ロボペット……仲間………ですか……」



 その時、私の頭脳に光明が走った。

 何気なく呟いたこの三つが結びつき、一つのアイディアへと結実する。

「そうだ……その手がありましたか…!」

 ラボに駆け込むと、すぐに私は製作に取りかかった。
 食事を取るのも忘れ、時間がどんどん過ぎていくのも気にせず、ただ、この作業に没頭した……。



 次元の狭間 アルティメギル移動艇

「ラードーンギルディが敗北した、か……」

 移動基地の中央会議室に集まったエレメリアン達。
 その中心に立つ、竜を模した漆黒の甲冑をまとった、一際巨大なエレメリアンが呟く。

「美しさに重きを置きすぎるな、とあれほど言っておいたが……馬耳東風であったか…」

 呆れたように、それでいてどこか哀しげに溜息をつく。

「帰還要請が来ておりますが、如何致しますか?」

 雀のような姿をしたエレメリアンが、隊長に近づく。

「無論、応じる。到着を待つように伝えておけ」
「はっ!」

 雀型のエレメリアンは、早速その旨を伝えるための手紙を書き始める。

「致命的な弱点を抱えていたとはいえ、副官を任せられる程度には強かった、あのラードーンギルディが敗れ去ったのだ。その世界のツインテールの戦士との戦いは、いくらか楽しめるかもしれんな……」

 腕を組みながら、スクリーンを見上げる隊長エレメリアン。
 送られてきた映像で戦うトゥアールの姿を見ながら、隣にいる雀型エレメリアンの名を呼ぶ。

「スパロウギルディ」
「はっ。なんでしょうか、ドラグギルディ様」
「到着したとしても、スワンギルディだけは出撃を控えるように伝えておけ。奴はまだ若く、まだ鍛え甲斐のたる戦士だ。万が一にでも失うわけにはいかん」
「わかりました。伝えておきましょう」

 真っ赤なマントを翻し、会議室を去るドラグギルディ。
 そう。この世界の終わりは、見知らぬところで着々と歩みを進めていたのだった。



 深夜0時数分前 ラボ




「……」

 起動する(めをさます)と、まず見えたのは蛍光灯の明かりに照らされた、白い天井の研究室だった。

 カメラアイからの画質は良好、集音システムにも異常無し。感度良好。
 次は動作の確認だ。

 起き上がると、私は金属製の作業台の上に寝かされていたことを確認する。動作にも異常はなさそうだ。

 そして辺りを見回すと、白衣を着た銀髪のツインテールのヒトが、目を大きく見開き、両手で口を抑えて立っていた。
 顔を認証する。なるほど、この人が私の製作者(マスター)で、名前はトゥアールというらしい。

「おはようございます。あの……何をしているのですか、マスター?」

 トゥアールは私をじっと見つめ続け……やがて一言、こう言った。

「おはようございます、シルファ」
「……いえ、夜明けまではまだ5時間以上ありますね。『おはようございます』では不適切だったでしょうか?」

 これで合っているのだろうか……と思い、首を傾げる。

「ああ、そうでした。今はまだ真夜中でしたね……って、もうこんな時間!?」

 今度は驚きながら時計を眺めるトゥアール。
 表情の変化の多い、忙しい人だな。と思った。

 そして、最初の会話として、ひとつ確認する。

「あの……」
「は、はい?なんですかシルファ?」
「シルファ……と、いうのは?」

 私の問いに対して、トゥアールは笑顔でこう答えた。

「あなたの名前ですよ。今日からあなたは……私の家族です。よろしくお願いしますね、シルファ」
「………シル…ファ……」

 自分で、自分に与えられた名称を復唱する。

「わかりました。私はシルファ、ですね。マスター」
「ああ、それとシルファ…マスターって呼び方は辞めてくれますか?」
「……何故です?」

 しばらく考えたが、その意図が理解できず、聞き返す。

 私はこの人の制作物だ。なら、マスターとか、クライアントとか呼ぶのが当然ではないのか?

「私とあなたは……家族なんですから。私のことは気軽に、トゥアールと呼んでください」

 家族だから。トゥアールはそう言った。

 理解……する事は出来なかった。
 家族とは、人間が有する社会関係のひとつで、主に血の繋がりを表す言葉だ。

 造られた存在、機械の私を“家族”と呼ぶ彼女の心理が、私には理解できない。
 何故この人はそんな事を言ったのだろうか?

 でも……悪い気はしなかった。そうだ、私はまだ完成したばかりだ。
 これから彼女と過ごすうちに、沢山の知識を学べるはずだ。この言葉の意味も、そのうち理解していけるようになるだろう。

「わかりました。これからよろしくお願いしますね、トゥアール」

 私が名前を呼ぶと、トゥアールはとても嬉しそうな表情で微笑んだ。
 これが、私の起動し(うまれ)た日。私にとって、とても大事な……最初の記憶になった。 
 

 
後書き
<i12430|45488>

シルファの外見です。
私服は基本的にトゥアールのおさがり(by空魔神さん) 

 

Episode2「おもいで」

朝7時頃 トゥアール邸

「ふぅ……レシピ通りに作ったし、これでいいよね?」

朝六時頃からキッチンに立ち、朝食を作る。
起動から数日して、私の日課になった行動だ。

調理の知識は料理本から丸暗記(ダウンロード)済みだから、簡単な食事くらいなら用意できるようになってたし、簡単なものしか作れないのにトゥアールが絶賛するから、いつの間にか食事当番は私になってしまっていた。

