ドリトル先生と山椒魚


 

第一幕その一

               ドリトル先生と山椒魚
              第一幕  両生類
 この時ドリトル先生はご自身の研究室で論文を書いています、動物の皆はその先生に対して尋ねました。
「今度は何の論文を書いてるの?」
「この前は物理のだったけれど」
「今度は何なの?」
「何の論文を書いているの?」
「両生類の論文だよ」 
 先生は書きながら皆に笑顔で答えました。
「それを書いているんだ」
「蛙とかイモリとか」
「あと山椒魚とか」
「そうした生きものの論文なんだ」
「それを書いているんだ」
「そうなんだ」
 こう皆にお話します。
「今回はね」
「そうなんだね」
「そうだよ、そしてね」
 先生は皆にさらにお話しました。
「明日動物園に行くよ」
「動物園?」
「っていうと学園の中にある」
「あの動物園?」
「あそこに行くのね」
「八条学園の中にある動物園は色々な生きものがいて」
 そうしてというのです。
「両生類も沢山いるからね」
「それでだね」
「実際に生きもの達を見て」
「それで学ぶのね」
「そうするんだね」
「そうだよ」
 実際にというのです。
「僕もね」
「動物園に行くのも学問だね」
「実際の生きもの達を見ることも」
「だからこの学園には動物園があるし」
「先生も行くね」
「そうだよ、そしてね」
 先生はさらに言いました。
「一つ大事なことがあるんだ」
「大事なこと?」
「大事なことっていうと」
「動物園に生きものがいるとな」
 そうすると、というのです。
「その種の保存にもなるんだ」
「ああ、確かに」
「動物園にいたら守れるからね」
「それで種の保存になるね」
「確かに」
「残念ながら絶滅が心配されている生きものは多いよ」 
 先生は悲しいお顔で言いました。
「この日本でもね」
「そうなんだよね」
「何かといるね」
「そして絶滅した生きものもいるね」
「日本でもね」
「僕が発見したニホンオオカミも」
 この生きものもというのです。
「一度言われたね」
「うん、絶滅したってね」
「そう言われていたね」
「そうだったね」
「乱獲されたのと」
 それと共にというのです。
「ジステンバーでね」
「ジステンバー怖いよ」 
 ジップはそのジステンバーに悩まされている犬として言いました。
「だから予防接種をしているし」
「それ絶対だね」 
 ホワイティはジップに応えました。 

 

第一幕その二

「犬だと」
「狂犬病も怖いけれど」
 チーチーも言います。
「あの病気も怖いね」
「犬だけじゃないからね」
「ジステンバーが怖いのは」
 オシツオサレツは二つの頭で言います。
「狼もなんだよね」
「狼はそもそも犬の元だしね」
「だからジステンバーに気をつけないとね」
 ダブダブも今は真剣に言います。
「駄目だけれど」
「野生だと予防接種なんてしないから」
 老馬は言いました。
「流行ったんだよね」
「それでニホンオオカミは絶滅した」
 ガブガブは悲しそうに言いました。
「残念なことよ」
「乱獲も問題だったけれど」
「病気が一番だったってことね」
 チープサイドの家族の言葉もしんみりとしたものです。
「ニホンオオカミの場合は」
「まさにね」
「それで一度絶滅したって言われたから」
 トートーは思いました。
「ジステンバーがどれだけ怖いかだよ」
「というか蚊は侮れないわ」
 ポリネシアはジステンバーの元であるこの虫のお話をしました。
「他にも病気をもたらすし」
「その蚊によってだよ」
 先生はまた言いました。
「ニホンオオカミは絶滅したとされていたんだ」
「そうだよね」
「けれど動物園にいたら」
「予防接種も出来るし」
「繁殖も可能だし」
「種の保存にいいね」
「そうだよ、だからね」 
 その為にというのです。
「動物園での飼育はいいんだよ」
「学問にもなるし」
「行ってそのうえで見て飼育の中で研究して」
「それでどんな生きものか学ぶ」
「それが出来て」
「しかも種の保存になる」
「そうした場所だからいいんだ、動物園以外にもね」
 さらに言う先生でした。
「水族館や植物園もだよ」
「いいよね」
「学問にも種の保存にも」
「だからあるべきだね」
「そうした場所なのね」
「そうだよ、僕はそう考えているよ」
 先生はというのです。
「本当にね」
「先生の言う通りだよ」
「生きもののことを考えたら」
「学問に種の保存に」
「とてもいいよ」
「けれど飼育は虐待とかね」
 その様にというのです。
「少しでも意見が出たら」
「それで駄目になるよね」
「誰かがそう言ったら」
「それで動物園自体がだめになるね」
「水族館や植物園も」
「他のことでもだね」
 先生は眉を曇らせて言いました。
「除夜の鐘でも運動会の応援でも何でもね」
「そうそう、五月蠅いってね」
「誰かが言ったら」
「それで止めになるんだよね」
「他のあって欲しいっていう意見は無視されて」
「その人の意見が通るのよね」
「商品だってそうだね」
 お店のそうしたものもというのです。 

 

第一幕その三

「誰かが食べにくいとか言ったら」
「小さくなるよね」
「一人が言ったら」
「他の人の意見が無視されて」
「そうなるね」
「大抵の人は満足していたら言わないよ」
 特にというのです。
「けれどだよ」
「そうしたこと言う人ってね」
「もう言うことが目的で」
「何でもかんでも言うね」
「それで自分の意見を通そうとする」
「そうだね」
「そうだよ、もう何でも言う人はね」 
 実際にというのです。
「世の中にいるよ」
「そうそう」
「所謂クレーマー」
「そんな人っているから」
「そんな人の意見がまかり通るとね」
「何でもおかしくなるわ」
「だから動物園や植物園廃止なんて意見もね」
 こうしたものもというのです。
「通ったら」
「学問と種の保存にとんでもない影響を与えるね」
「それも悪影響を」
「だから駄目だね」
「そんな意見を無批判に通してはいけないね」
「どんな意見も尊重すべきでも」 
 このことは事実でもというのです。
「けれど検証しないでね」
「こんな意見が出たから通す」
「クレームは面倒だから素直に聞く」
「そんな風だとね」
「絶対に駄目ね」
「そうだよ、どんな意見も検証して」
 そうしてというのです。
「そのうえでね」
「採用すべきだね」
「それが例え抗議だとしても」
「その内容を検証する」
「そしておかしいと思ったら採用しない」
「そうだよ、考えてみたらいいよ」 
 先生は論文を書きながらこうも言いました。
「動物園がなかったら」
「もうね」
「その時はね」
「本当に学問や種の保存にとんでもない悪影響が出るわ」
「水族館も植物園も」
「とんでもないことになるよ」
「少数の暴論が何の検証もなく採用され続けたら」
 そうなると、というのです。
「それもまた民主主義じゃないよ」
「全くだね」
「多くの正論が無視されて」
「少数の暴論がまかり通るなら」
「もう民主主義じゃないわ」
「民主主義ってのは結局多数決で」 
 それで決まるものでというのです。
「少数の意見も検証されるべきでも」
「少数が正しいかというと」
「常にそうとは限らないね」
「逆に多数も常に正しいとは限らないけれど」
「少しの暴論を採用したらいけないね」
「僕は動物園廃止論が多数派になっても違うと言うよ」
 先生はそうだというのです。
「さっき言った通りにね」
「それが正しいと思うから」
「学問や種の保存にとって」
「それでそう主張するのね」
「動物園はあるべきと」
「水族館や植物園もでね」
 こうした施設もというのです。 

 

第一幕その四

「そう考えてるよ」
「少数の暴論も通してはいけなくて」
「暴論が多数になっても違うと言う」
「何か難しいね」
「何かと」
「世の中は難しいよ、けれど僕はね」 
 先生はといのです。
「そうした考えだよ」
「それで明日だね」
「動物園に行くんだね」
「それで両生類達を見て」
「それで学ぶんだ」
「そうするよ。図鑑で見るよりも」
 その生きもの達をというのです。
「何と言ってもね」
「実物をその目で見る」
「その生きもの自体を」
「これが一番だね」
「何と言っても」
「そうだよ、だから行くんだ」
 明日動物園にというのです。
「そうするよ」
「じゃあ僕達もご一緒するね」
「いつも通りに」
「そうさせてもらうわね」
「宜しくね、いつも皆が一緒だから」
 先生はにこりと笑って答えました。
「僕も嬉しいよ」
「じゃあそうしましょう」
「明日は皆で動物園」
「そっちに行こうね」
「そうしようね」
 笑顔で言ってでした。
 先生はこの日は帰るまで論文を書きました、そうしてお家に帰ってお風呂に入って晩ご飯を食べますが。
 この日先生のお家に呼ばれて晩ご飯を一緒に食べている王子は晩ご飯のサラダ素麺を食べながら言いました。
「蛙は食べても美味しいんだよね」
「ああ、それを言うんだ」
「駄目かな」
「駄目じゃないよ、僕も食べたことがあるしね」
 先生は和風ドレッシングで味付けされたお素麺をお野菜と一緒に食べながら答えました。そのお素麺もとても美味しいです。
「蛙は」
「ウシガエルとかだね」
「アメリカでは結構食べるね」
「そうそう」
「中国でも蛙は食べるし」
「フランスとかでも食べるし」
「王子のお国でもだね」
 そちらでもというのです。
「食べるね」
「そうしているよ」
「そうだね」
「それでね」
 王子はお素麺をすすりつつ言いました。
「僕結構好きなんだ」
「その蛙がだね」
「煮ても焼いても揚げてもね」
「好きなんだね」
「特に足がね」 
 蛙のこの部分がというのです。
「好きだよ」
「そうだね、あと王子は他の両生類も食べるね」
「うん、僕の国ではね」
「そうだね」
「爬虫類も食べて」
 こちらの生きもの達もというのです。
「両生類もだよ」
「そうだね」
「それが美味しいから」
 だからだというのです。 

 

第一幕その五

「よく食べるよ、ただ生ではね」
「食べないね」
「僕の国では元々生は食べないしね」
「果物以外はそうだね」
「だからね」 
 そうした食文化でというのです。
「僕もだよ」
「生は食べないね」
「日本ではお刺身やお寿司を食べるけれど」
 そして好物です、王子はよくこうしたお料理を楽しんでいます。
「サラダもね」
「今はお素麺と一緒に食べているね」
「そう、けれどね」
「お国ではだね」
「生ではね」
「食べないね」
「そしてそれがいいんだね」
 先生に尋ねました。
「川のものだから」
「そうだよ、前も何度かお話しているけれど」
 先生は王子に確かな声でお話しました。
「川のものはね」
「そうそう生で食べたら駄目だね」
「信頼出来るお店以外ではね」
「そうだよね」
「お魚もそうで」
「タニシや蟹もで」
「両生類もだよ」
 今お話している生きもの達もというのです。
「やっぱりね」
「生ではだね」
「食べたらいけないよ」
「そうだね」
「若し食べたら」
 生でというのです。
「寄生虫がいるからね」
「とても危険だね」
「そうだよ」
「鯉もそうですしね」 
 トミーも言ってきました、彼も生きものの皆もサラダ素麺を食べています。
「日本では鯉のあらいを食べますが」
「そうだよ、迂闊にはね」
「生で食べないことですね」
「そうするべきだよ」
「それで蛙もですね」
「生で食べることはね」
「慎重にですね」
 先生に言いました。
「あくまで」
「そうすべきだよ」
 こう言うのでした、先生も。
「後が怖いからね」
「寄生虫は」
「命にも関わるから」
「本当にそうですね」
「脳に至ったりね」
「それで身体の動きに影響が出たり」
「内臓に異常をきたしたりね」
 その機能にというのです。
「それで目に至ったら」
「失明しますね」
「それで本当にね」
「命に至りますね」
「そうだよ」
 先生は言いました。
「だから怖いんだ」
「そういえばジステンバーも寄生虫だね」
 ここで生きものの皆は研究室でお話したことを思い出しました。
「そうだったね」
「そうだよね」
「蚊の幼虫が犬や狼の心臓で繁殖して」
「それで身体に悪影響を及ぼす」
「そして命すら脅かす」
「そんなとんでもないものよ」
「その通りだよ」
 先生もその通りだと答えます。 

 

第一幕その六

「だからだよ」
「危険でね」
「充分に注意しないといけないね」
「ジステンバーも」
「寄生虫だから」
「寄生虫を軽く見たらね」
 若しそうしたらというのです。
「こんなに危ないことはないよ」
「だからだね」
「蛙を食べる時でも」
「ちゃんと健康には気を付けて」
「生で食べるなら慎重に」
「そうしないと駄目だね」
「それがいいよ、ある漫画で奇食に凝っていて」
 所謂ゲテモノ食いにというのです。
「それで身体中に寄生虫がいる人がいたけれど」
「それ危ないよ」
「僕達が聞いても」
「命に支障きたすよ」
「冗談抜きで」
「勲章と思っていると言ってたけれど」
 その漫画の登場人物はというのです。
「後で目に至ってね」
「失明したんだ」
「さもありなんね」
「そんな風だと」
「一緒に食べている人で死んだ人も出ていたけれど」
 それでもというのです。
「そして失明してもね」94
「まだなんだ」
「そうしたもの食べているんだ」
「寄生虫がいるのね」
「こんなことは絶対に勧められないよ」
 先生はというのです。
「そもそも僕は医者だからね」
「お医者さんとしたらね」
「当然よね」
「そんな命に関わることをするなんて」
「絶対に勧めないね」
「失明もするし内臓に異常をきたすし」
 これまでお話した様にです。
「脳にも至るから」
「それじゃあね」
「お医者さんとしてはね」
「お勧め出来ないね」
「危ないとわかっているから」
 それだけにというのです。
「もうだよ」
「それはしない」
「出来ない」
「そうしたものだね」
「まさにね」
 その通りだというのです。
「こうしたことは」
「そうですね」
 トミーも頷きました。
「何があってもです」
「そうだよ、だからね」
「川のものはですね」
「豚肉もね」
 こちらもというのです。
「本当にしっかりだよ」
「火を入れるべきですね」
「そうすべきだよ」
「そうですね、そういえば」
 ここでトミーはこうしたことをお話しました。
「昔ナメクジを食べて」
「生でだね」
「それでもう動けなくなって」
「最後はお亡くなりになっているね」
「そうした人がいましたね」
「冗談で食べてね」
 ナメクジを生で、です。
「そうなったんだ、ナメクジにも虫がいるから」
「確か住血吸虫の一種ですね」
「それが入ってとんでもないことになるから」
「絶対にやったら駄目でしたね」
「そうだったよ」
 まさにというのです。 

 

第一幕その七

「絶対にやったら駄目なことをしたよ」
「その人は」
「昆虫やそうした生きものも危険で」
 生で食べると、です。
「実はジョロウグモはチョコレートそっくりの味がするけれど」
「生ではですね」
「食べるものではないよ」
「そうですね」
「それで生のお魚や豚肉は」
「しっかり冷凍するか」
「火を入れるかをしてね」
 そのうえでというのです。
「食べるべきだよ」
「そうですよね」
「だから中華料理はよく火を使うし」
 王子が言ってきました。
「イスラム教でも豚肉を食べないね」
「ユダヤ教でもそうだね」 
 先生は王子に応えました。
「豚肉を食べないね」
「キリスト教では食べるけれどね」
「それはちゃんとした理由があるんだ」
「あたりやすいからだね」
「まさにその寄生虫がね」
 豚肉のそれがというのです。
「危険だから」
「ユダヤ教ではイスラム教では食べないね」
「そうなんだ、コーランで禁じられていることは」 
 イスラム教の聖典であるこの本はというのです、先生はイスラム教のこともしっかりと学んできています。
「ちゃんとした根拠があるんだ」
「理由がだね」
「豚肉だってそうだよ」
「犬の唾液は狂犬病だしね」
「だから犬の唾液は不浄とされているし」
 それにというのです。
「豚肉を食べないこともだよ」
「そうした理由があるね」
「そうなんだ」
「そうだね」
「僕はキリスト教徒でもね」 
 信仰はそうでもというのです。
「けれどだよ」
「それでもだね」
「イスラム教は認めているよ」
「その素晴らしさを」
「だから今ね」
「僕のお話にも応えてくれてるね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「豚肉についてもね」
「お話してくれるね」
「そういうことなんだ、それで両生類を火を通して食べることは」
「いいことだね」
「うん、高タンパク低カロリーで」
 そうした食べものでというのです。
「しかも鶏肉みたいな味で食べやすい」
「いいものだよ」
「ゲテモノと言う人がいるかも知れないけれど」
「実は違うよ」
「いい食べものだよ、食べものにも偏見なくで」
 それでというのです。
「食べていくべきだよ」
「好き嫌いなくね」
「そうだよ、じゃあね」
「うん、明日はだね」
「皆と一緒に動物園に行ってきてね」
「両生類を見ていくね」
「そうするよ」
 笑顔でお話してでした。
 先生はこの時は皆と一緒にサラダ素麺を楽しみました、そしてまた学問に励んでそうしてからぐっすりと寝ました。 

 

第一幕その八

 朝起きるとすぐに朝ご飯を食べてです。
 動物の皆と一緒に登校します、するとです。
 お家の玄関のところに一匹の小さな緑色の蛙がいました、皆はその蛙玄関の郵便ポストの上に寝ているのを見て言いました。
「アマガエルだね」
「日本じゃよく見る蛙だね」
「何処でもいるよね」
「こうしたお家のところにも」
「そうだね、日本で一番よく見る蛙かもね」
 先生もアマガエルを見て微笑んで言います。
「見ていると愛嬌があるよね」
「そうだよね」
「小さくて目が大きくて」
「その目が結構動くし」
「コミカルな感じもして」
「愛嬌があるね」
「この蛙もね」
 先生はさらに言いました。
「僕は好きだよ」
「そうだよね」
「先生って蛙も好きだけれど」
「アマガエルも好きだよね」
「日本によくいるこの蛙が」
「そうよね」
「見ていて愛嬌があるからね」
 今お話した通りにというのです。
「好きだよ」
「そうだね」
「じゃあそのアマガエルも見たし」
「それじゃあね」
「気持ちよく大学に行けるね」
「これから」
「そうなるよ、それに大学に行ってもアマガエルはいるね」
 この蛙はというのです。
「八条大学は水辺も多いからね」
「学園全体にお池があって」
「幅は狭いけれど運河もあるし」
「しかも草木も多いから」
「アマガエルは何処でもいるね」
「だからまた会えるかも知れないよ」
 学園に行ってもというのです。
「そして会ったらね」
「その時はだよね」
「アマガエルを見て楽しく」
「この愛嬌ある姿を」
「そうするわね」
「そうするよ」
 こう皆にお話してからでした。
 先生は大学に向かおうとしましたがそのアマガエルが先生に言ってきました。
「先生、挨拶がまだだったね」
「おっと、そうだったね」
 先生も言われて気付きました。
「君とはね」
「あらためておはよう」
「こちらこそね」
 先生はアマガエルに帽子を取ってお辞儀をして挨拶を返しました。
「挨拶が遅れて御免ね」
「今したからいいよ、ただね」
「ただ?」
「一つ言っておくことがあるよ」
 こう先生にお話するのでした。
「今日は夜から雨だよ」
「そうなんだ」
「だからね」 
 それでというのです。
「用心しておいてね」
「夜から雨だから」
「朝までね、その間は出歩かない方がいいよ」
「僕は夜はお外に出ないよ」
「なら先生は大丈夫ね」
「うん、ただ王子はわからないから」
 この人はというのです。 

 

第一幕その九

「後で連絡をしておくよ」
「それじゃあお願いね」
「うん、しかし君は雨が何時来るかわかるんだね」
「だって僕はアマガエルだよ」 
 アマガエルは先生に笑って返しました。
「漢字で書くと雨蛙だからね」
「雨が降ると元気になるね」
「蛙は元々雨が好きだね」
「お水自体がね」
「その中でも特に僕達アマガエルはね」
 自分から先生にお話するのでした。
「お水それに雨が好きだから」
「雨が何時降るかわかるんだね」
「そうなんだ、だから今夜からがね」
 アマガエルは嬉しそうに言いました。
「楽しみだよ」
「雨が降るから」
「本当にね」 
「それじゃあ今夜は」
「雨が降るからね」
「王子に伝えておくよ」
「そうしたらいいよ」
 大学に行く前の先生にお話しました、そしてです。
 そのお話の後で、です。先生はあらためて皆と一緒に大学に向かいました。そして大学の構内に入ってです。
 皆は周りを注意して見ました、すると。
「蛙多いね」
「特にアマガエルがね」
「大学の敷地内のあちこちにいて」
「それぞれ暮らしているわ」
「一体どれだけいるか」
「わからないよ」
「人間の周りにはいつも沢山の生きものがいるよ」
 先生は皆にお話しました。
「虫や鳥に蛇、トカゲにね」
「蛙だね」
「蛙もいるね」
「あちこちに」
「普段は意識していないから気付かないけれど」
 それでもというのです。
「よく見ればね」
「沢山の生きものがいて」
「そうしてだね」
「蛙も沢山いるのね」
「アマガエルにしても」
「そうだよ、あとアマガエルは皮膚の色が変わるね」
 自分の研究室のある棟に向かって歩きながらお話します。
「そうだね」
「そうそう、緑が基本でも」
「濃い灰色にもなるわ」
「同じアマガエルでもね」
「色が変わるよ」
「それもいいね、そうして周りから見えにくくして」
 そうしてというのです。
「自分を守っているんだ」
「保護色だね」
「要するに」
「それだね」
「身体の色を変えられるのはカメレオンだけれど」
 爬虫類のこの生きものが有名でもというのです。
「それでもね」
「両生類にもそうした生きものがいて」
「そこには蛙もあって」
「アマガエルもそう」
「そうだね」
「そうだよ、そうしたことを学ぶことも」
 先生は皆に言います。
「面白いよね」
「そうだよね」
「アマガエルが一体どんな色になるか」
「それを見るのもね」
「大事だよ」
「両生類のそうしたところも」
 体色が変わることもです。 

 

第一幕その十

「今調べているしね」
「じゃあ丁度よかったわね」
「アマガエルに注目して」
「そうもして」
「全くだよ」 
 先生はにこりと笑って応えました、そうしてです。
 皆と一緒に研究室に入りました、すると皆は先生に急かす様に言いました。
「先生行こう」
「動物園行こう」
「そうしようよ」
「それで両生類の皆を見ようよ」
「ははは、まだ開園していないよ」
 先生は逸る皆にミルクティーを飲みながら応えました。
「もう少し後だよ」
「ちょっと今日は早く来たし」
「それじゃあだね」
「開園はまだ先だから」
「落ち着くことね」
「そうしたらいいよ、動物園は逃げないよ」
 紅茶を飲みながら笑顔で言います。
「安心していいよ」
「そうだね、そこでそう言うのが先生だよね」
 トートーは先生のそのお言葉に頷きました。
「いつも落ち着いているのが」
「先生は何があっても焦らないね」
 ダブダブも言います。
「そこが先生だよ」
「だから開園時間もちゃんと把握していて」
 ポリネシアは研究室の時計の時間をチェックしました、見れば実際に開園にはまだ時間があります。
「待つのね」
「そうだね、ここは待とう」
 ジップも言います。
「今行ってもどうしようもないよ」
「それじゃあ紅茶を飲んだらね」
「論文を書くか本を読むのね」
 チープサイドの家族もお話します。
「インターネットでも調べる」
「そうするんだね」
「待ってる間もすることがあるし」
 チーチーも言います。
「何かとしていればいいね」
「私達も私達ですることあるわよ」
 ガブガブが言ってきました。
「お掃除しましょう」
「研究所全体のね」
 ホワイティはガブガブの言葉に応えました。
「それをしようね」
「毎日していることだしね」
「早速皆でしよう」 
 オシツオサレツは二つの頭で言いました。
「これからね」
「それが研究室に来てまずすることだし」
「よし、皆ではじめよう」 
 最後に老馬が言いました。
「これからね」
「毎日悪いね」
 お掃除はおろか家事は全く駄目な先生はお掃除にかかった先生に応えました、そのうえでまた言うのでした。
「研究室を奇麗にしてもらって」
「それはいいよ」
「僕達のお仕事だからね」
「先生の身の回りのことをすることは」
「先生は学問は何でも出来るけれど」
「ことスポーツと家事になると」
 こうしたことはとです、皆も言います。 

 

第一幕その十一

「どうしてもね」
「からっきしだから」
「そうした欠点も愛嬌だけれどね」
「先生のいいところだよ」
「学問は何でも出来るし紳士だけれど」
「凄くいい人だけれど」 
 それでもというのです。
「スポーツと家事はからっきし」
「そこがまたいいのよ」
「そんな先生だからね」
「僕達も一緒にいられるんだよ」
「そうなんだね、じゃあ僕は開園まで両生類の本を読むから」
 そうするからというのえす。
「紅茶を飲みながらね」
「そうしようね」
「それじゃあだね」
「先生は学問に励んで」
「僕達はお掃除に励もう」
 こうお話してでした。
 皆は研究室の隅から隅までお掃除しました、すると研究室は何処までもピカピカの埃一つないまでに奇麗になりました。
 先生はそうなった研究室の中で学問をして紅茶を飲みました、その紅茶を一杯飲んだあと時計を見ますと。
 先生はお掃除を終えた皆にです、こう言いました。
「さて、そろそろね」
「いよいよだね」
「動物園に行くんだね」
「これから」
「そうするのよね」
「時間が来たからね」
 だからだというのです。
「今出発したらね」
「丁度動物園の入り口に着いた時にだね」
「開園だね」
「その時間だね」
「そうだよ、だからね」
 そうなるからだというのです。
「そろそろ出発しよう、ゆっくりとね」
「そしてゆっくりと歩く」
「焦らないで」
「そうしてだね」
「そのうえでだね」
「動物園に行こうね」 
 こう言ってでした。
 先生は皆と一緒にでした、研究室を出ました。そうしていつものペースで歩いて動物園まで向かうとでした。
 その正門に着いた時にです。
「今から開園です」
「丁度よかったね」
「はい、日笠さんもおられるので」
 入口の受付の人は先生に笑顔でお話しました。
「どうぞ」
「日笠さんは昨日お休みだったね」
「ご存知でしたか」
「実は日笠さんから連絡があったんだ」
「そうなんですか」
「昨日の朝ね」
 その時にというのです。
「今日はお休みなので」
「メールで、ですか」
「僕のスマートフォンにね」
 そちらにというのです。
「お話してきたんだ、だから動物園には」
「昨日はですか」
「僕が来るなら残念だってね」 
 その様にというのです。
「メールで言ってたよ」
「そうですか、ですが今日はです」
「日笠さんはおられるんだね」
「はい」
 明るい笑顔での返事でした。 

 

第一幕その十二

「そうです、しかしです」
「しかし?」
「日笠さんとメールのやり取りは毎日ですか」
「うん、日笠さんの方からね」
 先生は受付の人に素直に答えました。
「毎日送ってきてくれるよ」
「それは有り難いですね」
「だから僕もね」
 先生もというのです。
「喜んでお返事をね」
「送っておられますか」
「そうしているんだ、毎日ね」
「日笠さんも頑張ってますね」
 受付の人はこのことがわかって余計に笑顔になりました。
「それは何よりです」
「日笠さんは素敵なお友達だよ」
 先生は純粋な笑顔でこうも言いました。
「本当にね」
「先生、それはないから」
「全く」
「何でそこでそう言うのかしら」
「先生はそこがね」
「最大の欠点だよ」
 動物の皆は純粋な笑顔になった先生に困ったお顔で言いました。
「こうしたことに気付かない」
「どうしてもね」
「何でいつも気付かないのかな」
「こうしたことに」
「絶対に」
「気付いてない?」
 そう言われてもでした、先生は。
 首を傾げさせてです、こう言うのでした。
「僕が何にかな」
「いや、皆気付いてるよ」
「というかはっきりわかってるから」
「先生の周りの誰もが」
「それこそね」
「それで僕だけが気付いていないとなると」
 先生はまた首を傾げさせて言うのでした。
「何かな」
「まあもうそれは置いておいてね」
「先生がわからないことはいつもだし」
「それじゃあね」
「もういいよ」
「いいんだ、何かわからないままだけれどそれならいいよ」
 皆がそうならと応える先生でした。
「それじゃあ僕はね」
「うん、行こう」
「そうしよう」
「今からね」
「動物園の中にね」
「そうしようね、じゃあ日笠さんに今から入るってね」
 その様にというのです。
「連絡するよ」
「早くそうしてね」
「というまだしてないんだ」
「普通もうしてるよ」
「こうしたこと本当に駄目だから」
「やれやれよ」
「いつも思うことにしても」 
 呆れて言う皆でした。
「本当にね」
「まあ連絡するならいいよ」
「しなかったら今頃僕達が言ってるよ」
「早くしてってね」
「そうね」
「そうなんだね、まあ兎に角ね」
 先生はご自身のスマートフォンを手に応えました。
「今からだよ」
「動物園に入ろうね」
「楽しみにしていたし」
「日笠さんと一緒にね」
「そうしよう」
 皆はやれやれと思いつつです。
 動物園の門が開くのを見ました、そうしてその先生と一緒に開かれた門を潜って中に入ったのでした。 

 

第二幕その一

                第二幕  日笠さんと一緒に
 先生が動物の皆と一緒に動物園の中に入るとです。
 そこにはもう日笠んさんがいました、日笠さんは先生を見るとその瞬間にぱっと明るいお顔になって挨拶をしてきました。
「先生、おはようございます」
「おはようございます」
 先生は帽子を取って笑顔で挨拶を返しました。
「今日は宜しくお願いします」
「案内させて頂きます」
「いや、有り難いですね」
 先生はにこにことして言いました。
「案内をしてくれるとは」
「先生は動物園によく来られてますね」
「はい」
 そうだとです、先生は答えました。
「水族館や植物園も」
「学園のあらゆる施設に頻繁に足を運ばれていますね」
「そうしています」
 先生はまた答えました。
「時間があれば」
「そうですね」
「それでこの動物園もなのですが」
「それで案内には及ばないとも思ったのですが」
 それでもというのです。
「ですが」
「それでもですか」
「先生が来られると聞いて」
 そうしてというのです。
「周りもどうかと言ってくれて」
「それで、ですか」
「はい、この度はです」
「案内を申し出てくれたのですね」
「左様です、宜しいでしょうか」
「日笠さんのお仕事に支障がなければ」
 それならというのです。
「僕としては」
「では宜しくお願いします」
「両生類のコーナーに行かせてもらいます」
 こうお話してでした。
 先生は日笠さんの案内を受けて動物園の両生類のコーナーに向かいました、そうしてです。
 そのコーナーに着くとでした。そこには世界中の色々な両生類の生きものがいて両生類の進化の歴史も書かれて標本やイラストが展示されています。
 そこで皆も見ますが。
 色々な蛙を見てです、皆は言いました。
「僕達が見た蛙もいるけれど」
「そうじゃない蛙もいるね」
「色々な蛙がいるわね」
「蛙と一口に言っても」
「実に様々だね」
「そうだよ、蛙も一種類じゃないんだ」
 先生もこう言います。
「実に色々な種類の蛙が世界中にだよ」
「いるね」
「そうだよね」
「まさに世界中にいて」
「暮らしているのね」
「そうだよ、それで大きさもタイプも色々で」
 それでというのです。
「調べていると面白いよ」
「蛙もだね」
「そうだね」
「色々な種類がいて」
「本当にね」
「ちなみに彼等は毒があるよ」 
 ここで、でした。
 先生は赤や黒、ピンク等とても奇麗な和菓子を思わせるまでの小さな蛙達を見て皆にお話しました。
「知ってるね」
「ヤドクガエルだよね」
「その身体には毒があるんだよね」
「小さいけれどね」
「そうだよね」
「うん、ただ大人しいし噛んでもね」
 例えそうしてもというのです。 

 

第二幕その二

「そこから毒は入らないからね」
「心配無用だね」
「襲われる心配はないね」
「そうした種類じゃないね」
「先生に教えてもらったよ」
「食べたら大変なだけで」
 ヤドクガエル達はというのです。
「襲われることはないよ」
「そうだね」
「それでヤドクガエルって名前は矢の毒に使うから」
「だからだよね」
「ヤドクガエルって言うんだね」
「そうだよ、ヤドクガエルはね」
 本当にというのです。
「そこからの名前だよ」
「現地の人達が蛙の毒を矢に使う」
「その身体から取って」
「それでだね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「ヤドクガエルなんだ」
「そうだね」
「その名前の由来だね」
「それで中南米にいるんだよね」
「アマゾンに」
「そうだよ、アマゾンは実に色々な生きものがいて」
 そうしてというのです。
「それでだよ」
「両生類もそうだね」
「蛙にしても」
「色々な種類がいて」
「それで暮らしているね」
「アマゾンの自然は独特だからね」
 広い世界の中でもです。
「広くて大河が流れていてね」
「物凄い密林でね」
「鬱蒼と生い茂っていて」
「しかもとても暑くて」
「雨が多くて」
「湿気も凄いわ」
「そうした場所だから」 
 それ故にというのです。
「生態系は独特でね」
「色々な生きものがいて」
「それでよね」
「蛙もそうで」
「毒を持つ蛙もいて」
「こうした蛙もいるよ」
 平たい蛙としては大きいダークブラウンの種類も見ました。
「コモリガエルもね」
「その蛙も凄いよね」
「背中に卵を産み付けてね」
「背中が交尾の時に柔らかくなって」
「それでそこに卵を産んでね」
「子供達をそこで育てて」
「大人になって出て行くんだよね」
「こんな不思議な生態をした蛙もいるんだよ」
 アマゾンにはというのです。
「凄いよね」
「全くだよ」
「外見も平たくてお口が大きくて」
「かなり独特だけれどね」
「こんな蛙もアマゾンにはいるんだよね」
「そうだね」
「そうだよ、しかもアマゾンにはまだよくわかっていないから」
 調査しきれていあい場所がまだまだあるのです。
「未発見の生きものも多いと言われているね」
「そうだよね」
「まだ不思議な生きものいるかもね」
「蛙にしてもね」
「そうなんだ、では他の両生類達も見て行こう」 
 こう言ってさらにでした。
 先生は他の生きもの達も見ていきます、すると本当に色々な両生類達がいます。 

 

第二幕その三

 蛙だけでなくイモリや山椒魚もいます。アホロートルもいますが。
「日本で人気があった時期あったね」
「そうみたいだね」
「昭和の頃にね」
「エリマキトカゲもそうで」
「日本にはいない生きものだからね」
 それでとです、先生はその薄い色彩で細長い水槽の中でのどかそうに暗している可愛い顔立ちの生きものを見つつお話しました。
「しかも外見が珍しいと」
「それならだね」
「人気が出るね」
「日本人って珍しいものが好きで」
「流行に敏感だし」
「江戸時代は象が来ると聞いてね」
 そうなってというのです。
「皆こぞって見たんだよ」
「そんなこともあったんだ」
「日本人のそうした気質って昔からなんだ」
「江戸時代からなんだ」
「そうなんだ」
「そうだよ、そしてね」
 それにというのです。
「このアホロートルもだよ」
「そうなんだね」
「有名になったんだね」
「それで人気になったのね」
「ウーパールーパーとも呼ばれて」
「そうだよ、そして今はね」
 先生は皆にさらにお話します。
「こうして動物園にもね」
「いてだね」
「こうして僕達も見られるんだね」
「そうなんだね」
「そういうことだよ」
 こうお話するのでした、そして。
 両生類の歴史も読んでいきますが。
「長いね」
「哺乳類や鳥類よりずっとね」
「僕達よりも歴史が長いんだね」
「両生類の歴史は」
「先生が前に教えてくれた通りだよ」
「そうだよ、まずは無脊椎動物が出て」
 先生は生きもの全体の歴史からお話しました。
「カンブリア紀みたいな時代があったよ」
「あの凄い時代だね」
「色々な変わった形の生きものが出たのよね」
「アノマロカリスとか」
「色々な生きものが出たね」
「進化の試行錯誤ともね」
 その様にもというのです。
「言われているよ」
「あまりにも色々な生きものが出て」
「それでよね」
「そんな風にも言われるね」
「カンブリア紀は」
「そうだよ、そうした紀を経て」
 そうしてというのです。
「魚類が出てね」
「そうしてだよね」
「脊椎動物が出て」
「お水の中で暮らしていて」
「進化していったね」
「魚類の進化も面白いからね」
 この生きもの達のそれもというのです。
「見ていったら」
「そうだよね」
「お口がなかったお魚もいたし」
「鎧みたいな外骨格のお魚がいたり」
「とんでもなく大きな怖い顔のお魚が出たりして」
「そうしてやがて水中から出る生きものが出たんだ」
 そうなったというのです。
「最初はお魚でもね」
「そうだったね」
「本当に徐々で」
「最初は岸辺に少し上がる位で」
「そこからはじまって」
「鰭が足になって
 そうなってというのです。 

 

第二幕その四

「そして尾の形も変わって」
「鱗が皮膚になって」
「それでだね」
「両生類になったね」
「そうなったわね」
「そうだよ、そしてその両生類がね」
 彼等がというのです。
「今も地球にいるんだよ」
「そうだね」
「そうなっているね」
「進化の歴史には両生類もある」
「そうよね」
「その通りだよ、その両生類から爬虫類が出て」
「鳥類が出て哺乳類もだよ」
 こうした生きもの達もというのです。
「出たんだよ」
「そうだね」
「そうしたことが書かれているね」
「歴史のコーナーにちゃんと」
「イラストや化石、標本と一緒に」
「この動物園はそうしたことも展示しているから」
 だからだというのです。
「素晴らしいんだ」
「ただ生きものがいて」
「学べて飼育しているだけじゃなくて」
「それだけじゃなくて」
「こうした歴史とかも展示してくれているから」
「尚更しっかりと学べるよ」
 そうだというのです。
「有り難いことにね」
「そうだね」
「その辺りもしっかりしてるね」
「そう思うといい動物園よね」
「この動物園は」
「そう思うよ」
 動物の皆も言います。
「本当にね」
「実は僕がこの学園に入ったら」 
 医学部の教授さんとしてです。
「すぐに動物園の展示とかに意見を求められたよ」
「それ水族館や植物園でもよね」
 ガブガブが言ってきました。
「先生は意見を求められてるわね」
「博物館や図書館、美術館でもだね」
 チーチーは学園のそうした場所もと言います。
「意見を求められてるね」
「学園に来て何かとだね」
「あちこちから意見を求められてるわね」
 チープサイドの家族も言います。
「どう展示したらいいか」
「どうした説明ならいいかって」
「先生は生物学も凄いからね」
 だからだとです、ダブダブは言いました。
「当然のことだよ」
「先生はあらゆる学問に造詣が深くてね」
「物凄い沢山の博士号を持ってるからね」
 オシツオサレツは二つの頭で言います。
「何かと聞かれるよ」
「本当にね」
「その中でも生物学になると」
 マサニトデス、トートーは断言しました。
「聞かないでいられないよ」
「生成は生物学は医学と並んで特に造詣が深くて」 
 ジップは言いました。
「物凄いからね」
「しかも先生はあらゆる生きもののお友達だよ」
 ホワイティは先生に言いました。
「そのことは有名だしね」
「それじゃあ動物園の人達も聞くよ」
 絶対にとです、老馬は言いました。
「これでいいかどうすべきかってね」
「皆喜んでると思うわ」
 ポリネシアも先生に言います。 

 

第二幕その五

「先生がこの大学に来てね」
「本当に有り難いです」
 日笠さんもその通りだと言います。
「先生が来てくれて」
「この八条大学にですか」
「皆そう思っています」
 学園のというのです。
「あらゆる学問に通じていてまさに博物学者で」
「博物学ですか」
「あのこの世のあらゆることを学ぶ」
「今は学問が細分化されていてあらゆることを学ぶとなるとですね」
「非常に難しいですが」
 それでもというのです。
「先生はあらゆる学問に造詣が深いので」
「博物学者ですか」
「その方が来て頂いたので」
 そうなったからだというのです。
「まことにです」
「有り難いとですか」
「思っています」
「恐縮ですね」
 先生は照れ臭そうに笑って応えました。
「その様に言われると」
「ですが」
「それでもですか」
「この学園の人達はどなたもです」
 日笠さんは先生に言います。
「先生が来られてです」
「この学園にですね」
「非常にです」
「喜んでくれていますか」
「特に医学と生物学のことは」
「動物園は生物学ですからね」
 そちらの分野になるというのです。
「だからですか」
「尚更です」
「そうなのですね」
「王子がよく招いてくれたと」
 彼がというのです。
「皆感謝しています」
「思えばあの時に王子に誘われて」
 日本に来て大学教授として働いてはどうかとです。
「受けてよかったです」
「先生もそう言われますか」
「はい」
 実際にというのです。
「神の導きですね」
「そうなのですね」
「心から思っています」
「私もそう思います」 
 日笠さんは笑顔でお話する先生にご自身も笑顔になって言いました。
「先生がこの大学ひいては日本に来られたことは」
「神の導きですか」
「はい、私はキリスト教徒ではないですが」
「確か仏教徒ですね」
「家は」
 まさにというのです。
「そちらです」
「そうでしたね」
「ですが」
 それでもというのです。
「先生が今ここにおられることは」
「神の導きですね」
「キリスト教の」
「そうなのですか」
「私も思います、そして」
 日笠さんはこうも言いました。
「今こうしてご一緒出来て嬉しいです」
「僕もです、案内有り難うございます」
「いえ、そんな」
「いつも有り難うございます」
 先生は笑顔でこうも言いました。 

 

第二幕その六

「よくしてくれて」
「これがお仕事なので」
「だからですか」
「そうさせて頂いています」
「そうなのですか」
「はい、ですから」 
 それでというのです。
「これからもです」
「こうしてですね」
「ご一緒させて頂きたいですが」
「お願いします」 
 先生はここでも笑顔になって応えました。
「これからも」
「そう言って頂けますか」
「日笠さんは大切なお友達なので」
「お友達ですか」
「はい」 
 日笠さんににこりと笑って答えました。
「そう思います」
「そうなのですか」
「ですからこれからも」
 悪気なく言う先生でした。
「宜しくお願いします」
「それでは」
「それでなのですが」
 先生はご自身の言葉に内心気落ちした日笠さんにさらに言います。
「実はどうしても見たい生きものがいます」
「今回ですか」
「はい、両生類で」
 こう言うのでした。
「宜しいでしょうか」
「どの生きものでしょうか」
「オオサンショウウオです」
 この生きものだというのです。
「宜しいでしょうか」
「どうぞ、丁度このコーナーにもいますし」
「それならですね」
「案内させてもらうつもりでした」
 日笠さんにしてもです。
「日本そして世界最大の両生類ですからね」
「そうですね」
「あの生きものは外せないですね」
「実は論文でもです」
 今書いているそちらもというのです。
「書いていまして」
「そうなのですか」
「オオサンショウオのことは、そしてオオサンショウウオだけでも」
「論文をですか」
「書こうと思っています」
「そうなのですね」
「貴重な生きものなので」
 だからだというのだ。
「あの生きものだけの論文もです」
「書かれたいですか」
「そう考えています」
「それはいいことですね」
 日笠さんは先生のお話を聞いて明るいお顔で頷きました。
「オオサンショウウオは確かに貴重な生きものです」
「日本では天然記念物に指定されていますね」
「数は少なく」
「生息地域も限られていて」
「その生態もです」 
 こちらもというのです。
「非常にです」
「貴重ですね」
「そうした生きものです」
「僕もそう考えていまして」
「オオサンショウウオ専門の論文もですね」
「書こうと考えていますので」
「両生類の論文だけでなく」
 さらにというのです。
「そちらの論文もです」
「書かれたいですか」
「そうしたいですが日笠さんもそう言われるなら」
 先生は日笠さんに笑顔で応えました。 

