ヤクザ屋さんから貰った命


 

第一章

                ヤクザ屋さんから貰った命
 楠田海と空は双子である、二人共小学五年生であり黒髪をショートにしていて大きな黒目がちの目に小さな唇と丸めの顔を持っている。
 二人は両親それにクラスメイト達と仲良く幸せに暮らしていた、だが彼の両親であり父の逸郎母の知理は悩みを抱えていた。
「海は心臓、空は腎臓か」
「二人共移植しないと助からないのね」
「けれどな」
「手術代もドナーの人もいないわ」
 夫婦で話した、夫は黒髪をショートにしていて面長で眼鏡をかけていて妻は丸顔で黒目がちの目を持っている。二人でショッピングモールでお好み焼き屋をしていて店自体はネットでも評判になっている。
「困ったわ」
「そうだよな」
「けれどね」
 妻は夫に二人で自宅の中で深夜言った。
「手術しないと」
「二人共な」
「どうなるか」
 深刻な顔で言うのだった、それでお互いの親戚にも相談したが。
「手術代は用意出来るけれど」
「皆でお金を出し合って」
「けれどドナーになると」
「難しいな」
 手術代は用意してくれた、それでもだった。
「参ったな」
「ドナーの人がね」
「海の心臓も空の腎臓も」
「どっちもな」
 こちらの問題はどうにもならなかった、それで夫婦は悩んでいたが。
 ここでだ、二人に夫の親戚の間で鼻つまみ者となっている幸二郎ヤクザ者で子供の頃から悪事ばかりしている男がだ。
 夫婦の前に来てだ、こう言った。
「俺がドナー登録する、あの子達と血液型同じだろ」
「えっ、幸二郎兄ちゃんが!?」
 彼から見て従弟になる逸郎はその申し出に驚いた顔で言ってきた、言うまでもなく逸郎も彼を嫌っている。
「あの子達に」
「ああ、俺はこんな仕事してるんだ」
 アウトローのとだ、幸二郎は言った。
「何時どうなるか、特に最近な」
「危ないんだ」
「今度とあるところにカチコミに行くからな」
 そうなっているからだというのだ。
「裏の方でな」
「それでか」
「その時どうにかなったらな」
「うちの子達にかい?」
「心臓と腎臓やるさ」
 それぞれをというのだ。
「俺は酒は飲めないし煙草も嫌いだ」
「健康だってのか」
「勿論ヤクもやってねえしな」
「そうなんだ」
「ここだけの話売っちゃいるさ」
 麻薬をというのだ。 

 

第二章

「けれどな」
「健康だからかい」
「ああ、何かあったら使え」
「いいのかい?」
「いいんだよ、これまで悪いことばかりしてきたんだ」 
 如何にもその筋の人間という顔で言うのだった、大柄で中肉で雰囲気も服装もまさにそうした筋の人間である。
「だからな最後位な」
「いいことをかい」
「させろ、いいな」
 こう言ってだった。
 幸二郎は二人の為にドナー登録をした、そして自分の組と敵対する組の抗争で率先して襲撃に参加してだった。
 頭を撃たれて死んだ、彼は防弾チョッキを着ていたので心臓や腎臓は無事だった。それで早速だった。
 その心臓と腎臓が海と空に移植されることになった、しかも幸二郎は自分の遺産を全て手術代だけでなく入院費用にも回していた。
 親戚中から集めてもらった金はいらなくなった、こちらは返す予定だったがそのこともなくなった。それでだった。
 夫婦は二人でだ、こう話した。
「まさか兄ちゃんは」
「そうね、あの子達のことを聞いてね」
「最後の最後にな」
「助けようと思ったのかしら」
「兄ちゃん子供の頃からどうしようもなかったんだ」
 夫は妻に話した。
「喧嘩や万引きばかりして」
「いいことしてこなかったのね」
「それでああなってね」 
 ヤクザ者にというのだ。
「それからもだったけれど」
「最後の最後に」
「うちの子達を助けようと思って」
「全部してくれたのね」
「そうだろうな、悪い人だったけれど」
 それでもとだ、夫は妻に言った。
「あの人のお陰でな」
「うちの子達は助かるわね」
「二人共な」
 こう言うのだった、そしてだった。
 子供達は無事に助かった、そうしてすくすくと育っていったが二人共幾つになっても幸二郎のことはこう言った。
「いい人だったよ」
「僕達はあの人のお陰で助かったんだから」
「心臓も腎臓もくれたんだ」
「そして手術代まで用意してくれたんだ」
「ヤクザ屋さんで悪いことばかりしていたけれど」
「僕達にとっては救い主だよ」
 心から言うのだった、そして年老いて二人がそれぞれ世を去るまで彼への墓参りを続けた。両輪の墓にもそうして彼のそちらにもそうした。心からの感謝を込めてそうした。


ヤクザ屋さんから貰った命   完


                   2023・7・17