大阪のキョンシー


 

第一章

                大阪のキョンシー
 栗橋真琴茶色のロングヘアで勝気そうな細い眉が印象的な顔で背は一六七センチ、胸は九十ある彼女は八条学園高等部の生徒である、商業科の三年生で家は大阪の鶴見区にある。
 真琴はよく同じ学校でしかも同じ学年同じクラスの平野由乃黒目がちなクールな目で黒髪の後ろを青くしていて癖のあるボブにしている、脚はすらりとしていて胸は八〇位の彼女と山口亜梨沙童顔で色白、茶色いふわりとした感じの長い髪の毛を赤いリボンでツインテールにしている、背は一四八位で胸は九十二ある彼女と三人で一緒にいる、その彼女が二人にクラスで話した。
「最近大阪も観光客増えてるな」
「道頓堀行ったら凄いわね」
 由乃がクールに応えた。
「もう石を投げればっていう位にね」
「そうそう、外国からの観光客多いわね」
 亜梨沙もそれはと応えた。
「そうなってるわね」
「それで中国からの人多いだろ」
 真琴はこのことも話した。
「それであたし思ったんだけれどな」
「思うって何がよ」
「うちの学校も世界中から人が集まってて」
 クラスの中を見回しても色々な髪や目、肌の色のクラスメイト達がいる。アジア系でも外国の雰囲気だったりする。半分が日本人で残る半分が外国人だ。
「それで幽霊や妖怪の話も多いよな」
「中国だと幽霊は鬼と呼ぶのよね」
 由乃はこの国の友人から聞いた話をした。
「そうだったわね」
「そうそう、だから点鬼簿って小説あるけれど」
 亜梨沙は芥川龍之介の作品の一つの名前を出した。
「あれって閻魔帳のことなのよね」
「この学園確かに幽霊や妖怪のお話多いけれど」
「外国から来てる妖怪も多いわね」
「だからさ」
 それでというのだ。
「大阪にも外国からの幽霊とか妖怪来てるんじゃねえか?」
「それ普通にあるわね」
 由乃はクールに応えた。
「この学園にいると尚更思うわね」
「だろ?だからな」 
 それでとだ、真琴は由乃に話した。
「大阪の観光客の人達が多いところ行ったらな」
「人のいない時間に」
「そうしたらなのね」
「いるんじゃね?外国からの幽霊や妖怪が」
 こう二人に話した。
「道頓堀とかさ」
「いや、道頓堀はいつも人いるからいないでしょ」
 亜梨沙は道頓堀と聞いてこう述べた。
「流石に」
「幽霊や妖怪って人がいない時や場所で遊んでるしな」
「だからね」
「それもそうか」
「そうしたところにはいないでしょ」
「じゃあ何処にいるんだよ」
「あれじゃない?道頓堀に近くだったら」
 亜梨沙はあっさりとした口調で真琴に返した。
「すぐ傍のホテル街、結構物陰多いし夜は皆中に入るから」
「おい、ホテル街って何だよ」
「ちょ、ちょっとそこは」
 真琴だけでなく由乃もだった、亜梨沙の今の話には顔を真っ赤にさせて冷静さを失ってそのうえで言った。 

 

