理由はどうあれ連絡しろ


 

第一章

               理由はどうあれ連絡しろ
 大阪市内のとあるイタリア料理のチェーン店でシェフをしている森本幸次、短い黒髪に面長の優しい顔立ちで一七〇位の背の中肉の彼は今職場に向かっていた、だが。
「うう・・・・・・」
「どうしたんですか?」
「お腹が急に」
「これは大変だ」
 見れば女性は三十位で整った外見だ、そしてお腹が大きかった。森本はそのお腹を見て彼女が妊婦だとすぐにわかった。 
 それで携帯ですぐに救急車を呼んでもらってだった。
 女性を運んでもらった、その後で病院に自分の職場や部屋そして携帯の連絡先を話して女性がぶじかどうか後で伝えてもらうことにした。
 そこまでしてから職場に向かったが。
「一分遅刻か」
「一分でも遅刻は遅刻だからな」
「注意しろよ」
「お前にしては珍しいミスだけれどな」
「普段遅刻しないのに」
「実は」
 先輩や同僚に訳を話した、すると皆それならと頷いた。
「妊婦さんを助けたか」
「それなら仕方ないな」
「むしろお手柄だな」
「それなら料理長さんもいいって言ってくれるな」
「そう言えば今度の料理長さんって今日から来ますね」
 森本は料理長の話を聞いて言った。
「そうでしたね」
「ああ、堺市の店の方からな」
「今日から来るよ」
「前の料理長さんが交代みたいな形であっちに行って」
「そうしてな」
「若い2けれど随分厳しい人らしいですね」
 森本は不安そうに述べた。
「遅刻は遅刻って怒られないでしょうか」
「その理由は仕方ないだろ」
「妊婦さんを助けたなら」
「それなら」
「そうだといいですが」
 森本は不安そうに応えた、そのうえでキッチンに入ったがそこにもう料理長の西川巧森本より数歳年上の感じですらりとした長身できりっとしたシェフの服が似合う彼が言ってきた。
「一分でも遅刻は遅刻だ、気を付けるんだ」
「すいません」
「今度遅れたらその分給料\が減るからな」
「あの、こいつ今回は」
 怒る彼に他の店員達が言ってきた。
「妊婦さんを助けてですから」
「それは仕方ないです」
「むしろ人助けしたんです」
「いいことですよ」
「それはわかっている」 
 西川の返事は真面目なものだった。
「既にな、だが社会人だぞ」
「だからですか」
「それで、ですか」
「遅れるならだ」
 そうなるならというのだ。
「職場に連絡してだ」
「事情を報告する」
「そうしないと駄目ですか」
「ホウレンソウはだ」
 報告、連絡、相談はというのだ。
「仕事いや一般社会の基本だな」
「はい、確かに」
「その通りです」
「その三つは絶対です」
「だからだ」
 それ故にというのだ。 

 

第二章


「もうな」
「そのことはですね」
「今回忘れたので」
「これからはですか」
「妊婦見捨てることは論外だ」
 西川はそれは絶対だと言い切った。
「しかしな」
「ホウレンソウは忘れるな」
「何かあったら」
「そうしろということですね」
「そういうことだ、何度も言うが」
 それこそというのだ。
「今回彼はそれをしなかった、だから言った」
「そうですか」
「妊婦さんを助けることはよくても」
「ホウレンソウもですね」
「忘れないことだ、次からは気を付けるんだ」
 森本自身にも言った。
「わかったな」
「今後気を付けます」
「ならいい、では遅れたが自己紹介をさせてもらう」
 店長の横に来て言った、そして自己紹介をしてだった。
 仕事をはじめた、そしてだった。
 仕事が終わったところでだ、森本に連絡が来た、それは病院からだった。
「お母さんもお腹の中の赤ちゃんもですか」
「はい、無事です」 
 病院の人は彼に携帯から話した。
「ご安心下さい」
「それは何よりです」
「貴方がすぐに連絡してくれて」
「救急車を呼んだからですね」
「助かりました」
 母親も子供もというのだ。
「お母さんも連絡を受けて駆け付けたご主人も感謝しています」
「感謝なんてそんな」
「いえ、助かったのですから」
「だからですか」
「是非お礼がしたいとです」
「お礼もいいですよ」 
 森本は笑って返した。
「僕はただ救急車を呼んだだけですから」
「ですがそれがです」
「助かったんですね」
「はい」 
 そうだというのだ、そしてだった。
 後日夫婦で店に来て彼に感謝の言葉を述べお礼の品を差し出して店で食べていった、そのうえで彼の店の評判も広めたのだった。
 店はこのことから客足が増えた、それを見て西川は森本に言った。
「いいことをしたな、このことは百点だ」
「有り難うございます」
「だがまた言うがな」
「報告、連絡、相談はですね」
「忘れるな、そこは減点だからな」
「わかりました、以後気を付けます」
「いいことをしていい結果になってもだ」
 そうであってもというのだ。
「社会人で仕事をしているならな」
「報告、連絡、相談はですね」
「絶対にだ」
 何があってもというのだ。
「忘れるな」
「そうしていきます」
 森本もそれはと頷いた、そして以後彼はその三つを忘れなかった。そうして立派なシェフそれに社会人として知られる様になったのだった。


理由はどうあれ連絡しろ   完


                  2023・12・25