道頓堀


 

第一章

                道頓堀
 アメリカのシカゴから日本に来たトーマス=ローズはやや面長の顔で褐色の肌に黒く澄んだ目と分厚めの唇を持っており黒髪をアフロにしている。背は一八七程で足は長くアスリートを思わせる見事な身体を持っている。
 大阪に来てこの街で働き生活をしているが。
 この街についてだ、彼は日本に来て友人になった吉田和樹同じ会社に勤めている彼に昼食で牛丼を食べつつ話した。吉田はあどけない童顔で背は一六五程だ。癖のある黒髪で大学を卒業してすぐに入社したばかりでスーツはまだ着られている感じだ。
「大阪ええとこやね」
「そう思います?」
「いや、日本って真面目一辺倒ってイメージあったけど」
 牛丼特盛に生卵を入れたものに紅生姜を山盛りにしたうえで話している。
「それがや」
「大阪楽しい街ですよね」
「大阪最高や」
 ローズは満面の笑顔で話した。
「賑やかでお笑い盛んで食べもん美味しくて」
「それで人情があって」
「ざっくばらんでこんな街何処にもないで」
 こう言うのだった。
「ほんまに」
「これが大阪です」
 吉田は牛丼の並を食べつつ応えた。
「一度住んだら離れられません」
「そやな、もうずっとこの街にいたいわ」
「ほないます?」
「それがまたアメリカに帰らなあかんけど」
 ローズはこのことは残念そうに話した。
「今は転勤で来てるし」
「シカゴ支社からですね」
「そや、大阪支社にな」
「それでここにいますね」
「そやからな」
「何時かはですね」
「アメリカに帰らなあかん、そやからな」
 だからだというのだ。
「わいは大阪にいる間はな」
「大阪を満喫しますか」
「そうするわ、あとこの街ベースボールは阪神やな」
「他にチームないです」
 応援に値するチームはとだ、吉岡は答えた。
「関西全体がそうですけど」
「ベースボールは阪神一色やねんな」
「それも大阪です」
「その阪神もええな」
「華がありますね」
「あんなチーム他にないで」
 ローズは牛丼を食べ箸をジェスチャーの様に動かしつつ話した。
「勝っても負けても華がある」
「阪神だけですか」
「世界の何処にもないで」
「アメリカにもですか」
「勿論や、何か今年も優勝しそうやな」
「昨日最下位巨人に四十七対零で勝ちましたし」
「巨人にこれで今シーズン二十連勝やな」 
 そこまで勝っているのだ。
「平均失点三十点、防御率零点台で」
「あれは巨人が弱いんで」
「そやな」
「それでカモにしてです」
 それでというのだ。
「他のチームにも勝ち越してますが」
「巨人をカモにして」
「優勝に向かってます」
「ええな、大阪に来て少ししか経ってへんけど」
 それでもとだ、ローズは吉田に言った。
「わいも完全にや」
「阪神ファンになりましたね」
「そや」
 まさにというのだ。 

 

第二章

「そやから優勝したらな」
「楽しみですね」
「ああ、胴上げとビールかけはよ見たいわ」
「もうすぐですよ、その時は日本中賑やかになって」
 全国にいる阪神ファン達が歓喜に沸き立ってだ。
「特に大阪はです」
「賑やかになるか」
「凄いですよ」
 阪神が優勝した時はというのだ。
「ほんまに」
「そうか、ほなその時をな」
「楽しみにしてますね」
「そうするわ」 
 牛丼を食べつつ吉田に笑顔で話した、そしてだった。
 ローズは牛丼を食べ終えると吉田と共に梅田にある自分達が務めている八条自動車大阪支社のビルに戻った。
 そして午後も働いたがこの日の夜もだった。
 阪神は勝った、青柳投手が巨人を完全試合で完膚なきまで叩き潰した、そのうえでマジックを一桁にさせた。
 阪神はそれからも勝ち進み遂にだった。
 甲子園球場での試合でマジック一とした、そして。 
 ローズはこの日仕事を終えて吉田をはじめとした職場の同僚達と共に難波に出て居酒屋で飲んでだった。
 吉田にだ、こう言われた。
「今日は凄いですよ」
「阪神が優勝するな」
「観て下さい」
 スマートフォンを出してローズに話した。
「阪神今勝ってますよ」
「巨人に五回終わって二十七対零やな」
「西投手ここまでノーヒットです」
「ほな今日は」
「はい、勝ちます」
「そうなって」
「優勝します」 
 吉田はローズに満面の笑みで話した。
「そうですさかい優勝したら」
「その時はやな」
「ここで乾杯しましょう」
 こう言うのだった。
「是非」
「冷えたビールでやな」
「ジョッキで」
「ええな、ほなな」
「はい、乾杯しましょう」
 吉田だけでなく他の同僚達もだった。
 阪神の試合を観つつ飲んで食べていった、そして。
 阪神は三十九対零で勝った、西投手はノーヒットノーランを達成した。吉田はローズたちにその状況をスマートフォンで見せて話した。
「この通りです」
「優勝したな」
 ローズは興奮を抑えられない顔で言った。 