 

第二幕その七

「書かせてもらいます」
「それではですね」
「はい、それでは両生類の論文の後で」
「オオサンショウウオの論文もですね」
「書きます」 
 このことを決意しました、そうしてです。
 先生は日笠さんにオオサンショウウオのコーナーに案内してもらいました、勿論動物の皆も一緒です。 
 両生類のコーナーでも一番大きな場所でした、岩場と小川が再現された場所に。
 濃いオリーブ色の一メートルはある丸い頭の山椒魚がいました、目はとても小さくてお口はかなり大きいです。
 その山椒魚を見てです、皆は言いました。
「この生きものも何度も見てるけれどね」
「僕達先生と一緒にこの動物園によく来てるし」
「それでこの生きものも何度も見てるけれど」
「大きいよね」
「本当にそうだね」
「両生類とは思えないよ」
「桁外れに大きいよ」
「これがオオサンショウウオだよ」
 先生は笑顔でお話しました。
「日本そして世界最大の両生類だよ」
「そうだね」
「動物園でも飼育されている例は稀だけれど」
「この動物園では飼育されていて」
「研究もされているね」
「そうなんだ、この生きものもね」
 先生はこうもお話しました。
「大切にそうされているよ」
「それでなのですが」 
 日笠さんはここで先生にお話しました。
「このオオサンショウオは雄ですが」
「そうでしたね」
「鱒二といいまして」
 名前のこともお話します。
「ここにいますが今度雌のオオサンショウウオも迎えることになりまして」
「雌のですか」
「はい、そして繁殖もです」
 こちらのこともというのです。
「考えています」
「そうしたこともお考えですか」
「それで宜しければ」
「オオサンショウオのことで、ですね」
「先生にご協力をお願いしたいですが」
「わかりました」
 もうその場で、です。先生は笑顔で答えました。
「喜んでそうさせて頂きます」
「お忙しくないですか?」
「いえ、充分に休んで寝ていますよ」 
 観ればかなり血色のいいお顔です、お肌もツヤツヤしています。
「食べていて」
「そうなのですか」
「ですから」 
 それでというのです。
「健康のことはです」
「心配いらないですか」
「健康診断を受けましたら」
 この前というのです。
「イギリスにいた時より遥かにです」
「状態がいいですか」
「はい」
 このこともお話するのでした。
「左様です、それにです」
「それに?」
「学問特に生きもののことでしたら」
 それならというのです。
「是非です」
「そこまで言われますか」
「はい、ではこれから」
「ご協力してくれますか」
「そうさせて頂きます」
 笑顔で約束しました、それからです。 

 

第二幕その八

 先生は動物の皆と一緒に日笠さんに案内してもらう感じで動物園を見て回りました。午前中はたっぷりそうしてです。
 午後はお昼ご飯の後で論文を書きます、その時に皆は先生に尋ねました。
「両生類のコーナーはわかるけれど」
「他の生きものも見て回ったね」
「動物園全体をね」
「そうしたね」
「またどうしてなの?」
「どうしてそうしたの?」
「両生類も生態系、自然の一部だからだよ」
 先生は皆に論文を書きつつ温厚な笑顔でお話しました。
「それでだよ」
「ああ、そうだね」
「言われてみればそうだね」
「両生類も同じだね」
「自然の中にあるよ」
「だから他の生きもの達と深く関わっているからね」
 それ故にというのです。
「日笠さんに動物園全体を案内してもらってね」
「それでだね」
「動物園の生きもの全体を見たんだね」
「そうしたんだね」
「今回は」
「自然は本当にそれぞれの生きものそれに植物が密接に関係し合っているからね」
 先生は言いました。
「一つの種類だけで存在出来ないよ」
「そうだよね」
「それは絶対だよね」
「密接に関わり合っていて」
「それで生きているから」
「全体を見て学ぶ」
「先生もそうしたのね」
 皆も納得しました。
「流石先生だね」
「両生類だけを見ない」
「全体を見るなんてね」
「よくわかっているよ」
「時間もあったしね」 
 このこともあったというのです。
「そうしたよ」
「時間だね」
「それもあるんだね」
「時間があるとね」
「それだけで有り難いね」
「そうだよ、時間はね」
 これはというのです。
「本当に大事だよ」
「全くだね」
「時間があるかないか」
「そのことは重要だよ」
「現実的な問題としてね」
「時間があれば出来ることもね」
 それもというのです。
「時間がないと出来ない」
「時間が味方かどうか」
「即ちあるかないか」
「それって大事よ」
「何よりもね」
「若しもだよ」
 先生は皆にさらにお話しました。
「僕に時間がなかったらオオサンショウウオのことだって」
「動物園に協力出来なかったね」
「日笠さんのお願いに応えられなかったね」
「例え先生がそうしたいと思っても」
「無理だったよ」
「そう、時間があるししかもね」 
 それに加えてというのです。
「僕自身健康だしね」
「先生確かに健康だね」
 ホワイティが見てもです。
「顔色もいいしね」
「身体の動きもしっかりしているわ」 
 ポリネシアも言います。 

 

第二幕その九

「いつもね」
「実際健康診断の数値もいいよ」
 ジップはこちらのお話をしました。
「日笠さんにもお話してるけれど」
「イギリスにいた時よりもずっと健康だね」 
 トートーも言いました。
「確かにね」
「食生活がよくなったね」
「ええ、お野菜もお肉もバランスよく食べてるから」
 チープサイドの家族は先生の食生活のお話をしました。
「日本に来てからね」
「イギリスよりもずっとそうなったね」
「しかも毎日通学して色々な場所巡って歩いていて」
 ガブガブは運動のお話をします。
「身体も動かしているし」
「イギリスにいた時って基本病院の中にいるだけだったからね」 
 チーチーはその頃の自分達を思い出して言います。
「運動も全くしていなかったよ」
「しかもよく寝てるし」
 ダブダブは睡眠について言及しました。
「そのこともいいね」
「入浴で程よく身体も暖めてるし」 
 老馬はこちらのことを思いました。
「尚更いいね」
「しかも煙草やドラッグもしないし」
「身体に悪い趣味もないからね」
 オシツオサレツは二つの頭で言いました。
「健康な筈だよ」
「精々お酒だけだしね」
「そうだね、しかも規則正しい生活だしね」 
 先生も思います。
「僕は健康だよ」
「時間があって健康」
「これだけで違うわよ」
「何かをするにあたってこれ以上なものはないよ」
「全く以てね」
「そうだね、あと日笠さん凄く嬉しそうだったね」
 先生はこのことは相変わらず気付かないまま言います。
「そうだったね」
「それは当たり前だよ」
「私達いつも言ってるでしょ」
「日笠さんのことはね」
「そうでしょ」
「うん、ただね」
 それでもと言う先生でした。
「案内役も考えてみたら僕はあの動物園は最低でも月に一回は通っていて」
「水族館にも植物園にも?」
「普通の博物館にも鉄道博物館にも」
「美術館にもで」
「図書館はしょっちゅうで」
「だから詳しいつもりだから」
 動物園もというのです。
「それで案内してもらうことは」
「実は必要じゃない」
「そうだっていうのね」
「先生としては」
「そうなんだけれどね」
 こう言うのでした。
「ところがね」
「それがわからないのが駄目なんだよ」
「先生の場合は」
「全く。自分自身についてはそうだから」
「僕達いつもこう言ってるけれど」
「残念なことだよ」
「残念って言うけれどね」 
 先生は論文を書きつつ首を傾げさせます。
「僕にとってはだよ」
「わからないっていうんだね」
「何がどう残念か」
「私達がいつも言っていることについて」
「そうなんだね」
「いつもね、ずっと言われているけれど」
 それでもというのです。 

 

第二幕その十

「どういうことかな」
「うん、そのうちわかってね」
「僕達そう願ってるから」
「何時かね」
「そうなってね」
「ううん、何が何なのか」
 それがというのです。
「わからないよ」
「それがわかればだよ」
「僕達も嬉しいから」
「先生のことはわかっているから」
「温かい目で見続けるわ」
「そうなんだ、まあね」
 先生は皆のお話を聞いてあらためて言いました。
「僕も頑張るよ」
「何についてかわからないけれど」
「それでもだね」
「先生としても」
「そうするんだね」
「そのことについて」
「何かわからなくても」 
 それでもというのです。
「人は努力していくとね」
「それでだよね」
「わかってきて」
「そして道が開ける」
「そういうものでもあるね」
「何かがわかっていて努力するなら」
 その場合はといいますと。
「確実に近付けるけれど」
「わかっていなくても」
「それでも努力していたら」
「やがてわかる」
「そうしたものなんだね」
「そうだよ、この場合は日笠さんと仲良くしていくことだね」 
 先生は言いました。
「そうだね」
「うん、そうだよ」
「簡単に言えばね」
「そうしていけばいいよ」
「そのことがわかっているとね」
「それだけで今はいいよ」
「そうだね、そうしていくよ」
 是非にと言うのでした。
「これからもね」
「僕達も支えていくから」
「そうしていってね」
「先生はとてもいい人だからね」
「きっと幸せになれるしね」
「今でも充分幸せだよ」 
 わかっていないまま言う先生でした、そしてです。
 論文を書き続けます、その論文はといいますと。
「終わるメドがついてきたね」
「あっ、そうなんだ」
「そうなってきたんだ」
「両生類の論文は」
「そうなってきたんだ」
「有り難いことにね、書いていってね」
 そうしていってというのです。
「無事にね」
「それは何よりだよ」
「じゃあこのまま終わらせていこうね」
「そうしていこうね」
「今の論文もね」
「論文も書き終えてだよ」
 そうしてこそというのです。 

 

第二幕その十一

「論文になるんだよ」
「そうだよね」
「書き終えてこそね」
「そうしてこそ論文になるね」
「最後までそうしてこそ」
「だから僕は書きはじめたらね」
 論文をというのです。
「絶対にだよ」
「書き終える様にしているね」
「何があっても」
「そうして発表する」
「そうしているね」
「そうしているよ、論文もその点では小説や漫画と同じだよ」
 まさにというのです。
「最後まで書き終えないとね」
「駄目だよね」
「一旦書きはじめたら」
「その時はね」
「是非ね、しかしね」
 また言う先生でした。
「漫画や小説でそうしない人は結構いるね」
「そして論文でもね」
「残念ながらね」
「そうした人もいるね」
「世の中には」
「そうだね、僕はそうしたことはね」
 先生としてもです。
「したくないよ」
「そうだよね」
「先生はそうした人だね」
「しっかりと守る」
「それがいいね」
「そうだよ、学者としては」
 そのお仕事にあるならというのです。
「論文を書きはじめたら」
「最後まで書く」
「書き終える」
「そうするんだね」
「それが務めだと考えているよ」
 学者のというのです。
「責任感と言うと言い過ぎだけれど」
「それでもだね」
「書き終える様にしていくね」
「これからも」
「そうしていくね」
「そうしていくよ」
 まさにとです、こう言ってでした。
 先生は三時になるとティータイムに入りました、今日はレモンティーとドーナツにアイスクリームそしてドライフルーツでした。
 その中のドーナツを食べて先生は言いました。
「しっかり論文を書いてね」
「その後のティータイムっていいよね」
「頭のいい休憩になるよ」
「論文書くのも頭使って」
「それで疲れるからね」
「だからね」 
 それでというのです。
「今本当にだよ」
「美味しく食べてるね」
「そうしてるね」
「今だって」
「そうだね」
「そうだよ、ドーナツを食べて」
 上段にはそれがあります。 

 

第二幕その十二

「中段のアイスクリームも下段のドライフルーツもね」
「全部だよね」
「全部食べるね」
「そうするね」
「そうしていくよ、アメリカ風のティーセットも」
 こちらもというのです。
「いいよね」
「そうだよね」
「本当にいいよね」
「こちらもね」
「美味しいよ、イギリスではイギリスのティーセットしか口にしていなかったけれど」
 それでもというのです。
「日本に来てからは」
「こうしてアメリカ風のティーセットも楽しむし」
「中華風もだしね」
「日本風も楽しんでるね」
「時には」
「そうだよね、だからね」
 それでというのです。
「そのことも嬉しいよ」
「日本って色々なもの食べられるからね」
「色々な国のお料理があって」
「そうした国だからね」
「このこともいいよね」
「甘いものだってそうだね」
 ティーセットに欠かせないそうしたものもというのです。
「日本では」
「それでお茶自体もだよね」
「日本はお水もいいから」
「お茶も美味しいよね」
「しかも葉もいいし」
「煎れる茶器もいいしね」
「そうだね、茶器なんてね」
 先生は今度はこちらのお話をしました。
「日本の茶道だとね」
「物凄いよね」
「それ自体が国宝になる位に」
「物凄いのもあるしね」
「中にはね」
「そんなものでは流石に飲めないけれど」
 それでもというのです。
「そうしたものもあるのがね」
「日本だよね」
「お茶を飲むことについてもね」
「そうしたものがある」
「そうした国だね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「日本はね」
「お茶を飲むだけでも」
「それだけでもそうなっているから」
「物凄く美味しくて」
「色々なお茶も飲める」
「そんな国だね」
「だから素敵だよ、ではティータイムの後はね」
 それが終わると、というのです。
「また論文を書くよ」
「そうしようね」
「五時までね」
「そうしようね」
「そうするよ」
 こう言ってでした。
 先生はまた論文を書いていきます、先生は今の論文を真面目に書いていくのでした。 

 

第三幕その一

                第三幕  山椒魚のいる場所
 先生はこの日は休日で朝起きてすぐに早朝のお散歩に出ました、この時も動物の皆と一緒です、そのお散歩の時にです。
 ふわりが飼い主のお家のお兄さんに連れられてお散歩していました、ふわりは先生を見ると尻尾をぴこぴことさせて言ってきました。
「先生お久し振り」
「うん、お久し振り」
「元気そうね」
「この通りね」
「私もよ」
「それは何よりだよ」
「いつも美味しいもの食べて運動もして」
 そうしてというのです。
「美味しいミルクやお水も飲んでね」
「健康にだね」
「過ごしているわ」
「飼い主の人達もとても親切だね」
「最高のパパとママでね」 
 ふわりは先生ににこりとしてお話しました。
「最高のお兄ちゃんよ」
「そうだね」
「皆ね」
 そのお兄さんを見て言うのでした。
「凄く優しいの、怒鳴ったりすることなんてね」
「ないんだね」
「そうよ、ブラッシングもしてくれるしお風呂にもね」
「入れてくれるんだね」
「予防接種はちょっと怖いけれど」
 それでもというのです。
「そちらもね」
「ふわりを思ってのことだよ」
「それがわかってるから」
「ふわりはいいんだね」
「そう思ってるわ」
 こう言うのでした。
「とてもね」
「それは何よりだよ、ところで今お水が美味しいと言ったね」
「ええ、言ったわ」
「神戸のお水は美味しいよね」
「私そう思うわ」
「そうだね、神戸のお水は美味しいよ」 
 先生も笑顔で言います。
「六甲からのものでね」
「六甲のお水っていいですよね」
 ふわりをお散歩に連れているお兄さんも言ってきました、少し不良な感じですがお顔立ちはとても優しいです。
「俺もそう思います」
「奇麗でね」
「はい、お料理に使っても」
「お兄さんはラーメン屋さんだったね」
「チェーン店の店員です」
「八条ラーメンだったね」
「そうです」
 お兄さんはその通りと答えました。
「そこで働いています」
「そうだね」
「それでお水もよくて」
「尚更だね」
「美味しいです」
「ラーメンもお水が大事だからね」
「麺を作る時にも使いますし」
 それにというのです。
「スープにも」
「スープの基本だしね」
「お湯に鳥ガラや豚骨、お野菜を入れて作りますが」
 ラーメンのスープはです。
「それでだしを取ります」
「だからお水がいいとね」
「その分美味しいです」
「そうなるね」
「はい、それにお冷もです」
 お客さんに出すお水もというのです。
「そちらなので」
「食器を洗うにもね」
「お水がいいとです」
「やっぱりいいね」
「汚れもよく落ちて」 
 そうしてというのです。 

 

第三幕その二

「食器に拭いても残るお水の感じがです」
「いいからね」
「はい、ですから」
「お水がいいとね」
「その分お料理の味もよくなります」
「そうだね、日本は全体的にお水が奇麗だけれど」
 それでもとお話する先生でした。
「特にこの神戸はね」
「お水が奇麗ですね」
「それでっ美味しいよ」
 そうだというのです。
「本当にね」
「いいことですね」
「本当にね」
 お散歩の途中そんなことをお話しました、そしてふわりとお兄さんと笑顔でまたねと一時のお別れをしてです。
 そうしてお散歩を終えてお家に帰ってトーストと牛乳にハムエッグとトマトとレタスのサラダを食べてです。
 論文を書いているとお静さんがお酒を持って来てです、こう言いました。
「灘のとびきりのお酒が入ったからね」
「僕にくれるんだ」
「ええ、一本飲んで」 
 一升瓶を差し出して言いました。
「よかったらね」
「有り難う、神戸はお酒も美味しいね」
「産地で有名よね」
「それもお水がいいからだね」
「奇麗で美味しいからね」
 お静さんも言います。
「それでよ」
「お酒もだね」
「お酒の原材料はお米でね」
「お米を作るにはお水を沢山使うからね」
「ええ、だからお水がいいと」
 それならというのです。
「お酒も美味しいのよ」
「そういうことだね」
「ええ、それでこのお酒も美味しいから」
「飲めばいいんだね」
「先生への贈りものよ、いつもよくしてもらってるから」
 お静さんは猫のお顔をにこりとさせて言います。
「だからね」
「お礼なんだ」
「そうよ、遠慮しないで飲んでね」
「そうさせてもらうよ」
 その言葉に応えてでした。
 先生は灘の日本酒を笑顔で受けました、そうしてです。
 お静さんと一緒に十時のお茶を楽しんでまた論文を書いてお昼までそうしました、そのお昼ご飯はといいますと。
 牛丼です、トミーが作ったそれを食べますが。
 一緒にお昼を食べている皆はここでこんなことを言いました。
「朝起きてからお水のお話ばかりだね」
「そうだよね」
「この神戸のお水についてね」
「奇麗とか美味しいとか」
「そう言ってばかりね」
「どうにも」
「うん、実際にそうだからね」
 先生もその通りだと答えます。
「僕も今日はね」
「ふわりやお兄さんと」
「そしてお静さんとだね」
「お水のお話したんだね」
「そうなのね」
「そうだよ、お話の流れでね」
 その時のというのです。 

 

第三幕その三

「そうなったんだ、そしてお水が奇麗だと」
「お料理も美味しくて」
「お酒もよね」
「美味しいね」
「そうだね」
「そうだよ、そしてね」 
 そのうえでというのです、
「お水が奇麗だと生きものもね」
「多くなるね」
「奇麗過ぎるとかえって、だけれど」
「白河にはで」
「けれど奇麗だとね」
「多くの生きものがいられて」
 そうなってというのです。
「水棲の昆虫や両生類もね」
「いるね」
「そうだよね」
「今先生が論文に書いている両生類も」
「特にオオサンショウウオアはね」 
 この生きものはというのです。
「そうだよ」
「奇麗なお水だから暮らせる」
「そうなんだね」
「オオサンショウウオは山の奇麗なお水の場所に棲息しているんだ」
 その場所のお話をするのでした。
「標高で言うと四百メートルや六百メートルだよ」
「結構高いね」
「日本は山が多いから結構いる場所多い?」
「それなら」
「それだけを見たらね」 
 標高場所をというのです。
「そうだよ、けれどね」
「それでもだね」
「その実はだね」
「かなり奇麗なお水じゃないと駄目だから」
「棲息場所は限られているね」
「水田近くでもたまに発見されるけれどね」 
 それでもというのです。
「岐阜県から西の本州と四国、九州の一部にだよ」
「いるんだ」
「そうなんだ」
「そうした分布なのね」
「そうなんだ、東にはいないよ」
 日本のというのです。
「実はスッポンも東にはほぼいないけれど」
「オオサンショウウオもだね」
「西日本にいて」
「東日本にはいないのね」
「そうした分布になっているんだ」
「そうだよ、それで完全に水棲で」
 そうした生態でというのです。
「お魚やサワガニを食べているよ」
「人間は襲わないんだ」
「大きいのに」
「あれだけ大きいのに」
「それは童話のお話だよ」
 人間を襲うのはというのです。
「十メートルはある怪獣みたいなオオサンショウウオが出るね」
「そうそう、それでね」
「退治に行ったお兄さん二人を飲み込んで」
「最後の末っ子の人がやっつけて」
「飲み込まれていたお兄さん二人を助けるのよ」
「それは童話でそうした大きなものはね」
 そうしたオオサンショウウオはというのです。
「妖怪と言っていいね、もう妖怪はね」
「普通の生きものじゃないからね」
「ちょっと違うね」
「普通の生きものと一緒にしたらいけないね」
「そうだよ」 
 それはというのです。
「やっぱりね、それにそうしたお話も創作で」
「実際に人を襲うか」
「それはないのね」
「そうなんだね」
「相当悪いオオサンショウウオの妖怪でね」 
 人を襲う様なものはというのです。 

 

第三幕その四

「普通はだよ」
「襲わないんだ」
「大人しいのね」
「妖怪のオオサンショウウオも」
「そうなのね」
「そうだよ、あと小説でもね」 
 先生は今度はそちらのお話もしました。
「井伏鱒二の山椒魚という作品があるけれど」
「その山椒魚がなんだ」
「オオサンショウウオなのね」
「まさに」
「その描写を見たらね」 
 小説の中のそれをというのです。
「まさにだよ」
「へえ、そうなんだ」
「オオサンショウウオなんだ」
「その小説でも」
「そう言われているし僕は読んでもね」
 先生ご自身がです。
「そう思うよ」
「先生が読んでもだね」
「そうなんだね」
「その小説の山椒魚はオオサンショウウオなんだ」
「そうなんだ」
「ほぼ確実だと思うよ」 
 そうだというのです。
「ちなみに井伏鱒二という人は広島出身で太宰治のお師匠さんなんだ」
「へえ、そうなの」
「太宰のお師匠さんだったんだ」
「それはまた奇遇だね」
「あの人と縁があるなんて」
「太宰治は日本の近現代文学を代表する人の一人だけれど」
 小説家として、というのです。
「その太宰のお師匠さんだったんだ」
「そうだったんだ」
「太宰のことは僕達も知ってるけれど」
「その名前聞いてるけれどね」
「何かとね」
「その太宰が学生時代に井伏の作品に触れて」
 そうしてというのです。
「衝撃を受けて上京して作家さんになって」
「それからなの」
「井伏の弟子になったんだ」
「そうだったの」
「そうだよ、その人の作品にも出ているよ」 
 オオサンショウウオはというのです。
「童話にも出ていてね」
「そう思うと面白いね」
「何かとね」
「色々な創作にも出ているなんてね」
「オオサンショウウオも」
「昔から個体数は多くなかったけれど」
 それでもというのです。
「よく知られていた生きものなんだよ」
「成程ね」
「よくわかったよ」
「そうした生きものなんだね」
「先生がこれからお世話して論文を書く生きものは」
 動物の皆もそれはとなりました、そしてです。
 先生は論文を書きますがお昼には中断してトミーが作ってくれたお昼を召し上がります、そのお昼ご飯はといいますと。
 お好み焼き定食です、白いご飯にお味噌汁にです。
 丸く焼かれておソースやマヨネーズが上にたっぷりと塗られ鰹節や青海苔をふりかけたお好み焼きがあります、先生はそのお好み焼きを見て笑顔になりました。
「いいよね、お好み焼き」
「先生お好み焼きも好きだよね」
「それもかなりね」
 オシツオサレツが先生の笑顔を見て言います。 

 

第三幕その五

「いつもご飯に出たら笑顔になるし」
「お店に行っても食べるしね」
「関西というか大阪名物の一つだね」
 ダブダブもお好み焼きを見て嬉しそうです。
「たこ焼きや串カツと並ぶ」
「そうそう、それで神戸でもよく食べるよ」 
 トートーも言います。
「お好み焼きはね」
「けれどさっきお話に出た井伏鱒二の出身地広島ではね」
「ちょっと違うのよね」
 チープサイドの家族がお話します。
「同じ食材を使って」
「おソースで味付けしても」
「大阪じゃキャベツとかを中に入れて焼くけれどね」
 ガブガブが具体的に言います。
「広島じゃ挟むのよね」
「だから同じお好み焼きでも違うよ」
 ホワイティも思うことでした。
「どうもね」
「その違いが最初わからなかったよ」
 チーチーにしてもです。
「大阪と広島でどう違うのかって」
「しかも張り合ってるしね」
 ジップは大阪と広島のそれを負わしました。
「どっちが美味しいか本物かって」
「だからお互いをお好み焼きって主張して」
 老馬も言うことでした。
「互いに大阪焼き広島焼きって言い合ってあちらは違うって言ってるね」
「けれどこっちは関西だから」
 それでと言うポリネシアでした。
「大阪のものね」
「僕もそれで馴染んでいるよ」
 先生にしてもです。
「大阪のものでね、ただ広島の方もね」
「嫌いじゃないよね」
「先生としては」
「そうよね」
「そうだよ、それでね」
 さらに言う先生でした。
「こうしておかずにしてね」
「食べるね」
「お好み焼きを」
「今から」
「そうしようね、おうどんも焼きそばもラーメンも餃子もだよ」 
 先生は笑顔のまま言葉を続けました。
「関西では定食になるね」
「そうそう」
「うどん定食なんてのもあるし」
「関西じゃおうどんもおかずになるね」
「主食の場合もあるけれど」
「よくおうどんと丼を一緒に食べる人がいるけれど」
 お店ではです。
「そうした人もだよ」
「同じだよね」
「炭水化物をおかずにする」
「関西じゃ普通でね」
「これがいいのよね」
「僕は好きだよ、ただ関東ではね」 
 日本のこちらの地域ではというのです。
「違ってね」
「そうそう」
「そうなんだよね」
「あっちじゃおうどんはおうどんで」
「それだけで食べるよ」
「そもそもあそこお蕎麦だしね」
「おうどんよりもね」
 皆もこう言います。
「そこも違うね」
「同じ日本なのに」
「食文化違うね」
「どうにも」
「そうだね、それでね」 
 そのうえでと言う先生でした。 

 

第三幕その六

「あちらはもんじゃだね」
「お好み焼きよりもね」
「そこも違うね」
「それでもんじゃおかずにしないよね」
「おやつみたいな感じだね」
「主食かおかずにだよ」
 そちらにというのです。
「食べるからね」
「関東の方だと」
「お蕎麦やもんじゃは」
「おかずにしない」
「そうしてるんだね」
「元々ね、しかし餃子定食なんかもね」
 先生はこちらのメニューについても思いました。
「いいよね」
「ご飯に合ってね」
「いいおかずよ」
「特に焼き餃子がね」
「そうなるね」
「中国にもない食べ方だけれどね」
 餃子の本場であるこの国でもというのです。
「餃子は主食か飲茶の点心だからね」
「水餃子だと主食で」
「蒸し餃子だと点心だね」
「そうして食べるね」
「中国だと」
「そうだよ、焼き餃子は東北の方にあって」 
 中国のです。
「そこから日本に伝わってね」
「日本じゃ焼き餃子が主流で」
「中華料理屋さんじゃ絶対にあるね」
「それで美味しく食べてるね」
「皆ね」
「そうしているね」 
 先生も笑顔で応えます。
「ご飯のおかずにもして」
「僕達も食べてるね」
「そうしてね」
「焼き餃子をおかずにして」
「お酒のおつまみにもしてね」
「そうだね、それがいいんだよね」
 とてもというのです。
「おつかみにしても」
「それはお好み焼きもで」
「ビールによく合うね」
「だから先生そっちでもお好み焼きよく食べるね」
「そうしてるね」
「そうだよ、あとモダン焼きも好きだよ」
 先生としてはです。
「こちらもね」
「お好み焼きの中に焼きそばを入れた」
「あの発想凄いよね」
「それもかなり」
「だからあれもね」
 先生はご飯をそのお好み焼きで食べつつ言います。
「楽しんでいるよ」
「食べる時はね」
「お店で注文もしてるし」
「そうして食べているね」
「そうしているよ、あとトミーの作ったお味噌汁は」
 今度はそちらを口にして言いました。
「絶品だね」
「そんなにいいですか?」
「うん、だしの取り方がね」
 それがというのです。
「とてもいいよ」
「実は昆布も鰹も使っていて」
「それでなんだ」
「その味が出ていると思います」
「昆布がいいね」
 先生はそちらはと言いました。
「それがね」
「美味しいですね」
「とてもね」
 こう言うのでした。 

 

第三幕その七

「いいよ」
「それは何よりです、それで今夜ですが」
 トミーは晩ご飯のお話もしました。
「ピーマンに茄子をベーコンと一緒に炒めて豆苗のおひたしもです」
「出してくれるんだね」
「お味噌汁は夜の分もありますから」
 こちらもというのです。
「それで鮎がメインです」
「あっ、鮎なんだ」
 鮎と聞いてです、先生は思わず笑顔になりました。
「それはいいね」
「はい、安かったので」
 トミーは先生ににこりと笑って答えました。
「それでです」
「ご飯のおかずにしてだね」
「そしてお酒の肴にもです」
「していいね」
「はい」
 こう先生にお話するのでした。
「お静さんからお酒頂きましたね」
「さっきね」
「それを飲まれてはどうでしょうか」
「鮎を肴にして」
「他には柿ピーもありますし」
「それではそうさせてもらうね」
「それでは」
 先生は笑顔で頷いてでした。
 今はお好み焼き定食を食べます、そしてです。
 午後も論文を書きます、そうして五時前にでした。
「完成したよ」
「両生類の論文がだね」
「完成したね」
「脱稿したのね」
「そうなったよ」
 傍にいる動物の皆に笑顔で答えました。
「よかったよ」
「今回の論文も完成したんだね」
「じゃあ後は見直して」
「それで誤字や脱字がないかチェックして」
「そうしてだね」
「うん、学会に提出してね」
 そうしてというのです。
「発表するよ」
「またそうするね」
「先生いつも論文書いてるけれどね」
「どの論文もちゃんと最後まで書いて」
「それで発表しているね」
「学者は論文を書くことが仕事だよ」
 先生は言いました。
「まさにね」
「だからだね」
「先生は論文を書き続けてるね」
「そうしているわね」
「それに僕は色々な学問に励んでいるからね」  
 医学そして生物学だけでなくです。
「工学や理学、数学に文学とね」
「哲学に法学、経済学に」
「それに社会学」
「神学にも励んでいるわね」
「ここで大事なのは医学とね」
 この学問と、というのです。
「神学だよ」
「その二つだよね」
「少なくとも欧州の学問ではそうだね」
「神学と医学が学問の幹で」
「他の学問は枝だね」
「文系は全て神学からはじまっているよ」
 まさにというのです。 

 

第三幕その八

「そうだね」
「そうそう、欧州ではね」
「神学がまずあって」
「そこから哲学や法学が成り立って」
「文学や社会学もだね」
「そして語学も」
「神学はラテン語だから」
 それで書かれているからだというのです。
「ラテン語を学ぶことになるけれど」
「ラテン語は欧州の言語の幹だからね」
「まずラテン語をマスターしたらいいのよ」
「他の学問もわかる」
「そうよね」
「そして中国語は欧州の言語じゃないけれど」 
 それでもというのです。
「文法は同じだからね」
「だから欧州の言語をマスターしているとね」
「中国語は後は漢字を覚えれば楽だね」
「物凄い量の文字だけれど」
「それで中国語もいけるよ」
 そうなるというのです。
「そして医学はね」
「こちらは理系の幹でね」
「医学を学ぶとね」
「他の理系の学問もわかりやすいよ」
「欧州ではね」
「幹を学んだら」
 学問はというのです。
「もうね」
「かなり楽になるわ」
「他の学問を学ぶことは」
「本当にね」
「ローマ教皇で三つの博士号を持っていた人がいたけれど」
 先生はこの世で最も有名な宗教家の一人のこともお話しました、勿論日本でも広く知られている人です。
「その人は神学、法学、哲学だったよ」
「確かアレクサンドル六世だったね」 
 老馬がその教皇の名前を出しました。
「ルネサンス期の」
「謀略家で有名で」
 こう言ったのはホワイティでした。
「いい人じゃなかったね」
「ボルジア家の人だったね」
「チェーザレ=ボルジアのお父さんだったわ」
 チープサイドの家族はどの人かを言いました。
「カトリックの聖職者は昔は結婚出来なかったけれど」
「愛人さんがいてね」
「兎に角悪い人だったね」
 トートーも言います。
「いいお話はないね」
「当時ローマカトリック教会色々あったけれど」
 ジップもこのことは知っています。
「あの人も悪い人だったね」
「それで息子さんと沢山悪いことをして」
 こう言ったのはガブガブでした。
「今も知られているわね」
「けれど頭はよかったんだね」
「学問は出来たんだね」
 オシツオサレツは二つの頭で言います。
「そちらはね」
「よかったんだね」
「それで博士号を三つも持っていたのね」 
 ポリネシアも言います。
「そのことは凄いわね」
「そして何故博士号をそれだけ取れたか」
 ダブダブは考える顔で言います。
「今先生が言った通りだね」
「もうそこに答えが出ているよ」
 チーチーははっきりとした口調で言いました。
「まさにね」
「そうだよ、まさにそのアレクサンドル六世でね」
 博士は人から答えました。 

 

第三幕その九

「そしてボローニャ大学で取ったけれどね」
「イタリアの大学だよね」
「それもかなり広い」
「名門として知られてるね」
「今もね」
「その大学はじまって以来の秀才と言われて」  
 その頃です。
「やはりまずはね」
「神学を学んで」
「そこから哲学と法学を学んだ」
「そうしたね」
「そうだよ、そうしたからね」 
 その為にというのです。
「三つの博士号を取得出来たんだ」
「そうだよね」
「博士号一つ取るだけでも大変だけれど」
「それが何故出来たか」
「それはだね」
「そうだよ、欧州ではまず神学を学んだら」 
 そうすればというのです。
「理系だと医学をね」
「他の学問を学ぶことが楽になるわ」
「まずその二つが柱だから」
「そして先生はその二つをマスターしたから」
「それで多くの博士号も取得出来たんだよね」
「そうだね」
「うん、ただ日本の学問の体系は違うからね」
 先生達が今暮らしているこの国ではというのです。
「本当にね」
「そうそう、それがね」
「日本でわかってる人案外少ないんだよね」
「日本と欧州で学問の体系が違う」
「そのことがね」
「欧州の学問はまずキリスト教だよ」 
 この宗教の存在があるというのです。
「それ以前のギリシア、ローマ文化もあるけれど」
「そこから奥州ははじまってるけれど」
「それでもね」
「やっぱりキリスト教よね」
「この宗教があるね」
「そう、この宗教の存在が絶対と言ってもよくて」
 それでというのです。
「まさにだよ」
「そうだよね」
「学問も然りで」
「キリスト教がローマ帝国の国教になって」
「それからはね」
「学問の幹もキリスト教になったよ」
「芸術も」 
 こちらもというのです、勿論先生はこちらの造詣もかなりのものです。論文もしっかり書いています。
「そうだね」
「讃美歌もあるしね」
「パイプオルガンも教会にあるし」
「受難曲とかレクイエムもあって」
「宗教画もあるし」
「銅像だってね」
「偶像崇拝はどうかという意見もあるけれどね」
 キリスト教でもです。
「けれどカトリックではね」
「そしてプロテスタントでもね」
「宗教画もあって」
「主の絵も描かれているよ」
「十字架にもね」
「あるよ、だからね」
 それでというのです。
「芸術も然りだよ」
「キリスト教が幹にあるね」
「しっかりと」
「本当に欧州の学問はキリスト教だよ」
「それが根幹にあるよ」
「けれど日本は違うから」
 この国はというのです。 

 

第三幕その十

「キリスト教はあくまで宗教の一つ」
「それに過ぎなくて」
「絶対のものじゃないよ」
「幹でもないしね」
「まあ仏教とか神道はあって」
「重要な要素ではあるにしても」
「学問はそれぞれが分かれている感じだね」
 日本ではというのです。
「それぞれ関係はしていても」
「神学や医学が幹にあって」
「そこから他の学問が枝としてあるか」
「そう言われるとね」
「また違うね」
「日本ではね」
「だから学問を行うと」
 そうすると、というのです。
「それぞれの分野に密接に入り込む」
「そんな風になって」
「神学から他の学問を学ぶ」
「医学からでもね」
「そこは違うから」
「日本だと」
「そうだよ、あと科学も」
 こちらの学問もというのです。
「信仰がしっかりと存在しているね」
「科学もまた神を学ぶ学問である」
「決して神を否定するものではない」
「日本でそう考えている人は少ないわ」
「どうも」
「非科学的な人は実は神を学ぶことを避けているよ」
 先生はご自身の考えを述べました。
「科学を学べばね」
「それでだよね」
「神の摂理を知っていく」
「そうなっていくね」
「ダーウィンの進化論もだよ」
 生物学の有名なそれもというのです。
「しっかりと学んでいくとね」
「神の摂理がわかるよね」
「そこからも」
「ちゃんと学んでいる人はそう言うわ」
「進化論にしても」
「そうだね、科学は信仰に対するものじゃないんだ」
 それは違うというのです。
「間違ってもね」
「むしろ神を学ぶもので」
「科学を盾に神を否定するとね」
「逆に神がわかっていない」
「そういうことだよね」
「そうだよね」
「日本で科学を信仰して」
 それ自体をというのです。
「何でもかんでもプラズマとかで説明しようとしてる人もいるね」
「あの人も学者さんよね」
「人魂もUFOもそうだって言って」
「他のことも説明しようとして」
「無茶苦茶になっているわ」
「あそこまでいくとかえって非科学的でね」
 そうした人の場合もというのです。
「よくないよ、そして今の学問はね」
「あくまで今の時点であって」
「絶対じゃない」
「これからも学んでいくもので」
「完成していないわね」
「まだまだこれから調べていくものだよ」
「だから今の学問で未来の学問を語れないよ」
 それは無理だというのです。 

 

第三幕その十一

「絶対にね」
「科学でも何でも」
「未来のことなんてわからないよ」
「学問にしても」
「そうだね」
「今の科学で未来の漫画やアニメの科学を語るとね」
 そうすればというのです。
「とんでもなく出鱈目なものになるよ」
「本にしてもつまらないね」
「そんなつまらない本もないでしょうね」
「そしてどれだけ無駄か」
「そんなことをしても」
「レオナルド=ダ=ヴィンチでもね」
 万能の天才と言われたこの人もというのです。
「ヘリコプターを考えていたね」
「縦に渦巻きになったプロペラだね」
「今じゃ飛べないってわかるよ」
「誰でもね」
「しかし未来の技術を考えたということではね」
 その視点で考えると、というのです。
「凄いことだよ」
「未来を考える」
「その技術を」
「そして学問も」
「それはいいことね」
「価値あることだね」
「けれど今の科学で五十年先の科学を無理だ出来ないと言っても」
 それでもというのです。
「何の意味もないよ、この前ダイアモンド婚式のご夫婦をお祝いさせてもらったけれど」
「ダイアモンド婚式は六十年」
「六十年前なんてね」
「テレビはまだ真空管で白黒で」
「今のテレビとは全然違うし」
「コンピューターだって巨大でね」
 そうした代物でというのです。
「特別なものだったね」
「国家機密クラスの」
「そんなものだったよ」
「当時はね」
「昭和三十年代は」
「それが二十年も経たないうちにだよ」
 その間にというのです。
「テレビはブラウン管、カラーテレビになって」
「その頃は信じられなかったね」
「普通に誰でもそんなテレビを持てるとか」
「何とかテレビが広まりだした頃から見たら」
「昭和三十年代からしてみたら」
「そしてコンピューターもね」 
 こちらもというのです。
「ゲーム専用でも」
「そうそう、ファミリーコンピューター」
「ファミコンが出てだよ」
「物凄い勢いで定着して」
「皆持つ様になったよ」
「そうなったんだよ」
 二十年程でというのです。
「昭和三十年代の技術でカラーテレビやファミコンを無理だ出来ないと言っても」
「滑稽だね」
「そう言う方がね」
「未来のことなんてわからないのに」
「何て愚かなことなのかしら」
「全くだよ、空想とか科学とか言って」
 先生は思うのでした。
「漫画やアニメでも未来の技術を今のそれで否定するなんて」
「子供の夢を壊すんじゃなくて」
「文明の進歩すら否定していて」
「誰の何の役にも立たない」
「意味もない」
「そんなものよね」
「そう、世の中無駄なことはそうはないけれど」
 それでもというのです。 

 

第三幕その十二

「これは正真正銘のだよ」
「無駄なことだね」
「そうした行いね」
「そしてそんな行いに必死になっている人は」
「何の意味もない人ね」
「人生を無駄なことで浪費しきっていてそれで生計を得ている」
 先生は言いました。
「何と無駄なことか」
「誰の役にも立っていないしね」
「そんなこと書いた本面白い筈もないし」
「無価値な人生だね」
「本当に」
「僕はこんな人にはなりたくないとね」
 その様にというのです。
「思っているよ」
「反面教師だね」
「先生にとって」
「まさに」
「そうだよ、日本に来てそうした人を知って」 
 そうしてというのです。
「ああはなるまいとね」
「思ってだね」
「そして学問に励んでいるわね」
「今の学問を絶対と思わない」
「どんどん進歩するものだと考えているね」
「そうだよ、空想科学というのは学問ではないよ」
 断じてというのです。
「生物学でもダーウィンの進化論を絶対としてもね」
「そこで終わるから」
「そこからさらに学ぶ」
「そうしないと駄目だね」
「カンブリア紀の生きものなんてね」
 この時代の生きもの達のこともお話します。
「かなり独特だからね」
「昔の生物学で語れるか」
「無理よね」
「あの頃の生きもの達も」
「とても」
「そうだよ、出来ないから」
 それでというのです。
「如何に今の学問で全てを語ることが愚かか」
「わかるよね」
「先生が論文を書くのも進歩の為だし」
「ずっと学んでいっているわね」
「そうだよね」
「その通りだよ」
 実際にというのです。
「これからもね」
「そうだね」
「先生はそうした人だね」
「その考えから両生類の論文も書いたし」
「オオサンショウウオの論文もそうするわね」
「人間がわかっていることなんて」
 それこそというのです。
「まさに大海の中のだよ」
「スプーン一杯」
「その程度」
「それ位だね」
「技術も同じだからね」
 それでというのです。
「それで未来をこの世の全てを語るなんて」
「本当に出来ないね」
「それをしたつもりで悦に入っているとしたら」
「本当にどれだけ無駄か」
「何の意味もないことか」
「そうした本を読んで本気で怒る人が多いのは」 
 尚先生は怒っていません、怒らないこともまた先生の美徳です。
「当然だよ」
「そうした考えでいるとね」
「到底認められないから」
「何の意味もないから」
「それじゃあね」
「そうだよ、今の学問で全てを語れるとは思わないことで」
 そしてというのだ。
「技術も然りで未来を描いた漫画やアニメのそれを無理だと言うことは」
「夢を壊すんじゃなくて」
「何の意味もない」
「愚かなことでしかないわね」
「誰の何の役にも立たない」
「漫画とかでの凄い道具があったら」
 それならというのです。
「どうしたら実現出来るかをね」
「考えることだよね」
「そうした方がいいよね」
「今の技術は無理でも」
「どうしたら実現出来るか」
「そこを考える」
「そうした方が遥かにいいよ」
 笑顔で言ってでした。
 先生は次の論文の用意もはじめました、いよいよオオサンショウウオの論文を書いていくのでした。 