第二章

「行くなんて」
「駄目だろ」
「校則違反でしょ」
「あんなところ行くなんてな」
「いや、私お金あったら普通に彼氏と行くし」
 亜梨沙は何でもないといった顔で応えた。
「そうしたホテルも色々あって楽しいわよ」
「馬鹿、あたしそうした相手いないんだよ」
「私もよ」
 二人で亜梨沙に返した。
「今はね」
「前は二人共いたけれどさ」
「キスもしていないのよ」
「あたしだってな」
「ああ、二人共そうなのね。あのね、私服で彼氏と行くならいいでしょ」 
 亜梨沙はその二人に何でもないといった感じで応えた。
「今時中学生でも行くカップルいるわよ」
「どんな中学生だよ」
「本当かしら」
 二人は信じられないといった顔で応えた。
「そんな子達いるなんて」
「信じられないな」
「けれどいるから。それでね」
 亜梨沙はさらに話した。
「ホテル街って行き来する人は少ないのよ」
「特に夜はか」
「そうした場所なのね」
「すぐにどっかのホテルに入るからか」
「それもカップルで」
「そうよ、それでホテルもそれぞれコスプレとかグッズとかお部屋とか楽しいから」
 亜梨沙は笑ってさらに話した。
「レジャーにもなってるのよ」
「そうなんだな」
「それは知らなかったわ」
「これがね、それでね」
 亜梨沙は二人に話し続けた。
「外国の人達も利用する人はしてるでしょうし」
「だからか」
「あそこに行けばなのね」
「外国の幽霊とか妖怪もいるかもね」
「じゃあ行ってみるか」
「そうね」
 二人もそれならと頷いた。
「何か行ったらよくない気もするけれど」
「それでもな」
「だから制服で行かなかったらいいから」
 あっけらかんとしてだ、亜梨沙はまだ言う二人に返した。
「安心してね」
「そうなんだな」
「じゃあいいのね」
「そう、別にホテルには入らないしね」
 構わないとだ、こうした話そしてだった。
 三人で夜に道頓堀の近くにあるホテル街に行った、そこには様々なそうしたホテルがあってだった。
 実際に人通りは少なく真琴は神妙な顔になって言った。
「いや、ホテルの看板が派手で賑やかでもな」
「場所自体は人が少ないわね」
 由乃も言った。
「これが」
「そうだよな」
「それで人がいても」
 由乃は擦れ違った人をちらりと見てこうも言った。
「別にね」
「興味ない感じだな」
「他の人にはね」
「特にカップルだとな」
「ホテルに入って何するか考えてるのね」
「それで頭一杯なんだな」
「たまに一人の人いるけれど」
「ああ、そうだな」
「そうした人は風俗ね」
 亜梨沙は二人に笑って話した。 

 

第三章

「デリヘルのお姉さんやお客さんね」
「そういえば一人でホテルに入るな」
「そういうことなの」
「そういう風俗もあるから」
 だからだというのだ。
「それでなのよ」
「一人の人もいるんだな」
「カップルでなくて」
「そういうことよ」
「成程な」
「そういうことね」 
 二人もその事情を知って納得した、こうした場所に行ったことのない二人にはこうしたこともはじめて知ることだった。
 そしてだ、そのうえでだった。
 亜梨沙はホテル街の物陰を見てだ、また二人に話した。
「それで私達の本来の目的の」
「ああ、幽霊とか妖怪な」
「ここにいるかどうか」
「外国の幽霊や妖怪がな」
「どうかよね」
「そう、じっくりと腰を据えてね」
 そうしてというのだ。
「探すけれど」
「いたらいいな」
 真琴は心から思って言った。
「あたしが言い出しっぺだしな」
「そうね、いたら面白いわね」
 由乃はクールに応えた。
「本当にね」
「そんな妖怪がな」
「そう思うわ」
「そうだよな」
 真琴は由乃の言葉に頷いた、そうしてだった。
 三人でホテル街を歩いていると目の前から両足を揃えて撥ねて前に進んで来る人が来た、両手は前に出している。
 着ている服を見れば中国清代の服だ、由乃はその人を見て言った。
「あれってまさか」
「キョンシーだよな」
「そうね」
「中国からの観光客の人も多いしな」
「それでキョンシーも来たのかしら」
「っていうとな」
 真琴は前から来るその人をキョンシーと認識したうえで二人に話した。
「息止めるか」
「キョンシーはそうしたらわからなくなるし」
「そうする?」
「すぐにな」
「おい、そんな必要はないぞ」
 だがその人の方から言ってきた、そしてだった。
 何時の間にか三人のすぐ前まで来ていた、そのうえで言ってきた。
「わしは人は襲わん、好物はお好み焼きとたこ焼きだ」
「ってまんま大阪じゃねえか」
 その好物を聞いてだ、真琴は即刻突っ込みを入れた。
「あんた中国の妖怪だろ」
「うむ、生まれは中国の上海だ」
「バリバリ中国じゃねえか」
「だが観光客について日本に来てな」
 キョンシーはその白い顔で真琴に話した、両手は前に突き出したままである。
「すっかり馴染んで日本の妖怪さん達とも仲よくなってな」
「ここで暮らしてるのかよ」
「今ではな、それでだ」
「お好み焼きとたこ焼き好きなんだな」
「バッテラもな」
「バッテラ?最近少ないわね」
 由乃はこの寿司についてはこう述べた。
「残念だけれど」
「確かに残念だ」
 キョンシーも思うことだった。
「あれはかなり美味い寿司だからな」
「そうよね」
「うむ、そこは何とかして欲しいものだ」
 キョンシーは心から思って言った。
「大阪のお寿司屋さん達はもっとバッテラを作って欲しい」
「それをお寿司屋さんにも言ってるのかしら」
「客として入れば思うことだ」
「言いはしないのね」
「それも無粋と思ってな」
 それでというのだ。 

