強いけれど世間知らず


 

第一章

               強いけれど世間知らず
 カルロ=セベス黒く短い髪の毛で細面に小さな細い黒い目がある中背で痩せた彼は昔からの冒険者仲間であるフェリペ=セビーリャ癖のある茶髪で大きめの栗色の目で卵型の顔で長身ですらりとした彼に囁いた。カルロはシーフでフェリペは魔術師だ。二人共レベルもステータスも中堅冒険者といったところだ。カルロはズボンにブーツにシャツに革鎧といった格好だ。フェリペは黒の丈の長いローブの下は青のズボンだがズボンは見えない。二人共靴はブーツである。
「この人達ってな」
「どう見てもだよね」
 今回クエストを一緒にすることになったモニカ=ラメーニョ長い腰までの金髪で青い丸い目と細い眉の楚々とした白いヴェールと白と青の身体全体を覆う法衣を着た僧侶の彼女とカリエラ=ガブレス全身銀の鎧と白のシャツとズボンで身を包んだ後ろで束ねた長い赤髪で切れ長の小さめの目の背の高い戦士の二人を見つつ話した。
「強いけれど」
「冒険ははじめてだよな」
「というかね」
 フェリペはカルロに言った。
「お二人共ね」
「相当にな」
「世間知らずだね」
「ああ、モニカさんってな」
 カルロはまずは彼女を見て小さな声で言った。
「ブリジット女神の神殿でな」
「有名な人だね」
「凄い術を使えるシスターだってな」
「僧侶魔法のエキスパートだね」
「ああ、まだ十五歳なのに天才って言われる」
「凄い人だね、そして」
 今度はフェリペが言った。
「カリエラさんは」
「名門ガブレス家の娘さんでな」
「代々軍人の」
「士官学校で抜群の成績で」
「それで卒業して軍隊に入って」
「武勲を挙げてきたな」
「凄い人だね」
 こうカルロに囁いた。
「この人も」
「ああ、何でも修行と仕事の一環でな」
「今回クエストに参加するんだね」
「冒険者としてな」
「僕達が仲間に選ばれて」
「今回のクエストで入手する女神の指輪はブリジット女神の大切な宝でした」 
 モニカが澄んだ少女の声で言ってきた、清純な笑顔で。
「それが見付かったなら是非女神様にです」
「お渡ししないといけないですね」
「何としても」
「はい、ずっと何処かに行っていて」
 それでと二人に話した。
「女神様も探しておられましたが」
「今回発見されたので」
「だからですね」
「教団の方で何としても手に入れ」
 その指輪をというのだ。
「女神様にです」
「献上する」
「その下に戻しますね」
「はい」
 やはり清純な笑顔で答える。
「必ず」
「私はその話を受けてだ」
 今度はカリエラが言ってきた、彼女は凛とした笑顔である。
「軍から護衛として派遣された」
「そうなんですね」
「今回は」
「冒険者になることははじめてだが」
 それでもというのだ。 

 