 

第四幕その一

                第四幕  研究所に行って
 先生はこの日王子の車に乗せてもらってです。
 生野町黒川地域にある朝来群山県立自然公園に来ました、そこにはでした。
「へえ、こんな施設があるんだ」
「そうなんだ」
 先生は王子に笑顔でお話しました。
「兵庫県にはね」
「オオサンショウウオの研究所があるんだね」
「ハンザキ研究所と言うんだ」 
 先生は王子に説明しました。
「ここはね」
「学校みたいな場所だね」
「実際にこの建物は昔学校だったよ」 10
 実際にというのです。
「それであんこうミュージアムセンターでもあるんだ」
「鮟鱇なんだ」
「うん、自然がね」 
 この公園のというのです。
「全体でミュージアムと考えられていて」
「それでなんだ」
「その名前でちなみにあんこうと言っても」
 この呼び名のこともお話します。
「この辺りの方言でね」
「お魚の鮟鱇じゃないんだ」
「オオサンショウウオをね」
 今研究しているこの生きものをというのです。
「そう呼んでいるんだ」
「あんこうって」
「だからあんこうと言っても」
 それでもというのです。
「お魚とは間違えないでね」
「わかったよ」
「それでハンザキというのは7」
 今度は研究所の名前になっているそちらのお話をしました。
「何なのかな」
「それもオオサンショウウオの名前なんだ」
「あんこうと同じなんだ」
「オオサンショウウオは生命力は強くてね」
 そうした生きものでというのです。
「それで身体が半分になっても生きていたことがあったとかで」
「だからハンザキなんだ」
「半分に裂かれても生きている」
「そういうことだね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「そうした名前にもなっているんだ」
「成程ね」
「じゃあ中に入ろう」
 こうお話してでした。
 先生は王子と一緒に研究所に入りました、勿論今回も動物の皆も一緒です、そして中に入るとです。
 オオサンショウウオもいてその写真も沢山あります、データなんかもありまして。
「色々なものがあるね」
「オオサンショウウオもいて」
「写真も飾られていて」
「かなりのものだね」
「そうだね、それでね」
 先生は皆にもお話します。
「特に夜にね」
「夜?」
「夜になんだ」
「そう、オオサンショウウオは基本夜行性だから」 
 そうした生きものだからだというのです。
「夜に観察してね」
「そうしてなんだ」
「調査してるんだ」
「それで研究しているんだ」
「そうなのね」
「オオサンショウウオは」
「そうしているんだよ」 
 皆に笑顔でお話します。 

 

第四幕その二

「ここではね」
「成程ね」
「色々しているのね」
「この研究所では」
「オオサンショウウオをそこまでして研究しているんだ」
「そうだよ、あとね」
 先生は施設の中のオオサンショウウオを見つつさらにお話します。
「周辺のそれぞれの個体の確認もしているよ」
「そうそう、オオサンショウウオって天然記念物だから」
「数が凄く少ないから」
「それでだね」
「それぞれのチェックもしているのね」
「昔はそれぞれの個体の模様や身体の特徴で確認していたけれど」
 それがというのです。
「今ではマイクロチップを使っているよ」
「それだね」
「マイクロチップを埋めて」
「それでそれぞれの個体の状況を確認している」
「そうしているのね」
「こうした時も文明は役立つね」
 先生は笑顔で言いました。
「本当に」
「マイクロチップって有り難いね」
「家族の犬や猫が行方不明になってもわかるし」
「何処にいるか」
「そうした意味でも役に立つね」
「凄いよね」
「そしてね」
 先生はオオサンショウウオの写真達を見ています、かなりの数のそれが並べられていて見事なものです。
「調査、研究してデータをね」
「それも取っていて」
「じゃあそれも見て」
「そうだよ、過去のデータと比較して」
 そうしたことも行ってというのです。
「その行動や寿命も確認しているんだ」
「そういえばオオサンショウウオってまだわかっていないこと多かったね」
「言われてみれば」
「そうらしいね」
「先生もそんなこと言ってたわ」
「だからわかっていないことを調べる為にも」
 まさにその為にもというのです。
「そうしたこともしているんだ」
「成程ね」
「色々やってるのね」
「この研究所では」
「オオサンショウウオについて」
「そしてここはだよ」
 あるコーナーに入りますと。
 そこには沢山のグッズがあります、どれもオオサンショウウオのものですが。
 皆それを見てこれはというお顔になりました。
「へえ、こんなのあるんだ」
「これは面白いわ」
「オオサンショウウオのグッズがあるんだ」
「色々な生きもののグッズがあるけれど」
「オオサンショウウオのものもあるんだ」
「ここではね」
 まさにというのです。
「そうでね」
「それでなんだ」
「オオサンショウウオのグッズが買える」
「色々あるけれど」
「そうしたことも出来るんだ」
「そうなんだ、じゃあ買おうね」
 そのグッズ達をです。
 先生は皆そして王子とどれがいいかをお話してでした。
 グッズも買いました、そうしてです。
 小さなホールにも行ってそこでも展示パネルを見てでした。
 それから先生はオオサンショウウオ自身がいる場所に行きますが。
 そこは水辺になっている屋外施設で。 

 

第四幕その三

「うわ、凄いね」
「オオサンショウウオをこんな間近で見られるなんて」
「凄く稀少な生きものなのに」
「触れる位よ」
「こんな近くで見ていいのかな」
「ここはこうしたことも出来るんだ」
 先生は驚く皆ににこりとしてお話しました。
「このことも凄いね」
「全くだよ」
「僕も驚いてるよ」
「私だってそうよ」
「オオサンショウウオがここまで近くで観られるなんて」
「凄いよ」
「ここでは人口産卵も出来るし」
 それもというのです。
「種の保護もね」
「しているんだね」
「ううん、凄いね」
「こんな場所もあるなんて」
「物凄い場所だよ」
「ちょっとオオサンショウウオ君ともお話してみるね」
 先生はここでそれに入りました。
 そうして実際に挨拶をして話しかけてみますと。
 一メートル位の大きさの焦げ茶色のオオサンショウウオが言ってきました。
「ドリトル先生だね、はじめまして」
「僕のことを知ってるんだね」
「だって先生だから」
 それでというのです。
「先生はあらゆる生きもののお友達だからね」
「それでなんだね」
「先生のことはよく知っているよ」
 こう先生に言うのでした。
「僕もね」
「そうなんだね」
「そう、だからね」 
 オオサンショウウオはさらに言いました。
「先生とお会い出来て嬉しいよ」
「そう言ってくれたら僕の方が嬉しいよ」
 先生は笑顔で応えました。
「本当に」
「そうなんだ」
「僕もね、それでここはどんな感じかな」
「生活がだね」
「問題はないかな」
「うん、のんびり出来ているよ」
 オオサンショウウオは先生に答えました。
「本当にね」
「それは何よりだよ」
「皆僕達一匹一匹を大事にしてくれているから」
「君達はとても貴重な生きものだからね」
「そうらしいね」
「だからね」
 オオサンショオウウオ自身にお話します。
「とてもね」
「大事にしてくれているんだ」
「一匹一匹ね、これからもね」
「僕達を大事にしてくれるんだ」
「そして研究もね」
 こちらもというのだ。
「させてもらうよ」
「僕達なんか研究しても面白いのかな」
「どんな生きものでも学問の対象でね」
 先生は笑顔で答えました。
「それでね」
「研究してなんだ」
「実に多くのことがわかって」
 そうしてというのです。
「面白いよ」
「そうなんだ」
「だから研究もね」
 保護と共にというのです。
「させてもらっているよ」
「そういうことだね」
「そう、そしてね」 
 そのうえでというのです。 

 

第四幕その四

「君達が快適に暮らしていることはね」
「そのことはなんだ」
「研究所の人達にお話させてもらうよ」
「そうしてくれるんだ」
「僕は君達とお話が出来て」
 それぞれの生きものの言葉がわかるからです。
「それで君達の気持ちもわかるから」
「それでなんだ」
「そう、だからね」 
 それ故にというのです。
「君達の気持ちとかをね」
「研究所の人達にお話してくれるんだ」
「そうさせてもらうからね」
「じゃあ宜しくね」
「そのこともね」
 オオサンショウウオとお話してこのことを研究所の人達にもお話した後で先生はこの辺りの水棲生物達も一緒に展示されているので皆と一緒に観ました。
 ここで王子はこんなことを言いました。
「日本は四方が海に囲まれていてね」
「そうしてだね」
「海の自然も凄いけれどね」
「伊勢なんかでもそうだったね」
「沖縄でもだよね」
「素晴らしい自然に満ちているよ」
 先生もこう言います。
「本当に」
「そうだね」
「けれどだね」
「海だけじゃなくて」
「川や湖もだね」
「素晴らしいよ」 
 本当にというのです。
「ここでも思うよ」
「兵庫県の川の自然ってこうだったんだ」
 老馬は目を丸くして言いました。
「豊かだね」
「僕達神戸にいるから」
「どうしても前の海ばかり意識するけれど」
 チープサイドの家族もお話します。
「川の自然もいいのね」
「かなり豊かだね」
「しかも天然記念物までいるし」 
 こう言ったのはポリネシアです。
「凄いものね」
「琵琶湖や山形県もかなりだったけれど」
 ジップはこれまで巡ったところを思い出しています。
「兵庫県も凄いね」
「僕達の住んでいる県の川ってこうした生きものがいるんだ」
 ダブダブも彼等を見て思うのでした。
「いや、凄いね」
「兵庫県と言っても広いしね」
「そうそう、日本海側にまであるし」
 オシツオサレツは二つの頭で言います。
「山も多くて」
「神戸以外にも沢山の市町村があるしね」
「そんなところだから」
 トートーも言います。
「色々な自然もあるね」
「それで川の自然はこうだね」 
 ホワイティの口調もしみじみとしたものです。
「素晴らしいものだね」
「本当に素晴らしいわね」 
 ガブガブが見てもです。
「これは川だけじゃなくて山もよね」
「きっとそうだね」
 チーチーはガブガブに答えました。
「自然はつながっているからね」
「勿論だよ、兵庫県は山の自然も見事だよ」
 先生は皆にその通りだと答えました。
「六甲もだよ」
「自然豊かなんだ」
「神戸の後ろのあちらも」
「そうなのね」
「川もね」
 六甲のそちらもというのです。 

 

第四幕その五

「奇麗で自然豊かで」
「山もだね」
「かなりの自然で」
「草木もよくて」
「生きものも豊富なんだ」
「牛女さんのお屋敷の周りもだね」
 そちらのお話もするのでした。
「そうだったね」
「あっ、そういえば」
「牛女さんのお屋敷の周りかなりよ」
「かなり豊かな自然だよ」
「見ていて楽しいよ」
「今も時々お邪魔するけれどね」
「何ならね」 
 先生は皆に牛女さんのことを思い出しつつお話をします。
「今度牛女さんからお話を聞こうか」
「牛女さんご自身から」
「六甲の自然について」
「そうしてみるんだね」
「妖怪は自然に詳しいからね」
 そうした存在だというのです。
「だからね」
「ああ、そういえばね」
「妖怪って山とか川にいることが多いね」
「街や村にもいるけれど」
「自然の中にいることが多いわね」
「自然の具現化ともね」
 妖怪達はというのです。
「言われているしね」
「イギリスで言うと妖精だから」
「実は同じ様な存在で」
「それで親しい妖怪さんも多い」
「そうだね」
「だからね」 
 それでというのです。
「牛女さんからもだよ」
「お話を聞いてもいいね」
「そうしてもね」
「それじゃあね」
「今度牛女さんのお屋敷に行ったら」
「そうしようね」
「是非ね、それとね」
 先生はさらにお話しました。
「兵庫県の自然もだよ」
「学んでいくといいね」
「これからは」
「今以上に」
「そうしていくのね」
「今度生物学の論文書いたら」
 その時はというのです。
「兵庫県の生態系についてのものにしようかな」
「いいね」
「じゃあそうしよう」
「こうした場所で学びもして」
「そうしてね」
「そうしていこうね」
 こうもお話してでした。
 皆で実際にこの辺りの生きものを見て学んでいきます、そしてその後で。
 皆で自然公園の中でお弁当を食べます、今回はお留守番のトミーが作ってくれたお弁当と王子さんの執事さんがそうしてくれたものです。
 どちらも豪華な重箱に何段もあって動物の皆も楽しく食べられますが。
「お握りいいよね」
「日本のお弁当だと」
「お握りがあるとね」
「それだけで嬉しいわ」
「全くだね」
「僕もそう思うよ」
 先生はそのお握りを食べつつ笑顔で答えました、おかずはほうれん草のおひたしに野菜の佃煮にキンピラ牛蒡にです。
 卵焼きにお魚の唐揚げ、ミートボールに海老フライです、デザートに沢山の果物もあってかなり豪華です。
 その中のメインの海苔に覆われた俵型のお握りを食べて言うのでした。 

 

第四幕その六

「お握りはこうした時に食べてもだよ」
「美味しいね」
「本当に」
「幾らでも食べられるよ」
「中の具もいいしね」
「今回トミーは色々入れてくれたね」
 お握りの中の愚をです。
「梅にね」
「それに昆布に」
「あとおかか」
「鮭もあるし」
「鱈子だってね」
「どれもいいね」
「僕この前名古屋で天むす食べたけれど」
 王子も言ってきました。
「こちらもね」
「美味しいね」
「凄くね」
 そうだというのです。
「本当にね」
「あちらも確かにね」
 先生も言います。
「美味しいものだね」
「そうだね」
「名古屋らしいよね」
「名古屋って言うと海老だね」
「名古屋コーチンにきし麺に」 
 それにとです、先生はさらに言います。
「味噌カツに味噌煮込みうどんに」
「ういろうだね」
「そうしたものの中にね」
「海老もあるね」
「それが名古屋でね」
「天むすもだね」
「あるんだ」
 こちらもというのです。
「僕も好きだよ」
「そうだね」
「いや、日本に来て」
 そして日本に住んでです。
「お握りの美味しさもだよ」
「先生は知ったね」
「こんな美味しいものがあるなんて」
 こうまで言うのでした。
「思わなかったよ」
「日本に」
「嬉しい驚きだよ」
「日本にこんな美味しいものがあるなんて」
「すき焼きに驚いたけれど」
「他にも一杯美味しいものがあって」
「お握りもその一つだからね」
 皆もお握りを食べつつ言います。
「お握りは日本のソウルフードで」
「そのうちの一つで」
「手軽に食べられるし」
「しかも抜群に美味しいから」
「こんないいものはないよ」
 実にとです、先生は言ってです。
 そしてまた一個食べます、そうして今度はこんなことを言いました。
「中の具は梅干しだったよ」
「種は出そうね」
 王子が笑顔で応えました、勿論王子もお握りを食べています。
「梅干しなら」
「そうだね、しかしこの梅の味もね」
 梅干しのそれもというのです。
「物凄くいいね」
「お握りに合うね」
「うん、ご飯自体にね」
「梅干しは合うね」
「日の丸弁当ってあるね」 
 ここで先生はこのお弁当の名前を出しました。
「白いご飯を入れて」
「その真ん中に梅干しを置く」
「そのお弁当がある位だしね」
「あれはそのまま日本の国旗だね」
 王子はおかずの海老フライも食べて言いました。 

 

第四幕その七

「日章旗だよ」
「そう、白いご飯に赤い梅干しでね」
「日本の国旗になるね」
「だからその名前になったんだ」
「面白いね」
「ちなみにこの日の丸弁当はね」
 梅干しが中に入ったそのお握りを食べつつお話します。
「乃木大将がはじめたんだ」
「ああ、あの人がなんだ」
「日本の軍人さんだったね」
「あの人も凄い人だよ」
 王子は心からこう言いました。
「堅固な要塞を陥落させたし」
「難攻不落と言われた旅順要塞をね」
「たった五ヶ月でね」
「確かに児玉さんの助けは借りたけれど」
 一時期指揮権をこの人が預かってです。
「それでも堅固で有名な要塞を陥落させて」
「その後の奉天の戦いでは大活躍したね」
「あの戦いの勝利は乃木大将あってだよ」
「そう、しかもね」
 先生はさらに言いました。
「軍人として物凄く高潔で」
「水師営の会見だね」
「降伏した敵の将軍を礼を以て迎えたね」
「帯剣まで許して」
「ロシア皇帝に寛大な処置も求めて」
「しかも軍に悪いことを許さない」
「日本軍自体がそうだったけれどね」
 乃木大将だけでないというのです、先生は今は日本の歴史について目を輝かせてお話するのでした。
「軍律がとても厳しくて」
「悪いことはさせなくて」
「乃木大将自身もだよ」
「そんなことはしなかったね」
「武器を持たない相手に銃剣を向けるとか」
 そうしたことはというのです。
「何があってもだよ」
「しなかったね」
「そんな立派な人だったんだ」
「何か日本じゃ最近まで評判がよくなかったそうだね」
「旅順が堅固でね」
 この要塞がというのです。
「当時の日本人、最近までもね」
「中々陥落しなくて」
「それでね」
 そうした状況でというのです。
「色々言われて」
「批判されていたんだね」
「多くの損害を出したのは事実だしね」 
 このことはというのです。
「それでだよ」
「最近まで評判が悪かったんだね」
「そうだったんだ」
 実際にというのです。
「無能とか散々言われてたんだよ」
「無能じゃないよね」
「他の国の人から見たらね」
「当時の日本軍で東郷さんと並ぶ偉大な人だよ」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「僕もそう思うよ」
「それがだね」
「日本ではそうだったんだ、あの戦争自体もね」
「日露戦争もだね」
「否定されていたしね」
「僕にとっては、いや僕に国でもだよ」
 王子は強い声で言いました。
「あの戦争があって」
「誰でもやろうと思って必死にやればね」
「出来るとわかったね」
「そうした戦争だから」
「凄くね」 
 実際にというのです。 

 

第四幕その八

「意義のあるね」
「素晴らしい戦いだったね」
「そう思ってるけれど」
「日本じゃ最近までそう思われていたんだ」
「否定されていたんだね」
「それは何故かというとね」
 先生はおかずのキンピラ牛蒡を食べながらお話しました。
「戦後の日本の知識人の人達はマルクス主義が強かったね」
「ああ、それからなんだ」
「そう、それでスターリンがあの戦争を侵略戦争と言って」
「それからなんだ」
「否定される様になったんだ」
「乃木大将もだね」
「日清戦争もだったしね」
 この戦争もというのです。
「それでなんだ」
「否定されていたんだ」
「日本軍が規律正しい軍隊だったことも言わないで」 
 それでというのです。
「逆に略奪暴行をしたともね」
「それ嘘だよね」
「そんな嘘も平気で吐いて」
 そうしてというのです。
「しかも戦争の後でね」
「その後でなんだ」
「あの戦争で日本は物凄く沢山の戦費を使ったね」
「うん、当時の日本の国家予算の数年分をね」
「それで戦争の後必死に戦費に使う為に借りたお金返したよ」
「第二次世界大戦が終わっても」
「そうなって」
 先生はさらにお話します。
「ロシアからは戦争に勝って領土と独立を得たけれど」
「そうした意味で凄かったね」
「戦争が勝った時に貰う賠償金はなくて」
「お金は貰えなくてね」
「国民の人達が怒ったけれど」
 それでもというのです。
「何故か日本の学者さんではこうしたことを言う人がいるよ」
「どういったことかな」
「当時の日本の政治家は戦争をすれば儲かるって錯覚したってね」
「そんな筈ないじゃない」
 王子はお野菜の佃煮を食べつつ即座に言葉を返しました。
「今お話してる通りだよ」
「借金で大変なことになったね」
「勝ったけれどね」
「それで以後日本は好戦的になったってね」
「それ学者さんが言うんだ」
 王子の口調は呆れたものになりました。
「まともに歴史勉強してるのかな」
「僕もおかしいと思うよ」
「そうだよね」
「けれどマルクス主義があったから」
「スターリンが日露戦争を侵略戦争と言ったからだね」
「そのマルクス主義のソ連の独裁者のね」
 悪名高いこの人がというのです。
「そうだったんだ」
「成程ね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「そんな学説もだよ」
「通用したんだ」
「けれどこんなこと素人でもわかるね」
「うん、誰だってね」
 王子もその通りだと答えます。
「僕だってわかる位だし」
「僕は歴史学者でもあるからね」
「それはおかしいとだね」
「言えるよ、こんな意見が通用して」
「そんなこと言う人が学者さんとしてやっていける」
「それが戦後の日本だったんだ」
「碌でもないね」
 王子は今度は呆れ果てた声で言いました。
「日本は素晴らしい国だけれどいつも思うよ」
「知識人の質は酷いね」
「普通の人達は物凄く聡明なのに」
「日本では一番頭がいい筈の知識人がだよ」
 その人達がというのです。 

 

第四幕その九

「この様にね」
「どうしようもないんだね」
「そうなんだ」
「テレビでも酷いよね」
 ジップも言ってきました。皆お握りを中心にお弁当を楽しんでいます。
「ジャーナリストの人達の言ってること」
「出鱈目で平気で嘘言う人もいるよ」
 ホワイティも言います。
「事実と違うことをね」
「学者さんだってそうだよね」
 トートーは今軸で言われている人のお話をしました。
「酷いよね、言ってること」
「普通にこの人学者さんかなって人いるわよ」
 ガブガブも今は批判的です。
「言ってることがあんまり過ぎて」
「何もわかっていない、わかろうともしていない」
「そんな人が本当に多いわ」
 チープサイドの家族もお話します。
「日本の知識人の人達は」
「そんな人ばかりで」
「しかも悪い話多くない?」
 ダブダブは囁く様にして言いました。
「汚職とかセクハラとか」
「言ってることだけじゃなくて人間の質も悪いなんてね」
 チーチーもどうかというお顔です。
「どうしようもないよ」
「まともな学問をしないと駄目ね」 
 ポリネシアは強い声で言いました。
「変な主張に凝り固まらないで」
「何か色々考えさせられるね」
「日本の知識人の人達を見てると」
 オシツオサレツは二つの頭をどっちもしんみりとさせています。
「本当に」
「あまりにも酷くて」
「酷いものを見っても勉強になるしにしても」
 老馬もかなり否定的です。
「いい気分はしないね」
「欧州では長い間キリスト教が歪んだ形であって」
 先生はかつて自分が暮らしていて生まれ故郷でもあるイギリスもあるこの地域のことを思い言うのでした。
「学問も歪んでいたね」
「そうだったね」
「西欧の方は」
「ローマ=カトリック教会が絶対で」
「教会の教えと違うことを言うと」
「異端とされもしたね」
 先生は皆に応えて言いました。
「そして火炙りにもなったね」
「そうそう」
「ガリレイさん大変なことになったし」
「コペルニクスさんだって批判されたし」
「他にも色々な人が批判されたわ」
「中には実際に異端とされた人もいたし」
「そんな風だったからね」
 かつての欧州はというのです。
「日本の知識人の人達を見ていると」
「かつての欧州を思い出すんだね」
「教会が絶対だった頃と」
「歪められた教えが支配していた」
「あの頃と」
「そう思うよ、本当にね」
 先生はお茶も飲みます、日本茶です。
「おかしな教えで学問が捻じ曲げられることはね」
「あってはならないね」
「絶対に」
「そうよね」
「今回のオオサンショウウオだってね」
 この生きものについてもというのです。
「昔のキリスト教の教えだとね」
「おかしくなったりするんだ」
「そうなる場合もあるのね」
「教会の主張に従って」
「事実が捻じ曲げられりするんだ」
「そうなることもね」 
 そうなる可能性もというのです。 

 

第四幕その十

「実際にダーウィンの進化論を今でも否定する人いるからね」
「聖書に書かれていることじゃない」
「そう言われてだね」
「否定されているね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「昔なら尚更だよ、恐竜なんて」
「そうそう、聖書では六千年位前に世の中が出来たってあるよ」
 王子は先生もまさにと答えました。
「神様が創ったって」
「そうあるね」
「だから恐竜はだね」
「何億年前の生きものはね」
 そうした生きものはというのです。
「聖書が絶対に正しいならね」
「間違いになるね」
「そうだよ、だからね」 
 それでというのです。
「ユダヤ教では恐竜を否定する人がいるよ」
「ユダヤ教も聖書だしね」
「旧約聖書だね」
「そちらになるからだね」
「そうなんだ」
 まさにというのです。
「聖書は確かに素晴らしく神は存在していても」
「それでもだね」
「絶対とするならば」
「学問がおかしくなるね」
「しかもね、教えが歪められて」
 そうなってというのです。
「絶対であると強制されたら」
「おかしくなるね」
「学問がね」
「だからオオサンショウウオもだね」
「言われることになるかもね」
「成程ね」
「ジャガイモもそうだったね」 
 先生はこの作物のお話をしました。
「最初は」
「そうそう、聖書に載ってないよ」
「ジャガイモは」
「アメリカ大陸から来たものは全部だけれど」
「聖書が書かれた時代アメリカ大陸は発見されてなかったから」
「バイキングが発見していて」
 コロンブス以前にというのです。
「その前にカルタゴ人も発見していて交易を行ったという説もあるにしても」
「どちらの人達もキリスト教徒じゃないし」
「そうなるとね」
「聖書とは無縁だから」
「それじゃあね」
「聖書にジャガイモがないのは当然だよ」
 このことはというのです。
「それで悪魔の作物と言って」
「食べられなかったね」
「欧州に伝わっても」
「暫くの間は」
「人間は食べなかったわね」
「家畜の飼料にする位で」
 その位でというのです。
「プロイセンのフリードリヒ大王が広めるまではね」
「中々だったね」
「中々広まらなくて」
「そして食べてみたら美味しくて」
「痩せた土地でも沢山採れるしね」
「沢山の人が飢えから解放されたよ」
 ジャガイモを食べる様になってというのです。 

 

第四幕その十一

「確かに一見不格好で土臭くてね」
「美味しく見えないね」
「まず食べてみないと」
「そうしないと」
「そんな作物だけれど」
 それでもというのです。
「もっと早く食べていたら」
「聖書に載っていなくても」
「それでもよね」
「最初から食べていたら」
「ずっと早く沢山の人が餓えから解放されたよ」
「そうなったから」
 それでとです、先生は言いました。
「歪んだ教えに囚われたら駄目だよ」
「学問もおかしくなって」
「そして問題も起こる」
「そうなるからよね」
「おかしな教えに支配されたら駄目だね」
「まずその教えが正しいかどうかだよ」
 このことを見極めることだというのです。
「本当にね」
「キリスト教だってそうだよね」
「まずはね」
「おかしいかどうか」
「今その人が言っているかどうか」
「人間は誰だって間違えるしね、中には詐欺師だっているから」
 悪質な人も存在するというのです。
「教会もそんな人がいたしスターリンなんて」
「酷過ぎるからね」
「マルクス主義自体問題多いけれど」
「スターリンなんてヒトラーと同じじゃない」
「とんでもない独裁者だよ」
「そんな人の言うことをずっと真に受けるなんてね」
 それこそというのです。
「何があっても駄目だよ」
「全くだね」
「おかしなことだよ」
「だから日本の知識人はおかしくなって」
「今もだね」
「おかしな人が多いんだ」
 そうなっているというのです。
「今だってね」
「歴史もそうで」
「他のことでもだね」
「おかしいね」
「そうだよ、日の丸弁当からもね」
 このお弁当一つからもというのです。
「わかるね」
「全くだね」
「何でもないことなのに」
「それも学問だね」
「こちらが正しい学問だね」
「そうだね、しかしよく言えたものだよ」
 先生は首を傾げさせました、いぶかしむお顔で。
「戦争をすれば儲かるって錯覚したとか」
「日本の政治家の人達が」
「日露戦争に勝って」
「多くのものを得たからって」
「そう錯覚したとか」
「借金で首が回らなくなったんだよ」
 あまりにも多額の戦費を借りてです。 

 

第四幕その十二

「そうなったことは明らかなのに」
「どう考えてもおかしいね」
「そこでそう言えるなんて」
「何でそう言えたか」
「わからないね」
「そんな見当違いなことを言って学者として通用するなら」
 それならというのです。
「こんなおかしなことはないよ」
「というかそうしたこと言う人って絶対自衛隊嫌いだね」
 王子が言ってきました。
「日本の皇室も」
「そうだよ、もう法則と言ってもね」
「いい位だよね」
「それで北朝鮮はいいんだよ」
「あんなとんでもない軍隊持っていて」
「世襲制の共産主義だけれどね」
 そんな国でもというのです。
「共産主義は世襲を否定しているけれどね」
「そのスターリンもしなかったね」
「むしろ彼は家族を冷遇したよ」
 スターリンはというのです。
「そうだったよ」
「それ位だったね」
「けれどね」
 それがというのです。
「あの国は世襲でね」
「そうした人達は日本の皇室は嫌いで」
「世襲とか言ってね」
「あの国の世襲はいいんだよ」
「おかしいなんてものじゃないね」
「しかもね」
 それに加えてというのです。
「戦前の日本はあれこれ言ってあの国の悪事はね」
「スルーだね」
「言わないんだ」
「本当におかしな人達だね」
「僕はあんな人達には間違ってもだよ」
 それこそというのです。
「なりたくないよ」
「そうだよね」
「間違っているから」
 だからこそというのです。
「絶対にね」
「戦前の日本と北朝鮮を比べると」
「どちらがいいかは明白だね」
「誰が見てもね」 
 王子も答えます、はっきりと。
「宝石と石どころじゃないよ」
「その違いはね」
「それがわからないのなら」
 それならというのです。
「もうね」
「知識人というか人間としておかしいよ」
「その域だね」
「そのことさえわからないのなら」
「知識人の看板を下ろすべきかな」
「厳しいことを言うと」
 それならというのです。
「もうね」
「そこまでのことだね」
「そう思うよ、当たり前のことがわからないで」
「あまりにも見当外れだと」
 普通の人が見てもです。
「知識人失格だね」
「そうした人達が多いのが今の日本だから」
 知識人と呼ばれる人達にというのです。
「逆におかしな大統領のおかしな行動を絶賛する」
「その場合も同じだね」
「僕は常識を以て学んでいきたいよ」
 心から言う先生でした、そうしてです。
 今はお弁当を食べてそれからお家に戻って研究所で観たものをまとめるのでした、そのうえでまた論文を書いていくのでした。 

 

第五幕その一

                第五幕  物語のオオサンショウウオ
 先生は今ご自身の研究室の中で紅茶を飲みながら本を読んでいます、動物の皆はその先生に尋ねました。
「今度は何の本を読んでるの?」
「生物学の本じゃないね」
「日本語の本だね」
「小説?」
「そちらかしら」
「うん、日本の小説だよ」
 先生もその通りだと答えます。
「井伏鱒二の山椒魚だよ」
「前にお話してた」
「その人の代表作で」
「オオサンショウウオを書いているっていう」
「その作品だね」
「そうだよ、この作品はね」 
 実際にというのです。
「描写の大きさ等を見るとね」
「オオサンショウウオなんだ」
「普通の山椒魚でなく」
「そちらの山椒魚だね」
「読んでいると」
「ほぼ確実にそうだね」
 先生は言いました。
「井伏鱒二は広島出身だけれど」
「広島にもオオサンショウウオがいるから」
「井伏さんもオオサンショウウオを知っていて」
「それでだね」
「小説の題材にしたんだね」
「そうだと思うよ、この作品がこの人の事実上のデビュー作で」
 そうであってというのです。
「出世作で代表作の一つでもあるんだ」
「物凄い作品なんだね」
「井伏さんにとって」
「極めて重要な作品だね」
「そうだよ、確かこの作品をね」
 山椒魚を読みつつ言います。
「太宰治も読んで」
「日本文学で滅茶苦茶有名だけれど」
「それこそ日本人で知らない人はいない位」
「走れメロスとか人間失格とか」
「先生もよく知っている人だね」
「太宰を知らない日本人は本当にいないだろうね」 
 先生もこう言います。
「教科書にも出るし」
「絶対にね」
「中学や高校の国語や現国の教科書で」
「小学校の道徳の授業でも出るね」
「走れメロスなんて」
「アニメにもなってるし」
「太宰は芥川龍之介や夏目漱石と並ぶよ」
 こうした文豪の人達と、というのです。
「あまりにも有名な人だよ」
「だから僕達も知ってるよ」
「先生も太宰さんの作品よく読んでるね」
「太宰さんについての論文も書いたね」
「またそうするね」
「太宰の論文はまた書くよ」
 先生もそうすると答えます。
「絶対にね」
「本当に日本文学に名前が残っていて」
「今もよく読まれているから」
「だからだね」
「先生もまた論文を書くね」
「そうするよ」
 先生はまた皆に答えました。
「絶対にね」
「そうするね」
「太宰さんは代表作も多いし」
「沢山の人達が読んでいて」
「そして研究もされているね」
「うん、そしてその太宰が終生お師匠さんとしたのがね」
 まさにとです、先生は言いました。 

 

第五幕その二

「井伏鱒二なんだ」
「そう思うとかなりだね」
「その太宰さんがお師匠さんとしたって」
「かなりの人だよね」
「つくづく」
「その関係は長くてね」
 それでというのです。
「戦後は疎遠になったらしいけれど」
「それでもだね」
「終生続いたんだね」
「太宰さんと井伏さんの関係は」
「そうだったんだ」
「そして太宰が亡くなった時は」
 その時はというのです。
「かなりショックを受けてお葬式でも重要な役割を果たしたんだ」
「やっぱり絆あったんだね」
「お二人の間には」
「それもかなり強いものが」
「そうだったのね」
「そうだったんだ、太宰は自殺したね」
 先生は悲しいお顔で言いました。
「そうだったね」
「玉川上水だったね」
「東京の」
「女の人と心中して」
「人生を終えたんだったね」
「元々躁鬱の気が強かったみたいで」
 太宰治という人はです。
「それでだよ」
「それまでも何度か自殺しようとして」
「心中事件も起こして」
「それでだね」
「最後はね」
「心中して人生を終えたね」
「これは終生敬愛していた芥川龍之介の影響もあったかも知れないね」
 先生はこうも思いました。
「やっぱり」
「芥川さんも自殺してるし」
「何か遺書でも同じ様なことを書いていたらしいね」
「先生そんなことも言ってたわね」
「言ったよ、芥川は最後の方はかなり精神的におかしくてね」  
 先生は精神科医でもあるのでこのこともよくわかるのです。
「作品にも出ていて遂にね」
「昭和のはじめの夏の盛り」
「その暑い日にだね」
「自殺して」
「それで人生を終えたわね」
「その芥川に終生憧れていたから」 
 太宰治はというのです。
「十代の頃に芥川の自殺を知ってね」
「かなり衝撃を受けて」
「作家は最期こうあるべきだとか言って」
「感銘さえ受けていた」
「そうだったらしいね」
「芥川賞を取ろうと必死にもなったしね」
 そうしたこともあったというのです。
「そして人間失格と並行して書いていた如是我聞で」
「確か弱くなれ」
「その芥川さんみたいに」
「志賀直哉さんに言ったんだよね」
「自殺する直前に」
「最後の最後まで芥川を慕っていたんだ」
 そうだったというのです。
「そんな人でね」
「それで芥川さんみたいに自殺した」
「よっぽど芥川さんを慕っていたんだね」
「太宰さんって芥川さんの悪いこと絶対に言わなかったみたいだしね」
「太宰の心の中にはいつもあの人はいたんだ」
 先生は遠い目になって語りました。
「芥川龍之介という人がね」
「そしてその太宰さんが師事した」
「それが井伏さんだね」
「今先生が読んでいる作品を書いた」
「オオサンショウウオを書いた」
「そうだよ、この人はね」 
 まさにというのです。 

 

第五幕その三

「その太宰のお師匠さんでずっと支えていたんだ」
「ううん、まさか文学のお話も出るなんて」
「今回そうなるなんて思わなかったけれど」
「オオサンショウウオって文学にも出るんだ」
「そうなんだね」
「そうだよ、オオサンショウウオは昔から日本にいて」
 そうしてというのです。
「文学の題材にもなっていて」
「あと童話でもだね」
「こちらは妖怪として出てるけれど」
「出て来るね」
「そうなんだ、大きくて独特の形だから」 
 それ故にというのです。
「人を飲み込んだりするね」
「巨大な妖怪だね」
「それで出て来るね」
「何メートルもある」
「怪獣みたいな存在で」
「そうだよ」
 先生は皆に微笑んで答えました。
「そちらでもね」
「そういえば日本も川や海の巨大な妖怪多いね」
 チーチーはふと言いました。
「オオサンショウウオに限らずね」
「お魚でもいるしね」
 トートーも言います。
「北海道にもそんなお話あるし」
「実際鮫とか鯨とかいるしね」
 ポリネシアはこうした生きものをお話に出しました。
「お話にもなるわね」
「タキタロウだっているしね」
 ダブダブはこの前行った山形県のことをお話しました。
「あと蟹のお話もあるね」
「大蛇とか蛟のお話もあるわよ」
 ガブガブはこうした存在のお話をしました。
「日本にはね」
「龍もお水にいるし」
「そうよね」
 チープサイドの家族はこの神とさえ言える存在を思いました。
「山よりもね」
「日本はお水に大きな生きもののお話が多くて」
 ホワイティも思うことでした。
「むしろ山よりもだね」
「実際にお水の中の方が大きい生きもの多いしね」
「そうそう、海でもね」
 オシツオサレツは二つの頭でお話します。
「鯨だってそうだし」
「あとアマゾンのアナコンダも殆ど水棲だしね」
「オオサンショウウオもお水からほぼ出ないし」
 老馬はまさにその生きもののことを言います。
「大きいのも当然だね」
「それで大きいからもっと大きなものを想像して」
 ジップは考えました。
「巨大なオオサンショウウオの妖怪も出たね」
「オオオサンショウウオは一・五メートルに達するよ」
 一番大きな個体でというのです。
「昔の日本人と変わらない位だね」
「あっ、確かに」
「言われるとそうだね」
「昔の日本人は今より小さかったよ」
「摂取している栄養の関係で」
「これは日本人に限らずね」
 この国の人達だけではないというのです。
「どの国でもだったね」
「ローマ人だって小さくて」
「オクタヴィアヌスさんで一六〇なかったね」
「カエサルさんは一八五あったらしいけれど」
「あの人は特別ね」
「ベートーベンさんで一六五で」
 あまりにも有名な音楽家であるこの人はというのです。 

 

第五幕その四

「当時は中背だったんだ」
「今のドイツ人じゃかなり小柄だね」
「ドイツ人って大きい方だけれど」
「一六五だとね」
「今じゃかなり小さいよ」
「日本人でも小柄ね」
「けれど当時のドイツ人では中背だったから」
 即ち普通位だったというのです。
「本当にね」
「昔の人達は小さかったね」
「今と比べたら」
「それで当時の日本の人達から見たら」
 今より小柄なその人達からです。
「一・五メートルもあったら」
「自分達と同じ位の大きさで」
「びっくりするよね」
「それでもっと大きなのがいるじゃないか」
「そう思うわね」
「だからね」
 それでというのです。
「そんな妖怪として山椒魚もだよ」
「出たね」
「日本は生きものの妖怪も多いけれど」
「オオサンショウウオもそうなった」
「そうだね」
「そうかもね」 
 こうお話しつつです。
 先生は井伏鱒二の小説をさらに読んでいってです。
 読み終えてです、童話のオオサンショウウオが出る作品も読んでいって皆に紅茶を飲みながらお話しました。
「いい勉強になったよ」
「物語のオオサンショウウオも読んで」
「それでなのね」
「いい勉強になったんだ」
「論文についても」
「なったよ」
 実際にというのです。
「こちらもね」
「生物学の論文でも」
「文学を勉強してもなんだ」
「いい勉強になるんだね」
「そちらでも」
「全くの畑違いの様でもね」
 学問でもというのです。
「勉強するとだよ」
「それが参考になって」
「いい論文を書くもとになる」
「そうなのね」
「そうだよ、勿論柱は生物学だけれど」
 それでもというのです。
「文学の方も学ぶとね」
「いいんだね」
「そちらも」
「大いに参考になる」
「そういうことだね」
「その通りだよ」 
 まさにというのです。
「だから僕も今回読んだんだ」
「山椒魚は前にも読んだけれど」
「もう一度そうして」
「それで学んだのね」
「そうしたんだね」
「そうだよ、そしてね」
 それでというのです。
「読んだけれどよかったよ」
「じゃあまた論文書くね」
「そうするわね」
「文学の方も学んだし」
「尚更」
「そうするよ、あとね」
 先生はさらに言いました。 

 

第五幕その五

「また動物園に行こうね」
「あちらのオオサンショウウオも観て」
「そうしてだね」
「観察して」
「そして学ぶね」
「うん、それにあちらの方の協力もあるし」
 日笠さんにお願いされたそのことがというのです。
「雌のオオサンショウウオが来て」
「そしてだよね」
「結婚して」
「産卵して子供が出来て飼育もする」
「そうしていくから」
「だからね」
 その為にというのです。
「実は明日来て欲しいって日笠さんからお願いされているし」
「あっ、いいね」
「好都合だよ」
「日笠さんがお願いしてきたなら」
「丁度いいよ」
「だから行かせてもらうよ」
 動物園にというのです。
「そしてだよ」
「オオサンショウウオを観て」
「それで雌のオオサンショウウオを迎える準備もする」
「そうするね」
「これからは」
「そうするよ」
 こう言ってでした。
 先生は紅茶を飲むと論文を書いていきました、今日も学問に励んでいます。
 そして次の日です、先生が皆と一緒に動物園を訪れますと。
 日笠さんは入り口でお迎えして先生に言いました。
「お待ちしていました」
「あれっ、待たれることはないですよ」
 先生は目を輝かせて言う日笠さんに少し驚いて応えました。
「別に」
「それは私がしたいことで」
「だからですか」
「お待ちしていまして」
 そしてというのです。
「これから案内させて頂きます」
「そうなのですか」
「では案内させて頂きます」
 早速という口調の返事でした。
「これから」
「ではお願いします」 
 先生はわからないまま応えました、そしてです。
 オオサンショウウオを観てです、彼にお話を聞きますと。 
「そういえば僕の名前だけれど」
「そう、まだ聞いていなかったね」
 先生も応えます。
「君の名前は何ていうのかな」
「鱒二って言うんだ」
「ああ、井伏鱒二さんだね」
「僕達を小説にした人だね」
「その人から名前を貰ったんだね」
「そうみたいだね」
 こう先生にお話します。
「僕はね」
「そういうことだね」
「それでね」
 鱒二は先生にあらためてお話しました、自分の傍に来た先生に。
「僕今度結婚するけれど」
「うん、そ娘が来るよ」
「その娘がどんな娘か」
 そのことがというのです。
「今凄く不安なんだ」
「そうだね、僕は結婚の経験どころかね」
 先生は笑ってお話しました。
「お付き合いしたこともね」
「ないんだ」
「女の人と。男の人ともね」
「ないんだ」
「お友達は有り難いことも沢山いてくれているけれど」
 それでもというのです。
「けれどね」
「恋人はなんだ」
「そうしたことに縁が全くなくてね」
 笑ってお話します。 

 