 

第四章

「言うことはしない」
「そうなのね」
「そうだ、そしてわしの趣味はお笑いの鑑賞と野球観戦だが」
 キョンシーは自分のペースで話していった。
「吉本もどうなるか。阪神が日本一になって何よりだ」
「本当に大阪ね」
 亜梨沙も聞いて思うことだった。
「中国って感じがしないわ」
「だから馴染んだのだ」
「そうなのね」
「それで大阪を満喫しているが」
 そうであるがというのだ。
「ここで女の子三人連れに出会うとはな」
「ホテル街で?」
「ここは大抵カップルでホテルに出入りするところだ」
 そうだというのだ。
「一人の場合もあるが」
「デリヘルとかだよな」 
 真琴は先程亜梨沙に言われたことをキョンシーに話した。
「お姉さんとかお客さんとか」
「昔は近くで店の紹介をやっていた人もいた」
「そうなのかよ」
「松本竜助さんという人がな」
「ああ、島田紳助さんの相方の」
「その人がな」
「もうお亡くなりになってるな」
 そして島田紳助も芸能界にいなくなった、これもまた人間の一生ということであろうか。人生程わからないものもない。
「それは知ってるよ」
「今は誰がしているか」
「それは知らないか」
「そこには行かないからな」
 そうした人がいる場所にというのだ。
「だからな」
「それでか」
「うむ、それでどうして女の子三人でいるのだ」
「ここに幽霊や妖怪がいるか見に来たの」
 由乃が正直に答えた。
「それで来たの」
「そうだったのか」
「ホテルが目的ではなかったわ」
 このこともだ、由乃は正直に答えた。
「別に」
「ここはホテルが主役だがな」
「それでもよ」
「そうなのか」
「それで外国の幽霊や妖怪がいるのかなと思っていたら」
 それならというのだった。
「貴方がいやの」
「そうなのだな」
「いや、キョンシーがいるなんて思わなかったわ」
 亜梨沙は明るく言った。
「大阪は妖怪も国際色豊かね」
「そう言えるか、しかしお主等わしに食わると思ったな」
 ここでキョンシーはこのことを尋ねた。
「キョンシーは吸血鬼で人も食うしのう」
「中国の吸血鬼なのよね」
「吸血鬼は世界中におる」
 亜梨沙に答えて述べた。
「別に東欧だけにおるものではない」
「世界中にいてね」
「中国にもおってな」
「キョンシーがそうなのよね」
「日本にもおるであろう」
 吸血鬼は亜梨沙に問うた。
「そうであるな」
「首が飛ぶろくろ首ね」
「友達におるが人の血は三代前から飲んでおらんという」
「あら、そうなの」
「何でも苺やトマトやアセロラのジュースの方が身体によくて美味いということでな」
 それでというのだ。 

 

