ナポレオンが愛した花
第一章
ナポレオンが愛した花
菫を見てだ、太宰涼香は言った。まだ小学生であどけない顔立ちで黒髪をツインテールにしている。
「菫っていいわよね」
「あんた菫好きよね」
クラスメイトでいつも一緒にいる井伏恵美が応えた。黒髪をおかっぱにしていて大きな吊り目と気の強そうな唇である。
「いつもこの花壇で見てるわよね」
「うん」
学校の花壇の前で恵美に答えた。
「だって私ね」
「菫好きだから」
「毎日ね」
「こうしてなのね」
「見てるの」
実際にというのだ。
「私もね」
「そうよね、まあ私もね」
恵美も笑って応えた。
「菫はね」
「好き?」
「奇麗で可愛いから」
だからだというのだ。
「好きよ」
「そうなのね」
「そうよ、本当にね」
こうした話をしながらだった。
二人で花壇の菫を毎日見た、だが。
その中でだ、二人に担任の乃木玲子大きなはっきりした目で面長の顔に大きな赤い唇に細長い眉と黒く長いセットした髪の毛と一五八程のすらりとしたスタイルの彼女が言った。
「二人共ナポレオンみたいね」
「ナポレオンってフランスの人よね」
「英雄の」
「そうよ、ナポレオンは菫が好きで」
この花がというのだ。
「よく身に着けていたし死ぬ時もね」
「死ぬ時?」
「その時もなの」
「持っていたの」
その手にというのだ。
「一度パリに帰った時に街中が菫の花で飾られたりもして」
「ナポレオンって菫好きだったの」
「死ぬまで」
「それで菫が象徴だったの」
ナポレオンのというのだ。
第二章
「これがね」
「そうだったのね」
「あの人って」
「それでね」
さらに言うのだった。
「貴女達も菫が好きだから」
「ナポレオンみたいなの」
「私達も」
「そう思ったのよ、先生は」
こう言うのだった。
「それでね」
「そうなのね」
「ナポレオンも菫が好きで」
「私達も好きで」
「同じなのね」
「人は何処かである人と同じであることがあるのよ」
そうしたケースが存在するというのだ。
「それでなのよ」
「私達はとナポレオンもそうで」
「同じ菫好き同士ね」
「そうよ、他のことはわからないけれどね」
それでもとだ、先生は二人に笑顔で話した。そうしてだった。
涼香と恵美はそれからもよく菫を見て好きでいた、そして中学も高校も一緒で高校では同じ歴史研究会に所属し所歴女となっていたが。
園芸部にも所属していて高校の花壇に一緒に菫の花を植えて育てながら笑顔でこんなことを話した。
「ナポレオンって派手好きな感じだけれどね」
「軍服とか見てたらね」
「実際にそうしたデザイン好きでね」
「きらびやかだったけれど」
そうした人物だがというのだ。
「けれどね」
「菫も好きだったのよね」
「あの時乃木先生が言ってたけれど」
「これがね」
「意外と可愛いっていうかね」
「素朴なところもあったみたいね」
「けれど菫って」
涼香はその菫達、紫の小さくだが奇麗に咲いている花達を見つつ恵美に話した。
「いいわよね」
「ナポレオンが好きだった理由もわかるわよね」
「小さくても奇麗でね」
「そこに確かものがあるからね」
「ナポレオンが好きでもね」
「わかるわ」
菫達を観つつ話すのだった、二人共もう高校生であの時よりはずっと大人の顔になっている。だがその笑顔は小学生の時のあの時菫を見ていた時のままだった。
ナポレオンが愛した花 完
2023・7・19