第五幕その六

「本当にね、だから結婚のことは」
「アドバイス出来ないんだ」
「自分の経験としてはね、けれどね」
「それでもなんだ」
「アドバイス自体はね」
 それはというのです。
「出来るよ、知識はあるからね」
「じゃあ何かと聞いて」
「お話させてもらうよ」
「そうするね、いやどんな人が来るか」
 結婚相手はです。
「僕は今そのことが気になってるんだ」
「物凄くだね」
「そうなんだ」 
 先生にお水の中からお話します。
「どうもね」
「成程ね」
「だからね」
 それでというのです。
「先生がそれでいいって言ってくれて嬉しいよ」
「それは何よりだよ」
 先生もにこりと笑って応えました。
「じゃあね」
「お話させてもらうね」
「宜しくね」
「うん、それでね」
 鱒二はさらに言いました。
「どんな娘が来るか聞いてくれるかな」
「日笠さん達にだね」
「いい娘か」
「聞いておくね」
「そして僕にお話してね」
「約束するよ」
「それじゃあね、それでね」
 鱒二は一呼吸置いてでした、先生に言いました。
「日笠さんだけれど」
「今回も何かとよくしてもらっているよ」
「どう思ってるかな、先生は」
「いい人だね」
 先生は笑顔で答えました。
「とても」
「それだけ?」
「それだけっていうと」
「だからそれだけ?」
 先生を見て尋ねます。
「先生は」
「どういうことかな」
「ううん、こうしたことは全く駄目と聞いたけれど」 
 鱒二はお水の中で困ったお顔になって言いました。
「これはね」
「どうしたのかな」
「どうしたもこうしたもじゃないよ」
 それこそというのでした。
「先生本当に駄目だね」
「ええと、何が駄目なのかな」
「それがわからないことが駄目なんだよ」
 戸惑う先生に言いました。
「僕でもわかるのに」
「そうなんだね」
「そうだよ、僕も日本の生きものだから言うけれど」
「何をかな」
「先生和歌とか古典読んでるよね」
「日本のだね」
「それもかなりね」
 鱒二は先生が大変な勉強家であることも聞いています、兎角学問のことなら万能と言っていい位だとです。
「源氏物語とか伊勢物語も読んだね」
「原文でね」
「外国の人でそれは凄いよ」
 このことは手放しで賞賛しました。 

 

第五幕その七

「古典の文章は難しいのに」
「源氏物語は英訳の方がすらすら読めるみたいだね」
「今の日本人でもね」
「ちなみに僕はラテン語訳を読んだことがあるよ」
 源氏物語のというのです。
「そうもしたよ」
「そっちの方が簡単だね」
「実はね」
「それ凄いよ、ただね」 
 それでもとです、また一呼吸置いてお話しました。
「先生古典での恋愛は」
「素晴らしいよ、日本の古典で書かれている恋愛はね」
 先生は目を輝かせて答えました。
「あの時代に現代にも負けていない素晴らしい心理描写といいね」
「よく読んでるね」
「自然描写もいいしね、繊細でかつ時として大胆で」
「いいんだね」
「そう思うよ」
 心から言います。
「僕は大好きだよ」
「うん、それはいいことだよ」
「褒めてくれて何よりだよ」
「けれどご自身はどうかな」
「この外見でスポーツは全く駄目なんだよ」
 だからだというのです。
「風流とか優雅とかね」
「そうしたものは無縁なんだ」
「僕は源氏の君でも和歌の作者さん達でもないよ」
「百人一首とか和歌集のかな」
「和歌も好きで詠ませてもらってるけれど」
 それでもというのです。
「あんな風にはだよ」
「出来ないんだね」
「だからね」
 それでというのです。
「僕はね」
「もてないんだね」
「産まれてから女性に縁がないし」 
 鱒二にもこう言うのでした。
「それに誰かとお付き合いしたり結婚しなくても」
「いいんだ」
「皆がいてくれて」
 動物の皆をにこりとして見て鱒二にお話します。
「トミーがいて王子がいて」
「お友達がだね」
「今は安定したお仕事にいいお家に日本という素晴らしい国に住んでいるから」
「不満はないんだ」
「ないよ」
 全くという口調での言葉でした。
「それこそね」
「だから恋愛はなんだ」
「これ以上幸せな状況はないからね」  
 だからだというのです。
「僕は恋愛や結婚はなくてもいいよ」
「無欲だね」
「そうかな」
「そうだよ、本当に」 
 こう先生に言うのでした。
「呆れる位にね」
「無欲もいいことだね」
「いいことでも先生はもっと欲を出してもだよ」
 そうしてもというのです。
「いいよ」
「恋愛や結婚にかな」
「そうしたらどうかな」
「こんなにもてないのに?」 
 やっぱりこう言う先生でした。
「本当に僕は産まれてからだよ」
「女の人にもてないんだね」
「女の人のお友達は沢山いてくれているけれど」
 子供の頃からというのです。 

 

第五幕その八

「けれどね」
「先生はなんだ」
「全くもてないから」
 それでというのです。
「求めないよ」
「そう思ってるんだ」
「そうだよ、僕はもてないよ」
 全くと言う先生でした。
「だから恋愛や結婚はないよ」
「無縁だね」
「それこそね」
「やれやれだよ、先生はもっと自信を持っていいよ」
「恋愛のことに?」
「もてると思うよ」
「それはないよ」
 やっぱりこう言います。
「僕はね」
「そう思い込んでいるだけだよ」
 鱒二はわかっていて言います、そしてです。
 鱒二は先生にこう言いました。
「先が思いやられるけれどちょっとは周りを見てね」
「周りをなんだ」
「そうしたら気付くかもね」
 先生もというのです、こうお話をしてです。 
 先生はオオサンショウウオのコーナーを隅から隅まで見てとても奇麗なことに笑顔になってでした。
 日笠さんにこのことをお話します、その後で。
 日笠さんは先生に必死のお顔で言ってきました。
「あの、お昼ですが」
「はい、そちらですね」
「予定はありますか?」
「大学の食堂でと考えています」
「それならです」
 日笠さんは先生に申し出ました。
「お弁当を用意してきたので」
「お弁当ですか」
「はい、サンドイッチです」
 こちらのお料理だというのです。
「作ってきましたので」
「ご一緒していいですか」
「お願いします」
 必死のお顔で言うのでした。
「飲みものは紅茶です」
「いいですね、では」
「はい、こちらに」
 動物園の中のベンチに座ってでした。
 そうして一緒に食べます、先生よりも日笠さんの方が嬉しそうでした。サンドイッチは色々な種類があって量もかなりでした。
 それで先生も満足しました、ですが。
 その後で、です。先生は研究所に戻って文献を読みますが皆はその先生に言ってきました。
「ここで何もなし」
「いつも通りね」
「日笠さんだけが必死で」
「当の先生はこの通り」
「困ったことよ」
「何が困ったことかわからないけれど」
 それでもと言う先生でした。
「日笠さんのお料理はいつもながら見事だね」
「だからね、先生」
 ダブダブも今回ばかりはやれやれとなっています。
「そこで終わりって何なの?」
「お弁当一緒に食べて何も思わないの?」
 ガブガブも言います。
「本当に」
「何でそこでいつも終わりなのかな」
 チーチーも呆れ貌です。
「本当にね」
「源氏の君じゃななくてもね」
 トートーは先程の鱒二とのお話から言います。
「もっとそちらの方も自覚したら?」
「ここまでわからない人って他にないというか」
「このこと限定で思い込み過ぎよ」
 チープサイドの家族も言います。 

 

第五幕その九

「先生ときたら」
「他のことでは客観的で思い込みもないのに」
「人間誰でも不得意なものはあるけれど」 
 それでもと言うホワイティでした。
「先生は極端だよ」
「自分は恋愛対象とは考えないのよね」
 ポリネシアの言葉も呆れたものでした。
「昔から」
「僕達と巡り合う前かららしいね」
 ジップは先生の若き日そして少年時代のことを思いました。
「サラさんが言ってたけれど」
「ずっともてないと思い込んでいて」
 老馬も聞いていることです。
「恋愛経験はないんだよね」
「その考えあらためて欲しいよ」
「少しでもね」
 素子ツオサレツの言葉は切実なものでした。
「そうなってくれたら」
「僕達も安心出来るのに」
「いや、僕と恋愛程無縁なものはないから」 
 全くと言うのでした。
「だからね」
「それでなんだ」
「それで終わりなんだ」
「全く何もしない」
「気付きもしないで」
「よく言われるけれど何もないよ」
 本当にと言う先生でした。
「僕と恋愛はね、そして日笠さんはね」
「お友達で」
「それでだね」
「何もなし」
「そうだね」
「サンドイッチのお礼はまたしないとね」 
 お友達として、というのです。
「そうするよ」
「成程ね」
「色々わかったよ」
「僕達これからも骨が折れるよ」
「何かとね」
 皆呆れて言います、そしてでした。
 そのお話の中で、でした。皆は窓の外を見て言いました。
「それはそうと暑いね」
「今日もね」
「日差しも強いし」
「まさに日本の夏だね」
「そうだね、日本の夏は厄介だけれど」
 その暑さと湿気がというのです。
「風情はあるよね」
「そうだよね」
「その風情がいいよね」
「日本の夏はね」
「絵になるよね」
「だから和歌にも詠われているし」
 昔からというのです。
「日本人は夏は夏でね」
「楽しんでいるね」
「そうしているわね」
「ずっとね」
「暑いけれど」
「そうだね、お祭りでは花火もあるし」
 これが打ち上げられてというのです。
「夏の食べものもあるし」
「お素麺に西瓜に」
「夏の食べものも美味しいよ」
「冷えたビールも素敵だし」
「麦茶もいいよ」
「日本は夏もいいよ」
 暑さがかなりのものでもというのです。 

 

第五幕その十

「本当にね」
「ここから向日葵が見えるけれど」
「向日葵もいいよね」
「お日様みたいで」
「見ているだけで嬉しくなるよ」
「そうだね、向日葵もいいよね」 
 先生も窓からキャンバスの中にあるそのお花を見ます、眩い日差しを受けてもう一つのお日様みたいにそこにあります。
「日本の夏は」
「沢山のお花があってね」
「どのお花も絵になってる国だけれど」
「日本は向日葵も合うね」
「日本の夏に」
「そうだね、だからね」
 それでというのです。
「今こうして観て」
「いいと思うね」
「詩的だよね」
「ここから見る向日葵も」
「そう思うよ」
 先生は文献を手にしつつ言いました。
「全く以てね」
「そうだよね」
「それじゃあね」
「今は向日葵も観て」
「そうして楽しもう」
「そうしようね」 
 先生は向日葵も観ました、そしてです。
 また文献を読みますが皆はその先生に麦茶を出しました。
「水分補給もしっかりね」
「塩分は塩飴あるから」
「どちらも忘れないでね」
「夏だからね」
「そうだね、暑いとね」
 どうしてもというのです。
「汗を流して」
「身体の中の水分が出るから」
「塩分もね」
「だからちゃんと水分摂って」
「塩分もね」
「両方を摂ってだよ」
 そうしてというのです。
「しっかりやっていかないとね」
「だからスポーツドリンクいいんだよね」
「あれを夏に飲む」
「それがいいのよね」
「そうだよ、あと経口補給水もいいよ」
 こちらもというのです。
「あれもね」
「そう言われているけれど」
「その通りだね」
「夏は特にああしたものを飲む」
「それがいいのね」
「そうだよ、あと飲むと身体が冷えるね」
 先生は皆が煎れてくれた麦茶を飲みつつ言いました。
「そうなるね」
「それで体温を調節する」
「その効果もあるね」
「あまりにも熱くなってるとよくないからね」
「体温も」
「それを適度に冷やしてくれるね」
「だからいいんだ」
 水分を摂取することはというのです。
「こちらもね」
「そうだよね」
「それもいいよね」
「だから夏は沢山水分を摂取する」
「そうしたらいいね」
「そうだよ、もっとも僕は冬でもよく飲むね」
 先生は笑ってお話しました。 

 

第五幕その十一

「水分は」
「いつもお茶飲んでるからね」
「特に紅茶を」
「ミルクティー冬でも一日十杯は飲んでるよね」
「お家でも大学でも」
「朝から飲んで」
 起きてすぐにです。
「寝るまでね」
「そうしているね」
「先生はミルクティー大好きだから」
「他のお茶も好きだけれど」
「ミルクティーが一番好きでね」
「それでよく飲んでいるからね」
 だからだというのです。
「冬でもね」
「それだけ飲んでるね」
「十杯は普通に」
「そうしているわね」
「だから水分はね」
 こちらのことはというのです。
「冬でもだよ」
「かなりだね」
「もう水分は充分」
「そう言っていいかもね」
「そう思うよ、ミルクティーを飲んだら」
 大好きなそれをというのです。
「学問だってね」
「はかどるね」
「それも凄く」
「毎日ね」
「そうだよ、ミルクティーはとてもいいよ」
 今は麦茶を飲んでいますがこちらのお茶がというのです。
「アイスでもね」
「イギリスじゃアイスないけれどね」
「ミルクティーでも」
「けれど日本ではあって」
「普通に飲んでいるわ」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「ペットボトルでもあるね」
「あれがまた美味しいよね」
「凄く甘くて」
「ストレートティーやレモンティーもあるけれど」
「先生はやっぱりミルクティーだね」
「第一は」
「そうだよ、しかし同じメーカーが出している紅茶なのに」
 先生はここでは首を傾げさせて思いました。
「三つが三つで別ものに思えるよ」
「同じ紅茶なのにね」
「そうである筈なのに」
「それがどうしてか」
「別の飲みものみたいだね」
「味が全然違ってね」
 その為にというのです。
「見たら原材料が違うしね」
「造られているね」
「それが違うね」
「本当にね」
「全く違ってるね」
「だからね」 
 同じメーカーの紅茶でもというのです。
「味も違うよ」
「それぞれ美味しいけれどね」
「それは事実でも」
「全く別の飲みものかって思う位に」
「違うね」
「そうだよ、本来はね」
 先生はここではお家や喫茶店で飲む紅茶のお話をしました。
「基本はストレートティーで」
「そこにミルクを入れたらミルクティー」
「レモンのお汁だとレモンティー」
「そうなるわね」
「ブランデーの場合もあるけれど」
「あと生クリームを沢山入れたらね」
 ストレートティーにです。 

 

第五幕その十二

「ウィンナーティーになるね」
「そうそう」
「基本はストレートティー」
「それだよ」
「そこからなのよ」
「そうなるけれど」
 それでもというのです。
「ペットボトルだとね」
「ミルクティーもレモンティーもね」
「元がストレートティーって感じしないね」
「やっぱり最初からそれぞれで造られているよ」
「そんな感じよ」
「そうだね、しかしどれも美味しいから」
 ペットボトルの紅茶達もです。
「飲みたくなるね」
「特にミルクティー」
「そちらよね」
「先生としては」
「そうなるよ」 
 笑顔で言うのでした。
「僕はね。だからまたね」
「うん、ミルクティー煎れるね」
「そうするわね」
「そちらをね」
「今度はホットで頼むね」
 塩飴をお口の中に入れつつお願いしました。
「宜しくね」
「そうするね」
「じゃあまた飲んでね」
「三時にはティータイムもあるし」
「その時もね」
「飲もうね、紅茶があると」
 大好きなそれがです。
「もうそれでね」
「先生はだよね」
「幸せだよね」
「それだけで」
「そうだていうのよね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「幸せは些細なものだよ」
「ちょっとしたことで満足出来る」
「満足しようと思えば」
「そうだね」
「幸せよね」
「だから満足出来たらね」
 些細なことでもというのです。
「それでだよ」
「いいね」
「勝ちだよね」
「それだけで」
「そうだよ」
 こう言うのでした。
「人生自体もね」
「満足したらだよね」
「それで勝ちだよね」
「そうなったら」
「これはもう環境とかじゃないんだ」
 自分の置かれたです。
「お金がなくても地位がなくても」
「それでもだよね」
「自分が満足していたら」
「それならだね」
「それで勝ちだよ、勝ち組負け組なんて言葉もあったけれど」
 日本にはです。
「これはお金や地位のことじゃないんだ」
「自分がどう思っているか」
「それ次第だね」
「例え身を立てても満足していないなら」
「負けているってことだね」
「そうなるよ、例えば野心がある人がね」
 そうした人がというのです。
「日本やイギリスだと総理大臣になれない」
「そうなるとだね」
「満足していなくて」
「負けてるね」
「そういうことだよ、それは人それぞれで」
 満足しているかどうかはです。
「満足していたらね」
「それでよし」
「勝っている」
「そして幸せだね」
「そう、僕はとても幸せだよ」
 皆に笑顔で言いました。
「これ以上求めるものはないよ」
「ううん、満足していて幸せなのはよくても」
「それでもね」
「そこで終わるのがね」
「先生は駄目よ」
「もっと頑張って欲しいよ」
 皆は残念そうに言います、ですがそれでもです。
 先生の傍にいます、そうしたところもありますがとても穏やかで優しい先生が大好きだからそうするのです。 

 

第六幕その一

               第六幕  長生きする生きもの
 トミーはお家に帰った先生に尋ねました。
「オオサンショウウオのことはどうですか?」
「論文は順調でね」
「動物園の方もですか」
「そちらはこれから次第だね」
 先生はスーツから作務衣に着替えています、その服装で座布団の上に座ってくつろぎながらトミーに答えます。
「本当に」
「そうですか」
「奥さんがどんな娘か」
「つがいになるからですね」
「いい娘とは聞いてるけれど」
 それでもというのです。
「実際にどうかはね」
「会ってからですね」
「わかることだから」
 それでというのです。
「これから次第だよ」
「そうですか」
「そのことはね。ただ心配はしていないよ」
「悪い娘じゃないんですね」
「オオサンショウウオはのどかな気質だからね」
 生きものとしての性格はというのです。
「平和でずっとそこにいる様な」
「大人しい生きものですね」
「だからね」
 それでというのです。
「僕としてはね」
「心配していないんですね」
「これから次第でもね」
 それでもというのです。
「そうはなっていないよ」
「じゃあ安心していますね」
「やるべきことは動物園の人達が全てしてくれているし」
 雌のオオサンショウウオを迎えて夫婦にすることはというのです。
「そのことでもだよ」
「心配はいらないですか」
「動物園の人達はよくしてくれているよ」
 オオサンショウウオのこともというのです。
「そつがないよ」
「あの動物園はその琴でも有名ですね」
「いいお仕事をすることでもね」
「それぞれの生きもののことをよくわかって」
「そしてね」
 先生はトミーが出してくれた麦茶を飲みつつ答えました。
「公平かつ的確にね」
「飼育をしていますね」
「ご飯はちゃんとあげて」
「お掃除もしてますし」
「清潔な環境も保って診察もね」
 定期的なそちらもというのです。
「忘れていないから」
「いい動物園ですね」
「そう思うよ、日本の動物園は」 
「全体的にいいですね」
「それで八条動物園もだよ」
 学園の敷地内にあるこの動物園もというのです。
「広くて様々な生きものがいるだけでなくて」
「飼育環境もいいですね」
「だからね」
「オオサンショウウオもですね」
「ちゃんと飼育してくれていて」
「奥さんを迎える準備もですね」
「整えてくれているよ」
 そうなっているというのです。
「だからね」
「先生が言われることはですね」
「特にないよ」
 そうだというのです。
「これといってね」
「じゃあそちらのことも」
「大丈夫だよ」
「それはいいですね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「どうもオオサンショウウオを迎える時にね」 
 まさにその時にというのです。 

 

第六幕その二

「動物園に入れるか水族館に入れるかで議論があったそうだよ」
「あっ、それあるね」
「お水の生きものだとね」
「どうしてもあるよね」
「そうだよね」
 動物の皆もそれはと言います。
「陸や空の生きものは動物園だけれど」
「それでお魚や蛸や烏賊は水族館だけれど」
「お水にいる哺乳類や両生類はどちらにもいるね」
「イルカやアシカやペンギンとかも」
「そうだね、そこの区分が難しいんだ」
 どうしてもとです、先生は皆にお話しました。
「どうもね」
「そうだよね」
「お水の生きものは」
「ここの動物園と水族館でも」
「そうなっているね」
「ラッコやイルカは水族館にいるね」
 先生は皆にお話しました。
「けれど亀やアシカは両方にいるね」
「アザラシは水族館で」
「鰐は動物園だしね」
「それでペンギンは両方にいるね」
「アシカだって」
「それでオオサンショウウオについてもなんだ」
 今回先生が論文を書いて動物園に協力している生きものもというのです。
「どうしてもね」
「議論があったんだ」
「動物園で飼育するか水族館でそうするか」
「どっちにするかだね」
「それで議論になったんだ」
「飼育する時に」
「そう聞いているよ」
 実際にというのです。
「これがね」
「そうなんだね」
「その辺りの区分確かに難しいね」
「本当にね」
「お水の生きものは」
「そうなんだ、マシテオオサンショウウオは天然記念物だから」
 そうした生きものだからだというのです。
「尚更だったんだよ」
「数が少ないとね」
 ジップはしみじみと言いました。
「絶滅も心配されるし」
「尚更大事にしないといけないからね」  
 ダブダブも言います。
「その辺りも問題になるね」
「どちらで飼育した方がいいか」
 ホワイティの口調もしみじみとしたものです。
「そこが問題だね」
「本当にね」
 老馬はホワイティの言葉に頷きました。
「動物園か水族館か」
「何かハムレットだね」
「こうした時もね」 
 オシツオサレツはこう思いました。
「どちらにするか」
「それが問題だっていうのはそれだね」
「何ていうかね」
 チーチーも考えつつ言います。
「そうした生きものはかえって考えるね」
「ペンギンさん達は本当にどっちもいてね」
 ガブガブは彼等のお話をしました。
「人気があるけれどね」
「オオサンショウウオさんになると」
 トートーは言いました。
「天然記念物ってところも大きいね」
「この大学の敷地でも一匹しかいないし」
 ポリネシアは数自体のお話をしました。
「それでどうかだよね」
「それで動物園になったんだね」
「オオサンショウウオさんを飼育するのは」
 チープサイドの家族もお話します。 

 

第六幕その三

「色々議論があったのでしょうね」
「想像に難くないね」
「うん、かなりの議論になってね」
 先生は実際にと答えました。
「その結果だよ」
「動物園になったのね」
「あそこで飼育されることになったんだ」
「そうだね」
「遂に」
「そうだよ、そしてね」
 それでというのです。
「実は水族館も協力しているんだ」
「飼育先は動物園になっても」
「それでもなのね」
「オオサンショウウオさんの飼育については」
「水族館も協力しているんだ」
「何しろ天然記念物だからね」
 稀少な種類の生きものだからだというのです。
「それでだよ」
「だからだね」
「水族館も協力しているのね」
「あちらも」
「大学の生物学も」  
 こちらもというのです。
「あと獣医さんは農学部だね」
「そうそう」
「日本だとね」
「じゃあ農学部も協力してるのね」
「オオサンショウウオさんの飼育には」
「そうなんだ」
 こう言うのでした。
「これは飼育している他の稀少な生きもの達もだよ」
「コアラとかパンダとか」
「スナメリにしろだね」
「この学園稀少な生きものもかなりいるね」
「そうした生きものも」
「そうだよ、そしてね」
 それでと言うのです。
「その生きもの達はね」
「皆だよね」
「学園全体で飼育して」
「協力し合って」
「それでなのね」
「保護もしているんだ、ヒヤンやハイだってそうだし」
 先生が動物園に連れてきたこの生きもの達もです。
「ツシマヤマネコもアマミノクロウサギもヤンバルクイナも」
「あとイリオモテヤマネコさんも」
「そちらもだね」
「全部だね」
「学園全体で大事にしてるのね」
「ニホンオオカミもいるけれど」
 この生きものもというのです、先生が出会った。
「皆だよ」
「ううん、多いね」
「この学園で保護されている稀少種は」
「そうした種類は全部学園の関係する人達がだね」
「皆で保護しているのね」
「そうだよ、ちなみにこの学園にはチョウセントラもいるけれど」
 虎のお話もしました。
「どうもあの半島ではね」
「野生のものは絶滅したらしいですね」
 トミーが言ってきました。
「どうやら」
「南の方ではいなくてね」
「北でもですね」
「どうもね」
「いないですか」
「もう飼育されている個体だけみたいだね」
 チョウセントラはというのです。
「野生のものはね」
「いなくなりましたか」
「アムールトラはまだいるらしいけれど」
 こちらの虎はというのです。
「野生のものもね」
「あちらはですね」
「虎や豹は分布が広くてね」
「熱帯にいますが」
「それと共に温帯にもいてね」
 そうしてというのです。 

 

第六幕その四

「冷帯にもだけれど」
「だからシベリアの方にもいますね」
「そうだけれど」
 それでもというのです。
「チョウセントラはね」
「野生のものは」
「もう絶滅して」
 そしてというのです。
「いないみたいだね」
「残念なことですね」
「虎は人を襲うから」
 その為にというのです。
「狩られてね」
「危険ですから」
「そうしたけれど」
「それが野生のものを絶滅させましたね」
「それにチョウセントラは基本山にいたけれど」
 その生息環境のお話もします。
「あちらは山の木は伐採して」
「そのままでしたね」
「植林をしなくて」
「禿山が多かったですね」
「だから日本も統治した時は」
 二十世紀初期から終戦までの頃のことです。
「まず植林からしたよ」
「そこまで木がなかったですね」
「さもないと土砂崩れも起きるから」
 山に木がないとです。
「雨が降っても木が雨水を吸ってくれて」
「その流れを止めてくれますね」
「そうしてくれるけれど」
 それでもというのです。
「それがないとね」
「土砂崩れが起きますね」
「災害のもとだし木があるとね」
「色々なことに使えますね」
「だから日本もまずは植林からだよ」
「統治を行いましたね」
「そうしたよ、けれど」
 それでもというのです。
「ずっと禿山だらけで」
「虎が暮らせる環境ではなかったですね」
「他の生きもの達もね」
 野生のです。
「そこで虎の数も減っていて」
「そこで狩られもして」
「余計に少なくなって」
「野生のものはですね」
「日本の統治が終わっても狩られたりしたし環境は尚更ね」
 半島の自然のというのです。
「悪化して」
「絶滅しましたか」
「そうみたいだよ、だから飼育されている虎はね」
 そのチョウセントラ達はというのです。
「大事にしないとね」
「駄目ですね」
「そうだよ」
「南はいなくて」
「北はもっといないかもね」
 こちらはというのです。
「おそらくだけれど」
「あちらは鎖国していて」
「情報が出て来ないけれど」
 それでもというのです。
「あそこはもう政治があまりにも酷くて」
「無茶苦茶ですしね」
「それで食べものもね」
 これもというのです。
「ないね」
「そのことは知れ渡っていますね」
「情報が出て来なくても」
 北からというのです。
「どうもね」
「世界的に有名ですね」
「国民の人達の殆どがいつも餓えているよ」
「それこそ何でも食べる」
「そんな環境だと」
 それこそというのです。 

 

第六幕その五

「野生の生きものも全部食べて」
「そして虎も」
「そうなってると思うから」
「北の方もですか」
「いないだろうね」
 野生のチョウセントラはというのです。
「あくまで僕の憶測だけれど」
「そうですか」
「だから動物園にいる皆はね」
「大事にすることですね」
「そして数を増やして」
 先生はさらに言いました。
「少しずつでも自然に帰すことが出来たらね」
「いいですね」
「そう思うよ」
 こうトミーに言いました。
「僕としてはね」
「そうなんですね」
「あとチョウセントラは阪神の虎だよ」
 先生はこのお話もしました。
「実はね」
「あっ、そうなんだ」
「あの虎チョウセントラだったんだ」
「僕達虎としか思ってなかったけれど」
「チョウセントラだったんだ」
「そうだったのね」
「当時あちらは日本だったからね」 
 日本の領土だったからだというのです。
「あの頃の阪神のフロントの偉い人が強い存在をチームのシンボルにしようと考えていてそこでだったんだ」
「虎って強いからね」
「文句なしに」
「しかも恰好いい」
「スポーツチームのシンボルには最適だよ」
「だからね」
 その為にというのです。
「虎にしたけれど」
「当時あちらは日本で」
「丁度チョウセントラがいたから」
「それでだね」
「阪神のシンボルは虎になって」
「チョウセントラがそれなんだ」
「そうだよ、こrげあ阪神タイガースの由来なんだ」
 このチームのというのです。
「あのチームはその時から虎なんだよ」
「そしてその虎はチョウセントラ」
「成程ね」
「阪神の歴史の曙だね」
「まさに」
「あんな絵になるチームはないけれど」
 例え何があってもです。
「そのシンボルの虎も覚えておこうね」
「そしてその虎がこの動物園にもいる」
「成程ね」
「そのこと面白いね」
「とてもね」
「全くだよ、しかし本当に稀少な生きものは」
 何と言ってもというのです。
「大切にしないとね」
「全くだね」
「学園全体でも」
「そうしていこうってね」
 その様にというのです。
「最初にこの学園を創設した初代理事長差も言われたそうだよ」
「その頃の八条家の総帥さんだよね」
「明治維新で名を挙げた」
「元々公卿の家の人で」
「それで起業して」
「渋沢栄一さんと並ぶ日本財界の巨人になった人だね」
「その人はただ八条グループの前身八条財閥だけでなくてね」
 この財閥を起こしただけでなくというのです。 

 

第六幕その六

「教育、学問にも熱心でね」
「この学園を創設されて」
「そこに動物園等ももうけて」
「その時にだね」
「そう言われたんだね」
「そうなんだ、稀少な生きものはね」
 是非にというのです。
「学園全体でだよ」
「その力を合わせて」
「そうしてよね」
「飼育して保護する」
「研究も行って」
「そう言われて今もね」
 この時代もというのです。
「それを続けているんだ」
「成程ね」
「そうなんだね」
「それでそうしているのね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「ずっとね」
「いいことだね」
「飼育員の人達も頑張ってるけれど」
「一つの生きものの保護って凄く大事だし」
「時としてとんでもなく大変だから」
「学園全体でそれにあたる」
「それはいいことだね」
 先生は皆に言いました。
「学園全体で責任を以て行うことはね」
「全くだね」
「そうしてヒヤンさんやニホンオオカミさん達も保護してるし」
「コアラさんやパンダさんもだし」
「凄くいいことだよ」
「どんな生きものも命があるから」
 だからだというのです。
「それを忘れたらいけないよ」
「全くだね」
「だから守っていくね」
「この学園全体で」
「保護している生きもの達を」
「そうしているよ、そういえばね」
 ここで先生はこうも言いました。
「オオサンショウウオは日本の川にいるけれど」
「奇麗な川にね」
「標高の高い清流に」
「それは僕達も知ってるよ」
「先生と一緒に勉強したわ」
「昔は獺もいたね」
 この生きもののお話もするのでした。
「愛媛県に行った時にお話したね」
「そうそう、日本に移住してきたね」
「あの獺さん達ね」
「どんどん日本に広まっていってるわね」
「また日本に獺がいる様になったけれど」
 何か、でした。
 先生は言いたげでした、皆もそのことに気付いて先生に尋ねました。
「あれっ、何かあるの先生」
「そんな感じだけれど」
「よかったら教えて」
「そうしてくれるかしら」
「日本で獺は一旦絶滅したと言われているね」
 先生は皆に微笑んでお話しました。
「そうだね」
「残念なことにね」
「乱獲と開発のせいでね」
「数が減って棲み処もなくなって」
「そうなったんだよね」
「それが最近発見されているんだ」
 日本に元からいた獺達がというのです。
「これがね」
「えっ、そうなんだ」
「確かニホンカワウソさんだよね」
「あの獺さんがまだいたんだ」
「絶滅したんじゃって言われていたのに」
「そうみたいだよ、若しいるのなら」
 今もというのです。 

 

第六幕その七

「是非だよ」
「保護したり環境を守って」
「そうしてだよね」
「数を増やしていって」
「大事にしていくべきよ」
「そうだね、僕は彼等がいてくれたら」
 ニホンカワウソ達がというのです。
「とても嬉しいよ、そして本当にね」
「保護して数を増やして」
「かつての様に一杯いる様にする」
「そうすべきだね」
「本当に」
「そうしないとね」
 笑顔で言うのでした、そしてです。
 お風呂に入って晩ご飯にご飯と豚肉を細かく切って大蒜の芽と炒めたものに生麩のお吸いものにトマトを切ったものにゴーヤのおひたしを食べてでした。
 冷奴で梅酒をロックで飲みつつ先生はこんなことを言いました。
「日本でもまだ発見されていない生きものがいるからね」
「まだなんだ」
「そうなんだ」
「探検され尽していると思ったら」
「新種の生きものが発見されているんだ」
「そうだよ、山でも海でもね」 
 どちらでもというのです。
「そもそもタキタロウだってそうだね」
「そうだね」
「いることは間違いないけれど」
「はっきりいるとは断定されていないね」
「まだね」
「そうだね、まだ完全にはわかっていないんだ」
 日本でもというのです。
「その生態系はね」
「だから新種の生きものが発見されるんだね」
「今も」
「まだ完全にわかっていないんだ」
「日本でも」
「人間の知識なんて常にそうだしね」
 トミーが鰹節と細かく刻んだお葱それにおろし生姜を上に乗せてくれた冷奴にお醤油をかけてです。
 先生は食べながら皆にこうも言いました、お豆腐をとても美味しいと思いつつ。
「何でも知っている様でね」
「実は違っていて」
「然程知らない」
「そんなものだよね」
「人間の知識なんて」
「そうだよ、だから日本でもね」 
 よく日本人が狭いと言うこの国でもというのです。
「まだまだね」
「完全にわかっていなくて」
「新種の生きものが発見されるんだ」
「そうなっているんだね」
「そして絶滅したと思っても」
 それでもというのです。
「まだいたりするしね」
「ニホンオオカミさんもそうで」
「それで獺さん達もだね」
「まだいるかも知れない」
「そうなのね」
「そうだよ、あと未確認動物も」 
 こう呼ばれる生きもの達もというのです。
「沢山いるかもね」
「そもそも日本って山国だからね」
 チーチーは腕を組んで言いました。
「人が入らない自然の場所が幾らでもあるね」
「多くの都道府県で街をちょっと出たら山だしね」
 ホワイティはチーチーの言葉に続きました。
「そこに沢山の生きもの達がいるし」
「もう山々が連なってる場所なんかね」
「どんな生きものがいるかわからないわ」
 チープサイドの家族も言います。 

 

第六幕その八

「それこそね」
「昆虫とか小さな生きものだと特にね」
「海だってちょっと深いところに入ったら」
 どうかとです、ガブガブは言いました。
「まだ未発見の生きものがいても不思議じゃないわね」
「元々数が少ない生きものだっているしね」
 ジップはガブガブの言葉に頷きました。
「本当に山や深海なんてわからないよ」
「というか日本欧州の各国と比べたら国土広いから」 
 ダブダブはこの現実を指摘しました。
「世界的にも領土広い方だしね」
「それでそこの七割を占める山と周りを囲んでいる海なんて」
 トートーは冷静に言いました。
「まだまだわかっていなくて当然だよ」
「しかも日本って街や村に人がうんと集まるから」
「山の中にあまり人はいないし」
 オシツオサレツも言います。
「海も深いところまではね」
「そうそう行けないから」
「まだまだ調査するところはあるね」
 老馬も言います。
「生物学としても」
「まだ全くわかっていない」
 ポリネシアは言いました。
「むしろこう思うべきかしらね」
「そうだよ、まだ何もわかっていないってね」
 先生は梅酒を飲んで皆に答えました。
「思うべきだよ」
「本当にそうだね」
「まだまだこれからだよ」
「日本の生きものの調査は」
「そう思って」
「それでやっていくべきだね」
「発見されても殆どわかっていない生きものもいるしね」
 そうした生きものもというのです。
「オオサンショウウオだって結構そうだし海だとリュウグウノツカイなんてね」
「そのお魚のこと全然わかってないよね」
「先生もそのお魚とお話したことないよね」
「だから全くわかっていない」
「ほとんど何も」
「こうした生きものもいるのに」
 それなのにというのです。
「何でもわかっているかというと」
「とても言えないよね」
「本当に」
「そんな大それたことはね」
「とてもね」
「それが現実だよ」
 先生はこう言うのでした、そしてです。
 ふとです、先生は冷奴を食べ終えたその時にトミーが出したカップ焼きそばを見てまたにこりとなりました、もうちゃんと作られています。
「これもいいよね」
「先生あまりインスタント召し上がられないですが」
「冷凍食品もね、けれどね」
「お嫌いではないですが」
「結構好きだよ」
 こうトミーに答えました。
「そうしたものもね」
「そうなんですね」
「インスタントラーメンもね」
「お好きですか」
「これは偉大な発明だよ」
 梅酒をまた飲んで、でした。
 冷奴の次に焼きそばを一口食べてまた言いました。
「本当にね」
「保存食でもありますしね」
「いざという時あったら困らないね」
「それで一食にもなりますし」
「だからね」
 それでというのです。 

 

第六幕その九

「インスタントラーメン、カップのものもね」
「偉大ですか」
「これで沢山の人が救われているしね」
「いざという時に食べるものがあって」
「それでね」
 まさにその為にというのです。
「だから偉大な発明だと言うんだ」
「先生もですね」
「そうだよ、食べてもね」
「美味しいですね」
「こうしたインスタント食品や冷凍食品に」
 先生は焼きそばを一口食べてです、そうしてから梅酒を飲んでまた言いました。紙パックの二リットルのそれをどんどん飲んでいます。
「お店のパンとかがあるね」
「そうしたものはですね」
「馬鹿に出来ないよ、昔何それを買ってはいけないとか」
「そうしたことをですか」
「色々な商品に言っていて」
 それでというのです。
「そこにそうしたパンとかも槍玉に挙げていたけれど」
「それはですね」
「非科学的でね」
 そうであってというのです。
「間違っているよ」
「食べ過ぎるとよくないですが」
「栄養が偏るしね」
「それでもですね」
「そうした本に挙げられている商品はどれもね」
「飲み過ぎたり食べ過ぎたりしないと大丈夫ですね」
「それで使用してもね」
 そうした商品もというのです。
「よかったんだ」
「そうなんですね」
「その本を出している人達と掲載していた雑誌が資本主義そして企業が嫌いで」
 そうした考えでというのです。
「そんなことを言ってたんだ」
「そうした事情があったんですか」
「だからね」
 それでというのです。
「こうした本は鵜呑みしたらね」
「危険ですね」
「とてもね、あくまで程度で」
 その問題であってというのです。
「インスタント食品や冷凍食品もだよ」
「あっていいんですね」
「功績はかなり大きいよ」
「だから先生もですね」
「否定しないでね」
 それでというのです。
「出してもらったらね」
「召し上がられるんですね」
「こうしてね」
 焼きそば、普通のものの二倍で片方はソースもう一方は激辛になっているそれを食べつつそうしてトミーにお話します。
「僕もね」
「そういえば先生がよく批判している料理漫画そうした食べもの出ないよ」
「それも全くね」
「あのお店の中で暴れる新聞記者が主人公の漫画」
「お父さんは陶芸家で」
「電子レンジも批判していたし」
「あの漫画はそのかってはいけないとか言う人達と同じだよ」
 先生は皆に答えました。
「とても非科学的で反文明的でね」
「極端な自然志向で」
「それでおかしな健康主義で」
「そんな考えだから」
「そうしたものを否定するんだね」
「日本の一部にはそうした反文明的で非科学的な人達がいて」
 そうしてというのです。 

 

第六幕その十

「何かと騒いでいるんだよ」
「困ったことだね」
「イギリスにもそんな人いるけれど」
「日本にもいるんだね」
「そんな困った人達は」
「そして他のことでもあれこれ騒いでいるけれど」
 それでもというのです。
「食べるものも文明でありね」
「科学だよね」
「そうしたものであって」
「インスタント食品もあっていい」
「冷凍食品もなのね」
「そうだよ、そしてね」
 先生はまた梅酒を飲みます、梅酒は自分で入れてお話をします。
「時々食べる位ならいいんだよ」
「そうだよね」
「こうして食べればいいね」
「先生みたいに」
「そうだよね」
「インスタント食品や冷凍食品ばかり食べる食生活は駄目でも」
 それでもというのです。
「時々ならだよ」
「そうだね」
「それじゃあね」
「今は楽しんで食べましょう」
「そうしていこう」
「こうしてね、しかし本当に美味しいね」
 先生は焼きそばについてこうも言いました。
「カップ焼きそばも」
「日本はインスタントラーメンも凄いけれど」
「物凄い発展を遂げているけれど」
「カップ焼きそばも美味しいんだね」
「そちらも」
「そうなんだよね、インスタントラーメンの食べ比べなんてしたら」
 それこそというのです。
「きりがない位だよ」
「多過ぎてね」
「ご当地のものもあるし」
「その県と周りにしかない様なインスタントラーメンも」
「そうしたものもあるから」
「かなり多彩だね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「本当にきりがない位だよ」
「数が多過ぎるからね」
「スーパーに行っても普通に何十種類もあるし」
「インスタントラーメンのコーナーもあるし」
「それだとね」
「それもまた面白いだろうけれど」
 それでもというのです。
「きりがないというのはね」
「本当だね」
「日本人ってこうしたところでも凝るから」
「インスタトラーメンの種類も多くて」
「味もいいんだよね」
「そうだよ、しかも新しい調理方法まで出ているよ」
 梅酒をさらに飲んで言いました。 

 

第六幕その十一

「袋の焼きそばとソーセージを一緒に調理するんだ」
「そうしてなんだ」
「それで美味しくなるのね」
「焼きそばとソーセージ」
「その組み合わせでも」
「そうらしいよ、学生で実際にやってみた人がいてね」
 袋の焼きそばとソーセージを一緒に調理してみたというのです。
「これがね」
「美味しかったんだ」
「そうだったんだ」
「そうして食べても」
「そうだったんだね」
「だからね」
 それでというのです。
「今度僕も食べてみたいね」
「だったら作りますね」
 トミーが言ってきました。
「早速、ただ」
「ただ?何かな」
「イギリスは今も食べるものは階級によって違いますね」
「ああ、貴族と平民ではね」
「飲むものも」
「お店も違うしね」
 先生はこちらのお話もしました。
「貴族と平民では」
「それなりの地位のある人はバーで」
「そうでないとパブでね」
「分かれていますね」
「けれど日本だとね」
「誰でもどんなお店にも入られます」
「ノーネクタイのお店はあっても」
 それでもというのです。
「逆に言えばネクタイを締めているとね」
「どんな人でも入られます」
「あくまで身だしなみの話でね」
「階級とかのお話ではないですね」
「お金があったら」 
 それならというのです。
「誰でもどんなお店でもね」
「入られますね、それで誰がどんなものを食べても」
「誰も何も言わないよ」
「立場ある人がインスタント食品を食べても」
「むしろ立場があっても忙しいなら」
 そうした人はというのです。
「普通にだよ」
「インスタント食品や冷凍食品をですね」
「食べるよ、むしろそうしたものばかり食べて」
「栄養バランスが悪くなりますね」
「日本の政治家や経営者のよくない傾向かな」
 忙しくて手っ取り早いものばかりを食べることはというのです。
「これは」
「むしろそうした人こそですね」
「栄養バランスを考えてね」
「しっかり食べないといけないですね」
「そうだよ」
 こう言うのでした。
「忙しいならね」
「そして立場があるなら」
「頑張ってお仕事をしないといけないから」
 それ故にというのです。
「そうだよ」
「そうですよね」
「そう、だからね」
 それでというのです。 

 