さて、そろそろトゥアールを起こしに行かなくちゃ。
フライパンとおたまを手に、寝室のドアを開ける。

「すぴー……すぴー……」

昨日遅くまで、また研究に時間を費やしていたらしく、トゥアールはベッドの上で眠りこけていた。
まったく、忙しいのは分かっているんだけど、ちゃんとした生活習慣を身につけて欲しい。

「ほらトゥアールおきて!朝ごはんできちゃってるよ~!」
「すぴー……」

フライパンの裏をおたまで叩いて音を鳴らす。

でも、昨夜は深夜3時半頃まで起きていたトゥアールは、まったく起きる気配がない。
あんまり使いたくないけど、こんな時に一番の方法がある。

トゥアールの耳元に口を近づけ、一言囁いた。

「今おきないと、もう一緒にねてあげないよ?」
「起きます!起きてますよぉぉぉ!!」

一瞬にして、ロケットのようにベッドから飛び上がって起きるトゥアール。
まったく、寂しがり屋なんだから……。これで慌てて飛び起きるって、相当じゃない?

「朝ごはんもうできちゃってるから、早く食べないと時間におくれちゃうよ?」
「7時……まだゆっくり食べていられますね……。ありがとうございますシルファ、それでは早速食べちゃいましょう!」
「顔もちゃんと、あらってからね?」
「もちろんですとも!!」

洗面所にかけていくトゥアールと、フライパンを流し台に置く私。
こんな感じの朝を、かれこれ二週間近く過ごしている。

起動からかなり知識も増えた。喋り方はこの通りひらがな多めの設定なんだけど。

そして、知識が増えたことで気付いたのだが、私には他の機械にはない「感情」が備わっているらしい事を知った。

本来人間しか持ち得ないものを持っている。その理由をトゥアールは、属性玉(エレメーラオーブ)をコアにしたからだろう、と結論づけた。

人間の感情から生まれたエネルギー、属性力(エレメーラ)。その結晶たる属性玉(エレメーラオーブ)から作られたのだから、そうゆう不可思議な現象が発生してもおかしくはないだろうと。

ただし調べてみたところ、私のように感情を持つ確率は奇跡にも等しいようだ。
同じ事をしても、私のような存在が発生する可能性は0をいくつも並べ、小数点のその先を答えとしなくてはならないらしい。

それ故か、トゥアールは私のことを「奇跡の子」だと言っている。
だからこそなのか、大切にしてくれるのはいいんだけど……。

「トゥアール、前から気になってたんだけど、いい?」
「ん?ふぁんふぇふふぁ?」
「食べながらしゃべらない。おぎょーぎわるいよ」

注意されると、オムレツをすぐさま飲み込み、口を拭くトゥアール。

ちなみに今日は、私と同じ形のツインテールにしている。
寝坊したから、一番結びやすい形を選んだのだろう。

「なんですかシルファ?」
「わたしにプログラムされたきほんめーれーについてなんだけど」

私が作られた理由。それは基本プログラムとして、メモリーに入っている。
私が行動する上で、最も強い命令。行動の指針となる、とても大事なものだ。


「わたしが作られた理由って、トゥアールのサポートのためなんだよね?」
「そうですよ。研究や戦闘、あと幼女を愛でる事に忙しい私の生活をサポートしてもらうために……」
「それ!そのせんとうサポートのめいれいをはたせていないんだけど、どうゆうことなの!?」

そう。私はトゥアールの戦闘をサポートする為に開発されたはずだ。
なのにトゥアールは、私をエレメリアンとの戦いに連れていこうとしない。それどころか、家から出る事を許可してくれないのだ。

「気が変わったんですよ。戦闘はやっぱり私一人で充分です!!」

くわっ、と思いっきり目と口を開きながら答えるトゥアール。

「じゃあお外出してくれないのはどうして?へやの中でテレビやラジオやネットから得るよりもいいじょーほーがたくさんもたらされるから、むしろわたしががいしゅつすることはすいしょーされるべきだとおもうんだけど?」
「やっぱり、ひらがな表記にすると随分と印象が変わるものですね……。お堅い言葉も全然語っ苦しくなくなって、可愛らしいです!」
「トゥアール!!ごまかさないで!」

 テーブルを叩いて講義すると、トゥアールは明後日の方向を向きながら答えた。

「いや~、分かってはいるんですけど……シルファの可愛さにつられて品のないロリコン野郎共が近寄ってきそうで嫌なんですよね……」
「あなたがそれ言う……?わたしをおきがえさせる時に、まだ手持ちのちしきが少ないのをいいことに、わたしのおしりもんできたことは、いまだにドン引きなんだけど……」

その一言で目を逸らすトゥアール。やれやれ、困った開発者だ。

「しまった、人工知能の発達速度の速さだと騙せる時期も結構短いですね……その辺も考慮して作ればよかった……」
「ぜんぶ聞こえてるんだけど……」

そろそろ厳しく言っておかないと、人としてアウトなのではないだろうか?

