貧乏だった国が


 

第一章

               貧乏だった国が
 その国の話を聞いてだ、小学一年生の志原明美は驚きの声をあげた。黒髪を長く伸ばしていて大きな黒目がちの目と小さなピンクの唇を持っている丸顔で色白の少女だ。
「えっ、食べるもの何もないの」
「そうらしいわ」
 クラスメイトが話した。
「それで皆いつもね」
「お腹空かしてるの」
「世界一貧乏な国で」
 それでというのだ。
「何もなくてお家も服もね」
「ないの」
「そうらしいわ、皆がね」
 その国のというのだ。
「ホームレスみたいらしいのよ」
「子供も?」
「私達よりずっと小さな子も」
 真剣な顔で言うのだった。
「何も食べるものなくて」
「お腹ぺこぺこなの」
「それでね」
 そのうえでというのだ。
「餓え死にもね」
「あるの」
「皆そうらしいのよ」
「お金もないのね」
「全然ね」
 こちらもというのだ。
「本当に何もない」
「そんな貧乏な国なのね」
「そうなのよ」
「そんな国に生まれたら大変ね」
 明美は心から思った。
「生きていけないわよね」
「日本に生まれてよかったわね」
「そうよね」
 こうした話をした、明美はこの話を聞いてすぐに忘れた。そうして日本で普通に暮らしていってだった。
 就職して旅行を趣味に持つ様になった、すると実家で自分そっくりの母親の直子にこんなことを言われた。
「あんた今度この国行ってみる?」
「どの国?」
「ここだけれど」
 スマートフォンである国を娘に紹介した、すると。 

 

第二章

 明美はその国の名前を見て子供の頃クラスメイトに言われたことをここで思い出してそのうえで言った。
「嘘っ、この国って」
「知ってるの?」
「知ってるも何も」
 それこそという声で言うのだった。
「世界一貧乏な国でしょ」
「それ何時のお話よ」
「二十年前位は」
 自分が子供の頃はというのだ。
「そうだったじゃない」
「そういえばね」
 母もそれはと返した。
「昔はね」
「世界一貧乏で」
 そうした国でというのだ。
「食べるものもお家も服もない」
「皆餓えていたわね」
「お金も資源もないね」
「それが石油とかダイアモンドとかが発見されて」
 母は娘に話した。
「そこから経済が発展して。他の国の援助も受けて」
「それでなの」
「お金持ちになってね」
 そうなってというのだ。
「それでね」
「うわ、凄いわね」
 見ればだ、母が紹介した画像では。
 高層ビルが立ち並んでいてだった、そのうえで。
 ホテルにリゾート地にレジャー施設にだった、そうしたものがあって。
「別の国みたいよ」
「今格安ツアーでよ」
「旅行に行けるの」
「そうよ」
「そうなのね」
「今は凄いお金持ちの国で」
 そうなっていてというのだ。
「国民所得は日本より上よ」
「凄いわね」
「税金がない位で教育やサービスもね」
「いいのね」
「そうよ、そうした国になっているのよ」
 今はというのだ。
「凄いでしょ」
「ええ、私が子供の頃は貧乏で」
 明美はそれでと言った。
「食べるものもお家もない位だったのに」
「それも変わるのよ」
「貧乏はずっとじゃないのね」
「努力するなり運次第でね」
「お金持ちにもなるのね」
「そうよ、それでここどう?」
「考えてみるわ」
 この時はこう答えた、そしてだった。
 明美は暫くこの国のことを調べた、するとレジャー関係は充実していて食べものや飲みものの評判もよく治安もだった。
 しかも本当に格安だった、それでだった。
 その国に旅行に行った、するとそこは何もかもがある地上の楽園の様な場所だった。そこで世の中は変われば変わるもので国も然りだと思ったのだった。


貧乏だった国が   完


                   2024・2・16