第六幕その十二

「そうしたものばかり食べることはね」
「よくないですね」
「そうだよ、誰が何を食べてもいいことはいいことでも」
「栄養バランスは考える」
「そうすべきだよ、あと日本の立場がある人は基本質素だね」
 先生は激辛の焼きそばのその辛さを味わってでした、そうしてから梅酒を飲んで両方を楽しんでから言いました。
「おおむね」
「そういえばそうだね」
「お食事はかえって栄養バランスが心配になるレベルで」
「贅沢三昧なんてね」
「ないよね」
「そうだね、ないね」
 実際にと皆に言います。
「皇室になると」
「凄いよね」
「驚く位質素で」
「何処かの国の独裁者と大違いだね」
「日本では皆質素だよ」
「ああいうのを清貧と言うんだね、立場があるからこそ身を慎む」
 そうするというのです。
「いいことだよ、むしろ日本では立場ある人が贅沢に耽ると」
「よく思われない」
「そうした国だね」
「普通の人が遊んでもいいけれど」
「立場ある人も多少ならいいけれど」
「贅沢に耽るとね」
「それは品がないとも思われるんだ」
 立場ある人が贅沢に耽ると、です。
「江戸時代のお殿様だってそうだったし」
「というか江戸時代の藩って殆どお金なかったしね」
「幕府だってね」
「幕府の歴史って二百六十四年あって百五十年は赤字の話ばかりだったし」
「贅沢なんてね」
「維新の人達もね」
 この時代の人達もというのです。
「伊藤博文さんなんてね」
「ああ、あの人ね」
「もう衣食住適当過ぎて」
「周りが驚く位だったし」
「山縣さんはお家には凝っても」
 それでもというのです。
「あくまでだよ」
「生活は質素だったんだね」
「贅沢なんて好きなだけ出来る立場でも」
「そうした暮らしだったんだ」
「お食事なんかね」
 それこそというのです。
「あまりにも質素だってね」
「言われる位だったんだ」
「好きなものを食べられても」
「それでも」
「その伝統が今もあってしかも忙しいせいか」 
 それでというのです。
「日本の立場ある人はね」
「インスタントとか冷凍食品が多くて」
「かえって栄養バランスが心配になる」
「そうなのね」
「そうなんだ、幾ら忙しくてもバランスよく食べて欲しいね」
 先生は心から思いました。
「贅沢に溺れないことはいいことでも」
「そうだよね」
「ちゃんと食べて欲しいね」
「何とかね」
「そうして欲しいね」
「うん、けれどインスタントも程々ならいいよ」
 今も焼きそばを食べつつ言います。
「それもまたね」
「そういうことだね」
「じゃあ今はインスタントの焼きそばを食べて」
「そのうえでだね」
「梅酒を楽しむよ」
 言いつつそちらも楽しみます、先生はインスタントの焼きそばも食べて梅酒も飲んで楽しむのでした。 

 

第七幕その一

                第七幕  山の川にいるので
 先生はこの日は動物の皆と一緒に大阪に来ていました、そして梅田の街を歩いてそこから地下鉄で南の方に行ってです。
 法善寺のお店に入ってそこで飲んで食べますが。
 丁度そこに織田作さんが来ました、織田作さんの方から先生に気付いてです。
 そのうえで先生のところに来て言ってきました。
「先生、今日はこっちに来てるんやな」
「あっ、どうも」
 先生も声をかけられて気付いて挨拶を返しました。
「今日は大阪を楽しみたくて」
「それでこっちでやな」
「飲んで食べてます」
「そうやねんな、こうして会ったし」
 それでと言う織田作さんでした。
「相席ええやろか」
「そうしますか」
「ほなな」
 笑顔で言ってでした。
 先生は織田作さんと相席になって動物の皆と一緒に飲んで食べます、織田作さんはお酒は飲まずにソフトドリンクを飲んでです。
 そうして海の幸を中心としたお料理を食べます、ここで先生は言いました。
「大阪は瀬戸内海に面しているので」
「昔からやで」
 織田作さんはお刺身を食べつつ笑顔で言いました。
「海の幸は豊かで」
「そうですね」
「そやから土手鍋もあるしな」
「はりはり鍋もありますね」
「他の海の幸を使った料理もや」
「美味しいですね」
「ただホッケはな」
 織田作さんは今ご自身が食べているホッケの開きを見つつ言いました、見れば今日も着流しにマントと粋な恰好です。帽子は取っています。
「私の頃はなかったわ」
「北海道のお魚ですからね」
「そや、牛肉かてな」
 こちらもというのだ。
「高うてな」
「あまり食べられませんでしたね」
「今はこうしたお店でも食べられるけど」
 それでもというのだ。
「そやけどな」
「昔はですね」
「ステーキなんか夢みたいやった」
「ご馳走でしたね」
「そやった、自由軒でもな」
 織田作さんは行きつけのこのお店のお話もしました。
「ほんまにな」
「召し上がられるのはあのカレーですね」
「そやったわ、ステーキなんてな」
 それこそというのです。
「昔はご馳走やった」
「今はこうしたお店でもあっても」
「ここは炉端で海の幸が売りやけどな」 
 それでもというのです。
「こうしたお店でもあるな」
「牛肉を使ったお料理もな」
「そうですね」
「まあ太宰君はな」
 織田作さんはここでこの人の名前を出しました。
「食べてたやろな」
「太宰治さんですね」
「彼の家はめっちゃ金持ちやからな」
「今も政治家のお家ですしね」
「もうステーキかてな」
「召し上がっていたかも知れないですね」
「そうかもな、あの頃から」
 太宰治さんはというのです。
「ほんまに」
「そうかも知れないですね」
「そこ行くと私はあれや」
 織田作さんはジュースを飲みつつ言いました。
「根っからの庶民でな」
「大阪のですね」
「そやからな」 
 だからだというのです。 

 

第七幕その二

「ステーキなんかや」
「あまり縁がないですか」
「そやった、彼はやっぱりちゃうわ」
 太宰さんのことをこうも言うのでした。
「家はああで顔もええ、文才もある」
「やはり違いますか」
「ええお師匠さんもおったしな」
「井伏鱒二さんですね」
 太宰さんのお師匠さんと聞いてです、先生は言いました。
「そうですね」
「そや、井伏さんは太宰君のお師匠さんでな」
「ずっと太宰さんのことを気にかけておられたとか」
「そやけどな」 
 それでもというのです。
「戦争終わってからはどうもな」
「何でも疎遠になっていたとか」
「そやった、私が東京に行った時も」
 その時もというのです。
「そこで私は死んでるけどな」
「あの時ですか」
「あの時も思ったわ」
 織田作さんはホッケの後は枝豆を食べます、そのうえでお話するのでした。
「二人はどうもな」
「疎遠ですか」
「それで死んでな」
 織田作さんが東京でというのです。
「そして大阪に戻って」
「今の様にですね」
「幽霊になったけどな」 
 それでというのです。
「二年半経って太宰君が死んだ」
「玉川上水で自殺されて」
「それで太宰君の話を聞いたら」
 織田作さんは複雑なお顔になって言います、過去を思い出してそれで考えているお顔です。そのお顔で言うのです。
「やっぱりなってな」
「思われましたか」
「太宰君の遺書の話聞いてな」
「井伏さんは悪人です、ですね」
「それ聞いてな」
 それでというのです。
「やっぱりって思ったわ」
「そうですか」
「ああ、それでな」
 織田作さんは複雑なお顔のまま言います。
「私も納得したわ、納得したけどな」
「それでもですね」
「そうしたことは書かんといて欲しかった」
「悪人です、と」
「色々あったにしてもな、ただな」
 織田作さんはジュースを飲んでまた言いました。
「疎遠でも絆はな」
「ありましたね」
「そやった」 
 そうだったというのです。
「井伏さんはずっと太宰君を想ってた」
「太宰さんが世を去ってからも」
「そやった、それであの世に行った太宰君もな」
 その彼もというのです。
「わかってくれて今はな」
「あちらの世界で、ですね」
「井伏さんもあちらに行ったし」
 そうなっているというのです。
「疎遠なんもな」
「戻ってますか」
「そうなってるで」
「それは何よりですね、実は今僕は山椒魚の論文を書いていまして」
 先生は織田作さんにこのこともお話します。 

 

第七幕その三

「井伏さんのこともです」
「意識してるんやな」
「はい」
 こう織田作さんに答えました。
「何かと」
「奇遇やな、私もあの作品は知ってるけど」
 それでもとです、織田作さんは食べつつ先生に言いました。
「実は山椒魚とは縁がないんや」
「オオサンショウウオとはですね」
「あれは山におるやろ」
「その川の中に」
「そやからな」
 だからだというのです。
「大阪みたいな街中におるとな」
「縁がないですね」
「川は多いで」
 大阪はというのです。
「堀とな」
「大阪はそうですね」
「前に海があって」
 先生が食べているほたてを見つつ言います。
「ほたてかてそやしな」
「これも北海道が有名でもですね」
「海は海でな」
 それでというのです。
「前は海で」
「そこから川が複雑に流れていて」
「お堀もある、道頓堀かてな」
 法善寺のすぐ傍のです。
「あそこもや」
「まさにそれですね」
「そや、もうあちこち川が流れていてなや」
「大阪はその中にある街ですね」
「そやから水の都って言われてる、私は木の都やと思てるけど」
 木もまた多いからです。
「そやけどな」
「それでもですね」
「川が多いこともな」
「事実ですね」
「そやから橋にちなんだ地名が多いし」
 川や堀にかけるそれがです。
「船場なんてな」
「地名もありますし」
「ほんま大阪は川が多い」
「というか川の中に街がある?」
 ガブガブはここでこう言いました。
「大阪って」
「もうそんな感じだね」
 ホワイティはガブガブの言葉に頷きました。
「最早ね」
「そうだよね」
「島が幾つもあって一緒になってる風よ」
 チープサイドの家族はこう言いました。
「大阪ってね」
「昔の地図なんて見たらそうだね」
「大阪城だってそうだったね」
 トートーは大阪の象徴の一つのこのお城のお話をしました。
「川を使ってお城の守りにしてたね」
「そうそう、もうね」
 ダブダブも言います。
「その川と堀で難攻不落になっていたんだよね」
「元は本願寺があって」
 ジップはこのことをお話しました。
「織田信長さんも攻めるのに苦労したんだよね」
「そこに豊臣秀吉さんがさらに堅固なお城を築いたのが大阪城」
 ポリネシアは強い声で言いました。
「当時は大坂城といったわね」
「難攻不落なのはまず川があったこそ」
「そこまで大阪の川は多いんだよね」
 オシツオサレツは二つの頭でお話しました。
「複雑に入り組んでもいて」
「まさに川の街だね」
「ヴェネツィアとはまた違った形で水の都だね」
 チーチーはイタリアのこの街の名前を出しました。
「海と川でね」
「その大阪でもだね」
 老馬は織田作さんを見て言いました。 

 

第七幕その四

「オオサンショウウオはいないんだね」
「まあ流れ着いたのはいたかも知れへんけど」
 織田作さんは皆に答えました。
「私は知らんわ」
「そうなんだね」
「織田作さんは」
「どうにもだね」
「オオサンショウウオは」
「そうやで、ただおることは知ってたわ」
 そのことはというのです。
「ちゃんとな」
「ハンザキとか呼ばれて」
「童話にも出て来たしね」
「それで井伏鱒二さんも書いてたし」
「それでだね」
「知ってたわ、街におってもな」
 大阪にというのです。
「知ってることは知ってたで」
「そうなんだね」
「それでだね」
「今もこうしてお話が出来るんだね」
「僕達とも」
「そやで、あと動物園にもおらんかった」 
 織田作さんはこうも言いました。
「天王寺のな」
「やはりそうですね」
 先生もそれはと答えました。
「仕方ないですね」
「ああ、昔の技術やとな」
「今もオオサンショウウオの飼育は難しいですし」
「まだわかってへんことも多いな」
「戦前の技術と今の技術では」
「今の方がずっと凄いわ」 
 織田作さんは冷奴を食べつつ笑って答えました。
「何もかもがな」
「そうですね」
「そや、戦前と百年も経ってへんのに」
「全く違いますね」
「食いもんかてな」
 食べるものもというのです。
「同じ冷奴とか焼き魚とかな」
「そうしたものでもですね」
「使ってる技術がちゃうさかい」
 それ故にというのです。
「味もな」
「全く違いますね」
「そや」
 その通りだというのです。
「素材もちゃうし」
「今の技術で栽培や養殖されたものは」
「ほんまにな」 
 それこそというのです。
「全く違ってな」
「味が違う」
「ホッケみたいに昔はなかったもんもあるし」
「美味しいですか」
「昔よりずっとな、それで動物園もな」
 こちらもというのです。
「飼育の技術がな」
「昔はですね」
「今よりずっと低くてな」
 その為にというのです。
「天王寺の動物園におる生きものもや」
「今よりですね」
「ずっと少なかった、数も種類もな」
「そうでしたね」
「そやった、特に戦争の時はな」
 織田作さんは残念そうにです、先生と皆にお話しました。
「人間の食べるもんもなかった」
「だから殺すしかなかったですね」
「上野動物園のことが有名やが」 
 東京のというのです。
「何処も同じでや」
「天王寺でもですね」
「そやったからな」
 その為にというのです。 

 

第七幕その五

「ああしたことがあったわ」
「そうでしたね」
「ほんま戦争は辛いな」
 織田作さんはこうも言いました。
「私は結核やったさかい」
「徴兵されず」
「軍属にもならんかったが」
 それでもというのです。
「疎開もしたし」
「そうしたことも見てこられましたね」
「そやったし検閲もきつくなってたし」
 このこともあってというのです。
「ほんまにな」
「戦争は、ですね」
「起こって欲しくないわ」
「本当にそうですね」
「先生も思うな」
「はい、平和が一番です」
 先生もこう答えます。
「何と言っても」
「そやな」
「平和であってこそです」
 まさにそうであってこそというのです。
「学問もです」
「普通に出来るか」
「小説の執筆と同じで」
「平和であってこそな」
「充分に出来ます、戦争になれば」
 若しそうなればというのです。
「まず世の中から余裕がなくなります」
「それな、娯楽がなくなってくな」
「まずは。そして学問もです」
「する余裕がなくなるわ」
「戦争に勝たねば全てを失います」
 先生は蛸のお刺身を食べつつ言いました。
「そうなるので」
「国としても必死で戦うわ」
「私の生まれた国イギリスもです」
 先生の祖国もというのです。
「ナポレオンとの戦いでも二度の世界大戦でも」
「負けたらえらいことになってたな」
「そうでした」 
 お刺身を食べて日本酒を飲んでから答えました。
「そうなっていましたので」
「全力を以て戦ったな」
「国家の総力を結集させて」 
 そのうえでというのです。
「戦わねばならず」
「そうして戦ってな」
「勝たねばならないので」
「余裕がなくなるわ」
「まずは娯楽が」
「そこに小説もあってな」
 織田作さんが書いていたそれもというのです。
「他にもな」
「色々な娯楽が消えていきますね」
「娯楽って余裕があるから生まれるものやさかいな」
 織田作さんは達観した様に言いました。
「そやからな」
「戦争で余裕がなくなれば」
「そこからや」
 娯楽からというのです。
「なくなってくわ」
「今は娯楽が非常に多いですが」
「それが次から次にな」
 まさにというのです。
「なくなってくわ」
「そうなりますね」
「今の時代で言うたら小説だけやなくてな」
 それに限らずというのです。 

 

第七幕その六

「漫画もゲームもテレビもな」
「全部ですね」
「インターネットとかもな」
「どんどんですね」
「なくなってくわ」
「まずはそこから」
「そして学問もやな」
「やはり制限を受けますね」
 戦争で余裕がなくなればです。
「何かと」
「そうなるな」
「そこからさらに余裕がなくなれば」
 先生は二度の世界大戦でのイギリスのことをお話しました。
「生活用品もお金ではなく」
「切符で買うな」
「今で言うポイントによってです」
「食べものも配給になって」
「自由に食べられなくなりますね」
「それすらもな」
「そうなって戦争が終わっても」 
 例えそうなってもというのです。
「苦しい生活がです」
「続くな」
「そうですね」
「イギリスは前の戦争では勝ったやろ」
 織田作さんは先生に焼き鳥、ねぎまのそれを食べつつ言いました。
「そやったやろ」
「いえいえ、勝ってもとても苦しい勝利で」 
 そしてとです、先生は織田作さんに答えました。
「勝っても苦しい状況が続いて」
「それでやったんか」
「戦争が終わって暫く経っても配給制でした」
「そやったか」
「はい、そして勝ちましたが」
 イギリスはというのです。
「その後のイギリスは」
「そや、えらい落ちたな」
「植民地はあらかた独立しまして」
「私も幽霊になってから見たけどな」
「凄かったですね」
「あのイギリスがな」
 織田作さんが生きていた頃は世界帝国だったのにです。
「欧州の一国になったな」
「ええ、そして日本の方がです」
「国力上になったな」
「そうなりました」
「こっちが負けたのにな」
 織田作さんはジュースが入ったグラスを片手に言いました。
「そうなったな」
「はい、まあ植民地がなくなったことも」
 先生はお話しました。
「時代の流れですし」
「しゃあないか」
「はい、それでもイギリスは頑張っていてです」
「欧州やと大国やな」
「それ位でいいかと。ただ僕にとっては故郷なので」
 生まれたお国だからだというのです。
「食べもの以外はいいことしか言わないですね」
「何や、食べものは別かいな」
「これだけはお世辞にも」
 先生は日本酒を飲んで、です。
 タレが利いたねぎまを食べてそうして言いました。
「よく言えないですね」
「イギリスの料理はまずいってな」
「織田作さんも聞かれていますね」
「カレーはあってもやろ」
「自由軒のものはないですね」
「それで善哉も関東煮もやな」
「ありません」
 こうしたものもというのです。
「そして他のものもです」
「そやな、それやとな」
「イギリス料理はですか」
「ええわ、もう大阪におってな」
 そうしてというのです。 

 

第七幕その七

「大阪を歩いて色々なところ見て楽しんで」
「こうしてですね」
「美味しいものを食べてな」 
 そうもしてというのです。
「やっていけたらええわ」
「織田作さんはそうされてですね」
「満足や、大阪におれたら」
 それでというのです。
「もうな」
「充分ですね」
「そやから今のままでずっといたいわ」
「そうなのですね」
「色々変わってくけど」
 大阪も時代の流れでというのです。
「そやけどな」
「それでもですね」
「ええものはそのまま残る街やからな」
 それ故にというのです。
「もうな」
「このままで、ですね」
「幽霊になったけど」
 それでもというのです。
「大阪で暮らしてくわ」
「そうですか」
「ああ、それで先生はやな」
「日本にいまして」
 それでとです、先生も答えます。
「そうしてです」
「そのうえでやな」
「はい、学問を楽しんで」
 大好きで生きがいでもあるそれをというのです。
「そしてです」
「美味いもん飲んで食べてやな」
「生きていきたいです」
「そういうことやな」
「はい、それで今日はです」 
 先生は織田作さんにあらためてお話しました。
「井伏さんのことを教えて頂き有り難うございます」
「いや、何でもないことや」
 織田作さんは先生の今のお言葉に気さくに笑って応えました。
「別にな」
「そうなのですか」
「あの人と太宰君のことはもう文壇ではよお知られとったっていうかな」
「常識ですか」
「大阪におっても聞く位にな」
 そこまでのというのです。
「それ位でしかも東京に行ってな」
「実感されたのですね」
「私が見ただけでな」
 それだけのものでというのです。
「それだけのもんやし」
「お話を聞いてもですか」
「感謝なんてな」
 先生に笑ってお話します。
「及ばんわ」
「そうですか」
「むしろ私の方から色々話を聞かせてもらって」
 そうしてもらってというのです、先生に。
「有り難いわ」
「そう言われますか」
「そやからな」
 それでというのです。
「むしろ私の方が言わせてもらうわ、おもろい話をしてくれてな」
「有り難うとですか」
「おおきにってな」
 先生に笑って言いました。
「そう言わせてもらうわ」
「大阪弁ですね」
「そや、この言葉もな」
「織田作さんはお好きですね」
「大阪の言葉がな」
 まさにそれがというのです。 

 

第七幕その八

「私はめっちゃ好きや」
「そうですか」
「ああ、これからも大阪におって」
「お言葉もですね」
「好きでいるで、私は大阪の人間や」
「これからもですね」
「ずっとな」
 先生に笑ってお話してでした。
 織田作さんは焼きそばも食べました、その様子はまさに大阪の人のものでした。 
 織田作さんと楽しい時間を過ごしてお店を後にして法善寺のその前で笑顔でまたと一時のお別れをしてでした。
 先生は帰路につきました、そこで動物の皆に言いました。
「織田作さんはああ言われたけどね」
「それでもだよね」
「いいお話聞けたよね」
「楽しい時間を過ごして」
「それが出来たね」
「そうなったよ、僕も井伏さんと太宰さんのことは知っていたよ」
 お二人の関係はです。
「師弟の関係でね」
「戦後疎遠になって」
「太宰さんは井伏さんを遺書で悪人と言って」
「井伏さんは太宰さんを気にかけていた」
「太宰さんが世を去ってからも」
「だから作品の中で太宰さんが死んだことを書いていたりもするよ」
 そうしたこともあったというのです。
「井伏さんは最後まで太宰さんをどうにかしたかったみたいだね」
「やっぱりお師匠さんだから」
「それでだね」
「心配していたんだね」
「けれど太宰さんは心中して」
 そうしてというのです。
「世を去ったからね」
「ショックだったんだね」
「太宰さんの死に」
「そうだったんだね」
「そうだよ、それでね」
 そのうえでというのです。
「色々思ったらしいね。ただね」
「ただ?」
「ただっていうと」
「太宰さんは終生何があっても敬愛し続けた人がいてね」
 この人のお話もしました。
「この世を去るまでそれは変わらなかったんだ」
「ええと、芥川さん?」
「芥川龍之介さんだった?」
「蜘蛛の糸とか書いた」
「あの人も自殺したよね」
「そう、学生時代にあの人の作品に出会って」 
 そうしてというのです。
「井伏さんの作品にもだったけれど芥川さんの作品にも心酔したんだ」
「そういえば何か似てる?」
「芥川さんと太宰さんってね」
「同じく自殺していて」
「タイプは違うけれどお二人共美形だしね」
「そうだね、僕も共通点は多いと思うよ」
 先生にしてもというのです。
「そして作品にずっとね」
「感銘を受けていて」
「読んでいて」
「敬愛し続けていたんだ」
「憧れていてね」
 芥川さんにというのです。
「芥川賞を何としても受賞しようとしたし」
「それで揉めもしたね」
「川端康成さんと」
「先生太宰さんの論文前書いたけれど」
「そうしたことお話してたね」
「そうだよ、兎角芥川さんへの憧れは強くて」
 そうしてというのです。 

 

第七幕その九

「絶対に悪いこと言わなかったんだ」
「井伏さんは悪人と言っても」
「芥川さんには言わなかった」
「そうだったんだ」
「最後の方に如是我聞って作品を書いたけれど」
 この作品のお話もするのでした。
「芥川さんの様にって言ってるし」
「悪人どころかだね」
「芥川さんの様にだね」
「そう言ったんだ」
「人間失格と一緒に自殺する直前に書いた作品だけれど」
 それでもというのです。
「その作品でも言っていたからね」
「凄いね」
「太宰さんって本当に芥川さんに憧れていたんだ」
「そして心から敬愛していたのね」
「そうなんだ、太宰さんにとって井伏さんはお師匠さんでも」
 それでもというのです。
「芥川さんは特別な人だったかもね」
「敬愛、尊敬かな」
「そう思っている人だったのかな」
「太宰さんは」
「そうかもね、山椒魚とは関係ないけれど」
 今書いていてお手伝いをしている生きものとはというのです。
「けれどね」
「それでもだね」
「山椒魚を書いた井伏さんと関りの深い人だから」
「覚えておくといいね」
「そうだよ、学問は一つに終らないんだ」
 ただそれだけでというのです。
「そこからどんどん枝分かれもして学べるし深く広くもね」
「学んでいく」
「そうなるんだね」
「学問は」
「だから尚更面白いんだ、そうしたものだからこれからもね」
 是非にというのです。
「学んでいきたいね」
「そうなんだね」
「先生としては」
「これからも学問をしていきたいんだ」
「そう考えているよ」
 皆で笑顔で言います、そうしてです。
 電車で神戸に戻ってお家でお風呂に入って歯を磨いて寝てです。
 翌朝です、動物の皆が言ってきました。
「先生起きて」
「とてもいい朝だよ」
「朝顔も咲いてるよ」
「へえ、どうなのかな」
 先生は皆のお話を聞いてです。
 そのうえでお布団から出てお庭の縁側に行きました、すると。
 お庭にある朝顔がです。
 見事な青や紫に咲いています、先生はそれを見て笑顔になって言いました。
「朝から素敵だね」
「そうだよね」
「朝顔っていいよね」
「日本の夏の朝にとてもマッチしていて」
「最高だよね」
「そうだね、日本の夏はね」
 何と言ってもというのです。
「朝顔だよね」
「そうだよね」
「奇麗で風情があって」
「とても素敵だよ」
「早起きすればね」
 日本の夏にというのです。 

 

第七幕その十

「こうしたものが見られるね」
「そうだよね」
「とても素敵だよ」
「日本の夏はね」
「朝顔だけでもいいよね」
「朝からいいものを見て」
 そうしてというのです。
「気持ちよく頑張れるよ」
「じゃあ今日もだね」
「楽しく論文を書いていくのね」
 チープサイドの家族が言ってきました。
「そうするのね」
「それも楽しく」
「先生は学問そのものを楽しみにしてるから」
「だから行うだけで楽しめるけれど」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「どうせならはじめる前から楽しく」
「そう出来たら最高だね」
「じゃあ朝顔を見たことはとてもいいね」
 チーチーも先生に言います。
「そうだね」
「朝ご飯もまただけれど」
 ダブダブは実に彼らしいことを言いました。
「その前にいいものを見られたね」
「朝ご飯も楽しく食べられるわね」 
 ガブガブも明るく言います。
「これは」
「そう思うと余計にいいね」
 トートーは笑顔で言いました。
「朝顔を見て」
「まだ一日ははじまったばかりだけれど」
 ポリネシアの口調はしみじみとしたものでした。
「はじまりがいいとそれに越したことはないわ」
「全くだね」
 ジップはポリネシアの言葉に頷きました。
「寝覚めが悪いよりずっといいよ」
「さて、じゃあ今からだね」
 老馬も先生に言います。
「朝ご飯だね」
「いつも通り皆で食べよう」 
 ホワイティの口調は急かす様でした。
「楽しくね」
「うん、トミーが呼ぶまでここで本を読もうか」
 先生はその皆に言いました。
「そうしようか」
「学問だね」
「それをするんだね」
「今から」
「本当にいいものを見られたから」
 だからだというのです。
「気持ちよく学問に入ろう」
「じゃあ本読もうね」
「そうしようね」
「今からね」
「うん、是非そうしよう」
 笑顔で言ってでした。
 先生は縁側でオオサンショウウオの本を読んででした。
 そうしてトミーのお食事を待ちます、そしてトミーが朝ご飯が出来たと言ってきたので居間に皆と一緒に行くとでした。
 朝ご飯はトーストにでした。
 目玉焼きに焼いたベーコンそれに苺に牛乳でした。先生はそのメニューを見て一瞬で目を細くさせました。
「これはいいね」
「美味しそうですか」
「とてもね」 
 こうトミーに答えます。
「それは何よりです、ではです」
「今からだね」
「皆で食べましょう」
「それじゃあね」
「今日はイギリス風にしてみました」 
 その朝食にというのです。 

 

第七幕その十一

「させてもらいました」
「そうなんだね」
「先生もお好きですし」
「大好きだよ」
 実際にとです、先生はトミーに答えました。
「こうした朝ご飯もね」
「そうですよね」
「思えば日本に来て朝ご飯もね」
 こちらもというのです。
「かなりね」
「色々な朝ご飯を召し上がられていますね」
「納豆もね」
 こちらの食べものもというのです。
「食べる様になったしね」
「そうですよね」
「噂には聞いていたけれど」
 納豆はというのです。
「凄い匂いでね」
「糸も引いていて」
「噂通り凄いものだったけれど」
「美味しいですね」
「今は普通にだよ」
 先生もトミーも他の皆もです。
「食べているね」
「そうですね」
「だからまたね」
「納豆もですね」
「出してくれるかな」
「勿論です、ではその時はですね」
「美味しくね」
 まさにというのです。
「食べさせてもらうよ」
「それでは」
「そして今は」
「イギリス風の朝ご飯をですね」
「いただくよ」
「それでは」 
 トミーも笑顔で応えてでした。
 皆で朝ご飯を食べます、先生はトーストにバターをたっぷりと塗って食べます。そうしてなのでした。
 一口食べてまた笑顔で言いました。
「パンも焼き加減もよくて」
「そうしてですか」
「バターもね」
 たっぷりと塗ったそれもというのです。
「かなりね」
「いいですね」
「日本はバターもいいね」
「乳製品全体がいいですね」
「そうだよね」
「保存技術がよくて」
 牛乳のです。
「製造技術もです」
「いいよね」
「工場生産で、です」
「均質的にいいものが作られているね」
「はい、手作りもありますし」
「あれもいいけれどね」
「その分お金がかかるので」
 だからだというのです。
「スーパーとかでは」
「あまり売られていないね」
「そうですね」
「けれどね」
 それでもというのです。
「その工場で作った様なものも」
「美味しいですからね」
「馬鹿に出来ないよ」
「全くです」
「だからね」
 それでというのです。
「今朝も美味しくね」
「食べようね」
「そうしましょう」 
 トミーも笑顔で言ってでした。
 皆で楽しく朝ご飯を食べました、そうしてから学校に行きました。 

 

第八幕その一

                第八幕  お迎えの準備
 八条学園の中の動物園でオオサンショウウオ雌で今いる彼の奥さんになる彼女をお迎えする準備が進められています。
 先生もそのお手伝いをしますが。
「僕は身体を動かす方はね」
「先生そういうの苦手だからね」
「肉体労働とか作業も」
「だからそっちはしてないね」
「今回も」
「そうなんだよね、よくないね」
 先生は自分で反省してです、動物の皆に言いました。
「これは」
「日本って皆動くよね」
「立場に関係なくね」
「肉体労働するよね」
「作業だって」
「流石に自衛隊の幹部の人はしないけれどね」 
 この人達はです。
「それをすると指揮にまで目がいかなくなるからね」
「身体を動かすとね」
「もうそこに専念してしまうしね」
「そうなると肝心の指揮が執れないで」
「いざって時大変なことにになるからね」
「作業があっても」
 それでもというのです。
「その時も監督つまりね」
「指揮に徹して」
「何かあれば指示を出す」
「そうしているね」
「自衛隊もやっぱり軍事組織だからね」
 そうした組織だからだというのです。
「どうしてもね」
「指揮官が必要で」
「指揮官は指揮に徹しないとね」
「そうしないと駄目だから」
「それは違うよ、けれどね」
 それでもというのです。
「会社の社長さんでもお掃除するしね」
「そうなんだよね」
「普通にね」
「立場ある人でもね」
「普通にそうするよね」
「作業服を着て」
 そうしてというのです。
「自ら汗をかく」
「それが日本だよね」
「日本の特徴の一つで」
「それでだよね」
「どんな人達も身体動かすけれど」
「作業にあたるね」
「けれどね」 
 それでもというのです。
「僕はね」
「うん、先生ってスポーツとか家事は全く出来ないから」
「それで肉体労働も苦手だからね」
「作業も」
「そうした世事とか雑用はからっきしだから」
「それでなんだよ」
 だからだというのです。
「僕は今回もね」
「そうしたことには関わらないで」
「頭脳労働に徹してるね」
「そうだね」
「だからね」 
 それでというのです。
「僕はその頭脳労働に頑張るよ」
「そうだね」
「それじゃあね」
「そっちで頑張ってね」
「先生のやれることをしてね」
「うん、自分のやれることを全力でやる」
 そうすることがというのです。 

 

第八幕その二

「そうしないとね」
「出来ることと出来ないことがあっても」
「それでもだね」
「出来ることを全力でやる」
「そうすることだね」
「そうだよ」
 こう言ってでした。
 先生は環境をチェックしてです。
 スタッフの人達にアドバイスをして詳しいレポートも書きました。日笠さんはそのレポートを読ませてもらって驚きました。
「素晴らしいレポートですね」
「そうでしょうか」
「はい」
 先生に笑顔で答えました。
「細かいところまで見ておられて公平で」
「いいいのですか」
「そう思います、よくご覧になられてますね」
 先生に笑顔で言いました。
「あとです」
「あと?」
「先生は作業の邪魔にならない様にされていましたね」
「はい、そこも見てです」 
 先生も答えます。
「動いて見ていました」
「そうなんですね」
「はい、ですから」
 それでというのです。
「邪魔にならない場所にいる様にしていました」
「そうしたこともご覧になられてましたね」
「そうしていました」
「そこもお見事ですね」
「そうですか」
「何でもご覧になられてますね」
 日笠さんは先生ににこりと笑って言いました。
「本当に」
「そう言って頂けるなら何よりです」
「有り難かったです」
「いえ、僕は肉体労働や作業が全く駄目でして」
 このことは誰よりも自覚しています。
「ですから」
「意識してですか」
「邪魔にならない様にしています」
「そうですか」
「はい、ではです」
 それでというのです。
「またレポートもです」
「書いて頂けますか」
「そうさせて頂きます」
 日笠さんに笑顔で答えました。
「このことについても」
「ではお願いします」
「その様に、あとです」
 先生はここで日笠さんにあらためてお話しました。
「間もなく三時ですね」
「そうですね」
 日笠さんは先生が次に何を言うのかわかっていました、そのうえで応えました。伊達にお付き合いが長い訳ではありません。
「それでは今から」
「ティータイムなので」
 だからというのです。
「よかったらご一緒しませんか?」
「そうしてですね」
「また働きませんか」
「そうですね、では」
「はい、楽しみましょう」 
 お二人は動物の皆とティータイムに入りました。この日は中国茶に杏仁豆腐に胡麻団子にマーラーカオで、でした。
 中華風のティーセットを楽しみました、その後でです。
 日笠さんはお仕事に戻りましたが皆は研究室に戻ってオオサンショウウオの奥さんを迎える準備の入念なチェックに入った先生に言いました。 

 

第八幕その三

「よかったよ、先生」
「ティータイムの時に日笠さんを誘ったことは」
「合格だったよ」
「とてもよかったよ」
「そうなんだね」
 先生は皆の言葉に応えました。
「日笠さんが丁度一緒だったし」
「それでだね」
「お誘いしてだね」
「一緒に楽しんだね」
「それがいいんだね、家族やお友達とね」
 そうした人達と、というのです。
「楽しむのがね」
「ティータイムだよね」
「だから僕達とはいつも一緒だね」
「毎日ね」
「楽しんでいるよ」
 実際にというのです。
「やっぱり欠かせないからね」
「あのね、先生」
「何なら僕達席を外すよ」
 ここでオシツオサレツが二つの頭で言ってきました。
「日笠さんと飲まれる時は」
「そうするよ」
「これはトミーも王子もよ」 
 ガブガブも言います。
「皆そうよ」
「先生のお知り合いならね」
 ジップは強く言いました。
「誰だってそうするよ」
「先生そのことわかってね」
 こう言ったのはホワイティでした。
「どうしてか」
「今すぐでなくてもだよ」
「わかって欲しいわね」
 チープサイドの家族はしみじみとしています。
「何時かは」
「僕達がどうしてこう言うかね」
「本当にお願いするよ」
 チーチーも先生に言います。
「このことはね」
「ティータイムは家族やお友達とだけじゃないでしょ」 
 老馬は先生にあえてこう言いました。
「そうだよね」
「こう言っても先生はわからないというかね」
 ポリネシアの口調はやれやれといったものでした。
「気付かないんだよね」
「自分にはってね」
 トートーはあえて言いました。
「頑なに信じているから」
「先生、僕達は皆何時でも先生の味方だけれどね」
 ダブダブはそれでもと言いました。
「困っていることもあるんだよ」
「やっぱり僕は家事や世事や身体を動かすことはからっきしだからね」
 全くわかっていなくてです、先生は言いました。
「それでだね」
「いや、違うから」
「何でそこでそう言うの?」
「家事は私達がいるでしょ」
「世事のことだってね」
「トミーも王子もいるから」
「身体を動かすことも」
 こうしたこともというのです。
「全く以ていいから」
「違うことだよ」
「もっとね」
「先生が一番苦手というかね」
「駄目なことのことだから」
「ううん、恋愛は僕には縁がないし」
 まさにそれを言う先生でした。 

 

第八幕その四

「だとしたらやっぱりね」
「家事や世事のことで」
「身体を動かすことって言うんだ」
「からっきしなのは」
「私達を困らせてることは」
「そうだと思ってるけれど違うんだね」
 先生も違うことはわかります、それでこう言うのでした。
「そうなんだね」
「それはそうだけれど」
「本当にわかってくれないから」
「先生みたいないい人いないから」
「見ている人は見ていてくれてるのに」
「だからお友達は多いね」 
 先生はこう考えました。
「僕には」
「うん、お友達は多いね」
「それはそうだね」
「先生のお友達って人間も生きものも妖怪もで」
「多彩だよ」
「織田作さんもお友達だしね」
 今は幽霊となっているこの人もというのです。
「そうだしね」
「それはそうだけれど」
「先生もっと考えてみて」
「周りよく見て」
「そうしてくれたら私達も嬉しいわ」
 皆は先生と一緒に中華風のティーセットを飲んで食べつつ言います。
「本当にね」
「先生は皆が好きになってね」
「それはお友達に限らない」
「そうした人だってね」
「ううん、お友達や家族以外となると」
 先生はお茶を飲みながら思いました。
「どういった関係かな」
「だからそこはね」
「皆わかってるから」
「周りの誰もがね」
「そこから考えて欲しいわ」
「そうなんだ、まあ兎に角日笠さんをお誘いしたことはよかったんだね」
 先生は皆のお話を聞いて言いました。
「そうなんだね」
「うん、そのことはいいことだよ」
「貴重な第一歩だよ」
「だから進めていってね」
「少しずつでもね」
「日笠さんと仲良くだね、そうしていくよ」 
 先生はこう解釈しました。
「これからもお友達としてね」
「お友達じゃないけれど」
「まあ今はそう思っていいよ」
「先生はこうした人だし」
「僕達もわかっているから」
「何が何かわからないけれどね」
 先生としてはです。
「日笠さんとはこれからもお付き合いしていくよ」
「そうしていってね」
「これからも」
「僕達も応援してるし」
「フォローもしていくから」
「宜しくね」
 お友達と思ったまま頷く先生でした、そしてです。
 チェックの後は論文も書いてでした、お家に帰りました。お家に帰るとこの日の晩ご飯は麻婆豆腐にです。
 中華風の鶏肉とお野菜がたっぷりと入ったスープでした、先生はその鳥ガラスープを見て作ってくれたトミーに言いました。
「麻婆豆腐も素敵だけれど」
「スープもですね」
「うん、これもね」
 まさにというのです。
「素敵だね」
「中華料理はお野菜も沢山使いますよね」
「ふんだんにね」
「栄養バランスがいいので」
「医食同源と言ってね」
「ですから僕も作る時はです」
 その時はというのです。 

 

第八幕その五

「意識してです」
「栄養バランスを考えてだね」
「そうしてです」
「作っているんだね」
「麻婆豆腐もそうしています」
 こちらのお料理もというのです。
「お豆腐に挽肉に」
「あと唐辛子にだね」
「山椒も利かせて」
 そうしてというのです。
「健康にもです」
「いい様にだね」
「しています」
「そうだね。お豆腐はね」
 先生はこの食べもののお話をしました。
「とてもだよ」
「身体にいいですね」
「そうだしね、それがメインでね」
「他にも入れると」
「尚更だよ」
「身体にいいですね」
「美味しくてね、ではね」
 先生は笑顔で言いました。
「今から食べるよ」
「それでは。あとです」
 トミーはさらに言いました。
「今晩は何を飲まれますか?」
「ワインにするよ」 
 お酒はそちらだというのです。
「白をね」
「そちらのワインですね」
「おつまみはチーズとクラッカーがあるから」
「そうしたもので、ですね」
「楽しむよ、チーズがあったら」
 それならというのです。
「ワインで飲む時はかなり助かるね」
「いいおつまみになりますね」
「そうだよね」
「チーズは本当にそうですね」
「しかもチーズも身体にいいしね」
 今夜はおつまみにするこの食べものもというのです。
「有り難いね」
「そうですよね」
「うん、ではね」
「晩ご飯の後は」
「白ワインを楽しむよ」
「そうされますね」
「是非ね」
 こうトミーに答えました。
「そうさせてもらうよ」
「それでは」
 トミーも頷きます、そうしてです。
 麻婆豆腐とスープでご飯を食べた後は白ワインをチーズとクラッカーで楽しみます、その時にでした。
 先生はワインをグラスで飲んでいますがその時一緒に飲んで食べているトミーに思い出した様に言いました。
「このワインは何処のワインかな」
「富良野です」
 トミーは飲みながら答えました。
「あちらのものです」
「日本の北海道のだね」
「そうです」
「北海道にも行ったけれど」
「いいところでしたね」
「食べものも美味しくてね」
 それでというのです。
「また行きたい位だよ」
「そこまでお好きですね」
「うん、それで富良野のワインも」
「美味しいですね」
「そうだね。いいね」 
 飲みながら言うのでした。 

 

第八幕その六

「本当に」
「それは何よりですね」
「北海道は産業もよくてね」
「それでワインも美味しいですね」
「それに自然もね」
 こちらもというのです。
「素晴らしいよ」
「北海道独特の自然がありますね」
「本土とはまた違ったね」
「そうでしたね」
「生態系は本土と同じ様でも」 
 それでもというのだ。
「気候と島として離れていてね」
「微妙に違いますね」
「そうだよ、寒いしね」
 北海道はというのです。
「そのこともあって」
「本州や四国、九州とはですね」
「また違う自然なんだ」
「そうですよね」
「キタキツネやエゾタヌキ、エゾシカにシマリスにナキウサギ、ヒグマがいて」
 そうしてというのです。
「狼もね」
「ニホンオオカミじゃないですね」
「エゾオオカミというんだ」
 北海道の狼はというのです。
「絶滅したと言われているけれど」
「まだ棲息していますか」
「目撃例があるから」
 だからだというのです。
「僕は期待しているよ」
「ニホンオオカミの様に」
「そうだよ、ただ今研究しているオオサンショウウオはね」
 この生きものはといいますと。
「西にいる生きものでね」
「日本のですね」
「東にはいなくて」
「北海道にもですね」
「いないよ」
 そうだというのです。
「日本の生きものといってもね」
「日本全体にいるとは限らないですね」
「そうなんだ」 
 ワインを飲みながらお話します。
「これがね」
「そのことは覚えておくことですね」
「生物学的にね」
「日本にいてもですね」
「それぞれの生きものでね」
「分布があるんですね」
「そうなんだ、だからオオサンショウウオはね」
 今学んで何かと関わっている生きものはというのです。
「西日本にいるけれど」
「東にはいない」
「このことを頭に入れておかないとね」
「駄目ですね」
「そうなんだ」
 こう言うのでした。
「そのことを覚えておいてね」
「わかりました」 
 トミーは先生の言葉に頷きました。
「それもまた、ですね」
「生物学でね」
「オオサンショウウオの特徴ですね」
「そうなんだ」
 こう言うのでした。
「だからこの兵庫県にも研究センターがあるんだ」
「それで研究されていますね」
「そして東にはそうした施設がないんだ」
「いないならですね」
「研究をしようにも」
 そう考えてもというのです。
「肝心の生きものがいないとね」
「生物学だととんでもなく大きな支障が出ますね」
「だからね」
 それでというのです。 