本当に、この人は理解するのが大変だ。
ロリコンの心理についても理解不能ではあるが、自分で入力した命令を気まぐれで放棄させるなんて、開発者としてどうなんだろうか。

これでは、私は作られた意味を見失ってしまいそうだ。

「って、もうこんな時間!!」

気づけば、そろそろ小学校の登校時間だった。

「シルファ、ごちそうさまでした!今日の朝食も美味しかったですよ!」
「ありがと。ほら、お皿はかたづけておくから」
「どうもすみませんね。では、ちょっといってきます!!」
「……いってらっしゃい」

玄関までトゥアールを見送る。

いつもの五倍速で白衣を羽織り、その銀のツインテールを陽光に煌めかせながら、子供たちのため全力で駆け抜けるトゥアール。
多分、近所の小学校全部を回るはずなので、あと1時間は戻ってこないだろう。

「今からかってにがいしゅつすれば……でも、わたしはカギを持ってない。つまり……家をまもらなくちゃいけない、か。はぁ~……」

喋る度に一部幼く変換される、という疲れる機能に溜息をつきつつ、家の中に戻る。
食器洗いはトゥアールが帰ってくる頃には終わっているだろう。



数分後

「…おや?子供たちが集まっている?」

通学路を歩くトゥアールは、ランドセルを背負った子供達が集まっている場所に出くわした。
どうやら何かを取り巻いているらしい。

「あれは……着ぐるみ……ですかね?」

遠巻きによく観察してみると、パンダの着ぐるみと、レッサーパンダの着ぐるみが、子供達と触れ合っていた。
何かの広告だろうか?全体的にもふもふとした、可愛らしい着ぐるみに集まる子供達が微笑ましい。

「ぐへへ……幼女がもふもふと触れ合っている……って合法的に幼女達に触られたり、撫でられたり、何ですか羨ましい!!私も混ぜてくださ~い!!」

着ぐるみ達の所まで一直線に走り出すトゥアール。
着ぐるみの姿がハッキリと見える位置まで、ツインテールをぱたぱたと風圧に靡かせながらまるで駅伝選手のように走って来て……地面と擦れた靴裏から音がするくらいの急ブレーキを踏んだ。

「ん?……「「って、あーー!!お前は!!」」

パンダとレッサーパンダの着ぐるみも、気付いてこちらを向く。

「あなた達は!!」

トゥアールも指をさしながら同時に気づいた。

「「この世界のテイル戦士!!」」
「エレメリアンじゃねーですか!!」

そう、この二体の着ぐるみ、実は着ぐるみではなく、属性力を押さえ込んだエレメリアンだったのである!

「こんな所で何してるんですか!?」

トゥアールの質問に、彼らはさも当然のように答える。

「「子供達と触れ合っていただけだ(アル)!!」」
「はい!?いや、それは見れば分かりますよ!!」

今度はパンダとレッサーパンダがそれぞれ、別々に答える。

「正確に言えば、幼女達の未発達な手のひらのぷにぷにとした感触をこの自慢のもふもふな毛皮で堪能していたところアル!!」
「あたしは少年達のまだ成長しきっていないからこその可愛らしいものへの興味の視線を受けつつ、これから逞しくなっていくその小さな身体をこのもふもふした腕に抱ける楽しみを堪能していただけだ!!」
「要するにロリコンとショタコンじゃないですか!!特にそこのパンダ!うらやま……けしからん!成敗してやりますよ!!」

実はかなりブーメランな発言なのだが、本人は全然気にしていない。

「怪人だー!にげろー!!」
「うわー!!」

着ぐるみの正体がエレメリアンだと知った子供達は慌てて離れていく。

「ああ…天国が……遠ざかっていくアル……」
「アンタ、しっかりしなよ!ここでこいつを倒せば、晴れて昇級なんだから!」

落ち込むパンダを励ますレッサーパンダ。付き合いは結構長いのかもしれない。

「そうアルねぇ……ようし、行くアルよ!!」

笹の枝のような槍を取り出すパンダ型エレメリアン。

「我が名はパンダギルディ!!幼き可憐な花、幼女(ロリータ)を愛する戦士アル!!」
「おのれパンダギルディ……徹底的に叩きのめしてやりますので覚悟してくださいよ!!」

既に闘志を漲らせているトゥアール。ちなみに怒っているのは幼女達にベタベタ触れていた事ではなく、合法的に幼女に接触しまくれるビジュアルしているからである。

続けてレッサーパンダ型のエレメリアンが名乗りを上げた。

「そしてアタシが幼男属性(ショタ)、レッサーパンダギルディ!!」

竹の幹のような槍を構え、パンダギルディの隣に並ぶレッサーパンダギルディ。

「今日の私は、ちょっとばっかり機嫌が悪いですよ……」

テイルブレスを胸の前にかざすと、ブレスが展開し、トゥアールの身体はフォトンコクーンに包まれる。
青い光が水飛沫のように弾けると、青き鎧に身を包んだ、銀のツインテールを持つ戦士がそこに立っていた。

「ウェイブエッジ!!」

その髪を束ねているリボン型のパーツ、フォースリヴォンを叩くと、彼女の右手に綺麗な曲線を描いた青い双刃刀が出現する。

「「ゆけ!アルティロイド!!」」
「いざ……覚悟!!」

ウェイブエッジを構えると、トゥアールは迫り来るアルティロイド達へと斬りかかった。


その頃 トゥアール邸 研究室

「えっと……これじゃなくて……これでもなくて……」

 シルファは研究室のメインモニターのキーボードをあれこれ操作していた。

トゥアールが出ていって数分後、エレメリアン出現のアラートが鳴り響いた。
急いで研究室に向かったはいいが、モニターの操作方法を全く教わっていなかったため、こうして手探りで操作しているのだ。

