小説を書く彼女


 

第一章

                小説を書く彼女
 高校生滝川健太の彼女上杉早紀はライトノベルが好きで暇さえあれば読んでいる、滝川はそんな彼女を見てよく言った。
「今度は何読んでるんだ?」
「中国の宮廷ものよ」
 上杉はあっさりとした口調で答えた、小柄で楚々とした顔立ちで優しい目をしている、胸を覆う位の黒髪を編んで左に垂らしていて丸眼鏡をかけている。肌はきめ細かく胸は意外と、という感じで大きい。一七八のすらりとした長身で面長で明るい顔立ちで茶色にした髪の毛をショートにしている滝川とは対象的な感じだ。
「そこで働く薬剤師の女の子が主人公で」
「それでか」
「事件が起こったら」 
 その時はというのだ。
「推理をして解決するね」
「そうした作品なんだ」
「アニメで観て面白くて」 
 それでというのだ、学校の中なので二人共制服である。青のブレザーとグレーのズボンかミニスカート、緑のネクタイかリボンに白のブラウスというものだ。
「それでね」
「原作がラノベでか」
「今読んでるの」
「そうなんだな」
「滝川君私がラノベ読んでも何も言わないわね」
「言う?何で?」
 滝川は上杉の問いにきょとんとして返した。
「別に変な本じゃないないだろ」
「ラノベでもなのね」
「漫画でもラノベでも面白かったらいいだろ」
 それでというのだ。
「別に」
「そう考えてくれるのね」
「そんなのな、まして早紀ちゃん文芸部だし」 
 所属している部活の話もした。
「僕が美術部で絵よく観てるね」
「そうね」
「それと同じで」
 それでというのだ。
「別にさ」
「おかしくないのね」
「エロ小説なら流石に人前で読んだらやばいだろうけれど」
 それでもというのだ。
「別にね」
「おかしくないのね」
「そう思うよ」
 こう言ってだった。
 滝川は上杉がライトノベルを読んでも何も言わなかった、だが。
 ある日だ、滝川はたまたまだった。 

 

第二章

 上杉がデートの合間に滝川が店のドリンクバーで二人の飲みものを取って戻ってくるまでの間にスマートフォンでとある小説投稿サイトの小説を読んでだった。
 その評価に笑顔になって感想に返信しているのを見た、そして彼が見ているのを。
 上杉は気付いてだ、顔を真っ赤にして言った。
「見てたの?」
「嘘を言わないってなると」
 それならという返事だった。
「見てたよ」
「あの、これはね」
「そんなの誰でも書いてない?」
 自分の席、上杉の向かい側のそこに座りつつ言った。
「それこそ」
「そう?」
「僕もピクシヴでイラスト描いてるし」
「同じなの」
「そうだよ、犯罪を煽る様な小説じゃないと」 
 さもないと、というのだ。
「いいと思うけれど」
「そうなの」
「何でもないよ」
 またこう言うのだった。
「別にね」
「何でもないの」
「だから僕も同じだし」
「ピクシヴで絵を描いてるから」
「だからね」 
 そうしているからだというのだ。
「本当にね」
「同じなのね」
「そうだよ」
「じゃあ誰にも言わないのね」
「僕も言ってないし」
 ピクシヴで描いていることはというのだ。
「同じだし特にね」
「言わないのね」
「うん、言われたら嫌かな」
「だから見られて戸惑ったし」
「じゃあ言わないよ、お互いそういうことで」
 そのうえでというのだ。
「やっていこう」
「それじゃあね」
 上杉もそれならと頷いた、そうしてだった。
 二人はそのまま文字通り何もなかった状況でデートをしていった、そしてその後お互いの小説とイラストを観合ってだった。
 お互いに感想を言った、その感想はというと。
「続き読みたいよ」
「新作期待しているわね」
 笑顔でのものだった、二人はただの交際相手からそうした趣味を認め合う間柄にもなった、そうして交際していったのだった。


小説を書く彼女   完


                 2023・12・19