 

第八幕その七

「そうしたことを把握することも」
「大事ですね」
「そして生息していないと思っても」
「その地域にですね」
「棲息していたりするね」
「そうしたこともありますね」
「例えば四国に鳥はいないとかね」 
 先生はワインを飲みつつこうしたお話をしました。
「言われても」
「いないと思い込まないことですね」
「そもそもあらゆる可能性がある」
「それがですね」
「学問だしね」
 だからだというのです。
「そうしたこともね」
「思いこまないで」
「生きものの調査で現地に入ったらね」
「どういった生きものもいる可能性がある、ですね」
「そう考えてね」 
 そのうえでというのです。
「調査すべきなんだ」
「そうだよね」
「そうしないと新たな発見もないよね」
「世の中それで色々な生きものが発見されて」
「今先生がお話してる分布だってそうよね」
「何処に分布しているかわからないし」
「いないと決め付けないことだね」   
 皆も口々に言います。
「決め付けはよくないけれど」
「学問でもだね」
「こうだって決めたらね」
「それで終わりだしね」
「そうだよ、だからね」
 先生は皆にもお話します。
「僕は気を付けてるんだ」
「決め付けはしない」
「そのうえで学問にあたる」
「そうしようとだね」
「意識してるのね」
「そうなんだ、実際鳥は四国にもいるよ」
 こちらにもというのです。
「ちゃんとね」
「そうだよね」
「鳥いるよね、四国にも」
「というか何でそんな言葉出たの?」
「不思議なんだけれど」
「長曾我部元親さんがいたね」
 先生はこの人の名前を出しました。
「戦国時代の土佐今の高知県に」
「ああ、あの人?」
「四国の覇者になった」
「一代でそうして」
「後で豊臣秀吉さんに仕えた」
「あの人は強かったけれど」 
 このことは事実でもというのです。
「四国には当時他に強い人がいなかったんだ」
「だから四国を統一出来たんだね」
「他にこれといった人達がいなくて」
「それでなんだ」
「だから当時天下人だった織田信長さんが言ったそうなんだ」
 この人がというのです。
「鳥のいないつまり強い人のいないね」
「ああ、そういう意味だね」
「それでそう言ったんだ」
「他に強い人がいない」
「飛ぶ鳥がいないことと同じで」
「そこで蝙蝠がいたら」 
 飛ぶこの生きものがです。
「唯一飛ぶから」
「もう蝙蝠だけ目立つね」
「お空は蝙蝠のものだね」
「そうなるね」
「そうだよ、そうした意味の言葉で」
 それでというのです。 

 

第八幕その八

「実際は四国にも鳥はいるし」
「そこでその言葉を鵜呑みにして」
「四国に鳥はいない」
「そう思って研究するとね」
「駄目ってことだね」
「そうだよ、学問に決め付けや偏見は禁物だよ」
 絶対に駄目だというのです。
「そうして考えて研究していかないとね」
「駄目だね」
「本当にそうだね」
「そうすると間違える」
「そういうことね」
「そうだよ、よく覚えておいてね」
 こう言うのでした。
「このことは」
「うん、わかったよ」
「僕達も覚えておくわね」
「そのこともね」
「ちゃんとね」
「だから僕は未確認動物も否定しないし」
 それにというのです。
「魔術や錬金術、オカルトもね」
「否定しないよね」
「物凄く熱心に研究しているよね」
「実際に」
「そうだよ、科学が万能でもないしね」
 先生はこのお考えもお話しました。
「決してね」
「そうだよね」
「この世に万能のものもないしね」
「それこそ神様以外にね」
「そうだからね」
「そうしたものはないと思って決め付けて」
 そうしてというのです。
「考えから排除したら駄目だよ」
「オカルトにしてもそうで」
「他のこともだね」
「学問の中で排除しない」
「そうしないと駄目だね」
「だって月に人はいたね」
 先生は皆にかつて月に行った時のことをお話しました。
「そうだったね」
「あれは驚いたよ」 
 ジップも言うことでした。
「まさか月から人が来て」
「そうそう、僕達が月に行ってね」
 チーチーも言います。
「そこでお仕事をするとかね」
「しかも月から地球に帰るなんてね」
 ダブダブも言いました。
「夢みたいなことだよ」
「けれど夢じゃなくて」
 それでと言うホワイティでした。
「本当のことだったしね」
「何しろ起きても月にいたんだから」
 それでとです、老馬も言います。
「夢じゃなかったよ」
「そうしたこともあったし」
「月に人がいたから」
 オシツオサレツはこの時も二つの頭で言います。
「どんなことも否定出来ないね」
「有り得ないと思っていることでも」
「いや、あの時の不思議な体験ときたら」
 ガブガブも月から人が来て月に行って帰って来るまでのことを思い出しています。
「絶対に忘れられないわ」
「他にも僕達は色々と不思議なことを経験してきたし」 
 トートーも言います。
「有り得ないとか決め付けて偏見を持つと駄目だね」
「実経験として言えるね」
「そうよね」
 チープサイドの家族もお話します。
「学問においては禁物で」
「他のことでもそうだね」
「あらゆる可能性を考える」
 ポリネシアの言葉はとても理知的なものでした。 

 

第八幕その九

「それが大事なのね」
「そうだよ、幽霊はいないと言ってもいるね」 
 先生はクラッカーの上に苺のジャムを置いてです。
 それを食べてです、それをおつまみにワインを飲んで言いました。
「織田作さんにしても」
「そうだよね」
「ちゃんといるからね」
「幽霊にしても」
「いないと言っても」
「死後の世界だってあるしね」 
 こちらもというのです。
「織田作さんは何時でも行けるけれど」
「大阪が好きでね」
「ずっとあの街にいたいからね」
「死後の世界に行かない」
「そうなんだよね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「死後の世界もあるし」
「死ねば終わりじゃない」
「そのことも覚えておかないとね」
「本当にね」
「しっかりとね」
「本当にね」
「かつてのキリスト教は他の宗教を否定して共産主義は宗教自体を否定したけれど」
 それでもというのです。
「僕はしないよ」
「だからお寺や神社にもお参りするし」
「学んでもいるよね」
「キリスト教以外の宗教も」
「そうだよ、そしてね」 
 そのうえでというのです。
「尊いとも思っているよ」
「それも先生だね」
「他の宗教も否定しない」
「キリスト教以外の宗教も」
「神学者でもあってね」
「そちらの博士号も持っているけれど」
「そうした考えだよ、実は日本に来て宗教を否定していてね」
 先生はどうかというお顔になって言いました。
「自分の力だけでやっていくって人と会ったけれど」
「そうした人っているよね」
「無神論者だね」
「無神論も思想だしね」
「そうした考えもあるね」
「けれどその人が日本の皇室を否定して北朝鮮の世襲の共産主義は認めていたのを見てね」
 そうしてというのです。
「無神論はこうなるのかってね」
「思ったんだね」
「そうした人が自分の力だけでやっていっても」
「絶対に失敗するよね」
「それじゃあね」
「普通の人は見てわかるよ」
 それこそというのです。
「あの国の世襲制はあそこの人達が支持しているからいいって言ったけれど」
「それで本気で言ってるのかな」
「本気で言ってたらどうしようもないよ」
「あの国のことなんて世界の誰でも知ってるよ」
「支持とかそういうことが存在する国か」
「言うまでもないわよ」
「世界一と言っていい独裁国家だね」
 先生は言いました。
「言論の自由なんてない」
「一切ね」
「とんでもない階級社会だし」
「そんな国に支持とかあるか」
「言わされている」
「それだけよね」
「そんな国だから」
 それでというのです。 

 

第八幕その十

「支持なんてないよ」
「それで逆にね」
「日本は支持されてるよ」
「日本の皇室は」
「多くの人にね」
「そうされてるね」
「日本は民主主義だからね」
 北朝鮮と全く違ってです。
「その人が日本の皇室を支持していないことは明らかでも」
「他の人は違うから」
「そこをちゃんとわからないとね」
「駄目よね」
「そうだね」
「その人民主主義は共和制か共産主義かって言ったけれどね」 
 先生はこのこともお話しました。
「日本やイギリスは民主主義じゃないって考えだね」
「色々間違え過ぎてない?」
「無茶苦茶おかしな人よね」
「そんな人が自分の力だけでやっていったら」
「絶対に道を間違えるね」
「確実に碌でもないことになるよ」
「そうした人を見たから」
 それでというのです。
「僕は無神論には非常に懐疑的なんだ」
「そうなるよね」
「いや、凄い人だね」
「そんな人が運動家になるのね」
「そうしてヤクザ屋さん以下のことをするのね」
「そうなると思ったよ」
 まさにというのです。
「本当にね」
「そうだよね」
「それなら宗教を信じた方がずっといいわ」
「そんな極端な考えになるよりは」
「誰が見たっておかしい考えには」
「北朝鮮がどんな国か子供でもわかってるよ」
 それこそというのです。
「それがわからない様ならね」
「駄目よね」
「本当にね」
「そんな風になったら」
「駄目だね」
「僕は本気でその人と会ってこうはなるまいって思ったよ」
 反面教師と認識したというのです。
「それで尚更だよ」
「信仰を意識する様にした」
「そうなんだね」
「先生にしても」
「そうだね」
「人間自分の力で生きようなんて思っても」
 そう考えてもというのです。
「無理だよ」
「そうだよね」
「そんなこと無理だよね」
「そう思うとそうなる」
「子供がわかることすらわかってない」
「そんな人にだね」
「そうなると思うよ」
 ワインを飲みながら思い皆にお話するのでした。 

 

第八幕その十一

「人間は小さくて弱いものだからね」
「神様から見たらね」
「どんな凄いと思われる人でも小さいよ」
「まさに塵芥だよ」
「人から見たら」
「そんなものだよ」
 人間についてこう言うのでした。
「だから自分の力で生きられるか」
「無理だよね」
「そんなことは」
「自分ではそう思っていても」
「出来ていると思っていても」
「それは主観だけだね」
「あくまでね」
 それに過ぎないというのです。
「所詮ね」
「若しそれがわからないと」
「本当に駄目だね」
「人間は」
「ウェリントン公爵なんてね」  
 ワーテルローでナポレオンに勝利を収めイギリスを救ったこの人はです。
「この世で一番立派と言われてもね」
「馬鹿なことを言いなさんなでしたね」
 トミーが応えました。
「そうでしたね」
「うん、あれだけのことをした英雄でもね」
「そう言われていましたね」
「それで自分だけで生きられるなんて」
「ことを為せるとは」
「思っていなかったよ」
「そうですね」 
 トミーも頷きました。
「そう考えていたからそう言いましたね」
「馬鹿なことを言うなってね」
「自分をこの世で一番立派と言われても」
「自分の力だけで為したと思ったら」
 ワーテルローでの勝利もです。
「イギリスを救ってね」
「尊大になりますね」
「日本で言うと天狗になって」
 尊大をこう表現しました。
「自分の功績を誇ってね」
「どうにもならなくなっていましたね」
「そうなっていたよ」
 まさにというのです。
「ウェリントン公爵がそうした考えなら」
「そうですね」
「あのナポレオンを破った自分はね」
「そのナポレオンより凄い」
「そう考えてね」
 そうしてというのです。
「そうなっていたよ」
「そうですね」
「世の中何もしていないのに自分がこの世で一番偉いと思っている人もいるしね」
「ウェリントン公爵とは真逆に」
「こうした人も信仰がないんだよ」
「神様を意識していないですね」
 トミーは言いました。 

 

第八幕その十二

「そうですね」
「だからそう思うんだよ」
「自分がこの世で一番偉いと」
「けれどそう考える人はね」
「実は、ですね」
「何でもなくて」
 それでというのです。
「かなりね」
「駄目ですね」
「そうだよ」
 実際にというのです。
「そうもね」
「信仰も忘れない」
「僕は心掛けているよ、あと分布はね」
 このお話に戻るのでした。
「あくまで今で」
「頭に入れていても」
「発見で変わることはね」
 このことはというのです。
「よくね」
「覚えておくことですね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「さもないとね」
「失敗しますね」
「そうなるよ」
「学問として」
「だから若しかするとオオサンショウウオも」
「東にいるかも知れないですね」
「その可能性はゼロかというと」
 それはといいますと。
「本当にね」
「ゼロではないですね」
「そうだよ、それが学問だから」
「分布を頭に入れても」
「そこにいないとはね」
 決してというのです。
「決め付けないことだよ」
「それが大事ですね」
「そうなんだ、ではね」
 先生はあらためて言いました。
「明日からもね」
「学んでいかれますね」
「そうしていくよ」
 笑顔で言うのでした。
「これからもね」
「そうですか、では」
「うん、今日はお酒を飲んだら寝るけれど」 
 もうお風呂に入っています、それでなのです。
「歯を磨いてね」
「そうされますね」
「気持ちよくね、そして明日から」
「またですね」
「学問だよ」
「そちらに励まれますね」
「僕の生涯の楽しみの一つにね」
 こうも言うのでした。
「そうするよ」
「それじゃあ」
 トミーも頷きました、そしてです。
 チーズを食べてこんなことを言いました。
「しかしこのチーズも美味しいですね」
「そうだよね」
「どんどん食べられます」
「そして飲めるね」
「そうですね」
「いい感じだよ」
 先生もチーズを食べつつ言います。
「本当にね」
「そうですね、じゃあ今夜は」
「こうしてね」
「ワインを楽しまれますね」
「そうしていこう」
 こうお話してでした。
 先生はワインも楽しみました、そうしてまた次の日から学問を楽しむのでした。 

 

第九幕その一

               第九幕  奇麗なお水
 先生はこの日はまたオオサンショウウオの研究施設に行きました、そうしてこの生きものを学びますが。
 動物の皆以外にお静さんも一緒です、お静さんはこんなことを言いました。
「私猫又でしょ」
「うん、そうだね」
 先生もその通りだと頷きました。
「お静さんはね」
「猫又ってあれなにょ」
「あれっていうと?」
「人と一緒に暮らしてるでしょ」
 こう先生にお話するのでした。
「そうでしょ」
「街でね」
「元々が猫だからね」
 猫が五十年生きると猫又になります、お静さんも長生きしてそうなっています。
「それで今もよ」
「酒屋さんのご家族でね」
「お店で働いているのよ」
「そうしているね」
「だから山に行くことは」
「あまりないね」
「妖怪同士のお付き合いで行くこともあるけれど」
 それでもというのです。
「やっぱり普段はね」
「街で暮らしているね」
「そうしているから」
 だからだというのです。
「こうしたね」
「山の生きものとはだね」
「あまりね」
 それこそというのです。
「縁がないわ」
「そうだね」
「川魚も好きだけれど」
「そこの生きものもだね」
「ええ、けれど山に行くことはね」
 どうしてもというのです。
「あまりないわ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
 それ故にというのです。
「オオサンショウウオを見ることも」
「滅多にだね」
「なかったのよ」
「そうなんだね」
「いることは知っていても」
「見ることはなくて」
「こうしてじっくり学問として見るなんて」
 そうしたことはというのです。
「これまでなかったと言っていいわ」
「街の妖怪だとそうなるね」
「ただ妖怪としてのオオサンショウウオとはね」
「ハンザキだね」
「こちらとはご存知よ」
「そうなんだね」
「山奥にいてね」
 そうしてというのです。
「そこでよ」
「会ったことがあるんだ」
「あるわよ、お付き合いで山に入ることもあるって言ったわね」
「今確かにね」
「そこでお会いするのよ」
「この兵庫県にもいるんだね」
「十メートルあるのよ」
 お静さんはその妖怪の大きさもお話しました。
「凄く大きいから」
「その妖怪さんとは知り合いなんだ」
「あと大きな蟹や蛙の妖怪ともね」
 彼等ともというのです。 

 

第九幕その二

「知り合いよ」
「そうなんだね」
「日本じゃ生きものが長生きしたら妖怪になるわね」
「お静さんだってそうだしね」
「それでオオサンショウウオもそうでね」
 それでというのです。
「蟹さんや蛙さんもよ」
「そうなるね」
「そしてね」
 妖怪になってというのです。
「大きさもね」
「変わるんだね」
「お水の生きものって大きくなる傾向があるわね」
 妖怪になると、というのです。
「獺さん達は違うけれど」
「日本だとだね」
「あらゆる生きものが妖怪になって」
 そうしてというのです。
「大きくもね」
「なるね」
「変化もしてね」
「そうだね」
 先生はその通りだと頷きました。
「日本の特徴の一つだね」
「そういえば日本って生きものが妖怪になること多いね」
「そうそう、凄くね」
「狐さんや狸さんに」
「アナグマさんもで」
「他の生きものもそうで」
「まさに全部の生きものがなる感じだね」
 先生は動物の皆に応えました。
「そうだね」
「そうだよね」
「もうどんな生きものも妖怪になる」
「その可能性があるよね」
「生きものの系列の妖怪も多いし」
「そうしたお話かなり多いよ」
「日本は八百万の神々の国だね」
 先生はここでこうも言いました。
「そうだね」
「よく言われるね」
「日本はそうした国だって」
「あらゆるものに神が宿っている」
「神様が司っているって」
「古事記や日本書紀を読んでもね」
 そうもしてというのです。
「次から次に神様が出て来るしね」
「滅茶苦茶多いよね」
「世界一神様が多いって言うけれど」
「実際にそうでしょうね」
「神道の神様は」
「そこに仏教の仏さんも入るしね」
「そして神様が少し変わるとね」 
 そうなってというのです。
「妖怪になるよ」
「イギリスにもそうしたお話あるね」
「神様が妖精になった」
「そう言われるね」
「僕達の祖国でも」
「それは日本でも同じでね」 
 イギリスだけでなくというのです。
「神様は妖怪にもなるんだ」
「森羅万象に神様がいって」
「八百万って言われる位多くて」
「それで妖怪も多い」
「そうなんだね」
「そしてあらゆるものが妖怪になるんだ」
 そうもなるというのです。
「日本ではね」
「神様がそうなって」
「そして妖怪もだね」
「だからあらゆる生きものが妖怪になる」
「そういうことね」
「ものだってそうだね」
 生きものだけでなくというのです。 

 

第九幕その三

「付喪神ってあるね」
「そうそう、それもあったよ」
「日本ではね」
「どんなものも長く使っていると魂を持って」
「それで妖怪になるね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「そうなるからね」
「そうしたお国だから」
「妖怪多いんだ」
「生きものの妖怪も」
「そうなってるんだね」
「そういうことだよ、妖怪の多さもね」
 まさにこのこともというのです。
「日本の特徴だね」
「増えていってるしね」
 トートーは笑って言いました。
「今だってね」
「そういえばそうだね」 
 ジップはトートーの言葉に頷きました。
「妖怪は昔のものでなくて」
「アニメや漫画でも出てるし」
 こう言ったのはガブガブです。
「人気もあるしね」
「日本は妖怪の国でもあるね」 
 老馬は断言しました。
「まさに」
「色々な人がいて生きものがいて」
「神様もそうでね」
 チープサイドの家族もお話します。
「仏様もいて」
「そして妖怪もだね」
「色々豊富過ぎて」
 ダブダブは思いました。
「もう一度に頭に入らない位だよ」
「妖怪だけで数えきれない位分厚い本一杯あるしね」
 ホワイティはこう言いました。
「どれだけ多いか」
「生きものやものがなった妖怪も多くて」
 チーチーは考えて発言しました。
「その他の妖怪も多いしね」
「いや、不思議に満ちていてね」
「楽しい国だね」 
 オシツオサレツは二つの頭で思いました。
「何かと色々あって」
「退屈とは無縁だね」
「先生にとっては最適の国かしら」
 ポリネシアは先生を見て言います。
「まさに」
「そうかもね。生物学だけを取っても」
 先生も皆に答えました。
「素敵過ぎる国だよ」
「全くだね」
「この国に来てよかったね」
「先生としては」
「そう思ってるよ、しかしこうしてね」
 先生はオオサンショウウオの資料を見つつお話しました。
「こうした生きものが妖怪になるとね」
「迫力あるよね」
「外見もそうだし」
「只でさえ大きいのに」
「これが十メートル位になったら」
「けれどのんびりして大人しいのよ」 
 お静さんは妖怪になったオオサンショウウオのお話をしました。
「凄くね」
「元々そうした生きものだからだね」
「そうよ、人を襲うお話があるけれど」
 それでもというのです。
「そうしたこともね」
「実際はだね」
「ないしね」
 そうしたこともというのです。
「至ってね」
「大人しくてだね」
「むしろ大きくなっても」 
 十メートル位にというのです。 

 

第九幕その四

「人を見ると隠れるのよ」
「そうするんだね」
「シャイなのよ」 
 お静さんは笑ってこうも言いました。
「これがね」
「元々の性格がそうで」
「この兵庫県でもいるけれど」
 オオサンショウウオの妖怪がというのです。
「よかったら紹介するわよ」
「そうしてくれるんだ」
「どうかしら」
「じゃあお願い出来るかな」
 すぐにです、先生は応えました。
「僕もお会い出来るならね」
「それじゃあここを観終わったら」
「もうなんだ」
「丁度この近くに住んでいてね」
 そうしていてというのです。
「私の妖力で飛んで行けばよ」
「すぐになんだ」
「そうよ、どうかしら」
「お言葉に甘えていいかな」
「遠慮は無用よ」
 お静さんはにこりと笑って答えました。
「先生がいいなら」
「それならだね」
「私はいいわよ」
「それではお言葉に甘えて」
「ええ、ここの後はね」
「妖怪のオオサンショウウオさんとだね」
「お会いしましょう」
 こうお話してでした。
 皆は研究所の後はです。
 お静さんの妖力でお空を飛んで兵庫県の山奥それこそ人が滅多に行くことのない様なところに行ってです。
 そのうえでそこにある川に行きますが。
 川の中に向けてです、お静さんは声をかけました。
「半次郎さんいる?」
「その声はお静さんかな」
「そうよ」
 川の岸辺である岩場から声をかけます、川の周りはそうなっていて石も沢山あってその周りは森になっています。
「私よ」
「何の用かな」
「あんたに会って欲しい人がいるのよ」
「僕にかい?」
「ドリトル先生よ」
 お静さんは川の中に向かって告げました。
「今一緒よ」
「へえ、ドリトル先生が来てくれたんだ」
「私が案内したの」
 お静さんはこうも答えました。
「先生とお話してね」
「一度お会いしたいと思っていたけれど」
「じゃあ丁度いいわね」
「そうね、それじゃあね」
「今から出て来てくれるかしら」
「そうさせてもらうよ」
 お静さんの言葉に応えてでした。
 声の主は川からぬっと出て来ました、それはです。
 濃い焦げ茶色の身体で十メートルはあるオオサンショウウオです、お静さんに半次郎さんと呼ばれた彼は川から上半身を出してです。
 先生達がいる岩場の前にお顔を出してそうして挨拶をしてきました。
「はじめまして、貴方がドリトル先生だね」
「はじめまして、そうだよ」 
 先生は半次郎さんに帽子を取って一礼してから答えました。
「僕がドリトルだよ」
「お話は聞いてたよ」
 半次郎さんは先生ににこりとして応えました。
「あらゆる生きもののお友達で学問が大好きでね」
「僕のことをそう聞いているんだ」
「それで妖怪ともお友達だって」
「そうよ、姫路城の姫様ともお友達よ」
 お静さんは半次郎さんにお話しました。 

 

第九幕その五

「あの方ともね」
「へえ、あの方ともなんだ」
「それでパーティーも催したのよ」
「そんなことがあったんだ」
「あの時あんたずっと寝ていたからね」
「冬眠したままだった時があったね」
「一年位ずっと寝ていたから」
 その時はです。
「パーティーにお誘い出来なかったけれど」
「そんなことがあったんだね」
「姫路城でね」
 お姫様がいるそのお城で、です。
「そうしたことがあったのよ」
「そうだったんだね」
「そのパーティーのプランを立ててくれたのもよ」
「先生なんだ」
「そうよ」
 その通りだというのです。
「先生はあらゆる学問で博士号を持っていてね」
「それだけじゃなくてだね」
「そうしたことも出来るのよ」
「多才な人だね」
「いやいや、とんでもないよ」 
 先生はお静さんと半次郎さんのお話に驚いて言いました。
「僕はおてもね」
「多才じゃないのかな」
「そうだよ、身体を動かすことはからっきしでね」
 それでというのです。
「家事や世事のことは全くだから」
「それでなんだ」
「多才なんてね」
 それこそというのです。
「全くだよ」
「そうなんだ」
「そうだよ、だからそのことは言っておくよ」
「そうなんだね、先生は謙虚だね」
「それに紳士でしょ」
 お静さんは半次郎さんにあらためてお話しました。
「そうでしょ」
「そうだね」 
 半次郎さんもそれはと返します。
「礼儀正しい人だね」
「私ともお友達でね」
「じゃあ僕ともかな」
「あんた人見知りするけれどいい?」
「先生のお話は聞いてたよ」
 半次郎さんはお静さんに答えました。
「昔からね」
「いい人とかしら」
「勿論だよ、噂通りの人だね」
 即ちいい人だというのです。
「その先生にお会い出来るだけでも嬉しいのに」
「それに加えてよ」
「お友達にもなれるんだね」
「そうよ、どうかしら」
「是非お願いするよ」
 半次郎さんはお静さんに答えました。
「それじゃあね」
「ええ、先生もいいかしら」
「お友達が増えるなら嬉しいよ」
 先生は笑顔で答えました。
「僕はね」
「お互いいいのなら」
「それならだね」
「今からお友達よ」
 先生と半次郎さんはというのです。
「そうなったわ」
「そうだね、じゃあね」
「先生これから宜しくね」
 先生と半次郎さんは笑顔でお話してでした。
 そのうえで握手もしました、半次郎さんは大きな前足を出してそうしました。
 その握手の後で、です。先生は半次郎さんに尋ねました。 

 

第九幕その六

「君は幾つかな」
「四百五十二歳だよ」
 半次郎さんは答えました。
「その間ずっとここにいるんだ」
「そうなんだね」
「ほら、兵庫県には昔黒田官兵衛さんがいたね」
「あの人は元々こちらの人だからね」
「元々は小寺って苗字でね」
 それでというのです。
「ここで暮らしていたけれど」
「お会いしたことあるのかな」
「あの人にはないよ、又兵衛さんにお会いしたことがあるよ」
「後藤又兵衛さんだね」
「うん、大坂の陣で活躍したね」 
 半次郎さんは先生に昔を懐かしむ暖かい笑顔でお話しました。
「あの人は元々黒田家の家臣でね」
「こちら出身だったね」
「けれど黒田家を出てね」
 そうなってというのです。
「あちこち旅をしていた時もあって」
「その時になんだ」
「故郷に寄ったことがあって」
「ここにも来たんだ」
「そうしてきてね」
 それでというのです。
「ここに釣りに来たこともあったんだ」
「そうだったんだ」
「それでお会いしたんだ」
 その後藤又兵衛さんと、というのです。
「釣りに来てね」
「ここまでなんだ」
「そうなんだ、僕に気付いたけれど」
「どうだったのかな」
「どうだ調子はってね」
 その様にというのです。
「豪快な笑顔で言ってきたよ」
「そうだったんだね」
「いい人だったよ」
 後藤又兵衛さんはというのです。
「僕は釣らないと言ったし釣るのも食べる分だけで」
「弁えている人だったね」
「そうだったよ」
 こう先生にお話します。
「僕が見る限りね」
「あの人大坂の陣で戦死したっていうけれど」
 お静さんも言ってきました。
「実は違うのよね」
「奈良県の方に逃れたというね」
 先生はすぐに応えました。
「そうだね」
「ええ、そうよね」
「宇陀の方に逃れて」
 そうしてというのです。
「そこに桜が残っているよ」
「又兵衛桜ね」
「伝説だけれどね」
「あそこまで逃れて」
「そうして生きていたのよね」
「そうみたいだね」
「大坂の陣のお話は僕も聞いてるよ」
 半次郎さんも言ってきました。
「羽柴家負けたね」
「今羽柴家と言ったね」
「言ったよ、豊臣家とはね」
「言わないね」
「だってあれ本姓だから」
 その為にというのです。
「僕もだよ」
「そうは呼ばないね」
「それを呼ぶのは失礼だからね」
 その為にというのです。
「普通の姓のね」
「羽柴氏の方でだね」
「呼んだよ、それで右大臣さんともね」
「秀頼さんを呼ぶね」
「秀頼さんというのは諱だからね」
「普通では呼ばないお名前だから」
「呼ばないよ」
 半次郎さんもというのです。 

 

第九幕その七

「僕の名前だってね」
「普通の名前でね」
「今も使っているけれどね」
「君は諱はあるかな」
「ないよ、武士の待遇じゃないからね」
 だからだというのです。
「それでも礼儀としてね」
「そこはちゃんとしているね」
「又兵衛さんにしてもね」
「基次さんとは呼ばないね」
「そうしているんだ」
「そうだね、昔の日本人の名前は本姓と諱があったからね」 
 この二つがというのです。
「豊臣秀吉さんも実はそう呼ばれたことなかったしね」
「そうそう、羽柴藤吉郎」
「そう呼ばれていてね」
「諱が秀吉さんで」
「本姓は豊臣さんになったのよね」
「当時あの人を豊臣秀吉さんと呼ぶ人はいなかったよ」 
 動物の皆にもお話します。
「決してね」
「それで方広寺の鐘もだよね」
「国家安康君臣豊楽ってね」
「家康さんを切っていて」
「豊臣家が栄えるってあるけれど」
「こんな言いがかりはしなかったよ」
 幕府もというのです。
「普通に使わないからね」
「諱も本姓も」
「どっちもね」
「当時の人なら」
「若しかして使ってるかって幕府も豊臣家に聞いたかも知れないけれど」
 それでもというのです。
「そこで戦になるとはね」
「ないよね」
「大坂の陣はそれで起こらなかった」
「幕府もそこまで言わなかったのね」
「確認は取っても」
「豊臣家もそんなことはないって答えるし」
 絶対にというのです。
「それで終わったよ」
「ああ、大坂の陣だね」
 半次郎さんもそのお話に入ってきました。
「僕当時生きてたし聞いてるし姫路城の姫様からも聞いたけれど」
「まさにその時代も生きていたからね」
「うん、あの寺のお話じゃないよ」
 方広寺のというのです。
「羽柴家が切支丹を認めて」
「それでだね」
「幕府としてはね」
「それは認められないでね」
「戦になったんだ」
 そうした経緯だったというのです。
「当時切支丹って人を他の国に売って奴隷にしていたからね」
「それで秀吉さんも禁止したね」
「太閤さんもね」
 半次郎さんは今も諱を使いません。
「そうしたんだ、けれどね」
「羽柴家は認めたね」
「お袋さんがね」
 この人がというのです。
「今人は淀殿って呼んでるけれど」
「あの人がだね」
「認めて」 
「そうしてだね」
「幕府としては日本の人達を奴隷にするなんて許せないから」
「戦になったね」
「そうだったんだ、あの戦でお袋さんは死んだよ」 
 淀殿はです。 

 

第九幕その八

「けれど右大臣さんとご子息はね」
「生きていたんだ」
「僕も大坂から来た妖怪に聞いたし姫路のお姫様からもね」
「聞いたんだ」
「お二人は真田源次郎さんに護られて」
「信繁、幸村さんとも言うね」
「うん、あの人に鹿児島の方までね」
 当時薩摩といったあちらまでというのです。
「落ち伸びたよ、それでご子息はね」
「あの人もだね」
「実は木下家の分家の人がね」
 まさにこの人がというのです。
「そうだったんだ」
「その実はだね」
「うん、処刑されたとか言われてるけれど」
 それでもというのです。
「実はね」
「そうなっているね」
「そして又兵衛さんもだよ」
 この人もというのです。
「僕当時そのことを知って凄く嬉しかったよ」
「大坂の陣でどうなったかわからなくなっていて」
「それが大和まで落ち伸びて生きているとわかって」
 それでというのです。
「本当にほっとしたよ」
「いい人だったからだね」
「ずっと生きて欲しかったから」
 だからだというのです。
「生きていてね」
「よかったね」
「本当にね」 
 実際にというのです。
「そう思ったよ、ただもう又兵衛さんもお亡くなりになったね」
「うん、人間の寿命だとね」
「大坂の陣に関わった人達は皆ね」
「今はこの世にいないよ」
「おられても幽霊だね」
「そうなっているよ」
「そうだね、後で又兵衛さんも鹿児島に行ったらしいね」
 そうしたというのです。
「聞いた限りだと」
「そうなんだね」
「このことは歴史でわかってるかな」
「いや、又兵衛さんは宇陀に逃れてね」
 そうしてとです、先生は半次郎さんに答えました。
「そこで天寿を全うしたというし公には大坂の陣で」
「戦死したとだね」
「なっているからね」
「右大臣さんも源次郎さんもだね」
「皆あの戦いで死んだとだよ」  
 その様にというのです。
「言われているよ」
「そうなんだね」
「人の歴史ではね」
「歴史の本ではそうね」
 お静さんも言ってきました。
「右大臣さんも幸村さんも又兵衛さんもね」
「皆だね」
「大坂夏の陣でね」
 この戦いでというのです。
「右大臣さんは落城の時自害して」
「幸村さんと又兵衛さんは討たれたね」
「そう言われているわね」
「そしてそれが歴史書になっているから」
「人の歴史ではよね」
「それが公つまりね」 
 即ちというのです。
「事実にね」
「なっているわね」
「そうだよ」
 まさにというのです。 

 

第九幕その九

「そうなっているよ」
「そうよね」
「けれど歴史は学べば学ぶ程だよ」
 その様にしていけばというのだ。
「真実がわかってね」
「真実即ち事実が変わるのね」
「そうなるよ、だからね」
「大坂の陣のこともなのね」
「事実がわかる日もね」
「来るかも知れないわね」
「そうかもね」
 実際にというのです。
「これからは」
「そうなればいいわね」
「僕は学問のことはわからないけれど」
 それでもとです、半次郎さんは言いました。
「先生には嘘を吐いているつもりはないよ」
「君が聞いたことをだね」
「ありのまま言ってるよ」
 まさにというのです。
「姫様も嘘を吐かれる方じゃないし」
「兵庫県の妖怪の棟梁だけあってだね」
「そうだよ、だからね」
「君としてはだね」
「嘘は吐いていないよ」
「そのことはわかるよ」
 先生もにこりと笑って答えました。
「君はそんなことしないよ」
「そうだね、それじゃあね」
「今日の君のお話は覚えておくよ」
「そうしてくれるんだね」
「君自身と共にね」
 半次郎さんに笑顔でお話します、それから彼と楽しくお話をしてです。
 そのうえでお静さんの妖力で研究所に戻ってです、そうしてからお家に戻ってまた論文を書きますが。
 お静さんはお家に帰る時に先生に尋ねました。
「先生半次郎さんに言われたことは」
「歴史学で調べるよ」
 オオサンショウウオのことを調べつつ答えます。
「そうするよ」
「そうするのね」
「うん、実際に昔から言われてるしね」
「又兵衛さん達のことは」
「実は逃げ延びていたってね」
「あの戦いで死なないで」
「特に僕は思うに」
 温厚ですが真剣な言葉でした。
「秀頼さんの息子さんは本当に木下家のね」
「分家になっていたの」
「木下家は秀吉さんの正室さんの実家で」
「ねねさんね」
「岸和田藩として江戸時代ずっとあったけれど」
 そうしたお家でというのです。
「一子相伝で藩主の人が跡継ぎさんに秀頼さんは薩摩に逃れたと伝えていて」
「それは信憑性あるわね」
 お静さんが聞いてもです。
「かなり」
「木下家の秘密の抜け道を使って逃れたそうなんだ」
「そうだったの」
「当時実際に生存説がかなり言われていたから」
 大阪の陣が終わった直後にです。
「それでご子息はね」
「木下家でよね」
「お家の息子さんということにしてもらって」
 そうしてというのです。
「成人すると分家させてもらって」
「大名になったのね、抜け道とか一子相伝は私も知らなかったけれど」
 それでもとです、お静さんは答えました。
「分家してというのはね」
「聞いていたね」
「そうだったわ、妖怪仲間では間違いないと言われてるわ」
「そうなんだ」
「ええ、しかし幕府もよく許したわね」
「公で死んだと言うとね」
 それならというのです。 

 

第九幕その十

「幕府としてもだよ」
「そうだとしか言えないのね」
「そうだよ、秀頼さんは自害してね」
「ご子息は処刑したのよね」
「そうしたって言ったからね」
 幕府はです。
「例え生きていても相手がそれを隠していたら」
「見て見ぬふりね」
「相手もそれを言ったら大変なことになるってわかってるし」
「もうそこは言わないで」
「お互いにね」
「それでやっていったのね」
「そうだよ」
「ううん、日本的だね」
 ここまで聞いてです、老馬は言いました。
「もう根こそぎとかしないんだね」
「相手が黙ってるならそれでいい」 
 ポリネシアも言いました。
「そういうことね」
「まあ粛清とかよりずっといいね」
 ダブダブは日本のそうした考えをよしとしました。
「怪しいと根こそぎじゃないのはね」
「見るからに怪しいけれど別に謀反を考えてないし」
 それならとです、ホワイティも言いました。
「問題ないね」
「豊臣家は滅んだ」
 一言で、です。ガブガブは公のことを言いました。
「じゃあ木下家の分家の人も違うわね」
「鹿児島にも逃れていない」
 こう言ったのはトートーでした。
「大坂城が落城した時に死んでるしね」
「ならそれで問題なしだね」
「そうなるわね」 
 チープサイドの家族もお話します。
「木下家も言わないし」
「どれだけ怪しくても公ではそうなっているし」
「そもそも江戸幕府って凄く血を嫌ったね」 
 このことはジップが言いました。
「どうにも」
「そうなんだよね」
 チーチーはジップの言葉に頷きました。
「当時から見たらかなり人道的なんだよね」
「死刑は老中や大坂城代が判断して」
「拷問するにしても一番厳しいのはそうでね」
 オシツオサレツは二つの頭で言いました。
「判決は軽くする」
「それが習わしだったしね」
「そう、幕府は血を好む政権じゃなかったんだ」 
 先生もこのことを指摘しました。
「それじゃあ秀頼さんの息子さんが木下家の分家さんでも」
「公には死んでいる」
「豊臣家は滅んでるし」
「そうなっていたら」
「幾らその人の素性が怪しくて」
「どう見てもそうにしても」
「まあ噂位はね」  
 この程度はというのです。
「何とでも言えるということで」
「意識しない」
「そうだね」
「そこはもう放っておく」
「噂は噂だね」
「それで済ませるしね、何しろ歌舞伎で忠臣蔵を上演されても」 
 そこに幕府の政治を批判するものがあることは言われていますが。 

 

第九幕その十一

「江戸時代じゃないからね」
「作品の舞台がね」
「室町時代になってて」
「それで人も違うし」
「それならね」
「幕府は何も言わなかったしね」
 自分達を直接言わないと、というのです。
「そうした寛容さを持っていたから」
「幾ら怪しくても」
「どう見てもその人でも」
「それで噂になっていても」
「謀反を考えていないなら」
「よかったんだ、それにその人が秀頼さんの息子さんでも」
 例えそうでもというのです。
「幕府の世は定まったね」
「そうだったね」
「大坂の陣で勝ったし」
「その前に幕府を開いてからずっと地盤固めして」
「天下泰平を定めんとしていたからね」
「それで幕府の世は定まっていたから」
 そうした政治もしてきた結果というのです。
「だからね」
「それでだね」
「もう豊臣家の人が生き残っていても」
「徳川家の統治は覆せない」
「そうなっていたから」
「あえて何もしなかったんだ」
 木下家の分家の人達にというのです。
「どうもね」
「それでその人は天寿を全うしたんだね」
「木下家の分家の人として」
「石高は少ないけれどお大名として」
「生きていったんだね」
「そうみたいだね、そうした意味でも江戸幕府はいい政権だったよ」 
 先生は微笑んでお話しました。
「産業も文化も発展する世の中にして」
「しかも長い間平和で」
「治安もよくて」
「しかも寛容で」
「血も好まないなら」
「真の王道を目指した政権と言えるけれど」
 江戸幕府はというのです。
「まさにね」
「それを実現した」
「そうだね」
「それが江戸幕府だね」
「素晴らしい政権よね」
「そうだよ、日本では最近まで何かと言われたけれど」
 批判的なことをです。
「調べれば調べる程だよ」
「そのよさがわかるのね」
「豊かで平和でいい時代だった」
「そうだったって」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「僕は江戸幕府が大好きだよ」
「そうだよね」
「先生幕府をいつも評価してるね」
「それもかなり高く」
「そうだね」
「そうせずにいられないよ」
 まさにというのです。 

 

第九幕その十二

「僕としてはね」
「いや、先生にそう言ってもらって嬉しいわ」
 お静さんはここまで聞いてです、笑顔で言ってきました。
「日本のことを認めてくれてね」
「公平に学ばせてもらってだよ」
「そう言ってるのね」
「そうだよ」
 こうお静さんに答えます。
「僕もね」
「公平でその評価なの」
「そうだよ」
「現代の日本についても」
「まさにね、自然だってね」
 こちらもというのです。
「公平に見てだよ」
「素晴らしいのね」
「実にね」
 まさにというのです。
「最高だよ」
「オオサンショウウオさんについても」
「素晴らしい生きものだとね」
 その様にというのです。
「言えるよ」
「そうなのね」
「うん、そして他の生きものもね」
「皆素晴らしいのね」
「緯度もあって様々な地形もあるから」
 だからだというのです。
「山に海に川にね」
「山は森ね」
「そこに本当に色々な自然があるから」
「生きものも沢山いて」
「様々な種類のね、だから学ばせてもらっているし」
「論文も書いて」
「そして動物園の方にもね」
 そちらにもというのです。
「喜んでだよ」
「協力させてもらっているのね」
「そうだよ、この自然は大事にしていきたいね」
 先生はこうも言いました。
「これからも」
「そう言ってくれることも嬉しいわ」
「お静さんとしては」
「ええ、本当に日本の全てが好きなのね」
「いや、どうかという部分もね」
「あるの」
「マスコミや学校の先生は酷過ぎるから」
 それでというのです。
「そうしたところはね」
「先生は駄目だって思うのね」
「あんまりにもだからね」
 そこまで酷いからだというのです。
「それでだよ」
「そうしたところは駄目だって」
「僕も言うよ」
 そうだというのです。
「本当にね」
「そうしたところは」
「うん」
 まさにというのです。
「僕はよくないと言うよ」
「けれどそれ以外は」
「別にね」 
 これといってというのです。
「言わないよ」
「悪いところはないから」
「そう思っているからよね」
「そう、だからね」
 その為にというのです。
「言わないよ」
「そうなのね」
「そうしたところがあっても日本はね」
「素晴らしい国ね」
「いい人も生きものも妖怪も沢山いるしね」
「そこに私も入っているのかしら」
「勿論だよ」 
 先生は笑顔で答えました、そうしてです。
 この日も楽しく過ごしました、先生の日本での生活は毎日がとても楽しいものでこの日もなのでした。 

 