「ん?これは……」

と、操作しているうちに偶然、シルファはあるファイルを開いてしまった。

そのファイルの中身は……。

「え~っと………これは………………見ちゃいけないたぐいのファイルみたいね………」

中身はなんと、幼女達の自撮り画像ばかりであった。

写メに添付されてきたようなサイズだが、中には刑事案件ギリギリのもの……児童ポルノまがいのものまで含まれていた。

「これはそんざいしちゃいけない……。なかったことにしておこう」

とりあえず、まとめてゴミ箱ファイルに移動しておこう。

「えっと……こっちは……」

別のキーボードを押すと、モニターに表示される映像が切り替わった。

スクールゾーン。つまり通学路となっている場所と、なぎ倒されていく全身真っ黒でのっぺりとした顔の怪人達が映っている。
アルティメギルの戦闘員(アルティロイド)達だ。

そして、それをウェイブエッジで素早く、次々と薙ぎ払っていく青い戦士の姿がある。もちろんトゥアールだ。

「トゥアール……またひとりでたたかってる……」

やっぱり、私を置いて一人で行ってしまう。
サポーターとして設計されたはずなのに……本当に、私に何故こんなプログラミングをしたのだろう。

『さて、残るはあなた達だけです!!』

アルティロイドを全滅させ、トゥアールはパンダとレッサーパンダの姿をしたエレメリアンへと攻撃を開始する。

「……ひとりでも……たたかえてる……」

笹槍と竹槍、二種類の槍と紺碧の双刃がぶつかり合い、火花を散らす。

二対一だが、トゥアールは特に苦も無さそうに戦っている。

「………わたしがいっても……じゃま……なのかな……」

台の代わりに足場にしていた椅子に座り込む。
私は、本当に必要とされて作られたの?

なら私がここに存在している意味とは何なんだろう……。
分からない……解らない……わからないよ………。

「……」

椅子を降りて、研究室から自宅への扉の方へととぼとぼと歩く。

大人しく家事にでも専念しよう。

そう思いドアノブに手をかけた瞬間だった。
エレメリアン達の動きに、変化があったのは……。



何度目かの剣戟の後、パンダギルディとレッサーパンダギルディの動きに変化があった。

 縦に振るわれたウェイブエッジを避けたパンダギルディは、そのまま笹槍でウェイブエッジを地面へ。刃を地面へと突き刺ささせた。

「ッ!」
「スキあり!!」

その隙にレッサーパンダギルディが横から竹槍で彼女をの身体を薙ぎ払う。

「くっ……!!」

なんとか地面を転がることなく体勢を立て直すトゥアール。
だが二体はその隙を逃さなかった。

「レッサー!!」

レッサーパンダギルディが一瞬にして眼前まで肉薄する。

体勢を立て直した直後であるトゥアールは、その速さに対応できない。

レッサーパンダギルディの竹槍からの連撃がテイルギアの表面を掠めていった。

「パンダギルディ!!アンタの番だよ!!」

レッサーパンダギルディが横に飛び退くと、その背後から遅れて接近してきたパンダギルディが現れた。

「ホオォォォワチャアァァァァ!!」

パンダギルディの肉球付きの左手が、剣のような鋭い爪を生やしたものへと変化する。

「ッ!?その腕変化するんですか!?」

紙一重で爪による引っ掻きを回避するトゥアール。

直後、一陣の風が吹いたかと思うと、飛ばされてきた葉っぱが一枚音もなく、まるで裁断機にでもかけられたかのように真っ二つになった。

動きは遅いがこの瞬間、躱したパンダギルディの爪が、空気に真空を発生させたのを感じた。

「そんな腕で幼女達に……怪我させたらどうするつもりだったんですか!!」
「怪我させないように普段は引っ込めてるアル!!万が一怪我させてしまった場合は責任を持ってその傷をペロペロするつもりアル!!」
「この変態!!私だって怪我して泣いている幼女を慰めながらペロペロし……じゃなくて、あなたはやっぱり幼女に近づかせるわけにはいきませんねッ!!」