第五章

「そういうものやワインを飲んでおるとのことだ」
「赤ワインね」
「そうじゃ、かく言うわしも血よりもワインじゃ」
 そちらを飲んでいるというのだ。
「お好み焼きやたこ焼きを楽しみつつな」
「ワインか、この場合は赤ワインだよな」
 真琴はキョンシーが飲むワインを何かすぐに察した。
「そうだよな」
「まさか白ワインではあるまい」
「この場合はな」
「それでランブルスコ、サイゼリアでも売ってるな」
「あれ発泡性だろ、血って感じしねえな」
「しかし好きでな」
 キョンシーはそれでと答えた。
「わしとしてはな」
「よく飲んでるんだな」
「そうなのじゃ」
 こう真琴に答えた。
「わしはな」
「そうなんだな」
「それでじゃ」
 さらに言うのだった。
「血は一切飲まぬ」
「人も食わないか」
「実はまずいというしのう」
「そうなんだな」
「実は人の血も飲んだことがない」
 このことも話した。
「鶏や豚の血は飲んでおったが」
「人はなかったか」
「妖怪の肉屋の店員だったからな」
「そうだったんだな、あんた」
「上海におった頃はな」
 このことも話したのだった。
「それでじゃ」
「鶏や豚の血を飲んでたんだな」
「これが結構美味くてのう」
「そうか?生臭いだろ」
「わしにとっては美味かった、しかし今はな」
「ワインなんだな」
「あとわしもトマトジュース等を飲んでおる」
 キョンシーもというのだ。
「グレープジュースもな」
「そうなんだな」
「よく飲んでな」 
 そうしてというのだ。
「毎日楽しく過ごしておる」
「成程な」
「それでお主達のこともわかったからな」 
 三人が何故今ここにいるかということをというのだ。
「普通女の子三人でしかも厚着で来るところではない」
「厚着?そういえば」
 由乃はここで三人の服装を見た、見れば三人共帽子で頭を覆い分厚い生地のコートを羽織りズボンを穿いている、その下にはセーターやストッキングに靴下があることは言うまでもない。靴も三人共ブーツである。
「そうね」
「こうした場所で来るとな」
「すぐに逃げて相手を刺激する為に」
 こうした場所のことを知っている亜梨沙が応えた。
「それでなのよね」
「露出が多いからのう」
「冬でも出来るだけね」
 寒さと相談しつつだ。
「そうするしね」
「色気も何もない恰好だからのう」
 三人の今の服装はというのだ。
「ここに来るには場違いでな」
「それで妙に思ったのね」
「そうであった」
 実際にというのだ。
「わしはな」
「そうなのね」
「しかし妖怪や幽霊が見たくて来てな」
 そうしてとだ、キョンシーはさらに話した。 

 

第六章

「わしを見られたならな」
「ああ、よかったよ」
 真琴が笑って応えた。
「本当にな」
「そうであるな」
「ああ、あんたに会えてな」
「それでだな」
「それでだよ、ただな」
「ただ?どうしたのじゃ」
「いや、あんた普段からここにいるのかよ」
「家はすぐ近くじゃ」
 キョンシーは真琴に答えた。
「家族で暮らしておる」
「そうなんだな」
「それで今は夜の散歩をしておった」
 そうしていたところだったというのだ。
「そこでお主達に会ったのじゃ」
「そうなんだな」
「うむ、それでお主達はこれからどうする」
 キョンシーは今度は三人がこれからどうするかを尋ねた。
「わしに会ったが」
「目的は果たしたから」
 だからだとだ、由乃が答えた。
「もういいわね」
「そうであるか」
「それぞれのお家に帰ってね」
 そうしてというのだ。
「休むわ」
「そうするか」
「だからこれでお別れね」
「うむ、機会があればまた会おう」
「私今度ここに彼氏と来る予定なの」
 亜梨沙は自分のことを話した。
「だから若しかしたらね」
「その時会うか」
「ここによさげなまだ入ってないホテルあるから」 
 笑顔で言うのだった。
「だからね」
「それでか」
「お会いしたらね」
 その時はというのだ。
「宜しくね」
「それではな」
 それならとだ、キョンシーも笑って応えた。
「三人共またな」
「縁があったらね」
「会おうぞ」
 こう話してそうしてだった。
 キョンシーは三人と別れそのうえで撥ねて消えていった、そうすると三人だけが残った。それでだった。
 真琴は由乃と亜梨沙にだ、こう言った。
「帰るか、そしてな」
「帰ったらなのね」
「それからは」
「あたしの家で飲むか」
 笑って言うのだった。
「酒買ってな」
「そうしてなのね」
「三人で飲むのね」
「そしてな」 
 そのうえでというのだ。
「色々と話そうな、特に亜梨沙な」
「私?」
「ホテルのこと聞かせてくれないか?」 
 こう亜梨沙に言うのだった。
「そうしてくれないか?」
「どんなホテルがあるか」
「どんな部屋があってな」
「オプションとか」
「どんなのあるかってな」
 こうしたことをというのだ。
「話してくれるか」
「ええ、それじゃあね」
 亜梨沙も笑顔で応えた、そうしてだった。  
 三人はホテル街から真琴の家に帰った、そこで楽しく酒盛りをしながらホテルのことを話した。今の真琴と由乃には信じられない話だった、だがやがて二人もそうしたホテルを楽しむことになるがそれは後日のことである。


大阪のキョンシー   完


                    2024・1・30