第十幕その一

                第十幕  奥さんが来て
 いよいよ動物園に雌のオオサンシュウウオが来る人なりました。それで雄のオオサンショウウオはお水の中でうきうきとしています。
「いい娘だっていうからね」
「楽しみなんだね、君も」
「僕にとても合っている娘っていうからね」
「それはいいね、やっぱりお付き合いするならね」
 先生はオオサンショウウオにお水の傍で言いました。
「性格がよくてね」
「相性のいい娘だね」
「そづだよ、性格が悪いとね」 
 そうした相手だと、というのです。
「どれだけ外見がよくても」
「一緒にいられないね」
「日本だとマスコミや野党の人に多いかな」
 先生は具体的な例を挙げました。
「とても少しでも一緒にいられない」
「そんな人が多いんだ」
「うん、あまりにも性格が悪くてね」
「先生みたいな人でも無理なの」
「僕は大した人でないしね」
 この場合の『みたいな』という言葉に応えて言いました。
「あまりにも性格が悪い人とはね」
「一緒にいられないんだ」
「人のことをあら探ししてあれこれ関係のない時まで言って」
 そうしてというのです。
「自分のことは言わないでしかも底意地が悪くて努力もしない」
「自分に甘く他人に厳しい?」
「徹底してね」
 そうだというのです。
「そうした人とはね」
「先生もなんだ」
「一緒にいられないよ、近寄ってこられても」
 例えそうして来られてもというのです。
「そうした人は友情とか愛情がね」
「ないんだ」
「人は利用するもとね」
 その様にというのです。
「思っているから」
「そうした人だからなんだ」
「失礼なことは言わない様にするけれど」
 この辺り先生は紳士ならではです。
「けれどね」
「それでもだね」
「お付き合いもね」
「お断りだね」
「そうするよ」
 実際にというのです。
「僕も利用されるだけで後はポイとかね」
「されると嫌だね」
「人を利用するだけの人は笑顔に出るよ」
 そこにというのです。
「やけに下卑た媚た笑顔だからね」
「そうした笑顔なんだ」
「それで来るから」
「自分から?」
「そうした笑顔で来る人とは」
「お付き合いしないことだね」
「今お話した人達はね」
 マスコミや野党の人達はというのです。
「そうした笑顔で来る人が多いだろうね」
「そしてそんな人とはだね」
「僕も一緒にいられないよ」
「結婚もだね」
「しない方がいいね」
 先生はきっぱりと言い切りました。
「不幸になるから」
「嫌な人と一緒にいたら」
「人を利用するだけの人が困ってる人を助けるかな」
「それは絶対にないね」
 オオサンショウウオも断言しました。
「むしろ真っ先にね」
「逃げるね」
「どんな生きものでもね」
「人間だけでなくね」
「そう、だからね」
 それでというのです。 

 

第十幕その二

「僕もお話を聞いてわかったよ」
「そんなオオサンショウウオとは」
「絶対に付き合えないよ」
「結婚出来ないね」
「性格が悪い相手とはね」
「そうだね、自分しかない相手とはね」
「一緒になれないね」
 先生のお言葉に頷きました。
「それじゃあ」
「これから来る娘はとてもいい娘だから」
「僕は幸せになれるね」
「きっとね、そしてね」
「そして?」
「末永くね」
 先生はこうも言いました。
「一緒に暮らすんだよ」
「ただ幸せになるだけでなくて」
「そうだよ、その幸せをね」
「ずっとだね」
「一緒に育んでいくんだよ」
「そうだね、幸せは長くあってこそだよね」
 オオサンショウウオは先生の言葉に頷きました。
「そうだよね」
「そう、だからね」
「僕達もだね」
「末永く幸せにね」
「そうなる様にするよ、それじゃあ先生もね」
 オオサンショオウウオはお水の中から先生を見上げて言いました。
「幸せにね」
「もう僕は最高に幸せだからね」
 先生も笑顔で応えました。
「その幸せがずっと続く様に努力していくよ」
「もっと幸せになれるよ」
「そうなるかな」
「きっとね」
 こう言うのでした。
「先生が気付いたらね」
「あれっ、君もそう言うんだ」 
 先生はオオサンショウウオの言葉におやというお顔になって応えまいsた。
「もっと幸せになるって」
「そうだよ、気付いたらね」
「今で最高に幸せなのに」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「気付くことだよ」
「僕は」
「うん、先生はもてるね」
「いや、僕程もてない人間はいないよ」
 相変わらずの返事でした。
「この世にね」
「そう言うんだ」
「君にも言うけれどこの外見で運動音痴で」
「それでなんだ」
「家事も世事も全くだからね」
 そうした人だからだというのです。
「もてないよ」
「そうかな」
「事実僕は全くもてたことがないから」
「それでなんだ」
「そうしたことはないしそれにね」
 先生はさらに言いました。
「沢山のいい人が周りにいてくれているから」
「それでなんだ」
「今もね」
 それこそというのです。
「最高に幸せだから」
「その幸せがなんだ」
「ずっと続く様にね」
「していくんだ」
「その様に努力していくよ」
「ううん、先生は無欲だね」
 ここまで聞いてです、オオサンショウウオは思いました。 

 

第十幕その三

「本当に」
「よく言われるよ、そうもね」
「事実そうだしね、無欲なのは美徳だけれど」
 それでもというのです。
「人に迷惑かけなくて人も勧めるならね」
「それならなんだ」
「もっと幸せにね」
 その様にというのです。
「なってもいいんじゃないかな」
「そうなのかな」
「うん、僕の幸せを願ってくれてアドバイスしてくれるなら」
「僕もなんだ」
「そうなるべきだよ」 
 今以上にというのです、そしてです。
 奥さんが来ると早速二匹は打ち解けて仲良くなりました、先生はそれを見てとても明るい笑顔で喜びました。
 ですがここで動物の皆に言われました。
「オオサンショウウオさんもそう言ってるし」
「先生、もっと幸せになろう」
「今以上にね」
「そうなろうね」
「だからね、僕は今で最高に幸せだから」
 先生のお考えは変わりません。
「だからね」
「それでだよね」
「結婚はしなくていい」
「今で充分過ぎる程幸せで」
「それなら今の幸せを願う」
「ずっと続く様に努力するんだ」
「そうするからね」
 だからだというのです。
「結婚や恋愛は元々無縁だしね」
「やっぱりそう言うんだね」
「全く先生ときたら」
「すぐにそう言うんだから」
「困るよ」
「困ると言われてもね」 
 それでもというのです。
「本当にね」
「先生はもてない」
「そうだって言うのよね」
「とても」
「そうだって」
「そうだよ、本当にね」
 こう言うのでした、そしてです。
 先生はオオサンショウウオのスタッフの人達につがいとなった場合についてどうすべきかをお話しました、その知識はスタッフの人達以上でして。
 スタッフの人達も驚いてこう言いました。
「流石先生です」
「本当に生きもののことにもお詳しいです」
「生きものとお話も出来ますし」
「素晴らしいですね」
「そう言って頂き嬉しいです、これからもお話して頂ければ」
 その時はとです、先生も言いました。
「僕もです」
「お話して頂けますか」
「そうして頂けますか」
「ではですね」
「これからもですね」
「強力させて頂きます」 
 是非にと言うのでした。
 そのお話の後で、です。
 先生はご自身の研究室に戻りましたがここで、でした。
 皆がです、また言いました。
「先生、お見合いとかは言わないよ」
「僕達もね」
「けれどね」
「それでもだよ」
「本当に結婚を考えるべきだよ」
「昔はもう結婚する年齢じゃなかったよ」
 老馬が言ってきました。 

 

第十幕その四

「今の先生の年齢だとね」
「けれど今だとだよ」
 トートーも先生に言います。
「先生の年齢でも充分に結婚出来るし」
「全然遅くないから」
 それでとです、ホワイティも先生に言いました。
「真剣に考えてね」
「あのね先生、世の中先生より遥かに酷い人物凄く多いんだよ」
「人間の屑と言うしかない手合いも多いのよ」
 チープサイドの家族も言うことです。
「そんな人でも結婚してるのに」
「それで色々酷いお話になってるのに」
「先生みたいないい人が結婚しないでどうするのか」
 ジップは強い声で言いました。
「本当にね」
「もてないとか言うけれど」
「先生はそこで思考停止しているんだ」
 こう言ったのはオシツオサレツでした。
「何かとね」
「そこがよくないよ」
「もてないんじゃなくてもてると思う」
 こう言ったのはガブガブでした。
「自分は凄いからって」
「そう思ったらどうかしら」
 ポリネシアは先生に提案しました。
「ほんの少しでもね」
「先生ってどうしてもそうしたことは考えないけれど」
 チーチーもわかっていることです。
「そこも努力してね」
「そもそも外見や運動神経だけで判断するとか」
 もてないとです、ダブダブも思うことでした。
「僕が見てもよくないよ」
「皆そう言うけれど僕は本当に今で満足しているし」
 論文を書いて紅茶を飲みつつです、先生は微笑んでお話するのでした。本当にこうしたことでは変わりません。
「もてないんだから」
「やれやれだよ」
「まあそうした人だってわかってるし」
「それじゃあね」
「僕達も気長にいくよ」
「腰を据えてね」
「そうするんだ、何をどうするかわからないけれど」
 先生だけはそうでした。
「頑張ってね」
「そうするからね」
「何時か先生を今以上に幸せにするから」
「楽しみにしていてね」
「きっとだよ」
「そうするね」
 こう返す先生でした、そしてです。
 一休みしてインターネットでニュースをチェックしてこう言いました。
「阪神今年も強いね」
「二位に十ゲーム差以上つけてるね」
「今年も優勝間違いなしよ」
「本当に強いね」
「嬉しいことよ」
「投打が嚙み合っているからね」
 それ故にです、先生は笑顔でお話しました。
「だからだね」
「そうだよね」
「投手陣は抜群の安定感だし」
「しかも打線は絶好調だし」
「ダイナマイト打線がね」
「最下位巨人の倍以上はだよ」
 それだけはというのです。
「得点を上げているからね」
「巨人は本当に打たないからね」
「打率も二割台で」
「物凄い貧打線だからね」
「そこの倍以上得点していてもよ」
「おかしくないよ」
「球界の盟主と勝手に名乗って」
 先生は巨人についても言いました。 

 

第十幕その五

「ずっとやりたい放題やってね」
「それでその名前に固執して」
「フリーエージェントで他のチームから選手獲って」
「そればかりしてね」
「選手の育成もしないで」
「設備も顧みないで」
「野球理論も考えてこなかったから」
 皆も巨人について言います。
「親会社がお金回せなくなったら」
「あの有様ね」
「フリーエージェントで選手獲れなくなって」
「スカウトもボロボロで」
「育成もなっていないから」
「いい人が来なくなってね」
 そうした新人や助っ人がです。
「しかも育てられなくて」
「やる気も見られないし」
「練習も酷いっていうね」
「怪我人毎年異常に多いし」
「本当になってないんだね」
「それでは弱くなって当然だよ」
 今の巨人はというのです。
「万年最下位のね」
「駄目球団になるのも」
「人気も今や最下位で」
「かつては一番人気だったっていうのに」
「巨人軍大鵬卵焼きっていう位に」
「僕は卵焼きは好きだけれど」 
 先生の好物の一つです。
「大鵬さんはその時代じゃないしね」
「お相撲自体は観るけれどね」
「時々でも」
「そうするけれどね」
「その人は知らないし」
 大鵬という力士さんはです。
「そして巨人はね」
「先生阪神ファンだしね」
「本当に強くて華があるチームの」
「そうだからね」
「巨人は見向きもしないね」
「毎年百敗しているし」
 そこまで負けていてというのです。
「勝率一割台だからね」
「ある意味凄いよね」
「史上最弱って言われ続けて」
「みっともないとか恰好悪いって言われ続けて」
「オールスターでもずっと誰も出ていないし」
「驕る平家は久しからずって言うね」 
 先生はこの諺をここで言いました。
「そうだね」
「そう言うね」
「日本の有名な諺の一つだね」
「だから思い上がらない」
「謙虚でいなさいって」
「巨人にはそれがなかったんだ」
 このチームにはというのです。
「もうずっとね」
「球界の盟主って思い込んで」
「自分達が勝たないと日本がよくならないとか言って」
「野球も巨人あってこそだって」
「勝手に思い込んでよね」
「けれど実際はどうかな」
 現実はというのです。
「巨人は最下位でもね」
「野球は存在しているしね」
「阪神が毎年日本一で」
「そうなっていてね」
「むしろ人気が出ているよ」
 阪神が強くてです。 

 

第十幕その六

「そして日本もだよ」
「問題があるにしても」
「それでもだね」
「よくなっていってるよね」
「少しずつでも」
「むしろずっと悪いことをしていた巨人が負ける姿を見てだよ」
 そうしてというのです。
「皆元気が出て頑張っているね」
「そうだよね」
「皆巨人が負けて嬉しいよね」
「その負ける姿を見て元気が出て」
「お仕事もお勉強も頑張って」
「遊びだって元気だしね」
 それでというのです。
「日本はむしろ元気になってるね」
「巨人が弱い方がね」
「日本はよくなっているよ」
「やっぱり巨人は弱い方がいいわ」
「その方がずっとね」
「昨日はヤクルトに完全試合で負けたけれど」
 巨人はというのです。
「三試合連続完封負けでエラーは三試合で十もあったよ」
「いいところないね」
「本当に何もかもが駄目ね」
「弱いね、巨人」
「誰でも謙虚さを忘れたらいけないね」
 先生は心から思いました。
「驕る平家じゃなくて」
「今は巨人だね」
「驕る巨人は久しからず」
「今はそうだね」
「そう言っていいね」
「全くだよ、巨人はこれからずっと最下位だよ」
 先生は断言しました。
「何しろフロントは野球を全くわかってなくて」
「もう何もしない」
「そうした状況だからね」
「経営放り投げてるも同然で」
「昔よくやった補強もしないし」
「ストーパーの助っ人の人の防御率は二十五点台だったしね」
 そうした成績だったというのです。
「バッターの人は四番でもね」
「あれだよね、打率一割九分で」
「ホームラン三本でね」
「打点今は七点」
「全然打たないわね」
「チャンスはからっきしで」
「左ピッチャーの打率は一割切るっていう」
 そうした選手だとです、先生も言います。
「ある意味凄い選手だね」
「態度も悪くて」
「発言も大概よね」
「そちらでも評判悪いし」
「酷い助っ人だね」
「そうした人しか来ない様なね」
 そうしたというのです。
「酷いチームになっているんだ」
「いい場所にはいい人が集まって」
「悪い場所には悪い人が集まる」
「花には蝶が寄る」
「そして汚物には害虫がたかるって言うしね」
「そうだよ、阪神はいいチームになったからね」
 かつての暗黒時代を乗り越えて、です。
「だからだよ」
「雰囲気も最高だし」
「明るく溌剌としていて」
「六甲おろしの歌詞そのままのね」
「蒼天駆ける日輪の如し」
「本当に明るくて爽やかなチームだよ」
「それでいて愛嬌もあってね」 
 先生は笑ってお話しました。 

 

第十幕その七

「よく話題の種になることも起こるね」
「所謂ネタだね」
「ネタも尽きないチームだよね」
「笑える様な」
「そんなことも多いんだよね」
「そうしたところもだよ」
 実にというのです。
「阪神は魅力なんだよね」
「昔からそうしたことには尽きなくて」
「ネタチームとか言われてみたね」
「毎年何かある」
「そうしたチームだって」
「けれどね」
 それでもというのです。
「阪神は今は明るくて笑える話題ばかりだね」
「そうそう」
「何でそうなるのってね」
「強い中にも笑いあり」
「そんな素敵なチームよ」
「けれど巨人は陰気でね」
 そうしたチームカラーになっていてというのです。
「不祥事ばかりだね」
「もうそれしかないよね」
「悪い話しかないよね」
「どんよりとして沈んで」
「物凄く暗いカラーだよ」
「ベンチはヤクザ屋さんの事務所みたいだしね」
 そこまで雰囲気が悪いというのです。
「ファンも少なくなる一方で」
「本当に悪いチームだよ」
「いいところが全くない」
「東京ドームを観てもね」
「テレビとかインターネットでも」
「そこでも一塁側の雰囲気悪いよ」
 巨人の方はというのです。
「選手同士助け合わなくて」
「チームプレーは全然で」
「ミスがあったら罵り合って」
「それで負ける度にお互いを批判し合うね」
「本当に驕るとね」
 今お話している通りにとです、先生は心から思いました。
「ああなるね」
「全くだね」
「巨人は最悪のチームよ」
「弱くて暗くて柄が悪くて」
「いいところの全くない」
「最低のチームになったね」
「僕も反面教師にしないとね」
 巨人はというのです。
「選手一人一人も」
「驕るとああなる」
「謙虚さを忘れたら」
「そして紳士としてああなってはいけない」
「そうだね」
「うん、もう巨人はよくならないよ」
 絶対にというのです。
「今も球界の盟主とか言ってるしね」
「十五年連続最下位なのにね」
「しかも勝率一割台で」
「一シーズン敗戦記録更新し続けてるのに」
「それでもね」
「まだそう言ってるからね」
「反省して」 
 自分達をというのです。
「そしてそこからやり直さないとね」
「よくならないよね」
「誰だってそうだし」
「けれど巨人は反省しないから」
「悪いままだね」
「どうして日本の知識人が駄目になったのか」
 先生はいつも思うことをお話しました。 

 

第十幕その八

「色々原因はあるけれど反省しないでずっといたこともね」
「そのうちの一つだね」
「北朝鮮への帰国事業に関わったり」
「あの国の拉致はないと言っても」
「そうしたことを全く反省しないで責任も取らなくて」
「同じことを繰り返したからだね」
「だからだよ」
 そうした行いだったからだというのです。
「酷くなる一方で」
「ああなったんだね」
「腐敗しきって」
「どうしようもなくなったのね」
「テロを起こしたカルト教団の教祖を最も浄土に近いと言った人がだよ」
 そうした人がというのです。
「大勢の人を殺した教祖を」
「ああ、あの人ね」
「信者さんに粗末なもの食べさせて自分は贅沢して」
「禁欲説いていてそうで」
「愛人さんも一杯いたっていう」
「そんな人をそう言った人がね」
 先生は苦いお顔で言いました。
「戦後最大の思想家って言われているんだ」
「普通にないよね」
「一般社会ならね」
「絶対に違うって言われるよ」
「そんなこと言ったら」
「僕も思うよ、僕はこの人を評価していないけれど」
 先生としてはです。
「日本の知識人の人達の多くは違ってね」
「そんな人が戦後最大の思想家なんだ」
「そう言われて持て囃されてるんだ」
「絶望的だね」
「どうしようもないね」
「本当に他の世界なら馬鹿にされる様な人でもなんだよ」
 言っていることがあまりにも酷くてです。
「日本の知識人の間ではね」
「尊敬されるんだね」
「反省してこなくて酷くなる一方だったから」
「そうなったんだ」
「そうだよ、ハンガリー動乱で逆にハンガリーをこう批判した人もいたよ」
 先生は暗いお顔で言いました。
「百姓国だってね」
「命懸けでソ連に抵抗した国にだね」
「その国の人達に」
「どうせソ連の肩を持ったんだろうけれど」
「酷い発言だね」
「こんな人が東大教授で法政大学の総長だったんだ」
 そうした立場にあったというのです。
「それで今もこの人の名前を冠した賞とかあるよ」
「それも酷いね」
「日本の知識人の世界ってそこまで酷いんだ」
「テレビも酷いけれど」
「全体が腐敗しきってるんだね」
「日露戦争でも勝って日本の政治家達は戦争をすれば儲かると錯覚したと言った国立大学の教授もいるしね」
 この人のこともお話しました。
「事実は全然違うけれどね」
「実は日本は借金だらけになったね」
「勝ったにしても」
「それで戦後まで借金返して」
「四苦八苦したけれど」
「反省しないと人間は酷くなる一方だね」
 先生は心から思いました。
「巨人と言い知識人の人達といい」
「全くだね」
「今先生が言った人達一人も反省してないよね」
「どの人も最悪と言っていいけれど」
「そうだね」
「してないだろうね、開き直るか口を拭って」
 その様にしてというのです。
「同じことを繰り返してきたからね」
「そうした人達は」
「そうしていってだね」
「進歩もしなかったんだね」
「そうだよ、人に反省を強要することは僕はしないけれど」
 それはというのです。 

 

第十幕その九

「そうした人も見るとね」
「人にあれこれ言う人ってね」
「人ばかり見てね」
「自分のことはおろそかになってるからね」
「お説教好きな人に大した人がいないのは」
 それは何故かといいますと。
「それは自分が偉いと思いたいからだけでね」
「人にあれこれ言ってるとね」
「言える自分偉いって思えるね」
「確かにそうだね」
「それだけでね、しかも人ばかり見てね」
 そうなってというのです。
「自分のことはおろそかになってるからだよ」
「そうだね」
「そんな人ってそうよね」
「自分は偉いとだけ思って」
「全く磨かないからね」
「大した人じゃないんだ、だから僕は人にはそう言わないけれど」
 それでもというのです。
「反省することの大事さはね」
「自覚してるね」
「自分を振り返ってあらためるべき点はあらためる」
「そのうえで努力する」
「それが大事だね」
「そうだよ、自分を振り返ることも」
 このこともというのです。
「大事だよ、それをしないとね」
「巨人や知識人の人達みたいになる」
「そういうことだね」
「要するに」
「そうだよ、何しろ学校の先生が北朝鮮の素晴らしさを自信満々に生徒さん達に言うことすらね」
 そんなこともというのです。
「日本じゃあるからね」
「あの国がどんな国かって誰でも知ってるよ」
「子供でもね」
「絶対に生まれたくない国だよ」
「何があっても」
「そうした人ですらね」
 誰でもわかっていることをわかっていない様なというのです。
「学校の先生、知識人になれるんだから」
「物凄く酷いね」
「日本は素晴らしい人が多いけれど」
「いい人もね」
「けれど知識人になると」
「全く違うんだ」
「そうなんだ、僕はそうした人達とは交流しない様にしているよ」
 先生はというのです。
「発言も行動も信用出来ないし賛同も出来ないからね」
「その方がいいね」
「そうした人達とお付き合いしてもいいことないよ」
「絶対にね」
「僕達もそう思うよ」
「だからだよ」
 そう考えるからだというのです。
「いつもお誘いを受けてもね」
「断わってるね」
「僕達もいつも一緒だから見ているけれど」
「先生はそうしているね」
「いつもね」
「やんわりと断って」
 先生はそうしていると言いました。
「近寄らない様にしているね」
「笑顔でね」
「そうしてお断りして」
「交流しない様にしているね」
「そうした人達とは」
「何故かああした人達は集まることが好きだけれど」 
 先生は首を傾げさせながら言いました。
「学問は色々なお話を聞いても一人でするね」
「そうそう」
「本を読んでフィールドーワークをして」
「そうしてやっていくけれど」
「やっていくのは一人だよね」
「常にね」
「そしてその学説は自分のもので」
 そうであってというのです。 

 

第十幕その十

「賛同はしてもらっても集まるものか」
「違うよね」
「そちらもね」
「やっぱりね」
「そうしたものだからね」 
 それ故にというのです。
「僕はお友達にはなってもね」
「集まってね」
「派閥に入ったり作ったりしないね」
「学問において」
「人とのお付き合い全体でそうだしね」
 学問に限らずというのです。
「僕はね」
「そうそう、先生ってそうしたことはしないよ」
「派閥作る様なこともね」
「そうしたこともしないね」
「絶対にね」
「それに意味があるか」
 派閥を作ったり入ったりということにというのです。
「僕はないと思うから、結社は必要だけれどね」
「集会とか結社とかね」
「民主政治では守られないとね」
「そうしたものも」
「イギリスでは伝統的に多いしね」
 先生は祖国のお話もしました。
「結社もね」
「遊びで作ったりね」
「魔術だのオカルトを学ぶ為にもあったり」
「ドルイドになるとか」
「他にもあるね」
「僕はそうしたものはいいと思うよ」
 こうした結社はというのです。
「面白いね、けれど本当に人の派閥はね」
「作らないしね」
「入らないね」
「それも先生だね」
「本当に」
「うん、この考えは昔からだよ」
 まさにというのです。
「守ってるよ」
「そうだね」
「じゃあこれからもだね」
「先生はそうしたものも作らないで」
「反省もしていく」
「そうして生きていくね」
「そうしていくよ」 
 実際にというのです。
「僕もね」
「そうだね」
「じゃあそうしていこう」
「これからもね」
「是非ね」
「そうして自分も磨いていくよ」
 先生はにこりと笑ってです、皆に答えました。
「心掛けてね」
「そうしていってね、しかしね」  
 チーチーは新聞を見て思いました。
「本当に阪神はいいチームだね」
「歴史もいいよね」
 ダブダブはチーチーと一緒に新聞を読みつつ応えました。
「はじまってからの」
「いい選手が多くてね」
「その時代その時代で」
 チープサイドの家族も新聞を読んでいます、そのうえでの言葉です。
「阪神愛に満ちて頑張っている」
「そんな選手がいつもいるね」
「甲子園球場もいいんだよね」
 ホワイティは球場のお話をしました。
「凄くいい球場だから」
「あの球場の前に来ただけで気持ちがよくなるわ」
 ポリネシアにしてもです。 

 

第十幕その十一

「これから野球を楽しもうって」
「そしてあのユニフォームを見たら」 
 ジップは目を輝かせて言いました。
「もうやろうってなるね」
「六甲おろしを聴く時の嬉しさときたら」
 トートーも目を輝かせています。
「何とも言えないよ」
「七回の風船もいいわよね」
 ガブガブにしてもです。
「さあここからもっと楽しもうってなってね」
「グラウンドを観てもいいんだよね」
「あの内野が土のグラウンドもね」
 オシツオサレツも二つの頭でお話します。
「素敵だよね」
「あそこで阪神の選手の人達が活躍する姿を観ることも」
「いや、阪神はね」
 本当にと言った老馬でした。
「何もかもが最高のチームだよ」
「全てにおいて華があるね」
 先生も皆と一緒に新聞を読みつつ言いました。
「絵にもなるよ」
「勝っても負けても」
「そして何があっても」
「阪神は華があってね」
「絵になるね」
「僕は日本に来るまで野球自体疎かったよ」
 イギリスにいる間はというのです。
「本当にね」
「そうだったね」
「野球がイギリスに入ったのって最近だし」
「先生も知らなくて当然だね」
「そうだったよ、けれど日本に来て」
 王子に誘われてというのです。
「そしてね」
「そうしてだよね」
「王子に紹介されたお仕事に就いて」
「お家にも入って」
「生活をはじめて」
「テレビを点けたらね」
「阪神の試合でね」
 それがあってというのです。
「そこで阪神の魅力に触れて」
「それでだね」
「先生は阪神ファンになったね」
「そうなったね」
「野球も知ったね」
「そうなったよ、甲子園でのあの姿を観て」
 阪神タイガースの人達が活躍するそれをというのです。
「一瞬でね」
「ファンになって」
「そしてだね」
「今もだね」
「応援しているね」
「そうだよ、僕はずっと阪神を応援するよ」
 この愛すべきチームをというのです。
「何があってもね」
「勝っても負けても」
「例え何があっても」
「それでもだね」
「そうしていくよ、こんな素敵なチームないからね」
 それこそというのです。 

 

第十幕その十二

「応援していくよ」
「僕達もだよ」
「阪神最高だよ」
「こんな素敵なチームないよ」
「世界の何処にもないね」
「そうだね、ただ日本に虎はいないね」
 ここでこのこともお話しました。
「そうだね」
「うん、いないよ」
「日本には大きなネコ科の生きものいないわ」
「虎だけでなく豹やライオンも」
「日本って猛獣少ない国だよ」
「狼とか熊位でね」
「そうだね、けれどどうして虎なのか」
 阪神はというのです。
「それは阪神創設時日本が朝鮮半島も領土にしていたからだよ」
「そういえばそうだったね」
「あの頃は日本は朝鮮半島を領土にしていたわ」
「台湾もだったけれど」
「そうだったね」
「それで当時の阪神の経営陣の人が虎をチームの象徴にしたんだ」
 こうした縁からというのです。
「実はね」
「そうだったんだ」
「阪神と言えば虎だけれど」
「もう何と言っても」
「そうした経緯があったのね」
「日本に虎はいないから」
 だからだというのです。
「そこは不思議だったね」
「うん、確かにね」
「そのことはね」
「僕もそう思っていたよ」
「私だってね」
「それがなんだ」
 実はというのです。
「こうしたはじまりだったんだ」
「成程ね」
「面白いことね」
「はじまりがそうだったね」
「中々興味深いよ」
「全く以てね」
「そうだね、それにね」
 先生はさらにお話しました。
「阪神のユニフォームも色々だね」
「歴史が長いからね」
「復刻で色々見るけれど」
「本当に多いね」
「何かとね」
「中には真っ黒のものもあるね」 
 先生は言いました。
「そうだね」
「あれいいよね」
「滅茶苦茶恰好いいよ」
「縦縞じゃなくても」
「それでもね」
「そのユニフォームを楽しむこともだよ」
 このこともというのです。
「本当にだよ」
「楽しみね」
「阪神を応援するにあたって」
「そのうちの一つね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「だからね」
「これからもだね」
「そうしたことも楽しんで」
「応援していくね」
「そうしていこうね」
 阪神タイガースのこともお話してでした。
 先生は日々を過ごしていきます、そのうえで学問も楽しんでいっているのは言うまでもありませんでした。 

 

第十一幕その一

                第十一幕  細かいお世話
 先生はこの日も皆と一緒に学園の敷地内にある動物園に招かれました、そうしてそこでなのでした。
 まずは日笠さんからお話を聞きます、日笠さんは先生にご自身がおられる動物園の事務所の一つの中で言いました。
「オオサンショウウオの夫婦はです」
「どんな感じでしょうか」
「日増しに仲がよくなっていまして」
「そうなのですね」
「もう立派なつがいになっています」
 先生ににこりと笑ってお話しました。
「有り難いことに」
「それはいいことですね」
 先生もお話を聞いて笑顔になりました。
「僕も彼からお話を聞いてです」
「雄の方のですね」
「奥さんになる娘を一目見てです」
 そうしてというのです。
「すぐにです」
「気に入ったのですね」
「そうなりまして」
 それでというのです。
「最初からです」
「仲がよかったですね」
「はい」 
 日笠さんに笑顔でお話します。
「それでこれはいいと思いましたが」
「はい、今はです」
「最初の時以上にですね」
「親密になっていまして」 
 そうしてというのです。
「このままいけば産卵もです」
「いけますか」
「そうしてです」
 日笠さんはさらにお話しました。
「子供が生まれて」
「そこからですね」
「個体数を増やすこともです」
「期待出来ますね」
「そうかろ。オオサンショウウオは希少動物ですから」
「個体数は少ないですし」
「その数が増えれば」
 そうすればというのです。
「実にです」
「有り難いですね」
「そうです、天然記念物なので」
 それ故にというのです。
「特に保護が必要で」
「それで、ですね」
「何とかですね」
「数が増えれば」
 そうなればというのです。
「本当にです」
「有り難いので」
「それで、ですね」
「私達としてもです」
 是非にというのです。
「産卵してもらい」
「そうしてですね」
「そしてです」
「個体数を増やして」
「保護を進めたいです」
「そうですね、それでなのですが」
 日笠さんは先生にお願いする様に言いました。
「夫婦からです」
「お話をですね」
「聞いて欲しいですが」
「わかりました、では今日はですね」
「彼等とお話をして下さい」
「そうさせて頂きます」
 笑顔で応えてでした。
 先生はオオサンショウウオのコーナーに赴いてでした。
 夫婦からお話を聞きます、すると。
 奥さんのオオサンショウウオがです、こう言いました。
「私達はここでずっとゆっくりとしていればいいのね」
「そうだよ、水槽の中でね」
 先生は奥さんに笑顔で答えました。 

 

第十一幕その二

「泳いでご飯を沢山食べてね」
「寝てよね」
「夫婦で仲良くね」
 そうしてというのです。
「過ごしてくれたらね」
「いいのね」
「そうだよ、それで子供をね」
「作ることね」
「そうしてね」 
 こう言うのでした。
「産卵もしてね」
「何か皆それを言うのよね」
「そうなんだよね」
 ご主人のオオサンショウウオも言ってきました。
「周りがお話しているの聞くよ」
「そうなのよね」
 奥さんも頷いて言いました。
「私達が仲がいいことをいいと言って」
「そうしてだよね」
「早く産卵して欲しい」
「そうして欲しいって」
「私達もそのつもりだけれど」
「何か凄い皆言うよね」
「それはね」
 何故かとです、先生は答えました。
「君達は数が少なくてね」
「天然記念物だからかな」
「それでかしら」
「だからだよ」
 その通りだというのです。
「だからこそ数が増えて欲しいし研究の為にもね」
「沢山必要なの」
「僕達の子供が」
「そうなんだ、君達についてはまだわかっていないことも多いし」
 生きものとしてというのです。
「だからだよ」
「それでなんだ」
「産卵を期待されているんだね」
「そうだよ、ただその季節になれば出来るから」
 先生は笑ってお話しました。
「僕が君達を診断したところね」
「出来るんだ」
「ちゃんと子供がなのね」
「だからね」
 それでというのです。
「安心してね」
「その時を待つ」
「そうすればいいのね」
「そうだよ、神様が言った通りにね」
 先生は二匹ににこりと笑ってこうも言いました。
「産めよ増やせよだよ」
「そうしてだね」
「子供を増やしていけばいいのね」
「そうだよ、ここでゆっくりと夫婦で仲良く暮らしながら」
 そうしつつというのです。
「君達はその時が来ればだよ」
「子供をもうける」
「産卵をすればいいのね」
「そうだよ、仲良くね」
 こう言うのでした、そしてです。
 そのお話をしてです、先生はまた日笠さんとお話をしました。オオサンショウウオの夫婦とお話したことをそのままです。
 日笠さんにお話すると日笠さんは先生に言いました。
「そうですか、産卵の時期になればですね」
「彼等は無事にです」
 先生は日笠さんに微笑んでお話しました、今回も動物園の事務所の中でお話しています。そのうえでのことです。
「産卵してくれます」
「それまで待てばいいのですね」
「そうです、焦ることはありません」
 こうも言うのでした。
「特に」
「実はです」 
 日笠さんは先生にお話しました。 

 

第十一幕その三

「皆です」
「動物園の人達はですね」
「彼等が夫婦になったことで」
「気が逸っていまうね」
「時期が来ないと駄目なのはわかっていても」
 頭の中でというのです。
「ですが」
「それでもですね」
「それがです」
 どうにもというのです。
「気持ちはです」
「逸ってしまって」
「そうしてです」
 そのうえでというのです。
「一刻も早くです」
「産卵してもらって」
「そしてです」
 そのうえでというのです。
「増えて欲しいとです」
「願っていますね」
「どうしてもそうなっていましたが」
「それがかえってです」
「よくないですね」
「焦ってもです」 
 先生は日笠さんに微笑んで答えました。
「仕方ないです」
「やはりそうですね」
「そうです、学問は急ぐことはあっても」
 それでもというのです。
「焦るとです」
「失敗しますね」
「そうなります」 
 まさにというのです。
「ですから」
「それで、ですね」
「決してです」
「焦らないで」
「そしてです」
「じっくりとですね」
「時期を待って」
 そうしてというのです。
「産卵してくれたら」
「その時にですね」
「的確にことを進めていくことです」
「それが大事ですね」
「そうです」
 こう日笠さんにお話するのでした。
「宜しくお願いします」
「はい、皆さんにお伝えします」
「その様に。彼等にもお話しています」
「焦ることはないとですね」
「そうです」
 まさにというのです。
「ですから」
「それでは」
「今すべきことをです」
「的確にですね」
「その様に勧めて下さい」
「そうしていきます」
 日笠さんも答えました、そうしてでした。
 先生はです、日笠さんとお話をした後で。
 大学に戻って研究室に入る前に食堂に行きました、そのうえでナポリタンのスパゲティを食べますが。
 ここで、です。動物の皆は先生に言いました。
「焦っては駄目って言うのがね」
「まさに先生だね」
「本当にそうだね」
「実際焦っても意味ないし」
「よく言ったよ」
「流石先生だわ」
「そう言ってくれて嬉しいよ、やっぱりね」
 何と言ってもと言う先生でした。
「本当に焦ってもね」
「意味ないよね」
「こうしたことは特に」
「両生類の産卵とか時期が決まってるし」
「そうじゃない時に焦ってもね」
「意味ないわ」
「本当にね」
「そうだよ、そして産卵の時に」
 まさにその時にというのです。 

 

第十一幕その四

「的確なことを行う」
「それが大事だね」
「今から焦っても意味がない」
「焦るんじゃなくてやるべきことをやる」
「それが大事だね」
「そうだよ、しかし皆焦るね」 
 先生はナポリタンを食べつつ言いました、その量はまるで体育会系それもラグビー部の人が食べる位の量です。
 この食堂では普通のその量のナポリタンを食べつつです、先生は言うのでした。
「本当にね」
「まあそれはね」
「気持ちはわかるかな」
「天然記念物のことだし」
「増えて欲しいと思って」
「種の保存の為にも」
「そうだね、けれど本当にだよ」
 先生はまた言いました。
「焦ってもね」
「仕方ないんだね」
「結局のところ」
「だからだね」
「ここは焦らないで」
「それでなんだ」
「やっていくべきだよ」
 先生は落ち着いた声で言いました。
「落ち着いてね」
「先生は絶対に焦らないからね」
「だからそう思うんだよね」
「その先生の美徳が生きて」
「それでだね」
「そうなるのかな、兎に角僕はね」
 先生はあらためてです、皆にお話しました。
「焦らないね」
「そのよさが今回も出たよ」 
 まさにとです、ダブダブは先生に言いました。
「有り難いことにね」
「オオサンショウウオさんのこともちゃんとわかっているから」
 こう言ったのはトートーでした。
「そのこともあって言えたことね」
「ちゃんとわかっていれば焦らない」
 こう言ったのはジップでした。
「そうだね」
「先生の焦らない性格はちゃんとわかっていることもあるからだね」 
「そのことも大きいね」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「学問をじっくりと行っているから」
「知識を備えているね」
「確かに知識もあれば焦らないね」
 ホワイティはしみじみとして言いました。
「先生のその性格にプラスされて」
「ううん、焦る位なら知る?」
 こう言ったのはポリネシアでした。
「そうしろってことかしらね」
「そうなるね」 
 ジップはポリネシアに答えました。
「先生を見ていると」
「そうだね、先生は元々焦らなくて」
 そうした性格と、とです。老馬も言います。
「そして学問でちゃんとした知識もあるからだよ」
「絶対に焦らないね」 
 チーチーも言いました。
「いつも」
「成程ね、私達もそうでないとね」
 ガブガブは皆のやり取りの最後で頷きました。
「先生みたいにちゃんとした知識を備えないとね」
「まあね、確かな知識があるとね」 
 それならとです、先生も答えます。
「人は焦らないね」
「そうだよね」
「そうなるよね」
「元々焦らないなら尚更だよ」
「焦らないよ」
「例えば病気になっても」
 そうなった場合もというのです。 

 

第十一幕その五

「その病気の知識があるとね」
「怖くないね」
「どんな病気も」
「そうだね」
「脚気みたいな病気もだよ」
 例えとしてです、先生はこの病気を出しました。
「ちゃんとした知識があればね」
「問題ないね」
「ちゃんとビタミンを摂ればね」
「脚気にはならないわ」
「そもそもね」
「パンを食べてもいいし」
 その様にしてもというのです。
「麦飯や玄米もいいし」
「小麦がいいんだよね」
「先生が今食べているスパゲティにしても」
「それもいいし」
「あとはトリギモもいいんだったね」
「そうしたものを食べると脚気にならないし」
「なっても治るよ」
 そうなるというのです。
「昔は脚気はとても恐れられていたけれど」
「日本ではね」
「昔からあったね」
「源氏物語でも出ていたし」
「江戸時代なんか特にだったね」
「江戸や大坂で問題になっていたわね」
「白いご飯ばかり食べるとよくないんだ」 
 脚気になるというのです。
「だから栄養バランスを考えてだよ」
「ビタミンを摂る」
「そうすべきよね」
「脚気に大事なことは」
「何といっても」
「そうだよ、脚気もそうしたらいいし」
 この病気もというのです。
「他のことだってね、生きものと一緒に暮らすにもね」
「その生きもののことを知る」
「そうすれば問題ないわよね」
「そうすれば」
「それでね」
「そうだよ、だからね」 
 それでというのです。
「僕はいつも学んでね」
「そうして知識を手に入れて」
「その知識を役立てている」
「そうしているからだね」
「先生も焦らないね」
「そのこともあるだろうね、本当に焦ったら」
 その時はというのです。
「僕はよくないと思ってるし元々の性分で」
「焦らなくて」
「そしてだね」
「学問で得た知識があるから」
「尚更だね」
「そうだね、やっぱり学問は大事だね」 
 先生は食べつつ言いました。
「本当に」
「全くだね」
「じゃあこれからも学んでいくね」
「そうするわね」
「あらゆる学問を」
「そうしていくよ」
 先生は笑顔で答えました、そうしてです。
 ナポリタンを食べ続けます、そのうえでこんなことも言いました。
「この味付けがいいんだよね」
「ナポリタン美味しいよね」
「病みつきになる味だよね」
「具も多いし」
「素敵なスパゲティだね」
「そうだね、ただナポリという名前でも」
 それでもというのです。 

 

第十一幕その六

「けれどね」
「それでもなんだよね」
「実はナポリにこうしたスパゲティないから」
「トマトを使うものは沢山あっても」
「ケチャップを使うとなると」
「ないのよね」
「そうだよ、日本で生まれた」 
 そうしたというのです。
「独自のスパゲティだよ」
「そうだよね」
「実は」
「何かアメリカのスパゲティの影響を受けて作られた」
「そうしたものらしいね」
「だからね」 
 それでというのです。
「ナポリ、イタリアの人が聞いてだよ」
「ないって言って」
「それで食べてみたら美味しい」
「そうだっていうんだよね」
「これが」
「そうなんだよね、それでね」
 先生はそのナポリタンをさらに食べつつ言いました。
「僕も大好きだよ」
「日本ではじめて食べたけれど」
「それでもだよね」
「美味しいんだよね」
「これが」
「そうなんだ、美味しくてね」
 食べてみてそう感じてというのです。
「こうしてだよ」
「時々食べてるね」
「そうしてるわね」
「それも楽しんで」
「そのお味を」
「イギリスもパスタはよく食べる方だけれど」
 それでもというのです。
「けれどね」
「それでもだよね」
「本当にイタリアにはなくて」
「イギリスにもなくて」
「日本に出会って」
「嬉しいよね」
「全くだよ、日本のお料理には感激するばかりだよ」 
 食べつつ言うのでした。
「常にね」
「そうだよね」
「それではだね」
「今も食べて」
「それからだね」
「また学問に励むよ」
 こうお話してでした。
 先生はナポリタンも楽しみました、そしてです。
 その後で、でした。先生は実際に研究室に戻ってそのうえでまた学問に入りました。そうしてでした。
 論文を書いてです、一緒にいる皆に言いました。
「オオサンショウウオの論文もだよ」
「終わりそう?」
「終わりが見えてきた?」
「そうなの?」
「うん、学んで書いていって」
 そうしていってというのです。
「遂にだよ」
「今回の論文もなんだ」
「終わりが見えてきたんだ」
「そうなってきたんだ」
「どんな論文も書いていけばね」
 それを続けていけばというのです。
「必ず終わるよ」
「そうだよね」
「どんなものでも終わりがあって」
「論文だって同じよね」
「書いていけばね」
「終わりが近付くね」
「そうなるよ、やっぱり論文はいいね」 
 書いていてとです、先生は笑顔で言いました。 

 