第二章

「任務は果たす、宜しく頼む」
「わかりました」
「じゃあ今回教団からサポート頼まれましたので」
「宜しくお願いします」
「こちらこそ」
「うむ、あと身の回りのことは気にしないでくれ」
 カリエラは二人に寛容な笑顔で告げた。
「私達にはそれぞれ従兵と従者がいてくれている」
「本当によくしてもらっています」
 モニカも言ってきた。
「有り難いことに」
「君達は君達のことに専念してくれ」
「クエストの間一緒に頑張りましょう」
 それぞれ若い女性の兵士と僧侶とはいってもモニカとカリエラよりも年上であった。カルロとフェリペよりも年下ではあるが。
 二人はこう言ってカルロとフエリペの仲間になった、従兵のマリエラ=アレーナ短い金髪で長身の武装した彼女と銀の長い髪の毛と奇麗な銀の目のキエラ=カターニャを入れて六人のパーティーとなった。
 一行は早速冒険に出たが。
「馬を買おう」
「えっ、馬!?」
「馬ですか?」
「必要ではないか」
 カリエラは馬と聞いて驚いたカルロとフェリペに笑顔で応えた。
「荷物を運ぶ、そして乗って移動する為にもな」
「はい、それではです」
 すぐに従兵のマリエラがカリエラの後ろから言ってきた。
「今回の作戦の予算からです」
「出そう」
「はい、司令が用意してくれた」
「この際食料や必需品も買うか」
「そうしましょう」
「いや、食いものとかは大事ですよ」
 カルロは戸惑いつつ言った。
「ですが」
「必要だな」
「あの、馬は」
 これはというのだ。
「ちょっとです」
「ちょっと。どうしたのだ」
「俺達基本歩きですよ」
「冒険者は」
 フェリペも言った。
「そんな馬なんて」
「高くてとても」
「荷物は背負います」
「各自で」
「おかしなことだ、荷物は人が持つだけでは足りない」
 カリエラは二人の言葉に眉を曇らせて返した。
「だからだ」
「馬にも乗せて」
「そうして運びますか」
「そうするではないか」
 こう言うのだった。
「違うか」
「軍ではそうでしょうが」
「冒険は違いますから」
「自分が持てるだけ持って」
「足りない分は現地調達か途中で買うかですね」
「現地調達!?まさかと思うが略奪か」 
 カリエラの顔が瞬時に怒りのものになった、マリエラも身構えた。
「悪質な冒険者の征伐も多くしてきた、君達もか」
「いえ、狩りとか採集ですよ」
「釣りもしますよ」
 二人はすぐに答えた。
「お金で支払って買ったり」
「現地で働いて返したり」
「そうするのか、しかし安心するのだ」
 カリエラは二人の説明に納得したうえでさらに言った。 

 

第三章

「今回のクエスト、作戦では軍から予算が出ているしな」
「馬や食料、物資のお金は安心して下さい」
 マリエラも言ってきた。
「そちらのことは」
「宿代もある」
「はあ、そうですか」
「それはまた凄いですね」
 二人は軍人であるカリエラ達の返事に唖然となった、それは彼等の冒険の常識とは全く違っていた。
 それはカリエラ達だけでなく。
 モニカもだ、毎朝誰よりも早く起きてキエラと共にだ。
 女神に礼拝を捧げ泊まっている宿屋を二人で掃除したりする、カルロとフェリペはこのことにも驚いた。
「な、何してるんですか」
「宿屋の掃除なんて」
「そんなの宿屋の方でしますよ」
「必要ないですよ」
「清めることは神の望みです」
 モニカは一片の曇りもない笑顔で答えた。
「ですから一拍させてもらったら」
「この様にです」
 キエラも言ってきた。
「清めます」
「身体も場所も清め」
「常に女神を忘れないのです」
「いえ、そんなこと誰もしないですから」
 カルロは必死の声で言った。
「休んでいていいですよ」
「玄関前も掃きましたけれど」
 フェリペも言った。
「宿屋の人驚いてましたから」
「どうしてですか?」
「決まってます、自分達が掃こうとしたら」
 きょとんとなったモニカに答えた。
「お客さんがやったんですから」
「そうですか」
「ええ、あの礼拝はいいとしまして」
 流石に信仰のことには口を挟まなかった、ややこしい問題になるということがわかっているからだ。
「別にです」
「清めることはですか」
「そうです」
 強い声で告げた。
「本当に休んでいていいですよ」
「ですが私達の教えでは」
「じゃあベッド位にしておいて下さい」 
 寝たそこをというのだ、二人はモニカにも言った。彼女達は冒険早々こうしたことをしでかした、だが。
 それで終わりではなくだ、二人は食事もだ。
 巷の料理を知らなかったりした、二人共冒険の途中でカルロとフエリペが釣った魚と山菜を煮たものを食べて言った。
「美味しいですが」
「これは何というメニューだ」
「いや、何って言われても」
「ただ川魚と山菜を煮ただけです」
 男二人はこう返した。
「料理名はです」
「これといってないです」
「そうなのですか」
「そうしたものはないのか」
「ええ、別に」
「ありません」
 二人はまた答えた。
「どうかと言われても」
「まあごった煮ですね」
「ごった煮。そんなお料理もあるのですね」
「はじめてだ」
「教団ではいつも質素な食事ですが」
「軍もな」
 二人はそれぞれ質素であった、彼女達に仕えている者達と同じ位に。
「だが常に料理には名前があり」
「こうしたものははじめてです」
「まあ冒険者ですから」
「こうしたのもよく食べます」 
 男二人はこう返した、二人そして彼女達に仕えている者達も驚いていた。 

 