 

第三章

「阪神が」
「監督の胴上げがはじまりますよ」
「いやあ、凄いな」
「阪神が優勝するとです」
 吉田は満面の笑顔で言った。
「景気もよおなります」
「ああ、皆元気が出てな」
「仕事も頑張って」
 そしてというのだ。
「お金も使って」
「フィーバーが起こるんやな」
「はい」
 そうなるというのだ。
「そうなりますさかい」
「阪神が優勝すると日本の景気もよおなる」
「そうなります」
「成程な」
「それで、です」
 吉田はさらに言った。
「これからお祝いで乾杯しますが」
「僕等もやな」
「それで道頓堀に行きますか」
「飲んだ後で」
「そうしますか」
「道頓堀に何かあるんか?」
「あります」
 吉田はローズに満面の笑みで答えた。
「これが」
「そうなんか」
「そうですさかい」
「飲んだ後でか」
「あそこに行きましょう」
 道頓堀にというのだ。
「そうしましょう」
「ほなな」
 ローズは吉田の言葉に頷いた、そうしてだった。
 ジョッキに入った冷えたビールで乾杯した、勝利の美酒の味は最高だった。見れば店のどの客も乾杯していた。
 ローズ達はしこたま飲んで食べた、そして。
 吉田の提案通り道頓堀に行った、すると。
「やったで!」
「Vやねん阪神!」
「今年も優勝したわ!」
「やっぱり阪神強いわ!」
「猛虎最高や!」
 阪神を愛する者達が喜びを爆発させていた、そして。
「あれやろな!」
「優勝したさかいな!」
「恒例のあれやるで!」
「やったれやったれ!」 
 道頓堀の橋に上がってだった。
 そこから堀に飛び込んでいく、ローズはそれを見て驚いた。
「何や、優勝したからか」
「はい、道頓堀に飛び込むんです」
「阪神優勝して嬉しいからか」
「そうです、昭和六十年の日本一の時からです」 
 最初のフィーバーの時からというのだ。
「ああしてです」
「優勝したら飛び込むんか」
「そうしてます」
「ううん、変わったことするな」
 ローズは腕を組んで唸った。 

 

第四章

「これはまた」
「けど面白いでしょ」
「それはな」 
 実際にとだ、ローズも認めた。
「見てるだけで」
「これが阪神ファンです」
 吉田はローズに笑顔で話した。
「阪神が好きで好きでしゃあなくて」
「身体全体で喜びを表現するんやな」
「そうです、大阪もそうした街ですし」
「賑やかで飾らんでな」
「明るくて楽しくて」
「それで阪神ファンもやな」
 彼等もというのだ。
「ああするんやな」
「優勝したら」
「成程な」
「それでどうですか?」
 吉田はローズに笑顔で問うた。
「大阪と阪神がさらに好きになりました?」
「なったわ、それでここもさらに好きになったわ」
「道頓堀も」
「そうなったわ」 
 ローズは吉田に笑顔で答えた。
「ほんまや」
「大阪も阪神も最高ですね」
「道頓堀もな、それは出来んけど」 
 ローズはここでは残念そうに語った。
「ずっとや」
「大阪にいたいですか」
「今ほんまに思ってる」 
 現在進行形でというのだ。
「前からやったが」
「そちらもさらにですね」
「そや、こんなええ街ないし」
「ええチームもないですね」
「大阪は永遠にこうであって欲しいわ」
 こうも言うのだった。
「ほんまにな」
「そうですね、明日会社も賑やかですよ」
「阪神優勝したからやな」
「そうです、ほんま大阪も阪神も最高です」
 吉田は満面の笑みで語った、他の同僚達も笑顔だった。ローズはそんな彼等も見てあらためて思った。その時が来ればこの街を去らねばならないことが残念だと。
 それでだ、吉田にこう言った。
「ここにおる間はな」
「大阪に」
「大阪を満喫するわ」
「そうしてくれますか」
「そしてまた来るわ」
 アメリカに戻ってもというのだ。
「そして何時か大阪にずっと暮らせる」
「そうなりますか」
「そうなる様にするわ、ほんま大阪ラブや」 
 ローズも満面の笑顔になった、そのうえで堀に飛び込むファン達を見た。彼等もまた満面の笑みであった。


道頓堀   完


                     2022・8・15