続けて二撃目、三撃目と爪を振るうパンダギルディ。

何度か避け続け、トゥアールはパンダギルディの足元を掃うようにローキックを繰り出す。

キックはパンダギルディの脛に命中。パンダギルディはバランスを崩した。

「のわッ!?」
「その愛らしい巨体が仇となりましたね!!ざまぁ見やがれです!!」

だが、パンダギルディは転ばなかった。
バランスが崩れる直後、なんと右手に持っていた笹槍を支柱にそのままポールダンスのような動きで回転。バランスを立て直したのだ。

「なんですとぉぉぉ!?」

更に、その隣にはレッサーパンダギルディがここぞとばかりに拳を構えて待っていた。

バランスを立て直すと同時に、回転時の勢いを拳に乗せたパンダギルディと同時に、レッサーパンダギルディは拳を繰り出した。

「「食らえ!熊猫双腕拳(ダブルパーンチ)!!」」
「ッ!!ごはぁっ……!」

二体の腕から繰り出される同時パンチが直撃。トゥアールは後方に思いっきり吹っ飛ばされてしまう。

「パンチをモロに食らったな。略して、パンモロだったアルな!!」

パンダギルディが思いついたように言い放つ。
唐突なボケにトゥアールはツッコミを入れようとするが、身体が重い。

「略し方が放送コードに引っかかるわ!」
「それ言ったら、うちの同僚は殆どが引っかかるアルよ」
「どいつもこいつも、属性語らせると長いからねぇ」

トゥアールの心中を代弁するかのようにパンダギルディの頭を小突きながらツッコミを入れるレッサーパンダギルディ。

どう見ても息ピッタリのいいコンビだ。戦闘でのコンビネーションの良さも理解できる。

「まったく、余計なボケかましてる暇があったら、とっととトドメを刺すわよ!!」
「それもそうアル。ではこれで終いにするアル」

二体は互いの槍を交差させる。すると槍の穂先にエネルギーが球状に溜まり始めた。

「まだ……ま…だ……」

立ち上がろうとするトゥアール。
だが先程のダメージが以外にも大きく、立ち上がろうと膝を立てるも、崩れ落ちてしまった。

更に崩れ落ちた直後、青い光が弾けたかと思うと、トゥアールは元の白衣に戻ってしまっていた。変身が強制解除されたのだ。

「がんばれトゥアールさーん!!」
「まけないでー!立ち上がってー!!」

 子供たちの声が響く。

「み……幼女達(みんな)の声が……」

幼女達の声が聞こえる。叫ぶのに合わせて、幼女達のツインテールが揺れる。
トゥアールにはただそれだけで力になった。

「トゥアールさんがんばって!!ぼくたちもおうえんするから!!」
「おい、オレたちもおうえんしようぜ!がんばれー!!」

見ているだけだった男子達の声も、加わり応援の声は大きくなる。

「ってショタの応援は要りませんよ!!幼女達のかわいい声がかき消されちゃうじゃないですか!!」

トゥアールのやる気が下がった。

「いやなんでよ!!ショタの応援一身に受けられるだなんて、そんな羨ましいポジションにいながらなんでそこでモチベ落とすのよ!!」
「私が好きなのは幼女なんです!!ショタは論外、守備範囲外です!!」
「ざっけんなゴラァ!!てめぇ念入りに焼いてやらぁ!!」

レッサーパンダギルディの怒りに合わせるように、溜まっていくエネルギー球のスパークがより一層激しさを増す。

先程まで青かった空も、不穏な雰囲気漂う灰色の雨雲が立ち込め始めていた。

(くっ……幼女達(みんな)の応援だけじゃ、まだ力が入らない……。あとちょっと……あともう少しなのに……!!)

拳を握り締め、もう一度立ち上がろうとして、崩れ落ちる。

「「終わりだ」」

二体の声が響き渡り、もはやこれまでかと思われた瞬間。

トゥアールに向かい合う二体の前に、一つの小さな影が立ちはだかった。

「え……?」



数分前 トゥアール邸 研究室

「どうしよう……このままじゃトゥアールがやられちゃう……」

トゥアールが押され始め、いてもたっても居られなくなったシルファは、トゥアールの研究室を物色し始めていた。

確かに自分が行っても邪魔かもしれないし、むしろ足手まといになってしまうかもしれない。

それでも、トゥアールを助けたい。
自分をこの世に生み出してくれた人を、大切な家族を、助けたい。

その一心で、シルファは何かを探し続ける。

「これは……ちがう。これもちがう……。あーもーこんな時に!!」

自分に戦う力はない。ならばせめて時間稼ぎだけでもしたい。

そう思い、トゥアールの発明品の中に何か使えるものが無いか探しているのだが、見つかるものは大体今の状況では何の役にも立たないような物……そもそも何に使うのか分からないような物ばかりで、シルファが望んでいるようなものは見つからなかった。

そうこうしている間にも、トゥアールは追い詰められていく。もう一刻の猶予もない。

「ほかにさがしていない所は…………あ!!そっか、高い所はまだ見てない!!」

急いで運んできた台に乗り、作業棚台の上を見る。

「あった!…って、これは……」

当たり(ビンゴ)だった。
作業台の上には設計図といくつかの作業道具。

そして、フラットな黒地に白いラインがレリーフされ、中央にツインテール属性のエンブレムがレリーフされた窪みには、透明なガラス玉のようなものがはめ込まれたブレスレット───もう一つのテイルブレスが、そこにあった。



「かっ……かわ……かわいい~!」

二体のエレメリアンの槍の穂先に集まっていたエネルギーが霧散する。

「なっ!危ないじゃないの!そこを退きなさい!怪我じゃ済まなくなるわよ!!」

突如現れた乱入者の姿に見惚れるパンダギルディは置いといて、乱入者に警告するレッサーパンダギルディ。

予想外の乱入者に驚き、目を見開いて顔を上げるトゥアール。

「シル……ファ……?」

視線の先には、自分のおさがりを着た少女。
見慣れた銀髪のツインテール。見間違うはずがない。シルファだ。

シルファがトゥアールを庇うようにして、両腕を広げて立ち塞がっているのだ。

「どかない……」
「なに?」
「どかないっていったの。ぜったい……ぜぇ~ったいにね!!」

レッサーパンダギルディの警告に、シルファは従わない意志を示した。

「そうそう、お嬢ちゃんが退かないって言ってるんだし、レッサーパンダギルディも無理に退いてもらおうとすることはないんじゃ……」
「アンタは黙ってな!!」

パンダギルディをスパーンと叩いて黙らせるレッサーパンダギルディ。ハリセンも無いのにいい音だ。

「シルファ……どうして……」

トゥアールに問われ、シルファは顔だけを少し後ろへ振り向かせる。

「トゥアールをたすけに来たの。わたしのしごとはトゥアールのサポートなんだから、とうぜんでしょ?」
「そんな事を聞いているんじゃありません!!」

地面を拳で殴りつけ、叫ぶトゥアール。

「どうして……こんな危ないところに来ちゃダメでしょう……!怪我でもしたら……どうするんですか!!」
「トゥアール?」
「戦闘は……私一人でも……十分だと言ったじゃないですか!!早くそこを退いて……離れていてください!!」
「でもトゥアール、ボロボロじゃない!!」

ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。
シルファは少し、苛立ちを含んだ声で返す。

「なんで?どうして製作者(マスター)であるあなた自らが、わたしの使命をじゃまするの!?」
「そ……それは……」
「サポートがしめいなのに、それを入力した本人がそれをひていする。それじゃわたしがいる意味ないじゃん!!どうして……わたしのそんざいを……うたがわせるようなことするの?」

途中から、今にも泣き出しそうな声になるシルファ。

その表情を見て諦めたのか、トゥアールはぽつりと呟いた。

「シルファ……あなたは、私の……唯一の家族なんです……。もしもあなたが……戦闘で壊れたりしてしまったら……私は……」
「トゥアール……あなた、もしかして……」
「……私は……失いたくない……。やっと手に入れた家族を……。失ってしまえばもう二度と会えなくなってしまうかもしれない、あなたを!!シルファ、私にはあなたが必要なんです……」

雨に濡れながら顔を伏せるトゥアール。その頬を伝う滴は雨水か、それとも涙か。

「生まれて初めて……親心、というものが分かった気がします……。あなたは私の娘も同然なんです!!だから……だから……」
「いや、自分のむすめによくじょーするお母さんってどうなのよ……」

グサッ、という擬音が聞こえそうな、身体を少し斜めらせた姿勢で固まるトゥアール。
折角のいい雰囲気が台無しである。

「うわ、最低アルな……」
「普段ならブーメランだって言ってやるところだけど、今回はアタシもアンタに賛成。自分の子に欲情するとか、親として失格よ」

敵からも非難され、項垂れるトゥアール。自業自得とはまさにこのことだろう。

「……でも……まあ、なっとくした。親心……つまりわたしへのひごよくが理由だったのね……」

やっと疑問が解決し、うんうんと首を縦に振るシルファ。

「シルファには分かりませんよ……。これはネットなんかの知識だけで理解できるものじゃありませんし……」
「うん。ざっと調べたけど、かがくてき・ろんりてきなかんてんの話しか分からなかった……。でもねトゥアール──」

 シルファはトゥアールの方を振り返ると、その小さな手を差し伸べた。

「──だからこそ、トゥアールがいるんでしょ?」

トゥアールは、両目を大きく見開いた。

「もしわたしがこわれちゃっても、トゥアールがぜったいに直してくれる。わたしはそう信じてるから……トゥアールもわたしを信じてくれる?」

顔を上げたトゥアールの目に飛び込んできたのは、金属特有の鈍い光沢を放つ黒いブレスを嵌めた小さな右腕と、正面から自分を見つめる無垢な赤い瞳。

そして、彼女が世界で一番守りたい少女の微笑みだった。

「シルファ……」
「なに?まだなにか……」

まだ何か言うつもりか。シルファがそう聞く前にトゥアールは、シルファの手を握り上体を起こすと、地面に膝を付いたまま、彼女をそっと抱きしめて、こう答えた。




「あなたを信じます」




合図はその一言で十分だった。
トゥアールは立ち上がると、シルファの隣に並び、シルファもエレメリアン達の方を振り返ると、人差し指を突き付けて叫んだ。

「よくもトゥアールをいじめてくれたわね。ゆるさないんだから!!」

そして胸の前でテイルブレスをかざす。

「馬鹿な!?あれほどのダメージを受けておいて、立ち上がれるっていうの!?」

驚くレッサーパンダギルディに、トゥアールもまた、人差し指を突き付けて叫ぶ。

「フッ、今の私はもう万人力……あなた達程度には負けません!!」

トゥアールも自身の胸の前に、青く輝くテイルブレスをかざす。

この頃は変身機構起動略語(スタートアップワード)など設定していなかったが、二人は同時に叫んでいた。

「「変身!!」」

青と黒、二色のフォトンコクーンが形成され、一瞬で弾ける。

青い方のコクーンからは、再び青のテイルギアをまとったトゥアールが。

そして黒い方のコクーンからは、黒地に紫と銀のテイルギアをまとった、トゥアールとは頭一つ分くらい小さい背丈の少女が現れた。

「「何ィ!?もう一人のツインテールの戦士、だと!?」お嬢ちゃんが成長した、だと!?」

それぞれが別々の反応をするレッサーパンダギルディとパンダギルディ。
着眼点が全然違う辺りが属性ゆえの優先順位の違いだろう。

「そこのじゃりん子!一体何者よ!!」

レッサーパンダギルディの問いに、少女は少し考える素振りを見せ、やがて答えた。

「私はチェイサーツインテール……いや、これだとイマイチか……。ツインテールを守る為、千里の果てまで悪を追う。疾風(はやて)の戦士、テイルチェイサー!!」
「テイルチェイサー……だと!?」

小声で訂正した部分など気にも留めず、お決まりのリアクションで驚くレッサーパンダギルディ。

「なら、私は今日からこう名乗りましょう。ツインテールを守る為、音をも超えて駆けつける!音速の戦士、テイルソニック!!」
「おお!!なんか今更感……」

リアクションは取りつつ、正直な感想を述べてしまうパンダギルディ。

もっとも、それでもめげないのがトゥアールだが。

そして二人で並んだまま、ポーズを決めながら叫ぶ。

「「音速の追跡者!ツインテイルズ参上!!」」

子供向けヒーロー番組のような名乗りに、男女問わず子供たちから歓声が上がる。

奇しくもその名は……いずれ、青のテイルギアを受け継ぐことになる少女が名乗ったものと同じものであった。

「ソニックはレッサーパンダギルディをお願い。私がパンダギルディを引き受ける」
「一人で大丈夫ですか?」

心配そうに尋ねるテイルソニックに、テイルチェイサーは笑いながら答えた。

「もちろん。スピードは私よりソニックの方が上だし。レッサーパンダギルディ、パンダギルディより素早いし」
「なるほど……分かりました。でも無理はしないように。そのギアは未完成で、まだ単独での戦闘には不向きですから」
「元々サポートが私の役割なんだから、そこは弁えてるわよ」