第四章

 他にもモニカは賭けごとが合法とされている場所でそれをする者達を叱ったりカリエラは街で商人にたかっていたならず者を怒っただけでなく成敗しようとした。カルロとフェリペはそんな二人を常に止めたが。
「凄いな」
「そうだね」
 二人は野宿の時番をしながら話した。女性陣は今は寝ている。
「世間知らずと思ったら」
「覚悟していたけれどな」
「想像以上だよ」
「そうだな」
「本当に何でも自分でしてくれてな」
「お世話はないけれどな」
 そうした苦労はないとだ、カルロは言った。
「従兵さんや従者さんもしっかりしてるし」
「お二人と一緒に何でもしてくれて」
「お金も出してくれてな」
「しかもいい人達だけれど」
「もうな」
「世間知らず過ぎるね」
「ずっと神殿とか軍隊にいてな」
 そうしてとだ、カルロはさらに言った。
「外の世界知らないとな」
「こうなるね」
「しかも二人共真面目だろ」
 カルロは二人のこのことも話した。
「それもかなりな」
「真面目過ぎるね」
「だから尚更な」
「世間知らずだね」
「ああ」
 まさにというのだ。
「二人共な」
「そうだね、これはね」 
 フェリペは困った顔で述べた。
「冒険の間ずっとね」
「苦労していくな」
「そうだね」
「強くて戦闘は楽だけれどな」
「罠とかも魔法で見付けたり対策してくれるし」
「俺達は今回そうしたことは楽だよ」
 カルロはこのことはよしとした。
「本当に」
「従兵さんや従者さんも強いしね」
「お陰で俺達何もしなくても勝ってることも多いし」
「そっちは楽だね」
「全くだな」
「そうだね」
「ああ、ただな」
 それでもと言うのだった。
「世間知らずだよな」
「それが従兵さんと従者さんもだし」
「お二人もいい人達だけれどな」
「忠誠心も高くてね」
 フェリペは彼女達のその美点も話した。
「やっぱり真面目で」
「俺達にも親切だけれどな」
「ただやっぱりね」
「世間知らずだね」
「俺達がお二人止めても何が問題ですか」
「きょとんして言うしね」
「賭けごとは悪いこと、悪人は成敗する」
 フェリペは具体的なこれまでの事例を話に出した。
「だから当然だって」
「止めるのか」
「ここ外の世界でね」
「色々世間ってのがあるんだけれどな」
「それがわかってないから」
「本当に大変だよな」
 二人で話した、兎角だった。
「これは」
「全くだよ」
「クエスト終わるまでな」
「骨が折れるね」
「覚悟していたけれどな」
「やっていこう、何しろね」 
 フエリペはこうも話した。
「戦闘のお金は僕達のものになっているから」
「それぞれ教団と軍隊からお金出ていて」
「それでやっていけてるからな」
「カリエラさん達はお給料貰ってて」
「それでお金はいいって言ってな」
「それでね」 
 そのうえでというのだ。 

 