第十一幕その七

「学んで書いてね」
「そうしていって」
「それでよね」
「本当にいい」
「先生の楽しみの一つだね」
「はじめた時のやろうかって気持ちも好きで」
 最初のそれもというのです。
「そしてだよ」
「書いている最中のね」
「どんどん学んで書いていく」
「それも好きで」
「今もだね」
「終わりが見えてきてね」
 そうしてというのです。
「そしてだよ」
「そのうえで終わらせる」
「その終わった時こそだね」
「これまでで最高の気持ちになる」
「そうだよね」
「ものをやり遂げた時こそね」
 まさにというのです。
「最高だよね」
「よく言われるけれど」
「先生もそうだね」
「だから論文は必ず脱稿する」
「書き上げる様にしているのね」
「そうだよ、終わりが見えてきたなら」 
 それならというのです。
「是非だよ」
「このまま書いていくね」
「そうするね」
「それじゃあね」
「先生頑張ってね」
「その論文も最後まで書いてね」
「そうするよ」
 皆に笑顔で応えてでした。
 先生は終わりが見えてきた論文をさらに書いていきます、そうしていってこの日はお家に帰る時間まで論文を書いてです。
 その後でお家に帰りましたがそこではです。
 次の論文の用意に入っていました、お家に来ていた王子はその先生を見て言いました。
「先生今度は何の論文を書くのかな」
「うん、日本の近現代の文学でね」
「そこでのなんだ」
「そうなんだ、井伏鱒二さんの論文をね」
「書くんだ」
「その用意をね」
 それをというのだ。
「今からね」
「進めているんだ」
「僕は常に論文を書いていないと」
 さもないと、というのです。
「どうもね」
「よくないんだね」
「学者は論文を書くものだから」
 それでというのです。
「今はオオサンショウウオの論文を書いていて」
「それが終わったらね」
 その時はというのです。
「もうすぐにだよ」
「井伏鱒二さんの論文を書くんだね」
「そうするよ」
 こう王子にお話します。
「その時はね」
「成程ね、先生は頑張ってるね」
「そうかな」
「いや、日本ってまともに論文書かない学者さんなんてね」 
 王子はそれこそとお話しました。
「結構いるからね」
「学者さんだけれどだね」
「それで碌に学問をしないで」
 そうしてというのです。
「テレビでとんでもないことばかり言う人もね」
「いるね、確かに」
「何でも三十年近くね」  
 それだけの間です。 

 

第十一幕その八

「何度も何度も論破されても反省しないで」
「そこから学ぼうとしないとだね」
「同じことばかり言う」 
 そうしたというのです。
「酷い学者さんもいるよ」
「それは女の人かな」
「四角い眼鏡かけて赤いマッシュルームみたいな髪型で」
「ああ、あの人だね」
 先生もその人が誰かわかりました。
「あの人はどう見てもね」
「論文書いてないよね」
「そしてまともな学問もね」
「していないよね」
「あの人が本当に学者さんか」
 先生は首を傾げさせつつです、王子に言いました。
「僕は甚だ疑問だよ」
「そうだよね、言ってることも全く論理的でなくてね」
「学問的じゃないからね」
「あの人学者さんかな」
「凄く疑問だね」
「本当にね」
 こうお話するのでした、ですが。
 先生はちゃんと次の論文の用意もしました、そうしてです。
 晩ご飯の時間になるとご飯を食べます、この日のメニューは沖縄料理でゴーヤチャンプルとラフテーに足てびちといったものです。
 その沖縄料理を見てです、先生は笑顔で言いました。
「今日も美味しそうだね」
「そうだね、トミーってどんどんお料理のレパートリーが増えていってるね」 
 ご馳走になる王子も笑顔です、執事さんも着席しています。
「日本に来てから」
「そうだよね」
「イギリスのお料理だけでなくて」
「和食もそうで」
「中華料理もそうで」
「沖縄料理もだしね」
「いや、日本人って色々なもの食べるから」
 だからだとです、トミーは皆に答えました。
「だからなんだ」
「その日本人の中にいたらだね」
「僕も自然とだよ、皆のお手伝いも受けてね」
 動物のというのです。
「色々作っているよ」
「そうしてるね」
「実際にね」
「今日は沖縄料理だったし」
「明日は明日でね」
「また作るしね」
「明日はハヤシライスにしようかな」
 トミーは考えて言いました。
「そうしようかな」
「そちらもいいね」
「ハヤシライスも美味しいよね」
「そうだよね」
「あちらもね」
「そうだね、だから僕も好きだよ」
 先生も言ってきました。
「素敵な日本のお料理の一つだよ」
「カレーが強過ぎるけれど」 
 ポリネシアはこちらのお料理のお話からしました。
「ハヤシライスもいいわよ」
「そう、素敵な食べものだよね」
「ハヤシライスだってね」 
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「お肉沢山入っていて」
「玉葱もたっぷりでね」
「あのソースがまたいいのよ」
 こう言ったのはガブガブです。
「ハヤシライスはね」
「ビーフシチューに似てるけれどまた違うんだよね」 
 トートーもそのソースについて言います。
「この場合はルート言うかも知れないけれどね」
「ご飯とまた合うんだよ」
 しみじみとです、老馬は言いました。
「あれがね」
「だから洋食屋さんでも大抵あるね」
「そうよね」
 こうお話したのはチープサイドの家族です。 

 

第十一幕その九

「カレーライスもあってね」
「ハヤシライスもだね」
「ハヤシライスも最高だよ」
 ジップもこう言います。
「カレーもいいけれどね」
「というかカレーが進化し過ぎじゃないかな」
 ホワイティが思うにです。
「幾ら何でもね」
「それはあるね」
 チーチーも言います。
「カレーは日本で凄い進化をしてるからね」
「カレーって鶏肉でも豚肉でもいいし」
 王子もカレーについてお話します。
「魚介類でも野菜だけでもでね」
「あと茸でもいいし」
「中の具は何でもいけるわ」
「シーフードカレーもあるし」
「ベーコンやソーセージでもいいし」
「あとシーチキンとかスパムでもいいわ」
「それにカツカレーやフライでもいいしね」
 王子はこちらのカレーのことも言います。
「兎に角何でもだよね」
「カレーはいけるよ」
「それこそね」
「そう思うとね」
「カレーは別格よ」
「何と言っても」
「だからといってハヤシライスが駄目か」
 先生は言いました。
「決して違うね」
「そうだよ」
「ハヤシライスも素敵だよ」
「美味しい食べものだよ」
「本当にね」
「だから明日食べられるならね」
 それならというのです。
「楽しみにしていようね、それじゃあね」
「うん、今からね」
「楽しみにしていましょう」
「そして今はね」
「沖縄料理を食べよう」
「そうしようね、それでだけれど」
 先生は目の前の沖縄料理を見つつ言いました。
「ゴーヤチャンプルもいいけれど」
「ラフテーもいいね」
「そちらもね」
「かなりいいね」
「本当に」
「これがまたいいよ」
 本当にとというのです。
「足てびちもだけれどね」
「じゃあ今から食べよう」
 王子は笑顔で応えました。
「そうしようね」
「うん、美味しくね」
 先生も笑顔で応えます、そうしてです。
 皆で沖縄料理をおかずにして晩ご飯を食べます、ご飯を食べ終わるとラフテーが残っていました。ここでです。
 トミーがです、先生に言いました。
「あの、ラフテーがあるので」
「それでかな」
「ミミガーとインスタントですがソーキそばもありますので」
「その三つでお酒をだね」
「どうでしょうか、泡盛もありますよ」
「いいね」 
 お酒のことを聞いてでした。
 先生は笑顔で、です。こう言いました。
「では早速ね」
「いただきますね」
「そうさせてもらうよ」
「では今からソーキそばを作って」
 そうしてというのです。
「ミミガーも出します」
「ではその三つでね」
「泡盛を楽しまれますね」
「そうさせてもらうよ」
「そうするんだね、じゃあ僕はこれでね」 
 王子は遠慮する様に言ってきました。 

 

第十一幕その十

「お暇させてもらうよ」
「いえ、運転は私がしますので」
 笑顔で、です。執事さんが言ってきました。
「王子もです」
「楽しんでいいんだ」
「はい」
 こう王子に答えます。
「そうされて下さい」
「悪いね」
「私も帰りましたら楽しみます」
 こうも言うのでした。
「そうさせてもらいます」
「飲むんだね」
「お仕事の後で」
 王子ににこりと笑ってお話しました。
「そうさせてもらいますので」
「今はなんだ」
「王子が飲まれて下さい」
「泡盛もだね」
「沖縄のお酒もお嫌いではないですね」
「うん、前に飲んだけれどね」 
 それでもとです、王子も答えます。
「美味しいと思ったよ」
「それではです」
「今はなんだ」
「お楽しみ下さい」
「じゃあお言葉に甘えてね」
「それでは」
「是非ね、そういえばだけれど」 
 王子はここであらためて言いました。
「沖縄にはオオサンショウウオはいないね」
「そう、あれは西日本にいるけれど」
「それでもだね」
「沖縄にはいないよ」
「そうだったね」
「沖縄は沖縄でね」 
 それでというのです。
「独自の生態系になっているんだ」
「日本の中でだね」
「北海道は本州の生きものの亜種が多くてね」
「狐や狸や鹿とかね」
「それで沖縄はだよ」
 この地域はというのです。
「北海道ともまた違ってね」
「独自だね」
「アマミノクロウサギやヤンバルクイナもそうでね」
「ハブもだね」
「オオコウモリやウミヘビもね」
 こうした生きものもというのです。
「独自だよ」
「イルオモテヤマネコもかな」
「そうだよ、ジュゴンだっているし」
「また別なんだね」
「日本にあってもね」
 そうであってもというのです。
「その生態系はね」
「また別だね」
「そうなっているんだ」
「だからオオサンショウウオはだね」
「いないよ」
 この生きものはというのです。
「そうなっているよ」
「そうだよね」
「うん、だから僕は沖縄に行った時はね」
「沖縄の生きもの達をだね」
「学んでいたんだ」
 そうしていたというのです。
「こうした生きもの達がいるとね」
「そうしたんだね」
「ヒヤンやハイ達についてもね」
 動物園に連れて来た彼等もというのです。 

 

第十一幕その十一

「そうしたんだ」
「成程ね」
「うん、そして今度は西表島に行きたいね」
「イリオモテヤマネコのだね」
「そうだよ、あの生きものについても学びたいし」
 ここでソーキそばが来ました、先生は王子と一緒に丼に入っているそれをお箸で食べながらさらにお話をします。
「実はもう一種類ね」
「あそこに生きものがいるんだ」
「ネコ科の生きものがいると言われているんだ」
「イリオモテヤマネコ以外にもなんだ」
「そう言われているんだ」
「そうなんだ」
「そして先生としてはなんだ」
「出来ればね」
 先生は王子に目を輝かせて答えました。
「その生きものと会いたいよ」
「そう考えているんだね」
「是非ね」
「先生らしいお願いだね」
 王子も聞いて思いました。
「そのことは」
「そうだね」
「会えればいいね」
 ソーきそばをすすりつつ言います。
「本当に」
「出来ればね」
「そうだね、しかし日本も色々な生きものがいるね」
「その生態系も面白いよ」
「それは虫や甲殻類もだね」
「そうだよ、ザリガニにしても」
 この生きものもというのです。
「ニホンザリガニがいるしね」
「アメリカザリガニは外来種でね」
「本来はね」
「ニホンザリガニがだよね」
「日本にいるザリガニでね」
「銭亀と一緒だね」
「そうだよ、そうしたことを学んでも」
 そうしてもというのです。
「面白いのがね」
「日本の生態系だね」
「そうなんだ」
 先生もソーキそばをすすります、そうしてです。
 泡盛をロックで飲んでからです、またお話しました。
「そのことも素敵だよ」
「日本は何かとあるね」
「うん、栗鼠やヤマネを見ても」
 こうした生きものもというのです。
「面白いしね」
「日本のリスも他の地域とは違うね」
「ホンドリスとね」
 そしてというのです。
「エゾリスがいるよ」
「そうだね」
「エゾリスは名前の通り北海道にいるね」
「ホンドリスの亜種だね」
「亜種だけれど大きさがね」
 これがというのだ。
「違うからね」
「そこでわかるね」
「そうなんだ」
 王子に今度はミミガーを食べつつ応えました、見ればトミーも今は飲んで食べています。三人で泡盛を沖縄料理で楽しんでいます。
「これがね」
「大きさだね」
「実際に見比べるとね」
「大きさが違って」
「そこでわかるんだ」
「そうだね」
「そうしたことを見ても」
 そうしてもというのです。
「本当にだよ」
「日本は面白い国だね」
「そうだよ、しかしね」
「しかし?」
「本州と四国、九州はね」 
 この三つの島はというのです。
「俗に本土と呼ばれてね」
「生態系は大体同じでね」
「それがまた東西それに南北でね」
「違ったりするんだ」
「オオサンショウウオは東にはいないし」
 それにというのです。 

 

第十一幕その十二

「岩魚とかのお魚は東北にいるね」
「タキタロウだってそうだね」
「そうだよ、あのお魚もね」
 先生がこの前調査したこの謎のお魚もというのです。
「岩魚や鱒と言われているけれど」
「どちらも北のお魚だね」
「モリアオガエルもね」
 この生きものもというのです。
「東北にしかいないね」
「珍しい生きものだね」
「そうなんだ」
 これがというのです。
「東北にオオサンショウウオはいないけれど」
「そうした生きものがいるね」
「そうだよ、あとね」
「あと?」
「猿の北限とされるのもね」
「東北なんだ」
「そうだよ、あの地域でね」
 それでというのです。
「あそこから北にはね」
「いないんだ」
「そうなんだ」
「そのことも面白いんだね」
「生物学的にね」
 また飲んで言いました。
「青森の下北半島までなんだ」
「猿がいるのは」
「北海道にはいないんだ」
「エゾサルはだね」
「だからアイヌの人達のユーカリには猿は出ないんだ」
「あの人達の伝承だね」
「これがかなり沢山あるけれど」
 そのユーカリはというのです。
「それでもだよ」
「猿は出ないんだ」
「いないからね」
 北海道にはというのです。
「やっぱり基本見た生きものがだよ」
「伝承にも出るんだ」
「そうだよ、だから東日本にはオオサンショウウオのお話はないんだ」
「西にあるんだね」
「そこからそのお話がどの地域のものかもわかるよ」
「出ている生きものでだね」
「アフリカの南では狼のお話はないね」
 先生はこの例えも出しました。
「ライオンや虎や豹だね」
「それはね」
 王子はそのアフリカの国の王子として答えました。
「そうだね」
「本当にそこにいる生きものがだよ」
「伝承に出るね」
「北海道には猿のお話がないし」
 ユーカリにはというのです。
「本土にはライオンや豹のお話がないね」
「そうだね」
「ちなみに狼が悪役のお話も少ないね」
「そうそう、日本では殆どないね」
 王子もそれはと応えます。
「実際にね」
「これは狼に襲われた人が殆どいないからだよ」
「迷惑をかけられた人もだね」
「むしろ田畑を荒らす獣を食べてくれるいい生きものだったからね」
「獣害を防いでくれるね」
「だから日本ではだよ」
 ミミガーを食べて言いました、とてもコリコリした食感です。
「狼が悪役のお話はね」
「殆どないんだね」
「そうなんだ」
 実際にというのです。
「これがね」
「いい生きものだからだね」
「悪役じゃないんだ」
「そういうことだね」
「そこが欧州とは違うんだ」
 まだというのです。
「日本はね」
「悪役は鬼だね」
「そうである場合が多くてね」
 それでというのです。
「狼はね」
「そもそも童話とかで出番少ないね」
「そして狐や狸は化かして」
「ばれて懲らしめられるね」
「そんな風でね」
 そうした役でというのです。
「まただよ」
「ないね」
「だからね」
 それでというのです。
「そのことも覚えておこうね」
「日本では狼は悪役じゃない」
「むしろ有り難い生きものだよ」
「獣害を防いでくれる」
「それぞれの国で生きものも違うんだ」
「それぞれの見方があるね」
「そうだよ、日本ではそうなんだよ」
 先生は沖縄料理を食べつつお話しました、そうしてです。
 泡盛も楽しみます、この夜も先生はそうして過ごしました。 

 

第十二幕その一

                第十二幕  論文も書いて
 日笠さんはこの日先生のお昼の四限目の講義が終わった時にです。
 先生の研究室にお邪魔しました、そうしてブランデーのバウンドケーキとうんと甘くしたスコーンそれに小さなチョコレートの三段のティーセットをです。
 ミルクティーと一緒にご馳走になりつつ先生に笑顔で言いました。
「先生のティーセットはいつも美味しいですね」
「皆が用意してくれまして」
 先生は日笠さんに周りにいる動物の皆を見つつお話しました。
「それで、です」
「こうしてですか」
「いつも楽しくです」 
「ティータイムにはですね」
「飲んで食べています、やっぱりお昼はです」
 基本三時講義がある時はそれが終わってからというのです。
「ティータイムですね」
「それは絶対ですか」
「僕にとっては」
「それで毎日ですね」
「楽しんでいます、これがないと」
 ティータイムがというのです。
「僕としてはです」
「どうにもならないですか」
「そうなんです」
 向かい合って座る日笠さんにお話します。
「三度のお食事とです」
「ティータイムはですね」
「欠かせないです、ただお茶は」
 今はミルクティーを飲みつつ言います。
「ティータイムでなくてもです」
「飲まれていますね」
「そうしています」
 こう日笠さんにお話します。
「いつも」
「そうなんですね」
「一番よく飲むのは」
「ミルクティーですか」
「やはりそうなりますね」 
 そのミルクティーを飲みながら言うのでした。
「日本に来てからエットボトルでも飲む様になりました」
「ああ、あのミルクティーですね」
「ストレートもレモンティーも飲みますが」
 ペットボトルでもというのです。
「特にです」
「ミルクティーですね」
「そちらが一番好きです」
「ではです」
 日笠さんがここまで聞いて笑顔で言いました。
「私も最近自分で煎れて飲んでいますので」
「そうなのですか」
「よければ先生にも」
「ご馳走してくれますか」
「駄目でしょうか」
「嬉しいお言葉です」
 笑顔で、です。先生は日笠さんに答えました。
「それではです」
「その時はですね」
「いただかせてもらいます」
「それではその時は」
「はい、お願いします」
「楽しみにしています。それでなのですが」
 ここで日笠さんは先生にあらためてお話しました。
「オオサンショウウオの夫婦ですが」
「元気で仲良くですね」
「過ごしています」
「それは何よりです」
「時期が来れば産卵もです」
 こちらもというのです。
「期待出来ます」
「それは何よりですね」
「はい、先生のアドバイスも受けて」
 そうしてというのです。
「今はです」
「順調ですか」
「おおむね」
「それは何よりですね」
「全てがそうではないですが」
「やはり全部順調とはいかないですね」
「思わぬことが起こったりします」
 先生は少し真面目なお顔になってお話します。 

 

第十二幕その二

「どうしても」
「それは仕方ないですね、何ごともです」
 先生は日笠さんに穏やかで落ち着いたお顔でお話しました。
「アクシデントは付きものです」
「そうですね、お仕事でもプライベートでも」
「全て順調にいく筈もなく」
「アクシデントそしてトラブルはですね」
「常にです」
 まさにというのです。
「あります」
「そうしたものですね」
「僕もです」
 先生はご自身のお話もしました。
「これまでの旅、冒険ですね」
「イギリスにおられた時の」
「はい、もうです」
 それこそというのです。
「アクシデントやトラブルの連続で」
「大変でしたか」
「その度に皆に助けておらって」 
 そうしてというのです。
「乗り越えてきました」
「そうでしたか」
「はい」
 まさにというのです。
「日本に来てからは冒険と呼べる様なことはないですが」
「かつてはですね」
「もうです」
「大変なですか」
「アクシデント、トラブルばかりで」
 思わぬというのです。
「そうしてです」
「大変でしたか」
「はい」
 そうだったというのです。
「今思うと楽しいですが」
「そうだったんですね」
「ですから」
「アクシデントはですか」
「起こるものとです」
 その様にというのです。
「僕は考えています」
「ご自身の経験からですか」
「はい、日本に来てです」
 今のお話もするのでした。
「そして暮らして国籍もです」
「日本になられましたね」
「そうなったこともです」
「突然だったそうですね」
「これはアクシデントやトラブルではないですが」
 それでもというのです。
「突然でしたし」
「物事が突然起こることはですね」
「もうです」
 既にというのです。
「僕はあるとです」
「お考えですね」
「歴史でも思わぬことがです」
 その時生きていた人にしてみればです。
「起こることがです」
「普通ですね、そういえば」
「僕自身の経験を振り返ってもそうで」
「歴史を学んでもですね」
「そして世の中を見ても」
「思わぬことはですね」
「常に起こります」
 そうなりますというのです。
「ですから」
「それで、ですね」
「オオサンショウウオの夫婦もです」
「全てが全てですね」
「順調である筈がなく」
 そしてというのです。 

 

第十二幕その三

「突然の出来事はです」
「付きものですね」
「その様に考えてです」
 そしてというのです。
「ことを進めていきましょう」
「それでは」
「はい、また何かあれば」
 先生はバウンドケーキをフォークに取って食べてから言いました。
「お話して下さい」
「こちらにですね」
「呼んで頂ければ」
 その時はというのです。
「僕から行かせてもらいます」
「そうですか、では」
「その時は」
「お願いします」
 日笠さんは笑顔で応えました、そうしてオオサンショウウオのお話をさらにして日笠さんは動物園に戻りました。
 その後で、です。皆は先生に言いました。
「日笠さんとのお話だけれど」
「まあね、これからよね」
「いつも通りにしても」
「日笠さんの背中押した方がいいかも」
「そうよね」
「背中?どうしてかな」 
 わかっていない返事は相変わらずでした。
「一体」
「だからそれはね」
「もう先生いつも言ってるじゃない」
「そこを何とかしようって」
「そうね」
「全くわからないよ、まあ兎に角ね」
 先生は紅茶を見つつ言いました。
「お話は終わったからいよいよね」
「論文終わらせるんだね」
「オオサンショウウオの論文を」
「そうするのね」
「そうすうりょ、それでね」
 そのうえでというのです。
「終わったらね」
「次の論文だね」
「それにかかるね」
「井伏鱒二さんのものに」
「そうするよ」
 笑顔でお話するのでした。
「次はね」
「わかったよ、しかし先生っていつも論文書いてるけれど」 
 ホワイティが言ってきました。
「こんなに論文書く人いないよね」
「一年で二十以上は書いてる?」
 こう言ったのはチーチーでした。
「もうね」
「それ位は書いてるね」
 ダブダブはチーチーの言葉に頷きました。
「見ていたら」
「色々な分野の論文書いて」
 ガブガブも言います。
「それ位は書いているわね」
「いや、こんなに多くの論文発表するなんて」
「凄いわよ」
 チープサイドの家族も言います。
「中には何十年も書いてない人もいるのに」
「学者さんでもね」
「それでも学者だって公言している人もいるのに」 
 ジップも言います。
「先生は一年で二十以上だからね」
「もう学者と言わずして何と言うか」
 ポリネシアは思いました。
「わからないわ」
「先生が論文を書かないと」
 トートーは思いました。
「果たしてどうなのか」
「イギリスにいた時は違ったけれど」
 老馬はその時からお話しました。 

 

第十二幕その四

「日本に来てからはそんな調子だからね」
「今の先生は立派な学者さんだね」
「論文を書くと言う意味でもね」
 オシツオサレツは二つの頭で言いました。
「本当にね」
「凄いね」
「学者は学んで研究してね」
 先生も言います。
「論文を書くことがお仕事だしね」
「若しそうしないと」
「そうであるなら」
「先生としては学者じゃない」
「そうなるかな」
「そうだね」
 先生も否定しません。
「だから僕は論文を書いているよ」
「今もだね」
「オオサンショウウオの論文を書いて」
「そしてそれが終わったらね」
「今度は井伏鱒二さんについてだね」
「書くよ」
 実際にというのです。
「そうするよ、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「まだあるのかな」
「どうも今回は太宰治さんのこともね」 
 井伏鱒二さんのお弟子さんだったこの人のこともというのです。
「書くだろうね」
「そうした論文なんだ」
「先生の次の論文は」
「井伏さんのことを書いて」
「太宰さんのこともなんだ」
「書くだろうね」 
 こう皆にお話します。
「お互いに与え合った影響とかね」
「それあるんだ」
「師弟関係だけあって」
「そうだったんだ」
「うん、太宰さんは芥川さんからかなり影響を受けているよ」
 作品はというのです。
「やっぱりね」
「芥川龍之介さんだね」
「終生敬愛していただけあって」
「それでだね」
「そうだよ、けれどね」
 それでもというのです。
「太宰さんは井伏さんとも絆が深かったしね」
「というか太宰さん芥川さんとは会ってないよね」
「活躍した年代違うし」
「芥川さんが自殺したのって太宰さんが学生の頃で」
「同じ時代に生きていても」
「活躍した時代は違うね」
「それはね」
「そうだよ、会ったことはね」
 芥川さんと太宰さんはというのです。
「本当にね」
「なかったね」
「一度も」
「芥川さんは太宰さんのことすら知らないね」
「作品を読んだこともないね」
「そうだよ、けれどね」
 それでもというのです。
「やっぱり太宰さんはね」
「芥川さんの影響が大きいね」
「何と言っても」
「あの人から影響を受けて」
「それでだね」
「書いていったのね」
「そうだよ、けれどね」
 そうした人でもというのです。 

 

第十二幕その五

「太宰さんは学生時代に井伏さんの作品を読んで」
「物凄く感銘を受けて」
「それでだよね」
「上京してね」
「大学に進んで」
「そこからだね」
「すぐに井伏さんのところに行ってね」
 そうしてというのです。
「弟子にして下さいってなったから」
「それじゃあね」
「作品に影響を受けていないかっていうと」
「絶対にあったね」
「そうだね」
「そうだよ、そして井伏さんもね」
 この人もというのです。
「ずっと太宰さんと一緒にいて亡くなってからも気にかけていた」
「それじゃあね」
「太宰さんが自殺してからもとなると」
「それじゃあね」
「絆あるよね」
「やっぱり」
「そうだよ」 
 その通りだというのです。
「受けていない筈がないよ」
「太宰さんの作品から」
「井伏さんも太宰さんの作品に触れて来たから」
「しかもお師匠さんだったから」
「尚更だね」
「間違いなくね、お二人の作品はね」 
 それぞれというのです。
「間違いなくだよ」
「影響を受けていた」
「そうなんだ」
「お互いに」
「全くないとは考えられないよ」
 それはというのです。
「決してね」
「そしてそのことをだね」
「先生は書いていくかも知れないんだね」
「これから」
「そうなるかもね、ただ太宰さんのお顔を見ていると」
 残された写真のとです、先生はこうも思いました。
「整っているね」
「あっ、それね」
「確かにそうだよね」
「太宰さんって男前だよ」
「今風に言うとイケメンよ」
「芥川さんもそうだけれど」
「そう、お二人は日本の近現代の文学ではね」
 そちらではというのです。
「お顔立ちでもね」
「有名だよね」
「お二人共美形だからね」
「女性にもてたっていうけれど」
「それも当然だね」
「あと中原中也さんも結構で」 
 詩人のこの人もというのです。
「志賀直哉さんや三島由紀夫さんもね」
「その人達も整ってるね」
「確かにそうだね」
「何か三人とも太宰さんと接点あったらしいけれど」
「面白いことに」
「中原さんは飲んでいる時に太宰さんにつっかかってね」
 この人はそうだったというのです。
「太宰さんは嫌いだったらしいね」
「何か酒癖は悪かったんだよね」
「中原さんはそうした人で」
「それでだね」
「そして志賀さんは戦後志賀さんの文学に反発していたからね」
 太宰さんはそうだったというのです。 

 

第十二幕その六

「そうした意味でだよ」
「接点あったね」
「それで三島さんはだね」
「学生時代太宰さんに会う機会があって」
「太宰さんの文学は嫌いだって言ったのよね」
「そうだよ、三人共否定的な意味だけれど」
 それでもというのです。
「面白いことにね」
「接点はあったね」
「そうだね」
「その人達と」
「太宰さんは意外と交流が広かったんだ」
 そうした人だったというのです。
「これがね」
「暗いイメージがあったけれど」
「そうでもなかったんだ」
「意外と社交的?」
「そんな人だったんだ」
「鬱になると暗くて」
 そうなってというのです。
「死にたいと言ってね」
「自殺しようとしたね」
「実際に何度も」
「けれどだね」
「明るい時もあったのね」
「躁鬱とするなら躁の時はね」
 この時はというのです。
「結構ふざけたり明るくて」
「それでなんだ」
「人ともお付き合いしていたんだ」
「そうした人だったんだ」
「うん、それで井伏さんとも戦争が終わるまではね」
 この時まではというのです。
「疎遠じゃなかったし」
「疎遠になったのは戦後で」
「それからで」
「それまでは親しかった」
「そうだったから」
「影響を受けていたよ、尚太宰さんの方から距離を置いていて」
 戦後はというのです。
「井伏さんはずっとね」
「太宰さんを気にかけていて」
「心配していた」
「そうだったんだ」
「あの人は」
「そうだよ、太宰さんのことを主に話してるけれど」
 今はというのです。
「けれどね」
「井伏さんだね」
「あの人のことを書くんだね」
「今度の論文では」
「そうするよ」
 実際にというのです。
「僕はね」
「じゃあね」
「そっちも頑張ってね」
「井伏さんの論文も」
「そちらもね」
「そうするよ」
 先生は笑顔で約束しました。
「書きはじめたらね」
「それじゃあね」
「今回も応援させてもらうよ」
「そして身の回りのことは任せてね」
「家事とかはね」
「いつも通り私達がするわね」
「宜しくね」
 先生は皆に笑顔で応えました、そうしてです。
 まずはオオサンショウウオの論文を書いていきます、そしていよいよ終わろうと言う時になのでした。
 王子の別荘日本の彼のお家にトミーそれに動物の皆と一緒に招待してもらって色々なお料理をご馳走になる中で、です。
 先生は蛙の唐揚げを見て笑顔で言いました。 

 

第十二幕その七

「蛙もあるんだね」
「うん、今回は鰐のステーキもあるよ」
「鰐もだね」
「焼き鳥もあるし」
「鶉のグルルもあるね」
「鴨のロースもあるよ」
「そうだね、どれも美味しいね」
 笑顔で、です。先生は応えました。
「本当に」
「そうだね、そういえばだけれど」
 ここで王子は言いました。
「蛙も鰐も鶏肉に近いよね」
「その味はね」
「そうだよね」
「そうなんだ、両生類や爬虫類はね」
 こうした生きものはというのです。
「実は脂身が少ないし」
「味もだね」
「鶏肉に近くてね」
 そうした味でというのです。
「美味しいんだ」
「そうだよね」
「カロリーも少ないし栄養もあるから」
「いいんだね」
「食べるとね」
「そうだね、ただ蛙が鶏肉に近いなら」
 その味ならとです、王子は思いました。
「オオサンショウウオもね」
「うん、どうもね」
 先生は王子に応えて言います、大きなテーブルの上にある様々なお料理を見ながら王子にお話しています。
「美味しいらしいよ」
「そうなんだね」
「言われていることではね」
「意外だけれど」
「いや、両生類だからね」
 蛙と同じくというのです。
「その味はね」
「悪くないんだね」
「そうだよ」
「成程ね」
「けれど今はね」
 先生は真面目なお顔で言いました。
「天然記念物だから」
「ああ、食べられないね」
「そうだよ、食べた人はね」
「あくまで昔の人だね」
「そうなんだ」
 こう王子にお話しました。
「そのことはね」
「覚えておかないとね」
「やっぱり希少な生きものはね」
「食べたら駄目だね」
「乱獲になるから」
 だからだというのです。
「それは駄目だよ」
「法律で禁じられているしね」
「法律は守らないとね」
 先生はこうも言いました。
「若し法律を守らないのなら」
「ヤクザ屋さんになるね」
「そうだよ、国家なら」
「北朝鮮だね」
「ああなるよ」
「わかりやすいね」
 王子はここまで聞いて頷きました。
「それは」
「そうだね」
「うん、法律を守らないとどうなるか」
「ヤクザ屋さんか北朝鮮になるよ」
「どっちも酷いね」
「見ていてもそうだね」
「受ける印象は最悪で」 
 そしてというのです。 

 

第十二幕その八

「恰好悪いよ」
「ソクラテスさんと全く違うね」
「悪法もまた法だね」
「そう言って法律を守って死んだよ」
 死ぬことを求められて自ら毒を飲んでそうしました。
「この人は恰好いいけれど」
「ヤクザ屋さんなんてね」
「恰好悪いね」
「北朝鮮もだよ」
「法律を破って守らないことはね」
「悪いことで」
「そして恰好悪いんだよ」 
 そうだというのです。
「だからオオサンショウウオについても」
「食べたら駄目だね」
「そうだよ」
 絶対にというのです。
「そのことはね」
「守らないとね」
「そういうことだよ、無許可に捕まえることもね」
「よくないね」
「さもないと絶滅しかねないからね」 
 この心配があるというのです。
「冗談抜きにね」
「そのこともあるね」
「そうだよ、あるよ」
 本当にというのです。
「これまでそうした事例もあったしね」
「歴史の中で」
「そうもなってきたから」
 それでというのです。
「そんなことを繰り返さない様に」
「僕達はだね」
「法律も守って」
「オオサンショウウオを捕まえたら駄目だね」
「ましてや食べるなんて」
 そうしたことはというのです。
「駄目だよ」
「そういうことだね」
「では今からね」
「うん、食べようね」
「サラダや野菜スティックもあるし」
 野菜料理もあります。
「楽しくね」
「食べようね」
「そうしていこうね」
 笑顔でお話してでした。
 皆で蛙や鰐、鳥のお料理にサラダ等を食べお酒も楽しみます。先生はジョッキでビールを飲んでから言いました。
「唐揚げとビールもいいね」
「日本の居酒屋の定番だよね」
「あの場合は鶏だけれど」
「蛙でもね」
「いいよね」
「そうだね、焼き鳥もね」
 先生は今度はそれを食べています、腿肉と葱の組み合わせが最高です。
「いいね」
「そうだよね」
「焼き鳥にビールもね」
「日本の居酒屋の定番だよ」
「そちらも」
「そう思うよ、この美味さは」
 本当にというのです。
「素敵だよ、今度は鰐を食べようかな」
「何かね」
 ここで言ったのはダブダブでした。
「日本のビールって随分美味しいみたいだね」
「そうよね」
 ポリネシアはダブダブの言葉に応えました。
「お話を聞いてると」
「先生も美味しそうに飲むしね」
「ビールを飲む時はね」
 チープサイドの家族もお話します。
「イギリスの時よりもね」
「美味しそうだしね」
「飲む勢いもかなりだね」
 ホワイティも言います。 

 

第十二幕その九

「ぐいっという感じで」
「それ見たら美味しいんだよね」
 チーチーも言います。
「間違いなく」
「そうだね」 
 ジップも言いました。
「見ていたら」
「ビールも国によって味が違って」
 ガブガブはジップに続きました。
「日本のものはかなりなのね」
「先生本当に美味しそうに飲むからね」
「日本のビールもね」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「それ見たら」
「本当に美味しいのかな」
「冷えていることも大きいかもね」
 老馬は思いました。
「日本ってビール冷やして飲むし」
「今のビールも冷えてるし」
 トートーも知っています。
「それじゃあかな」
「うん、味自体がよくてね」
 先生も皆に飲みつつお話します。
「そして冷えているから」
「尚更だね」
「美味しいのね」
「味がよくて冷えている」
「この組み合わせがいいんだ」
「ビールといえばイギリスではアイルランドだね」
 こう言いました。
「南北含めて」
「そこ複雑だけれどね」
「イギリスってね」
「北はイギリスでね」
「南は独立していてね」
「それで南北と言ったけれど」
 アイルランドについてはです。
「イギリスになるからね」
「そうそう、北アイルランドは」
「今でもイギリスだからね」
「そのお話をすると複雑で長くなるけれど」
「それでもね」
「イギリスでビールはアイルランドで」 
 それでというのです。
「欧州ではドイツにチェコだね」
「その二国が有名だね」
「ビールって言うとね」
「アイルランドにドイツにチェコ」
「欧州だとね」
「その欧州のビールにもだよ」
 先生は鰐のステーキに鴨のロースそして鶉のグリルも食べます、兎の塩焼きも来てそれにも注目しつつです。
 ビールも飲んでです、そうして言うのでした。
「日本のビールは負けていないよ」
「そう、だからなんだ」
 王子もビールをジョッキで飲みつつ言いました。
「僕は今日はね」
「お酒はビールにしたんだね」
「日本のね」
 まさにというのです。
「そちらにしたんだ」
「そうなんだね」
「いや、幾ら飲んでもね」
 そうしてもというのです。
「本当にね」
「飲める位だね」
「美味しいね、冷やすと」
「尚更だね」
「多くの国ではお酒冷やして飲まないけれどね」
「けれど日本ではこうしてよく飲んでね」
「そしてね」
 それでというのです。
「またこの飲み方がね」
「いいよね」
「美味しいよ」
「とてもね」 
 飲みつつ言います、そしてです。
 トミーも焼き鳥とビールを楽しんで言いました。 

 

第十二幕その十

「恐ろしいまでに合いますよね」
「こうしたお料理とビールはね」
「そうですよね」
「日本ではじめて出会って」
「それで驚きました」
 焼き鳥を食べてです。
 それからビールを飲んで、です。トミーは言うのでした。
「ソーセージはありますが」
「欧州でもね」
「焼き鳥はなくて」
 それでというのです。
「日本ならではで」
「それを食べてね」
「はい、ビールを飲みますと」
「最高だよ」
「全くですね」
「日本に来て」
 そうしてというのです。
「僕が出会った中でもね」
「かなりいい組み合わせですね」
「そうだよ、焼き鳥を食べて」
 今の様に都です、先生はその焼き鳥皮のそれを食べて言います。
「そうしてね」
「それで、ですね」
「冷たいビールを飲む」
「本当にいいですね」
「全くだよ、蛙も鰐も兎もよくて」 
 先生は今度は兎を食べて言いました。
「最高だよ、しかしね」
「しかしといいますと」
「世の中おかしな人もいてね」
 それでとです、先生は残念そうにお話しました。
「オオサンショウウオについてもね」
「天然記念物で捕まえること自体がですよね」
「法律で禁止されていても」
「食べようという人もですね」
「いてね」
 そうしてというのです。
「それでだよ」
「注意しないといけないですね」
「あらゆる生きものについてね」
「その7問題がありますね」
「密漁はね」
「日本でもありますね」
「禁猟区、禁漁の場合もあるね」
 海や河川の場合もあるというのです。
「そうしたところでね」
「密猟や密漁をして」
「売ってもうけたりね」
「食べたりですね」
「する人がいるよ」
「最近問題になっていますね」
「実は田畑を荒らす生きものを捕まえるにも」
 その場合もというのです。
「法律の許可が必要だから」
「注意しないといけないですね」
「そうだよ」 
 まさにというのです。
「例えばヌートリアを獲ってね」
「あの生きものも畑荒らしますね」
「日本に持ち込まれてね」
「そうなっていますね」
「それを獲って」
 そうしてというのです。 

 

第十二幕その十一

「食べてもね」
「法律の許可がないとですね」
「罪に問われるよ」
「そうなりますね」
「法律は守ってこそだから」
「法治ですね」
「法律を決めるのは人間でも」
 それでもというのです。
「その法律を好き勝手に人間が解釈してね」
「変えたりですね」
「破ったりはね」
「駄目ですね」
「ちゃんと話し合って」
 そうしてというのです。
「変えるもので今の法律はね」
「守るもので」
「そうしたこともね」
「ちゃんとしてですね」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「天然記念物そして獣害についてもね」
「法律を守ってですね」
「対処しなければならないんだ」
「そうですね」
「だからそうした意味でもね」
 法律上の観点からもというのです。
「天然記念物は保護して」
「禁猟それに禁漁の場合は守って」
「そして害獣を捕まえる場合も」
「許可を得る」
「そうしていかないとね」
 絶対にとです、先生はビールを飲みつつ言いました。
「駄目だね」
「そしてその中にですね」
 トミーは先生に応えて言いました。
「オオサンショウウオもですね」
「入っているよ」
「だからこれからもですね」
「そう、オオサンショウウオを保護して」
 天然記念物として、というのです。
「守っていこうね」
「そうあるべきですね」
「そうだよ、それで動物園での飼育もね」
 こちらもというのです。
「いいことだよ」
「種の保存にですね」
「そして学問としての研究や調査の為にもね」
 この為にもというのです。
「いいよ」
「そうですね」
「動物園での飼育は虐待か」
「檻やケースに入れてのことなので」
「それはね」
 決してというのです。
「違うよ」
「そうですね」
「そこを誤解している人がね」
 先生は焼き鳥を食べつつ言いました。
「いるからね」
「残念ですね」
「だからね」
 それでというのです。
「僕としてはね」
「そのことをですね」
「わかって欲しいとね」
 その様にというのです。 

 

第十二幕その十二

「思ってるよ」
「そうですね」
「そのこともね」
「お話していって」
「わかってもらわないとね」
 楽しいパーティーをしつつそうしたお話をしました、そしてこのパーティーがあった次の日にでした。
 サラが来日してきてです。
 先生のお家にお邪魔して先生のお話を聞いて言いました。
「そんな生きものいるのね」
「日本にはね」
「日本も色々な生きものいるわね」 
 先生からオオサンショウウオのことを聞いて言いました。
「つくづくね」
「生態系も面白いね」
「ええ、ただね」
「ただ。どうしたのかな」
「兄さんその生きものの論文を書いたのよね」
「昨日遂に脱稿したよ」
 居間で妹さんにちゃぶ台を囲んでお話します、勿論動物の皆も一緒でお茶とお菓子を楽しみながらお話をしています。
「嬉しいことにね」
「よかったわね、しかしね」
「しかし?」
「兄さんのお話を聞いてたら」
 サラは微笑んで言いました。
「私も色々な生きものを知ることが出来るわ」
「そうなんだ」
「一緒に暮らしていた時もだったけれど」
「今の方がかな」
「そうなったわ」
 先生に笑顔でお話しました。
「嬉しいことにね」
「そう言ってくれるんだ」
「ええ、それに兄さんつくづく日本に来てよかったわね」
「いいことばかりでね」
「満喫しているわね」
「人も親切だしね」
「真面目で勤勉でそうした人が多いわね」
 サラが見てもです。
「そのこともいいわね」
「そうだね」
「日本に来ていつも思うわ」
「じゃあ今度ね」
「今度?」
「サラもじっくり日本にいればいいよ」
 こうお誘いするのでした。
「ご主人とね」
「そうね、その機会があったらね」
 サラもにこりとして応えます。
「私もね」
「そうするんだ」
「ええ」
 是非にというのです。
「そうしたいわ、それで自然も観て回って」
「それがいいよ、その時はね」
「兄さんも案内してくれるのね」
「そうさせてもらうよ」
 サラに微笑んでお話しました。
「是非ね」
「じゃあその時はね」
「案内させてもらうよ」
「それで今はね」
 サラはお兄さんである先生の言葉を受けて笑顔でいいました。
「動物園に行って」
「そのオオサンショウウオの夫婦をかな」
「観たいけれどいいかしら」
「いいよ、それではね」
「今からね」
「案内させてもらうよ」
 兄妹でお話してでした。
 先生はサラを動物園に案内しました、動物の皆も一緒です。トミーが留守番をしてくれてお仕事を終えたサラのご主人も加えてオオサンショウウオの夫婦を観に行くのでした。


ドリトル先生と山椒魚   完


                     2022・9・11