フォースリヴォンを叩き、ウェイブエッジを取り出すトゥアール。

武器は装備されていないため、拳を握って構えるシルファ。

戦いのゴングが再び鳴った。


「ちょっと成長してもかわいいアルよお嬢ちゃ~ん!抱き締めさせてくれアル~」
「お嬢ちゃんって呼ぶな!!」

こちらへと迫ってくるパンダギルディを躱し、後ろに回り込んで尻に蹴りを入れるシルファ。

「痛い!でも気持ちイイ……蹴って!どんどん蹴ってくれアル~!!」
「ならお望み通り、蹴って蹴って、蹴りまくってやるわ!!」

爪を引っ込めるのも忘れて迫ってくるロリコンパンダにドン引きながら、追跡者(チェイサー)の名の通り、機動性に特化したギアの性能を活かして避け続け、周囲を周りながらパンチやキックを叩き込み続ける。

「追いかけっこが得意みたいアルねぇ。でも逃がさないアルよ!」

シルファの動きが、自分を中心に回り続けているだけだと気づいたパンダギルディは、高速で動き回るシルファの次の進路を予測し、腕を広げる。

「ッ!!」

なまじスピードが出るだけに、急に止まることは出来ない。

「ほ~ら捕まえ……」
「狙い通りッ!!」

だがシルファはスピードを落とさない。逆に更に加速させると、自分の身体を受け止めようと構えていたパンダギルディの目の前で飛び跳ね、その顎に華麗な蹴りを入れた。

「ごっ……はぁ……!」
「チェイサーブレイク!!」

そして顎を蹴り上げられて仰け反った巨体の中心にもう一発。エネルギーを集中させた足蹴りを食らわせる。

アスファルトを抉りながら、パンダギルディは転がっていった。

それを見ながら、黒鉄(くろがね)の追跡者は呟く。

「私は追跡者(チェイサー)。元々逃げる側じゃなくて、追いかけるのが役割よ」



「あの馬鹿!!何やってるの!!」
「余所見してる暇があるんですか!ハアッ!!」

火花を散らしては弾かれあい、またぶつかり合って。
それを何度か繰り返し、竹槍とウェイブエッジが再び鍔迫り合う。

スピード戦に優れた者同士の戦いは、その周囲に軽く竜巻を起こしていた。

「負けられない!テイルソニック、お前にだけは負けられない!!」

叫びながら竹槍に込める力を強めるレッサーパンダギルディ。

「私だって……負けるわけにはいかないんですよッ!!」

竹槍を弾き返し、ウェイブエッジを振り下ろすトゥアール。

バキッという大きな音と共に、竹槍は真っ二つに折れた。

「何ッ!?私の竹槍が……!!」
「あなた達とは……」

間髪入れずに今度はレッサーパンダギルディの体を斬り上げる。

更に柄を持ち替えて、反対側の刃でもう一閃!!

「あなた達とは、戦っている理由が違うんです!!ツインテールを守る為、幼女(こども)達を守る為、この世界を守る為!!そして……大切な家族を守る為に戦う私は、あなた達には絶対に負けません!!」