第五章

「僕達が全部貰ってるし」
「そのことも有り難いしな」
「最後までやっていこう」
「そうしような」
 こうした話をしてだった。
 二人は今回のクエストを続けていった、そしてだった。
 女神の指輪があるというダンジョンにも入ったが。
「強いモンスターだらけなのにな」
「それでもね」
「お二人が強くてな」
「従兵さんも従者さんも」
「俺達だってな」
 カルロはダンジョンの中を進みながらフェリペに囁いた、二人はパーティーの最後尾レベルと能力の関係でそこにいるがそこでひそひそとそうしているのだ。
「中堅でな」
「それなりなんだけれどね」
「本当に強くてな」
「楽に進めているね」
「ああ、本当に戦闘とかはな」
「今回楽だね」
「それはいいことだよ」
 実にというのだ。
「全く以てな」
「そうだね、このままいったら」
「目的のアイテムもな」
「女神の指輪をね」
「手に入れることが出来るな」
「そうだね、道理で」
 フェリペはこうも言った。
「お二人が選ばれた筈だよ」
「今回のクエストにか」
「教団も軍隊も」
「お強いからだな」
「選んだんだよ」
「そうだよな」
「かなり世間知らずでも」 
 このことは事実だがというのだ。
「けれどね」
「トータルで考えるとな」
「いいね」
「凄くいい人達な」
「そうだね、それじゃあ」
「アイテム手に入れて」
「帰るまでね」
 まさにその時までというのだ。
「頑張ろう」
「ああ、帰ったら報酬も貰えるしな」
「その報酬も」 
 フェリペはクエストを達成した時に冒険者ギルドから出るそれの話もした、冒険者達の収入源の一つでもある。
「いいしね」
「法外にな」
「だからね」 
 それ故にというのだ。
「今回はね」
「頑張るか」
「うん、トータルで言うといい状況だし」
「それじゃあな」
「やっていこう」
「そうしような」
 カルロも頷いた、そうしてだった。
 二人はモニカとカリエラそして二人に仕える者達についていってだった。
 遂に女神の指輪を手に入れてそれからだった。
 帰路についた、帰り道も問題の二人と仕える者達は相変わらずだったがそれでも帰路は順調でだった。
 クエストは達成された、それで二人はまずはモニカに言われた。
「お二人のお陰で無事に手に入れることが出来ました」
「いえいえ、俺達はただいただけで」
「何もしてないですよ」
 実際に戦闘で感じたことを話した。
「そうですから」
「お礼なんてとても」
「いや、道案内なり色々してくれた」
 カリエラも言ってきた。
「それならだ」
「お礼にはですか」
「及ぶんですか」
「私もそう思う、だからな」
 さらに言うのだった。
「言わせてもらう」
「それでなのですが」
 モニカの従者が言ってきた。 

 

第六章

「クエストの報酬はお二人のもので」
「教団としてはですか」
「それはいいですか」
「はい、それでこちらも報酬を出させて頂きます」
「軍もです」
 カリエラの従兵の彼女も言ってきた。
「無論クエストの報酬はお二人のもので」
「軍もですか」
「報酬を出してくれますか」
「遠慮せず受け取って下さい」
 有無を言わせぬ口調での言葉だった。
「この度は」
「ではです」
「今から渡そう」
 モニカもカリエラも言った、そしてだった。
 二人は教団と軍からも報酬をもらった、これで今回の件は完全に終わりモニカもカリエラもそれぞれの仕える者達と共にだった。
 それぞれの場所に戻った、そしてカルロとフェリペは。
 クエストが終わったことを乾杯して祝った、そのうえで。
 盛大に飲むがカルロはその中で言った。
「滅茶苦茶儲かったな」
「はい、戦闘や進むこと自体は楽でしたし」
「いい冒険だったっていうとな」
「そうでしたね」
「ああ、けれどな」
 カルロはビールをジョッキで飲みつつ言った。
「もう一回な」
「お二人と、ですね」
「どちらともな」
 片方だけでもというのだ。
「ちょっとな」
「冒険はですね」
「一緒にしたくないな」
「そうですね」
「ああ、本当にな」
「お二人とも世間知らずで」
「それもかなりな」
「一緒にいるだけで」
「冒険してるとな」
「大変ですから」
 そうであるからだというのだ。
「もう、ですね」
「いいな、しかもな」
 カルロはさらに言った。
「女の人ばかりだとな」
「そうした宿屋にも行けないですから」
「酒場にもな」
「お姉さん達のいる」
「ましてお二人共立場があってな」
「従兵さんも従者さんも」
「そうしたことは素振りすらな」
 もはやその時点でというのだ。
「見せられないしな」
「そうだよね、だからこっそりとね」
「自分達で、だったな。けれどな」
 カルロはそれでもと言った。
「こうしたことはな」
「相手がいないとね」
「それが一番だからな」
「そうそう、そうしたお店に行くことも」
「楽しみだしな」
「そうだからね、ああした真面目で世間知らずで」
 フェリペはそれでと言った。
「あからさまに言う女の人達が一緒だと」
「行けないからな、じゃあ飲んで食った後はな」
「そうしたお店行こうか」
「そうしような、実はいい店知ってるんだ」
 笑顔でだ、カルロは言った。
「だからな」
「そのお店に行って」
「楽しもうな」
「それぞれいい娘選んで」
「それでな」
 フェリペに言って飲んだ、そしてだった。
 二人はそうした店でも楽しんだ、それからは生真面目で世間知らずで立場がある女性関連の依頼はしなかった。幾ら報酬がよくてもそうした。そうして冒険者稼業をやっていったのだった。


強いけれど世間知らず   完


                  2023・11・28