バオバブの木


 

第一章

               バオバブの木
 アフリカのマリ共和国に伝わるお話です。
 ジョレという村にある男の子はがいました、するとです。
 男の子が生まれてすぐに男の子の両親は流行り病で死んでしまいました、村の人達も沢山死んでしまいました。
 それを見てです、村の人達は思いました。
「この子が生まれてすぐだ」
「流行り病が村を襲った」
「そして沢山の人が死んだ」
「この子の親もどちらも死んだ」
「きっとこの子は呪われている」
「災いの子だ」
「災いの子は捨てよう」
 こうお話してでした。
 村の人達は男の子を森に捨ててしまいました、するとです。
 それを見た森の生きもの達、ライオンや豹、ゴリラにチンパンジーにラーテルにカラカル、ミツオシエといった生きもの達はです。
 森の中で一人泣いている男の子まだ赤ちゃんの彼を見て思いました。
「何と可哀想なんだ」
「まだ生まれたばかりじゃないか」
「そんな子を捨てるなんて」
「酷いことをする連中だ」
「何時か報いがあるぞ」
「天罰が下るぞ」
「だが僕達は違うぞ」 
 森の生きもの達は言いました。
「誰だって見捨てないぞ」
「こんな小さな子は尚更だ」
「この子は今から僕達の仲間だ」
「一緒に暮らすぞ」
「育てていくぞ」
 こう言い合ってでした。
 皆で男の子を育てました、男の子はアビクと名付けられてすくすくと育っていきました。アビクはとても頭がよく優しく感情豊かな男の子になりました。
 森でいつも生きものの皆と暮らしていて人間の言葉だけでなく生きもの達の言葉も喋られる様になりました、そして森の力をいつも受けて色々と不思議なことを見聞きして不思議な力を使える様になりました。
 アビクはこのことが不思議で自分で作った服を着て遊びながら思いました。
「どうして僕は色々な力が使えたりするのかな」
「それはアビクがいつも森にいるからだよ」
「そして僕達皆と一緒にいるからだよ」
「それで森と皆の力に触れてだよ」
「僕達も使えるけれどね」
「アビクもだよ」
「そうなんだ、じゃあ僕は皆と同じだね」
 アビクは森の皆の言葉に笑顔で応えました。
「そうなんだね」
「そうだよ」
「アビクは僕達の家族だよ」
「僕達と同じ森の家族だよ」
「森で住む生きものだよ」
「そうなんだ、じゃあ森でずっと皆と一緒に暮らすね」
 アビクは皆と一緒に遊びながら笑顔で言いました、いつも皆と一緒にいて遊んで食べて眠りました。ですが。
 ある日森に果物を採りに来ていた人間達のお話を聞いてしまいました、人間達はこんなことを言いました。
「この森だったな」
「ああ、男の子を捨てたのはな」
「生まれてすぐに捨てたな」
「そうだったな」 
 こう言ったのを聞きました、そのお話を聞いてです。 
 アビクは人間達が帰った後で皆に尋ねました。
「ひょっとして僕って捨てられたのかな」
「残念だけれどそうだよ」
「アビクは生まれてすぐにこの森に捨てられたんだ」
「そして僕達の家族になったんだ」
「そうなったんだよ」
「皆と家族になれたことは嬉しいけれど」 
 それでもとです、アビクは皆の返事を聞いて悲しく思って言いました。 

 