ダメ押しに右足で蹴り飛ばす。

レッサーパンダギルディは悲鳴を上げながら後方へ……起き上がれず、地面に転がっているパンダギルディの方へと飛んで行った。

「いったぁ……アンタ!いつまで寝てるつもりなんだい!!」
「うぅ……、ちょっとはしゃぎ過ぎたアル……。こうなったら今度こそ必殺技で決めてやるアル!!」

折れて元の長さの半分くらいになってしまった竹槍と、追いかけっこの邪魔だと仕舞っておいた笹槍を再び交差させる二体。

「「必殺!!少年少女への想いを妨げる短絡者達への断罪閃光(ローリング・シヨート・スパーンキング)!!」」
「「長い!!」」

ルビが無ければ、いずれ別の世界で出会うことになるリザドギルディ並みに長ったらしいだけの技名に、思わずつっこむツインテイルズ。

そしてツッコミの直後、テイルチェイサーは二体の方へと正面から突っ込んでいった。

「な!?シルファ、何を考えているのですか!?」

驚くトゥアールの事も構わず、シルファは加速する。

「なんだと!?まさか気づいたのアルか!?」

驚き、顔をしかめるパンダギルディ。
レッサーパンダギルディも同じように、焦りの浮かんだ表情へと変わる。

「二回も見てたら分かるでしょ。アンタたちのその技は、互いの属性力を合わせて撃つ。だから、溜め時間が長い!!」

自身の最高速度まで加速し二体の眼前に躍り出ると、シルファは拳を握った。

「チェイサーフィストォォォ!!」

自身に循環するツインテール属性を拳に一点集中させて放つ、シルファ最強の拳。

まずレッサーパンダギルディを、そして体を捻って一回転してパンダギルディへと、ブースターの出力も利用した鋭いアッパーを食らわせ、空の彼方へと舞いあげた。

「「ぐあああああああ!!」」

空高くロケットのように飛ばされてゆく二体をも、音速の追跡者は逃がさない。

「オーラピラー!!」

トゥアールの放った間欠泉の如き捕縛結界が、空中で二体を捕らえる。

完全開放(ブレイクレリーズ)!!」

トゥアールの声と共に、ウェイブエッジの刃の先が煌めき、滑らかな曲線を描いた双刃の間に、光の弦が現れる。

ウェイブエッジは遠近両用武器。激流の双刃刀は、清流の弩弓ウェイブアローへと姿を変えたのだ。

「スコールアロー!!」

放たれた一矢は的にたどり着く途中でいくつにも分裂し、まるで地上の流星群のようにパンダギルディとレッサーパンダギルディを撃ちぬいた。

「さ、最期にこんな幼女に出会えて……幸せだったアル~!!」
「最期にもう一度……少年の…できれば紅顔の美少年のお腹を撫で擦りたかったぁぁぁぁぁ!!」

片や人生に悔いなく、片や果たせなかった願いを叫びながら、二体は爆散していった。



「ふぅ……お疲れ、トゥアール」

エレメリアン達が属性玉を残して消滅したのを確認し、変身を解除するシルファ。

そこには満足げな……達成感を湛えた笑みがあった。

「はい……お疲れ様です、シルファ」

属性玉を回収し、トゥアールも変身を解除する。

そしてトゥアールはシルファの方へと歩み寄ると、元の背丈に戻ってしまった彼女に視線を合わせる。

「ごめんなさい……私の我が儘であなたに辛い思いをさせてしまいました……」

自分でシステムに組み込んだ指令に反することになる行動。
それは、製作者(うみのおや)だからこその矛盾。想定外の奇跡によって生まれた我が子への愛。

もちろん、それを踏まえた上でシルファは答える。

「いいよ。これもまたべんきょーになったから……」

当たり前のように感情を持っているが、それが本来は当たり前ではない事も知っている。

だからこそ、それを深く学びたい。
今回の経験が彼女の中でどんな風になっていくのか、それはまだ誰にも分からないが……少し、人間らしくなったのは間違いないだろう。

「あの……」

声をかけられ振り向くと、今の戦いを見ていた子供たちがシルファの方へと寄ってきていた。

「すっごくかっこよかったよ!」
「トゥアールさんとみんなを助けてくれてありがとう!!」
「ところで、お名前は?」
「トゥアールさんと同じの付けてるけど……もしかして、仲間?」

感謝されながら質問責めにされるシルファ。
トゥアールはまあまあ、と間に割って入り紹介した。

「この娘はシルファ。私の家族で……アンドロイドなんですけど、仲良くしてあげてくださいね」

子供たちから驚きの声が上がる。

マジかよかっけぇ!と騒ぎ出す男子に、え?本当に?と握手で確かめようとする女子。通学路は大騒ぎになった。

だが、騒ぎはそう長くは続かなかった。

「そんなことより時間、だいじょーぶなの?」

シルファの一言で周囲の空気が凍りつく。

「あ!このままだとPTAから子供たちの遅刻の原因の槍玉に上げられて、保護者の皆さんに怒られちゃいますよ!?みんな、急いで学校へ向かってください!!」

子供たちとトゥアールと、トゥアールに引っ張られるようにシルファと。
各々一目散に学校へと駆け出した。

幸い全員遅刻ギリギリで間に合ったらしいが、トゥアールはしばらく頭を抱えて震えていたそうだ。

保護者からのクレームで、自動車による登校が義務付けられてしまうことを恐れて……。



「パンダギルディ、並びにレッサーパンダギルディも倒されたか……」

基地の中央会議室にて、腕を組んで佇みながらドラグギルディは呟いた。

二体とも部隊内では、そのコンビネーションからかなりの実力者だったのだ。倒されるのは惜しかっただろう。

「新たな戦士、テイルチェイサーか……。あの装甲、さてはラードーンギルディの属性玉を使って作り上げたな?」
「ドラグギルディ隊長、いかがなさいますか?」

老参謀スパロウギルディが、モニターを止めながら問いかける。

「この部隊の隊員の中でも双璧と言われたパンダギルディ、レッサーパンダギルディの二体が倒されたからには、捨て置くわけにはいきますまい」
「そうだな……。明日以降、出撃を控えた者は?」

スパロウギルディはチェックリストに目を通して答える。

「あと4、5人ほど」
「ならばその後、私が出よう」
「なんと!?早々に倒しておくのがよろしいかと思うのですが……」

意外にも悠長な答えに、参謀として的確な意見を示すスパロウギルディ。

だが、ドラグギルディからの答えは彼を納得させるのには充分だった。

「テイルチェイサーはまだ目を出したばかりの戦士だ。摘み取るにはまだ早過ぎる。せめてもう少し成長してもらわなくてはな……」

そう、彼は将であり武人。強い者との戦いこそ、彼にとっては楽しみなのだ。
長年仕えてきたスパロウギルディは、それをよく知っている。

「なに、私が出るまでもなく敗れればその程度の戦士だったというだけのことよ」
「愚問でした。お許しを」
「気にすることはない。余興でなければ、お前の意見も正しいからな」
「は。……もうすぐ、なのですね」
「ああ。もうすぐこの世界も収穫時だ」

ゆっくりではあるが確実に決戦の日は迫っていた。

運命の日へのカウントダウンは、残り僅か。 
 

 
後書き
<i12429|45488>

テイルチェイサー
未完成のテイルギアで、出力は低め。
武器も無いため、格闘戦が主体となる。