石とバナナ


 

第一章

                石とバナナ
 南方に広く伝わる話である。
 天と地は生まれたばかりであり今よりもその距離は近く人は最初の一組の夫婦がいるだけであった。神々は世界を作って間もなくで夫婦に色々なことを教えてだった。
 そのうえで天から縄に括りつけてものを下ろしてそれを与えて暮らさせていた、だが。
 夫婦でこんなことを話した。
「神々は何でも下さるが」
「食べものはあまりないわね」
「釣りを教えて下さった」
「それでお魚は食べられるわ」
 これはというのだ。
「それに果物もね」
「下さっているが」
「食べるもの自体は」
「どうも少ないわ」
「私達は人間だから」
 それ故にとだ、夫は妻に話した。
「どうしてもだ」
「食べるものが必要よ」
「そうしたものが最も欲しいが」
「それをお願いする?」
「そうだな」 
 夫は妻の言葉に頷いた。
「それがいいな」
「ええ、これで子供が出来たら」
「そしてその子供は成長するという」
 このことも神に教えてもらったのだ。
「その子供達が私達の様に結婚し」
「また子供を作るわ」
「それを繰り返していくとな」
「人はどんどん増えていって」
「食べるものがなくなっていく」
「今のままではとても足りなくなるわ」
「だからな」
 それ故にというのだ。
「今度はな」
「食べるものをお願いしてみましょう」
 こう話してだった、その日神が天から縄に結び付けて下ろしてきたものを見た、それは石であったが。
「神々よ、宜しいでしょうか」
「お願いがあるのですが」
「何だ、申してみよ」 
 天から神の一柱の声がしてきた、厳粛な声であった。
「何でもな」
「この度は石ですが」
「石よりも食べものを欲しいのですが」
 夫婦は天を見上げて神に話した。
「そうして欲しいのですが」
「この度は」
「石を受け取るとだ」
 神は夫婦に話した。
「石は長い間変わらないものだ」
「そうなのですか」
「石は」
「そなた達の命は永遠にだ」 
 まさにというのだ。
「続くのだ、石の様にな」
「そうなるのですね、石を受け取ると」
「私達hはそうなるのですか」
「そうだ、受け取るべきではないか」
 神は夫婦に言った。
「我々は石が嫌ならバナナを送るが」
「バナナ?」
「バナナといいますと」
「果物だ、よく実りかつ非常に美味い」
 そのバナナはとだ、神は夫婦に答えて話した。
「そうしたものだ、だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「子供を持つとすぐに親の木が死んでしまう」
 バナナはというのだ。
「そうしたものだ、だからそなた達は受け取ると命は短くなる」
「そうなのですか」
「我々の命はそうなりますか」
「石を受け取ると食べるものではないが」
「それでもですね」
「長生き出来るのですね」
「永遠の様にな」
 そこまでというのだ。
「そうなるが」
「しかし食べるものではない」
「そうですね」
「その通りだ、バナナはよく実り美味いが」 
 しかしというのだ。 

 

第二章

「それを取るとな」
「長生き出来ない」
「人はそうなるのですね」
「病や怪我を治す医学は教えた」
 これはというのだ。
「これで命を伸ばすことは出来るが」
「それでもですね」
「命は短いのですね」
「そうなる、どちらにするのだ」 
 神は夫婦に問うた。
「それで」
「あの、長く生きられても」
 夫が神に答えた。
「しかし」
「それでもか」
「はい、人は増えていきますね」
「その通りだ」
 神も否定しなかった。
「この世に満ちていく」
「それならです」
 夫は神の言葉を受けて答えた。
「まず餓えないことが大事です」
「食べられることがか」
「はい、途方もなく長く生きられても」
 それでもというのだ。
「人は食べねば生きていられる餓えるだけでも」
「辛いな」
「左様です、ですから」
「石はよいか」
「バナナが欲しいです」
「医学や薬を教えてもらいましたので」
 妻も言ってきた。
「これから我々でも学び」
「自分達でより長く生きられる様にするか」
「そうしますし」
「餓えてかつそれで死ぬよりもか」
「多くの食べものをです」
 妻もこう言うのだった。
「欲しいです」
「そなたもそう言うか」
「はい、ですから」
「バナナが欲しいか」
「宜しくお願いします」
「二人共そう言うのならな」
 神も頷いた、そうしてだった。
 夫婦にバナナを縄に付けてさらに下ろして与えた、夫婦はそのバナナがどういったものかそれに植え方と食べ方も教わってだった。
 食べた、そのうえで神に笑顔で話した。
「まことに有り難うございます」
「この恵心より感謝します」
「そう言うならいい、だがまことによいのだな」
 神は夫婦にあらためて問うた。
「長生きは自分達でそうなる様にしていき」
「それよりも餓えないことです」
「そのことを願います」
「そう言うならよい、ならこれからもバナナを食べるといい」
 神はもうそれでいいとした、そうしてだった。
 夫婦は子供や孫達が生まれると彼等に様々なことを教えバナナもそうした、そうして人々はバナナを心から喜んで食べた。
 そのうえで他のものも食べて腹を満たした、その数も増えていき世に満ちていった。それと共に医学や薬を自分達で学び長生き出来る様になった、神々はその様子を天界から見て感心して語り合った。
「見事なものだな」
「全くだ」
「餓えないことを願い」
「そして自分達で長生きする様にするとは」
「これが人間か」
「人間は侮れぬ」
「我々が生み出したが」
 それでもというのだ。
「我々が思った以上だな」
「実に見事な者達だ」
「頭がいいしよく励む」
「これからもどうしていくか」
「見させてもらおう」
「そうするとしよう」
 バナナを食べてそれから仕事や学問に励む人間達を見た、彼等は今も努力をして昨日よりもよくなっていた。神々はその彼等を見て感心するばかりだった。


石とバナナ   完


                   2022・7・13