第二章

「捨てられたことは悲しいよ」
「全くだね」
「何でもアビクが生まれてすぐにアビクが生まれた村ではやり病が流行って」
「それでアビクのお父さんとお母さんも亡くなって」
「村で沢山の人達が亡くなって」
「それがアビクのせいにされて捨てられたんだ」
「僕そんなことしないよ」
 アビクはさらに悲しくなって言いました。
「病気を流行らせるなんて」
「そうだよ、僕達はわかってるよ」
「アビクはとてもいい子だよ」
「絶対にそんなことしないよ」
「不思議な力があってもね」
「そうだよ、そんなことしないよ」
 こう言って泣いてしまってです。
 アビクは森の中で一番大きなバオバブの木よく皆と一緒に登って遊んでいるその木に登ってでした。
 その木の枝に腰掛けて歌を歌いました、それは自分が流行り病を流行らせたと言われて捨てられたこと何よりもお父さんとお母さんそれに沢山の人が亡くなったことを悲しむ歌でした。
 アビクがその歌を歌うとでした。
 アビクを捨てた村だけでなく村がある国全体に雨が降らなくなりました、その状況を見てなのでした。
 国の王様は困り果てて占い師に原因を調べさせました、すると占い師は占ってから王様に言いました。
「ジョレの村ですが」
「あの村に原因があるのか」
「あの村で昔です」
 ここでアビクのことをお話しました。
「こうしたことがあり今です」
「そのことを悲しんでか」
「そしてです」 
 そのうえでというのです。
「嘆いている歌を歌って」
「その歌が不思議な力を持ってか」
「天に届いてです」
 その嘆き、悲しみがというのです。
「天の神々も悲しんで人々の行いを怒り」
「雨を降らさなくなったのか」
「左様であります」
「それならだ」
 王様は占い師の占いの結果を聞いて言いました。
「すぐにだ」
「その子をですね」
「助けてな」
 そうしてというのです。
「村に戻そう、そしてだ」
「そのうえで、ですか」
「村人達にこの度のことを反省させ」
 流行り病をアビクのせいにして彼を捨てたことをというのです。
「そしてだ」
「その子に謝らせますか」
「そうしよう」
 こう言うのでした。
「是非な、そしてだ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「その子がどういった子か興味を持った」
 こうも言うのでした。
「だからな」
「お会いになられますか」
「その子と」
「そうされますか」
「是非な」
 確かな声で言ってでした。
 王様は村の人達に森まで行かせてでした、そのうえでそこにいるアビクに謝らせました。アビクは謝ってくれたならと笑顔で言ってでした。
 いいとなりました、そしてです。
 王様はアビクをご自身の宮殿まで呼ぶとアビクは家族である森の生きもの達と一緒に来ました、王様はそのことに驚いて言いました。
「獣達も一緒か」
「僕の家族なので」
 アビクは王様に笑顔で答えました。
「皆に来てもらいました」
「そうなのだな」
「駄目でしょうか」
「いや、かなりの数でかなりの種類の種類の獣達だ」
 王様は森の皆を見て言いました。 

 

第三章

「蛇や蜥蜴や蛙もいるな」
「それが何か」
「そなたこの者達全てと家族で」
 王様はさらに言いました。
「親しくしているのだな」
「そうです」
「そして村の者達が謝ったら許したか」
「だって謝ってくれたら」
 それならとです、アビクは王様のこの言葉にも答えました。
「僕は生きていますから」
「それでいいか」
「お父さんとお母さんが死んで捨てられたことは悲しいです」
 このことはというのです。
「とても。ですが」
「それでもか」
「僕は生きていて」
 そしてというのです。
「考えてみれば森の皆と出会えまして」
「家族になったからか」
「はい、結果は凄くいいことになったので」
 考えると、というのです。
「不思議な力も授かって」
「その力で雨を止めたが」
「よくないですね」
 アビクはこのことは反省して答えました。
「やっぱり。雨も降らないと」
「うむ、皆が困る」
「今度から二度とこんなことにはならない様にします」
「気を付けるか」
「そうします」 
 アビクは約束しました。
「何があっても」
「わかった、それでだが」
 あらためてです、王様はアビクに言いました。
「実は余には子がいない。后にも先立たれた」
「そうなのですか」
「これといって身内もいないのだ」 
 難しいお顔で言うのでした、このことを。
「だから跡継ぎが欲しいが」
「次の王様が」
「だがそなたはそれだけの者の獣達全てと仲良く出来てな」
 森の皆も見てお話します。
「そして謝れば許した」
「村の人達が」
「そして力を人を困らせる為に使わないな」
「二度と」
「その気構えもよし、そなたなら王になれる」
「僕がですか」
「そうだ、そうなるからな」
 だからだというのです。
「次の王にしよう」
「僕が王様に」
「そなたなら出来る、誰とも絆を深められ過ちを許し力があろうとも悪いことに使わないのならばな」
 即ちアビクならというのです。
「問題ない、ではだ」
「僕はこれからですか」
「余が王として備えるものをさらに教えるからな」
「そうしてですか」
「余の後の王となるのだ、いいな」
「わかりました」
 アビクは王様の言葉に頷きました、そしてです。
 王様に王様になる為に必要なことを色々と教えてもらってからこの国の人間達それに森の獣達の王様になり国も王も素晴らしく治めとても幸せな世界を築きました。マリに伝わるお話です。


バオバブの木   完


                 2023・5・13