幸せな子狐達


 

第一章

                幸せな子狐達
 八条学園の中には動物園もあります、その動物園の中には沢山の狐達もいて一家で暮らしていたりもします。
 お父さん狐のごんとお母さん狐のまり、一番上のお兄さんのたろ、二番目のお兄さんのじろ、お姉さんのはな、末っ子のさぶの六匹です。
 一家はいつも楽しく遊んで寝てご飯を食べて幸せに過ごしていました、その一家のところにでした。
 見たことのない狐がいました、その狐は子狐でしたが。
 さぶはその狐を見て彼に声をかけました。
「君は誰なの?」
「俺?俺はのぶっていうんだ」
「のぶっていうんだ」
「ああ、この前まで奈良の動物園にいたけれどな」
 のぶと名乗った子狐はさぶに答えました。
「そこの動物園が潰れたんだよ」
「えっ、そうなんだ」
「遊園地でもあったんだけれどな」
 それでもというのです。
「何でもそこの社長が赤字になりそうなのは全部だよ」
「潰すんだ」
「そう言い出してな」
 それでというのだ。
「劇場も球団もお城も全部潰してな」
「動物園もなんだ」
「そして物凄くお金がかかる何とか村にお金使うらしいんだよ」
「あれっ、それっておかしくない?」
 さぶはのぶのお話を聞いて首を傾げさせました。
「赤字になりそうなのを全部潰すんだよね」
「もうそれこそな」
「それで物凄くお金がかかる何とか村になんだ」
「これからはな」
「何かおかしいね」
「俺もそう思うよ、けれどな」
 のぶはさぶに眉を顰めさせて言うのでした。
「俺も父さん母さん弟や妹達もな」
「前にいた動物園からなんだ」
「こっちに移ったんだよ」
「そうなんだ」
「引き取ってもらったらしいな」
 のぶはこうも言いました。
「どうも」
「この動物園に?」
「俺達一家はな」
「そうなんだね」
「ああ、じゃあこれから宜しくな」
「こっちこそね」 
 こうしてでした。
 さぶとたろ、じろ、はなの兄弟はです。
 のぶと彼の弟のひで、妹のまなとかなとです。
 いつも一緒に楽しく遊ぶ様になりました、彼等にとっては毎日がとても楽しかったです。
「楽しいね」
「そうだね」
「僕もそう思うよ」
「私もよ」 
 さぶの言葉にたろとじろ、はなは応えました、そしてです。
 のぶもです、さぶと一緒に遊びながら弟と妹達に言いました。
「楽しいよな」
「うん、凄くね」
「楽しいわ」
「本当にね」
 弟や妹達も笑顔で頷きます、そうして狐の子供達は動物園の中でいつも楽しく遊んで一緒にご飯を食べてです。
 幸せな時間を過ごしています、ですが。
 動物園の園長さんはそんな彼等を見て狐の飼育員の人にお話しました。
「うちで引き取ったけれどね」
「はい、狐だけでなく他の生きものも」
「そうしたけれど」
「いや、あそこの社長は酷いですね」
「生きものを平気で皆殺してしまえだからね」
「そう言ってでしたね」
「遊園地を潰すついでにね」
 そうしてというのです。
「動物園も潰して」
「そこにいる生きものは皆薬殺して始末しろなんて」
「よく言えたよ」
「酷いですね」
「あの社長はリストラのことしか頭になくてね」
 それでというのです。 

 

第二章

「グループの関連企業で赤字になっているものはだよ」
「全部潰して」
「そこで働いている人達もね」
「どうとでもなれですね」
「そんな人だからね」
「生きものもですね」
「そうだよ、そうするのもね」 
 そこまで酷いことをする理由はといいますと。
「自分の会社の中での実績の為だよ」
「あくまで自分の為ですね」
「沢山の社員の人達を放り出してね」
「生きものも皆ですね」
「殺してしまえだったからね」
「だからうちで、ですね」
「皆引き取ったんだ」
 そうしたとです、園長さんは楽しく遊ぶ狐達を見つつ飼育係の人にお話をします。
「こちらでね」
「余裕もありましたし」
「そうだよ、しかしね」
「世の中そんな人もいますね」
「自分の為に他の命はどうなってもいい」
「死んでもいい」
「平気でそう考えている人がいるんだ」
 こうお話するのでした。
「本当にね」
「そうでしたね」
「そう、けれどね」
「それでもですね」
「そうした話があったら出来る限りね」
「殺されそうとしている命を救うべきですね」
「そうだよ、命は同じだよ」
 まさにというのです。
「だからこそだよ」
「その命を守る為に」
「今回僕達は動いたし」
「またこうしたことがあれば」
「出来る限りにしても」 
 それでもというのです。
「頑張って行こう」
「打てる手は全部打って」
「少しでも多くの命を救っていこう」
「わかりました、ただそのとんでもない社長の会社は先がないですね」 
 飼育係の人は難しいお顔で言いました。
「命のことを何とも思わない様だと」
「全くだね、それで何千億も赤字の何とか村を中心の一つにするんだから」
「どうにもならないですね」
「その会社はお先真っ暗だよ」
「間違いなくそうですね」
 楽しく遊ぶ狐の子供達を見てお話するのでした、やがてそこに雪が降って彼等は今度はその雪を見てはしゃぎました、彼等はとても幸せでしたが。
 やがてのぶ達がかつていた奈良の動物園を持っていた会社が社長のとんでもない経営のせいで大変なことになりました、園長と飼育係の人はやはりそうなったかと思いました。ですがさぶはこの時お父さんとお母さんに言われました。
「今日もお兄さんお姉さん達と一緒に遊ぶんだぞ」
「のぶ君達ともそうしなさい」
「うん、そうするよ」  
 さぶは笑顔で応えてでした。
 今日も楽しく遊びました、彼も他の子狐達もとても幸せでした。


幸せな子狐達   完


                  2022・5・18