しっかりした女性上司


 

第一章

               しっかりした女性上司
 山下勝弘の上司である小山田黄海は実は彼の従姉である、しかし社内ではお互いそのことを言わない様にしている。しかし。
「今日の仕事だけれどね」
「何か駄目だった?」
「悪いところは電話の応対よ」
 きりっとした顔で茶色の髪の毛を後ろで束ねている。背は一六五位で見事なスタイルである。尾高やな優しい顔立ちで黒髪をショートにしていて一七八位の痩せたスタイルの山下とは少し見ると普通の上司と部下に見えなくもない感じだ。
「それがね」
「よくなかったんだ」
「もっとゆっくり喋るの」
 そうすべきだというのだ。
「いいわね」
「そうするよ」
「いいところは書類ね、早く出来たし」
 それにというのだ。
「文章もよくまとまっていたから」
「よかったんだ」
「そうよ、会社では上司と部下だけれど」
「主任と一般社員で」
「それを離れたらね」
 真面目な声で言うのだった。
「従姉弟だから」
「普通に話しているけれど」
「お仕事のことはちょっとはね」
 今の様にというのだ。
「話すから」
「いいところは伸ばして」
「悪いところはあらためる」
「そうしていくことだね」
「そうしていってね」
 こう言うのだった、仕事が終わった直後にこうしたことを話して後は日常に戻った。その時の二人は従姉弟同士であった。
 だが会社では上司と部下であり。
 小山田は山下の上司として彼を指導し自分の仕事もしていった、その仕事ぶりは的確であり社会での評判もよく。
 部下への指導もそうであった、それでだった。
「いい上司と部下だな」
「小山田君と山下君の関係は」
「小山田君はしっかりしているしな」
「山下君も真面目だしな」
「あの二人はこのままいくか」
「それがいいな」
 会社の人事部の上の方はこう話してだった。
 二人をそのまま組ませた、小山田には彼以外の部下もいるが分け隔てなく接していたので彼等もそれぞれ問題なくいい社員になっていっていた。
 兎角小山田はいい社員であり上司としてもそうだった、だがプライベートでは。
 彼女は今実家の自宅で古いグレーのジャージ姿でノーメイクで缶ビールを飲みつつだ、腹をかいてテレビのお笑い番組を見つつ言った。
「最近お笑い面白くないわね」
「何その恰好」
 彼女の実家に呼ばれて来ていた山下はその彼女を見て言った。 

 

第二章

「酷過ぎるよ」
「そうかしら」
「殆どおっさんじゃない」
「誰でもプライベートはこんなもののよ」
 ビールを飲んで柿の種を齧りつつ応えた。
「私位の歳になったらね」
「二十八で?」
「最近その歳でもアイドルだけれどね」
「声優さんだってそうだけれど」
「そうよ、それでそんな人でもよ」
 今度は缶ビールを飲んで言った。
「お家の中だとね」
「そんな風なんだ」
「そうよ、会社の中とか休日でも外出の時はね」
「ちゃんとしていて」
「こうした時はよ」
「お姉ちゃん会社では真面目でしっかりしていて」
 上司としての彼女のことを話した。
「学生時代もそんな人で評判だったんだよ」
「きりっとしていて」
「けれどプライベートだとそうなんだ」
「くつろぐ時はね。けれど彼氏はこれがいいって言ってくれてるし」
「って相手の人いるんだ」
「いるわよ、今度結婚するわ」
 こうもだ、従弟に言ったのだった。
「式は身内だけでするから」
「僕も出るんだ」
「会社の部下としてだけでなくね」
「従弟としてなんだ」
「出てね」
「わかったよ」 
 山下は小山田の言葉に頷いた、そうしてだった。
 実際に結婚式に出た、小山田はそれから男の子を生んだが彼は立って話が出来る様になるとその頃には新婚になっていた山下に言った。
「お母さん外とお家じゃ別人なんだ」
「ああ、外ではしっかりしているね」
「けれどお家で何もしていない時は」
 家事はしっかりとやっているのだ。
「何もしないでだらしないんだ」
「それ昔からだから」
 山下は彼に笑って話した。
「そうした人もいてお母さんがね」
「そうした人なんだ」
「そうだよ」 
 こう言うのだった、会社ではもう係長だったが真面目でしっかりしているという評判はそのままだった。だがプライベートの彼女はあくまでそうであったのだ。


しっかりした女性上司   完


                  2023・9・20